女性恐怖症の一夏君 IFルート (のんびり日和)
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クラス代表戦part1

まず最初に本編から突然この様な形で分ける形になってしまい本当に申し訳ありません。

無論本編とは違うルートでも、皆様に楽しく読んでいただける小説になるよう頑張って行きます。


注意!
クラス代表戦の8~10話は本編でもあげたものは移しただけなので、内容は変更されておりません。


クラス代表戦。多くの生徒達はこの行事を楽しみにしてましたと言わんばかりに湧き上がっていた。

誰もが自分達のクラスの代表に勝ってもらおうと応援に力を入れており、無論一夏が居る1組も同様だった。

 

「皆、準備はいい?」

 

「勿論よ!」

 

「他のクラス以上の応援力見せてやるわよ!」

 

「「「おぉ~~~!」」」

 

大きく手を掲げ上げ燃え上がる生徒達。そるとその近くに戦闘服を着た一夏が通りがかった。

 

「あ、織斑君! 今日頑張ってね!」

 

「私達精一杯応援するから!」

 

「ファイト~!」

 

「は、はい。ご、ご期待にその、そえるよう頑張り、ます」

 

クラスメイト達の応援に一夏は照れながらもお辞儀をして足早にピットに向かった。

その後姿に向かって生徒達は頑張ってねぇ!と言葉を投げかけた。

 

一夏は自身の順番は何時だろうと思いながらもピットへと向かいながら歩いていると、本音ともう一人水色髪で赤眼の少女が居た。

 

「ほ、本音さんこ、こんにちは」

 

「あ、イッチー。今日頑張ってねぇ!」

 

「う、うん。その、そ、そちらの人は?」

 

「こっちは私の幼馴染の」

 

「更識簪。名字は嫌いだから簪でいい」

 

そう挨拶をする簪。

 

「は、初めまして。お、織斑、一夏です」

 

「うん、宜しく」

 

「かんちゃんはね、4組のクラス代表なんだぁ」

 

「そ、そうなんですか。その、きょ、今日はよろしく、お願いします」

 

「よろしく。それじゃあ本音、私第2アリーナだから。貴方も頑張って」

 

そう言い簪は第2アリーナへと続く廊下を歩いて行った。簪の言い方に一夏はふとある事に気付き本音の方に顔を向ける。

 

「あの、もしかして僕…」

 

「うん、イッチーは第1アリーナだよ。相手は2組だってぇ」

 

「そ、そうなんですか。そ、それじゃあ行ってきます」

 

そう言い一夏が歩き出そうとした所

 

「イッチー、頑張ってねぇ! 私観客席で応援してるからぁ!」

 

「は、はい」

 

本音の応援を背に一夏はピットへと向かった。

ピットに到着した一夏はバレットホークを身に纏い、アイラに話しかけた。

 

〈ね、ねぇアイラ。2組の代表って確か専用機を持ってないって…〉

 

〈えぇ、言ってたわね。けど油断しない事。専用機じゃなくても訓練機で専用機を撃破したという非公式の戦闘データも存在するわ。まぁ、アンタの場合この私が居るんだから〉

 

〈う、うん〉

 

アイラの励ましを受けながら一夏はしばらく待って居ると放送が流れた。

 

『お知らせします。これより、第一回戦を行います。第1アリーナ1組代表、織斑一夏対2組代表、()()()。準備が整い次第アリーナへと出て下さい』

 

放送を聞いた一夏は驚いた表情を浮かべ、アイラは小さく舌打ちを放った。

 

〈全くどう言う事よ。2組の代表は専用機持ちじゃないんでしょ?〉

 

〈う、うん。そう聞いてる。お、織斑先生に聞いたら何かわかるかも〉

 

そう言い一夏は一旦ISから降りると、近くにあった端末の元に向かい管制室へと繋げた。

 

「あ、あのお、織斑先生?」

 

『む? 織斑か。どうした?』

 

「あの、どうして鈴音さんが2組の代表に? その、たしか2組の代表は、あの、専用機を持ってない人って聞いたんですが」

 

『あぁ、そのことか。どうやらあの馬鹿者、2組の代表に代表の座を譲ってもらったらしい』

 

「そ、そう、なんですか」

 

『2組の担任も詳しく知らなくて、代表戦2日前に初めて知ったらしい』

 

千冬の報告を聞き一夏は若干困惑した表情を浮かべ、アイラははぁ。と呆れたため息を吐く。

 

「そ、そういうことですか。あ、ありがとうございます」

 

『いや、此方こそ何も知らせなくて済まないな。……一夏、頑張れよ

 

小さく応援の言葉を掛ける千冬に、一瞬キョトンとなる一夏だが小さく頷き返した。

 

〈とんでもないことをする奴みたいね〉

 

〈う、うん。まさか譲ってもらうなんてね。……変な事、言われなきゃいいんだけど

 

一夏は先日の鈴の突然の告白以降、鈴の接触を出来るだけ避ける様になり教室に居ても何時突撃して来るか分からず、暫く怯えた日々が続きクラスメイト達から心配され、つい事情を話してしまった。その結果

 

『皆、出来るだけ織斑君に突撃してこようとしてくるその2組の子を牽制するわよ』

 

『そうだね。織斑君。授業とかが終わったら出来るだけ教室の奥に布仏さんと一緒に行っておいて。私達が壁みたいになって2人を隠すから』

 

『布仏さん、未開封のお菓子あげるから引き受けてくれない?』

 

『ヌフフフ、喜んで引き受けよぉ』

 

と一夏の事を本気で心配していた(ほとんど

の)クラスメイト達に匿ってもらい今まで教室で鈴が一夏に突撃してくることも無く、寮に帰る際も出来るだけ本音のみならず何人かの生徒達も含んで部屋の近くまで帰っていた。

 

〈心配しなくてもいいわよ。アンタは何時も通りに戦えば良いんだから〉

 

アイラの元気づけに一夏は少し気持ちが和らぎうん。と返事を返しISを再度身に纏った。

 

 

 

その頃、アリーナの廊下を3人の人物が歩いていた。彼等が向かっているのは企業用の観戦席であるが、それよりも更にランクの上がった個室となった観戦席となっている部屋であった。

すると一番前を歩いていた初老の男性が後ろの一人に向かって声を掛ける。

 

「いやはや、まさか貴方が噂の男性操縦者に興味があるとは思いませんでしたよ、Mr.K?」

 

そう言われ後ろに居た左目を前髪の白髪で隠したセミロングの男性がフッと笑みを浮かべながら語り出す。

 

「そりゃあ勿論興味はありますよ。今まで女性しか動かせないと言われてきたISを動かした世界初の男性操縦者。ぜひ今後の為に拝見しておきたいと思うのは誰もが思う事ですよ。Mr.轡木」

 

「なるほど。流石Purgatory.Eden.Company(PEC社)の社長なだけはありますね」

 

轡木はそう言いながら前を歩く。

轡木が言ったPEC社とは、男女ともに使える強化スーツ。ダークネクロム・スーツ、通称DNスーツを開発し販売している会社なのである。DNスーツはISと同等の力を有している。操縦者の技量が高ければIS以上の力を出せるとも噂されていた。

そしてそんな轡木の後ろを歩いているMr.Kこそがその会社の社長だ。

 

「社長と言ってもまだまだ若輩者ですがね」

 

「はっはっはっ、ご謙遜を。あ、此方がお二人にご用意したお部屋になります。では私は此処で失礼させていただきます」

 

「わざわざご案内して下さってありがとうございます」

 

「いえいえ。ではこれで」

 

そう言い轡木は歩き去って行き、Mr.Kとその後ろに付いていた腰に剣を携えた男性は案内された部屋へと入室し備えられていた椅子へと腰掛ける。

 

「社長、何か飲み物などは「一輝、今は二人っきりだ。役職名じゃなくてもいいよ。それと飲み物はコーヒーでいいかな」分かった義兄さん」

 

そう言い一輝と呼ばれた男性は部屋に備えられているエスプレッソマシンに紙コップを入れスイッチを押す。暫くして芳醇なコーヒーの香りが部屋に満たされる。

完成の音が鳴り響くと紙コップを持ってMr.Kに手渡す。

 

「どうぞ、義兄さん」

 

「ありがとう。それにしてもやはりどの世界でもこの行事は()()()()賑やかだね」

 

「そうだね。ところで、義兄さん。この世界の資料にはもう目は通したの?」

 

「一応はね。けど、転生者が居る気配はないかな。今のところはだけど」

 

そう言い受け取ったコーヒーを飲むMr.K。二人の正体、それはあらゆるアニメなどに紛れ込み欲望のまま活動する転生者を狩るハンター、通称転生者ハンターである。

 

そしてMr.Kの本名は鬼崎陽太郎、そして一輝は鬼崎一輝と言う名前である。二人には血の繋がりは無いが、本当の兄弟の様に仲が良い。

 

2人が暫し寛いでいる部屋に備えられているスピーカーから放送が入った。

 

『これより第1回戦を開始いたします。各代表はアリーナへと出て下さい』

 

そうアナウンスが入り2人はアリーナへと目を向ける。一方のピットからは赤を基調としたツインテールの少女が飛び出し、もう片方のピットからは白を基調としたフルスキンのISが現れた。

その姿に陽太郎と一輝は怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「あれは…。義兄さん、あれに見覚えは?」

 

「いや、今まで見てきた物には無いかな。それにしても白式の様な剣タイプではなく銃火器タイプか」

 

一夏が纏っているISを見て陽太郎は少し笑みを浮かべながら零す。

 

「どういう戦いを見せてくれるのか、楽しみにさせてもらいますよ。この世界の織斑一夏君」




次回予告
遂に始まったクラス代表戦。アリーナへと出た一夏に鈴は、自分が勝ったら付き合ってもらう。と滅茶苦茶な要求を突きつける。無論一夏はそんな話をしているなど聞こえておらずそのまま試合が開始された。
だがそんな試合に黒い影が襲い掛かろうとしていた。
次回
クラス代表戦part2~イレギュラー発生、ですか~


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クラス代表戦part2

アリーナへと出た一夏は目の前にいる鈴のISを観察し始めた。

 

〈あれって、もしかして近接型?〉

 

〈恐らくね。分かり易く刀2本も持ってるし。けど、まだ何かありそうね、注意しなさい〉

 

アイラのアドバイスを聞き頷く一夏。そんな中鈴はしかめっ面を浮かべていた。

 

「一夏! アンタ最近私の事避けてるでしょ! 何で避けるのよ!」

 

そう叫ぶも、一夏は何も反応が帰ってこなかった。

 

「なんで無視すんのよ! もう、怒ったんだから。あたしが勝ったら付き合ってもらうんだからね!」

 

怒り顔で叫ぶ鈴。一夏が無視したのは毎度の如く鈴の言葉で一夏の状態が悪くなることを懸念したアイラが集音マイクのスイッチを切っていたからだ。その為一夏はアイラと話し合いを行っており、まったく気が付いていたなかった。そんな中、観客席にいた1組の生徒達はと言うと

 

「織斑君! そんな珍竹林に負けちゃダメだよ!」

 

「人の意思無視したこと言うなぁ!」

 

「自分の思いを押し付けるなぁ!」

 

と、応援やら鈴に対するブーイングが1組の生徒達のほとんどから投げられた。

 

〈1組の生徒達からのブーイングが凄まじいわね〉

 

〈に、2組の人達と、け、喧嘩になったりしないかな?〉

 

〈大丈夫じゃない? というかアンタが気にするような事じゃないでしょうが。試合に集中しなさい〉

 

〈う、うん〉

 

アイラに言われ、一夏は試合に集中すべく武器を構える。そして

 

『ではコールします。3…2…1…試合開始!』

 

開始の合図と共に鈴は持っていた双天牙月を構えながらイグニッションブーストで一気に間合いを詰めに掛かる。

 

「最短でケリをつけてやるわ!」

 

そう叫びながら間合いを詰めてくる鈴。一夏は過去にアイラと共にやってきた訓練シミュレーターのパターンの一つを思い出しながら対処する。

 

(間合いを、詰めてきたら距離をとりつつ射撃。ある程度距離が取れたら、牽制射撃に替えて、グレネードなどの爆発物で倒す、だっけ)

 

そう思いながら一夏は素早くサブアームと武器を展開し射撃を開始しながら後方に下がる。

激しい銃撃が目の前から迫ってくることに気付いた鈴はすぐさまサイドステップで攻撃を躱すも、避けた先に向かっても攻撃が飛んでくる。

 

「ちぃ! 噂に聞いていた以上にうざいわね!」

 

舌打ちを放ちながら鈴は一旦距離をとる。その姿を確認したアイラは直ぐに一夏に指示を飛ばす。

 

〈一夏、アイツが距離をとったわ。SCAVENGERをお見舞いしてやりなさい〉

 

アイラの指示に一夏は直ぐに腰に付けられてる魚雷の様な物を手に取る。

 

SCAVENGER、バレットホークの腰に計4基取り付けられたライフルグレネードであり、それぞれ発射装置が組み込まれている為そのままの状態で発射が可能なものだ。

一夏はそれを鈴の進行方向に向け発射した。

 

「グレネード!?」

 

後退する先に向け放たれたグレネードに気付いた鈴は直ぐに進行方向を変える。だが、グレネードの起爆の方が先で、爆風によってSEをまた削られる。

 

「やってくれるじゃないの!」

 

そう叫び鈴は突如機体の周りに2つの浮遊するユニットを展開した。一夏と警戒した表情で見つめる。

 

〈あ、アイラあれって何?〉

 

〈あれだけじゃあ、分からないわ。けど油断しないで〉

 

そう言われ一夏は回避行動に移り、鈴との間に距離をとる。

 

「逃がすもんですか!」

 

すると展開したユニットから突如大きな音が響き渡り、一夏は咄嗟に機体を進行方向の逆に動かした。すると一夏が進もうとした先で砂埃を巻き上げながら何かが通って行き壁にぶつかる。

 

「い、今のって?」

 

〈……見えない攻撃。っ! 一夏、あれは圧縮空気よ〉

 

〈あ、圧縮、空気?〉

 

アイラの言葉に一夏は一瞬驚いている中、鈴はどや顔を浮かべながら高々に叫ぶ。

 

「驚いているようね! これは中国で開発した兵装、『龍咆』よ! さっきは旨く避けたみたいだけど、今度は外さないわよ!」

 

〈龍咆……、あったわ。中国で開発された物で、空間に圧縮した空気で砲身をつくり、残った空気を弾丸にして飛ばす兵装みたいよ。弾が空気だから見えなくて当然ね〉

 

〈た、弾が見えないって、そ、それじゃあ避けようが…〈アンタ、さっき避けたでしょうが〉あ、あれはまぐれだよぉ〉

 

一夏は若干オロオロした表情で零し、アイラははぁ。とため息を零す。

 

〈まぁいいわ。アンタが不安視している通り空気の弾丸となれば弾は見えないわ。けど、欠点もあるわよ〉

 

〈え? け、欠点何て、あるの?〉

 

〈あるわよ。アンタ、理科の実験で穴を開けて中に煙で満たした段ボールの実験したことは?〉

 

〈えっと、確かあったと思う。…あっ〉

 

〈気付いたみたいね〉

 

〈う、うん。た、確か叩いたら真っ直ぐ飛んで行った〉

 

〈そう言う事。あれも同じような原理よ〉

 

そう言われ一夏は表情に若干明るくなる。

 

〈さぁ、原理が分かったなら後は攻撃の方向を知るだけよ。それはアンタ自身で探しなさい〉

 

〈う、うん〉

 

一夏は鈴の方向を見ながら次に龍咆を撃つ方向を見定める。だが、全くタイミングが分からず、音と龍砲の向きのみで対処している。だが、攻撃は着実に近付いており何時直撃するか分からない状況だった。

 

(ど、どうしよう。これじゃあ、ジリ貧だよぉ)

 

そう思いながら、考える。そしてある点に着目した。

 

〈あ、アイラ。お願いがあるの〉

 

〈何かしら?〉

 

〈り、鈴音さんの目の部分だけを出す事は出来る?〉

 

〈目の部分? …なるほど、分かったわ〉

 

一夏の意図を汲み取ったアイラは訓練人形の顔の目の部分だけを見える様にした。暫く一夏は鈴音の目を見ながら観察するが、少しずつ体が震え呼吸も荒くなり始める。

 

〈一夏、これ以上はアンタの体に悪いわ。すぐに〈だ、ダメ。か、確認できるまでは止めないで〉……分かった。けど、これ以上は危険と判断したらすぐ止めるわよ〉

 

アイラは無茶して、この馬鹿。と一夏に聞こえない様に零し一夏と同じく鈴の目に注目する。

 

「あぁ、もう! いい加減当たりなさいよ!」

 

そう叫び鈴は龍砲を放つ。その時一夏とアイラは鈴の目線が動きながら止まった瞬間龍砲が放たれるのを確認した。

 

〈確認できたわね、一夏?〉

 

〈う、うん。で、出来た〉

 

荒い呼吸の中返事を返す一夏に、アイラは直ぐにモニターから鈴音の目を隠す。

 

〈後は私が監視するから、アンタは操縦に専念して。いいわね!〉

 

〈う、…うん〉

 

呼吸が少しずつ正常に戻り始める一夏に少し安心を浮かべながら、アイラはモニターに攻撃のタイミングをわかる表示を映した。

アイラが出した表示を見ながら一夏は龍砲の攻撃を避けつつ攻撃を行う。

その動きに鈴は衝撃を受けるも、攻勢を止めなかった。

 

「な、なんで急に避けるのが上手くなるのよッ!」

 

そう叫びながら龍砲を放つ。

 

 

「――へぇ、なかなか戦略を練った戦い方をするじゃないか」

 

特等室で見ていた陽太郎はそう零しながら戦いを見つめる。

 

「そうですね。原作とは違い被弾を最小限に抑えながら攻撃を加えている。それにサブアームを本当に手先のように動かしてますね」

 

「えぇ、原作とは違い色々考えて行動している。いやはやこれは面白い戦いになりそうだ」

 

原作の近接攻撃のみしかできない白式とは違い、銃火器などの遠距離攻撃ができるうえに近接用の武器も載せているバランスの取れたバレットホーク。

そしてもっとも違うのは原作だと動きにワンパターンが多かった織斑一夏に対し、この世界の織斑一夏は色々な策を練り、最適な策を導き出し実行していた。

 

「そう言えば義兄さん。この後って確か…」

 

突然険しい表情を浮かべ陽太郎の方に顔を向ける一輝。その表情に同じく真剣な表情を浮かべる陽太郎。

 

「うん。原作通りなら篠ノ之博士が作成したゴーレムがそろそろ襲ってくる頃合いだ。一輝、分かっていると思うけど」

 

「分かってるよ。手は出さないさ」

 

そう言い手を挙げ出さないとアピールする一輝。すると突然アリーナ屋上のシールドが破壊される。

突然の出来事に一気にアリーナ内の生徒達はパニックとなった。

陽太郎達はやはり来たか。と思い顔をあげた瞬間、顔が強張った。

 

「義兄さん、あれは!」

 

「チッ。どうやら篠ノ之博士とは違う連中が襲ってきたみたいだね」

 

陽太郎達の目線の先に居たのは

 

 

 

十機は居るであろう黒色のISだった。




次回予告
突然現れたIS群にパニックになる生徒達。事態解決の為に疾走する教師達。アリーナに閉じ込められた一夏達は救助部隊が来るまで謎のISと戦う事に。
そんな中陽太郎は一輝に生徒達の避難させるよう指示し、ある場所に向かって走り出す。
彼の手には青黒色のベルトが握られていた。

次回
謎の敵達


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クラス代表戦part3

突然現れた10機もの黒色のISに観客席にいた生徒達はパニックに陥りアリーナの出入り口向かって走り出した。その様子を管制室に居た千冬達は大慌てで動いていた。

 

「出入口のシャッターは開かないのか!」

 

「だ、駄目です! レベル3の警戒態勢に入ってます! それに此方の操作を一切受け付けません!」

 

真耶の報告に千冬は舌打ちを放つ。

警戒態勢レベル3、学園に未曽有の危機に陥った際に発令されるレベルで即座に現れた脅威を封じるために強固なシャッターが下りる仕組みになっている。無論誤操作などで起きた場合に備え管制室で操作できるようになっている。だが、その操作が出来ずにいた。

 

「操作を受けつけないという事は、ハッキングを受けていると言う事だろ! 直ぐに3年の技術科の生徒達を此処に呼べ!」

 

「は、はい!」

 

管制室に居た一人の教師が管制室の非常用扉を解放して3年の技術生を呼びに向かう。

 

「アリーナの状況は?」

 

「現在、織斑君が銃火器を用いて牽制射撃を行っている模様です。凰さんは織斑君の後ろに居ます」

 

「現状ではSEの量から考えてそれが妥当だろ。…ピットは開かないのか?」

 

「駄目です。此方も操作を受けつけません」

 

「チッ! 通信は繋げられるのか?」

 

「そちらは大丈夫です!」

 

そう言われ千冬はすぐさまマイクを手に取り一夏に通信を繋げた。

 

アリーナに居た一夏と鈴は突如現れた黒色のISに警戒していた所、黒色のISは何の躊躇いも無く2人に攻撃をしてくる。

 

「ちょ、ちょっと何なのよあんた達!」

 

「うわぁ!」

 

突如攻撃してきたISに対しバレットホークのアイラは直ぐにサブアームのマシンガンを敵に向け引き金を引く。

無論当てようと考えては無い。ただ牽制のみの為にばら撒いているのみだった。

 

<一夏! こいつら本気でアンタを殺しに来ているわ!>

 

<ッ!? そ、それじゃあ、ど、どうしたら?>

 

<ピットに避難するしかないわ!>

 

<わ、分かった。り、鈴音さんは?>

 

一夏は鈴の事が気になり、鈴がいる方に目を向けると接近戦をしようと双天牙月を構え攻撃しようとしていた。

 

「なんなのよ、アンタ達は!」

 

そう叫びながら振り下ろすも、ISは意図も容易く避け一機が甲龍の懐に入り込み蹴りを放つ。

腹部に強烈な蹴りが入り鈴は後ろに吹く飛ばされ転がされる。

 

「ガホッ! …ゲホッ!」

 

蹴り飛ばされた鈴を倒そうと数機が襲い掛かるが、突如彼等の真横から大量の弾が飛び掛かってくる。

3機はそれに巻き込まれ装甲をボロボロにされ、残った数機は攻撃をしてきた方にモノアイを向ける。

其処には銃火器を構えたバレットホークが居た。

 

「り、鈴音さんは、早く逃げて!」

 

一夏はそう叫び自身に注意を引かせ攻撃する。鈴は悔しい顔つきを浮かべながら一番近くにある一夏の背後のピット出口へと向かう。

 

<一夏! あの中国娘をピットに引っ込んだらすぐにアンタも引くのよ!>

 

<う、うん!>

 

アイラは一夏が鈴を助けに行かないと。と言った時は険しい顔を浮かべたが、一夏の性格を直ぐに思い出し呆れ顔で了承したのだ。

 

一夏に注意を引いた黒色のIS達は近接用の武器であろう、斧の様な物を構えながらイグニッションブーストを使いながら接近してくる。

一夏は鈴がピットに避難するまで持ち堪えるべくサブアームの武装全てを交換し、自身もライフルから拡張領域から取り出したガトリングカノン咆『アヴァロン』に切り替えて引き金を引くと6砲身から大量の徹甲弾が放たれる。

大量に放たれた徹甲弾は一斉に襲ってきたIS達数機に命中するも撃破には至っていない。だが、激しい銃撃の中ISは接近することが出来ず回避運動のみしか出来ずにいた。

 

<一夏、兎に角弾丸をばら撒きなさい! 接近さえされなければ問題ないから!>

 

<うん。じゅ、銃器のリストアップを出して! の、残ってるのを確認したい!>

 

一夏の要望にアイラは直ぐに拡張領域に残っている銃器のリスト一夏が見えているモニターの隅に展開する。

 

<アサルトライフル2丁が弾切れ。残りはフルが2丁、中途半端なのが4丁。ショットガンが2丁。SCAVENGERが3発。対物ライフルが1丁よ>

 

<せ、接近戦用のは〈馬鹿! 相手は接近戦を特化している恐れがあるのよ! まともに接近戦を持ちこたんだ所で袋叩きよ!〉わ、分かった>

 

一夏を叱責し、アイラは絶えず相手の黒色IS達を調べる。

 

〈(チッ! 何も分からない。コアにも侵入できないし、調べようがないじゃない。分かるのは接近戦用のアックス、それとパイルバンカー。確実に接近戦用みたいだけど、機動性が高すぎる。人間が乗っていればぐちゃぐちゃになる機動性じゃない!)〉

 

アイラは苛立ちを募らせた表情を浮かべながらも、サブアームの操作、黒色ISの調査を行う。するとセンサーの一つにある物を捕らえる。それを見た瞬間、アイラは目を見開く。

 

〈ちょっと、あの中国娘まだ避難してないわよ!〉

 

〈うぇっ!? な、何で!〉

 

アイラの報告を聞いた一夏は驚き声を上げる。

 

「り、鈴音さんは、早く「ピットの出口が開かないのよ! これでどう出ろって言うのよ!」そ、そんな!」

 

出入口が塞がれていると聞き一夏は驚いていると通信が入った。

 

『織斑聞こえるか!』

 

「は、はい! き、聞こえます!」

 

『現在アリーナはレベル3の厳戒態勢に入っていて全ての出入り口が封鎖された。残念だが、ピットも開かない』

 

「そ、それじゃあどうすれば?」

 

『こちらでも何とか操作権を奪還すべく全力を注いでる。織斑、どれ程持ち堪えることが出来る?』

 

「た、多分10分も、も、持たないかもしれないです」

 

一夏の報告に苦渋に満ちた顔を浮かべる。

 

『教師部隊にも出撃を言ったんだが、IS保管庫も封鎖されていて出撃できそうにない』

 

「そ、そんなぁ…」

 

千冬の報告に一夏は顔は暗くなる。すると割り込む様に一人の男性が映る。

 

『通信中に割り込んで申し訳ない、Ms.織斑』

 

『っ!? あ、貴方は?』

 

『本日代表戦を見学しに訪れていたPEC社社長のMr.Kと申します。単刀直入に言いますが、私が救助に向かいます』

 

突然割り込んできたMr.Kと言う人物が救助に向かうと言う言葉に千冬と一夏は驚いた表情を浮かべた。

 

『ま、待っていただきたい! と、突然救助に向かうと言われましても、相手はISで『問題ありません。対抗策はあります』ッ!? …まさか噂のDNスーツをですか?』

 

『いえ、DNスーツは一般用の物です。私のは改良型の物です』

 

『…し、しかしあなたの身に何かあれば『命の危機が差し迫っているんです。責任は私が負いますので』……分かりました。ですが、責任は警備主任である私が負います。Mr.K、どうかウチの生徒2人を助けて下さい!』

 

深々と頭を下げる千冬にMr.Kは力強く頷き返し通信は切れた。

 

『凰、聞こえているか?』

 

「は、はい!」

 

『お前はSEが乏しい。織斑の後ろに居るんだ』

 

「わ、私はまだ『口答えは許さん! SEが乏しい状況で何が出来る! いらんことをせず、其処で救助を待て!』……分かりました」

 

千冬の厳しい言葉に鈴は俯き拳を震わせながら了承する。

 

『……織斑、救助は必ず向かう。辛いかもしれんが、しばらく辛抱するんだ』

 

「わ、分かりました」

 

辛そうな表情を浮かべた千冬からの通信は切れ、一夏は救助に向かうと言ったMr.Kと言う人物が来るまで何とか耐えようと弾をばら撒き続けた。

 

 

通信を終えたMr.K͡こと陽太郎は壁の端末から近くに居た一輝の方に顔を向ける。

 

「一輝、君は避難が出来ていない生徒達の元に行って避難を手伝いに行ってきてくれ」

 

「分かった。それじゃあ「あぁ、それと」まだ何か?」

 

「篠ノ之箒、彼女がいればすぐに捕縛しておいてくれ。要らない事をされちゃあ彼等が危ないからね」

 

「分かった。義兄さんも気を付けて」

 

そう言い一輝はロックされていた扉を腰に携えていた剣『サソードヤイバー』を構え扉を斬り壊した。

一輝と部屋の前の廊下で別れた陽太郎は何処からともなくベルトを取り出し腰に巻く。そしてカードケースの様な物も取り出しながら走る。暫くしてピットとアリーナを繋ぐ扉へと到着するも、扉は固くロックされていた。

 

「予想通りと言えば、予想通りだが私の前では何の意味もない。……変身!」

 

そう叫び陽太郎は持っていたカードケースの様なパスをベルトのバックル部分にかざす。すると

 

PHANTOM FROM(ファントム フォーム)

 

と機械音声が流れると、陽太郎は光に包まれた。暫くしてディープブルー色の装甲を身に纏い、首元には白いマフラーを纏った状態となった。

そう、これが陽太郎が言っていた対抗策『仮面ライダー隷汽・ファントムフォーム』だ。

義母にあたるヴラド・スカーレットが仮面ライダー電王の幽汽・ハイジャックフォームを元に作成したオリジナルライダーベルトである。

変身した陽太郎は直ぐにロックのかかった扉に向かって左腕を構える。左腕には隷汽ガントレットが装備されており、このガントレットはどんな攻撃も防ぐほどの頑強さを持ち、更に9tにもなるパンチを放つことが出来るのだ。

陽太郎は躊躇うことなく左腕の拳を扉に思いっきり殴りつけた。文字通り扉は吹き飛び、ピットとアリーナを繋ぐ扉にめり込む。

 

「あと、一枚!」

 

そう叫び扉をまた殴り吹き飛ばす。そして陽太郎はアリーナへと出ると其処で目にしたのはISが解除された状態で額から血を流し倒れている一夏と、ズタボロの状態で倒れた鈴だった。




次回予告
陽太郎が救助に向かっている最中、アリーナに居た一夏は救助が来るまで牽制を続けていた。だが突如トラブルが発生し、一夏は負傷し気絶してしまう。
救助に駆け付けた陽太郎は襲い掛かって来た黒いISに向かって攻撃を開始した。

次回
仮面ライダー隷汽VS黒色のIS群




黒色のIS
イメージ:鉄血のオルフェンズ『グレイズアイン』


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クラス代表戦part4

Mr.Kこと陽太郎がアリーナに到着するほんの数十分前のこと

観客席では生徒達が外へとつながるシャッターを必死に叩き、助けを求めていた。入り口前は押し合い等が起きており、誰かに転ばされ手足等を踏まれる生徒などが続出していた。

 

「開けてぇ! 死にたく『おい、聞こえるかっ?』えっ!? だ、誰かいるの? た、助けてぇ!」

 

一人の生徒が外に居る誰かの声が聞こえ声を荒げながら助けを求める。同じく声を聴いた生徒達もシャッターを叩きながら助けを求める。

 

『シャッターがロックされていて開かない。だから叩き壊して此処を開けるから、全員シャッターの前から下がるんだ!』

 

そう声が聞こえると扉の前に立っていた生徒達は大声をあげながら、救助が来たから下がってと叫び続け距離をとった。

シャッターの前に居た人物、それは鬼崎一輝だった。彼は鞘に納めていた刀、【サソードヤイバー】を手に取り構える。

彼の構える刀の強度と切れ味はISの近接用武器でさえも凌駕する物である。

 

「はぁっ!!!」

 

一輝は降りているシャッターに向かってサソードヤイバーを振る。バキンと音が鳴り響き、シャッターは真っ二つに両断された。

バタンとシャッターが観客席側に向かって倒れ、道が切り開かれた。観客席の生徒達は驚きの余り固まっていたが

 

「何をしている! 早く避難しないか!」

 

一輝の一喝に生徒達は我に返り、避難を開始していく。先ほどとは打って変わり落ち着きながら足早に避難していく生徒達。一輝は生徒達の避難を見守っていると、2人程の生徒が避難していく生徒達から出て行き何処かに向かっていく。その後姿を見た一輝はすぐさまその後を追った。

 

しばし追いかけた後廊下の曲がり角で言い合いが起こっていた。一輝はそぉと覗き込むと

 

「えぇい、何で付いてくる! さっさと避難すればいいだろ! 私は一夏に喝を入れに行かねばならんのだ!」

 

「それは貴女ですわ! わたくしが一夏さんをお救いに行きますから、貴女が避難すればいいじゃありませんか!」

 

と箒とセシリアがいがみ合いを起こしていた。一輝は呆れた様な表情を浮かべながら二人の前に姿を現す。

 

「おい、其処で何をしている?」

 

「っ!? だ、誰ですの!」

 

「企業席で観戦していた者だ。訳あって避難の手伝いをしている。それで、一体何をしてる? 避難指示が出ているだろ」

 

一輝は2人の目的は察しているが、確認の為2人に問いただした。

 

「私は一夏に喝を入れに行かねばならんのだ、邪魔するな!」

 

「私も一夏さんをお救いに行かねばなりませんの。邪魔しないでください!」

 

2人の言葉に一輝はまた呆れた様な表情でため息を吐く。

 

「君達の目的は分かった。だがそれで行けとは言えない。大人しく避難しろ」

 

一輝は目を鋭くさせながら今来た道を戻れと言う。だが二人は動こうとしない。仕方がないと思い一輝は無理にでも避難させようと一歩踏み出した瞬間

 

「邪魔を、するなぁぁぁ!!」

 

そう叫びながら箒は一輝に殴り掛かってくるが、一輝は冷静に攻撃を避け手刀で箒の首裏を叩き意識を刈り取った。意識を失った箒はそのまま倒れ込むと、一輝は箒からセシリアの方に顔を向ける。セシリアは突然の事に驚き固まっていたが、一輝に顔を向けられヒッ。と悲鳴を上げる。

 

「もう一度言う。さっさと避難しろ」

 

若干ドスの入った声で告げられたセシリアはガタガタと震えながら首を何度も振り走って、来た道を戻って行った。

残った一輝はネクタイを解き、箒の両腕を背に回しネクタイで拘束し避難所へと連行していった。

 

その頃一夏は救助に来るというMr.Kが来るまで現状を持たせようと、アヴァロンやサブアームなどの銃火器で牽制射撃を続けていた。

無論バレットホークの拡張領域には無限に弾がある訳では無い。その為アイラが効果的な牽制射撃方法を一夏に遂次指示し、弾の消費を出来るだけ抑えつつ、敵を近づけない様にしていた。

 

〈一夏、ウイングの左サブアームのライフルの弾が切れそうよ!〉

 

〈わ、分かった。最後の一丁出すよ!〉

 

アイラの言葉に一夏は直ぐに最後の一丁を出せるようしていると、ウイングの左のサブアームが弾切れを起こしライフルを放り捨てた。一夏はすぐさま次のライフルを拡張領域から出しサブアームに持たせ、すぐさま牽制射撃を再開させた。

 

一夏の背後に居た鈴は悔しそうな表情で佇んでいた。

管制室の千冬から大人しくして居ろと怒鳴られたからだ。そして最も腹ただしいのは自分だった。

何も出来ず、ただ立って救助を待つだけしかできないという自分に腹立っていたのだ。

だが千冬に指摘された通り自身の甲龍は既にSEも少なく、龍砲も黒色のISに攻撃を受けたせいか片方は動作が可笑しく、もう片方は完全に沈黙してしまっていた。

 

(何も出来ずに、私はずっと此処で佇んでるだけ? ……なんでよ。何で私がアンタに守られる立場に居るのよ。アタシがアンタを守るって決めたのに、何でよ……)

 

そう思いながら拳を震わせる。

鈴は昔から気弱ながらも周りに慕われる一夏を初めて見たときに感じたのが

 

【守ってあげたい】

 

【アタシがどんなことからも守る】

 

そんな思いを抱きどんな事からも一夏を守ろうと強くなろうとした。そして今に至る。だが現実はどうだ。試合でも一夏の方が優勢で、そして現在も自分の前に立って戦っている。

気弱なのに一生懸命立ち向かおうとする姿。

鈴はその姿に自分の今までの努力が全て無駄だった。そのような思いを感じずにはいられなかった。

 

(…何でよ。何で、アンタが前に出て戦ってるのよ。アタシがアンタの前に戦っているはずなのに…。……何でよ!)

 

苛立ち、悔しさ、悲しみ。色々な感情が鈴を襲い掛かり、そして

 

「ああぁぁぁぁ!!!」

 

突然の叫び声にアイラは目を見開きセンサーで確認しようとした瞬間、機体の真横を通り過ぎる甲龍。

 

〈あの馬鹿、何考えてんのよ!〉

 

〈と、止めないと!〉

 

敵に向かって突撃していった鈴は双天牙月を力一杯振るう。だが黒色のISはサッと避け、アックスを振り下ろしてくる。

鈴は振り下ろしてくるアックスを弾き飛ばそうとするが、数体がパイルバンカーを構えながら懐に潜り込もうとしていた。

 

(避けれない!?)

 

激情状態で敵に突っ込んでしまい、目の前の事しか見えていなかった為接近してくるパイルバンカーに対処しようにも体が硬直してしまい動かない。

このままではやられる。そう思っていた瞬間突然背後からタックルを受けそのまま押し飛ばされる。

残り少ないSEが尽き、鈴は地面を勢いよく転ぶ。

鈴は押し飛ばされた際に見えたのは、一夏のバレットホークだった。

一夏は鈴を押し飛ばした後すぐに回避に移るが、アックスの攻撃、更にパイルバンカーの攻撃を受け吹き飛ばされる。

壁に激突し凭れる様に倒れ込む一夏。ISのSEが尽きたのかISが強制解除され、体が現れると額からは血が流れ出ていた。

 

(あぁ、やばい。体に、力が……)

 

壁に突き飛ばされた一夏は体に力が入らず目の前の光景しか見る事しか出来なかった。

 

〈一夏、しっかりしなさい! 早く逃げるのよ!〉

 

(アイラが、叫んでる。…逃げないと。でも、体が…)

 

薄れゆく意識の中、一夏は逃げようと体を動かそうとするが全く言う事を聞かない。

此処で死ぬ。一夏はそう思い始めた瞬間、突然アリーナとピットを繋ぐ扉が吹き飛んだ。其処から現れたのは自分と同じフルスキンのISだった。

 

(……だ、誰だろう?)

 

そう思っていると一機のISが自身に向かってアックスをもって迫ってくるのが見えた。もう間近まで迫ってくるISに、もう駄目だ。と直感した瞬間、黒色のISの胸から腕が突き出た。

そして勢いよく腕が引き抜かれ、ISが倒れるとその背後に居たのはフルスキンのISだった。

 

「間に合って良かった。此処までよく耐え抜いたね、後は私に任せてくれ」

 

フルスキンのISから男性の声で、安心させる声が聞こえると一夏はコクリと頷くと同時に意識を手放した。

 

一夏に差し迫っていたISを倒したMr.Kこと陽太郎が変身した仮面ライダー隷汽は背後に居る残りの9機に目を向ける。

 

「さて、悪いが一瞬で片付けさせてもらう」

 

そう言い右手にナックルの様な装備、ガシャコンバグヴァイザーを装備する隷汽。黒色のISはアックスを構えながら散開しながら隷汽に迫る。隷汽は接近してくるISにガシャコンバグヴァイザーを変形させる。

 

『ギュ・イーン!』

 

機械音声が鳴り響き、ガシャコンバグヴァイザーの先についているチェーンソーが激しい音を鳴り響かせる。

隷汽は迫ってくるISの懐に潜り込んで次々に切り裂いていく。一機のISがパイルバンカーを撃ってくるが、隷汽の纏っている青紫色の何かに阻まれるどころか、攻撃したISは勢いよく吹き飛んで行く。

次々に斬り伏せていくと4機程が一斉に隷汽を囲んでアックスで叩き切ろうと迫る。

隷汽は焦ることなくガシャコンバグヴァイザーを回転させる。

 

『チュ・ドーン!』

 

機械音声が鳴り響き、ガシャコンバグヴァイザーがビームガンモードへと変形させ囲んできたISに向けビーム弾を放つ。

ビーム弾は真っ直ぐに機体に命中し、ブスブスと黒煙を上げながら撃ち倒される。

すると一機が逃げようと背を向ける。隷汽は逃がすまいと、ベルトにパスを重ねる。すると隷汽の体全体に青黒い鬼火の様な物が現れ纏まっていく。

そして鬼火は隷汽の右足に集まっていく。

隷汽はISに向かって飛び上がり後ろ回し蹴りを繰り出した。

ISは青黒い炎に包まれ、そして爆散した。

 

「ふぅ、あれで最後の様ですね。ん?」

 

隷汽は何かを感じ取り倒したIS達の方に顔を向けると続々と爆発していった。

 

「なるほど良い判断ですね。情報を一切渡さない為に貴重なコアも犠牲にするとは」

 

そう言いながら陽太郎は隷汽を解除しスーツ姿へと戻る。

こうしてアリーナ襲撃事件は終息となった。




次回予告
事件は終息し陽太郎と一輝は学園長室で報告を行ってから退室して行く。
廊下を歩く2人は今回の一件がまだ序章だと話し合う。
そしてある決断を下した。

次回
守る為の力~彼一人では辛い。もう一人必要だ~


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5話

~IS学園医務室~

千冬は椅子に座りながら一人悲痛な表情を浮かべていた。

彼女の前に居るのは頭に包帯を巻き小刻みに寝息を立てている一夏であった。

 

襲撃後、Mr.Kこと陽太郎の活躍によって謎のIS達は倒され、それと同時にハッキングも解除された。

千冬は急ぎ教師部隊をアリーナへと行かせ一夏と鈴を回収した。一夏は頭を少し切ったくらいで大きな怪我はなく、鈴も全身に打撲が出来る程度で命に別状はなかった。

千冬は一夏が怪我を負ったと聞いた瞬間、血の気が引き意識を失いそうになったものの何とか保ち自分が今しなければいけない事を行った。

管制室での指示を終えた千冬は急ぎ足で医務室の元に向かい一夏の容態を確認しに訪れていたのだ。

 

「済まない、一夏。お前をどんなことがあっても守ると誓ったというのに……」

 

膝に乗せた手に力が入り、ギュッと握りしめる千冬。

すると医務室の扉をノックする音が鳴り響く。

 

『織斑先生、学園長が報告を受けたいと織斑先生をお呼びです』

 

「分かった。すぐ行く」

 

そう言い千冬は目尻に溜まった涙を拭い、頬を叩き顔を引き締める。

 

「一夏、少し行ってくるな」

 

そう呟き千冬は立ち上がり扉の元に向かう。扉を開けると真耶が心配そうな表情で立っていた。

 

「先輩、織斑君は?」

 

「大丈夫だ。頭を少し切っただけだそうだ。暫くしたら目を覚ますと保険医が言っていた」

 

そう言うと真耶は少しだけ安堵の表情を浮かべホッと息を吐く。

 

「それは良かったです」

 

「あぁ。さぁ、学園長室に向かうぞ」

 

そう言い千冬が歩き出すと、真耶もそれに続くように歩き出す。

暫し廊下を歩き学園の奥にある学園長室へと到着した二人は扉をノックする。

 

「織斑千冬及び、山田真耶です」

 

『どうぞ、お入りください』

 

年配の男性の声が中から聞こえ千冬と真耶は部屋の中へと入って行く。中には学園長の轡木、そしてアリーナに居た鈴と救助活動を買って出てくれたMr.Kと一輝。そして

 

「「……」」

 

無言で佇むセシリアと、拘束されている箒が居た。

 

「遅れて申し訳ありません」

 

「いえいえ。此方こそ弟さんの事があるのに無理を言って申し訳ありません」

 

「いえ、姉であると同時に私は教師ですので、報告しないといけない義務がありますので」

 

千冬はそう言い学園長に伝えた後、報告を始めた。

 

「では、報告を始めたいと思います。山田先生」

 

「はい。本日9時頃第1アリーナにてクラス代表戦第1回戦を行っていた所、アリーナ天井のシールドが破壊され10機程の謎のIS達に襲撃されました。それとアリーナの警備システムが突如発動し、アリーナの観客席に大勢の生徒達が閉じ込められ、解除しようとした管制室もハッキングによって操作が行えませんでした」

 

「なるほど。ではフィールド内での状況を説明を」

 

「はい。管制室は操作を受けつけない状態で教師部隊も救助に行けない状態でした。フィールドに取り残された織斑君と凰さんに、織斑先生は織斑君に救助部隊が来るまで牽制射撃で時間を稼ぐよう指示、凰さんには織斑君の後ろに居るよう指示したのですが…」

 

真耶は悲しそうな表情を浮かべ、報告が止まる。それと同じくして鈴は周りの視線を避ける様に俯く。

 

「凰がパニック状態に陥り、思わず敵の方に向かって突進。攻撃を受ける所でしたが、織斑がそれを阻止。ですが代わりに織斑が負傷しました」

 

「っ!?」

 

千冬の説明に思わず鈴は俯いていた顔をあげた。

 

「そうですか。それは致し方が「ち、違う。わ、私は――」」

 

学園長の言葉を遮る様に鈴が零す。

その姿に千冬達は怪訝そうな顔つきになる。

 

「何が違うと言うんだ凰? あの時の状態は誰が見てもお前はパニック状態だったぞ」

 

千冬の言葉に鈴は違うと何度も叫ぶ。誰しもまだ恐怖が残っていると思い、学園長は鈴に退出を言い渡そうとした瞬間

 

「パニック状態にはなってないです! あ、あの時一夏の前に出たのは私の意思です!」

 

と大声で叫ぶ鈴。

 

「……どういう事だ、凰?」

 

鈴の叫びに千冬は心の底から生まれるどす黒い殺気を必死に抑えつつその訳を聞く。

 

「一夏に、一夏に守られている事が悔しいうえに自分が情けないっていう思いが一杯になってそれで、前に出たんです! 自分だって強くなったと思っていたのに、気弱な一夏に守られている自分に腹が立って、それで前に出たんです!」

 

大声で叫び肩で息をする鈴。その目には涙が出ていた。

 

「……つまり貴様は、自分に腹が立ち何も考えずに突っ込んで織斑を巻き込んだ。そう言う訳か?」

 

拳を握りしめ、怒りの表情を見せる千冬。大事な弟が自分勝手な行動の所為で巻き込まれ負傷した。

千冬はこれまで抑えていた殺意が徐々に滲み出始めてくる。すると

 

「Ms.織斑、其処までです」

 

Mr.Kの声が室内に木魂すと先ほどの殺気などが離散。若干重い空気程度まで戻った。

 

「大事な弟さんが負傷された事は、同じ弟を持つ私も心が痛みます。ですが、今あなたがやろうとした行動も彼女と同じ自分の思いを優先した行動になります。姉である前に教師だという事をお忘れなく」

 

そう言われ千冬は自分が危うく道を踏み外しかけた事に気付き、申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「申し訳ないMr.K」

 

「いえ、お気になさらず。Mr.轡木、今度は我々が報告をしても?」

 

「えぇ、お願いします」

 

「それじゃあ先に一輝からお願いします」

 

「はい。社長が管制室に救助を申し出た後、私は扉を破壊し観客席と廊下を隔てる扉を破壊、生徒達を避難させました。緊急事態とはいえ扉を破壊して申し訳ありません」

 

「いえ。生徒達の命を考えれば、扉の破壊位安いものです。それよりも、よく隔壁を破壊出来ましたね? あの扉はかなり頑丈に作られているはずなのですが?」

 

「私が帯刀しているこのブレードはISの刀よりも固く切れ味も鋭いので、あの程度問題ありません」

 

そう言われ全員茫然と言った表情を浮かべ、PEC社の技術力の高さに驚かざる負えなかった。

 

「続けますね。生徒達の避難誘導中、此処に居る2人が突然列から離れ何処かに行こうとした為後を付けました。そしたらこちらの金髪女性はフィールドに居る織斑君の救助に向かおうとしており、更にこっちの女性は喝を入れに行くと訳の分からない事を言い、そして言い合いをしておりました。私は直ぐに姿を現し、避難するよう指示しましたが動こうとしなかった為、引き摺ってでも連れて行こうと近付いた瞬間、こっちの黒髪の女性が殴り掛かってきたため拘束しました。金髪の女性には再度警告したところ今度は素直に聞き避難していきました」

 

「そうですか。避難指示は出ていたんですよね、織斑先生?」

 

「はい。通信はハッキングを免れていた為、観客席全体に居聞こえるようアナウンスしろと教師に指示しました」

 

「では、お二人は指示を無視して勝手な行動をした。そう言う訳ですか。何か、申し開きはありますか?」

 

そう言われ直ぐに口を開く2人。

 

「わ、私はただ専用機持ちとして一夏さんをお救いしようとしただけです!」

 

「私も一夏に喝を入れようとしただけだ! 悪い事などしていない!」

 

そう叫ぶ二人。だが、周りの目は冷たく真耶でさえ、それはどうなんだ?と言いたげな表情だった。

 

「……お二人の言いたいことは分かりました。ではMr.K、次は貴方の報告を」

 

「分かりました。自分が管制室に救助を申し出て受諾された後、織斑君達を助けるべくフィールドへと向かいました。ピット前まで到着後、私専用のDNスーツを身に纏い隔壁を破壊してフィールド内へと突入し襲撃してきたIS達を撃退しました」

 

「そうですか。織斑先生、先の襲撃してきたISは?」

 

「残念ですがすべて自爆し情報など一切入手出来そうにありませんでした」

 

「……そうですか。貴重なコアが搭載されているにも拘らず自爆させ情報の入手を阻止しましたか」

 

「えぇ。人が乗っていない為躊躇いもなく自爆させたんでしょう」

 

Mr.Kがそう言うと、千冬達は驚いた表情を浮かべた。

 

「ひ、人が居ない? ではあれは無人機と言うのですか?」

 

「えぇ。私が織斑君に迫っていたISを破壊したところ、本来人が居る箇所に人は居らず機械が詰め込まれておりました。他の機体も恐らく同じような物でしょう」

 

「なるほど。しかし一体何処誰が?」

 

「し、篠ノ之博士がやったというのは?」

 

真耶が現状考えられる人物として束の名前を挙げた。だが

 

「いや、織斑に怪我をさせる様なことをアイツはしない。それにこんなことをやったところでアイツには得が無い」

 

「た、確かにそうですね」

 

メサが初めて教室に現れた際に束も画面越しとはいえ現れた。その時の印象として本当に一夏の事を大事にしているという印象があり、真耶もそれを思い出したのか先程の発言を撤回した。

 

「兎に角、今回の襲撃事件に関して一切の口外を禁じます。Mr.K、申し訳ないが貴方方もお願いしたします」

 

「分かりました」

 

「では、セシリア・オルコットさん、篠ノ之箒さん、凰・鈴音さん。貴女方の処罰を言い渡します」

 

「「っ!?」」

 

セシリアと箒は驚愕の顔を浮かべ、鈴は何も言わず俯いた状態だった。

 

「オルコットさんには反省文20枚と1週間の学園奉仕活動。篠ノ之さんには反省文80枚、3週間の奉仕活動。凰さんにはオルコットさん同様反省文20枚、1週間の奉仕活動を命じます」

 

「ま、待って下さい! なんで私だけ処罰が重いんですか!」

 

箒がそう叫ぶと、轡木は目を鋭くさせる。

 

「決まっています。未遂とはいえ、貴女は来賓の方に殴り掛かっています。怪我等されてはおりませんでしたが、殴り掛かった事は事実。それとも3週間の反省房行きを所望ですか?」

 

そう言われクッと苦虫を噛んだような表情を浮かべる箒。

 

「では話は以上です。Mr.K、お時間を頂きありがとうございます」

 

「いえ、私もお手伝いした身。報告しないといけない事はちゃんとしないといけませんから」

 

大らかに応対するMr.Kに轡木は再度感謝の言葉を送り、報告会は終了した。

 

学園長室から退室したMr.Kこと陽太郎と一輝は人気のない廊下を歩きつつ今日の襲撃について話し合っていた。

 

「義兄さん、あの機体の見た目って」

 

「うん、所々違うところが見受けられたが鉄血のオルフェンズに出てたグレイズアインに似ていた。どうやら転生者が居る可能性が高まってきたね」

 

「そうだね。でもなぜ今になって?」

 

「さぁ、転生者が考えている事なんて分からないからね。兎に角私達だけで解決したいところだが、この世界の織斑一夏君にも手を貸してもらおう」

 

陽太郎がそう言うと一輝は怪訝そうな顔を浮かべた。

 

「手伝ってもらうって、どうやって?」

 

「まぁ、任せてくれ」

 

そう言いある場所に向かって歩き出す陽太郎とその後を付いて行く一輝。

 

 

「んん~、あれ此処は?」

 

一夏はそう言いベッドから上半身だけ起こしあたりを見渡す。白い部屋に若干の薬品の匂いなどから直ぐに医務室だと分かる一夏。

 

「僕が此処に寝ているって言う事は、解決したのかな?」

 

アリーナの襲撃事件が結局どうなったのか分からず誰かに聞こうとベットから出ようとした瞬間

 

「あ、目を覚ましていたんですか」

 

そう言いながら入って来たのはMr.Kこと陽太郎と一輝であった。

 

「えっと、貴方はもしかして……」

 

「えぇ、あの時救助に来ましたMr.Kです。初めまして、織斑一夏君」

 

そう言いMr.Kは手を差し出すと、一夏はおずおずと同じく手を差し出し握手を交わす。

 

「あの、助けて下さってありがとう、ございます」

 

「いえ、人として当然の事をしたまでです」

 

「あの、鈴音さんは?」

 

「彼女も無事です」

 

「そうですか。それは良かったです」

 

そう言いホッと一息を吐く一夏。Mr.Kは朗らかな笑みを浮かべていたが、真剣な表情へと変えた。

 

「所で織斑君、少し君に話があるんだ」

 

「話、ですか?」

 

「うん。今回襲撃してきた者達の事でなんだ」

 

そう言いMr.Kは学園長での話し合いの事を話し始めた。

 

「――という訳だ」

 

「そう、なんですか。でも、なんで此処が?」

 

「恐らく君の命を狙った可能性がある」

 

「ぼ、僕の、命を……」

 

Mr.Kからでた言葉に一瞬言葉を失うが、すぐに理解したのか暗くなる一夏。

 

「そ、そうですよね。僕は、世界で初めてISを動かした男子だから……」

 

「うん。世界中とは言わないが、君の命を狙っているのは確かだ」

 

「また、あんな敵が襲ってくるかもしれない、ですよね」

 

「かもしれない。其処でなんだが、織斑君。君、ウチの製品のテスターをやって貰えないかい?」

 

「へ? テスター、ですか?」

 

突然重い話からテスターにならないかという話を切り出してきたMr.Kに一夏はポカンと口を開く。

 

「そうだよ。実は私、PEC社という会社の社長でね、うちの製品をもっと幅広く知ってもらいたいから宣伝広告として十分な君にやって貰いたいと思ってね。無論、これは表向きだ。実際は我が社で開発した兵器、これを君に渡しておきたい」

 

「ど、どうして僕が…」

 

「それは、君には素質があるからだ」

 

「素質?」

 

「そう。君は目の前で傷付く人の姿を見たくない。そんな優しい心の持ち主でもあり、そしていざと言う時は戦う勇気を持っている。私はそんな君だからこそ、大切な人達を守る力を持つべきだと思ったんだ」

 

Mr.Kの言葉に一夏の心は揺れ動く。自身の大切な人、家族である千冬、そして仲良くしてくれているクラスの人達。一夏はそんな彼女達が悲しむ姿を見たくない、そんな思いが沸々と沸き起こり、そして

 

「……あの、社長さん。僕に、その力を下さい。大切な人を守る力を!」

 

一夏の言葉にMr.Kは力強く頷く。

 

「勿論だ」

 

そう言い2,3話を行った後Mr.K達は医務室から退室して行った。

 

「なるほど、考えたね義兄さん」

 

「何も転生者と戦わせる必要はない。迫ってくる敵に対し戦える力を与えるだけでも、転生者の対抗になるからね。でも」

 

突如険しい表情を浮かべる陽太郎、一輝は突然険しい表情を浮かべる陽太郎に首を傾げる。

 

「どうしたのさ?」

 

「いや、正直なところ彼一人だけに任せるのは流石にきついのでは、と思って。出来ればもう一人、支えとなるパートナーが居てくれればなとね」

 

そう言いながら歩き外へと出ると、ベンチに座りながらどこかに電話しているひとりの生徒がいた。

 

「それで、イッチーには何時会えるんですか? …そう、ですか。 分かりました。その、もう少しだけ外で待ってます。はい、失礼します」

 

そう言い電話を切りスマホをしまう生徒。俯く少女の顔は悲しげで、今にも涙が零れ落ちそうな状態だった。

 

「イッチー……」

 

そう零しながらズボンの裾を握りしめていると、堪え切れなくなったのか涙が零れだす生徒。

陽太郎達はそっと生徒の傍に近寄り、一輝はポケットからハンカチを取り出し生徒の前へと差し出す。

 

「大丈夫ですか?」

 

そう声を掛けると、生徒は驚いた表情を浮かべながら暫し茫然となった後、おずおずと差し出されたハンカチを受け取り涙を拭う。

 

「あ、ありがとう、ございます」

 

「いえいえ、お気になさらず。ところで、もしかして織斑一夏君のお友達ですか?」

 

「へっ? は、はい。その、お二人は?」

 

「あぁ、ごめんなさい。自己紹介がまだでしたね。私は鬼鉄一輝、此方居られるPEC社社長の護衛です」

 

「初めまして、PEC社社長のMr.Kです」

 

「えっと、布仏本音です」

 

(……布仏本音。原作だと其処まで彼に思い入れはしていなかったはずだが、やはり原作が改変された影響か?)

 

陽太郎はそう考えながら質問を投げかける。

 

「それで、どうして此方に?」

 

「その、イッチーがまだ医務室から出られないらしいから、此処で待ってました」

 

そう言いながらスマホをまた取り出し時刻を確認する本音。時刻は17時になろうとしており、生徒はそろそろ寮へと戻らなければならない時刻だった。

 

「そろそろ寮へと戻らないといけないのでは?」

 

「けど、イッチーがまだ……」

 

(ふむ、よほど彼の身を案じている様子ですね。……彼女なら)

 

陽太郎は本音の姿を見て、先程考えていた事が実行に移せるのではと考えつく。

 

「布仏さん、貴方はどうして彼の身を案じるんですか?」

 

「どうしたんですか社長、急に?」

 

「大事な事なので、お答えください」

 

突然の問いに本音も困惑した表情を浮かべるが、ぽつぽつと話し始めた。

 

「イッチーは、私にとって大切な友達だから、です。一緒にお菓子を食べたり、のんびりしたりできる大切な友達です」

 

陽太郎はジッと何かを探る様に本音の目を見つめる。まっすぐで真剣に一夏の事を大切な友達だと伝えるかのような目に、陽太郎はニコッと笑みを見せた。

 

「なるほど。貴女の覚悟、よぉく分かりました。それほどの覚悟をお持ちの貴女になら任せられるかもしれませんね」

 

「はい?」

 

「布仏さん、貴方に問います。彼を守れる力を欲しますか?」

 

「イッチーを、守る力ですか?」

 

陽太郎の突然の問いに本音は困惑した表情を浮かべ、暫し思案に耽っているとある事を聞こうと顔を上げる本音。

 

「あの! その力を持てたらイッチーを、私の大切な友達は、守れますか?」

 

「確証は出来ない。だが、君が彼を守りたいと言う思いが強ければ、きっと」

 

そう言われ本音の意思は固まったのか、真剣な表情を浮かべた。

 

「はい。私、イッチーを守りたい。大切な友達を守りたいです!」

 

そう宣言する本音に陽太郎は頷き一枚の紙を手渡した。

 

「では、後日この学園の此処に来て下さい」

 

「分かりました」

 

紙には日付と落ち合う場所であろう『第8整備室』と、書かれていた。

 

「では当日に」

 

そう言い陽太郎は一礼し一輝も同じく一礼した後、陽太郎の後に付いて行く。残された本音は渡された紙を大事にポケットに仕舞い、一夏が居るであろう医務室の窓を見上げる。

 

「イッチー。私も、強くなるからね」

 

そう呟くと本音は寮へと足を向けた。




次回予告
襲撃事件から数日が経ったある日、一夏は千冬と共に第8整備室へと向かっていた。
整備室内に入ると、陽太郎達と本音が居た。
そして陽太郎は一夏と本音に新たな力を渡す。

次回
護る為の力~大切な友達を、守りたいから~


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6話

クラス代表戦襲撃から数日が経った日。世間はGWへと突入し、IS学園の多くの生徒達も学園からでて小旅行へと出掛けた。その理由の多くが、クラス代表戦で起きた惨劇を早く忘れたい為だ。

 

生徒達の多くが出掛け静かな学園。そんな中、アリーナに備えられている整備室前の廊下を一夏と千冬は歩いていた。

 

「全く一夏。今回は見逃すが、次からは私に相談するようにな」

 

「う、うん。ごめんなさい」

 

千冬はそう言いため息を吐きながら軽く怒る。

千冬が怒っていた理由、それは一夏とPEC社のMr.K事陽太郎と千冬に何の相談もなくテスターを引き受けた事であった。

 

「PEC社が作っている物はどれもがISと同等、もしくはそれ以上の性能を有している。そんな所が作っている物をお前が持つ必要が「そ、それでも僕、必要なんだ。大切な人を守れる力が」……一夏」

 

強い意志で返す一夏。気弱であるが、ここぞという時は意志が強いことを知っている千冬は、溜息を吐き頷く。

 

「・・・わかった。だが一夏、力は所詮力だ。大切な者を守る為に力を使ったとしても、それは正義ではない。それを忘れるな」

 

「うん」

 

一夏に念を押すように忠告する千冬。千冬自身、一夏が道を外すような事は決してないと信じているが、力に飲み込まれるようなことがあればと思うと、気が気ではなくなってしまうからだ。

 

そして2人は陽太郎に指定された第8整備室へと到着し扉脇に付けらているモニターのスイッチを押す。

 

「Mr.K、織斑千冬と織斑一夏です」

 

『どうぞ、お入りください』

 

中から入室許可が下りた為、一夏と千冬は中へと入る。中にはコンテナの前にMr.K事陽太郎と護衛の一輝、そして

 

「の、布仏? 何故此処に居る?」

 

「えっと、その「私がお呼びしたんですよ、Ms.織斑」…です」

 

本音が居る事に千冬と一夏は驚き、千冬に問われ布仏の代わりにMr.Kが答えた。

 

「何故布仏を?」

 

「それは後でご説明します。では先に一夏君にお渡しする武器を紹介させていただきます」

 

そう言いMr.Kは一輝にコンテナを開くよう指示する。

コンテナの扉が開き中には一振りの剣が収められていた。

 

「こちらは我が社が開発した兵器、【デンガッシャー】と言います。状況に応じて武装が変形させられる特殊機能を有しております」

 

「変形、ですか? 例えばどのような?」

 

「今現在はソードモードになっておりますが、他にも4つのモードが備えられております」

 

「4つもですか?」

 

千冬はデンガッシャーと呼ばれたソードをよく観察する。刀身が赤く染まっており、通常のソードとは思えない様な外観に少し怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「疑問に思われるのも仕方がありません。兎に角一夏君、この装備を君のISにインストールしてみて下さい」

 

「は、はい」

 

Mr.Kに促され一夏はデンガッシャーに触れISにインストールする。

 

〈アイラ、大丈夫そう?〉

 

〈えぇ、問題無いわ。それにしてもかなり凄いわよ、この武器。その男が言ってた通り4つもモード変更が出来るみたいね〉

 

〈そ、そんなに凄いんだぁ〉

 

アイラが珍しく驚いている事に一夏は興味津々となる。

 

「さて、試しに動かす前に彼女が此処に居る理由をお話ししましょうか」

 

そう言い話を切り出すMr.K。

 

「布仏さんを此処にお呼びしたのは、彼の為でもありそして彼女の思いにこたえてあげたいと言う私の独断です」

 

「どう言う事ですか?」

 

「実はクラス代表戦の帰りに彼女とお会いしたんです。彼女は怪我をした彼を本当に心配して、寮に戻らなければならないにも関わらず残ろうとしていました。私は何故其処まで彼を心配するのか聞いたら、大切な親友だからと私の目を真っ直ぐ見つめながら答えたのです。その目を見て私が抱いていた不安を、彼女だったら払拭できるのでは思ったのです」

 

「不安、ですか?」

 

一夏や千冬はMr.Kが言った不安とは何だろうと思い首を傾げる。

 

「大切な人を守ろうと強くなっても、心までは強くはなりません。人は一人では生きてはいけません。だから支えとなるパートナーが居てくれたらな。と思っていたのです」

 

そう言われ千冬は納得のいった表情を浮かべる。

 

「そうだったんですか。しかし布仏にISを持たせると他の生徒達から反感を買う恐れが…」

 

「Ms.織斑、何かお忘れじゃありませんか? 我がPEC社はISとは異なるパワードスーツを製造しているのですよ?」

 

「ッ!? では布仏に渡すのはDNスーツですか?」

 

「いえ、我が社が最近開発した特殊なベルトです」

 

そう言いMr.Kは一輝に合図を送る。一輝は開かれたコンテナの奥に備えられている厳重そうな箱に付けられている暗証番号式の電気錠に番号を入れると、箱のロックが解除され封が開く。一輝は中からジュラルミンケースを取り出し3人の元に運ぶ。

 

「此方が布仏さんにお渡しするベルトです」

 

そう言いジュラルミンケースが開かれた。中には特殊な形をしたベルトとパスが入っていた。

 

「『イージスベルト』と言います。イージスは言葉の通り守護、擁護と言う意味です。今の布仏さんに必要なベルトだと考え、此方をお持ちしました」

 

そう言いベルトとパスが入ったジュラルミンケースを本音の前に差し出す一輝。

 

「布仏、本当に良いんだな?」

 

千冬は本音に確認するように問うと、本音は一瞬迷うような表情を浮かべるもすぐに力強く頷く。

 

「……分かった。ただし、無理だけはするな。お前一人で織斑を守るのは無理だ。時には教師や他の者達にも頼むんだぞ」

 

「はい!」

 

本音はジュラルミンケースからベルトとパスを取り出すと、一夏と共にアリーナへと出る。

 

『――では、まず一夏君。ISにインストールしたデンガッシャーを装備してください』

 

「分かりました」

 

管制室に居るMr.Kの指示に従い、一夏はバレットホークを身に纏い右手にデンガッシャーを装備する。

 

『現在はソードモードになっているので、そのまま行きます。目の前に置かれている仮想敵を倒していってください』

 

「はい」

 

一夏は装備したデンガッシャーを構え仮想敵の案山子を切って行く。

 

『結構です。扱いに何か心配などはありますか?』

 

「い、いえ。あの、このデンガッシャーはサブアームでも使えるのでしょうか?」

 

『サブアームにですか? 勿論問題は無いですよ』

 

そう言われ一夏は試しにと、ブースト移動しながら案山子へと向かっていく。

 

〈アイラ、出来る?〉

 

〈ふん、朝飯前よ〉

 

アイラに自分がやろうとしている事を確認しながら案山子へと近付いて行く。そして一夏は徐にデンガッシャーを放る。

管制室に居た3人は怪訝な顔を浮かべるが、次の瞬間サブアームがデンガッシャーを受け取り案山子を斬り伏せた。

 

『なかなかやりますね、一夏君。ではソードモードの方は問題は無い様なので、ガンモードへと変形させましょうか』

 

「えっと、どうやるんですか?」

 

『音声でモードを変更することが出来るので、デンガッシャーに向かって【モードチェンジ、ガンモード】と言ってみて下さい』

 

「は、はい。えっと、モードチェンジ、ガンモード」

 

そう言うとデンガッシャーが突如パーツごとに分解され拳銃のような形となり一夏の前に現れる。一夏はそれを受け取りまじまじと見つめる。

 

「ほへぇ~、凄い」

 

『ガンモードになったデンガッシャーは光線銃です。威力、射程は高いですが、エネルギー消費が激しいので乱用は禁止です。では早速的に向かって撃ってみて下さい』

 

「わ、分かりました」

 

Mr.Kに言われ一夏はガンモードのデンガッシャーを構え狙いをつける。

狙いをつけ一夏は引き金を引くと、小さなエネルギー弾が飛び出し的を射抜く。

 

〈初速、反動、威力等申し分ないわね。けど、やっぱりエネルギーの消費が大きいわね。試合で使ってもいい弾数は15発程度かしら?〉

 

〈う、うん。使い勝手がいいから何か乱用しそうだし、アイラ制限を掛けておいてくれない?〉

 

〈分かったわ〉

 

『大丈夫そうですね。他のモードもあるのですが、アリーナを借りていられる時間も無限ではありませんので、他のモードは申し訳ないのですが一夏君の空いている時間に確認しておいてもらっても構いませんか?』

 

「は、はい。問題無いです」

 

そう言い一夏はISを解除した。そして次に本音がイージスベルトを腰に装着してアリーナの中央に立つ。

 

『では本音さん。そちらのベルトは音声認識機能が備わっています。最初にベルトのバックルについている4つボタンがありますね? その一番上の青色を押して【変身】と言った後パスをバックルにかざしてください』

 

「分かりましたぁ」

 

本音はMr.Kに言われた通り、青色のボタンを押すと音が鳴る。

 

「変身!」

 

そう言いパスをかざすとベルトから

 

《変身》

 

と機械音声が流れ本音の体を包む様に青色の装甲が現れる。そして顔にも装甲が包まれた。

一夏や千冬はその姿に驚きの眼差しを向ける。

 

『布仏さん、何処か可笑しなところや、変な感じをしたりしますか?』

 

「いえ、無いです」

 

『分かりました。今貴女が装着しているのは【ガタック】というスーツです。武装は両肩に付いたバルカン砲のみですが、パンチ力やキック力はかなり強力です。では早速撃ってみて下さい』

 

「分かりましたぁ」

 

本音は的に照準を向け撃とうと思ったが、引き金が無い事に気付く。

 

「あの、どうやって撃つんですか?」

 

『あぁすいません、説明していませんでしたね。的に照準を向け、頭の中で撃つというイメージをしてみて下さい。そうすれば脳波を感じ取り引き金が自動で引かれます』

 

「念じる、ですね。分かりましたぁ」

 

Mr.Kの説明を受け、本音は照準を向け撃つと頭の中で念じると、両肩のバルカンから弾が勢いよく発射され的を射抜いて行く。

 

「おぉ~、出来ましたぁ」

 

『バルカンは問題無いですね。では布仏さん、ベルトのバックルを見てください』

 

そう言われベルトのバックルを見ると、最初に付けていたベルトとは違うクワガタムシの様な形に変わっていた。

 

「あれ? さっきとは違うのに変わってる」

 

『実はそれぞれのスーツごとにベルトのバックルも変わるんです。それはガタックゼクターと呼ばれるものです。では大顎部分を少し開いてみて下さい』

 

「はい」

 

指示通りに本音はガタックゼクターの大顎部分を少し開ける。すると体中に電気の様な物が走り装甲が若干動く。

 

『では次に【キャスト・オフ】と言い、大顎部分を完全に開いて下さい』

 

「えっと、キャスト・オフ!」

 

そう言い大顎部分を開く。

 

《キャスト・オフ!》

 

腰から機械音声が流れたと同時に装甲がはじけ飛び身軽な状態になり形態が変わった。

 

「おぉ~、か、かっこいい!」

 

一夏は目をキラキラさせながら先ほどの光景に感動しモニターに釘付けとなる。因みに千冬はそんな一夏の姿にキュンとなったとか。

一方本音は突然自身の姿が変わった事に驚き手や足、お腹を見たりする。

 

『驚かれましたか? それがガタックの特殊機能、フォームチェンジです。先ほどのはマスクドフォームと呼ばれる状態で、今はライダーフォームと呼ばれる状態です。ライダーフォームはマスクドフォームと違い防御面など若干怠りますが、その分機動性などに優れております。武装も先程とは違い両肩に付いたガタックダブルカリバーと呼ばれるカッターです。では本音さんそのライダーフォームのもう一つの特殊機能を使って今置かれている案山子全てを5秒以内に切り倒してしまいましょう』

 

そう言われ本音や千冬、一夏は驚きの表情を浮かべる。

 

『ま、待って下さい。5秒で全部の案山子なんて無茶ですよ。場所もバラバラに置かれているんですよ』

 

『問題ありません。布仏さん、【クロック・アップ】と言った後、右腰のベルト部分を叩いて下さい。その後、案山子を斬り捨てて行ってください』

 

「? 分かりましたぁ」

 

本音は出来るのかなぁ?と疑問を抱きつつ構える。

 

「えっとぉ、クロック・アップ」

 

そう叫び右腰のベルトに付いているパーツを叩く。するとガタックゼクターから

 

《クロック・アップ》

 

と機械音声が流れた。すると周りが可笑しな状況になる。

 

「あれ? あのぉ~、何か可笑しいんですけどぉ?」

 

そう言うが、管制室から応答はなく本音は首を傾げる。

 

「まぁ、最初に言われた通りにしよぉ」

 

そう零しダブルカリバーを両手に持ち、案山子を斬り捨てていく。そしてまたガタックゼクターから

 

《クロック・オーバー》

 

と流れると、違和感が無くなる。

 

「あのぉ、言われた通り斬りました」

 

『結構です。では、本音さん。先ほどの体感時間は如何程でしたか?』

 

「え? えっとぉ、4、5分くらいだったと思います」

 

『正解は此方です』

 

そう言われモニターが表示される。其処には

 

【2.5秒】と表示されていた。

 

「あれ? これ間違っているじゃないんですか?」

 

『いえ、間違っていませんよ。発動した際、違和感を感じましたよね? それがマスクドフォームの特殊機能、【クロック・アップ】です。発動すれば特殊な粒子に包まれ周囲の時が止まっている様な状態になります。無論体に負担がかかる恐れがある為、制限時間は設けられております。ではガタックの説明は以上になりますので、解除と頭の中で念じて下さい』

 

「はい」

 

頭の中で解除と念じると、本音の体から装甲などが解け何時もの制服姿になる。無論腰にはイージスベルトが付いている。

 

『体に異変とか、何か感じられますか?』

 

「特にありませぇん」

 

『結構。では次に黒色のボタンを押してみて下さい』

 

そう言われ本音はガタックに変身した時と同じように、黒色のボタンを押し機械音が鳴り響くと

 

「変身!」

 

そう言いパスをかざす。そしてまた本音の体が光に包まれ、暫くすると今度は銀色の装甲に、黒と金のライン、顔にはトンボの様な真っ赤なハート型の複眼が付いていた。

 

『今なっているのは【カリス】です。カリスの武器は醒弓カリスアローという弧の部分が刃になった武器です。無論そのカリスにも特殊機能が備わっています。ベルトのバックルに付いている物、『カリスラウザー』をカリスアローに付けてください』

 

本音はまた変わったベルトのバックル、カリスラウザーを外しカリスアローへと装着する。

 

『では次に右腰にカードホルダーがあります。その中からハートの6が描かれたカードを取り出してください』

 

「カード?」

 

本音は首を傾げながら右の腰部分に目をやると、カードホルダーの様な物を見つけ中を開く。すると何枚ものカードが入っており本音は言われたハートの6を見つける。

 

「見つけましたぁ」

 

『ではそのカードを先程カリスアローに取り付けたラウザーにスラッシュしてください』

 

そう言われ本音は取り出したカードをスラッシュする。すると

 

《トルネード》

 

と音声が流れ、自分の体の周りに風が巻き起こる。

 

『では矢を放つように動かしてください。そうすれば矢が放たれます』

 

そう言われ本音は矢を放つように動作する。すると光の矢がカリスアローから放たれ的を射抜く。

 

「おぉ~、飛んだぁ!」

 

『他にも入っているカードには色々な能力が備わっていますので、時間がある時に確認してみて下さい。ではまた変身を解いた後、3つ目の青と白のボタンを押してください』

 

Mr.Kの指示を聞き、本音は変身を解除し指示された青と白色のボタンを押し変身する。

今度は基本が銀色の装甲をしており、目の部分は青色の複眼であった。

 

『今なられたのは【サガ】と呼ばれるスーツです。そのスーツの武器はジャコーダーと言う物で、ロッド剣状のジャコーダーロッド、そして鞭状のジャコーダ―ビュートに変形させることが出来ます。では案山子に向かって攻撃をしてみて下さい』

 

「分かりましたぁ」

 

本音はジャコーダーを鞭状のジャコーダ―ビュートへと変え、勢いよく横撫でで攻撃する。攻撃を受けた案山子は横に真っ二つにされ上半身が落ちようとするが、本音は追撃とばかりに落ちようとする上半身を切り裂いた。

 

『お見事です。では最後のボタン、白と黒のボタンを押してください』

 

「はぁい」

 

変身を解き最後の一番下の白黒のボタンを押し変身する本音。その姿は基本が黒で銀色のラインのスーツであった。

 

『最後のスーツ、それが【デルタ】です。デルタは他のスーツとは違い純粋な格闘用スーツになります。一応銃器もありますが、期待はしないでください。以上でイージスベルトの説明は以上になりますが、何か質問はありますか?』

 

「えっと、このスーツって単一機能みたいな必殺技とか有ったり寸ですか?」

 

本音は何となくISとは違う物だが、あったりしてと思いMr.Kに聞く。

 

『いい所に気付かれましたね。無論そのベルトに登録されているスーツ全てに必殺技があります。ですが、どのスーツの必殺技も強力でISを簡単に倒してしまうほどの威力を有しています。そんな強力な技をホイホイとアリーナ内で使えば、施設内がボロボロになってしまうので今回の説明会の中に組み込んでいないのです。無論使い方の書いた説明書は後でお渡ししますので』

 

「分かりましたぁ」

 

本音は質問を終えると変身を解きテクテクとピットへと戻っていく。

ピットへと戻ると、目をキラキラした一夏とその一夏の姿に何やらほんわかしている千冬。そして苦笑いを浮かべるMr.Kと一輝。

 

「ほ、本音さんのイージスベルト、凄くカッコよかったよ!」

 

「そう? えへへへへ」

 

一夏が目をキラキラさせながら褒められ、本音は照れた表情で笑う。

 

「さて、お二人共。これがそれぞれの武装の説明書になります。よく熟読し、内容を理解してください。そして力を使う時に何のために使うのかも忘れない様に」

 

「わ、分かりました」

 

「分かりましたぁ」

 

2人の返事を聞いたMr.Kはコクリと頷きコンテナをトラックへと積み、一輝の運転する車で帰って行った。

3人はMr.K達を見送った後学生寮へと戻っていく。

 

「さて、布仏と織斑。今日PEC社から渡された兵装だが、ISの兵装とは違うという事を忘れるなよ? 学校行事や訓練で使う場合はちゃんと制限を掛けておくように。それと布仏の兵装だが、必殺技を使えるとMr.K氏が言っていたな?」

 

「はい。ISを簡単に倒してしまうほどの威力を有しているって言ってましたぁ」

 

「うむ。その件は学園長に報告するが、恐らく必殺技とガタックだったか? あれの特殊機能の一つのクロック・アップはISを使った学園行事では使えんだろうな」

 

「えぇ~、やっぱりですかぁ」

 

本音は残念そうに肩を落とすが、心の中ではある程度予想はしていた。PEC社の製造したDNスーツはISと同等、もしくはそれ以上の力を引き出せるというにも関わらず、複数のスーツが内蔵されたベルトを本音に渡されたのだ。

万が一の事を考えればそれが妥当であるし、他のクラスとのパワーバランスなどを考えれば必然的に制限は大きく設けられる。

 

「無論有事の際は制限を解除しても構わんが、必ず私に言うようにな?」

 

「「はい」」

 

「うむ、では今日は此処で解散とする。部屋に戻ったら今日渡された説明書を必ず読んでおくように。それと説明書の管理はしっかりしておくように。それだけでも機密の塊だからな」

 

「分かりましたぁ」

 

「は、はい」

 

そう言い2人は自分達の部屋へと帰っていき、千冬は本音のイージスベルト所持に関する書類作りの為職員室へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

~設定~

一夏の新武装

【デンガッシャー】

登場作品『仮面ライダー電王』

PEC社が開発した新製品の一つ。原作同様ブレードやガンなどに変更することが出来る。本来はパーツごとに自分の手で組み立てなければならないが、一夏用に音声で自動で組替わる様に施されている。

本来であれば8つのモードを有しているが、今作では以下の4つに変更できる。

・ソードモード

・ガンモード

・アックスモード

・ナギナタモード

 

本音の武装

【イージスベルト】(オリジナルベルト 外観は電王ベルト)

PEC社が本音用にと開発したベルト。登録されているライダーは以下の通り

・仮面ライダーガタック(登場作品:仮面ライダーカブト)

・仮面ライダーカリス (登場作品:仮面ライダー剣)

・仮面ライダーサガ  (登場作品:仮面ライダーキバ)

・仮面ライダーデルタ (登場作品:仮面ライダー555)

武装等に変更はなし。

各ライダーの必殺技は使用する事は出来るが、IS相手にだとかなり強力なためISを使った学園行事などでは使用は禁止されている。

本音のみ使用できるよう保安システムを有しており、勝手に使おうとすると強力な電気が流れ使用者を失神させる。




普段以上の長文になってしまった‥‥。

次回予告
GWが終わり何時もと変わらない日常が始まる中、一夏と本音はPEC社から渡された装備の訓練を行っていた。
そんなある日、1組に2人の転校生がやってくることに。だがその2人の転校生の転入が新たな波乱の幕開けだとはまだ知る由もなかった。

次回
疑惑と嫉妬の転校生たち


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7話

投稿が遅れて本当に申し訳ございません!



GWが明け生徒達がぞろぞろと学園へと戻って来た。生徒達の顔には笑顔が溢れており、クラス代表戦の事件なんて無かった。と思えるような表情であった。

そんな中学園にあるアリーナにて一夏と本音が訓練を行っていた。

 

「それぇ!」

 

一夏は装備していたライフルを本音に向けながら引き金を引く。

本音は現在、カリスに変身しており飛来してくる弾丸に本音は素早くカードホルダーからハートの8が書かれたラウズカードを取り出し、カリスアローに付けたラウザーに通す。

 

『リフレクトモス』

 

ラウザーからそう音声が聞こえると、本音の周りにシールドの様な物が展開された。そして弾丸が本音へと命中するも、弾丸はまるで跳ね返された様に一夏の方に帰って行った。

 

「うえぇ!? はねかえされたぁ!?」

 

〈驚いている暇なんか無いわよ! さっさと回避しなさい!〉

 

アイラの叱責に一夏はすぐさま回避行動に移りつつ攻撃するも、すべて跳ね返された。

 

「ヌフフフ、イッチー覚悟ぉ!【ビー、タイムオーバー】ありゃ?」

 

攻撃を跳ね返している今がチャンスと思っていた本音は一夏に攻撃しようとしたが、終了時間を知らせる放送が流され、呆けた顔を浮かべる。

 

「も、もう終了時間だったんだ。なんか早く時間が経つように感じたね」

 

「そうだねぇ。それじゃあ着替えたらアリーナ前で集合で良い?」

 

「うん。そ、それじゃあまた後で」

 

「また後でねぇ」

 

そう言い本音は女子更衣室へと向かい、一夏も男性用に用意された更衣室へと向かって行った。

一夏と本音が訓練を一緒にするようになったのはつい最近の事であった。

その訳は、お互いが同じように自分の身を守れるようになるのと同時に、大切な友人を守れるくらい強くなりたい為にだ。

その為元からISを持っていた一夏と、PEC社からベルトを貰った本音が共に訓練をするようになったのだ。

 

そんなある日の事。1組では、ある話で盛り上がっていた。

 

「ねぇ、それ本当なの?」

 

「本当だって。さっき偶々廊下を歩いてたら見たことも無い生徒が2人もいたんだって! しかも山田先生が引率してたんだよ。間違いないって!」

 

一部の生徒達が興奮した様子で談笑していると、一夏と本音が教室内へと入って来た。

 

「お、おはようございます。あの、何かあったんですか?」

 

「なんか、教室の外まで興奮した声が聞こえたよ」

 

そう言いながら席へと着く二人に相川と鷹月、そして谷本が二人の元に近付く。

 

「なんか転入生が居たらしくって、もしかたらウチのクラスに来るかもしれないんだって」

 

「山田先生が引率してたからそう言ってるらしいけど、本当かどうかはねぇ?」

 

「へぇ~」

 

「そ、そうなんですか」(こ、怖い人じゃなかったら良いなぁ)

 

2人の説明にそう言いながら教科書などを机の中に仕舞って行く二人。するとチャイムが鳴り響き、生徒達は急ぎ席へと着いて行く。

チャイムが鳴り終わると同時に教室の前にある扉が開き、千冬を先頭に真耶に転入生であろう2人が入って来た。

入って来た転入生に生徒達は驚きの表情を浮かべる。何故なら、金髪の生徒の服装が男性用の物であったからだ。

 

「皆さん、おはようございます。えぇ、本日から此方に居る二人が転入生として入って来られました。それではまずデュノア君、ご挨拶をお願いします」

 

「はい」

 

真耶に促されデュノアと呼ばれた生徒は一歩前へと出る。

 

「シャルル・デュノアと言います。此方に通われている男性操縦者に続いて発見されたため、本日から此方のクラスに所属することになりました。どうかよろしくお願いします」

 

そう言い一礼するデュノア。それに対し生徒達は拍手で迎える。中には小さくガッツポーズをとる生徒もいた。

本来大声を挙げて喜ぶ彼女達だが、今は声を抑えている。何故なら大声を挙げれば一夏を怖がらせてしまうからだ。

そんな中、一夏は若干怯えた表情を浮かべていた。

 

(あ、あの子って、もしかしてあの時の子じゃあぁ。 うぅ、本で顔を隠しとこぉ)

 

そう思いながら机の中から教科書を取り出し、顔を隠すように体を縮め本で顔を隠す。隣の本音は一夏の行動に首を傾げ、不安な表情を浮かべていた。

 

「はい、ありがとうございます。それじゃあ次はボーデヴィッヒさん、お願いします」

 

そう真耶が言うが、ボーデヴィッヒと呼ばれた銀髪で眼帯をした生徒は何も言わず、ただ黙って立ち続けた。

 

「あ、あのぉ?」

 

真耶が再度問いかけるも何の反応を示さないボーデヴィッヒ。遂に真耶は困惑した表情を千冬の方へと向け助けを求めた。その顔に千冬は、はぁ。とため息を吐き教卓へと立つ。

 

「えぇ~もう一人の転入生だが、挨拶などする気が無いようなので2人は空いている席に着け。SHRを行う」

 

そう言い出し、真耶や生徒達はえっ?と困惑の表情を浮かべる。すると

 

「あの、教官「えぇ、まず本日一限目は2組と合同でアリーナにて実際にISに乗って訓練をして貰う。その為ISスーツを忘れない様に。次に」あの、教官!」

 

「なんだ、ボーデヴィッヒ?」

 

SHRを始める千冬にボーデヴィッヒは大きめの声で千冬に向かって教官と呼ぶ。千冬は鋭い視線をボーデヴィッヒへと向けながら、用件を聞く。

 

「あの、まだ私の名を名乗ってないのですが…」

 

「名乗る気が有るのに何故しない?」

 

「教官から発言の許可を「さっきから教官、教官と五月蠅いぞ。それと発言の許可と言うが、さっき山田先生が挨拶をするよう言われたはずだ」あれは教官からの指示ではなかった為、発言をしなかったのです」

 

そう言うとボーデヴィッヒの頭部に向かって出席簿が振り下ろされた。ガンッと鈍い音が教室内に鳴り響き、ボーデヴィッヒは痛みから頭に手を置きながら蹲る。

この時、千冬がボーデヴィッヒの頭を叩いたのは出席簿であるが、普段セシリア達をしばいている面の部分でなく背表紙の部分で叩いたのだ。普段とは違う箇所で叩いた事に生徒達は驚きの表情を浮かべていた。

 

「馬鹿者が。さっきも言ったが教官、教官と五月蠅い。それと、此処では教師の言われた事には素直に従え。それが出来ないなら、さっさと此処から立ち去って自分の国に帰れ」

 

今まで見たことも無い冷たい言葉と眼差しをする千冬に生徒達や真耶は思わず恐怖から身震いを起こす。

 

「も、申し訳、ありません」

 

「次は無い。さっさと自己紹介をやれ」

 

千冬に冷たい言葉で促されボーデヴィッヒは体を生徒達の方へと向ける。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

名前だけを名乗り、一歩後ろに下がるボーデヴィッヒ。

 

「えっとぉそれだけ、ですか?」

 

「それだけだ」

 

そう言い放つボーデヴィッヒに真耶はガックシと肩を落とす。

 

「……終わったんだったらさっさと席に行け」

 

そう言い放つ千冬。千冬のボーデヴィッヒに対する辛辣な態度に生徒達は首を傾げている中、2人はそれぞれ空いている席へと向かう。するとボーデヴィッヒは本で顔を隠している一夏に気付き、顔を険しくさせ席へと座らず一夏の元へと向かう。

生徒達はボーデヴィッヒの突然の行動に困惑し、本音はボーデヴィッヒが何かする気なのかと思い警戒する。

そうこうしている内にボーデヴィッヒが一夏の近くに来ると、一夏が顔を隠すために開いていた教科書を無理矢理取り上げた。

 

「ヒッ!?」

 

突然取り上げられたことに一夏は小さく悲鳴を上る。周りの生徒達は、ボーデヴィッヒが一夏に何か良からぬことをすると思い止めに入ろうとする。

 

「やっぱりいたのか、このよわぐはっ!??!!」

 

何かを言おうとしたボーデヴィッヒの顔に突然プラカードがめり込み、そのまま飛んで行き窓際の壁に激突し凭れる様に倒れ込んだ。

プラカードには【必殺、プラホーク!! (`=´)ノ・‥…—口】と書かれていた。

ボーデヴィッヒに投げられたプラカードを見て全員、まさかと思いながら投げられた方向に顔を向けると投げたポーズをしたメサが扉の開いた先の廊下に立っていた。

メサはポーズを止め、教室内へと入ってくると床に落ちた一夏の教科書を拾い上げ、シワが出来ていないか確認し埃を飛ばすため口から空気を出した後一夏へと手渡した。

 

「あ、ありがとう、ございます。あの、どうしてメサさんが此処に?」

 

【実は、千冬様からご依頼がありましたので、こうして馳せ参じたまででございます。(゚▽゚)】

 

「お、織斑先生から?」

 

一夏はメサの言葉に首を傾げながら千冬の方に顔を向けると、千冬は訳を話し始めた。

 

「メサが此処に居る理由だが、此処最近織斑に対して執拗に付き纏う者が多くてな。その上先程のボーデヴィッヒの様に手を挙げようとする生徒もいたりする為、メサを一夏の護衛として傍に置く事にした。普段は織斑の傍に居させるため、もし何か手伝って欲しい事があれば言っても構わん。但し、コイツの任務はあくまでも織斑の護衛の為、織斑から長時間離すような頼み事はするな。良いな?」

 

『はい!』

 

生徒達からの声に千冬はうむ。と頷く。すると壁に凭れていたボーデヴィッヒがヨロヨロと立ち上がり、メサを睨みつけていた。

 

「貴様ぁ、よくもぉ!」

 

【うるせぇぞ、ちっこいの。まだSHR中だ。騒ぐんだったら公園にでもちっさい子供達と混じって来い( ▼Д▼)y─┛~~】

 

とプラカードを見せるメサ。その内容にボーデヴィッヒがキレて、ISを展開しようとするが

 

「こんなところで展開しようとするな、馬鹿者が‼」

 

と何時の間にか隣にいた千冬の出席簿(背表紙の部分)で思いっきり叩かれた。

 

「し、しかし!」

 

「喧しい。元をたどれば貴様がいらんことをしたからだろうが」

 

そう言われぐぅの音も出ないボーデヴィッヒ。

 

「さっさと席に着け」

 

そう言われ悔しそうな顔付を浮かべながら席へと着いた。

それを見届けた千冬は教壇へと戻る。

 

「えぇ、それでは1限目はさっきも言った通り2組との合同でISに実際に乗って訓練してもらう。その為各自ISスーツを着て第1アリーナへと集合するように。遅れるなよ? では以上でSHRを終える。メサ、織斑の事、任せるぞ」

 

【お任せください( ̄Λ ̄)ゞ】

クルッ【ささ、坊ちゃま。更衣室へと参りましょう】

 

千冬にプラカードを見せた後一夏に更衣室へと行きましょうと促すプラカードを見せ共に教室から出て行った。

その後姿を確認した千冬と真耶は廊下へと出て1限目の為に着替えに行こうとした所

 

「あ、あの織斑先生!」

 

「ん、なんだデュノア?」

 

廊下に出た千冬を呼び止めたのはデュノアであった。デュノアは困った表情を浮かべながらも千冬にある事を聞く。

 

「あの、僕はどうしたら?」

 

「は? お前は何を言っているんだ。早く更衣室へと行かんと、授業に間に合わんぞ」

 

「えっと、それは分かっているんですが……。あの、場所が…」

 

「あぁ、そう言う事か。…はぁ、仕方がない。山田先生、案内してやってください」

 

「分かりました。それじゃあデュノア君、付いて来てください」

 

そう言われデュノアは真耶に連れられ更衣室へと向かって行った。

 

 

そのデュノアの後姿を千冬は鋭い視線で見送っていた。




次回予告
メサの護衛の下、一夏は更衣室へと到着し服を着替えアリーナで待って居た。そして2組との合同授業が開始される。
授業後、一夏は何時もと変わらないメンバーとご飯を食べているとデュノアがやって来た。

次回
合同授業とお昼ご飯~よぉし、お前達。的はこのでっかいボール2個だ~


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8話

教室を出てメサと共に更衣室へと向かっている一夏。道中、女子生徒達が教室から出てきて一夏を見つけるも突撃してこようとしてこなかった。その訳は無論隣にいたメサがプラカードで

 

【坊ちゃまに突撃をかました奴、〆るぞ。(#・∀・)】

 

と見せていたからだ。

そんな物を見せられれば誰だって怖がって近付かない。だが、そんな事お構いなしに近付く生徒(馬鹿)は世の中に存在する。

 

「噂の織斑君発見! 是非取材をほぎゃっ!!???!」

 

カメラを持った上級生と思われる生徒が一夏に突撃してきたのだ。無論一夏はヒッ!?と怯え、メサは元凶の生徒の頭に向かって持っていたプラカードでしばき倒す。

 

【このプラカードが目に入らんのかぁ、われぇ? (キ`゚Д゚´)㌦ァ!!】

 

ぴくぴくと痙攣する生徒が見えていないのにもかかわらずプラカードを出した後、メサは怯えた一夏を大丈夫ですよぉ。と慰めながら更衣室へと向け再度歩き始めた。

 

 

因みにメサにしばき倒された女子生徒は後ほど目を覚ました時に自身の首から下げていた一眼レフカメラ(約8万円)が見事に壊れていた事にこの世の終わりの様な表情で立ち崩れた状態で天井を見上げていた。

 

 

 

そんな事があったが無事?に更衣室へと到着した一夏は戦闘服に着替えアリーナへと出た。アリーナにはまだ人は居らず、一夏はメサと共にアリーナの隅で待つことに。

暫くして1組と2組の生徒達がやってきてそれぞれ授業開始まで談笑を始めた。

人混みの中から本音がひょっこり出てくると、そのまま一夏が居る元へと向かう。

 

「イッチー、道中大丈夫だったぁ?」

 

「う、うん。メサさんが一緒に居てくれたから大丈夫、でした」

 

【坊ちゃまを怖がらせる要因はすべて排除する所存です故 (☝՞ਊ՞)☝】

 

メサの見せたプラカードに本音は若干苦笑いを浮かべながら、一夏と談笑を始めた。

そして暫くしてジャージ姿の千冬が現れた。

 

「よし、全員集合!」

 

その号令と共に1組と2組の生徒達は千冬達の前に整列した。

 

「ではこれより合同授業を行う。その前に、諸君達には教師の実力を知って貰う。凰とオルコット、前に出ろ」

 

千冬の指示に2人は怪訝そうな顔付を浮かべながら前へと出てくる。

 

「えっと、それでその相手って誰なんですか?」

 

「ま、まさか…お、織斑先生とかでは、ありませんよね?」

 

「はぁ? 私は見ての通りジャージ姿だぞ。まぁ、このままの状態でISの武器を使おうと思えば出来るが、やるか?」

 

「「いいえ、結構です!」」

 

千冬の申し出に2人は速攻で断り、千冬はそうか。と返した。

 

「そ、それではお相手は一体何方に?」

 

「お前等の相手なら、もうすぐ来るはず「ひやぁあぁああぁ!???!!」はぁ?」

 

突然の悲鳴に全員声がした方に顔を向けると、其処にはラファールを身に纏った真耶が落下して来ていた。

 

「お、親方!? 空からメロンが二つ落下してきます!」

 

「いや、あれはスイカだぁ!?」

 

「馬鹿な事言ってないで、さっさと避難しろ!」

 

千冬の怒声に生徒達は大急ぎで退避を始める。一夏も急いで避難しようとした。だが

 

「あうぅ!?」

 

と、脚が縺れて転んでしまった。

 

「い、イッチー!?」

 

本音は一夏がこけた事に気付き、急いでベルトを巻き、変身しようとした瞬間その横を何かがものすごい勢いで駆け抜けていった。

一夏は空から落ちてくる真耶に恐怖し、咄嗟に手で覆うよう頭を守る様にしてしまう。

すると、自身の傍に誰かが立つ気配を感じる。そして

 

バゴォン!!!

 

と轟音が鳴り響き一夏はヒッ!?と声を上げる。大きな音が鳴り響いた後、一夏は全身に痛みが来ない事が気になりそっと顔を上げ辺りを見渡すと、その傍にはメサが立っていた。

メサの手には大きめのフライパンが握られており、焼く部分の面が大きくへこんでいた。

 

何が起きたか。それは本音の横を通り過ぎたのはメサで、一夏の傍に着いたメサは即座に何処からともなく大きなフライパンを取り出すと、降ってきた真耶目掛けフライパンを振ったのだ。

その結果、降ってきた真耶はメサによって打たれ、近くにバウンドしながら転がり落ちた。

本人は目を回しながら気を失っており、ケガをしている様子はなかった。

 

【ぼ、坊ちゃまぁ! ご無事でございますかぁ!? (;´Д`)】

 

「う、うん。大丈夫です」

 

メサは持っていたフライパンを片付けると、急いで一夏の容態を診始めた。一夏の体のあちこちをペタペタと触りながら、ケガの有無を確認し砂が付いたくらいだと判断し、ハンドブラシを手から出現させると服に付いた砂を払い始めた。

 

「メサ、織斑に怪我は?」

 

【大丈夫です。怪我はありませんでした。ε-(´∀`A)ホッ】

 

「そうか、それは良かった」

 

一夏に怪我が無い事に安堵した千冬はホッと息を吐き、生徒達の方に顔を向ける。

 

「えぇ、では模擬戦を行おうと思う。と、その前に…」

 

そう言い千冬は出席簿を片手に気絶している真耶の元に向かうと、その頭に向かって

 

「さっさと起きろ‼」

 

と叫びながらしばいた。

 

「もぉぉおぉおぉ!!??」

 

としばかれた真耶はしばかれた頭を抑えながら目を覚ます。

 

「起きたか?」

 

「は、はひぃぃ」

 

と涙目になりながら真耶は返事をして首を激しく縦に振る。

 

「よし、お前達の相手はこのでっかいボール2個持った牛…失敬、山田先生が相手だ」

 

「お、織斑先生? い、今牛って「言ってません」で、でも確かに「言ってません」でっかい「言ってません」はいぃいい!!」

 

「よろしい。では3人共空に上がる様に。他の者達は皆移動しろ」

 

千冬の合図に生徒達はアリーナの隅へと移動し、その間に真耶達は空へと上がった。そして模擬戦開始を合図するホイッスルが鳴り、模擬戦が開始された。

暫くして鈴とセシリアが空で言い合いを始め、その隙に真耶がグレネード弾を撃ち込んで2人を墜とした。

模擬戦が終了したと同時に千冬は生徒達を連れて3人の元へと向かう。

 

「今見たようにいつもぽわぽわしている山田先生でも、代表候補生2人を相手にしても簡単に倒すことが出来る。この学園に居る教師の多くは、大会や軍で優れた功績を残した者だ。よって無名だからだと思っていたら、痛い目に遭うから気を付けるように!」

 

『はい!』

 

「よろしい。では今から専用機持ちをリーダーにして、ISに実際に乗って貰う。その際に、織斑には布仏と共に組んでもらう。理由は分かるな?」

 

『はい!』

 

生徒達の返事を聞いた千冬はそれじゃあ分かれろと指示を飛ばした。それぞれ専用機持ち達の前に生徒達は並び出すが、デュノアや一夏の所に集中して生徒達が集まり始めたのだ。

集まってくる生徒達に一夏は困惑の表情でオロオロし始め、本音も苦笑いを浮かべていた。

生徒達が偏った並び方をしている光景に千冬は目元をぴくぴくさせ大きく息を吸って吐く。

 

「貴様らぁ、誰が好きな所に並べと言ったぁ? 名前順に並べ」

 

地の底から響くような声で告げる千冬に生徒達はヒェッ!?とビビり、急ぎ足で名前順に並んだ。

生徒達がそれぞれの専用機持ち達の前に並び訓練が開始されようとしたが、ある生徒が本音の腰に巻かれているベルトに気付く。

 

「あの、織斑先生。布仏さんの腰に巻かれているベルトって一体なんですか?」

 

「ん? あぁ、そうだった。実は布仏はPEC社のテストパイロットに選ばれたんだ。その為、テスト用に渡されたベルトを所持している」

 

「えっ!? PEC社って確かISとは違うパワードスーツを作ったっていうあの!」

 

「乗り手の技量で、IS以上の力を出すって言われてるものよね? 其処のパイロットに?」

 

生徒達は驚きと興味深々の顔を浮かべ本音の方に向ける。

本音はふふぅ~ん。とどや顔を浮かべていた。

 

「布仏、ベルトの使用は許可するから織斑のサポートをしてやってくれ」

 

「はぁ~い!」

 

千冬の許可を貰った本音はベルトのバックルについているボタンの白黒のボタンを押しパスを右手に持つ。

 

「変身!」

 

《変身 デルタ!》

 

と機械音声が流れたと同時に本音の体が光に包まれ、光が治まると白黒のフルスキンの人物が立っていた。

 

「す、すごぉ」

 

「こ、これがPEC社が作ったスーツなんだぁ」

 

生徒達はIS以外のパワードスーツに興味深々の視線を向けていると千冬が、んん。と喉を鳴らしながら生徒達を睨む。

その姿に生徒達は直ぐに元の位置に戻っていきISの訓練を始めた。

 

それぞれの専用機持ち達の指導の元生徒達の訓練が開始されると、千冬はその様子を見るべく周り始めた。

 

・一夏の班

 

「そ、そうです。ゆっくりと足を上げながら前に進んでください」

 

「こ、こう?」

 

「そうそう。頑張れぇ、きよきよぉ」

 

ISを身に纏った一夏が前に立ち、本音は相川の横に立ち手を握りながら一緒に歩いていた。そしてその近くでは

 

【つまり、ただ普通に歩くと言うよりも靴底の厚い靴を履いていると思いながら歩けば、上手く歩けます(^0_0^)】

 

「「「「なるほどぉ」」」」

 

メサがメッセージの書かれたプラカードと絵の描かれたプラカードを見せながらISに乗っていない生徒達にアドバイスを行っていた。

 

「うむ、この班はまず問題は起きることは無いな」

 

そう呟き、千冬は次の班へと向かいました。

 

・セシリアの班

 

「で・す・か・ら! 腕を45度の角度に上げながら足を45度の角度に曲げながら前に進むと、そう言っているのですわ!」

 

「いや、45度ってどの位よ! いちいち分度器で測れって言うの!」

 

「……」目元ピクピク

 

千冬はセシリアの班に到着して早々、セシリアの説明にイラっとなってしまった。そして出席簿を片手にセシリアの背後に立つ。

千冬がセシリアの背後に立ったのに気付いた生徒達はビクッと固まり、視線を向ける。

 

「ちょっと、聞いてますの?」

 

「う、後ろ…」

 

「はぁ? 何を言ってますの? さぁ、言われた通りやって「フンッ‼」いたぁっ!!!???!」

 

持っていた出席簿を躊躇いも無くセシリアの頭部に振り下ろす千冬。セシリアは突然来た出席簿攻撃に成す術なく受け、ジンジンと痛む頭を抑えながら蹲ってしまった。

 

「お前は教える気が有るのか?」

 

「も、勿論、あります」

 

「だったら、さっきの45度だかそんな具体的な数値など入れずに説明せんか!」

 

「そ、そう言われましても、この方法が一番「あぁ?」ヒッ!? な、なんでも、ありません」

 

「よろしい。後でもう一度来るが、その時もさっきと同じような説明だったらどうなるか、わかるな?

 

殺気の含んだ視線で睨まれたセシリアは何度も首を縦に振り、千冬は次の班へと向かって行った。

 

・鈴の班

 

「ちょっと、なんで其処で毎回こけるのよ。もう感覚はつかめてるでしょ」

 

「む、無茶だよぉ。こっちはそんなにISに乗る機会が無いんだよ」

 

「そんなの理由にならないわよ。最初の1,2回乗ったらすぐにコツがつかめるでしょうが」

 

「(#^ω^)ピキピキ」

 

セシリアの次に鈴の班を見に来た千冬は鈴の説明とやり方に青筋が浮かび上がった。鈴は生徒達に何の説明もなく乗せているのだ。

乗る機会が少ない生徒達は何度もこけたりしており、既に何人かが地面にぶつけた膝が痛いのか手で摩っており痛がっていた。

千冬は先程のセシリア同様に鈴の背後に立つ。そして

 

「ほら、さっさと立って「オラぁ!!」ふぎゃぁっ!!!???!!」

 

セシリアと同じ、いやそれ以上の力で鈴の頭をしばいた。突然の背後からの攻撃に、鈴は前のめりになりそのままドサッと倒れてしまう。

 

「只ISに乗っていればすぐにコツがつかめるはずがないだろうが、この馬鹿者」

 

「で、でも私はそれで「貴様はそれで行けたかもしれんが、他はそうはいく訳がないだろうが」うぅぅ…」

 

「ちゃんと口頭で乗り方を説明しながら教えろ」

 

「で、でも私は感で「あ”ぁ?」ひぃぃ、ちゃ、ちゃんと口頭で乗り方を教えます!!」

 

「ちゃんとやれよ? 出来なかったら、お前の身長を更に縮めるぞ

 

「い、い、イエス・マムぅ!!??」

 

千冬の脅しに鈴は顔面を蒼白させながら敬礼で了承し、千冬は次の班へと向かった。

 

 

・デュノアの班

 

「そうそう、そうやってゆっくりと足を上げながら前に進んで」

 

「う、うん」

 

デュノアの班は、一夏の様にデュノアが自身の専用機を身に纏い、ISに乗っている生徒の手を握りながらゆっくりとした歩調で歩く動作の訓練をしていた。

 

「ふむ、この班は特に問題は無いか」

 

そう零し、千冬は次の班へと行こうとした瞬間

 

「お前に教えてもらうつもりはない」

 

「はぁ?」

 

行こうとした矢先に知っている声の上に、面倒な発言が聞こえ千冬は声の方に顔を向ける。その先には困惑の表情を浮かべたデュノアと口を尖らせ異議申し立てをする箒が居た。

 

「( ^ω^)・・・ブチッ」

 

視線の先に居た箒の姿に堪忍袋の緒が若干切れ、千冬は持っていた出席簿を持ち直した後ゆっくりと出席簿を振り上げ、そして箒に向かって

 

「フンッ!」

 

と剛速球を投げるかのように、出席簿を投げた。出席簿はクルクルと回転しながら箒の方へと向かっていく。

 

「で、でも勝手な事されると僕も困る「そんな事知らん。兎に角私はぐはぁぁああぁぁ!???!!」ウェッ!!?」

 

自分勝手なことを言い続ける箒に困惑していたデュノアの目の前で、箒の側頭部に何かが命中してそのまま箒は吹き飛んで行き地面を転がって行った。

転がり止んだ箒はピクピクと痙攣した状態で横たわっており、一応生きては居た。そして彼女の近くには出席簿が落ちていた。

デュノアや生徒達はまさかと思いながら出席簿が飛んできた方に顔を向けると、其処には千冬が投げ終えたポーズをとっておりその額には青筋がはっきりと浮かんでいたい。

 

「デュノア、アイツは放っておいて他の奴等を見てやれ」

 

「え? あ、わ、分かりました」

 

困惑しながらも、デュノアは千冬の指示通り他の生徒達の訓練を始めるのであった。千冬は投げた出席簿を回収し、伸びている箒を引き摺りながらアリーナの端へと連れて行くとそのままその場に放置して次の班へと向かって行った。

 

・ボーデヴィッヒの班

 

最後のボーデヴィッヒの班へと向かう千冬の足取りは重く、出来れば行きたくないと思いながら教師故様子は見に行かんといかんと思いつつボーデヴィッヒの班へと向かう。そして班に到着したが、ボーデヴィッヒは腕を組んだまま生徒達に何も教えておらず、生徒達はそれぞれがアドバイスをしながら訓練をしていた。

 

「何をしているんだ、貴様ら」

 

「あ、織斑先生。実は、ボーデヴィッヒさんが何かISについて質問されて、答えたら――」

 

『お前等はISを只のアクセサリーと思っているのか? ふん、そんな奴等に教える事など何もない』

 

「って言われて黙り込んだままなんです」

 

「もう私でやるしかないと思って、少ない知識を持ち寄りながら訓練していたんです」

 

生徒達の説明に、千冬はそうか。と言い重いため息を吐いた。

 

「私が来るまでの間、よく訓練していた。そうだな、織斑の班が大分進んでいるみたいだから其処に混ぜて貰え」

 

「分かりました」

 

千冬の指示に生徒達はぞろぞろと一夏達の班の元へと向かい、千冬は遠目ながらその様子を伺っていた。一夏の班に合流した生徒達は一夏に訳を話し千冬の方に指をさしていた。一夏が千冬の方に顔を向けるのが見えた千冬は済まんと片手を上げ手刀状にして見せる。その姿に一夏はコクリと頷き一緒に訓練を始めた。

 

訓練を始めるのを確認した千冬はうむ。と声を漏らした後、スゥッとボーデヴィッヒの方に顔を向ける。だが、その顔は無の表情であった。千冬は持っていた出席簿を一度見た後、暫く考えこむ。すると何かを思いつき辺りを見渡し始める。そしてある物を見つけそれを取りに向かった。

 

「―――おい、ボーデヴィッヒ」

 

目を閉じながら仮眠をしていたボーデヴィッヒは敬愛している千冬の声が自身の近くから聞こえた事に歓喜し、目を開けた。だが、千冬の持っている物に目が行き一瞬で顔色が悪くなる。

 

「きょ、教官。そ、それは…」

 

「あぁ、メサがさっき振っていたフライパンだ。なかなかいいサイズでなぁ、振るのにちょうどいいなと思ってなぁ」

 

そう言いながら千冬は大きなフライパンを持ち上げる。

 

「ま、まさか……」

 

「あぁ、そのまさかだ」

 

そう言い千冬はボーデヴィッヒに向かってフライパンをフルスイングで振った。ボーデヴィッヒは咄嗟に避けると、自身が居た場所に大きく砂埃が舞う。

 

「おいおい、ボーデヴィッヒ。何故、避ける?」

 

「きょ、教官?」

 

「安心しろ。一瞬で終わらせてやる

 

そう言い千冬はフライパンを軽々と振るい上げ、ボーデヴィッヒに襲い掛かった。ボーデヴィッヒは、ひぃい!!??!と悲鳴を上げながら逃げ始めた。

逃走劇は授業終了10分前まで行われた。

 

 

「――えぇ、ではこれにて合同授業を終える。では、解散!」

 

千冬の号令に生徒達はぞろぞろと帰っていき、一夏も帰って行った。

因みに、気絶した箒はその後アリーナの整備に来た用務員の方に保護され保健室のベッドで寝かされ、目を覚ました時には3限目の終了のチャイムが鳴り響いたときであった。

 

 

 

――キーンコーンカーンコーン

 

「では授業は此処までとする」

 

「き、起立。礼、着席」

 

4限目のチャイムが鳴り響き、一夏の号令と共に生徒達はご飯ご飯!と言いながら食堂へと向かっていく。

一夏もカバンから弁当を取り出すと、隣の本音の方に顔を向ける。

 

「ほ、本音さん。僕先に行って「あ、待って待ってぇ!」ふぇ?」

 

「実は今日はぁ、ふふん」

 

もったいぶる様に笑みを浮かべる本音。すると相川と鷹月が二人の傍へとやって来た。

 

「織斑君、今日は私達もお弁当持ってきたら一緒に行こ」

 

「今日は買いに行く必要もないからねぇ。因みに本音も手作りお弁当だよ」

 

そう言いながら2人は手提げ袋を見せた。

 

「そ、そうなんですか。それじゃあ行きましょうか本音さん…本音さん?」

 

2人が手作り弁当を持ってきた事に少し驚いた表情を浮かべる一夏。そして本音の方に顔を向けると

 

「むぅ~~、折角イッチーを驚かせようと思ってたのにぃ」

 

と、膨れっ面を浮かべる口をブーブーと鳴らす本音。

その光景に思わず一夏は

 

「クスクス」

 

と小さく笑ってしまった。

その姿に相川と鷹月は

 

((て、天使が微笑んでる!!))

 

と思ってしまったとか。

そして廊下へと出て待機していたメサと共に4人と1体は学園内にあるテーブルベンチが置かれている箇所へと行きそれぞれベンチへと座った。

因みに配置は

 

一夏| ̄|相川

  |机|

本音|_|鷹月

 

と言った配置となっている。

 

4人が席に着きテーブルの上にお弁当を広げていると、近くに居たメサがお腹の部分を開け中から2Lのペットボトルのお茶を取り出し紙コップにとくとくと注いでそれぞれの前に並べた。

 

【どうぞ、冷えたお茶です(。・ω・)_旦】

 

「ありがとうございます!」

 

「冷蔵庫まで付いているとか、凄過ぎる」

 

「一家に一体欲しいねぇ」

 

「め、メサさんは本当に居てくれると、助かりますよ」

 

一夏の言葉に3人は良いなぁ。と零しながらお弁当を食べ始めた。

談笑しながらご飯を食べる4人。メサもプラカードで談笑に交じりつつお茶を出したり、お手拭きを差し出したりと働いていた。

するとその4人に一人の生徒が近付いてきた。

 

「あ、織斑君此処に居たんだ」

 

そう声が聞こえそれぞれ声がした方に顔を向けると、デュノアが其処に立っていた。

 

「あ、デュノア君。どうかしたの?」

 

「えっと…ほら、世界に2人しか男性操縦者が居ないから、織斑君と交友を深めたいなと思ってお昼一緒にどうかなと思って探してたんだ」

 

「あ、そうなんだ。でもデュノア君、ご飯は?」

 

「食堂で食べる予定だけど?」

 

「あぁ、それじゃあ無理だよ。私達ほら、今お弁当持って来て此処で食べてるんだ」

 

相川の説明に、そうなんだ。と少しがっかりしたような表情を見せるデュノア。すると鷹月が、それだったら。とデュノアに声を掛ける。

 

「今だったらまだ食堂にある売店でお弁当が売ってると思うよ」

 

「そうなの? それじゃあ僕、今から買って来るよ」

 

そう言いデュノアは食堂の方へと歩き始めた。

 

「なんか今日はいい事尽くしだなぁ。朝は織斑君にISの乗り方教えてもらえたし、お昼は2人目も混ざってお昼が食べられるから」

 

鷹月はそう零していると、隣の相川もうんうん。と同意していた。

そんな中、一夏はデュノアを見て怪訝そうな顔付を浮かべながら首を傾げており、本音もそんな一夏の表情を見て首を傾げていた。

 

「イッチー、どうかしたのぉ?」

 

「ふぇ? う、うんん。何でも、無いです」

 

そう言いお弁当を食べ始める一夏。本音はそう?と返事をしてから同じくお弁当を食べ始めた。

 

 

 

 

――IS学園内にあるとある一室

 

『対象人物が坊ちゃまに接触。坊ちゃまに対しアクション(スパイ行為)等無し。引き続き監視を続行する』

 

そんなメールが自身のスマホに届いたのを確認した千冬は、送り主に対し『了解。引き続き監視を続行しろ』と打ち込み返信した。

そして目の前に置かれたパソコン上に映し出された資料に目を向ける。

 

「ふん、自ら破滅の道を選び突き進むとは。愚かな連中だな」

 

そう呟く千冬。画面に映っていたのはデュノアに関する資料であった。

だが学園に提出された資料とは違い、其処に映し出されているのは女性特有の体型をしたデュノアであった。




次回予告
午後の授業が終わり、一夏と本音は相川と鷹月に頼まれてISの訓練をする事に。
訓練をしている際中、突如ボーデヴィッヒが乱入してくる事態に。

次回
IS訓練


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9話

―――キーンコーンカーンコーン

 

「では以上で5限目の授業を終える。織斑、挨拶を」

 

「は、はい。起立、気を付け、礼」

 

『ありがとうございました!』

 

「ちゃ、着席」

 

生徒達が着席したと同時に千冬や真耶達は教材を持って教室から出て行き、生徒達もカバンに教材などを仕舞い部活に行く者や寮に帰っていく者達となった。

一夏も寮に帰ろうとカバンに教材を仕舞って行く。

 

「イッチー、今日も一緒に帰ろぉ」

 

「う、うん」

 

カバンを背負った本音と共に一夏は帰ろうとカバンを背負おうとした瞬間

 

「あ、2人ともちょっと待ってぇ」

 

と声が掛けられ、一夏と本音は声を掛けられた方に顔を向けると相川と鷹月が居た。

 

「どうしたの、2人共ぉ?」

 

「実は2人にお願いしたいことがあるんだけど、良い?」

 

「お願い、ですか?」

 

「うん。今日したIS訓練を復習したいから2人に手伝って欲しくて」

 

相川と鷹月はお願い!と手を合わせながら頼む。

 

「ぼ、僕は別に構いませんよ。ほ、本音さんは?」

 

「私? 私も別にいいよぉ」

 

と笑顔で了承する本音とオドオドしながら了承する一夏。

 

「ありがとう2人とも!」

 

「今日アリーナの予約が偶然取れたから断れたらどうしようかと思ってたよぉ」

 

そう言いながら4人と廊下に居たメサと共にアリーナへと向かった。

その頃デュノアは

 

「デュノア君、ぜひラクロス部に入ってくれない?」

 

「いやいや、私達歌劇部でしょ!」

 

「此処はダンス部でしょ!」

 

「ちょ、ちょっとみんな落ち着いてえぇ!」

 

色々な部の生徒達からの誘いに困惑し椅子から立ち上がれずのままであった。

 

 

そんな事を知らない4人と1体はアリーナに到着し、一夏はバレットホークを纏い本音はベルトを巻き青色のボタンを押してガタックに変身する。

先にアリーナで待っていた2人に遅れるように合流する相川達。

 

「お待たせぇって。あれ、本音は?」

 

「あと、そちらさんは?」

 

「えっと、本音さんですよ」

 

「うん、私だよぉ」

 

今朝とは違うスーツを着ている本音に2人は驚きを隠せず口をあんぐりと落とす。

 

「ウソ。だって、今朝とは違うスーツじゃん」

 

「うん。今朝のは白と黒の奴だったよ」

 

「ふふん。あれとはまた違うスーツなのだぁ。詳しい事は言えないけどねぇ」

 

ブイ!と見せる本音。二人はPEC社って凄いなぁ。と零すのであった。

そして訓練が始まり今朝の訓練同様に歩行練習から始める4人。メサは邪魔にならない様にと端の方で相川達の動きを観察していた。

そして手元では紙に高速で色々書き物をしていた。

 

そして訓練開始から1時間が経過したところで端に居たメサがプラカードを高々に掲げながら振る。

 

【坊ちゃまぁと皆様ぁ! そろそろ終了時刻でございますぅ。(ι´Д`)ノ】

 

「あ、もう終了時間か」

 

「ありゃ、もう時間? うぅ~ん、もう少し訓練したかったけど仕方ないか」

 

相川と鷹月は少し残念そうな表情を浮かべながらも後片付けをしようと始める。

一夏と本音は相川と鷹月が戻ってくるまでメサの所で待っていようと移動したところ

 

「おい」

 

と威圧ある声が遠くから掛けられた。一夏はその声にビクッと怯え、本音はムッと顔をしかめながらその方向に顔を向ける。

其処には黒いISを身に纏ったボーデヴィッヒが居た。

 

「私と戦え、織斑一夏!」

 

そう叫ぶボーデヴィッヒ。一夏は嫌そうなのかそろりそろりと後ろに下がる。本音はいざと言う時の為手にパスを持ちながら一夏の前に立つ。

そしてメサもその様子に気付いたのか何処からともなく大きなフライパンを肩に担ぎながら本音の横に立つ。

一触即発といった所で

 

『そこの生徒、何をしているの! 既に退館時刻よ!』

 

管制室に居た教師のアナウンスが鳴り響いた。ボーデヴィッヒはチッと舌打ちを鳴らしてからピットへと行った。

ボーデヴィッヒがピットに引っ込み、一夏と本音はホッと安心したように息を吐きメサはフライパンを片付けた。

 

「ど、どうかしたの?」

 

「織斑君は怯えてるし、本音とメサさん何か怒ってる?」

 

そこへISと道具を片付け終えた相川と鷹月が戻って来た。二人は一夏達の様子が可笑しい事が気になりその訳を聞く。

 

「なんかさっきラウラウが来てイッチーに戦えって言ってきてさぁ」

 

「え? なんでまた織斑君に?」

 

【あまり気にする事ではありませんよ。ただ気に喰わないと言うどうでもいい理由で坊ちゃまに食って掛っているだけですから。(#^∀^)】

 

「「は、はぁ」」

 

メサのプラカードでそう言う事で納得することにした相川と鷹月。

 

 

 

 

 

 

因みにボーデヴィッヒが一夏にケンカを吹っ掛けた事は直ぐに千冬の耳にも届き、千冬は

 

「次に問題事を起こしたら、歯の2,3本はへし折るか」

 

とヤル気満々でいるのか出席簿の素振りを何時もの倍、振る練習をしていた。




次回予告
二人が転入してきて数日が経ったある日。
いつも一夏と一緒に居る本音に気に喰わずにいたオルコットがついに本音に決闘を申し込んだ。

次回
青の滴VSイージスベルト~構わん、全力でやれ~


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10話

デュノアとボーデヴィッヒが転入して数日が経ったある日の事。1組は何時もと変わらない風景が広がっていた。

 

「モグモグ イッチー、このお菓子美味しいねぇ」

 

「う、うん。餡と餅、それにイチゴの風味がバランスがいいね」

 

「確かにそうだね」

 

「うんうん」

 

一夏と本音、そして鷹月達はイチゴ大福を食べながらお茶を飲む。

 

【喜んでいただき大変嬉しいです! 餡や餅はご近所の餅屋から。イチゴは何時も御贔屓させてもらっている八百屋さんからいただきました。無論は調理したのは私です( ´∀` )】

 

プラカードでそう見せながらメサは持っていた急須で一夏の湯呑にお茶を注ぐ。

4人、特に一夏と本音ののほほんとした雰囲気にほんわかしながら見守る生徒達。

 

だが、そんな生徒達とは違い鋭い視線を送る2人の生徒が居た。

毎度お馴染みの自称幼馴染の箒と、チョロ過ぎお嬢様オルコットであった。

 

(キイイイィ!! どうしてあの3人は何時も一夏さんに簡単に近づけると言うのですの! わたくしが近付こうとしたらあのメサさんがフライパン片手に【坊ちゃまに近付くな、雌豚 凸( ̄ヘ ̄)】って、見せられて追い返されたというのに!)

 

(クソッ! なんであいつ等は何時も何時も一夏の傍に居るんだ! 其処に居ていいのは私だけだと言うのに! あのメサとか言う奴、【近付いたら千冬様を呼ぶぞ?(#・∀・)】と見せられて追い返されたというのに!)

 

ギリッと歯ぎしりをする箒と、ハンカチを噛み締めるオルコット。

すると

 

「ん? イッチー、お口に一杯粉ついてるよぉ」

 

「え?」

 

本音からの指摘に一夏は思わず手で口を触ろうとする。

 

「あぁ、手で触ると付くよぉ。ちょっと待ってねぇ」

 

そう言いながら本音はポケットからハンカチを取り出し一夏の口周りについている粉をとる。

 

「はい、これで良いよぉ」

 

「あ、ありがとう」

 

【本音様、ありがとうございます。(人∀`●)アリガトォ♪】

 

照れた表情でお礼を言う一夏と、エへへへ。と嬉しそうな顔をする本音。その光景に生徒達は

 

(((はぁあぁぁああぁ、癒やされるぅ)))

 

と心が浄化されるような気分になっていた。するとその光景を見て我慢が出来なくなったのか、セシリアが突然机に手を叩きつけながら立ち上がる。

 

「もう、我慢できません! 布仏さん、貴方に決闘を申し込みますわ!」

 

突然の宣言にクラスメイト達は呆けた顔を浮かべていた。

 

「どうしたのよ、オルコットさん。急に決闘だなんて」

 

「申したくもなりますわ! 皆さんはあの光景を見て羨まじゃなくて、可笑しいと思いませんの! クラスの代表と副代表があんな風にしているのが!」

 

「「「「いや、別に。むしろ癒されるからOK」」」」

 

セシリアの言葉に対し生徒達は間髪入れずに全然問題無しと答える。うぐぐぐ。と唸るセシリア。すると

 

「廊下にまで聞こえる程ギャーギャーと喚くな、オルコット」

 

そう言いながら入って来たのは千冬と真耶であった。

 

「それでオルコット。先ほどの決闘の件だが、許可してやろう。山田先生、確か今日第2アリーナが空いているよな?」

 

「えっと、はい。セキュリティー強化と設備の修繕が終わっているので使用は可能です」

 

「なら使用出来る様予約を取っておいてくれ」

 

分かりました。と言い真耶はタブレット端末を取り出してアリーナの予約を取る。

 

「さて、布仏」

 

「はい、何ですかぁ?」

 

「奴は決闘を望んでいる。“全力”でやれ。出し惜しみは無しだ」

 

千冬の言葉に本音は一瞬疑問を浮かべる様な表情を浮かべるも、その意味を理解したのかニパーと笑みを浮かべる。

 

「分かりましたぁ!“全力”でいきまぁす!」

 

そう言いながら両手を上げる本音。

 

「うむ。では、セシリアが勝ったら副代表。布仏が勝ったらそのままで。試合は今日の放課後に行う。では全員席に「待って下さい、千冬さ」フンッ!」

 

説明を終え席に着くよう指示する千冬に声を上げる箒。だが毎度の如く呼び方を間違えた為に出席簿を投げつけられ、痛みから蹲る。

 

「織斑先生だ、馬鹿者。それでなんだ?」

 

「わ、私も参加し「却下だ」ど、どうしてですか!?」

 

「当たり前だ。お前は織斑に接近を禁止している。そんな奴を決闘に参加させる訳無いだろうが」

 

そう睨みながら言う千冬。千冬に睨まれた箒は歯を噛み締めながら悔しがることしか出来なかった。

 

 

そしてそれから時間が経ち放課後。

第2アリーナにて1組の生徒達や何処からか聞いたのか他のクラスの生徒達も観客席に座って見学していた。

そんな中一夏は本音が居るピットに居た。

 

「本音さん、それでどのスーツで行くの?」

 

「セッシーは遠距離戦が得意だから、遠距離と近距離が得意な『カリス』を使うよぉ」

 

「そっかぁ。その、頑張ってください」

 

「うん、任せてぇ!」

 

一夏の声援を受けながら本音はイージスベルトを腰に巻き、ライダーパスを右手に持つ。

 

『それでは試合を開始しますので、選手はアリーナに出て下さい』

 

そうアナウンスが流れると、本音は腰のカリスのボタンを押す。

 

「変身!」

 

【変身 カリス!】

 

カリスに変身した本音はそのままアリーナへと続く扉を抜け外へと出る。

 

「ちょっ、ちょっと布仏さん!? 貴女のスーツは白黒の物ではありませんでしたのっ?」

 

ピットから出てきたカリスの姿にセシリアは驚きの表情を浮かべながら叫んでいると、放送が入る。

 

『布仏の持っているベルトはPEC社特製の物で、4つのスーツを内蔵した特殊なベルトだ』

 

「そ、そんな…。そ、それでは此方が不利ではありませんか!」

 

『馬鹿者。布仏のベルトはISではない。それに貴様は決闘を申し込んだんだろうが。そんな細かい事でいちいち喚くな』

 

千冬の説教にぐうの音も出なくなり、セシリアは仕方なく目の前の本音に意識をしっかり向ける。

 

『ではこれより試合を開始します。カウント! 3…2…1…試合開始!』

 

真耶の試合開始の合図と共にセシリアは空高く上がりライフルを構える。

 

「一瞬で勝負を決めますわ!」

 

そう叫びながらセシリアは狙いを素早く本音に向け撃ち放つ。

本音はその攻撃に慌てることなく素早くカードホルダーからハートの8が書かれたカードを素早くカリスアローに付けたラウザーに通す。

 

リフレクト

 

とラウザーから聞こえると同時にセシリアが放ったビームが命中する。

 

セシリアは内心やった!と思い喜んでいた。だが白煙の中から突然自分が放ったビームが帰ってきた瞬間、我が目を疑いながら回避軌道をとる。

 

(どうしてですの!? 何故私のビームが帰って来たというのですの!)

 

セシリアはそう内心驚きでいっぱいであった。

本音がカードホルダーから出したハートの8のカード【リフレクトモス】は、自身の体にシールドを纏いあらゆる攻撃を防ぐ。更にこのカードの特徴として、受けた攻撃をそのまま相手に向かって返す効果も持っているのだ。

そんな事も知らないセシリアは驚きながらもビームを放つが、攻撃は全て跳ね返されてしまう。

その間にも本音は次のカードを取り出していた。

 

(えっとぉ、確かハートの5と6で必殺技が出せるんだっけぇ)

 

本音は渡された説明書に書かれていた必殺技の出し方を思い出しながら5と6のカードを取り出してラウザーに通す。

 

ドリルシ

トルネード

スピニングアタック!

 

ラウザーからそう聞こえると同時に本音の体は突如風を纏い始め空高く上がり始める。

突然の事にセシリアや観客席に居た生徒達は驚きの目で見つめ、管制室に居た真耶も驚いた表情を浮かべる。

 

「の、布仏さんが飛びました!?」

 

「見たら分かる。恐らく終わりにさせるんだろう」

 

後ろに居た千冬がそう言いニンマリと笑みを浮かべる。

 

(オルコット、お前は自分の腕に過信し過ぎだ。あの2人(一夏と本音)がどれ程訓練をしていたか知らない貴様に勝ち目など最初から無い)

 

 

 

その頃空高く舞い上がった本音は、終わらせるべくセシリアに狙いをつけていた。

 

「そろそろ終わらせるよぉ!」

 

そう叫びながら本音は蹴りの体勢に入る。

 

「そう簡単に終わらせませんわ!」

 

セシリアもそう叫びながらビットを展開して本音に向かって放つも、攻撃は全て竜巻によって遮られる。そして

 

「ライダーーー、キィック!!」

 

本音はそう叫び声を上げて竜巻を纏いながらきりもみ状態でセシリアに向かって蹴りを放つ。セシリアは避けようともせずビームで攻撃し続けるも、すべて弾かれそのままキックを受け大きく後方に飛んでいく。

 

「ぐほぉっ!!????!!」

 

大きく飛んだセシリアはそのまま後方にあった壁に激突し、ISを強制解除され気を失ってしまう。

 

『其処まで! オルコットさんが戦闘不可となった為、勝者は布仏さんです!』

 

そうアナウンスが流れると、観客席から盛大な拍手が送られた。

 

本音はイェーイ!とブイブイと見せた後ピットへと戻って行った。

こうして副代表を賭けた決闘は幕を閉じた。




次回予告
副代表を掛けた決闘から数日後、一夏は何時もお昼を一緒にとってくれる本音達に少しでもお礼が返せたらなと、家庭科室で料理を作り始める。
その頃アリーナでは鈴とセシリア、そしてボーデヴィッヒが喧嘩をしていた。

次回
仲裁~よし、全員ぶちのめすか~


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11話

クラスの副代表を掛けた決闘からはや数日が経ち、一夏の隣には何時もと変わらず本音や相川達が居り、共にお菓子を食べたり談笑したりと楽しんでいた。

一方でオルコットはと言うと、あの決闘での勝敗に納得できず再度決闘を申し込んだが、千冬から

 

「何度挑んでも結果は変わらんと思うぞ。それより貴様、此処最近成績が落ちているだろが。決闘なんか申し込んでいる暇があるなら、補習時間に当てた方がお前の為になる」

 

と睨まれたながら告げられ、絶望的な表情を浮かべるセシリアであった。。

 

 

さて、そんな一夏はと言うとメサと共にとある場所へと向かっていた。

 

「えっと、お姉ちゃんに教えてもらった場所は…」

 

【あ、坊ちゃま。此処みたいですよ('ω')ノ】

 

そうメサがプラカードを見せると、一夏は顔を上げ表札を見る。其処には

 

[家庭科室]

 

と書かれていた。

 

「あ、此処だったんだ」

 

【その様ですね。では鍵を早速】

 

そう言いメサは何処からともなくタグ付きの鍵を扉に挿してロックを解除する。そして二人は中へと入って行く。

中には調理実習の机などが並んでおり、フライパンなど調理道具が色々と置かれていた。

一夏は一つの机に着くと背負っていたカバンからエプロンと三角巾を取り出し身に付けて行く。

メサは自身のお腹についている冷蔵庫から色々な材料を取り出しては机の上に置いて行く。

 

【坊ちゃま、全ての材料を出し終えました】

 

「あ、ありがとうございます。それじゃあ始めましょうか」

 

そう言い一夏はメサが出した材料を手に取っていく。

それから暫くして

 

「で、出来た」

 

そう呟く一夏の前には色とりどりのクッキーが詰まった袋があり、中には普通のクッキーからジャム、レーズン入り、チョコと多種多様だった。

 

「ほ、本音さん達喜んでくれるかな?」

 

【無論喜んで下さりますよ! なんたって坊ちゃまが手作りされたクッキーでございます。わたくしでしたらヒャッハー!!(≧▽≦)しながら喜びます】

 

メサのプラカードに一夏は苦笑いを浮かべながら小分けにした袋をカバンの中に仕舞って行く。

 

(何かと本音さんや相川さん達に色々お世話にもなってるし、迷惑かけたかもしれないから、お礼にと思ってクッキーを焼いたけど、喜んでくれるかな?)

 

一夏はそんな心配を抱えながら道具などを元あった場所に戻し、家庭科室から出て行く。

家庭科室から出て暫く歩いていると生徒達がざわざわと慌てた様子で走り回っていた。

 

「ど、どうしたんでしょうか?」

 

【さぁ? 何かあったのでしょうか?(。´・ω・)?】

 

一夏とメサは首を傾げつつも寮へと向かって足を向けていると、同じクラスの夜竹と谷本が困惑した表情で話し合っていた。

すると2人は一夏に気付きおぉ~いと声を上げながら手招きをする。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「うん、実はさっきアリーナで喧嘩があったらしいの」

 

「で、聞いた話じゃウチのクラスに転入してきたボーデヴィッヒさんが当事者だって聞いてね。もしかしたら織斑君が巻き込まれたんじゃッて話し合ってたの」

 

「そ、そう、でしたか。あの、僕は大丈夫です。さっきまで家庭科室に居たので」

 

「家庭科室? どうしてまた?」

 

「あの、その……」

 

夜竹の問いに一夏は照れた表情を浮かべ、あうぅぅ。と黙り込んでしまう。

 

【日頃から坊ちゃまに付き添って下さる布仏様達にお菓子を作ってあげていたのです。(・∀・)】

 

「あ、そうだったの」

 

「良かったぁ」

 

2人はホッと一安心していると、メサが2つの小さな小袋を差し出す。

 

「これは?」

 

【坊ちゃまが御作りになられたお菓子の材料の余りで作ったお菓子でございます。クラスメイトとして坊ちゃまの事を心配してくださったお二人に対する私からのささやかなお礼の品でございます】

 

そうプラカードを見せられ二人は、それはどうも。とお礼しつつ小袋を受け取る2人。

 

「そ、それじゃあ僕、部屋に戻ります」

 

「あ、うん。また明日ね」

 

「ばいばい、織斑君」

 

そう言い4人は其処で別れ、一夏達は寮へと帰って行き残った夜竹と谷本はメサから手渡された袋の口を開けさっそくお菓子を口にした瞬間、そのうまさに心の中にあった何かが折れたような感覚を受けながら両ひざが自然と崩れ落ちた。

 

さて、夜竹と谷本が話していた喧嘩。これは一夏とメサが家庭科室で料理を作り始めるころまで時間が遡る。

 

~第1アリーナ~

この日、第一アリーナには珍しく鳳とセシリアが対峙していた。双方が何故対峙しているか、その訳は

 

「なんで、アンタの成績上げの勉強にアタシまで巻き込まれなきゃいけないのよ! 一夏に会いに行く時間が減ったじゃないの!」

 

「そんな事知りませんわ! わたくしも鬱憤が溜まっておりますわ!」

 

そう、実はセシリアのみならず鈴も千冬の補習授業を受けさせられていたのだ。

鈴も此処最近成績が落ち始めており、2組の担任がどうしたものかと悩んでいた時に千冬に相談した結果、セシリアとの合同補習授業に強制参加させられたのだ。

結果、2人は一夏に会いに行く(ストーキング)する時間が大幅に減り鬱憤が溜まりに溜まり、偶々その鬱憤を晴らそうとアリーナに来た所二人共同じ考えだったのかアリーナで鉢合わせになり鬱憤が爆発、模擬戦となったのだ。

 

「思いっ切り本気でやってやる!」

 

「それは此方もですわ!」

 

2人はそう叫び戦おうとした瞬間、2人の間にキャノンが撃ち込まれた。2人は撃たれた方に顔を向けるとキャノンを二人に向けるボーデヴィッヒが居た。

 

「なによ、いきなり!」

 

「そうですわ! 突然何なんですの!」

 

「お前達が戦おうとしていたから私も交ざろうとしただけだ」

 

「だからっていきなり攻撃するのは可笑しいでしょうが!」

 

「ふん、戦場では何時何処から攻撃されるか分からない。だからお前達に教えてやったんだ」

 

嘲笑しながら二人に告げるボーデヴィッヒに鈴とオルコットは怒りの表情を浮かべ武器を構えようとした瞬間

 

何をしている、貴様らぁ

 

とドスの利いた声が響き、3人はガタガタと震えながら声のした方に顔を向けると殺気全開の千冬が其処に立っていた。

 

「とりあえず貴様等、ISから降りろ」

 

千冬の命令に3人はすぐさまISを解除する。そして3人の前に千冬は威圧感を放ちながら立つ。

 

「もう一度聞くぞ、何をしていた?」

 

「あ、あの、その…」

 

「か、彼女と、も、模擬戦をしようとしたら、彼女が急に絡んできて…」

 

「わ、私は模擬戦に交ざろうとしただけで…」

 

千冬からの問いにオルコットは上手く話せず、代わりに鈴が説明しボーデヴィッヒも答える。

 

「なるほど。で、貴様らは模擬戦の許可はとっているのか?」

 

「わ、私は管制室にちゃんと言いました」

 

「そうか。で、貴様は?」

 

鈴は許可を取ったと言うと、千冬は鈴からボーデヴィッヒの方に目線を向ける。その視線にボーデヴィッヒは体を振るわせながら口を開く。

 

「と、取っておりません」

 

「ほぉう。許可なく交ざろうとしたか」

 

威圧する千冬に3人は恐怖から身を強張らせながらジッと固まる。

 

「さて、本来模擬戦は許可ある者だけが行える。途中参加する場合、模擬戦が終わるまで待機し終了後管制室に居る教師に許可を貰わねばならない。規則にはそう書いてあったはずだよなぁ、貴様ら?」

 

「「「は、はい」」」

 

「それで、貴様等は2人しか申請していないにも関わらず3人で模擬戦をしようとした。違うか?」

 

「そ、それは…」

 

「まぁいい。規則違反で貴様等全員をぶちのめせばいいんだからな」

 

「「「え゛っ!?」」」

 

千冬から告げられた宣告に3人は顔面真っ青になる。

 

「が、今回鳳とオルコットは巻き込まれたとして軽い罰則で済ませてやる」

 

そう言い千冬は何処からともなく出席簿を取り出し鈴とオルコットの頭をしばく。

 

「あだっ!?」

 

「ギャン!??」

 

千冬からの仕置きに2人はしばかれた頭を抑えながら蹲る。そして千冬はボーデヴィッヒの方に顔を向ける。

 

「ボーデヴィッヒ、貴様は反省房行きだ」

 

「な、何故自分だけ反省房行きなのですか!?」

 

「当たり前だ。貴様、こいつらが模擬戦をしようとした所に攻撃したらしいじゃないか」

 

「そ、それは…」

 

「言い訳は不要だ。大人しく拘束されろ」

 

「で、ですが!「反抗するか。宜しい、ならば強硬手段だ」えっ、どうガハッ!!??」

 

言い訳を続けようとするボーデヴィッヒに、千冬はボーデヴィッヒの鳩尾に思いっきり拳を叩き込む。ボーデヴィッヒは突然の激痛に前のめりで倒れて行き、ピクピクと痙攣をおこす。

2人はガクガクと震えそっと千冬の顔を見るが、その顔は真顔でボーデヴィッヒを見下ろしていた。そして2人の視線に気付いたのか、目だけをギロッと向ける。

 

「「ヒッ!?」」

 

悲鳴を上げる2人に千冬は何もすることなく倒れているボーデヴィッヒの首根っこを掴むと引き摺りながらピットに繋がる扉へと向かっていく。千冬が去った後、オルコットと鈴は暫しその場から動けずにいたのだった。

 

因みに千冬に連れて行かれたボーデヴィッヒは反省房に叩き込まれ(物理)、暫くその姿を見たものは居なかった。




次回予告
何時もと変わらず本音達と談笑する一夏。そんな中にデュノアが混ざってくる。
デュノアに対し不信感を持つ一夏に本音はそっと相談に乗る。

次回
本音のお悩み相談~イッチーのお悩みを解決だぁ!~


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12話

アリーナでの喧嘩未遂事件から数日が経ったる日。

 

「では諸君、本日のSHRを始める。まず初めに、今度行われる学年別トーナメント戦なんだが、内容が変更された為知らせる」

 

千冬からの報告に生徒達は首を傾げながら隣に座っているクラスメイト達の顔を見合わせる。

 

「織斑先生、それで変更というのはどんなものなんですか?」

 

「うむ。今年から試合の方式を変え、タッグマッチでのトーナメント戦となる事が決まった。変更する理由は今年は第3世代型のISを持った代表候補生が多い為、データ収集と次のモンドグロッソで実際にタッグマッチの試合形式は使えるかどうかの見極めの為だ」

 

「そ、そうなんですか」

 

千冬からの説明に生徒達は驚きと若干興奮した様子を見せる。

次回のモンドグロッソに組み込まれるかもしれない試合形式に自分達が先行して参加できるのだ。

だからこそ生徒達は興奮が抑えきれず隣の生徒達と私語を始めてしまう。

その様子に千冬はパンパンと手を強くたたく。

 

「静かにしろ! タッグマッチのルールについては後日詳細の書かれた書類を配る為、それまでに誰と組むかよく考えて話し合っておくように。それと、当日までにタッグが決まらなかった場合は抽選で決まる為注意するように。ではSHRは以上とする。織斑挨拶を」

 

「は、はい。起立、礼、着席」

 

一夏の号令に生徒達は挨拶すると、千冬達も同様に一礼した後教室から出て行く。2人が出て行った後生徒達は千冬が言っていたタッグマッチの事を話題に談笑を始め、一夏も本音と相川達と同様の話題で談笑をしていた。

 

「いやぁ、楽しみだねぇタッグマッチ戦」

 

「そうだね。織斑君は本音と出るの?」

 

「ま、まだどうするかは…」

 

「私もちょっとお悩み中~」

 

「そっかぁ。まぁ、まだ希望票は配られてないし、その時までに考えたらいいもんね」

 

そう談笑する4人。すると

 

「ちょっといいかな?」

 

と笑顔を浮かべながら近付いてくるデュノア。相川と鷹月はいいよいいよ。と笑顔で答えるが、一夏は以前と同様に若干警戒した様子を見せ本音はその姿に首を傾げつつもその様子を見守る。

 

「それでどうかしたの、デュノア君?」

 

「うん、織斑君に用があってね」

 

「な、何でしょうか?」

 

「朝先生が言ってたタッグマッチの事なんだけど、よかったら僕と組まないかな?」

 

突然のタッグの申し込みに相川や鷹月達は少し驚いた表情を浮かべていた。

 

「あ、あの、すいません。まだ、悩んでいるので…」

 

「でも早めに決めておいた方がいいと僕は思うんだ。タッグとなったら一緒に連携の練習やらいろいろあるし」

 

そう言い食い下がるデュノア。デュノアの様子を見つめていた本音は、デュノアの必死な様子に疑問を浮かべながらも、これ以上は一夏の迷惑になると思い口を開く。

 

「ディッチー、そろそろ授業が始まるし席戻った方がいいと思うよぉ」

 

「えっ? で、でもッ!? わ、わかったよ。戻るね」

 

そう言いデュノアは足早に自分の席へと戻って行った。その時デュノアの顔は真っ青に染まっていた。

相川と鷹月は気付いていなかったが、本音と一夏はどうして青くなったんだろうと思い首を傾げいた。

 

 

 

デュノアが顔を青くさせた理由、それは

 

【さっさと自分の席に戻れ。コロコロされたいのか?(#・∀・)】

 

と扉の窓からプラカードを見せるメサが居たからである。

その後も何度かデュノアは一夏の所に行こうとしたが、扉の窓から覗くメサから睨まれすごすごと引き返すのであった。

そしてお昼休み。

一夏は何時もと変わらずお弁当をカバンから取り出し席から立ち上がると、

 

「あ、イッチーちょっと待ってぇ」

 

隣の本音は一夏にそう言うと相川達の元に駆け寄って行く。

 

「きよきよぉ。私とイッチーで場所取ってくるから、お弁当お願いしても良いぃ?」

 

「別に良いわよ。何時もの日替わり花丸弁当で良いのよね?」

 

「うん。じゃあ宜しくぅ」

 

そう言い本音は一夏の元に戻り、一緒に教室から出て行く。

 

2人と一体は人が余り集まっていないベンチを探し、木洩れ日が差し込んでいるベンチを見つけ其処に座る2人。

座って暫くするとそっと本音が口を開く。

 

「ねぇねぇイッチー」

 

「は、はい、何でしょうか?」

 

「今からお悩み相談しようと思いまぁす!」

 

「はい?」

 

突然のお悩み相談しますと言う本音に一夏はコテンと首をかしげる。

 

「うん。ほら、朝デュッチーが話しかけてきた時なんか難しい顔浮かべてたじゃん。どうしたのかなぁと思っちゃってさぁ」

 

「そ、そうでしたか」

 

本音からの申し出に一夏はどうすべきだろうと暫し思案するのであった。そして暫くして一夏はデュノアに対して抱いていた疑問を零す。

 

「じ、実は、デュノアさんって本当に男の人なんだろうかって、思ってて」

 

「デュッチーがぁ? どうしてそう思ったのぉ?」

 

「その、あ、あの人の目が何か変というか、その、僕を見る目が何か怖いんです」

 

そう言う一夏は少し怯えた表情を浮かべ、本音はそっかぁ。と零しながらギュッと一夏の手を握りしめる。

 

「大丈夫だよぉ、イッチー。話してくれてありがとうね」

 

そう優しく声を掛けると、一夏はコクリと頷く。

それから暫くして相川達がやってきてお昼を食べるのであった。

その日の夕方。本音は寮の自分の部屋である考え事をしていた。

 

(お昼頃にイッチーから聞いた事。調べた方がいいかなぁ)

 

そう思いながらトッポをポリポリと食べる本音。暫くトッポを口にしていた本音はふとある事を思い出す。

 

(そう言えばディッチーが初めて教室に来た時も織斑先生、なんか鋭い目でディッチーの事見てたようなぁ。うぅ~ん、明日織斑先生に相談してみよぉっと)

 

そう思い本音は残ったトッポを食べ切り鞄に明日使うノートや教科書を入れるのであった。




次回予告
翌日も一夏にタッグを申し込んでくるデュノア。本音は其処まで頑なにタッグを組もうとするデュノアに一夏の相談の事を含め疑問を抱き千冬に相談に向かう。

次回
疑念


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13話

次の日、本音と一夏は何時もと変わらず教室へと入って来て教科書などを机へと仕舞っていた。

すると

 

「おはよう二人共」

 

と一夏に声を掛けてきたのは、デュノアであった。一夏はまたあれなのかな?と思い若干嫌そうな顔を浮かべる。

 

「お、おはよう、ございます」

 

「うん、おはよう! それで、そのさ。昨日の件どうかな?」

 

「あの、まだ、悩んでいるので、その…」

 

「けど、もうタッグを組み始めている生徒もいるみたいだしさ。早めの方がいいよ。だからさ、僕達も《ジャキッ》え?…ヒッ!?」

 

デュノアの目の前にはチェーンソーが向けられていた。無論誰が向けたか言わずもがな

 

【貴様、よっぽど死にたいらしいなぁ。冥土に送ってやろうかぁ? あぁ?(゚Д゚#)】

 

怒気迫るメサにデュノアは顔を真っ青に染め上げながら「ご、ごめんなさぁい!」と叫びながら自分の席へと足早に戻って行った。

 

デュノアが自分の席へと戻って行くと一夏の表情は幾分か良くなり、メサも【大丈夫ですか、坊ちゃま? (;´Д`)】と心配そうに傍に寄り添っていた。

 

隣にいた本音も心配した表情を浮かべながら昨日考えていた事を思い返す。

 

(やっぱり織斑先生に一回相談した方がいいかなぁ。このままだとイッチーが可哀想だし)

 

 

 

~放課後~

 

「――ではSHRを終える。織斑、挨拶を」

 

「は、はい。起立、礼」

 

「「「「ありがとうございました!」」」」

 

一夏の号令と共に生徒達は一礼をし終えると談笑を始めたり、部活動に向かう。一夏もカバンに教科書を仕舞い席を立ちあがる。

 

「あ、イッチー。ごめん、先に帰っててくれる?」

 

「え、あ、はい。その、どうしたんですか?」

 

「今日の授業で分からないところがあってさぁ、ちょっと聞きに行こうと思ってねぇ」

 

「そ、そうですか。それじゃあ先に帰っていますね」

 

【ではお先に失礼します (・ω・)ノシシ~】

 

一夏とメサは本音にさようならと言いそのまま教室から出て行った。

二人を見送った本音はカバンを持って千冬の元に向かって行った。

 

廊下に出て千冬の後を追うべく、足早に歩く本音。

すると廊下の曲がり角から丁度千冬が曲がり出てきた。

 

「あ、織斑先生ぇ」

 

「む、布仏か。どうかしたか?」

 

「ちょっと、イッチーの事でご相談したことがありましてぇ」

 

「織斑の事で? 分かった、ついて来い」

 

一夏の事で相談と言われ、怪訝そうな顔付を浮かべた千冬。そしてそのまま本音を引き連れ、近くにあった空き教室の中へと入る。

 

「それで織斑の事で相談とはどのような事だ?」

 

「えっと、実は―――」

 

本音は一夏が悩んでいた事を千冬へと告げた。デュノアからの視線、最近のデュノアの行動などすべてを。

それを黙って聞いていた千冬は本音の話を聞くにつれ、眉間にしわが寄り険しい表情を浮かべて行く。

 

「――という事なんです」

 

「なるほど、事情は分かった。…布仏」

 

「なんでしょうか?」

 

「今から言う事は他言無用だ。いいな?」

 

鋭い眼光と圧を放ってくる千冬に、本音はは、はい。と震えながら答える。

 

「私は奴を女だと思っている」

 

「えっ? ほ、本当なんですか?」

 

「恐らくな。服の厚みなどでわかりずらいが、胸の厚みが通常の男性よりも厚いんだ。それに一見平気そうに見えているが、奴の呼吸が若干苦しそうにしているのが何度か見た事があるんだ。その為奴は胸を何かしらの方法で圧迫して胸を小さくしていると考えている」

 

千冬はそう言い、腕を組みながら窓枠にもたれ掛かる。本音は千冬の話に茫然と言った表情を浮かべていた。

 

「布仏。もし奴が女だった場合、何で女性ではなく男性に変装までして此処に入学してきたと思う?」

 

「え? …ッ!? イッチーのISを盗む為?」

 

「もしくはそのデータだろう。織斑と同じ男なら警戒される事なく近づけると思った為変装したんだろう」

 

「そ、それじゃあどうしてディッチーを拘束しないんですか?」

 

「先程私が言ったのはあくまで私の見解で、証拠としては不十分だ」

 

「そ、そんなぁ」

 

千冬の言葉に本音はガックシと首を落とす。

 

「だが、一つだけ奴の証拠をつかむ方法が有る」

 

「え? そうなんですか?」

 

「あぁ。だが、これは布仏の協力が無ければ無理な事だ。頼めるか?」

 

「……私で出来る事ならいいですけどぉ」

 

その言葉に千冬は申し訳ない。と一言言い、その方法を説明し始めた。

 

「―――という事だ。やってくれるか?」

 

「分かりました。イッチーの為、頑張ります」

 

そう言い本音は教室から出て行った。一人残った千冬ははぁ。と深い息を吐く。

 

「私は酷い教師だな。生徒にこんなことを頼むなんてな」

 

そう自虐しながら教室から出て行った。




次回予告

相談事をした翌日、千冬に頼まれた事を実行する本音。
その頃一夏はアリーナにてMr.kと対峙していた。

次回
一夏対Mr.k


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14話

本音が千冬に相談した次の日の放課後

 

「そ、それじゃあ本音さん、また、明日」

 

「うん、また明日ぁ。あ、社長さんによろしくいっと言ってぇ」

 

「う、うん」

 

そう言い一夏はカバンを背負い教室から出て行く。無論その後にメサも続いて。

一夏は昨日突如Mr.Kから電話がかかってきて、その内容が

 

『明日織斑君の実力を少し身をもって拝見したいので、お伺いしてもよろしいですか?』

 

と聞かれた為、大丈夫です。と一夏は答えMr.Kに逢いに行ったのだ。

 

一夏が出て行った後本音もカバンに教科書などを仕舞い終え出ようとすると

 

「あの、布仏さん。ちょっといいかな?」

 

「なに、デュッチー?」

 

と申し訳なさそうな顔で声を掛けてきたのはデュノアであった。

 

「織斑君は何処に行ったのかな?」

 

「イッチーだったら今日は企業の人が来るから逢いに行ったよぉ」

 

「え、そ、そうな? そっか。ありがとうね」

 

そう言いデュノアは肩を落としながら教室から出て行った。デュノアが出て行った後、本音も教室から出て行った。

 

 

人気のない廊下、デュノアは重いため息を吐きながら歩いていた。

 

「はぁ~、今日も駄目だったかぁ。織斑君の所のロボットもそうだけど最近皆からも、ちょっとやりすぎじゃない?って言われ始めたしどうしよぉ」

 

そう零しながらまた重いため息を吐く。

すると視線の端に女性用トイレが映り暫し立ち止まる。そして周囲を見渡し人が誰もいない事を確認しその中へとそっと入って行く。

そっと中に入り人が居ない事を確認したデュノアは空いているトイレに入る。

 

「はぁ~、この格好でいるとなかなかトイレに行けないのが難点なんだよなぁ。下手に休憩時間にトイレに行けないから辛いよぉ」

 

そう零すデュノア。

 

「織斑君からISデータを盗めっていきなり命令されても、そんなの無茶に決まってるのに。あの織斑先生が傍に居る上に護衛のロボが居るから盗むなんて無理に決まってるじゃん。……はぁ~」

 

デュノアはまた溜息を吐いた後、トイレから出てトボトボと寮へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、デュッチーはスパイだったんだぁ。織斑先生に早速報告しに行こっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

同じくトイレから出てきた本音に気付かずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃アリーナには一夏がバレットホークを身に纏った状態で立っており、向かいには隷汽・ファントムフォームを纏ったMr.Kが居た。

 

「それじゃ一夏君、全力が掛かって来てください」

 

「わ、分かりました。行きます!」

 

そう言い一夏は手にしていたライフルで隷汽に向かって引き金を引く。弾丸は真っ直ぐに隷汽の方に向かうも

 

「はっ!」

 

と隷汽はまるで弾丸が見えているかのようにその場から避けながらガシャンコバグヴァイザーをビームガンモードに変形させ一夏に向け撃つ。

迫ってくるビーム弾に一夏はスラスターで回避運動を取りつつ躱す。

 

〈ISとは違うパワードスーツだけど、落ち着いて行きなさいよ〉

 

「うん、取り合えず弾をばら撒きながらって、うぇえ!?」

 

アイラと話していた一夏の目に映ったのは

 

複数の隷汽が何時の間にか出現し、弾丸を避けながら迫って来ていたのだ。

 

「「「「驚いている暇はないよ、一夏君!」」」」

 

「〈なんで、複数いるんですかぁ!?」のよぉ!?〉

 

何時の間に増えた隷汽に一夏はサブアームに装備させたライフルで個々に撃つが、ひょいひょいと避けられる。

 

「あわわわ、ど、どれが本物ぉ!?」

 

〈チッ! 一夏、複数相手には接近戦は酷よ! 後ろに引きながら撃つのよ!〉

 

「わ、分かった」

 

アイラの指示に一夏は後ろにホバー移動で後ろに下がりつつ迫ってくる隷汽に攻撃を繰り返す。

 

「なるほど。確かに確かに複数の敵に対し、後ろに下がりながらの攻撃は良い手段だ。けど一夏君、遠近別れた相手に対してはどう出る!」

 

そうMr.Kが言うと2体ほどの隷汽が突如動きを止めビーム弾を放つ。一夏はそれを避けながら攻撃をするも、避けたりすることでスピードが落ち始め、一気に接近する2体の隷汽。

接近してきた隷汽はガシャンコバグヴァイザーをビームガンモードからチェーンソーモードに変更し斬りかかる。迫って来た隷汽一夏は直ぐに手に持っていたライフルを仕舞い、バタリングラムを取り出しその攻撃を防ぐ。

チェーンソーとバタリングがぶつかり合い激しい火花が飛び散る。

 

「良く防いだね。けど、私だけ集中して良いのかな?」

 

「えっ? ッ!?」

 

真正面から来た隷汽に意識を注いでいた一夏。Mr.Kの指摘に、何時の間にか背後に周っていたもう一体の隷汽に気付くも既にチェーンソーを振り下ろしてきていた。

アイラはサブアームが持っていたライフルを迫って来た隷汽に向け投げる。投げられてきたライフルを隷汽は驚くことなくチェーンソーで斬り捨てる。

この一瞬の隙を一夏は見逃さず、すぐさま空いたサブアームに武器を出すと迫っていた隷汽に向け武器を振る。

 

「おっと! その武器も結構使い慣れ始めているようだね」

 

Mr.Kはそう言い一夏が取り出した武器、デンガッシャーのソードモードの使い方を褒める。

 

「い、一生懸命練習しましたから」

 

「そうですか。では次の一撃で勝負を決めましょう」

 

そう言いMr.Kは自身で作った幻を消し去り、チェーンソーモードになっているガシャンコバグヴァイザーのBボタンを押す。するとチェーンソーに青黒いエネルギーが纏い始め、一夏とアイラは一気に警戒心を上げる。

 

〈一夏、流石にあれを受けるのは不味いわよ〉

 

「う、うん。どうしたらいい?」

 

〈放たれる前に攻撃するに決まってるでしょ!〉

 

そう言われ一夏は片手にバタリングラムを持ちながらもう片方の手でライフルを構え、更にサブアームのライフルも隷汽に向け引き金を引く。放たれた弾丸は真っ直ぐに隷汽に向かうが、隷汽は焦った様子を見せずチェーンソーに纏った青黒い丸鋸状のエネルギー刃を一夏に向け放った。

放たれたエネルギー刃は一夏が放った弾丸を全て溶かし、一夏に迫る。

 

「ッ!? モードチェンジ、ガンモード!」

 

一夏は咄嗟にサブアームが持っていたデンガッシャーをソードモードからガンモードに変更し迫るエネルギー刃に向け撃つが、エネルギー刃は止まることなく一夏の目の前まで迫ってきた為一夏はバタリングラムで防ぐも大きく後方にはじき飛ばされた。

 

「あうぅう!?」

 

「おっと、抑えたつもりでしたがまだ強かったですか。大丈夫ですか、一夏君?」

 

「あ、はい。大丈夫、です」

 

そう言いながら一夏は駆け寄って来たMr.Kの差し出された手を掴みとり立ち上がる。

 

「さて、それじゃあピットに戻りましょうか」

 

「は、はい」

 

はふぅ~と息を吐きながら一夏と、疲れた様子を見せる一夏にちょっとやり過ぎましたかね?と苦笑いを浮かべるMr.Kはピットへと向かって歩き始めた。




次回予告
翌日、一夏にどうやってタッグを組んでもらおうと考えるデュノア。
だが、そんな企みはガラガラと崩れ去るのであった。

次回
崩れさる願い


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15話

Mr.Kが来園した次の日。

学生が寮から教室へと向かおうと出てくる時間となり、寮部屋の前には大勢の生徒達がぞろぞろと出て来て教室へと向かう。

そんな中、デュノアも教室へと向かおうと部屋で準備をしていた。

 

(昨日は無理だったけど、今日こそは何とかしよう。と言っても、方法がなぁ…)

 

そう思いながらカバンに手を掛け部屋を出ようと扉に向かった瞬間、突如扉が開きぞろぞろと武装した教師達が入って来て、持っていた銃をデュノアに向ける。

そしてその後に続く様に腕を組んだ千冬が入ってくる。

 

「な、何ですかいきなり!?」

 

「デュノア。貴様には産業スパイの容疑が掛けられている。大人しく我々の指示に従え。従えない場合は武力行使で拘束する」

 

鋭い視線をデュノアに向ける千冬。その視線にデュノアは怯えながらも、千冬の伝えた産業スパイに関して反論する。

 

「ぼ、僕が産業スパイだなんて、そんな証拠何処に『「織斑君からISデータを盗めっていきなり命令されても、そんなの無茶に決まってるのに。』っ!?」

 

突如自身の声が響き驚きの表情を浮かべるデュノア。

ボイスレコーダーを握っていた千冬は停止ボタンを押す。

 

「これが証拠だ。それと、貴様にはもう一つ偽造文章でも容疑が掛けられている。何が偽造か、お前自身よぉく分かっているよな?」

 

嘘をついても、分かっているぞと言わんばかりの鋭い視線に、デュノアはブルブルと震える。

 

「行け」

 

ブルブルと震えるデュノアに、千冬は教師達に短くそう指示を出すと数人の教師がデュノアを取り囲み腕に手錠をかけ、更に所持していたISの待機形態を取り上げる。

そして教師に取り囲まれながら連行されるデュノア。廊下に出ると、教室へと向かおうとしていた生徒達が何事だと思いながら見ていた。

デュノアが連行される姿に生徒達は一体何がと隣にいた生徒とヒソヒソと話し合ったりする。デュノアは向けられる視線を少しでも避けようと顔を俯かせる。すると

 

「イッチー、教室行こ」

 

「う、うん」

 

そう声が聞こえ、そっと顔を上げると何時もよりも若干怯えた表情を浮かべた後背を向ける一夏と、冷めた目で自身を見た後一夏の後に続く本音の姿がいた。

二人の姿が見えなくなった後、デュノアはまた下に顔を向けるのであった。

 

 

 

 

 

 

『‥‥‥‥』

 

そんな中、連行されていくデュノアに興味心で向ける視線とは違い、明らかに侮蔑したような視線を向ける数人の生徒が居た事に周りにいた生徒、そして連行する教師達や千冬は気付く事は無かった。

 

 

 

~IS学園地下取調室~

教師達に連行され、手錠等をされ椅子に座らされたデュノアは目の前に座っている千冬に対し、視線をそらす。

 

「では、これより取り調べを行う。先に言っておくが、お前には黙秘権がある。だが、其処に置いてあるカメラで此処での会話等は全て記録されている。つまりお前の出方にによってはお前に不利となる証拠になる可能性もある為、その辺は重々考える様に」

 

そう言い千冬は十数枚ほどの紙の束を取り出し、それを見ながらデュノアに質問を投げる。

 

「お前の名前は?」

 

「しゃ、シャルル「本名を聞いている。偽名など聞いておらん」…シャルロット・デュノアです」

 

「では、この学園にはどういう理由で来た?」

 

「…知っているのに、聞くんですか?」

 

「何事も本人の口から確認するのが、一番良い。で、どう言う理由だ?」

 

「……織斑君から、ISデータを盗む為に、此処に来ました」

 

「では、何故性別を偽ってまで此処に来ようとした?」

 

「男性の方が、警戒される事なく近づけると言われたから、そうしました」

 

「誰の指示だ?」

 

「デュノア社の、社長です」

 

デュノアの口から、デュノア社の名前が出た瞬間千冬は鋭い眼光を更に鋭くさせる。

 

「たかだか一企業のみで出来るとは思えんが、本当に社長からか?」

 

「は、はい。ぼ、僕は社長からそう指示を受けました。無論政府にも協力者が居るとは思いますが、誰かまでは分かりません」

 

「そうか。それで、織斑からISデータを盗むよう指示を受けたのは貴様だけか?」

 

「え? ど、どういう意味ですか?」

 

突然お前以外にもそう指示を受けた者が居るんじゃないのか?と疑いを掛けられるデュノア。

 

「そのままの意味だ。素人のスパイを送ったところで失敗するのは明白だ。だが、他にも何人か送り込めばデータ位手に入る可能性は幾分か、上がるだろう。そして、お前が失敗してもバックアップがきく。で、どうなんだ?」

 

「そ、そんな事言われても、分かりませんよ! ぼ、僕はIS学園に入学して、織斑君からISデータを盗んでこれば、自由にすると脅されただけです! ほ、他にスパイをするよう言われた人なんて僕知りません! 知っていたら今此処で喋っていますよ!」

 

そう大声で叫ぶデュノア。千冬はその様子をジッと見つめながら、その腹の内を探ろうとする。しばしの沈黙が流れた後千冬が口を開く。

 

「理由は?」

 

「はい?」

 

「理由だ。何故知っていたら喋ると言った? 仮にもデュノア社社長の娘だろ?」

 

そう言われデュノアは社長の娘と聞いた瞬間、暗い面持ちとなり俯く。

 

「…僕の出生は、詳しく知らなかったんですね」

 

「なに?」

 

「僕は、社長の愛人の娘なんです」

 

そう言うと千冬の眉が若干上がる。そしてデュノアはぽつりぽつりと自身の出生を話し始めた。

現社長とデュノアの母親は元から付き合っていたが、会社を大きくする為に当時の政府高官の娘と結婚する為、社長は手切れ金とフランスの田舎に建てられたウッドハウスを渡し一方的に捨てたのだ。

暫くして母親が不治の病を患い、それから数日後息を引き取った。一人残ったシャルロットは一人何とか生活をしていた時に、社長に呼び出されスパイまがいの事をするよう脅迫されたのだ。

 

自身の出生を話し終えたデュノアは視線を下に落したまま黙り込む。そして千冬はと言うと

 

「話は分かった。だが、それで情状酌量される訳では無い」

 

そう言われ、はい。と小さく答えるデュノア。

 

「ではお前の今後だが、お前はデュノア社及びフランス政府が行った違法行為を知っている重要な証人だ。その為暫くは学園でお前の身柄を保護する」

 

「は、はぁ」

 

千冬の説明にデュノアは逮捕されない事に若干安堵しつつも、ある疑問が頭に浮かぶ。

 

「あ、あの、も、もし政府から身柄引き渡しの要求があった場合は?」

 

「ん? ……お前まさか、学生手帳の規則等読んでいないのか?」

 

「えっと、…はい」

 

デュノアの返答に、千冬は呆れたと言わんばかりにため息を吐く。

 

「お前なぁ。読んでいたら、お前は今此処に座らずに普通の女子生徒として通えていたんだぞ」

 

「えっ!? ど、どう言う事ですか?」

 

「はぁ~。学園は日本政府が運営しているが、実際此処は治外法権だ。その為他国の政府及び企業が生徒の身柄引き渡し等は特例を除き行っていない。この規則を知ったうえでスパイをしていると思っていたが、とんだマヌケだなお前」

 

千冬の説明にデュノアは絶句した表情となり、その後ガックシと肩を落とすのであった。

 

 

 

 

 

 

学園の一角にある薄暗く人が寄りつく気配もない倉庫。そんな倉庫に数人の生徒達が集まっていた。

 

「まさか夫人の言っていた通りになったね」

 

「そうね。まぁ、夫人もアイツ(デュノア)は捨て駒だから、貴方達が頼りよって言ってくれたし、私達だけでやるわよ」

 

「えぇ。これも全ては女性の為。神聖なISを穢す男など排除する」

 

そう言うと其処に集まっていた生徒達、そして数人の教師が頷く。




次回予告
デュノアが捕まり、騒然となるクラス。それから放課後となり一夏はメサと共に千冬に頼まれた書類を届けに行く。
そしてそれと同時に動く悪意。

次回
騒乱


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16話

デュノアが教師達に連行されていった事に、1組ではその話題で持ちきりであった。

 

「一体何があったんだろう?」

 

「分かんない。織斑先生結構殺気立ってたよね?」

 

「うん、何だったんだろう」

 

多くの生徒達が一体何が起きたんだろうと会話をしている中、一夏も隣の本音に話しかけていた。

 

「け、今朝の、一体何があったんでしょうか?」

 

「さぁ、一体何だったんだろうね?」

 

一夏はオドオドしながら本音に問うも、本音は分からないと言った表情で返す。

そうこうしていると、チャイムが鳴り響き生徒達は急いで自身の席へと付いて行く。

全員が席に着いたと同時に教室前の扉から真耶が入って来た。

 

「えぇ~ではSHRを始めたいと「あの、山田先生ぇ」なんですか、相川さん?」

 

「あの、デュノア君どうして織斑先生たちに連行されていったんですか?」

 

「……ごめんなさい。その事は今お話しする事が出来ないんです」

 

「どうしてですか?」

 

「色々と複雑な事情が絡み合っているので、ごめんなさい」

 

そう言われ相川は、「そ、そうですか」と返し席へと着く。そして真耶はSHRを始めるのであった。

 

真耶のSHR後も生徒達はデュノアが連行された理由を推論し合ったりして時間を潰す。

出てくる推論は、やれフランス政府が派遣したスパイや、やれ実はデュノア社の人間じゃなく別の会社の人間やら、実は男ではなく女だったなど的を射抜いている物だったり外れている物などが上がっていた。

 

そして1限目の授業開始時刻には千冬が戻って来て教卓に立つと、生徒から朝に真耶にしたように質問するが、千冬からは

 

「悪いが、お前達に説明する事は出来ん」

 

「複雑な事情、だからですか?」

 

「そうだ。余りにも複雑すぎる故、話す事は出来ん」

 

そう言い質問を切り上げた。

千冬からの返答に、生徒達はデュノアはそれほど重大な何かに巻き込まれたか、やらかしたのかと想像するのであった。

 

そしてその日の放課後、一夏は何時も通り本音と帰ろうと鞄に教科書を仕舞っていると、

 

「織斑、すまんが少しいいか?」

 

「は、はい。何でしょうか?」

 

「今日使った授業の資料を特別棟の資料倉庫に戻してきて欲しいんだ。本来は教師の仕事なんだが、生憎この後職員会議が入っていて私と山田先生も出なくてはならん。そう言う訳だから頼めるか?」

 

「わ、分かりました」

 

「すまんな。布仏、済まんがお前も手伝ってやってくれないか?」

 

千冬は隣の席の本音にもそう尋ねるが、本音は困った顔を浮かべる。

 

「すいません。実はお姉ちゃんから生徒会室に来るよう言われてて、今から行かないといけなんですぅ」

 

「む、そうか。そうなると、織斑一人に――」

 

「あの、僕、大丈夫です。メサさんと一緒にやれば出来るので大丈夫、です」

 

一夏は千冬にそう言うと、メサも任せなさいと言わんばかりに両腕を上げマッスルポーズを決める。

その姿に千冬はうぅ~ん。と少し悩んだ表情を浮かべた後、はぁ。とため息を吐く。

 

「分かった。それじゃあ済まんがメサと二人で資料を片付けて来てくれ」

 

「わ、分かりました」

 

そう言い一夏は鞄を背負い、教卓へと向かう。

教卓の上には使った資料が重ねておかれていた。一夏は重なっている資料を幾つか持つ。メサは残りの資料を持ち、一夏と共に教室から出て行く。

 

一夏達が教室から出て行き特別棟へと向かう後姿を数人の他クラスの女子生徒が見つめており、手にしていたスマホを耳に当てる。

 

「特別棟に行ったわ」

 

『分かった。後は任せて』

 

 

 

一夏とメサは千冬に言われた資料倉庫へと到着し、戸棚の中へと片付けて行く。

 

「えっと、これで終わり、ですか?」

 

【のようですね。では、戻りましょうか(∩´∀`)∩】

 

メサのプラカードに頷き、一夏とメサは資料倉庫から出ると6人の女子生徒が待ち伏せる様に立っていた。一夏は怯えた表情を浮かべ、メサは一夏の前に立つ。

 

【なんだ、お前等( ✧Д✧) カッ!!】

 

「織斑一夏。アンタが持っているIS、大人しくこっちに渡しなさい」

 

メサの問いに、リーダーと思われる女子生徒がそう告げてくる。一夏は怯えながらも首を横に振り拒否を示す。

 

「こ、これは、ぼ、僕の大事な物です。だ、だから、無理です」

 

「……そう。なら、力づくで奪うだけよ!」

 

そう叫ぶと6人は突如ラファールを身に纏い一夏に襲い掛かって来た。メサは右手をチェーンソーに変え、左手に何処からともなくフライパンを取り出し応戦する。

一夏もバレットホークを身に纏い、手にはバタリングラムを装備しサブアームに銃火器を持たせる。

 

職員会議に出ていた千冬。すると突如爆発音が会議室内に響き、何事だと千冬が立ち上がろうとした瞬間

 

「動かないでください、千冬様」

 

そう突如横に居た女性教師が拳銃で千冬の動きを制する。

 

「…何の真似だ?」

 

「少々手荒ではありますが、貴女の弟さんからISを頂こうとしてるんです。貴女が向かわれると、困るので此処で大人しくしておいてください」

 

そう伝える教師。すると他にも3人程の教師も立ち上がり拳銃を抜く。

 

「…何をやっているのか、分かっているのか?」

 

「えぇ、勿論。これも全ては女性達の為。愚かな男どもがつけ上がるのを阻止する為です。弟さんにはその犠牲になって頂くだけですよ。まぁ、良いじゃないんですか? あんな手のかかる弟なんていらないでしょ?」

 

そう言った瞬間、女の体が突然壁にめり込むほどの勢いで叩きつけられた。更に頭からは血がダラダラと流れ始めた。

突然の事に銃を持った教師達は驚きの表情を浮かべ、千冬の方を見る。その手には何処から取り出したのか出席簿が握られていた。

千冬はゆっくりと銃を持った教師の方に目を向ける。その目はまさにハンターの様に鋭く、眼力だけで人を殺せるほどであった。

 

「貴様らぁ。私の大事な弟によくも手を出したなぁ」

 

そう呟きながら一歩前に踏み出す。恐怖した一人が千冬に向かって拳銃の引き金を引くが、千冬は迫って来た弾丸が見えているのか、出席簿を振って弾丸を弾き飛ばした。

 

「そ、そんな!?」

 

弾丸を弾いた千冬に教師達は恐怖し後退る。

 

「貴様ら、楽に死ねると思うなよぉ!」

 

そう叫び銃を持った教師に襲い掛かる千冬。

 

 

生徒会室にて本音は姉、虚に任された仕事をえっさほいさと片付けていた。

虚は最近思った事を口にする。

 

「それにしても本当、貴方変わったわね?」

 

「そぉう?」

 

「えぇ。前までサボってたりぐーたらしていたのに、今じゃてきぱき仕事してるじゃない」

 

「だって、早く終わらせたらイッチーと遊べるもん。だから『ドカァン!!?』ほへぇ?」

 

「爆発!?」

 

突然の爆発音に本音や虚は驚き窓へと向かう。すると特別棟から黒煙が上がっていた。

 

「特別棟から黒煙が…。 一体何が?」

 

「特別棟…。ッ!? イッチー!」

 

特別等から黒煙が上がっている事に本音は、直ぐにイッチーが巻き込まれている恐れがあると思い本音は生徒会室から飛び出しすぐさまベルトを取り出し腰に巻く。

 

その頃特別棟では一夏とメサが必死に攻撃してくる生徒達に反撃していた。ライフルやグレネードランチャーで攻撃してくる生徒に、一夏は躱しつつ接近してきた生徒を反撃する。

 

「さっさと墜ちなさい!」

 

「このぉ!」

 

そう叫びながら来る生徒2人。一夏はナイフで斬りかかって来た生徒に対しバタリングラムで応戦し、もう1人はサブアームの射撃で牽制する。

 

「まだいるのよ!」

 

「隙だらけよ!」

 

そう叫び飛び掛かってくる2人の生徒。サブアームで対処しようにも間に合わない。そう思っていたら

 

「イッチー、避けて!」

 

そう叫び声が聞こえ一夏はすぐさま近くに居た生徒をバタリングラムで突き飛ばしその場を離れると、4人のいた場所に向かって無数の弾丸が襲う。

暫くして銃声が止み一夏やメサに攻撃していた生徒達が銃声がした方に目を向けると、其処には

 

「ほ、本音さん!」

 

「イッチー、お待たせぇ! 援護するよぉ!」

 

仮面ライダーガタックに変身した本音が居た。

 

「チッ! あぁもぉ、鬱陶しぃ!」

 

そう叫び一人がメサに蹴りを入れる。メサはそれをフライパンで防ぐも、大きく後ろに飛ばされる。その隙に一気に間合いを詰めた生徒がメサに斬りかかる。

 

一夏はメサの援護をしに行こうとするが2人の生徒が行くてを阻む。残りの2人は本音に向かって攻撃を仕掛けてくる。

本音は直ぐにベルトのバックルのガタックゼクターの顎を開ける。

ガタックの装甲が若干動く。そして

 

「キャストオフ!」

 

キャスト・オフ

 

そう声が聞こえると同時に本音は顎を大きく開ける。それと同時に装甲が吹き飛ぶ。飛んだ装甲は迫って来た生徒二人にぶつかりそのまま2人はISを強制解除され倒れ込む。

 

チェンジ・スタッグ・ビートル

 

「な、何よあれ!?」

 

「し、知らないわよ!」

 

そう叫ぶ生徒達。一夏とメサはその隙を逃さず、バタリングラムにフライパンで重い一撃をそれぞれの生徒達に喰らわせ強制解除に持ち込む。

一人残った生徒はギリッと歯軋りをしながら血走った眼で睨む。

 

「どいつもこいつも使えないわね!」

 

生徒は大型の剣を取り出し構える。

 

「あんたさえ邪魔しなければぁ!」

 

そう叫びながら生徒は剣を構えながら本音に向かう。一夏はライフルを構え引き金を引くが気にも留める様子も無く突っ込んでくる。メサも本音との間に入り生徒を止めようとする。

 

(メサさんはイッチーの大事な家族。傷付けさせない!)

 

そう思った本音はすぐさま行動に移った。

 

「クロックアップ!」

 

クロック・アップ

 

そう音声が流れた同時に周囲が遅く感じる。本音はすぐさまバックルについているボタンを押す。

 

1・2・3

 

3回押した後顎を戻す。

 

「ライダーキック!」

 

ライダーキック

 

そう叫び大顎を開けるとバチバチと電気が走り右足へと向かう。本音は走り出し飛び上がる。メサの上を飛び越え女子生徒の前に着地寸前で女子生徒に向かって蹴りを放つ。それと同時に

 

クロック・オーバー

 

と音声が流れ、時間の流れが元に戻る。

 

「死にぎゃはっ!!!??!」

 

蹴りを入れられた生徒は顔面を大きく変形させながら後ろへと飛んで行き壁に激突。激突した衝撃で壁にはヒビが大きく入り、パラパラと欠片が落ちていた。

 

「ふぅ~」

 

「ほ、本音さん、大丈夫?」

 

「うん。私は大丈夫だけど、イッチーは?」

 

「だ、大丈夫です。メサさんは?」

 

【わたくしも大丈夫です。( ´Д`)=3 フゥ】

 

それぞれ怪我が無い事に安堵していると、数人の武装した教師を引き連れた千冬が駆け寄って来た。

 

「一夏! ケガは無いかっ?」

 

「う、うん。本音さんやメサさんのお陰で、大丈夫」

 

「そうか、良かった」

 

千冬は心底安堵したのか、その場でへたり込みそうになりながらも傍に居た本音に顔を向ける。

 

「布仏、良く一夏を守ってくれたな。ありがとうな」

 

「い、いえ。私もイッチーやメサさんを守るので必死だったのでぇ。あと…、ごめんなさい」

 

突如頭を下げて謝る本音に千冬は怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「何故謝る?」

 

「その、イッチー達を守る為、必殺技を使っちゃいました」

 

そう言い本音は目線を壁に激突させた生徒の方へと向ける。俯いている生徒からは顔から血が流れているのか、ポタポタと血が垂れていた。

その光景にその場にしばしの沈黙が流れる。

 

「…そうか。布仏、別に気にする必要はない。お前は一夏とメサを守ろうとして必殺技を使ったのであろう?」

 

「…はい」

 

「なら、問題は無い。言ったであろう、有事の際は制限を解除すると。今回は非常事態だった為、使用許可を取らなかったことはお咎めなしだ」

 

そう言われ本音は少し安堵した表情を浮かべる。

それから一夏達はそれぞれ事情を聴くため千冬と共に職員室へと向かい、武装した教師達は気絶している生徒達を拘束し独居房へと連行していく。

 




次回予告
襲撃を行った生徒達と教師達の尋問を行う千冬。
尋問から吐き出された人物に、あの人物が鉄槌を下しに行く。

次回
逆鱗~自白剤だと? 私の拳が自白剤だが?~


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17話

~IS学園地下尋問室~

尋問室には今日一夏の襲撃に加担した教師達が拘束されていた。

襲撃には生徒も参加していたが、此処ではなく別の尋問室にて尋問を受けている。

 

「ちょっと、どうするのよ」

 

「どうするもこうするも、口を閉じておけばいいのよ」

 

「閉じておけって、そんなの無茶に決まってるじゃない! 自白剤とか使われたら」

 

「何言ってるのよ! そのために万が一って事で自白剤用の解毒剤を歯に隠しているんでしょ! いざとなったらそれを使って時間を稼ぐのよ!」

 

拘束された教師達はそう叫び合い、絶対に口を割らない様にと互いに言い合う。すると、尋問室の扉が開き中に入って来た教師に、教師達はガタガタと震え始める。

 

「ち、千冬、様」

 

「……今から尋問を行う」

 

そう言い千冬は教師達の前に立ち腕を組みながら殺気の篭った視線で見下ろす。

 

「先に言っておくぞ。大人しく洗いざらい全部話せ。そうすればある程度の情状酌量は口添えしてやる」

 

「「「「……」」」」

 

千冬は4人に対しそう告げるも、4人は最初に話し合った通りにダンマリを決め込み、口を開こうとしなかった。

 

「これが最後だ。お前達に指示を出した奴を話せ」

 

「「「「……」」」」

 

「…そうか。それが貴様らの答えか。ならこちらも考えが有る」

 

そう言い組んでいた腕を降ろす千冬。教師達は自白剤を使う気かと思い歯に隠した抗自白剤を何時でも使えるよう準備する。

だが、千冬は次の瞬間手を握りしめ教師の一人の顔面に向かって思いっきり振り下ろした。

 

「グハッ!!???!」

 

「ヒッ!?」

 

「な、何を!?」

 

「ちょ、ちょっと殴るって、正気ですか!?」

 

「正気だが? それに此処を何処だと思っている?」

「此処はIS学園。他国からの干渉など受けない、治外法権の場所だ。自白剤を使ってお前達の口を割る事だって出来る。だが、薬の自白剤など生温いからな、私の拳と言う自白剤を使う事にした。さぁて、続きを始めるぞ」

 

そう言い千冬は一人一人喋らせるべく、顔を殴り続ける。顔のみならず腹を殴ったり、足や腕の骨をへし折ったりと、口を割らせるために千冬は一切の容赦無く教師達を痛めつけていく。

暫くして4人のうち3人は千冬の尋問に口を割る前に気を失ってしまい、残った一人もほぼ虫の息同然だった。

もうどれ程の時間尋問を受けたのか分からず、最後の教師は頭がぼぉーとし始めていた。

 

「そろそろ白状したらどうだ? どうせ今日乗り切ったところで、暫くしたらまたこれの続きをするだけだぞ?」

 

そう言われ教師の中にあった我慢が崩壊したのか、口をゆっくりと開く。

 

「い、依頼、したのは…マリアナ…デュノア」

 

「…マリアナ・デュノア? デュノア社の社長夫人の事か?」

 

「そ、そう、です」

 

「成功した場合、報酬は何だったんだ?」

 

「現金で、…100万ドル」

 

「そうか」

 

そう言い千冬は部屋から出て行こうとする。すると扉の前で一旦立ち止まる。

 

「そうだ。一つ言い忘れた」

 

「え?」

 

「お前達の処遇なんだがな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「はぁ?」

 

そう言い千冬は部屋から出て行く。残された教師達は千冬の放った言葉に理解できず呆けた顔を浮かべていた。すると

 

「おやおや、理解できていないみたいだね。まぁ、お前等みたいな頭の中がお花畑の連中には理解できないか。アハハ」

 

突如部屋の中からそう聞こえ教師は声のしたほうに首を回そうとしたが、その前に首筋に何かが刺さり、意識が朦朧となり、力を無くすように首がガクリと落ちる。教師の背後に居たのは注射器を持った束であった。

 

「さぁて、このゴミを持ち主の所に持って行かなくちゃ。ゴー君、運んじゃって」

 

束がそう言うと、何処から現れたのかゴーレムが現れ教師達を担ぎ尋問室から出て行った。その後も束も一緒に出て行く。

 

 

~フランス 某所にある邸宅~

邸宅の中に金髪の女性、そして茶髪の男性が苛立ち気に机を指でコンコンと叩いたり、脚をパタパタと動かす。

 

「ちょっと、一体何時まで待てばいいのよ?」

 

「そんな事私が知る訳ないだろ? お前があいつ等に依頼したんだろが」

 

そう言い男性は苛立ち気に拳を机に勢いよく叩く。すると

 

ドンガラガッシャーーン!!!

 

と突如天井を突き抜けて金属製のカプセルが落ちてきた。

 

「な、なんだこれは一体!?」

 

「し、知る訳ないでしょ!? って、中に居るのって…」

 

突如落ちてきたカプセルに狼狽える2人。すると金髪の女性、マリアナ・デュノアはカプセルについている小窓から見えたものに見覚えがあったのか覗き込む。

 

「う、嘘でしょ…」

 

「な、なんだ? っ!? ひ、人!?」

 

「か、彼女、私が依頼した人間よ!」

 

「な、何!? だ、だったら何故カプセルに入れられて此処に居るんだっ?」

 

「し、知らないわよ! ほ、他のカプセルは?」

 

そう言いながらマリアナは他の落ちてきたカプセルも覗き込む。どのカプセルに入っているのも、一夏襲撃に加担した教師達であった。

 

「な、何があったのよ、一体?」

 

そう零したと同時に

 

プルル、プルル、プルル

 

と机の上に置かれた電話から音が鳴り響く。茶髪の男性、ジョシュア・デュノアは恐る恐ると受話器を手に取り耳に当てる。

 

「もしもし」

 

『やぁやぁ、聞こえるかな凡人以下のゴミ屑君? 束さんが送った生モノは届いたかな?』

 

「なっ!? まさか、彼女達を送ったのはお前なのか!?」

 

『そうだよぉ。この天災こと、篠ノ之束さんが送ったのさ』

 

「し、篠ノ之束!?」

 

ジョシュアの口から束の名前が出た途端、ジョシュアとマリアナは驚愕の表情を浮かべる。マリアナは急ぎジョシュアの元に向かい受話器をひったくる。

 

「も、もしもし? Dr,篠ノ之? あぁ、まさかかのISの生みの親である貴女様からお電話を頂けるとは『おい、ちょっと黙れよ』っ!?」

 

媚びを売る様にすり撫で声で挨拶をしてくるマリアナを黙らせるように、束は殺気を込めた声を出す。

 

『束さんは、お前等みたいなゴミ屑に電話を掛ける程暇じゃないの。けど、お前等はこの束さんの怒りを買った。だからその怒りをお前等にぶつける。はい、お話は以上。じゃ』

 

そう言うと、電話が切れツー、ツーと音が鳴るのみであった。

 

「「……」」

 

2人は言葉が出ず暫し固まったままであったが、暫くしてマリアナは受話器を振るえる手で握りしめ思いっきり電話に叩きつける様に置く。

 

「な、何なのよ、あれは!」

 

「……身内と極一部の人間以外には全く興味を示さんとは聞いていたが、あれ程の物とはな」

 

そう零す2人。すると何処からともなくピー、ピー、ピーと電子音が鳴り響く。

2人は何処から音がするんだと思いながら部屋を見渡すも、そのような音が鳴る物が無くもしかしてとジョシュアはカプセルへと近づく。そしてカプセルをよぉく観察し始めた。

 

「一体何の音よ?」

 

「分からん。ん? 此処からだな」

 

そう言いジョシュアはパネル状になっているところを発見し、留め具を外し開ける。其処には

 

Slapstick, type de bouse(くたばれ、糞野郎)

 

とフランス語で書かれたメモと携帯電話が付いていた。

 

「なによこれ?」

 

「……ま、まさか。逃げ――」

 

ピーーーーーーー

 

その電子音が鳴って数秒後、マリアナとジョシュアが居た邸宅は吹き飛んだ。大きなクレータが出来る程の爆発が起きたのだ。

 

 

2人が居た邸宅が吹き飛んだ光景を、衛星で見ていた束は笑みを浮かべながら見ていた。

 

「いっくんに手を出すからだよ、凡人以下のゴミ屑君達」




次回予告
襲撃事件から数日が経ち、待ちに待ったタッグマッチ戦が開始された。一夏は本音とタグを組んで挑むことに。
そして悲運か、相手はボーデヴィッヒと箒であった。

次回
タッグマッチ戦


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18話

更新が最近遅くなりがちで申し訳ないです。
出来る限り早めの更新が出来る様頑張って行きます。


それではどうぞ


一夏が襲撃された日の後、一夏襲撃に加担した教師達は学園には最初から在籍していない事になり、生徒は強制送還され監獄行きとなった。

 

そして彼女達に指示を出したシャルロットの実家、デュノア社の社長夫妻は束が学園から拉致した教師達と共に爆弾で消し飛ばされた。

無論夫妻の死亡はフランスで大々的にニュースとなった。爆発の原因は不明のままでガス漏れによる爆発として世間に流された。

 

 

夫妻が死亡したことによりデュノア社の経営者が居なくなり後任には社員、そして夫妻の犯罪に加担しなかった一部の重役から人望が溢れる人物が選ばれ、経営を立て直した。

本来ならば社長の娘であるシャルロットが会社を引き継ぐのだが、会社の重役達が社長夫妻がやろうとした犯罪に携わった者すべてを切り捨てた為、シャルロットは会社を引き継ぐ事が出来なくなってしまったのだ。

その代わりとしてデュノア社の新社長は、シャルロットに企業の代表として引き続き籍を置く事を容認した。勿論企業代表である以上、それなりの成績を残さなければ企業代表の籍を解任すると言う条件付きでだ。

 

 

 

それから数日が経ち、遂にタッグマッチ戦当日となった。大勢の生徒達がアリーナの観戦席に座り、今か今かと胸を高鳴らせながら待つ。

 

その頃一夏はアリーナの廊下に設けられているベンチに座りながらジュースを口にしていた。

 

「はふぅ。今日、だいじょうぶかな?」

 

<心配し過ぎよ。アンタは普段通り操縦すればいいんだから>

 

「うん、分かった」

 

コアに居るアイラとそう会話をしていると、ジュースを持った本音がタッタッタと一夏の元に走り寄ってくる。

 

「イッチー、お待たせぇ」

 

「い、いえそんなに待ってませんよ」

 

「そう? それじゃあ私達の対戦相手を確認しに行こぉ」

 

「分かりました」

 

そう言い一夏と本音は歩き出す。

さて、一夏と本音はタッグマッチ戦のタッグとなり、試合に臨むことになったが、何故一夏と本音がタッグになったのか。その理由は至って簡単。

一夏のタッグは本音以外無理だからだ。無論多少無理をすれば他の参加者とタッグを組むことは可能だが、絶えず緊張状態が続くのは一夏としても気が気では無い為、気を少し許せる本音とならタッグを組めると思い、一夏の方が勇気を出して本音を誘ったのだ。

最初は断られることを恐れて、言えずにいたが勇気を振り絞って誘った所二言返事で了承してもらえたのだ。

こうして一夏と本音はタッグを組んで、タッグマッチ戦に臨んだのだ。

 

2人は対戦表が映し出されたモニターがある部屋まで到着すると、モニターに映し出されている対戦表を上から見て行く。

 

「えっとぉ。あ、あったぁって、うそぉ」

 

「え、どうしたんですか? ……えぇ、あ、あの人達とですか」

 

本音は対戦相手を見た瞬間、嫌そうな顔を浮かべ一夏は若干怯えた表情を浮かべる。

2人の対戦相手は

 

織斑一夏&布仏本音VS篠ノ之箒&ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

と表示されていた。

 

「イッチー、嫌なら棄権するけどぉ?」

 

「だ、大丈夫です」

 

そう言い一夏は大丈夫だと本音に見せる。本音は心配な表情を浮かべつつも、わかったぁ。と返し一夏と共にピットへと向かう。

ピットに到着すると一夏はバレットホークを身に纏い、本音はイージスベルトを腰に巻き青と白のボタンを押しパスを重ねる。

 

「変身!」

 

変身 サガ!

 

ベルトからそう音声が流れ、本音は仮面ライダーサガへと変身する。

 

「それじゃあイッチー、頑張って行こう!」

 

「は、はい」

 

本音の掛け声に応え、一夏は本音と共にアリーナへと出た。

アリーナには既に箒とボーデヴィッヒが出ており、互いにいがみあっていた。

そして両者が出たのを確認した管制室から放送が流れる。

 

『ではこれより第1試合を開始します。3…2…1…試合開始!』

 

「うぉおおおぉ!!」

 

開始の合図と共に箒は打鉄に載せられている葵を構えながら本音に迫り、ボーデヴィッヒがチッと舌打ちを放ちつつ一夏にワイヤーブレードを放つ。

 

 

「喰らえぇ!!」

 

「おぉとぉ!」

 

葵を振ってくる箒に本音はベルトに付いているジャコーダーを掴みジャコーダーロッドに変形させ、振り下ろされてきた葵を払い除ける。

その後も次々に襲い掛かる刃を本音は慌てることも無くジャコーダーロッドで振り払ったり、体を逸らすなどしてひょいひょいと避けて行く。

 

「えぇい避けるなぁ!」

 

「えぇ~、負けるの嫌だから避けるぅ」

 

そう言いながら本音は箒の攻撃を避けつつ、箒の動きを観察する。そして箒の攻撃に一瞬の隙が生まれることを見つけ直ぐにジャコーダーロッドから剣状から鞭状のジャコーダービュートに切り替え、箒が持っている葵に向かって鞭を飛ばす。

鞭は葵にがっしりと絡まり、箒は力一杯引っ張るもビクともしなかった。

 

「貴様、何のつもりだ!」

 

「なにって、こうするんだよぉ!」

 

そう言い本音は葵に絡まったジャコーダービュートを勢いよく振り上げると、鞭で絡められた葵が上に持って行かれそうになり箒は慌てて取り上げられない様握りしめ直そうとするも間に合わず、葵は勢いよく取り上げられる。

 

「か、返せ!」

 

「うん、良いよぉ。ちゃんととってよねぇ」

 

本音は取り上げた葵を付けたままジャコーダービュートを振り回し、そのまま勢いよく絡まっていた葵を箒に向かって放り投げた。

 

「っ!?」

 

投げられてきた葵に箒は反応するのが遅れ、投げられた葵とぶつかる

葵をぶつけられたことで箒の打鉄のSEは大幅に削られた。

本音の攻撃に箒は怒り心頭となり落ちた葵を拾い上げ本音に攻撃を仕掛けようとするも、その前に本音がジャコーダービュートの鞭攻撃で残ったSEを刈り取られ

 

『篠ノ之箒、打鉄SEエンプティ―!』

 

とSE切れを宣告された。宣告を受けた箒は本音を睨みつけるも、もう既に其処に本音は居らず一夏の援護に向かっていた。

 

『何をしている篠ノ之。さっさと退場せんか!』

 

千冬からのアナウンスに悔しそうに顔を歪ませながらアリーナから退場する箒であった。

 

箒が退場された事にボーデヴィッヒはまた舌打ちを放ち、一夏に向けワイヤーブレードを放つも突如横から現れた鞭にワイヤーブレードを弾かれる。

鞭が来た方に顔を向けると、ジャコーダービュートを構えた本音がおり自身に向け勢いよく攻撃をしてきた。

 

「チィ!!」

 

攻撃を紙一重で躱しながら後退していると、今度はビーム弾がボーデヴィッヒを襲いSEを大きく削られる。

ビーム弾を撃ったのはデンガッシャーを構えた一夏であった。

2人からの攻撃にボーデヴィッヒは苛立ちを募らせつつも自身の最後の手、AICを使おうとする。

意識を集中し、AICを発動した。だが、バレットホークのアイラがボーデヴィッヒの行動を阻止するようにアームが持っているマシンガンなどで攻撃しボーデヴィッヒの集中を阻害、結果AICは発動できず、更にはSEを削られる結果となった。

 

(クソッ! 何故だ! 何故あんな奴らに私が押されてるんだ!)

 

そう吐き捨てながらワイヤーブレードなどで攻撃するも、2人の息の合ったコンビネーションに翻弄され攻撃してもすぐに躱され逆に攻撃を受ける。

すると突如空間ディスプレイが現れた。

 

『外部からのハッキングを確認。ファイヤーウォールを展開。……ファイヤーウォール突破。不正なデータがインストールされました。《VTシステム》起動します』

 

「なっ……」

 

ボーデヴィッヒは突如現れたディスプレイに驚いているも束の間、意識を失ってしまう。

 

 

 

ボーデヴィッヒの動きが突如止まった事に一夏と本音は互いに顔を見合い首をかしげる。

すると突如一夏の前に空間ディスプレイが現れた。ディスプレイには束が映っていた。

 

「えっ? 束お姉ちゃん、どうし『いっくん、急いで逃げて!』えっ? 「GAaaaaAaaAaaaAAaAA!!!」っ!?」

 

束からの言葉に驚いていると、更にボーデヴィッヒから獣の様な咆哮が轟き一夏と本音は驚きボーデヴィッヒの方をみると、ボーデヴィッヒの機体からドロドロとスライム状の物が現れボーデヴィッヒのシュヴァルツェア・レーゲンを覆って行く。

そしてもごもごと動くのが止まり現れたのは

 

 

 

一夏の姉、千冬がかつて乗っていた機体『暮桜』だった。




次回予告
VTシステムによって暮桜となったボーデヴィッヒの機体。
一夏と本音はVTシステムを止めるべく、力を合わせる。

次回
暴走、VTシステム


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19話

新年一本目です!


突如ボーデヴィッヒの機体がスライム状の物体に覆われた後、暮桜に変わった事に一夏や本音のみならず、観戦席に居た生徒達や管制室の千冬達は驚きで満ちていた。

 

「どういう事だっ? 一体何が起きたッ!?」

 

「分かりません! と、突然ボーデヴィッヒの機体からスライムが出たと思ったら、形が変わってあれに…」

 

管制室に居た千冬は教師の一人に状況説明を求めるも、教師達も何が起きたのか分からずパニック状態であった。

千冬は兎に角生徒の安全を優先しなければと行動する。

 

「ハッキングなどは?」

 

「受けていません! 生徒達の避難誘導を開始します!」

 

「分かった。手の空いている教師は避難誘導に向かえ! 教師部隊はIS保管庫に急ぎ向かい、アリーナに居る生徒達の保護に向かえ!」

 

「了解!」

 

千冬の指示に真耶や他の教師達は急ぎ無線で指示を飛ばしていく。千冬はモニターに映る暮桜に睨む。

 

「何処の誰かは知らんが、私の弟に手を出した事絶対に許さんからなぁ」

 

小さく、されど怒気を込めた言葉を吐き出す。

 

 

 

アリーナにいた一夏と本音は目の前で起きた事に動揺が隠せず、動けずにいると空間ディスプレイの束が大声で叫ぶ。

 

『二人共、固まっていちゃ駄目! 急いで逃げて!』

 

束の声に2人は我に返り、ピットに避難しようとした瞬間偽暮桜が二人に向かって襲い掛かって来た。

襲い掛かって来た偽暮桜に2人は反撃をせざる負えなくなり、一夏はデンガッシャーのガンモードと銃器を構え、本音は距離をとろうとジャコーダービュートを構える。

モニターで見ていた束は戦闘になった事に最悪な展開になった。と心の中で舌打ちを放ちつつも、今できることをしようと多数の空間ディスプレイを出しボーデヴィッヒの機体の情報から一夏の機体情報などを出す。

 

(いっくんの機体は遂次確認できるけど、あののほほんちゃんのは無理か。眼帯の奴のはハッキングして強制停止しようにもこっちの操作を受けつけないし。クソッ!)

 

あらゆる情報を展開し、目にも止まらぬ速さでキーボードを叩く束。すると通話を知らせる空間ディスプレイが現れ束は応答ボタンを押す。

 

「もしもし?」

 

『束、一体何が起きている? 何処のどいつが「分かんないよ! 今調べようと必死になってやってる!」そうか、すまん。一つだけ教えてくれ。まさか、あれはVTシステムなのか?』

 

「そのまさか。束さんが裏に出回っていた物も全部潰したつもりだったけど、まだ何処かに隠し持ってたやつが居たみたい」

 

『何とかならないのか?』

 

「ハッキングして強制停止させようとしているけど、ことごとく阻止されてる。直接ISを破壊したほうが早いかもしれない」

 

『チッ。それしか方法が無いか』

 

「無人機のゴー君を送ってもいいけど、ゴー君もハッキングを受けたら元も子もないからハッキングしたりするしかできない」

 

『それをやってくれるだけでもこっちは有難い。頼んだぞ、束』

 

そう言い千冬は通話を切り、束は引き続き偽暮桜にハッキングを行う。

 

 

 

アリーナでは襲ってきた偽暮桜に対処するべく一夏と本音は構えていた武器で攻撃する。だがまるで2人の攻撃が見えているのか、攻撃を避けながら接近してくる。

 

[チッ。一夏、SEがヤバいからデンガッシャーのガンをこれ以上撃てないわよ]

 

[分かった。それじゃあナギナタモードに変えよう。ちょっとは距離をとれるから]

 

そう言いデンガッシャーをガンモードからナギナタモードに変える一夏。

一夏のバレットホークの張る弾幕を抜けながら接近してくる偽暮桜。この状況に、本音はある決断をし、通信を繋げる。その相手は

 

『こちらは管制室の織斑。布仏、どうした?』

 

管制室に居た千冬であった。指示出しなど行っていたのか、焦った表情を浮かべていた。

 

「先生、必殺技を使う許可をください。このままだとイッチー共々やられちゃいます!」

 

本音の決断したこと。それはイージスベルトの必殺技を使う事だった。

だが、イージスベルトに搭載されているスーツの必殺技はどれもISを簡単に撃破できてしまうほど高威力を有している。

通常の試合で必殺技を使えば確実に相手を倒す事は出来るが、少しでも扱い方を間違えれば搭乗者は負傷、最悪の場合死人さえ出してしまうほどの物なのだ。

本音はあの襲撃事件と同様、一夏とそして自分の命を守るには必殺技を使うしかないと思い千冬に許可を求めたのだ。

 

「……分かった、許可する」

 

「はい!」

 

千冬から許可を貰い一夏の方に声を掛ける。

 

「イッチー、必殺技を使うから一瞬でもいいからあれの動きを止めて!」

 

「わ、分かりました、やってみます!」

 

本音が必殺技を使う為、一夏は偽暮桜の動きを止めるべく武器を構える。

 

[ねぇ、アイラ。残った武器ってどのくらいある?]

 

[銃器は今持っている分だけ。アヴァロンはあるけど、引き金を引いてから発射するまでに接近される恐れもあるし、使えない。その為後は近接用武器しかないわ]

 

[勝てる見込みって…]

 

[ほぼゼロよ。でも、アンタにはこの私が付いているの。しっかり操縦しなさい。いいわね?]

 

[っ! うん!]

 

アイラの激励に一夏はギュッと手に力を籠める。

そして一夏は接近してくる偽暮桜に対し攻撃を始める。

さっきまで弾幕を張っていた一夏であるが、今度は何発か撃った後回避する方向をアイラが偽暮桜の動きなどを瞬時に分析、予測して攻撃すると言った方法を取った。

この方法は、以前Mr.Kとの模擬戦をした際にアイラと共に考えた策なのだ。多数の相手であるなら弾幕を張るのが良いが、1対1の場合なら無駄弾を抑えるべくこの手段が良いのではと思いついたのだ。

この作戦のお陰か、先程まで当たらなかった攻撃が、数発だけとはいえ当てることが出来るようになった。

だが、それでも弾は無限にある訳でもなく次々に弾切れを起こすライフル。そして偽暮桜が刀を振り上げ、攻撃をしてこようとしてきたところで持っていた弾切れのライフルを投げつける。

投げられたライフルに偽暮桜はそれを持っていた刀で斬り捨てた所で、一夏はサブアームが握っていたデンガッシャー(ナギナタモード)で斬りかかる。

斬りかかって来た事に偽暮桜はすぐさま刀で防ぐが、一夏はその隙をついた。

 

「てやぁあぁあ!!」

 

一夏はすぐに拡張領域に仕舞っていたバタリングラムで薙ぎ払う。デンガッシャーの攻撃を防いでいた偽暮桜はバタリングラムをまともに受け、後ろへと大きく吹き飛ぶ。

 

 

「本音さん、今です!」

 

一夏が合図を出すと、本音は腰からウエイクアップフエッスルを取り出し、それを腰のベルトに付いているサガークに挿す。

 

()()()()()()()

 

サガークからそう声が鳴ると本音はベルトのバックル横にジャコーダーの柄、コブラハンマーを挿して離すとエネルギー状の紐がバチバチと音を鳴らしながら繋がっていた。そしてジャコーダーロッドの刀身にエネルギーが纏い、そのまま上に掲げる。すると突如上空にコウモリの様な紋章が現れる。

本音はすぐさまジャコーダーロッドを前に掲げる様に構え、そして鞭のように振るう。刀身はジャコーダービュートの様に伸び、そのまま一夏に吹き飛ばされ立ち直ろうとしていた偽暮桜に巻き付く。

そしてそのまま本音は空高く飛びあがり紋章の中へと消えた後、また地面へと戻って来た。本音の手に持っていたジャコーダービュートは偽暮桜を吊り上げた状態になっていた。

そして本音はジャコーダービュートの鞭に手で触れ、そのままジャコーダーまで手を下ろす。すると、バチバチと光が走って行きそのまま偽暮桜に送り込まれる。すると、偽暮桜は突如苦しみだしそのまま爆散した。

周囲にシュヴァルツェア・レーゲンのパーツと思われるなどが飛び散り、そしてボーデヴィッヒもその破片の中から落下してきて地面へと落ちる。

本音の纏っているサガの必殺技『スネーキングデスブレイク』は吊り上げた相手に膨大なエネルギーを送り込み、内側から破裂させて倒すと言った物なのだ。膨大なエネルギーを偽暮桜に送り込んだことで、保有できるSEの上限を超えた為内側から爆発したのである。

 

偽暮桜を倒せたことに本音は何とかなったと思い、その場でへたり込む。一夏は急いで本音の元に駆け寄る。

 

「ほ、本音さん大丈夫、ですか?」

 

「う、うん。流石に疲れっちゃったぁ」

 

疲れた様子を見せながらも笑顔を見せる本音。一夏は不安な表情を浮かべながらどうしたらと思っているとラファールや打鉄を纏った教師部隊が入って来た。

 

「あなた達、大丈夫?」

 

「は、はい。僕は大丈夫です。けど、本音さんが」

 

「あ、私は大丈夫ですぅ。ちょっと気が抜けて、へたり込んじゃっただけなので」

 

「そう、でも心配だから椎名先生2人をお願い」

 

「分かった。さ、おぶって行くわ」

 

そう言い教師部隊の一人が本音を背中に背負いピットに向かう。一夏もその後に続いて行く。2人が退避するまでの間、教師部隊はまた動く恐れがある為ボーデヴィッヒから距離をとったところでライフルを構えた状態で警戒していた。

2人が退避したのを確認後、ボーデヴィッヒにゆっくりと近づき安全を確認後、拘束着を着せアリーナから運び出すのだった。




次回予告
暴走事件後、一夏と本音が事件解決に一役買ったと聞き悔しさを滲み出す箒は自身だけの力を求め動く。

次回
黒い欲望


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20話

今回は以前投稿していた作品『世界を忌み嫌う武器商人と過去を捨てた兵士』に居たキャラが登場します。



タッグマッチトーナメント戦は突如として起きたVTシステムによる暴走事件よって中止となった。

前回の襲撃事件の経験を活かし、いち早い教師達の行動によって今回は生徒達に負傷者等は発生せず、無事に避難させることが出来た。

 

そしてアリーナで偽暮桜と相対し、見事撃破した一夏と本音は疲労のみであった。

学園長や教師達は2人に対し、到着が遅れた事を謝罪するのと同時に、撃破したことを褒め称えた。

今回のVTシステムの暴走事件は世間に広まれば混乱を招く恐れがある事から公になる事は無かった。

だが学園は何者かがボーデヴィッヒの機体にVTシステムをインストールしたか、元から彼女の機体に組み込まれていたのではないのかと推測し、破損したISを回収して調査を行った。

機体を調べたところ、ISにVTシステムが組み込まれていた様子は無く、逆に外部からハッキングを受けインストールされていた事が分かった。

その為今回のVTシステムの暴走事件の責任に彼女が負う事は無くなった。

だが一部の生徒達はVTシステムに取り込まれ無意識で暴れたのではなく、日頃から一夏を排除しようとしてたことから、意識がある状態で一夏を殺そうとしたのではないかと囁く者が居た。

 

そんな中、生徒達の間では一夏と本音の話題で持ちきりであった。

2人が偽暮桜と戦っているのは多くの生徒達が目撃していたが、撃破したところは殆んど目撃されていたなかった。

その為生徒達は撃破したのは教師部隊で、2人は教師部隊が到着するまで時間稼ぎをし、解決に一役買った。とそう噂が流れたのだ。

勿論2人が偽暮桜を撃破したのを目撃した生徒もいるが、学園側から口止めされている為、真実を話す事は無かった。その為噂は瞬く間に学園中に広まったのだ。

 

 

 

 

『あの織斑先生の弟君とパートナーの生徒が事件解決に一役買ったんだって』

 

『あの暮桜相手に、教師部隊が来るまで持ち堪えたんでしょ? すごいねぇ、あの2人!』

 

『日頃から一緒に訓練してたり、お昼もとってるから息が合うんだろうねぇ』

 

『事件が無かったら、あの二人が優勝だったかもね』

 

『あの2人以上のタッグは無いでしょ』

 

色んな2人の話が飛び交う中、そんな話を聞いた一人の生徒は一人奥歯を噛み締め悔しそうな顔を浮かべていた。

それは篠ノ之箒であった。学生寮の自身の部屋で拳を震わせながらあちこちで飛び交う話題に苦渋に満ちた顔を浮かべる。

タッグマッチ戦時、本音にほぼノーダメージで撃破されピットに追いやられた箒。その後起きた事件に自身は何も出来ずただ2人が偽暮桜を撃破するところをピットのモニターで見ている事しか出来なかった。

箒はそれが悔しくてたまらなかった。

何故一夏の隣に自分ではなく、あんなのほほんとしているやつが居る。何故自分は近付く事が許されず、アイツは近づける上に、傍に居られるんだ。と。

 

「私にも、アイツの様な力が、絶対の力があれば!」

 

そう零す箒は、ポケットに入れているスマホを取り出し電話帳からある宛名を開ける。

それは束の番号であった。

箒は束に通話ボタンを押し耳へとあてる。だが

 

『お掛けになった電話番号は現在使われておりません。番号を今一度お確かめください』

 

「っ!? な、何故!?」

 

電子音声の案内が流れ、箒は驚きスマホの画面を見るも、番号と宛名は確かに束の名前が書かれており、再度かけ直すも、また

 

『お掛けになった電話番号は―――』

 

電子音声が流れ、震える手で電話を切る箒。

 

「姉さん、何故…ギリ」

 

束とは繋がらない以上、自分だけの力が手に入らない。そう思っていたがある事を思いつく箒。

 

「そうだ、奴が持っているベルトの会社なら!」

 

そう、箒が思いついたのは本音にベルトを渡した会社、PEC社に電話しベルトを貰う事だった。

箒はスマホでPEC社の電話番号を検索し、そして電話を掛ける。暫しコール音が鳴った後

 

『お電話ありがとうございます。こちらはPurgatory.Eden.Companyコールセンターでございます』

 

「社長と話がしたい。繋いでくれ」

 

『申し訳ありませんが、どちら様でしょうか?』

 

「篠ノ之束の妹の篠ノ之箒だ。早く社長に繋げ!」

 

『わ、分かりました。少々お待ちください』

 

担当した物が箒の怒声に若干ビビってしまい、保留音が鳴り響く。暫くして保留音が鳴り止む。

 

『お電話替わりました、社長秘書のシャルロット・ウィルソンです。ご用件は何でしょう?』

 

そう声が聞こえ、箒は同じクラスのデュノアと声が似ている事に疑問に持つも、すぐにどうでもいいと思い用件を伝える。

 

「私は社長と繋げと行ったんだがっ?」

 

『社長は現在会議に出ておられるので、電話に出る事が出来ません。ご用件は私がお伺いします』

 

「……じゃあお前等があの布仏に渡しているベルトを私にも寄越せ」

 

『申し訳ありませんが、それにはお答えすることが出来ません』

 

「っ!? 何故だ!」

 

箒に要求にシャルロットの口から出たのは拒否の言葉だった。箒はその言葉に怒声を上げる。

 

『我が社が布仏さんにお渡ししたベルトは彼女専用に作成された物です』

 

「だからそれを『布仏さんは我が社のテストパイロットとして所属されております。テストパイロットではない貴女にはお渡しする事は出来ません』私の篠ノ之束の妹だぞ!」

 

『それが何か?』

 

「なっ!?」

 

『篠ノ之博士のお名前を出されましても、我が社は貴女にベルトもしくはパワードスーツをお渡しするつもりはございません。これは社長の御意志でも御座いますので。では失礼します』

 

そう言い電話は切られた。

箒はわなわなと震え、そして

 

「クソッ!」

 

そう叫び、持っていたスマホを床へと叩きつける。スマホはガンッ!と鈍い音が鳴り響き、画面にヒビが入りカバーなどがパーツが飛び散った。

 

 

PECの社長室前の秘書部屋では箒の相手をしたシャルロット・ウィルソンがはぁ。と疲れた様なため息を吐く。

すると

 

「どうぞ、シャル」

 

そう声を掛けれ、顔を上げると其処にはコーヒーの入ったカップを差し出す一輝が居た。もう片方の手にはお盆を持っており、上にはコーヒーが入っているであろうカップが2つあった。

 

「あ、すいません一輝さん。私の仕事なのに」

 

「いいよ、いいよ。ちょうど暇だったからね」

 

シャルロットは申し訳ないです。と頭を下げつつ差し出されたコーヒーのカップを受け取り口に着ける。

 

「それでさっきの電話は?」

 

「……()()()()()()()()()さんからでした。ベルトを寄越せって言って来たんで拒否して切りました」

 

「やれやれ、恐らく姉が拒否したからウチに電話してきたんだろ」

 

「ですよね」

 

一輝の呆れた様な口調にシャルロットも同意するように頷く。さて、何故彼女がこの世界の篠ノ之箒とよんだのか。

それは、彼女もまた一輝達同様に異世界の人物だからだ。

彼女の旧姓はシャルロット・デュノア。この世界のシャルロット・デュノア同様にデュノア社社長の愛人の子供であった。

元居た世界でも男性操縦者からISデータを盗もうとしたが、逆に返り討ちに合い捕まり卒業後は刑務所に収監されそうになるも、Mr.Kこと陽太郎達に保護された。

卒業後は裏では彼等と共に転生者捜索や現地情報収集など裏方仕事を手伝ったり、表では陽太郎達が各世界に設立したPEC社の社長秘書としてスケジュール管理などを行っている。

 

「所で義兄さんは?」

 

「社長でしたら、部屋で会議をされてます」

 

「例のあの2人新武器の事かな?」

 

「はい。それと例のアリーナ襲撃事件の事も…」

 

「なるほどね。何か判れば良いんだが」

 

そう言い一輝はコーヒーを口にする。すると社長室の扉が開き、両腕を上に伸ばしながら固まった筋肉をほぐすMr.Kこと陽太郎が出てきた。

 

「ん~~。いやぁ、なかなか尻尾が捕まらないねぇ。あ、一輝。コーヒーありがとう」

 

そう言いながら陽太郎は一輝が持ってきたお盆からコーヒーの入ったカップを持ち呑む。

 

「義兄さん、何か判った?」

 

「いや、煉獄庭園に居る2人にも連絡をとって調べてもらったけど、有益な情報は無かったよ」

 

「そうですか。では一体何処からあれだけのISが?」

 

「分からない。あ、そうだ。シャル、確かこの時期は…」

 

「あ、はい、タッグマッチ戦でした」

 

「それじゃあ資料を「もう準備済みです」ハッハハ、相変わらず仕事が早くて助かるよ」

 

陽太郎が資料作成を依頼しようとしたが、既に作成済みですと報告するシャルロットに陽太郎達は驚いた表情を浮かべた後、笑みをを浮かべ資料を受け取る。

手渡された資料はタッグマッチ戦での事などが書かれており、内容には一夏と本音が偽暮桜を撃退したことも書かれていた。

 

「やはり、VTシステムの暴走は起きたか」

 

「そのようだね。でも、組み込まれていたのではなく、外部からのインストールって、本当かいシャル?」

 

「はい。爆散したISの中から無事だったCPUなどからは組み込まれた様子は無く、外部からハッキングされた痕跡が僅かながら残っていた事から導き出されたそうです」

 

「……外部からのハッキング。やはり転生者が?」

 

「可能性はあるが、いまいち不明瞭だね」

 

「そうですね。あ、そうだ社長。あの2人の新武器は?」

 

「ん? あぁ、一夏君用のが2つ、そして本音さん用のを1つ準備しているよ。臨海学校には間に合わせるよ」

 

「そうですね。私のいた世界同様にあのISが暴走するかもしれませんからね」

 

シャルロットの言葉に陽太郎達はそうだね。と返し臨海学校で起こるであろう出来事に警戒するのであった。




次回予告
タッグマッチ戦の翌日、クラスの雰囲気は変わらず明るい様子であった。だが、ボーデヴィッヒの一言で一気に最悪に。

それから数日後、一夏と本音は近々行われる臨海学校の為の物を買いに出かけることに。

次回
一夏と本音、仲良くお買い物

「おっかいもの(∩´∀`)∩」

「おっかいもの(*‘∀‘)」

【おっかいもの(・∀・)】



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21話

タッグマッチ戦から翌日の事。

一夏と本音は何時も通りに2人一緒に並びながら談笑を交えながらクラスへとやって来た。その後ろにはメサも付いて来ており二人が席に着くと教室の後ろで待機した。

2人が来た事に気付いた相川と鷹月は手を振りながら挨拶する。

 

「おっはよぉ二人共」

 

「おはよう」

 

「おっは~」

 

「お、おはよう、ございます」

 

「二人共凄い噂になってるよ」

 

「いやぁ~、それほどでもぉ」

 

「本当本当。あの織斑先生が乗っていた暮桜相手に教師部隊到着まで持ち堪えたんだもん。凄いよ」

 

「そ、そんな事ないですよ」

 

2人からの称賛の言葉に一夏は苦笑いを浮かべ、本音はのほほんとした顔を浮かべる。

そうこうしているとチャイムの音が鳴り響き、それぞれ席へと戻って行く。全員が席に着いたと同時に前方の扉から千冬と真耶が入って来た。

 

「諸君おはよう」

 

「「「「おはようございます!」」」」

 

「お、おはようございます」

 

「うむ。では「遅くなりました」…ボーデヴィッヒか。さっさと席に着け」

 

SHRを始めようとした矢先に扉からボーデヴィッヒが入って来た。千冬は医務室から今日から出席するそうです。と連絡を受けていた為、説教はしなかった。

 

「その前に、これまでの事を謝罪したくお時間を頂きいたのですが」

 

「…いいだろう。だが手短にやれ」

 

「ありがとうございます!」

 

そう言いボーデヴィッヒは千冬から生徒達の方に体を向ける。

 

「色々と迷惑を掛けて、申し訳なかった」

 

そう言い頭を下げるボーデヴィッヒ。

 

「そして織斑一夏。特にお前には迷惑を掛けた。済まなかった」

 

「い、いえ」

 

一夏はビクビク怯えながらもそう返す。周りの生徒達や千冬はもう迷惑な事はしないだろう。そう思おうとした。だが

 

「そうか。それじゃあ今日から私も布仏同様にお前の世話をしよう」

 

「「「「「( ゚Д゚)ハァ?」」」」」

 

ボーデヴィッヒの口から突如出た言葉に教室にいた全員がポカーンと口を半開きにして茫然とした表情を浮かべていた。

そんな中一夏はボーデヴィッヒの言葉に先程以上にビクビクと震え、怯えた表情を浮かべていた。

 

「い、いえ、け、結構、です」

 

「イッチー、大丈夫ぅ?」

 

震える口で拒否の意思を示す一夏に、隣の本音は心配そうに一夏の背を摩り、落ち着かせる。

 

「ボーデヴィッヒ、何故貴様が織斑の世話をしようと考えた?」

 

「それはこれまでの非道を許してもらうべく、どうすればいいかと考えましたが思いつかず、部下に相談したところ身の回りの世話をすることで贖罪になると教えてもらいました!」

 

「……メサ」

 

【合点承知の助【#・∀・】ムカムカ】

 

ボーデヴィッヒの説明に額に青筋を浮かべた千冬はメサを呼ぶと、プラカードで返事をしたメサがガシャンガシャンと足音を立てながら教室の前へとやってきて問答無用でプラカードをボーデヴィッヒの頭に振り下ろす。

 

「ふぎゃっ!!????!」

 

メサの攻撃を受け、そのまま床とごっつんこするボーデヴィッヒ。

更に其処にすかさず千冬が何処からか手錠を取り出し、ボーデヴィッヒの両腕を後ろに回し拘束する。

 

「メサ、コイツを廊下の端っこに捨ててこい。それと他の教師達や生徒達に手錠を解除されちゃ困るから、『処罰中~目を合わせず、そのまま放置しておくように~』とプラカードに書いて近くに置いて来てくれ」

 

【ラジャー('◇')ゞ】

 

千冬の命令にメサは了承し、拘束されたボーデヴィッヒを掴み上げ引き摺りながら廊下へと出て行った。

 

「ではSHRの続きを行う」

 

「「「はい!」」」

 

千冬の言葉に生徒達は何事も無かったように返事を返し、SHRを聞くのであった。

 

 

 

それから数日後。一夏は本音とメサと共にレゾナンスを訪れていた。何故レゾナンスに訪れているかと言うと、近々行われる臨海学校に持っていく物を買いに来たのだ。

臨海学校は海沿いに近くにある旅館に泊まり、初日は自由時間。次の日は海岸にてアリーナでは再現できない自然の障害物や風などでのIS運用方法を学ぶ授業が行われる。

 

一夏達は初日の自由時間用の遊び道具を探しに来たのだ。

 

「イッチー、自由時間は何するのぉ?」

 

「僕は、釣りでもしてようかなと思ってます」

 

「釣り? ……あぁ、そっかぁ。イッチー泳ぎたくても、浜辺には水着を着た皆がいるもんねぇ」

 

「は、はい」

 

そう会話をしながら二人はレゾナンス内にある釣具店へと入って行った。

メサは店の入り口前で待機していた。通り過ぎていく人たちはメサに興味津々な視線を送るも、メサは気にすることなく佇む。

実はメサはただ一夏が帰ってくるまで佇んでいる訳では無く、警戒をしていたのだ。

一夏と本音と共にレゾナンスへと向かっている最中、ずっと背後から誰かが付けている事に気付いていたのだ。

勿論メサは誰が付けているのか検討が付いており、イラついていた。

 

【(全く、あのストーカー共。坊ちゃまに一体どれだけ迷惑を掛けたら気が済むんだ? まぁ、千冬様には既に連絡済みですから問題ありませんが)】

 

そう思いつつ店前にて一夏達が出てくるのを待つのであった。

 

一方その頃、例のストーカー組はと言うと

 

「で、何か言い分はあるか?」

 

「「「「「……ありません」」」」」

 

レゾナンスの一角にてタイルの上で正座をする専用機持ち+箒。そんな彼女達の前には威圧感を半端なく放出している千冬が立っていた。

さて、何故千冬が彼女達の前で圧を放っているのか。それはメサからの専用機持ち達のストーカー行為の報告もそうであるが、もう一つ訳があったのだ。

その訳はと言うと――

 

時間は千冬がストーカー組を説教するほんの少し前まで遡る。

ストーカー組こと、鈴、オルコット、シャルロット、ボーデヴィッヒ、そして箒は少し離れた位置から一夏達の事を見ていた。

 

「うぐぐぐぐ、何で何時もあのちっこいの付いているのよぉ!」

 

「教室のみならず、寮から学校までの移動や、移動授業などでさえ布仏さんや他の方々と行動しておられますからね」

 

「……いいなぁ」

 

「むぅ、あの護衛のロボットまで付いているとなると容易に近づけんぞ」

 

「チッ。一夏の奴、何故あんな奴と一緒に買い物など…」

 

暫くして一夏達がお店の中へと入って行った。無論5人も中に入ろうかなと一瞬考えたが、メサが店の入り口で待機したのだ。

 

「むぅ、メサさんが入口に立たれてしまいましたわ」

 

「あ、あれじゃあ入れないよ」

 

「他に入口がある訳でもないからな。此処で待つしかないか」

 

3人はメサが居るから入るのは止め、此処で見ているかと考えていると、

 

「はぁ? そんなチンタラ待ってられる訳ないでしょ!」

 

「あぁ、そうだ。あんな奴潰して押し入ればいい」

 

そう言い鈴は腕を部分展開し、箒は何処から持ってきたのか木刀を携える。

 

「ちょ、ちょっとそれは流石にやり過ぎでは…」

 

「このくらいしないと行けな『ガッン!!』ヘッ?」

 

セシリアの忠告に耳を傾けず進もうとした鈴の顔スレスレの所を何かが通り過ぎ横の壁に勢いよく当たったのか音が鳴り響いた。音が鳴った方に顔を向けると何かが当たった跡があり、更に地面には白い小さな欠片が砕け落ちていた。

 

「い、一体、何が?」

 

全員一体何が飛んできたんだと思いながら、飛んできた先へと顔を向ける。其処には

 

「……(ꐦ°д°)」

 

「「「「「((((;゚;Д;゚;))))カタカタカタカタカタカタカタカタカタ」」」」」

 

右の手の指の間にチョークを挟んだ千冬が其処に立っており、鋭い眼光で5人を睨みつけていた。

その姿に5人はガタガタと震え、逃げようと考えるも蛇に睨まれたカエルの如く動く事が出来なかった。その間に千冬がゆっくりとした歩みで近付いてくる。

近付いてくる千冬に5人は更にガタガタと震えだす。シャルロットは逃げようと体を少し動いた瞬間、千冬はチョークを持った腕を振るう。次の瞬間シャルロットの頭上スレスレをチョークが通り過ぎ壁にぶつかり、チョークが砕け散る。

 

「ヒッ!??」

 

小さく悲鳴を上げその場で動きを止めるシャルロット。その後も動こうとした5人に向けチョークを投げつける千冬。そして5人の元に着いた千冬。着いたと同時に千冬は5人に正座!と怒鳴り付け地面に座らせた。

そして時間は戻る。

 

「……何をしていたか、貴様等の口で言え」

 

「あ、あの…織斑君の後を、追いました」

 

「…織斑のストーキング行為、いい加減に止めないとお前等の政府に文句を言うぞ」

 

「そ、それだけは!」

 

「だったら止めろ。散々注意したにも関わらずお構いなしにやっているからな。いい加減にしないと私の堪忍袋が引きちぎれるぞ」

 

「「「「「は、はい」」」」」

 

千冬からの圧に5人は素直に了承の言葉を口にする。そして立ち上がろうとしたが

 

「誰が立って良いと言った? まだ終わっていないぞ」

 

そう言われ直ぐに正座になる5人。

 

「オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒはこの後私と山田先生とで買い物だ。勝手に行動した場合、臨海学校まで反省房に入れるぞ?」

 

「「「は、はい!」」」

 

「そして鳳、篠ノ之!」

 

「「は、はい!」」

 

「貴様等、此処が何処か分かっているのか?」

 

「えっとレゾナンスです」

 

「そうだ、つまり公共の場だ。だと言うのに貴様等、その手は何だ!」

 

そう言われ自分達の手を見る。鈴は腕を部分展開しており、箒に至っては木刀を握っていた。

 

「鳳! 『公共の場でのIS展開は原則禁止。但し自分の命が危険の場合は除く。』とIS取扱書にそう書いてあったはずだ。何故部分展開をしている!」

「そして篠ノ之! お前もこう言った場所で木刀など、人を殺傷する恐れがある物を何故握っている!」

 

「そ、それは、その…」

 

「あ、あのロボットを、排除しようと…」

 

千冬から放たれる圧に怯えながら、訳を話す2人。2人の説明に千冬は更に威圧+殺気を放つ。

 

「なるほど、貴様等のくだらん理由はよく分かった。だがそれではい、終わりと済む問題ではない」

 

そう言っていると、奥から腕章をした女性数人がやって来た。腕章には

 

『IS学園警備部隊』

 

と書かれていた。

 

「織斑先生、此方にいる5人ですか?」

 

「いや、其処にいる茶髪のツインテールと黒髪のポニーテールの奴だ」

 

「分かりました。貴方達立ちなさい!」

 

そう言い2人が立つと両腕を掴まれ手錠をされる。

 

「では臨海学校開始まで独居房にに入れておきます」

 

「頼みます」

 

そう言うと、警備部隊の方々は鈴と箒を拘束し引き摺りながら連れて行った。二人は逃げようと藻掻くも、鎮静剤を打ち込まれ、そのまま連れて行かれた。

 

 

「貴様等もアイツら同様になりたくなければ、大人しくしておけよ」

 

「「「…は、はい」」」

 

そう返事を返し千冬と真耶に連れられ暗い表情でショッピングする事となった。

 

因みに一夏達は5人が説教されている間に買い物を済ませ、学園へと帰っていた。




次回予告
臨海学校へとやって来た一夏達。
一夏と本音は買って来た釣り道具を片手に海で釣りを始めた。






闇がゆっくりと近づいている事に気付かずに…

次回
臨海学校初日!

「何が釣れるんでしょうか?」

「マグロが釣れたら良いなぁ」

【本音様、それは流石に無茶です(;・∀・)】


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22話

この度名前を変更して、「のんのんびより」から「のんびり日和」に変更いたしました。
理由は、運営さんから作者の名前が原作検索で引っ掛かり検索妨害になっているので変更するように。とメッセージが届いた為、変更いたしました。

以上私事終了


買い物に出掛けてはや数日が経ち、一夏達は臨海学校が行われる旅館へと向かおうとバスが待っている正門前にて集合していた。

皆それぞれ大きめのバッグをもって集合しており、皆楽しみにしていた。

一夏も皆と同じ様に少しばかり楽しみであったのか、少し笑みを浮かべていた。

 

「イッチー、楽しみだねぇ」

 

「は、はい。臨海学校とはいえ遠くに行けるのは、楽しみです」

 

隣にいた本音と楽しそうに談笑をする一夏。すると千冬や他の教師達も集合し生徒達を整列させた。

 

「よしこれより臨海学校を行う旅館へと向け出発する。それぞれ荷物を載せ次第、バスへと乗る様に」

 

そう千冬が指示を出すと、生徒達は事前に知らされていたバスへと荷物を載せ順次乗り込んでいく。

一夏は人が減った後に荷物を載せてバスに乗ろうと思い待機し、本音も一夏と一緒に行動しようと思い傍で待機していた。

するとその傍に千冬がやって来た。

 

「何をしているんだ、2人とも?」

 

「あ、えっと、荷物を載せる所にまだ人が沢山いるので、此処で待っているです」

 

「そうだったか。なら私も此処で待とう」

 

そう言い千冬は一夏達と共にバスのトランクルーム付近が疎らになるのを待つことに。

暫くしてほとんどの生徒が荷物を置いてバスへと乗り込んでいき、トランクルーム前が空いた為一夏達も荷物を置いて行く。

すると一夏はある事を思い出し口を開く。

 

「あの、織斑先生。メサさんは?」

 

そう聞く織斑。そう、一夏の傍には何時もいるはずのメサが居ないのだ。

今朝方までは一夏と一緒にいたメサ。だが

 

【申し訳ございません、坊ちゃま。私は別の手段で向かいます…。;つД`)】

 

とプラカードを見せて、一夏とは別れたのだ。

 

「あぁ、メサか。当初はバスに一緒に乗せて移動する予定だったんだが、思った以上にアイツの重量が重くてな。で、束に頼んでロケットで運んでもらう事にしたんだ」

 

「そ、そうだったんですか」

 

千冬の説明に一夏は納得した表情を浮かべ、本音と共にバスへと乗り込む。

一夏と本音はバスの一番前の席で、廊下を挟んだ隣には真耶が座り、一夏達の後ろには千冬が座る形となった。

 

そしてバスは走り出し目的地へと向かい始めた。

車内では和気藹々と談笑をする生徒達で溢れており、一夏も本音と一緒にお菓子を食べながら談笑していた。

一方で専用機持ち達はと言うと、バスの一番奥の座席に座ってただ黙ってジッと座っていた。

というのも4人が固められて座っているのは千冬がそうなるよう座席表をいじったからである。

奥の座席にしたのは一夏が座っている座席から一番遠く、更にバスを降りる際は手前から、乗る際は一番奥から座る様に指示している為、一夏が絡まれる確率を下げたのだ。

 

そのおかげか、一夏は途中の休憩所などで専用機持ち達に絡まれる事なく旅館へと着く事が出来た。

旅館に着き一夏達前方の人達が降りて行きそれぞれ旅館前にて整列していく。全員が整列を終えると千冬が前に出ると、その隣に着物を来た女性がそっと立つ。

 

「それでは此処が今日からお世話になる花月莊だ。そしてこちらの方がこの花月莊の女将をされている清州景子さんだ」

 

「女将の清州景子です。皆さん宜しくお願いします」

 

『お世話になります!』

 

「フフフ、元気がよろしいですね」

 

そう微笑みを浮かべる清州。

 

「では皆、しおりに書かれた部屋に行くように」

 

そう千冬が合図をすると、皆ぞろぞろと旅館の中へと入って行く。一夏は学園でバスに乗るとき同様に入口が空くまで暫し外で待っていると千冬がその傍へとやって来た。

 

「織斑、部屋の場所は分かるか?」

 

「えっと、はい。此処、ですよね?」

 

そう言いながら、しおりに書かれたとある箇所を指す。其処は教員部屋と書かれていた。何故一夏が教員部屋と書かれた部屋を指したのかと言うと、一夏は男性で他の生徒達とは一緒の部屋には出来ない。かといって一夏一人の部屋を用意したとしても他の生徒達が一夏の部屋に雪崩れ込んでくる恐れがあり、一夏の症状が悪化する恐れがあった。

そこで、教師達が泊まる部屋の区画に一夏用の部屋を一つ用意したのだ。こうすることで生徒達は一夏がいる部屋に容易に近付く事が出来ない上に、どの部屋に一夏が居るのか分からなくなるのだ。

 

「あぁ、其処だ」

 

そう言い部屋の確認を終えると、遠くからガシャンガシャンと音が鳴り響く。一夏と千冬は音がした方に顔を向けると、其処には

 

【坊ちゃまぁぁぁぁぁぁ!!!!ホップ!ステップ!ジャンプ!⌒v⌒v⌒v⌒ミ(ノ´∀`)ノ♪】

 

とプラカードをブンブン振り回しながら喜ぶメサが走ってやって来た。

 

「メサさん、無事に来れたんですね」

 

【はい、博士のロケットに此処まで運ばれてきました。(゚∀゚)】

 

「そうだったんですか」

 

「メサも無事に来れた様だな。それじゃあメサ、済まんが織斑と一緒に部屋に行ってくれ」

 

【畏まりました! (`・ω・´)ゞ】

 

プラカードを見せ、メサは一夏と共に部屋へと向かって行った。

 

部屋で釣り用の服装に着替えると、一夏は釣り道具の入った袋をもってメサと共に廊下へと出て釣り場へと向かった。

釣り場に到着すると、その場には一組の生徒達に他のクラスの生徒達、そして引率の教師2人と千冬が居た。

 

「あ、イッチー。こっちこっちぃ」

 

そう言いながら同じく釣り用の服装を着た本音が近づく。

 

「は、はい」

 

そう言い本音の横に並ぶ一夏。そして千冬が前に出て口を開く。

 

「ではこれより釣りを始めてもらう。釣った魚は後程旅館で夕餉に出されるから、沢山釣ればそれだけ夕餉が更に豪華になるからな。頑張れよ」

 

そう言われ生徒達はよっしゃー!とやる気を見せる。

そして千冬の号令と共に生徒達はレンタルした竿をもって釣りを始めた。

暫くして生徒達の竿には多種多様な魚がかかり、監視役の教師達がそれぞれ釣れた魚が食べられるものかどうか判断していく。

一夏と本音が釣った物はメサが鑑定していた。

暫くして持ってきたクーラーボックスの中にはアジやカサゴと言った多種多様な魚で一杯となり、生徒達は皆ニコニコと笑顔で一杯だった。

 

「ふむ、一杯釣れたな」

 

「そうですね。これだけあると、豪勢になりますね」

 

教師達の言葉に生徒達はうんうんと頷く。

そして釣り道具などを片付け、生徒達は教師達の引率の元旅館へと帰る。

そして夕餉には、釣った魚で作られたつみれ汁から刺身の盛り合わせ、そしてしゃぶしゃぶと言った予定されていた物以上の豪勢な夕餉となった。

 

 

夕餉が終わり、生徒達はぞろぞろと温泉へと入っていく中、一夏は部屋にてメサと共にテレビを見ていた。

 

『吉田、タイキック』

 

『えぇ~~!? 何で、また僕なんですか!?』

 

『ほら、動いたら危ないて』

 

ゲシッ

 

『あいったぁあぁぁぁぁ!!???!!』

 

「ふっふうふふふ」

 

【毎年この方タイキック受けてますよね? ケツがその内4つに割れるんじゃないんですか?(;^ω^)】

 

テレビで放送されていたバラエティー番組を見て笑みを浮かべる一夏。すると襖をノックする音が鳴り響く。

その音にメサが立ち上がり襖を開けると、其処には浴衣姿の千冬が立っていた。

 

「他の生徒達や教師達が全員入り終わったから呼びに来た」

 

【そうでしたか。では坊ちゃまと向かいます】

 

他の人が入り終えた事を伝えに来た千冬にメサはプラカードでそう伝えた後、一夏の元に向かいプラカードで説明すると一夏はカバンからタオル等を取り出し、浴衣をもってくる。

 

「お風呂場は大きいからゆっくり浸かって来い」

 

「はい、行ってきます」

 

そう言い一夏はメサと共にお風呂場へと向かって行った。

一夏とメサが風呂場に向かって行くのを見送った千冬はふぅ。と息を吐く。そして自身の部屋の中へと入る。すると部屋にはロープで簀巻きにされた問題児5人が転がっていた。

 

5人が何故簀巻きにされているのかと言うと、毎度の如く一夏に絡もうと考えていた5人。だが常にメサが隣にいる為それが出来なかった。其処で5人は風呂なら出来るのではと考え実行に移そうとしたが、気配を消して5人を監視していた千冬に見つかりそのまま御用となり、簀巻きの状態にされたのだった。

 

 

 

 

 

ところ変わって、PEC社ではMr.Kこと陽太郎と一輝、そしてシャルが社長室で話し合っていた。

 

「それじゃあ社長、明日お持ちになられる武装は手筈通りトラックに積んでおきます」

 

「頼みました。一輝、明日は何時も通り」

 

「了解。護衛官として付いて行くよ」

 

「頼みます。シャルは――」

 

「心得ています。会社で例のISに関する情報収集等行います」

 

「お願いします。2人とも、明日は気を引き締めて行きますよ」

 

「「はい」」

 

2人の返答に陽太郎は手を握りしめながら明日の事を考える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日遂に、終わる! ISは女性だけの神聖な物! それを穢す男など排除するだけ!」

 

そう高々に叫ぶ女性の手にはUSBが握られていた。其処には『T-REX』と書かれていた。




次回予告
2日目の臨海学校。
岩場にて訓練が行われようとしたところでMr.k達がやって来た。
トラブルがありながらも、Mr.Kは一夏と本音に持ってきたコンテナを開けようとした瞬間事件が起きた。

それが悪夢の始まりだと気付かずに。

次回
訓練、そして事件


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23話

臨海学校2日目、この日生徒達は旅館が出してくれた朝食を手早く済ませると、それぞれ部屋に戻りISスーツを身に纏い旅館近くにある岩場へとやって来た。

そう、今日はISを使った訓練日なのである。

IS学園の様なアリーナではなく自然と言う予測不可能な場所での操縦は己の技量を引き上げるのに持ってこいの場所なのである。

一般生徒達は砂浜でISの歩行練習と飛行練習、専用機持ちは政府から送られた追加装備をインストールし、訓練を行う予定になっている。

 

予定した集合時刻になったのを確認した千冬は生徒達の前に立つ。生徒達はそれぞれ一列に綺麗に並んで千冬へとかを向ける。

 

「ではこれより訓練を開始する。一般生徒は砂浜にて打鉄を身に纏い歩行練習及び飛行練習を行う。専用機持ちは政府から送られた追加装備をインストールした後、飛行練習及び模擬戦闘訓練を行う」

 

そう言っていると、一台の車が言わば近くの道で止まり一人男性が居り、後部座席を開ける。すると降りて来た男性に千冬達は驚いた表情を浮かべる。

男性はそのままスタスタと一夏達の元へとやって来た。

 

「おはようございます、織斑先生」

 

「お、おはようございますMr.K。ど、どうしてこちらに?」

 

突如来訪したのはPEC社社長のMr.Kと護衛の鬼崎一輝であった。千冬の質問にMr.Kは笑みを浮かべながら答える。

 

「いや、本日はウチのテストパイロットである織斑君と布仏さんに御用がありましてね」

 

「そ、そうでしたか。しかし、来られるのでしたら事前に連絡を入れて頂きたかった」

 

「申し訳ない。何分2人に用意した武装が昨日の夜遅くに届いた物ですから、ご連絡するにはご迷惑だと思い」

 

「そうでしたか、そういう事でしたら分かりました。では「ちーちゃ~~ん!」げっ。アイツなんで今来るんだ…」

 

突如響く声に全員驚いた表情を浮かべていると、ドドドドっ!と砂煙を立ち昇らせながら走ってくる束が目が留まる。

 

「ほいっとぉ!!」

 

そう叫びながらジャンプして千冬の近くに着地する束。

 

「やっほぉ~~ちーちゃん&いっくん!」

 

「はぁ~、何の様だ束」

 

「お、おはよう束お姉ちゃん」

 

「おはよう、いっくん。えっと束さんの用はいっくんのISの検査だよぉ」

 

突如現れた束にげんなりした表情で見る千冬と、オドオドしながらも束に挨拶する一夏。千冬の問いに束は検査と言う用件を伝える。

 

「そうか、なら手早く済ませろ」

 

「ほいほい。いっくん、IS見せてぇ」

 

「は、はい」

 

そう言い一夏は自身のISの待機形態の腕輪を見せる。束は何処からともなくコネクターを取り出しそれを挿して検査する。夥しい程の文字や数字の羅列が現れるも、束はそれを読めているのか分からない程のスピードでスクロールしていく。

そして終わったのか、空間ディスプレイを閉じコネクターを抜く。

 

「うん、特に問題無し」

 

「そ、そうですか。良かったぁ」

 

「ふふん。と、そう言えば其処にいる奴って、いっくんに新しい武器を上げた奴だっけ」

 

「おい、束! 申し訳ない、Mr.K」

 

「いえいえ、気にしておりませんから」

 

束の言い方を注意し謝罪をする千冬にMr.Kは朗らかな笑みを浮かべながら気にしていないと告げる。

 

「それで、何か御用ですか篠ノ之博士」

 

「……一つだけ。いっくんを助けてくれた事、ありがとね」

 

ぶっきらぼうなような口調でお礼を告げる束に一夏や千冬は驚いた表情を浮かべ、メサも

 

【は、博士がお礼を言ったぁ!? (゚Д゚;)】

 

と驚愕していた。

束のお礼には、原作の彼女の性格を知っているMr.Kや一輝も一瞬呆けた表情を浮かべるも笑みを浮かべる。

 

「いえ、人として当たり前の事をしたまでですので」

 

 

6人が会話をしている中、生徒達の中から一人の生徒が出てくる。

 

「姉さん! なんで電話に出てくれなかったんですか!」

 

それは箒であった。怒鳴ってくる箒に束はどこ吹く風と言った表情を浮かべていた。

 

「電話ぁ? あぁ、束さん最近携帯電話を機種変更したんだけど、誤って電話帳に登録してある電話番号を全部消しちゃってさぁ。箒ちゃんの電話番号だけ復元できなかったから放置してたの忘れてたや。アッハハハハ!」

 

笑いながら告げる束にキッと睨みつける箒。

 

「まぁ、大方束さんにISを頼もうとしたんでしょ?」

 

「そ、そうです! 私だけの「あげる訳ないじゃん。何で誕生日プレゼントにそんな危ない物を上げるのさ」なっ!?」

 

箒を逆撫でする様にそう告げ、馬鹿にする様な表情を浮かべる束に箒は驚いた表情を浮かべる。

 

「束さんの事を都合のいい姉の様にしか見ていない箒ちゃんにあげる物なんて何一つないよ」

 

そう告げられ奥歯を噛み締める箒。そして今度は隣にいたMr.Kに顔を向ける。

 

「だったらお前の会社が持っているベルトを寄越せ!」

 

「篠ノ之っ!」

 

箒の行動に千冬が怒鳴って止めようとすると、Mr.Kは手を千冬の前に出しそれを制止させる。

 

「篠ノ之さん。貴女が我が社に電話をして同じようにベルトを要求したことは知っています」

 

 

『えぇ!!??』

 

Mr.Kの言葉に生徒達は驚いた声を上げ、千冬も驚愕の表情を浮かべた後箒を睨みつける。

 

「ですがその時私の秘書から言われたはずです。我が社はテストパイロット以外ベルトは渡さないと」

 

「ぐっ」

 

Mr.Kの正論に何も言えず、拳を震わせる箒。

 

「…いいから」

「いいから寄越せと「其処までだ」ヒッ!?」

 

拳を握りしめMr.Kに詰め寄ろうとした箒を傍に居た一輝が素早く箒の前に行き、箒の首元にサソードヤイバーを構える。

突如首元に向けられた刃に箒は悲鳴を上げ動きを止める。

 

「いい加減にしろ箒!」

 

動きを止めた箒に向け思いっ切り出席簿でしばく千冬。

そしてMr.Kの方に体を向け深々と頭を下げる。

 

「申し訳ありません、Mr.K。この馬鹿にはしっかりと処罰を受けさせますので」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

Mr.Kの言葉に千冬は再度謝罪をし、箒を訓練させず旅館に待機させる為近くに居た教師に頼み連行させる。

連行される箒とすれ違う様に真耶が慌てた表情で千冬の傍へと寄る。

 

「織斑先生、緊急事態が…」

 

「どうした?」

 

「アメリカの軍事ISが「待て、それは機密事項にあたる物だ」そ、そうでした」

 

そう言い千冬は手話で会話を始める。千冬と真耶が手話で会話している様子に生徒達は首を傾げ、手話の意味が理解できるMr.Kと束は鋭い顔つきを浮かべる。

真耶との会話を終えた千冬は真剣な表情を浮かべ生徒達の方に体を向ける。

 

「緊急案件が舞い込んだため、訓練は中止とする! 一般生徒は教師達の指示に従って部屋にて待機するように! なお部屋から許可なく勝手に抜け出したりした者は罰則が与えられる!」

 

そう言われ生徒達はどよめき立ち、困惑が広がる。千冬は手を思いっきり叩き意識を戻させる。

 

「ぼぉーとするな! 教師達の指示にしっかりと従うんだ!」

 

そう言われ誘導する教師達に従い、一般生徒達はぞろぞろと旅館へと向かって歩き始める。残ったのは千冬と専用機持ち達と本音。そしてMr.Kと一輝、それと束であった。

 

「お前達専用機持ちは私と一緒に来るように。束、済まんが手を貸してくれ」

 

「良いよぉ」

 

「Mr.K、申し訳ありませんが、旅館にて「いえ、それには及びません」は、はい?」

 

 

「我々も手をお貸ししましょう」

 

「はぁ? そ、それは流石に「例の襲撃事件の事もあります。もしこれが同じ犯人による物だったら戦力は多いに越した事がありません」……分かりました。ですが、この事件の事はご内密にお願いします」

 

「勿論です」

 

Mr.K達が手を貸してくれると聞き、千冬は少し安堵した気持ちを抱く。そして千冬達は旅館へと向かって歩き出す。




次回予告
突如舞い込んだ緊急案件。それはアメリカの軍事ISが暴走したものだった。一夏達専用機持ちとMr.K達はそれを止めるべく接触予想地点へと向かう。

原作とは大きくかけ離れた凶暴なISになっているとは知らずに。

次回
狂風を纏う福音



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24話

千冬の先導の許、専用機持ちとMr.K達、そして束は旅館の奥にある一室の中へと入る。部屋の中には数人の教師達が空間ディスプレイを投影して様々なデータを表示していた。

それぞれ好きな位置に座ると千冬が前に立ち口を開く。

 

「ではこれより緊急ミーティングを始める。だがその前にこの案件では様々な誓約をさせられるし、命の危険を伴う作戦に従事することになる。その為この部屋で知った情報は一切口外しない様に。口外した場合は様々な罰則が与えられるし、最悪拘束される恐れがある。もしこれらが承服できない場合は部屋を出て行ってもらっても構わない」

 

千冬の問いに専用機持ち達は緊張した面持ちを浮かべ、Mr.K達は冷静な表情を浮かべていた。

暫しの時間が経った後全員が覚悟を決めていると判断し千冬は状況を説明し始める。

 

「では説明を始める。先ほど日本政府からアメリカとイスラエルとの共同開発中の機体が突如謎の暴走、現在日本に向け接近しているとのことだ」

 

「ISの暴走? またVTシステムによるものですか?」

 

「いや、VTシステムではない。機体には人が乗っていないからな」

 

「無人機という事ですか?」

 

「あぁ、パイロットは休憩室でその無事が確認された。カメラにも暴走したISに搭乗した者は居なかった」

 

「…では何故突然暴走など?」

 

「分からん。兎に角我々の目標は日本に向け接近してくるISの撃破、もしくは自衛隊及び米軍のIS部隊到着までの時間稼ぎを行う。何か質問はあるか?」

 

千冬の問いにセシリアがスッと手を挙げる。

 

「では暴走しているISについての詳細をお願いします」

 

「分かった。但しこのISは先も言った通りアメリカとイスラエルとの開発途中の機体だ。つまり機密の塊の為さっき言った通り、知った情報は一切口外などしない様に」

 

そう言われ全員頷いたのを確認する。確認後千冬は真耶に出すように指示を出すと、専用機持ち達の前に暴走したISの詳細が書かれたデュスプレイが現れる。

 

「機体名は銀の福音」

 

「武装は射撃特化型ですか」

 

接近してくるISに全員が険しい表情を浮かべている中、千冬は束に顔を向ける。

 

 

「束、暴走しているISにハッキングとかは可能か?」

 

「そう言うと思ってやったんだけど…」

 

千冬の問いに口を尖らせる束。

 

「どうした?」

 

「コアネットワークからだと暴走しているISに入れなんだよ。いろんな方法で侵入しようとしてるんだけどことごとくブロックされてさぁ」

 

「そうか。済まんが、引き続き頼む」

「では全員よく聞いてくれ」

 

そう言い千冬の方に専用機持ち達は顔を向ける。

 

「作戦だが、射撃特化の為近接特化である鳳が前衛に立ち、中衛にボーデヴィッヒ、デュノア、簪、一夏、後衛にはオルコットだ。そして」

「Mr.K、貴方は状況に応じて対処していただきたいのだが…」

 

そう言い淀む千冬。専用機持ち達は首を傾げる中、Mr.Kは千冬が何が言いたいのか理解しているのか笑顔を浮かべる。

 

「ご心配なく、布仏さんと共に我が社が保有している無人ヘリで向かいますので」

 

「そうですか。ですが、あまり無理はなさらない様お願いします」

 

2人の会話にそれぞれ首を傾げいている中、千冬がその訳を説明する。

 

「PEC社が開発したスーツにはISみたく飛行能力は無いんだ」

 

「そういうことなんです。だから現地まではヘリとかボートで行く必要があったんですが、幸い近くに我が社の無人ヘリのテスト飛行していたようだからこっちに持って来て貰う事にしたんです」

 

そう言っていると、外からバラバラとヘリのローター音が鳴り響く。

 

「来たみたいですね」

 

「えぇ。それでは各自準備を整え浜辺に集合。全員集合と同時に作戦を開始する!」

 

そう言われそれぞれ席を立ち準備をしに向かう。暫くして浜辺に専用機持ちとMr.K達が集まる。

「織斑先生、皆揃いました」

 

『分かりました。では作戦開始!』

 

その号令と共に専用機持ち達は飛び立ち、Mr.K達と本音は無人ヘリに乗り込み飛びたって行った。

 

浜辺から飛びたって暫くして、指揮所では千冬や教師達がモニターと睨めっこを続けていた。

 

「ゴスペルの位置情報は遂次送り続けているか?」

 

「はい、衛星で追跡を続けています。今だ進路を変えず日本に向かって来てます」

 

「そうか。目を離すなよ。それじゃ「大変です織斑先生!」どうしたっ!」

 

指揮所の襖を勢いよく開け大声を挙げてきた教師に千冬は何事だと思い顔を向ける。

 

「篠ノ之さんが訓練用のISを強奪して旅館から飛び立とうとしてます! 今現在2人のISに乗った教師部隊で抑えようとしますが、暴れてて危険なんです!」

 

「あの馬鹿者がぁ! チッ、山田先生、少し離れます!」

 

「わ、分かりました!」

 

千冬は報告に来た教師と共に指揮所から飛び出し、IS保管場所に向かって走り出す。

 

旅館にてそんな事が起きている事などつゆ知らない専用機持ち側はと言うと、ゴスペルが飛来してくる予想ルート上を飛行していた。

 

「本当にこのルートで合っておりますの?」

 

「衛星から送られている情報だと確からしい。ん?」

 

セシリアの愚痴にボーデヴィッヒが答えていると、前方から何かが飛来してくるが見えすぐさま検討がつく。

 

「目標を発見! 各機攻撃開始!」

 

その合図と共に専用機持ち達は散開して攻撃を開始しようとした。

その様子を遅れながらやってくる無人ヘリに乗ったMr.K達は見守っていた。彼等も攻撃範囲に入れば攻撃をしようと考えていた。

だが、Mr.Kは少なからず今回の作戦に疑問を浮かべていた。

 

(何だろう、この胸騒ぎは。何だか嫌な予感のする前兆だな)

 

そう思いながらゴスペルを見つめる。すると突如ゴスペルの動きが止まった。

 

「なんだ? 動きが止まった?」

 

それぞれが突如動きを止めたゴスペルに困惑する。すると突然

 

『UGYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!???!!!』

 

と、大きな叫び声を上げるゴスペル。その叫び声に専用機持ち達は大きく顔をしかめる。

 

「な、何よいきなり!?」

 

「わ、分かりませんわ!?」

 

専用機持ち達は当初の目的通りゴスペルを倒すか応援が来るまで時間稼ぎをしようと攻撃を開始する。

するとゴスペルは真っ直ぐに突っ込んできた。

ゴスペルの様子の変わり様に無人ヘリにいたMr.K達も顔をしかめる。

 

「社長、あれって?」

 

「分からない。だが酷い暴走状態という事だけは分かるね」

 

そう言っていると、ゴスペルの左肩を注目していた。其処には本来原作にはなかった肩パッドのような物がついていた。

 

「あれは一体?」

 

怪訝そうな顔で見つめる中、専用機持ち達に突っ込むゴスペル。

突っ込んできたゴスペルは光球を発生させながら一夏達に攻撃をしてくる。

 

「射撃特化型だから近接に持ち込めば!」

 

「鈴さんを援護しますわよ!」

 

鈴が接近して攻撃する。だが其処で予想外の事が起きたのだ。ゴスペルに向かって双天牙月を振り下ろす鈴。

 

「おりゃ! あれ?」

 

振り下ろした先には、何も居らず一体何が起きた?と呆けた顔を浮かべる鈴。すると

 

「鈴、横にいる!」

 

そう叫び声が聞こえ言われた方に振り向くと、其処には()()()()()()()()()()()()()()()ゴスペルの姿があった。鈴は咄嗟に双天牙月で防御するも当たった瞬間

 

「きゃぁああああ!!?」

 

勢いよく吹き飛ばされる鈴。

 

「鈴さん!?」

 

「どういう事だ? 射撃特化型じゃないのか!」

 

指揮所で聞いた話とは違い、近接攻撃をしてくるゴスペルに混乱状態に落ちる現場。だがそんな中でもゴスペルは次なる獲物を狩ろうと襲い掛かってくる。

迫ってくるゴスペルにそれぞれ弾幕を張るも、それをも掻い潜り襲い掛かってくる。

ヘリに乗っていた本音も参戦しようとカリスに変身する。

そしてカードの中からハートの7のカードを取り出す。それをカリスラウザーに通す。

 

バイオ

 

その音声と共にアローから触手が伸びゴスペルを拘束しようとする。だがゴスペルはそれを鉤爪状に変形した手で防いでいく。

そんな中Mr.Kはずっと気になっていた肩パッドを見つめていた。すると肩パッドに攻撃が若干当たったのかそのパーツの一部が捲り上がった。その装甲の下にあった物にMr.Kは驚いた表情を浮かべる。

 

「ガイア、メモリだと…」

 

「え? ガイアメモリ?」

 

Mr.Kの口から出た言葉に本音は疑問の言葉を口にする。そんな中Mr.Kはすぐさま無線をとる。

 

「こちらMr.K。対象となるゴスペルはかなり危険な物を積んでいることが判明しました。これより一時後退を行います」

 

『こちら指揮所の山田です。了解しました!』

 

「織斑先生は?」

 

『現在旅館にてトラブルが起き、そちらの対処に追われており指揮所を離れております』

 

「そうですか。それと教師部隊に援護をお願いしたいのですが」

 

『分かりました。すぐに教師部隊に現場に向かわせます』

 

「お願いします」

 

そう言い無線を切ると、すぐさま専用機達に無線を繋げる。

 

「全員後退準備をしてください。現状の戦力では勝てる確率はほぼゼロです」

 

『し、仕方ありませんわ』

 

『わかりました!』

 

『クッ。致し方ないか』

 

『は、はい!』

 

それぞれの返信を聞きながらもあのガイアメモリをどうするかと考え始める。

 

Mr.Kから後退の指示が来たため一夏は後退しようとしたが

 

【UGYAAAAA!!!】

 

と背後からゴスペルが襲い掛かって来た。

 

[一夏、後ろから来てるわよ!]

 

「えっ!?」

 

襲い掛かって来たゴスペルに一夏は持っていたアサルトライフルで応戦するも、高い機動力で避けて行くゴスペル。

接近させまいと弾幕を張るも

 

カチッカチッ

 

「っ。弾切れ!?」

 

弾切れを起こしすぐさま新しいマシンガンを出そうとするももう目の前まで来ているゴスペルに対し照準する間が無いと考えバタリングラムを取り出す。

そして振り下ろされてきた鉤爪をバタリングラムで防ぐ。

圧倒的な力で潰そうとしてくるゴスペルに一夏は必死に攻撃を防ごうと力を入れる。

 

「うぅううぅ」

 

[な、何なのよこのパワーは!? ISが出せる様なパワーじゃないわよ!?]

 

コアのアイラはゴスペルの出すパワーに戦慄が走る。軍用とはいえISが本来出せる様なパワーとしては異常すぎる程の出力だったのだ。

 

防ぐ一夏にゴスペルはもう片方の鉤爪で襲い掛かる。一夏はそれを防ごうにも両手を使ってバタリングラムを支えている為防げなかった。

 

[やらせるものですか!]

 

そう叫びアイラはウィングのサブアームにソードモードのデンガッシャーを振るう。鉤爪はデンガッシャーと激しくぶつかり何とか防げたものの、その後も何度も振り下ろしてくる鉤爪にデンガッシャーで防ぐアイラ。

 

「一夏さんを援護しますわよ!」

 

「一夏君に当てないようにしなよ!」

 

「狙いを外すなよ!」

 

3人は一夏とゴスペルを引き離そうと攻撃しようとするが、その動きを察したゴスペルが周囲に光球を発生させ3人に向け攻撃を開始する。その攻撃はヘリに乗った本音達にも向けられており、ヘリは回避行動をするので精一杯だった。

 

未だにせめぎ合うゴスペルと一夏。何とか引き剥がさないと考える一夏。すると突如一気に前のめりに倒れそうになる感覚を覚える一夏。

突然の事に驚き固まる中、見えたのは

 

ゴスペルが何時の間にか後ろに下がっていたのだ。その為ずっと押し返そうと力んでいた為、押していた力が無くなったから前のめりに倒れそうになったのだ。

 

(し、しまった!?)

 

ゴスペルはその動きを見逃すはずも無く鉤爪を広げ一夏に襲い掛かる。

 

「させるかぁ!」

 

突如鈴の叫び声が轟いたと同時に双天牙月が投げられた。ゴスペルに吹き飛ばされた鈴は海面近くで体勢を立て直し反撃しようと上がろうとしたが光球を撃たれていた為反撃が出来ずにいた。だが一夏がやられそうになっているのが見えた瞬間、それを阻止しようと双天牙月を投げたのだ。

投げられた双天牙月は一夏に迫るゴスペルの鉤爪に見事命中しその鉤爪を破壊した。だが振り下ろされた手は止まることなく一夏に襲い掛かった。

 

「がはっ!?」

 

尋常ではない力が襲い掛かりそのまま一夏は吹き飛ばされた。ゴスペルは追撃しようとするも

 

「させん!」

 

ヘリから飛び出したMr.Kが変身した姿の仮面ライダー隷汽がゴスペルに向かって殴りつける。

殴りつけられたゴスペルはそのまま勢いよく海の中へと叩きつけられるように落ちて行った。

殴りつけた後隷汽をすぐさまヘリが近寄り回収する。

 

「や、やったんですか?」

 

「いや、寸でのところで機体を少しずらして致命傷にならない様避けた様だ。だが暫くは動けないはずだ。さぁ、急いで一夏君を回収して後退するよ」

 

そう言いヘリを一夏が着水した海面に向かう。一夏はISが解除され海面を浮いた状態でいた。

ヘリへと上げられた後本音は意識のない一夏に気が動転してしまった。

 

「イッチー!?」

 

「本音さん落ち着いて! ケガの確認が先です!」

 

Mr.Kにそう叫ばれ本音は少し落ち着きを取り戻し直ぐに脈などを確認する。

 

「脈あります!」

 

「大きな怪我もないし、呼吸も大丈夫そうだ。けどまだ安心はできないが、急いで戻るよ」

 

「はい!」

 

 




次回予告
後退には何とか成功したものの、一夏はゴスペルの攻撃で意識を失い治療を受けることに。
指揮所ではゴスペルに現状と今後の作戦が立てられることに。

次回
狂暴のゴスペル


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25話

一回目の攻撃は失敗に終わり、Mr.Kやオルコットたちは旅館へと戻って来た。ヘリに乗っていたMr.Kや本音は直ぐに一夏を担ぎ、旅館の中へと連れて行く。

旅館の入り口では報告を受けて待っていたのか、束が立っていた。

 

「こっちに連れて来て!」

 

そう言われ一夏を背負っていたMr.Kは束の後に続き、本音もその後に続く。

束に案内された部屋へと来るとMr.Kはそっと一夏を敷かれていた布団へと寝かせる。束は何かの装置を取り出しそれを一夏の寝ている布団の四隅に置く。

そして空間ディスプレイを投影しボタンを押すと、装置からスキャンしているかのように光が発せられる。暫しした後スキャンを終えたのか光が消え、束はデュスプレイに投影された結果を見る。

その結果にホッと息を吐く。

 

「良かった、大きな怪我無いみたい。軽度の打撲がある程度だからメサに見て貰っておこう」

 

「そうですか。それは良かった」

 

束の報告にMr.Kは安堵した表情を浮かべる中、本音はまだ不安な表情を浮かべていた。

 

「……イッチー」

 

「のほほんちゃん」

 

「は、はい」

 

「心配なのは分かるんだけど、ちーちゃんに報告して来てくれる? その間にメサに治療させておくからさ。その後はちーちゃんからの指示があるまでこの部屋にいていいからさ」

 

「…分かりました」

 

後ろ髪を引かれる思いの中、本音はMr.Kと共にその部屋を後にし指揮所へと向かう。

指揮所の中へと入ると、其処には

 

「……」

 

不機嫌な表情を浮かべた千冬と何とも言えない表情を浮かべた専用機持ち達と教師陣。そして

 

「……」ピクッピクピク

 

頬を腫らし、頭にはたんこぶをたくさん作った箒が鎖で雁字搦めで拘束されていた。

その光景に本音は唖然とした表情を浮かべ、Mr.Kは頬を引きつらせつつ口を開く。

 

「織斑先生、彼女は一体何をしたんです?」

 

「…指揮所での会話を盗み聞きして備品置き場に置いていあるISに乗り込んで作戦地域に向かおうとしたんです。幸い近くに居た教師部隊がそれを阻止、そして私がこいつをISから叩き下ろしたんです。その後自己中心的な事しか言わなかったので、可及的速やかに黙らせる必要があったので鉄拳制裁しました」

 

「な、なるほど。では彼女の事は放っておいて報告を行います」

 

そう言うと先程までの空気が張詰める。

Mr.Kはあの場で起きた事を千冬へと報告していき、専用機持ち達はその場で行った行動を報告する。全ての報告を聞き終えた千冬は顔を手で覆い重い息を吐く。

 

「そうですか。しかし何故突然ゴスペルの力が上がったんだ?」

 

「……あのK社長」

 

「ん? なんです布仏さん?」

 

千冬の疑問の言葉を口にしている中、本音はMr.Kにあの事を聞くべく声を掛けた。

 

「ヘリで言ってた《ガイアメモリ》って、なんですか?」

 

「……そうですね。お話しした方がいいでしょう」

 

そう言いMr.Kは全員の方に顔を向ける。

 

「Mr.K、ガイアメモリとは一体?」

 

「ガイアメモリとは我が社が開発しているDNスーツと対抗するためにライバル組織が開発したモノなのです。このガイアメモリはDNスーツの様に物なのですが、装着者の安全性は考慮されておらず更に使用するたびに精神が汚染され力を欲するようになり、最終的には暴走すると言った危険な物なんです」

 

「そ、そんな危険な物、聞いた事がありませんよ?」

 

「えぇ、勿論知るはずがありません。世間にこの情報が広まる前に我が社や我が社と協力関係のある組織と協力し、このガイアメモリが世に出回る前にすべて破壊したのですから。ですが…」

 

「まだ残っていたのがあった。と言う訳ですが…」

 

「そうです。そしてガイアメモリはロボットやパワードスーツと言った物にも組み込むことができるんです。恐らくゴスペルにもあのガイアメモリが付けられていた為に、通常スペック以上の能力を無理矢理引き出されているんだと思われます」

 

Mr.Kの説明に全員何とも言えないと言った表情を浮かべており、束に至っては「私の大事な子供に何てものをぉ」とイラついた口調で零す。

 

「…Mr.K、ゴスペルを止めるにはやはりSEを無くすか、ISコアを破壊するしか方法は無いんでしょうか?」

 

「恐らくは。ただもう一つあるとすれば、ガイアメモリ事態を破壊することで停止すると思います。元凶となっているのはガイアメモリです。あれさえ破壊すればもしかすれば停止させることが出来ると思います」

 

「そうですか」

 

暫しの沈黙の後、千冬は皆を見渡し口を開く。

 

「作戦を再度練り直す為、全員補給を済ませて待機しておいてくれ。作戦が決まり次第再度ゴスペルに攻撃を仕掛ける。Mr.K、申し訳ないが此処で我々と共に作戦を練るのを手伝っていただけないか」

 

「構いませんよ」

 

そう言われMr.Kは指揮所へと残り、専用機持ち達は部屋を出て行く。部屋を出た後本音は一夏の居る部屋へと向かい、残った専用機持ち達は補給へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして補給を終えた鈴達は待機部屋にいた。簪は飲み物を買いに自販機へと行っている為居らず、残っているのは何時ものメンバーだった。

 

「……ねぇ」

 

「なんですの鈴さん?」

 

「アンタたちはこのままでいいと思う?」

 

「このままって、待機してること?」

 

「そうよ。このまま此処に待機してたってもしかしたら向こうの方が早く修復を終えて襲ってくるかもしれないじゃない。それだったら早い目に先手を打つべくじゃない?」

 

「それは良い手だと思いますが、あの機体が今何処辺りに居るかなんて分かりませんわよ?」

 

「そうだよ。衛星を使わない限り、詳しい位置なんて分からないよ」

 

そう言われ鈴はあぁ、そうっか。と悔しそうな顔を浮かべる。そんな中ボーデヴィッヒがそっと手を挙げる。

 

「場所なら分かるぞ」

 

「「「えっ?」」」

 

突然の発言に3人は豆鉄砲を喰らったかのように目を点とさせる中、ボーデヴィッヒが説明する。

 

「私はドイツ軍の軍人だ。しかも一部隊を任せてもらえるほどの階級を有している。だから衛星から情報も引き出せる」

 

「それって、つまりゴスペルの現在地も分かるってこと?」

 

「無論だ。暫し待てよ」

 

そう言いボーデヴィッヒは何処かに電話を掛ける。電話を終えて暫くして、スマホの画面を見せるボーデヴィッヒ。

其処には緯度と経度、そして地図が表示されており3人はおぉ。と声を漏らす。

 

「それじゃあ場所が分かったなら」

 

「えぇ、打って出ましょう」

 

「一夏君の敵討ちだ」

 

「あぁ、借りを返してやるぞ」

 

そう言い4人は部屋を出て行く。




次回予告
意識を取り戻した一夏。現状を傍に居た本音に聞き、一夏も動こうとする。
だがその行動を本音が制する。
すると突如ある人物が一夏の元にやってくる。

次回
意志と覚悟


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26話

指揮所にてゴスペルをどうやって止めるか作戦を練る千冬とMr.K。するとモニターを監視していた真耶がレーダーに映った物に驚きの表情を浮かべ、すぐさま千冬に顔を向ける。

 

「織斑先生!」

 

「どうした山田先生?」

 

「専用機持ち達が、勝手に出動しています!」

 

「なにぃ!?」

 

そう叫び急ぎ真耶の元に向かいレーダーを確認する。レーダーには甲龍、ブルーティアーズ、ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ、シュヴァルツェア・レーゲンが映っており千冬は急ぎ通信を繋げと隣の教師に言うも

 

「駄目です。通信を切っているのか、此方の応答に応じません!」

 

「あの、馬鹿共がぁ」

 

ドスの利いた声でそう零す千冬に、部屋の中にいた教師達は怯え、Mr.Kは何とも言えな表情を浮かべるのであった。

 

 

 

 

その頃医務室では布団に寝かされた一夏とその傍で心配そうに見つめる本音。メサは束の手伝いをしに席を外していた。

 

「うぅん……此処、は…」

 

「っ! イッチー、大丈夫?」

 

「は、はい。あの此処は?」

 

「此処は旅館の部屋の一室だよ。イッチーの容体を見るために織斑先生が用意してくれたんだぁ」

 

「そう、ですか。あの、銀の福音は?」

 

「…実は―――」

 

一夏の質問に本音は指揮所での話し合いを伝える。

伝えられた内容に一夏は驚いた表情を浮かべ、ISコアのアイラもそんな馬鹿なと言いたげな驚愕の表情を浮かべていた。

 

「そ、そんな事が」

 

「うん。今はK社長と織斑先生がどうするか作戦を練ってる感じだよぉ」

 

本音の説明にそうですか。と返す一夏。

暫しの沈黙が流れる部屋。すると一夏が突如布団から這い出て近くに畳まれていた戦闘服を着始める一夏。

その行動に本音は驚きの表情を浮かべる。

 

「い、イッチー何処行く気なのぉ?」

 

「銀の福音を止めに、です」

 

「そ、そんな状態じゃ危ないよぉ!」

 

「でも、それでも、銀の福音を()()()()()()()()

 

「っ。イッチー…」

 

一夏の助けに行くと言う言葉に本音は一夏の本気を感じ取った。ガイアメモリという良く分からない物に無理矢理動かされている銀の福音を助けたいと。

一人で行こうとする一夏の姿に本音は暫しの沈黙の後、覚悟を決めたかのような顔付を浮かべた。

 

「イッチー、私も行く」

 

「え、でもこれは、僕の「絶対に付いて行くから。あの時決めたもん、もうイッチー一人に無茶な事絶対させないって」ほ、本音さん」

 

「だから、私も一緒に銀の福音を助けに行く」

 

本音の真剣な表情に一夏は困惑の表情を浮かべていると、そっとアイラが口を開く。

 

[一夏、諦めなさい。彼女の覚悟は本物よ]

 

[アイラ…]

 

アイラからの言葉に一夏は一瞬目を伏せた後、本音に顔を向ける。

 

「分かりました。その、手を、貸してください」

 

「うん!」

 

一夏の頼みに本音は笑顔でそれに答えた。服を着替え終えた一夏は早速行こうと部屋の襖を開けると

 

「やっぱり行く気なんだね、一夏君。そして本音さん」

 

其処には腕を組み、腰に剣を携えた鬼崎一輝が立っていた。

 

「き、鬼崎さん」

 

「一夏君、それに本音さん。行った所で無駄死にしに行くようなものだよ」

 

「でも、銀の福音を助けに行かないと、もっと酷いことになるかもしれないです!」

 

「そうだね。でもそれでも行かせられないよ」

 

そう言われ行かせまいと立つ鬼崎に一夏達は顔を俯かせる。

 

「今持っている装備じゃあまた返り討ちに合うだけだ。だからこそ新装備が必要だろ?」

 

「「え?」」

 

突然の言葉に一夏と本音は呆けた顔を浮かべ、顔を上げる。一輝の顔はしてやったりと笑顔を浮かべていた。

 

「元から僕は君達を止めるつもりは無いよ。ただ、新装備を渡す時間は欲しいけど」

 

「そ、それじゃあ…」

 

「うん、装備を渡したら行くと良い。但し、無事に帰ってくるんだよ。それが第一なんだからね?」

 

「「はい!」」

 

「よし、それじゃあついて来て」

 

そう言われ一夏と本音は一輝の後に付いて行く。

旅館を出て駐車場に着くとその奥にコンテナにPECと描かれたトラックが一台止まっていた。

 

「さて、これが君達に渡す新装備だよ」

 

そう言って一輝はコンテナの横扉を開ける。扉が音を立てながら開くと其処には真っ赤な拳銃と青を基調とした片手剣とクローバーの様な形の刃がついた杖が置かれていた。

 

「左からギャレンラウザー、ブレイラウザー、レンゲルラウザー。一夏君にはギャレンラウザーとブレイラウザーを。本音さんにはレンゲルラウザーだよ。この武器は本音さんのイージスベルトに登録されているカリスと同じカードリーダー搭載型武器だ。勿論その武器専用のカードは標準装備されている」

 

そう言われ一夏と本音はそれぞれ恐る恐る新しい装備に手を振れる。すると突如それぞれの武器が光ると同時に結晶の様に砕ける。そして光の粒子は一夏のバレットホークの待機形態である腕輪に吸い込まれたり、本音のイージスベルトに吸い込まれていった。

 

「どうやら無事にインストールされたみたいだね」

 

「あの、一つ聞いてもいいですか?」

 

「何だい一夏君?」

 

「どうしてこの武器を最初に渡してもらえなかったのでしょうか?」

 

一夏の疑問に一輝は目を閉じながらその訳を話し始めた。

 

「済まない。本当は直ぐにでも渡す予定だったんだが、十分な装備説明をせずに渡しても扱いきれずにやられる可能性があったからなんだ」

 

「そうでしたか」

 

そう言い一夏は渡された武器を出す。

左手にブレイラウザー、そして右手にギャレンラウザーを持つ一夏に本音も同様にレンゲルラウザーを取り出す。二人が武装を出したのを確認した一輝は二人の武器の説明を始めた。

 

「左手に持っているブレイラウザーは両刃の片手剣だ。軽量で素早い攻撃が可能で、更に刃の強度はそんじゃ其処らのISの近接武器をも凌駕するほどの切れ味を有しているよ。そして右手のはギャレンラウザー。見ての通り拳銃で光弾を発射する。この武器はSEを消費するが、デンガッシャーのガンモード程では無いよ」

「次に本音さんのレンゲルラウザーを説明するよ。こっちは槍タイプの武器だ。これは現在の槍形態で戦う事も出来るし、短くしてダガーモードとしても使う事が出来る」

「そしてこれらの武器の特徴は、本音さんのイージスベルトに備わっているカリスと同じ異なる能力が備わったカードが使える事だ。それぞれの武器用のカードを用意してあるから、十分に活用してほしい」

 

「はい。あの、ありがとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

一輝の説明に一夏と本音はそう言いお礼を述べる。それに対し一輝は首を横に振った。

 

「お二人共、まだ事件は解決していないんだ。だからお礼は事件が解決してから社長に言って欲しい。その武器はお二人のこれから先に必要になるだろうって社長が用意してくれたんだ」

 

「…分かりました。絶対に本音さんと二人で帰ってきます」

 

「銀の福音も助けて帰ってきます!」

 

「あぁ。其処に無人ヘリが止まっている。それに乗っていくんだ。無事に帰ってくるんだよ?」

 

「「はい!」」

 

そう言い2人は止まっていた無人ヘリに乗り込むと、ヘリはローターを回し浮力がつくと飛び立ち銀の福音のいると思われる方へと向かって飛び発って行った。

 

飛んで行くヘリに一輝は真剣な眼差しで見送る。

 

「無事に戻ってくるんだぞ、2人共」




次回予告
無人ヘリで銀の福音がいる空域へと向かう一夏と本音。現場ではすでに戦闘が始まっており、危険な状態だった。
だがそれでも二人は銀の福音を助けるべく、新しい力と共に挑む。

次回
銀の福音、再激突


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27話

一夏と本音が無人ヘリに乗り込み旅館から飛びだった後の指揮所。

其処には千冬とMr.Kが作戦を練るべく案を出し合っていた。だがこれと言った有効策が無くどうすべきかと悩んでいた。

その訳は勝手に旅館から飛び出したオルコットたちの事である。

勝手に出撃した彼女達だけでは恐らく倒せない。だから応援を出そうと考えた物の、下手に応援を送ったところで勝てる見込みはあるのかと多くの懸念が湧いてきたのだ。

 

「全くあの馬鹿共め」

 

「致し方ありませんよ、織斑先生。なってしまった事にぐちぐち言って現状は変わりません」

 

「貴方の言う通りですが、口に出さずにはいられません」

 

すると指揮所の襖が開き廊下から一輝が中へと入って来た。

 

「社長、ただいま戻りました」

 

「あぁ、お帰り」

 

そう言い声を掛けるMr.K。するとモニターを見ていた真耶が頭に疑問符を浮かべながら口を開く。

 

「あれ、鬼崎さんじゃないんですか?」

 

「はい? 何がですか?」

 

「えっと、少し前に旅館から御社の無人ヘリが飛び発って行ったのでてっきり鬼崎さんが乗って発たれたのばかりに」

 

「あぁ。それは私ではありません。」

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「「「‥‥えぇ!???!!!!」」」」」

 

一輝の言葉にその場にいたMr.K以外の者達全員が一瞬唖然と表情を浮かべた後、大きな声を上げる。

その中で千冬が先に我に返る。

 

「ど、どう言う事ですか!?」

 

「目を覚ました織斑君が布仏さんから現状を聞き、銀の福音を助けたいという一心で本音さんと共に向かわれたのです」

 

「束は!? 束いるんだろ!?」

 

「いるよぉ」

 

千冬の叫びに答えるように襖が開き、顔だけひょっこりと出す束。

 

「お前、部屋で一夏の容態を診ていただろ! 何故止めなかった!」

 

「ごめんねぇ。その時束さん席を外してたからさぁ」

「それにたとえ束さんが止めに入っても、恐らくいっくんは止まらないよ。いっくんは誰よりも人が傷つく姿を恐れる。それは人だけじゃないISもそうだよ」

 

そう言い、先程までへらへらとした表情から真剣な表情へと変える束。

 

「どういう事だ?」

 

「そのままの意味だよ。他人が傷つくのは見たくない。だから自分一人で解決しようとするの。昔から変わらないいっくんの悪い癖だよ。でも今回は違う。のほほんちゃんが一緒に付いて行ってるし、それにアンタらの武器も渡しているんでしょ?」

 

束が一輝に向かってそう言うと、お見通しですか。と苦笑いを浮かべる一輝とMr.K。

 

「部屋に戻ったらいなくなっていたからISの現在地でいっくんの居場所を調べて行ったら、新しい武器を渡しているのが見えたからね」

 

「そうでしたか。織斑先生、貴女に何の相談も無く新武装を弟さんにお渡しして申し訳ない」

 

「……Mr.K、その新武装で一夏達は無事に戻ってくるのでしょうか?」

 

「正直なところ、私にも分かりません。しかし、私は彼等が無事に戻ってくると信じております」

 

「その訳は?」

 

千冬の問いにMr.Kは自身に満ち溢れた顔つきを浮かべる。

 

「彼等は何よりも強い絆で結ばれているからですよ」

 

 

 

 

その頃旅館から無人ヘリに乗り込んで飛び発った一夏達はというと

 

「イッチー、もうすぐ現場だよぉ」

 

「はい。……本音さん」

 

「なにぃ?」

 

「あの、一緒に来てくれて、ありがとうございます」

 

「ふぇ?」

 

「その、旅館では一人で行こうとしたんですが、此処に来て怖くなってきたんです。それで本音さんが一緒に行くと言った時、嬉しかったんです。あと、こんな事に付いて来てもらって申し訳ないって気持ちがあるんです」

 

「…そんなの気にしなくても良いよぉ、イッチー。私は、私の意思で付いてきたんだから」

 

「そう、ですか」

 

本音の言葉に幾ばくか顔から緊張が和らぐ一夏。

そしてレーダーに銀の福音を表す光点が現れる。一夏と本音は気合を、そして決心を抱きしめそれぞれISとパワードスーツを身に纏う。

 

ヘリから出てヘリと並走するように飛ぶ一夏。するとモニターに望遠拡大された銀の福音が表示された。其処には以前と同じ手が鉤爪状となり、禍々しい雰囲気を纏った銀の福音が映っていた。すでに戦闘状態になっていることに一夏と本音は疑問に抱きつつも今はそんな事を考えている余裕はないと思いと考えを切り捨て武器を手にする。

 

一夏はギャレンラウザーを持ち、本音はカリスに変身しカリスアローを準備し腰にダガーモードにしたレンゲルラウザーを下げる。

準備を終えた本音はカリスアローにハートの4をスラッシュする。

 

《フロート》

 

そう音声がなると、カリスの体が浮遊し本音はその状態でヘリから出てる。一夏達が出撃したのを見たのか銀の福音は

 

『ugyaaa!!!』

 

と奇声を上げながら一夏達の方へと迫る。

バレットホークのアイラは接近してきた銀の福音に対し先制攻撃とばかりにサブアームに装備されている銃器を全て狙いを定め引き金を引く。

迫る弾幕に銀の福音はランダムに回避行動をとりながら避けつつ、一夏へと迫る。

カリスも同じくカリスアローからエネルギー弾を飛ばす。流石に弾幕に続いてエネルギー弾も飛んでくるとなると速度は下がるものの、それでも一夏達の方へと接近する事だけは止めなかった。

 

[一夏、アンタが持っているギャレンラウザーのカードを使うのよ!]

 

「う、うん!」

 

一夏はギャレンラウザーのカードホルダーからダイヤの2を取り出し、カードリーダーに通す。

 

《バレット》

 

そう鳴り一夏は避ける方向を予測して引き金を引く。放たれたエネルギー弾数発はずれるも何発かは銀の福音に命中し仰け反らせた。しかしすぐに体勢を立て直し迫る。

今度は本音がハートの6と書かれたカードを通す。

 

《トルネード》

 

そしてカリスアローを構えエネルギー弾を放つ。放たれたエネルギー弾は激しい風を纏った状態で飛んで行き銀の福音に命中する。風圧などが加わった為か一夏の攻撃以上に大きく仰け反らせた。

だが仰け反った銀の福音は追撃とばかりに迫る攻撃にスラスターを吹かしてその場から回避し、一夏達から距離をとった。

 

「イッチー、大丈夫?」

 

「はい」

 

そう言いながら一夏はサブアームの武器を交換していく。一瞬の沈黙が流れた後、銀の福音がまた奇声を上げながら鉤爪を構えながらスラスター全開で襲い掛かってくる。

一夏はギャレンラウザーを仕舞いブレイラウザーを取り出しスペードの2を通す。

 

《スラッシュ》

 

その音声がなったと同時に接近してきた銀の福音が勢いよく鉤爪で一夏に攻撃を仕掛けるも、一夏は対抗するように思いっ切りブレイラウザーを振るう。

すると

 

バキンッ!

 

と音が鳴り響く。その音は一夏が振ったブレイラウザーが銀の福音の鉤爪を破壊した音だった。その事に一夏も本音も驚き、銀の福音は破壊された鉤爪に一瞬動きが鈍くなるも、再度一夏に攻撃しようともう片方の手を振り下ろしてくるも

 

「させない!」

 

そう叫びながら本音が腰に付けているレンゲルラウザーを取り出し、腰のカードホルダーからクラブの2を取り出しカードを通す。

 

《スタッブ》

 

その音声がなった後、本音はレンゲルラウザーを突く様な体制になって振り下ろされようとしていた鉤爪を突く。

鉤爪は手の平毎吹き飛び、周囲に破損したパーツを飛び散らす。

本音と一夏は追撃とばかりに攻撃しようとしたが、銀の福音は二人の持っている武器は危険と判断し一旦距離をとる。

そして距離をとった銀の福音と一夏と本音。

 

「よぉし、鉤爪を破壊したから後はSEか肩のあれを破壊するだけだね」

 

「そうですね。あと、少し…ん?」

 

あとはSE切れか肩に付いているガイアメモリを破壊するだけと思っていた2人。すると突如銀の福音がの様子が変な事に気付く一夏。

それは金属の大きく軋む音だった。その音を発信しているのは銀の福音であった。一体何がと思う二人をよそに音は少しずつ大きくなりそして

 

『GYAAAAAA?!!!!???』

 

と奇声を上げたと同時に、銀の福音の破壊された鉤爪から新しい鉤爪が現れたのだ。

 

「ど、どうして!? 破壊したはずなのに!」

 

「何でぇ!?」

 

2人が驚いている中、アイラは冷静に新しく現れた鉤爪を分析する。拡大してその鉤爪を見た瞬間アイラは戦慄した。

 

[一夏、あれはただの鉤爪じゃないわ!]

 

[え? どういうこと?]

 

[あれを拡大してみたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で出来ていたのよ!]

 

[そ、それじゃああれは…]

 

[えぇ、自分の体の中にあるパーツとかを無理矢理引きちぎったりして鉤爪にしたのよ。戦闘に支障をきたさない部分なら問題無いと判断したんでしょうね]

 

[そ、そんな。ISがそんな事を!?]

 

[彼女の意思じゃないわ。恐らくガイアメモリって言う奴が無理矢理そうさせているのよ! あれを破壊しないと、銀の福音が完全にガラクタになるまで戦わせるわよ!]

 

そう言われ一夏は戦慄するも、ブレイラウザーを握る手に力が入る。

そして修復が終わったのか、配線などむき出し状態の鉤爪で襲い掛かる銀の福音。一夏や本音は何とか応戦するべくライフルやカリスアローで攻撃する。回避しながら攻撃する一夏は一か八かとある賭けをする事に。

 

「ほ、本音さん!」

 

『なぁに、イッチー』

 

「銀の福音の視界を防ぐ事は出来ませんか?」

 

『……やってみる!』

 

そう言い本音はレンゲルラウザーを取り出しクラブの9を通す。

 

《スモッグ》

 

音声が鳴るとレンゲルラウザーから煙幕が出現し、銀の福音の視界を塞いだ。周囲に対しセンサーで動きを見守る銀の福音。すると突如自身の背後から現れたバレットホーク。バレットホークはバタリングラムで銀の福音に殴りかった。センサーを張り巡らせていた銀の福音は背後から襲い掛かったバレットホークに対し鉤爪で応戦。防がれるも、もう片方の鉤爪を振り下ろしバレットホークを攻撃する。

片方の鉤爪を防いでいた為、もう片方の鉤爪には対処できなかったバレットホークは右腕を大きく破損し動きが鈍くなる。

鈍くなったことを見逃すはずなく、銀の福音はそのままバレットホークの頭を掴み握り潰そうとする。

ミシミシと音が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、突如横から

 

《スラッシュ》

《サンダー》

《ライトニングスラッシュ》

 

その音声が鳴り響き、煙幕の名から突如()()()()()()()が現れ手に持ったブレイラウザーから稲妻走っていた。

そのまま一夏は一気に銀の福音との間合いを詰め、肩に付いたガイアメモリに向かって振り下ろした。

バチバチと大きな音を立てながら、振り終える一夏。

一夏は顔を上げるとガイアメモリがバキンと音を立てながら真っ二つに折れた。

ガイアメモリが折れたと同時に、銀の福音のバイザーから光が消えシュンとエネルギー切れを起こしたように力尽き、一夏はそっとそれを支えた。

銀の福音が力尽きたと同時に捕まれてたバレットホークもスゥーと消え去った。

 

一夏が取った作戦、それは視界を遮り、囮を使って隙を作り油断している時にガイアメモリを切ろうとという物だった。

本音に煙幕を張ってもらった後、一夏はギャレンラウザーを取り出し、ダイヤの9を通したのだ。

ダイヤの9の能力は自身と同じ分身を作りだす事が出来る物だった。

その為銀の福音の狙いは自分という事を逆手に取り、分身に銀の福音の背後から強襲させ隙を作ってもらい、銀の福音が油断した隙にブレイラウザーのカードコンボを使ってガイアメモリを斬ったのだ。

 

「イッチー、上手くいったね!」

 

本音がそう言い笑顔で一夏の傍に近寄る。

 

「は、はい。なんとかうまくいって良かったです」

 

「そうだね。それじゃあ早く帰ろぉ」

 

そう言われ一夏ははい。と返事を返し近寄って来た無人ヘリに銀の福音を吊るし、2人はヘリに乗り込むとそのまま旅館へと向かって飛んで行った。




次回予告
無事に銀の福音を止めることが出来た一夏達。
千冬達からのお叱りもしっかりと受けて。

旅館でそんな事が起きている中、とある場所ではある事が起きていた。

次回
平穏を取り戻した旅館


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28話

旅館へと戻る無人ヘリで一息ついていた一夏と本音。2人は先程まで銀の福音との命がけの戦いをしていた為、疲労が募っていたのか小さく寝息を立てながら寝ていた。

2人が寝ている間にヘリは旅館へと到着すると、誘導棒を持ったISを纏った教師部隊が居り、指示を出しながらヘリを誘導した。

指定された場所にヘリが到着するとゆっくりと降下してくるヘリ。教師部隊はヘリの下部に吊るされていた銀の福音をゆっくりと掴み、吊り下げるために括りつけられたワイヤーを外してどかした。

そしてヘリはゆっくりと地面に着陸すると、傍に待機していた千冬やメサ、そして束が大急ぎでヘリの後部座席へと駆け寄った。

其処で見たのは

 

「スゥー、スゥー」

 

「スヤァ、スヤァ」

 

と寝息を立てながら寝ている一夏と本音だった。最初は座席に凭れる様に座る二人に千冬の背に寒気が走るも、寝息を立てていた事に気付き大きく安堵して膝から力が抜けた。

 

「はぁ~、まったく心配かけさせおって」

 

「本当だよぉ。まぁ、無事で良かったねぇちーちゃん」

 

「あぁ。それじゃあ済まんが、2人を部屋に運んでやっておいてくれ」

 

「おっけぇ」

 

【お任せください( ´∀`)bグッ!】

 

2人はそう言い一夏と本音を抱き上げて旅館へと入って行った。それと入れ替わる様にMr.Kと一輝がやって来た。

2人が来た事に気付いた千冬はぐっと膝に力を入れ立ち上がる。

 

「Mr.K、貴方の助けが無ければ解決する事は出来ませんでした。本当にありがとうございます」

 

「いえいえ、私はほんの少しだけしかお力添えしておりません。解決に導いたのは貴方の弟さんと布仏さんですよ」

 

「それでも、貴方方が居なければこの作戦は上手く行きませんでした」

 

そう言い千冬は再度お礼を言い頭を下げる。

そして頭を上げた千冬はMr.Kと二、三話をし終えた後、Mr.Kと一輝は無人ヘリへと乗ってその場を去っていった。

 

 

 

 

Mr.K達が去って暫くし、月が昇り始めた頃。

 

「う…うぅ~ん。……あれ、此処って…旅館?」

 

そう呟きながら目を覚ます一夏。目を開ければ木の天井が目に入り、直ぐに此処が旅館だと気付く。上体を起こし辺りを見渡すと、隣には誰かが居たであろう布団が敷かれていた。

一体誰が居たんだろうと考える一夏。すると突如襖が開き、その先に居たのは

 

【ぼ、坊ちゃまぁ!? お目覚めになられたのですか!Σ(・□・;)】

 

とメサが居た。メサは起きていた一夏に驚きのプラカードを見せた後すぐさま一夏の傍に近寄りる。

 

「う、うん。今、何時ですか?」

 

【はい、今夜の7時でございます。坊ちゃまたちが帰還されて3時間程眠っておられました】

 

「そうですか。あ、ほ、本音さんは?」

 

【布仏様は現在体に異変が無いか保険医の元に行かれております。暫くしたら戻って来られます】

 

そうプラカードで説明されると、一夏はそうですか。と安堵した様子で返す。すると襖をノックする音が鳴りメサが応対するべく襖を開けると

 

「あ、メサメサだ」

 

【おぉ布仏様。お元気そうで何よりでございます。あ、千冬様もご一緒でしたか】

 

「あぁ。一夏は起きてるか?」

 

【はい、起きられております。吐き気等は無さそうでした】

 

「そうか。入らせてもらうぞ」

 

そう言い千冬と本音が中へと入って来た。布団にいた一夏に千冬は内心安堵した気持ちを抱くも、表に出さない様律する。

 

「無事で本当に良かったぞ、一夏。それに布仏も」

 

「う、うん」

 

「はいぃ」

 

「はぁ、お前達が勝手に出撃したと聞いたときは本当に胆が冷えたんだからな」

 

「ご、ごめんなさぁい」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「全く。まぁ、無事に戻って来たからこれ以上言うつもりは無いが、お前達は勝手に出撃した。故に処罰を与えなければならん。それは分かっているな?」

 

「「は、はい」」

 

「よろしい。では学園に戻ったら罰則を言うから今は体をゆっくりと休めておけ。いいな?」

 

「「はい」」

 

そう言い千冬は部屋から出て行く。二人は千冬の言い付けを守る為部屋でゆっくりとするのであった。

 

 

 

そして部屋を出た千冬はと言うと、旅館の入り口に来ていた。其処で暫く無言で腕を組み佇んでいると数人の足音とが聞こえてきた。

夜の暗闇から現れたのは教師部隊の教師達と勝手に出撃した専用機持ち達であった。

専用機持ち達の手には手錠がはめられており、その体には幾つもの痣などが出来ていた。

彼女達は勝手に出撃し、銀の福音に不意打ちを掛けて攻撃を仕掛けたものの、大したダメージを当たる事も出来ないまま全員撃墜されていたのだ。無論彼女達のISはダメージ判定はDクラス。つまり全機オーバーホールしなければならない状態と言う訳だ。

 

「戻って来たか、この大馬鹿共」

 

「「「「……」」」」

 

「まぁ、返事も出来る状態では無いな。こいつらを保険医に見せた後拘束部屋に放り込んでおいてくれ。帰るまでは一切部屋から出ない様見張っておくように」

 

「了解しました。ほら、歩きなさい!」

 

そう言われ教師部隊に連行される専用機持ち達。

はぁ。と重い空気を吐き出す千冬。すると背後にある気配を感じ口を開く。

 

「もう帰るのか、束?」

 

そう言うと背後の林からぴょんと飛び出る束。

 

「うん。銀の福音といっくんのバレットホークのチェックは終わったからね。あんまり長居すると五月蠅い蟲共がやって来るからね」

 

「そうか。銀の福音についていたガイアメモリとか言う奴は?」

 

「まっくろくろすけ見たいに焦げてて、もはやゴミ同然になってたけど万が一を考えて特殊なケースに入れて宇宙に放り出しておいた。恐らく遠いお星さまにでもなってると思うよ」

 

「なら安心か」

 

そう言い暫しの沈黙が流れる。すると今度は束の方から口を開く。

 

「そう言えば、アイツら何処に行ったの?」

 

「あいつ等? もしかしてMr.Kの事を言ってるのか?」

 

「そうだよ。今回の貢献者であるいっくんになんも言わずにどっか行っちゃんたんだよ。それを差し置いて行くなんてどう言う神経してるんだよ」

 

「そう言うな。あのPEC社は何かと世間でも大注目されている企業だ。世界中飛び回っているから、致し方ないだろ」

 

「まぁ、そう言う事にしておいてやるか」

 

そう言い束は、じゃあ帰るねぇ。と言いスッとその場から消え、千冬もそれを見送った後旅館へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

某国、某所

その国のとある山間部の地下に作られた研究施設では、白衣を着た女性がヒステリックに叫びながら辺りにある物に当たり散らしていた。

 

「どうしてよぉ!? 何で死なないのよ、あのクソガキはぁ!」

 

そう叫びながら近くにあった機材などを薙ぎ払う女性。

 

「当たり前だ。私達が居るのだから、彼が死ぬのは有得ない」

 

そう突如声が聞こえ、女性は慌てて振り向くと其処にはMr.Kこと、陽太郎と一輝が立っていた。

 

「お、お前はPEC社の!? ど、どうやって此処に‼ それに警備部隊は何をしていたのよ!」

 

「お前がアメリカ軍に忍ばせたお仲間を探り当てて尋問したんだよ。あっさりと此処の場所を吐いてくれたぞ。後、此処に居た警備部隊なら全員無力化させてもらった」

 

そう言われ女性は、使えない屑共がぁ。と零す。

 

「さて、私たちの目的はただ一つ。IS学園襲撃に使用したISコア、ドイツの代表候補生にインストールしたVTシステム。そして銀の福音に取り付けられたガイアメモリ。あれらを一体どうやって手に入れた? いや、誰から貰った?」

 

圧を加えながら聞く陽太郎。それに対して女性は

 

「お前ら男、ましてやPEC社の社長なんかに教えるつもりなんか無い!」

 

そう叫びながら懐から拳銃を抜く女性。だが

 

「ふッ‼」

 

と一輝が鞘から勢いよくサソードヤイバーを抜き拳銃を真っ二つに切り裂く。切り裂かれた銃に驚く女性に隙を与えることなく、一輝はサソードヤイバーの刃が無い背の部分で女性の膝部分を叩きつける。バキッと音とが鳴ったと同時崩れ落ちる女性。

 

「あぁぁあぁっぁああ!!??」

 

と叫ぶ女性。崩れ落ちた女性に構わず一輝は刃を向ける。

 

「二度は聞かない、答えろ。さもなければ今度は刃の部分で指を一本ずつ斬り落とすぞ」

 

ドスを加えながら言う一輝に、女性は苦渋に満ちた顔で絞り出すように口を開く。

 

「し、知らない奴よ」

 

「ふざけているのか、だったら斬り落とす「本当に知らないのよ! 突然現れたかと思ったらIS学園に居る男性操縦者を殺すのに手を貸してやるって言ってISコアやVTシステム、それにあのUSBメモリをくれたのよ!」じゃあその人物の特徴は?」

 

「知らないわよ。何時もフードを目深く被ってて顔は見えなかったし、声も機械を通した音声だったから男か女かさえ分からないわよ!」

 

「それだけか?」

 

「それ以上って、後はうちの警備が偶々アイツに気付いて拘束しようとした時に、アイツが持ってたで刀で斬り殺したことくらいよ!」

 

「刀? どんな?」

 

「どんなって、刃の部分が赤いやつだったわよ。……そう言えばあの武器、まるでゆ―――」

 

女性が何かを言おうとした瞬間

 

バシュン‼

 

と銃声が鳴り響いた。銃弾は真っ直ぐに女性の頭に命中し、女性の頭は綺麗に消し飛ぶ。

 

「ッ!? 誰だぁ!」

 

そう叫び一輝と陽太郎は銃声がした方に体を向けると其処には

 

「ッ‼ トリガードーパント!」

 

右腕が銃に変形した蒼い鎧を纏ったような者が居た。一輝の叫びにトリガードーパントは焦ることなくサッとその場から逃亡する。

 

「一輝、追うよ」

 

「はい!」

 

そう叫び2人はトリガードーパントを追いかける。

2人は逃げたトリガードーパントを追って行くと外へと出た。するとトリガードーパントは確かにいたが、トリガードーパントは背後に突如として現れた次元の割れ目の様に物に飛び込む。そして割れ目はすぐさま何事も無かったように閉じた。

 

「クソッ、逃げられた」

 

「致しかたない。アイツを追うのは煉獄庭園に居る2人に任せよう。取り合えず此処を離れた方がいい」

 

「そうだね」

 

そう言い二人はその場を後にした。

それから数分後、研究所は大爆発を起こし大きな陥没を残して消え去った。

 




次回予告
あれから数日が経ち、夏休みとなったIS学園。
そんな中一夏と本音、そして脱走した専用機持ち達は学園からの処罰を受けていた。

次回
最終話
終わり良ければ総て良し!




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最終話

銀の福音事件から数日が経った。

あれからの出来事をまず説明しよう。

 

まず暴走した銀の福音は束の手で隅々まで調べられ安全が確認された。そして停止させた翌日にアメリカ政府から派遣された役人と軍人、そして銀の福音のパイロットが銀の福音を回収しにやって来た。

来た際銀の福音のパイロットであるナターシャは腕や体の装甲がボロボロの状態になった銀の福音に涙を浮かべながら

 

「ごめんね、守ってあげられなくて」

 

と零しながらそっと手を添えていた。

そして銀の福音をトラックに載せた後、アメリカ政府の役人やナターシャ達は千冬達に感謝の言葉を送り去っていった。

 

そして一夏達専用機持ちと本音はと言うと学園に戻ったと同時に学園上層部が罰則をどうするかで話し合いが行われた。

一夏と本音は無許可とはいえ暴走した銀の福音を停止させ任務を達成させたという偉業があった。更に銀の福音のパイロットであるナターシャも政府を通じて2人の罰則の免除、もしくは軽減をと願い出た。

その事から免除とまではいかなかったが、夏休み中の数日間学園の奉仕活動と反省文作成が罰則として決まった。

 

それに対してセシリア達はと言うと、無許可の出撃の上にISをオーバーホールが必要なまで破損させたとして学園及び政府から厳しい罰則が下ることが決定した。

それぞれの政府は無許可の出撃の上に大事なISを破損させた4人を代表候補生から外そうと考えていた。

そんな時に待ったをかけたのはなんとPEC社の社長、Mr.Kであった。

彼は

 

『夏休み一杯までうちの会社の新人として仮入社してもらい常識やら道徳について学んでもらうのはどうだろうか? それで夏休み終了後、彼女達がしっかりと反省しているかどうか見極めてからでもいいと思いますが?』

 

と提案してきたのだ。各国の政府はMr.Kの提案に暫し頭を悩ませた後、その提案を受け入れることにしたのだった。

学園側もIS学園に残すよりも社会という荒波で揉み解されれば少しはましな性格になると思い、監視と道徳などの授業を行う教師を派遣する事を決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

そしてそれから数日が経ったある日、一夏と本音はと言うと

 

「それでは、今日も宜しくお願いしますね」

 

「はい」

 

「はぁ~い」

 

作業着に麦わら帽子を被った轡木とジャージ姿に麦わら帽子を被った一夏と本音はそれぞれクワや剪定鋏などを持って雑草取りだとか伸びすぎた枝などを剪定していた。

 

「それにしても学園長先生、何時もこの学園の植物とか手入れしているんですか?」

 

「いやいや、私でも出来る所は限られているからね。出来るだけ人の目につくところは自分でやって、他は業者に頼んだりしているよ」

 

「へぇ~」

 

そう言いながら一夏は小さな剪定鋏で飛び出ている枝をパチン、パチンと切って行く。

 

すると

 

【轡木殿、この木はどう言いた感じで剪定しましょうか?(´・ω・`)】

 

「そうですねぇ、実は私少し夢がありまして」

 

【ほうほう、どう言った夢でしょうか?('ω')】

 

「実はこんな感じの――」

 

【ほうほう、これはこれは(・∀・)】

 

そして2人は街路樹をどうするのか話し合いを始めた。さて何故メサが居るかと言うと、まぁ単純に一夏が心配だった為であった。

 

「何かあの2人楽しそうに話し合ってるねぇ」

 

「う、うん」

 

2人が楽しそうに街路樹をどうするのか話し合っているなか一夏と本音は談笑を交えながら雑草取りを続けていく。

その後2人の様子を見に千冬がやって来ると、泥が付いた顔で休憩する一夏達に真面目にやっているなと感心していたが、

 

「な、なんだこれは…」

 

と学園のメイン道路にある街路樹が何故か動物の形に切られており、まるでテーマパークの正面玄関の通路の様な感じであった。

 

「い、一夏。これは、一体…」

 

「えっと、学園長先生とメサさんがなんか嬉しそうにやってたよ」

 

「はい。なんか学園長先生の夢って言ってましたぁ」

 

本音と一夏の説明に千冬は茫然と言った表情を浮かべていると、メサとタオルで汗を拭う轡木がやって来た。

 

「おや、織斑先生。見回りですか?」

 

「…が、学園長! 何故街路樹を動物の様に切ったのですか! これじゃあテーマパークですよ!」

 

「良いじゃないですか。気難しい学園と言う訳では無く、健やかにのびのびと学ぶ学園と捉えてもらえると思いますし」

 

「いや、だからといって動物風に切る必要ないじゃないですか!」

 

まぁまぁ。と轡木は笑顔を浮かべる轡木に、千冬は貴方という人はぁ。と頭を抱えるのであった。

 

「――それでは本日もお疲れ様でした」

 

「はい、お疲れ様でした」

 

「お疲れ様でしたぁ」

 

お昼に作業が終わり一夏と本音は轡木に挨拶したと部屋へと戻りそれぞれシャワーをした後食堂へとやって来た。

夏休みとは言え学園内には教師や自習に励む為に残った生徒達が居る為、食堂は少数の人数で運営されていた。一夏と本音はそれぞれお弁当を持って食堂の隅の席に着く。

 

「いただきます」

 

「いただきまぁす」

 

と言いそれぞれご飯を食べ始めた。普段ならワイワイと賑やかな食堂も今は殆んど人は居らず、本を片手にご飯を食べる上級生や、教師達が少数いるくらいだった。

ご飯を食べていると本音が口を開く。

 

「ねぇねぇ、イッチー」

 

「はい、なんですか?」

 

「お昼ご飯食べた後って、暇ぁ?」

 

「えっと、はい」

 

「それじゃあデート行かない?」

 

「ふぇ、で、デートですかぁ?」

 

一夏はデートと言う言葉に顔を真っ赤にさせながら口をパクパクさせる。

 

「あ、あにょ、で、デートは、その、好きになった、人同士がその、する者で、あの、ぼ、僕なんかと一緒に、その、デートはぁ…」

 

「…フフフ。イッチー、冗談だよ」

 

「ふぇ?」

 

「デートと言う名の買い物だよ」

 

「( ゚д゚)ポカーン」

 

冗談と言いクスクスと笑う本音に一夏は未だに顔を赤くした状態で茫然と言った表情を浮かべていた。

 

「ごめんごめん、えへへ。それで買い物一緒に来てくれるぅ?」

 

「えぇと、はい。買い物…でしたら」

 

まだ先程のデートと言う単語に驚いているのか、若干あうあうと漏らす一夏。

 

(今はまだ友達として買い物に行くくらいだけど、何時かは本当に買い物をしにデートに行こうねイッチー)

 

 

 

さてその頃専用機持ち達はと言うと

 

「うぅうぅ~、大変じゃないこれぇ」

 

「ど、どうして貴族である私が掃除なんて…」

 

「喋ってないで手を動かせ。何時まで経っても終わらんぞ」

 

「そうだよ。昨日だって定時で終われると思ったのにやり残しが結構残ってるってカスミさんに怒られたんだよぉ」

 

それぞれ雑巾だったり、モップを持って掃除をしていた。彼女達はPEC社の下っ端として入社、そして最初に任されたのは社の掃除であった。Mr.Kは

 

「新入社員には研修としてまず掃除を学びます。そうすることで会社の事をよく知ることが出来るし、小さな違和感にも気付きやすくなるからね」

 

といい4人を掃除部門へと送ったのだ。無論、掃除が終われば会社のミーティングルームの一つをお借りして道徳や常識の授業も行われている。因みに寝泊まりは会社横にある寮にて1部屋に一緒に暮らしている。

 

「ちゃんとやっているようだな、お前達」

 

「あ、織斑先生」

 

「しっかりとPEC社を綺麗にするんだぞ。特にオルコット、お前は以前にPEC社の社長護衛の方に迷惑を掛けているんだからしっかりとやれよ」

 

「「「「……はい」」」」

 

そう言い4人元を去る千冬。その後4人は隅々まで綺麗にしようと何か頑張って掃除をするのであった。

 

 

 

 

 

さて、学園からPEC社に来た千冬だがただあの4人を見に来たのではない。ある目的があって来たのだ。

それは旅館から帰って来て数日が経ったある日の事であった。

 

千冬はその時職員室にて書類整理をしていた。するとポケットに入れていた仕事用の携帯が震え、それを取り出し画面を見ると『学園警備部隊』と表示されていた。何かあったのかと思い千冬は通話ボタンを押し耳元に当てる。

 

「もしもし、織斑だがどうした?」

 

『戸室です。織斑先生、篠ノ之さんを如何にかしてください』

 

「また何か叫んでいるのか?」

 

『はい。また大声で自分は悪くない。篠ノ之束の妹だぞと叫びまくっているんですよ。おまけ独居房内で暴れまくったりするんで手に負えませんよ』

 

「全くアイツは…。分かりました、此方でも対処を考えておきます」

 

『お願いします』

 

そう言い通話が切れた。千冬ははぁ。と重いため息を吐く。

箒が独居房に放り込まれたのは旅館にて部屋からの無断退出、更に無許可でISに乗り込み暴れまわったからだ。

学園に戻った後、千冬は箒を反省させるために独居房に放り込み頭を冷やさせようとしましたが、全くといっていい程効果は無かった。

当初は専用機持ち達と同様にPEC社に行かせようとも考えたが、また癇癪を起して暴れられれば迷惑を掛けると思い却下されたのだ。

 

(さて、あの馬鹿をどうやって反省させようか…)

 

大きな悩みの種が残っている事に千冬は頭を悩ませていると、今度は学園の固定電話が鳴り響く。誰かがそれに応答すると

 

「織斑先生」

 

「はい、なんですか?」

 

「PEC社の社長様からお電話です」

 

「Mr.Kから? 分かりました、替わります」

 

そう言い千冬は何故私に?と疑問を浮かべながらも受話器を取り応答ボタンを押す。

 

「はい、お電話替わりました、織斑です」

 

『お久しぶりです、織斑先生。PEC社のMr.Kです』

 

「お久しぶりです。それで、どう言ったご用件でしょうか?」

 

『実はとある筋から聞いた話ですが、篠ノ之博士の妹さんに手を焼いているそうですね』

 

「……リソースについてお聞きしたいところですが、今は我慢します。それが何か?」

 

『一度我が社に連れて来て貰えませんか?』

 

「どうしてまた?」

 

『彼女が暴れるのは、恐らく過去の記憶に縋り付いているからだと思います。恐らく要人保護プログラムが行われ実質的に孤独となった彼女が縋ったのだが過去の記憶でしょう。その結果、過去に縋りつき過ぎた為に体は成長しても、心は成長できなかったのだと考えられます』

 

「…つまり今までアイツが暴れたのは、子供の癇癪みたいなものですか?」

 

『そうです。ですが彼女の場合はもっと質の悪い物です。余りにも過去に固執し続けた余りに今を受け入れられない程になっているのです。だから今を受け入れられないから、自分の手で無理矢理戻そうとするのです』

 

「なるほど。それで、そちらに連れて行くのとどう関係するのですか?」

 

『身近な人物が幾ら言っても受け入れられません。なら第3者である私が彼女に今を見る様に諭します』

 

「……上手く行く保障は無いと思いますが」

 

『えぇ、分かっています。ですが、このまま放っておいてももっとひどい状態になる恐れがあると思います。使える手段は使って行くのが良いと思います』

 

「……分かりました。学園長には私が説明して何とか許可を貰って来ます」

 

『では、お待ちしております』

 

そう言い電話が切れた。

そして千冬は学園長に事情を話し箒を連れ出す許可を貰い、そして今日PEC社へと連れてきたのだ。

箒は他の武装した教師部隊に囲まれながらPEC社の地下にある訓練所へと連れて来られていた。千冬は専用機持ち達の様子を見た後追い付き訓練部屋へと入って来た。

箒の前にはMr.Kが立っておりその傍には一輝がいた。

 

「すいませんが、彼女の手錠を外してください。その後この部屋からも退出を」

 

「し、しかし」

 

そう言い教師部隊は千冬へと顔を向ける。千冬はその真意を聞こうと口を開く。

 

「どうして手錠を解除するようにと?」

 

「口で言っても聞かない子には、少々手荒い事をしてでも言い聞かせないといけませんから」

 

「……分かりました。ですが、監視として私だけ部屋に残させてください」

 

「分かりました」

 

了承の言葉が貰えると千冬は教師部隊に手錠を外すように指示する。教師部隊は指示に従い手錠を解除した後部屋から出て行った。

残ったMr.Kと一輝、そして箒と千冬。

 

「一輝、織斑先生に椅子のご用意を。後手は出さなくていいからね」

 

「畏まりました」

 

そう言い一輝は千冬と共に部屋の隅へと向かい、椅子の準備をする。

部屋の中央に残った箒とMr.K。

 

「さて、お久しぶりですね篠ノ之さん」

 

「私に一体何の用だ?」

 

「単刀直入に言うならば、貴女にはそろそろ過去ではなく今を見て貰おう思ってね」

 

「過去だと?」

 

「そう。何時までも過去の思い出に縋り付いて、昔と違うからと癇癪を起して暴れる子供でいるなと言っているんです」

 

Mr.Kがそう言うと、箒は目くじらを立てて拳を握りしめる。

 

「五月蠅い! お前に何が分かるっているんだぁ!」

 

そう叫びながら殴り掛かる箒。だがMr.Kはそれを容易く拳を受け止めそのまま箒を放り投げた。

投げられた箒は床を転がった後、また殴り掛かるも受け止められ投げられた。

それが何度も繰り返された。

 

「いい加減にしたらどうです? そうやって今が受け入れられないからって暴力で解決しようなんて、幼稚過ぎますよ」

 

「うるさいうるさい、うるさぁい!」

 

そう叫びながら箒は近くにあった木刀を掴みMr.Kに振りかぶる。千冬は流石に不味いと思い立ち上がろうとしたが、傍に居た一輝がそれを手で制した。

そうこうしている間に木刀がMr.Kに振り下ろされた。

 

バキッ!

 

と鈍い音が鳴り響いた。そして

 

カランカラン

 

と床を転がる木刀の先。

 

「「……」」

 

千冬や箒は目の前で起きた事に信じられず目を見張っていた。何が起きたかと言うと、振り下ろされた木刀に対しMr.Kは拳を振って振り下ろされた木刀をへし折ったのだ。

Mr.Kは拳に着いた木片を振り払うかのように手をグッパッと繰り返す。

 

「危ないですね、突然そんな武器を使って来るなんて」

 

何事も無かったように振舞うMr.K。

 

「さて、武器を使って来た以上こちらも少し本気でやらせてもらいますね」

 

そう言い雰囲気を少しばかり変えるMr.K。部屋の端に居た千冬でさえもその変わり様に気付けた。その雰囲気に千冬は頬に冷たく汗が流れるのを感じた。

千冬でさえ冷や汗を流すほどであるならば目の前に立っている箒は尋常ではない物を感じていた。

 

「あぁあぁあ…」

 

「では、行きますよ」

 

そう言い構えた瞬間、Mr.Kは一気に間合いを詰め箒の喉元に拳を当てる。拳を当てられた箒は一瞬息が出来なくなり動きが鈍る。

その瞬間に箒は自身の体に何度も拳や蹴りが入れられていく。腕はへし折られ足は変な方向に曲がろうともMr.Kは止めることは無かった。そして箒の意識がもう無くなりそうと思った瞬間

 

パチン!

 

と音が鳴り響いた。ハッとなった箒の前にはMr.Kが自身の顔の前で指パッチンをしていた。そして箒は自身の腕や脚を確認するが、何処も折れたり曲がっていなかった。

箒が震えた様子で自身の体を調べる姿に千冬は一体何が起きたんだと疑問に満ちた顔を浮かべていた。

その様子に傍に居た一輝が口を開く。

 

「不思議がられていますね」

 

「え、えぇ。一体アイツに何があったんですか? ただ立っていただけなのに、Mr.Kが指パッチンをした瞬間怯えた感じになって自分の体を調べるなんて」

 

そう、千冬は傍で見ていたがMr.Kが箒に対し殴ったり蹴ったり更に腕をへし折ったりなどはしていなかった。むしろただ立っていただけだった。

 

「彼女は幻を見ていたんですよ」

 

「幻、ですか?」

 

「えぇ。社長が先程構えた時に彼女に催眠術を掛けたのです。その結果彼女は現実ではない光景を現実だと思い込みあぁ言った状態になったんだと思います。流石に何を見せられたのかは私には分かりませんが」

 

一輝の説明に何とも言えない表情となる千冬。

 

「さて、箒さん」

 

Mr.Kがそう呼ぶと、目の前の人物に怯える箒はヒッ!と声を上げ尻もちをつく。

 

「先程貴女が見たのはただの幻です。貴女には何もしていません。ですが――」

 

そう言い見下ろしながら黒笑を浮かべるMr.K。

 

「これは警告です。貴女が過去に縋り続け、そして織斑君達に迷惑を掛ける様であればその幻が本当になるかもしれませんよ?」

 

そう言った瞬間、箒は白目をむいてドサッと倒れてしまった。

倒れた箒に対しMr.Kはそっと近づき、そして体を持ち上げ千冬達の近くにあるベンチへと寝かせる。

白目をむいて倒れた箒に千冬はMr.Kに問う。

 

「あの、コイツは大丈夫でしょうか?」

 

「すこしばかり脅しをしましたからね。恐らく大丈夫だと思います。目を覚ますまで此処で寝かせておいてあげて下さい。私は少々席を外します」

 

「わ、分かりました」

 

そう言いMr.Kは一輝と共に訓練室から退室して行った。残った千冬は箒が目を覚ますまで椅子に座って目を瞑って暫く待つことにした。

訓練室から退室したMr.K事陽太郎と一輝は無人の廊下を歩いていた。

 

「それで義兄さん。どうしてまた部屋から退出を?」

 

「ん? あぁ、箒さんの入社準備をね」

 

「入社を? でも大丈夫なの?」

 

「大丈夫。もう彼女が暴れることは無いよ」

 

そう言い陽太郎はポケットから黒い野球ボールほどの球体を出す。

 

「それは?」

 

「彼女の中にあったどす黒く染まった心だよ」

 

「心? 大丈夫なの、心なんて切り取って」

 

「大丈夫。黒い部分しか切り取らなかったからね。白い部分もあったからそれから少しずつ戻っていくよ」

 

「白い部分? それって…」

 

一輝の言葉に陽太郎はフッと笑みを浮かべる。

 

「彼女の心は全部黒くなったわけじゃない。まだ良心が残っていたようだよ」

 

「なるほど。なら、もう大丈夫かもしれないね」

 

そう言いながら安心したような顔で社長室へと向かった。

 

 

それから数分後

 

「……ぅんん……」

 

「気が付いたか、箒」

 

気が付いた箒に気付いた千冬がそう声を掛ける。気が付いた箒はゆっくりと体を起き上がらせ辺りを見渡す。

 

「あの、千冬さん」

 

「何があったのか憶えているか?」

 

「……はい」

 

そう答える箒に千冬は違和感を覚えた。

 

(気絶する前と違って物腰が柔らかくなった?)

 

怪訝そうな顔を浮かべながら持っていたミネラルウォーターを差し出す。箒はありがとうございます。と綺麗にお辞儀をしてそれを口に含む。すると訓練室の扉が開きMr.Kと一輝が中へと入って来た。

 

「気が付いたんですね、篠ノ之さん」

 

「は、はい」

 

そう返事をした後、箒はミネラルウォーターを置くと突然

 

「千冬さん、そして社長様。これまで多大なご迷惑をお掛けして、大変申し訳ございませんでした」

 

と綺麗に土下座をしたのだ。その行動に千冬は目を大きく見開き驚きの表情を浮かべていた。

 

「……ご自分が今まで何をしてきたのか、自覚はあるのですね?」

 

「はい、私は到底許されない様な事を数多くしてきました」

 

「ご自身はどうしたいですか?」

 

「許されるのでしたら、どのような所業でもいたす所存です」

 

そう答える箒にMr.Kはチラッと千冬に目を向ける。視線に気付いた千冬はそっと口を開く。

 

「箒、その言葉に嘘は無いんだな?」

 

千冬の問いに土下座を止め正座の状態で千冬の目をしっかりと見て

 

「はい」

 

と答えた。箒の目をジッと見つめる千冬は、箒が本当に反省していると感じ取った。

 

「分かった。なら学園に戻り次第、お前の処罰を「織斑先生そのことでしたら問題ありませんよ」と言いますと?」

 

「もう処罰の方は私の方で用意しておきました。勿論学園長には許可を頂いております」

 

千冬の言葉を遮りMr.Kは笑顔でそう告げた。

 

 

 

 

 

「―――お疲れ様です」

 

そう言いながら箒は清掃姿でPEC社の入り口を掃除しつつ、ロビーに行きかう一人一人にそう挨拶を交わしていた。

 

「驚きました。まさか、あんなにも変わるとは思いませんでした」

 

「えぇ。これで過去ではなく未来を見ることで彼女も少しは前へと進めるでしょう。その意気込みの為に自らの伸ばしていた髪を切られたのですからね」

 

そう言い千冬とMr.Kは箒を見つめる。

そう、彼女は今ポニーテール出来る程長い髪だったのが、今はショートヘアへと変わっているのだ。そうなったのは訓練室に居る時の事だった。

箒は千冬に頼み伸ばした髪を切って欲しいと頼んだのだ。戒めとして、そしてもう過去ではなく未来を見据えて生きていくと意志を固めるためと。

 

「本当に貴方には多くの借りが出来ました。本当ありがとうございます」

 

「いえいえ。私は未来ある若者が足踏みしているのを少し手助けしただけですよ。これから先は織斑先生に頼みます」

 

「貴方にそう言われたのであれば、しっかりと成し遂げなければなりませんね」

 

「フッ。期待しております、織斑先生。では、これで」

 

そう言いMr.Kと一輝は去っていき、千冬はその姿が見えなくなるまで腰を曲げてお礼するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日談

※織斑一夏

夏休み中、学園長と本音、そしてメサとで学園の清掃と整備を手伝いを続けた。

その後2学期でも本音と一緒に行動し続け色々なトラブルに巻き込まれそうになりながらも、本音や1組の生徒達ともに解決し楽しい学園生活を送り続けている。

 

※布仏本音

一夏同様楽しい学園生活を送り続けており、今は一夏に友達としてではなく一歩先の関係になれるように日々精進している。

因みに姉である虚曰く、「本音があんなにも頑張るなんて…。まぁ、可愛い義弟ができるのは楽しみですが」との事

 

 

※篠ノ之箒

訓練所での出来事以降、癇癪を起したりすることなく夏休み期間中真面目に会社の清掃や授業に受けていた。

そして2学期が始まった後、教室にて1組の生徒達全員に今までの非礼を詫びた。特に一夏に対しては土下座までして謝罪をした。

それ以降物腰が柔らかくなった箒に対して、生徒達は少しずつ打ち解けて仲良く出来た。

 

※専用機持ち達

彼女達は何とか政府からお許しを頂き代表候補生としては何とか留まる事が出来た。だが、専用機はそれぞれ剥奪された。

シャルロットは企業代表の為、専用機を取り上げられた為企業代表ではなくなったが、温情として卒業まで学園在学を許された。

夏休み終了後学園へと戻って来たが、彼女達は問題児として学園上層部にも目を付けられてしまった為、学園の隅に設けられた特別教室という名の隔離教室へと移され、卒業までそこにいることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処かの暗いオフィス。其処では一人の人物がデスクで何か作業をしていた。その傍には赤い刃の刀が掛かっていた。するとその人物は突如口を開く。

 

「お帰り、トリガー」

 

そう声を掛けると、暗闇からトリガードーパントが現れ片膝をつき右手を胸に当てながら首を垂れる。

 

「ただいま戻りました、(マスター)

 

「ずいぶん遅かったじゃん、道草?」

 

「いえ、例の女を始末する際に少々妙な連中が居り、女と一緒に始末しようと考えたのですが自分では到底敵わない連中だと察し、女を始末して姿をくらますのに少々時間がかかりました」

 

「妙な連中? どんな奴らだった?」

 

「1人は白髪のセミロングで深紅のような眼をした男、もう1人が黒短髪の深紫色の眼をした男でした」

 

「……なるほど、恐らく煉獄の兄弟だろう。転生者を狩るっていう噂の連中で、俺が持っているコイツと同じような物を持っている奴らだ」

 

「なるほど。交戦しなくて良かった思います」

 

「そうだな。大事な部下がいなくなるのは俺が困る」

 

「…有難きお言葉」

 

「それじゃあゆっくり休んでくれ。また任務があったら呼ぶわ」

 

「はっ。失礼します」

 

そう言いトリガードーパントは立ち上がって暗闇の中へと消えて行った。一人残った人物は組んだ両手を机の上に置き笑みを浮かべる。

 

「やっぱりこの世界にもいたのか。まぁ、いいさ。俺の邪魔さえしなければ此方から手を出すつもりはないからな」

 

そう言いってその人物も立ち上がって暗闇の中へと消えて行った。




これにて女性恐怖症の一夏君IFルートの終了です。
長い事投稿期間が空いたり、誤字脱字に元の女性恐怖症の一夏君から分離させたりと皆さんにご迷惑を掛けて申し訳ありませんでいた。

次回作や今書いている作品もまた皆様に楽しんで頂けるよう頑張って執筆していきます。

それでは本当にありがとうございました!



え? 最後の人物? その正体はいずれまた…


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