ありふれた紳士は世界最強(?) (見た目は子供、素顔は厨二)
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0話『華麗なる紳士、地上に馳せ参ず』

どもどもども。
知ってる人はいるかもしれませんが『ありふれた錬成士は最期のマスターと共に』の作者、見た目は子供、素顔は厨二です。
これは作者の悪ふざけ用作品です。
なのであまり批評しないでくれ!
あ、勿論まだありふれ×FGOの方も進めていきます。
ただ気分によって二つの作品の進行度が偏り、最悪どっちか消えます。
あと不定期更新です。
ヨロヨロ。


 社会というものは人が互いに探り合い、己の利益を貪る形で成り立っている。それは言うまでもなく常識だ。それが表立ってでなく、人の面の裏側でひっそりと行われていると言うのも常識。

 

 例えば今の状況もそうだろう。

 

「なあ、婆さん。テメェのガキのせいで俺のズボンがたこ焼きソースで塗れちまったじゃねーか? このズボンクソほど高かったんだぞ? どうしてくれんだ、オラ?」

「す、すみません。クリーニング代は払わせていただき──」

「20万よこせ」

「ええ!? で、ですがクリーニングではそんなには──」

「新品買うに決まってんだろ!? 寝ぼけてんのか! こんなソース付いちまったようなズボン、履けるわけねぇだろ!?」

「財布にも五万円ほどしか…」

「なら財布ごとだな」

 

 原因はお婆さんの孫の不注意によって荒くれ者のズボンにたこ焼きをぶつけてしまったこと。それにより荒くれ者が弱そうな相手だと判断し、増長したことにより財布ごと奪おうとしていた。

 

 荒くれ者は見るからに身長が高く、筋肉質。仲裁に入ったものならば気に入らないの一言で殴られるのは目に見えていた。

 

 故に誰も動かずに周囲を見渡し、「お前が行け」「私には無理だ」と理由を付けて他人になすりつけようとしていた。要は己が傷つきたくないだけなのだが、それを正当化していたのだ。

 

 だからこそ場面は邪魔されることなく、荒くれ者にとって都合良く進む。

 

「オラァッ!」

「ああっ」

 

 お婆さんは抵抗していたが、遂に荒くれ者の手に財布が渡る。荒くれ者が財布を掴み取る勢いでお婆さんを吹き飛ばす。勿論、ひ弱な力ではそのまま地面に倒れ伏し、地面に叩きつけられる。

 

 そんな周囲が抱いていた予想。

 

「少し失礼」

 

 しかしお婆さんは空中でその衝撃をやんわりと吸収され、何の反動も受けることなく男の手中に収まった。肩と膝を両腕で支えられる、要は“お姫様抱っこ”という形である。

 

 いつか来ると思っていた衝撃に備えていたようで、力強く閉じられていた瞳が開く。何が何か訳がわからない状況にお婆さんは慌てふためきながらも、視線を男の方へとやった。

 

「お怪我は御座いませんかな?」

「は、はい」

「それは何より。ああ、降ろさせて頂きますが宜しいでしょうか?」

「え、ええ。ありがとうございます」

「いえいえ、紳士たる者として当然のことをしたまでですとも」

 

 その男は非常に変わっていた。何処にでもいるような日本人の模範解答のような見た目。されどヘアセットはバリバリワックスを用いられた痕跡があり、服は一切のシワがなくきちんとアイロン掛けされていることが明白だ。

 

 見た所、未だ中学生。恐らくは高学年ではあるのだろうが、あまり高くもない身長で、髭も生えていないというのに渋い話し方。

 

 そんな彼はお婆さんを丁寧に降ろし、ついでにお婆さんの服の埃を手で払うと今度は荒くれ者の方を見つめた。先程、お婆さんに対して向けていた目線の温かみはなく、軽蔑したかのような冷たいものであったが。

 

「其処の君。マナーがなってはいないな?」

「…なんだこのガキ? やる気か?」

「レディー・ファーストも知らないとは。小学校でも習うというのに…君の家は余程切羽詰まっていたと見える」

「…舐めてんのか? “比嘉高のヒデ”って聞いたことねぇのか?」

「ほう、まさか君は高校生かね? レディーから物を奪うような君が? あとそのような異名は聞いたことがないな。私は女性の名前ならばすぐに覚えられるのだが…野郎のはあまり興味がなくてね」

 

 明らかに体格では荒くれ者の方が勝っている。故に荒くれ者は未だに己が優位にあると疑ってもいない。

 

 一方で男は恐怖した様子もなく、ただ荒くれ者を一瞥しながら説教垂れた様子を見せる。あまりにも堂々とした姿に周囲さえも荒くれ者に対する恐怖を一時的に忘れていた。

 

「ハッ…説教どうも。こっちもなら一つ教えてやるよ」

「ほう。何かね? あまり男から物を受け取る趣味はないのだが」

 

 今もなお余裕を見せる男。そんな様子が気に入らないのか荒くれ者が一歩、また一歩、男へと近づき、やがて拳を高々と掲げた。

 

「拳の痛みってヤツをなぁ!!」

 

 下卑たに嗤いながら、男に拳に振り下ろそうとした。

 

 しかし拳を振り下ろした先に人はおらず、結果空振りという結果に終わったのだが。

 

 荒くれ者は目標を失ったことに困惑し、視線を彷徨わせる。すると彼はいた。ただし、

 

「可憐なる御婦人、取り敢えず財布をお返し致します」

「え!? あ、ありがとうございます」

「あとこの後、少しデートをして頂けませんかな?」

「はっ?」

 

 いつのまにか荒くれ者が握っていた財布が取り返されている上に、お婆さんに対してナンパを行なっていた。本人としては真面目にデートのお誘いをしているのだろうが、先程まで一触触発という事態だったというのにサラッと男が無視していたのが荒くれ者としてはいけすかない。

 

「無視すんなぁあああ!!」

 

 荒くれ者が再度拳を掲げ、男へと突っ込む。筋肉質の大の男が全身を使って拳を繰り出す。本来ならば危惧すべきことである。

 

 だが男は溜息を吐くと、一言呟く。

 

「デートのお誘い中はお静かに。折角許諾が貰えそうだったというのに、ムードが台無しで御座います」

「え? いえ、デートするつもりは無いのですが…」

 

 しかし男には聞こえない! 難聴体質も紳士の常備武器なのだ!

 

 そして突っ込んでくる荒くれ者をしっかりと観察し、やがて男は動く。

 

 軽やかにステップを踏み、華麗にターン。そしてフィンガースナップを鳴らすと、どこからともなく木製のJ字型の杖が現れる。…本気でどこから取り出したのだろうか?

 

「はっ!? 杖!?」

「紳士の嗜みにて御座います」

 

 そうとだけ告げると再びターン。そして遠心力をたっぷりと乗せ、杖を荒くれ者の顎へとぶつけた。

 

 顎を通して脳が揺らされ、平衡感覚を失う荒くれ者は思考を飛ばされ、一時的に思考を停止した。そこで男は杖の持ち手を持ち替え、荒くれ者の足に引っ掛けた。体の主導権を失っていた荒くれ者はあっさりと倒され、その場に倒れ臥す。

 

「…ふむ、若造が。婦人に手を出すなど…調子に乗りすぎでしょう?」

 

 いや、お前中学生だろ? と空気を読んで声にこそしないものの、その場の全員が心の中で突っ込んだ。一種のユニゾンである。

 

 取り敢えず、荒くれ者はこの後通報でもされていたのか警察に話を聞かされる結果となった。この時、男も怪しまれたがお婆さんや周りの証言により、正当防衛とされた。

 

「ああ、君は八重樫さんの裏の方の…」

「ええ、貴方もそういえば裏の方で…」

 

 こんな会話が聞こえていたが、周囲の人は何も言えなかった。警察と中学生から『裏』などという物騒なワードが飛び交うのは何としてもスルーしたい案件だったのだ。

 

 こうして荒くれ者は(謎の会話こそあったものの)警察へと連れていかれ、お婆さん達も無事にすんだわけである。

 

「本気なんだ、私は! この世界全ての女性が好きなのだ! 故に貴女のような素敵な女性をデートに誘わずにはいられないんだ!」

「え、え、ええ…」

「無理は承知だ! しかし…少しの合間でいい。貴女の素敵な顔を横で見つめさせて欲しいのだ!」

「なん、あれ? えぇ…」

 

 代わりにある意味先程以上に厄介な男にお婆さんは絡まれたとも言えた。しかもセリフから割とゲスなセリフが出ていた。お婆さんは羞恥心からか、困惑からか、恐怖からか呂律も回らず慌てふためいている。

 

「ほんの少しだ! 五分でいい! 費用は私が──」

「いい加減に…しなさーいっ!!」

「グハァッ!?」

「ええええ!!?」

 

 更に攻め寄ろうとした男に首への木刀による殴打が加えられ、男の言葉は強制キャンセル! 血も吹き出す有様にお婆さんは困惑せざるを得ない!

 

 男の後方に現れ、木刀を握る少女は黒髪のポニーテールで、女性にしてはやけに身長が高い。切れ長の目ではあるのだが、何処か優しげで、「お姉様ぁ〜」と言わずにはいられないような雰囲気である。

 

 そんな彼女が公衆の面前で木刀による出血沙汰。…ヤバくは無かろうか?

 

「痛いではないか! 雫嬢!」

「アンタはこんぐらいしないと止まらないでしょ! ハジメ! あと“嬢”付けしないでよ!

「木刀が首に刺さっているだろう!? 少しは手加減し給え!」

「アンタなら数秒で治るでしょう!」

「治るが! でも痛いのだ! あと私が女性方をデートに誘うとやけに対応が粗くはないかね!?」

「知らないわよ! そんな事! 早く帰るわよ! お爺ちゃんがアンタを待ってんのよ!」

「いだだだだだ! 耳を引っ張りながら連れていかないでくれ給え! 出来れば指と指を絡めるようにしてリードしてくれれば嬉しいのだがね!?」

「ただの恋人繋ぎでしょうが! 馬鹿!」

 

 ピンピンだった。血も速攻で止まった。…彼は本当に人間だろうか?

 

 そしてハジメと名乗った謎の紳士と、苦労しそうな雫という少女は去って行った。お婆さんはもう色々と混乱することしか出来ない。

 

 そう! これは変態紳士となった南雲ハジメとツッコミ役の八重樫雫を中心としたありふれ二次創作コメディである!




次回! 雫のツッコミが更に乱れ飛ぶ!


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1話『華麗なる紳士の華麗なる日常』

ありふれた作品はマジで神。
ブルックの街がカオス過ぎてワロタ。
私もあんなカオスを生み出したい。


 月曜日。殆どの人間にとっては憂鬱なものだろう。なんと言っても今まで離れていた勉学や仕事と再び向き合わねばならない日なのだから。

 

 しかしそんな本来あるべき雰囲気とは違い、あるクラスでは非常に浮きだった雰囲気がある。それもそのはず。このクラスには学校の中でも一、二を争うスクールカーストのトップ、学校のアイドルと言える者達が集まっているのだから。

 

 教室の入り口付近で集まっている三人組がその者達。本来ならば四人組なのだが、一人だけはとある人物の世話もとい監視を行なっているのでいない。なのだが、不思議なことに彼らは入り口の方と時計の方を交互に見ていた。

 

「あいつは…まだ来てないのか。いつも遅刻スレスレだな」

「ハジメくんのことだから、また何処かで人助けしてるんじゃないかな? 優しい人だよね」

「香織、優しいのはいいことだが、あいつはあくまでも女性を嫌らしい目で見ているだけだろう? 香織もあいつに構うのはやめろ。雫もあいつによく構うし…」

「へ? 何で? ハジメくん、いい人だよ?」

「…光輝、多分無駄だぞ。香織の奴はもうアイツに毒されてんだよ」

「龍太郎、俺は諦めないぞ! 今日こそあいつをあるべき方向に…」

 

 会話の内容はとある人物について。どうやら入り口をずっと見つめているのは、まだ教室にいないその人物を待ち伏せしているらしい。それぞれの印象こそ違うものの、その人物に何らかの関心があるようだ。

 

 本来ならば学校の人気者達が一人の生徒に構っているなど、周囲の生徒から見れば嫉妬の目を乱れ打ちにしても足りないほどなのだが、その人物自体もある意味有名な人物なので、あまり気にしていない。むしろ「あー、またやってるー」と日常を噛みしめている節がある。

 

 すると教室の黒板側の扉がガラガラと音を立て、それと同時にHR開始のチャイムが鳴った。生徒達はタイミング的に担任である愛子先生が入ってきたと確信し、その人物達が遅刻したのだとてっきり勘違いした。

 

「失礼致しますぞ」

「はぁはぁ…遅刻スレスレなのに何でこの態度!?」

「むぅ。そうは言ってもですな、雫嬢。私めはあくまでも朝の日課を──」

「朝から登校中に見かけた女性に手当たり次第にナンパすることがアンタのルーティーンだって言うなら、私は殴ってでも矯正するわ」

「横暴になられましたな、雫嬢。幼馴染にすら容赦が無くなって…昔は裸で風呂に入った仲だったと言うのに…よよよ」

「いつの話を持ちかけてんのよ!? 幼稚園よ、幼稚園! 思春期に入ってすらいないじゃ無いのよ!」

「私はバリバリ入っておりましたが?」

「十数年になって知りたくも無い事実を知らされた!?」

 

 しかし入ってきたのは先生では無かった。いや、この言い方は適切ではない。入って来たのは先生では無いように思えた、と記すべきだろう。

 

 入って来た人影は二人。一人は黒髪黒目、しかも身長は高くも低くも無いと来ている。髪の毛をワックスで固め、ヘアセットは万全ではあるが、見た所少しファッションに気を遣った極一般人である。…少なからず見た目は。その口から出る紳士風の話し方とその内容の酷さは言わずもがな、変態である。名を南雲ハジメ。学校どころかこの辺りでは知らない者はいない──変態紳士である。通称も“怪異・変態紳士”。紳士は抜いてはいけない。彼のポリシーである。学校総出で嫌われてはいないのは純粋に彼が女性には(セクハラを除けば)優しい点だろう。なお部活動には入ってはいないが、何故かスポーツやテストの成績は抜群と来ている。

 

 一方でポニーテールを揺らしながら怒涛のツッコミを行い、息を切らしているのはこの学校で“二大女神”と呼ばれる者の一人、八重樫雫である。女性ながら身長は高く、目元は少し吊り目ではあるが温もりがある。そんな彼女は剣道の腕前も一流で現代の巴御前とまで言われている。学校内では“ソウルシスターズ”というファンクラブ(非公式)ができるほどの人気ぷりを誇る。

 

 学校内で別種の知名度を誇る二人は互いの両親が仲が元々良かった為、何だかんだと幼馴染として良く共にいるのだ。ハジメがボケては雫がツッコミを入れるという間柄は恋人を超えて夫婦であるとされており、ソウルシスターズがハジメを襲う原因となっている。ただその襲われている本人はセクハラをしつつ、余裕で撃退しているが。

 

 そんな二人が教室に入ってくると教室は一気に騒ぎ始める。

 

「遅刻かよ! 変態紳士!」

「ええ。悪いですかな?」

「お前何のために学校来てんだよ!?」

「…? 女性をデートに誘う為ですが?」

「何極当然って面してんだよ!」

 

 クラスの檜山を中心とした悪ガキ四人組が急にハジメに近づいた。なおこの檜山という人物はハジメや雫ほどの有名人では生憎ながら無い。ちょっと態度が粗悪な人、といった所である。キャラ薄い。

 

「檜山くんに温情は無いの!? キャラ紹介が雑よ!」

「野郎に慈悲はないですな」

「雫!? 南雲!? なんで二人とも虚空に目線を向けているんだ!?」

 

 だってそちらに作者(見た目は子供、素顔は厨二)がいるからである。

 

「おい南雲! 今日こそは──」

 

 そこでハジメに何やら叫ぼうとした茶髪のイケメン。しかしその前にハジメがその腕で抱えていたある者を見ると様子が一変した。

 

 同時にクラス中の目線が己が横抱きにしている人を見ていることに気がつき、ハジメはフッと笑ってその人物を降ろした。

 

「愛子先生、ゆっくり降ろしますぞ?」

「は、はい。ありがとうございます。南雲くん」

「「「「「愛ちゃん先生!?」」」」」

 

 ハジメが降ろした人物はクラス全員がよく知る人物、というか己らの担任である畑山愛子先生だ。身長が小さくてどう見ても己らよりも子供にしか見えないが故に、『愛ちゃん先生』とクラス全員に慕われて(可愛がられて)おり、一種のマスコットでもある。

 

 そんな愛ちゃん先生がハジメの腕の抱擁から脱出すると、赤面をしながら教室の隅で縮こまり、「私は教師、私は教師」と呟き始めた。愛ちゃん先生的には恥ずかしかったらしい。ごもっともである。

 

 クラスメイトがハジメに畏怖の視線を向ける。何故そうなったかは分からないが、とりあえず女性を横抱きにするというメンタルに畏怖しないというのも無理な話である。同時に驚愕もしてはいるが。

 

「…はぁ。驚くのはやめなさい、みんな。この程度で驚いてた…ハジメとやっていけないわよ」

 

 雫はハジメと長年の付き合いであるためか、この程度では驚かない。彼女自身、そこの辺りが麻痺している節がある。

 

「な、何で南雲。お前は愛ちゃん先生を!?」

「? Ms.愛子が遅刻を為されそうであったため、それはあってはならないと思いまして。少し失礼ながら横抱きにさせていただき、こちらまで連れてきたので御座いますが?」

「何でそれを堂々と言えるんだ、お前は!?」

「? 紳士ですので」

「ごく当然そうに言うな!」

 

 どうやらハジメ的には普通なことが、他の人には異常らしい。めちゃくちゃ突っ込んでくる。

 

 そこで茶髪の男がハジメの方に思い出したかのように進み歩き、そして指を指して叫んだ。

 

「南雲! お前のその腑抜けた精神、叩き直してやる! 今日こそ俺と勝負しろ!」

「熱狂的な女性は好みですが、野郎を眺める趣味は御座いません。お隣の筋肉ダルマと乳繰り合って下さいまし」

「光輝…俺にそんな趣味は…」

「龍太郎!? 俺にも無いからな!? あっ、南雲、逃げるな! おい、こら!」

 

 ハジメの方に勢いよく走り、決闘を申し込んだものの、そういった趣味疑惑を付けられたのは天之河光輝である。見た目は茶色がかったサラサラの髪と優しげな瞳をしていてかつ、少し引き締まった肉体。さらには成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能。まさしく女性漫画に出てくるヒーローのようなスペックぶりを誇る。

 

 そんな彼ではあるのではあるが、あらゆる面でハジメにボコボコにされており、かつ言い方こそ悪くはあるがハジメのスケベェな性格のせいで色々イザコザが生まれている。それが小学校からの話であり、要は光輝からすれば打倒すべきライバルなのである。

 

 一方で光輝の隣に立つ男は脳筋、坂上龍太郎。空手スンゴイ。完。

 

「待ちなさい! 何で龍太郎の紹介は恐ろしく短いのよ!?」

「雫!? さっきから何処に向かってツッコミを入れてるんだ!?」

 

 こんな喧騒何のその。ハジメはとある女性の元に辿り着き、跪いて言った。

 

「すみませんが、香織嬢。パンツ見せて頂いてもよろしいでしょうか?」

「? どうして見せないとダメなの?」

「私の想い(パトス)が迸り、耐え切れない為で御座います。このままでは私の体が無残にも裂かれてしまうのです」

「!? それは大変だね! ちょっと待っててね!」

 

 彼女は白崎香織。雫と双璧を成す、学校の“二大女神”と呼び高い。腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。なお雫とは小学生からの親友ではあるが、ハジメとはあくまでも同級生というスタンスである。…ただ何故かハジメとよくいる光景が目撃されているが。

 

 何と純粋なことか。従来の天然さもあってだが、香織は今にもスカートに手を掛け、ハジメへとその中を覗かせようとした。本人としては極真面目に人を助ける為である。

 

 重要なことなのでもう一度。何と純粋なことか。全員が少女の優しさにほっこりするが、同時に学校のアイドルとも言える人物のスカートが捲られるという事態に慌て出す周囲。…男子は目を手で覆っているが、目が指の隙間から出ている。ハジメ? もちろん凝視である。

 

 そして捲られる、というつい直前にハジメの顔面が華奢な脚で挟まれたかと思うと、ハジメを地面へと顔面ダイブさせた。

 

「シィッ」

「ヘブッ!?」

 

 八重樫流体術・奥義之参“龍牙墜”。裂帛の呼吸と共に放たれた、改心の一撃。繰り出されたその一撃は当然ハジメを気絶──

 

「痛いですなぁ」

「何で効かないのよ!?」

 

 ──させることはなかった。変態紳士は未だ健在である。というか血一滴も流していない。むしろ教室の床にヒビが入っている。石頭にも程がある、と言った所だ。

 

 するとハジメはいきなり雫に迫り、必死の形相で叫んだ。

 

「雫嬢! 何故、私の悲願を達成させてくれないのですか!? 本日百名のパンティ(秘密の花園)を見ることを目標としておりますのに!? まだ一人しかできていないのですぞ!?」

「人の親友にセクハラすんなって言ってんのよ! あと変な言い方すんな! 願望も変に壮大だし! この見境なしのエロ悪魔!」

「それでは私がとんだドンファン野郎と言っているようではありませんか! 私、今まで「うわっ、ナニコイツ。キッモ」という顔をされたり言われたりはありましたが、間違えても惚れられたことはありませんでしたぞ!?」

「よくそれでその変なポリシー折れないわね!?」

「紳士ですから!」

「それで何もかも言い訳できると思ってないかしら!?」

 

 怒涛のボケとツッコミの応酬。何と激しいことか。他のボケ・ツッコミに高校新生活が始まってしばらくしている今でもなお慣れておられないクラスメイトの皆様が唖然としている。人として当然のことだと思う。なおこの間、香織は二人を見つめて微笑ましそうに見ている。その在り方はまるで聖母。クラスメイトの精神が若干安らいだ。

 

「そういえば、今もう一人は達成済みって言ったわよね? まさか香織以外に私の目を外れてセクハラしてたの?」

 

 そこでふと雫がハジメの会話の内容を思い返し質問。どうやら登校中、ハジメにパンティ(秘密の花園)を見せてくれた聖母は居なかったらしい。当然である。

 

 それに対するハジメの返答は何ともあっけからんとした拍子で出てきた。

 

「それは勿論、雫嬢のですが?」

「………は?」

「雫嬢のは毎日、日記を付けてありますからな。なお最近六十八冊目になりました」

「無駄に多い!? じゃなくて──」

「なお本日の柄はワンポイントのクマさ──」

「もうアンタ黙れ!」

 

 急に何処からか取り出した木刀で雫がハジメを殺害しにかかる。なお木刀にしては金属並みの光沢があり、それで人を殴ろうものならば、本気で一刀両断しかねない品物である。

 

 ただし変態紳士もタダではやられない。そもそも生命力も冒涜的な黒い生物並みだが、危機回避能力も伊達ではない。

 

 華麗にターンした後、半身になって右手を木刀の方へと差し出した。

 

(なっ!? 真剣白刃取り!? しかも指二本でするつもりなの!?)

 

 雫もハジメの行動の意図に気がつくが、もう遅い。木刀はハジメの手へと吸い込まれ…

 

 ──ブシュウウウウウ

 

 その右腕を両断した。

 

「いや! そこは受け止めなさいよ!」

「片手で受け止めればカッコいいかと思ったのですが…どうです?」

「失敗してんのよ! 現実を見なさい!」

 

 なおこの右腕はすぐに木工用ボンドで治りました。

 

「何で!?」

「紳士だからですな」

「それを言い訳に使わないで!」

 

 今日も破茶滅茶なハジメとツッコミをマシンガン並みに放つ雫。更に天然可愛い香織とハジメに勝ちたい光輝、脳筋な龍太郎たちが混ざりに混ざり混沌(カオス)と成す。それがこの教室の日常へと溶け込み、今日も一日が始まる。

 

「あの〜、すみませんが皆さん着席を〜」

 

 なお隅っこで赤面していた愛ちゃん先生は元の精神メンタルに回復し教壇に立っていたが、クラスの喧騒のせいで全くもって聞こえていなかった。




なお苦労してる順番は…
雫>>>>>>|人類では超えられない壁|>>>>>>>愛子>光輝>>>檜山>>>香織・龍太郎>>>>>>ハジメ
が、現在のところ。
雫の胃は死にかねない。
…いや、もう一周回って胃が生きているのか?


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