『転生特典はガチャ~最高で最強のチームを作る~』 (ドラゴンネスト)
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設定(主人公サイド)

・天地四季

・外見イメージは喜名先生版の緋勇龍麻

 

・マテリアル1

本作の主人公。高校二年生。

己が転生者だと言う自覚はあるが原作知識以外の前世の記憶のない転生者。転生前の己に対する記憶はない為に前世の自分がどんな人物だったかは知らない。

本人は知らないがガチャから得られるアイテムをよほど危険なもの以外は無条件で使用できる。

 

・スキル

・桐生戦兎の開発能力

ビルド及びクローズの武器、スクラッシュドライバーとスクラッシュゼリー等(スパークリングフルボトルなどのアイテムは成分の入手ができない為に制作不可能)などの開発が可能な他、天才物理学者の彼の頭脳で開発できる事なら大抵なものならば制作可能。

・緋勇龍麻の戦闘能力

徒手空拳技《陽》の技と黄龍の器としての力。そして、素質がそれに当たる。

 

所持アイテム

・ビルドドライバー(各種フルボトル付き)

・ハザードトリガー

・VSチェンジャー

・レッドダイヤルファイター

・仮面ライダーオニキスのカードデッキ

・ウィザードライバー

 

 

マテリアル2

戦闘スタイルは徒手空拳。ビルドやルパンレッドに変身した際は武器も使うが緋勇龍麻の戦闘能力で得られた徒手空拳技《陽》が基本的な戦い方となっている。

なお、黄竜の器でもあったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・朝田詩乃

 

・マテリアル1

メインヒロイン。高校一年生

SAOの世界において主人公である黒の剣士が間に合わず彼女が死亡すると言うBADENDを迎え、彼女が命を落とした事で剪定事象となったSAOの世界線の一つに於ける彼女自身の転生体。

GGOやALOでのスキルを使う際には姿がゲーム内のアバターの姿に変化する。

転生前の四季から最初の仲間として選ばれ高い好感度を望まれた、最も信頼出来る存在として望まれた。

 

スキル

・GGOでのアバターの能力

・SAOでのアバターの能力

・桜井小蒔の技

東京魔人学園のメインキャラの五人の一人でヒロインの一人の使う弓術。

 

・所持アイテム

・VSチェンジャー

・ブルーダイヤルファイター

・天之麻迦古の弓(東京魔人学園)

・ヘカート

 

・マテリアル2

過去のトラウマは無くなっている代わり、命を落とした前後の記憶はないが、その時の経験から四季以外の男性に触れられる事を無意識の内に避けている。

 

・マテリアル3

彼女たちが辿ったのは彼女たちのいるべき本来の世界のifの可能性であり、存得たかもしれない可能性の世界であり、剪定事象となった歴史。

その中で救われなかった朝田詩乃と言う少女が彼女である。

彼女が死んだ事により歴史は変わり、そのifの物語は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・北山雫

 

・マテリアル1

本作のヒロインの一人。高校一年生。

基本的な設定は魔法科高校の方の彼女に順ずるが不幸が重なり彼女が命を落とした際に剪定事象となったifの歴史の彼女自身の転生体。

ルパンイエローとして活動する際の服は魔法科高校の劣等生LZの怪盗コスチュームに後に変更。

 

・スキル

・魔法技術(元の世界に於ける魔法師として学んだ技能)

・美里葵の術

 

 

・所持アイテム

・VSチェンジャー

・イエローダイヤルファイター

・CAD

 

・マテリアル2

不幸な偶然が重なりあった結果、友人達ともに誘拐され、ソーサリー・ブースターの材料にされたと言うifの歴史を辿った北山雫が彼女である。

彼女が命を落とす際に体験したのは複数回の死。人としての死を迎えた後に彼女だけが例外だったのか、他の犠牲者もそうだったのか定かでは無いが、感覚を失ったままに意識を残したまま兵器の一部として使われ続け、最後は兵器としての死を迎えた事で死ぬことができた。

 

・マテリアル3

彼女だったソーサリー・ブースターを含む複数のソーサリー・ブースターを投入された世界戦争、それは彼女のいた世界線が剪定事象となる以前に滅びを迎えた原因であり、最大の要因は彼女と共に誘拐された司波深雪を使ったソーサリー・ブースターにある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・雪音クリス

 

・マテリアル1

本作のヒロインの一人。高校三年生。

基本的な設定はシンフォギア本編に準じるが、複数存在する彼女が死亡すると言う剪定事象のifの歴史の中の彼女達の複合体。その為に死亡した可能性と生存した可能性の両方の記憶を有している。

 

 



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キャラクター設定(禍の団(カオスブリゲード)改変派)

禍の団(カオス・ブリゲート)改変派

カオス・ブリゲートに所属する派閥の一つで目的は不明。全員が何かしらの仮面ライダーに関連した力を持つ。

現在確認されている所属ライダーは

ナイトローグ

仮面ライダーマルス

仮面ライダーソーサラー

仮面ライダールパン

仮面ライダーダークゴースト

ナイトローグは仮面ライダーでは無いが便宜上ここに記しておく。

また、アナザーライダーを戦力として扱っている。

仮面ライダーのライドウォッチを集める事を目的としているが、何故集めているのかは不明。

最終的な目的なのかは不明だが、最強フォームのライドウォッチを生み出す事を目的としている様子。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久瀬成彰/ナイトローグ

・マテリアル1

禍の団(カオス・ブリゲード)改変派に所属するナイトローグの変身者。

元はリアス達と同じ駒王学園の三年生。(元女子校なので木場の入学の為にリアスの代から共学に変えたと設定)

ソーナと生徒会長の座を生徒会選挙で争ったが圧倒的な票差で負けた。

なお、人望はないが仕事自体は真面目にこなすタイプな為、彼が生徒会長になっていたらイッセー達は早々に退学になっていた可能性もある。

キャラクターイメージはビルドの内海とKANONの久瀬を混ぜたキャラ。

 

・マテリアル2

生徒会選挙後起きた事件が原因で学園を退学。

その後の消息は不明だったが彼は現在の彼は改変派の参謀に収まっていた。

 

・マテリアル3

ナイトローグへと変身する力を与えられたが、サイボーグではない。

そして、現在の改変派の中では唯一仮面ライダーではない。

現状四季以外の者がトランスチームガンを作れないはずだが、何故彼が四季が作った覚えのないトランスチームガンを持っているかは不明。

 

・マテリアル4

フェニックスの一件ではイッセー達が合宿している最中にソーナ眷属の兵士(ポーン)の匙を偽の依頼で呼び出して襲撃、彼をアナザーリュウガへと変えた。

その後は四季の力を知るような素振りで四季に接触する。

その後はコカビエル達にブレイブとワイズマンのアナザーライドウォッチを渡す。

四季は彼が何故ナイトローグの力を持っているのか疑問に思っている。

 

・マテリアル5

彼が変身するナイトローグは彼本来の力ではない様子である。彼本来の力は同じローグ(悪党)の名を持つビルドの世界の仮面ライダーのどちらかと推測される。

組織の中の参謀役で構成員達も彼の命令には従うが、人望はない。味方からは信頼されているが、基本的に人望という言葉に縁がない。

 

・所持アイテム

トランスチームガン

バットロストボトル

 



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一話目『転生初日とパートナー』

「なんと言うか、不思議な感覚だよな」

 

己が転生者と言う存在であると自覚はしているが、実感は湧かない。そんな事を考えてしまう。

 

彼、『天地 四季』は転生者であると言う自覚は有っても、前世のことが殆ど思い出せないために実感が湧いていないのだ。

 

「しかし」

 

転生特典は拠点となる家の地下に置かれたガチャと呼んで居る機械によって武器や仲間を召喚できる事で、四季の手にはそのために必要な三枚のチケット、『武器ガチャ二連確定チケット』、『キャラクターガチャ確定チケット』、『能力ガチャ二連確定チケット』の三枚がある。

 

能力ガチャは技術や知識の他に戦闘技術等の能力にあたるものが得られる。

武器ガチャはその名の通り武器、または武器に分類されるものが出てくる。

最後にキャラクターガチャは漫画やアニメなどの登場人物(主人公以外)をこの世界に存在する者として召喚できるガチャだ。

本来ならば三種類の内容からランダムで選ばれたものが出てくるのが本来の特典にあたる。

 

彼の手の中にある三枚は転生前のチュートリアルを終えた記念の品らしく、予め記憶を消される前の自分が選んだモノが出てくるそうだ。

武器や能力はこれからの運命を決定づける。少なくとも、カードゲームで運命が決まる世界ならば最高の力と言えるドロー運もそれ以外の世界では大して役に立たない。

キャラクターガチャの方は下手したら命に関わる。敵役や味方になったとしても最初は主人公を殺そうとする者もいる。

最初に出てくるのが自分が選んだ物や相手と言うのは都合がいい事この上ない。

 

「取り敢えず、マトモなものを選んでてくれよ、オレ」

 

真っ先に回すのは二連の能力ガチャ、目の前の機械の中にチケットを入れると機械が起動して動き出し、能力の書かれた球が二つ出てくる。強制的に付与されるのではないことに安堵しつつ、キャラクターガチャの方で呼び出された者にも付与可能らしいことが理解できた。

下手に身につけたら危険な能力は厳重に封印しようと心に誓いつつ手に入れた能力を確認する。

 

 

 

『仮面ライダービルドの桐生戦兎の開発能力』

『東京魔人学園の主人公(デフォルト名:緋勇龍麻)の戦闘能力』

 

 

 

技術と身体能力関連を選んだ事に何となく武器ガチャの内容も理解できた。早速、手に入れた二つの能力を自分に付与させ、次の二連の武器ガチャを回す。

 

出てきたのはお約束のガチャのカプセルで、カプセルのまま中身の確認もできる。

 

 

 

『ビルドドライバーと各種フルボトル』

『VSチェンジャーとルパンレンジャーのVSビークル』

 

 

 

ビルドドライバーの方は予想していたが、両方共特撮ヒーロー関連だった。カプセルの中にはそれぞれビルドドライバーとVSチェンジャーが入っているのが見て取れる。能力と同様に呼び出されたキャラクターにも使用可能なものだが、ノーリスクで使えるのは四季だけで他の人間が使用するには原作通りの条件がいるらしい(単純に選ばれると言うのが条件の場合は無条件で使用可能)。要するに、他の誰かに使わせるには能力のガチャの方で能力を入手する必要がある。

その手の条件が薄い傾向にある戦隊ヒーローの物は仲間用、仮面ライダービルドのドライバーは自分用という事だろう。

なお、ドライバーとフルボトルだけで封入されてないビルドの武器は最悪能力で自分で作れるように、と言う事なのだろう。

 

装備の方もカプセルのままなら安全な様子だ。最悪危険な武器はカプセルのままなら厳重に保管しておける。

 

「最後はこれか」

 

キャラクターの確定ガチャ。キャラクターの初期好感度はそのキャラクターが登場する作品で初登場した時に主人公向けている感情となり、このチケットで初期好感度は通常よりも高く設定されて呼び出されるようであり、一番信頼できる仲間になる様子だ。

なお、同一人物が被ることはなく、その人物の別の可能性、または別の武器を使っている状態を呼び出すと元からいる者の強化に繋がるらしい。

 

(大丈夫なんだろうか?)

 

そう思わずにはいられない。好感度が通常よりも高いとは言っても、その感情が好意的とは言えない場合もある。

記憶には無いが、流石に自分が選んだのだから問題のある相手は選ばないだろう。

 

一抹の不安を覚えつつ、最後のチケットを使い出てきたのはガチャを開けると目を閉じた青い髪の少女が映る宝石だった。

 

 

 

『シノン(GGO)』

 

 

 

それが彼女の名前だ。少なくとも呼び出して早々に敵対される相手では無い事に安堵しつつ、早速彼女を呼び出す事に決める。

呼び出す方法は特別なことはなく少しだけ石に呼び出すと言う意思を持って力を加えるだけで済む。

 

手の中から宝石が消えていく感覚を感じながら、ふとした疑問を思い浮かべる。

 

(待て、なんで二連なんて中途半端なんだ?)

 

十連や五連なら兎も角二連とは結構中途半端な数だ。下手したら単純に二枚同じチケットがあれば良いだろう。

そして、キャラクターだけ一回のみと言う点。何かの為に回数を犠牲にした可能性もある。

 

 

 

《ピンポン! ピンポン!》

 

 

 

なんか妙な音が頭の中に響いた。その瞬間、ガチャの回数が変化した理由を理解する。

 

予め10段階で表されたキャラクターの感情を5まで上げていたらしい。その結果、本来五連のキャラクターのガチャが4回分が犠牲になったらしい。同じく本来は東都、北都、西都と別になっている六十のフルボトルをドライバーとセットにしたりした結果武器の方も二回に減ったらしい。(その為に武器は最悪自分で開発するように、と言う事らしい)

ついでに言うとVSチェンジャーとビークルの方は普通にワンセットだった。まあ、当然と言えば当然だが。

 

なお、同時に理解したことだが、召喚されたキャラは地上部分の居住エリアに当人の部屋ごと追加されるので、例外を除いてこの場に召喚されるとかは無いそうである。

 

「次は、と」

 

チュートリアル(自覚はないが転生前の説明とかと推測している)突破記念でもらえたガチャのポイントは合計11回分とガチャには表示されているので、早速記念に一度回してみる。

 

出てきたカプセルの中には有るのは変わった形の戦艦の様な物体。

 

 

 

『ナデシコC』

 

 

 

それがその戦艦の名前だ。機動戦艦ナデシコの劇場版に出てくる三番目のナデシコ。運用するのに必要なマシンチャイルドとかナノマシンとかどうすべきかと迷い暫くお蔵入りかと思ったが、AIでの単独運用もフルスペックは無理だが可能らしい。

それならば問題はないかとカプセルを開けると今いる部屋の壁が開き地下につながる階段が出てきた。地下格納庫という事だろう。

 

(自分の家ながら、この家ってどうなってるんだ?)

 

何人いるか分からない同居人達を収容する部屋に地下の格納庫には宇宙戦艦まで入っている。下手しなくても怪しげな家で有る。

 

「考えるだけ無駄か」

 

そう思って考えを切り替える。少なくとも、自動で動いてくれる戦艦が有れば行動の幅も増えると言うものだ。

 

 

 

『ガチャ初回記念プレゼント『アイテムストレージ』』

 

 

新たに表示された文字に驚いていると腕時計の様な物が現れ、同時に真後ろの壁が開く。

 

『アイテムストレージ』、腕時計型の端末を通してガチャ室の奥に設置された武器庫から繋がる武器庫の中の装備を取り出せるそうだ。また、バイクや戦艦の様な大型の物は武器庫ではなく地下格納庫という別の場所に置かれているので取り出せない。

 

「まあ、やっぱり何も入ってないか」

 

武器庫という言葉に不安を覚えながら入ってみたが、何も入っていなかった。折角なのでフルボトルとビルドドライバー、VSチェンジャーとビークルを置いて置く。

 

「それにしても」

 

通常のフルボトルだけでなく、レジェンドライダーの力を借りる為のフルボトル、例えばエグゼイドならばドクターとゲームのフルボトルが必要になるそれまで存在している。

だが、スパークリングになる為に必要なスパークリングフルボトルやハザードトリガーの様な強化変身用のアイテムに、仮面ライダークローズに変身する為のパーツであるクローズドラゴンは当然ながらフルボトルと認定されなかったらしくここには無い。

 

(まあ、良いか。それと、お蔵入りの決まったものもここに隠して置くか)

 

安全そうだからと考え、あとで三つほど金庫でも用意するかと考えつつ、最後に残りの10回分のガチャポイントで十連の方を回してみることにした。

 

「来てくれよ、当たり!」

 

少なくとも狙っているものが二つ。通信用の道具と移動用の道具だ。ナデシコCは移動用に使うには大き過ぎ、あれははっきり言って、仮の拠点とでも言うべきレベルの代物だ。

 

「良し!」

 

出て来た十個のカプセルを確認しながら、その中に目的の物がある事に気付く。

 

 

 

『ビルドフォン』×2

 

 

 

ダブってしまったが、ビルドフォンはスマホの機能だけでなく、ライオンフルボトルを差し込んでマシンビルダーと言うビルドの専用マシンに変形する機能がある。それが二つ出て来てくれた事は幸運と言って良い。

 

「っと、他にビルドの強化アイテムは無いか」

 

残りの八個のカプセルをどうするべきか、そんなことを考えながら一つ一つ確認していくと、その中の一つが目にとまる。

 

 

 

『パトレンジャーのVSビークル三種類』

 

 

 

初期の二つの戦隊の変身アイテムが揃った事は幸運と考えるべきだろう。他は“一応”危険な物は無いが、アイテムと能力のみで幸か不幸か仲間は増えなかった様子だ。そんな事を考えて居ると新たに表示される文字が視界に入る。

 

 

 

『ガチャ10回突破記念『保管用金庫』』

 

 

 

武器庫の奥に何かが設置される音が聞こえる。表記を信じるならば、保管用の金庫が設置されたのだろう。買いに行く必要がないのは助かるが、それでも初回記念に比べると、かなり道具としての格が下がる。

 

武器庫の奥に扉の所に液晶画面が付いた金庫が三つ設置されて居るが、一般的な大きさの金庫だった。武器庫に残りのVSビークルを置いて、金庫の中にカプセルを入れようとすると、勝手に吸い込まれていった。

 

「見たとおりの容量じゃなさそうだな」

 

扉の所にある液晶画面を操作すると中にある物の名前と数が表示されて居る。容量は不明だが、中に入って居るものが一目で分かるのは助かる。

 

「しかし、勢いで戦艦呼び出しちゃったけど、そっちは本気でどうするかな?」

 

地下の格納庫の様子も見に行くべきかと思いながら、残りのカプセルの中の一つに視線を送る。

 

 

 

『アメイジングストライクフリーダム』

 

 

 

これ、ガンプラだろ? と心の中でツッコミを入れる。確かにプラモを使って戦うビルドファイターズの漫画版のメイジンカワグチの愛機だが。そんな事を考えながら呼び出してみると格納庫に何かが追加された音が聞こえた。

間違いなく、本物のMSになったアメイジングストライクフリーダムが追加された様子だ。

 

戦艦に続いてMSまで置かれた地下の格納庫を一度見に行くべきか、そんな事を考えて居ると、上の方から足音が聞こえてくる。

 

「ねえ、いつまで待たせる気なの?」

 

地上部分に繋がる階段から出てきたのは『朝田 詩乃』という少女。先程呼び出したシノンの現実での姿だ。

しかも、呼び出されてから結構待たされた為にかなりお怒りのご様子だった。

 

(しまった)

 

まさか待っているとは思って居なかったとは言え、呼び出してそのままと言うのは本当にまずい事をしてしまったと思う。

 

性格も良く、GGO(ガンゲイル・オンライン)のゲームの中のスキルが現実で使えるならば十分に頼りになる相手。寧ろ、友好的な関係を築くためにも、さっさと挨拶くらいしておくべきだったと思う。

 

「えーと、ごめん」

 

「反省してるなら、良いわよ」

 

謝る四季に対して何処か拗ねたようにそう答える詩乃。

 

「改めて、天地四季だ。これから宜しく」

 

「え!? ええ、『朝田 詩乃』よ。これから宜しくお願いするわ」

 

「オレのことは好きに呼んでくれて良い」

 

「じゃあ、四季って呼ばせてもらうわ。私のことはシノンで良いわ」

 

互いに挨拶して握手をする。

 

「ところで、四季は私達が居るのが如何いう場所か知ってる?」

 

「いや、その辺は全然」

 

転生前の記憶は殆どないためにどんな世界に転生したのかは分かってないが、最低限仮面ライダーの力が身を守る為に必要な危険はあると言うのは大体理解して居る。

 

「私も、この世界に召喚された時に貰った簡単な知識くらいしか」

 

続けて告げられた『天使と悪魔と堕天使とか、その他の神様とかがいる』と言う言葉で候補が絞られた上に、ある種の核心が得られる。

 

 

ハイスクールD×Dの世界だろう、と。

 

 

ぶっちゃけ、他に思い付いた世界だと生き残れる気がしないので、これであってくれと心から願う。主にメガテンとかだと。

 

「そう言えば、ここで何をすればいいのかって聞いてる?」

 

「何も」

 

首を振りながらそう答える詩乃。転生したのはいいが何をすれば良いのか分かっていない現状だ。

仮面ライダーやスーパー戦隊の力があるとは言え目的もなく無闇に行動するのは危険極まりない。

ぶっちゃけてしまえば、原作介入など、しなくていいならば関わらない方が良いだろう。

 

そんな会話を交わしていると式の持っているビルドフォンに振動する。

 

「メール?」

 

詩乃に対して見ても良いかと問い掛けると、見ても良いという返事が返ってくる。

先ほど届いたメールを開くと、

 

 

『賞金リスト』

 

 

と言うタイトルのメールが届いていた。怪しいとは思いながらメールを開くと、はぐれ悪魔の等級とそれに対する報奨金の幅、そしてガチャをするためのポイントなどが書かれていた。

 

更に注意書きのように、『リストに無い相手などと戦い、勝利した際にもガチャポイントは発生します。また、不定期に発生するイベントを攻略することでガチャポイントや賞金を大きく入手することが可能です』と書かれている。

 

「なるほど、オレ達は賞金稼ぎ兼傭兵みたいだな」

 

時にはぐれ悪魔を倒して、時にどこかの勢力に味方して賞金やガチャポイントを稼いで行く。確かに、賞金稼ぎであり傭兵でもある。

 

「そこはせめて、バウンティハンターにしない?」

 

「そっちの方が聞こえが良いか」

 

詩乃の言葉にそう返しながら自分の手に入れた能力を思い出しつつ二つ目のビルドフォンを詩乃へと差し出す。

 

「渡すのが遅れたけど、これはシノンの分のビルドフォン」

 

渡されたビルドフォンを見ると、どこか嬉しそうな微笑みを浮かべながら、

 

「ありがとう、四季」

 

渡されたビルドフォンを抱きしめながら嬉しそうに告げる詩乃。まあ、その後でフルボトル差し込めばバイクになる事を教えた時には通常のスマホよりも高性能な機能に流石に絶句していたが。

 

互いに番号とメールアドレスを交換した後、先ほどのメールに続けて届いていた二通目のメールを開くと、そこには。

 

「明日から駒王学園に入学、か」

 

「四季が新しい子を召喚しても其処に通う事になるらしいわよ」

 

どこか『新しい子』と言う部分の、言葉に棘がある気がするがそこはスルーしておく事にした四季だった。

まあ、先ほどの十連の中にも無かったので暫く新しい仲間の召喚はできないだろうし。

 

仮面ライダービルド兼徒手空拳技《陽》の使い手として前衛を自分が、スナイパーとして詩乃が後衛を担当して暫くは二人でやっていく事になるだろう。

 

そんなことを考えていると、詩乃は思い出したように告げる。

 

「ところで、冷蔵庫の中に何も無かったんだけど」

 

「寧ろ、今のオレ達にはそっちの方が重要だよな」

 

ここに来る前にキッチンによってらしい詩乃は冷蔵庫の中を確認していた。その結果、分かったのは何一つ食材の入っていない冷蔵庫。寧ろ、空っぽのため、今は電気代の無駄と言ったところだろう。

まあ、昨日まで無人だった家に食料がある方が変なのだろうが、早めに買い物に行かなくては店が閉まってしまう。

今日の夕飯と明日の朝食はまだ何とかなるが、明日は学校なので昼食が拙い。

 

「取り敢えず、通帳とカード探して買い物に行こうか」

 

「あ、私も行くわよ」

 

「いや、ビルドフォンが有るから一人でも大丈夫だけど」

「四季、この辺のお店の値段は知ってるの?」

 

「え? い、いや、全然」

 

必要な物以外は行ってみて安い物を買えば良いかと思っていたのだが、詩乃からはジト目で睨まれてしまう。

 

「幾ら入ってるか知らないけど、少しでも節約しないとダメよ」

 

「ごもっともです」

 

賞金首のはぐれ悪魔を狩れる機会はそうないと思うのだから、今は少しでも節約するべきであろう。

そもそも、ゲームではないのだから、相手も隠れ潜んでいるだろうし、そんな相手に簡単にエンカウントは出来ない。どう考えも節約は大切である。

 

冷蔵庫の中が空であった時に近所の店の情報を確認してくれていたのだろう。

なお、交通費についてはビルドフォンという強い味方がある。フルボトルのエネルギーで走ってくれるようだ。

序でに地下にあるAストライクフリーダムとナデシコCに付いては完全に放置の構えだ。一応、彼女を艦長と登録しておいたが、完全に人員不足なのだ。

 

 

 

 

ナデシコC

艦長:朝田詩乃

パイロット:天地四季

艦載機

アメイジングストライクフリーダムガンダム

 

 

 

 

コレが現在のナデシコCの状況である。

すぐに運用する気はないが、人員不足だといざという時に使えない。艦長とオペレーターの兼任については、流石に無理と言われた。一応パイロットなしも問題なので、現状では四季がアメイジングストライクフリーダムガンダムのパイロットになっている。

いくら高性能な戦艦と言えど、運用出来なければ単なるホテルだ。

 

「買い物が終わったらナデシコの中を確認して見るか」

 

「私もそれが良いと思うわ。使う必要がある時に慌てるのは良くないと思うから」

 

まあ、改めてナデシコCの中を確認して広さは兎も角、ホテルにも負けてない設備に驚いたのは二人だけの秘密だ。まあ、何ヶ月もの間船員が生活するのだから、ある程度ストレスの無い設備も当然だろう。

 

通帳を探してる間に詩乃が銀行と買い物に行く店の道筋を確認、家の敷地内の外から見えない位置でビルドファンにライオンフルボトルを装填すると、手のひらサイズのスマホから人が乗れるサイズのバイク『マシンビルダー』へと変形して行った。

 

「改めて見るとすごいな」

 

「どうなってるのよ、これ?」

 

恐るべし天才物理学者と心の中で呟きつつマシンビルダーに乗り、詩乃も後部座席に座る。

 

「じゃあ、しっかり掴まってろよ」

 

「うん」

 

幸か不幸か何事もなく買い物は終えたのだが、通帳の中には百万ほどの金額があった事を追記しておく。

 

さて、問題なく買い物は終わったのだが、荷物を置いた時に改めてビルドフォンにメールが届いた。

 

 

『賞金首情報』

 

 

そう表されたメールを見て四季は夕飯の支度を任せた詩乃を残してはぐれ悪魔の出現地点へと向かった。

 

(これが初めての戦闘。一人でどこまでやれるかも今のうちに確かめておきたいからな)

 

廃墟を一瞥し、ビルドドライバーを装着し、取り出すのはラビットフルボトルとタンクフルボトル。

 

「……早速この力を試してみるか」

 

赤いラビットフルボトルと、青いタンクフルボトルを振りながらビルドドライバーへと装填する。

 

 

『ラビット! タンク!』

『ベストマッチ!』

『Are you ready?』

 

 

(この場合、ビルドアップと言うべきか、変身って言うべきかは分からないけど、やっぱり)

 

そう考えながらベルトの右側のレバーに触れ、

 

「ビルドアップ!」

 

そう叫びながらそれを回転させる。

 

 

『鋼のムーンサルト! ラビットタンク! イェーイ!』

 

 

兎の赤の半身、戦車の青の半身を持った仮面ライダー、『仮面ライダービルド ラビットタンクフォーム』へと変身する。

 

「さてと、それじゃあ早速……お邪魔します!」

 

そう叫びながらビルドに変身した四季は回し蹴りを廃墟の扉の部分に叩き込み。

 

廃墟となった工場の跡地、あのメールの内容が事実ならばここにはぐれ悪魔がいる様子だが。

 

フルボトルは全種類使えるが武器は無い。いっそ、武器がなくても戦えるボトルを選ぼうかとも思ったが、何があるかわからない為、最初は安定性の高いラビットタンクを選んだ訳だ。

 

そうして廃工場の中に踏み込んだビルドの前に異形の影が現れる。下半身は蜘蛛の様に成っており、人間の上半身だが眼球が昆虫の複眼の様になっている異形の怪物。

 

「なんだお前は~人間か~」

 

相手の言葉を聞き流しながら足に力を込める。緋勇龍麻のそれは彼の操る異形を討つための古武術であり、その身に纏う力もまた異形を討つための力である仮面ライダーの力。

 

片や呪術などの超常的な力で生まれたもの、片や火星で発見された地球外生物由来の超常的な科学で生まれたもの乃違いは有れど、この二つの力を同時に扱って、

 

「負ける気はしない!」

 

目の前の相手に負ける理由などないのだから。

 

床が割れるほどと言う比喩をでは無く、本当に床を踏み砕くほどの踏み込みで床を蹴り、はぐれ悪魔とか距離を詰め掌打を打ち込む。

 

「破ぁ!」

 

続け様に放つのは上段蹴り、徒手空拳拳技の技の一つである《龍星脚》。

ウサギと戦車の力を借りた姿で龍の星を名に持つ技を放つのも洒落が効いてるかと思いながら蹴り飛ばされたはぐれ悪魔に視線を向ける。

 

「ガァ、ガガ」

 

「早速で悪いが、はぐれ悪魔」

 

ラビットハーフボディの脚力を活かして蹴り飛ばしたはぐれ悪魔へと肉薄し、

 

「オレとビルドの、実戦テストの相手になってもらう!」

 

そう宣言しながら上空で一回転しながらタンクハーフボディの踵部分を頭へと叩きつけ、動きが止まったところに掌打を叩きつけ、

 

「破ぁ!」

 

徒手空拳技《陽》の基本技の一つである発勁を撃ち込む。

気を使った技は生身でも仮面ライダーの姿でも大して変わりはないだろう、そう考えて居たが、

 

「グギャァ!」

 

「あれ?」

 

必殺技を使うまでもなく体に大穴を開けて絶命したはぐれ悪魔を見て、

 

「……加減間違えて中位技使っちゃったけど、これは威力あり過ぎじゃないか?」

 

その理由も先ほどの感覚で何となくだが、理解した。タンクハーフボディが原因だろう。

 

変身後のボトルの影響か、何故かは分からないが、遠距離技、主に発勁の系統の技が砲弾の様な破壊力が与えられている。

 

「うわぁー」

 

この上の上位の技に位置する奥義級の技になると、人に向ける事自体が間違ってくる、確実に相手を葬るための技、文字通り必殺技になってしまう為に使えないが、ライダーに変身した後は遠距離技は人には使うまいと心に決めたのだった。



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閑話 1.5話目

「さて!」

 

手の中に有るのは先ほどのはぐれ悪魔との戦闘の報酬の三枚のガチャチケット。

ハーレム等と考えているわけでは無いので別に女の子を狙ってるわけでは無い。寧ろ今はビルドの強化アイテムが欲しい。

 

「来てくれ! ビルドの強化アイテム!」

 

1枚目のチケットを使い、そんな願いを込めてガチャを回した結果、

 

「こ、これは!?」

 

“ある意味で”彼の願いは叶った。カプセルの中に入っているのはビルドドライバーの拡張アイテム。

 

 

ドラゴン型の機械。

 

 

 

『クローズドラゴン』

 

 

 

 

だった。

 

「た、確かにビルドドライバーの拡張アイテムだけど、さぁ!?」

 

クローズドラゴン、ビルドドライバーとドラゴンフルボトルと共に使用する事でビルド系二号ライダーである『仮面ライダークローズ』に変身する事の出来る拡張アイテムである。

戦力強化としては強化にはなったが、大きな戦力の増強にはならなかった。

まあ、ドラゴンフルボトルさえ有れば変身できるというのは強みにはなるだろうが。

 

討伐ミッションの初回特典の結果などそんな物だろうと割り切ってしまえば良いのだろうが、それはそれ。

 

「何やってるのよ?」

 

頭を抱えている四季をジト目で見ながら響くのは詩乃さんの一言だった。

 

「気にしないでくれ」

 

「気持ちは分かるし、何があったかは分かるけど、あと二回はどうするのよ?」

 

「一度、やってみるか?」

 

「……うん」

 

そう言って渡されたチケットを受け取る詩乃。心なしか嬉しそうなのは、彼女もちょっとだけ興味があったからなのかも知れない。

 

先ほどの四季と同じ様にチケットを使い装置を起動させると、出て来たのは

 

 

 

『シノン(SAO)』

 

 

 

本人だった。

 

「え? わ、私?」

 

「可能性はあると思ってたけど、本当に有るとは」

 

出て来たものに戸惑いを浮かべる詩乃と、何となくだがその可能性も考えていた四季の図。

ガチャで有る以上はこういう可能性も想像していたが、目の当たりにすると戸惑いを覚える。

 

目を閉じた詩乃の姿が映る宝石を彼女が手に取るとゆっくりとそれは彼女の中に消えて行く。

 

「これって?」

 

彼女の手の中に現れる弓。元々GGOのゲーム内での能力を持っていた彼女の中にSAOでのゲーム内での彼女の能力が上乗せされたのを理解した。

 

まあ、他にも上乗せされたものも有るのだが、それはそれ、今はまだ深く触れないでおこう。

 

四季も四季で二人に増えたら姉妹みたいでそれはそれで良いかも、なんて思ってもいたが、そんな内心を気付かれない様に三枚目、最後のチケットを使う。

 

最後に出て来たカプセル、今度こそビルドの強化変身のアイテムを、と思っていたが、予想を大きく外れていた。

 

 

 

 

『北山 雫(魔法科LZ)』

 

 

 

カプセルの中に有ったのは目を閉じたショートカットの少女の映った宝石。

北山雫、魔法科高校の劣等生のヒロインで魔法師。実は外見に似合わないパワーファイターだが、魔法の概念が違うこの世界でどこまで通用するかは不明、だ。

 

「こ、これは、当たりなんだろうけど」

 

確率がどれほどの物かは分からないが、これまでで確定だった詩乃を除けば僅か2回しか出なかったことを考えるとかなり低い確率である事は間違いないだろう。まあ、

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「別に。何でもないわ」

 

妙に彼女からの視線が痛い気がするのは決して気のせいでは無いだろう。

四季は知らない事だが、同キャラ同士が統合された場合、好感度も上がる。当人同士は全く気付いてないが、彼女の中に好感度の急な上昇により四季への独占欲が芽生えたことによる物だ。

 

暫く詩乃からの視線に痛かったが、こうして、四季達に新たな仲間が加わったのだった。



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二話目

初戦闘を終えた翌日、駒王学園に転校してから数日が過ぎていった。なお、新しく呼び出した雫も無事転校することが出来た。

文字にして仕舞えばその程度で片付けられる事だが、学年が一つ下の詩乃と雫とは違うクラスになったり、ビルドフォンに来るメールの賞金首情報からはぐれ悪魔を狩って過ごす数日だった。

 

一番の問題は一つ。

 

「十連一回引くまで約30体のはぐれ悪魔討伐、か」

 

「先は長いわね」

 

そう、初回特典がない通常エンカウントするはぐれ悪魔では約三体倒す事で一回ガチャが引ける訳である。

流石にそこまでガチャを引きたいと思ってるわけでは無いので必死に集めているわけでは無いが、戦力強化の面から考えるとビルドの強化アイテムを早めに入手しておきたい。科学的な技術で作られたビルドドライバーの事を考えると、ネビュラガスなどの成分が関係している部分はこの世界では作れないのだ。

 

(スクラッシュドライバーは出来たけどさ!)

 

桐生戦兎の技能は伊達ではなかった様子だ。

まあ、使う予定の者もいない為、完成してから即刻お蔵入りが決定したのでスクラッシュゼリーは作っていないが。ドラゴンもロボットも所持しているフルボトルから摘出した成分からスクラッシュゼリーを作れば良いのだが、飽くまで優先順位はビルドの強化と割り切り今のところ本体のみの製作に留めて放置している。

 

ぶっちゃけ、現状では後衛二人と前衛一人なので結局のところ、スクラッシュドライバーも四季が使うしかないのだ。

 

 

 

 

 

ないのだが、

 

 

 

 

 

当の四季には既にビルドドライバーが有り、性能はビルドドライバーより高いとは言えスクラッシュドライバーは使う必要も無く、ハザードトリガーなどの強化アイテムが手に入れば有用性は更に下がってくる。

 

それでも、ベルト自体はいざという時の為の備えの一環として作っておいたが。他のボトルからスクラッシュゼリーを作ってオリジナルのライダーを作るのも悪くは無いし。

 

そんな事をオレンジフルボトルを眺めながら考えて居たこともあった。

レジェンドライダーの成分から生まれたフルボトルから更にスクラッシュゼリーを作ればどうなるのか? 非常に興味ある問いだったが、自身や詩乃、雫の装備の作成に追われた結果研究には入れていない。

 

まあ、

 

「「「リア充は死ねぇえええ!」」」

 

毎朝襲いかかってくる三人組の撃退が今は最優先であろう。

 

坊主頭を踏み台にしてメガネの頭を軸に平均台の要領で一回転しながら『兵藤一誠』を蹴り飛ばし、メガネを蹴り飛ばした一誠へと投げつける。

流れるような動作で撃退を終えると、四季は坊主頭を踏み台にした際に真上に投げた鞄を受け止める。

 

この学校には有名な者が数人ほどいる。高が学園という程度の小さな村社会の有名人など大したことないと言う無かれ、学園中の生徒から名前を知られている有名な者がいる。

 

先程四季に鎮圧された三人組、兵藤一誠、松田、元浜の三人もその有名な部類に入る三人組だ。通称『変態三人組』。学校中の女子から蛇蝎の如く嫌われている変態行為の常習犯である。一説にはこの三人の変態行為が全て表沙汰になれば年間の犯罪件数が一気に1000ほど増えるとも噂されている。

 

「懲りないわね」

 

「何時もの光景」

 

「こいつらに付き合ってたら遅刻するから早く行こうぜ」

 

地面に倒れふす三人を一瞥してさっさと校舎へと向かう三人だった。

 

「ちくしょ~、イケメンは敵だ~」

 

「リア充爆発しろ!」

 

「毎朝美少女二人侍らせて登校しやがって!」

 

変態三人からの憎しみというよりも嫉妬のこもった声を聞き流しながら。

まあ、片手で詩乃と腕を組んで、片手で雫と手を繋いでの登校なのだから普通に恨みを買っても不思議ではないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れ放課後

 

ラビットフルボトルを手の中で弄びながら、変態三人が剣道着の集団に追いかけられていた。何があったかは大体想像はできる。また覗きが見つかったのだろう。

 

(帰ったら次の武器の開発に入るか)

 

そんな彼らの事を放置して次の研究へと意識を向ける。

スクラッシュドライバーの時も思ったが材料の入手やそれを加工する機材の揃った施設についてはナデシコCが有って良かったと思う。

幸いにもナデシコCの中にはある程度の機材や材料は揃っていて場合によっては知識の中にある物よりも優れた物も使用できる。例外となるのはビルドの世界特有の品であるフルボトルとその中の成分、ネビュラガスだろう。

 

オレンジなどの原作では登場しなかったり、スクラッシュドライバー開発時に手元に無かったフルボトルから生み出す新たな仮面ライダーと言うのは結構魅力的に感じてしまう。

だが、応用を試す前に先ずは確実に作れるドラゴンとロボットのスクラッシュゼリーを作るべきかと考えを改める。

 

「さて。そろそろ、二人が待ってる頃か」

 

一緒に帰る約束をして居た詩乃と雫との待ち合わせの時間もそろそろなので校門の方へ行こうとした時、何故か変態三人が居て何が話していた。

 

「ホント、懲りないな、お前ら」

 

「「「天地!?」」」

 

「邪魔すんじゃねえ!」

 

「そうだそうだ!」

 

「帰れ帰れ!」

 

「ああ、そうさせて貰う」

 

呆れた様にそう呟く四季の言葉に噛み付いてくる三人組。そんな三人に付き合ってられない、と言うよりも巻き込まれたく無いとばかりに立ち去って行こうとした時、何処からか視線を感じる。

 

「いいな~、あの赤い髪」

 

「『リアス・グレモリー』。オカルト研究部の部長。出身は北欧って噂だ!」

 

(グレモリーのお姫様、か)

 

あれだけ騒いでいれば当然だろうが、上から感じた視線の主はリアスだった。

自分達の力のことを考えるとあまり関わらない方が良いだろう相手。この学園に通う現魔王の一人の妹であり、二大お姉様と呼ばれるこの学園の有名人一人だ。

 

なお、詩乃と雫の二人も学園一年の二大美少女として有名になっていたりする。

 

そして、彼女が部長を務めるオカルト研究部の副部長である『姫島 朱乃』が件の二大お姉様の片割れである。

 

急がないと二人を待たせると思い、四季は三人組を残して足早にその場を後にする。



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三話目

ナデシコCの格納庫の中に作ったビルドの関連の技術を研究するための簡易ラボ。現在格納庫に置かれているのがパワードスーツ大のアメイジングストライクフリーダムだけなのでかなりスペースには余裕がある。

 

「完ッ成!」

 

四季が高々と掲げているのは剣型の武器『ビートクローザー』。

仮面ライダークローズの専用武器だがビルドのキードラゴンの姿でも使用できる武器でもある。

最初に作ったのがドリル型のビルド専用の武装のドリルスマッシャーなので、それに続く第2弾と言うところだろう。

 

キードラゴンとクローズ、クローズドラゴンを入手した事もあり、二人のライダーの専用武装という事で二つ目の武器として制作してみたのだが、問題なく完成に至ったというわけだ。

 

「でも、作れるって分かっていてもこうして完成させられるのは嬉しいものがあるよな」

 

出来たばかりのビートクローザーを眺めながら感慨深げに頷く四季。伸びをしながら、ビートクローザーを持ってナデシコCの格納庫から出ると武器庫の中の、先に完成させたドリルスマッシャーの隣に置く。他にもそこには詩乃に頼まれたヘカートや雫に頼まれたCAD等の装備品も置かれている。

 

何時の間にか一般家庭の家の地下には似つかわしくない物騒な施設が出来上がっているが、その辺は深くは考えないことにした。……戦艦の格納庫と武器庫の時点で今更だが。

 

「そう言えば、最近街に堕天使が出入りしてる様子だな」

 

今のところ堕天使を倒したところで利益はないので、一般市民に被害が無いなら、と放置して居たが。今更ながら、この世界の中心人物である兵藤一誠が悪魔へ転生する切っ掛けは堕天使に殺されたことではなかったかと思い返す。

 

「まあ良いか」

 

自分たちと言うイレギュラーを内包している以上、世界が知識通りに進むわけもないだろうし、倒した後に間違いでした、では済まないのだから。

 

そんな訳で堕天使達に対しては完全に自分たちに対して火の粉が降りかかるまでは無視を決め込む事にした四季だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「理由はわからないけど、どうもこの街に堕天使が数人入り込んでる様子だから、二人も気をつけてくれ」

 

夕食後の席で堕天使側の勢力が街に入り込んでいる事と、暫く様子見することを告げる。

 

「放っておいても良いの?」

 

「相手の目的が分からないからな」

 

詩乃の言葉に、だから相手の目的が分からない現状では様子見だと告げる。

この街の裏側が悪魔勢力の傘下ということは知っているが、少なくとも堕天使も表向きは悪魔と敵対関係だが共に冥界に居点を置く聖書勢力の一部である以上、裏で繋がっていても不思議はない。

 

「多少後手に回るかもしれないけど、相手が動いたら堕天使の監視をするって事で」

 

そう言って四季が取り出したのはVSチェンジャーと三つのダイヤルファイター。

巨大化する相手もいないので、その面ではグッドストライカーは必要ないだろうが、必殺技が使えないのはちょっとマイナスだろう。

 

「ライダーじゃ無くて、怪盗で、な」

 

既に三人分の正体を隠す為の赤、青、黄の三着の礼服とシルクハット、アイマスクも用意している。

 

「この服って、前から用意してたけど」

 

「ルパンレンジャーに変身するときの変装用だ」

 

詩乃の言葉にそう返す四季。礼服とシルクハットにアイマスクは変装用兼ルパンレンジャー時の正装として用意している。

 

「でも、なんだか格好いい」

 

「そうだろ」

 

「私も悪くないとは思うけど」

 

好意的な意見の雫にちょっとだけ気分の良さそうな四季。詩乃も詩乃で満更でもない様子だった。

 

「それじゃ、怪盗として鮮やかに、な」

 

楽しそうな笑みを浮かべながら告げる四季の言葉に頷く二人。そしてハイタッチを交わす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方、丁度三人が今後の行動を決めていた頃、一誠は項垂れていた。

 

「暗い青春だ~。オレの学園生活は花も実も無く終わっちまうのか~」

 

そして、忌々しげに思い浮かべるのは美少女二人を連れた四季の姿。

 

「チクショー! オレも四季の野郎みたいに両手に花が当たり前の薔薇色の学園生活を楽しみたいぜ!」

 

「あの……駒王学園の兵藤一誠くん……ですよね」

 

他の学園の制服を着た黒髪の女子高生が一誠に声を掛ける。

その場で告白された一誠は歓喜とともにそれを了承。翌日には変態仲間の松田と元浜にも彼女として紹介して、次の日曜日にデートをする約束をした。

 

「あの子、堕天使だな」

 

「堕天使よね」

 

「うん、堕天使で間違いない」

 

四季、詩乃、雫の三人が一誠の彼女になったと言う少女『天野 夕麻』を見ながらそう呟く。

ルパンレンジャーへの変身の訓練も兼ねて堕天使の拠点を調べた時に堕天使達の顔は確認しているし、何より一誠達の変態行動は学園の中のみならず町全体に轟いているのだ。彼女ができるとしたら町から離れて行動を自重するしかないだろう。そう確信しているし。(詩乃と雫の女子視点からの意見)

 

そして日曜日、デート当日、ショッピングに食事、水族館デートと定番的なデートをした後、公園を歩いていた。

 

「今日の初デート記念に一つお願いがあるの。いい?」

 

「な、何かな?」

 

内心『初デート記念のお願い!?』と興奮している姿を表に出さず微笑みを浮かべる夕麻に聞き返す。

 

「死んでくれないかな?」

 

彼女からの突然の言葉に戸惑いを隠せない一誠に光の槍を突き刺そうとした瞬間、

 

 

 

『そこまでだ、堕天使!』

 

 

 

夕麻の腕に一枚のカードが突き刺さる。

 

「ぐっ!? だ、誰だ!?」

 

夕麻の叫びに答えるように現れる三つの人影。それぞれが赤、青、黄の礼服を身に纏い、シルクハットを被り、顔をアイマスクで隠した三人組。

 

「貴様ら、人間風情が邪魔をするな!」

 

「おっと、残念ながら邪魔をさせて貰うぜ」

 

そう言って取り出すのはVSチェンジャーとレッド、ブルー、イエローの各々のダイヤルファイター。

 

「「「快盗チェンジ!」」」

 

『レッド』『ブルー』『イエロー』

 

『0・1・0』『マスカレイズ!』『快盗チェンジ!』

 

その言葉と共に三人がVSチェンジャーを上空に向けて引き金を引き、溢れた光に包まれた三人が姿を変えるのは、シルクハット型のゴーグルをしたそれぞれのパーソナルカラーのスーツ。

 

「ルパンレッド」

 

「ルパンブルー」

 

「ルパンイエロー」

 

『快盗戦隊! ルパンレンジャー!』

 

そして、ルパンレッドは夕麻と名乗っていた堕天使へと指差し、

 

「予告する。お前のお宝、頂くぜ!」

 

そう宣言するのだった。



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四話目

「っ!? に、人間風情が、生意気な!」

 

改めて光の槍を出して投げつけてくるが、その直後にルパンブルーがVSチェンジャーで撃ち落としていた。

 

「ナイス、ブルー」

 

「ええ」

 

続いてレッドがベルトのバックル部分を外してそこからワイヤーを伸ばし槍を投げた直後の堕天使の腕を絡みとる。

 

「なっ!? こんな物!」

 

「私もいる」

 

小型の光の槍を作り出して片腕に巻きついたワイヤーを切ろうとするがそれよりも先にルパンイエローのワイヤーが自由に動かせていた腕を拘束、続けざまにブルーもイエローと共に腕を拘束する。

 

「じゃ、落ちて貰おうか、堕天使らしく、地面に、な!」

 

「ひっ!」

 

レッドの言葉と共に三人が同時にワイヤーを振り回す。なんとか抵抗しようとするが、それも虚しくそのまま地面に叩きつけられる堕天使。

 

「ぐべっ!」

 

女として出してはいけないカエルの潰れたような声を上げて地面に落ちた堕天使の女。強く打ち付けた顔には血と土に汚れて屈辱からか鬼のような形相を浮かべていた。

血と土に汚れた鬼の形相は百年の恋も冷める程の物だったのだろう、先ほどまでデレデレとしていたイッセーが完全に怯えている。

 

「よくも、至高の堕天使である私を!」

 

「おいおい、堕天使って天使からの落後者の集まりだろ? それが至高って」

 

堕天使の女の言葉に笑いながら言葉を返すレッド。

 

「至高の落後者? つまり、万年留年生?」

 

レッドの言葉にそう呟いたイエローの言葉に他の2人は思わず吹き出してしまう。

 

「ぷっ! ハハハハハ! イエロー、ナイス!」

 

「し……っ、レッド、笑っちゃダメよ」

 

爆笑してるレッドと笑いを堪えてるブルーの姿に百年の恋も冷めるほどの鬼の形相を浮かべている女堕天使だが、何かに気が付いたのか翼を広げ、

 

「ここは一旦引くしかないけど、そこの人間ども! この至高の堕天使レイナーレをコケにした事を必ず後悔させてやる!」

 

そんな捨て台詞を残して飛び去っていく。

 

「おっと、オレ達も長居は無用か」

 

レイナーレと名乗った堕天使が逃げた理由、赤い魔法陣の出現に気が付いて、レッド達も真上へとワイヤーを投げ、

 

「それじゃあ、オ・ルボワール(ごきげんよう)

 

低空を飛んでいた三機の飛行機にワイヤーを巻きつけそう言い残して飛び去って行く。

後に残された目の前に巻き起こった光景に唖然としていた一誠の前に赤い魔法陣から現れる赤髪の女の子。

こうして、赤の悪魔と赤き龍の物語は本来の運命とは少しだけ違う流れで始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーん、三人組の怪盗、ね」

 

彼女、リアス・グレモリーは新たに眷属となった一誠からの話を聞いてそんな言葉をつぶやく。

赤、青、黄の三人組の快盗戦隊ルパンレンジャーを名乗る怪盗達に彼が助けられた事を聞いた彼女は、彼らが最近この街ではぐれ悪魔を狩っている存在と関係あるのでは、と考えていた。

 

堕天使と戦える力を持って、互いをレッド、ブルー、イエローとコードネームで呼び合い、そのコードネームに合わせた色の礼服とシルクハット、目元をアイマスクで隠して居ただけなのに不思議と服装以外が思い出せない謎の男女の三人組。

これを怪しむなと言う方が無理があるだろう。

 

「中々興味深いわね」

 

面白そうな笑みを浮かべて彼女はそう呟く。彼女の手元には未使用の騎士、僧侶、戦車の悪魔の駒が三つ残されている。手持ちの駒には先程まで兵士の駒が八個残っていたが、予想を超える数を一誠を転生させるのに使ってしまった為に残るは三種一つずつだけになってしまったそれを一瞥しながら。

 

丁度怪盗の三人組と同じ数だ。自分の領地で断りもなく好き放題してくれているのだ。それを抜きにしてでもこの地の管理を任されてる者として怪盗達に落とし前は着けさせる。

だが、ちょうど三つ駒が空いているのだ、落とし前をつけた後は見所が有れば三人とも眷属に勧誘してみようとも考えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、件の怪盗三人組こと四季達三人はと言うと、

 

「さっき言ってたお宝って何のことなの?」

 

「なんとなく、その場のノリで言ってみた」

 

自宅に戻った後、怪盗用のコスチュームから私服に着替えてからそんな会話を交わす四季と詩乃。序でにオ・ルボワール(ごきげんよう)と言ったのも殆どその場のノリである。

 

「残念ながら監視に向いたガジェットは手元に無いから、オレ達の正体隠蔽がうまく行ったかは分からないけど、バレてたら監視なり接触なりして来るだろう」

 

受身にはなるが相手の動きでそれは推測するしかない。正体がバレた場合の対応とバレていない場合の対応もそれぞれ考えているので、状況を見て計画の修正が当面の予定だ。

 

「私達に先に接触して来たらどうするの?」

 

まあ、それが一番な問題点である。四季がビルドに変身して派手に活動して来たから、接触するのなら四季だけにだろうと考えて計画を立てていたが、今回の事で三人組と相手に認識されてしまっているのだ、正体がバレたとしたら二人のところにも接触があっても不思議は無い。

 

「一応、その時の対応も考えて居るけど、これの認識阻害機能が効果発揮してくれていれば、考えすぎで済むんだよな」

 

アイマスクを手に取りながらそう答える。ぶっちゃけ、アイマスクの認識阻害の機能が効いているのならば、それが一番である。

 

そんな訳で認識阻害効果が効いた場合と効かなかった場合の2パターンでの対応を決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、

 

その日は何時もの様に四季のベッドに潜り込んで寝ていた二人を起こし、二人と一緒に通学していると学園の前に人集りが見える。

何事かと思って人集りに近づくが、残念ながら何を見ているのかは其処からでは分からなかった。

 

「嘘だろう、あの変態の兵藤がグレモリー先輩と」

 

そんな時、偶然聞こえた信じられない物を見たとでも言う様な誰かの呟きが状況を物語ってくれていた。

 

「朝田さんや、北山さんが、天地の野郎と一緒に登校しているのも、心底憎いのに!」

 

一部四季への恨み節が混ざっているが、それは完全にスルーしておく事にした。

 

先日の女堕天使の一件の後、この世界の本来の流れ通りに一誠は悪魔へと転生したのだろう。

あの時に女堕天使の手で死ななかった分、イッセーが最悪の初恋と言うトラウマを背負わない事が良かったのか悪かったのか定かではないが、提示されたメリットに自分から食いついたのだろう。

その辺については自分達に迷惑さえ掛からなければ、頑張れ、と気の無い応援でもしておこうと思う四季だった。

 

リアスと一緒に登校するイッセーの姿を遠巻きに眺めている生徒を放置してさっさと学園に向かう四季達3人。

男女問わず向けられている殺意の渦の中にいるとも知らない一誠を無視して。普段は美少女二人を連れて通学しているのだから、四季の方に殺意が向けられているがこの日は静かに通学できることに内心良かったと思う四季だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一誠が松田と元浜にリアスと一緒に登校してきたことを問い詰められてた事を除けば、特に特筆する事なく普段の授業が終わった放課後。部活に行く者、帰り支度をする者といつもと変わらない放課後の光景。

 

「やあ、兵藤くんは居るかな?」

 

そんな言葉と共に教室に入って来たのは別のクラスの生徒である『木場 裕斗』。リアス・グレモリーの眷属の騎士の一人である。

 

荷物を纏めながら多少の警戒を込めて其方へと視線を向けると、木場がイッセーを呼びに来た姿が見える。

 

「グレモリー先輩の使いなんだ、一緒に来てもらえるかな?」

 

「あ、ああ」

 

周囲の女子から上がる意味不明な悲鳴と絶叫を聞き流しているのか、気にしていないのか分からない態度でイッセーを連れて教室を出て行く木場。

 

そんな二人を見ながら監視に使えるガジェットが無いことを惜しむ。

 

(まっ、ここで態々オカ研の部室のある旧校舎に忍び込んで会話を盗み聞きするなんて真似をしなくても良いだろう)

 

ルパンレンジャーの変装用の礼服とアイマスクもVSチェンジャーはいつでも取り出せるが、此処で相手の拠点に飛び込むのも正体を自分から教える愚行だと考える。

 

「なんで、あいつがグレモリー先輩に!?」などと絶叫している変態三男組の残り二人を一瞥しつつ、さっさと荷物を纏めて教室を後にする。詩乃と雫の二人と待ち合わせているのだ。

 

桐生戦兎の能力があれば科学よりの他の仮面ライダーのガジェットも作れるだろうかと考える。

 

(セルメダルとライドベンダーが当たれば手っ取り早いんだけどな)

 

そんなことを思いつつ。



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五話目

イッセーがオカ研に呼ばれてから数日。イッセーがオカ研に入部して契約のチラシ配りなどの眷属悪魔の下積みを始めた。

 

残念ながら会話の内容は知らないが、此処数日のイッセーの行動から考えても、彼が悪魔に転生して正式にリアスの眷属になったのは間違いはないだろう。

 

そんな中、四季は一人ではぐれ悪魔の退治にやってきていた。何時もの様に怪盗の変装セット一式を身につけ、今回はビルドドライバーを装着していた。

 

「さあ、実験を始めようか」

 

両手に取り出したラビットフルボトルとタンクフルボトルを振りながらビルドドライバーに装填、

 

 

 

『ラビット! タンク!』

『ベストマッチ!』

『Are you ready?』

 

 

 

「OK、ビルドアップ!」

 

 

 

『鋼のムーンサルト! ラビットタンク! イェーイ!』

 

 

 

その姿を変えるのは仮面ライダービルド・ラビットタンクフォーム。

 

「オリャ!」

 

バイザーと言う名のはぐれ悪魔が潜んでいるらしき廃墟の入り口をけやぶり、ビルドへと変身した四季はそこへ飛び込む。

 

 

『ケタケタケタケタ』

 

 

廃墟の中に入った瞬間、何処からか狂った様な笑い声が聞こえて来る。

 

『うまそうな匂いがするぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?』

 

暗闇の中から聞こえて来る声、探そうと思えば探せるのだがそれでも、

 

(あんまり時間はかけたく無いし、さっさと終わらせるか)

 

そう思って新たに二つのフルボトルを取り出す。黄色のライオンフルボトル、青緑色の掃除機フルボトル。

新たに取り出した二つのフルボトルを振り、ビルドドライバーに装填していたものと入れ替える。

 

『ライオン!』

 

ラビットからライオンへ、

 

『掃除機!』

 

タンクから掃除機へ、

 

『ベストマッチ!』

『Are you ready?』

 

「ビルドアップ!」

 

『たてがみサイクロン! ライオンクリーナー! イェーイ!』

 

 

ライオンクリーナーへと変身すると、声の聞こえた大まかな方向へと左腕のロングレンジクリーナーを向けて、

 

「さあ、掃除を始めようか」

 

その吸引力を全開にして無理矢理引き寄せる。

 

『う、うがぁ!』

 

突然物凄い吸引力で引き寄せられた事に驚愕しているはぐれ悪魔のバイサーを他所に、ライオンクリーナーは右腕のライオンの頭部を模した、ゴルドライオンガントレットを構え、

 

「せいっ!」

 

射程距離に無理矢理引き寄せられたバイサーに放ったライオンアームの一撃によって地面に叩きつける。

 

「さあ、出てきて貰ったところで改めて、実験を始めようか」

 

「に、人間風情がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

強烈な一撃によって地面を転がり激昂したバイサーはライオンクリーナーを踏みつぶそうとして襲い掛かる。

見上げるほどの巨体、四作の獣を思わせる下半身の頭の部分に人間の女性の上半身が生えたと言う異形の姿の怪物だが、

 

(発勁の要領と、ライオンフルボトルのボディのエネルギー弾を撃ち出せる能力)

 

ライオンレフトボディの能力を思い出しつつ、先日のことを再現する方法をイメージして、

 

「破っ!」

 

ゴルドライオンガントレットから撃ち出されたエネルギー弾が踏みつぶそうと向かってきていたバイサーを吹き飛ばす。

 

「がっ、がぁっ……」

 

(加減がわからないから手加減して撃ったけど、貫通力よりも吹き飛ばすって言う面に特化してるな、これは。これはこれで役に立ちそうだな)

 

そんな事を考えながら吸引からの殴り飛ばしのコンボを何度もバイサーへと叩き込む。

 

ライオンボディは強力だとは思うが、ライオンフルボトルはマシンビルダーを使うためにも使用するのであまり変身には使えないだろう。

だが、それでも手札として持っている以上は使い勝手の確認をしておいた方が良いだろうと考えてのライオンクリーナーの選択だったが、思いの外使い勝手が良い。

 

(ライオンフルボトル、フォームとしても使えるし、バイクの起動にも必要。結構重要度が高いボトルだな、これは)

 

「貴様ぁ!」

 

高が人間だと言う侮りはバイサーの中から消えていた。目の前の相手は確実に始末しなければ自分の命が危ない相手。

かつての主人を殺して逃げ出して、やっと自由になれたと言うのに、目の前の訳の分からない人間に殺されたくは無い。

だが、その判断はすでに遅かった。

 

「これで終わりだ!」

 

『ボルテックフィニッシュ!』

 

ビルドドライバーから響き渡る電子音声。クリーナーの吸引力でバイサーを拘束し、ゴルドライオンガントレットからライオン型のエネルギー弾を放つ。

 

「はぐれ悪魔のバイ「おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」」

 

 

 

叫び声をあげながら、ライオン型のエネルギー弾に飲み込まれ、そのままバイザーは跡形も爆散する。

序でに爆発音とバイサーの断末魔の叫びで誰かの声がかき消された。

 

(分身とかじゃ無く、間違いなく奴の本体だな)

 

周囲にバイサーらしき気配は無い、そうバイサーらしき気配は、だ。間違い無く先ほどバイサーを倒した事を確信すると廃屋の出入り口へと向き直る。

 

「貴方は何者なのかしら?」

 

そんな声と共にライオンクリーナーが確認出来たのは数人の男女の姿。

それを確認すると、ビルドドライバーを外し、元の怪盗姿に戻る。

 

「そうだな、最近売り出し中の怪盗って所だな」

 

振り返りながらそう名乗った四季の前にいるのは、上級悪魔で有る赤い髪の女リアス・グレモリーを王とした彼女の眷属達。金髪のイケメンが騎士の『木場 祐斗』、黒いポニーテールの女性が女王の『姫島 朱乃』、白い髪の小柄な少女が戦車の『搭城 小猫』。最後に堕天使に襲われた事をキッカケに眷属になったであろう、イッセーの計五人だ。恐らく、彼女達もはぐれ悪魔のバイサーの討伐に来たのだろう。

 

「怪盗? 随分とふざけた答えね」

 

「さあてね、本当に怪盗なんだから仕方ないだろ」

 

怒気を孕んだリアスの言葉を受け流す様に四季は飄々とした言葉で返す。

 

「他にも二人、青と黄色の怪盗がいるってこの子から聞いたんだけど、お仲間は何処にいるの?」

 

「三人揃ったオレ達に会いたかったなら残念だけど、今回はオレ一人しかいないぜ」

 

「まあ良いわ。貴方は何者? 何が目的で私の領地で好き勝手しているのかしら? 先ずは、そうね。その仮面を外して、腹を割って話してもらおうかしら」

 

リアスの言葉に臨戦態勢に入るイッセーを除いた彼女の眷属達。リアスからの命が有れば直ぐにでも動ける態勢だろう。

実戦経験のないイッセーだけは戸惑っている様子だが。

 

「腹を割って、ね」

 

彼女の言葉に不敵に笑いながら四季は、

 

「悪いがそれは……お断りだ!」

 

『ライオン! 掃除機! ベストマッチ!』

『Are you ready?』

『たてがみサイクロン! ライオンクリーナー! イェーイ!』

 

再びライオンと掃除機フルボトル装填済みのビルドドライバーを装着し、ビルド・ライオンクリーナーへと変身する。

 

「さあ、実験を始めようか」

 

変身を完了した後に発したその言葉が第二ラウンドの開始のゴングとなった。



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六話目

「裕斗!」

 

「はい!」

 

リアスの言葉に従い、彼女の眷属の騎士である木場が自身の神器(セイクリッド・ギア)の力で作り出した剣を構え、視認できない速さでかける。

 

「祐斗の役割は『騎士(ナイト)』。特性はスピード。『騎士』となった者は速さが増すの。そして、祐斗の最大の武器は剣。それが祐斗の力。目では捉えられない速力と、達人級の剣捌き。二つが合わさる事で、祐斗は最速の騎士となる」

 

リアスの言葉に『おぉー』とでも言うような表情を浮かべているイッセー。

確かにビルドでもフォームによれば木場の速さを視認するのは難しいだろう。だが、

 

「今のオレとの相性は悪すぎたな」

 

「っ!?」

 

左腕のクリーナーを上げて無理矢理引き寄せる。元々パワータイプではない木場がそれに抗う事などできる訳は無い。

どんなに素早く動こうとも動けなくして仕舞えば意味は無く、体勢が崩れていれば達人級の剣の腕前も発揮出来ない。クリーナーボディと木場の相性は最悪と言って良いだろう。

 

「……吹っ飛べ」

 

だが、別の声が響く。リアスの眷属の戦車である小猫。彼女は小柄ながら木場とは正反対の純然なパワータイプ。クリーナーの吸引力の影響の少ない側からなら十分に接近できる。

木場へと意識が向いていた隙にライオンクリーナーの懐へと飛び込み、

 

「ま、待った!」

 

慌てて彼女を止めようとするライオンクリーナー。だが、彼女の拳はライオンボディの胸部分に直撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は小猫ね。あの子の駒は『戦車』。『戦車』の特性は到ってシンプル。バカげた力と、屈強なまでの防御。あの慌てようなら……」

 

リアスの説明とビルドの慌て様から、これならと言う表情を浮かべるイッセーとリアス。だが、彼が心配していたのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……くっ! な、なんで……」

 

「いや、このボディってかなりの強度だから素手で殴ったら危ないって言おうとしたんだけど」

 

ビルド・ライオンクリーナーを殴った小猫は拳を押さえながらしゃがみ込む。彼女の拳の骨にはヒビが入り血が吹き出ていた。一方、拳を受けた側のライオンクリーナーは仮面で表情こそ分からないが、寧ろ殴った側を心配してさえいる。

 

ライオンクリーナーのライアチェストアーマーは武器を使った物理攻撃をほぼ通さない、ダメージを与えられるのは自身の爪ライアメタルクローのみと言うトンデモ性能なのだ。生身の相手が素手で殴れば怪我をするのは相手の方だろう。

ライオンクリーナーとしては全力で、しかも素手で、そんな自分のボディを殴ろうとしたから慌てたのだ。

 

「小猫ちゃん!」

 

「っ!」

 

木場の言葉に反応して拳の痛みをこらえながらライオンクリーナーから離れる小猫。

新たに作り出した2本目の魔剣と合わせて両手に持った魔剣を地面に突き刺して吸引力に耐えていた木場だが。

 

魔剣創造(ソードバース)ゥ!!!」

 

意を決して両手の剣を手放して地面に手を触れてライオンクリーナーへと向けて大量の魔剣を作り出す。

剣と言うよりも刃の草原とでも表すべき物が作り出されたライオンクリーナーを飲み込んでいく。

 

(そもそも、連中と戦う理由ってのも無いんだよな。丁度いい、向こうが目眩ししてくれたんだ、これを利用して……退かせてもらうか)

 

自身の周囲に現れた魔剣をライオガントレットを振るって安全地帯を作ると素早く新しいフルボトルを二つ取り出す。

 

『オクトパス!』

 

最初はライオンから桃色をしたタコのオクトパスフルボトルへ、

 

『ライト!』

 

掃除機から薄黄色のライトフルボトルへと変え、

 

『ベストマッチ!』

『Are you ready?』

 

「変身!」

 

『稲妻テクニシャン! オクトパスライト! イェーイ!』

 

新たに変身するのはタコとライト、墨を吐く生物と発光するツールの、一見ミスマッチなベストマッチの組み合わせによるフォーム、『仮面ライダービルド・オクトパスライト』。

 

「それでは皆さん」

 

左肩の発光装置「BLDライトバルブショルダー」から光を放ち視界を奪うと、墨でリアス達を包み完全に視界を閉ざす。

 

オ・ルボワール(ごきげんよう)

 

視界を奪ってそのままさっさと廃墟から逃げ去っていくオクトパスライト。ご丁寧に入り口から、だ。

 

そして、廃墟から出るとマシンビルダーを使って走り去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く走らせた所でビルドドライバーを外して変身を解除して礼服とシルクハットから私服に着替え、アイマスクを外す。派手な変装を解けば目立つ事もないだろう。

 

(手札の幾つかは見られたけど、フォームの多さには平成ライダートップ級のビルドだから、それは問題ないか)

 

ライオンクリーナーとオクトパスライトの力を知られたとしても今更二つ程度知られた所で問題はない。

 

(それよりも)

 

マシンビルダーのスマホの画面(巨大)に映し出された『原作イベント遭遇特典、ガチャ十一連(10回+オマケの一回)チケット』の文字。

 

(関わり合いになるメリットはあるって事か)

 

深く関わるのにははぐれ悪魔の30体分の価値はあるというのは分かるが、正体を知られると言うデメリットはある。

 

(まあ、上手くそこは調整してみるか)

 

面白い考えが浮かんだと言う笑みを浮かべる四季。

 

思い浮かべるのは以前作って見たスクラッシュドライバーの事だ。それの使い道が出来た。

 

帰宅後、既に寝ているであろう二人を起こさない様に地下格納庫の中のナデシコCの中にあるラボに行くと、新しいスクラッシュドライバーの設計図を引き最後に『(弱)』の文字を綴る。

意図的にスペックを大きく引き下げ、更に一度変身解除すれば再生不可能なレベルで内部がスクラッシュゼリーを巻き込んで自壊する様に調整した代物だ。

 

正規の開発者の桐生戦兎の能力のおかげで性能の改悪は簡単に出来た。自壊機能は苦労したが、其方も比較的早く終わる。

 

「良し」

 

次にドラゴンフルボトルの成分をゼリー状にする準備をする。意図的な劣化を加えて通常は青のドラゴンスクラッシュゼリーが、劣化版では赤くなるだろう。

正規版を作った場合取り違えたくないので色などのすぐに分かる違いを持たせておきたいのだ。

 

「劣化型スクラッシュゼリーの設計完成」

 

通常のフルボトルよりも強力な筈のスクラッシュゼリーでありながら、これなら通常のフルボトルでも対応できる程度のスペックに抑えられる。

 

「これをイッセーに渡して、その程度の干渉で原作への介入ってことになるか試すのも良いだろう」

 

フルスペックのスクラッシュドライバーとスクラッシュゼリーをイッセーに渡して後々面倒になっても困るので、一度だけの使用が終われば勝手にスクラッシュゼリーを巻き込んで自壊してくれる様にしておいたので、万が一の事は少ないだろう。

 

“悪魔側に自分の技術が渡る”と言う点が問題だが、この世界ではフルボトルの成分を入手できるのは自分だけなのでそれも問題はない。

スクラッシュドライバーだけでは駄目なのだ、スクラッシュゼリーと両方があってこそ初めて仮面ライダーには変身できる。

 

一通り作業を終えると今更になるが眠気を思い出し、自室に戻るのも面倒になったのでそのままナデシコCの居住エリアの一つを利用して就寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、朝食を取った後、休日を利用して詩乃と雫の二人とともにガチャ部屋に佇む四季の姿があった。

 

「それで戦力の底上げになるから、早速貰ったチケットを使う訳ね」

 

「ああ、せっかくのチケットだからな」

 

「ちょっと楽しみ」

 

初めての光景にワクワクとした様子の雫と、楽しみと言う様子の詩乃。希望があれば自分の代わりに回しても良いと言ったが、今回は四季に譲るそうだ。

 

「じゃあ」

 

十一連ガチャを回して機械から排出される11個のカプセル。手に手に入ったのは、

 

 

 

『ビルドのハザードレベル1』×5

 

 

 

先ず、その内五つは見事にダブった。しかし、一つ使用する事にハザードレベルの取得と一上昇する便利なアイテム。しかも、ノーリスクでだ。

この場にブラッドスターク(エボルト)が居るなら絶対に欲しがるだろう。これだけでハザードレベル5は確定する。

そして、次の二つは、

 

 

『桜井小蒔の技』

『美里葵の術』

 

 

これだった。共に今四季がお世話になっている龍麻の力と同じ魔人学園シリーズのヒロインの二人の力だ。弓術の技と回復の術の二つ。

 

「じゃあ、こっちは詩乃に」

 

「ええ。でも、こんなに簡単に貰うのはちょっと気が引けるわね」

 

詩乃が手に入れたのは純粋な技だけで無く桜井小蒔自身がそれまで磨いて来た技術も含まれている。そんな技術までも簡単に貰ってしまうのには思う所が有るのだろう。

 

「なら、私はこっち。良い?」

 

「ああ」

 

雫が希望したのは残された術の方。科学が関係していない純粋な魔法と言っても良い力に微笑みを浮かべる。

 

そして残りの三つは、

 

 

 

『ハザードトリガー』

 

 

 

「ヤッベーイのが来た!?」

 

当然ビルドに変身できる四季の物だが、ラビラビタンタンになれない限りは、ビルドの戦力強化ではあるが使うに使えないのが出てしまった。暴走スイッチである。

 

そして、残念ながら残りの二つはラビラビタンタンのフルボトルでは無かった。

 

「えっと、これって」

 

「悪い、オレもなんって言って良いか分からない」

 

「ドンマイ」

 

カプセルの中身に対してなんと言って良いか分からないと言う表情の詩乃と、納得したと言う様子の四季、そんな四季を励ましている雫。

カプセルの中身は、

 

 

 

『天之麻迦古の弓(東京魔人学園)』

 

 

 

ガチでヤバイのがまた来た。日本神話に登場する弓である。こんな物持ってて日本神話にケンカを売ってしまわないかと不安になるし、神話に出て来るような武器が二つある事になるが、一応は魔人学園に登場する武器になるので、この世界のものとは違うが。

 

「一応、詩乃に使って貰うしかないけど」

 

この中で弓が使えるのは詩乃だけだが、

 

「あ、ありがとう。でも、こんな貴重な物簡単には使えないんだけど」

 

女の子に送るには色気のないプレゼントになってしまった。取り敢えず、お蔵入りが決まった瞬間だった。

 

そして最後は、

 

 

 

『天叢雲(魔人学園)』

 

 

 

「「「………………」」」

 

またまたヤッベーイのが来た。この世界にも存在している武器で誰も剣、それも日本刀は使えない。

即座に使用者が決まらない内にお蔵入りが決まった瞬間だった。

 

そして、最後の一個に四季は視線を向ける。

ある意味危険物との連続エンカウントのトドメとしては妥当なものだろう。

その中に有るのは微妙に形の違うビルドドライバーとハザードトリガーの色違い。

 

 

『エボルドライバー+エボルトリガーセット』

 

 

セット販売されたエボルドライバーとエボルトリガーだった。エボルボトルはないが、十分に危険な品物だった。

 

「エボルトでも現れる予兆なのか、これ?」

 

思わずそう呟いてしまう。



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七話目

武器は兎も角、ビルドの強化アイテムであるスパークリングとフルフルラビットタンクフルボトルは必要な成分を入手する方法がないため、事実上四季には作り出せない代物で有る。

パンドラパネルが必須なジーニアスボトルなどその最たるものだ。

つまり、

 

「制御出来ない強力な力は危険でしか無いからな」

 

ハザードトリガーは現状制御する方法が無いと言うわけで使わない事を決めた。

だが、せっかく手に入れたのだからと、ハザードトリガーを倉庫の一角に置き、念の為にいつでも扱えるようになってしておく。

次に最大の問題のエボルドライバーとエボルトリガーだが……

 

「このまま二度と見ないことを祈ろう」

 

変身用のボトルは通常のフルボトルで代用できるが、そう言って問答無用で金庫の中に押し込む。

変な物、主にエボルトとかその他のブラッド族の意思が宿ってても困るので問答無用での封印処置だ。

 

見つかったら問題はあるが、剣と弓に関してはいつでも使えるように倉庫内に置かれているのでそれは良いとして、

 

自分のビルドドライバーの隣に置かれたハザードトリガーについてはお蔵入りにするには強力なカードなのでいつでも使えるようにしておいた。

 

当面はチームではVSチェンジャーを、個人ではビルドドライバーで戦うつもりだが、使える手札はあって困る事は無い。

……流石に使えても宇宙戦艦は使う気は無いが。宇宙戦艦持ち出すのは普通にオーバーキル過ぎる。パワードスーツ状態のアメイジングストフリの方は使えるかもしれないが。

 

目出度いかどうかは疑問だがイッセーが原作通り悪魔に転生したので、多少前倒しに物語が進んでいく程度で世界の流れは安全に進んでいくことだろう。

……超常的な力を扱うテロ組織なんて物が存在している事が安全かは別として。

 

(エクスカリバーの一件まではイッセー達オカ研に丸投げで良いか)

 

レイナーレの一件はアーシア・アルジェントという少女の今後に関わる為あまり干渉する気は無く、フェニックス家の三男(ライザー・フェニックス)との婚約については完全に無関係なのだから、巻き込まれる事は無いだろう。

精々することと言えば、後者の時に使い捨てのスクラッシュドライバーを貸す程度。飽くまで予定ではあるが、当面はその程度の動きだけの予定だ。

万が一の場合、街全体が危険に晒されるエクスカリバーの一件には関わらないと言う選択肢はない。

 

「まあ、オレ達と言う異物がある以上は本来の流れ通りには行かない、か」

 

四季達がルパンレンジャーとしてレイナーレの行動の邪魔をしたことでイッセーが殺されず、その場で事情を聞いて本人の合意の上で悪魔に転生した事は良い例だ。

初恋の相手が碌でもない悪女で、その初めての彼女に殺されると言う最悪の初恋をしなかった事で物語が原作と言う流れよりも良い流れに乗れれば、この世界に紛れ込んだ異物である自分の価値も有るのではと思いたい。

 

「ん? よく考えたら、あの変態が女関係にトラウマ抱かないことで……。早まったか、オレ?」

 

一瞬変な方向に思考が向かってしまう。女関係にトラウマと言うほどではないにせよ、最悪の初恋がある程度今後イッセーの犯す性犯罪の抑止になっていたのではと思ってしまう。

 

「ひ、否定できないのが辛い」

 

実はイッセーの成長、と言うほどではないにしろ大事なフラグを善意でへし折ってしまったような不安が集ってしまうのだった。

 

「ま、まあ、それはそれとして……」

 

詩乃と雫の二人と別行動して倉庫に一人で居るのには訳もある。

思考の中に浮かんだ不安を振り払うように、その訳とも言うべきそれへと視線を向ける。

 

いつの間にか倉庫の片隅に出来た小部屋に存在していた小型の装置だが、起動していないそれの機能はシンフォギアXDに出て来る完全聖遺物ギャラルフォルンと近い性質、機能を持って居るのが分かった。

 

(異世界への移動装置は良いとして、行ける世界が)

 

 

・ソードアートオンライン

・魔法科高校の劣等生

 

 

自分と関わった二人の存在しているであろう世界の名前だけがリストに浮かんでいる。

そして、それを送った張本人であろうものからのメッセージ。

 

(それぞれの世界でBADENDを迎えた選定事象で命を落とした彼女達本人の転生したのが今の二人、か)

 

詩乃の方はすぐに見当がつくが、雫の方は中々想像が出来ない。

ガチャから出て来るのは本来の世界での選定事象となる終わりを迎えた世界で死んだ者達の転生した者。だが同時にそこには元の世界に幾つかの未練を残している。

この装置は未練を残した世界に於いて残された未練を解決するための品物らしい。

 

(彼女たちの生きた世界を救う為の、ヒーローの出張サービスって所か?)

 

BADENDを迎えた世界を少しは良い方向に持って行くためのヒーローの出張サービス。ヒーロー……仮面ライダーとスーパー戦隊に変身できるのだからそれでも間違いはないだろうが。

持って行けるかは別として、向こうでの拠点と考えるとナデシコCの存在はありがたいのかもしれない。

 

「まあ、直ぐに何か起こるって訳でも無さそうだし、暫くは保留か」

 

関係者がいないと起動できないかもしれないが、それはそれ。正式にそれが起動しない以上は考えても仕方ないだろう。

 

ハザードレベル上昇のスキルについては完全に放置だ。自分のハザードレベルがいくつかは分からないが、ビルドドライバーは問題なく使えるのだから、今の所は問題無いだろう。……ハザードトリガーを使う時には不安だが、フルフルラビットタンクフルボトルが無いのなら大して変わらないだろう。

 

当面の目的であるレイナーレ一味への対処として影で動くとしても、イッセーの成長フラグを潰すのは今後のことを考えるとどうかと思い、暫くは裏方として動こうと考える。

 

そう考えをまとめ、この時点で町一つなら制圧できそうな代物が有る武器庫を閉めて部屋の中から立ち去っていく。

 

 

 

 

 

四季がエボルドライバーの扱いに頭を悩ませていた頃、イッセーが契約で向かった先の家ではぐれエクソシストと遭遇したと言う事件が起こっていた事を追記しておく。

 

 

 

 

 

 

「えーと、これは?」

 

イッセーがはぐれエクソシストと遭遇していた夜、四季は詩乃がテーブルの上に置いた3枚のチケットに視線を落としていた。

 

「ええ、買い物に行ったら貰ったんだけど」

 

詩乃曰く、買い物に行ったら福引をやっていて、その景品として貰ったそうだ。

 

ちょうど三人分の食事券、かなり高級なレストランの物だ。だが、問題はその店が有る地名で有る。

 

 

『米花町』

 

 

とあった。一年の間に何度も殺人事件が起こるとネタにされている名探偵コナンの舞台で有る。

考えてみれば自分たちがいる世界はハイスクールD×Dの世界とは思っていたし、実際にその通りに起こっているが、他の世界の要素が混ざっていないとは限らない。

 

「まあ良いか」

 

人間相手なら問題無いだろうと考えてスルーする。やろうと思えば銃弾を素手で掴むことも出来るのだし。

ビルの爆破は春の風物詩、犯罪が横行し人が死に、ほぼ数日で殺人事件の犯人を逮捕できる警察の最精鋭部隊がいる日本の犯罪都市(ギャグ的なイメージで)、米花町。

 

怪物がいないだけで仮面ライダーの舞台並みの危険地帯である。

 

そこにある高級レストランの食事券、どう見ても殺人事件の招待状にしか見えない。まあ食事券に期限は書いてないので、すぐに行かなければ安全だろう。

 

「今回の事件が終わったら三人で行こうか」

 

「ええ」

 

「うん」

 

まあ、それはそれで嫌な予感もするが、事件に巻き込まれたらルパンレンジャーなり仮面ライダービルドなりに変身して問答無用でボコボコにして犯人を捕まえれば良い。

そんな事を考えていた。そう、全力の力技である。

 

 

 

まあ、この判断が後に一騒動の原因となるのだが、この時の三人には知る由もなかった。



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八話目

入手したアイテムとスキルの分配が行われた後、四季たちにとっては何事も無く数日が過ぎた。

 

その間にイッセー達にはイッセーが契約者の所に向かった際にはぐれエクソシストに遭遇したり、アーシアと再会したり、アーシアが悪魔に転生したりとそれなりに濃厚な日々を過ごしていた様子だった。

 

なお、自分の邪魔をして散々コケにしてくれた三人組、四季達の変身したルパンレンジャーに一矢報いる事なく、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が覚醒したイッセーに吹き飛ばされ、リアスの滅びの魔力によって消滅させられた最後は無念であった様子だ。

 

そんな平和な日々が続く中、四季は妙な噂が気になっていた。

 

 

『正体不明のコウモリ男』

 

 

と言う噂だ。

夜な夜な町を飛び回るコウモリのような翼を着けた男がいる。近くてその顔を見た時、暗くてよく見えなかったが顔が羽根を広げた蝙蝠の様に黄色く輝いていたと言う噂だ。

最近流れ始めた噂だが、妙にその特徴が一つの、自分の持つ力と関わりのあるヴィランをイメージさせる。それは、

 

 

『ナイトローグ』

 

 

だ。トランスチームガンもバットロストボトルも無いので、ナイトローグだったとしても自分のところからの流出ではない事は確かだったが、妙に引っかかるものを覚えた。

 

(仮面ライダービルドはこの世界には本物も特撮も存在していないはずなのに)

 

と言う疑問だった。そんな疑問も抱くのも当然だろう。

バットフルボトルは手持ちにも存在しているが、飽くまでそれはベストマッチ用のフルボトルで、成分は同じなのでトランスチームガンで使えば変身することも可能だろう。

だが、それだけだ。手元にあるフルボトルの有無は確認済みであるし、肝心の変身アイテムであるトランスチームガンは存在していないし、作った覚えもない。

故に、この世界にはナイトローグが四季と関係なく誕生する事などあり得ない筈なのだ。

 

そんな訳で、今の段階では単にナイトローグに似ているだけのコスプレした悪魔という可能性もあるので今は放置しておく事を決めた。

 

もうすぐ調べるには丁度良い、グレモリー眷属が町を離れる時期が来てくれているのだから。

ナイトローグ(仮)の調査はその時期に合わせて行おうと考える。最悪の場合には危険な賭けだが、非常手段のハザードトリガーもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、イッセー達オカ感メンバーが学園を休み始めた。

こっそりとイッセーにつけておいた蜘蛛型の監視メカでオカ研の情報は仕入れていたので四季の予想通り事態は動いてくれていると言って良いだろう。

 

実は蜘蛛型監視メカに着いては意外と簡単に作ることが出来た。流石は天才物理学者の能力、と言ったところだろう。武器製造だけでなく自力でガジェットを作れると言うのは有り難かった。一定時間の録画、録音を行なった後に帰ってくる簡単なものだが、逆に気付かれ難いだろう。

 

会話の内容によれば、オカ研の部室にリアスの婚約者の『ライザー・フェニックス』が現れ、リアスの兄の女王が持ってきた両家からの提案により、リアスの婚約解消を賭けたレーディングゲームの開催が10日後決まったのだが、

 

「ねえ、悪魔の流行って何年も続くの?」

 

「普通に人間並みとは思うけど、怠惰も悪魔の性質らしいからな」

 

「じゃあ、その分流行も長続きするのかも」

 

リアスの大学卒業まで結婚しないと言うのに何年も前から式場やドレスを選んでどうするのかと思う三人であった。

 

特に結婚式に於いて主役となる女性である詩乃と雫にしてみれば、そんなに早くドレスを決めても結婚式をあげる頃には既に時代遅れになっていると言う意見だ。

 

「まあ、今も貴族制が続いていて、悪魔の駒の問題点の改善や、それに対する最低限の法改正もしない連中だ、人間の1日が連中の一年なんだろ」

 

四季のその一言で納得する二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアスの婚約解消を賭けたレーディングゲームの開催が決まった翌日。猶予期間の十日間の間、グレモリー家所有の人間界の山の中で特訓が行なわれる事となった。

 

非公式とは言え多くの魔王を始め貴族が観戦する中でのデビュー戦。しかも、相手は高い勝率を持ち間違い無く未経験者のデビュー戦には相応しくないカードだ。

練習試合でも無くリアスの結婚を賭けた試合だが、同時に勝利した場合に得る物は大きい。

格上の相手に対して騎士と戦車の二つも無く、僧侶の眷属も新たに入ったアーシア以外のもう一人は封印されていると言うハンデ戦。不利に不利を重ねた悪条件による試合だが、勝利できたのならリアスの夢への大きな第一歩となる。

 

それだけではない。魔王や貴族達からの賞賛と大きな評価と期待。まだ下級の彼女の眷属達の昇級の機会に、それに伴うそれぞれの望みを叶える機会を掴む可能性を得られる。

 

己のためだけで無く、眷属達の願いや望みのためにも負けられないと告げるリアス。特に、上級悪魔になり、自分の眷属を持つ事でハーレム王になると言う夢を持つイッセーは、

 

「って事は、このゲームに勝てば部長の結婚が無くなるだけじゃ無くて、オレが長年夢見た『ハーレム王』になるって言う願いにも近づけるんですね!?」

 

「ええ、その通りよイッセー。眷属の願いが叶うのは主人である私も望んでる事なの」

 

神を殺す可能性を秘めた力を持つイッセー。彼が今回のゲームにおける切り札となり得る存在だ。

神器は持つ者の想いによって力を発揮する。イッセーが強く勝利を望むのならば、レイナーレの時のように大きな力を発揮する事が出来るかもしれない。

神を殺す滅神具(ロンギヌス)の一角は数で負けているリアス達にとって最強の切り札となる。だからこそ、より強く勝利を望むであろう言葉を告げる。

 

「もし、貴方が今回のゲームで功績を残せたら……貴方のお願いを何でも叶えてあげるわ」

 

「な、なんでも? なんでもっすか!? い、よっしゃぁあっ! だったら尚のこと、あんなイケすかねえ金髪ホスト野郎に、部長を渡すわけにはいかねぇ!!! リアス部長、オレ、やって見せます! 今回のレーディングゲーム、部長の為に必ず勝って見せます!!!」

 

隣で可愛く膨れてるアーシアを他所にリアスからの発破に一人やる気を燃え上がらせていた。

リアス自身も勝てたとしたら一番活躍するのはイッセーだと思っているので彼の活躍を心から期待している。

 

(オレが勝ったら詩乃ちゃんや雫ちゃんも眷属に加えて貰って、オレが眷属を持てるようになったらアーシアと一緒に交換して貰えば……)

 

自分が眷属を持てるようになればハーレムに加わって貰いたいと思ってた二人が同僚になった時の事を妄想している様子のイッセー。

 

(それだけじゃない、先輩悪魔として、手取り足取り、あんな事とかそんな事とかも出来るかも……。よっしゃ! あのホスト野郎だけじゃねえ! 四季の野郎にも絶対に負けられねえぜ!!)

 

その時のことを妄想しながらイッセーがグヘヘと笑っていた時、二人は寒気を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、グレモリー眷属の居ない駒王町ではもう一つの事件が起こって居た。

 

「がっ!」

 

「君の百害しかない夢では無く、僕等の為にその命を使ってもらいましょうか」

 

廃墟に倒れる、この町にいるもう一人の魔王の妹であるソーナ・シトリーの兵士『匙 元士郎』の胸を踏みつける蝙蝠の怪人ナイトローグ。

蝙蝠の仮面の奥で怒りとも憎悪とも取れる感情を抱きながら冷酷に言葉を告げる。

 

「精々僕等の手駒として僕等の望む未来の為に活躍してください」

 

 

『リュウガ』

 

 

禍々しい声がナイトローグの取り出した時計のようなものが響くと、ナイトローグはそれを匙へと向けて落とす。

 

彼の中に消えて行ったそれはゆっくりと彼を変える。

 

「君は今日から、紛い物の仮面ライダー……リュウガです」

 

『あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』

 

アナザーライダーリュウガへと。



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九話目

イッセー達の特訓については放置する一方で四季はナイトローグ(仮)に対する調査で動き回って居た。

 

現在は町の管理はソーナ・シトリーが行なっているそうなので気をつける事には変わりないが、それでも以前よりは動きやすくなっている。

 

(それにしても、何でナイトローグなんだ?)

 

そんな疑問が沸く。トランスチームガンの他にもネビュラスチームガンが存在し、二つのスチームガンにはナイトローグの他にもブラッドスタークにブロスシリーズとカイザーシリーズが存在している。

元々トランスチームガンがネビュラスチームガンを元に開発されたものと考えれば、パワーアップの余地のあるカイザーやその発展系のブロスの方を選択することも出来たはずだ。

 

(まあ、コウモリ男を捕まえてから聞けば良いか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちわー、契約に参りましたー」

 

とある廃墟に契約のチラシから呼び出されたのはソーナの眷属である匙。呼び出された場所の不気味さに身震いするも、自分を呼んだであろう契約者に声を掛ける。

 

「た、助けて!」

 

そんな彼の言葉に答えるように一人の青年が助けを求めながら廃墟の中から飛び出してくる。

 

「ちょっ、一体何があったんですか!?」

 

「わ、分からない、友達と一緒に肝試しに来て……」

 

青年が言うには友人達と一緒に肝試しに廃墟に来て、その余興に契約のチラシを使って悪魔を呼び出そうとしたらしい。だが、その最中に怪人が現れて彼らを襲ったそうだ。

 

「分かりました、あなたはここに居てください」

 

そう言って青年をその場に残してカメレオンのオモチャを思わせる自身の神器を出現させ廃墟の中に入り込む。

 

町に入り込んだはぐれ悪魔かと考え、自分一人では拙いかと主人であるソーナにも連絡を入れ、応援を頼んだ時、ゆっくりと廃墟の中の光景を視界に入れる。

 

「あれ?」

 

廃墟の中には誰も居なかった。襲われたと言う人達も、現れたと言う怪物も、だ。

 

思わず惚けてしまいそうになりながらも周囲を注意しながら廃墟の中に入るが、拍子抜けするほど何も無い。思わず先ほど自分に助けを求めた青年の方を向いてすっかり警戒を解いた様子で問いかける。

 

「あの、だれも居ませんけど」

 

「そんな事はない」

 

匙の問いに青年はボトルの様なものを振りながら取り出した銃にそれを装填する。

 

『バット!』

 

「その怪物なら、ここに居るのだからね」

 

青年は眼鏡を上げながら引き金を引く。

 

「蒸血」

 

『ミストマッチ!』

『バット・バッ・バット… ファイヤー!』

 

青年は、その姿を異形のダークヒーローへと変える。

 

「な、何なんだよ、あんたは!?」

 

「ぼくは、ナイトローグ。そう名乗っておきましょう。今は、ね」

 

青年……否、ナイトローグの言葉に疑問を抱く事なく目の前の相手の放つ威圧感に声も出なくなってしまう。

 

「ふっ!」

 

「がっ!」

 

一瞬で距離を詰めたナイトローグの拳が匙の下腹部に突き刺さり、焼けた鉄を飲まされた様な痛みと嘔吐感に言葉を失う。

 

「この程度ですか」

 

黄色く輝くバイザーを通して膝をつく匙を見下ろしながら、ナイトローグは呆れた様に呟く。

先ほどまでは明らかに荒事、喧嘩とさえ無縁そうな青年だったとは思えないほどの拳。

 

(こ、この、野郎……。見てろ……)

 

油断して居るであろうナイトローグの死角から自身の神器である『黒い龍脈(アブソーション・ライン)』を伸ばす。相手に巻きつけ力を奪う己の神器の力なら油断して居る相手になら通用するはずと、反撃の機会を伺う匙だが。

 

「がぁ!」

 

それよりも先に、ナイトローグは彼の神器ごと手を踏み砕く様に匙の手に足を踏み下ろし踏み躙る。

 

「油断して居ると思いましたか? 君の神器(セイクリッド・ギア)黒い龍脈(アブソーション・ライン)。通常のロープとしても扱え、最大の特徴は相手を拘束し力を奪うテクニックタイプの神器。現状では、ぼくに突き刺して血液でも奪えば貧血で戦闘不能にする事も出来る、格上相手にも通用する危険な武器」

 

神器ごと踏みにじる足に力を込めて更に言葉を続けていく。

 

「ある意味においては、バカ正直に正面からしか戦えない脳筋な二天龍の神器よりも強力と言えるでしょうね」

 

スラスラと自分の持って居る神器の事を、自分には思いつかなかった応用的な使い方も交えて話して行くナイトローグに、匙は得体の知れない不気味さを覚える。

 

「成長すれば赤龍帝と白龍皇の能力の一部の合わせ技の様な使い方も出来るでしょうね。今の時点ではできない事ですが」

 

そこまで話すと思い切り匙の腹を蹴り上げて地面に倒すと、そのまま動かない様に胸の部分を踏みつけて動きを止める。

 

手際の良い痛めつけ方に咳込む匙を一瞥すると、

 

「な、何なんだよ、お前は?」

 

「聞けば何でも答えてくれるとでも? ぼくは君の母親では有りませんよ。まあ、特別に答えて上げましょう」

 

彼の言葉にそう答えた後、『知られた所で困る事は有りませんし』と呟き、一呼吸起き、

 

禍の団(カオス・ブリゲート)、改変派の一人、ナイトローグ。それ以上でも以下でも有りませんよ。今は、ね」

 

そう言うと何処からか時計の様なものを取り出し、それを匙へと向ける。

 

「本当に、君と君の主人の夢は害しかない」

 

「て、テメェ!」

 

突然のナイトローグの呟きに匙が激昂するが当のナイトローグは言葉を続けていく。

 

「だから、そんな百害しかない夢では無く、この先君が無駄に削る事になる命を、ぼく達のために使ってもらいましょう」

 

そう呟いたナイトローグは手の中にある時計の様なもののスイッチを押す。

 

 

 

『リュウガ』

 

 

 

禍々しい声が時計から響くとナイトローグはそれを匙へと向かって落とす。

匙へと向かって落とされたそれは彼の中へと消えて行く。

 

「がぁ! ああああああああああああああああああああああああああああぁ!」

 

全身が何かに作り変えられる不快感に絶叫を上げる匙。

 

「オ、オレに何をした!?」

 

「喜びなさい。今日から君は紛い物の、仮面ライダーリュウガです」

 

匙の言葉を無視して嘲笑する様な口調でそう告げると、蹴り飛ばす様に匙の体を遠ざける。

 

「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

絶叫と共に立ち上がった匙はその姿を黒い龍の意匠を持った怪人《アナザーライダーリュウガ》へとその姿を変えていた。

 

「まあ、所詮は紛い物、本物はおろか原典(オリジナル)のアナザーリュウガ以下の性能しかないでしょうが、仮面ライダーリュウガも仮面ライダー龍騎もいないこの世界なら、その程度でも十分でしょうね」

 

(オ、オレに何をしやがった!?)

 

自由に動かせない怪物へと変わった体、その中で唯一自由になる意識の中でナイトローグへと絶叫する。

 

「さて、アナザーリュウガ、君にはぼくの手駒として動いてもらいます。彼らでも君は止められないと思いますが」

 

ナイトローグが言葉を続けようとした瞬間、シルクハットの様なマークが描かれた一枚の真っ赤なカードが投げつけられる。

 

「っ!?」

 

「そこまでだ!」

 

次の瞬間、ナイトローグの目の前でカードが爆発し赤い煙幕がナイトローグの視界を奪う。次の瞬間、赤い怪盗衣装に身を包んだ四季がナイトローグの前に現れる。

 

「まさか、本当にナイトローグがいるなんてな。しかも、ナイトローグがアナザーライダーまで作るなんて、予想外すぎるだろう」

 

内心で、そこはスマッシュにしとけと言うツッコミを入れながら正体隠蔽用の仮面の奥からナイトローグとアナザーリュウガ を睨みつける。

 

「此れは此れは、中々に奇術めいたアイテムを開発した様子ですね。それにしても、お早いお着きですね、快盗さん。それとも、仮面ライダーとお呼びした方が宜しいですか?」

 

「好きに呼べ。そんな事より、なんでお前はナイトローグの力を使って、アナザーライダーを作れる?」

 

目の前にいる相手は自分の同類なのかと言う疑問が沸く。だが、

 

「いえ、ぼくは貴方の同類では有りませんよ」

 

そんな四季の考えを読んだ様に、ナイトローグは四季の問いに返答してみせる。

だとしたら、余計に疑問は深まる。何故ナイトローグの力を使えるのか? 何故アナザーライダーを作り出せるのか? と。

 

「さて、ビルドのシステムを考えると万が一のことが有りますからね。アナザーリュウガ !」

 

ナイトローグが指示を出すとアナザーリュウガは廃工場の中の鏡へと走り出す。

 

「っ!? 待て!」

 

「そうはさせませんよ」

 

その行動の意味を理解していた四季はビルドドライバーを装着して、アナザーリュウガを止めようとするが、それを妨害するためにナイトローグは四季の足元へとトランスチームガンを撃つ。

 

「っ!?」

 

ナイトローグの思惑通り、足元への銃撃に四季は思わず足を止めてしまう。

 

「まずい!」

 

その一瞬の隙にナイトローグの指示に従ったアナザーリュウガは鏡へと飛び込む。いや、鏡を介して己のホームグラウンドであるミラーワールドへと姿を消していった。

 

「安心してください、彼もアナザーリュウガである内はミラーモンスターと同様にミラーワールドで無制限での活動は可能です」

 

匙が変身したアナザーリュウガもミラーワールドの性質で消滅することはないと告げるナイトローグ。

 

「さて、ぼくも貴方と敵対する理由はないので、この辺で退かせて貰いたいのですが」

 

「させると思うか?」

 

両手にラビットとタンクのフルボトルを持ってビルドに変身しようとする四季だが、ナイトローグはそんな彼に構わず言葉を続ける。

 

「ああ、実は彼は先ほどぼくが彼を誘き寄せる為の嘘で、はぐれ悪魔がいると推測して主人達に応援を頼んだ様子ですよ」

 

そう告げながら『くっくく』と笑いながら、

 

「中々自分の実力や能力を冷静に判断できているとは思いませんか? 先ずは味方からの応援を要請すると言う判断は」

 

「それで、ソーナ・シトリーとその眷属が来るから、悪魔側に接触したくないオレにとって、お前と戦ったら損だとでも言いたいのか?」

 

「そう言うことです。それに長々と話していたおかげで、既に時間切れの様子です」

 

ナイトローグと四季が言葉を交わしている間にシトリーの魔法陣が現れる。

 

「どうしますか?」

 

「良いだろう。次に会った時は容赦しない」

 

「賢明な判断に感謝します、天地四季さん」

 

名前まで知っている時点で本当に、ナイトローグは何者なのかと疑問に思う。間違いなく原典のナイトローグとは別の何者か。それだけは先ほどの接触で分かったが、情報はそれだけだ。

 

四季に背を向けて無防備に立ち去っていくナイトローグを一瞥すると、蜘蛛型監視メカを一つ魔法陣の近くに投げて四季もまた廃工場を後にする。

 

「匙!」

 

ソーナの声と共に、ナイトローグと四季の二人が去った後の廃工場にソーナとその眷属達が現れるが、そこには争った形跡は有ったものの誰の姿も無かった。

匙の無事は確認されないもののはぐれ悪魔が存在した形跡もない為、しばらくの間匙は行方不明とされる事になる。

 

これが四季とナイトローグ達との初会合だった。



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十話目

グレモリーの婚約騒動に合わせて起こったナイトローグとナイトローグの生み出したアナザーリュウガと言う、本来ならば存在しない上にあり得ない組み合わせと出会った夜が終わった。

 

「厄介だな」

 

現状を考え、手持ちのフルボトルを一つ一つ手に取りながらそう呟いてしまう四季。

 

残念ながら龍騎フォームになれるフルボトルは手元には無い。オレンジやライダーカード、モモタロスのフルボトルは有ってもだ。

ナイトローグは特殊なベストマッチ、レジェンドミックスと呼ばれるベストマッチを警戒していたが、事実上四季にはアナザーリュウガ を倒す術は無い。

 

「あとは、これか?」

 

次に考えた方法はダイヤルファイターだ。

原典のダイヤルファイターはギャングラーからルパンコレクションを盗む為に使っていたことから、その力の応用でアナザーリュウガのウォッチを取り出せないかと考えた。

全く異質な力なので不可能と断じる事が出来ないだけで可能性があるかは分からない。

 

「つまり、完全にお手上げってわけね?」

 

「そうなる」

 

ナデシコC内の会議室のテーブルの上に広げられたフルボトルを眺めながら詩乃の言葉にそう返す。

 

そもそも、アナザーライダーを倒せるのは同じ力を持った仮面ライダーだけ。

例外なのがジオウⅡやゲイツリバイブ、ジオウトリニティなどの一部のライダーだけだ。それに、ジオウやゲイツはライドウォッチの力を借りれば倒せるのだから、ライドウォッチを手に入れさえすれば良いと言える。

 

だが、四季が変身できるライダーはビルドのみ。レジェンドミックスが出来ない以上対抗手段など無いに等しい。

 

だが、何も収穫がなかった訳ではない。

 

「ナイトローグもオレの手の内を完全に把握している訳じゃないという事か」

 

奴は四季にアナザーリュウガに対する対抗策が完全にない事を知らず、ビルドのレジェンドのミックスの事を把握して居た。

そもそも、レジェンドミックスはまだ一度も使って居なかった筈なのに、だ。

其れだけならば完全に手の内を把握されていることになるが、同時に手札には存在しないレジェンドミックスを警戒して居たと言う事実。

 

「どっちにしても、アナザーリュウガを倒すための手札がないのが厄介だな」

 

考えるまでもなく、ビルドでアナザーライダーを倒す為の唯一の可能性はレジェンドミックスだけで、其れがない以上は完全に倒すことは出来ない。

 

ならば、後はダメージを与えて強制的に変身解除させてアナザーライドウォッチを排出させるしか手はない。

そして、再起動される前に回収してしまうだけだ。

 

「と言うわけで、アナザーリュウガの対処は基本、叩きのめしてライドウォッチの回収で」

 

「ええ」

 

「うん」

 

四季の言葉に賛同する詩乃と雫の2人。2人にはアナザーライダーに対する知識が無いので四季の判断に対する意見はない。

 

「っと、念の為にあいつの主人に会ったらこれを渡しておいてやるか」

 

匙がアナザーリュウガに変えられる瞬間の映像を見せれば有る程度納得してくれるだろうと考える。

まあ、敵の狙いは分からないので飽くまで、会ったら、だ。態々自分達から会いに行く理由はない。

 

「それじゃあ、今回は手分けしてアナザーリュウガ、若しくはナイトローグ探しだ。どちらかを見つけたらオレに連絡をくれ」

 

メインの戦力はビルドで有る自分と割り切って詩乃と雫の2人と、自分1人という組み合わせになる。

流石に昼間から怪盗服では目立つので私服での行動だが。

 

「お兄さんと2人きりでも良かったのに、残念」

 

「いや、遊びに行くんじゃないから」

 

雫の言葉にそう返す四季。

 

「デートという雰囲気じゃないけど、2人きりが良かったって言うのは私も同意見よ」

 

「一応、戦力的に考えた訳だから」

 

単独で戦えるビルドで有る自分が1人での行動を選んだのだ、他意はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

詩乃と雫の2人と別れて家を出ると最初に学園へと足を向ける。

相手は態々匙を狙ったのだ。単にドラグブラッカーとヴリトラ、黒いドラゴン繋がりで選んだのでなければ、生徒会に属するソーナ達が狙いと考えるのが合理的だと判断したのだ。

 

ナイトローグはシトリー眷属が狙いだから匙を狙い、彼を彼に見合ったアナザーライダーであるアナザーリュウガに変えた。

そう推理していた。

 

そんな訳で先ずは生徒会の様子を見に行こうと誰かが居るであろう可能性の高い学園に足を運んだのだが、全員が出払っている様子で見事に無駄足を踏んでしまった。

 

「こっちは無駄足だったみたいだな」

 

恐らく行方不明になった匙や、彼から連絡のあったはぐれ悪魔探し(実際はいないが)に出ているのだろう。

 

(アナザーリュウガの能力を考えると各個撃破のチャンスだな)

 

ミラーワールドの移動を自在に行えるアナザーリュウガはアナザーライダーであると同時に新種のミラーモンスターと言ったところだろう。

自我の有無は分からないが、ナイトローグのコントロール下に有ると考えれば、鏡面から自在に襲撃可能の能力と相まって、現状ではバラバラに動いているであろうシトリー眷属を各個撃破するのには最適なアナザーライダーだ。

 

逆に考えれば生徒会のメンバーを探せばアナザーリュウガもそこに現れるだろうが、別行動中の自分達よりも多いのだから、全員はフォローしきれない。

 

 

『ここに現れたと言うことは、流石に私達の狙いの推測は出来ていたと言う事ですか?』

 

 

「っ!?」

 

「先日振りですね、天地四季さん」

 

何処からか聞こえる声。その声に反応して其方を振り向くと、そこにはナイトローグの姿があった。

 

「ナイトローグ!?」

 

素早く引き抜いたVSチェンジャーをナイトローグへと向ける。

 

「残念ながら、私には君と戦う意思は有りませんよ」

 

「どう言う意味だ?」

 

「言葉どおりですよ」

 

戦う意思が無いと言われて『はい、そうですか』などと納得出来る相手では無い。

 

「今回の狙いは消し易いソーナ・シトリーとその眷属達とでも言っておけば安心していただけますか?」

 

何一つ安心できない。そんな言葉を呑み込んで四季はVSチェンジャーを突き付けながらナイトローグを無言で睨みつける。

 

「下手に赤龍帝を覚醒させても面倒ですからね。迂闊に刺激して亜種になられるよりも、正当に禁手(バランス・ブレイク)してくれた直後に手を出した方が、寧ろ始末し易いんですよ」

 

「何で態々そんな事を教えてくれるんだ?」

 

「君に信用してもらうためですね。私の目的は悪魔でリアス・グレモリーと赤龍帝とソーナ・シトリー、及びその眷属達。人間側で有る君達と敵対する意思は無いと」

 

そう言って優雅とも言える仕草で一礼してみせるナイトローグ。

 

「ですが、君達が今回の様に私達の手駒と戦って怪我をするのは、其方の責任ですよ」

 

「そうかよ」

 

引き金から手を離してVSチェンジャーを下ろすとナイトローグの姿が消える。

敵対の意思は無いと言う為だけに現れたのかは疑問だが、今学園にはリアス・グレモリーのもう1人の僧侶がいたはずだ。

狙いは其方かとも思ったが学園に戦闘があった様子はない。……時間停止能力があるとは言え、ナイトローグなら簡単に始末できるだろうが、流石に旧校舎にくらい戦闘痕が残っていても良いだろう。

 

其方の様子も確認するべきかと考えていると、ビルドフォンの着信音が鳴る。

 

「詩乃か?」

 

『ううん、私』

 

ディスプレイの番号から詩乃かと思ったが、聞こえてきたのは雫の声。

 

『そんな事より、今こっちに』

 

「アナザーライダーか?」

 

『うん。生徒会の人達が襲われてたから助けたんだけど……』

 

「意識は?」

 

『ある』

 

その言葉で察した。アナザーリュウガに襲われているところを見つけて、とっさに助けに入ったが、意識があるので変身できないのだと。目の前で変身したら認識阻害効果も意味はない。

 

「場所は?」

 

雫から場所を聞くとそのまま全身を強化。ライオンフルボトルを取り出そうとするが、バイクを使うよりも気によって強化した上で最短ルートを言った方が早いと判断する。

塀から屋根、屋根から電柱へと飛び移ると電柱の上を飛び移って一直線に伝えられた場所へと急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どうしろってのよ!?)

 

思わずそう思ってしまう詩乃。はっきり言って、アナザーリュウガの能力は相打ち覚悟の上で戦うしかない厄介なものがある。

仮面ライダー龍騎、仮面ライダーリュウガ共有のドラグクローを模したであろうドラゴン状の腕とドラグセイバーを模したであろう剣状の腕による攻撃はまだ良い。

元々の変身者が変身して己の意思で扱っていたアナザーライダーという、龍騎系ライダー三強の一角という実力は変身者が違うために考慮する必要はない。

 

だが、アナザーリュウガとしての能力である攻撃の反射だけは厄介なのだ。

劇中でも圧倒的なスペックの高さによる理由でジオウⅡの攻撃は跳ね返せなかったが、それ以外の攻撃は全て反射していた。ゲイツが相打ちを覚悟して倒すと言う選択を選ぶほどに危険な相手だ。

そのために2人は四季から見つけたら牽制に留めて絶対に攻撃を当てるなとも言われていた。

 

少なくとも生身で反射を受けるのは当たりどころが悪ければ命に関わる。

 

ルパンレンジャーへの変身は雫が治療している生徒会メンバーでソーナの眷属の2人、戦車である『由良翼紗』と騎士の『巡巴柄』の二人が大怪我を負ったものの意識がある為に出来ない。

その為、攻撃能力のある詩乃は攻撃を当てる訳には行かないのだ。

 

「このっ」

 

牽制のためとはいえ当てられない攻撃で確実にアナザーリュウガの動きを止めているのは与えられた技だけでなく、彼女自身の射撃の技術によるものだろう。

 

だが、攻撃を当てずに相手の動きを止めるなどと言う芸当を長時間繰り返しているのだ、何れ綻びは出る。

 

 

だが、

 

 

「詩乃っ! 雫っ!」

 

 

真上から四季の声が響くと、アナザーリュウガの頭に四季の掌打が叩きつけられる。

それによって一瞬頭部への打撃によるダメージからアナザーリュウガの動きが止まり、その隙に四季は詩乃とアナザーリュウガの間に立つ。

 

次の瞬間、龍の顔を象った紋章らしきものが現れ、そこに映った四季の鏡像が先ほどの本人と同じ動きで四季へと襲い掛かる。

 

「ぐっ!」

 

能力を知っている以上予想はしていたので、それを防御する事には成功した。

鏡像での反射が避けれないのなら身体能力の強化による防御、それならばうまく防げるかと考え攻撃が直撃した後から行なっていたのだ。

 

「うまく行ったな」

 

「風よ、お願い」

 

同時に雫の声が響くと痛みが消えていく。回復能力のある雫の存在を考えれば反射能力も回復でダメージをゼロにすれば良いと考えたのだが、うまく行った様子だ。

 

(そう何度も試したく無い手だけどな)

 

流石にアナザーリュウガの防御力を上回るダメージを与えられ無い代わりに選んだ苦肉の策だが対処療法的な手段で、ライダーキックも跳ね返してくる原典の基礎スペックを考えると根本的な解決にすらなっていない。

 

「四季、大丈夫なの?」

 

「取り敢えず、何度も試したく無いけど、一応は大丈夫」

 

下手したら自分の攻撃が雫の回復力を上回ってもアウトな上に、そんな攻撃では絶対にアナザーリュウガの防御力は上回れ無い。

 

「詩乃、お前はそのまま倒れてる二人と雫を守っててくれ」

 

「それは良いけど、何をする気なの?」

 

「かなり危険な賭け(ギャンブル)

 

そう伝えると地面を踏み砕くほどの震脚でアナザーリュウガに接近し、

 

「破ぁ!」

 

掌打の乱撃をアナザーリュウガへと浴びせる。少なくとも、それが変身でき無いのだと現状では四季の使える最強の徒手空拳技《陽》の技。

アナザーリュウガの体勢が崩れた瞬間、気を最大限まで高めた一撃を放つ、

 

「八雲っ!」

 

八重の雲のごとく神速の乱撃を浴びせ最大の一撃でトドメを刺す技、八雲。

 

だが、直ぐにアナザーリュウガの真横に鏡像が現れ四季へと襲いかかる。

 

「っ!」

 

技の直後で無防備なところに鏡像の己が襲いかかる。先程のアナザーリュウガと同様に神速の掌打の嵐が四季へと襲いかかる。

 

「お兄さんっ! 守護を!」

 

敢えて自分の技に吹き飛ばされ様とするが鏡像も同じように付いてくる。だが、最後の一撃が当たる前に雫の防御技が間に合った。

 

「がはぁっ!」

 

だが、それでもダメージは大きい。吹き飛ばされて近くにあった木に叩き付けられる。

意識が飛びそうな痛みに、流石は自分の現時点の最高の技だと思ってしまう。

 

「がぁ、がぁ……か、会長……」

 

相手の動きを警戒していると、一瞬だけアナザーリュウガの姿が匙の物に変わり、そのまま近くにあった鏡面からミラーワールドへと退散していく。

 

「なんとか、助かった、な」

 

そのアナザーリュウガの姿を見て気が緩んだのがいけなかったのか、そのまま意識を失ってしまう。



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十一話目

(っ……くっ、自分の技で気絶するなんて、我ながら情け無い)

 

それでも考えてみれば技を放った直後に同じ技を打ち込まれるのだから、技を放った直後の隙が大きい大技であればあるほど自分の受けるダメージは大きいのも当然だ。

 

(ホント、あれを倒したって、どれだけチートなんだよ、ジオウⅡって?)

 

ジオウⅡ、アナザーリュウガを圧倒できる基礎能力に未来予知に時間操作に未来創造、しかも、これでまだ上のフォームのある中間フォームと言うチート振りである。

 

まあ、原典のアナザーリュウガはアナザーライダーでありながら、本物の仮面ライダーリュウガとの相違点は一つ、本物ではない事だけだ。素のスペックもあの時点のアナザーライダー達の中では最強と言って良いだろう(アナザーオーズも変身者は仮面ライダーだった者だが、そちらは歴史が失われて経験を失っている上にオーズではなくゲンムの変身者である)

 

ジクウドライバー等のジオウの装備がガチャの中に入ってないかなと思いつつも、現在の手札でのアナザーリュウガ撃退の手段へと思考を向ける。

 

(下手な大技じゃ回復が間に合わないだけか。やっぱり、一番必要なのは……奴の、アナザーリュウガの防御を超える攻撃力)

 

最後の手段としてハザードトリガーの方が浮かぶ。

暴走の危険があるとはいえハザードはビルドの中間フォームの中ではスパークリングよりも強力な力を持ったフォームだ。それを使えばアナザーリュウガの防御力を上回れるかもしれない。

飽く迄仮定の域を出て居ない話だが、手持ちの札でアナザーリュウガに対抗できるのは此れだけだろう。

 

理想を言えば、龍騎系ライダーのカードデッキを入手して確実にアナザーリュウガを倒せる力が欲しいが、それは現時点では無理だろう。

 

「(それよりも今は)ここは?」

 

ベッドの上で体を起こし周囲を見回す。明らかに駒王学園の保健室だ。

痛みはない為に雫が治癒してくれたのだろうという事がわかる。

最初の不意打ちから終始自分からしか攻撃してない為に自分の攻撃を跳ね返されただけで済んでいるが、はっきり言って生身でアナザーライダーの攻撃など受けたくない。

 

(そう言えば、二人は?)

 

詩乃と雫の姿が見えない事を疑問に思いながらベッドから出ようとした時、保健室のドアが開くと、

 

「四季!」

「お兄さん!」

 

詩乃と雫の二人が保健室の中に飛び込んでくる。

 

「詩乃、雫。二人とも怪我は」

 

「私達なら大丈夫よ。それより、私達のことより今は自分の心配をしなさいよ!」

 

「オレも大丈夫。反射される事が分かってたから、無意識に加減していたんだと思う」

 

そう、反射される事が分かっていたから、生身では変身解除に繋がらないと分かっていたからこそ、無意識のうちに加減してしまっていた。

だからこうして雫の回復の術の効果範囲のダメージで留められたのだろう。

それでも、心配したのだと言う表情で詩乃からは睨まれている。

 

「天地さん、気が付いたようで何よりです」

 

二人に続いて新しい人物が入ってくる。この学園の生徒会長の『支取 蒼那(しとり そうな)』、本名はソーナ・シトリー。

現魔王の一人、セラフォルー・レヴィアタンの妹である駒王学園のもう一人の上級悪魔だ。

 

「この度は貴方達には私の眷属の二人を助けていただいた上に、匙の事も……」

 

彼女はそう言って頭を下げる。ふと詩乃と雫の方に視線を向けるとどこか申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 

「あの、あの映像はどちらで?」

 

「ルパンレッドと名乗ってた自称怪盗から渡されたんだ。オレも映像を見せてもらったけど、匙だっけ? 生徒会役員で、コウモリ男に変な時計みたいなものを埋め込まれて、あの黒い怪物に変えられたのは」

 

ナイトローグやアナザーリュウガの名前を出さずにそう問いかける。

 

「ええ、先日から行方不明になって居ます。これであの子の無事は確認できましたが」

 

「このままだと、はぐれ悪魔にされてしまう。ですか?」

 

「はい」

 

仮面ライダーを歪めた怪人の姿。しかも、黒いドラゴンなどはぐれ悪魔になった匙と言われても納得できるだろう。

 

「えーと、ルパンレッドから強いダメージを受ければ体内の時計のような物を排除されて元に戻るとか言っていたから」

 

「ですが、そこの二人から、今の匙には匙の神器(セイクリッド・ギア)にも無かった能力があると」

 

アナザーリュウガの反射能力がある為に迂闊に攻撃できないと言いたいことはよく分かる。

反射能力と鏡面を介しての神出鬼没な移動能力と、下手したら魔王の眷属を動かしても被害は出るような能力だ。

 

火力に劣るソーナの眷属たちには打つ手がないのが現状だろう。まあ、リアスの眷属も含めて当たったとしても勝ち目はないだろうが。

 

「だから、それを知っても何もできない。そう言うことか?」

 

「はい。ですが、このまま匙の事を放ってはおけません。早急にあの子を助けないといけませんから」

 

そう言った後、ソーナは四季達へと一礼し、

 

「後日、貴方達の力の事も詳しく聞きに行くと思いますが」

 

「オッケー、話せる事なら話そう」

 

そんな会話を交わすとソーナは保健室を出て行く。後に残された四季達は、

 

「いいの?」

 

詩乃が四季へと問いかけてくる。色々な意味の篭った『いいの?』と言う問いだろう。

 

「オレ達の力についてなら、な」

 

彼女の問いに言外にそれ以外の事は黙っていると告げる。飽く迄今回見せた力についてなら、見せてしまった以上は話したところで問題はない。

まあ、四季の力については伏せておく部分は多いが。

 

「とは言え、現状だとオレ達にもアナザーリュウガに対抗する手段は無いんだよな」

 

「もう絶対にあんな無茶はやらないでよ」

 

「うん、あれはもうダメ」

 

「分かってる。流石に相打ち前提での作戦はもうやらない」

 

二人に泣きそうな目で睨まれればもう無茶は出来ない。そんな事を考えていると四季のビルドフォンにメールの着信がなる。

 

「っ!? これは……」

 

 

 

『ドラゴンナイト系ライダー確定チケット一枚配布』

 

 

 

そんなタイトルのメールに思わず黙り込み四季。そんな四季の様子を不思議に思ったのか、詩乃と雫もビルドフォンの画面を覗き込む。

 

「「ドラゴンナイト?」」

 

「設定を変えてリメイクされた海外版の仮面ライダー龍騎のタイトルだけど……」

 

変身システムは変わらない。いや、龍騎の並行世界の存在こそがドラゴンナイトだとすれば、それでアナザーリュウガに対抗できるのかと言う疑問はあるが、一応の希望は出来た。

 

「賭ける価値はあるな」

 

外れたところで可哀想だが、匙がはぐれ悪魔になるだけである。非常な選択だがこのチケットから出てきたものを見なかったことにして対抗手段なしとして。

主にインサイザー(シザース)とかセイレーン(ファム)とか。

最弱の蟹ではリュウガには勝てず、女装する羽目になるセイレーンは精神的に耐えられない上に詩乃や雫に正面からの戦闘を任せるには気がひけるし、ファムの死因はそもそもリュウガなので相手が悪すぎる。

 

「しかも、この場で引けるか」

 

態々家に帰らずにメールに添付された画像に触れるだけで引くことが出来る様子だ。

内心外れたら精神的に耐えられそうもないので、このまま見なかったことにしたい。

 

「引かないの、それ?」

 

「13分の1で最弱を引いた場合の絶望感と、オリジナルのリュウガが直接の死因になったライダーを引く可能性を考えると、ちょっと悩む」

 

「それは、確かに悩むわね」

 

使っても負ける可能性が高すぎるものがあると言われると流石に四季の態度も納得してしまう詩乃さんでした。

 

ラスやウイングナイト、ドラゴンナイトなら対抗も容易いだろうが、逆に弱い部類のライダーを引き当てたら勝ち目など無い。アナザーだがリュウガはリュウガなのだ。

 

「じゃあ、3人でやる?」

 

不安を感じていると、そんな意見を上げるのは雫だった。引かないで放置もあれなので彼女の意見を採用。メールに添付されているチケットを使うと書かれた画像に三人で触れる。

 

 

 

 

 

ビルドフォンから光の球体が現れメールに添付されていた画像が消える。ゆっくりとその光に触れると、四季の手の中にカードデッキが現れる。

 

その表面に書かれていたライダークラスタに思わず笑みを浮かべる。間違いなくアタリを引き当てることができた。

 

「オレ達が幸運なのか、それとも匙が幸運なのかは分からないけど、これなら行ける」

 

手にした力に笑みを浮かべる。対抗できるだけのカードを手にしたのなら勝ち目はある。

一人でわずかに及ばないのなら、三人でなら超えられる。

 

「リスクは悪魔側に目を付けられる。態々怪盗姿で正体を隠してた意味はなくなる」

 

「でも、それは今更じゃ無い?」

 

四季の言葉に既にソーナの眷属の二人を助けた時点で力の事は知られている。見捨てなかった時点で今更だ。

 

「正体を隠すのにも意味はあると思う」

 

「なら、怪盗と素顔。バトルスタイルは変えるのは丁度良いか」

 

続いて雫の言葉に四季は答える。

 

 

 

 

 

三人の考えは最初から決まっている。

ここまで関わった以上は、助けないなどという選択肢など、有り得ない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頷きあうと三人でハイタッチを決める。

 

「行こう」

 

「ええ」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああああぁ!!!」

 

絶叫を上げて暴れ回るアナザーリュウガ。アナザーリュウガに変えた匙へとナイトローグが下した最優先の命令は一つ。眷属の仲間と主人を始末しろと言うもの。

最初は自分の意思に反して命令を実行しようとする体に抵抗していたものの、アナザーリュウガと言う力の濁流に匙と言う意識は時間と共に飲み込まれていく。

 

「さ、匙……」

 

「ガアァ!」

 

ソーナ達の警戒を嘲笑うようにミラーワールドの中を悠々と移動しながら再度襲撃してきたアナザーリュウガ。

今度は四季が気絶している内に詩乃からアナザーリュウガに変えられた匙が襲撃してくる危険性を伝えられていた事で動ける生徒会役員の眷属全員で揃っていたと言うのに成すすべなく全員が地に伏していた。

 

反射能力で自分達の攻撃は撃ち返される上に相手の戦闘力は高い。しかも、何者かに操られている自分達の仲間と言う悪条件が重なっているのだ。

 

全員がアナザーリュウガの攻撃で一方的にボロボロにされたわけでは無い、自分達の攻撃を撃ち返されて負った傷もある。

アナザーリュウガの能力に似た能力を持った神器(セイクリッド・ギア)を宿した眷属の女王で生徒会副会長の椿姫、彼女が一番傷が酷い。

 

「匙、目を覚まして下さい!」

 

「ガァア!」

 

ソーナからの説得の言葉も匙を支配しているアナザーリュウガの力には届かない。右腕のドラゴンを模した手甲から青い炎を撃ち出す。

心の中で匙の意思はやめろと絶叫するが、アナザーリュウガは止まらない。ドラグクローを模した手甲から撃ち出された青い炎がソーナと倒れた彼女の眷属を飲み込もうとするが、

 

 

 

「精霊の燃える盾よ、守護を!」

 

 

 

雫の声と共に現れた守護の壁が青い炎の余波を防ぐ。爆発音と共に上空を泳ぐ一匹の東洋龍の放つ炎がアナザーリュウガの炎を相殺させたのだ。

 

「間に合ったか」

 

ソーナ達に駆け寄る四季と詩乃と雫の三人。

 

「天地くん、朝田さん、北山さん、貴方達どうしてここに?」

 

「話は後。今は匙を止める事が先決だ」

 

そう言って取り出したのは先ほど手に入れたカードデッキ。それを翳すと腰にベルトが出現する。

 

「詩乃、雫。会長達のことは任せた」

 

「うん、任せて」

 

「そっちは任せたわよ」

 

「ああ」

 

雫がソーナ達の治癒をしているのでもう大丈夫だろう。後はするべきことは一つ。

 

「KAMEN RIDER!」

 

そう叫んでベルトへと黒いドラゴンのエンブレムの刻まれた黒いカードデッキを装填すると、四季の姿がアナザーリュウガと似た姿に変わる。

 

 

 

 

 

『仮面ライダーオニキス』

 

 

 

 

 

ドラゴンナイトに登場するリュウガを元にして誕生した十三人目の仮面ライダーであり、原典の龍騎では主人公の影として登場したリュウガとは対照的に、主人公が変身したドラゴンナイトの後継機とも言える存在だ。

 

方やダークライダーのリュウガを歪めた存在であるアナザーリュウガ。

方や別の世界でリュウガを元に誕生した本物の仮面ライダーとして生まれて仮面ライダーとして戦ったオニキス。

 

奇しくも仮面ライダーリュウガから派生して誕生したアナザーライダーと仮面ライダーが対峙した瞬間である。



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十二話目

『SWORD VENT』

 

カードデッキからカードを抜き出しブラックドラグバイザーへとカードを装填、ドラグセイバーを召喚する。

 

「はぁ!」

 

「ガァ!」

 

互いにドラグセイバーとドラグセイバーを模した剣を切り結ぶ。だが、力任せに振るうだけのアナザーリュウガの剣をオニキスは斬りはらい、そのまま斬撃を浴びせ、蹴り飛ばすことで距離を取る。

 

地面を転がり立ち上がるアナザーリュウガの横にリュウガのエンブレムの形をしたオニキスを写した鏡面が現れるが、反射する事なく砕け散る。

 

「反射されない?」

 

「今の四季の攻撃が強過ぎて反射できないのね」

 

反射能力が不発に終わった事に驚くソーナを他所に、詩乃は四季の狙いが当たっていたことに納得する。

 

これで能力による不利は無くなった。

 

「グゥ……」

 

不利を感じて逃げようと鏡面にむかって走るアナザーリュウガだが、逆に鏡面からはじき出される。

 

「グガァ!」

 

オニキスのアドベントビースト『ドラグブラッカー』が鏡面に陣取っている。

龍騎はミラーワールドで、ドラゴンナイトは異世界ベンタラで戦うのだが、そのどちらも鏡面を移動に利用している。

その二種のライダーの特性を利用し、ベンタラへのゲートに変えた鏡面からアナザーリュウガを逃さない為にドラグブラッカーを配置していた。

 

「逃走経路は潰した。後はお前を倒すだけだ」

 

「ガァア!」

 

その存在を歪められたアナザーリュウガを仮面ライダーとして人々を守ったオニキスの力を持って倒す。元がダークライダーなだけに在り方はアナザーリュウガの方がリュウガに近いのだろうと思うと内心苦笑してしまう。

 

 

『STRIKE VENT』

 

 

オニキスの腕にブラックドラグクローが装着されるとアナザーリュウガもドラグブラッカーを模した片腕を向けてパンチモーションを取る。

 

「はぁ!」

 

「ガァ!」

 

ドラゴンの咆哮の様な音が二つ同時に重なり、同時に打ち出された炎が両者の中央でぶつかり合う。

 

「っ!?」

 

押し返されては居ないが、二つの炎が拮抗している為にオニキスもまた動けない。

 

「詩乃っ、頼んだ!」

 

「ええ」

 

オニキスの言葉に応えるのは詩乃。弓に矢を番えアナザーリュウガを狙う。

技の記憶の中から使うべき技を選択する。

 

「任せて、絶対に外さないから」

 

体内の気を鏃へと集め、矢を放つ。長距離を射抜く『通し矢』。

 

「ガァッ!?」

 

アナザーリュウガに直撃した矢によって一瞬だけ拮抗が崩れる。

アナザーリュウガの能力で鏡が出現し、詩乃の矢が反射される前に直撃するオニキスの炎によって砕け散る。

 

「オラっ!」

 

その隙を逃さずアナザーリュウガに肉薄するとブラックドラグクローを装着した腕でパンチを叩きつける。

 

「ガァッ!」

 

その攻撃でヨロヨロと後退させられたアナザーリュウガはオニキスを近付けさせまいと滅茶苦茶に剣を振りながらオニキスから離れようとする。

 

一瞬動きを止めて後退させられたらオニキスを他所にドラグブラッカーの頭を模した腕から何かが伸びる。

アナザーライダーに変えられた匙の持って居た神器(セイクリッド・ギア)黒い龍脈(アブソーション・ライン)がアナザーリュウガに変えられた事で変化したのだろう。

力に支配されて暴れている状況では細かい使い方はできなかったのだろうが、それでも大味な応用は出来る。

単純に遠くに巻きつけての逃走などの応用技は可能だという事だろう。

 

「悪いけど、逃さないわよ」

 

その狙いに気付いた詩乃が巻き付けた先にある枝を狙い撃つ。神器の側は壊さなくても、それ以外の物ならば壊す事は簡単に出来る。

 

黒い龍脈(アブソーション・ライン)が巻き付いて居た先が無くなりそのまま地面に落ちるアナザーリュウガ。

立ち上がった瞬間に接近したオニキスの掌打が叩き付けられる。

 

「一人で互角でも、三人なら余裕で超えられる」

 

僅かにアナザーリュウガの動きが鈍った隙に上段蹴り、そのままブラックドラグクローを装着した腕でのパンチを叩き込む。

オニキスの連続攻撃で動きが鈍っていくアナザーリュウガは殴り飛ばされた衝撃で距離を取ると、ヨロヨロとした様子で立ち上がるとドラグブラッカーを模した腕を振り上げ、振り上げた腕から吐き出した黒炎を全身に纏う。

 

「っ!? まさか其れ迄使えるのか」

 

だが考えてみれば、原典のアナザーゴーストはディケイドゴーストと共にゲイツゴーストアーマーに対してダブルライダーキックを使っているのだから、他のアナザーライダーがオリジナルの仮面ライダーの必殺技に対応する技を持って居ないわけがない。

 

「だったら、迎え撃つまでだ!」

 

 

『FINAL VENT』

 

 

アナザーリュウガに応じるようにブラックドラグバイザーに新たにカードを装填する。

 

オニキスの背後に現れるドラグブラッカーを背に中国拳法のようなポーズをとり、そのままドラグブラッカーと共に上空に舞い上がり、一回転しながら飛び蹴りの体制を取る。

同時に黒煙に包まれたアナザーリュウガの体がゆっくりと浮かび上がり上空で飛び蹴りの体制を取る。

 

「ドラゴン、ライダーキック!」

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァア!」

 

オニキスはドラグブラッガーが吐き出した黒炎を纏いながら、アナザーリュウガは己の吐き出した黒炎を纏いながら二人のキックがぶつかり合う。

 

「ガッ! ガァア!」

 

黒炎を纏いながら二つの必殺技を撃ち合った結果、拮抗する事もなく押し勝ったのはオニキスの方だった。

 

ドラゴンライダーキックがアナザーリュウガを打ち抜き爆散する中オニキスは地面へと着地する。

それに遅れて気絶した匙とアナザーリュウガウォッチが地面に落ちる。

 

「匙!」

 

慌てて匙に駆け寄るソーナ。アナザーリュウガに変えられる前にナイトローグに暴行を受けた傷や先ほどのオニキスとの戦いでボロボロになっているが命に別状はない。

 

「雫、匙の治療を」

 

「うん、分かった」

 

ベルトからカードデッキを外しながら雫に匙の治療を頼むと、それに答えて匙に駆け寄って治療の術をかける。

 

「ありがとうございます!」

 

ボロボロになって居た匙の体は治療の術を受けた影響で表面的な傷は無くなっていく。

 

「うん、骨折とかが無くて良かった」

 

骨折した状態では今彼女の使える術では正しく嵌めた後ではないと歪な形に固定されてしまう恐れがある為だ。

また使えない最上位の術ならば文字通りの完全回復をさせることの出来る奇跡に近い物であるのでその心配もないのだが。

 

匙だけで無く他の眷属も治癒してくれた雫に何度も感謝しているソーナを他所に四季はアナザーリュウガのライドウォッチへと視線を向ける。

 

「どうしたの?」

 

そんな四季の姿を怪訝に思った詩乃が問いかけてくる。

 

「いや、アナザーリュウガのウォッチが」

 

『完全に破壊されて居ない』と言葉を続ける四季の視線の先には、罅こそ入っているが砕ける様子もなく転がっているアナザーリュウガのウォッチが有った。

 

「っ!?」

 

念の為に回収しようとそれに触れた瞬間、アナザーリュウガのウォッチは輝きと共に砕け散る。

 

 

『龍騎!』

『リュウガ!』

 

 

アナザーライドウォッチが砕けた後には先ほどまでの怪物然とした姿では無く、騎士甲冑を思わせる赤い仮面ライダーの顔の描かれたライドウォッチとオニキスによく似た仮面ライダーの顔の描かれた二つのウォッチが落ちて居た。

 

その二つのウォッチは龍騎ウォッチとリュウガウォッチだ。

アナザーライダーの物では無く、正式なライドウォッチの方である。

 

その二つを手に取った瞬間、黒い影が四季を襲う。

 

「っ!?」

 

「四季!」

 

突き飛ばされた自分を支えてくれた詩乃に感謝しつつ襲いかかって来た影へと視線を向ける。

 

「ナイトローグ!」

 

「ふう、奪えたのはリュウガウォッチの方だけでしたか」

 

影の正体ナイトローグを睨みつけながらその名を叫ぶ四季を他所にナイトローグは手にしたリュウガウォッチを眺めながらそう呟く。

 

「まあ良いでしょう。暫く龍騎ウォッチは貴方に預けておきましょう」

 

手の中にあるリュウガウォッチに触れるとウォッチの形が変形して『2002』の数字とリュウガのクラストが現れる。

 

それを確認すると四季へとその言葉を残して背中から羽を広げ、ナイトローグは飛び去っていく。

 

「あいつ、ライドウォッチが目的だったのか?」

 

四季の手の中にあるのは龍騎のライドウォッチとオニキスのカードデッキの二つ。

敵の狙いは二つのライドウォッチだった、そう考えるとそれ以外に選択肢はなかったとはいえ敵の思惑通りに動いてしまった感がある。

 

例えようのない不安を感じてしまうが、それでも何とかなったことは素直に喜ぶべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この度は本当にありがとうございました」

 

念の為にと匙を含めた眷属が病院に運ばれた後、ソーナは改めて四季たちへと感謝の言葉を述べる。

 

「別に気にしなくても良い。今回は偶々オレの手元に解決させる手段があっただけだ」

 

「いえ、それでも私たちが助けられたのは事実です。それと、申し訳ないのですが」

 

ナイトローグやアナザーリュウガの危険性を考えて姉に報告する為、後日四季たちの持っているナイトローグの事について教えてもらいたいと言ってソーナは立ち去っていった。

 

生徒会役員の眷属全員が入院する羽目になったのだから暫くは大変だろう。

 

こうして、多くの謎を残しながらも、ナイトローグとの初遭遇になった一件は、新たにオニキスの力を手に入れ、敵が残した龍騎ウォッチを入手した結果でアナザーリュウガの事件は解決したのだった。



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十三話目

四季SIDE

 

さて、アナザーリュウガの一件が終わっても日々は続く。と言うよりも今回の一件は終わって居ない。

 

先ず、生徒会のメンバーは大きな怪我を負ったものの雫の術の力で早めに完治した為、1日で全員が無事に復帰。

 

早めにナイトローグについての質問でもされるかと思ったが、魔王……外交担当の会長の姉ではなく、内政担当のサーゼクス・ルシファーが妹の結婚を賭けたレーディングゲームとその後の婚約披露パーティと忙しいらしい。

 

身内関連だが一応は内政に関わる事なのでそう疎かにも出来ないのだろう。

 

 

で、そのレーディングゲームの開催が明日の夜に迫っているらしいのだが、その辺は興味ないので完全に放置していた。

 

 

現在は劣化版自壊機能付きスクラッシュドライバーの制作とドラゴンスクラッシュゼリーの生成に勤しんでいる訳である。

 

一度は制作するのは劣化版と銘打ったが、通常のドラゴンスクラッシュゼリーにスクラッシュドライバーの破壊時のエネルギーが加わればクローズマグマ用のフルボトルのベースが手に入るかもしれないから、こうして通常版を生成していた。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナザーリュウガの一件が終わった後、蜘蛛型の監視メカをオカ研の部室のある旧校舎に放って確認していたが、レーディングゲーム開催の時が来た様子だった。

 

内容には興味も湧かないと割り切って結果だけ確認したところ、健闘虚しく見事に負けたらしい。

 

この世界についての原作知識と言う名の一種の未来予知が正しければリアス・グレモリーの投了によって勝負がついたはずだが、結果として負けたのならば細部が変わっていても問題はないだろう。

 

現在、イッセーは自宅でゲームのダメージのための療養中でアーシアはその治療。他の眷属達は式の為に冥界に帰ったリアスに付き添って冥界に向かったらしい。

 

「実行するなら今だけど、治療とかはどうする?」

 

「あれを治療するのは嫌」

 

即座にイッセーの治療は雫から拒絶された。

 

「そ、そうか。まあ、予定は決まっているけど、オレはイッセーの様子見も兼ねて、その下準備に行ってくる」

 

目撃された時の事を考えて、怪盗用のシルクハットとアイマスクを身に付け手にはガチャで手に入れた、エボルト垂涎の五つのハザードレベル上昇アイテム。

 

「それじゃ、ちょっと行ってくる」

 

二人に見送られて怪盗姿で家を出る四季。目指すは兵藤家のイッセーの部屋だ。

 

屋根の上を走りながら人目を避けて目的の場所に着くと、イッセーの部屋が有るであろう位置へと視線を向ける。

 

アーシアの姿がなく意識の無いイッセー一人である事を確認すると物音を立てずに鍵のかかった窓を開け、部屋の中に忍び込むと簡単にイッセーの容体を確認する。

 

(こいつの乱入がいつかは知らないが、間に合いそうだな)

 

間に合ってくれなかったらせっかく設計して開発した劣化版スクラッシュドライバーが無駄になる。そんな事を考えながら、四季はハザードレベル上昇アイテムをイッセーに使う。

 

ハザードレベルを持っていなかったイッセーがハザードレベルを会得して一気にレベル5まで上昇してくれた事だろう。

 

上手くガチャ産アイテムの機能は自分達以外にも働く事は知っているが、使うのはこれが初めてなのでどうなるかは分からないが、

 

(これで良し)

 

あとは目を覚ました頃合いに接触してスクラッシュドライバーを渡すだけだ。

 

(そうだ、試してみるか)

 

ふと、思い付いた事があるのでイッセーの胸にレッドダイヤルファイターを乗せる。

 

 

『1・2・1』

 

 

イッセーに乗せたレッドダイヤルファイターを中心に金庫のようなものが出現すると、その中には赤い籠手の様なものと、赤いチェスの兵士の駒が八つと、先ほど使ったハザードレベル上昇の特典が一つに統合されていた。

他の二つはイッセーの宿した神器(セイクリッド・ギア)赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)、彼を転生させるために使った悪魔の駒(イーヴィルピース)なのだろう。

 

神器(セイクリッド・ギア)まで抜き取れたか。下手したら特殊能力も奪えるんじゃ無いのか?)

 

意外と便利である事に驚きながらも、回収の方法の目処がたった事には安堵する。

流石にどちらも抜いてしまったら命に関わりそうなので触れずに金庫を閉めてダイヤルファイターを外す。

 

流石にハザードレベル5のまま放置するのは危険であったし、ハザードレベルを下げればビルドドライバーが奪われても使われる事はないだろう。

 

(これで破壊したスクラッシュドライバーを再生されても使える奴は居なくなる)

 

あとはイッセーが目を覚ますのを待つだけと誰かが来る前に窓から出て行く。

………………出入りに使った窓を開けっ放しで。

 

数分後、窓が開けっ放しになって居たせいで体が冷えたのか、盛大なクシャミと共にイッセーが目を覚ますのだが、それは四季の知らない事で有った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リアスの結婚式当日、イッセーの元に来たサーゼクスの女王(クイーン)のグレイフィアから伝えられたサーゼクスからの言伝。

『妹を助けたいなら会場に乗り込んで来なさい』

の言葉。力及ばずライザーに嬲り殺しにされるイッセーの姿にリアスは耐え切れず投了を宣言した。

 

(あんな野郎に部長を渡したく無い!)

 

その一心でライザーとの再戦に挑む事を決める。奪還後に使うための魔法陣も渡され、イッセーは決意を決める。

 

 

 

『おいおい、一度負けた相手に直ぐに再戦して勝てる訳ないだろ』

 

 

 

そんなイッセーの決意に水を差す様に第三者の声が響く。先ほどグレイフィアは帰ったので明らかに違うだろう。

誰かと思って声なき声多方向を振り向くと窓の縁に腰掛けている赤い怪盗の姿があった。

 

「お前は!?」

 

「よう。ゲームで大怪我したって聞いたけど、元気そうだな」

 

以前出会ったときのことを思い出して睨みつけてくるイッセーだが、そんな彼に気を悪くした様子も見せずにヒラヒラと手を振っている。

 

「何の用だ!? オレはこれから……」

 

「結婚式に乱入、だろ? オレには興味はないけど、お前にはもっと力が必要なんじゃないのか?」

 

そう言ってビルドドライバーを取り出してイッセーに見せつける。

 

「例えば、これとかな」

 

「っ!?」

 

『欲しい!』自分よりも強い木場や小猫を圧倒した目の前の相手の変身した姿、それがあればあんな鳥野郎には負けなかった。そんな考えが浮かんでくる。

 

「そんなお前にオレ達のスポンサーから贈り物だ」

 

そう言って何処からか取り出したスクラッシュドライバーを投げ渡す。

 

「な、なんだよ、これ?」

 

「オレのドライバーの後継機の試作品、名称は劣化版(プロトタイプ)スクラッシュドライバーだ」

 

何処かの嘘つき焼き殺すガールがいたら焼かれる程の大嘘である。

実際には試作品ではなく完成品をデチューンした使い捨て版のスクラッシュドライバーだ。

 

「こ、これが有れば……」

 

「それと、これが変身用のアイテムのスクラッシュゼリーだ」

 

新たに投げ渡すのはゼリー飲料を思わせる外見にドラゴンのマークの書かれたドラゴンスクラッシュゼリー。こちらはデチューンしておらずちゃんとした物だ。

 

「使い方は簡単。オレのビルドドライバーと違って一つで変身可能。中央部にそれ差し込んでドライバーのレバーを捻るだけ、だ」

 

早速試そうとするイッセーだが、

 

「おっと、それは試作品なんでそう何回も、それも長時間は戦えないから、本番まで使わない方がいい」

 

そう言って変身してみようとするイッセーを止める。

 

「おい、それって欠陥品じゃ無いのかよ!?」

 

「試作品に夢見すぎだって。普通は試作品なんて完成品より劣ってる物だろ?」

 

四季の注意に噛み付いてくるイッセーに飄々とした態度で返す四季。

 

「どっちにしても、一回は確実に使えるのは保証するし、それの性能だけは保証する」

 

心の中で通常のクローズ以上、クローズチャージ以下だが。と付け足しておく。

流石に通常のクローズ並みに性能は抑えられなかったのだ。

 

「それに、完成品を渡してもらえるほど親しい関係でも無いだろ? オレ達と」

 

だったらちゃんとした方を寄越せと色々と言いたくなるイッセーの心を読んだ様にそんな言葉を告げられる。

でも、と思うイッセーだったがそれでも手の中にある二つのアイテムは大事な勝利のカギの一つだ。余計なことを言って取り上げられたく無い。

 

「分かったよ、これは有難く使わせてもらう」

 

「オッケー。それじゃ、オ・ルボワール」

 

こんな奴の思い通りにするのは気に入らないと思いながらも素直に受け取っておくことにしたイッセーだった。

 

変身できる確信は持っているし、ハザードレベルも強制的にあげたから問題ないだろうし、性能も劣化させたとはいえビルドライバーレベルの性能は保証済みだ。

 

ライザーとの再戦にてその力はイッセーも実感を持って知る事になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『スクラッシュドライバー!』

『ドラゴンゼリー!』

『潰れる! 流れる! 溢れ出る!』

『ドラゴンインクローズドライグ!』

『ブラァ!』

 

 

 

赤いクローズチャージへの変身を持って。



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十四話目

「必ず、部長さんと一緒に帰って来て下さい」

 

「ああ、もちろんだ」

 

イッセーは笑顔でそう言うアーシアに見送られて冥界へと向かう。

手の中に握るのは先程赤い怪盗から渡されたスクラッシュドライバー。それ以外にもライザーと戦うための切り札は用意した。

 

何処か不安を感じながらスクラッシュドライバーとスクラッシュゼリーの二つへと視線を向ける。

あの時にビルドに変身した赤い怪盗が使った物とは違うだけに、本当に大丈夫かと言う不安が湧いてくる。

 

(これだけじゃ無いんだ、だから大丈夫だ!)

 

何も出来なかった相手に一人で勝てるのかと言う不安が浮かぶ己を安心させるように心の中でそう叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上手くいったみたいだな」

 

機能を下げるついでにスクラッシュドライバーに取り付けておいた盗聴器から聞こえて来た会話を聞いていた四季、詩乃、雫の三人。

場所はナデシコCの会議室、三人とも怪盗コスチュームで、だ。

 

盗聴器から聞こえる音が消えたことからイッセーは冥界へと転移したのだろう。流石に冥界と人間界を繋いでくれる程高性能な物は桐生戦兎の頭脳でも作れない。

 

「まあ、今回は結果待ちって所だな」

 

「大丈夫なの、四季の作ったスクラッシュドライバーを渡しちゃって」

 

「性能を抑えた劣化版だし、スクラッシュゼリーも破壊される時に使い物にならなくなる……計算上は」

 

「最後の一言がちょっと余計」

 

「妙に最後の一言が不安になるんだけど」

 

「流石にこればっかりは試すわけにはいかないからな」

 

そもそも、試すのに使うドライバーとスクラッシュゼリーを作る時間はなかったのだ。

 

「だったら、念の為にスクラッシュゼリーの回収のためにオレ達も冥界に行くか?」

 

「行くって、見つからないで行く方法はあるの?」

 

詩乃の疑問はもっともだ。分かりやすく言えば完璧な密入国をするといっているのだから、正面から堂々と移動するのは論外として、見つからない移動手段が理想的なのだが……

 

「一応、ダイヤルファイターとナデシコには冥界に移動する機能がついてるらしい」

 

思いっきりその手段はあった。

まあ、冥界を舞台に大きな戦いがある事もあるのだから、そんな時に加勢したくても移動手段がありませんでした、では話にならないからなのだろう。序でにナイトローグの時のように余計な敵まで参戦して居たら四季たちの加勢がなかったら危険過ぎるだろう。

 

そんな訳で今回はナデシコCの試運転、処女航海を兼ねての行動となった。そもそも、この馬鹿でかい宇宙戦艦がどこから発進するのかも確かめておきたいし。

 

現在はオペレーターもいないので十全に機能を発揮できないが、艦長として登録されている詩乃が艦長席に立ち、空いた席に四季と雫が座って運航する事になった。

 

格納庫の前方が開くと何処かにそのまま格納庫から上昇して行く。

 

「「「ええっ!?」」」

 

外の光景が見えた瞬間三人から驚愕の声が溢れる。

それも無理はないだろう街中の自宅の地下に有った地下格納庫だった筈が、何故か何処かの無人島から出撃していたのだから。

 

「いや、確かに街中、それも自分家の地下から発進させたら目立つだろうけど」

 

「あの格納庫はどこでもドアにでもなってるの?」

 

「でも、見つからないのは良い事だと思う」

 

既に何処ぞの猫型ロボットのひみつ道具レベルの施設だと改めて認識する三人で有った。

 

「兎も角、気を取り直して」

 

「ええ、目的地は冥界。ナデシコC。出撃」

 

こうして、前方に現れた魔法陣を潜りながらナデシコCは処女航海として冥界へと飛び立っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、冥界へと辿り着いて四季が貴族風の礼服に着替え、手持ちの隠しカメラを通じてナデシコCのモニターに映像を送りながら貴族の中に紛れ込むと丁度イッセーとライザーのゲームが始まろうとしていた。

 

イッセーの行動を警備の悪魔達が止めようとするのを他のリアスの眷属の木場、朱乃、小猫の三人が阻み、イッセーはリアス、ライザーとサーゼクスの三人がいる主賓席の前までたどり着く。

 

周囲の貴族がイッセーへと罵声を浴びせるのをサーゼクスが静まらせると、パーティーの余興としてドラゴンとフェニックスの一騎討ち、つまりイッセーとライザーの試合を提案する。

 

サーゼクスからは既に最後のチャンスは逃してしまったと告げられるが、イッセーはそれを分かった上で強引に覆す為に来たと答える。

 

あの時、勝てなかった相手と今更再戦して勝てると思っているのかと問われると、

 

「ええ、あの時のオレじゃないって事を見せてやりますよ!」

 

普通は誰もがたった数日で何が変わったのだと思うだろう。まあ、神器(セイクリッド・ギア)の事を考えればそれの覚醒によっては大きなパワーアップは測れるだろうが。

そんな周囲からの呆れとも嘲笑とも言える視線を受けながらスクラッシュドライバーを取り出す。

 

 

『スクラッシュドライバー!』

 

 

四季から渡されたドライバーを装着し、新たにドラゴンスクラッシュゼリーを取り出し、

 

「当てにしてるんだから、力を貸してくれよ……」

 

そんな事を呟きながらスクラッシュドライバーの装填スロットにスクラッシュゼリーを装填する。

 

 

『ドラゴンゼリー!』

 

 

「うおぉー! 変、身っ!」

 

 

『潰れる! 流れる! 溢れ出る!』

『ドラゴンインクローズドライグ!』

『ブラァ!』

 

 

気合の入った叫び声とともにイッセーは巨大なビーカーに包まれ、液体化した成分が全身を覆いスーツを形成し、最後に頭部から吹き出す液体が頭と腕の装甲を作り出し、その姿を多くの者の前で赤いクローズチャージ、否、『仮面ライダークローズD(ドライグ)』へと変身してみせたのだった。

 

吹き出した液体が本来の青と違うのはスクラッシュドライバー自体が劣化版であるが故かは分からないが、本来青くなる部分が赤龍帝の名に相応しい赤に染まっている。

 

(クローズドライグって適当に名付けたけど、やっぱりクローズヴェルシュの方が良かったかな~?)

 

イッセーの変身シーンを眺めながらそんな事を一人考えていた。なお、音声はイッセー用の為に特別に用意したものである。

 

「ハハハっ! おいおい、そんな玩具がなんの意味があるって言うんだ?」

 

変身という派手な真似をしたイッセーに静まり返る中ライザーの嘲笑が沈黙を破る。

 

「なるほど、これはなかなか面白くなりそうだ」

 

そんな嘲笑を遮りサーゼクスの言葉が響く。

 

「兵藤一誠君。君がライザー君に勝った時には相応の対価を支払うとしよう」

 

「サーゼクス様!? 下級悪魔に魔王様が対価などと!」

 

「例え下級であろうとも彼も悪魔だ。それに、こちらからの頼みなのに対価を支払わないとは悪魔としての理に敵わない。……さあ、君は何を望むのかな?」

 

イッセーの使ったスクラッシュドライバーとスクラッシュゼリーに興味を持ちながらも、今は妹の為と自身の予定通りに自体を進めて行く。

流石にイッセーもグレイフィアからの伝言やこの言葉からサーゼクスの意図ができないわけがない。

金でも、絶対的な地位でも無い。

 

「それなら……」

 

リアスの方を指差すとイッセーは、

 

「リアス・グレモリー様を返して下さい!」

 

「良いだろう、それでは早速ゲームを始めよう!」

 

事前準備はできていると言った様子で試合会場に転移させられる。イッセーとライザーの二人。

急に試合を決められたライザーも相手が一度勝った相手なのだから、文句もないようだ。

 

先ほど使ったスクラッシュドライバーの事も甘く見ている様子で余裕そのものと言った態度だ。

 

「部長! オレには木場の様な剣技も無くて、小猫ちゃんの様な馬鹿力もないし、朱乃さんの様な魔力の才能もアーシアの様な治癒の力も」

 

そこで一度言葉を切って赤い怪盗の事を思い出す。

 

「あの赤いコソ泥野郎の様に強くも無い!」

 

 

 

 

 

 

 

(コソ泥じゃ無くて、オレ達は怪盗だ、怪盗!)

 

思わず叫んでイッセーの言葉を訂正したくなったが、此処は敵地と言葉を飲み込む四季であった。

 

(スクラッシュゼリー回収して帰るつもりだったけど、あの野郎、一発殴る)

 

 

 

 

 

 

 

 

「だけど、オレは貴女の最強の兵士(ポーン)になってみせます!」

 

本来ならば専用武器のツインブレイカーが現れるはずだが実は劣化版にはその機能は付けていない。その為に彼の神器であるブーステッド・ギアが現れる。

 

「力を貸しやがれ! ドライグ!」

 

 

 

『Welsh Dragon over boostr!』

 

 

 

試合開始と同時に己の片手を対価にして可能にさせた禁手(バランス・ブレイク)を発動させた事で、クローズDのアンダースーツの一部、頭部と両腕が赤龍帝の鎧に変化する。

 

『凄いぞ! 10秒も持たないはずだったが、この鎧の力が有れば1分は持つ』

 

「1分か!? それだけあれば奴を殴り飛ばして、お釣りが出るぜ!」

 

『この鎧は持ってもそれ以上はお前の体持たない』

 

そう伝えながらも神器の中に宿る龍帝は理解していた。この鎧の力はドラゴンであっても、この世界のドラゴンのものでは無いと。

 

自分よりも強大な怪物の力の一部であると。

 

『(しかし、なんだこの力は? 初めてだぞ、鱗片だけで此処まで恐ろしいと感じた存在に触れるのは)』

 

この世界にはエボルトは居ませんが、フルボトルの成分を液化させた事による長時間の接触が原因なのかは定かでは無いが、ドライグはその力の持ち主の恐ろしさを正確に気がついて居た。

 

星を狩るエイリアン、ブラッド族のエボルト。宇宙レベルの消滅の力たるブラックホールを自在に操る怪物など、夢幻と無限ならば兎も角、それ以外の存在には太刀打ち出来る存在では無いだろう。

サーゼクス達魔王? 最悪、眷属諸共纏めて消されて終わりである。

 

何気にドライグの中での世界の強者ランキングに夢幻と無限の下にエボルト(想像態)がランクインした瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さて、フェニックス対ドラゴン、フルボトルとしたらドラゴンの方が上だけど、どんな対決になるかな?)

 

後でイッセーを殴ることを心に決めながら逃走用に用意したフルボトルの一部、フェニックスボトルとドラゴンボトルを手の中に握りしめながら、四季はそう心の中で呟くのだった。

 

(まあ、劣化品とは言えスクラッシュドライバーを使わせてやったんだから勝ってくれよ)

 




先日から実地しているアンケートはコカビエル編の一話目投稿が起源になります。
選ばれたキャラはコカビー編で四季の引くガチャからの登場となります。


なお、クローズドライグの外観はアンダースーツの両腕と頭が赤龍帝の鎧に変わった赤いクローズチャージを想像してください。


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十五話目

(出来栄えはまあまあって所か)

 

クローズドライグに変身したイッセーとライザーのゲームを眺めながら心の中でそう呟く。

作った本人だからこそ分かる。禁手との上乗せにより今のクローズドライグのスペックはクローズチャージのスペックに大幅に近づいている、と。

 

(流石にこれは想像以上だな。ハザードレベル5ってのも有るだろうが……)

 

思えば正規の変身者で有る万丈龍我と近い面もある分クローズとの相性も悪く無いのだろう。ハザードレベルを高めたと言う点での強化も生きている。

 

元が一般人の為にオリジナルのクローズチャージに変身させたところで本来の変身者には遠く及ばないが、それは自分も同じだと自覚している。

 

(ラブ&ピースの為に戦う天才物理学者にはオレはなれないからな)

 

悪魔に成り上がったところで、女王にプロモーションしたところで、本当のクローズには届かないだろうが、今はそれで十分だ。

 

なお、今は関係ないことだが渡す気が無かったので通常のフルボトルを使っての特殊能力は劣化版も使えたりする。

 

四季が観察する中、映像の中のクローズドライグは目にも留まらぬ速さでライザーに突っ込んでいくが、ライザーはそれを間一髪で回避する。

 

ライザーに回避されたクローズドライグはそのままの勢いのままに壁に激突する。

 

衝突のダメージもなく壁に激突した際に発生した土煙の中からゆっくりとクローズドライグが振り返る。

 

『……まだ力を制御できてないようだな』

 

その力に脅威を感じたのだろう、ライザーから余裕が消えたように見える。

 

『認めたくは無いが、今のお前は化け物だ! 赤龍帝の餓鬼! 悪いがもう手加減しないぜ! リアスの前で散れ!』

 

『テメエェのチンケな炎で俺が消えるわけねぇだろぉ!』

 

互いに顔面へと拳を叩きつけるが、クローズドライグにはダメージがある様子はない。

 

『へへへっ、凄いな、全然効かねえよ。今のオレは、お前なんかに……負ける気がしねぇ!』

 

そう叫びながらクローズドライグはお返しとばかりにライザーの顔を殴り返す。

 

(防御面は……上級悪魔レベルなら問題なし、とは言い切れないな。あいつは今禁手(バランス・ブレイク)との同時使用している訳だし)

 

そう思った後、再び映像へと視線を向ける前に、

 

(そう言えば、大半の神器(セイクリッド・ギア)、いや全部が本来は禁手(バランス・ブレイク)状態が本来の運用形態と言う可能性もあるよな)

 

目の前の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)のそれが良い例だ。能力は変わらず全身に鎧を纏うライダーの変身システムに近い。

故に、少なくとも赤と白の一対のそれはあの状態が基本形態、言わば籠手は能力が使える程度の変身アイテムと言うのが分かりやすいだろうか。

 

(亜種の形態は通常形態で所持者のデータを収集して最適化した形と捉えれば、所有者のデータを収集する機能もあるのかもな)

 

ライダーシステムの開発能力を有している四季の視点での神器についての考察だが、興味も無いのでその辺で辞めておく。

桐生戦兎のそれのお陰かエボルト由来のフルボトルの技術の方が神器よりも強力で使いやすいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フェニックスの炎は本来ならばドラゴンにも傷を残す。まともにくらうのは危険だったはずだ』

 

驚愕の感情とともにドライグはイッセーへとアドバイスを告げる。

 

『お前の体を包んでいる鎧がフェニックスの炎を防いでいるのか?』

 

「へっ、だったらこいつが有れば無敵って事だな」

 

「巫山戯るな! そのオモチャがなければオレが触れるまでも無く、お前は消失している! お前など、そのオモチャと神器(セイクリッド・ギア)が無ければただのクズだ!」

 

「その通りだ! だけどっ!」

 

再度互いの攻撃が相手に直撃するが、今度は一方的にクローズドライグが殴り飛ばす。

 

「ぐあぁっ!」

 

今まで目立ったダメージの無かったライザーが先ほどのクローズドライグの一撃で苦しみ始める。

 

「この痛みは……っ!? 貴様ぁ!?」

 

「アーシアから借りておいたんだ」

 

そう言ってクローズドライグが開いた手の中に有ったのは十字架。

悪魔に対して激しい痛みを与えるそれを握りしめての一撃なのだ、不死身のフェニックスとは言え、元の聖獣としての鳳凰、フェニックスならば無害であろうそれも、悪魔のフェニックスならば不死身の特性と関係のない痛みとなる。

 

「聖なる力をギフトで高めた一撃は、いくら不死身のあんたでも効くだろう?」

 

「バカな!? 十字架は悪魔の身を激しく痛め付ける! 如何にドラゴンの鎧を身につけようが……っ!?」

 

そこまで言った後に、十字架の影響を受けない理由と、イッセーが僅かな時間で禁手に至った理由に行き着いた。

 

「……ドラゴンに腕を支払ったのか……? それがその馬鹿げた力の理由か!?」

 

「それだけじゃないぜ」

 

そう言って対価として支払っていない筈の腕に十字架を身につけてみせる。

 

「さっきからアンタがオモチャ扱いしてたこのスーツを着てから、十字架を握っても平気なんだよ!」

 

『おい、このままではラチが開かん。この鎧のコア、そこに譲渡しろ』

 

「ああ! 行くぜ、赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

映像だけでもわかる。開発者と言うよりも製作者だからこそ分かる。

今、イッセーはドライバーではなくスクラッシュゼリーの方に譲渡を行った。

……行ってしまった。

 

(幾ら何でも、それだけは想定していない、いや、想定出来なかったぞ!)

 

映像の中でクローズドライグの全身から吹き出す液化した成分が全身を包むと同時に、倍加させられた膨大なエネルギーによりドライバーとスーツが火花を散らして行る。

元々組み込んでおいた自壊装置と合わせてドライバーの限界へのカウントダウンが始まってしまったのだろう。

 

(嘘だろ?)

 

全身から溢れ出した液化成分が限界を迎えつつあるスーツに焼かれて急激に硬化していく。そこまでは良い。だが、問題はその形だ。

 

(クローズ……マグマ?)

 

単なる偶然か、必然か、高温に焼かれたスクラッシュゼリーのエネルギーは硬化しその姿をクローズマグマの形へと変化して行った。

 

いや、焼け爛れた様な姿は何処かアナザーライダーを思わせるが、それでもアナザーライダーの特徴など有して居ない姿は間違いなく仮面ライダーの物だと認識できる。

 

(急激にエネルギーが倍加された事による暴走、それに出口であるスクラッシュドライバーが耐えられなくなって決壊に近い形で全身から噴き出した上で、スクラッシュゼリーが突然変異を起こし始めている?)

 

一瞬だけ映ったスクラッシュゼリーに罅が入った所から推測してみたが真実は明らかではない。

 

(ってか、半ばハザードトリガー使ってる様なモンだよな、あれは。しかも、成分自体を強化した)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『チャージクラッシュ!』

 

「「オオオオオオオオッ!」」

 

クローズドライグが必殺技を発動させると同時にクローズドライグとライザーの拳がぶつかり合い、その衝撃が試合会場を吹き飛ばす。

 

「イッセー!」

 

「お兄様!」

 

リアスとライザーの妹のレイヴェルの叫びが響く中、拳を振り切った状態で立って居たのはクローズドライグだった。

 

「があぁ!」

 

ドライバーを中心に全身に走る火花と同時にイッセーの全身に激痛が走る。ドライバーに起こった小規模な爆発と共にイッセーのクローズドライグへの変身が解除される。

 

「はぁ……はぁ……どう言う事だよ?」

 

『あの鎧の中心を勘違いして強化してしまった様だな。力の核そのものを強化してしまったせいで限界が来たんだろう』

 

「くそ、それじゃあ」

 

スクラッシュドライバーのパーツが小規模な爆発と共に砕け散っていく。そしてイッセーから離れると同時に地面に落ち、最後の爆発共に完全に破壊されてしまった。

 

そして、最後に残ったスクラッシュゼリーも完全に砕け散った。

後に残ったのは一つのボトルだけ。

 

もう一度と思ってスクラッシュゼリーの跡に残ったボトルを握り締めた瞬間、ボロボロになったライザーがイッセーの首を締め上げる。

 

「『兵士(ポーン)』の力で良くやったと褒めてやろう」

 

イッセーの首を締め上げる中、

 

「正直ここまでやれるとは思わなかった。強い悪魔になれると思うぜ、お前」

 

そう言って締め上げて居た力が抜けてライザーは崩れ落ちる。

既に限界だったのだろう。最後の行動は最後の意地だったと言うことか。寧ろ、フェニックスの生命力が有ればこそ命の方が助かったと言える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……あれ? もう出来てないか、マグマボトル)

 

四季は試合結果を見ながらそう思ってしまう。

 

(まあ良いか。これでクローズマグマナックルが作れそうだし)

 

認識阻害用のアイマスクを取り出してナデシコCの詩乃と雫の2人に撤収の合図を送る。

 

「この様な勝手な行いをお許しください。でも、部長を、オレの主人であるリアス・グレモリー様を返してもらいます」

 

リアスの両親も仕方ないと言う様子でそれを認める。リアスの手を取る。

 

「おめでとう、イッセー君。所で、君の使って居た道具だが」

 

そんなイッセーの勝利を祝福するサーゼクスの言葉にイッセーは最後に残ったボトルを見せて。

 

「それが壊れてしまって、これだけしか……」

 

「フム。では、それを預からせて貰えないかな? もしかしたら修復できるかもしれない」

 

「っ!? 本当ですか!? 是非お願いします」

 

そう言ってイッセーがサーゼクスに渡そうとした瞬間、

 

 

 

『おっと、そうは行かないぜ』

 

『0・1・0』『マスカレイズ!』『快盗チェンジ!』

 

 

 

 

そんな音が響きボトルにワイヤーが巻き付く。

 

「何者だ!?」

 

周囲の貴族たちから騒めきが広がる中、バルコニーのある窓の元まで赤い影が飛び出す。

 

「お前は赤いコソ泥野郎!」

 

「ルパンレッドだ!」

 

そこに立ったルパンレッドを指差してイッセーが叫び声を上げるが、呼び名を訂正する。

そして、気を取り直して巻き付けたワイヤーを引いてボトルを回収しようとするが、

 

「すまないが、これは君には渡さないよ、ルパンレッド君」

 

ワイヤーの一部が消失し、ボトルはサーゼクスの手の中に納まってしまう。

 

「おいおい、魔王様。オレは奪いに来たわけじゃなくて、赤龍帝に渡した物を返して貰いに来ただけだぜ」

 

「ふざけんな、あの時お前、くれるって言ただろう」

 

「彼の言う通りだよ。贈り物の返品は良いことじゃないと思うね」

 

そんなやり取りをしている間に警備の兵士たちがルパンレッドの元に殺到しようとして居た。

自分の不利を悟ったルパンレッドはビルドドライバーを取り出し、

 

「仕方ない、それはあんた達に預けとくぜ」

 

それを装着して取り出した二つのボトルを装填、

 

 

 

 

 

『フェニックス! ロボット!』

『ベストマッチ!』

『Are you ready?』

 

 

 

 

「ビルドアップ!」

 

 

 

 

『不死身の兵器! フェニックスロボ! イェーイ!』

 

 

 

 

仮面ライダービルド・フェニックスロボに変身して取り囲み兵士達の前で背中の翼を広げ、

 

「御来賓の方々、お騒がせして申し訳有りませんでした。では、皆さま……オ・ルボワール」

 

背後に出現したナデシコCへと飛び去っていく。

そして、フェニックスロボを回収したナデシコCは反転し、飛び去っていく。

 

「「「宇宙戦艦!?」」」

 

駆けつけた一部の人間界について知っている貴族とイッセー達リアスの眷属達から驚愕の声が上がる中、宇宙戦艦の飛行高度に近づけない悪魔達はただ見送るしかなかった。

 

「せ、戦艦持ってる泥棒ってなんだよ……」

 

呆れを含むイッセーからのもっともな呟きが響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

「回収に失敗した様子ですね、彼は」

 

飛び去っていくナデシコを見送りながらナイトローグはそう呟く。

 

「これは少しまずい事になりそうだな」

 

新たな声に気がついてそちらの方へと視線を向けると、そこには盾のようなものを持った金色の騎士の姿があった。

 

「貴方ですか、『マルス』」

 

「ああ、お前を迎えにな。ソーサラーも迎えに来ているぞ」

 

「彼女も来て居たんですか。それは助かります。冥界からの転移は面倒なので」

 

金色の騎士『仮面ライダーマルス』の指差す先には2人へと手を振っている金色の魔法使い『仮面ライダーソーサラー』の姿が有った。

ナイトローグの口ぶりからしてソーサラーの変身者は女なのだろう。そんなソーサラーの転移によってナイトローグ達三人姿は冥界からの消えたのだった。



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閑話15.5話目

クローズドライグの、赤龍帝のスクラッシュドライバーの使用しての戦闘データと言う収穫はあったが、本命であったスクラッシュゼリーの回収に失敗したイッセー対ライザー戦は終わった。

 

 

原作とは違いライザーはドラゴン恐怖症にはならず、負けた悔しさをバネに一から鍛えなおしてるらしい。

 

 

そんな良いのか悪いのか分からない変化を持ってリアスの結婚騒動は終わった。

 

無事に帰って来たリアスもイッセー宅に同棲する事になり、増改築され豪邸となったと言う話だ。

 

「問題はあのボトルが悪魔側の手に渡った事だな……」

 

今回の成果に於ける大失敗を思い出しながら思わず頭を抱えてしまう。

後日豪邸となった兵藤宅に忍び込んでイッセーから『ハザードレベル5』を回収したので、今後彼が仮面ライダーに変身することはできないだろうが、それでも自分たちのアドバンテージであったフルボトルの技術が奪われてしまったと言うのは厄介だった。

 

現在はあのボトルはサーゼクスの元から四大魔王の1人のアジュカと言う技術担当の手元へ渡されたらしい。

 

「問題だよな」

 

悪魔の駒の開発者である以上、フルボトルの技術にも何か気がつくところがあるかもしれないと警戒している。

 

「そうよね」

 

「うん」

 

ネビュラガスやパンドラパネル、パンドラボックスが無い以上はハザードレベルと言う概念が無い。研究は難航してくれる事だろうが、早めに取り戻した方が良いだろう。

 

「まあ、今回の一件で多少なりとも協力してもガチャは出来ると言うことが分かったのだけは収穫だけどな」

 

今回の最大の収穫である新たに入手した十連ガチャのチケットを手に取りながら、今後の行動の方針を決める材料となる情報を挙げていく。

 

「でも、正体を明かして仲間になる気は無いんでしょう?」

 

「当然だろ」

 

少なくとも、アナザーリュウガの一件では自分達がルパンレンジャーや仮面ライダービルドとは明かして居ない。使ったのは魔人学園関連の力と仮面ライダーオニキスの力だけだ。

 

「当面は向こうの動きに注意した方が良いな」

 

序でに、手元にある十連ガチャ券は戦力増強のために使うと言うことに決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥界某所…

 

「それで、何か分かったかな?」

 

「研究対象としては中々に興味深いが、まだ何もわからないと言うのが現状だよ」

 

赤髪の男、サーゼクスが問いかけるのはアジュカ。彼の研究室にあるのはイッセーが使って完全に内部が破壊されたスクラッシュドライバーとスクラッシュゼリーが変異したボトルだ。

 

分解されたスクラッシュドライバーは内部構造が完全に焼けただれ、崩壊している。

 

「分かったのは二つ。一つはコチラのボトルの様なものの中の物を摘出してスーツに変える機能があると言う事だ」

 

「もう一つは?」

 

「開発者の名前らしきものが刻んで有った」

 

『SENNTO.K』と刻まれて居た部分を見せる。

 

「SENNTO? セントと読めば良いのかな、これは?」

 

「単なるイニシャルだが、恐らくこれがお前の妹の眷属の言っていた」

 

「三人組の怪盗のスポンサーと言うことかい?」

 

実際には四季が本家……と言うよりも本当の製作者に敬意を評して『桐生戦兎』の名前を刻んでいただけなのだが、思わぬところで魔王二人に変な勘違いを生みつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、冥界で2人の魔王の間で謎の人物『SENNTO.K』が話題になっている頃四季達は、ガチャの装置の前に立っていた。

 

「取り敢えず、狙いとしてはスパークリング、フルフル、ジーニアスの三種だな」

 

「それって、もしかして」

 

「ビルドの強化アイテム」

 

「前にハザードトリガーって言うの手に入れてなかった?」

 

「……あれ、使うと暴走するんだよ。…………必ず」

 

「そ、それじゃあ仕方ないわね」

 

詩乃の問いに遠い目をしながら答えると納得してくれた様子だ。長時間使えないからこそ安定して使える強化フォームへの変身のためのアイテムが欲しいのだが、

 

「それじゃあ、十連やってみるか」

 

そんな願いを込めて十連ガチャチケットを使う。

 

目の前の装置の中から10個のカプセルが飛び出してくる。最初のカプセルには、

 

 

『蓬莱寺京一の力』

 

 

だった。

 

「便利と言えば便利だけど……」

 

神速の剣士。前衛が自分だけの現状では使えても意味はないかとも思うものが出た。緋勇龍麻の力を持ってるし。続いて、

 

 

『如月翡翠の力』

 

 

魔人学園シリーズ二連続。水の力を操る玄武の忍者である。ルパンレンジャー時に使えば便利かもしれないが、しばらくは保留だ。

 

 

『比良坂紗夜の力』

 

 

二連ではなく三連だった。三人目の魔人キャラの能力。『伊邪那美命』の宿星を宿す唄姫。

しかも、この三つのそれは四季のそれと同じく宿星さえも含めている。

 

「今度こそ……」

 

 

 

『仮面ライダーウィザードのウィザードライバー』

『ウィザードリング各種(インフィニティ除く)』

『ドラゴタイマー』

 

 

 

次の三つは最強フォーム除いて仮面ライダーウィザードコンプリートである。

 

「暫くオニキスとウィザードメインにしようかな、オレ」

 

「便利そうよね、物凄く」

 

「私もこの魔法、見てみたい」

 

いきなりウィザード関連が最強フォームのぞいて揃った。しかも、インフィニティが最強とあるが、時折さらにインフィニティは強化される。

手数の多さもでのチートさは平成ライダー達の中でも基本フォームからチートに入るライダーである。

……はっきり言おう平成ジェネレーションでウィザードと戦った男は相手が悪かった。(鎧武とドライブと戦った2人にも言えるが)

 

続いて手に取ったカプセルの中には、

 

 

『グッドストライカー』

『シザー&ブレードダイヤルファイター』

 

 

「巨大戦も出来るようになったな、オレ達」

 

「巨大化する敵っているの?」

 

「居ないんじゃないかな~」

 

「あっ、こっちは綺麗」

 

過剰戦力なルパンカイザーは兎も角、シザーとブレードのダイヤルファイターはなぜか宝石の形をして居た。

劇中でもこの二つのダイヤルファイターは一対で宝石の姿になっていたのでガチャ産でも宝石として存在しているのだろう。

 

「VSチェンジャーに使えばダイヤルファイターになると思うから必要になれば使えば良いか」

 

最後の二つのうちの一つへと視線を向ける。

 

 

『風火輪(東京魔人学園)』

 

 

封神演義に出て来る宝貝の一つで東京魔人学園では便利な移動力上昇アイテムの一つである。

やはり、身に付ければゲームの効果と違って空を飛べる、飛ぶ様に走れるのだろう。

 

 

『オリハルコン(東京魔人学園)』

 

 

最後に出てきたカプセルの中には一対の手甲。魔人学園シリーズに於ける主人公の武器の一つで、かの伝説の金属オリハルコンで出来ている。

今までは未変身の状態では素手で戦っていたが便利になる事だろう。

 

「使えるのはオレだよな」

 

「ええ、私の場合、それを貰っても銃も弓も扱い難くなるし」

 

「私もそれはお兄さんが使うべきだと思う」

 

詩乃と雫の二人からも四季が使うべきと言う意見が出た為、自然とオリハルコンは四季の装備となった訳だが。

 

「所で、私はこれを貰っても良いかしら?」

 

そう言って詩乃が選んだのは比良坂の力だ。弓使いの彼女には余り相性が良いとは思えないが……

 

「元々私達は技だけだったし、強力なのは使えなかったのよね」

 

元々気や魔力の概念など無い世界の出身である詩乃にとって力を扱う感覚がうまく掴めなかったのだろう。

魔法と言う概念が、少し違う形とは言え存在していた上に魔法師だった雫には感覚も掴みやすかったが、詩乃にとっては難しかったのだろう。

 

そんな訳で四季としても、雫としても反対意見は無くその力は詩乃の物になったのだった。



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十六話目

さて、リアス・グレモリーの婚約騒動終結から数日、アナザーリュウガについて(怪盗としてではなく、前世の知識の関係ない所で)知った事をソーナに伝えてから数日。

球技大会が近づく中、特に部活に参加してない四季達三人は時にはぐれ悪魔退治をしながら過ごしていた。

 

そんな中で、数体のはぐれ悪魔の退治も終わり、そろそろガチャ券以外の手段でガチャが引ける時が近づいていた。

 

まあ、そんな中で厄介な事に巻き込まれてしまう事となった。

そもそもの原因はアナザーリュウガとリアスの婚約の一件。

 

リアス自身、イッセーの頑張りで婚約はなかった事になったが、それでも非公式ながら初のレーディングゲームでの敗北は悔しさと同時に焦りを生んでいた。

そんな中でソーナから伝えられたアナザーリュウガの一件である。そんな中でリアスは目を付けてしまった。四季達に目を付けちゃったのである。

 

「そう、そんな事が有ったのね」

 

「ええ、天地君達のお陰で犠牲者は出ずに、被害も最小限で済みましたが」

 

ソーナがリアスへとアナザーリュウガの一件の事を連絡していた。

四季からの情報を姉のセラフォルー・レヴィアタンへと伝えた結果、彼女から他の魔王達へ、ソーナからは警戒を促す為にリアスへと伝えるようにと言われた為に情報を共有の場が持たれた。

 

匙からの目撃情報でナイトローグの姿は悪魔勢力の間で凶悪な指名手配犯として扱われる事にになったが、問題はそれが『変身』した姿である事も有って、ナイトローグとして活動していない限りは発見することも難しいだろう。

 

(それにしても、そんな力を持ってる子達が三人も何処の勢力にも所属しないでいるなんて)

 

アーシアの神器とは違う癒しの力に、中距離型の弓使いに、近距離型の拳士。彼らを眷属に加えれば戦術にも幅が広がるだろう。手持ちの駒が二人分しかないのが残念な位だ。

 

弓使いは騎士の駒で機動力を強化してもよく、拳士は戦車の駒で突破力を高めても良いし、機動力を騎士の駒で高まるのも木場とは違ったタイプの騎士として有りだ。アーシアとは違う癒しの力は戦車の駒で耐久力を高めた上で回復役に回ってもらって良いし、騎士の駒による機動力の強化で素早く回復に回って貰っても良い。

そんな事を考える。

 

(もっと早く彼らの事を知っていれば、ライザーとのゲームも結果は違っていたかもしれないのに)

 

そう思うと、もっと早く知っていれば善戦できたのでは、とも思う。

初のレーディングゲームでの敗北の悔しさからの感情だが、手札が増えればそれだけ出来ることは多くなるのだ。

 

「このナイトローグと名乗った相手には貴女も気をつけて下さい」

 

「ええ、私の眷属達にも気をつけるように伝えておくわ」

 

そう言って渡されたのは匙の証言と四季経由で怪盗から渡された(という事に四季はしている)映像から書かれたナイトローグの手配書だが、ダークヒーローっぽい外見な為に特撮ヒーロー物の小道具にしか見えなかった。

 

直接的な被害を被っていないリアスにはナイトローグは、そんな外見から変なコスプレテロリストとしか捉えておらず、寧ろ興味は四季達の方へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、私達が合宿をしている間にそんな事が有ったらしいから、貴女達も気を付けてね」

 

オカ研の部室、先程ソーナからの渡されたナイトローグと匙が変えられたアナザーリュウガの写真を見せながらリアスも己の眷属達に注意を促す。

 

「うげ、このコスプレ野郎が、悪魔をこんな怪物に変えたんですか?」

 

ナイトローグとアナザーリュウガを見ながらイッセーはそんな声を上げる。

 

「ええ。それと、堕天使や天使とは関係は薄いと言うのが、お兄様達の見解らしいわ」

 

ナイトローグの姿はコウモリを模した姿。天使や堕天使が悪魔を連想させる蝙蝠をモチーフとした姿に化けるとは思えないと言うのが見解の様子だ。

悪魔を揶揄してコウモリと言うかも知れないが、態々自分達がそんな姿をするとは思えない。

怪物(アナザーライダー)に変える時に使ったアナザーライドウォッチを人工神器の一種と推測されたため、堕天使がはぐれエクソシストに仮装させて襲わせた可能性も捨てきれないそうだ。

 

「ええ、この学園のもう一人の上級悪魔の眷属を怪物に変えて主人を襲わせたそうなの」

 

「攻撃をしてもそのまま反射される、この能力は厄介ですね」

 

元々スピードを活かして手数で戦うスタイルの木場にとって、自分の防御力を下回る攻撃を反射できるアナザーリュウガの能力は厄介以外の何者でもない。

 

「それでも、もう退治されたから心配は要らないわ。それよりも大事なのは、その怪物に変えられてた眷属を助けてくれた、彼等よ」

 

そう言ってリアスは新たな資料を見せる。そこにあるのは四季達三人の顔写真。

 

「天地の奴に……おお! 一年の詩乃ちゃんと雫ちゃん!?」

 

四季の写真に微妙な表情を浮かべた後に詩乃と雫の二人の写真を見た瞬間、目を輝かせるイッセー。

 

「どこの勢力にも所属していない能力者が三人。キッカケも出来た事だし、同じ学園に所属する上級悪魔として私も一度話してみようと思ったのよ」

 

リアスも三人のうちの二人を空いた自分の眷属に誘いたいとも思ったが、流石にすぐには了承は得られないだろう。

先ずは一度会って人となりを知るべきと判断したわけだ。

 

「ちょうど駒は二つ空いているから、眷属に誘ってみようとは思っているけど、先ずは会って見ないことにはね」

 

声を掛けはするが、飽く迄誘うだけ。命の危機と言う緊急時でもないのだから、先任の眷属達との相性もある。

 

相性が悪く変に眷属の間で派閥が出来て二つに分かれるなんて事になったら問題なのだ。実践の最中に派閥が違うもの同士で協力出来ないなんて事になったら困る。

 

「詩乃ちゃんと雫ちゃんを眷属に!? オレは賛成です、部長!」(うおー! 良ぉしぃ! 部長から二人を眷属に加えたいって言ってくれるなんて、これってもう神様が……いや、オレは悪魔だから魔王様か? まあ良いや。どっちにしても、オレのハーレムに手を貸してくれてるとしか思えないぜ!)

 

既に四季のことは頭の中に無く、リアスの言葉に賛同しつつ心の中でそう絶叫していた。

 

「所でこちらの黒い騎士みたいな方は?」

 

4枚目の写真、仮面ライダーオニキスの姿が目に入った朱乃が疑問の声を上げる。

 

「黒いドラゴン。なんだがこっちの怪物に似てる気がします」

 

アナザーリュウガと見比べながら小猫はそんな意見をこぼす。

鋭いとしか言いようが無いだろう。共に仮面ライダーリュウガを原点としてそれを歪めたアナザーリュウガと、全く別のあり方となった仮面ライダーオニキス。共に仮面ライダーリュウガから生まれた存在なのだ。

 

「ええ、天地君がこの姿に変身してこっちの怪物と戦って倒したそうよ」

 

「なら、凄いのはあいつじゃ無くて、変身した奴じゃ無いですか、オレが使ってたらもっと早く解決出来てましたよ」

 

『凄いのはオニキスの力だけ』と四季が眷属に加わらないように反対するイッセー。可愛い女の子の代わりに男が眷属の仲間に入るのは大反対なのだ。

 

「そうね、この道具を使って強くなったのなら、赤龍帝の貴方が使えばもっと強くなれるはずよ」

 

「はい!」

 

どんな武器でもただ使っただけで強くなれる訳はないとは思うが、そんなに反対するのならとイッセーの言葉に同意しつつ四季を眷属に誘うと言うのは諦めるリアス。

 

「それに、こっちの二人ならアーシアとも良い友達になれる筈ですから!」

 

「イッセーさん……ありがとうございます」

 

アーシアの友達になれる。それは一応は本心からの言葉である。5割以上ハーレムに加えたい美少女二人が仲間になって貰いたいだけだとは思うが……。

 

「それじゃあ、次の放課後にでも二人には来てもらいましょう。ゆ「オレが呼んできます!」……ええ、それじゃあイッセー、お願いするわ」

 

テンション高めに二人を呼びに行く事に立候補するイッセーに任せる事にした。

 

二人を呼びに行くのを任されて、『ヒャッホー!』と言った様子で張り切っているからの姿に、元々上級悪魔になって眷属を持てるようになったらハーレムを作りたいと言っていただけに、だからなんだろうなと苦笑するリアスの眷属一同(アーシアと小猫除く)。

 

「……変態先輩」

 

小猫の呆れたようなそんな呟きが響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「っ!?」」

 

さて、地下に武器庫と戦艦の格納庫のある外見だけは一般的な邸宅の天地家のリビングにて詩乃と雫の二人が言い知れぬ悪寒を感じていた。

 

「ふ、二人とも、どうしたんだ?」

 

「う、うん、今、何だが」

 

「物凄い悪寒がした」

 

震えながら左右から四季に抱きついている二人。

 

「そ、そうか。それより、今週の末でも前に貰ったチケットを使うか?」

 

取り敢えず、そんな二人の様子に話題を変えた四季だった。

 

「チケット?」

 

「前に詩乃が当てたレストランの無料チケット。せっかくなんで使おうかなって思ってな。……次の事件が起こる前に」

 

街が一つ壊滅するかもしれない状況で呑気に食事は楽しめないと思って事件が起こる前に行く事に決めた。

 

「良いわね」

 

「うん、今から着て行く服とか決めないと」

 

四季の言葉に賛同する二人。まあ、悩みも有るのだが。

 

(このレストランのある地名って……米花町なんだよな)

 

調べてみたが、間違い無くこの世界は名探偵コナンの世界まで両立されているのだ。

 

(うん、取り敢えず、祈っとこうかな? 神様じゃ無くて、魔王(オーマジオウ)様とソウル様にでも、何事も起こらないように)

 

仮面ライダー世界の魔王とスーパー戦隊世界の神様に事件が起こらないように祈る四季だったのだが、

 

 

《無理だ》

 

 

祈った瞬間、二つほど声が重なって響いた気がしたのだった。




ってなわけで、皆さん投票有難うございました!
投票はこの話の投稿を持って締め切りとさせて頂きます!
次回の投票もすぐに行う予定ですが、其方も宜しくお願いします。


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十七話目

その日の放課後、イッセーは授業が終わると同時に教室から飛び出して行った。目指すは一年の詩乃と雫のいる教室。

 

その素早い行動は教室にいる人間全員を唖然とさせるほどだった。

 

イッセーの向かうその教室では一年の生徒達が帰宅の準備をして居た。

 

「おーい」

 

教室の扉を開けてイッセーが二人に声をかけようとするが、一瞬だけ教室から音が消えた。

まるで津波が起こる前に海が穏やかになる瞬間どころか、海岸線が大幅に下がるように。

 

そんな状況にイッセーが戸惑っていると……

 

「いっ……」

 

誰かの声が零れたのを合図にする様に、

 

 

『いやぁー!!!』

 

 

教室全体から悲鳴が上がる。以前木場がイッセーを呼びに来た時のとは違う恐怖の感情で、だ。

夜道で変質者に出会った様な叫びが教室中から上がる。

 

次の瞬間、

 

「変態三人組の兵藤一誠よ!」

 

誰かの叫びとともに椅子が投げつけられる。

ってか、相手は後輩なのに先輩の敬称すら付けられて居ない。

 

「おわぁ!」

 

そこは流石悪魔と言ったところか? ライザーとのレーディングゲームへ向けての特訓の成果か? 顔面に直撃しそうだった椅子を辛うじて回避する。

 

「な、なんな……痛え!」

 

突然の事に戸惑っていると頭を殴打される。其方の方を向くと箒を竹刀のように構えている女生徒が居た。

構えが様になっている姿は恐らく剣道部なのだろうが、恐怖に震えて涙目になっているが、必死に立ち向かおうとして居た。

…………イッセーに。

 

「え……えっと……」

 

さて、積み重ねた名声も一瞬で崩れることが有るが、積み重ねた汚名は寧ろ時間があっても中々消えない。

入学後から覗きなどの常習犯であったイッセー達三人。当然一年の中にも被害者はいる訳で。

 

教室の女生徒の何人かが武器になりそうなものをイッセーへと構えている。

 

 

 

はっきり言おう。オカ研に入部……と言うよりも悪魔に転生してから周りに美少女が多かったから教室での変態発言や行動は大分治まっていたが、過去の悪行は消える事は無い。

寧ろ、まだ卒業すればイッセーと関わらないで良い三年生よりも、今後イッセーが卒業するまで関わらなきゃならない一年生の生徒には一番嫌われている。

 

具体的には礼儀とは言え目上として扱わなきゃならないストレスやら、下手したら卒業するまで被害に合いそうな事とか(憐れにもイッセー達三人は一年の生徒の間では留年すると予想されている。本人の意図か、散々続けた変態行為の代償かと説は別れているが)。

 

余談だが、作者の原作でのイッセーの他の学年からの序盤での評価はこんな物だと推測している。(主に球技大会での殺意の向き方とか)

 

 

 

「ちょ、ちょっと待って……オレは……」

 

もう、恐ろしい悪魔に勇気を振り絞って立ち向かう勇者とその仲間達みたいな構図に本気でビビっているイッセーは説得を試みるが、イッセーは転生悪魔なので悪魔に立ち向かう構図というのは間違って居ない。

 

「出てけー!」

 

誰かの叫びとともに後ろに居た投擲組が一斉に持って居た物を投げつける。

 

「ぎゃー!」

 

投擲組からの一斉射撃に思わず頭を守って動きが止まった瞬間、前衛組が一斉に殴りかかる。

入学後から被害を受けた生徒達、序でにその中には変態三人が怖くて不登校になった生徒もいる。

被害者というつながりの元に正に以心伝心というチームワークでイッセーを袋叩きにしている。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ、オレは……ヒデブ!」

 

説得を試みて一人の手首を掴んで動きを止めて話を聞いて貰おうと、取り敢えず手を止めて貰おうと思った瞬間、イッセーの顔面にボールが直撃する。

 

足元に転がってきたボールを詩乃が投げつけたのだ。

正確な射撃では無くこの場合は、正確な投擲技術によって顔面のど真ん中へとヒットしていた。

 

「みんな、今の内に逃げるわよ」

 

「後ろから逃げて、生徒会か先生を呼んで来て」

 

イッセーが顔面へのボールの直撃に悶絶していると詩乃と雫がイッセーからの避難を促す。完全に襲撃して来た変質者への対応で有る。

……ってか、学園の生徒なのに教師を呼ばれるとは。

 

「待ってくれ、オレは……うわっ!」

 

「キャァー!」

 

真っ先に殴りかかって来た剣道部の子を呼び止めて話を聞いて貰おうと思うが、肩を掴んだ瞬間足元に投げ捨てられた武器に足を取られて彼女を巻き込んで倒れこむ。

……完全に押し倒した形だ。

 

「ひぃ……」

 

(おおぉ、事故とは言え夢みたいなシュチエーションに。うん、これは事故だ。事故なんだから仕方ないよな)

 

怯える押し倒された少女と自己弁護をしている押し倒したイッセーの図。

 

「逃げて! 今の内にみんな逃げてぇ!」

 

悲鳴に近い形でその少女が他の生徒に今の内に逃げる様に促す。

 

「おーい、一体なんの騒ぎだ!?」

 

「詩乃、雫迎えに……」

 

そんなタイミングが悪すぎる時に詩乃達を迎えに来た四季と、騒ぎを聞きつけた匙の二人が教室に入ってきた。

 

「「「……」」」

 

その瞬間、三人の男の間に沈黙が流れた。嫌な沈黙だった。『あの変態、白昼堂々女の子押し倒して何やってんだ?』そんな考えが四季と匙に浮かんでくる。そして、

 

「せい、やぁー!」

 

「ゲフゥ!」

 

四季の飛び蹴りがイッセーを蹴り飛ばし、少女から遠ざける。

 

「あ、天地、何しやがる!?」

 

「匙、今の内にその子を」

 

「おお、良くやった! こっちは任せろ!」

 

「ああ!」

 

突然蹴り飛ばされて四季に対して抗議の声を上げるが、そんなイッセーを他所に四季は押し倒されていた少女を逃す様に匙に指示を出して、匙もそれに応えて少女を立ち上がらせてイッセーから逃す。

四季と匙の対応に本格的にどういう状況か自覚したのか、顔色が悪くなるイッセー。

 

「オイコラ、兵藤! 白昼堂々と女生徒を襲うなんて何考えてやがる」

 

「ま、待ってくれ、それは事故なんだ!? オレはリアス部長の使いで詩乃ちゃんと雫ちゃんを呼びに……」

 

「取り敢えず、寝てろ!」

 

匙の言葉に慌てて弁明するイッセーだったが、場の鎮圧を優先した四季がイッセーの弁明を聞かずにイッセーの前に飛び出していく。

 

「ゲフゥ!」

 

彼の懐へと飛び込み腹部への掌打から始まり龍星脚へと流れる一連の連続攻撃が決まり、壁へと叩き付けられイッセーは気絶する。

 

「よーし、話は生徒会室で聞かせて貰うぞ。天地、今日は助かった」

 

「当然の事だ、気にするな」

 

女生徒達から歓声が上がる中、事情聴取の為に気絶したイッセーを引きずって生徒会室に連行する匙と、問題解決とばかりに詩乃達と帰宅する四季。

 

『駒王の皇帝(エンペラー)』そんな渾名が四季に着いた瞬間で有る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、イッセーが女生徒達に殴られたのは日頃の行いが原因なのは良いとして、リアスの使いだった事は早々に証明された。ソーナがリアスに確認をとったからだ。

流石にイッセーが今までの行いが原因で嫌われている事を忘れていたリアスにも非が有ったりする。そもそも、一年の生徒になんて悪いところしか知られていない。

その事についてはソーナは後で徹底的に注意すると心に誓ったのは余談として、イッセーが女生徒を襲っていたという状況だが……。

 

殆どが女子の生徒会メンバーからゴミを見る視線が向けられる中、必死にあれは事故だと弁明するイッセー。

最早彼が有罪となるのは時間の問題と思われる中、イッセーが女生徒を押し倒していたのは事故であることを証明してくれたのは小猫であった。

 

流石に一年生の小猫は一年の間でのイッセーの評判を知っていた為に、一抹の不安を覚え自身の使い魔に詩乃と雫の教室の様子を見て貰っていた。

 

……結果、教室に入った瞬間声をかけることもできずに袋叩きに合い、最終的にその中の一人を押し倒してしまった事を小猫経由でリアスに伝えられ、その事をソーナへと伝えられてイッセーは誤解だと証明できた。

 

当然ながら助けに入った四季にはお咎めなし。殴りかかったり一斉攻撃に参加した生徒達も普段の彼の行いからお咎めなし。普段の行いが悪い為に事故で押し倒してしまったイッセーも“今回は”お咎めなしとなった。

 

流石に何もしていないのに殴りかかった側がお咎め無しなのは彼の主人であるリアスは憤ったが、転生前に積み重ね続けた悪行が原因と言われれば納得するしか無かった。

 

 

 

 

……教訓、普段の行いには気をつけよう……。

 

 

 

 

 

『……オレ、変なのに宿っちゃったか?』

 

相棒であるドライグもイッセーの惨状に呆れたように呟くのだった。まあ、相棒である以上一蓮托生、覚醒後のイッセーの名声はドライグの名声にもなるだろうが、悪名もドライグに付属する。

後に呼ばれる事になる『乳龍帝おっぱいドラゴン』、それは邪竜にさえも恥と思われないか心配である。

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、イッセーの奴、詩乃と雫の事を呼んでたような……」

 

「四季、嫌な事言わないで」

 

「あの人には近づかれたくない」

 

取り敢えず、ルパンレンジャー時の怪盗衣装の時は正体知られないだけマシだが素顔の時は嫌なようだ。

 

最近洋服崩壊(ドレスブレイク)なんて技まで会得したせいで余計に近づかれたく無くなったそうだ。

 

「考えられる事は……アナザーリュウガの時の事か?」

 

「四季だけじゃ無くて私達も力を見せちゃったし」

 

「あれが原因だったら……」

 

一瞬見捨てた方が良かったかと思ってしまう詩乃と雫の二人だった。

 

「ま、まあ、助けたのは緊急時だったから」

 

「それは分かってるけど……その上でも近づかれたくないのよ」

 

詩乃の言葉に同意する雫。仕方ないと思いつつも、イッセーの行動には注意を払っておこうと思う四季だった。

 

(……万丈さん、貴方のボトルの成分、あんなのに使わせてすみませんでした)

 

序でに心の中で謝る四季であった。



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十八話目

「君はこれから、紛い物の仮面ライダーシザースです」

 

 

『シザース……』

 

 

「あぁぁぁあ!」

 

目の前でアナザーシザースに変貌させた男を見下ろしながらナイトローグは溜息を吐く。

 

「ふう。手駒のアナザーライダーの確保も大変ですね」

 

いくつかのブランクライドウォッチを取り出し、同じ異形の顔が浮かんだライドウォッチへと変化させる。

 

 

『『『メイジ……』』』

 

 

アナザーメイジウォッチに変えた複数のライドウォッチを仕舞うとナイトローグはアナザーシザースを連れて姿を消す。

 

「こう言う作業に向いていないとはいえ。聖剣を盗りに行っている彼が羨ましいですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無造作に持った鞘に納められた剣を持ちながらその仮面の戦士は二本目の剣を手に取る。教会が所有する聖剣……エクスカリバーの内の二本だ。

 

「これで良し」

 

彼、『仮面ライダールパン』は二本の聖剣を見事盗み出すことに成功し、教会を後にする。

あらゆるセキュリティを嘲笑い盗み出す様はまさに怪盗といった所だろう。

 

残りも盗み出しても良かったが、飽くまで任されていたのはそのうちの二本のみ。

予告状も出せず、盗み出した成果として己の名を名乗れないのは不満だが、今はその時では無いと任された役目に専念する。

 

「それでは……adieu」

 

誰に対して言ったのか定かでは無いが仮面ライダールパンは其処から姿を消して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソードブリンガーを振り回しながら何処かの研究所のような場所で暴れまわるのは、仮面ライダーマルス。

 

「もう逃げられんぞ」

 

その研究所の所有者らしい男が怯えながら尻餅をついている。

 

『人間兵器』、人間を薬品により強化して強力な兵士を作り出すことを目的とした違法な研究施設。目の前の男はこの研究施設の代表で有り、主任研究者でもある。

だが、それも表向きのものでしかない。その研究施設は楽に強力な眷属を得たい悪魔の貴族が自身と契約した権力者を利用してスポンサーとして運営されていた。

死んだ所で成功例は悪魔に転生させればそれなりに使える兵士となる、と。使い捨てであっても駒は戻るので新しい兵士に使い直せば良い、そんな考えの元に作られた研究施設だが、目の前の黄金の騎士の手によってその日壊滅した。

 

「さて、今度はお前の命をオレ達のために使って貰おうか」

 

 

『デューク……』

 

 

「ぎゃあぁぁぁ!」

 

絶叫を上げながら男はアナザーライダーデュークに姿を変える。

 

「序でだ」

 

 

『スイカ!』

 

 

マルスは自身のベルトのロックシードをスイカに入れ替える。スイカアームズの力を利用して破壊し尽くし、マルスはその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナイトローグ達がそんな暗躍する中、駒王では……

 

「すみません、朝田さんと北山さんはいますか?」

 

先日の反省から小猫が二人を呼びに来た。

 

流石にソーナからイッセーの今までの行動について注意されてから判断を改めたのだろう。

今までの行動の全ては悪魔への転生前の行動であり、リアスには主人としての監督責任はないが、それでも今後は主人として見ておくようにとのことだ。

 

そんな訳で同じ一年の小猫に使いを任された訳で、二人の姿を確認して二人の前へと向かって行く。

 

「えっと……」

 

「お二人にリアス部長が用が有るそうですから、一緒に来てもらえませんか?」

 

「「あの変態に近づきたくないから、嫌」」

 

ほぼ声を揃えて告げられる拒否の言葉。小猫も小猫でやっぱりと顔に書いてある。

 

何のつもりかは分からないが、イッセーが来たと言うことはリアスからの使いなのだろうと言うことは推測済みだった。

 

そもそも、一週間ちょっと程度で運動部の合宿の延長レベルの特訓でプロに勝てると考えてる時点で四季達の中でリアスの評価は低かったりする。

四季も外付けのガチャで力を貰った身の上ではあるが、それでも訓練場所には恵まれている。

 

 

『ダイオラマ球(in旧校舎&龍泉寺)』

 

 

があるためだ。外の一時間を中での1日にする機能のあるダイオラマ球と東京魔人学園シリーズの二大訓練場所が付属したネギまに出て来る便利アイテムである。しかも、ダイオラマ球の中での活動中は老化しないと言う女性陣に配慮された高性能タイプと付属の説明書に書いてあった。

 

休憩所として旧校舎の教室の一つの設備を整えたり(何処から電力が入って来ているか不明だが)、寺とは言えそのまま使える休憩所があったりして、下準備を終えてから毎日実戦訓練として潜っている。

結果、現在では旧校舎と龍泉寺の内3部屋は四季達のナデシコCに続くプライベート空間に、一番大きな一部屋はミーティングルームになっている。

 

そんな四季達の特訓事情はさておき、二人の返答にやっぱりと思っても小猫としてもそこで『はい、そうですか』とは行かないのだ。

 

「二人とも、迎えに……」

 

ちょうど四季が入ってくる。ちょうど良いとばかりに四季にも来て貰おうと思った訳だ。

イッセーが反対していたからリアスも彼は呼ばなかっただけで元々彼にも目は付けていた。呼んだとしても文句があるのはイッセーだけだろう。

 

「すみません、天地先輩にもリアス部長が用があるそうなので来て頂けませんか?」

 

そう告げられた小猫の言葉にどうすると言う視線を二人へと向けると、四季に任せると言う意思のこもった視線を返してくる。

 

イッセーや木場相手ならバッサリと断っても良い、場合によっては武力行使で黙らせても良いが、流石に小猫のような小柄な少女にお願いされると断り辛い。

 

「仕方ない、何度も来られても困るからな」

 

これは本音である。何度も来られても困るので小猫の頼みを聞いてオカ研に行く事を了承する。

 

「四季、良いの?」

 

「何度も来られても困るからな」

 

詩乃の言葉にそう返す四季。毎回来られては動き辛くなるのは避けたいのだし。

 

そんな四季の意見には二人も同意して小猫の先導の元にオカ研に向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オカ研の部室にある旧校舎。何度も利用しているダイオラマ球の中に設置されている旧校舎も似たようなものだが、掃除が行き届いていて誰にも利用されていないと言うのが不思議なほどに綺麗になっている。

 

(リアス・グレモリーが人間界での拠点に利用するから掃除も整備もしてあるって所か)

 

その点に関しては特に思う事はない。一応旧校舎と名のつく建物は似たような物を自分達も利用しているのだし、いずれは解体される建物なのだ、自分金や、自分の実家の金で改装したのなら文句は無い。

 

「部長、連れて来ました」

 

「入って良いわ」

 

オカ研の部室前に着くと子猫は軽くノックをして部室の中にいるリアスとそんな会話を交わしてドアを開ける。

 

「おお、一年の詩乃ちゃんに雫ちゃん!? ……って天地まで何でいるんだよ?」

 

入った瞬間、二人に視線を向けた後四季の姿を見て不満そうな顔を浮かべるイッセーを無視してその部屋の主人であるリアスへと視線を向ける。

 

「こちらの呼び出しに応じてくれてありがとう、朝田さんに北山さん。それに、貴方も来てくれて嬉しいわ、天地四季くん」

 

リアスは微笑みながら次の言葉を告げる。

 

「私達、オカルト研究部はあなた達を歓迎するわ。悪魔としてね」

 

微笑みを浮かべながら告げられた言葉に警戒心を抱きながら促されるままにソファーに座る。

 

「粗茶です」

 

「どうも」

 

話をする前に朱乃が三人の前にカップに入ったお茶を出す。それに手を付けずに四季は目の前にいるリアスへと視線を向ける。

 

「それで、ご用件は何でしょうか、グレモリーのお嬢様? まさか仲良くお茶をする為に呼んだ訳じゃ無いでしょう」

 

「ええ、単刀直入に聞くわ。貴方達、『セント』と言う人物の名前に心当たりはある?」

 

「セント?」

 

何の事だと疑問を浮かべる中聞き間違いに気が付く。

 

(そう言えば、ドライバーに刻んでおいたな、開発者の名前として)

 

葛城巧では無く桐生戦兎の名前を刻んでおいたのだが、イッセーに渡したスクラッシュドライバーのその部分が残っていたのだろうと考える。

 

この世界には存在しない仮面ライダーシリーズの中の登場人物の名前だなどと、知る術も無いだろう。

 

「知らないですね」

 

「貴方が黒い騎士に変身するのに使った道具、あれの開発者の名前じゃ無いのかしら? あの黒い騎士と似た物を確認しているのよ」

 

クローズドライグの事だろう。オニキスもクローズも共にドラゴンモチーフの仮面ライダーだ。特徴は似ているので同一の開発者と疑うのも無理はない。だが、

 

「残念ながら、オレのカードデッキ……ああ、これの呼び名ですけど、これを開発したのはユーブロンと言う人物です」

 

嘘は言っていない。四季の持っているオニキスのデッキはユーブロンの開発した物で間違い無いだろう。

 

「っ!? そう、それで……そのユーブロンと言う人とはどこで出会ったの?」

 

残念ながら知りたがっていた情報とは違うかもしれない、そんな事実に表情を歪めるが、直ぐに表情を引き締め直す。

セントとユーブロン、別の名前を使っている同一人物と言う可能性もあるし、違ったとしてもその人物に接触して四季がカードデッキと呼んだ変身の道具を自分達も入手できればそれで良いのだから。

 

「オレが貰ったのは最初に生徒会の人達を助けた後ですね。鏡の中から現れた、異星人の科学者を名乗ったユーブロンさんから、ね」

 

THE大嘘。鏡の中、アナザーリュウガやオニキスだけしか移動手段がない場所にいるのだから接触も難しいと考える他ない。

 

(私達の分は諦めるしかないわね。でも)「そ、そうなの」

 

ユーブロンと名乗った者が異星人と名乗ったと言うのはツッコミどころだが、それよりも優先するのは勧誘と交渉だと考え直す。

 

「改めて、天地くん、そのカードデッキかしら? それを譲ってもらいたいの、赤龍帝の神器を宿したイッセーがそれを使えればもっと強くなれるはずなのよ」

 

「はあ?」

 

「金銭でも、願いでも、それに見合う対価は支払うわ。それと、朝田さんと北山さん、貴女達に私の眷属になって貰いたいのよ」

 

悪魔である以上欲しいと思ったものはどんな手を使っても手に入れたい。

そして、ライザーの時にイッセーが使った力はリアスも魅了された。それと似た強力な力が目の前にある。

悪魔という者の象徴的な色の一つである黒とドラゴンと言うモチーフ。イッセーが身に付ければ赤龍帝の籠手と合わせて、漆黒の鎧に赤の籠手、紅の殲滅姫と呼ばれた自分に仕える為に用意されたのではと思いたくなる程の取り合わせだとリアスは思う。

 

「残念ながらお断りだ。詐欺を働く気はないんでね」

 

「詐欺? どう言う意味かしら?」

 

「カードデッキには悪用防止の為に最初の使用者のDNA情報が登録され、それ以降は同じDNA情報を持つ者にしか使えない。つまり、売ったところでそっちは使えない道具に対価を支払っただけに終わる」

 

使えないものを売るのは詐欺だと考える上に、大事な手札の一つを売るわけにはいかない。

開発者ならば書き換えることはできるだろうが、リアス達は四季の言葉に本当かどうか疑問に思う。

 

「そんなのやってみなきゃ分かんねえだろ!? オレだって使えるかもしれないのに!?」

 

「イッセーの言う通りよ! 試しても居ないのにわからないわ! それに、そうだとしてもアジュカ様なら解析することも……」

 

四季の言葉にイッセーが噛み付く。それに同調してリアスも技術担当の魔王ならば解析し、使用者情報を書き換えることも、量産する事も出来るだろうと叫ぶ。

 

「どっちにしても譲る気は無い。何より……アンタが支払うって言った対価、魔王のお兄さんなら兎も角、単なる次期当主ってだけのアンタに支払って貰えるとは思えないんでな」

 

「っ!?」

 

家を継いだわけでは無いのに払えるのかと言う言葉。その言葉に一度言葉を失ってしまうリアスだが、

 

「それなら此方が対価を支払ってからそれを渡して貰うと言う形にしても良いわ」

 

「そっちが支払えたとしても売る気はない」

 

「そう……。それで、貴女達の返事は…」

 

目の前の力は魅力的過ぎたが断られた以上は、もう一つ魅力的な力を持った彼女達への勧誘の方へと意識を切り替える。

 

「私は断るわ」

 

「私も嫌」

 

リアスの問いに返す形で詩乃と雫からの断りの言葉が響く。



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十九話目

「こ、これは……」

 

リアスの結婚式での赤い怪盗姿の四季の行動の映像は一部の貴族の間には流れていた。

まあ、逃走に宇宙戦艦を持ち出すなどと言うかなり派手な行動をしたので注目されるのは当然だが。

 

だが、彼女『シーグヴァイラ・アガレス』は四季の逃走に使ったナデシコCに目を輝かせていた。

 

「あれは……間違いなく宇宙戦艦!? では、あの中にはダンガムが有るはず!?」

 

妙なマニアの直感がナデシコの中にあるアメイジングストライクフリーダムの存在に気付いていた。…………親とセットで。

 

後にアメストフリを見た瞬間、「攻撃自由の改修機!? しかも、攻撃と同じ感想機能が……」とマニアックなマシンガントークを親子セットで魔王少女が聞かされることになるのだが、それはまだ未来の話。

 

「欲しい。いえ、せめて一度だけでも乗せてもらいたいですわ!」

 

「ああ、どんな対価を払ってでも……乗せてもらいたい!」

 

親子揃って怪盗に出会ったら土下座してでもナデシコに乗せて貰いたいと考えている辺りマニアの執念が渦を巻いていた。

輝かせた目を血走らせてナデシコの映像を見ているマニア二人の姿にアメストフリを見せたらどうなることかと、妙に未来への不安を募らせる光景である。

 

この親子、ナデシコCに乗る為に全財産を差し出さないか心配でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、悪魔になれば永遠に近い命や若さも手に入るわよ」

 

「いや、眷属悪魔の現状考えたらデメリットにしかならないだろ」

 

即座に断られた二人に対して悪魔に転生するメリットを示そうとするリアスの言葉にそう呟く。

 

「どう言う意味かしら?」

 

「いや、永遠に近い命が手に入るって言っても、相手に支えなきゃならないなら、永遠に近い命の対価は永遠に近い人生って事だろ?」

 

イッセーに視線を向けながら、この場合は嫌ってる相手と永遠に近い人生同僚をする羽目になると言う事だと思うが、敢えてそこは指摘しない。

 

別に悪魔が契約で人を騙すのは良い。寧ろそれが悪魔としては正しい姿だろう。契約を守りながら契約を利用して相手を騙すのは騙される側が悪いが、契約を破るのは単なる外道だ。

 

序でに領地を分けてもらえても領地の経営と言うのも面倒なものがあるのだ。

 

「そんな事はないわ! それに私は彼女達と話してるの、口を挟まないでちょうだい」

 

「私としてもそんなメリットには興味ないわ」

 

「私も興味ない」

 

四季に対して口を挟むなと叫ぶリアスだったが二人からの返事はまたしても拒絶の言葉。

お前が余計な事を言うからと言うような視線で四季を睨んで来るが、そんな視線を向けられている四季はリアスからの怒気を受け流している。

 

この世界についての知識を持つ四季の邪魔をしないように関係のないところでは口を出さなかった二人だが、二人としてはそれで良かった事に安堵していた。

 

「そう言う訳で、オレ達としてはアンタの交渉も勧誘も受ける理由はない」

 

「私としてはあなたのそれが本当にイッセーには使えないか確かめたかったのだけど」

 

リアスの視線は四季の持つカードデッキへと向かう。

 

「身内贔屓の評価も程々にした方がいい良いんじゃないのか、お嬢さま? アンタじゃオレ達には交渉する価値すらない」

 

そんなリアスの視線に気付いたのかは分からないが、四季は冷たく言い捨ててカードデッキを仕舞うと、

 

「試しに貸してやる理由もないし、売る気もないし、要件がそれで終わりならオレ達はこれで帰らせて貰おうか」

 

「テメェ!」

 

そう言って立ち上がった瞬間、殴りかかってきたイッセーの腕を受け止める。

 

「何のつもりだ?」

 

「五月蝿え! 黙って聞いてりゃ、部長を悪く言いやがって!」

 

「こっちの評価を言ったまでだ」

 

「巫山戯んな、部長ほど王に相応しい人は居ないんだよ!」

 

イッセーの叫びにそっちの部下なんだから何とかしてくれと言う視線をリアスへと向けるが、

 

「そうね、身内贔屓かどうか試して貰いましょうか」

 

「おい」

 

四季の思いとは逆にイッセーを煽ってくれるリアス。

 

「はい!!! 任せてください、部長! こいつだけはぶん殴らないと気が済まないんです!」

 

「ええ、頼んだわよ、イッセー」

 

「だから、何でそうなる?」

 

そもそも受けるとは言ってないのだ。此処でイッセーと戦うことに対するメリットも無い。

 

「あら、自信がないの?」

 

「無いのは自信じゃ無くて、こいつを殴り飛ばすメリットだ」

 

挑発する様に言ってくるリアスの言葉に呆れたような表情を浮かべながらそう返す。

イッセーを半殺しにする自信は普通にあるが、態々半殺しにする理由もメリットも無い。

 

「それなら、貴方がイッセーに勝ったら望む対価を支払うわ。ただし、貴方が負けたらそのカードデッキを貰いましょうか?」

 

要するに負けたら好きな対価を支払うからオニキスの力を賭けてイッセーと戦え、と言う事だろう。

 

(折角オレ以外には使えないって忠告してやったのに)

 

最悪はカードデッキを取られた所でルパンレンジャーになって盗み出せば良いのだが、それでも面倒な物は面倒だ。

 

「そうか……なら、そっちが負けたら、悪魔勢力はオレ達に関わるな、だ」

 

明らかにリアスの権限を超えた事を対価に要求する。

 

「四季、それって悪魔勢力に対する対価になってない?」

 

「こう言っておけば後で何かしてきても、魔王の妹の名前を出して返り討ちにできる」

 

そんな対価を出した事に疑問を持った詩乃の問いに四季にはそう答える。

力を知られた以上は悪魔側からの接触がこれから出てくるかもしれない。それに対する対策の一つとして、リアスの名前を出した上で返り討ちにした場合の責任を彼女、延いてはその兄である魔王に押し付けるための伏線である。

 

「分かったわ」

 

そんな四季の考えに気付いていないのか、それとも気が付いていてもイッセーが負ける訳がないとでも思っているのかは分からないが、四季の条件を飲んだ。

 

「悪魔は自分の欲望に正直であるべきだと思ってるのよ。だから、欲しいと思った物はどんな手を使っても手に入れるわ」

 

「欲望に忠実な奴ほど破滅するぞ」

 

「忠告痛み入るわ。でも、私はどこまでも悪魔なのよ」

 

だからイッセーの言葉に乗る形で賭けに持ち込み手に入れる、と。

良い機会だから雫の力も自分の目で確認したいと言うのもあり得そうだ。

 

実際、リアスは四季からカードデッキを取り上げた上で二人とは再度交渉すれば良いとも考えていた。

特に雫、最低でも強力な回復手段を持った彼女を眷属に出来れば、ゲームにおける継戦能力は大きく上がるのだ。そういう意味では一番欲しい人材だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結界が張られた校庭で対峙する四季とイッセーの二人。周囲で観戦する形でお互いの仲間が二人の様子を眺めている。

 

互いに禁手やライダーへの変身は無し。飽く迄生身での一対一での模擬戦だ。

 

「行くぜ! 昨日のお返しにぶっ飛ばしてやる!」

 

「……」

 

自分の神器である赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を出現させるイッセーと、イッセーの言葉に応える事なく懐から取り出すような仕草で武器庫の端末からオリハルコンを取り出して身に付けている四季。

 

「って、天地! その籠手はどこから取り出したんだよ!?」

 

「見てただろ、取り出す所」

 

明らかに懐に入っていたサイズの装備では無いだろう。

 

「大体片手だけでもお前だって付けてるだろ」

 

「うっ」

 

イッセーの言葉にそう告げて両手に装備したオリハルコンに僅かに気を流す。初めて使う武器なので多少扱いは慎重に行うが、

 

(うまく行ったな)

 

微かな雷気を纏う両手の手甲。輝きから行って普通に存在する金属では無いことには見るものが見れば気付くだろう。

オリハルコンの材料となった金属の特性なのか、この手甲は気を流すことによって雷気を纏う事ができる。実際やって見ないことにはできるかは分からなかったが、問題無いようだ。

 

「さあ、始めようか」

 

「へっ! 高々人間に何が出来る、こっちは悪魔だぜ! フェニックスにだって勝てたんだからな!」

 

ライザーに比べれば大したことはない、此処でカッコ良く四季をぶちのめして詩乃ちゃんと雫ちゃんを自分のものにしてやる、そんな考えを浮かべながらイッセーは殴りかかる。

 

それに合わせるように拳を放つ四季。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)とオリハルコンを纏った拳のぶつかり合いが、ゴングとなった。



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二十話目

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を纏ったイッセーの拳とオリハルコンを纏った四季の拳がぶつかり合った瞬間、イッセーの腕が体ごと大きく後ろに弾かれた。

 

「遅い。そして、甘いっ!」

 

弾かれたイッセーとの距離を詰めると顎を狙って掌打を打ち込む。

 

「がっ!」

 

悪魔と言っても元は人間。純潔の悪魔と言っても肉体構造が人間と変わらないならば、元人間の転生悪魔も顎を狙い脳を揺らされればダメージは変わらない。意識はあっても体は立ってはいられないだろう。

 

予想通りイッセーの体が崩れ様とする。そんな瞬間を逃さず龍星脚を放つ。

掌打を顎に打たれての体に力が入らない状態での上段蹴りの流れによってそのまま地面を転がっていくイッセー。

 

「イッセー!」

 

「イッセーさん!」

 

そんなイッセーの姿に叫びをあげるリアスとアーシアの二人。

 

元々人一人吹き飛ばす程度の威力のある技である龍星脚を力が入らない状態で受けたのだからそれも当然の結果だろう。

 

先日の一件と同じ流れの技の組み合わせを選択したが、

 

「テ、テメェ……」

 

さすがは悪魔と言った所だろうか、フラフラとした様子で立ち上がってくる。

 

(天地の野郎、何もしないなんて余裕のつもりかよ。でもな、お前が余裕ぶってる間にチャージする事が出来たんだ)

 

籠手から『boost』と言う音が聞こえてくる。既に何回か倍加に成功してるのだろう。

 

(倍加したオレの力は上級悪魔にも匹敵するって部長が言ってた! 当たったらあんな奴!)

 

一直線に殴りかかってくるイッセーの拳を紙一重で避け、四季は籠手に触らない様に腕を掴み、蹴り砕かんばかりの勢いで足を払い、腕を離してその場を離れる。

当たれば上級悪魔にも通用する一撃はそのまま校庭へと直撃した。

 

「へー、それは地面を耕す為の神器だったのか? 初めて見たな、そんな神器」

 

校庭に大穴を開けて顔面から土に埋まってるイッセーに対してそう挑発する。

 

イッセーは気付いていない事だが、イッセーは悪魔になった事で肉体的な強度は上がってるだろうが、四季も気による身体能力の強化によって瞬間的な身体能力は人外にも負けてはいない。

 

「ふざけんじゃ、ねえ!」

 

埋まっていた土の中から抜け出すと赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)をつけた左手で再び殴りかかるが、先程と同じ様に僅かに体をずらして避けられてしまうが、

 

「余裕ぶってんじゃねえ!」

 

警戒されてるであろう左手では無く右手で四季の顔面へと拳を振り抜く。

 

「いや、実際……」

 

「っ!?」

 

当の四季は割り込ませた右手を盾にしてイッセーの拳を防いでいた。しかも、盾にした右腕にもオリハルコンは装着しているわけで……

 

「つい最近までケンカもした事ないお前の攻撃なんて棒立ちしてなきゃ当たらないぞ」

 

「いってぇー!」

 

四季の言葉は聞こえていないのだろう。オリハルコンを殴った手の痛みに悶えていた。

イッセーは倍加が無ければ単なる下級悪魔。それもつい最近までケンカもした事のない素人だ。実戦経験と言えばレイナーレの一件とライザーとのレーディングゲームだけだろう。

四季も似た様な者だがガチャによる特典で天賦の才と言うべき高い資質を持ち、ダイオラマ球の中の旧校舎地下での怪物達との実戦訓練で戦闘経験はイッセーの比では無い。

 

「何だよ、それは!? なんで出来てるんだ!?」

 

悪魔であるが全力で殴っても凹み一つ無い手甲に対して文句も言いたくなるだろう。

まあ、そもそも兵士の駒八つとは言え自陣である駒王学園の真ん中で戦ってる以上、身体能力では子猫にも劣る彼の力では普通の手甲でも防ぐのには十分だろうが。

 

「まあ、特別製なのは認めるけどな。それじゃ、次は……こっちから行かせて貰おう、か!」

 

体内で練った気を炎気へと変換。巫女に降る神の炎を模した炎気。

 

「巫炎!」

 

その炎を纏った掌打をイッセーへと打ち込む。

 

「ガハッ!」

 

その技のことを知っている詩乃と雫の二人は驚いていないが、四季の技のことを知らないリアス達グレモリー眷属は驚いている。

 

「がぁあ!」

 

炎を纏った掌打である巫炎を打ち込まれた打撃の痛みや炎の熱さに加えて、神の炎を模したが故に炎が僅かながらに持った聖属性による痛み。三重の痛みに晒されたイッセーが悲鳴を上げる中、今度は体内の気を冷気へと変換し、冷気を纏った掌打を撃ち込む。

 

「雪蓮掌っ!」

 

「あぐっ!」

 

痛みに耐えながらもなんとか防ぐ事ができたイッセーだったが、防いだ赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を纏った腕が冷気をによって凍り付く。そんなイッセーへと更に拳を握り、

 

「ふっ!」

 

「グハッ!」

 

心臓の位置を狙った拳を打ち込み、体勢が崩れた瞬間掌を腹部に添え、

 

「破ぁ!」

 

「ゲフッ!」

 

そのまま掌から練気法と呼吸法により高めた剄力を放つ気功術『掌底・発剄』をゼロ距離で撃ち込む。

 

腹部に打ち込まれた発剄によって吹き飛ばされ、力無くバウンドする様に地面に叩きつけられた後、校庭を転がるイッセー。

 

「で、オレの勝ちで良いのか?」

 

立ち上がる様子のないイッセーを眺めながら、一連の流れに言葉を失っていたリアスへと問いかける。

 

「イッセー!」

 

「イッセーさん!」

 

そんな彼の姿に再起動して慌てて駆け寄るリアスとアーシア、それに遅れて木場、朱乃、子猫の順で駆け寄っていく。

 

ゼロ距離では発頸を撃ち込んだのはやり過ぎたかとも思ったが、イッセーも駆け寄ったアーシアの神器(セイクリッド・ギア)聖女の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』で癒せているので死んではいないだろう。

 

「四季、グッジョブ」

 

「やったわね、四季」

 

雫と詩乃が駆け寄って来てそう祝福してくれる。まあ、二人も期間は短いとは言えイッセー達三人の被害を受けていたのだし、クラスメイトのことを考えると四季に叩きのめされても良かったと言う気持ちしか浮かんでこないのだろう。

 

「治療してるって事はオレの勝ちって事で良いんだろうな」

 

「自分で回復できるなら別でしょうけど、仲間が回復させてるなら終わりでしょ」

 

グレモリー眷属側のイッセーの治療を眺めながら、四季の意見に詩乃も同意する。流石に治療有りでやるのなら本格的に殺し合いにしかならない。一対一の模擬戦と言うのならばこれで終わりだろう。

 

「んじゃ、オレの勝ちって事で、オレ達は帰らせて貰うぞ」

 

一応とばかりにリアス達にも聞こえる様な声でそう告げて帰ろうとするが、

 

「待ちなさい!」

 

リアスが四季達を呼び止める。

 

「何でしょうか、グレモリー先輩?」

 

「ここまでして置いてタダで帰すと思ってるのかしら?」

 

「いえいえ、そっちから挑んで来た賭けの対価で貰う物は無形の品なんで、もう貰ったと判断したんですけど、違いましたか?」

 

リアスの言葉にそう言葉を返す。契約書でも書いてくれますか?と続ける四季の言葉にリアスは悔しそうな表情を浮かべる。

 

「そうね、申し訳ないけど契約書を用意しておくから、受け取りに来てもらえるかしら。それを持って後日改めて契約として形にしましょう。でも、私が言ってるのはそれじゃ無いわ!」

 

リアスは気絶してるイッセーを指差す。アーシアが涙目になって治療しているが……

 

「治療くらい手伝って行きなさい」

 

「いや、お互いに一人回復役が居るんだから、そっちで回復させればいいだろ」

 

「私はちゃんと貴方も治療するつもりだったわ」

 

そう言われてしまうと無傷で勝利した以上は、リアスの言葉を嘘だと否定する事はできない。

実際事前に話してなくてもアーシアの性格上四季の事も治療していただろう。

 

「はぁ、仕方ないか……。雫、嫌だろうけど、頼む」

 

「……分かった」

 

嫌そうにしながらも、雫は四季の頼みに応えて仕方ないとばかりにイッセーへと手をかざす。

 

全身から浮かぶ青い陽の気。祈りによって形を成す癒しの術。

 

「風よ、お願い」

 

『癒しの風』。遠く離れた者も癒す癒しの術。

近づかなければ治療できない『癒しの光』では戦闘力の高く無い彼女にとって命取りだろうと考えた結果、その術の会得を雫の特訓の第一目標にしていた術だ。

 

近づく事なくアーシアからの治療を受けていたイッセーの傷が癒えていく。

 

「す、凄いです!」

 

その事に最初に反応したのはアーシアだった。遠距離での治療対象を選んでの治癒の力と言う点にだ。

 

「まあ」

 

「これは……」

 

続いて声を上げるのは朱乃だ。長距離での治癒の術。それも対象をある程度限定しての治癒も可能とする彼女の精密さにだ。

瞬間的な回復力に感嘆の声を上げるのは木場といった所だろう。

 

「あれは……」

 

そして、子猫だけはその力が魔力では無い事に気付いていた。四季も雫も、もしかしたら詩乃もそうだと。

 

(姉様が暴走したのと違って制御された気)

 

それだけでは無い。仙術という力の才を持つが故に気がついてしまっていた。四季の力の質に。

 

(金色のドラゴン……)

 

大地の気を受け入れられるが故にほぼ無限の気を操ることが出来るその力の鱗片に。



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閑話20.5話目

オカ研の部室にて、先ほどの模擬戦の結果に対してリアスは頭を抱えて居た。

 

なお、アーシアと小猫はイッセーを保健室に運んで行った為にこの場には居ない。アーシアが付き添い、小猫が搬送である。

 

そんな訳で部室の中にはリアスと朱乃、木場の三人だけが居た。

 

「彼があんなに強かったなんて、予想外だったわ……」

 

神器(セイクリッド・ギア)も持たないただの人間である四季が滅神具(ロンギヌス)の一つである赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を持ったイッセーを相手に一方的に勝つと言う結果はリアスにとって予想外の結果であった。

 

「あの子の力は確認できたけど……」

 

「あれは魔力ではありませんでしたね」

 

リアスの言葉にそう返すのは朱乃だ。アーシアの力とは異質な癒しの力。収穫と言えば雫の治癒の力を自分達の目で確認出来た程度の事だった。

確かにあれは魔力でも神器(セイクリッド・ギア)でも無い力による治癒術。しかも、アーシアの神器(セイクリッド・ギア)と同じく悪魔も癒せる力だ。

正に力の事を知らないリアス達にとっては奇跡の力とでも言うべき力だろう。

なお、美里葵の異名は聖女なだけに厄介ごとが向こうからやってくる事にもなるが、それはそれ、まだ未来の話。

 

「是非とも眷属に欲しかったけど、今回は失敗しちゃったわね。それに」

 

四季が魔力も使わずに炎や冷気を操ったのも一度はあの手甲の力や何らかの神器(セイクリッド・ギア)の力かとも考えたが、小猫があれは気を炎や冷気に変換している事に気付いた。

 

「そうなると、あれは何かの技術……いえ、武術とでも言った方が良いと思います」

 

木場の言葉にリアスは考え込む。

 

「下手したら何人も同じことができる者が量産出来るという訳ね」

 

個人個人の才の差こそあれ、程度の違いは有るが、それが何らかの武術や技術で有る以上は四季の行なったことの大半が誰にでも出来るというのは脅威になるだろう。

だが、

 

「逆に言えば、あれが神器じゃ無いなら、彼の技は私達も会得する事が出来るかもしれない、という訳ね」

 

彼の技を学べば素手で戦うタイプのイッセーや小猫ならば大きな戦力アップに繋がるだろう。

 

それも含めてここで四季達との接点が切れると言うのは避けたい。

それに残骸を回収したスクラッシュドライバーも修復の目処は立っていない今、四季の持つカードデッキは魅力的すぎるのだ。

 

「接点は保っておきたいけど……」

 

彼らの眷属への勧誘やカードデッキの購入などまだ接点は保っておきたい。

ぶっちゃけ、殆ど自分個人では無く悪魔勢力全体との契約に近い事を約束してしまったことに今更ながら後悔していた。

 

あと一度此方に来てもらう理由はあるのだが、何とかその時に上手く交渉する材料は無いかと頭を悩ませるリアスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、オカ研の事はさておき、四季達はと言うと。

 

「イッセー、あいつ……レアエネミー扱いなのか?」

 

「レアエンアウントって訳ね」

 

滅多にエンカウントできないがドロップする物は多い希少な敵キャラ。

何故イッセーがゲームに詳しい四季と詩乃の二人からそんなレアエネミー扱いされて居るのかと言うと……。

 

「はぐれ悪魔の十倍のガチャポイントだったんだ」

 

雫の呟きが全てを物語っていた。イッセーとの模擬戦を四季が圧勝した後、四季のビルドフォンに届いたメール。それには獲得したガチャポイントがはぐれ悪魔の十倍も獲得出来たと有った。

 

流石に模擬戦も含めて正式な戦闘、初期ボーナスの様なものだった様だが。

 

そんなイッセーの撃破ボーナスでガチャポイントが貯まった事を確認した三人は地下のガチャマシーンの前に立っていた。

もう少しで初のガチャポイントでの十連ガチャが出来る所まで来ていたので、今回のイッセーとの模擬戦は身入りは多かったのだ。……その分金銭的な賞金は無かったが。

 

「そう言うわけで十連ガチャだ!」

 

「「おー!」」

 

折角なのでと三人でそこにいたのだ。四季がガチャマシーンを起動させガチャを回すと10個のカプセルが落ちてくる。最初のカプセルから出て来たのは、

 

 

『アニールブレード(ソードアート・オンライン)』

 

 

今更いらない普通の剣だった。誰も剣を使える人間はいないし、もっと良い剣が有るし、初のポイントガチャでのドロップだっただけに拍子抜けした。

 

「剣だったらソードベントが有るし……使えるかは分からないけど、あれも有るしな」

 

「他の物に期待しましょう」

 

詩乃からの励ましを受けて残る九つのカプセルの中の一つを手に取ると、

 

 

『ラグーラビットの肉(ソードアート・オンライン)』

 

 

「食べ物?」

 

「食べ物、よね?」

 

「今夜の夕飯に使うか、これ」

 

二つ目のカプセルの中身は食料品だった。この世界には存在しないゲームの中の食材。これは今夜の夕飯にでもするとして、

 

 

『VF-31ジークフリード(マクロスΔ)』

 

 

三つ目のカプセルの中には戦闘機が入っていた。正確にはヴァリアブルファイター、最初の機体で有るVF-1の名に因んでバルキリーと呼ばれる機体だ。

 

カプセルを開けると中身ごと消えた。ナデシコCのある地下格納庫の中に出現したのだろう。

 

「バルキリーって、ナデシコの艦載機が増えたな……」

 

まあ、パイロットが四季だけな以上はアメストフリと合わせて二機とも四季が使うしか無い。

パワードスーツ大のMSとVF、使う人間が一人だけなのに無駄に艦載機が増えてしまった。

……ナデシコCを使う時は基本怪盗であるから飛行手段ではダイヤルファイターもある。そして次のカプセルの中身は、

 

 

『タクティカルベスト(九龍妖魔学園紀)』

 

 

単なる服なのでハズレかと思ったが、何故かポケットの中にアニールブレードが収納できた上に余裕がある。

ゲーム中では銃や剣に果ては鍋料理まで持ち歩いて居る描写がタクティカルベストのポケットが四次元ポケットと言う扱いで再現されたのだろう。

 

「これは便利ね」

 

「うん」

 

回復役の雫や素手で戦える四季と違って詩乃の場合は弓は兎も角、この日本で銃は持ち歩き難いのだ。

取り出すのは良いが仕舞う時はどうするべきかと思っていたが、これで持ち帰る時は四季が預かれば良くなった。

 

 

『イチイバル(戦姫絶唱シンフォギア)』

 

 

次に出たのはそれ。前世の知識を持つ四季には理解出来るが、使用者がいない以上は武器庫の中でお蔵入りとなるだろう。単に歌に関する能力がある程度じゃ使えないだろうし。(魔人学園の某歌姫がシンフォギア纏えたらギャグでしか無いだろうし)

 

 

『アミュスフィア(ソードアート・オンライン)』×3

 

 

詩乃の良く知るゲーム機が人数分当たった。フルダイブ型のゲームと言うのには興味あるが、残念ながらゲームソフトが無い以上は意味のない代物だろう。

 

「ゲーム機だけでどうしろと?」

 

「ある意味一番使い道がない品物よね」

 

適当に解析してそのデータを適当なゲーム会社にキリュウセントの名義で売り捌こうかとも思うが、それは後回しにして残りは二つ。外見から見えるのはどちらも剣の様な物だが……

 

 

『エクスカリバー(fate)』

『エクスカリバー(プロトタイプ仕様)(fate)』

 

 

「おいっ!」

 

この時期に引き当てたのにはfateだけに運命を感じてしまう様な品物が二つ。別の世界の聖剣エクスカリバーが二本。別の世界線で別のアーサー王の使っていた同一の名を持つ聖剣だ。

 

それはこの世界で確認できる、7分割されて劣化品にされたエクスカリバー(笑)では無く二本ともエクスカリバー(真)だ。

 

「どうするのよ、これ」

 

「適当にこっちの世界の管理人に返すか?」

 

「それ、返すんじゃ無くて押し付けるって言わない?」

 

詩乃さんからのもっともなツッコミが入る。

他所の世界のエクスカリバーを新たに二本も押し付けられても妖精郷も迷惑なだけだろう。

 

「これも武器庫の中に入れとくか」

 

「そうしておいた方が良いわよ」

 

使わなきゃ入れとけば目立たないだろうと二本のエクスカリバーはアニールブレードと合わせて武器庫の中に放り込んでおく。

隣に日本神話の神剣、隣に超有名な聖剣二本に囲まれた意思があるとすればアニールブレードはさぞ居心地が悪い事だろう。

誰も剣は使わないのだから暫くは埃をかぶって居てもらおうと思う。

 

「これからエクスカリバーに関係する事件が起きるのにエクスカリバーが出て来るか?」

 

特に見られたら木場が鬱陶しくなりそうだから絶対に見せない様にしようと心に誓う四季だった。

 

なお、夕食に食べたラグーラビットの肉は美味しかったそうだ。



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二十一話目

「悪魔は人間と契約を結んでいる」

 

「急にどうしたの、四季?」

 

夕食後、ラグーラビットの味を堪能した後調べごとをして居た四季の呟きに詩乃がそんな言葉を返す。

 

「いや、最近ナイトローグやその仲間らしい連中の動きを調べてたら、どうも悪魔の……それも上位の貴族の連中と契約してる権力者を狙って動いてる様子なんだ」

 

貴族の悪魔と契約した権力者を狙っての行動、それは悪魔側の人間界での動きを妨害するかの様な行動だ。

流石に先手を打たれたら、アナザーライダーと戦うのは厄介なのでナイトローグやその仲間と思われる者の動きの断片らしきものがないか調べて分かった結果だ。

手持ちのライダー以外のアナザーは倒しにくいのだし。

 

色々と疑問が湧いて来る勢力だが、当面は情報収集しながら早いうちに対処する程度しかないのが現状だ。

 

「ナイトローグの目的が分からない以上は」

 

「せめて心構えくらいはしておいた方が良いって言う訳ね」

 

アナザーライダーはウォッチの破壊以外では強制的に変身を解除させたのちにウォッチを回収するくらいしか四季には対処法がない。

まあ、それでも、手持ちのライダーシステムから考えてウィザード、龍騎、ビルドの三系統ライダーのアナザーライダーは難しい法則を考えずに倒せるのはアドバンテージだが。

……それでも、ビルドになる場合は一度怪盗に変装しなければならないが。

 

「息抜きは今のうちにしておくか」

 

つい最近アナザーライダーを倒したばかりで向こうも直ぐには動かないだろう。そう考えて今のうちに、出来る時に息抜きをしておこうと考える。

 

その息抜きで行く場所が魔王(オーマジオウ)さえ匙を投げる危険地帯米花町なのが問題だが。

以前入手した米花町にあるレストランの招待券を今週中に使おうとは思ったのだが、心底場所(そこ)が不安な四季であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四季がイッセーを盛大にボコった翌日、木場から契約の書類については球技大会まで待って欲しいとのリアスからの伝言を受けたのだった。

 

四季としても明確に契約の証拠が残るのは都合はいいので多少遅れても構わない。

特に、町が危険にさらされる聖剣事件の発生に前後するだろうが、最悪授業参観の時期までに貰えれば問題ない。

 

そんな考えで週末を迎えたのだが……

 

念には念を、と更に時間をずらして。土曜日の夕食に三人で米花町のレストランに行ったのだが、

 

「被害者は……」

 

レストランの中に女子高生らしき娘とその父親に眼鏡の小学生くらいの少年の三人連れを見つけた時点で事件が起こるであろう事は半ば予想していたとはいえ、思いっきり事件に巻き込まれてしまった。

 

厨房の奥の方で何かが倒れる様な音と従業員の一人の悲鳴が響き、それに気がついた少年『江戸川コナン』と男性『毛利小五郎』が被害者を発見した事で事件が発生し、国内最大の事件発生率の町に相応しい警察の最精鋭チームな目暮警部御一行が到着。

そして、毎回の事ながら事件にエンカウントした毛利探偵と会話している姿を視界の端に捉えながらこう思った。

 

 

『あんたの力でも無理なのか、魔王様!?』

 

 

と。魔王(オーマジオウ)でさえ匙を投げる事件発生率の町、それが米花町である。何処からか『すまん』と言う威厳溢れる謝罪の声が聞こえた気がしたのは気のせいだと思いたい。

 

(そう言えば……駅で降りる時に他の乗客に必死に呼び止められたり、赤ん坊が泣き出したりしてたよな)

 

「ところで、なんで私達こんな状況なのに冷静でいられるのかしら?」

 

「多分、魔人学園の能力の副作用なんだと思う」

 

詩乃が自分の精神状態に対する疑問を呟くと、推測混じりだがその理由となりそうな可能性を上げる。

 

東京魔人学園の主人公とその仲間たち。時に街のど真ん中で首無し死体が出来上がっても怒りは感じても普通に行動でき、時にこんなもの有ったと栄光の手を普通に拾える高校生達である。

その強靱なメンタルが能力と共に得られたのなら殺人事件の現場で冷静なのにも納得である。

 

「それはちょっといらない」

 

雫の呟きに同感だと頷く二人。

 

巻き込まれた以上はと、耳に気を集中させ警察の会話に意識を向ける。

会話によれば殺されたのはこの店のチーフ・シェフ。別室になっている奥の厨房でスープを作っていた際に何者かに襲われたとある。

 

(なるほど、店の味のベースになるスープはオーナーシェフか、信用があって任されるチーフシェフが調理するのは当然。他店のスパイに味を盗まれない為に別室での調理も納得だな)

 

スープは店の味のベースとなる。また、日本料理に主に使われる予め加工された鰹節や昆布などの材料と違い材料の品質を確認した上で店側で加工する必要さえある。

技術も含めて最も信頼の置ける者に調理を任せるのは当然だ。

 

それは良い。四季が気になっていたのはそこでは無い。

 

(奥に人って居たか?)

 

そこだ。半ば癖になりつつある気を使って気配を探る手順。四季自身それは悪い癖だとは思っているが、奇襲に会う危険性を少しでも減らすために旧校舎での修行の中で自然と身に付いたものだ。

そんな四季でさえ奥に人の気配は感じなかった。感じられた気配の数は店の従業員と四季たちが入店した時に居た客の人数分だけだ。

 

被害者のチーフ・シェフが気配を絶った上にその場の気配と同化するほどの武術の達人ならば話は別だが…………そんな達人が料理人やってる状況が分からないし、そんな達人が簡単に死ぬとは思えない。

 

探偵物に超常の力や超科学を持ち込むのは反則とは言うが、四季は今回そんな反則的な手段で探偵役よりも先に、事件発生よりも先に被害者は亡くなってしまって居たと言う事実に辿り着いてしまう。

 

(全面的に事件解決は名探偵に丸投げしたい所だけど……)

 

現場を動き回っている小学生のコナンを常識的な大人として止めている毛利探偵だけではなく今回は、

 

「邪魔したらダメ」

 

「すみません」

 

雫の手によっても止められて保護者の『毛利蘭』に引き渡されて居たりする。本人は奥の調理室に行きたい様子だが、悉く妨害されて居たりする。

その為に証拠集めもできずに推理も進んで居ない様子だ。

 

基本後衛のヒーラータイプの雫だが、運動神経は悪く無いどころか寧ろ良い方だ。

 

「さっきから黙ってるけど、どうしたの?」

 

「いや、結局スープと前菜だけしか食べられなかったから、解放されたら何処かに寄って帰ろうか、なんて思ってな」

 

そんな四季の返答に詩乃は訝しげな表情を浮かべるが、四季がそう言う時は考えている事を自分達以外に聞かれたく無いと言う事なのだろうと考えてそれ以上追求しないことにする。その程度のことはわかる程度には四季の事は信頼しているのだ。

 

そんな詩乃に心の中で感謝しつつ意識を推測から外す。

コナンが事件について調べれない状況で無事に事件解決に導かれるのか分からないが、そこはなんとかして貰おう。世の中には安楽椅子探偵なんてジャンルも存在するのだし。

 

「今回の事件は事故で片付きそうなで、もう帰ってもらっても構いませんよ」

 

留められていた他のお客に目暮警部がそう告げていた。

警察側は不審に思いながらも事故の線で捜査を進めるのだろう。

後ろに有った高い棚の上にある食材を取ろうとした際に足を滑らせて調理中の鍋に頭を打ち付けその中身を頭から浴びた。聴覚を強化して聞いた話では一応は状況も説明出来るそうだ。

 

「いや、他殺だろう」

 

当面此方に来る気は無いので後日名探偵が犯人を捕まえてくれればそれで良かったが、思わずそう呟いてしまう。

 

「そ、それはどう言うことかな、天地くん!?」

 

呟きが聞こえていたのか警察陣の視線が一斉に四季に向いてしまった。

 

(しまった、声に出てたか)

 

流石に気配とかそんなあやふやな物で行き着いたとは言えない。どう誤魔化すかと考えると、

 

「さあ、それを調べるのはあなた方の仕事でしょう?」

 

思わず声に出てしまったことに表向きは動揺を見せずに対応する。そもそも、論理関係ない所で気がついたのだから説明のしようがない。

 

適当にごまかしつつ視線を動かしていると視界の端にコナンの動きを捉える。ちょうど四季の近くのテーブルクロスに姿を隠して時計のような何かを向けていた。

 

一瞬それが光ると同時に…………無意識の内に針のような何かを受け止めていた。

 

(え……ええー!)

 

何かの絶叫のようなものが聞こえた気がしたが完全に無意識での行動なので許して欲しい。

 

(いや、何時もの探偵役が居るんだからそっちを選んでくれ)

 

内心彼の叫びにそう思って居るが、受け止めてしまった物は仕方ない。四季を選んだのも先ほどの呟きから事件の真相に気がついたと思って探偵役に選んだのだろう。

 

(あっ!?)

 

指弾の要領で本来の探偵役に(バトン)を渡そうと思った瞬間、力加減を間違えて折ってしまった。

 

「……」

 

やっちゃった事にどうしようかと思いながら、折ってしまった麻酔針を証拠隠滅とばかりに床に投げ捨てる。

 

「どうしたの、顔色が急に悪くなってるけど」

 

「あ、ああ、ちょっとな」

 

「表情も引きつってる」

 

「い、色々とな」

 

詩乃と雫が顔色が悪くなって表情が引きつって居る四季を心配して聞いて来るが本当の事など言える訳がないのでそう答えて置く。

 

名探偵の推理の邪魔をしてしまったなど言える訳がない。

視界の端には探偵役を作る事に失敗したコナンが小五郎の推理を誘導して居るのが見えるが、本当にこの事件は解決してくれるのか不安になってしまう。

 

「詩乃、雫、ちょっと手伝ってくれ」

 

「「?」」

 

疑問を浮かべる二人に耳打ちして簡単に現状を説明。

二人の協力の元さり気なく三人で思考を誘導する手伝いをする羽目になってしまった。

 

 

 

 

 

内心、問答無用に現行犯で殴り飛ばして解決できる分強盗にでも遭った方が楽だったと思ってしまう四季であった。



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二十二話目

「イッセー、アーシア、改めて紹介するわ。こちらは支取蒼那、知っての通りこの学園の生徒会長よ」

 

「よろしく、イッセーくん、アーシアさん」

 

「こ、こちらこそ宜しくおねがいします!」

 

「あ……どうも!」

 

オカ研の部室にてリアスの紹介でこの学園のもう一人の上級悪魔であるソーナとその新人眷属同士の顔合わせが行われていた。その際に紹介された匙が資料にあった黒い龍人の様な怪物に変えられた被害者で有り、その際に四季に助けられたと言う話も明らかになった。

 

「ハハハ! オレのこともよろしくね、変なコウモリ男にバケモノにされた匙くん! つーか、アーシアに手を出したら殺すからね!」

 

「うん、よろしくね、訳の分からない怪盗から貰った道具のおかげでフェニックスに勝てた兵藤くん! 真昼間から女生徒襲うなんて本当にエロ鬼畜だよね、天罰に当たって死んでしまえ!」

 

互いの手を握りつぶさんばかりの勢いで握手をしている二人にリアスとソーナはため息をつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても……」

 

目の前の球技大会の練習風景を眺めながら四季は呟く。

 

「下手に旅行したらまた事件に巻き込まれるんじゃないか?」

 

「それは同感ね」

 

「うん」

 

先日の一件の経験談からの四季の呟きに同意する詩乃と雫の二人。

夏休みに入ったらサッサとみんなで旅行にでも行って冥界に連れて行かれる可能性を僅かにでも減らそうと考えたが、下手に何処かに出掛けたら事件に巻き込まれるとなっては堪ったものではない。

 

いっそナデシコの性能テストも兼ねて宇宙旅行にでも行くかとも考えてしまうのも無理はない。

 

そんなぶっ飛んだ夏休みの旅行の計画を四季達が立てている中、三人の視線の先ではリアス達オカ研の一同が何故か野球の練習をしていた。

 

単なる学校の球技大会とは言え先日のレーディングゲームで負けたリアスは勝利に飢えていた。なので今回の球技大会では是が非でも勝利が欲しいのだろう。

 

そんな勝利への飢えで力を狙われている側としては迷惑な話だが……。

 

「それにしても、なんで野球の練習なんてしてるんだ?」

 

「球技大会の練習だと思う。けど、球技大会で野球はしないと思う」

 

「野球以外にも、球技大会の部活動対抗の試合って、普通は特定の部が有利になる競技って採用されないわよね」

 

主にサッカーと野球、バスケ、バレーががそれに当たる。

 

「そうなるよな。やるならルールがシンプルな、みんな知ってる可能性が高い、ドッチボールとかだろうな」

 

まあ、その辺は四季の持つ未来に対する知識による物なので予測では無いが。

 

「帰宅部のオレ達はその時は見学だろうけどな」

 

「あと一人くらい居れば私達で部活を作れるのに」

 

学校内に自分達の拠点を得られると言うメリットから、以前から自分達で部活を作ろうと考えていた。

ある程度初期メンバーは顧問以外は全員が秘密を共有できるメンバーが望ましいと言う理由から、あと一人味方が増えてからと考えているが部活動の申請書は受け取っている。

 

なお、匙の一件で恩がある生徒会側としては四季達が部活を作ると言っても書類に不備さえなければ反対もし難いだろう。使えるものは最大限に利用する。

 

(それにしても……)

 

そんな球技大会の練習に一人、木場だけが身が入っていない。既にイッセーの家で過去にこの街に存在していたエクスカリバーの存在を目撃したであろうことを想像するのは容易い。

 

今まで燻っていた復讐心が燃え上がってようと関係ないことだが、他人の八つ当たりの復讐劇(笑)に巻き込まれたくは無いのだ。

 

(天界や教会じゃなくてエクスカリバーに復讐って、な)

 

そんな事を考えながら詩乃と雫の二人と連れ立って帰宅する。当面の悩みは前回米花町に行った時に巻き込まれた時間、そのお陰で貰ったガチャチケットだ。

 

 

『原作介入記念十連ガチャチケット』

 

 

とあるガチャチケットが届いた。間違いなく自分達が舞台のど真ん中にいる『ハイスクールD×D』ではなく『名探偵コナン』の方に介入したことが理由だろう。だが、何故かこのチケットのタイトルにはルビが見える気がする。

 

 

原作介入記念十連ガチャチケット(何やってんだ、お前は!)

 

 

と。まあ、介入と言うよりも予想外に事件解決の足を引っ張りかけたのでちょっと使う気になれないのだ。

 

このチケットは緊急時用に残しておくとして、現状は球技大会がのトラブルに遭遇しない事を祈るのみである。(自分達から介入する際は基本的に正体を隠したルパンレンジャーの怪盗コスチュームでなので)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、球技大会当日。女子はテニス、男子は元々女子校だった影響で人数が少ない為に複数の学年共同でのサッカーとなっていた。

 

ボールをキープしたまま相手のDFを躱しシュートを決める四季。

 

四季と一緒のチームに割り当てられたイッセーへのヘイトが集まっている為に、何故か彼を狙って一部超次元な技、ジャッジスルーシリーズが披露されている。

『死ね、兵藤!』やら叫び声が聞こえてくるが、周囲からイッセーに対してコロセコールが響いている上に、審判の教師(ジャッジ)も文字通りスルーしている。

 

イッセー達三人の変態行為に対する対応でストレス溜まったり、彼らの行動が原因で給料減らされたりして教師からイッセー達三人への怒りもあるのだろう。

まあ、そこは悪魔に転生した事による肉体的強度の強化も有り、多少鍛えているとは言え精々が運動部員程度の一般人の攻撃では多少痛い程度で済んでいるのだろう。

 

こんな時にも木場は心ここに在らずと言った様子を見せている。時折ボールが当たりそうになって危ないのだが本人は気にも止めていない様子だ。

 

そんな訳で実質2人が味方として機能しない状況での試合だったが、四季の所属チームの勝利に終わった。

試合終了後の対応がイッセーへの殺意を満たせなかった事に対する不満だらけだったのには内心、それで良いのかと言いたくなったが。

 

「なんか、もうサッカーじゃ無いな」

 

敵味方揃って励まし合いながら『本番は部活動対抗の方だ』などと言ってる時点でスポーツでは無いと思う。

リアスを始めとして美少女揃いのオカルト研究部の中の男子に二人だけの男子の一人の上に、女子からの人気も無いどころか、痛い目に合わせても寧ろ女子から感謝されるかもしれないイッセーに対して木場の分の敵意も向くのも当然と言える事だろう。

 

なお、普段から詩乃と雫と言う美少女二人と仲の良い四季に対しては木場と同じ理由で敵意を向ける者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、また女子校なだけに人数の多い女子のテニスでは、現在一年の詩乃と雫の二人の試合が繰り広げられていた。

 

「これで!」

 

「負けない」

 

さて、詩乃の力は単純な身体能力ではなく視力を中心に強化している。前線で戦うタイプでは無い彼女にとって敵を狙い撃つための視力の強化が必須なのだ。

 

それに対して雫の力は回復系や味方や自分にバフを掛ける術が中心となっている。

 

元々身体能力はそれなりに高い上に自身へのバフで強化している雫に対して、動体視力を強化した詩乃が物凄い精度で打ち返しにくい位置に打ち込んでいるというのが二人の試合の流れである。

 

「二人とも、なんか物凄いやる気だな」

 

そんな持てる手札を使った全力全開なテニスの試合を繰り広げている二人を応援しながらそう思ってしまう。

 

試合は最終的に詩乃が勝ったのだが、二人がやる気になっていた理由が判明するのは後日わかる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、三年生の部では、

 

「行くわよ、ソーナ!」

 

「良くってよ、リアス!」

 

リアスのサーブがソーナのコートに突き刺さり、バウンドしたボールをソーナが打ち返す。……此処までは普通のテニスだ。

 

「お喰らいなさい! 支取流スピンボール!」

 

「甘いわ! グレモリー流カウンターを喰らいなさい!」

 

高速回転を加えて打ち返されたボールはリアスのラケットに当たる事無く、ボールが軌道を変えて急速に落下して行った。

 

 

 

『15-30!』

 

 

 

 

 

 

「魔力込めてないか、あれ?」

 

「込めてるわね、あれ」

 

「うん、あれは込めてる」

 

魔力込みの派手な試合を始めた二人に呆れた視線を向ける四季と詩乃と雫。

流石に普通の人間相手に魔力を使うと言う大人気ないマネはしていないだろうから何も言う気は無いが、納得してやっているのなら、魔力を使おうが必殺技を使おうが、相手をKOしようが問題は無いだろう。

試合やってるのは悪魔同士なのだし。

 

 

 

 

 

 

「やるわね、ソーナ。さすが私のライバルだわ」

 

「うふふ、負けた方が小西屋のトッピング全部乗せたうどんを奢る約束、忘れていないわよね」

 

「ええ! 絶対に私が勝たせてもらうわ! 私の魔動球は百八式まであるのよ?」

 

「受けて立つわ、支取ゾーンに入った物は全て打ち返します!」

 

どこかのテニス漫画のようなことを言いながらやる気十分といった様子の駒王学園の悪魔のトップの二人。

 

「なんか、賭けの対象が庶民的過ぎないか、あのお嬢様方」

 

「なんでうどんなのかしら?」

 

「小西屋のうどんは美味しいけど」

 

「オレはトッピングの全乗せはしない派だからな」

 

「それで、四季はこの試合はどっちが勝つと思う?」

 

「引き分けだと思うな、オレは。あれ……ラケットは強化してないし」

 

そんな二人の妙に庶民的な賭けにそんな感想を持つ三人。詩乃の問いに答える四季の目は二人の持つラケットを捉えていた。

賭けの内容とは打って変わって何処かのテニス漫画のような試合が続く中、最初に限界を迎えたのは四季の予想通り互いのラケットだった。

 

魔力を込めたパワーショットを強化していないラケットで打ち合っていればそれも道理だろう。それによって試合は両者優勝の引き分けに終わった。



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二十三話目

「狙え! 兵藤を狙うんだ!」

 

「うおおおお! てめえら、オレばっかり狙いやがって、ふざけんな!」

 

さて、建前は生徒達が球技を通じて青春を謳歌しつつ、競い合う歓びを分かち合う大会なのだが、一誠は全男子から狙われていた。

いや、ドッチボールのはずなのにイッセーだけが狙われていた。

……少なくとも、アウェーで試合する国際大会の選手でさえ此処まで敵意は向けられないだろう。

 

まあ、

『学園の二大お姉様』と呼ばれている駒王学園のアイドルである、リアスと朱乃に投げる? その瞬間、味方さえも敵に廻る。今後の学園生活は恐ろしい事になるだろう。

 

小猫に投げる? 戦車の特性で簡単にキャッチできそうだが、学園のマスコットのロリっ子に投げるのは心理的に無理だろう。序でに上記の様に今後の学園生活は恐ろしいこととなる。

 

アーシアに投げる? 癒し系の美少女に投げたら、当てた瞬間罪悪感に苛まれた上に周囲から冷たい目で見られるのは覚悟すべきだろう。その後の学園生活は推して知るべし。

 

木場に投げる? 当てた瞬間、女子を敵に廻す事になる。その後の学園生活は推して知るべし。

 

なので、怒りと共に全員の殺意がイッセーへと向くのは自然な事だろう。

 

「死ね野獣!」

 

「「「イッセーを殺せえええええ!」」」

 

周囲のギャラリーからは『イッセーを殺せぇぇぇぇぇ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ! 殺せ!』とのコールが響き渡り、一誠が避けたりキャッチする度にギャラリーや選手からは舌打ちや残念そうな声が響く。

 

「イッセーにボールが集中しているわ! 戦術的には『犠牲(サクリファイス)』って事かしらね! チャンスよ、イッセー!」

 

「頑張りますぅぅ!」

 

正にヘイト集めまくりのイッセーが居るために勝手にサクリファイスが成立しちゃっている現状。チャンスと言えば確かにチャンスなのだが……。

 

ヘイトが勝手に集まったイッセーを狙って投げられるボールをイッセーがキャッチして、それを小猫にパスして戦車(ルーク)のパワーを活かした彼女が当てていく。

 

それなりに良いコンビネーションを見せながら試合を進めている中、やはり木場だけが心ここに在らずと言った様子でボーッとしている。

 

「クソォ! 恨まれても良いぃ! イケメンめぇぇぇえ!」

 

そんな試合の中で中々当てられない事に苛立った者がボーとしていた木場に向かってボールを投げる。

それに気付いた一誠が木場に声を掛けるも運悪くボールはイッセーに当たった上、ボールの当たり所が悪く、治療係のアーシアと運搬係の小猫と共に倒れた一誠が引き摺られて出て行く事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれって……」

 

「また新しい事が始まるって所だな」

 

ボーッとした様子の木場の姿を眺めながら、詩乃の言葉に四季が答える。これから起こるのは木場の過去に関わる事件なのだ。

 

「血塗られた聖剣に纏わる因縁、か」

 

今回の事件に関わる話として詩乃と雫にも、この世界のエクスカリバーと認識されている剣の事を話しておいた。

 

エクスカリバーはかつての三大勢力間の戦争で砕かれ、砕かれた七つの欠片を核に七振りの聖剣として複製が作られた。

その七振りの剣はカトリック、プロテスタント、正教会の三つの教会で二本ずつ管理され、最後の一振りは行方不明とされている。

 

これも考えてみれば妙な話だ。そもそもアーサー王の逸話でエクスカリバーは返却されている筈だ。天界が所持しているとしたら、一番可能性が高いのは、自らの剣をエクスカリバーと呼んだリチャード1世が使ったそれなりに力を持った名もなき聖剣なのだろうが……。

 

「正真正銘の本物だった場合が一番不味いよな……」

 

天界による強盗か良くて借りパク。実際借りパクだとしたら、その行方不明扱いの一本がこの世界のアーサー王の子孫の元にあるのも頷ける。

 

「ん?」

 

丁度イッセーが運び出されて試合が中断された時だった。

頬に当たる冷たい水滴。空を見上げると黒い雲に覆われた空から雨が降り出していた。

 

「雨か」

 

屋外での球技大会が中断されて体育館で続行と言う放送を聴きながら、詩乃と雫と連れ立って四季は校舎側へと避難していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―パァンッ!―

 

球技大会の団体戦、それはオカ研の優勝に終わった。そんな体育館へと続く渡り廊下に出た時、其処に乾いた音が響く。

 

「どう? 少しは目が覚めたかしら」

 

体育館の渡り廊下、其処でリアスが木場の頬を平手で叩いていた。

 

「対抗戦、優勝は出来たけれど、チームが団結しないとならない場面で終始貴方は心此処に有らずだったわ。一体どうしたの?」

 

特に三人とも部活に参加しておらず、応援の立場で観戦していた四季達だが、外に出た時にタイミング悪く拙い所に出てしまったと思う中、治療を終えたらしい一誠とアーシアもその場面に出くわしてしまう。

 

「……木場」

 

死んだような目で項垂れている木場の姿を見て、そんな木場の様子に一誠が疑問に思う。

 

「大会では申し訳ありませんでした。調子が悪かったみたいです」

 

明らかに作り笑いと分かる笑顔で木場はリアスへと謝罪を告げる。

 

「もういいですか? 球技大会も終りましたし……。少し疲れましたし、暫く部活も休ませてください」

 

「おい、木場。お前、マジで最近変だぞ!?」

 

「君には関係ないよ」

 

肩を掴んで呼び止めるイッセーの手を払って木場は冷たく告げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、ごめんなさい、見苦しい所を見せちゃったわね」

 

気付かれる前に立ち去ろうとした四季達の姿に気が付いたリアスが四季達へと声をかけてくる。

 

「いえ、此方も偶然聞いてしまっただけなので」

 

其方の事情に首を突っ込む気は無いと言う様子でリアスの言葉に返す。

 

「聖剣計画の生き残り、程度の事情は知っていましたけど」

 

調べればわかる程度の事なのでその程度の情報は出しても良いだろうと言葉を続ける。

基本的に前世の事を記憶していない四季が転生者である事の証明の一つである『原作知識』と言う名の精度の高い未来予知によるものだ。

 

未来の事は兎も角原作前に確定している過去についての知識はその正確性も確かめ易い。

 

「っ!? そんな事まで知っているのね。本当にどうやって知ったのか教えてほしいわ」

 

「それは、企業秘密というやつですね、グレモリー先輩」

 

流石に原作知識となどとは言えないのでリアスの言葉にはそう言って誤魔化しておく。

流石に自分の情報の出所を教えるとは向こうも思っていないだろうし。

 

「そう」

 

素直に教えてくれるとは思っていなかったのだろう、リアスも四季の言葉にそう返す。

 

「あなた達の力といい、その情報網と言い、本当に興味深いわね」

 

「それはどうも」

 

簡潔にそう言い切って手を振って四季達は立ち去ろうとするが、

 

 

 

 

 

 

「僕は復讐の為に生きている。聖剣エクスカリバー、それを破壊するのが僕の戦う意味だ」

 

丁度木場とイッセーの会話が終わって居たのだろう。憎悪に染まった目でイッセーへとそう告げていた。

 

そう言って雨の中傘も差さずに濡れながら立ち去っていく木場の後ろ姿に四季は何処か冷たい感想を抱く。

 

(なんで、そこで道具に当たるかな)

 

仲間達を殺した研究者への復讐、計画を立てた教会への復讐ならば分かる。

だが、エクスカリバーは言ってしまえば所詮は道具、木場の言うエクスカリバーへの復讐は教会や天界という強大な組織に勝てないと諦めた上での代償行為にしか見えない。

 

「そもそも、あいつの復讐の方向性もそうだけど、教会がエクスカリバーを持ってることも不自然だと思うけどな」

 

ガチャ産とは言え別世界のエクスカリバーを二本も入手してしまったからこそ、持ってしまった教会が所持するエクスカリバーに対する不自然さではあるが、

 

そんな呟きがこぼれた瞬間、イッセーにも聞こえたのだろう、四季の言葉に気が付いたイッセーが四季を呼び止める。

 

「待てよ、お前、木場の事情知ってるのかよ!?」

 

「ん? ああ、客観的にと言う点でだけどな。詳しい事は自分の所の王にでも聞いたらどうだ。オレには態々説明してやる理由はないからな」

 

そう簡潔に切って捨てる。

今回の事件は街の安全を考えて参戦する必要性は感じていたが、イッセー達に味方する必要は無いのだ。

 

同時にそれは、木場の復讐の手助けをしてやる必要もないと言うことにもなる。



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二十四話目

まだ雨の降る中、暗い目をした木場は一人歩いていた。

 

(聖剣エクスカリバーへの復讐を忘れたことなどなかった。ちょっと学園の空気に呆けてただけだ)

 

彼の中に蘇った……いや、再燃した復讐心、

 

(仲間も、生活も名前も……主人であるリアス・グレモリーに貰った)

 

以前の人生を忘れて新しい人生を送ってもらいたいと言うリアスの願いでもあったのだろう。

それは確かに木場にとって幸せなものだった。

 

(これ以上の幸せを願うのは悪い事だ。想いを果たすまで、同志達の分を生きていて良いなどと思ったこと、っ!?)

 

どっさに感じた殺気に反応し、自身の神器から魔剣を創り出し、殺気が向けられた方へと振るう。

 

切りかかってきたのは白髮の同年代と思われる少年。互いに距離を取り狂気に満ちた笑みを浮かべる。

 

「やっほ、お久だね」

 

「『フリード・セルゼン』……まだこの街に潜伏していたのか」

 

「ありゃ? 御機嫌斜め? 俺っちは君との再会劇に涙ナミダでございますよ! しかも、こーんなスペシャルな武器とすんごーい、力まで貰っちゃって、超ご機嫌でございますって感じなのよ!」

 

「……その剣は!?」

 

フリードと呼んだ男の持っている剣に驚愕と同時に憎悪が宿る。その剣は、

 

「お前さんの魔剣とこの力を使った俺様のエクスカリバー、どっちが上か試させてくれないかね? お礼は殺して返すからさぁ!」

 

聖剣エクスカリバー。木場にとって憎悪の対象である剣だ。

しかも、それに注意が向いているが故に気付いて居ない。フリードの手に握られている時計のような物の存在に。

 

「そんじゃ、行っちゃうよー! へーんしん、とお!」

 

 

『ブレイブ……』

 

 

同時にそんな音が響くと、フリードは起動させたアナザーライドウォッチを己の中に埋め込む。

フリードだった男はエクスカリバーを片手に持ち、片手は剣が収められた盾と一体化している青い騎士を思わせる怪物へと姿を変えていた。

その名はアナザーライダーブレイブ。エグゼイドの世界に存在する仮面ライダーブレイブを歪め、誕生したアナザーライダーだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃四季達は、

 

「行って……火龍っ!」

 

「守護をっ」

 

「八雲っ!」

 

眼前の巨大な異形の怪物に詩乃の放った炎を纏った矢が突き刺さり、雫の防御術を受けた四季が攻撃を掻い潜りながら一撃を放つ。

 

旧校舎の修行中の三人であるが、今回は単純に修行だけでなく、新たな手札の実験でもある。

先ほどの攻撃で弱った異形に対して四季と雫は、

 

「行くぞ、雫」

 

「うん。私の力、四季に預ける」

 

そんな言葉を交わし、互いの気を共鳴させ、循環、そして増幅させる。

今は三人しかいないが相性によって二人以上の力を増幅させて放つ一種の合体必殺技である方陣技。

 

「「破邪顕正っ、黄龍菩薩陣!!!」」

 

その実戦での試し撃ちも兼ねていた。

 

「凄い技ね」

 

詩乃の呟きが溢れる。二人の方陣技は対象になった異形を跡形も無く消し去り、その威力は十分である事を物語っていた。

 

「対コカビエル用のカードには丁度いいかな、これは?」

 

破壊力では比較的下位に入る技だが、それでも十分に強力な破壊力を秘めている。

現在、仮面ライダーへの変身を除けば一番強力な手札なのだ。

 

「流石にウィザードの太陽蹴りは、な」

 

ファントムの方のフェニックスに対する仮面ライダーウィザードの決め技である。再生と強化を繰り返す不死のファントムに対して太陽に蹴り飛ばす事で文字通り、無限の死と再生を贈ったわけだ。

 

コカビエル相手にそこまでする必要があるかは分からないが、太陽に蹴り飛ばせば倒すことはできるだろう。

付け加えるなら今のところウィザードの力は暫く切り札として隠しておきたいのだ。…………余計なトラブルさえ起こらなければ。

 

「それはちょっとやり過ぎじゃない?」

 

「オレも今そう思った」

 

取り敢えず、叩きのめして引き取りに来た白龍皇に引き渡せばコカビエルの一件は解決なのだから、態々太陽に放り込んでまで確実に始末しなくてもいいだろう。下手したらオニキスでも十分である可能性だってある。

 

「今回ばかりは万が一の可能性も回避したいからな」

 

そもそも、自分達だけでなくアナザーライダーにナイトローグというイレギュラーまで居るのだから、何処でズレが生じるかは分からないのだ。

 

旧校舎地下での戦利品を拾い集めつつ、一度休憩のために地上部分に戻りながらそんな事を思う四季だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真神学園旧校舎。

其処が四季のダイオラマ球の中にある二つの建物の一つで、東京魔人学園剣風帖における主人公達の特訓場所である。

 

その中のミーティングルームとして利用している教室の一室。

どうやって此処に電気が通っているかは分からないが、冷蔵庫、ソファー、エアコンまで置かれた其処は一種のリビングルームとなっていた其処に特訓を終えた四季達三人の姿は有った。

 

「取り敢えず、オレの知識が正しければ、この先に起こるのは木場に関係してくる」

 

今回の事件は失敗してしまったら街一つが消えて無くなってしまうという大規模な被害が起こる。

その為に可能な限り情報は共有して置こうと判断した訳だ。

なお、この場所を選んだのはナデシコと並んで、間違っても誰かに聞かれる心配がないからである。

 

「敵は、先ずはぐれエクソシストのフリード。こいつはコカビエルが奪った聖剣を持っている」

 

「剣士なら私達が相手するのは不利ね」

 

「ああ。コカビエルを除いて唯一の戦闘要員だからこいつを倒せばあとはコカビエルだけだ。二人目は研究者のバルパー」

 

聖剣計画の首謀者でありこれから起こる事件の首謀者の一人としてその名を挙げる。

飽く迄原作ではコカビエルに始末されたので戦闘描写がなかった事から戦闘力は分からない。

研究者が弱いなどと言う考えは持たないほうが吉だ。

主役ライダーの色違いに変身する神とか、

レモン公爵なマッドドクターな戦極とか、

仮面ライダービルドの葛城親子とか、

他にも仮面ライダー世界には強い科学者は多い。

しかも、仮面ライダーに変身できる連中に限定しているが、ヴィランまで入れたらキリが無い程に強い科学者は多い。

 

「そして、最後に敵の首魁のコカビエル」

 

バルパーは一応コカビエルに不意を突かれたとは言え始末されたから、強かったとしてもコカビエルよりは辛うじて下に位置しているだろう。

バルパーの実力はさておき、事前の情報で要警戒なのはやはり堕天使の幹部のコカビエルだろう。

 

「堕天使勢力の幹部と言うこともあって強敵であることは間違いない」

 

原作では白龍皇の鎧を纏ったヴァーリに倒されていたが、下級から中級の堕天使からフェニックス家の三男とその前の敵と比べて爆発的に敵のレベルが上がってるとしか思えない。

 

「それに、問題は他にもあるでしょう?」

 

「ああ。ナイトローグの動きだよな」

 

詩乃の言葉にそう同意する。リアス・グレモリーとライザー・フェニックスとの婚約解消を賭けたレーティングゲームの特訓の最中に動いていた奴が今回は暗躍していないとは考え辛い。

 

寧ろ、奴が何らかの目的を持って動いているのなら、今回はグレモリー眷属もターゲットに入っている可能性さえある。

 

「上手く、コカビエル一味と共倒れにでもなってくれれば楽なんだけどな……」

 

「そう上手くは行かないわよね……」

 

「うん」

 

四季の言葉に同意する二人。実は既にナイトローグはコカビエル一味と接触しているのだが、そんなことを知るよしもない三人だった。



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二十五話目

旧校舎地下

 

「こんな物か?」

 

仮面ライダーウィザードへの変身を解除すると次は以前回収した龍騎ライドウォッチを取り出す。

 

「……アナザーライドウォチじゃ無いからアナザーライダーになる事はないだろうけど……」

 

敵の狙いが分かるかも、そんな考えと共に龍騎ライドウォッチの起動スイッチを押す。

 

 

『龍騎!』

 

 

ライドウォッチを起動させた時、自身に何かの変化はない。だが、確かに変化は起こっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、四季達三人は何故かまたもオカルト研究部に連れてこられていた。いい加減、約束を果たして欲しいところだが、『非常事態で大事な事』らしい。

 

「で?」

 

今にも斬りかからんばかりの憎悪のこもった表情を浮かべている木場。彼の視線の先にはテーブルを挟んで座っているリアスと朱乃のグレモリー眷属のトップの二人と、ロープ姿の今回のゲストの二人である青髪の少女とツインテールの少女の二人。

 

「何でオレ達は呼ばれたんだ?」

 

青髪の少女は『ゼノヴィア』、ツインテールの少女は『紫藤イリナ』と言うらしい。

聞いた話によれば教会の関係者らしく、今回は悪魔側との交渉の為に此処に来たらしい。

 

「それは私も気になっていた」

 

ゼノヴィアと名乗った青髪の少女が四季の言葉に同意する。こんな場所に無関係な第三者がいれば当然な話だ。

 

「ええ、彼等は私達三大勢力に属していない裏の関係者よ。今回は中立の立場の立会人として此処に来てもらったわ」

 

悪魔と天界の下位組織の教会との交渉の場、その立会人に中立な第三者を望むのは当然だろう。

今回の一件では堕天使サイドが敵側な以上、三大勢力の外から立会人を選ぶ必要があり、駒王学園にいるどこの勢力にも属していないフリーの異能者として四季達に立会人として白羽の矢が立った訳だ。

 

勝手に決められた四季達としては納得出来ないところもあるが、その辺の事情を知らない側は、それを聞いて納得したとばかりにイッセーの幼馴染らしいイリナが口を開く。

 

「先日、教会に保管、管理されていた聖剣エクスカリバー三本が奪われました」

 

彼女は真剣な表情でそう話を切り出した。

 

(相手が堕天使の幹部なら教会からの強奪も可能か)

 

聖剣の管理体制にもよるが、相手がコカビエルなら奪われた事を責めるのは酷と言う物だろう。

 

「しかも、そのうちの二本は奪われた事に気付かれない様な鮮やかな手口で盗み出されていたことから、此方では少なくとも奪った犯人は2組と推測されています」

 

「えっ? 伝説の聖剣のエクスカリバーって、そんな何本もあるのか?」

 

聖剣エクスカリバー。ある意味日本でも有名な聖剣。アーサー王の伝説は知らなくても、ゲームなどの知識くらその名前だけは知っていると言う者も多いだろう。

 

「イッセーくん、真のエクスカリバーは大昔の戦争で折れたの」

 

「折れた? チョー有名な剣なのにか?」

 

「いや、元々エクスカリバーは折れたカリバーンと言う聖剣を打ち直したと言う説もある。既に一度折れた以上、もう一度折れても不思議はないだろ?」

 

イッセーへと説明するイリナの言葉に続いて四季がそう補足する。

二天龍、特にドライグとエクスカリバーは縁があるだけに『勉強不足だな』と言う意思を込めた言葉だったが、当のイッセー本人もそう受け取ったのだろう、ムッとした表情を浮かべている。

そこまで言うと「更に」と前置きして、

 

「しかも、そのカリバーンが折れた状況が聖剣からの使い手に対する抗議の様なものと言う説だってある」

 

聖剣(エクスカリバー)が折れたのは聖剣からの抗議、天界はよほど酷い使い方をした』と言う四季の言葉の意味も理解できたのだろう、イリナとゼノヴィアの二人もイッセーと同様にムッとした表情を浮かべていた。

 

「ついでに言うと本来ならばどの説でも最終的にエクスカリバーはアーサー王の名で部下の騎士の手で湖の乙女に返還されている。その伝説が正しいとすれば、キリスト教の教会が管理している時点で考えられる可能性は三つ」

 

今から言うのは聖剣を憎悪している木場や教会関係者に対する特大の爆弾だが、後から真偽の程を確かめる気はないので単なる推理として聞いて貰おうと、挙げた握り拳から指を3つ伸ばす。

 

「1つは返還されたエクスカリバーを天界が強盗、強奪した可能性。2つはアーサー王の子孫や縁者を経て湖の乙女から借り受けた物を未だ返還していないだけ。最後に3つ目は自らの剣をエクスカリバーと呼んでいたリチャード1世の持っていたそれなりの力の有った無銘の聖剣」

 

要するに四季のあげた可能性は盗品であるか、エクスカリバー(偽)で有るかの三択。

 

「「「っ!?」」」

 

その仮説に木場とイリナとゼノヴィアの三人の表情が変化する。

それでも、イリナとゼノヴィアは3つ目の可能性で納得したのだろう。リチャード1世の使っていたそれなりの力を持った無銘の聖剣ならば天界の手にある事も納得出来る。

だが、木場としては3つ目の選択肢は決して受け入れられる物ではない。それを受け入れてしまったら、自分や自分の仲間達はエクスカリバーどころか単なる無銘の聖剣の犠牲になったと言うことになるのだから。

 

エクスカリバーどころか無銘の聖剣すら扱えなかったのが己や己の仲間達。そんな物が事実だとしたら、それは木場にとって認められるものではない。

 

「……彼のあげた可能性は兎も角、今のエクスカリバーはこんな姿さ」

 

まだ四季の仮説に納得は行かないのだろうが、そう言ってゼノヴィアが巻き付けていた布を取り除いて背負っていたエクスカリバーの姿を見せる。

……それによって憎悪の対象であるエクスカリバーの姿を直視した木場の憎悪の視線が更に強くなる。

 

「折れたエクスカリバーの破片を集め、錬金術によって新たに七本が作られた。……私が持っているのがその一つ、『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』。これはカトリックが管理している」

 

そう言って彼女が再び聖剣を布で覆うとイリナが腕に巻きつけていた糸のような物が彼女の手の中で日本刀のような形にかわる。

 

「私の方は、『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』……の日本刀形態」

 

そして、今度は日本刀形態から再び糸状に変わり、ハートマークを作ってみせる。

 

「こんな風に形を自由に変えられるの。すごく便利なんだから」

 

「確かに便利そうだな」

 

「そうね、確かに便利ね」

 

「でしょでしょ」

 

何処か自慢気に言うイリナの言葉に同意する四季と詩乃。自分の聖剣が褒められたのが嬉しいのか、当のイリナもうれしそうだ。

 まあ、四季は四季で『防具や手甲にもなりそうで便利だな』とか、詩乃は詩乃で『防具や弓矢に出来て便利かも』と思っているので、剣と言うよりも聖剣のオーラを持った扱い易い武具としてみている。

まあ、何処ぞの小説では日本刀の技術で作った銃や全身鎧すらも刀と言い張っているのだから、聖剣と扱っても問題は無いだろう。

 

刀剣程ではないが弓矢も普段から持ち歩くのは手間なのだ。四季が側にいないと手持ち武器がVSチェンジャーしか使えない上にVSチェンジャーはルパンレンジャーとしての活動用なので、事実上詩乃は四季の近くに居ないと戦えない事になる。

 

「なるほど、そうなると盗まれたのは残りの中から考えて『天閃(ラピッドリィ)』、『夢幻(ナイトメア)』、『透明(トランスペアレンシー)』の三振りあたりか?」

 

「「なっ!?」」

 

「ん?」

 

何気なく呟いた四季の一言に二人が驚愕の声を上げる。

 

「いや、どうせ奪う手間は変わらないだろうから、狙うなら戦闘に使えるものを優先的に狙うと思っただけだけど……」

 

「そうじゃなくて、どうしてエクスカリバーの名前まで知ってるのかを知りたいんだと思う」

 

四季の言葉に雫が訂正の言葉を入れる。

 

「ああ、そっちか。オレ達にもそれなりの情報網がある。それだけだ」

 

正確には原作知識と言う名の情報源だが、そこまで説明する義理もなければ必要性もないのでそう言っておく。

 

「……それで、貴女達の要件は?」

 

今にも2人に斬りかからん様子の木場を真後ろにしてさっさと話を進めようとリアスがそう言葉を続ける。

……先ほどの四季の言葉を聞いて木場の殺気が倍加した気がするがそれは間違いではないだろう。

 

自分やその仲間達はエクスカリバー処かただそう呼ばれていただけの無銘の剣の為に犠牲になった。そんな可能性さえも浮かび上がったのだから。

 

「七本のエクスカリバーはカトリック、プロテスタント、正教会が各二本ずつ保有し、残りの一本は三つ巴の戦争の折に行方不明になっていた。」

 

(一本だけ行方不明って?)

 

(ああ、確か行方不明の聖剣は『支配の聖剣』だったか。それが行方不明になってるんだ)

 

詩乃の問いにそう答える。

まあ、各宗派のパワーバランスを考えると一本だけ行方不明なのは返って丁度良かったのかもしれないが。

パワーバランス的に何処かの宗派が一本だけ多く所有するのは問題だろう。

深読みまでしてしまえば、その行方不明の一振りがアーサー王の子孫に返却された可能性もある。

 

(どっちにしても便利な特殊機能を追加して頑張って作り直したナマクラにしか見えないよな、二本の本物のエクスカリバーを見た後だと)

 

(そうよね)

 

(うん、あの二本に比べると)

 

聞こえないように注意しながらそんな言葉を交わす四季と詩乃と雫の三人。

比較対象は型月世界の聖剣エクスカリバーと言うのも相手が悪すぎるだろう。

 

「そのうち各宗派から一本ずつが奪われ、この地に持ち込まれたって話さ」

 

「まったく無用心ね……誰がそんな事を?」

 

「奪ったのは堕天使組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部、『コカビエル』だよ」

 

「堕天使の組織に!? それもコカビエルなんて、聖書にも記された者の名が出るとはね……」

 

(知識通りか……)

 

(そうね、勝てる?)

 

(勝てるさ、オレ達なら……って言いたいけど、不安はあるな。やっぱり使うか、ガチャチケ)

 

知識通りだが、問題がないわけはない。敵は堕天使の幹部、前大戦の生き残りだ。オニキスやウィザードで本当に届くのかと言う不安はあるのだ。

 

「私達の依頼……いや、注文とは。私達とグレゴリのエクスカリバー争奪の戦いに一切悪魔が介入しない事。つまり、今回の事件に関わるな、と言いに来た」

 

「悪いけど、それは無理な注文だな」

 

「な、なんだと!?」

 

なるべく話しに入らない様にしていたが四季は此処で口を出す。

 

「流石にこの街に入り込んでいる以上、何を仕出かすか判らない。が、予想は出来る。……特にコカビエルはグレゴリの中でも過激派の筆頭、そっちが失敗……いや、行動が僅かに後手に廻っただけでも最低で…、この街にいる魔王の妹二人とその眷属の命、最悪は街そのものを危険に晒す事になる」

 

「四季」

 

「お前……」

 

四季が自分達の心配をしてくれていると思って感動を覚えるリアス達だったが……

 

「過激派の考えなんて、大抵戦争の再開だろ。要するに、ここに来たのは聖剣を使って魔王の妹二人を殺害、その首を魔王に送りつけて宣戦布告して堕天使と悪魔の戦争、そしてそれに天界まで巻き込んでの第二次大戦の勃発」

 

教会組の二人へと視線を向け、

 

「そっちが関わるなと注文しているのは敵の最優先ターゲットだ。関わってるんだよ、この街の悪魔はコカビエルが来た時点で全員今回の事件には、な」

 

更に笑みを浮かべて、

 

「悪魔にだって好戦派はいるだろう。天界の関係者が余計な要求をしたから魔王様の妹君達は犠牲になってしまった、聖剣を奪われて余計な要求をした天界も敵だ! なんて、叫んで悪魔側の好戦派にも戦争再開の理由を与える」

 

そもそも、原作に於ける今回の一件自体がコカビエルが主犯だが、悪魔と天使の好戦派が協力していたのでは、なんて深読みさえできるのだから。

 

「その要求は悪魔側からの天界への宣戦布告の理由になる可能性がある。それを分かっているのか?」

 

四季はゼノヴィアへとそう問いかける。




今回は完全に火を放って油をまいていくスタンスの四季くんでした。


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二十六話目

「だが、協力は仰がない。悪魔側も神側と一時的にでも手を組んだら三竦みの関係に少なからず影響を与えるだろうからね……」

 

「そりゃそうだ。下手に手を組んだらそれはそれで、ある意味じゃコカビエルの思惑通り……と考えるべきだろう」

 

付け加えるならば天界側も悪魔側を刺激しないために聖剣を持たせた数人しか送れなかったと言うことなのだろう。

 

天界は悪魔側を刺激しすぎない程度の戦力しか送れない。コカビエル討伐のための十分な戦力など、悪魔側の領域では下手しなくても悪魔側を刺激するだけだ。

 

下手に天界と堕天使の問題で悪魔を刺激して、天界と堕天使が手を組んだとされて第二次大戦勃発の危険性さえある。

 

一番ベストなのは堕天使側の上位者が責任を持ってコカビエル討伐を果たすか、魔王が出張って直接コカビエルを倒すかだ。

そうなれば天界側の面目は兎も角三つ巴の内乱の第二次の開始だけは免れる。

 

「それで、正教会はどう動くのかしら?」

 

「奴らは今回この件を保留した。残った一本を死守するつもりだろう」

 

「そりゃ、残ってるのが祝福じゃ下手に動いたら、相手に聖剣をプレゼントする様なものだからな」

 

ある意味においては正しい。十分な戦力を送ることもできない場所に行くよりは迎え撃つ構えの方が勝ち目はあるだろう。

 

単純な引き算、エクスカリバーという戦力の数で負けて、コカビエルと言う最大戦力に対しては相打ちにすら届かないであろう二人では勝ち目は薄い。

 

「二人だけでコカビエルから取り戻そうと言うの? 無謀ね……死ぬつもり?」

 

「そうよ」

 

四季としては無謀と言うよりもコカビエルに残る聖剣のうちの二本をデリバリーする宅配便にしか見えないのだが、流石に其処は口にしない。

 

「用件は以上だ。イリナ、帰るぞ」

 

「そう、お茶は飲んでいかないの?」

 

「いらない」

 

朱乃がティーポットとカップを用意しているが、ゼノヴィアはそれを断ってイリナを促して帰ろうとする。

 

「ゴメンなさいね。それでは」

 

イリナがそう謝って立ち去ろうとするが、ゼノヴィアの視線が一人の……グレモリー眷属の中の一人に止まる。

 

「兵藤一誠の家で出合った時にもしやと思ったが、『魔女』アーシア・アルジェントか?」

 

アーシアに視線を向けながらゼノヴィアはそう問うが、それは問いと言うよりも既に確信を持っての言葉に聞こえた。

 

(魔女ってどう言うこと?)

 

(彼女……アーシア・アルジェントの過去に関わりがある事、彼女がグレモリー眷属になる切欠とでも言うべきかな、この場合?)

 

小声でそう問いかける詩乃の言葉に同じ様に小声でそう答える。

悪魔を癒やしてしまった事が彼女が魔女と呼ばれて教会を追放された理由なのだが、流石に無理はないとも思う。

 

(自分や仲間が命賭けで追い詰めた相手を、味方が癒して助けたんじゃ追放もされるだろう)

 

(それは、分かるわね)

 

(うん)

 

四季の言葉に同意する詩乃と雫の二人。彼らがそんな会話をしている間にゼノヴィアのアーシアへの魔女発言に怒った一誠がゼノヴィアへと戦う事となり……そこに既に我慢の限界となった木場が参加したわけだが……

 

「そっちの私闘には興味ないから、要件が済んだなら帰って良いか?」

 

こっから先は本格的に無関係なのだから、要件が済んだならさっさと帰りたいと言うのが四季達の意志だったりする。

 

「あら、もう少しくらいなら良いじゃない? 治療出来るのがアーシア以外にも居た方が私達も安心なのよ」

 

リアスの弁としては私闘とは言え聖剣使いを相手にする以上治癒の力を持つ雫には居て欲しいとのことだった。神器と術、原理こそ違えど治療出来るのがアーシア一人では無い方が助かるのだろう。

 

「勿論、今回呼びつけたのとは別の対価も払うわ」

 

直接自分の目で見て以来、本格的に雫の力に目を付けている節のあるリアスに多少の警戒心は抱きつつも渋々了承する。

 

「待て、アーシア・アルジェントと同じ神器を持った者が他にも居るのか?」

 

「いえ、彼女の力は先日……ちょっとした事情で確認させてもらう事になったけど、あれは神器では無かったわ」

 

「おい」

 

それは雫の力であるはずなのに何故かリアスが誇らしげに言って居るのは良いとして、思いっきりこっちの手の内を勝手に別の相手に明かして居るのには色々と言いたいところはあるが、それよりもこのタイミングで暴露されるのはどうかと思う。

 

「ま、まさかそんな者が居るわけがっ!?」

 

神の作り出した神器(セイクリッド・ギア)、その中でも希少な物であるそれに匹敵する力を持つ者の存在はゼノヴィア達にとっては衝撃的だったのだろう。彼女の中に動揺が浮かんで居る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結界によって隔離した校庭にて対峙する木場とゼノヴィアと……何故か四季とイリナの構図。

 

「どうしてこうなる?」

 

「私にもよく分からないけど……」

 

具体的にはイッセーから巻き込まれた。木場が自分も参加するとなりゼノヴィアと戦う事になった為、流石に幼馴染、それも女の子相手に拳を向けるのは気が引けたのだろう、結果的に四季にお鉢が回ってきた。

 

まあ、ドレスブレイクなんて言う技を持つイッセーに戦わせるのは気が引けるので別に構わないのだが……。

 

「まったく、魔剣創造(ソード・バース)聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング)赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)、異端の神器の多い土地だな」

 

「いや、全部お前達の所の神様の作品だろ?」

 

四季の言葉が刃となってイリナとゼノヴィアの心に突き刺さる。

 

「……何が言いたい?」

 

「元々神器は最初の神が作り出したんだろ? それも、自分の所の神話以外の原材料まで使って。そんな神器を異端と言うなら、聖書の神もまた異端と言うのが道理だろう」

 

そこで一旦言葉を切り、

 

「異端を作り出した者も異端ならば、お前達の神こそが最大の異端と言う事だ」

 

「「なっ!?」」

 

心理攻撃は基本である。ゼノヴィアだけでなくイリナにさえも効果のあるキツイ一撃にはなってくれただろう。

 

そもそも、雫の力の事を暴露されたのだ、雫の事も異端だなんだと言って手を出されたくはないので、しっかりと心をへし折っておくに限る。

 

だが、そんな状況も関係ないとばかりに木場は狂喜とも言うべき笑みを浮かべて居る。

 

「……笑っているのか?」

 

「壊したくて仕方なかった物が目の前に現れたんだ。嬉しくてさ」

 

既に試合で終るのか疑問な表情を浮べて笑っている木場に内心で不安を覚える一誠達グレモリー眷属。

 

「そんなに聖剣が憎いのか?」

 

「当然だろう」

 

木場は穏やかとも言える口調で、凪いだ海を思わせる口調で告げる。

 

「ああ、お前達の間じゃ『皆殺しの大司教』とか呼ばれてる、計画の主導者……『バイパー・ガリレイ』だったか? そいつを破門にした? 異端扱いした? 今じゃ堕天使側の存在だから自分達には関係無いとでも言うつもりか?」

 

懐から(正確には武器庫の端末から)オリハルコンを取り出しながら四季はゼノヴィア達に向かって口を開く。

 

「随分と笑える冗談だな」

 

「何だと?」

 

「その程度の緩い処分で済ませたのも、お前達が聖剣を扱える理由に通じてるんじゃないのか? 関係ないなんて言い張るなら、その程度の緩い処分で済ませるんじゃなくて、首でも跳ねて処刑しておけ」

 

「しょ、処刑ってそこまで……」

 

「大体、異端扱いしたからって教会に責任が無くなる訳じゃない。そいつが神の名の下に聖剣計画を行なった事実は覆らない。……お前達教会……いや、聖書の神はエクスカリバーと言う聖剣の名を汚した“邪悪”だ」

 

「貴様っ!」

 

「大体、お前達と言う聖剣使いが二人も量産されてる以上、聖剣計画は今も続行されてると言う証明だろ?」

 

四季の言葉に更に木場の憎悪が増して、二人の動揺が強くなる。

 

木場は自分の仲間が犠牲になったその時から何も変わっていない教会への憎悪を、

ゼノヴィアとイリナは誇りと思っていたものが寧ろ罪の証と、

そんな考えが浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

 

「なんだか、お兄さんノリノリ」

 

「四季、本当に楽しそうに煽ってるわね」

 

そんな四季の様子に呆れた様子を浮かべている詩乃と雫の二人。

 

 

 

 

 

 

 

「人道を無視した実験のデータは技術の進歩に大きく帰依している。聖剣使いを量産できる技術は教会側にとっては正に魅力的……いや、言い方は悪いが悪魔の誘惑と言うことになるな。で、種族的な者ではなく精神的な悪魔の誘惑に負けて、罪と血に塗れた聖剣を振るう……異端者の力で生まれた聖剣使いさん達、どう思う?」

 

「「……」」

 

すっかり戦意は折れているのだろう二人からは何も反論は帰ってこない。

 

「無関係だと主張するなら、関係した研究者全員の首を跳ねて始末した上で研究資料を焼き払って完全に抹消してから言え」

 

「だ、だけど、その計画のお陰で聖剣使いの研究は飛躍的に伸びたのもまた事実よ。だからこそ私やゼノヴィアみたいに、聖剣と呼応出来る使い手が誕生したの」

 

「うわー」

 

イリナの主張にドン引きと言う表情を浮かべながら、

 

「それ、『犠牲者の皆さん、ありがとー、お陰で自分達は犠牲にならないで済んだ上、聖剣も楽に扱えてラッキー』って言ってるようなものって分かってるか?」

 

「うっ、うっ……」

 

剣を落としてその場に崩れ落ちるイリナ。完全に戦意は折れている。

 

「はい、お終い」

 

悠々と勝利発言をする四季。精神攻撃だけでこの模擬戦に勝利したのだった。

 

「お、おい!?」

 

そんな中、ゼノヴィアから声がかかる。

 

「こ、こっちを何とかしてくれないか!?」

 

「聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロス聖剣コワス聖剣使いコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス……」

 

精神攻撃の影響と、目の前の私闘じゃなくて死闘にシフトしているであろう殺意を纏った木場に若干涙目でなんとかしてくれと言ってきたゼノヴィアだが。

 

「頑張れ、そっちの相手は君だ」

 

若干やり過ぎたかと思いながらも木場の相手はゼノヴィアに丸投げするのだった。



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二十七話目

「えーと」

 

予想以上を通り過ぎて予測の斜め上を行った影響が出ている木場の姿になんと言うべきかと悩んでしまう、四季。

 

完全に涙目ながら木場に勝利したゼノヴィアと地に伏せている敗北した木場の姿。

 

「まあ、最後に破壊力なんて余計な物に頼らなきゃ勝ててたかもな」

 

木場の最大の武器は速さ、一撃でダメなら十を、十でダメなら百の斬撃を与えること。それが木場が突き詰めるスタイルだろう。

例えるならば、アクセルトライアルがアギトバーニングファームのような戦い方をしても意味はないような物だ。

 

己の最大の武器を無視して、ゼノヴィアの破壊の聖剣の破壊力に対抗しようとして本来の戦闘スタイルとしては余計な物でしかない大剣を作り出すなど、間抜けでしかない。

 

聖剣への復讐心を暴走させた結果が、自身の力を見失った末の無様な敗北。強大な破壊力も当たらなければ意味がない、相手が振り下ろすよりも早く切り裂けば破壊力も意味は無い。彼が選択すべきは振り下ろされるよりも早く、全てを振り切る速さだったのだ。

 

(まあ、復讐に囚われてる上に、聖剣への八つ当たりしかしていない以上、何も振り切ることは出来ないだろうけどな)

 

彼が選んでしまったのは無意味な破壊力。聖剣への復讐と言う八つ当たりにに目が眩み、結果的に己の振るうべき剣を見失った。

 

「当然の結果だ。三流剣士」

 

リアスは木場の事を剣術と神器と騎士の駒の特色である速さを持った一流の剣士だと評した。

 

だが、四季の下した木場の剣士としての評価は三流。

剣術や神器の力は己の物だ、それは間違いない。悪魔の駒で得た力も己の物に出来たのならば問題ない。だが、問題は未熟な心。

中途半端な復讐に囚われた未熟な心。復讐したいのならば聖剣では無く、それを行なった研究者や教会、天界であるべきなのに、だ。

 

その上に敵……この場合は正確には模擬戦の相手であるゼノヴィアからそれを指摘され、その刃で斬られる事すらなかった。

 

木場のそれは心技体の心が低い歪なトライアングル。

ある意味、朱乃や子猫にも言える事だが、体は大幅に悪魔の駒の力で高まるだろう、技も体に引きずられ高まるスピードも上がるだろう。だが、心だけはそんなに直ぐには成長しない。

それを利用してイリナをK.O.した四季としては複雑な心境だが。

 

(体は強くても心は豆腐、か)

 

その精神面でグレモリー眷属の中で一番マシなのがイッセーと言うのが笑えない話だが、各々精神面で問題を抱えているイッセー加入以前のグレモリー眷属の中でメンタルケアが全くされていないと言うのも、グレモリー眷属の問題点だろう。

 

メタな発言をして仕舞えば原作主人公のイッセーの仕事だが、リアルな話をするならば彼らの王であるリアスの役割だ。

 

「それじゃ、オレ達は帰らせてもらって良いか?」

 

木場一人なら治療要員はアーシア一人で十分だろうと判断してそう言わせてもらう。

 

「ごめんなさい、治療お願いできるかしら」

 

「……はぁ。雫、頼む」

 

「うん、分かった」

 

恐らく神器ではないとは言え同じ治癒の力なのだから、それを見る事はアーシアにとっても参考になると思ってのことなのだろう。

後で治療費は請求するとして、面倒なのは教会関係者にそれを見られる事だ。

 

「っ!?」

 

予想通り雫の力にゼノヴィア達は驚いている。

 

「まさか、本当に神器(セイクリッド・ギア)でも無い治癒の力を持っているとは……」

 

「うそ……信じられない」

 

トリックでもなんでも無く、側から見たら、イリナとゼノヴィアから見ても奇跡とも言うべき力だろう。

 

まあ、彼女の力の本来の持ち主である美里葵の幕末の時代の先祖に当たる美里藍がキリシタンと言う事を考えれば全く無関係とは言えないが、雫の力は龍脈から与えられた物だ。聖書の神とは関係ない。

 

「……ところで、1つ聞きたい。彼女の力は私達にも効果はあるのか?」

 

「ん? ああ、雫の力はちゃんと人間にも効く。最初に恩恵を受けたのはオレ達だからな」

 

「正真正銘の神の奇跡と言われても頷けるな」

 

見られたのなら隠しても意味は無いと考えて四季はゼノヴィアの問いに答える。何でそんな事を聞いたのかも、大体理解出来た。

 

「彼女の力のことは気になるが、今は追求するのはやめておこう」

 

「そう判断してくれるのはありがたいな」

 

神の奇跡でも見せられているような光景。その対象が悪魔でなかったら本当の神の奇跡と言われても二人は疑わないだろう。

 

だが、今は聖剣奪還の任務が優先だと判断して、ゼノヴィアは意識を切り替える。

なにより後で対価は要求されるだろうが、治療手段の確保は任務の達成や生還の確立を大幅に上げる。

悪魔側とも関係の無い中立な立ち位置で呼ばれたのなら、友好的で無くとも敵対しないだけ得な相手だ。

 

「では、後で対価は支払おう。何かあった場合は私達の事も治療して貰えればありがたい」

 

「安心してくれ、その場合は味方と判断してちゃんと治療する」

 

対価の支払いに関しては状況にもよるが、敵と状況によっては無償での治療も考えている。

 

「天地四季だったな? その話、よろしく頼むよ」

 

「じゃあそう言う事で。教会に入りたくなったらいつでも言ってね。アーメン♪」

 

いつの間にか精神的にフルボッコにされたイリナも復活して四季達にそんな事を言っていた。

 

そんな会話を交わして校庭から立ち去っていく前にゼノヴィアはイッセーへと振り返り、

 

「1つだけ言おう、『白い龍(バニシング・ドラゴン)』は目覚めているぞ」

 

「ああ、アルビオンの事か」

 

「バニシング、ドラゴン? アルビオン?」

 

ゼノヴィアと四季の言葉に疑問を浮かべるイッセー。

 

「……一応、お前の相棒なんだから、少しはどう言うドラゴンなのか知ってやれ」

 

そんなイッセーの言葉に溜息を吐きながら四季はそう呟く。

 

「しかし……それの元が本物かは別にして、ドライグの神器がある街にエクスカリバーの名を持つ聖剣が集まるのも、運命的なのかもな」

 

「たしかに、そうかも知れないわね」

 

「コカビエルの仕業とは言え、か」

 

四季の言葉に同意する詩乃とゼノヴィア。

教会のエクスカリバーが本物(盗品)かリチャード1世由来の品かは別にしてもドライグの名を持つドラゴンの元にエクスカリバーが集まるのは何かの運命を感じてしまう。

三人の視線がイッセーへと向かうが、

 

「え? どう言う事だよ、運命とかって」

 

当の、ドライグの神器である赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を宿したイッセーは何も知らない様子だった。

 

「お前の神器のドラゴンは本物のエクスカリバーの持ち主のアーサー王とは縁があるんだ。……ってか、自分の宿した相手の事くらいは知っておいてやれ」

 

そんなイッセーの言葉に呆れた様子で最低限の事を教える四季。

 

「いずれ白い龍とも出会うだろうが、その調子では絶対に勝てないだろう」

 

ゼノヴィアはそんな言葉を残してイリナと共に立ち去って行く。

 

立会人の役目も、治療役の役割も終わったので四季達も帰ろうとした時、

 

 

 

「待ちなさい、裕斗!」

 

 

 

木場を呼び止めるリアスの声が響く。

 

「貴方はグレモリー眷属の騎士(ナイト)なのよ! はぐれになってもらっては困るわ!」

 

己を呼び止める主人の手を木場は振り払う。

 

「ぼくは同志達のお陰で彼処から逃げだせた」

 

その目に宿るのは何処までも暗い憎悪。

 

「だからこそ、彼らの恨みを魔剣に込めないといけないんだ……」

 

「裕斗……どうして……」

 

リアスもイッセーもそう言って立ち去っていく木場を見送るしか出来なかった。

 



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二十八話目

「さてと……次は」

 

その日、四季は詩乃から頼まれた買い物のメモを開いてそれを確認していると視界の端に妙な物を捉えた。

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

 

「どうか天に変わって哀れな私たちにお慈悲をぉぉ!」

 

何処かで見たことのある二人組が本当に哀れな姿で物乞いをしていた。

 

「……何やってんだ?」

 

間違い無く先日教会から派遣された聖剣使いの二人組だ。

任務の最中なのにこんな所で何かの修行なのだろうか?

それとも、協会は清貧を旨とし過ぎて最低限の活動資金、主に現地での宿代と食事代も渡さないのだろうかと疑問に思う。

 

「なんて事だ」

 

ゼノヴィアの心境を物語るような空の箱の中に虚しく落ち葉が落ちる。

 

「これが経済大国日本の現実か。これだから信仰の匂いもしない国は嫌なんだ」

 

「毒付かないで、ゼノヴィア。路銀の尽きた私達はこうして異教徒の慈悲なしでは食事もとれないのよ? ああ、パン1つ買えない私達!」

 

「ふん、元はと言えばお前が詐欺まがいの変な絵画を買うからだ」

 

そんな二人の様子を呆れた目で暫く観察していると、どうやら聖人?を描いた絵をイリナが路銀を全部使って買ってしまったらしい。

 

エクスカリバーを使って大道芸をして少しでも稼ごうとしていたが、切る物が無く唯一切り刻める絵を切り刻もうとしていた。

 

「おーい」

 

心境的にはこの場で見なかった事にして帰りたい所だが、変に追い詰められた二人が人の道を踏み外す決断をされても困るので、意を決して言葉をかけた。

 

「お前は、天地四季」

 

「何があったかは知らないけど、食事くらいはご馳走してやる」

 

四季のその言葉に二人からは心底感謝を込めて祈られた四季であった。

 

 

 

 

なお、

 

「その明らかな偽物の絵を切り刻むのは賛成だけど」

 

「ああ、この絵を切り刻むのは良いとして、何だ?」

 

「大道芸をするなら、擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)の擬態能力を使えば良いんじゃないのか?」

 

「え!? 一般人の前で聖剣の力を見せるのは……」

 

「いや、手の平サイズの小物に変化させて手品みたいにハンカチや布で隠して変化させれば、単なる凄い手品と考えるんじゃないのか?」

 

四季の言葉になるほどと言う顔を浮かべる二人。序でにエクスカリバー(仮)強奪犯に対する囮にもなる。四季とゼノヴィア達の間でそんな会話が交わされたそうだ。

……木場の仲間の仇のエクスカリバー(贋)大道芸の道具に使われる。

 

 

 

 

 

 

現状を詩乃に連絡して帰りが遅れると言う旨を連絡するとイリナとゼノヴィアの二人を連れて近くのファミレスに入る。

 

「うまい! 日本の食事は美味いぞ!」

 

「うんうん! これよ! これが故郷の味なのよ!」

 

ファミレスの食事が故郷の味となるのかは分からないが朝から何も食べていなかった様子で凄い勢いで食べている二人の様子に内心呆れてしまう。

 

「それにしても……何でわざわざ任務の最中にそんな邪魔になる絵なんて買ったんだ?」

 

「それはイリナに聞いてくれ……」

 

四季の問いにうなだれながら答えるゼノヴィア。イリナ曰く多分ペテロだのと言っているよく分からない絵を買ってしまった相棒に路銀を預けた自分の迂闊さを呪っている事だろう。

 

そんな二人の視線が、メニューを見て『デザートからが本番よ!』と言っているイリナへと向かう。

 

何気に旧校舎の修行場では何故か金銭もドロップする。元々の魔人学園の仕様と言って仕舞えばそれまでだが現金がドロップするのかは謎である。……砂金とかの形で入手させられてもそれはそれで困るが。

そんな訳で日々の修行の副産物でそれなりに金はあるのだ。

 

「ゼノヴィアだったか?」

 

「なんだ?」

 

「……少し寄付させてもらうから路銀はお前が管理した方がいい」

 

「言われるまでもない。神に誓って、もう二度とイリナには財布は渡さない」

 

「賢明な判断だ」

 

どう考えてもゼノヴィアに渡しておいた方が安心だろう。財布の中から取り出した金をゼノヴィアへと渡すと、

 

「それともう一つ……そっちに用がありそうな、珍しい組み合わせの三人組が居るぞ」

 

食事を終えて落ち着いた様子で四季から寄付された路銀を仕舞っているゼノヴィアと、いつのまにか追加で頼んだデザートのパフェを食べて居るイリナに対して自分の後ろを指差しながら四季はそう告げる。

 

「気付いてたのかよ」

 

「気配には敏感なんでね」

 

先程から四季から一度も視線を向けられていなかったので気付かれていなかったと思っていたのだろう。

三人組のイッセーはそんな四季の言葉に驚いた様子だが、当の四季は何でもないと言うような態度でコーヒーに口を付ける。

 

「それにしても、同じ主人の眷属の塔城は兎も角、生徒会長の眷属の匙が一緒なのは本当に珍しいな」

 

先日のイッセーが女生徒を押し倒した一件もあって仲は良く無いであろう匙までいるのは確かに意外だった。

 

ファミレスに入る前から三人の気を感じたのでそちらへと注意を向けていたと言うのが真実だが、そんな事はイッセー達は知る由もないだろう。

 

「……仙術? いえ、似てるけど違う?」

 

唯一子猫だけが気付かれている事に僅かに気付いていた事を除いて。

 

「で、この事は生徒会長には許可もらってるのか?」

 

「兵藤に無理矢理連れてこられたんだよ……」

 

「御愁傷様」

 

貰っていないのだろう、許可は。後のことを考えているのか表情に暗い物が指している匙に同情しつつ、イッセーへと視線を向け。

 

「それで何の用なんだ?」

 

「ああ、単刀直入に言うと……聖剣(エクスカリバー)の破壊に協力したい」

 

四季の問いにそう答えると、イッセーはイリナとゼノヴィアへと向き直り、そう告げる。

そう言われたイリナとゼノヴィアの二人も驚いた様子だ。

 

「天地、すまないが」

 

「分かった。代金は支払っておく」

 

「助かる」

 

ゼノヴィアの言葉の意図に気がつくと四季はイッセー達と入れ替わるように伝票を持って席を立つ。

 

イリナの真意は分からないが、ゼノヴィアはこのイッセーからの提案を受ける気なのだろう。だが、天界側の彼女達がイッセー達悪魔側と協力すると言うことはなるべく知られたくないのだろう。

 

第三者の立場の四季は今回はいて欲しくないと判断したゼノヴィアの意図に気付いた四季も彼女の意思を尊重して立ち去る事を選んだ訳だ。

 

「食事や路銀の礼はいつかするぞ、天地四季。それと、迷惑ついでにもう一つ頼みたいのだが……」

 

「ああ、コカビエルの動きを掴んだら連絡しよう」

 

「重ね重ね済まない。何かあったらここに連絡をくれ」

 

そう言ってゼノヴィアから連絡先を書かれたメモを渡される。

 

(少し怪盗として探ってみるか)

 

今回の事件はレイナーレの時や、グレモリー家のお家騒動だったフェニックスの件とは違い放置しておいて失敗したら大量の被害者が出る。

何より、

 

(コカビエルとフリード、バルパーの三人だけって言う所も原作じゃ気になっていたけど……)

 

鏡の方に視線を向けるとベンタラにいるドラグブラッカーが頷いている。

 

(敵の隠れ家は分からないか)

 

幾らコカビエルが強いとは言っても好戦派の堕天使はそれなりに多くいる事だろう。少なくとも、一人だけと言う事は考えられない。

 

(好意的に見れば自分が犠牲になって禍の団に行く好戦派の堕天使を押さえたとも考えられるな)

 

幾ら戦争狂と言ってもそこまで愚かではないだろう。普通に考えて実の妹である以上は直通の連絡方法の一つもあるだろうし、サーゼクスとセラフォルーは有名なシスコンなのだ。周りが止めても直に出てくるだろう。(相手が相手なだけに下手な戦力では犠牲が出ると言う理由付けも出来る)

 

そう考えると他の好戦派を抑えるために最小限の戦力で今回の事件を起こしたと考えても筋が通る。

 

先代の四大魔王と聖書の神が死んだ中で堕天使はほぼ無傷とは言え、悪魔側も先代以上の力を持つサーゼクス達の存在や、戦力的には天界側も他の天使は無傷で残っている。

ほぼ無傷の堕天使、次世代が育っていた悪魔、上を失ったとは言え十分な戦力のある天使。

ここから考えるに聖書勢力の戦力の内訳は精々拮抗状態といった所だろう。

 

(まあ、最終目標は推測できるし、まだ様子見をしておくか)

 

コカビエルのこの街での最終目標はリアスとソーナの命。

魔王の身内が堕天使の幹部に殺されたとなっては確実に悪魔側は戦争へ向けて止まらなくなる。

 

(内乱の続きがしたいなら好きにしてくれても良いけど、それに無関係な人間を巻き込むな)

 

阻止されること前提の計画であったとしても巻き込まれる側としてはそう思ってしまった。



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二十九話目

後半の内容を修正しました。


飽く迄今回のコカビエルの事件における四季達の立ち位置は部外者だ。なので、イッセー達が聖剣(エクスカリバー)破壊団なんて言うのを結成した事も知らない。

 

いつもの様に友人二人と会話しているイッセーの姿からはどんな事が有ったのかは伺えなかった。

……が、壮絶な顔で号泣している坊主頭と殺意の篭った顔で凄んでいるメガネから大体想像できる。

 

「ねえ、天地クン、皆んなでボウリングとカラオケ行くんだけど、アンタも行かない」

 

「オレも?」

 

三人と話していた橙の髪を三つ編みにした眼鏡の少女『桐生藍華』がそう誘ってくる。

 

「ちょっと待てよ、なんでそいつまで誘うんだよ!」

 

「そうだ! 野郎は木場だけで十分だろう!」

 

「いや、待て! 天地がくると言う事は……一年の詩乃ちゃんと雫ちゃんも来るという事だぞ」

 

「はっ! そうか、あの二人のオプションと考えれば!」

 

「そうだ、アーシアちゃんと小猫ちゃんだけじゃなくて朝田詩乃ちゃんと北山雫ちゃんとも遊べるんだぞ!」

 

「うおおおおおぉぉぉぉ! そりゃ、テンション上がるぜ!」

 

絶叫して喜んでいる松田と本浜を呆れた視線で見ながら桐生の方に向き直る。

 

「まあ、あの三人が不安点だけど、二人も来るとは思う」

 

「それじゃあ、天地クンも来るのね?」

 

彼女からの誘いにオッケーの返事をする。一緒に遊びに行く相手がイッセー達三人、通称変態三人組なのが不安だが。それは諦めたほうがいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、

 

「収穫は無しか」

 

四次元ポケット級の収納力を持つタクティカルベストのポケットに怪盗衣装を仕舞いながら四季はそう呟く。

 

「分かってたけど、手掛かりが全然見つからないと、ちょっと気が滅入るわね」

 

「うん」

 

怪盗衣装から私服に着替えてビルの屋上で四季達三人はそんな会話を交わしていた。

 

コカビエルの動きを掴もうと探し回っていたが、今のところ収穫はゼロ。流石は歴戦の堕天使と言った所か、ギリギリまで魔王の妹に動きを掴まれるマネはしないだろう。

 

「そうなると、予定通り部下の暴走を期待した方が良さそうだな」

 

少なくとも既にフリードは既に勝手なのか、コカビエルの指示なのかは分からないが割と目立つように動いてくれているので待っていれば動きはつかめるだろう。

言い方は悪いが囮も動いてくれている。

 

「詩乃、兵藤達の様子はどうだ?」

 

「特に変わりはないみたい」

 

詩乃の視線の先に居るのは神父の格好をしたイッセー達三人とシスターの格好をした小猫。

 

詩乃の力、桜井小蒔のそれは主に視力を中心に強化される。その為に彼女に兵藤達の三人の様子を確認してもらったのだが、まだ食い付いてはいないようだ。

 

「……少し休ませて貰って良い」

 

「ああ、無理はしない方がいい」

 

力の扱いについての訓練も兼ねて詩乃に監視して貰っていたが、元々彼女のいた世界に特殊な力は存在していない以上、流石に慣れない力の行使は必要以上に消耗が激しいのだろう。

そんな彼女を気遣うようにスポーツドリンクを渡す。

 

「ありがとう。でも、少しは慣れてきたわ」

 

渡されたスポーツドリンクに口をつけながら、四季の言葉にそう返す。そして、短時間の休憩の後再び視力を強化する。

 

「っ!? 四季、向こうに動きがあったわ!」

 

「分かった!」

 

再度イッセー達の監視を行った詩乃がそう叫ぶ。詩乃の言葉いた四季はワイヤーを巻き付けてビルから近くの家の屋根に降りる。

 

「先に行く! 二人は後から来てくれ!」

 

二人にそう言い残して身体能力を強化し、パルクールの要領で屋根から屋根へと飛び移りながらイッセー達の居る場所へと向かう四季。

 

そんな四季の姿を見送ると詩乃と雫の二人も顔を見合わせると頷きあってビルから降りて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も収穫無しか……」

 

「神父のふりをしていればその内アイツと出会うと踏んでいたんだけどな……」

 

路地裏に一誠達三人のグレモリー眷属と匙の姿が在った。彼等の服装は駒王学園の制服では無く、男三人が神父の服で小猫だけがシスターの服。

 

イリナとゼノヴィアの二人と協力を取り付け、情報交換とエクスカリバーの破壊の許可をもらう事が出来た。……『出来るのなら破壊しても良い』と言う言葉だったが、一誠達にはそれで十分だった。

 

数日前、エクスカリバーの中の一振りを持ったフリードに木場が遭遇……その際にフリードが匙が変えられた怪物と似た青い騎士のような怪物に姿を変えたと言う情報を伝えられたのだが、アナザーライダーのことを知らない教会組にとっては脅威と捉えていない様子だった。

フリードが教会関係者を襲撃して居ることから、ここ数日イッセー達はこうして神父のふりをしてフリードをおびき寄せようとしているのだが、未だに収穫は無かった。

 

「オレが変えられたって言う化け物の力に聖剣か……オレ達だけでホントに大丈夫か?」

 

アナザーリュウガに変えられていた時の記憶は無いのだろう匙が不安そうに呟く。

 

「ああ、対抗策に天地の奴からカードデッキを借りたかったんだけどな」

 

未だに四季から教えられたカードデッキのDNA認証のことは信じていない様子のイッセーが匙の言葉にそう返す。

だが、相手がアナザーリュウガでは無くアナザーブレイブなのでオニキスの力はあまり意味はないだろう。

 

「……裕斗先輩?」

 

彼等がそんな事を話しながら歩いたいると木場が足を止める。そんな木場の姿を怪訝に思ったのか小猫がそう声をかける。

 

「どうした、木場?」

 

「作戦は成功したようだね」

 

自分たちへと向けられている殺気の主に気が付きそちらへと視線を向ける。

 

「神父ご一行様、天国へご案内ってね! ……おや?」

 

「フリード!」

 

襲撃者の顔を見たイッセーがそう叫ぶ。レイナーレの一件でイッセー達との間に因縁が出来たはぐれエクソシストだ。

 

 

「おやおやおや? イッセーくんかい? これまた珍妙な再会劇でござんすね!」

 

フリードと呼ばれた襲撃者の手にあるのは聖のオーラを纏った剣……恐らくはそれが盗まれたエクスカリバーの一振りだろう。

 

「どうだい? ドラゴンパゥワーは増大してるのかい? そろそろ殺して良い?」

 

『狂喜』と呼べる笑みを浮かべながらフリードはエクスカリバーを持ってそう問いかける。

イッセーが己の神器(セイクリッド・ギア)赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を出現させたのを合図に、一同はフリードとの遭遇戦へと突入する。

 

「伸びろ、ラインよ!」

 

「うぜぇっす!」

 

匙が最初に腕に現れたカメレオンの様な神器からラインを伸ばすも、それはフリードに切り払われる。だが、ラインは切り裂かれる事なく足に巻きつく。

 

「そいつはちょっとやそっとじゃ斬れないぜ! やっちまえ、木場!」

 

「ありがたい!」

 

動きを封じた上で高速戦闘タイプの木場が仕掛ける。即席の連携としては良い物と言えるだろう。

 

「チッ! だが、俺様の持ってるエクスカリバーちゃんはそこらの魔剣君では……相手になりはしませんぜ!」

 

そこは一応は七分の一になったエクスカリバー(疑)とは言え正規の聖剣と言ったところだろう。木場の魔剣を砕くどころか切り結んだ瞬間、逆に切り裂いている。

 

「くっ!」

 

木場の魔剣ではフリードのエクスカリバー(?)には勝てない。そんな考えが木場の中に浮かぶ。

 

「木場! 譲渡するか!?」

 

「ハハハッ! 随分と聖剣を見る目が怖いねぇぃ!」

 

そう言った後フリードは懐から時計のような物を取り出す。

 

「でもねぇ、俺様、もっと自由に殺し合う方が大好きなのよ!」

 

 

 

『ブレイブ……』

 

 

 

「だからさぁ、へーんしん!」

 

アナザーライドウォッチをその身に取り込み、フリードはアナザーブレイブへとその姿を変える。

 

「な、何だよ、あの化け物は……? オレはあんなのに変えられてたのか!?」

 

匙は初めて直に見たアナザーライダーの姿に驚愕の声を上げる。

 

「おおぅ、俺様にこのスペシャルな力をくれた人が言ってた実験体ってのはそっちの新顔の悪魔君でしたか? そんじゃ、第二ラウンドと……行きましょうかねぇ!」

 

「そんな姿に変わっても!」

 

「ハハハ! 随分と聖剣を見る目が怖いねぇ!」

 

木場が新たに作り出した魔剣を片手と一体化した盾によるシールドバッシュで砕く。

 

「死んじゃえよ!」

 

魔剣を砕くと同時に吹き飛ばした木場にトドメを刺そうとエクスカリバー(疑)による刺突で串刺しにしようとする。

 

 

 

「ハァァァァア!」

 

 

 

アナザーブレイブが木場にトドメを刺そうとした瞬間、アナザーブレイブの真横に有った鏡面から飛び出してきたドラグクローを装着したオニキスに殴り飛ばされる。

 

「ヒデブッ!」

 

「青い姿……騎士みたいな所から考えて、アナザーブレイブって所か」

 

四季の考えの正しさを証明するように殴り飛ばされ、先ほどまで背中に有るボロボロのマントの下に隠れて見えなかったアナザーブレイブの背中には『ブレイブ』と『2016』の文字があった。



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三十話目

「お前……まさか天地か?」

 

オニキスの姿を生で見せるのは匙以外のソーナの眷属だけだったということを思い出しながら、突然の事に呆然と呟いた匙へと視線を向ける。

 

「ああ。そしてこれが、仮面ライダーオニキスだ」

 

ベンタラとミラーワールドの違いは有るが鏡面を介した別世界への移動能力はこう言う奇襲にも便利だ。

 

「何なんですかい、イキナリぃ!?」

 

「どう見ても化け物退治に来たヒーローの構図だろ?」

 

鏡を見ろと言わんばかりの態度で立ち上がったアナザーブレイブの言葉にオニキスは鏡を指差しながらそう答える。

 

「へっへっへっ、黒いヒーローくんが悪魔くん達の仲間かは知りませんがねぇ! 俺様の『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』の速さで勝てるかよ!」

 

アナザーブレイブはアナザーライダーに変身する前から持っていた聖剣を持ち、オニキスの視界から消える。

 

(あれがスピード系のバフを与える聖剣って所か。だったら……)

 

変身していても武器庫から武器を取り出す事はできる。ビルドの時にも出来ていたのだからオニキスに変身している今も取り出せない訳がない。

 

「死んじゃえよぉ!」

 

「奇襲はもっと静かにやれ」

 

聖剣には聖剣で対抗するまで、とアナザーブレイブが振るった聖剣を武器庫から取り出したエクスカリバー(fate)で受け止める。

 

 

 

 

スパァーン

 

 

 

 

「「え?」」

 

剣と剣をぶつけ合ったオニキスとアナザーブレイブが呆けた声を上げる。

 

「「「へ?」」」

 

それを見ていたイッセー、木場、匙の三人がマヌケな声を上げる。

 

アナザーブレイブの振るった天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)の刀身はオニキスのエクスカリバー(fate)とぶつかり合った瞬間、綺麗に切れてしまっていた。

 

「「「「折れたぁ!?」」」」

 

敵味方関係無くアナザーブレイブ、イッセー、木場、匙の心が一つになった瞬間であった。

 

「いえ、折れていません、切れてます」

 

地面に落ちた刀身に近づいてエクスカリバー・ラピッドリィの半分の末路を確認してそういったのは子猫だった。

 

「マジかよ!? 伝説のエクスカリバーちゃんが!?」

 

「エクスカリバーが……こんなに簡単に?」

 

天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)に起こった悲劇に絶叫するアナザーブレイブと、自分の仇で有ったエクスカリバーのうちの一振りの末路に呆然と呟く木場。

 

だが、その結果のある意味は当然とも言えるだろう。

所詮はその聖剣は折れた一部を核に再生された劣化品(デッドコピー)、それに対して四季の持つ聖剣は異世界の真のエクスカリバー。どちらが剣として格上かなど、考えるまでもないだろう。

 

二つの剣がぶつかり合った結果、劣っていた剣が負けた。それだけだ。

 

「……まあ、ちゃんとした鍛治じゃなくて、錬金術で再生した剣としては当然の末路だな」

 

七分の一になった(恐らく偽物の)剣を鍛治ではなく錬金術で直した品物。異世界のと注釈は付くが完全な形で存在している本物のエクスカリバーの敵ではない。

使い手次第では互角以上に戦える場合もあるが、残念ながら今回はその事例には無いのだろう。

 

「っ!? 今だ、黒い龍脈(アブソリューション・ライン)!」

 

最初に正気に戻った匙がアナザーブレイブに変身前から巻き付けていたラインから己の神器(セイグリッド・ギア)の力を発動させる。

 

「……これは!? 俺っちの力を吸収するのかよ!?」

 

「どうだ! これがオレの神器だ! お前がぶっ倒れるまで力を吸い取ってやるぜ!」

 

「力を吸い取る神器!?」

 

「ドラゴン系神器(セイグリッド・ギア)か、忌々しい!」

 

必死にラインを刀身の半分を失った剣で切って逃れようとしているが、アナザーブレイブに巻きついたラインは切れる様子は無い。

 

「取り敢えず、今の内に変身解除には追い込ませてもらう」

 

大ダメージを与えて変身解除に追い込み、再起動される前にウォッチを回収する。

エグゼイドやブレイブ等の力が無い以上、アナザーライダーへの対処法はそれしかない。

 

そう考えながらエクスカリバー(fate)を地面に突き刺し、カードデッキからファイナルベントのカードを取り出しブラックドラグバイザーに装填しようとした瞬間、

 

 

「うわぁァァァァァァぁっあ!」

 

 

突然木場の絶叫が響き渡る。そちらへと視線を向けると彼の両手は何故か酷く焼けただれているが……

 

「木場!」

 

「裕斗先輩」

 

そんな彼に慌てて駆け寄るイッセーと子猫。

そして、木場の近くには先程地面に突き刺したエクスカリバー(fate)。それで何が有ったのかを正確に理解した。

 

仲間の仇と破壊する事を誓っていた教会のエクスカリバー。そして、地面に突き刺さっているのはその聖剣でさえ簡単に破壊してみせた剣。

望みであったエクスカリバー(仮)を目の前にある剣に求めたのだろう。その望みの力と言うのが、異世界の物とはいえ真のエクスカリバーと言うのが何とも皮肉な話だ。

 

「その剣は一級品の聖剣だ。並みの悪魔じゃ持つことさえできないぞ」

 

敢えて一級品と誤魔化したが、間違いなく異世界のものとはいえ本物のエクスカリバーなのだ。間違い無くそれは超一級の品だろう。

アナザーブレイブの対処が僅かに遅れてしまったが、改めてファイナルベントのカードを装填しようとする。

 

 

 

「ほう、魔剣創造(ソード・バース)か」

 

 

 

だが、その一瞬の隙に新たに響く声。その声の聞こえた声の方へと全員の視線が向かう。

 

ビルの上に立つ彼らを見下ろしている聖職者の様な格好の老人。

 

「……バルパーの爺さんか?」

 

それが誰なのか、その答えが敵……アナザーブレイブの言葉によって明らかになる。

 

「……バルパー、ガリレイッ!」

 

「皆殺しの大司教、聖剣計画の首謀者の聖剣マニアか」

 

「いかにも。フリード、聖剣を……バカな」

 

ビルの上に立つ老人、バルパーの表情がエクスカリバー(fate)を見た瞬間驚愕に染まる。

 

「それは……その聖剣は……」

 

驚愕と歓喜、そして感動と驚きと喜びと疑惑の混ざった声を上げる。

 

「間違い無い。教会に有ったものとは格が違う。だが、何故そんなところに完全なものが存在しているのだ……」

 

バルパーの目からは感動の涙が流れその視線は地面に突き刺さったままのそれへと注がれている。

その男が今まで本心から神に祈っていたかは分からない。破門されてから神に祈ったかは分からない。たが、間違い無く言える。バルパー・ガリレイは今は間違い無く神に、運命に感謝を捧げている。

 

「こんなに早く、こんな所で目にすることが出来ようとは!? おお、エクスカリバーよ!」

 

絶叫にも似た感謝の声を上げる。

 

「マジですかい!? それってマジモンのエクスカリバー!? えっ、それじゃあオレッチのこれは何なの!?」

 

「さあ、そもそも、エクスカリバーと聖書勢力は最初から関係無いから、リチャード1世が使ってた聖剣なんじゃないのか」

 

アナザーブレイブの声に律儀にそう答えるオニキス。

 

「エクスカリバー!?」

 

さて、今も力を吸われているアナザーブレイブを放置して感動で泣いて今にも賛美歌でも歌わん勢いで歓喜の祈りを捧げているバルパーを他所に木場が敵意に満ちた視線をオニキスに向ける。

その様子から、エクスカリバーの聖のオーラに両手が焼けただれてなければ今直ぐにでも切り掛かっていた所だろう。

 

「お、おい、何でお前がエクスカリバーを持ってるんだよ!?」

 

そんな木場の横に立つイッセーがそんな疑問の声を上げる。

 

「ああ……これは別世界のエクスカリバーだ。そのエクスカリバーの名を持つ血塗られた聖剣を破壊してくれって頼まれたんだよ」

 

「頼まれた、誰にですか?」

 

どうも敵意全開の二人に変わってオニキスに問い掛けるのは子猫だ。

 

「……マーリンって名乗ってたな使いは、確か」

 

「で、では、依頼した者の名はアーサー王か!?」

 

the大嘘。流石に転生特典のガチャで引き当てましたなどとは言えないのでそう言って誤魔化しておく。

 

だが、その嘘を信じ込んでいるバルパーはオニキスの言葉に歓喜の意思を強めて叫ぶ。

 

「ちょっとちょっと、バルパーの爺さん、そんな事よりこのトカゲ君のベロが邪魔なんですけど!?」

 

「そんな事の方がどうでも良いわ! 大体、お前の聖剣の使い方が未熟なのだ。お前に授けた“聖なる因子”を刀身に籠めろ! 折れたとは言えそれで十分に切断出来る!」

 

「へいへい! こうか?」

 

バルパーの言葉に従うとアナザーブレイブの聖剣は簡単にラインを切断する。

 

「もう少しそのエクスカリバーを見ていたい。……名残惜しいが、コカビエルの元に行くぞ」

 

そう言ってバルパーは懐からライドウォッチを取り出し、それを起動させる。

 

 

『ワイズマン……』

 

 

バルパーはその姿を白い魔法使いを歪めたアナザーライダー、アナザーワイズマンへと姿を変える。

 

「チッ、分かったよ、ジイさん」

 

バルパーがアナザーワイズマンに姿を変えると、そう言ってアナザーブレイブはアナザーワイズマンの元へと飛ぶ。

 

「じゃ、行かせてもらうぜ! 次に会う時は最高のバトルだ!」

 

「小僧、次に会う時はお前の持つ異世界のエクスカリバーをワシの手に握らせて貰うぞ!」

 

『テレポート……ナウ……』

 

アナザーワイズマンとアナザーブレイブを魔法陣が飲み込み、二人のアナザーライダーの姿は消えて行った。

 

後に残されたのはオニキスと憎悪の視線をオニキスの持つエクスカリバーへと向ける木場と、イッセー達三人だけだった。



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閑話30.5話目

「叛逆の徒め! 神の名の下断罪してくれる! ……って、あれ」

 

ゼノヴィアとイリナがそこに駆けつけた瞬間、すでに事は終わっていた。

 

「四季、私達はちょっと遅かったみたいね」

 

ここに来る途中でゼノヴィアとイリナに連絡して合流したのだろう、詩乃と雫の二人も遅れて到着した。

 

「ああ、残念ながら逃げられた」

 

バックルからカードデッキを外すとオニキスへの変身が解除される。そして、タクティカルベストのポケットにエクスカリバーを仕舞う。

 

「くそ! 追うぞ、イリナ!」

 

「うん!」

 

「お、おい!」

 

呼び止める四季の言葉も聞かず踵を返して二人はその場を立ち去って行く……。

 

「走って逃げたんじゃないのに、どこ行ったか分かるのか?」

 

「僕も追わせて貰おう!」

 

そんな二人に続いて木場もバルパーとフリードを追跡する。四季へと……正確には四季の持つエクスカリバーへと憎悪の視線をまだ向けていたが、それでもバルパーの方を優先する程度の理性は残っていたのだろう。

 

「お、おい! 木場! ……ったく、何なんだよ?!」

 

そんな木場の姿を見送りながらイッセーはそんな言葉を吐く。

その一方で四季達と子猫はある一方に視線が向いていた。

 

「なあ、匙と変態……今回の事は主には許可を貰ってたのか?」

 

「それが何だってんだよ、お前には関係ないだろう!」

 

「そうだな、オレには関係ないけど」

 

イッセーの言葉にそう返す四季の視線は彼と匙の後ろへと向けられていた。

 

 

 

 

「そうね。でも、私たちには関係有るわよね」

 

 

 

 

後ろから聞こえる聞き覚えのある声にイッセーと匙の思考がフリーズする。

 

「お前達の主、さっきから後ろにいたぞ」

 

「念の為に私から会長には報告済み」

 

四季の言葉に続いて雫の言葉も響く。今回の事は雫からソーナへ伝わり、それからリアスの耳に入ったと言う流れなのだろう。

 

錆びた歯車の様な動きでイッセーと匙が後ろを振り向くと明らかに怒っていると言う様子の二人の主がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分の主に見つかりそのまま近くの公園へと連行され、リアスとソーナの前でイッセー達三人は正座させられながら事の説明をしていた。

 

「エクスカリバー破壊って、あなた達ね……」

 

「本当に困った子達ですね」

 

「裕斗はそのバルパーを追って行ったのね?」

 

「はい、教会の二人も一緒です」

 

「それにしても貴方がよりにもよってエクスカリバーを持っているなんて……」

 

イッセー達の証言の中には四季の持っている型月世界のエクスカリバーの事も混ざっていた。

異世界の完全な形の聖剣の存在に頭痛を堪える様子で四季の方へと視線を向けてリアスはそう呟く。

 

「まあ、この世界の品じゃないですし、今回の一件が終われば引き取りに来るとは思いますよ、グレモリー先輩」

 

大嘘である。この世界のものではないがガチャから当てたのだから、間違い無く引き取りには来ない。

天界相手には見つかった場合は最悪そう言って誤魔化す予定だったのだが、こんなに早く予定していた嘘を吐く事になるとは思わなかった四季だった。

 

単なる一級品の聖剣で通す予定だったが、まさかバルパーに見破られるとは思わなかった。マニアの見る目を甘くみたいなのが敗因であった。

 

「そっちの事は未だ良いわ。それよりも今問題なのは裕斗の方ね」

 

「何か有ったら連絡を寄越すと思いますが……」

 

「変態、お前バカだろう?」

 

「復讐の権化となった祐斗が悠長に連絡よこすかしら?」

 

「ご、ごもっともです……。って、天地、バカって何だよ!?」

 

「連絡する冷静さが有ったら、あそこで深追いはしなかっただろうが」

 

態々太刀打ち出来ない事が分かりきった相手(コカビエル)が待ち受けている場所に単騎で追撃するなど愚かにも程がある選択だ。

四季の持つ完全なエクスカリバーの前には木場の憎む教会のエクスカリバーは敵ではない事を理解してしまった故、急がなければ全てが四季の手で破壊される事が分かってしまったとしてもだ。

 

優先順位程度は分かる冷静さは残っていた様子だが、復讐の権化になった今の木場は自分一人で残りのエクスカリバーを破壊する事に拘っている事だろう。

 

(聖剣コンビ二人と頭に血が上った奴一人でコカビエルに挑む、か。負ける絵しか想像出来ないな)

 

連携が取れない二人と一人で強敵に挑む時点で敗北する絵しか浮かばない。

そもそも、剣としての機能は四季に切られて失っているとはいえ天閃(ラピッドリィ)の機能は残っている為、敵のエクスカリバー(仮)の数でも負けているのだし。

 

「まあ、志半ばで倒れない事を祈っておこう」

 

内心で魔王様(オーマジオウ)にと付け加えて置くことを忘れずに。気のせいか『管轄外だ』の言葉が聞こえた気もするが、スルーして置く事にする。

 

「小猫もどうしてこんな事を?」

 

「……祐斗先輩が居なくなるのは嫌です」

 

俯きながらリアスの問いに答える小猫。……純粋に眷族の仲間が……復讐に囚われた木場が自分達の前から居なくなるのを不安に思っての行動だったのだろう。

 

「ハァ……。過ぎた事をとやかく言っても仕方ないけど、あなた達の行動が世界に大きな影響を与えるかも知れなかったのよ? 分かるわよね?」

 

「すみません、部長……」

 

「……はい、御免なさい」

 

その横では、

 

「貴方には反省が必要です」

 

「うわぁぁぁぁぁん! ゴメンなさい、ゴメンなさい! 許してください、会長ぉ!」

 

良い感じで終わりそうになっているグレモリー側と違って眼鏡を怪しく光らせながらゴゴゴゴゴと擬音でも付きそうな怒りの空気を纏っているソーナと泣いて謝っている匙の姿。

 

「ダメです、お尻を千叩きです」

 

序でにいい感じで終わったように見えたイッセー側も同じく千叩きの刑が執行されていた。

 

「…………で、そろそろオレ達は帰って良いか?」

 

「ええ、色々と聞きたいことも増えたけど、今回は私達の眷属を助けてくれた事感謝するわ」

 

取り敢えず、変な追及を受ける前に変える事を選択する。

元々何処の勢力にも属していないフリーの能力者と言う点に加えて、仮面ライダーのデッキ、更に今回は異世界のエクスカリバーまで追加されたのだからリアス側にしたら聞きたい事は山の様にあると言う事だろう。

木場やコカビエルのことを優先する必要がある為、その事を追求は後回しにするしか無いが。

 

「まあ、いつかの約束をそっちが守る気が有るなら、こちらはそっちの疑問に答える必要は無いわけですがね」

 

イッセーを殴り飛ばして以来、球技大会から今回のコカビエルの一件と続いているので今だに制約は交わされていないが。

 

「わ、分かってるわよ」

 

本当に分かっているのかはどうでも良い。必要なのは飽く迄魔王サーゼクスの妹との間での取り交わしである。

間接的にとは言え何かあった場合の責任を押し付けるのは大物の後ろ盾がある奴に限るのだ。

 

匙とイッセーの悲鳴をBGMにヒラヒラと手を振りながら四季達三人は立ち去って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天地邸地下室……

 

ガチャ装置の前に立つ四季達三人。

 

「……そろそろ意を決して使うか……」

 

手に入れた経緯が問題なので今まで使っていなかったガチャ券を手にそう呟く。

 

「戦力強化になってくれれば良いんだけどな」

 

「そうね」

 

四季の言葉に詩乃も同意する。これから待ち受けているのは堕天使の幹部。負けた場合は街に住む者達の命が失われる負けられない戦いだ。

少しでも戦力の強化はしておきたい。幸運なのは現状ではウィザードの方が戦力的には上なのでビルドを使わないでも戦力としては十分な点だろう。

 

「それじゃあ、早速」

 

ガチャ券を使って装置を起動させる。出てきたのは十のカプセル。

 

 

 

『エリクサー(FF)』

 

 

 

先ずは回復アイテム。強敵相手の回復手段の確保は良い。

 

 

 

『鋼の剣(ドラクエ)』

『銅の剣(ドラクエ)』

 

 

 

「……うん、今までが幸運だっただけだとは思うけど、これは……」

 

「ハズレ、よね」

 

そもそも、聖剣や神剣があるのだから、今更こんな武器を出されても処分に困る。

 

 

 

 

『ビームサーベル(人間サイズ)(ガンダムシリーズ)』

『サイドバッシャー(仮面ライダーファイズ)』

 

 

 

物騒な物が二つほど出た。一つは仮面ライダーシリーズでも珍しいサイドカータイプのバイクのサイドバッシャーだ。

 

「これで三人で行動するのも楽になるな」

 

「そうね」

 

「うん」

 

「でも、こっちの方はどうするの?」

 

そう言って詩乃が指差すのはビームサーベルだ。もういっそ人間サイズならライトセーバーでも良いのでは無いかとも思う。

 

「まあ、使える事も有るだろうし、武器庫に入れておくか」

 

科学100%の武器が通じるか分からないが有っても困る事はないだろう。

 

 

 

『シャイニングブレイクガンダム(ガンダムシリーズ)』

 

 

 

次に出てきたのはアメストフリに続くガンダムタイプのナデシコの艦載機だった。

パイロットが四季しか居ないので艦載機が増えるのも悩みどころだ。

しかも、VFと違ってパワードスーツサイズだが、パワードスーツサイズで可変機の機能は活かされるのか疑問だ。

 

 

 

『薬草(ドラクエ)』

 

 

 

次の中身はスルーすることにした。詩乃と雫の二人もその反応には同意してくれた。流石に回復アイテムなのは良いが、安過ぎるアイテムだ。

 

 

 

『機能拡張権』

 

 

 

「なんだこれ?」

 

スキルなのかとも思ったが、それとは違う初めて見る品。説明を見て見ると拠点となっている家か戦艦の機能を一つ自由に拡張出来る権利の様子だ。

 

「だったら、ナデシコの方に使って見たら良いんじゃないかしら」

 

その説明を見た詩乃はそう意見を出す。

流石に普段から使う家に使って何かあった場合大変な事になるが、ナデシコCならば最悪は長距離の移動手段兼移動拠点を失うだけで済む。

 

そんな判断だったが四季も雫も彼女の案に賛成して早速ナデシコCに使ったのだった。

 

 

 

 

決闘盤(デュエルディスク)(遊戯王)』

 

 

 

 

カードが無いのにゲーム機だけ手に入れてどうするのかと思う品の初期型の円盤タイプが出てきた。

 

「なんだか嬉しそうよ」

 

「そうか。実はかなり嬉しい」

 

詩乃の指摘で気が付いたが、無意識に嬉しさが顔に出て居たのだろう。

天才物理学者のそれの影響か、今からソリッドヴィジョンの技術を調べるのが楽しみになっている。

解析したデータはまた桐生戦兎の名で何処かのゲーム会社に流しても良い。フルダイブ型のゲームに実体化したカードゲーム。世界のゲーム業界の歴史を書き換える程の影響を与えるだろう。

 

そして、最後の一つは、

 

 

 

『雪音クリス』

 

 

 

新しい仲間を呼び出すことが出来た。そう、出来たのだが……

 

「大丈夫か、彼女を呼び出して」

 

「何か問題でも有るの?」

 

彼女の人間性的には問題ない。最初から戦闘力もありこれからコカビエル戦が待っている状況では頼りになるだろう。そう、彼女には問題はない……問題があるのは……

 

「あの変態の前に出して大丈夫かな、って」

 

「……まあ、それは諦めて貰うしか無いわね」

 

詩乃もその言葉に納得してくれた。だが、四季には確信がある。イッセー相手の被害は二人以上に酷くなりそうだ、と。

イッセーの性癖に突き刺さる分、だ。

 

「……あとで事情を話して謝っておくか……」

 

流石にこのまま呼び出さないのも可哀想なので、この先に発生するであろうイッセーによる被害は我慢して貰うことにした。

 



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三十一話目

蜘蛛型の監視メカからの映像が四季のビルドフォンの画面に映し出される。

其処には兵藤家にて予想通りコカビエルからの宣戦布告が行われていた。

 

「予想通りの戦争狂か」

 

聞こえてくる会話の内容によれば、アザゼルとシェムハザを始めとした他の堕天使の組織の幹部達は戦争に否定的であり、神器(セイクリッド・ギア)の研究に没頭しているそうだ。

 

(……そう言えば、グレモリーの女王の父親って堕天使の幹部のバラキエルだった様な……。ライザーと婚約してたら好戦派に合流してたりして)

 

自分の派閥に幹部がもう一人加われば好戦派も勢いよくなるだろう。そもそも、コカビエル自体好戦派とは言え相応の人望も有りそうなのだし。

 

そんな事を思ってしまうが、事前に防がれた事なので今更考えたところで意味はないと切り捨てる。

 

「まあ、予想通り今夜には動いたか」

 

返り討ちにしたイリナを宣戦布告の手土産にリアス達に対して宣戦布告を行っていた。

此処で予想外なのはゼノヴィアだけでなく木場も逃げきれていた事だ。

 

(あれが紛い物だったって分かって、余計に頭に血が上ったと思ったけど、予想外だったな)

 

イリナの持っていた擬態(ミミック)も奪われたが、どれも四季の持つ二本のエクスカリバー(fate)には及ばない品物だ。それについては問題ない。

 

問題があるとすれば、リアスとソーナ、二人揃って身内である魔王(サーゼクスとセラフォルー)に連絡しなかったという事には二人揃ってその正気を疑うレベルだ。

そもそも、ライザーとその眷属にすら試合で勝てないリアス達の『あとは私達がなんとかする』と言う言葉は何処からそんな自信が湧いてくるのか疑問に思う。イッセーの手にはスクラッシュドライバーも無ければ、彼の神器(セイクリッド・ギア)は禁手にも至らないのに。

 

だが、その辺はちゃんと実力差を理解していた朱乃がサーゼクスには連絡済みだった様子だ。対応できる者の到着までの時間稼ぎを自分達がすると言うのならば文句は無い。

それに加えてコカビエルの力を理解しているドライグが居るなら、イッセーの体の大半を対価に魔王到着までの時間稼ぎはしてくれるだろう。

 

「さて、準備はいいか? 此処からは正真正銘の命賭けの死闘だ。今からでも不参加でも良い。その場合は安全のためにこの街からなるべく遠く離れて貰うけど……」

 

ナデシコCを使って避難してもらう予定だと四季は自分の目の前に立つ三人の少女に問いかけるが、誰からも逃げると言う選択は出てこない。

 

「敵の目的は聖書勢力内の内乱の再開とその決着。戦争がしたいなら無関係な人間を巻き込むなって言いたい。奴の身勝手な欲望の為にこの街に住む人たちを犠牲にさせない為にも、オレ達は負けられない」

 

コカビエルの目的は悪魔側への宣戦布告。リアスとソーナの首と序でにその眷属の首はその為の道具。

流石に堕天使内の内乱までは望んでいないであろうから、敵とは言えバラキエルの娘である朱乃だけは最低でも生かして連れ帰る程度には手加減するだろうが、リアスとソーナの首を取り、この街を吹き飛ばす事が本来の目的のための宣戦布告と言える。

 

「オレから言えるのは一つだけだ。全員生きてこの場に戻ろう」

 

怪盗の正体を隠す為にVSチェンジャーは使えない。状況的に今は素顔での活動をすべきだ。

手甲オリハルコンを着け、オニキスのデッキとどちらでも使用していなかったウィザードライバーを四季は手に取る。

彼女達も武装の確認を終えていつでも動ける状態だ。

頷き合い四季達は学園へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「当然ながら、結界はあるか」

 

「で、これはどうするのよ?」

 

学園の前、ソーナ達シトリー眷属が張っている結界を前に詩乃の言葉が響く。

詩乃の問い掛けには方法も考えてあるのだろうと言う信頼も困っている。

 

流石にその結界がどこまでコカビエル相手に耐えられるかは疑問だが、コカビエルの力を学園内で留める目的で貼られたそれを破る訳には行かず、その結界があっては四季達も学園の敷地内には入れない。

 

「生徒会長達を探して問答している時間もないし、これだけ近いなら問題ないな」

 

結界を張っている生徒会長を見つけても中に入れてくれるとは限らない以上は、余計な時間を取られる前に他の手段を取るべきだろう。

そう言って四季が取り出すのはウィザードライバーとウィザードリング。

 

「結界内にテレポートする。中に入ったらすぐに接敵するはずだから、油断するな」

 

《テレポート、プリーズ》

 

四季達四人の足元に魔法陣が現れて彼らの姿を飲み込んで行き、次の瞬間その姿は消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結界内、駒王学園の校庭では木場を欠いたリアス達グレモリー眷属はコカビエルのペットのケルベロスと戦っていた。

 

ケルベロス。地獄の番犬として有名なギリシャ神話における冥府神ハーデスの元にある神獣。

四季の調査によれば、悪魔や堕天使の住む冥界に住むケルベロスと同じ特徴を持った上位の魔獣の様だ。

流石に本物のケルベロスなんて連れて来たら、ギリシャ神話にケンカを売る行為だろう。……聖書勢力全体としてはすでに手遅れかもしれないが……。

 

朱乃が攻撃を防ぎ、その隙をついてリアスと子猫がケルベロスを攻撃してイッセーが譲渡するための倍加の時間を稼ぐと言う作戦なのだろう。

 

そんな中で二匹目のケルベロスが後衛のアーシアとイッセーの背後に現れる。

 

「もう一匹いるのかよ!? アーシア!」

 

それに気がついた時、彼らの耳には戦場には似合わない歌声が響く。

 

 

 

~~♪

 

 

 

突然響く歌声に呆気にとられるその場にいる者達を他所に曲調が変わる。

《BGM:魔弓・イチイバル》

 

「キャウン!」

 

歌声共に何かがケルベロスを吹き飛ばす。

 

「な、なんだ、今の?」

 

歌声共にさらされた攻撃にケルベロスが吹き飛ばされた事に驚愕するイッセーだが、

 

 

 

「へっ、こんだけデカけりゃ、外しようがねえな」

 

「あら、それでも狙いどころはあるわよ」

 

「ギャウン!」

 

続けて聞こえるのは二人の少女の会話と、炎を纏った矢を三つの頭のうちの一つの眼球に受けて悲鳴をあげるケルベロス。

 

「今の声は詩乃ちゃん? もう一人は……」

 

「八雲っ!」

 

イッセーが自分たちを助けた声の主に気がついた時、動きを止めたケルベロスの三つの頭の中の中央の頭に四季の気を纏った拳が叩きつけられる。

 

そして、左右の首へと

 

「火社っ!」

 

右の首は巫炎の、

 

「深雪!」

 

左の首へは雪蓮掌の八雲と同等の上位技を放ち、右の首を炎に包み焼き尽くし、左の首を凍結させ砕く。

 

ケルベロスが倒れた事で背中を向ける四季。

 

「グルゥ……」

 

だが、打撃による衝撃だけだった中央の首は生き残っていた様子でヨロヨロとした動きで立ち上がる。

 

「トドメは任せた」

 

「ああ、任された」

 

一矢報いようとでも言うのか、最後の力を振り絞って背中を向けている四季に襲いかかろうとした瞬間、新たに現れた影がケルベロスの首を切り落とす。

 

「遅くなった。加勢にきたぞ」

 

切り落とされたケルベロスの首の上に立つのはゼノヴィアだった。

 

「スゲェ……って、なんか一人増えてないか?」

 

詩乃と雫以外にも人影が一人増えている事に疑問を抱くイッセー。

 

「ああ、コカビエルなんて大物を相手にする訳だから、知り合いに助っ人に来てもらったんだ」

 

知り合いを助っ人に頼んだ。今はその程度の説明で十分だろう。

 

「彼女は『雪音クリス』。オレ達の知り合い「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉ!」……って、おい」

 

クリスを紹介した瞬間、イッセーが急に雄叫びをあげる。

 

「お、おい、こいつ、どうしたんだよ!?」

 

「あ、ああ。困った事に正常なんだろうな、変態の」

 

クリスの姿を視界に捉えた瞬間絶叫をあげるイッセーに対して困惑するクリスと平常運転なんだろうなと思う四季。そして、

 

「でかぁい! 説明不要! 部長や朱乃さんにも匹敵する見事なおっぱい! しかも、小柄な分余計に際立ってる! 見事なロリ巨乳!」

 

「ひぃ!! お、おい、本当にこれが普通なのか!?」

 

「いや、寧ろ予想通りの反応としか」

 

鼻血と歓喜の涙を流しながら絶叫するイッセーに、イッセーの舐め回すような視線に怯えて四季の後ろに隠れるクリスと、予想通りすぎる反応にドン引きな四季の構図であった。

 

 

 

 

 

 

『あれ、今一瞬至りそうになっちゃったけど、気のせいだよな、絶対』

 

 

 

 

 

人知れず禁手(バランス・ブレイク)に至りそうになった事に気がついたドライグがいたとか。

 



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三十二話目

精神世界の中で相棒(ドライグ)が現実逃避している事など露知らず、物凄く情けない理由で禁手になる一歩手前まで至っちゃったイッセーに対して完全に涙目のクリス。脳内保存と言わんばかりの視線に晒されているのだから当然だろう。

 

流石にイッセーレベルの変態に遭遇するのは初めてなのだろう、自分を呼び出すのに迷っていた理由を心底理解した。

 

「お、お、お、おい、もしかしてあたしを呼び出すのに迷ってたのって?」

 

「こいつが原因。付け加えるなら性癖にどストライク」

 

「ヒィッ」

 

そう、心底、身をもって理解してしまっていた。鼻の下を伸ばして胸部をガン見してくるイッセーの視線から逃れるべく四季の後ろに隠れている。

 

「クリスちゃんって言うんだ、オレは兵藤一誠、宜しくな」

 

「よ、宜しくしたくねえ!」

 

爽やかさ笑顔を浮かべて挨拶してくるが鼻血流しながらでは台無しである。

 

「変……兵藤、一つ良いか?」

 

「なんだよ?」

 

四季の言葉に、お前には用は無い寧ろよく見たいから退けと言わんばかりの態度で答えるイッセー。

 

「彼女は一つ上だぞ」

 

「ええ!? って事は部長や朱乃さんとタメ!? 年上のロリ巨乳ってのも……」

 

何が妄想の中にトリップしている様子のイッセーから距離を取りながら後衛の詩乃と雫と合流する四季とクリス。

 

「おっと、こっちも溜まったぜ」

 

二人が離れた時、鼻血を抑えながら倍加が限界まで終わったのだろう。何故か色素が落ちているように見える赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を持って、

 

「部長! 朱乃さん! 譲渡いけます!」

 

そう二人を呼ぶ。……鼻血を抑えながら。リアスと朱乃の二人に倍加させた力を譲渡すると、その力の大きさを感じ取ったのか逃げ出すもう一匹のケルベロス。

 

そんな中、ゼノヴィアと同じく駆け付けた木場の魔剣創造(ソード・バース)によって足止めされたケルベロスが、イッセーの譲渡によって強化された朱乃の雷によって焼き尽くされる。

 

リアスもまた譲渡によって強化された全力の滅びの魔力をコカビエルへと放つが、等のコカビエルはそれを片手で弾く。

 

そんな中、

 

「完全だ」

 

興味無さげなバルパーの声が響くが、その視線が四季を捉えた瞬間狂喜の感情が浮かぶ。

 

「おお、来たか、真なるエクスカリバーよ! 今、四本の聖剣が一つとなり術式は完成した!」

 

四季の姿を、いや、正確には彼がこの場で使うであろうエクスカリバーに対して歓喜の感情を浮かべながら心からの歓迎の言葉を告げ、完成した聖剣をゴミでも投げるような態度でフリードに投げ渡す。

 

「あと二十分もしないうちにこの街は崩壊するだろう」

 

『なっ!?』

 

バルパーの言葉にグレモリー眷属だけでは無く四季達にも驚愕が浮かぶ。タイムリミットは20分。

どこぞの光の巨人の活動時間よりは遥かに長いが、

 

「術式を解除したくばコカビエルを倒すほかない。更に」

 

「ホイホイ」

 

そう言ってバルパーとフリードが取り出すのはアナザーライドウォッチ。

 

 

『ブレイブ……』

『ワイズマン……』

 

 

バルパーとフリードの姿がアナザーワイズマンとアナザーブレイブへと変わる。

 

「ワシらも邪魔させてもらうぞ」

 

あみでも浮かべているかのような口調で告げるアナザーワイズマン。

その目的は一つ、間近で四季の持つ異世界のエクスカリバーの力をみる事なのだろう。

 

「タイムリミットは二十分か。長々と戦う趣味は無いけどな」

 

「時間制限なんて聞かされると、ちょっと焦るわね」

 

「へっ、そんだけ有りゃ十分だろ」

 

「うん」

 

三大勢力の戦争を生き抜いた歴戦の勇士(コカビエル)と倒し難さではライダー怪人の中でもトップクラスのアナザーライダーが二体。その事実に僅かながらも焦りが見える四季。目の前の相手……コカビエルに僅かに気圧されている詩乃と雫。

焦りや気圧されているのが僅かで済んでいるのはこの場に置いて一人、気圧されている様子のないクリスの存在故だろう。

 

彼女だけはこの場に於いて……唯一コカビエル以上の強敵と何度も戦った経験があるのだ。今更強敵とは言えコカビエル相手に気圧される通りはない。

 

「さあ、小僧! 貴様の持つ真のエクスカリバーの力を見せてみろ!」

 

やたらとテンション高く宣言するアナザーワイズマン。そんなアナザーワイズマンの姿にコカビエルもちょっとドン引きである。

 

「……フリード」

 

「はいな、ボス」

 

「最後の余興だ。四本の力を得た聖剣で戦ってみせろ」

 

「そうだ! その四本統合の聖剣ならばエクスカリバーと打ち合ってもすぐに折れる事は無い! さあ、存分に真のエクスカリバーの力を見せろ!」

 

コカビエルドン引きのハイテンションで叫ぶアナザーワイズマン。

 

「ヘイヘイ、まーったく、オレのボスは人使いが荒くてさぁ。でもでも、ちょー素敵仕様になった聖剣を使ってでエクスカリバーにリベンジマッチできるなんて、光栄の極み、みたいな?」

 

ケラケラと笑う様子でアナザーブレイブは四本統合された聖剣を振り回しながら四季へと聖剣を向け。

 

「さあ、リベンジマッチと行きましょうかねぇ!?」

 

そう宣言する。

 

「……一つ聞きたいんだが、何故バルパーは君に対して真のエクスカリバーと言っているんだ?」

 

「ああ、それか? 異世界の、と言う注釈は付くけど」

 

武器の中からfate仕様のエクスカリバーを取り出し、

 

「正真正銘の本物のエクスカリバーを借り受けてるからな」

 

『っ!?』

 

四季がエクスカリバーを構えながらそう告げた瞬間、イッセーと木場、子猫以外の全員に驚愕が浮かぶ。

 

「ま、まさか……本物のエクスカリバー、だと?」

 

呆然と呟くゼノヴィア。

自分の手の中にある破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)とは比べ物にならない存在感を持った四季の持つ聖剣。

それだけでも理解してしまう。その剣は格が違うと。

 

「エクス……カリバー……」

 

憎悪の困った視線で四季の持つ聖剣エクスカリバーを睨みつけるのは木場だ。

 

「同志の仇は僕が討つ!」

 

そう叫び真っ先にアナザーブレイブへと向かっていこうとした木場だったが、

 

 

『バインド……ナウ……』

 

 

「ぐぁっ!」

 

光の鎖に全身を巻かれ、受け身もとれずにそのまま顔面から地面に倒れこんでしまう。

 

「黙れ、転生悪魔の小僧」

 

 

『エクスプロージョン……ナウ……』

 

 

「木場ぁ!」

 

続いて襲われた爆発に吹き飛ばされてイッセー達の元へと吹き飛ばされる。

 

「これから始まるのはエクスカリバーの名を与えられた聖剣に対して真のエクスカリバーの力を見せる戦いだ! 貴様の様な聖剣ですら無いナマクラを量産することしかできぬ者が入って良い戦いでは無い!」

 

狂気の困った叫び。それに同調する様にアナザーブレイブも、

 

「そう言う事っすよ悪魔くん。そんなに首チョンパして欲しかったら、エクスカリバーとなリベンジマッチ終わったらしてあげるから、邪魔しないでちょうだいよ」

 

ケラケラと笑いながら興味ないと告げるアナザーブレイブ。

 

「巫山戯るな! バルパー・ガリレイ! 僕は聖剣計画の生き残りだ!」

 

「……聖剣計画? 懐かしい計画だな。ああ、真のエクスカリバーに出会えた今となっては無意味な事をしていたと思うよ」

 

何かを懐かしむ様にシミジミと呟くアナザーワイズマン。

 

「紛い物と紛い物すら扱えん出来損ないどもに貴重な時間を割いたと思うとな」

 

「巫山戯るなぁ!」

 

激昂する木場だが、アナザーワイズマンはそんな木場へと興味を向ける事はなく、彼を拘束する魔力の鎖も解ける事はなかった。



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三十三話目

「巫山戯るな、バルパー・ガリレイ。ぼくはあなたに殺された身だ、悪魔に転生して生きながらえている」

 

怒りに震えながら、木場はアナザーワイズマンへと問う。

それだけは聞かなければならない、死んだ同志達のためにも知らなければならない。

 

「何故、あんな事をした?」

 

「ん? ああ、肝心の聖剣が偽物である事を除いては一応は成功していたよ、あの計画は」

 

どうでも良いとばかりに投げやりな返事をして何処からか取り出した結晶のような物を足元に投げ捨て、踏み砕く。

 

「自分では使えないからこそ使える者に憧れた。そこの小僧の様にな」

 

四季を見るアナザーワイズマンの宝石を模した異形の仮面の奥には恍惚という表情が浮かんでいる事だろう。

 

「成功? 僕達を失敗作と断じて処分したじゃないか!!」

 

「聖剣を扱うには何らかの因子が必要であることに私は気が付いたのだよ。被験者はほぼ全員にその因子を確認できたものの聖剣を扱える数値に満たなかった」

 

呆れた様にため息を吐くアナザーワイズマン。そんな相手の表情に、

 

「……なるほどな。今回送られてきた、安全に作られた聖剣使い二人。なるほど、天界側にとってお前を始末しない程度の功績にはなっていた、と言うわけか?」

 

「ほう、気がついた様だな、流石は真の聖剣の使い手だ」

 

四季の呟きに感心した様に応えるアナザーワイズマン。そして、四季の推測を採点する様に黙ることで続きを促す。

 

「一人分で無理なら必要な分を足せばいい。お前は見つけ出したと言うことか? 『因子を抽出して集める方法』を」

 

四季にしてみればビルドドライバーやスクラッシュドライバーが使用可能になるハザードレベルのことを知っているからこその発想だ。

だが、そのレベルを一つあげるのにもビルド本編に於いてエボルトも苦労していた。短時間で楽に強化できる方法があるのならまずはその方法を模索するだろう。

 

それが推測の切っ掛けだったが、

 

「くくく……ハハハハハハハハハハ! 正解だ、満点をくれてやろう! 私の至った結論そのものだ!」

 

「なるほど読めてきたぞ、聖剣使いが祝福を受ける時体に入れられるのは……」

 

「他者から抜き取られた聖剣使いの因子を物質化した物だろうな」

 

四季の答えに狂笑しながら肯定するアナザーワイズマン。更にゼノヴィアの言葉から多くの犠牲の上になりたった研究のデータが今の聖剣使いの量産に繋がっているということが明らかになった。

 

「その通りだ。先ほど砕いたのが、その聖剣計画で結晶化させた聖なる因子だ」

 

「っ!?」

 

アナザーワイズマンの言葉に木場の表情がこわばる。

 

「私の理論によって聖剣使いの研究は飛躍的に向上した。だが教会は研究資料だけを残し、私だけを異端として追放した」

 

医薬品の研究でも人体実験のデータは大きな発展をもたらす。非人道的な手段を持って行えば発展の速度は大きく違うだろう。

四季の中にある桐生戦兎のそれはバルパーの言葉の意味を理解し、同時に怒りに変える。

 

「貴殿を見るに私の研究は誰かに受け継がれていると様だな……。ミカエルめ、私を断罪しておいて……」

 

そう、研究は今も続いている。ゼノヴィアとイリナの存在こそがその証拠なのだ。

誇りのはずの聖剣使いの称号が、その真実は教会の罪そのもの。ゼノヴィアの心境としては穏やかではいられないだろう。

 

「……同志達を殺して因子を抜いたのか?」

 

「そうだ。3つほど使って、もう不要になった残った一つは先ほど砕いたがね」

 

「ヒャッハハハ! オレ以外の連中は因子に対応できず全員死んじまったがな!」

 

アナザーワイズマンの言葉を笑いながら補足するアナザーブレイブ。

 

「テメェ……」

 

「お前の身勝手な欲望のために、どれだけの命を弄んだ……?」

 

バルパーの言葉に怒りを露わにするクリスと四季。

 

「もう全てどうでもいい事だ。当初の目的であった愚かな天使と信徒どもに私の研究を見せつける事も、今となってはどうでもいい」

 

不気味なほど穏やかな口調でアナザーワイズマンは言葉を続ける。

その心の中には既に新たな野望がうごめいていた。

 

「貴様だよ、真のエクスカリバーの使い手よ! お前の中にあるであろう聖なる因子を抜き取れば、私自身がなれるのだ! 憧れていた、聖剣の……エクスカリバーの使い手に!」

 

そう、アナザーワイズマンの……バルパーの目的は四季と出会った事で既に変わっていた。

真のエクスカリバーが目の前にある。自分が研究してきた聖剣など歯牙にもかけない完全な、本物の聖剣が。

伝説のアーサー王から四季に貸し与えられたと語られたそれも、自分に届けられるために渡された様にしか見えていない。否、既にそう思い込んでいる。

彼の頭の中にはエクスカリバー持った己の姿しか無いだろう。

 

「バルパアアアアアアアアアアァー!」

 

バルパーの言葉に激昂する木場だがアーシアの治療も終わらず先ほどの爆発の傷は癒えておらず、全身に巻きつく光の鎖の拘束によって立つことさえままなら無い。

 

「ふん」

 

そんな木場を嘲笑う様にアナザーワイズマンは踏み砕いた結晶のカケラを木場の元に蹴り飛ばす。

 

「それがお前の仲間の成れの果てだ。クズには似合いの末路だろう?」

 

 

ガンッ!

 

 

その瞬間、四季のエクスカリバーとアナザーブレイブの統合聖剣がぶつかり合った。

 

「おっと! 先ずはオレの相手してくれませんかね!?」

 

「詩乃、クリス先輩! バルパーを頼む!」

 

「ああ!」

 

「ええ!」

 

二人に指示を出すと切り結んでいたアナザーブレイブの体を蹴り飛ばし距離を取る。

 

「雫、二人の補助を頼んだ」

 

「うん」

 

四季の事はアナザーブレイブが離してはくれないだろう。だからこそ、アナザーワイズマンは詩乃達三人に任せるしか無い。

エクスカリバー(偽)に因縁がある木場が動けるのなら木場の望み通り丸投げして詩乃達と一緒にアナザーワイズマンを倒せばいい事だが動けない以上はそうもいかない。

 

「バルパー・ガリレイ。お前は聖剣の伝記を読んだ事が有るのか?」

 

「ん? ああ、聖剣の伝記に幼少の頃から心躍らせたものだよ」

 

「だとしたらとんだ笑い話だな」

 

「何?」

 

アナザーワイズマンの言葉に嘲笑を浮かべる。

 

「オレから因子を奪った所でお前が本物のエクスカリバーを使えるわけがないだろう」

 

そもそも、転生特典でガチャの中の型月世界のエクスカリバーを使っているだけなのだから聖なる因子なんて持っているのかも怪しい。

黄龍の器(陽)である事は確かな様だが……

 

「アーサー王の物語において、カリバーンは騎士道に反する行為をした主人に対する抗議の様に折れたと書かれている物もある」

 

「小僧、何が言いたい?」

 

震えながら告げられるアナザーワイズマンにエクスカリバーを突き付け、

 

「例えオレから因子とエクスカリバーを奪ったとしても、お前の様な外道に使われるくらいなら、エクスカリバーは自ら折れる事を望むはずだ!」

 

「っ!?」

 

「お前の心躍らせた伝記の中の悪役の様に、せめてエクスカリバーで斬られることを誇りに思え!」

 

四季の言葉に怒りに震えているアナザーワイズマン。

因子があったとしても、お前には使えないと言われたのだ。その怒りは推して知るべしだろう。

 

「小僧……言わせておけばぁ! フリード、あの小僧を殺せぇ!」

 

怒りに満ちたアナザーワイズマンの絶叫が響き渡る。



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三十四話目

「ハハハ! 無駄話は終わったかい!? もう限界、テメェを切り刻んで気分を落ち着かせて貰いますよ!」

 

「かろうじて切り結べる程度の鈍で出来るのか?」

 

アナザーブレイブの言葉にそう返しながら木場のいるグレモリー眷属達の方へと視線を向ける。

 

(あれだけ挑発しても魔法の効果には影響は無いか)

 

先程の言葉は本心でも有ったが、最大の狙いは外れてしまったが変身者の意思が乱れる事でアナザーワイズマンのバインドの魔法の効果が弱くなる事を期待してのことだ。

 

そもそも戦力的には四季一人よりも高くなるであろう詩乃、雫、クリスの三人にアナザーワイズマンを任せたのはアナザーワイズマンを倒す事でアナザーワイズマンの木場を拘束しているバインドの魔法の効果が消えてくれる事を狙っての事だ。

 

(後々鬱陶しくなるだろうから、エクスカリバーと木場を戦わせてやろうと思ったけど無理そうだな)

 

ここでアナザーブレイブを相手に勝ったとしたら、またこの後の木場の視線が鬱陶しい事になるだろう。

後々『真のエクスカリバーを超えられれば同志達の未練はエクスカリバーを超えたって事になる』とか言われて付け狙われても迷惑なのだし。

 

だが、肝心の木場が未だにアナザーワイズマンの拘束を解けていない。

リアスの滅びの魔力ならば拘束を破壊することもできるだろうが、微量ではヤスリで削る程度の効果だろう。全力など木場諸共消しとばしてしまいそうだ。

 

(本当に面倒だな)

 

エクスカリバーでアナザーブレイブの振るう統合聖剣を受け止めながらそんなことを思う。

 

後の面倒事を考えるとアナザーワイズマンが倒されて拘束の解けた木場にアナザーブレイブを押し付け、その隙にオニキスに変身して魔方陣を消すためにコカビエルを狙う。それが理想なのだが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木場は砕かれた破片となった因子の結晶の中の同志達の残留思念達と会話をしていた。

 

『僕らは一人ではダメだったけど』

『みんなが集まれば大丈夫』

『聖剣を受け入れるんだ』

『怖くなんてない』

『例え神が見ていなくても』

『僕達の心はいつだって』

 

 

『一つだ』

 

 

彼らからの言葉とともに彼は至る。

 

「な、何が起きたの!?」

 

「き、木場ッ!?」

 

『……あー、相棒、あの『騎士(ナイト)』は至った』

 

突然の木場の異変に驚愕を露わにするグレモリー眷属の面々。そんな中、妙に達観した様なドライグの声が籠手から響く。

 

神器(セイクリッド・ギア)は所有者の想いを糧に進化しながら強くなっていく。だが、それとは別の領域がある。想いや願いがこの世界に漂う『流れ』に逆らうほどの劇的な転じ方をした時、神器(セイクリッド・ギア)は至る』

 

そこまで言った後、ドライグは内心で『この相棒、あんな理由でそこに至る寸前まで行ったんだよな』と泣きたくなっていた。

 

『それこそが、禁手(バランス・ブレイカー)だ。…………そう、それこそがバランス・ブレイカーなんだよなぁ……』

 

最後の所だけ妙に実感のこもった言葉で啜り泣きさえ聞こえてきていた。

そう、至る寸前で止まったとはいえおっぱいを見てそこに至りそうになったイッセーには絶対にその事は伝えまいと心に誓う。

だが、ドライグは知らない。泣きたくなる方法で至ってしまう事と邪竜からもドラゴンの恥と思われる異名を持ってしまう未来が待っている事を。

 

「僕は剣になる! 同志達よ一緒に越えよう、あの時果たせなかった想いを、願いを、今こそっ!」

 

聖剣を越える。それこそが木場が願い、木場が至った力の極地。

 

「仲間たちの剣となる! 今こそ僕の想いに応えてくれ!」

 

木場はその力を発動させる。

 

禁手(バランス・ブレイカー)! 『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』!!!」

 

木場の前に彼の想いに応えた力の結晶が現れる。聖と魔の二つの力を内包した剣が。

 

 

トス…………

 

 

アナザーワイズマンに拘束されて両手が使えない木場の前に。

 

『あれ?』

 

グレモリー眷属全員から呆気にとられた声が漏れる。

そもそも木場の神器は身体能力の強化ではなく武器の創造。序でに彼はパワータイプのではなくスピード特化の剣士だ。禁手に至ったとは言ってもバインドの魔法の拘束を自力で解くことは出来ない。

幾ら神器が想いに応えて進化してくれても、どんな強力な剣を作り上げても、拘束を抜け出さなければそれを扱えず意味はない。

 

「…………」

 

拘束されたままの木場が禁手に至った結果、作り出した剣は目の前に突き刺さる形に終わったのだった。

 

必死に拘束する光の鎖から解放されようとするが、木場を拘束する鎖は壊れる様子は無い。

 

「誓ったんだ! 仲間達の剣になるって!」

 

「おっ、その悪魔くん、イイモン作ったじゃん! ちょっと借りちゃうよ、永久にってね!」

 

しかも、必死に拘束から逃れようとする木場の前で、四季のエクスカリバーと剣戟を繰り返していた時、偶々それを見つけた敵側であるアナザーブレイブが木場の目の前の地面に突き刺さった聖魔剣を抜いて勝手に使われる始末であった。

 

「ハハハ! どうよ、聖剣と魔剣の二刀流!」

 

「ふっ!」

 

四季の一閃を統合聖剣で防ぐアナザーブレイブだが、四季の持つエクスカリバーとのぶつかり合いは確実に統合聖剣の刀身を削っていた。

 

「ヒャッハァ! 伸びろぉ!」

 

四季から距離を取ったアナザーブレイブの統合聖剣の刀身が伸びて四季に襲い掛かる。

 

「なるほど、擬態(ミミック)の能力か?」

 

蛇腹剣の様に襲い掛かる統合聖剣の刃をエクスカリバーで斬り払いながらアナザーブレイブとの距離を詰めようとするが、

 

(考えたな、まともに受け止めたらダメージを受けるのは自分の剣だけって判断してのこの形状変化か)

 

四季の剣とぶつかった瞬間簡単に弾かれる事で衝撃を逃している。それによってダメージを最小限に抑えているのだろう。

 

「これはオマケだぁ!」

 

襲い掛かる剣速が更に増す。変化の能力に加わったのは天閃(ラピッドリィ)の能力だ。

 

「早い! だけど……逆に避けやすい!」

 

四季は蛇の様な動きで高速で襲い掛かるアナザーブレイブの剣を避けながらアナザーブレイブとの距離を詰める。

 

「なんでさぁ! 何で当たらねぇぇぇぇえ!」

 

「早い分、伸びた刀身の動きが単調になってくれたんでな。寧ろ、レイピアかランスの形に変えて突きを主体にされた方が天閃の力は厄介だ」

 

「うるせぇ!」

 

早くなったとしても、逆に長くなった刀身のコントロールがし難くなったぶんだけ回避は容易くなった。

 

「他の能力に合わせて最適な形に変化させるって言うのが統合状態の擬態(ミミック)の最適な使い方じゃ無いのか?」

 

「大きなお世話なんだよ! こいつでどうだ!」

 

刀身が消える。だが、四季は敢えて動きを止めて、

 

「消えた所でお前の殺気はよく見える」

 

三つの能力を同時に使ったフリードの剣をその場で立ち止まりながら切り払う。

 

「幻覚の能力を上乗せした所でその殺気を隠せないなら意味はない」

 

「だったら悪魔くんの剣は如何ですかねぇ!」

 

天閃の能力で動きを止めた四季へと高速で襲い掛かるアナザーブレイブ。

 

そんなアナザーブレイブに対して新たに武器庫の中からもう一本のエクスカリバー(プロト)を取り出し、

 

「はぁ!」

 

アナザーブレイブの振り下ろした聖魔剣を四季のエクスカリバー(プロト)が断ち切る。

 

「何ですか、その剣は!? ここに来て悪魔くんの剣程度じゃ相手にならない新武器って有りなんですかぁ!?」

 

「心配するな。こっちもエクスカリバーだ。正真正銘の、本物のな」

 

アナザーブレイブの絶叫に笑みを浮かべてそう返す。

 

「言っただろ? 異世界のエクスカリバーだって。エクスカリバーが存在する世界が一つだけなわけが無いだろう?」

 

「何そのチョー展開!?」

 

断ち切られた聖魔剣を投げ捨て統合聖剣で襲い掛かるが、刀身を踏み付けて動きを止める。

 

「そのままにしておけよ!」

 

「ああ。逃がさない」

 

四季が統合聖剣の動きを止めた瞬間、ゼノヴィアの振り下ろした破壊の聖剣の斬撃をアナザーブレイブは統合聖剣の形状を変える事により剣を手放す事なく回避する。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシオス、そして聖母マリアよ!」

 

ゼノヴィアが片手をかざした瞬間彼女の前に現れた魔法陣の中から剣の柄があわれる。

 

「我が声に耳を傾けてくれ!」

 

ゼノヴィアの叫びと共に魔法陣の中から引き抜かれたのは一振りの巨大な大剣。

 

「この刃に宿りしセイントの皆において我は開放する、デュランダル!」

 

「二本のマジモンエクスカリバーにデュランダルってそんなのありか!? そんなのチョー展開過ぎるでしょう!?」

 

ゼノヴィアのデュランダルの一撃を防ぐも、統合聖剣にはヒビが入りそのまま後方へと吹き飛ばされる。

 

「アヴァロンは無いけどこっちは標準装備なのはありがたいな。風よ!」

 

地面に突き刺したfate版エクスカリバーを加速機に使い、アナザーブレイブとの距離を一気に詰める。

 

その瞬間、アナザーワイズマンと戦っていたクリスと詩乃の二人と視線が合い、頷きあう。

 

そして、そのままプロト版エクスカリバーの一閃によって統合聖剣を完全にトドメを刺し、核の部分を回収しつつアナザーブレイブの頭を狙った回し蹴りで後方へと吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

物語は僅かに遡る。ゼノヴィアがデュランダルを取り出した頃、アナザーワイズマンと戦っていた詩乃、クリス、雫の三人は、

 

「おお! 異世界のエクスカリバー! まさか二本も有ったとは!?」

 

四季の取り出した2本目のエクスカリバーの存在にアナザーワイズマンは歓喜の叫びをあげる。

 

「おいおい、完全聖遺物の大安売りでもやってるのかよ、この世界は? しかも、一つはデュランダルって……」

 

彼女の使っているイチイバルのカケラとエクスカリバーを比較して調べた所、間違いなくエクスカリバーも彼女の世界の聖遺物と近いものである事が判明した。

しかも、彼女の世界においてエクスカリバーは兎も角デュランダルは縁のある品なだけに色々と複雑な心境なのだろう。

 

「あんまり気にしない方がいいと思うわよ」

 

「分かってるよ」

 

詩乃の言葉にそう返しながら、クリスはクロスボウ型のアームドギアをガトリング砲へと変化させて放つ技『BILLION MAIDEN』を放つ。

 

 

『ディフェンス……ナウ……』

 

 

アナザーワイズマンはそれを魔力の盾を作り出して防ぐ。同時に詩乃も気を矢の形に変えた矢を放つが、それも魔力の盾の前に阻まれてしまう。

 

「チッ! 小娘共が! 私はあのエクスカリバーを見ていたいというのに邪魔をするな」

 

 

『エクスプロージョン……ナウ……』

 

 

アナザーワイズマンの放つ爆発魔法が二人を襲うが詩乃とクリスはアナザーワイズマンがバックル部分に手をかざした瞬間に回避したので無傷で済む。

 

(四季のお陰で攻撃方法は分かってるけど……)

 

事前にアナザーワイズマンの魔法については四季から説明は受けていた。アナザーワイズマンは元の白い魔法使いがウィザードと同タイプのライダーなだけに対策も取り易い。

 

だが、防御魔法の壁に隠れられると詩乃の攻撃力では簡単には突破できない。

 

元々変身者のバルパーは研究者で有って戦士では無いのだ。動き回って戦う可能性は低いと推測もしていたが、足を止めての拘束、防御、爆発の三種類の魔法を主に使ってきている。

 

また、アナザーとはいえワイズマン(賢者)の名は伊達では無いのだろう、複数の魔法を同時に操っている。

 

「雪音先輩、作戦はあれで行くわ」

 

「あれか? なら、あたしの役割は」

 

詩乃の言葉に笑みを浮かべながら答えるクリス。そして、四門のガトリングを同時にアナザーワイズマンへと掃射、敵の注意を己へと引きつけ、その隙に詩乃はアナザーワイズマンから距離を取る。

 

「準備良し」

 

「あとは私次第ね」

 

その隙に雫と合流した詩乃は攻撃力を高める補助の術による支援を受け、姿勢を正し精神を統一し、特殊な呼吸法を行う。

 

「っ!」

 

彼女の技に必要なのは主に気による視力の強化。それによって強化された視界に捉え、狙うはアナザーワイズマンの防御魔法の中心点。

 

「疾風っ!」

 

彼女が放つは『疾風射ち』。疾風の如き高速の一矢。気を込められた矢は鋼鉄さえも穿つ。

 

 

 

 

「チッ! 小娘め、無駄だと言うことがまだ分からんのか!?」

 

クリスからの攻撃を鬱陶しく思ったのか吹き飛ばそうと爆発魔法を使おうとした瞬間、アナザーワイズマンの防御魔法に詩乃矢が突き刺さる。

 

「ふん、この程度では……」

 

半ばまで突き刺さった詩乃の放った矢だったが、貫通する事なく魔法陣に留まっていた。だが、

 

「何っ!?」

 

魔法陣の中心に突き刺さった矢を中心にヒビが広がっていき、最後にはそのまま砕け散る。

 

「し、しまった!?」

 

慌てて防御魔法を貼り直そうとするが先程はクリスへの攻撃のためのエクスプロージョンのリングを着けていた為、一瞬だけだが隙ができる。

 

そして、もう一人の戦力はその隙を流すわけがない。

 

「吹っ飛びやがれ」

 

 

 

『MEGA DETH PARTY』

 

 

 

ギアの腰のリアアーマーを展開、そこからミサイルを一斉掃射する。

 

「う……うわぁああああ!」

 

小柄だが抜群のスタイルの少女が纏っていたアーマーに収納されていた事が信じられない量のミサイルの一斉掃射を受けて吹き飛ばされるアナザーワイズマン。

 

「やったわね、先輩」

 

「ああ」

 

そう言ってハイタッチを交わす詩乃とクリス。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒデブ!」

 

「ぐわっ!」

 

吹き飛ばされたアナザーワイズマンとアナザーブレイブがぶつかり、そのまま揃ってもみ合いながら地面に倒れこんでしまう。

 

「き、貴様、フリード! 四本統合した聖剣を使っておきながら破れたと言うのか!?」

 

「いやいや、マジモンエクスカリバー相手にパチモンカリバーじゃ勝てないでしょうが!?」

 

「う、うむ。それはそうだが……」

 

罵り合いながらのアナザーライダー二体を取り囲むように四季、詩乃、クリス、雫の四人とゼノヴィアが合流する。

 

「詩乃、雫、打ち合わせ通りに」

 

「ええ」

 

「うん」

 

「ああ、動けない間はあたしに任せとけ」

 

三人のでは無く四季は詩乃と雫、それぞれと気を共鳴させ増幅して行く。詩乃も雫もそれぞれ二人と気を共鳴させ増幅させる。

 

「彼等は何をする気なんだ?」

 

「まあ、見てりゃ分かるって。かなり派手な奴だからな」

 

互いに力を共鳴させ増幅させ有っている三人に疑問を感じるゼノヴィアに対してクリスはそう返す。

 

「行くよ」

 

「うん、私の力、四季に預ける」

 

「ええ。黄泉を照らす火之迦具土の炎よ。燃える花となり、我が道を照らせ」

 

「私たちも」

 

「ええ」

 

詩乃の中には桜井小蒔の技と比良坂の力が、雫の中には美里葵の術がある。四季のそれと合わせたそれぞれの力の存在でその三つの技の発動条件は満たしている。

 

 

『破邪顕正ッ、黄龍菩薩陣ッ!!』

『楼桜友花方陣!!!』

『黄泉迷将方陣!!!』

 

 

「ギャー!」

「ぐわぁー!」

 

三条の光の柱がアナザーブレイブとアナザーワイズマンを飲み込み、二人の体からアナザーウォッチが排出され、そのまま地面に倒れる。

 

同時に木場を拘束していた光の鎖も消え去り木場は解放されるが、すでに全ては終わっていた。

復讐の対象だったはずの教会のエクスカリバーも四季の本物のエクスカリバーの前に砕かれ、同士の想いを束ねた聖魔剣も本物のエクスカリバーには勝てなかった。

 

「僕は……同志達の想いは……」

 

解放されたがすでに木場は立ち上がる事が出来ないほど打ちのめされてしまっていた。

 

技の衝撃で二つのウォッチは吹き飛ばされた為、回収は出来ないが手元に無い以上、すぐに再変身というわけには行かないだろう。

 

「さて、後はお前だけだ……コカビエル!」

 

空中に浮かぶ玉座に座するコカビエルを睨みつけながら四季はそう宣言しオニキスのカードデッキを取り出す。

 

「KAMEN……」

 

近くにあった鏡面にカードデッキを向けVバックルを出現させた瞬間、

 

「天地、お前ぇ!」

 

突然真横からイッセーが殴りかかってくる。突然の事に対応が遅れた四季はそのまま殴り飛ばされ、カードデッキを手放してしまう。

 

「四季!」

 

「大丈夫!?」

 

「テメェ、何しやがる!」

 

殴り飛ばされた四季に駆け寄る三人。

 

「天地、お前よくも邪魔しやがって! あれは、あれは木場がやらなきゃダメだったんだ!」

 

「バルパーに捕まってた剣士の復帰を待つ余裕なんてあると思うのか? そんな事より、さっさとカードデッキを返せ」

 

既にあの時点でバルパーに拘束されていた木場は戦う事は出来なかった。復讐を果たすだけの力が無かったそれだけだと切り捨てる。

 

「五月蝿え!」

 

そんな四季に更に激昂するイッセーの手には先程殴り飛ばされてしまった時に四季が手放したカードデッキが握られていた。



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三十五話目

復讐も果たせず、同志達の思いを束ねたはずの聖魔剣も本物の聖剣には勝てなかった。そんな事実が木場の精神を押しつぶす。

 

(何だったんだ……僕の……同志達の命は……)

 

バルパーからは無駄な時間と切り捨てられた。

そんなバルパーの力の前に木場は復讐の奴へと刃を振るう権利さえ与えられなかった。

禁手(バランス・ブレイカー)に至った神器で作り出した聖魔剣もフリードに奪われて本物のエクスカリバーに容易く折られてしまった。

無意味、無価値。バルパーの言葉が正しいのだと、四季の手によって肯定されてしまった。そんな考えさえ過ってしまう。

 

立ち上がれない、戦えない。立ち直れたとしてもこの戦いの間は復帰は無理だろう。

 

目の前で崩れ落ちる木場の姿、砕け散った統合聖剣の光景にイッセーは呆然としていた。

聖剣を壊せれば木場は自分達のところに戻ってきてくれると思っていた。聖剣を破壊すれば元に戻ると思っていた。

 

だが、木場が破壊する筈だった聖剣は四季の手で破壊された。バルパーとフリードが変わった匙が変えられたって言う化け物二体も四季達に倒された。

 

木場はバルパーが変わった化け物に拘束されて吹き飛ばされて、ただそれを見ていることしかできなかった。

 

木場が破壊しなきゃダメだった聖剣を破壊した四季に対しての怒りが湧いてくる。自分でも気付かないうちに体が勝手に動いてしまった。

 

「天地、お前ぇ!」

 

気が付いたらイッセーはそう叫んで四季を殴り飛ばしていた。コカビエルに意識を向けていた為に無警戒だったイッセーの拳は四季の頬に当たりそのまま彼を殴り飛ばす。

 

その瞬間四季が握っていたカードデッキは四季の手から離れ真上へと飛んで行く。

 

イッセーの後ろに落ちそうだった放り出されたカードデッキは何かに弾かれるようにして軌道を変えてイッセーの頭に当たり、そのまま彼の手の中へと収まる。

 

「四季!」

 

「大丈夫!?」

 

「テメェ、何しやがる!」

 

殴り飛ばされた四季に駆け寄る三人。木場の大切な敵討ちを邪魔したくせに美少女三人に心配される四季の姿に更に怒りを覚えてしまう。

 

「天地、お前よくも邪魔しやがって! あれは、あれは木場がやらなきゃダメだったんだ!」

 

「バルパーに捕まってた剣士の復帰を待つ余裕なんてあると思うのか? そんな事より、さっさとカードデッキを返せ」

 

(あれは木場にとって大事な事だったんだ! それをそんな事だって!)

 

「五月蝿え! 木場の事を何も知らないくせに! あれは木場にとってどれだけ大事な事だと思ってるんだよ!?」

 

「さあな。少なくとも、時間制限でコカビエルまで残ってるんだ。前座相手にお前の所の剣士の復帰を待ってる余裕はない」

 

まあ、これが時間制限が無かったり、20分以内に魔王が来ると言うなら待っていても良かったが、時間がない以上は木場一人の敵討ちとこの街の住人全員の命では後者の方が重要だ。

 

そもそも、木場が拘束だけで済んでいたのもバルパーによっての興味の対象外だったからである可能性もある。

拘束されて一度吹き飛ばされはしたがその後は眼中に無かったからこそ放置されていたのだ。

 

「恨み言なら後で聞いてやるからさっさとカードデッキを返せ、お前と話してる時間も惜しい!」

 

「え!?」

 

改めて四季からそう言われて手の中にあるカードデッキの存在に初めて気が付いた様子でイッセーはそれに視線を向ける。

 

「……気付いて、無かったのか?」

 

頭に血が上って思わず手の中に飛び込んできたカードデッキを握ってしまったが、今まで存在を忘れていたのだろう。

 

(そうだ! これが有ればコカビエルにだって勝てるんじゃ無いか?)

 

ふとそんな考えがイッセーの中に浮かんで来る。抗い難い力への誘惑。

そんな誘惑がイッセーにカードデッキを使わせてしまう。

 

四季は自分以外にカードデッキは使えないと言っていた。だが、『あんな奴の言ったことなんて信用出来ない』と考える。

 

「だったら、オレがコカビエルをブッ倒せば! 変身!」

 

目の前に鏡面が無いところにカードデッキを向けてそう叫ぶが、当然何も起こらない。

 

 

『…………』

 

 

その場にいた全員に沈黙が流れる。

 

「な、なあ、あいつ何やってんだ?」

 

「ああ。あれって、鏡面に向けないと使えないんだ」

 

困惑した様子で問いかけて来るクリスにそう返す四季。

それを聞いていたイッセーも慌て鏡面を探して再度カードデッキをそちらへと向ける。

 

「こ、今度こそ」

 

「ええ、イッセー! 貴方ならやれるわ!」

 

「イッセー君、信じてますわよ!」

 

リアスと朱乃の声援を受けてイッセーは鏡面へとカードデッキを向けて……

 

「うおおおお! 変身!」

 

しかし、何も起こらなかった。再度の沈黙が周囲に流れる。

 

「いや、だから……DNA登録されているからオレ以外変身出来ないって言っただろうが」

 

いい加減諦めて返せと思いつつ、そう呟く四季。何時かのオカ研の部室でのやり取りでの四季の言葉が正しかった事が証明された訳だ。

 

「茶番は終わったか?」

 

そう言ってイッセーの足元へと光の槍を投げ付け、投げた槍の衝撃でイッセーを吹き飛ばすコカビエル。

その手の中にあったカードデッキはそのまま遠くに投げ出されてしまう。

多少苛立ちの様なものが感じられるのは気のせいでは無いだろう。

 

「そこの騎士が至った時には聖魔剣等と言う物を作り出して多少は楽しめるかと思ったが、とんだ期待外れだったな。だが、真のエクスカリバー二振りにデュランダル。確かに輝きが違うな」

 

「聖魔剣? 聖魔剣だと……? 反発し合う二つの要素が混じり合うなんて事は有り得ない……」

 

ヨロヨロとした様子で立ち上がるバルパー。その他にはアナザーワイズマンのウォッチが握られていた。

再度アナザーワイズマンになろうとした所でコカビエルの言葉を聞いたのだろう。

 

「……そうか! 分かったぞ! 聖と魔、それらを司る存在のバランスが大きく崩れているとするならば説明がつく」

 

その表情に驚愕のふた文字を貼り付けながら、バルパーは己の辿り着いた推論を口にしようとする。

 

「つまり、魔王だけでなく、神もっ!?」

 

その答えを言い切ることなく背中から投擲された光の槍に串刺しにされてバルパーは絶命する。

 

「バルパー、お前は優秀だったよ」

 

その犯人であるコカビエルの手の中にアナザーワイズマンのウォッチが舞い込んで行く。

 

「この力の事も存分に教えてくれて感謝するぞ」

 

そして、倒れているフリードへと視線を向け、

 

「何時まで寝たフリをしてしている気だ? バルパーが立ち上がれたのだ、お前が動かない訳がないだろう?」

 

「てへ? 気付かれちゃってました。油断してるトコを後ろから、グサーって行こうと思ってたんですがね、そこの巨乳ちゃんが警戒してたみたいで」

 

ケラケラと笑いながらフリードは立ち上がる。

 

「しかし、オレ様大ピンチ! 目覚めてくれ、隠された力とかナンカ!」

 

 

 

『助けてあげても良いよ~』

 

 

『っ!?』

 

そんな時に第三者の声がその場に響く。

 

全員の視線がその場に向かうと校庭に有った木の枝の上に全身を包むフードで顔を隠した少女がいた。

 

そのまま木の上から音も無く飛び降りた少女の手には先程までフリードの使っていたアナザーブレイブのライドウォッチが有った。

 

そして、彼女は手の中にあるアナザーブレイブのライドウォッチのスイッチを押す。

 

 

『トゥルーブレイブ……』

 

 

彼女がスイッチを押すとライドウォッチに書かれていた青い異形の騎士の絵が砕け、薄汚れた白い鎧の異形の騎士の絵と変わる。

 

「貴様、奴の仲間か?」

 

「あ~、ナイトローグの事~? そうだよ~。私はね~」

 

 

『アーイ! バッチリミナー!』

 

 

「変身~」

 

『カイガン! ダークライダー! 闇の力! 悪い奴ら!』

 

 

 

その姿を白い仮面のフードを被った戦士へと変える。

 

「私はね~。仮面ライダーダークゴーストって言うんだよ~。ダークゴーストって呼んで~」

 

そう言ってダークゴーストは一瞬でフリードの元へと移動すると、

 

「じゃあ、この人はまだ使い道があるから貰ってくね~」

 

「え!? オレどうなるの!?」

 

ダークゴーストとフリードの足元に現れた魔法陣の中に飲み込まれて行くフリードとダークゴースト。

 

「じゃあ、頑張ってね~」

 

何故かその言葉をコカビエルでは無く四季の方へと告げて。



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三十六話目

「消えたか。だが良い、余興は終わりだ」

 

そう言いながら五体の漆黒の翼を広げながらコカビエルはその手の中に握っていたアナザーライドウォッチよスイッチを押す。

 

 

 

『ワイズマン……』

 

 

 

「そもそもオレは一人でやれる。面白い力も手に入った事だしな」

 

アナザーワイズマンの姿に変わるコカビエルだが、背中からは5対の翼が生え白いローブの部分が黒く染まっている。

 

だが異変はそれだけではない。アナザーワイズマンの体に罅が入り蛹が成虫へと変わるようにその姿を変える。

 

 

 

白い魔法使い(ワイズマン)

 

 

 

ウィザード世界の仮面ライダーで有りながら、仮面ライダーの名を与えられていない存在、『白い魔法使い』へと。

いや、それは背中の黒い5対の翼や黒く染まったローブと言う姿からダークワイズマンとでも呼ぶべき個体だろうか?

 

そんなダークワイズマンは先ほど吹き飛ばしたイッセーへと視線を向け、

 

「限界まで高めた赤龍帝の力を誰かに譲渡しろ」

 

「く、くそ、それだけ余裕ってことかよ。舐めやがって……」

 

「舐めているのはお前達の方だ。オレを倒されると思っているのか? で、誰が相手だ?」

 

淡々とイッセー達へと告げるダークワイズマン。

 

「くっ……イッセー、私に譲渡を!」

 

「は、はい!」

 

『Transfer!!』

 

名乗り出たリアスの手に触れダークワイズマンの言葉通り力を倍加させた力を譲渡する。

 

「フハハハハハ! 良いぞ! もう少しで魔王クラスの魔力だぞ! お前も兄に負けず劣らずの才に恵まれているようだな!」

 

「消し飛べェェェェ!!!」

 

イッセーの譲渡によって大きく強化されたリアスの力に楽しげに笑うダークワイズマン。

リアスは譲渡された力によって強化された滅びの魔力をそんなダークワイズマンへと向けて放つ。

 

 

『ディフェンド、ナウ』

 

 

放たれた滅びの魔力をダークワイズマンは己の前に出現した魔法陣の壁で阻み、何処からか白い魔法使いの専用武器の笛と剣が一体化したような武器『ハーメルンケイン』を取り出し、滅びの魔力を切り裂き霧散させる。

 

「魔王に匹敵するだけの魔力を無傷でしのげるとは、今ならば魔王にさえ勝てるかも知れんな」

 

新たに手に入れた己の力に満足げに呟くダークワイズマンの真後ろに朱乃が、

 

「ほう、お前はバラキエルの」

 

「私をあの者と一緒にするな!」

 

後ろから朱乃の放つ雷をハーメルンケインを一凪し打ち消す。

 

「悪魔に堕ちるとはなバラキエルの娘。まったく、バラキエルもさぞ嘆いていることだろう。だが、お前だけはバラキエルの為にも加減してやらんといかんな」

 

リアスと朱乃の攻撃をかすり傷一つ負う事なく防いだダークワイズマンはそんなリアス達を嘲笑う様にそんな事を告げていた。

 

「そんな……! あの魔力でも倒さないなんて……」

 

そんなダークワイズマンの姿に驚愕するリアス。

 

「まったく、愉快な眷属ばかり持っているなリアス・グレモリーよ。お前もサーゼクスに負けず劣らずのゲテモノ好きの様だ!」

 

「兄の、我らが魔王への暴言は許さない! 何より私の下僕への侮辱は万死に値するわ!」

 

ダークワイズマンの言葉に激昂するリアス。

 

 

 

 

 

 

「同時に仕掛けるぞ」

 

「ああ」

 

ゼノヴィアの言葉にそう返し四季は詩乃とクリスへと

 

「援護は頼む」

 

「ええ」

 

「任せな」

 

四季の言葉に答え詩乃は火炎の矢を放ち、クリスは大型化したボウガン型のアームドギアから放った大型の矢が無数の鏃に分裂する技『GIGA ZEPPELIN』を放つ。

 

「ムッ」

 

詩乃の炎の矢はハーメルンケインで切り払うものの上空から降り注ぐ無数の鏃は防ぎ切れないと判断したのかディフェンドの魔法で防ぐ。

 

同時に仕掛けたゼノヴィアのデュランダルをハーメルンケインで受け止めるも、

 

「天槍!」

 

「ぐはっ!」

 

ゼノヴィアと時間差をつけて放ったオリハルコンを着けた四季の一撃は無防備に受ける事となってしまった。

 

「まさかただの人間の一撃が一番効くとはな……しかし!」

 

ハーメルンケインを振るい受け止めていたデュランダルごとゼノヴィアを吹き飛ばすアナザーワイズマン。

 

「っ!? 円空……破」

 

円を描くような軌道で振るった拳から遠心力をつけた発勁を放ちゼノヴィアへの追撃を防ぐ四季。

 

「そこ!」

 

僅かにダークワイズマンの体勢が崩れた瞬間、子猫が殴りかかる。小柄な少女だが戦車(ルーク)の駒の転生悪魔である彼女の力はグレモリー眷属でもトップクラスだが、

 

「ッ!!?」

 

頬に突き刺さるように叩き付けられた拳に微動だにせず片手に作り出した光の剣を脇腹に突き刺す。

 

「危ない!」

 

そのままダークワイズマンは子猫の体を真っ二つに切り裂こうとする前に四季は子猫の体を抱えて距離を取る。

刺された光の剣は抜けてそこから出血も始まったが、悪魔に対して毒となる光の剣が刺さり続けているよりも良いだろう。

 

「雫、頼む!」

 

「うん」

 

子猫を雫に預けると改めてダークワイズマンを睨み付ける。

 

「ぐっ! 面白い! そのくらいでなければオレは倒せん! リアス・グレモリーよ! 今ここで対峙しているのはお前達悪魔の長年の宿敵だぞ!? これを好機と見なければお前の程度が知れると言うものだ!!!」

 

背中の翼を広げて上空に飛びながらそう高らかと宣言するダークワイズマン。

 

「オレを滅ぼしてみろ! 魔王の妹!!! 『赤い龍(ヴェルシュ・ドラゴン)』の飼い主! 紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)よ!!!」

 

高らかと宣言されるリアスへのあからさまな徴発。

そう、コカビエルは長年の悪魔の宿敵、戦争狂であっても歴戦の勇士なのだ。本来ならば魔王やその眷属が動くレベルの相手。

残念ながらはぐれ悪魔程度の相手としかマトモな戦闘経験の無いリアスには手に負える相手では無い。

 

「四季、何か手はある?」

 

「一応、手持ちには切り札が一つ。エクスカリバーも二本あるしな。合計三つって所かな?」

 

詩乃の言葉に四季はそう返す。まだエクスカリバーは普通の剣としてしか使っていない。

 

「私はあんな相手に通用しそうな技は無いから、サポートに回るしか無いわね」

 

「流石に仮面ライダー相手に生身で太刀打ち出来るかって聞かれたら、『出来るかぁー!』って答えたい」

 

少なくとも打撃と勁技の奥義を叩き込んでいるのにダメージを与える程度で済まされているのは流石に凹む心境の四季だった。

 

「だったら、四季に任せるしかねぇか。アタシの場合は」

 

「先輩。それを使う、なんて言ってたら今から危険覚悟でカードデッキを拾いに行くところだ」

 

「わかってるよ」

 

四季たちの共通点は元の世界で一度死んだ身の上。だからこそ、二度目の死など絶対にゴメンなのだ。それが己でも仲間でも。

 

「まだ隠しておきたかったけど、仕方ないか」

 

 

『ドライバーオン、プリーズ』

 

 

四季の腰に出現する新しい変身ベルト『ウィザードライバー』。

 

「さあ、最後の希望の出番だ」

 

 

『シャバドゥビタッチヘンシ~ン! シャバドゥビタッチヘンシ~ン!』

 

 

ドライバーを起動させ指に着けるのは変身用のフレイムウィザードリング。そして、

 

「変身!」

 

その叫びと共にウィザードライバーにリングを翳す。

 

 

『フレイム! プリーズ! ヒーヒーヒーヒーヒー!』

 

 

魔法陣をくぐり抜けながら四季はその姿を宝石のような仮面の姿を。最後の希望たる魔法使い『仮面ライダーウィザード フレイムスタイル』へと姿を変える。

 

ダークワイズマンの原型たる白い魔法使いがウィザードの0号に当たる存在とするならば奇しくもダークワイズマンと同じ姿が並んだと言うことになる。

 

「さあ……ショータイムだ!」

 

ウィザードへと変身した四季は上空に浮かぶダークワイズマンへと指差しながらそう宣言する。



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三十七話目

クリスの設定のマテリアル1を追加しました


「クックックッ! ハーッハハハ! ショータイムだと? 面白い見せてもらおうか」

 

ウィザードへと変身した四季を見下ろしながらダークワイズマンは笑いながらそう告げる。

 

「存分に堪能してくれよ」

 

 

『コネクト、プリーズ』

 

 

魔法陣の中からウィザーソードガンを取り出しダークワイズマンへと切り掛かる。それをハーメルンケインで受け止めるダークワイズマン。

 

一瞬力を緩めてハーメルンケインを受け流すと回し蹴りを放つ。

 

「チッ!」

 

回し蹴りを後ろに下がり回避するダークワイズマンだが、ウィザードは大きく回転するようにキックを放ちながら追撃を加える。

 

「鬱陶しい!」

 

「それは、どうも!」

 

追撃の最中にガンモードに切り替えたウィザーソードガンの引き金を引く。

 

「なっ!? グオ!」

 

単なる剣と油断していたダークワイズマンに直撃するが、流石にさほど大きなダメージにはなっていない様子だ。

 

だが、一瞬動きが止まる。それだけで今は十分。

 

軽くステップを踏むように横に避けるとダークワイズマンへと詩乃の放った矢が直撃する。

仮面の奥で表情を歪めると詩乃へと光の槍を作り出し投げつけようとするが、割って入ったウィザードのソードモードのウィザーソードガンによって砕かれる。

 

「グッ!? 鬱陶しい!!!」

 

ハーメルンケインを振るいウィザードを力任せに吹き飛ばすとそのまま背中の翼を広げ上空に飛ぼうとするが、

 

「なっ!?」

 

上空に浮かび上がった瞬間、クリスの放ったマイクロミサイルが一斉に直撃する。

 

「グワァァァァァァァァァァ!!!」

 

上空からクリスに撃ち落とされたダークワイズマンが片膝をつきながら校庭に着地する。

 

 

『ビッグ、プリーズ』

 

 

「なにっ!?」

 

その隙に新たなウィザードリングを使用し目の前に出現した魔法陣に向かってパンチを放つと、巨大化したウィザードの拳がダークワイズマンを殴り飛ばす。

 

「オマケだ」

 

 

『エクステンド、プリーズ』

 

 

続いて発動させたウィザードリングの効果を受けて真上へと跳び上がりキックを放つと、ゴムの様に伸びたキックがダークワイズマンを蹴り飛ばす。

 

「貴様ら、さっきから」

 

「仮にも歴戦の勇士を相手にしてるんだ、こっちは数の利と手数の多さを活かさせて貰ってるよ」

 

とは言え、例の魔法陣の制限時間も有り、何時迄も数の利と手数の多さを活かした戦い方が通用するとは思えない。

飽くまで短期決戦を狙うしかないのだ。

 

「そらよ、追加だ!」

 

更にウィザードが後ろに下がった瞬間、クリスがマイクロミサイルを撃ち込む。

 

「同じ手が通用すると思うな」

 

ダークワイズマンはそれを背中の5対の翼で防ぐ。

 

「同じじゃない!」

 

 

『コピー、プリーズ』

 

 

コピーの魔法で増やしたウィザーソードガンをダークワイズマンへと投げつけるがダークワイズマンはそれをハーメルンケインで切り払う。

 

「はっ!」

 

同時に斬りかかったウィザードがウィザーソードガンでハーメルンケインを押さえつけ、同時にその場にしゃがみ込むとウィザードの背後からゼノヴィアがデュランダルを振るう。

 

ダークワイズマンの頭を狙った一閃だったが、ダークワイズマンの回避が間に合った事で微かに仮面に傷を付ける程度で終わる。

 

「くっ、浅かったか?」

 

「いや、悪くない!」

 

「がっ!」

 

必殺の一撃のつもりでの一撃を避けられた事を悔しがるゼノヴィアだったが、ウィザードはサマーソルトキックの要領で縦に一回転してダークワイズマンの顎を蹴り上げる。

 

「やってくれたな」

 

ウィザードとゼノヴィアを睨みつけるとダークワイズマンもまたウィザードリングを発動させる。

 

「ならば、オレも使わせて貰うぞ!」

 

 

『デュープ、ナーウ』

 

 

魔法陣が足元に現れると同時にダークワイズマンの周りに無数の光の剣が現れる。

 

「フフフ……なるほど、中々便利な力だ」

 

己の使った魔法の成果に満足気に呟くとハーメルンケインを振り上げる。

 

「ヤベェ、お前ら下がれ!」

 

「急いで!」

 

敵の狙いを理解したクリスと詩乃の言葉に従ってゼノヴィアを連れてダークワイズマンから急いで距離をとる。

 

「やれ」

 

それを合図にした訳でも無いだろうが、ダークワイズマンがハーメルンケインを指揮棒(タクト)の様に振るうと無数の光の槍がウィザードとゼノヴィアへと襲い掛かる。

 

「不味い!」

 

ダークワイズマンに背中を向けていたウィザードには見えなかったが、二人に襲い掛かる光の剣の大半をクリスが、クリスが撃ち漏らした光の剣を詩乃が撃ち落とす瞬間をゼノヴィアは見ていた。

 

「今のは危なかったわね」

 

「ああ、二人とも今のは本当に助かった」

 

流石にあの数の光の槍の飽和攻撃など捌ききれはしない。

ダークワイズマン本人が分身してこなかったのは幸運だが、それでも二人の援護がなければ避けきれなかっただろう。

 

「ククク……面白かったぞ。なるほど、ショータイムと言うだけはあるな」

 

大量の光の剣による攻撃の後、ダークワイズマンは追撃するでもなくウィザードを挑発する様にそう告げる。

戦争狂のコカビエルにとっては四季達の必死の戦いも楽しみでしか無いのだろう。

 

戦争狂(ウォーマニア)が」

 

「しかし、お前達はよく戦っているよ。拠り所とする偉大なる主を失っていても」

 

そんな吐き捨てるように呟くウィザード達を一瞥しながら感心した様子でダークワイズマンはそう言った。

 

「……どういう事だ?」

 

真っ先にダークワイズマンの言葉に反応したのはゼノヴィアだった。

 

「フッハハハハハ!!! お前達下々まで真相は語られていなかったな! 褒美だ、教えてやるよ」

 

そこまで言い切った後ダークワイズマンは静かに、だがはっきりと言い切る。

 

「神は死んだ。先の三つ巴の戦争で魔王だけでなく神も死んでいたのさ」

 

その言葉にその場にいるもの達の……正確にはウィザード達以外の表情が凍りつく。

ダークワイズマンの変身者であるコカビエルは先の三つ巴の戦争の当事者である。

だからこそ、敵ではあってもその言葉の持つ説得力は確固たるものだ。

 

「人間の信仰心や対価に依存しなければならぬほど疲弊した三大勢力……それを人間に知られるのは都合が悪い。この真相を知っているのは各勢力トップの一部だけだ。先ほどバルパーは気付いた様だがな」

 

そう、そして三大勢力を構成する堕天使の幹部であるコカビエルはそれを知る一部に属する者。

 

 

 

 

 

「……神はいない……じゃあ、ぼくの……ぼくの同志の命は……」

 

更に絶望の底に沈んでいく木場。

 

 

 

 

「ウソだ……」

 

コカビエルの言葉を受け入れられずに呆然と呟くゼノヴィア。

 

「もう大きな戦争など故意に企てない限り起きないだろう。それだけ、どの勢力も先の戦争で泣きを見た。アザゼルの野郎も『二度目の戦争はない』と宣言する始末だ!」

 

悪魔は王を失い、天使は神を失った。そして、その過程でも多くの天使や悪魔、堕天使が犠牲になったであろう事は簡単に想像できる。

その果てでの神と魔王の死。もはや、その爪痕は勢力単位では戦う気力すら湧かないという事だろう。

 

だが、唯一被害が少ない勢力がある。

 

「堪え難い! 我ら堕天使が勝利すれば人間などに頼る必要も無いと言うのに!!!」

 

そう、魔王や神と言った王を持たないが故に精神的支柱は残ったままだ。勝てるかは別としても僅かながら優位であったであろう事は間違いない。

 

「主は……死んでいる? では、私達に与えられる愛は?」

 

顔を真っ青にして震える声でアーシアが呟く。

 

「そうだ! 神の守護、愛がなくて当然なのだ! 神はすでにいないのだからな!」

 

そして、神の死によって聖魔のバランスが崩れている事。その証拠として木場の作り出した聖魔剣を示す。

突きつけられた真実に崩れ落ちるアーシア。心など既に折れている木場にさえその言葉は重くのしかかっている。

 

「戦争だ! お前達の首を土産に我ら堕天使が最強だとルシファーやミカエルに見せつけてやる! この力があれば、もはやミカエルなど、ルシファーなど敵では無い!!!」

 

高らかと宣言するダークワイズマン。聖書に記されるビッグネームと戦えるほどの存在を敵に回していると言う事実にその場にいる者たちの心も折れかける。

 

 

そう、

 

 

 

「「「「ふざけるな(ふざけないで)!」」」」

 

 

 

 

四人を別にしてだ。

 

「黙って聞いてりゃ、それがお前が戦争したい理由か! 安い、安さが爆発しすぎてる!」

 

「戦争がしたいなら勝手にやって! そんな理由で私達を巻き込まないで!」

 

「死んだ仲間達のためって言うならまだ納得出来るが、お前の理由はくだらない事この上ない! そんだけ戦争したいなら、一人で勝手に悪魔なり天使なりにでも特攻したらどうだ!?」

 

クリス、詩乃、四季の言葉が響き、雫も頷いている。

既に四季の持つ原作知識からコカビエルの目的は聞いていた。だが、改めて本人の口から聞いた瞬間四人は確信する。こいつはここで叩き潰すべき相手。

そう決断した四季は新たなウィザードリングを取り出す。

 

「もう、出し惜しみは無しだ。もう一段階、ギアを上げていこうか」

 

 

『フレイム・ドラゴン! ボー ボー ボーボーボー!』

 

 

魔法陣をくぐるウィザードの姿が真紅に染まる。それは怒りを象徴している様な真紅の姿。

『仮面ライダーウィザード フレイムドラゴン』。

 

そして、四季達の他にもう一人怒りを露わにする者もいる。

 

「ふざけんな……。てめえの勝手な言い分で戦争起こされてオレの計画邪魔されちゃ困るんだよ! オレはハーレム王になるんだ!」

 

四季達に続いて欲望全開の怒りを露わにするイッセー。

 

「くくく……それが望みか、赤龍帝? ならばオレと来い。すぐになれるぞ? 幾らでも美女を見繕ってやろう」

 

ダークワイズマンの言葉に怒りで力を高められていた物が霧散する。

 

「……」

 

顔を伏して力の完全に消えた籠手を下ろす。

 

「…………」

 

何かを考えながらモジモジとしている。

 

「………………。そ、そんな甘い言葉で騙されるものかよ!」

 

「いや、その間は何だ!?」

 

ウィザードからのツッコミがイッセーに入るのだった。

 



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三十八話目

「覚えとけコカビエル! オレはエロと熱血で生きる赤龍帝の宿主! リアス・グレモリー眷属の兵士(ポーン)、兵藤一誠だ!!!」

 

(それで良いのか、赤い龍(ヴェルシュ・ドラゴン)!?)

 

その後のリアスとイッセーのやり取りにてやる気になってコカビエルへと宣戦布告するイッセーに対する四季のツッコミであった。

 

「ならば、もう少し楽しませて貰おうか」

 

 

『デュープ、ナーウ』

 

 

持ち直した精神を叩き潰す様に使われる新たなリング。

再び使うデュープのリングだが、今回は違う。光の剣を大量に作り出した先ほどとは違い、ダークワイズマン自体が二人に増えた。

 

「う、うそでしょう……」

 

一人でも強敵だったコカビエルが二人に増えた。その事実は持ち直した空気を再び絶望に叩き付けるには十分すぎる事実だった。

 

「やっぱり使ってきたか」

 

そのリングの存在を知っていたウィザードFD(フレイムドラゴン)達だけは動揺を見せていなかったが、それでも厄介な力であることは変わりない。

 

本体と完全に独立した同等の戦闘力を持った分身を生み出すのが、オリジナルの白い魔法使いのデュープの魔法なのだ。

 

「そ、そんなモン、ただの虚仮威しだろう、幾ら何でも……」

 

「いや、あれは本体と同等の力の分身を増やすリングだ」

 

二人になったダークワイズマンを虚仮威しだと言おうとするイッセーの言葉を遮ってウィザードFDはその事を教える。

 

「そう言う事だ。しかし、これは良いな、これならば魔王を同時に相手に戦えそうだな」

 

己の隣に作り出した分身の力を理解してダークワイズマンは満足気にそう呟く。

 

 

 

『ふふふ、確かに面白いな』

 

 

 

ダークワイズマンとイッセー達グレモリー眷属の間に何かが降ってくる。

 

「なんだ? あれは、まるで……」

 

纏った時にはクローズDの上からだったが、クローズDに重なった部分に降ってきた者の纏っていた鎧は似ていた。

 

背中に翼を持ったドラゴンを模した白き鎧。その姿は、

 

「『赤龍帝の鎧(ブーステッドギア・スカイル・メイル)』にソックリだ……」

 

イッセーの呟きが響く。

 

「……『白き龍(バニシング・ドラゴン)』。赤に惹かれたか、『白龍皇』よ、邪魔立ては……」

 

白い鎧……否、白龍皇の拳をハーメルンケインで受け止めながら、

 

「無用だ!」

 

一瞬拳とハーメルンケインが離れるとダークワイズマンと白龍皇の姿が交差する。

 

ダークワイズマンの後方に立つ白龍皇の手には毟り取られたダークワイズマンの羽根が握られていた。

 

「まるで薄汚いカラスの羽だ。アザゼルの羽はもっと深い常闇の様だったぞ」

 

「そうか、だが、お前の鎧は少し地味じゃないか?」

 

手の中の羽が零れ落ちながら告げる白龍皇の言葉にダークワイズマンはそう呟きながら、

 

「赤も少し入った方が良い色合いになるんじゃないのか?」

 

「ぐっ!」

 

白龍皇の肩の鎧の一部が切り裂かれそこから鮮血が飛ぶ。

ハーメルンケインには魔力による守りを無力化する力があり、オリジナルの白い魔法使いが使った際にはウィザードのインフィニティースタイルの装甲さえも切り裂いてしまう。

 

コカビエル自身の力に白い魔法使いの力が加わったダークワイズマンならば、禁手の鎧も切り裂く事も容易いと言う事だろう。

 

「なるほど、その姿はハッタリではない様だな」

 

「やれ」

 

ダークワイズマンの言葉に従い白龍皇に仕掛けるのはデュープのリングで生み出した分身の方だった。

 

「さて、お前の相手はオレが直々にしてやろう」

 

ウィザードFDと向かい合いながらダークワイズマンはそう告げる。

 

「それはどうも。でも、お前なら本体の方が向こうの相手をするって思ってたけどな」

 

「ふん、面倒だが、この力を渡された時の奴との約定でな。お前が現れた場合はオレの手で始末しろとな」

 

ナイトローグとの約定。その約定を守りたくなるほどダークワイズマンの力は強力なものと言うことだろう。

 

(ナイトローグの狙いは予想できるけど、コカビエルの中にあるウォッチを破壊するにはウィザードの力しかない今は、好都合だ)

 

敵の狙いは龍騎ライドウォッチを手に入れた時に仮設程度だが見えていた。だが、四季には戦わないと言う選択肢は無い。

 

切りかかってくるダークワイズマンのハーメルンケインをウィザーソードガンで受け止めると蹴り飛ばすことで距離を取り、

 

 

 

『エクスプロージョン、ナーウ』

『エクスプロージョン、プリーズ』

 

 

 

互いに距離を開けたウィザードとダークワイズマンが同じ魔法を使い、その中央で爆発が起こり互いの姿を爆煙が隠す。

 

「死ね!」

 

爆煙を切り裂いてダークワイズマンの投げつけた光の剣がウィザードFDのいるであろう場所へと投げつけられる。

 

「なっ!?」

 

だが、その光の剣は虚しく誰もいない地面に突き刺さるだけに終わっていた。

 

「何処に消えた!?」

 

ダークワイズマンは姿の消えたウィザードFDを探すが何処にもその姿は見えない。

 

 

 

『ドリル、プリーズ』

 

 

 

「此処だ!」

 

ダークワイズマンの後ろから地面を掘って現れたウィザードFDの振り下ろしたウィザーソードガンをダークワイズマンは翼で受け止める。

だが、ウィザードはウィザーソードガンを起点にダークワイズマンの頭を狙って回し蹴りを放つ。

 

「ぐっ!」

 

 

 

『エキサイト、プリーズ』

 

 

 

その一撃によって一瞬ダークワイズマンの動きが鈍った瞬間を逃さず、新たな魔法を使い全身をマッチョ化させて殴り飛ばす。

 

(なるほど、ウィザードの場合は気を魔力の代用に出来るのが強みか)

 

黄龍の器の力で外部から取り込んだ気を魔力の代用にしているため、今の四季は半無制限にウィザードリングの力を使えるのは強みでしか無い。

 

 

 

『コピー、プリーズ』

『ハイスピード、プリーズ』

 

 

 

ウィザーソードガンをコピーして二刀流になると、音声データのみ存在していた原点未登場のリングを使う。

 

「さあ、着いてこれるか!?」

 

その瞬間、ダークワイズマンの視界からウィザードFDの姿が掻き消える。

 

「なに!?」

 

視認できないほどのスピードを武器にしての連続攻撃によってダークワイズマンをほぼ一方的に攻撃することが可能になった訳だが、

 

(消耗が早くて回復が間に合わない。制限時間付きだな、これは)

 

他のライダーならばある意味において高速での戦闘を可能とするフォームは最強フォームにも匹敵する強力な力を持つが同時にそれには制限時間もある。

 

それ故に敵に視認されることすら許さないハイスピードのリングも魔力の消費が大きく、長時間の使用は不可能なリングになってしまっている。

 

実際そのリングの存在には驚いたものの、アナザーカブトの様な高速で動き回る敵に対する対策には最適と考えていた為、そのリングの存在を知った段階から能力については調べていたが、実践で使うのはこれが初めてだ。

 

だが、予想以上に切り札となり得るリングでもある。

 

「ぐ! がっ! こ、この……鬱陶しい!!!」

 

高速で動き回るウィザードFDの攻撃に晒され続け苛立ちを覚えたダークワイズマンは上空に飛び上がると新たなリングを使う。

 

 

 

『エクスプロージョン、ナーウ』

『エクスプロージョン、ナーウ』

 

 

 

連続して上空からのエクスプロージョンの魔法による爆撃、同時に光の剣も地上に向かって投げつける。

 

「っ!?」

 

 

 

『ディフェンド、プリーズ』

 

 

 

ディフェンドの魔法で作り出した炎の壁でダークワイズマンの魔法と光の剣による爆撃を防ぐウィザードFD。

 

「がっ!」

 

遂にエクスプロージョンの魔法で炎の壁が粉砕され、ウィザードFDの体が吹き飛ばされる。

 

そんなウィザードFDに対してトドメを刺そうとダークワイズマンは特大の光の槍を作り出す。

 

「たかが人間が! 貴様などさっさと始末して……」

 

「良いのか、オレだけに注意していて? ……動かない的なんて、当ててくださいって言ってるようなモンだぜ」

 

「何を……はっ!?」

 

その言葉の意味に気が付いたダークワイズマンだが、もう遅かった。

 

ウィザードFDが囮となってダークワイズマンの意識を己に向けて二人への注意を晒す事が先ほどまでの目的。

 

「行って」

 

ー『奥義・九龍烈火』ー

 

詩乃が放つのは九頭の火龍の力を最大限に発揮した奥義。ダークワイズマンを焼き尽くさんとその姿を飲み込む。

 

「ぐおおおおおおおおおおお!!!」

 

ウィザードFDへのトドメに気を取られていた為、無防備のまま炎に飲み込まれながら絶叫を上げる。

 

「外さねえ!」

 

ー『RED HOT BLAZE』ー

 

続いてアームドギアが変形したスナイパーライフルでの一点集中型の狙撃を行うのはクリス。

ハーメルンケインを持った片腕を狙いダークワイズマンから武器とリングを奪う。

 

「ぐっ! 小娘共がぁ!!!」

 

 

 

『チョーイイネー! スペシャル! サイコー!』

 

 

 

新たに響くのは今までとは違うウィザードライバーの発動音。その音に反応してそちらへと視線を向けたダークワイズマンの視界に映ったのは魔法陣を背に体にウィザードラゴンの頭を出現させたウィザードFDの姿だった。

 

「受けてみろ、炎を纏う、ドラゴンの息吹を!」

 

胸部に出現したウィザードラゴンの頭から放つ火炎放射『ドラゴンブレス』に飲み込まれ地面に落ちるダークワイズマン。

同時に白龍皇と戦っていた分身のダークワイズマンと激突する。

 

見ればハーメルンケインによるダメージを負っているが白龍皇が僅かに優勢だった様子だ。

 

着地すると素早く地面に突き刺していた二本のエクスカリバーを手に取り、

 

「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流」

 

気を魔力の代用にし、二本のエクスカリバーへと魔力を流すと、エクスカリバー(fate)を真上に投げ、

 

十三拘束解放(シール・サーティーン)円卓議決開始(ディシジョン・スタート)! 」

 

《特例承認》

《ベディヴィエール、ガレス、ランスロット、モードレッド、ギャラハッド――》

 

「これは、世界を救う戦い」

《アーサー》

 

先ほど真上に投げたエクスカリバーを受け止めウィザードFDは二本のエクスカリバーを上段に構える。

 

連撃、約束されし勝利の剣(ダブル・エクスカリバー)!!!」

 

両手で真上に振り上げた二本の聖剣を同時に振り下ろす。

二つの宝具、二つのエクスカリバーの真名解放。それが四季の考えていた切り札だ。

なお、プロトの方のエクスカリバーは三対一でも、相手が精霊でも、隣にいるのが人類悪でも、パンを買ってくる為のおつかいのついでの戦闘でも使える仕様であった。

 

まあ、この場でコカビエルの好きにさせていたら人間界も巻き込んでのシスコン魔王二人が先頭に立って行われそうな聖書勢力の内乱に人間界も巻き込まれる危険があるので、そう言った意味では世界を救う戦いというのは間違いではないかも知れないし、隣に立つ仲間の一人は五度に渡って世界を救った戦姫で、それを振るう為に世界を救った英雄の仮面ライダーウィザードの力を借りている。

 

多少威力は下がっていても、此処でコカビエルを殺してしまっても不味い可能性があるので、返ってそれは好都合。

 

二振りの聖剣から放たれる極光を前に、聖剣への憎しみを抱いていた木場も、聖剣使いであったゼノヴィアも、神の死のショックのあったアーシアも、悪魔であるイッセーやリアス、朱乃も、子猫も、白龍皇も、その美しき輝きに、真の最高峰の聖剣の輝きに心を奪われる。

 

二つの聖剣の光の奔流に飲み込まれながら分身のダークワイズマンは消え去り、ライドウォッチが排出されたコカビエルは意識を失った。

 

勝利を確信して変身を解除すると四季は駆け寄ってきた詩乃、雫、クリスの三人とハイタッチを交わす。



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三十九話目

「ま、まだだぁ!」

 

ダークワイズマンの姿から元の姿に戻りながらなおも戦おうとするコカビエル。

 

「そ、そんなになっても、まだ戦おうってのかよ?」

 

「当たり前だ! あの戦争で確かに神も魔王も死んだ! 確かに堕天使は総統も幹部も生きている! だがな、そんなものはどうでも良い!」

 

ダークワイズマンになっていたとは言えドラゴンブレスと二本のエクスカリバーの真名解放を受けてもなお立ち上がるコカビエルに畏怖を覚えるイッセー。

そんなイッセーの言葉に絶叫しながら答える。

 

「どれだけの部下があの戦争で犠牲になったと思っている! それを貴様らに宿る二天龍に乱入され、中途半端なまま和平などと言われて、あいつらの無念はどうなる!?」

 

そう叫びながらコカビエルはイッセーを睨み付ける。

 

「そういう意味では赤龍帝の宿主、貴様は忌々しい。貴様の主人がフェニックスの三男と婚約していればバラキエルも今頃はこちらに着いていたかも知れんというのに!」

 

女好きのライザーの性格上、間違いなくその女王の朱乃にも手を出していたことだろう。…………堕天使幹部の娘に。

それが原因でバラキエルも加われば好戦派の勢いは大きくなる。最悪の場合堕天使勢力の軍部が完全に好戦派一色に染まっていた可能性さえもあるのだ。

 

何気にイッセー、戦争の回避に一役買っていたのかも知れない。

 

「こんな所で」

 

 

 

白い魔法使い(ワイズマン)

 

 

 

再度起動させる白い魔法使いのライドウォッチ。

本来ならば再びコカビエルをダークワイズマンへと変えていただろうが、今は違う。

 

 

 

『ビースト』

『メイジ』

 

 

 

 

新たに現れる二つのライドウォッチと白い魔法使いのウォッチが光で繋がると今度はビーストライドウォッチが四季のウィザードリングと光によって繋がれる。

 

「っ!? しまった!」

 

四季のリングとメイジのリングから伸びる光の交わる先へと視線を向けると、そこには学園の屋上から彼らを見下ろしている一つの人影があった。

その人影はゆっくりと屋上から飛び降りると、

 

 

 

『チェンジ、ナーウ』

 

 

 

屋上から舞い降りながら、その人影は金色の魔法使い『仮面ライダーソーサラー』へと姿を変える。

 

「予定より早くなっちゃいましたね」

 

その外見からは似合わない美しい声がソーサラーの変身者が女性である事を思わせる。

そして、ソーサラーの指にはめられたソーサラーのチェンジウィザードリングにウォッチから伸びる光が繋がれている。

 

「でも、これで揃いました」

 

ソーサラーの言葉と共に三つのウォッチと二つの指輪が光に繋がれ、その中央に輝きを放つ一つのウォッチを生み出す。

 

 

 

『コネクト、ナーウ』

 

 

 

「これで、完成ですね」

 

『クスッ』と笑いながらソーサラーは呟くと自身が手にしたそのウォッチを起動させる。

 

 

 

『インフィニティスタイル』

 

 

 

ウォッチから鳴り響いた起動音は四季にとって想像できていたものではあるが、想定していた中で最悪の音。

 

「貴方のお陰でこれを完成させる事が出来ました。心から貴方に感謝します、コカビエルさん」

 

インフィニティスタイルのライドウォッチを手の中に収めながら、満足気にソーサラーはコカビエルに一礼する。

 

「貴様等、オレを利用していたと言うのか!?」

 

「利用? それはお互い様だと思ったんですけど? 私達は貴方からそれを奪おうとは思いませんので、自由にお使いください」

 

そこまで言った後、ソーサラーは「ですが」と告げてコネクタの魔法を発動させ、コカビエルの手の中からライドウォッチを奪う。

 

そして、コカビエルに見えるようにウォッチのスイッチを入れるが何度押しても起動しない。

 

「このウォッチは先ほどの彼の攻撃によるダメージで内部が破損していますね。アフターフォローの一環としての修理のため一時預からせて頂きますね」

 

アフターフォローも万全な妙にサービスの良い悪人だった。その言葉に周囲が何とも言えない沈黙に包まれる。

 

「修理が完了次第貴方の元にお届けしますので、ご安心ください」

 

「それを使って逃げるのもご自由に」と、そう言って一礼するソーサラー。

堕天使勢力の本拠地に自由に入り込めると暗に言っているソーサラー。その言葉の意味を正しく理解する者の中で最初に動いたのは白龍皇だった。

 

「そこまで言われて逃すと思うか?」

 

「うーん、わたしは逃した方が良いと思うんですけどね~。貴方じゃ今の私には勝てませんし」

 

挑発とも取れる言葉。仮にも堕天使の幹部を捕らえる為に送られた以上はその実力は堕天使側の中でも上位に位置するだろう。

そんな相手に勝てないと言い切るソーサラーに対して、

 

「なら、試してみるか?」

 

そう言って白龍皇がソーサラーへと仕掛けるが、

 

「仕方ないですね~」

 

 

 

『インフィニティスタイル』

 

 

 

ライドウォッチの起動音が響いた瞬間、白龍皇が吹き飛ばされる。

 

そして、それを成したであろうソーサラーの手は逆さまになった斧のような剣を振り下ろしていた。

 

それを見た瞬間、四季は『アックスカリバー』と言うソーサラーの持った武器の名前を呟きそうになるが、その言葉を飲み込む。

ソーサラーの手の中に何故ウィザードの最強の武器があるのかと言う疑問は既に疑問ですらない。インフィニティスタイルのライドウォッチの力だろう。

 

「だから言ったじゃないですか、私には勝てないって」

 

 

 

『テレポート、ナーウ』

 

 

 

それだけ告げてソーサラーの姿は魔法陣の中に消える。

 

「さて、コカビエル、あんたを無理矢理にでも連れて帰るように言われてるんだ」

 

「ああ。抵抗はしない」

 

先程とは打って変わって抵抗する意思の消えたコカビエルは大人しく白龍皇に連行される様子だ。

 

『……無視か、赤いの』

 

そんな時、白龍皇の翼から先程とは異なる声が響く。それがドライグと対になる本当の意味での白龍皇、アルビオンの声なのだろう。

 

『……』

 

何故かドライグは返事をしない。

 

『起きているのは気付いているぞ。ついさっき、禁手寸前まで力を高めておいて今更寝たふりとはな』

 

『っ!? 気付いていたのか、白いの!?』

 

心底知られたくなかったと言う意思が声に出ているドライグだった。まあ、状況が知られてないだけマシな方だが。

 

『せっかく出会ったのにこんな状況とはな』

 

『いいさ、いずれ戦う事もある』

 

『しかし、以前の様な敵意が伝わってこないが?』

 

『そちらも敵意が段違いに低いじゃないか。お互い戦い以外の興味対象が有ると言うことか?』

 

『そう言う事だ。暫く独自に楽しませてもらうよ。偶には悪くないだろう? また会おう、ドライグ』

 

『それも一興か。じゃあな、アルビオン』

 

取り敢えず、言葉とは裏腹にライバルに呆れた理由で力を高めた事を知られずに済んで心から安堵したドライグだった。

なお、そんな会話についていけていなかったイッセーが「お前のせいで部長の乳が吸えなくなった」と叫んでいるが、

 

「フフフ、全てを理解するには力が必要だ。オレも必ずあの屈辱を返す為に強くなる。だから君も強くなれよ、いずれ戦う宿敵君」

 

そう言った後四季へと視線を向け。

 

「君ともいずれ戦って見たいな龍の魔法使い君」

 

そう言い残してコカビエルを連行して言って飛び去っていく。

 

「……もしかしてオレも目を付けられた?」

 

「そう見たいね」

 

四季の言葉に詩乃が答える。戦闘狂(バトルマニア)に目を付けられた現状に思わず頭を抱えたくなる四季だった。

 

「まあ、今は無事に終わった事を喜びましょう」

 

「確かに」

 

白龍皇が去って言った事を確認して二本のエクスカリバーをタクティカルベストのポケットの中に、次にウィザードライバーとリングをしまって行く。

 

後に残ったのは戦いの傷跡を残す廃墟寸前の学園とバルパーの屍、四季の本物のエクスカリバーによって砕かれた統合聖剣と聖魔剣の欠片と……完全に打ちのめされている木場と言った戦いの痕。

 

「四季お兄さん、これ」

 

「ありがとう」

 

雫が拾っておいてくれたのだろう、何度も投げ飛ばされたオニキスのカードデッキ。それを受け取ってポケットの中に仕舞う。

 

「しかし、本当にどうなってんだ、そのポケット」

 

「オレもよく分からない」

 

明らかに入らないサイズの剣や変身用のベルトまで綺麗に全部収納しているタクティカルベストのポケットに疑問が尽きない様子のクリスだが、実際の所どう言う原理でそうなってるのか四季もよく分かっていない。

 

その辺は天才物理学者の頭脳でも簡単には理解できない代物なのだし、四次元ポケットの様な物と納得して置くことにしておく。

 

役目は終わったとその場から立ち去ろうとするが、

 

「ちょっと良いかしら」

 

リアスに呼び止められる。

 

「そっちの騎士の行動については咎める気は無いし、復讐が果たせなかったことについても謝る気はないぞ、グレモリー先輩」

 

木場の作った聖魔剣が敵に使われたのは単なる事故と言うことで納得しておく事にした。

 

「そう言ってもらえるとありがたいけど、私は一つ聞きたい事が有るの」

 

そう言った後、リアスは言葉を続ける。

 

「本物のエクスカリバーを二本も持っているのも聞きたいけど、あの金色の魔術師はソーナの眷属の兵士(ポーン)を怪物に変えた犯人の仲間よね。……貴方があの魔術師と同じ力を持っているのは何故?」

 

「へえ?」

 

思わぬ質問に興味深そうな笑みを浮かべる。

流石にテロ組織(まだ禍の団の事は知られていないが)の構成員と同じ力を持っているとなれば聞かなければならないだろう。

 

「ウィザードライバーの事か? あれはオレが作った」

 

THE大嘘。

ビルドドライバーやスクラッシュドライバーは作れるのであながち嘘ではない上に、ウィザードライバーは元々現代で作られた変身システムなのだ、アーキタイプのビーストと違いある程度の分析と改造は可能だろう。構造を完全に理解するのには時間が掛かったが、材料さえ揃えば新規に作成するのも可能だろう。

……ファントムや魔法石のリングの存在無しで意味があるとは思えないが。

 

「開発段階の研究資料の写しを手に入れて、それを参考にな」

 

入手してから万が一に備えて修理が出来るようにウィザードライバーを始めとして、ウィザードの装備については分析済みだ。念の為にノートに資料としてメモしてある。

 

「序でに言うと研究者の名前は『笛木(ふえき) (そう)』って言うそうだ」

 

この世界には居ない仮面ライダーウィザードを生み出した真の白い魔法使いの名を告げるのも忘れずに。

 

「見た所、あの金色の奴が使ったのは研究データをそのまま完成させたタイプで、オレのは使いやすい様にカスタマイズしたタイプだな」

 

「そう」

 

四季の説明に納得したのかは不明だがその説明で引き下がってくれた様子だった。

今はそれよりも優先する事が有るのだろうし、まだ結ばれて居ないとはいえ不可侵の契約の話もある以上、その資料についても譲ってもらう事は無理と判断したのだろう。

 

 

 

 

こうして、一つの脅威の存在を確認して聖剣を巡る一つの事件は終わった。

 

復讐を果たせぬままに終わった、心身共に打ちのめされた一人の騎士を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、

 

「……あっ、聖剣の核、渡すの忘れてた」

 

統合聖剣を破壊した際に回収した聖剣の核をゼノヴィアに渡すのを忘れて居た事に気が付いたのは翌日の朝の事だった。



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四十話目

「早速だが、この四人で同好会を立ち上げようと思う」

 

コカビエル戦の翌日、四季はそんな提案を三人にして居た。

理由は簡単、どこの勢力にも所属して居ないのは裏関係以外にも学園内の人間関係に於いても、だ。

 

所属する部活動、或いは同好会に所属していれば学園内でも行動し易いと考えたからだ。

 

条件としてはオカルトに一切関係する要素がない事。迂闊に活動内容が被って仕舞えば吸収合併されかねない。権力者の後ろ楯相手には下手な理由を持ち出されない方が吉だ。

 

そんな訳で四季達は学園内での活動する立場として『軽音楽同好会』を結成する事になったのだが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、

 

「それでしたら、私の方から足りない部員と顧問を用意するので正式に軽音部として設立しませんか?」

 

生徒会に同好会の申請をしに行ったらソーナからそんなことを提案されてしまった。

 

「部員と顧問ですか?」

 

「はい」

 

ソーナの目的は分からないが、部活動として確立させて仕舞えばそれはそれで学園での活動拠点を得る事が出来る。

 

「それでその部員というのは?」

 

「それでしたら……」

 

ソーナが言葉を続けようとした時生徒会室のドアが開き一人の少女が入ってくる。

 

「やあ」

 

「ゼノヴィア? どうしてココに?」

 

駒王学園の制服を着たゼノヴィアだった。原点の世界ではリアスの眷属になって居たはずの彼女なのだが、

 

「神がいないと知ったんでね。破れかぶれで悪魔に転生した。ソーナ・シトリーから兵士(ポーン)の駒を頂いて、この学園にも編入させてもらった。今日から君と同じ二年生だ」

 

「ええ、丁度お姉様から変異の駒を交換して貰っていたんです」

 

彼女の眷属は学園所属の者は全員が生徒会の役員だが、現状その席は埋まっているので新しく入ったゼノヴィアには役職がない事となる。

 

「要するに、オレ達への鈴の役割という訳ですか?」

 

「ええ、そう思って貰っても構いません」

 

流石に悪魔側としてもコカビエルを撃退してみせた四季達を放置して置く事は出来ないという事だろう。

不干渉の契約があるとは言え下手に監視としてオカ研に入部させられるのは本気で嫌がるだろうし。……特にクリスが。

ならば、一応自分達の縄張りに監視役を引き込んで於いた方がまだ良い。

学園での活動拠点の確保と考えても、部員と顧問を用意してくれて部活動として承認してくれるのならそれはそれで楽で良いのだし。

 

「分かった、その話に乗ろう」

 

申請の用紙にゼノヴィアが名前を書くと改めてそれを受け取るソーナ。

 

「これで、同じ部活の仲間だな。よろしくね、四季くん」

 

「……いや、真顔で可愛い声を出すな」

 

表情を変えずに真顔で可愛い声でそう言うゼノヴィアにツッコミを入れる四季。

 

「イリナの真似をしたのだが、うまくいかないものだな」

 

失敗して落ち込んでる様子のゼノヴィア。こうして、無事に部活動の申請は完了したのだった。

それでも、先程から敢えて触れていなかった点が一つある。

 

「ところで、そちらの用意すると言う顧問と言うのは」

 

そう、顧問の影が見えなかったオカ研の事を考えても普通は部活動には顧問が必要だろう。

 

「その点については心配はいりませんよ。悪魔側の関係者ではないことは保証します」

 

「悪魔側の関係者……ではない。それって、他の勢力の関係者という意味にも聞こえますけど?」

 

「ええ、この駒王等の悪魔側が借り受けている土地には日本神話の監督役が居るんですが」

 

まあそれも当然だろう。悪魔の領地と言っても駒王は日本神話からの借地、領事館の様なものなのだろう。

今は廃墟とは言え教会もあった事から悪魔だけでなく聖書の勢力全体の、という可能性もあるが。

 

そして、その聖書勢力を監視する役割の者も存在する。

今回四季達の部活の顧問になってくれたのはその監視役の人物という事になる。

 

何の為に、とは言わなくても分かる。どの勢力にも属していない、コカビエルを倒せる力を持った者が四人。どこの勢力としても放って置くことはできないだろう。

 

「そう、私はもう悪魔だ。後戻りは出来ない。いや、これで良かったのか? うぅむ、しかし、神がいない以上私の人生は破綻した訳だ。……だが、元敵の悪魔にくだるというのはどうなのだろうか?」

 

やぶれかぶれで元敵の悪魔になったと言う現状を思い悩んでいるゼノヴィア。

盲目的に信じていた頃に比べれば良い傾向なのだろう。

 

「まあ、悩むのは大事な事だからな、存分に今は悩めば良い。ところで、イリナだったか? もう一人はどうしたんだ?」

 

「イリナなら私のエクスカリバーとバルパーの遺体を持って本部に帰った。流石に完全な本物のエクスカリバーを相手に核を完全に破壊された以上任務には失敗してしまったが」

 

「悪用されるよりはマシ、か」

 

ゼノヴィアから視線を逸らしつつ内心を気付かれないように言葉を続ける。実際は回収した核を返すのを忘れていた訳だが。

 

「返して良かったのか?」

 

「一応あれは返しておかなければ拙い。デュランダルと違い使い手は他に見繕えるからね。私にはデュランダルがあれば事足りる」

 

エクスカリバーの伝説を考えると紛い物とは言え、簡単に使い手を見繕えるというのは堕ちた物である。

 

「だが、その事については君には迷惑をかけてしまうかもしれない。流石にイリナの立場を考えると完全破壊された経緯を説明しない訳にはいかなかった」

 

イリナからの報告で教会に完全なエクスカリバー二本を所持している者がいる事を知られてしまったと言う事だ。

確かにイリナの立場を考えると説明しないという訳には行かないだろう。エクスカリバー(偽)の破壊には成功したものの完全破壊になってしまった時点で完全に与えられた任務は失敗だ。

失敗した際の詳細な報告は必要な事である以上報告する必要がある。

 

「まあ、完全破壊したのはオレだし、仕方ないか」

 

正確には回収した核を返すのを忘れていたと言う方が正しいが、なるべくこの話題から離れたいと思う四季だった。

 

「と、ところで、よくデュランダルとセットで使い手を手放せたな、教会も」

 

「あちらへ神の不在を知った事に関して述べたら何も言わなくなったよ」

 

「そうか」

 

暗い雰囲気でそう答えるゼノヴィア。デュランダルの使い手とはいえ神の不在を知ってしまったらその時点で異端者という事なのだろう。

まあ、次代のデュランダル使いのための研究材料にされると言うよりは追放された方がマシなのだろうが。

 

「アーシア・アルジェント。彼女には謝らなければならないな。彼女の時と同じだ」

 

尊敬されていた聖剣使いから異端の徒への転落。アーシアと同じ立場になったからこそその気持ちも理解できたと言うことだろう。

 

その点はイリナは運が良い。決戦前に戦線離脱してしまった為にコカビエルによる神の不在の暴露を聞かずに済んだのだから。

 

「ただ、私が悪魔になった事はとても残念がっていた。次にイリナと会う時は敵同士かな」

 

「神の不在の事は教えられないからな」

 

それなりに仲が良かった様に見える二人だったのだから、そんな形での別れは何とも言えない。

それでも、教えたらイリナも追放に巻き込んでしまうことを考えると、理由を伝える事など出来ないのだから無理もない。

 

「で、グレモリーの騎士の事は単なる事故で済ませたけど、イッセーの利敵行為についてはどうなったんだ?」

 

暗くなった空気を変えるのに重くするのはどうかと思うが、他に話題もないのでそれを上げる。

 

飽く迄裁くのは向こうとイッセーの利敵行為については任せたのだが、

 

「それについてはリアスの所で行われる様子ですが……」

 

「魔王の妹の眷属の立場と赤龍帝の名前が公的なお咎めに対する盾になってるか」

 

「はい」

 

まあ、公的なお咎めは無しにしてもイッセーには夏休み中は勝手な行動をしてはぐれになりかけた騎士の再教育と合わせての眷属教育が行われるらしい。イッセーの夏休みには休みは無さそうだ。

 

だが、問題は別にある。

 

「表向きにはヒーロー扱いで、か」

 

「……はい」

 

そう言って目を落としたのは冥界の新聞の一節。

駒王町に堕天使の幹部が侵入。リアス・グレモリーとその眷属達がコカビエルを堕天使側からの戦力が到着するまで迎え撃った。とある。

まるで活躍した様に書かれているが、戦えていたとは一切書かれていない。

……逆にそのにはコカビエルを倒した四季達のことには一切触れられていない。

まあ、何処の勢力にも属していないフリーの人間四人と教会のエクソシストのゼノヴィアと、堕天使から送られてきた白龍皇が活躍して、悪魔側の赤龍帝は利敵行為で邪魔をしました、等とは悪魔側としては書けないだろう。

 

(逆にこの対応はこっちにも都合はいいか)

 

向こうの対応に内心で笑みを浮かべて後々の動きを考える。これを巧く利用すれば夏休みに態々行きたくもない冥界旅行から逃げられるかもしれない。

 

(せめて夏休みくらいは事件に巻き込まれずに過ごしたいしな)

 

この時期に起こる事件と言えば小猫と姉の再会だけだろうし、あとは特訓とレーティングゲームだけだ。

精神的なダメージの残る木場にリアスじゃなくてソーナの眷属になっているゼノヴィア。ゲームの結果が変わるかもしれないが、それだけだ。

 

「それで、近いうちに三勢力の代表が会議を開くそうなのですが、そこに貴方達も出席して欲しいそうです」

 

「断る。何にもしていないオレ達が出る意味は無い。そうでしょう、会長?」

 

向こうが何もしないのならば此方も向こうに礼を払う必要も無い。言外にそう告げる四季の言葉にソーナも仕方ないとばかりに「そうですね」と答える。

 

「それじゃ、他に話もないならオレはこの辺で」

 

そう言って四季は手を振りながら生徒会室を後にする。



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四十一話目

さて、四季はコカビエル戦の前に桐生と約束したカラオケに行こうとしていた。

まあ、この時点で詩乃と雫の二人には声はかけてあるので問題はなかったが、一人だけ問題は有った。

……クリスである。コカビエル戦の直前に呼び出した彼女にはこの事をまだ知らなかった。

 

そう、イッセーの変態仲間の二人にまでエンカウントすると言う事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおお! 天地の奴を誘って良かったぁ!」

 

「ロリ巨乳の美少女来たぁ!」

 

「だろお!」

 

クリスを見た瞬間歓喜の絶叫を上げる坊主とメガネの二人。

 

歓喜の涙を流す三人組の視線から流れるように四季の後ろに隠れるクリス。完全に目が訴えている。……変態は一人だけじゃ無いのか、と。

 

「あー、うん。三人いたんだよな、変態は」

 

「どんなってんだよ、お前らの学校」

 

「まともな生徒もちゃんと居るから安心してくれ」

 

この町にはちょっと普通じゃ無いが良い人も普通に居る。ご近所の『ミルたん』とか。

魔法少女のコスプレをした魔法少女になりたいと言う謎の超人。野太い声で『みょ』と語尾をつけて話す人。

クリス曰く、彼女の知るOTONAに匹敵する戦闘力を有して居ることが一目で分かったそうだ。

 

(普通に良い人なんだけどな)

 

何だかんだで世話になった事もあり、変身と言う名の早着替え用具を送った事もある。

 

まあ、その後は桐生やオカ研の二年生組のアーシアと木場、一年の子猫と合流してのカラオケだったが、普通に盛り上がった。食事に夢中な子猫を含めて。

…………極一部を除いて。

 

 

先日の聖剣事件で精神的に打ちのめされた木場は暗い雰囲気と空虚さを纏っていたりする。

表向きには楽しそうにして居るが、見るものが見れば空虚さを纏っているのが分かるだろう。

 

なお、アーシアが聖書を暗唱しようとした時だけは食事に夢中な子猫も空虚さ纏っていた木場もイッセーと共に必死に止めていた。

 

なお、イッセーは前日のコカビエルの事件で和解した匙のことも誘ったのだが、匙は会長から異性交遊を禁止されていてこれないそうだった。

 

(そう言えばもうすぐプール開きか。休日はプールが好き放題使えるって言ってたな……。部長と朱乃さんは水着を披露してくれるらしいし! 是非クリスちゃんの水着姿も拝みたいな~。あー、早く来い、オレの暑い夏!!!)

 

心の中でそう叫び声を上げるイッセーだったが、この翌日に学園中に木場との同性愛説が流れる事を知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数日後。流石に此方から催促するのはどうかと思って向こうから話を切り出すまで黙っていたが、リアスからの誓約書の事についての話は未だになかったりする。

 

四季自身、コカビエル戦後に入手したガチャチケットの事も気になったのでそちらを優先していたのもあるが。

 

(今回は二枚も入手できたか)

 

十連ガチャチケ二枚。まだ引いていないが大きな収穫と言っていいだろう。相変わらずガチャには何らかのピックアップは無いが、いい加減スパークリングフルボトルは出て欲しいと思っている四季としてはコカビエル戦は良い収穫があったと言える。

 

そんな事を考えながら、砂糖を切らしていた事に気が付いて買い物に出ていた四季が帰り道を歩いていると、一人の男に声をかけられる。

 

「よお、ちょっと良いか?」

 

「?」

 

その男を視界に入れたその瞬間、一気に警戒心が跳ね上がる。上手く隠してはいるが、微かに感じられる堕天使特有の気配。四季の知る知識の中にある人物の外見的特徴と一致するその外見。

 

「まあ、そう警戒するなって、別にオレはお前と遣り合おうなんて思っちゃいないぜ」

 

護身用に持ってきていたオニキスのデッキを握りながら目の前の相手の言葉に返す。

 

「こんな所で堕天使のボスに声を掛けられて警戒するなって言う方が無理は有ると思いますがね」

 

「ほう、気付いてたか? 赤龍帝なんてこっちが名乗るまで全然気づかなかったてのに」

 

「そりゃ、それだけ力を持った相手に気付かない方が無警戒なんじゃないんですかね」

 

「随分と辛辣だな。まあいいや、改めて自己紹介と行こうか」

 

楽しげに笑いながら男は十枚五対の漆黒翼を背中に広げ、

 

「アザゼル。堕天使共の(かしら)をやっている。宜しくな、龍の魔術師の天地四季」

 

「……その龍の魔術師ってなんだよ?」

 

そんな妙な二つ名を名乗った覚えはないし、根本的に四季は魔術師では無く拳士なのだ。

 

「そりゃ、お前が体からドラゴンの頭を生やすなんて魔法使ってたら……」

 

「あっ、うん。なんでそんな風に呼ばれているのか、よく分かった」

 

要するに龍の魔術師と言うのはウィザードの姿で戦った時のことなのだろう。

序でに羽を生やしたり、尻尾を生やしたり、爪を生やしたり、全乗せしたりも出来る。

 

「それに、オレとしても一つ聞きたいことがある事だしな」

 

「聞きたいこと?」

 

「……コカビエルに力を渡した奴が持ってった時計のような物、お前はそいつの事を知ってるな?」

 

「っ!?」

 

アザゼルの言葉に驚愕が浮かびそうになるが直ぐにそれを表情から消す事に成功する。

 

「さあ、あれが何なのかはオレは知らない」

 

それは嘘でも有るが本当でも有る。

仮面ライダージオウの世界では最強フォームのウォッチなど登場しなかったのだから。

飽く迄それは推測から出した答えしか持っていないが、間違い無くそれは正解だろう。

 

「オレとしては、禍の団なんて名乗った連中が使ったインフィニティなんてとんでもない単語が飛び出した道具の事は知りたかったんだが、残念だ」

 

(気付かれたか?)

 

口では残念と言っているがアザゼルも四季が知らないと言うのは嘘だと見破っているのだろう、残念と言う意思は感じられない。

 

(表情に出すな、感情を読まれるな)

 

少なくとも一組織のトップとの会話なんてこれが初めてなのだ。何処から情報を読まれるか分からない。

 

「まあ、そう簡単に教えてくれねえか」

 

だが、そこで引き下がったのはアザゼルの方だった。

 

「組織の頭って言うのを抜きにしてお前とは仲良くしたいと思ってるんだよ、同じ技術者としてな」

 

そう言ってアザゼルは笑みを浮かべる。

 

「神器とは違う異質な技術。お前の仲間の一人が使ってたって言う装備とお前が使ってたって言う装備は全く毛色が違う。お前のベルトはお前が作ったって聞きはしたけどな」

 

「……そうだな。クリス先輩の装備の開発者は……フィーネ。そう言う名前らしい」

 

取り敢えず、アザゼルの興味の矛先を分散させる為にシンフォギアの一期のラスボスの名前を出しておく。

開発者なのは間違いないのだし、ユーブロンや桐生戦兎と共にこの世界に名を轟かせておく。

 

「フィーネ。“終わり”ってのは偽名にしても随分と物騒な名前だな」

 

「さあ、天才の考える事は案外同じ天才にも理解出来ない事だろうしな」

 

「そりゃ違いねえ」

 

『くっくっくっ』と楽しげに笑う四季の言葉に楽しげに笑うアザゼル。

 

また会おうぜと言って立ち去っていくアザゼルの背中を見送りながら大きく息を吐く。

 

「はあ、なるべく会いたくないな」

 

この先のことを考えると、叶わぬ願いと知りながらそう呟く四季だった。

 

念のために詩乃達にもアザゼルがこの町にいる事と自分に接触したことを告げておいたのだが、

 

「なあ、この町、一応悪魔側の領地扱いなんだろ?」

 

「日本神話からの租借地なんだろうけど、そうなるよな」

 

「三度も敵対してる連中に入り込まれるって、舐められてるんじゃねえか?」

 

「「「同感」」」

 

クリスの言葉に同意する三人であった。

どう考えても圧倒的に格上のコカビエルとアザゼルの場合は兎も角、レイナーレの件は完全に中級~下級の堕天使にも舐められている可能性だって有る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、オカルト研究部

 

「冗談じゃないわ!」

 

流石にそろそろ誓約書の方を貰おうと痺れを切らした四季が詩乃を連れてオカ研の部室に入るとリアスがそんな叫びをあげていた。

 

なお、クリスと雫の二人は新しく貰った軽音部の部室で待って貰っている。

 

「……何があったんだ?」

 

「堕天使の総督がイッセー先輩の契約相手として接触していたそうです」

 

「なるほど、あの総督さん、オレのところだけじゃ無かったのか」

 

「天地先輩にも接触したんですか」

 

近くにいた子猫に尋ねるとそんな返事が返ってきた。

 

四季が子猫とそんな会話を交わしていると、キラキラとした顔で『僕がイッセー君を守るからね』と言う言葉で始まった木場による妙にホモっぽい発言にイッセーがドン引きしている姿が視界に入った。

 

「しかし、どうしたものかしら……。あちらの動きがわからない以上こちらも動き辛いわ」

 

「グレモリー先輩、立て続けに敵対組織の幹部に入り込まれて悩んでいるのは分かるけど、いい加減にオレ達との誓約書の方をもらいたいんですけど」

 

「えっ、えーと……」

 

四季の言葉に目が泳いでいるリアス。

 

 

 

「アザゼルは昔からああ言う男だよ、リアス」

 

 

 

そんな時、第三者の声が響く。怪盗姿の時には一度会った事のある者の声だ。

 

「お、お兄様!?」

 

そこには自身の女王(クィーン)のグレイフィアを連れたサーゼクスの姿があった。

 

「アザゼルはコカビエルのような事はしないよ。今回のみたいな悪戯はするだろうけどね。しかし、総督殿は予定より早い来日だな」

 

彼の姿を見て慌てて頭を下げるグレモリー眷属の一同。イッセーからはお前も頭を下げろよ、と言う視線を向けられるが、そもそも悪魔の下についた覚えは無いのだ、頭を下げる理由はない。

 

「今日はプライベートだ、楽にしてくれ」

 

「お、お兄様はどうしてここに?」

 

「何を言っているんだ?」

 

そう言ってサーゼクスは胸ポケットから一枚の紙を取り出す。

 

「授業参観が近いのだろう? 私も参加しようと思っていてね。是非妹が勉学に励む姿を真近で見たいものだ」

 

そう言ってリアスに渡したのは学校から渡された授業参観のプリント。

 

「グ、グレイフィアね? お兄様に伝えたのは!?」

 

その言葉にグレイフィアはグレモリー眷属のスケジュールを任されている彼女の元へ学園からの報告も届くと答える。更に彼女はサーゼクスの女王、王であるサーゼクスへ報告は当然のことだろう。

 

「安心しなさい、父上もちゃんと起こしになられる」

 

要するに、魔王ではなくリアスの兄として授業参観に参加しに来たと言う事だろう。

リアスの言う通り、魔王が仕事を放り出すのはどうかと思うが、授業参観に来る為に有給休暇を使うのもよく聞く話でもある。

魔王がそれで良いのかとも思うが、過程と悪魔の問題なので追求はしない。

 

「いや、これは仕事でもあるんだが、その前にリアス、天地四季くんとの契約だが、彼との契約は君の権限では魔王の立場として認める事はできない」

 

「うぅ……」

 

この状況も予想していたので魔王に連絡が行く前に契約を結びたかった。コカビエルのお陰で知られてしまった様子だ。

 

「悪魔全体が彼らへの干渉を禁止するような契約は君の権限では結ばせる訳にはいかない」

 

「賭けとは言え既に成立してるんですけど、魔王様。そっちが負けたからって慌てて負けをごまかしてるギャンブラーみたいな事は言わないですよね」

 

「勿論だ。不干渉の契約はリアス達だけをする物に変えて貰いたい。勿論だがそれに関する対価も支払う」

 

「っ!?」

 

そう言ってサーゼクスが差し出すのは以前四季が回収し損ねたドラゴンゼリーが変異を起こしたフルボトル。

 

「サーゼクス様、それは!?」

 

それを見て真っ先に反応するのはイッセーだった。

 

「ああ。あの時の小瓶のような物だ。君がコカビエルの時に使ったベルト。それを作れる技術を持つ君なら、この小瓶も有効に活用できるんじゃないかな?」

 

『何処まで気付いている?』そんな疑問が湧くが、悪魔側にネビュラガスの技術を残しておくと危険性も考えると早めに回収しておくのも悪くない。

 

そもそも、使う事になるか分からないがシンフォギアのデータから改造した対ノイズ用ビルドドライバーは目の前のボトルを使ったクローズマグマナックル用と一緒に製作したのだ、早めに回収するに越したことはない。

 

「なるほど、未知の技術には興味もあるので賭けの内容の変更の為の対価として受け取りましょう」

 

「そう言ってくれるとありがたいよ。契約の内容は妹とその眷属に影響する範囲で留めてもらえれば、契約の証人になろう」

 

魔王として、リアスの兄としての両方の立場で、と告げるとグレイフィアが既にサインのある契約の用紙を用意していた。あとは変更した契約の内容を四季が書けばこの場で契約を結ぶと言ったところだろう。



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四十二話目

(どうするべきか)

 

サーゼクスの言葉は間違ってはいない。

次期当主とは言っても所詮は次期、次の一貴族家の当主の候補でしかない。そんなリアスの権限では悪魔側全体に影響する様な制約など結ばせる訳にはいかないだろう。

それを分かった上で四季は魔王の妹の名を利用出来そうな契約を持ち出したのだが。

 

飽く迄影響を与えられるのはリアスとその眷属、最高でもグレモリー家のみ。

四人の魔王はそれぞれが軍事、技術、外交と分野を担当しているが目の前のサーゼクスの担当は政治。下を掌握できていないだろうが、四季を相手に利益を得る事は出来るという自信があるのだろうか。

 

(さて、どうする?)

 

そう考えるとフルボトルも既にデータを取り終わっていて、こちらの研究データを得る為に渡した可能性もある。

 

兎も角、悩んでいても仕方ないので最低限の条件を上げる。

 

 

『悪魔側として非常時以外での接触禁止』

『悪魔側のとしてだけでなく常時、兵藤一誠の軽音部女子への接触禁止』

 

 

先ず思いつくのはその辺だろう。特にイッセーに付いては好みに刺さってしまうクリスへの接触禁止位はしておかなければ不味いだろう。

 

もう一つ条件を付ける前に一度手を止めると、

 

「ところで、本来コカビエルの一件が起こる前に結ぶはずだった契約が此処まで伸びた事について、其方の見解を聞いておきたいんですが」

 

「確かに、緊急事態とはいえ少し伸ばしすぎていたかもしれないね。それについてのお詫びも後で支払おう」

 

サーゼクスの言葉を聞いて最後に一文を記載するとそれを立会人であるサーゼクス側に渡す。サーゼクスもまたその内容を確認してリアスへと渡してサインをする様に促す。

 

最後にリアスのサインした書面がサーゼクスへと返され、それが四季の元にフルボトルと共に戻ってくる。

内容を書き換えられた様子も無く、妙な仕掛けも無い。序でに紙の品質も確認したが単なる上質な紙で燃えやすい様な細工もされている様子もない。

 

「君がどうそれを活用してくれるのか、楽しみにしているよ」

 

そんな言葉を添えられて。

 

(迂闊に使えなくなったな、クローズマグマナックル)

 

元々ビルドドライバーの拡張アイテムは製作可能なものもいくつかあり、クローズマグマナックルもその一つだ。予備のビルドドライバーを整備する時のためにイチイバルを分析して得たデータによる対ノイズ用の機能も試験的に持たせてみたのだが、サーゼクスの言葉で迂闊に使えなくなってしまった。

 

(あまり早く使っても関係を疑われるからな)

 

(大丈夫なの?)

 

(その辺は上手くやる)

 

小声で話しかけてくる詩乃の言葉に四季はそう返す。手持ちのカードは減るが早めの回収は望ましいのだ。

 

「それと、前提条件としてその契約書が破壊されたら契約は破棄になると言う一文も書いてある事が、それは確認してあるかな?」

 

「それは最初に確認させて貰った」

 

そう言ってタクティカルベストの四次元ポケットの中に仕舞う。契約書が無くなれば契約破棄につながると言うのもよく聞く話なのだから、その辺の警戒はしっかりとしていた。

 

「あと、これだけは言っておきましょうか」

 

「何かな?」

 

悪魔側(そちら)やその同盟組織が手を出して来た場合、相応の対処はさせてもらいますよ」

 

流石に立場上、悪魔やその同盟組織が手を出した際に返り討ちにしても良いなどとは引き出せないだろうが、一応は予防線を張っておく。

 

「それは構わないよ。僕としても君達とは仲良くしていきたいからね」

 

予防線の方は正式な契約ではないが、拍子抜けするほど簡単に了承された。

 

「君達は君の思っているよりも多くの勢力に注目されている。良くも悪くもね。特に日本神話やアースガルズは君に強く興味を持っている事を覚えておいたほうがいい。特に、日本神話からは先日のコカビエルの一件に眼を瞑る代わりに君との接点を求めて来た」

 

「ええ、軽音部の顧問に日本神話の関係者が来た時点で日本神話からは興味の対象になってるとは思ってましたけど」

 

日本神話の場合はお膝元にこれだけ力を持っている者が集まっているのだから当然ではあるし、北欧神話についても魔人学園では《黄龍の器》とは縁があるのだから興味を持たれても仕方ないだろう。

 

「君は一体何者なんだい?」

 

「単なる、力を持った人間の一高校生でしか無いですね」

 

最後に『今は』と付け加えておく。

ぶっちゃけ、格でいうなら五回も世界を救った者達の一人であるクリスの方が上なのだし。

 

「ところで、お兄様。まさか本当に授業参観の為にお越しになられたのですか!? 魔王がいち悪魔を特別視してはいけませんわ!」

 

「いやいや、これは仕事でもあるんだよ、リアス。実は悪魔・天使・堕天使の三竦みの会談をこの学園で行おうと思っていてね。会場の下見に来たんだよ」

 

駒王学園(ここ)でっ!』

 

サーゼクスの言葉にグレモリー眷属が驚愕の声を上げる。

 

「ここを会談の会場にするというのは本当ですか、お兄さま!?」

 

「ああ。この学園とは何かしら縁がある様だ」

 

魔王の妹二人と赤龍帝とデュランダル使いと聖魔剣使いが所属して白龍皇とコカビエルが襲来して来た。

偶然では片付けられないと言っているが完全に単なる偶然だろうと四季は切り捨てている。

 

単に赤龍帝のいる町の学園にリアス・グレモリーが入学した。その程度だと。

 

「それでは身内同士の話の邪魔にならない様にオレ達はこれで失礼させていただきます」

 

そう言って四季は詩乃を伴ってオカ研を後にする。

 

「サーゼクス様! あいつにアレを渡すなんて!?」

 

「それなら心配は要らないよ」

 

イッセーの言葉にそう答え、サーゼクスは新しいフルボトルを取り出してテーブルの上に置く。

 

「装置の方は完全に壊れてしまったが、エネルギーのコアとなる小瓶の様なもの、その複製には偶然だが成功したんだ」

 

ドラゴンの顔が書かれたボトル。だが、色はドラゴンフルボトルのものとは違いロストボトルのそれだ。

 

四季がそれを見ていたらこう言っていただろう、『ドラゴンロストボトル』と。

 

「アジュカでもこれを核としたシステムをゼロからの開発には手間取るだろうが、未知の技術を見て張り切って開発しているから期待してもらっても良い」

 

そう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽音部の部室。そこでクリスと雫の二人と合流した後、四季はオカ研の部室でのサーゼクスを交えた契約の事と三大勢力の会談のことを二人にも話していた。

 

「何でこんな所でそんな会談やるんだよ」

 

「やる場所については同感だけど、会談の場所に人間界を選ぶのは正しい判断だとは思うな」

 

悪魔や堕天使のいる冥界では天使にとっての敵地であり、天界では逆に悪魔と堕天使にとっての敵地である。そのどちらでやる事は不可能だろう。

一応悪魔側の租借地とは言え聖書勢力に於ける三つの陣営にとって中立の位置にある人間界を会談の場所に選ぶのは間違いない。

 

「まあ、ここが唸りとか特異点とか言ってるけど、唸りなんて関係ないし、特異点でも無い。単なる偶然で片付けられる事ばかりだ」

 

コカビエルは魔王の妹二人の居る場所を選んだだけ、堕天使側の白龍皇はそのコカビエルの確保に来た。ある意味当然の結果だ。

コカビエルも白龍皇も此処に魔王の妹が居たから来ただけだ。

リアスがイッセーの居る町の学園に入学した偶然が有れば赤龍帝とも結びつく程度だ。

 

「特異点でも無ければ龍穴も無い。可能性としてはドラゴンの性質が呼んだ偶然って所だな」

 

そう、加速度的に増しているのは赤龍帝の存在に加えて黄龍の器である四季の存在もあるだろう。

 

「それで私達はどうするの?」

 

「態々向こうが不参加の理由をくれたんだ。呼ばれても不参加を決め込もう」

 

最後に『今のところは』と付け加える。

今の四季達はフリーの傭兵の様なもの、三大勢力の下位組織でも無いのだから、命令に従う義理もない。

 

「あっ、そうだ。お兄さんが来る前にゼノヴィアさんが生徒会の連絡を持ってきたんだけど……」

 

次の休日のプール掃除への参加の連絡だった。

元々実績の無い部活動が生徒会の手伝いをする事になるらしい(主に今まではオカ研だけだったが今回は出来たばかりの軽音部もそれに当て嵌まる)。

今回のプール掃除はオカ研との合同で行うそうだ。

 

「……イッセーの目に女が映らなくなる水中メガネでも作るか」

 

「「お願い」」

「頼む」

 

重い沈黙の後、四季のそんな言葉に全員がそう返すのだった。



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四十三話目

「な、なんだよ、これは……」

 

その日、空から照らす熱い太陽の輝きとは対照的に兵藤一誠の心は絶望の闇に沈んでいた。

この世界にファントムとか居たら確実に生み出して居ただろうと言うレベルで。

 

「どうやら、うまくいった様だな……」

 

そんなorzな姿で項垂れているイッセーを眺めながら、実験結果を確かめている科学者の様な目で見下ろし、その実行犯である四季はそう呟く。

 

「天地ぃ、お前の仕業か!? なんで……なんでこんな酷いことをするんだよ!?」

 

「当然だろう? オレがお前に相応の対処をするのは」

 

悲しみと怒りを抱いたイッセーの言葉に四季はそんなイッセーを見下ろしながら何処までも冷酷に言葉を返す。

 

「記憶出来ない、見えない……女の子の水着姿が!?」

 

「こっちの女子三人からお前に水着を見られたく無い、記憶されたく無いって言われたんだよ」

 

そこに誰がいるのかは分かるが、どんな水着を着ているのかが分からないのだ。生徒会から渡されて要着用と言われた四季制作の水中眼鏡を着けてから。

 

四季にしてみればルパンレンジャーの変装用のアイマスクの認識阻害機能を応用して作った即席の水中眼鏡だが、意外と生徒会の女性陣には好評であった。

 

今のイッセーの目には其処に誰がいるのかは分かってもどんな水着を着用しているのかは分からない。

ついでに言うと今後プールの授業の際にはイッセーにはこのゴーグルの着用を義務付けようか、いっそ学園生活の間は着けさせようとも話し合われたほどだ。

 

なお、だったら外せばいいと思うのは当然の事なので一度つけると最低三時間は外れないようにしてもいる。

 

「……終わった。オレの夏は終わった……部長の、朱乃さんの、クリスちゃんの水着姿が……」

 

「随分短い夏だったな」

 

そもそも女の子の水着姿を見ることがイッセーの夏ならば、クリス以外の二人の水着姿を見る機会さえも、表向きには罰が与えられない代わりの眷属教育で夏休みは消えているのだから、正真正銘此処でイッセーの夏は終わったと言って良い。

 

「効果は少なくともプールを使ってる間は続く上に、効果の持続時間の間は外れないようにもしてある」

 

外そうともがいた挙句に痛みでのたうち回っているイッセーを眺めながらそう宣言する。

 

「チクショー!!!」

 

イッセーの絶叫が夏の日差しの下に響き渡るのだった。

なお、水中眼鏡は木場が聖魔剣で切らないかと模索していたが、頭を絞め殺さんばかりの勢いでフィットしている為、下手に切ったらイッセーにも怪我させてしまいそうで出来なかった。リアスの魔力も同様である。

 

完全に密着させることで着用者を盾に破壊を防ぐのも四季の設計の一つだ。なお、外れないようにもなっているがそちらもプールから帰る頃には解除されるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、リアス達からの接触禁止は飽くまで悪魔としてのもの。変に抜け道を探されても迷惑なのでわかりやすい抜け道を用意しておいたわけだ。

 

そんな中で契約前から決まっていた合同でのプール掃除。

ソーナ自体、リアスと四季の賭けを知らなかったこともあるが、手の空いてる部活がオカ研と出来たばかりの軽音部しか無かったのもある。

 

イッセーにとっては夏は冥界のグレモリー家に於いて勝手な行動をした木場とともに眷属教育を基礎から学ばされることとなっている為、学校指定のものではないリアス達の水着姿を目にする唯一のチャンスだったのだ。

しかも、今回は軽音部との合同。一年生の美少女である詩乃と雫、三年生に転校してきた小柄だがスタイル抜群のクリスに二年生に転校して来たゼノヴィアと合法的に彼女達の水着姿を拝めるのならば神でも魔王にでも祈りを捧げていいと思っていた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおお!」

 

掃除が終わった後はオカ研と軽音部が優先的に使用できるプール掃除。そんな訳でイッセーは全力でプール掃除をしていた。

 

「張り切ってるな……」

 

もうイッセー一人で良いのではと思えるペースでブラシがけを物凄い速さで行なっている彼を見ながら呆れた様子で呟くのは四季だった。

彼が張り切る理由はわかる。だが、その希望は近い未来に砕かれる事が分かっているだけに憐れみさえ感じてしまうのだ。

 

(拝啓、天国のお祖父様へ。初夏となりました。爛々と輝く太陽は暖かな陽光を届けてくれます。オレはこれから訪れる幸福に涙が止まりません)

 

歓喜の涙を流しながらプール掃除を終え水着に着替えたイッセーは心の中でそんな事を呟いていた。

 

プール掃除は終わり、後は優先的に使えるプールで自分達が遊ぶ時間だ。

詩乃達も折角掃除したのだからと水着に着替えてプールを楽しむとの事に、我が身に起こった幸運に感謝していた。

 

イッセーへの軽音部の女性陣への接触禁止の契約だが、この状況なら仕方ない。視界に入ってしまう程度なら問題ない。そう考えながら自身の幸運に感謝する。

 

(オレ、生きてて良かった。悪いな、松田、元浜。お前達の分まで皆んなの水着姿を堪能させて貰うぜ)

 

そう考えながらプールを使う間は着用する様にと生徒会から渡された水中眼鏡を着ける。

本人はそれを普通の水中メガネと勘違いして、ラッキーとばかりに受け取ったのだが。

 

「あれ?」

 

水着に着替えた詩乃が更衣室から出て来た時に初めて異変に気が付いた。

 

「な、なんだよ……? なんなんだよ、これはぁ!?」

 

そこに誰がいるのかは分かる。だが、見えていない、認識出来ない。

 

「ウソだろおおおおおおおおぉ!!! 誰かウソだって言ってくれよぉ!!!」

 

残酷だがそれは現実の光景である。

初夏の日差しの下にイッセーの絶望の叫びが響き渡るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだ、見えない、部長のも、朱乃さんのも、記憶出来ない」

 

そう、詩乃達だけでなく四季制作の水中メガネを通したイッセーの目には、リアスや朱乃の水着姿もイッセーには見えていなかった。

 

爛々と輝く日差しの下、イッセーの周辺だけが絶望の闇に捕らわれていた。

 

「外してくれ、外してくれよぉー!!!」

 

「生徒会から許可は貰ってるから文句はそっちに言ってくれ」

 

幽鬼の如く四季に縋り付きながらそれを外す事を懇願するイッセーだが、四季は取り合わない。

そう、イッセーにその水中メガネを渡したのは飽くまで生徒会側。使わせるか否かの判断はソーナ達生徒会側に委ねたのだ。

 

「安心しろ、飽くまで水着姿の女子を認識出来なくなるだけだから、プールから出れば時間切れまで支障はない」

 

「支障ありまくりだぁ!」

 

どっちにしても三時間経たなきゃ外れないように作ってあるので四季に懇願したところで意味は無い。

 

後は物理的な破壊だけだが、実はかなり丈夫に作ってあるので一、二回の倍加した力で全力で殴らなければ破壊出来ない。……顔面に密着した物を。

 

なお、リアスの滅びの魔力や木場の魔剣での破壊を防ぐ為の対策でもあったりする。頭の上に乗せた薄布一枚だけを傷付けずに切る事は木場のレベルでは無理だろうとの判断だ。

 

唯一の例外は四季の雪蓮掌と巫炎による急激な温度変化を利用した破壊なのだが、それについては教える義理もないので黙っていた。

 

「お兄さん、ナイス」

 

「これで安心して遊べるな」

 

「ああ」

 

雫とクリスからの称賛の声にそう答える。水の中からイッセーに覗かれてると思うと落ち着いて泳いでいられないと言うのがクリスの意見だ。

記憶と認識が出来なければそれも問題ないだろう。仮に自分の視力に譲渡したとしても認識と記憶の阻害に対しては意味は無い。

 

「イッセーさん、大丈夫ですか!?」

 

「イッセー、しっかりして!」

 

真っ白に燃え尽きたイッセーに向かって安否確認をしているアーシアとリアスだが、イッセーに反応はない。

イッセーの夏は過去最短で終焉の時を迎えたのだった。



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四十四話目

リアス、朱乃、アーシア、子猫の水着を見ても認識も記憶もできない事実に完全に空を仰ぎながら真っ白に燃え尽きていたイッセーだったが、リアスに言われた一言で復活した様子だった。

 

まあ、その後もなんとかしてゴーグルを外そうとしているが簡単に外せるような仕様には作ってはいない。

 

「ホント、凄い技術だな」

 

「天才物理学者、なんでね」

 

クリスからの称賛の声に四季は軽い感じでそう返す。

そのゴーグルは元々ルパンレンジャー時の認識阻害用のアイマスクの応用なので然程難しい技術ではなかった。

 

エロを力に変えるイッセーにしてみれば認識も記憶もできないのなら最悪のイッセーキラーとも言える武器になるだろう。

 

そんな中、子猫は四季達の方に歩いて来る。

 

「……先輩、お願いがあるんですが……」

 

「お願い?」

 

子猫からの四季へのお願いとは泳ぎの練習に付き合って欲しいとの事だった。

 

子猫としても始めて四季の力を見た時から聞いてみたい事もあったのも手伝っていた。

姉と似た力を使う、金色のドラゴンの様な気を纏う四季の力の事も。

 

「……先輩、付き合わせてしまって、ゴメンなさい……」

 

「別に良いよ。後輩の面倒を見るのは先輩の務め……らしいからな。でも、オレで良かったのか?」

 

ふと視線を向けるのは例によって認識阻害水中眼鏡をつけたイッセーの方だ。

 

「……アーシア先輩も泳ぎを見てもらいたかったそうでしたから」

 

まあ、アーシアがイッセーに好意を持っているのは分かっているから、子猫は聞きたい事もあった四季に泳ぎの練習を頼んだと言う訳だ。

 

コカビエル戦の時に改めて見た四季の力。本物のエクスカリバーに目を奪われてしまっていたが、四季の力は魔力や神器の物とは違う、仙術に似た力。

いや、四季だけではない、詩乃も雫の力もそれと同じ物だ。

彼らの中でそんな力を持っていないのは子猫が見た所新しく転校して来たクリスだけだ。

 

己の中の力への恐怖と己の弱さへの悩み。どうすれば彼の様に力を使えるのか、聞けば答えてくれるのかは分からないが、己の中の力への恐怖心が四季に対してそれを問う事を戸惑わせていた。

 

「まあ、相談したいことが有るなら相談にくらいはのるから、決心がついたらいつでも聞いてくれ」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

俯きがちにそう答える子猫とそんな子猫の頭を撫でる四季の図。

四季としてはリアスの眷属はイッセー以外素質こそあれ、それ以上に何かしら抱えている者が多いと思う。同時にそれが大きな壁となって成長の妨げになっている。

 

特に問題があるのは朱乃だろう。

使う決意さえ有れば使うことは可能。圧倒的な格上のコカビエルは兎も角、ライザー戦では十分に切り札(ジョーカー)になれたにも関わらず、だ。

 

なお、現状木場は壁を超えた瞬間に壁から滑り落ちた感じだが。

死んだ仲間達の声で禁手に至ったのは良いが、それによって作り出した聖魔剣もエクスカリバーには勝てなかったのだから無理も無いだろうが。

壁を超えるか超えられないかのところで引っかかっている感じだろうか、例えれば。

 

まあ、それはそれ、飽くまでリアス達グレモリー眷属の問題だ。

一番考えなければならないのは王であるリアスであり、問題解決はグレモリー眷属内でやるべき事だろう。相談には乗るが部外者である自分の出来ることはその程度だ。

 

そんな事を考えていると水に潜っていたイッセーがまた真っ白になって浮かび上がってきた。

 

「やっぱり、オレの夏は終わった……」

 

「……変態先輩」

 

先ほどまでリアスや朱乃やクリスが泳いでいた事や片手に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を着けていたので何をしていたのかは大体見当がつく。

そんなイッセーの姿を見ながら子猫はそう呟くのだった。

そもそも、神器の力も考慮した上で作った品なのだから、効果切れか外す以外に解除法などない。

 

さて、泳ぎの練習も終わり休憩している子猫と疲れて眠っているアーシア。そんなアーシアにタオルをかけてあげた後、リアスにサンオイルを塗っているイッセーを他所に四季達軽音部のメンバーも休憩していた。

 

疲れたのか昼寝しているクリスと雫の二人を他所に四季は持ってきている麦茶を詩乃に渡す。

 

「やっぱり、貸し切りのプールってのはいいな」

 

「そうね」

 

用意しておいた麦茶を飲みながらそんな会話を交わしている四季と詩乃の二人。

 

そんな中、爆発音が聞こえてきた。

 

「「っ!?」」

 

目の前には何故か胸を丸出しにして悪魔の翼を広げて空中戦をしているリアスと朱乃。二人の会話からイッセーを取り合ってガチバトルをしている様子だ。

 

「「……」」

 

そんな姿に顔を見合わせる四季と詩乃。

 

「「はぁ……」」

 

「ウィザードライバー取ってくるか」

 

「間に合わないようならクリス先輩に鎮圧して貰うわ」

 

溜め息をつき、戦闘が広がらないようにする為の行動に移る二人。

イチイバルを身に付けているクリスは現在遊び疲れて雫と共に昼寝中の為に詩乃がクリス達を起こし、その間に四季がウィザードライバーを取りに行く。

 

主に、バインドの魔法で被害が来る前に止めるという平和的な解決法と、クリスのMEGA DETH PARTYによる強制鎮圧(アフターフォローの雫の回復術付き)という手段の実行のため。

 

そんな会話を交わして四季は荷物を置いていた用具室へと足を運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや? ……天地四季か。どうした? 外が騒がしい様だが?」

 

四季が用具室の中に入るとそこには水着姿のゼノヴィアが居た。

 

「あぁ、ゼノヴィアか? 今外でちょっと騒ぎが起こっててな。クリス先輩に強制鎮圧して貰う前に止めようかと」

 

そんな会話をしていると近くで爆発音が聞こえた後、何かがプールに落ちる音が聞こえた。

 

その後、爆発音をかき消す様に歌声が聞こえた。

 

 

 

『いい加減にしやがれぇ!』

 

 

 

最後にクリスの叫び声と共に爆発音が響く。……怒ったクリスによるMEGA DETH PARTYでの強制鎮圧が行われた様子だった。

 

「「……」」

 

思わず顔を見合わせる、プールで何が起こったのか大体察した四季とゼノヴィア。

 

「はぁ、手遅れだったみたいだな。まあ、これで外に出ても大丈夫そうだ。それで何でこんなトコに居たんだ?」

 

考えてみれば、プール掃除の後からゼノヴィアの姿を見て居なかった事を思い出す。

 

「初めての水着だから、着るのに時間がかかった。似合うかな?」

 

「いや、ここは更衣室じゃないから。あと、よく似合ってる。水着、初めてなのか?」

 

「今まで規則の厳しい教会に居たのもあるけど、私自身こういう物に興味がなかったんだ」

 

その言葉に確かにそうだと納得する。規律の厳しさと本人の興味のなさもあって縁が無かったと言うのならば仕方のない話だ。

 

「だけど、私も身の上が変わった以上、多少なりとも女らしい娯楽を得たいと最近思い始めた」

 

「そうか、それはいいことだと思うよ」

 

新しい世界が開けたのならば、それが本人にとって不快でないのならば、それはいい事なのだろう。

 

「天地四季、折り入って話がある」

 

「いや、四季で良い。同じ部活の仲間だからな」

 

「そうか。では、四季……」

 

何か頼りたい事があるのなら乗るつもりだったのだが、

 

「私と子供を作らないか?」

 

「は?」

 

予想外の言葉に思わずは受けた声が出る。

 

「悪い、もう一度言ってくれ」

 

「聞こえなかったか? 四季、私と子作りしよう」

 

「はぁ!?」

 

予想外すぎる発言は聞き間違いではなかった様子だった。



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四十五話目

「ゼノヴィア、お前な……何でいきなり」

 

「うん、順を追って話そう」

 

いきなり子作りしようなどと言われた事に思わず問いかける。

 

「私がこれまで人生を教会に、神に捧げてきた事は知っているね?」

 

「ああ」

 

それは知っている。と言うよりも教会所属の聖剣使いなどと聞けば大体想像がつく。

 

「でも、悪魔となった今……私は……目標や夢がなくなってしまった」

 

それはそうだろう、今までの決して短くない人生を賭けて行ってきた事が全て否定されてしまったのだから。

……そこまで聞いても先ほどの発言に至る理由は分からないが。

 

「いや、それは分かるけど、なんでそこで子作りなんだ?」

 

そう、それは分かるが何故突然そんなぶっ飛んだ発言が飛び出してきたのかは分からない。

 

「ああ、何をすれば分からなくなった……。今仕えるソーナ会長にそれを尋ねたら、先ずは好きに生きてみれば良いと、そう答えたんだ」

 

自由に生きる事を知らないが故に、自由に生きる事を勧められたのだ。そればかりは他人が教えて行動して良いものではなく、自分の意思で行動しなければならない。

 

「だから、私は封印していた物を解き放ち、堪能しようと思う」

 

確かに、今まで抑えて居た物を存分に楽しむのも悪く無いだろう。

 

「その為には男を知る必要もあるのだけど、丁度いいだろう?」

 

「は、話は分かったけど、なんで真っ先に男を知るから入るんだよ?」

 

「不服か? これでも女性としての身体はそこそこ自信があるのだけどね」

 

そう言って水着姿のゼノヴィアは自分の体を抱きしめる様な仕草で不安げに呟く。

 

「胸もクリス先輩ほどは無いが、詩乃や雫よりも大きいぞ?」

 

「まあ、確かにゼノヴィアも魅力的だけどな」

 

「……っ!?」

 

内心、さっきの台詞は間違いなく二人が聞いたら怒りそうだと思いながらも、逆にそんな切り返しでゼノヴィアを赤面させる。

詩乃の事を思うとそう簡単に誘惑に乗る気など無いのが本音だ。

 

転生前の自分が望んだ事とは言え、裏切らないと言う可能性を上げる為に高い好感度を与えられてしまった詩乃の事を思うと複雑な心境なのだ。

自分との積み重ねでは無く予め与えられた好意によって成り立ってしまった関係。

 

「ところで、何でオレなんだ? 相手なら他にも居るだろう、イッセーとか」

 

寧ろイッセーなら悩むだろうが最終的には誘惑に負けそうなイメージさえある。

 

「……君は私の事を何だと思ってるんだ。私は四季が良いんだ。イッセーはドラゴンのオーラを纏って居るが、それは赤龍帝を宿してるからだろう」

 

心外だと言う表情を浮かべてそんな言葉を続けられる。

 

「私は子供を作る以上、強い子になって欲しいと願ってるんだ。父親の遺伝子に特殊な力、若しくは強い力を望む。そこで、神器に頼らない強い力を持った四季が適任だと思った」

 

「あー……」

 

ゼノヴィアの言葉に妙な納得を覚えてしまう。間違いなく四季との子には力の一部は受け継がれるだろう。

次代の黄竜の器には菩薩眼の娘と黄竜の器の子供だと言う話なのだし。

 

「神器とは違って生まれついての力なら力は受け継がれるだろう。これは好機なんだ」

 

「ちょっと待て!」

 

この力はガチャで貰った力とは言えある確信はある。間違い無く力は受け継がれる。恐らく相応の鍛え方をすれば力を持てるだけの素質を持った子供は生まれるだろう。

 

「……ん? ああ、子供は基本的に私が育てるから気にしなくて良いよ。ただ、父親の愛を子供が望んだら、その時だけは遊んでやって欲しい」

 

「もう、そこまで未来へのシナリオを描いてたのか? でも、ちゃんと両親揃って子供は育てるべきだと……って、違う」

 

既に其処まで立てて居たゼノヴィアの未来予想図に頭を抱えてしまう。

 

どうやって思い留まらせるかと頭を悩ませて居ると、

 

「四季?」

 

静かだが怒気を感じさせる詩乃の声が後ろから響いて来る。

恐る恐る後ろを振り返ってみると、其処には目が笑って居ない笑顔を浮かべた詩乃が居た。ドアは開いて居るので気付かないうちに後ろに立って居たのだろう。

 

「中々戻って来ないから呼びに来たんだけど、子作りってどう言うことかしら?」

 

「いや、オレにやましい事は無いぞ! って、何処から聞いてたのか知らないけどさぁ!」

 

「雪音先輩が吹き飛ばした後、直ぐに呼びに来たんだけど、どう言う経緯が有ればそんな話になるのか存分に聞かせて貰えるわよね? 二人も交えて」

 

誰かが言っていた、笑顔とは本来攻撃的な物である。と。そんな事を思いながら、詩乃に連行される。

 

「なるほど、先ずは詩乃や雫、クリス先輩に勝たなければならないのか。これは至難の技だね。しかし、ライバルが多いほど燃えるものもある」

 

まあ、そんな四季の姿に一人闘志を燃やすゼノヴィア。

 

「四季! 隙あらば私は君と子作りをするから、覚悟を決めておくように」

 

「話をややこしくするなぁ!」

 

更に燃料が投下されてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰り道、四季達四人の姿があった。流石に詩乃への自体の説明に時間は取られたが、無事に理解してくれたことには助かった。

 

「ごめんなさい、ちょっと私も混乱してたみたい」

 

「いや、分かってくれたなら良い」

 

事情を説明すると比較的簡単に事態を分かってくれたのは助かったが、流石にイキナリあんな話を聞いたら混乱するのも無理はないだろう。

 

「まあ、あんな事を聞いたら慌てるのも無理ないだろうけどな」

 

「元々掴めない所が有ったけど、拍車がかかったな」

 

クリスの言葉にそう言って同意しながらも、今は初めての自由に空回ってるだけだろうと思う。

教会のエクソシスト等下手したら聖女以上に外の事に触れてないのだろうから、誰かから命令されての行動では無く自分の意思で楽しむ事を知って行く、それを知って行くのはこれからだ。

 

「…………私もあれくらい大胆に行った方が良いかしら」

 

ふと、詩乃のそんな言葉が聞こえて来たがスルーしておいた。

歩きながらそんな会話をして居ると妙に疲れた顔のイッセーとばったり会ってしまう。

 

「おお! 詩乃ちゃん達! …………と天地」

 

会えてラッキーとばかりの表情を浮かべた後、何でお前まで居るんだと言う態度が現れて居る顔を四季に向ける。

 

四季の所為で水着姿を見ても記憶できなかったのだから恨みも増していると言う事だろうか?

 

「お兄さん、あれ」

 

ふと、雫が校門前に誰かがいる事に気が付いた。

彼女が指差す先には明らかに学園の生徒では無い格好の男が校門の前に立っていた。

 

「やあ、良い学校だね」

 

「えっと、まあね……(誰だ?)」

 

男は校門に近づいたイッセーにそう話しかける。

 

「ここで会うのは二度目だね、『赤い龍(ヴェルシュ・ドラゴン)』。赤龍帝の兵藤一誠」

 

『っ!?』

 

その言葉に反応して臨戦態勢をとる四季達。イッセーを赤龍帝と呼ぶのは裏関係者しか居ない。

 

「コカビエルの時の、白龍皇か?」

 

「察しが良くて助かると、『龍の魔法使い(ドラグ・ウィザード)』、天地四季。俺はヴァーリ。白龍皇、『白い龍(バニシング・ドラゴン)』だ」

 

目の前の男がそう名乗った事でイッセーの表情にも驚愕が浮かぶ。

 

(こいつが、白龍皇……!?)

 

イッセーの左手が反応を示した事が、目の前の相手が本当にあの時の白龍皇だと告げている。

 

(左腕が反応している? おいおいドライグ、こいつマジものかよ?)

 

宿命の相手が目の前に現れた以上起こる事は一つ。

無言のままに後ろに下がる様に指示を出す四季。

 

プレッシャーは感じないがイッセーは戦ったら無事では済まない、死を予感させられていた。

 

「そうだな、例えば……俺がここでキミに魔術的な物をかけたり……」

 

「その辺にしておいて貰えるか?」

 

冷気を纏った手刀をヴァーリの首筋に突き付けながら四季はそう告げる。

 

「何をするつもりか分からないけど、冗談が過ぎるんじゃ無いかな?」

 

同時に木場も四季と同様に自身の作り出した聖魔剣を首筋に突きつけながら告げる。

 

「止めておいた方が良い。天地四季は兎も角、君は切っ先が震えてるじゃ無いか」

 

「他所でやるなら兎も角、こんな所でドラゴン紅白戦なんてやられたら困るんでな」

 

其処で一息ついて、

 

「そっちが冗談のつもりでもな」

 

「矢張り、君の方が面白そうだ。是非とも戦ってみたいよ」

 

四季はヴァーリの言葉に動じる事なく手刀に込めていた冷気を強める。

 

 

 

「祐斗、剣を納めなさい。四季、貴方もよ」

 

 

 

そんな時、その場にリアスの声が響く。

 

「部長!」

 

「白龍皇、何のつもりかしら?」

 

イッセーが振り返ると其処には他の眷属を連れたリアスの姿があった。

 

「誇って良い。相手との実力差がわかるのは強い証拠だ。だが、彼は兎も角コカビエルごときに勝てなかった君たちでは俺の相手にならない」

 

軽く笑みでも浮かべながらヴァーリはリアスの言葉に返す。

 

「今日は戦いに来たわけじゃ無い。アザゼルの付き添いで来日していてね。ただの退屈しのぎさ」

 

退屈しのぎでドラゴン大決戦の火蓋を切りかけられるのは勘弁して欲しいと思う四季は間違っていないだろう。

 

「兵藤一誠、天地四季、キミ達はこの世界では自分は何番目に強いと思う?」

 

「さあな、オレには強さランキングには興味ない」

 

四季はヴァーリの言葉をそう切り捨てる。

そもそも、その強さランキングも当てにはならないだろう。場合によっては純粋に相性の差でトップ10の実力者が100位以下にも負ける事もある。

 

「やれやれ、君は中々ノリが悪いな。まあいい。兵藤一誠、未完成の禁手(バランスブレイカー)状態とした君は上から数えて1000から1500……。いや、宿主のスペックから考えてもっと下かな? そして、天地四季、あの力にはまだ上が有るんだろう? それを考慮すると何れはトップ10も狙えるんじゃないか?」

 

(……こいつ)

 

オールドラゴンやインフィニティスタイルの事を知っている。いや、知らないと言っても気付いているのだろう。

無限の魔法使い。

この世界における夢幻と無限の上位の存在に比類する第3のムゲンだ。間違い無くトップ10に入る可能性はある。

 

「……何が言いたい?」

 

イッセーの言葉にヴァーリは笑みでも浮かべそうな態度で言葉を続ける。

 

「『紅髪の魔王(クリムゾン・サタン)』サーゼクス・ルシファーでさえトップ10には入らない。だが一位は決まっている。不動の存在が」

 

「自分とでも言いたいのかよ」

 

「いずれ分かる。ただ俺じゃ無い」

 

「ああ、その不動の存在はそれが誕生した時から変わってない。……赤の龍神、真の赤龍帝、赤龍神帝だろ?」

 

「なんだ、君は知っていたのか」

 

四季の言葉にヴァーリは感心したように言葉を返す。

 

「兵藤一誠は貴重な存在だ。十分に育てた方が良い、リアス・グレモリー。だが、過去に二天龍と関わった者はろくな生き方をしていない。貴女はどうなるんだろうな」

 

そう言い残してヴァーリは立ち去って行く。



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四十六話目

さて、ヴァーリとの遭遇後日、駒王学園では公開授業が行われていた。

まあ、参加する身内もいない四季達にはあまり関係の無い話だが。

 

ふと見ればイッセーがいつもの二人と話していた。なんでも、イッセーの所の両親はアーシアの事を見に来るそうだ。

 

(サボればよかったかな、今日は)

 

クラスメイトの家族が集まる中で自分たちの家族は来ないと言うのは憂鬱でしかない。こんな事ならば今日は授業をサボって修行場に篭ってれば良かったかと思う。

 

「いいですかー。今渡した紙粘土で好きな物を作ってみて下さい。動物でも人でも家でもいい。自分が今脳に思い描いたありのままを表現してみてください。そう言う英会話もある」

 

(ねえよ!)

 

英語の授業なのに何故か美術の授業に変わってしまっている状況にクラス全員の気持ち(約2名を除く)が一つとなった。

まあ、浮世離れしているゼノヴィアとアーシアの二人はそうなのかと納得してしまっているが。

 

「レッツトライ!」

 

(どこの世界に紙粘土でやる英語がある!? レッツトライじゃねえ!)

 

全力でツッコミを入れるが、そんな心の叫びは誰にも届いていない。

そして、この状況に早くも順応しているのはアーシアであったりするのは別の話。

 

四季も気を取り直して改めて何を作るかを考えてみる。

 

ふと、ものすごい速さで作業しているイッセーの姿が目に入るが、完成に近づいている品を見て絶句する。

 

 

 

リアス・グレモリーの裸婦像であるのだから。

 

 

 

妙なところで無駄に才能を発揮しているイッセーを横目に無難に視界に入ったドラグブラッカーの像を作ることにした四季だった。

ウィザードラゴンでも良かったが、僅かな差だが付き合いの長いドラグブラッカーを選択する。

 

なお、イッセーの作った作品に対するオークションが始まった時点で、素直にその才能にだけは賞賛しておくことにしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

支柱となる部分を用意してその先端に頭を配置してそこから渦を巻くように細い東洋龍の胴体を作ったドラグブラッカーの紙粘土細工。

最も、ドラグレッダーとの外見上の差異が色という点が大きいドラグブラッカーなだけに、未塗装の白い紙粘土ではどちらのモンスターなのか見当は着きにくい。

 

「上手いもんだな~」

 

昼休み、四季達四人は裏庭に集まっていた。それぞれ学年が違うため、学園内で集まれる機会は軽音部以外はあまり無いのだ。

 

四季の作ったドラグブラッカーの紙粘土細工を見てクリスはそう言う。

 

「まあ、オレより凄いのを作ったやつもいるけどな」

 

「あれは論外よ」

 

イッセーの作ったリアスの裸婦像をネタに盛り上がっているオカ研のメンバー(木場と子猫を除く)を見ながら呆れたように呟く詩乃。

確かにあれは凄い出来の作品だが、流石に自分がモデルに作られたくは無いと言うのが心境だ。

 

ゼノヴィアは生徒会の手伝いのためにこの場には居ないが、この世界に自分達の家族が居ない身の上の四季達としては余り居心地の良い空気ではない。

 

「まあ、今はオレ達が家族の様なモノだけどな」

 

チームであり家族みたいな物。それが今の四季達の関係である。

 

そして、人が多くなってきたので軽音部の部室に行こうとして校舎の中に入った時、妙な人だかりをみつけた。

 

何故か全員がカメラ、或はカメラとしての機能を有した物を持って居た。

 

 

 

『なんか、魔女っ子の撮影会をやってるらしいぞ』

 

 

 

「「「「魔女っ子?」」」」

 

何かと思って聞き耳を立てているとそんな言葉が聞こえて来た。疑問を浮かべる詩乃達を他所に、この世界の知識を知っている四季には、魔女っ子というキーワードからある一人の人物が浮かんでくる。

 

人だかりの先、階段の上にいるのは正に魔法少女とでも言うべき格好の黒髪のツインテールの少女。

……四季の中で浮かんだ人物名と完全に一致した。

 

「……巻き込まれないうちに此処から離れようか」

 

 

『オラオラ! 天下の往来で撮影会たあー、良いご身分だぜ!』

 

 

四季がそう呟いた瞬間、匙の声が響く。恐らく、今回の状況の対応に匙が向かわされたのだろう。(なお、ソーナの眷属の新人となったゼノヴィアは正式に生徒会のメンバーではないのでこういう場合に駆り出されるのは公的な立場上では基本匙)

 

「ほらほら、解散解散! 今日は公開授業の日なんだぜ! こんな所で騒ぎを作るな!」

 

「生徒会の匙だ……」

「ちぇー」

 

匙に追い払われて不満をこぼしながらも散っていく生徒達。

撮影会を中断させられたことへの不満をこぼしながらも渋々といった様子ではあるが、流石に生徒会の指示に従わない訳にはいかない。

 

「あんたもそんな格好しないでくれ」

 

「えー、だってこれが私の正装だもん☆」

 

「って、もしかして参観の方ですか? そうだとしても、場に合わせた衣装って物が有るでしょう? 困りますよ」

 

次に被写体になっていた人へと注意している匙。

 

「……なあ、あれって魔法少女ミルキーってアニメのコスだよな」

 

「正装だとしても戦闘衣装(バトルドレス)なんだよな……。クリス先輩で例えるなら、常にシンフォギアを纏ってる様なものか?」

 

最近、ご近所のミルたんに勧められたらしいアニメの衣装なのを知っていたクリスがそんな事を呟くと、四季もそれに応える。

四季の例えにその状況を想像してしまったクリスが恥ずかしさのあまり身悶えている。

 

「止めて上げなさい」

 

「悪い」

 

四季の例えを想像してしまい、恥ずかしさに身悶えているクリスを見て詩乃は四季にそう注意をする。

 

詩乃の言葉にそう返すと、改めて魔法少女のコスプレをした彼女を見る。魔法少女のコスプレをしたツインテールの黒髪の巨乳美少女。

間違いなく、記憶の中にある四大魔王の一人と一致していた。

 

(よく考えたら、サーゼクス・ルシファーと同レベルのシスコンだからな、来ないわけが無いか)

 

『なっ!?』

 

近くで木場と合流して同じく撮影会の様子を見ていたリアスが驚愕の叫びを上げたのが聞こえた。

 

もう、四季の考えで間違いないだろう。

 

「何事ですか?」

 

「か、会長……」

 

騒ぎを聞きつけたのか、更にソーナまでやって来ていた。

内心同情したくなる四季だが、その祈りは届かない。

 

「あらリアス、此処にいたのね」

 

ちょうどリアスの姿を確認すると後ろにいたサーゼクスを含む二人の男性を彼女へと紹介する。

 

「今丁度サーゼクス様とおじ様をご案内していた所なの」

 

「お兄様、お父様……」

 

魔王と貴族の当主の2人が現れたことに慌てて頭を下げるイッセー達リアスの眷属達。

 

「ところで、匙。問題は早急に、そして簡潔に解決する様にと何時も言って「ソーナちゃん! 見つけた☆」」

 

匙へのソーナからの苦言を遮って魔法少女がソーナを名前を叫んで抱きつく。

 

「うん、会長の知り合い……?」

 

「さあ……?」

 

イッセーと匙がそんな2人の様子に疑問の声を上げる。

 

「なあ、あいつ、生徒会長の妹かなんかか?」

 

「いや、会長の身内だけど妹じゃ無い」

 

「それじゃあ、親戚の子?」

 

クリスがあの魔法少女とソーナの関係を疑問に思うが四季はそれを否定する。次に親戚か何かかと雫が問うが、

 

「……それも違う」

 

「ねえ、四季……まさかとは思うけど、あの子……じゃなくてあの人が、そうなの?」

 

四季の言葉から彼女が何者なのか理解してしまったのだろう。詩乃がそう問いかけてくる。

 

そんな彼女の問いに答えたわけでは無いだろうが、サーゼクスが彼女の言葉の答えを告げた。

 

「ああ、セラフォルーか。君も此処へ来ていたんだな」

 

『セラフォルー』。その名前を聞いて詩乃だけでなくクリスと雫も正解に至ってしまったのだろう。

 

「まさかとは思ったけど、本当だったのね」

 

「な、なあ、アタシの記憶が間違いなけりゃ、セラフォルーって確か……」

 

「セラフォルー・レヴィアタン。現四大魔王の紅一点で、ソーナ会長の姉だ」

 

「……嘘だろ? いや、魔王って言うから先輩とかマリアみたいなのを想像してたのに」

 

「あー、うん。その気持ちは分かるが、後者の方は近いぞ」

 

「……どう言う意味だよ?」

 

「良い勝負のレベルのシスコンだ」

 

「あー」

 

妹に抱きついているセラフォルーの姿を見て四季の言葉に心から納得してしまうクリスだった。

 

「あら☆ リアスちゃん、おひさ〜☆ 元気にしてましたか?」

 

なお、リアスへの当人の発言により彼女が四大魔王の紅一点と確定したのだった。

 

「……つまり呼ばなかったのは仲が悪いんじゃなくて会長を溺愛してるのか? そりゃ、あの時呼ばない訳だよな」

 

「コカビエルの時に呼んでたら、戦闘の余波で街が消えかねないからな」

 

「うん、何しでかすか分からない」

 

「呼ばない訳よね。ルシファーの方を呼んで正解だったわね」

 

キレたシスコンを止める術は数えるほどしか無い。特にクリスと雫の言葉に実感が湧いてるのは身近に何しでかすか分からないシスコンが居たからだろう。

 

「恐るべし、魔法少女……じゃなくて魔王少女」

 

内心、高校三年の妹がいて少女はないだろうと思うが敢えて口には出さない事にした四季であった。女性の年齢にツッコミを入れても碌な事は無い。

 

「うぅ、もう耐えられません!」

 

羞恥に耐えきれずソーナは走って逃げ出し、それを追いかけてセラフォルーがソーナの名前を叫びながら追いかけ、その2人を匙が追いかけていく。

 

そんなドサクサに紛れて、そんな家族間のシスコン問題(笑)に巻き込まれないうちにその場を立ち去る四季達だった。

 

「ふむ、彼等にも話があったんだけど、逃げられてしまった様だね」

 

いつの間にか姿を消していた四季達の姿を見てサーゼクスはそう呟く。



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番外編

彼、『鳳凰寺 京矢』は転生者である。

東京魔人学園シリーズの主人公の相棒たる蓬莱寺京一の力とそのシリーズの彼の最強の武器の一つである、妙に豚骨スープの匂いが染み込んだ木刀『阿修羅』、そしてThunderbolt Fantasyの『魔剣目録(中身はほとんどなし)』と凡ゆるゲーム、漫画、アニメのアイテムや能力や選定事象となってしまった世界の登場人物を仲間として手に入るガチャが特典の転生者である。

 

まあ、完全にガチャ以外は剣戟特化の構成だが何故それを望んだのかと言う記憶は前世の記憶と共に転生前に無くしてしまったので知る術はない。

 

なお、鳳凰寺と言うのは蓬莱寺京一がゲーム中に名乗る必要があって名乗った偽名である。

その彼の異名は『神速の剣聖』。主人公の相棒たる剣士の力を持った少年と仲間達の物語の一ページ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼が転生してから数年が過ぎた。

元から存在していた京矢と言う人間の記憶を辿りながら日々を過ごす中で此処が幾つか彼の残された前世の記憶の中にある物語が混ざり合った、或いはその登場人物と同一人物の存在している世界であると言うことを理解していた。

 

主に、ガチャで手に入れたガイソーケンを使って、親戚の少女が異世界に召喚されてその世界を二度ほど救うのをガイソーグとして手助けしたり、その前には海鳴市で起こった二度にわたる地球の危機にガイソーグを名乗って関わったり、と。(その結果、異世界では英雄として讃えられ、時空管理局と言う組織からは犯罪者として指名手配されたりした)

 

まあ、そんな事も有ったが、それを知ったところで今更意味は無いと考え、大して悩まずに過ごしているのが京矢である。

 

「おーい、南雲、飯行こうぜ」

 

「うん」

 

「おう、はっちゃんも誘って行こうぜ」

 

昼休み、京矢が声を掛けたのは周りからやる気の無い無気力少年と思われている『南雲ハジメ』。

京矢が彼とはっちゃんなる人物も誘っている為、いつの間にか仲良しな三人組として見られている。

 

クラスの二大女神として絶大な人気を誇っている『白崎香織』が話しかけるのを遮って、京矢は彼を誘ってさっさと教室を出て行く。

 

何時も昼休みに彼女が自分に声を掛けているために針の筵になっているのだから、ハジメとしては本当に助かっている。

……京矢と関わる様になってからハジメの周囲は大きく変わった。

 

周囲から汚物を見る様な目で見られている憔悴しきった顔で自主退学するのも時間の問題かもしれない『檜山大介』とその仲間たちだ。

彼らからイジメを受けていたハジメだが、京矢が転校してきたから仲良くなった京矢に目をつけてしまったのが彼らの運の尽きだった。

京矢が原因で彼らは警察に逮捕されてしまったのだった。

 

裏路地に彼を連れ込んだものの見事に全員が返り討ちにされて有り金と身包みを剥がされてカバンを残して気絶したところを全裸で放置されてしまった。まあ、それなら捕まるのは京矢になりそうだが、剥がした制服は財布の中身だけ抜いて綺麗に畳んで鞄の中にしまってあった。

カバンで隠しながら身ぐるみ剥がされた姿で夜の街を走る彼らが警察のお世話になった時、所持品のカバンの中から綺麗に畳んだ衣服が出てきたらどう誤解されるか。

慌てて人のせいにして言い訳する露出狂の変質者達と見られてしまったと言うオチに終わり、その様子を撮影した写真が張り出されてしまった為に、学校中から露出狂の変態集団というレッテルまで貼られてしまった。

……よくその時点で退学にならなかったものである。もう、本人達にしてみれば退学して街から去りたかったかもしれないが。

 

京矢としては檜山達は弱い者を虐げ、強い者には媚びへつらう典型的な小物なので、黙らせるために学園の最下層に落ちて貰ったと言う訳だが。

教師が張り出された写真を回収するたびに新しい物が学園に張り出されるのだから、すっかり学園中に変態として名を轟かせてしまっている。

 

そんな訳でもはや檜山一味はもう京矢は愚かハジメにも関わりたく無いと言う顔をしている。

それでもグループ内で罪のなすり付け合いをして弱い者を作っているのだから救えない連中である。(その弱者に京矢に目を付けた檜山が選ばれたのも哀れとは言え当然の結果に見えるが)

 

そして、もう一人、教室から出て行く京矢を忌々しげな目で睨んでいるのが『天之川光輝』と言う男だ。

 

「なんで、あんな奴が……」

 

京矢は自分が敷いた正義(笑)以外はシャットアウトしている常に自分に都合が良い解釈しか出来ない御都合解釈主義者と切り捨てている、京矢と同じ剣道部に所属している生徒だ。

バイトと言って碌に部の練習にも出ない幽霊部員の京矢に苛立っているが、当の京矢は顧問に無理やり入れられた、自分が幽霊部員なのは顧問も認めてると彼の言葉を一切取り合っていない。

 

そんな彼の態度に我慢の限界が来た光輝は剣道部に呼び出して試合を挑んだ。

自分が勝ったらバイトを辞めて真面目に部活に出ろ、と。京矢を悪とみなして断罪しようとした結果、部員全員の前で完全に叩きのめされた。

 

「何度も挑まれるのも面倒だから防具無しでやろうぜ」

 

笑みを浮かべて光輝を挑発するように告げる京矢。

そんな京矢の態度に頭に血が上った光輝もそれを了承して防具無しの試合が始まってしまった。

 

最初は叩きのめしてやるつもりであった光輝だったが、京矢の殺気に気圧されて棒立ちのままで面を打たれ気絶した後、目を覚ましてもそのまま腰が抜けて暫く立てなかった程だ。

 

終いにはもうこんな事はするなと光輝が顧問に注意されてたのは、元々部活を辞めたがっていた京矢が今回の事を理由に退部の相談をした為だった。

 

ロクに練習にも出ないくせに剣道の実力は部の中どころか、全国でも上位に位置していて個人戦では毎回好成績を上げている。

後輩を指導した時は後輩で遊んでいるかと思いきや、練習試合では彼の指導した後輩達は全員が勝ち星を挙げるなど、気が向いた時に僅かに出ただけで部活動には貢献している。

 

顧問としても光輝よりもそんな京矢の方が大事なのだろう。

彼が原因で京矢が退部するのなら、光輝を退部させてでも京矢に残って欲しいと思われている。

 

だからこそ、光輝にとって京矢は気に入らない。

正しいのは自分のはずなのに何故顧問から注意されなければならないのか。何故、自分が剣道部を退部させられなければならないのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな日常の終わる瞬間がもうすぐ訪れるとは誰も知らない。




・鳳凰寺 京矢
・外見イメージは喜名先生版の蓬莱寺京一

剣道場の子供に転生した外伝主人公。
能力のベースは蓬莱寺京一。
転生した世界は基本はありふれた職業で世界最強だが、実は他の世界が多く混ざっている。
その混ざった世界の時間にそれぞれ二度に渡ってガイソーグとして関わる事になった。その結果、様々な剣型のロストロギアを大量に不法所持しているという事でリリカルなのは側の組織である時空管理局からは次元犯罪者としてガイソーグは指名手配された。
なお、ありふれ側のキャラとはハジメとは友人関係であり、八重樫 雫とは道場の稽古の関係で幼なじみ。

なお、既に三人ほど呼び出しているもの達がいる。


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番外編02

ホワイトデー記念作


主人公SIDE

 

 

どうも、『アキ・スプリングフィールド』でーす。

ネギまの主人公のネギ君の双子の弟として転生した転生者です。

 

転生特典は

・九角天戒の技と《力》

・別の世界の登場人物やアイテムを呼び出せるガチャを引ける。

・魔法の才能

 

の三つの様子。様子と言うには二つ目の特典はまだ使えないからだ。

一応今まではオレの存在以外原作知識の通り進んでいる。……まあ、本編前の子供時代のことなんで正確なのかは分からないけど。

後は如何にオレはネギと距離を取り、バタフライ効果を減らして原作通りに進めるか。

まあ、一番良いのは麻帆良に行かないことなんだろうけどな。

 

当然ながら、オレの両親「サウザンド・マスター」ナギ・スプリングフィールドと「災厄の女王」アリカ・アナルキア・エンテオフュシアとはオレが1歳頃に別れた。

ライフメーカーを2人で封印するための旅に出る前に別れを告げられた。

2人は分かっていないと思っていただろうが、オレは転生者、前世の経験から英語で話した内容ぐらいはなんとか理解できた。

ネギとオレに向かって「すまねぇ」とか「元気で生きろ」とか何度も繰り返してたしな。

 

……だけど、危険だと思う力が有るんだけどね、この力はさ!?

剣術は兎も角、この最初の特典の力の中には有ったんだよ、《鬼道》が!

 

そう、魔人学園に於いて前編の敵である九角天童とその先祖である幕末の鬼道衆の頭領である九角天戒は優れた剣士であると同時に鬼道を操ることが出来る術者でもある。

 

そんな男の力が有るのだから術者としても一流になれるのは約束されてしまった未来だ。オレの未来は鬼を統べる者という事だろうか。

 

スプリングフィールドと九角家の共通の特徴の深紅の髪意外はネギとは似ていない。

 

今後の事を考えると力があっても損は無いが、この村の『ナギ教』、『英雄教』には反吐がでる。内心では早く悪魔こないかと思うほどのストレスに苛まれている時点でかなりのストレスだ。

 

3歳の誕生日に初心者用の魔法の杖を貰って魔法を習い始めた。やはり、魔法の才能はあるが特典の影響だろうか、剣術の方が性にあっていると思う。

そして、魔法を習い始めてより影響が顕著になって「英雄」ナギ・スプリングフィールドの話しからネギが暴走しだし、最終的にネギが湖で溺れて一月程経っただろうか。

 

 

 

 

オレの運命が変わる日が、

 

 

 

 

『アキ・スプリングフィールド』が死に、『九角 秋』が生まれる日が近づいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキにとっての初めてのガチャはネギが溺れた後だった。

なんでこんな時にガチャが引けたのかと思ったが、出てきたアイテムはシンフォギアに出て来るテレポートジェムだった。

何故これが出て来たのか分からなかったが、ガチャで出て来る物なんてこんな物だろうと思って深くは考えなかった。

便利な離脱アイテムだが、危険性もあり安全に使う為には離脱の為に使うしか無い。

……しかも、ウッカリ子供の時分で使ったらどこか分からない場所に転移してしまうので取り扱いは厳重にしなければならない。

 

……アキにとっての最大のミスは偶々これをネギに見られた事だった。

魔法道具(マジック・アイテム)と思われてテレポージェムに興味を持たれてしまった為にどこで手に入れたのかとか聞かれる様になってしまった。

 

元々シンフォギア世界の錬金術とこの世界の魔法みたいな物なので差はないだろうが、迂闊にネギに使われても危険なので何度も秘密だと言っているのに飽きる事なく聞いてきて本当に鬱陶しい。

 

そんな日々を過ごす中で起こった……元老院による悪魔の襲撃。

アキは悪魔から逃げる最中に悪魔からの攻撃の影響でテレポートジェムを砕いてしまう。

目的地も座標固定された場所も無く使ってしまったそれの効果によりアキの姿は村から消えてしまった。

 

……本来の使用者であるキャロルは転送事故防止のためにしっかりと座標固定した拠点への転移にのみ使い、低確率の事故を防止するために細心の注意を払って使っていた。

アキの使い方はそれとは全くの真逆。低確率の事故を意図的に起こそうとしない限りそんな普通は使い方はしないだろう。

 

 

 

 

 

 

幸か不幸か事故は起こる事なくアキは転移する。

転生前の故郷の国である日本、それも今から四年前の過去に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本のとある場所、幼くして子供を亡くした1組の夫婦が悲しみにくれていた時に突然の光と共に一人の子供が現れる。

 

突然の事に驚く夫婦の前に現れた少年アキ。

 

アキにとっての幸運だったのはこの時点でウェールズにもアキは存在している事。

夫婦が魔法関係者だったと言う事。

魔法関係者とは言え西洋ではなく東洋の側の神秘に属する者だと言う事。

其処がとある東洋呪術の者達の住まう隠れ里だと言う事。

 

 

 

 

 

そして、

 

 

 

 

 

彼と同じ深紅の髪を持っていたと言う事。

 

 

 

意識を取り戻したアキは夫婦に自分のことを(テレポートジェムの事やスプリングフィールド姓の事は伏せて)説明し、今いるのが四年前だと言う事に愕然してしまう。

 

行く所の無いアキを夫婦は自分達の子供として引き取ってくれた。

 

彼らの子供と同じくアキと言う名前だった事や深紅の髪だった事から他人とは思えないとの事だった。

 

 

その日、関東の呪術組織の頭目の家『九角家』の養子としてアキ・スプリングフィールドだった少年は九角秋となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキが秋になってから二年。

 

秋は現状の確認を終えた。

此処が関東の小規模呪術組織の隠れ里であると言う事。

当然ながら麻帆良を中心とした西洋魔術に属する関東魔法協会に属さない組織になる。

 

現在、そう言った他の関東魔術協会に属さない関東に残る東洋魔術組織を纏めながら連合組織の長になっているのが九角家だそうだ。

 

「面倒ごとにならなきゃ良いけどな」

 

「既に面倒ごとになっているのでは無いのですか、主様?」

 

秋の影に潜む様に居た少女へと視線を向けて溜息を吐く。全くその通りだからだ。

ガチャから呼び出した最初の仲間である彼女の指摘に最もだと思ってしまう。

 

この一年で剣術と鬼道の習得はできた。そして、すべきことは一つ。

 

「オレたちの組織の表社会での顔、だな」

 

カバンの中に収めて居たベルトとプログライズキーを手に取りながら秋は、

 

「さあ、始めようか、オレ達の歴史を」

 

「はい、主」

 

フォースライザーを身に付ける。

ライジングホッパープログライズキーと共に秋となってからのガチャによる入手品で有るのだが、悪魔襲撃の時に仕えて居たら良かったのに、と内心思ってしまうがそれはそれ。

 

平成のど真ん中の時代に令和1号ライダーの力を使うのも複雑な気分でも有る。

 

フォースライザーを身につけた秋に片膝を付き従者の様に付き従う和服姿の少女『切姫夜架』。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、関東の呪術組織が集まり表社会での居場所として完成した企業が現在は『九角インテリジェンス』では有るが、最初は小さな企業から始まった。

 

その企業にこっそりとガチャで手に入れた科学技術を父に『アルト・J・ナイト』の名で流しながら裏で企業の技術発展に協力しつつ秋は小さな企業を一代で大企業に成長させる事に成功した。

結果、旧呪術組織の幹部がそのまま会社の幹部になり、多くの一般人の社員も雇い入れる様になった。

 

呪術と言う古の技術を扱う者達がロボット工学やAI、IT部門等の研究を行う企業を運営しているのも不思議な話だ。

 

まあ、そんな状況は急成長した九角インテリジェンスに魔法使いが忍び込んできた事から変化していった。

 

それを迎え撃ったのはフォースライザーで仮面ライダー001に変身した秋だったのだが、侵入者の迎撃に出てきた父達に変身シーンから目撃されてしまったのだ。

 

流石に本物のヒーローに変身したとはいえ、ポーズを決めて変身している所を見られるのは恥ずかしい物がある。

追い討ちとばかりに夜架が変身シーンから戦闘シーンまでしっかりと録画までして居たのだから、余計に恥ずかしい物がある。

 

秋が身悶えている間に捕らえられた魔法使いと父が話をしていたのだが、彼はスパイというやつで魔法を使えば忍び込んでもバレる訳でないし、それで生計を立てていたらしい。

立派な魔法使いを目指さないのはそれで腹は膨れないから、との事。

 

仕事に困っていた彼を魔法使いに対するカウンターとして雇い入れ、秋がトップとなる警備部隊の副隊長にされていた。

 

「え? なんで、オレが隊長なのさ!?」

 

「そんな力を持っているのに対外的な説明もあるだろう」

 

つまりは仮面ライダー001の力を大っぴらに使う背景として警備部隊のトップとしての立場を与えてくれたらしい。

部下の人達も秋と実質的な戦闘チームのサポートが主な役割だそうだ。

 

「私が秘書を務めますわ、主様」

 

しっかりと秘書の立場に収まっている夜架さん。

 

「それに、お前は狙われる立場、になる筈だからな」

 

両親は夜架と同じく秋の事情を知っている。ウェールズにいるアキ・スプリングフィールドが消える時期が来れば秋がアキだと知られる可能性だってある。

過去に飛ばされたなどと考えなかったとしても、魔法級の中に篭っていたと考えれば年齢が一致しないことも説明できるのだ。

 

英雄の子とは言え、態々あんな小さな村に住む子供を始末するために悪魔の大群を送り込んだ元老院の執念を考えると、敵対勢力に拾われた抹殺対象など始末しやすいと考えられても不思議では無いだろう。

 

特に傀儡では無いにしても下位組織の関東魔法協会ならば、そこに居るナギ教の人間を動かして最低限秋の身柄の確保を狙っても不思議では無い。

 

「分かったよ、父さん」

 

仕方ないとアキは名目上のトップを引き受ける。

こうして、企業を守る仮面ライダー001が誕生したのだった。

 



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番外編02幕間の物語

幕間の物語

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

ワタシの名前は(チャオ)鈴音(リンシェン)

100年以上の未来から来た火星人ヨ! ワタシの生きていた未来は火星と地球で末期的な戦争を繰り返しているので、そんな未来を回避するためにやって来たアルヨ。

 

そして今ワタシはご先祖たるネギ・スプリングフィールドの始まりの地「学園都市・麻帆良」に、中国からの留学生---もちろん戸籍は偽造アルヨ---としてやって来たアルヨ。

 

ここまでホント長かったアルネ………。

 

半年前に魔法世界へとタイムスリップし、未来から持って来たアレコレを活動資金に変えて、旧世界の中国に渡り、戸籍を偽造したりなんやかやと動いてやっと辿り着いたアルヨ!

 

未来でもぬらりひょんと名高い学園長との挨拶も終え、向かうは「闇の福音」のとこアルネ。

 

なんとか取引を成功させて、未来で既に失われた彼女の魔法をワタシの持つ科学と融合させて新たな、そして強力なロボを創るネ。

幸い転校したクラスのロボット工学の天才「葉加瀬聡美(マッド・サイエンティスト)」にも協力を得られたので、想定以上のロボが創れること間違いなしアルネ!

 

これでご先祖さま(ネギ)を中心に起こる歴史を改竄して幸福な未来を創ってみせるネ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそも我がご先祖たるネギ・スプリングフィールドは、魔法世界の大分裂戦争の英雄ナギ・スプリングフィールドと災厄の女王アリカ・アナルキア・エンテオフュシアとの間に生まれ、親戚に預けられ、3歳の冬に住んでいた村を悪魔に滅ぼされる。

その時、一説ではナギ・スプリングフィールドに助けられたともあるが、ワタシの家系にも真偽は伝わっていない。

その後メルディアナの魔法学校に入り、飛び級を重ね、こっそり禁止された魔法も取得し、9歳で首席卒業する。

その卒業試験でここ麻帆良学園に先生として赴任し、後に従者となる生徒達のクラスを担当することになる。

その先生生活は極めて優秀だったと伝えられている。

従者となる生徒と絆を育みつつ、最下位だった担当クラスを、当時バカレンジャーと言われた従者5人を中心に教育することによって見事首位にしたことは自伝やそれを元にした映画などで必ず扱われるので、火星ではよく知られたエピソードである。

 

その後、第一の従者神楽坂明日菜と仮契約し、当時600年以上生きていた吸血鬼の真祖エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルに勝ち、東西で争っていた日本の魔法組織の融和のため、修学旅行で特使を務めるなど英雄にふさわしい八面六臂の活躍をしている。

 

修学旅行から帰るとより強くなるために悪の魔法使いであるエヴァンジェリンに弟子入りするなどの柔軟な思考を見せ、その後に現れる爵位を持つ悪魔にも勝つ実力も得ている。

 

なお、麻帆良祭では疲れたせいで1日目を寝て過ごしてしまい、一生後悔するなど微笑ましいエピソードも我が家には残っている。

 

その後はまさに波瀾万丈だ。

 

夏休みに入るとすぐさま白き翼-従者を中心としたネギ・スプリングフィールドのパーティーーと共に英国に渡り、父であるナギ・スプリングフィールドの手がかりを探すため魔法世界へと入る。

 

観光と探索の日々の中、テロリスト「完全なる世界(コズモエンテレケイア)」により魔法世界と旧世界を行き来するためのゲートを破壊されてしまうが、メガロメセンブリア元老院議員の一人で、オスティア総督のクルト・ゲーテルにより、メンバー共々助けられ、以後英雄と言われるようになるまで冒険の日々を送っている。

 

その後、黄昏の姫巫女神楽坂明日菜が「完全なる世界」により攫われ、それを奪還するために敵のアジトで最終決戦、その際、麻帆良学園にあったゲートが魔法世界と繋がり、近衛近衛門をはじめとする魔法先生、近衛詠春やアルビレオ・イマといった元紅き翼のメンバーとも合流し戦うが、半歩及ばず、黄昏の姫巫女を使った儀式魔法が発動してしまう。

ただその奮戦により、ぎりぎり地球とのゲートを閉じることと瞬時に魔法世界が崩壊することを防ぐことには成功した。

 

そしてご先祖さま(ネギ)は、なんとか魔法世界が崩壊する前に、現実世界の火星の地下深くに魔法で守られた東京ドームほどの大きさのシェルターを造ることに成功させ、そこに魔法世界中からダイオラマ魔法球を集め、魔法世界に残った人々を救うことに成功する。

 

その後、魔法世界から火星---といってもダイオラマ魔法球での中でだが---で生きるという艱難辛苦を耐え忍ぶ中、ご先祖さまは命を落とすが従者達との間に10男10女の子供を残す。その中の子孫がワタシだ。

 

そして、その子孫が研究を重ね、地球時間で約50年後、火星-地球間のゲートを開くことに成功する。

 

そして、火星人は魔法球を出て地球への移民を希望する………。

 

 

 

 

 

 

 

ここで、話しは遡る。

 

ネギ一行が魔法世界入りし、一時的に麻帆良のゲートが開いた後のことである。

 

学園長をはじめとする有力な魔法使いと西の長たる近衛詠春、次期長候補であった近衛木乃香が魔法世界へ消えて戻って来ないのだ。

 

なおかつ、ネギの生徒である白き翼のメンバーはすべて行方不明で、明確な理由を説明されもしない。

 

そこに疑問を持って調査し、答えを得たのが雪広あやかと那波千鶴の両名である。

彼女らはそれぞれの親友と担任、クラスメイトの安否を知りたかっただけだった。

だが、その行動は魔法使いの秘密を暴いてしまう。

そしてそれは地球で魔法使い達がどれだけ無法をしていたかを暴くことだった。

出るわ出るわ、無法の数々。

認識阻害から、意識誘導、マネーロンダリングに架空資金のでっち上げ。各国の政策にも影響を不正に与えていたようだ。

 

そして、それは「反魔法使い」の流れを作り出す。魔法世界に戻れない魔法世界の魔法使いへの、言わば魔女狩りだ。

一般人の知らない闇の中、静かにそれは繰り返された。

 

そして、それが何とか落ち着いた時に出て来たのが、火星側からの移民希望である。

 

 

 

 

 

 

最初から難色を示していた地球側だが、交渉時に焦った火星側から魔法を使った意識誘導がされた瞬間、その交渉は決裂した。

 

結局魔法使いは魔法で理(法)をねじ曲げようとする無法者だというのが各国上層部の結論だった。

 

そして、交渉が決裂した火星側は強行手段、つまり魔法を使った侵略を開始する。

 

地球-火星間の星間戦争の始まりだ。

 

お互いがお互いの技術を吸収し、戦争はエスカレートし、泥沼化する。

 

そんな時代に産まれたのがワタシである。

 

そして過去を変えるためにココにやって来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1年半前に完成した「茶々丸」は同じ1-Aとなったアル。

 

もう半年もすればご先祖さま(ネギ)が来るネ。

 

ご先祖さまはどんな人物アルカ?

 

案外あのエヴァンジェリンの弟子になったぐらいアル。話せば仲間になってもらえるかも知れないアル。

 

 

 

 

 

そんなことを思っていた日々もあったアルヨ………。

 

 

 

 

 

 

先ず、九角インテリジェンスという企業が通信衛星ゼアを打ち上げたと言う報道が有った事ネ。

少し興味を持って調べてみたら、明らかにこの時代から考えるとオーバーテクノロジーを持っている事が分かったアル。

技術顧問のアルト・J・ナイトと言うなぞの人物がその理由の様アルガ、何者アルカ? 私と同じ未来人アルカ?

 

そして、その企業の関係者らしい人間が数人、学園に通っていてその内二人はクラスメイトアル。

『暁 切歌』と『月読 調』、ウチの家系に伝わっていた1ーAの名簿には無かった名前アル!?

 

他にも別のクラスに三人、九角インテリジェンスの関係者が通っているアルヨ。

 

そして、極め付けはワタシの知る歴史では存在していなかった、行方不明となったと記録されているご先祖様の弟のアキ・スプリングフィールドの存在と、ご先祖様の家系と同じ赤い髪の、男子校の生徒で九角インテリジェンスの社長の息子である九角秋の存在アル。

 

魔法関係者が持っていたアキ・スプリングフィールドの顔写真と比較すると多くの一致点が見られ、同一人物と考えられる人物アル!

年齢が違うのも、九角インテリジェンスが関東圏の呪術師が中心となった企業だけに、魔法球のような物の中で成長させたと考えられてるアル。

 

知らないアルヨ!?

 

どういうことアルネ?

 

単にウチの家系に伝わってないだけアルカ? それともワタシが来た影響アルカ?

 

何方にしても分かっているのは九角インテリジェンス。それが私の知っている未来との差異の中心という事アルネ。

 

天才のワタシにもわからないアルネ………。

 

少し様子を見るしかないアルネ。




・九角 秋/アキ・スプリングフィールド
 
・マテリアル1
外伝2の主人公。作中年齢は中学二年生。
ネギ・スプリングフィールドの弟として生まれた転生者。九角天戒の力と技を持っただけでなく何気に組織のトップとしての能力も与えられている。
悪魔襲来事に最初にガチャで引き当てたテレポートジェムの事故により過去の時間軸の日本に転移させられ九角家に拾われる。
 
・スキル
・九角天戒の力と技
・魔法の才能
・フォースライザー
・ライジングホッパープラグライズキー
・ゼロワンドライバー

マテリアル2
・アルト・J・ナイト
本編ではガチャで得た科学技術をもとにアルト・J・ナイトの偽名で父の会社に提供し、一代で大企業へと成長させる手伝いをした。最近では通信衛星ゼアの開発と打ち上げに成功したとされているが、実際にはゼアはガチャの景品である。
その後、いつの間にかフリーの魔法使い達のギルドみたいな立場となる警備部のトップに立つ事になってしまう。(ガチャから呼び出した夜架がNo.2)

マテリアル3
・(他者からの視点)
関東魔法協会に属さない魔法使い達のギルドとして麻帆良学園では危険視されているが、情報面での衛星ゼアのバックアップもあり、未だに尻尾も掴めずにいる。一度タカミチと交戦することになり、001では無く仮面ライダーゼロワンに変身し、彼を圧倒した。魔法も気も使わずに彼の憧れた英雄達に科学の力で届かせたゼロワンのその姿にタカミチは一度は思ってしまった、『あの時、僕にその力が有れば』と。
また、麻帆良学園及び魔法界からは科学者のアルト、警備部のトップのゼロワン、アキ・スプリングフィールドと同一人物の秋と別人と思われている。


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番外編02 その2

「これで、今月に入ってから何人目だ?」

 

「100を超えた辺りから数えてはおりませんわ、主人様」

 

疲れたように呟く001こと秋と夜架。一応100までは数えていたのかと感心してしまうがそれはそれ。ってか、捕まえた侵入者の中には何人か見た顔もある。……以前捕まえたのと同じ顔だ。

捕まえた侵入者達を部下に引き渡し連行させると変身を解除し、プラグライズキーをポケットに収める。

 

本編と呼ばれるネギ・スプリングフィールドが来日する時間軸よりも前に、ガチャの特典で衛星ゼアを手に入れたのは大きく、それを九角インテリジェンスの開発した通信衛星として発表し、打ち上げに成功したことは大きい成果だ。

 

流石にゼアのデータの中にあった事で開発に成功したヒューマギアは企業内での試験的な運用に留めているが。……マギアが発生しても困るので。

 

衛星ゼアのバックアップもあり、いつの間にやら九角インテリジェンスの警備部門はモグリの魔法使い達の仲介所となっていた。

九角インテリジェンス傘下のモグリの魔法使い達は衛星ゼアからの支援によって魔法協会による追跡からもマンマと逃れている。

流石に悪質な連中は傘下に入れていないが、それでも関東魔法協会としては無視する訳には行かない。

 

先日は関東魔法協会側も痺れを切らしたのか、最高戦力の高畑・T・タカミチまで送り込んできたので、此方も最強戦力の秋がゼロワンまで持ち出して救援に向かう羽目になった。

無事、モグリの魔法使いの捕縛を行おうとしていたタカミチとその他の魔法使い達は見事にゼロワンの力によって撃退成功。流石に命を奪う気は無いので警察に捕まる程度に留めておいたが。

基本フォームとは言え経験不足の自分が圧倒できたのは、一重にゼロワンのスペックの高さによるものだろう。

 

その現状には、麻帆良学園では思い切り驚いている事だろう、魔法使い達が。

その光景が見れないのは内心残念と思ってはいるが、その結果が連日の魔法使いの侵入未遂である。

 

電子的には電子精霊はゼアの方で撃退され、物理的にもその尽くを秋達によって捕縛している物の、侵入者は後を絶たないのが現状である。

警察に捕まった魔法使い達はどうやったのかは大体想像できるが、無事釈放されて全員が元の職場に戻っているのには、本気で頭を抱えたくなった。

 

向こうも此方が関東の呪術師の連合組織というのは理解している以上は、そう簡単に手は引かないだろう。

その上、最近では世界各地の魔法結社との同盟の話まで進んで居る。(表向きは海外での彼らの隠れ蓑となっている会社との合併等)今回のタカミチの敗北は良い宣伝になった。

 

各々の組織に伝わる魔法技術の保護の為にも必要な処置とは理解しているが、魔法協会側としては、完全に魔法使いの闇ギルドと言ったところだ。そんなものは認めるわけには行かないだろう。

 

最優先は秋の身柄、次いで優れた科学技術を送り出し一代で大企業に押し上げている立役者のアルト・J・ナイトの身柄か研究データ。そして、それを成す為の最大の脅威が警備部のトップのゼロワンと、連中にしてみれば想定していないが、目標と脅威が同一人物という状況である。

 

「あまり気乗りは致しませんが、私達の麻帆良学園への入学計画は続行となるようです」

 

「まあ、向こうもオレ達を、と言うか特にオレを手元には寄せておきたいだろうからな」

 

そう、アキ・スプリングフィールドと同一人物と推測されている秋の存在を考えると、関東魔法協会側にこれを断る理由はないだろう。本当に同一人物なのか見極める為にも。

 

今更肉親の情も沸きにくい実の家族に対してはどうでも良いと思っているが、早めに対処したい対象がいる以上は放置できない土地でもある。

魔術的な存在である相手に純度100パーセントの科学で対抗できるのかという不安は残る。対抗策になりそうな物は手に入ったが、他の者に責任を背負わせることになる上に負担を考えると使わせたくはない。

 

「此方からの関東魔法協会への潜入者のリストを送っておきました」

 

「オレ達を含めて六人、だろ?」

 

「はい」

 

麻帆良学園に編入するのは、自分以外には夜架を含めて五人全員がガチャで呼び出したメンバーだ。

年齢的にも同年代の者が多くいるので、何人かは兄が担任となるあのクラスに配属されるかもしれない。

 

「まっ、未来の身内に親の負債を残すのはどうかと思うからな」

 

それと戦うのは自分よりも未来の世界に生きる世代。出来ることならば自分の手で決着をつけたいと思う。紛いなりにも、仮面ライダーと名乗る者として。

科学の力で生まれた英雄(仮面ライダー)を舐めるな。心の中で秋は何れ対峙するであろう敵にそう宣言する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麻帆良学園。埼玉県に存在し、広大な敷地面積をもつ。

 

ここは学園を中心として発展していった都市であり、その総称として学園都市の通称で呼ばれている。

 

しかし、それはあくまで表向きの話。

 

実態は、明治頃にやってきた魔法使い達によって作られた関東魔法協会の本部である。

 

その中に於いて、協会の中心となりまとめ役をしているが麻帆良学園本校女子中等部学園長、骨格がどうなってるのか疑問なぬらりひょんを思わせる老人、近衛近右衛門である。

 

「……また、まんまと逃げられたようじゃな」

 

「申し訳ありません、後一歩のところまで追い詰めたのですが、タイミング悪く野次馬が集まってきまして」

 

部下の報告に苦い表情を浮かべる学園長。

 

「警察、住民の野次馬、急なイベント…………5回続けて邪魔されたようじゃの、しかし随分とタイミングが良すぎるとは思わんかね? タカミチくん」

 

学園長の問いに聴きに徹していた男、タカミチ・T・高畑が言葉を返す。

 

「確かに作為的に感じる部分が多いです。ですが、現場に集まった人たちはシロでしたよ。魔法使いとの関係性は見えません」

 

「気になるのはそこじゃよ、認識阻害の魔法を使っているにも拘らず、住民が我々の存在に気づき尚且つ警察を呼べると思うかね?」

 

そう、魔法無効化能力者やそれが効かない体質は希少なのだ。それが住人全員に、などと言う可能性など有り得るはずがない。

 

「そして、急に開催されたイベント。その主催者は」

 

「九角……」

 

理由の一つに九角インテリジェンスの影がある上、

認識阻害の魔法を短時間で無効化する技量を持った魔法使いに、警察へ介入できる権限を持った大企業で、全国にて対応できるネットワークを持った組織。

そんな条件に全て当て嵌まっているのだから、怪しむと思わない方が可笑しいだろう。

 

自然とタカミチの手に力が篭る。ゼロワンと名乗るバッタを模した黄色い強化スーツを纏った九角インテリジェンスの関係者に敗北したのは記憶に新しい。

 

(あんな力があの時の僕にも有ればな……)

 

思い出すのは師との死別の瞬間。

科学の力であるゼロワンならば誰にでも使える汎用性が有るはずだ。

未練だと思うが、そんな力があれば、今頃自分の師を救えていたと思わない事もない。

 

「奴ら意外に心当たりがない。そもそも魔法協会以外に世界中に勢力を持った組織など他にはありえん」

 

九角家事態最初は規模こそそれなりだったが、単なる関東の呪術師の一つでしかなかった。その力も日本の一地方の実力者。魔法協会とは比べ物になる訳がない小虫に過ぎなかったのだ。

それが、謎の人物アルト・J・ナイトが接触してから、表向きの顔である会社が爆発的に成長して行き、表の顔では科学の歴史を日々年単位で進歩させていると言われ、つい先日自社で人工衛星を打ち上げる所まで行った。

そして、魔法組織としての裏の顔でも世界中の反魔法協会の小規模組織のまとめ役となってしまっている。

 

警備部と言われる001と呼ばれる男の率いるチームによって調べようとした魔法使いは尽く捕らえられてしまっている。

その科学技術で作られたとされる特撮ヒーローの様な強化スーツの後継機と思われるゼロワンは遂にタカミチさえも敗北した。

こんな事実がある以上、これ以上迂闊に手を出すわけには行かないだろう。

 

「今後は、奴らの事を調べてみるしか無いじゃろう」

 

「それしかないですね」

 

ゼロワンや人工衛星の開発に関わったとされる謎の人物や自分達が探す行方不明となっているアキ・スプリングフィールドと同一人物と目される九角秋の事と、これだけでなく九角インテリジェンスについて調べる事は事欠かない。

 

……後日、そんな九角側から麻帆良学園側に五人の生徒の入学手続きが行われて、唖然としてしまう未来が待っているのを彼らは知らなかったりする。



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番外編02 その3

「それで、調査の方は?」

 

「あんまり進んで無いね〜」

 

机に突っ伏している少女、『エルニィ立花』の言葉を聞いて内心『やっぱりな』と思う秋。

ガチャにより呼び出した彼女だが、現在は比較的多く出てきてしまった人材達の今後の事を考えると必須な研究を任せている。

 

「本当にこれってどうなってるのさ?」

 

「そりゃ、極悪マスコット共に聞いてくれ、としか言えないな」

 

その人材達は『魔法少女』。マギレコ世界の彼女達を数人召喚できてしまった。同時にデイリーガチャが引ける様になり、定期的にグリーフシードを入手できる様になったのでその点は定期的に配布できるのは安心だが、完全に彼女達の弱みを握っていると言う不健全この上ない構図である。弱みを握っている秋が改善方法を模索すると言うのも変な話だが。

 

現状、麻帆良参入メンバーの中には入っていないが、

 

「で? 彼女達が仮契約した場合の危険性は?」

 

「そっちは分かったよ……。流石に本人達に試す訳にはいかないから、正確かって聞かれたら困るけど……最悪死ぬ危険性がある」

 

「……だろうな」

 

魔法少女の魔力と魔法使いの魔力は異質な物で気と同じ様な関係にある可能性が高い。最悪、ソウルジェムに異質な魔力が流れ込み死亡する危険もある。それが分かっただけでも朗報だ。

 

グリーフシードは兎も角、力への依存性が高いドッペルの仕様も最悪の場合の手段としてしか推奨出来ないので、戦闘の危険が高い麻帆良へは誰も連れて行けない。

この世界ではグリーフシードを入手する手段は秋からしか、長時間の戦闘も文字通り命を削る危険も高い。

 

「……最悪、力を貸してもらうのは最後の手段だな」

 

「僕は兎も角、三人とも強いからあんまり必要ないからね」

 

彼女、エルニィは人機と呼ばれる巨大ロボットが存在する世界の出身で有り、彼女の戦闘力の大半はそちらに由来しているので、こっちでは科学者として活動してもらっている天才少女だ。

……その科学者としての能力は良識と一般的な感性を持った篠ノ之束。とでも呼べるかもしれないが、それは彼女の出会いが良かったのだろう。技術体系の違いでその評価が正しいのは定かではないが、彼女は天才ではあるが天災では無い。

 

「雫ちゃんにはよく頼んでるからな……」

 

『保澄 雫』。魔法少女組の一人で固有魔法は空間結合。

魔法少女の力は単純に強弱は測れない。個々の戦闘力は低い代わりに時間操作の様なトンデモ無い能力を有する者もいる。雫の空間結合もその一つだ。

場合によっては魔法球の中にも、直接魔法界にもルールを無視して移動する事も出来た彼女の力は色々と危険だ。強化されれば異世界にも移動可能なのは原作でも証明されている為、現状でも可能としても当然といえば当然だろう。

 

魔法界への移動や魔法使いの張った結界内への移動にかなり頼っている相手だ。黒羽ローブを模した正体隠蔽ローブで姿を隠して貰っている上に、移動前後の目には常に気を配っている。(帰還の為に、敢えて相手に見える様にテレポートジェムを使う様に指示しているので、魔法的な監視に対してはテレポートジェムの能力として認識する様に誘導もしている)

 

現状、彼女達を戦力として数えてはいないが、そういった感覚で全面的に頼っている身の上としてだけでなく、麻帆良側に気付かれたくないと言う理由がある。

 

そんな訳で、研究の為のソウルジェムのデータ収集に協力して貰った、魔法少女組の纏め役の『和泉 十七夜』には今回の結果は報告しておく事にする。

 

「まあ、幸いなのは君の言う変態オコジョの甘言には乗らないだろうけどね」

 

「メリットも対価もない上、下着泥棒と言うインキューベーターの完全下位互換だからな」

 

『兄貴と仮契約(パクティオー)して魔法使いの従者になってよ。メリット何にも無いけどね』なのだから、下手したらキューベーの方が良心的である。

その分、死亡率がまどマギ世界よりも低いとはいえ、命懸けなのは大差ないのだし。

 

「寧ろ、戦闘力の向上やら願い事を、一応叶えてくれる分、マシなのか?」

 

「其処は如何だろうとは思うけどね……」

 

一応願いは叶えている。その点だけはキューベーの事は評価しているが、思う所は山のようにある。

 

「……だからって、僕に魂を肉体に戻す方法を調べてくれって言われてもね……」

 

「人機にも色々と固有能力あったから行けるか? って思ったけどな……」

 

「一緒にしないで貰いたいんだけど……」

 

そして、最大の問題点は彼女達の魂がソウルジェムと言う形で外付けにされていると言う現状だ。

相手が魔法使いだけに、魔法少女という人材の存在を知られたら、ソウルジェムを奪われる危険も大きい相手なだけに其方の研究が一番重要だろう。

 

極力戦力に扱わず、雫の空間結合を移動手段として多用しているが、それでま戦闘はしない様に言ってある。

時折り、テレポートジェムを態々相手の目の前で使って帰還しているので、行きの時を見られない限りは雫の固有魔法に思い至る事は無いだろう。……魔法界からの帰還には雫の固有魔法を使う必要があるが、それはそれ、それほど多く移動する場所でも無い事も有るし、注意する必要はあるが、此方よりも危険は少ないだろう。

 

「……それと、オレとしてはエルニィも麻帆良潜入班に入るのは反対なんだけどな」

 

「まあ、僕も魔法やあっちの科学技術を知りたいからね。もしかしたら、ソウルジェムの中の魂を元に戻す方法が分かるかもしれないし」

 

エルニィ自身も魔法少女達の現状に思う所が有るのだろう。ソウルジェムの研究には精力的に進めてくれているが、現状のアプローチでは超えられない壁に当たっているのが現状だ。

科学サイドで先に進めないのならば、魔法技術の方からアプローチすると言うのは間違いでは無いだろうし、ある程度魔法と化学の融合した技術も触れることができる。

 

だが、根本的な戦闘力を人機に依存している彼女を連れて行くのは、戦闘力面で不安が残るのが現状だ。

そもそも、秋を含めて夜架に切歌と調、他の四人は個々での戦闘力を有している者を優先しての人選でも有るのだ。この中で唯一戦闘力がないに等しいのが彼女なのだから、秋としては反対したい所だが。

 

エルニィやら魔法少女組やらに対して、何処まで英雄(ナギ・スプリングフィールド)の子供疑惑のある秋の存在が魔法使い側に対する目眩しになるのかは分からないが、不安材料には事欠かないのが現状だ。

 

「オレに向かってきてくれるだけなら、それはそれで最善なんだけどな」

 

「それは無理だろうね。ゼアに対して不正にアクセスしようとしているのが二組も有るし」

 

「二組?」

 

「電子精霊を使った手口は魔法使いなんだろうけど、もう一人は」

 

「未来人か?」

 

「そうそう。僕としては彼女達の技術について知りたいからさ」

 

「あまり、こっちの情報を取られない様にな」

 

「ヒューマギアについては人工知能以外の技術だけなら、大丈夫だよね?」

 

似た様な存在(絡繰茶々丸)が居るから、ボディの方の技術までならと言う判断だ。

 

「はぁ、せめて、護身用に持って行けと言ってるんだけどな」

 

そう言って差し出すのは、秋がゼロワンドライバー入手前まで使っていたフォースライザーと、エイムズショットライザー。そして、ジャパニーズウルフゼツメライズキーとラッシングチータープログライズキー。

 

「ショットライザーとラッシングチーターの方が僕向けだとは思うけど、僕が持ってたら奪われるだけって気がするからね」

 

そう言って秋から渡されたアイテム一式を押し返すエルニィ。

下手に自分がそれを持って抵抗するよりも、大人しく捕まって秋達に助けられるのを待つ方が安全と判断したのだろう。

 

既にエルニィの熱意に負けて彼女の麻帆良潜入班への参加は決まったが、彼女の護身用の装備をどうするか頭を抱えるのだった。

取り敢えずその場では、一度彼女の戦闘訓練も兼ねてバルキリーの力を使って貰ってから判断する事で話は纏まった。




ってな訳で、新規ヒロインは人機よりエルニィ立花、マギレコより保澄雫と和泉十七夜。
なお、ヒロインになるかは不明ですが数人ほどマギレコキャラを抱えて居る状況です。


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番外編02 その4

(……取り敢えず、未来人に対する報復処置はどうするか?)

 

魔法バレを狙っている超鈴音サイドの目的を阻止することは前提である以上、現時点ではハッキング元が向こうだと知っている事を知られるのもどうかと思うのでそれがバレない範囲での報復だが。

流石に警戒され過ぎて学園祭終了後に飛ばされたら困る。別に魔法使い側がどうなろうが知った事では無いが、それが此方にも飛び火して来るのは困るのだ。

 

一応案はあるが、超包子の売り上げにでもダメージを与えるのを狙う策なのだが、そうなると使いたくない手札のカードを使う必要が出てくる。

 

(あとで胡桃ちゃんにでも相談してみるか)

 

『胡桃まなか』。魔法少女組の一人で大人も唸らせる料理の腕を持つクッキング系魔法少女。なお、専門分野は洋食。

何気に秋とは、将来的に九角インテリジェンスがスポンサーとなって彼女の店をオープンさせる約束をしている。

 

(文化祭の日とかは兎も角、普段は数量限定の弁当を、予め作った分を売り出すか? ……未来人の店の前で)

 

特製弁当の出張販売。数量限定で、許可を取るのに学園長辺りと交渉する事にはなるだろうが、未来人側へのゼアへのハッキング行為の軽い仕返しにはなるだろう。

 

(反対側で売って客足を幾分か奪うか? その後は超包子の反対側に出して客足を遠ざける、と。店員役でオレ達が護衛をして、学園祭の日には胡桃ちゃんに腕を振るってもらうか?)

 

超包子への経済攻撃の案を幾つか出しつつ、秋は九角インテリジェンス本社ビルの地下階。……表向きは存在しないことになっている魔法使いを始めとする裏の相手に対抗する為の部署、警備部零課、通称ゼロワン課の本拠地に入る。

 

「お帰りなさいませ、主様」

 

「ああ」

 

其処が衛星ゼアの本来の機能を十全に発揮できる部屋であり、表向きは存在していないことにされている魔法等の裏関連の対応を行う部署のトップでもある。

秋に夜架、切歌と調、エルニィ。そして、十七夜を纏め役とした魔法少女組と秋がガチャで集めた人員が、ゼロワン課の構成メンバーである。

メンバー全員が未成年の少年少女で構成されているのも、ゼロワン課が存在を表に見せない理由でもある。

 

秋はゼロワンドライバーとライジングホッパープログライズキーの置かれた部屋の中、その奥にある椅子に座る。

……まあ、ゼロワン課と言っても其処に普段から居るのは秋と夜架だけで、二人に次いで頻度が多いのは研究室との往復程度のエルニィだが。

 

その事を気にもせずにパソコンを起動させると部屋に現れたモニターにゼロワン課のメンバーの姿が映し出される。

 

「それじゃ、会議を始めようか」

 

議題は麻帆良潜入作戦に於けるゼロワン科のメンバーの役割分担。

十七夜以下の魔法少女達は潜入班の秋達のサポートに当たる訳だが、矢張り戦闘力の低いエルニィに関する問題点だ。

 

『私も君は自衛手段は必要だと思うぞ』

 

「だろうな」

 

「ですわね」

 

『ちょ!?』

 

十七夜の言葉に同意する秋と夜架。他のメンバーも同意見なのかうんうんと頷いている。

満場一致でお前は自衛手段を持てと言われている様な物だ。

それは仕方ないとは思うが、エルニィ自身としては、持っていたとしても寧ろ奪われる危険の方が高いと判断して、持つ事を遠慮しているのだが。

 

『そもそも、君は生身では普通の人間よりマシと言うレベルだろう』

 

「オレ達は生身でもある程度戦えるしな」

 

『うぅ……』

 

流石にそれを言われると何も反論できなくなるエルニィだった。

 

『それに、現状君の研究が私達には希望なんだ』

 

魔法少女の魂の在り方については、この場にいる全員が理解している。

ソウルジェムという形に加工され、肉体から一定距離離れると肉体をコントロール出来なくなるという事も。

とある魔法少女はその在り方をゾンビと称えていた。

秋としては、肉体と魂の在り方については合理的な考え方としても、ソウルジェムと言う形も欠点は大きいと思うが、それは今この場で議論すべき案件では無いし、それを議論すべき相手もいないだろう。

 

魔法少女達としても、ドッペルと言う非常手段こそ有れ、魔女化を防ぐ為の命の綱であるグリーフシードの供給を秋に握られている現状も、秋が信頼できる相手である事も有り受け入れてはいる者も多いが、普通の人間に戻れるならば戻りたい。

 

あまり考えたくも無いが、秋が彼女達を見捨てたら、若しくは秋からの援助が受けられなくなれば、彼女達に待っているのは、魔女化した仲間を倒しながら命を繋ぐ手段だけだ。秋自身にそんな意図は無いにしても首輪をつけられている様な状況だ。

 

そんな折に聞いたのが、エルニィの世界にある人機と言う巨大ロボの事だ。

特にそれらの機体の中に希少だが存在する、魔法少女の固有魔法にも匹敵する特殊な力ハイアルファー。その中には精神、魂と言った物にまで干渉する力も有ると聞いた。

 

秋と十七夜は、人機の特殊能力であるハイアルファーと人機の開発能力のあるエルニィならば、もしかしたらソウルジェムから魔法少女の魂を元の肉体に戻せるのでは、と考えている。事実上魂に干渉出来るハイアルファーを持った人機が有れば良いと考えるべきだが。

それは秋も同じで、魔法少女達を助けられるのならばと、彼からエルニィには研究の依頼をしているのだ。

 

問題点はかなり有る。開発に成功したとしても、それを扱える者が居なければ意味は無いだろうが、それでも確かに魔法少女の運命から逃れる可能性が有った。

 

『分かったよ』

 

そこまで言われると折れるしか無かった。大丈夫かなと思いながらも、バルキリー用の装備の一式を受け取ることとなったエルニィだった。

 

「それでは、次の議題だが、麻帆良への潜入の際の目的だ」

 

飽くまで自分達は九角インテリジェンス、引いては自分達『日本呪術連合』のメンバーとしての活動となる事を告げる。

 

主要メンバーは確定している秋、夜架、切歌、調の四人と本人の希望による参加となったエルニィ。

 

目的はそこに修行の為に送られるであろう、ネギ=スプリングフィールドについての調査と、内情の調査。

 

アキ=スプリングフィールドだと言われても知らないと通すのみだし、直接的なホットラインのない組織に属しているのだから、連絡など来るわけもない。

そもそも、関西呪術協会(と言うよりも、近衛詠春)とも折り合いが悪い関東の小規模組織の集合体である以上、他所の組織の命令など聞く必要はない。

 

(もう既に情も湧かない相手とは言っても、身内が引き起こす事を考えると頭が痛いな……)

 

取り敢えず、未来の子孫の魔法バレは全力全開で阻止すると心に誓う秋であった。……巨大ロボを持ち出しても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某所……

 

「彼らが来年度から入学すると言う九角からの関係者かのぉ……」

 

ぬらりひょん……もとい学園長こと近衛近右衛門は五人の少年少女の資料に目を落としていた。

九角インテリジェンスの関係者となる四人の少女と、秋の資料だ。

 

既に後にネギの担当する事になるクラスのメンバーは決まっているので、人数の都合とでも誤魔化せるのは二人が限界だろう。四人全員となると、流石に一クラス一人入れれば良いと言う事になってしまう。魔法でも教室のサイズという問題は校舎自体を大きくする必要があるので無理だ。

なので、そのうちの二人を裏の関係者、あるいは関係者の身内や一般人で有りながら特に才のある物達を集めたクラスへと入れて、残りの二人は別々のクラスへと配置する事を決める。

 

最後に残ったのはアキ=スプリングフィールドと同一人物と目されている九角秋の扱いだ。

 

彼がアキ=スプリングフィールドと同一人物かどうやって調べるか、だ。理想を言えば血液サンプルでも入手出来れば、とも思うが根本的に、今回の五人の他組織からの留学生と言うべき者達の受け入れが初の交流なのだから、変に探りも入れられない。

 

衛星ゼアやゼロワンを含め、裏の魔術的な組織でありながら魔法の域に匹敵する科学技術に加え、昨今では海外の反MM組織とも繋がりがで始めた者達なのだ、迂闊に強引な手段には出られない。

 

強引な手段に出ようとする魔法関係者を宥めつつ、上手く彼らを取り込む為の算段を学園長は思案するのだった。



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閑話46.5話

「絶対に魔王から直接私達の会談への参加を呼びかけられるわね」

 

「だろうな。コカビエルを倒したのはオレ達とヴァーリだからな」

 

要するに、結果的にコカビエル以上の戦力が育っている事と、飽くまでコカビエル1人の暴走だと対外的にアピールできた堕天使側に対して、同じく二天龍の神器を宿した者を有していながら碌に育てていないと思われてしまっている悪魔側という構図になってしまっている。

 

悪魔側の一般市民には流石にそんな事は教えられないので二天龍の神器を宿した2人が協力してコカビエルを倒したのはと言う形にしておく事にしたのだろうが、完全に手柄を根こそぎ奪われた形の四季達としては面白くない。

 

「まあ、見事に聖書勢力の三派閥からは目をつけられてるからな」

 

初めは雫の癒しの力だけだったのだろうが、結果的に4人全員が悪魔側からは目を付けられ、現状は堕天使側からも目を付けられている。

まだコンタクトは無いが天使側からも勧誘を受ける可能性は高い。エクスカリバーを二本も持っているのだし。

 

結果的にコカビエルの暴走を止められなかった責任はあるが力を見せた堕天使、まだ悪魔側の勢力下への戦力の派遣のために言い訳のしようがある天使と違い、現魔王2人の妹と赤龍帝と言う強いネームバリューを持った者が居ながら然程大きな活躍の出来なかった悪魔側としては他の二派閥への面目が潰れている現状だ。

 

付け加えるならば、相手が相手のため無理も無いが結界の維持という裏方の役目に徹したソーナ達よりもオフェンスという華のある役割についたリアス達の方がマイナス評価は強い。

 

ぶっちゃけ、四季達としても強敵相手との戦いを経験していたクリスの存在のお陰で助かった面も大きい。

 

「……今更ながら、天界に渡しても不味い技術や品物も増えてきたよな」

 

主にシンフォギアとかである。

そもそも、聖剣計画のデータを使って聖剣使いを量産しているのだから、下手にカケラから相応の武具を作れるなどと言うことが知られたらどうなる事か。

 

「まあ、今は戦力増強を考えた方が良いな、これも有るし」

 

そう言って四季が取り出したのはガチャチケット。例によってコカビエル戦の最大の報酬で有る。

 

そんか四季達4人がいるのは地下のガチャ装置のある部屋の中。テーブルとソファーを持ち込んで簡単な作戦室とした場所である。

 

ガチャを始めてみるクリスも興味深そうに見ている。

 

「それじゃあ、早速」

 

チケットを装置に装填し中からカプセルが飛び出してくる。

 

テーブルの上に転がる10個のカプセル。危険な物も有るかもしれないので直ぐには開けないでカプセルの中を確認する。

 

 

 

『仮面ライダー龍騎のDVD-BOX(劇場版、TVSP込み)』

 

 

 

「おい!?」

 

何故これが出るのかと全力でツッコミを入れてしまった。

確かにこの世界では仮面ライダーは存在していないために貴重だが、

 

「……こんなのも出るのね」

 

「意外過ぎて言葉も出ない」

 

内心、後で観ようと思いながらDVD-BOXを確保しておく四季であった。

 

気を取り直して二つ目のカプセルを手に取りその中身を確認する。

 

 

 

『仮面ライダードラゴンナイト DVD-BOX』

 

 

 

「二つ目もこれか!?」

 

二つ目のカプセルの中身もまたも特撮のDVDだった。

安全この上ないが、この世界には存在していないが、それでも戦力にはならない完全な娯楽品だ。

無言のままでそっちも後でゆっくり観ようと確保しておく四季であった。

 

そして三つ目のカプセルを確認してみると、禍々しいまでの真っ赤な物体。

 

 

 

『泰山麻婆』

 

 

 

三つ目は食料品だが危険物だった。fate中では辛味を脳が認識できないとか、食べたら味覚が死ぬとか色々言われている、通称外道麻婆。無言でカプセルに入ったまま隔離しておく。

 

はっきり言って見ているだけで口の中が辛くなって、眼が痛くなってくる。

 

「これは厳重封印だな」

 

「敵に投げつけるって言うのは如何かしら?」

 

「それ以前にこれって本当に食べ物なのかよ?」

 

「これを食べれる人っているの?」

 

「居る」

 

最早投擲武器としか言えない食品の処分に困りながら、三つが期待外れな品物だったのに頭を抱え四つ目を手に取る。

 

 

『キバライドウォッチ』

 

 

4つ目にしてやっと当たりが引けた。

仮面ライダーキバの(歴史)を宿したライドウォッチ。以前別の形で作り出された龍騎ライドウォッチと合わせて二つ目となるライドウォッチだ。

 

「これは……一応は当たりか」

 

ライドウォッチという形とは言え仮面ライダーの力なのだから当たりだろう。

 

そして、五つ目のカプセルを手に取ると、

 

 

 

『まるごしシンジ君』

 

 

 

なんともコメントに困る品が出て来てしまった。

 

「なんだよ、コレ?」

 

「料理処理用のフリーソフト」

 

目の前の物体に無言になってしまう4人だった。

取り敢えず、投擲武器として使わない場合の麻婆の処分先が確定した。

 

 

 

『エリクサー』

 

 

 

次に開けたカプセルの中身は回復アイテム。そして、残り三つのカプセルの中で一際目を惹く、虹色に中身が輝いているカプセルを手に取った。

 

「っ!?」

 

中身の輝きで確認ができないので、こればかりは開けるしかないと覚悟を決めてカプセルを開けると、中から虹色の光が零れ、四季の手の中にそれが現れる。

 

「これは……」

 

手の中に現れたマゼンダカラーのそれには見覚えがある品物だった。

 

「ディケイ……ドライバー? しかも、ネオの方」

 

 

 

『ネオディケイドライバー』

 

 

 

ジオウに登場する平成20ライダー対応型の新型のディケイドライバーだ。

強力な力ではあるが大きな問題がある。

 

「変身用のカードとか無いんだな?」

 

そう、飽くまで本体だけだったのだ。

武器であるライドブッカーだけでなく変身用のカードの一枚も存在しない。ネオディケイドライバー本体オンリーである。

もっとも、龍騎ライドウォッチやキバライドウォッチからカードは作れるかもしれないが。

 

「残念ながらこれも暫くはお蔵入りだな」

 

「これは、残念だったわね」

 

「ああ」

 

詩乃の言葉にそう返す。

強力なディケイドの力だが武器もカードもなければ意味がない。ディケイド以前の平成ライダーのものならばベルト単独で変身できるのだが。

主にカードやライドブッカー入手できるまでお蔵入りである。

 

虹色の輝きから恐らく通常よりも出る可能性が低かった事を推測出来るだけに残念であった。

 

残りのカプセルは二つ。その中の一つを手に取る。カプセルの中にあるのは一枚のカード。

 

「っ!?」

 

四季は迷わずカプセルを開け手の中に現れたそのカードに言葉を失ってしまう。

 

「カード?」

 

「そのカードがどうかしたの?」

 

「……オニキスの強化アイテム」

 

ドラゴンナイト使用のサバイブのカード(烈火)。続編の小説ではウイングナイトのカードと合わせて使用したオーバーサバイブ等と言う形態も披露している。

 

 

 

『サバイブ(ドラゴンナイト)』

 

 

 

当然ながらそのカードはオニキスのデッキに収まる。

 

「9個目でやっと戦力の強化だぁー!」

 

「おぉー」

 

「良かったわね、四季」

 

「全部単体じゃ使えなかったり、役に立たなかったりするモンばっかりだったからな」

 

最初から使ってるのに未だに危険なハザード以外の強化が出来ないビルドのシステムは哀れであるが、怪盗姿での活動用の為に強化が後回しでも問題ない。

 

そして、最後のカプセルを手に取ると、疑問を浮かべる。

 

「これは……?」

 

外見からは分からない。詩乃に手渡してみるが分からないと言う表情を浮かべている。次に渡された雫も同様の態度だ。だが、最後に渡されたクリスの表情が変わる。

 

「コイツは……」

 

「先輩、もしかしてそれって……聖遺物、ですか?」

 

「ああ、コイツは『ネフシュタンの権杖』だ」

 

クリスにとって縁の深い聖遺物の1つであると同時に大きな力となった聖遺物でもある。

 

「なら、それの管理は先輩に任せていいか?」

 

「良いのか?」

 

「ああ」

 

デュオレリックの力を何時でも使えると言うのは大きいだろう。彼女の在り方を考えると直ぐに使えるかは疑問だが。

 

幸いにも扱う上で危険な物は無かったので手に入れた物は麻婆と権杖以外カプセルから出しておく。

カプセルから出さなければ聖遺物でも管理はしやすいので必要になる時以外はカプセルのまま管理して貰うという事でクリスに預けておいた。



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四十七話目

「何、この状況は?」

 

放課後、軽音部の部室からの帰り道で詩乃が校庭の光景を見て呟く。

 

数珠繋ぎのニンニクを持った子猫に追いかけられている金髪の少女という構図。

 

「いや、あれは女っぽいけど男だな」

 

そう言って四季は喉を指差す。

 

「微かだけど身体的特徴が男の物だな、彼は」

 

「え!? 一発で男って見抜いたのか、天地!?」

 

四季の呟きに反応したのは花壇の手入れの帰りにイッセー達と会っていた匙だった。

 

「ん、匙か?」

 

「どう見ても詐欺だよな」

 

「何というかグレモリー先輩の眷属って能力と素質は有っても変わり者が多いよな」

 

変態のイッセーを筆頭にドSの朱乃に女装癖の男の娘と。比較的まとも寄りの木場と子猫も精神面での問題を抱えている。いや、初期のイッセーの前からいるグレモリー眷属は全員精神面に問題はあるので今更だろう。

 

「それにしても、なんであんな事を」

 

「聞いた話だけどな……」

 

匙から金髪の女装少年の話を聞くと思わず頭を抱える。

 

「そりゃ、体を鍛えるよりもアレは先ず精神面のケア問題だろう。間違い無く逆効果だぞ、あれは」

 

体を鍛えて精神追い詰めてどうする。そんな呆れを込めて呟く。

 

「……天地先輩には何か考えがあるんですか?」

 

何時の間にやら休憩にでも入ったのだろう子猫が四季にそう問いかけて来た。見たことの無い人との遭遇に怯えて、匙から教えられた女装少年『ギャスパー・ヴラディ』が木の影に隠れながら此方を伺っている。

 

「考えも何も、精神面の問題なら体を鍛えるよりも先にカウンセリングを受けさせるのが先だろう」

 

もっとも、あの怯えようでは普通の方法では種族関係無く受けさせるのも手間だろう。

そう、普通の方法では、だ。

 

幸いにも四季には普通では無い方法で彼と似た境遇の者と合わせる方法がある。

……態々それをやってやる義理も無いが。

 

「うぐっ……。う、うるせー、お前の指図なんて受けるかよ!」

 

まあ、そんな四季に真っ先に噛み付いてくるのもイッセーだが。四季の言い分も最もだと思ってしまったのだろう、言葉の節々に動揺が見える。

 

「ああ、指図する気も無いし手伝う気も無いから、そっちの身内の問題は好きにしてくれ」

 

「……あの、天地先輩、何か方法が有るならアドバイスだけでも頂けませんか?」

 

だが、イッセーとは違い四季への反発心が無かった子猫は方法が有るなら教えて欲しかった様だ。

 

どっちにしても目の前でそれを使ったとしても簡単にバレる事は無いだろうから見せてもそれはそれで構わない。

……ナイトローグ達から狙われるかもしれないが、それは今更だ。

 

 

「へぇ、悪魔さん方はここで集まってお遊戯しているわけか」

 

 

そんな時、新たな声が響いて来た。校門のところに居たのは何時か会った男、アザゼルだ。

 

「よー、赤龍帝、龍の魔術師、あの夜以来だな」

 

「ッ!!! アザゼル……ッ!?」

 

その男の顔を見た瞬間、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を出現させ臨戦態勢に移るイッセー。同時に子猫と匙も前へ出て臨戦態勢をとる。後ろに立つのは回復役のアーシア。

 

「ひょ、兵藤、アザゼルって……?」

 

「マジだよ。オレはこいつと何度か会ってる」

 

匙が震える声でイッセーへと問いかける。まさか堕天使のボスとこんな所で遭遇するなど思っても見なかったのだろう、信じられないという言葉をイッセーが否定する。

 

「ほら、後ろの連中を見習って構えを解きな。下級悪魔イジメをする気はねえ」

 

そんなイッセー達の戦意も意に介して居ないと言うのがまるわかりな態度で忠告するアザゼル。

その言葉が物語っている。コカビエル相手に手も足も出なかったお前達などオレの敵じゃ無い、と。

そんな言葉に苛立ちを覚えるが、アザゼルの言葉に引っかかる物を感じた。

 

(後ろの連中?)

 

後ろを見てみるとアーシアよりも後ろに下がってイッセー達を眺めている四季と詩乃の姿があった。

 

「天地、おまえ何やってんだよ!?」

 

「いや、アザゼルに戦意は無かったしな」

 

戦う気がないならそれで良いとばかりに悪魔と堕天使の関係には興味なかった四季は我関せずを貫き、詩乃もその四季の判断に従った訳だ。

 

「そういうこった。それより、聖魔剣使いは何処だ? ちょっと見に来たんだが」

 

「木場はいない! 木場を狙ってるならそうはさせない!」

 

「ここに居ないなら部室とかじゃないのか?」

 

「天地、お前!」

 

アザゼルの言葉に敵意をむき出しにするイッセーだが、そんな、イッセーの態度を他所に四季は木場がいるであろう場所を態々推測ではあるが教える。

 

「態々堕天使のボスが直々に悪魔への宣戦布告みたいな事をするくらいならコカビエルを止めはしないだろ?」

 

要するに珍しい禁手に至った神器を見たいだけだろうと考えて、さっさと用件を済ませてお帰り願いたかったわけだ。

 

「……ったく、そっちの龍の魔術師ならともかく、コカビエルにも勝てなかったくせにオレと勝負できるわけねえだろ」

 

そんな呆れの篭った声でイッセーに告げると、

 

「そうか、聖魔剣使いは居ないのか。つまんねえな」

 

興味のあった亜種の禁手の持ち主がいない事を知り残念そうに呟くと木の陰に隠れて此方を伺っているギャスパーの姿に気付く。

 

「おい、そこのヴァンパイア」

 

「ヒッ!」

 

「『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』の持ち主だろう? 五感から発動する神器(セイクリッド・ギア)は持ち主のキャパシティが足りないと暴走することがあり危険な代物だ。不足している要素を補助具で補えば良いと思うが……悪魔側は神器(セイクリッド・ギア)の研究が進んで居なかったな」

 

そこまで言うとアザゼルはどうしたものかと思って考えると今度は匙を、正確には彼の腕の神器(セイクリッド・ギア)を視界に入れる。

 

「そっちのお前、それ『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』だろ? それ使って練習してみろ。あいつに接続して神器の余分なパワーを吸い取りつつ発動すれば暴走も少なく済むだろう?」

 

「なるほど、強力過ぎる神器の力を吸収することで抑制して特定の物を止める練習をさせるわけか。同時に匙の訓練にもなりそうだな」

 

「おっ、分かるか、龍の魔術師」

 

アザゼルの言葉の意味を理解した四季の呟きに嬉しそうに反応するアザゼル。

 

「……オレの神器、相手の神器の力も吸えるのか?」

 

「ったく、これだから最近の神器所有者は……。自分の力を碌に知ろうとしない」

 

「匙、武器の基本的な使い方と応用方法を探すのは強くなる基本だぞ」

 

「ぐぅ」

 

アザゼルの言葉に同意する四季に落ち込んだような顔を見せる匙。以前に自分を襲ったナイトローグにさえ自分の神器の応用的な使い方を解説された事を思い出してしまったのだ。

 

その後、匙の神器の事を研究者のアザゼルから解説される。今まで知らなかった事に何気に高揚感を覚える匙だった。

 

「吸収なんて力を除いても丈夫なワイヤーとしても使えるから、そっちの使い方も調べた方が良いんじゃないのか」

 

続いて四季がそう提案する。

 

「建物の中なら天井を伝って自在に動けるだろうし足場の悪いところでもうまく使えば自在に動けるようになるだろう」

 

「いや、そんな事を言われてもワイヤーの使い方なんて分かんねえよ」

 

「まあ、ワイヤーじゃなくて鞭みたいな武器と考えれば良い。それに」

 

匙の言葉に笑みを浮かべながら懐からそれを取り出す。

 

「ある偉い人は言っていた。映画はなんでも教えてくれる、とな」

 

『スパイダーマン』とあるDVDを匙に渡す。

……後日レーディングゲームで未熟ながらスパイダーマンを思わせる動きで襲いかかる匙の姿が見られるのだった。

 

「その吸血鬼に赤龍帝を宿した者の血を飲ませるのが能力をあげるのに一番手っ取り早いんだが、まあ後は自分達でやってみろや。精神面は……龍の魔術師に方法があるって言うなら間違い無く任せた方が良いぜ」

 

神器は持ち主の思いによって左右される。力を恐れる乱れた心のままでは暴走の危険は何時までもなく無くならない。そう告げる。

 

「そうそう、ウチの白龍皇が勝手に接触して悪かったな。あいつは変わったやつだが今すぐおっ始めようと思っちゃいないさ」

 

思い出したようにヴァーリの行動を笑いながら謝るアザゼル。

 

「まあ、宿敵との差が天と地ほどにあるからな。もう少し強くならないと向こうにも戦う価値も無いだろう」

 

「うるせーよ、天地! 大体、あんたも人のこと言えないだろう! それは悪いと思わないのか!?」

 

「思わねえよ。これはオレの趣味だ」

 

イッセーの言葉に表情1つ変えず、悪びれた様子もなくそう告げてアザゼルは立ち去っていく。

 

「さて、オレ達も帰るか」

 

「待ってくれ!」

 

「ん?」

 

アザゼルも帰った事なので帰ろうと思った時イッセーが四季を呼び止める。

 

「…………さっきは悪かった。頼む、力を貸してくれ」

 

イッセーがそう言って頭を下げてくる。

 

「あ、あの、是非お願いします!」

 

「……私からもお願いします、天地先輩」

 

続いてそう頼んでくるアーシアと子猫の二人。

 

「……契約の事が有るのは分かってます。だけど、何か方法があるなら、対価はお支払いしますから、お願いします」

 

そう言って頼んでくる子猫の姿に四季は詩乃へと視線を向ける。

 

「何とかしてあげられない?」

 

詩乃からもギャスパーへの対応を頼まれてしまった。ギャスパーの姿は詩乃にとっても何処か他人事には思えなかったのだろう。

 

「はぁ、仕方ない。即効性がある訳じゃないし、効くかはわからないのは理解しておいてくれ」

 

流石に子猫にそこまで頼まれては無下にはしにくいし、詩乃にまで頼まれたのでは断れない。

 

「ヒッ!」

 

四季の視線が向くと怯えて木の影に隠れてしまう。

 

「何もしないし、すぐに済むから安心してくれ」

 

そう言ってポケットの中からキバライドウォッチを取り出し怯えているギャスパーにそれを渡す。

 

「それのスイッチを押せばそれで終わりだ」

 

「は、はいいいいいぃ!」

 

四季から受け取ったライドウォッチを受け取りそのスイッチを押す。

 

 

 

 

『キバ!』

 

 

 

 

「あう!」

 

そのまま倒れ伏してしまうギャスパー。その手からはキバライドウォッチが落ちる。

 

「ギャスパー! おい、お前、何をしたんだよ!」

 

「上手くいかなくてもすぐに目を覚ますから安心しろ」

 

そう、四季が考えたのは同じ境遇だった者に相談に乗せる事だ。

仮面ライダーキバ、紅渡。彼ならば適任だろう。

キバライドウォッチの中に歴史と共に存在しているであろう彼ならばギャスパーのカウンセリングにはもってこいだろう。

 

 

意識を失っていたのは一瞬でも十分に会合はできた事だろう。あとは目を覚ました後のギャスパー次第だと考えてキバライドウォッチを回収すると詩乃と共にその場から立ち去っていく。



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四十八話目

小猫から聞いた話ではキバライドウォッチを使ったカウンセリングは効果は出たそうだった。

他にも色々と会った様子だが、目だけ開いた紙袋を被った変質者そのままの姿を気に入ったのはどうかと思う。

 

そんな事のあった週の休日、四季は神社に呼び出されて居た。

 

「また面倒な事に」

 

どうも、サーゼクスは他の勢力に四季達との契約の事は知らせていないのだろう。今回は天使側からの呼び出しである。

まあ、聖書勢力と四季達は呼んでいるが、彼らは自らの事を三大勢力と呼んでいる。つい最近まで戦争していた者達同士にそんな頻繁に連絡取り合える手段があるとは思えないので仕方ないといえば仕方ないが。

 

内心溜息を吐きながら神社の石段を登っていくと、鳥居の所に二人の人影が見えた。イッセーと朱乃の二人だ。

 

「ゲッ、なんでお前が居るんだよ、天地」

 

「それはこっちの台詞だ」

 

「ええ、実はここでお出迎えしなければならない方が是非天地くんと会いたいと仰ってまして」

 

「オレもその人に呼ばれたわけだ。文句だったらそっちに言ってくれ」

 

イッセーの言葉を切り捨てて新たに現れた気配へと視線を向ける。

 

「それで、なんでオレを呼んだのか聞かせて貰えますか?」

 

四季の視線の先にいるのは天使の翼を背負った金色の鎧を着た男。

 

「初めまして、赤龍帝、兵藤一誠くんと、龍の魔術師天地四季くん。私はミカエル、天使の長をしております」

 

四季の言葉に答えるように柔らかく微笑みながら挨拶を告げたのはミカエル。天界のトップである。

 

「なるほど、このオーラの質は正しくドライグの物。懐かしい限りです」

 

(お迎えって……天使の長を!? チョー大物じゃないですか……ッ!?)

 

一勢力のトップの登場に内心で驚きの声を上げるイッセー。そんな彼を他所に内心悪魔側の契約の穴を探るような行動に心の中で溜息を吐く。

 

(大体想像できるけど、何でオレまで呼ばれたんだ?)

 

そう、大体想像できるが何故自分が呼ばれたのか考えて頭を抱えてしまう四季だった。

 

先ずはイッセーへの用事を済ませようと神社の一室に案内される。

 

「先ずは貴方にこれを授けようと思いましてね」

 

「こ、このオーラは……聖剣!?」

 

その部屋の中央に浮かぶのは一振りの剣。その剣の放つオーラは四季のエクスカリバーには劣るがまさしく聖剣の物。

 

「これはゲオルギウス、聖ジョージの持っていた龍殺しの聖剣(ドラゴンスレイヤー)『アスカロン』です」

 

龍殺しの聖剣なんて、ドラゴンの神器を宿した転生悪魔のイッセーには毒以外の何者でもないのではとは思ったが……

 

「特殊儀礼を施しているので、悪魔の貴方でもドラゴンの力が有れば扱えるはずです」

 

一応その辺のことは考えてある様子だった。

白龍皇との因縁を考えると龍殺しの聖剣は良い武器になるだろう。問題は剣を扱ったことも無いイッセーが使えるかどうかだが……

 

「貴方が持つというよりは赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)に同化させると言った感じでしょうか?」

 

「そんなことが可能なんですか……?」

 

『神器は思いに応える。お前が望めば出来るだろう』

 

ミカエルの言葉をドライグが肯定する。

其方も問題はなかった様子だ。籠手と一体化していれば剣として使わなくてもタダ殴るだけでも聖のオーラや龍殺しの力を宿した攻撃ぐ可能になるだろう。

特に全身鎧になる禁手まで使えば全ての攻撃が龍殺しの効果を得る可能性もある。

 

(ドラゴンに龍殺しの武器って……何処のウォーグレイモンだ?)

 

そんな感想を持ってしまう四季であった。

 

「そんな貴重な物を何で手間をかけてまでコイツに?」

 

「私は今度の会談は三大勢力が手を取り合う大きな機会だと思うのです。我らは創造主の神を、悪魔は旧魔王達を先の戦争で失い、堕天使も大きな犠牲を払いました。アザゼルもまた戦争は起こしたく無いと建前では口にしています。これは好機なのですよ」

 

ミカエルの言葉は、そこだけ聞けば寧ろ堕天使が被害が少ない様にしか聞こえない。残酷な言い方だが、質はともかく数は時間があれば回復できる。

それに対して代わりのいない勢力の大きな支柱を天使と悪魔は失っているのだ。

いや、サーゼクスやセラフォルーと言った次世代の育っていたことを考えると悪魔の被害も天使ほど大きくなかった可能性だってあるのだ。

 

そして、堕天使の幹部の一人の暴走とそれを止められなかったアザゼルの失態。表向きはコカビエルの暴走を三大勢力の者が協力して止めたという事になっている今回の事件。

今回の会談を機に終戦の落とし所を模索しようという事なのだろう。

 

「つまり、正式に三大勢力から聖書勢力になる、と?」

 

「ええ、それが出来れば理想ですね。このまま小規模な争いが断続的に続けば何れ滅ぶ。ましてや、他の勢力の懸念も有りますし」

 

(他の勢力、ね)

 

ミカエルの語る他の勢力と言う言葉に納得する。ナイトローグ達がそれを名乗って既に活動しているが、禍の団の存在は天界側も掴んでいるのだろう。

 

「この聖剣は天使側から悪魔側への贈り物です。勿論堕天使側にも贈りました。悪魔側からも聖魔剣を十数本頂きましたしね」

 

珍しい聖と魔の力を宿した剣だが、敵に使われた挙句四季の異世界のエクスカリバーにアッサリと切り捨てられた品なのだが、十数本になれば価値的にも釣り合うのだろう。

 

「そうそう、分からないって顔してるから教えてやる。本来、聖書以外にも神話勢力は存在していて……お前のドライグもエクスカリバーも聖書とは関係無いドラゴンと聖剣だぞ」

 

アーサー王がキリスト教徒だったかどうかは別にしても別神話の勢力下のドラゴンと聖剣である。

 

「付け加えるなら、白龍皇、ヴァーリの言っていたトップ10にランクインするほどの猛者がいるのがインド神話だな」

 

「????」

 

その強さランキングのトップ10の強さが想像ができないのだろう、イッセーは?マークを浮かべている。

文字通り次元の違う強さの上位の2つのムゲンだけでなく、文字通りなったばかりの転生悪魔のイッセーとは次元の違う力を持つ存在の強さは想像出来ないという事だろう。

 

「過去我々と敵対した『赤い龍』が悪魔になった事を知りましてね。ご挨拶と共に悪魔側への私達からのプレゼントの1つとして、あなたにこの剣をお渡しするのです。あなたはこれから龍王クラスのドラゴンや『白い龍』に狙われるでしょう」

 

そう、既に二天の龍の片割れを宿したイッセーを殺す事は相応の価値が出てしまっている。

単純に危険だから、赤龍帝を殺して名を上げるため、そしてその力の引き寄せる因縁。

少なくとも荒事のタネは尽きない。

 

「歴代の中で人間に負けた『最も弱い宿主』と噂の貴方にとって良い補助武器になると思いまして」

 

にこやかに精神に突き刺さる事を言ってくれる天使の長でした。しかも、本人には一切の悪意がなかったから余計に精神に突き刺さる。

 

(最弱でごめんなさい! これでも努力してるんですけどね……。ってか、天地!? 爆笑してんじゃねえよ!?)

 

悪意の一切ないミカエルの言葉に心底落ち込んでいるイッセーの姿と、悪意の一切ない言葉に爆笑している四季であった。

 

三大勢力はかつて二天龍との戦いにおいて一度だけ力を合わせ戦った事があり、今度はその二天龍の片割れの神器を宿したイッセーに、その時の様に再び手を取り合える様にと願を掛けたのだと語る。

 

そして、アスカロンに籠手で触れるとイッセーの籠手とアスカロンは一体化して無事合体した様だ。

 

「上手くいった様ですね。それでは、次は貴方への用事なのですが……」

 

それを確認するとミカエルは四季へと向き直る。

 

「貴方の持っている異世界のエクスカリバーを我々に譲って頂けませんか?」

 

「それなら二本とも要件が済んだみたいで引き取りに来ましたよ」

 

ミカエルのその言葉に即座に予め用意していた嘘を返す。

流石に異世界の事など知りようがないだろうし、確かめる方法などないだろう。

 

「そうですか。それでは仕方ないですね」

 

その嘘を信じたかは分からないが、ミカエルはそう言って諦める。

2振りのエクスカリバー。それも、特別に強力であろう型月世界の物なのだから、欲したとしても無理はない。

 

「それではもう一つ……君達の勧誘だったんですが」

 

「お断りします」

 

即座にそう返す。天界の勢力に入った所で利益もないのだ。

 

「もう少し考えてくれても、良いと思うんですけどね?」

 

そんな四季の言葉に苦笑しながらそう返すミカエル。

 

「ですが、君達の力は無視出来ないほどの物である事は覚えておいて下さい。その力は何処の勢力も欲する筈です」

 

「それについては自覚しています」

 

「貴方達自身の力だけでなく、貴方達の持っている武具に使われている技術についても」

 

「……」

 

「特に教会の技術者達はクリスさんでしたか? 彼女の武器に興味を持っています。同じカケラを使った武器と言うのに、此方の聖剣を遥かに超える強力な武器に仕上がっているのですから」

 

「いや、それについては開発者にコンタクトを取ってくれ」

 

そう言って『フィーネ』の名を告げておく。どっちにしてもこの世界にいない奴の名前を教えた所で問題はないだろう。

 

それでも、クリスのイチイバルの技術を研究したいと考える者は多いそうだ。カケラからでも強力な武器が作れるのならば、大量生産も容易いのではと。

 

この世界でシンフォギアを再現出来るかは心底疑問だし、何より適合者の問題は出てくる。敢えて教える筋合いも無いが。

 

それだけ言ってミカエルは立ち去っていく。そんなミカエルにイッセーは何か言いたいことがある様子だったが、会談の時に聴くと言って立ち去って行った。

 



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四十九話目

「「「「はぁ……」」」」

 

軽音部の部室。その場で四季達四人が揃って溜息を吐く。分かってはいたが、見事に三勢力から目をつけられていると言う現実は分かっていたが、改めて見ると鬱陶しいものがある。

 

「それでどうするのよ、四季?」

 

「どうしたも何も……こっちの技術を渡すなんてのは論外だな」

 

実際、あのフルボトルもそれが目的で渡された可能性もある。

現在はクローズマグマナックルの設計も終わっているので、後は作るだけなのだが、それが有るので制作には当たらないのが現状だ。

四季としては新規に作る気は無いがシンフォギアの事も整備の為に材料さえ揃えば新造できる程度には理解している。

 

道具の利点は簡単に扱えて代わりはいくらでもある事だが、強力な代わりに簡単に扱えず扱える者も限られ、基本ワンオフなライダーシステムとシンフォギア。渡した所で新造できるとは思えないが警戒はしておくべきだろう。

 

そもそも、魔王達ならまだしも、それより立場が低いはずなのに実権を握っている無駄にプライドの高い老人達の存在も面倒極まりない。

 

聖剣計画と言う悪い前例を鑑みれば天界に渡すなど論外である。一歩間違えてこちらの世界でメタルビルド擬の量産などされてしまったら、本当に仮面ライダービルドの世界に行って桐生戦兎に土下座で謝りたい。

更に天界にシンフォギア等もっと拙い。最悪の場合は立花響の様な聖遺物を移植された人間が大量に生まれる危険もある。

 

堕天使は技術者気質な分アザゼルとは気が合いそうだが、ワキが甘い点を考えると傘下に入るのは考えた方がいい。そこから技術が流れたら拙い。

 

「当面、聖書勢力との距離感は現状のままって言うのが今後の活動方針だけど、異論は?」

 

四季の言葉に全員から無言の返事が返ってくる。それが肯定の意思で有ることは間違いない。

 

内心、授業参観の序でに公務の下見をするなと言いたくなるが、極秘に動くためならばそれも十分に納得できる。

……特に魔王の中でも妹命(シスコン)と名高いサーゼクスとセラフォルーならば公務ほっぽり出して妹の授業参観に参加したとしてもテロリストさえ納得するレベルだろう。

 

笑えない話だが、今回の動きを考えると極秘裏に三大勢力の和平交渉を行うならば内政と外交の担当という事も合わせて良い人材だろう。

 

(そこまで考えての行動なのか?)

 

迷惑な話ではあるが、中立の人間界を会談の場に選ぶのも間違いでは無い。……と言うよりも敵地に呼び出されて出向く馬鹿は居ない。側から見ればどう考えても呼んだ側が上の立場に見える。

 

そんな訳で四季の意見としては私情を抜きにしても租借地だろうが人間界を選ぶのは中立地帯を選ぶと言う意味でも間違ってない。

 

「別に和平については勝手に話し合ってくれって感じだからオレ達は不干渉って行きたいところだけどな……」

 

「目は付けられてるわね、私達」

 

詩乃の言葉は全員同意見なのだろう、四人揃って溜息を吐く。

 

現状、全員が全員三大勢力に目を付けられてしまっている。純粋な戦闘力だけで無く、雫の癒しの力にクリスのシンフォギアと狙われる理由は事欠かない。四季の黄竜の器の力が知られて居ないのは幸いと言っていいだろう。

 

単独でコカビエルと戦えるだけの戦力を持った者達がフリーで居るのだ。三大勢力としては無視出来る訳がない。

 

「実際、和平の後は何処の勢力がオレ達を取り込むかを話し合いそうだけどな」

 

「それもありえそうだな」

 

四季の言葉に同意するのはクリス。後ろ楯の無いと言うのが四季達の弱点とも言える。

 

特にテロ組織の存在も考えれば、四季達の戦力がテロ組織に渡る前に自分達の味方に取り込みたいと考えるのも頷けるだろう。……納得する気は無いが。

 

「まあ、和平も問題なく結ばれるだろうし、それはそれで問題だな」

 

どう考えても天使も悪魔も堕天使も、互いの敵対勢力に対して憎悪は残って居るのだ。憎悪の残る戦争を知る世代すら生きて居る現状で和平は無い。

特に天使の派閥はエクソシストという形で対悪魔・堕天使の兵隊を生産して居るのに、今更『これからは仲良くするから悪魔を討っちゃいけません』と言われて、『はい、分かりました』とは行かないだろう。

今まで仲間を殺されたりした者達、家族を悪魔や堕天使に殺されてエクソシストとなった者達。そんな者達はほぼ間違いなくそんな命令出されたら離反してテロリストに合流するだろう。

主に天使側をピックアップしたが、堕天使や悪魔にも和平など納得出来ないという者達も居る。

 

これから禍の団との戦いになって行くだろうが、当然ながらフリーの高い戦闘力の集団を取り込もうとするだろう。

 

「それを考えるとオレ達も後ろ盾が欲しいな」

 

「同感だな」

 

「そうよね」

 

「うん」

 

四季の言葉に全員が同意する。そろそろ何処かの勢力の後ろ楯が必要な時期が近づいてきて居る。

この世界には拳武館もS.O.N.Gも四葉家も無いのだから。

 

「何より連中の指揮下に組み込まれるのは御免だしな」

 

対禍の団で共闘するにしても最低限独立勢力としての立場だけは確保しておきたい。

 

主にコカビエル戦の後だと言うのに危機感の薄いグレモリー眷属とかの指揮下に入れられるのは御免だ。まだソーナ会長達の方が信頼出来る。

 

ギャスパーの特訓は良いが、少なくとも街が一つ消えるような戦いがあったと言うのに、イッセーが自分を鍛えて居る様子がないのには四季とクリスは呆れて居る。

 

原作と言う形でこの世界の事を見て居た頃は単に省略されて居たと言う見解も出来たが、導く者がいないとは言え白龍皇と言う自分の何歩も先を歩いて居るライバルを前にしても自分もいずれ戦うべき運命にある相手に追いつこうと言う努力の痕跡が見えない。

運動部の延長の程度の特訓では、禁手に至るのには年単位が掛かれば良い方だろう。

禁手に至る為に乗り越えるべき最初の壁にさえたどり着けないのではないかと。

……そう考えるとドラゴン相手の命掛けの鬼ごっこは精神面での効果は高かったのだろうか。

 

「どう見ます、クリス先輩?」

 

「いや、あれじゃダメだろう」

 

神器と似た面のあるシンフォギアの奏者で命賭けの戦いを前提とした訓練の経験があるクリスからのダメ出しを聞いて改めて思う。

『なるべく早く後ろ盾を得よう』

と。

 

そうなると現状、早々に接触出来る後ろ盾になりそうな勢力の心当たりは一つ。

 

「向こうから話し合いたいって言って来てくれたんだ。向こうの鑑定評価額を見せて貰うか」

 

呼び出されてしまったが今回ばかりは相手が違う。

 

「日本神話のトップからのオファーなら、な」

 

聖書勢力への監査官として日本神話の代行として四季達を雇いたいと言う依頼だ。

 

現状、悪魔側の租借地となっている駒王町には日本神話からの監視役となる者が駒王学園の教師として在籍しているが、それはソーナ達しか知らない。

グレモリー眷属には監視役とソーナの話し合いで知らさない事となった。主に朱乃が原因で、だ。

 

日本神話の下位組織としての役割を持った退魔の一族に母親を殺された事でその上位に当たる日本神話も嫌悪しているそうだ。

さっさと父親が奥さんを堕天使領にでも呼ぶなりすれば良かったとしか言えないのだが、それは向こうにも準備が有ったのだろう。娘さんが生まれるまで掛かったのは問題だが、そこは責める気は無い。

だが、プライドやら友人である眷属の女王が嫌っている事から反発が有るであろう事からリアスには伝えなかったそうだ。

 

実際に監視役も相応の実力者だが、問題の多すぎるリアス達の行動に対する監視役となって欲しいとのこと。

なお、職務の期間は飽くまでリアス・グレモリーが駒王町にいる間のみなので夏休み等で冥界に帰っている間は此方も休みとなる。

 

主にフェニックス家との婚約破棄の為のゲームの特訓のために職務放棄して十日間合宿したり、とか。

 

また、それとは別口で駒王に入り込むはぐれ悪魔退治も日本神話からの依頼という形で行う事が出来る。

 

そして、極論を述べてしまうと、日本神話としても悪魔に取られた土地を取る返す口実が欲しいそうだ。

 

「そんな訳で聖書側からの干渉を防ぐ為にも、条件次第なら今回の会談終了までは受けても良いと思ってる」

 

全ては相手とあってからだが、向こうからの招待を受けたのだから、受けないと言う選択肢は無い。

 

(まったく、悩むのは詩乃の事だけで十分だって言うのに)

 

剪定事象の中で一度死んだ身の上だが、詩乃の好感度は転生前の自分が植え付けた物。

四季自身彼女の事は好きだが、それを考えると仲間と言うラインからどうしても一歩前に踏み出せない。

自分は本当の彼女の意思では好きになって貰っていないのだ。転生前の自分も裏切られない為の保険のつもりだったのだろうが、そんな洗脳の様な形で植え付けられた好意等、今の四季としては悩みの種でしか無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三大勢力の会談の当日。結界を張られた駒王学園を中心に、三つの勢力の者たちがその上空に集まっていた。

 

コウモリの翼を生やした悪魔、

純白の翼を持つ天使、

漆黒の翼の堕天使、

 

と三勢力の軍勢が完全武装の元睨み合っていた。

まさに一触即発と言った空気の中、会談が始まろうとしていた。

 

「失礼します」

 

白龍皇のヴァーリを護衛として連れた堕天使の総督アザゼル。

護衛なのか女性の天使を連れた天使の長ミカエル。

妹であるソーナを後ろに従えた魔王セラフォルー・レヴィアタンと己の眷属の女王であるグレイフィアを従えた魔王サーゼクス・ルシファー。

そんな各々の組織のトップが揃う部屋の中へ、リアスはそう言って入ってくる。

…………普通一組織のトップが四人も揃った場に、うち二人は自分の所の組織のトップなのに彼等より後から入って来るのはどうかと思うが、それぞれの護衛が一人だけと言う点から悪魔側だけ大人数になるのを避ける為、事前にそのタイミングで入る様に言われたのかも知れない。

 

「私の妹とその眷属達だ。先日のコカビエルの襲撃で彼女達が活躍してくれた」

 

「活躍、ねえ? まあ、いいや。悪かったな、コカビエルが迷惑をかけた」

 

悪びれた様子の無いアザゼルの謝罪にムッとするが流石に空気を読んだのだろう、サーゼクスに椅子に座る様に促される。

 

「それで、本当の功労者達は結局来てくれなかったか」

 

「ええ、私としても改めて話をして見たかったのですが、残念です」

 

「此方からも参加を促したんだけどね」

 

コカビエルを連れ帰ったのはヴァーリなのだ、リアス達の活躍(笑)は殆ど利敵行為に終わったのは当然知っている。

本当に活躍した四季達の姿が無いことに残念そうに告げるミカエル。

 

「あと、今回の会談が他の神話体系を害するモンじゃ無いと言う事を証明するために日本神話から立会人としてこの地の監査官が参加する事になった」

 

アザゼルの口から出た日本神話と言う単語に朱乃は嫌悪を浮かべるが他の者達は事前に聞いていたのだろう、他のトップ三人は頷く事で同意する。

 

「おーい、入って来てくれ」

 

 

『失礼します』

 

 

アザゼルの言葉に促されて扉が開いて入ってきた四人の人影を見た、事前にそれを知っていたアザゼルと初対面であるセラフォルー以外の者達が驚愕を浮かべる。

 

「先程紹介に預かった日本神話の監査官の代行、天地四季です」

 

悪戯を成功させたとでも言う態度で笑うアザゼルと優雅と言える態度で一礼する四季。その後ろには詩乃、雫、クリスの三人が立っていた。



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五十話目

「天地、お前、日本神話って!?」

 

「つい先日、日本神話からスカウトが来たんでな。取り敢えず、お試しで半年ほど雇われる事になった」

 

イッセーの言葉にそう返して、三勢力の代表に向き直り、

 

「先程アザゼル総督よりご紹介に預かりました、日本神話の監査官代行の天地四季です。本来なら監査官の方が参加するべきですが、皆様に面識がある私が立会人の役を任されました」

 

そう言って一礼すると椅子に座る様促される。

 

「…………君がこう言う形での参加になったのは驚いたが、これはこれで都合が良いかも知れない。確認しておくが」

 

そこでサーゼクスは一度言葉を止めて参加者を見渡し、

 

「ここにいる者達は最重要禁則事項である『神の不在』を認知している。それを前提として話を進める」

 

誰も反論は出ない。全員がそれを認識しているのだから当然だ。

そう言う意味では立会人として外部の者の参加が『神の不在』を知る四季達なのは都合が良かった。

租借地とは言え他神話の勢力下で聖書勢力のトップが軍勢を引き連れて集まっていれば戦争を警戒されるのも当然だが、神の不在を知られる訳にも行かないのだから立会人も入れる訳には行かなかった。

 

特に予め話を通しておいたアザゼルにとっては日本神話からのクレームと共に立会人の参加を求められた時、それが彼等であったのは幸いだった。

 

朱乃が日本神話所属と言う所で憎悪の篭った目で見てくるがそれはスルーして立会人の仕事を全うする事にする。

 

そうして、三大勢力の会談は始まった。

 

「と言う様に我々天使は」

「そうだな、このままでは確実に滅びの道を」

「ま、オレらは特にこだわる必要も無いけどな」

 

和気藹々とは行かないがトップ自身は全員がこれ以上の戦争の継続を望んでいないのだから、会談は順調に進んで行く。

 

「さて、リアス。そろそろ先日の事件について話してもらおうかな」

 

「はい、ルシファー様」

 

サーゼクスに促されて先日のコカビエルの一件について話される。

コカビエル襲撃の一件だけでなく、ダークゴーストと名乗るフードの……声から少女と思われる者が姿を変えた者、ソーサラーを名乗るヴァーリを一撃で返り討ちにした四季と同じベルトを使っていた者の事と合わせて。

同時にソーナが匙がアナザーライダーに変えられた事件の事も説明する。

 

コカビエルやフリード、バルパーの使っていたのは匙が使われた物と同じなのでは無いかと言う推測と共に。

 

「以上です」

 

「コカビエルのことに何か言う前に同じベルトを使っていた奴の事や時計みたいな物について意見を聞かせてもらえるか?」

 

「ええ」

 

それについては事前にアザゼルと打ち合わせ済みだった。

 

「ソーサラーの使っていたベルトはオレのウィザードライバーの前のモデル。古い設計図を元にオレが改良した物がオレのドライバーです。旧型の資料なら書き写した物をアザゼル総督に渡してあります」

 

事前に白い魔法使いドライバーの設計図は堕天使側に渡しているが、ファントムも無く魔法石の指輪もないのならあまり意味の無い物なので渡した所であまり困りはしない。

何よりビーストドライバーを比較対象に上げれば人造神器に似た部分もある。

 

「書き写した物? その資料のコピーでは無いのですか?」

 

「残念ながら、元の資料は破損が多かったので。オレがウィザードライバーの改造元になった試作タイプを元に書き加えなきゃ分からない部分が多く、そんな物のコピーを渡すのはどうかと思ったので」

 

ミカエルの言葉に四季はそう返す。元々そんな資料など無いが破損個所が多いと言って誤魔化しておく。

 

「ああ、オレもその資料は確認している。そうなるとあの資料のブラックボックスの部分は」

 

「そこはオレが解析できなかった部分になりますね。改修には影響しないコア部分だったので放置してますけど」

 

「なるほど、その部分に何かを宿しているわけか」

 

四季の言葉に技術者の目になったアザゼルは楽しそうに答える。

 

「オレとしてはあの資料だけでどんな対価を支払って良いくらいだ。へへ、フィーネに、フエキにユーブロン。オレも負けてられねえな」

 

人造神器の強化案を何パターンも考えているのだろう。自分よりも優れた技術を前にやる気になっている様子だ。

……フィーネを純粋な人間と言っていいのかは疑問だし、ユーブロンは宇宙人だが。

 

内心、人造神器との差が少ないとは言え渡したのはマズかったかと思うが、それは精々本来の進化を早めた程度だと思っておこう。

 

「ああ、武装型の神器(セイクリッド・ギア)は本来は禁手状態が通常運用されるのでは無いかってフエキって奴の推測とかもな。お前さんの推測でもあるんだろ?」

 

「そうなりますね。オレ自身の推測で補完した部分も有りますから」

 

ウィザードライバーの事は納得したのだろう。現物を分析して見たいとも思っているだろうが、既に原型から離れた四季の専用タイプと考えている様子でそれは諦めている。

 

「それじゃあ、あの時計見たいなものに付いて推測も聞かせて貰えるか? お前さんも二つも同じ物を持ってる様子だしな」

 

「さあ、それに付いては何も。ただ、危険な怪物に変わるものと、安全な物があって、後者の安全な物を敵が求めている。その程度ですね」

 

正確にはアナザーライドウォッチを何らかの方法でライドウォッチに変化させていると言うのが正解だが、それを教える必要はないので誤魔化しておく。

恐らく先日のソーサラーが手に入れたインフィニティスタイルのウォッチ。あれが目的なのだろうが……。

 

「では、コカビエルの事件について堕天使総督の意見を聞きたい」

 

「先日の事件は我が堕天使中枢組織『神の子を見張る者(グレゴリ)』の幹部コカビエルが単独で起こしたものだ」

 

組織だっての行動ではない事はフリードとバルパーと合わせて僅か三人での行動の時点で説明できる。聖剣の因子に適合できなかった者達を入れても組織と言う単位では少な過ぎる。

組織としての行動ならばもっと部下が居てもおかしくは無いはずだ。

 

「奴の処理は『白龍皇』が龍の魔術師とその仲間達の協力の元に行った。その後は大人しいもんだ。組織の決定に従って大人しく『地獄の最下層(コキュートス)』で永久冷凍刑に処されて、もう出てくる事はない」

 

出てくる可能性があればそらはソーサラーが動いた時だろうと四季は考えている。

今のソーサラーの手には無限の魔法使いの力があるのだから、地獄の底の底にも鼻歌交じりで散歩できるだろう。

 

「その辺りの説明は提出した資料に全部書いてあっただろう? それが全部だ」

 

「説明としては最低な部類ですが、あなた個人が我々と事を起こしたくないと言う事に関しては?」

 

アザゼルの言葉にそう切り返すミカエル。その辺は三大勢力間のことなのだが、此方を害する事が無いか聞き耳を立てる。

 

まあ、その辺はコカビエルの言葉通りの神器マニアであって、戦争には興味ない様子だ。

 

そんな中でサーゼクスは一つの問いを投げる。『ここ数十年何故神器の所有者を掻き集めているのか』と。

 

確かに単なるマニアの収集癖では説明は付かないだろう。力を発動させてしまって居場所がなくなった神器使いを集めているのも単なるアザゼルの個人的な趣味を兼ねたボランティアと考えても不自然だ。

 

「アザゼル、ここ数十年……何故神器(セイクリッド・ギア)の所有者をかき集めている?」

 

「最初は人間達を集めて戦力増強を図り、天界か我々に戦争を仕掛けるのではないかとも予想していたのだけど」

 

サーゼクスの言葉にセラフォルーが続く、

 

「そう、いつまで経っても貴方は戦争を仕掛けてこなかった。白い龍を手に入れたと聞いた時には強い警戒心を抱いたものです」

 

基本神を殺せる可能性を持つ滅神具(ロンギヌス)だが、大半は力を付ける前に殺されるか、赤と白の龍はライバル対決の果てに死亡している。

そんな物の所有者が正しく成長できる環境さえ整って仕舞えばまさに脅威以外の何者でもないだろう。

 

そんな者が敵対勢力は持っていながら、何もしてこなかった。困惑するのも無理はないだろう。

 

神器(セイクリッド・ギア)研究のためさ。なんなら一部研究資料もお前達に送ろうか?」

 

アザゼルは純粋に趣味の研究の為だと答える。隠す必要もなければ隠す気も無いのだろう、長年の研究の資料の一部を渡しても良いとさえ言った。

 

(才能も環境も負けてるよな、兵藤)

 

ふと、四季はアザゼルの答えを聴きながら、その白龍皇のライバルである赤龍帝のことを考える。

早い時期に目覚めてまだ手探りだっただろうが神器の研究家であったアザゼルの元で最善に近い鍛え方をされたヴァーリと運動部程度の鍛え方しかしていないイッセー。どう考えても完全にイッセーが負けている。

 

「研究してるからって戦争なんざ仕掛けねえよ。今更戦に興味ないからな」

 

今更戦争をしたところで勝手も負けても堕天使の被害は大きくなる。それどころか、他の神話に漁夫の利を奪われる危険まである。

二度目の聖書勢力の内乱など、どの陣営にも不利益しか生まない。トップにいるからこそよく分かっているのだろう。

 

「俺は今の世界に十分満足している。部下に『人間界の政治にまで手を出すな』と強く言い渡しているぐらいだぜ? 宗教にも介入するつもりはねぇし、悪魔の業界にも影響を及ぼすつもりもねえ」

 

アザゼルの言葉に他の出席者は納得している様子は無かった。

 

「……ったく、オレの信用は三竦みの中で最低かよ?」

 

「それはそうだ」

 

「そうですね」

 

「その通りね☆」

 

アザゼルの言葉にサーゼクス、ミカエル、セラフォルーと揃って同意するのには思わず笑いそうになってしまう。

 

「なあ、あのオッさん、そんなに信用ないのか?」

 

「そうだな……例えるなら英雄狂……ドクターウェルくらいの信用と言えば想像できるかな?」

 

クリスの問いかけに彼女に判りやすい比較対象を挙げて答えた瞬間、二人の脳裏に英雄狂の姿が浮かぶ。

 

「そりゃ、無理だな」

 

「だろ?」

 

四季とクリスの間で他の陣営からのアザゼルの信用度の比較対象がとんでもない人物になった事も知らずにアザゼルは単刀直入に、この会談の最大の目的を切り出す。

 

「これ以上こそこそ研究するのも性に合わねえか。分かったよ」

 

事前に四季達がアザゼルに日本神話の監査官代行の旨を告げた際に聞かされていた最大の目的だ。

 

「和平を結ぼうぜ。お前らも元々そのつもりなんだろう?」

 

悪魔も天使も堕天使もトップはそれを望んでいる。それは間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先日、

 

「和平ね。そっちもそれを望んでたか」

 

「おっ、他の奴から聞かされてたか、サーゼクスか? それともミカエルか?」

 

アザゼルから今回の会談に於ける目的を聞かされた四季の言葉にアザゼルはそうとうが、立場上情報を堕天使にだけ教えるわけにはいかないので無言で答える。

 

「まあ、他の奴らもそれが目的ってのは大体分かってたからな」

 

「まあ、聞いた話だと下手に白黒つけたらそれが聖書勢力全滅のラストページの数行前だろうからな」

 

「おいおい、言ってくれるな」

 

言外に他の神話から恨みを買っていると言う四季の言葉にアザゼルも自覚はあるのだろう苦笑しながら言葉を返す。

 

「それで、第三者の意見も聞いときたい。お前は和平をどう思う?」

 

「難しいだろうな」

 

アザゼルから渡されたゲームのコントローラーを手に取りキャラクターを選択しながら答える。

 

「そりゃそうだろうな」

 

四季の言葉に同意するのはクリスだ。三大勢力の和平が難しいと言うのは分かっているのだろう。

 

「いい事なんじゃないの?」

 

「いや、トップは良くても下はそうでもないからな」

 

詩乃の疑問に答えながら四季はゲームをプレーする。

 

「教会だとエクソシストか」

 

主に悪魔は敵だ、悪魔を滅することが主の教えだと洗脳教育を受けたエクソシスト達。

そんな彼らに和平が成立したからこれからは悪魔を殺してはいけませんと言っても、間違っているのは天界にいる天使達だと言うだろう事は容易に想像できる。

 

天使などではなく奴等も主に背く堕天使だと。そして、そんな奴等が天界に居座っているのは神を幽閉していると神の死を知らないエクソシスト達は考えるだろう。

結果、大半は洗脳された正義に従いはぐれになる。

 

「そういう事ね」

 

教会を例にあげた事で詩乃も和平が難しい理由を理解した。

 

「そんなはぐれエクソシストが悪魔を殺せば和平は終わり、戦争勃発だな」

 

四季の操作するキャラがアザゼルのキャラを吹き飛ばす。

 

「段階が早すぎる。先ずは休戦に持ち込んで洗脳教育の緩和や好戦派の意見を抑えてからの方が良いんじゃないのか?」

 

「そうだろうな。けどな、急ぐ必要があるんだよ」

 

「急ぐ必要か」

 

その理由は大体想像できる。コカビエルからも聞かされたのだろう、禍の団の事を。



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五十一話目

聖書勢力の三つの勢力間の和平。それは正に歴史的瞬間だろう。

その事を理解している悪魔側の参加者達、リアスやイッセー、ソーナと言った面々の表情には緊張の色が浮かんでいる。

 

最初にアザゼルから言われてしまったが、ミカエルもこの会談で和平を切り出す予定だったのだから反対は無いだろう。

 

戦争の大元である神と魔王が共に消えたのならば、これ以上は争う理由は無い。三竦みの争いを続けていても、決着をつけても害にしかならない。と天使の長であるミカエルは言う。

 

「ハッ! あの堅物ミカエルが言うようになったな」

 

堕天使と言っても元は天使なのだから昔の事を知っていたであろうアザゼルがそう言う。

 

「……失ったものは大きい。けれど、いないものを何時迄も求めても仕方ありません」

 

何処かその言葉には諦めの感情さえ感じられた。いや、実際はやっと失ったものへの諦めが付いたのだろう。

 

「神の子らを見守り先導して行くのが我らの使命なのだとセラフの意見も一致しています」

 

「おいおい、今の発言は『堕ちる』ぜ? と思ったが、『システム』はお前が受け継いだんだったな。良い世界になったもんだ。オレらが堕ちた頃とはまるで違う」

 

ミカエルの言葉に皮肉げに返すアザゼル。

 

「我らも同じです。種を存続するために悪魔も先に進まなくてはならない」

 

「戦争は我らも望むべきものでは無い。また戦争をすれば悪魔は滅ぶ」

 

セラフォルー、サーゼクスもまた賛同の意思を示す。

 

「そう、次の戦争をすれば三竦みは今度こそ共倒れだ」

 

……また戦争すれば悪魔だけじゃなくて天使も堕天使も滅びるだろう。それだけ聖書の勢力は他神話から恨みを買っているのだ。勝っても負けても戦争の先に天使にも悪魔にも堕天使にも未来は無い。

 

前回の戦争も犠牲は大きかったとは言え、二天龍の乱入のお陰で他神話が好機と捉える被害は出なかった。

寧ろ、四季は聖書の神が命を落としたのは二天龍の戦いの最中に行われた他神話による暗殺の可能性さえも考えているのだ。……仮説は立てても証明した所で益もないので口にすら出していないが。

 

「そして人間界にも影響を大きく及ぼし世界は終わる。オレ達はもう戦争は起こせない」

 

人間界については聖書以外にも神話や神は居るのだから言い過ぎではないかとは思うが、神器を通して行った影響を考えるとそれが原因で終わらないにしても影響はあるだろう。

 

「神がいない世界は間違いだと思うか? 神がいない世界は衰退すると思うか? 残念ながらそうじゃなかった」

 

神と呼ぶべき超越者と関わった経験のあるクリスの表情が変わる。

彼女が戦ったシェム・ハの事を考えると聖書の神も復活手段やらバックアップやら魂やらを保管して復活の手段を用意している可能性も高いのだが、それは考えないことにしておく。

 

「残念ながらそうじゃなかった。オレもお前達も今こうやって元気に生きている」

 

仮に神がいた場合のifの歴史があるならばそれは剪定事象になっていた可能性が高い。

ならば、彼女達の死によって剪定事象になる道を辿ったと言うのならば、世界という単位において、

朝田詩乃という少女は、

北山雫と言う魔法師は、

雪音クリスと言う戦姫は、

神よりも価値は高いと言う事になるのでは無いだろうか。

 

それとも、聖書の神は死によって世界に対して価値を与えると言う事だろうか。

 

考えても仕方ない事だと切り捨てながら、四季はアザゼルの言葉に耳を傾ける。

 

「神がいなくても世界は回るのさ」

 

アザゼルの言葉がどこか虚しくも重々しく響く中、

 

(あれ?)

 

先程のアザゼルの締めの言葉に四季の脳裏には巨大なブーメランが三大勢力に突き刺さるのが見えた。

 

(だったら、天使も悪魔も堕天使も居なくても世の中は回って行くんじゃ無いのか?)

 

そうは思っても口には出さない四季であった。

言った所で話がややこしくなる所だし、変な発言で仕事が長引くのも面倒なだけだ。

 

(次は同じ事を聖書勢力が滅んだ後に誰かに言われるんだろうな)

 

世界は回る。その言葉が今度は言われる立場になるかはこれからとは思うが滅んだ後にはそんな未来があるのは容易く想像できる。

そんな未来を想像しつつ和平についての懸案事項を纏めている三大勢力の代表者達を冷ややかな目で見るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

懸案事項を纏め終わった後ミカエルがイッセーとの約束の時間をとる。

懸案事項を纏めた所を確認した時点で四季達の仕事は八割は終わり、一応最後の解散まで見届ける必要はあるが、既に役割は終わった。イッセーの話が終わればあとは解散だけだろう。

 

イッセーからの問いは何故深く神を信仰して居たアーシアを追放したのかと言う問いだった。

 

ミカエルが言うには神の死後、加護と慈悲と奇跡を司るシステムだけが残り、そのシステムは信仰心を源に地上に奇跡を齎し、悪魔払いの聖具に力を与えているそうだ。

 

(……神器の転生もそれで管理してそうだな。下手したら、それが神のバックアップの可能性もあるか)

 

ミカエルの説明から四季には人間の信仰心そのものが聖書の神のバックアップ。そんな推測さえ湧く。

 

そのシステムを運営するのは彼を含む熾天使(セラフ)全員で起動させているが困難を極めているそうだ。その為にシステムに影響を及ぼすものを遠ざける必要があり、それはイッセーやヴァーリの二天龍の神器やアーシアの神器。

 

神の死因となった龍の神器や悪魔や堕天使を癒せる神器によって信仰に影響が出るものを近くに置くわけには行かなかった。

それは神の不在を知る者、この場に居ないゼノヴィアも同じだ。その事に謝罪するミカエル。ゼノヴィアにも後で謝罪すると言うこととデュランダルも引き続き彼女に預けると告げる。

 

次にアーシアやイッセーを堕天使、レイナーレが殺した事に話が向かう。

神器の所有者を堕天使が殺している事を認めるが、それは力を使いこなせずに世界に影響を及ぼす奴らだと言う。

その事については納得は出来ないが理解は出来る。神を滅ぼせる神器が暴走などしたら小さな町など一瞬で消える。ならば、その前に一人を排除すれば大勢の命は守る事が出来る。

 

(我ながら冷たい計算式だな)

 

冷たい計算式だが、どうしても犠牲が出るのなら最小限で済ませる必要がある。

言ってみればアザゼル達堕天使のやってきた事は神が無計画に神器をばら撒いた事の尻拭いだ。真っ先にばら撒いた者を責めるべきだが、ばら撒いた者はもう居ない。

 

「今更オレが謝っても後の祭りだ。だからオレはオレにしか出来ない事でお前達に貢献しようと思う。そこで一つ聞いておきたい」

 

そう言ってアザゼルはイッセーへと視線を向ける。

 

「赤龍帝としてお前は世界をどうしたい?」

 

「世界をどうこう言われても…………正直よく分からない」

 

「では、ヴァーリ、白龍皇としてはどうだ?」

 

世界という大きすぎる単位を出されて返答に困ったイッセーの次にアザゼルが問いかけるのはヴァーリ。

 

「オレは強い奴と戦えれば良いさ。差し当たって、当面の興味は龍の魔術師、君だよ」

 

単純でシンプルな理由。面倒な戦闘狂(バトルマニア)にロックオンされた事に内心溜息を吐くと、

 

「オレに決闘でも挑んでくるのは良いけど、その前にドラゴン紅白合戦を先にやってくれ」

 

取り敢えず、面倒ごとを一応のライバルへと押し付ける。

 

「で、そういうお前はどうなんだ? 龍の魔術師? 日本神話の立会人としてじゃなくて、お前個人に聞きたい」

 

「世界をどうこうする気はないな。戦う目的は当面は借り物、自分なりの理想(戦う目的)を見つけるのが戦う目的。それ以外じゃ」

 

そうして後ろにいる三人に順番に視線を向け、

 

「家族で楽しく過ごす、それだけだ」

 

当面の目的はそれしかない。

 

その後はアザゼルの自分達の選択次第では戦争が起こり、イッセーも表舞台に立つしかないと言う言葉に平和が一番と叫ぶイッセーだったが、

 

アザゼルのリアスを抱けないとの言葉に断固として平和が一番と叫ぶ姿に自分の所のトップからも呆れた視線を向けられて居たりする。

 

(そろそろか)

 

この世界の原作知識は薄れているが敵が仕掛けてくる大体のタイミングは分かっている。

同時にこの会談を邪魔しようと敵が動く事も知っていた。だから、念の為に『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』に対する対策はして用意して居た。あとは上手く機能してくれる事を祈るだけだ。

 

イッセーが己の決意を話していると、意識が一瞬途切れる感覚を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お…………きろ……」

 

微かに聞こえたその言葉に四季は意識を取り戻す。

 

「ったく、やっと気が付いたか」

 

四季が意識を取り出すと先に動けて居たクリスの顔が視界に入る。

 

「あれ……私?」

 

「何が?」

 

二人に遅れて詩乃と雫も意識を取り戻す。どうやら全員分の対策が上手くいった様子だ。

 

「あら、貴方達は全員動けるのね」

 

見れば部屋の様子が先程と変わっており、イッセーと祐斗以外のリアスの眷属の姿が無かった。

 

「……何があったのかは大体想像は付くな」

 

「そうみたいだな」

 

体に異常もない事を確認しながらポケットの中からオニキスのカードデッキを取り出す四季の言葉にクリスが答えると、

 

 

ズドォン!!!

 

 

 

突然の爆発音が響く。

 

「おわっ! 何事!?」

 

その爆発音に驚いたイッセーが驚愕の叫び声を上げる。

 

「とんだ失態ですね、アザゼル総督」

 

「だな。日本神話から言い出された事とはいえ、テロに巻き込んじまうとはな」

 

歴史的舞台には障害はつきものだろうが、今回もそれが起こってしまったと言うわけである。



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五十二話目

「な、何があったんだ?」

 

再度動き出したイッセーが驚愕の声を上げる。

 

「眷属で動けるのは私とイッセーと祐斗だけのようね」

 

そう言って装備の確認をしている四季達へと視線を向け、

 

「彼等は全員動けるようね」

 

「時間停止なんて能力を持った奴が、その力を制御できてないんだ。こうなる可能性も想定しとかないとな」

 

何故という疑問も湧くだろうが、そう言って答えを用意しておく。

単なる万が一の想定の一つが当たってしまっただけ、そう言っておけば相手も納得するしかないだろう。

 

「時間停止の力……部長、これは……」

 

「どうやら」

 

リアスも理解が至った様子だ。自分の眷属の神器の力だという事に。そんな時、爆発音が響く。

 

 

 

ズドォン!!!

 

 

 

突然の爆発音が響く。

 

「おわっ! 何事!?」

 

その爆発音に驚いたイッセーが驚愕の叫び声を上げる。

 

「テロだよ。いつの時代も勢力同士が和平を結ぼうとすると邪魔する奴らがいるもんだ」

 

イッセーの叫びにアザゼルが答える。だがそれは、

 

「とんだ失態ですね、アザゼル総督」

 

「だな。日本神話から言い出された事とはいえ、テロに巻き込んじまうとはな」

 

アザゼルは四季の言葉にため息交じりで答える。完全に三大勢力側の失態だ。

 

「ところで、お前さんの意見を聞きたいんだが、あれはなんだと思う?」

 

「あれ?」

 

アザゼルが窓の外を指差すとそれを怪訝に思いながら四季も外を覗く。

 

「はぁ!?」

 

それを見た瞬間、四季も驚愕の声を上げる。

それもそうだろう、会談を襲撃しているのは全員が仮面ライダーメイジだったのだから。

 

「初期タイプのドライバー。量産でも成功していたって事ですね、あれは?」

 

流石に目の前の仮面ライダーメイジの大軍と言う光景のインパクトに動揺しそうになるが、それを隠しながらアザゼルの言葉に答える。

 

ワイズドライバーの量産、もしくは大量の仮面ライダーメイジが存在するのはメイジのライドウォッチによる物だろう。

本来仮面ライダーではあるが、メイジは珍しい量産型の仮面ライダー。ライドウォッチの量産も容易いか一度に大量に作れるという事だろう。

 

だが、仮面ライダーメイジであるのなら相手は、

 

「変身者は魔法使い、あの姿はウィザードでもソーサラーでもないメイジって所ですね?」

 

「そいつは当たってるみたいだな。しかし、メイジか、悪くないネーミングだな」

 

(元々禍の団に所属しているらしいからこういう事もある、か)

 

ライオトルーパーや黒影トルーパー、ライドプレイヤーまで量産されたら、それはそれで面倒だが。

 

地上の魔法陣から打ち出される様に飛び出し、箒と槍を組み合わせたような乗り物ライドスクレイパーに乗って空中から魔力による攻撃を放っている姿は中々に壮観である。

ウィザードリングを使わないのは渡されていないか、身体能力の強化と飛行能力の確保で十分と判断しているか、その両方かだろう。

 

「……放たれている魔術の威力から、一人一人が中級悪魔クラスの魔力を持ってそうね」

 

加えて自在に飛行できることから悪魔の種族によるアドバンテージはない上にウィザードリングも使っていない。

更にそこまで使いこなせていないのかは知らないが、使用者によっては幹部怪人にも勝てる。例えるならば高性能なエース専用の量産機なのがメイジだ。

トルーパー等とは違い正式に仮面ライダーの名を与えられているのだから当然の話だが。

 

「オレとサーゼクスとミカエルで強固な防壁結界を展開しているから被害は出ないだろう。おかげで此処から出られないが……」

 

「数は多くても中級程度じゃ相手になる訳がない相手がいる場所に攻め込んでる時点で、自爆特攻みたいな感覚で三勢力の面子を潰しに来たわけか。和平会場をテロリストに破壊されたら面子は丸潰れだろうな」

 

歴史に残る三大勢力の和平会談の会場を襲撃し、そこを破壊せしめればトップの面子は潰せる。

 

「ああ、そんな事になったら別の意味で歴史に残っちまう」

 

何代にも渡る汚点を与えられればサーゼクス達相手にして中級程度の魔法使い達にしてみれば大金星といった所だろう。

それを理解した上でアザゼルは四季の指摘に頭を抱えてしまう。

 

「あいつら、こっちの面子を潰すためなら命も要らないってのかよ!?」

 

「そりゃそうだろう、本来なら命を捨てても無駄死にするだけの相手に、命を捨てる覚悟で一生単位の汚点を与えられるんだからな」

 

敵の特攻の様な行動にイッセーが叫びを上げるが、四季は冷静に言葉を返す。

 

「どうします? 自分達の顔に自分で泥を塗るなら敵に落とし所を与えられますけど?」

 

「そりゃ、辞めてくれ。それをやるのは悪手だ。最悪は一番酷い汚点になる」

 

「分かりました」

 

アザゼルの言葉に一礼して四季は窓から離れる。そんな四季とアザゼルの会話に疑問を抱くが、イッセーはそれどころではない事に気づく。

 

「ギャスパーは!?」

 

そう、時間停止がギャスパーの神器(セイクリッド・ギア)によるものならギャスパーはどうなってるか。

 

「最大戦力が四人も揃ってるから何も起こらないと思って油断しすぎてたな」

 

「寧ろ、何かしら起こるだろう」

 

「でも、それにしては範囲が大き過ぎないかしら?」

 

四季の言葉に同意するクリス。せめて隣の部屋にくらい連れて来ていればまだ対応できたかもしれないのにと思いながらも其処までは口に出して居ない。

それでも、詩乃は明らかに力が強すぎると言う疑問を口にする。

 

「考えられるのは禁手化だな」

 

「ああ。恐らく神器か魔術で強制的に禁手(バランスブレイカー)状態にしたんだろうな。一時的なものだろうが、それでも視界に写した物の内部にいる者まで効果を及ばすのは……あのハーフヴァンパイアの潜在能力が高いって事か」

 

「それでも、万が一の対策して居たオレ達やトップを止めるには出力不足だった様子だけどな」

 

「そうだな。寧ろ、オレはお前達がそんな対策して居たのに驚きだよ」

 

「最悪の事態を想定するのは当然だろ? まさか、一人で残しておくとは思わなかったけどな……」

 

そんな強力な神器を持った奴を一人で残した時点でどうぞ使ってくださいと言ってるような物だ。

今回の襲撃を諦めたとしても、普通に誘拐して洗脳して便利な道具として使うと言う手だってあるのだから。

 

「無理矢理ギャスパーの力を利用してるって事か……」

 

「ギャスパーは旧校舎でテロリストの武器にされている……。これほどの屈辱もないわね!」

 

自分の眷属がテロリストの武器にされている事に怒りを露わにするイッセーとリアス。

 

「外にいた軍勢はどうなったんですか?」

 

「そっちも全部止められてる。まったく、末恐ろしい限りだ」

 

そう言いながらアザゼルが腕を振り下ろすと校庭に光の槍が降り注ぐ。

 

空中をライドスクレイパーで飛行する者達に光の槍が降り注ぐが、攻撃に集中している者達は成すすべなく攻撃に晒され、防御ごと貫かれる者、回避するも味方とぶつかって地上に落ちるものもでるが回避出来た者達も多くでる。

 

「なるほど、あの機動力と防御力は厄介だな。しかも、戦力は減ってない」

 

地上に落ちた者達は変身を維持している上に攻撃に晒された者達も変身が解除されただけで済んでいる為、今度は地上から生身での攻撃に移った。

ライダーシステムの変身者保護の力を利用しての自爆特攻、確かに厄介だ。

 

しかも、魔法陣からは後続のメイジ達が次々と上空に現れている。

 

「奴らは結界内に出現してくる。この敷地内にゲートを繋げてる奴がいるって事だ」

 

「会談前から潜んでいたか……この校舎にいる者達の中にテロリストの内通者がいるって事になるな」

 

アザゼルの言葉にため息を吐きながら四季は呟く。

 

「だが、そうなると怪しいのは」

 

「前者の場合はそっちも事前確認をしておいただろうし。部外者である、オレ、と言うかオレ達になるな」

 

サーゼクスの言葉に苦笑しながら言葉を返すのは四季だ。メイジ用の変身システムも四季が同じ物を持っている上に、今は三大勢力の外の勢力に属している。怪しむなと言うのが無理があるだろう。

 

「それは無いだろうな。タイミングといい、テロの内情といい、こちらの内情に詳し過ぎる」

 

四季の前世の知識については知る由もないアザゼルが四季達が内通者と言う可能性を否定してくれる。

事前に夜に行うと聞いていたが詳しい日時はテロを警戒して教えられていなかった。

 

「となると、消去法で聖書勢力の中に内通者がいるって事になるな」

 

「だな。案外、此処に裏切り者がいたりしてな」

 

四季の言葉に同意して皮肉げな笑いを浮かべるアザゼルを横目にこの場にいる全員に視線を向け、最後にヴァーリのところで視線を止める。

 

(内通者は白い龍の筈だけど……)

 

自身の中にある未来の知識から今回の内通者の可能性の高い者を挙げるが、確証はない。

 

「能力の上昇が続いたらオレ達だって動けなくなるし、結界を維持している人が減ればそれだけ防御も弱くなるし攻勢にも出難くなる。長期戦になると不利なのはこっちだな」

 

「此処から引くにしても学園全体を覆う結界を解かないと外へ出られない」

 

「だけど、結界を解いたら人間界に被害を出すかもしれないの……」

 

四季の言葉にサーゼクスとセラフォルーの言葉が続く。長期戦は不利で学園全体の結界が自分達を閉じ込める檻になっている。

 

「オレは相手の親玉が出てくるのを待ってるんだよ。しばらく此処で籠城してれば痺れを切らして顔を出すかもしれない」

 

「向こうから出て来てくれるなら、そいつを倒した方が手っ取り早いか」

 

「相手が焦れるのを待つためにも時間停止をどうにかした方が良いんじゃないか?」

 

アザゼルの言葉にクリスが同意する中、四季がその為の……敵の親玉を引きずり出す為にも時間停止をどうにかするべきと案を出す。

 

「それなら旧校舎のテロリストごとハーフヴァンパイアを吹き飛ばした方が早いんじゃないか?」

 

(コイツ、何言ってやがる!)

 

ヴァーリの言葉にイッセーは怒りを覚えるが、

 

「和平を結ぼうって時にそれは止めろ。……最悪はそうするがな」

 

「いや、アザゼルの配慮には感謝するが、最悪の場合は私の手でそうするよ。そちらの方が和平にも影響は出ないだろう」

 

アザゼルの言葉に飽くまでも最悪の場合は自分が手を下すと判断をするサーゼクス。

 

そして、そんな中旧校舎の中にある未使用の戦車(ルーク)の駒のキャスリングを使えば王であるリアスならば旧校舎に迎えると案を出す。

術式を操作してリアス以外にもう一人だけならば旧校舎に迎えるとなった時、名乗りをあげるイッセー。

 

アザゼルも神器を抑える腕輪を二つ、一つはイッセー用、もう一つはギャスパー用に渡す。

短時間だけならば禁手化出来ることと使う上での注意点を説明される中、

 

「ところで、あいつは何もしないんですか?」

 

何かする様子も無い四季を指差してイッセーが問い掛ける。

 

「ああ、立場上オレ達は何もしない。と言うよりも出来ない、って所だな」

 

(ふざけるなよ、ギャスパーが捕まってるのに、こんな状況なのに何もしないだと!?)

 

「オレ達が動いたら向こうにしてみても、オレ達を殺せれば最も強い汚点になるし、オレ達に負けても自分達を狙ったテロから日本神話の立会人に助けて貰ったって言う形で顔に泥を濡れる」

 

要するに日本神話所属の四季達に頼るのは三大勢力にとっての面子に関わる問題なのだ。だからこそ、四季達が動くのは最後の最後と判断した。

 

その辺がよく分かっていないイッセーはまだ不服そうだったが。



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五十三話目

(面子とか立場とかそんなモンの為にギャスパーを犠牲になんてさせねえ!)

 

この状況で何もしない四季の姿に苛立ちを覚えながらも、テロリストに利用されているギャスパーを始末させない為にもイッセーは渡された腕輪を握り締める。

 

あの時のベルトとの併用でのパワーは無いが、神器を制御できるだけでなくこれを対価にすれば短時間だけなら禁手化できる。そうアザゼルからは教えられた。

それが本当なら今はこれ以上ない程有り難い。

 

「だが、副作用でお前に施されている封印も解ける。兵士(ポーン)の力を封印されているんだろう?」

 

「どこでその情報を?」

 

アザゼルの言葉に不愉快と言う表情を浮かべるリアス。

 

「そのリング、使うのは最後の手段だ。禁手中は体力か魔力を激しく消耗させる」

 

つまり、歪な形での禁手では今のイッセーでは消耗が激しく、制限時間よりも早く短時間で体力か魔力が尽きてしまう。

つまり、力を受け止めるための土台が足りないと言う訳だ。

 

「転移したら先ず女王(クイーン)にプロモーションして土台を作っておけ」

 

そうすれば力を使う最低限の土台にはなると言うアザゼル。

 

「よく覚えておけ、現段階のお前はあいつらと違って人間に毛が生えた程度の悪魔だ。力を飼いならせ、でなければいずれ死ぬぞ」

 

「わ、分かってるさ!」

 

アザゼルの言う言葉には頭では納得できても感情は納得できない。

アザゼルの言うあいつらとは間違い無く四季達だ。

人間に毛が生えた程度のイッセーと複数人でとは言えコカビエルと戦えた四季。どちらが強いのかなど明白だ。

 

イッセーへのアドバイスを送るとアザゼルは次にヴァーリへと話しかけている。

 

「まるで先生みたいだな……」

 

「冷静な分析と適切な対応力。悔しいけど指導者としては一流ね」

 

間違い無く一流の指導者として力を見せるアザゼル。そんなアザゼルの元で力を磨いて来たライバルとの差は既に追いつかない所にありそうだと四季は思う。

 

グレイフィアがキャスリングの術式の書き換えを行う中、アザゼルは四季達へと視線を向け。

 

「お前達も念の為に戦えるようにしといてくれ」

 

「確かに、敵の親玉がこっちのど真ん中に出てこられたら、流石に危険だからな」

 

「ああ。こっちにとって一番不味いのはそれだからな。それともう一つ、あいつらの使ってる道具、あれについてのお前さんの見解を聞きたい」

 

そう言った後、アザゼルはヴァーリへと視線を向け、

 

「ヴァーリに外で敵の目を引いてもらうのにしても、情報があると無いとじゃ大違いだからな」

 

「……あいつらが乗ってるのは見た所、御伽噺の魔法の箒と槍の複合体だな」

 

「御伽噺の魔法の箒ってやつか? 魔法使いの連中はそう言うのは嫌いそうなんだがな」

 

「まあ、実際には槍に乗って空を飛んでるって認識なんだろう。リングを使ってないってことは素のスペックだけか、持っていても攻撃用じゃ無いか、最初から持たされていないかだな」

 

「なるほどな」

 

「スペックの差は有ってもワンオフのウィザードライバーと原型の品は基本的な所に差は無い。高級量産品、高品質の生産品だ、油断してたら龍も狩られるぞ」

 

少なくともウィザード本編においてメイジは幹部級ファントムのメデューサを倒していた。

 

「なるほど、それは中々楽しめそうだ」

 

「白龍皇が前に出てくればこのテロの首謀者も動くかも知れないが、気を付けろよ」

 

楽しげな笑みを浮かべるヴァーリの言葉に呆れた様に溜息を吐くアザゼル。

見た所その領域に至れる訳はないとはそれは口には出さない。

 

(飼い慣らしているファントムも居そうに無いからな)

 

外に飛び出して禁手の鎧を纏ってメイジ達との戦闘に入るヴァーリを横目にそんな事を思う。

メイジ達の空中の機動性を考えると地上に落ちた者達からの攻撃までは止められない様子だが、それでも校舎への攻撃の手は緩む。

 

「あれが奴の神器(セイクリッド・ギア)……。容易に禁手化(バランス・ブレイク)しやがった」

 

対価なしでは出来ない己とライバルとの差を見せ付けられているイッセーの姿を横目で見つつ四季は自分達の行動を考える。

 

「それで、私達はどうするの?」

 

「取り敢えず、何かあったら詩乃と雫は下がってくれ。クリス先輩は外の相手をしなきゃならない時まで動かない方がいい」

 

そもそも、遠距離型の詩乃と広範囲殲滅型のクリスは室内での戦闘は不利だ。中で戦闘が起こった場合は四季が戦う以外には無いだろう。

 

逆に自分達が動く場合は数の多いメイジの相手はクリスの方が有利なので詩乃には其方の援護を任せたい。

 

なお、雫の場合は回復役(ヒーラー)では有るが戦闘させてはいけない。…………色んな意味で。

 

「アザゼル。神器の研究とは言うが……白龍皇のみならず、『滅神具(ロンギヌス)』の所有者を何名か集めたそうだな? 神もいないのに神殺しでもするつもりだったのかな?」

 

そんな中、サーゼクスはアザゼルにそう問いかける。

 

「備えていたのさ」

 

隠す必要もないとばかりにアザゼルは即座にそう答える。

だが、疑問は湧くだけだ。何に備えていたのかと言う。

 

「備えていた? 戦争を否定したばかりで不安を煽る物言いですね」

 

ミカエルの言葉も最もだろう。最も身近な戦争相手との戦争を否定ておいて何に備えていたのかと言う。

 

「言ったろ? お前ら相手に戦争はしない。ただ、自衛の手段は必要だ」

 

「我々でなければ何に対しての自衛なのです?」

 

禍の団(カオス・ブリゲード)

 

「カオス・ブリゲード!?」

 

「それは、まさか!?」

 

悪魔側のイッセーとリアスがその名に反応する。

匙がアナザーリュウガに変えられた一件とコカビエルの事件の際にアナザーライダーに変身してみせたフリードとバルパー。

匙の事件の際に彼をアナザーリュウガに変えた者達が名乗っていた組織名だ。

 

「組織名についてはお前達も知ってる様だが、背景が判明したのはつい最近だった。しかも、あんな技術を持ってるってのは本当に驚いたぜ」

 

あんな技術というのはアナザーライドウォッチやメイジのワイズドライバーの事だろう。

 

「そいつらは三大勢力の危険分子を集めているそうだ。中には禁手(バランス・ブレイカー)に至った神器(セイクリッド・ギア)持ち、滅神具(ロンギヌス)持ちも数人確認してるぜ」

 

「その者たちの目的は?」

 

「破壊と混乱、この世界の平和が気に入らないのさ。性質の悪いテロリストさ。その組織の頭は」

 

アザゼルがその組織のトップの名前を口にしようとした時、グレイフィアがそれに気付く。

 

 

 

『『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス』

 

 

 

魔法陣が床に現れると同時に響く新たな声。

 

「この紋様……。そうか、今回のテロの黒幕は!?」

 

その魔法陣の正体に気が付いたサーゼクスの表情に焦りが浮かぶ。

今回のテロの黒幕は天使や堕天使では無く悪魔だと気が付いたのだ。

 

「グレイフィア! リアスとイッセーくんを早く飛ばせ!」

 

「はっ!」

 

焦りを浮かべたサーゼクスの支持に従いグレイフィアはキャスリングを急ぐ。

 

「ちょ、ちょっと、グレイフィア!? お兄様! 」

 

「お嬢様……ご武運を」

 

グレイフィアのその言葉と共にリアスとイッセーの足元に有った魔法陣が輝き二人の姿が消える。

代わりに二人のいた場所に乾いた音と共にルークの駒が落ちるのだった。

 

「御機嫌よう、現魔王のサーゼクス殿とセラフォルー殿」

 

それと入れ替わる様に現れるのはそこに現れたのは胸元を大きく開け、足に

スリットが入ったドレスを身に纏う妙齢の女性悪魔。

 

「先代レヴィアタンの血を引く者、『カテレア・レヴィアタン』……」

 

サーゼクスは彼女の事を知っている。先代のレヴィアタンの血を引く者。魔王の座の、血筋で言えば政党にあたる後継だ。

 

「なあ、レヴィアタンってどういう事だ?」

 

「魔王の名は悪魔の中で二つあるんだ。一つは先代の魔王の一族に当たる目の前の女に代表される者達。サーゼクス殿を始めとする現在の魔王は後から受け継いだ者達。言ってみれば後者は称号としてその姓を名乗ってるって事だな」

 

クリスの言葉にそう説明する四季。言ってみれば王冠や玉璽の様なものだ。

同時に現政権に敗北し毎回の隅に追いやられた者達でもある。

 

「その通り、流石は日本神話が代行者に選んだ者達。よく知って居ますね」

 

上から目線の褒めの言葉を投げかけてサーゼクスに向き直る。

 

「カテレアちゃん、どうしてこんな!?」

 

セラフォルーの悲痛な叫びが響く中、カテレアは何かを堪える様に俯いている。

 

「何故……? 貴女が私に何故と問いますか?」

 

「うぅっ……」

 

幽鬼の如き怒気をまといながらカテレアはセラフォルーを睨み付ける。

 

「他の者達の様にこの様な恥の上塗りなどする気は無かった! 貴女がレヴィアタンの名を名乗るのも、私に家名を守る力が無かったとして敗残者として受け入れられた……」

 

敗北した者として、また己よりも強者であったセラフォルーがレヴィアタンの名を名乗るに相応しかったと諦める事は出来て居た。

 

「ですが……ですが! あれだけは受け入れられる筈はない、あの様な恥辱が良い訳がない!?」

 

怒りを露わにセラフォルーを睨み付けるカテレア。

 

「魔法少女レヴィアタンなどと言う私の家名に泥を塗る様な番組を作るだけなら辛うじて我慢しましたよ!」

 

その叫びを聞いた瞬間、シリアスな空気が崩れていく音が聞こえた気がした。

 

「ですが、まるで年齢を考えないでその番組の主役として出演するとか、その衣装を正装と言うとか何を考えているんですか!?」

 

その叫びを聞いた瞬間、既にアザゼルは爆笑して居た。

 

「年齢と立場を考えなさい、年齢を! 隣にいるサーゼクスなんて、幾つになる子供が居ると思ってるんですか!?」

 

「し、四捨五入したら二十歳(ハタチ)だもん!」

 

カテレアの言葉に涙目で抗議するセラフォルー。

既にミカエルは「えっー」と言う表情で呆れて居る。

 

「魔法少女って高校生までが限界じゃ無いのか?」

 

クリスの一言がセラフォルーの胸に突き刺さる。

 

「百歩譲って19歳までだと思うわね」

 

詩乃の容赦の無い一言がさらに突き刺さる。

 

「うん、二十歳だったらシリーズでも主人公交代するか、タイトルから少女は無くなると思う」

 

雫の一言がセラフォルーの心にフィニッシュブローを叩き込む。

 

「つまり、自白したって事だよな、少女じゃ無いって」

 

四季の言葉にセラフォルーは車田飛びで吹き飛ばされるのだった。

 

「うぅ……良かった、分かってくれる人がいて……」

 

心底嬉しそうに泣いているカテレアに最早言葉もないサーゼクス。

 

「そして、今回私達同じ志を持った同士達と共に今回の行動に出た訳です」

 

外のメイジ達の一部から聞こえてくる『セラフォルー殺す』の怨嗟の声。

 

禍の団(カオス・ブリゲード)、セラフォルー殺し隊。それが今回のテロの首謀者と実行者達の一部であった。

 

「なあ、これ、現レヴィアタンを外に突き出せば治ったんじゃないのか?」

 

「それは良い考えだけど、流石に和平に問題になるからな」

 

四季の言葉に対するアザゼルの答えにうんうんと頷いているサーゼクスとミカエル。三人とも四季と同じことを考えたのだろう。

 

「みんな、酷いよー!」

 

精神的に打ちのめされていたセラフォルーが復活して涙目で抗議の声を上げるのもそんな時だったりする。

 

「酷いのは貴女です! 貴女が魔法少女レヴィアタンなんて名乗っているせいで、私がなんて呼ばれてるか知ってますか!? 私なんて魔法熟女(笑)レヴィアタンなんて呼ばれてるんですよ!」

 

なお、旧魔王派に居た恋人と別れたきっかけは魔法熟女と呼ばれている事を知った時に爆笑した彼をカテレアが殴り飛ばした事がキッカケらしい。

 

 

 

 

最早、先ほどまでのシリアスな空気はどこにも無かった。

主に高校三年生の妹がいるのに魔法少女と名乗った現魔王(セラフォルー)とその被害者で魔法熟女(笑)と言うあだ名を付けられた旧魔王(カテレア)が原因で。

 

 

 

 

 

 

 

 

ホント、シリアスどこ行った?



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五十四話目

「と、ところで、旧魔王派の連中は兎も角、オーフィスがテロリストの思惑に強調するとは思えないんだがな」

 

散々カテレアとセラフォルーのやりとりに爆笑して居たアザゼルが腹を抱えながら本題に持っていこうとする。

 

「ええ、奴等はオーフィスを力の象徴として使うだけのようです」

 

吐き捨てるように旧魔王派の者達を奴等と呼ぶカテレア。

 

「只でさえ恥の上塗りにしかならない行動の上に他者の名前を看板にするなどと言う、誇りさえも失った者達と一緒にして欲しくありませんね」

 

旧魔王の血筋のせいで勝手に旧魔王派の構成員にされているがカテレアは飽くまで魔法少女レヴィアタンが原因で参加したらしい。

 

「一度世界を滅ぼして新世界を構築して、その新世界を取り仕切ると言って居ますが」

 

「オーフィスはパトロンって訳か?」

 

「そもそも、オーフィスには別に目的が有るそうですよ」

 

その目的、それを思い出しただけでカテレアの顔色が少し悪くなる。

不動の世界最強(赤龍神帝)を倒す事。オーフィスの目的はオーフィスよりも強い存在を倒すための戦力を集める事だ。

無垢なオーフィスに倒す為に味方を集めると、そう吹き込んで組織のトップに祭り上げた様だが、そんな事をする気が無いことがオーフィスに知られた時どうなるか、想像しただけで恐ろしい。

オーフィスを怒らせれば世界二位が、オーフィスを怒らせないようにしたら世界一位が敵として目の前に立つ。

正に禍の団は最初から前門の虎、後門の狼が生温い状況にあるのだ。

 

カテレアとしてもそんな未来の暗い組織に入りたくもなかったが、一部乗り気の連中がいてくれるので暫くはオーフィスが騙されたと知って怒ることはないだろうとも思う。

 

実はカテレアとしてはセラフォルーからの度重なる屈辱(人の家名を魔法少女の名前にしたり、そのせいで魔法熟女扱いされたり)にキレて禍の団に入ったが、志を共にする者達と出会えた事以外は後悔していたりする。

 

「全く、奴等の目的は」

 

「陳腐で酷すぎる、か?」

 

「その通りですよ。私の目的は飽くまで命を賭してでもレヴィアタンの名の誇りを守る為です」

 

他の連中の目的などどうでも良い。元恋人と別れる前ならば別だったかもしれないが、今さら元の鞘に戻る気などない。魔法熟女と爆笑された恨みは忘れていないのだ(笑)

 

飽くまで先代の魔王のレヴィアタンの名の誇りを守る為にセラフォルーを討つ。相打ちだろうが、力を使い果たして別の者に自分が討たれ様がセラフォルーさえ討てればカテレアにとってそれで良いのだ。

 

「仕方ねえな。サーゼクス、ミカエル、オレがやる。手を出すなよ」

 

「っ!?」

 

カテレアにとって用があるのはセラフォルーだけ。

だが、三大勢力にとって此処でカテレアが死力を尽くすであろうセラフォルーを出すと言う選択肢は無い。

 

「……カテレア、降るつもりはないのだな?」

 

「ええ、もはや引き返すことなど出来ません。サーゼクス、貴方はいい魔王でした。けれど、いい悪魔ではない」

 

「そうか……残念だ」

 

サーゼクスの呟きを合図にぶつかり合うアザゼルとカテレアが校舎の外に飛び出していく。

 

カテレアの杖をアザゼルの光の槍が受け止める。

 

「思ったより楽しめるじゃねえか!?」

 

「ハッ! 私は貴方には用は無いのよ!」

 

 

 

『バインド、ナウ』

 

 

 

カテレアが僅かに距離を取ると近くにいたメイジの一人がアザゼルの腕を絡めとり、カテレアの一撃が叩き込まれる。

 

「チッ! 一騎討ちじゃねえのかよ!?」

 

「フフフフ、私は貴方を相手に決闘すると言った記憶は有りませんよ?」

 

背後にメイジ達を従えながらカテレアはアザゼルに対してそう告げる。

 

数人のメイジが直接攻撃系以外のリングでアザゼルの動きを阻害し、カテレアが前衛を務める。

セラフォルーが原因で見事な結束を見せてしまっていたのだ。

 

何かしらの切り札でも出てこない限りは、アザゼル相手に死力を尽くす気の無いカテレアが優勢だろう。

 

地の利は何方にも無ければ数に利はカテレアにある。

ヴァーリを相手に大半のメイジが戦ってはいるが後続のメイジは湧き出している。

そして、常に3~4人のメイジがカテレアの補助型の魔法で援護に入っているのだ。完全に現状では不利なのはアザゼルの方だろう。

 

「形振りかまっていられないってか!?」

 

「ええ、その通りですよ!」

 

一人のメイジがライドスクレイパーを降りて地上に降り、乗り捨てたライドスクレイパーをカテレアへと渡す。

戦闘の援護と武器の供給と完全に強力な個を中心とした郡としての戦いに徹している事に内心舌打ちを打つ。

 

「覚悟を決めてもらいましょうか、アザゼル?」

 

「チッ! 形振り構わなくなったやつってのは本当に厄介だな。……仕方ねえな」

 

そう言ってアザゼルが懐から取り出すのは短い槍のような物。

 

「本当なら会談が終わったら、あのベルトの設計図を元に改造したかったんだが仕方ねえ」

 

「それは」

 

「オレの趣味さ」

 

そう、四季から渡されたウィザードライバーの設計図(本当は解析図)の写しを元に思い付いたアイディアを詰め込んで更なる改造を施そうと思っていた人工神器。

 

主に核にする部分を取り替えてフォームチェンジの機能とかを加えたかったが仕方ないと思う。

その他にも色々な改造プランが浮かんだのはアザゼルだけの秘密である。

 

禁手化(バランス・ブレイク)……っ!」

 

「ッ! まさか!?」

 

アザゼルの姿が光に包まれ現れるのはドラゴンを模した鎧に身を包んだアザゼルの姿。それは何処かヴァーリの鎧に似ていた。

 

「ドラゴン系神器(セイクリッド・ギア)を研究して作り出したオレの傑作人工神器(セイクリッド・ギア)堕天龍の閃光槍(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)の擬似的な禁手状態『|堕天龍の鎧《ダウン・フォール・ドラゴン・アナザー・アーマー》』だ」

 

「人工神器……!? そんなバカな!?」

 

「これは『黄金龍君(ギガンティスドラゴン)』を宿らせた人工神器。今のところは成功ってところか?」

 

神器の研究の末に自ら神器を作り上げることに成功していた。その事実に驚愕するカテレア。

 

「それにそんなに驚く事は無いだろう? 似た様なモンを作った人間だっているんだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは終わったかな?」

 

カテレアとアザゼルの戦況を眺めながら四季はそう呟く。

人工神器と言う力によって先程までカテレア側によっていたパワーバランスは今度はアザゼル側に傾いたと見るべきだろう。

 

とは言え、念の為に自分達も戦闘準備程度はしていた方が良いだろう。

フェニックスの時にはソーナ達を狙い、コカビエルの時にはコカビエル達にアナザーライドウォッチを渡した連中が今回はメイジの力を与えただけで済ます訳が無い。

 

「クリス先輩、今の内にギアを」

 

「ああ。~~♪」

 

四季の言葉に答え、歌声が響くと同時にクリスの姿がイチイバルのギアに包まれる。

 

目の前で行われたリアルな変身シーン、それに反応しない訳が無いのが一人。

 

「すごい! すごい、すごい! 本物の魔法少女!?」

 

目の前でのリアルな変身に大興奮な魔王少女(セラフォルー)の図。

一応はシンフォギアも魔法少女に分類されるだろうが。

 

「あれが……」

 

同時にイチイバルを間近で見たミカエルも驚嘆する。

錬金術と科学と言う違う方面で同じくカケラを核とした武具で有りながらも、教会で作られたエクスカリバーシリーズよりも目の前の武器は強力な代物だ。

恐らくはそれの基礎的な技術を考案した者の才能が違うと一目で分かる。

控えめに言っても天才や秀才と言えるだろう。

 

(表には関わるべきでは無いと思ってましたが、技術力では私達が一番劣っているかも知れませんね)

 

神の生み出した神器を自らの手で人工神器として作り上げたアザゼル。悪魔の駒を作り上げた悪魔側の技術担当の魔王。

共に勢力の中に相応の技術力を持っている。それに対して天界側の技術は停滞していたのでは無いか、そうシンフォギアを見せられて思ってしまっていた。

 

(今回の和平、成立させなければ今後は天界が不利になるかも知れませんね)

 

聖なる属性の武器や光力と言うアドバンテージがあった。だが、堕天使と悪魔が手を組めば光力を無力化する術も開発されるかも知れない。

堕天使側にして見ても光力を無力化するのはデメリットかも知れないが、人工神器を量産されてしまえばそれで済む問題だ。そもそも、悪魔の力は個々の家ごとの特有の能力があり対策は難しい。

それに対して天界が持つのは光力と言う力だけ。

 

(私たちにも変化が必要ですね)

 

今回の和平が成立しなければ真っ先に消えてしまうのは天界では無いかと危機感を覚え始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、禁手の鎧を纏ったアザゼルの力の前にカテレアは追い詰められた。

 

せめてもの抵抗としてアザゼルを巻き込んでの自爆しようとする。

目的は果たせないがこのまま一方的にやられて虜囚にされるよりマシと死を覚悟する。

 

だが、

 

「片腕くらいお前にくれてやるよ」

 

カテレアの覚悟のほどを見たアザゼルもまた一切の躊躇なく自らの腕を切り落とした。

 

死を覚悟しても片腕程度の戦果しか上げられなかった。そんな事実が目の前に突きつけられる中、

 

「くっ!」

 

突然現れた空中に浮かぶパーカー達がアザゼルへと襲い掛かりカテレアから遠ざける。

 

 

 

『テレポート、ナウ』

 

 

 

同時にカテレアの姿がアザゼルの前から消える。

次に現れたのは校庭だった。だが、そこには三人の新たな人影があった。

 

眼鏡をかけた青年。パーカーの少女。魔法使いの様なローブを纏った少女の三人だ。

 

「あはは〜、カテレアさん、お怪我はないですか?」

 

「助けに来たよ〜」

 

二人の少女がカテレアへとそう声をかけると、フードの少女の元にパーカー達が集まり、球体のような物に消えて行く。

 

「ええ、ソーサラーにダークゴースト、助かりました」

 

「此処からは僕達も宣戦布告のさせて頂きましょうか?」

 

そう言って前に出るのは眼鏡の青年……ナイトローグ。

 

「僕達は禍の団(カオス・ブリゲード)、改変派。この度正式に宣戦布告させていただきましょう」

 



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五十五話目

「改変派、だと?」

 

突然現れた集団にそんな声を上げるアザゼル。

 

魔法使いのローブを纏った少女、ソーサラー。

パーカーの少女、ダークゴースト。

そして、メガネの青年、ナイトローグ。

 

そのうちの少女二人は前回のコカビエルの時にもコカビエルに接触してアナザーライドウォッチを渡した者達でもあ、ナイトローグは匙をアナザーリュウガに変えた者でもある。

 

「あっ、これを忘れてました~」

 

そう言ってソーサラーがカテレアに手を翳すと現れた魔法陣がカテレアが自爆の為に集めていた力が魔法陣に飲み込まれていく。

 

「これでもう大丈夫ですよー」

 

「ええ、助かりました」

 

自爆する危険は無くなったがアザゼルとの戦いのダメージでフラフラとした足取りで立ち上がるカテレア。

最終的にソーサラー達の手を借りたとはいえ、自分は生きてアザゼルの片腕を奪ったと言う戦果は上げた。その程度の戦果など誇る気は無いがそれでも生き残れたのは大きい。

 

そして、新たな敵が現れたと言うのにアザゼルの鎧は淡い光を放ちながら消え、二又の槍だったそれは元の短槍に戻り鎧も消えてしまった。

 

「チッ! ……人工神器(セイクリッド・ギア)の限界か」

 

開発者だからこそそうなった理由は分かる。研究段階の試作品なのだからスペックは兎も角制限時間が有るのは当然の事だ。

 

「まだまだ改良の余地がある様ですね」

 

「ああ、まだ多分にな」

 

ナイトローグを名乗った青年の言葉に忌々しげに返す。分かっては居るがそれを敵に言われると腹立たしいものがあるのだ。

 

「それで、魔法使い共の装備はお前達の仕業か?」

 

「ええ、現在僕達は禍の団(カオスブリゲード)の幾つかの派閥に装備の提供を行って居るので、魔法使い派もその一つですよ」

 

多分装備の提供を受けていない派閥、それは旧魔王の派閥だろうとアザゼルは推測して居る。

プライドだけは高い旧魔王の連中が人間と思われる連中の施しの様な事(旧魔王主観)を受け入れるとは思えない。

寧ろ負けた事を理解して殊勝な態度のカテレアが例外なだけだ。

 

「そりゃ羨ましいな。オレもお前さん達の技術はじっくりと研究してみたいぜ」

 

これは隠す事のない本心だ。四季達の技術もそうだがナイトローグ達の技術も研究者として是非とも知りたい。

だからこそ、四季から渡された設計図を穴が空くほど読み込んだし、この技術をどう人工神器に活かすかも考えた。

会談が無かったら設計図を見た時点で研究室に閉じこもって人工神器の改造に勤しみたいところだった。

 

実際、アザゼルの中で最高傑作の改良案は一つ出来上がって居るのだ。

 

禍の団(カオスブリゲード)に入れば希望さえ有れば提供させていただきますよ」

 

「コカビエルの奴には入らなくても渡したのにか?」

 

「ええ、あれは僕達の目的も兼ねていたので。それに目的の上では此方の想定以上の結果を出してくれました。ですが、そう何度もサービスはしませんよ」

 

「そいつは残念だな」

 

皮肉げに言葉を返すアザゼル。

口では残念と言って居るが実際には残念そうには見えない。少しでも情報を抜き出そうと思ったが、思ったよりも良い情報は出てこない。

 

「この程度の情報なら天地君が推測して居るでしょうしね」

 

そう告げてナイトローグはボトルの様なもの、バットロストボトルを取り出し、それを振りながら新たに取り出した銃に装填する。

 

『バット!』

 

「さあ、お喋りはこの辺にして置きましょう」

 

青年は眼鏡を上げながら引き金を引こうとした時、

 

「っ!? あいつら、こんな時に戻って来やがったか」

 

タイミング悪くギャスパーを助けたイッセー達が戻って来てしまっていたのだ。

 

「なんだ、あいつら?」

 

「テロリストのお仲間だよ」

 

「何だって!?」

 

青年を指差しながらの問い掛けにアザゼルが答えるとイッセーは怒りを露わにナイトローグを睨み付ける。

 

「お前がギャスパーを利用した連中の仲間か!?」

 

「ええ、その通りです。ああ、木っ端悪魔に名乗る必要もないのでアザゼル総督からでも聞いてください」

 

怒りを露わにするイッセーを意に介さず、小馬鹿にする様に邪魔だとばかりに手を振るナイトローグ。

 

「え? 貴方は……」

 

ふと、リアスがナイトローグの顔を見て何かに気がつく。

彼女の記憶の中に有った者と顔が一致したのだ。

 

「もしかして、久瀬君?」

 

「覚えていただいて光栄ですね、グレモリー嬢」

 

「ええ、生徒会選挙でソーナに完敗した貴方のことは忘れたくても忘れられないわ」

 

リアスの言葉に微妙なものを表情に浮かべるナイトローグ。

 

「……今思い出しても忌々しい話ですね、それは」

 

「全部久瀬さんの人望のなさですよねー」

 

「悪魔とか関係無くて、自分の人望のなさだよね~」

 

「グハッ!」

 

思わない所からの援護射撃によってナイトローグの精神に重すぎる一撃が突き刺さる。

なお、本当に人望で彼はソーナに負けた。笑えるほどの票差で。五割どころか九割取られて。

 

「……どっちの味方なんですか、貴女達は!?」

 

ヨロヨロとした足取りで立ち上がると、改めてバットロストボトルを装填したトランスチームガンを取り出し、

 

「まあ、いいでしょう。蒸血」

 

『ミストマッチ!』

『バット・バッ・バット… ファイヤー!』

 

トランスチームガンの引き金を引き、その姿をコウモリを模したダークヒーローの様なヴィランの姿、ナイトローグとしての姿へと変える。

 

「改めて自己紹介させていただきましょう。僕は『久瀬成彰』、禍の団(カオスブリゲード)改変派の一人。またの名をナイトローグです」

 

そう言って一礼してみせるナイトローグ。

 

「本当にスゲェ技術だな、その銃。一度じっくり研究して見たいもんだぜ」

 

目の前での変身を見せつけられて感心してしまうアザゼル。

 

「そうですね。開発者の名前は葛城巧と言うそうですよ」

 

「名前から言ってそいつも人間か……。オレも本当に負けてられねえな」

 

アザゼルも同じ技術者として敗北感を感じながらも楽しそうな笑みを浮かべる。

あれを見ただけでも人工神器の強化案もいくつも浮かんで来た。

 

(持続時間の問題もあるが、核となる物と禁手の様な鎧を纏うための物、それぞれ用意してみれば持続時間も上がりそうだな)

 

トランスチームガンとボトルの関係を人工神器に置き換える。同時に核を変える事により別の神器の力を宿した鎧へと変える事も可能にする。

仮面ライダーの変身とフォームチェンジの関係を人工神器に置き換えた物をこの短時間でアイディアとして纏めた。

元々ワイズドライバーの設計図を見た時から考えていたものだが、ナイトローグの変身を間近で見て余計にアイディアをまとめ上げていた。

 

「さて、此方もアザゼル総督の片腕を奪った事ですし、派手に校舎を破壊して仕上げといきましょうか」

 

「巫山戯んじゃねえ、そんな事させるかよ! ギャスパー、もう一度だ!」

 

「は、はいっ!」

 

ナイトローグ達を視界に収めた事で停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)の効果の影響下に置き、動きを止める。

 

「イッセー先輩、トドメです!」

 

「任せろ!」

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を身に付けたイッセーの狙いはナイトローグ…………では無く、二人の後ろに居るロープ姿の少女とフードの少女。

 

(二人ともかなりの巨乳!? ギャスパーが動きを止めて、オレが服を弾き飛ばす! 無敵じゃないか!)

 

最初の狙いはフードの少女。彼女に触れようとした時、

 

「へっ?」

 

何の抵抗もなくイッセーの手は彼女をすり抜ける。その光景に動揺したのか何度も自分の手と少女に視線を向ける。

 

「お触りは禁止だよ~」

 

イッセーが動揺して居る時、籠手に触らない様に左腕を掴み、開いた片手でイッセーの襟を掴み、鮮やかな動きで投げ飛ばされる。

 

「あははー、彼女には貴方の技は通用しませんよー」

 

「ええ、気は済みましたか、兵藤くん?」

 

「え?」

 

先程まで止まっていたナイトローグとロープの少女も動き出していた。三人が三人ともギャスパーの神器が効かなかったと言う事で納得はできる。

だが、

 

「な、なんで、触れないんだよ!?」

 

少女に触れられなかった事だけは分からない。

 

アザゼルもそれは何らかの神器によるものかと推測して居るが、当の本人から答えが返ってくる。

 

「それはね〜、私がオバケだからだよ〜」

 

ブカブカな袖を前に垂らして『うらめしや〜』と古典的なオバケの真似をしてみせるフードの少女。

 

「巫山戯んな、じゃあ何でオレに触れるんだよ!?」

 

冗談でも言ってからかって居るのかと憤るイッセー。そんな彼の抗議の声を無視して、

 

 

『アーイ! バッチリミナー!』

 

 

少女は腰にベルトを出現させる。

 

「だって、そう名乗った筈だよ〜。変身〜」

 

出現させたベルト、ゴーストドライバーに眼魂(アイコン)をセットし、

 

 

 

 

『カイガン! ダークライダー! 闇の力! 悪い奴ら!』

 

 

 

その姿を白い仮面のフードを被った戦士『仮面ライダーダークゴースト』へと変える。

 

「私は仮面ライダーダークゴースト〜。最初に会った時からゴースト(オバケ)だって言った筈だよ〜」

 

「「「はぁ!?」」」

 

ダークゴーストの言葉に惚けた声を上げるイッセー達。

そんな中、アザゼルは、

 

「そうか、そのベルトかセットした道具に魂を留めて擬似的な肉体を作り出してるって訳か」

 

ダークゴーストの言葉からそう推測を浮かべる。

 

「成る程、やはり優秀ですね、アザゼル総督。その通り、彼女は一度死んだ人間です」

 

隠す必要もないとばかりにナイトローグはアザゼルの言葉を肯定する。

元々あれだけヒントがあれば神器(セイクリッド・ギア)の研究者であるアザゼルならばすぐに気付く。

だからこそ、ナイトローグにとっても隠す必要はないのだ。

相手が知って居るということを知って居る方が益がある。

 

「うん、だから私はね〜、ダークゴーストって言うんだよ〜」

 

死者、幽霊であるから、己はダークゴーストなのであると告げる。



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五十六話目

(やっぱり出てきたか、奴等……)

 

アザゼルと対峙しているナイトローグとダークゴーストを一瞥し、四季はそんな事を考える。

 

トランスチームガンもロストボトルもゴーストドライバーもどうやって入手したのか疑問だが、

 

(そろそろオレ達も動いた方が良いか?)

 

流石に此処で奴らに出てこられては戦局は大きく敵側に傾いてしまうだろう。

……此方の中にいる裏切り者もそろそろ動く頃合いなのだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダークゴースト、ナイトローグ、そしてもう一人のフードの少女と対峙するイッセー達は、

 

「ったく、こんな状況じゃなけりゃどれもこれも興味深い技術なんだろうけどよ」

 

ゴーストドライバーを一瞥してそう告げるアザゼル。

それもそうだろう、ゴーストドライバーは彼の専門分野である神器(セイクリッド・ギア)に近いのだ。

封じた魂に仮初めの肉体を与える技術を見せられては自作の人工神器にも活かせないかと模索したくなる。

 

あんな形で仮初めの肉体を得られるなら場合によっては他にも協力を得られるドラゴンも居るだろうし、場合によっては戦闘時のサポートも得られる。

だが、残念ながらその技術を持って居る相手は敵方だ。

自身の研究に取り入れれば大きな前進に繋がりそうな技術を見せられたというのに敵側であるのが心底残念そうだ。

 

 

 

『ディフェンド、ナウ』

 

 

 

「チッ」

 

ほぼ無造作に放たれたアザゼルの光の槍がソーサラーを名乗って居た少女に防がれる。

 

「酷いですねー、イキナリだなんて」

 

「はっ!? しっかり反応して防いどいて何言ってやがる」

 

その場にいたリアスとイッセーでは気付かなかったレベルの速さの攻撃だったが、ソーサラーを名乗る少女には不意打ちにすらなっていない事にアザゼルは悪態を吐く。

 

カテレア相手に切り札を使い、続けて現れたのは切り札を使った所で勝ち目があるか不安がある相手が三人なのだ。悪態の一つも吐きたくなる。

 

 

 

『チェンジ、ナウ』

 

 

 

そして、彼女は態々目の前で魔法陣を潜りながら金色の魔法使い『仮面ライダーソーサラー』に変身すると言う余裕まで見せつける。

 

「本当にお前ら、どこでそんな物を手に入れた?」

 

「っ!? そうだ、そのボトルみたいなのはあの泥棒野郎の使ってた奴じゃねえか!? あの泥棒野郎達もお前等の仲間か!?」

 

ナイトローグの持っているバットロストボトルを見てそう噛み付くイッセー。

ルパンレンジャーとして活動していた四季がビルドドライバーを使ったり、イッセーにスクラッシュドライバーを渡した事からそう考えたのだろう。ナイトローグはそんな彼を一瞥しながら、

 

「いえ、残念ながら基礎技術は同じでも、これは別方向に発展させた物ですよ。君が魔王サーゼクスから渡されたドラゴンのボトルと同じ様にね」

 

「っ!?」

 

ナイトローグの言葉に反応してイッセーは思わずポケットに触れる。

 

「なるほど、君が持っていましたか。もっとも、トランスチームやドライバーと言った変身用のシステムは開発できていない様ですが」

 

彼らの会話を四季が聞いていたら己のミスに気が付いただろう。

フルボトルの危険性は寧ろボトルの方が高いのだ。フルボトルを作れたと言う事は、何等かの理由でネビュラガスを入手したと言う事になる。

 

「まあ、見様見真似でそれを作れた事は高く評価出来ますね」

 

そう言いながら素早くトランスチームガンをイッセーへ向けて引き金を引く。

 

「っ!? 危ねえ!」

 

咄嗟にアザゼルがイッセーをリアス側へと突き飛ばし、自分もそこから離れる。

 

「このっ!?」

 

標的が無くなった事で地面に撃ち込まれる銃弾。リアスはナイトローグへと滅びの魔力を放つ。

 

「ふっ」

 

「あはは~、ナイトローグさん、しっかり防いで下さい」

 

ナイトローグがそれを避けると後方にいたソーサラーが明後日の方向に弾く。全力ではなかったとは言え自慢の滅びの力を軽く弾かれた事にリアスは歯噛みする。

 

「悔しがっても仕方ないですよ~。今の私の力は、貴女のお兄さんよりも強いんですから~」

 

「サーゼクスの奴よりも強いって随分大きく出たじゃねえか?」

 

「当然の反応なんですけどね~。無限の魔法使いの力を断片でも使ってるんですから」

 

クスクスと笑いながら冗談の様に告げる無限の魔法使いの名。流石に冗談だろうと思いながら聞き流してしまうアザゼル。

鈴を転がすような声と可愛らしい仕草。仮面ライダーの姿で無ければ絵になる美少女ではないかと思わせる彼女の様子にアザゼルは油断なく構える。

 

「この野郎!」

 

そんな中で注意が離れていたイッセーがナイトローグへと殴りかかる。

ナイトローグはそれを避けるが倍加させてイッセーの拳がナイトローグへと振るわれる。

 

「へっ、銃なんてこれだけ近づけば……」

 

「確かに銃を使うにはやり難い距離ですね。ですが」

 

イッセーの大振りのパンチを避けて腕を掴むと、そのまま無防備の体に空いた拳を叩き込む。

 

「がはっ!」

 

「君程度の体術に当たるほど甘くは無いですよ」

 

蹲るイッセーを見下ろしながら淡々とナイトローグは呟く。

 

「ゲホッ……ゲホッ…………テメェ……!」

 

「ふう」

 

立ち上がりながら自分を見下ろしているナイトローグの顔目掛けてパンチを打つが、ナイトローグには軽く後ろに下がる事で避けられる。

 

ライザーに勝ったのに、強力な神器(セイクリッド・ギア)が有るのに何故? そんな考えがイッセーの脳裏に浮かぶ。

 

「流行り君は理解していませんね。フェニックスに勝ったのも君の力では無く神器の力と『桐生戦兎』の作品のお陰と言う事を理解したらどうですか、最弱の龍帝」

 

(『キリュウセント』。そいつが悪魔側の新技術の開発者って訳か)

 

ナイトローグの言葉の中に有った名前を忘れない様心の中で反芻しながら、ナイトローグ達の隙を伺うアザゼルだが、残りの二人へ注意を向けているために動けずにいる。

 

「何、だと?」

 

「まあ、神器については君の力とは言えますが、君がフェニックスに勝てたのも、彼が不死の特性が原因で回避に関する経験が薄いお陰ですよ」

 

「そんな事、ある訳ねえだろぉ!」

 

激昂しながら更に殴りかかるがナイトローグはそれを簡単に避けていく。

 

「だって、君は悪魔に転生するまで、喧嘩は愚か格闘技もやった事はない。十日程度の特訓で、何度も試合とは言え実戦を経験している相手に攻撃を当てる事が出来ると思うのは自惚れが過ぎますよ」

 

「っ!?」

 

「そうですね。強いて言うなら、訓練の最中、騎士相手に有効打を与えられましたか?」

 

ナイトローグの指摘に心の何処かで納得してしまう。

 

「幸か不幸かは別にして、神を殺す力を秘めた龍の神器を宿していた運は別にして、才能、経験、強くなる為の環境に意識。どれをとっても君は私達にとって脅威たり得ない」

 

指折り数えていくナイトローグの言葉にイッセーの心に動揺が浮かぶ。

 

「そして、全てに於いて君はライバルに負けている。才能では圧倒的に」

 

何時かの四季の時の様に拳を突き出した体制で足を払われ、拳が地面に叩きつけられる。

倍加の力で強化された力が無駄打ちさせられたのだ。

 

「環境については神器(セイクリッド・ギア)の研究家のアザゼルの元で神器(セイクリッド・ギア)の力を遥かに高く引き出している。そして、貪欲なまでの強くなろうとする意思」

 

そう解説しながら敢えて最初の倍加程度の攻撃を受ける事でイッセーの力を無駄撃ちさせる。

 

「君はライバルになる筈だった相手から失望されている事に、戦う価値の無い相手だと見下されている事に気付くべきでは? 龍帝を閉じ込める為の最弱の宿主と言う檻でしか無い事に」

 

ナイトローグはイッセーを嘲笑う様に淡々と告げながら眼鏡の位置を直す様な仕草をしてみせる。

 

そして、ナイトローグは剣型の武器『スチームブレード』を取り出して見せる。

 

「此方としても未知のロストボトルには興味は有りますね。回収させて貰いましょうか?」

 

(ロストボトル? そうだ、あのボトルが有れば!)

 

ナイトローグの言葉に反応してポケットの中にあるドラゴンロストボトルの存在をイッセーは思い出す。

あれが有ればと思いポケットに触れた瞬間、

 

「その辺にしておいて貰おうかい?」

 

その場に第三者の声が響く。穏やかだが、有無を言わさない声。

 

「お兄様!」

 

「サーゼクス!」

 

赤毛の魔王がその場に現れるのだった。

 

「これは現魔王様。態々悪魔が誇る超越者たる貴方が直々に出陣してきて頂けるとは……光栄の至りです」

 

何処か態とらしいナイトローグの賛辞と一礼に不快感を覚えながらもサーゼクスはそれを表に出さずにナイトローグ達を睨む様に視線を向ける。

 

「寧ろ、君達はそれを望んでいた様にも見えるけど、違うのかい?」

 

「ええ、その通りです。では、予定通り、ソーサラー」

 

「はい」

 

ナイトローグの言葉に従ってサーゼクスの前に立つのは金色の魔法使いソーサラー。

 

「君が私の相手、と言う事になるのかな?」

 

「はい〜、そうですよ〜」

 

そう言ってソーサラーが取り出すのは無限の魔法使いのライドウォッチだ。

 

「無限の魔法使いの試運転には相応の相手じゃないと勤まりませんから〜」

 

 

 

『インフィニティスタイル』

 

 

 

その音が響くと同時にソーサラーの指に新たなウィザードリングが現れ、ベルトの色がウィザードライバーの物に変化する。

 

「変身」

 

 

 

 

 

イィィンフィニティー!!

イィィンフィニティー!!

イィィンフィニティー!!

イィィンフィニティー!!

 

プリーズ!

 

 

ヒースイフードー!ボーザバビュードゴーーン!!

 

 

 

 

 

金色から白銀へ、その姿をソーサラーからウィザードの最強の姿へと変える。

淡く水色にも見える光り輝くその姿はソーサラーの頃よりも絢爛にも見える。

『インフィニティ』、それは無限の魔法使い。無限の魔力を持つ、この世界において二位の力を持つ存在に対して魔力と言う一点だけでも並ぶ存在へと、その姿を変えた。

 

サーゼクスもまたその力を理解した。理解してしまった。

3位とまでは行かないだろうが、その瞬間、ソーサラーは目の前でヴァーリが言う所の強者のランキングにエントリーしてしまったのだ。

 

この世界に現れた無限の魔法使い。それは最後の希望では無い。希望を刈り取り絶望をもたらす、絶望の魔法使い(ダークライダー)として。



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五十七話目

「……インフィニティー、スタイル…………」

 

「おい、あれが何か知ってるのかよ?」

 

「ウィザードの最強形態。まだ上があるとは言ってもそれは必殺技を使う時の姿である以上、最強の魔力を持つ、無限の魔法使いだ」

 

クリスの問いに四季は答える。

相手がインフィニティースタイルのウォッチを入手していた事から敵として現れる事は半ば予想していた。だが、こうして敵として目の当たりにするとその恐ろしさを改めて認識してしまう。

 

(最悪の想定が当たった。ウィザードじゃ間違いなく勝てないぞ、あれは)

 

そろそろ本格的に三大勢力のメンツを保っている状況ではなくなりつつある。

 

(ジョーカーは有るけど、通用するかは別だな)

 

限られた手札でインフィニティースタイルに勝てる手段を模索するが、どうやっても最善の形には辿り着かない。

 

ビルドは正体を隠して使っているために使えない。ルパンレッドも同様だ。しかも、両方とも最強フォームに対抗できる可能性は低い。ビルドの方ならばハザードトリガーは有るが、選択肢としては除外している。

対抗策になりそうなディケイドはディケイドライバーだけしか手元には無く変身すら出来ず、使える手札はオニキスと自身の最強形態を相手に格下の力しか出せないウィザードだけだ。

 

「四季」

 

そんな四季の様子を心配した詩乃が話しかけてくる。

 

「ああ、大丈夫」

 

そう彼女の言葉に返す。

そう、まだ動けないのだから、なんとか今ある手札での対抗手段を模索するしか無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

インフィニティースタイルとサーゼクスが対峙する中、アザゼルへと光が落ちる。

 

「チッ!? この状況下で反旗か?」

 

それを避けたアザゼルの見上げる先に居るのは純白の鎧を見に纏った男。

そう、

 

「ヴァーリ」

 

堕天使側の最強戦力の一人であるヴァーリだ。

 

「そうだよ、アザゼル」

 

その言葉に当然だとでも言う様に答えるヴァーリ。そんな状況に訳が分からないと言う顔をしているイッセー達。

 

「ヴァーリの野郎がテロリスト……? なんでヴァーリが?」

 

「そうですね。アースガルズに今は日本神話に所属した四季君たち。彼等と戦える機会を此方が用意するとオファーを出したら、快く話を受けてくれましたよ」

 

「ああ。こちらの方が面白そうなんだ」

 

「動くか動かないかは彼の意思に任せてますからね。組織内の新しい派閥として考えていただければ宜しいかと」

 

どっちにしてもヴァーリに反旗を翻されたアザゼルとしては救いは無い。

 

「俺はお前に『強くなれ』とは言ったが、『世界を滅ぼす要因だけは作るな』とも言ったはずだ」

 

「関係ない」

 

そんなアザゼルの言葉をヴァーリはそう切り捨てる。

 

「オレは永遠に戦えれば良いだけだ」

 

「……そうかよ。いや、お前は戦いを求め続けてきた。旧魔王派がカオス・ブリゲードに与していると知った時に予想し得た事だ」

 

そう、アザゼルはその事を予想し得た。

ソーサラーと名乗った女に返り討ちにされたという事もあり、奴らと敵対した方が楽しい、そう判断してくれていればと心の何処かで希望的な観測をしていたのも否定は出来ない。

 

だが、アザゼルの希望は裏切られてしまった。

 

「どういう事だ……?」

 

ヴァーリの事情を知らないイッセーがそんな疑問の声を上げる。それはヴァーリの事情を知らない者達の共通の疑問だ。

 

「オレは旧魔王の孫である父と人間の母の間に生まれた混血児だ」

 

アザゼルの口から簡潔に紡がれたその言葉が意味している事は簡単に理解できる。

 

「お前に旧魔王の血が……?」

 

「そうですね。分かりやすく言えば、彼は生まれつき圧倒的な才能に恵まれたと言えば良いでしょうか、君とは違ってね」

 

ヴァーリの言葉に呆然と呟くイッセーにナイトローグが哀れみの籠った声でそう告げられる。

 

「旧魔王の血を継ぎながら、人間としての部分でアルビオンの力を宿した存在。幸運か不運かは判断に迷いますが、奇跡や運命と言う物を例えに出すのならば彼にこそ相応しいのでは?」

 

「そこまで褒められると返ってバカにされている様にも聞こえるな」

 

「それは失礼しました」

 

ヴァーリの言葉に謝罪の言葉を告げてナイトローグは口を噤む。

 

「改めて名乗ろう。俺の名は」

 

言葉を止め戦場となる学園全体に響く様な声でヴァーリは己の名を宣言する。

 

「『ヴァーリ・ルシファー』。先代魔王ルシファーの血を引く者」

 

己の背中からアルビオンの翼とは違う蝙蝠の様な悪魔の翼を出現させ、そう宣言する。

その言葉によってその場にいる者達。特に悪魔に属する者達は絶句する。特にリアスには衝撃的な言葉だった。

 

「ええ、君と違い。最高の血筋と同じ運を掴んだ……勝ち目のない宿敵。そして、着いた勢力も神器の力を効率的に引き出すことの出来る堕天使側。既に資質と環境で大き過ぎる溝を持った、ライバルと呼ぶことさえ烏滸がましい相手、ですね」

 

「ウルセー! さっきからどれだけオレの事をバカにしてんだよ!?」

 

何処までもイッセーを馬鹿にする様に告げるナイトローグの言葉に噛み付くイッセーの図。

 

「さて、僕としては、僕が生徒会長になっていればサッサと退学にしていた元母校の恥の一人、と言う認識ですが?」

 

「うぐぅ!?」

 

何気に彼が生徒会長になっていたら退学の危機であったイッセー、松田、元浜の三人だった。

 

「まあ、今となってはどうでも良い事ですけどね」

 

ナイトローグは溜息を吐きながら腰にトランスチームガンを戻し、後はヴァーリに任せたとばかりにイッセー達に背を向ける。

 

「嘘よ……」

 

「事実だ」

 

衝撃すぎるヴァーリの秘密に唖然と呟くのはリアスだ。信じられない、信じたくないと言うような言葉をアザゼルが否定する。

 

「過去現在、俺の知る限りで最強の白龍皇になるだろう」

 

(まあ、それはどうでしょうね。才能に恵まれ過ぎた事が彼の成長の妨げになりそうですが。身近な壁も彼程度ですからね)

 

ナイトローグはアザゼルの言葉を内心で否定する。強力な神器と優れた才能。それに恵まれていたが故にヴァーリにとって身近な壁が無かった事が彼にとっての不幸とも言えるだろう。

 

「運命とは残酷だ。俺と君との資質の溝は余りにも深過ぎる」

 

そんなナイトローグの内心を知らずヴァーリは頭の鎧を解除してイッセーへと言葉告げる。

既に禁手を自在に扱えるヴァーリと片手しか使えないイッセー。二人の差は歴然だろう。

 

「君の事は少し調べた」

 

興味はあったのだろう。競い合う相手、互いに高めあう宿敵。最も身近な壁。

白龍皇の力を得たヴァーリにとって対になる赤き龍の神器を宿した者はどれだけの力が有るのかと?

 

「両親はいたって普通の人間」

 

それも仕方ないとは思っただろう。神器をや出せるのは人間だけなのだから。

 

「君自身も悪魔に転生するまで極普通で赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)以外何も無い」

 

「いえ、極普通ではなく犯罪者一歩手前の変態だと思いますが」

 

「…………それは置いておこう」

 

「いえ、変な理由で禁手に至りそうなレベルですからね」

 

「頼むから黙っていてくれないか!?」

 

見ない様にしていたのか、悪魔になる前のイッセーの行動を考えない様にしていたのか分からないが、ナイトローグに思いっきり絶叫してしまう。

 

「あまりに情けない……。これがオレのライバルなんだと思うと泣けてくる」

 

咳払いしつつ、先ほどの会話をなかったことにして話を進める。

極普通の人間だったらつまらないや張り合いがないで済んだだろうが、泣きたくなるレベルにランクダウンした様だ。

 

「これが天地四季ならどれだけ楽しめる相手だった事か?」

 

「何が言いたいんだよ、お前!?」

 

「コカビエル相手に生身の人間が素手で戦える力。しかも、彼が使ってる力は両方ともドラゴンじゃ無いか。彼が赤龍帝だったら間違い無く、歴代でも上位の赤龍帝になっていた筈だ」

 

「っ!?」

 

最も気に入らない相手を比較対象にされた事でイッセーの顔に苛立ちが浮かぶ。

 

「彼は神器が与えた力では無く、人としての力だけで戦っている。しかも、まだ上がありそうじゃないか? 人から生まれる英雄と言うのは彼の様な資質を言うんだろうな」

 

ヴァーリにとって四季は最も身近な強敵と認識していた。

圧倒的に上でも無く、自分よりも強く、そしてまだまだ強くなる余地のある相手。やつと戦い続けて入れば退屈はしない。そう考えるほどには。

 

そして、同時に四季に対して一瞬でも考えてしまった事がある。

『黄金の龍』と。人の身でありながら魔王さえも上回り兼ねない力の器。何故神器を宿していない四季にそれを感じたのかは分からない。だが、初めて感じたのだ。

 

 

『全力を持って勝ちたい』と。

 

 

「まあ、俺としてはどうでも良いが、赤と白の因縁の対決を先にやれと振られてしまったんでね。少しは退屈しない様に、こう言う設定はどうだ?」

 

そんな相手から先に決着を付けろと言われた相手に対してヴァーリはそう言い放つ。

 

「俺がキミの両親を殺そう。キミは復讐者になるんだ!」

 

「っ!?」

 

「キミの両親を殺した俺に復讐するために生きる悪魔になるん……。どうだ? 少しは前座として退屈しないと思わないか?」

 

そんなヴァーリの言葉に俯きながら、

 

「……殺すぞ……この野郎。……お前の言う通り、俺の父さんは朝から晩まで家族のために働く極普通のサラリーマンだ。俺の母さんは朝昼晩と家族の為に美味い飯を作ってくれる普通の主婦だ」

 

アザゼルから受け取った腕輪を着けながらヴァーリを睨み付ける。

 

「普通だけど俺を此処まで育ててくれた最高の親なんだよ。…………親を殺す? 挙句にそれが前座の為? テメェのくだらねえ都合で……俺の親を殺されてたまるかよォ!!!」

 

 

 

『Welsh Dragon over boostr!』

 

 

 

その姿を真紅の鎧を纏う。ライザーの時はクローズと合わせて身に纏っていた為に今回は真紅の鎧がその身を纏っている本来の姿だ。

 

「見ろ、アルビオン! 力が桁違いに上がったぞ! 怒り、憎しみの力……ハハハハ! 心地よい龍の波動だな!」

 

『兵藤一誠の怒りは純粋な程お前に向けられている。真っ直ぐな程神器(セイグリッド・ギア)の力になり、ドラゴンの力を引き出す。心理の一つだ』

 

そんなイッセーの様を楽しむ様に笑うヴァーリ。自身に向けられる怒りと力が心地よいと言う表情だ。

 

七つの大罪の憤怒の罪はドラゴンがその象徴とされているだけに怒りとドラゴンの力の相性は高いのだろう。

そして、その一点においてはイッセーはヴァーリよりもドラゴンとの相性は良いのだろう。

 

「まあ、それでもスタート地点に立った程度ですけどね。彼はお任せしますよ、ヴァーリさん」

 

イッセーが禁手に至ったとしてもまだまだ状況は自分達が有利なのだ。ナイトローグの声に焦りの色はない。



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幕間の物語『ある少女の記録』

四季達の行く事になる世界の物語です。


 

 

 

-どうしてこんな事になっちゃったんだろう?-

 

薄れ行く意識の中でその少女『更識 楯無』はそんなことを思う。

ロシアの国家代表であり、日本の暗部の家系に生まれ、その当主の座に十代で着いた彼女の最後の日は廃墟となった日本と言う国の中で土に塗れて命を落とす。

それが、彼女の最後となる。

 

最後の意識の中で彼女の中の世界の滅びに繋がる情報のかけらが一つの絵を作り上げた。

 

せめて最後くらいは楽しい思い出を思い出しながら死にたいと思いながらも、その思い出に繋がってしまったのだ。

 

 

 

世界の最後、が。

 

 

 

全ての始まりは修学旅行が終わった後と思っていた。あの日、世界中のネットワーク機器の中から巨大な生物が出現した。

多種多様な巨大生物はまるで挑発するように軍事施設を避け、人口密集地の真っ只中に出現した。

 

(各国の軍隊が襲撃したけど、巨大生物の……怪獣の進行を止める事は出来なかった)

 

電子機器に映し出される世界各国の文字を使った巨大生物達からの自己紹介。自らの種を怪獣と名乗り、態々個体名まで名乗ってくれる丁寧すぎる対応。その頃は訳が分からなかった。

 

 

 

…………分かってからでは全てが遅かった…………。

 

 

 

 

ISも旧時代の兵器も全てを投入しての全人類と巨大生物の全面戦争が始まり、人類は一年も持たず怪獣に敗れ去ったのだ。

 

ただその巨体だけでも人間サイズのISには脅威でしかなかった。

それもそうだろう。その質量差だけでも敵にとっては強力な武器になる。

最強の兵器と信じられてきたISは怪獣達の前には最弱な兵器でしかなかったのだ。寧ろ旧時代の兵器の方が怪獣相手に心強い武器になっていた。

 

(ISコアの八割が失われた後は責任のなすり付け合いばかりで、本当にバカみたい)

 

自分の家系が守ってきた国の上に立つ者達の愚かさに彼女は泣きながら笑うと言う器用な真似をしてしまう。

 

そして、味方同士の争いによりISの九割を失った人々は旧世代の兵器を中心に防衛線を確立して僅かな生活圏を確保し怪獣に対して怯えながら暮らしていた。

地球という惑星の支配者は人類から怪獣に変わったのだ。

 

怪獣達は互いに争う事もなく、仲良く人類の脅威となっている。……少なくとも人類の目の届く範囲では。

 

人は怪獣以下、絶望の中でそんな事を思う者も多くいた。今は楯無もそう思ってしまう。

 

彼女が生徒会長を務めていたIS学園も、そんな人類に残されていた僅かな生活圏の一つだった。

だが、学生と教師達だけの生活圏だが、他のそれとは決定的に違うのは学園という生活圏には旧世代兵器が一つもないと言う点だった。

怪獣が来れば一瞬で吹き飛ばされる程度の儚い生活圏。なのでそこから逃げようとする生徒や教師も大勢いた。

……もっとも、逃げた所で他の生活圏で彼女らが受け入れてもらえるとは限らないが。

 

そんな中、ある男性議員はISなどという物に予算を使わずにいれば今の脅威に対抗できたと叫んだ。全てはISに予算を使わせた女権団体が悪いと叫ぶ。

その言葉と怪獣達への恐怖心から元々あった男性達のISへの憎悪に火がついてしまった。

 

怪獣の脅威に晒されてるというのに人々はIS委員会の関係者や女権団体の関係者を見つけては戦犯として私刑にして行った。

 

その最初の犠牲者はISの生みの親である『篠ノ之束』の親友でもあり、初代ブリュンヒルデでもある『織斑千冬』だった。

幾ら彼女が世界最強と言っても生身で狂気に支配された民衆を相手にしては勝ち目はない。抵抗も虚しく民衆に殴り殺されてしまった。彼女が最初のISである白騎士の操縦者かも知れないと言う情報もその行動に拍車をかけた。

 

『お前のせいだ』

『お前の親友のせいで世界はこうなった』

 

呪詛の言葉を投げつけながら狂気に支配された人々は千冬を殴り続けた。素手で、石で、木材で、鉄材で……何時千冬が絶命したか分からないが顔は潰れ全身の骨を折られた姿で打ち捨てられていた。

 

次に犠牲になったのは千冬の弟で世界初のISの男性操縦者の織斑一夏と篠ノ之束の妹の篠ノ之箒だった。

女尊男卑の世界に変えた原因である二人の関係者。特に人々の憎悪は開発者の妹である箒の方に向いていた。

 

学園で不足していた食料を探して外に出た二人はそんな人々に殺された。毒を盛られ動けなくなったところを殺された様だった。

 

(全部、彼が消えてから始まってたのね)

 

そして思い出すのは、二人目の男性操縦者として見つかった少年。

学園上位と言うほどではないが操縦技術も高く座学の成績では上位に立っていた事からそれなりに注目は集まっていたが、ブリュンヒルデの弟と言う大きなネームバリューのある一夏に比べると然程重要視はされなかった。

そんな彼が学園祭の時期に失踪していた。学園祭中亡国企業(ファントムタスク)の構成員が侵入していたこともあり誘拐されたとも考えられていた。

 

(そうじゃなかった……)

 

もっと早く気が付いていれば良かった。そう思うしかない。彼は自分の意思で失踪したのだと言うことに気が付いていれば、何かが変わったかも知れない。

 

活動が活発になった怪獣達によって人類の生活圏が次々と潰されていき、最後に残ったのは最も弱かった生活圏のIS学園だった。

 

それは意図的に残されていただけだと知る事が出来たのは最後に生き残っている楯無だけだった。

 

学園から逃げ出さなかった、逃げ出さなかった僅かな生徒と教師達の中で物資も食料も底をつき、量産機も使えるパーツを繋ぎ合わせて動ける物を用意するだけ、日々の食事にも困る日々が最後の大攻勢で終わりを告げた。

 

楯無は辛うじて残っていた意識の中で、量産機を使って抵抗した教師が、戦えない生徒達を逃がそうと必死に抵抗した専用機持ちの生徒達が、守る者もなく逃げ惑うしか無かった生徒達が、怪獣に蹂躙されて行く中で彼女は知ることが出来た。

 

 

この惨劇の首謀者を。

 

 

 

二人目の男性操縦者の青年が怪獣達に守られる様に悠然と廃墟となったIS学園に姿を現した。

 

同時に周囲の怪獣達も人の姿に変わる。全員が怪獣の特徴を持っているが、楯無には彼女達の顔には見覚えがあった。各国の国家代表や代表候補生達だ。

 

笑みを浮かべながら、怪獣から怪獣の特徴を持った人の姿に変わった怪獣達に学園の生徒達の回収を指示する青年。

 

そして、手の中で弄ぶビー玉のような物を取り出し、回収された瀕死の生徒の一人の胸の上に置き、

 

「インスタンス、アブリアクション」

 

瀕死の生徒がビー玉のような物に吸い込まれ、人から人と怪獣のハーフのような姿に変わる。

 

回収された教師や生徒達を次々と怪獣と人のハーフへと作り変えていく青年に恐怖を覚える楯無だったが、

 

(え……?)

 

一年生の代表候補生達、『セシリア・オルコット』が、『凰鈴音』が、『シャルロット・デュノア』が、『ラウラ・ボーデヴィッヒ』が作り変えられる中、自身も知る少女、本音に対しては首を振って退かして行く。

 

「やはり、死人には使えませんか」

 

そう残念そうに呟いて、次に作り変えられたのは楯無の妹の『更識簪』だった。

 

(簪……ちゃん……)

 

自分の妹の末路に呆然とする楯無だったが、次の行動は少しでも其処から離れる事だった。

 

絶命するまで見つからなければ、怪物の仲間入りはさせられない。辛うじて動く体を引きずりながら楯無はその場から逃げ出して行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが、一つ世界の終焉にして、少女の最後の記憶。

 

 

『アレクシス・ケリヴ』と『魔王カーンデジファー』の力を持った転生者によって支配された剪定事象となった世界の記録で有る。




ガチャで出るであろう楯無さんの世界の最後の記録です。

この世界の転生者を倒す事で四季にはIS の登場人物を呼び出す権利を与えられます。


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幕間の物語『IS異聞帯』001

ちょっと未来の時間軸です。


「おい、誰かいないのか!?」

 

「居たら返事をしろ!」

 

イチイバルのギアを纏ったクリスとビルドに変身した四季が声を上げながら廃墟の街を走り回って居た。

 

此処は地図上での場所は東京を指しているが、あるのは廃墟になった光景のみ。

 

「誰も……居ないのかよ」

 

「ここも全滅か……」

 

ビルドが取り出した地図に×印を付けると敵が現れる前に急いでその場を後にしてナデシコCに帰還する二人。

これで日本の主要都市は完全に全滅だ。四季達がこの世界に来てから数日の間続けて居た生き残りの人間の探索の成果は未だに実って居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事の起こりは夏休みの旅行から帰って来た翌日の事だった。

 

ギャラルホルン擬きの機械に反応が有り、それを確認して驚愕を露わにする。

 

 

『インフィニット・ストラトス』

 

 

緊急事態を告げるアラーム音が鳴り響く中、新たに表示され点滅する世界の名。自分達の誰とも関わりのない世界の名が表示されてたのだ。

 

四季としてはあまり関わりたくない世界の為に普通ならば放置したかったが、この異常事態には動かざるを得なかった。

 

急遽完全装備の元で装備の一式を持ってナデシコCを動かしインフィニット・ストラトスの世界に転移したのだが、

 

「っ!?」

 

世界を移動した際に見た光景に言葉を失ってしまう。

 

「ねえ、この世界ってあんな物が出て来る世界なの?」

 

「いや、この世界には……まあ、宇宙からの敵ってのは出て来たけど、明らかにアイツは違う」

 

巨大な山の様な怪獣、『多事多難怪獣 ゴーヤベック』。ナデシコCの姿を確認した瞬間、背中の火山から打ち出す火炎弾を放って来る。

 

「回避! それから、高度を上げて射程外まで!」

 

「うん!」

 

詩乃の指示で火炎弾を回避、そして高度を上げてゴーヤベックから距離を取り射程外まで逃げ出していく。

 

「くそ! ナデシコCなのが仇になったな」

 

このナデシコCは電子戦と主砲であるグラビティブラストが武器で有るが、ミサイルも装備された原作の後日談仕様だ。

だが、ゴーヤベックの様な怪獣相手など初めから想定されているわけが無い、純対人間相手の戦艦だ。

 

「どうする、アタシ達が出るか!?」

 

「怪獣相手にMSやVFは流石に不利だ!」

 

クリスの言葉に四季が答える。手持ちの機体は、パワードスーツサイズのMS(のちに使って見て分かったことだが何気に状況によってMSサイズに巨大化出来た)のアメイジングストライクフリーダムとシャイニングブレイクでは怪獣相手にはサイズ的に不利だ。

VFもあの火力相手では一発でアウトだ。

 

「今は怪獣の活動範囲から離脱。状況を調べよう」

 

「ええ」

 

流石にナデシコCのグラビティブラストを撃ち込めばなんとかなりそうだが、地上に向かって撃つような武器では無い。

怪獣があの一体だけとは思えないのだし、今は状況を確認するのが先決だ。

 

暫く上空を飛行しながらモニターに地上の様子が映すと、そこには廃墟になった街並みが映し出された。

 

「酷い……」

 

「これがアラームの原因だった訳か」

 

モニターの光景に思わずそう呟く雫と四季。

 

「四季、現在地が分かったわ……」

 

「ああ、此処は東京……だろ」

 

「ええ」

 

その日から四季達は怪獣の活動範囲に拠点としたナデシコCが入らないように注意しながら生存者の探索を開始したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結論から言うと、怪獣の活動範囲の外に生存者は居なかった」

 

これまでの生存者の探索は怪獣の活動範囲の外を、主にナデシコCからレッドダイヤルファイターで探索地域に四季とクリスが移動して探索する事だけだった。

流石に一体でも相手にするのは大変な怪獣相手にはスピードに優れ、また持ち運びに便利なレッドダイヤルファイターが良いと判断したのだ。(主に戦闘ではなく逃走がメインだが)

単独での戦闘力の高い四季とクリスの二人が探索して詩乃と雫が留守番というのもそれが理由だ。

 

「上空から怪獣の動きを見ていると時折何故か姿を消している。このタイミングでオレとクリス先輩が活動範囲に入り込む」

 

四季の言葉に合わせてナデシコCのモニターに映って居た過去の映像にある怪獣の姿が突然掻き消える。

 

「あの巨体が潜れる穴も無いし、再出現までは捜索は出来ると思う。それで……」

 

「ええ、私達は艦で待機ね」

 

「ああ。流石にナデシコを留守にする訳には行かないからな」

 

いざという時にはナデシコCを動かして貰いたいので必然的に誰かは残って貰う必要がある。

詩乃と雫の二人は防御力の高いナデシコCに残って貰う形となっていた。

 

「流石に勝てないにしてもアタシ達なら逃げ切れるからな」

 

「ああ。対抗策があるとは言っても奥の手は残しておきたいからな」

 

そう言って四季が視線を向けるのはレッドダイヤルファイター。グッドストライカーを中心に合体する事でルパンレンジャーの巨大戦力であるルパンカイザーに合体できる。

最初から巨大な相手と戦うことを前提としたルパンカイザーならば怪獣相手にも十分に対抗できるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ビルドの姿の四季とイチイバルのギアを纏ったクリスは遠巻きに活動する怪獣の姿を確認しながらその姿が消えるのを待っていた。

 

活動を終えた怪獣は先日確認した映像の様に突然姿を消し、辺りには何事もなかったかの様な廃墟だけが残っていた。

 

それを確認すると互いに頷きあい二人は怪獣の縄張りへと侵入する。

 

「こうも道が悪いとバイクは使えないな」

 

「ああ、もっと早く動けりゃな」

 

そんな会話を交わしながら周囲の安全を確認しつつ声を上げる。

 

「おーい、誰かいるか!?」

 

「いたら返事しろー!」

 

怪獣から身を隠しているものが居るのならば、こうして大声を上げていれば反応くらいは有るだろうと思っての行動だが、残念ながら何の反応も返ってこない。

 

「此処にも誰もいないのか」

 

これ以上成果をあげられない場合はこの世界のことは既に滅んだと考えて忘れてしまった方が良いかとも考えながら、尚も四季は捜索を続ける。

 

「っ!?」

 

そんな時、ビルドは何かが崩れる様な音を聞いた。

こんな状況では微かな物音にさえ敏感に反応してしまう様になってしまっていたが、今回はそれは間違いでは無かった様だ。

 

 

 

『…………うぅ…………』

 

 

 

何かの呻き声の様な声がどこからか聞こえて来た。

 

「っ!?」

 

その声に気付いたビルドは立ち止りそちらへと視線を向ける。明らかに怪獣のものでは無い弱々しい声。間違い無く人のものだ。

 

「クリス先輩、人の気配だ」

 

「ホントか!?」

 

「間違いない。けど……」

 

この状況では無事とは言い切れない。急いでビルドの先導で声の聞こえた場所へと急ぐ二人。

 

声が聞こえたのはすぐ近くに有った辛うじて原形をとどめて居るビルだった。所々屋根が崩れていていつ崩壊してもおかしくない状況だが、既に瓦礫の山になっているビルに比べればまだマシと言えるだろう。

 

「居ないのか、居たら返事を!」

 

声の様子から危険な状況と判断し声を上げてそう叫ぶ。

 

「おい、こっちだ!」

 

クリスの言葉に従って彼女に指示された場所に向かうと其処には1組の男女が倒れて居た。

 

共に四季達と同年代に見える、バンダナを巻いた男と三つ編みにヘアバンドの男よりも年上に見える女性。

 

「生きてるのか!?」

 

「幸いにも、な。だけど、外傷も酷いし、見た所衰弱もしている様子だ。急いでナデシコに運ぼう」

 

動かすのも危なそうだが、取り敢えず外傷程度ならば生きてさえいればなんとかなる。

 

「……なあ、あれってアタシ達以外にも効くのか? それに、衰弱してる奴らに使って大丈夫なのか?」

 

「そう言われると不安だけど、他に意識の無い相手に使って効果のありそうなものはない」

 

目の前に倒れる二人の様子を見て問いかけられたクリスの言葉に不安を覚えながらもビルドはそれを取り出す。

 

取り出したるは『妖精の鱗粉』。複数人の傷を完全に癒す回復薬だ。それが致命傷であっても癒すことの出来る魔人学園由来の品。

ガチャだけではなく修行場の中での入手が可能なために常に四季達全員が幾つか携帯している。

 

強力な回復力があるが故に、彼らほど衰弱した状態に使ってはファンタジー系の回復薬でも危険な可能性もあるが、今から雫を呼んでいては間に合わないだろう。

助ける手段はどっちにしても一つしかないのだから、賭けるしかないのが現状だ。

 

迷う時間すら惜しいと二人に妖精の鱗粉を吹きかける。

 

キラキラと輝く光の鱗粉に包まれながら倒れていた二人の男女の傷が癒えていく。

 

とは言え、一命は取り留めたとは言え一度二人を連れてナデシコCに戻る必要が有るだろう。

 

「クリス先輩はそっちの女性を」

 

「ああ。……だけど大丈夫なのか?」

 

「あー、医務施設は一度も使ってないのが不安だけどな」

 

その辺はAI頼りなのが情けない所である。

手持ちのレッドダイヤルファイターに四人乗りは無理なのでナデシコCの方から来てもらう必要がある。

なので二人を抱えて怪獣の出現に警戒しつつ、合流地点まで急ぐ必要がある。

 

ナデシコCの詩乃に連絡を入れて迎えを頼むとビルドが男を、クリスが女を背負って合流地点へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸いにも外に怪獣の姿は無かった。それを確認するとラビットタンクからホークガトリングにフォームチェンジして外に飛び出してナデシコCとの合流地点に急ぐ。

少しでも急ぐために飛行能力のあるタカガトリングにフォームチェンジしたが、幸いにもそれは問題なかった様だった。

 

だが、ナデシコCとの合流地点まであと少しという所で地震のような振動が二人を襲う。

 

「「っ!?」」

 

地面を砕く様に出現する新たな怪獣。

 

「くそ! あと少しだってのに」

 

「オレが時間を稼ぐ、その隙に先輩は……」

 

レッドダイヤルファイターを呼び出して時間を稼ごうとした時、怪獣の頭部をミサイルの爆発が襲い、そのまま地響きを上げて倒れてしまう。

 

 

『この場合、貴方の為に急いで来たの。って言うべきかしら?』

 

 

通信機から聴こえてくるのは詩乃の声。ミサイルを撃ったであろうナデシコCの影が二人の真上に現れる。



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五十八話目

「さて、せっかくの禁手(バランス・ブレイカー)ですが、こちらは二人残っていますよ」

 

「チッ!」

 

ナイトローグはそう言いながらトランスチームガンをアザゼルへと突き付ける。

ナイトローグの言う通りまだ敵にはナイトローグ自身とダークゴーストが残っている。それに対して味方の戦力はリアスと片腕を失ったアザゼル、そして神器の力も通用しなかったギャスパーだけだ。

 

それだけじゃない、まだ敵の雑兵のメイジ達も残っている。

 

「では、此処で堕天使の総督の首をあげるとしますか」

 

 

「そうは行くかよ」

 

 

風を切る音と共に地面に突き刺さる矢とそれに括り付けられた鏡の反射がナイトローグの視界に入る。

 

「っ!? しまっ!?」

 

そちらへと視線が向いた瞬間、それを使った者の考えを理解した時、鏡の中から飛び出してきた黒炎がナイトローグへと打ち込まれる。

 

「くっ!?」

 

同時に現れるのはドラグブラッカー。そして、

 

「そろそろ動く頃かとは思っていましたが、その前に一人くらいは討ち取れると考えていましたが、当てが外れましたね」

 

「流石に事態が此処まで動いたんだ。オレも動かないわけには行かないだろう?」

 

オニキスに変身した四季の姿もある。更に彼が現れると同時に残っているメイジ達が次々と撃ち落とされて行く。

 

「アタシのイチイバルの特性は長射程広域攻撃、派手にブッ放すのは得意中の得意だ」

 

「討ち漏らしは私が撃ち落とすだけよ」

 

次にクリスと詩乃の声が響く。二人の言葉通りに上空にいるメイジ達が撃ち落とされて行く。

 

「まったく、仕方ありませんね。ダークゴースト、手負いのアザゼルとおまけは任せます」

 

「任された~」

 

ダークゴーストの相手は片腕を失ったアザゼルではキツイだろう。それにギャスパーとリアスと言うハンデまで付いている。

残念ながら戦闘力に劣るギャスパーでは神器の力の通用しない相手には簡単にあしらわれる程度でしかなく、リアスに至っては力不足だ。

クリスと詩乃はメイジ達と戦っているので手を出さないだろう。もともと戦闘タイプではない雫は論外だ。

 

そう今の戦力では、だ。

 

「今度はオレがこう言わせてもらおうか。コウモリ野郎は頼んだ」

 

「何を?」

 

怪盗(・・)さん!」

 

彼の声が響いた時、ナイトローグの手からトランスチームガンが弾かれる。

 

「なっ!?」

 

突然の銃撃に驚愕し其方へと視線を向けると、そこには赤、青、黄色の三色の怪盗衣装に身を包んだ三人組の姿があった。

 

「ああ、任された」

 

(何故!? ……まさか!?)

 

三人組の怪盗。ルパンレンジャーのコスチュームに身を包んだ四季たちの存在に驚愕するナイトローグを他所に三人は

 

「「「快盗チェンジ!」」」

 

『レッド』『ブルー』『イエロー』

 

『0・1・0』『マスカレイズ!』『快盗チェンジ!』

 

その言葉と共に三人がVSチェンジャーを上空に向けて引き金を引き、溢れた光に包まれた三人が姿を変えるのは、シルクハット型のゴーグルをしたそれぞれのパーソナルカラーのスーツへと姿を変える。

 

「ルパンレッド」

 

「ルパンブルー」

 

「ルパンイエロー」

 

『快盗戦隊! ルパンレンジャー!』

 

本物の彼らだと証明するかのごとくルパンレンジャーへと変身してみせた三人を見てナイトローグはそれが四季の仕業であると確信する。

 

(上手くいったな)

 

ルパンレッドの四季はそう思いながら現状に対して満足げな笑みを浮かべる。

 

オニキスの方の四季へと送ったメール。『時計』と『列車』のメールで察してくれた物と考えていた。

 

(デンライナーか何かは分からないけど、これなら三大勢力にオレと怪盗達は別人って思わせる為には最高の策だな)

 

まさかタイムマジーンを使って現れたなどと考える訳は無いだろうし、同じ場所に同時に現れた時点で完全に別人と思わせることができるわけだ。

 

「さあ、ナイトローグ。予告する、お前のお宝、頂くぜ!」

 

「さて、然程貴重品は持ち合わせていませんが、ね!」

 

素早くナイトローグが弾かれたトランスチームガンを拾い上げると同時に、ルパンレッドはVSチェンジャーの引き金を引く。

ルパンレンジャーの三人とナイトローグは、その銃撃をゴングに戦闘を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ私が相手だよ~」

 

ナイトローグがルパンレンジャーの三人と戦い始めると、そう言ってダークゴーストが取り出すのは一つの眼魂。

 

「変し~ん」

 

『カイガン! 一休! 迫るピンチ!冴えるとんち!』

 

ベルトから飛び出した水色のパーカーをダークゴーストを纏うと仮面部分が?マークをモチーフとした姿『一休魂』へと変わる。

 

「慌てないー、慌てなーい、一休み~」

 

その場で座禅を組んで座り込み寛いでいる様にも見えるダークゴーストに苛立ちを覚えるのはリアスだ。

 

「……ふざけているのかしら……?」

 

「ふざけてないよ~、一休みしてるだけだよ~」

 

「だったら、消しとばして永遠に休ませてあげるわ!」

 

ダークゴーストの言葉に『#マーク』を幾つも頭に貼り付けたリアスがダークゴーストへと滅びの魔力を放つ。

 

ダークゴーストへと直撃した様に思われたそれをダークゴーストは座禅を組んだまま空中浮遊して滅びの魔力を避けていた。

 

「おいおい、それって有りなのか?」

 

空中をフワフワと浮いているダークゴーストを眺めながらアザゼルは呆然と呟く。

 

「ありだよ~」

 

その状態のままのダークゴーストの真下に何処からか屏風が現れる。

 

「出て来~い」

 

ダークゴーストの宣言と共に屏風に描かれていた虎が飛び出して反撃とばかりに襲い掛かる。

 

「嘘だろ!」

 

屏風の絵が飛び出すと言う訳の分からない攻撃に声を上げてしまうアザゼル。

 

「このっ!」

 

そんな屏風の虎に滅びの魔力を放つリアスだが屏風の虎は器用にそれを避けて襲い掛かる。

 

「チッ!」

 

そんな屏風の虎の牙を光の槍で受け止めるアザゼル。出現の仕方やその姿から普通の虎でない事は確かだが、

 

(屏風の虎の絵やあの言動。なるほど、そう言うことかよ!?)

 

その攻防でアザゼルは理解した。ダークゴーストのあの姿の能力を。

……日本のサブカルチャーに詳しい故かは定かでは無いが。

 

アザゼルが虎の胴体を蹴り飛ばして距離を取るとギャスパーが動きを止めた所にリアスが滅びの魔力を撃ち込み倒す事は出来たが、

 

「どんどん行くよ~」

 

更に何処からともなく現れた大量の屏風から虎が出現する。

 

「いや、お前は出す側じゃねえだろう! ってか、何処からそんな大量の屏風を取り出した!?」

 

大量の屏風を出現させたことに対するアザゼルの全力のツッコミであった。

 

「オレを忘れるな!」

 

ドラグブラッカーの頭に乗って、座禅を組んで空に浮かんでいるダークゴーストへとオニキスが殴りかかる。

 

「ほいさ~」

 

座禅を辞めて地面に降りることでダークゴーストはオニキスの拳を避ける。それを追ってオニキスも地面に降りる。

 

「次はこれだよ~」

 

地面に着地したダークゴーストがそう言って取り出すのは新たな眼魂。

 

 

『カイガン! ベートーベン! 曲名! 運命! ジャジャジャジャーン!』

 

 

纏っていたパーカーがピアノの鍵盤の付いた灰色のパーカーに代わり、仮面が音符と楽譜がモチーフとなった物に変わる。

 

 

~♪ ~♪

 

 

ベートーベン魂に変身したダークゴーストが何処からか取り出した指揮棒によって操る音符エネルギーがオニキスへと襲い掛かる。

 

「っ!?」

 

それを避けるも、パーカーのピアノを弾く事で更に追加される音符エネルギーがダークゴーストの指揮に従い襲い掛かる。

 

 

『STRIKE VENT』

 

 

「はぁ!」

 

オニキスはダークゴーストから距離を取りながらブラックドラグクローを装着し、ブラックドラグクローから吐き出された黒炎で自身へと襲い掛かる音符エネルギーを相殺する。

 

 

『カイガン! ロビン・フッド! ハロー! アロー! 森で会おう!』

 

 

オニキスが音符エネルギーを相殺した瞬間、再び変身音が響く。

今度は緑のパーカーに変わり、仮面の絵は弓矢をモチーフとした物、ロビン魂の姿に変わったダークゴーストの弓矢状の武器『ガンガンセイバー・アローモード』から放たれたエネルギーの矢が爆煙を切り裂いてオニキスへと襲い掛かる。

 

「それそれ~」

 

「チッ!」

 

基本近接攻撃が得意な四季とオニキスの特性を読んだ様に遠距離攻撃を中心に攻めてくるダークゴーストに舌打ちしながら新たなカードをデッキから引き抜く。

 

 

『GUARD VENT』

 

 

このままでは不利だと察したオニキスは意を決して両手にドラグシールドを構えてダークゴーストのエネルギーの矢を防ぎながら真っ正面から突撃する。

 

「これなら」

 

 

『カイガン! ピタゴラス! 三角の定理! 俺の言う通り!』

 

 

「ざんね~ん」

 

金色パーカー、三角をモチーフとした姿『ピタゴラス魂』に変身したダークゴーストとオニキスの拳がぶつかり合う。

 

「悪いが、これはオレの間合いだ」

 

「私も負けないよ~」

 

古武術の構えを取るオニキスとボクシングの構えを取るダークゴースト。同時に地面を蹴り再び拳をぶつけ合う。

 

ボクシングスタイルのダークゴーストと古武術のスタイルのオニキスの連打がぶつかり合う。

 

 

『オメガドライブ!』

 

 

乱打では己が不利と判断したのかダークゴーストはオニキスから距離を取りゴーストドライバーを操作し、無数の小さな光弾を出現させる。

 

「行けー」

 

オニキスへと襲い掛かる光弾をオニキスは避けながら、時には気を纏わせた拳で撃ち落としながらダークゴーストへと肉薄する。

 

 

『カイガン! ムサシ! 決闘!ズバット! 超剣豪!』

 

 

ムサシ魂に変身し、オニキスの拳をソードモードのガンガンセイバーとサングラスラッシャーで受け止めたダークゴーストはそのまま反撃とばかりに二刀流での斬撃をオニキスへと放つ。

 



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五十九話目

ムサシ魂。仮面ライダーゴーストに於いて主人公にとって基本フォームと並んで使用頻度の高いフォームだ。

 

ダークゴーストのガンガンセイバーとサングラスラッシャーによる二刀流はもっともムサシ魂に適した装備だろう。

 

オニキスもまたドラグセイバーを手にダークゴーストと何とか切り結ぶが、剣の腕では矢張りダークゴーストの方に分がある。

 

「これなら正面からでも私の勝ちだね~」

 

「流石に剣の腕で宮本武蔵には勝てないな」

 

その点は素直に認める。

オニキスと言うよりも龍騎とドラゴンナイトは平成ライダーの中でも最強フォーム以外のフォームチェンジが存在しないライダーだ。

局面によって特化形態になれるライダーに比べたらスペック的には負ける部分も多い。

 

(どうする?)

 

そう考えながら次に取るべき一手を模索するが答えは出てこない。

今更ながら手札の多いビルドにダークゴーストを任せた方が良かったかとも思うが、それはそれ。

怪盗の姿でないとビルドには変身できないので(正体を隠す意味で)

 

(なら)

 

無い物ねだりしても仕方ないと考え事前の策を模索すると、後ろに跳びドラグブラッカーを足場にダークゴーストの真上に飛ぶとそのままドラグセイバーを振り下ろす。

 

「っ!?」

 

落下の勢いも利用した斬撃をガンガンセイバーとサングラスラッシャーを交差させて受け止めるダークゴーストだが、オニキスは交差させられていた剣に触れ、

 

「破ぁ!」

 

発勁を放つ。

交差させた剣による防御を越えて至近距離で打ち込まれた発勁は無防備なダークゴーストへと叩き込まれる。

 

「キャア!」

 

悲鳴を上げて吹き飛ばされるダークゴーストを見送りながらドラグセイバーを突きつける。

 

「悪いな。オニキスの力だけじゃ手札不足だったんでな」

 

「むぅ~、やったな~」

 

不意打ちを受けたダークゴーストは立ち上がると新たな眼魂を取り出す。

 

 

『カイガン! ノブナガ! 我の生き様!桶狭間!』

 

 

新たにチェンジするのは紫のパーカーと火縄銃を模した姿『ノブナガ魂』。

 

そして取り出したのはガンガンハンド。それを銃モードへと切り替えるとその引き金を引く。

 

「えーい」

 

「っ!?」

 

再び銃撃に切り替えたダークゴーストはオニキスから距離を取りガンガンハンドの引き金を引く。

 

「それそれそれ~」

 

「っ!?」

 

今度は動きながらの銃撃。オニキスから距離を取りながらの銃撃は攻撃の密度は低いが簡単には近寄らせない物だ。

 

「三千世界に屍を晒しちゃえ~」

 

 

『オメガスパーク』

 

 

無数に分裂したガンガンハンドの銃モードがダークゴーストの背後に現れる。

 

「これが私の三段撃ちだ~」

 

「くそ!」

 

敵を殲滅せんと放たれる分裂したガンガンハンドによる銃撃。

一撃目をかわしても二撃目が、二撃目を避けた後は三撃目が。隙間なく放たれる銃撃はオニキスの逃げ場を奪いながら、彼を追い詰め、

 

「うわぁ!」

 

最終的にその姿を銃撃の嵐の中に飲み込む。

無数の銃撃による一斉射撃による煙が晴れた後には跡形もなく消え去ったようにオニキスの姿はなくなっていた。

 

「やった~」

 

「喜ぶのは早いぞ!」

 

勝利を確信するダークゴーストの背後からオニキスの飛び蹴りが放たれる。

予想外の不意打ちにガンガンハンドを手放しながら地面を転がるダークゴースト。

 

「えぇ~、何で〜!?」

 

「そう言う計算じゃオレの方が上だった様だな。うまくそっちの攻撃を誘導させてもらった」

 

口ではそう言っているがタイミング的にはかなり危険なものだった。

オニキスの最大の利点であるがゆえに、敵の必殺技の発動に合わせて逃げ込める様な鏡面の位置は戦いながら常に確認していたが、逃げ込むタイミングはかなりギリギリだった。

 

だがこれは、ミラーワールド、又はベンタラを舞台に戦うライダーの最大の利点だ。

 

ドラグセイバーからブラックドラグクローに変えたオニキスのパンチが追撃に放たれるが、ダークゴーストはそれを避けながら、

 

 

『カイガン! ベンケイ!』

 

 

「くっ!」

 

ゴーストドライバーから飛び出したパーカーゴーストがオニキスを弾き、その隙に新たな姿へとチェンジする。

 

 

『アニキ! ムキムキ! 仁王立ち!』

 

 

頭を覆う頭巾が付いた白いパーカーに七つの武器らしき絵柄に変わった仮面の姿『ベンケイ魂』に変わったダークゴーストはガンガンセイバーにクモランタンを合体させたハンマーモードで殴り掛かる。

 

「え~い」

 

「くっ!」

 

振り下ろされたガンガンセイバーの一撃で校庭に大穴を開けるベンケイ魂の剛力を受けては拙いと考えて回避する。

 

「まだまだ~」

 

今度は横薙ぎに振るわれたハンマーモードのガンガンセイバーをバックステップで避けると、オニキスはそのまま校舎の壁を蹴りダークゴーストから更に距離をとる。

 

校舎の壁を蹴りながらダークゴーストの真上へと跳ぶとブラックドラグクローの龍の口の部分に炎を集める。

 

「せいっ!」

 

ブラックドラグクローから打ち出された炎がダークゴーストへと向かうが、

 

「ほいさ~」

 

ガンガンハンドを取り出し、ロッドモードに変形させたダークゴーストはそれを回転させてオニキスの炎を防ぐ。

 

オニキスの炎を防いだダークゴーストはそのまま落下するオニキスに対してロッドモードのガンガンハンドを振るい打ち落とそうとするが、オニキスはガンガンハンドの先端を蹴って空中で軌道を変えてその一撃を回避する。

 

「ふっ!」

 

そして、着地すると同時にダークゴーストの頭を狙った回し蹴りが叩きつけられる。

 

「がはっ!」

 

「つぅ……」

 

だが、ダークゴーストも咄嗟にガンガンハンドを突き付ける。

カウンターの要領で腹部にガンガンハンドを叩きつけられたオニキスと、オニキスの回し蹴りを受けたダークゴーストが互いに距離をとる。

 

「これでどうだ〜」

 

ダークゴーストがガンガンハンドを地面に叩きつけると薙鎌、鉄の熊手、大鋸、刺又、突棒、袖搦を模したエネルギーがオニキスへと襲い掛かる。

 

(ならこっちも)

 

その動きから次の敵の狙いを理解したオニキスは、後ろに下がりながらカードデッキから新たなカードを取り出す。

 

同時にオニキスに襲いかかろうとしていたエネルギーの薙鎌、鉄の熊手、大鋸、刺又、突棒、袖搦が後方から飛んできたマイクロミサイルによって軌道が変わる。

 

「えぇ~!?」

 

「先輩、ナイス!」

 

「ああ、叩き落とさなくても反らすくらいは出来るぜ!」

 

絶妙のタイミングでの援護射撃をしてくれたクリスへと賞賛の声を上げ、ブラックドラグバイザーにカードを装填する。

 

 

『FINAL VENT』

 

 

「はぁぁぁ」

 

 

『オメガドライブ』

 

 

「えーい!」

 

背後に現れるドラグブラッカーの吹き出す炎と共に打ち出されるオニキスの必殺技ドラゴンライダーキックに対抗する様に放たれるダークゴーストのオメガドライブ。

 

オニキスとダークゴースト。二人のライダーの必殺キックが互いの中間点でぶつかり合う。

 

「おおおおおお!」

 

二つの必殺キックが中間点でぶつかり合い拮抗する。そして、互いに相手を打ち倒さんと力を込めあった瞬間。

 

巨大な爆発音と共に二人のライダーは吹き飛ばされ変身が解除される。

 

「互角か!?」

 

吹き飛ばされながらも態勢を立て直して吹き飛ばされたダークゴーストを睨む四季。

 

「きゅ〜。こうなったら〜……」

 

吹き飛ばされた少女が立ち上がりながらそう言って取り出すのは一つのライドウォッチ。

 

 

『ムゲン魂』

 

 

少女の手の中のウォッチが眼魂へと変わる。

今までのそれとは違う形状の眼魂。

 

 

『ムゲンシンカ! 』

『アーイ! バッチリミナー↓・バッチリミナー↑! 』

『チョーカイガン! ムゲン!』

『KEEP・ON・GOING! ゴ・ゴ・ゴ!ゴ・ゴ・ゴ!ゴ・ゴ・ゴ!GODゴースト!』

 

 



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六十話目

最近pixivの方で他の方の作品とコラボしました。

↓こちらです
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12864709


ルパンレンジャーVSナイトローグ

 

共に距離をとって銃撃を交わすルパンレッドとナイトローグ。

マントを翻しながら回転する様に最小限の動きでトランスチームガンの銃撃を避けVSチェンジャーの引き金を引くルパンレッドと、大きく動きながら避けルパンレッドの姿を常に視界に捉えながらトランスチームガンでの銃撃を行うナイトローグ。

共にリロードも弾切れの心配もないVSチェンジャーとトランスチームガンを相手の弾丸を避けながら撃ち合う二人。

 

相手の銃弾を避けながら己の銃を撃ち合う赤い怪盗と蝙蝠の怪人。

 

先に痺れを切らしたのは蝙蝠の怪人の方だ。

 

「では、こちらは奥の手を使わせてもらいますか」

 

そう呟いた新たにナイトローグが取り出すのはもう一つの銃、ネビュラスチームガン。

 

一回転させた二つの銃を手に取り、背中からコウモリの翼を出現させてルパンレッドの攻撃を避け、空中に浮かぶナイトローグ。

 

「チッ、そう来たか」

 

「残念ですが、ビルドへの再変身はさせませんよ」

 

空中を飛翔しながら地上にいるルパンレッドへとネビュラスチームガンとトランスチームガンの引き金を引くナイトローグ。

 

「ビルドを使う暇を与えないって訳か?」

 

「その通りですよ」

 

上空に逃げたナイトローグへとVSチェンジャーを撃つがナイトローグはルパンレッドの銃撃を避けながら、トランスチームガンとネビュラスチームガンを撃つ。

 

空中を自在に飛ぶナイトローグ相手には空を飛べないルパンレッドでは、制空権を奪われた状態での銃撃戦はルパンレッドにとって不利になる。

 

回避に徹するしかないルパンレッドに対して、自分に優位な位置からの一方的な攻撃に仮面の奥で笑みを浮かべているであろうナイトローグだが、突然の銃撃によりネビュラスチームガンがその手から弾かれる。

 

「なっ!?」

 

続け様に彼の背中の羽が撃ち抜かれ、地面に落とされる。

 

「私を忘れないで欲しいわね」

 

「そうですね、スナイパーの存在を忘れていましたよ」

 

上空にいた自分を撃ち落とした張本人、ルパンブルーを一瞥しながら、自分に近づくルパンレッドに気付くと、ナイトローグは弾かれたネビュラスチームガンの回収を諦め、トランスチームガンとVSチェンジャーを互いに突きつけ合う。

 

「映画とかで見るシーンですが、当事者になると中々撃てない物ですね」

 

「それは同感だな」

 

お互いに銃を突きつけ合うルパンレッドとナイトローグ。迂闊に次の行動に移れない二人。

だが、次の瞬間にルパンレッドに突きつけていたトランスチームガンにワイヤーが巻きつき、ルパンレッドに向けていた銃口が真上に向く。

 

「しまっ」

 

「遅い!」

 

そのワイヤーを持っていた者、ルパンイエローの姿に気が付いたが、既に遅い。

 

ナイトローグの体に打ち込まれるVSチェンジャーによる三連射。流石にナイトローグの防御力を持ってもダメージはある。

 

そのダメージで意識がそれた瞬間を逃さずルパンレッドの回し蹴りがナイトローグへと叩きつけられる。

回し蹴りが叩きつけられた瞬間、ナイトローグはスチームブレードを取り出し、

 

 

『エレキスチーム』

 

 

それに対して反撃するように素早く取り出したスチームブレードから放つ電撃をルパンレッドに叩きつける。

 

「ぐっ」

 

その一撃でルパンレッドを後退させるとトランスチームガンに巻き付いていたワイヤーを切り裂き、トランスチームガンに装着し、ライフルモードへと合体させる。

 

狙うのは自分を狙撃したルパンブルーだ。狙撃の腕は向こうの方が上だろうが、牽制程度にはなるという判断で引き金を引くナイトローグ。

 

それに気が付いたルパンブルーはその場を跳びのきそれを避ける。

 

「イエロー!」

 

「うん」

 

ナイトローグの動きを見たルパンレッドは素早くシザーダイヤルファイターを投げ渡す。

イエローはVSチェンジャーにそれをセットし、

 

 

『シザー! 快盗ブースト!』

 

 

ダイヤルファイターを模した盾とブーメランを装備する。

 

「えい」

 

「くっ!」

 

ルパンイエローのブーメランをライフルモードのトランスチームガンで受け止めるナイトローグ。

 

そんな中、

 

「ぐっ!」

 

ナイトローグは別の方向からの銃撃を受けて地面を転がる。

 

「何者ですか?」

 

 

「おいおい、誰か一人忘れちゃいねえか?」

 

 

その声にまさかと言う考えを抱くナイトローグ。

ナイトローグの視線の先にいるのは銀色の礼服姿とシルクハットにアイマスクの少女。

 

そして、その少女は列車と銃の融合したような武器を取り出す。

 

 

『エックスナイズ!』

『快盗Xチェンジ!』

 

 

それによって新たに現れる銀色の怪盗。四人目のルパンレンジャー。

 

「なあ、これって言わないとダメか?」

 

「まあ、様式美って奴だから」

 

少女の言葉にそう答えるルパンレッド。様式美の序でに正体を隠す意味もある。

ルパンレッドのその言葉にルパンエックスは仕方ないとばかりに、

 

「こ、孤高に煌めく快盗! ルパンエックスだ!」

 

半ば自棄でポーズまで決めて決め台詞を叫ぶルパンエックス。

 

「って、なんでアタシのだけ長いんだよ!?」

 

「そこは本家をリスペクトって事で」

 

「でも、先輩、カッコいい」

 

「ええ、カッコいいわよ、先輩」

 

いつの間にかルパンレッドとルパンエックスに合流している二人。

 

「んじゃ、全員揃ったところでフィナーレと行くか。グッディ!」

 

何処からか飛んできたVSビークル『グッドストライカー』をVSチェンジャーに合体させ、

 

 

『MAKE A GAME! 3,2,1,Action! フハハハハハハ…… 』

 

 

その姿を三人に分身させるルパンレッド。

 

「いつ見ても、不思議ね」

 

「「「オレはもう慣れた」」」

 

ルパンブルーの言葉にハモってそう返す分身ルパンレッド。

 

「いや、本当にどうなってんだよ、それ?」

 

「本当に不思議」

 

「さァ、オイラにもわっかりませ~ん」

 

聖遺物だの魔法だのと言った超常的なものがある世界の出身のクリスと雫にも疑問に思われるグッドストライカーの能力であった。

 

「「「実際三つの体を一人で動かしてる感覚だからな」」」

 

「いや、それって大丈夫なのかよ? アタシも本物の忍者は知ってるけど……」

 

「「「まあ、分身能力なんてこんな感覚なんだろう」」」

 

それで済ませて良いものなのか疑問だ。

 

「いつまで、コントをやってるつもりですか!?」

 

そんなルパンレンジャー四人のやり取りに苛立ったナイトローグがライフルモードのトランスチームガンにバットロストボトルを装填し、

 

 

『スチームアタック』

 

 

スチームアタックを発動させ、撃ち出したのはコウモリを模した無数の散弾。

 

「コントしているわけじゃないぜ。余裕なだけだ」

 

 

『イタダキストライク!』

『スペリオルショット!』

 

 

一列に並ぶ本体と思われるルパンレッドとルパンレンジャー達の左右に立つ分身ルパンレッド。

ルパンレンジャー達が銃撃を放ち、分身ルパンレッド達が放ったリング状の斬撃が一つになりナイトローグのコウモリ状の散弾を飲み込み、押し返していく。

 

「なっ!? バ、バカな!?」

 

自身の攻撃を飲み込んだルパンレンジャーの必殺技がナイトローグへと直撃する。

 

「う、うわぁぁぁぁあ!!!」

 

悲鳴をあげて吹き飛ばされるナイトローグの手からネビュラスチームガンが離れ、ナイトローグへの変身が解けた久瀬が地面を転がって倒れる。

 

「ぐ……こ、こんな所で……」

 

「それでは」

 

『オ・ルボワール』

 

倒れる久瀬を一瞥しながらグッドストライカーをVSチェンジャーから外すと分身が解除されたルパンレッドの声に合わせて告げられた言葉が重なるのだった。



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六十一話目

「ぐっ……」

 

倒れたまま久瀬は自身の近くに落ちていたバットロストバトルを手に取ると、尚も戦おうと這いながらネビュラスチームガンを手に取ろうとするが、

 

「っ!? させるかよ!」

 

それを見たアザゼルがそうはさせないとばかりに、久瀬よりも先に彼の落としたネビュラスチームガンを確保する。

 

「っ!? か、返しなさい!」

 

「おっと、そうはさせねえな。悪いが片腕とはいえ、今のお前には負けねえぜ」

 

久瀬が手にするよりも早くアザゼルがネビュラスチームガンを拾い上げ、光の槍を作り出し久瀬へと突き付ける。

確かにアザゼルは片腕を失って確実に重症だが、変身が解除された今の久瀬では逃げる事も出来ないだろう。

 

「お前には聞きたい事が山程有るんだ。この場で拘束させてもらうぜ」

 

光の槍を突き付けながら、久瀬を倒したルパンレンジャーの四人に『それで良いか』と言う視線を向ける。彼らも依存は無い様子で反論しない。

 

禍の団(カオス・プリゲート)の中でも未知の技術を使う一味の一人。恐らくは幹部クラスと思われる相手だ。相応の情報は持っているだろう、ここでそんな彼を拘束する価値は高い。

 

(あいつらのベルトとも違うシステム見たいだけど、調べるのが今から楽しみだぜ)

 

ふと、先ほど回収したネビュラスチームガンに視線を向けるアザゼルの思考には技術者としての本能が強く出ていた。

未知の技術に触れる楽しみ、新しい技術を知る喜びは何度味わっても、技術者にとって良い物なのだろう。

 

そんな好奇心を抑えつつ、再度久世はと向き直るアザゼルだけでなく、動けば容赦しないと言う様子でリアスも何時でも滅びの魔力を放てる体制だ。

 

そんな久瀬を拘束しようとしてアザゼルが、彼の行動を警戒しながらも近づこうとした時、

 

「っ!?」

 

結界の中に現れた強大な力を感じ取り、思わず歩みを止めてしまう。

 

「これは……。どうやら、彼女もムゲンの力を使った様子ですね」

 

「そうですよー」

 

久瀬の言葉に少女の声が響くと久瀬とアザゼルの間に現れた魔法陣からソーサラーが現れる。

 

「久瀬さん、新しいベルトですよー」

 

「ええ、助かりました、頂きます」

 

ソーサラーから渡されたベルトを手に取ると久瀬は笑みを浮かべながら、そのベルトを装着しようとする。

 

「っ!? それはあの赤いコソ泥の使ってたベルト!?」

 

「怪盗だ! それに、あれはビルドドライバーじゃ無い!」

 

ヴァーリと戦っていたイッセーの言葉をルパンレッドが訂正する。

久瀬の手の中にあるドライバーは確かにビルドドライバーに似てはいる。だが、

 

 

『エボルドライバー!』

 

 

それを久瀬が装着した瞬間、ドライバーからそんな声が鳴り響く。

 

「ええ、これはエボルドライバー。彼のビルドドライバーの原型となった道具ですよ」

 

そう言って久瀬が取り出したのは二つのフルボトル。その二つを振りながらドライバーへとセットする。

 

「もっとも、それでも人間用に性能を落とした品でしかありませんけどね。さあ、実験を始めましょうか」

 

 

『蝙蝠!』

 

 

一つは先ほどまで使っていた物と同じ成分だが、ロストボトルでは無いバットフルボトル。

 

 

『発動機!』

 

 

もう一つはエンジンのフルボトル。蝙蝠とエンジン、その二つは一見共通点の見えない組み合わせだが、

 

 

『エボルマッチ!』

 

 

それは最高の組み合わせを意味してしまう。

 

 

Are you ready(準備は良いか)!?』

 

 

「変身」

 

久瀬がベルトから響くその声に応えるようにそう呟くと、

 

 

『バットエンジン! ヌゥハハハハハハ……!』

 

 

その姿を新たな仮面ライダーへと変える。

 

「チッ!」

 

先手を打とうと光の槍を投げつけるアザゼルだが、それを久瀬は簡単に受け止め、膝でへし折った後投げ捨てる。

 

「ナイトローグ改め、仮面ライダーマッドローグ。以後、お見知り置きを」

 

狂った悪党(マッドローグ)の名に反したような、優雅とも言える態度で一礼しながら、新たな名を名乗るのだった。

だが、今の状況でリアスはもう一人の、金色の魔法使いソーサラーに問わなければならない事がある。

 

「そこのアナタ、お兄様はどうしたの!?」

 

ソーサラーと対峙していたのは、自分の兄であるサーゼクスだったはずだ。逃げてきたにしても無傷なのは可笑しいと思っての質問だったのだが、

 

「あははー、大丈夫ですよー。死んではいませんから、安心してくださいねー」

 

ソーサラーからリアスへと帰って来たのは予想外の返事だった。

その言葉を理解するのに微かに時間を要してしまうほどだ。

 

兄をはじめとする四人の魔王は悪魔に於ける最強戦力なのだ。その中でもトップの力を持っていたはずの兄が負けたと言うのは、リアスには理解できなかった。

しかも、相手は無傷で勝利して見せたという事になる。

 

「忘れたんですか? サーゼクスさんは超越者とは言え、所詮は悪魔と言う枠の中での最強。世界の強者ランキングではベスト10の圏外と言うことを」

 

「おい、それはどう言う意味か分かって言ってんのかよ?」

 

アザゼルはソーサラーの言葉に反応する。強者ランキングについてはヴァーリが最初に言い出した話だが、確かにサーゼクスでさえ一桁の順位には入ってなかった。

だが、ソーサラーの口調では単に格上なのではなく、彼女自身がまるでその中に入っているような口振りではないか?

 

「んー、正確には私の力ではなく」

 

 

『インフィニティスタイル』

 

 

「この、ライドウォッチの力ですけどね」

 

そう言ってソーサラーは再度ライドウォッチを起動させる。

 

「このライドウォッチの力は『無限』の力を宿した魔法使いの力なんですよー。あの人も無限の力の前には無力だったと言う事ですねー」

 

「おいおい……冗談だろ?」

 

アザゼルは信じたくなかったが、微かに漏れる力でその危険性を正確に理解してしまった。

無限と言っても、グレードレッドやオーフィスにこそ及ばないが、確かに無限の力が相手の手のなかにはあるのだと。

 

「これで、オーフィスも納得してくれますね?」

 

自分に匹敵しかねない力を作り出したとあれば、もう少しオーフィスも気長に待つ気にもなるだろう。

 

「こっちにしてみりゃ最悪だな」

 

「貴方達にしてみれば私達は敵ですからね。寧ろ、貴方達の最悪は私達にとっての最善ですね」

 

「でも、今は連続で使えても一回当たりの使用時間が限られるのは欠点なんですよねー」

 

ソーサラーの言葉に顔を顰めるアザゼルに愉快そうに告げるマッドローグ。サラリと欠点こそ言っているが慰めにすらならない。

本来はウィザードの力であるインフィニティスタイルの力を無理やり別のライダーで使っているのだ、ライドウォッチの力自身の抵抗もあり、完全に己のものにするにはまだまだ時間がかかる。

 

「所で、カテレアさんはどうしました?」

 

「ええ、先に帰って貰いましたー。今後は私達のメンバーとして協力してくれるようなので、アビスの力を託しましたよー」

 

のんびりとソーサラーと世間話をしながら、船の錨と海賊船と電車を融合させた弓の様な武器『カイゾクハッシャー』を取り出すマッドローグ。

 

「さて、それでは第二ラウンドと行きますか、ルパンレンジャー?」

 

「望む所だ。改めて、そのお宝、頂くぜ!」

 

アザゼル達は眼中に無いとばかりにカイゾクハッシャーをルパンレンジャーへと向け、マッドローグはそう呟くとルパンレッドもまたマッドローグに応えるようにVSチェンジャーを突き付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せいや~」

 

「くっ」

 

一方でオニキスに変身した四季とクリスと詩乃が対峙しているのは、ライドウォッチの起動と同時に現れたムゲンゴーストアイコンで変身したダークゴーストムゲン魂だ。

原典のムゲン魂が光のゴーストならば、目の前のダークゴーストの変身したムゲン魂はダークゴーストの文字通りの闇のゴーストというべき漆黒の姿をしている。

 

ムゲン魂のガンガンセイバーの一閃をドラグセイバーで受け止めるが、オニキスはそのまま後ろに吹き飛ばされる。

 

「それそれそれ~」

 

続け様に繰り出されたガンガンセイバーとサングラスラッシャーの二刀流による連撃を後ろに飛んで避けるが、地面を叩く一撃の破壊力は気の抜けるような掛け声とは裏腹に、校庭に深々と破壊の爪痕を残す。

 

「クリス先輩!」

 

「ああ!」

 

オニキスが離れた瞬間を逃さず、マイクロミサイルをムゲン魂へと向かって放つクリス。

 

「え~い~」

 

翳した手から放った虹色の衝撃波が誘爆させたミサイルの爆煙が彼らの視界を奪う中、

 

 

『ストライクベント』

 

 

「そこだ!」

 

オニキスはドラグクローを装着して振り向き様に、後ろにいたムゲン魂に拳を叩きつける。

 

「あれ~? 何で気が付いたの~?」

 

「オレは気配の察知には敏感なんでね」

 

ドラグクローを装着した拳を無防備な状態で叩きつけられたと言うのに、ムゲン魂は寧ろ自分の居場所が知られたことの方が疑問という声を挙げている。矢張り、最強フォームは防御も桁違いと言う事だろうか?

 

「それ~」

 

「ぐっ!」

 

『そうなんだ~』とでも言う様な態度でオニキスの言葉に納得した様子で、虹色の衝撃波を放ちオニキスを吹き飛ばす。

 

「このっ!」

 

そんなムゲン魂を狙って、クリスがガトリング状に変えたアームドギアから弾丸を放つも、再度衝撃波を放ち撃ち落とす。

 

「これで!」

 

ムゲン魂が衝撃波を放った直後を狙いドラグクローから火炎弾を放つオニキスだが、

 

「え~い」

 

重力を感じさせない動きでオニキスに近づいたムゲン魂のキックが彼をクリスの方へと蹴り飛ばす。

 

 

『イノチダイカイガン!』

 

 

「ウラミ、ストリ~ム!」

 

ダークゴーストムゲン魂版のナギナタモードの必殺技『ウラミストリーム』がオニキスとクリスに向かう。

 

「っ!?」

 

とっさにオニキスは自分の後ろに居たクリスを突き飛ばし、敵の技の効果範囲まで突き飛ばす。

 

「っ!? 何を……」

 

防御も間に合わない状況での最強フォームの必殺技。ならばと、判断したのは、龍騎のそれとは違い、変身者の保護機能のあるオニキスに変身している自分よりもクリスを助けるべきと、とっさに判断したからだ。

バントされれば命は助かるが、ユーブロンが居ないのではそれは死と変わらないかもしれない。

 

「バッ、バカヤロー!」

 

「四季っ!」

 

クリスと詩乃の悲痛な声が響く中、オニキスはムゲン魂の必殺技に吹き飛ばされながら地面に叩きつけられ、力なく倒れるとそのまま変身が解除される。

 

全身に痛みはあるが意識も有るし、体も動く。無理矢理痛む体を動かしながら、カードデッキを手に取る。

 

「まだ動けるんだ~?」

 

「ああ、流石に効いたけどな」

 

ダメージが有るのは隠しようが無いが、自身への回復技ならば扱えるし、未来から来たルパンレンジャーの存在がこの場で死ぬことはないと言う確信を与えていた為、多少無理のある行動も出来る。

 

とは言え、流石に最強フォームの必殺技の直撃を受けた以上、割と早めに雫から癒しの術をかけて欲しいのも現状だ。

 

口の中に溜まった血を吐き捨て、手持ちの手札でムゲン魂に対抗する手段を模索するが、辛うじて対抗出来る手段しか思い浮かばない。

 

(手持ちの手札じゃ賭けだな)

 

最強には矢張り最強をぶつけるかそれ以上をぶつけるしかない。

純粋に正面から打ち砕ける力が無ければ駄目だ、策や数程度で対抗出来るレベルではないのだ。

 

意を決してムゲン魂に対抗するための手札で有る龍騎ライドウォッチを取り出し、

 

「使わせて貰うぜ、城戸さん」

 

 

『龍騎!』

 

 

そのウォッチを起動させると四季の手元からウォッチが消え、オニキスのクレストが漆黒のドラゴンから金色のドラゴンの物へと変わる。

 

「それで何をする気なの〜?」

 

オニキスから龍騎へと原点回帰を果たしたデッキを、相手の問いに答える様にムゲン魂に向け、

 

「切り札ってやつだよ」

 

一枚のカード『サバイブ-烈火-』をデッキから引き抜き見せ付ける。



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六十二話目

警戒している龍殺しの剣ではなく拳ならば油断して受けると考えたイッセーは、籠手に宿した龍殺しの剣アスカロンに倍加させた力を譲渡し、龍殺しの力を拳に宿すという奇策にでた事で、遂にヴァーリの顔に一撃を入れ、更に追撃の拳を腹に叩き込むことに成功する。

 

(これが龍殺し(ドラゴンスレイヤー)の威力か? 鎧が紙のようじゃねえか!?)

 

その力を目の前にして実感するイッセー。

ドラゴンに対する特攻と言うべき力は、自分よりも格上であるはずのヴァーリの禁手(バランスブレイク)の鎧をたったの二撃で粉々に打ち砕いていた。

 

「ハハハ、凄いな! やれば出来るじゃないか、それでこそオレのライバル!」

 

自身の鎧を砕かれながらも歓喜しながら叫ぶのはヴァーリだ。

 

「……殴らせて貰ったぜ。お前だけは殴らなきゃ気が済まなかった」

 

「気が済む……?」

 

ヴァーリは再度全身に砕かれた鎧を纏い、

 

「どちらかが戦闘不能になるまで戦闘は終わらないさ!」

 

 

 

『パイレーツ!』『ライダーシステム!』

『クリエーション!』

 

 

突然響く機械音。ルパンレンジャーとリアス、ギャスパー、アザゼルと対峙していたマッドローグの手に現れたカイゾクハッシャーを、

 

 

『各駅電車』

 

 

「ぐわっ!?」

 

そんな場に似合わない電子音と共に放たれたエネルギー弾がイッセーの背中に直撃する。

 

不意打ち気味にエネルギー弾を撃ち込まれたイッセーはそのまま地面に撃ち落とされる。

 

「イッセー!」

 

「何のつもりだ?」

 

リアスが地面に倒れるイッセーの名を悲鳴まじりに叫ぶ中、マッドローグの行動に苛立ちのこもった声で問うヴァーリ。

 

「何のつもり? 決まっているじゃないですか、長々と戦う趣味は僕には無いので、弱い相手から確実に数を減らそうと思っただけですよ」

 

「巫山戯るなよ、赤と白の戦いを邪魔するな」

 

「ドラゴン紅白合戦が御所望ならプライベートでやって下さい」

 

「貴様……」

 

そんな怒りを露わにするヴァーリの態度を意にも介さずに、マッドローグはやれやらとでもいうような態度でそんな言葉を返す。

 

「そんな態度はダメですよ~」

 

そんなマッドローグの態度を嗜めるソーサラー。

 

「ですが、旧魔王派の目的は終わり、カテレアさんと他の人達の回収も終わってますし、これ以上の戦闘は無価値なんですよね」

 

「あの人達が逃してくれそうもないですからね~」

 

最後に「サーゼクス・ルシファーは此方で撃退したと言う結果は出しましたし」と加えるマッドローグにソーサラーは撃ち落とされたイッセーに駆け寄ったリアス達とルパンレンジャー達を指差しながら告げる。

 

「とうぜんよ!」

 

「当然と言われても、頼みのアザゼルは片腕、赤龍帝はそろそろ時間切れですが、どうするんですか? 此方にとって敵はルパンレンジャーだけ。戦力として数えられないお荷物のお姫様?」

 

一度は撃破されたダメージがあるとは言え敵はマッドローグを含め、ソーサラーとヴァーリ。

 

用件も済んだので、一度倒されたのでそろそろ退こうと思っていたマッドローグだが、向こうは逃してくれそうにない。

 

「退くのはお前達だけで」

 

「そこ、危ないよ~」

 

「何? ぐわっ!」

 

突然聞こえてきたダークゴーストムゲン魂の言葉に気がついてそちらに視線を向けると、ムゲン魂の姿が見えたと思ったら、次の瞬間ムゲン魂の姿が消え、ヴァーリの視界を覆うように迫ってくる火球。

 

ムゲン魂はそれから逃れようと姿を消したのだろう。……流石に派閥は違えど一応味方なんで自分に誘導したとは思いたくない。

 

そんな事を考えながら回避が間に合わなかった火球に直撃するヴァーリ。そのまま吹き飛ばされて校庭に落ちて行く。

 

 

『ディフェンド、ナウ』

 

 

次の瞬間、ソーサラーが発生させた魔法陣の盾の後ろにマッドローグが隠れるとマイクロミサイルの雨がソーサラー達を襲う。

 

「ごめんね~」

 

ムゲン魂の謝罪の言葉が響く中、先程の攻撃を齎した者達の姿が見える。

 

マイクロミサイルの方はリアス達の予想通りクリスだ。そして、彼女と共に現れたのは、何処かオニキスに似た姿をした赤い姿の、ドラゴンの頭を模した銃を持った仮面ライダー。

 

「っ!? 龍騎……サバイブ」

 

マッドローグが驚きの声を持って目の前に現れたライダーの名を呟く。

『仮面ライダー龍騎サバイブ』、仮面ライダー龍騎の最強フォームである。

 

「バ、バカな!? 君が持っているカードデッキはドラゴンナイトでも龍騎でも無いはず……。何故、龍騎サバイブが!?」

 

「そうだな……強いて言うなら、お前達のお陰だ」

 

最強フォームには最強フォーム。ムゲン魂とサバイブではスペックに差こそあるが、最強フォームの力には手持ちの最強フォームの力だ。

 

敵が何のためにライドウォッチを作っていたかは分から無いが、それが今回は四季達にとって優位に働いてくれたようだ。

 

「おっと、オレ達も忘れるなよ!」

 

「くっ!」

 

ルパンレッドの声に反応すると其方から巨大ブーメランが向かってくる。マッドローグはカイゾクハッシャーでそれを切り払うが、弾かれたブーメランはそれを投げた当人と思われるルパンイエローの手に収まる。

 

「ふふふ……。龍の魔術師、君も赤い龍の力を宿していたか」

 

「宿していたと言うより、借りたと言うべきだな」

 

ウィザードラゴンは赤い龍と言って良いかもしれないが、四季の本来の力は赤い龍ではなく金色の龍(黄龍)だ。

 

……取り敢えず、この戦闘狂(バトルマニア)に目をつけられている現状には心底頭を抱えたくなる。

 

「本当に君が赤龍帝だったら良かったよ、そうすれば最高のライバルに慣れていたはずだ」

 

「取り敢えず、オレは鬱陶しいドラゴンに年中話しかけられるプライベートもない生活と、お前のような戦闘狂との縁もいらん」

 

「つれないな、君は……」

 

心底ヴァーリの言葉は御免被りたいと思う四季だった。

 

そんな龍騎サバイブとヴァーリをボロボロになりながら見上げているイッセーを一瞥するマッドローグは、

 

「さて、では、心置きなく貴方が彼と戦えるように、最弱の赤龍帝の始末をするとしますか」

 

カイゾクハッシャーをイッセーはと向ける。

 

「この野郎……」

 

『そろそろ、腕輪の効力も限界が近いぞ』

 

見下す様に言葉を続けるマッドローグを一発ぶん殴ってやりたくなるが、それも叶わない中、ドライグからの警告が聞こえる。

 

『相棒、逃げるのが一番な得策だが、そういうわけにもいかないのだろう?』

 

「オレだけ逃げられるかよ!?」

 

籠手(ブーステッド・ギア)から聞こえるドライグの声にそう反論するイッセー。

 

「相棒のアドバイスは素直に聞いておくべくですよ」

 

 

『各駅電車!』『急行電車!』

 

 

「特に君の様な弱者は」

 

「がぁ!」

 

先ほどよりも強力な撃ち込まれ、イッセーの兜と籠手の一部が破壊される。

 

 

『各駅電車!』『急行電車!』『快速電車!』

 

 

トドメとばかりに続け様に放たれた光弾がイッセーを吹き飛ばす。

 

そのまま体を包んでいた鎧が吹き飛び、地面に叩きつけられ転がって行く。

 

「ゲホっ……ゲホっ……」

 

血を吐きながらも意識を失わないのは禁手の鎧の防御力による賜物なのか? それは彼にとっての幸福なのかは不明だが、意識はしっかりと溜まっていた。

 

「やれやれ、どうやら少々赤龍帝の鎧の強度を甘く見ていた様ですね。君程度なら最大出力は必要無いと思いましたが」

 

次で確実に仕留めるとカイゾクハッシャーのビルドアロー号を引っ張るマッドローグ。

 

「ちくしょう……」

 

ーカランッー

 

そんな、絶体絶命の状況でイッセーが伸ばした手が触れたのは、ヴァーリの鎧から砕けた宝玉の様なパーツ。

 

「ヴァーリの鎧の一部……。なあ、ドライグ。神器(セイクリッド・ギア)は想いに応えて進化するんだよな?」

 

落ちていた白龍皇の鎧の一部を拾い上げながら、ドライグへと問いかける。

 

『……相棒、まさかそれを……』

 

「そのまさかだよ」

 

『フハハ! 面白い! 死ぬかもしれないが、覚悟はあるか?』

 

「死ぬのはカンベンだな! 痛いのは我慢してやる! 目の前の蝙蝠野郎を叩きのめせるならな!」

 

『いい覚悟だ! ならばオレも覚悟を決めよう!』

 

そんな会話をしているイッセーとドライグを興味無さげにビルドアロー号を弾きながら、

 

「これでトドメです」

 

 

『各駅電車!』『急行電車!』『快速電車!』『海賊電車!』

 

 

イッセーにトドメを刺そうと最大までチャージし、ビルドアロー号を模したエネルギー弾を放つ。

 

「不可能とされていた聖と魔の融合を木場は果たした! アイツの消失の力、オレの神器(ブーステッド・ギア)に移植してやる!」

 

その木場が果たした聖と魔の融合も無意味な利敵行為に終わったのだが、イッセーはとどめの一撃の迫る中、全身を襲う激痛に耐える。

 

(痛い痛い痛い! 光の槍の痛みの比じゃない!?)

 

赤と白の相反する龍の力を取り入れることは正にドライグの言葉通り、猛毒である光の槍に刺されるよりも死を連想させる激痛だ。

気を抜けば意識を失うほどの痛み。目の前には自分を即死させるにたる破壊力の一撃が迫る。最早、イッセーの生き残る道は力を得る以外にない。

 

「アイツらに才能で勝てないなら、バカげた可能性に賭ける! 俺の想いに応えろオオオオオオ!」

 

イッセーの叫びに応える様に砕かれずに残っていた腕の鎧が白く変化する。それは差し詰め『白龍皇の籠手(ディバイディング・ギア)』と言ったところだろうか。

 

叫びを上げながら自身に迫る電車型のエネルギー弾に白き籠手を纏った腕をかざす。

側から見れば自殺の光景にさえ見えるその状況で、

 

「グハッ!」

 

鮮血を吐きながらもエネルギー弾の半減に成功して防ぐ事に成功する。

 

「へへへっ、ザマァ見やがれ……」

 

「なるほど、過小評価のし過ぎであったことは理解しました」

 

「っ!?」

 

必殺の一撃を防いだ事に満足げに呟いたイッセーにそんな声が掛かる。自身の目の前にはマッドローグの姿があった。

 

「ですが、これで終わりです」

 

「ガハッ!」

 

カイゾクハッシャーのリムの部分の刃の斬撃を刻まれてしまうのだった。



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EX01『とある休日の一幕 その1』

時系列は三大勢力の和平会談後から夏休みの間です。


「さて、迅の後継は完成した様子ですね?」

 

「そうみたいですねー」

 

とある喫茶店で1組の男女がそんな会話を交わしていた。神経質そうな男、マッドローグである久瀬と、ソーサラーと名乗っていた不思議と外見が認識できない少女だ。

 

リングの魔法を使い自身の外見や会話を記憶できないようにしているのが、彼女の力と言う事もある。

不幸にも迅と言う部分だけが漏れていたが。

 

「まあ、当面は心配無いとは思いますが、準備はしておいた方がいいでしょう」

 

トータスで活動中の迅の新型という名の予備のボディ。

トータスで活動中のダークゴーストと風魔の元で使っている複製の仮面ライダー迅のバーニングファルコン対応型の強化型ボディの事だ。

他の物は強化型こそ用意されてないが、予備ボディは万が一破壊されても直ぐにバックアップデータから強化再生可能なようにしておく為でもある。元々がオリジナルのデータから複製し調整した存在だ、タイムラグは有るが再度の復活も容易い。

トータスへの転送は後日行う予定だが、警戒している相手はバールクスとその仲間達だけだ。

 

彼等がお気に入りの喫茶店があるのは犯罪多発都市米花町だが、下手な犯罪者なんて比べ物にならない超常テロ組織の幹部なコンビの二人がのんびりとお茶をするのにはちょうど良い場所である。

何気に彼等のセーフハウスの一つも此処に有るのだ。超常的や、SF的かは別にして瞬間移動の手段もある為に、日本各地を毎日のように移動しているが、頻繁に利用する土地もある。

 

米花町は三大勢力からも嫌煙されている町なだけ有り、悪魔も寄り付かない場所である。

とある名もなき悪魔の貴族が眷属として目をつけた相手を誘拐しようとしたら、一日の間に何度も犯罪に巻き込まれてすっかり人間嫌いになったとか。

悪魔も恐る、今やすっかり悪魔と天使と堕天使の関わり合いになりたく無い町第一位である。

悪魔だろうが誰だって、目に見える人間が犯罪者の可能性が高い町に関わりたくないのだ。

 

そんな訳で、どちらかと言えばTHE犯罪者なヴィラン側の二人にとっては特に問題なく過ごせる町ではある。

……堂々と町を歩いてても、近付かない為に三大勢力には見つからないし。

 

まあ、会話は聞こえないにしてもそんな二人は割と店内の注目は集めていたりもする。

黒いスーツ姿の久瀬と容姿は覚えづらいが私服の上に魔法使いのロープ風の黒いマントのソーサラーの組み合わせは、どう考えても怪しいだろう。

 

そんな、どこからどう見ても怪しい二人組は会話を終えると最初に注文したオレンジジュースを飲み終えたソーサラーが席を立つと久瀬の耳に騒音が聞こえてくる。彼女の魔法が他に聞こえるのだけでなく、自分たちの会話の邪魔になる音も遮断していたのだろう。

次いで彼女を見送った久瀬がコーヒーを飲み終えると伝票を持って席を立つのだが、

 

「こんにちは!」

 

眼鏡の少年に話しかけられた。

 

その米花町での彼等のお気に入りの店の店名は『喫茶ポアロ』と言うのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年、江戸川コナンは苛立っていた。先日は妙な高校生の男女の三人組に事件の捜査の邪魔をされたのだ。

大人しそうな様子の少女のお陰で捜査は出来ず、自分より早く他殺と気付いた男には自分を一瞥もせずに麻酔針を受け止めて見せると言う神技を見せられた。

急いで小五郎の推理を誘導して事件を解決したものの、見破ったのならば、自分で真相を話せば良いのにコナンの行動を助けるかのように、遊んでいるように小五郎の推理を誘導していた男。

 

……まあ、四季たち三人の事であるのだが。

四季としては単に人の気配がなかった事を感じただけで有り、麻酔針に関しては単なる条件反射である。下手したら迷宮入りの危険もあったから、慌てて推理の誘導をした訳なのだが、そんな物は当人達にしか分からない。

 

まあ、明らかに一般人には見えない三人に対して疑問を抱きながらも、エンカウントする事もなく日々が過ぎていたある日の事、居候先の探偵事務所のあるビルの一階の喫茶店で気になる言葉を聞いてしまったのだ。

 

『……ジン……』

 

と。

 

(ジンだって!?)

 

明らかに聞き逃さない言葉が聞こえて其方を振り向くと、妙な二人組が居た。

一人は神経質そうなスーツ姿の眼鏡の青年。高校生……本来のコナンの年齢と変わらない風に見える。

一人は制服姿に魔法使いを思わせるマントのような物を羽織った少女。目の前の相手と同じ程度の年齢だろうか、不思議と顔が印象に残らない。

そんな異様な組み合わせの二人だが、その二人には共通点としてスーツやマントの色が黒と言う点がある。

 

(まさか、組織の!?)

 

魔法使いみたいなマントに不思議なまでに印象に残らない少女に異様さを覚えるが、流石に彼女は違うと思うが、幹部ではないにしろ構成員の可能性もある。

何とか会話を盗み聞きできないかと思うが、何故か不自然なレベルであの二人の会話が聞こえてこない。

 

(くそっ!? どうなってんだ!?)

 

そんな不自然な状況に疑問を覚えながらも苛立ちも抱いてしまう。そんな事をしているうちに女の方が席を立ってポアロから出て行く。

そうすると不思議なことに男の声が聞こえてくるようになった。まるで女が何かしていたように。

 

何故と疑問に思ってるウチに男の方もコーヒーを飲み終えて席を立とうとしている。

 

(仕方ねえ)

 

格好から言って組織と関係あるとすれば、こっちの男の方だ。

ジンと言う部分しか聞こえなかったが、もう何らかの方法で自分達の会話を聞こえなくした黒い服の二人組。先ずは探ってみると言う選択肢以外に彼にある筈がない。最悪違ってたら御免なさいだ。と判断して意を決して男が店を出る前に話し掛ける。

 

「こんにちは!」

 

出来る限り無邪気な子供を装って話しかけると。

 

「…………」

 

子供嫌いなのか、警戒心が強いのか、『何だこいつは?』と言うような表情で顔をしかめながら、挨拶をしたコナンを無視して支払いを済ませようとレジへと向かう。

 

「お兄さん、このお店良く来るの?」

 

「…………」

 

「ボク、このお店の上に住んでるんだけど、お兄さん見たことがないなぁって。でも、注文し慣れてるみたいだったから」

 

無邪気な子供を装って質問してもガン無視だった。

 

(……気色の悪い子供ですね)

 

まるで大人が思う不自然な子供らしい子供と言う態度で接してくるコナンに対して久瀬はそんな感想を持った。

 

関わり合いに成りたくないとばかりに無視する態度に苛立ったのかコナンはなおも話しかける。

 

「お兄さん、名前は?」

 

「何故僕が見ず知らずの子供に名前を教えなければならないんですか?」

 

冷たい声音で言い切る久瀬に対して持った印象は見た目通り神経質な奴という印象だった。もう一人の不自然なまでに印象に残らなかった女の方に当たるべきだったかと後悔する。

それでも、黒尽くめの格好にジンなどと言う単語が出て来た相手だ、確かめない訳にはいかない。無邪気な子供を装えば、大抵の人間は絆されてくれていたのに。

 

「僕、江戸川コナン! お兄さんは?」

 

「これはどうも、僕は久瀬成彰です」

 

向こうから自己紹介されてしまったので一応名乗り返す久瀬だが、「これでもう見ず知らずの子供じゃないよね?」という含みのある眼光を受け流してさっさと喫茶店から出ようとする。

 

まあ、その辺は三大勢力に喧嘩を売ったテロリストの禍の団(カオス・ブリゲード)の一派。

恥の上塗り集団の旧魔王派、厨二病の先祖の七光り集団の英雄派と違い成果を出している集団の幹部だ、小学生程度の眼光など意に介さない。

 

「ねえ、さっきはあのお姉さんと何の話をしてたの?」

 

「教えてよ」と着いて回るコナンにイラッとしながらも、表面上冷静に勤めている。

 

「ッ!?」

 

面倒な餓鬼に絡まれたと思いながら、己の不運を呪う久瀬だったが、ふと窓の外を覗くとその表情を歪め、慌てた様子で財布から2枚ほど千円札を取り出して、『お釣りは要りません』と伝票と一緒にレジに叩き付けるように置くと慌てて店を飛び出して行く。

 

突然の行動に一瞬呆気に取られるコナンだが、逃さないとばかりに店を飛び出して行った久瀬を追い掛ける。

 

「……何だ?」

 

「さあ」

 

そんな飛び出して行った久瀬とコナンと入れ替わりにポアロに入ったのは四季と詩乃の二人だった。

後ろ姿では久瀬と気付かなかった四季はそんな二人の姿を見送りながら、先に通される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!」

 

久瀬に逃げられたコナンはそんな悔しげな表情を浮かべる。盗聴機なり付けられればよかったがそんな暇も無かったのだ。(しかも、久瀬は四季たちの姿を見た以上、魔術的な手段でさっさと此処から離れたので見つける事は不可能だろう)

 

ふと、家電量販店のテレビには最近になってから名を上げ出した高校生探偵『時津潤哉』の事が報道されていた。

ある日を境に別人の様に代わり、的確な推理で今や工藤新一よりも有名になっている。

工藤新一を真似したかの様な語り口に全てを理解している様な異常なまでの知識量の面では自分さえも上回っているのではと危機感を覚えるほどだ。

 

「マイは上手くやってる様ですねー」

 

そんな言葉が聞こえてきて其方を振り向くと、其処には喫茶店で久瀬と話していた魔女の様なマント姿の印象が残らない少女がいた。

 

「ねえねえ、お姉さん。あのお兄さんの事見て言ってたけど、マイって何?」

 

時津と報道されていたのに女の様な名前で呼ぶ理由が分からない。そう思ってマントの裾を引いて問いかけて見た。

 

「誰ですか?」

 

「僕、江戸川コナン、お姉さんは?」

 

「私はサユリ。倉田サユリですよー」

 

「それで、マイって誰の事? あのお兄さんじゃ無いよね?」

 

「んー、マイはサユリのお友達ですよー」

 

「そ、そうなんだ……」

 

内心で、そんな事聞いてねーと叫びたくなる思いのコナンだった。

 

サユリの話は誰も要領を得ず、久瀬と別の意味で話し辛い相手だった。

話易いが肝心の本題からはどんどん離れて行く、そんなタイプだ。

 

「でも、コナン君はどうしてあのお兄さんの事を知りたいんですかー?」

 

「僕、探偵に憧れてるんだ!」

 

内心疲れてきたコナンがサユリからの言葉にそう返すと「そうですか」と言葉を告げて笑顔のままにさらに言葉を続ける。

 

「じゃあ、お姉さんから一つだけアドバイスしてあげますよー。あの人を見習ったらいけませんよ」

 

「え?」

 

優しい声音が最後だけ凍える様な冷たい言葉で告げられた。

 

「彼は多くを求めすぎた結果、独りで二人(理想と知識)の名探偵に乗っ取られてしまったんですからね」

 

「そ、それって、どう言う……」

 

「んー、本当の名探偵は誰からも頼られて、誰かのために行動できる人って事ですよー。二人で一人の探偵とその先生みたいに」

 

そう言って画面の中の時津を指差すと、サユリは告げる。

 

「頭が良くて時間を解決するのが探偵じゃ無いですよー。そんな物を目指した。だからあの人は本物の探偵(仮面ライダーダブル)じゃ無くて紛い物の探偵(アナザーダブル)に成り下がってしまったんですから」

 

「それって……」

 

「それじゃあ、サユリはもう行きますねー」

 

困惑するコナンに告げて、ソーサラーと名乗っていた少女サユリは去って行った。慌てて彼女を追いかけようとしたコナンだが、顔がどうしても思い出せず遂に見つける事は出来なかった。




加筆部分を追加しました。


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EX02 とある休日の一幕②

「おっ、ここだ」

 

「ここって……」

 

さて、この日、四季とクリスの姿が日本のヨハネスブルクこと米花町に有った。詩乃と雫は他に用があるらしく不参加なのだが、最近評判の喫茶店に来てみたかったらしい。

側から見ればデートにしか見えない状況である。

 

……まあ、その場所が米花町な時点で嫌な予感しかしていないが。

 

 

 

 

 

 

なお、

 

(……何故、彼らが私のお気に入りの喫茶店に……)

 

それを見ていた久瀬が二人に見つからない様に回れ右をして帰っていったりするが、それは別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

店名と場所を見た瞬間、四季としては微妙な目をその店に向けてしまった。

喫茶ポアロ。

死神などと呼ばれる原作主人公のお膝元である。時期にもよるが、アルバイトにトリプルフェイスが、近くの寿司屋に犯罪組織の幹部がいるトンデモ地帯である。

 

元々目撃情報の多さから、犯罪組織の幹部がここに定住しているのではと言う疑惑まであるが、現在進行形でテロ組織の幹部がここに定住している。

禍の団の構成員である久瀬達や、ソーサラーに助けられたカテレアも普通に此処で生活していたりするのは、別の話。

悪の組織にとって居心地のいい日本のヨハネスブルク(笑)こと米花町。

 

そんな米花町にある喫茶店、喫茶ポアロ。クリスはそんな喫茶店の評判を聞いてそこに来たわけなのだが。

 

「ああ、何でもハムサンドと半熟ケーキが美味いらしいぜ」

 

「昼時ならカラスミパスタもお勧めだと思う」

 

「何だよ、知ってたのかよ?」

 

知ってたのならもっと早く教えてくれと言う様子のクリスに明後日の方を向きながら、軽く謝っておく。

 

喫茶店だけが目的では無いが、四季としては無事に終わって欲しいと思う。……強盗程度ならば物理的手段で即時解決は可能だし。

幸いにも二人での行動と言うこともあり、バイクで此処まで来たので事件で動けなくなると言うことも無いだろう。

 

四季はそんな事を考えながら、クリスと連れ立ってポアロのドアを潜る。

 

「いらっしゃいませー! お好きな席にどうぞ!」

 

女性店員の梓に対応されてテーブル席に座る。

 

「好きな物頼んで良いぜ、アタシの奢りだ」

 

「いや、金ならオレの方が持ってるから……」

 

「偶には先輩らしい事させろよ」

 

普段から先輩として頼りにしているのだが、と思いながらも変に固辞するのは逆に失礼と思い、機嫌の良い素直に奢られておくことにする。

 

普段から四季達はクリスの事は頼れる可愛い先輩と言う認識だ。まあ、可愛いと言う点は譲れないが、彼女が頼れると言う点では最も戦闘経験が多い事もあり、強敵との戦いや、世界の命運を賭けた戦いも何度も経験していると言う点もある。

 

「ご注文はございますか?」

 

「ハムサンドと半熟ケーキとコーヒーを二つ……で良いか、クリス先輩?」

 

「ああ」

 

あれだけ楽しみにしていたと言うならその二つだと辺りをつけて注文を聞きに来た男性店員にそう対応する。

特にメニューを見る事もなくそう対応する。飲み物については適当に決めてしまったが、問題はなかった様子だ。

 

「そう言や、夏休みに誘われてたよな、冥か……生徒会長の実家に」

 

「一応、上の代理として出向く様にって言われたからな……」

 

渡に船ではあるし、ナデシコCは使えないのでシトリー家の移動手段に便乗できるのも有り難い。

シトリー家と言うよりも外交担当のセラフォルーにも話が通っているらしく、その伝でソーナから誘われた訳だ。

 

日本神話の意思としては聖書側としても、四季達という無視できない戦力を得た日本神話も若手悪魔の顔合わせの会に誘われたが、代理として四季達の顧問を立てた訳だ。

日本神話側としても、態々主神が出向く必要が無いと判断した訳である。

 

「まあ、上の金で旅行できるのは良いけど」

 

「行き先が問題なんだよな……」

 

「「……ハァ……」」

 

ゆっくりと国内旅行でもしたかった所だが、そこは運命は許してくれないらしい。

 

「なあ、何か、この町に入ってから妙に警戒してねえか?」

 

「ああ、この町の警察に問題あるせいか、事件が絶えないからな」

 

ギャグ時空(犯沢さん)では殺人事件の件数が事故を超えている、その辺歩いている人が殺人犯予備軍かもしれない危険地域だ。警戒などし過ぎという事もない。

 

まあ、実際には群馬県警の方がもっと酷いかもしれないが。まだ変な推理をする良い加減なのがいる分だけ。

 

厨房の方で何かが割れる音が聞こえたが、四季の言葉を聞いていた此処にいる警察関係者が動揺したのだろう。

 

「そもそも、聞いた話だと……日本が恋人と言う危険人物予備軍がいるらしいからな」

 

「おい! そんなヤバイ奴がいるのかよ!?」

 

「ああ、権力持ってないだけマシなのがな」

 

「嘘だろ……」

 

厨房の方から更に大きな音が聞こえてきたが、四季とクリスの会話を聞いたトリプルフェイスが反応したのだろう。

クリスの頭には一人の人物が思い浮かんでる事は間違いない。

『風鳴訃堂』と言う男の事が、だ。

 

四季としてもシンフォギア世界に関わるのならば、最悪隙を見て始末するべきかと悩む相手だが、間違いなくXV期までは生かしておいた方が助かるのも事実な、対応に困る立ち位置の危険人物だ。

 

怪物共(ノーブルレッド)に支援してる時期なら後腐れもなく、それを理由に始末出来るけどな)

 

あの三人(ノーブルレッド)に付いては人として越えてはいけない一線を超えた怪人の類としての認識なので、敵対したら命を奪うことに躊躇はない。……人に戻す方法が有ったとしても、だ。

 

「まあ、似た様な方向に転びそうな予備軍として考えた方が良いな」

 

「おいおい、この町の警察って大丈夫なのかよ?」

 

「大丈夫じゃないだろうな、間違い無く」

 

奥の方からまた音が聞こえてくる。……間違い無く奥にいるアルバイトは犯罪組織に潜入調査中の警察だろう。

態々聞こえる様に警察及び当人に対する余計な一言を何度も繰り返した甲斐があった。

 

「おまたせしましたー」

 

妙に怪我した色黒の金髪の男性店員……バーボン(コードネーム)さんが注文の品を持ってきてくれた。

怪我とかぎこちない笑顔とかが気になるが、それはそれ。あれだけ当人やら警察やらへの一言を聞いていたのだから、それに反応してしまったのだろう。ぎこちない笑顔は言い返したくても、警察関係者ではない犯罪組織の構成員の立場から言い返せないことから、だろう。

 

特に自分によく似た思想の危険人物については聞きたくても聞けないと言った所だろうか?

 

まあ、あまり追求せずに目の前に置かれたハムサンドに口をつける。

 

(あっ、美味い)

 

確かに評判になるだけの事はある。そう思いながら、時折りクリスの生クリームを口周りを拭いてあげながら料理を楽しんでいると、外から悲鳴が聞こえて来て男性店員が外に飛び出していく。

 

流石に二度目の来訪となれば慣れてくる四季と違ってクリスは動揺している様だが、

 

「先輩、これがこの町の日常だから」

 

「いや、良いのかよ、それ!?」

 

クリスの言い分の最もだが、それはそれ。米花町だから仕方ないと言うしかない。

 

あれよあれよと言ううちにいつの間にか、窓の外には眼鏡の少年を筆頭とした五人の子供達と保護者らしき男性やら、警察やらが集まっている。

 

死神のお膝元ならば一周回って安心かと思っていたが、そうでもなかった様子だ。

 

被害者は四季とクリスの二人が来店中にポアロを出て行っていた三人組の女性客の一人。そんな訳で少し此処に拘束される羽目になってしまった。



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