魔道士リザの冒険譚(星のドラゴンクエストStory冒険日誌) (ジョギー)
しおりを挟む

2ndシーズン序章
プロローグ「故郷を飛び出し新しい冒険へ」


アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



ドォォォォォン!!!!!

 

凄まじい轟音とともに強烈な衝撃がアタシ達の

住むマール島を襲った。

島の浜辺に正体不明の何かが落ちてきたのが

原因だった。

その衝撃が大きすぎてアタシ達姉弟はその場に

倒れ込んでしまったの。

 

「だ、大丈夫か!?リザ達!」

 

モガ丸とスラッピが心配そうにアタシ達に

声をかける。

この・・・ピンク色の体躯をしたモモンガ

ような生物・・・はモガ丸。

そしてその肩にマスコットのようにチョコン

と乗っかっているスライムはモガ丸の友達

スラッピ。

2人ともアタシ達と一緒にこのブルリア星を

隅々まで冒険した大事な友達、仲間だ。

 

倒れ込んでしまったものの特に体に大きな

痛みなどなくアタシ達は擦り傷程度だった。

 

大丈夫よモガ丸、スラッピ、ここは浜辺だ

から砂がクッション代わりになったのね。

弟・・・ジョギーも妹・・・レイファンも

アタシ同様、大した事はなさそうだった。

3人とも大丈夫、というサインをモガ丸に

送った。

 

「よかった、大丈夫みたいだな・・・

うん!?」

 

と。

モガ丸が正体不明の・・・その何かに気付いた。

アタシもモガ丸の視線の先を見遣る。

すると一冊の本が落ちていた。

 

「さっきの衝撃の原因はこの本が落ちて

きたせいか。」

 

その本は!

“冒険王の書”にそっくりだった。

冒険王の書っていうのはアタシ達の祖父、

初代冒険王ガイアスが閉じ込められている

本なの。

祖父が本に閉じ込められている、だなんて

可笑しな事をいう孫なんだけど。

 

祖父ガイアスは・・・とある事情で冒険王

の書という本に閉じ込められていて、そこから

現れてはアタシ達と会話をする、って

いうのが・・・もうアタシ達の日常になっていた。

 

と、その冒険王の書にそっくりな本が

ひとりでに動きだし宙に浮いて

アタシ達の前で止まった。

 

そしてひとりでに本が開き中から人が!!

 

どこかで見た光景。

そう、アタシ達が初めて祖父に出会った時と

同じ光景だ。

あの時も冒険王の書がマール島の浜辺に落ちて来て、

すっごい衝撃でアタシ達はその場に倒れ込んじゃっ

たんだっけ。

 

そして、こうやって・・・冒険王の書はひとりでに

動いて中から祖父ガイアスが現れたの。

それと全く同じ光景を目の当たりにしモガ丸が叫んだ。

 

「これは!やっぱり冒険王の書だ!!」

 

アタシもそう思った。

 

「モガ・・・ジ、ジジィ!?・・・・

じゃなくて・・・モガーーーーー!!!

ガ、ガイアスジジィじゃなくてっ!!

冒険王の書から女の子が現れたぞっ???

しかも美人だっ!!」

 

【挿絵表示】

 

 

けど中から現れたのは祖父ガイアスではなく

見目麗しいステキな女性。

モガ丸が思わず「美人だ!」と

叫んじゃうぐらいの(*´ω`*)

 

「私は美人ではありません。

そしてこの本は冒険王の書ではありません。

この本は・・・・宇宙王の書です。」

 

本の中の女性が言う。

ぼ、冒険王の書ではなく・・・宇宙王の書

!?

 

「私の名はオリオリ。

かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王の

血を引く者です。」

 

宇宙王!?

 

全宇宙を治めるって、そんなすっごい

スケールの持ち主が存在するんだ!!

ブルリア星の冒険王だなんて言ってる

アタシ達がすっごくちっちゃく見える( ̄◇ ̄;)

 

けど・・・ん?

全宇宙を治めるって、それって宇宙政府の

事じゃないの?

宇宙政府っていうのは・・・このブルリア

星に存在していた魔星王ドスラーデスって

いう強大邪悪な魔物を送り込んだ組織。

全宇宙を支配下に置く、とんでもなく邪悪

な組織。

 

魔星王ドスラーデスは、星1つまるごと

破壊してしまいかねない、とても恐ろしい

魔物なの。

ちなみにドスラーデスはアタシ達姉弟が

力を合わせ、なんとか倒したんだけどね!

 

そんな恐ろしい魔物を手先として操り、

ここブルリア星に送り込んだのが宇宙政府。

政府はブルリア星だけでなく、他の星でも

恐怖政治と称して様々な悪さをする集団なの。

ここブルリア星にやってきていた政府の

魔物達も・・・相当に邪悪で卑劣で・・・

そして強かった。

まぁ、そいつらもアタシ達がやっつけた

んだけどね!

ただし、所詮はそいつらも政府の手下で

しかない、宇宙政府本体は依然として

宇宙に君臨し続けている。

 

そう、だから・・・このオリオリって

女の子が言う・・・宇宙王が全宇宙を平和

に治めてたって話・・・アタシには寝耳に

水だったの。

 

「たしかに。

現在、全宇宙を治めているのは宇宙政府。

しかし宇宙の星々の民は宇宙政府の圧政

に苦しんでいます。

宇宙王の血を引く私は『打倒!宇宙政府』

を掲げてレジスタンス活動をしています。

その名を全宇宙に轟かせた冒険王リザさん

達に是非お願いしたい事がございます。

私たちの仲間に加わって頂きたいっ!

是非お力をお貸しくださいっ!!」

 

なんと!

オリオリは・・・あの宇宙政府と戦っている

と!?

こ、こんな人がいたのね・・・さすが・・・

宇宙は広いわ〜びっくり(´⊙ω⊙`)

で?アタシ達に宇宙政府に立ち向かう活動の

手伝いをしろ、と。

 

これは!!

なんてワクワクドキドキな展開なの!!!

 

全宇宙を治めていた宇宙王に

打倒宇宙政府ですってーーー!?

むぅぅぅ血が騒ぐーーー(≧∀≦)

 

これぞ冒険!

これぞロマンだわ!!

 

「冒険王の次は宇宙王だってよーーー!

どうするリザ?」

 

モガ丸が問いかける。

アタシ達の答えは決まってる( ̄∀ ̄)

もちろん行くわ、行くに決まってるじゃない!!

 

「モガーーーー!

だよな、行くっきゃないよな!!」

 

「手伝ってくれるのですね、

ありがとうございますっ!!

魔星王ドスラーデスを倒したリザさん達の

加勢、百万の軍に匹敵しますわ!」

 

オリオリはアタシ達をすっごく

高く評価してくれてるみたい。

お世辞かもしれないけど

悪い気分ではないわねニヤリ(´∀`)

 

「そうと決まれば話は早いほうがいい。

さっそく私たちの活動拠点までおいで

ください。

私には仲間がいます。

仲間の事は義勇軍と呼んでいます。

私たちは惑星クラウドという星に活動拠点

を置いています。

そして惑星クラウドには宇宙政府の中枢も

存在しています・・・!」

 

惑星クラウド・・・!

とうとうブルリア星を飛び出して異星へ

向かうことになるのね、ますます気持ちが

高ぶってきたわ。

星から星を巡る冒険の始まりね!

 

でもどうやってその・・・惑星クラウドまで

行くのかしら。

いくら神鳥レティスでも、どこだか場所が

わからない星までは飛んでいけないだろうし。

あ、神鳥レティスっていうのはブルリア星

に存在する、神の使いって云われている

神聖な鳥の事。

彼女(彼?)は聖なる偉大なチカラを持って

いて、このブルリア星から隣の星“地球”まで

を往来できるチカラを持っているの。

 

アタシ達は何度かレティスの背なに乗って

地球とブルリア星を行き来した事があるの。

なんたってアタシ達は冒険王だからねっ!

レティスと共に冒険の旅をしたってワケ。

 

ま、それはさておき。

そんな偉大なチカラを有するレティスで

さえ、オリオリの仲間がいる・・・クラウ

ド?・・・まで飛んでいくっていうのは

ちょっとしんどいんじゃないかな〜って

思ったの。

 

「この宇宙王の書に触れてください、

そうすれば惑星クラウドまでワープする事が

できます。」

 

へぇぇ!

そんな簡単な方法で行けちゃうんだてへぺろ

でも話が早いわね。

よし!!

じゃあ宇宙政府と戦うため、惑星クラウド

まで行きますか~(^O^)

 

「リザよ。」

 

「おじぃちゃん!!??」

 

「じじい!!」

 

いつの間にか、どこからか冒険王の書が

現れ中から祖父ガイアスが現れた。

そう、こっちが本物っていうか・・・いや

・・・別にオリオリや宇宙王の書が

ニセモノって言ってるんじゃなく・・・

アタシ達がいつもやり取りをしている冒険王

の書、そして冒険王の書から現れるアタシ達

の祖父、ガイアスなの。

 

「これは!

初代冒険王ガイアス殿、お目にかかり光栄

でございます!!」

 

本の中のオリオリが本の中の祖父に頭を下げ

ている。

なんだかオカシイ光景だった(*´∇`*)

 

「うむ。

話は聞いておったぞオリオリとやら。

我が孫リザよ、いや、新しい冒険王よ、

その名に恥じぬようしっかりとオリオリ達を

助けてやれ!

お前達ならきっとできると信じておるぞ。」

 

え?

うん、もちろんそのつもりだけど・・・。

おじぃちゃんはついて来ないの??

 

「ワシはブルリア星に留まる。

もちろん初代冒険王として異星での冒険は

この上なく冒険心をかき立てられるが、

残念ながらワシはここを離れられん。

ワシが冒険王の書を通じてお前達と話が

できるのは星見る神殿の不思議な力が作用

していることを覚えているな?

惑星クラウドとはおそらく、このブルリア星

から遠く離れた場所にあるのであろう。

神殿の力はおそらくクラウドまでは届かん

じゃろう。いわゆる圏外なのじゃ。」

 

「モガー、そういえばそういうシステム

だったな。」

 

「ゆえにワシはお留守番じゃ。

リザ達よ、そういうわけで今回はお前達に

任せる。

頑張ってくるのじゃぞ。

そしてワシにみやげ話を聞かせてくれる事

を願うておるぞ、ワッハッハッハ!」

 

そっか~、仕方ないわね、うん、大丈夫!

任せておじぃちゃん!!

おじぃちゃんが築き上げてきた冒険王の名

に恥じないよう頑張ってくるからね(^_-)

 

「オイラとスラッピももちろんリザ達に

ついてくぞー!!」

 

ありがとうモガ丸、スラッピ。

また一緒に冒険できるね^_^

 

「みなさん準備はいいですね?

では宇宙王の書に触れてください。

惑星クラウドまでワープします!」

 

胸が高鳴ってきたわ、新しい惑星で

新しい冒険!

いったいどんな事が待ち受けているのかしら。

 

アタシは抑えがたい胸のドキドキを

覚えながらオリオリを出現させている

宇宙王の書に手を伸ばした・・・!




ソーシャルゲームアプリ「星のドラゴンクエスト」
のメインストーリー部分を
自分のキャラを主人公に仕立てた
小説らしき日記です。
プレイ日記であり小説のようでもあり、
という文章になっていくと思います。
多少、創作も入っています。

主に主人公視点で描いていきます。
自分の都合ですが日記として
書き始めたのが
シーズン1終盤からでしたので
便宜上、この作品はシーズン2開始時
から始めます。

20200310追記
少し、というか大幅に加筆をしました。
星ドラを知っている読者様には理解できても
そうじゃない人ももしかして読んでくださっ
ていたとしたら、もう少し説明の文章が
必要だなって思ったので。

そもそもシーズン1ではなくシーズン2から
の物語スタートという特殊な構成なもの
ですから( ̄◇ ̄;)

★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。

・初代冒険王ガイアス
アタシ達の祖父。
『冒険王の書』という不思議な本から
現れる。
実はそれは思念波であり実体は
とある場所に囚われている。
その昔はブルリア星の隅々まで
冒険をしつくしたらしい。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2ndシーズン第1章[新たなる雲海の星]***惑星クラウド・バァジ島編***
エピソード1.「スラッピって関西弁だったのね」


アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。




「・・・・もう、目を開けても大丈夫ですよ。」

 

誰か、女の人の声が聞こえる。

気を失っていたんだろうか、

アタシは閉じていたまぶたを開いた。

 

目の前には冒険王の書の中から現れている

・・・・女性!?

え!?冒険王の書からおじぃちゃんじゃない人が

現れてる!!??

 

「大丈夫ですか?リザさん達。

ワープの衝撃で気を失われてたみたいです。

けど、無事に惑星クラウドに到着しました。」

 

あ!!そうか、オリオリね!!!

冒険王の書じゃなくて宇宙王の書!

そうだった、あまりにも急な展開だったので

思考がまだ追いつかない。

 

宇宙王の血を引くオリオリのレジスタンス軍に

アタシ達は参加して、そしてその拠点があるという

惑星クラウドへ向かってたんだ。

 

で、え、何?ワープ!?

へぇぇ!宇宙王の書に触れただけで一瞬(!?)で

こんな遠くの星まで来れちゃうんだ!!

すっごい、なんかとっても

不思議な体験をしたのねアタシ達。

神鳥レティスでさえも、すぐ近くの隣の星へしか

飛べないのに。しかもかなりの力を振り絞って。

それなのに一瞬で、隣の地球よりも遠い星へ!!

 

と、ワープしてきたという事実への興奮が

さめやらぬまま辺りを見回してみると、

なんとも不思議な光景を目にした!

 

雲が!低い!?

 

低いどころか、地面より下に雲があるの。

何?ここは天上界だとでもいうの??

アタシ達、ワープしてきたんじゃなくて

死んじゃって天国に来ちゃったの?

 

「驚きましたか?惑星クラウドでは

雲が地面より低い位置にあるのです。

海があって、その上に雲があり、そして地面があります。

だからクラウドでは海が見えません。

そのため、大陸間の移動は船ではなく

飛行船などで行うんです。」

 

え~~そうなんだ、へぇそういう自然現象というか

星の仕組みなのね。

アタシ天国に来ちゃったのかと焦っちゃったわ、

恥ずかしい(^_^;)

 

「では、さっそく我々の仲間にリザさん達の事を

紹介したいと思います。

我々の仲間・・・義勇軍と名乗っていますが、

義勇軍はこのバァジ島の各地に

点在する秘密基地で活動しています。

まずはその秘密基地に向かうのですが

その前に立ち寄らなければならない場所があります。」

 

へ~義勇軍、なんか思ってたより規模が大きそうだし、

レジスタンス活動とやらも本格的なのかしら。

で、基地の前に立ち寄る場所って?

 

「トラスレ神殿です。

その神殿には聖水があり、みなさんには

その聖水を飲んでいただかなくてはなりません。」

 

ん?聖水?

飲まなきゃいけないって身を清めるとか、

義勇軍に入隊したら必ずする誓いの聖水とかかしら。

 

「みなさんと私は異星人同士です。

ですが今こうやって会話ができています。

本来、異なる言語を話すはずの私たちが

言葉を交わせるのはどうしてだと思いますか?」

 

あ!もしかして!!

 

「そうです。

その聖水を飲むとあらゆる言語を聞いて話す事が

できるようになるのです。

私たち義勇軍のメンバーは多数の惑星の出身者で

構成されています。

当然、話す言葉は違いますが聖水のおかげで

それぞれの星の言葉でも問題なく会話できる、

というワケなんです。」

 

へぇぇ!

確かにアタシとオリオリは出会ったときから

普通に会話できてたわ。

そっか、それは聖水のおかげだったのね!

 

「と、いうワケでまずはトラスレ神殿に

向かいましょう。」

 

異国人、異星人と会話ができるようになるという

不思議な聖水を求めてアタシ達は聖水が安置されているという

トラスレ神殿へ向かうことになった。

いよいよ異星での冒険の開始ね(^o^)

 

アタシ達はオリオリの導きのもと

神殿への道を歩き始めた。

しばらく歩いていると前方に邪気を感じた。

 

「む、魔物の気配・・・?」

 

「え!?魔物!?」

 

魔物の気配を感じたアタシはさっそく戦闘か、

と思いながらもいつものように杖を構え

戦闘準備に入ろうとした。

しかし宇宙王の書の中の女性は

なぜか魔物が現れた事に

ひどく驚いているようだった。

 

アタシ達は苦も無く目の前に現れた魔物達を一蹴し、

神殿へ向かうためにまた歩き始めた。

 

「まさか、この島で魔物が現れるなんて・・・!」

 

オリオリは難しい顔をしている。

それは今し方現れた魔物におびえるというワケではなさそう。

仮にも宇宙政府を相手にしようっていう

グループのリーダーですものね。

それよりもこの場所に魔物が現れるという事実に

納得がいかない様子。

 

しばらくするとまた魔物が現れた。

 

「また・・・!」

 

オリオリの独り言をよそにアタシ達は魔物達を振り払う。

ふたたび歩を進めると前方に

目指す神殿らしき建物が見えてきた。

 

「みなさん、お疲れ様です。

ここがトラスレ神殿です。」

 

「モガ、ここに、飲めばどんな星の言葉も理解できて、

話す事もできるようになる聖水があるんだな?」

 

「ええ、しかし神殿の中にはおそらく魔物がいるはず・・・。

事実、ここへ来る道中でも魔物が現れました。

今までは魔物が現れた事はありませんでした。

宇宙政府の影響が少ない場所だからこそ、

この島に秘密基地を構えたのです。

もしかすると秘密基地の事を宇宙政府が

かぎつけたのかも・・・。

リザさんたち、急ぎましょう!

聖水を手に入れ一刻も早く秘密基地に向かいましょう!」

 

なるほど、さっきからオリオリが険しい顔をしていたのは

そういうワケだったのね。

アタシ達がやってくるまではこの島には魔物・・・

宇宙政府の手は伸びていなかった。

けれど魔物が現れたということは政府に基地の事が

知れた可能性は否定できないわね。

うん、確かにのんびりしてる時間はなさそう。

 

よし、じゃあ、聖水を手に入れるために急いで

神殿の内部まで進まなくては!!

魔物がいるかもしれない?

望むところよ、ブルリア星の冒険王は

伊達じゃないってところを見せてやるわ(^_-)-☆

 

アタシ達は戦闘態勢のまま門をくぐり

建物の内部へ入っていった。

魔物は・・・やはり居た!!

けどアタシ達の敵ではない!

 

神殿は3階層まであったけど魔物は

全て退治し最深部まで進んだ。

 

「素晴らしいですね!みなさんは本当にお強いです!

やはり我が義勇軍にとって

必要不可欠な存在だと確信しました!」

 

へへへ~、どうやらオリオリの期待に添えたみたいね。

 

「で、その聖水っていうのはドコだ?」

 

モガ丸が辺りを見渡している。

 

「奥の祭壇から湧き水が流れているでしょう?

それこそがトラスレ神殿の聖水です。

飲めばあらゆる星の言葉を聞き取ることができ、

そして話す事ができるようになります。」

 

「よーし、この水だな!

リザ達、飲め!オイラも飲むぞ!」

 

モガマルとスラッピが祭壇へ近づいていく。

アタシ達もそれに続く。

 

・・・なんて綺麗な水なの!

神々しく輝いているようにさえ見えるわ。

アタシは手で、その光るような水を掬い

口に含んだ。

弟妹達もモガマルもスラッピも聖水を口にする。

 

「これで大丈夫です、問題ありません。

私たちの仲間の言葉も

全てブルリア星の言葉に聞こえるはず。」

 

特に体に変化はないようだけど・・・。

けど清らかな水だというのは確かだわ。

 

と、聞いた事のない、

誰だか主のわからない声が聞こえた。

 

 

「すごいやん!

ものごっつすごいやん!」

 

「・・・・・モガ?」

 

「なんや?」

 

「ス・・・ス・・・・スラッピ・・・・・

スラッピがしゃべってる!」

 

「何言うとんねん。

今までもしゃべってたやん。

モガマルはん、おかしな事言うてはるー。」

 

えぇぇぇぇ!!!!

スラッピがしゃべってるーーーー!!!!!

 

「いやいやいや!

スラッピはピーピー言うだけで

オイラだけが言葉が通じてたんだ!

なのに・・・・。

リザ達もスラッピの言葉、理解できただろ?」

 

そうよ、そう!

スラッピが何を言ってるかモガ丸だけがわかってて、

アタシ達にはスラッピのピーピーって

声しか聞こえなかった。

 

ってか、ええ!?

トラスレの聖水って異星の言語だけじゃなくって

異種族の言語まで理解できるようになるって事!?

 

すっごい効き目だわ!!!

 

「ええやん、こっからはこのスタイルで

行かしてもらうで。」

 

「ダメダメダメーーーー!!」

 

「なんでやねん!」

 

「なんででも!なんかヘン!なんかヘン!!

スラッピ、頼むから今まで通り

ピーピー言ってくれ!」

 

「・・・・・アカンか。

そうか、モガマルはんの頼みなら・・・

わかったで~!」

 

・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・

 

「ピッピッピー!」

 

「スラッピ!」

 

「ピー!」

 

「それでこそスラッピだ!」

 

「ピッピピー!」

 

「えーと、お二人とも、先へ進んでよろしいですか?」

 

・・・・オリオリがツッコミ入れてる・・・・(^_^;)

う~ん、アタシは別によかったけどな~

正直モガマルのかんっぜんな好みの問題であって。

スラッピが何しゃべってるのかわかるほうが

便利だと思うんだけど・・・。

ってかスラッピってめっちゃ関西弁だったのね!

しかもコテコテw

ま、でも確かにスラッピから関西弁が飛び出したら

調子狂うかもね・ω・

 

「ではみなさん、島の反対側にある

秘密基地へ向かいましょう。

ですがその前にもう一つ立ち寄って欲しい場所が

あります。」

 

「どこに寄るんだ?」

 

「ドォクリ洞窟という場所です。

そこに私の幼なじみがいるはずです。

彼の名はボロン。

ボロンは義勇軍の中でもとびっきりの強さの持ち主・・・・

けどその強さと同じくらいナマケモノでもあるのです・・・。

私がブルリア星に向かっている間は・・・

活動をお休みして洞窟で眠って過ごす、

そう言っていたので。」

 

「モガー!それは確かにナマケモノだー!」

 

「ですから眠っているボロンを

たたき起こさねばなりません。

っもう!ボロンったら!」

 

義勇軍の中でもとびっきり強いという

オリオリの幼なじみボロン。

次に向かうのは、そのボロンが眠りについているという

ドォクリ洞窟ね。

 

わかった、行こう!

いなかったはずの魔物がいるという事実も

憂慮しなければ。

義勇軍を取り巻く状況は未だよく把握できないけど

時間があまりないって事だけは確かね。

今は一刻も早くオリオリの仲間と

合流するのが先決みたいね。

 

ってワケで聖水の力を手に入れたアタシ達は

オリオリの幼なじみボロンが眠るという

ドォクリ洞窟へと向かった。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード2.「関西弁の次は赤ちゃん言葉ですって」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。




宇宙政府に立ち向かうレジスタンスグループ

「義勇軍」のリーダーで宇宙王の末裔オリオリ。

そのオリオリの幼馴染で義勇軍の

実力者であるボロンの居場所

ドォクリ洞窟に到着したアタシ達。

 

宇宙政府の魔の手が伸び始めた

ここバァジ島、おそらくこの洞窟にも

魔物が巣食っているはず。

例え実力者だったとしても"寝首をかかれ"

てはひとたまりもないはず。

一刻も早くボロンのもとへ行かなければ!

 

アタシ達は、やっぱり居た魔物を蹴散らし

洞窟の最深部までたどり着いた。

 

「モガ、もしかしてあそこで気持ちよさそうに

眠ってるのが・・・?」

 

「はい、私の幼馴染ボロンです。」

 

「あらぁ、ホントに寝てるんだな。」

 

「ボロン!起きなさい!!

全く、よくこんな魔物がうろついてる

場所で眠れるわね!」

 

「うん?むにゃ・・・・

声が聞こえる、ブスの声が・・・・

見た目は美人だけど心がブスな

アイツの声・・・。」

 

「私は美人でも心がブスでもなーい!

起きなさいってば!!」

 

う、ホントに。

こんな物騒なところで眠ってて、

よく無事だったわね、けどどうやら

この小さな男の子がボロンのようね。

 

ってかオリオリったら、すっごく美人なのに

美人って褒められると即座に否定するのね、

けどブスって言われるのもイヤみたい。

おかしな人(^_^;)

普通だって思われたいのかしら。

 

しばらくオリオリがボロンを起こしてたけど

全く起きる気配がない。

すると。

 

「~~~仕方ない。

あのぉ、スラッピさん、ボロンに

話しかけてもらえませんか?」

 

「モガ?」

 

「ピッ?」

 

「ボロンは可愛いスライムに目がないんです。

スラッピさんの事を見ればきっと

飛び起きるはず。」

 

「よっしゃぁ!まかしときぃ!!」

 

「スラッピ!!あの約束を忘れないで

くれよぉぉぉ」

 

「ハッ!!・・・・・ピピィ!」

 

「モガ、よかった!ボロンに話しかけるのは

オッケーだと言ってるぞ!」

 

「では私が合図したらお願いします。

・・・・あーーー!こんなところに可愛い

スライムがっ!!」

 

すると今まで頑なに目を覚まさなかった

ボロンが飛び起きたのっ!

 

「何!?スライム?どこどこどこ!?」

 

「スラッピさん、今です!」

 

「ピーーーーーピッピッピ!」

 

「うわぁなんてカワイイ子なんでちゅかぁ。」

 

え!?赤ちゃん言葉??

 

「キミはどこから来たんでちゅか??

もっとこっちにおいでよぉ」

 

・・・・・何?ボロンってこんな変なヤツなの?

ホントに義勇軍の実力者なのかしら?

 

「やっと起きたわね、ボロン!」

 

「ん?なんだ、オリオリいたのか。」

 

「さっきからずーっと起こしてたんだから!」

 

「おぉそうかそうか、悪い悪い。

で、お前が戻って来たってことは

コイツらが例の冒険王・・・?」

 

「そうよ、リザさんってお名前よ。

私達義勇軍に参加してくれることに

なったわ。」

 

あ、良かった、普通に会話できる子みたい(^_^;)

アタシは名前を名乗り、弟達とモガ丸、

スラッピの事も紹介した。

 

「そうでちゅか、このカワイイスライムちゃんも

仲間でちゅか~。」

 

うーむ、オリオリやアタシ達とは普通に

会話できるみたいだけど・・・

やっぱりちょっとまだ慣れない(^_^;)

 

「リザ、オレ達義勇軍への参軍、心より

感謝するぜ、そしてこれから宜しく頼む!」

 

お、なんだ、ちゃんと歓迎してくれてるし

挨拶もできるんじゃない!

 

「スラッピちゃんもこれからよろちくねぇ。」

 

と思ったけど、うーんビミョー(^_^;)

 

「よし!

じゃあレジィトの街へ行こう。

そこへいけば1番隊が待機している。

皆にもリザ達を紹介しないとな。

ブルリア星の冒険王が加わってくれたと

聞けば皆の士気も上がるというもの。」

 

1番隊!

やっぱり思ってたより大きい組織なのね。

で、いよいよ本体に合流ってワケね。

ボロンのヘンテコな一面を真っ先に

見ちゃったから張り詰めていた気持ちの

糸が一回キレちゃったけど、想像以上に

組織化されている義勇軍の1番隊とやらに

合流するみたいで、アタシの心は再度

燃え上がろうとしていた。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。

・ボロン
オリオリの幼馴染。
義勇軍の中でもかなりの実力者らしいけど
超の付く怠け者。
そして超の付くスライム愛の持ち主。
スライムに話しかける時だけ
赤ちゃん言葉になる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード3.「改めて思う、やっぱりクズ集団ね!」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。




レジィトの街に着くと頑強そうな

一人の男性がアタシ達を迎えてくれた。

 

「よぉ、旅の人!

ここはバァジ島の中心地レジィト。

雲の向こうに見えるのがヨンツゥオ大陸だ、

けど安心しな、たいていの物は

この街で手に入るぜ。」

 

どうやらアタシ達を単なる観光客か

なにかと勘違いしてるみたい。

 

と、一緒にいるボロンの顔を見るなり

その頑強そうな男が驚きの表情を

見せた。

 

「ボロン!?ボロンじゃないか!!

お前が目覚めたって事は・・・」

 

男は瞬時に思考を巡らせる。

 

「この娘達が例の・・・!?」

 

「あぁ、そうだ、ブルリア星の冒険王リザ

と、その仲間達さ。」

 

「なんと!こんな、うら若き少年少女が

あの冒険王だと言うのか!!

魔星王ドスラーデスを倒したという・・・。」

 

へへへぇ~、相変わらずアタシ達ってば

かなり有名人なんだ(・∀・)

 

「ハ!で、宇宙王の書は?

オリオリ様はいらっしゃるのか?」

 

「ただいま戻りました。

久しぶりですね、ドゥエイン。」

 

宇宙王の書がアタシの手からひとりでに

離れ、目の前の屈強そうな男の前で

止まり中からオリオリが現れた。

男の名はドゥエインというらしいわね。

 

「おぉ!オリオリさま、よくぞご無事で!」

 

「ドゥエイン、リザさん達の強さは

私が保証します。

魔星王ドスラーデスを倒したという

実力は本物です。

そして彼女たちは私たちの仲間に

なってくれました。」

 

「おぉ!それは素晴らしい!!

リザ殿達、心より歓迎する!

では皆の者にリザ殿一行を紹介せねば。

ボロンよ、オリオリ様を頼んだぞ、

オレは一足先に例の場所へ向かう。

オリオリ様、リザ殿達、失礼いたす!」

 

いつもの場所ってどこだろう。

この街が秘密基地じゃないのかしら。

するとボロンがアタシ達の疑問に

答えてくれた。

 

「例の場所とはここから西にある

ミィツのほこらさ。

俺たち義勇軍は住人としてこの街に

紛れ込んでいる。

もちろん武器などは隠してな。

だから基地と言えば基地なんだが・・・。

島の中心地である、こんな目立った場所で

作戦会議などをしてしまうと宇宙政府に

見つかってしまうんだ。」

 

なるほど、だからそのミィツのほこらとやらで

秘密裏に集まるってワケね。

 

「申し遅れましたが先ほどの男はドゥエイン。

義勇軍一番隊の隊長です。」

 

え!隊長さんだったんだ。

そんな偉い人だったなんて。

 

「ヤツは偉いだけじゃなくって

かなり強いぜ。

まぁオレほどじゃないがな。」

 

やっぱり宇宙政府にたてつこうって

いうだけの人たちの集まりね、

みんな強いんだ。

そしてボロンは負けず嫌いなのかしら、

ドゥエインの強さを認めながらも

自分も一歩も譲ろうとしない。

 

って、そんなに強さに自信があるのなら

ボロンも隊長さんなのかしら。

 

「オレは親衛隊の隊長だ。

オリオリは義勇軍の総司令官。」

 

親衛隊!総司令官!!

やっぱり義勇軍てかなり整備された

組織なのね(-ω☆)キラリ

 

「宇宙政府っていうのはホントに

卑劣な奴らなんだ。

奴らは他にもたくさん居た

宇宙王の末裔を片っ端から

殺してしまったんだ。

自分達の力を誇示するために・・・。

オレ達は絶対に宇宙政府を許さない、

奴らを倒して平和で平等な

宇宙を取り戻すんだ。

だから宇宙王の末裔の一人である

オリオリはオレ達の精神的支柱なんだ。

義勇軍のリーダーはオリオリをおいて

他にないのさ。

そしてオレはそんなオリオリを守る

親衛隊長なのさ。」

 

むむむ~改めて聞くと、ホントに

宇宙政府っていうのはむかっ腹が立つ

どうしようもない集団ね。

なんてヒドイ事をするのかしら(●`ε´●)

 

たしかにアタシも何度か宇宙政府の

手先と戦った事がある。

上級執行官ラデュラゲ、ディミトリ・・・。

どっちも高飛車だったり人を騙す事しか

しないゲスだったわね!

 

新しい星での新しい冒険にワクワクしか

感じなかったけど、改めて宇宙政府の

やり口を聞かされると、やっぱり怒りが

こみ上げてきたわ!!

やってやろうじゃないの!

必ず宇宙政府を倒してみせるわ!!

 

アタシは改めて宇宙政府への

怒りを覚えた。

とにかく今は、義勇軍に合流する事が

先決ね。

 

「よし、じゃあ行くぞ、ミィツのほこらへ。

リザ達、準備はいいな?」

 

レジィトの街を後にし、先導役のボロンと

一緒にアタシはミィツのほこらへ向かった。

 




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。

・ボロン
義勇軍親衛隊隊長でありオリオリの幼馴染。
義勇軍の中でもかなりの実力者らしいけど
超の付く怠け者。
そして超の付くスライム愛の持ち主。
スライムに話しかける時だけ
赤ちゃん言葉になる。

・ドゥエイン
頑強な体躯を持つ義勇軍1番隊隊長の男性。
彼もかなりの実力者らしい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード4.「この島に秘密基地を置くのはもう潮時かもしれねぇな」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。




レジィトの街から西に向かう。

島の中心に位置する大きな岩の山地が

遠くに見える。

時折襲いかかってくる魔物達を片付けながら

岩の山地をひたすら目指す。

 

やがて、岩山がアタシの視界に収まり切らない

ようになってきた。

かなり麓に近づいたんだろう。

けど気になる。

この方角の先にミィツの祠、つまり秘密基地が

あるのでしょう?

魔物に遭遇する回数が減らない、

むしろ増えてる。

 

秘密基地のはずなのに、そこにほど近い

この場所で魔物がうろついてるなんて。

これは、その祠にも魔物が巣食ってると

考える方が自然だわ。

 

ボロンはちょっと前から口数が減ってる。

っていうかもうほとんど無口。

おそらく、アタシと同じ事を考えてるんだろう。

イヤな予感がする。

 

アタシ達はしぜん、早足になっていた。

胸騒ぎがそうさせる。

 

すると、古い石造りの小さなお堂らしき

建物が見えてきた。

 

「着いたぜ、ここがミィツの祠だ。」

 

ボロンが目的地の名を告げた。

この古ぼけた祠が秘密基地・・・!

確かに、路傍に宿る地母神しか祀られて

いないような小さな祠。

こんな場所に、まさか義勇軍の基地が

あるだなんて誰も思わないだろう。

 

けど、その感覚は一般人からすれば、

とも言えなくない。

隠れる者を探そうとする者からすれば

「こんな場所こそ、いかにも隠れてる」という

印象を与えはしないだろうか。

 

「ボロン、もう気づいてるかも

しれないけど、ここには・・・。」

 

「あぁ、どうやら魔物がいるみたいだな、

クソ!宇宙政府のヤツら嗅ぎつけやがった

のか!?」

 

アタシは道中から感じていた事をボロンに

伝えた。

やっぱりイヤな予感は的中してしまった。

 

「モガー!

とにかく魔物をやっつけないとな。

リザ達、頼むぞー!!」

 

そうね、まずは魔物を掃除しなきゃ!

アタシ達は装備の確認をして祠の中へ

踏み込んだ。

中にはやっぱり魔物がいた。

けどアタシ達の敵ではない。

祠の中は地下空間になっていてアタシ達は

最下層まで進み、最後の魔物を倒した。

 

「んもう!ボロンったら!!

秘密基地に魔物の侵入を許すまで眠ってる

なんて!親衛隊長失格よ!」

 

「まーそう怒るなよ、美人が台無しだぜ?」

 

「私は美人じゃなーい!!茶化すなーーー!」

 

うーむ、このやり取りはお約束なのかしら、

そしてイマイチ深刻さが足りないんじゃ

ないのかしら(^_^;)

 

と、そこへたくさんの足音が近づいてきた。

まさか!?まだ魔物がいたの!?

 

「義勇軍一番隊長ドゥエイン!

助太刀いたすーーーー!!」

 

「遅ぇよ、ドゥエイン。」

 

「魔物達はリザさん達が倒してくれましたよ。」

 

「お?おぉぉぉぉぉ!

これは失礼いたしました、しかし

冒険王殿の強さはホンモノなのですね!」

 

「あぁリザ達の強さにはこのオレ様も

ホンットに惚れ惚れするぜ!」

 

足音の主は、隊長さんと、その隊員達

だったのね。

隊長さんはアタシ達より先にここへ向かった

はずなのに。

アタシ達追い抜いちゃったみたいね。

 

「隊員達にも冒険王殿のことは

伝えております。しかし、この目で

その活躍を拝見したかったですなぁ!」

 

ふふ、また褒められちゃった(・∀・)

ってワケで、これで正式に義勇軍の一員として

認められたのかなぁ。

 

「久しぶりですね、一番隊のみんな。」

 

「は!ご無事でなりよりです、オリオリ様!」

 

やっぱりオリオリってすんごくエライ人なのね、

こんなに美人なの・・・ってあぁ、

美人って言っちゃいけないんだっけ(^_^;)

 

「一番隊は揃っているようですが

二番隊の姿が見えませんね?」

 

「それがオリオリ様、レジィトの街で

隊員達を招集していたところ、

聞き捨てならない情報が入りまして

・・・」

 

「聞き捨てならない!?

どういう情報です?」

 

隊長さんが語った情報の内容は、

確かにとても重大な内容だった。

事のいきさつを知らないアタシ達でも

十分そう感じた。

 

「宇宙政府の上級執行官が政府を裏切り、

我らに寝返るというのです。

寝返る事の証明として政府の内部機密の

情報を提供する、と。」

 

なんと!!

ドゥエインはさらに続ける。

 

「その者の名はマレドー。

当然ながら宇宙政府は彼に追っ手を

差し向けました。隊員の報告によれば

彼はここより南のチタヌ洞窟に

身を潜めているという事です。

ゆえにマレドーを保護するべく二番隊は

チタヌ洞窟に向かいました。」

 

ええええ~、いきなりスゴイ展開!!!!

上級執行官って言えば、あのラデュラゲや

ディミトリと同格の役人って事でしょ!?

それほど、宇宙政府でも重要なポストに

就く者が組織を裏切るなんて、

一体全体、どういう心境なのかしら!!

 

しかも組織の内部機密を外部に漏らす

だなんて。

上級執行官達と戦ってきたアタシ達からすれば

想像もできない事態に、にわかには

思考が追いつかない。

 

「内部機密!それはありがたい!

是非とも保護しなくては、ねぇボロン、

アナタもそう思うでしょう?」

 

「あぁそうだな、急いで接触しなくては!」

 

え、え、え!?

そうなの?オリオリ。信用しちゃうんだ!?

いいのかな、そんな簡単で。

仮にも上級執行官を務めるようなヤツよ?

一応、裏とか取らなくていいのかな・・・?

 

「しかし洞窟へ向かった二番隊からは

一向に連絡がございません。」

 

「それはいけません!

追っ手の魔物達に捕まってるのかも!

急いでチタヌ洞窟へ援軍を送らねば!!」

 

「ふふ~ん、じゃあリザ達の出番だな?

オリオリ。」

 

「ですね、お願いできますか?

リザさん達。」

 

そうね、事の真偽はこの際後にして

とにかく現場へ向かわねば!

寝返るという上級執行官とも

実際に顔を合わせて見なければ何も

始まらないわ。

 

アタシは二つ返事で洞窟へ向かう意思を

オリオリに伝えるっ!

 

「あぁ、ありがたい!

では引き続きよろしくお願いします!!」

 

事態は急展開だわ!

アタシ達が戦ってきた上級執行官は

どいつも卑劣でそしてとても強い魔物だった。

でも、全宇宙を支配するという宇宙政府。

アタシ達が想像するより巨大な組織に

違いない。

ひょっとすると巨大がゆえに、様々な考えの

持ち主がいるのかもしれない。

執行部の考えに意を反する者がいても

不思議ではないのかもしれない。

 

アタシは、組織を裏切るという、

その上級執行官にとても興味を抱いた。

会ってこの目で確かめたい。

どういう理由で反旗を翻したのか、

義勇軍に寝返る事になった今、

何を思うのか、そして何より信頼するに

値する者なのか、直接この目で確かめたい。

 

オリオリとボロンの先導のもと、

アタシ達はチタヌ洞窟へ向かった。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。

・ボロン
義勇軍親衛隊隊長でありオリオリの幼馴染。
義勇軍の中でもかなりの実力者らしいけど
超の付く怠け者。
そして超の付くスライム愛の持ち主。
スライムに話しかける時だけ
赤ちゃん言葉になる。

・ドゥエイン
頑強な体躯を持つ義勇軍1番隊隊長の男性。
彼もかなりの実力者らしい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード5.「秘術を巡って」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。




宇宙政府を裏切り、義勇軍に寝返るという

上級執行官マレドーを保護するべくチタヌ洞窟

へ向かったという義勇軍二番隊。

 

けどマレドーには厳しい追っ手が放たれてる。

マレドーと二番隊の身を案じたオリオリと

アタシ達は急いでチタヌ洞窟へ向かった。

 

そこには!

この星に来てからという限定の話では

あるけれど、確かに一番大きな規模の

魔物の軍勢が押し寄せていた。

上級執行官が裏切るという、やっぱり

宇宙政府としてもただ事ではない事態

だってのがわかるわね。

 

特に洞窟の最下層で二番隊らしき人たちを

取り囲んでいたマドハンドの大群。

そして群れを統率するひと際大きい

マドハンド。

こんな魔物は出遭った事がないっ!

さすがにアタシ達も手を焼いたわ。

 

ううん、強いってわけじゃないんだけど

雑魚のハンドを倒した瞬間に新しい仲間を

呼ぶの。その呼ぶスピードがまさに

ギガ級だわ。

 

序盤はアタシ達も牽制の意味で全体攻撃で

雑魚ハンドを一掃しようと試みた。

大方の雑魚ハンドはあっという間に

仕留めたけれど、やっぱり本体というべき

デカいマドハンドは生き残ってる。

コイツが生きてる限りは際限なく

雑魚ハンドを呼ぶようね。

 

うん、ラチがあかない。

アタシ達は狙いをデカハンドに切り替えた。

まずコイツを仕留めてから雑魚を一掃しよう。

 

と、不意にデカハンドが床へと潜り込み

姿を消した。まさか、やっつけた!?

いや、手応えはないわ。

と、次の瞬間、レイファンの目の前の床が

盛り上がり消えたはずのデカハンドが現れた!!

 

「キャアぁぁぁぁ!!」

 

現れたデカハンドはレイファンの足を掴み、

彼女を空中へと連れ去った!!

クっ!!

なんという攻撃!!

まさか地面に潜って移動してくるとはっ!!

 

デカハンドはレイファンの足を掴んだまま

彼女を2度3度と空中で、こともあろうに

振り回し始めた。

あれでは目が回って戦闘どころじゃないっ!

なんとかヤツからレイファンを引き離さないと!

 

しかし妹を人質に取られては迂闊に

全体魔法は使えないわね、彼女を

巻き込んでしまうわ。

 

アタシはデカハンドの足元

(と言っていいのかな?)へ狙いを定めて

威力を絞ったメラゾーマを放った。

 

これで多少のダメージは与えられるはず。

するとデカハンドは意外にも機敏な動きで

横に移動しメラゾーマを避けたのっ!

 

「な!?避けただとぉっ!」

 

モガ丸が叫ぶ!

確かに。その巨体からは想像し難い

動きでメラゾーマの火球をかわした。

 

アタシは次の手に思考を巡らせる。

 

「リザ姉っ!それでいいよ、呪文で

敵の動きを牽制するんだ!」

 

隣で雑魚ハンドを振り払っていた

ジョギーがアタシに指示を出してきた。

そして彼はウン、と頷き手に握っている

剣をポンっと叩いた。

 

そうか、わかったわジョギー。

アナタの作戦が。

アタシも黙って頷き返し、すぐに呪文の

詠唱を始めた。

 

今度は軽めの呪文メラミを連続で放った。

ただし敵のど真ん中ではなく、

少し右側を狙った。

当然、敵は左に避ける。

そこをジョギーは逃さなかった!

 

レイファンを掴んでいる指であろう

部分の根本を剣で一閃!!

敵の親指と人差し指であろう部分と

レイファンが空中に舞う。

弟はすかさず妹をキャッチして

すぐさまアタシの元へ駆け寄るっ!

 

指を切り飛ばされたデカイマドハンドは、

魔物ゆえ痛みを感じないのだろうか、

悶絶するような素振りは見せなかったけど

確かに一瞬怯んだ。

アタシはそのスキを見逃さない。

すかさず本命の呪文を連続で唱えた。

 

ギガデインとイオナズン!

 

群れを統率する巨大なマドハンドもろとも

雑魚のマドハンドも全て一瞬で消え去る。

統率者が仲間を呼ぶスキなど

もちろんありはしなかったわ。

 

ふぅ、少々手こずったけど弟の機転で

なんとかやっつけた。

もはや、阿吽の呼吸ね。

一瞬でお互いの考えてる事がわかる。

戦闘が終わりを告げた。

 

一番隊隊長のドゥエインがアタシ達に

駆け寄ってくる。

 

「すごい!さすがですなぁ!!

魔物達も強かったがリザ殿達は

もっと強いっ!!!

このドゥエイン、感服いたしました!!!」

 

うん、これで名実ともに義勇軍の

仲間として認められたかな。

いくらブルリア星の冒険王だなんて

伝え聞いたところで

実際に目で確かめないと

納得できないもんね、人って。

 

みんなの前で実力を示すことが

できてよかったわ(^o^)

 

「ごらんなさい!

あそこに二番隊のみんなが!!」

 

「おぉ!クサロ!」

 

「ドゥエイン!?それにボロン!

ああっ!オリオリ様まで!」

 

「こいつはクサロ。

義勇軍二番隊の隊長だ。」

 

やっぱり、マドハンドの群れに

囲まれていたのは二番隊の人達だったのね。

で、このキリリとした青年将校らしき人が

二番隊隊長・・・!

クサロさんね。

 

「無事か?クサロ。」

 

「あぁ、おかげでな。

マレドーを保護したのはいいものの、

魔物に囲まれ立ち往生して困っていた。

で、今、魔物を倒したこの方達が例の・・・?」

 

「あぁ、冒険王リザ達だ!

そしてオイラはモガ丸。コイツはスラッピ。」

 

「ピーッ!」

 

「かたじけない、冒険王殿。

二番隊を代表して心から感謝します、

そしてようこそ!義勇軍へ!!」

 

うん、とにかく間に合って良かった。

みんな無事みたい。

そして二番隊にも認められたみたいね、

それも合わせて良かったわ(・∀・)

 

「それでクサロ。

そのマレドーとやらは何処に?」

 

「ハッ!

魔物たちに処刑される前に

我々で保護しておりました。

今、連れてまいります。

さぁ、マレドー殿こちらへ。」

 

いよいよ義勇軍へと寝返るという

上級執行官とご対面。

ドキドキ・・・・。

 

二番隊隊長クサロの後方から

マレドーと思しき魔物が現れた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

え!?

なんか邪悪!!??

 

えと、ごめんなさい、思わず

第一印象を言ってしまった。

ううん、ギリギリ口にはしなかったけど

心の中で、そう思っちゃった。

表情に出てなければいいんだけど・・・。

 

「はじめまして、私は義勇軍の

総司令官オリオリです。

アナタが宇宙政府を裏切ったという

上級執行官のマレドー殿ですね?」

 

「いかにも、ワシがマレドーだ。

アナタが宇宙王の書に閉じ込められたという

宇宙王の末裔オリオリ様か。」

 

「モガ?閉じ込められた?

そういや事態がいちいち急展開なので

聞くのを忘れちまってたけど、

惑星クラウドに来れば本物のオリオリに

会えると思ってたけど本の中にいるままだな?

今、マレドーが言ったとおり

閉じ込められているのか?」

 

「はい・・・・実は・・・・

あ、いえ、その話はまたおいおい

話すとしましょう、今はマレドー殿に

話を聞くのが先決です。」

 

そう、今モガ丸が言ったとおり。

おじぃちゃんと冒険王の書の関係に

倣うとすれば、ブルリア星に現れたオリオリは

星見る神殿の力と同じような力で

宇宙王の書から出現している、という事になるわ。

でも今、マレドーとオリオリは"閉じ込められている"

と言ったわ。

 

どうやらおじぃちゃんとはまた違う事情が

オリオリにはあるみたいね。

 

と、これもまたオリオリの言うとおり、

まずはマレドーの話を聞こう。

 

「みなさんはドスラーデスをご存知か?」

 

「モガー!!ドスラーデスだってーーー!!??

知ってるも何も・・・」

 

「もちろん知っています、魔星王ドスラーデス

の事ですね。

ここにいるリザさん達は、そのドスラーデスを

倒したのです。」

 

「な、なんと!!

ではブルリア星の冒険王というのは

この娘達のことか!」

 

「はい、ゆえに我が義勇軍へと加勢願いました。」

 

「むぅ、では話が早い。

ワシが貴殿らに伝えたい内部機密とは・・・

宇宙政府はドスラーデスに代わる

新たな魔星王を誕生させる準備に

入ったという事だ。」

 

なんですってーーーー!?

新しい魔星王!!!

ようやく、本当のほんっとうに

ドスラーデスを完全に倒したと思ったら

また違う魔星王ですって!?

全く、宇宙政府のやる事ときたら(●`ε´●)

 

「新たに生み出される魔星王の強さは

ドスラーデスの比ではない。

星を丸ごと滅ぼしてしまうような

とてつもない邪悪な強さだ。

政府は新しい魔星王を使って宇宙の

人々を脅すつもりだ、自分たちに従え、と。

さもなくば魔星王を差し向け星を滅ぼして

しまうぞ!とな。

ワシは・・・宇宙を平和に治めるべく

組織に参加した。

しかし、組織が行うのは恐怖政治ばかり。

自分たちの富と権力を維持する事

しか考えておらん。

ワシは、自分で自分が嫌になってしまった。

もうこれ以上、組織の者でいたくないのだ!!」

 

 

・・・なるほど。

宇宙政府の中には、本当に宇宙の平和を

願っている者もいるってことなのね。

うん、とりあえずはこちらに寝返る事の

大義名分としては成り立つ・・・か。

 

けどやっぱりアタシは心中では

無条件にこの元上級執行官だという

男を信用はできない。

 

しかし、それを表情には出さず、

マレドーとオリオリの会話を引き続き

聞いていた。

結論を急ぐには、まだまだ情報が足りないわね。

 

それにしても宇宙政府はっ!

全くもって考えることがいちいち低俗ね(●`ε´●)

なんでそうやって、なんでもかんでも

壊そうって考えちゃうのかしら。

自分たちが得ようとしている富や権力だって

みんな壊しちゃったらなくなっちゃうじゃないの!

 

いや、富を差し出すから星を壊さないでほしい、

っていう考えが正しいとは言わないけれど、

それにしても事あるごとに星をぶっ潰すぞ!

ってすぐに言っちゃうその浅はかさが

気に入らないわっ!!

 

アタシはマレドーが信用に値するかを

見定めるために、

冷静でいようとはするんだけど

宇宙政府の事を考えると

どうしても怒りがこみ上げてきちゃう!

怒りの方は顔に出ちゃってるかも

しれないわね・・・。

 

オリオリは、ひょっとしたら

アタシの燃えたぎる怒りに

気づいてるかもしれない。

けど、アタシには声をかけず

引き続きマレドーとの会話を続ける。

 

「宇宙政府が新たな魔星王を・・・!

確かに脅威だわ。

しかし1つ疑問があります。

魔星王を生み出すには"秘術"が

必要だと言われています。

いかな宇宙政府とて"秘術"もなく

無から魔星王のような強大な存在を

創り上げるなど神でもあるまいに・・・。」

 

「"秘術"の話はワシも聞いたことがある。

そしてそれを扱えるのは・・・。」

 

「そう、星屑魔法団という集団です。

ですが彼らは現在、宇宙政府とは

距離を置いている。

何を隠そう、我が義勇軍へ協力を

してくれているのです、いわば

星屑魔法団は義勇軍の一員の

ようなもの。

彼らが宇宙政府に協力し、

魔星王誕生の片棒を担ぐなど

考えられませんっ!」

 

「うむ、その点については

ワシも疑問に思う。

で、星屑魔法団は今何処に?」

 

「ヨンツゥオ大陸です。

我が義勇軍三番隊が保護し、

身を隠して生活しています。」

 

「星屑魔法団は義勇軍の味方か・・・。

すると心変わりでもしたのか?

理由はわからんが直接会って

確かめるしかないだろうな。」

 

魔星王を生み出すのに必要だとされる

"秘術"に、それを扱える星屑魔法団・・・。

話がかなり具体的になってきたわね。

 

オリオリの言うとおり、魔法団が

義勇軍側にいるならば、

魔星王誕生は杞憂に終わる。

けれど元執行官マレドーは

「宇宙政府が魔星王誕生の準備に

入った。」と伝えている。

その証言が事実なら、魔法団に

なんらかの動きがあった可能性は

かなり高いわね。

 

「よしっ!

ヨンツゥオ大陸へ行こう!!

なっ?オリオリ。

ここで議論してても仕方ない、

実際に確かめなくてはな!」

 

ボロンが次の行き先と方針を掲げる。

 

「そうね、参りましょう、ヨンツゥオ大陸へ。

リザさん達、付いてきてくれますか?」

 

もちろん!

事実はともかく、冗談でも新しい魔星王を

誕生させるだなんて話、絶対に阻止しなくてはっ!

その鍵を握っている星屑魔法団に一刻も早く

会って真意を確かめなくてはっ!!

 

「よかった、ありがとう冒険王!!

では我々はレジィトの街へ戻り、

そこから飛行船で雲海を渡り

ヨンツゥオ大陸へ向かいます。

ドゥエインの一番隊はバァジ島に

留まり宇宙政府の動向を探ってください。

クサロの二番隊は引き続きマレドー殿の

警護を頼みます。」

 

「はっ!

承知いたしました!!」

 

「二番隊、承知しました!

オリオリ様、本の中にいらっしゃるとはいえ、

どうか道中お気をつけて。」

 

「オレはオリオリについてくぜ、

親衛隊長として総司令官を

守らなくてはなっ!!」

 

軍の役割も決まったみたいね、

よし、行こう、ヨンツゥオ大陸へ。

 

ただ、アタシはまた思考を巡らせる。

新しい魔星王、秘術、星屑魔法団、

そして寝返った元執行官マレドー・・・。

オリオリには悪いけど無条件で

マレドーの事を信用できない。

ううん、アタシの考え過ぎなら

それでいいの。

 

ただ、今回の情報のやり取りで

出てきたキーワード。

これが密接に絡み合ってる気が

してならない。

 

魔星王誕生のために秘術を

欲しがっているであろう宇宙政府。

秘術を扱う星屑魔法団の所在を

知りたくて仕方ないはず。

そんな折に義勇軍へ寝返るといって

現れた上級執行官マレドー。

魔星王誕生という情報を餌に

魔法団の情報を義勇軍から釣り上げる、

っていうのは考え過ぎかしら?

 

現にオリオリは魔法団の現状と所在を

あっさりマレドーに話してしまっている。

なんだか引っかかるわ・・・。

 

アタシは、新しい大陸での冒険に

ドキドキワクワクしながらも

若干の不安を覚えながら

モガ丸の手を握りルーラで

レジィトの街へと戻った。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。

・ボロン
義勇軍親衛隊隊長でありオリオリの幼馴染。
義勇軍の中でもかなりの実力者らしいけど
超の付く怠け者。
そして超の付くスライム愛の持ち主。
スライムに話しかける時だけ
赤ちゃん言葉になる。

・ドゥエイン
頑強な体躯を持つ義勇軍1番隊隊長の男性。
彼もかなりの実力者らしい。

・クサロ
義勇軍2番隊隊長。
精悍な顔つきをした青年将校。

・元上級執行官マレドー
宇宙政府の上級執行官だった魔物。
政府の恐怖政治に嫌気が差し義勇軍へと
寝返った。
その際に「新たな魔星王誕生計画」という
政府の内部機密をオリオリ達に伝えた。

★★★戦闘シーンについて★★★
アプリ内における戦闘システムはオフェンス面においては
チャージタイム制、武器選択制、スキル選択制を
採用しており1つのクエストにおける使用可能なスキルの
種類が限定されておりますが
本作品内の戦闘シーンにおいては一部これを採用しつつも
ナンバリング作品の戦闘システムやリアルな戦闘を
仮定した描写を模索していこうという方針です。
難しく書きましたがアプリ内に存在するスキル、呪文、
装備の追加効果など自由に戦闘シーン描写に
活用していこう、という方針です。
ディフェンス面も同様です。

第1章<新たなる雲海の星>了


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2ndシーズン第2章[星屑魔法団]***惑星クラウド・ヨンツゥオ大陸編***
エピソード1.「行方と雲海アイス」


アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。




「港に着いたぞー、錨を降ろせー!!」

義勇軍の制服ではなく、

住民の服を着て一般人を装った

ボロンが飛行船の船員たちに着港の

指示を出している。

 

こういう気象条件だとは聞かされていたけど、

改めて飛行船で雲の海を渡るだなんて

不思議な感覚ね。

 

さて。新たな魔星王誕生に際して

必要だとされる"秘術"を携えている

星屑魔法団と接触するため、

ここヨンツゥオ大陸へとやってきた

オリオリとアタシ達。

 

飛行船に乗ってバァジ島の中心地

レジィトの街を出発し、今、ヨンツゥオ大陸の

最寄りの港へと着いた。

 

「モガ~、バァジ島の時も思ったけど

ブルリア星とは建物や街の風景が

違ってて面白いなぁ。」

 

フフ、モガマルったら。

そうね、事態がけっこう切迫して

きちゃったけど、ゆっくり惑星クラウド観光

でもやってみたいな(^o^)

 

「さぁ!早速ですけど星屑魔法団に

接触しなくては。

彼らには我が義勇軍の三番隊が

護衛に付いています。

魔法団と三番隊は"星屑サーカス団"

という偽名を使って宇宙政府から

身を隠して生活しています。

まずはサーカス団が今何処にいるのか、

市井の人々に聞き込みをしてみましょう。」

 

サーカス団、なるほど、カムフラージュは

施してるのね。

で、オリオリすら詳しい所在を知らないってことは

それだけ魔法団の存在を厳重に

隠しておきたいって事なんだろう。

 

魔法団、いえサーカス団の聞き込みを

するためアタシ達は港の最寄りの集落へ

立ち寄る事にした。

 

「ようこそ、エィミィ村へ。

ここはヨンツゥオ大陸の玄関口の村よ。

雲海を凍らせたスィーツ、雲海アイスが

この村の名物さ。」

 

村の門をくぐり最初に出会った

恰幅と気前が良さそうな女性が

アタシ達を出迎えてくれた。

 

で、何?雲海アイスですって?

キャー!なにそれ美味しそう!!

やっぱり観光で訪れたかったわ~(・∀・)

 

「あのぉ、俺たち人探しをしていて、

ちょっと聞きたいんだけど

星屑サーカス団ってご存知かな?」

 

旅人を装ったボロンが早速

本題に入る。

う~、雲海アイスゥ~、

ちょっと食べたかったぁ(;_;)

 

「星屑サーカス団・・・・

あぁ!あのサーカスをしない

サーカス団のことかい?」

 

「モガ!知ってるのか!

そのサーカス団の事で何か

知ってる事ないかぁ?」

 

「この村にしばらく居たけどね~、

一度もサーカスをしないまま

立ち去ってしまったよ。」

 

「モガ、そうか、で、何処へ行ったのか

知らないか?」

 

「え、行き先かい、う~ん、そうだねぇ・・・。」

 

その恰幅のいい女性はサーカス団の

移動先を知ってそうだ。

だけど、言いかけて口をつぐんでしまった。

そして何やらコチラを見てニヤニヤしている、

気がしないでもない。

 

「教えてあげてもいいんだけどね、

アタシらのお願いを聞いては

くれないだろうか。

あんた達、見たところタダの旅人

じゃなさそうだ、戦いの心得を持ってると見た。

そんなあんた達を見込んでの

お願いなんだけど。」

 

む、何よ、すんなり教えてくれても

いいじゃない。

この人、恰幅は良くても気前は

良くないわね(●`ε´●)

 

で、女性は話を続ける。

 

「この村の名物、雲海アイスなんだけどねぇ、

作るのに砂糖が必要なんだ、

で、砂糖の材料であるサトウキビが採れる

洞窟があるんだけど最近、宇宙政府が

その洞窟への出入りを禁止してしまった。

だから雲海アイスを作れなくなっちまったんだ。

村の名物が作れないとなるとアタシらは

商売上がったりだ。

アタシャ貧乏はイヤだーーーーー!!

ってワケであんた達、洞窟へ行って

サトウキビを採ってきてほしんだ。

願いを聞いてくれたらサーカス団の

向かった先を教えるよ。」

 

あぁ、こういう流れね(-ω☆)キラリ

ブルリア星でもゴマンとあったわ。

そう、冒険王は旅先で困ってる人達を

助けるっていう使命があるからね、

それはここ惑星クラウドでも変わらないわ。

 

うん、サーカス団の向かった先も

教えてもらわなきゃだし。

 

そして何より!

雲海アイス!!

食べ物の恨みは怖いんだから!!!

村の人達も困ってるけど

これだけ引っ張っといて雲海アイスを

食べられないなんてアタシ許せないわ!

こうなったら意地でもサトウキビを

採ってきて雲海アイスを作ってもらうんだから!!

 

「どうして宇宙政府はサトウキビの洞窟への

出入りを禁止したんだ?」

 

「サトウキビを独占して雲海アイスの販売も

独占して儲けを政府だけのものにしよう

としてるのさ。

宇宙政府はアタシ達下々の者がどうなろうと

知ったこっちゃないのさ!」

 

ムカー!!

富や権力だけじゃなく美味しいモノまで

独り占めなんて、

宇宙政府へ怒りが倍増したわ(-_-メ)

 

「モガ丸!ジョギー!レイファン!オリオリ達っ!!

いくわよ、その洞窟へ!

絶対にサトウキビを採ってくるんだからっ!!!」

 

そう言い放つとアタシはすぐさま

村の出口へと向かった。

食べ物の恨みは怖いんだからって

言ったでしょう!!

 

「リザさん・・・どうしたんでしょう?

行き先も聞かず、すごい剣幕で

飛び出してしまいました・・・。

!!そうか、リザさんももう義勇軍としての

自覚が芽生えたのですね!

一刻も早く星屑サーカス団を

見つけなくては、という使命感から

あのような怒りの形相に!」

 

「モガ~、いや、どうだろうな、

あれはただ単に雲海アイスが

食べたくて仕方がないだけかもな・・・。」

 

「リザ姉も女の子だからな、

甘いものには目がないんじゃないの?」

 

「・・・そうですか・・・冒険王といえど

うら若き乙女なんですね、クスっ」

 

と、アタシが飛び出したあとで

こういうやり取りがあったとは

アタシはもちろん知りませんっ!

 

「あぁ、サトウキビを採りに行ってくれるんだね。

サトウキビが採れるのはここから東にある

キビ洞窟だ。気を付けて行ってきておくれ。」

 

アタシは後から追いかけてきた仲間たちに

行き先を聞き、甘いモノに我を忘れてしまった

事を恥じながらキビ洞窟へと向かった。

 




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。

・ボロン
義勇軍親衛隊隊長でありオリオリの幼馴染。
義勇軍の中でもかなりの実力者らしいけど
超の付く怠け者。
そして超の付くスライム愛の持ち主。
スライムに話しかける時だけ
赤ちゃん言葉になる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード2.「果たして名物スイーツは復活するのか!?」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。




美味しいモノまで独占しようとする

宇宙政府への怒りを抑えられない

アタシは

星屑サーカス団(星屑魔法団と

義勇軍三番隊の仮の姿)の向かった

行き先を知るエィミィ村のオバサンの

願いを叶えるためアタシ達は

サトウキビが採れるキビ洞窟へと

向かっていた。

 

「着きましたね、ここがキビ洞窟の

ようです。

さぁ、急いでサトウキビを採って

帰りましょう。ね?リザさん。」

 

う、食べ物に釣られて我を忘れて

しまった事を含ませた目配せを

オリオリが送ってきた・・・。

恥ずかしい~~~(>_<)

 

「中にはきっと魔物がいるぜ、

なんせ宇宙政府が出入りを

禁止したぐらいだからな。

リザ達、魔物は任せたぜ、

オレは少々眠いから寝る。

もしピンチになったら起こしてくれ、

助けてやるから。」

 

「っもう!

ボロンったら相変わらず

超怠け者なんだからっ!」

 

ん、今はとにかく、

この恥ずかしい空気を

吹き飛ばしてしまいたいっ!

魔物がいようがいまいが

とっとと終わらせようっ!

うん、恥ずかしいからボロンは

そのまま寝てて~(>人<;)

 

ってワケでアタシ達は

洞窟へと踏み込んだ。

中には宇宙政府の手先で

あろう魔物たちが居た。

サトウキビを採りにくる

人間がいないか

見回っているんだろう。

 

けど、ここに配備された

魔物は雑魚ばっかりだった。

あっさりと魔物を蹴散らし、

洞窟の最深部まで進んだ。

 

「さすがリザ達だな。

おかげでよく眠れたよ。」

 

「っもう!ボロンったら!!

ちょっとは真面目に働きなさいよ!」

 

「モガ!?おぉぉ!

見ろ!あれがオバサンの言ってた

サトウキビじゃないか!?」

 

「よし!急いで持って帰ってやろう!!」

 

これでようやく雲海アイスを食べられる・・・

じゃなくって!

サーカス団の行方がわかるわ!!

アタシ達は村へ戻り、例のオバサンのもとへ

向かった。

 

「あぁぁ!これよ、これ!

これが雲海アイスを作るのに必要な

サトウキビだよ!!

あんた達、採ってきてくれたんだねぇ、

ありがとよぉ!!

このサトウキビを元にうちの村で

栽培することにするよ。

そうすりゃ宇宙政府の目を盗んで

洞窟へ行く必要もない。

これで安心して雲海アイスを

量産できるよ、ホントにありがとぉ!」

 

「よかったな、オバサン、

で?サーカス団の行方は?

どこへ向かったんだ??」

 

「あ、そうだったね、約束通り

教えるよ。

彼らはここを立ち去るとき、

"青雲の巨塔"へ向かうって

言ってたよ。

そこでサーカスの練習を

するんだってさ。

アタシらの前では一切、

サーカスを見せてくれなかった

っていうのに。

一体どんな練習をするって

いうんだろうねぇ。」

 

「青雲の巨塔・・・。

魔法団と三番隊は一体何のために

そんな場所へ向かったんだ?」

 

「行ってみましょう。

行けばわかるはずです。」

 

「よーし、リザ、次は青雲の巨塔だってよー!

急ごうぜ!!」

 

わかったわ、急いで行かないと

また入れ違いになっちゃうもんね・・・

 

って、え!?

 

雲海アイスはぁぁ~~~~!!??

 

「あぁゴメンね~、

このサトウキビは採れたてだろぉ?

この状態から砂糖を精製するのに

ちょっと時間がかかるんだ、

雲海アイスは今すぐには作れないんだよ。」

 

なぁぁぁ!!

急いで採ってきたのに!!!

 

こんだけ期待させといて

結局食べられないの!!??

 

「・・・リザさん・・・

申し訳ないけど、急いで魔法団と

接触しないと・・・。」

 

「リザ!

また時間がある時にこの村へ

立ち寄ってごちそうしてもらおうぜ!

オイラがルーラでひとっ飛びで

連れてきてやるからよぉ!」

 

「あぁ、あんた達には感謝しきれないからね、

そん時はとびっきりの雲海アイスを

ごちそうさせてもらうよっ!」

 

ガ~~~~ン、こりゃもう、

アタシが引くしかない流れね、

仕方ないわね、うん、オリオリの言うとおり、

一刻も早く魔法団に接触しなくちゃ、だし。

まぁ、アタシ1人のわがままで

事態が悪化しちゃいけないし

 

というワケでアタシ達はサーカス団が

向かったという青雲の巨塔へ

向かうことになった。

そうね、彼らに何が起こったのか、

魔星王誕生っていうのは、

とんでもない事態だもの。

彼らの思惑はまだわからないけど、

話し合いでそれを阻止できるなら、

それがベストだもの。

 

アタシは、思考の中から雲海アイスの

ことがどんどん小さくなっていくのを

実感した。

目の前で起ころうとしていることは

想像以上に緊迫しているって事を

再認識した。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。

・ボロン
義勇軍親衛隊隊長でありオリオリの幼馴染。
義勇軍の中でもかなりの実力者らしいけど
超の付く怠け者。
そして超の付くスライム愛の持ち主。
スライムに話しかける時だけ
赤ちゃん言葉になる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード3.「ワケを聞かせて・・・」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。




「ここが青雲の巨塔か~、

なんかすっごい高い塔だなぁ。

・・・それにしても、人の気配がしないぞ。

ホントにここに星屑魔法団がいるのか?」

 

「思い出した!

確かこの塔のてっぺんには

宇宙王の一族にゆかりのある

金庫があるとかって話だぜ。

その金庫の扉には鍵が

かかってるんだが、

宇宙王の血を引く者なら

鍵なしで開けられるらしい。

もしかすると金庫の中には

星屑魔法団にまつわる何かが

保管されてるかも?」

 

「ボロンっ!

なによもう、珍しく名推理じゃない!

なんで時々、そう冴えてる事をするのっ!!」

 

「フフ、キビ洞窟では怠けちまったからな、

その分、冴えてるのもしれんな。

宇宙王の血を引く者・・・つまりオリオリなら

無条件で金庫を開けられるはず。」

 

「わかった、急ぎましょう!」

 

さっそくアタシ達は塔の中へと

潜入し、探索を始めた。

中には魔物が巣食っていて、

それを蹴散らしながら

どんどんと塔を登っていく。

 

しかし、やっぱり人がいる気配はなく、

星屑魔法団はここにはいない、

という予感がパーティー全体を

包み始めていた。

 

そしてとうとう最後の魔物を倒し、

最上階へとたどり着いた。

 

やっぱり人影はなく魔法団の姿も

当然なかった。

しかしボロンの言っていた

宇宙王ゆかりの金庫、

これは最上階フロアの一番奥に

存在したわ!

 

「見ろよ!

やっぱり金庫はあるみたいだぜ、

宇宙王の紋章が刻まれた扉、

これがきっとそうだ!

鍵はないが、オリオリ、お前なら

鍵なしでも扉を開けられるはずだっ!」

 

「わかりました。

宇宙王の血のもとに命じます。

扉よ、開きなさい。」

 

するとギギギギ~っという金属音と

ともに紋章が刻まれた扉が

ひとりでに開き始めたのっ!

 

不思議な光景・・・。

疑ってたワケじゃないけど、

オリオリはホントに宇宙王の血を引く

末裔だってことが証明されたわね。

目の前の神秘的な光景がそれを

物語ってる。

 

「ま、まぶしいーーー!!」

 

扉が開くと、中から眩い金色の光が

溢れ出た。

確かに目も開けてられない。

 

やがて光も収まり、金庫の中に

入っている物がなんなのか

視認できるようになってきたわ。

 

「中には一体何が入ってるんだ?

・・・ん?こ、これは!

珠・・・青雲のオーブか!?」

 

「モガ、青雲のオーブ??」

 

「星屑魔法団の魔術師たちが

創り上げた珠さ、

魔法団の者だけが、このオーブに

言葉を刻むことができる。」

 

「ってことは星屑魔法団からの

メッセージが残ってるかも

しれないって事だなー!!」

 

星屑魔法団のメッセージ・・・

彼らの真意を知ることができるのかも?

こんなに厳重な隠し方をしてまで

伝えたい事だもんね。

なにしろ、この金庫を開けられるのは

オリオリだけなんだもの。

 

「もしかしたらセアドからの

メッセージかもしれないぞ、オリオリ。」

 

「セアドからの・・・・♡!」

 

一瞬、オリオリの声に艶が宿った気がする。

セアドって?

 

「セアドは星屑魔法団の団長、

そしてオリオリの夫だ。」

 

え?

 

エエェェェーーーーー

 

オリオリって既婚者!!!???

 

「はい、星屑魔法団の団長セアドは

私の愛する夫です・・・♡」

 

なんですってーーーー!

こんなに美人で若くて素敵な女子が

もうすでに結婚してるなんてっ!!

最近では一番衝撃の事実かも(゚д゚)!

 

いえ、うん、こんな美人ですもの、

世の男性が放っておくはずはないわ。

けど、なんていうんだろ、

全然、所帯じみてなくて、

仮にも巨大なレジスタンスグループの長を

務めるような非常に行動力のある女性と

結婚っていうフレーズがいまいち結びつかない

というのか・・・。

 

そうか、それでさっきセアドという名前を

聞いたときに、声に艶が出たのね。

愛する人の名前を聞くだけで

嬉しくなっちゃうんだ。

アタシにはまだまだわからない感覚だけど、

結婚って、なんか、イイものなのね(*^^*)

 

「モガ~、かなりのビックリ事実だな、

オイラはてっきりオリオリは

ボロンと・・・その・・・」

 

「勘弁してくれよ!

オレはただの幼馴染だぜ!

宇宙王の末裔であるオリオリと

恋仲だなんて血筋が違いすぎるっ!

オレはおくまでオリオリの身を守る

という使命を帯びてるだけさ。」

 

あ、そうか、そういう見方のほうが

自然よね。

でもモガ丸ったら、そういう目で

オリオリとボロンを見てたのね(*´ω`*)

 

「ほら、オリオリ、オーブに込められた

メッセージを確認しようぜ!」

 

「そうですね。

・・・・・・青雲のオーブよ、

宇宙王の血のもとに命じます、

刻まれし言葉を今ここに

解き放て!!」

 

すると、扉が開いたときと同じか

それ以上に強烈な光が

オーブから放たれ、このフロア全体に

溢れ出した。

 

やがて光はオーブの周りをわずかに

照らす程度にまで弱まり、

オーブから人影が現れた。

まるで冒険王の書や宇宙王の書から

人が現れるように・・・!

 

現れた人影は・・・優しそうな青年だった。

優しそうで、それでいて少し憂いを

帯びた表情をしているように

アタシは思ったわ。

 

青い珠から現れた青年が

メッセージを語り始めた。

 

『このオーブから言葉が解き放たれたとき、

私はそこにはいない・・・。

しかしこの言葉を聞いているであろう

人物は容易に想像できる!

宇宙王ゆかりの金庫を開き

青雲のオーブに刻まれし言葉を聞く者、

それは全宇宙でただ1人、私の愛する妻

オリオリ、君だけだ!』

 

「えぇ、セアド。

アナタの言葉を聞いているのは

私です!」

 

『オリオリ・・・驚かずに聞いてほしい。

我が星屑魔法団は義勇軍を離れ

宇宙政府に協力することにした。

どうして?って君は言うかもしれない。

しかしもはや、道はそれしか

残っていないんだ。

夫のワガママを許してほしい。

しばらく会えなくなるかもしれないが

君の無事を祈ってる・・・。』

 

 

【挿絵表示】

 

 

映像として現れた青年は、

時折、寂しそうな表情を見せたり、

決意に満ちた表情を見せたりと、

実に複雑な感情を持ちながら

言葉を紡いでいた。

 

そして語り終わると再び封印を

解かれたときと同じ光を放ち

やがてオーブに収束され

ただの青い珠に戻ってしまったの。

 

オリオリはとてもやりきれないというか、

寂しそうな顔をして俯いてしまった。

そりゃそうだわ!

さっきまで愛しい人の声が聞けるって

あんなに目を輝かせていたんだもの、

そこには義勇軍総司令官という立場を

抜きにした1人の女性としての

喜びの感情があったはず。

それなのに、愛しい人が語った

言葉はあまりに残酷な内容。

それは妻としても義勇軍のリーダー

としても、とても納得できるものでは

ないはずだわ。

 

 

「・・・・どうやら星屑魔法団が

宇宙政府に協力するって話は

事実らしいな。

秘術を使って魔星王を誕生させる

つもりなんだ。」

 

「けど、今まで義勇軍に協力していたのに

なぜ急に??」

 

「会って確かめるしかないぜ、

それにしても、ここの塔にも

魔法団はいなかった、一体ヤツらは

どこへ行ったんだ?」

 

「ボロン、この先にはジリョン城が

あったはず。

そこへ行って魔法団の行方を

探ってみましょう。」

 

「ジリョン城か・・・宇宙政府の要所だな、

今まで以上に厳重に身分を隠して

乗り込まないとダメだぞ。」

 

オリオリったら・・・きっとツライはずなのに

総司令官として今後の展望を考えてる。

なんて人なの。

 

けど、そうね、事は魔星王誕生に

直結するような方向に走り出した。

オリオリとセアドの夫婦間のことは

ひとまず置いておいて、

魔法団に直接、真意を聞いて

秘術の行使を止めさせなければっ!!

 

ただ、さっきのメッセージを聞いて

少し気になる事があったわ。

 

セアドは「宇宙政府に協力するしか

道が残されていない」と言った。

 

自らの意志で進んで政府に協力するんじゃなく、

止む無く協力する、というようなニュアンスを

含んでいるとアタシには読み取れた。

その辺りも含めて、確かに会って

直接確かめるしか方法はないように

思うわっ!!

 

で、何?次は宇宙政府の要所ですって?

望むところね!

心して向かわなくっちゃっ!!

 

様々な事実が明らかになり、

そしてまた次の謎が生まれる・・・。

なかなかアタシの思考も追いつかないけれど、

とにかくこれだけは言えるっ。

 

絶対に魔星王誕生は

阻止しなければならないっ!!

 

残念なことに事態は悪い方向へと

動き始めてしまったけど、

絶対に覆さなければならない!!

 

アタシはオリオリの事を心配しながらも

とにかく今は目の前の事を

精一杯やるという決意を新たにした。

きっとオリオリも同じ気持ちだろう。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・ボロン
義勇軍親衛隊隊長でオリオリの幼馴染。
義勇軍の中でもかなりの実力者らしいけど
超の付く怠け者。
そして超の付くスライム愛の持ち主。

・セアド
星屑魔法団の団長にしてオリオリの夫。
とある事情で義勇軍との同盟を解消し
宇宙政府の「魔星王誕生計画」に加担する。
魔星王誕生には魔法団のみが扱える
"秘術"が不可欠。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード4.「すれ違い夫婦」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



足取りが重い。

ボロンはずーっと黙ったまま。

いつもスラッピとじゃれ合いながら

歩いてるモガマルでさえ口数が少ない。

オリオリにいたっては書から

全く出てこない。

 

青雲のオーブに刻まれた

魔法団団長、そしてオリオリの夫である

セアドのメッセージの内容が、

アタシ達一行の足取りと心に

重く暗い影を落としていた。

 

ただ、アタシとしては、

事態が悪化してるのとオリオリの私人

としての気持ちを思うと確かに

暗い気持ちにはなるんだけど、

青雲の巨塔で判った事実には

いくつか疑問も残るのよねぇ。

 

ボロンは、オリオリとセアドは婚約者、

生まれたときから決まっていた相手

だと言っていた。

 

オリオリ達の生い立ちは知らないけれど、

彼女らが生まれた当時の勢力関係っていうの?

義勇軍(その当時存在してたのかわからないけど)

と星屑魔法団の関係ってどうだったのかしら。

 

今現在は協力関係にあるらしいけど

(もっとも青雲のオーブのメッセージを

聞くまでの話)、それはオリオリとセアドが

夫婦ということが影響してるのか、

影響しているとして、結婚が先なのか

協力関係になってから結婚の話に

なったのか・・・。

あ、いや、生まれたときから婚約者

だというなら結婚のほうが先の話か。

婚約が成立したから協力関係へと

至ったのか、いわゆる政略結婚。

 

ふーむ、頭がこんがらがるぅ(TдT)

オリオリがあんまり自分の事を

語ろうとしないし情報が少ないから

よくわからないっ!

 

「モガー!見ろ!!

湖が見えてきたぞー!」

 

「よぉし、じゃあ左に向かおう、

しばらく歩くと右手に城が

見えてくるはずだ。」

 

「モガ?左に曲がるってことは

湖は右手になるんだろ?

なのに右手に城が見えるってのは

どういうことだ?」

 

「行けばわかるサ。」

 

アタシが思考停止に陥ろうと

している間に目の前に

湖が見える分岐道にまで

たどり着いたみたいね。

 

モガマルとボロンが

目的地への道のりを

話し合っている声が聞こえてきた。

どうやらジリョン城までもう少しみたいね。

けど右手が湖となる方向に進んで、

右手にお城が見えてくるだなんて。

まさか湖の中にお城が建ってる

とでもいうのかしら。

 

ボロンの言うとおり分岐を左に曲がり

しばらく歩くと、ようやくボロンの

言っていたことの意味を知ることに

なったわ。

 

アタシが予想したとおり、

湖の中にあるお城と城下町が

遠くに見えてきた!

湖のほぼ中心辺りに小島があり、

その島に向かって長い橋が

架かっていたの。

なるほど、そういう事ね。

 

橋のこちら側の渡り口まで

たどり着き、長くて頑丈そうな

鉄橋を小島に向けて歩く。

 

島に近づくに連れその大きさに

驚かされたわ。

街がひとつまるごと湖に

浮かんでるんだもんね、

そりゃあ、その規模は大きいわね。

 

橋を渡りきるとアタシ達は

ジリョン城下町の大きさに

ただただ唖然としていた。

 

「モガー!!

なんて大きな街なんだ、

こんな大きな街が湖のど真ん中に

あるなんて、惑星クラウドに来てから

一番の驚きだ~!」

 

「この街と城は宇宙政府の要所だからな、

規模の大きさも、城の豪華さも

自分たちの富と権力を内外に示すため

のものなんだ。

栄えてて当然さ、ま、オレは好かんけどな。」

 

「貴様ら何者だ!?」

 

モガマルとアタシ達が、ジリョン城下町の

豪華絢爛さにあっけに取られていると、

厳しく詰問するような声が街の門のほうから

飛んできた。

 

「あやしい奴らだな、何用だ?」

 

「オイラ達は・・・ぎ、義勇軍じゃないぞ!

あやしい者じゃないぞー!」

 

ゲ(゚д゚)!

 

モガマル・・・それじゃあ

アタシ達こそが義勇軍って

言ってるもんじゃない、

アヤシイってーーー^^;

 

「この先は宇宙政府の者しか

入れん、すぐに立ち去れ。」

 

「あ、いえ、オレ達は人探しを

していてあちこち放浪してるんだが。

星屑サーカス団がこの街に

来ていないかな。」

 

「何?星屑サーカス団?

あぁ、あのサーカスをしないサーカス団か。

ヤツらなら確かにここへやってきた。

この地を治める上級執行官ドアヌ様に

面会するためにな。」

 

「実は!

オレ達もサーカス団の団員なんだ。

オレ達がいないとサーカスをすることは

できない。

このままではドアヌ様にサーカスを

お見せできないんだ!」

 

「何?それはマズイな。」

 

「オレ達の仲間とドアヌ様は

どこで面会をしているんだ?

教えてくれ、急いでそこに向かうから。」

 

「ここから南に向かったところにある

ジリョニスタの塔だ、ドアヌ様と

お前たちの仲間はその塔で

面会しているはずだ。

急いで向かい、ドアヌ様をサーカスで

楽しませてこい!」

 

「ありがとう!助かったよ、感謝するぜ!!」

 

ま!

ボロンったら、イケナイ子ね~(゚∀゚)

 

「へっ、ちょろいな。」

 

「すごいな ボロン!」

 

「ピーッ!」

 

「宇宙政府っていっても三下は

あんなモンさ。

魔法団が上級執行官に会うのは

サーカスを披露するため、としか

知らされていないみたいだし。

・・・しかしマズイな、魔法団が

上級執行官に接触するとなると

秘術に関する密談か、

それとも、もう魔星王誕生が

時間の問題なのかもしれないっ!!

さあ!リザ達、ジリョニスタの塔へ

急ごうぜ!!」

 

モガマルがやらかしてしまいそうだったけど

ボロンの機転でうまく乗り切ったうえに

重要な情報まで手に入れたわ(*´∀`*)

さすがレジスタンスグループの親衛隊長ね。

普段から諜報活動をしている彼らにすれば

これぐらいの作り話はお手の物なのね!

 

ボロンの手際のいい話術のおかげで

みんなの空気が若干和んだ気がするわっ!

よぉし、急いでジリョニスタの塔へ向かおう!!

 

渡ってきた橋を戻り、さらに南の方角へ

向かって歩き始める。

確かに、今まで以上に時間がないわ。

魔法団と上級執行官を接触させては

いけない。

魔星王誕生に直結してしまうわ(_ _#

 

 

アタシ達はしぜん、足取りが早くなる。

青雲の塔から休み無しで旅を続けている

ことになるけど、そんな事を言っては

いられないわ!

 

しばらく歩くと平原の彼方に塔らしき

建造物が見えてきた。

 

「あれがジリョニスタの塔に違いない、

急ごう!」

 

ボロンが号令をかける。

さらに歩くと塔と、そして海が見えてきた。

どうやらジリョニスタの塔は

海岸沿いに建っているようね。

 

塔の入り口にたどり着くと

ようやくオリオリが書の中から

現れた。

 

「星屑魔法団が宇宙政府に協力すれば

新たな魔星王が誕生します・・・。

それすなわち宇宙政府の打倒が

不可能になることを意味します。

・・・絶対に阻止しなければなりませんっ!!

リザさん達、お願いします!!!」

 

オリオリ・・・旦那様が魔法団のリーダーなのに

自分の志とは違う方向を彼が向くという

事実を、ううん、受け入れられないはずなのに、

義勇軍のリーダーとして受け入れようとしている。

そして自分がどういう意思表示をすべきか、

ということも(><;)

 

わかってるわオリオリ、

魔星王の恐ろしさは誰よりもアタシ達が

知っている。

あんな化物を再びこの世に出現させる

だなんて、この冒険王が許さないっ!!

 

「リザ達、いくぞーーー!」

 

アタシ達は覚悟を決めて塔へ

踏み込んだ。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・ボロン
義勇軍親衛隊隊長でオリオリの幼馴染。
義勇軍の中でもかなりの実力者らしいけど
超の付く怠け者。
そして超の付くスライム愛の持ち主。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード.5「翻意の影に陰謀!?」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



塔に突入すると当然ながら魔物が居た。

ドラゴン系の魔物が多いわね。

ここは剣を握っているジョギーに

活躍してもらおう。

 

ジョギーの剣をメインにアタシも

呪文で援護。

レイファンに回復を施してもらう

必要もなく次々とドラゴン達を

倒し塔の最上階を目指す。

 

けど人の気配はまるでしない。

青雲の巨塔の時と同じだわ。

魔法団や、その上級執行官ドアヌとやらの

気配はなさそう。

 

クッ!

一足遅かったか!?

最上階には、ドラゴンらしからぬ

魔物が3体居た。

何がって風船のようにプクーっと

膨らんだ胴体をしてるの。

けど頭部や手足はまさしくドラゴン。

体表の鱗もそれを物語っている。

 

やはりここも剣を握っているジョギーを

メインに攻撃を仕掛ける。

3体いるのでなるべく全体攻撃で。

アタシも全体魔法を多めに。

レイファンもブーメランを装備してるので

全体攻撃スキルを扱える。

 

いかなドラゴンといえどアタシ達の

敵ではなかった。

ただ3体いるのでなかなかトドメを刺すのが

難しかったわね。

その風船のような巨体を活かして

何度ものしかかり攻撃をしてくるの。

 

けどそれもアタシ達に致命傷を与える

ことはできない。

最後は全体攻撃スキルを3人で

重ねてトドメを刺した。

 

「やっぱり・・・。

途中の階でもうすうす思ってたが

魔法団もドアヌって上級執行官も

ここにはいないな。」

 

雑魚モンスターはたくさんいたけど

やっぱり魔法団はいなかったみたい。

 

「も もしや・・・。

そこいるのは・・・ボロン?」

 

と、物陰のほうからボロンの名を呼ぶ

女性の声が聞こえた。

 

「ん?誰だ、オレの名を呼ぶのは・・・。」

 

「私よボロン・・・。」

 

「・・・何っ!おまえは・・・コッツ!」

 

「義勇軍の制服を着てるってことは

仲間か・・・・ん?・・・・

モガーーーー!!!

大丈夫か!?傷だらけじゃないか!」

 

「こいつはコッツ。

義勇軍の三番隊の隊長だ。」

 

「三番隊といえば、星屑魔法団を

保護していた隊じゃないのか!?」

 

「そうだ。

・・・・おいコッツ、大丈夫か?

しっかりしろ!!」

 

「命に別状はない・・・・

それよりも大変な事が起きてしまった・・・。」

 

ようやく・・・探していた人たち、

"星屑サーカス団"を構成する

義勇軍三番隊に出会うことができた。

 

しかし、やっぱり!

一足遅かったわ、三番隊の隊長という

コッツ、彼女はひどい怪我をしていた。

 

宇宙王の書からオリオリが現れる。

 

「コッツ、久しぶりですね。

一体何があったのです?」

 

「ハっ!

これはオリオリ様!!!・・・・・」

 

女性隊長はひどい怪我にもかかわらず

姿勢を正しオリオリに向かって

最敬礼をした。

そしてその姿勢のまま頭を垂れてしまった。

 

「申し訳ございませんっ!!

三番隊は・・・・不覚を取りました・・・!

私以外の隊員は・・・・全滅。」

 

「ぜ、全滅だとぉ!!??」

 

「詳しく報告を!続けなさいコッツ。」

 

「ハっ!

我々三番隊と星屑魔法団は

星屑サーカス団と名乗り、

宇宙政府からの追跡をかわし

身を隠しておりました。

しかし、ある日、ヤツが現れたのです。」

 

「ヤツ!?」

 

「ヤツは宇宙政府に協力するよう

魔法団に説得を始めました。

魔法団は説得に応じ心変わりを

してしまったようです。

そして宇宙政府に協力する旨を

上級執行官ドアヌに伝えるため

我が三番隊の目を盗み姿を消して

しまいました。」

 

「・・・それで?

アナタのその傷や三番隊の

全滅への経緯は?」

 

「我が三番隊は諜報活動を駆使し、

ここジリョニスタの塔で

魔法団とドアヌが接触するという

情報を得ました。

そして面会を阻止するために

ここへ踏み込んだのですが

ドアヌ率いる宇宙政府の軍勢に

返り討ちに・・・・。

私以外の隊員は全員捕虜と

なってしまいました・・・・。

オリオリ様、誠に申し訳ございませんっっ!!!」

 

コッツは、報告の最後のほうは

もう声を震わせていた。

必死に涙をこらえているんだろう。

 

「コッツ・・・いいのです、

アナタが無事でよかった!」

 

「ウッウゥゥゥ、うわ~~~~!!!」

 

オリオリがコッツへ温情の言葉を

かけると同時にコッツの心が決壊した。

コッツはその場に崩れ落ち号泣した。

 

失態を犯したにもかかわらず

許しの言葉をかけられる・・・、

それがどんなにツライ事なのか、

組織に属したことのないアタシには

測りかねる出来事だった。

 

自分だけが逃げ延びてしまった罪悪感、

そして孤独感と・・・

いつまた敵に襲われるかもしれないという

恐怖感、いろんな感情と戦っていたんだろう。

 

そして現れた仲間に出会った安堵感、

全ての感情が爆発してしまったんだろう。

 

しかし、こうやって起きてしまった出来事を

上官に報告するというのも敗軍の将の立派な仕事。

うん、オリオリの言うとおり、彼女が無事で

報告をこなしたというだけでも

見事だったんじゃないかしら。

 

部下を預かる立場の人間にしてみれば、

隊員たちと運命を共にすることのほうが

気持ちとしても悔いは残らない、

心を鬼にして自分だけが逃げ延び、

あとから仲間が来ると信じ、

報告の義務を果たす。

そのほうが罪悪感に襲われよっぽど

ツラかったでしょう。

 

しばらくして、ようやくコッツは

落ち着きを取り戻したのか、

いまだ涙を流しているみたいだけど

必死に言葉を発しようとしていた。

 

「うぅぅぅ、オリオリ様、ありがたきお言葉。

・・・しかし、務めを果たす事ができず、

謝罪の言葉も見つかりません・・・。

セアド様を含めた魔法団を保護するという

務めを・・・・うぅぅぅ。」

 

「良いのです・・・・それよりも!

宇宙政府に協力するよう魔法団を

籠絡したのは誰です?」

 

「ヤツは・・・名乗りませんでした。

ですが姿出で立ちは・・・そう・・・・

まさに・・・・白いスライムナイト。」

 

「白いスライムナイト・・・・?」

 

「・・・・それでドアヌと魔法団は

何処へ行ったんだ?」

 

「東に向かった。」

 

「どうして東に・・・

東に何があるというのでしょう?」

 

「オリオリ、思い出せよ。

東にはヨンツゥオ大宮殿があるぜ。

宮殿には魔法団の秘術が使える施設がある。

新しい魔星王を誕生させる秘術、をな。」

 

「・・・ヨンツゥオ大宮殿に向かったとなれば、

魔法団・・・セアドは本当に新たな魔星王を・・・。」

 

「最悪だな・・・・。」

 

白いスライムナイトか・・・・

一体どう言いくるめたのかしら、

魔法団の事を。

 

・・・まさか、ディミトリのように催眠術!?

だとしたらマズイわね、

もしあの催眠術と同じような能力を

そのスライムナイトが使えるとしたら!

本人にその意志がなくても術者の

思い通りに操っている人間を

動かす事ができるわっ!!

 

とにかく!

魔法団と上級執行官ドアヌとの

接触を阻止することはできなかった。

急いで大宮殿に向かわないとっ!!

 

生まれた時から将来を約束されたいた

オリオリとセアド。

その2人が、それぞれ統率する集団、

義勇軍と星屑魔法団。

 

おそらく固い絆で結ばれていた

2つのグループが、そう簡単に

袂を分かつとは思えない。

 

そこにはおそらく汚い宇宙政府の

陰謀が渦巻いているはず。

それを確かめるためにも、

魔星王誕生を阻止するためにも、

一刻も早く魔法団、いえ、セアド本人に

会わなくてはっ!!

 

宇宙政府の卑劣なやり方を

熟知しているアタシ達は

星屑魔法団の翻意にも

きっと裏があると確信した!

その白いスライムナイトとやらが

鍵を握っている、とも。

 

「コッツは大怪我だ、オレは

しばらくコイツの面倒を見なくちゃ

いけない。

相変わらず冒険王には頑張って

もらわなくちゃいけないが、

よろしく頼むっ!」

 

任せてボロン!

アタシ達がかならず魔星王誕生を

阻止してみせるっ!!

 

怪我をしたコッツの容態を

気遣いながらも、アタシ達は

ヨンツゥオ大宮殿を目指して

東に向かった。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・ボロン
義勇軍親衛隊隊長でオリオリの幼馴染。
義勇軍の中でもかなりの実力者らしいけど
超の付く怠け者。
そして超の付くスライム愛の持ち主。

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

第2章<星屑魔法団>了


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2ndシーズン第3章[魔星王の影]***惑星クラウド・ヨンツゥオ大陸編***
エピソード1.「恐怖政治、心さえ奪う」


アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



星屑魔法団と上級執行官ドアヌは

とうとう接触してしまったらしい。

彼らは大陸の東部へ向かったという。

 

そこには魔星王誕生に必要な“秘術”を

使える場所「ヨンツォオ大宮殿」がある。

状況証拠だけど、星屑魔法団が宇宙政府に

協力するっていうのは、

いよいよ現実味を帯びてきたわ。

 

オリオリとアタシ達は、魔星王誕生を

阻止するために魔法団とドアヌが向かった

であろう大宮殿へと急いだ。

 

大宮殿へと向かう途中、レェノォ村という

処に立ち寄った。

そこでアタシ達は、村人達が収穫した食料を

宇宙政府の役人が奪っているという実態を

目にする。

 

村に立ち寄ると引きつった笑顔を浮かべた

女性が出迎えてくれたわ。

 

「レェノォ村へようこそ。

けど、十分な歓迎はできないのです。

宇宙政府の役人が、私達の収穫した

作物を根こそぎ奪っていってしまうの。

けど私達はそれで幸せなの。

だって宇宙政府の繁栄のために

貢献できるんですもの、あは、

あははは・・・・」

 

「もが〜なんだかこの女の人、

無理して笑ってるぞ。」

 

「無理もない、宇宙政府に逆らえば

皆殺しにされる、笑ってごまかすしか

ないんだろうな。」

 

「なんだかかわいそうだ〜。」

 

【挿絵表示】

 

村の人々が汗水垂らして作った農作物、

それはきっと生きるために命がけで

生産されたものに違いない。

それを奪うなんて許せないわ!

 

魔星王誕生を一刻も早く阻止しなければ

いけないのはわかってるんだけど

目の前で困ってるこの村の人たちを

見過ごすわけにはいかない。

 

アタシは食物を奪う政府の役人を

退治することをオリオリに申し出た。

 

「もが、けどよぉ〜リザ、おいら達は

一刻も早く魔法団に追いついて魔星王誕生を

阻止しなきゃいけないんだぜ!?

寄り道してる場合じゃないんだぞ。」

 

「いえ、リザさんの言う事はごもっともです。

我々義勇軍は宇宙政府に苦しめられている

人々を助けるのも役割です。

その洞窟へ向かい、食料を奪うという政府の

役人を退治しましょう。」

 

オリオリ!よかった、アタシの主張を

受け入れてくれて!

うん、ブルリア星でも、アタシ達は冒険の

さなか、困っている人々を助けてきたんだもん。

それが冒険王の務めだっておじぃちゃんから

習ったわ。

アタシは今、おじぃちゃんの代わりとして

ここ惑星クラウドにやってきてるんだもの、

ブルリア星の冒険王の名を汚すわけには

いかないからね。

 

ところがアタシは、この行きずりの村で

今までとは違う奇妙な光景を目にすること

になるの。

 

政府の役人がいるという洞窟へ向かい、

その役人はあっさり退治したわ。

役人というか、ただのコソ泥と言うべき

魔物だったわね。

政府の名を騙って私利私欲のために

村から食料を奪ってただけのただの魔物だった。

 

全くもってけしからんヤツね!

けど政府の役人ではないから、

コイツを退治した今、村が搾取を受ける

心配は完全になくなったと言えるわね。

アタシ達は急いで村に戻り、事実を報告した。

きっと村人達の喜びと安堵に満ちた笑顔が

出迎えてくれるって。

 

「なんですってーー!

なんて事をしてくれたの、政府に逆らうなんて!

どうしてくれるんですか!!」

 

え!?

喜ぶどころか

怒ってる???

 

「洞窟に居たのは政府の役人でも

なんでもない一介の魔物だ。

政府から反感を買うことはない、安心しろ。」

 

「え!?・・・いいえ!

そんな事は認めません!

だから貴方達にお礼も言いません、

そしてこれからも宇宙政府の為に作物を

作り続けます、アハ、アハハハハ・・・」

 

ボロンが説明をしたにもかかわらず

この女性は引き続き政府に作物を納める

という、現状維持を選んだの!

 

「モガーーー!

助けてやったのになんて言い草だ!!」

 

「仕方ありません、これが宇宙政府に

支配されている人々の生活の実態なのです、

逆らえばきっと村ごと、いえ星ごと滅ぼされる

という恐怖政治の実態・・・!」

 

「クソっ!宇宙政府の恐怖政治はもう

まっぴらだ!

オリオリ、急ごう!

政府に協力するという魔法団を止めなきゃ!」

 

アタシは。

別にお礼を言ってほしくて魔物を退治した

わけじゃない。

けど村人達が苦しみに耐えて、引き攣った

笑顔を作りながら生きているのがかわいそう

だと思ったの。

その苦しみを取り除ける力をアタシ達は

持ってる。

だったら見過ごすわけにはいかないって

思っただけ。

 

けどそれはアタシ達の思い上がりだった

というの?

アタシ達の思惑よりも宇宙政府の影響力が

はるかに強いという事実を突きつけられた

ようで、アタシはなんだか、すごくショックを

受けてしまった。

 

あの村人達が心の底から安心して笑う日なんて

ホントにやってくるのだろうか。

 

「ヨンツゥオ大宮殿へは飛行船でしか

行けないんだ。飛行船の発着場はこの先の

東雲の洞窟を抜けた先にある。

しかし洞窟には扉があって鍵が掛かっている。

あの洞窟はさらに東にあるタァコ城の王の

管理下にある。

まずは王に謁見し鍵を借りてこないとな。」

 

うん、クヨクヨ考えてても仕方ない。

今やるべき事は魔星王誕生を阻止すること。

その為にまずはボロンが告げた行き先へ

向かうのが先決ね。

 

アタシ達は村を後にし東へと向かった。

 

けどこの村で見た奇妙な光景。

それはアタシの心に小さなトゲとなり

チクリと刺さった。

アタシはそれが、惑星クラウドでのこの先の

冒険でどんどん大きくなるなんて

この時は知る由もなかった。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・ボロン
義勇軍親衛隊隊長でオリオリの幼馴染。
義勇軍の中でもかなりの実力者らしいけど
超の付く怠け者。
そして超の付くスライム愛の持ち主。

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード2.「王の揺れる信念」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



恰幅のいい中年男性がアタシ達を出迎えてくれた。

 

「おぉ、義勇軍の諸君、

息災のようで安心したぞ。

ん?見慣れぬ顔が混じっておるのぉ?」

 

「オイラはモガ丸、コイツはスラッピ、

でコイツらは・・・」

 

「何!?ブルリア星の冒険王!?

では、君らが宇宙政府と互角に渡り合った

という・・・いやぁお目にかかれて光栄だ。」

 

このタァコ城の城主タァコ王は

密かに義勇軍に加担している人物らしい。

オリオリとボロンに加えてアタシ達のことも

好意的に出迎えてくれた。

 

「して今日は何用で来られた?」

 

「率直に言う、ヨンツゥオ大宮殿へ向かう為

東雲の洞窟の鍵を借りに来た。」

 

「洞窟の鍵じゃと?大宮殿へ向かう?

・・・まさか、諸君らは星屑魔法団を

追うつもりか?」

 

「やはり魔法団は大宮殿へ向かったか。」

 

「うむ、新たな魔星王誕生のためだと

聞いておる。」

 

ボロンの顔色が変わった。

 

「それを聞いておきながらどうして

止めなかった?

王と我々は同じ考えを共有していたはず、

であれば義勇軍、タァコ、そして魔法団は

宇宙政府打倒を掲げる同士であったはず。

同士の心変わりを見過ごしたのか!?」

 

友好ムードは吹き飛び一気に険悪な空気が

謁見の間じゅうに充満したわ。

 

確かに。

魔星王誕生の場がヨンツゥオ大宮殿である以上

そこへの道のりを管轄に置くタァコ王の

責任は重大だわ。

ボロンが厳しい口調になるのも

やむを得ないと思う。

けど、義勇軍への協力を非公式に表明している

以上、表立って上級執行官の要求を

撥ね付けるのが難しいのもまた、我々は

理解しないといけない。

 

重苦しい空気の中、口を開いたのは

恰幅のいい国王。

 

「ワシは・・・ある者から説得を受けた。

宇宙政府を倒す事が本当に全宇宙の人々に

とって幸せな事なのだろうか、と。

宇宙政府への考え方を変えてみないか、と。

その者が言う議論の内容は、妙に説得力が

あったのだ。

ゆえにワシは今、悩んでしまっておる。」

 

「ある者?それは一体誰だ?」

 

「その者は・・・名乗らなかった。」

 

「あ!もしかして!白いスライムナイトか!?」

 

「あぁそうだ、白いスライムナイトの言い分は

とても説得力があったのだ。」

 

出た!

魔法団を宇宙政府への協力に応じさせた

張本人、白いスライムナイト。

ヤツはこのタァコ王をも言いくるめようと

現れたのね。

 

しかしタァコ王は、アタシが見る限り

ディミトリに操られた人たちのような、

異様な目付きはしていない。

催眠術とかであやつられている

わけではなさそう。

 

という事は逆に。

白いスライムナイトの主張には

宇宙政府への協力を促すだけの

強い正当性が伴っているという事!?

む~ますます謎めいてきたわ、

白いスライムナイトの正体と、

彼の理論の中身が。

 

「ふん、まぁいい、とにかくオレたちは大宮殿へ

行かなくちゃいけない。鍵は渡してくれるな?」

 

「いいだろう、今は諸君らに言う通りにしよう。

しかしワシは本当に悩んでおる。

宇宙王の時代に戻すことが本当に

正しいのかどうか。」

 

「難しい話はいい。

よし!洞窟に向かうぜ!!」

 

アタシは。

もちろん、あの恐ろしいドスラーデスのような

魔物を再びこの世に生み出してはいけない

っていうのは理解してる。

身を持って理解し尽くしている!

 

けど宇宙政府を真っ向から批判していない

人々がこうも存在するという事実に驚いてる。

 

オリオリの旦那様が長を務める星屑魔法団、

政府の圧政に苦しみながらも服従を選んだ

レェノォ村の人々、そして今まさに目の前に

いるタァコ王・・・。

 

レェノォ村で生まれたアタシの心の小さなトゲが

また少し大きくなった気がした。

アタシはそれを、少し自覚し始めた。

 

魔星王誕生は絶対に阻止しなければいけない。

卑劣な宇宙政府のやり方を今までいくつも

見てきた、奴らを許すことはできないという

考えは今も変わらない!

 

けど。

白いスライムナイトの主張、

それをアタシも聞いてみたいという願望が

少し生まれてしまった。

 

とにかく!

タァコ王から鍵は借りられた。

大宮殿へ急ごう。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・ボロン
義勇軍親衛隊隊長でオリオリの幼馴染。
義勇軍の中でもかなりの実力者らしいけど
超の付く怠け者。
そして超の付くスライム愛の持ち主。

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・タァコ王
タァコ城の城主。
密かに義勇軍を支援してくれている人物。
最近、白いスライムナイトの論説、主張に
触れ、宇宙政府に反抗することの意義を
見失いつつある。
ヨンツゥオ大宮殿へとつながる東雲の洞窟
の管理者。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード3.「迷う冒険王」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



「超ギガスラッシュ!」

 

ギッシャァァァッ!!!

 

ジョギーの最高の剣技の煌めきが

洞窟内を眩しく照らす。

群がる魔物達を振り払いながら洞窟を進む。

 

アタシはというと。

タァコ王の苦悩を耳にしてから彼と同じように

悩み始めていた。

戦闘を担う者としては、あるまじき事

なのだけれども。

弟妹達が懸命に戦っているにもかかわらず

アタシは上の空で別の事を考えてた。

 

「宇宙王の時代に戻すことが

本当に全ての民の幸せに繋がるのだろうか?」

 

この一言がどうしても頭から離れない。

オリオリが心から宇宙の平和を望んでいる事は

共に行動していても、十分わかるし

伝わってくるわ。

 

けどアタシは宇宙王の時代というものを

知らない。

その時代の民の声というものを直に

聞いたことがない。生の声を知らない。

 

翻って今現在のここ惑星クラウドの人々

とは僅かながらだけど接触してる。

彼らは・・・決して幸せに暮らしている

ようには見えない。

けれど、宇宙政府の圧政に苦しみながらも

反旗をひるがえすほど、政府を憎いと

思ってるふうでもない。

それはレェノォ村での一件を見れば明らか。

 

タァコ王しかり。

星屑魔法団に至ってはなんと宇宙政府側へと

寝返ってしまった。

 

本当に、宇宙政府を倒すというのは

正しい道なのだろうか?

 

アタシの脳裏に一瞬、義勇軍の一員として

ううん、ブルリア星の冒険王として

あるまじき疑問がよぎった。

 

ヤツらの卑劣なやり方を幾度なく

この目で見て来たし敵の強大な力を

この身で思い知って来た。

 

全宇宙の星々を政府の思い通りに

させてはいけない!

けれど。

この星に来てからの、

人々の反応は何???

明らかにアタシが想像していたもの

とは違うわ。

そのギャップがそのままアタシの中で

ギャップとなりつつあった。

 

「リザ、どうした??

洞窟に入ってから、いや、タァコ城を

出発したあたりから様子が変だぞ?

どこかケガでもしてるのか!?」

 

!!

いけない、モガまるがアタシの様子が

おかしいのに気が付いた!

 

「ピピィ?」

 

スラッピも心配そうにアタシの顔を覗き込む。

まずい、考え事に集中しすぎて

ボーっとしてた。

アタシは慌てて作り笑顔でその場を

ごまかした。

 

「もが~、何ともないならそれでいいけど。」

 

「もうすぐ出口だ。

そこから大宮殿は目と鼻の先だ。

宮殿には上級執行官がいるかもしれない。

ヤツとの戦闘になったならブルリア星の

冒険王に頼るしかないんだ、頼むぜリザ、

気を引き締めてくれよ!」

 

うぅ、皆んなに心配をかけてしまった。

ボロンはアタシへ叱咤の言葉をかけた。

うん、ごめん、ボロン、みんな!

そうね、ことは一刻を争う。

考え事をしている場合じゃない。

 

アタシはひとまず余計な事を考えるのをやめ、

出口への途を急いだ。

群がってくる魔物たちを呪文で振り払いながら。

 

「ようやく洞窟を抜けました!」

 

「その先に桟橋があるだろう。

そこに飛行船が停まってる。

それで大宮殿が建っている島まで向かうぞ、

急げ!」

 

ボロンが指し示す方向を見ると確かに

飛行船が見えた。

さらに先の方角に、かすかに建物らしき

影が見える。

あれがヨンツォオ大宮殿ね!

 

アタシ達は駆け足で桟橋まで向かい

飛行船に乗り込んだ。

ちょうど風は追い風となり飛行船は

グングン前へと突き進む。

かすかに、影でしかなかった大宮殿が

みるみる大きくなっていく。

物凄いスピードで飛行船が進んでいるのが

わかる。

まるで何かに吸い寄せられるように・・・。

 

小島の岸に着くと目の前に荘厳な

白亜の建物がそびえ立っていた。

ここがヨンツゥオ大宮殿!!

 

「もが~なんて厳かな雰囲気の建物なんだ!

オイラなんだか畏っちゃうぞ~」

 

確かに。

平時であれば、思わず背筋が伸びてしまう

であろう神聖なオーラを放つ建造物だわ。

 

けれど!!

中からは明らかに邪悪なオーラが

発せられている。

この星に来てからは1番大きなオーラ。

けど、うん、魔星王はまだ誕生してないわね、

あのドスラーデスのような強烈さはないわ、

このオーラには。

 

アタシは内心安堵し、けど、激しい戦闘に

なる事は予想できたので警戒を強めて

宮殿の中へと踏み込んだ。

おそらく、その上級執行官がいるのだろう。

急げばまだ魔星王誕生を阻止できるっ!

 

宮殿の中に入ってすぐの大広間まで進むと

その邪悪なオーラの持ち主は現れた。

 

「誰だ?貴様らここで何をしている!?」

 

黒い甲冑を纏った魔物が現れた。

ソイツが現れた瞬間、コッツの顔が強張り、

全身が震えだしたの。

 

「きっ、気をつけてください!!

コイツこそが3番隊を捕虜にし連行した

上級執行官ドアヌです!!!」

 

やっぱり、この大きなオーラの持ち主は

上級執行官か!

コッツは直にコイツに酷い目に遭わされてる、

震えるのも無理はないわね。

 

「もがー!!

星屑魔法団と会っていたという上級執行官か!」

 

「ほほぉ、貴様ら義勇軍か。

星屑魔法団を追ってきたようだな。

ガハハハ!

しかし少し遅かったようだ。

新たな魔星王はすでに誕生した!!」

 

な!

なんですって!!??

 

「魔法団もすでにこの地を去った。

新たな魔星王は、貴様らの思いもよらぬ

姿で誕生したぞ!

やがて魔星王はその強大な力で全宇宙を

闇で支配するであろう。貴様らの徒労だ!!」

 

クッ!

一足遅かったというの!?

アタシが!余計な考え事をしていたせいで!!

この宮殿に着くのを遅らせてしまった!?

 

アタシは自らの失態を激しく後悔した。

アタシのせいで魔星王誕生阻止を

止める事ができなかった!!

 

けど・・・???

おかしい。その割には魔星王らしき

強烈なオーラを感じない。

確かに目の前にいるドアヌからは

邪悪なオーラを感じるけれど。

ドスラーデスに比べれば

話にならないぐらい小さいわ。

 

アタシ達の思いもよらない姿で誕生した?

確かにドアヌはそう言った。

ドスラーデスとはまた違うタイプの

魔星王なのかしら???

 

「しかし貴様らごとき新たな魔星王を

さし向けるまでもない。

貴様らは、この地で我が軍勢によって

全滅するからだ!!」

 

上級執行官ドアヌが合図をかけると

宮殿の大広間を埋め尽くさんばかりの

魔物達が現れた!

 

「あ、あ、あぁぁぁ」

 

コッツの体が再び震えだした!

ジニョリスタの塔での悲劇を

思い出してしまったんだろう。

 

けど大丈夫。アタシ達がいるわ!

魔道士リザがアナタの心の傷を

取り除いてあげる。

アナタを酷い目に合わせた、

この邪悪な執行官を退治してみせるわ!

 

「リザ達、くるぞー!!」

 

アタシは杖を構え、詠唱を始めた。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・ボロン
義勇軍親衛隊隊長でオリオリの幼馴染。
義勇軍の中でもかなりの実力者らしいけど
超の付く怠け者。
そして超の付くスライム愛の持ち主。

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・ドアヌ
宇宙政府の上級執行官。
"秘術"を扱う星屑魔法団と共に
行動する。
"秘術"を行使できる場所、ヨンツゥオ大神殿で
魔星王誕生に立ち会ったうえでアタシ達を待ち構えていた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード4.「真のリーダーの器」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



ガラガラガラーーーーー!!

 

黒い甲冑を纏った怪人が

その頭に装備していたカブト。

それが床に落ち、派手な音を立てて

転がっていく。

 

「す、すごい・・・」

 

後方に控えていた義勇軍の3番隊長の

女性戦士が思わず心の声を零す。

 

「我が3番隊が全く歯が立たなかった軍勢を

・・・まるで風を凪ぎるみたいに・・・

瞬く間に、倒してしまった・・・

こ、これがブルリア星の冒険王・・・!」

 

「さすがリザ達!

上級執行官ドアヌを難なく倒したぜ!」

 

【挿絵表示】

 

このドアヌという上級執行官は・・・

おそらく偵察兵の類か、それとも魔星王誕生

までの時間稼ぎの捨て駒だったのだろう、

大した強さではなかったわね。

 

「グググッ・・・まさかこのオレが

返り討ちとは・・・!

貴様ら一体何者だ!?」

 

「リザ達はブルリア星の冒険王だ!

宇宙政府の悪事は許さないぞ!!」

 

「ピピィ!!」

 

「なんだと!?ブルリア星の・・・!

ではドスラーデスを・・・た、倒し・・・

たというの・・・貴様ら・・・か!?」

 

ドアヌはもう虫の息だろう。

息も絶え絶えといった感じだ。

 

「ふ、ふふ、フハハ、では魔星王の・・・

お、恐ろしさというものを・・・よく・・・

知っているで・・・あろう!

だがし、しかし!・・・新しい魔星王は・・・

ドスラーデスとは・・・全く違う・・・

す、姿を・・・している・・・ぜ、ぜ、前回と

・・・同じよ・・・に・・・は・・・

いかぬで・・・あろう!・・・ぐ、グフ」

 

そう言い残してドアヌは息絶えた。

書の中からオリオリが現れた。

 

「リザさん達、よくやってくれました!

恐ろしい上級執行官をいとも簡単に

倒すとは。コッツ、これでアナタの

心の傷も少しは癒えた事と思います。」

 

「ハっ!

御心遣いありがとうございます、オリオリ様!

そしてリザ殿達、本当に貴方達は強い!

このコッツ、心底感激しました、ありがとう!」

 

ひとまずコッツの無念は晴らせたかな。

けど、目の前の障害をひとまずは

取り除いただけ。

連行された3番隊の隊員はここには

いなかった。

コッツの、安堵した表情の中にも

微かに残る不安の色が消えていないのを

アタシは見逃さなかった。

 

そして何より、魔星王誕生!!!

とうとう現実となってしまった!

これはアタシの責任でもある・・・。

余計な考え事などせず、もっと早く洞窟を

抜けていればあるいは秘術行使を

防げたかもしれない・・・!

 

アタシは申し訳ない気持ちで心が

潰れそうになった。

仲間たちに頭を下げて心から謝った。

 

「いいえ!リザさんのせいではありません、

元はと言えば、我が夫セアドが心変わりをし、

魔法団が政府に協力してまったのが原因。

責は妻である私にもあります・・・」

 

オリオリ・・・!

アタシを責めるどころか、自分が責任を

負おうだなんて。

アナタ自身も夫への信頼が壊されたかも

しれないという傷を負っているのに!

 

アタシは。

タァコ城から考えていた事を。

オリオリに打ち明けて謝ろうとした。

 

「オリオリ、あのね、ごめんなさい、

アタシね、実は・・・迷って・・・」

 

「リザさん!」

 

オリオリはアタシが言葉を繋ぐのを制止した。

 

「口にしてはなりません!

私達が為すべき事は変わりません、そして

起こってしまった事はどうしようも

ないのです。」

 

オリオリ!

まさかアタシの迷いに気づいていた

というの!?

その上で気づかないフリをしてくれていた?

 

うぅぅ、やっぱりこの人にはかなわない。

これが一軍の将たる人間の器。

そうね!

アタシの迷いは・・・言葉にしてしまっては

いけない。

義勇軍の一員としても冒険王としても!!

口にすれば仲間達にも動揺を与えてしまうし

何よりアタシ自身、迷いがどんどん大きくなり

確信へと変わってしまう可能性がある。

それを止めてくれた。

ありがとうオリオリ。

その度量の大きさにアタシは感激し

体が勝手に膝をつき平伏しようとしていた。

 

「リザさん、何をしてるのです!

我が義勇軍3番隊を全滅の危機に追いやった

上級執行官ドアヌの軍勢をアナタ方は

倒してくれたのです。コッツの心の傷も

癒えた事でしょう、顔を上げ胸を張ってください!」

 

アタシはハっとした!

無意識に跪こうとしていた体が強張った。

オリオリはアタシの冒険王としての

面目を保とうとしてくれている。

モガ丸や弟妹達が動揺するかもしれない

アタシの行動を、すんでのところで

止めてくれた。

 

アタシはこの瞬間、本当の意味で

義勇軍の一員となったと、心の底から思った。

オリオリの真のリーダーシップを垣間見た

気がした。

おじぃちゃんとはまた違ったカリスマ性。

 

ジニョリスタの塔で、コッツがオリオリの

言葉に涙したあの時。

あの時のコッツの気持ちが今、

アタシには痛いほど分かるっ!

 

失敗を犯した者を許し、失敗が生んだ

暗い気持ちをすぐさま取り除き

再び立ち上がらせる、その巧みな

人心掌握術!

 

宇宙王とは・・・!

まさにオリオリのような人物ではないかと

感じた。

 

「誕生してしまったという魔星王。

しかしこの島や、周辺地域に大きな変化は

見られません。ひょっとすると魔星王は

誕生したばかりで、まだその活動を

開始していないのかもしれません。

急げばまだ、被害を生まずに

済むかもしれない!」

 

「しかし魔法団の行方もまたわからなくなって

しまいました。」

 

「この先どうする、オリオリ?」

 

「ドアヌは新しい魔星王は私達の全く

想像できない姿で誕生したと言いました。

その言葉の意味も気になります。」

 

義勇軍の首脳達が今後の行動を

話し合っている。

その時、アタシはほんのわずかな、

邪悪な気配が漂うのを感じた。

 

慌ててアタシは周囲を見渡して

耳をすませてみた。

ドアヌの軍勢の残党がいるかもしれないと

思ったから。

 

けど宮殿内にはそれらしき魔物は

いなさそうだった。

この邪悪な気配は、もっと遠くのほうから

漂っている、そんな感じがした。

 

何?

この感覚は。

こんな感覚には、今まで陥った事がないわ。

 

アタシは、惹かれるように宮殿の入り口の

扉に向かい外に出た。

邪悪な気配はタァコ城の方角から、

ううん、さらに先のほうから

感じられる気がした。

 

「もが、どうしたリザ!そんなに慌てて。」

 

アタシは自分の感覚に忠実に感じた事を

モガ丸に伝えた。

 

「何?東の方から邪悪な気配を感じるって?

もがー!リザ、なんだかガイアスじじぃ

みたいな事を言うようになったな!」

 

おじぃちゃんのように?

アタシが?

よくわかんないけど、邪悪な気配を

感じるのは事実。

アタシの中の冒険王の血が、おじぃちゃんの

ような能力を目覚めさせたとでもいうの?

 

「東の方角か、そっちの方角には

マタセ島がある。」

 

「邪悪な気配の持ち主は新しい魔星王

かもしれません。

ここはブルリア星の冒険王の直感を

信じてみましょう。」

 

「よし、じゃあマタセ島の最寄りの港

ニョレ 港へ行こう!」

 

次の行き先は決まった。

マタセ島。

新しい魔星王がいるかもしれない。

 

オリオリはアタシを擁護してくれたけど、

だからといってアタシが失態を犯したことに

変わりはない。

そこに魔星王がいるならば全力でこれを

倒さなければ!

アタシを信頼してくれているオリオリに

顔向けできない!

 

アタシは東雲の洞窟で考えていた悩みを

捨て去り、まず第1に宇宙の平和の為、

そして宇宙王の血を引く真のリーダー

オリオリの為に戦う事を心に誓った!

 

けどアタシは気付いてなかった。

宮殿内でアタシがオリオリに悩みを

打ち明けそうになった時、そして今まさに

ニョレ港へ出発しようとしているこの時、

ある人物がアタシの顔を覗き込むように

観察していたのを。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・ボロン
義勇軍親衛隊隊長でオリオリの幼馴染。
義勇軍の中でもかなりの実力者らしいけど
超の付く怠け者。
そして超の付くスライム愛の持ち主。

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・ドアヌ
宇宙政府の上級執行官。
"秘術"を扱う星屑魔法団と共に
行動する。
"秘術"を行使できる場所、ヨンツゥオ大神殿で
魔星王誕生に立ち会ったうえでアタシ達を待ち構えていた。

Story日誌 第3章<魔星王の影>了


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2ndシーズン第4章[白い騎士]***惑星クラウド・ヨンツゥオ大陸編***
エピソード1.「エルフを尊ぶ人々」


アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



マタセ島。

 

この島にも国が存在し王が国を治めている。

島国マタセもまた、陰ながら義勇軍への

支援をしているらしい。

 

陰ながら支援というのは、有り難い話である

と同時に、表立って協力はできないという事実の

裏返しでもあるわね。

宇宙政府の規模の大きさと苛烈な恐怖政治の

実態を考えると、やむを得ないこと

だというのは理解できる。

何より義勇軍自体がレジスタンスグループ、

つまり統治者への反逆者である以上、

表立って活動することができないという制約がある。

 

そう、オリオリ達義勇軍は、そんな危うい

パワーバランスのもとで活動してるという事。

少しでも旗色が悪くなればそのパワーバランスが

いつ崩れるかもしれないという事。

 

そんな義勇軍と、その他の支援団体との関係に

ひとたび綻びが生まれでもしたら

きっと宇宙政府は抜け目なく

漬け込んでくるに違いないわ。

 

アタシ達はブルリア星でイヤというほど

宇宙政府の卑劣さを見てきた。

オリオリから「マタセ王は陰ながら協力してくれている、

魔法団の行方を知っているかもしれない」

と聞かされはしたけど心底信用してもいいものかしら、

とつい勘ぐってしまう。

 

タァコ地方を冒険してた頃、義勇軍の活動に

疑問を抱きかけてたアタシが

言えた義理ではないんだけど(_ _;

 

ううん、だからこそ!

宇宙政府の卑劣なやり方をよく知っている

アタシでさえ迷うんですもの。

実際に刃を交えたことのないタァコ王やマタセ王が、

自国の損害を顧みず義勇軍への協力を

いつまでも続けてくれるだろうか?

100%YES、とは言い切れないんじゃないか?

 

レジスタンス活動とは、アタシが思っている以上に

騙し騙され合いの世界なのかもしれない。

 

マタセ島へと向かう飛行船の中でオリオリが

マタセ国は支援国だと教えてくれたものの、

アタシはまた、様々な懸念を抱いていた。

ううん、アタシ自身が義勇軍の活動に

また疑問を抱いてるってわけじゃなくて。

義勇軍を取り巻く環境に不安を感じたの。

 

なにより今から向かうマタセ島からは

新しい魔星王かもしれない

邪悪な気配が感じられるもの。

何か良くない事が起きるかもしれない。

それだけは確かね。

 

そしてアタシの、その嫌な予感は

的中してしまうことになるの・・・

 

「ニョレ港へ着いたぞー!」

 

「飛行船での航海にも、ずいぶん慣れたぞ。」

 

「ピピー!」

 

マタセ島に着いた。

邪悪な気配の正体を早く突き止めなければ。

星屑魔法団の行方も。

 

「ようこそ、マタセ島の玄関口ニョレの港町へ。

航海お疲れまでし・・・・?

お、ぉう?エ、エルフだー!」

 

出迎えてくれた港町の住人らしき男性が

アタシ達に労いの言葉を

かけてくれようとした瞬間、

スラッピの事を見て驚きの表情を浮かべた。

 

「もが?エルフ??どこどこ!?」

 

「ピピィ?」

 

「あぁエルフ様だぁ!」

 

「もが?どうやらスラッピの事を指して

エルフと言っているようだぞ?」

 

「オイ!みんな見てみろー

エルフだぁ、エルフだぁーーーー!!」

 

「スラッピはエルフじゃない、

スラッピはスラッピだぁ!」

 

「いぃや、エルフだ!

エルフだ~~~~!!」

 

「あ~、もう!

困ったなぁ・・・」

 

スラッピがエルフ?

う~ん、どういうことなのかしら。

しかもこのオジサン、スラッピを見てすっごく

嬉しそうな、興奮してるというか、

狂喜してる様子。

 

「このマタセ島ではスライムの事を

エルフとか、精霊というふうに呼ぶんだ。」

 

アタシやモガ丸が途方にくれていると

ボロンが謎を教えてくれた。

 

「ほー、そういうことだったのか。」

 

「まぁオレにとっちゃあスライムは

天使だけどな。

あ~スラッピちゅわん、相変わらず

カワイイでちゅね~」

 

「う、スラッピにデレるボロン・・・

久しぶりに見たぞ・・・」

 

そうだった、ボロンはスライム愛が

凄かったんだった。

最近、事態が緊迫してたから忘れちゃってた。

 

「それにしてもエルフを連れているなんてっ!

君たちは立派な人達なんだな~。」

 

「なんかオイラたちまで崇められてるぞ。

スラッピ、すごい人気だな!」

 

なんか・・・調子狂うわね

スラッピがエルフ・・・と呼ばれ

港町の人達に大人気・・・

ボロンは久々に デレるし。

けど、本題に入らなくっちゃ!

 

「ん、なになに?

最近この島に新しい邪悪が現れていないかって?

う~ん、わからないな~。」

 

むむ、おかしいな、アタシの感覚が鈍ってたのかな。

 

「・・・あっ!

もしかすると・・・最近エルフが姿を

現さなくなったことと関係あるのかな?」

 

スライム・・・いや、エルフが姿を見せない!?

 

「エルフたちは近くのほこらに住み、たまに町まで

顔を出してくれるんだ。

でも最近エルフたちは元気がなくて

この町に来なくなった。

オレたちはずっと心配してるのさ。

精霊のジェルがあればエルフたちは

元気を取り戻すはずなんだが・・・。

強い魔物を倒さないと精霊のジェルを

手に入れることはできないんだ。

魔物と戦えば宇宙政府に逆らった罪で

一生牢屋の中で 奴隷生活だ。

だから困ってるんだよ・・・・。」

 

む~、この港町付近に棲むスライム達は・・・

人間に危害を加える悪いモンスターではなく、

野生動物のように人間と

共存しているというワケね。

共存どころか、エルフ、精霊と呼ばれ人間から

尊ばれている、ってワケね。

 

アタシはなんだか、このマタセ島の人々

とスライム達の関係性こそが本来あるべき

宇宙の星々の姿なんじゃないかと思った。

ちょっと飛躍しすぎた話かもしれないけど。

方向は間違ってはいないかな、と。

 

それはひとまず置いといて。

港町の人々が心配しているエルフたち。

どうして元気がなくなってしまったんだろう。

その原因が、アタシが感じたマタセ島の

邪悪な気配の持ち主と関係あるのかもしれない。

アタシはその、精霊のジェルとやらを

取りに行く事を申し出た。

 

「何だって?

君たちが精霊のジェルを取ってきてくれるって!?

だ、大丈夫か?宇宙政府に捕まったりしないか?」

 

このオジサンはアタシ達が奴隷の日々を

送ることになってしまうのではないか

と心配してくれた。

 

大丈夫、魔物退治は任せて!

そしてやっぱり!宇宙政府の強引なやり方は

許せないっ!!

魔物と戦っただけで反逆罪で牢屋行きだなんて。

やり方が強引すぎるわ!

 

「・・・そうか、自信があるんだな、だったら

ぜひお願いしたい!

精霊のジェルはここから南にいった

ジェルジェルの洞窟にあると聞く。

元気のないエルフたちのために君たち!

頼んだぞ!!」

 

もちろん、困っているニョレの人々を

助けたいというのが大前提。冒険王の務めだわ。

それに加えて宇宙政府の相変わらずな

圧政への抵抗。

そして何より、ここニョレ地方での

人々とスライムのあり方。

 

人間と魔物の理想的な姿を宇宙政府が

意図的に壊そうとしている、とアタシは感じた。

それに対して激しく抵抗したいと思ったの。

 

アタシ達は南に向かった。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・ボロン
義勇軍親衛隊隊長でオリオリの幼馴染。
義勇軍の中でもかなりの実力者らしいけど
超の付く怠け者。
そして超の付くスライム愛の持ち主。

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード2.「エルフの故郷へ」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



「おぉそれは!まさしく精霊のジェル!!

あぁ君達!本当に精霊のジェルを

取って来てくれたんだね、ありがとう!」

 

やっぱり魔物が巣食っていた

ジェルジェルの洞窟。

これを蹴散らし洞窟の最深部まで進むと

そこにうっすら光る粘液の塊があった。

これが精霊のジェルだとは、おおよその見当が

ついたけど、ニョレ港のおじさんに

確認するまでは半信半疑だった。

 

けどこの粘液の塊こそが精霊のジェル!

これでエルフ達の元気を取り戻せるのね!

 

「急いでスライムエルフの祠に行って

それをエルフ達の体に塗ってやってくれ!

そうすればエルフ達は元気を取り戻すはず!!」

 

そのスライムエルフの祠という場所に

エルフ、スライム達がいるのね、わかったわ!

急いで向かおう!

 

アタシ達は精霊のジェルを携えたまま

スライムエルフの祠があるという

東の方角へと出発した。

 

「いやぁ、しかし。

エルフ達を救ってほしい一心で

半ば強引にお願いしたとはいえ、

あの娘達、本当にジェルジェルの洞窟から

精霊のジェルを持って帰って来た!

洞窟には魔物もいたはず。

あの娘達の仲間には1体のエルフがいた。

本当に彼女らは、すごくエライ人達

なのかもしれん。」

 

アタシ達が港町を出発した後、

おじさんはこのように呟いたらしい。

 

「エルフ達には確かに元気になってほしい。

しかし彼女らの旅もまた、無事で

ありますように。」

 

港町のおじさんはそう呟くとアタシ達が

向かった方角に、深々と頭を下げた。

当然アタシ達は。

彼のそんな行動には気づかないでいた。

 

ニョレの港町から東に向かうと

確かに祠があった。

ここにエルフ達が棲んでるのね。

 

祠の入り口に立つと突然スラッピが

泣き始めた。

 

「モガ~!どうしたんだ?スラッピ・・・。

突然悲しそうな顔をして?

泣いてるじゃないか。」

 

「ピピ、ピエ~ン!!」

 

書からオリオリが現れた。

 

「きっとこの祠には魔物が棲み着いて

いるのでしょう。

きっとそのせいでスライム、いえエルフ達が

元気をなくしてしまったのかと。

スラッピさんは、同朋達の悲しい声を聞き、

泣きだしてしまったのでしょう。」

 

「はぁ~ん、スラッピたん、泣かないで~!

クッソ~、スラッピたんを泣かし

スライム、いやエルフ達を苦しめるとは!

リザ達、頼むぞ!

魔物達をやっつけてくれ!!」

 

まぁボロンったら!

ホンットにスライムが好きなのね。

うん、言われなくてもそのつもりよ!

スラッピが悲しむ姿は見たくないし、

苦しんでるエルフ達も元気にしてあげなきゃ!

 

エルフ達が元気になれば、ニョレの人達も

元気になる、スラッピも元気になる、

そしてボロンも元気になるもんね!

アタシ達がエルフを苦しめる魔物を退治さえ

すれば皆んなハッピーよ!

 

暗い話題が続いていたけど

少しでも幸せになる人がいるなら

アタシ達は喜んでそのお手伝いをするわ!

 

というわけで。

アタシ達はいつも以上に気合を入れて

祠の内部へと足を踏み入れた。

 

祠は・・・なかなか立派な造りになっていて、

だけどやっぱり魔物が棲み着いているのか

占拠されているのか、ところどころ壁のタイルが

剥がれ落ち、柱にヒビが走っていた。

本来は神聖なスライム、いえエルフ達の

棲み家なんだろう。

 

エルフを脅かす悪い魔物達、

さっさと退治してエルフ達を助けなきゃ。

 

祠は地下に向かって幾階層にも

分かれていた。

アタシ達は魔物たちを倒しながら

下の階層へと進んだ。

 

手足が8本あるライオン型の魔物、

コイツがここに巣食う魔物の長なのかしら。

これを倒し、おそらく最下層であるこの階層の

最深部に、エルフ達は居た!

 

「もが!!

見ろ、神々しいスライム達がたくさんいるっ!

そうか、たしかにエルフだって港町の人々が

呼ぶのも納得できるぞ。」

 

「けど、ひどく弱っているみたいだ、

あぁ・・・なんてかわいそうなんだ・・・。」

 

そのスライム達は黄金色の、神々しい体を

していた。

モガ丸の言う通り、エルフと呼ばれるに

相応しい姿。

そして、ひどく弱っていた。

 

「リザさん!

精霊のジェルをエルフ達に塗ってあげて!」

 

「モガー!

オイラも手伝うぞ!」

 

オリオリがすかさず指示をくれる。

みんなで手分けして精霊のジェルを

エルフ達の身体に塗り込んであげた。

 

ボワァァァン

 

すると黄金色のエルフ達の身体が

わずかに光を帯び始めたわ。

やった!エルフ達が元気を取り戻すのね!

 

けど・・・・。

輝き始めたかにみえたその光は

しばらくするとみるみるかすみ始め、

やがて消えてしまった・・・。

 

「モガ、おかしいぞ!ジェルを塗ったのに

エルフたちは倒れたままだ。」

 

「なぜだ!?

これじゃエルフたちを救えないじゃないか!」

 

黄金色のエルフ達は苦しそうに喘いだままだった。

おかしいわ。

確かにジェルの効き目はありそうだったのに。

ジェルの効能の力以上に衰弱が激しいの!?

 

すると1体のエルフが震える声で何か呟こうと

しているのをスラッピが気づいたらしく、

そのエルフに近づいて会話を始めた。

 

「ピッピピピ!ピピピピー!

ピッピピーピッピ!」

 

「本当か!スラッピ!」

 

「ピッ!」

 

エルフと同種であるスラッピ、

そしてスラッピの言葉がわかるモガマル。

すごい、なんか同時通訳みたいな流れで

エルフたちの伝えたいことがアタシ達にまで

伝わったわ。

 

「ここにいるエルフ達は故郷に帰りたいって

言ってるってよ!

故郷に帰ればみんな治って元気になるらしい!」

 

「スライムのふるさと・・・・?」

 

「心当たりあるのか?ボロン。」

 

「・・・・そういえばこの星の何処かに

スライムだけが棲む島があるらしい。

もしかしてその島のことか?」

 

「ピーッピピ!」

 

「きっとそこだってさ!

よし、エルフ達をそこに連れて行って

元気にしてあげようぜ!」

 

スライムだけが棲む島。

へぇぇ、そんな島があるんだ。

スライム愛が強いボロンにとっては

まさに楽園のような島ね

 

そっかぁ、ここのスライム達は

故郷であるその島から

このマタセ島へ移り住んだのね。

そして、その神々しい姿ゆえに

町の人々にエルフと呼ばれるように。

で、故郷に帰れば元気になる、と。

慣れ親しんだ故郷で静養すれば

元気になるってことかしら。

それとも何かもっと直接的な、

治療できるような施設か場所でも

あるのかしら。

とにかくエルフたちを完全に元気にするには

その故郷とやらへ連れて行かなくちゃ

いけないみたいね。

 

よぉし!

じゃ善は急げよ、エルフ達の故郷へ向か・・・

 

「待ってくれ!

俺たちは消えた魔法団の行方を追っている、

それに誕生してしまったという魔星王が

活動を始めるのを阻止しなくっちゃいけない。

さらにはこのマタセ島でリザ達が感じたという

邪悪な気配の正体、これも確かめなきゃ

いけない。

いくら俺のスライム愛が強いからって、

それらを放り出してまでスライムだけの島に

向かうことはできないぜ!?」

 

「モガ~、けどエルフ達をこのままに

しておけないぞ!?」

 

「しかし・・・!」

 

「ボロン・・・・心配は無用です。

エルフ達を救いましょう。」

 

「!!しかしオリオリ!」

 

「星屑魔法団や魔星王を追うのは

私達に任せて。

ボロンはエルフ達を連れて

スライムの故郷へ向かうのです。」

 

「い、いいのか!?

いや、ダメだ、俺は親衛隊長だ。

オリオリを守るのが務め・・・・。」

 

「大丈夫です。

コッツが居るし、何よりリザさん達も居る。」

 

「はい!

私にお任せください!」

 

ボロン・・・本当は大好きなスライム達を

救いたくて仕方ないのに。

真っ先にスライムの故郷に

向かいたいはずなのに。

自らの立場と任務のために自分の気持ちを

押し殺そうとして・・・・。

 

けど、そう!

オリオリのことはアタシ達に任せて!

コッツと一緒に命がけで守るわ!!

それにアタシ達も、苦しむエルフ達を

このまま見過ごしたくない、

ここは二手に分かれて各々任務を

遂行しましょう!

 

「さぁ、行きなさいボロン!

エルフ達を救いたいでしょ?」

 

「あぁ・・・救いたい!

すまない!オリオリ!

スライムの故郷へ連れていき

エルフたちの元気を取り戻したら

すぐに戻ってくる!

それまでオリオリを頼んだぜ、

ブルリア星の冒険王達、それにコッツ!」

 

「ピッピピ!」

 

「あぁ、必ずエルフたちを救ってみせる!

スラッピたんも元気でな!」

 

それぞれ目的があるとはいえ、

ちょっと寂しいわね、ボロンはこの星に来てから

ずーと一緒だったもんね。

 

「ボロン、気を付けて、無理をしないでね。」

 

「おぅ!コッツもな、オリオリをしっかり

守るんだぞ!」

 

「はいっ!」

 

本当に、ボロン、気を付けて。

しばしのお別れね。

 

このスライムエルフの祠が、

しばしの親衛隊長ボロンとの別れの

場所となったわ。

しばしの別れ・・・・のハズだった。

 

「さぁ、リザさん達、コッツ、

私達はマタセ城に向かいましょう。

城主に、この島に忍び寄る邪悪について

心当たりがないか尋ねてみましょう。」

 

ボロンがパーティーから抜けた寂しさを

心に残しつつ、アタシ達は島の南方にある

マタセ城を目指して歩き始めた。

 

この島から発せされる邪悪な気配、

心なしかお城があるという南の方角へ

向かうにつれて、それが濃くなった気がした。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・ボロン
義勇軍親衛隊隊長でオリオリの幼馴染。
義勇軍の中でもかなりの実力者らしいけど
超の付く怠け者。
そして超の付くスライム愛の持ち主。

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード3.「邪悪な気配の正体!?」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



宇宙王の末裔オリオリが率いる義勇軍には

大義がある。

圧政を強いる宇宙政府を倒し平和で平等な

世の中を取り戻すという、ね。

 

アタシは義勇軍の大義こそ真理だと信じて

義勇軍に参加した。

ここ惑星クラウドに来てから、義勇軍と

行動を共にして来た今、その想いは

更に強くなり、間違いではなかったと

信じてるわ。

 

けど、冷静に大局を見て、客観的に

自分達の勢力の立ち位置を考えれば、

やはり義勇軍は体制に逆らう革命集団、

反逆者でしかない。

 

人は、少数派に味方するのは

なかなか難しいと考える生き物。

多勢、強き権力に靡くもの。

たとえそれが、悪しき権力だとしても。

 

それをまざまざと思い知らされる、

そんな出来事だったわ、この地で起きた事は。

 

「お久しぶりです、マタセ国大臣殿。」

 

「こ、これは!

オリオリ様、お久しゅうございます!」

 

人の良さそうな年配の大臣さんが

マタセ王への謁見を取りなしてくれた。

 

この大陸へと向かう飛行船の中で

「マタセ国は義勇軍へ密かに支援

してくれている」とオリオリに聞かされていた

ものの、タァコ王の一件もある事だから

アタシは少し警戒心を持ちながら

謁見の間へと続く廊下を歩いていた。

 

その証拠に、アタシが感じた邪悪な気配。

この城に到着してから、それが一層濃く

感じられるわ。

残念ながら城内に魔物が潜んでいる

可能性があるわね。

いつでも迎撃できるよう警戒は

しておかないといけないわね。

 

謁見の間に通され、平伏しながら

王の入室を待っていると、

コツっコツっコツっと足音が聞こえてくる。

マタセ王が部屋に向かっているのだろう。

 

・・・・!まさかっ!

邪悪な気配が濃くなってくる!?

アタシは思わず顔を伏せてしまった。

 

ギギィ~。

扉が開く音がし、足音の主が玉座に

着座した。アタシは顔を伏せてるけど

気配でそれがわかった。

 

「よくぞ参られた、オリオリ殿、

そして義勇軍の諸君。

表向き、宇宙政府への服従を示しておるゆえ

大きな声では言えぬが、諸君らの参内、

心より歓迎するっ!」

 

「お久しぶりです、マタセ王。

お目通りをお許しいただき感謝します。」

 

「ふむ、我らは同志、堅苦しいのは

抜きにしよう。

ほれ、供の者らも顔を上げるが良い。」

 

オリオリが一通りの挨拶を済ませると

マタセ王がアタシ達にも顔を上げるよう

促してきた。

 

アタシは恐る恐る顔を上げ、王に視線を向けた。

 

・・・・!!

やっぱりっ!!

 

王とアタシの視線が交錯する。

かなり・・・・混じってる・・・・。

 

アタシは彼の瞳の奥に宿る邪悪な炎を

見つけてしまった。

なんてこと!

邪悪な気配が近いどころか、此処が

その根源だったなんて。

 

【挿絵表示】

 

「見かけん顔だな、新入りかな?

オリオリ殿。」

 

「はい、苛烈さを増す宇宙政府の力に

対抗するため、私自ら参軍を願い出た

強力な助っ人です。

彼女らがいれば必ずや宇宙政府を倒せると、

私は信じております。」

 

「ほぉぉぉ!

そなたにそこまで言わせるとはな、

これは頼もしい援軍ではないか!

また一歩、打倒宇宙政府に近づいた

というワケだな。」

 

このマタセ王という男の邪悪な炎の根源が

何なのか、今はわからないけど、

彼は腹のうちでは義勇軍を支持していない

んじゃないかしら。

宇宙政府に服従しているのは表向き、

と言いながら政府と義勇軍とを天秤にかけ、

時流に逆らわず旗色が悪いほうを斬り捨てる、

そんなところかしら。

 

彼の口から出てくる言葉全てが白々しく聞こえ、

アタシはどんな顔をしていいかわからず

再び顔を伏せた。

オリオリが本題に入る。

 

「ところで王、ここ最近この島で、

新しい、今までとは違った邪悪な存在・気配を

感じたことはありませんか?

もしくはそのような報告が届いていない

でしょうか?

私達はその気配の正体がなんなのか探るため

この島にやってきました。」

 

「新しい邪悪な気配??

はて、そのような話は聞いておらぬし、

ワシにもそのような覚えはないのぉ。

・・・・!

そういえば!」

 

「何かお心あたりでも!?」

 

「邪悪な気配と関係しているのか

わかりかねるが、つい最近、

星屑魔法団がこの城にやってきたぞ。

彼らは『新しい魔星王を誕生させた』と

申しておった。」

 

「・・・そうですか・・・・

やはり夫、いえ、魔法団は魔星王を!

信じたくはなかったのですが・・・。」

 

「新しい魔星王は魔法団の面々ですら

想像できないような姿をしているらしい。」

 

「魔星王誕生に立ち会った政府の上級執行官も

そのようなことを申しておりました。

・・・・。

この島に忍び寄る邪悪な気配の正体は

その新しい魔星王かもしれません。

魔星王の姿や所在、その他てがかりは

星屑魔法団に確かめるほかないと

考えております。

王、ここにやって来た魔法団は、その後

何処へ向かいましたか?」

 

「この城の北方にマタセ山という山がある。

その麓に塔が建っておってな、

そこへ向かうと言っていた。

魔法団、そなたの夫セアドに会いたければ

その塔へ向かうといいだろう。」

 

「承知しました、情報提供ありがとう、

感謝いたします、マタセ王。」

 

「うむ、諸君らの旅の無事を祈る。」

 

会見は終わった。

気がつくとアタシはじんわり汗ばんでいた。

マタセ王から発せられる邪悪な気配は、

それほど巨大なものではなかった。

それ自体に恐れおののいたわけじゃないわ。

けど、邪悪な気配を放つ者が一国の主として

何食わぬ顔で玉座に鎮座している、

その事実が恐ろしかったのだろう。

 

城を出、北のマタセ山へ向かうことにした

アタシ達。

城門を出てしばらく歩いたのち、アタシは

周囲を見渡し警戒しながら小声で

オリオリを呼んだ。

 

「オリオリ・・・・驚かないで聞いて。

塔へ向かうのは罠かもしれない。

マタセ王は・・・。」

 

「リザさん、さずがです、気づかれましたか。

大丈夫、わかっています。

けど今はそれ以上口にしてはいけません。

いつ、どこから、誰が私達一行を

見ているかわかりませんからね。

とにかく今は、魔法団が向かったという

マタセ山の塔へ向かうしかありません。

他に手がかりは何もないのです。」

 

オリオリ!

さすがアタシ達のリーダー、宇宙王の末裔だわ。

オリオリもマタセ王が普通ではないと

気づいてるみたいね。

そうね、今はとにかく魔法団に会って

確かめるしか方法がないもの。

 

新しい魔星王はどんな姿で、どれほどの力を持ち、

そして何処にいるのか。

そもそも何故、宇宙政府に加担し

魔星王誕生に力を貸したのか。

何よりセアド、あなたは妻であるオリオリの

気持ちをどう考えているのか?

聞きたいことは山程あるわ。

 

アタシ達は抱えきれないほどの疑問や不安を

抱えながらマタセ山へと歩いていた。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・マタセ王
マタセ島を治めるマタセ国の国王。
表向き宇宙政府に忠誠を誓っているが
陰ながら義勇軍を支援している人物。
しかし何やら不穏な気配を振りまいている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード4.「追い求めた力その末に」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



「もが~、星屑魔法団、ホントにこの塔に

居るのか?

いっつもいっつも居るって言いながら

肩透かしだからな~。」

 

「それもあるけど、私達と一足違いで

出会えなかった場合もありました。

ともかく居ると信じて、

そして入れ違いにならぬよう

先を急ぎましょう。」

 

マタセ山の塔内部に進入したものの

魔法団が居るような気配は

感じられなかったわ。

モガ丸が思わずグチをこぼしたのも

仕方ないことかな、と。

代わりに魔物の気配は、

いつものことだけどヒシヒシと

感じられる。

 

謁見の間で対面したマタセ王。

彼はとてつもなく邪悪なオーラを

発していた。

表情や言動には、それらしい空気は

全く表さなかったけれど。

とても義勇軍を支援してくれているような、

そんな人物には、少なくともアタシには

思えなかった。

 

魔法団がこの塔に居るのかも、

何がマタセ王を邪悪な存在へと

変えてしまったのかその理由も、

この塔を登らない限りはわからない、

それだけは事実だわ。

 

アタシ達は群がる魔物達を蹴散らしながら

最上階を目指した。

魔法団らしき集団がいないか注意をしながら。

 

それらしい気配は感じられぬまま、

とうとう最上階にたどり着いた。

最上階は・・・無人だった。

 

「やっぱり居なかったな、魔法団。

マタセ王の情報は誤りだったのかな??」

 

「いえ、それとも、また我々が一足

遅かったのかもしれませんね。」

 

「もが~、けどよぉ、入れ違いにならないか、

かなり注意深く周囲を警戒しながら

登ってきたぜ~!?

オイラとスラッピは戦闘に参加できない分、

そっちの役割はこなそうと頑張ったぜ~!?」

 

「あ、すみません!

別にそういう意味では・・・!

どこか別の抜け道があったのかも

しれませんし!」

 

「もが!コッツ!この野郎!

あくまでオイラ達が魔法団が居たのに

見過ごしたっていう方向で話すんのか!?」

 

「えぇ、ご、ごめんなさい!

本当にそういうつもりじゃないんですぅ!!」

 

モガ丸とコッツのやり取りを横目に、

アタシは、何か怪しいものはいないか、

何か手がかりになるような物はないか、

フロア中を見渡した。

 

するとフロアの奥中心に玉座があるのを

見つけた。

なんだろう、この塔の最上階は

何をする施設なんだろう?

玉座があるってことは、ここで何か、

政治的な儀式かなにか行われるんだろうか?

そう考えながら、誰も座っていない玉座を

アタシは見つめた。

 

「あのマタセ王がこの玉座に座り、

あの優しそうな大臣さん含め、

貴族たちがここに集まり、

難しい政治の話とかするんだろうなぁ。」

 

アタシは玉座の主であろう、

あの筋肉隆々の、たくましい身体をした

マタセ王のことを思い浮かべていた。

 

「他に何か手がかりはないかな。」

 

アタシは振り返り、他に魔法団の手がかり

らしきものがないか、別の場所へ

移ろうとした。その瞬間・・・・。

 

!!!邪悪な気配!?

しかもこれは!

マタセ王のモノ!!

 

キッ!!

踵を返し玉座の方に視線を向けた。

さっきまで誰も座ってなかったハズの玉座に

誰か座っている!

ううん、アタシはそれが誰なのか知っている。

このフロア中に充満している邪悪な気配、

それが玉座の人物が誰なのか

示しているっ!

 

「マ、マタセ王っ!?

どうしたのです、なにゆえ王が

このような場所に!?」

 

書からオリオリが現れ、

その人物に問いかけた!

 

「フ、フフフ、ハ~ッハッハッハ!

星屑魔法団などこの塔には居らぬわ!

全てワシが仕組んだ罠だ。

愚か者どもめが!

このワシにまんまと騙されおって。」

 

「もが~!罠だったのかー!!

ん?待てよ、最初っから魔法団は

居なかったってことか?

コッツー!ほら見ろ~!

オイラ達が見過ごした訳じゃあ

なかったじゃないか!!」

 

「ひえ~、モガマル殿~!

だから、そういう意味じゃないん

ですってば!」

 

モガマル・・・あなたって

結構根に持つタイプなのね・・・^^;

 

「星屑魔法団の秘術により

ワシは邪悪な力を得た!

お前たちの力など、

到底ワシには及ばない!」

 

「もしかしてリザ達が感じた

邪悪ってマタセ王のことかー!?」

 

「フハハハ!そういうことだ!

ワシの力が強大すぎて

お前たちに感づかれてしまったが、

それも致し方のないこと、

どのみちお前らのほうから

ワシのもとにやって来て

返り討ちにすればいいだけだからのぉ!」

 

フン、わりとあっさり正体を現したわね。

地位と権力を持て余した人間が、

次に考え付きそうな浅い考えだわ。

 

魔星王誕生の報を聞き、

もとより政府と義勇軍を天秤にかけていた

ずる賢い男が、悪しきものと知っていながら

強き存在へと靡いたっていうだけの話。

しかも、義勇軍を裏切るだけに飽き足らず、

その身を魔道に堕とし、安易に力だけを

追い求めるなど!

アンタには一国の主たる器も、義勇軍の友軍を

名乗る資格もないわっ!

 

ブルリア星の冒険王が成敗してくれるっ!

 

「安心して、モガマル!

お城で彼と対面したときから

こうなることは予想できたわ!!

アタシ達を動揺させ不意を突こうって

狙いだったかもしれないけど、

とんだマヌケよ、この男はっ!」

 

「モガ〜!さすがリザ達!

マタセ王の正体に気づいてたのか!!」

 

「オリオリっ!

残念だけどマタセ王はもう元の彼に戻ることは

ないっ、今ここで彼を倒すしか道はないわ!

いいわね!?」

 

「・・・致し方ありません!

リザさん達、頼みます!!」

 

「フハハハ~!

強がりにしては言うてくれるっ!

お前らが居れば宇宙政府を倒せるだとぉ!?

これからワシに倒されるモノが、

どうして政府を倒せると・・・

言うのだァァァ!!!!」

 

みるみる巨大化し醜くなっていく

そのマタセ王だった魔物は、

絶叫しながら飛びかかってきた!

 

その丸太ほどの太い腕の一撃を

躱しながらアタシはモガ丸達に

物陰に身を潜めるよう指示する。

 

「モガ丸っ!スラッピ!

コッツと一緒に隠れてて!!

宇宙王の書を守っててね!」

 

「よっしゃあ!任せときぃ~!」

 

モガ丸達の身の安全を確認すると

アタシ達は攻撃の準備に入った。

 

精霊神ルビスの御力がアタシの周囲に

魔法陣を張っていく。

魔法陣の力はアタシが放つ攻撃呪文の

威力を1発だけ上げる、ルビスの秘術と

呼ばれるもの。

 

アタシは呪文の詠唱に入った。

特大のを食らわせてやるわっ!

 

「猛きイカヅチの精霊よ、正義の稲妻で

我敵を打ち倒せ!ギガデイン!!!」

 

バチィィィィ!

バチバチバチィィィ!!

 

【挿絵表示】

 

秘術の力で威力が増した

眩しい電撃の光がフロア中を

明るく照らし魔物に向かって

飛んでいくっ!

 

「ぐわぁァァァ!!!」

 

電撃の光が収束され

辺りは再び平静さを取り戻していく。

一つさっきまでと違うのは、

体中が黒く焦げてしまった魔物の姿。

おそらく人間だった頃には、

受けたことのないダメージ。

魔物と化して、体中に力が漲る感覚も

初めてなら、敵から受ける想像を絶する

ダメージもまた初めてのものだろう。

 

つい最近まで人間だったのも、

彼にとっては敗北の要因じゃないかしら。

甚大な身体的ダメージを負い、

精神的にも大きなダメージを負った彼は

もう戦意喪失状態だろう。

 

「ぬぅぅぅ、おのれ~!

魔法団の秘術で魔物化したワシは・・・

つまり、魔星王と同格の力を得たはず

・・・・。

なぜ義勇軍ごときに敗北する・・・???

おのれ~~~!

これでも喰らえ、イオナズン!!!」

 

まさか、まだ反撃する余力が!

アタシ達はとっさに盾を掲げ、

爆発呪文のダメージを軽減する。

 

魔物が放った攻撃呪文は・・・。

大した威力ではなかった。

やっぱり生来の魔物ではないぶん、

力の使い方にまだ未熟さが

残ってるのかしら。

 

「ハッスルダンス!」

 

パァァァ~~~!

 

妹レイファンが、受けたダメージを

回復するダンスを踊ってくれた。

弟ジョギーが魔物にとどめを刺す。

 

「超ギガスラッシュ!!」

 

ギシャアアアア~!

 

再びフロア内を眩しい電撃が走る!

これで勝負はついた・・・!

 

「お・・・・おの、れ・・・・

こ、このワシが・・・・

義勇・・・ぐ・・・んごときにぃ・・・

グ、グフ!」

 

黒焦げになったマタセ王だった

魔物は、そう言い残すと息絶えた。

 

元は人間だった者にトドメを

刺すのは・・・正直ツライわ・・・。

けど彼を放置すれば

魔物としてこの先成長し、

やがて何の罪もないマタセ国民に

被害が及んでしまう・・・。

 

あの、黄金色のスライム達をエルフと

崇めるニョレ港のおじさん達も、

マタセ王の犠牲になってしまう。

 

それは。

ニョレの人々とエルフ達の共存関係に

光を見たアタシにとっては

とても許されることではなかった。

 

マタセ王、もう少しアタシ達が早く

貴方に出会っていれば、ううん、

もっと早く魔法団に追いつき、魔星王誕生を

阻止していれば!

貴方は心変わりをせず、魔道へと堕ちることも

なかったかもしれない。

 

ごめんなさい、アタシには。

オリオリを、義勇軍の大義を信じ、

卑劣な宇宙政府を倒す義務があるの。

魔道へ堕ちた貴方を許すわけには

いかなかった。

ごめんなさいね。

 

戦う前は、あれほど軽蔑していたのに、

やっぱり人間だった者を倒してしまった

悔恨かしら、ひどく後味が悪い。

オリオリが信頼していた人物だった、

というのも後味の悪さをさらに濃くする。

 

「・・・私もお城でマタセ王と対面した時から

感じていました。以前の彼とは違う違和感を。

リザさんほど明確に彼の正体に気づいた

ワケではありませんが。

一体何が彼を変えてしまったのでしょう・・・?」

 

書から現れたオリオリもまた、

ショックを隠しきれない様子だわ。

当然ね、オリオリの、マタセ王との付き合いは

アタシ達よりも長いのだから。

 

フロアには、今度こそアタシ達

義勇軍一行だけになった。

結局、魔法団の手がかりは何一つ得られずに。

 

と、そんな矢先だった。

 

「マタセ王の心変わりの理由、

それは私が原因だ!」

 

だ、誰!?

誰もいないはずのフロアに

朗々とした声が響き渡った!!

 

振り返ると、そこには!

白い甲冑に身を包み

スライムに乗った騎士が居た!




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・マタセ王
マタセ島を治めるマタセ国の国王。
陰ながら義勇軍を支援している人物だったが
表向き、宇宙政府にも恭順を示していた。
実は情勢次第ではどちらの味方にもなれるよう
中立を保っていた。
魔星王誕生に際して政府有利と見るや
義勇軍を裏切り自らは魔物化して
アタシ達を襲ってきた。

・白い甲冑のスライムナイト
???
噂の白いスライムナイトか!?



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード5.「戦うそれぞれの正義」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



コイツに間違いなかった!

星屑魔法団に心変わりをさせ、魔星王誕生を

現実のものへと導いた張本人、

白いスライムナイト!!

 

「誰です!?あなたは!」

 

「初めまして、諸君!

私は・・・そうだな、ピエールと

名乗っておこう!」

 

「ピエールっ!?」

 

「もがー!

噂の白いスライムナイトってお前の事か!?」

 

「噂?ほう、私の事が噂に!?

これは光栄だ、愉快、実に愉快だ!」

 

「オリオリ様、間違いありませんっ!

ヤツが星屑魔法団を心変わりさせた

白いスライムナイトですっ!」

 

「ほほぉ、そなたあの時の義勇軍の

女隊長ではないか、そうか、無事だったか、

それは良かった。」

 

「なんだとぉ!

誰のせいで私があんな酷い目に遭ったと

思ってるんだっ!」

 

「コッツ!

気持ちはわかります、しかし今は堪えて!

この者には問いたださねばならない事が

山ほどあります!」

 

どうやら突如現れたこの白い甲冑の戦士が

星屑魔法団を翻意させた張本人みたいね。

アタシは声には出さず呪文の詠唱を

心の中で始めた。

いつ何時でも戦闘を開始できるように。

 

「マタセ王に宇宙政府へ協力するよう

説いたのはアナタですか?」

 

「質問に答える前に!

そこの女魔道士よ、物騒な真似は

やめていただきたい。

オリオリ、上官であるそなたからも

注意してくれないか?」

 

「え!?リザさん?」

 

クッ!コイツ!!

アタシは完全に殺気を消しながら

呪文の準備をしていたのに!

アタシの行動を見破るとはっ!

只者じゃないっ!!

 

「リザさん、どうやらこの者は

我らと争う気はないようです。

戦闘準備を怠らないのはさすがですが、

ここは彼の話を聞くため警戒を解いて

いただけませんか?」

 

オリオリにそう言われては仕方ないわね。

アタシは読み終わった呪文を一旦解除した。

ここはオリオリを信じて任せよう。

 

「よぉし、お利口さんだ、さすがだな、

義勇軍のリーダーにして宇宙王の末裔

オリオリよ。

・・・いかにも!

マタセ王を説得し宇宙政府側に付くよう

仕向けたのは私だっ!

そもそも彼は諸君ら義勇軍にも、

そして宇宙政府にも良い顔をしていた、

実に計算高い男だった。

そんな彼を宇宙政府側に引き込むのは

容易い事だった。

魔星王誕生の事実を伝え、情勢は宇宙政府に

傾きつつある、と伝えるだけで

あっさり宇宙政府への恭順を示したのよ!」

 

「そして魔法団の秘術を用いて魔物へと

改造したのね!」

 

「その事については私も誤算だった。」

 

「え?」

 

「彼は自ら魔物化したいと願い出たのだ。

それが宇宙政府への恭順の交換条件だと

言ってな!」

 

「そ、そんな!」

 

「まぁ、所詮、彼はそういう男だったと

いう事よ。

こちらの足元を見て、それに乗じて

自分の願望を押し付けてくる。

一国の主として富も権力も地位も

手にしている人間が、次に欲するもの、

それは力しかないだろう?

まぁしかし、結局は己が欲望のために

手に入れた邪悪な力、信念なくして得た力だ。

そんなものは真の力ではなかったという事だ。

末路などたかが知れている。

それはそこに居るブルリア星の冒険王に

よって証明された。」

 

・・・この男、かなりキレる!

全くアタシと同じ事を考えているっ!

 

「星屑魔法団を説得し魔星王誕生の計画を

進めたのも私。」

 

「何のためにそのような愚かな事を!?

貴方は宇宙政府の悪事を知らないのですか!」

 

「知っているさ。

知りすぎて、理解し尽くしている。」

 

「知っていながらのその所業!

貴方も所詮はマタセ王と何も変わりませんっ!」

 

「これは手厳しいな。

オリオリよ、貴女が義勇軍などという

雑兵集団を率い政府に対抗する気持ち、

私もよぉくわかる。

宇宙政府の圧政は確かに宇宙の星々の民を

苦しめている、私もその事には

心を痛めている。

しかし政府は邪悪な上にとてつもなく強大だ。

義勇軍ではとても叶わぬのだ。」

 

「だから宇宙政府の手先となるのですか?」

 

「今はな。

しかし私には考えがある。

宇宙政府に力で対抗しても無駄なこと、

外側から政府を変えるのは不可能なんだ。

であれば内側から、内部変革によって

政府の方針を変え、平和で平等な世の中を

目指す、私はそこに活路を見出したいのだ。

わかるかオリオリ、無用な争いは避けるべきだ、

戦いの度に払う犠牲もなくなる。

貴女はただちに武装を解き義勇軍を解散し

私と共に宇宙政府に参入し

幹部となり革命を起こすべきなんだ。」

 

・・・こんな!

こんな甘ったれた考えが!

 

白いスライムナイトの理論だというの!?

こんな安い考えのためにオリオリの旦那様は

心変わりをし、タァコ王が悩み、

新しい魔星王が誕生し、そしてマタセ王が

魔物と化してしまったというの!?

 

こんな安っぽく甘ったれた己を過大評価した

理論を!

一時でも聞いてみたいと思ってしまった

アタシ自身に怒りを覚えるっ!!

ムカッ腹が立ってきたわ!

 

宇宙政府の強さ、巨大さ、邪悪さ、卑劣さ、

腐る程見てきたアタシ達からすれば

とんだ甘ちゃん野郎だわ、この男!

 

一旦はしまった拳だけども、怒りのあまり

無意識のうちに再び、アタシは呪文の

詠唱を始めてしまっていた。

 

「ピエール・・・残念ながら貴方のその

考えは徒労に終わる。

宇宙政府を内側から変えるのは無理です。」

 

「ほぉ、言い切るとはな。

何ゆえそこまで言い切れる?」

 

「宇宙政府は貴方の言う通り、とても巨大な組織です。

いかなる善意も、その巨大な邪悪さと卑劣さで

飲み込んでしまいます。

かつて私の両親も宇宙政府に抵抗していました。

しかし無駄な争いを避けようと、

そう、貴方と同じ考えを抱き政府の一員となり

内側から政府を変えようとしました。

しかしやがて宇宙王の末裔だということが

発覚してしまい容赦なく処刑されて

しまいました。

そして私も命を狙われる事に。

夫のセアドは私の身を守るため

宇宙王の書の中に私を封印しました。

それが私の今の姿です。」

 

そうだったの!

オリオリが本の中に居るのはそういう経緯が あったのね。

そして!

ご両親を宇宙政府に殺された・・・!

親の仇でもあるわけね、宇宙政府は!

謎だったオリオリの過去が、ようやく

語られたわ。

 

アタシは怒りのあまり、戦闘準備を

始めていたけど、オリオリの過去を

知るにつれ、そちらに意識が向くようになってしまった。

それほどに壮絶な過去!

詠唱を完了していた呪文は、

再度霧散していたわ。

 

「いいですか、ピエール!

宇宙政府には戦って勝つしかないのですっ、

内側からの変革を許すほど彼らは甘くない!」

 

「はっはっはっは!

頑固なお嬢さんだ。気に入ったぞオリオリ。

しかしこれ以上のお喋りを続けても

無駄なようだな、お互い平行線を辿る

だけだろう。

ひとまず此処は退くことにする、

いずれまた会おう!

その時こそ貴方を説得してみせるぞ!」

 

「ピエールっ!」

 

「あぁぁぁ!ピエールに逃げられたぞ!

もがぁ!いいのかリザ!?」

 

「追いかけますか?オリオリ様。」

 

「いいえ、今追わずとも彼が言っていた通り、

いずれまた対峙することになるでしょう。

それより、マタセ城に戻り様子を

伺いましょう、王が居なくなり、

きっと大騒ぎになっているでしょうから。」

 

「はっ!承知致しました。」

 

「もが〜、あの大臣さん、

優しそうだったもんなぁ、言えないよな〜、

マタセ王が宇宙政府の魔物になってしまって

リザ達が退治してしまった事・・・」

 

うぅぅ、仕方のなかった事とはいえ、

残された人々の事を思うと、たしかに気が重い〜。

けど、待っていてもマタセ王は帰ってこない、

王の死はいずれ国中に知れ渡るだろう。

少なくとも大臣さんには伝えるべきね。

アタシ達はモガ丸のルーラでマタセ城に

戻る事にした。

 

「あぁぁ、これはオリオリ殿!

大変です、王が居なくなってしまったのです、

忽然と姿を消してしまいましたぁぁぁ!」

 

「・・・。」

 

「星屑魔法団と面会してからというもの、

どうも様子がおかしかった。

付き人の話によれば、自室に1人で篭り、

時折不気味に笑い声を上げる事もあったとか

なかったとか。」

 

「大臣、王の行方はわかりません。

しかし、きっと戻られるでしょう、

それまで貴方が毅然とした態度で

王不在のこの事態を乗り越えてください!」

 

「は?あ、あぁ!

わかりました、そうですね、こんな時こそ

ワシがしっかりせねば!

オリオリ殿、かたじけない、お気遣い

感謝したしまするっ!」

 

「いえ、お力になれず申し訳ない。

ところで大臣は王と面会したという

星屑魔法団の行方はご存知ないでしょうか?」

 

「彼らなら王との面会の後、すぐに

ヨンツゥオ大陸の南部へと向かいました。

この島からの最寄の集落は・・・

そうじゃ、ランペェ村じゃ。

そこには港もある。

飛行船で向かう事ができますぞ。」

 

「承知しました。

大臣、感謝いたします。

そして国の混乱が拡がらないよう

頑張ってください。」

 

「承知致した、オリオリ殿一行もどうか

ご無事で!」

 

オリオリ・・・本当の真実を・・・

いえ、確かにこの状況で本当の事を

伝えるのは忍びないかしら(_ _;

 

自分の仕えていた主が

宇宙政府に魂を売って化物に

なったなんて、俄には信じがたいでしょう。

 

今は王亡きマタセ国を残った人たちで

盛りたてなくちゃあならないもの。

真実を知れば皆、大混乱に陥り、

国は乱れ、それこそ宇宙政府に

付け込まれてしまうかもしれない。

 

今はただ信じよう、

この優しく忠実な大臣さんが

マタセ国を一つにまとめてくれる事を。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・ピエール
白いスライムを駆るスライムナイト。
数々の調略を駆使し各国首脳、さらには
星屑魔法団までも宇宙政府へ恭順させる。
新しい魔星王誕生成功という事柄の
直接の張本人は"秘術"を行使した星屑魔法団だけど、
魔法団を宇宙政府側に協力させたピエールの罪は
この上なく重いとアタシは思う。

Story日誌 第4章<白い騎士>了


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2ndシーズン第5章[腕利きの道具職人]***惑星クラウド・ヨンツゥオ大陸編***
エピソード1.「ニオイがこの世の地獄??」


アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



マタセ島のニョレ港町の人々とスライム、

エルフ達は互いを侵略する事なく

共存関係を成立させていたわ。

むしろスライム達はエルフと崇められていた。

人間と魔物が共存できていたの。

 

翻ってマタセ王の件は。

同じ人間同士だというのに・・・

共存できなかった。

マタセ王が個人の欲に走り義勇軍との

協力関係を破棄してしまった。

 

人間とスライムとの共存関係こそ

世界の理想的な姿、かと思えば

人間同士は仲良くできない。

なんとも悲しく、皮肉な話だったわね。

 

仲良くできないと言えば、そう!

白いスライムナイト、ピエール!!

あの男の主義主張は、アタシには絶対に

受け入れられないっ!

 

彼、外面は穏やかだし口調も紳士的だけど

言ってる内容がかなり粗野だってこと

自分で気づいてないわ。

平和、平等のために宇宙政府側に付くって

言うけど、すでに彼の行動が周囲を

不幸にしているのに気づいていない。

 

魔法団の心変わりは少なくとも、

オリオリの心を不幸にしているし、

コッツ達3番隊は、その魔法団の

心変わりを阻止しようと試みた末

上級執行官ドアヌに酷い目に

遭わされている。

マタセ王を籠絡した事も、マタセ国を

混乱に陥れる結果になってしまったし。

 

何よ?彼が言うようにアタシ達が歯向かうから

不幸になるとでも言うのかしら。

無用な争いをやめれば誰も傷つかなかった

とでも言うの!?

冗談じゃない、それじゃ結局、政府の言いなり

って事じゃない。

どこか平和で平等なのよっ!

 

もし、自分のやっている事こそ大義だと

信じ多少の犠牲は仕方ないって考えてるなら

それこそ宇宙政府のやり方と何も変わらない!

 

オリオリは!

目の前に困ってる者がいれば

必ず手を差し伸べるもの。

どれだけ自分に余裕がない状態だったとしても

自分に利益のない事だとしても

決して困ってる者を放置しないわ!

ここまで一緒に旅をして来てからこそ

よくわかるっ!

オリオリとピエールでは、その主義主張に

決定的な差があるわ。

 

アタシはランペェ村へ向かう飛行船の中で

マタセ島で起こった色々な事を振り返り

こんな事を考えていたの。

 

って、アタシがすでにピエールとは

相容れないっていう考えに

凝り固まっちゃってるわね・・・。

こんな事では人同士が分かり合えるなんて

到底無理な話ね。

こういうところに、宇宙政府はつけ込んで

来るんだろう。

 

ダメだダメだっ!

アタシはふるふると首を横に振った。

あの白いスライムナイトと分かり合える日は

来るんだろうか??

その問いに誰も答えてくれない事を

アタシは知っていた。

答えは自分で見つけるしかない。

 

「モガー!

陸が見えてきたぞー!ヨンツゥオ大陸だー。」

 

「ピピ〜!」

 

着いたか。

相変わらず星屑魔法団は行方知れずのまま。

この地方で出会えるといいんだけど。

 

「こんにちわ、ランペェ村へようこそ!

この辺りは宇宙政府のマレドー様が

治めてたんだけど突然いなくなっちゃって。

代わりに新しいジョーキューシッコウカン、

がやって来たの。

ジョーキューシッコウカンっていうのは・・・

うーん・・・とってもエライ人!」

 

「こんにちわ!オイラはモガ丸、

こいつはスラッピ。

お嬢ちゃん、え、エライな、色んな事

知ってるんだな!」

 

「うん!

けど新しいジョーキューシッコウカンは

マレドー様と違ってとっても悪い人なの。

だからお父さんや村の男の人達みぃんな

武器を持って戦ったんだけど、

やられちゃった。

みんな怪我をしてしまって今は寝てるの!」

 

「これ!アンタは余計な事をベラベラと!」

 

「あ、お母さん!ごめんなさい〜!!」

 

マレドー、宇宙政府を裏切り義勇軍に

寝返ったあのマレドー・・・。

アタシは当初、彼は政府のスパイじゃないか

って疑っていたんだけど。

そっか〜、彼はこの地域で善政を敷いて

いたのね、む〜人は、いえ彼は魔物だけど、

見た目で判断しちゃいけないわね、

ごめんなさいマレドー、反省(_ _;

 

「すみません、この子はお喋りが好きなもので。

失礼はありませんでしたか?」

 

「モガ〜、大人の難しい話をよく理解してる

賢い娘さんだぞ!」

 

「たしかにマレドーは我が軍へ帰投する

以前はこの地域を担当していました。」

 

「で?ご婦人。

マレドーの代わりにやって来たという

上級執行官とは?」

 

「新しい上級執行官はチョルルカ様といいます。

あの、すみません、この子が口走って

しまいましたが、チョルルカ様に

逆らった事はどうか内密に!」

 

「そのチョルルカというのは強いのか?」

 

「はい、とても強くて村の男達は

返り討ちにあってしまいました・・・。

チョルルカ様は強いのはもちろんなのですが

もう一つ特徴があって・・・」

 

「もう一つの特徴?」

 

「はい、それは・・・」

 

「それは???」

 

「とってもクサいのですっ!」

 

「く、クサい!!??」

 

「はい、あまりのクサさに戦う前から

戦意を奪われ武器を使う間も無く

やられてしまうのです!」

 

「モガー!!

めちゃくちゃクサいじゃないか!

そんなヤツいるのか!」

 

「そのクサさはこの世の地獄、と

皆申しておりました。

私の主人はゴッシュさえ居ればチョルルカ様

にも勝てたのに!と申しておりました。」

 

「ゴッシュ?何者ですか?」

 

「はい、ゴッシュはこの地方随一の道具屋です。」

 

道具屋??

その道具屋さんがいれば新しい上級執行官に

勝てたって?

どういうことなんだろう?

 

「ご婦人。

そのゴッシュという人物がいれば

チョルルカに勝てたというのは

どういう事でしょうか?」

 

コッツもアタシと同じ疑問を抱いたようね。

 

「はい、ゴッシュは腕利きの道具職人です。

彼にチョルルカ様の臭いを封じる道具を

作ってもらえば勝てる、という見通しかと

思います。」

 

「・・・なるほど!」

 

あぁ、そういう事ね。

けど臭いを封じる便利な道具って何だろう?

 

「ゴッシュは最近、この村の近くの

洞窟に住むようになったと聞きます。

そしてなかなか洞窟から出て来ず村に姿を

見せなくなってしまいました。

それゆえ私たちはその洞窟を『ゴッシュの洞窟』

と呼ぶようになりました。」

 

洞窟から出てこないなんて、ちょっと心配ね。

何かトラブルでもあったのかしら。

 

「リザ殿!」

 

「あ、は、はい!

なぁに?コッツ。」

 

「その洞窟に向かいゴッシュを探しましょう!

彼に協力を仰ぎチョルルカを倒すのです。」

 

そうね、アタシ達義勇軍は困っている人を

見過ごすわけにはいかないもの。

チョルルカとやらがどの程度強いのか

知らないけど、クサいのはヤだもんね。

 

「え!?チョルルカ様を倒す!?

それはとても有り難い話ですが、どうか

旅の人、ご無理はなさらないでくださいね。」

 

またしても魔法団の行方とはかけ離れた

展開だけど。

宇宙政府の圧政に苦しんでる人達は

助けなきゃね!

 

アタシ達はアタシ達の信念のもと、

宇宙政府に対抗してみせるわっ!

ピエール、アナタの主張には死んでも従う事は

出来ないっ!

 

アタシは。

頑として受け入れられないと思いながらも

ピエールの主張が頭から離れなかった。

新しい上級執行官を退治する事は

自分達の主張が正しいと証明するための

行為だと、無意識のうちに思っていたのかも

しれない。

 

アタシ達はゴッシュの洞窟へと歩き始めた。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード2.「ニオイ対策の意外な方法」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



星屑魔法団を追うため、

ここヨンツゥオ大陸南部へやってきたアタシ達。

最初に訪れたランペェ村の住人から

新しく赴任した宇宙政府の上級執行官

チョルルカの悪政の話を聞き、

これを倒す事を決めた。

 

けど問題がひとつ。

チョルルカは"異常にクサい"のだそう。

その激臭のためにまともに戦うことが

できない、と。

 

村人は「"道具職人ゴッシュ"の協力が

あればチョルルカに対応できるでしょう」

と教えてくれた。

 

アタシ達はその、ゴッシュという人物が

居るという洞窟へ向かった。

 

「もが、この洞窟にゴッシュが居るんだな、

事情を話してチョルルカを倒す道具を

作ってもらおうぜ!」

 

「ピピッ、ピー!」

 

「そうですね、スラッピさん、

どうやらここに居るのはゴッシュさん

だけではなさそうです。」

 

魔物の気配か。

ひょっとしたらゴッシュが

この洞窟から出てこないのは

魔物のせいで出てこられないのかも。

 

「もが!よぉし、じゃあさっさと

魔物をやっつけてゴッシュを助けようぜ!」

 

洞窟内部には、やっぱり魔物が居た。

アタシ達はそれらを薙ぎ払い、

洞窟の奥へと進んだ。

ゴッシュの無事を祈りながら。

 

洞窟の最深部までたどり着くと

頑強そうな1人の男が居た。

男はアタシ達の存在に気づき

少し驚いたような様子で話しかけてきたわ。

 

「誰だ!?お前たち、ここまで

たどり着いたってことは・・・。

魔物を倒したのか?」

 

「我々は宇宙政府に抵抗する集団、

義勇軍です!

アナタは・・・腕利き道具職人と

呼ばれるゴッシュ殿ですか?」

 

「・・・・そうだが・・・・

お前ら義勇軍なのか?」

 

よかった、この男性が道具職人ゴッシュ。

無事でよかったわ。

書の中からオリオリが現れて名乗った。

 

「はじめまして、私は義勇軍の総司令官

オリオリと申します。」

 

「わっ!ほ、本の中から人が!?

これは、どういう仕掛けなんだ?

どんな道具を使っているんだ!???」

 

「これは仕掛けではありません、

道具でもありません、

星屑魔法団の秘術により

本の中に封じ込められているのです。」

 

「そ、そうか・・・・

宇宙王の末裔が本の中から

レジスタンス集団を指揮してるって

話は本当だったんだな。」

 

このゴッシュという男は。

根っからの職人なのね。

宇宙王の書を見て真っ先に

何か仕掛けがあるだなんて

発想の持ち主は今まで

出会ったことないかも(゜o゜)

 

「で?その義勇軍がオレに何の用だ?」

 

「我々はこの地方を悪政で苦しめている

宇宙政府の上級執行官チョルルカ打倒を

目指しています。

ぜひゴッシュ殿のご協力を仰ぎたい。」

 

「はぁ?オレは道具職人だぜ?

魔物と戦う力は持ち合わせてはいない。

倒したきゃ勝手に倒しゃいいだろ!?」

 

む、何よコイツ、この地方の人々が

苦しんでるのに全く関心がないの?!

自分は洞窟に籠もってるから

政府とは無関係だとでもいいたげね!

 

「そうしたいのはヤマヤマなのですが。

チョルルカという魔物はとてつもなく

臭いという話です。

その激臭ともいえるニオイのせいで

まともに戦えないとか。

ランペェ村の住人の話では

『ゴッシュに頼めばニオイを

どうにかしてくれる道具を

作ってくれるんじゃないか』という事です。

それゆえこの洞窟へやって来た次第です。」

 

ゴッシュの無粋な物言いをさらりと流し、

コッツがこちらの用件を伝える。

するとゴッシュの態度が変わった。

 

「ほぉぉ!そういうことか!

・・・・面白い!

わかったランペェ村へ向かうぜ、

話はそこで聞こう。」

 

ゴッシュは、コッツの話を聞き、

道具職人としてのゴッシュに依頼がある、

と理解してくれたんだろう、

途端に協力的になってくれた。

 

そうか、戦うために自分に依頼が来た

と勘違いさせちゃったのね。

大丈夫、戦うのはアタシ達だから。

 

ゴッシュはさっそく身支度を始め、

アタシ達と一緒にランペェ村へ向かった。

 

村に着くなりゴッシュはチョルルカと

戦った村の男性たちに話を聞くべく、

各家々を回った。

アタシ達は広場でゴッシュが

戻ってくるのを待った。

 

「もが、ニオイが気にならなくなる道具って、

そんなの作れるのかな~?」

 

「わかりません、けどゴッシュ殿は

何か閃いたような、自身に満ちた

表情をされていたように私は思いました。」

 

「たしかにな、チョルルカの話を聞いた途端、

村へ向かうって言い出したもんな。

その、ニオイが気にならない道具のビジョンが

見えてるのかもしれないな。」

 

しばらくするとゴッシュが広場に戻ってきた。

 

「おー、お前ら。

チョルルカと戦った連中から話は聞けたぜ。

確かに!

チョルルカを倒すにはヤツのニオイを

断つ必要があるみてぇだな。」

 

「ゴッシュ殿、それを可能にする

道具なんてあるんでしょうか?」

 

「まぁな、オレの中ではもう、その道具の

完成図が出来上がってるぜ!」

 

「おぉぉぉ!さすが腕利き職人!

ぜひそれを作っていただきたい!

お願いします!」

 

「だはははは!

そう言ってくれるのを待っていたぜ、

オレはこういう、バカバカしい頼みが

大好きなんだ。

この星一番のせんたくバサミを

作ってみせるぜ!」

 

え?せ、せんたくバサミ??

 

「あぁ、それで己の鼻をつまむんだ、

そうすればニオイを気にせず

戦えるだろう?」

 

えー!

そんな単純な手段!?

腕利きの職人っていうから

どんな凄い道具を作るのか

興味津々だったのに!

 

「お?そこのお嬢ちゃん、

今すっごく呆れた顔したな?」

 

ギク(゜o゜)

ヤバイ、アタシ顔に出ちゃった(-_-;)

 

「バカバカしいって思ったな?

さては。

確かにそこいらに転がってる

せんたくバサミだってんなら

わざわざオレに依頼をしなくても

いいだろうよ。

けどこの星一番のせんたくバサミだぜ?

そしてこのオレが作ってみせるんだ、

きっとチョルルカとやらのクサイ臭いも

遮断してみせるさ!」

 

う、どうやら冗談じゃないらしい・・・。

大真面目にせんたくバサミで

チョルルカに対抗しようと。

 

「確かに発想は単純だが、

単純だからこそ効き目があるんだ。

バカバカしいけどオレは本気で仕事するぜ!」

 

ちょっと変わってるけど、

彼が本気だっていうのは伝わったわ。

 

「で、そのせんたくバサミだが、

まず材料が必要だ、なんたって

この星一番のせんたくバサミだからな。

ただ、この村には、その材料がない。

お前ら、せんたくバサミの材料を

集めてきてくれねえか?」

 

ふむ、話が具体的になってきた!

 

「必要な材料を言うぞ?

まずは軽くて硬い特別なハリガネ、

次にそのハリガネを曲げて加工するための

特別なトンカチ、最後に鼻をつまんだ時に

痛くならないようクッション代わりとなる

特別なワタ。

ハリガネ トンカチ ワタ、この3つが

必要だ。」

 

特別なハリガネに特別なトンカチ、ワタ・・・。

どこにでもありそうな材料だけど

全部特別なヤツ・・・?

そんなのどこにあるんだろう。

 

「トンカチはここの隣町のクラビィンにある。

クラビィンでトンカチを持ってるのは

オレの兄貴だ。

兄貴からトンカチを借りてきてくれ!」

 

やっぱり、なんだかスッキリしないけど、

ここはゴッシュを信じて"この星一番の

強力なせんたくバサミ"を完成させるしか

ないみたいね。

 

よし!

まずはクラビィンの町ね。

さっそく向かおう!

 

アタシ達は支度を整え

クラビィンの町へ向かった。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・道具職人ゴッシュ
ヨンツゥオ大陸南部地方で名を轟かせる
腕利きの道具職人。
バカバカしい依頼ほど大真面目に引き受けてくれる
ちょっと変わった職人。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード3.「材料を求めて」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



クラヴィンの町に着き道具職人ゴッシュの

お兄さんの所在を確認した。

彼の名はヨンシュ。

兄弟揃って腕利きの道具職人だと

町の入口近くで住人が教えてくれた。

 

その住人が教えてくれたヨンシュの住所を

目指し町を歩く。

お兄さんのヨンシュは店を構えているみたいね。

言われた通り歩いた先に、それらしき

道具屋の看板が見えてきた。

店のドアを叩く。

 

「ごめんください、ここは道具職人ゴッシュ殿の

お兄さんのお店ですか?」

 

「いらっしゃい。

いかにもゴッシュはオレの弟だが。

アンタら弟の知り合いかい?」

 

「はい、実はゴッシュ殿から依頼を受けて・・・」

 

コッツは手短に用件をヨンシュに伝えた。

アタシ達がチョルルカを倒そうとしていること、

そのためにゴッシュにせんたくバサミを

作ってもらうこと、

せんたくバサミの材料のこと。

 

「弟がこの星一番のせんたくバサミを作る?

ソイツを使ってアンタらが宇宙政府の

役人をやっつける?

ガーハハハハッ!面白い!こいつぁ傑作だ。

そのくだらない発想が実に、な。

よし!オレのトンカチを貸せばいいんだな?

待ってな。」

 

やっぱり兄弟なのね!

2人して本気でバカバカしい事を

面白がるなんて。

悪く言えば酔狂、良く言えば何事も

真剣に取り組む、ってとこかしら。

 

ヨンシュは店の奥から大事そうに

包を持ってきた。

布を取ると丁寧に手入れをしているであろう

キレイなトンカチだった。

 

「コイツはオレが特別な仕事をする時だけに

使うまさに特別なトンカチだ。

普通なら弟にだって触らせないんだぜ?

ヤツも同じ職人だからな、お互い道具への

愛情は大きいからな。

それを貸せっていうんだから

ゴッシュも相当この仕事に真剣に

取り組んでるんだろうぜ。」

 

そうか、職人さんにとって

仕事に使う道具はとっても大事なもの

だもんね。

アタシ達が装備に愛情を注ぐように。

これはなかなかに大変なものを

預かることになっちゃったわね。

 

「ヨンシュ殿、確かに!

アナタの魂ともいえるトンカチを

お預かりします。

必ずゴッシュ殿に届けます。」

 

「あぁ、よろしく頼むぜ。

で、他に必要なものは

『軽くて硬いハリガネ』と

『クッション代わりのワタ』だったな?

2つともありかは知ってるぜ。

まずハリガネはこの町の西にある

ハリィの塔の最上階にあるぜ。

大昔に、どこの誰がどういう理由でだか

知らないが特別なハリガネを

大量に置いていったって話だ。

そのハリガネがきっとそうだろうよ。」

 

「ハリィの塔ですね、わかりました。

リザ殿、オリオリ様、さっそく向かいましょう。」

 

「急いだほうがいい。特別なハリガネだからな、

誰かれ構わず勝手に持っていっちまうんだ、

残り僅かしか残ってないと思うぜ。」

 

「もがー!

よし、急がなきゃいけないみたいだな、

でワタのほうは何処にあるんだ?」

 

「ワタはこの町の北西にあるモウィ遺跡に

生えてるぜ。

ただ、この遺跡は宇宙政府の警備が

厳しいって話だ。

政府にとって知られたくない秘密でも

隠されてるのかもよ。

ま、今はただ単にワタが欲しいだけだからな、

余計なことはせずにワタだけ

取ってくればいいだろうよ。」

 

宇宙政府にとって知られたくない、

都合の悪いこと?一体なんだろう。

ちょっと引っかかるわね。

けど、そうね、ヨンシュの言う通り

今はせんたくバサミのほうが優先だもの。

ワタの採取だけに集中したほうが

良さそうね。

 

「よし、目的地は決まったな、

特にハリガネのほうは急いだほうが

良さそうだぞ。

そしてワタのほうは警戒を怠らずに

遺跡を探索したほうがいいみたいだな。

いくぞーリザ達!」

 

アタシ達はまずハリガネを求めて

ハリィの塔へ向かった。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・ヨンシュ
ヨンツゥオ大陸南部地方で名を轟かせる
腕利きの道具職人ゴッシュの兄。
弟のゴッシュと同じくバカバカしくて真剣な
出来事が好きな性格。
ゴッシュが作るせんたくばさみに必要な
3つの材料の1つ「特別なトンカチ」の持ち主。
残り2つのありかも教えてくれる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード4.「モウィ遺跡の罠」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



道具職人ゴッシュに作ってもらう

この星一番の超強力せんたくバサミ。

それの3つの材料を集める為、

まずゴッシュのお兄さんヨンシュに会った。

 

彼はせんたくバサミを作る為の

トンカチを快く貸してくれた。

そして残り2つの材料のありかも

教えてくれた。

 

材料の1つ「軽くて硬いハリガネ」を

求めハリィの塔にアタシ達は

やって来た。

 

塔に巣食う魔物たちを蹴散らしながら

最上階までたどり着くと

確かにそれらしきハリガネが

無造作に置かれていたわ。

 

「もがー!あったぞー!

これがきっとゴッシュが言ってた

ハリガネに違いない。

そしてヨンシュが言ってたように

あとちょっとしか残ってないぞ!」

 

よかった、まだ残ってたみたいね。

 

「よし、じゃあオイラ達もちょっくら

拝借しよう。」

 

うぅぅ、なんかその他大勢の

ネコババする人達と同じに

なっちゃうみたいで心苦しいんだけど

理由が理由だけに、ね。

ごめんなさい、大昔の人、

ちょっとだけ貰っていきます。

 

「次はモウィ遺跡だな、どうする?

いったんクラビィンの町へ戻るか?」

 

「いえ、ワタの入手場所もわかってる

ことですし、このままモウィ遺跡へ

向かおうと思いますが、

リザさん達はどうでしょう?

戦いの疲れはありませんか?

次の目的地は政府の警備が厳しい

ということですし。」

 

大丈夫よ、オリオリ。

アタシもできるだけ早く材料を

集めたほうがいいと思うもの。

幸いここの魔物たちも大したこと

なかったからね。

 

「わかりました、ありがとうございます!

ではこのままモウィ遺跡へ向かいましょう。」

 

「もがー!了解だぞぉ!」

 

「ハッ!承知しました!」

 

アタシ達はモガ丸のルーラで

いったんクラビィンの町に戻り、そこから

モウィ遺跡を目指した。

そのほうが早いからね。

 

町から北西に向かうと岩山に囲まれた

深い場所に古びた神殿が

そびえ立っていた。

 

「もが~、なんか、打ち捨てられた神殿

ってカンジだな。」

 

「はい、そしてヨンシュが言う通り

宇宙政府の警備も厳しいようですね。

リザさん達、十分警戒していきましょう。」

 

「私もいつでも加勢します、リザ殿!」

 

確かにハリィの塔のようには

いかないかもね。

そして魔物だけでなく、どんな罠が

仕掛けられてるかわからない。

 

アタシ達は魔物退治を担当するから

コッツはオリオリやモガ丸の警護に

専念してほしいかな。

 

「承知しました、私はオリオリ様と

モガ丸殿達を守ります。

ボロンがいない今、私が代わりに

オリオリ様をお守りせねば!」

 

そうね、そういえばボロン、どうしてるかしら。

黄金色のスライム・・・エルフ達を

無事故郷に連れていき

元気を取り戻させているかしら。

 

アタシは、別行動を取ったオリオリの

幼馴染の名前を聞き、ふと彼に思いを馳せた。

大丈夫、ボロンは強いもの、きっと役目を

果たしているはず。

アタシは目の前の事に集中しよう!

 

装備のチェックを入念にし、

アタシ達は遺跡の中へと足を踏み入れた。

内部には。

特にこれまでと大差ない魔物たちしか

居なかった。

拍子抜けしそうになったけどそこはこらえて

アタシ達は警戒を解かずに

慎重に奥へと進んだ。

 

しかしその後も特に強い魔物は現れずに

遺跡の最深部へと到達できた。

そのフロアの、そこかしこに白い植物が

生えていたわ。

 

「もがー!この白いのがゴッシュの

言ってた特別なワタだな。

たくさん生えてるぞー!」

 

「これでせんたくバサミの材料が

全て揃いましたね!」

 

「よぉし、じゃあさっそく摘んで

ランペェ村まで戻ろうぜ!

ん??」

 

モガ丸がフロアの隅の方に

何かあるのを見つけた。

アタシ達もモガ丸の視線の先に

それを見つけた。

 

「もが、なんだ?木の箱か?

しかも割とデカイぞ。」

 

それは普通の倍ぐらいはある大きな

木の箱だった。

アタシは少し嫌な予感がした。

宇宙政府の警備が厳しいと言いながら

ここまで特にそう感じる出来事や

魔物は居なかった。

 

ひょっとしてこれは罠かもしれない。

少し邪気を感じる。

木の箱・・・これって明らかに・・・。

 

「もが~、ひょっとして宝箱かもな、

しかもこんなデッカイ宝箱だなんて、

お宝がザクザクかもな~。」

 

な!モガ丸!!

ちょっと!開けちゃダメよ、

明らかに怪しいよ!

 

「ピ!ピピ~!

ピピピ~~~!!」

 

「なんだよスラッピ、そんなに狼狽えて。

きっと宇宙政府の秘密って

このお宝なんだよ、みんなで分けようぜ。」

 

ガチャリ。

 

アタシが制止するよりも先に、

スラッピが止めるのも聞かずに

モガ丸がその木の箱を開けちゃった・・・!

 

「もが~、お宝おたか・・・・・

ひぇ~~~!!!

なんだこの箱、目、目があるぞー!」

 

モガ丸~~~~

明らかおかしいでしょう!

全くもう!!

 

案の定、木の箱は人食い箱の類だった。

しかも邪悪な羽まで生やしてて

その姿は通常の人食い箱より

さらに凶悪そうだった。

 

「ひぇぇぇ!!

宇宙政府の厳重な警備って

コイツのことかーーー!」

 

「モガ丸!スラッピ!!

下がって、コッツは宇宙王の書を

守って!」

 

「わかりましたっ!リザ殿!!」

 

「ひぇぇぇ、ごめんよぉリザ~~!

あとは任せた~~~!」

 

モガ丸達の安全を確認し

アタシ達姉弟は戦闘態勢に入るっ!

まず弟のジョギーが剣で斬りかかる。

 

ガキィーーーン!

 

金属と木がぶつかり合う

鈍い音がフロアに響き渡る!

 

「クッソォ!かってーな!

手がしびれそうだ!」

 

弟は不平を言いながらも

次々に剣撃を繰り出し魔物を

攻撃していく。

明らかにダメージは与えているはず。

木の破片がそこかしこに飛び散り、

箱の形はどんどん崩れていくもの。

 

ただ相手は悪の魂を吹き込まれた

木の箱。

意志はあるのか、痛みはあるのか

見当もつかない、苦悶の表情も見えず

叫び声も聞こえない。

 

ただただ、無機質な斬撃の音だけが

フロアに響き渡る。

アタシは呪文攻撃で弟を援護した。

 

「メラガイアー!!」

 

特大の火の玉が人食い箱に直撃し

燃え盛る炎で包み込むっ!

もとは木の箱だからね、

きっと燃えやすいはず。

 

人食い箱はまもなく、その生命力を失い

ただの木の燃えカスに戻るだろう。

 

そう思った瞬間、炎の中から

箱は猛スピードで飛び出した!

 

クっ!まだ生きてるか!

と、ほとんど炭と化した人食い箱が

何やら呪文を唱えるのを

アタシは見逃さなかった!!

 

「マズイ!何か呪文を唱えてる!

気をつけて2人とも!」

 

アタシは弟たちに警戒するよう

指示を飛ばした。

緑色に光ってる、何か補助呪文か!?

 

「ラリホーマ!!」

 

な!?ラリホーマですって?

人食い箱は強力な催眠呪文を

唱えてきた。

 

マズイ!アタシ達は眠りの耐性を

準備してきていないわ。

アタシ達の周囲を催眠ガスが

取り巻いた。

意識が朦朧とする。

 

なんとか意識を確保し、催眠ガスが

消えるまで耐えきったアタシは

ラリホーマの効力に打ち勝った。

まだ意識が朦朧とするけれど。

 

混濁する意識の中、他の2人に

視線をやると。

レイファンもアタシと同じように

耐えきった様子。

しかしジョギーがっ!!

その場にうつ伏せで倒れてるっ!!

 

【挿絵表示】

 

硬い相手にひたすら剣撃を

繰り出していた分、消耗してたから

催眠効果が効きやすかったのかも

しれない。

 

「えーと、えーと、えーっとぉ!!

目覚めの花、目覚めの花、花ぁ!」

 

アタシは道具袋をかき漁った!

眠り状態を解除する道具を

取り出すために。

 

「リザ姉ちゃん!!

アイツ、まだ攻撃してくるよ!!

キターーー!!!」

 

アタシが道具袋を漁っているスキに

人食い箱は最後の攻撃を

繰り出そうとしていた。

 

「ガブッ!ガブッ!!ガブブッッ!!!」

 

「キャー!・・・・え?全然痛くない!?」

 

人食い箱はアタシ達に噛み付いてきたけど、

全く痛みはない?

やっぱり死にかけだから??

 

「ぐぅぅわァァァァ!!!」

 

え?ジョギー!!??

眠らされていたジョギーが!

激しく痛がっている!?

 

!!!

そうか!眠り食らい!!!

 

状態異常の相手に対して

大ダメージを与える、って技が

あったわ!

 

起きてるアタシ達はなんともないのに、

眠っていたジョギーだけが

あんなに痛がってるっ!

 

幸いジョギーは一命は取り留めている様子、

すかさずレイファンが回復呪文を唱える。

 

「ベホイム!!」

 

緑色の光がジョギーの体を包み、

彼の表情もみるみる生気を取り戻してゆく。

よかった、間に合ったみたいね。

 

くぅ!かなり恐ろしい魔物だわ!

あやうく弟を殺されるところだったわ。

うかうかしてると、またラリホーマを

唱えてくるかもしれない。

 

アタシは完全なるトドメを刺すため、

呪文を2つ同時に詠唱した。

連続呪文。

間違いなくトドメを刺す!!

 

「メラガイアー!メラガイアー!!」

 

大火球が2つ、人食い箱めがけて

飛んでいく。

魔物は今度こそ粉々になり、

その残骸をメラガイアー2つ分の

炎が燃やし尽くす。

 

ふぅぅ、危なかった~、なんとか

勝てた~~~・・・・!

 

「うぅぅぅ、もが~~~

ごめんよぉ、リザ達・・・。

オイラが不用意な事やってしまったから。

ジョギーもホントにごめん!

瀕死の重傷を負わせてしまった・・・。」

 

もぉ、ホンっトに!

モガ丸!ダメじゃないっ、

あれだけ警戒を強めなきゃ

って言ってたのに!

って叱りたいとこだけど、

アタシ達も戦闘中、気を抜いたつもりは

ないけど、全力を出したかって

言われたらそうじゃないかも。

たかが人食い箱、と軽く見てしまったかも

しれない。

 

「いえ、モガ丸さん、ハリィの塔攻略後に

引き続きこの遺跡の探索を命じたのは

私です。

この遺跡の攻略が難しいと知りながら・・・。

ジョギーさんが危機に陥ったのは

休息が不足だったからかもしれません。

いったん町へ戻り休息を取るべきでした。

私の指示ミスです、謝るべきは

指揮を取る私でした、冒険王のみなさん

ホンっトに申し訳ない、ごめんなさい!」

 

オリオリは深々と頭を下げて全員に

向けて謝罪した。

 

いやいやいや!

連続のクエストを承諾したのは

アタシ自身!

それを言うなら判断ミスを犯したのは

アタシだ、オリオリが謝ることじゃないわ!

お願いオリオリ!頭を上げて!!

リーダーに謝罪をさせるなんて、

あぁアタシもう!どうしていいかわかんないよぉ!

 

「いえ、リザさん、それを踏まえても、

決定したのは私です。

リーダーが!率いる集団を危険に

晒すなど決してあってはなりません、

リザさん達に甘えて判断は誤っていては

リーダー失格なのです!」

 

いや~でもぉ、リーダーだって人間だもの、

いつもいつも完璧な判断を下せるとは

限らないし。

それにオリオリは目標達成を迅速に

したかったからこその、あの判断だったわけで。

それはアタシも同じ考えだった。

 

だから連続クエストはアタシ自身の

考えでもあった。

そう、これは戦闘を甘くみたアタシ達

自身が招いた出来事だよ。

そうよ、お互い良かれと思ってやった事が

たまたま悪い方に向かっただけ。

 

「リザさん、冒険王!ありがとう。

頼りないリーダーだけど、

引き続き義勇軍のために協力を

お願いします。」

 

うん、そんなに畏まらなくたって、

アタシはもう既にれっきとした義勇軍の

メンバーだって思ってるよ。

 

アタシ達は、クエスト中はいついかなる時も

油断してはいけないね、って確認し合って

その場を収めた。

 

「もが~、みんなホントにごめんよぉ、

今度からは勝手な行動は慎むようにする!」

 

そうよ!もとはと言えばモガ丸が

軽率なことするから!

・・・けどモガ丸もホントに反省してるみたい、

特に、ジョギーが危ない目に遭ったのが

相当こたえてるみたいね。

まぁ、今後は大丈夫でしょう。

 

「リザ殿、みなさん、ご無事で何よりです。

このような危険なトラップを仕掛けるなんて、

やっぱりこの遺跡には宇宙政府の秘密が

隠されてるのかもしれませんね。

しかし我々は今は打倒チョルルカを目指しています。

せんたくバサミの材料も揃ったことだし、

ひとまずクラビィンの町に戻りましょう。」

 

そうね、コッツの言う通り。

宇宙政府の秘密が気になるところだけど、

まずは目の前の目標、打倒チョルルカね。

 

アタシ達はモウィ遺跡をあとにし、

クラビィンの町へ戻ることにした。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード5.「会心の職人ゴッシュ」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



「おー!義勇軍のメンバー達!

無事だったか、よかった。」

 

腕利き道具職人兄弟の兄ヨンシュに

お礼を言うためクラビィンの町に

戻ったアタシ達。

アナタの提供してくれた情報のおかげで

せんたくバサミの材料は揃ったわ、

ありがとう。

 

「いやしかし、場所を教えたはいいものの

魔物がうろついてるなか、よく無事だったな、

義勇軍っていうだけあって

なかなかつえーんだな、アンタたち。

ハリガネもまだ残ってたみたいで

よかったよかった。」

 

うん、まぁ、ちょっと色々合って

けっこう危なかったけどね

 

「よし、じゃあ弟のもとへ向かいな、

オレもな、弟の久しぶりの本気の、

バカバカしい仕事を楽しみに

してるんだ。

オレのトンカチ、大切に渡してくれよ。

道具の完成がうまくいって、

そしてチョルルカに勝てるといいな、

オレもアンタらの成功を祈ってるよ。」

 

ありがとう、ヨンシュ。

うん、なんか、応援してくれてる

っていうのがジンワリくる~~~。

なんかこのカンジ、久しぶりな気がする。

 

「よし、ではリザさん達、コッツ、

ランペェ村へ戻りましょう。

ありがとうございました、ヨンシュさん。」

 

アタシ達はヨンシュに別れを告げ、

ランペェ村へ向かった。

 

「お、おぉ!お~~~!

お前ら、無事せんたくバサミの材料を

揃えてきたみてぇだな!

・・・そうか、兄貴にありかを聞いたんだな、

そして兄貴のトンカチも!

コイツは兄貴の大事な仕事道具だからな、

オレも心して使わせてもらう、

よし!さっそくオレは作業に入るぜ、

職人ゴッシュ、魂を込めて

この星一番のせんたくバサミを

作らせてもらう!」

 

ランペェ村に戻るとゴッシュが

出迎えてくれた。

確かにお兄さんのトンカチと、

そして2つの材料を手渡したわよ、

頼んだわね、腕利き職人ゴッシュ!

 

「にしてもお前ら、結構疲れてるだろ、

こんなに早く材料を集めるには

相当早足だったんじゃねえか?

無理が祟らねぇうちに休息を取りな、

オレの作業は一日仕事になりそうだ、

明日には完成するだろうから、

今日は宿でも取ってゆっくり休みな。」

 

うぅ、ありがとうゴッシュ。

アナタ達兄弟はなんて優しいの。

ここんとこ、人の裏切りとか

心離ればかりを目にしてきたせいか

人の気遣いがいつも以上に

心に沁みる。

 

「そうですね、リザさん達は戦いの

連続でしたし、特にジョギーさんは

今は回復しているとはいえ

ゆっくりお休みになったほうが

いいでしょう。

ゴッシュさん、では作業は

おまかせします。

明朝また参ります。よろしくお願いします。」

 

オリオリがゴッシュに挨拶をし、

アタシ達は村にある小さな宿屋に

泊まることにした。

 

ゴッシュがせんたくバサミを完成させたら

いよいよチョルルカのもとへ向かう。

今はゆっくり休もう。

やっぱり、人食い箱との戦闘で

疲れが蓄積していたのか、

宿屋のベッドに入るとあっという間に

睡魔がやってきてアタシは

深い眠りに落ちた。

 

「よぉ義勇軍の連中、昨夜はよく眠れたか?」

 

次の日の朝アタシ達はゴッシュの作業場へ

朝一番でやって来ていた。

よく眠れたんだろう、疲れはすっかり取れていた。

 

「えぇ、宿の方たちのもてなしも篤く

ゆっくりと休養を取ることができました。

といっても私はこのように本の中ですが・・・。

他の者は十分休息を取ることが

できたようです。」

 

「そうかい、そりゃよかった。

で!できてるぜ、この星一番のせんたくバサミ!

職人ゴッシュ会心の出来栄えだ!

コイツで鼻をつまめばきっとチョルルカの

ニオイを断つことができるだろうぜ!」

 

ゴッシュの手にはアタシ達の人数分の

せんたくバサミが乗っていた。

挟む部分にクッション代わりのワタが

取り付けられてはいたけど

一見して普通のせんたくバサミだった。

 

「モガ~!

これがこの星一番の超強力せんたくバサミ・・・

って見た目は割と普通のせんたくバサミだな。」

 

「ガッハッハ、見た目は普通だがな、

なんせハリィの塔のハリガネが材料だろ?

超強力な力で挟んだものを離さないんだ。

そして特別なワタをクッションにしてるからな、

その、超強力な挟む圧力を吸収するんだ、

鼻に痛みを感じることは皆無だぜ。」

 

「ほ、ほんとか~?

じゃあ、ちょっくらオイラが試着してみるよ。」

 

モガ丸はゴッシュからせんたくバサミを

受け取り自分の鼻に装着しようとした。

 

「む、か、かって~ぞ!

さすがにこの星一番っていうだけあるな!」

 

「ははは、だろう?

あえてコイツの難点を挙げるとすりゃあ

挟む時に硬すぎて開くのに苦労する、

ってことだな。素手じゃあ難しいかもな、

ほれ、こうやってペンチで開けばいい。」

 

ゴッシュが道具箱からペンチを取り出し

それを使ってようやくせんたくバサミは

開いた。

 

「モガガガ!

ペンチを使ってまでしてようやく

開くようなせんたくバサミ・・・

めちゃくちゃ痛そうだぞ!

オイラこえーよ・・・」

 

そのままゴッシュがモガ丸の

鼻にせんたくバサミを装着した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「い"・・・・だぐな"い"!?

も"がー!

お"ー、全然い"だぐな"い"ゾー!!」

 

モガ丸・・・・めっちゃ鼻声

ちょっとおかしい(^_^;

 

「リ"ザ~~~!

こ"れ"な"ら"ぎっどヂョル"ル"ガの"

ニ"オ"イ"も防げる"ぞ!」

 

「さすが腕利き職人!

ありがたくこれを使わせてもらって

きっとチョルルカを倒してみせます!」

 

「あぁ!

お前たちならきっと上手くいくと

信じてるぜ!」

 

うん、きっと倒してみせる!

道具職人ゴッシュ、アナタはホンモノの

職人さんだわ。

アタシ達もアナタの仕事ぶりに

応えなくちゃね!

 

「この地方の町、村のみんなは

宇宙政府の悪政に苦しんでる、

ここいらの連中、みんな義勇軍を

応援してるぜ!頑張れよ!」

 

「・・・・嬉しいことですね。

白いスライムナイト、ピエールによって

心変わりした者たちもいれば

こうして義勇軍を支持してくれ者たちもいる。

彼らのためにも打倒宇宙政府は

絶対に達成しなければ・・・!

さぁ、リザさん達、先を急ぎましょう!」

 

そうね、オリオリ。

ピエールの主義主張は宇宙政府に対して

そこまで反感を持っていない、

いわば中立勢にとっては聞こえのいいもの

かもしれない。

だから宇宙政府を支持してしまうのかも。

 

けど、いくら建前を言ったところで

宇宙政府が星々の民を苦しめているのは

まぎれもない事実。

苦しめられながらも政府への恐怖心から

平然を装う人達もいた。

 

彼らに本当の平和と幸せを届けるためにも

アタシ達は信念を曲げるわけにはいかない。

こうやって応援してくれる人達がいるのも

確かだしね!

 

「チョルルカの居城へ向かうには

ここからまっすぐ西にあるブゥヘェ村に

行くといい。

詳しい場所はオレ達も知らないが

そこでなら情報を得られるはずさ。

じゃあ、達者でな、義勇軍のみんな!」

 

ありがとうゴッシュ!

アタシ達は支度を整えランペェ村を出発し

西へ向かった。




Story日誌 第5話<腕利きの道具職人>了

★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・道具職人ゴッシュ
ヨンツゥオ大陸南部地方で名を轟かせる
腕利きの道具職人。
バカバカしい依頼ほど大真面目に引き受けてくれる
ちょっと変わった職人。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2ndシーズン第6章[魔法団の行方]***惑星クラウド・ヨンツゥオ大陸編***
エピソード1.「宇宙船基地は何処に」


アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



ヨンツゥオ大陸南部地方。

かつてこの地方では宇宙政府の

上級執行官マレドーが統治をしていた。

 

そう、あのマレドー。

宇宙政府の役人でありながら

アタシ達義勇軍へと寝返った男。

政府の推進する恐怖政治に

異を唱えた男。

 

政府に属する者全てが全て、

恐怖で宇宙を支配しようとは

思っていない、という事を

アタシ達はマレドーの行動で

知ることになった。

 

それが証拠にマレドーは

この地で善政を敷き民衆からも

慕われていたフシがある。

 

けど義勇軍に寝返り、当然ながら

任地の統治も放棄することになり

マレドーの代わりとして新たな

執行官がこの地を治めることになった。

 

これがチョルルカ。

アタシ達が今、打倒を目指している魔物。

チョルルカというのはまさしく従来の

政府の上級執行官らしく悪政を敷く男だった。

ランペェ村の男性達はチョルルカに

反旗を翻し果敢にも戦ったが

あえなく返り討ちにあったという。

 

チョルルカと戦ったという村の男性達は

一様に「チョルルカは異常にクサイ!

それがネックでまともに戦えない、

道具職人ゴッシュの協力さえあれば・・・!」

と悔しげに語ったという。

 

かくしてアタシ達はその、職人ゴッシュに

チョルルカのニオイ対策用の道具

「この星一番のせんたくバサミ」を

作ってもらえた。

これを携えチョルルカの居城を目指す!

 

「ようこそブゥフェの町へ。」

人の良さそうなおばあさんが出迎えてくれた。

 

「こんにちわ。

おばあさん、いきなりですまない、

チョルルカという上級執行官の

居場所を知らないかい?

この町に来ればわかるだろうって

聞いてやってきたんだよオイラ達。」

 

モガ丸が単刀直入に切り出す。

 

「チョルルカ様の居場所・・・。

それならこの町を越えてはるか彼方に

チョルルカ様のお城があるよ。

だけどチョルルカ様と会ってどうすんだい?」

 

「オイラ達はこの地方で悪さをする

チョルルカを倒そうとする者たちなんだ。」

 

「な、なんと!

バカな事を言わないの!

そんな事をしたら反逆者として

牢屋に入れられて死ぬまで

宇宙政府の奴隷だよ?」

 

「フッフ~ン、普通ならそうなるけどな、

オイラ達は打倒チョルルカの秘策が

あるんだ、それにここにいる

女の子たちはめっちゃ強いんだ!

だから捕まって奴隷になんか

ならないぞ!」

 

「・・・・命知らずな・・・。

そういえば・・・そう、星屑ナントカ団の

人達みたいだねぇ。」

 

え!?星屑魔法団!?

 

「おばあさん、星屑サーカス団を

ご存知なんですか?」

 

コッツが魔法団の偽名を出して

このおばあさんに質問した。

 

「ああ、チョルルカ様と会う方法を

あたしに聞いてきたよ。

だからチョルルカ様のお城を教えといて

あげたよ、そう今まさにアンタ達に

伝えたようにね。」

 

「星屑サーカス団はチョルルカの城に

向かったのですね?」

 

「いや、それが・・・・。

チョルルカ様のほうがわざわざ

この町まで来たのさ。

その、星屑サーカス団に会うためにね。

どんな話をしたのかは全くわからないけどね。」

 

この地方に来てからの話では初めて

魔法団の足取りを聞くことができた。

彼らもまたチョルルカと面会したという。

 

「あ、そうそう白いスライムナイトが

両者を引き合わせていたねぇ。」

 

「モガー!

それってあのピエールの事だよな!?」

 

!!!

魔法団のみならずあのピエールも

この町にやってきていたとは!

これは!

単に困っている民衆を助けたい一心で

チョルルカを目指しているアタシ達だけど

魔法団とピエールも絡んできて

一気に話が前進してきた気配だわ。

 

「おばあさん、サーカス団もチョルルカも

今はこの町にいないようですが

彼らはその後何処へ向かったのでしょう?」

 

「ウワサじゃ宇宙船の基地とやらに

向かったって話だよ。」

 

「宇宙船!?

この星から飛び立つつもりなのか!?」

 

なんですって!?

まずいわね、この星からいなくなっちゃったら

魔法団に会うのは極めて困難になってしまうわ。

アタシ達も急いでその、基地とやらに

向かわなければ。

 

「宇宙船基地の場所だって?

宇宙政府の施設だからね~・・・・。

あたしゃ何も知らないよ・・・。

でも怪しいなという場所をいくつか

知っている。

きっとそのうちのどれかが宇宙船の基地だよ。」

 

「もがー!

おばあさん、その場所全部教えてくれ!」

 

「そうですね、魔法団がこの星から

いなくなる前に接触しなくてはなりません、

基地だと思われる施設を

片っ端から当たりましょう!」

 

うん、今度は本当に時間がない、

休息がどうのとか言ってられないわ!

 

「怪しいと思う場所は・・・・

この町の近くの高台にあるゾォリ天文台、

ゾォリ天文台のさらに西にある銀河大神殿、

銀河大神殿の南方の雲海沿いにあるダン灯台、

この3つが怪しいと、あたしゃ思うよ。」

 

おばあさんは地図を出し、宇宙船の基地と

思われる候補の場所を教えてくれた。

 

「ありがとうな、おばあさん!

よし、じゃあリザ達、さっそく出発しようぜ!」

 

「3つの場所の位置は、

おばあさんの地図を写させてもらいました、

まずは何処から向かいますか?

オリオリさま。」

 

「まずはここから一番近いところから

当たってみましょう。

ここからだと・・・うん、ゾオリ天文台の

ようですね。」

 

「承知しました。

リザ殿達、ではゾォリ天文台へ

向かいましょう。」

 

「いよいよ、チョルルカと対峙だな、

せんたくバサミの準備もOK。

出発だー!」

 

ゴッシュのせんたくバサミを始め、

アタシ達は装備、道具、食料など

入念にチェックしゾォリ天文台へ向かった。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード2.「効き目バッチリ」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



「もがーーーーー!!!

ク、クサイ、クサイぞーーー!!!」

 

「このニオイは!?」

 

「この激しい異臭がチョルルカのニオイか!」

 

「間違いないぞ~!

このクサさ、きっとチョルルカだ!!」

 

「そのようですね、町のおばあさんの予想、

ようやく的中したようです。」

 

「オリオリ様、そして宇宙船基地とやらが

ここダン灯台という事になりますね!」

 

ブゥフェの町で政府の宇宙船基地であろう

場所を3つほど教えくれたおばあさん。

アタシ達は町から近い順に1つずつ

その場所を調べることにした。

 

最初にゾォリ天文台、次に銀河大神殿を

訪れたけど、どちらも基地ではなかったし、

チョルルカも魔法団もピエールもいなかった。

 

最後の望みとして訪れたここ、ダン灯台。

この灯台に進入したとたんにアタシ達の

鼻孔を襲ってきた強烈な異臭。

 

なんだろう、これはもう腐敗臭と呼べるわね、

ニオイレベルのチェックメーターというものが

あるならば完全にメーター振り切ってると

思うわ。

 

「確かに・・・!

これがチョルルカのものだとすれば、

こんな激臭に耐えながら戦うなんて

不可能ですね・・・う、ゴホっゴホっ!」

 

「うぅぅ、モガ丸殿、早くゴッシュ殿の

せんたくバサミを!

ニオイを嗅ぐだけで体内から

腐っていきそうです・・・・!」

 

「よ、よし、わかった!」

 

モガ丸は道具袋から人数分の

ゴッシュのせんたくバサミと

ペンチを取り出した。

 

「ムギギギ、開くのにめちゃくちゃ力が

必要なのがコイツの難点だな!」

 

ミスったわね、ここにチョルルカが

居るかもしれないってわかってたんだから、

内部に入る前にせんたくバサミを

装着しておくべきだったわ。

 

悪戦苦闘しながらも各自、ペンチを

使ってせんたくバサミを鼻に

装着していく。

 

「よし、全員装着したな、

・・・・・・・・・お、す、すげー!!

ニオイが全くしない!

すげーぞ、ゴッシュ!

やっぱりアンタは最高の道具職人だぞ!」

 

うん、さっきまでの不快な激臭は

まったく感じなくなった!

実際にチョルルカに効くかどうか

やってみるまでは不安だったからね。

これでニオイに気を取られることなく

戦えそうだわ。

 

ただ、全員が鼻声なのが気になるのと、

口でしか呼吸ができないから、

息苦しいのは確か。

これはもう早々にチョルルカを

倒すしかないわね。

 

「あれ?でもオリオリは宇宙王の書に

隠れてればニオイは遮断できるんじゃ

ないのか?」

 

「・・・私は生身の体のまま書に

封印されています。

ガイアス殿のように思念だけを

書から出現させているわけでは

ありません。

よって・・・クサイです!」

 

「あぁぁ、そっか、ジジィとはまた

仕組みが違うんだったな、

詳しくはわかんないけど、

とにかく臭うんだな!」

 

モガ丸!

この非常事態に!

鼻を押さえてるだけに

喋るのもツライんだから

余計な会話してる場合じゃない

でしょうに!

 

素っ頓狂な質問をこのタイミングで

発するモガ丸に呆れながらも

アタシ達は群がる魔物たちを

振り払いながら灯台の最上階を

目指した。

 

口だけで呼吸しながらの戦闘は

思いの外疲れるわ。

なるべく手数をかけずにアタシ達は

魔物を倒していく。

 

そしてついに最上階にたどり着く。

そこには、なんと形容していいかわからない、

異形の魔物が立って・・・いえ、空中に

浮遊していた。

 

【挿絵表示】

 

胴体?があり、手足はなく、代わりに

触手らしきものが胴体からいくつも

生えていた。

胴体の真ん中に大きな口があり

目らしきものが胴体に1つと

2本の触手に1つずつあるという、

この世のものとも思えない、

ホントに異様な姿をしていた。

 

「む、何者だ貴様ら?」

 

しゃ、喋った!?

見た目とは裏腹に、この化物は

明瞭な言語を発した。

 

「オイラ達はブルリア星の冒険王姉弟と

その仲間、そして義勇軍だ!

お、お前が上級執行官チョルルカか!?」

 

「ほ~う、義勇軍、それに冒険王だと。

コソコソと隠れ回りながら我が政府に

盾突くネズミどもが!

一体何の用だ!?」

 

「ランペェ村を始め、この地方一帯を

圧政で苦しめ、そしてランペェ村の

住人たちをひどい目に合わせただろう!

お前のような悪いヤツは成敗してやる!!」

 

「フハハハハ!

これは心外、ゲスな大衆が政府の

統治に従うのは道理だ、

組織に歯向かう者を罰しただけの事!

前任者マレドーはどうも政府の方針に

反抗的で、この地方の民衆を厳しく

統制しなかった、故に民衆はつけ上がり、

オレに反抗しようなどという

発想に至ったのだ。

それでは政府の統治が徹底されぬ、

民衆は力で押さえつけるのが

最も効果的だと言うのにのぉ!」

 

ク!

やっぱり上級執行官というのは、

宇宙政府というのは頭が腐ってるわ、

ゲスはお前たちのほうよ!

その醜い見た目そのままじゃない!!

 

「しかし貴様ら、よくもオレを前にして

平気でいられるな?

普通はオレの発する激臭のせいで

まともに立っていることも

ままならないハズだが?」

 

「へっへ~ん!

オイラ達はランペェ村の人達から

お前と戦うときの注意点を

聞いているんだ!

見ろコレを!」

 

モガ丸は自分の鼻に装着している

せんたくバサミを得意げに指さした。

鼻栓をして、それを上級執行官に

向かって自慢する・・・・

なんともおかしい絵面だけども・・・・(^_^;

 

「ハッハッハッハ!

お前ら、本気か!?

これから1戦交えようかという

この状況で鼻栓だとぉ?」

 

う、やっぱりそうよね、

普通そうよね??

ゴッシュの意気込みはホンモノだとは

思うけど、やっぱ大真面目に

バカバカしいわよね?この作戦(^_^;

 

「まぁしかし、五体満足で立っている

ところを見ると、本当にオレの激臭は

遮られてるみたいだな。

だがしかし!それがなんだというのだ!

例え激臭の影響がなくとも、

これからお前らがオレに殺されることに

なんの変更もない!!

義勇軍とその一味!今ここで皆殺しよ!

ゲハァァァァァ~~~~!!!」

 

チョルルカはいきなり、その大きな口から

紫色の息を吐いてきた!

まずい、モガ丸達を退避させなきゃ!

 

アタシはとっさにモガ丸とコッツの前に

立ちふさがり紫の霧をまともに浴びてしまった。

 

「モガ丸、コッツ早く隠れて!」

 

「もが~~~!リ、リザ~~~・・・・

大丈夫か~~~??」

 

「いいから早く!!」

 

「リ、リザ姉!この紫のブレスは!」

 

おそらく毒攻撃!

ク!ニオイだけじゃなく毒も吐いてくるのか!

アタシは戦闘態勢に入るべく構えを

取ろうとした。その瞬間・・・。

 

ドクンッ!

 

全身を激しい痛みが襲う。

やっぱり、アタシは毒に冒されてしまった。

厄介ね、これでは動く度にダメージを

負ってしまう。

 

「ホイミッ!」

 

アタシは毒で受けたダメージを

自分で回復させた。

しかし、回復呪文を唱えた、

その動作で再度毒のダメージを負う。

 

死にはしないけど、ダメージがループで

襲ってくる。

毒攻撃の嫌なところね。

 

「リザ!これを飲め!」

 

ビュッ!

 

モガ丸が毒消し草を煎じた飲み薬の

入った瓶を道具袋から出し、

アタシに向かって投げてくれた。

アタシはそれをキャッチし、すばやく中身を

口に含んだ。

 

スゥゥ~~~

 

解毒作用の成分が体内に浸透していくのが

自分でもわかる。

 

「メラゾーマ!」

 

アタシは攻撃呪文をチョルルカに

向かって放った!

 

ゴォォォン!

 

大火球が上級執行官に炸裂する!

 

「おのれ!こしゃくな!」

 

メラゾーマを唱えた動作を取ったけども。

毒によるダメージは発生しない。

よし!完全に解毒できたわ。

モウィ遺跡では眠りで手間取ったからね、

道具袋はモガ丸に持ってもらったの、

状態異常をスムーズに解除するために!

ここからが本番よ!

 

「また毒の息を吐かれると厄介よ!

勝負を急ごう!ジョギー!レイファン!」

 

「わかった!」

 

「うん、了解!」

 

アタシ達はお互い適度に距離を取り、

戦いの陣形を整えた。

 

ビシュ!ビシュ!!

 

チョルルカはいくつもある触手で

攻撃してきた。

アタシ達は盾で受け止めダメージを

緩和させる。

衝撃は・・・それほど重くない?

なんだコイツ、上級執行官のクセに

大したことないの?

 

「ほぉ!冒険王と名乗るだけあって

それなりに戦えるのは確かなようだな!」

 

ビシュ!ビシュ!!

 

チョルルカはさらに、余った触手で

追撃を繰り出してきた。

最初に攻撃してきた触手に

盾を使っていたので

第2波の攻撃はまともに食らってしまった。

 

「キャー!」

 

「ぐわ!!」

 

攻撃を受けた箇所から血が流れる。

 

ク!

何本もある触手は厄介ね!

 

「フハハハハ!

どうした、もう終わりか!?」

 

触手をどうしたものか。

アタシは傷を負いながらも、

チョルルカの攻略を考えていた。

今の所、ヤツの攻撃はハッキリいって

大したレベルではない。

その事実がアタシを冷静でいさせた。

 

「ジョギー!レイファン!

1箇所に集まろう!」

 

アタシは弟たちに号令をかけた。

 

「おぅ!」

 

「わかった!」

 

ジョギーとレイファンがアタシのもとに

走り寄ってくる。

 

「どうするんだリザ姉?」

 

「どう?ヤツの攻撃。

ここまでの戦った感じ。」

 

「ん?あ、ああ。

いや、おそらく、そんなに強くはないな。

今の所だけど。

けど、あの触手攻撃は厄介だな。」

 

「私もそう思うよ、姉ちゃん。」

 

弟たちもアタシと同じ印象を受けたみたい。

 

「1箇所に集まればいくつもある触手も

全部同じ方向に飛んでくるでしょ?

そこを叩くわ。」

 

「あぁ、そうか!わかった。」

 

アタシは作戦を伝えようとした。

みなまで言わずとも2人ともアタシの

意図を理解してくれたみたいね。

 

「フハハハハ!どうした、もう観念したか!

最後は仲間揃って死にたいのか。

望み通り全員揃ってあの世に送ってやろうか!」

 

「フン!うるさいわね、よく喋る執行官ねアンタ。

臆病な犬ほどよく吠えるっていうけど

アンタ見てると、まさに絵に書いたような

負け犬ヅラね!」

 

アタシはわざとチョルルカを挑発するように

言葉汚く罵ってやった。

 

「な、なんだとぉ~~~!!

このチョルルカ様に向かって負け犬だとぉ!!?

おのれ、虫けらのくせにオレを愚弄

しおって!!」

 

チョルルカは頭(どこが頭か知らないけど)に

血が上ったのか、全部の触手を

アタシ達に向かって振り下ろしてきた。

しめた、狙い通り!

 

ビシュシュシュシュ!!!

 

「ベギラゴン!」

 

アタシは飛んできた触手目掛けて

灼熱呪文を唱えた。

チョルルカの全ての触手に高熱の

ビームが炸裂する。

 

「グゥワワワワ~~~!!!」

 

ビームが着弾した瞬間、激しい炎が

発生しチョルルカの触手全てを包んだ。

 

「超はやぶさ斬り!!」

 

ジョギーの超速の剣技が放たれ、

触手の根本に炸裂した。

 

シャッシャッシャ!!

 

チョルルカの本体と燃え盛る触手が

切断された。

 

「これでもう厄介な動きはできない!」

 

アタシの作戦はハマった。

残るは本体だけ。

 

「グヌヌヌヌ!

お、おのれ~~~!

これで勝ったと思うなよぉ!!」

 

チョルルカの本体にある眼は

まだ、その生を諦めてはいない!

まだ反撃が来る!

 

アタシは形勢が有利になっても

警戒を怠らない。

モウィ遺跡での失敗は繰り返さない!

 

「こ、これでも喰らえ!」

 

ブシャァァァァ!

 

本体の眼が妖しく光り、チョルルカは

口から今度は黒ずんだ霧を

吐いてきた!

黒いブレス・・・闇ブレスか!?

 

「フバーハ!」

 

アタシはとっさにブレス耐性上昇の

補助呪文を唱えた。

アタシ達の周囲を光の霧が覆い、

闇ブレスの被ダメを抑える。

 

「ベホマラー!」

 

瘴気により腐食するような感覚に

襲われる息攻撃に耐え、

レイファンが回復呪文を唱えた。

 

フバーハにより抑えられた被ダメ、

さらにすかさず回復呪文が

行使されたので

アタシ達は体力消耗、怪我は

ほぼゼロに等しくなった。

 

「奥義!天下無双!!」

 

「メラガイアー!!」

 

アタシとジョギーはそれぞれ、

自身最高の技と呪文をチョルルカに

向かって放った。

 

「ウギャ~~~~~・・・・・ァァァァ・・・・!」

 

チョルルカは断末魔を発した。

ふぃ~、勝った!

ドアヌと同じく、コイツも大した事はなかった。

上級執行官でも下位の者だろう。

それに!

 

ゴッシュのせんたくバサミのおかげね。

見事にニオイを遮断してくれた。

あの凄まじいニオイに加えて毒にも

冒されるかと思うとゾっとするわ。

本来の実力を発揮する前に

やられてしまいそうだもの。

 

「オ、オリオリ様・・・・!

やりました、リザ殿達が上級執行官を

打ち負かしました!」

 

「ドアヌに続きまたしても上級執行官に

打ち勝つなんて・・・!

リザさん達の強さは本物中の本物!

戦いにおける戦闘センス、臨機応変さ、

そしてそのセンスを実行する

力強さ・・・!改めて・・・ですけど。

義勇軍の未来はきっと明るい!」

 

コッツ達がアタシ達のもとへ駆け寄り、

称賛の言葉を述べる。

 

「お、お、おのれ・・・義勇軍、い、いや、

冒険王・・・!

・・・だ、だが、オレを倒したところで

・・・現状は・・・変わらん・・・政府の巨大さに

比べれば・・・お前らごとき・・・ネズミの群れ

であることに・・・変わりはない!」

 

「ヘンっ!負け惜しみを言ってるぞー、

チョルルカのヤツ!」

 

「ふ、フハハハハ!

負け惜しみではない・・・・

魔星王の誕生も既に・・・行われた・・・のだ。

新たな魔星王・・・・それは・・・

この星そのもの・・・・。

せいぜい・・・・恐れ・・・・慄き・・・・

たじろぐがいいわ・・・・グフっ!」

 

そう言い残し、チョルルカは息絶えた。

新たな魔星王はこの星そのもの・・・?

一体、どういう事なの?

 

「ってことは・・・今オイラ達が立っている

この地面も魔星王って事?」

 

「この星そのものが魔星王って?

リザさん・・・・実際に魔星王と対峙した

事があるのはアナタ達です。

どういう事かわかりますか?」

 

え!?アタシ!?

いやいやちょっと無茶ぶりじゃない?

オリオリ(^_^;

アタシ達が戦ったドスラーデスは

明確に姿形のある魔物だったからな~。

星そのものって言われても

想像もつかないよ~。

 

「そうですよね、すみません。

やはり魔法団に問いただすしか

ないようですね。」

 

そうね、実際に新しい魔星王を

誕生させた星屑魔法団なら

その秘密を知ってるに違いないわ。

 

「オリオリ様!

あちらを見てください!」

 

と、コッツが何か見つけたようで

オリオリに呼びかけた。

 

「こ、これは・・・!宇宙船!!」

 

「やっぱりこの塔が政府の基地!!」

 

「星屑魔法団が辺りにいるかもしれません!

探してみましょう!」

 

ここにチョルルカが居たってことで

おおよそ見当がついていたけど

宇宙船の基地は間違いなく

ここだってことね。

という事は確かに魔法団も居たはず。

けど姿が見えない。

アタシ達が戦ってるうちに塔から

出ていったしまったのか!?

 

パチパチパチパチ!

 

アタシ達が魔法団を探すために

駆け出そうとしたその時、

何処からか拍手らしき音が聞こえてきた。

 

「ハッハッハッハ!

見事だったよ諸君。」

 

これは・・・聞き覚えのある、

いえ、つい最近聞いた、あの声・・・・!!

 

キッ!

 

振り返ると彼は居た・・・・

白いスライムナイト、ピエール!!




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・チョルルカ
ヨンツゥオ大陸南部地方を支配する
宇宙政府の上級執行官。
本体から発するその激臭とも呼べる
クサい臭いで、対峙する敵の戦意を消失させて
倒すという特徴を持つ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード3.「平行線」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



「相変わらず見事な手練だな

ブルリア星の冒険王諸君。」

 

白いスライムナイト、ピエール!

反政府運動に異を唱え、

あくまで政府改革を促す男。

 

目下のところ、今しがた倒した

上級執行官チョルルカ、魔法団との

3者で何やら画策していたらしいわね。

 

「ピエールとやら!

チョルルカは我々が倒しました、

魔法団はどこです!?」

 

オリオリがピエールに問いかける。

 

「魔法団は既にこの地を去った。」

 

「では貴方やチョルルカがこの宇宙船基地に

来た目的はなんです?

この星からの脱出を図っていたのですか?」

 

「もが!チョルルカが言っていた・・・・

『新しい魔星王はこの星そのもの』

という内容とカンケーあんのか!?」

 

「当然だろう、言わずもがな、だ。

私と星屑魔法団は魔星王となった

この星から早急に脱出する予定だった。

だがその計画も諸君らがチョルルカを

倒したことで頓挫してしまった。

私はチョルルカの城に向かい

新しい上級執行官を連れてこよう。

宇宙船は上級執行官でなければ

動かす事ができないからな。」

 

・・・この星から脱出・・・この星そのものが

魔星王・・・どういう意味かまだわかんないけど

脱出しなければいけないほどに

危ない事が起きようとしてるって事?

魔星王誕生によって具体的には

この星に何が起きようとしてるんだろう?

 

「諸君らに力がある事は重々

理解していたが、まさか上級執行官を

これほど容易く退けるとはな・・・!

しかしこれ以上我々の邪魔をすると

いうのなら・・・血の雨が降るぞ・・・!」

 

「もが~・・・・怖い・・・・・。」

 

「ハッハッハ、まぁ最も!

オリオリ、貴女が義勇軍の看板を

降ろし我らに賛同するというのなら

話は別だ。」

 

「言ったはずです!

私達が宇宙政府に協力するなど

あり得ません!!」

 

「相変わらず頑固なお嬢さんだ。

だが賢い貴女ならいずれ最良の選択を

してくれるはずだろう。

巨大な政府に盾突くことの愚かさに

気づくはず。

私は急ぐのでな、また会おう、諸君っ!」

 

「待ちなさいっ!」

 

アタシは立ち去ろうとするピエールを

呼び止めた。

 

「むぅ、何だね冒険王のお嬢さん。」

 

「先日アナタに会って。

いきなりのことだったから聞きそびれて

しまったけども。

あれからアタシはアナタの考えや

話した内容が頭から離れない。

アナタ、自分のやっている事、

わかってる?ホントに正しいと

思ってる?」

 

アタシはマタセ山の塔で初めて

ピエールと対峙したあの時から

ずーっと考えていた事や疑問を

本人にぶつけたいと思っていた。

 

「フフ、何を言い出すかと思えば。

当然だ、正しいと思ってるからこそ、

そこかしこの国々やグループに

私の考えを触れて回っているのだ。

私は純粋に全宇宙の平和を願っている。

そのための宇宙政府の内部改革を

目指している。

私が私利私欲のために動いてるとでも

言うのか?

侮辱するというのならこの場で

償ってもらうぞ、命を持ってしてな!」

 

「宇宙の平和を願っているのか、

私利私欲で動いているのか、

現時点では判断しかねるわ。

少なくともアタシの信念に

照らし合わせるならば、

アナタは明らかに間違った

行動をしているもの。」

 

「確かにな。

私と貴女はどうやら正反対の

考えをしているようだ。」

 

「アナタ、政府の内部改革のために

色々と暗躍してそうだけど、

ずいぶんと政府の役人と

関わってるんじゃない?

アナタの考えそうな事など

すでに政府上層部に筒抜けだと

思うわ。

そんな危険分子を!

邪悪で卑劣で狡猾な政府の上層部が

重用するとでも思ってるの?」

 

「で?いずれ私が政府に消されると?

フフフ、これは光栄、冒険王様に

私の身を案じてもらえるとはな。」

 

「はぐらかさないでっ!

ピエール、アナタ自分のやってきた事で

周りの人間がどれだけ不幸に陥ってるか

わかってる!?

アナタが魔法団に心変わりを促したせいで

ここにいるオリオリがどれだけ

苦しい思いをしているか!

マタセ王を心変わりさせたせいで

マタセ国をどれだけ混乱に陥れたか、

わかってるの!?」

 

「リザさん・・・・私なら大丈夫です。

私情で道を誤ることなどありません。」

 

オリオリ・・・・その思いが側で

見ている者には痛々しく映るんだよ

 

「マタセ国なら大丈夫だろう。

大臣がよく頑張ってくれている。」

 

「そんなの結果論でしょ!

それに大臣サンは今も帰ってくるはずの

ない国王を待ちながら必死に混乱を

収拾しているのよ!!

どれだけ不安な日々を過ごしてるか、

アンタにはわからないの!?」

 

アタシはピエールと会話を続けるに

つれ怒りが沸々と湧いてきた。

 

「マタセ王はそもそも義勇軍と

宇宙政府を天秤にかけていた。

私が接触せずともいずれ

宇宙政府側に付いていただろう。

私の責任ではない。

それにオリオリの苦しみは・・・。

簡単なことだ、オリオリも

宇宙政府側に付く、

そうすれば夫婦揃って過ごす

ことができよう。」

 

クッ!

ああ言えばこう言う!

なんて口が達者なのコイツ

 

「魔星王誕生はどうなの!

あんなモノを生み出すなんて。

アナタ魔星王の恐ろしさを知ってるの?

この星を滅ぼしかねないのよ!?」

 

「それについては・・・・。

確かに私もずいぶん迷った。

私は魔星王の恐ろしさについては

伝え聞いた話でしか知らない。

ハッキリ言って魔星王誕生が及ぼす

影響は私にも計り兼ねる。

だが政府は新しい魔星王誕生を

強く願っていた。

いかな宇宙政府とて無から強大な

魔星王を誕生させるのは不可能。

諸君らも知っている通り星屑魔法団の

秘術があってこそ初めて可能になるのさ。

私は魔星王誕生に尽力するという

条件と引き換えに政府からの信用を

勝ち取った。

それゆえ魔法団の説得は

最重要事項だったというワケだ。

貴女が私の身を案じてくれるのは

光栄だが、おかげで私は政府から

疑われることはない。」

 

な、な、なんですって!!

アンタのその、間違った信念で!

宇宙政府に潜り込むために!

魔星王誕生に協力したというの!

そのためにオリオリの旦那様や

星屑魔法団も巻き込んで!!

 

「ピエール!

アンタ、そんなことのために

色んな人を巻き込んで

魔星王誕生を実現させたの!?

アンタ何をやらかしたか

全っ然わかってない!!!」

 

「致し方なかったのだ。

しかし、これも政府を改革し

宇宙平和という最終目標を

達成するための手段なのだ。

現時点では・・・確かに宇宙平和からは

ほど遠い状況かもしれんがな。

冒険王よ、物事は大きく捉えなければ

いけない、いちいち目の前の事に

一喜一憂していては冒険王の

名が泣くぞ?」

 

「大局を見誤ってるのはアンタよ!

目の前のことにとらわれて

とんでもないことをしでかしたのよ!?

現にアンタ達は魔星王となった

この星から脱出しようとしている!

それは魔星王が恐ろしい存在だって

知っている何よりの証拠!

魔星王の恐ろしさを知っていれば!

致し方なく誕生させるなんて事、

絶対にできないわ。

万が一にも、考えることすらおぞましい!!」

 

「フフフ、さすが魔星王ドスラーデスを

倒した冒険王だ。

その恐ろしさをよく知ってるというワケだな。

しかしブルリア星の時と今回では

取り巻く状況も違うだろう。

なにより私が必ず政府変革を成し遂げてみせる。

ドスラーデスのような事にはさせんよ。」

 

「どれだけ己を過信すれば気が済むの!!」

 

「・・・・ずいぶんお喋りが過ぎた。

やはり話はどこまで行っても平行線を

辿るようだ。

なんなら今ここで力づくで決着を付けるか?」

 

ビュッ!!!

・・・・ガスッ!!!

 

ピエールは手に持っている槍を

こちらに向けて投げつけてきた!

槍はアタシ達の間をすり抜け、

後ろの壁面に突き刺さった。

その衝撃でまだ槍はビ~ンと

揺れている。

 

【挿絵表示】

 

「・・・・・・。」

 

「もがーーーーー!

あ、危ねえ!!

リザ達、大丈夫かーーーー!!??」

 

「ふ、さすがだな、槍が飛んできても

微動だにしない。

当たらないとわかっていたのか、

それとも動けなかったのか。」

 

「アンタから殺気を感じなかった・・・。」

 

「ハッハッハッハ!

愉快!実に愉快!!

さすがだ、冒険王リザ!

意義があったのかどうかわからんが、

貴女との会話、実に楽しめたぞ。

では諸君!

いずれまた会おう!・・・それっ!」

 

ピエールは右手を振りかざし

壁に刺さっている槍を

念動力のようなもので手元に

手繰り寄せた。

 

「さらばだっ!」

 

「あぁぁぁ!もがーーー!

ピエールに逃げられた!!

おい!リザ!どうすんだ?

追いかけるのか!?」

 

ピエールが一瞬で消え去った。

おそらくルーラだろう。

アタシ達はゾォリ天文台から

ぶっ通しでクエストを続け

今しがたチョルルカを倒したところ。

さすがに疲労の色は隠せない。

今、ピエールと戦うのは

得策ではないのは確かだ。

 

「ピエールはチョルルカの城に

向かうと言っていました。

一旦ブゥフェの町に戻り、

おばあさんにチョルルカの城について

聞いてみましょう。

リザさん達の休息も取らなければ

なりませんし。」

 

ありがとう、オリオリ。

急がなければいけないのは

重々わかってるんだけど、

また戦闘で危険な目に会うわけにも

いかないから。

休息の申し出はありがたい。

 

「リザさん、ありがとう、

私を気遣ってくれて。

でも、本当に私は大丈夫です。

それにしても・・・・ピエールとは

なかなかの切れ者ですね。

こちらの論理を全て論破しようと

してくるのですから。」

 

論破?

いえ、オリオリ、アタシは論破されたとは

露1つも思っていない。

彼の主張は矛盾だらけですもの。

宇宙平和を願う者が魔星王誕生に

加担するなど、それこそが

最も顕著な矛盾。

 

それを屁理屈を捏ねて

己を騙してるだけだよ。

 

アタシは。

モヤモヤを解消したくてピエールに

質問をぶつけた。

なのにモヤモヤはさらに

深くなってしまった。

やっぱり彼とはわかり会えない。

戦うしかないのだろうか。

 

憂鬱な気持ちのまま

アタシ達はブゥフェの町へと

一旦戻ることにした。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・ピエール
白いスライムを駆るスライムナイト。
数々の調略を駆使し各国首脳、さらには
星屑魔法団までも宇宙政府へ恭順させる。
新しい魔星王誕生成功という事柄の
直接の張本人は"秘術"を行使した星屑魔法団だけど、
魔法団を宇宙政府側に協力させたピエールの罪は
この上なく重いとアタシは思う。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード4.「義勇軍を続ける事」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



「おぉ、アンタ達!

無事だったのかぃ!!

ほ、本当にチョルルカ様を倒したってぇ??

すごいじゃないか!!!」

 

ブゥフェの町に戻ると例のおばあさんが

出迎えてくれた。

 

「えぇ、無事生還しましたよ。

おばあさんが教えてくれた場所、

そのうちの1つが見事に

宇宙船基地でした。

情報提供ありがとうございました。」

 

「いやぁ、あたしゃ怪しいな、と

思った場所を教えたまでだ。

それに、もしチョルルカ様と

出会ってしまったらアンタ達は

ただじゃ済まないと思ってたんだ、

正直・・・。

あたしゃ、とってもむごい事を

してしまったんじゃあないかと、

あれから後悔してたんだ・・・。

いやぁ、ホントに無事でよかったよ~。」

 

「これでこの地方が圧政に

苦しむことはないでしょう。」

 

「あぁ・・・だといいけどねぇ。」

 

おばあさんはアタシ達の無事を

喜んでくれた。

けど、その表情に陰りがあるように

アタシには見えた。

 

「チョルルカ様がいなくなったのは

嬉しいけど、また別の役人が

来るかもしれないからね~。

結局は政府が健在している限り、

あたしら民衆に平和は訪れないの

かもしれない・・・。」

 

・・・・そうよねぇ、結局そうなのよね~。

元凶をなくさない限り、万事解決って

ワケにはいかないのよね~。

 

確かに、その事実を突きつけられると

おばあさんじゃないけど、アタシも

憂鬱になるわ。

 

ピエールとの舌戦のこともあり、

アタシも憂鬱な気分になってしまった。

 

「おばあさんのおっしゃる事は

ごもっともかもしれません。

諦観を抱くのも致し方ありません。

ですが、だからといって

政府の理不尽な統治を受け入れるのは

それはもう生きながら死んでるも

同然です。

私達は・・・政府の言いなりには

絶対になりません。

戦う力がある以上、抵抗してみせます。

抵抗し続けることに意義があるのです!」

 

オリオリが言う。

おばあさんに、というより、それは

ピエールに向けて。

政府の言いなりになって死人のように

生きながらえたほうがいいという

風潮に対して。

そして自分や義勇軍のメンバーに

対しての決意の再確認なのかも。

 

そうよ、オリオリ。

アタシは断固としてピエールのような

考えには賛同できない!

無駄だと言われつつも、

政府への抵抗の意思は

示しつづけなければならない!

 

「あぁぁぁぁ、アンタ若いのに偉いね~。

眩しいよ。キラキラ輝いて見える。

あたしのほうが年長者なのに、

若いアンタから教えられてるみたいだ。

なんで本の中にいるのか、

どういう仕掛けでそうなってるのか

よくわからないが。」

 

「いえ、おばあさん、つい興奮して

出過ぎた事を言ってしまいました。

けど、私達はそういう決意のもと

団結して政府への抵抗を続けます。」

 

「あたしゃ老い先短い。

アンタらのように自ら動いて

状況を打破するなんて事は

とうてい無理だけど、

アンタらの事は応援するよ。

今のあたしにできる事は

それぐらいだからね~。」

 

「おばあさん、そのお言葉とお気持ちだけで

十分です、ありがとうございます!

おばあさんのように我々を密かに、心のどこか

片隅でだけでもいい、応援してくれる人が

少しでも増えることが何よりも我々の力と

なるのです。」

 

「あたしももっと若けりゃね~、

その、義勇軍とやらにも

参加したいよ。」

 

オリオリの言葉ひとつで

憂鬱な顔をしていたおばあさんの

表情が明るくなった。

オリオリ、貴女は本当に太陽のような

女性だ。

 

アタシは改めてオリオリのリーダーの

器を認識した。

真のリーダーの、ね。

 

「で、おばあさん、オイラ達、

次はチョルルカの居城に

行きたいんだけど何か知らないかい?」

 

「チョルルカ様の居城は

銀河大神殿を北上した遥か先に

あるって話だよ。

けどどうやってお城に入れるか、

そこまでは知らないんだ。

居城までの道のりの途中に

ギィシィという町がある。

そこでなら何かわかるかも

しれないね~。」

 

「わかった、ありがとう、

おばあさん。」

 

「おばあさん、もうひとつお願いが。

この手紙をランペェ村のゴッシュという

人物宛に届くように手配を

していただけませんか。

今回のチョルルカ打倒に協力してくれた

人物なのです。

直接会ってお礼を申し上げたいのですが

我々は先を急がねばなりません。」

 

「わかった、ランペェ村のゴッシュだね。

あとで配達業者に言付けとくよ。」

 

「それからおばあさん、我々に情報を

提供した事は伏せておいてください。

おばあさんが危険な目に遭っては

いけませんので。」

 

「あぁ、わかった、ありがとうよ、

あたしの心配までしれくれて。

アンタ達、気を付けて行くんだよ。

あたしゃ、なんだかアンタ達が

孫のように思えてきたよ。

勇気を持つことも大事だけど、

無理をせずに、ねぇ。」

 

あぁ、おばあさん、本当にありがとう。

孫・・・・か。

ブルリア星のおじぃちゃん、どうしてるかしら。

アタシ達がいないからきっと退屈

してるんじゃないかしら。

 

おばあさんの励ましの言葉で

アタシはふと、故郷で待っている

おじぃちゃんの事を思い出していた。

 

「ありがとう、おばあさん!」

 

「じゃあな、またな!」

 

「ピピー!」

 

白いスライムナイト、ピエールのせいで

気分が憂鬱だったけど、

オリオリの確固たる信念と

おばあさんの優しい気遣いのおかげで

少し心が晴れたわ。

 

「リザさん、ピエールの言う通り、

我々の力は政府に比べれば

脆弱かもしれません。

しかしこうやって、我々の考えに

賛同してくれる方々が

少しずつでも増えれば

それが我々の力になり、

やがて政府に打ち勝てる、

私はそう信じています。

現状維持でかまわないという意識、

それこそが最も厄介な敵なのです。

それを覆すには政府への抵抗の意志を

示し続けるより他にない、

と私は考えています。」

 

オリオリ、そうだよ、現状が変わらないって

諦めたら本当に何も変わらない。

ピエールの考えは・・・革新的であるかの

ように見せかけて実は現状維持を

決め込んでいるようにしかアタシには

思えない。

 

アタシはやっぱり、オリオリ、貴女の考えに

賛同するわ!

 

「それに・・・。」

 

「?」

 

宇宙王の書がアタシの顔の近くに

寄ってきてオリオリが耳打ちを

してきた。

 

「リザさんがピエールと激しく

言い争った時のリザさんの訴え。

私はすごく感動し嬉しかったのです。

リザさんは・・・その・・・タァコ王に

会ってから・・・我々の活動に

疑問を抱いていませんでしたか?」

 

ギクッ(゜o゜)

 

「タァコ王が語っていたピエールの

主張の内容に。

あの時、私はリザさんを叱咤し

貴女の思考を強引に停止させました。

しかし強引ゆえにリザさんがいつまた

迷いを抱くかもしれないと、私は不安でした。

けど先のピエールとの言い争い、

あれを聞き、安堵したのです。

『あぁリザさんの迷いはもう吹っ切れた

んだな』と。」

 

うぅぅオリオリ、ホントにごめんなさい、

あの時のアタシの迷い・・・・

ひょっとしたらあの迷いのせいで

新魔星王誕生の阻止が

間に合わなかったのかもしれない。

 

「いえ、責めているわけではありません。

現にここまでの旅はリザさん達の

力がなければ進めることは

かなわなかったでしょう。

その事実こそが、貴女が我々を

信頼してくれていることの証。

そしてダン灯台でのリザさんの訴えは

私の考えと全く同じでした。

あれでリザさんへの信頼は確信に

変わったのです。」

 

アタシは確かに・・・・迷っていた時期が

あったわ。

けどオリオリ・・・・貴女の器の大きさが

アタシの迷いを晴らしてくれたの。

 

それにピエールの考えは・・・・

確かに直接聞くまでは興味が

あったのも事実。

けど、その内容を聞いて呆れてしまったわ。

 

だから、あの場面でピエールと

言い争いになってしまったの。

どうしても納得いかなかった。

愚かさに気づいてほしかった。

 

「すみません、今更、以前のことを

蒸し返して。

けど私のリザさんへの信頼、

それはもう揺るがない、ということを

伝えたかった。

まだ我々は志の道半ばではありますが

これからも引き続き我々の力になって

ほしくて私の想いを打ち明けました。

リザさん、これからもよろしくお願いします。」

 

オリオリ!

アタシこそよろしくお願いします。

アタシはあのヨンツゥオ大宮殿での

貴女の寛大な対応に触れて以降、

とっくに貴女の事を信頼してるよ。

 

この宇宙を治めるのは決して宇宙政府の

ような邪悪な組織ではないっ!

オリオリのような優しく強い意志を持った

宇宙王こそ相応しいって。

 

「お~い、なんだなんだ女同士で

ヒソヒソと。

長話だな~、早く出発しないと

ピエールに逃げられるぞ~!」

 

モガ丸がアタシ達の内緒話に

割って入ってきた。

ピエールを追いかけるため、

アタシ達はギィシィの町を目指した。




Story日誌 第6話<魔法団の行方>了

★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2ndシーズン第7章[白いスライムナイトの覚悟]***惑星クラウド・ヨンツゥオ大陸編***
エピソード1.「原風景」


アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



奇妙な夢を・・・アタシは見ていた。

 

************************************

 

「ボロ~~~ン、待ってよ~~~~!」

 

「遅いぞ~~~~オリオリ~~~~!!」

 

幼い少年と少女が森の中を駆けている。

お互いの呼ぶ名は・・・

アタシの知っている名だった。

ボロンとオリオリ?

 

いえ、だけど、走っているのは

明らかに幼い子ども2人。

それに女の子は・・・

生身の姿・・・オリオリは宇宙王の書に

封印されているはず・・・

生身の姿というのはおかしいわ。

 

「ほら、こっちだオリオリ。」

 

「はぁっはぁっはぁっ、んっもう!

ボロンっ、女の子を置いてっ

はぁっはぁっ、先々走っていくなんてっ

もうちょっと女の子をいたわりなさいよっ!」

 

「はんっ、まるで女の子みたいな事を

言うじゃないかっ!」

 

「私は女よっ!!」

 

これは!?

やっぱりボロンとオリオリなの?

このやり取り・・・まさにボロンとオリオリ

そのものだわ。

これは幼い頃の2人なの?

 

「で?私に見せたいものって?」

 

「へっへ~、この洞穴を見てみなよ。」

 

「?」

 

幼い・・・オリオリであろう女の子が

茂みの中にある穴を恐る恐る覗く。

 

「あ!」

 

「ピピピっ」

 

「スライムっ!?」

 

「そっ!なぁ可愛いだろぉ?」

 

「でも・・・や、野生のスライムって

人間を襲ったりするって聞いたこと

あるよ?」

 

「大丈夫さ、スライムが人間を襲うのは

人間のほうからスライムに危害を

加える場合がほとんどなんだ。」

 

「へぇぇ、そうなんだ~。」

 

「それにほら、コイツ、怪我しててさ。」

 

「え、あぁ本当!

でも・・・手当されてる・・・・

これってもしかして・・・・?」

 

「そう!オレが手当してやったんだ。

こないだ、この森に果物を採りに来た時、

偶然見つけたんだ。

怪我してたからさ、最初はオレの事も

警戒してたんだけど。

こっちに敵意がないっていうのをさ、

野生だから余計に敏感に

感じ取ってくれたのか、

手当をさせてくれたんだ。

それからオレに懐いてくれて。

時々様子を見に来てるってワケ。」

 

「そうだったんだ。

けど、アナタのスライム好きも

ここまで来たら病気ね。」

 

「病気とはなんだ、病気とは!

スライム愛と呼んでくれよ!」

 

「アハハっ」

 

【挿絵表示】

 

これは・・・・なんなの?

幼い頃のボロンとオリオリの記憶・・・・?

なんでこんなものをアタシが見てるの?

夢なのか?

夢だとしても、アタシが知るはずもない

ボロンとオリオリの幼い頃の記憶を

なぜアタシがビジョンとして見てるのか?

 

「・・・リ様~!・・・オリ様~~!!

・・・・オリオリ様~~~~!!」

 

と、幼いオリオリ達が走ってきた

元の方角からオリオリを呼ぶ

大人の声が聞こえてきた。

 

「オリオリお嬢様・・・・・!

こんな森の奥深くまで!

心配しましたよ~、お怪我でもされたら

私達が旦那様に叱られてしまいます!」

 

「マルコにミラ・・・ご、ごめんなさい!

けどボロンがどうしても私に

見せたいものがあるって。

私もなんだろう、ってすごく興味があったの。

それでついつい・・・・」

 

「マルコ、ミラ、オリオリを連れ出したのは

オレだ。

オリオリを叱らないでやってくれ、頼む!

それにもし危険なことがあったとしても

このオレがオリオリを守ってみせるさっ!」

 

「ボロン!またアンタだね!

いくら剣術大会で優勝したからってね、

まだまだ子どものアンタに一体なにが

できるっていうんだい!」

 

「うっクックソ!

子ども扱いしやがってー!」

 

この恰幅のいい女性2人は・・・

オリオリの家の使用人か何かだろうか。

そしてボロンとも親しげ。

そっかボロンはオリオリと幼馴染

だもんね。

家族ぐるみでの付き合いだったのかも。

 

「で、慌ててどうしたんです?

2人とも、家で何かあったの?」

 

「それが、突然セアド様が

お見えになったんです!

近くまで来たからオリオリ様の

顔を見たくなったとおっしゃって。」

 

「セアドが!?」

 

「ええ。

ですから急ぎこうしてオリオリ様を

探しにきたんですよ!

さあ、早くお屋敷に戻りましょう。

セアド様を待たせてはかわいそうですよ。」

 

「わかった、すぐ戻ります。

帰ろう、ボロン。」

 

その少年、ボロンは少し寂しそうな

表情をしていた。

 

「い、いや。

オレはもう少しスライムの様子を見てから

帰るよ、果物や木の実も採ってかなきゃ

いけないからな。」

 

「あぁそっか。

わかった、じゃあ先に帰るね、

気を付けなさいよボロン。」

 

「あぁわかった・・・・。」

 

セアド・・・・後に星屑魔法団の団長となる、

オリオリの夫となる男。

そうか、オリオリとセアドは幼い頃からの

婚約者だったのね。

で、こんな小さい頃からオリオリは

セアドにべた惚れ?ってヤツだったのね

 

でも・・・ボロン・・・はなんだかちょっと

寂しそうね。

セアドがいるお屋敷に戻るオリオリを

見送るボロンの背中が・・・・とっても。

 

「・・・・ザッ!・・・・・リザッ!・・・・・

リザ~~~~~!!!」

 

え?

今度はアタシを呼ぶ声?

え、何?アタシもこの夢の登場人物なの?

これはアタシが見てる夢だったんじゃないの?

 

************************************

 

「リザーーーー!」

 

「はっ!?」

 

「起きろよ、リザ、

もうそろそろギィシィの町に

着くそうだぞ。」

 

あ、あぁぁ、モガ丸・・・!

そっか、やっぱりアタシは夢を見てたんだ。

 

ギィシィの町までの道のりは長く、

アタシ達は馬車を雇って目的地まで

向かっていた。

どうやらアタシは居眠りを

してしまっていたらしい。

 

それにしても。

見たこともないはずのボロンとオリオリの

幼い頃の光景が・・・。

なぜあんなにくっきりとアタシの夢の中で

繰り広げられたんだろう。

 

そもそもあれは夢なのか?

夢というよりは誰かの強い思念が

アタシの脳内に流れ込んできた、

というほうがしっくりくるかも。

 

そうか!

 

ひょっとしたら、ボロンがエルフたち

(黄金色のスライム)を無事故郷まで

送り届けるという任務を果たし、

そろそろ合流する時期が近づいている、

っていう予知夢かもしれないわね。

ボロンが復帰してくれたら

この先の冒険も一段と心強くなるわっ!

 

この先に待っている義勇軍を取り巻く

過酷な運命・・・・。

この時のアタシ達はそんな事は微塵も

知らずにいたわ。

とても受け入れがたい過酷すぎる運命。

 

「よぉし!ギィシィの町に着いたみたいだぜ。

早くピエールを追わないとな!」

 

馬車はギィシィの町に着いた。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・オリオリ
今回の日誌では幼少期での登場。
当然ながら宇宙王の書に封印されていない
生身の姿。
会話から察するに、大きな屋敷のお嬢様で
後の夫となるセアドとは幼少期から
婚約しているもよう。
そして幼馴染のボロンとは、この頃から
憎まれ口を言い合う仲のようね。

・ボロン
同じく幼少期での登場。
大のスライム好きはこの頃から。
そして武術の腕前もこの頃から
秀でているらしく剣術大会で
優勝するほどの腕前らしい。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード2.「被支配層の怒り嘆き」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



「よぉ、ここはギィシィの町。

宇宙政府で働く者達のベッドタウンさ。」

 

!!

魔物!?

アタシはとっさに身構えた。

ギィシィの町に着くといきなり半人半牛の

魔物が現れた。

 

「おっとぉ、ハハハ、そんな身構えなくても

大丈夫、お前達を襲ったりはしないさ。

政府に仕える魔物といってもオレは

末端の構成員さ。

むやみやたらと人間と争っても

オレ達にゃあ何の利益もないからな。」

 

確かにこの魔物からは殺気が感じられない。

嘘を言ってるようには見えないわ。

 

アタシもレジスタンス活動に加わって

結構時間が経つから、猜疑心というものが

かなり備わっちゃってるけど

この魔物からは本当に敵意を感じない。

 

「まぁ政府の命令が下れば仕方なく

人間を襲うこともあるにはあるが。

自分から進んでってわけじゃぁないんだ。

それはそれで疲れるからな。

で、お前ら何用でこの町に

やってきたんだい?」

 

「おいら達は上級執行官チョルルカの居城

に行きたいんだ。

ここに来れば何かわかるって聞いたんだけど?」

 

「チョルルカ様の居城か、それなら

ヨンツゥオ湾にある大聖堂だ。

ここからさらに北上したらミヤァロの宿屋

がある。

そこで色々教えてくれるはずさ。」

 

「ミヤァロの宿?

ん?お前は詳しくは知らないのかい?」

 

「あぁ、オレは末端構成員だからな、

上級執行官の居場所はあまり詳しくは

知らないのさ。

けどミヤァロの宿ならここより大聖堂には

近いしな。

宿屋ってのは、不特定多数の宿泊者が

いるからそれだけ情報もたくさん集まる

ってわけだ。

ここよりも詳しいことが聞けるだろうよ。」

 

「わかった、どうもありがとう!」

 

「あぁ、お前ら気を付けていけよ、

じゃあな。」

 

この魔物は本当にアタシ達に敵意はなさそうだ。

それどころか旅路の心配までしてくれて。

些細なやりとりだったけど、

アタシは人間と魔物との関係がますます

わからなくなりつつも、ちょっとだけ

明るい気持ちになった。

 

「宇宙政府に仕える者と一口に言っても

全てが悪しき者とは言えない。

そんな好例でしたね、彼は。

政府を倒し、何が正しいのか示すことが

できれば・・・。

彼のような魔物は賛同してくれそうな

気がします。」

 

そう!オリオリ。

アタシが思ったのはまさにそれよ。

まさに、正しい道を照らす事が何よりも大事。

そしてその役目は貴女しかできない!

 

「よし!じゃあミヤァロの宿を目指そう!」

 

馬車の契約はこの町までだったので

アタシ達は徒歩でミヤァロの宿を目指した。

 

橋を渡りしばらく歩くとそれらしき建物が

見えてきた。

割と小さな建物でそばに小屋と畑がある。

ひとつ目を引いたのが少し先に設置されてる

気球。あれはこの宿屋の気球なんだろうか?

それとも定期船か何か?

 

「あぁ、気球船があるのね。」という程度に

特に気に留める事もせず宿屋の玄関に

向かった。

 

「いらっしゃいませ旅のお方。

遠路はるばるようこそおいでくださいました。

ここはミヤァロの宿でございます。」

 

「こんにちは。

ご主人さん、悪いけどオイラ達客じゃないんだ。

ちょっと道を聞きたい。

チョルルカの居城っていうのはどこにあるのか

知らないか?」

 

「はっ、チョルルカ様の居城・・・

ヨンツゥオ湾にある大聖堂でございますね。

ただ・・・現在チョルルカ様が突然行方不明に

なってしまったとかで聖堂内は大混乱

とのこと。

もしや義勇軍に倒されたのでは!?という

噂も出回っております。

チョルルカ様の前の執行官、マレドー様と

いう方も突然姿を消してしまい、上級執行官が

立て続けに行方不明となり、聖堂内は

混迷を極めてると聞きます。

上級執行官がこうも代わられると我々庶民も

困るのです、なにせ代替わりのたびに

重い税を課せられてしまい・・・

はっ!私としたことが!

旅の方に愚痴をダラダラと・・・・

申し訳ございません!」

 

上級執行官が代わる度に重税ですって!?

ったく宇宙政府というのは!

一般人達から毟り取ることしか考えてないのね!

代替わりで重課税なんて意味がわからない!

 

けど、この人達からすればチョルルカが

いなくなったせいでまた生活が苦しくなる

わけだから。

大義の為にやった事だとしても

直ちにアタシ達の事を理解してくれるかは

わかんないわね。

ここはチョルルカとの事は伏せて

おいた方がいいんじゃないかしら。

ねぇ?オリオ・・・

 

「大丈夫!オイラ達は宇宙政府を倒す為に

活動している義勇軍なんだ。

政府を倒したらもう税金に苦しまなくて

済むぞ!」

 

え!?

 

ちょっとモガ丸!????

 

「はっ?アナタ達が義勇軍?

そ、それは本当なのですか?」

 

「本当だぞ!」

 

「本当・・・・あ、そう・・・・・

はぁああああああああああああああ!!??

テメエらが義勇軍だとぉ!

テメエらがチョルルカ様に何か

しやがったなぁ!?

出てけ!出てってくれ!!

義勇軍なんぞに関わってたらオレまで

政府に睨まれちまう!

とっとと出てけーーーー!!」

 

「もがー!

な、なんだ?いきなり怒りだしたぞー!

どうしたんだ!?」

 

あちゃー、けどそりゃそうでしょ(+_+)

 

「ま、まぁご主人、まずは落ち着いて。

もう少し我々の話を聞いてください。」

 

コッツが宿屋の主人の怒りをなだめようと

したけど。

 

「これが怒らずにいられるかってんだ!」

 

「わかった、わかった!出て行くよ!

けどお願い、大聖堂の場所だけでいいから

教えてくれ!」

 

「はぁ!?図々しいにもほどがあるぞ!

・・・ん、待てよ。」

 

モガ丸・・・ちょっとは話してる相手の気持ち

を考えなきゃ!

このご主人にとっては死活問題なのよ、

上級執行官が次々と代わるっていうのは。

そしてその原因にはアタシ達も関わってる

んだから。

いくら自分達は正しいことをしてると

思っていてもそれを他人が同じように

共感してくれるかはわかんない、

っていうのをここまでの旅で散々

思い知ってるでしょうに!

 

と、アタシはモガ丸の無神経さに内心

苛立ちながらも、なんとか最低限の質問だけは

宿屋の主人に投げかけたモガ丸のちゃっかりさ

に苦笑いするしかなかった。

 

すると宿屋の主人は何やら思案している様子。

アタシ達は主人の次の言葉を待った。

 

「・・・いいだろう、テメェらに協力

してやろう。

ただし!オレの命令をこなしてからだ!」

 

「お、おぉ!良かった、なんだ、

最初っからそう言ってくれればいいのにぃ!」

 

「やかましいぃ!

どうせ義勇軍に絡むんだったら利用するだけ

利用したほうが損はしないからな!」

 

まっ!こっちもちゃっかりしてる。

心配したアタシが損したかも(^ ^;

 

「いいか?オレはこの宿屋を増築して

今よりも大きくしたい。

だが増築するには当然、材木が必要だ。

材木にはヒノキを使いたい。

良質なヒノキだ。それはここから西に雲海を

渡った先にあるチィゴ島で採れる。

ところがここ数年で政府の圧政がキツくなり

島にも魔物が巣食うようになっちまった。

テメエら、島の魔物を一匹残らず

駆除してこい。オレは魔物と戦う力はないし、

もしあったとしても魔物を倒したりしたら

政府への反逆になっちまう。

けどテメエらならできるだろう?

大聖堂に行きたいのなら拒否なんて

できねぇよな?」

 

あぁ、結局この展開ね。

確かに大聖堂の情報は欲しいけど

かなりゴリ押しされてる感じ。

 

「ここんとこの立て続けの上級執行官の

代替わりで俺たち平民は本当に重税に

苦しんでる、だから儲けをもっと大きくして

税金を払うしかない、だからこの宿を

大きくしたいのに魔物、元はといえば政府の

せいで増築はできない、まったく理不尽な

話だろ??ちょっとでもオレらを可哀想だと

思うんなら頼みを聞いてもバチは

当たらないと思うぜ!」

 

むむ、確かに理不尽な話だわ、悪循環に

陥ってるわね。

ふぃ〜、ギィシィの町では、人間と魔物とが

分かり合えるかもしれないって希望を

持てたのに、やっぱり魔物退治しなきゃ

いけない事もあるのか〜。

これもまた理不尽というか不条理というか。

 

「オリオリ様、私怖いです、この人。

めちゃくちゃ怒ってる・・・」

 

「けど命令を聞かなければ情報を

教えてくれはしないでしょう。

リザさん、やむを得ませんが、このご主人の

言う通りにしてもらえないでしょうか?」

 

そうね、あまり乗り気じゃないけど

この人たちの境遇が理不尽である事は

間違いない。

アタシ達の目的も絡んでる事だし。

この主人が困ってるのは確か。

ちょっと態度に難ありで、そこが引っかかるけど。

 

「チィゴ島には気球船で渡れる。

ここから先の岬に気球船が設置してある。

それで島に向かえ。

で、魔物の巣があるのは島の中心部にある

チィゴの祠だ。

わかったな?わかったら早く行ってこい!」

 

あぁ、あの気球船ね。

ここへ来る時に見かけた。

 

「よし、じゃあ気球船でチィゴ島へ

向かうぞー!」

 

やっぱり上から目線なのよね〜この人。

態度とか雰囲気で人を判断しちゃいけない、

とは思うんだけど。

けど人に物を頼む時の言い方も大事だとは

思うんだけどね。

 

アタシ達は岬に向かい、気球船に乗り込んだ。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード3.「ツンとデレな人」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



気球船でしばらく進むと

確かに小さな島が見えてきた。

着陸できそうな場所を見つけ、

気球船を下ろす。

 

「ここがチィゴ島だな。」

 

「確かにヒノキがたくさん

生い茂っていますね。」

 

「気球船から見た感じでは

島の中心部はあっちの方角ですね。

そこに祠があるとご主人は

おっしゃっていました。

さっそく向かいましょう。」

 

アタシ達はさっそく祠を目指して

歩き始めた。

小さな島だったので幸い、それらしき

祠へはすぐにたどり着いた。

 

「ここが魔物の巣窟となっている、

との事。

リザさん達、さっそくお願いします。」

 

祠の内部には確かにたくさんの

魔物が巣食っていた。

木の精霊らしき魔物、

コウモリのような魔物、

政府から派遣されたというより

土着の魔物が凶暴化した、

といったところかしら。

 

アタシ達はそれらを倒しながら

祠の奥へと進んでいった。

最深部に到達すると、そこには

巨大なバラのような魔物がいた!

 

バラはアタシ達の気配に気づくと

いきなりその、棘のついた触手で

襲ってきた!

クっ!戦うしかないか!

 

アタシは。

話のわかる魔物が相手ならば

交渉してヒノキを伐採させてもらって

速やかに立ち去ろう、とオリオリに

相談するつもりだったんだけど。

 

植物の魔物が相手では話は通じない、

退治するしかないわね。

 

ギィシィの町の魔物と出会って以来、

アタシは魔物との無用な戦闘は

したくない、と考えるように

なっていた。

しかし今この瞬間は、そうも

言っていられないみたいね。

 

「ジョギー!レイファン!

陽動をお願い!

植物の魔物は火に弱いはず。

呪文の詠唱時間を稼いで!」

 

「わかった!」

 

「了解、お姉ちゃんっ!」

 

弟達が魔物との間合いを詰め、

触手を誘導する。

その合間にアタシは呪文の詠唱に入る。

 

「よし!いいよ、離れて!」

 

弟たちが魔物から離れたのを

確認してアタシは呪文を放つ!

 

「メラガイアー!!」

 

ドォォォン!

ゴオオオオオ!!

 

特大の火球がバラの魔物に命中し

凄まじい火柱が上がった!

花びらや触手は勢いよく燃え上がり、

やがて炎が収束する。

燃えカスすら残さず魔物を倒した。

 

「よーし!ボスらしき魔物を倒したぞ、

さずがリザ達!」

 

「リザ殿達は・・・ホントに強い・・・!」

 

「リザさん達、ご苦労様でした。

これで祠内の魔物は全て倒したはずです。

さっそく宿屋のご主人に知らせてあげましょう。」

 

うん、目標は達成。

けどなんだろうなぁ、このモヤモヤ。

本来なら、ここの魔物はアタシ達に

倒されるはずはなかった。

それを宿屋の主人さんがヒノキを

採りたい、という理由でアタシ達が

退治することになってしまった。

 

もちろん、主人さんがヒノキを採る理由も

承知してる。

政府からの重税を払うため、経営してる

宿屋の売上を上げる。

その為の増築にここのヒノキが欲しいという。

 

けど、なんかひっかかるのよね~。

目的の為、多少の犠牲は仕方ない、

っていう形になるでしょう?今回の魔物退治。

これって結局ピエールと同じ事を

してるんじゃないかって、アタシの中で

疑問が生まれちゃったのよね~。

 

結局、義勇軍と宇宙政府が対立してるから

どちらも犠牲は生まれちゃうって事

なのかしら。

 

ピエールのやろうとしている事は

間違っている。

けどそれはアタシやオリオリの視点で

見れば、という話。

彼も・・・一応言葉の上では宇宙に

平和をもたらすために行動してる、

と発言している。

 

お互いの信念がぶつかり合ううちは

多少の犠牲は生まれてしまうだろう。

 

けどアタシ達は。

できることなら犠牲は最小限にしたい。

今のアタシ達にできる事は

きっとそれぐらいしかない。

 

やっぱり宇宙政府の方針こそが

諸悪の根源だ。

それだけはアタシ達の主観でも

客観的に見ても間違いない。

 

アタシはモヤモヤを抱えながらも

自分達にできる精一杯のことだけは

やろうと思った。

帰りの気球船の上でオリオリに

アタシの考えを話してみた。

 

「・・・・そうですね、リザさんのおっしゃる事に

一理あると思います。

我々の目的は宇宙政府打倒です。

政府が我々を襲う目的で魔物を

差し向けるならばこれを撃退しなければ

なりませんが、野生や土着の魔物で

特に危害がなさそうなものを

無用に退治することは控えるよう

心がけましょう!

しかし一番大事なのはそれぞれ

自分の命です。

これもまた無用に捨てるような行為は

禁じます。

降り懸かる魔物は、やはり振り払うより

ほかありません。」

 

オリオリ!ありがとう!

アタシの考えを取り入れてくれて。

思い切って打ち明けてよかったわ。

 

「リザさん、思うことがあれば

いつでも相談してくださいね。

1人で抱え込んでは疑問はやがて

迷いとなり、とんでもない失敗を

招いてしまいますから。」

 

うん、タァコでの件があるから

耳が痛いけど(+_+)

悩みってみんなで共有すれば

その負担が軽くなるもんね。

ありがとうオリオリ!

 

「いらっしゃいませ、遠路はるばる

ようこそ旅のお方。

ここは宇宙政府御用達の宿屋で

ござい・・・・って、テメエらか!」

 

ミヤァロの宿屋に戻ると

主人さんが例のごとく手荒く

迎えてくれた。

 

「ご主人、島の魔物は退治しました。

これでヒノキを採取できますよ。」

 

「何、本当か!

ありがてぇ、テメエら義勇軍を

すこ~し見直したぜ!

よぉし、これで宿を増築できる、

宿泊客が増えればなんとか

重税も払えそうだ。

じゃあ約束通り、大聖堂までの

道のりを教えてやろう。」

 

よかった、なんとか話が前へ

進みそうね。

 

「宇宙政府がこのヨンツゥオ大陸を

統括する為の拠点、それが大聖堂だ。

大聖堂からヨンツゥオ湾を北上すれば

ジリョン城があり、ジリョニスタの塔がある。

この3つの建造物はこの大陸における

宇宙政府の重要施設ってワケだ。

で、テメエ達部外者が大聖堂へ行くには

通行証が必要だ。

通行証はここから北へ進んだ先にある

キュウウェルの関所で発行されている。

大聖堂へ行きたけりゃ、さっさと

関所へ行きやがれっ!!」

 

「わかった、わかった、どうもありがとうよ!」

 

「宿屋が大きくなったら

またみんなで遊びに来ましょう。」

 

「いいや!!テメエら義勇軍は

お断りだ、二度と来るんじゃねえぞ!

・・・けど、チィゴ島の魔物の事は

助かったぜ、ありがとよ。

ここから関所までは少し距離がある。

これでも持っていきやがれ!」

 

そう言うと、主人はカウンターの下から

干し肉、パン、チーズ、ドライフルーツなど

保存食と水を取り出した。

 

「長旅をする宿泊客に出してるものだ、

特別に無料サービスだ、

その代わり、二度と顔見せんじゃねえぞ!」

 

「ご主人!お気遣いありがとうございますっ!

遠慮なくいただきます!」

 

「口は悪くても案外親切なご主人ですね。

こんなに食料をくれるなんて。」

 

うん、ご厚意ありがたく!

態度とは裏腹に少しはアタシ達を

応援してくれてるんだろう。

けど、この宿では政府の被支配層の

人々の、苦しいリアルな生活の声を

聞くことができた。

 

アタシ達が良かれと思い、

政府への反抗を示す裏で

庶民のみんなを苦しめてしまう事も

あるという事を教わることができた。

それもアタシ達は肝に命じなきゃ

いけないわね。

 

さて。目指すはヨンツゥオ大聖堂。

いよいよ宇宙政府の中核に

迫ろうとアタシ達はしている。

 

ここから先は心して旅をしなければ。

アタシ自身の悩みや庶民のみんなの

苦しい実生活。

様々な思惑を抱えながらも

アタシ達はキュウウェルの関所を

目指した。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード4.「密談合」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



その頃、宇宙政府関係者達の間で

会合が開かれていた。

もちろんアタシ達は知るよしもないけど。

 

「チョルルカ様が倒されただとー!?」

 

「まさか・・・チョルルカ様は、その猛烈な

激臭で対峙するもの全てを無力化し

歯向かう相手を葬り去ってきたといいます。

向かうところ敵なしだったはず。

一体何者です、チョルルカ様を倒したと

いうのは?」

 

「義勇軍と、これに加担する

ブルリア星の冒険王だ。

特に冒険王のほうはブルリア星に

配置されていた魔星王ドスラーデスを

倒したという者たちだ。

その強さは紛れもなく本物。

チョルルカやドアヌを遥かに超える

戦闘力を持っている。」

 

声の主は次期上級執行官候補の

2体の魔物。

その2体にアタシ達の事を報告しているのは

白いスライムナイト、ピエール。

 

「ヒャーッハッハッハ!

コイツはおもしれぇ、魔星王に上級執行官

が2人も!

よぉし、だったらこの俺様が

その冒険王とやらをぶっ倒せば

チョルルカ様の後任の上級執行官の座は

俺様のものだな!」

 

「アッガラーよ、敵を侮らない方が良いですよ。

我が政府の幹部級がこれほど

倒されているのです、戦うのならば

かなりの警戒が必要でしょう。」

 

「ご忠告ありがとうよ、ズデーロン。」

 

2体の執行官候補の名はアッガラーとズデーロン。

一ツ目で全身の殆どを鎧で覆っている、口調が

粗いほうがアッガラー。

上半身に鎧を纏い、裾の長いローブを履いている

髑髏の魔物がズデーロン。

ズデーロンはアッガラーとは対照的に口調が丁寧

だわ。

 

「冒険王の戦力が大きいのも脅威だが、厄介な事

に南ヨンツゥオ地方の一般市民たちがチョルルカ

討伐に協力していたという報告が入っている。

冒険王達がチョルルカと真っ当に戦えた要因として

チョルルカの激臭対策が上手くハマったのが大きい。

その対策を練り実践したのはランペェ地方の住人

だという。」

 

「なんと!由々しき事態です、

一般市民が反乱軍に加担し、

小規模ながらクーデターを成功させた

という図式になってしまうではないですか!

これは!

一般市民に『宇宙政府の統治が

揺らいでいる』という印象を

与えかねない案件です!」

 

「そうだなぁ、このままじゃ

政府が舐められるってワケだ。

で?ピエール。

義勇軍とその冒険王一味とやらの

軍勢の規模はどれくらいなんだ?」

 

「主に戦闘を担うのは冒険王姉弟の3名だ。

その他に義勇軍の3番隊隊長の女が1人。

あとは非戦闘員と見ていいだろう。」

 

「はぁ!?たった3人だとぉ!?

なんということだ、たった3人に

上級執行官や魔星王がやられたってのか?

か~~~~ったく宇宙政府の上級執行官も

地に堕ちたもんだぜ!

ドアヌ様もチョルルカ様も政府の顔に

泥を塗っちまったな!」

 

「アッガラー、口が過ぎますよ!

上層部の耳に入れば厳重処分ものです!」

 

「だってよぉ、ズデーロン。

あれだけデカイ顔してた割にたった3人に

やられたんだぜ?

倒された執行官様たちのほうが

よっぽど処分に値すると思うぜ。」

 

アッガラーという名の

下品な言葉遣いの魔物は

どうやら上昇志向が強いみたいね。

アタシ達が倒した上級執行官達に

対して蔑視しているような口調だった。

 

「ズデーロンよ、次の上級執行官には

貴公も候補者に名を連ねている。

そこでどうだろう、貴公ら2名で競い合い、

先に義勇軍を討伐した者が次の

上級執行官に就任する、という案は。

私は結果を見届け上層部に報告し

執行官任命の勅を受け取ってこよう。」

 

「あぁ?おいおいおい、ちょっと待てよピエール!

義勇軍と戦うって言い出したのは俺様が

先だぜ、なんでズデーロンと競合になるんだ?」

 

「その方が公正明大だろう。

実力で勝ち取るほうが貴公の性分に

合うのではないか、アッガラー。

議論や多数決での選出は

納得いかぬではないか?」

 

「ワタクシは別にどちらでもかまいませんが。

そのような酔狂な選出方法に頼らずとも

上層部の決定に従います。」

 

「ハンっ!このまま放っておいても

テメエが任命される、とでも

言いたげじゃねーか、気に入らねえぜ!

勝負しやがれよ、ズデーロン!!」

 

「全く・・・・アナタの口の悪さときたら。

いいでしょう。

ただし上層部がこの選出方法を

容認するかどうかはわかりませんよ?」

 

「双方、この案を飲むというのなら

私が責任を持って上層部に掛け合う。」

 

「よぉし!話は決まったな。

じゃあ俺様は自分の砦で義勇軍を

迎え撃つとしよう。

関所通交官アクルよ、義勇軍が

関所に来やがったらまず

キュウウェル西の砦に向かうよう誘導しろ!」

 

後方に控えていた部下らしき

魔物が口を開いた。

 

「ハッ!・・・しかし・・・・」

 

アクルと呼ばれた魔物は

ズデーロンのほうを一瞥した。

 

「いいでしょう、義勇軍には西の砦に

向かうよう進言なさい、アクル。」

 

「ハ、承知しましたズデーロン様。」

 

「フンっ、随分と物分りがいいなズデーロン。

しかし俺様が義勇軍を血祭りに上げた時点で

俺様の勝ちだからな!恨むんじゃねえぞ。

ピエールもわかったな!」

 

まるでアタシ達を賞レースの賞品かなにかの

ような扱いとする議論が進んでいく。

 

「アッガラー、それにズデーロンよ。

1つ注意事項を申し伝える。

義勇軍の総司令官オリオリ、彼女だけは

殺さずに捕えるのだ。

彼女には、その他大勢の義勇軍の潜伏先等、

尋問せねばならぬ事項が山程あるゆえな。

まぁ最も彼女は宇宙王の書という本の中に

封印されている。

手を出すのは不可能だがな。」

 

「ヘっ!宇宙王の書か、古臭い響きだぜ。

化石のような一族の生き残りが

生意気にも我ら政府に反抗など

思い上がりにも程があるぜ!

まぁ、いいだろう、尋問でも拷問でも

やってやれやピエール。

そんときゃぁ、俺様も立ち会うぜ、

ケーヘヘヘヘ!」

 

「オリオリの件、了解しましたピエール。」

 

「よし、では行けアッガラー!」

 

「おうよ!」

 

口が悪く残忍そうな執行官候補

アッガラーは談合の部屋から消え、

自分の砦に向かった。

 

「・・・良いのですか?ズデーロン様。

先にアッガラー様の砦へ義勇軍を

向かわせても・・・・。」

 

「アッガラーでは義勇軍、冒険王の

面々には勝てないでしょう。

彼には捨て駒になってもらいます。」

 

「・・・・なんとっ!」

 

「ドスラーデス、ドアヌ様、チョルルカ様

のみならず、ブルリア星に着任していた

ラデュラゲ様、ディミトリ様をも

冒険王とやらは倒したに違いない。

そのような強靭な相手に、

あの威張り散らすだけが能のアッガラーが

叶うはずはないでしょう、それに・・・。」

 

「それに?」

 

「アッガラーはその横柄な素行、態度が

部下たちからの不評を買っていると

耳にしています。

それが原因で自滅に陥るかも

しれませんね~クックックック。」

 

「なるほど、さすがズデーロン様。

やはり、その強さはもとより、

人格、慧眼、先見性、洞察力、

どれを取ってみてもアッガラー様の

遥か上を行かれている。

次期執行官はズデーロン様をおいて

他には居ないでしょう。」

 

「アッガラーとの戦闘後であれば、

いかな冒険王とて大なり小なり疲労の

蓄積があり、傷も1つや2つでは

済まないでしょう。

そこをワタクシは確実に突きます。

まさにアッガラーはワタクシの噛ませ犬

であり捨て駒というワケです。」

 

「ズデーロン様も人が悪い、クックックック。」

 

静かな口調の執行官候補ズデーロン。

見るからに残忍そうなアッガラーより

さらに冷酷そうな魔物ね。

そして部下の魔物はアッガラーより

ズデーロンを支持しているみたいね。

 

ピエールが口を開く。

 

「・・・通交官アクルよ、義勇軍が

関所を訪れたなら星屑魔法団を

餌にするのだ。

彼らは魔法団の行方を血眼で探している。

いとも容易くそなたの言葉を信じるだろう。」

 

「承知した!」

 

「ピエール、此度の競合、結果が

全てということでよろしいですね?

過程は問わぬということで。」

 

「・・・私は貴公らの派閥争いなど

興味はない。

アッガラーは先に義勇軍と戦うという

アドバンテージを得ているのだ。

彼が執行官に値する男なら

そのチャンスをものにすれば

いいだけのこと。

それを逸した結果、ズデーロン、貴公が

執行官に就任する、それはそれで

何も後ろ暗い事はないのではないか?」

 

「・・・なかなか物分りが良くて

助かりますよ、ピエール。」

 

「どちらが執行官になろうとも

かまわぬ。

私は早急に新たな執行官に

ダン灯台の宇宙船を動かして

ほしいのだ。」

 

「承知しました。

上層部への報告、くれぐれも

お願いしますよ。

ではワタクシも持ち場に戻ると

しましょう。

アクルよ、抜かりなく頼みましたよ。」

 

「ハっ!!ズデーロン様、

ご武運を祈り申し上げます!」

 

残る執行官候補ズデーロンと

通交官アクルもその場から

立ち去った。

残ったピエールは独り言つ。

 

「・・・・フっ、宇宙政府の内情など

こんなものか。

いくら巨大な組織といっても、

こうも一枚岩ではないとはな。

まぁ、そのおかげで新参者の私でも

付け入る隙があるワケなのだが・・・。」

 

そう言うと、ピエールは顔を上げ、

遠くのほうを見つめた。

 

「オリオリさえ、冒険王姉弟から

引き離すことができれば。

そうすれば、ようやく改革に

取り掛かれる。

ただ・・・アッガラー、ズデーロンですら

冒険王達を抑えるのは至難の業だろう。

その時は私自ら・・・!」

 

仮面の奥にあるであろう

ピエールの瞳がキラリと

光ったような気がした。




★★★登場人物★★★
・ピエール
白いスライムを駆るスライムナイト。
数々の調略を駆使し各国首脳、さらには
星屑魔法団までも宇宙政府へ恭順させる。
新しい魔星王誕生成功という事柄の
直接の張本人は"秘術"を行使した星屑魔法団だけど、
魔法団を宇宙政府側に協力させたピエールの罪は
この上なく重いとアタシは思う。
上級執行官チョルルカが倒れた後の後任候補者達の
調停役をこなす。

・アッガラー
ヨンツゥオ大陸南部地方の上級執行官候補者。
気性が荒く口調も荒い、上昇志向の強い魔物。

・ズデーロン
アッガラーと同じく執行官候補者の1人。
アッガラーとは正反対に丁寧な口調と
冷静で大局を見て先を見る力を
持ち合わせている。

・アクル
ヨンツゥオ大聖堂への関所の門番役人。
執行官候補者達よりも下位。
2名の候補者のうちズデーロンを支持している。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード5.「双方化かし合い」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



「オイラ達、ヨンツゥオ大聖堂へ行きたい

んだけど。

え?オイラ達は何者かって?

オイラ達はぎゆ・・・んが!ングググっ!」

 

ジョギーが慌ててモガ丸の口を手で塞ぐ。

んもう!

だぁから!モガ丸っ!

簡単に自分達の素性を明かしちゃダメだって

あれほど言ったのに!!

しかも相手は政府の魔物じゃないっ!

皆が皆、ギィシィの魔物のように友好的

だとは限らないでしょ!?

 

ヨンツゥオ大聖堂への通行証を発行して

もらう為、アタシ達はここ、キュウエルの

関所へとやってきていた。

 

関所に居た役人らしき魔物に用件と身分を

聞かれたモガ丸がいとも簡単に

自分達の素性を口にしようとしたので

慌ててジョギーがモガ丸の口を塞いだ

ってワケ。

 

「君達見たところ宇宙政府関係者では

ないようだが?

関係者以外が大聖堂へ行くには此処で通行証を

発行しなければならんのだ。

しかし現在、上級執行官が不在ゆえ通行証を

発行する事ができん。

すまんがお引き取り願おう。

ちなみに、もう一度聞くが何用で大聖堂へ

行かれるのか?」

 

「あー、えーと、そう!

なんでも先の上級執行官チョルルカ様が

行方不明になったとかで新しい執行官様が

まもなく就任されるとか。

その際に課せられる税金を一足早く納めよう

かと思いまして。

こういうのは早いに越したことはないかなぁと。

新しい執行官様の覚えを愛でたくして

おこうかなぁ、なんて・・・ハハハハハ。」

 

コッツがとっさに、それらしい理由を

繕ってくれた。

うん、それっぽい。

 

「ほう、そのような政府の内情、どこで

聞きつけたのか知らんが・・・。

まぁ、その心掛けはなかなかよろしい。」

 

(・・・チョルルカ様が行方不明!?

新しい上級執行官が間もなく着任だとぉ!?

このような内部機密、一般の民がこんなに

早く知る由もない。

間違いないな、此奴らが義勇軍と冒険王一味!)

 

「よし、君達。

たしかに大聖堂にはまもなく新しい上級執行官

が着任される。

次の執行官候補は2名おられてな、ここから

西に向かった先にキュウエル西砦がある。

そこに候補者のお方がおられる。

どうしても用件があるというのなら

西の砦へ向かうがいいだろう。」

 

「ありがとうございます、お役人さま。

それともう1つ、質問が。

星屑サーカス団の行方を知りませんか?

私達、あのサーカス団の大ファンでして。

この地方に向かったという風の噂を

耳にしたもんですから。」

 

(!!星屑魔法団の行方を探しているっ!

間違いなく此奴らが義勇軍!

はっはっは!ズデーロン様、全て手筈

通りですぞ!)

 

「星屑サーカス団か、ちょうど良いぞ君達。

彼らならキュウエル西砦に向かった。

その、執行官候補様に面会にな。」

 

「おぉ、これはラッキーだ。

わかりました、ありがとうございます。

それでは我等はこれにて。

失礼いたします。」

 

(ふん、納税にサーカス団の大ファンだぁ?

よくも抜け抜けと嘘八百を並べたものよ。

しかし全て予定通りだ。

これで此奴らはアッガラー様の元へ向かう。

そこで此奴らはアッガラー様を倒し

次にズデーロン様が此奴らを倒す。

晴れて我らズデーロン派がこの地を

治めるという寸法よ。

しかし・・・あのような年端もゆかぬ

若者達が義勇軍の中核、そして冒険王とは。

いささか信じ難くはあるがな。)

 

関所でアタシ達を案内してくれた魔物こそ、

例の密談合に加わっていたアクルという

通行官。

もちろんアタシ達は彼がどういう思惑で

行動しているか、裏にどのような陰謀が

働いているかなど知る由もない。

 

「今度も親切な魔物で助かったな!」

 

「もう、モガ丸!

全く懲りてないんだからっ!

たまたま親切な魔物だったから良かったものの

時と場合と魔物によっては即逮捕!

なんて事もあるんだからね!!」

 

「モガ〜申し訳ない・・・。

今度から最初の挨拶はコッツに任せるよ・・・。」

 

またも失態を犯しそうになったモガ丸を

アタシは叱責した。

 

ちょっと言いすぎかしら、

かなりしょげさせてしまった・・・(^ ^;

 

「まぁまぁリザ殿、モガ丸殿も反省してますし。

けどたしかに、魔物との無用の争いを避けるには

我等の身分は簡単には明かさないほうが

良さそうです。

特にこの辺りは大聖堂が近いこともあり、

今まで以上に警戒を強めて行動しなければ

いけないでしょう。

モガ丸殿は少しウッカリさんなところが

あるので次からは挨拶や応対は私がやります

・・・。」

 

「モガ!コッツこの野郎!

誰がウッカリさんだっ!!」

 

「え!?ひえーーーーー!

ごめんなさい!モガ丸殿、そんなつもりでは!」

 

「ピッ!ピピー!」

 

「だってヨォ、スラッピ〜!」

 

「・・・こんなやり取り、前にも見たような。

コッツも割と失言が多いのかもしれません

・・・」

 

書からオリオリが現れ、アタシにコソっと

囁いた。

確かに・・・コッツとモガ丸のこんなやり取り

前に見たかも(^ ^;

 

けど、そうね、確かにこの辺りはもう

政府の中枢、大聖堂の近くだもの。

警戒は強めなければ。

それに今から向かう砦には執行官候補が

居るという。

今度は面会だけでは済みそうにないわね。

 

多少、緩みがちなパーティーの空気を

引き締めながら、今度は厳しい戦闘に

なるだろう、という覚悟を持ちアタシ達は

キュウエル西砦へ向かった。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・アクル
キュウエルの関所を守る役人。
2名の上級執行官候補者のうち、
ズデーロンという候補者の魔物を
支持している。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード6.「上昇志向の塊」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



!!!

これはっ!!!

 

「リザ姉っ!これは・・・・

とんでもないぞっ!」

 

「突き刺さるような殺気だよっ!

お姉ちゃん、お兄ちゃんっ!!」

 

アタシ達姉弟は冒険王ガイアスの

血を色濃く受け継いでいる。

邪悪なオーラや殺気を感じ取る能力が

ここに来て開花しているの。

 

関所から西に向かって少し歩くと

その突き刺さるほどの殺気は

アタシ達姉弟の感覚を襲った。

 

「これほどの明確な殺意を、

まだ砦が見えないこんな遠くの位置まで

届かせるなんて・・・。

心して対応しなきゃいけないわ、2人とも!」

 

ジョギーとレイファンはアタシの言葉に

強く頷く。

ピエールと魔法団の行方を追ってきた

アタシ達パーティーだけれども

次期執行官候補という魔物との

対決は不可避だという事を、

その強烈な殺気から感じ取った!

 

しばらく歩き続けると砦らしき建物が

見えてきた。

もちろん砦に近づくにつれ殺気は

強くなっていく。

 

「オリオリ、コッツ、よく聞いて。

目の前の砦から異様なまでの

殺気を感じる。

おそらくその、次期執行官候補の

モノだと思う。

最初っからアタシ達を襲う気

満々だと思うわ。

念の為オリオリは宇宙王の書から出ずに

姿を隠しておいて。そのほうが安全よ。

モガ丸、スラッピ、アナタ達もすぐに

身を隠せるようにしておいてね!」

 

「モガ~、リザ!

例の、じじぃと同じ能力で

敵の気配を感じ取ってたのか!?」

 

「うん、ここに到着する随分前から

この殺気は感じられていたの。」

 

「ひえ~~~!

そ、そんなに強い殺気なのか!

わ、わかった!

いつでも隠れる用意をしとくぞっ!

な、スラッピ!!」

 

「ピっ!ピピーっ!」

 

「わかりましたっ、リザ殿!

コッツ、命に代えてもオリオリ様を

お守りいたしますっ!!」

 

「了解しました、リザさん。

しかしコッツ、気持ちは嬉しいですが

以前にも伝えた通り、自分の命も

粗末にしてはいけませんよ、

これは厳命ですっ!」

 

「はっ、これはオリオリ様、

申し訳ございませんっ!

リザ殿、私はオリオリ様の護衛を

最優先しますが、サポートできる事が

あればいつでも加勢いたしますっ!」

 

「わかった。

まずはピエールと魔法団の所在を

確認しよう。

もし居ないようだったら退却も1つの

選択肢かもしれない。

その時はアタシが指示を飛ばすわ。

じゃあ皆っ踏み込むよっ!!」

 

アタシはパーティー全員に最大限の

警戒を促し、砦に突入した。

1階部分の大広間の中央まで

一気に進む。

 

・・・中はもぬけの殻だった。

けど殺気は依然漂ったまま。

周囲を見渡したけどピエール、魔法団は

おろか政府の魔物は1体もいない。

 

「モガ~、誰もいないぞ~?

リザ、ホントにここに執行官候補の

魔物の気配を感じたのか~?」

 

モガ丸が呑気な言葉を零す。

いえ、間違いなく居るわ、

それも10や20じゃないわ!

 

「リザ姉っ、上だっ!!!」

 

広間は吹き抜けになっていて

上層階まで見渡せる構造になっていた。

その最上階のバルコニーから

アタシ達を見下ろす魔物が居た!

 

「貴様ら、何者だっ!?

ここはこのオレ様、次期執行官候補

アッガラー様の砦だ。

何をしにやってきた?」

 

そこには巨大な三日月状の刃を持つ

斧を手に握った1つ目の魔物が居た。

コイツがこの殺気の持ち主っ!

次期執行官候補アッガラーかっ!

 

「私達は次期執行官候補様に

代替わりの納税をしたく

やってまいりました。」

 

コッツがひとまず表向きの用件を

アッガラーに伝える。

アタシは周囲に魔物がいないか

注意深く神経を張り巡らせる。

 

「税金を納めにだとぉ!?

ふん、テメエらのようなガキが

政府の課税を払えるとは

思えんがな~??」

 

「いえ、それは・・・・

この通り準備できております。」

 

コッツがパーティーのありったけの

所持金をアッガラーに提示してみせる。

 

「ほぉぉ、ガキにしてはえらく

たんまり持ってるじゃねえか。

しかもオレ様を次期執行官と見越して

やってくるなんざ、なかなか見どころ

あるじゃねえか、クックックック!」

 

「ところでアッガラー様、

この場所に星屑サーカス団が

面会に来ていないでしょうか?

私達、サーカス団の大ファンなんですぅ。」

 

「あぁ?星屑サーカス団だぁ?

そんなヤツらぁ知らねえ。

ん?ま、待てよ・・・。」

 

魔法団はここには来ていない、

クッ!肩透かしかっ!

退却できるなら退却すべきかっ!?

 

「星屑サーカス団、つまり星屑魔法団の

行方を追っているって事は・・・

もしやコイツら!!

しかも、あの女のガキが手に

持っている本は。まさかっ!?」

 

(確かブルリア星の冒険王とやらは3人、

そして義勇軍の女兵士が1人付いている

と聞いている。

・・・頭数はピッタリじゃねえか!

それに宇宙王の末裔は本の中にいるって

いうじゃねえか、まさかあの本は!!??)

 

「おい!ショートヘアの女!

手に持っている本を見せてみろっ!」

 

「へっ!

こ、この本を!?

この本がどうかしましたか!?」

 

え!?コッツ!?

なんで宇宙王の書をしまってないの?

これではアタシ達の素性がバレてしまうっ!

 

「その本を前に出して開いてみせろっ!

テメエら!テメエらがまさか義勇軍と

冒険王一味じゃねえだろうなぁ!?」

 

「ぎ、義勇軍!?

さてなんのことやら・・・。

こ、この本は!

・・・わ、私、読書が趣味で!

片時も本を手放せないのが癖でして・・・!」

 

「うるせぇ!早くしやがれ!」

 

もはやこれまでかっ!?

すると宇宙王の書がコッツの前まで移動し

オリオリが現れた!

 

「いかにも。私が義勇軍総司令官オリオリです。

上級執行官候補者アッガラーよ。

我々は星屑魔法団の行方を追っています。

ここには魔法団は立ち寄っていないのですね!?」

 

コッツの取り繕いも実らずオリオリは

自ら名乗り出た。

 

「オリオリ様、申し訳ございません!

道具袋にしまっておくべきでしたが、

私にはどうしても宇宙王の書を物のように

扱うことはできませんでしたっ!」

 

あぁ、そっか、そういう事ね。

コッツに取って宇宙王の書はオリオリそのもの。

道具袋の片隅にしまい込むなんて

無理だったのね(*^^*)

 

「良いのです、コッツ。

あなたの忠誠心には叶いませんねぇ、クス。」

 

「ひゃーっはっはっは!

やっぱりな、まさかとは思ったが

テメエらが義勇軍だったか!

待ち焦がれてたぜ〜テメエらをよぉ!」

 

「質問に答えなさい!

あなたは星屑魔法団の行方を

知らないのですね!?」

 

「やかましいっ!!

オレ様に偉そうな口聞くんじゃねぇ!

星屑魔法団なんざ知るか!

テメエらを皆殺しにしてオレ様が

上級執行官になるんだっ!

カビくせぇ化石のような一族の生き残りが!

生意気にも政府に反抗したらどうなるか

思い知らせてやるわっ!

だがテメエらには感謝してるぜ、なんせ

テメエらがチョルルカ様をぶっ倒してくれた

お陰でオレ様にもチャンスが巡って来た

ってワケだっ!

テメエらには恨みはねえがここで死んで

もらうぜっ!!!」

 

「リザさん、やはりここは戦うより

他ないようです。」

 

オリオリ、きっとハラワタが

煮えくりかえりそうな思いでしょうね、

あんな侮辱を受けて・・・。

 

任しといて!

とんだ下衆野郎だわ、ある種、上級執行官に

相応しい男だわコイツ。

アタシもこんな下衆は生かしておけない、

どのみちこの男が上級執行官になってしまえば

ランペェ村やブゥヘェの町のみんな、

ミヤァロの宿のご主人達が苦しむ事になる、

今ここでその芽を摘んでおくのがベスト

だもの!

 

「出合えぃ、者共!!」

 

アッガラーが号令をかける。

すると大広間中を覆い尽くさんばかりに

魔物の大群が現れた!

 

ようやく姿を見せたわね、アッガラーの殺気に

加えて、これだけの大群がいたからこそ

異様な規模の殺気を辺りに撒き散らしてた

ってワケね。

 

「モガ〜〜〜!!

と、とんでもない大群じゃないか!

大丈夫なのか、リザ達!?」

 

そうねぇ、ちょいと数が多いわね、

こういう場合はっ!

 

「かかれーーーーー!!!!」

 

アッガラーの号令とともに魔物の大群が

一斉にアタシ達に襲いかかってきたっ!

 

「ジョギー!レイファン!!行くよ!」

 

アタシも負けじと弟達に号令をかけた。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・アッガラー
次期上級執行官候補者の魔物。
気性が荒く、口調もかなり汚い。
上級執行官の地位を得るべく、
前任者チョルルカを倒したアタシ達を
倒そうと躍起になっている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード7.「魔物社会にパワハラ横行!?」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



「リザ姉ちゃん!ジョギー兄ちゃん!

サポートするよ、オンステージ!!」

 

レイファンがアタシとジョギーを

鼓舞する舞を踊り始めた。

ジョギーの攻撃力が上がり

アタシの呪文詠唱の時間を

短縮する事ができる踊り。

 

「あばれ斬り!!」

 

「イオマータ!バギマータ!!」

 

ジョギーの剣技とアタシの攻撃呪文が

魔物の大群に向かって無差別に飛んでいく。

 

「グゥワァァア!!」

 

「うげぇぇぇ!!!」

 

魔物達の悲鳴が広間じゅうに響き渡るっ!

アタシ達は間髪入れずに攻撃を続ける。

なおも剣のスキルと攻撃呪文が

魔物達を襲う!

 

シャッ、ガシュ!!

キュィィィィン、ドゴォォォン!!!

 

剣が風を切り裂き魔物達を切り裂く音と

空気が圧縮され爆発を起こす呪文の音とが

広間じゅうに響き渡る。

ほんの30秒ほどで魔物の大群の半分が

床に転がり動かなくなった。

 

「モガ・・・す、すごい、リザ達、

どんどん強くなってるぞ・・・。」

 

「あっと言う間にあれだけの大群が半分に!

リザ殿達の強さには・・・戦闘を重ねる度に

驚かされます・・・!」

 

自分達の仲間が次々と倒されていくのを

間近で目撃した残りの魔物達には

明らかに焦燥と怯えの表情が見て取れた。

戦闘開始前まであんなに充満していた殺気も、

今は僅かにしか感じない。

 

「グヌヌヌ、おい!

テメエら、なんてザマだ!!

敵はガキが3匹だけだぞ、それでも宇宙政府の

兵士か!!このクズどもがーーー!!

死ぬ気でやらんかっ!

オレ様の昇進がかかってるんだぞっ!!!」

 

「グッ・・・く、クソォ!

お、俺たちだけじゃ全然歯が立たない・・・」

 

「コイツら、ドアヌ様やチョルルカ様を

倒したんだろ?

そんなヤツらに俺たちがかなうわけ

ないじゃないか!」

 

「アッガラー様は加勢してくれないのか??」

 

ん?

残った魔物達のうろたえや疑問の声が

聞こえてきた。

なんだコイツら、頭数ばっかりで統制が

取れてないの??

ならば!

 

「おい!!なにグチグチくっちゃべってやがる!

とっととかかりやがれぇい!!!」

 

「う、うわぁぁぁーーー!!」

 

再度アッガラーが魔物達に命令を飛ばすと

破れかぶれのように魔物達はアタシ達に

飛びかかろうとしてきた。

 

「ベギラマ!ベギラマー!!」

 

ビュゥゥゥアアアア!

ボォオオオオ!!

 

アタシは灼熱呪文を飛びかかる魔物達の

足元へ放ち牽制した。

 

「ひぃぃぃ!」

 

魔物達は燃え盛る炎の手前で立ち止まる。

 

「聞きなさい!宇宙政府の魔物達!

アンタ達とアタシ達ではlvが違いすぎるっ!

戦いを続ければアンタ達の死体の山が

大きくなるだけだっ!

アタシは無抵抗の者まで葬ろうとは思わない!

戦う意志のない者は今すぐ立ち去るがいい。

けど、それでも向かってくるというなら

容赦はしないっ!!」

 

アタシは魔物達にそう言い放つと

特大の呪文で更に威嚇射撃した。

 

「メラガイアー!!!」

 

ゴォォォォォォ、

ドォォォォォン!!!

 

砦内の壁に大火球が炸裂し、建物が激しく

揺れる!

パラパラパラと、壁のレンガの破片が

粉塵となって降り注いでくる。

 

「チッ!ガキのくせになんてパワーだ!

えっ!?」

 

アッガラーは不意にマヌケな声を漏らした。

よっぽど目の前の光景が信じられなかったんだろう。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!

こ、殺されるーーーーー!!!!」

 

残った魔物達が悲鳴を上げながら

逃げ出し始めた。

我も我も!と出口に向かって走り去っていく。

出口には逃げる魔物達が殺到し大混雑と

なっていた。

 

逃げ逸る気持ちに足が付いていかないのか

転げ回る魔物もいた。

その魔物に躓いてさらに転ぶ魔物もいる。

翼の生えた魔物は2階、3階の窓を破り

脱出するものもいた。

 

ものの1分も経たないうちに生き残っていた

魔物たちは雲散霧消してしまった。

砦内には生きている者ではアタシ達義勇軍と

アッガラー、そしてその側近らしき魔物が2体。

あとはアタシ達が倒した多くの魔物の死体の山

だけが残った。

 

よし、脅しが上手く効いたようね。

魔物といえど無用な争いはしたくない、

犠牲は最小限に抑えたいというパーティー内の

方針に沿った作戦だし、

何よりアタシ達の疲労の度合いも違うからね。

逆に怒り心頭で喚き散らしを始めたアッガラー。

 

「グヌヌヌヌ・・・・なんてザマだ・・・

たかがネズミ3匹に恐れをなして逃げ出すだとぉ!?

宇宙政府の面汚しどもめ!!」

 

「お~~~い、降りてきなさいよ~~~!

それともアンタも逃げる準備してるのかしら?

アタシ達は別にそれでも構わないけど。」

 

「な、な、な、なんだとぉ!!

ガキが俺様をコケにしやがるのか!!!

今すぐぶっ殺してやらぁぁぁぁ!!!!」

 

アタシはアッガラーをわざと怒らせるように

挑発してやった。

どうやらコイツはかなり怒りっぽい

みたいだからね、冷静さを奪ってやれば

こちらに有利だもの。

 

アッガラーは側近2体の魔物を引き連れ、

最上階のバルコニーから飛び降り、

この大広間の床に着地しこちらを凝視してきた。

分厚い仮面のようなものに覆われているので

表情は伺いしれないけれど

纏う殺気は最高潮に達している、という

カンジかしらね。

仮面の下の顔は鬼のような形相だろう。

 

「随分とナメた真似してくれやがったなぁ!

俺様をコケにしやがって・・・。

こうなったら俺様自ら殺してやらぁ!!

執行官補佐官ヨエル!ヨアキム!!

テメエらは逃げるんじゃねえぞ、

俺様のサポートをしやがれ!!!」

 

「ハッ!アッガラー様!!」

 

「全力を尽くします、アッガラー様!!」

 

補佐官ヨエルとヨアキムと呼ばれた

アッガラーの従者2人が拡がり、

戦いの陣形を取る。

 

「かかれっ!!!」

 

「でやーっ!」

 

補佐官2体がアタシ達に殴りかかってきた!

レイファンは後方に控え、アタシとジョギーが

迎え撃つ。

アタシは敵の拳をひらりと躱し、

ジョギーは盾で拳撃を受け止めた。

なおも補佐官達は拳を繰り出してくるっ!

 

アタシはそれらを全て身のこなしで

ひらりひらりと躱し続ける。

 

「おのれ!ちょこまかとっ!

目障りなヤツめっ!」

 

一向にアタシに攻撃をヒットさせる事が

できない補佐官ヨエルが苛立ちを隠せず

罵声を浴びせてきた。

 

アタシは魔道士。

放つ攻撃呪文の威力には自信があるけど

身体そのものの防御力はそれほど強くない。

代わりに敵の物理攻撃を避けるための

体捌きの修行を日々怠らない。

魔道士、賢者としては当然の嗜みよっ!

 

「クッソォ、これでもか!」

 

渾身の力を込めた一撃らしく、

ヨエルは大きくバックスウィングを取って

拳で殴りかかってきた。

当たればダメージは大きいんだろうけど

振りかぶりが大きい分、アタシとしては

避けやすい。

 

アタシは前方に向かって敵の懐に入り、

振りかぶってガラ空きになった脇付近から

飛び込み相手の後方に抜けて拳を躱した。

大きく振りかぶっている分、敵は空振りの

反動が大きくなり体勢を大きく崩す。

そこにアタシは呪文を見舞う。

 

「メラゾーマ!」

 

「ぐぉ!!」

 

メラゾーマの大火球が補佐官ヨエルの

背中に炸裂し、つんのめるように

彼は前方に吹っ飛んだ。

 

一方、ジョギーも補佐官ヨアキムに対し

優勢に戦いを進めていた。

 

ジョギーは敵の攻撃を躱すのではなく、

自ら剣撃を嵐のように繰り出し、

敵に反撃の隙を与えないという

立ち回りを展開していた。

ヨアキムは防戦一方ってワケね。

 

「うぉりゃっ!」

 

ガシュッ!!

ズザザザー!

 

ジョギーの剣撃を受け、ヨアキムもまた

後方に吹っ飛んだ。

偶然にも2体は重なるように同じ地点に

ふっ飛ばされ倒れ込む形となった。

 

「おぃおぃおぃぃぃぃ!

テメエらまで、なんだそのザマは!」

 

アッガラーが部下2体に罵声を浴びせる。

しっかしこの男、自分の部下達を

全く大事にしないわね。

敵とはいえ部下の魔物達に同情しちゃうわっ!

 

「グググ、しかしアッガラー様、

敵は3名、我らも3名です、加勢して

いただかなければ数的不利となってしまいます!」

 

「やかましいっ!

今、加勢してやるっ!

俺様に指図するなんざ100年早いわっ!!」

 

加勢してやるって・・・・。

よくわかんないけど、アッガラーにとっては

この戦いは上級執行官昇格への

チャンスなわけでしょう?

一体誰の為の戦いよ!?

この側近達は誰の為にアタシ達と戦ってると

思ってるのっ!

 

アタシは・・・なんかおかしな思考だけど、

あんまりにも理不尽なアッガラーの物言いに

敵側視点、主に補佐官視点で怒りを感じて

しまったわ。

 

と、そんな事を考えるほど、

この瞬間のアタシ達は暇じゃなかった。

アッガラーが巨大な戦斧を振りかざして

アタシ達に襲いかかってきた。

 

「ウラァァァ!!!」

 

斧は横真一文字に振り払われた。

アタシはジャンプしてその斬撃を躱し、

ジョギーは盾でガードする。

そのまま斬撃を狂ったように繰り出す

アッガラー。

しかしアタシ達には致命傷を与えられない。

 

「クッ!

なかなかやるじゃねえか!

さすがにチョルルカ達を倒してきただけの

ことはあるぜっ!」

 

戦斧を盾で受け止めたジョギーは、

そのままギリギリと盾で戦斧を

押し返そうとする。

負けじとアッガラーも戦斧で

盾ごとジョギーを押し込める。

睨み合いの状態となった時に

アッガラーが言葉を発したのだ。

 

均衡を破ったのはジョギー。

競り合いの体勢からアッガラーの土手っ腹に

蹴りを入れ敵を突き放す。

敵がよろめいた瞬間を見逃さずジョギーが

スキルを放つっ!

 

「超はやぶさ斬りっ!!」

 

シャッシャッシャーー!!!

 

目にも留まらぬ超速の剣撃が

無防備のアッガラーに炸裂したっ!

 

「グヘェェェ!!」

 

その衝撃でアッガラーは後方に

吹っ飛ぶっ!

アタシがさらに追撃をするっ!

 

「ライデインッ!!」

 

バシュッ!!

 

一筋の雷撃が上方からアッガラーに

命中した。

 

「グォォォォ!!」

 

顔を含め全身を鎧で固めている、

イコール雷撃や電撃の類が弱点だろう、

そう思ってアタシはデインの呪文を

放ったの。

思った通りアッガラーはかなりの

ダメージを負っているようだ。

 

「グヌヌヌヌ、こ、これが

ブルリア星の冒険王の強さ・・・!

こ、これほどとはっ!

クッソォ、相手はたかがガキ3匹

だというのにっ!

やいっ!ヨエルっ!ヨアキムっ!

テメエらいつまで寝てやがるっ!!

早く俺様のサポートをしやがれっ!!!」

 

「ハッ!アッガラー様!!

ただいまっ!」

 

サポート?

何か作戦を変えたわね。

 

ここまで闇雲にただ殴りかかって

斬りかかってくるだけの

一本調子だったアッガラー達の

攻撃に何か変化が起こるだろうと、

アタシの直感が作用した。

 

「ジョギー、レイファン!

気を付けて!

何か変化を加えてくるよっ!!」

 

「おぅ!」

 

「わかった、リザ姉ちゃんっ!」

 

すっくと立ち上がった2体の側近の

魔物の体が緑色の光に包まれる。

何か補助呪文かっ!?

 

「汝らの魔に抗う因子・・・

消え去れぃ!ディバインスペルッ!!」

 

2体の眼が妖しく光り、両掌から

緑色のビームが放たれアタシ達を

覆ったっ!

 

ドゥゥンッ!

 

補佐官達が唱えた呪文は、

攻撃呪文に対する耐性を下げる

デバフ呪文。

それ自体にはダメージを伴わないけど

判定が通った状態で攻撃呪文を受けると

通常状態で受けるよりもダメージが

大きくなる、っていう呪文。

 

マズイ!

コイツら魔法を得意とする魔物だったか!?

 

「へへへ、でかしたぞヨエル、ヨアキムッ!

喰らえネズミどもっ!メラストームッ!!!」

 

間髪入れずにアッガラーが攻撃呪文を

唱えた。

乱発性のメラ系呪文がアタシ達を襲うっ!

 

ボウッ!ボウッ!ボウッ!ボウッ!!

 

中ぐらいの火球が4発生まれ

無差別にアタシ達全員に命中したっ!

 

「アウッ!!」

 

「グワァァァ!!!」

 

「キャーーー!!!」

 

呪文耐性が下がっている分、ダメージが

大きいっ!!

 

クッ!

部下が呪文耐性を下げ、ボスが攻撃呪文を

放つ、なかなか理に適った連携で

攻撃してきたわねっ!

 

「さすが次期上級執行官候補者ね!

見事なコンビプレーだわ。」

 

今度はアタシ達が言わされてしまった。

うぅぅ、それにしても痛い・・・。

回復しなくてはっ!

 

「女神エイルよ、

皆の傷を癒やし給う、ベホマラーッ!」

 

レイファンが高難易度の回復呪文を

唱えてくれた。

炎で負った火傷がみるみる治っていく。

 

「助かったっ!ありがとうレイファンッ!!」

 

「うんっ!けど姉ちゃんっ!

私もメラストームを食らっちゃったから

オンステージが止まっちゃったっ!!」

 

味方を鼓舞する舞オンステージは

敵から何らかの攻撃を受けると

効力が切れてしまうという弱点がある。

攻撃を受けるということは

ダメージを負うわけだから

踊れないという、まぁ至極当然な

ことなんだけど。

 

「わかった、仕方ない。

けど回復呪文はいつでも使えるように

準備しててっ!

まだどんな攻撃を隠し持ってるか

わからないわっ!」

 

「うんっ!!」

 

依然、アタシ達の呪文耐性は

下がったまま。

ここは・・・!

 

「レイファン、アタシに続いてっ!

姉ちゃんと同じ呪文を唱えてっ!!」

 

「わかったっ!」

 

「主よ、ミトラ神よ、ご加護を持って

魔に抗う力を与え給う、マジックバリア!!」

 

「マジックバリア!!」

 

ギュイイン!ギュイイインッ!!

 

アタシとレイファンは下がってしまった

呪文耐性を戻すべくバフ呪文を唱えた。

同じ呪文を2人で唱えた分、

耐性を戻した上でさらに上げる事に

成功した。

これで攻撃呪文の脅威は薄れたっ!

 

「なんだとぉ!?

チッ!生意気なっ!メラストームッ!!」

 

ボウッボウッボウッボウッ!

 

再びメラの呪文を乱発してきた。

けど明らかにさっきよりは

ダメージが小さいっ!

差は歴然。

 

「エビルデインッ!」

 

アタシは反撃に出た。

さっきよりも上級のデイン呪文を

アッガラー目掛けて放つ!

 

「グォォォォォォッ!!」

 

アッガラーの片膝が床に着いた。

 

「ウググググ、く、くっそぉ・・・。

こ、ことごとく俺様の攻撃を縮小化し

逆に俺様の弱点を突いてきゃがる、

コイツら、戦い慣れてやがる・・・!

補佐官ども!き、貴様ら何をしている・・・!?

お、俺様を守りやがれ、玉砕してでもなぁ!!」

 

「は・・・わ、わかりました。」

 

補佐官達は、アタシ達にかなわない事を

もう自覚していながらも上官の命令に

背くことはできないんだろう、

悲壮な面持ちのままアタシ達に

突進してきた。

 

「ク、クソォッ!」

 

「ヤァァァァッ!!」

 

アタシ達は補佐官達の拳撃をいなす。

彼らの攻撃ではもはやアタシ達に

大きなダメージを与えることはできない。

 

「ゼェゼェゼェ・・・・・

お、おのれ~~冒険王め~~~、

オ、俺様をここまで追い詰めるとは

・・・、俺様をここまで

怒らせるとはなぁぁぁぁ!

ウォォォォォォォォォ!!!!!」

 

ムッ!?

邪悪なオーラ!?

しかもこの巨大さは!?

 

「ウォォォォォォォ・・・・・!!!」

 

ズババババババ

 

アッガラーのほうを見やると

彼の体が凄まじいオーラに

包まれているっ!

全てのパワーを集中させている!?

 

まずい、窮地に追い込まれて

とんでもないスキルを使おうと

しているのか!?

 

「これでも喰らいやがれっ!!

『星域の崩壊』!!!!!」

 

キュィィィィイイイイン・・・・

ドガァァァァァァァァン!!!!

 

 

「キャアアアアアアアッ!!!」

 

「グワァァァアアアアッ!!!」

 

「キャアアアアアアアッ!!!」

 

「ウギャアアアアアアッ!!!」

 

「グハッァァァァァァァ!!!」

 

 

突然、岩石のようなものが

無数に飛んできてアタシ達を

直撃した!

 

味方だけでなく、アタシ達と

組み合っていた2体の補佐官

をも巻き込んで・・・。

 

「リ、リザーーーーー!!!」

 

「ピピーーーーーー!!!」

 

「リザさんっ!!!」

 

「リザ殿ーーーーー!!」

 

モ、モガ丸・・・スラッピ・・・・

オリオリ、コッツの声が遠くから聞こえる・・・。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・アッガラー
次期上級執行官候補者の魔物。
気性が荒く、口調もかなり汚い。
上級執行官の地位を得るべく、
前任者チョルルカを倒したアタシ達を
倒そうと躍起になっている。
その見た目とは裏腹に呪文を得意とする
戦闘スタイル。
特に部下のサポートとの連携は完成された
素晴らしいもの。
さらにキラースキルとして『星域の崩壊』
という特大スキルを駆使する。

・執行官補佐官ヨエル・ヨアキム
アッガラーの戦闘に於ける直属の部下。
補助呪文『ディバインスペル』を得意とし、
上官の呪文攻撃をサポートする。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード8.「ゲス執行官の見本のような男」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



「モガ~~~、リ、リザ達がやられた?」

 

「ピーーー!!!」

 

「リ、リザさん・・・コッツ!

私のことは構いせませんっ、

加勢をっ!!!」

 

「ハッ!

そうだ、まだ諦めてはいけない!

私にできる事、それはっ!」

 

星域の崩壊・・・スキル大全図鑑で

よ、読んだ事が・・・ある・・・・。

相手の・・・体力の・・・約9割に・・・

相当するダメージを・・・与える技!

こ・・・こんな大技を・・・隠し持って

・・・いたとは!

ふ、不覚っ!!

 

「フ、フフフフフ・・・・

ハーッハッハッハッハーーー!!!

ざまぁみろ、一気に形勢逆転だっ!!

ネズミごときが俺様に勝とうなんざ

100年早いぜっ!!」

 

・・・きゅ、9割相当という事は・・・

そ、即死には至らないけれど・・・

次の攻撃を・・・受ければ間違いなく

死んでしまう・・・!

アッガラーが勝ち誇った高笑いを

するのも無理はない・・・。

絶対絶命・・・!

 

「・・・とはいえ俺様も相当な

ダメージを負わされた・・・。

容赦はしねえ!

即刻殺してやるっ!!

まずはちょこまかと回復行動を取る

貴様からだ!」

 

!!

レ、レイファンが狙われている・・・!

まず回復役を殺して確実に

アタシ達を全滅させるつもりだ・・・。

く、アタシがか、回復呪文を

レイファンに・・・!

 

「ベ、ベホイ・・・・。」

 

ダメだ、こ、声が掠れて呪文を

詠唱できない・・・!

し、しかもレイファンは気絶しているっ!

 

「へへへへ・・・・手こずらせたな、

死にやがれっ!メラゾーマッッ!!!」

 

アッガラーの掌から大火球が発生し

レイファン目掛けて飛んでいく・・・!

あああ・・・・。

 

妹がやられる・・・そう覚悟した刹那、

物陰から何かが飛び出し

迫りくるメラゾーマの火球とレイファンとの

間に割って入った!

 

「レイファン殿ッ!

私がお護りいたしますっ!!」

 

ドゴォォォォォン!!!

 

「な、なんだとぉぉぉぉ!?」

 

アッガラーが驚愕の声を上げる。

 

「グッ、なんのこれしきっ!!」

 

レイファンの前に立ち塞がったのは

なんとコッツだった!

 

「コ、コッツ・・・!」

 

「リザ殿、何かあれば私も加勢すると

申し上げましたでしょ?

私ではリザ殿達の足手まといにしか

なりませんが盾になるぐらいは

できますっ!

ささっ、これを飲んでくださいっ!」

 

そうか、戦友の盾っ!

コッツは味方を庇うというスキルで

レイファンを救ってくれたのねっ!

そしてコッツがアタシに向かって

小瓶を投げてきた。

 

これは!?アモールの水!

ありがたい、多少でも回復できるっ!

アタシは激痛に耐えながらなんとか

瓶の蓋を開け中身を飲み干した。

 

ポワ~~~ン

 

怪我の具合と体力の消耗が

僅かながら回復したっ!

しめたっ!これで回復呪文を

詠唱できるっ!

 

「女神エイルよ、我の愛しき友人の

傷を癒やし給う・・・ベホイム!!」

 

アタシは真っ先にレイファンに向かって

超回復の呪文を詠唱した。

 

パァァァァッ!

 

強い緑色の光がレイファンを

包み込むっ!

 

「う、う~~~ん・・・。

ハッ!わ、私!アッガラーに

やられて!?」

 

よかった、無事だった!

これでレイファンは全快っ!

 

「レイファンッ!

ベホイムを施したわっ!

急いでベホマラーをっ!

ジョギーとアタシが危険領域なのっ!」

 

「え!?あ、うんっ!!

わかったっ!!!

・・・・皆の傷を癒やし給う、

ベホマラー!!!」

 

緑色の光がアタシ、ジョギー、

そしてコッツにも降り注ぎ

傷を癒やしていく。

よしっ!

これで全滅の危機は去ったっ!!

 

「コッツ、貴女が私を護って

くれたんだね、ありがとうっ!」

 

「いえ、レイファン殿の危機を

救うことができ、このコッツ

光栄でございますっ!」

 

コッツが勇気を出して

戦闘フィールドに飛び出してくれた

おかげでアタシ達は絶体絶命の

戦況から脱することができた。

 

「チィィッ!!

しまった、そういえば義勇軍の

女兵士もいるんだった・・・!」

 

アッガラーが盛大な舌打ちをする。

 

「かくなる上はっ!

もう一度『星域の崩壊』を

見舞ってやるっ!!」

 

まずい、もう一度アレを喰らえば

今度こそ全滅・・・。

勝負を急がなければっ!

 

その時・・・巻き添えを喰って

倒れていた補佐官2体が

死力を振り絞って立ち上がろう

としていたっ!

しかし彼らもまた甚大なダメージを

負っていたので完全に立ち上がる事は

できずに片膝をついて座るのが

精一杯といった様子だった。

 

「はぁはぁ、ぜぃぜぃぜぃ・・・・。

ア、アッガラー様!

なぜゆえ我らまで・・・巻き添えに?」

 

「あ?ああ、悪ぃ悪ぃ。

予想以上に冒険王達が強いもんだからよぉ。

貴様らを捨て駒に使わないと

勝てねぇと思ったんだ。

貴様らと組み合ってるあの瞬間こそが

ベストタイミングだったってワケだ。」

 

!!

このゲス、なんて事を!

 

「まぁ、どのみち貴様らじゃ

冒険王達に倒されてただろうからよぉ、

だったら俺様の捨て石として

使われたほうがマシじゃねえか、

有効活用ってヤツよ。

俺様が勝てば貴様らの死も無駄じゃなくなる、

英霊様ってヤツだ。

悪いが俺様の昇進の為だと思って

許してくれよ、な!」

 

ムギギギギギ、なんて自己中なの!

さんざんこき使った挙げ句

自分の身かわいさのあまり

敵ごと攻撃するなんてっ!!

こんなムカつくヤツは

今まで見たことがないっ!!!

 

アタシは胸クソ悪すぎるアッガラーの

言葉に怒りが頂点に達してしまった!

 

「グ、ググググ・・・・

アッガラー様ぁ・・・あまりにも

むごすきます・・・・。

アナタが上級執行官にさえ・・・

なる事ができたら・・・

今までの理不尽な扱いに耐えてきた

我らも報われると思い・・・

お仕えしてきましたのに・・・・。」

 

「ふんっ部下が上官の命令に従うのに

報われるだの思いだの関係ねえだろ、

当たり前のことだ、

それに貴様らの代わりなどいくらでも

おるわっ!

要は俺様さえ生きていれば

あとはどうとでもなるのよ、

ヒャーッハッハッハ!!」

 

「グッグゥゥ~~~・・・。」

 

な、涙!?

悔し涙か?

補佐官ヨエルとヨアキムは、

これ以上ない侮蔑の言葉を浴びせられ

怒りの感情を表すのかと思いきや

意外にも涙を見せた。

 

魔物が涙を見せるのを

アタシは初めて見たかもしれない。

 

「さぁ!冒険王達!!

手こずらせてくれたが、

そろそろ終わりにしようや。

少しばかり回復したようだが

全快ってワケじゃねえだろう、

あれだけのダメージを受けたと

あっちゃあなぁ!」

 

・・・・これ以上コイツの声を

聞きたくない。

 

「リザ姉、オレ、これ以上

コイツの話を聞きたくないよ・・・。

ウラァァァァッ!!!」

 

ボッ、バシューーーー!!!

 

!!ジョギーが怒った!

彼もアッガラーの耳が腐るような

話に嫌気が差したようね・・・

無理もない・・・。

 

「姉ちゃん、兄ちゃん、

もう一度さっきのヤツを喰らったら

かなりキツいよ、一気にトドメを

刺そうよっ!それっ!!」

 

レイファンがアタシ達に指示を出す。

そして手に持った扇を掲げたっ!

 

「こだまする光撃を我が兄ジョギーにっ!」

 

扇から黄金色の光の塊が発生し、

それがジョギーの体へと移動し、

彼の全身が黄金色に輝く!

 

それは、黄金色の光を纏った者が

次に放つスキル(剣技に限らず物理攻撃)や

攻撃呪文がこだまし、2回連続で発動する

という不思議な、それでいて最強の

サポートスキル。

レイファンが最も得意とするサポートスキル。

 

「ジョギー、コンボよ、アタシが呪文で

攻撃するからアナタはそれに続いてっ!!」

 

「・・・わかった。」

 

怒りの中にもジョギーは静かに答えた。

これから放つスキルに集中しているんだろう。

 

「姉ちゃん、私もスキル撃つっ!!

1発ぶん殴ってやらないと

気が済まないもんっ!!!」

 

レイファンもっ!

そうね、全員でやっつけよう!

 

「何をコソコソやってやがるっ!

無駄なことをっ!!

今すぐ殺されるっていうのによぉっ!!」

 

ズババババババ

 

アッガラーが先程のように

邪悪なオーラを纏い始めたっ!!

『星域の崩壊』が飛んでくるっ!!!

 

「コッツ、アレを戦友の盾で

受けるのは危険だわっ!

ありがとう、後はアタシ達で

始末する、アナタは下がっててっ!!」

 

「りょ、了解しましたっ!」

 

コッツが後方に移動したのを見届け、

アタシ達は総攻撃の準備をするっ!

けど・・・一瞬のタイミングの差で

アッガラーのほうが先に動き出したっ!

 

キュィィィィイイイイン・・・

ドガァァァァァァァァン!!!

 

!!!

しまった!!

やられたっ!!!

 

「ウォォォォォ!!!」

 

『星域の崩壊』がアタシ達の攻撃より

先に発動してしまった。

アタシとレイファンはとっさに盾を

掲げた。

直撃よりは被ダメを抑えられるだろうと。

 

するとジョギーだけは盾を構えず

アタシ達の前に立ち塞がり、

なんと無数の岩石を全て弾き飛ばしたっ!!

打ち払いかっ!!!

 

ガキィン!!

ガキィン!!!

ガキィーーンッ!!!!

 

す、凄い・・・。

これは怒りの為せる技か!?

ジョギーの怒りは相当のものだって事ね。

 

「な、なんだとぉ!?

俺様の攻撃、全て弾き飛ばしただとぉ!!??」

 

自信満々のスキルが無力化された事で

アッガラーは動揺した。

その隙をアタシは見逃さないっ!!!

 

「今よ、撃てぇぇぇっ!!!」

 

「希望の舞っ!」

 

バシィッ!

 

「ギガデインッ!!&ジゴフラッシュ!!!」

 

バチィ!!バチバチバチィッ!!!

 

「ウォォォ!!!新奥義っ!!!

ギガクラーーーーッシュ!!!!!」

 

ジョギーが剣を掲げると空間に紋章が

浮かび上がったっ!!

それはかつて闇の大魔王を倒したという

伝説の勇者ロトの紋章っ!!

 

バチバチバチッ・・・

ズザァァァァァァ!!!!

 

ジョギーが剣を振りかざしたっ!

 

「ぐぉぉぉ、コイツら強すぎる!!」

 

アタシの攻撃呪文を受けた時点で

瀕死のハズだったアッガラーは

せめてもの抵抗をと、戦斧でジョギーの

剣を受け止めようと試みたっ!

 

ガキィィィィン!!!!

 

戦斧の刃は真っ二つに折れ

ジョギーの剣が炸裂したっ!!!!

 

「ウゴォォォォォォァァアアアア!!!!」

 

ギガクラッシュと呼ばれた剣撃は

さらにこだまするっ!

 

バチバチバチ・・・

ズザァァァァァァ!!!

ダガガガガッ!!!!

 

2発目はジョギーの怒りの感情が

スキルに乗り移ったのか

会心の一撃となりアッガラーに

炸裂したっ!

 

ゴォォォォォン!!

 

アタシ達全員の凄まじいコンボ攻撃を

その体に全て受け、アッガラーは

後方の壁まで吹っ飛び激しく

叩きつけられたっ!!!

 

・・・勝った!

アッガラーは断末魔を上げることすら

できないほどダメージを受け、

その場に倒れ込んだ。

 

「す、凄いわねジョギー。

あんな技初めて見たわ。」

 

「あぁ、スキル大全図鑑の新しい枠が

最近浮かび上がってて、そこに書いてた

スキルなんだ。

それから密かに修行を続けて会得したんだ。」

 

そうだったの。

なんとも!頼もしい弟だわ。

アタシも負けてられないわね。

 

「グヌヌヌ・・・・お、おのれ~~~!

こ、この俺様が・・・こんなヤツらに

・・・!」

 

アッガラーはまだ息があった!

けど、もう虫の息、放っておいても

息絶えるだろう。

 

と。

倒れていた2体の補佐官達が

ムクリと立ち上がった。

しかし彼らもまた絶命寸前だろう。

 

「まだ抵抗する気?ならばっ!」

 

アタシは補佐官達に向かって

杖を掲げた。

 

「ふ、ふはははは!

で、でかしたぞお前たち・・・!

せめて死ぬ前に一矢報いてやれぃ!!」

 

アッガラーは・・・部下達に

アタシ達を攻撃するよう命じた。

・・・厚かましいにも程があるでしょ!

 

仕方ない。

向かってくるというなら

トドメを刺すしかない。

せめて早く楽に・・・。

 

補佐官達は先程ジョギーが真っ二つに

割ったアッガラーの戦斧の破片を

それぞれ拾った。

それでアタシ達を?

 

すると2体の補佐官は踵を返し

なんとアッガラーの体に

その刃を突き立てたっ!!!

 

グサッ!!!

 

「ウギャアアアア!!!」

 

アッガラーの刺し傷から

体液が噴水のように吹き出した!

 

「き、き、きっさまら~~~~!

ち、血迷ったか!?」

 

「・・・血迷った!?

クックックック、ア、アッガラー様、

わ、我らは・・・い、いたって・・・

冷静でございます・・・。

こ、このまま・・・・アナタ様によって

殺されたのでは・・・わ、我らまず間違いなく

怨霊と化し・・・永遠にこの世を

さ、彷徨う事に・・・なっていたでしょう。

・・・せ、せめてう、恨みを晴らし・・・

その後、地獄へ堕ちたほうが・・・

よっぽど納得できる・・・というものです、

のぉ・・・ヨアキム。」

 

「・・・アナタ様は・・・今まで部下を

・・・・捨て石として使いすぎた・・・。

我ら・・・側近としてその悪行を・・・

いくつも側で見てきた・・・。

まさか我らまで・・・・!

そのような扱いを受けるとは・・・

微塵も考えませなんだがね・・・。」

 

「クッ・・・み、惨めだぜ・・・

上級・・・執行官になる・・・はずだった

こ、この俺様が・・・・無念・・・・

グフッ!」

 

・・・自業自得・・・。

その言葉しか思い浮かばない。

 

「あ、アンタ達・・・

待ってなさい、今回復呪文をっ!」

 

アタシは、この補佐官達に

同情してしまった。

今なら回復呪文が間に合うかもしれない。

しかし、この同情は彼らにとって

非常に礼を失するものだった。

 

「情けは無用っ!

上官を殺した上に敵からの情けを受け

生き延びるなど・・・生き恥を晒すだけ。

死ぬより苦痛よっ!」

 

そう言って補佐官ヨエルはアタシを

制止した。

その次の瞬間。

 

グサッ!

グサッ!!

 

なんと!

お互い手に握った斧の破片で

お互いの首を刺してしまったのっ!!!

2体は首から体液の噴水を上げながら

その場に崩れ落ち、動かなくなった。

 

「・・・フッ・・・こ、これで思い残す・・・

ことなく・・・死ねる・・・・グフ!」

 

「・・・あ、あぁ・・・じ、地獄で逢おうぜ

・・・ヨエル・・・グフ!」

 

あまりの衝撃に・・・・

その場にいる全員が言葉を失った・・・!




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・アッガラー
次期上級執行官候補者の魔物。
気性が荒く、口調もかなり汚い。
上級執行官の地位を得るべく、
前任者チョルルカを倒したアタシ達を
倒そうと躍起になっている。
その見た目とは裏腹に呪文を得意とする
戦闘スタイル。
特に部下のサポートとの連携は完成された
素晴らしいもの。
さらにキラースキルとして『星域の崩壊』
という特大スキルを駆使する。

・執行官補佐官ヨエル・ヨアキム
アッガラーの戦闘に於ける直属の部下。
補助呪文『ディバインスペル』を得意とし、
上官の呪文攻撃をサポートする。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード9.「恐怖による抑圧の結末」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



「あわわわ、どうなってるんだ!?

お互いがお互いを・・・殺しちゃったぞ!?

モガガガ!なんでーーー!?

なんでそうなっちゃうんだーーー!」

 

しばし沈黙が続き・・・

ようやくモガ丸が口を開いた。

 

あまりに。

壮絶な最期・・・!

この補佐官達は・・・きっとケジメを

つけたかったんだろう。

 

上官に見捨てられた自分たちの悔しさに。

上官に手をかけてしまった自分たちの

罪深さに・・・。

 

自らの命より死に方、いや生き方か。

そっちを重んじた。

補佐官達の方がアッガラーよりも

よっぽど武人だったわね。

 

ただ、仕えた上官がゲスだった。

それがこの者達の不幸だった。

 

もちろん、だからといってアタシ達が

手を抜いてアッガラーに敗れるなどという

選択肢はあり得なかった。

けれど。

ただただ普通に、上官と部下として

アタシ達と戦い共に死んだ方がよっぽど

幸せだったでしょう。

そうすれば上官の裏切りを目撃することも

なかっただろうに。

 

今はただ、この補佐官達の魂が

迷わず天に召される事を祈りたい。

アタシ達には、それぐらいの事しかできない。

 

「・・・リザさん達、見事でした。

上級執行官候補者を倒した事で・・・

この地方の一般の人々が苦しむかもしれない

という可能性を潰す事ができました。」

 

書からオリオリが現れ、アタシ達を

労ってくれた。

そうね、そう思うようにしよう。

でないと、あまりにも後味が悪い。

 

アッガラー・・・少しでも部下を

信頼することを知っていれば。

協力して戦えば。

アタシ達はもっと苦戦していたかも

しれない。

アナタの敗因はアナタ自身だった。

部下を使い捨てのモノ扱いに

してしまったのが敗因。

 

これって・・・。

宇宙政府と支配される星々の

民衆達との縮図かもしれないわ。

 

恐怖と力で押さえつけ、

一時は従うけれど・・・・

それは心から従ってるワケ

じゃあないの。

何かのきっかけで下位の者が団結し、

上位の者に抵抗することもある。

 

アッガラーと補佐官達に起こった

今回の出来事。

第三者のアタシ達からすれば

実にやりきれない、それでいて壮絶な

結末だった。

 

けど、この出来事にアタシ達を

当てはめてみるならば・・・

縮図と考えるなら。

これから義勇軍・・・下位の者が

宇宙政府・・・上位の者へ反旗を翻す

事には・・・壮絶な出来事が伴う、

とも考えられるわね。

 

「・・・ここには魔法団とピエールは

いませんでした。

たしか関所の役人は『執行官候補者は

2名いる』と言っていましたね。

魔法団とピエールはもう1人の候補者に

面会しているのかもしれません。」

 

「よぉし!関所に戻ってもう1人いる

という候補者の居場所を教えてもらおうっ!」

 

「あ、モガ丸殿・・・あの~・・・その・・・

役人への対応はわ、私がやりますので・・・。」

 

「モガ!コッツ!この野郎、またオイラの事

ウッカリさんて言ったな・・・ん?

あれ?言ってないか・・・ハハハハ・・・

ご、ごめんよ~。」

 

・・・まぁ、言外に言ってるような

もんだけどね(^_^;

 

「それにしてもコッツ!

ナイスタイミングだったな、

レイファンを助けた時!」

 

そうっ!

あの時コッツが助けてくれなければ

アタシ達やられていたわ!

 

「いえ、滅相もない!

私は3番隊隊長という立場でありながら

戦闘の殆どをリザ殿たちに任せて

しまっているという事に

責任を感じてますっ!

あ、いえ、リザ殿達の強さを

考えれば当然なのですがっ!

けど何かお役に立てることは

ないかと、おこがましくも

常々考えております。

此度、リザ殿達の戦いに貢献

できたのなら、これほど光栄な

事はございませんっ!」

 

ありがとう、コッツ!

アナタも戦闘に加わってくれるのなら

これほど心強い事はないわ。

 

「うぅぅぅリザ殿~~~。

そのようなお言葉・・・・

コッツ、非常に感激ですぅ・・・

うぅぅぅ・・・。」

 

え?ま、まぁまぁまぁ。

別に泣くほどの事じゃないじゃない。

 

「コッツは・・・本当に心底

リザ殿達を尊敬しているのですっ!

そのような方からのお言葉・・・

涙せずにはおられませんっ!!」

 

「まぁ、コッツ。

私よりもリザさんのほうが

大事ってワケね?クスっ」

 

オリオリが珍しく

いたずらっぽくコッツに

意地悪を言う。

 

「はっ!あ、いえ!

・・・・オリオリ様の次にリザ殿達を・・・・。」

 

「モガ~~!

コッツ、お前も割と失言が多いなっ!」

 

「え~~~~も、モガ丸殿に

言われたくないかな~・・・。」

 

「む、なんだとこの野郎!!」

 

「ピ!ピピッ!

ピピピピ、ピピピピピピ、ピピピピ!」

 

「え?なんだってスラッピ、

確かにオイラにウッカリさんって

言われるなんて誰だってイヤだろうって?

なーーー!なんだよスラッピまで!」

 

さて、場が和んできたところだけども。

激戦地だったここ西砦。

アタシ達は砦に向かって手を合わせ

黙祷を捧げた。

 

そして・・・もう1人の候補者か・・・。

どんなヤツか知らないけど今度もまた

戦う事になるのかしら?

だとしたら厳しい戦いになりそうね。

 

色々と思うところがあった今回の戦い。

けれど。

それらを深く検証する暇はなく、

次の候補者に会うべく、その所在を聞くため

アタシ達はキュウエルの関所へ向かった。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・アッガラー
次期上級執行官候補者の魔物。
気性が荒く、口調もかなり汚い。
上級執行官の地位を得るべく、
前任者チョルルカを倒したアタシ達を
倒そうと躍起になっている。
『星域の崩壊』という特大スキルを
持っていながらもそれを有効に扱えず
アタシ達に敗れる。
最期は部下の恨みを買いトドメを
刺された。

・執行官補佐官ヨエル・ヨアキム
アッガラーの戦闘に於ける直属の部下2体。
補助呪文『ディバインスペル』を得意とし、
上官の呪文攻撃をサポートする。
日頃からアッガラーにパワハラを受けていたが
彼が上級執行官になれば報われる、という
思いで仕えていた。
しかしアタシ達との戦闘中、捨て石にされた事で
とうとう上官に反旗を翻した。
最期は上官への反逆罪のケジメをつけるべく
お互いの首を刺し2体揃って絶命した。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード10.「首謀者」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



アタシ達は思った以上に疲弊していた。

傷と体力の消耗は回復呪文でなんとか

解消できていたけど。

疲労感だけはどうにもならないの。

疲労感はメンタルからも作用している。

あんな衝撃的な結末だったからね、

メンタル最悪(+_+)

野営が続いてるのも疲労感が抜けない

一因になっていた。

 

「ほら、リザっ!」

 

モガ丸がアタシに乾パンを投げてきた。

 

「腹ペコじゃあ、この先の戦いは

持たないぞ!食べろよ。」

 

ミャアロの主人がくれた保存食を

アタシ達は少しずつ分け合って空腹を

誤魔化していた。

今、アタシ達は東砦に向かっている。

その道中、野営を張って僅かな休息を

取っていたの。

その・・・昨日の事。

 

*************************************

「おぉ!君達、またやって来たのか。

で、どうだい、執行官候補者様には

面会できたかい?」

 

キュウエルの関所を再び訪れたアタシ達。

この関所を守る役人が問いかけてきた。

 

「はぁ、それが・・・。

執行官候補者アッガラー様はご不在だったらしく

面会はかないませんでした。

そしてサーカス団もいないようでした。」

 

コッツがこの役人との対応をこなす。

またまた、それっぽい理由を取り繕って、ね。

 

(此奴ら、戻ってきたっ!

それに今!

此奴ら、西砦の候補者の名を口にしおった!

ワシは此奴らの前で執行官候補者の名は

ただの1度も口にしておらぬ!

アッガラーという名を口にした事実こそが、

アッガラー様と接触したという何よりの証拠!

そしてあれだけ執行官の地位に

執着されていたお方。

此奴らとの戦いがなかったとは考えられん!

つまり!

不可避だったアッガラー様との戦い。

それを制したからこそ、今この関所を

此奴らは生きて訪れている、というわけだ!)

 

「そうであったか。

何しろご多忙の身ゆえお出かけだったのかも

知れぬ、無駄足を踏ませて申し訳なかったのぉ。」

 

「あ、いえ!とんでもございません。

それでお役人様、上級執行官候補者というのは

2名おられると仰ってられましたよね?

アッガラー様がご不在でしたので、

もしかしてサーカス団ももう1人のお方の

ほうに向かったのかなぁ、と。

あと納税のほうもそちらで済ませようかと

思い、面会願おうかと思いまして。

そのお方の在わす場所を教えていただけませんか?」

 

「うむ、それがよかろう。

そのお方は、今度は逆に此処から

東に向かった先のキュウエル東砦に

いらっしゃる。

実を申すとな、ワシはそのお方こそ

次期執行官に相応しいお方だと思っている。

人格、実力共に兼ね備えた素晴らしいお方だ。

君達、覚えを愛でたくするなら、

東砦の候補者様のほうが断然いいと思うぞ!」

 

へぇぇ、人格も実力もアッガラーより

上なのね?

魔物達に取っての人格者が、イコール

一般人に取って素晴らしいかどうか

わかんないけど、少なくともアッガラーの

ような理不尽な魔物ではなさそうね。

 

「わかりました、ありがとうございます!

では我らはこれにて。失礼いたします。」

 

(フ、グフフフフ!

これでワシの役目は完了!

あとはズデーロン様があやつらを打ち倒すのみ!

ズデーロン様、いよいよ我等の時代ですぞぉ!)

 

アタシ達が立ち去った後、この役人は

笑みをこらえ切れないといった様子だった。

 

(しかし、手筈通りとはいえあやつら、

本当にアッガラー様を退けたのか?

何度見ても、一般の若者にしか

見受けられんがのぉ。)

 

*************************************

以上が昨日の関所でのやり取り。

僅かな休息と腹ごしらえを済ませ、

いよいよ東砦へと向かう。

 

しかし妙ね。

東砦の方角からは殺気や邪悪なオーラを

感じない。

アッガラーより強いと言われるもう1人の

候補者の気配が感じられない事に

アタシは疑問を感じていた。

東砦の候補者はアタシ達を襲う気は

ないのだろうか?

 

そんなに上手くいく筈ないか・・・(._.)

 

思わず楽観的な考えが頭に浮かんでしまった

自分を戒める。

まぁ、行けばわかるわよね。

 

野営の設備を撤収し砦に向かって出発する。

太陽が真上に登るより少し前の時刻に、

山あいにある砦らしき建造物が見える地点

まで到着できた。

 

「あれか?」

 

「ピ!」

 

「みんな装備の点検を!」

 

「大丈夫だ。」

 

「私も大丈夫だよ。」

 

「オリオリ様、申し訳ございません!

しばらく窮屈な思いをさせてしまいますが

道具袋の中に書をしまいます。」

 

「気にすることはありません、コッツ。」

 

それぞれ突入の準備は整った。

とりあえずだけど、オリオリには身を隠して

もらってアッガラーの時と同じように

無血で済むならそちらを選択する旨を

全員で確認し合った。

無駄かもしんないけど。

 

「よしっ!

みんな、行くよ!」

 

意を決して砦の扉を開いた!

 

ギギギッガタンッ!

 

 

そこは西砦と同じく大広間になっていた。

吹き抜けになっており上層階をのぞむ事が

できる・・・西砦と全く同じ構造。

 

1つ異なる点は広間の中央に玉座があり

そこに1体の魔物が腰掛けていたという事。

コイツがもう1人の執行官候補者かっ!?

 

「あ、あのぉ、貴方が次の上級執行官候補者様

ですか?

私達、次の代替わりの納税をするべく

訪れた者なんです・・・。」

 

コッツが例によって表向きの用件を伝える。

 

「フッフッフ、ハッハッハッハ〜〜!

待っていましたよ、義勇軍の諸君!」

 

むっ!?

既に素性が割れているっ!?

 

「え?ぎ、義勇軍?

はて、我らは義勇軍などではございません、

一般の民で・・・。」

 

「そのような他愛のない誤魔化しは

無用ですよ、ワタクシには全てお見通しです、

義勇軍とこれに加担する冒険王諸君、

よくぞ参られた。

いかにもワタクシが次期上級執行官候補です。

ズデーロンと申します。

さぁ、お出でなさい、義勇軍総司令官オリオリよ。」

 

アッガラーとは対照的な丁寧な口調。

落ち着いた物腰。

それが逆にこの男が只者ではないということが

感じられるっ!

そして!

なぜ会った瞬間からアタシ達の素性が

バレてしまったの?

 

と。

モゾモゾ、と道具袋がひとりでに動く。

 

「誰か、道具袋の紐を解いてください!」

 

くぐもったオリオリの声が袋の中から聞こえる。

そうね、これ以上の誤魔化しは

時間の無駄のようね。

 

「オリオリ様っ!は、はい!ただ今っ!」

 

コッツが道具袋の紐を解き口を開けると

中から宇宙王の書が飛び出た。

 

「プハぁ、あ〜息苦しかった!

・・・執行官候補者ズデーロンと申しましたね、

私が義勇軍総司令官オリオリです。」

 

「これはこれはっ!

偉大な宇宙王一族の貴女にお目にかかることが

でき、非常に光栄でございます。

かようなうら若き美しい女人が反乱軍の

リーダーだったとはねぇ。」

 

「わ、私は美しくはありませんっ!

何故、我らの素性を一瞬で見抜いたのですか?」

 

「ホホッ猿芝居に付き合うつもりは

毛頭なくってねぇ。

ホラ、貴女のお強い助っ人、冒険王の彼女達。

その者達から溢れんばかりの闘気を感じます。

かなり押さえ込んではいるようですが

それでも真の強者のそれが漏れ伝わってきます。

ここに入ってきた瞬間にわかりましたよ。」

 

!!!

そんな!

確かにアタシ達は気配を押し殺していたはず。

それでも気配でアタシ達の正体を

見抜くだなんてっ!

こんな事は最初にピエールと対峙した

あの時以来だわ!

 

「虎が龍を知る、といったところでしょうかねぇ?」

 

「なるほど。

真に強き者は相手の実力もまた的確に

はかれる、というわけですね。

ところでズデーロン、星屑魔法団は

ここを訪れたのでしょうか?」

 

「フフフ、そんなに愛する夫に逢いたいですか?

しかし残念ながら魔法団の所在を知っているのは

ピエールだけです、この砦には魔法団など

来ていません。

そもそも魔法団が執行官候補者に面会する

という情報は我々の捏造です。」

 

「な、なんですって!?」

 

「ワタクシとアッガラーはねぇ、

賭けをしていたんです、『先に義勇軍を

倒した者が上級執行官の地位を手に入れる』

というねぇ。

そして魔法団の居場所を餌にそれぞれの

砦に諸君らをおびき寄せたというわけです。」

 

「モガ〜、最初からオイラ達の事を

知っていて振り回してたのか!?」

 

「居場所を餌におびき寄せる・・・

それでは関所に居たあの魔物もグルだったと

いうのですか?」

 

「えぇぇぇ!

あ、あの親切な役人がっ!?」

 

「左様です、彼はワタクシの忠実な部下

通行官アクルと言います。

諸君らが関所を訪れたなら魔法団の居場所を

餌に砦に誘導するようワタクシ達が

指示しておりました。」

 

な、なんて事!

全てコイツらの掌で転がされてた

っていうの!?

しかも何!?アタシ達を使って賭けですって!?

グヌヌヌ、人をバカにするにも程があるわっ(_ _#

 

アタシはあまりにも屈辱的なズデーロン達の

企みを聞かされ怒りが込み上げてきたっ!

 

「魔法団の情報をちらつかせ我らを誘導

・・・しかしあの通行官は先にアナタではなく

アッガラーの砦へ向かうように申しました。

これはアナタにとっては不利に働くのでは

なかったですか?

もし我々がアッガラーに敗れていれば

上級執行官の地位は彼に渡っていたのですよ?」

 

「フフフさすが義勇軍総司令官殿、

見識が高い。

しかしワタクシにはわかっておりました、

アッガラーでは諸君らには勝てぬと。

彼は素行が悪くてねぇ、大して強くもないのに

部下に威張りちらす、平気で部下を見殺しに

するなどは日常茶飯事でした。

諸君らのような強き戦士達には到底

敵わぬだろうと。」

 

むむむっ!

この男、なんという洞察力!

 

「彼の部下達の不平不満もよく耳に

していましてね、ひょっとすると最後は

部下に裏切られるんじゃあないか、とも

推察しておりました。

どうです?それらしい出来事が

起こりませんでした?

戦った諸君らならご存知かとは思いますが?」

 

まるでっ!

見てきたように言う。

アッガラーですらこの男の駒でしか

なかったの!?

 

「全てアナタの思惑通り、というワケですね。

なるほど、アッガラーも部下の扱いが

酷い男でしたがアナタはそれ以上に冷徹な

男のようです。」

 

「フフフ、なんと言われようとかまいません、

さてお喋りが過ぎました、

そろそろ始めましょう!」

 

ズデーロンが玉座から立ち上がる!

両手に大小の剣を1本ずつ握っている。

二刀流か。

大小といっても小さい方の剣でも

ジョギーの握っている剣と

同じくらいの大きさ!

大きい方にいたってはズデーロンの

身長と同じぐらいの大きさ!!

 

「リザさん達、かなり頭の切れる魔物の

ようですがよろしくお願いします!」

 

どのみち執行官候補者は全員倒さないと

一般の人々が苦しむ事になるからね。

戦いは不可避だわっ!

 

「オリオリ様、こちらへ!」

 

オリオリが書の中に戻りコッツのもとへ

移動した。

 

「皆の者、お出でなさい!!」

 

ズデーロンが号令をかけると砦の上の階層

全てのバルコニーに魔物の大群が現れたっ!

 

「モガー!!ま、また大群が現れたぞー!」

 

性懲りもなく。

さてまずはまた雑魚掃除ね。

 

「ホホホ、ご心配なく!

諸君らの相手はワタクシ1人です。

彼らには手を出させませんよ、ただワタクシが

諸君らを倒し上級執行官の座を手に入れる、

その瞬間を見届ける証人として立ち会って

もらうだけです。」

 

大した自信。

それとも、部下の手を一切借りないという

アッガラーへの当てつけかしら。

冷静沈着なふうを装ってはいるけど

かなりにプライドの塊ね。

 

「フフフ、では始めましょう!」

 

ズデーロンが、その両手にもった2本の剣を

構えた。

アタシ達もそれぞれ武器を構える。

 

「やっ!!」

 

猛烈なスピードでズデーロンが飛び掛かってきた!

 

「行くよ!ジョギー!レイファン!」

 

アタシ達はそれを迎え撃つ!

戦いが始まったっ!!




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・ズデーロン
次期上級執行官候補者の1人。
高圧的で口調も汚いアッガラーとは対象的に
物腰が柔らかく丁寧な口調の魔物。
かつロジカルで先見性も備えた、
かなり頭の切れる魔物でもある。
たくさんの部下の魔物を率いているが
単身でアタシ達と戦うと宣言するなど、
絶対的な自信を持っている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード11.「紅蓮十字剣」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



その巨大な剣を軽々と振りかざしながら

ズデーロンが突進してきたっ。

 

ガキィィィィン!!

 

ジョギーが自身の剣で受け止めるっ!

するとズデーロンは余ったほうの剣で

追い打ちをかけてきた。

 

「グッ!」

 

たまらずジョギーは後方に飛ばされた。

が、なんとか倒れずに踏ん張る。

そこにズデーロンがさらに追撃を

加えようと飛ぶっ!

 

「ライデインッ!」

 

追撃しようとするズデーロンに向かって

アタシは牽制の呪文を放ったっ!

 

「チッ!こしゃくなっ!」

 

ズデーロンが呪文に気を取られているスキに

ジョギーが抜け目なく反撃の一撃を放つっ!

 

ブンッ!

 

「ガッ!」

ジョギーの剣撃を受け、今度はズデーロンが

後方に飛んだッ!

ズデーロンもまた踏みとどまり、

そのまま2本の剣をクロスさせ、その場で

振り下ろす。

切られた空気が剣圧となって飛んできたっ!

速いっ!

 

「キャッ!」

 

「グッ!」

 

予想外の攻撃にアタシとジョギーは

盾を掲げる間もなくノーガードで

その剣圧を受けてしまった。

デカイ口を聞くだけのことはある。

強いわコイツっ!

 

言い訳をするわけじゃないけど、

アッガラー戦での疲れが抜けきっていない

今のアタシ達にはちょっとキツイわね、

コイツの剣術はっ!

 

「ホッホッホッ!

さすがにこれまで政府の幹部級を

軒並み倒してきただけありますね~。

素晴らしい強さですよ、冒険王達!

しかし、少しばかり動きが鈍いようです。

アッガラーとの戦いに続きワタクシとの

この1戦、さぞやお疲れが溜まっているようで

お辛そうです。

まぁ、これもワタクシの計算通りですがね。」

 

なるほど、先にアッガラーとアタシ達とを

戦わせたのはアタシ達のコンディションを

低下させるのが狙いだったのね。

そこまで計算ずくとは!

なんと用意周到で冷徹な男・・・。

 

けどそれは。

アタシ達を警戒していることの証拠、

臆病者といえるかも知れないということよ!

 

「ピオラッ!」

 

アタシはジョギーに素早さを上げる

補助呪文を施したっ!

すると。

 

ギュイイイン!

 

アタシとレイファンにも緑の光りが降り注ぎ

味方全員の素早さが上がった。

しめたっ!賢人の閃きっ!

古の大賢者の念がこもったアクセサリーに

秘められし不思議な力。

対象が1人の補助呪文の効果を

時折全員に行き渡らせるという古の大賢者の

力が発動した。

これで鈍っている動きも多少は

改善できるだろう。

 

「ジョギー!アタシが牽制するっ!

接近戦は任せたわよっ!」

 

「わかった!」

 

「メラミッ!ベギラマッ!」

 

アタシは中級呪文をズデーロンに

放つ。

ズデーロンは2本の剣でガードし、

呪文の威力を押し殺すが

火球と灼熱の呪文によって発生した炎が

ズデーロンの周囲を包むっ。

炎に意識を取られているズデーロンに

ジョギーが斬りかかるっ!

 

ブンッ!ブンッ!!

 

「グッ!」

 

ジョギーの剣撃がズデーロンにヒットするっ!

そのままジョギーは間合いを詰め

嵐のように剣撃を繰り出す。

 

ズデーロンの剣は。

2本とも大振りなので接近戦には

向いていないだろう、というジョギーの機転。

次々とジョギーはズデーロンの体に

傷を与えていく。

 

「えぇぇい!

調子に乗ってはいけませんっ!!」

 

たまらずズデーロンは2本の剣をクロスに

構えジョギーの剣を受け止めた。

ギリギリギリ、と鍔迫り合いをする2人。

 

「ダァッ!!」

 

ズデーロンが剣ごとジョギーを押し出す。

後ろによろめくジョギーにズデーロンは

追撃をかけようと2本の剣を振りかぶった。

剣圧の衝撃波を飛ばすのかっ!

突進しなかったのは接近戦は不利と

読んだのか!?

 

「ヒャダルコッ!バギマッ!」

 

振りかぶったスキにまたアタシが

呪文を命中させてジョギーを援護する。

 

「うるさい小娘さんだっ!

それっ!!」

 

ズデーロンはターゲットをアタシに変え、

剣圧による攻撃を飛ばしてきたっ!

アタシは得意の身躱しで今度はひらりと

その衝撃波を避けたっ!

ピオラが効いているっ!!

 

「なっ!衝撃波を避けただとっ!?」

 

「ドルクマッ!ジバリカッ!」

 

横っ飛びで躱しながらさらに

中級呪文を撃ち込む。

ズデーロンはガードをするっ!

あまり効き目はなさそう。

 

「ホッホッホッ!

ちょこまかとっ!

しかし、そのような小手調べの攻撃呪文では

ワタクシには目くらまし程度にしか

なりませんよっ!」

 

・・・あとはこれかしら?

 

「イオラッ!」

 

「ヌッ!?グハっ!!」

 

ガードしてるズデーロンにイオ系中級呪文を

撃ち込むと、ガードしながらもズズズと

後ずさりをした。

わずかに苦悶の声を上げたのをアタシは

聞き逃さない。

 

「ジョギーッ!援護してっ!!

本命を撃ち込むわっ!」

 

「おぅ!了解!」

 

ジョギーはアタシの意図を理解して

ズデーロンに飛びかかったっ!

剣と剣の応酬が始まった。

 

アタシはその間に特大の攻撃呪文を

詠唱する。

 

「ジョギーッ!いいよ、離れてっ!!」

 

「わかったっ!!」

 

「キエェェェェイ!!」

 

ズデーロンが繰り出してきた剣撃を

剣で受け止め、その威力を利用して

後ろにジャンプしてその場を離脱した

ジョギー。

それを確認し、アタシは呪文を放つっ!

 

「大気と炎の精霊よ、汝ら交わりて

収縮、暴発を生み出し我が敵を

討ち滅ぼせ!イオナズンッ!!」

 

キュィィィィイイイイン、

ドガァァァァァァァァン!!!

 

イオ系上級呪文がズデーロンに

炸裂したっ!

 

「グワアアアアアアッッッ!!!」

 

爆発の余波でズデーロンが宙高く舞い、

爆風が収まると床に叩きつけられた。

 

どうやらコイツの弱点属性は

イオのようね。

アタシは牽制しながらも様々な属性の

呪文を軽めに放ち、敵の反応を

伺っていたワケ。

もっとも、アタリを引くまで

時間かかっちゃったけどね

 

「ズ、ズデーロン様ぁ!」

 

「ズデーロン様!!!」

 

「ま、まさかズデーロン様が

あれほど押し込まれるとはっ!」

 

上層階のバルコニーに控える

魔物たちが一斉にズデーロンに

声を掛ける。

彼はよほど部下から信頼され、

その強さを信じて疑われてないのか、

魔物達の声には驚愕と動揺の色が

露わだった。

 

「グ、か、加勢だっ!

ズデーロン様をお護りするぞっ!!」

 

「おぅ!」

 

魔物達がバルコニーを乗り越えようと

したその瞬間。

 

「な、なりません・・・!

ア、アナタ達、ワタクシの顔に

泥を塗る気ですか・・・

か、加勢はなりませんよぉぉぉ・・・!」

 

ズデーロンは手をつき起き上がろうと

懸命に力を振り絞っていた。

そして部下の魔物達の加勢の申し出を

制止した。

 

「し、しかしズデーロン様、

このままでは負けてしまいます・・・

敵は3名、1対3では圧倒的に

不利でございます・・・・」

 

「おだまりなさいっ!!!

ならぬと申しているっ!!!

勝手に降りてきた者はワタクシが

殺して差し上げますっ!!!」

 

「うっ、そ、そんなぁ・・・。」

 

ズデーロンは頑なに部下達の加勢を

嫌った。

よっぽどプライドが高いのか、

部下を信頼していないのか。

 

「グヌヌヌヌ、ぼ、冒険王・・・!

これほどとは!!

よ、よくもワタクシを地面に

這いつくばらせましたね~~~!

ゆ、許しませんっ!!!」

 

ズババババババッ!!!

 

大ダメージを負ったはずのズデーロンが

邪悪なオーラを発し始めたっ!

どうやらここからが本領発揮のようね。

何か大きなスキルが飛んでくるっ!

 

「ジョギー、レイファン、気を付けてっ!

何か大きなスキルを使ってくるよっ!!」

 

「あぁ、みたいだな。」

 

「姉ちゃん達、傷を癒すよ、

皆の傷を癒やし給う、ベホマラー!」

 

レイファンが高等回復呪文を唱えた。

ここまでの戦いで負った傷の数々が

癒やされていく。

 

「ワタクシ最大の秘技であの世へ

送り届けてしんぜようっ!

『紅蓮の構え』!!!」

 

大小の剣を縦横にクロスさせて

邪悪なオーラを燃やすズデーロン。

 

ぐ、紅蓮の構えっ!?

たしか大全図鑑で読んだことがある、

えーとえーと、ハッ!まさかっ!!

 

「ジョギーッ!レイファンッ!!

盾を掲げてっ!ガードよっ!」

 

「わ、わかったっ!!」

 

「うんっ!!」

 

むむむっ間に合うかっ!?

 

「主よ、ミトラ神よ、ご加護を持って

天空城の如き堅牢な城壁を我らに与え給う、

スクルト!!」

 

アタシは防御力を上げる補助呪文を

即座に詠唱したっ!

 

ギュイイインッ!

 

間に合ったっ!!

・・・て事はやっぱり!?

 

「くたばりなさいっ!!

紅蓮十字剣ーーーーーーっっっ!!!!!」

 

ズデーロンの2本の剣が炎を纏い

十文字の構えのまま振り払われたっ!

 

ゴォォォォォ!!

 

ズガアアアアアアッ!!!

 

 

十文字型の炎を纏った衝撃波が

飛んできたっ!!!

 

「キャァアアアッ!!」

 

「グッ!」

 

「キャッ!」

 

スクルトを詠唱していたアタシは

ガードできずに直撃を受けて

後方にふっ飛ばされたっ!

 

ジョギーとレイファンはガードと

スクルトの効果があったので

ダメージは最小限に抑えられ

その場に留まれた。

 

「リ、リザ姉っ!!」

 

「姉ちゃんっ!!」

 

「モガー!リ、リザー!!」

 

「ピピーーーッ!!」

 

「リザ殿っ!!」

 

「リザさんっ!!!」

 

仲間達がアタシの名を呼ぶ。

 

うぅぅぅ、イタタタタ、

いった~~~い!!!

も、もの凄い威力、恐るべし

『紅蓮十字剣』・・・。

スクルトを施していなければ

アタシ死んでたかも・・・・。

 

「め、女神エイルよ、わ、我の傷を

癒やし給う・・・べ、ベホイムッ!」

 

パァァァァァッ!

 

アタシは自ら回復呪文を唱えた。

緑色の強い光りがアタシを包み、

先ほどのスキルで受けた傷が消え

ほぼ全回復に。

 

「リザッ!」

 

「ピピッ!」

 

「良かった、間に合ったみたいだ。」

 

仲間達が安堵の声を漏らす。

 

「アンタ達、大丈夫だった?」

 

「あぁ、リザ姉のスクルトのおかげで

致命傷は免れたよっ!」

 

「うん、ありがとうっ姉ちゃんっ!」

 

よし!

じゃあ反撃よ。

 

「な、なんとっ!

ワ、ワタクシの最大奥義を受けて

なお生きているだと・・・?

こ、コイツら何者だ・・・・。

ぼ、冒険王とはこれほどに

強いのか!?」

 

プライドが高く、あれほど

余裕の表情を見せていたズデーロン

にも焦燥の色が漂い始めたみたいね。

チャンスだわ。

 

「聞いて、アンタ達。

『紅蓮十字剣』は威力は凄まじいけど

弱点があるの。スキル大全図鑑で

読んだことがある。

実際受けてみて、それは本当だって

確信したわ。」

 

「ほ、本当か?リザ姉。」

 

「それを確かめるために

ガードじゃなくてバフ呪文を選択したの?」

 

「まぁね、なかなか痛い検証代

だったけど・・・・。」

 

「無茶にも程があるぜ~~~・・・・。」

 

「ホントだよ、死ぬとこだったんだよっ!」

 

弟達の呆れた声がアタシに突き刺さる。

 

「フフ、ごめんなさい。

けどいい?ここからが本題。

次にズデーロンが『紅蓮の構え』、

これを見せた時、一気に攻め込むのよ!

そこが最大のチャンス。」

 

「え?あ、ああ、そうか!

技の発動までが遅いんだな?」

 

「なるほど、確かに大技だもんね。」

 

「そう、アタシ達は構えを見てから

行動した。いわば反応が遅れてしまった。

にもかかわらず構えてからスキルが

飛んでくるまでにアンタ達のガードも

アタシのスクルトも間に合った。

それがなによりの証拠!」

 

「わかったっ!

それで行こう!」

 

アタシは『紅蓮十字剣』の攻略を

弟たちに伝えた。

怯まず勇気を持って立ち向かう事

こそが勝利への道!

 

「ちなみにヤツにはデインは

あんまり効かないと思う。

最初のライデインがほとんど

効いてなかったからね。

わかった?ジョギー。」

 

「さすがっ!

抜かりないね、リザ姉は。」

 

「だからこないだの新しいスキルは

ダメよ、無属性かイオ系でお願いね。」

 

「了解っ!」

 

「レイファンはオフェンス面での

サポートお願いね。

もうディフェンスはいらない、

さあ、終わらせようっ!」

 

勝利への方針は決まった、

あとは実行するのみ!

 

「オンステージッ!!」

 

ピュイイイイイ~♪

 

レイファンが舞う。

ジョギーには力が漲り、

アタシは呪文の詠唱を短縮化

できる踊り。

 

「ヤァァァァッ!!」

 

ジョギーがズデーロンに斬りかかる。

 

ブンブンブンッ!!

 

「グハァァッ!」

 

オンステ効果で太刀筋のスピード、

力強さが増したジョギーの剣撃。

かなりのダメージを負っている

ズデーロンは2本の剣でガードを

するが追いついて行けず

ジョギーはどんどん攻撃をヒット

させていく。

 

「超彗星剣っ!!」

 

ズザァッ!!

 

ジョギーのスキルが炸裂した。

ニヤリ、約束通り無属性スキルね!

 

「あ、あぁぁ、ズ、ズデーロン様が

どんどん劣勢に・・・!

お助けしなくていいのか・・・!?」

 

「し、しかし、御本人からの

キツイ言いつけが・・・。

助けに入ったのに御本人に

殺されるのはゴメンだぜ・・・」

 

ズデーロンが劣勢になればなるほど

魔物たちの動揺が広がっていく。

 

「おのれぇぇぇっ!!!

こぉんのクソガキがぁ!

ワタクシをこんな目に合わせて

ただで済むと思うなよぉっ!!」

 

あらら、お下品な言葉使いだこと。

追い込まれて本性が出ちゃったかしら。

 

「我慢せずに部下達に手伝ってもらえば?

部下達も加勢したくてしたくて

たまらないみたいだけど?」

 

「うるせぇぇぇぇっ!!!

この小娘ッ!調子に乗るんじゃねぇ、

いちいちイラつくんだよぉっ!」

 

「アンタの気持ち悪い

オネェ言葉のほうがイラつくけど?」

 

「ムギギギギギッ!!!

こ、殺してやるっっっっ!!!!」

 

ズババババババッ!!!!

 

来た!

邪悪なオーラを発散させ、

その身に纏い始めたズデーロン。

『紅蓮の構え』をやるつもりだ。

 

「行くよ!ジョギー、レイファン!!」

 

「おぅっ!」

 

「了解っ!」

 

アタシは弟たちに号令をかけた。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・ズデーロン
次期上級執行官候補者の1人。
高圧的で口調も汚いアッガラーとは対象的に
物腰が柔らかく丁寧な口調の魔物。
かつロジカルで先見性も備えた、
かなり頭の切れる魔物でもある。
たくさんの部下の魔物を率いているが
単身でアタシ達と戦うと宣言するなど、
絶対的な自信を持っている。
キラースキルは『紅蓮十字剣』。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード12.「候補者達の最期」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



「全身全霊の力を込めてっ!

貴様らをズタズタに切り裂いてやるっ!!

『紅蓮の構え』っ!!!」

 

ズデーロンが2本の剣を

十文字に構える。

今だっ!

 

「こだまする光撃を我が兄

ジョギーにっ!」

 

シュイィィィィン!

 

「己を極めるっ!!」

 

バシュッ!!!

 

ジョギーが怒るっ!

 

すると、構えを取ったまま

ズデーロンの双眼が妖しく

光ったっ!

 

「汝らの防壁を崩し去れっ!

ルカナンッ!!」

 

ドゥウウウンッ!

 

ルカナンッ!?

守備力ダウン補助呪文っ!

なるほど、アタシ達の被ダメを

上げようってワケね!

けどっ!

 

「グヘヘヘヘッ!

これで貴様らのダメージは

増大するぞっ!!」

 

「リザ姉っ!

デバフが通ってしまったぞっ!!

どうするっ!?」

 

「怯むなっ!

ビビったら負けるわっ!

レイファン、行けぇぇぇっ!!」

 

「わかったっ!

希望の舞っ!!」

 

バシィッ!!

 

「イオナズン&イオナズーーーンッ!!!」

 

キュィィィィイイイイン、

 

ドガァァァァァァァァン!!!

 

「奥義っ!天下無双っ!!!」

 

ガガガガガガツ!!!

 

スキルがこだまするっ!

 

ガガガガガガツ!!!

 

「こ、コイツらっ!

こっちのスキルが発動する前に

全力でこ、攻撃してきやがっ・・・

う、ウゴアアアアアアアアア!!!!」

 

『紅蓮十字剣』が発動する前に

アタシ達のフルコンボが炸裂したっ!

ズデーロンの体はズタズタになり

宙高く舞い上がり、その後地面に

打ち付けられた。

 

よしっ、勝ったっ!

ふぃ~~~、なかなか強敵だったわ。

アタシが知ってる、そしてわかりやすい

弱点を持っているスキルだったのが

勝因ね。

 

「グゴゴゴゴ・・・・ま、まさかこのワタクシが

・・・ぎ、義勇軍ごときに・・・・。

そ、それにしても・・・こっちがスキルを

繰り出そうとしている・・・し、瞬間に・・・

全力で突っ込んで来るとは・・・・

く、狂っている・・・・!」

 

「攻撃は最大の防御よ。

どんなに強いスキルでも喰らわなければ

やられない。

いくら威力が強くてもあんなに

のんびりしたスキルじゃあ、

攻撃してください、って

言ってるようなものね。

まぁ、最もアナタの敗因は仲間を

信頼せず、そのちっぽけな

プライドに固執したことかしらね、

仲間と共に戦っていれば

構えからスキル発動までの

時間稼ぎをしてくれたかも

しれないのに。」

 

「グググ・・・ち、ちくしょうっ!

上級執行官になるはずだった

ワタクシが・・・・こ、こんなところで

・・・・・。」

 

「そう、そうやって策を巡らせ過ぎて

それが上手くハマったのかも

しんないけど、もうそれでアタシ達に

勝った気でいたのも敗因ね。

策士、策に溺れる、ってヤツ?」

 

「ぐ~・・・・む、無念っ!・・・グフッ!」

 

ズデーロンは息絶えた。

よし、執行官候補は2体とも撃退。

これでこの地方に上級執行官が

当分やって来なければ一般の人々も

苦しまずに済むんだけど・・・。

 

「リ、リザーーーーっ!!

やったぞ、執行官候補を

2体ともっ!」

 

「ピピーーーッ!」

 

「それにしても本当に強敵でした、

でもリザ殿達のほうがもっとすごい

・・・あ、あんな戦い方、私では

想像もできない・・・すごすぎるっ!!」

 

「上級執行官2体に続き、

執行官候補2体も撃退っ!

確実に政府の重要ポストの魔物達を

駆逐しているっ!

政府にも大きな打撃を与えているはずっ!

リザさん達っ、素晴らしい功績ですっ!

ありがとうっ!」

 

仲間達がアタシ達の勝利を祝福してくれた。

アタシ達を使ってくだらない賭け

なんかするからよっ!

成敗してやったわっ!!

 

「ヒ、ヒィィィィ!

ズ、ズデーロン様がやられたっ!!」

 

「そんなっ!

あれだけの実力を持ったお方がっ!」

 

「お、オレは次期執行官には

ズデーロン様こそ相応しいと思い

肩入れしたというのにっ!」

 

「コイツら強すぎるっ!!」

 

ズデーロンの敗北を前に魔物たちの

動揺がどんどん大きくなっていく。

 

「ど、どうする!?

俺たちで弔い合戦をするか!?」

 

「これだけの軍勢だっ、全員で

かかれば勝てるんじゃねえか!?」

 

「し、しかし!この目で見ていたが

あの冒険王とやら・・・・つ、強すぎるぜっ!

オレぁ、魔物だろうと人間だろうと

これほど強いヤツを見たことがねえっ!

オレ達全員でもかなわねえかもっ!」

 

アタシ達に戦いを挑むか退くかで

魔物たちがざわついている。

アタシの取った行動は・・・・。

 

「メラガイアーッ!!」

 

ゴォォォォォォン!!

 

ドゴォォォォォン!!!

 

西砦の時と同じ。

威嚇射撃で脅しをかける。

 

「聞きなさいアンタ達っ!

アンタ達の大将は敗れたっ!!

ただ、アタシ達は無益な殺生は

望まないっ!

戦う意志がないのなら立ち去るがいいっ!

それでも向かってくるというのなら

容赦はしないっ!」

 

「ヒッ・・・ヒィィィィ!!!」

 

「に、逃げろっ!!!」

 

「殺されるッ!!!」

 

砦の出口に魔物の大群が殺到し

我も我もと逃げていく。

殺される、とは失礼ね。

殺すつもりはないから早く逃げなさい、

って言ってるだけなんだけど・・・。

 

ともあれ。

今度はボス以外に死者はなし。

犠牲を最小限に、という方針も

遵守できた。

 

ふぃ~~~。

それにしても疲れた・・・。

アタシは気が抜けたのか、

ペタンとその場に座り込んでしまった。

 

「しかし・・・魔法団はやはり居なかった。

そもそも候補者に面会というのが

偽りだったとは・・・。

この先どうしたものか・・・。」

 

オリオリが困り果てた様子で

この先の方針を決めかねていた。

その時。

 

パチパチパチッ!

 

どこからか拍手をする音が

聞こえてきた。

このカンジ・・・。

いつもアタシ達が激闘を終えた時に

現れるアイツに違いない。

 

「見事だったぞ諸君っ!

実に強い、強すぎるぞ

冒険王の諸君っ!!」

 

キッ!

振り返ると白いスライムナイトが

立っていた。

 

「ピエールッ!」

 

出たわねっ!ピエールッ!!

座り込んでいたアタシは

すぐさま立ち上がり、杖を構えた。

 

「チョルルカに続き次期執行官候補者の

2名ともことごとく退けるとはっ!

その強さ、計り知れんっ!

敵を叩き斬る腕力、溢れ出る攻撃魔力など

基礎能力のみならず敵を知り己を知り

瞬時に状況を把握し最良の手を打つ、

その百戦錬磨ぶりっ!

どれを取っても政府の上級執行官達を

はるかに凌駕している。

素晴らしすぎるぞぉぉぉぉ!」

 

ピエールがアタシ達を褒めちぎる。

けど、そんなアタシ達より自分のほうが

さらに強い、とでもいいたげな

余裕をどこか感じてしまう。

 

まったく嫌味なヤツね。

 

「それにしても此奴等の醜態・・・

無様この上ない。

せっかくのチャンスをことごとく

逃すとは・・・。

くだらん派閥争いに終始し、

己の戦闘力に胡座をかき

鍛錬を怠った末路よ。

いずれの候補者も部下を有効活用

できず自滅の道を進んだ。

まぁ、当然の結果よな、

そうは思わんか?冒険王諸君っ!」

 

「・・・コイツら、アタシ達を賞品扱いして

自分達の昇進を賭けてたらしいけど

アンタも1枚噛んでたワケ?」

 

アタシはピエールに疑問をぶつけた。

 

「さあな、私はただ、一刻も早く

新しい上級執行官が誕生し

かのダン灯台の宇宙船を作動させて

くれるのを待っていただけだ。

候補者当人同士がお互い自らを

推薦主張しあっていては

いつまでも事は決まらぬゆえ、

少しアドバイスをしてやっただけだ。

その先の事は此奴等が勝手に決めた事。」

 

「ふ~~ん、そうなんだ。

相も変わらず、ハッキリしない物言いと

それっぽい理屈で誤魔化すのね。

暗躍とか陰謀とか、影でコソコソ動くのが

好きそうだからさアンタ、

てっきり本当の首謀者はアンタかな、

って思ったワケ。」

 

「ふふふ、影でコソコソとは心外。

まぁ、結果として候補者は2名とも

死んでしまった。

宇宙船作動はまたまた持ち越しだな。」

 

「この星そのものが魔星王・・・

その事実は、そんなにこの惑星クラウドに

影響を与えるというの?

宇宙船作動にアンタがそれほど躍起に

なっているところを見ると。」

 

「それはまだ言えん。」

 

アタシがピエールと会話を続けていると

書からオリオリが現れた。

 

「ピエールッ!

アナタを追いかけていましたっ!

星屑魔法団の居場所を教えなさいっ!」

 

「おぉ麗しきオリオリよ、よくぞ無事だった。

星屑魔法団か、フフフフ、愛しい夫にそんなに

逢いたいか?オリオリよ。」

 

「私が気がかりなのは魔星王のことよっ!

この星そのもが魔星王、とは何を

意味するのですっ!?」

 

「貴女が抱くその疑問、それは全て

愛しい夫セアドに問うことを進言する。

魔法団はすでに大聖堂へと移動させた、

諸君らも大聖堂へ向かうといい。

私も大聖堂へ向かう、そこで会おう。

通行証はなくても関所を通過できるよう

私が手を回しておこう。

では失礼する、ルーラッ!」

 

ピエールは瞬間移動呪文で立ち去った。

 

上級執行官達の居城、ヨンツゥオ大陸に於ける

宇宙政府統括拠点であるヨンツゥオ大聖堂。

この長旅の終着点へようやく辿り着くことが

できそうね。

 

そこでとうとう星屑魔法団に会えるのかしら?

なんだかアタシ、気持ち悪い予感がするのよね。

執行官候補者達との戦いの裏では

色々な陰謀が渦巻いていた。

 

なんだかもう、現況の何がホントで何が嘘なのか

わけわかんないというか。

星屑魔法団なんて、そもそも実在するんだろうか?

とさえ思えてしまう。

 

いえ、オリオリはセアドの妻なんですもの、

実在するかどうか、は言い過ぎとして。

なんかこうも行く先々で肩透かしばっかり

喰らってると、ピエールはそもそも魔法団と

行動をともにしてないんじゃないかって

思うのよね。

一緒にいるいる詐欺じゃないかって。

 

「オリオリ様、いよいよセアド様に、

星屑魔法団に会えそうですね!」

 

「・・・・そうですね・・・・。」

 

オリオリも何か思うところがあるのか

コッツの声掛けにも気のない返事を

している。

 

「リザッ!今すぐ大聖堂に向かうのか?

オイラ、なんだかイヤ~な予感がするんだ。」

 

モガ丸も何か感じ取っているみたいね。

アタシは同意を示した。

 

「やっぱりっ!

リザもそう思うか、けど、とにかく

大聖堂に行ってみなけりゃ

何もわからないもんなっ!

とにかく、引き続き警戒を緩めずに

大聖堂へ向かおうぜっ!」

 

「ピピッ!」

 

そうね、モガ丸。

気持ち悪いからってここで立ち尽くしてても

仕方ない。

いるかどうかわかんないけど、

魔法団には問いたださなきゃいけない事が

たくさんあるっ!

行って確かめるしかない。

 

アタシ達は様々な複雑な思いを抱えながらも

キュウエル東砦を後にした。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。

・ズデーロン
次期上級執行官候補者の1人。
高圧的で口調も汚いアッガラーとは対象的に
物腰が柔らかく丁寧な口調の魔物。
かつロジカルで先見性も備えた、
かなり頭の切れる魔物でもある。
たくさんの部下の魔物を率いているが
単身でアタシ達と戦うと宣言するなど、
絶対的な自信を持っている。
けど、部下の加勢を拒絶し己のチカラを過信し
最期は冷静さもプライドも打ち砕かれながら
アタシ達に敗れた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード13.「乙女達」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



「アクル、関所通交官アクルよ。」

 

「む、ピエールか?どうした?

なぜ今時分にそなたがここに現れる?」

 

「・・・間もなく此処を義勇軍が訪れる。

彼らにはヨンツゥオ大聖堂へやって来るよう

申し伝えてある。

そなたは通行証なしで彼らを通すように。」

 

「ぎっ、義勇軍だとぉ!?

なぜ義勇軍がまだ生きている?

なぜ此処にやって来る?

あやつら東砦には向かわなかったのか?

・・・い、いやそれとも・・・ま、まさかっ!?」

 

「あぁ、そのまさかだ。

ズデーロンは彼らに敗れた。

部下の魔物たちは1匹残らず逃げおおせたわ!

つまり、ズデーロン派の魔物はもはや

そなた1人になってしまったということだ。」

 

「な、な、なんとっ!

ズ、ズデーロン様が・・・・・!!」

 

ピエールが執行官候補ズデーロンの敗北を

通交官アクルに報告すると、

アクルはワナワナと震えだし、その場に

崩れ落ちた。

 

「そなたらの野望も潰えた。

それにしても義勇軍、冒険王の強さと

いったら鬼神の如き強さよな。

かくなる上は私自ら奴等を止めるしか

ないと思っている。

私は大聖堂で奴等を迎え撃つ。

奴等が来ても、くれぐれも弔い合戦など

という考えは持たぬように。

そなた1人ではとても

太刀打ちできる相手ではない。

では、失礼するっ!」

 

そう言い残すとピエールは関所を

立ち去った。

残されたアクルはまだ立ち上がる事が

できず呆然と佇んでいる。

 

「グググググ・・・ズデーロン様が!

し、信じられん、あのような何の変哲もない

人間の若者どもに・・・・!

わ、ワシはこれからどうすれば・・・・。」

 

ピエールの報告を受ける前までは、

自分達の時代がやって来ることを

信じて疑わなかったこの魔物が

一瞬にして未来を失ってしまった。

ただ。アタシ達には全く関係ない話。

 

アレコレと画策し、陰謀を企んだ末の

手痛いしっぺ返しでしょ。

身の振り方ぐらい自分で考えたらいい。

長いものに巻かれ続けた結果がコレ、

アタシは知らないわ。

 

その頃アタシ達は。

 

「激闘が続いています。

一刻も早く大聖堂へ向かいたいところですが

リザさん達の疲労は私では計り知れない

ものでしょう、休息を取る必要があります。

一晩野営を張りましょう。」

 

一刻も早く大聖堂に向かいたいけど、

休息を取るのもアタシ達の仕事だと

オリオリに諭されてしまった。

確かに疲労はかなり溜まっている。

野営は致し方ないわね。

 

ズデーロン配下の魔物たちが消え失せたとは

いえ、いつ政府の別の魔物がやってくるかも

しれないのでアタシ達は東砦から少し離れた

場所で野営を張れそうな場所がないか探した。

 

関所へ向かう大きな街道と東砦から伸びている

小さな野道が交差する少し手前に小さな森が

あったのをアタシ達は覚えていたので

そこを野営地にすることで決まった。

 

野営といっても、保存食で少しだけ空腹を

ごまかし暖を取って眠るだけ。

疲労感を全て取り払うのは難しい。

それでもしないよりはマシ、という程度。

 

東砦を出発したのがもう夕方だったので

今は辺りを夜の闇の支配が完了する

寸前といった時刻かしら。

 

わずかな夜食を摂ったあと見張りの者を

残し交代で睡眠を取る。

 

モガ丸&スラッピ、ジョギー、レイファン、

コッツ、アタシの順で見張りを担当。

いつもはアタシが一番手を担当するんだけど

疲労を考慮されアタシ達姉弟はまず睡眠を

取るよう配慮された。

申し訳ないけどありがたいわ。

 

「リザ達、ゆっくり・・・とはいかないけど

とにかく寝ろよ、ちょっとでも

疲労を回復しなくちゃなっ!

おやすみ~。」

 

「ピピピ~。」

 

「ありがとうモガ丸、スラッピ。

けど魔物が現れたらすぐ起こしてね。」

 

「もが~、そればっかりはリザ達に

任せるしかないからな・・・。

リザ達が寝てる時は魔物が現れないよう

祈るしかないな。」

 

「大丈夫よ、気にしないで。

じゃあ遠慮なく眠らせてもらうわ、

おやすみ。」

 

「おやすみ~。」

 

アタシは、いえジョギーもレイファンも

横になるとあっという間に睡魔に襲われ

眠りについた。

 

幸い、魔物は現れなかったらしく

アタシ達は与えられた睡眠時間を

全部もらうことができた。

そしてアタシが見張りをする番が

回ってきた・・・。

 

「・・・殿・・・・ザ殿・・・・

リザ殿・・・・。」

 

・・・・ん?・・・・アタシを呼ぶ声

・・・・ハッ!ま、魔物か!?

 

バッ!!

 

アタシは飛び起きた。

条件反射で杖を手探る。

 

「わぁ、ビックリしたっ!

リザ殿、時間です、交代の。」

 

え、あ、あぁ、そうか、見張りね。

見張りの番ね。

あ~ビックリした、魔物が現れたのか

と思っちゃったわ。

 

「ふぁ~、う~ん、ありがとうコッツ。

よく眠れたわ。

じゃあ代わるから、アナタは寝てちょうだい、

おやすみ~。」

 

アタシはまだ若干寝ぼけ眼の目をこすりながら

コッツと見張りの番を交代しようとした。

 

「あ、は、はい・・・了解しました、リザ殿。

おやすみなさい。」

 

「は~い、おやすみ~。」

 

アタシはコッツが横になるのを横目に

道具袋から布を取り出し、愛用の杖を

磨き始めた。

そして・・・5分ほど経ったころ。

 

「リザ殿。」

 

あら、コッツ、起きてたんだ。

眠れないのかしら。

 

「あの、隣に座ってもよろしいでしょうか?」

 

「え、ええ、いいけど・・・。

早く寝ないと明日からツライよ?」

 

「お気遣いありがとうございますっ。

けど大丈夫ですっ!」

 

「コッツ~~~~~!」

 

アタシは小声だけどたしなめるような声で

コッツの名を呼んだ。

 

「え!?は、はい~~~~?

なんですかリザ殿~~~~!」

 

釣られてコッツも小声で返してくる。

 

「皆寝てるから~~~~

声のボリュームには気をつけよ~~~~。」

 

「!!!」

 

コッツがあまりにも元気ハツラツな返事を

したもんだからアタシはとっさに小声で

冗談ぽくコッツにツッコミを入れた。

するとコッツが超本気で全力で頭を下げて

ごめんなさいのポーズをした。

 

アタシはそれがおかしくって声を殺して

大笑いしたの。

 

「で、どうしたの?

アタシの横に座るって?

何か話でもあるの?」

 

「い、いえ、特になんてないのですが、

リザ殿とお話がしたかったのです、

リザ殿は・・・その・・・私の・・・

私、リザ殿に憧れておりますっ!

この上なく尊敬しておりますっ!!」

 

わっ!

だからっ!

声が大きいって!!

 

「あわわ、ご、ごめんなさいっ!」

 

「し~~~~っ・・・・。

うん、で?なんだっけ?

アタシに憧れてる??」

 

「はいっ!私が今まで見てきた

戦士のなかでリザ殿達が

一番強いと思いますっ!

しかもそのような方たちのリーダーが

私と同じ女性で、こんなに可愛くて

ステキだなんてっ!

リザ殿の為すこと全部、戦ってる時も

普段の姿も、そして何よりそのお心に

秘めた正義感、全部が私の憧れなのですっ!」

 

うぅぅぅ、なんか褒められすぎて

逆に引き気味なんだけどアタシ・・・。

いや~、褒められるのは悪い気は

しないけどね。

 

「そ、そう?ありがとう。

そう言ってくれるのは嬉しいわ。

だけどアナタが一番尊敬しなくっちゃ

いけないのはオリオリじゃなくて?」

 

「あ、はい、もちろんオリオリ様を

尊敬しております。

我らのリーダーとして、そして宇宙に

平和をもたらす指導者として。

オリオリ様を尊敬しているのと同時に

リザ殿にも憧れているのです。」

 

「そうなんだ・・・うん、ありがとう、

嬉しいわ。」

 

「リザ殿はどうして魔物と戦う戦士・・・

魔道士を志したのですか?」

 

なんだかわかんないけど・・・

コッツとの身の上話が始まっちゃった

 

「う~んとね~・・・・・アタシ・・・・

いや、アタシ達姉弟はね・・・・

実は幼い頃の記憶がないの、今現在もね。

だからどうして魔道士を志したのか

自分でもその理由は知らないの。

気付いたら魔道士だったワケ。」

 

「なんとっ!

こ、これは失礼しました、

そのようなツライ過去がおありだとは

露知らず、不躾な質問を・・・。」

 

「ううん、いいの、だって記憶が

ないんだもん、ツラかったのかどうかも

覚えてないの。」

 

アタシは・・・本当に、記憶の事については

特に気にしていないし隠す必要もないと

思っていたのでコッツに自分の事を、

なんとなく話そうと思った。

 

「アタシ達はどうやら、ブルリア星に

差し向けられた魔星王ドスラーデスを討伐

すべく父とともに戦ったらしいの。

ドスラーデスの強さは凄まじく

父は破邪の封印という術を使って

自分の体ごとドスラーデスを封じ込めたの。

道連れにしなければ到底、封印は無理だったと

聞いているわ。その術の余波でアタシ達は

吹き飛ばされ、記憶を失ったと聞いている。」

 

コッツは固唾を飲んでアタシの話を聞いている。

アタシ、どうしてこんな踏み込んだ話を

しているんだろう。

コッツがアタシに憧れているという話を

聞いて、アタシも饒舌になってしまっている

のかもしれない。

 

「だからなぜ魔道士を目指したのかと

聞かれれば、父を奪ったドスラーデス、

奴よりももっと強くなってみせる!

強くなることで父の仇を討つ、って

思ったのかもしれないわね、当時のアタシは。

そして父を失ったという受け入れがたい

事実を自分から消したいが為に、自ら

記憶喪失になったのかもしれない。きっと

弟達もそうでしょうね。」

 

「そ、そのような凄まじい過去を

お持ちだったのですね・・・。」

 

「あ、ごめんね、なんか、重い話に

なっちゃって。

大丈夫、その後ドスラーデスが封印から

解かれると同時に父も復活したの。

で、復活したドスラーデスはアタシ達が

完全にぶっ倒してやったから父も今は

無事なの。」

 

なんだか暗い話になってきたのでアタシは

父が無事だというその後の話を慌てて告げた。

 

「ふ、封印が解かれたって、軽々しく

言いますけど大丈夫だったのですか!?

リザ殿!」

 

「大丈夫・・・ではなかったけど、

ちゃんとやっつけたから今ここでこうして

アナタと話をしてるんでしょ?」

 

またまたアタシはおどけて見せた。

 

「では今はお父上もご健在なのですね、

よかった〜。けど、リザ殿達の強さの秘密の

一端を知れたような気分です。

一時はお父上を失ったという絶望から

這い上がる力こそがリザ殿達の強さの

秘密だったのですね。」

 

「まぁ、そういうことになるのかしらね。

何回も言うけど記憶がないのでなんとも。

けど、アタシが修行を続けるのは、

今はもう違う理由だわ。アタシの守りたい人を

守る力、それを得る為に日々の修行を

怠らないようにしたいし、してるつもり。

父の仇を討つためだとか、そういう復讐の念

より、誰かを守る為っていう想いを

持っていた方が人は強くなれる、

戦う力だけじゃなくてその人自身の芯の強さ、

心の強さっていうのかな。

うん、少なくともこれまでの冒険を通じて、

そう確信してる。

だからアタシもその考えのもとに日々を

過ごしてるの。」

 

アタシは、思っている事を率直に話した。

普段、自分についてとか、過去についてとか

考える暇ないからね。

自分とはなんぞや?っていうのを口に出して

自分で確認したかったのかもしれない。

 

「リザ殿っ!私感激しましたっ!」

 

コッツ、声が大きくなりそうよっ!

 

「あ、ごめんなさい・・・。

けど、私と同じような世代のアナタが、

こんなに懐深い考えをお持ちで

日々行動されていることに

このコッツ、深く感じ入りましたっ!

やっぱりアナタは私の憧れの人、

戦いが強いだけではなく、心がお強い

からこそ、私はアナタに惹かれるんですね。」

 

「う~ん、心が強いっていってもね~、

アタシだって迷う事はあるし、間違う事だって

あるわ。

そんな失敗から学べるかどうか、よね、

人なんてね。」

 

「そうですね・・・おっしゃる通りです。

私も日々、学びと成長を心がけねばっ!

これでも私は隊長ですからっ!」

 

「そうね、お互い頑張ろっ!

ところでコッツは?

なんで義勇軍に参加してるの?

オリオリ達と同じように平和を願ってのこと?

それとも宇宙政府に強い恨みがあるとか?」

 

アタシは・・・自分の話ばかりしてたんじゃ

申し訳ないと思ってコッツの話を

聞こうと思って質問した・・・そんな軽い気持ち

だったんだけど。

 

「わ、私は・・・実は私も父と幼い頃に

生き別れになってしまい、残された母が

懸命に私を育ててくれましたが、

その母も亡くなり天涯孤独の身でした。」

 

「そうなんだ・・・ツラかったのね。」

 

「はい・・・母は亡くなる直前、生き別れた父

の事を話してくれました。

父は・・・義勇軍に籍を置いている、と。」

 

「えっ!!??」

 

今度はアタシが大きな声を出してしまった。

慌てて小声に修正する。

 

「じゃ、じゃあ義勇軍に参加したのって

お父さんを探すために?」

 

「はい。」

 

「で、お父さんには会えたの?

差し支えなければ・・・・

そ、それは誰かしら?」

 

「・・・いえ、幼い頃に生き別れたので顔は

覚えてないし、本当に父が義勇軍に

所属しているのか確証はないのです。

ただ、この人かしら?という人はいます。

・・・・けど、判明したワケではないし、

もし人違いでその人に迷惑がかかっては

いけないので今は伏せておきます・・・

ごめんなさい、リザ殿。」

 

「ううん!ぜんっぜんっ!

デリケートな問題でしょうからね、

アタシのほうこそごめんんさい、

デリカシーのない質問だったわ。」

 

「大丈夫です。

ただ私は・・・その人に1人前の戦士として

認めてもらえるよう、日々訓練をしてきました。

私が義勇軍に参加し、訓練を続けるのは

自分の承認欲求からだと思います。」

 

「その人をお父さんだと思い、

そして認めてもらうために頑張ってるのね。」

 

「はい、もちろんオリオリ様の掲げる大義を

支持しているのも私のモチベーションに

なっています。」

 

「そっかぁ、皆色々抱えてるのね~。」

 

お互いの過去を打ち明けあったからかしら、

アタシはコッツに親しみを感じるように

なってきた。

年齢が近いっていうのもあるからかしらね。

今までは同じグループに所属する同志、

ぐらいにしか思ってなかったけど。

 

「ところでリザ殿・・・・あ、あの・・・・

その・・・・。」

 

コッツの頬が明らかに赤く染まってる。

焚き火の灯りのせいじゃないって

わかるぐらいに。

 

「リ、リザ殿はその~・・・・

す、す、好きな人とかこ、こ、こ、

恋人っていらっしゃるのですか?

キャッ!!」

 

ええっ!?

 

な、なんだこのコ、

何を聞いてくるの??

 

「恋人ぉぉぉぉ!?」

 

「は、はい、こんなにステキな方

なんですもの、世の男性が

放って置くはずありませんわっ!」

 

ゲ~~~~ッ!

アタシ、こういうのホンットに

疎くて~~~!

オリオリとボロンが怪しいとかって

モガ丸の話も寝耳に水だったぐらいでっ!

けど・・・ここでアタフタしちゃダメね!

 

「恋人ね~、ふむ、い、居るわよ!」

 

「えぇ!?ホントですかっ!?

そ、それはどのような方なのですか!

片想い!?両想い!?お付き合い

されてるのですかっ!?」

 

なんだなんだなんだ~~???

えらくノリノリになってんじゃんっ!

 

「今も居るじゃないっホラ、

コッツの目の前に。」

 

「え!?」

 

そう言ってアタシは手にしている

杖をもう片方の手で撫でた。

ちょっと妖しい目つきをしながら。

 

「え~~~~、

なぁ~んだ、そういう事か~。

リザ殿も人が悪いんだからぁ。」

 

「ずーっと冒険ばっかりしてる

アタシに恋人なんか居るはずないでしょ。

もう、バカね~コッツ。」

 

「アハハハハ、それもそうですね!」

 

なんだか。

アタシ達ホントに、普通に女友達

みたいじゃない。

コイバナ?みたいな事話して。

 

「アナタは?コッツ。

そういう人居ないの?」

 

「私は・・・・居るには居るんですが、

あっ!いえ、お付き合いしている方

とか、そんな大それたものじゃなく・・・

片想いの人が。」

 

「へぇぇぇ、そうなんだっ!

え、それはどんな人なの!?

義勇軍の人?それとも全くの一般の人?」

 

するとコッツはさっきよりさらに

頬を赤らめて下を向いてしまった。

よっぽど好きなんだ。

 

「え~と、その、で、でも・・・・

その人には他に好きな人がいるみたいで、

わ、私にはどうする事もできないんです、

い、いえ、私はそれでかまいませんっ!

遠くから見ているだけで幸せなのでっ!!」

 

「・・・・ごめんなさい、アタシ、ホンットに

そういう話疎くて、気の利いた事を

言ってあげられないんだけど。

アナタはその人に想いを伝えてはいないの?」

 

「そ、そ、そんな!

告白だなんてっ!!

恥ずかしすぎて死んでしまいますっ!!

それに私からの告白だなんて、

きっと困らせてしまうだけだろうから。

嫌われたくはないんですっ!」

 

「そっかぁ、でも、アナタがそういう気持ち

だっていうのを知ればまた、お相手の人も

アナタを見る目が変わるかもしれない

んじゃないかしら。

あれ?これってアタシ無責任発言??」

 

「いえ!とんでもない、ありがとうございます、

リザ殿っ!

私のこんな他愛のない話に真剣に答えて

くださってっ!

けど・・・やっぱり今の関係が壊れる怖さの

ほうが勝ってしまいます。

とりあえず今は・・・このままでいいんです。」

 

ふ~ん、乙女ね~コッツ。

色々複雑なのね。

けどやっぱりアタシはコイバナは苦手だ(^^;

 

「はぁ、リザ殿に話を聞いてもらって

ちょっとスッキリしました。

ありがとうございますっ!

それではそろそろお休みさせていただきます、

リザ殿と色々お話ができて嬉しかったです、

おやすみなさい~。」

 

そう、アタシ、なぁんも気の利いた話

してないけどね。

スッキリしたんならよかったわ。

 

「は~い、おやすみ~。」

 

・・・・・・・・・

 

って何っ!?

 

これって結局コッツがコイバナ

したかっただけじゃないのっ!?

しかも本人はスッキリしたかしんないけど

アタシはお父さんとか片想いの人とか

誰だかわかんないからモヤモヤするっ

 

全く女子ってヤツはっ!

ただただ自分の話を聞いてもらえば

満足しちゃう人種なんだからっ!

 

アタシは。

同年代の友達ができたのは嬉しいけど

コッツにはあんまり深入りしないで

おこうと心に誓った。

 

コッツの寝息が聞こえてきた。

なんだかわかんないけど、

ちょっと、ほんのちょっとだけ

イラっとしながら杖磨きを再開した。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
3番隊と星屑魔法団の一行は
「星屑サーカス団」として身分を偽り
宇宙政府から身を隠していた。
ある時現れた白いスライムナイトの
調略により星屑魔法団は3番隊の元から
姿を消してしまう。
消えた魔法団と宇宙政府の上級執行官
との接触を阻止するため3番隊は
奮闘するが返り討ちに遭いコッツ以外の
隊員は捕虜となってしまった。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード14.「白き騎士起つ」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



「やぁお役人さん、オイラ達またまたやってきたぞ!」

 

「ぐっ!!」

 

通行官アクルというこの魔物はアタシ達の顔を

見るなり強張った表情を見せた。

アタシ達が生きてこの場所に帰ってくるなんて

思いもよらなかったでしょうからね。

 

「オイラ達、大聖堂に用があるんだ、

ピエールから聞いてると思うけど

此処を通過させてもらうぞっ!」

 

「くっ!

こ、此処を通るには通行証が必要と

言っただろう!?

君たち、執行官候補者様から通行証を

発行してもらったとでも言うのか!?」

 

「ふふ〜ん、お役人さん!

もう無駄なお芝居はお互いやめようぜ!

オイラ達、全部知ってるよ、他でもない

ズデーロンが全部教えてくれたからなぁ!」

 

「な、何のことだ!?

わ、ワシは規定通りの事を申しているまでっ!

通行証がないと此処を通すわけにはいかんっ!」

 

ええいっまどろっこしいなあ!

アタシ達は急いでるの、ここでコイツの

お芝居に付き合ってる暇はない!

 

「・・・どうしても通行証を見せろって

言うんならこれでどう!?」

 

グサッ!!

 

アタシは抱えていた自分の背丈の倍は

ある細長い包みからソレを抜き出し

アクルの目に前に突き刺した。

 

「こ、これは!?ズデーロン様のっ!?」

 

それはズデーロンが握っていた剣。

ところどころ刃がこぼれてるけど、知ってる者が

見ればすぐさま所有者が誰だかわかる

特徴的な剣。

 

「この剣が何を意味するか、わかるでしょ

アンタなら。

アタシ達を使って賭け事みたいなことを

やってたんでしょう?

でも残念だったわね、アンタのご主人様は

もうこの世にいない。

賭けはアタシ達の独り勝ち?

大穴が当選したって事になるのかな?」

 

アタシは、コイツらがアタシ達の事を

賞品扱いした事を根に持ったような

言い方をしてやった。

あんまりにも愚かで腹が立ったからね!

 

「ぐぐぐぐ、ま、まさか本当にお前達が

ズデーロン様を倒したとは・・・。」

 

ようやく本性を現したわね。

 

「く、クッソォ!

よくも我らの計画を潰してくれたなぁ!

おのれ・・・」

 

ビッ!

 

アタシ達に襲いかかろうという仕草を見せた

アクルの喉元にジョギーが剣を抜き切っ先を

あてる。

 

「やめておきなさい、アタシ達は無駄な

殺生はしたくない、アンタ如きでは

アタシ達には勝てないわ。

命を無駄にせずズデーロンに向けて念仏でも

唱えてればいい。

ってワケで此処は通させてもらうわっ!」

 

アクルはヘナヘナと、その場に崩れ落ちた。

ようやくアタシ達はキュウエルの関所を

越えた。

目指すはヨンツゥオ大聖堂!

 

今度こそ魔法団に会ってセアドに心変わりの

真相や新しい魔星王の事を聞かなくっちゃ!

それにオリオリの気持ちをどう考えているのか、

問いただしてやんなくちゃ!

 

アタシ達は自然、早足になる。

しばらく歩くと入江に浮かんだ巨大な

円形の建造物が見えてきた。

あれに違いないっ!

 

大聖堂が建っている小島に向けて架かっている

桟橋を渡り、とうとう入り口にたどり着いた。

 

「皆さん、やっと上級執行官の居城と

言われるヨンツゥオ大聖堂にやってきました。

ここはこの大陸における政府の最重要施設です、

どんな強力な魔物が潜んでいるかもしれません。

心して突入しましょうっ!」

 

オリオリが皆の士気を高める。

うん、ホントに、どんな強敵が待ち受けて

いるかわからない。

野営を一晩取ってくれたおかげで疲労感は

少し和らいでいるもの、不覚を取るわけには

いかない!

 

「さぁ!突入ですっ!」

 

ガタンッ!!

 

扉を勢いよく開けアタシ達は聖堂内へ

踏み込んだ!

魔物の気配をたくさん感じるっ!

全て相手をしていてはたちまち疲労感が

襲ってくる、アタシ達は全力疾走しながら

最上階を目指した。

 

嵐のように魔物が群れをなして襲ってきたけど

アタシ達は足を止めず走りながらスキルを

撃ち、進行を邪魔する魔物だけを

倒していった。

 

1階、2階、3、4・・・そしてとうとう

最上階までたどり着いた。

 

そこには。

魔法団らしき姿は・・・やはりなく、

代わりにいつもの、白いスライムにまたがった

ソイツが居たの。

 

「やぁ義勇軍の諸君っ!

無事ここまで辿り着いたようだな。」

 

書がひとりでに動きアタシ達の前まで移動し

オリオリが現れる。

 

「ピエール!

約束通りここまでやってきましたよ、

星屑魔法団はどこです!?」

 

「オォ、麗しきオリオリよ、無事でよかった。

・・・それでは今から貴女の愛する夫セアドに

会わせよう・・・と言いたいところだが!

その前に聞かせてくれ、答えは決まったかい?

直ちに義勇軍を解散し私と共に宇宙政府に

参加し、政府を内部変革させるのか?

という問いの答えを!

さぁ、オリオリ!」

 

「答えなど、何度も言っている、お断りよっ!

私が宇宙政府に参加するなど天地が

ひっくり返ろうともあり得ないっ!!」

 

「な、なんとっ!

貴女のご両親が宇宙政府に忠誠を誓いながらも

宇宙王の末裔だという血筋のせいで処刑されて

しまった事、まだ根に持っているのか!?」

 

オリオリとピエールの激しい論戦が

繰り広げられている。

けど、根に持つって!

根に持たない方がおかしいでしょ!!

やっぱりコイツ、自分の尺度でしか

話せないのかしら!?

ホンットに自分の事しか見えてない!

 

「上級執行官候補だというヤツらを見ただろう!

奴らは!

組織の敵である貴女達を、協力して倒す、

などと言う発想すら持ち合わせず、

挙句、それぞれ単体で戦い貴女達に敗れた。

とても統率の取れた集団とは言えんっ!

付け入る隙はいくらでもあるんだ、

組織に入り暗躍するのは容易い事なんだ。

それに。貴女の愛しい夫セアドも政府に忠誠を

誓っているぞ!」

 

「そんな筈はない、私とセアドは手を取り合い

義勇軍を作った。私はセアドを信じている、

私の考えはセアドの考え、彼が政府に忠誠を

誓うなどあり得ないっ!」

 

「残念だな!

ヤツはすでに政府の犬だっ!!」

 

「・・・それはアナタの事でしょ、

ピエール・・・。」

 

「・・・っ!」

 

「政府を内部から変革させるなどいう

幻想に取り憑かれ、その実、やっている事は

政府の魔物達の行いと何ら変わりはない!

その事に気づきもせず自分だけは他者とは

違うというその排他主義!

子供染みすぎて陳腐すぎるっ!

一度でも政府に関わると知らず知らず己も

政府の色に染まってしまうという事実を!

皮肉にもアナタが証明してしまっているっ!

これを政府の犬と言わずして何と言う!?」

 

オリオリがキメのセリフをピエールに放つ。

アタシも全くの同感!

ピエールこそが宇宙政府の手先かのような

数々の振る舞い、内部変革というのは

既に建前になっているとアタシも思う。

 

「うぬぬぬ、ここまで私を愚弄するとは!

こんなに丁寧に説いているというのに、

そんな私より義勇軍を裏切ったセアドを

信じるというのか!」

 

「さっきからそう言っています。」

 

「くっ!ならば!力づくよっ!!」

 

!!

ピエールから殺気が漂い始めた!

 

「宇宙政府にっ!いや、この私に異を唱え

続ける諸君らを成敗いたすっ!!

お望み通り血の雨を降らそうではないかっ!

さぁ、冒険王諸君、武器を取れ!」

 

「モガーーー!やっぱりイヤな予感が当たった!

ピエールと戦うハメになっちゃったぞー!」

 

とうとう本性を現したわね、やっぱり

戦う事でしか解決しようとしない。

もう既にアンタは政府の魔物でしかないっ!

 

「ハハハハハ、一度手を合わせてみたかった、

政府の魔物達をことごとく葬ってきた

諸君らの実力、この私が試してやろう!

かかって来いっ!!」

 

ピエールが戦闘態勢に入る。

アタシはモガ丸達にすぐさま指示を飛ばすっ!

 

「モガ丸っ!スラッピっ!

物陰に隠れてっ!オリオリを守るのよっ!

コッツっ!コイツは今までの魔物とは

比べものにならないぐらい強い!

アナタも戦闘に参加して!」

 

「リ、リ、リザ殿っ!!

りょ、了解しました!コッツ感激です、

リザ殿から戦力として見なされている事!」

 

「あ〜〜〜わかった、わかったっ!

けど今はそんな呑気な事喋ってる場合じゃ

ないよっ!!」

 

「は、はいっ!」

 

「モガ!オリオリの事は任せとけっ!

リザっ!思いっきりやってやれぇ!」

 

各自、所定の位置につく。

さぁアタシ達も戦闘態勢は整ったっ!

 

「ほぉぉ、私に対して最大限の警戒を

しているようだな、これは光栄!

しかし賢明な判断だ、さすが冒険王!

では参るぞっ!」

 

・・・いちいち自分の事に置き換えて

喋るのやめてくんないかな、どんだけ

ボク好き〜、なのよっ!

 

アタシは杖を握り、意識を集中させた。

 

ブゥウウウウン

 

アタシの周囲にルビス秘術の魔法陣が

広がっていく。

 

「行くよ!みんなっ!」

 

いよいよ?とうとう?

ピエールとの戦いが始まるっ!




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府と星屑魔法団の接触を阻止すべく
奮闘するが上級執行官ドアヌの軍勢の
返り討ちに遭い彼女以外の隊員は
全員捕虜となってしまった。
その後、アタシ達と行動を共にし
離脱したボロンの代わりにオリオリの
護衛を務める。
どうやらアタシに憧れを抱いてる模様\(//∇//)\

・関所通行官アクル
上級執行官の居城、ヨンツゥオ大聖堂への
関所を守る宇宙政府の役人。
次期上級執行官としてズデーロンを推し、
彼の執行官就任の為の陰謀に加担していた。
アタシ達がズデーロンを倒したことにより
陰謀は暴かれアクルの前途も厳しいものに
なってしまった。
ハッキリ言って自業自得ʅ(◞‿◟)ʃ

・ピエール
打倒宇宙政府ではなく、内政変革により
平和的解決で宇宙平和を志す男。
あくまで打倒政府を願うオリオリとは
対極に位置する思想と言っていいわね。
宇宙政府の幹部級の魔物達が
軒並みアタシ達に倒され、とうとう自ら
アタシ達を倒そうと立ち上がる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード15.「相いれぬ戦い」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



「フフフフフ、数々の上級執行官達、

そして魔星王すら葬った諸君らとの戦い、

まこと楽しみだっ!」

 

「っていうかアンタさぁ、なんでそこまで

オリオリを宇宙政府に参加させたいワケ?

なんでそこまでこだわるの?」

 

「な、なに?」

 

「内部変革とやらをアンタが信じるのは

勝手だけど、別にやりたきゃアンタ1人で

やればいいじゃない。

1人が怖いんだったらアンタが説得してまわった

お仲間達と一緒にやればいいじゃない?

そのために仲間を増やしてるんでしょ?」

 

「別にこだわっているわけじゃない。

義勇軍などと無駄な事を続ければ

やがて政府の怒りを買いオリオリが危険な目に

遭うからだ。」

 

「だぁからぁ!

もしそうなったとしてもオリオリにとっては

信念を貫いた上での結末だと思うし、

アンタはアンタで信念の通り内部変革を

成し遂げればいいじゃない。そこにオリオリが

必ず参加してなきゃいけない理由がわからない。

もしアンタの大義が叶えば、それはそれで

アタシはアンタを見直すよ!

オリオリも同じだと思うけど。

どう?オリオリ。」

 

モガ丸達が身を潜める物陰から

オリオリが答える。

 

「リザさんのおっしゃる通りです、

私はできもしない政府の内部変革などに

時間を費やしている暇はないのです、

義勇軍として打倒政府を目指すことに

この生命を使います、

その結果力及ばず命を落とすことに

なっても後悔はありませんっ!

そしてピエール、アナタが目指す

宇宙政府内部変革構想、私は賛同しませんが

アナタがそれを実行させ、結果宇宙に

平和をもたらせる事ができたなら、

私もアナタを讃えます。

今はっ!同じゴールを見据えてはいても

同じ道を歩む事はできませんっ!」

 

「オリオリ・・・愚かな・・・・

私が安全な近道を用意してやると

いうのに・・・・。」

 

「好きなの?」

 

「な、何?」

 

「オリオリの事好きなの?アンタ。

好きだっていうんなら、そのほうが

よっぽどアタシ納得するよ、

アンタがここまでオリオリにこだわる理由。」

 

「バ、バカを言うなっ!!

わ、私は・・・!オ、オリオリとはこうやって

数回しか顔を合わせたことがないのだ、

どうしてオリオリに恋慕の情を抱く理由がある!?

バカも休み休み言えっ!」

 

ふむ、こんなうろたえてるピエールは

初めてね、なかなかどうして・・・フフフ。

アタシ核心ついちゃったんじゃないっ!?(*´꒳`*)

 

「ふうん、まぁそりゃそうね、ほんの数回

顔を合わせた程度じゃあ好きにはならないか。

アタシてっきりそうなんじゃないかって。

で、自分に全然靡かないオリオリが、

裏切った格好の旦那様を信じ抜くって

答えたからヤキモチ妬いてるのかな~って。

でもダメよ、人妻に恋しちゃあ!」

 

「リ、リザさん・・・・私で遊ばないでください。」

 

あ、オリオリ、ごめんね!

ただ、いつもいつも生意気な口しか聞かない

ピエールがうろたえてるもんだから

ついつい無責任な発言をしちゃった。

けど。

いつも冷静なピエールには効果が

あったみたいよ、オリオリ。

 

「お、おのれ冒険王っ!!

私を愚弄するつもりか!!!

ここまでコケにされたのは生まれて初めてっ!

許さんぞっ!

ダァァァァッ!」

 

いつもスマシタ態度のピエールが

怒りに任せて突進してきたっ!

 

ビュルルルッ

ズザァァァ!!

 

ピエールが手に持った槍をグルグルと回し、

アタシ達に槍撃を繰り出すっ!

槍撃はジョギーに向かった。

ジョギーは盾で槍撃を受け止めるっ!

負けじと剣撃を撃ち返す。

 

ブゥンッ!!

 

しかしピエールもまた盾で剣撃をガードした。

ジョギーは剣撃をガードされた瞬間、

横っ飛びで右方向に飛ぶっ!

 

「なにっ!?」

 

予想外のジョギーの動きにピエールは

思わず目を奪われスキが生まれた。

 

「メラゾーマッ!」

 

ゴォォォッ!

 

大火球が無防備のピエールに炸裂っ!

 

「グワァァァッ!」

 

ルビス秘術で威力が上がったメラゾーマ。

ピエールはその威力に耐えきれず

火球が炸裂した衝撃で吹っ飛びそうになったが、

駆っているスライムにしがみつき、スライムから

転げ落ちそうになるのをこらえた。

 

「グム~、さすが冒険王達っ!

戦い慣れている、見事な連携だ。

ならばっ!我らもこうだっ!」

 

ピエールを乗せたスライムがピョンピョンと

跳ねながら突進してくるっ!

アタシ達はスライムのその動きに目を奪われた。

自然、その上下運動を視線で追う。

 

ピョンピョンピョン、シュンッ!!

 

スライムは何回か跳ねたのち、突如一直線に

アタシ達に突進してきたっ!

上下運動に目が慣らされていたアタシ達は

突然の直進行動に虚を突かれ、スライムの

体当たりをもろに受けてしまった。

 

「キャーッ!!」

 

「グワァァァ!!」

 

「キャーッ!!」

 

「キャーッ!!!」

 

アタシ達4人はスライムのボディアタックの

衝撃で吹っ飛んだ。

見事なフェイク攻撃っ!

しかしピエール達の攻撃はそれで終わらない。

スライムに乗っているはずのピエールがいない。

 

「ハーッハッハッハ!

見事にホワイピの動きに惑わされたなっ!

喰らえっ!『天より降る雷撃』っ!!」

 

ピエールは上方にジャンプしていたっ!

ヤツのスキルが天井方向から飛んでくるっ!!

 

ガガァァァァッ

 

「キャーッ!!」

 

「グワァァァッ!!」

 

「キャーッ!!」

 

「キャーッ!!」

 

電撃を帯びたピエールの槍から

スキルが繰り出されスライムのボディアタックで

倒れ込んでいたアタシ達はまともに

その攻撃を受けてしまったっ!

 

ピエールとホワイピ?と呼ばれた白いスライムとの

見事な連携攻撃。

ヤツらもまたアタシ達と同じように仲間との

コンビプレーを得意とするってワケねっ!

 

「ハッスルダンスッ!」

 

パァァァァ

 

レイファンが回復の踊りを舞ってくれた。

一連の攻撃で受けた傷が回復していく。

幸い、そこまで威力は大きくなかったからか、

傷はほぼ全快した。

 

けどっ!

 

「姉ちゃん、コッツがっ!!

コッツが気を失ってるよっ!!!」

 

コッツの一番近くに居たレイファンが叫ぶ。

視線を送るとコッツが倒れ込んだまま

動かないっ!

 

マズイな、休み状態かっ!?

命に別状はなくても動けないのは危険だわっ!

 

「フフフ、冒険王達は堪えられても、

その女戦士には耐えられなかったみたいだな、

とんだ足手まといではないのか?」

 

キッ!

アタシはピエールを睨んだっ!!

アタシ達の仲間を侮辱するヤツは許さないっ!!

 

「メラミッ!ライデインッ!!」

 

アタシは中級呪文を連発した。

 

「超はやぶさ斬りっ!!!」

 

ジョギーも剣のスキルを放つっ!!

ピエールは盾でアタシ達の攻撃をガードした。

しかし威力の大きさに態勢を崩す。

 

「ウグググッ!しかし此奴等の攻撃力の

なんと高いことっ!!

この私が威力を押し殺す事で精一杯とはっ!」

 

ピエールが態勢を崩しているスキにアタシは

コッツの元に走り寄り彼女の頬を2発3発と

平手打ちした。

 

バシッバシィッ!

 

「コッツッ!起きなさいっ!!

気絶してる場合じゃないわ、やられるよっ!!」

 

「う、う~ん・・・」

 

意識がかすかに戻ってきた。

けど完全に目を覚まさない!

アタシはコッツの上体を起こし背中側に回って

喝を入れた。

 

「ふんっ!」

 

「キャッ!・・・・あ、あぁ!リザ殿!?」

 

「よかった、気がついたわね!

気絶してたのよ、ピエールのスキルで。」

 

「え、えぇぇぇぇ!

ハッ、も、申し訳ございません、

なんと無様な姿を見せてしまったのか!」

 

「傷は!?痛みは!?

レイファンがハッスルダンスをしてくれたので

支障はないはずだけど?」

 

「あ、は、はい!そういえば傷の痛みは

感じませんっ!

それより皆さんっ!足を引っ張ってしまい

申し訳ございませんっ!!」

 

コッツは気絶してしまった事を全力で謝った。

ううん、大事に至らなくてよかった。

 

「けど、あの電撃のスキルは威力は高くないけど

厄介ね、また撃ってくる時は注意しましょうっ!」

 

「わかったっ!」

 

「わ、わかりましたっ!」

 

「ジョギーッ!アナタ次、『魔剣乱舞』

撃ってみて!ヤツの弱点が知りたい。」

 

「あ、あぁわかった。

ドルマが弱点なのか?」

 

「さっきの電撃はおそらくデインね、

デインを得意とするヤツは反対の属性が

弱点っていう場合が多いわ。」

 

「そうだな、さすがリザ姉っ!」

 

「よし!じゃあサポートするよ、兄ちゃん!」

 

アタシ達はオフェンス面での作戦を練った。

ピエールの弱点がわかれば戦いを有利に

進められる。

 

「オンステージッ!」

 

ピュアアアアア♪

 

レイファンがアタシ達を鼓舞する舞を舞うっ!

 

「レイファン殿っ!私がお護りしますっ!

不覚を取ってしまった汚名を晴らしたい、

私が戦友の盾でお護りすればサポートスキルが

途切れる事を防げますっ!」

 

コッツはそう叫ぶとレイファンの前に移動し

盾を掲げてガードした。

よし!これでアタシ達に有利な状態が

長く続くっ!

コッツ、危険な役目をよく引き受けてくれた。

ありがとうっ!

 

「ググググ、ブルリア星の冒険王・・・

お、恐るべし!これほどとはっ!

しかし私も引き下がるワケにはいかんっ!

ゆくぞ、ホワイピッ!!」

 

「ピエッ!!」

 

ピエール達が態勢を立て直し反撃してきた。

 

ビュルルルッシャーーーッ!!

 

ホワイピは今度は最初から一直線に

アタシ達に突進してくる。

突進してくるホワイピを踏み台に

ピエールが跳躍して槍撃を放つっ!

相乗効果を得たその一撃はこれまで

よりも威力が高く速度も速いっ!

 

アタシとジョギーは横っ飛びで槍撃を

躱した。

槍撃はレイファンを護っているコッツに

向かったっ!

 

ガキィィィィンッ!

 

槍と盾がぶつかる音が響き渡るっ!

 

「ググググッ!

わ、私はレイファン殿をお護りするんだっ、

これぐらいの攻撃は耐えてみせるっ!

・・・・・えっ!?」

 

「フフッやるな、コッツとやらっ!

私の攻撃に耐えるとはな、驚いたぞ!」

 

ギリギリと槍と盾が交わったままピエールと

コッツが睨み合うっ!

すると懸命に盾でレイファンを護っている

コッツが素っ頓狂な声をこぼした。

 

「だぁっ!」

 

「チッ!」

 

コッツの援護をする為ジョギーが剣を

振り抜くっ!

ピエールは剣を避けようと後ろに跳んだ!

 

「・・・・・え?い、今のピエールと交錯した時・・・

なんだか懐かしい気がした・・・・!

なんなのだ、このカンジ・・・・。」

 

「え、なんだって?コッツ。」

 

コッツはほとんど聞き取れないぐらいの

小声で独り言を呟いた。

すぐそばに居るレイファンでさえも

聞き取れなかったみたい。

 

「あ、いえ、なんでもありません、

レイファン殿。」

 

「あ、そう?大丈夫?

今のピエールの攻撃で深いダメージを

負っちゃったのかと思ったわ。

けど、アナタは私を庇ってる分

ダメージがより深い、回復をしましょう、

ホイミッ!」

 

パァッ!

 

レイファンがコッツに軽めの回復呪文を

施した。

 

「あ、ありがとうございます、レイファン殿!」

 

「うん、頑張ろうっ!」

 

「チィィッ!コイツらっ!

連携や陣形の取り方がスムーズ過ぎるっ!

私の予想以上だっ!

だが我らも負けてはおらんっゆくぞ!

ホワイピッ!!」

 

「ピエッ!!」

 

再びピエールをその背に乗せたホワイピが、

今度はいきなり上方にジャンプしたっ!

 

「もう一度喰らえっ!

『天より降る雷撃』っ!!!」

 

ピエールが先程のスキルを繰り出そうとした。

 

「させるかぁ!!」

 

ギラッ!!

 

ピエールを激しく睨みつけたジョギーが

ピエールのスキルに対しカウンター気味に

撃ち返すっ!!

 

「『魔剣乱舞』っ!!!」

 

ビュオオオオオッ

ガシガシガシガシッ!!!

 

アタシが注文した剣技スキルを

ジョギーが上方に向かって放ったっ!

ピエールのスキルが発動する前に

ジョギーのドルマ剣技スキルが

炸裂したっ!

 

「グワァァァァァ!!」

 

「ピエェェェェ!!」

 

ピエールとホワイピは激しく

後方に吹っ飛び床に打ち付けられた。

ピエールの指がピクピクと

痙攣している。

 

ニヤリ。

睨んだ通りドルマが弱点らしい。

ピエール達は痙攣したまま立ち上がらない。

かなり効いたみたい、倒したか!?

 

一瞬、勝利かと思われたが・・・。

 

ムクリ。

ピエールは這々の体で起き上がろうとした。

 

「お、おのれ・・・・ほんの少し・・・い、

痛めつけてやれば・・・・!

おとなしく、私の言うことを・・・・

き、聞くだろうと思っていたがっ!

貴様らっ!!!

そんなに私を本気にさせたいかーーーーっ!!!!」

 

バシューーーッ!!

 

ピエールは起き上がると殺気を強め

全身をオーラで包んだっ!

呼応するようにホワイピも起き上がる。

するとみるみるホワイピが巨大化し

刺々しい鎧が出現しその身を包んだっ!

 

ピエールの纏っている鎧もより歪な

突起がいくつも出現し恐ろしい意匠に

変化したっ!

 

なるほど、ここからが本気、

レッドゾーンってわけね。

 

「もう容赦せんっ!

殺しはしまいと力をセーブしていたがっ!

ここまで私を追い詰めたからには

死んでもらうっ!!」

 

クッ!さっきまでとは全然lvが違う

オーラッ!

 

アタシ達も仕切り直さなくてはっ!

じゃないと殺されてしまうっ!!

 

「覚悟しろっ冒険王達っ!!」

 

イカツイ姿になったピエール達が

突進してきたっ!!!




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府と星屑魔法団の接触を阻止すべく
奮闘するが上級執行官ドアヌの軍勢の
返り討ちに遭い彼女以外の隊員は
全員捕虜となってしまった。
その後、アタシ達と行動を共にし
離脱したボロンの代わりにオリオリの
護衛を務める。
どうやらアタシに憧れを抱いてる模様\(//∇//)\

・ピエール
打倒宇宙政府ではなく、内政変革により
平和的解決で宇宙平和を志す男。
あくまで打倒政府を願うオリオリとは
対極に位置する思想と言っていいわね。
宇宙政府の幹部級の魔物達が
軒並みアタシ達に倒され、とうとう自ら
アタシ達を倒そうと立ち上がる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード16.「幕切れはあらぬ方向へ」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



ズバババババッ!!!

 

ピエールが真っ赤なオーラを発したっ!

燃えたぎる怒りのオーラ!?

 

「ゆくぞっホワイピッ!!」

 

「ピエッ!」

 

ピエールは跳躍し白い相棒の背なに

着座する。

これはっ!

かなり強烈なスキル、キラースキルを撃つ

つもりね!

 

「レイファンッ!バフ行動っ!」

 

「わかった姉ちゃんっ!」

 

アタシはレイファンに守備力上昇を

施すよう短く指示を飛ばしたっ!

 

「我らに天空城の城壁の如き

防壁を与え給うっ!スクルトッ!!」

 

「聖王の舞っ!!」

 

ギュイイイイン!

 

守備力を上昇させる呪文とスキルが

同時に発動したっ!

物理ダメージを大幅に抑えられるっ!

 

「・・・私がこの技を使うとはなっ!

死んでもしらんぞっ!!」

 

ピエールがそう言うとホワイピが

一度ググっとかがみ込み、

そして上空高くジャンプしたっ!

 

「喰らえっ『ピエール彗星』ーーーーっ!!」

 

白い騎士を乗せた白いスライムが

赤いオーラを発散させながら

急降下してくるっ!

さながら彗星のようにっ!!

 

ヒュイイイイイン・・・

ガァァァァァァァァ!!!

 

「グググッ!!」

 

「キャアアアアアアアッ!!!」

 

頭上から急降下して体当たりしてくる

強力なボディアタックッ!!!

さっきの電撃のスキルとは比べ物に

ならない威力っ!!

真っ赤な彗星と化したピエール達が

激しい勢いで激突し床から真っ赤な

岩の塊のようなものが無数に隆起したっ!

凄まじい衝撃でアタシ達は吹っ飛んだ。

 

ただ。

バフを重ねて施していたので

なんとかアタシ達は持ちこたえることが

できた!

傷はそこまで深くない。

けどまたしてもコッツがっ!

 

「姉ちゃんっ!またコッツがっ!!

気絶してしまったっ!!!」

 

アタシ達姉弟は全員意識は保ってるけど

コッツは耐性が低いのか、

またしても休み状態に陥ってしまった!

 

「クッ!まずは傷の手当をっ!

我が友人の傷を癒やし給う、

ベホイムッ!!」

 

パァァァァ!

 

強い緑色の光りがコッツを包む。

アタシは回復呪文をコッツに施した。

 

「ス~、ス~。」

 

「姉ちゃん、大丈夫っ!息はあるっ!

死んではいないよ、コッツはっ!」

 

レイファンがコッツの状態を確かめる。

よかった、気絶してるだけみたいね、

けどレイファンを庇っている分、

コッツは他の者よりダメージが大きい!

強めの回復をしておくほうがベター。

 

「な、な、な、何だとぉ!?

わ、私の渾身のスキルを喰らっていながら

コイツら生きている!!??」

 

ピエールの自身最高の技を繰り出したんだろう。

しかしアタシ達はそれに耐えた。

その事実が信じられない様子。

 

ゆら~~~~。

 

アタシはゆっくりとピエールの方に

向き直りピエールに近づいていく。

 

「クッ!コイツら不死身かっ!

ホワイピッ!」

 

「ピエッ!」

 

ピエールが跳躍しホワイピから離れる。

するとホワイピはなんとっ!

無数の小さなスライムに分身し、

そいつらがボディアタックをしてきたっ!

 

「喰らえ『拡散する白き騎士』っ!」

 

ドドドドドッ!

 

無数の白きスライム達が襲いかかるっ!

けど守備力が上昇しているアタシ達には

ほとんどダメージを与えられない。

 

攻撃を終えると分身していた小さきスライム達が

集まり元のホワイピの姿に戻る。

 

ブゥンッ!

 

ジョギーが剣で反撃するっ!

ピエールも槍で応戦するっ!

 

しばらく剣と槍の応酬が続いた。

その間、気を失っているコッツは・・・。

夢を見ていたらしいの。

 

*****************************************************

 

「やぁっ!」

 

ガシィッ!!

 

「やっ!やっ!やぁ!!」

 

ガシガシッ!!

 

「ホラァ!もっと鋭く突くんだ!

そんなノロマな拳じゃ敵に当たらないぞっ!」

 

「は、はいっ!

でやあああああっ!!」

 

ヒョイッ

 

「わぁ~っとっとっとっ!」

 

「バ~カッ!

ノロマだって言ってるのに

そんなに大きく振りかぶったら

避けてくださいって言ってるようなもんだぞ?

空振りしたスキに後ろから斬られたら

死んでるぞ、コッツッ!」

 

「はぁはぁはぁっ!くぅ!」

 

「見ろ、無駄な動きが多いから

そうやってすぐに息が切れるんだ。

よし、次はディフェンスだ。

オレから攻撃する、避けるなりガードするなり

好きにやってみなっ!」

 

「はぁはぁっわかりましたボロンッ!」

 

「ゆくぞっ!」

 

その夢は・・・。

当然アタシには見えないんだけど。

コッツとボロンの修行風景だった。

 

ブンッ!

 

「グッ!」

 

ブンッ!ブウンッ!!

 

「グッ!!」

 

ブンブンブンッ!!!

 

「ダァッ!!」

 

「フフン、相変わらず盾の使い方は

上手いな!

これはどうだっ?セイッ!!」

 

ズシャッ!!

ガキィィン!!

 

「ググググッ!!

アァァァァ!!!」

 

ガラガラガラーーー!

 

盾を器用に使いこなしボロンの

攻撃を捌いていたコッツ。

けど最後にボロンが強めの一撃を

繰り出すと、その威力にこらえきれず

盾が弾かれてしまった。

 

「ハァハァハァッ!」

 

「・・・・フフ、最後の一撃は

力で押し切られたな、

まだまだ修行が必要だぞ?

コッツ!」

 

「ハァハァハァッ、

おっお稽古あ、ありがとうございましたっ!

ボロンッ!」

 

「あぁ、しかしお前は修行次第では

良い守護騎士になれそうだ、

オレの剣撃をあそこまで盾で

弾けるんだからなっ!

あの受け流す動作はなかなか見込み

あると思うぜっ!」

 

「ホントッ!?

ボロンに褒められたら本気で

私嬉しいっ!」

 

「ああ。ただしっ!

オレは全力は出してないからなっ!

その分を差し引いて、ますます精進

することだな。

もっと基礎体力を上げるトレーニングを

やりな。そうすれば今日の最後の一撃

だって耐えられるようになるさ。」

 

「はいっ!

アドバイスありがとうっ!」

 

ダメ出しをされながらも

良かった部分も口にしてくれたので

コッツは嬉しそうだった。

 

「オレ達全員が強くなれば・・・。

オリオリの役に立てるんだ、

その事を肝に命じてお互い

精進しようぜっ!」

 

「あ・・・・うん・・・・。

ねぇボロンは・・・・オリオリ様を

護るために修行をしているの?」

 

と思ったのも束の間。

コッツの表情が少し陰る。

 

「は?

当たり前だろ、それが俺たち義勇軍の

使命であり存在意義だ。

宇宙政府に支配された、こんな不公平な

世の中をオレは変えたいんだ。

そしてそれができるのはオリオリだけだと

オレは信じている。

そんなオリオリを護るのが俺たちの

役目だろ?違うか?」

 

「あ、うん、もちろん!

心得てるわっ!!

私もオリオリ様を尊敬しているし、

お護りするためにもっと強くなりたいっ!

けど・・・。」

 

「けど?」

 

「ボ、ボロンがオリオリ様を護るのは・・・

本当に宇宙の平和を取り戻すため

なのかなって。

え、えーとえーと、その、お、幼馴染だから

特別なのかなって、オリオリ様の事。」

 

陰った表情が今後は真っ赤になり、

支離滅裂な質問をボロンにし始めたコッツ。

 

「?

変なことを聞くヤツだ。

まぁ、腐れ縁だからな、オリオリとは。

そういう意味では特別といえば特別だ。」

 

「ふ~ん、そうなんだ・・・。

特別なんだ・・・・。」

 

「だから腐れ縁だって言ってるだろう!」

 

「ん、わかった。

お稽古ありがとうございましたっ!

じゃあ失礼しますっ!!」

 

そうかと思うと急に不機嫌そうな表情になり

キッっと姿勢を正し一礼をして

ボロンの前から走り去ってしまったコッツ。

 

「あぁん?

なんだアイツ・・・最後不貞腐れてなかったか?

ありがとうございましたって態度じゃないよな?」

 

残されたボロンは、よく状況がわからないまま

独り言を呟いていた。

 

そんな・・・・コッツの夢・・・・。

******************************************************************

 

「・・・・ッツ!・・・・・コッツ!・・・・・・

コッツ!!起きてっ!!コッツーーーー!!」

 

「・・・・・あ・・・・・はっ!?」

 

「よかった!やっと目を覚ましたっ!

アナタ、またピエールの技で気絶してたのよっ!」

 

「はっ!?レ、レイファン殿!?

・・・・あ・・・・あぁぁぁぁ!

もっ申し訳ございません、一度ならず

二度までもっ!

皆さんの足を引っ張ってしまいましたっ!

申し訳ございませんっ!!」

 

「ううん!仕方ないわっ!

アナタ、ずーっと私を庇ってくれてるからっ!」

 

「すみませんっ!そ、それで!?

戦いの行方はっ!?リ、リザ殿やジョギー殿は!?」

 

「うん、無事だよっ!

ってか、こっちが優勢に進めてるっ!!」

 

(そ、それにしても・・・。

なぜボロンの夢を見ていたんだろう私・・・。

ボロンとの修行の夢・・・・。

・・・・・・!・・・・・・・・・・・!!っ

あっあの時のっ!

ピエールの攻撃を盾で防いだ時の

あの妙な懐かしさっ!!

そして今しがた見ていたボロンの夢っ!!

まっまさかっ!!

ピエールとはっ!!??)

 

コッツが意識を戻す少し前。

アタシとジョギーはピエールとホワイピ相手に

優勢に戦いを進めていた。

 

「ググググッ!

わっ私が真の姿を見せたというのにっ!!

コイツらに明らかに遅れを取っているだとぉ!?」

 

「そりゃっ!!」

 

ジョギーと応酬を続けていたピエールだったけど

徐々に形勢はジョギーに傾きつつあった。

 

「はぁぁぁっ!!!」

 

バシューーーッ!!!

 

ジョギーが闘気のオーラを発散し

とうとう怒ったっ!!

 

「いくぞっ!ピエールッ!!

『魔剣乱舞っ』!!!」

 

ガシュシュシュシュッ!!!

 

超速の剣技が放たれピエールに

炸裂するっ!!!

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「ピエェェェェェェ!!!!!」

 

ピエールとホワイピは衝撃で

派手に吹っ飛んだっ!

 

「ガハァァッ!!

凄まじい・・・・威力・・・・・・ゴフッゴフッ!

まっ負けるっ!?こ、この私がっ!

負けるのかっ!??

はっ!!」

 

アタシはトドメを刺すべく杖を掲げていた。

その姿が視界に飛び込んで来たんだろう。

ピエールの敗北を覚悟した表情を

アタシは目にした。

 

「魔の故郷、魔界よりいづる悪霊どもよっ!

黒き霊魔の力で我が敵を滅ぼせっ!

ドルモ・・・・」

 

アタシはドルマ系上級呪文の詠唱を

終えようとしていた。

呪文の名を読み終えると、その黒い

エネルギーの塊がピエールに向かって

飛んでいき戦いは終わる・・・はずだった。

 

「ドルモー・・・・・・キャッ!?」

 

呪文の詠唱が終わるか終わらないかの刹那、

杖を掲げている右腕を掴まれる感覚が

アタシを襲った。

 

「ドルモーアッ!!」

 

右腕が何者かに引き下げられつつも

アタシは呪文の詠唱を終えたっ!

黒いエネルギー弾が発生し飛翔を

始めた。

が、腕を動かされたので狙いが

定まらなかったの。

 

ギュイイイイ、ブシャアアアアアッ!!!

 

ドルモーアのエネルギー弾が炸裂した。

ただし、蹲っているピエールの

すぐ近くに・・・・・。

ドルモーアは外れたの。

 

ハッと振り返りアタシの右腕を掴んだ

人物を確認すると・・・・。

 

「コ、コッツ!?」

 

「ハァハァハァ、リッリザ殿っ!

申し訳ございません、戦いの邪魔を

してしまって。け、けどっ!

ピエールを倒してはダメですっ!

・・・・・ピエールを倒さないでーーー!!」

 

「・・・・?

どういう事っ!?」

 

「ピッピエールは!ピエールの正体は

・・・・おそらくっ!」

 

「えっ?正体?正体って何??

正体って事は・・・誰かがピエールに

化けてるって事?」

 

アタシはコッツがアタシの邪魔をした事

を咎めるよりもピエールの"正体"と

言ったコッツの言葉の真意を探った。

けど、その真意は測りかねる。

 

そして。

苦しそうに呻いているピエールのほうを

見やった。

ピエールの正体・・・?

 

「ハァハァハァ、どうやら私の負けの・・・

ようだな。

おっ恐るべしブルリア星の冒険王・・・!

きっ貴様らの事はよぉく・・・

ずーっとそばで見てきたゆえ・・・

よぉく知っているつもりだったが・・・・。」

 

え!?

今なんて言ったのピエール、

ずっとそばで・・・・?

 

「お前たちの事をわかっていた

"つもり"に過ぎんかったというワケか。

そして・・・・私はコッツに命を救われた

・・・というワケだな。」

 

「そっそうよピエールッ!

リザ殿達はっ!

私や・・・アナタでも計り知れないほどの

強さを持っているのっ!

私はその強さの根源を知っているもの。

だからもう・・・抵抗はやめて。」

 

何をワケのわからない事を言っている?

コッツにはコイツの言っている事が

わかってるというの?

 

「フフフフ・・・・あっイツツ・・・!

そうか、わかった!

このピエール、潔く負けを認めよう!

あるいは・・・この仮面が邪魔だった

かもしれんな。」

 

コッツとピエールだけの世界で進んでいた

会話が終わると、これまた2人だけが

納得し終わったみたい。

 

アタシは全く何の事かわからない事だらけだった。

けど・・・次の瞬間、その訳のわからない事の

訳が明かされる。

 

コッツとの会話で何かを悟ったピエールは

自らの仮面に手をやり脱ぎ始めた。

その仮面の下から現れた人物の顔、

それを見て、ピエール本人とコッツを除く

その場に居る全員が言葉を失った。

 

「・・・・ボロン?・・・・

モガーーーー!!ボロンじゃないかっ!!

な、な、なんでボロンがここに居るんだよぉ!?

って、って、ってかピエールがボロン!!!???」

 

物陰に隠れていたモガ丸が・・・・

しばしの静寂の後に叫ぶ。

 

・・・・・えっ?????

ボロンッ!!!???

 

月並みな言い方だけど・・・・

アタシは頭の中が真っ白になった。

 

ピエールの仮面の下からボロンが

現れた。

オリオリの幼馴染、義勇軍の親衛隊長、

アタシ達の仲間っ!!!

ピエールの正体はボロンだった!!!???

 

激闘を終えた聖堂内に静寂が

横たわっていた。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府と星屑魔法団の接触を阻止すべく
奮闘するが上級執行官ドアヌの軍勢の
返り討ちに遭い彼女以外の隊員は
全員捕虜となってしまった。
その後、アタシ達と行動を共にし
離脱したボロンの代わりにオリオリの
護衛を務める。
どうやらアタシに憧れを抱いてる模様\(//∇//)\

・ピエール
打倒宇宙政府ではなく、内政変革により
平和的解決で宇宙平和を志す男。
あくまで打倒政府を願うオリオリとは
対極に位置する思想と言っていいわね。
宇宙政府の幹部級の魔物達が
軒並みアタシ達に倒され、とうとう自ら
アタシ達を倒そうと立ち上がる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード17.「決別」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



アタシは・・・・。

この状況を、この再会を・・・・。

自覚はないけど、なんとなく・・・・

知っていたのかもしれない。

以前に見た不思議な夢。

幼いオリオリとボロンの夢。

 

あれは・・・・。

この状況を指し示す何かの知らせ

だったのかもしれない。

 

ピエールの正体がボロンだって事に

いまだに思考が追いつかない。

けどどこか・・・・

「あぁ、そうだったのか。」と

妙に腑に落ちる部分もあるにはある、

という思いも持っていたの。

 

「ボ、ボロンッ!?

どうしてアナタが此処に居るのっ!?

い、いや、ボロンッ!!

アナタとピエールが同一人物なのっ!?

今までっ!

私達の前に現れていたピエール、

あれも全部アナタだったというのっ!!??」

 

眼の前の異常な光景に、たまらずオリオリが

書から飛び出し仮面の下から現れた

ボロンに質問を投げつける。

 

「わかったっ!

リザさん達と腕試しがしたくって、

それでピエールになりすまして

ここに現れたんでしょう?

あぁ・・・ボロンッ!!

そうだと言ってちょうだいっ!

本物のピエールはオレが倒し、

ピエールになりすまし

リザさん達と戦ってみたかった、と。

いたずらが過ぎただけだって・・・・!」

 

オリオリは混乱のあまりか、

支離滅裂な事を口走り始めた。

けどそれはアタシも同じ。

なぜボロンがアタシ達の前に

居るのか全く理解できなかった。

 

「・・・・・・・・・・。

オリオリ・・・・・・。」

 

しばし無言が続いたけど

ようやくボロンが口を開いた。

 

「ざ、残念だが・・・・。

このボロンこそが・・・・。

白いスライムナイトことピエール

本人だ・・・・!」

 

「ボ、ボロン・・・・・・。」

 

ボロンの告白に・・・・

オリオリは今にも泣き出しそうに

なってしまった。

 

「ス、スライムをこよなく・・・・

愛し・・・そして・・・・・

お、幼馴染であるオリオリに!

・・・・身分をわきまえず・・・・!

ゆ・・・・許されない

・・・・・・!!」

 

そこまで言うとボロンもまた

声を震わせた。

 

「許されない愛を!

オリオリを愛してしまった罪深き男、

それが白いスライムナイト、ピエール

こと、このボロンッ!!!」

 

衝撃の告白、衝撃の事実・・・・!

ボロンが・・・・!!

その想いの激白を始めた!!

 

「ボ、ボロン・・・・・!

やっぱりオリオリ様の事を・・・!」

 

ボロンの語る激白を聞き、

そばに居たコッツがか細い声で

呟いた。

 

ただ、オリオリもアタシ達も

ボロンに気を取られていて

コッツの呟きに全く気づかなかった。

 

「ボロンッ!

どうしてっ!どうしてそんな事を

私に言うのっ!?

アナタは私に向かってそんな事を

言ってはいけないっ!!

だって私にはセアドが・・・・。

もうセアドがいるのよっ!!」

 

オリオリの声は・・・・

すでに悲哀の色を帯び始めていた。

オリオリほどの人格者であっても、

すでに既婚者である自身が、

幼馴染から愛の告白を受ける・・・

そんな異常な事態を受け入れ難い

のだろう。

きっと胸のうちは様々な想いが

渦巻いて、受け止めきれず

感情が溢れ出してしまったんだろう。

 

「・・・すまない・・・・。

この想いだけは口にしてはいけないと

自分に固く禁じていた・・・・。

・・・・・だが・・・・・・。

なぜオレが・・・・仮面を被り

ピエールとしてお前達の前に

現れたのか・・・・・

その理由を話さねばならぬ・・・・。

それには・・・・・

オレの、この禁じられた

想いを伝えねばならんと思ったのだ。」

 

アタシ達を・・・そして何よりオリオリを

欺いていた理由・・・・。

 

アタシだって!

短い付き合いだけど!

ボロンの事は戦友だと思ってた。

その理由如何では!

アタシはアナタを許せないかもしれない。

それぐらいの事をしでかしたのよ、

アナタはっ!!

 

「・・・・我が・・・・ゆ、友人の・・・・・

傷を癒やし給う!!

ベホマラーッ!!!」

 

パァァァァ

 

「なっ何の真似だっ!?

リ、リザッ!!!」

 

「リ、リザさんっ!!??」

 

アタシはボロンとノビているホワイピに

回復呪文を施した。

 

「傷と体力の消耗は癒えたでしょ、

さぁ、アタシ達の納得いくように

説明しなさいよ、ボロンッ!!」

 

アタシ達の与えたダメージ、

きっと話をするのもやっとの状態

だっただろう、ボロンは。

 

アタシだって・・・・。

ボロンの事、我が友人だと思いたいのよ!?

けどピエールがボロン本人だって言うなら

アタシ達をずーっと騙してた事になる、

アタシも・・・様々な想いが胸の内に渦巻いて

キツイ口調になってしまっていた。

 

「フッ、どうやら冒険王殿は

オレがピエールだったという事実に

えらくご立腹のようだな。

オレの回復をしてまで尋問を

するというワケか。」

 

「茶化してないで早く話しなさいっ!

くだらない理由だったら

アタシがアンタをぶん殴って

やるんだからっ!!」

 

「リ、リザッ!

ま、まぁ落ち着けってっ!!

気持ちはわかるっ!

オイラだって何がなんだか、

悲しんでいいのか、怒っていいのか、

よくわかんない気持ちだっ!

けどまずはボロンの話を聞かなきゃだぞ!」

 

クッ!

珍しくモガ丸に諭されてしまった・・・。

自分のどうしようもない苛立ちを

暴力で晴らす・・・・か。

確かにこれじゃ宇宙政府と変わんないわね。

 

「・・・・悪い、リザ・・・・。

お前がそれほど声を荒げるって事は

それだけオレの事を信用してくれてた

って事だな。

よし、オレも真摯に話すぜ、

なぜピエールなどと身分を偽ったのか、

オリオリの掲げる打倒政府とは

一線を画する内政改革路線へと傾倒

していったのか。」

 

ボロンは神妙な面持ちになり、

どうしてこういう状況になったのかを

語り始めた。

 

「グスッ・・・ボロン・・・・・。

セ、セアドに・・・・星屑魔法団に

政府の魔星王誕生計画への協力を

説いたのは本当にアナタなのですか・・・?」

 

ボロンの激白に泣き崩れていた

オリオリがようやく落ち着きを

取り戻し、最大の謎だった

星屑魔法団の心変わりについて

問いかける。

 

「あぁ・・・・お前の愛する夫セアド、

セアド率いる星屑魔法団に政府への

協力を依頼し説得したのは

紛れもなくオレだ。」

 

「あぁ・・・・なんて事っ!」

 

「確かに魔星王誕生などと恐ろしい計画、

このオレも望んでいたワケではないっ!

しかし義勇軍の親衛隊長として

顔が割れていたオレが・・・。

政府内政変革を成し遂げるためには

どうしても素性を隠して政府に

潜り込む必要があった。

そして政府からの信頼を得るためには

政府の望む誕生計画に全面的に

協力するしかなかった。」

 

「愚かな・・・・。

内政変革などと夢物語のために、

恐ろしい魔星王誕生まで実現させて

しまったのよ?

何もかも政府の思うがままの結果しか

残っていないっ!!」

 

「リザさん、ここはボロンの話を

聞きましょう。

ここで内政変革の是非を問えば

これまでの論戦の繰り返しとなり

時間の無駄でしょう。」

 

オリオリッ!

ご、ごめんなさいっ!

アタシ・・・まだ動揺が続いてるのか

ついついキツい口調になってしまう・・・。

 

オリオリは・・・・。

少し冷静さを取り戻したようね、

よかった。

 

「リザ、オレが政府に加担したことが

よっぽど許せないようだな。

しかし誤解しないでくれ。

オレはオリオリを騙したり、裏切った

つもりは毛頭ない。

ただ、オリオリを護る方法を変えたのだ。

内政変革を進める分にはオリオリの

生命の危険度という尺度では

打倒政府を進めるそれよりも

遥かに低くなる。

オレは・・・・愛してしまった女の生命を

優先させたのだ。

別にっ!セアドからオリオリを奪うだとか、

そんな大それた事は考えていない。

ただただ、オリオリを危険な目に遭わせたく

なかったのだ。

例え政府の手先に成り下がろうとも、

オリオリが生き延びる確率が高いほうを

選んだのだ。

レジスタンスを続ければ・・・・。

いつどこで誰の裏切りに遭い、攻撃に

さらされ命を落としてしまうかも

しれないからな。」

 

「ボロン・・・・。

アナタそんな事を・・・・・。」

 

「オリオリの身を案じるアンタの気持ち・・・・

それはよくわかったわ。

けどそれは。

オリオリの意志を殺す選択じゃなくって?」

 

「意志か・・・・。

しかし死んでしまえば意志も消えてしまう。

生きてさえいれば・・・・いずれ自分の望む世界を

作ることもできよう。

しかし死ねばそこまで。

あらゆる可能性が一瞬にして0に

なってしまうんだっ!」

 

「違うっ!意志は・・・・・!

貫くからこそ、人を動かす力になるっ!!

強き意志を持つ者・・・・例えその人が

この世からいなくなってもっ!

意志の力は残った人々に

受け継がれるんだよ!!

オリオリは・・・・!その強き意志を持つ者に

なろうと頑張ってるんだよ!?

ボロン、アンタはっ!

オリオリに生きながら死ねって

言ってるんだよっ!?」

 

「ではお前はっ!!

オリオリに人身御供をしろ、と言うんだな!

打倒政府の意志をっ!

宇宙平和を成す意志を示しさえすれば

死のうが構わないと言っているんだぞっ!!

オレはっ!

それだけは絶対に受け入れられんっ!!!」

 

アタシとボロンは・・・・。

やっぱり何処までも平行線だ。

どうしても意見が対立してしまう。

 

「ボロン・・・・アンタは・・・・

やっぱりオリオリを好きになっちゃ

いけなかったんだよ、

そのせいで何もかも狂い始めてる。

今のアンタはオリオリを1人の女性としか

見ていない。

オリオリ1人さえ助かれば他は

どうなってもいいと言ってるのと同じ。

打倒政府を掲げるオリオリの親衛隊長

としてあるまじき行為だよ。

オリオリに黙って・・・1人勝手に

軍の方向性と違う方向に動き、

あろうことか凶悪な魔星王誕生を

実現させた。

いい?魔星王というのはアンタが

思っている100倍恐ろしい存在

なんだよ?

これを誕生させたことこそが

オリオリを含めた全宇宙の人々の

生命を脅かす事になるの。

親衛隊長なら・・・・内政変革を考えるにしても、

なぜ一言オリオリに相談しなかったの?」

 

「クッ!

オリオリは・・・・打倒政府に固執してるからな、

オレが進言しても方向性を変えるとは

思えなかった。

だからオリオリには秘密裏にして

既成事実を積み上げていけば

やがて考えを変えてくれるだろうと考えたのだ。」

 

「ボロン・・・・。私は・・・・。

やはり宇宙政府を内部から変えるという

論理には賛成できません。

アナタが私の身をそこまで案じてくれてること、

お・・・・・幼馴染としてっ!

とても嬉しく思います。

けど総司令官としてはっ!

アナタnの取った行動を許すワケにはいきませんっ!

アナタが星屑魔法団を政府に協力させるという

ある種捻れた行動を取ったために、

様々な軋轢が生まれました。

その1つとして。

魔法団と行動を共にしていた、ここに居る

コッツ以下3番隊は上級執行官ドアヌに

ヒドイ目に合わされる事になって

しまったのですよ?

いくら自分の信じる道の為とはいえ、

余りにも関わった人々に迷惑を

かけすぎています。

この責任をどう取るつもりです!?」

 

アタシとオリオリがボロンの自分勝手な論理と

行動を叱責する。

そう、そして何より。

同朋であるはずのコッツや3番隊を。

自分が政府の信頼を得る為に捨て駒にした

と誹られても仕方のない行動だと

いう事を自覚していないようで、

オリオリはリーダーとしてそこを一番に

責めているようだった。

 

「そうだったな・・・・コッツ・・・・

怖い思いをさせたな、

その件についてはすまなかった。」

 

傍らでアタシ達の舌戦を厳しい表情で

聞いていたコッツが口を開く。

 

「ボロン・・・・・私・・・アナタの事を

本当に・・・・・・そ、尊敬していた。

いつもいつも私の稽古を手伝ってくれて。

いつまでも上達しない私に根気よく

指導してくれて・・・・。

そしてそれは・・・私達みんなでオリオリ様を

盛り立てていく為の修行だって、

他ならないアナタが言っていたのに・・・!

そこまでオリオリ様の事をっ!

道を踏み外してしまうほどに

オリオリ様の事を愛しているというのね。」

 

「コッツ・・・・・。」

 

「私・・・・情けないけど・・・・

ドアヌの軍勢に襲われた時、本当に怖かった。

隊長として許されざる発言だけどね。

ジニョリスタ塔で1人取り残されている間、

恐怖と心細さと、部下達を守れなかった

自分の不甲斐なさで押しつぶされそうに

なった。

そんな時、現れたのがアナタとオリオリ様と

そしてリザ殿達だった。

何より私を真っ先に見つけてくれたのは

ボロン、アナタだったわ。

あの時の私の気持ち・・・地獄の底に差した

天からの光を見つけたようだった。

けどあれも。

アナタが仕組んだ事だったとしたら。

私・・・アナタを軽蔑しますっ!!」

 

「・・・・その件については・・・・

大丈夫なはずだった。

お前や3番隊には危害が及ばないよう

魔法団にはスキを見て3番隊から離脱するよう

伝えてあった。

事実そうだっただろう?

それに・・・・

仮に3番隊と遭遇することがあっても

ドアヌには3番隊を全滅させないよう

厳命していた。

お前たちが死ぬことはないよう

オレは取り計らっていたよ。」

 

バチィィィンッ!!!

 

「っ!!!」

 

「モガッ!?

コ、コッツ??」

 

なんとっ・・・・!

コッツがボロンの頬を平手打ちした!?

 

「バカにしてるのっ!?

はなっから私達を見下してるじゃないの

それっ!!

仲間ともなんとも思ってないじゃないっ!!

ねぇボロンッ!

アナタどこまでおかしくなっちゃうのっ!?

今しがたの戦いだって、アナタは本気で

私達を殺そうとしてたのよっ!?

オリオリ様の意志を殺し、生命だけを

中途半端に繋ぐ為には私も死んでもいい

って思ってたの!?」

 

「・・・・正直、コッツが戦いに

参加していたのには参っていたよ。

同朋だったお前を手に掛けるのは

オレも避けたかった。

その迷いがあったからこそ、

オレはリザ達に勝てなかったのかも

しれん・・・・。」

 

なんですって!?なんて言い訳っ!!

ピエールがボロンだったなんて

たった今知ったのよっ!!

まるでアタシ達がコッツを人質にして

アンタに勝ったみたいじゃないのっ!!

今度はアタシがボロンをひっぱたいて

やりたくなった!

 

「ボロンッ!!

いい加減になさいっ!!!

アナタの言い分はさっきから

自分勝手過ぎますっ!!

義勇軍総司令官の名においてっ!

アナタにたった今からの除籍処分を

言い渡しますっ!!!」

 

「っ!!!!」

 

「オリオリ様っ!?」

 

アタシがひっぱたくよりも早く、

オリオリが最も重い処分を

ボロンに宣告した。

 

「オリオリ・・・・・あぁ当然だ、

オレには義勇軍を名乗る資格は

もうない。

これより以降、オレはピエールとして

生きていくっ!

宇宙政府の内政変革を継続して目指す。

今はお前達の理解を得られんだろう。

しかし後々、きっとオレの考えが

正しかったと証明してみせるさ。」

 

「勝手になさいっ!

ボロン、たった今から私の中で

幼馴染のアナタは死にました。

これより以降、我々の行く手を阻むと

言うのなら・・・・・・うっうっう・・・・・

て、敵とみなしますっ!!」

 

オリオリ・・・・ツライのでしょう。

幼馴染として、同志としていつも傍らに

居た人と・・・・袂を分かつ事の

悲しさ悔しさ・・・・アタシには計り知れない。

けどそれを押し殺し、指導者として

振る舞わなければならないことの

ツラさと・・・・今戦ってるんだ。

 

「・・・ボロン・・・私にした事はもう忘れる、

アナタは私の誇り高き師匠だった・・・

けど目の前にいる今のアナタは・・・・

もう私の知っているボロンでは・・・・ないっ!

オリオリ様の事は私がっ!!

アナタの代わりに護ってみせるっ!!」

 

コッツ・・・・アナタ、戦いの最中にピエールが

ボロンだって気付いたのね。

誰よりも早く・・・・。

ピエールとの命がけの戦いが。

かつてのボロンとの修行の日々を

思い出させたのかしら。

だからピエールの正体だなんて言って、

アタシの攻撃を止めたのね。

そしてアナタも・・・・。

もう昔のボロンじゃないって事を

今必死に自分に言い聞かせているんだろう。

 

「決別の前に・・・・ボ、いえ、ピエール、

まだアナタには問いたださねばならない

事があります。

星屑魔法団は何処にいるのです、

アナタは此処に来れば会えると

言いましたね?

それともあれも嘘だったのですか?」

 

そうだっ!

ピエールがボロンだった、という

事実に神経の全てを支配されていたけど、

星屑魔法団の姿が見えない。

 

結局また肩透かしだというのっ!?

 

「・・・・残念だが・・・・オレにもわからん。」

 

「はぁっ!?」

 

アタシは思わず声を出してしまった。

 

「ここ大聖堂で待っているようセアドに

伝えたのだがな。

オレがここに到着したときには

すでにもぬけの殻だった。

代わりに・・・・。」

 

ボロン、いえピエールが懐から

何やら珠のようなものを取り出した。

 

「これが残されていた。」

 

「こ、これはっ!?」

 

「モガーッッ!!

これはっ!前にも似たような珠を

見たことがあるぞっ!」

 

それは・・・・!

術者のビジョンを映し出しメッセージを伝える

ことのできる珠・・・・青雲のオーブだった。

 

オーブに内包された語り手が伝える

メッセージ・・・・。

それはアタシ達の行く末に大きな大きな

影響を与える内容だったの。

 




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府と星屑魔法団の接触を阻止すべく
奮闘するが上級執行官ドアヌの軍勢の
返り討ちに遭い彼女以外の隊員は
全員捕虜となってしまった。
その後、アタシ達と行動を共にし
離脱したボロンの代わりにオリオリの
護衛を務める。
どうやらアタシに憧れを抱いてる模様\(//∇//)\

・ピエール
打倒宇宙政府ではなく、内政変革により
平和的解決で宇宙平和を志す男。
あくまで打倒政府を願うオリオリとは
対極に位置する思想と言っていいわね。
宇宙政府の幹部級の魔物達が
軒並みアタシ達に倒され、とうとう自ら
アタシ達を倒そうと立ち上がるが
力及ばず自ら敗北を認める。
その証としてか、自ら仮面を脱ぎ去り
正体を見せたその人物は・・・
なんと義勇軍親衛隊隊長、オリオリの
幼馴染、そうあのボロンだったの・・・。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード18.「惑星クラウドの魔星王」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



これはっ!青雲のオーブッ!!!

このオーブにメッセージを

込められるのはっ!?

 

「あぁ、この珠にはおそらくセアドの

メッセージが込められている。

そしてそれを聞くことができるのも

・・・。」

 

「私しかいませんね。」

 

そうっ!

宇宙王の末裔であるオリオリしか

この珠に封じ込まれたメッセージを

開放することができないんだっけ!

 

「このオーブのメッセージを

開封する前にっ!

もう1つ伝えておくことがある。

オリオリ、コッツ、リザ達・・・・

勘違いしないでくれ、

政府を内側から変える内政変革計画・・・

それは何もオレ1人の独断ではないんだ。

この計画はセアドの考えでもあるんだっ!」

 

えっ!?

オリオリの旦那様がっ!?

他でもないオリオリの一番信頼している

人がオリオリの考えと真逆だというのっ!?

 

「そ、そんなバカなっ!

デタラメを言いなさいっ!

まさかセアドまでもが私の考えに反する

というのですかっ!?」

 

「だから言っているだろうっ!

オレもセアドもっ!

オリオリを否定してるんじゃないっ!!

その身を案じてるからこそ、

平和的解決を模索しているんだ。

なぜそれがわからない、オリオリッ!」

 

そ、そんな・・・・

宇宙政府を打倒するというのは

それほどに間違った考えなの!?

オリオリの旦那様の名前を

出されてはさすがにアタシも動揺の色が

隠せない!

 

「リザ、お前だってそうだ、

お前はいっとき、義勇軍の活動に疑問を

感じていなかったか!?

オレは気付いていたぜ、タァコ王との

謁見からこっち、お前はどこか上の空で

冒険をしていた。

オレがピエールとしてタァコ王に説いた

考えにっ!

お前は少なからず同調して

いたんじゃないのかっ!?」

 

うっ!!まさかっ!!

そ、そうか!!

ピエールがボロンだったならっ!

あの時行動を共にしていたならっ!!

あの頃のアタシの迷いを

見抜かれていたとしても

不思議じゃあないっ!

 

けど・・・そうだとしても・・・!

今のアタシは・・・・!

 

「確かに・・・

アタシはピエール、つまりアンタの

考えをタァコ王から聞き義勇軍の活動が

正しいのかどうか、いっとき迷っていたわ。」

 

「リッリザさんっ!

それは口にしてはならないという

約束っ!!」

 

「モガッ!!ほ、本当かリザッ!

お前までボロン、いやピエールの考えに

同調してたっていうのかっ!?

お前はオイラ達の冒険王なんだぞ!!」

 

「ピピィ!!」

 

「隠しててごめんなさい、モガ丸、スラッピ。

そして約束を破ってごめんなさい、オリオリ。

けど心配しないで、あの頃の迷いはもう

とうの昔に吹っ切れたの。

ほかでもない、アタシ達のリーダー、オリオリの

おかげでね。」

 

「ほ、本当か、リザ・・・。」

 

「うん、オリオリのリーダーとしての

器の大きさ、宇宙の指導者たるべきカリスマ性、

それらがアタシのちっぽけな迷いを

吹き飛ばしてくれたの。

それどころかオリオリは・・・・

冒険王姉弟のリーダーとしてのアタシの立場を

考えて、この一件を伏せておくよう

取り計らってくれた。

だからモガ丸や姉弟には内緒だったの・・・

ごめんなさいね。」

 

「モガ〜そうだったのか~・・・・

安心したぞ、リザッ!」

 

「うん、ゴメン、ジョギーとレイファンも

ごめんね。

姉ちゃんのアタシが迷ってたなんて

聞いたらアンタ達にも悪影響を

与えちゃうでしょ?」

 

「へへ、オレはなんとなく気付いてたけどね、

リザ姉の様子がおかしいの。」

 

「うん、私もっ!」

 

「えっ!アンタ達、気付いてたのっ!?」

 

「俺たち姉弟だぜ、リザ姉がいつもと

違うのぐらい、すぐわかるよ。」

 

「へへ、私も~。」

 

そうだったの・・・さすが姉弟・・・

隠し事はできないわね。

 

「それは当然、今は吹っ切れてるってのも

わかるって事さ。」

 

「ジョギー・・・・。」

 

「モガッ!ジョギーやレイファンが

そう言うなら心配いらないなっ!

さすがお前らは3人で1人の冒険王だなっ!」

 

そう、だからボロンッ!

今のアタシはあの時とは違うっ!

もう義勇軍の活動には一片の疑いも

抱いていないわっ!!

 

「フフン、しかしいっときでも、

冒険王たるお前を惑わせるぐらいの

価値はあるわけだ、内政変革の話は。

さて、御託はそれぐらいにして・・・・

さぁオリオリッ!

オーブのメッセージを開放してみろっ!

セアド自身からっ!

オリオリも内政変革に協力するように、

という説得だろうっ!

心して聞くがいいっ!!」

 

ゴクリ。

そ、そんな・・・・。

もしもそうだったとしたら。

オリオリは・・・耐えられるのだろうか。

気が触れてしまわないだろうか。

幼馴染にも愛する旦那様にも

己の生き方を否定されて

しまうのだから・・・。

 

「・・・・

う、宇宙王の血のもとにおいて命じます

・・・・青雲のオーブよ・・・・・。」

 

オリオリ・・・・

あんなに知りたがっていた旦那様の

メッセージが・・・・

今は知ってしまうのが

こんなに怖いだなんて・・・・!

 

「どうした、愛する夫のメッセージだぞ、

そんなに怖いのかっ!!??」

 

「わ、私はセアドを信じますっ!!

・・・・せ、青雲のオーブよっ!!

刻まれし言葉を今此処にっ!

解き放てっ!!!」

 

意を決してオリオリがオーブ開放の

呪文を詠み上げるっ!

 

シュ~~~~

シュパーーーーーーーンッ!!

 

青雲の塔の時と同じように。

碧い宝玉からまばゆい光が発せられ、

辺り一面を照らす。

目を開けてられないほどの眩しさっ!

 

やがて光が弱まり、碧い髪の物憂げな

表情をした青年のビジョンが

映し出された。

 

オリオリの夫、そして星屑魔法団団長、

セアドの幻影。

 

ようやく・・・・!

渦中の人物の心の内を知ることができる。

残念ながら”置き手紙”ではあったけど・・・。

 

『この言葉を聞ける者それは・・・・。

愛する妻オリオリだけ。

オリオリよ、聞いてほしい、

この私の心変わりの理由を・・・・。

そして星屑魔法団が秘術を使い誕生させた

・・・・新しき魔星王・・・・。

惑星そのものとなった魔星王・・・・。

その意味と正体について語ろう。』

 

他の誰でもない、本人から語られる真実。

やっぱり重みが違うっ!

他人であるアタシでさえも自然と

背筋が伸びる厳粛な空気が漂い始めた。

 

『そもそも宇宙の星々はコアと呼ばれる

心臓部を持っている。

コアが存在するからこそ星は生き

あらゆる生命体の生命活動が

維持されている。

つまり・・・・それほどに星の心臓部、

コアは!

絶大なチカラを秘めているんだ。

・・・・新たな魔星王を生み出すには

星屑魔法団だけが使える秘術と・・・・

そのコアが必要なのだ。』

 

コアッ!

星の心臓部っ!

なるほど、魔星王のような強大な存在は

星そのもののチカラを要するってワケね。

ゆえに”魔星王”と呼ばれるのかしら。

 

『ただし、従来は・・・

星のコアというものは地底の奥底・・・・

その星の中心部に眠っており

・・・・なんびとたりとも触れることが

できないんだ・・・・しかしっ!

ここ惑星クラウドのコアはっ!

事情が違った。

宇宙政府の調査により我々が触れることの

できる場所、手が届く範囲の場所にコアが

眠っていることが判明した。

そこで私は、その場所を知るために

宇宙政府に協力するフリをした。』

 

「っ!!フリッ?

協力するフリだとっ!?」

 

「・・・・!あぁっセアドッ!

やっぱりっ!!

アナタを信じていたわっ!!」

 

『オリオリよ、安心してほしい。

私が宇宙政府に寝返ったのは・・・・。

奴等を騙すためだ。』

 

セアドさんっ!!

・・・・よかった・・・・・!

オ、オリオリが悲しむような結果に

ならなくてっ!!

逆に憤懣やるかたない様子へと

急変したのはボロン。

届くはずのない怒りを魔法団団長へと

向け始めた。

 

「・・・・・っ!なんだとぉぉぉ!

セアドォォォ・・・・!」

 

『私達星屑魔法団は宇宙政府に寝返った

フリをして・・・・

コアが眠る場所を聞き出し秘術によって

惑星クラウドのコアを魔星王の命に代えた。

惑星そのものが新たな魔星王として

誕生したのだ。

ここまでは・・・・政府の計画通りだ、

しかしこれ以降は・・・私達星屑魔法団の・・・

いわばクーデターとなるんだっ!

オリオリよ・・・・君は思うだろう、

クーデターとはなんなのか、

魔星王を誕生させる事がどうしてクーデターに

繋がるのか、と。

それは・・・・・魔星王を味方にするんだ。』

 

「えっ!?

魔星王が味方にっ!?」

 

な、な、なんですってっ????

魔星王を味方にっ!!!???

 

アタシは・・・・思いもよらないセアドの

考えに言葉を失ったっ!

 

『クラウドのコアが眠っている場所には

今は魔星王が眠っている。

聞いてくれオリオリッ!

誕生したばかりの魔星王ならばっ!

邪心を持ってしまう前の段階ならばっ!

魔星王を味方にすることができるはずだ。

魔星王を手なづけてほしい。

さすれば宇宙政府を倒す心強い味方となる。

義勇軍のレジスタンス活動が実り、

クーデターは夢ではなく現実のものとなるっ!』

 

「ふ、ふざけるなっ!」

 

ボロンの怒りはさらに膨らんでいく。

 

『愛するオリオリよ。

魔星王を味方にするため・・・・

今すぐに魔星王が眠る場所へ

急いで向かってもらいたい

その場所は・・・・。』

 

「ふざけるなっ!セアドッ!

オレを騙したなっ!」

 

ガキィィィィンッ!!!

 

「モガーーーー!!

ボ、ボロンがっ!

青雲のオーブを破壊してしまったぞー!!」

 

なんとボロンがっ!

セアドが魔星王の眠る場所を語る寸前でっ!!

青雲のオーブを、その拳で叩き割ってしまったっ!

こ、これではっ!

魔星王が何処に眠っているかわからないっ!!!

 

「おのれ~~~~セアドッ!

このオレを騙しやがったなっ!!」

 

「ボロン・・・・・!」

 

「オリオリを共に護るため、

宇宙の平和を取り返すために宇宙政府の

内政変革を志す・・・・

その同志だと信じていたのにっ!!

結局は打倒政府の意志を秘めていたとはっ!

お前も所詮その程度の男だったかっ!!!

バカめっ!!」

 

「ボロン~~~~・・・・

ア、アナタ・・・・なぜそこまで・・・・・・。

なぜそこまで打倒政府を否定するのっ!?

なぜそんなに私達の考えを

否定するのよぉっ!!!」

 

・・・・憑かれている。

アタシはそう感じた。

ボロンはもう、自身の考えの是非を問う、

自身を客観視する了見を失っている。

何かに取り憑かれたように。

それはやはり!

宇宙政府に入閣してしまったからだ。

例え片足でも踏み入れてしまえば・・・・

そのドス黒いチカラに飲み込まれて

しまうんだ・・・・。

アタシはそう感じた。

 

「セアドめ・・・・

さては魔星王を政府側に奪われない為に

コアの在る場所へ向かったのだな、

打倒政府を画策していたからこそ

オレの指示を無視してここに

留まらなかったんだな!

まんまとオレは出し抜かれたワケだ。

・・・・クックック・・・・

そうか、そういうワケだったか。」

 

怒りの表情を見せていたボロンがやがて

・・・・何やら企みを持ったヒドイ笑みを

浮かべた表情に変わっていく。

 

「セアドと星屑魔法団の裏切り・・・。

政府に報告せなばな。

オレがどれほどの思いで・・・政府にっ!

仲間を裏切るという誹りを受けるのを

覚悟して政府に潜入したと思ってるんだっ!

好き好んで義勇軍を離れたワケじゃない、

それがオリオリの身を護る最善の策だと

信じたからだ。

セアドも同じ考えだと言っていたのにっ!!

オリオリの身を案じる気持ちはこのオレと

同じぐらい大きいと思っていたからこそっ!

セアドならオリオリを幸せにできると

信じているからこそ・・・・

オレも未練など・・・。」

 

ボロンはそこまで言うと言葉を

詰まらせてしまった。

オリオリへの想いが溢れそうなのを

必死に堪えている・・・

そんなカンジだった。

 

「セアドだからこそっ!

オレはオリオリの事を諦められたのにっ!

そんなオレの想いすら踏みにじるのかーーー!!

セアドッ!!」

 

堪えきれずボロンは絶叫した。

 

「・・・・さらばだお前達。

情勢が変わった、オレも予定を変更せざるを

得んようになってしまったようだ。

ここは一旦退かせてもらうぜ!」

 

「ボロンッ!!」

 

ルーラで飛び立とうとしていたボロンを

アタシは呼び止めた。

 

「やっぱり・・・・ピエールとして動くの?

魔法団や・・・その・・・・新しい魔星王も

義勇軍側ってことが判明したのよ、

それでもアンタはまだ・・・・アタシ達の元に、

オリオリの元に帰るという選択肢はないの?」

 

セアドのメッセージが語られ情勢は

かなり変わりつつあることがわかった。

除名処分が下った直後ではあるけれど・・・

アタシはピエールではなく・・・

義勇軍のボロンとしての意志は戻らないのか、

という問いをボロンにぶつけた。

 

「・・・・リザ・・・・言っただろう、

お前達が意志を変えないようにオレもまた

ピエールとしての意志は変わらないっ!

それに・・・。」

 

ボロンはチラリとオリオリを一瞥した。

 

「惨めすぎるよ・・・もうオリオリの元へは

戻れない・・・・・。

・・・・・お前達・・・・

ブルリア星の冒険王よっ!

正直に言おう、オレはお前らを

見縊り過ぎていた。

オリオリがお前らに助っ人を申し入れると

言い出した時も・・・内心、良い思いを

してはいなかったよ、どうせ大した実力では

ないだろう、と。

無駄足だぜオリオリ、と。」

 

ボロンが・・・アタシ達姉弟への本音を晒し始めた。

 

「しかし・・・!

お前らは噂に違わぬ・・・いや、それ以上に!

めちゃくちゃ強かった!

まさか、ここまで強いとはな、

1人1人もそうだが、姉弟3人揃った時の強さは

まさに無敵だと思ったよ。

だが・・・その強さが・・・ピエールとしての

オレには実に邪魔だった。」

 

じゃ、邪魔っ!!??

邪魔ってどういうことよっ!

 

「負けたオレが言うのもなんだが・・・

これほど強いお前達でも・・・

宇宙政府という組織を覆すには

至らんだろう。

当然だ、政府の規模は全宇宙規模

なんだからな。

しかし、なまじ上級執行官クラスの魔物を

次々と倒すお前らがそばにいるせいで・・・

オリオリの打倒政府のモチベーションは

大きくなるばかりだったろう。

オリオリの説得を目指すオレには

邪魔以外の何者でもなかった。」

 

・・・アタシは・・・

アタシ達姉弟がいれば

宇宙政府そのものを倒せるだなんて、

そんな過信を持っているつもりは

毛頭ないけど・・・アタシ達を筆頭に

粘り強く政府に反抗すれば・・・

同志が増えていき、いずれ道は

拓けると信じていた。

 

それをボロ・・・いえ、ピエールに

否定され・・・思わず黙ってしまった。

アタシ達は中途半端だと・・・。

 

「ゆえにオレ自身の手でお前らを止め、

オリオリから引き離せば・・・

オリオリと共に政府改革を始められる

はずだったんだがな・・・・。

フッ、完敗だったぜ。

・・・今回は負けを認めるがが・・・

オレもこのままでは終わらないっ!

次に会う時までにオレもさらに精進するっ!

次は必ずオレが勝つっ!!

じゃあなっ!強き冒険王達よっ!

オレ以外のヤツに負けるなよっ!

ルーラッ!!」

 

ビュ~~~ン、ビュ~~~~ン!!

 

ボロン・・・・いえ、ピエールがルーラで

立ち去ってしまった。

聖堂には・・・アタシ達と・・・・

粉々に砕かれた碧い宝玉だけが残った。

 

「・・・・・クゥゥゥ・・・・・

ボロン・・・・・

あぁ、なんで・・・なんでよぉおぉボロン!

なぜアナタがピエールなのよぉぉぉぉ!!」

 

気丈に振る舞っていたオリオリだけど。

やっぱり突然起こってしまった出来事に、

心が耐えきれないのだろう。

再び崩れ落ちてしまった。

 

それはアタシも同じ。

付き合いが短い分、オリオリほどの落胆は

ないにしても、義勇軍のメンバーが

憎むべき宇宙政府に寝返るという事実を

受け入れ難い。

 

そして。

オリオリの最も信頼していたボロンでさえも

あのように、取り憑かれたように

宇宙政府の為に活動しようとする・・・・

たとえそこにオリオリの生命を護るという

志があったとしても、だ。

 

それほど人々の心を狂わせてしまう

宇宙政府に改めてアタシは戦慄してしまった。

 

けど悪いことばかりじゃない。

オリオリの信頼するもう1人の人物、

オリオリの夫セアドがっ!

オリオリと同じ志を持っていたという事が

わかっただけでも、アタシ達義勇軍の、

オリオリの心の救いだ。

その手段がかなり奇抜というか、

アタシでも想像できないような方法だったけど。

 

魔星王を手懐ける・・・・かぁ・・・・。

本当にそんな大それた事ができるんだろうか。

 

・・・・そうね、やってみないと

わからないわね、

そうっ!まずはその眠っているという

新しい魔星王・・・・それをこの目で

確かめなければ何もわからないわっ!

 

そう、結局!

その場所へ行ってみないと何もわからない。

振り出しに戻ってしまった。

けどゴールはっ!

少しかもしれないけど希望のあるもの

だってわかったんじゃないかしら。

そうよ、オリオリ!

落ち込んでる暇はないっ!

ボロンのせいでわからなくなって

しまったけど、魔星王の眠る場所へ一刻も

早く向かわなければっ!

そこにアナタの愛するセアドもいるかも

しれないしっ!

 

「リザさん・・・・そ、そうですねっ!

魔星王が我々の味方になれば確かにっ!

打倒宇宙政府に大きく前進できるでしょう。

よし、急ぎ魔星王の眠る場所へ

向かいましょうっ!」

 

オリオリ、よかった、気持ちを切り替えられた

・・・ワケではないでしょうけど

とりあえず前を向いてくれた!

 

「しかしオリオリ様・・・・その場所とは

何処なんでしょう、

情報が全くないこの状況では・・・・。」

 

コッツ、アナタもボロンのことできっと

ツライでしょう・・・・。

けどここは義勇軍の大義の為に

踏ん張ろう、ね。

 

「・・・・・そうだっ!オリオリ様っ!

マレドー殿ですっ!

元上級執行官の彼なら何かご承知かもしれません、

そもそも魔星王誕生計画のリーク元は

彼だったのでしょう!?」

 

「モガッ!コッツッ!ナイス閃きだぞ!」

 

「ピピー!」

 

そうか、そうだった、っていうか今はもう

マレドーが情報を持っているかもしれないって

事に賭けるしかないわね!

よし、急ぎバァジ島の秘密基地に戻ろう!

 

青雲のオーブに込められたセアドからの

メッセージ。

それはこの星を根底から揺さぶる、

とてもとても大きな事実が込められていた。

 

『魔星王を味方に』

 

ブルリア星で戦った魔星王ドスラーデス。

あの魔物の印象が強烈に残っている

アタシ達では到底思いつかなかった発想。

 

それをオリオリの夫、セアドは持っていた。

やっぱりっ!

宇宙王の末裔と結婚するだけの、

大きなスケールの持ち主だった。

 

ボロンの事、魔星王の事、

ここ大聖堂に来る前と後では、

アタシ達を取り巻く状況がまるで変わって

しまったけれど・・・今は一刻も早く

惑星クラウドのコア、つまり新しい魔星王が

眠る場所へ向かわなければいけない。

 

色々な感傷に浸る間もなく、大聖堂を

後にし、モガ丸のルーラでアタシ達は

義勇軍の秘密基地で保護されている

元上級執行官マレドーの元へ向かったっ!




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府と星屑魔法団の接触を阻止すべく
奮闘するが上級執行官ドアヌの軍勢の
返り討ちに遭い彼女以外の隊員は
全員捕虜となってしまった。
その後、アタシ達と行動を共にし
離脱したボロンの代わりにオリオリの
護衛を務める。
どうやらアタシに憧れを抱いてる模様\(//∇//)\

・ピエール(ボロン)
宇宙政府の恐怖政治を正す為、
政府に潜入し内政変革を志す男。
その正体は・・・なんと義勇軍親衛隊隊長、
オリオリの幼馴染ボロンだった。
ボロンは密かにオリオリに想いを寄せ、
彼女の生命の安全を最優先し
打倒政府を目指すオリオリを内政変革へと
変更するよう説得し続けていた、
という本音が本人の口から語られた。
この事実を受けオリオリはボロンに
除籍処分を言い渡し決別宣言をしてしまう。

・セアド
星屑魔法団団長、そしてオリオリの夫。
彼が率いる星屑魔法団が政府に寝返ったのは
実はフェイクだった。
彼は誕生させた新たな魔星王を味方にし、
打倒宇宙政府の切り札に使おうと
画策していたの。
政府に協力したのは魔星王誕生に必要な
星の心臓部“コア”の場所を聞き出す
為だったわけ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード19.「バァジ島帰還」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



「・・・・なるほど、状況は概ね把握した。

しかしまずは。

ワシから労わせてくれ、司令官、

そして冒険王殿達。

よくぞ無事で戻られた、聞けば上級執行官2名、

執行官候補者2名を打ち倒したそうな、

元執行官のワシが申すのもどうかとは思うが、

素晴らしいご活躍でしたな。」

 

青雲のオーブに込められた星屑魔法団団長

セアドのメッセージにより新しい魔星王の

状況を知ったアタシ達。

 

それは・・・一刻も早く新しい魔星王に接触し、

これを味方にしなければいけない

というものだった。

 

しかし肝心の・・・魔星王が眠る場所が

わからず、手がかりもないというこの状況を、

元政府所属のマレドーなら打破してくれると

信じ、アタシ達は彼が今居る此処、バァジ島の

義勇軍の秘密基地に帰還してきた。

 

これまでの出来事の報告と、新しい魔星王が

眠っている場所についての質問をすると、

マレドーはアタシ達を労ってくれた。

 

マレドー。

アタシはアナタに謝らなければいけない。

アナタの事を・・・政府の回し者だと

疑っていたけれど。

各地で耳にした上級執行官としての

アナタの振る舞いは・・・アナタ自身が

口にしていた通り、平和を望むその意志に

基づいたモノだったわ。

 

本当にごめんなさい、疑ったりして。

 

「いやいや、冒険王殿。

むしろそなたの疑念こそ、ごもっともな

感情です。

魔物のワシが義勇軍に寝返るなど、

確かに疑わしい事この上ない。

ワシがそなたの立場だったとしても

同じように警戒を強めていたでしょう。

さすが冒険王、と言うより他ありますまい。」

 

うう、そう言われても・・・。

やっぱり罪悪感は拭い去れないな~

するとオリオリが話題を変えてくれた。

 

「労いの言葉をありがとう、マレドー殿。

しかし我々は・・・とても大きなものを

失ってしまいました・・・・。」

 

「むぅ、それについては残念だ。

ワシが見切りをつけた政府に、

逆に入閣するとはのぉ・・・・

皮肉なものだ、ボロン・・・。」

 

ホントに・・・・皮肉以外の何物でもないわ。

マレドーのような・・・政府を見限る者、

そして冒険の傍らに出会った、義勇軍を

応援すると励ましてくれた街や村の人々。

こういう人達もいるっていうのに、

地道にも義勇軍の活動に賛同するという

動きが皆無ではないのに。

 

彼は自分のチカラを過信して

政府を変える事に躍起になっている。

おそらくは・・・自分のチカラで現状を

打破するという事実が欲しいんじゃ

ないかしら。

 

“オレが政府を変えてみせた”という

事実が・・・。

承認欲求・・・か。

ボロン本人の話を聞く限りでは・・・

彼は自分の出自の低さを忌み嫌っている。

そのコンプレックスが彼の承認欲求に

作用してるかもしれないわね。

 

出自が低いだなんて・・・・それは結局、

自分で自分を蔑んでいるにすぎないと

思うんだけど。

 

けど、ボロンの人生において・・・周囲から

どのような扱いを受けてきたか、

それによってどれぐらいの屈辱を

感じて生きてきたかは・・・

確かに他人のアタシには・・・

理解はできても共感はしてあげられないわ。

それはただの・・・同情でしかないし、

ボロンを哀れんであげたという、アタシの

自己満足になっちゃうかもしれないからね。

 

「ふむ、人それぞれ・・・考える事、

思う事はあるであろうからな、

一概にボロンを真っ向否定することは

他人にはできない事なのかもしれぬ・・・。

さて、魔星王の眠る場所、つまり

惑星クラウドのコアが眠っていた場所だが

・・・・残念だがいくらワシが元・上級執行官

だといえども・・・そのような規模の

大きすぎる話・・・・

存じ上げませぬ、司令官。」

 

「あぁ、そうですか・・・・。

ふ~む、それではどうすれば・・・

クラウド中を虱潰しに探すしか

ないのでしょうか。

しかし、そのような悠長な事が

できる時間もあるように思えません。」

 

むむむ~、いよいよ完全に手詰まりか。

マレドーでさえ知り得ないのなら、

それこそ星の隅々まで探すしか

ないのかしら。

まだ眠っているのなら、アタシの・・・

冒険王の血が為せる邪気を感じる

能力でも魔星王のオーラを

感じ取る事はできないだろうし、

ましてや魔星王はまだ邪悪な存在では

ないという話だし。

 

一同皆、言葉を失ってしまった。

しばし無言の時間が続いたのち、

マレドーが口を開く。

 

「あまり可能性の高い話では

ないのだが・・・・。

ゼンチャンという女なら・・・・。」

 

え?ゼンチャン?

 

「その者であればコアの眠る場所が

わかるかもしれんのぉ。

これは噂程度の話なのだが・・・・

ゼンチャンとは全知全能のオンナ

である、という話を聞いたことがある。

全知というからには、我々では

わからない事も知っているかもしれん。」

 

全知全能のオンナ、ゼンチャン・・・・!

か、神だとでもいうの?

その女性は。

言葉の響きからして、とても高貴な存在

というイメージを受けるわ。

 

「コアの場所はわからぬが・・・

ゼンチャンの噂は耳にした事がある。

このヨンツゥオ大陸の東に位置する

ボォフゥ大陸、その何処かに

ゼンチャンが居る、とな。」

 

次の大陸か!

なんでもいい、今は少しでも手がかりが

ほしいものっ!

その・・・ゼンチャンがコアの場所を

知っている事を願うのみっ!

 

「わかりました。

礼を申します、マレドー殿。

では・・・リザさん達、コッツ、

ボォフゥ大陸に向かいましょうっ!」

 

「ボォフゥ大陸へは・・・・そうですね、

・・・・・マタセ島の港からボォフゥの

ハルラ港へ、というルートが

一番近道かもしれません。」

 

「・・・・マタセ・・・ですか・・・・。」

 

マタセ島・・・・!

王が暴走し、その後、大臣さんが王不在の

混乱を収め、なんとか国を運営している、

あのマタセ!

 

その後が気にはなるけど・・・

アタシ達は王の暴走を大臣さんには伏せている。

なんとなく顔を合わせにくいのも事実ね。

 

オリオリの声に少し影が落ちたのは・・・

多分そういう思いが心に渦巻いたからだろう。

 

「・・・マタセ王の事は残念でしたが・・・

その後の国の様子も、大臣の様子も

気になります・・・挨拶とこちらの報告も

兼ねてお城を訪ねてみましょう。」

 

そうね、気まずさはあるものの、

素通りするわけにもいかない。

 

アタシ達は次の目的地をボォフゥ大陸への

最寄りの港であるマタセ港に決定した。

王亡き後のマタセ国の様子伺いも兼ねて。

 

「オリオリ様っ!」

 

これまでの報告と今後の進路決定が済むと

後方に控えていた義勇軍一番隊隊長

ドゥエインが前に進み出た。

 

「ドゥエイン、我々の留守の間、

マレドー殿と軍兵達、基地の守衛、

まこと大義でした。

礼を申します、ありがとうっ!」

 

「いえっ!とんでもございません、

この度はまことっ、ご苦労様で

ございましたっ!

オリオリ様とリザ殿達のご活躍で

当分はこの大陸での宇宙政府の活動は

勢いを失うでしょう。

さぞやお疲れの事と存じますが、

さらなる冒険の途につかれるとか。

どうかお体だけは壊さぬように

過ごされますよう、このドゥエイン、

そして隊員一同祈っておりますっ!!」

 

「わかりました。

ドゥエイン達は引き続きマレドー殿の

護衛と基地の専守を命じます。」

 

「ハッ!!

しかしボロンの事は・・・・まこと残念です、

我らも・・・仲間の翻意、非常に悔しい

思いです。

ですがオリオリ様のご心痛、我らの比では

ございますまい。

どうかお気を確かにされますよう。」

 

「お気遣い・・・・感謝します、ドゥエイン。

けど・・・大丈夫です。

落ち込んでいるヒマなど・・・

ないのですから。」

 

口では大丈夫だと言ってるけど、やっぱり

どこか自分を奮い立たせている、

そんな空気を感じるわ、オリオリ・・・。

 

それをドゥエインも感じ取ったのか、

彼は深々と頭を下げる。

 

しばらくして頭を上げるとドゥエインは

チラとコッツのほうを見やった。

 

「コッツ・・・・。」

 

「ハ、ハイッ!」

 

「・・・・貴様も・・・・

随分ヒドイ目に遭ったと聞いている・・・・

無事に帰還した事は喜ばしいことだ。

だがっ!」

 

「っ!!」

 

ドゥエインの語調が変わる!?

 

「隊長でありながらっ!

部下全員を捕虜に取られるなどっ!

なんたる失態っ!!

今も3番隊の隊員たちはっ!

暗い牢屋に閉じ込められて政府から

ひどい仕打ちを受けているのやも

しれんのだぞっ!!」

 

「うっ!!

クックゥゥゥ・・・・

もっ申し訳ございませんっ!

す、全て私の至らなさゆえっ!

べっ弁明のっ!・・・・・

うっ・・・うっ・・・・

弁明の余地もございませんっ!!!」

 

ドゥエインの怒張で一瞬にして基地内に

緊張の糸が張り詰めた。

コッツは泣きながらその場に蹲る。

 

「ま、まぁまぁドゥエイン、

その件は・・・コッツも難しい判断を

迫られたと思います。

それにコッツ達だけでは対応の

難しい・・・大きな陰謀や策謀が

渦巻いていたのです、魔法団の離反には。

そんななか、魔法団と政府との接触を

防ぐべく懸命に行動したのです、

コッツは。」

 

「いいえっ!

オリオリ様、私は政府やボロンの

陰謀を止めろ、と言っているわけでは

ありませんっ!

そのような対応、このドゥエインでも

難しかったでしょう。

私が申しているのは部下を守れなかった

此奴の不甲斐なさです、

やはり貴様には隊長など務まらかったんだ。

オリオリ様から兵を預かるという、

その責任の重さを理解していないっ!!」

 

「っ!!

申し訳・・・・ございませんっ!!」

 

「誰に謝っているっ!?

貴様が詫びるのはワシではないっ!!」

 

「ハッ!

・・・・・・オ、オリオリ様・・・・・

申し訳ありませんでした・・・・・

うぅ・・・・グス・・・・・うぅぅぅ・・・・・

大事な隊員を・・・・私は・・・・・

うぅぅぅぅ・・・・ま、守れませんでしたぁ!!

うわぁぁぁぁぁっ!!!」

 

コッツ・・・・あの時の記憶が蘇り、

心が壊れてしまったのか・・・・

オリオリに謝罪すると、その場で

泣き崩れてしまった。

 

っていうか、ドゥエインってこんなに

厳しい人だったのね。

けどまぁ・・・・これが組織という

ものなんだろう。

ミスを犯した者は上官から叱責されなければ

いけない。

でなければミスは繰り返してしまうもの・・・。

 

「コッツ・・・・さぁ、泣き止んで・・・・

確かに3番隊の皆は私も心配です・・・

この先の冒険でも・・・3番隊が捕らえられてる

施設がないか、探索しましょう。

ドゥエイン・・・しかしコッツが居たからこそ、

これまでの戦いで勝利を収めることが

できたのも事実です。

コッツも着実に成長していますよ。」

 

「は、しかしオリオリ様・・・・。

武芸の精進もさることながら、

此奴はまだまだ精神的に未熟です・・・

それが私は不安で心配なのです。

次の大陸の冒険にもコッツを

連れて行かれるおつもりのようですが

・・・このまま隊長に据えていて

よろしいのでしょうか?」

 

「・・・・大丈夫、コッツには引き続き

私の護衛をしてもらいます、

それにアナタが言うように・・・

コッツは未熟だと言うのなら・・・

修行が必要です。

ブルリア星の冒険王と一緒に

冒険をし実戦をこなす、

これ以上の修行はないでしょう?」

 

オリオリ・・・!

ニヤリ、上手く事を収めたわね!

 

「ドゥエインさん、コッツはね、

ボロンの代わりにオリオリを護るって

ボロンに向けて言い放ったんです、

それってすっごく責任感を伴う、

勇気ある発言でしょう?

あのような厳しい実戦をいくつも

経て、コッツだって成長してると

アタシは思います。

それにコッツは・・・部下のみんなの事を

誰よりも心配してるし、責任を

感じてますよ。」

 

アタシは・・・庇うワケではなく・・・

率直にコッツについて思うことを

ドゥエインに語った。

 

実際、執行官候補やボロンとの戦いを

共に戦ったのはアタシ達なんですもの。

コッツの事は十分わかってるつもり。

 

「あいわかりました。

そもそも私に人事権はありませぬ、

オリオリ様、コッツの処遇はお任せします、

オリオリ様の決定に一切異論は

申し上げませぬ。

そしてリザ殿・・・・かたじけない、

このように未熟者ではありますが

以降もよろしく指導してやってください、

お頼み申し上げるっ!」

 

そう言うと、ドゥエインはアタシに向かって

頭を下げた。

 

ちょっ、ちょっとぉ、待ったぁ~!

アタシなんかにまで頭下げなくていいよぉ。

けどなんだか・・・・。

娘を心配する父親みたいね、ドゥエイン。

 

厳しくもあるけど、なんだかんだコッツの

事が心配なのね、この人。

 

「わかりました、ドゥエイン。

コッツの事は私達に任せて。

・・・・3番隊隊長コッツ!

アナタに引き続き私の護衛と、

ボォフゥ大陸への冒険の供を

命じます、いいですね?」

 

「うぅぅ・・・・オリオリ様・・・・!

あ、ありがたきお言葉・・・・!

このコッツ、身命を賭して任務にあたりますっ!

ご高配ありがとうございますっ!!」

 

うん、なんとか場は収まったようね。

そしてコッツ、引き続きよろしくね。

この先も危険な事は続くだろうけど、

一緒に頑張ろう!

 

「リ、リザ殿、それにご姉弟のお二人、

未熟な私ですが・・・リザ殿達のそばで

たくさんの事を学べる事を

コッツは非常に幸せに思っております、

どうかっ!

よろしくお願いしますっ!!」

 

「やぁめてよぉ!コッツ!

もうアタシ達、そんな畏まった仲じゃ

ないでしょう?

だってホラ・・・・あの野営の夜・・・

たくさんお話したじゃない。」

 

「えっ・・・・あっ!

リ、リザ殿っ!そ、それはっ!

その話は2人だけのっ・・・・!!」

 

アタシはコッツと2人で語り合った

あの夜の事をチラリと口にしてみた。

案の定、コッツの顔は炎のように

みるみる赤く染まっていった。

 

「・・・・なんです?2人だけの・・・?

なんですかコッツ、アナタ、リザさん

だけに内緒話をしたんですか?

リザさんも人が悪いですよぉぉぉ?」

 

「フフフ・・・だってぇ、コッツが

内緒にしてって言うから~。」

 

「も、もう!リザ殿っ!

いじめないでくださいっ!!」

 

「ハハハハハ・・・・」

 

アタシはいたずらっぽくコッツを

イジってやった。

さっきまで緊迫していた空気は

もうどこかへ流れていった。

 

(・・・・リザ殿・・・・けどもうその話は

・・・・いいんです・・・・もう・・・・。)

 

コッツの表情が・・・・。

少し陰ったように見えた。

 

この時アタシは・・・。

コッツの様子が少し気にはなったんだけど。

それがどうしてなのか全く理解できなかった。

ドゥエインに叱られたことを

心の中で反省しているのか、

そんなふうに感じたので、あえてそれには

触れなかったんだ。

 

「オリオリ様ッ!」

 

「クサロッ!」

 

場が落ち着いたところで、今度は

2番隊隊長のクサロが前へと

歩み出た。

 

「我々2番隊も・・・・

別行動でコアの眠る場所について

調査してみようと思います。

よろしいでしょうか?」

 

「承知しました。

ゼンチャンに会えるとも、

また会えたとしても・・・

コアの場所が判明する保証はありません、

2番隊にもその役目を命じます。」

 

「はっ!

承知しました。」

 

「クサロ、気を付けて。」

 

「お心遣い、ありがとうございますっ!」

 

ふむ、今後の方針が各隊とも

決定したみたいね。

 

「ではオリオリ様、我々は早速にっ!

一足早く出立いたしますゆえ、

オリオリ様、冒険王殿達、そしてコッツもっ!

体には気をつけてっ!

旅の無事を祈り申し上げますっ!

ではこれにてっ!!」

 

早いっ!

クサロと2番隊はさっそく出発してしまった。

けど、うん、そうねっ!

またお互い無事で再会できるよう、

頑張ろうっ!

 

「・・・・それにしても・・・。」

 

しばらくコッツやオリオリ、ドゥエインの

やり取りを静観していたマレドーが

口を開いた。

 

「司令官・・・アナタのご主人はなんとも・・・

素晴らしく頭の切れるお方ですなぁ、

まさか魔星王を味方にしようなどと・・・・

このワシでも思いつかなんだ・・・・

まこと、素晴らしいっ!!」

 

「・・・・はい・・・・

私もです、マレドー殿。

詳しくはわかりませんが・・・・

コアが人の手の届く範囲にあると知ってから

そのような発想を得たのでしょう。」

 

「うむ、魔星王のようなスケールの違う存在を

配下に置くなどと・・・まるで政府のリーダーの

ごとき胆力よな。一度ワシもご主人に

お目にかかりたいぐらいじゃ。」

 

マレドーは・・・えらくセアドの事を

絶賛していた。

その時のアタシは・・・・。

セアドのスケールの大きさに

単にマレドーが惹かれたという・・・・

ただただ、それだけの事だと

思っていたの。

 

ホントに。

ただ目の前に起こった事を

そのまま受け取っていただけだった。

 

その事が・・・義勇軍を・・・

どれだけの悲惨な運命へと・・・・

導くかも知らずに・・・・。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府と星屑魔法団の接触を阻止すべく
奮闘するが上級執行官ドアヌの軍勢の
返り討ちに遭い彼女以外の隊員は
全員捕虜となってしまった。
その後、アタシ達と行動を共にし
離脱したボロンの代わりにオリオリの
護衛を務める。
どうやらアタシに憧れを抱いてる模様\(//∇//)\

・マレドー
宇宙政府の元上級執行官。
宇宙を平和に治めるべく政府に参加したが
政府の恐怖統治に嫌気がさし政府を離脱し
義勇軍へと寝返った、魔物でありながら
宇宙平和を願う男。
上級執行官時代はヨンツゥオ大陸南部地方で
良政を敷いていた事が当地の一般市民から
語られており、平和を願う心に偽りはない
事の証左であるとアタシは思う。

・ドゥエイン
義勇軍1番隊隊長。
マレドーを宇宙政府から匿いその警護を
担当していた。
同じ隊長クラスでもコッツよりも年長であり
先輩でもあり、コッツの未熟さを
心配している。
それはコッツを気にかけている事の
裏返しでもあるとアタシは思う。

・クサロ
義勇軍2番隊隊長。
諜報活動を得意とする部隊らしく
政府の動向を探る任務を帯びている。
今度のゼンチャンに関する調査も自ら
進んで行うとオリオリに申し出たわ。
義勇軍のようなレジスタンスグループに
とって諜報部隊というのは時に
実戦部隊よりも重要かもしれないわね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード20.「次なる大陸へ」

アタシは魔道士リザ。
そして新たな・・・冒険王姉弟の一人です。
祖父である初代冒険王ガイアスの
意志を継ぎ、日々、冒険の旅をしています。
さて本日の冒険日誌。



マタセ島・・・・

思えばこの島で起こった出来事が・・・

ヨンツゥオ大陸での冒険の

ターニングポイントだったわ。

 

この島の住人達が・・・スライムをエルフ

と呼んで奉っていた。

それは・・・人々がスライムに支配されている

というような歪な構造ではなく、

お互いの生活圏を脅かすでもなく・・・

本当に共存共栄という日常がそこにあったの。

人々が親しみを込めてスライム達に

接していたの。

 

この光景からは・・・人間と魔物との共存に

ついて考えさせられたわ。

そうかと思えば自ら魔物になろうとする

人間も居た。

 

人間を辞めようという心境がアタシには

わからないし、おぞまし過ぎて

わかりたくもないんだけど・・・。

彼は”人間を辞めてしまう”という

感覚よりも”強きチカラを得られれば

人間であることに執着しない”という

思いのほうが強かったんだろうか、

魔物へと変わり果てた末に

アタシ達に退治されてしまった。

 

うん、けど・・・・アタシの・・・

「人間を辞めて魔物になるなんて

おぞましい」というこの思いも・・・

人間>魔物という意識がアタシの中に

存在するってことで・・・。

種族差別になってしまうかも

しれないわね・・・・。

 

まぁ、いずれにしても。

人間とは?魔物とは?

人間と魔物の関係とは?という

自問自答をするようになったのは

ここマタセで起きたこれらの

出来事が深く作用していると思う。

 

そして何より!

ボロンとの別れの地。

決別を宣言したのは先だっての

ヨンツゥオ大聖堂での決戦の直後

だったけど・・・・。

 

仲間として・・・・義勇軍として共に

活動したあの頃のボロン・・・・

戦友のボロンとは・・・彼が、エルフと

呼ばれるスライム達を故郷に

送り届ける為に別行動を取った・・・

あの時すでに別れてしまっていたんだ。

 

アタシは今になってようやく・・・

再びこのマタセ島に足を踏み入れて

ようやく・・・・その事実に気付いたんだ。

 

ボロン、いえ、ピエールとの決戦後は

何かと忙しかったので、感傷に浸る

間もなかったけど・・・あまりにも色んな

出来事が起きたこの島に着いた途端、

アタシの脳裏に・・・その出来事の数々の

記憶が蘇ってきたの。

 

今は・・・一刻も早く新しい魔星王の

居場所を突き止めなきゃいけないって

・・・落ち込んでる場合じゃないって・・・

アタシ自身がオリオリに忠告した

っていうのに、ね。

 

新しい魔星王の眠る場所を知っている

・・・かもしれないゼンチャンという人物に

会うため、アタシ達はマタセ島を

訪れていた。

 

ゼンチャンはボォフゥ大陸の何処かに

いるという・・・マレドーの話を頼りに。

で、ボォフゥ大陸へは・・・

ここマタセ島から飛行船で向かうのが

最短ルートってワケ。

 

そして・・・・。

ここマタセ島を治めるマタセ国の

国王は・・・・魔物化したあげくアタシ達を

襲ってきたんだけど・・・

アタシ達はやむを得ず魔物になった

彼を亡き者にした。

 

王が原因不明の失踪を遂げたマタセ国の

混乱の収拾を・・・大臣さんに託して

この地を去ったアタシ達。

 

その後の国の様子も・・・当然気になっては

いたので、アタシ達は大臣さんを

訪ねる事にしたの。

 

「大臣・・・・お久しぶりです。

お忙しい最中の面会に応じていただき

まことに感謝します。」

 

「おぉ・・・・これはオリオリ殿!

それに冒険王殿達もっ!

お元気そうで何より・・・でもなさそう

ですか?

随分とお疲れのように見受けられますが。」

 

ハハハ・・・さすがにね・・・・

厳しい戦いの連続なうえに・・・・

厳しい現実を突きつけられたからね。

おまけにもう何日間も野営が続いてる、

もう何日もベッドで寝てないな~(´༎ຶོρ༎ຶོ`)

 

相変わらず優しそうな、柔和な笑みを

携えているマタセの大臣さんが

疲労困憊のアタシ達の様子に、

さすがに気付いて心配をしてくれた。

 

「・・・・詳しい事は存じませぬが・・・

義勇軍としての活動・・・

より厳しいものの連続のようですな。」

 

「いえ、ご心配なく。

大臣のほうこそ!

色々と心労がおありでしょう、

国の様子はどうなっていますか?

王の失踪後、さぞや国中が混乱に

陥っていることでしょう、私達も

気にかけておりました。」

 

「はぁ、それが・・・王は未だ戻られません。

失踪当初は・・・城内の者たちも島民らも・・・

不安がっておりました。

しかし幸いなことに・・・皆、王がいない

こんな時だからこそ!と国中が団結

したのです、おかげでそこまで

大きな混乱も、また暴動も起きず、

以前と変わらない暮らしが続いている

と報告を受けています。」

 

「それはっ!

本当によかった~!

きっと・・・大臣殿の人徳のおかげでしょう。」

 

「いえ、ワシなぞ、何もできぬ、

ただの年寄ですじゃ。

島民達の日頃からの心がけに助けて

もらっているようなもの。

それに・・・・こころなしか、ここ最近は

宇宙政府の圧力が以前に比べ

弱まったような気がします。

以前は毎日のように、このマタセ城にも

見回りと称して政府の者が出入りして

おりましたが・・・一番最後に政府関係者が

やってきたのは・・・いつだったか失念

してしまいました・・・・いやぁ歳を取ると

物忘れがひどくなって困りますわい、

ハハハハ・・・・。」

 

そうなんだっ!

ホントによかった~、事が事だっただけに、

アタシ達、みんな心配してたから・・・。

 

それに政府の圧力が弱まった・・・?

むぅ、それって・・・執行官達が

居なくなったのも関係してるのかも。

だとしたらアタシ達の所業も

無駄ではなかったワケね。

 

うん、打倒政府の意志は・・・

民を幸せにする可能性は十分

あるんじゃないの?ボロンッ!!

 

「ひょっとしたらオリオリ殿達の

活動のおかげかもしれませんな、

政府の圧力の縮小化は。

して、今日はどのようなご用件かな?

よもや挨拶回りだけというワケでは

ありますまい。」

 

「はい、実は・・・・。」

 

オリオリは新しい魔星王の事、

星屑魔法団の事、

宇宙政府の事、

そして・・・ピエールとして生きていくと

決めたボロンの事などを

掻い摘んで大臣さんに語ったわ。

ただ・・・。

 

やっぱり、マタセ王の事については

触れなかったけど。

 

「むむむむ、オリオリ殿、

それはそれは厳しく、お辛い旅路

でござったのですな・・・・。

心中お察し申し上げる・・・・。

で・・・そのゼンチャンなる人物を

探す為にボォフゥ大陸へ渡る、

というワケですな。

ふむ、我島の港から最寄りの港は・・・

確かハルラ港ですじゃ。

ハルラ港便なら飛行船の定期便が

出ておる。

その便で彼の地へ向かわれるのが

よろしいでしょう。」

 

「承知しました大臣、ありがとう。

で、その定期便というのは・・・

次回の出港はいつなのでしょう?」

 

「確認させますが本日はもう終業していると

思います。

明朝なら午前中に2本は便が出ていると

思います。

オリオリ殿、もしご都合に差し障りが

なければ今夜はお城に泊まられては

いかがですか?

厳しい旅と活動が続く貴殿達に、

援助できる事柄が少なく心苦しく

思っております。

せめて一晩のもてなしぐらいは

させていただけぬでしょうか?」

 

っ!!

お城に泊まるっ!!

や~~~ん、泊まりたい、泊まりたいっ!

とにかくベッドでぐっすり眠りたいっ!!

オリオリッ!お願いっ!!

うん、って言ってっ!!!

 

「大臣、お気遣い感謝します、

ありがとう。

ご厚意は・・・我らには過ぎたるもの

かとは思いますが・・・・。

それにレジスタンスグループである

我らをお城に泊めてくださるのは・・・

貴国にとって害をなしてしまうのでは

ありませんか?」

 

ゲッ!

ダメなの、ねぇダメなの!?

でもそうか、アタシ達を泊めたせいで

マタセ国が宇宙政府に睨まれちゃったら

申し訳ないか・・・・。

 

「その点はご案じめさるな、

先程も申し上げた通り、ここ最近は

政府関係者もとんと訪れなくなりました、

一晩ぐらいなら心配は無用ですじゃ。」

 

「そうですか・・・では。

親愛なる友人のお気持ちを無下に

退けるのもまた失礼にあたりますね。

ゆえに・・・お気持ち、有り難く頂戴します。」

 

「やった~~~~~!!!」

 

「えっ!?リザさん!?」

 

「モガー!ビックリしたぞリザ、

急に大きな声で叫ぶなんてっ!」

 

ハッ!

しまった、あまりにお城に泊まりたい想いと、

オリオリがいったん遠慮するような口ぶりで

もったいぶるから・・・・

思わず歓喜の叫びが出てしまったΣ(゚д゚lll)

 

「ホッホッホ、どうやら冒険王殿は

心良く我らの申し出を受け取ってくれる

ようですな。」

 

ヒャー!

は、恥ずかしいっ!!

皆の注目を集めてしまい、しかも下心も

露呈してしまい、アタシは顔から火を吹く

ような思いだった。

 

「確かに厳しい戦いはもちろんのこと、

時間との戦いの連続でもあり、

ゆっくり休息を取ることがままならなかった

のも事実。

戦いを担ってくれているリザさん達の

疲労回復も重要なミッションです。

ゆっくり休ませていただきましょう。」

 

や、やった!

恥ずかしいけどっ!

お城に泊まれるなんて、めったに

体験できない出来事だもんねっ!

 

「それでは、係の者に支度をさせます。

ワシは執務に戻りますゆえ、

ひとまず失礼させていただきますじゃ、

皆様方、どうぞごゆっくり、

旅の疲れを癒やされますよう。」

 

「大臣、本当にご厚意感謝いたします、

ありがとうっ!」

 

大臣さんは一礼すると部屋を

出ていった。

ホントにっ。

あの野心家の国王とはえらい違いの、

心優しい人だ。

 

「フフン、リザ~~~。

そんなにお城に泊まるのが嬉しいのか?

相変わらず子供っぽいな~リザは。」

 

「フフフ、でも。

そこがまたステキなんですよ~

リザ殿は。

あんなに強くて凛々しいのに、

ひとたび戦闘を離れれば

子供らしいところや女子っぽい

ところがおありで。

だからコッツはリザさんが好きなんですぅ。」

 

うぅぅぅ、モガ丸とコッツがアタシを

イジってくる~。

コッツは・・・そんな意識はないんでしょうけど、

その無邪気さが余計にアタシに突き刺さる。

 

「フフフ、雲海アイスの時も

リザさんはおかしかったですもんね、

クス。」

 

ゲッ!

ここぞとばかりにオリオリまでっ!

そんな随分の前のことまで持ち出してっ!

 

アタシ達は・・・・。

新たな大陸の冒険の前の束の間の休息を、

ここマタセで取ることができた。

 

マタセ国にとっては悲惨な出来事が

あったワケだけど、今は今の状況で

大臣さんを筆頭に国民全員が

国を盛り上げようと懸命に生きている。

 

心に引っかかっていた懸念の1つが

取り払われた安心感と、

厳しい戦いが続いた疲労感とで

アタシ達はその夜、お城でぐっすりと

眠ってしまった。

 

そして明日から。

また新しい大陸での冒険が始まる。

 

惑星クラウドのコア、すなわち新しい

魔星王の眠る場所を知るため、

その場所を教えてくれるであろう

ゼンチャンという人物を探すために

ボォフゥ大陸へと向かうところから

新しい冒険は始まるの。

 

魔星王を味方にし、打倒宇宙政府を

成し遂げるために。

宇宙の平和を取り戻す、その指導者に

ならんとするオリオリを支えるために。

 

アタシ達の冒険は続くの。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\

・マタセ国大臣
心優しい、国想いの親切な大臣。
国王がいなくなった後の国の混乱を必死に
収めるべく奮闘している。

第7章「白いスライムナイトの覚悟」了
惑星クラウド・ヨンツゥオ大陸編 了

ようやくヨンツゥオ大陸編、終了です。
次回から新大陸編です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2ndシーズン第8章[惑星の秘密を知る者]***惑星クラウド・ボォフゥ大陸編***
エピソード1.「漁港の町ハルラ」


アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



全宇宙を支配する宇宙政府。

彼らは、その恐怖政治により宇宙の星々の

民を苦しめていた。

 

政府は・・・ブルリア星に派遣し、アタシ達

冒険王姉弟に倒された魔星王ドスラーデスに

代わる新しい魔星王をここ、惑星クラウドで

誕生させようと画策する。

 

新たな魔星王を誕生させるには、

星の心臓部『コア』と呼ばれる物質と

星屑魔法団が操る“秘術”が必要だった。

 

様々な紆余曲折の末、新しい魔星王は

誕生してしまう。

しかし、魔星王誕生の裏には

星屑魔法団団長セアドのある狙いが

隠されていた。

 

彼は誕生したばかりの魔星王を手なづけ

打倒宇宙政府の為の切り札とすることを

考えていたの。

 

セアドの妻、義勇軍の総司令官オリオリと

反政府運動を展開するアタシ達は・・・

その新しい魔星王が眠る場所へ向うよう

セアドからの“指令”を受けた。

 

その場所は何処かというと・・・セアドが

青雲のオーブに込めたメッセージに

残されているはずだったんだけど・・・

白いスライムナイト『ピエール』・・・

こと義勇軍親衛隊隊長ボロンが・・・

セアドのメッセージがその場所を

語る寸前でオーブを破壊してしまった事に

よりわからなくなってしまったの。

なぜピエールがボロンで、ボロンが

オーブを破壊したかは・・・

長くなるし、思い出すのもツライので

ここでは割愛するわ・・・。

 

アタシ達は全知全能のオンナ『ゼンチャン』

という人物がその場所を知っているかも

知れないという情報を得て・・・

彼女が居るというボォフゥ大陸へと

向かっていた。

 

「モガー!ハルラの港に着いたぞ!」

 

マタセ島の港から飛行船の定期便で

ボォフゥ大陸の最寄りの港ハルラへと

到着した。

アタシ達にとって惑星クラウドでの

2番目の大陸での冒険が始まる・・・

と言いたいとこだけど・・・

そんな呑気な事をアタシ達は言っていられない。

“ゼンチャンはボォフゥ大陸に居る”という

漠然とした情報しか持っていないから・・・

どんどん聞き込みをしなければいけないんだ。

 

「よぉ〜、そこのお嬢ちゃん達ぃ、

採れたての新鮮な魚はどうだい?

今夜の晩御飯はコイツで決まりだぜ!」

 

港町だけあって魚市場が盛況なようね、

漁師のおじさんがアタシ達に

呼び込みをしてきた。

 

「まぁ、イキがいいんですね〜、

お造りでいただいたら美味しそうっ!

・・・けどごめんなさい、おじさん。

私達、急ぎの用があって・・・。

人を探してるんですが・・・『ゼンチャン』

という人物の噂を耳にした事は

ありませんか?」

 

漁師さんの売り込みをさらりと受け流し

コッツがいきなり本題に入る。

 

「ゼ、ゼンチャンだとぉ!?

なんだ?お嬢ちゃん達、ゼンチャンの

関係者かい?」

 

わぁおっ!

いきなりビンゴじゃないっ!!

この漁師さん、ゼンチャンを知ってるんだ!

ん?けど・・・漁師さんの表情が

少し険しくなってる気がした。

 

「わ、私達はゼンチャンとは会ったことは

なくって・・・関係者ではなくて・・・

訳あってゼンチャンに聞きたい事が

あるんです。

その為にゼンチャンの情報を集めようと

しているんです。」

 

「そ、そうか・・・。

いや、俺もゼンチャンっていうのは

噂で耳にした程度なんだがな。

この港よりもう少し奥地の辺りに

ゼンチャンっていう全知全能の神の化身

っていう謳い文句の女が現れるように

なったって聞く。

ただ・・・そのゼンチャンってーのと

因果関係があるのかはわからねぇんだが、

ゼンチャンの噂が流れるようになって

しばらくして、ここら一帯の海で

良くない出来事が多発するように

なっちまってな。

それで俺ら漁師仲間の間じゃあ、ゼンチャン

っていう名前に良い印象をもってないんだ。

だからお嬢ちゃん達がゼンチャンの名を

出したもんだから、ちょいと警戒しちまった、

ごめんよぉ。」

 

ふむむ、全知全能の神の化身・・・

なんか聞くたびに肩書きが仰々しく

なっていってる気がするんだけど・・・。

けど。

ゼンチャンはこの近くに居るんだ。

 

星雲のオーブをピエールに叩き割られた時は

どうしようかと思ったけど。

意外と早くにゼンチャンに会うことが

できそうね。

 

ところで、この一帯の海で起こる

良くないことって何だろう?

 

「実はな・・・漁に出た船がもう何隻も

帰ってこねぇんだ。

捜索もやるにはやったんだが見つからず

じまいさ。

口にしたくはないが・・・もう

助からねぇんじゃないかってな。」

 

「モガー!

それはかわいそうだ〜。

おじさんも心配でたまらないだろうなぁ

・・・。」

 

「あぁ、俺の仲間の船も一隻行方不明の

ままなんだ。

それともう1つ気になることがあってな、

その・・・ゼンチャンが現れたっていう

奥地の村のモンらぁがどういうわけか

この市場でカツオを買い漁るように

なっちまってな。

ちょっと、いや、かなり俺らも

困ってるんだよ。

これもゼンチャンの噂が流れるように

なってから後の事さ。」

 

「え、なんで?

たくさん買ってくれるならおじさん達

儲かっていいんじゃないのか?」

 

「まぁそりゃそうなんだが・・・。

この辺り一帯には海の守り神と呼ばれる

神獣が棲んでいるといわれる島があってな、

その島には毎月カツオを供える習わしが

あるんだ、ところが片っ端からカツオを

買われるもんだから、お供えに回す分の

カツオが確保できねぇんだ。

ひょっとしたら仲間の船の遭難事件は

その守り神の祟りなんじゃあないかって

俺は睨んでる。」

 

なるほど〜、確かにゼンチャンの噂が

流れるようになってから色々と

出来事が起こり過ぎてるわね。

そりゃあ、このおじさん達じゃなくても

ゼンチャンに良い印象は持てないわね。

 

「おじさん、さぞや不安でたまらない

でしょう、心中お察しします。

そんなところ申し上げにくいのですが、

他にゼンチャンに関する情報は

ないでしょうか?

私達はどうしてもゼンチャンに会わなくては

いけないのです。」

 

「ふーむ、そうだなぁ、あいにく俺は

直接ゼンチャンと会った事もないし

関わりもないしなぁ。

おーい、オメェらっ!

例のゼンチャンっていう女の事で

何か知ってるヤツぁいねぇかー?」

 

おじさんは漁師仲間に大声でゼンチャンの

事を聞いて回ってくれた。

すると1人の仲間らしき漁師さんが

それらしい情報を持っていた。

 

「ゼンチャン、ゼンチャンねぇ。

そういや昨日、市場に来てた背の高い男が

ゼンチャンに会う、みたいなことを

言ってたような・・・。」

 

「そ、その男性の名はっ!?

そして、何処に向かうと

言っていましたか!?」

 

「確かドゼウって言う名前だったな、

ここから西にある剛力の像という

場所へ向かうと言ってたぜ。」

 

「その、ドゼウ殿を追いかければゼンチャンに

会えるかもしれませんね、私達も

急いで剛力の像へ向かいましょうっ!」

 

港に着くなりゼンチャンの情報が

かなり多く集まったわ。

漁師さん達の気の毒な話も合わせてだけど(>_<)

 

「おじさん、ありがとうっ!

助かります・・・あ、せっかくなんで

そのお魚いただきますね。

不安な航海の中、獲ってこられたお魚、

ありがたくいただきたいと思います!」

 

「おっ、ありがとうよ、毎度ありぃ!

お嬢ちゃん達、気をつけてな。

とにかくゼンチャンの噂からこっち、

物騒な話ばかりだからな。

それに・・・子どもだけの旅は

危険だろうだからな。」

 

情報のお礼にお魚を購入。

けどそうね、確かに不気味な話の連続だ。

ゼンチャンには・・・なんだか

良からぬイメージを持ってしまったし。

 

と、それはさておき!

今日の夕食は決まりね。

本当にっ!

おじさん達が命がけで獲ってきたお魚、

ホント美味しそうっ!

野営になるだろうけど、今日は

食事が楽しみ(*^^*)

 

「リザッ!

ヨダレが垂れそうだぞっ!

晩御飯の事ばっかり考えてるのか!?

まずはドゼウに会うのが先決だぞっ!」

 

ギクッ!Σ(゚д゚lll)

アタシ、そんなに締まりのない顔してた

のかしら、モガ丸にツッコまれちゃった!

 

「ふふ、リザ殿ったら、やっぱり可愛い〜❤︎

お魚のことで頭が一杯なんですね。」

 

キャ〜、コッツまでっ!

ダメダメ、最近はモガ丸とコッツが

セットでアタシをイジってくるのが

定番になりつつあるぅ(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾

 

アタシはひとまずお魚の事を頭の片隅に

追いやり、早足で港町から出発した。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード2.「全知全能のペテン師?」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



剛力の像・・・厳めしい年配の男性を象った

巨大な像がそびえ立っていた。

その像の地下に空間が存在していた。

 

当然のように魔物が棲み付いていたので

これらを退けながら地下空間を探索するも

ドゼウ、ゼンチャンはおろか人は誰も

いなかった。

 

「むぅ、ドゼウもゼンチャンも居ないなぁ。」

 

「一旦ハルラに戻りましょう。

ここには手がかりは何もなさそうです。」

 

せっかく得たゼンチャンに繋がる

情報ですもの、急いでその、ドゼウという

人物を見つけなくてはっ!

 

アタシ達は急ぎ、モガ丸のルーラで

ハルラに戻った。

 

「よぉ〜お嬢ちゃん達!

無事に旅を続けてるようだな、

で、どうだい?魚は美味かっただろう?」

 

あ、うん、とってもっ!

昨日の野営で焼き魚にしていただいたわ、

すっごく美味しかった❤︎

お造りでいただけなかったのが

残念だけども・・・

って違うっ!

あ、いや、お魚は確かに美味しかったけどっ!

剛力の像にはドゼウが居なかったのっ!

 

「あぁ?なんだ、すれ違いかぁ、

ついさっきまたドゼウがやってきたんだけど、

オレぁ、てっきりお嬢ちゃん達と

出会ったのかと思ってたよ。」

 

「え!

ドゼウ殿がここを訪れたのですか!?

おじさん、ドゼウ殿は次は何処へ向かうと

言っていましたか!?」

 

「次は癒しの像へ向かうと言ってたぜ。

それにしても・・・お嬢ちゃん達も・・・

ゼンチャンに話を聞かなければって

言ってたが・・・実は相当恨みが

あるのかい?

そんだけ血相変えてドゼウを探してる

ところを見ると。」

 

恨み!?

なになに、どういう事!?

 

「恨みとはどういうワケでしょう?

それに私達も・・・という事は・・・?」

 

「あぁ、ドゼウはなんでもゼンチャンに

恨みがあって、それでゼンチャンを

探してるそうなんだ。」

 

恨み・・・何?ゼンチャンは

人から恨みを買うような悪い人物だって

言うのかしら?

この漁港の漁師さん達の間では

不吉な出来事の根源みたいな

言い回しだし・・・。

ふ〜む、何か悪い予感がするわね。

まさか宇宙政府が絡んでるのかしら、

だとしたらドゼウって人の身が危ないわね。

 

「リザ殿達、もしゼンチャンが良からぬ

人物であるならドゼウ殿が心配です、

急いで癒しの像へ向かいましょうっ!」

 

そうね、ゼンチャンを探すのが目的だけど

なんだか危険な雰囲気も漂ってきたわ。

 

「癒しの像はここから東の方角だ。

お嬢ちゃん達、またまた気を付けて

旅を続けろよ。」

 

うん、ありがとう、漁師のおじさん。

アタシ達は急ぎ癒しの像へと向かった。

雲海沿いに陸地を歩く。

すると半島の東端にその像は建っていた。

 

今度は美しい女性を象った巨大な像。

像の周りには堀が張り巡らされいて

まさに癒しを表現した像ってカンジね。

 

剛力の像と同じく地下に空間があり

やはり同じく魔物が棲み付いていた。

魔物を退け最深部まで進む。

 

「モガ〜、癒しの像って名前の割に

不気味だし、魔物もたくさん居たなぁ。」

 

「ずお?・・・おまんらは?」

 

すると1人の背の高い・・・訛りのキツイ

男性が居てアタシ達に話しかけてきた。

 

「わっビックリしたっ!

も、もしかしてお前がドゼウか?」

 

「んだば、オラがドゼウだ。」

 

よかった、今度は追いついたっ!

そしてドゼウは無事なようね。

 

「モガ〜、やっと会えたなドゼウ、

オイラ達お前を探してたんだ。

実はオイラ達もゼンチャンに用があって。

ゼンチャンと会うっていうお前の話を

港町で聞いてさぁ、そんでここに

やって来たってワケ。

ゼンチャンに会うんだろ?

オイラ達も連れていってくれよぉ。」

 

モガ丸がゼンチャンの名を口にすると

みるみるドゼウの表情が険しくなっていった。

 

「おまんらも・・・ゼンチャンの被害者か!?」

 

「被害者!?」

 

被害者・・・やっぱり・・・

ドゼウはゼンチャンに恨みがあるっていうのは

本当のようね。

 

「被害者っていうのはどういう事だ?

ゼンチャンっていうのはそんなに

悪いヤツなのか?」

 

「ゼンチャンは・・・自分の事を神だと、

全知全能の神だと偽り、オラの村のみんなさ

信じ込ませた。

そしてたっくさんのお金を奪い取っただよ!

オラの嫁っこもたーくさんお金渡しちまって

オラ達夫婦、すんごく貧乏になっちまった、

それが元でオラ達もう離婚寸前だ、

オラ、ぜってーにゼンチャンを許さねぇ!」

 

ムムム、全知全能ってそういうワケだったの!?

人を騙す為の謳い文句だったなんてっ!

アタシは腹立たしい気持ちになると共に

ゼンチャンがとんだ紛い物であるという

事実に大きな失望を抱いてしまった。

 

そんな悪どいペテン師が魔星王の場所なんか

知ってるわけがないっていう失望。

しかし・・・一旦耳にしてしまった

ドゼウ夫婦や村のみんなのトラブルを

見過ごすわけにはいかないっ!

そのペテン師ゼンチャンを懲らしめて

やらなければっ!

そしたら漁師のおじさん達の不吉な事件の

事も何かわかるかもしれないし。

そうでしょう?オリオリ。

 

書からオリオリが現れドゼウの村へ

向かう旨を告げた。

 

「そうですね、このドゼウさんの村の不幸を

見過ごすわけにはいきません。

それにゼンチャンという人物にも・・・

一応、直に会って魔星王の事を

聞いてみないといけない。

何か事情があるのやもしれませんし。」

 

「わっ!

ほ、本から人がっ!」

 

「あ、驚かせてすみません、これには

ワケがあり・・・今はひとまず本の事は

置いておいて・・・。

ドゼウさん、それでゼンチャンは何処に

いるのですか?

我々は彼女に会わなければいけない

理由があるのですが・・・」

 

「い、いやぁ、実はオラもゼンチャンを

探してるんだ。」

 

「モガーっ!ドゼウも知らないのかぁ!?

なんだ、オイラ達も振り回されてたのか!?」

 

「もしかしたらゼンチャンは今頃、

オラの村にやって来てるかもしれねぇ、

また村人からお金を巻き上げる為に!」

 

「ドゼウさん、我々をあなたの村に

案内していただけないでしょうか?」

 

「んだばっ!

おまんらも相当ゼンチャンに恨みが

あるようだなっ!

オラ、仲間が増えたみてぇでなんだか

心強いぞっ!」

 

ふーむ、恨みも何も・・・アタシ達は

まだ会った事もないんだけどね・・・

ゼンチャンに。

でもまぁ、心強いっていうのなら

それはそれでドゼウの為になるし、

ここはアタシ達も被害者っていうテイで

動いたほうがいいかしら?

 

「オラの村はキジキ村っていうだ、

おまんら、さぁ行くぞ、ゼンチャンを

とっ捕まえて皆んなに正体を

暴いてやるだよっ!」

 

惑星クラウドのコアの存在する場所、

すなわち新しい魔星王が眠る場所を

知っているかもしれないという

全知全能のゼンチャン・・・。

 

なんだか話はおかしな・・・それでいて

良くない方向に進んでしまっていき、

ゼンチャンはペテン師だという

疑いが強まった。

被害者だと言うこの、ドゼウの村に

やって来るというゼンチャンに会う為、

アタシ達はドゼウの住むキジキ村へと

向かった。

 

 

 




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\

・ドゼウ
全知全能のオンナ「ゼンチャン」に恨みを
抱く男性。
どうもゼンチャンはペテン師で、彼の奥さん
がゼンチャンに騙されたあげくお金を
たくさん騙し取られた事が原因で
夫婦は離婚の危機に陥ってしまったらしい。
ゼンチャンの悪事を暴くべく彼女を
必死で探しているらしいの。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード3.「神への冒涜者」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



「ここがキジキ村、オラの住んでる村だべ。」

 

ハルラの港からほど近い北の山麓に

ドゼウの村があった。

ここにゼンチャンが来ているなら、

早々に会って詐欺まがいの行いの

真相と、クラウドのコアが眠っている場所を

知っているのか、を確認しなければ。

 

と、村の中央であろう方角から

何やら騒めきが聞こえてきた。

 

「リザ殿、あれはなんでしょう?

何やらたくさんの人達が踊っている

ようです。」

 

ホントだ、踊ってる・・・。

村祭り・・・なのかしら?

そういう時節なのかしら?

 

ただ、踊っている人々の表情は・・・

お祭りを楽しんでいるようには・・・

とても思えなかった。

 

「あれは・・・!

『カツオ節踊り』だべ、あれサ踊れば

幸せになれるってゼンチャンに

踊らされてるんだ、確かにあの踊りは

この辺りの人間にとっては神聖なお祈りの

踊りだけんども、決してゼンチャンを

崇めるために踊るものではねぇっ!

みんなゼンチャンに騙されてるだっ!」

 

!!カツオ節踊り!?

 

 

確か漁師のおじさんは奥地の人達が

カツオを大量に買い漁ると言っていた。

それとこのカツオ節踊りと何か関係が

ありそうね。

それに・・・。

神聖な踊りだけどゼンチャンのための

踊りではない??

では一体誰に祈るための踊りなんだろう?

 

「ゼン様を悪く言うな。」

 

と、アタシ達の背後から怒気を含んだ

女性の声が飛んできた。

 

「ずおっ!カラちゃんっ!」

 

「バカドゼウっ!

なぁんも知らんクセにゼン様を悪く

言うんじゃねぇっ!」

 

「モガっ!

ひょっとしてドゼウの奥さんか?」

 

振り返ると、不機嫌そうな顔をした

若い女性が立っていて、ドゼウに向かって

いきなり罵声を浴びせてきた。

 

「カラちゃんっ!いい加減目を覚ますだっ!」

 

「うるさいっ!黙るだっ!

おまんなんかもう知らんっ!!」

 

アタシ達には目もくれず、ものスゴイ剣幕で

その女性はドゼウを罵倒し始めた。

アタシ達は名乗るタイミングすらなかった

(o_o)

 

「ちょっ!カラちゃんっ!

ど、どこ行くだっ!?」

 

「カツオ節まぶしに行く。

ゼン様が潮の祠さ来てるだ。

だで、私はカツオを獲りに行く。

ついてくんなよバカドゼウっ!」

 

「ぬおっ!!

さっきからバカバカって言うな、ボケっ!」

 

「モガ〜、まるで子どものケンカだな〜

まいったぞ・・・。

ドゼウの奥さん、ゼンチャンと定期的に

会ってるなら話を聞きたいところだけど

・・・。」

 

「とてもそんな雰囲気じゃなさそうですね。」

 

確かに(>人<;)

会うなりこれだもんね。

夫婦ってここまで歪み合えるもの

なのかしら。

アタシ達、オリオリ達のようなお互いを

信頼し合う夫婦を間近で見てるもんだから

ドゼウ夫婦のやり取りに面食らって

圧倒されてしまった(>_<)

 

それにしても。

カツオ節を崇める?神聖視?するのが

ゼンチャンの教えなのかしら。

それって漁師のおじさんが言ってた、

海の守り神にカツオを供えるっていう

習わしと関係あるのかしら?

 

「ずぉぉぉ!カラちゃーんっ!

おまん、カツオを獲りに行くって、

どこさ行ぐつもりだーっ!?

ま、まさかオリハルゴンの島じゃ

ねぇべなぁ??」

 

「う、うるさいっ!!

ぜってぇついてくんなよ、ドゼウ!!」

 

そう叫ぶとドゼウの奥さん、カラは村を

飛び出していってしまった。

 

「カラちゃん、きっとオリハルゴンの島さ

いぐつもりだ。

お、おまんら、オラはカラちゃんを

追いかけて島さ渡るのやめさせる、

悪りぃがゼンチャンの居場所に

行くのはその後にしてくんねぇか?」

 

「モガー!

なんだかわかんないけど、オイラ達も

ついてくぞ。

なんかヤバそうな雰囲気だしな!

な?リザ。」

 

そうね、色々と疑問だらけだけど

ドゼウの奥さんがただ事じゃないって

いうのは見て取れた。

アタシ達もドゼウに同行しよう。

話は追いかけながらでもできる。

いいかしら?オリオリ?

 

「ええ、カラさんを追いましょう。

それがゼンチャンに繋がることにも

なりましょうし。」

 

「ずお、おまんら、ついてきてくれるのか?

すまん、恩に着るだ、ただ島には

オリハルゴンっていう魔物が棲んでる、

気を付けていくど!」

 

ま、魔物!?

それは危険だわっ!

一般人の、しかも女性が魔物の棲む島に

単身渡ろうだなんてっ!

これは一刻を争うっ!!

 

ドゼウとアタシ達は急いでカラの走り去った

方向へ向かって走り出した。

 

「はぁはぁはぁっ!

待ってけろ〜〜、カラちゃーーーーんっ!!」

 

ドゼウはもう息を切らしながら奥さんの

名前を呼んでいる。

よっぽど心配なのね、いがみ合っていても

やっぱり。

 

「ところでドゼウ殿、オリハルゴンとは

一体どういう魔物なのですか?

この辺りの住民に危害を加えるような

悪い魔物なのでしょうか?」

 

「はぁはぁっ、い、いや、オリハルゴン

っていうのはハルラ港の沖合にある

小さい島に棲む・・・はぁはぁ、魔物

なんだが・・・魔物というよりは神獣、

神の使いと呼んだほうが正しいかも

しれねぇ。」

 

か、神の使いっ!神獣っ!?

 

そ、それってまさに漁師のおじさんが

言っていた海の守り神のっ!!??

 

「はぁはぁはぁっ、お、おまんら、し、

知ってか、はぁはぁっ!」

 

「モガ〜、ドゼウ、これ飲めよ!」

 

パシッ!

 

見るからに運動が苦手そうな体型のドゼウが

・・・ただでさえ走るだけでもキツそう

なのにさらには話をしながら走るって

いうのはかなり体力の消耗が激しい

んだろう。

もうほとんど会話にならないぐらいに

息が切れているのを見かねてモガ丸が

水筒をドゼウに放り投げたの^_^;

 

「ゴクゴクゴクッ!

ぷはぁあああ、あ、ありがとう!

い、生き返ったべ!」

 

「ったく〜、リザ達、少しペース落として

進もう。

ドゼウは全然ついていけてないぞ!」

 

そ、そうね、アタシ達は冒険者だから

慣れてるけど、ドゼウも同じように

ってわけにはいかないものね。

けどこんな調子で奥さんに追いつけるの

かしら(⌒-⌒; )

っていうか、奥さんのほうは足が速い

のかしら、全く追いつける気配が

ないわね。

 

「で?

オリハルゴンっていうのはどういう

魔物なんだ?」

 

「はぁはぁ、オリハルゴンっていうのは

実はハルラ港近辺の守り神のような

魔物だべ。そしてカツオが大好物なんだが、

昔はその好物を捕獲するために、度々

ハルラ海に出没してたらしんだ。

海っていってもこの星の海は雲海の下だから

陸からは見えねぇんだがな。

それはさておき、ハルラ一帯は遠い昔から

漁が盛んだ、カツオを捕獲中の

オリハルゴンと漁船がよく鉢合わせに

なったりで不幸な事故も度々あったと

聞くだ。」

 

ふむ、人間と自然、野生動物や野生の魔物

とが生きている以上、避けられない事ね。

特に人間が悪いともオリハルゴンが悪いとも

思えない自然の摂理だとは思うけど。

それがどういう経緯で神獣と呼ばれるに

至ったのかしら。

 

「んで困った昔の漁師達は獲った大量の

カツオをオリハルゴンの住処である

その小さな島に供える事にしたらしいべ。

するとオリハルゴンが海に出没することは

なくなり不慮の事故もなくなり、おまけに

オリハルゴンが直接カツオを獲りに来る

事もなくなったから漁師達の漁獲量も

増えたって話だ。

現代のオラ達からすれば当然の話だな、

オリハルゴンが海に来なくなった分、

人間と鉢合う場面がなくなったんだから。

けどこの出来事が故事となり『オリハルゴン

にカツオを捧げれば航海の安全と豊漁が

約束される』と漁師達、果てはこの村の

周辺の民達の言い伝えになったんだべ。」

 

なるほど〜そういういきさつね。

漁師のおじさんが言っていた内容と

合致する、至極真っ当な話だわ。

 

「ところがだ。

ところがここでゼンチャンが絡んでくるだ。」

 

「モガ?

どういう事だ?」

 

「ゼンチャンは自分を全知全能の神に

なぞらえるためにこの地方の言い伝えを

悪用しちまうんだ。

オリハルゴン=海と漁業の神の使い、という

図式をそんまま自分に置き換えちまった。

この図式にはカツオが神への供物という

意味も含まれているだ、カツオから生まれる

カツオ節を自分に捧げよ、海の安全と

豊漁を願う祈りをカツオ節を持って行え、

そうすれば皆んな幸せになる、という

具合にな。」

 

な、なんと罰当たりなっ!

神の名を騙って詐欺を行うなんてっ!

とんでもない悪党じゃないのっ、

ゼンチャンって!!

 

「そしてゼンチャンを信用した村の人たちは

漁港で大量にカツオを買い漁って

カツオ節に加工しゼンチャンに捧げるように

なっちまっただ。

おかげで本来オリハルゴンに供えるはずの

カツオが市場から消えてしまい、

ゼンチャンが現れてからというもの、

オリハルゴンへのお供えが徐々に減り、

今ではほぼ途絶えちまっただ。

怒ったオリハルゴンは、大昔のように

自ら海でカツオを獲るようになっただ。

しかも、カツオを供えてもらう事に

慣れちまってたオリハルゴンは、いっこうに

供物が来ない事で怒りは倍増、より凶暴に

なってしまったって話だ。

そう、全てゼンチャンのせいだ、

オリハルゴンのポジションを悪知恵で

奪ってしまったんだからなっ!」

 

「ドゼウの奥さん、カラはなぜそんな危険な

島へ行こうとしてるんだ?

まさか、オリハルゴンが獲ってくるカツオを

手に入れようって考えなのか!?」

 

「きっとそうだ、ゼンチャンは

祈りの儀式にカツオ節を捧げさせ、

市場やオリハルゴンからカツオを奪い、

祈りの儀式を行う代償として皆んなから

お金を巻き上げるだ、オラ達夫婦はもう

払うお金がないから代わりに儀式に使う

カツオ節を用意しろ、とでもゼンチャンに

言われてるんだべ、おそらく。

カツオは・・・今やもう市場には

ほぼ出回ってない、だからもうオリハルゴン

が自ら獲ってくるカツオぐらいしか、

この辺りではカツオを用意できねぇんだべ。」

 

そっ、そんな凶暴な魔物と化してしまった

オリハルゴンの元へ行くなんてっ!

カラ、危険すぎるっ!!

 

「そうなんだっ!危険すぎるだっ!

けどっ!自分の命よりもゼンチャンに

カツオ節を捧げるほうが大事だって思うほど

カラちゃんや村のみんなは狂っちまってる

って話だ、オラはそこが恐ろしいっ!

オリハルゴンに殺されちまうより、

オリハルゴンが獲ってくるカツオを

奪おうだなんて考えさせてしまう

ゼンチャンもっ、それに何の疑いも

持てないカラちゃんもっ!」

 

空腹で苛立っている野生動物や魔物ほど

恐ろしいものはないわっ!

急いでカラを止めなければっ!!

 

ドゼウのコンディションが心配だけど、

それよりもカラの命のほうが危ないわっ!

 

ドゼウのためにペースを落としていた

アタシ達だけど再度ペースアップして

カラを追いかけようと、アタシ達は

走り出した。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\

・ドゼウ
全知全能のオンナ「ゼンチャン」に恨みを
抱く男性。
どうもゼンチャンはペテン師で、彼の奥さん
がゼンチャンに騙されたあげくお金を
たくさん騙し取られた事が原因で
夫婦は離婚の危機に陥ってしまったらしい。
ゼンチャンの悪事を暴くべく彼女を
必死で探しているらしいの。

・カラ
ドゼウの奥さん。
全知全能の神の化身と嘯くゼンチャンを
モロに信じ込んでしまっている。
そして多額のお金をゼンチャンに
渡してしまい、ドゼウと離婚の危機に
陥ってしまうが、それを悪びれもせず、
逆にゼンチャンを信じない夫を
激しく罵倒する始末。
ゼンチャンの催す儀式に必要な
カツオ節を手に入れる為、
魔物の棲む島へ渡ろうとしてしまうの。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード4.「改造バギクロス」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



「はぁはぁはぁはぁっ!

ここにっ!はぁはぁっ!わっ若いおなご

がっ!はぁはぁっ!こ、来なかったかっ!?

はぁはぁはぁっ!」

 

「あ、あぁ、ほん半時間ほど前に

エライ形相の若い女が来てオリハルゴンの

島へ行く、と言って気球で出発してったよ。

この頃じゃあ、あの島へ渡るのは危険だぞ

ってかなり念押ししたんだがな、まるで

聞く耳を持たずに飛び出していって

しまった。

そ、それより、お前さん大丈夫かい?

エラく息が上がってるけど?

もしかしてその女の知り合いかい?」

 

自らを全知全能の神と騙り人々から

金品を巻き上げる・・・ペテン師の

ゼンチャンに騙されているドゼウの奥さん、

カラはオリハルゴンという神獣が棲む島へ

渡りカツオを手に入れようとしていた。

 

しかしゼンチャンが現れてからというもの

オリハルゴンは好物のカツオを思うように

捕食することが出来ず凶暴に

なってしまっていた。

 

そんな危険なオリハルゴンが棲む島に

渡ろうとするカラを止めようと

ドゼウとアタシ達は早足でカラの後を追い

ここ、ハルラ港のはずれにある気球船の

発着場へとやって来ていた。

 

「なぁっ!しまっただぁ!

間に合わなかったか〜・・・

カ、カラちゃぁぁぁんっ!!

戻ってこぉ〜いっ!!!

死んでしまうぞぉぉぉぉ!!!」

 

ガクっと膝をつき届くはずもない叫びを

島があるであろう方角に向かって

発したドゼウ。

その叫び声は虚しく雲海に吸い込まれて

霧散する。

 

「えぇ!?あれはお前さんの嫁さんかい!?

そっそれは、かなり危険じゃないかっ!

どうして1人で島に渡らせるなんて事を

したんだ!」

 

「うぅぅっ、と、止めようと思って

ここまで追いかけてきたんだども・・・

ま、間に合わなかったんだ・・・。」

 

「む〜喧嘩でもしたのかい?」

 

「うぅぅ、グス、こんな事になるなら・・・

喧嘩なんかするんじゃなかったぁぁぁっ!」

 

・・・離婚寸前とまで言っていたけど、

いざ命の危険が迫るとなると、やっぱり

心配なのね、ドゼウ、けどっ!

泣いててもどうしようもないでしょっ!

何勝手に諦めてんのっ!

それでも男なのっ!

しっかりしないとっ!

 

「急いで我々も後を追いましょうっ!」

 

「モガー!ドゼウ、お前がカラの無事を

信じなくてどうするんだ!

ホラッ、オイラ達も気球船に乗るぞっ!」

 

「お、おまんら、正気かっ!?

し、島には凶暴になっちまったオリハルゴン

がいるだど!?」

 

え〜い、喋ってるヒマはないっ!

モタモタしてたら助かるものも

助からないっ!

 

「わぁっとっとっ!」

 

有無を言わせずジョギーがドゼウの襟を

鷲掴みにして気球船に乗せる。

 

「大丈夫っ!

リザ殿達がいればオリハルゴンに

やられる事はありませんっ!

ドゼウ殿 っ急ぎましょう!

っていうわけで船頭のオジさん、我々も

オリハルゴンの棲む島まで行きたいのですが

お願いできますか?」

 

「全く、どいつもこいつも命知らずな

ヤツばっかだなぁ。

けどオリハルゴンは今本当に危険な状態だ、

命の保証はできないぜ、オレにしたって

命がけのフライトだからな、こっちの方は

たんまり弾んでもらうぜ?」

 

そう言うと船頭さんは親指と人差し指で

丸く円を作って見せてきた。

 

「ハイッそれはもう、無理を承知で

お願いしてるのですから。」

 

船頭さんにとっても仕事とはいえ

わざわざ危険なフライトをしたくは

ないでしょう、料金の件は仕方ないわね。

 

「ヨォシ、話は決まったっ!

出発するぜ、しっかり掴まってろよ。」

 

留ロープが解かれ気球は上昇を始めた。

急がないと、カラがオリハルゴンに

襲われる前に助けださないと!

 

けど気球船というのは、風に身を任せて

進む乗り物だから・・・任意でスピードを

上げるという事ができない。

追う行為には向いてない。

 

「ずぉぉお!は、早くっ!

もっと早く進めねぇだかー!」

 

「ちっ!マズイな、風向きが悪い。

逆風だぜ、これじゃあスピードアップ

どころかダウンだ。

お前さんの嫁さんが出発した時は

追い風だったんだがな。」

 

「そ、そんなぁっ!」

 

ふむ、風か・・・。

ハッ!

ひょっとすると・・・

できるかもしんないっ!

 

「みんなっ!

しっかり船体に捕まっててっ!

一か八か試してみたい事があるの。」

 

「モガっ!リザっ!やってみたい事って

なんだ!?」

 

「風が逆風だっていうなら、もっと強い風を

起こせば今よりスピードアップできる

んじゃない?」

 

「風を起こす?

あ、そうか、風の呪文だな、リザ姉。」

 

「ふふふ、そうよ、さすが弟ね、

ジョギー。船頭のおじさん、島の方角は?」

 

「あ、あぁ、船体は今、島に向かって

真正面に進んでる。

それよりお嬢ちゃん、何をするつもりだ?」

 

「今からアタシが風の呪文を推進力代わりに

行使する、みんな落ちないように

ちゃんと捕まっててっ!」

 

「え?なんだって!?呪文?」

 

「モガ、おじさん!いいから早くっ!

落ちちゃうぞ!」

 

モガ丸が船頭のおじさんを促す。

全員どこかしら船体に捕まったのを

確認しアタシは呪文の詠唱に入った。

えーと、方向は全方位じゃなく一方向に、

けど威力は最大で・・・。

 

「風の精霊よ、荒れ狂う風巻を呼び

刃とし我が敵を切り裂けっ!

バギクロスッ!!」

 

ビュウオオオオオオ!!

 

凄まじい烈風が巻き起こり気球船の

後方に向けて風は吹きすさび、

船を推し進める。

 

バギ系呪文を調節し、真空の刃は作らず

巻き起こす風だけを利用して気球の

推進力にできないかしら、という

アタシの思いつきだったんだけど

上手くいったわ!

気球はグングン進み、あっという間に

オリハルゴンの島まで到着できたの。

 

「す、すげーな、リザ!

戦闘に使う呪文をこんな風に使うなんてっ!

お前ますます何でもありになって

きてないかっ!?」

 

アタシも一か八かだったんだけどね。

上手くいってよかったわ。

これで通常運転よりも遥かに早く

到着できたはず。

 

「す、スッゲーなお嬢ちゃんっ!

俺ぁ長く船頭やってるが、こんな

フライトは初めてだぜっ!

どうだい、俺と組まねぇかい?

あのスピードで運航できるなら

運び屋として十分な仕事をこなせるぜ!」

 

え、ええっ!?

いやいやいや、魔法は神秘の体現なのヨォ、

まさかそんな事言われると思わなかった

なぁ(-。-;

お金儲けになんか使ったら魔法の神様に

叱られちゃう〜(°_°)

 

「ハハ、冗談だよ!

しかし、いいもん体験させてもらったぜっ!

お嬢ちゃん達一体なにも・・・」

 

「キャーーーーーーーー!!!」

 

っ!!!

 

「カ、カラちゃんの悲鳴だべっ!!!」

 

むぅ、オリハルゴンと遭遇したかっ!?

急がなきゃっ!!

 

「おじさんっ!

ありがとうございましたっ!!

これ帰りの分も入ってますっ!」

 

コッツが急いで往復の渡し賃を船頭の

おじさんに渡すっ!

 

「事態は急を要します、我らはこれにて!

危険ですからおじさんも早く島を

離れた方がいいっ!」

 

「え、お、おい!

こんなにっ!?貰い過ぎだぜ!

それに、アンタらどうやって帰るってんだ?」

 

アタシ達はモガ丸のルーラがあるっ!

おじさんは早く引き返した方がいいわっ!

 

「モガッ!

オイラ達は移動呪文があるから大丈夫っ!

おっさん、気を付けて帰れよっ!」

 

モガ丸がそう言い残すとアタシ達は

悲鳴が聞こえた方角へと走り出した。

アタシ達が乗って来た気球船が着陸した

場所から少し離れた所に無人の気球船が

停まっていた。

きっとカラが乗ってきた気球船だろう。

 

無人だったって事は自分で操船して

来たんだろうか、なんて無鉄砲なっ!

けど、それぐらいに無鉄砲だからこそ、

オリハルゴンからカツオを奪おうだなんて

恐ろしい事もやってしまおうと

思えるのかもしれない。

 

「ずぅおおおおっ!

カラちゃああああんっ!!

待ってろぉぉぉ、今助けるかんなぁ!」

 

あれほど走る時、息を切らしていたドゼウが

信じられないスピードで走っていく。

か、火事場のナントカってヤツかしら、

アタシ達もそれに続く。

 

数百メートルほど走ると前方に巨大な

黒い塊が視界に飛び込んできたっ!

あれがオリハルゴンかっ!?

で、デカイっ!!

 

「あわわわ、たっ助けてくんろ〜!」

 

オリハルゴンと思しき魔物の前で

腰を抜かせているカラを発見した。

よかった、無事みたいっ!

けど今にも襲われそうっ!!

相手は神の使いと言われる神獣、

できれば傷つけたくないけどっ!

そうも言ってられないっ!!

 

「ライデインッ!」

 

バシュッ!!

 

アタシはオリハルゴンの鼻先をめがけ

雷撃を落とした。

 

「グボォォォ!」

 

オリハルゴンは一瞬怯んだっ!

そのスキにカラを助けたいっ!

 

「ずぉぉぉ、カラちゃんっ!!」

 

するとドゼウがさらにダッシュして

加速し、カラとオリハルゴンの間に

割って入った!

す、すごい、やるじゃないドゼウッ!

カラを想う気持ちの強さなのね、

アタシ達の予想以上の身体能力で

カラを守ろうとしているっ!

い、いや、気持ちの強さが本来持っている

身体能力以上のモノを出させているの

かしらっ!?

 

「ヒ、ヒィィ!ド、ドゼウ〜!」

 

「カラちゃん、逃げるど!

さぁ、捕まれっ!」

 

ドゼウがカラを背中に背負いオリハルゴン

から距離を取ろうと懸命に走る。

アタシ達はそれと入れ替わるように

オリハルゴンの前に立ち魔物を牽制した。

 

いよいよ神の使い・・・神獣との対峙っ!

アタシはしかし、この神獣と呼ばれる

魔物と、どう対峙すればいいのか

決めあぐねていた。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\

・ドゼウ
全知全能のオンナ「ゼンチャン」に恨みを
抱く男性。
どうもゼンチャンはペテン師で、彼の奥さん
がゼンチャンに騙されたあげくお金を
たくさん騙し取られた事が原因で
夫婦は離婚の危機に陥ってしまったらしい。
ゼンチャンの悪事を暴くべく彼女を
必死で探しているらしいの。

・カラ
ドゼウの奥さん。
全知全能の神の化身と嘯くゼンチャンを
モロに信じ込んでしまっている。
そして多額のお金をゼンチャンに
渡してしまい、ドゼウと離婚の危機に
陥ってしまうが、それを悪びれもせず、
逆にゼンチャンを信じない夫を
激しく罵倒する始末。
ゼンチャンの催す儀式に必要な
カツオ節を手に入れる為、
魔物の棲む島へ渡ろうとしてしまうの。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード5.「神獣オリハルゴン」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



「リ、リザー!

おめえらも離れろ〜!殺されちまうぞー!

早くその、移動呪文で逃げるだ〜!!」

 

ドゼウがアタシ達にも逃げるようにと

叫ぶ。

するとモガ丸がポンッとドゼウの肩に

手をやる。

 

「大丈夫だ、リザ達はオリハルゴンに

やられたりしないぞ、まぁ、見とけ。」

 

「えっ?ど、どういう事だ?」

 

ドゼウがモガ丸の言葉の意味が分からず

キョトンとした。

 

・・・そうね、やられはしないんだけど

・・・どうしたもんかしら?

流石にアタシ達も神の使いだと言われる

魔物を倒すのは憚れるわ。

それこそ、ここいら辺の地域一帯に

祟りをもたらしてしまいそう(>_<)

 

「グガァァァ!!」

 

オリハルゴンがその巨大な岩石のような

腕でアタシ達を攻撃してきたっ!

アタシ達は左右に散り、魔物の攻撃を躱す。

 

「グルルルルッ!」

 

低く太い唸り声を響かせるオリハルゴン、

ひどくイラついてるように思える。

やっぱり腹ペコなんだろうか、

そこへ人間が現れたから余計にイライラ

してるのかも。

 

「どうする!?リザ姉ぇっ!倒すのか?」

 

むむむ〜、倒すワケにはいかない、

けど相手はめちゃめちゃアタシ達に

敵意を発している。

どうしよう、威嚇して逃げさせるか!?

 

「ジョギー!レイファン!

いくらなんでも人間の勝手で

この魔物を傷つける訳にはいかないわっ!

アタシが呪文で威嚇してみるっ!

それで逃げてくれたらいいんだけどっ!

アンタ達は待機しててっ!!」

 

「わかった!」

 

むぅ、魔物に当てないように〜・・・。

 

「メラガイアー!!」

 

ゴォォォォォォ

ドォォォォォォォン!!

 

アタシはさっきと同じようにオリハルゴンの

目の前に火の玉を着弾させた。

炎を見れば逃げるんじゃないかという

期待と共に。

 

「ギシャアアアアアアアアアッ!!!」

 

と、オリハルゴンは一瞬怯んだものの、

さらに怒りを爆発させたっ!

ひぇええええ!

ま、マズイ、余計に怒らせちゃったわ

(゚o゚;;

 

怒り心頭のオリハルゴンはその巨体で

アタシ達に突進してきたっ!

左右に散り躱すアタシ達。

やむを得ない、ちょっと手荒い事を

させてもらうっ!

 

「メラミッ!」

 

ドォォォンッ!!

 

「ガガガッ!!」

 

躱し際に軽めの呪文をヒットさせた。

オリハルゴンは態勢を崩すっ!

 

「姉ちゃん、攻撃するのかっ!?」

 

「やむを得ない、けどできるだけ力を

押さえるのよ、2人ともっ!」

 

「りょ、了解っ!」

 

「わかった、姉ちゃんっ!」

 

アタシ達は三方に散り戦闘態勢に入った。

ジョギーがまず斬りかかるっ!

 

「うりゃっ!」

 

ブンッ!

 

剣撃がオリハルゴンにヒットする!

文字通り岩のような鱗を切り裂き、

体液が噴き出すっ!

 

「グガッ!」

 

オリハルゴンは構わず、体を瞬時に

回転させ、その丸太のような尻尾で

アタシ達を攻撃してきたっ!

 

「キャアッ!」

 

「グワッ!」

 

「キャァァ!」

 

アタシ達は尻尾攻撃を受けてしまい、

全員吹っ飛ばされてしまった。

くぅぅ、倒してはならないと思えば思うほど

やりにくいわね、攻撃をセーブすれば

いいだけなのに、調子狂うもんだから

ディフェンスまでおかしくなっちゃう!

 

どうしたもんか、倒してはいけないんだ、

動きを止めさせるだけでもできたら・・・

動きを止める・・・

動きを止めるっ!??

 

そうかっ!

その手があったっ!

 

「モガ〜、リザ〜、どうしたんだ!?

なんで逃げてばっかり・・・攻撃も

どうして本気でやらないんだ??」

 

「オリハルゴンは神の使い、

彼が怒っているのはゼンチャンに騙された

人達がカツオを買い占めた為に

食料を奪われたせいです、つまり人間の

都合で怒っているのです。

なのに、さらに攻撃までされては・・・

オリハルゴンにとっては理不尽この上ない

仕打ちでしょう、だからリザ殿達は

オリハルゴンに手を出せないのでは!?」

 

「た、確かにっ!

オリハルゴンは今までお供えのおかげで

人間達と上手く付き合ってくれていた。

だのにゼンチャンが現れてからその関係は

一方的に人間のほうから壊したことになる、

怒るのも無理ねえべ。」

 

「そ、そうかぁ〜、モガ〜、リザァ、

どうするんだぁ?」

 

効くかどうかわかんないけどっ!

これが効けばお互い傷付かなくて済むっ!!

 

「宵闇の精霊よ、汝ら囁きて誘い給うっ!

ラリホーマッ!」

 

ボワアァァン

 

アタシは上級の催眠呪文を詠唱したっ!

甘い香りが漂う黒い霧がオリハルゴンの

顔を包む。

催眠ガスと同様の霧が睡魔となって

オリハルゴンに襲いかかるっ!

お願い、効いてぇっ!!!

 

「ガ、グ、グゴ・・・」

 

するとオリハルゴンの動きが鈍り始めた。

やった!成功だわっ!!

 

「ゴ・・・・スピ〜スピ〜」

 

オリハルゴンはその場に崩れ落ち、

やがて鼾を始めた。

ふぃぃ、よかった、これで倒さなくて

済んだわ。

最初っからこうしとけばよかった、

事態が切迫してたもんだからラリホーマの

事忘れちゃってたわ、反省。゚(゚´ω`゚)゚。

 

「モガー!やったぞリザ!

オリハルゴンを倒さずに大人しくさせる事に

成功したなっ!

さすが冒険王っ頭も冴えてるっ〜!」

 

「ピピィ!」

 

「す、すげぇだ、オリハルゴンを

大人しくさせちまった、お、おまんらは

一体っ!?」

 

「だぁかぁらっ!

ブルリア星の冒険王だって言ってるだろぉ?」

 

「ぼ、冒険王!?

な、なんだかわからねぇが、とにかく

すごいんだな、リザ達っ!」

 

ふぃぃ、けどなかなか難しいミッション

だったわ、これほど凶暴な魔物を

倒さずに大人しくさせるのは・・・。

けど、いくつか傷を負わせてしまったわ、

せめて傷の回復だけでもさせて貰おう。

 

アタシは眠っているオリハルゴンに

回復呪文を施した。

これで目が覚めたとき、傷で痛む事は

ないだろう。

 

と、ドゼウの背中からカラが降りて

オリハルゴンの後方にある岩山に向かって

走り出したの。

 

「な、カラちゃんっ!

な、何をするだっ!!??」

 

「きっ決まってるだろっ!

こ、このスキにオリハルゴンの巣さ

入ってカツオを取ってくるっ!

そ、それが私へのゼン様からの指令だっ!」

 

「な、なんだとぉ!?

これほど危険なメに遭ったっていうのに

まだそったら事いうのかぁ!?」

 

「な、何言ってるだ!

私にカツオを取らせる為に助けに来て

くれたんでねぇべか、ドゼウッ!

ちょっとは見直したと思ってたんにっ!」

 

なんとカラはっ!

まだカツオを手に入れる事を諦めて

いなかったのっ!

ウソでしょ、アタシ達がカラにカツオを

手に入れさせる為に助けに来たと

本気で勘違いしてるのっ!?

 

ア、アタシは・・・乱暴だけど

本気でブン殴ってやりたくなった。

どれほどに色んな人に迷惑をかけているのか

まるで自覚がないっ!

 

バチィィィッ!!

 

「い、いい加減にするだっ!

目を覚ますだっ!」

 

と、ドゼウがカラに追いつきカラの頰を

引っ叩いたの。

 

「ってぇっ!な、何するだっ!?」

 

「カラちゃん・・・おまんらぁがカツオを

奪ったせいで・・・どれだけの人に

迷惑をかけたかわがってんのがっ!?」

 

「な、何を訳のわがんねぇ事をっ!

ディッ、D Vだっ!

ドメスティックバイオレンスだっ!!」

 

「D Vだろうと、何と言われようとも

構わねぇ、けど自分の嫁っこが

人様に迷惑をかける事、オラはぜってぇ

許さねぇっ!!

カラちゃん、知らねぇとは言わせねぇど!

おまんらぁがカツオを奪ったせいで

オリハルゴンへのお供えができずに

オリハルゴンさ怒って漁師さんらぁの

船が襲われてる事っ!

それもこれもゼンチャンの狂った

教えのせいだぁ!」

 

「うっググググ、そ、そんなのっ!

証拠さ、ねぇべっ!

漁師のおっさんらぁの被害妄想だっ!

私らはちゃんと金さ払ってカツオを

買ってるんだっ!

文句言われる筋合いは何もねぇっ!!」

 

「なっ!

自分らぁの為には他の人らぁが

どうなったって構わねぇっていうのが!」

 

「そ、そうは言わねぇ・・・言わねぇが

・・・船が行方不明なんとゼン様は

関係ねぇって言ってるだっ!!」

 

「さっきの怒ったオリハルゴンを見ても

まぁだそったらこと言えるだなんてっ!

おまんはどこまで狂わされてるだぁ、

オ、オラ情けねぇど・・・。」

 

「ド、ドゼウ・・・。」

 

カラを叱っていたドゼウはやがて

涙を浮かべてその場に蹲ってしまった。

カラのあまりの非常識ぶりに、

ドゼウの思いの届かなさぶりに、

無力感を感じてしまったのかしら・・・。

 

「クックッソォ・・・!」

 

するとカラはすっくと立ち上がり、

浜辺のほうに向かって走り出した。

 

「ドゼウ、おまん、なぁんも知らんくせにっ!

勝手に怒って勝手に泣くんじゃねぇ!」

 

「カラちゃんっ!どこ行くだっ!?」

 

「ついてくんなっ!

今度こそぜってぇついてくんなよっ!!」

 

気球船で陸に戻るのか?

けど・・・心なしか、その叫び声には

悲痛な感情を帯びているように

アタシは感じた。

 

ドゼウを本気で嫌っているようではない、

むしろドゼウの身を案じてあえて

強い語気で叫んでいるように・・・。

アタシの考え過ぎかしら。

 

「ウゥぅぅ、カラちゃああん、なしてっ!

なしてそこまであのペテン師を

崇めるだぁ、アイツが現れてから幸せ

どころか皆んな不幸になるばかりだのに!」

 

うぅぅ哀れ過ぎる・・・。

こ、ここまで人を不幸にするなんてっ!

 

泣き崩れるドゼウを見て、アタシは

ゼンチャンに対する怒りがフツフツと

湧いてきたっ!

 

「ドゼウッ!

ツライのはわかるけどっ!

カラを追いかけるわよっ!

ここまでアナタや周りの人を不幸にする

ゼンチャンをアタシは絶対許さないっ!

カラを追いかければきっとゼンチャンに

辿り着くっ!行くよっ!!」

 

アタシはドゼウに檄を飛ばしたっ!

泣きたいのはわかるけど泣いてても

しょうがないっ!

 

「リザ殿、我々はモガ丸殿のルーラで

先回りしてカラを尾行しましょう。

カラ殿のあの様子では真正面から

説得しても意固地になり余計にドゼウ殿を

拒否してしまうだけかと思います。」

 

コッツッ!

そ、そうね、その方がいいかもしれない、

ヤダ、アタシったら、ドゼウを見てたら

ついついカっとなってしまっていたわ。

冷静な意見、ありがとう^_^

 

「モガッ!よし、じゃあルーラで港まで

戻るぞ、皆んなオイラに捕まっ・・・」

 

「お〜〜〜〜いっ!

誰かいるのかぁ〜!?」

 

モガ丸のルーラで港に戻ろうとした瞬間、

寝ているオリハルゴンのさらに向こうの

ほうから誰か人間の声がした。

 

「お〜〜〜!お前達〜〜〜!

お前達も遭難者かぁ!?」

 

岩陰から数人の男性がこっちに向かって

大声でアタシ達に話しかけてきた。

 

・・・遭難者っ!?お前達もっ???

・・・・えっ!?

も、っていう事は!?

あの人達は!?

もしかしてっ!!??

 

突如現れたこの男性達は何者!?

凶暴化してしまったオリハルゴンが

棲む島に人間がいるなんてっ!

 

アタシは驚きとともに淡い期待をも

少し抱いていたの。

 

 




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\

・ドゼウ
全知全能のオンナ「ゼンチャン」に恨みを
抱く男性。
どうもゼンチャンはペテン師で、彼の奥さん
がゼンチャンに騙されたあげくお金を
たくさん騙し取られた事が原因で
夫婦は離婚の危機に陥ってしまったらしい。
ゼンチャンの悪事を暴くべく彼女を
必死で探しているらしいの。

・カラ
ドゼウの奥さん。
全知全能の神の化身と嘯くゼンチャンを
モロに信じ込んでしまっている。
そして多額のお金をゼンチャンに
渡してしまい、ドゼウと離婚の危機に
陥ってしまうが、それを悪びれもせず、
逆にゼンチャンを信じない夫を
激しく罵倒する始末。
ゼンチャンの催す儀式に必要な
カツオ節を手に入れる為、
魔物の棲む島へ渡ろうとしてしまうの。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード6.「偽物だったワケね」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



「カツオ節をまぶし身を清め、さぁさぁ

踊れ、踊るんじゃあ!」

 

「ゼ、ゼン様ぁ!」

 

「ん?お、おぉカラか、よぉ戻った。

で?カツオは持って帰って来れたのかえ?」

 

「そ、それが・・・・オ、オリハルゴンは

やっぱ恐ろしぐ巣には近づけず、も、

持ち帰る事は出来ながったです、

も、申し訳ありませんっ!!」

 

「な、なぁんだとぉっ!?

お前、せっかくワラワが『カツオ節まぶし』

を開催してやるっていうのにぃ!

手ぶらで帰って来たって言うのかえ?」

 

「す、すみませんっ!

許してくんろぉ、この通りだぁ!!」

 

「ふふ〜ん、儀式の布施を払えない

貧乏なお前にっ!

妥協案をワラワが示してやったというのに

それすら守れんとは・・・

いい機会じゃ、ワラワの命令が聞けんヤツ

がどうなるか・・・皆に分からせてやるわ、

こっちへ来いっ!!」

 

「あ、あぁっ!

どうか許してくんろ、許して・・・」

 

「待ちなさいっ!!!」

 

「ぬぅ?」

 

物陰から祠の奥の様子を見張っていた

アタシはゼンチャンと思しき者がカラに

乱暴を働きそうになったところで

物陰から飛び出したっ!

 

「なんじゃ、お前は?」

 

「モガッ!コイツはリザッ!

ブルリア星の冒険王だっ!

お前がゼンチャンだな!?

悪さをして皆んなからお金を巻き上げてる

のは知ってるぞっ!

けどもうここまでだぞっ!」

 

アタシ達はルーラでカラの気球船より

一足先にハルラの港に戻り、カラが気球船

で戻って来たところから尾行を続けた。

カラは潮の祠という場所にゼンチャンが

来ると言っていた。

 

カラを説得するのは難しいと判断し

直接ゼンチャンに会って悪事を暴こうと

いう結論に至った。

 

予想通りカラは潮の祠に向かい、

カラの言っていた通りゼンチャンと

思しき人物が村人達を集め怪しげな儀式を

行っていたので、アタシ達はひとまず事の

成り行きを見ていたってワケ。

 

「ワラワを信じぬ愚か者どもがっ!

ワラワは全知全能の神、こやつらを

幸せにしてやるのだ、その報酬として

金を受け取っている、何もやましい事は

しておらぬぞよ!」

 

「黙れっ!

おまんが現れてから村は不幸だらけだっ!

村だけじゃねぇ!ハルラの港一帯まで

不幸の波は押し寄せているだ、何が

全知全能の神だ、このペテン師がぁっ!」

 

「ぬ、ワラワを侮辱するのかえ!?」

 

「ドゼウッ!

お、おまんついてくるなって

言ったんにっ!」

 

「カラちゃんっ!

頼む、目ぇ覚ましてくれっ!

今だっておまんにコイツは酷い事を

しようとしてたでねぇか!?

幸せを呼ぶ全知全能の神がそったら事

するハズねぇべっ!!!」

 

ドゼウがカラの説得を試みる。

するとカラは・・・意を決したような

表情を見せて立ち上がった。

 

「・・・ドゼウ・・・ドゼウッ!

に、逃げるだっ!!

ゼン様は・・・ゼン様は魔物だっ!!」

 

「ま、魔物っ!!??」

 

「コイツはゼンチャンじゃねぇっ!

ゼンチャンになりすました偽物だっ!

は、早く逃げねぇと殺されるだっ!!!」

 

「なっ!この女っ!気づいてたのかっ!!」

 

偽物!?

フン、やっぱりね、そういう事か、

どうりでおかしいと思ったわ。

けど安心した、ゼンチャンがこんな

ペテン師じゃなくて。

魔物だっていうならアタシ達にとっては

話が早い。

 

「ヒヒヒヒ、バレたからにはもう全員

生かしておけないねぇ、ここに居るヤツ

皆殺しだっ!」

 

「ひっ!ま、魔物!?」

 

「ワシらぁ、魔物を神だって崇めてた

のかぁ?」

 

「そ、そんなぁ・・・オレなんか

全財産、お布施に注ぎ込んだんにぃ!」

 

「そ、そんな事よりっ!

に、逃げろぉ!こ、殺されるっ!!」

 

祠に集まっていた村の人達がパニックに

なり、慌てて出口のほうへ逃げ出す。

 

「逃がさないよぉ!

ワラワの正体を知った者がいると

次の場所でイカサマができない

からねぇっ!」

 

そう叫ぶと偽ゼンチャンは逃げ惑う

人達の方へ走り出そうとした。

させるもんですかっ!!

 

「メラゾーマッ!!」

 

走り出そうとする偽物の背中にアタシは

呪文を命中させた。

 

「グヘェぇぇ!!」

 

無防備で背中から攻撃された偽物は

そのまま床に倒れ込む。

 

「皆んなっ!早くっ!

今のうちに逃げてくださいっ!!」

 

コッツが村人達を誘導する。

 

「ガガガ、お、面白い事をやってくれる

じゃないか、なんだってぇ、ワラワに

歯向かうっていうのかえ?

命知らずにも程があるねぇ。」

 

「神の使いオリハルゴンに成り代わり

人々を騙し、オリハルゴンからカツオを

奪いこの地方一帯の良き風習を乱れさせ、

多くの災いをもたらしたペテン師めっ!

アタシがオリハルゴンに代わって

アンタを成敗するっ!覚悟しなさいっ!」

 

ちょっとキメ過ぎなセリフかも

知んないけど、これぐらい言ってやらないと

気が済まないものっ!

 

「フン、ちょっとばかり魔道の心得が

あるの知らないけどねぇ、お前らのような

ガキにワラワを倒せるとでも思ってる

のか!?

出でよ、我が下僕達っ!

もう窮屈な格好をする必要はないぞえっ!」

 

偽ゼンチャンの手下と思しき妖しげな

装束に身を包んだ男達がその装束を

脱ぎ去り、次々と正体である魔物の姿を

現した。

 

「ひ、ひえぇぇぇ、こ、コイツらも

全員魔物だったべかぁ!?」

 

「ドゼウッ!カラッ!

アナタ達も逃げなさいっ!

後はアタシ達にまかせてっ!!」

 

「まかせてって・・・いくらおまんらぁが

つえーって言っでもこれだけの魔物に

囲まれて無事でいられるわけねぇべっ!」

 

「いいからっ!

カラを連れて安全な場所に行ってっ!

これからここは戦場になるっ!

大事な奥さんを危ない目に遭わせるのは

もうこりごりでしょう?」

 

「だっだどもっ!」

 

「キヒヒヒ、逃がさないって言ってる

だろう、お前達っ!取り囲んで

おしまいっ!」

 

手下の魔物達がアタシ達をぐるりと

取り囲んでしまった。

にじりにじりとアタシ達との距離を

詰めてくる。

もぅっ!しょうがないわねぇ!

 

「ベギラゴンッ!!」

 

ヴォオオオオ

 

「ギャッ!」

 

「アガガガッ!」

 

アタシは手下の魔物数体を呪文で攻撃した。

包囲網に綻びを作る。

 

「モガ丸ッ!コッツッ!

今倒した魔物の後ろに物陰があるから

そこへドゼウ達をっ!

頼んだわよっ!」

 

「了解〜!任しときぃ!!」

 

「了解です、リザ殿っ!

ささっドゼウさん、カラさん、

あちらへ避難しましょうっ!」

 

モガ丸達がドゼウとカラを安全な場所へ

退避させたのを確認してアタシ達は

戦闘態勢に入る。

 

「ヒヒヒヒ無駄な事を。

身を隠したところでどのみちここに居る

人間は皆殺しじゃいっ!」

 

「聞こえなかったの?」

 

「は?」

 

「アタシが必ずアンタを成敗してやるって

言ったでしょう?」

 

「ムギ〜うるさいわ小娘っ!

イキのいいのは嫌いじゃっ!

さっさと消えるがいいわっ!!

かかれっ!者共っ!!」

 

偽ゼンチャンの号令で手下の魔物達が

襲いかかってきた。

アタシは杖を掲げ呪文の詠唱を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\

・ドゼウ
全知全能のオンナ「ゼンチャン」に恨みを
抱く男性。
どうもゼンチャンはペテン師で、彼の奥さん
がゼンチャンに騙されたあげくお金を
たくさん騙し取られた事が原因で
夫婦は離婚の危機に陥ってしまったらしい。
ゼンチャンの悪事を暴くべく彼女を
必死で探しているらしいの。

・カラ
ドゼウの奥さん。
全知全能の神の化身と嘯くゼンチャンを
モロに信じ込んでしまっている。
そして多額のお金をゼンチャンに
渡してしまい、ドゼウと離婚の危機に
陥ってしまうが、それを悪びれもせず、
逆にゼンチャンを信じない夫を
激しく罵倒する始末。
しかし、それはカラの演技だったの。
彼女は実はゼンチャンが魔物で
ゼンチャンの名を騙る偽物だと
言う事を見抜いていたの。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード7.「魅了するペテン師」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



「覇王斬っ!!!」

 

ズザァァァ!!!

ゴォォォォォン!!!

 

「ガハァァァ!!」

 

「グヘェェェ!!!」

 

上方より巨大な劔が振り下ろされるかの

ごとき衝撃で敵にダメージを与える

ジョギーの凄まじいスキルが手下全体を

壊滅に追いやった。

 

ただ・・・倒された手下の魔物達はその場で

砕け散りロウソクに変化した。

倒した魔物がロウソクに変わるだなんて

初めて見る現象だった。

ただアタシ達は本体である偽ゼンチャンに

集中していたので、その現象にさほど

注意は払わなかったの。

 

さぁ残る敵は偽ゼンチャンのみっ!

一瞬で数的有利を得たわ( ̄^ ̄)ゞ

 

「なっ!なんだとぉ!?」

 

偽ゼンチャンが思わず驚嘆の声を上げる。

コイツは手下の陰に隠れてアタシ達と

距離を取っていたせいかあまりダメージを

負っていないみたい。

 

その手下を全て倒したのでアタシ達は

偽ゼンチャンとの間合いを詰める。

 

「な、何だぁ貴様らっ!

人間でここまで強いヤツは初めてじゃっ!」

 

「残るはアンタだけだ、覚悟しなさいっ!」

 

「う、うるさいっ!これでも喰らえっ!

カァァァァッ!!!」

 

ゴォォォォォッ!!

 

偽ゼンチャンは口を大きく開き炎を

吐いてきたっ!

間髪入れずアタシはブレス軽減の補助呪文を

詠唱するっ!

 

「主神ミトラよ、我らを光の霧で

覆い給う、フバーハッ!!」

 

ギュイイイン!

 

光の霧がアタシ達を覆いブレス攻撃への

耐性を上げる。

その直後に敵の吐いた炎に包まれた!

 

「ヒ〜ヒヒヒヒッ!

燃えろ燃えろぉ!灰になるがよいわっ!」

 

やがてアタシ達を包んでいた炎が収束する。

フバーハのお陰でさほどダメージを負って

いなかったアタシ達が生きて立っている

姿が炎の中から現れた。

 

「な、なぁにぃ!?

い、生きているだとぉ!?

な、何なんだコイツら、本当に人間かえ!?」

 

チャッ

 

ジョギーが剣を構え偽ゼンチャンに

斬りかかる。

 

ビシュッビシュ!

 

偽ゼンチャンの傷から体液が吹き出す。

アタシもジョギーを援護する。

 

「ライデインッ!」

 

バシュッ!

 

「ギョエエ!」

 

雷撃の呪文がヒットし偽ゼンチャンは

派手に吹っ飛び床に打ち付けられた。

 

「グハァ!つ、強い!

な、なんというヤツらじゃ!

・・・・ヒヒ、ヒヒヒ・・・つ、強いのぉ

お前達・・・こんなに強いヤツは

初めてじゃ・・・しかしワラワを倒す事は

叶わぬぞえ〜〜〜。」

 

明らかな劣勢だというのに、偽ゼンチャンは

何故か厭らしい笑みを浮かべた。

なんだ?何を仕掛けてくる?

状態異常か何かか!!

 

「ジョギーッ!何かおかしな事を企んで

そうよっ!早くトドメをっ!!」

 

嫌な予感がしたので勝負を急ぐよう

アタシはジョギーに指示した。

 

「おう!偽物め、命頂戴するっ!

覚悟っ!!」

 

ジョギーが剣を振りかぶった。

その刹那、偽ゼンチャンの双眼が妖しく

光るっ!!

 

ピカァ

 

偽ゼンチャンの双眼から発せられた

光をジョギーはまともに浴びふりおろそうと

していた剣がピタっと止まった。

し、しまった、敵の術中にハマったか!?

 

ガチャアアアン

 

ジョギーの手から剣が離れ落ち床に転がる。

 

「あ、あぁゼン様ぁ、あ、アナタは神・・・

全知全能の神!!

オ、俺は・・・い、いや私は・・・

アナタ様を崇め奉りますっ!」

 

え!?ジョギー!!??

な、何を言ってるの?

 

ジョギーはその場に膝をつき両の手を

胸の前で組み身動きを止めてしまったっ!

 

「に、兄ちゃん!?どうしたのっ?

なんでそんな格好してるのよぉ!!

リザ姉ちゃん、兄ちゃんどうなって

しまったのっ??」

 

これはっ!?なんなの!?

ハッ、みっ、魅了状態か!

 

「あぁゼン様〜。」

 

あちゃあ!

あれは完全に魅入られてるわね、

まずいな、魅了状態か!

この状態異常は放っておけば自然に

解けるんだけど特効薬的な解除手段が

まだ発見されていないの!

しばらくジョギーは使いものに

ならないわね!

 

「ヒーヒッヒッヒ!

かかったね〜、いかに強くてもワラワの

魅力に取り憑かれればワラワを倒す事は

できまいて!

そぉれ、お前らも魅了してやろうっ!」

 

再び偽ゼンチャンの双眼が輝く!

 

「レイファンッ!目をつぶって!

アイツの眼を見ちゃダメよっアタシ達も

やられるっ!」

 

「う、うん!」

 

アタシとレイファンは『魅惑の眼差し』を

回避すべく偽ゼンチャンから顔を背けた。

戦闘中によそ見をするなんて自殺行為とも

言えるけど止む無しだわっ!

 

「ヒーヒッヒッヒ!いいのかいよそ見なんか

してぇ!

さてっこのスキにっ!」

 

アタシ達が顔を背けた一瞬の時間を

使って偽ゼンチャンは何やら呪文を

唱えようとしていた。

緑色に光っている、補助呪文か!?

 

「さぁ面白いモノを見せてやるぞえ、

ザオリクッ!!!」

 

偽ゼンチャンの両手から緑色の光が発生し

手下の魔物達だったロウソクのうちの1本に

留まった。

 

ザ、ザオリクですってぇ!

ザオリクとは死者を蘇生させるという

人智を超えた超現象を実現する呪文!

こんなペテン師のゲスに扱えるような

シロモノではないっ!

そ、それともコイツ、マジで神の化身

だと言うのっ!?

 

しかしアタシの思いとは裏腹に!

それは現実に起こったの!!

緑色の光に包まれたロウソクはみるみる

大きくなり倒される前の魔物の姿に

戻ってしまったの!

 

「モガー!

ジョギーが倒したはずの魔物が

生き返ったぞ!

ど、どうなってるんだ!?」

 

モガ丸が叫ぶ。

けど無理もない、アタシさえも

目の前で起こった事が信じられない。

ほ、本当に生き返った!

 

「ヒーヒッヒッヒ、蘇りし我が下僕よ!

ここでワラワに魅了されておる

この若僧にアレを見舞ってやれぃ!」

 

生き返ったその、小さなイカの魔物が

魅了で動かないジョギーに向かって

何やらスキルを放つ!

 

パァァァァ!

 

そのイカの魔物から鈍い光が発せられ

ジョギーを包むっ!

するとジョギーは立ち上がり、なんと

踊りを始めたっ!

 

「ヒーヒッヒッヒ!

やったぞー、かかったっ!

さぁ、さぁさぁ!踊れ、踊り狂えっ!

死ぬまで踊り狂えぇい!!」

 

さっきまで身動き1つしなかったジョギーが

激しく踊っている!

 

「な、何してんのジョギーッ!

どんだけ敵の術中にハマってんのヨォ!!」

 

アタシとレイファンは踊っているジョギーに

駆け寄り、腕や体を押さえつけた。

けどジョギーは踊りを止めようとしないっ!

挙句にアタシとレイファンはジョギーの

踊ろうとするチカラの強さゆえに

弾き飛ばされてしまった!

 

「キャアッ!」

 

ドスッ

 

アタシとレイファンは床に転がされた。

むむむ〜、ジョギーの高い身体能力が

この時ばかりは逆に作用している、

女のアタシ達2人では押さえつけられない!

 

「こ、これだぁ!」

 

と、カラが物陰から突然叫んだ。

 

「む、村の皆んなぁがやられた時と同じだ、

今のようにゼン様は村人の意識を奪い

そして無理矢理踊らせて体の自由を

奪うんだ、そしてそれを解くことで

自分には全知全能のチカラがあると

信じさせたんだぁ!」

 

「チッ!カラめ、余計な事をっ!」

 

「自分で自由を奪っておきながら

自分でまた自由を戻す、よくよく考えたら

こんなの全知全能でもなんでもねぇ!

こんなペテンにみんな騙されちまったっ!

あぁ、なんて情けねぇ!」

 

なるほど、これがペテンのタネって

わけね、どうやって村人達を騙したのか

謎だったけど・・・確かにこんなの

全知全能でもなんでもないじゃないっ!

 

「フン、カラ、とことんワラワを侮辱する

気かえ?

コイツらを始末したらお前と旦那を

真っ先に殺してやるぞえ!」

 

そう言うと偽ゼンチャンはアタシ達の方に

向き直り攻撃してきた。

 

「喰らえっ『タイフーン』!!」

 

ビュオオオオ

 

凄まじい突風が発生しアタシ達を襲うっ!

 

「キャアッ!」

 

アタシとレイファンはもろにその攻撃を

受けてしまい吹っ飛ばされたっ!

 

「ヒーヒヒ!

さぁさぁ踊るヨォ、カツオ節をまぶし

踊り踊ってさぁ!」

 

偽ゼンチャンはアタシ達が倒れたのを

見て気分が良くなったのか激しく腰を振り

『カツオ節まぶし』で踊る踊りを

踊り始めた、悦に入っているっ!

 

踊りながらそして再び蘇生呪文を

詠唱したっ!

 

「ザオリクッ!」

 

さらにもう1本のロウソクが魔物へと

変身する。

そ、そうか、死者を蘇生するというよりは

ロウソクを魔物に変身させ、それを操ってる

といった方が正しいのかっ!

本物のザオリクじゃなくて、妖術の類ね、

まんまと騙されたわ、ったく!

何から何までペテンなのねっ!

 

とは言え、このロウソクから生まれた魔物

にジョギーが踊らされてる、アタシや

レイファンまでその術にかかると厄介ね、

一気に倒すしかない。

 

「我が友人の傷を癒し給う、ベホマラー!」

 

パァァァァ

 

レイファンが回復呪文を詠唱した。

さっきまでの攻撃で受けた傷が癒えていく。

 

「レイファン、アタシに『こだまする光撃』

をかけて、一気に倒すよ!

厄介な妖術やペテンで惑わされ気味だけど

倒してしまえばきっと解除するわ。」

 

「うん、そうだね、早く兄ちゃんを

解放してあげよう。

・・・こだまする光撃を我が姉リザにっ!!」

 

レイファンが扇を天に向かって突き上げる!

黄金色の光が生まれアタシの体へと

移動する。

アタシは呪文を詠唱する!

 

「猛きイカヅチの精霊よ、正義の稲妻で

我が敵を討ち滅ぼせっギガデインッ!!!」

 

バチバチバチィィィィィ!!!

 

さらにこだまする!

 

バチバチバチィィィィィ!!!!

 

「ウギャアアアアア!!!」

 

蘇った2体の魔物は凄まじい電撃で

砕け散り、後方で踊っていた偽ゼンチャン

にも2発の電撃は直撃した!

さらにっ!!

 

「炎の精霊グァモン・カクリティスよ、

紅蓮の炎でっ!我が敵を灰燼と化すまで

焼き尽くせっ!メラガイアー!!」

 

ゴォォォォォ、オオオオオオオオ!!!

ドォォォン!!!!

 

連続呪文でさらに偽ゼンチャンに

追い討ち、メラガイアーはアタシの

偽ゼンチャンへの怒りが乗り移り

暴走したっ!!!

 

「ギィエエエエエエエエエエッ!!!!」

 

極大の火球が偽ゼンチャンに炸裂っ!

派手に吹っ飛び壁に激突しそのまま

床へと打ち付けられた。

雷撃2発と極大の火球を喰らい、偽物は

真っ黒な焦げカスへと変貌し息絶えた。

 

ふぃ〜勝ったっ!

何から何までペテン野郎だったわね。

 

「ハッ!?オ、オレはっ??

どうしたんだっ!?

偽ゼンチャンに剣を振り下ろそうとして

ヤツの眼を見てから記憶が・・・。」

 

よかった、ジョギーにかけられた妖術も

無事解除されたみたいね。

 

「偽ゼンチャンの妖術にかかってたのよ、

けどもうやっつけたから大丈夫よ。」

 

「え、ええええ!?

な、なんと情けない、す、すまなかった

姉ちゃん、レイファン。」

 

「まぁ厄介な妖術だらけで面食らったけど

本体が強くなかったからね、助かったわ。」

 

さて厄介なペテン師も退治したし、

これでこの地方一帯に平和が戻れば

いいんだけど。

ただ、ゼンチャンの情報に関しては

振り出しね、0から情報集めをしないと。

 

「モガー!リザ達!

ちょっと手こずったけど流石だったな!」

 

「お疲れ様です、リザ殿達っ!」

 

「に、偽ゼンチャンをやっつけちまった

・・・こ、この人達は一体・・・」

 

「ズゥオオオッ!リザーー!!

おまんらめっちゃくちゃつえーんだな!

オラたまげたぞぉ!」

 

仲間達が駆け寄ってくる。

 

「これで村人達が苦しむ事もなくなる、

時間はかかるかも知んないけど、

また村や港が元の様子に戻るといいわね、

ドゼウ。そしてアナタ達夫婦も。」

 

そう言うとカラが神妙な面持ちで

語り始めた。

 

「リザ・・・と言ったか、魔物をやっつけて

くれて助かっただ、どうもありがとう。」

 

う、うん、カラが初めてアタシに向かって

話しかけてくれた。

そしてドゼウに向き直る。

 

「ドゼウ、すまんかった。

私、ゼン様が偽物で魔物だって事、

誰にも言えんくて。

そのせいでどんどんゼン様の横暴は

大きくなっていき、やがて村全体、

この地方一帯にまで不幸が及んでしまった

事、悔やんでも悔やみきれねぇ、

どんだけ謝っても足りねぇっ!」

 

カラがその思いを語り始めた。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\

・ドゼウ
全知全能のオンナ「ゼンチャン」に恨みを
抱く男性。
どうもゼンチャンはペテン師で、彼の奥さん
がゼンチャンに騙されたあげくお金を
たくさん騙し取られた事が原因で
夫婦は離婚の危機に陥ってしまったらしい。
ゼンチャンの悪事を暴くべく彼女を
必死で探しているらしいの。

・カラ
ドゼウの奥さん。
全知全能の神の化身と嘯くゼンチャンを
モロに信じ込んでしまっている。
そして多額のお金をゼンチャンに
渡してしまい、ドゼウと離婚の危機に
陥ってしまうが、それを悪びれもせず、
逆にゼンチャンを信じない夫を
激しく罵倒する始末。
しかし、それはカラの演技だったの。
彼女は実はゼンチャンが魔物で
ゼンチャンの名を騙る偽物だと
言う事を見抜いていたの。

・偽ゼンチャン
突然、ハルラ地方に現れた自称「全知全能の神」。
カツオを集め妖しげな儀式をもって人々を
幸せに導くという教えのもとキジキ村の人々を
盲信へと導き金品をだまし取っていた。
その正体は魔物でゼンチャンの名を騙る
偽物である事が発覚する。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード8.「人と魔物の心が通じ合う奇跡」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



「カ、カラちゃん・・・。」

 

キジキ村の村人達をペテンで騙し金品を

巻き上げていた悪どい魔物は倒れた。

魔物に騙されていたと思われていた

カラがその思いを激白し始めたの。

 

「私、途中からゼン様の正体を知ってた

んだけんど、それさ皆んなに知らせるのが

怖かった・・・信じ切ってた皆んなが

真実を知り不幸になるんも、ゼン様を

信じていたそれまでの自分を否定すんのも。

だで、おまんにも言えず黙ってただ、

ごめんっ!!」

 

そう言うとカラは両の手で顔を覆い隠して

しまった。

 

「カラちゃんっ!オラの方こそごめんっ!

気づいてやれんで、自分1人で抱え込んで

たんだな、ツラかったろうにっ!」

 

「うぅ、ドゼウッ!!」

 

カラがドゼウの胸に顔をうずめる、それを

抱きしめるドゼウ。

あらぁ(*´ω`*)

なんだかアタシ達お邪魔かしらぁ。

 

「それがら、島では引っ叩いてしまって

ごめん、痛かっただべ?」

 

「うん、すっごく。

でもドゼウが真剣に私の事叱ってくれてる

のはわがってたがら。

・・・み、港の漁師さんらぁには・・・

ほ、本当に・・・う、うぅ、も、

申し訳ねぇ事をしちまった・・・。

私らぁは・・・行方不明になっちまった

人らぁの家族に謝っても許されねぇ事を!」

 

あ!

そ、それは・・・。

 

「大丈夫だべ、カラちゃん、その件は。」

 

「大丈夫って、そんなワケねえべ!

私らぁがオリハルゴンの機嫌さ損ねて

漁師さんらぁが襲われた事、大丈夫な

ワケねぇっ!」

 

「いえ、それが大丈夫だったんですよ、

行方知れずだった漁師さん達っ!」

 

「えっ!?」

 

「あ、いて!」

 

カラはハっと顔をコッツのほうに向け、

自分を抱きしめているドゼウの腕を

取っ払ってコッツに詰め寄る。

ドゼウはカラが自分から離れたので

少しガッカリした表情を浮かべたのʅ(◞‿◟)ʃ

 

「大丈夫だったって、それどういう事

なんだっ!?」

 

「カラ殿がオリハルゴンの島から

気球船で飛び立った後、浜の奥の方から

数人の人間が現れたんです。

なんとその方々が、行方知れずになっていた

漁師さん達だったのです。

全員無事でした。」

 

「ひゃあっ!」

 

全員無事、という言葉にカラはその場に

崩れ落ちた。

 

「よ、よかったぁ!

で、でも、どうやって無事に生き延びた

んだ?しかもオリハルゴンの島で・・・?」

 

「それは・・・」

 

******************************************

「お前達も遭難者かーっ?」

 

「え、遭難者!?」

 

突如オリハルゴンの島に現れた男性達。

お前達・・・も・・・遭難者、って事は!

この人達は行方不明になった漁師さん達!?

 

「い、いえ、我々は・・・この島に

渡っていた身内を助けるために

ここにやって来ました。」

 

「身内を助けに!?

それはどういう・・・!?」

 

コッツがアタシ達がこの島へやって来た

理由を掻い摘んで説明した。

 

「そうだったのか、1人でこの島に

渡って来るたぁ、ゼンチャンの信者達は

ホンットに無鉄砲なヤツらだ。

アイツら何をするにも極端なんだよ、

カツオの買い占めにしたってなあ!」

 

「う、うぅぅ、自分の嫁っこが

その仲間なだけに耳が痛え。

体を少しずつ切り刻まれてるみてぇだ。」

 

「お前さんは悪くねえさ、必死に嫁さんの

目を覚まさそうとしてるんだろう?」

 

「そ、そうだべが・・・。」

 

「で、あなた方はやはり、行方不明の

漁師さん達ですね?

しかし、どうやって生き延びる事が

できたんです?

港ではもっぱら『仲間はオリハルゴンに

襲われた』と噂していましたが。」

 

「・・・あぁ、確かに漁をしていたら

オリハルゴンと遭遇した、その瞬間は

俺達も死を覚悟した。

しかしオリハルゴンは元々、神の使いと

崇められている魔物だ、遠い昔から、

俺達の先祖の代から人間と付き合って

くれている神の使いだ。

それを思い出してくれれば助かるんじゃ

ないかと、俺達は考えた。

そして捕獲していた魚を全部オリハルゴンに

差し出したんだ。

するとオリハルゴンに俺達の思いが

通じたのか、彼は俺達の船を自分の島に

誘導してくれたのさ。」

 

「な、なんとっ!」

 

「ワシもコイツと同じ行動を取った。

そして島に誘導された、オリハルゴンは

やはり神の使いなんじゃよ!」

 

うわぁ、信じられないけど本当の話、

言い伝えは真実だったわけね。

悠久の時を越えて魔物と人とが

通じ合う、なんだか歴史ロマンねぇ。

 

「で、お供えが途絶えちまってるから

オリハルゴンは確かに腹ペコだったんだ、

俺たちはその事をすごく心配していたから

この島に残り、オリハルゴンのために

カツオ漁を手伝っていたのさ。

お供えができない期間を作っちまった事の、

せめてもの罪滅ぼしに。」

 

「そうだったのですね。

何にしろ皆さんご無事で何よりです、

港の漁師さん達もさぞや安心される

事でしょう。」

 

「と、ところで・・・オ、オリハルゴンは

眠っちまってるみたいだけど・・・

これはどうしたんだ?

こんな昼間っから眠っちまうなんて

あんまり見た事がねぇぞ。」

 

「あ、それは・・・。」

 

ゲッ!

ア、アタシ達がオリハルゴンを攻撃した上に

眠らせた事、まだ説明してなかった(>_<)

オリハルゴンと漁師さん達との出来事を

聞いた今、やむを得なかったとはいえ、

余計に罪悪感が募る〜(-。-;

 

「これはその・・・このドゼウの

奥さんがオリハルゴンに襲われそうだった

ので止むを得ず・・・。」

 

「ね、眠らせちまったのか!?」

 

「う、うん、あ、いや、はい・・・

そ、それだけでなく眠らせる前にちょこ〜

っと傷付けちゃったかな・・・あ、でもっ!

傷はちゃんと治しておいたからっ!

うんっ!それは間違いないっ!

そもそもやっつける意志はアタシ達には

なく、に、人間の都合でオリハルゴンを

怒らせたのは聞いていたのでっ!」

 

アタシは物凄くバツが悪そうに事の

成り行きを説明し始めた。

 

「ほぇぇ、まぁなんとも、確かに

罰当たりな行為だけど、オリハルゴンを

大人しくさせちまうってーのもまた

信じられんなっ!」

 

「そもそもやっつける気はないって

やっつけようと思えばできるって

事か!何者だアンタ達!?」

 

ひえええ、ごめんなさい、ごめんなさいっ!

オリハルゴンほんとにごめんなさいっ!!

 

「まぁ、それにしてもちゃんと事情を

知っていてやむを得ずって状況だったん

ならオリハルゴンも許してくれらぁ!

俺達が頑張ってカツオをたぁくさん

獲って来てオリハルゴンの機嫌を

取っとくからよぉ!」

 

うわぁ、なんて頼もしい人達っ!

やっぱり海の男はたくましいわねぇ^_^

 

「ありがとう、漁師さん達、我々の行いが

許されるなら、これほど有難い話は

ありません。」

 

「いいって!

それよりアンタ達これからどうするんだい?

そこのニィちゃんの嫁を追いかける

のかい?」

 

「はい、彼女を追いかけ、向かう先に

いるであろうゼンチャンに直接

会って話をしてみようと思います。

ゼンチャンとそれを信じる人々が

振りまくトラブル、これを見過ごすことは

我々にはできないと思っています。」

 

「そうかい、もしゼンチャンにまつわる

トラブルが解決されれば俺達、ハルラの

漁師達もオリハルゴンにも、また平穏な

日々が戻ってくるってワケだ。

お嬢ちゃん達、頼むぜ、この問題を

解決してくれるよう応援してるぜっ!」

 

うん、任せといてっ!

きっとトラブルを解決してみせるっ!

ところで漁師さん達はこれから

どうするんだろう?

オリハルゴンの為にこの島に残るん

だろうか?

でも、港の仲間や家族は今も心配してると

思うんだけど・・・。

 

「そうだな、俺達は無事だってこと、

知らせないとな。

行方不明のままだと、それが原因で

また違う何かのトラブルが発生しちまうと

ややこしいしな、よぉし俺が一旦、港に

戻って皆の無事を伝えよう。」

 

うん、そうした方がいいと思う。

 

「お嬢ちゃん達、ゼンチャンの件が

うまくいったなら是非とも知らせてくれよ、

したら残りの”行方不明者“のコイツらも

島に戻る事にするからヨォ!」

 

これは!

全員が港に戻れるかどうかはアタシ達に

かかってるわねっ!

なんとしてもゼンチャンのペテンから

村人達を救わなければっ!

******************************************

「と、いうワケなんだべ、だから

行方不明になった漁師さん達にも

急いで偽ゼンチャンの事、知らせて

やんなきゃあいげねぇ。」

 

「モガ!まさか、ゼンチャンは偽物で

魔物だったなんて聞いたら驚くだろうな!」

 

「・・・・」

 

行方不明者達の無事を知ったカラは

諸手を上げて喜ぶのかと思いきや

何か深く考え込んでいるようだった。

そして意を決したようにっ!

 

「ドゼウッ!漁師さんらぁに知らせを

するのには私も連れてってけろっ!

会って直接謝罪してぇ!

皆んな無事だったのはもちろん喜ばしい

事だ、けんど私らぁが行方不明の漁師さん

らぁを危険な目に遭わせたこと、これは

覆しようのない事実だっ!

無事だったからよかったものの、

そうでなかった場合も十分あり得たんだ、

それはオリハルゴンという神の使いの

気分1つだったわげだからっ!」

 

「カ、カラちゃん・・・。」

 

カラ・・・そうね、謝罪をするというのは

すごく勇気が必要な事。

けど、それをしないと・・・ケジメは

付けられない。

 

うん、エライわ、カラッ!

自分の非を認めきちんと謝罪する、

相手に伝わるかはわかんないけど、

今、カラがしなければいけない1番は

まずは謝る事ね。

 

第1印象は最悪だったけど分別のつく

賢い女性だわ、カラ。

ドゼウ夫婦はきっともう大丈夫ね。

 

「カラちゃん、カラちゃんの苦しみを

放置していたオラの責任でもあるだ、

今回の出来事は。

漁師さんらぁに許してもらえるよう

オラも一緒に懸命に謝罪するべさ。」

 

「ドゼウ・・・ありがとう。」

 

「モガ!

よしっ!これで仲直りもできたし

一件落着だな!」

 

「リザ達、ホントに世話になっただな、

ありがとう!

おまんらは・・・まことの戦士、

まことの冒険王だな。

冒険王っていうのは強く、そして

決して諦めない者なんだな。

何度も挫けそうになったオラを・・・

その都度、勇気づけて叱咤してくれたものな

リザは・・・!」

 

ドゼウ・・・ありがとう。

アナタも、奥さん想いのいい旦那様ね。

 

「ところで。

おまんらぁが探していたゼンチャン、

それはオラが探していた偽物なんか

じゃなく、本物のゼンチャンの事

だべな?

これからどうすんだ?」

 

そうだった、今倒したのは偽物だった、

偽物って事は本物がいるんだろうけど

結局また0からのスタートだわね、

ゼンチャン探しは。

 

「ほ、本物のゼンチャン!?」

 

と、カラが急にただならぬ表情で

声を発したの。

 

「リザ達は、偽物のゼン様じゃなくて

本物のゼンチャンを探していたのか?

私、知ってる・・・本物のゼンチャンの

居場所を!」

 

!!

い、今なんて言ったの?カラッ!?

 

「あ、いや、私は直接知ってるわけじゃ

ねえが、ゼン様、あ、つまり偽物が話して

いるのを聞いた事があるんだ。

本物のゼンチャンは牢屋の町『ベェル町』

におる、と。

宇宙政府の役人に捕らえられている、と。」

 

なんとっ!

意外にもカラが本物の居場所を知って

いたっ!

しかも宇宙政府に捕まってるですってぇ!?

これはっ!

一刻を争うっ!

急いでその、牢屋の町とやらに

向かわなくてはっ!!

ねぇ?オリオリッ!

 

あ、あれ?オリオリ??

事件が・・・偽ゼンチャン事件が

解決したっていうのに・・・だいたい

こういう、事件が解決した時には

書から出てきてるのに・・・?

 

「オリオリ様っ!

本物のゼンチャンはベェルの町という

処に囚われているようです。

今すぐ向かいますか?」

 

コッツが書に向かってオリオリを

呼びかける。

すると漸く書からオリオリが現れた。

 

「わっ!

ほ、本から人が出た!?」

 

「驚かせてすみませんカラさん、

これにはワケがあって・・・ところで

ドゼウさん、カラさん、皆を苦しめていた

偽物が退治されよかったですね。

元の生活に戻るには時間を要すると

思われますが夫婦力を合わせて苦難を

乗り越えていってほしく思います。

大丈夫、お互いを信頼し夫婦の間で・・・

たとえ相手を思いやっての事だと

しても・・・隠し事はせずに、素直に

話し合えばどんな逆境も2人で

乗り越えられると私は信じています。」

 

「あ、ありがとう、本の中の人。

これからは今まで以上に嫁っこを

思いやり日々過ごしていくだ。」

 

「私も、もっとドゼウを頼ればよかった

と思ってる。」

 

「カラちゃん・・・!」

 

オリオリ、自身に置き換えて話してる

んだろうか。

きっとそうね、一時期は疑心暗鬼だったけど

結局オリオリ達夫婦もお互いを信じ合う

心は強かったものね。

 

「リザさん、コッツ。

本物のゼンチャンですが政府に囚われている

のなら一刻も早く救出しなければっ!

急いでベェルの町へ向かいましょう!」

 

「承知しましたっ!」

 

このハルラ地方では、またまた人間と

魔物との関係について考えさせられた。

人々は魔物であるオリハルゴンを神獣と

崇めオリハルゴンもまた、人間を護る

行動をしていた。

 

宇宙政府の悪い影響さえなければ、

人と魔物は共存できる、ますます持って

それを確信できたわ。

 

そして本物のゼンチャンッ!

今度こそ出会えそうだけど、その、

悪影響の根源である宇宙政府に囚われてる

のであれば一刻も早く救出しなければっ!

 

「牢屋の町・・・か。」

 

コッツが誰にも聞こえないほどの

小さな声で独り言つ。

アタシには聞こえなかったけど、

牢屋と聞いて、きっと自分の部下である

3番隊の隊員達のことを思い浮かべた

んだろう。

 

そしてアタシはと言うと・・・

ある1つの事柄が心に引っかかっていた。

 

アタシ達はドゼウ夫婦に別れを告げ、

生じた思惑や想いを抱えながらも急ぎ

ベェルの町に向かった。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\

・ドゼウ
全知全能のオンナ「ゼンチャン」の偽物
に彼の妻カラは騙されて大金を奪われて
しまい夫婦は離婚の危機に扮する。
その事で偽ゼンチャンに強い恨みを持つ。
騙されている奥さんの目を覚まし偽物の
悪事を暴くためアタシ達と行動を共にする。
離婚の危機を迎えてはいるもののドゼウの
奥さんへの愛情は深く、奥さんのピンチ
には危険を顧みず奥さんを守ろうとするなど
実は勇気ある男性。

・カラ
ドゼウの奥さん。
全知全能の神の化身と嘯くゼンチャンは
偽物で実は魔物だという事を見抜いていた。
しかし真実を公表する事で皆が不幸な気持ちに
なってしまうのを恐れ仕方なく騙されているフリ
を続けていた。
夫であるドゼウに悪態をつき続けたのも
そのせいだった。
偽物が退治された今、己の犯した罪に向き合い
勇気を持って謝罪する事を誓う。

第8章<惑星の秘密を知る者>了


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2ndシーズン第9章[囚われた全知全能]***惑星クラウド・ボォフゥ大陸編***
エピソード1.「乙女達の憂鬱」


アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



ふーむ、おかしい。

うん、絶対おかしいわ。

だって今までそんな事、ほとんどなかった

もの、一体どうしちゃったんだろう。

・・・そういえばこの大陸に来てから

ほとんど姿を見せてないわ。

 

アタシは・・・偽ゼンチャン事件が解決した

直後に感じた違和感が頭から離れず次の

目的地に向かう旅路のさなかも、ずっと

その事を考えていた。

きっと難しい顔をしていたと思う。

 

と、そんなアタシと同じように難しい、

いやこちらは難しいというより思い詰めた

表情を滲ませていた人物が居た。

 

アタシは自分の違和感を思い切って

打ち明けてみようと小さな決心をした。

 

「ねぇコッツ・・・。」

 

「あのぉ、リザ殿・・・。」

 

えっ!?あ、あらやだ、思わず呼びかけが

被っちゃったわ。

 

「え、あ、ごめん、どうしたの?コッツ。」

 

「い、いえいえリザ殿こそっ!お先に

どうぞっ!」

 

「あ、あそう?じゃあごめん先に話するね。

えっと・・・ごめんコッツ、ちょっと

こっちへ。」

 

アタシはチラとモガ丸が手にしている

宇宙王の書を見やり、モガ丸から少し距離

を取って歩くようコッツを誘導した。

 

「あのね、オリオリなんだけど・・・。

そういえばここのところ、書から姿を

見せないな〜って。

ホラ、偽ゼンチャン事件が解決した時

だってこっちから呼びかけてようやく書

から出てきたくらいだし。

あぁいう、事件が解決した時には必ず姿を

見せてたと思うんだけど・・・。

コッツどう思う??」

 

アタシはオリオリに違和感を感じていた。

その事を率直にコッツに問いかけてみた。

 

「ボロンの事、やっぱりショックがまだ

尾を引いてるのかしら。

あ、ううん!

そりゃあ幼馴染だったんだもの、

引きずってるのは当然だと思うんだけど。

えっとね、コッツはその時まだ合流して

なかったけど・・・青雲の巨塔で旦那様が

義勇軍を離れるというメッセージを皆んな

で聞いたんだけど、その時もかなりショック

を受けたはずなのに気丈に振る舞っていた

と思うの。

ここまで姿を見せないってことはなかった

と思うんだ。」

 

コッツはしばし沈黙の後、口を開いた。

 

「・・・揺れておられるのではない

でしょうか?」

 

「え?揺れる!?そ、それは・・・

打倒政府路線かボロン、あ、いやピエール

の内政変革路線かって事・・・まさかっ!」

 

「あ、いや、リザ殿・・・そうじゃなく。

女性として、です。」

 

「え?女性として???

え、え?それはどういう・・・?」

 

アタシはコッツの言わんとしている事の

真意を図りかねた。女性としてって??

 

「・・・率直に言ってしまえば・・・

セアド様とボロンの間で揺れている・・・

つまりボロンが・・・異性としてオリオリ

様に愛の告白をしてしまった、その事に

よってオリオリ様のボロンへの見方が

変わってきている、という事かと。」

 

「ええぇぇぇ!!??

そ、そんな事って???」

 

「リ、リザ殿っ!!こ、声が!!」

 

ハッ!ア、アタシったらコッツのあまりな

衝撃的な発言の内容に思わず大声を出して

しまった!

思わずモガ丸のほうを見てしまう。

・・・だっ大丈夫、気づかれてはなさそう:(;゙゚'ω゚'):

 

「だ、だってっ!

オリオリはもう既婚者なのよ!

そ、そんなっ!いくら幼馴染だからって、

そ、そんな気持ちになるものなの!!??」

 

「わかりません、

ですがこれは女の勘です。」

 

「か、勘って!コッツ、アナタ何を言ってる

のかわかってるのっ!?」

 

「・・・無礼を承知で言ってます、リザ殿。

私の全くの憶測でしかありません、ですが

勘なのです。

ホラ、以前他ならぬリザ殿が私に言った

でしょ?『好きな人に告白してみれば相手

の人も自分を見る目が変わるかもしれない』

って。今のオリオリ様が正にその状態では

ないのかなと、私は思います。」

 

あっ!そ、そういえば、アタシ確かにコッツ

にそんな事言ったわ無責任にも。

そうか、だからオリオリもボロンを幼馴染

じゃなく異性として・・・って違うっ!

コッツの想い人は独身かもしんないけど

オリオリは既婚者なのよっ!?それとも何?

コッツの想い人も既婚者だっていうの!?

そ、それって・・・ふ、ふり・・・!?

 

「ちっ違いますっ!!

私が想いを寄せている人は独身ですっ!!

って私の話はともかくっ!・・・リザ殿、

私達の指導者に対し非常に不敬ながら発言

しますね・・・オリオリ様は多分・・・

生まれてこのかた、恋というものをされた事

がないのかな、と。生まれた時から結婚する

相手が決まっていた、いえ、もちろん

オリオリ様のセアド様への愛は嘘偽りのない

ものであると思います、そしてセアド様は

この上なく素敵な旦那様であられると私も

思います。しかしそれは・・・偶然、もしく

は奇跡でもあると思うんです。

オリオリ様のお家とセアド様のお家との婚約

はご本人達が生まれる前から取り決められて

いた事であると聞きます、セアド家に

生まれる男児がセアド様のような方では

なかった可能性もあって然るべきです。

オリオリ様の意志よりも両家の取り決めの

方が順番が先で効力が強いものだった

でしょうから、オリオリ様の旦那様となる

お方はセアド様以外の方であったとしても

オリオリ様に拒否権はなかったと

思われます。」

 

「ふむふむ。拒否も何も、生まれたての

赤ん坊には無理な話よね、承諾か拒否か

だなんて。」

 

「たまたまお互い愛し合う人物同士が夫婦

になれたわけです、これはほとんど奇跡と

呼べるのはわかってもらえます?リザ殿。」

 

「うん、わかるよ。・・・けど、結果、

現実にはお互い愛し合っている夫婦の妻で

あるオリオリがどうしてボロンを異性

として見ちゃうワケ?」

 

「オリオリ様の結婚は取り決めだったの

です、良き取り決めだった。

つまり用意された良き旦那様だった。

だから誰かから告白を受けるとか、自分で

誰かを選んで好きになる、という事が

なかったはずです。

今、オリオリ様はボロンから告白を受けた、

生まれて初めての出来事に直面されている

のです。愛の告白に限らず、人は誰でも

生まれて初めての出来事には戸惑うものでは

ないでしょうか?」

 

「なるほど・・・そうね、アタシやっぱ

恋愛にはとんと疎いもんだから理解が

どうしてもできない、というか追いつかない

けど・・・生まれて初めての事だったら、

確かにどうしていいかわからなくなるわ

よね。」

 

「はい。よもやオリオリ様が道を踏み外す、

なんて事はないと思いますが動揺はして

おられるのではないか、というのが私の

勘です。幼馴染だと思っていた者が自分の

事を異性として見ていた。恥ずかしいやら、

どうしていいのかわからないやら、

そのようなお気持ちなのではないで

しょうか?」

 

「しかもボロンの告白自体、ボロン自身も

複雑な心境の上でのものだったもんね。

ボロンはボロンでオリオリと知り合った

時点で既にオリオリには許嫁がいる状態

だもの、ボロンにはどうする事もできなかった、

けどオリオリにどんどん惹かれる自分を

止める事ができなかった。

ふーむ、そう考えるとボロンも可哀想では

あるわね・・・あらやだっ!アタシったら

ボロンの味方しちゃってるわ、いいえ!

だからって内政変革の話はまた別よっ!」

 

「・・・どうしようもない・・・だから

可哀想・・・かぁ・・・。」

 

「えっ?どうしたの?コッツ。

なんて言ったの??」

 

コッツはとても小さな声で何か呟いたんだけど、

アタシはそれが聞こえなかったの。

 

「あ、いえ!

なんでもないですよ、リザ殿。」

 

「あら、そう?まぁけど、もしそういう問題

なら完全に個人的な事だからアタシ達には

踏み込めない問題よね。

放っておくしかないのかしら。

ただ、軍としての行動に支障が出なきゃ

いいんだけど。アタシはそれが心配。

・・・ところで?

コッツも何か言いかけてなかった?」

 

もしコッツの勘が当たってるならこれ以上

アタシ達がアレコレ考えても仕方がない事だ。

アタシはコッツも何か話したげだったのを

思い出し話題を変えた。

 

「はい・・・これから向かう町・・・

ベェルですが・・・牢屋の町だとカラ殿は

おっしゃってました。

牢屋の町と呼ばれるからには宇宙政府に

捕らえられたたくさんの囚人がいると

思われます。

もしかすると連行された私の部下達、

3番隊の隊員達が収監されていないかと思って

いたのです、リザ殿、どう思いますか?」

 

あっ!!そうかっ!!確かに牢屋の町って

カラが言ってたわっ!

 

「うんうんっ!そうかもしんないわね!

牢屋の町っていうぐらいだからこの大陸だけ

じゃなくって、この星中の囚人が集められてる

かもしんないっ!

だとしたら3番隊の人達がいたとしても

不思議じゃあないっ!!

コッツッ!これは急がないとっ!ゼンチャンも

大事だけど3番隊のみんなを助けるチャンス

かもしんないよ!」

 

「は、はい!リザ殿にそう言ってもらえると

私も希望が湧いてきましたっ!」

 

「よしっ!これはオリオリにも伝えなきゃねっ!

今よりもう少しペースをあげようっ!」

 

コッツは・・・やっぱり隊長だ!牢屋の町と

聞いてピンと来たのね。それは常に隊員達の

無事を祈ってる証拠。

ドゥエイン、心配しなくてもコッツは立派な

隊長だよ。

バァジ島の秘密基地でコッツを叱責した

1番隊隊長のドゥエインに向かってアタシは

心の中でコッツの責任感の強さを伝えた。

 

うん、アタシも俄然期待感が湧いてきたっ!

アタシとコッツはモガ丸に近寄りオリオリを

呼び出してペースアップを進言した。

・・・もちろんオリオリが心揺れているかも

って話は内密のままね。

 

当然ながらオリオリも3番隊の事を気に

かけていたのでペースアップの件は全員賛成

だった。

よしっ!超特急でベェルへ向かおう!

ゼンチャンも3番隊も皆んな助けなきゃ!

アタシ達はもうほとんど走りながら牢屋の町

ベェルを目指した。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード2.「牢獄の再会」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



ベェルの町に着くなり宇宙王の書が開き

オリオリが現れた。

 

「ここに本物のゼンチャンが囚われている

との事。

急いで探し出し解放してあげましょう、

ね?コッツ、リザさん達。」

 

!!

オリオリッ!

自分から出てきたっ!

 

「オリオリ様っ!

・・・しょっ、承知しましたっ!!」

 

アタシとコッツは驚いて顔を見合わせた!

 

「あら、どうしたんです?2人とも。

随分と驚いた顔をしていますが・・・。

私の顔に何かついてますか??」

 

アタシとコッツは・・・ボォフゥ大陸に

着いてからほとんど姿を見せないオリオリ

を、ボロンの事で落ち込んでいるのでは

ないかと推察と心配をしていた。

 

それがこの町に着いてすぐに自分から

姿を見せてくれた事に驚きと・・・

安堵をしたの。

 

まさか、アタシとコッツの内緒話が

聞こえていて、心配かけまいと

気丈に振る舞ってるのかしら・・・

:(;゙゚'ω゚'):

 

「コッツッ!!」

 

「は、ハイッ!」

 

「アナタの推測通り、宇宙政府に連行された

3番隊のみんなが囚われているかも

しれませんね、ゼンチャンと共に

そちらも気を配って探しましょう、

これは司令官命令ですっ!」

 

「あ・・・は、ハイッ!!

承知しましたっオリオリ様っ!!!」

 

オリオリッ、ようやくっ!

いつものオリオリらしくなってきたわ、

よかったぁ〜(*´ω`*)

 

(「コッツ、リザさん、随分と心配を

させてしまっているようですね、

申し訳ありません。

貴方達に余計な心配をさせるなど、

リーダーとして失格ですっ!

けどもう大丈夫っ!

この先からは、貴方達に迷惑をかけた分を

取り返す事ができるよう頑張りますっ!」)

 

やっぱりアタシとコッツの内緒話が

聞こえてたみたいだけどオリオリは

それを口には出さず、いつものように

振る舞ったって事だったの。

 

もちろん、アタシとコッツは知る由も

なかったけど。

 

で、ここベェルの町だけど。

町というより本当に牢屋だけでできた

集落のようね。

ここ惑星クラウドでの宇宙政府の中枢が

ヨンツゥオ大陸とすれば・・・此処は

中枢から離れた僻地って事になるのね。

僻地に設けられた囚人達の行き着く先、

ってとこかしら。

なんだか心が寒くなるわね( ̄O ̄;)

 

「おいっ!お前らっ!ナニモンだ!?

此処は宇宙政府に捕まった奴らを収監する

ためだけの町だ。

一般人が寄り付くような場所じゃねぇぜ。」

 

と、町の入り口から1番近い場所にある

牢屋に入れられている囚人の男性が

アタシ達に声をかけてきた。

 

「見た所、政府の回しもんじゃなさそう

だし・・・囚人への面会者かい?」

 

「はい、私達はある人物が此処に

収監されていると聞き、会いにやって来た

者です。」

 

書からオリオリが現れ、この囚人との

応対をこなす。

オリオリ、よかった、ホントにもう

大丈夫みたいね^_^

 

「わっ!ほ、本から人が出てきやがった!

ほ、ホントにナニモンだ!?

お前らみたいな変なヤツが会いにくる

だなんて・・・一体誰を探してるんだ?」

 

「驚かせてすみません、これには事情が

あって・・・まぁその、話すと長くなる

ので慣れてください。

私達はゼンチャンという人物を探して

います。

どの房に収監されているのでしょう?」

 

な、慣れろって・・・このやり取りも

お決まりになってきたのかオリオリも

強引ね( ̄∀ ̄)

 

「何?ゼンチャンだと!?

ゼンチャンか・・・そいつぁ残念だったな、

アイツなら処刑が決まって処刑場に

送られちまったよ・・・可哀想に。」

 

なっ!

しょっ、処刑っ!!??

 

何!?何をやっちゃったって言うの?

ゼンチャンは。

 

「まぁしかし、全知全能っていうのも

時には厄介なモンでな、知っちゃあ

いけない事を知ってしまったらしいぜ

ゼンチャンは。

だから処刑されちまう、口封じだな。」

 

「口封じっ!?

ゼンチャンは何を知ってしまったという

んでしょう?」

 

「なんでも宇宙政府が隠したい事実、

っていうのを知ってしまったんだとよ。」

 

「政府が隠したい事実・・・!?」

 

宇宙政府の隠したい事実・・・

な、なるほど、全知全能ともなれば

知りたくない事まで知ってしまうという

事が起こりうるんだ。

 

それにしても口封じですって!?

全く宇宙政府って奴らは毎度毎度(_ _#

やる事が酷すぎるっ!

 

「オリオリ様、急ぎその処刑場に向かい

ゼンチャンを助け出さねばなりませんね。」

 

「そうですねコッツ。

政府から理不尽な処刑を受けるなど

許しがたい事です。

我々の目的もありますがまずは人命優先

です、ゼンチャンを助け出しましょう。」

 

「そいつぁ無駄だ。

処刑場へ行くにはこの先の“監獄の砦”を

越えなくちゃならない、砦には政府の

通行官が居て通行を制限している、

砦を抜けるには手形が必要だ。

手形なんてもらえるのは政府関係者のみ、

一般人に取ってみりゃあ、もうあそこの砦

は通行禁止に等しいってワケだ。

残念だがゼンチャンにはもう会えないぜ。」

 

手形・・・クッ!また手形かっ!

アタシの脳裏にヨンツゥオ大陸の

キュウエル関所での忌々しい出来事の

記憶が一瞬よぎる。

その記憶のせいか、手形というフレーズに

自分で思ってる以上の嫌悪感が生まれた。

そんなモノなくても通ってやるわよ、

その砦をっ!

 

「何?それでも絶対ゼンチャンに会う?

お前バカか、俺の話聞いてたか!?

死んじまうぞっ!!」

 

「モガ!大丈夫だ、リザ達がいれば

そんな砦、簡単に突破できるぞっ!」

 

「そうよっ!

リザ殿達はめちゃくちゃ強いんだからっ!

政府の通行官なんてあっという間に

・・・」

 

「そ、その声は・・・たっ、隊長??

コッツ隊長・・・ではあるまいか・・・?」

 

と、別の房から・・・掠れた男性の声が

聞こえてきた。

その男性はコッツの名を呼んだの・・・。

コッツは声がする房のほうに顔を向ける。

 

「えっ!!わ、私の名を呼ぶのは・・・

まさか・・・マルツェルッ??

あ、あぁ・・・マルツェルッ!!!!」

 

コッツは凄い勢いで掠れ声の主の房へ

駆け寄る。

マルツェルって??

も、もしかして・・・?

 

「あぁぁマルツェルッ!

よ、よく・・・生きて・・・くれてた

・・・・!」

 

「た、隊長こそっ・・・!

よくご無事でっ!」

 

マルツェルと呼ばれた男性とコッツは

鉄格子越しにガッチリと手を握り合った。

コッツは目に涙を浮かべ今にも崩れ落ち

そうだ。

ねぇオリオリ、この男性はひょっとして

・・・。

 

「・・・リザさん・・・そうです、彼は

マルツェル、義勇軍3番隊の副隊長です

・・・やっぱり・・・3番隊は此処に

収容されていたのです・・・それにしても

・・・うぅぅ、よく無事で・・・。」

 

やっぱりっ!

3番隊の隊員、いえ副隊長さんかっ!

予想通り此処に囚われていたのねっ!

そして奇跡的に生きていたっ!

こんなに喜ばしい事はないわっ!

オリオリも涙を浮かべている、2人の様子

を見てるとアタシまで泣けてきちゃう。

よっぽど心配だったものね。

 

「・・・うぅグス・・・わ、私1人だけ

逃げ延びたこと・・・どれだけ・・・

後悔したことか・・・貴方達と運命を共に

した方がよっぽど・・・気が楽だった

だろうって。

・・・けど貴方は・・・私を叱咤した。

生きて・・・生きて希望を繋ぐんだって。

残酷だと思ったっ!

それだったらマルツェル、貴方が逃げれば

いいって思った。

でもオリオリ様に伝令をするのが私の・・・

役目だと・・・。

オリオリ様に事の次第を・・・伝えるのが

・・・隊長たる者だと・・・うぅぅ、

けどホントに・・・無事で良かった!

そして・・・ツライ思いをしたでしょう

・・・ごめんなさいっ!!」

 

「隊長・・・!

顔を上げられよっ!

隊長は我々を助けに来てくれたのでは

ないのか?

であれば謝る事など何もござらん、

隊に危機があった時、部下が大将を

逃すのは当然の事っ!

そして1人逃げ延びるというおツライ役目を

見事果たしたからこそ、今ここで我々を

見つけてくれた、何も恥じる事は

ありませぬっ!

よくぞ見つけてくれた・・・あぁ、

隊長・・・ご立派になられた・・・!」

 

コッツとマルツェルが・・・長い間

心にしまい込んでいたであろう思いの丈を

ぶつけ合った。

 

「・・・マルツェル、よくぞ生きていて

くれましたね。」

 

書がマルツェルの房へと近づく。

 

「ハッ!こ、これはオリオリ様っ!!

・・・くぅぅ・・・生きてまたオリオリ様の

お顔を拝顔できるなど・・・このマルツェル

夢にも思っておりませんでした・・・。

そして・・・誠に申し訳ございませんっ!

セアド様を・・・星屑魔法団を護るという

務めを果たせず・・・また隊を政府軍の

捕虜に取られるという大失態を犯して

しまい・・・このマルツェル、いかような

処罰も受ける所存でございますっ!!」

 

マルツェルは姿勢を正し蹲りオリオリへの

謝罪を口にした。

 

「な、何を言うマルツェルッ!

責任は隊長である私に全てあるのです、

貴方が負う事ではないっ!!」

 

「いいえっ!

自分は隊長を後見する役目を帯びて

副隊長の任に就いている、3番隊が捕虜に

取られたのは最終的に自分の責任で

あります!」

 

コッツとマルツェルのお互いの責任感の

強さ・・・それがぶつかり合う・・・

けれどそれはお互いを思い遣る気持ちの

強さでもあると・・・アタシは感じた。

 

「マルツェル、囚われの身でありながら

生きていてくれた事、私はそれだけで

十分です、処罰など考えた事もありません。

貴方は若いコッツを・・・私達への伝令の

為に懸命に逃がそうとしてくれたの

でしょう?

お陰で私達はコッツに会うことができ3番隊

の状況を知り、今こうして貴方を見つける

事ができた。全て貴方の忠誠心と英断の

お陰です。マルツェル、まこと・・・

大義でした・・・!」

 

「お、オリオリ様っ!

・・・うぅぅ・・・あ、ありがたきお言葉

・・・このマルツェル・・・こ、言葉も

ございません・・・!」

 

そう言うとマルツェルは肩を震わせ

感激の余りか、顔を伏せてしまった。

しばし沈黙が続く。

 

「マルツェル・・・大丈夫か?

で、貴方はさっき『我々を』と言った。

他の隊員達も無事だって事よね??

オリオリ様に報告を!」

 

「あ、あぁ、皆んな無事さ、隊長。

他の隊員達も此処に収容されている。」

 

「よ、よかったぁあああ・・・」

 

全員無事、という報告にコッツはヘナヘナと

その場に座り込んでしまった。

ずーっと、アタシ達が救助した、あの

ジニョリスタ塔からずーっと、その事を

気にかけていたんですもの、力が抜けて

しまったのも無理はない。

 

「オリオリ様、報告申し上げます!

3番隊副隊長マルツェル以下、隊員全員

このベェルの町に収容されており

存命でありますっ!

我々は義勇軍でありながらも政府から

拷問などのヒドイ仕打ちを受ける事は

ございませんでした。労役などに

駆り出されて酷使される事はございましたが

・・・それでも命に関わるような仕打ち

は皆無でした。」

 

「・・・そうですか、それは良かった。

・・・きっとボロ、いやピエールの意向が

あったのかも知れませんね・・・3番隊が

全員無事だったとわかった今は、それに

感謝しなければなりませんね・・・。」

 

「・・・そうですね、オリオリ様。」

 

あの時は・・・ピエールが3番隊への

配慮をした、という発言にコッツが

怒りを爆発させてしまったけれど・・・

もし収容所での3番隊の処遇にも彼の

配慮がなされていたとしたらアタシ達は

ピエールに感謝するしかないわね。

 

そもそもボロンがピエールにならなければ

っていうのはあるけれど。

 

「マルツェル、他の皆んなは?

全員の顔が見たい!」

 

「あぁ、あっちの奥のほうの房だ。

皆んなも隊長の顔を見れば喜ぶだろう。

早く見せてやってくれ。」

 

「うんっ!!」

 

そういうとコッツは他の隊員達が居るという

房のほうへ駆けていった。

奥の方から驚きと歓喜の声が聞こえてくる。

うん、ホントに良かったぁ。

コッツの長い長い呪縛がやっとなくなって。

アタシはその事が1番嬉しかったの(๑˃̵ᴗ˂̵)

 

「と、ところでオリオリ様、この女人達

は?もしやオリオリ様がブルリア星から

お連れした・・・?」

 

「はい、紹介が遅れましたね、そうっ!

ブルリア星の冒険王姉弟リザさん達です。」

 

「やはりっ!そうでござったかっ!」

 

「ふっふ〜ん、そしてオイラはモガ丸、

コイツはスラッピ、リザ達はオイラの

友達さ。マルツェル、ホントに無事で

良かったな!オイラ達も心配してたぞ!

けどコッツはもっと心配してたからな!

そして随分と自分を責めてたみたいだ、

此処へ来るって決まった時も真っ先に

お前達が居ないかって祈ってたようだぞ!」

 

「隊長が・・・モガ丸殿、心遣い感謝

申し上げる!

そして冒険王殿、我が義勇軍に加勢いただき

誠に感謝致す、このような場所からで

失礼かと存ずるが隊員達を代表して

歓迎の意を表します、ありがとうっ!!」

 

マルツェル・・・こちらこそ!

歓迎してくれてありがとう^_^

そして生きていてくれて良かった。

 

「マルツェル、こちらも報告しなければ

ならない事が山ほどありますが今は

時間がない!

まずは貴方達を全員解放したい、話は

それからです。」

 

「はっ!

そういえば、なんとなく聞こえて

いましたが、ここに収容されていた

ゼンチャンなる者に用があるそうですね。

確かにゼンチャンは処刑場に連れて

行かれました、一刻も早く追いかけなければ

刑が執行されてしまいます!」

 

「・・・わかりました。

リザさん達、3番隊の解放は・・・

お任せしてよろしいですか?」

 

ふっふ〜ん、そうね、これはもう強硬手段

しかないもんね、任せてオリオリッ!

 

「きょ、強硬手段とは?

オリオリ様・・・。」

 

ジョギー、任せたわよ。

 

「わかった。

・・・マルツェルさん、危ないんで

ちょっと下がっててくれないか。」

 

ジョギーが鞘から剣を抜く。

 

「ま、まさか強硬手段って!?」

 

そう言うとマルツェルは慌てて鍵の掛かった

扉から離れる。

 

ブゥゥン

ガキィィィィイインッッッ!!!

 

ジョギーが剣で強引に扉を壊した。

 

「な、なんとっ!

なんと言うパワー・・・!」

 

「ささっ!早く外へ、マルツェルッ!」

 

オリオリが呆気に取られているマルツェルに

外へ出るよう促す。

と・・・。

 

ブーブーブーッ!!!

 

けたたましい警報音が鳴り響いた!

 

「お、お前らっ!

無茶しやがって、そんなに派手に檻を

ぶっ壊すだなんて・・・。

ここの檻には脱走対策で魔力による

結界が張られてるんだ!

結界が解除されずに檻の扉が開くと

警報音がなるようになぁ。

マズイぞ、監視員の魔物がやって来るっ!」

 

さっきの囚人さんが警報音の仕組みを

教えてくれた。

魔物?そりゃそうか、ここは牢獄だもの、

監視役が居て当然よね。

けど大丈夫、アタシ達が振り払うわっ!

 

「な、何事だぁ!?

誰か脱走を試みたのかぁ??」

 

すると囚人さんの言う通り、監視役であろう

魔物が2体現れた。

 

「なんだぁ貴様ら!?

此処は宇宙政府が設けた刑務所だ、

お前ら人間が何の用・・・な、何ぃ!?

檻がブチ破られているっ!!」

 

仕方ない、政府本部に脱走の事が知れるのは

あまりいいことではない。

退治させてもらおう。

 

「義勇軍の副隊長の檻が壊されてるって

事は・・・貴様ら義勇軍か!?

仲間を取り返しに来たってワケだな?」

 

「いかにもっ!

我らは義勇軍です、捕らえられた仲間を

返してもらいますよ。」

 

オリオリが監視員達に宣言した。

 

「はぁ!?寝言は寝て言えっ!

返してもらうと言われてハイどうぞ

って言うワケねぇだろ!

このまま逃したら俺達の責任問題だ、

貴様ら全員この場で即刻処刑だ!」

 

そう言うと魔物達は襲いかかって来た。

アタシは杖を構えて呪文の詠唱を始めた。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\

・マルツェル
義勇軍3番隊副隊長。
3番隊が宇宙政府の捕虜となる際、隊長である
コッツを逃す為に行動した。
義勇軍本隊への伝令役として、また若い隊長で
あるコッツを後見する役目を帯びていたから
こその行動だったらしいの。
政府が捕らえた囚人達を一手に収容する施設
ベェルにて他の隊員達とともに牢獄生活
を送っていたの。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード3.「交わされた囚人との約束」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



「イオラ!」

 

ヒュイイン、ボォォォン!

 

「希望のまいっ!!」

 

バシッ!

 

「超ハヤブサ斬りっ!!」

 

シャッシャッシャッ!!!

 

「ウギャアアアアアアッ!!!!」

 

アタシ達姉弟のコンボ攻撃を受け、

見張り役の魔物2体は派手に吹っ飛んだ。

 

「グゥゥ、ハァアアアア・・・

ゴフッゴフッ!

な、なんだぁ・・・!?コイツらぁ

・・・ぎっ義勇軍・・・とは・・・

こっこんなに・・・強いヤツらの・・・

集まりだったのかぁぁぁぁ??」

 

「う、噂では・・・よ、ヨンツゥオの

・・・上級・・・しっ執行・・・官や

候補者らがぁ・・・軒並みヤラれたと

・・・聞く・・・まっまさかコイツら

がその・・・?」

 

2体は瀕死の状態だ。

あんまりこう言うのは好きじゃないけど

ちょっと尋問させてもらわなくては。

 

「アンタ達、ちょっと聞くけど・・・

この町に囚われてたゼンチャン、

知ってるわね?

ゼンチャンが処刑場へ送られたっていう

のは本当なの?」

 

「ゼ、ゼンチャン・・・!

そ、そうか、お前らの目的は・・・

ヤツだったのか・・・ハハハハハッ・・・

そうさ、ヤツは確かに処刑場に向かった

・・・俺達2人が直接、執行役に引き渡した

からなぁ・・・い、今頃・・・もう・・・

刑に処されて・・・あの世かもな・・・

無駄足だったなぁ、クックック。」

 

クッ!

やはり処刑というのは本当のようね!

 

「それで?

処刑場に向かう為の手形というのは

どこでどうやれば手に入るの?

アンタ達、持ってるなら出しなさいよっ!」

 

「手形だとぉ?

ハッハッハッハ、無駄だと言ってやってる

のに・・・手形で監獄の砦を抜け・・・

ゼンチャンを救うってのか・・・

それこそ絶望というもの・・・手形は

ある特定以上の階級の政府関係者にしか

発行されん・・・お、俺達のような・・・

下級の1監視員では持ち合わせておらぬわ

・・・あ、あぎゃああああああああ!!!」

 

あんまりやりたくないけど・・・

アタシは瀕死の魔物の指を逆方向に

曲げた。

ごめんね〜虐めるつもりはないんだけど

こっちも時間がないのっ(>人<;)

 

「ほ、本当に持ってないんだっ!!!!

し、信じてくれぇええええっ!!!!」

 

クッ!

持ってないかっ!

アタシは魔物の指を離した。

 

「はぁはぁはぁっ!

こっ殺せっ!それとも嬲るのが

お前ら義勇軍のやり方かっ!?

所詮、義勇軍も政府と同じ、チカラと

恐怖で弱者を虐げるのか!?」

 

そうね、これ以上はもう、恐怖の支配者

と変わんないわ。

今楽にしてあげる。

 

「ベッベホイミッ!!」

 

何っ!?

アタシが尋問をしていた魔物が突如、

回復呪文を唱えたっ!

緑色の光はもう1体の魔物に飛んでいき

その体を包んだのっ!

 

「貴様っ!逃げろっ!!

逃げて上層部に報告するんだっ!!」

 

「あ、あわわわ、し、しかし!

お前はどうするんだっ!?」

 

「俺はここまでだっ!

早くっ!!!

俺の行動を無駄にしないでくれっ!!」

 

「りょっ了解したっ!

お前、見事な散り際であったっ!

上層部にもその事をっ!!」

 

「早くしろぉ!!」

 

「クッ!ルーラッ!!」

 

ビュウウウンビュウウウウン!!

 

回復を受けた方の魔物はルーラで

飛び去ってしまったっ!

2体ともトドメを刺す事はできたけど・・・

しかし・・・コイツらの息の根を止めた

とて・・・脱走の事実はいずれ知れ渡る。

その時はまた・・・その時で対処する

しかない・・・。

 

「アンタっ!敵ながら天晴れだったわっ!

せめて苦しまずにっ!

ジョギーッ!!」

 

「あぁ、政府の魔物とはいえ、任務を遂行

するその意志、立派だったぜ・・・

ハァアアッ!!」

 

ブゥンッ!!!

 

ジョギーの振るった剣が足元の魔物の

首筋を走るっ!

首から上と下がスパァンと一瞬で離れた。

ジョギーの太刀筋の速さなら・・・

おそらく痛みも感じずに永遠の眠りに

ついた事だろう。

魔物とはいえ・・・職務を全うしようと

する誇り高き戦士だったわ。

 

ちょっとやる事が政府っぽくてヤだった

けど、ゼンチャンを救うため・・・

迷わず成仏してくれるのを願う。

アタシ達姉弟は揃って魔物の亡骸に向かい

黙祷した。

その忠誠心は尊重したかったから。

 

「す、すごい・・・政府の魔物を全く

寄せ付けない・・・彼女らが冒険王・・・

オリオリ様、我が義勇軍は・・・凄まじい

助っ人を得たのではありませんか?」

 

「マルツェル・・・その通りです、リザさん

達がいれば打倒宇宙政府も夢では

ありません。現に貴方達を返り討ちにした

上級執行官ドアヌとその軍勢、リザさん達に

よって全滅しました。」

 

「な、なんですとっ!?

ド、ドアヌを!?あのドアヌを倒したと

いうのですかっ?」

 

「そうよっ!マルツェルッ!!

私はこの目でリザ殿達がドアヌとその軍勢

を蹴散らすところを見たんだっ!

私の無念を晴らすと言ってくれてっ!」

 

ほかの隊員達の房に向かっていたコッツが

いつの間にかこっちに戻ってきて

自慢げにアタシ達の事をマルツェルに

語った。

 

「隊長の無念・・・そ、そうか冒険王殿らは

そのような事を思いドアヌ軍を・・・!

いや、今し方の魔物達への振る舞いといい、

敵味方分け隔てなく、その心意気をも

尊重される強き方達なのですねっ!

単に戦力だけでなくオリオリ様の理念とも

共鳴する、心ある援軍を得た、という

ワケですな!」

 

「はい!」

 

「そうっ!!」

 

え!?いやぁぁ、けど尋問は・・・

やらなくちゃいけなかったとは言え

かなり心が痛んだわぁ(´;Д;`)

けど・・・対立してる敵同士ですもの、

時には汚れ役もしなくちゃ・・・ね。

 

「さて、ジョギーさん、もう一踏ん張り

してもらい、残りの隊員達の檻も壊して

いただけますか?

今しがた逃げ延びた魔物が、すぐさま

援軍を呼んでこないとも限りません。

一刻も早くここから脱出しましょう。」

 

「了解っ!

任せてくれ、オリオリ司令官。」

 

ジョギーが残りの3番隊員達の檻の扉を例に

よって破壊して回った。

マルツェル以外の隊員達は・・・皆若者

だった。

隊長であるコッツ本人が若いからか。

皆、一様に檻から出られた事に安堵の表情

を浮かべていた。

 

「3番隊のみんなっ!」

 

「はっ!オリオリ様っ!」

 

「あぁ、オリオリ様だ・・・」

 

「生きてオリオリ様にまた会える

だなんて・・・うぅっ」

 

皆、オリオリに会えたのがよほど

嬉しいみたい、マルツェルと同じような

反応を見せた。

長い間の牢獄生活できっと心身ともに衰弱

していたところに隊長と総司令官が

現れる、そう、あの時のコッツと同じ

気持ちなんだろう。

 

「皆の無事を心より嬉しく思います。

よく生きてくれていましたっ!

そして・・・私は皆に謝らなければ

ならない。」

 

オリオリの言葉を聞き・・・若い隊員達の

間にざわめきが走る。

 

「若い貴方達に星屑魔法団の護衛を任せた

ばかりに、貴方達にとても危険で苦しい

思いをさせてしまいました、司令官として

判断を誤ってしまいました、本当に

ごめんなさいっ!」

 

オリオリが隊員達の前で頭を下げたので

隊員達みな、狼狽の声を上げる。

 

「まさか星屑魔法団が翻意し政府に協力する

など夢にも思いませんでした。

若い貴方達でも、コッツとマルツェル、

そして私の夫セアド率いる星屑魔法団が

協力すれば政府の手先にやられる事は

ないだろうという、私の見通しが甘かった

のです。

まさか魔法団当人達が翻意するなど・・・

結果として貴方達を危険に最も近い箇所に

配置してしまった事になります。

ごめんなさい!」

 

そう言うとオリオリは再度首(こうべ)を

垂れる。

 

「オリオリ様っ!

顔を上げてくださいっ!」

 

「そうです、オリオリ様のせいじゃない、

悪いのは魔法団を誑かしたあの白いスライム

ナイトですっ!」

 

「あ、貴方達・・・!」

 

若い隊員達は・・・この上なく純粋無垢

だわ、自分達のリーダーが自分達の為に

頭を下げている、その事実が耐えられない

のだろう、懸命にオリオリを庇う言葉を

口にするっ!

 

「あ、ありがとう皆んな、この出来損ない

の司令官を・・・許してくれると言うのか

・・・ありが・・・とうっ!」

 

オリオリは三度(みたび)頭を下げる。

キラと眦に光るモノを拭い顔を上げると

オリオリはいつもの凛々しい表情を

取り戻していた。

 

「モガ丸さん、少々チカラ仕事を

お願いしたいのですが・・・。」

 

「モガ?チカラ仕事?

お、おう!オイラに出来る事なら

なんでも。」

 

「ありがとうございます・・・皆の者、

無事であったのは何よりですが

長い牢獄生活で健康状態は良いものでは

ないと推察します、皆はひとまず

バァジ島の基地にて静養を取る事、

これを任務として与えます、いいですね?」

 

「・・・はっ、ハイ!

心得ました、オリオリ様っ!!」

 

若い隊員達は全員平伏し口を揃えて

返事をした。

 

「オリオリ様、厚き御高配ありがとう

ございます。」

 

「コッツ、皆と募る話もありましょうが

まずは隊員達をゆっくりさせて

あげましょう、ね?」

 

「はい、皆無事だったんです、話など

いつでもできます、我々が今やらなければ

いけない事は急を要します。」

 

「そうです。

そしてマルツェル、貴方も。

副隊長として、より厳しい牢獄生活

だったのではないですか?

貴方にも静養を命じます、いいですね?」

 

「はっ!

ふ、副隊長として・・・今度こそ隊長を

護る、そしてオリオリ様をお護りする、

と申し上げたいところですが・・・

引き続きアイツらの面倒を見るという

のが今の自分の務めかと存じます。

それに・・・この強き冒険王殿達が

側におられるのなら、これほど心強い

事はない、自分が同行せずとも案じる事は

ない、そう思います!

オリオリ様、マルツェル以下3番隊、

静養の件、謹んでお受けいたします、

ありがとうございますっ!!」

 

そうね、ついさっきまで牢屋の中で

生活していたんですもの、まずはゆっくり

養生することも隊員としての務めだわ。

そう、それに。

オリオリとコッツの事は任せて!

アタシ達冒険王が必ず護ってみせるから!

 

「モガ!オイラに頼みって・・・

この流れだと・・・もしかして

大規模ルーラかーっ!!??」

 

「あ、はい、お願いできますか?

一度に無理なら2回ぐらいに分けてでも

・・・。」

 

「や、やってやるさ、別にルーラは

オイラが担いで飛んでるわけじゃないしな!

ってかオリオリ、ルーラの仕組みを

そんな風に勘違いしていたのか??」

 

「え?あ、は、はい。

人数が増えれば増えるほどモガ丸さんの

負担が増えるものだとばかり・・・」

 

「モガー!

そんなワケないぞー!

オリオリが前にやってたワープみたいな

もんだと思うぞ、オイラも仕組みは

ハッキリ知らないが・・・。

オリオリでもそんな素っ頓狂な事

言うんだな!

よーし、じゃあ全員手を繋げー!!

漏れると置いてけぼりになっちゃうぞ!」

 

モガ丸の号令と共に、マルツェルや

隊員達は立ち上がり全員で円陣を組むように

移動を始めた。

と。

 

「オリオリ様っ、お待ちください!

そういえば他の一般の囚人の方々も

解放して差し上げてはどうでしょう?

政府に囚われている理由など、おおよそ

理不尽なモノばかりのはず。

無実の罪で此処に囚われているに

違いないでしょう。」

 

「ふむ、たしかに。

これは囚人の方々、失礼しました。

我らの身内が見つかった事の喜びのあまり

皆さんの事を失念しておりました。

今すぐ解放して差し上げま・・・」

 

「待ちなっ!」

 

オリオリの言葉が終わるか否かのタイミング

で最初に話をしてくれた囚人の男性が

食い気味に口を開く。

 

「お前ら、まさか義勇軍だったとはな、

流石に俺もビックリしたぜ。

マルツェルの旦那よぉ〜、良かったな

お迎えが来てよぉ。」

 

「あぁ。

アンタには世話になったな、労役の際も

俺の部下達が皆若いのを気遣ってくれたり

食料を分けてくれたり・・・ホントに

世話になった、感謝する。」

 

「いや、いいって!そんなの。

それより義勇軍の本の中の姉ちゃん、

俺達も解放してくれるって話だが・・・

ひとまず保留してくれ。」

 

「えっ!?保留っ!?

保留って・・・ここを出ない、という

事ですか?なぜゆえに??」

 

「俺達はたしかに・・・言われのない

罪を着せられて此処にぶち込まれたような

者ばかりだ。

脱獄してぇのはやまやまだ。

ただ、マルツェルの旦那、アンタみたいに

迎えのモンが居るワケじゃあねぇし、

帰る場所があるってワケじゃあねぇヤツらが

大半だ。」

 

「そ、そうなのですか?」

 

「あぁ。

ロクに定職にも就かずゴロゴロしてるって

だけで政府に捕まっちまったんだ、

まぁいわゆる無職?プー太郎?ホームレス?

ってヤツよ、ハハハハハ!

ただ、ここに居れば・・・労役はしなきゃ

なんねえが配給もあるんでな。

逆に生活はできるって部分もあるんだ、

情けねえ話だけどな。」

 

「いえ、情けなくなどありません。

貴方がたが仕事に就けないのは・・・

宇宙政府が作るこの理不尽な社会に

大きな原因があるのではないですか?

ですから、何も恥じる事はありません。」

 

「ほっ!

さすが義勇軍の大将だ!

よく分かってるねぇ!

まぁ理不尽な社会のせいにして仕事を

しないなんてなぁ、それでも仕事を

してるヤツからすれば甘っちょろい

言い訳だけどな。

ま、それに脱獄したのはいいものの、

また捕まったりした時は脱獄犯扱いだ、

そん時は間違いなく処刑だろう。

そこまでリスクを負って此処を出よう

なんて肝の座ったやつぁ此処には

いねえよ。

ま、そういうわけでよ、義勇軍の女大将!

俺達は逃してくんなくていいや!

そぉだな、アンタらが頑張って政府を倒し

俺達が安心して檻から出られるような

社会にしてくれたら、そん時は胸を張って

出所する事にするぜ、なぁ!オメエら!」

 

おーー!!という野太い声達が

辺りにこだました。

全く、逞しいんだか能天気なんだか・・・

まぁでも彼らの言う通りでもあるわ。

アタシ達が理不尽でない社会を作る、

っていうのはおこがましいけど、

今の理不尽な社会を覆しさえすれば

此処の囚人さん達も安心して出てきて

くれるだろう。

 

「正直、俺ぁ、アンタの事を良く思って

なかったんだよ女大将。」

 

「えっ!?」

 

む、何よおじさん、オリオリに失礼な事

言ったらアタシが許さないわよ!

 

「こんな・・・まだ大人になりきってねえ

子どもらを義勇軍に加えて、挙句

こんな牢獄生活をさせちまうような任務を

与えるなんざロクな親分じゃねえな、

ってマルツェルの旦那にもよく言って

やってたんだ。

もちろん旦那は必死にアンタを庇って

たがな。

けど、実際に顔を拝んで、さっきからの

やり取りを見てりゃあ、アンタが筋を通す

部下思いのいい大将だってちゃああんと

俺にも伝わったさ。

旦那、色々悪かったな、旦那の親分を

悪く言っちまって。」

 

「フフン、まぁ、わかってくれたのなら

もうそれでいいさ。」

 

あぁそうか、オリオリの事全く知らない

んじゃ、そう思ってしまっても仕方ないか。

逆にそれは・・・この囚人さんが3番隊員

の事を良くしてくれていれば当然の感情

でもあるかもしれない。

 

「いえ、貴方の仰るとおりです、私は

司令官としてまだまだ未熟です。

これを機にもっと精進、成長しなければ、

と思っています。

ご忠告ありがとう!

そして必ずっ!

貴方がたが安心して此処を出られるような

世の中にしてみせますっ!」

 

「いやいや、俺なんかプー太郎ヤロウで

エラそうに説教できる人間じゃないさっ!

ただ思ったことを言ったまでだ。

けど・・・期待してるぜ!

義勇軍の女大将っ!

いい世の中がやってくるのをなぁ!

此処を出たら真っ先にアンタらに

会いに行くよ、なぁオメエらもっ!」

 

またまたオーッ!という野太い歓声が

そこかしこの牢獄から鳴り響いた。

 

「そうですね、これは囚人さんと私との

約束ですね!

必ずっ!また会いましょう!」

 

此処の囚人さん達、捕まってるっていう

のにホント、気の良い人達ばかりね。

そしてまた義勇軍を応援してくれる人が

増えた。

ボロン、何度も言うけど、アタシ達の

活動は無駄じゃないよ。

 

牢獄の町ベェル、来る前は、その響き

からして来るのが憂鬱になる町だったけど

行方不明だった義勇軍3番隊を全員無事に

保護でき、そして義勇軍を応援してくれる

人達が増えた。

 

うん、アタシ達の活力を得る事ができた

町だったわ。

 

そしてっ!

急がなくてはっ!

急ぎ3番隊をバァジ島に連れて行き、

そしてゼンチャン救出に向かわなければっ!

 

「よぉし!じゃあ今度こそルーラを

使うぞ、みんな、それぞれの手をしっかり

握ってなっ!

・・・よし!じゃあバァジ島の秘密基地

へっ!ルーラッ!!」

 

3番隊全員を連れて、大規模ルーラが

発動したっ!

 

 




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\

・マルツェル
義勇軍3番隊副隊長。
3番隊が宇宙政府の捕虜となる際、隊長である
コッツを逃す為に行動した。
義勇軍本隊への伝令役として、また若い隊長で
あるコッツを後見する役目を帯びていたから
こその行動だったらしいの。
政府が捕らえた囚人達を一手に収容する施設
ベェルにて他の隊員達とともに牢獄生活
を送っていたの。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード4.「基地での小さからぬ変化」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



ビュウウウンビュウウウウンッ!!

 

「あぁ、もう行ってしまわれた・・・。」

 

「事情や経過報告すらなさらないとは

・・・よほど急を要する展開なのか?」

 

大規模ルーラでバァジ島の基地へ瞬間移動

してきたアタシ達。

けどゼンチャンは今にも処刑されちゃう

かもしれないので、アタシもオリオリも

・・・ほとんど会話をせず、

 

「3番隊を見つけましたっ!

皆無事ですっ!ここで療養させますっ!

ゼンチャンの件で急ぐので我らは即刻

現場へ戻りますっ!

マルツェル!事の次第を皆に伝えるようっ!

ドゥエインッ!3番隊が知らない事を

全て話すようにっ!

ではっ!

我らはこれにてっ!!

モガ丸さん、お願いしますっ!!」

 

「あ、あぁ!

よおし、じゃあベェルの町へ戻るぞ!

ルーラッ!!!」

 

というカンジで即刻ベェルの町へと

トンボ帰りしたの。

 

「そ、それにしても・・・マルツェルッ!

本当にマルツェルかっ!?」

 

「ドゥエイン隊長っ!

ご無沙汰しておりましたっ!

いかにもっ!

3番隊副隊長マルツェルにございますっ!

マルツェル以下3番隊全員、ただ今

帰還いたしましたっ!!」

 

「ただ今戻りましたっドゥエイン隊長っ!」

 

「ドゥエイン隊長っ!」

 

マルツェルと3番隊の若い隊員達が口々に

ドゥエインに無事の帰還を報告する。

 

「お、おぉ!3番隊の小僧達、み、みんな

揃っている!本当にっ!

無事だったかっ!良かった・・・!」

 

ドゥエインも・・・以前に厳しくコッツを

叱責してはいたものの、それはドゥエイン

自身も3番隊の安否を気遣っていた証拠。

全員無事の帰還にホッと胸を撫で下ろした

様子だった。

 

「うむ、それで?マルツェル、オリオリ様

が仰っておられた事の次第とは?

取り急ぎ今現在、オリオリ様達が

置かれている状況を報告せよ。」

 

「はっ!

し、しかし報告の前に・・・1つ質問を

してよろしいですかドゥエイン隊長。

そ、そこに立っている赤い顔の・・・

ま、魔物!?は、一体どういうわけで

この基地に居合わせているのですか?」

 

「ん?お、おぉそうか、お主達はずっと

魔法団の警護をしておったゆえ今日が

初顔合わせか。」

 

マルツェルは言外に・・・魔物がいる前で

アタシ達の現況、つまり軍の最重要機密を

口にしていいのかドゥエインに確認

したかったのね。

それを察したのか・・・。

 

「む、これは。

ワシは外した方がいいのかな?

ハッハッハッすまぬ、気が利かんことで

あったな。」

 

「あ、いやマレドー殿、構わぬ、同席

してくれ。

オリオリ様達の現況、むしろ意見があれば

申して欲しい・・・。

マルツェル、案ずるな、この方は大丈夫だ。

名はマレドー、宇宙政府の元上級執行官で

今は義勇軍に籍を置き我らに協力して

くれている。」

 

魔物、元政府の役人マレドーが恐縮して

席を外そうとしたけどドゥエインが

それを止めたの。

最新の、最前線の情報だからこそマレドー

に聞いてもらいたいという・・・。

それぐらいにマレドーの軍内での役割は

小さくないものになってきているという

表れかもしれないわね。

 

「もっ、元上級執行官ですとっ!?

ほっ、本当に大丈夫なのですか、隊長!?」

 

「はっは、驚くのも無理はない。

しかしマレドー殿は本当に大丈夫だ。

宇宙政府に属する者全てが全て、邪悪な

考えの持ち主ではない、という事実の

お手本のような方だ。

それはオリオリ様もご承知の事だ。」

 

「ドゥエイン様、それは持ち上げ過ぎ

だろう、こそばゆくなってきたわい。」

 

えらく和みムード。

1番隊とマレドーは待機状態が長いからか

親睦が深まっているのかもしれないわね。

 

「は、左様でしたか。

マレドー殿、失礼の段お許しください。」

 

「なに、マルツェル殿の申す事は

ごもっともな事です。

して、司令官らの状況とは?

あの様子だとゼンチャンについて

既に何か情報を得ているようだが?

お聞かせ願えるか?」

 

「はっ!

実は我らもほんの数時間前にオリオリ様や

コッツ隊長に救出されたばかりで

ゼンチャンとの関係性などは存じ上げない

のですが。」

 

「ふむ、そうだなぁ、お主達は長く世間

から隔離されていたわけだから、

知らない事の方が多い。

ま、それについては話が長くなる、

まずはお主が知っている事を話して

くれるか?マルツェル。」

 

「はい。

我らはボォフゥ大陸のベェル町という、

囚人達を収容する施設に収監されて

おりました。

ある時、そのゼンチャンという者が

連行されてまいりましたが時を経ずして

処刑が決まり、あっという間に処刑場へ

連行されていってしまったのです。」

 

「なっ!処刑だとぉ!?」

 

「はっ!

オリオリ様達はゼンチャンに面会を求めて

ベェル町に参られたようですが処刑の

事を知り、急ぎゼンチャンを救出すべく

処刑場に向かう、との事です。

そのさなか、我らを偶然にも発見し救出

していただき、此処の基地で静養するよう

にとご命令された次第です。」

 

「・・・うむ、了解した。

しかし運良くゼンチャンの足取りを掴めた

はいいものの、処刑間近とは。

救出が間に合えばいいがのぉ。」

 

「ベェルの収容所から処刑場へ連行か。

むぅ、まずいな、そのルートには

確か監獄の砦という関所があったハズ。

そこは政府関係者だけが有する手形が

ないと越える事が出来ないのだ。

司令官、どうするつもりだろう?」

 

「・・・強行突破・・・だと存じます。」

 

「強行突破っ!?」

 

「はい。

あの強き冒険王のご令嬢がそう仰って

おられたかと・・・。

彼女らなら、それも可能かと・・・

自分は思います。」

 

「はっ、ハッハッハッハ!

こ、これは失敬っ・・・クック・・・

いやこれが笑わずにいられようか。

確かに!ブルリア星の冒険王殿・・・

特にあの魔道士のお嬢さんは・・・

堂に入ると鬼神の如き荒々しい気性に

変貌すると聞く、魔界の魔神でも寄り付かん

ぐらいにな。

他でもない貴公の隊長のお嬢さんが

申されておった。

ゼンチャンの処分を聞いて政府のやり口が

余程に腹に据えかねたのであろう、

いやむしろ単純明快、強行突破こそが

最も成功率の高い行動かもしれんなぁ。」

 

監獄の砦のアタシ達の攻略方法を聞き

珍しくマレドーが声を上げて笑った。

って何っ!?

誰が鬼神ですってー!?

んもうっ!コッツったらっ!

アタシに内緒でアタシの事そんな風に

言いふらしてたなんて!

 

まぁけど、宇宙政府の理不尽な仕打ちや

ピエールの自己中な考えを聞くと自分を

抑えられなくなるってゆーのは否定

できないけど(-_-;)

 

「ん、よし、承知した。

とにかく現状は・・・ゼンチャンの所在を

掴むところまで進み、これを救出する

為に動いておられる、という事だな。

報告ご苦労だったマルツェル。

そして・・・長き牢獄生活に耐え3番隊

総員無事に帰還した事、大義であった。

このドゥエインも嬉しく思うぞ。」

 

「はっ!

ありがたきお言葉っ!

ドゥエイン隊長、我らの隊長コッツは

・・・立派になられた。

再会してまだ数時間と経っていないが、

以前とは全然違う表情をしていた。

ジニョリスタ塔で生き別れて以来、

どのように過ごされたのか存ぜぬが

さぞかし厳しい修羅場をくぐり抜けて

きたのであろう。」

 

「ふむ、そうか。

副隊長のお主がそう言うのだから

きっとそうなのであろう。

そしてお主には礼を申さねばな。

3番隊が全滅の危機に扮した際にコッツを

逃すよう取り計らってくれたのは

お主の意向であろう?」

 

「無論です、自分はコッツ隊長の後見役

です、当然の行為です。」

 

「俺は此処でコッツをこっぴどく

叱りつけた。

隊を捕虜に取られておめおめ逃げ延びる

など無責任にも程がある、とな。

しかしそこにはお主の意向が働いている

のは容易に想像できた。

お陰でコッツも3番隊の隊員も皆無事

だった、そしてお主達が全員無事だった

事でコッツの心も救われただろう、

全てお主の英断のおかげだ、

ありがとうっ!」

 

そう言ってドゥエインはマルツェルに

向かって頭を下げたの。

 

「隊長っ!

頭を上げてくださいっ!

自分は当然の任務を果たしたまでの事。

そもそも政府の執行官ドアヌの軍勢に

不覚を取りさえしなければ、ここまで

軍の皆に心配を与えることもなかった

のです、自分の不甲斐なさを恥じて

おります。

更に言えば・・・あの白いスライムナイト

さえ現れなければこんな事には・・・!」

 

「む、白いスライムナイトか。

マルツェル、今度はこちらからの報告

になるが・・・。

こちらは喜ばしい事やら、そうでない事

やら、色々状況が複雑すぎるのだが。

まずはどこから話そうか。」

 

ドゥエインの口調が明らかに暗い色を

帯び始める。

マルツェル達3番隊がドアヌの軍勢に

襲われてから後の事・・・

星屑魔法団の翻意の理由、新しい魔星王

の事、そして・・・白いスライムナイトの

事・・・それらを順を追って・・・

マルツェルが気を取り乱さないように

気遣いながらゆっくりと・・・報告をした。

 

さすがにマルツェルは・・・平常を保つ

のが難しい様子でドゥエインの語る

報告内容を聞き漏らすまいと必死の形相で

聞いていた。

 

「・・・というワケで・・・目下のところ

我々が今最も為すべき事は新しい魔星王

の眠る場所、これを見つけ出す事にある。

その場所を教えてくれそうなのが

ゼンチャン、というワケだ。」

 

「・・・なるほど・・・それでオリオリ様

達はあれほどにゼンチャンの救出を

急いでいたというワケなのですね。

・・・しかし・・・星屑魔法団の翻意が

偽りであったのは喜ばしいが・・・

白いスライムナイト・・・!

あれがまさか親衛隊長殿だったなんて

・・・我らを愚弄するにも・・・いや

義勇軍全体を軽んじるにも程があるっ!!」

 

ガシッ!!

 

マルツェルは平伏したまま、床を拳で

殴りつけ、その態勢のままワナワナと

肩を震わせた。

やり場のない怒りを床にぶつけるしか

なかったんだろう。

 

「あぁ、ボロンについては俺も失望

している。

色々な考えを持つのは個人の自由だ。

しかし義勇軍に於いて重要な役割を

担っている者が・・・秘密裏に政府に

加担する事、それが許せぬ。

そして・・・私的にもヤツはオリオリ様の

幼馴染、最もオリオリ様が傷つく事を

しでかしたという事を、ヤツは理解

していないのだ。」

 

ボロンの寝返りについては、やはり

他の義勇軍のメンバー達も相当ショックを

受けている様子だった。

当然よね、アタシだって相当ショック

だったし腹立たしかったもん(๑`^´๑)

 

「属していた組織を裏切るという意味では

ワシも同じ立場なので心苦しいが。

ワシもボロンの行動や行動原理には

納得のいかない事が多すぎるので敢えて

申し上げる。

まず、宇宙政府を内部から変革させる

という彼の大前提の行動原理、これが

無理がある話なのだ。

政府の上層部は腐敗し切っている。

もはや自分達の富と権力を維持する事

以外に意識が向くなどあり得ん状態だ。

ワシも随分煙たがられたものだ。

統率力を持ってして宇宙を支配する事

すらもう眼中にない。

それ故ボロンのような新参者が暗躍する

事ができるという側面もあるにはあるが

内政変革に本腰を入れて動き出した瞬間、

上層部からの反感を買うだろう。

今はまだ、その動きを鮮明にしていない

ゆえ、上層部からマークされていない

という状態に過ぎん。

上層部が一旦、危険分子と判断したなら

強大な力であっという間に排除されて

しまうだろう。

若いボロンには・・・政府の恐ろしさの

実感というものが存在していないゆえ

内政変革などという妄想に固執するので

あろうな。」

 

政府の元上級執行官ゆえにマレドーの

言葉には説得力が備わっていた。

 

「・・・まぁ、ボロンには個人的な

想いもあるようなので、内政変革を

どこまで真剣に考えているのかは

測りかねるがな。

人間の恋愛感情など魔物のワシには

さっぱりわからん感情ゆえ。

もしや、その恋愛感情とやらが彼の

行動原理の中心で、それを満たす為に

宇宙政府の内政変革を手段に選んだ、

と言えなくもないかもしれん。

若い男にはよくありがちな事では

ないのか?

どうであろうドゥエイン様?」

 

「む、むぅ、どうであろうな、同じ男

として、惚れた女にイイ所を見せたい

と思う気持ちが全く理解できないわけ

ではないが・・・だとしても選んだ選択肢

がどれだけの規模で周りに迷惑をかけて

いるか・・・俺だったら絶対に避ける

がな。」

 

そう、ボロンがオリオリに恋愛感情を

抱く事、これは心に発現する自然現象的

な要素だから、誰も批判できる事じゃない。

けどお互いの立場や気持ちを考えて

それを表出しない事が己の心の強さだと

アタシは思うの。

 

けど彼はそれをやった。

そして自分の気持ちに忠実に行動した。

ただ想いを伝えるだけならまだしも

色んな人に迷惑をかけるやり方で。

 

「そうか、やはり同じ人間の男であっても

気持ちはわかっても行動に移したその

思考回路には賛成しかねるという事だな。

・・・しかしワシは1つ懸念があってな。

司令官がボロンに下した処分、甘過ぎる

のではと憂えておる。

その場で処刑するか、それが難しくても

投獄、幽閉などの措置を取るべきだった。」

 

「む、マ、マレドー殿、オリオリ様に

ボロンを殺せ、と申すのか?

それは・・・それでむごい話ではないか?」

 

「そうであろうか?

ボロンのしでかした事で、ここに居られる

マルツェル殿らが受けた仕打ちを考えれば

当然の報いだと思うが。

それに、自分の欲望にあれほど忠実に

動いてしまうような男だ、しかも自分には

非がないと信じている。

この先またとんでもない事をしでかす

かもしれん。

義勇軍にさらなる災いを運んでくるやも

しれん。ワシはそれが心配なのだ。」

 

「む、むぅ、そう言われてしまえば

・・・。しかし今はもう、ボロンが我が軍

にとって限りなく敵対勢力である事が

判明しているのだ、警戒を強め事に当たる

より他あるまい。

俺もボロンのやった事は腹立たしいが

命まで取ろうとまでは、さすがに

思えない。」

 

「じ、自分もドゥエイン隊長と同意見

です。

1発殴ってやりたい、とは思いますが

それで目を覚ましてくれれば、とも

思います。」

 

「左様か、いや気分を害されたのなら

申し訳ない。

ワシの心配も杞憂に終われば良いのだ。」

 

アタシも・・・。

ドゥエイン達と同じかな。

死んでしまえばいいとまでは思わないけど

早く目を覚ましてくれないか、とは思う。

だって、ずっと仲間だと思ってたから。

 

けどこの時マレドーが口にした懸念。

残念だけど後に現実のものとなって

しまうの・・・。

 

「さて、お互いの報告は以上か。

ワシは少し疲れたので休ませてもらい

ますぞ?ドゥエイン様。」

 

「了解した。

マレドー殿、貴重なご意見をいただき

感謝する。」

 

「うむ。

マルツェル殿も長い牢獄生活は体に

こたえたであろう、早く休まれると良い。

では失礼する。」

 

そう言うとマレドーは部屋から退出した。

部屋にはドゥエインとマルツェルが

残る。

 

「・・・ところで隊長。

コッツ隊長には・・・あの事実は

伝えられたのですか?」

 

「・・・いや。

今更伝えたところでな・・・。

コッツは・・・随分と逞しくなって

きたようだなマルツェル。

もうこのまま、伝えぬまま過ごすという

のもひとつの選択肢かもしれん。」

 

「・・・左様ですか。

であれば出過ぎた質問でございました。

申し訳ございませぬ。」

 

「いや、心遣い感謝する。」

 

部屋を出たマレドーは基地の外に向かい、

1番隊の訓練風景に視線を送っていた。

 

「せいっ!やぁああ!」

 

「せいっ!やぁああ!」

 

「せいっ!やぁああ!」

 

隊員達の訓練の掛け声が辺りにこだまする。

マレドーは無言のまま視線を送り続ける。

 

(「・・・3番隊が全員無事帰還・・・

頭数では現状維持か・・・。

しかし頭数に数えるのも憚れるような

小僧ばかり・・・。

小さい、小さ過ぎるのだ、義勇軍っ!!

個々の戦闘力、確かに人間にしてみれば

それなりに高い者ばかりだろう。

ワシの提案した、一段上のlvに上がる為の

訓練メニューをも、この隊員達はどんどん

こなせるようになって来ている、

その志も、宇宙政府に虐げられた者の

反骨心を土台とし打倒政府の志はこの上なく

高いと感じる。

しかし規模がっ!小さ過ぎるのだっ!

軍の規模に懸念を抱くという点ではワシも

ボロンと同感だ。

しかし宇宙の為に宇宙政府を打倒する

気持ち、これはオリオリ司令官に共鳴する。

あぁワシはっ!

どうすればいいのだ!どうすれば政府を

倒し平和な世界を作れるのだっ!!」)

 

訓練風景を見ながらもマレドーの思考は

深い海の中を彷徨うようだったの。

 

(「セアド殿だっ!星屑魔法団団長殿!

彼に会ってみたい、どのような展望を

抱いているのか知りたいっ!

このワシでも思いつかないような事を

彼は考えていた。

きっと政府を倒した後の事までビジョン

として持っているに違いない。

魔法団は依然、義勇軍と同盟関係にあると

判明した。このまま義勇軍に籍を置いて

いれば、いずれ彼と会うこともできる

だろう。

しかしワシは待てるだろうか?

毎日毎日、この規模の小さい訓練風景を

見ながら待てるだろうか?

いや、今のワシにできるのはそれしか

ないのだろうがな。」)

 

深い思考が巡り巡るも、結局は最初の

思考へと還ってくる。

思考の堂々巡りに疲れたのか、マレドーは

自室へと戻っていった。

 

その夜、義勇軍の面々が寝静まった後、

基地の外へ出、近くの森へ入っていく

1つの人影があった。

基地の入り口を警護していた見張り兵の

眠らされた姿が転がっていた。

 

森の奥深くまで歩いてきたその人影は

水晶玉を手にしていた。

その玉を胸元近くの宙に浮かせて

人影は何やら呪文を詠唱する。

 

玉は白み薄い光を放つ。

光に照らされた人影、マレドーだった。

 

(「魔星王を生み出す秘術のような

大きな術を扱える者であれば水晶の交信

ごとき容易く扱えるはず。

頼む、映ってくれ!」)

 

マレドーは水晶玉を使い誰かと交信しよう

と試みていたの。

すると水晶玉に誰か、人影が映し出された!

 

「しめた!」

 

マレドーの小躍りするような小さな叫び声

が暗い森にこだました。




★★★登場人物★★★
・ドゥエイン
義勇軍1番隊隊長。
アタシ達が前線に赴いている間バァジ島の秘密基地
で留守を預かってくれているの。
加えて宇宙政府から寝返った元上級執行官マレドー
の警護も担当している。
同じ隊長クラスとはいえ若い3番隊隊長コッツに
厳しくもあり、気にかけてもいる様子。
・マレドー
宇宙政府の元上級執行官。
魔物ではあるけど真に宇宙の平和を願う男。
それゆえに宇宙政府のやり方に反発し
義勇軍に寝返った。
一見、邪悪な風貌をしているのに加えて
上級執行官ほどの男が寝返るという事実に
アタシは信用に値できるのか疑問を抱いていたけど
執行官時代の善政を市井の人々から聞き考えを
改めたの。
・マルツェル
義勇軍3番隊副隊長。
若い隊長コッツをサポートするために請われて
副隊長の任に就いた。
ドゥエインとは旧知の仲らしく、それが副隊長
に推薦された理由かもしれないわね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード5.「砦の役人の本心」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



モガ丸のルーラで3番隊隊員をバァジ島の

義勇軍基地へと送り届け、そのまま

またルーラで此処ベェルの町へと戻って

きたアタシ達。

 

牢獄の囚人さん達に軽く挨拶と報告をし

急ぎ監獄の砦を目指す。

ベェル町から岩山の山あいを西へと

向かった先にその砦は設けられているという。

 

山あいの細い道、道といっても少し

平らになっている岩場といったほうが

正しいのかな。

その道の左右に連綿と続く峻険な岩山。

とても人間の足で越えるのは無理ね、

不可能だわ。

この岩山の何処か低い箇所から山の向こう

へ抜ける、っていうような裏技は

できそうもない、やっぱり砦を強行突破

するより他に方法はなさそうだ。

山あいの道を進みながら、そんな事を

アタシは考えていた。

 

やがて前方にそれらしき建造物が

見えてきた。

篝火がいくつも焚かれ、いかめしい金属の

盾のような柵がそこかしこに設置されている。

道を塞ぐように建てられたその砦は

まさに関所のように聳え立っていた。

 

「どうやら、あそこが監獄の砦の

ようですね、手形がない我々はあそこを

抜ける事が出来ません。

以前の・・・キュウエル関所の時のように

時間をかける事は今回はできません。

ここはもう、リザさん達にお願いするしか

ないと私は考えます。

よろしいですか?リザさん達。」

 

書からオリオリが現れ見解を示す。

了解よ、オリオリ。

アタシもハナからそのつもり。

 

「わかりました、よろしくお願いします。

では向かいましょうっ!」

 

オリオリの合図とともに砦の正門まで進む。

警備の魔物が2体立っていた。

 

「待ていっ!

ここは宇宙政府の管轄する監獄の砦だ。

貴様ら人間が何の用だ?」

 

「我々はこの先にあるという処刑場に

用があります。

ここを通していただきたいのですが。」

 

コッツが一応、応対をこなす。

 

「処刑場だと?

そんな処に何の用がある?

まぁしかし用も何も・・・手形が

なければ此処を通る事はかなわぬ。

ここを通りたければ手形を提示せよ。」

 

・・・んもうっ!

まどろっこしいっ!!

手形ってのは政府関係者でないと発行

されないんでしょ!?

アタシ達が持ってるワケないってわかって

んのに、いちいち質問しないでよっ!

 

「・・・手形は・・・持ち合わせて

おりません・・・しかし此処は通らせて

もらいますよ。

我らは急いでおりますゆえ!」

 

「モガー!人命がかかってるんだ、

悪いけど強行突破させてもらうぞ!」

 

コッツとモガ丸がそう言うのと同時に

アタシ達は戦闘態勢に入るっ!

 

「なっなんだとぉ!

きっ奇襲だっ!おーいっ!奇襲だーっ!!」

 

門番の魔物が砦内に向かって敵襲を告げた。

するとオーッ!といういくつもの掛け声

とともに魔物の群勢が現れた。

と、その中に此処の責任者と思しき

1番ゴツい魔物が現れた。

 

「・・・哀れな人間どもだ・・・わざわざ

殺されにこんな所にやってくるとは。

悪い事は言わん、今すぐ此処を立ち去れ、

罪もない人間がこの砦を襲うとなれば

たちまち政府への反逆者となり罪を

問われる事になる。

我々の仕事を増やすな。」

 

紫色の体躯をしたそのゴツい魔物は

どういうワケか、アタシ達に逃げろと

いう。

これだけの魔物に囲まれた人間である

アタシ達の身を案じているのか、

それとも余計な仕事をしたくないのか・・・。

 

「砦の役人さん、我々の事を気遣って

逃げろと仰るのか?

気持ちは有難く受け取りたいところですが

我々は此処を通り抜けねばなりません、

申し訳ありませんが強行突破させて

もらいますよっ!」

 

書からオリオリが現れ砦の役人に

強行突破の旨を告げる。

ここの通行官の魔物は・・・何が何でも

人間を襲いたい、っていうワケでもない

タイプの魔物かしら。

以前、ギィシィの町に居た魔物のような

考えなのかしら。

 

とはいえ、此処をすんなり通してくれる

ワケではなさそう、戦いは避けられない!

 

「ややっ!?本から人がっ!?

ま、まさか、その本は・・・う、宇宙王の

書?!ではっ!貴女は宇宙王の末裔

オリオリ殿!?

あ、あの方々の姫君かっ!?」

 

「??い、いかにも・・・私が義勇軍の

総司令官オリオリです、あなたは?

私の両親と面識があるのですか?」

 

砦の役人はオリオリの事を認識すると

何やら少し狼狽の色を表情に浮かべた

・・・ようにアタシには見えた。

政府の役人が義勇軍のリーダーオリオリを

知っているのは特に不自然なことではない。

 

けど“敵方の大将”という認識とはまた

別な何かを・・・この魔物は持っている

・・・そんな空気をアタシは感じた。

オリオリのご両親について言及しようと

した事からもそれを感じる。

 

「い、いや、宇宙王の末裔が宇宙政府に

潜り込み、何やら不穏な事を企み、

それが露見して処刑に追い込まれた、

その者共には幼い女児がいた、それぐらい

の事は政府の者であれば皆知っている、

ワシもそういう政府の構成員の1人に

過ぎぬ。

その女児が成長し義勇軍なる組織を

立ち上げ反政府運動を展開している

ということもな。

その女児がいよいよワシの目の前に

こうして現れる・・・年月の流れの早さを

少しばかり感じたまでだ。」

 

幾分か穏やかな表情でそう語った魔物は・・・

しかしすぐさま厳しい表情に

切り替わり、部下の魔物達に号令をかけた。

 

「も、者共っ!心せよっ!!

此奴ら義勇軍だっ!油断するとやられて

しまうぞっ!

義勇軍に此処を突破されたとなると

我らの責任問題はことさら大きくなるっ!

心してかかれっ!」

 

「ははっ!」

 

部下の魔物達も警戒を強めたようね、

時間がないっ、こっちから仕掛けようっ!

 

「行くよっジョギー、レイファンッ!!」

 

「おうっ!」

 

「了解っ!」

 

アタシ達3人は魔物の軍勢に飛び込んだっ!

 

「バギマッ!!」

 

「あばれ斬りっ!!」

 

「ヒートダンスッ!!」

 

それぞれ全体攻撃やランダム攻撃を

繰り出し、敵を無差別に攻撃していく。

敵を倒し切っていては時間がかかる、

アタシ達はできるだけ敵を吹っ飛ばし

砦の奥への進路を掻き分けるように

魔物の壁をなくすように攻撃を繰り返した。

進路の邪魔になる魔物を振り払いながら

奥へ奥へと進入する。

 

「ぬぅぅ、やはり噂に違わぬ、

いやそれ以上のlvだ、義勇軍っ!

ワシは最後方の砦の出口を守る、貴様ら、

死ぬ気で持ち場を死守せよっ!」

 

「はっはいっ!

ゴモゴモス様の守る出口には一歩も

近づけさせませぬっ!」

 

ゴモゴモスと呼ばれた紫色の役人は

砦を抜ける出口を死守しようと後方へ

下がっていった。

ふふん、そうか、何処が出口かわざわざ

教えてくれるってワケね。

 

アタシ達はゴモゴモスの後を追うように

魔物達を振り払いながら進軍する。

10分と経たないうちにゴモゴモスの守る

砦の出口であろう大きな扉のある広間まで

アタシ達は進軍した。

 

「むむぅおのれ義勇軍、一瞬でここまで

辿り着くとはっ!

前線の軍勢は全滅かっ!?」

 

「はっ!

総員、生きてはいるようですが・・・

気絶もしくは戦意喪失といった状態で

戦闘続行は難しい状況ですっ!」

 

「クッ!

で、では残った者でここを死守するより

他ないというワケかっ!」

 

残った魔物はゴモゴモスを含め5体か。

あと一息ね、砦突破まで。

 

「全員配置につけっ!」

 

紫色の怪人の号令とともに部下らしき

魔物達が陣形を取る。

アタシ達も態勢を立て直す。

お互い戦闘準備は整った。

 

「か、かかれっ!!」

 

部下の魔物達が一斉に襲ってきた。

アタシ達は盾で応戦したり身のこなしで

攻撃を躱したり、敵の攻撃をいなす。

 

ビュウウンッ

 

と、紫色の怪人が手に持っている鞭で

攻撃してきた。

咄嗟に盾を掲げて鞭攻撃を受ける。

ガードをしていたとはいえ、さほど

大きなダメージは受けない。

この程度か・・・。

 

その一瞬の攻防でアタシは彼我の戦力差

を悟った。

大した連中ではない。

それは弟達もそう感じたんだろう。

そこに一瞬の隙が生じたの。

 

「こ、これでも喰らえっ!」

 

グガガ

 

髑髏の魔物が不気味な色の閃光を発した。

その光はジョギーを包んだっ!

 

「あうっ!!」

 

光を浴びたジョギーが呻き声を漏らす。

そのまま跪き両の手で頭を抱え全身が

震えだしたのっ!

 

「ジョ、ジョギー!」

 

「兄ちゃんっ!」

 

アタシとレイファンがジョギーに声を

かけるも弟は返事をしない。

ただその場に蹲り震えたままだった。

これはっ!?状態異常!?

ジョギーの顔はひどく青ざめている、

の、呪いかっ!?

 

クッ呪いかっ!

また厄介な状態異常ね!

呪いとは・・・地獄の底から亡者の呻き声

が脳内に直接こだまするような幻聴が

聞こえ、あまりのおぞましさに身動きが

取れなくなるっていう状態異常。

 

「よしっ!でかしたぞ、髑髏兵!

義勇軍の戦士3人のうち1人の動きが

止まったっ!このスキに攻勢に出よっ!」

 

「はっ!」

 

「ははっ!」

 

マズイ、俄然、敵方の士気が上がって

しまったっ!

部下達は畳み掛けるようにスキルを

繰り出してくるっ!

 

「いなづまっ!」

 

バシュッ

 

「喰らえっ!『しばり打ち』っ!!」

 

ビシャアア

 

「キャッ!」

 

敵のスキルが飛び交うっ!

クッ!

アタシとレイファンはなんとかガードで

スキルをしのいだけど呪いに犯されている

ジョギーはまともに敵のコンボを受けて

しまった!

呪いに脅かされているので敵の攻撃を

受けた事にさえ意識が働いていない、

無防備すぎるっ!

 

「レイファン、ジョギーに『シャナク』をっ!

このままではジョギーが嬲り殺しに

あってしまうわっ!」

 

「あ、そっか!

呪い解除呪文っ!わかった姉ちゃんっ!」

 

呪いは恐ろしい幻聴が聞こえる

状態異常だけど解除方法はあるっ!

アタシはレイファンにそれを任せ

自分は攻勢に出たっ!

 

「風の精霊よ、荒れ狂う風巻(しまき)を呼び

刃となし我が敵を切り裂け!

バギクロスッ!!!」

 

ビュオオオオオオオオオオ

 

全てを吹き飛ばすほどの暴風が吹き荒び

敵全員を吹き飛ばしながら真空の刃で

切り刻むバギ系の呪文をアタシは

詠唱した。

敵は全員吹き飛ぶ。

この隙に、レイファンッ!

 

「主神ミトラよ、 地獄より迷い出でたる

亡者どもの声振り払い給う!

シャナクッ!!」

 

緑色の光が発生しジョギーの体を包む。

ヴヴォオオオオオオという亡者達の

断末魔のような声が辺りに響くもやがて

その声は消滅し、青ざめていたジョギー

の顔色が生気を取り戻していく。

 

「ガッ、はぁはぁはぁ・・・

お、恐ろしい声だった・・・

こっちまで地獄に引きずり込まれそう

だったよ・・・助かったレイファン。」

 

「良かった、兄ちゃん!

気、気分はどう?戦えそう?」

 

「あぁ、なんとかな。」

 

よし!

これでジョギーは正常だ。

まだ顔は汗だくで肩で息をしてるけど。

 

「ぐ、ぐぬぬ、つ、強い!

こ、これが義勇軍か・・・。」

 

バギクロスを受けた魔物達は戦闘不能に

陥ったかに見えたけど・・・。

さすがボスね、ゴモゴモスは意識を

取り戻しゆっくりと起き上がろうと

していた。

 

「アンタッ!まだ戦うっ!?

こっちは全員五体満足に戻ったわよ。

砦内の魔物、全員まだ息はあるわ、

降参して其処の扉を開けてくれるなら

命までは奪わない、けどまだ向かって

くるというなら容赦はしないっ!」

 

「グヌヌ・・・て、敵に情けをかけるか

義勇軍・・・わ、我らを見下すという

ワケか・・・?」

 

「・・・アンタはさっき『死にたく

なければ立ち去れ』と言ったわ。

それは・・・アンタがアタシ達を哀れ

だと思い発した言葉じゃないの?

アタシ達に情けをかけようとしてくれた

・・・。

それと同じ事を言ったまでよ。」

 

「っ!!」

 

「アタシ達は確かに宇宙政府に対し

レジスタンス活動をしている。

そして様々な政府の魔物と出会ってきた。

その中にはアンタのように・・・

無差別で理由もなく人間を襲うことを

好まない魔物もいる、という事実を

アタシ達は知らされたの。

そんな魔物達を・・・敵対する政府に

属するという理由だけで無闇に殺生する

べきでは無い、というのがアタシ達の考え。

だからお願い、ここを通してっ!

アタシ達は謂れの無い罪で今まさに処刑

されようとしている人物を助けなきゃ

いけないの、ここでアンタ達と命の

やり取りをしているヒマはないっ!」

 

「・・・フッ参ったよ・・・義勇軍の

女魔道士・・・粋な事を言う。

わかった、此処を通り抜けるがいい。 」

 

「っ!!

恩に着るわっ!」

 

やった!

やっぱりっ!

話のわかる魔物だったわ。

では急いで砦を通り抜けよう、ね、

オリオリッ!

 

「・・・しかし・・・謂れの無い罪で

処刑・・・しかもこれから刑が執行される

予定の人物とは・・・?

ま、まさかゼンチャンの事か??」

 

「えっ?そ、そうよ、ゼンチャンよ!

アタシ達はゼンチャンを救出したいの!」

 

「そ、そうか、君らが助けたいのは

ゼンチャンだったんだな。」

 

ゴモゴモスはゼンチャンの処刑の事を

知っていた。

当然か、処刑場に向かう際も此処の砦を

通るんでしょうから。

しかしこの紫色の怪人は・・・アタシ達の

思いもよらない言葉を発したの。

 

「ぎ、義勇軍の面々、急いで『イバラの町』

へ向かいゼンチャンを救出してやって

くれ、イバラの町は此処を抜けて北方に

向かった先にある。」

 

「モガッ!?

な、なんで教えてくれるんだ?」

 

「ほ、本当はイヤなのだ、ゼンチャンが

処刑されてしまうのは・・・。

彼女は偶然、政府の秘密を知ってしまった

に過ぎない、それだけで捕らえられ刑に

処されるなど・・・あまりに哀れだ。

ゼンチャンだけじゃない、罪もない人々

を強引に犯罪者に仕立てて牢屋に入れる

事を勧める政府のやり方に・・・もう

これ以上ガマンができないと思っていた。

ワシは砦の下級役人だ、上層部の命令には

絶対服従だから従っていたが・・・

もう耐えられんっ!」

 

・・・アタシの脳裏に元上級執行官の

マレドーの顔が浮かんだ。

目の前に居る紫色の役人とマレドーの顔が

重なって見えた。

 

「我が友人の傷を癒し給う、ベホイムッ!」

 

ボワ〜ン

 

「な、なんとっ!」

 

戦いで傷を負ったコモゴモスにアタシは

回復呪文を施した。

 

「情けではないよ、アンタは潔く負けを

認めアタシ達の願いを聞き入れてくれた。

アンタには、何びとも此処を通しては

ならないという任務があるにも関わらず

にね。

アタシの感謝の意であり、そしてアンタの

その勇気を称えたかったの。

他の魔物達は・・・ごめんなさい、全員を

治療する時間はアタシ達にはなくて・・・

けど傷はそこまで深くないはず。

アンタが面倒見てあげてくれると

助かるわ。」

 

「・・・了解した。

その意、有り難く頂戴する。

では出口の扉を開こう。」

 

「砦の役人さん。

通行を許可していただき感謝します。

そしてアナタのような魔物が居るという事

嬉しく思います。

私達は悪しき事を嫌う者を、人、魔物、

種族を問わず奨励したいと考えています。

政府の中にあって、アナタのような者が

増えていくことを祈ります。

また会いましょう、では扉を開けて

ください。」

 

「・・・オリオリ殿・・・あ、あぁ、

承知した・・・!」

 

そう言うとゴモゴモスは立ち上がり

出口である大きな扉に向かって歩き出した。

そして懐から鍵を出し扉を解錠して

くれたの。

 

ギギギギギィィィ

 

「さぁ、早く行ってゼンチャンを助けて

やってくれ!」

 

「ありがとうございます!」

 

ごく稀に存在する、政府の方針に異を

唱える魔物・・・こういう魔物達が

増えていくことを願う。

やがてそれが打倒政府に繋がると

思うから。

 

出口の扉を出てすぐ、アタシは振り返り

砦に向かって軽く会釈をした。

そしてすぐに向き直り、イバラの町が

あるという北方へ向けて出発した。

 

「・・・素晴らしい女性に・・・なられた

・・・毅然とした態度の中にあって・・・

零れ出る優しさ・・・まさしくあの方々の

娘・・・血は争えんとはこの事・・・

その人柄が部下達にも伝播し強く優しい

集団であったわ、義勇軍。」

 

立ち去ったアタシ達に視線を送りながら

コモゴモスは独言る。

 

「あの方々が・・・成長された姫君の姿を

見たならば、どんなに喜ばれた事だろう。

さぞかし無念であっただろうが・・・

今は天より姫君の成長を見守っておられる

・・・そう願うのみ・・・。」

 

戦いの喧騒が去った砦に吹いた一陣の風に

コモゴモスの独り語りは霧散する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\

****************************************************************
20200124追記
今回のお話以降の展開において、構想段階で
変更が発生しました。
故に今回のお話に加筆をいたしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード6.「食人薔薇の恐怖」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



ベェルの町から処刑場に向かう道中に

設けられた関所「監獄の砦」を“強行突破“

したアタシ達は、処刑場ではなく「イバラ

の町」にゼンチャンが囚われているという

情報を得て、そこを目指していた。

 

!?

後方から何者かの気配がする。

けど邪悪なモノではない?

というかアタシ達への殺気は感じない、

と言った方が正しいかしら。

 

アタシは感じた事をオリオリに伝えた。

パーティーの足が止まる。

 

「・・・居るのはわかっているっ!

出てきなさいっ!」

 

アタシは後方に向かってその何者かに

声をかけた。

すると。

 

「はぁはぁっ、さ、さすがだ。

何もかもお見通しとはな。

す、すまん、やはり心配になってついて

きてしまった・・・。」

 

物陰から紫色の怪人、監獄の砦の役人

コモゴモスが現れた。

 

「モガッ!

監獄の砦の役人さんっ!?」

 

なんと現れたのは砦で刃を交えたものの

ゼンチャンの身を案じて関所を通して

くれた、あの役人だった。

 

「モガッ!

想像以上に優しいぞ、役人さん!」

 

そうね、政府の役人なのに捕まっている

ゼンチャンを心配してくるなんて

なかなかできる事じゃないわ。

けど・・・砦を飛び出して来て大丈夫

なのかしら?

彼には・・・アタシ達に敗れたとはいえ

引き続き任務があるでしょうに。

 

「大丈夫だ、この大陸は・・・君らも

気づいてるかもしれんが政府の支配は

そこまで強く及んでいないんだ。

政府は罪を犯した者を、といっても

濡れ衣に近い罪だが、捕まえるだけ

捕まえて後は僻地であるこの大陸に

送り込むだけで後は放置に近い。

それは罪人達を管理するワシら収容所の

役人に対してもあまり指示をしてこない

という事でもあるんだ。

君らがゼンチャンを救出するのを見届け

たらすぐに持ち場に戻る事にするよ。」

 

むっ!そうなのっ!?なんて杜撰なのっ!

いやまぁ、そのおかげで囚人さん達は

そこまで苦しい思いをしなくて済んでる

のかしんないけど。

放置するぐらいなら捕まえなきゃ

いいのにっ!(_ _#

どうせ捕まえる理由なんて理不尽なモノ

ばかりでしょうにっ!

 

まぁけど、この役人さんの立場については

今は心配する必要はなさそうね。

 

「それより、今から向かうイバラの町。

注意しなければならない事柄があるんだ。

もし君らが・・・その・・・強行手段に

打って出てしまわないか、と心配でな。

何しろ監獄の砦に殴り込んでくるぐらい

だからな。」

 

「モガ、ちゅ、注意!?

イバラの町とはどんな町なんだ??」

 

「まぁ、行けばわかる、先を急ごう。」

 

きょ、強行手段・・・う、確かに。

とにかく今のアタシ達はゼンチャンの

救助が最優先事項だからね。

場合によってはそうゆう事もあり得るわ。

でもコモゴモスはそれじゃあダメだって

言ってる。

ゼンチャンがどういう状況かわかんない

けど、アタシ達が失敗しないようにと

後をつけて来てくれたんだ。

 

よし、とにかく急ごう。

コモゴモスをパーティーに加えてアタシ達は

先を急いだ。

2時間ほど歩くと町、というより森?

のような・・・緑に覆われた集落が

見えてきた。

そこに近づくにつれ見えて来た町の様子に

アタシ達は驚愕したの。

 

「ここがイバラの町だ。」

 

コモゴモスが言う。

こ、これは!?

森だと思っていたのは・・・木ではなく

薔薇のツタのようなモノだった。

ツタには無数の棘が生えている。

 

「モガー!!

建物に無数のツタのようなモノが

絡みついて・・・イバラに囲まれたという

より巨大なイバラの森のようだぞ!」

 

「このツタは一体何処から生えている

のでしょう!?」

 

モガ丸とコッツの言う通り、巨大なバラの

森のようだった。

町というには程遠い。

 

「ここは町とは名ばかりの宇宙政府の

もう一つの処刑場だ。

人は誰も住んでおらん。」

 

「処刑場!?

それはどういう意味なのです?」

 

「町の中心部に向かおう。

そこに巨大な薔薇の花が居るはずだ。」

 

居る?“咲いている”じゃなく居るって

どういう事?

まるで動物か魔物でも存在するかのような

言い方だけど。

 

「モガ〜、それにしても歩く隙間もない

ぐらいのツタの量だな、棘に気を付けて

進もう・・・って言ってるそばから

棘が刺さってるぞ!

大丈夫か?スラッピ!」

 

「ピピッ!」

 

棘に注意しながら町の中を進む。

けど、これだけツタが溢れかえっていては

無傷で歩くのは至難の技だわ。

全員、そこかしこに棘の刺さり傷を負い

ながら町の中心部を目指す。

その先で視界に飛び込んできたもの、

それは巨大な真っ赤な薔薇だった。

 

「モガーッ!で、デカイ!

確かにデッカい薔薇が咲いているっ!」

 

「あっ!あそこっ!

薔薇の近くに人影がっ!

ツタに絡まれている・・・人間が居ますっ!

あれがゼンチャンでしょうかっ?」

 

太い1本のツタの先がグルグル巻きに

なっていて、そこに人間が縛られていた。

た、確かにっ!

女性のように見えるっ!

 

「そうだ、あれがまさしくゼンチャン、

薔薇のツタに捕らえられているのが

ゼンチャンだ。」

 

よ、ようやく・・・!

やっとゼンチャンを見つけた。

薔薇のツタがあんなにグルグル巻きに、

さぞかし沢山の棘が刺さってて

傷だらけで痛みも尋常じゃないのでは!?

けど!

これは一体どういう状況なの!?

 

「あの薔薇は・・・宇宙政府が飼っている

処刑用の人喰い薔薇だ。

今は眠っているが目覚めて花ビラが全開に

なるとツタに絡まっている獲物を食べて

しまうんだ。」

 

ひっ、人喰いっ!?

な、なんとむごい、残酷な事をするの!

 

「通常の処刑はまた別の場所にある処刑場

で行われるのだが。

中にはゼンチャンのように、さらに残酷な

食人の刑に処される者も居る。

それだけゼンチャンが政府の秘密を知った

というのは重い罪なのだろう。

あの薔薇も最初はここまで大きくは

なかった。それがこんなに巨大になって

しまったという事は・・・それだけたくさん

の囚人が食人の刑に処されたという事だ。」

 

うへ〜聞いてるだけでも吐き気を催す!

せ、政府とは!

強大で邪悪で、そしてなんと残酷な

集団なの!

ますます持って許せなくなってきたわ

ಠ_ಠ

 

「普段は餌を与えているんだが処刑される

者が護送されてくると餌を断ち空腹に

させて薔薇が囚人を食べるように

仕向けるのだ。」

 

「モガーッ!

言ってるそばから花ビラが開いていくぞ!」

 

「リザ殿っ!

ツタを切り裂いてしまいましょうっ!」

 

「わかったっ!

ジョギー、お願いっ・・・」

 

「ダメだっ!

下手に攻撃すると目を覚ましてしまい

“獲物”を食べてしまうっ!

それを心配したからこそ、ワシは君達に

ついてきたのだっ!!」

 

そっそんなっ!

ではこのままむざむざとゼンチャンが

食べられるのを指を咥えて見てるしか

ないというのっ!?

 

「モガ〜、どうするんだ〜、

どんどん花が開いていくぞ・・・」

 

「人喰い薔薇の餌だ、刑の予定がない時

に与える餌があればゼンチャンよりも

好物を食べるはずだ。」

 

え!?そ、そうなの!?

そうなのか・・・いや、コモゴモスが

言うんだもの、この薔薇の習性をアタシ達

よりも知ってるはずよね。

 

「人喰い薔薇の好物とは!?

今すぐ用意できるモノなのですか?」

 

「オムライスだ、ムッチリ鳥の卵の

オムライスがヤツの好物。

ただ、今はゼンチャンが刑に処されるとの

事で材料がここにない。

ムッチリ鳥は此処から北に向かった

ルアン神殿に生息している。

そこから卵を採ってきてくれないか。」

 

オ、オムライス!?

バ、薔薇がオムライスを食べるっていう

のがなんか違和感あるけど。

けどそれが事実なんだから今はオムライス

を用意するしかないわね。

 

「卵の次は米が必要だ。

米は此処から西に向かった先の稲穂の塔

にある。そこの屋上は季節を問わず

いつでも『最高ほくほく米』が収穫できる

という不思議な場所なんだ。

いいか、卵と米、この2つが必要だ、君ら

なら難なく持ち帰って来れるハズだっ!

ワシは此処で調理の準備をして待機するっ!」

 

ちょっ、調理っ!?

コ、コモゴモスが直接調理するのかしら?

なんだかおかしな光景を想像しちゃった

(°_°)

け、けど!とにかくっ!

言われた通り材料を取って来なくてはっ!

食人薔薇の花びらはどんどん開いていって

るものっ!

 

「リザさん達、時間がありません、

北のルアン神殿と西の稲穂の塔、続けて

行軍いたしましょう!

疲労もあるかもしれませんが、どうか

よろしくお願いしますっ!」

 

了解したわオリオリッ!

アタシ達もそのつもりよっ!

ルアン神殿で卵を手に入れルーラで此処に

戻り、その後稲穂の塔へ向かいましょう。

モガ丸も頼んだわよっ!

 

「モガッ!了解したぞっ!」

 

「ピピッ!」

 

そうね、スラッピも!

急いでルアン神殿へ向かおうっ!

 

ようやく見つけたゼンチャンは正に

危機迫る状況だった。

アタシ達は人喰い薔薇の好物、ムッチリ鳥

のオムライスの材料を求めて北のルアン神殿

へ急いで向かった。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\

・コモゴモス
宇宙政府の役人。監獄の砦の責任者。
アタシ達と戦い敗れるも、本心ではゼンチャンの
処刑に反対していたので砦を通してくれた。
冤罪に近い罪で人々を逮捕する政府の方針に
常々嫌気がさしているという、宇宙政府に
ありながらも心ある魔物。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード7.「麗しき全知全能のオトメ?」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



「ギャーギャーギャーギャー!!」

 

バサバサバサッ

 

「モガガッ!魔物達をやっつけたのは

いいけどムッチリ鳥の群れがっ!」

 

「これでは巣に近づけないですっ!」

 

神殿には魔物が巣食っていた。

その中に1羽だけ、おそらくムッチリ鳥の

群のボスなのか、魔物化した鳥が居た。

おそらく子分であるムッチリ鳥達を守る

為に魔物に進化したんだろう、ソイツを

退治したのはいいものの、他のムッチリ鳥

達が卵を守ろうとアタシ達の邪魔を

してくるっ!

 

ご、ごめんね〜、人命救助とはいえ、

あなた達の卵を奪う事になっちゃって。

けどこっちも非常事態なの、卵1つでいい、

拝借させてっ(>人<;)

 

「メラッ!」

 

ボゥッ

 

「ギャーギャーッ!!」

 

アタシは初級の火球呪文を空砲として放ち、

ムッチリ鳥を追い払う。

 

「モガ丸っ!早くっ!

今のうちにっ!」

 

「よっしゃー!

ナイスだぞ、リザッ!」

 

巣の中には卵が沢山あった。

それを1つ拝借させてもらう。

 

「け、結構大きんですね!

・・・よし、ムッチリ鳥の卵はゲット

しましたっ!」

 

「リザさん達、ご苦労サマですっ!

急いでイバラの町へ戻り次の目的地へ

向かいましょう!」

 

「よしっ!みんな手を繋げっ!

イバラの町へ戻るぞっ!!」

 

なんとか卵を1つ手に入れ、アタシ達は

ルーラでイバラの町へ戻った。

監獄の砦の役人コモゴモスが出迎える。

 

「おぉ!それはまさしくムッチリ鳥の卵っ!

でかしたぞ君達っ!

これでオムライスのオムはバッチリだ、

が、肝心なのはライスだ。

食人薔薇はオムライスのライスが不味いと

肉に走ってしまう、つまりゼンチャンを

食べてしまうんだ、次に向かう稲穂の塔

で収穫する最高ホクホク米なら大丈夫、

食人薔薇も大満足だろう。」

 

う、うん、なんだか、危機が迫っている

のやら、グルメな話でのんびりしてるの

やら、よくわかんなくなってきたけどっ!

とにかく稲穂の塔で米を収穫してくれば

いいのね!急ぎましょう!

 

次に向かった稲穂の塔にも魔物が巣食って

いた。それらを振り払いながら目指した

最上階には、なんとも不思議な光景が

広がっていた。

塔の屋上だっていうのにフロア一面に

田んぼが広がっていたの。

 

「モガーッ!

フロア一面が田んぼだぞ!

コモゴモスから聞いていたとは言え奇妙

だぞっ!」

 

「そして!

たしかに見事に稲が育っています、まさに

刈り入れ時ですね!」

 

「稲が黄金色に輝いている・・・キレイ

だぞっ!

さすが最高級のお米だな!」

 

最上階には壁がなく吹きざらしの構造

だった。日光や雨といった稲作に必要な

モノを取り込みやすい構造ではあるけれど

確かに不思議だわ。

 

と、ここでお米が獲れる仕組みを紐解く

時間はない、さっそく刈り入れさせて

もらう。

 

「とりあえず、オムライス1食分だからな、

これぐらいで十分だろう。

よしっ!オムライスの材料は揃ったぞ、

イバラの町へ戻ろうっ!」

 

目的は全て遂げた。

急いでイバラの町へルーラで戻る。

 

「おぉっ!最高級ホクホク米までっ!

予想以上に早かったな、さすが義勇軍だ。

ではさっそく調理にかかるっ!」

 

コモゴモスに材料を渡すと簡易に用意

されていた調理場で、な、なんとコモゴモス

本人が調理を始めたの。

ご、ごめんなさい、偏見だけど魔物が

オムライスを作ってるのが、ものすごく

シュールに感じる・・・。

しかも手際がいい(O_O)

 

ドーン、バーン、ジュワー、ジュワージュワー・・・

 

「ヨォシ!完成だ、『特製濃厚ムッチリ鳥

卵のオムライス』ができたっ!」

 

ホ、ホントにオムライス出来ちゃった∑(゚Д゚)

い、いや、出来てくれなくちゃダメなん

だけど。

け、けど・・・美味しそう(*´∀`*)

 

「う、美味そうだ。

ど、どれ、ひとつ味見を・・・って

食べちゃダメだっ!!

思わずつまみ食いしそうになっちゃったぞ!

それぐらい美味そうだな!」

 

う、うん、普通に美味しそう・・・

食人薔薇じゃなくても食べたくなっちゃう

わね^_^;

 

「花びらはギリギリまだ全開じゃないっ!

ま、間に合った!

よし、じゃあ薔薇の前にオムライスを

据えるぞ。」

 

ドキドキ、上手くいくかしら?

ってか上手くいってくれないと困るっ!

お願いっ!ゼンチャンを離してぇぇぇ!

 

魔物が相手だというのに、この時ばかりは

アタシ達はただただ祈る事しか

できなかった。

 

「あ、は、花びらが全開にっ!?」

 

「む、オムライスのニオイに反応したの

かもしれんっ!」

 

「早く薔薇の前にオムライスをっ!!」

 

「モガっ!置いたっ置いたぞっ!

さぁ、食べろ、大好きなオムライスだぞ、

おいしいぞぉ!人間なんかより全然

美味しいぞぉ!!」

 

ほぼ全開だった薔薇の花びらがオムライス

が完成した途端、一気に全開になった!

モガ丸が急いでオムライスを薔薇の近くに

置いた。

 

「グルッグルルルル〜ッ!!」

 

薔薇が唸り声をあげた。

とうとう目覚めたみたいっ!

 

「さぁどうだ?食べるのかオムライスをっ!」

 

「グルッ・・・・ムシャッムシャムシャ

ムシャ。」

 

するとゼンチャンに絡まっているのとは

別のツタがオムライスに伸び、絡みつき、

オムライスは薔薇の中心にある口へと

運ばれていった。

 

「お、おぉ食べてる食べてる、成功だぞ!」

 

「間に合った〜!」

 

一同から歓喜の声と安堵のため息が漏れる。

オムライス作戦は成功、けどゼンチャン

はっ!?

肝心のゼンチャンに絡まっているツタは!?

 

「あ、リザ殿っ、見てくださいっ!

ゼンチャンに絡まっているツタが解けて

いきますっ!」

 

やったっ!!

ゼンチャンが解放されていくっ!

処刑の報を聞いてからこっち、気が気で

なかったもの、アタシ達全員。

それが・・・最後はおかしな方法だったけど

なんとかゼンチャン救出が成功した。

アタシは気が抜けて、その場に座り込み

そうになった。

 

ツタが解かれるにつれて、ゆっくりと

ゼンチャンが下に降ろされていく。

やっとゼンチャンとご対面・・・。

けど・・・。

地面に近づくにつれ、ゼンチャンの全貌が

見えてきた。

 

ん?な、なんか・・・ゴツくない??

女性にしてはエラく体格がいいのかしら?

・・・え?い、いや、女性じゃない?

体格がいいどころじゃない、か、完全に

だ、男性の体躯・・・?

 

ツタは完全に解かれ、縛られていた人物が

こちらを向く・・・。

 

「イバラに絡まる麗しき悲劇の乙女、

そうワタシがゼンチャンよっ!」

 

え・・・・・・・?( ゚д゚)

 

「・・・・・。」

 

「・・・・・。」

 

「・・・・・。」

 

い、一同みな、言葉をう、失う・・・・。

しばし沈黙の後ようやくモガ丸が口を

開く・・・。

 

「・・・お、男だよ・・・な???」

 

「解放してくれてありがとう。

けどワタシの愛は解けないわ。」

 

「・・・・。」

 

「あぁでもっ!ちょっぴり残念っ!

薔薇を纏うワタシも美しかった。」

 

えぇぇぇぇぇっ!Σ('◉⌓◉’)

男じゃんっ!(● ˃̶͈̀ロ˂̶͈́)੭ꠥ⁾⁾

メチャクチャマッチョメンじゃんっ!

:(;゙゚'ω゚'):

 

おまけにチョーナルシストッ!!

はっ!そ、そうか!

またしてもニセモノねっ!

せっかく急いで救出したのに、また

ニセモノだったとはっ!!

 

アタシは目の前の魔物よりおぞましい人物

が生理的に受け付けられなかったのか、

自分でもビックリするぐらい動揺して

しまった。

あろうことか、ニセモノ呼ばわりまで

してしまった。

う、ううん、ギリギリ、すんでのところで

口には出さず心の中でだけど・・・。

すると書からオリオリが現れた。

 

「貴方がゼンチャンさんですか?」

 

「あらあら、本の中から人が出てきたわ、

という事はアナタは宇宙王の末裔

オリオリちゃん??」

 

「おぉ、さすがです!

さすが全知全能・・・なんでもお見通し

なのですね。」

 

オリオリ・・・めっちゃ冷静・・・。

もう、この・・・オネェ言葉を操るゴッツイ

男性を受け入れられたのかしら・・・。

 

あ、アタシはまだちょっと時間かかる

かな〜^_^;

けど、この男性がどうやらホンモノの

ゼンチャンらしいわね。

全知全能のオンナ、ゼンチャン。

そ、そうかオンナってそういう事だった

のね。

けどまさかね〜、ゼンチャンがオネエだった

なんてね〜。

なんか、あまりの事実を前に、苦労して

救出にまでこぎつけた感慨とか全部

吹っ飛んでしまったわ。

 

「ワタシがあまりにも美しいばかりに

宇宙政府が離そうとしないの。

薔薇のツタで雁字搦めにするだなんて

そんなにワタシを逃がしたくないのかしら、

ホントに屈折した愛情だわ。

けど屈折するぐらいに大きな愛をワタシ

に抱いてるって事の証でもあると思うの。

嫌いじゃないわ、そういうの。」

 

あァァァァダメッ!!

アタシやっぱり馴染めないっ!

なんてポジティブ思考なのっ!!

屈折してるのはゼンチャンのほうじゃないの!?

 

「モガ・・・ち、違うぞ、ゼンチャンは

今にも人喰い薔薇に食べられそうだった

んだぞ、食人の刑っていう宇宙政府の

刑罰だぞ・・・。」

 

「そうなのっ!

薔薇の花が食べちゃいたくなるぐらいに

ワタシの美しさは際立っているの!」

 

あちゃー、ダメだ(°_°)

話になんない、今にも喰い殺されるって

いう事態だったのに・・・。

 

「で?そんな美しいワタシにオリオリちゃん

が何の用?

あ、わかったっ!美しさの秘訣ね!

オリオリちゃんもそこそこの美人だと

思うけど、残念ながらワタシには及ばない

と思うの、ごめんなさいね。

そんなワタシの美しさに少しでも近づき

たくて秘訣を聞きにやってきたのね?」

 

・・・あかん、手のつけようがない(ノД`)

 

「わ、私はそこそこの美人ではありません、

もちろん通常の美人でもありません。」

 

お、オリオリまで!

そこそことか、通常の、とか。

美人って段階でもあるの???

 

「ゼンチャンさん、我々はアナタに教えて

もらわねばならない事があるのです、

あ、いや、美しさの秘訣ではなく・・・。」

 

オリオリがようやく本題に入ろうとした

その時っ!!

 

ガシッ!!

 

「よぉし、捕まえたぞゼンチャンッ!!」

 

「あぁぁ!」

 

「キャァッ!!」

 

なっ!!ま、魔物っ!!??

 

「新手の魔物っ!

い、一体いつの間にっ!?

クッ!は、離せェェ!!」

 

クッ!アタシとした事が!

魔物の気配に気づかないなんて!不覚っ!

突如現れた魔物にゼンチャンとコッツは

捕らえてられてしまったっ!!

 

「残念だったな義勇軍っ!

貴様らの行動は把握していた。

ベェルの牢獄の監視員の報告によってなぁ!

ゼンチャンとの接触を謀っているので

あれば、いずれ此処にやって来ることは

容易に想像できた。

せっかく救出できたのになぁ!

結局は無駄足だったという事よっ!」

 

そ、そうか、あの時見逃した監視員の

魔物が・・・。

これはっ!全くのアタシの不手際っ!

あの時、魔物の心意気を尊重したばかりに

今、最悪の事態を招いてしまったっ!

あの時、非情に徹していればっ!!

 

「ちなみにあの監視員は既に処分して

やったがな、ハハハ!」

 

な、なんですって〜〜!!??

 

「逃げずに報告に戻って来たのはいいが

そもそも奴らは捕虜だった義勇軍の3番隊を

貴様らに奪還された上に貴様らの足止め

すら果たせなかった。

それができていれば今頃ゼンチャンの

食人の刑も執行され俺が出張って来る事も

なかったのによぉ。

奴らの失敗は万死に値するってワケよ!」

 

ぬぅぅぅ、ゲ、ゲスめ〜〜〜!!!

この大陸に入ってから出会う政府の魔物、

任務に忠実であったり、コモゴモスの

ように心優しい者が多いと内心讃える

べきだと思っていたけどっ!

やっぱり上層部に近い者ほどゲスだわ!

 

「それと・・・おいっ!」

 

「っ!?」

 

「貴様だ、監獄の砦の役人コモゴモスッ!

貴様の裏切りも見抜いているぞ!!」

 

「・・・!」

 

「義勇軍に敗退し関所を破られたばかりか

あろうことかゼンチャン救出の手助けを

するとはなぁ〜!

政府の決定事項に反する重罪なりっ!

貴様も後で牢屋にぶち込んでやるっ!!」

 

「ぬぅぅ、バ、バレていたのかっ!」

 

「それとベェルに残っている一般の

囚人、奴らも全員処刑してやるっ!」

 

「モガーッ!な、なんでだ!?

あの人達はカンケーないぞっ!!」

 

「そ、そうよっ!横暴にも程があるっ!!」

 

「じゃかぁしぃっ!!

ベェルの町、監獄の砦、イバラの町・・・

ここら一帯の留置場を統括するのが

俺様の任務だ、こうも不祥事が続けば

俺様自体の責任問題になる、見せしめ

として皆殺しにでもしねぇと俺様が

上層部から処分されかねないんだよぉ!

わかったかっ!

全部テメエらのせいだっ!!」

 

コイツッ、とんだゲス野郎だわっ!!!

あまりの非道ぶりにアタシは腹わたが

煮えくりかえりそうになってきたっ!!

 

「まぁそういうわけでな、オラッ!

来いっ!ゼンチャンッ!

貴様は俺様が直に処刑してやるっ!!

そしてこの義勇軍の女を使って面白い

処刑ショーを開催してやろうじゃないか、

ハハハハハッ!!!」

 

お、おのれぇ!

そうはさせないっ!

 

「あぁ、か弱き乙女ゼンチャン、またまた

囚われの身にぃ〜!」

 

「ク、クッソォ!離せっ!!」

 

って・・・この緊迫した場面なのにぃ!

調子狂うわね・・・( ゚д゚)

 

「ルーラッ!!」

 

ビュウウウウンビュウウウウン

 

しまったっ!逃げられたっ!!

奴は一体何処へっ!?

あ、コモゴモスッ!

アナタなら今の魔物が何処に移動したか

わかるんではっ!?

 

「や、奴は任地に戻ったのだろう、

ここから北に向かった先に『処刑の洞窟』

という施設がある。

本来なら死刑囚はそこで刑に処される

のだ、い、急ごう義勇軍の諸君、

今度こそ本当にゼンチャンが処刑されて

しまうっ!

それに君達の仲間も心配だっ!

奴は残虐この上ない性格だ、何を企んで

いるのかワシでも見当がつかぬっ!!」

 

なるほど、留置所や処刑場の・・・

いよいよ本拠地ってワケね、よし、急いで

向かおうっ!

イマイチまだ受け入れられないキャラ

だけどっ!

ゼンチャンにはまだ本題の質問をできて

いないっ!

死なせるワケにはいかないっ!!

そしてアタシ達の大事な仲間コッツを

さらったのは断じて許さないっ!!

 

「モガ!ここから北の方角だってんなら

ルアン神殿までルーラで飛ぼうっ!

1度訪れた場所ならルーラで行けるからなっ!」

 

「なるほど、そうだなっ!

処刑の洞窟はルアン神殿から南下して

すぐだ、かなりの時間短縮になる。」

 

よし!

急いでヤツを追おうっ!

 

ようやく救出し面会できた全知全能の

ゼンチャン。

そのキャラは・・・アタシはまだ受け入れ

難いけど・・・救出したのも束の間、

コッツと共に再び囚われてしまった。

これにはアタシの判断ミスも絡んでる、

なんとしても再度救出してみせるっ!

 

アタシ達はコモゴモスの先導のもと、

急いで処刑の洞窟へと向かった。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\

・コモゴモス
宇宙政府の役人。監獄の砦の責任者。
アタシ達と戦い敗れるも、本心ではゼンチャンの
処刑に反対していたので砦を通してくれた。
冤罪に近い罪で人々を逮捕する政府の方針に
常々嫌気がさしているという、宇宙政府に
ありながらも心ある魔物。

・ゼンチャン
全知全能のオンナ、その正体は実はオネエ
だったの(°_°)
彼女(彼)は、その全知全能の能力ゆえ
思いがけず宇宙政府の重大な秘密を知って
しまった事を咎められ政府に囚われ
処刑の危機に瀕していた。
政府の役人でありながら心ある魔物
コモゴモスの協力を得てようやく
アタシ達はゼンチャン救出を成し遂げた、
かに思えた!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード8.「本拠地の洗礼」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



ようやく処刑の危機から救出できた

全知全能のオンナ、ゼンチャン。

しかし安堵する間も無く再びゼンチャン

は政府に囚われてしまった。

コッツと共に・・・。

 

ベェルの町でアタシが逃してしまった

政府監視員の報告によってアタシ達の

行動が政府側に筒抜けになってしまって

いたからなの(>_<)

 

ここら辺一帯の牢獄、処刑場を統括する

役人のボスに連れ去られたゼンチャンと

コッツを救出する為、そのボスの居場所で

あろう『処刑の洞窟』へとアタシ達は

向かっていた。

 

アタシの判断ミスで起きた2度目の

ゼンチャン囚われ事件、なんとしてでも

今度こそ救出してみせる。

いつも以上にアタシは使命感にかられて

いたの、当然だけどね(/ _ ; )

 

監獄の砦の役人コモゴモスが処刑の洞窟

への先導役を申し出てくれていた。

彼の先導の元、目的地を目指す。

 

彼もまた政府への裏切り行為から罪を

問われるハメになってしまっていた。

どうせだったら座して沙汰を待つより

アタシ達と行動を共にしていた方が

安全だもんね、アタシ達もそれは望む

ところだった。

 

「み、見えてきた。

義勇軍の諸君、あの洞窟がヤツの根城だ。」

 

深い岩山群のさらに奥にその洞窟は大きな

口を開けるかのように存在していた。

アタシ達を今にも吞み込もうとしている

ように。

書からオリオリが現れる。

 

「ゼンチャンとコッツを攫った魔物は

『義勇軍の行動は筒抜けだ』とも

言っていました。

あの洞窟に誘い込むのは罠かもしれません

、しかしゼンチャンとコッツがあそこに

囚われている以上、罠とわかっていても

突入しないワケにはいきませんっ!

リザさん達っ!お願いしますっ!

リザさん達であればたとえ罠が待ち構えて

いようともきっと跳ね返してくれると

信じていますっ!!」

 

もちろんよオリオリッ!

ゼンチャンだけでなくアタシ達の大事な

仲間も捕らえられてるんですもの、

罠だろうがなんだろうが打ち破って

みせるっ!

 

「・・・あの洞窟は、その名の通り洞窟

全体が処刑場そのものだ、それこそが

罠といえば罠だ。

どんな仕掛けが隠されているか、ワシでも

知らないんだ。

諸君、意気込むのは大事だが慎重に進む

事をオススメする!」

 

「わかりました、ご忠告ありがとう

コモゴモスさん!

では警戒を怠らず侵入しましょうっ!」

 

オリオリの号令のもとアタシ達は洞窟内

に突入したっ!

洞窟の中は・・・暗闇が支配していた。

モガ丸が道具袋から松明を取り出し火を

灯す。

 

「モガ〜、処刑の洞窟って名前だけでも

うすら寒い気持ちになるっていうのに

こう真っ暗じゃ不気味過ぎるぞっ!」

 

確かに。

松明で多少、洞窟内の様子が視認できる

ようになったとはいえ薄暗いことに

かわりはない。

その光景が余計に恐怖心を煽る。

 

注意深く歩みを進めるとやがて少し開けた

空間にたどり着いた。

 

「ここは少し広い空間だな。」

 

そう言うとモガ丸は松明で辺りを照らして

回った。

すると。

松明の光に反射して何かがキラリと光った

ように見えた。

その光は1つや2つではなく無数だったっ!

 

「モガ〜?何が光ったんだ〜??

・・・え、ええええええ!!!」

 

「ピッピピピィッ!!

ピピピィィィィィイイっっっ!!!」

 

松明の光がこの空間の全容を照らし出すっ!

なんとこの空間の壁一面に剣のような

刃物が無数に設置されていたっ!!

刃は全てこちらに向かっているっ!

無数の光の正体はこれかっ!?

 

「あわわわ・・・な、なんだこの悪趣味な

壁は・・・!?

お、おぉう!?み、見ろっ!

反対側の壁も同じように剣が設置されて

いるぞっ!!!」

 

「ピピピィッ!!」

 

「むぅぅ、この広間は〜〜!

く、串刺しの刑の処刑場かぁ!?」

 

コモゴモスが恐ろしい響きの単語を発した。

 

「串刺しの刑〜〜〜??

な、なんておっかないんだ・・・。」

 

「お、おそらく・・・無数の剣の壁が動いて

両側から挟み込まれるのではないか?

そ、そのような処刑方法があると噂で

聞いた事がある・・・。」

 

「か、壁が動く〜〜〜???

じゃ、じゃあ何か、今オイラ達が立ってる

この位置がまさにっ!

しゅっ囚人が串刺しにされる場所って

事かぁ?あわわわ・・・」

 

コモゴモスの言葉を聞きモガ丸は処刑の

様子を想像してしまったのか、足が

震えだしたの。

そしてそのままジリジリと後ずさりを

始めた。

その先にある“踏んではいけないソレ”に

向かって・・・。

 

「きっ気をつけろ諸君っ!

何処かにこの壁が作動する仕掛けらしき

ものが存在するかもしれんっ!

むやみやたらと移動したり壁に触れては

ならんぞ・・・」

 

ガタリ!

 

後ずさりをしていたモガ丸のほうから

何かを踏んでしまった音が聞こえてきた!

 

「え?・・・オイラ今、何か踏んで

しまったぞ!?

なんか明らかに其処だけ出っ張ってて

・・・モガーーー!!

こ、コモゴモスッ!オイラひょっとして

・・・処刑装置のスイッチを踏んじまった

のかーーーー!?」

 

なっなんですってーーー!?

も、モガ丸ぅぅぅ、またアンタしでかした

のぉ!!??

 

ゴゴゴゴゴ

 

「ぬぅマズイっ!

やはりモガ丸殿が踏んだのは処刑装置の

作動スイッチのようだっ!

け、剣山の壁が動き始めたっ!!

わ、我々がまさに処刑されてしまうぞっ!」

 

「ひ、ひええええ!!!

串刺しになって死ぬなんてイヤだぁぁぁ」

 

「ピピピィッ!!!」

 

クッ!

このままでは全滅だっ!

進んできた道へ引き返すかっ!?

 

アタシの脳裏に退却の2文字が一瞬よぎる!

進んできた方向を振り返るも・・・

退却が不可能だと思い知らされる光景が

視界に飛び込んできた!

今進んできた通路を塞ぐように別の壁が

現れたのっ!

じゃあ進行方向はっ!?

 

アタシは振り返り洞窟内部へ進む方向に

視線を送ったっ!

進行方向にも壁が現れて今にも閉じようと

しているっ!!

こっ、これではっ!

本当に剣山の壁に押し潰されて串刺しに

なってしまうっ!!

 

「みんなっ!急いでっ!!

奥への通路へ向かって走るのよっ!!」

 

アタシは奥の通路へ向かうよう全員に

指示を飛ばしたっ!!

宇宙王の書を持っているモガ丸とスラッピ

を先頭にして全員それに続くっ!

アタシは最後尾に回って駆け出すっ!!

 

ゴゴゴゴゴ

 

剣山の壁は両側から無情に向かってくるっ!

 

「はぁはぁはぁっ!!!

ダァーーーーーっ!!!!」

 

先頭のモガ丸とスラッピが閉じかけの壁

の隙間からなんとか脱出したっ!

コモゴモス、レイファン、ジョギーも

続いて脱出っ!

 

「リザーーーー!

は、早くーーーー!閉じてしまうぞっ!!」

 

「リザさんっ!!!」

 

「リザ姉ぇっ!!!」

 

ク〜〜ッ!!

ま、間に合わないかっ!?

こ、こうなればっ!!

あ、あの呪文でっ!!!

 

「アストロンッ!!」

 

ガタァァァァンッ!!!!

 

「リザーーーーーーーーッ!!!」

 

「ピピピィーーーーーーっ!!!」

 

アタシが呪文を詠唱した刹那、両の剣山の

壁は閉じ切ってしまった・・・。

 

「あ、あ、あぁぁぁ!

リ、リザァァァァァァァァァァァァァ、

お、オイラのせいでぇぇ!!

うわぁぁぁぁぁっ!!!」

 

モガ丸が閉じてしまった壁に向かって

アタシの名を叫ぶ。

剣山の壁に飛びつき力ずくで開けようと

もがく。

けど壁はビクともしない。

 

「む、こ、ここを見てみろっ!

作動スイッチらしきものが此処にもある、

おそらく処刑装置を外側から操作する

場合のモノだろう。」

 

「コモゴモスさんっ!

は、早くそのスイッチをっ!!

リ、リザさんならっ!リザさんなら

きっと生きているはずっ!

は、早く剣山からか、解放・・・して

あげないと・・・。」

 

オリオリが消え入りそうな声でコモゴモス

に壁の解除スイッチを押すように促す。

 

「む、むぅ、諸君らの気持ちは痛いほど

わかるが・・・この装置が作動完了して

しまった今、あの魔道士はもう生きては

・・・」

 

「そ、そんなワケないっ!!!

リザ姉ちゃんが死ぬもんかっ!!!

きっと生きてるっ!!

少しでも息があれば私が呪文で傷を

癒すもんっ!!

だから早く解放してあげなきゃっ!!」

 

「そ、そうだな、ともかく・・・こんな

恐ろしい装置から解放してやろう。

しかし君らは見ないほうがいいかも

しれんぞ・・・?」

 

「い、いいから早くっ!

助かるものも助からないっ!!」

 

「・・・わかった。」

 

ガタン

 

コモゴモスが剣山の壁の解除ボタンを押す。

 

ゴゴゴゴゴ

 

すると合わさっていた一対の壁が元の位置

に戻るべく動き始めた。

 

「む、しかし妙だな。

作動が完了すれば壁と壁はピタリと合わさる

のかと思っていたが・・・。

割と大きな隙間を残したまま止まっていた

ようでもあるな?」

 

「え?そ、それはどういう??」

 

コモゴモスは違和感を感じたみたい。

作動が完了した、つまり処刑が完了した

壁はもっとピタリと合わさるはずだと。

ふっふ〜ん、そう、その隙間こそが

アタシが生きてる証拠。

 

ゴゴゴゴゴ

 

やがて壁が所定の位置まで戻った。

床にはアタシの串刺しの死体が転がってる

はず・・・だった。

 

「モガ〜・・・リザぁあ、痛かっただろう、

今助けてやるぞ・・・」

 

そう言いながらもモガ丸はアタシの惨殺死体

を想像したのか、中の様子を直視できない

ようだった。

 

「むっ!?こ、これは!!!

な、なんとっ!

ハハハハハッ!そういう事だったかっ!!

見てみろ、モガ丸殿っ!!

見てみろ!諸君っ!!冒険王殿は

無事だぁああっ!!!」

 

「えっ!?ぶ、無事っ!!??」

 

「えぇ!?リ、リザさん!?」

 

「リザ姉っ!!」

 

「リザ姉ちゃんっ!!」

 

仲間達全員が“処刑現場”に慌てて駆け寄る!

そこにはっ!!

 

鉄像と化したアタシが転がっていたの!

 

「モガーーーーー!!??

な、なんだこりゃあ!!??

リ、リザが鉄の塊になっちゃってるぞ??」

 

「あっ!!そうかっ!!

アストロンっ!!!」

 

そう、鉄化呪文「アストロン」。

対象を鉄の塊に変化させて敵からの

あらゆるダメージを無効化する究極の

防御呪文。

それをアタシは自分自身に詠唱したの。

処刑エリアからの脱出に間に合わないと

判断したアタシは咄嗟にアストロンを

唱えて危機を乗り越えたってワケ。

剣山の壁と壁がキッチリ合わなかったのは

アタシという鉄の塊が“挟まっていた”

せいだったってワケ。

 

しばらくしてアストロンの効力が解けて

鉄像だったアタシはみるみる元の姿に

戻っていった。

 

「うほ〜〜〜〜〜っ!!

スゲーぞリザっ!!

お前ホントになんでもありだな、

ホントに魔法使いみたいだなっ!!!」

 

イヤ・・・アタシれっきとした魔法使い

っていう職業なんですけど?( ̄^ ̄)ゞ

 

「リ、リザさんよくご無事で!

や、やはり貴女は偉大な冒険王っ!

このような邪悪な罠すら跳ね除けるとは!」

 

「むぅぅ、恐れ入ったっ!

なんという発想とそれを実現するチカラの

持ち主なのだ、道理でワシらごときが

叶わないワケだ、素晴らし過ぎるぞ、

冒険王っ!!」

 

「まさか、アストロンとはな!

流石に今回ばっかりはリザ姉でもダメか

と思ってしまったけど・・・

さすがだな!」

 

「姉ちゃん・・・よかったぁ!」

 

皆が口々にアタシの無事を喜んでくれた。

アタシももうダメかって思ったけどね

^^;

それに装置に使われてる剣の材質が

アストロンより強かったらここまで

無傷では済まなかったと思う。

死にはしなかっただろうけど大なり小なり

のダメージは覚悟してたんだけど・・・。

まぁ無傷でラッキーだったわ^_^

 

「ラッキーって・・・オイラ・・・

ホントにもう・・・リザが死んでしまった

かって・・・うぅぅぅ、けど・・・

ホントに良かった〜〜〜」

 

モガ丸・・・ゴメンね、心配かけたね。

・・・ってモガ丸っ!!!

そもそもアンタが作動スイッチを

踏んじゃったんでしょう!?

なんでアタシが謝るの・・・ってまぁ

いっかぁ。

それを口にしたら流石にモガ丸でも

凹んじゃうかぁ。

 

ヨシ、結果オーライ!

余計な時間を使っちゃったわ、引き続き

洞窟内を進もうっ!

ゼンチャンとコッツが心配だわっ!

 

「今ので身をもってわかっただろう。

この洞窟そのものがトラップの集合体

なのだ。

他にも処刑装置を兼ねたトラップは

まだまだ存在するはず。

より警戒を強めて奥へ進もう!」

 

「モガッ!

オイラよぉくわかった!そして反省したぞ!

もうあんな思いはゴメンだ、リザ達の足を

引っ張らないようにするぞ!」

 

そうね、この洞窟のことはパーティ全員が

知らないんだ、今回のことで身をもって

知ることができた。

トラップがたくさん仕掛けてあることを

想定内にしなきゃね。

 

この洞窟そのものが巨大なトラップで

あること、それを実感しながら、

アタシ達はゼンチャンとコッツを救出する

べく、さらに洞窟の奥へと進んだ。




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\

・コモゴモス
宇宙政府の役人。監獄の砦の責任者。
アタシ達と戦い敗れるも、本心ではゼンチャンの
処刑に反対していたので砦を通してくれた。
冤罪に近い罪で人々を逮捕する政府の方針に
常々嫌気がさしているという、宇宙政府に
ありながらも心ある魔物。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード9.「宇宙王一族の覚悟」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



この洞窟そのものが巨大な処刑場・・・

その名の通り、さっそく処刑場の洗礼を

受けたアタシ達は、なんとか最初の“刑”を

切り抜け洞窟内部へと進んでいた。

 

逸る気持ちを抑え難くはあるけど、また罠

にかかって全滅の危機に瀕するのは

絶対に避けたく、警戒を強めて慎重に

進んでいた。

 

洞窟内はまさに処刑装置のオンパレード

だった。

 

「モガッ!

前方後方とも扉が閉まったっ!?

こ、今度はどんな処刑だっ!?」

 

シュオオオオオオオ

 

またまた密室に閉じ込められたかと

思った矢先、なにやらガスのようなものが

噴射されるような音が聞こえてきたっ!

密閉空間・・・ガス・・・毒殺かっ!?

ガス処刑っ!?

 

「クッソォ!!

こんなに密閉された狭い空間では、

たちまち毒ガスが回ってしまうぞっ!!」

 

「う、ゴホゴホっ!!」

 

「みんなっ!!喋っちゃダメっ!!

口からガスを吸い込んで毒の周りが

早くなってしま・・・ゴホッ!!

ゴホッォオ!!」

 

クッ!毒ガスッ!

な、ならばこの呪文でっ!!

 

「主神ミトラよっ!

害なす魔の因子から我らを護り給うっ!

トラマナッ!!」

 

ボワァアアン

 

アタシの杖から淡い木白色の光が生まれ

パーティー全員の体を覆った。

毒や電磁波といった類のダメージを負う

物質を寄せ付けない聖なるバリアを用い

体を護る補助呪文をアタシは詠唱した。

 

「これで大丈夫、しばらくは毒が充満

したこの部屋でも毒に侵される事は

ないわ。」

 

「え?あ・・・ほ、ホントだっ!

息をしても苦しくないっ!!

モガーッ!!スゲーぞリザッ!!

毒ガスでさえもリザにかかれば無力に

なってしまったぞーっ!」

 

「ピピィっ!」

 

とはいえ皆、多少は毒を吸い込んで

しまったでしょうから、ついでに解毒も

しなくては。

その前に・・・いくら寄せ付けなくした

とはいえ、致死量の毒ガスが充満している

こんな気持ちの悪い空間からは一刻も早く

脱出したい。

中からは扉を開けるスイッチは・・・

ないか、当たり前ね。

では強行突破しかない!

 

「みんな、下がっててっ!」

 

パーティーを後方に下がらせてアタシは

出口の岩でできた扉に向かって呪文を

詠唱した。

 

「イオラッ!!」

 

キュ〜〜〜ンドォオオオオン

 

岩の扉に向かって中級の爆発呪文を炸裂

させた。

 

ガラガラガラ〜〜〜〜

 

岩でできた扉は派手に破壊され奥へと続く

通路が姿を見せた。

ヨシ、脱出しよう!

“ガス室”から脱出するようパーティー

全員に促す。

 

「モガ〜、しっかしホントに罠だらけ、

っていうか処刑装置だらけだな〜、オイラ

もうくたびれたぞ〜、体力もそうだけど

気持ちが・・・」

 

モガ丸が愚痴るのも致し方ない。

洞窟内の床、天井、壁・・・全てに罠の

作動スイッチが仕込まれてるかも

っていう疑心暗鬼の連続で・・・。

気が狂いそうだわ。

 

「しかし、どれもこれも全くもって残虐な

方法の処刑装置ばかり。

ヤツ・・・処刑の洞窟の役人サシーラは

死刑囚に対する慈悲、敬意といった感情

を全く持ち合わせておらぬ。

ただただ殺しを楽しむような狂った殺人鬼

だ。処刑執行人の風上にも置けぬヤツ

・・・!」

 

突然、コモゴモスが処刑の洞窟の役人

・・・サシーラって名前なの?・・・

そのサシーラをなじるような事を口に

したの。

同じ政府の魔物から見ても・・・サシーラ

とやらの残虐非道なやり口には反吐が

出るんだろうか。

うん、そりゃそうよね、当然ながらアタシ

だって・・・この洞窟に仕掛けられている

トラップ兼処刑装置・・・こんなの作るの

頭がイかれてるとしか思えないもの。

けどコモゴモスが語った今の話で・・・

なんか違和感も感じたは確か。

囚人に対して慈悲、敬意を払う・・・?

コモゴモスには囚人を尊敬するっていう

考え方が存在するんだろうか・・・?

 

この時アタシは・・・コモゴモスの言葉

の意味を理解していなかった。

いや、サシーラの残虐な人格を嫌悪する

っていう意味だとしか思い至らなかった

といったほうが正しいかしら。

この言葉の真の意味を理解するには、

もう少し時間が必要だった。

 

ガス室から脱出してからもいくつか

処刑装置に出くわした。

床一面に電磁波が流れている部屋、

切り立った一本の細い床の両側が谷底の

ように抉られ、その谷底に無数の剣が設置

されている空間など。

 

電磁波の床は、またまたトラマナで

切り抜け断崖絶壁の剣山の部屋は慎重に

歩を進めて事なきを得た。

 

やがて洞窟の最深部にようやく到達した。

そこは、この洞窟に入ってからでは

1番広い空間だった。

そこには・・・ゼンチャンとコッツを

攫った憎き役人のボス、サシーラが居て

・・・さらには・・・信じられない光景

が広がっていたのっ!!!

 

「やはり・・・ここまで辿り着いたか

義勇軍ども。予想はしていたが・・・。

しかしあれほどの数の処刑装置の罠を

突破してくるとはな。

いや、こうでなくてはっ!

さすがだぞ、義勇軍の面々っ!

ほれ、せっかく面白い余興を用意して

やったのだ。

途中で死んでしまわれたら興醒めと

いうものっ!」

 

「あ、ぐ・・・グググ・・・!

オ、オリオリ様・・・リザ殿・・・!!」

 

「オリオリちゃんっ!!!

た、助けてっ!!

コッツちゃん、もう限界よぉっ!!!」

 

「はーっはっはっは!愉快、実に愉快っ!

実にいい声を出すじゃないかっ!

ええっ?ゼンチャンっ!

それに義勇軍の女戦士よぉっ!!」

 

なんとっ!!

ゼ、ゼンチャンがギ、ギロチン台に

かけられているっ!

そしてギロチン刃はっ!!

つっかえを外されて、1本の鎖のみで

なんとか空中で留まっているっ!

そ、その鎖の先を視線で追うとっ!

コッツがっ!!

コッツの手にグルグル巻きにされていたっ!

つまりゼンチャンの首が飛ぶかどうかは

コッツ自身に委ねられているっ!!!

 

な、なんという残虐非道な仕打ちっ!!

これまでたくさんの政府の卑劣な魔物と

出会ってきたけれどもっ!

こんなに酷い事をするヤツは見たことが

ないっ!!!

お、おのれ・・・ゲスが〜〜〜!!!!

 

「クックック、このギロチン台は俺様

自らが考案し作らせた特別製でなぁ、

巨大な魔物の首でもあっさり切断できる

シロモノさ。

それぐらいに強力って事はよぉ、ギロチン刃

も相当な大きさ重さってワケよぉ。

この義勇軍の女戦士が一体どれぐらいの

時間、このままの態勢でいられるか、

どれぐらいキツイ状態かってのは容易に

想像できるよなぁ??」

 

た、確かに!

ゼンチャンがかけられているギロチン台は

人間を“設置”するにはサイズが大きすぎ

だと思われる。

ゼンチャンの上方で、その首を今にも

落とさんと構えている刃も異常なほどに

大きい。

あ、あんなモノを!

そのか細い腕で引っ張らされているコッツ。

その肉体的苦痛と、自分がゼンチャンの

命を握らされているという恐怖、重圧。

とても耐えられないものに違いないっ!

 

な、なんという卑劣極まりない所業っ!

自らゼンチャンの処刑を行うといいながら

自らの手は汚さずアタシの仲間の手を

汚させようという・・・!

 

バチィッバチィ!!

 

「あうぅっ!!」

 

「カーッカッカッカッ!

ほれ、手を離すんじゃないぞぉ!!

お前らが助けようとしているゼンチャン、

その首をお前が吹っ飛ばしてしまうん

だぞぉっ!?えぇっ!?

ほれぇっ!!しっかり握ってろよぉ!?」

 

バチィッバチィッ!!!

 

「ギャッ!!」

 

「ヒエェェッ!!コッツちゃんっ!!

ご、ごめんねぇワタシのせいでぇ!

け、けど、頑張ってぇっ!!!」

 

な、なんと役人のボス、サシーラは

あろうことか必死で鎖を引っ張っている

コッツの腕を手に持ったムチで何度も

鞭打ったのっ!!

あれではっ!

もう今にもコッツは苦痛に耐えきれず

鎖を手放してしまうっ!!

グギギギ、なんと卑劣なっ!!!

こんな卑怯な魔物は見た事がないっ!

アタシは怒りに震えとっさに杖を構えた!

 

「おっとぉっ!動くなよ?

妙な事や俺を攻撃しようもんなら

即刻コイツの首をはねちまうからな!?」

 

処刑の洞窟の役人はそう言うともう片方の

手に持った巨大な斧の刃をゼンチャンの

首元にあてがった。

刃の大きさはギロチン刃と同じぐらいの

巨大さだった。

 

「ヒッ!!

た、助けて〜〜〜!!!

こ、殺さないでーーーーー!!!」

 

「ハーッハッハッハッ!

いい声で鳴くじゃないかぁ、えぇ!?

ゼンチャンよぉ〜。」

 

クッ!

人質の命を盾にされては・・・!

アタシ達にはなす術がないっ!

 

「まぁそういうワケだ、ほれ、武器を床に

置きなっ!

貴様ら義勇軍はそこで指を咥えて見物する

しかないって事さ!

“公開処刑”の見物人になるしかな〜っ!」

 

「リ、リザ姉・・・。」

 

「姉ちゃん・・・。」

 

ジョギーとレイファンがチラとアタシを

見やる。

アタシは小さい頷きを2人に返し杖を前方

の床に置いた。

 

コト

コト

 

弟達もアタシに倣い武器を床に置く。

 

「ヘッヘッヘ、よぉしお利口さんだな。

あ、いや、どのみちゼンチャンの首が

飛ぶのは時間の問題。

お前らは無抵抗なままコイツが死ぬのを

黙ってみているだけ。

何も得るものがない。

ただただゼンチャンの首が飛ぶだけだ。

俺だったらゼンチャンを犠牲にしてでも

敵と戦うがな。

ゆえにお利口さんとは言い難いな〜

とんだ間抜けばかり揃ってるってワケだ、

ハッハッハッハ!」

 

くっ!確かにっ!

このままでは敵を倒すことも出来ず、

コッツの体力が尽きてゼンチャンが

殺されるのを待つだけ。

かと言ってヤツを攻撃すればたちまち

ゼンチャンの首は刎ねられてしまう。

ど、どうすれば・・・!

 

「へへ、さぁ後はこの女が力尽き鎖を

離すのを待つだけ。

それまで時間がある、俺が面白い話を

してやろう。

今、たった今、貴様らは“公開処刑”を

用意したこの俺を残虐な魔物、だとでも

思っているだろう?

しかし公開処刑ってなぁ、その昔、宇宙王

の時代ではよく行われていた出来事だった

んだぜぇ?」

 

む?な、なんだ?

なんの話をしようとしている?

 

「街の広場にギロチン台が置かれ、罪びとは

そこで処刑される。

広場には大勢の見物人が溢れかえっていた

そうだ。皆余興として公開処刑を楽しんだ

って話だ。

興味本位、蔑み、被害者遺族の怒りや仇感情

など、それはそれは様々な思惑が渦巻く

空間の中で罪びとは首を刎ねられる。

どうだい、お前ら人間も相当残虐な歴史を

持ってると思わねえか?」

 

な、なんと・・・我々人間にもそのような

暗い歴史があっただなんて・・・。

そ、それは本当の事なんだろうか?

オリオリ・・・コイツの言ったことは

でまかせではないの?

書から現れた宇宙王の末裔の女性は

・・・重い表情と声で答える。

 

「・・・私も話でしか聞いたことは

ありませんが・・・確かにそのような

出来事が過去の宇宙王時代にあったとは

聞いています・・・。」

 

オリオリはものすごく暗い表情で・・・

しかし魔物が口にした過去の事実を

肯定した・・・。

 

ま、まさか本当だったなんて・・・。

平和だったっていう宇宙王の時代に・・・

しかも人間がそんな残酷な事をやって

いたなんて・・・。

 

「初代宇宙王の時代・・・その創成期は

・・・未だ各地で反乱勢力による戦火の

灯火が燻っていたといいます。

不安定な情勢だったのでしょう。

王は反対勢力への抑制効果として敵方の

捕虜を厳しく処断されたそうです。

それが平和で安定した社会を早く到来

させるための手段だと考えた、と私は

伝え聞いております。」

 

・・・つまり・・・平和な世の中を

もたらす為に多少の犠牲は厭わなかった

というワケか・・・なんだか子孫である

オリオリの理念とはかけ離れた思想ね

・・・しかしアタシには当時の情勢や

状況はわからない・・・それをしなければ

いけないほど当時の世は荒れすさんだもの

だったのかもしれないわ・・・今アタシ達

が軽々しく初代宇宙王を非難するのは

愚かしい事なのかもしれない・・・。

きっとオリオリもそう考えているからこそ

の・・・この暗い表情なのかも。

 

「宇宙政府の処刑の役人、名はなんと

言いましたか?」

 

「あぁ!?

あぁ、そう言えばまだ名乗りを上げて

なかったなぁ。

俺様はボォフゥ大陸の囚人収容施設及び

処刑場を管轄する担当官サシーラだ。

しかし、俺様の名を知ったところで

貴様らには意味のない事だ・・・

ゼンチャンの処刑が済んだらすぐさま

貴様ら全員、俺様が直に処刑してやるから

なぁ、ハッハッハッハっ!」

 

「・・・サシーラとやら、確かに貴方の

申す通り、過去の時代には人間の社会

にも公開処刑という悲しい出来事が存在

していました。

しかし、それは必要悪だったのです・・・

致しかたのなかった事だったと・・・

私は思うようにしています。

しかしながら貴方は・・・!

明らかに処刑そのものを楽しんでいるっ!

この洞窟内に仕掛けられた数々の処刑装置

・・・どれもこれも残虐極まりないもの

ばかりですっ!

死刑囚が受ける苦痛は想像を絶するもの

ばかりでしょうっ!

少なくとも我が祖先、宇宙王が課した

処刑方法は死刑囚の苦痛が最も少ない

ギロチンのみだったと伝え聞いています

っ!

王に必要だったのは反体勢力者達の死

という事実のみで、いかに苦しませながら

殺すか、という内容は必要としていません

でしたっ!

貴方のような狂った殺人者と同列に

語られる事は私は許す事はできませんっ!」

 

「ハンッ!

御託を並べたところで囚人を殺した事に

変わらねぇさっ!

お前もその大量殺人者の血を引いてるっ!

俺様と何も変わりはないぜっ!

まぁ最もっ!

先祖が犯した粛清と言う名の大量殺人の

業・・・やがてはその子孫に跳ね返って

来たワケだがなぁ!」

 

ピクッ!

 

オリオリと役人サシーラとの応酬、

アタシには凄まじい内容過ぎて・・・

ただただ聞き入る事しかできない・・・。

初代宇宙王時代の創成期の・・・生々しい

実情が明らかにされていく!

 

そんな中、サシーラの、「先祖の所業が

子孫に返ってくる」という言葉を聞いた

瞬間、オリオリの体が一瞬強張った。

いえ、オリオリだけじゃない、後方に

控えているコモゴモスの体も・・・

一瞬震えたようにアタシは感じた。

しかしアタシはサシーラの次の言葉に

意識を奪われていて、なぜコモゴモス

までもが体を強張らせたのか、という

疑問を感じなかったの。

 

「・・・そうですね、貴方の言う通りかも

しれません・・・初代宇宙王が敵対勢力の

粛清を選択した事の罪深さを・・・子孫で

ある私の両親が償う事になったのかも

しれません・・・!」

 

「オホッ!

なかなか殊勝じゃねえか、事の道理を

弁えてるってワケだなっ!?

俺ぁ、今でも脳裏に焼き付いてるゼェ、

宇宙王の末裔であるお前の両親が・・・

惨めにも一般人になりすまし宇宙政府に

潜り込み、政府の執行部の恐怖政治を

変えようなどと愚かな試みを進めた

ものの正体がバレて呆気なく処刑され

ちまった時の光景がなぁっ!」

 

オリオリの体は誰の目にも明らかな程に

震えだしたっ!

ご、ご両親の最期の場面がサシーラから

語られようとしている・・・。

オリオリが最も聞きたくない、思い出し

たくない出来事だっ!

 

「多くの反対勢力者達を公開処刑で葬った

宇宙王っ!その末裔がっ!

今度は宇宙政府の構成員で溢れかえった

広場で公開処刑されるっ!

それはそれは見物者達全員の歓声で

地鳴りが起こりそうだったぜぇ!

全員が「ザマァっ!」って叫んでいた。

俺もその中の1人だった。

お前の両親は観念したのか、恐怖で震え

上がっていたのか、微動だにせずに

ただただ首が吹っ飛ばされる瞬間を

迎えたってワケよ!

俺様はあの光景が忘れられず処刑執行人に

なりてぇと思ったワケよ。

そうすりゃ、あの興奮をいつでも味わえる

ワケだからよぉ、へ〜ッヘッヘッヘっ!!」

 

な、なんと・・・なんという・・・

何に思いを馳せればいいのか・・・

あまりにも沢山の衝撃の事実・・・

しかしオリオリにとっては・・・悲しみ

と怒りと屈辱でしかない事実・・・。

ご両親が処刑された悲しみは当然の事、

あろうことかこのゲス役人はオリオリや

ご両親、果ては初代宇宙王までも・・・

宇宙王一族全てを侮辱するような語り口

でオリオリに伝えてしまった。

それへの怒り・・・オリオリの心中は

アタシなぞでは計り知れないぐらいに

悲しみと怒りで溢れている事だろう・・・

オ、オリオリ・・・だ、大丈夫かしら

・・・。

 

「・・・!!!」

 

オリオリは下を向いているっ!

体を激しく震わせながらっ!

 

「はぁはぁっ!!

サ、サシーラ・・・!

先程も申し上げた通り、私の両親は・・・

初代宇宙王の業をその身で償ったのです

・・・因果応報とは正にこの事っ!

しかしひとつ、これだけは違うと言える

事があります・・・!

私の両親は・・・死のその瞬間までっ!

恐怖に震えていたワケではないとっ!

ただ、無念であったとっ!そう思います。

初代宇宙王の業はいずれ子孫に返ってくる、

それは私達宇宙王一族の共通した認識、

覚悟でもありました、故に処刑される事に

一片の恐怖も抱く事はなかったと、私は

信じていますっ!!

ただっ!刑を科す者がっ!

宇宙を平和に治めようとする組織で

あればっ!

その組織に取って我々宇宙王一族が

邪魔であるのであればっ!

喜んで処刑台に上がったことでしょうっ!

自分達の役目は終わったんだと・・・

受け容れる事ができたでしょうっ!

しかし刑を科す者が宇宙政府のような

邪悪な組織であった事が・・・そのような

者らに屈する事に・・・無念を感じていた

であろうとは思います。」

 

なっ、なんというっ!

凄まじい一族なのかっ・・・!

この・・・華奢な体のどこにこれほどの

覚悟を潜ませているんだろうっ!?

 

オリオリは・・・宇宙王一族は・・・

アタシでは想像もできないぐらいの

覚悟を持って・・・生きているのかっ!?

 

ご両親の最期の場面を・・・屈辱的に

語られながらっ!

この麗しき宇宙王の末裔はっ!

私情を一切挟まずにっ!

己の定められた運命と覚悟だけを口に

したっ!

 

「オッオリオリ殿ォォォッ!!!」

 

っ!?

後方に控えていたコモゴモスが突然

オリオリの名を叫び、その場に

崩れ落ちたのっ!

 

「えっ!?

コッコモゴモスさんっ!?

ど、どうしましたっ!?」

 

オリオリは驚きコモゴモスに視線を送る。

アタシもビックリして同じように彼の方を

向いた。

コモゴモスは膝をつき体を激しく震わせて

いた。

そしてなんとっ!

目から涙を溢れさせていたっ!!

 

「あ、あぁ・・・な、なんとご立派な

・・・!

お、お強くっ!

そしてご立派な方に成長なされたっ!

い、一族としてのお覚悟を正統に受け

継がれている・・・そして何よりっ!

他の何物とも比べるべくもない、真の正義

を心にお持ちになられているっ!

今のそのお姿をっ!

ご両親にお見せしたかったっ!

さればご両親、無念など抱かずに天へ

召された事でしょうにっ!!」

 

「っ!?

コモゴモスさん・・・貴方・・・やはり

・・・私の両親と面識があったのでは

ないですか?」

 

た、確かにっ!

コモゴモスの様子、只事ではない。

オリオリのご両親の無念・・・少なくとも

それを知っている者の言いようだわ。

 

「ワ、ワシは・・・いえ、ワタクシめは

・・・あ、貴方様の・・・っ!」

 

「!?」

 

「あ、貴方様の・・・!

お父上とお母上の・・・く、首を刎ねた

張本人にございます・・・っ!!!」

 

ギリギリギリ

 

ゼンチャンの首を落とさんと宙に浮く

ギロチン刃を鎖で引っ張らされている

コッツの手に巻かれた・・・その鎖の

軋む音が洞窟内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\

・コモゴモス
宇宙政府の役人。監獄の砦の責任者。
アタシ達と戦い敗れるも、本心ではゼンチャンの
処刑に反対していたので砦を通してくれた。
冤罪に近い罪で人々を逮捕する政府の方針に
常々嫌気がさしているという、宇宙政府に
ありながらも心ある魔物。

・サシーラ
ボォフゥ大陸の宇宙政府の牢獄、処刑場などの
施設を統括する役人。
コモゴモスら一般の役人のボス。
残虐な性格。
死刑囚を残酷な方法で処刑する事に
快感を覚える狂った殺人者。
その残虐さは、ゼンチャンの公開処刑を
コッツに執行させようとするなどの
行為にも表れている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード10.「想いの伝承」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



ギリギリと・・・ゼンチャンの命を正に

繋ぎ留めている鎖の音でアタシはハッと

思い出したの。

今にもコッツの気力と体力が事切れ、

ゼンチャンの首が刎ねられようとしている

事態を。

 

これほどの一大事なのに・・・それを

失念してしまうほどの衝撃告白を

紫色の役人コモゴモスが始めようと

していた。

 

「い、今・・・なんと・・・仰いました

か・・・?」

 

宇宙王の書の中の女性が消え入るような

声で紫色の役人に問いかけた。

 

「・・・貴方様・・・宇宙王の末裔にして

義勇軍総司令官オリオリ様の・・・ご、

ご両親がかけられたギロチン台にて・・・

刑をしっ・・・執行した・・・処刑執行人

・・・そ、それはワタクシ・・・も、

元・宇宙政府処刑執行人コモゴモスで

ございますっ!!!」

 

っ!!!!!

 

「なっなんとっ!!

あ、貴方が私のりょ・・・」

 

「なんだってぇぇぇっ!!??」

 

オリオリが驚愕の声を漏らそうとした刹那

その声をかき消すように処刑の洞窟の

役人サシーラが・・・更なる大きな声で

叫んだの。

ただし・・・オリオリのそれが悲しみと

・・・戸惑いの色が混ざり合ったもので

あるのに対してサシーラのそれは

狂喜と羨望の色を帯びているという違い

があったけれど。

 

「コモゴモスっ!!

テメェがあの時の執行人本人だってのか

っ!?

ほぇぇコイツは驚いたぜっ!

まさか俺様が憧れた執行人がお前だった

とはなぁっ!!」

 

「くっ!き、きっさま〜〜〜!」

 

事が急展開すぎるっ!

あ、アタシの思考はまるで目の前の

出来事に追いつかないっ!!

当然、感情もっ!

誰に何をどう思えばいいのかっ!

 

しかしコモゴモスはっ!

明らかにサシーラを嫌悪しているっ!

それだけは理解できたっ!!

 

「それでっ?それでそれでっ??

死ぬ瞬間の宇宙王の末裔達の様子はっ?

どんなだったんだよぉ!?

1番近くで見てたんだろぉ?

聞かせろやっ!

今さっき、この小娘が言ってたのは

こいつら一族の強がりなんだろぉ??

ホントはビビリまくって震え上がって

ションベンちびりそうだったんだろぉ?

あ、いや、ちびってたのかっ?

ギャーッハッハッハっ!!!」

 

「黙れっ!

この恥さらしがっ!!!」

 

「あ?んだとぉ!?

誰が恥さらしだってぇ??」

 

サシーラの醜い下劣な言葉をコモゴモス

は鬼の形相と返事で遮った。

 

「貴様のような処刑執行人の風上にも

置けんやつは黙っておれっ!」

 

「んだとぉっ!!

貴様、上官に向かって吐く言葉じゃ

ねぇなぁ、いくら元・執行人だからって

よぉ、今は俺様は上官だ、ナメた口

聞いてるとよぉ〜貴様からぶっ殺す

ぜぇ?」

 

サシーラとコモゴモス・・・現役の処刑

執行人と元執行人とのやり合いが続く中、

ふとオリオリがアタシに視線を送ってきた。

何やら目配せをして合図を送ってくる。

 

オリオリの視線はまずアタシが床に置いた

杖を捉え、次にギロチン台にかけられた

ゼンチャンと側で鎖を握らされている

コッツに送られた。

 

・・・!

オリオリッ!!!

貴方という人はっ!!!

こ、こんな大事な話が語られようって

時にっ!

 

サシーラは・・・コモゴモスが元執行人

だと知った事で明らかにコモゴモスとの

会話に意識を奪われているっ!

ゼンチャン達を助けるなら今しかないと

言わんばかりにオリオリはアタシに

目配せをして来たのだっ!

 

リーダーとしてのその冷静さぶりに

アタシは心の中で脱帽するしかなかった!

そうね、ゼンチャン達を助けるのは

今しかないっ!

コモゴモスから事情を聞くのは救出が

終わってからでも遅くはないっ!

そう言いたいのね、オリオリッ!

 

しかしどうやって助けるかっ!?

アタシは長くない時間で救出の手立てを

考えるっ!

 

あの・・・ギロチンの刃さえどうにか

すれば・・・とりあえずギロチン刃で

ゼンチャンが殺される事はなくなる・・・

結果コッツの精神と体も解放される!

 

後はサシーラさえ押さえればっ!

アタシの作戦は決まったっ!

いつサシーラの意識がゼンチャン達に

向くかもしれないっ!

考えてる暇はないっすぐさま実行っ!!

 

「氷の精霊よ、我に力をっ!

ヒャダルコォォォッ!!」

 

ビキビキビキビキィィィィイイ

 

アタシは右手を床に拡げ中級のヒャド系呪文

を詠唱したっ!

右手の少し先の床面からギロチン台に向かっ

て氷の塊が発生しながら走って行く!

中級程度の呪文なら杖なしでも扱えるっ!

 

みるみるうちに氷の帯はギロチン台に届き

台の向かって右側だけを凍らせながら

刃の部分に到達しギロチン刃を氷で

包んだっ!

 

「なっ!なんだとぉ!?

ギ、ギロチン刃が凍ったっ!?

しかもゼンチャンだけを避けて凍るだ

なんてっ!?

きっ!貴様っ!!妙なマネすっと

ゼンチャンの命はないって・・・」

 

ザクリッ!

 

サシーラは異変に気付いて手にした斧を

ゼンチャンの首目掛けて振り下ろそうと

した。

けど、それは叶わなかった。

その頃にはジョギーが跳躍し床の剣を

拾いつつ、さらに低く跳躍しサシーラを

剣で突き刺す間合いまで詰めて・・・

サシーラの首から剣が生えていたの。

ジョギーの剣先から緑色の体液が滴る。

 

奇襲。

一瞬の出来事。

阿吽の呼吸。

 

アタシも床の杖を手に取りゆっくりと

サシーラに近づいて行く。

 

「コッツ・・・もう大丈夫・・・。

よく頑張ったわね。

手を離しても大丈夫だよ。」

 

「リッリザ殿・・・!

さ、さすがです・・・きっきっと・・・!

助けてくれると・・・!」

 

「ん・・・ホント・・・よく頑張った!

レイファン、コッツの鎖を外してやって、

それからゼンチャンも解放して。」

 

「了解っ!」

 

妹に人質として踏ん張った2人を解放

するよう指示を出す。

そしてアタシは・・・もう事切れようと

しているサシーラに向き直った。

あとでジョギーが言うには鬼の形相を

していたらしいわ、アタシ・・・。

 

「あうっあうっ・・・あうぅぅぅ・・・!」

 

急所を剣で突き刺されながらもサシーラは

まだ息があった。

しかし喉に剣が突き刺さっているので

声にならない声しか出せないようだった。

 

「サシーラ・・・痛いでしょう?

今楽にしてあげる・・・。」

 

アタシはとても優しい声でサシーラに

話しかけた・・・のは、ほんの一瞬っ!

瞬時に鬼に変わったっ!!

 

「お前のようなゲスは・・・地獄すら

生ぬるいっ!!

魂さえも蒸発して残らないよう、アタシ

が刑を執行してやるっ!!」

 

「・・・・っっっ!!!っっっ!!!!」

 

ズサッ

ブシャアアアアアッ!!!

 

ジョギーが剣を抜いて後方に下がる。

”栓“を外されたサシーラの傷口から

一気に緑色の噴水が溢れ出た!

 

アタシはそれを幾許か浴びてしまったけど

それ以上浴びたくなかったのでサシーラの

土手っ腹に蹴りを入れて”噴水の元“を

自分から遠ざけた。

そして火球の超級呪文を詠唱する。

 

「炎の精霊グァモン・カリクティスよ、

紅蓮の炎でっ!我が敵を灰燼と化すまで

焼き尽くせっ!メラガイアー!!」

 

杖の先端から火の玉が発生しみるみる

巨大化し大火球となったっ!

アタシのサシーラへの怒りの分だけ

大きくなり、その大きさはアタシでも

見たことのないものだった。

 

ゴォォォォォオオオオオオ

ドガァァァァァァァァァァァァァアアアアア

 

大火球はサシーラに炸裂し洞窟内を激しく

紅い光で照らしたっ!

そのあまりの威力の高さに、熱風が発生し

アタシ自身も・・・仲間達も火傷を負うほど

だった。

そして洞窟内の壁や天井をも破壊して

しまったっ!

洞窟内に激しい揺れが起こるっ!!

 

やがて炎は収束し無残に破壊された壁や

天井が露わになる。

火球が炸裂した辺りは真っ黒になり

ブスブスと煙が立ち上がっていた。

 

サシーラの死体は・・・残っていなかった。

本当に蒸発してしまったらしい。

それほど威力が高い・・・それほどに

アタシのヤツへの怒りが大きかったん

だろう。

 

「アチッアチチチチ〜〜〜っ!

リッリザっ!

や、やりすぎだぞっ!

オイラ達まで火傷しちまったぞっ!

どんだけお前の魔法は強力なんだぁっ!?」

 

「はっ!

ごっごめーんっ!!!

みんな大丈夫っ?って大丈夫じゃないかっ!

いっ急いで火傷の手当てをっ!!」

 

モガ丸の声でアタシの意識は現実に戻り、

アタシの攻撃で味方にもダメージを

負わせてしまった事に気が付いた。

急ぎ回復呪文を施したわ。

 

「もう、姉ちゃん危なかったよぉ、

私がゼンチャンをギロチン台から解放した

後だったからよかったものの解放する前に

あんな強烈な炎の呪文使ってたらせっかく

凍らせたギロチンが溶けちゃってゼンチャン

死んじゃうじゃないのぉっ!」

 

なぁっ!

そっそう言われればっ!

それはその通りだわっ!!

ヒェえええ〜アタシがゼンチャンを殺して

しまうところだった・・・。

全く・・・・ダメねぇアタシ、怒りで我を

忘れるととんでもないミスを犯しそうに

なっちゃう・・・これは大反省だわ(;o;)

 

ゴ、ゴゴゴ、ゴゴゴゴゴォォォ

 

と、その時、メラガイアーの余波で

揺れていた洞窟の揺れがさらに激しさを

増したの。

や、ヤバイっ!

こ、これは洞窟が崩れるっ!?

 

「いっいけませんねっコレはっ!

今にも洞窟が崩れそうですっ!

急いで脱出しなければっ!!」

 

オリオリが叫ぶっ!

 

「モガッ!

みんなオイラに掴まれっ!!」

 

「ピピィッ!?」

 

「オイラはルーラの応用で『リレミト』って

呪文も使えるんだっ!

洞窟とか、ダンジョンから抜け出すって

いう短い距離限定の移動呪文だっ!

さぁ、早くっ!!」

 

モッモガ丸っ!!

考えてる暇はないっ!

全員急いでモガ丸を中心に手を繋ぎ

円陣を組んだっ!

体力の消耗が激しいコッツにはレイファンが

肩を貸しているっ!

 

と、ふと視界の端に紫色の何かが映った。

 

「コモゴモスさんっ!!

どうしたのですっ!早くコチラへっ!!」

 

なんとコモゴモスだけが一歩も動かず、

円陣に加わっていなかったの!

 

「わ、ワシは・・・オリオリ様にとって

・・・憎き親の仇・・・。

貴方のような立派な宇宙王のご両親の

命を・・・この手で奪ってしまった者

・・・これ以上貴方と顔を合わせる事が

できませぬ・・・ここで死んで詫びたく

思います・・・!

オリオリ様・・・どうかご無事でっ!

早く行かれよっ!!」

 

コモゴモスはっ!

崩れる洞窟と運命を共にしようと言うっ!

 

「かつてはっ!

何百人、何千人という人間、魔物を

処刑してきたのだっワシはっ!

そのような死神のワシには此処は相応しい

死に場所と心得るっ!

後生だっ!

ワシに対して一片でも情けを感じるの

ならっ!此処で死なせてくれっ!!

頼むっ!!」

 

「なりませんっ!!!」

 

オリオリがコモゴモスに叫ぶっ!

 

「コモゴモスさんっ!

事情や経緯は存じませんがっ!

貴方が執行人を今は辞しているのはっ!

もうこれ以上命を奪う行為を行いたくない

と思ったからではありませんかっ!?

であるならばっ!

貴方は貴方の命を奪ってはなりませんっ!

自ら命を絶つ事、これも立派な殺人です、

もうこれ以上貴方はっ!

殺しをしないと自分に誓ったのでは

ありませんかっ!?

それは貴方自身の命も含まれているの

ですっ!!」

 

「オッオリオリ様〜〜〜・・・!」

 

「それに貴方はっ!

私に何か伝えたい事があるのでは

ありませんかっ!?

何か貴方の思いのようなものをっ!

でなければ、わざわざ私達に正体を明かす

事はなかったはずですっ!!

私はまだっ!

貴方の思いを何も受け取っていませんっ!

生きてそれを伝えてくださいっ!

お願いしますっ!!!」

 

「グッ!

グググ〜〜〜!!

オリオリ様〜〜〜貴方様という方はぁ

〜〜〜貴方様のご慈悲のなんとむごい事

〜〜〜っ!」

 

コモゴモスの決心はっ!

オリオリの必死の説得で揺らいでるっ!

しかし、もう時間がないっ!!!

 

「リザ姉っ!

ダメだっもう崩れるっ!」

 

「みんなっ!

アタシ達が動けばいいんだっ!

全員コモゴモスの方へっ!!!

早くっ!崩れるっ!!」

 

円陣を組んでいるアタシ達が手を繋ぎ

ながらもコモゴモスの元へ駆け寄るっ!

レイファンに抱きかかえられたコッツも

懸命に走るっ!

1番早くコモゴモスの元へたどり着いた

アタシが彼の腕を掴んだっ!!

 

「よし、全員掴まったなっ!!

リレミトォォォっ!!!」

 

ビュウウウンビュウウウン

 

モガ丸が呪文を唱えた瞬間、アタシ達は

時空の歪みの中に溶け込み、意識も

飛ばされてしまったっ!

その直後・・・おぞましい数々の処刑装置

の巣窟である忌まわしい処刑の洞窟が

完全に崩壊したの。

 

「・・・ザァ・・・・ザァッ!!・・・

リザァ・・・リザーーーーーッ!・・・

リザーーーーーーーッ!!!」

 

ハッ!

モガ丸がアタシを呼ぶ声で・・・

アタシは目を覚ました。

 

「よかったぁリザ・・・リレミトの

衝撃で気を失ってたみたいだな。

・・・大丈夫か?気分は・・・?」

 

あ、あぁモガ丸・・・そっか、アタシ達、

アナタのリレミトで洞窟から・・・

脱出できたのね・・・?

すごいじゃんモガ丸、ルーラだけじゃ

なくてこんな呪文も使えたんだね、

見直したわ!

 

「えっへんっ!

リザに褒められるとオイラ照れるぞっ!

ってかリザ〜〜〜お前の呪文の威力の

高さも考えモンだなぁ、洞窟ひとつ

まるごと壊しちゃうなんてなっ!」

 

う、うぅぅぅ、確かにっ!

今回は完全にアタシのミスの連発で

皆を危険な目に合わせてしまったし、

傷も負わせてしまった。

もっと状況と時と場合を考えて行動

しなきゃ・・・冒険王として失格だわ

・・・。

 

「でもリザさんが居なければ・・・

私達はコッツとゼンチャンのもとまで

たどり着く事すら叶わなかったでしょう、

それに救出する事もっ!」

 

「そうですっ!

私はきっとリザ殿が助けてくれるって

信じてましたからっ!

だから鎖を手放さずに頑張れたんですっ!」

 

あぁう〜む、そ、そうかなぁ?

けど本当に賢い冒険王なら・・・もっと

安全にスマートに事態を好転させられると

思うんだけど・・・。

 

「違うだろ、だから俺たち3人で冒険王

なんだろ、なぁレイファン?」

 

「そうそう、私たち足りない部分を補い

合いながら1人前なんだって、きっと

オジィちゃんもそう思って私達を冒険王

って認めてくれたんだよ。」

 

「まぁ、リザ姉の暴走を止められるのは

オレとレイファンだけだって事。」

 

「アハハハハ、そうかもな、さすが

お前らは3人で1人の冒険王だなっ!」

 

仲間達全員が・・・ミスを犯し続けた

アタシをフォローしてくれた・・・。

どれだけ・・・アタシは心が救われた

だろうか・・・!

けど、アタシはそれに甘えちゃいけない。

仮にもアタシは冒険王。

そして姉弟の長子だ、いわゆる冒険王姉弟

のリーダーだ。

いついかなる時も判断を間違えては

ならないっ!

一歩間違えれば、とんでもない・・・

取り返しのつかない事態を招いてしまう

かもしれないんだ。

 

アタシは・・・そもそもの・・・

ベェルの町で監視員の魔物を1体逃した

事に始まる一連の判断ミスを己の糧と

する事を声には出さず心に誓った!

 

「アナタ達・・・助けてくれて・・・

ありがとうっ!

ワタシ、こんなだけど・・・コッツちゃん

がワタシのせいでヒドイ目に遭わされて

ホントにつらかった・・・。

けどハッキリ言って、ワタシも死にたく

なかったし・・・もう神様に祈るしか

なかったわ・・・そしたらアナタ達が

現れて・・・助けてくれた・・・

あぁ神様はホントにいるんだぁって

思ったわ。」

 

「ゼンチャンさん、ご無事で何よりです。

しかし神様は・・・本当にいらっしゃる

のかどうかはわかりませんが・・・

ブルリア星の冒険王、強くて決して

諦めない者は今我々の目に前に実際に

居てくれていますっ!

貴方を救い出したのは神様ではなく、

この強き冒険王さん達なのです!」

 

「あぁ、そうだったわね・・・ブルリア星

の冒険王・・・代替わりをしたとはワタシ

も知っていたけど・・・こんな可愛くて

イケメンなコ達だったなんてね〜・・・

さすがのワタシも知らなかったわ。」

 

オリオリとゼンチャンがアタシ達を讃えて

くれる・・・。

いやぁ、なんだかこそばゆいわ(^_^;)

 

「ま、それでも麗しいワタシには叶わない

けど・・・ホホホ。」

 

と思ったら(o_o)

ゼンチャン節健在だわ。

ま、色々な危機が去ったという事かʅ(◞‿◟)ʃ

 

と。

皆の無事を喜ぶのはこれぐらいにして。

コモゴモス・・・宇宙政府の元処刑執行人

だという彼の話を聞かなくては!

 

「・・・オリオリ様・・・ワシ・・・

いや・・・ご両親の憎き仇であるワタクシ

めをどうしてお救いになられたのか・・・

貴方様のご両親だけではないっ!

ワタクシめはっ!

数多くの囚人をこの手で葬ってきた男に

ございますっ!

オリオリ様達、宇宙王一族のお覚悟に

照らし合わせるならばっ!

ワタクシはワタクシ自身の業を償わねば

ならんという事っ!

あの場で死ぬ事が償いでございました

のにっ・・・!!」

 

「・・・確かにアナタは・・・執行人と

いう役目のもと、数多くの者の命を

奪ってきたのでしょう。

しかし、それは役目に過ぎません。

処刑という判決を下すのはアナタでは

ないはず。

上層部の命令のもと、貴方は役目を

果たし続けたに過ぎない・・・と私は

推測します、違いますか?」

 

「・・・そっそれは・・・!

たっ確かにそうでございますが・・・。」

 

「貴方は我々と初めて出会った時から

その優しい心を滲ませていました。

イバラの町でゼンチャン救出にお力添えを

くださったのも然り。

生来の気質であるのか、はたまた執行人

という役目を果たし続けた末に、

そのような心をお持ちになったのかは

わかりませんが。」

 

「・・・ワタクシが執行人を勤めるよう

になってからの死刑囚は・・・

そのほとんどが冤罪に近い罪でギロチン台

に送られてくる者でした。

政府の愚痴を零したり、政府からの理不尽

な徴収に少しばかり抵抗してしまったりと

死をもって償わねばならないほどの罪では

ないと・・・ワタクシは思いながらも

役目を果たし続けました。

そんな者達の首を刎ね続けるうち、政府の

統治に疑問を抱くようになったのです。」

 

一同皆、固唾を飲んでコモゴモスの

話す内容を聞いていた。

 

「しかし、いつ頃からか政府執行部は

・・・囚人の死刑をあまり行わなく

なりました・・・囚人達を殺すのでは

なく・・・労働力として確保するほうが

自分達の富を維持する事ができる・・・

そう方針転換したのでしょう・・・

全くもって身勝手な話ですっ!

今まで理不尽に処刑されてきた冤罪の

囚人達は何の為に死んでいったのか・・・

ワタクシは執行人を続ける事に嫌気がさし

辞意を固めつつありました。

そんな時期です・・・オリオリ様のご両親

が処刑台に送られてきたのはっ!」

 

コモゴモスの独白は熱を帯び、さらに

続けられるっ!

 

「ワタクシは・・・長く執行人を続けて

おりましたが・・・あのような誇り高い

面持ちでギロチン台に上がった者を

見た事がありませぬっ!

オリオリ様っ!貴方様のご両親は・・・

それはそれはご立派に刑を受けられた

のです・・・!

しかし唯ひとつの無念・・・を抱いておら

れました、それは他ならぬ貴方様の

行く末でございました。」

 

「わっ私のっ!!??」

 

「幼い子どもを持つ親としては当然の感情

でござりましょう。

貴方様を護る事ができなくなってしま

う・・・それだけを案じておられました。

そして・・・宇宙王一族に生まれたばかり

に・・・これから過酷な運命に晒されて

しまう貴方様の未来を憂えておられました

・・・ごく普通の家庭に生まれれば・・・

そのような運命を歩まなくて済んだのに

・・・と。」

 

「お、お父様・・・!お母様・・・っ!!」

 

サシーラと論戦を繰り広げていた時は

・・・一切の私情を見せず毅然としていた

オリオリ・・・しかしコモゴモスの口から

伝えられるご両親の本心に触れ、押さえ

込んでいた感情が溢れ出たのか、オリオリ

は今にも崩れ落ちそうになった。

 

「しかしこうも仰っておりました・・・

自分達が処刑される事で・・・初代宇宙王

の業は相殺される・・・負の遺産は断ち切ら

れる・・・これで娘は宇宙王一族の呪縛

から解放される・・・後は一般人の娘

として・・・女の幸せを掴むように・・・

とも願っておられました。」

 

「うぅっ!うぅぅぅ・・・!」

 

オリオリの嗚咽は加速する。

 

「貴方様の運命が良き方向に向かわれる

為ならば・・・ご自分達の命を喜んで

差し出す・・・言葉の最後には・・・

宇宙王一族の覚悟よりも・・・娘の身を

案じるただの親としての想いが込められて

おりました・・・。

ワタクシはあの方々の・・・一族としての

誇りと・・・親としての慈愛に・・・

心動かされたのでございます・・・!

そしてご両親の刑の執行を最後に・・・

執行人の職を辞しました。」

 

コモゴモスの語るご両親の想いに・・・

オリオリはしばらく動けずにいた。

口を押さえ体を震わせ、ただただ

泣いていた。

そう、まるで幼子のように。

ご両親が健在だった幼少期に・・・

今だけ戻ったようだった。

 

「・・・しかし運命は皮肉なもの・・・

貴方様はご両親の願いとは裏腹に・・・

勇猛果敢に宇宙政府と戦っている・・・

一族の無念を晴らすかのようにっ!

あるいは時代が・・・やはり宇宙王を

求めているのか・・・。

貴方様の勇ましきお姿を監獄の砦で拝見

した時・・・ワタクシは・・・許される

ならば・・・貴方様のご両親の想いを

伝えたい・・・そういう思いに駆られた

のです・・・いや、それが使命だと・・・

自分の意思とは別の何かに突き動かされる

ように・・・あの時、貴方様を追いかけた

のです・・・もちろんイバラの町の食人

薔薇の秘密もありましたが・・・ワタクシ

の前に貴方様が現れたのは、もう運命

だと・・・。」

 

そうか・・・それでコモゴモスは・・・

オリオリの事を認識し、表情を緩めたり

アタシ達パーティーに加わろうとした

のか・・・。

オリオリのご両親の想いを伝えるために。

 

オリオリは・・・しばらく動けなかった

ものの、涙を拭い、いつものように

凛とした表情を取り戻し顔を上げた!

 

「コモゴモスさん・・・お心遣い

感謝します・・・両親の最期の想い・・・

しかと受け取りました。」

 

「いえ、まこと・・・申し訳ございませぬ

っ!ワタクシは・・・臆病者っ!

政府の意に反してまで・・・ご両親を

助ける事ができませなんだっ!!

どうかその手でっ!

ワタクシに介錯をお与えくだされっ!!」

 

っ!!

コモゴモスは尚、罪の意識からっ!

オリオリから死罪を言い渡すよう

求めたっ!

 

「・・・言ったはずですよコモゴモスさん、

軽はずみにご自分の命を捨てるような事を

口にしてはならないと。

貴方は私の両親の想いを伝えてくれたのです

・・・これは・・・その最期の瞬間を見届け

た貴方しかできない事です。

もしも貴方がサシーラのような執行人で

あったなら・・・私は両親の思いを知る事は

叶わなかったでしょう。

むしろ両親の刑を執行したのが貴方で

良かったとさえ思います。感謝こそすれ、

どうして処断する事ができましょう。

そもそも私は貴方の上官ではありません、

貴方に何かしら処分を下せるはずも

ありません。

もし私に何か命令をしろというなら・・・

生きてくださいっ!」

 

「っ!!!」

 

「以前にも申し上げた通り、貴方のような

優しく忠誠心ある者が宇宙政府の中で

増える事こそが・・・やがて宇宙政府打倒

に繋がると私達は考えています。

貴方のような者を・・・私怨で葬るなど

憎しみの連鎖を生む以外のなにものでも

ない行為です、いいですね?

生きてください、それが私の両親の

願いでもあると思いますっ!」

 

「くはぁっ!!」

 

今度はコモゴモスがその場に蹲り、

崩れ落ちてしまった。

オリオリ・・・やっぱり貴女は偉大だ

・・・義勇軍のリーダーどころじゃない

・・・世が世なら貴方こそ宇宙王その人

だわ。

アタシはオリオリとコモゴモスのやり取り

から、そう思うようになっていた。

 

コモゴモスはきっと・・・オリオリのご両親

の死に様に触れ・・・死刑囚に対する敬意

・・・という概念を持つようになったん

だろう。

だから死刑囚を自らの快楽の道具のように

扱うサシーラを激しく嫌悪したのね。

 

コモゴモスによれば・・・政府執行部は

やはり囚人は捕虜として労働力として

扱う方針らしく死刑判決を下す事は

極端に減ったという。

 

己の快楽のために独断で死刑を執行する

サシーラを執行部は苦々しく思っていた

のではないか、とも推察していた。

 

ゼンチャンについては、この限りではなく

政府の重大な秘密を知った為、口封じする

為に止む無く処刑を決めたとの事。

それゆえに・・・コモゴモスの今後の

身の振り方は複雑だわね(>_<)

 

「ワタクシは・・・やはり野に下ります

・・・監獄の砦に戻れば・・・ゼンチャン

救出に手を貸した反逆罪に問われる事に

なりましょう・・・もしかすると処刑を

言い渡されるやもしれません・・・。

オリオリ様に処分されるのは本望で

ございましたが、政府に殺されるのは

納得がいきませぬっ!

下野して・・・政府による冤罪での逮捕を

減らす活動を行おうかと思います。

自分に何ができるのか、まだ具体的には

わかりませぬが・・・その信念のもと

生きていこうかと。」

 

「そうですか・・・それは良いことです、

生きる意味を持つ事は貴方の未来を

明るいものにする事でしょう。」

 

「オリオリ様、お会いできて本当に

光栄でございました。

打倒宇宙政府が叶うようワタクシも

陰ながら祈り申し上げます。

ワタクシにも何かお手伝いができるので

あればいつでも何処からでも参上いたし

ますっ!

どうかご無事でっ!」

 

「私も貴方に会えてよかった。

貴方達のような者が安心して暮らせる

社会が到来するよう、全力で頑張ります、

そういう活力をいただく事ができました。」

 

「はっ!有難きお言葉っ!」

 

監獄の砦の役人コモゴモスは・・・

実に晴れやかな表情で去っていった。

オリオリ・・・本当は心中複雑でしょうに、

けど打倒宇宙政府の為の味方をまた1人

増やす事になった。

本当に貴女には・・・宇宙王の血だけでなく

徳や人を惹きつける力が備わっている。

貴女の祖先、初代宇宙王・・・当然アタシは

お会いした事はないけれど・・・その

祖先様をも上回る素晴らしい人物だと、

アタシはオリオリの事を思うようになった。

 

さて。

やっと・・・完全に救出したゼンチャン。

やっとアナタに惑星クラウドのコアの

場所を聞ける・・・長かった〜^_^;

 

「オリオリちゃん、それにリザちゃん達、

助けてくれてありがとうっ!

麗しき乙女ゼンチャン、完全解放っ!」

 

あぁ、そうだった、こういうキャラだった

わねこの人ε-(´∀`; )

 

「ゼンチャンさん、長い拘束期間、

お辛かったでしょう、ご無事でなにより

です。

さて、私達は貴女の全知全能のお力の

噂を聞きつけて教えて欲しい事があって

会いに参りました。」

 

「モガッ!

全知全能だから何でもわかるんだろうっ?」

 

「そう、ワタシはゼンチャン、全知全能の

オンナよ!

けどゴメンなさい、今は何を聞かれても

答えられないわ。」

 

えっ!?

な、なんでっ!?

めっちゃ苦労して助けてあげたのにぃ!?

ここまで来て教えてくれないなんてっ!

 

「違うの、怒らないでリザちゃん、

アナタ可愛いのにすぐ怒るんだからっ!

ダメよ可愛いコは怒っちゃぁ!」

 

うはぁぁぁ(;´Д`A

なんかゾクゾクしちゃうっっ

寒気で・・・!

 

「全知全能のチカラを扱う為の道具が

ここにはないわ。

だから何もわからないの。

ワタシの館にそれはあるの。

今からいらっしゃい、案内するわ。

助けてくれたお礼に何でも教えて

あ げ るっ❤︎」

 

ゾクゾクゾクッ

 

やばい、めっちゃ鳥肌立ってきたΣ(゚д゚lll)

で、できたら逃げたい・・・!

サシーラなんかよりよっぽど怖いんだけど。

 

け、けどそういうワケにはいかないわね、

ようやくゼンチャンに教えてもらえる

んだから。

 

ようやく・・・完全に救出する事が

できたゼンチャン。

しかし全知全能のチカラは彼女(彼)の

館に行かないと使えないという。

 

アタシはやっぱり・・・未だにゼンチャン

のキャラに拒否反応を示してしまう

けれど(他の皆、OKなのかな?)、

一刻も早く新しい魔星王の居場所を

見つけなきゃいけない事を思い出しつつ

ゼンチャンの館に急いで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




★★★登場人物★★★
・魔道士リザ
本編の主人公、つまりアタシ。
職業は賢者。
偉大な魔道士を目指すべく
日々、冒険を通じ修行をしてるの。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスター。
得意な武器は剣。

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動に優れ、オンステージという
スキルで味方をサポートする役割が多い。

・モガ丸
モモンガ族。
おっちょこちょいで時に空気を読まない
発言が多い。けど憎めない、アタシ達の
一番の友達であり理解者。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉を話すわけじゃないけど
モガ丸だけはスラッピの話している
ことがわかるらしい。
実はスラッピが人間の言葉を話すと
関西弁だということが判明。

・オリオリ
冒険王の書に似た『宇宙王の書』という
本から現れる謎の女性。
その正体はかつて全宇宙を平和に治めていた
宇宙王の末裔。
かつ宇宙政府打倒を目指すレジスタンスグループ
『義勇軍』の総司令官。
実は既婚者だという事が判明。
これにはアタシもビックリ!

・コッツ
義勇軍3番隊の女性隊長。
宇宙政府との抗争のさなか、自分を除く3番隊の
隊員全員を政府に捕虜として奪われてしまう。
その事に深く後悔と自責の念を抱きながらも
アタシ達と共に懸命に冒険を続け、
上級執行官候補者やピエールとの戦いでは
実際に戦闘に参加するなど戦力面でも
成長を遂げる。
アタシに憧れを抱いている模様\(//∇//)\

・コモゴモス
宇宙政府の役人。監獄の砦の責任者。
アタシ達と戦い敗れるも、本心ではゼンチャンの
処刑に反対していたので砦を通してくれた。
冤罪に近い罪で人々を逮捕する政府の方針に
常々嫌気がさしているという、宇宙政府に
ありながらも心ある魔物。
しかし彼には・・・宇宙政府の元死刑執行人という
過去が存在していたの。
その職務のさなかオリオリのご両親の
処刑執行も彼が担当していた。
しかしコモゴモスはオリオリのご両親の
死に際の立派さと娘の未来を慮る想いに
心を打たれていた。
監獄の砦でオリオリと出会った事に運命
を感じ、ご両親の想いをオリオリに伝える
べくアタシ達の仲間になったの。

・サシーラ
ボォフゥ大陸の宇宙政府の牢獄、処刑場などの
施設を統括する役人。
コモゴモスら一般の役人のボス。
残虐な性格。
死刑囚を残酷な方法で処刑する事に
快感を覚える狂った殺人者。
その残虐さは、ゼンチャンの公開処刑を
コッツに執行させようとするなどの
行為にも表れている。
最期はあっさりアタシ達に倒される。

星ドラStory日誌第9章<囚われた全知全能>了


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2ndシーズン第10章[再会と決別]***惑星クラウド・ボォフゥ大陸編***
エピソード1.「抑えがたい魔力」


アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



星見るチカラ。

アタシ達冒険王姉弟に備わっている

不思議なチカラ。

それは初代冒険王である祖父ガイアスから

受け継がれたチカラ。

 

うーんと、「これが星見るチカラの概要」

っていう明確な答えはないんだけど。

例えば・・・目を瞑って星全体に思いを

巡らせると・・・その星の・・・

一度訪れた事のある場所を“霊視”できたり

・・・遠く離れた場所でも、割と近い場所

でも・・・そこに居る邪悪な者の気配を

感じ取る能力とか・・・そういう能力達

も「星見るチカラの一端」だと言えるかな。

 

そんな星見るチカラの1つに・・・

異空間に存在する「職業神ダーマ」を相手に

いつでも修行を行える、っていう能力が

あるの。

 

実際にアタシ達の実体が異空間に飛ぶ

ってワケじゃなく、念じると意識だけが

ダーマ様の居住空間に移動する、って

カンジかな〜。

 

そこで思念体となったアタシ達にダーマ様

は稽古をつけてくれるの。

アタシ達は日々、冒険を続けてるからね。

いつでもどこでも思念体となって修行を

行えるのはアタシ達にとって非常に

有難い能力なの、この星見るチカラは。

 

そして今日もダーマ様との修行に赴く。

 

「おはようございますっダーマ様っ!

今日もよろしくお願いしますっ!!」

 

「うむ、今日もやってきたかリザ達よ。

では早速修行に取り掛かろう。」

 

ダーマ様との修行は・・・アタシ達が

ブルリア星で冒険をしていた頃から・・・

冒険当初から続いている。

もう日課のようなものね。

 

「ゆくぞっ!『彗星連撃』っ!」

 

ガシュッガシュッ!!

 

「グッ!」

 

ガキィンッ!

 

「そらっ!ガードの後は固まっていては

いかんぞっ!

すぐさま次の手を繰り出してくる敵に

注意しろっ!!」

 

「は、ハイッ!!」

 

「ベギラゴンッ!!」

 

ダーマさまが攻撃呪文を行使するっ!

 

「くぅっ!マジックバリアーッ!!」

 

ギュイイイン

 

「フッ詠唱を省略したバフか!

お前ほどの呪文使いになると補助呪文

すら一瞬で唱えおる・・・恐ろしいわい。」

 

「オンステージッ!」

 

ピュイイイイ

 

レイファンもすかさず踊るっ!

 

「己を極めるっ!!」

 

バシュッ

 

ジョギーは自身の怒りという感情と

パワーの増幅を自分のモノとして

自在に操るっ!

そして間髪入れずに攻撃スキルを繰り出すっ!

 

「ハァァァッ!『超ビッグバンッ』!!」

 

キュウイイイドガァアアアア

 

「ムゥッ!!グハァッ!!」

 

アタシもそれに続く!

 

「炎の精霊グァモン・カリクティスよ、

紅蓮の炎でっ!我が敵を灰燼と化すまで

焼き尽くせっ!!メラガイアーッ!!」

 

ボォォオオオオオオ

ドガァァアアアアアアア

 

「オォォォオオオオオッ!!!」

 

アタシ達のコンボがダーマ様に炸裂した!

ダーマ様の膝が落ちた。

肩で息をしてらっしゃる。

 

「ハァハァハァ・・・よ、よぉし、今日は

ここまでだ。」

 

「ハァハァハァッ・・・あっ、ありがとう

ございましたーっ!!」

 

アタシ達姉弟は一礼をする。

今日もダーマ様との修行が終了した。

 

「・・・フッ・・・もうそろそろ我の

チカラではそなたらには敵わぬように

なってきたのぉ。」

 

「いえ、アタシ達は・・・まだまだ未熟

です、そんな事おっしゃらないでください

ダーマ様。」

 

「ふん、お世辞にも程があるわい。

しかしそうやって謙虚なる姿勢こそが

己をさらなる高みへと上げることであろう

、その心を忘れるな。」

 

「はいっ!ありがとうございますっ!

ダーマ様っ!!」

 

「時にリザよ。」

 

「は、ハイッ!」

 

「先の戦い・・・何といったか・・・

そうそう、惑星クラウド、ボォフゥ大陸

だったか、そこの洞窟であったか。」

 

「は、はぁ?」

 

ダーマ様がアタシに問いかける。

 

「あの地でそなたが放ったメラガイアー、

あまりの威力に洞窟もろとも破壊して

しまったそうだな?」

 

ギクリッ

 

あ、アタシが大失態を犯した事を・・・

ダーマ様はご存知だった・・・

ヒャア〜叱られるのかしら〜:(;゙゚'ω゚'):

 

「そなたの体に眠る魔力・・・我でも

計り知れんぐらいの量なのかもしれぬ

・・・そなたの体・・・器に収まりきらん

ほどのな。

どうじゃ?最近、魔力が暴走する事が

頻繁に起こってはおらぬか?」

 

・・・そういえば・・・宇宙政府の・・・

卑劣な魔物を相手にした時・・・怒りで

我を忘れた時必ず魔力が暴走している

ような気がする・・・。

 

「そなたらの・・・純粋な戦闘力は・・・

もう既に我を軽く凌駕している・・・

しかしその強大な力を己の意志で

コントロールできんうちはまだまだ

ヒヨッコと言わざるを得んのぉ。

卑劣な敵に対し怒りを覚えるのは悪いこと

ではないが・・・そなたらは自分で

思っている以上のステータスを持っている

ゆえ、怒りでそれが発現し、自分で

思っている以上の力を出してしまう処まで

到達している、その事をゆめゆめ忘れるで

ないぞ。

護るべき者まで傷付ける事になって

しまうゆえな。」

 

うぅぅ、処刑の洞窟での戦いはっ!

今まさにダーマ様の仰った通りの出来事。

やっぱり言外に、ダーマ様はアタシを

戒めてらっしゃるんだ・・・。

 

「それではのぉ。また来るがよい。」

 

「あっありがとうございましたっ!」

 

ダーマ様は異空間の狭間に姿を消し

アタシ達も思念体から実体に戻った。

 

「・・・やっぱりダーマ様もご存知だった

な、リザ姉のこないだの事。」

 

「体の容量を越える魔力・・・って

仰ってたね、姉ちゃんどんだけ魔力を

抱えてるんだろう!?

なんか体に悪影響とかなければいいけど。」

 

・・・自覚は全くないんだけど・・・

実際に自分でも今まで体験した事がない

規模のメラガイアーだった。

そうね、自覚はないけど、アタシの中には

思っている以上の魔力が眠ってるんだ。

無意識になっちゃうとそれが出てきて

しまうかもしれない・・・戦いに於いて

できるだけ怒りで我を忘れないように

しなきゃね、ダーマ様の仰る通り、

護るべき存在まで傷つけかねないもの。

 

処刑の洞窟での出来事が・・・想像以上に

重い事実だって事を思い知らされた

今日の修行だった。

 

「・・・ふぁああ、お・・・おはよぉ

リザ達・・・今朝も早いな、ダーマ様とこ

で修行かぁ?」

 

ようやく救出できた全知全能のオンナ、

ゼンチャンがその能力を発揮できる場所

であるゼンチャンの館に向かう道中、

野営をアタシ達パーティーは張っていた。

その早朝に・・・アタシ達姉弟は・・・

いつものごとく星見るチカラでダーマ様

との修行に”出かけて“いたの。

 

アタシ達が思っている以上にアタシ達の

チカラは大きくなっている・・・

その事実を受けとめなきゃいけないわね。

そして自らの意志でその大きなチカラを

自在に使えるようにならなくては。

 

いつどんな強大な敵が現れるかも

しれないもの。

チカラをセーブしながら戦うという縛り

を持ちながら、そのまま負けてしまった

んじゃ元も子もないしね。

 

うん、アタシ達はまだまだだ。

チカラだけじゃなく、もっと精神的に

強くならなければ。

 

「ふぁあ・・・おはようございます・・・

リザ殿達・・・。」

 

「うぅぅぅ〜ん、・・・く〜〜〜〜っ!

・・・おはよう皆・・・ここからワタシの

館までもう少しよ、半日も歩けば着くわ。

けど野宿なんてダメね、お肌に良く

ないわ。」

 

パーティー全員、目が覚めたみたい。

よしっ!

身支度をしてっ!

腹ごしらえをしてっ!

出発しようっ!

 

「・・・ジョギーちゃぁあん、ワタシの

事、寝込みを襲うとかしなかったでしょう

ね〜〜??いくらワタシが魅力的でも

ダメよぉ?」

 

「え,えぇ!?お、オレ〜〜〜っ!?

ご、ごめん、オレそんな趣味ないからっ

!!」

 

「んもうっ!

別に照れなくていいのよっ!?」

 

「い、いやホントにっ!

無理ですからっ!!」

 

・・・ゼンチャンは通常営業ねƪ(˘⌣˘)ʃ

さて、歯を磨いて、顔洗って、

ご飯にしようっ!

 

ゼンチャンの救出が終わり、ひとまずは

心休まる野営の一幕。

身支度を済ませパーティーはゼンチャンの

館へ向けて出発した。

 

ヒュウウウウウ

 

風が少し強い朝だった。

心なしか、目的地へ進むたび、どんどん

風は勢いを増しているように思えたわ。

 




***登場人物紹介***
・リザ
本編の主人公。つまりアタシ。職業は賢者。
偉大な魔道士を目指し冒険を通じ日々修行
しています。
理不尽な事がキライで宇宙政府の汚いやり方
等を聞かされるとちょっと、ほんのちょっと
気性が荒くなる、と言われます(;´Д`A
恋愛には疎く恋バナはニガテです。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスターで剣が得意。
彼もアタシ同様、日々修行を欠かさずどん
どんm強くなっていて、そのスキルの強さ
にはもうアタシでもかなわないわ。
アタシも負けてられないっ!

・レイファン
末の妹。
職業はスーパースター。
回復行動やオンステージというサポート行動
が得意。
こだまする光撃という最高のサポートスキル
でアタシやジョギーの攻撃を最大限に強く
してくれます。

・モガ丸
アタシ達の冒険の最初からの友達。
戦闘は得意ではないけど見え〜るゴーグルで
宝物を発見したり移動呪文ルーラで冒険の
移動を助けてくれたり、と冒険のサポート
をしてくれる。
種族はモモンガ族で一族には悲しい過去が
あったけど、それを乗り越えて今なお
アタシ達と一緒に冒険を続けてくれてるの。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉は通じないけどモガ丸だけはスラッピ
の話している事がわかるの。
ただ、トラスレの聖水を飲む事でアタシ達
とも会話ができるようになり、実はコテコテ
の関西弁を話す事が判明。
モガ丸のワガママで関西弁で話す事は
禁止されてるけどʅ(◞‿◟)ʃ

・オリオリ
宇宙王の書という本にワケあって閉じ込め
られている美しい女性。
その正体は宇宙王の末裔。
圧政を敷く宇宙政府を倒すため義勇軍と
いうレジスタンス組織を作り反政府運動を
続けている。義勇軍の総司令官。
実は既婚者でセアドという夫がいるの。
義勇軍親衛隊長ボロンとは幼馴染だけど
ボロンが義勇軍を離れ宇宙政府に参加した
上にオリオリに愛の告白をした事により
衝撃を受けてしまったの。

・コッツ
義勇軍3番隊隊長。
3番隊は政府軍に捕虜として連行されていた
けどベェルの町でついに全員無事で発見
され救出された。
コッツは冒険のさなかも部下達の安否に
心を砕いていた。無事の救出でようやく
コッツの心の闇は完全に取り除かれた。
アタシ達と行動を共にするうち、アタシに
強い憧れを抱くようになったらしい\(//∇//)\

・ゼンチャン
全知全能のチカラを持つと言われている
人物。
その正体はオネエだったガーン
その能力ゆえ幾度となく宇宙政府に命を
狙われ処刑寸前に。
アタシ達は心ある宇宙政府の役人コモゴモス
の協力もあり、なんとかゼンチャンを救出
する事に成功したの。
その全知全能の能力は未だ未知数。
それを発揮するには彼女(彼)の館に行かない
とダメみたいで。
現在、その館を目指している最中。
アタシはどうしても彼女(彼)のキャラが
受け付けられなくて、極力絡むのを内心
避けてるの、これ内緒だけどね( ̄◇ ̄;)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード2.「暗躍と隠したい事実」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



バァジ島の義勇軍の秘密基地。

その近くの真夜中の森深い場所。

水晶玉に語りかける人影があった。

 

宇宙政府の元上級執行官マレドー。

彼は現在、宇宙政府を離れ義勇軍に籍を

置いていた。

彼は本心から宇宙の平和を願う男だった。

義勇軍への寝返りも二心のない行動。

 

しかしここ最近、マレドーは留守を預かる

1番隊隊長ドゥエインにも、長い牢獄生活

の疲れを癒す為静養している3番隊副隊長

マルツェルにも内密に、この森で夜な夜な

誰かと水晶玉で交信をする事が多くなっていたの。

 

「・・・では・・・現状ではまだ・・・

新しい魔星王はその活動を開始する事は

できないという事でしょうか?」

 

『あぁ、肢体を創りコアを心臓に相当する

器官に変える段階までは進んでいる、と

言えばわかりやすいか・・・。』

 

「なるほど・・・では頭脳に相当する

器官が存在しない、というワケですな。」

 

『その通りよ、さすが元上級執行官、

飲み込みが早くて助かる。』

 

「して・・・どのような方法で”頭脳“を

与えるおつもりか・・・?」

 

『・・・選択肢は2つだ・・・1つ目の

選択肢を実行するために・・・そなたに

任務を与えたいのだが・・・引き受けて

くれるか・・・?』

 

「もちろんでございます。

それが打倒宇宙政府の為であるなら。」

 

『無論だ』

 

「して2つ目の選択肢とは・・・?」

 

『これについても・・・そなたの協力が

必要だと思っている。

こちらは少々回りくどい方法なのだがな、

確率ではこちらの方が確かだと考えている。』

 

「ほう。」

 

『ピエールというのが居るだろう、

彼を利用するのだ。

そもそもピエールが青雲のオーブを破壊

してしまった事で義勇軍一行がコアの

眠る場所を知り得る事ができなくなって

しまった・・・。

私の計画に遅れが生じてしまったのだ。

そのツケを彼には払ってもらわねばな。』

 

「・・・。」

 

『しかし時間ができた事で・・・2つ目の

選択肢を試行する時間が生まれた事も

事実・・・。

彼には2つ目の選択肢の主役を演じて

もらう事になった、フッ、自らの行いが

招いた結果よ。』

 

水晶玉の中の人物は不敵に笑う。

 

『ブルリア星の冒険王に敗れた彼は今、

内心相当焦っている筈だ、自分の実力を

思い知らされたというべきか。

このままでは宇宙政府にあって、内政変革

を成し遂げる事など、自分にできるので

あろうか、とな。』

 

「・・・そもそもワシは内政変革など

無謀な話だと思いますが。」

 

『あぁ、ピエールでなくとも・・・

どれほどに強いチカラを持っている者で

あろうとも、知恵の働く者であろうとも、

腐り切った宇宙政府の執行部を変革させる

など不可能であろうな。

むしろチカラで打倒するほうがよほど

単純でやりやすい。

生かしつつも考えだけを変えさせるなど

どんな難解なパズルよりも難しい。

しかし、彼は内政変革に固執している、

愛する女を護る為だからな、その動機を

利用すれば容易くコチラの狙い通りに

動いてくれるだろう。』

 

「・・・して、利用とは?」

 

『新しい魔星王の頭脳足り得る物質・・・

そのアイテムがボォフゥ大陸のとある場所

に眠っている。

そのアイテムを手に入れた者は自身の

チカラの10倍、いや100倍の強さを得る

事ができると言われている。

ただ、この手のアイテムは・・・当然

ながら、得るチカラの対価を支払わ

なければならないのだがな。』

 

「ふむ・・・話がまだ見えてきませんが

・・・。」

 

『そのアイテムは・・・所有者に対し

絶大なチカラを与えると共に邪悪な心

をも与えるのだ、邪悪な心に共鳴するとも

言えるかな。

したがって所有者の強さ、生命力、抱えて

いる心の邪悪さいかんによっては魔物化を

促進するという副作用がある。

かつ、そのアイテム自身も所有者から

邪悪なパワーを吸収し成長するのだ。

所有者に寄生しパワーと邪心を与え、

所有者、寄生した側お互いが邪心を

増幅し合うのだ。』

 

「増幅し合う・・・いわば邪心の

ブースターのようなモノか?」

 

『まぁ、そんなところだ。

ピエールは今、チカラを欲している。

宇宙政府の内政変革をなす為、愛する女を

護る為等々・・・大義を掲げてはいるが

もはやチカラは手段ではなく目的と

化しつつある。

ブルリア星の冒険王らに敗れた事に

相当ショックを受け、リベンジに執着

しているであろうからな。

それゆえ“邪心のブースター”の存在を

嗅ぎつけたなら間違いなく飛び付くだろう。

何しろ彼は“今すぐに強くなりたい”

のだからな。リベンジを果たすために。』

 

「も、もしやそのブースターとやらは

・・・今はまだ邪悪なパワーが足りない

状態であるのか?

そしてピエールに寄生させブースター自身

を成長させ魔星王の頭脳とする、こ、これ

が貴方様の計画・・・もう1つの選択肢

・・・!?」

 

『フフフ、全くもってそなたは頭がキレる。

マレドー、そなたには任務を2つ与える。

1つは我が妻、義勇軍総司令官オリオリが

・・・魔星王の主足り得る器であるか

どうか観察するというもの。』

 

「司令官を観察っ!?

そ、それは一体どういう意図なのか?

司令官の事は夫である貴方様が1番ご存知

のはずでは?」

 

『・・・私はしばらく妻と顔を合わせて

いない。

顔を合わせていた頃の彼女、そして義勇軍

の活動は・・・いまだ局地的なゲリラ戦を

仕掛けるといった小規模なものばかり

だった。

しかし現状・・・ブルリア星の冒険王を

仲間に加えて以降の、魔星王誕生前後からの

義勇軍は・・・打倒宇宙政府の活動を本格化

させている。

そんな現状での彼女の立ち居振る舞いや

覚悟というものを・・・私は知らないのだ。

ゆえに現在、義勇軍に籍を置いており、

そして過去に政府に在籍していたという

そなたの客観性を持ったその眼で・・・

彼女を評価してほしいのだ。

私は眠っている魔星王を政府に奪われぬ

よう監視する為、此処を離れられない

ゆえな。』

 

「・・・観察の件は承知しました。

が・・・貴方様のお気持ち、腹づもりは

・・・もちろん司令官と共に宇宙政府を

打倒する、という事でよろしいのですね?」

 

『勿論だ、それが最善の選択肢であると

思っている。』

 

「・・・承知しました。」

 

『もう1つの任務を申し伝える。

ピエールに寄生し成長を遂げた邪心の

ブースターを回収する事。

以上を申し付けるっ!』

 

「は、ははぁっ!セアドさまっ!!」

 

『まぁ2つ目の選択肢は・・・どのように

事態が転ぶのか流動的ではあるので・・・

うまく事が運ぶかどうかは私にも予測

はできぬ。

ピエールが邪心のブースターを欲する

ように仕向ける事、これについては私の

方から手勢を差し向けよう。

そなたはその場所を離れるワケにはいかん

であろうしな。

そなたは任務の主旨を理解し出来るだけ

こちらの計画通り事が回るよう心がける

のだ。』

 

マレドーは水晶玉に映る相手と・・・

何やら謀議を重ねているようだ。

その相手は・・・星屑魔法団団長、

そしてオリオリの夫セアドっ!

 

しかしながらドゥエイン達も、そして

アタシ達も・・・この事実を知る由も

なかった。

夢にも思わなかったわ・・・。

 

ビュウウウウ

 

気のせいかと思っていたけど、やっぱり

風はどんどん強くなっていた。

 

一晩の野営を挟みゼンチャンの館へ

向かっていたアタシ達。

夕刻前には目的地にたどり着けた。

 

「ここがワタシの館よ。」

 

ゼンチャンの館は・・・煉瓦造りの立派な

洋館だった。

しかしこの辺りは・・・どんどん強く

なっていた風が、もう立っているのもやっと

というぐらいにまで強くなっていたの。

 

「この地方の中心部の雲海ではね、

常に竜巻が居着いていてね。

このように強風が常に吹き荒れてるの。

だから建物も強風に耐えられるように

煉瓦造りになってるの。」

 

た、竜巻っ!?

そんなの、そんなのに巻き込まれたら

いくら煉瓦造りだからって倒壊しちゃうん

じゃないのっ!?

 

「リザちゃん、心配ないわ、どういう仕組み

かは知らないけど、この地方の竜巻は

動かないのよ。

ただ、そこに居座ってるだけ。

ずーっと昔からね。

だから倒壊の心配はないわ。

竜巻の影響で吹く、この強風に負けない

建物を作りさえすれば住めない事もない

のよ。」

 

へ、へぇええ、ずーっと居座る竜巻・・・

確かに大自然の神秘だけど、それにしても

アタシだったらおっかなくて

こんな土地には住めないなぁ(;´Д`A

だって自然界のバランスなんていつ崩れる

かわかんないじゃん。

その竜巻がいつ暴れまわるかもしんないし。

 

「ずーっと動かない竜巻っ!?

そっそうかっ!なるほどっ!

どこか懐かしい空気だと思っていましたが

・・・」

 

書からオリオリが現れ突然、何か納得

したような口調で呟いたの。

 

「モガ、どうしたんだ?オリオリ。」

 

「はい、此処へ向かう途中からうすうす

思っていたのですが・・・私は幼い頃、

この辺りで住んでいた・・・ようなのです。

その頃の記憶が蘇ってきました。

何処か見たことのあるような景色だなとは

思っていたのですが・・・動かない竜巻

の話を聞き確信いたしました。」

 

「な、なんだって〜〜っ!?」

 

な、なんとオリオリが幼少期をこの辺りで

過ごしていたっ!?

と、という事は・・・ご、ご両親と一緒に

過ごした故郷がこの辺りって事なのっ!?

 

「いえリザさん、私の故郷は・・・

この地ではありません。

私の故郷は・・・あ、いえ、それについては

また追い追いお話しましょう・・・。」

 

え!?そ、そんなぁ!

めっちゃ気になるしぃっ!

あ・・・けど無理もないか、故郷の話って

事は・・・ご両親の話も当然絡んでくる

ワケで・・・ご両親については、思い出す

と悲しい気持ちになるような話をつい

こないだ聞いちゃったところだもんね。

 

「まぁまぁアナタ達、此処は風が強いし

立ち話するのも大変でしょう、どうぞ

ワタシの館へお上がんなさいな、お茶でも

淹れるわ。」

 

た、確かに。

立っているのもやっとの強風だもんね、

居座り竜巻のせいで。

ゼンチャンがもてなしてくれるというので

お言葉に甘えてアタシ達は館へお邪魔させて

もらった。

ところが・・・。

 

「モガ、館内も立派な内装だな、高そうな

調度品やら美術品がずら〜っと並んで

・・・ない?

モガッ!?な、なんだ!?

家具や調度品が床に散乱してる!?

モガ〜、ゼンチャン・・・!

いくら体は男でも心は乙女なんだからさ、

家の中は整理整頓しなきゃダメだぞ?」

 

・・・玄関に入ると・・・たしかに家財道具

が散乱していた。

と、ゼンチャンを見やると・・・小刻みに

体が震えていた。様子がおかしい。

 

「い、いえ、モガ丸ちゃん・・・わ、ワタシ

はそう、乙女ですもの、館の中はいつも

綺麗に整理整頓するよう心掛けているわ

・・・。政府に捕まって連行される時も

・・・最後に館を出た時も・・・いつも

通りの様子だったわ・・・ま、まさかっ!?」

 

ダッ!

 

そう言うとゼンチャンは急に階段のほうへ

駆け出し2階へと慌ただしく駆け上がって

いった。

アタシ達も只事ではない空気を感じゼン

チャンの後を追うっ!

すると。

 

「キャーーーーーーッ!!!」

 

2階の奥の方からゼンチャンの叫び声が

響き渡るっ!

ゼンチャンが居るであろう部屋に駆けつける

と、そこに広がっていた光景はっ!

 

「こ、これはっ!?」

 

其処は図書館と見紛うほどのたくさんの

本を保管していた部屋だった。

ただ、その本達の殆どが床に散乱していたの!

 

「モガ、これは・・・明らかに荒らされた

ってカンジだな、空き巣でも入ったのか?」

 

「ち、違うわっ!

きっと宇宙政府よ、宇宙政府がやったに

違いないわっ!ひ、ひどい・・・!」

 

う、宇宙政府っ!?

むぅ、って事はまだ魔物が居るかもしれ

ないっ!?

アタシと弟達は息を潜め室内のそこかしこに

神経を集中させた。

しかし、それらしい気配は感じられない。

次いで館内全体も手分けして探索を行った。

幸い魔物が潜んでいるような気配はなさ

そうだった。

危険はないと言うことをパーティーに

報告する。

 

「ゼンチャンさん、”家探し“の犯人が

宇宙政府であるとなぜ思ったのですか?

何か心当たりでも?」

 

「じ、実は・・・。

この館からも見えるあっちの方角に

『ピピタワー』という塔が建っているの、

そこからワタシはいつも監視されていたの

よ。ワタシが宇宙政府に連行された後、

留守を狙って空き巣に入ったんだわ、

きっとっ!!」

 

「監視されていた・・・政府はゼンチャン

さんを警戒していたという事ですね・・・

そうかっ!

ゼンチャンさんは確か、宇宙政府の重大な

秘密を知ってしまったのですよね?

それが原因で逮捕されてしまったと

我らは聞いておりますが。」

 

「その通りよっ!

ワタシ、別に知りたくもなかったのに

偶然知ってしまったの。

そしたらすぐに政府の魔物がやってきて

・・・きっとピピタワーのワタシの

ストーカーがそれに気づいたのね。

連行されてしまったの・・・。

あぁ、思い出すだけでも怖い・・・オリオリ

ちゃん達が助けてくれなかったらホントに

殺されるところだったわっ!」

 

え、えぇ〜・・・食人薔薇から解放された

時は、捕まってる自分に酔ってたような^_^;

 

ま、それはさておき、そうよ、ゼンチャン

は政府の重大な秘密を知ってるんだった。

後ろめたい事実を隠していた政府は・・・

外部にそれが漏れる事を恐れていた・・・

全知全能だと噂されるゼンチャンがそれを

知り得てしまう危険性を十分に認識して

いたからこそ、監視を付けていたのね。

 

「ゼンチャンさん、貴方が知り得た政府の

重大な秘密とは?

一体どんな内容なのです?」

 

ゴクリ

 

な、なんだか緊張してきた。

オリオリが単刀直入にゼンチャンに質問を

した。

 

「・・・宇宙王一族であるオリオリちゃん

にとっては信じがたい・・・酷な話だと

思うんだけど・・・驚かないで聞いてね、

『アレスの聖剣』と宇宙政府の懇ろな関係よ

・・・!」

 

「アレスの聖剣っ!!

ま、まさか!そ、そんなハズはないっ!

彼等に限ってそんなっ!!」

 

あ、アレスの聖剣??

 

「モガ、アレスの聖剣ってのは初耳だな、

なんなんだソレは?」

 

モガ丸が呟く。

そりゃそうね、ブルリア星のアタシ達は

聞いた事もないワードだもの。

オリオリが答える。

 

「アレスの聖剣とは・・・宇宙にのさばる

無法者達と戦う為に宇宙王一族が設立した

集団です。

宇宙王一族が政治を担う文官だと例える

ならアレスの聖剣は王一族を支える、軍事力

を担う軍部、騎士団と言えますね。

宇宙の平和を守る為に戦う集団、それが

アレスの聖剣です。」

 

う、宇宙王一族を支える軍事集団っ!

な、なんか話がどエライ事にっ!

 

ゼンチャンが知ってしまった宇宙政府の

隠したい事実、そこからは宇宙王一族と

宇宙政府の長きに渡る因縁の歴史が

明るみになるの。




***登場人物紹介***
・リザ
本編の主人公。つまりアタシ。職業は賢者。
偉大な魔道士を目指し冒険を通じ日々修行
しています。
理不尽な事がキライで宇宙政府の汚いやり方
等を聞かされるとちょっと、ほんのちょっと
気性が荒くなる、と言われます滝汗
恋愛には疎く恋バナはニガテです。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスターで剣が得意。
彼もアタシ同様、日々修行を欠かさずどん
どん強くなっていて、そのスキルの強さには
もうアタシでもかなわないわ。
アタシも負けてられないっ!

・レイファン
末の妹。職業はスーパースター。
回復行動やオンステージというサポート行動
が得意。
こだまする光撃という最高のサポートスキル
でアタシやジョギーの攻撃を最大限に強く
してくれます。

・モガ丸
アタシ達の冒険の最初からの友達。
戦闘は得意ではないけど見え〜るゴーグルで
宝物を発見したり移動呪文ルーラで冒険の
移動を助けてくれたり、と冒険のサポートを
してくれる。
種族はモモンガ族で一族には悲しい過去が
あったけど、それを乗り越えて今なおアタシ
達と一緒に冒険を続けてくれてるの。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉は通じないけどモガ丸だけはスラッピの
話している事がわかるの。
ただ、トラスレの聖水を飲む事でアタシ達
とも会話ができるようになり、実はコテコテ
の関西弁を話す事が判明。
モガ丸のワガママで関西弁で話す事は禁止
されてるけど( ̄◇ ̄;)

・オリオリ
宇宙王の書という本にワケあって閉じ込め
られている美しい女性。
その正体は宇宙王の末裔。
圧政を敷く宇宙政府を倒すため義勇軍という
レジスタンス組織を作り反政府運動を続けて
いる。義勇軍の総司令官。
実は既婚者でセアドという夫がいるの。
義勇軍親衛隊長ボロンとは幼馴染だけど
ボロンが義勇軍を離れ宇宙政府に参加した
上にオリオリに愛の告白をした事により衝撃
を受けてしまったの。

・コッツ義勇軍3番隊隊長。
3番隊は政府軍に捕虜として連行されていた
けどベェルの町でついに全員無事で発見され
救出された。
コッツは冒険のさなかも部下達の安否に心を
砕いていた。
無事の救出でようやくコッツの心の闇は完全
に取り除かれた。
アタシ達と行動を共にするうち、アタシに
強い憧れを抱くようになったらしい\(//∇//)\

・ゼンチャン
全知全能のチカラを持つと言われている
人物。その正体はオネエだったガーン
その能力ゆえ幾度となく宇宙政府に命を狙わ
れ処刑寸前に。
アタシ達は心ある宇宙政府の役人コモゴモス
の協力もあり、なんとかゼンチャンを救出
する事に成功したの。
その全知全能の能力は未だ未知数。
それを発揮するには彼女(彼)の館に行かない
とダメみたいなの。
アタシはどうしても彼女(彼)のキャラが受け
付けられなくて、極力絡むのを内心避けてる
の、これ内緒だけどね( ̄◇ ̄;)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード3.「アレスの聖剣と宇宙王」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



ゼンチャンが語った宇宙政府の重大な

秘密、それはアレスの聖剣なる集団と

宇宙政府の蜜月関係。

アレスの聖剣という集団についてはアタシ

達冒険王姉弟とモガ丸、スラッピは初めて

聞く名前だったので、どう重大なのか

イマイチピンと来なかったけど。

 

これからオリオリが語る内容で事の重大さ

を十分すぎるほどに理解できた。

オリオリが話を続ける。

 

「少し歴史のお話をしましょう。

これはリザさん達の故郷、ブルリア星にも

影響を及ぼした話ですからね。」

 

え、ブルリア星のっ!?

なになに、どういう事オリオリ!?

 

「初代宇宙王・・・尊号をゼナ1世と呼ばれ

ていました。ゼナ1世が宇宙を平定し治世を

始めた頃、敵対勢力の捕虜を次々と処刑に

かけたのはお話しましたね、その敵対勢力

こそが宇宙にのさばる無法者達だった

のです。

この時、無法者達と戦ったのがアレスの

聖剣です。

敵対勢力に犠牲を払わせたおかげでゼナ1世

は強大な権力を手にし宇宙に平和を

もたらしました。

しかし代が替わって2代目になると、

いまだ平和は保っていましたがゼナ1世の

頃に誇っていた権力に翳りが見え始めます。

1世の治世中には大人しくしていた無法者

達の残党は、これ幸いと徒党を組むように

なりやがて台頭するようになります。」

 

ふむ、巨大な組織が長く続くと、やがて

権勢は衰える・・・よく聞く話だわ、

現に宇宙政府が今そんなカンジって

言うもんね、今の宇宙政府は腐敗している

ってゆー話。

 

「徒党を組んだ無法者集団、実はこれこそ

が現宇宙政府の前身の姿なのです。

当然、2代目以降の宇宙王とアレスの聖剣は

これを潰そうと躍起になります。

しかしアレスの聖剣とて、そのメンバー達

は代替わりをしています、それにゼナ1世の

治世は平和で争いのない時代が長く

続きました、そう、アレスの聖剣の軍事力

にも衰えが進行していたのです。

代替わりをした聖剣のメンバーは大きな

実戦の経験もなかったのですから。

無法者集団を取り締まる事は難しくなって

いました。」

 

!!

う、宇宙政府の前身集団っ!

 

オリオリ達宇宙王一族と宇宙政府との戦いとはっ!

そのように長い長い歴史を持っていたって事なのっ!?

 

「さらに時代は下り3代目の頃になると

パワーバランスは完全に逆転していました。

3代目は一応、宇宙王を名乗っていましたが

既に名ばかりの統治者に成り下がって

しまっていたのです・・・。

そしてアレスの聖剣は・・・3代目が在位中

のある日、こつ然と姿を消してしまった

のです。たとえ弱体化していたとは言え

軍部そのものを失った3代目は無法者集団を

取り締まる事が全くできなくなり、成すすべ

なく、やがて無法者集団に滅ぼされて

しまいました・・・。

無法者集団は王一族の政府に完全勝利し

それを機に宇宙政府を名乗り、新たな宇宙

の支配者となったのです。

私が幼い頃の出来事でした・・・。」

 

な、なんとっ!

なんと壮大な、壮絶な歴史っ!因縁っ!

オリオリ達宇宙王一族とっ!

宇宙政府との長い長い戦いの歴史が

今、オリオリの口から語られたっ!!

 

そ、そうか、初代宇宙王ゼナ1世の業、それ

を子孫が背負うというあの話!

王一族と宇宙政府設立メンバー達との

長い因縁が原因だったのかっ!?

 

しかし相手が無法者達だったのであれば、

ゼナ1世が処断を行ったとて、それは平和を

保つ為に致し方のなかった事、子孫が業の

宿命を負う話ではない・・・

ハッ!ち、違うっ!

 

アタシは今っ!

“無法を働く者達なのだから処刑して構わ

ない”と考えかけたっ!

でも待ってっ!

処刑の洞窟で、この、ゼナ1世の処断の話を

初めて聞いたアタシは。

”ゼナ1世の所業“に一瞬眉をひそめたハズ、

それが今さっきはゼナ1世の行いを是と

捉えかけた・・・。

 

そう、アタシは今、宇宙王一族側の視点の

正義で無法者達を捉えたんだ。

けど視点を変えて無法者達の視点に立てば

・・・ゼナ1世への怨み、王一族への怨み

は・・・ことさらに大きなものだろう。

それこそ何代にも渡るほどに。

代を渡れば渡るほどにそれは増幅して

いくだろう。

 

オリオリとアタシ達は・・・魔物であろう

とも心ある者は命を奪うべきではないと

いう理念を持ち始めている。

こないだのコモゴモスが最たる例っ!

これにはっ!

オリオリが・・・自身の祖先が生んだ業が

原因で・・・現在も因縁の戦いが続いて

いると認識しているからなのかっ!?

 

あぁもうっ!

頭ん中グッチャグチャ(>_<)

 

「リザさん達の故郷ブルリア星や、隣の

地球へ魔星王ドスラーデスが送り込まれたのは

・・・100年ぐらい前の事でしたかね?」

 

えっ!あ、あぁ!!

魔星王ドスラーデスっ!

そ、そうよっ!

あの恐ろしい魔物は宇宙政府が送り込んだ

んだった。

え、えーと、いつ頃って・・・た、たぶん

アタシ達の生まれるずーっと前の話だから

・・・そ、そうね、100年ぐらい前かしら?

・・・えーと確か・・・そ、そうよ、齢

200歳だっていう地球出身者のムンライト

師匠、彼が生まれた頃はまだ、ドスラーデス

に壊滅させられる前で地球の文明も繁栄して

いたっていうから・・・。

200年も前って事はないんじゃないかしら。

 

「・・・そうですか・・・無法者集団が

宇宙政府を名乗り始めたのは私が子どもの

頃ですから・・・まだ宇宙政府を名乗る

前の段階で魔星王ドスラーデスは送り

込まれたのでしょう。

・・・無法者集団が台頭しつつある時期の

出来事、彼らは自分達のチカラを誇示する

為、我々一族への反骨心から・・・魔星王

派遣という行動を起こしたのかもしれま

せん・・・自分達にはこんな恐ろしい魔物

を操るチカラがあると・・・そういう意味

では・・・昔の事とはいえ、我ら一族が

力及ばず無法者集団をチカラのある集団に

増長させてしまったが為にリザさん達の

故郷を危機に晒してしまったとも言えます、

本当に申し訳なく思います。」

 

え、え!?え!?

い、いやぁっ!

そ、そりゃあ大きい歴史の流れから視れば

そういう事になるかもしんないけどさぁ!

だからってアタシがオリオリを怨む事

にはなんないでしょっ!

やめてよ、オリオリっ!謝んないでっ!

そうか、これがアタシ達の故郷に影響を

与えたっていうオリオリの話なのね!?

 

「リザさん・・・かたじけないっ!

けど・・・共に宇宙政府に脅かされた

者同士、我々が共に戦う事に・・・運命を

感じずにはいられません・・・リザさん達、

私について来てくれて・・・本当に

ありがとうっ!!」

 

そう言ってオリオリは頭を下げたの。

や、やぁねぇ、そんな畏まらないでよぉ

オリオリっ!

アタシはここまでの旅で貴女ほど宇宙の

指導者に相応しい人は居ないって思ってる

んだからっ!

特にこないだの処刑の洞窟で語られた

貴女の覚悟や想いを聞いた今はねっ!

 

「ありがとうリザさん・・・!

ゼンチャンさん、皆さん、話が逸れてしまい

ました、すみません。

しかし私には!

いくら我ら一族の権勢が衰えたとはいえ

アレスの聖剣が我らを裏切るなど、到底

思えません!」

 

「モガ、う、裏切るって・・・アレスの聖剣

と宇宙政府が懇ろっていうのは・・・

そういう事なのか?」

 

「そうよ、まー言ってみれば結託した

って事ね。」

 

「モガーーーーっ!

け、結託ーーーーーーっ!!??」

 

「さっきのオリオリちゃんの話にも出てきた

ように、アレスの聖剣はある日忽然と時の

宇宙王の元から消えてしまったの。

けど、その消息を断ったという事実こそが

アレスの聖剣と宇宙政府が結託した事の

証拠でもあるわ。

だって、その後間も無くゼナ3世は一族

もろとも滅ぼされたんだからね。」

 

「・・・・。」

 

「姿を消したアレスの聖剣・・・彼らは

宇宙政府と口裏を合わせ宇宙王一族を

滅ぼした。

これこそが宇宙政府が隠したい重大な秘密

・・・。」

 

「そ、そんな・・・・そんな事が・・・。」

 

むむぅ、たしかに。

アレスの聖剣が居なくなった時期とゼナ3世

一族が滅ぼされた時期が極めて近いって

ワケね、これは疑惑の目を向けられても

仕方がないわ。

オリオリもそう感じたのか、無言になって

しまった・・・。

しかし程なくオリオリは口を開く。

 

「実はアレスの聖剣には・・・ボロンの

お父上も在籍していたのです。」

 

えっ!?

ボロンのお父さんがっ!?

 

「それゆえボロンは幼い頃から私によく

こう話していました、『自分も大人に

なったらアレスの聖剣に入り宇宙王一族を

護ってみせる、俺はオリオリにとっての

アレスの聖剣になる』って・・・。

ですから・・・私にはどうしてもっ!

いくら時間的に辻褄が合おうともっ!

ボロンの夢を知っていた、そのようなお父上

がいらっしゃるアレスの聖剣がっ!

私達一族を裏切るなどとはっ!

どうしても思えないのですっ!!」

 

オリオリの表情はみるみる曇っていった。

そうなの・・・ボロンは・・・きっと

そんな小さい頃からオリオリ、貴女の事を

慕っていたんでしょうね。

セアドという許嫁が居るオリオリの・・・

身を守る存在にせめてなりたかったんだ

・・・そう考えると、ボロンはホントに

不憫だわ。

 

義勇軍内に於いて彼は司令官親衛隊長

というポジションだった。

ボロンの中では・・・”オリオリだけのアレス

の聖剣”のつもりだったのかもしれないわね。

それなのにどうして自分からオリオリだけの

アレスの聖剣を放り出してしまったの!?

 

『守る方法を変えただけ、居場所は変えたが

オリオリのアレスの聖剣だっていう自負は

変わってないつもりだ。』とでもいうの

かしら、あのわからず屋・・・(-_-メ)

 

オリオリはまだ押し黙っている。

アレスの聖剣と宇宙政府の結託という事実を

まだ受け入れられないんだろうか。

在りし日の王一族とアレスの聖剣との様子を

知らないアタシ達には、ゼンチャンが告げた

事実がオリオリにどれぐらいの衝撃を与えた

のか・・・ちょっと想像できない。

 

しばし沈黙の後、口を開いたのはコッツ

だった。

 

「オリオリ様・・・心中お察し申し上げます。

アレスの聖剣については・・・星屑魔法団の

翻意に事情があったように・・・何かしら

姿を消さねばならない事情があった

のやもしれません。

しかしながら・・・もしゼンチャン殿が

おっしゃったような事実があるとするなら

・・ボロンはそれを知っていたのでしょうか。」

 

「・・・コッツ・・・いえ、どうでしょう

か?私ですら全く知らなかった事実です。

それに時期的に言えば、アレスの聖剣が

消息を絶ったのは私やボロンが幼い頃

です、大人の事情など理解できる年齢では

まだなかったはず。

それに大人になってからも、ボロンから

そのような話は聞いた事がありません。

ただボロンは・・・あのように私には内緒で

行動するような人物だったボロンなら

・・・何か知っていたかもしれません。

あるいはお父上から何か聞かされていたか。」

 

「・・・もし知っていたとしたら・・・

とても悩み苦しんだのではないかと・・・

自分の父親の所属するグループがオリオリ様

一族を滅亡に追いやった事になるのですから

・・・。」

 

親を取るか愛する人を取るか・・・

ボロンが、ゼンチャンの言うような事実を

知っていたとしたら確かに悩んだで

しょうね・・・。

 

んん~~~けど待って。

アタシはオリオリの気落ちを余所に・・・

良からぬ想像をしようとしていた。

 

あれだけ宇宙政府の内政変革にこだわる

ボロン・・・。

これはすなわち”どうしても宇宙政府を

無くす事に反対している”とも捉えられる

わね・・・。

これって政府と結託したアレスの聖剣には

ボロンのお父上が在籍しているって事と

・・・。

 

・・・まさかっ!

ボロンが宇宙政府存続を支持しているのは

お父上が関係しているのかしらっ!?

宇宙政府を打倒することは、同盟関係にある

アレスの聖剣を打倒することとイコールに

なると考えている??

けどオリオリだけは守りたい・・・。

オリオリを政府に参加させようと必死に

説得していたのは父親もオリオリも

両方守ろうとする行為っ!?

 

アタシの中に・・・ますますボロンを軽蔑する

ような考えが渦巻こうとしていた。

いやさすがに・・・そこまで自己中じゃない

でしょうね!?

 

アレスの聖剣と宇宙政府の結託だって

まだ完全にクロだとは決まってないんだ。

ボロンがアレスの聖剣の動向を知っているか

どうかもわからないし。

 

さすがにアタシも本心ではそこまでボロンを

疑いたくないのか、浮かんだ良くない考えを

打ち消そうとした。

こんな事をオリオリに告げるわけには

いかない、ただでさえボロンが絡んでくると

オリオリは塞ぎがちになっちゃうし。

 

アタシが1人で思考の迷路を彷徨っている

うちにオリオリが話題を変える。

 

「コッツ・・・ボロンがどのような考えを

持っているかは今の私にはわかりません。

全知全能のゼンチャンさんが仰った事

とはいえ、アレスの聖剣に関する事は

まだ不確定要素です、一応心に留めておく

程度にしておこうと思います。

ゼンチャンさん、申し訳ない、せっかく

教えていただいたのに。」

 

「いえ、いいのよ、オリオリちゃんの

ように当事者にとって見れば受け入れがたい

内容だと思うもの。」

 

「ありがとうございます。

ボロンの事はさておき・・・。

ゼンチャンさんっ!教えて下さいっ!

私達の質問はズバリ、この星のコアの

眠る場所はどこなのか?です!

そこに新しい魔星王が眠っていると

私達は情報を得たのです。」

 

「新しい魔星王・・・ワタシ魔星王だなんて

文献でしか読んだことないけど・・・

相当にヤバい魔物だわね、そんなのが

そこら中をのさばり歩くだなんて・・・

考えただけでも恐ろしいわ。

・・・けど・・・オリオリちゃん、

ごめんなさいっ!

とっても言いにくいのだけど・・・。

全知全能のチカラを使うためのアイテム、

無くなってるのっ!!」

 

え、ええ~~~!!

また肩透かし~~~~!?

ゼ、ゼンチャン・・・ほ、ホントに

そのアイテム・・・存在するんでしょうね??

あるある詐欺じゃないでしょうね??

 

「リザちゃん、ホントなの、ホントに

無くなってるの、そのアイテム・・・。

麗しき全知全能のワタシは嘘なんか

つかないわっ!

アナタ達に嘘ついても仕方ないじゃないっ!

ワタシ、嘘をついて人が困ってるのを

見て喜ぶだなんて趣味、持ってないわっ!!」

 

あ、ご、ごめんなさいっ!ゼンチャンッ!

アタシったらついヒドイ事言っちゃった・・・。

反省~~~~(@_@;)

 

「もしかしたらゼンチャン殿の館が

荒らされたのって・・・宇宙政府が

そのアイテムを盗むためだったのではっ!?

ゼンチャン殿を疎ましく思う政府が

その能力を使えないように奪っていった

とか・・・?」

 

「コッツちゃんっ!きっとそうよっ!

きっと宇宙政府が盗んでいったのよっ!

ワタシ、あの塔から監視されてるって

言ったでしょ?

ワタシがそのアイテムを使って全知全能の

チカラを得るっていうのを覗いてたのよ

きっとっ!

いやぁああああ、ストーカーよっ!

気持ち悪~~~いっ!!!」

 

す、ストーカーって・・・その対象を

好きすぎて・・・相手の気持ちは無視して

自分の所有物にするべく付きまとう

っていうのじゃないかしら・・・。

ちょっと違うような気もするけど^^;

しかもコッツは”ゼンチャンを疎ましく

思う宇宙政府は“って言ってるのに・・・

どこでどうストーカーに変換されたの

かしら・・・超プラス思考( ̄◇ ̄;)

 

「その塔にいけばそのアイテムを盗んで

いった宇宙政府の魔物がいるかも

しれませんね!」

 

コッツが次の展開を予想し口にした。

ゼンチャンもそれに同意するっ!

 

「コッツちゃん。きっとそうだわっ!

アナタ達っ!付いて来てっ!

その塔へ案内するわっ!!

せっかく助けてくれたアナタ達の

お願い、どうしても聞いてあげたい

ものっ!

けどワタシは魔物と戦えない・・・

お願いっ!魔物をやっつけて

そのアイテムを取り返してっ!!」

 

「リザさん達、急いでその塔へ

向かいましょうっ!」

 

了解っ!

なんとしてでも全知全能の能力を

扱えるアイテムを取り戻してみせるっ!

 

ゼンチャンの館にほど近い場所に

建っているというピピタワーに・・・

そのアイテムが保管されていることを

祈りつつ、アタシ達はゼンチャンの

先導のもとピピタワーへ向かった。

 

と、館の2階のバルコニーに不審な人影

があった。

人影は中の様子を伺っていたようだけど、

アタシ達の意識は既にピピタワーへと

向いていたので・・・人影の気配には

気づかなかったの。




***登場人物紹介***
・リザ
本編の主人公。つまりアタシ。職業は賢者。
偉大な魔道士を目指し冒険を通じ日々修行
しています。
理不尽な事がキライで宇宙政府の汚いやり方
等を聞かされるとちょっと、ほんのちょっと
気性が荒くなる、と言われます( ̄◇ ̄;)
恋愛には疎く恋バナはニガテです。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスターで剣が得意。
彼もアタシ同様、日々修行を欠かさずどん
どん強くなっていて、そのスキルの強さには
もうアタシでもかなわないわ。
アタシも負けてられないっ!

・レイファン
末の妹。職業はスーパースター。
回復行動やオンステージというサポート行動
が得意。
こだまする光撃という最高のサポートスキル
でアタシやジョギーの攻撃を最大限に強く
してくれます。

・モガ丸
アタシ達の冒険の最初からの友達。
戦闘は得意ではないけど見え〜るゴーグルで
宝物を発見したり移動呪文ルーラで冒険の
移動を助けてくれたり、と冒険のサポートを
してくれる。
種族はモモンガ族で一族には悲しい過去が
あったけど、それを乗り越えて今なおアタシ
達と一緒に冒険を続けてくれてるの。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉は通じないけどモガ丸だけはスラッピの
話している事がわかるの。
ただ、トラスレの聖水を飲む事でアタシ達
とも会話ができるようになり、実はコテコテ
の関西弁を話す事が判明。
モガ丸のワガママで関西弁で話す事は禁止
されてるけど( ̄◇ ̄;)

・オリオリ
宇宙王の書という本にワケあって閉じ込め
られている美しい女性。
その正体は宇宙王の末裔。
圧政を敷く宇宙政府を倒すため義勇軍という
レジスタンス組織を作り反政府運動を続けて
いる。義勇軍の総司令官。
実は既婚者でセアドという夫がいるの。
義勇軍親衛隊長ボロンとは幼馴染だけど
ボロンが義勇軍を離れ宇宙政府に参加した
上にオリオリに愛の告白をした事により衝撃
を受けてしまったの。

・コッツ義勇軍3番隊隊長。
3番隊は政府軍に捕虜として連行されていた
けどベェルの町でついに全員無事で発見され
救出された。
コッツは冒険のさなかも部下達の安否に心を
砕いていた。
無事の救出でようやくコッツの心の闇は完全
に取り除かれた。
アタシ達と行動を共にするうち、アタシに
強い憧れを抱くようになったらしい\(//∇//)\

・ゼンチャン
全知全能のチカラを持つと言われている
人物。その正体はオネエだったガーン
その能力ゆえ幾度となく宇宙政府に命を狙わ
れ処刑寸前に。
アタシ達は心ある宇宙政府の役人コモゴモス
の協力もあり、なんとかゼンチャンを救出
する事に成功したの。
その全知全能の能力は未だ未知数。
けど政府に逮捕される直前に・・・その能力
で得た宇宙政府の秘密とは・・・オリオリに
とって信じがたい事実だったの!
ってワケでやっぱりゼンチャンの能力は
ホンモノだって期待できる(≧∀≦)
ただアタシはどうしても彼女(彼)のキャラが受け
付けられなくて、極力絡むのを内心避けてる
の、これ内緒だけどね( ̄◇ ̄;)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード4.「全知全能のチカラの全貌」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



「モガ、ここがピピタワーか、ほえ〜

高い塔だな〜。」

 

「ピピっ!」

 

「こんな強風が吹いてるなか、よく倒れ

ませんね。

昔の人の建築技術には驚かされます。」

 

相変わらず、やっぱり、この辺りは風が

猛烈に強く吹いていた。

ホントに歩くのもやっと。

いつもの旅路の倍ぐらい疲れるなか、

ようやくピピタワーにたどり着いた。

 

進んできた道のりを振り返ると遥か彼方に

確かに竜巻らしきものが見える。

あんなに遠くにあるのに、これだけ強い

風を吹かせるだなんて、どれだけ大きい

竜巻なんだろう。

 

と、今は竜巻に思いを馳せている場合じゃ

ない、急いで塔内を探索しゼンチャンの

能力を扱えるアイテムがないか探さなきゃ!

 

アタシを先頭にパーティーはピピタワー内

に踏み込んだ。

ゼンチャンの館に空き巣に入った政府の魔物

がいるかもしれない。

アタシ達は全方向に意識を向け魔物が

いないか警戒を強めながら歩を進めた。

 

しかしアタシ達の警戒心とは裏腹に・・・

魔物の気配は一切感じられずパーティーは

最上階まで一切戦闘を行わず登りつめた。

この塔にストーカー?の魔物が居るって

いうのはゼンチャンの被害妄想??

なんか・・・ゼンチャンっ・・・かなり

自意識過剰だしね・・・見られてる、

っていうのも願望だったりして(。-_-。)

 

しかし最上階のフロアに着くと、やっぱり

魔物が居るらしき邪悪な気配が感じられた。

 

「むむ、侵入者だと?何者だ貴様ら。」

 

そこには緑色で人型をした大柄な魔物が

居た。魔族か?

大きな翼を背中から生やしている。

 

「モガ!やいやいっ!

お前がゼンチャンを監視している政府の

魔物か!?

そしてゼンチャンの館から全知全能の

アイテムを盗んだのもっ!

オイラ達は義勇軍、そして義勇軍に味方

するブルリア星の冒険王だぞ!」

 

しかしその魔族は・・・なんだかおかしな

格好・・・というか、おかしなモノを

足元に置いていた。

緑色の魔族の足元には宝箱大ぐらいの

金属でできた籠らしきものが置かれていた。

その籠?檻の中に・・・オレンジ色の

スライムが、何故か居た。

 

「むぅ?義勇軍だとぉ!?

義勇軍がこんなところに何の用だ?」

 

「質問しているのはこっちよっ!

お前はゼンチャンの監視役!?

そしてゼンチャンの館から何か盗んだのか!?」

 

魔物がスライム(魔物)を檻に入れている

・・・その構図がアタシに違和感を

覚えさせる。

 

「アナタッ!

ワタシの事ここからずーっと覗いてた

でしょっ!

ダメよ、いくらワタシが麗しく魅力的

だからってストーカーなんてしちゃあっ!

そんな陰湿なやり方じゃなくて正々堂々と

アプローチしてきなさいっ!」

 

しかしアタシの違和感は次の瞬間に

消え去ったの。

檻の中にいるスライムこそがアタシ達の

探しているモノだったの。

 

「そ、その声はゼンチャンッ!」

 

檻の中のスライムがゼンチャンの声を聞き

彼女(彼)の名を呼んだの。

 

「えっ?あ、あぁっ!!

よ、よく見るとチャングーじゃないっ!」

 

ゼンチャンもスライムに向かってその名を

呼び返す。

すると緑色の魔族が驚いたような声を

上げた。

 

「なっ!ゼンチャンだとっ!!

ゼンチャンが何故生きているっ??

ゼンチャンはもうとっくに処刑されている

ハズ!」

 

「処刑寸前だったところを我々が救出

いたしました。

政府の魔物よ、貴方はたった1人でここで

何をしていたのです?

他に魔物が居ないところを見ると貴方は

隠密だと推察します、やはりゼンチャンさん

に対する監視役ですか?」

 

書からオリオリが現れ緑色の魔族に対し

質問をする。

なるほど、偵察兵だから単独行動で・・・

他に魔物が居ないのか。

その証拠にこの魔族は途端に固く口を

閉ざしてしまった。

しかしその無口ぶりが、この魔族が間者で

ある事を一層に証明させる事でもあるわね。

 

「・・・。」

 

「モガッ!おい、どうなんだっ!!

お前がゼンチャンの監視役なのかっ!?

黙ってないで何とか言えよっ!」

 

「・・・どうやら図星のようですね、

答えられないのが答えのようです。」

 

フロアーに気味の悪い緊張がジワリと

広がる。

 

ババッ!!

 

と、緑色の魔族が背中の大きな翼を広げ

オレンジ色のスライムの檻を手にし、

この場から飛び去ろうとしたっ!

 

「ハハハッ!

さらばだ義勇軍っ!

まさかゼンチャンが生きていたとはなっ!

すぐさま報告させてもらうっ!!」

 

させないっ!

 

「汝の肢体は蜘蛛の糸に捉えらし蝶の

ごときにっ!ボミエッ!」

 

ドゥウウウンッ

 

アタシは魔族に向かってデバフの補助呪文

を放った!

素早さを下げる効果のっ!

 

「なっ!グ、グオオ、か、体が重い・・・

つ、翼も思うように動かせぬだとぉ!?」

 

明らかに動きが鈍くなった緑色の魔族は

飛び立つ事が出来ずに無様にその場に

ドスンと墜落した。

すぐさまジョギーが魔族のそばまで駆けつけ

馬乗りになって喉元に剣先を突きつける。

 

「貴方はゼンチャンさんは既に処刑されて

いるものと思い込んでいましたね、にも

関わらずこの塔に残っていたのは何故です?

ゼンチャンさんの監視以外にも密命を

帯びているのですか?

その檻の中のスライムが関係しているの

ですか?」

 

魔族が逃げも抵抗もできない状態にした

ところでオリオリが再度質問を投げかける。

確かにそうね、コイツの中ではゼンチャン

は既に処刑済みだとすれば、監視の対象

が居なくなった今も此処に残っている

意味がわからない。

 

「違うのオリオリちゃんっ!

そのオレンジ色のスライムがワタシの

大事なアイテムなのっ!

多分コイツはそれを守るために此処に

残ってたんだと思うわっ!」

 

「えっ!?そうなのですかっ?

あのスライムがゼンチャンさんのアイテムっ??」

 

なんとっ!

檻の中に居るスライムこそがゼンチャンの

能力を引き出すアイテムっ!?

どういう事っ?

 

と、ジョギーに押さえ込まれていた魔族が

何かに弾かれたように動き出すっ!

 

「チッ!もはやこれまでっ!」

 

剣先を突き付けられていた魔族は・・・

しかし自由だった手を檻に向けてかざし

檻の中のスライムを攻撃しようとしたっ!

 

「かくなる上は始末するしかないっ!!

イオナズ・・・」

 

ブンッ!!

 

「ウギャアアアアアアッ!!!」

 

と。

馬乗りになっていたジョギーが咄嗟に

呪文エネルギーを放出しようとしていた

魔族の右腕を剣で斬った!

魔族は叫び声を発し悶絶する。

 

「あぐ、ググググ・・・お、おのれ義勇軍

め・・・!」

 

檻のスライムを殺そうとしたところを見ると

・・・ゼンチャンの大事なアイテムだと

言うのは本当のようね。

・・・アタシは・・・弟に非情の指示を

飛ばす・・・。

 

「ジョギーッ!トドメをっ!!

ここでソイツを逃してしまえば後々また

厄介な事が起きるかもしれないっ!」

 

アタシはベェルの町で監視員の魔物を

見逃し、その後サシーラによるゼンチャンと

コッツの誘拐事件が発生してしまった事の

反省から、目の前の緑色の魔族を始末する

よう判断した。

 

「わかった、ではお命頂戴するっ!

覚悟されたしっ!!」

 

ジョギーが剣を振りかぶったその刹那、

しかし魔族がそれを制するように声を

発した。

 

「ハァハァハァ・・・フッ、そ、それには

及ばん・・・ハァッ!!!」

 

ズボッ!!!

 

魔族は残った左手を手刀にし、自らの左胸

に突き立てたっ!

な、なんとっ!

緑色の魔族は・・・自ら命を絶とうと

したのっ!!

 

「グ、グググ、フハハハ・・・!

て、敵に敗れるぐらいなら・・・こうする

のが我の役目よ・・・じゃ、じゃあな、

義勇軍ども・・・あばよ・・・!」

 

むぅ、あくまでも隠密たるべき使命を・・・

守秘義務を守るため自ら口封じるか・・・

仕方ない、せめて情けを・・・。

アタシはジョギーにコクンと頷いてみせた。

弟も頷き返す。

 

シュンッ!!

 

ジョギーの剣が緑色の魔族の首筋を走る。

首を落とされ魔族は絶命した。

自ら心臓を抉ったとて、すぐに息絶える

わけではない、せめて少しでも早く楽に。

フロアーにはアタシ達パーティーだけしか

存在しなくなった。

 

「チャッチャングーッ!!」

 

「ゼンチャンッ!!」

 

と。

ゼンチャンがスライムを閉じ込めている檻の

箱に駆け寄った。

オレンジ色のスライムもゼンチャンの名を

呼ぶ。

どうやら無事、ゼンチャンの大事なアイテム

を取り戻す事ができたようね。

しかしスライムがアイテムっていうのは

どういう了見かしら。

アタシの疑問をよそに、2人は再会を

喜び合う。

 

「あぁチャングー!無事でよかったぁ!」

 

「こっちのセリフやねん、ゼンチャンッ!

もう処刑されて死んでしもうたかと

思てたわぁ!」

 

う、この・・・チャングーと呼ばれた

オレンジ色のスライムも何故かコテコテの

関西弁・・・(´・ω・`)

なんなの、スライムの公用語って関西弁

なのっ???

 

「モガッ!このスライムがゼンチャンの

大事なアイテムなのか?」

 

「せやっ!ワイはチャングーやっ!

ゼンチャンの相棒やでー!!

ゼンチャンが宇宙政府に捕まった後、

ワイも、その緑色の魔物に捕まってここで

監禁されてたんやぁ〜!」

 

なるほど、やはりこの魔族は・・・えっと、

チャングー・・・を見張る為にここに単独

で待機していたってワケね。

 

と、チャングーに釣られるように?

もう1人、いやもう1体、関西弁を操る者が

口を開いたの。

 

「こりゃたまげたで〜!

モガ丸はんっ!ワテこのお方と近い波長を

感じるで〜!

いやぁ、チャングーはん、ワテ、スラッピ

言いますぅ、以後よろしう頼んますぅ!」

 

「お、おぉう!

ホンマや、わいもえろぉアンさんに

親しみを感じますわぁ!」

 

な、な、なんだぁ?このおかしな会話

(;´Д`A

ここ、惑星クラウドでいいのよね??

どこの漫才劇場かと思うじゃないっ(°_°)

と、スラッピの関西弁が出たとき必ず

口を挟むヤツが、当然ながらダメ出しを

飛ばした。

 

「ススス、ス、スラッピッ!

あの、あの約束を忘れないでくれっ!!」

 

「はい?約束ぅ??はて・・・・・・

・・・・・はっ!・・・・・あ、あぁっ!

モガ丸はんっ!・・・あぁぁ!えらい

すんまへんっ!!」

 

しばし沈黙が続き・・・

 

「ピッ!ピピィッ!!」

 

「スラッピッ!それでこそスラッピだっ!」

 

・・・はい、これでワンセットね、

終了〜〜〜ʅ(◞‿◟)ʃ

 

「モガ丸さん、スラッピさん、本題に

戻りますがよろしいですね?」

 

「あ、あぁ、ごめんよぉオリオリっ!」

 

「ピピ!」

 

淡々と話の方向を修正するオリオリ。

うん、その無表情っぷりがアタシには

可笑しかった( ˊ̱˂˃ˋ̱ )

もう慣れっこみたいね。

 

「ゼンチャンさんっ!

このチャングーさんが貴方の能力を引き出す

アイテム・・・相棒さんで間違いない

ですね?」

 

「ええそうよ、オリオリちゃん。

チャングーが居れば貴女達のお願いを

叶えてあげられるわ。」

 

「わかりました。

チャングーさんが無事で何よりです。

というワケで・・・此処は物騒です、

取り急ぎ館へ戻りましょう。

話はそれからです。」

 

「了解したわオリオリちゃん。」

 

「っていうか、とりあえず早くここから

出してもらえまへんかぁ?

窮屈でしゃーないわぁ!」

 

「あら、そうだったわね。

・・・けど困ったわね〜、鍵は何処にあるの

かしら・・・ってヒィッ!!ま、まさかっ!

あの魔物が持ってるのっ!?

い、いやだぁっ!麗しきワタシ、し、死体

の懐をまさぐるなんてできないわっ!

怖いっ!!」

 

チャングーが閉じ込められてる檻の鍵は

・・・やっぱりこの隠密兵が懐に隠し持って

いた。

死体に怯えるゼンチャンを尻目にジョギー

が動かない魔物の懐から取り出し檻の施錠

を解いた。

 

「ぷハァァァ、久しぶりのシャバの空気は

うまいなぁっ!」

 

・・・なんか緊張感に欠けるんだけど(o_o)

ま、とりあえず目的は達成。

一同、ルーラでゼンチャンの館に戻った。

またあの強風の中を歩くのは骨が折れる

もんね・・・。

 

「いやぁしっかしゼンチャン、よぉ無事

やったなぁ、どないして宇宙政府から

逃げたんや?」

 

「違うの、この人達に助けてもらったのよ。

チャングー聞いて驚いて、この人達は

義勇軍とブルリア星の冒険王さん達なの、

とっても強いのよ。」

 

「え!?義勇軍とブルリア星の冒険王っ!?

なんでまたそんなごっつい人らがゼンチャン

の事を!?」

 

「それがねー、ワタシにどうしても聞きたい

事があるみたいなの。

最初、麗しいワタシに美の秘訣を聞きに

来たんだって思ったんだけどそうじゃない

らしいの。

だってこんなに可憐な乙女に聞く事って

それしかないと思うじゃ・・・」

 

「オ、オッホンッ!

ゼ、ゼンチャンさん、チャングーさん、

久しぶりの無事の再会で積もる話も

ございますでしょうが・・・あの・・・

そろそろ本題に入らせていただいても

よろしいですか?」

 

終わりそうもないゼンチャンとチャングー

の会話・・・しびれを切らしてオリオリが

強引に本題に入ろうとした。

 

「そ、そう言えばっ!

義勇軍のリーダーはんは本の中に居てはる

言うてたなぁっ!

確かにこのオナゴはん、本の中に居てはる

わぁっ!

こらホンマもんやわぁっ!」

 

いやしかし、よく喋るスライムね(´Д` )

 

「でしょっ?

本物の義勇軍ちゃん達よ。

ってわけで助けてくれたお礼にこの子達の

願いを聞いてあげようと思うの。

さっ!やるわよ、チャングーッ!」

 

「あいよぉ、ほないっちょやったるでー!」

 

チャングーが加わる事でますます調子が

狂いそうだったけど、ようやく本題に入る。

さぁ、ようやくアタシ達の願いが叶う。

惑星クラウドのコアの眠る場所、新しい

魔星王が眠る場所が何処なのかをゼンチャン

に教えてもらえるっ!

バァジ島でゼンチャンの噂をマレドーから

聞いて以来、なかなか長かったわぁ!

 

「ハァッ!」

 

と、ゼンチャンがチャングーに向かって

両手を翳した。

 

ポッ

ボワ〜〜〜ン

 

すると!

チャングーの身体が光りだした。

そのオレンジ色の光はどんどん強くなるっ!

 

「モガーーーーーっ!

すごいっ!チャ、チャングーの身体が

どんどん透けていって・・・な、何か

見える・・・ど、どこかの景色か・・・!?」

 

輝きを増す光に反してチャングーの身体

はどんどん透けていったのっ!

なんて不思議な光景っ!!

って、てかっ、ゼンチャンッ!!

ホンモノだったっ!!!

 

「全知全能・・・ゼンチゼンノウ・・・

ゼンチゼンノウ・・・!

ゼンチャングーーーーーッ!!!!」

 

ゼンチャンが何やら呪文を唱える。

するとやがてチャングーの光は館の室内

全体を包み視界が無くなるぐらいにまで

強まり、そして弾けた。

光は弱まり視界も戻ってきた。

ゼンチャンとチャングーは微動だにせず、

ゼンチャンは半透明になったチャングー

の身体を凝視していた。

 

そ、そうか、こういう事だったのか!

ゼンチャンの能力を発揮させるアイテム、

チャングーはその身体を水晶玉代わりに

する事ができるのねっ!

ゆえにスライムでありながらアイテムと

呼ばれてるんだ。

ゼンチャンの能力とは・・・!

チャングーという媒介を通した霊視っ!

 

「全知全能のオンナ、ゼンチャンが拝見

しました、魔星王の眠る場所、それは

・・・。」

 

「そ、それは・・・!???」

 

ゴクリ。

そ、それは・・・!?

 

「ビナビ諸島のどこかよ。」

 

「モ、モガ〜〜〜!

お、おぉぉぉ!ビナビ諸島・・・!」

 

ビナビ諸島っ!具体的な名前が出たっ!

・・・で?

ビナビ諸島ってどこっ??

 

「ビナビ諸島っ!

このボォフゥ大陸の東に浮かぶ島々ですね。」

 

コッツがアタシの疑問に答える。

 

「モガ〜!ビナビ諸島か〜、で?

その島々のどの島に魔星王は居るんだ?」

 

モガ丸が更に詳しい情報を聞き出そうと

する。

するとゼンチャンの口から意外な返答が。

 

「もう一度言うわね、『ビナビ諸島の

どこか』よ。」

 

・・・モガ丸を筆頭にアタシ達は沈黙

する・・・。

 

「せやで!『ビナビ諸島のどこか』やで!」

 

身体が半透明状態のチャングーも

ゼンチャンの答えを復唱する。

 

なおもアタシ達の沈黙は終わらない。

 

「聞こえなかったかしら?魔星王の眠る

場所、それは『ビナビ諸島のどこか』よ。」

 

「・・・もしかして・・・それ以上は

わからないのか・・・?」

 

ようやくモガ丸が口を開き、アタシ達全員の

胸中に浮かんだ質問をゼンチャンに

投げかける。

と、そこへオリオリが割って入った。

 

「モガ丸さん、いいではありませんか、

ビナビ諸島のどこか・・・それだけ分かれば

十分です。

闇雲に探さなければいけない事を思えば

・・・ビナビ諸島地方に限定していただいた

だけでも十分ありがたいです・・・

ゼンチャンさんっ!

ありがとうございます!

本当に助かりました、このお礼はいずれ

必ず・・・」

 

そうね、魔星王の眠る場所を伝えてくれる

はずだったセアドのメッセージがインプット

されていた青雲のオーブ、それをボロンに

壊された時はもう!

この星中を探さなきゃなんないのかと、

絶望しかなかったもんね。

それがハッキリとその、ビナビ諸島に

眠ると分かっただけでもめっけもんだわ!

 

オリオリがゼンチャンにお礼を言いかけた

その時・・・。

 

「ま、待ってっ!」

 

??

ゼンチャンの様子が急変した。

ど、どうしたのかしら、何かに怯えている?

・・・えっ!!!

な、何、この邪悪な気配はっ!?

 

ゼンチャンが急に怯え出したのと、ほぼ

同時にっ!

アタシの中の星見るチカラが、巨大な邪悪

なオーラを感じ取ったっ!

しかもこのオーラはっ!!

燃え滾る真っ赤な意志をも含んでいるっ!!

このオーラを・・・アタシは知っているっ!!

 

以前にアタシはこのオーラの持ち主と

対峙した事があるっ!!

これって・・・!!!

 

「あわわわわ・・・じゃっ邪悪な何かが

ここにやって来るっ!

な、何者なのっ!!??

チャッ、チャングーっ!!

こっち来てっ!!!」

 

「あ、あいよぉっ!!」

 

ゼンチャンが半透明のままのチャングーを

呼び寄せるっ!

邪悪なオーラの持ち主の正体を霊視しよう

っていうのっ!?

けどっ!

アタシはそれが誰なのかわかってしまった

・・・まさかアイツがっ!

何の用で此処にっ!?

 

「ぬぬぬぬ!

全知全能ゼンチャンが拝見しましたっ!

邪悪なオーラを放つ者が此処にやってくる

っ!その者はっ!

白いスライムを従え銀の仮面を被った

・・・。」

 

やっぱりっ!!

キッ!!

 

・・・アタシは、この赤く燃えながらも

以前より邪悪さを孕んだオーラを感じる

方向、バルコニーのある窓の方を睨み

つけたっ!

 

「えっ!?

あ、アナタは・・・!ボロンッ!!!!」

 

宇宙王の書の女性が真っ赤で邪悪なオーラ

の持ち主、自身の幼馴染の名を呼んだっ!

そう・・・窓のそばに・・・白いスライム

ナイト・ピエール、オリオリの幼馴染、

義勇軍を裏切ったボロンが立っていたっ!

 

ビュウウウウン

 

ボロンが此処に入ってくる時に窓を開けた

のか・・・竜巻が巻き起こす強い風が

部屋の中に入り込んできた。




***登場人物紹介***
・リザ
本編の主人公。つまりアタシ。職業は賢者。
偉大な魔道士を目指し冒険を通じ日々修行
しています。
理不尽な事がキライで宇宙政府の汚いやり方
等を聞かされるとちょっと、ほんのちょっと
気性が荒くなる、と言われます滝汗
恋愛には疎く恋バナはニガテです。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスターで剣が得意。
彼もアタシ同様、日々修行を欠かさずどん
どん強くなっていて、そのスキルの強さには
もうアタシでもかなわないわ。
アタシも負けてられないっ!

・レイファン
末の妹。職業はスーパースター。
回復行動やオンステージというサポート行動
が得意。
こだまする光撃という最高のサポートスキル
でアタシやジョギーの攻撃を最大限に強く
してくれます。

・モガ丸
アタシ達の冒険の最初からの友達。
戦闘は得意ではないけど見え〜るゴーグルで
宝物を発見したり移動呪文ルーラで冒険の
移動を助けてくれたり、と冒険のサポートを
してくれる。
種族はモモンガ族で一族には悲しい過去が
あったけど、それを乗り越えて今なおアタシ
達と一緒に冒険を続けてくれてるの。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉は通じないけどモガ丸だけはスラッピ
の話している事がわかるの。
ただ、トラスレの聖水を飲む事でアタシ達
とも会話ができるようになり、実はコテコテ
の関西弁を話す事が判明。
モガ丸のワガママで関西弁で話す事は禁止
されてるけどʅ(◞‿◟)ʃ

・オリオリ
宇宙王の書という本にワケあって閉じ込め
られている美しい女性。
その正体は宇宙王の末裔。
圧政を敷く宇宙政府を倒すため義勇軍という
レジスタンス組織を作り反政府運動を続けて
いる。義勇軍の総司令官。
実は既婚者でセアドという夫がいるの。
義勇軍親衛隊長ボロンとは幼馴染だけど
ボロンが義勇軍を離れ宇宙政府に参加した
上にオリオリに愛の告白をした事により衝撃
を受けてしまったの。

・コッツ
義勇軍3番隊隊長。
3番隊は政府軍に捕虜として連行されていた
けどベェルの町でついに全員無事で発見され
救出された。
コッツは冒険のさなかも部下達の安否に心を
砕いていた。
無事の救出でようやくコッツの心の闇は完全
に取り除かれた。
アタシ達と行動を共にするうち、アタシに
強い憧れを抱くようになったらしい\(//∇//)\

・ゼンチャン
全知全能のチカラを持つと言われている人物。
その正体はオネエだったガーン
その能力ゆえ幾度となく宇宙政府に命を
狙われ処刑寸前に。
アタシ達は心ある宇宙政府の役人コモゴモス
の協力もあり、なんとかゼンチャンを救出
する事に成功したの。
その全知全能の能力とは!
チャングーという相棒のスライムと協力して
行う霊視だった!
彼女(彼)はホンモノだった!
ただアタシはどうしても彼女(彼)のキャラが
受け付けられなくて、極力絡むのを内心避け
てるの、これ内緒だけどね:(;゙゚'ω゚'):

・チャングー
ゼンチャンの相棒のスライム。
ゼンチャンがその能力を発揮するためには
チャングーの身体を媒介しなきゃいけない。
イコール2人で1つのコンビなの。
宇宙政府はそこに目をつけチャングーの事
も捕らえて監禁していた。
スラッピと同じく何故かコテコテの関西弁
を話すの( ̄◇ ̄;)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード5.「ピエール再び」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



『新しい魔星王が眠る場所、それはビナビ諸島(のどこか)』

 

2度の処刑の危機から救い、そしてその相棒

をも監禁の憂き目から救いようやくアタシ

達は全知全能のオンナとその相棒のチカラ

によって魔星王の眠る場所を知る事が

できた。

 

しかし喜ぶ間もなく、ソイツは現れた。

アタシ達義勇軍を裏切り、そしてソイツに

取っては最も傷付けてはいけない相手、

アタシ達のリーダー、オリオリを傷付けた

ソイツ。

 

元・義勇軍親衛隊長であり現在は宇宙政府

の手先に成り下がってしまった・・・

白いスライムナイトことピエールッ!!

 

ヨンツゥオ大聖堂での死闘において

アタシ達に敗れて以降、義勇軍に戻る

ことなくいずこかへ行方をくらませていた

コイツがっ!

突如として此処、ゼンチャンの館に現れたっ!

 

「モガーーーーッ!?

お前はっ!白いスライムナイト・ピエールッ!?」

 

「ボ、ボロンッ!」

 

「・・・ボロン・・・!」

 

パーティーのメンバーが口々に彼の名を

呼ぶ・・・。

 

「・・・久しぶりだな義勇軍の諸君、

そして愛しいオリオリよ、息災のようで

安心した。」

 

「・・・ボロン・・・。」

 

一瞬、コッツの表情が曇ったように見えた。

けどそれは。

かつて尊敬すべき先輩だったボロンが

・・・今は軽蔑すべき敵と成り下がって

しまった事への嘆き・・・落胆の感情が

表情に出たのだと・・・その時のアタシは

感じたの。

 

「オリオリ・・・それにコッツ・・・

忘れてもらっては困る、私はピエール、

ボロンとはかつての名だ、私はかつて

ボロンという名で呼ばれていた・・・

今は宇宙政府に仕える白いスライムナイト

ことピエールだっ!

その事を忘れるなっ!」

 

仕えるって・・・もう完全に政府の手先

みたいな事をいう・・・。

アンタのせいでどれだけオリオリが思い

悩んでるのかわかってんのっ!?

それに相変わらずのカンに触る喋り口、

この子こんなにイヤなヤツだったっけ??

あの似合わない仮面を被ったら人格まで

変わっちゃうのかしら?

 

一緒に冒険してる時は・・・確かに

ぶっきらぼうなトコはあったけど・・・

こんなにヤなヤツじゃなかった。

それともこれが本性だって言うの?

 

アタシはやっぱり・・・ピエールと対峙

すると・・・どうしても心が平静で

いられなくなってしまう・・・。

たとえ正体がボロンだってわかっていても。

 

「モガーッ!

ピエールでもボロンでもどっちでもいいっ!

なんで此処に来たっ!?

性懲りも無くまたオイラ達の邪魔をしに

来たのかっ!?けど無駄だぞ!

リザ達はお前に勝ったんだっ!

ブルリア星の冒険王姉弟がいる限り

お前に邪魔はさせないぞっ!!」

 

ピクッ

 

仮面を被っているので表情は見えないけど

一瞬、ピエールの体が強張ったように

見えた。

ヤツの体から発せられるオーラ、それに

僅かな乱れが生じたもの、アタシには

わかるっ!

 

「フフン、モガ丸よ、言われなくても

わかっている、今の私ではリザ達には

勝てん、それはこの間の戦いでよぉく

思い知った。

しかし、息巻いているところ恐縮だが

今日は諸君らに用があるのではない。」

 

えっ!?

アタシ達を追ってきたんではないっ!?

では一体何のために此処に??

 

するとピエールは・・・ゼンチャンの方へと

向き直った。

 

「全知全能のオンナ、ゼンチャンよっ!」

 

「えっ!!??あ、は、はいっ!!」

 

「今日、私はそなたに用があって

出向いてきた。」

 

「ワ、ワタシにっ!?え、どういう事!?

(ドキドキッ❤︎)」

 

「そなたのそのチカラ、全知全能を知る

チカラ、私はそれが欲しい・・・。

政府内において・・・衛兵達の立ち話

からそなたの存在を知った。

『全知全能のチカラを持ったゼンチャン

なる者が政府の重大な秘密を知ったがゆえ

に処刑される』という話でな。

宇宙政府の重大な秘密、全知全能のチカラ

・・・どれも取るに足らん・・・眉唾物

だと、その時は思ったのだが妙に私の耳

に残るフレーズでもあったのは確かだ。

ゆえに真偽のほどを確かめるため、私は

そなたが刑に処されるというイバラの町

へと赴いた。」

 

ピエールの目的がゼンチャンッ!?

しかも・・・その全知全能のチカラを

欲している・・・これは・・・ぜ〜〜〜

ったいに良くない事を企んでる。

 

「しかし私が町に着いた時、すでにそなた

の姿はなかった。

すでに処刑後だったのかと落胆したが

そなたの住処に行けば何か手がかりが

残っているかと思い此処にやって来たのだ。

するとそなたは生きていた。

これぞ運命だと思った。

よく無事でいてくれたなゼンチャンよ。」

 

「モガーッ!

ゼンチャンが無事だったのはリザ達が

必死で処刑の危機から救ったからだぞっ!

お前に会わせる為に救出したんじゃない

ぞっ!」

 

「・・・義勇軍諸君が此処に居合わせる、

ということはそんなところだろうとは

思っていたさ。」

 

そ、そうよ!

どれだけ苦労してゼンチャンの居場所を

突き止め助け出したと思ってるの!

だのにこの男はっ!

そんなアタシ達の苦労など意に介さぬ

様子だっ!

全く腹立たしいಠ_ಠ

 

「そ、そんなにワタシの事を想って

此処まで来てくれたの??」

 

しかし当の本人、ゼンチャンの様子が

怪しくなって来た(・_・;

 

「ああ。先程の・・・魔星王の眠る場所を

言い当てた事といい、そなたが知り得た

宇宙政府の重大な秘密の信憑性といい、

実に素晴らしい能力、素晴らしいオンナだ、

そなたが私の側近く侍っておれば、他にも

政府の重大な秘密を知ることができる、

私は政府内でのし上がっていく事が

できる・・・ゆえにゼンチャンよ、私の

モノとなれっ!私の仲間になるのだっ!!」

 

「素晴らしいオンナ、私のモノになれ

・・・あぁもうダメ・・・

ズッ、ズッキュ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!」

 

えっ今なんか・・・何かが撃ち抜かれた

音がしたような気がしたけど??

い、イヤな予感・・・ま、まさか・・・

ゼンチャンッ!!??

 

「ハイッ!なりますなりますっ!!

ワタシ、ピエール様についていきますっ

どこまでもっ!!」

 

あちゃ〜っ!!

や、やっぱり・・・Σ(゚д゚lll)

イチコロじゃんっ!

なんとピエールのイヤらしい事っ!

ゼンチャンの自意識過剰と自己偏愛さと

惚れやすさと、全部満たすような口説き

文句を言い放ったっ!

ゼンチャンったら、あっさりオチチャッタ

(ノД`)

 

「この美しく麗しいワタシをモノにしたい

だなんてっ!

こんな熱いアプローチ、受けなきゃ乙女が

廃るっ!!!」

 

ゼンチャンの目は完全にハートマーク・・・。

ま、まずいわね。

 

「そうだ、それでいいのだゼンチャン。

さぁこちらへ、私と共に行くのだ。」

 

「あぁピエール様ぁ・・・ワタシもう

アナタに首ったけ・・・。」

 

ふらふらふら〜っと、花の蜜に吸い寄せ

られる蝶のごとくゼンチャンがピエール

の元へ近付く。

 

「あっちゃぁぁ、あかんっ!

ゼンチャンはこないなってしもたら

もうあかんっ!

完全に周りの事が目に入らへんのやっ!」

 

チャングーが言う。

え、ええ、そうでしょうね。

見てたらわかるわ。

 

「チャングーッ!

アナタも一緒に行くのよっ!

ピエール様のお役に立つんだからっ!

アナタが居ないと意味ないでしょっ!!」

 

「あ、あいてててっ!

ちょ、ちょっと痛いわぁ!

乱暴やなぁっ!!」

 

ゼンチャンは目がハートになりながらも

ちゃっかりチャングーを連れて行く事を

忘れていなかった。

 

こ、これはっ!

阻止・・・阻止しなきゃっ!

ピエールがゼンチャンの能力を得る・・・

きっと良からぬ事が起きる・・・とは

思うんだけど・・・だけど・・・だけどよ?

ゼ、ゼンチャンのあの喜びよう、完全に

ピエールにフォーリンラブ状態のゼンチャン

の邪魔をしちゃっていいのかしらって・・・

なんか変な気遣いがアタシの中に生まれ

ちゃって・・・い、いいのよね?オリオリ、

ゼンチャンが連行されるのを阻止して。

 

「待ってっ!ボロンっ!!」

 

と。

突然、ピエールを呼び止めたのはコッツ。

 

「・・・やれやれ、私はもうボロンでは

ないと言っている。なんだ?コッツ!」

 

「ピエールだなんだって・・・格好つけて

もアナタはボロンよっ!

それより・・・アナタさっき聞き捨て

ならない事を言ったわ。」

 

え?聞き捨てならない事?

コッツ・・・どうしたの??

 

「アナタ・・・ゼンチャンが知り得た政府

の重大な秘密の信憑性って言ったわ。

って事はアナタ・・・その秘密がどういう

内容か知ってるって事よね?」

 

「・・・それがどうした?何が言いたい?」

 

「アナタのお父様がアレスの聖剣に在籍

しているってオリオリ様から聞いたわ!

つまり、アナタのお父様が所属する組織が

・・・オリオリ様一族を滅亡に追いやった

事件の片棒を担いでいた事になるのよ?

それを知ってなんとも思わないのっ!?」

 

あっ!そうだっ!!そうだったわっ!

ピエール、いえボロンのお父上がアレスの

聖剣のメンバーで、聖剣と宇宙政府が結託

したのが事実ならっ!

それをボロンが知っていたのならっ!

ボロンは思い悩んで苦しんでいただろう

っていうコッツの推測だったわ。

 

それをこの男は、何事もなかったように

さらりと口にしたっ!

 

「アナタそれ、前々から知ってたのっ?

だとしたら大問題よっ!!」

 

コッツがピエール・・・いやここは・・・

ボロンか・・・に厳しく詰問するっ!

ボロンはしばし沈黙していたけど、やがて

口を開く。

 

「・・・いや、私とて此処でゼンチャンと

諸君らが話しているのを聞いて初めて

知った事実だ。

父が突然失踪したのは私がまだ子どもの頃

の話、政府と結託だなんだと・・・その

ような大人の事情を理解できるハズも

ない。」

 

「・・・じゃあ、大人になった今、それを

聞いてどう思ったの?」

 

「・・・もし、アレスの聖剣が政府と結託

したというのが事実なら・・・まずは

オリオリに対し詫びなければな。

私の父が宇宙王一族を滅亡させた片棒を

担いでいたのなら・・・私の愛する

オリオリを悲惨な状況に追い込んで

しまった事になる・・・。

しかし同時に!

父やアレスの聖剣に対しては・・・禁忌を

犯した厭うべき存在だという烙印を押さねば

なるまい・・・。

遥かな過去の時代から・・・聖剣は宇宙王

一族にご恩を受け召し抱えられていたのに、

あろうことか裏切って宇宙政府と結託

するなど愚の骨頂でしかないっ!」

 

・・・そうか、子どもの頃の出来事だから

・・・知らなくて当然・・・この時ばかり

はボロンは嘘を付いていない・・・

アタシはそう感じた。

 

「我ら一族は身分の低い一族として他種族

から永く差別を受けてきた。

そのような境遇にありながらも父は努力を

重ね剣の腕を磨き、そしてゼナ3世に

見初められアレスの聖剣に入隊する事を

許された。

我が父ながら、その生き様は賞賛に値する

ものであり被差別種族の父を抜擢なされた

ゼナ3世のご恩は海より深いものであった

のだ。

それを政府と結託などと・・・ご恩を仇で

返す行為であり、また自らの努力、生き様

を貶める行為でもあるっ!

結果、宇宙政府のような不自由で不公平

な社会を作る組織を生むことになった。

結局はまた差別される社会をなぁっ!!」

 

・・・ボロンの過去の話・・・そして出自

が低いと言われてきた一族の根の深い、暗い

感情・・・ボロンはボロンで・・・宇宙政府

との結託というアレスの聖剣の行いを愚行

と捉えている。

そんな想いをアタシは感じ取った。

 

「そ、それだけ宇宙政府を憎んでるのに

どうして政府の手先なんかになれるのっ!?」

 

「・・・甘いなコッツ。

憎らしい相手に憎しみを持って弓を引く

・・・そんな発想しか持ち合わせぬとは

なんと幼稚千万っ!

前から言っておろうっ!

政府に対し力で対抗するのはまだ時期尚早

なのだ、根回しを進め機が熟すのを

待たねばならん、私がゼンチャンを欲する

のもその一環よ。」

 

「ワタシを欲する・・・なんて情熱的なの

ピエール様❤︎」

 

・・・相変わらず場が狂うわね・・・。

 

「アレスの聖剣と政府の結託、それが事実

なのか、私は私なりに調査する。

だがもし事実であれば・・・私の手で父や

聖剣メンバー達を裁かねばな。

それが身内としての責任だ。

あの日・・・王宮が襲われた事件に父や

聖剣が絡んでいるという事は・・・

父は王一族だけでなく・・・わ、私すらも

・・・き、切り捨てたという事になる!

そうであろう?オリオリよっ!」

 

「・・・ボ、ボロン・・・!」

 

あ、あの日!?王宮が襲われた??

一体何の話だ!?

 

「・・・そう言えば、この辺りは私達が

幼少期を過ごしたあの教会にほど近い地

でもあるな。

私はあの教会で過ごした不遇の日々を

決して忘れなかった。

あのような境遇に我等を陥れた宇宙政府

を激しく憎んだ。

しかしまさかそこにアレスの聖剣も絡ん

でいようなど・・・まだ容疑の段階とは

言え・・・夢にも思わなんだわ!」

 

教会での日々・・・なんだろう?

ピエール、いえボロンは・・・アタシ達

の知らない、ボロンとオリオリにしか

わからない過去の話をしている・・・

っていうのはなんとなくわかるけど。

アタシにはさっぱり状況が飲み込めない

話を続けている。

 

「・・・まぁ、あくまで容疑なのでな。

黒と決めつけるのは早計であろう。

そして憎らしい宇宙政府ではあるが、

政府内に潜り込んでいれば、そのような

裏事情の真相も見えてこよう。

わかるか、コッツ。

もう私は子どもではないのだ。

アレスの聖剣の失踪、当時は私はまだ

子どもだった、父親が居なくなった事を

悲しみ泣き叫ぶ事しかできなかった。

しかし今は、それも含めて大人の事情

とやらの・・・その大人の側になった

のだ。どう対応するかは・・・熟慮して

決めねばならん。

その対応の1つが・・・今は政府に身を

置く事なのだ。

お前の質問・・・答えはこれでいいかな?」

 

「さ、裁く・・・お父上を・・・!?」

 

・・・ボロンはボロンなりに・・・アレス

の聖剣の行いにケジメを付けようと・・・

しかしお父上に、アレスの聖剣に

憧れて・・・聖剣メンバーになるとも

誓った幼少期。

その胸中は複雑・・・といったところか。

 

「返事がないようなので異論はないと

解釈いたす。

では私は急ぐのでな、これにて失敬する!

行くぞ、ゼンチャンッ!!」

 

「ハイッ❤︎ピエール様〜!!」

 

「アイタタタッ!

痛いって〜ゼンチャンッ!!」

 

ビュウウウウンビュウウウウン!!

 

ピエールはゼンチャン達を連れてルーラで

飛び去ってしまった。

逃してよかったのかっ!?

かと言って今回ピエールはアタシ達を

襲ってきたわけではない、しかも・・・

アレスの聖剣の失踪のワケを知るには政府

内に身を置くほうが利がある、という考え

には一理あるとも思える・・・

ど、どうしよう・・・なんか以前のように

軽々しくピエールの言う事を否定できない。

それぐらい事態が複雑になってきた。

 

けど、けどよっ!?

ピエールがゼンチャンの能力を利用しよう

としているのは火を見るより明らか。

イヤな予感しかしないわっ!

ここはオリオリの判断に任せるしかない、

どうする?オリオ・・・

 

「モガーッ!!

ゼンチャンとチャングーが拉致されて

しまったぞっ!

リザッ!追わなくていいのかっ!?」

 

モ、モガ丸・・・そ、それが・・・。

 

「・・・ボロン・・・ど、どうして

あんな風になってしまったの・・・?

一緒に・・・宇宙政府を倒すって・・・

誓ったのに・・・一緒に義勇軍を作った

のに・・・どうして義勇軍を離れるの

・・・貴方も言っていた通り、私もあの

教会での日々・・・シスター様はお優しく

私達は裕福ではなかったけど不自由のない

生活を与えて頂いた・・・けど・・・

けどっ!私達の故郷を奪った宇宙政府を

許さないっていう気持ちは私も貴方と

同じだったわ・・・それなのにどうして

・・・あぁボロン・・・。」

 

き、危惧していた事が・・・!

再びボロンと対面した事でオリオリの

心が・・・揺らぎ始めているっ!

せっかく立ち直ったと思っていたのにっ!

 

「モガ〜、オリオリが・・・ショックを

引きずってる・・・?

ボロンの寝返りのショックを!?」

 

・・・一旦は断ち切ったはずだと・・・

アタシとコッツは判断してたけど・・・

そうか、ず〜っと引きずっていたのかも

しれない。

無理やり心の奥底に押し込めていたのかも

しれない。

 

「ボロンはオリオリの幼馴染だもんな〜。

オイラわかるぞ〜、オイラにも同族で

敵味方に別れたっていう過去があるからな

〜、オリオリのツライ気持ちはわかる

・・・!」

 

モガ丸・・・そうか、ワルモンガの事ね。

ワルモンガ達の境遇も可哀想だった。

仲間を想えばこその寝返り。

ボロンもしかり、彼もオリオリの命を

最優先に考えてるのだけは偽りないと、

それだけはわかる。

 

しかし今はっ!

感傷に浸ってる場合じゃないっ!

ここはオリオリに踏ん張ってもらいたいっ!

 

と。

モガ丸やアタシがオリオリの複雑な胸中を

慮って黙りがちなのとは対照的に!

オリオリにハッキリと意見を言う人物が

いた!

 

「オリオリ様っ!

コッツは・・・ただ今から非常に失礼かつ

部下としてあるまじき行為・・・ご忠告を

申し上げますっ!」

 

コッツがっ!

強い口調でオリオリに諌言を始めたの!

 

「ボロンが申す主張・・・確かに一考の

余地が残されている部分もあるかと存じ

ます、そして父親やアレスの聖剣の嫌疑、

ボロンに取ってはオリオリ様以上に

茫然自失となってもおかしくないもので

ありましょう、しかしっ!

だからと言って彼の理念、行動を無条件に

許すものとはなり得ませんっ!

オリオリ様っ、何よりの我らの大前提の

大義、宇宙の平和をもたらすために宇宙

政府を倒すという大義、オリオリ様には

どうか大義を見失わず事に当たっていただ

きたいと、私は願っておりますっ!

なんだかんだと政府に身を置く事の理由を

説いてはおりますがボロンは・・・

もう我らと袂を分かつ、そういう選択を

したのですっ!

惑わされてはなりませぬっ!!」

 

「コッツ・・・!」

 

コッツ・・・アナタがここまで強硬に、

オリオリに向かって意見を言うなんて、

そうそうある事ではない。

コッツにとっても、ボロンの寝返りは

許しがたい行為だったもんね・・・。

 

そしてそうか、コッツ、アナタも父親と

幼い頃に生き別れている。

けどアナタは腐らずにオリオリの大義の

為に懸命に義勇軍の一員として生きて

いる!

 

同じように父親の失踪を体験している2人

ながら一方は義勇軍を、オリオリを信じ

戦っている、もう一方は・・・オリオリ

を大事に想っているのはわかるけど・・・

義勇軍を裏切ってしまった。

 

同じ境遇だっただけにコッツは尚更

ボロンを許せないのかもしれない。

 

「あのヨンツゥオ大聖堂での戦いの後、

オリオリ様はしかと、そのお口から、

ボロンの除籍を命じられたはずっ!

オリオリ様ご自身も・・・お覚悟を決め

られたはずっ!

ならば迷いなど・・・もうとうに晴れて

おられるはずっ!!

お願いですっ、私は迷いを見せるオリオリ

様を・・・見たくはないのですっ!!」

 

「コッツ・・・!」

 

コッツの強い陳情を受け、しばらく黙して

いたオリオリは・・・やがてふるふると

首を左右に振り、そして顔を上げた。

その瞳には強い意志の光が宿っていた。

 

「わかりましたコッツ。

そうですね、リーダーの私が迷っていては

貴方やリザさん達に動揺を与えてしまい

ます、危うく大義を見失うところでした

・・・今私達が為すべき事、それは・・・

ビナビ諸島に向かう事・・・ではなく!

ピエールに攫われたゼンチャンさん達を

救出する事っ!!

敵はピエール、宇宙政府の手先に成り

下がった彼を成敗するっ!」

 

「オリオリ様っ!!」

 

「我々はゼンチャンさんにご恩があるの

です、いくら我らの願いを聞いてくれた

後とはいえ、だからといってもうゼン

チャンさんには用がないなどとは決して

考えてはいけませんっ!

ピエールは・・・己の野望のためにゼン

チャンさんを利用しようとしている、

それは一目瞭然です、用が済めばゼンチャン

さん達はどう扱われるのか・・・。

それを思えば・・・これは救出して差し

上げるのが義というものっ!

コッツ、リザさん達っ!

ピエールを追いましょうっ!!」

 

「オリオリ様っ!

それでこそオリオリ様です、私達の

尊いリーダー・・・!

オリオリ様・・・ご無礼の数々・・・

お許しくださいっ!」

 

「いえ、コッツ、ありがとうっ!

貴方のお陰で目が覚めました。

この辺りは確かにボロンと共に幼少期を

過ごした地、そしてそのボロンと対面

した事で・・・私自身、過去に捉われ

すぎという状態になるところでした。

貴方のような・・・正しく、そして主を

想う部下を持てて私は幸せ者ですっ!」

 

「もったいなきお言葉・・・あ、ありが

とうございますっ!!」

 

そう言うとコッツは・・・その場に平伏し

深々とオリオリに向かって頭を下げた。

蹲ったその肩は・・・僅かに震えていた。

 

コッツにとっては・・・上官に向かって

意見を言うなんて・・・とても勇気を

要する行いなんだろう。

部下としてあるまじき行為。

しかし、その禁を破ってでもオリオリの

あるべき姿を取り戻そうとした、逆に

部下としてあるべき行動だとも思えるわ

アタシには。

 

お陰でオリオリはリーダーとしての

振る舞いを取り戻し今後の決断を得る

事ができた。

 

コッツ、アナタ、本当に大きくなった。

隊長として素晴らしい人物に成長した。

なんだかアタシまで胸がアツくなる。

 

「ピピィッピピピッピーピピッピーピー

ピーピッ!!」

 

「ふむふむ、モガッ!!

なんだってっ!?本当かスラッピっ!?」

 

「ピピィッ!」

 

と、突然スラッピが何やら語り始めた。

モガ丸が解説するっ!

 

「リザッ!オリオリっ!聞いてくれっ!

自分と同じニオイのするチャングーの

ニオイをスラッピが感じ取れるらしいっ!

それを辿ればピエールの居場所が判る、

とスラッピが言っているぞ!」

 

え、ホントッ!?

お手柄じゃないスラッピ!

 

「ピッピーピピッピピーッ!!」

 

「ニオイはあっちの方へ続いている

らしいぞっ!!」

 

スラッピの語った内容を元にモガ丸が

その方向を指差した。

その先には・・・例の居座り竜巻が

見えていた。

 

アタシは目を瞑り星見るチカラに神経を

委ねる。

・・・!確かに・・・!

その方向にピエールのモノと思しきオーラ

を微かに感じる。

アタシとスラッピの感覚が符号した!

 

「そちらの方角には・・・あぁっ!

そっちにはっ!そうでしたっ!!」

 

モガ丸の指し示した方向を眺めていた

オリオリが・・・何かを思い出したように

声を上げた。

 

「幼少時の記憶がまたまた浮かんできまし

たっ!ピエールが向かったであろうその

方角には教会があります!

『竜巻の教会』と呼ばれているのですが

・・・先程の私とピエールとの会話に出て

いた教会ですっ!

私とピエール・・・いや、幼少時の私と

ボロンはその教会に身を寄せていたの

です!

ボロンは・・・教会で過ごした日々を

忘れた事はない、と言っていました。

何か思うところがあって過去にお世話に

なった教会を訪れようとしているのかも

しれませんっ!」

 

オリオリとピエー・・・この場合はボロン

か・・・が幼い頃住んでいた教会っ!

そこにピエールが向かう・・・な、何の

為にっ!?

 

「わかりません、わかりませんが・・・

とにかく竜巻の教会へ向かいましょうっ!

居座り竜巻をぐるりと迂回して山を越えた

辺りにその教会はあるはずですっ!」

 

再びアタシ達の前に現れたピエールは

・・・ゼンチャンを籠絡し(ってか簡単に

オチ過ぎ、ゼンチャン!)利用するべく

連行してしまった。

ゼンチャンの気持ちはともかく、目を

覚まさせてピエールから引き離さねば!

 

アタシ達はスラッピの“探索機能”を頼りに

オリオリが幼い頃住んでいたという教会

を目指し移動を開始した。

 




***登場人物紹介***
・リザ
本編の主人公。つまりアタシ。職業は賢者。
偉大な魔道士を目指し冒険を通じ日々修行
しています。
理不尽な事がキライで宇宙政府の汚いやり方
等を聞かされるとちょっと、ほんのちょっと
気性が荒くなる、と言われます:(;゙゚'ω゚'):
恋愛には疎く恋バナはニガテです。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスターで剣が得意。
彼もアタシ同様、日々修行を欠かさずどん
どん強くなっていて、そのスキルの強さには
もうアタシでもかなわないわ。
アタシも負けてられないっ!

・レイファン
末の妹。職業はスーパースター。
回復行動やオンステージというサポート行動
が得意。
こだまする光撃という最高のサポートスキル
でアタシやジョギーの攻撃を最大限に強く
してくれます。

・モガ丸
アタシ達の冒険の最初からの友達。
戦闘は得意ではないけど見え〜るゴーグルで
宝物を発見したり移動呪文ルーラで冒険の
移動を助けてくれたり、と冒険のサポートを
してくれる。
種族はモモンガ族で一族には悲しい過去が
あったけど、それを乗り越えて今なおアタシ
達と一緒に冒険を続けてくれてるの。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉は通じないけどモガ丸だけはスラッピ
の話している事がわかるの。
ただ、トラスレの聖水を飲む事でアタシ達
とも会話ができるようになり、実はコテコテ
の関西弁を話す事が判明。
モガ丸のワガママで関西弁で話す事は禁止
されてるけどʅ(◞‿◟)ʃ

・オリオリ
宇宙王の書という本にワケあって閉じ込め
られている美しい女性。
その正体は宇宙王の末裔。
圧政を敷く宇宙政府を倒すため義勇軍という
レジスタンス組織を作り反政府運動を続けて
いる。義勇軍の総司令官。
実は既婚者でセアドという夫がいるの。
義勇軍親衛隊長ボロンとは幼馴染だけど
ボロンが義勇軍を離れ宇宙政府に参加した
上にオリオリに愛の告白をした事により衝撃
を受けてしまったの。

・コッツ
義勇軍3番隊隊長。
3番隊は政府軍に捕虜として連行されていた
けどベェルの町でついに全員無事で発見され
救出された。
コッツは冒険のさなかも部下達の安否に心を
砕いていた。
無事の救出でようやくコッツの心の闇は完全
に取り除かれた。
アタシ達と行動を共にするうち、アタシに
強い憧れを抱くようになったらしい\(//∇//)\

・ゼンチャン
全知全能のチカラを持つと言われている人物。
その正体はオネエだったガーン
その能力ゆえ幾度となく宇宙政府に命を
狙われ処刑寸前に。
アタシ達は心ある宇宙政府の役人コモゴモス
の協力もあり、なんとかゼンチャンを救出
する事に成功したの。
その全知全能の能力とは!
チャングーという相棒のスライムと協力して
行う霊視だった!
彼女(彼)はホンモノだった!
ただアタシはどうしても彼女(彼)のキャラが
受け付けられなくて、極力絡むのを内心避け
てるの、これ内緒だけどね( ̄◇ ̄;)

・チャングー
ゼンチャンの相棒のスライム。
ゼンチャンがその能力を発揮するためには
チャングーの身体を媒介しなきゃいけない。
イコール2人で1つのコンビなの。
宇宙政府はそこに目をつけチャングーの事
も捕らえて監禁していた。
スラッピと同じく何故かコテコテの関西弁
を話すの(−_−;)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード6.「ピエールの決意と大自然の神秘」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



「ねぇピエール様ぁん、これから何処へ

向かうの??」

 

「・・・そなたは政府より1度は処刑を

言い渡された身だ、政府の施設へ連れて

行くワケにはいかん。

しばらくこの地方に留まり政府の裏事情

を集めていこうと思う。

そなたにはたっぷりと働いてもらうぞ

ゼンチャン。」

 

「あぁ、じゃあ、この辺りがワタシ達の

愛の巣になるのねぇん❤︎❤︎」

 

「・・・。

この辺りは私が幼少期を過ごした場所でも

あるのだ。

この先の岬を越えた雲海の先に小島があり

その島には洞窟がある。

そこをしばしの拠点としたい。

と、その前に・・・とある教会を訪れ

ようと思っている。」

 

「きょ、教会っ!?あぁ、ピエール様が

幼少期を過ごしたっていう教会ね。

ま、まさかそこで・・・ワタシ達の愛を

誓い合うのっ!?

ピエール様ったらっ!

ワタシとの未来をもうそこまで考えて

らっしゃるのっ??

クールなその佇まいとは裏腹になんて

情熱的なのっ!!

あぁ・・・ワタシますます貴方に首ったけ

・・・❤︎❤︎❤︎」

 

「・・・こりゃあかん、ゼンチャン

言うたら完全にイカれてしもてる・・・

ピエールはん、アンタ罪な男やでぇ、ワイ

どうなっても知らんで〜。」

 

「・・・。」

 

アタシ達がピエールを追う為、ゼンチャンの

館を出発した頃、ピエール達は既に竜巻の

教会に到着しようとしていたの。

 

「此処だ。」

 

「んまぁ・・・随分と寂れた教会・・・

けど・・・寂れた教会で隠れるように

愛を誓い合う・・・秘密の愛ゆえに2人は

一層燃え上がる・・・ウフ、嫌いじゃ

ないわっ❤︎」

 

「相変わらずプラス思考やなぁ・・・

呆れるわ。」

 

(「むぅぅ・・・随分と寂れてしまっている

・・・どういう事だ!?

オレ達が世話になっていた頃とは様相が

随分と違ってしまっている!」)

 

コンコン

 

「もし、誰かおられるか?」

 

(「・・・おかしい・・・誰も居ないのか?」)

 

「誰も出てきはらへんなぁ?」

 

「こんなに寂れてるんですもの、ひょっと

してもう廃教会なのかも?」

 

「・・・。」

 

ギギィィィ

 

「あ、ピエール様っ!

いいのかしら勝手に入っちゃって?」

 

(「蜘蛛の巣が・・・中も随分と荒れている、

やはり誰も居ないのか・・・これぐらいの

時刻だとミサが開かれていてもおかしく

ないハズだが・・・?」)

 

「あぁ、ピエール様、お待ちになってぇ❤︎」

 

(「・・・どういう事だ、祭壇だけは綺麗に

手入れが行き届いている!?

という事は無人ではないのか?」)

 

「ゼンチャンよ、そなたと愛を誓い合うの

はもう少し先だ・・・私はまだ何も成し

遂げておらぬ・・・。」

 

「えぇ!?そうなのぉ??」

 

「これから私はそなたと共に・・・

宇宙政府でのし上がって行くために活動

していくつもりだ・・・その決意を!

幼少期を過ごしたこの教会で神に誓う為

ここにやって来たのだ、そなたも私と

共にあるという決意を・・・共に神に

誓ってもらえないだろうか?」

 

「なぁんだ、愛を誓いに来たんじゃない

のぉ??

まぁけどいいわ、ピエール様と共に

決意を誓う・・・それも悪くないわね。

共に活動し絆を深め、改めて愛を誓い合う

・・・そのほうが深い愛で結ばれるかも

しれないわっ!

わかったわピエール様っ!」

 

(「・・・決意と共に・・・過去の自分との

決別・・・そう、オレは本当にっ!

今日からボロンであった自分と決別する

のだっ!

此処で世話になった過去を捨て去る為

にっ!最後の祈りを捧げに来たのだっ!」)

 

コツコツコツッ

 

(「む、誰だ?」)

 

「そ、そこで祈りを捧げているのは

どなたです・・・?」

 

(「っ!!」)

 

「どなたか存じませんが・・・貴方達の

祈る気持ち・・・それはありがたく思い

ます・・・しかしこの教会では神への

祈りを宇宙政府によって禁じられて

います。

お祈りが済んだのなら、どうかお引き取り

くださいますように。」

 

「う、宇宙政府に祈りを禁じられている

っ!?

シスターイェルダッ!!

それは本当なのですかっ!?」

 

「!?

どうして私の名をっ!?」

 

「あっ・・・そ、それは・・・い、以前に

此処の教会へ立ち寄った事があったもの

で・・・ミサに参加した事があります。

その際に聖歌隊のソプラノを務めて

おられたのが印象に残っており、その御名

を覚えていた次第です。」

 

「え!?幼少期をここで過ごしたって

言ってなかったっけ・・・ワププっ!!」

 

(「ゼンチャンッ!

すまんがそれは今は伏せてくれっ!」)

 

「ングググ〜〜〜!!」

 

「??どうしました?」

 

「いえ、何でもありません、お気に

なさらず。」

 

「そうですか・・・しかし私が聖歌隊の

ソプラノを担当していたとは・・・もう

十数年以上も前のこと・・・そんな昔に

此処を訪れてらした・・・。

失礼ながら貴方のお名前は?

そのような仮面をお召しになっているので

・・・どなただか思い出す事もできません

・・・。」

 

「そ、それは・・・ピ、ピエール・・・

そう、私の名はピエールと申します。」

 

「ピエール・・・はて・・・申し訳ありま

せん・・・そのようなお名前の方が

此処にいらしたかどうか・・・記憶を

辿っても思い出せないわ。」

 

「・・・いえ、お気になさらず。

訪れたのはたった一度だけ、覚えておられ

ずとも致し方ないこと。

それよりシスター、神への祈りが宇宙政府

に禁じられたというのは本当なのですか?」

 

「・・・はい、宇宙政府に取っては・・・

ミトラ神は宇宙王一族が守護神と定めた

神様ですから・・・蕃神と位置付けている

のです・・・それをいつまでも崇めるなど

反政府運動に繋がる、けしからん、という

事なのでしょう。

ミサを開くと称して・・・反政府運動の

計画を練っている、という疑いをかけられ

てしまったのです。

最近では・・・この辺りにも政府の魔物

が現れるようになってしまって・・・

この先の岬の向こうにある小島の「迫真

の洞窟」や南東にある「星雲の洞窟」に

魔物達が集まり根城としてしまいました。

そこからこの教会を見張り、ミサを開いて

いないか、怪しい事はしていないか、と

チェックをしているのです・・・その

せいで教会に集まる人もどんどん減って

いき、今では祈りを捧げに訪う者

は1人もいなくなってしまいました

・・・。」

 

「な、なんですとっ!?

迫真の洞窟と星雲の洞窟が・・・!

魔物達の根城にっ!?」

 

(「なんだとぉ・・・!

この2つの洞窟は・・・オレとオリオリの

思い出の場所だっ!2人だけのっ!

惑星アレスから亡命したあの当時のっ!

セアドも別行動だったあの期間のっ!

2人だけの時間を過ごした場所をっ!

魔物どもに踏みにじられるとはっ!

ゆ、許せんっ!

セアドですら、あの時間、思い出だけは

足を踏み入れる事はできないんだ、それを

政府ごときに侵されるなどっ!

断じて許さんっ!!」)

 

「シスター、邪魔をしたっ!

私はこれにて失敬するっ!

その洞窟らに巣食う政府の魔物、私が

退治してこようっ!!」

 

「えっ!?あ、貴方がっ!?

ど、どうしてっ!?

い、いえ、魔物の根城に向かうなど危険

過ぎますっ、おやめなさいっ!!」

 

「ご心配には及びません、政府の下等な

魔物など瞬き1つする間に退治してみせ

ますっ!ご安心召されよっ!!

行くぞ!ゼンチャン、チャングーっ!!」

 

「あ、は、ハイッ!

け、けどワタシは魔物とは戦えないわよ、

影に隠れてるからっ!

チャチャっとお願いねっ!」

 

「任せろ。」

 

「あ、あぁピエールっ!!

戻ってきなさいっ!!あぁぁっ!!」

 

******************************************

 

「モガ〜・・・!

たっ竜巻がこんなに・・・近いと・・・

い、今にも吹っ飛ばされそうだぞ・・・!」

 

「ピ、ピピィ・・・!」

 

「・・・スラッピ・・・マジでしっかり

掴まってろ!お前は体が小さいからな

・・・ホントに吹っ飛ばされちまうぞ!」

 

「ピピピッ!」

 

うぅぅ、竜巻を迂回っていうけど・・・

こんなに近くを通るなんて・・・

本当に飛ばされそう!

しかもこの辺りは丘陵地帯で・・・森は

おろか樹木の1本さえ生えていない。

風を遮るものが何一つないっ!

 

アタシ達はゆっくりゆっくりと、地面を

踏みしめながら教会に向かっていた。

しかしこのペースでは一体いつたどり着く

のか見当もつかない。

 

しかもこの強風では野営を張る事も

できない。

このままノロノロと歩き続けるしかない

のかっ!?

 

「皆さんっ!すみませんっ!

私は書の中に居るゆえ、皆さんと苦しみを

分かち合う事が出来ない・・・頑張って

くださいとしか言えず、申し訳ないっ!」

 

コッツが懐に大事そうにしまっている

宇宙王の書からオリオリが謝罪の言葉を

発する。

 

「・・・いえ!オリオリ様の御身は

何者にも代え難いお体なのです・・・!

私が必ずお守りいたします・・・!

どうか書の中にいらしてくださいっ!!」

 

「コッツ・・・申し訳ないっ!」

 

オリオリ、別に貴女が謝る事ではないっ!

コッツの言う通り貴女の体はアタシ達が

全力で守るべきなんだ・・・!

 

け、けど・・・!

それにしてもなんとかならないものか、

この強風・・・!

 

「きょ、教会まで行けば・・・風の強さは

ゼンチャンさんの館周辺と同程度まで弱まる

はずですが・・・。」

 

そういえばピエールは・・・どうやって

この強風地帯を切り抜けたんだろう?

彼も教会を目指してるのよね?

ピエールはともかく、ゼンチャンと

チャングーにこの強風は耐えられないん

じゃないかしら?

 

「・・・おそらくピエールは・・・

ルーラでしょう。

私と彼は・・・幼少期をその教会で

過ごしていたのですから・・・。」

 

そうだったっ!

ピエール・・・ボロンとオリオリは、その

教会で住んでいたんだから・・・ルーラ

を使える彼ならこの強風地帯をショート

カットできるわけね。

アタシ達、ってかモガ丸はその教会を

もちろん知らない、ルーラの特性上

アタシ達は徒歩で向かうしかないっ!

この差は大きいわっ!

 

「オリオリ司令官っ!

この強風地帯はあとどれぐらいで抜けられ

そうなんだっ?」

 

「あ、あと2,3㎞ほどだと思いますが・・・

ジョギーさんっ!」

 

ジョギー??

何か考えがあるの??

 

「ね、姉ちゃん、あ、あの時と・・・

あの時と同じ要領で・・・此処を切り抜け

られないかな?」

 

あ、あの時・・・?

 

「ホラ、オリハルゴンの島へ向かう時・・・

姉ちゃんがやってみせたアレさ・・・!」

 

オリハルゴンの・・・?

・・・あっ!あぁあっ!!

逆風の中、風の呪文で気球船の推進力を

生んだあの方法っ!!

 

「・・・さすがにこんな巨大な竜巻を

吹き飛ばすのは無理でもさ・・・一時的に

相殺する事ぐらいは・・・できないかな

・・・そしたらその間に全力疾走するんだ

・・・あと2,3㎞だってんなら・・・

なんとか切り抜けられそうだろ?」

 

ど、どうかしら・・・やってみる価値は

ありそうだけど・・・ってか方法論は

間違ってなさそうだけど・・・あの時の

逆風と目の前の竜巻じゃ規模が違いすぎる

・・・アタシの呪文でこの竜巻を抑える

事できるかしら・・・。

 

「だから・・・今回は3人で力を合わす

んだっ!」

 

さ、3人でっ!?

 

「オレ達姉弟の全員が風にまつわる技を

繰り出せば・・・このデカイ竜巻にも

負けないんじゃないかってっ!」

 

そ、そうか!

アタシ1人では無理でも力を合わせれば

可能性が無くもないっ!

ジョギーッ!わかったわっ、やってみよう!

 

「レイファンもやるぞっ!」

 

「わかった兄ちゃんっ!

私はどうしよう?どの技にしよっか?」

 

「あなたも一通り呪文は扱えるでしょ!

バギクロスならどう?」

 

「わかった・・・リザ姉ちゃんほどじゃ

ないけど・・・使えるよっ!」

 

よぉし、やってやるわよ、アタシ達姉弟の

底力を見せてやるっ!!

アタシ達3人は・・・大きめに足を広げて

地面に食い込まんばかりに踏ん張り、

それぞれスキルの準備に取り掛かった。

 

「モガ丸、コッツ隊長っ!

オレ達が技を繰り出し、風が収まったら

すぐにダッシュだっ!」

 

「お、おぅ!了解したぞジョギーッ!!」

 

「了解しましたジョギー殿っ!!

リザ殿、レイファン殿もっ!

頑張ってくださいっ!!」

 

ふふ、どっちが年上だかわかんないわね、

さぁっ!やるよっ!!

 

バシューッ!!!

 

ジョギーが怒るっ!!

 

ブゥウウウン

 

アタシは目を閉じ念を頭に装備している

サークレットに集中させる。

精霊神ルビス様の御力で、その秘術と

呼ばれる魔法陣が足元に広がって行く。

 

「姉ちゃん、そうだっ!

こだまする光撃、これも使っちゃおう!」

 

レイファンっ!

そうね、呪文の数が多いに越した事はない!

 

「こだまする光撃を我が姉リザにっ!!」

 

パァァァ

 

レイファンの掲げた扇からアタシの体に

金色の光が移動したっ!

 

「よしっ!私から行くよっ!

風の精霊よ、風巻(しまき)を呼び刃となし

我が敵を切り裂けっバギクロスッ!!」

 

ビュオオオオオオッ!!!

 

「ハァァァッ!!!

稲妻烈風斬っ!!!!」

 

ガシュッ

ズザザザザザーーーーーーッ!!!!

 

弟達の技が大竜巻に向かって飛んでいくっ!

レイファンのバギクロスは烈風を巻き起こし

ジョギーの剣技はそのまま剣圧の突風と

なって竜巻に激突するっ!!

 

2人の技が合わさった時点で・・・すでに

居座り竜巻の規模に迫るぐらいの風圧が

生み出されたっ!

そこにアタシはさらに追い討ちを放つ!

 

「風の精霊ミラルダ・オトシンクルス、

汝の僕、数多の風の精呼び天空を舞台とし

躍り狂いさせ給うっ!!

それ撃風となりて大渦の竜巻生むもの

なりっ!バギムーチョッ!!!」

 

バギ系の上級呪文バギクロスをさらに超えた

超級呪文バギムーチョをアタシは詠唱した

っ!

 

ビュウオオオオオオヒュウウウウウウ

オオオオオオオオッ!!!!!!

 

ルビスの秘術を施した撃風の呪文は・・・

居座り竜巻に匹敵するほどの大きさの

突風を生み竜巻に炸裂したっ!

 

さらにバギムーチョは止まらないっ!

こだまする光撃でもう1発、撃風が発生し

竜巻に向かって飛翔するっ!!!

 

ビュアオォォォオオオオオ!!!

バッザァァァアアアアアアアアアアア

 

アタシ達姉弟が生んだ巨大な烈風の

エネルギーと居座り竜巻とが激突するっ!

よ、予想以上にっ!!

アタシ達の生んだ烈風は居座り竜巻を

押し込んでいるっ!

 

これならっ!

竜巻が生む強風を抑えられるっ!

この隙にこの強風地帯を走り抜ければ

目的は果たせるっ!

しかしアタシはっ!

連続呪文でさらに呪文を撃てば・・・

パーティ全員がもっと楽に移動できると

考えた。

今ならまだ連続呪文として次の呪文を

詠唱できるタイミングッ!

アタシは2つ目のバギムーチョを詠唱した!

竜巻を消し去るつもりで全霊を込めてっ!!

 

「連続呪文っ!

撃風となりて竜巻を呼べっ!!

バギムーチョォォォォオっ!!!」

 

ビュウオオオオオオオオオオオオ

・・・オオオオオオ!!!!

 

ぼっ暴走したっ!!?!

やっば!

また暴走させちゃった・・・!

 

こだま光撃でこだました分と合わせると

実質3つ目となったバギムーチョの竜巻

は、アタシの魔力が暴走し初発のルビス

秘術が施されたものに匹敵か、それ以上

の大規模な突風となり・・・完全に居座り

竜巻を呑み込んだっ!!

 

やがてアタシ達のスキルや呪文が生んだ

烈風、撃風が収まり・・・辺りは・・・

ほぼ無風状態となった。

 

「ひ、ひえええ・・・た、竜巻の風も

凄かったけど・・・リザ達の呪文の威力

はそれ以上だったな・・・って・・・

モ、モガーーーーーーーーーッ!!??

か、風がっ?風が収まった・・・?

えーーーーーっ????

あれだけ吹き荒れてた竜巻の風がっ!!

何処かへ行ってしまったぞ???

あ、あぁぁっ!!あ、あ、アレを見ろっ

!!!」

 

モガ丸は居座り竜巻があった方向を

指差した。

全員がモガ丸の指先の方向を向く。

な、なんとそこにはっ!!

 

物凄くちっちゃな・・・オモチャみたいな

大きさのつむじ風がそよそよと涼しそうな

そよ風を振りまきながら・・・渦巻いて

いたの・・・。

 

「これは一体っ!?どういう事なんだ?」

 

「あの大竜巻は!?消えてしまったのか?」

 

「た、確かにリザ殿達が生み出した風の

スキルの規模は大竜巻に匹敵もしくは

凌駕するものでしたが・・・。」

 

「モガ、もしかしてあの大竜巻を吹っ飛ば

してしまったのか??」

 

「そ、そうかもしれません・・・そ、相殺

して時間稼ぎができるのか、一か八か

の賭けだったはずが・・・か、完全に

吹き飛ばしてしまった??」

 

「モガーーーーーーッ!!

す、すげーぞー、リザ達ーーーーーッ!!

ブルリア星の冒険王のチカラ、とうとう

大自然にも勝ったぞーーーーーッ!!」

 

「す、凄すぎる・・・リザ殿達・・・。」

 

モガ丸とコッツが歓喜してアタシ達姉弟を

褒め称える・・・。

けどアタシは・・・裏腹に少し暗い気持ち

になっていた。

アタシほどじゃないけど・・・それは弟達

も同じだった。

 

ま、また!

魔力が暴走してしまった・・・。

アタシには一体どれぐらいの魔力が眠って

いるんだろう??

先日のダーマ様との修行で・・・ご指摘に

なられた事がまた起きてしまった。

 

うぅぅまたダーマ様に叱られるぅ・・・

あれほど魔力の調節に気を配るようにと

仰られていたのに・・・!

(いや、実際はそこまで怒られてないけど

・・・。)

 

竜巻を吹っ飛ばすんだって気持ちを込め

すぎたんだろう・・・そのアタシの気持ち

に体の中の魔力が溢れ出たに違いない。

 

「リ、リザ姉・・・す、凄かったな・・・

さっきのバギの呪文・・・。」

 

「うん・・・私もあんなに威力がある

だなんて・・・ビックリした・・・。」

 

「けど・・・これ屋外だったから良かった

ものの・・・またダーマ様に注意を受ける

案件じゃないのか・・・?」

 

うぅぅぅっ!

い、言わないでっ!!

自分が1番良くわかってる・・・やり過ぎ

だってっ!!

 

「まぁ、またダーマ様に相談だな、今回に

限っては竜巻が消し飛んだ事で、残りの

行軍が容易になった、結果オーライだな、

リザ姉っ!」

 

ウゥぅぅ、結果オーライ・・・それぐらい

しかアタシを宥める言葉はない・・・。

さっきのを・・・また洞窟内や屋内で

やってしまえば・・・また味方に被害が

出てしまう・・・!

本当に・・・ホンットに気を付けなけれ

ばっ!!

 

「モガ?どうしたんだ?リザ達・・・

なんか浮かない顔だけど・・・?

竜巻の強風は収まったんだ、さぁ!

今のうちに教会まで進もうぜっ!!」

 

「ピピィ!」

 

そ、そうね・・・とにかく・・・当初の

目的は果たした。

居座る竜巻も・・・あそこまで小さく

なってしまえば当分は元の大きさまで

成長する事はないだろう。

 

「しかし・・・大自然の不思議ですね。

大竜巻そのものは吹き飛びましたが、

それでも竜巻の素はああして同じ場所に

相変わらず存在している。

大自然の生命力の強さを目の当たりに

した気がします。

あの小さき竜巻の素が何日も何ヶ月も

何年も・・・周りの風を取り込み成長し

あのような大きな竜巻になるのでしょうね

きっと。」

 

オリオリが居座る竜巻の仕組みについて

思いを馳せる。

そうね、今、一時はアタシ達人間の力で

無理やり吹き飛ばしたけど・・・それでも

素まで消し去る事はできないんだ。

大自然の神秘、雄大さ、それを思い知った

わね。

 

「よぉし!

久しぶりに風に煽られる事なくストレス

なく歩けるぞっ!

急いで教会へ向かおうぉぉ!」

 

モガ丸が号令をかける。

うん、ひとまず大竜巻の脅威は去った。

かなり行軍が遅れちゃったからね、その

分を取り返さなくっちゃっ!

 

ボォフゥ大陸中心部の・・・その景色に

いつも存在していた居座る大竜巻。

それを人為的に取り払ってしまった。

自分達がやってしまった事とはいえ、

大自然の法則に逆らう行いだわ。

これから向かうのは教会。

時間があれば・・・そこで今日のアタシ達

の行いを懺悔しよう。

 

アタシ達はペースを上げ、オリオリが

幼い頃を過ごしたという竜巻の教会へと

向かった。

 

と、その頃・・・。

アタシ達とは別の誰か・・・ピエール達

でもない、ある1人の人物が・・・

竜巻の教会を訪れようとしていた!




***登場人物紹介***
・リザ
本編の主人公。つまりアタシ。職業は賢者。
偉大な魔道士を目指し冒険を通じ日々修行
しています。
理不尽な事がキライで宇宙政府の汚いやり方
等を聞かされるとちょっと、ほんのちょっと
気性が荒くなる、と言われます(−_−;)
恋愛には疎く恋バナはニガテです。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスターで剣が得意。
彼もアタシ同様、日々修行を欠かさずどんどん
強くなっていて、そのスキルの強さには
もうアタシでもかなわないわ。
アタシも負けてられないっ!

・レイファン
末の妹。職業はスーパースター。
回復行動やオンステージというサポート行動
が得意。
こだまする光撃という最高のサポートスキル
でアタシやジョギーの攻撃を最大限に強くし
てくれます。

・モガ丸
アタシ達の冒険の最初からの友達。
戦闘は得意ではないけど見え〜るゴーグルで
宝物を発見したり移動呪文ルーラで冒険の
移動を助けてくれたり、と冒険のサポートを
してくれる。
種族はモモンガ族で一族には悲しい過去が
あったけど、それを乗り越えて今なお
アタシ達と一緒に冒険を続けてくれてるの。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉は通じないけどモガ丸だけはスラッピの
話している事がわかるの。
ただ、トラスレの聖水を飲む事でアタシ達
とも会話ができるようになり、実はコテコテ
の関西弁を話す事が判明。
モガ丸のワガママで関西弁で話す事は禁止
されてるけど(o_o)

・オリオリ
宇宙王の書という本にワケあって閉じ込め
られている美しい女性。
その正体は宇宙王の末裔。
圧政を敷く宇宙政府を倒すため義勇軍という
レジスタンス組織を作り反政府運動を続け
ている。義勇軍の総司令官。
実は既婚者でセアドという夫がいるの。
義勇軍親衛隊長ボロンとは幼馴染だけど
ボロンが義勇軍を離れ宇宙政府に参加した
上にオリオリに愛の告白をした事により衝撃
を受けてしまったの。

・コッツ
義勇軍3番隊隊長。
3番隊は政府軍に捕虜として連行されていた
けどベェルの町でついに全員無事で発見され
救出された。
コッツは冒険のさなかも部下達の安否に心を
砕いていた。
無事の救出でようやくコッツの心の闇は完全
に取り除かれた。
アタシ達と行動を共にするうち、アタシに
強い憧れを抱くようになったらしい(//∇//)

・ゼンチャン
全知全能のチカラを持つと言われている
人物。その正体はオネエだった( ̄▽ ̄;)
その能力ゆえ幾度となく宇宙政府に命を
狙われ処刑寸前に。
アタシ達は心ある宇宙政府の役人コモゴモス
の協力もあり、なんとかゼンチャンを救出
する事に成功したの。
その全知全能の能力とは!
チャングーという相棒のスライムと協力して
行う霊視だった!
彼女(彼)はホンモノだった!
ただアタシはどうしても彼女(彼)のキャラが
受け付けられなくて、極力絡むのを内心避け
てるの、これ内緒だけどね( ̄O ̄;)

・チャングー
ゼンチャンの相棒のスライム。
ゼンチャンがその能力を発揮するためには
チャングーの身体を媒介しなきゃいけない。
イコール2人で1つのコンビなの。
宇宙政府はそこに目をつけチャングーの事も
捕らえて監禁していた。
スラッピと同じく何故かコテコテの関西弁を
話すの:(;゙゚'ω゚'):

・ピエール(ボロン)
宇宙政府を内側から変革させて宇宙平和を
もたらそうと考えるスライムナイト。
その正体は義勇軍親衛隊長ボロン。
ボロンは幼馴染であるオリオリに恋心を
抱いていた。
打倒政府を目指し続ければオリオリの身に
危険が及ぶ事を憂慮して政府の内政変革に
路線変更した、というのが彼の言い分。
その“裏切り”がオリオリだけでなく様々な
関係者に悪い影響を及ぼすという自覚はないの。
困ったものだわ。

・イェルバ
オリオリとボロンが幼少期に過ごしていた
竜巻の教会に仕えるシスター。
神へ祈りを捧げる事を宇宙政府に禁止されて
しまい教会を訪れる人々もやがていなくなり
教会は寂れてしまった。
その事を嘆いているけど、祭壇のお手入れ
だけは欠かさず自身だけは礼拝を密かに続
けるなど篤い信仰心を持っている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード7.「明かされる過去」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



「ん?なんだお前は?

此処は迫真の洞窟・・・最も今じゃあ

俺達宇宙政府のアジトだ。

見ねえ顔だな。けどスライムに乗ってる

ところを見るとぉ、お前もモンスター

のようだな。」

 

(「フン、雑魚が。」)

 

「・・・宇宙政府とな?

その方ら、政府の手の者と言ったな。

私の事を知らんとは・・・余程の三下

らしいな。」

 

「な、なんだとぉ!!テメェ何様だっ?

俺らに喧嘩売ってんのかぁ!?」

 

「どけ、三下。」

 

ガスガス、ドスッ!!

**********************************************************

「ここがオリオリが子どもの頃住んでた

教会か〜、ようやく辿り着けたな。

・・・けど・・・随分と寂れてしまってる

ようだぞ?」

 

竜巻の脅威を退け、なんとか辿り着いた

竜巻の教会。

此処にピエールとゼンチャン達が立ち寄った

はず・・・なんだけど。

この教会からはピエールのものと思しき

邪悪なオーラは・・・既に感じられない。

確かにゼンチャンの館を出発する時は

こっちの方角から感じられたんだけど。

・・・今は此処ではない、別の場所から

うっすらと感じる程度になってしまった。

 

スラッピのほうはどうかしら?

チャングーのニオイは?

 

「ピピピッピピ、ピッ!」

 

「確かにチャングーのニオイは此処に

残っている、此処に立ち寄ったのは

間違いない、とスラッピは言っているぞ。」

 

そう、此処に立ち寄ったのは間違いない

のね。

では何処へ行ったのかしら?

 

それにしても・・・。

確かに随分と寂れた教会ね。

こんなところでオリオリは過ごしていた

んだろうか?

 

「懐かしい〜〜〜。

目の前にするとありありと蘇ってきます、

幼い頃の記憶が!

しかし・・・モガ丸さんのおっしゃる通り、

随分と寂れてしまっているようです、

一体どうしたのでしょうか・・・?」

 

書からオリオリが現れ、教会を懐かしん

でいる、やっぱり此処が竜巻の教会。

しかしオリオリでさえも、目の前の教会

の様子に驚いている。

オリオリ達が此処から立ち去った後に

何がこの教会にあったんだろう?

 

コンコン

 

「ごめんくださ〜い、どなたかいらっしゃい

ませんか〜〜〜??」

 

ドアノッカーを叩きコッツが来訪を告げる。

獅子の頭部を模した立派なノッカー。

不思議な事に・・・ドアそのものは・・・

かなり劣化というか、ところどころ朽ちて

来ているのに。

そのノッカーだけは美しく磨かれて手入れ

がされているようだった。

 

遠目には無人の廃教会を装いながらも

ここの主が「私は此処に居る」という

強い意志をアピールしているような、

そんな印象を受けた。

 

しかしノックに返事はなく。

再度コッツが・・・今度はさっきより

大きめの声で呼びかける。

 

「すみませーーーーんっ!!

どなたかーーーーーっ!

いらっしゃいますかーーーーッ!!」

 

ややもすると、ギギィとドアがゆっくりと

開き少し大柄な恰幅の良い、修道服に身を

包んだ女性が現れた。

 

「・・・あらあら、どちら様ですか?

此処は竜巻の教会・・・。

しかしご覧の通り、今は朽ち果てた廃教会

です・・・一体こんな所に何の御用で

しょう?」

 

修道服の女性は疲れた顔で応対に出て

くれた。

 

「シスターッ!!シスターイェルバッ!!

あぁ懐かしい〜・・・私です、オリオリ

ですっ!ご無沙汰しておりましたっ!」

 

修道服の女性が現れるなり書から

オリオリが飛び出した。

 

「え?ま、まぁっ!!オリオリッ!

オリオリではないですかっ!」

 

「はいっ!オリオリですっ!

その節は大変お世話になり、ありがとう

ございましたっ!

シスター、お元気そうで何よりです・・・

と申し上げたいところですが・・・

教会が随分と寂れてしまっているよう

ですが・・・?」

 

「懐かしいわねオリオリ。

なん年ぶりかしら・・・シスターは・・・

体そのものは元気なんだけど・・・ね。

教会は・・・この通りボロボロに・・・

それもこれも全部宇宙政府のせいなの

です・・・!」

 

「宇宙政府の?まさか魔物が襲って

来たのですかっ!?」

 

「いえ、襲われはしていないけど・・・

けど脅されてはいます。

ここ最近、この辺りにも政府の魔物が

多く現れるようになり・・・。」

 

イェルバと呼ばれたこの恰幅の良い

シスターは・・・オリオリとの再会を

喜んだものの、教会の現状を伝えるに

つれ、みるみる暗い表情に変わって

いった。

 

彼女が言うには、神へ祈りを捧げる行為

を政府の魔物に禁じられてしまった

らしい。

約束を破れば容赦なく教会や周辺住民

を襲う、と脅されて。

 

この教会が崇める神は主神ミトラ。

アタシ達が行使する呪文の詠唱文にも

よく、その御名が登場するあのミトラ神。

 

そして宇宙王一族が守護神として崇拝

していた神でもあるらしい。

それをいつまでも崇めているのが政府

には面白くないし、危険思想でもある、

という理由から神への祈りやミサと

いった祈りの集まりを禁じたという。

 

ムムム〜、宗教観の違い・・・それは時に

争いを生む理由として小さくないもの

になってしまうんだろうか?

宇宙王一族と宇宙政府の争いとは・・・

ひょっとしたら宗教観の相違から

始まったものなのかもしれないわね。

 

「やがて祈りを捧げる人は誰もいなくなり

教会もどんどん寂れていってしまった

のです。」

 

「そうだったのですか・・・。

神に仕える身であるシスターに取って

みれば・・・それは生き方を否定される

ようなもの、神への祈りは神職者の方々

に取って息をするのと同じぐらいに

当たり前の行い。

さぞおつらい日々を過ごされているの

ですね、心中お察しいたします・・・。」

 

「・・・えぇ、大きな声では言えませんが

・・・今では隠れてコソコソとお祈りを

続ける事しかできないのです・・・。」

 

シスターのやるせない独り言ちを聞き、

一同皆黙ってしまった。

 

「とりあえず中へお入りなさい、外での

立ち話は竜巻の風でツライでしょ・・・

あ、あら?か、風が・・・吹いていない

・・・??

ま、まぁ!これは一体どうした事でしょ

うっ!?

竜巻が弱まる時節でもないというのに?」

 

「え!?あ、そ、そうですねっ!

そういえば風がありませんね!

子どもの私では歩くのもツライぐらいの

風がいつも吹いていましたのに・・・。

久方ぶりに訪れてみて、この辺りの気候

も随分と変わってしまったのかと・・・

勝手に思っていました。」

 

「いえ、昨日までは変わらず、いつもの

通り強い風が吹いておりました・・・。

一体どうした事でしょう??

な、何か・・・良からぬ事の前触れ・・・

!?」

 

「い、いえっ!シスター様っ!

そ、そのような大袈裟な事ではないと

思いますが・・・。」

 

オ、オリオリが・・・風が消えた事の

真相をはぐらかしている・・・、ご、

ごめ〜〜〜んっ(´;ω;`)

ア、アタシがまたまた失態を犯してしま

ったせいでオリオリに嘘をつかせてしま

っているっ(>_<)

 

アタシ達が・・・竜巻を吹き飛ばして

しまっただなんて話・・・シスターの

ような一般の人には俄かに信じ難い話

でしょうから・・・オリオリはとっさに

真相を隠そうと判断したんだろう・・・

うぅぅ、アタシは針の筵に座っている

気分に襲われた!

 

「ふぅむ、不思議です、風が吹いてない

などと・・・シスターは長くこの教会に

仕えていますが・・・こんな事は初めて

です。

ま、まぁ、とにかくお入りなさい。

立ち話もなんですから。」

 

「は、はい。

私がお世話になっていたのはもう10数年

以上も前のこと、久し振りにお祈りを

しとうございます。」

 

「・・・教会は随分荒れてしまってます。

が、祭壇だけは毎日欠かさずお手入れを

しています。

お祈りは政府に禁止されていますが

久し振りにオリオリが訪ねて来てくれた

んですもの、ぜひ祈りを捧げてください。

シスターも嬉しく思います。」

 

「はい!」

 

そう言ってシスターは中へとアタシ達を

招き入れてくれた。

中の様子は・・・確かに見るに耐えない

ぐらいに荒れ果てていた。

あちこちに蜘蛛の巣が張られていて長椅子

は散乱し埃も凄かった。

 

しかしシスターが言う通り祭壇だけは

ピカピカに磨かれていた。

シスターにとっては祈りを捧げる

この場所だけは・・・荒れさせるワケには

いかないという意地、そして信仰心の篤さ

をアタシは感じたの。

 

オリオリは胸の前で手を組み祭壇に向か

って頭(こうべ)を垂れ祈りを捧げた。

アタシ達全員、オリオリに倣って祭壇に

向かい祈りを捧げた。

 

アタシは・・・居座り竜巻を吹き飛ばし

た際の・・・魔力の暴走、チカラの使い方

を神に向かって懺悔した。

 

自分に眠る、自分でも把握しきれない程の

大きな魔力との向き合い方を・・・

上手にやっていかないと、この先パーティ

に迷惑をかけてしまうという自戒をも

誓いながら。

 

一同、お祈りが終わるとシスターがオリ

オリに声をかける。

 

「ところでオリオリ・・・貴方はどうして

また此処に?

貴方とボロン・・・そして貴方達2人と

一緒に亡命してきた孤児達は・・・

宇宙政府に反抗する為、仲間を募り

レジスタンス活動をするんだ、と。

ここから旅立っていきましたね?

貴方達はその後どうですか?

見たところ元気で過ごしているよう

ですが。」

 

「はい・・・とりあえず元気でやって

います、この通り相変わらず宇宙王の書

の中に居りますが・・・。

レジスタンス活動は義勇軍という組織を

立ち上げ、始める事ができ現在も続ける

事が出来ております。

此処にいる少女、コッツも義勇軍の

構成員です。」

 

「シスター様、義勇軍3番隊隊長、

コッツと申します。」

 

「3番隊隊長!

まぁ、お若いのにご立派なのねコッツ。」

 

「いえ、私などまだまだ未熟者です。

しかし、オリオリ様の御身だけは命に

代えてでもお守りせねば、と日々心に

刻んでおります!」

 

「まぁなんと!

未熟者だなんてとんでもない、その志、

並の若者では発言できるものでは

ありません!

オリオリ・・・良き仲間に恵まれたの

ですね。」

 

「はい・・・コッツは本当に良くやって

くれています。

そして私達と一緒に亡命してきた・・・

あの孤児達、あの子達も成長して義勇軍

のメンバーとなりました。

このコッツが指揮する3番隊の隊員と

なって。」

 

「あの子達もレジスタンスグループに!

そうですか、皆頼もしく成長したのですね

・・・それはよかった。」

 

シスターは遠くを見るような目にうっすら

光るモノを滲ませゆっくりと閉じた。

思い出に想いを馳せているようだった。

 

シスターとオリオリが昔話に花を咲かせ

近況を報告し合うのはほっこりして

いいんだけど・・・。

ところで亡命?孤児?って何の話だろう?

孤児達が・・・3番隊のメンバー??

 

「モガ〜?昔話が盛り上がってるところ

すまないが・・・。

オイラ達はオリオリの過去の話はまだ

知らない事が多い。

亡命とか孤児とかってどういう事

なんだ?」

 

モガ丸がアタシ達“ブルリア星組”を代表

して質問した。

 

「モガ丸殿、私の指揮する隊、3番隊の

メンバーは若い隊員が多かったでしょ?

彼らはオリオリ様がこの惑星クラウドに

亡命されてきた折、共にやってきた

子ども達なのです。」

 

「モガ丸さん、リザさん達。

そうですね、皆さんにはお知らせして

いない事がまだありました。

少しお時間をもらえますか?

今からお話いたします。」

 

「モガガ!

も、もちろんだぞ、オリオリの過去は

謎のままの事が多い、是非聞かせて

くれっ、なぁ?リザ。」

 

うん、先日から・・・処刑の洞窟あたり

から・・・そしてゼンチャンの館での

ピエールとのやり取りからも・・・徐々

に明らかになりつつあるけど・・・

そういえばオリオリは・・・この教会で

幼少期を過ごしたとは言え故郷ではない、

とも言っていた。

その辺も含めて聞いておきたいわね。

 

「シスター様も少しお待ちください。

紹介が遅れましたが彼女達はブルリア星

の冒険王姉弟です。」

 

「えっ!?

ブルリア星の冒険王っ!?」

 

「はい、義勇軍の強き味方となってもらう

為、私がスカウトしてきた方達です。

彼女達には私の過去の事でまだ伝えて

いない事があります、それを今からお伝え

しようと思います、シスター様へのお話は

もうしばらくお待ち願えますか?」

 

「ブルリア星の冒険王、こんな若い方達

が・・・しかし異星からの助っ人だなんて

・・・オリオリ、貴方の活動はそこまで

スケールが大きくなっているのですね。

シスターは驚きと感動を覚えています!

ええ、わかりました、先に冒険王の方々

へのお話を済ませなさい。」

 

「ありがとうございます。

ではリザさん達、何からお話をしたもの

でしょうか?」

 

え?えーと、いざ畏まって言われると

何を聞けばいいか困っちゃうわね。

・・・あ、そ、そう!

アタシ・・・うすうすそうじゃないかって

思うようになってて・・・オリオリの

お父様・・・もしかして・・・宇宙王の

末裔どころか・・・その・・・ご本人??

まずそこをハッキリさせたいわ。

 

「・・・気づかれていましたか・・・。

いえ、隠すつもりはなかったのですが

・・・ご推察の通り、私の父は3代目

宇宙王その人、宇宙王ゼナ3世です。」

 

っ!!!!

やっぱりっ!

 

「モガーーーーッ!!

オリオリの父ちゃんが宇宙王っ!!

そ、そう言われればっ!

た、確かにっ!そうだと言われれば

納得できる話が多い気がするぞっ!!」

 

そうよ、そうなのっ!

ただただ初代宇宙王の血を引く、一族の

端くれぐらいかな〜と最初は思ったけど

それにしては王政府の歴史に明るいし!

覚悟とか、宇宙王の嫡流でないと

おかしいぐらいに持ってるしっ!

何よりオリオリ自身の人となり、

人の器、やっぱり宇宙王の娘だって

いうほうがしっくり来るわっ!

 

つ、つまり・・・世が世ならオリオリが

次の4代目宇宙王になるはずだった!?

 

「さぁどうでしょう?

私が子どもの頃に無法者集団のクーデター

が起こり父は王の座を追われてしまい

ましたから。

誰が次の宇宙王に就くか、そういう議論

すらまだ生まれていなかったのではない

でしょうか?

あのまま王政府が存続していれば・・・

私の弟が生まれる、なんて事も起こり

得たわけです、その場合、将来的に

そちらに王位を継ぐというのが本来の

王位継承のあり方でしょうし。」

 

あ、そうか。

けど可能性の1つとしてオリオリ女王

っていうシナリオもあるにはあったん

だろう。

そ、それで・・・亡命って??

 

「私の故郷・・・それは惑星クラウドでは

なく・・・王の惑星アレスという星です。

宇宙王一族は惑星アレスの出身であり

王政府の宮殿もアレスにありました。」

 

王の惑星アレスッ!!

なんて神々しい、尊厳のある名前なの!

宇宙を統べる宇宙王にふさわしい名前っ!

 

そして、そうかっ!

王の住まうアレスを守る集団、宇宙王=

アレスの名の下に宇宙の平和を守る集団

という意味で組織されたのがアレスの聖剣

なのねっ!

 

「私の故郷、惑星アレスは・・・緑豊か

で平和な星でした。

星と星との往来も自由でしたし。

百花繚乱の文化も花咲いておりました。

あの日までは・・・!

あの日・・・無法者集団によるクーデター

が起こり王一族の宮殿は大混乱に陥って

しまいました。

しかし混乱状態だったからこそ、私達は

逃げる事ができたのです。

許嫁であったセアドは私の身を案じ、

この宇宙王の書に魔法を使って私を

封印しました。

それを幼馴染のボロンに持たせ移動の

魔法を使って、この惑星クラウドまで

ワープさせたのです。

その際に、宮殿に仕える多くの者達の

子息も一緒にワープさせました。

先程お話した、後に3番隊の隊員となる

子ども達です。」

 

アタシ達姉弟とモガ丸、スラッピは押し

黙ってオリオリの話に聞き入る。

けどしかし、宇宙王の書にオリオリが

封印されている理由が判明したわ。

セアドがオリオリを宇宙王の書に封印したの

は・・・クーデターからオリオリを守る為

だったのねっ!

 

「父と母も混乱に乗じて宮殿から落ち延びる

事ができたと後から聞きましたが・・・。

その後の動向はリザさん達もご存知の

通りです。

身分を隠し秘密裏に宇宙政府に参加し

内政変革を目指しましたが正体が露見し

そして・・・コモゴモスさんが語った

事実となったのです・・・。」

 

・・・そ、壮絶・・・その一言しか

思い浮かばない。

この麗しき次期宇宙王の女性は・・・

子どもの頃すでに凄まじく悲惨な

経験をしていた・・・!

そしてそんな小さな子どもの頃から

本の中での生活を余儀なくさせられる

運命を辿っていたなんて・・・。

 

アタシには想像もできない苦難の道を

オリオリは歩んできたんだ・・・。

 

「私とボロン、そして孤児となって

しまった宮殿の仕官達の子息らは・・・

セアドの移動魔法にて惑星クラウドの、

この地方に辿り着いたのです。

大人は誰もおらず、子どもだけの集団。

皆、自分達の身に何が起こったのか、

薄々は理解していましたが、やはり

子どもばかりだったので悲しみや不安

といった気持ちで一杯でした。

途方に暮れていた私達を救ってくれた

のが此処におられるシスターイェルバ

でした。」

 

「ええ。貴方達はみな、魂が抜けたような

生気のない顔をしていました。

まだまだあどけなさの残る年頃なのに、

子どもの無邪気さなど微塵も感じられず

みな一様に下を向き誰も口を開く事は

なかった。

しかしお父様やお母様はどうしたの?と

聞くと・・・皆一斉に大声で泣き出して

しまいました。

これは只事ではないと、当時の私は

思ったものです。」

 

「・・・昨日まで平常に暮らしていた

のに、突如として宮殿に魔物達が乱入

してくる・・・幼い子ども達には理解

できない事態であり、そして、ただただ

目の前に迫り来る魔物の恐怖があった。

親を目の前で殺された子もいました。

その恐怖と理不尽さから自己が壊れる

のを防ぐ防衛本能が働き・・・彼らは

生ける屍と化してしまったのかもしれない

・・・。

それが親というワードがシスター様から

発せられた事により・・・恐怖の体験

がフラッシュバックしてしまったので

しょう。

そしてもうパパやママは死んでしまった

んだと・・・幼心に理解したのです

・・・!」

 

「あの時私は・・・とても居た堪れない

気持ちになりました。

しかしオリオリ、貴方は・・・涙を堪え

必死に自分より小さい子ども達を元気

づけようとしていました。

今思えば・・・あの時既に・・・貴方は

リーダーとしての資質を備えていたのです。

まだ小さいのに、なんて立派な女の子

なんだろうと、私は感銘を受けたものです、

しかし同時に不憫にも思いました。

自分もツライ気持ちだろうに、と。

それで私は・・・小さい子ども達は勿論

の事、何よりオリオリを1人にしては

いけないと思いました。

そして貴方達のお世話をする決意をし、

この教会で面倒を見るようになったのです。」

 

「シスター様には本当に感謝しています。

私が本の中になぜ居るのかなど・・・深い

事情はお尋ねにならず・・・とにかく

此処に居なさい、明日から一緒に

生活しましょう、と仰られて。

一夜にして全員が身寄りのない孤児と

なってしまった私達に・・・生きる場所

をお与えになられました。

いえ、場所だけではありません、その

慈しみのお心は・・・親を失くした私達

の心の拠り所でもありました。

感謝してもし切れないほどです。

・・・リザさん達・・・以上が私の

生い立ちです。」

 

・・・プハァッ!

こっ、濃いっ!!濃ゆいわぁっ!!

オリオリの半生のなんと濃密な事っ!

 

そうだとは思いつつも、正式な正統の

宇宙王の血筋のお姫様だったなんて!

そして・・・まだ幼い頃に体験した

一家離散、一族離散の憂き目!

 

生まれはお姫様かもしれないけど・・・

その人生のほとんどを追われる身で

過ごしてきた多難な運命。

それがオリオリという人間を形成して

いただなんて。

オリオリ、貴方って人は・・・。

 

そして・・・。

義勇軍3番隊の若者達もまた、幼い頃に

悲惨な目に遭い、そしてオリオリと共に

なんとか生きてきたんだ。

 

そうか、彼らは牢獄から解放された時、

オリオリを見て皆一様に涙していた。

なんて忠誠心の厚い若者達なのって、

その時はそれぐらいにしか思わなかった

けど彼らの中には・・・悲惨な境遇を

オリオリと共に乗り越えてきたっていう

想いがあるのね。

 

その悲惨なクーデターが・・・ピエール

が言っていた宮殿での出来事・・・。

そしてピエール、ボロンに取っても

教会での日々は・・・イェルバからの

無償の慈愛を受けていた日々・・・

オリオリと孤児達と共に身を寄せ合って

過ごした日々・・・。

 

それを聞かされたアタシは・・・やっぱり

ボロンが義勇軍を離れるという選択肢を

取った事が理解できない、許せない!

オリオリだけでなく、3番隊の若い隊員

もボロンに取っては昵懇の友のはず。

それを・・・!

身の安全を保障していたとは言え、

彼らを政府の軍勢に襲わせるという事態

を招いたしまった彼の選択肢が

ますます許せなくなった!

 

オリオリや3番隊隊員の凄絶な過去、

そしてボロンへの怒り・・・アタシ達の

知らない様々な出来事が衝撃を与え、

アタシ達“ブルリア星組”はしばし口を

開く事ができなかった。

が、やがてシスターイェルバが口を開く。

 

「ところでオリオリ。そういえば・・・。

ボロンの姿が見えませんね。

彼とは行動を共にしていないのですか?

あれほど『オリオリは俺が守るんだ』

って言っていた彼が・・・。」

 

「・・・シスター様・・・実は今日伺った

のは他でもありません、そのボロンの

事なのです。

彼は義勇軍の親衛隊長、つまり私専属の

ボディガードのような役割をこなして

くれていましたが・・・。」

 

オリオリは手短にボロンが義勇軍を

離れ宇宙政府の手先となってしまった事、

そしてオリオリもボロンと決別する覚悟

を決めた事を伝えたの。

 

「つい先日もボロンは我々の前に現れ

ゼンチャンという、えっと、男性と

チャングーというオレンジ色のスライム

を連行していってしまいました。

彼は今、仮面を被りピエールと名乗って

います。

シスター様、ピエールなる者が此処を

訪れませんでしたか?

このリザさんとスラッピさんによれば

この教会を訪れたのは間違いない、と

いう事なのですが・・・。」

 

するとイェルバは黙り込んでしまい・・・

伏し目がちで深い溜息を漏らした。

 

「はぁぁああ・・・なんて事・・・

あの白い仮面の騎士が・・・あのボロン

だったなんて・・・。」

 

「シスター様っ!

それではやはりボロンは此処にっ!?」

 

「ええ・・・。

大柄な男性と・・・少しおかしな格好を

していましたがその男性とオレンジ色の

スライムを伴っていました、間違い

ありません。

白い仮面の騎士、確かにピエールと

名乗っていました。

彼は祭壇で祈りを捧げていました。

どういうつもりで祈っていたのかは

語りませんでしたが。」

 

やっぱりピエールがここを訪れていた!

そして神に祈りをっ!?

ボロンにとってもこの教会は・・・

九死に一生を得た命を育ててくれた大恩

ある場所。

そしておそらくは・・・その頃から想い

を寄せていたオリオリとの思い出の場所

でもあるはず。

何か決意のようなものをミトラ神に

誓っていたんだろうか?

 

「しかし・・・非常に遺憾です、まさか

ボロンが宇宙政府に与するなど・・・。

自分達の境遇を苛酷なものにした相手

に加担だなんて・・・おこがましいけど

・・・私はボロンも含めて・・・此処で

育った貴方達全員の育ての親だと思って

います。

“息子”がそんな愚かな事をしているだ

なんて・・・!

もし先に知っていたなら引っ叩いてでも

行いを改めさせたものを!」

 

シスターイェルバッ!

な、なんてお優しい方なんだろう!

少なくともアタシは・・・ボロンの裏切り

を知った時、腹が立って仕方がなかった。

殺してやりたいとまでは思わなくても

なんて勝手なヤツだ!って・・・憤慨の

気持ちしかなかった。

 

けどこの恰幅の良い修道服の女性は

・・・ボロンの性根を叩き直すと仰った。

血は繋がっていなくとも・・・本当の

親子のような関係が築かれていたん

だろう。

 

「シスター様・・・ピエールは・・・

ボロンはっ!

自分の信じる道に・・・ただひたすら真っ

直ぐなのです、ただ、信じたその道が

・・・私に取っては間違ったものに思える

のですが・・・。

それはさておき・・・ピエールは何処へ

向かったのでしょう?

それらしい事を言っていませんでしたか?」

 

「迫真の洞窟と星雲の洞窟が魔物の根城

となり、そこに巣食う魔物達から教会が

脅されていると伝えたところ、血相を

変えて・・・いえ、仮面を被っていたので

表情は伺えませんでしたが・・・その

魔物達を退治するといって飛び出して

いってしまいました・・・。

私が制止するのも聞かず・・・。」

 

「えっ!?

ボロ、いえピエールが魔物を退治・・・

彼は今、宇宙政府に属しています・・・

そんな彼が政府の魔物を倒す・・・

シスター様、ピエールは間違いなく

そう言ったのですか!?」

 

「はい。

迫真の洞窟と星雲の洞窟とは・・・オリオ

リ、貴方とボロンがよく遊びに出かけに

行っていた場所ではなかったですか?」

 

「あ、あぁ!そう言えばっ!

またまた記憶が蘇ってきました、確かに

私とボロンはその2つの洞窟に出かけて

いました。

その洞窟にはそれぞれ・・・そこにしか

咲かない花が咲いており私はよくお花摘みに

出かけていて、ボロンも一緒に付いてきて

くれていたのです。」

 

「・・・オリオリ様・・・ボロンに取って

その洞窟達は・・・大切な思い出の場所

なのかもしれません。

いくら今は同胞である政府の魔物とはいえ

・・・思い出の地を荒らされている、と

捉えたのかもしれませんね。」

 

「ええ、私もそう思います。

いくら政府に身を置いたとはいえ、あの子

にとって、この地で過ごした日々は

やはり大切な思い出なのでしょうし、

そうあって欲しいと私は思います。

彼は大丈夫と言い張っていましたが

沢山の魔物が居る場所にたった3人で

向かうなど・・・しかも付き添いの大柄

な男性は、自分は戦えない、というような

事を話していましたし・・・私はとても

案じております。

オリオリ、コッツさん、それに冒険王、

助けに行ってあげてくださいっ!

シスターからのお願いですっ!!」

 

「・・・ボロン・・・アナタという人

は・・・ホンットにっ!

ホンットに自分勝手なんだからっ!!」

 

オリオリ!?

ど、どうしたのっ!?

オリオリが突然、ボロンの事を叱りつける

ような言葉を発した。

 

「私や過去の自分と決別する、と言って

みたり・・・そうかと思えば此処での

思い出の場所を大事に思うような

行動・・・人を振り回すにも程が

ありますっ!

シスターでなくても、私も引っ叩いて

やりたくなりましたっ!

コッツ、リザさん達っ!

迫真の洞窟へ向かいましょうっ!!

魔物達にやられてしまってはボロンを

引っ叩く事ができませんっ!!」

 

アハッ、そういう事ねっ╰(*´︶`*)╯

笑っちゃいけないけど、なんかオリオリ

に元気が出てきたっ!

ボロンの事になると塞ぎがちになって

しまうオリオリだったけど、そうよ、

1発ブン殴ってやればいいのよっ!

 

敵対しているとはいえ、オリオリも

ボロンには目を覚ましてほしいんだ。

言っても聞かないから、もうブン殴って

やるしかないものね。

よしっ!行こうっ!迫真の洞窟へ!

ボロン、いえピエールなら・・・魔物

ごときにやられはしないと思うけど、

ゼンチャン達が心配でもあるし。

とにかくピエール達に追いつかなくては。

 

「あ、ちょっと待ってオリオリ!

そう言えばっ!!

もうひとつ気になる事がありますっ!」

 

っ!?

アタシ達が出発の意思を固めた矢先、

突然イェルバが呼び止める声を発した。

 

「どうしました?シスター様。」

 

「そういえば、ボロン・・・ピエールが

此処を発った後、貴方達が今日訪う前

にも此処を訪った者がおりました。

・・・若い女性で剣を携え赤い服・・・

あぁそうっ!コッツさん、貴方がお召し

になっている服装に似た服を召して

いました!

その者も迫真の洞窟へ向かったのです!

洞窟が魔物の根城になっていると聞いて

退治する為にやって来た、と申して

おりました。

あんなに若い・・・しかも女性が単身

魔物の巣窟に向かうなど・・・危険

極まりない事です!

私は強く引き留めをしたのですが、全く

聞く耳を持たずといった様子で飛び出し

て行ってしまいました・・・。

ボロンと共にその若い女性も助けてやって

くださいっ!お願いしますっ!」

 

えぇ!?

剣を持った義勇軍の制服に似た格好を

した女性ですって?

一体何者?

それともアタシ達のまだ知らない義勇軍

のメンバーが居るんだろうか?

 

「・・・義勇軍には単身で活動している

女性兵士などは存在しません。

一体何者でしょう?

コッツ、貴方心当たりはありますか?」

 

「いえ!私も存じ上げません。

帯剣しているという事は・・・多少は

腕に覚えのある者でしょうか?

しかし実力の程は計りかねます、急いで

洞窟に向かった方が良さそうですね、

オリオリ様っ!」

 

「そうですね、コッツ!リザさん達っ!

正体不明の女性戦士の事も気がかりです、

急いで洞窟に向かいましょうっ!」

 

「ハハッ!」

 

此処を訪れた若い女性戦士、オリオリ達

にも心当たりがないという。

どれぐらいの実力を持っているか

わからないけど・・・危険である事に

変わりはない!

 

女性戦士の安否、それにピエール達の

動向、とにかく急いで確認しなくてはっ!

アタシ達はイェルバに見送られながら

急ぎ迫真の洞窟へ向かった。

 

****************************************************

 

「グヌヌ・・・つ、強い・・・たった

1人で俺らの軍勢を・・・ぜ、全滅させる

とは・・・お前は何者・・・!?」

 

「・・・フン・・・貴様ら下等な魔物に

名乗る名などない・・・。」

 

「グッ!

な、なんのつもりで・・・俺らの事を

・・・?」

 

「・・・もう死んでしまう貴様らが知る

必要はない・・・。」

 

ガッ!!

 

「グハァッ!!!・・・グ、グフっ!」

 

アタシ達が迫真の洞窟へ出発した頃、

ピエールは既に、この洞窟に巣食う魔物達

を全滅に追い込んでいた。

 

「ひゃああああっ!

ブルリア星の冒険王ちゃん達も強いけど

ピエール様もとってもお強いのね〜〜!

ワタシますます惚れてしまうわぁ❤︎」

 

と、ピエールは洞窟の片隅に咲いている

花に近寄っていく。

 

(「クラウドケイトウ・・・フフ、無事だったか

・・・オリオリが好んでいた花・・・

花言葉は『博愛』・・・まさにオリオリ

の為にあるような言葉よな。」)

 

赤や黄、ピンクといった鮮やかな色の花々。

花穂の形状が鶏のトサカに似ている事

から、その名前が付いたらしい。

 

「まぁピエール様、綺麗な花ですこと、

ピエール様はお花を愛でる趣味も

持ってらっしゃるの?

ウフフ、かっわいい〜❤︎」

 

ピエールは花の前で屈み込み、愛でる

ように花を撫でた。

花を愛でているのか、それとも、この

花を愛したオリオリを愛でているのか、

それはピエールにしかわからない。




***登場人物紹介***
・リザ
本編の主人公。つまりアタシ。職業は賢者。
偉大な魔道士を目指し冒険を通じ日々修行
しています。
理不尽な事がキライで宇宙政府の汚いやり方
等を聞かされるとちょっと、ほんのちょっと
気性が荒くなる、と言われます(−_−;)
恋愛には疎く恋バナはニガテです。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスターで剣が得意。
彼もアタシ同様、日々修行を欠かさずどんどん
強くなっていて、そのスキルの強さには
もうアタシでもかなわないわ。
アタシも負けてられないっ!

・レイファン
末の妹。職業はスーパースター。
回復行動やオンステージというサポート行動
が得意。
こだまする光撃という最高のサポートスキル
でアタシやジョギーの攻撃を最大限に強くし
てくれます。

・モガ丸
アタシ達の冒険の最初からの友達。
戦闘は得意ではないけど見え〜るゴーグルで
宝物を発見したり移動呪文ルーラで冒険の
移動を助けてくれたり、と冒険のサポートを
してくれる。
種族はモモンガ族で一族には悲しい過去が
あったけど、それを乗り越えて今なお
アタシ達と一緒に冒険を続けてくれてるの。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉は通じないけどモガ丸だけはスラッピの
話している事がわかるの。
ただ、トラスレの聖水を飲む事でアタシ達
とも会話ができるようになり、実はコテコテ
の関西弁を話す事が判明。
モガ丸のワガママで関西弁で話す事は禁止
されてるけど(o_o)

・オリオリ
宇宙王の書という本にワケあって閉じ込め
られている美しい女性。
その正体は宇宙王の末裔。
そして・・・3代目宇宙王の娘である事が
とうとう明かされたっ!!
世が世なら4代目宇宙王となる人物だったのっ!
圧政を敷く宇宙政府を倒すため義勇軍という
レジスタンス組織を作り反政府運動を続け
ている。義勇軍の総司令官。
実は既婚者でセアドという夫がいるの。
義勇軍親衛隊長ボロンとは幼馴染だけど
ボロンが義勇軍を離れ宇宙政府に参加した
上にオリオリに愛の告白をした事により
その胸中は複雑極まりないものになって
しまった。

・コッツ
義勇軍3番隊隊長。
3番隊は政府軍に捕虜として連行されていた
けどベェルの町でついに全員無事で発見され
救出された。
コッツは冒険のさなかも部下達の安否に心を
砕いていた。
無事の救出でようやくコッツの心の闇は完全
に取り除かれた。
アタシ達と行動を共にするうち、アタシに
強い憧れを抱くようになったらしい(//∇//)

・ゼンチャン
全知全能のチカラを持つと言われている
人物。その正体はオネエだった( ̄▽ ̄;)
その能力ゆえ幾度となく宇宙政府に命を
狙われ処刑寸前に。
アタシ達は心ある宇宙政府の役人コモゴモス
の協力もあり、なんとかゼンチャンを救出
する事に成功したの。
その全知全能の能力とは!
チャングーという相棒のスライムと協力して
行う霊視だった!
彼女(彼)はホンモノだった!
ただアタシはどうしても彼女(彼)のキャラが
受け付けられなくて、極力絡むのを内心避け
てるの、これ内緒だけどね( ̄O ̄;)

・チャングー
ゼンチャンの相棒のスライム。
ゼンチャンがその能力を発揮するためには
チャングーの身体を媒介しなきゃいけない。
イコール2人で1つのコンビなの。
宇宙政府はそこに目をつけチャングーの事も
捕らえて監禁していた。
スラッピと同じく何故かコテコテの関西弁を
話すの:(;゙゚'ω゚'):

・ピエール(ボロン)
宇宙政府を内側から変革させて宇宙平和を
もたらそうと考えるスライムナイト。
その正体は義勇軍親衛隊長ボロン。
ボロンは幼馴染であるオリオリに恋心を
抱いていた。
打倒政府を目指し続ければオリオリの身に
危険が及ぶ事を憂慮して政府の内政変革に
路線変更した、というのが彼の言い分。
その“裏切り”がオリオリだけでなく様々な
関係者に悪い影響を及ぼすという自覚はないの。
困ったものだわ。

・イェルバ
オリオリとボロンが幼少期に過ごしていた
竜巻の教会に仕えるシスター。
神へ祈りを捧げる事を宇宙政府に禁止されて
しまい教会を訪れる人々もやがていなくなり
教会は寂れてしまった。
その事を嘆いているけど、祭壇のお手入れ
だけは欠かさず自身だけは礼拝を密かに続
けるなど篤い信仰心を持っている。
オリオリやボロン達を我が子のように
想い、それゆえボロンが宇宙政府に与して
しまった事を非常に嘆いているの。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード8.「不思議な女戦士」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



「モガーーーーッ!?

こ、これはどういう事だっ!?」

 

「そ、そこいら中に倒された魔物の

遺骸が転がっていますね。」

 

ゼンチャンとチャングーをピエールから

救出する為、そして謎の女戦士がこの

洞窟へ向かったとのシスターイェルバの

証言があり、この女性をも助け出す為、

アタシ達は此処、迫真の洞窟へと

辿り着いた。

 

しかし此処に巣食っていたハズの宇宙政府

の魔物達は・・・何者かに既に全滅させられてたの。

まぁ、おそらく・・・ピエールがやったんだろう。

 

洞窟の最深部まで進んだけど生き残って

いる魔物はもういないっぽい。

辺りを見回しても、もう動かない魔物

の遺骸ばかりだった。

 

「・・・懐かしい〜・・・と言いたい

ところですが・・・この状況では・・・

思い出に浸っている場合ではなさそうですね。」

 

書からオリオリが現れ独り言つ。

確かにね。

幼少期の思い出の場所が魔物の死体だらけ

では、感傷に浸る気分すら失せるというもの。

 

「モガ〜・・・ピエールは・・・もう

宇宙政府の人間だってのに。

言わばコイツらは味方だったはず。

それを全滅させるだなんて・・・

よっぽど此処を魔物のアジトにされた事

が我慢ならなかったのかな?」

 

「やはりピエールに取っては・・・

オリオリ様との大事な思い出の場所、

という事なのでしょう。」

 

「・・・。」

 

まぁ、確かに。

ピエール曰く、心底から政府に忠誠を

誓ってるってワケじゃないしね。

表向き従ってるだけの組織。

その組織の魔物達が自分の思い出の地を

荒らすのは許せないって事なんだろう。

けどアタシ達からすれば・・・一体

アンタはどっちの味方なの!?って

言いたくなるけどね。

オリオリが「自分勝手なっ!」って怒る

のも無理のない事。

 

「あ・・・この花は・・・。」

 

と、オリオリがフロアに咲いている花に

気づいた。

赤、ピンク、黄色といった鮮やかな色合い

の花々だった。

 

「・・・この花です、私が幼い頃この

洞窟を訪れていた目的は。

このクラウドケイトウという花は、この

辺りでは此処にしか咲いておらず、私は

この花が好きでよくこの洞窟にやってきて

摘んでいました。

・・・ボロンは『かったるい』と不平を

言いながらも、毎回私について来て

くれていました・・・。」

 

・・・そうなんだ。

悲しい境遇の中の、心休まるひと時だった

んでしょうね、オリオリにとって。

そしてボロンに取っても・・・オリオリと

2人で過ごせる大事な時間だったんだろう。

 

「どりゃどりゃどりゃ〜〜〜っ!!」

 

な、なんだ!?

 

「乙女の戦士セセニョン参上〜〜っ!

宇宙政府の魔物はどこだ〜〜〜〜!?」

 

奇妙な掛け声を発し剣を振り回しながら

若い女の子が突然現れた。

乙女の戦士・・・あっ!この子がっ!!

シスターイェルバが言っていた若い女性戦士かっ!?

 

「モガ〜、誰だお前は?ん?

あっ!そそそ、その服っ!!

義勇軍の軍服にソックリだぞ!

って事はお前がシスターが言っていた女戦士かっ?」

 

そう、そして赤い・・・コッツやオリオリ

が着ている義勇軍の服にソックリな軍服を

身に纏っていたの!

 

「んん〜?誰だい、アンタ達?あれ?

どっかでアタイと会った事あるかい?

ごめんよぉ、アタイは物覚えが悪くてね〜?

人の顔や名前を覚えらんないのさ。」

 

「それは困った性格だな!けどお前と

会ったのはこれが初めてだぞ!」

 

「あ、そ、そうかい、アタイはホントに

物覚えが悪くてね〜。もしかして会った

事があるんなら申し訳ないな〜と思って

一応聞いてみたのさ。」

 

「なんだそりゃ!

ホントに困った性格だな〜!」

 

【挿絵表示】

 

「それより、此処に宇宙政府の魔物が

居るって聞いて退治に来たんだけど・・・

あれ?魔物が全部倒されている?

これアンタ達が倒したのかい?」

 

その・・・セセニョンという名の女の子

・・・どこかボロンに似ている・・・

とアタシは思ったの。

 

綺麗な色合いのシルバーの髪、パープル

の肌、尖った耳など・・・もしかしたら

同族なのかしら?

 

「アタイが倒そうと思っていた魔物を

倒すだなんて、アンタ達なかなかやる

じゃないか!

なんて名前だい?

覚えるのは苦手だけど聞いてあげるよ。」

 

「モガ、オイラはモガ丸。

このスライムはスラッピ。

そしてコイツらはブルリア星の冒険王姉弟

リザ達だ。

ほんでこっちは・・・。」

 

モガ丸がコッツとオリオリの事も紹介

しようとするとコッツが首を横に振った。

義勇軍だという事を伏せようと暗にその

顔は語っていた。

そしてとっさにコッツは書から出ていた

オリオリの前に立ちセセニョンの目に

触れないようにしたの。

 

・・・確かに。

この女の子・・・悪い子じゃなさそう

だけど・・・正体不明ではあるし・・・

義勇軍の服装を真似ているところが

少し引っかかると、コッツは判断したんだろう。

 

「モガ丸にスラッピにリザ達か。

アタイは顔と名前を覚えるのは苦手

だけどリザ達の事は忘れないよっ!

じゃあ、魔物はもう退治されちゃってるし

アタイはこれで失礼するね!」

 

「あ、ちょっと待ってください、

セセニョン殿っ!」

 

「ん?なんだい?」

 

「貴方のその服装・・・義勇軍の制服に

よく似ています。

もしかしてセセニョン殿は義勇軍の戦士

なのですか?

私・・・実は義勇軍の大ファンなんです!

ホラ、この服も義勇軍の制服のレプリカ

なんです、それぐらい憧れてるんですぅ!」

 

コッツは・・・本物の制服を着ている事

を逆手に取り、とっさに義勇軍のファン

を演じてみせた。

 

「アハ、これかい?

アタイは本物の義勇軍の戦士じゃないよぉ、

アンタとおんなじさ。

義勇軍に憧れてるんだ。

今は1人で魔物と戦ってるけど、いつか

本物の義勇軍に入って悪い宇宙政府を

倒すのが目標なんだ。

この制服もアンタと同じように複製品さ。

以前に一度だけ本物の義勇軍が戦って

いるところを目撃して。

その時、彼らが着ていた服が印象に

残っていて・・・自分で調達したのさ。」

 

「な、なぁんだセセニョン殿も私と同じ

だったんですね〜。

私もいつか義勇軍に入ってみたいな〜。

そしたらセセニョン殿と2人で義勇軍の

女戦士コンビって呼ばれるかもしれませんね!」

 

「アハ!そうなるといいねぇ。

けどアタイはまだ当分1人で魔物を倒すのを

続けるよ。

もっともっと強くならないと、義勇軍に

入隊する事はできないって思うんだ。

まぁ今は・・・1人義勇軍ってとこかな。」

 

「1人義勇軍・・・そうですか・・・。

単独行動は危険だと思いますが・・・

無理をせずお互い頑張りましょう!」

 

「あぁ!

じゃあアタイはこれで失礼するよっ!

他にも宇宙政府の魔物達に脅かされて

いる人達がいるからね。

アンタ達また会うといいねっ!

じゃね〜っ!」

 

そう言うと、セセニョンは洞窟を

去っていった。

ふ、不思議な女の子だったなぁ。

けど悪い子には思えなかったけど。

やっぱり警戒はしておいた方がいいのかな。

 

「・・・オリオリ様、どう思われますか?

あの者。咄嗟に我等の素性は明かさぬよう

取り計らいはしましたが・・・特に我等に

害を成す存在ではないように私は思います

が・・・。」

 

「・・・あの女の子・・・何処かで会った

ような・・・いえ、記憶があるわけでは

ないのですが・・・初めて会った気が

しません。あの澄んだ瞳・・・。

あの瞳を何処かで目にしたような気が

するのです・・・。」

 

オリオリが含みのある内容を口にする。

オリオリは幼少期を過ごしたこの地方に

足を踏み入れてからというもの、幼い頃の

記憶を次々と蘇らせている。

セセニョンとは顔見知りだっていう話も

あながち思い違いではないんだろう。

 

「・・・しかしとりあえずは・・・

正体が判明するまでは我等の素性は

伏せておく、という事にしておきましょう。」

 

「ハハッ!仰せの通りにっ!」

 

ひとまずはアタシ達が義勇軍である事、

オリオリの事は伏せておく、という事で

話はまとまった。

 

さて、ピエール達は此処にはいなかった。

政府の魔物の根城になってしまった

もう1つの洞窟、ここへ向かうのかしら?

オリオリ。

 

「そうですね。

もう1つの洞窟、『星雲の洞窟』も・・・

私とボロンはよく訪れていました。

今度こそボロ、いえピエール達に追いつき

ゼンチャンさん達を救出しましょう。」

 

ピエールは・・・やっぱり幼少期のオリオリ

との思い出の洞窟のこだわっている。

もう1つの洞窟、「星雲の洞窟」の魔物達

も退治するつもりだろう。

 

ここ「迫真の洞窟」ではピエールとは

入れ違いになってしまったけど、次の洞窟

ではピエールに追いつけるといいわね。

 

そして不思議な女戦士セセニョン。

彼女は一体何者なんだろう?

オリオリとは赤の他人ではなさそうだけど。

 

************************************************************

 

「グ、グガガガ・・・おのれぇ・・・

我等宇宙政府に楯突くとは・・・貴様、

このままで済むと思うな・・・!」

 

「・・・フン、負け犬が吠えそうなセリフ

そのままだな。」

 

ガスッ!!

 

「ガハァッ!!!

・・・む、無念・・・グフッ!」

 

その頃、なんとピエールは星雲の洞窟の

魔物達も、既に全滅させていたの。

 

「・・・この洞窟には・・・そう・・・

クラウドパンジーか・・・この花も・・・

オリオリは好んでよく摘みに来ていた。

オレもよく付き合わされたものだ・・・。」

 

またしても洞窟に咲き誇る花々の名を呼ぶ

ピエール。

クラウドパンジーというらしいわね。

オリオリが愛した花。

魔物達の遺骸が転がる地獄絵図の中で

対照的に懸命に生きようと咲いている花達

のそばでピエールは膝をつき、その花を

愛でる。

 

「クラウドパンジーの花言葉は・・・

純愛・・・遠く離れ離れになってしまった

許嫁セアド・・・ヤツを純粋に愛する

オリオリ・・・といったところか・・・。

しかしこの花の花言葉は・・・オレにも

当てはまるものであった・・・。

傍目から見れば許されざる想いとしか

映らんだろう。

しかしオレの想いは・・・オリオリを想う

心は・・・ただ純粋なモノだと断言できる

・・・。

見返りなど要らん。

オリオリが幸せならば・・・その相手が

オレでなかろうともかまわないのだ。

ただ、その人を想う気持ち・・・。

フッ、まぁ、理解できる人間など居らぬ

であろうがな。

オレ自身がわかっていればそれでいい事。」

 

自分だけが知っていればいいという

ピエール・・・ボロン・・・。

残念ながら、その言葉通りに・・・

その独り言ちは洞窟内に虚しく響く

だけだった。

 

 




***登場人物紹介***
・リザ
本編の主人公。つまりアタシ。職業は賢者。
偉大な魔道士を目指し冒険を通じ日々修行
しています。理不尽な事がキライで宇宙政府
の汚いやり方等を聞かされるとちょっと、
ほんのちょっと気性が荒くなる、と言われます(;´Д`A
恋愛には疎く恋バナはニガテです。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスターで剣が得意。
彼もアタシ同様、日々修行を欠かさずどん
どん強くなっていて、そのスキルの強さ
にはもうアタシでもかなわないわ。
アタシも負けてられないっ!

・レイファン
末の妹。職業はスーパースター。
回復行動やオンステージというサポート行動
が得意。
こだまする光撃という最高のサポートスキル
でアタシやジョギーの攻撃を最大限に強く
してくれます。

・モガ丸
アタシ達の冒険の最初からの友達。
戦闘は得意ではないけど見え〜るゴーグルで
宝物を発見したり移動呪文ルーラで冒険の
移動を助けてくれたり、と冒険のサポート
をしてくれる。
種族はモモンガ族で一族には悲しい過去が
あったけど、それを乗り越えて今なおアタシ
達と一緒に冒険を続けてくれてるの。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉は通じないけどモガ丸だけはスラッピ
の話している事がわかるの。ただ、トラスレ
の聖水を飲む事でアタシ達とも会話ができる
ようになり、実はコテコテの関西弁を話す事
が判明。モガ丸のワガママで関西弁で話す事
は禁止されてるけどʅ(◞‿◟)ʃ

・オリオリ
宇宙王の書という本にワケあって閉じ込め
られている美しい女性。その正体は宇宙王
の末裔。
圧政を敷く宇宙政府を倒すため義勇軍という
レジスタンス組織を作り反政府運動を続けて
いる。義勇軍の総司令官。
実は既婚者でセアドという夫がいるの。
義勇軍親衛隊長ボロンとは幼馴染だけど
ボロンが義勇軍を離れ宇宙政府に参加した上
にオリオリに愛の告白をした事により衝撃を
受けてしまったの。

・コッツ
義勇軍3番隊隊長。
3番隊は政府軍に捕虜として連行されていた
けどベェルの町でついに全員無事で発見され
救出された。コッツは冒険のさなかも部下達
の安否に心を砕いていた。
無事の救出でようやくコッツの心の闇は完全
に取り除かれた。
アタシ達と行動を共にするうち、アタシに
強い憧れを抱くようになったらしい\(//∇//)\

・ピエール(ボロン)
宇宙政府を内側から変革させて宇宙平和を
もたらそうと考えるスライムナイト。
その正体は義勇軍親衛隊長ボロン。ボロンは
幼馴染であるオリオリに恋心を抱いていた。
打倒政府を目指し続ければオリオリの身に
危険が及ぶ事を憂慮して政府の内政変革に
路線変更した、というのが彼の言い分。
その“裏切り”がオリオリだけでなく様々な
関係者に悪い影響を及ぼすという自覚はない
の。困ったものだわ。

・セセニョン
1人義勇軍を名乗る自称、乙女の戦士。
その正体は今のところ全くもって不明。
そして実力のほども定かではない。
義勇軍に強く憧れを抱いている様子。
オリオリとは何やら浅からぬ縁がありそう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード9.「オーブ信仰と謎の少年」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



「ハァアアッ!

全知全能・・・全知全能・・・

ゼンチゼンノウ・・・ゼンチャングーー!」

 

(ほぉ、これが全知全能の能力か・・・

2つほど案件を聞いてはいたが・・・

この目で見てみれば、それなりに荘厳な

光景よな。

なるほど、ただのイカれたオカマでは

なかったというワケだな。)

 

「全知全能のオンナ、ゼンチャンが拝見

しました。

宇宙政府の隠したい秘密・・・それは

・・・。」

 

「何!?もう判明したのか!?

早いな、さすが全知全能のオンナ!」

 

「それは・・・近衛隊の本隊長・・・

妻子ある身でありながら部下の女性兵士

と密会不倫をしている・・・よ。」

 

「はぁ!?・・・・・・。」

 

ゼンチャンが告げた内容に・・・ピエール

は言葉を失ってしまった。

開いた口が塞がらず沈黙が続いてしまった。

 

「聞こえなかったかしらピエール様。

宇宙政府の近衛隊の本隊長はっ!

妻に隠れて・・・しかもあろうことか

執務中にもかかわらず、その若い女性兵士

と・・・。」

 

「ダメだっ!

そんな矮小なネタで政府をひっくり返せる

ワケなかろうっ!次だ次っ!!」

 

「え、ええ〜〜〜・・・なんでっ!?

だって3年も続いてるのよ3年も・・・。」

 

「うるさいっ!他はっ!?」

 

「え〜〜〜〜もう・・・人遣いが荒いわね

・・・結構疲れるんだからね、コレ〜。」

 

朝靄が立ち込める・・・とある祠で繰り広げ

られるピエールとゼンチャン達の白熱する

審議・・・どうやらピエールは宇宙政府を

揺するネタをゼンチャンに探らせている

みたいね。

彼とオリオリの思い出の場所である洞窟

の魔物退治を終わらせて、いよいよ政府内

でのし上がっていく準備を始めたのかしら。

 

「じゃあこれはどう?贈収賄ネタよ。

建設省大臣、一般市民の企業●●組に

便宜を図り賄賂を受け取る・・・」

 

「むぅぅ、さっきよりは社会ネタだが

・・・そのような話、腐り切った上層部

ではよくある話。ダメだ!弱いっ!」

 

「えぇぇ!?

じゃあ、こんなにスキャンダルを抱えてる

役人ばっかり任命してる皇帝の任命責任

を問うっていうのはどう??」

 

「フン、その皇帝とやらが腐ってるから

周囲の連中も好き勝手をできるワケよ。

品行方正な人物がリーダーに就くなど

誰も望んでおらん。

ゆえに現在の皇帝を糾弾する者など

皆無だろう。」

 

ゼンチャンは頑張ってネタを拾っては

くるみたいだけど・・・どれもワイド

ショーレベルを逸脱するものではない

みたいね(;´Д`A

 

「どれもダメだっ!

もっと政府に精神的なダメージを与える

ような内容でなければっ!

私は武力ではなく知力、政治力で今の

上層部に対抗したいのだっ!

・・・私はしばし、この辺りを散策して

くる。その間に他のネタを探しておけよ、

ゼンチャン、チャングーッ!」

 

「えぇ〜ワタシ達には仕事させといて

自分は休憩なの〜っ!?

やんなっちゃうわっ!!」

 

「ほんまやで〜ピエールはん言うたら

紳士やと思てたけど意外と自己中やわぁ。」

 

愚痴るゼンチャンとチャングーを尻目に

ピエールは周辺の散策を始めたの。

そこは・・・星雲の洞窟からさらに東に

向かった先の・・・小さな石祠が建っている

自然公園のような処だった。

 

まだ早朝だったので周りには朝靄が漂っていた。

祠の周りには多くの木々が生い茂り森を

形成している。

森はそのまま、背後の山脈に続いていた。

 

このような・・・山の麓に祠が建っている

場合、山の神・・・というような無形の神

を祀っている場合が多いらしいわね。

 

この辺りではミトラ神ではなく、地元の

地母神というか、木や石や山に宿る神を

祀っている、という事になるのかな。

 

「・・・なんだ?

丸い・・・珠!?御神体が珠とは・・・

奇妙なモノを祀っているのだな、この祠

は・・・。

まぁおおよそ地母神や道祖神の類という

のは、その土地土地で信仰形態や祀る対象

など形はあってないようなもの。

しかし竜巻の教会から少し離れているとは

いえ・・・この辺りはミトラ神信仰一辺倒

というワケではないのだな・・・。」

 

小さな石祠の内部が少し見えたのか、

ピエールは祠内に安置されている御神体を

目にし、この地方の宗教観について独言つ。

 

「しかし朝靄が濃いな。

そう言えば・・・今の今まで気づかなんだが

・・・居座る竜巻の影響である風が・・・

吹いていない?

確かに竜巻中心部から此処は随分と離れ

てはいるが・・・多少の風は吹いている

筈だ。何故風が吹いていない?

風がないせいで靄がこんなの濃いのか?」

 

アタシ達が吹っ飛ばしてしまった居座りの

大竜巻。

その影響でかしら・・・この祠周辺には

深い朝靄が立ち込めていた。

そう言えばそうね、常に風が吹いていれば

靄が立ち込めるなんて現象は起こりにくい

筈だわ。

 

モワァァァアアア

 

と。

立ち込めていた朝靄がさらに濃くなって

いった。

それは早送りの映像のようにハッキリと

視認できるほどのスピードと濃さだった!

 

「な、なんだと!?

も、靄がみるみる濃くなってゆくっ!?

周りが見えないっ!!」

 

靄はあたかもピエールを包み隠すように

どんどん密度を濃くし彼を完全に覆い隠

してしまった。

 

「おいっ!

ゼンチャンッ!チャングーッ!!

居るのか!?そっちは大丈夫かっ!?

こっちはこの深い靄で視界が遮られて

しまったっ!!おーいっ!!」

 

靄で視界がゼロに等しくなり、慌てて

ピエールは周囲を見渡し同行者達の名を

叫ぶ。しかし返事はなかった。

 

「チッ!なぜゆえ靄がいきなり濃くなった

のだっ!?

・・・まさか、この石祠に祀られている

珠に関係があるの・・・」

 

ピエールが祠の方向に視線を移すと

そこには。

祠に向かって跪き、祈りを捧げる少年の

姿があった。

見窄らしいフードを被りボロのローブを

纏い、背中には大きな竹籠を背負っていた。

跪いているからわからないけど、少年の

背丈と同じぐらいの大きさじゃないかしら。

 

(「なっ!?こ、この小僧・・・いつから

此処に居た!?先程オレが祠の内部を

覗いた時には誰も居なかったはずだ。)

 

「・・・おい、少年。

貴様いつからそこに居た?」

 

「・・・。」

 

少年は答えない。

いえ、ピエールを無視しているワケでは

なさそう。

少年はボソボソと・・・祠への祈りの

文句を呟いていたの。

礼拝に集中している、といったほうが

正しいわね。

 

「・・・あ、すみません。

お祈りの最中だったものですから・・・。

一旦始めてしまうと途中で中断しては

いけない、というのがこの辺りの習わし

なんです。

ところで貴方は?

見知らぬお姿ですね、地元の方ではなさそう

ですが・・・。」

 

(「コイツ・・・人間か?

このオレに気配も感じさせず突如として

現れるなど・・・人間の・・・しかも

こんな幼い小僧の為せる業とも思えん

・・・。」)

 

「・・・先に質問をしたのはこっちだ。

いつからそこに居た?

何者だ?貴様・・・。

ついさっきまで私はその祠に視線を向けて

いたのだ。

ほんの数秒目を離したスキに貴様は現れ

た。只者ではない、と判断するのが自然

だと思うが。」

 

「や、やだなぁ!

ボクはちょっと前から、あそこの木陰に

居ましたよぉ。

いつものようにお祈りをしようとやって

来たら貴方が祠の前にお立ちになっている

のが見えて・・・珍しく先客がいるなぁ

って思って、それで貴方のお祈りが

終わるのを待っていたんです。

ホラ、お祈りを始めたら終わるまで中断

してはいけないって言ったでしょ?

だから貴方のお祈りを妨げるような真似

をしちゃいけないって思って。

それに今朝はこの靄でしょう?

それで貴方はボクに気づかなかった

んじゃないかな〜?」

 

(「・・・フン、尤もらしい事を言う。

しかしまぁ、この小僧から邪気は感じられ

ない、そこまで警戒する必要はなさそう

だな。」)

 

「けど朝靄だなんて珍しいな。

この辺りでも竜巻の影響で風がいつも吹いて

るんだけど・・・。

こんな事は竜巻の勢力が弱まる季節以外

では滅多にない事なんだけど。」

 

少年はとりとめもない話を続ける。

 

「けど困ったなぁ、普段靄なんて滅多に

発生しないから・・・山菜採りが捗らない

なぁこれじゃ。」

 

「・・・その背中の籠は採った山菜を

入れる為の?」

 

「はい、そうです。

毎朝ここでオーブ様にお祈りをし、そして

山で山菜採りと狩猟をするのがボクの

日課なんです。

けど・・・今朝は収穫は無理かな〜?」

 

少年はこの辺りに住んでいるのかしら?

自分の身の上話を屈託もなく一方的に

ピエールに向かって話し続けた。

 

「あ、ごめんなさい騎士様。

普段、祖母以外の人と話をする機会なんて

なくて・・・思わず1人で喋っちゃい

ました、ハハハお許しください。」

 

「・・・構わぬ。

ところで・・・今、オーブ様と言ったな?

この小さな祠に祀られている珠の事か?

この辺りでは・・・このオーブとやらを

信仰しているのか?」

 

「え?は、はい。

アレ?騎士様はオーブ様をご存知で

ここに礼拝に来られたのではないの

ですか?

ボクてっきりそうだと思ってた。」

 

「いや、此処へやって来たのは初めて

だが・・・。

私が・・・このオーブに礼拝を捧げに

来たと?てっきりそう思ったと申したな、

どういう事だ?それは。」

 

「はい。

この地方では、古くからオーブ様を信仰

する習わしがあります。

古い言い伝えで・・・オーブ様を手にした

古(いにしえ)の大地の精霊は、自身の何倍

ものチカラを手にした、と云われています。

手にしたその強大なチカラで世界を手中に

収めたとか。

真偽の程は・・・古い話ですからね、

わからないのですが・・・。

しかし手にした強大なチカラと共に

とてつもなく黒き邪心に支配されたとも

云われています。

黒き邪心に満たされ強大なチカラを手にした

大地の精霊は、自身の存在する精霊達の

大地、世界を崩壊させるほどの存在、

そう、魔王のごとき存在になってしまった

とか。

その・・・何倍もの強さを得る事ができる

、という部分が独り歩きして・・・後の

人々がオーブ様のチカラにあやかろうと

信仰を始めました。

それが今日のこの地方のオーブ信仰の

起源だと云われています。

あ、もっとも此処に祀られているのは

本物ではなく模倣品ですけどね。」

 

「何倍もの強きチカラだと?

フン、眉唾物だな。どこにでもありそうな

ありふれた信仰よ。」

 

「・・・。

それで、オーブ信仰を聞きつけた世の

戦士や騎士達は、自身のlvが向上するよう

祈願する為に、時折オーブ様を祀った

祠や神殿にお参りにやって来るそうです。

その話をボクも祖母から聞かされていた

ので、てっきり騎士様もそうなんだろうと

思ったのです。」

 

「なるほど。

しかし見当違いだったな。

私は、そのオーブ様とやらの存在など

存じていなかった。

先程も、珍しい御神体が祀られているなと、

少々興味深かったので祠を覗いて

いただけだ。」

 

「え?そうなんですか?な〜んだっ!

けど、貴方も騎士様ならご自分の強さを

さらに向上させたいっていう願望って

持ってるもんじゃないんですか?

でしたらお祈りをするぐらいはしても

損じゃないと思いますよぉ。」

 

「・・・そういう願望がない訳ではない

が・・・。」

 

「でしたら是非にっ!」

 

「う、うむ。」

 

少年に薦められるままピエールは祠の前で

姿勢を正して跪きオーブを象った御神体に

祈りを捧げたの。

 

(「自身のチカラの何倍もの強さ・・・。

フッ、そのオーブとやらでいとも簡単に

強くなれるなど、そんな事が可能なら

誰も苦労せんわ。

しかしオレは・・・今以上に強くなりたい

と願っているのも事実。

政府の重大な秘密を得たとして、それを

切り札としてのし上がっていくにしろ、

誰にも負けない戦闘力を有していることが

大前提であるのは確かだ。

でなければ、あっさりと口封じに抹殺

されるのがオチだからな。

それに・・・強くなければオリオリを護る

事すらできん。

オーブに自身のlv向上を願う、か・・・。

信じた訳ではないが・・・戦う者達が

それを願う気持ちもわからんワケではない、

といったところか。」)

 

ピエールは祈りを捧げるというよりは

自身のこれから辿るべき道を模索する、

自問自答を祠の前でしていたの。

 

「アハ!騎士様の願いが叶うといいです

ねっ!

あ、もしオーブ様に興味を持たれたのなら

此処よりも、もっと深い信仰を行っている

ジグゾナ半島へ行かれたらいいですよ。

此処らへんはオーブ様を信仰していると

言っても果てのほうなんです。

このサロイクン山脈を越えたジグゾナ半島

地域がオーブ信仰の本場です。

なんでも半島の何処かには本物のオーブ様

が安置されているとかって話もある

みたいです。」

 

(「どこまでも・・・オーブ様とやらを

オレに押し付けたいようだな。」)

 

「・・・気が向いたら訪ねてみることに

しよう。

面白い御伽噺を聞かせてもらった。

私は急ぐのでな、これにて失礼する。」

 

「あ、そうですね、靄も少し晴れてきました

し。

騎士様、貴方様の前途が明るいもので

ありますよう祈り申し上げます。

えっと、あ、お名前を聞いておりません

でした。」

 

「・・・ピエールと申す。」

 

「ピエール様っ!

ピエール様にご武運がありますように。」

 

確かに限りなく視界をゼロにしていた朝靄

は薄らみ辺りの景色が見えてきていた。

少年は屈託のない笑顔をピエールに向け

山の方へと去っていった。

 

「・・・一体何者だったのだ、あの小僧

・・・。

しかしオーブ信仰か。

幼少期をこの辺りで過ごしていたという

のに、この星にはまだまだオレの知らない

事がままあるものだな。」

 

ピエールは立ち去る少年の背中を見遣り

ながら呟いた。

 

「さて、ゼンチャン達、少しはマシな

ネタを拾ったのであろうな。」

 

靄が薄くなったおかげでピエールは

ゼンチャン達が居る地点まで戻る事が

できた。

 

「あっ!もうっ!

ピエール様ぁ、どこまで散策に行ってた

のよっ!

ワタシ達探し回ったんだからぁっ!!」

 

「ホンマやでぇ!

迷子になってしもたんかぁ思たわっ!」

 

ゼンチャン達が口々に愚痴を溢す。

 

「なんだと?

ワタシはすぐそこの祠が建っている辺りで

ずーっと地元の少年と話をしていたぞ?」

 

「祠の辺り?嘘言わないで!

祠の辺りは・・・確かに靄が濃くて

視界が悪かったけど、ピエール様どころか

その少年?なんかいなかったわよっ!

んもうっ!寝ぼけてるんじゃないっ!?」

 

「散策とか言うて・・・どっかで居眠り

してたんとちゃいますのん??」

 

(「な、なんだと!?

此処から祠までは目と鼻の先だ、それで

オレ達に気づかんとはどういう事だ!?」)

 

キッ!

 

ピエールは祠のある方向を睨みつけた。

オーブの模造品が祀られている祠は

静かに建っている。

 

(「あの小僧・・・やはり人間ではなかった

のか?

物の怪、もしくは霊魂といった類の存在

だったのか!?」)

 

突如として濃さを増した朝靄、オーブを

信仰する少年、ゼンチャン達が見失った

ピエール達・・・ピエールはほんの数分間

に起こった出来事は幻だったのではない

かと、半ば疑心暗鬼に捉われようとしてした。




***登場人物***
・ゼンチャン
全知全能のチカラを持つと言われている
人物。その正体はオネエだったガーン
その能力ゆえ幾度となく宇宙政府に命を狙わ
れ処刑寸前に。アタシ達は心ある宇宙政府の
役人コモゴモスの協力もあり、なんとか
ゼンチャンを救出する事に成功したの。
その全知全能の能力とは!
チャングーという相棒のスライムと協力して
行う霊視だった!
彼女(彼)はホンモノだった!
ただアタシはどうしても彼女(彼)のキャラが
受け付けられなくて、極力絡むのを内心避け
てるの、これ内緒だけどね(; ̄ェ ̄)

・チャングー
ゼンチャンの相棒のスライム。ゼンチャンが
その能力を発揮するためにはチャングーの
身体を媒介としなきゃいけない。イコール2人
で1つのコンビなの。
宇宙政府はそこに目をつけチャングーの事も
捕らえて監禁していた。
スラッピと同じく何故かコテコテの関西弁を
話すの(´⊙ω⊙`)

・ピエール(ボロン)
宇宙政府を内側から変革させて宇宙平和を
もたらそうと考えるスライムナイト。
その正体は義勇軍親衛隊長ボロン。
ボロンは幼馴染であるオリオリに恋心を抱い
ていた。
その恋心ゆえに・・・打倒政府を目指し続け
ればオリオリの身に危険が及ぶ事を憂慮した
の。結果、政府へと身を置き政府の内政変革
に路線変更した、というのが彼の寝返りの
言い分。その“裏切り”がオリオリだけでなく
様々な関係者に悪い影響を及ぼすという自覚
はないの。困ったものだわ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード10.「乙女の失恋」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



手にした者にとてつもないチカラを与える

というオーブ。

都市伝説の類か、それとも本当に存在する

のか・・・。

 

真偽のほどはともかく、自らの強さを追い

求める戦士達がオーブを信仰するという現象

が起きていると告げた謎の少年。

 

彼は何者だったのか?

ピエールは祠の前で出会った少年の事を

・・・すぐさま意識から除外するには

至らなかった。いや、除外できなかった

ようなの。

 

「・・・ところで。

ゼンチャン、チャングー、政府の重大な

秘密は?他に何かわかったのか?」

 

「う〜〜ん、だってスキャンダル程度

だったら却下するんでしょう?

・・・でも・・・これはどう?

政府はあんまり関係ない話だけど。

政府に味方しようとしたある国王の秘密

ってネタ。」

 

「政府に味方しようとした国王?

なんだそれは?」

 

「ヨンツゥオ大陸の沖合に浮かぶマタセ島

っていう島国の王様なんだけど。」

 

(「・・・!マタセ王っ!

オレが政府に味方するよう説得したあの

マタセ王かっ!?」)

 

「マタセ王の事だな?

彼がどうしたというのだ?」

 

「それがねぇ。

この王様・・・聞いて驚かないで。

彼、政府に味方するって決心したのち、

なんと魔物になっちゃったらしいのっ!」

 

(「あぁ、その話か。

驚くもなにも・・・彼が魔物化の要望を

伝えたのは他ならぬオレだ。

チッ!何かと思えばそんなくだらん話か、

ゼンチャン・・・コイツ、使えそうに

思えて使えんヤツだな。」)

 

「どうやったら人間が魔物に変貌するのか、

それが気になったんで調べてみたの。

そしたら・・・。」

 

(「・・・星屑魔法団の持っている秘術

だろう。この星のコアを魔星王に変えた

という秘術を使いマタセ王は魔物化した

と聞いている。」)

 

「“邪心のオーブ”っていうアイテムのチカラ

で魔物になっちゃったんだって!」

 

「な、何っ?

邪心のオーブだと!?

何だそれは?マタセ王が魔物化したのは

星屑魔法団の秘術を受けたからだと聞いて

いる、王自身もそう申していたはず・・・」

 

「え、そうなのっ!?

ピエール様えらく詳しい事知ってるのね。」

 

「・・・実は・・・マタセ王を宇宙政府側

に付くよう説得したのは私なのだ。

その見返りとして自身を魔物化したい、

という望みを私に伝えてきた。

それゆえ私は星屑魔法団に彼の望みを

叶えるよう指示した。」

 

「えぇっ!!

ピエール様がこの件に関わっていたっ!?

あぁ、それでそんなに詳細を知ってるのね。」

 

「あぁ。しかし私が知る限り、魔法団は

別の方法で王を魔物化させたと聞いて

いたのだが・・・。

邪心のオーブなる名前は初めて聞くワード

だ。

ゼンチャンッ!その情報は確かなのかっ!?」

 

「えぇ、ワタシとチャングーが調べた事で

誤りがあった事は今までないわ。

そのオーブは・・・被験者に対し絶大な

チカラを与えるとともにとてつもない

邪悪な心をも喚び起させてしまうっていう

シロモノらしいわね。

チカラを持ち、邪悪な心に支配される・・・

確かに魔物のごとき存在だわね、オーブに

支配された者は。」

 

(「絶大なチカラを与え邪心を呼び起こす

・・・オーブ・・・も、もしや・・・

先程の小僧が言っていたオーブ信仰とやら

の・・・まさにそのオーブ様がっ!

邪心のオーブと呼ばれるアイテムの事

かっ!?」)

 

「ゼンチャン、そのオーブについて

もう少し詳しく調べられないか?

もしやその邪心のオーブとは、この大陸の

ジグゾナ半島に於いて信仰の対象に

なっていたりはしないか?」

 

「わかったわ、もう少し調べましょう。

チャングーッ!」

 

「あいよぉ!」

 

ゼンチャンとチャングーがさらに霊視を

行う。

しかし邪心のオーブですってぇ!?

そんなモノが本当にあったら大変

じゃないっ!

人間をどんどん魔物化させてしまう・・・

まさに魔物量産機、恐るべきアイテム、

悪魔のようなオーブじゃないのっ!

 

「全知全能のオンナ、ゼンチャンが拝見

しましたっ!」

 

「おうっ!で、どうだっ!?」

 

「ピエール様の言う通り、邪心のオーブは

このボォフゥ大陸東部に位置するジグゾナ

半島で篤く信仰されているそうよ。

かなり古い時代からオーブは存在していた

という記録があるそうで、強きチカラを

人々に与える、という部分のみが独り歩き

し徐々に信仰心を集めていったみたいね。」

 

「・・・やはりっ!

するとあの小僧が申していた話は事実

だったという事かっ!?

自身のチカラの何倍もの強さを得ることが

でき、代わりに邪心に支配されてしまう

・・・くだらん迷信ではなかったと。」

 

「あの小僧・・・?」

 

「あぁ、先程私が散策に出た折、そこの

祠の前で出会った少年だ。」

 

「えぇ??

だから・・・そこの祠の前にはピエール様

はおろか、誰も居なかったと思うんだけど

・・・?」

 

(「むう、此奴本当にオレ達の姿が見えなか

ったのか・・・?

まぁいい、今はそこに構っている場合では

ない!」)

 

「・・・まぁいい。

その小僧が言っていた事と今そなたが

霊視した事と内容が合致した。

強きチカラと黒きココロを与える邪心の

オーブ、それはこのボォフゥ大陸に実在

した、という事だな。」

 

「ワタシの霊視はそう告げているわ。

そしてピエール様は実際に魔物化した

マタセ王を見たのかしら?

もし見たんだとしたら・・・実在する

って事になるわね。」

 

「ふむ、しかしひとつ引っかかる事が

ある。

マタセ王を魔物化に導いたのは星屑魔法団

だ、これは間違いない。

しかし何故、魔法団は秘術ではなく、邪心

のオーブを使用したのか?

そして邪心のオーブは、この大陸のジグゾナ

半島に眠る、という伝承が残っている。

魔法団が何故それを手にしているのか、

という疑問も残るわけだ。

邪心のオーブは今は魔法団が所持している

のか?それともジグゾナ半島にあるのか?」

 

「それも霊視してみる?」

 

「あぁ、頼む。」

 

「はぁい。

ったくピエール様、ホンットに人遣いが

荒いわ〜!」

 

「そんなん言いながらちょっと嬉しそう

やないかいっゼンチャンッ!」

 

「うふふ、だってやっとワタシ達が拾って

きたネタに食い付いてくれたんですもの、

さぁやるわよ!チャングーッ!」

 

「あいよ〜。」

 

ゼンチャン達は邪心のオーブの現状を

調べる為、何回めになるのかわからない

霊視を始めた。

 

「全知全能のオンナ、ゼンチャンが

拝見しました!

ピエール様、邪心のオーブはジグゾナ半島

に安置されたままよ。

オーブを祀るお城があるみたいなんだけど

そこから動いてはないわ。」

 

「・・・では魔法団は・・・セアドは

いかにして半島にあるというオーブを

遠く離れたマタセ島で使用する事ができ

たのだ?

王に使用したのち元の場所に戻したとでも

言うのか?

なにゆえ、そのような回りくどい事を

する必要があったのだ?」

 

「それがねぇわからないの。」

 

「なに?」

 

「星屑魔法団とか団長セアドについても

調べてみたんだけど何故かワタシの霊視に

引っかからないのよ、こんな事初めて

だわ、宇宙政府の内情だってワタシは

見抜く事ができるのに・・・。」

 

「・・・邪心のオーブについて調べられる

と何かマズイ事でもあるのか?

セアド・・・アイツなら何かしらおかしな

魔法や術を使ってそなたの霊視にかからぬ

ような対策を取っていても不思議では

ない・・・これは調べてみる価値があり

そうだな。」

 

「ワタシの能力に引っかからないです

ってぇ!!??

そ、そんな事できるのっ!?」

 

「分からん・・・しかしヤツは・・・

セアドは底知れぬ男だ。今も昔もな。

ヤツは・・・出身地である惑星イリスの

魔法学院でもトップクラスの実力を

持っていたという。

どういう術かは知らぬが、それぐらいの

事は平然とやってのける男だ。」

 

「えぇぇっ!

な、なんか悔しい〜〜〜!

こんなの勝ち負けとかあるわけじゃない

けど・・・なんか負けた気分・・・。」

 

「ゼンチャンよ、私はジグゾナ半島に

赴き邪心のオーブについて調べてみよう

と思う。」

 

「そうね、ここまでオーブについて

調べたんだから、オーブがどんなシロモノ

か気になるわよね!

あぁ、次は古き信仰が行われている

秘境の地をピエール様と旅するのね〜、

ロマンチック・・・❤︎」

 

「・・・いや、悪いがゼンチャン・・・

そなたらと行動を共にするのは此処まで

だ。ジグゾナ半島には私1人で向かう。」

 

「えっ?な、なんで?

えっ、えええーーーーーっ!!

なんでっ!?どうしてよぉっ!!」

 

「邪心のオーブ・・・得体の知れんシロモノ

だ。ここから先はゼンチャンらには危険

すぎる冒険になろう。故に私1人で向かう。

ゼンチャン、チャングー、世話になった。

連れ回して悪かったな。

もう今からは自由だ、館に戻るがいい。

政府の手の者に見つからぬよう気を付けて

な。」

 

「そっ、そんなぁっ!

勝手よっピエール様っ!!

アナタの方から言い寄ってきたクセにっ!

私のモノになれだなんてっ、あんなに

アツイ告白をしたクセにっ!

初めから遊びだったのっ!?

弄ぶつもりでワタシに近寄ったのっ!?

なんとか言いなさいよっ!!」

 

「・・・。」

 

「ゼ、ゼンチャン〜〜〜、多分あの時、

館に居てた全員がわかってたと思うで、

ピエールはんの腹づもり・・・。

全知全能のチカラだけが目当てやったん。

ゼンチャンだけやと思うわ、騙されてたん。」

 

「えぇっ!?やっぱりっ!?

やっぱりそうなのっ!?

ワタシ、ピエール様に弄ばれてたの!?

チャングーっ!そうならそうと、なんで

その時ワタシを止めなかったのっ!?」

 

「はぁっ!?アホかっ!!

あっちゅー間ぁにイチコロに落ちてしも

たんはゼンチャンやでっ!

ほんで有無を言わさんとわいも道連れに

したん誰やっ!

止めるヒマらなかったわっ!

それに・・・ピエールはんのここまでの

行動見てたらよぉわかるぅっ!

オリオリはんの事、めーっちゃ惚れてる

やんっ!

オリオリはんとの思い出の場所、魔物の

アジトになってしもてるの、だいぶ腹に

据えかねたさかい、あないに必死に取り

返そうとしたんやでぇ。

見てたらわかるやん、ゼンチャンなんか

眼中にないのん。」

 

「う、う、うぅぅぅ。

ひ、ヒドイわぁぁぁぁ!

こんなに麗しくて美しい乙女の心を踏み

にじるだなんてぇっ!

オリオリちゃんなんかよりよっぽど美しい

ワタシを捨てるだなんて・・・!

う、うぅぅぅピエール様のバカァッ!!」

 

「あっゼンチャンっ!

どこ行くねーーーーーーんっ!!」

 

・・・勝手に惚れて勝手に失恋したゼン

チャンが泣き喚きながら何処ぞへ走り去

っていった・・・。

うん・・・チャングーの言う通り、アタシ

達全員わかってたわよ、ピエールの腹の

内なんか。

ってかピエールはそんなシュミ持ってない

だろうし、オリオリにベタ惚れだし( ̄◇ ̄;)

 

「あ〜あ、どっか行ってしもたぁ。

ピエールはん、ほやさけぇ罪な事あんま

言わんといてほしかってん。

宥めんの大変やでぇあれ、誰が宥めると

思てんねん・・・。」

 

「・・・すまんなチャングー。

ゼンチャンに逃げられると困るんでな、

ついつい調子のいい事を言い続けてしま

った・・・。」

 

「ほんまにぃ。

アレでも体は男やけど心はれっきとした

乙女や。あんた、乙女心っちゅうのん

わかってはりまへんなぁ。

たとえ相手がゼンチャンでも乙女心っちゅ

うのは女子はんみぃんな同じやで。

そんなんやったらオリオリはんの心

掴むことできまへんでぇ。」

 

「・・・そ、そういうものなのか?」

 

「ほれ見てみぃっ!

もうハナからわかってへんやんっ!!

オリオリはんの事想うんやったら戦いの

事だけやのぉてソッチのほうも気張りや

ぁ!

ってまぁ、ゼンチャンの事はもうええわ。

それより・・・あんたホンマに邪心のオー

ブ、探しに行くんか?」

 

「あぁ、星屑魔法団の真意も気になる。

それに・・・強きチカラを与えるという

オーブ・・・正直怖くもあるが惹かれる

気持ちも皆無ではない、というのが本音

だ。」

 

「えぇっ!?

オーブに支配されたら邪悪な魔物になって

しまうんやでぇ!?

アンタそうまでして強ぉなりたいんか?」

 

「いや、魔物になるなど真っ平ゴメンだ。

しかし1戦士として、強きチカラに惹かれ

る・・・これだけはどうしようもない本

能なのだ。」

 

「・・・まぁ、わいには逆立ちしても

わからん気持ちやけどな。

せいぜい気張りぃ。

アンタがこの先、何を目指すんか知らん

けどぉ、魔物になってしまうんだけは

やめときや、ならんよぉに努力しぃや。

魔物になんかなってしもたら、それこそ

オリオリはんと幸せになるやなんて

無理な話になってしまうんやさかいなぁ。」

 

「フッ私は別に、オリオリとどうこう

なろうなどとは思っておらん。

ただ彼女が幸せならいい、それを見守る

事さえできればいいのだ。

何より、オリオリには既にセアドという

夫がいる。無粋な話だ。」

 

「・・・そうやってカッコつけてんのか

自分に嘘ついてんのか知らんけど、

それが周りに迷惑かける事もあるっちゅう

の、覚えときや。」

 

「どういう事だ?」

 

「さぁ?

そういう事もあるっちゅう喩え話や。

まぁわいは館に戻れるさかい、ここで解放

してくれるぅゆうんはありがたい。

ほなな、ピエールはん。

くれぐれも気ぃ付けてなぁ。」

 

「世話になったな、チャングー。

ゼンチャンにもよろしく伝えてくれ。」

 

「はいヨォ〜。

ゼンチャ〜〜〜ンッ!!

いつまで泣いてんね〜〜んっ!!

帰るで〜〜〜〜っ!!!」

 

チャングーが走り去ってしまったゼンチャ

ンを探しにいく。

ピエールはその後ろ姿を無言で見送る。

奇妙な3人の冒険は此処で終わりを告げた。

 

ピエールは邪心のオーブを調べる為、

ジグゾナ半島へ向かう事を決意し、その

足を東へ向けた。

 

とうとう、ピエールが邪心のオーブの

存在を認識してしまった。

それは・・・この先のアタシ達に起こる

悲劇・・・それを生む選択だったの。

運命に向かって歯車は・・・暗い暗い

歯車は回り始めてしまったの。

 

と。

祠の森の遥か上方。

ピエール達を見下ろせる高台に、彼らを

遠目に観察する人影があった。

 

「フフ、思っていたよりは食い付きが

良くなかったみたい。

けどやっぱりオーブが気になるみたいだね

ピエールさん。」

 

人影はボロのフードとローブを纏ってい

た。

祠の前でピエールと話をしていたあの

少年だった。

少年は懐から水晶珠を取り出し何やら

ボソボソと呪文を詠唱した。

珠はうっすらと白み淡い光を放つと・・・

珠の中に人影が映し出された。

 

『・・・マビトか・・・如何した?』

 

「はっ!

ピエールの件、任務完了いたしました。

ヤツはこれからジグゾナ半島に向かう

ようです。」

 

『そうか、かかったか。

よし、ご苦労だった。

これ以降は隠密としてヤツを監視するよう

申し伝える。

“無事に”ヤツがオーブを手に入れる事が

できるよう取り計らえ。』

 

「ははっ!

・・・しかし・・・思ったよりもピエール

はオーブに対し興味を示しませんでした。

計画通り上手く事が運ぶのでしょうか?」

 

『・・・フフ、プライドの高い男だから

な〜。

マタセ王が我々の手により魔物化したと

いう事実にヤツは嫌悪していたのだろう。

一国の主が浅はかにも安易にチカラを

求めるという発想、行為にな。

ゆえに自分が軽蔑した男と同じ方法で強く

なりたいなどと、プライドが邪魔をして

口が裂けても言えなかったのだ。

フッどこまでも小さな男よ。』

 

「なるほど・・・そういう事でございまし

たか。」

 

『しかし結局のところオーブに興味を

示した。

どうせピエールの事、なんのかんのと

それらしい理由を拵えて自分の行動を

正当化していることだろう。

ヤツの心には負の感情が渦巻いている。

ブルリア星の冒険王らに敗れ彼女らの

強さに嫉妬しているのだ。

自分はあんな田舎者に負けたままで

いたくない、という妬みの感情がな〜。

オーブを前にした時、その負の感情を

必ずやオーブに嗅ぎつけられ否が応でも

ヤツはオーブに支配される。

フフ、冒険王らのお陰で邪心のオーブ

のチカラは成長する、彼女らには感謝

せねばな。』

 

「さすがセアド様、その慧眼、恐れ入り

ます。」

 

『うむ、ではまたの報告を待っている。』

 

「ははぁっ!!」

 

このマビトと呼ばれた少年はっ!?

セアドの部下っ・・・?

あ、星屑魔法団の団員かっ!?

 

セアドはピエールと邪心のオーブを使って

何を企んでいるのっ!?

なんかどう見ても黒い・・・邪悪な意志

を孕んだ交信だったけど・・・!?

 

バッ!!

 

マビトは立ち上がり纏っていたローブを

脱ぎ捨てた。

ローブを脱ぎ捨てたその姿は。

濃い藍色の生地に何やら紋章が刺繍された

立派な装束に包まれていた。

 

その紋章は・・・見覚えがある。

確かそうっ!

青雲のオーブでの姿しか見たことがない

けど・・・セアドが着ていた装束にも

デザインされていたモノと同じっ!

おそらく星屑魔法団の紋章っ!

 

やはりマビトは星屑魔法団の団員、

しかも隠密兵っ!

と、マビトは両手を広げ何やら術を

行使するそぶりを見せ始めた。

掌がうっすら淡く光る。

 

するとマビトの遥か下方、そうっ!

彼とピエールが話をしていた祠の辺りが

再び濃い靄に包まれたのっ!

 

【挿絵表示】

 

モワァァァ・・・・

スゥゥゥゥゥゥ・・・・

 

あっという間に靄が濃くなり祠を覆った

かと思うとすぐさま靄は引いていき、

元の様子に戻った。

 

しかしそこにはっ!

それまで存在していたはずの祠がっ!

消えて無くなっていたの。

 

まさかっ!

あの祠自体が幻術っ!?

マビトがピエールを誘い込む為に創出した

空間っ!?

だからゼンチャン達にはピエールとマビト

の姿が見えなかったのっ!?

 

「フフッ、さぁピエールさん。

頑張って試験をクリアしてくださいよぉ。

でないとオーブは手に入りませんから

ね〜。」

 

???

何やらマビトは意味不明な言葉を呟いた。

その頃、まだ星雲の洞窟にも辿り着いて

いなかったアタシ達には当然、わかりも

しない話・・・。




***登場人物***
・ゼンチャン
麗しき全知全能のじょ・・・いえ、男性
・・・いややっぱり女性。うん、つまり
オネエねガーン
相棒のスライムベス、チャングーを媒体とし
た霊視こそが彼女(彼)の全知全能のチカラ。
そのチカラは宇宙政府の隠したい内情すらも
暴くほどの性能。
しかしそのチカラゆえ命を狙われたり、チカ
ラ欲しさに拉致される事もしばしば。
現在はピエールに身柄を拘束されている。
もっともゼンチャン本人はピエールから愛の
告白をされたとソッコーで勘違いしてしまっ
たので、喜んでついて来てるんだけどね:(;゙゚'ω゚'):

・チャングー
ゼンチャンの相棒のスライムベス。
コテコテの関西弁を駆使する。スラッピも
人間の言葉を話すときは関西弁・・・。
スライム達の公用語なのかしらびっくり
その体を水晶玉代わりにしてゼンチャンの
霊視能力の一端を担う。
意外にも(?)人情肌であり常識を持ち、また
女心すらよく理解しているふうでもあるみた
いね。ピエールとの別れ際では彼を諭すよう
な話をいくつもしていたわ( ̄∀ ̄)

・ピエール
元義勇軍親衛隊長でありオリオリの幼馴染、
ボロンが宇宙政府に寝返った姿。
武力で打倒宇宙政府を目指す義勇軍の方針
に異を唱え政府の政策を平和主義に変革させ
宇宙に平和をもたらそうと考えている。
理由は・・・幼馴染のオリオリに惚れている
から・・・義勇軍が政府に反抗を続ければ
やがてオリオリの生命が危険にさらされる
と危惧し、打倒政府路線をやめ内政変革路線
を推し進めようと考えたからなの。
しかしオリオリは既婚者。そして彼は内々で
正体を隠し政府に寝返った。その行動全てが
タブーを犯してしまっている。
周囲からの非難は避けられないものであり、
当然アタシもピエールとは主張、考えが全く
合わず顔を合わせれば言い争いが絶えない
のo(`ω´ )o

・マビト(オリジナルキャラ)
サロイクン山脈を成す山々に住む少年・・・
というのは仮の姿で、その正体は星屑魔法団
の団員。幻術を得意とし、幻術で創り上げた
空間でピエールに“邪心のオーブ”というアイ
テムに興味が向くように仕向けたの。
そこにはもちろん団長であるセアドの意向が
働いている。けど今のところ真意は不明。
全くもって不気味だわ:(;゙゚'ω゚'):


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード11.「嫉妬に狂う3番隊長」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



ピエールが邪心のオーブの秘密を探る為ジグゾナ

半島へ出発した頃、アタシ達はようやく星雲の

洞窟へと辿り着いたところだった。

 

「あぁ〜懐かしい〜。そうです、この星雲の

洞窟にも私とボロンはよく遊びに来ていました。

此処にも、此処にしか咲かない花があって

よくそれを摘みに訪れていたのです。」

 

書からオリオリが現れ幼少期を過ごした洞窟に

思いを馳せる。

 

「・・・オリオリ様、お懐かしゅう思い出を

懐かしむお気持ち、理解いたします。

が、急いで洞窟内部を探索しピエールから

ゼンチャン殿達を救出せねばなりません、

急ぎましょう。」

 

「あ、はいっ!ごめんなさいっ!

そうですね、思い出に浸っている場合では

ありませんでした!

コッツ、リザさん達、急ぎ洞窟内へ突入

しましょう!」

 

そうね、ゼンチャン達はピエールにとって

利用すべき存在だと思うけれど、いつ用済み

と判断されるかわからない。

その後、どんな扱いを受けるかは定かじゃ

ないもの、急ぐに越したことはない。

まぁ、いくらピエールでも・・・戦士ではない

ゼンチャン達にヒドイ事するとは思えないけど。

魔物が此処を根城にしてるっていう話だしね、

急ごう!

 

アタシ達は洞窟内に突入した。

・・・けど、そこには迫真の洞窟で見た光景と

同じモノが広がっていた。

魔物達の遺骸がそこかしこに転がっていたの。

 

此処もやっぱりピエールが・・・いえ、ボロンと

呼ぶべきか・・・彼が既に巣食っていた魔物達を

一掃した後なのか!?

・・・彼の気配・・・それも既に微量なモノしか

感じない。

もう此処にはいないんだろう。

スラッピの方はどうかしら?

 

「ピピッピピピピーッ!!」

 

「モガ、リザ。

チャングーのニオイは確かにこの洞窟の奥へと

続いている、とスラッピが言っているぞ!」

 

やはりボロンが此処の魔物達を倒したのは間違い

ないみたいね。

アタシは奥へ進む必要はこれ以上ないと思い

ながらも、何か手がかりや痕跡が残っているかも

しれないとも思ったのでそのまま黙って行軍を

続けた。

 

洞窟内ではいくつか道が交差していて分かれ道

になっていたけど、スラッピの鼻を頼りに迷う事

なく最深部まで辿り着く事ができたの。

 

「モガ〜、やっぱりこのフロアにも魔物達の

遺骸しか転がってないな。

ピエールがやっつけたんだろうな!」

 

「ピピッ!」

 

「けど・・・此処も花がたくさん咲いてるな〜!

魔物達の遺骸さえなければ、さぞ綺麗な光景

だっただろうにな!

よくよく考えれば洞窟内って事は太陽の光が

差さないのに、こんなに花が咲き乱れるって

いうのは不思議なもんだな〜!」

 

書からオリオリが現れる。

 

「そうなんです、迫真の洞窟にしてもこの洞窟

にしても、不思議な事に花がほぼ年中咲いている

んです。

幼い頃の私もボロンも、その不思議さなど考えも

しなかったのですが。

美しい花が見られる、ただそれだけが楽しみで

訪れていただけなのです。」

 

洞窟の最深部のフロアには、やはり何体かの

魔物達の遺骸が転がっていた。

そして迫真の洞窟に咲いていたのとはまた

別の花がたくさん咲いていた。

魔物に汚されようとも懸命にその生命活動を

行う、という強い意志を花達は抱いているように

アタシには感じられた。

 

「此処に咲いている花はクラウドパンジーです。

非常に沢山の色種があり、また例えば同じ赤で

あったとしても微妙な色合いの違いのモノや花弁

の中心と端で違う2色のツートン色のモノもあり

観るものを楽しませてくれる花です。

クラウドケイトウも美しいですが、私はこの

パンジーの方をより好みました。

あぁ、皆さんすみません・・・やはりこの洞窟

での記憶は私にとって大切なもののようです、

自然と当時の記憶が蘇ってきてしまいます。」

 

クラウドパンジーと呼ばれた花は確かに様々な

色のモノがありアタシでも鑑賞していると楽しい

気分になってきた(*´-`)

幼いオリオリが此処へ通いたくなる気持ちはよく

わかる。そして此処で過ごした思い出を懐かしむ

気持ちもね。

 

「モガ〜、それなのになぁ・・・余計なモノが

転がってるよなぁ・・・モガッ!よしっ!

オイラいい事思いついたぞ、リザ達っ!

このフロアの分だけでも魔物の遺骸を埋めて

やろうぜっ!そうすればオリオリも心置きなく

パンジーの鑑賞ができるってもんだ!」

 

!!

あぁ、そうね!

ちょっとこのままじゃ確かに花を愛でる気分には

なれないもの。それに。

憎き宇宙政府の魔物とはいえ、生命を終えた者達

には等しく供養をしてあげないと。

 

モガ丸ッ!

たまには良いこと思いつくじゃない!

 

「ヘッヘ〜だろ?

って!たまにとはなんだ、たまにとはっ!」

 

「ピピ〜ッ!」

 

「え、なんだって?リザの言う通り、だって!?

モガーっ!スラッピまでそんな事言うのかよぉ!!」

 

と。

モガ丸をいじってはみたものの、確かに妙案

だった。

アタシ達は早速、魔物達の遺骸を埋める穴を掘り、

数体の遺骸を埋め供養をしてやった。

 

「ふぃ〜、自分が言い出したものの、なかなか

疲れたな。

けど!

どうだ?オリオリ、これで心置きなく花を楽しむ

事ができるだろう?」

 

「・・・モガ丸さん、皆さん、私のために・・・

時間もないというのにすみません、

ありがとうございますっ!

洞窟の花の鑑賞など完全な私事なのに・・・。」

 

ハァハァハァ・・・!

た、確かにちょっとくたびれたけど!

これでパンジーの鑑賞を邪魔する異物は視界から

消えた。

 

オリオリは。

リーダーとして常に公私を分別する人間。

昔の思い出を大事に思っているとはいえアタシ達

が自分の為に労力と時間を割いた事にえらく

恐縮しているようだった。

 

いいのよ、だって此処のパンジー達、ホント

にキレイで鮮やかだもの。

オリオリだけじゃなくてアタシ達女子メンバー

だって花を純粋に鑑賞したいもの。

ねぇ?レイファンにコッツ。

 

「うんっ!ホントに綺麗だね、此処の花っ!

オリオリさんがよく通ったっていうのわかるよ

私もっ!」

 

レイファンが屈託のない笑顔を見せて言う。

 

「・・・そうですね、とても綺麗な光景。

オリオリ様のお気持ち、このコッツにも理解

できます・・・。」

 

・・・コ・・・ッツ・・・?

あら、なんだか生返事ね、コッツ。

どうしたんだろう?

魔物の遺骸処理で疲れちゃったのかしら?

 

アタシはコッツの返事がどこか上の空なカンジ

がして少し気になってしまったの。

それはジョギーとレイファンも同じでアタシ達

姉弟は思わず顔を見合わせてしまった。

 

しかしオリオリは。

ようやく純粋にパンジーの鑑賞に集中できる

ようになったからか、花々のほうに意識を集中

しているようだった。

そしておもむろに幼少期の思い出話を始めたの。

 

「・・・幼い頃の私とピエール・・・いえ

ボロンは。よくこの洞窟を訪れていました。

・・・ボロンは・・・大きくなったらアレスの

聖剣に入隊したいと言ってた、という話は先日

お話しましたね?

そう、まさにこの洞窟で。

彼は私にそう約束してくれたのです。

『オリオリだけのアレスの聖剣になる』

って・・・。」

 

オリオリがボロンとの幼少期の思い出を語る、

それはもう独り語りという様相だった。

アタシ達他人が入り込む余地はなさそうに

感じられた。だからアタシ達は黙ってオリオリの

話を聞いていた。

 

「・・・それなのに・・・どこでどう間違えて

しまったのでしょうか?・・・すみません、

みなさん。

私は、私の中では・・・!

やっぱりまだ消化し切れていない部分がある

ようです・・・。

ボロンがピエールとなり宇宙政府の・・・手先

になるだなんて・・・!

ここで過ごした日々が永遠に続くものだと

・・・!

未来で・・・て、敵味方に分かれるだなんて

・・・あの頃には想像もできなかった・・・

いえ、今だって受け入れられない部分がある

のです・・・!

こんな私はっ!あの頃から何も変わっていない

のでしょうか?

成長もせず、まだ子どものままなのでしょう

かっ!?」

 

オリオリの独り語りは続き、やがて感極まった

のか涙が溢れていた。

オリオリ・・・。

貴女そこまで自分を押さえ込んでいたのっ!?

ボロンの事でそこまでショックを受けていた

だなんて。

 

確かにこの大陸に入ってからの貴女の様子。

今までとはショックの度合いが違うなって、

付き合いの浅いアタシでも容易にわかるほど

だった。

けど、崩れそうになる度に凛々しく立ち直って

いたんだと思っていた。

 

いや、そう思いたかったんだ、アタシが。

オリオリは公人、そしてアタシ達のリーダーだ、

いくら幼馴染の裏切りに遭ったとしても・・・

最後には立ち直る、どこかアタシはそう思い

たかったんだ。

 

公としてのオリオリは確かに立ち直ったかも

しれない。

けど今目に前にいるオリオリは明らかに私人、

私としてのオリオリは・・・まだまだ打ちのめ

されたままだったんだ。

 

幼少期の楽しい思い出が詰まったこの場所も

・・・さらに私としてのオリオリの現状を残酷に

打ちのめしてしまったのかもしれない。

 

あまりのオリオリの気落ちぶりに・・・パンジー

の鑑賞に集中させた事をアタシは後悔し始めて

いた。

それほどオリオリの落胆ぶりは大きかったの。

 

ザッ

 

と。足音が聞こえた。

誰かが落ち込むオリオリの前に進み出たの。

 

「・・・オリオリ様!少しよろしいですか?」

 

それはコッツだった。その表情は硬い。

そういえばさっきの生返事といい、コッツは

どこか重い空気を発していた。

 

「あ、は、はいっ!何でしょう?コッツ?」

 

「オリオリ様は・・・ボロンの事をどう思われ

ておられたのですか?

ボロンの気持ちに・・・お気付きにはなられて

はいなかったのですか?」

 

「えっ!?

ど、どうって・・・ボロンの事は・・・お、幼馴染

です・・・そう、幼馴染です・・・!それ以外の

思いなど・・・ありません。

クーデターから共に生き延び、この地で共に懸命に

生きてきたかけがえのない幼馴染です!

それに私にはセアドという許嫁が。

私はいずれセアドと結婚するという事以外の

何かを想像したことすらありませんでした、

だからボロンが私に・・・しっ、思慕の情を

・・・抱いているなどと想像もした事は

ありませんでした。」

 

コッ、コッツ!!

あ、あなた何をっ!

何を口にしているのっ!!??

 

アタシの脳裏に・・・コッツと2人でオリオリの

気持ちについて考えたあの時の話の記憶が

ありありと蘇って来たっ!!!

オリオリはボロンから愛の告白を受けて・・・

心が揺れているんじゃないかというあの話!

 

けどあれはっ!

決してオリオリの耳には入れてはダメっていう

暗黙の了解があったんじゃなかったっけ!?

あれ?アタシが勝手にそう思い込んでただけ

だったっけ??((((;゚Д゚)))))))

 

アタフタするアタシには目もくれずコッツは

質問を続ける。

 

「・・・そうですか・・・。

では今はどうですか?

ボロンの想いを知った今、その気持ちに応える

おつもりは・・・どうなのでしょう?」

 

「コッツ・・・!?

あ、貴方、一体どうしたのですか?

な、なにゆえそのような事を!?」

 

「申し訳ありません、無礼であるのは百も承知

でございます・・・しかし先程からのオリオリ様

のご様子・・・まるで恋人との懐かしい思い出を

愛でているような・・・そのような印象を私は

受けてしまいました。・・・質問をしているのは

私ですっどうかお答えください!」

 

ア、アタシは完全にフリーズ状態・・・今までに

経験した事のない種類の緊迫した空気が・・・

明らかにフロア内を支配しているっ!

 

「こ、応えるなど・・・私には既にセアドが

いますっ!

応えようなどとはっ!できる筈もありませんっ!

ボロンは・・・一時的な気の迷いを起こしている

のでしょう。

いつか・・・時が経てば目を覚ますはずです!」

 

「許嫁だからとかっ!決められていた結婚だから

とかっ!

そのような建前を聞いているのではありませんっ!

オリオリ様ご自身のお気持ちを問うておりますっ!

許嫁という縛りを外したオリオリ様ご自身の自然な

お気持ちを問うておりますっ!

オリオリ様にとってボロンは恋愛の対象なのですか?

そうではないのですか?

そうでないのならボロンにハッキリと否であると

伝えるべきですっ!

既に夫がいるからなどという答えはうわべだけの

ものでしかないと、私は思いますっ!

では夫が・・・セアド様がいなければ自分のほうを

向いてくれる・・・ボロンにそう捉えられても仕方

のないお答えになってしまいます、そうはお思いに

なりませぬかっ!?」

 

「コ、コッツッ!?ど、どうしちゃったんだ!?

と、とりあえず落ち着けっ!そんなにいっぺんに

捲し立てられてもオリオリだって答えに困るぞっ!?」

 

あ、あまりのコッツの剣幕に一同皆凍りつく。

とりあえずモガ丸がコッツを宥めた。

 

「コッツ・・・ごめんなさい、そのような事を

聞かれても・・・現実に・・・私は既婚者です。

仮定の話をされても・・・困ってしまいます

・・・。

しかしあえて仮定の話をするならばと前置きを

させてください。

わ、私はボロンの事を・・・い、異性と捉えた

事は一度もありません!昔も今もです!

私は夫セアドを愛していますっ!

他の男性を慕うなどありえませんっ!!」

 

「では・・・ボロンが求愛してきたとしても・・・

ハッキリと断りを仰る、という事でございますね?」

 

「とっ、当然ですっ!そのような人の道を外れた

行為、私は神に誓って致しません!」

 

「・・・あいわかりました・・・。

オリオリ様、無礼の段、申し訳ございませぬ

・・・!

コッツはどうかしておりました。少し頭を冷やし

てきます、御免っ!!」

 

ダッ

 

コッツは跪きオリオリに謝罪をした。そして何かを

振り払うように勢いよく立ち上がり洞窟の来た道

のほうへと駆け出していってしまった。

 

「あっ、コッツ!!」

 

オリオリが呼び止めるもコッツは従わずそのまま

フロアからいなくなってしまった。

 

「はっは〜ん、そうか、そういう事か。」

 

と、モガ丸がしたり顔で何かを得たような呟き

を発した。な、何この状況で!

何落ち着いてんの、モガ丸っ!!

 

「オリオリ、リザ、お前たち・・・なんでコッツが

あんなワケのわからない事を言い出したのか

わかるか?」

 

はぁ!?モガ丸っ!アンタまで何訳わかんない事

言ってんの!?そ、そりゃあ部下としてっ!

オリオリにいつまでも落ち込んでもらってちゃあ

困るからじゃないのっ!?

 

「わ、私にもわかりません、コッツが私に向かっ

てあのような激した態度を見せたのは初めてです、

何が何やら・・・。」

 

「フンっ!2人とも不正解だ!

コッツの気持ちがわかんない者がコッツを追い

かけても拗れるだけだ。

オイラ、ちょっとコッツの様子を見てくるっ!

まぁ、任せとけっ!」

 

「ピピッ!?」

 

「だぁ〜いじょうぶだって!

ってかスラッピ、お前も来いっ!!」

 

「ピピピピ〜ッ!!」

 

え、えぇ・・・!?ふ、不正解!?

だって・・・こないだオリオリが落ち込んだ時

だって『オリオリ様にはリーダーとして堂々と

振舞って欲しい』ってコッツ自身が言ってた

じゃんっ!

な、なんで不正解なのっ!?

 

コッツの突然の激昂も、モガ丸の謎の自信も訳

わかんないっ!!

アタシとオリオリは魔物にやられた訳でもない

のに完全にメダパニ状態だった。

 

な、なんだかよくわかんないけど。

モガ丸はコッツの気持ちがわかる・・・みたい

・・・こ、ここはモガ丸に任せるしかないのか

・・・?

 

狼狽するアタシとオリオリには目もくれずモガ丸

とスラッピはコッツが走り去った方向へ小走りで

駆けて行ってしまった。

 

****************************************************************

 

「ハァハァハァ・・・おっ、抑えられなかった

・・・。

わっ、私はなんて事を・・・!

オリオリ様に向かって何という無礼を働いて

しまったんだろうっ!」

 

ガッガッガッ

 

最深部から入り口までの本道からは外れた別の

フロアにコッツは居た。

オリオリに対して詰問口調をしてしまった事を

激しく悔やみ頭を壁に打ち付けていたの。

額からは血が滲んでいた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ピピッ!」

 

「ハァハァハァ・・・!

こ、ここに居たのか〜コッツ!探したぞ〜、

ハァハァハァッ!」

 

「えっ!?

モ、モガ丸殿っ!?それにスラッピ殿っ!?」

 

そこにコッツを追いかけていたモガ丸と

スラッピが現れた。

 

「いやぁ、お前の事が心配になってな、

追いかけて来たんだ。大丈夫か?

随分取り乱していたようだったけど。

ん??

えっ!?

お、おいっ!血が出てるぞっ!!大丈夫かっ!!」

 

「・・・わ、私は大丈夫です。

オリオリ様に働いた無礼を思えばこんなのは

・・・!

私・・・少し疲れているのかもしれません・・・。

じ、自分でも何ゆえあのような態度を取って

しまったのか・・・。」

 

「まぁなぁ〜、ここんとこずーっとぶっ通しで

冒険してるからな、疲れてるっていうのはわかる。

けど。

オリオリにあの態度はマズイんじゃないのか〜??」

 

「うぅぅ・・・重々承知しておりますっ!

私の最も尊敬すべき方・・・オリオリ様に向かっ

てあのような態度を取るなど・・・自分で自分を

許せない気持ちで一杯です・・・あぁ、どう

申し開きをしたものか・・・い、いえ、そもそも

お許しになられなくとも致し方ないほどの事を

してしまった・・・!」

 

コッツはさっきの事を激しく後悔している

ようだった。

冷静になってみて、とんでもない事をしてしまっ

たと理解したんだろう。

 

「コッツ・・・アレか??

その・・・あれぐらいの事をやっちゃうぐらいの

事情が・・・お前の中にあるんじゃないのか??」

 

「えっ!!??

い、一体なんの事ですかっ!?」

 

モガ丸の意味深な質問にコッツはギョッとして

後ろの壁に背中をつけるまで後ずさりをしたの。

 

「単刀直入に聞く、間違ってたらゴメン、コッツ

お前・・・ボロンの事が好きなんじゃないか??」

 

「なっなっ!何をっ!!

何を言うんですかモガ丸殿っ!!!」

 

「ピピーッ!!??」

 

「な、何を根拠にそのようなっ!!」

 

「ふっふ〜ん、図星か・・・。」

 

「いっいえっ!ちっ、違いますっ!

わ、私はそのようなっ!!」

 

「何を根拠にって・・・そりゃあお前のさっき

の態度だよ。ってか普通そう思うぞ!

少なくともオイラの目には・・・オリオリの様子

は・・・幼い頃の思い出を懐かしむ・・・ごくごく

普通のものだったように思えたけどな。

それをあんだけボロンにこだわった質問を繰り返し

たんだから、こりゃもう恋する乙女のヤキモチ以外

の何物でもない、って思ったんだ。」

 

「そ、そんなぁ・・・。」

 

ヘナヘナヘナと・・・コッツはその場に座り込んで

しまった。

 

「しかしまぁ・・・複雑だぞ〜。

ボロンは禁断の愛をオリオリに向け、コッツ

・・・お前がボロンに・・・。

結ばれるはずのない愛に邁進するボロンの姿を

見せつけられるお前の気持ち、ボロン以上に

ツライものだな。」

 

「う、うぅぅぅ・・・。」

 

「だから・・・何気ないオリオリの仕草も

・・・たとえ幼馴染という認識であっても

・・・ボロンとの思い出を懐かしむオリオリの

姿も・・・お前にとっては理性のタガを外させて

しまうぐらいに心を抉ってしまうモノだったん

じゃないのか?」

 

「うぅぅぅ・・・わっ私は・・・私は

ぁぁぁあっ!」

 

「コッツ・・・オイラは人間じゃなくてモモンガ族

だ、けど、こういう系の話はリザよりも敏感だぞ。

大丈夫、これはオイラの胸にだけしまっておく。

スラッピも・・・そもそもスラッピが何を喋ってる

か分かるのはオイラだけだし・・・だから溜め込む

な、今ここだけは思ってる事をぶちまけておけよ、

オイラはただ聞くだけだ、そしてその後は聞かなか

った事にするからさぁ。」

 

「あ、あぁぁ!モ、モガ丸殿ォォォっ!!!

私は・・・!ただ、ただ遠くから眺めているだけ

でよかった・・・!

ボロンが稽古をつけてくれる・・・その後で嬉し

そうに私の上達を喜んでくれる・・・その笑顔を

見れるだけでよかった・・・!

なのに!

この地方に来てからというものっ!

ボロンとオリオリ様2人だけの思い出が詰まって

いるというこの地方でっ!

私の心はどんどん醜くなってゆくのです・・・!

自分の事がイヤになりますっ!!

す、すみませんっ!!!」

 

コッツの心の叫びがフロア内に響く。

コッツはその場に蹲り額を地面に擦り付けて

嗚咽を漏らす。

モガ丸とスラッピは黙して語らず、コッツが

落ち着くのをただただ待っている

ようだった。

 

「醜くなんてないぞ。

お前がボロンを想ってるんなら当然の気持ちだ。

お前は悪くない。

けど・・・オリオリだって悪くないぞ。

アイツはさっき言ってたじゃないか、ボロンの

事を異性として見ることは今までもこれからも

ないって。」

 

しばしの沈黙の後モガ丸が口を開いた。

コッツの気持ちを理解し、そして正論をも、

やんわりと伝えコッツを諭す。

 

「もっもちろんですっ!

オリオリ様は何も悪くないっ!

私の心が卑しいだけなのですっ!!」

 

「だぁからっ!

コッツも悪くないって!

卑しくなんかないって!

まぁ、悪いとすればボロンだな!

アイツがオリオリの事好きだなんてカミングアウト

しちゃうから皆んな不幸になっちゃうんだ。

そう、悪いのはボロンっ!

こんなベッピンの心を奪っておいて、なんで

わざわざ既婚者のほうへ靡いちゃうんだろう

な〜。」

 

「えっ!?モ、モガ丸殿っ!?

べ、ベッピン・・・?

ベッピンって・・・私の事ですか??」

 

「おうっ!

コッツはベッピンさんだぞっ!!

なぁ?スラッピ!」

 

「ピピッ!!」

 

「だから自分の事をそんなに卑下すんな、

ボロンなんかやめといて、もっと他に

イケメンを探そうぜっ!

コッツだったらすぐ捕まえられるって!」

 

精一杯モガ丸がコッツを励ます。

モ、モガ丸・・・何、今日めっちゃ

気が効く・・・ってか何!?

そ、その恋愛マスター然とした振る舞い

・・・。

た、確かに恋バナに疎いアタシでは

到底できそうもない・・・(-。-;

 

コッツの1番の親友はアタシだって自負

してたつもりだけど・・・今回ばっかり

はモガ丸がコッツを追いかけてくれて

よかった・・・。

 

「うぅぅ・・・モガ丸殿ぉ・・・

それにスラッピ殿・・・こんな私を気に

かけてくださり・・・コッツは・・・

幸甚この上ない気持ちです・・・!

私の想いは誰にも打ち明ける事のない

ものと誓っておりましたが・・・モガ丸

殿に聞いていただいて・・・気分が晴れ

ましたっ!

ありがとうございますっ!!」

 

「おぉ、そうかっ!よかったぞっ!

顔色もちょっとマシになったなっ!

死にそうな顔してたからな〜コッツ。」

 

「はい・・・死にたいぐらい情けない

気分でした・・・ご心配をかけて・・・

申し訳ないっ!

ただ・・・モガ丸殿・・・こ、この事は

どうか内密に・・・。

リザ殿にもオリオリ様にも打ち明けては

いないんですぅ・・・。」

 

「わぁかってるって!最初に言ったろ!

な、スラッピ!」

 

「ピピッ!」

 

「あぁ、ありがとうっ!!

・・・けど・・・まさかモガ丸殿にバレて

しまうなんて・・・意外でした〜。」

 

「モガッ!コッツこの野郎!

せっかく心配してやってんのに、どういう

意味だそれっ!!」

 

「え?あ、ひえーーーー!

ご、ごめんなさいー、そういう意味じゃ

ないんですぅモガ丸殿っ!!」

 

・・・久し振りのやり取りが飛び出した

ところで・・・ようやくコッツはいつも

の調子を取り戻したようだった。

今回ばかりはモガ丸のお手柄のようね。

 

けど・・・

ビックリ∑(゚Д゚)

 

まさかコッツの想いビトがボロンだった

なんてっ!!

いや、この時のアタシは当然まだ知らない

んだけど・・・。

しかしこれは・・・!

確かに複雑・・・。

確かにアタシには処理しきれない案件

・・・。

普通の恋バナですら苦手なアタシでは

ただただ絶句するだけだったと思う。

モガ丸・・・あんた、ヒトではないのに

よくこんな複雑な悩みを抱えたコッツを

宥められたわね・・・今回はホンット!

アナタがMVPだわ(´∀`)

 

「よし、じゃあ皆んなのところへ戻ろう!

そんでオリオリに謝ろうっ!

大丈夫、オイラも一緒に謝ってやる、

もちろんここでの話はここだけの話だ!」

 

「モガ丸殿・・・かたじけないです、

恩に着ます!」

 

「いいってっ!」

 

*****************************************

 

モガ丸とスラッピがコッツを宥めて

いた頃、残されたアタシ達は悶々と・・・

ただただ3人が戻ってくるのを待つしか

できない状態だった。

 

「モガ丸さん・・・大丈夫でしょうか?

コッツのただならぬあの様子・・・

一体どうしてしまったのでしょう?

先日、コッツは私を諌めてくれました。

裏切り者のピエールに惑わされては

いけない、と。

にも関わらず私は・・・彼との幼少期を

・・・大事な思い出を・・・捨てきれない

と言ってしまった。

その事でコッツは失望をしてしまったの

かもしれない・・・。」

 

オリオリは・・・コッツが激昂したのは

自分のせいかもしれないと思い始めて

いた。

けど・・・だからって「オリオリも

ボロンの気持ちに応えるかも」だなんて

推測は話を飛躍させ過ぎなんじゃない

かしら・・・。

 

アタシは・・・以前にコッツと2人で

内緒話をした時の事を思い出していた。

オリオリはボロンから告白された事で

気持ちが揺れているんじゃないかって

話をした時のことを。

 

今思えばコッツは・・・アタシでは

考え付きもしないオリオリの心の内を

読み取ろうとしていた。

今回も・・・アレコレと読み取ろうと

するコッツのその思考が・・・色々と

妄想を掻き立てて爆発してしまった

のかもしれない。

 

アタシはそんな風にコッツの事を

考えていた。

けどあの時だって・・・「オリオリの方

から道を踏み外す事はないだろう」って

コッツ自身が言っていたのに・・・。

なのにどうしてあんな質問をしたん

だろう??

 

アタシは今さっきのコッツの気持ちに

ついて・・・ホントにワケがわからな

かった・・・。

わからないでは済まないんだけど・・・

もうモガ丸に頼るしかないって・・・

祈る事しかできなかった。

 

フロア中が重苦しい空気に支配されて

いたその時、突如としてその空気を

切り裂くモノが現れた!

 

「どりゃ!どりゃどりゃどりゃ〜!!」

 

それは・・・聞き覚えのある可笑しな

かけ声だった。

 

「乙女の戦士セセニョン参上っ!!

宇宙政府の魔物は何処だ〜〜〜!?」

 

乙女の戦士、1人義勇軍を名乗る女の子、

セセニョンが再びアタシ達の前に

現れたの。




***登場人物紹介***
・リザ
本編の主人公。つまりアタシ。職業は賢者。
偉大な魔道士を目指し冒険を通じ日々修行
しています。理不尽な事がキライで宇宙政府
の汚いやり方等を聞かされるとちょっと、
ほんのちょっと気性が荒くなる、と言われます(;´Д`A
恋愛には疎く恋バナはニガテです。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスターで剣が得意。
彼もアタシ同様、日々修行を欠かさずどん
どん強くなっていて、そのスキルの強さ
にはもうアタシでもかなわないわ。
アタシも負けてられないっ!

・レイファン
末の妹。職業はスーパースター。
回復行動やオンステージというサポート行動
が得意。
こだまする光撃という最高のサポートスキル
でアタシやジョギーの攻撃を最大限に強く
してくれます。

・モガ丸
アタシ達の冒険の最初からの友達。
戦闘は得意ではないけど見え〜るゴーグルで
宝物を発見したり移動呪文ルーラで冒険の
移動を助けてくれたり、と冒険のサポート
をしてくれる。
種族はモモンガ族で一族には悲しい過去が
あったけど、それを乗り越えて今なおアタシ
達と一緒に冒険を続けてくれてるの。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉は通じないけどモガ丸だけはスラッピ
の話している事がわかるの。ただ、トラスレ
の聖水を飲む事でアタシ達とも会話ができる
ようになり、実はコテコテの関西弁を話す事
が判明。モガ丸のワガママで関西弁で話す事
は禁止されてるけどʅ(◞‿◟)ʃ

・オリオリ
宇宙王の書という本にワケあって閉じ込め
られている美しい女性。その正体は宇宙王
の末裔。
圧政を敷く宇宙政府を倒すため義勇軍という
レジスタンス組織を作り反政府運動を続けて
いる。義勇軍の総司令官。
実は既婚者でセアドという夫がいるの。
義勇軍親衛隊長ボロンとは幼馴染だけど
ボロンが義勇軍を離れ宇宙政府に参加した上
にオリオリに愛の告白をした事により衝撃を
受けてしまったの。

・コッツ
義勇軍3番隊隊長。
3番隊は政府軍に捕虜として連行されていた
けどベェルの町でついに全員無事で発見され
救出された。コッツは冒険のさなかも部下達
の安否に心を砕いていた。
無事の救出でようやくコッツの心の闇は完全
に取り除かれた。
アタシ達と行動を共にするうち、アタシに
強い憧れを抱くようになったらしい\(//∇//)\


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード12.「乙女戦士の謎と3番隊長の秘めた想い」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



「オリオリ様・・・皆さん・・・さっきの私の

振る舞い・・・本当に申しわけ・・・

っっっ!?」

 

突然激昂してオリオリに詰問をし、その後、

反省してくるといってこの場から離れていた

コッツが・・・その宥め役を買って出たモガ丸、

スラッピと共にようやく戻ってきた。

 

しかしコッツ達が離れている間に予期せぬ

人物の突然の来訪があって・・・アタシ達は

その人物のほうに意識を奪われていたの。

コッツ達が戻ってきたのを視界の端には捉えて

いたけれども・・・。

 

「モ、モガ・・・モガーーーー!?

お、お前はっ!?セセニョンじゃないかっ!」

 

戻ってくるなりモガ丸が目の前の来訪者の名を

叫ぶ。

しかし、つい先日出会ったこの不思議な女の子

の・・・さらに不思議な振るいが・・・アタシ達

を困惑させていたの。

 

「ん~~~??

あれ、なんでアタイの名前を知ってるんだ?

あれ???

どこかでアタイと会ったことあるかい?」

 

「モ、モガ??

何言ってるんだ・・・ついこないだ迫真の洞窟

で会ったじゃないか・・・。

ほら、セセニョンは義勇軍に憧れていつか本隊

に入隊するのが夢で・・・今は1人義勇軍を名乗

って宇宙政府の魔物を退治してるんだろ・・・?」

 

今モガ丸が発言した内容・・・もちろんアタシ

も覚えてる。だってセセニョンと出会ったの、

ついこないだだもん。

 

もちろんアタシも同じ事をモガ丸達とコッツが

戻ってくる前にセセニョンに言った。

けど・・・返ってきたセセニョンの発言があまり

にも斜め上すぎて・・・アタシ達は困惑していた。

 

「えーーー!?

なんでそんな詳しくアタイの事を知ってるんだ?

アンタ達・・・アタイとどっかで会ったことある

のかい?・・・ごめんよぉ~、アタイは物忘れが

激しくてね~人の名前や顔をなかなか覚えらん

ないのさ。」

 

そう言えばそうだったわね。

そんな事を前にも言ってたわ。

けど・・・いくら物忘れがヒドイからってつい

先日の事を全く覚えてないだなんて・・・ちょっと

異常よね?

 

「そんな事より・・・この洞窟に宇宙政府の魔物が

たくさん居るって聞いて退治に来たんだけど・・・

このフロアに来るまでの道にたくさん魔物の死体が

転がってた。

もしかしてアンタ達がやっつけたのかい?

アタイが倒そうと思っていた魔物を倒すだなんて

・・・アンタ達やるじゃないかっ!!」

 

・・・このやり取りも・・・前回にもあったやり

取り・・・ふざけてるようには見えない。

ホントに忘れっぽくて全くアタシ達の事を覚えて

いないのか!?

 

「アタイは物覚えが悪く物忘れがひどくてね~、

覚えらんないかもしれないけどアンタ達の名前を

教えておくれよ。」

 

「・・・モ、モガ丸だ・・・コイツはスラッピ

・・・んで、リザにジョギーにレイファンにコッツ

だ・・・。」

 

例によってセセニョンが無害なのかどうか判然と

しないのでオリオリは書の中に身を隠していた。

オリオリ以外の全員の名をモガ丸が伝えた。

 

「モガ丸にスラッピにリザ、ジョギー、レイファ

ン、コッツだね。

覚えるのは苦手だけど・・・アンタ達の事は忘れ

ないよ。・・・こんなに物忘れがひどいアタイ

だけど・・・昔の事は結構覚えてるんだ。」

 

「モガ、昔の事?」

 

「あぁ。なんとアタイは・・・かの宇宙王の血を

引いてるのさ。」

 

!!

な、なんですってっ!?

 

「アタイは惑星アレスの生まれなんだ。

惑星アレスっていうのは歴代の宇宙王が王朝を

開いていた星なんだ。

惑星アレスに住む人々の名前にはアレっていう

フレーズが必ず含まれていてね、アタイの本名も

セセニョン・アレアレ・アレアーレっていうのさ、

な?アレが含まれてるだろう?

だからアタイは正真正銘、惑星アレスの出身者

なんだ。」

 

・・・オ、オリオリ・・・今のこの子の話・・・

本当なの?惑星アレスや其処に住む人々の名前の

話・・・アタシでは信憑性を判断できない・・・

けど・・・すっごくリアルに聞こえるわ。

口からでまかせを言っているようには聞こえない。

って、オリオリは今、書から出ないか。

 

「う、宇宙王の血を引いてるって・・・それ本当

なのか!?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

??

ど、どうしたのかしら??

セセニョンが・・・固まった!?

 

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

ピシッ

 

むっ!?

ど、どうしたのかしら!?

セセニョンの体と表情が一瞬強張ったような??

それに・・・目が・・・一瞬白目を剥いた!?

だ、大丈夫っ!?

 

「モガッ!?ど、どうした!?セセニョンっ!!」

 

たまらずモガ丸も声をかけるっ!?

と、その直後に・・・。

 

「う~~ん・・・忘れちまったよ。」

 

「モ、モガァ~~!?」

 

はい~~!?

一瞬異変が起こったかに見えたセセニョン

はすぐに正常な状態(?)に戻ってやり取りの

受け答えをしたの。

 

し、しかしなんとっ!肝心なとこでっ!!

自分で重大な事実を告げておきながら

それが本当かどうか忘れた〜〜〜!?

んもうっ、どうなってんのぉ!?

これも物忘れがヒドイ性格の一端なのっ!?

それとも・・・さっきの一瞬の異変が何か

関係してる??

ううん、一瞬の出来事だったんで異変だった

のかどうかもわかんないけど・・・。

 

「けどアタイは・・・頭の中である人物と会話

ができるんだ。

その人の名は・・・ゼナ・アレクサンドロ・

アレダイス。最後の宇宙王さ。

この人と会話ができるから・・・アタイは宇宙王

一族の血を引いてるって自分では思ってるん

だけど・・・。

ゼナ・アレクサンドロ・アレダイスって人は時々

アタイの頭の中に声だけで現れて・・・魔物が

現れそうな場所を教えてくれるのさ。

アタイはその声に従って魔物退治をしてるって

ワケなんだ。」

 

!!

ゼ、ゼナ・アレクサン・・・えーと、名前が長くて

覚えられない(*_*)

最後の宇宙王!?

つ、つまり・・・オリオリのお父様!?

この子、ゼナ3世のフルネームを口にしたっ!

 

と、ジョギーがセセニョンの目に触れない位置で

手にしている宇宙王の書がピクリと動いた。

オリオリ・・・今この子が口にした名は貴女の

お父様のもので間違いないのね!?

 

「モガ~~、じゃあこの洞窟へ来たのもその

・・・最後の宇宙王の導きなのか?」

 

「そうっ!

いつものようにアタイの中でゼナの声がして

・・・この地方にある教会が魔物の事で困ってる

って聞いて・・・そんでその教会に向かったら

・・・この洞窟に魔物が住むようになって困ってる

って聞いたんだ。」

 

むむむ~・・・この子・・・どう捉えたらいいの

かしら。

惑星アレスや宇宙王に関する話は・・・残念ながら

アタシは知らない事だから判断がつかない。

けどこの子からは嘘を付いているような気配も

ないし邪悪なモノも感じない。

 

ってか、最後の宇宙王、つまりオリオリのお父様

の事をこんなに詳しく知っている・・・宇宙王の

血を引いてるっていうのはあながち嘘ではなさそう。

さっき、それが真実かどうか忘れてしまった、と

口にしたのは、信憑性があるのか自分でも自信が

ないって事なのかしら?

 

けど、一瞬セセニョンの様子がおかしかったのが

アタシはどうも引っかかる・・・。

この子・・・物忘れがひどいんじゃなくて体に

変調をきたす何かを抱えているのか?

 

アタシは・・・根拠はないんだけどセセニョンの

一瞬の硬直がやたらと心に引っかかった。

普通だったらそんなに気に留めなかったかも

知んないけど、何しろこの子の言動行動が

ぶっ飛んでるから・・・(°_°)

 

ただ、この時のアタシは・・・心に引っかかった

その違和感よりもセセニョンが語った内容の

重大さに意識を奪われてしまったので、違和感が

思考から消え去ってしまった。

 

その違和感が再び蘇るのはもっと先の話・・・。

 

「まぁ、結局魔物は退治されちゃってるから

アタイは間に合わなかったけどね。

・・・じゃあ、アタイはそろそろ行くよ。

宇宙政府の魔物はまだまだたくさんいる、困っ

てる人もたくさん居るってことだ。

さよなら、モガ丸にリザ達っ!また何処かで

会えるといいねっ!じゃあね~~!!」

 

かなり重要というか・・・爆弾発言を残し

セセニョンは颯爽と立ち去ってしまった。

 

・・・あ、相変わらず不思議な・・・よくわか

らない女の子だった。

かと言って捨て置くことができない重大な内容

の話をしたりもする・・・。

ほ、本当に何者なんだろう???

 

「セセニョン・・・やはりあの子は・・・私と

深い関係があるのかもしれません。」

 

セセニョンが去ったのでオリオリが書から

現れた。

 

「あの子・・・私の父の名を口にしました。

そして私の父と頭の中で会話ができる??

一体どういう事・・・父がこの世に居ないの

は間違いありません。

父の亡霊が居るとでもいうのでしょうか?

そして・・・宇宙王の血を引いている?

一体誰の・・・?」

 

セセニョンが口にしたゼナ3世のフルネーム

・・・どうやら間違いはないようね。

しかしオリオリも・・・あの1人義勇軍と

名乗る女の子を掴みきれない様子だった。

 

「私は1人娘です。

・・・父と母の子ではないのは明らか。

では初代か2代目から派生した傍系子孫

・・・も、もしくは・・・。」

 

そこまで言うと・・・オリオリは少し眉

を寄せた?

 

「ち、父の妾腹か・・・?」

 

ん?め、妾腹・・・?

ど、どういう事??

 

「つ、つまり・・・父に側室が居て・・・

その者と父の間に生まれた子なのかも

・・・。」

 

え、えーーーーーー!?

そ、それって・・・!

ゼナ3世がふっ、不倫してたって事???

 

「あ・・・いえ、リザさん・・・。

王たる者、子孫をたくさん残して血筋が絶え

ないようにするのも立派な務めなのです・・・

ですから第2、第3の妃を持つ事は認められて

いるのです。」

 

え~~~~、そ、そういうもんなの?

王様って・・・。

ア、アタシには想像もできない世界・・・。

 

「制度としては認められていますが・・・

私が聞いている範囲では・・・父は母以外の妃

を持っていたという話は聞いた事がありません。

いえ、私が知らないだけなのかもしれませんが

・・・。

お、オッホンッ!

ですからセセニョンが宇宙王の血筋の者である

として・・・誰の血を引いているのかはわから

ないのです。

本人が覚えていれば良いのですが・・・。」

 

そ、そうなんだ。

側室を認められているという話を聞いてアタシ

は動揺してしまった。

で、できればアタシも・・・ゼナ3世の子じゃ

なくて・・・初代か2代目の傍系の出である

ことを祈りたい・・・オリオリの為にも・・・!

 

「彼女の出自はともかく・・・。

彼女が口にしていた惑星アレスの民の名前の仕組み

・・・あれは間違いではありません。

彼女は少々物忘れがヒドイようですが嘘偽りを

述べているワケでもなさそうです。

あ、頭の中でゼナ3世と会話ができて、そして

魔物が出没する場所に向かう・・・もしそれが

本当の話なら・・・この先もまた出会う事に

なるでしょう。

引き続きセセニョンの事は要観察、という事

にしましょう。」

 

な、何か・・・何かしらセセニョンは・・・

惑星アレスや宇宙王、そしてオリオリについて

重要な何かを知っていそうな雰囲気なんだけど

・・・なにせ本人のあのややこしい性格・・・

それが邪魔をしてイマイチ釈然としない。

それが全て明らかになる時は来るのかしら

・・・。

 

オリオリを始めアタシ達は・・・すっごく

モヤモヤしながら・・・セセニョンが立ち去った

方向の洞窟の道を眺める事しかできなかった。

 

「オ、オリオリ様っ!!」

 

と。

コッツが宇宙王の書の前に進み出た。

その表情は固い。

 

「オリオリ様・・・先程の無礼な振る舞い・・・

誠に申し訳ございませんっ!!

私はどうかしておりましたっ!

あのように失礼な数々の質問・・・部下として

あるまじき行為ですっ!!

いかような処分も受ける所存ですっ!

誠に申し訳ありませんでしたっ!!!」

 

コッツがオリオリの前で跪き額を地面に

くっつかんばかりに下げて謝罪の弁を述べる

・・・。

 

セセニョンの登場で言いそびれていたようだ

けれど、どうやらコッツは十分に頭を冷やして

戻ってきたみたいね。

アタシ達みな一同、固唾を飲んで2人のやり取り

を見守っている。

 

オ、オリオリ・・・ど、どうするんだろ?

確かにコッツの行動は意味不明なところがあった

し、その上オリオリへの・・・リーダーへのあの

態度・・・組織に属する者としては罰せられるべき

ものだとは思うけど・・・。

 

「コッツ・・・顔を上げなさい。

大丈夫、怒ったりしていませんから。」

 

「いいえっ!

処分を下されるまでは・・・オリオリ様に合わせる

顔がございませんっ!」

 

「ふ〜む、困りましたね・・・。

怒ってはいないのです、本当に。

ただ・・・ビックリして・・・そして困って

しまったのです私は・・・。

それに私の方こそ、先日貴方に注意されたにも

かかわらずピエールの事を未だにボロンと捉えた

ままの振る舞いをしてしまいました。

貴方が怒るのも無理のない事だと反省しています。

ですから・・・自分で言うのもなんですが・・・

お互い様ということでこの件は水に流す事に

しませんか?」

 

「い、いいえ・・・オリオリ様がなんとおっしゃら

れようと!

組織の秩序を無視した私の行いは許されるものでは

ありませんっ!どうかご裁断をっ!!」

 

「ふ〜む、困りましたね〜・・・。」

 

頑なに処分を求めるコッツ。

冷静になってみて自分の行動がいかに非常識だっ

たかを思い知ったのかしら。

オリオリが顔を上げるように促しても頑として

平伏の姿勢を崩そうとしなかった。

 

う、うん、これだけ頑ななんだもの、反省して

いるっていうのは痛いほどわかる。

コッツ、もういいんじゃないの?顔を上げても。

 

「モガ、コッツ。

オリオリもこう言ってるんだし、以後気をつける

って事でさぁ、この件は終わりにしようっ!

なっ!」

 

モガ丸が2人の間を取りなす。

ってかモガ丸、そういえばアンタよくコッツの事

宥められたわね。

ただ事じゃなかったのに・・・コッツの様子。

 

コッツがここまで大きく反省の色を見せている

ってことはモガ丸の説得が効いたって事よね・・・。

や、やるじゃないモガ丸っ!

アンタはちゃんとコッツの気持ちを汲んでるって

事よね!?

 

「そうです、コッツ、貴方がいつまでもそうして

いては我々も身動きができません、貴方の反省の意、

しっかりと伝わりました。さぁ、顔を上げなさい。」

 

「・・・しかし・・・!」

 

「では・・・処断の代わりと言ってはなんですが

・・・なぜゆえあのような質問をしたのか・・・

その理由を答えてくれますか?

貴方の言い分だと、夫のある身である私がボロンに

ただならぬ感情を持っている、という向きの話でし

たね。

私は自分では・・・ただ昔を懐かしんでいただけ

のつもりでしたが・・・。

それほどに私はボロンを慕っているというふうに

見えたのでしょうか、貴方には・・・。」

 

ガバッ

 

「そ、それはっ!!」

 

オリオリが・・・激昂したワケを答えるようコッツ

に求めると、それまで頑なに顔を伏せていたコッツ

が飛び跳ねるように顔を上げたの。

 

「おや、ようやく顔を見せてくれましたね、

コッツ。」

 

「う、うぅぅぅぅ、オリオリ様・・・。

そ、それは・・・・申し訳ありません!

今は答えられませんっ!

けど決して、オリオリ様や軍に背を向ける理由

ではございませんっ!!

全くの私の個人的な事情でございます!

その・・・個人的な事情で・・・オリオリ様に対

し、あのような無礼を働いてしまいましたっ!

公私混同をしてしまったのは私です、しかし、

その内容だけはっ!今はお許しくださいっ!!

その他の処分であれば、いかようなものでも

お受けしますっ!!」

 

「公私混同・・・!?

はて、ますますワケがわかりません、コッツの

私情・・・一体何を心に秘めているのか・・・?」

 

(「モガ~、やっぱオリオリはこっちのほうは

てんで疎いな・・・ホントにコッツの秘めた想いに

気付いてなさそうだ・・・。

ま、生まれた時から許婚がいて、恋愛というもの

をやったことがないんだろうから無理もないん

だろうけど・・・。」)

 

「モガ~、オリオリ、他人には言えない事情なんて

いうのは誰にでもあると思うぞ。

もちろんコッツにもな。

まぁ、そのせいでコッツがオリオリに無礼を働く

っていうのは良くないと思うけど・・・。

それについてはこんだけ反省してるんだ、

もうこの件は終わりにしよう!」

 

「あ、は、はいモガ丸さん、

そうですね、コッツ・・・話したくない事情である

のなら、今は聞く事はしません。

ですがこの件を不問に処すという私の判断も・・・

受け取ってください。いいですね?」

 

「あ・・・は、はい。

承知・・・いたしました・・・。

オリオリ様、今回の件、誠に申し訳ございません

でしたっ!!」

 

最後にもう一度、コッツは深々と頭を下げた。

ようやく事態が収まったのでアタシもふい~っと

大きなため息をついた。

 

ただ。

ひと段落はついたものの、大丈夫かしらオリオリ

とコッツ。

この先ギクシャクしなきゃいいんだけど。

 

あぁ、そうか。

それはアタシ達が頑張ればいいのか。

2人がギクシャクしないよう周りが気を付ければ

いいのね。

 

うん、そうしよう!

ただでさえピエールの事で義勇軍は不安定なんだ。

これ以上軍が揺れるような事があってはならない。

それはオリオリもコッツも望むところではないはず。

アタシ・・・場を盛り上げるとかあんまり得意

じゃないけど頑張る!

 

アタシは今回の件でパーティーが一枚岩でなくなる

のを防ぐよう努めようと心に決めたの。

 

けど・・・コッツがオリオリに激した理由。

この時はまだモガ丸とスラッピしか知らないん

だけど・・m実はこの先も尾を引く事になるの。

根は相当に深かった。

 

やがてそれが負のオーラとなり・・・悲劇を生んで

しまったの。

 

「さて、そもそもの話に戻りますが、此処も既に

・・・おそらくは・・・ピエールによって魔物が

退治されていました。

彼もゼンチャン達の姿も既にありません。

・・・困りました。」

 

「ピピッピピピピ〜〜〜〜ッ!」

 

「どうしました?スラッピさん?」

 

「ピーピピピッピピッピーピーピーッ!!

ピピピピッ!!」

 

「なになになんだって?

ピエールのニオイは自分にはわからないけど

チャングーのニオイは此処から東の方に続いて

いる・・・だって?

モガーッ!リザ達っ!!

チャングーのニオイは此処から東に続いている

・・・つまりピエールも東に向かったという事に

なるみたいだぞ!」

 

「ここから東・・・はて?

一体どこへ向かったのでしょう??

私とボロ・・・ピエールは幼少時、教会から

あまりに離れた場所へ行く事はシスターから

禁じられていましたので、この洞窟より東へなど

足を運んだ事はありません。

ピエールの目的は一体??」

 

東か・・・。

アタシの星見るチカラによれば・・・ピエールの

気配はもうほとんど感じられない。

洞窟の外に出れば少しは感じられるかしら??

 

モガ丸っ!

急いで外に出たいからリレミトをお願いできる??

 

「おうっ!任せとけ!」

 

外に出たところで星見るチカラが反応するかどうか

急いでやってみたかったのでアタシ達はモガ丸の

リレミトで瞬時に洞窟の外へ出た。

 

・・・う〜む・・・確かに東のほうに微かにそれ

らしい気配を感じるような感じないような・・・。

もし居るとしても此処からは既に相当離れた場所

に移動しているんじゃないかしら?

ピエールのヤツ・・・。

 

「そうですか・・・では此処はスラッピさんの鼻

を頼りにしてみましょう。チャングーさんのニオイ

を辿って東に向かいましょう。」

 

・・・アタシ達はどうやらピエールにかなり遅れを

取ってしまったようね。

見失ってしまったと言ってもいい。

チャングーのニオイを辿るという・・・今はスラッ

ピの嗅覚だけが頼りになってしまった。

 

しかし他に手がかりがない以上、今はそれに頼る

しかない。

 

「ピピッ!」

 

スラッピは自分がゼンチャン達の命運を握っている

という自覚をしっかり持っているらしく意気揚々と

パーティーの先頭に立って東に向かって先導を始めた。

 




***登場人物紹介***
・リザ
本編の主人公。つまりアタシ。職業は賢者。
偉大な魔道士を目指し冒険を通じ日々修行
しています。理不尽な事がキライで宇宙政府
の汚いやり方等を聞かされるとちょっと、
ほんのちょっと気性が荒くなる、と言われます(;´Д`A
恋愛には疎く恋バナはニガテです。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスターで剣が得意。
彼もアタシ同様、日々修行を欠かさずどん
どん強くなっていて、そのスキルの強さ
にはもうアタシでもかなわないわ。
アタシも負けてられないっ!

・レイファン
末の妹。職業はスーパースター。
回復行動やオンステージというサポート行動
が得意。
こだまする光撃という最高のサポートスキル
でアタシやジョギーの攻撃を最大限に強く
してくれます。

・モガ丸
アタシ達の冒険の最初からの友達。
戦闘は得意ではないけど見え〜るゴーグルで
宝物を発見したり移動呪文ルーラで冒険の
移動を助けてくれたり、と冒険のサポート
をしてくれる。
種族はモモンガ族で一族には悲しい過去が
あったけど、それを乗り越えて今なおアタシ
達と一緒に冒険を続けてくれてるの。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉は通じないけどモガ丸だけはスラッピ
の話している事がわかるの。ただ、トラスレ
の聖水を飲む事でアタシ達とも会話ができる
ようになり、実はコテコテの関西弁を話す事
が判明。モガ丸のワガママで関西弁で話す事
は禁止されてるけどʅ(◞‿◟)ʃ

・オリオリ
宇宙王の書という本にワケあって閉じ込め
られている美しい女性。その正体は宇宙王
の末裔。
圧政を敷く宇宙政府を倒すため義勇軍という
レジスタンス組織を作り反政府運動を続けて
いる。義勇軍の総司令官。
実は既婚者でセアドという夫がいるの。
義勇軍親衛隊長ボロンとは幼馴染だけど
ボロンが義勇軍を離れ宇宙政府に参加した上
にオリオリに愛の告白をした事により衝撃を
受けてしまったの。

・コッツ
義勇軍3番隊隊長。
3番隊は政府軍に捕虜として連行されていた
けどベェルの町でついに全員無事で発見され
救出された。コッツは冒険のさなかも部下達
の安否に心を砕いていた。
無事の救出でようやくコッツの心の闇は完全
に取り除かれた。
アタシ達と行動を共にするうち、アタシに
強い憧れを抱くようになったらしい\(//∇//)\


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

エピソード13.「ゼンチャンの想い」

アタシは魔道士リザ。
ブルリア星の2代目冒険王姉弟の1人。
かつて全宇宙を平和に治めていた宇宙王。
その末裔であるオリオリは・・・
現在、全宇宙に君臨する邪悪な組織
『宇宙政府』、これに反抗する為
レジスタンスグループ『義勇軍』を率いて
打倒宇宙政府を目指していた。
アタシ達姉弟は義勇軍に参加しオリオリと
共に宇宙政府を打倒する為ここ惑星クラウド
での冒険を続けているの。
さて本日の冒険日誌^_^



「迫真の洞窟」と「星雲の洞窟」、2つのオリ

オリ達の幼少期の思い出の洞窟。

ここにゼンチャン達を攫った(ゼンチャン本人は

ノリノリで付いていった)ピエールが来ていると

予想してアタシ達は2つの洞窟を訪れたんだけど、

既にピエール達の姿はなく・・・ピエールと同行

しているであろうチャングーのニオイを辿る事が

できるスラッピの嗅覚を頼りにしてアタシ達は

ピエールの行方を追っていた。

 

星雲の洞窟からひたすら東に進む。

やがて雄大な山脈を見上げる事ができる山の麓

まで辿り着いた。

麓には広大な森が広がっていた。

 

「ピピッ!ピピピピーっ!」

 

スラッピが突然何か言葉を発した。

 

「ピピピピッピピピピッピピー!」

 

「なんだってスラッピっ!本当かそれはっ!?」

 

「ピピッ!」

 

モガ丸がスラッピの発言を通訳する。

 

「リザ達、大変だ!チャングーのニオイは

ここいら辺で途切れているらしい!」

 

えぇ!?

そ、そんなぁっ!?

じゃ、じゃあもう完全にピエール達を見失って

しまったって事!?

 

「ピピピピッ」

 

「えっ!?それは一体どういう事だ!?」

 

「ピ〜・・・・。」

 

な、何??スラッピの表情が明らかに困惑の色

を浮かべている。

 

「モガっ!

よくわかんないけど・・・チャングーのニオイ

はここでUターンをしたように元来た方向に

向かっているらしいぞ!」

 

な、なんですって!?

アタシはすぐさま東の空に視線を送り自身の

感覚を研ぎ澄ましてみた。

 

・・・星見るチカラでは・・・微かにピエール

の気配は依然として東のほうから感じられる

気がする。

明らかにこの山脈より向こうのように感じる。

 

どういう事!?

ピエールとチャングーは既に行動を共に

していないっ!?

 

「ふ〜む、スラッピさんとリザさんで反応が

異なるようですね・・・。

そもそも・・・各々気配を探る相手が違うわけ

ですから・・・ピエールとゼンチャンさん達が

行動を共にしている、という前提で我々は行動

してきましたが、それは思い込みである可能性

も当然ながら出てきたという事か・・・。

さて、どうしたものか・・・。」

 

書からオリオリが現れて目の前の情報の意味を

読み取ろうとする。

 

「オリオリ様、我らの第一の目的はゼンチャン

殿達の救出です。

ここはチャングー殿の追跡ができるスラッピ殿

の意見を採用してはどうでしょう?」

 

コッツが進言をする。

そうね、アタシの星見るチカラは今ほとんど

機能していない。

東の方角にピエールが居るような気がするいう

程度の漠然としたものでしかない。

スラッピのほうは確実にチャングーのニオイ

を辿れる。

 

「ひょっとするとゼンチャンさん達はピエール

の元から逃げる事ができたのかもしれません。

であればゼンチャンさんは自分の館へ戻ろうと

考えるはず。

・・・よし、ここは一旦ゼンチャンさんの館へ

行ってみましょう。

あ、いえ・・・その前に教会へ戻ります。

シスターにここまでの報告をしなければ。

ピエールと・・・あのセセニョンの事を気に

かけていましたし。

モガ丸さん、教会とゼンチャンさんの館で

あればルーラで戻れますよね?」

 

「モガッ!

一度訪れた場所だからな、もちろんだぞ!」

 

「ありがとうございますっ!

ではよろしくお願いします!」

 

方針が決まった。

確実性の高いチャングーの跡を追う。

モガ丸のルーラでまずは竜巻の教会へ戻る

事になった。

 

ところが・・・。

思いもよらずゼンチャン達とは早々に再会する

事ができたの。

 

「あら〜おかえり〜みんな〜。」

 

「モガガガッ!?

ゼ、ゼンチャンーーーーっ!?」

 

「ピピピピッ!?」

 

ルーラで教会に戻ると・・・なんとゼンチャン

が出迎えてくれたのっ!

ほ、ホントにピエールから逃げる事ができた

のっ!?

 

「ゼンチャンさんっ!

ご無事だったのですね、あぁ心配しました〜!」

 

書からオリオリが現れゼンチャン達の無事を

喜ぶ。

 

「あ・・・オリオリちゃん・・・。

ど、どうも~~~・・・。」

 

??

ゼンチャンの様子が・・・おかしい??

えらく落ち込んでいるようだけど・・・?

 

「モガ?どうしたんだゼンチャン。

随分と元気がないな??」

 

「まぁ、失恋直後やさかいな~。」

 

と。

チャングーがゼンチャンの代わりに答える。

え、何?失恋・・・?どういう事?

 

「し、失恋とは?

チャングーさん、どういう事ですか?」

 

「ピエールはんは・・・別の目的ができたんで

1人で別行動を取るって言い出したんや。

ほんでワイらを解放したねん。

ワイはな・・・館に戻れるさかい解放してくれる

ぅいうんは有り難いんやけどなぁ。

ゼンチャンにとっては・・・乙女に突然沸き起

こった悲劇っていう捉え方らしいわ。」

 

「別の目的・・・?

チャングーさん、ピエールの別の目的とは!?

順を追って説明してくださいますか?」

 

「はいよぉ、それがな~~。」

 

落ち込むゼンチャンの代わりにチャングーが

・・・館からピエールと共に行動した詳細を

アタシ達に報告する。

 

それによると。

2つの洞窟に巣食う宇宙政府の魔物達を全滅

させたのは間違いなくピエール。

 

動機はやっぱりオリオリとの大事な思い出の

場所を荒らされた事による報復だとか。

 

その後、ピエールは”邪心のオーブ”なるアイテム

の事を調べるために東へ向かったとの事。

邪心のオーブを探る旅にゼンチャン達を同行

させる事は危険である、という判断から

ピエールは単独行動を取ることを選択し

ゼンチャン達を解放した、と。

 

「・・・邪心のオーブ・・・初めて聞くワード

です。一体何なのですか、それは?」

 

「えーと、それは~・・・。」

 

「手にした者に絶大なる強さを与えるアイテム

よ。」

 

それまで塞ぎがちだったゼンチャンがようやく

会話に加わってきた。

邪心のオーブというアイテムについては

ゼンチャンが説明をした。

 

「ワタシとチャングーは・・・宇宙政府の

弱みになるような秘密を探るようピエールから

頼まれた。

それらを霊視しているうち、邪心のオーブに

行き着いたの。

手にした者は自身の何倍ものチカラを持つ

ことができるオーブ。

しかし、手にした強大なチカラと引き換えに

邪悪な心に支配されてしまうという副作用を伴う、

諸刃の剣のような側面も持っている恐ろしい

アイテムよ。」

 

な、何倍もの強いチカラ・・・。

そして邪悪な心に支配される・・・な、なんて

恐ろしいのっ!

け、けど、そんな嘘みたいな話・・・本当なの

かしら?

 

「・・・リザちゃん、邪心のオーブが実際に

使われた実例があるそうよ、ピエールが

言っていたわ。

マタセ王という島国の王様が居たんだけど、

その王様はオーブの力で魔物になってしまっ

たの。

ピエールは実際に魔物になってしまった

マタセ王を目撃したって言っていたわ。」

 

えっ!!

な、なんですって~~~!!??

マタセ王って・・・あのマタセ王??

 

「マタセ王っ!?」

 

「モガー、マタセ王だってぇぇっ!!??」

 

皆、口々に驚きの声を上げる。

そりゃあそうよ、魔物化したマタセ王を倒した

のはアタシ達なんだからっ!

 

マタセ王が魔物になった経緯も!

アタシ達が彼を退治した後の国の混乱もっ!!

全部、アタシ達の心に傷跡を残した出来事だ

ものっ!

 

あ、あの事件に絡んでいたのが・・・!

今、議題に上がっている邪心のオーブ!!

 

「えぇっ!?

リザちゃん達がマタセ王を倒したのっ!?

ピエールだけじゃなく貴女達までマタセ王に

関係してただなんてっ!!

これもまた数奇な因縁ね~~~!」

 

そ、そうね・・・。

マタセ王の魔物化・・・同じヒトでも、かくも

愚かしく悲しい事件を引き起こすのか、って

アタシ達は嘆いたけれど・・・単一の事件だと

思っていた。

まさか、あの事件にウラがあっただなんて

・・・思ってもみなかったというのが正直な

ところ。

 

「ゼンチャンさん・・・その話は本当なの

ですか?

我々の認識ではマタセ王が魔物化したのは

事実ですが・・・その方法は別のモノでした。」

 

「星屑魔法団の秘術でしょ?でも違ったの。

実は邪心のオーブが使用されていたのよ。

ワタシとチャングーが調べた事で今まで誤り

があった事はただの一度もないものっ!

ただ・・・星屑魔法団がなぜ、秘術ではなく

邪心のオーブを使用したのか、という理由まで

はわからないの。」

 

ゼンチャン、星屑魔法団の事まで調べようと

してたんだ。けど詳細はわからない・・・。

 

あ、そっか。

ゼンチャンは『魔星王の眠る”おおよその”場所』

は言い当てたけども・・・ピンポイントの場所

までは霊視できなかった。

 

なんでもかんでも100%知ることはできない

・・・つまり分からない事は分からない

・・・イコール不正解かどうかも分からない

・・・確かにゼンチャンの霊視で判ったこと

の正解率は100%、って言い切れるわね。

 

ううん、これはゼンチャンをディスってるん

じゃなく、逆に言えば判っている事は間違い

なく100%正解って事。

 

つまりマタセ王は秘術ではなく邪心のオーブ

で魔物化したのは間違いない。

そして邪心のオーブの実在性を100%証明して

いる、って事になるわね。

 

「ピエールは・・・オーブ自体の信憑性を調べる

のはもちろんのこと、なぜ魔法団が秘術ではなく

オーブを使用したのか、どうしてボォフゥ大陸に

眠ると云われているオーブを持っていたのか

・・・という点にも謎が多いと感じたようで、

全てひっくるめてオーブについて調べたいって

言って・・・うぅぅぅ、そしてワタシを捨てて

1人で・・・!

ジグゾナ半島へと去っていったの・・・。」

 

「ジグゾナ半島・・・このボォフゥ大陸最東端

に位置する半島ですね。

その地方に邪心のオーブが眠っているのですか?」

 

「・・・うぅぅ、グス、え、ええそうよ、

コッツちゃん・・・うぅぅ。」

 

あ、あちゃ~ゼンチャン・・・またまたピエール

にフラれたショックがフラッシュバックしてきた

ようで会話がおぼつかなくなってきた。

 

「・・・しゃあないな~、ワイが説明するわっ!

えーとえーっとぉ、何処まで話進んでたやろか

・・・?」

 

「オーブの存在する場所がジグゾナ半島なのか、

というところまでです。」

 

「あぁ、せやせや!邪心のオーブ・・・実は

このオーブは遥かな昔にすでに実在していた、

という伝承があるそうでなぁ。

その・・・手にした者に強きチカラを与える、

っていう部分が独り歩きして後の世の人々が

オーブを信仰するようになったらしい。

主に戦士や騎士などといった職業の者が

・・・自身のlv向上を祈願するために・・・

オーブを祀る・・・といっても模倣品やけどな

・・・それを祀る祠や神殿に参拝するっていう

信仰らしいねん。

で、その信仰の本場がジグゾナ半島地域っ

っちゅうワケやねん。

そんでピエールはんは半島へと向かったって

ワケ。」

 

「オ、オーブ信仰・・・。

そのような信仰が存在するのですか・・・。

そら恐ろしいような・・・。」

 

「確かにジグゾナ半島はサロイクン山脈で

隔たれており、どこか秘境めいた地域といわれ

ていますね・・・。

秘境の地で信仰されてきた邪心のオーブ、

まさに密教と呼べるのではないでしょうか、

オリオリ様。」

 

「密教・・・なるほど・・・。

私はこの大陸で幼少期を過ごしましたが・・・

オーブを崇める信仰など全く知りませんでした。

私が匿われたのはこの教会です、私にとっての

信仰はミトラ神信仰であり、それ以外の信仰が

あるなど考えた事もなかった・・・というのが

正しいのかもしれませんが・・・。」

 

「オーブ信仰・・・!」

 

と、それまで無言だったシスターイェルバが

突然声を上げたの。

 

「あ、シスター様っ、これは失礼しましたっ!

シスター様、只今戻りましたっ!」

 

オリオリがイェルバに遅まきながらの挨拶をする。

 

「あ、はいっ!

オリオリ、それにコッツさん、冒険王のみなさん、

よくぞご無事で戻られました。

シスターは安堵しています。」

 

「すみません、まさか此処にゼンチャンさん達が

おられるとは思ってもみなかったので・・・

そちらに意識が向いてご挨拶、ご報告が遅れて

しまいました。

シスター様、先程からの会話でも話しており

ますが・・・ピエールは無事なようです。

ただ我々はピエールとは全く接触できて

おりませんが。

あ、それと此処を訪れた女性戦士の件ですが

・・・。セセニョンという名でしたか?」

 

「あぁ、そうそうっ!

そうです、セセニョンと名乗っていました。

とても溌剌としたご様子の。

なんでも1人義勇軍を自称している、と申して

いました。」

 

「やはり・・・。

その者とは接触いたしました。

不思議な人物でしたが・・・彼女もまた

無事です。

というか・・・魔物は全てピエールが退治

したようなので・・・そもそもセセニョンは

危険な目には遭ってなかったのですが・・・。」

 

「なるほど・・・。

セセニョンさんが無事であったのは何よりです。

あのような若い娘さんが1人魔物の巣窟に向かう

など危険極まりない行為ですから・・・。

それよりっ!

今、オーブ信仰という話が出ましたねっ!?」

 

「あ、は、はい・・・。」

 

「あぁ、そやで~~。」

 

「私も神に仕える者の端くれ。

自分が信仰する教え以外のモノについても

多少は知識があります。

オーブ信仰・・・あのような邪教に関わるだ

なんて・・・ピエール・・・大丈夫でしょうか?

シスターはまたまた心配です。

ピエールが邪教に近づく事、そしてオーブ

そのものに近づく事・・・も、もしもオーブに

魅入られてしまったりすれば・・・悲惨な事に

なってしまいますっ・・・!!」

 

えぇぇっ!!そ、そんなっ!!

そ、それって・・・ピエールが魔物になって

しまうって事!?

 

「・・・そういう事です・・・。」

 

「モガーっ!こ、これは一大事だっ!!

いくら今は敵味方に分かれてるとはいえっ!

さすがにピエールが魔物になってしまうのは

かわいそうだぞっ!!」

 

ピエールゥ~・・・アンタ・・・マタセ王の事

・・・あんなに軽蔑してたじゃないっ!

信念なくして得た強大なチカラなんて・・・

そんなモノなんの価値もないって。

 

だのにっ!

それと同じ道を辿るかもしれないっていう

危険性を予見できないのっ!?

オーブに近づくっていう事はっ!

 

「そう言えばピエールはん・・・オーブを

信仰する者の気持ち・・・戦いに身を置く者

として・・・同じ戦士という立場として・・・

わからんではない、とも言うてはった・・・。

こ、これってかなり危険って事やでなぁ~~??」

 

「!!いけませんっ!

そのように少しでもオーブを迎合する要素が

あるならば、なおのこと近づけさせては

いけませんっ!!」

 

こ、これはっ!

またまた一刻を争う事態になってきたっ!!

急いでピエールを追ってオーブに近づくのを

やめさせなければっ!!

ねっ!そうでしょ!?オリオリッ!!

 

「~~~~ピ、ピエール・・・!

いえっ!ボロンッ!!貴方という人は~~~!!

どこまで周囲の者に迷惑と心配をかければ済むの

かっ!!」

 

ゲっ!!

ま、またまたオリオリがピエール、ボロンに対して

キレちゃった(@_@;)

 

て、敵というより・・・周囲の者に迷惑、心配を

振りまくどうしようもない幼馴染を叱るっていう

気持ちのほうが強く働いてそう・・・。

 

「オリオリッ!シスターからもお願いします!

ピエールを、ボロンを止めてください。

この教会で過ごした貴方達が仲違いをしているのも

悲しいですが・・・ボロンが魔物になってしまう

など・・・さらに悲しい出来事ですっ!!

お願いしますっ!!!」

 

「シスター・・・承知しております!

あのバカモノは私が引きずり回してでも必ず

心を入れ替えさせてみせますっ!!!」

 

まっ!

ひ、引きずり回すだなんて・・・オリオリ

らしからぬ乱暴な言葉・・・。

よっぽどボロンの事が許せないみたいね

・・・(-.-;)

 

「オリオリちゃんっ!!」

 

「えっ!?」

 

と、さっきまで”失恋”のショックを引きずって

落ち込んでいたゼンチャンが突然、大声でオリ

オリの名を叫んだの。

 

「あ、は、はい、何でしょう?

ゼンチャンさん。」

 

「ワタシ・・・貴女に嫉妬していたの。」

 

「え?しっ嫉妬ぉぉぉっ??」

 

ピクッ

 

ゼンチャンがオリオリに嫉妬しているという

発言をした直後に・・・コッツの体と表情が

一瞬、強張った。

けど、それにアタシ達は気付かなかった・・・。

 

ただ一人モガ丸だけは・・・そんなコッツの様子

に気付いたようで・・・心配そうにコッツに視線

を送っていた。

 

そのモガ丸の様子すらも・・・。

アタシ達は気付かなかったんだけど・・・。

 

「しっ、嫉妬とはどういう事ですか?

ゼンチャンさん・・・。」

 

「ピエールは・・・2つの洞窟に巣食う魔物達

を・・・鬼の形相で・・・って仮面を被ってる

から表情は見えなかったけど・・・それぐらい

の鬼気迫る様子で倒してしまったの。

それはきっと・・・オリオリちゃんとの思い出

の場所を汚されたっていう想いが強かったから

だと思うわ。」

 

「・・・。」

 

「ワタシ、わかってたの。

ピエールの心にはオリオリちゃんが大きく存在

しているって。

洞窟にはオリオリちゃんの好きだった花が咲い

ているでしょう?」

 

「え、ええ。」

 

「ピエールは・・・その花達を愛おしそうに

愛でていたの。

そう、オリオリちゃん、貴女が好きだった

花達を守るために魔物達を退治したの、ワタシ

にはわかるっ!

けどワタシは・・・それでもピエールを愛し

ていた・・・。

オリオリちゃんの事を想うピエール・・・

既婚者である貴女との叶わぬ愛を捨てられ

ない彼に・・・せめて寄り添う存在になれれば

いいと思っていた・・・。

それなのにっ!

彼はワタシを置いて1人旅立っていってしまっ

た・・・。

ワタシは・・・『寄り添う事すら許さん』と

宣告されたようで・・・ただ悲しかった・・・

そしてオリオリちゃん、貴女を恨んだわ。

夫がある身でありながら、さらにピエールの

心まで所有している貴女を・・・!」

 

「しょ、所有しているなど・・・わ、私には

そのようなつもりなど毛頭ありませんっ!」

 

「それも判っているわっ!

貴女にその気がないって事なんて百も承知っ!

けどそれが余計にワタシの醜い嫉妬心を

燃え上がらせるのっ!!

何もしていないのにピエールの心を奪えるんだ

もの、これ以上に悔しい事なんてないじゃない

っ!!」

 

「そ、そんな事を言われても・・・私は

どうすれば・・・。」

 

そうか・・・だから此処に戻ってきて最初に

オリオリと顔を合わせた時・・・ゼンチャン

は暗い表情を浮かべていたのね・・・。

嫉妬の対象であるオリオリの顔を見て・・・

普通ではいられなかったんだ・・・。

 

ゼ、ゼンチャン・・・本当に乙女だわ・・・。

これほどに・・・女性以上に乙女だったなんて

・・・アタシはゼンチャンの乙女ぶりをかなり

見くびっていたみたい・・・。

 

自分が女である事が恥ずかしくなるぐらい

・・・ゼンチャンは乙女だった。

 

「ゼンチャン~~、ピエールはんにフラれて

ショックなんは分かるけど・・・それ、

オリオリはんにあたってもしゃーないでぇ~~。」

 

「わかってるわよっ!!自分でもっ!

今、自分が物凄く醜い姿だって事もねっ!!

・・・オリオリちゃん・・・どうかピエールを

救ってやって・・・。お願いしますっ!

どうかピエールを救ってあげてくださいっ、

お願いしますっ!!」

 

嫉妬の対象だったはずのオリオリに・・・

ゼンチャンは深々と頭を下げた。

 

「えっ!ゼ、ゼンチャンさんっ!

頭を上げてくださいっ!!」

 

「・・・いいえっ!

お願いします、どうかピエールをっ・・・

ピエールをっ!!」

 

「・・・わ、わかりました・・・。

ゼンチャンさんのお気持ちも踏まえて・・・

最善を尽くしますっ!

ここまで想っていただけるなんて・・・

ピエールは幸せ者です・・・幼馴染として

嬉しく思います、ありがとうゼンチャンさんっ!

ピエールに代わってお礼を申し上げます。」

 

「・・・そして・・・ヒドイ事を言って

しまってゴメンナサイ!

オリオリちゃんが悪くないのは分かってるの。

けど、どうしても言ってやらないと気が済ま

なくて・・・本当にごめんなさいっ!!」

 

ゼンチャンは思いの丈を存分にオリオリに

ぶつけたからだろうか、さっきまでとは

打って変わってしおらしくなってしまった・・・。

 

「オリオリはん・・・ワイからも謝らせて

もらうわ。ホンマ・・・すんません。

ゼンチャン言うたら、思い詰めたら前に

突進しかでけへんこないな性格やよって・・・。」

 

「あ、いいえ・・・ホントに、ゼンチャンさん

もチャングーさんも、もう頭を上げてください。」

 

ふ、ふぅぅううう。

や、やっと話は落ち着いたみたいね。

アタシは知らない間に息をするのを忘れてた

みたい、あまりの緊迫した空気のせいで・・・。

 

ん?ってか・・・。

つい最近もこんな場面があったような・・・。

 

あ、コッツだ。

ついこないだの星雲の洞窟でも・・・今と

同じような空気をコッツとオリオリが作って

いたわね・・・。

ちょ、ちょっとこういうのが立て続けに

起こると・・・さすがに参るわね~、アタシ、

特にこういう系の話苦手だから・・・。

 

・・・ってかどっちの話も元はと言えば

ピエールが原因じゃないっ!

ったくあのバカっ!!

邪心のオーブだの、恋バナだの・・・

周りに迷惑かける事しかしないんだからっ!

 

・・・アタシは・・・気付いていなかった。

ピエールに愛情を抱くゼンチャンが起こした

今回の修羅場・・・。

ピエールを愛するがゆえ、そのピエール、

ボロンが心を寄せるオリオリに嫉妬した

ゼンチャン。

 

この構図がそのままコッツにも当てはまる

っていう事を。という事はコッツも・・・!?

 

恋愛経験が少しでもある者ならば・・・コッツ

の気持ちを理解する事はそれほど難しい事では

ないんだろう。

恋愛経験もなく恋バナも苦手なアタシはしかし、

全くコッツの気持ちに気付かないでいた。

 

コッツが先程、一瞬表情と体を強張らせたのは

・・・ゼンチャンの気持ちが痛いほど理解できる

からだったんではないだろうか。

 

コッツの様子や気持ちに全く気付かないのは・・・

生まれる前から結婚を約束され・・・そして

その相手を今も純粋に愛しているオリオリも

同じだった。

 

「そうですか・・・ピエール、いえボロンは

やっぱりオリオリ、貴女の事が好きだったのですね。」

 

「えぇっ!?

シ、シスター様まで知っておられたんですかっ!?

ボロンの気持ちをっ!?」

 

「そりゃあ、そうですよ。私は大人ですよ。

幼い男の子の恋心など・・・わかりやすい事

この上ない。

しかし今現在もその気持ちを持ち続け・・・

それが原因で貴女達がこじれている・・・

そこまでは想像できませんでしたが・・・。」

 

「こ、こじれさせるつもりは私には全くない

のですが・・・。」

 

「フフフ、オリオリ。

貴女にそのつもりがなくても・・・恋愛ごと

とは・・・そういうものです。」

 

え、えぇ~~~・・・そ、そういうモノな

の???ダメだ、アタシ、ほんっとに付いて

いけない・・・(@_@;)

 

「・・・なんだか恥ずかしいですシスター・・・

何もかも見透かされているようで・・・。」

 

「うふふ、貴女が恥ずかしがる事ではありません。

貴女は今まで通り、ご主人の事だけを想っていれ

ばいい。」

 

「あ、は、はい・・・もちろんそのつもりです。

・・・シスター・・・話がかなり逸れてしまい

ましたが・・・。

我々も急ぎボ、いえピエールの後を追わねば

なりません。

邪心のオーブの事で何かご存知ではありませんか?」

 

「オーブの所在地などは・・・オーブ信仰の秘匿中

の秘匿事案ですから・・・流石に私も存じません。

しかし信仰の中心地・・・それについては耳にした

事があります。

星雲の洞窟からサロイクン山脈を越え、東に

向かった先にバルジャという町があります。

その町にカセザンという賢者が住んでいるそうです。

その者にまずは面会してはどうでしょう。」

 

バルジャの町、カセザンッ!

情報が出たっ!!次に向かうべき場所の情報がっ!

 

「わかりました。シスターありがとうございます。

コッツ、リザさん達、これからバルジャの町に

向かいます。

ピエールが邪心のオーブに近づくのをなんとして

でも阻止しますっ!!」

 

「・・・ハハッ!仰せの通りにっ!!」

 

「モガーッ!急がないとなっ!!

いくら今は敵でも、ピエールが魔物になって

しまったら悲しむ人間が生まれてしまう

からなっ!!」

 

そうねっ!

ピエールはどうしようもなくバカだけどっ!!

邪心に支配されて魔物になっちゃうだなんて、

それだけは阻止したいっ!

ピエールを健気に愛するゼンチャンのためにもねっ!

 

「オリオリちゃんっ!そしてリザちゃん達っ!

ピエールの事、頼んだわねっ!!

ってか・・・あぁ、ワタシが邪心のオーブの事

なんかピエールに教えてしまったからこんな事

に・・・。」

 

「今更過ぎてしもた事言うてもしゃーない

やろぉっ!!

もう後は義勇軍さんらぁに任せよっ、なあ、

ゼンチャンッ!」

 

そうよ、起きてしまったことはもうどう

しようもない。

これから先に起こる悪い出来事を全力

で止めるっ!

アタシ達にできるのはそれだけだっ!

任しといてっゼンチャンっ!

そしてシスターイェルバっ!!

ブルリア星の冒険王の名にかけてっ!

必ずピエールを止めてみせるっ!!

 

アタシ達はバルジャの町を目指して

東に向かったっ!!

 

 




***登場人物紹介***
・リザ
本編の主人公。つまりアタシ。職業は賢者。
偉大な魔道士を目指し冒険を通じ日々修行
しています。
理不尽な事がキライで宇宙政府の汚いやり方
等を聞かされるとちょっと、ほんのちょっと
気性が荒くなる、と言われます(;´Д`A
恋愛には疎く恋バナはニガテです。

・ジョギー
アタシの弟。
職業はバトルマスターで剣が得意。
彼もアタシ同様、日々修行を欠かさずどんどん
強くなっていて、そのスキルの強さにはもう
アタシでもかなわないわ。
アタシも負けてられないっ!

・レイファン
末の妹。職業はスーパースター。
回復行動やオンステージというサポート行動
が得意。
こだまする光撃という最高のサポートスキル
でアタシやジョギーの攻撃を最大限に強くして
くれます。

・モガ丸
アタシ達の冒険の最初からの友達。
戦闘は得意ではないけど見え〜るゴーグルで
宝物を発見したり移動呪文ルーラで冒険の
移動を助けてくれたり、と冒険のサポートを
してくれる。
種族はモモンガ族で一族には悲しい過去が
あったけど、それを乗り越えて今なおアタシ達と
一緒に冒険を続けてくれてるの。

・スラッピ
モガ丸といつも一緒にいるスライム。
言葉は通じないけどモガ丸だけはスラッピの
話している事がわかるの。ただ、トラスレの
聖水を飲む事でアタシ達とも会話ができるよう
になり、実はコテコテの関西弁を話す事が判明。
モガ丸のワガママで関西弁で話す事は禁止され
てるけどʅ(◞‿◟)ʃ

・オリオリ
宇宙王の書という本にワケあって閉じ込め
られている美しい女性。その正体は宇宙王の末裔。
そして最後の宇宙王の1人娘、つまり次期宇宙王
その人だった(´⊙ω⊙`)
恐怖による圧政を敷く邪悪な宇宙政府を打倒する
ため義勇軍というレジスタンス軍を作り上げ、
その総司令官として日夜、政府軍と戦っている。
そんななか、幼馴染であり義勇軍親衛隊長である
ボロンが宇宙政府に寝返り、かつオリオリへの
禁断の愛を告白してしまった。
この事実を知りオリオリは衝撃を受け激しい動揺
をし重く悩むようになってしまった。
時間とともに、総司令官としては立ち直った
けれど、私人としてはまだまだショックを引きずっ
ているようだった。

・コッツ
義勇軍3番隊隊長。
3番隊は政府軍に捕虜として連行されていた
けどベェルの町でついに全員無事で発見され
救出された。コッツは冒険のさなかも部下達
の安否に心を砕いていた。
無事の救出でようやくコッツの心の闇は完全
に取り除かれた。
しかし彼女には新たな心のモヤモヤが生まれ
つつあった。それは嫉妬。
コッツの片想いの相手、それはボロンだったの
∑(゚Д゚)
オリオリへの道ならぬ愛を抱くボロンを慕う
コッツ。しかもボロンが想いを寄せる相手は
コッツの上官、これは相当に複雑な相関図。
これは・・・義勇軍内にピシピシと静かに
忍び寄る影でもあるのかしらっ!?

・ゼンチャン
麗しき全知全能のじょ・・・いえ、男性
・・・いややっぱり女性。うん、つまり
オネエねガーン
相棒のスライムベス、チャングーを媒体とし
た霊視こそが彼女(彼)の全知全能のチカラ。
そのチカラは宇宙政府の隠したい内情すらも
暴くほどの性能。
しかしそのチカラゆえ命を狙われたり、チカ
ラ欲しさに拉致される事もしばしば。
現在はピエールに身柄を拘束されている。
もっともゼンチャン本人はピエールから愛の
告白をされたとソッコーで勘違いしてしまっ
たので、喜んでついて来てるんだけどね:(;゙゚'ω゚'):

・チャングー
ゼンチャンの相棒のスライムベス。
コテコテの関西弁を駆使する。スラッピも
人間の言葉を話すときは関西弁・・・。
スライム達の公用語なのかしらびっくり
その体を水晶玉代わりにしてゼンチャンの
霊視能力の一端を担う。
意外にも(?)人情肌であり常識を持ち、また
女心すらよく理解しているふうでもあるみた
いね。ピエールとの別れ際では彼を諭すよう
な話をいくつもしていたわ( ̄∀ ̄)

第10章<再会と決別>了


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。