機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡 (きゅっぱち)
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登場人物・兵器・ネタ紹介
登場人物紹介


あらすじ読みづらくてすみません。本当はあれの約3倍ありスペースも開けていた一番手の込んだ部分だったハズが、収まり切らずあんな事に…………。

この物語に出てくる登場人物です。
オリジナルキャラは階級、愛称で呼ばれます。

本編、外伝登場キャラは簡単な説明をするかも知れません。



タクミ・シノハラ少尉:19歳

身長:177cm 体重:65kg

・地球連邦軍 地球総軍 北米方面軍 北米軍 航空軍 戦術航空団 第1大隊 第3中隊 第5小隊 通称"フライング・タイガー"小隊所属

・乗機 AF-01"マングース"攻撃機

・コールサイン フライング・タイガー03

・出身地 地球 極東アジア地区 日本

 

 主人公の新米士官。名前は日本語表記では篠原たくみ。名前が平仮名なのは、拓海か拓未かで迷った結果から。性格は真面目で実直。士官学校を中の上の成績で卒業するも、実技ではトップクラスの成績を収める。実家はヤシマ重工下請け。趣味は武道で、剣道、柔道、合気道、薙刀、銃剣格闘術に精通。旧世紀の戦術、軍事知識などに長ける。兄が1人いる。

 

 

レオナ・ヴィッカース伍長:17歳

身長:148cm 体重:りんごたくさん分

・地球連邦軍 地球総軍 北米方面軍 北米軍 機甲軍 強襲機甲団 第3大隊 第1中隊 第3小隊 通称"ドミニオン"小隊所属

・乗機 M61A5 MBT "Type 61 5+" 通称「61式主力戦車」または"ロクイチ"

・コールサイン デルタ02

・出身地 宇宙 サイド6"リーア" 28バンチコロニー〔ユピテル〕

 

 ジュニアハイスクール卒業と同時に地球連邦軍に入隊した、珍しい変わり者な女性戦車兵として知られる。高い知能指数を持つも、それが活かせない模様。言動は後先考えず、突発的。両親はサイド6有数の富豪であり、地球連邦軍に多額の献金(・・・・・)を行っている。早とちりしやすく、扱いやすい。ショートカットにヘアピンがトレード・マーク。騒ぐのが好きなムードメーカー。妙な事に妙な拘りを持つ。軍人としては不適格。

 

 

ロイ・ファーロング軍曹:25歳

身長:189cm 体重:86kg

・地球連邦軍 地球総軍 北米方面軍 北米軍 機甲軍 強襲機甲団 第3大隊 第1中隊 第3小隊 通称"ドミニオン"小隊所属

・乗機 M61A5 MBT "Type 61 5+"

・コールサイン デルタ02

・出身地 地球 北米地区 キャリフォルニア方面

 

 無口。無愛想。ぶっきらぼう。無表情。寡黙と、感情を一切表に出さない物静かな男。かなり腕の立つスナイパーと同時に優秀なベテラン戦車兵。伍長とは長くバディを組み、そのデコボココンビ具合から"夫婦"と揶揄される。その外見、行動から勘違いされがち。性格は理知的で義理固く、仲間と人命を第一優先にする。喫煙とコーヒー、銃の分解整備が趣味。タイガーストライプの迷彩の入ったスカーフを巻いている。元傭兵であり、その後士官学校に入り直し、その途中で引き抜かれ士官学校教官となるも、人員不足から"キャリフォルニア・ベース"へ編入される。常にサイドアームとしてハンドガンを2丁携帯している。

 

 

フランク・ガリアイル整備兵統括班長:43歳

身長:169cm 体重:62kg

・地球連邦軍 地球総軍 北米方面軍 北米軍 航空軍 兵站ユニット第5整備中隊所属

・出身地 宇宙 サイド1"ザーン" 7バンチコロニー〔ケルン〕

 

 愛称はおやっさん。豪快で細かい事を気にしない性格。権力に屈しない掴み所のない自由人。鋭く、戦況を読む事に長け、手を打っておく事もしばしば。あちらこちらにパイプを持っており、そこが知れない。かなりの情報通。メカに関してはかなりの腕で"神の腕"、"整備の神様"と呼ばれるほど。その腕でアイディア、意見をあっという間に現地改修し実装させる。数々の特許持ち。娘が一人。妻とは死別したらしい。趣味は賭け。

 

 

ジェシカ・ドーウェン

・フリーのルポライター

・出身地 宇宙 月 月面都市 グラナダ

 この物語の書き手。現在行方不明である。純粋なルナリアンであり、若い時はジオニック社に勤めており、一年戦争終戦と同時にルポライターとなる。主に一年戦争に関係した著書を多数残しており、特にメカニックに対する知識と洞察力が優れており、専門家からの評価は高い。

主な著書に『一年戦争とジオン系モビルスーツ』、『戦場にあらわれた秘密兵器』、『一年戦争、闇に消えた事件』シリーズがある。




主人公に関わる人物のみ取り上げます。
総勢5人に満たないだろうけど。


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登場人物紹介2

!警告!

順次更新するため、初めに読むとネタバレになります!
ネタバレるので二つに分けることにしました。

内容の追加は、所属、搭乗機ぐらいです。

これはキャリフォルニアベース撤退から、ジャブロー到達前までです。


タクミ・シノハラ少尉:19歳

身長:177cm 体重:65kg

・地球連邦軍 地球総軍 北米方面軍 北米軍 航空軍 戦術航空団 第1大隊 第3中隊 第5小隊所属

→"キャリフォルニア・ベース"脱出部隊、通称"サムライ旅団"団長

・乗機 AF-01"マングース"攻撃機

→MS-06J "ザクII"

・コールサイン フライング・タイガー03

→アルファ1

・出身地 地球 極東アジア地区 日本

 

 主人公の新米士官。日本語表記では篠原たくみ。性格は真面目で実直。

 戦時による人手不足から、士官学校を中の上の成績で繰り上げ卒業するも、実技ではトップクラスの成績を収める。

 実家はヤシマ重工下請け。趣味は武道で、薙刀、銃剣格闘術に精通。旧世紀の戦術、軍事知識などに長ける。兄が1人いる。飴が好き。

 "マングース"撃墜時に見える傷として左目の下、頬骨を斜めに横切る様に裂傷がついた。本人曰く気にしてないらしい。

 

 

レオナ・ヴィッカース伍長:17歳

身長:148cm 体重:りんごたくさん分

・地球連邦軍 地球総軍 北米方面軍 北米軍 機甲軍 強襲機甲団 第3大隊 第1中隊 第3小隊所属

→"キャリフォルニア・ベース"脱出部隊、通称"サムライ旅団"機甲部隊

・乗機 M61A5 MBT "Type 61 5+" 通称「61式主力戦車」または"ロクイチ"

・コールサイン デルタ02

→ブラボー2

・出身地 宇宙 サイド6"リーア" 28バンチコロニー〔ユピテル〕

 

 ジュニアハイスクール卒業と同時に地球連邦軍に入隊する。珍しい変わり者な女性戦車兵として知られる。

 高い知能指数をもつも、それが活かせない模様であり、言動も後先考えず、突発的な事も多く、そのためバカにされる事もしばしば。

 両親はサイド6有数の富豪であり、地球連邦軍に多額の献金(・・・・・)を行っている。早とちりしやすく、扱いやすい。ショートカットにヘアピンがトレード・マーク。騒ぐのが好きなムードメーカー。妙な事に妙な拘りを持つ。軍人としては不適格。

 

 

ロイ・ファーロング軍曹:25歳

身長:189cm 体重:86kg

・地球連邦軍 地球総軍 北米方面軍 北米軍 機甲軍 強襲機甲団 第3大隊 第1中隊 第3小隊所属

→"キャリフォルニア・ベース"脱出部隊、通称"サムライ旅団"機甲部隊

・乗機 M61A5 MBT "Type 61 5+"

・コールサイン デルタ02

→ブラボー1

・出身地 地球 北米地区 キャリフォルニア方面

 

 無口。無愛想。ぶっきらぼう。無表情。寡黙という、感情を表に一切出さない男。

 かなり腕の立つスナイパーと同時に優秀なベテラン戦車兵である。また、CQC、CQB、マーシャルアーツ、コマンドサンボ、合気道などの世界各国の格闘術を組み合わせたオリジナルの格闘術、"バリツ"から、高度な追跡(トラッキング)などの斥候(スカウト)技術などをはじめとし、潜入(スニーキング)地図製作(マッピング)技術など特殊技能も数多く兼ね備えている優秀な兵士である。

 伍長とは長くバディを組み、そのデコボココンビ具合から"夫婦"と揶揄される。

 その外見、行動から勘違いされがち。性格は理知的で義理固く、仲間と人命を第一優先にする。

 喫煙とコーヒー、銃の分解整備が趣味。タイガーストライプの迷彩の入ったスカーフを巻いている。

 元傭兵であり、その後士官学校に入り直し、その途中で引き抜かれ士官学校教官となるも、人員不足から"キャリフォルニア・ベース"へ編入される。

 常にサイドアームとしてハンドガンを2丁携帯している。これは軍曹の性格を表していると言えるだろう。

 

 

フランク・ガリアイル整備兵統括班長:43歳

身長:169cm 体重:62kg

・地球連邦軍 地球総軍 北米方面軍 北米軍 航空軍 兵站ユニット第5整備中隊所属→"キャリフォルニア・ベース"脱出部隊、通称"サムライ旅団"整備隊統括班長

・出身地 宇宙 サイド1"ザーン" 7バンチコロニー〔ケルン〕

 

 愛称はおやっさん。豪快で細かい事を気にしない性格。権力に屈しない掴み所のない自由人。

 あらゆる情報に鋭く、戦況を読む事に長け、手を打っておく事もしばしば。あちらこちらにパイプを持っており、そこが知れないかなりの情報通。メカに関してはかなりの腕で"神の腕"、"整備の神様"と呼ばれるほど。その腕でアイディア、意見をあっという間に現地改修し実装させる。数々の特許持ち。

 家族は娘が一人。妻とは死別したらしい。趣味は賭け。イカサマとも言う。

 

 

 

フェデリコ・ツァリアーノ中佐:37歳

・地球連邦軍 地上総軍 北米方面軍 北米軍 特殊作戦コマンド部隊"セモベンテ隊"隊長

・乗機 "ザクII"J型 321号機 通称 "ツノツキ"

・出身地 地球 ヨーロッパ地区 地中海方面

 元戦車乗りの、複数ある鹵獲"ザクII"運用部隊の一つ、"セモベンテ隊"を率いる男。粗暴な口調、左目の眼帯、傷跡の残った顔という特徴を持つ現場叩き上げのベテランパイロット。

 北米のアリゾナ砂漠を中心に味方を装ってジオン公国軍物資集積所を襲撃するというゲリラ作戦を実施していた。冷静な戦略眼と確かな戦技を持った指揮官であり、また、仲間想いで思い切りのいい隊長でもあった。

 連邦軍人には珍しく、特別にデザインされたヘルメットを装着している。

 率いる"セモベンテ隊"は"ザクII"が3機、"61式戦車"1輌からなる小隊を2個小隊分率いる形で構成され、これら部隊の使命はゲリラ戦の展開するだけでなく、将来の連邦軍MS配備を見据えて、連邦軍MS戦術を確立することだった。さらにMS部隊の指揮官育成を兼ねており、教導団的な性格を持っていた。

 部隊名の"セモベンテ"(Semovente)とは、イタリア語で自走砲を意味する単語である。

 

 

 

ジェシカ・ドーウェン

・フリーのルポライター

・出身地 宇宙 月 月面都市 グラナダ

 この物語の書き手。現在行方不明である。

 純粋なルナリアンであり、若い時はジオニック社に勤めており、一年戦争終戦と同時にルポライターとなる。主に一年戦争に関係した著書を多数残しており、特にメカニックに対する知識と洞察力が優れており、専門家からの評価は高い。

 主な著書に『一年戦争とジオン系モビルスーツ』、『戦場にあらわれた秘密兵器』、『一年戦争、闇に消えた事件』シリーズがある。

 『一年戦争、闇に消えた事件⑦ 蒼き伝説を求めて』を執筆中に失踪し、その資料が連邦軍広報課資料庫から見つかった事から、何らかの事件性が指摘されている。




順次更新します。

いちいち書いておいて終わったあとコレいるか?と思いました。


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登場人物紹介3

!警告!

順次更新するため、初めに読むとネタバレになります!
ネタバレるので更に分けることにしました。

内容の追加は、所属、搭乗機ぐらいです。

これ中尉訓練教官奮闘記の後ぐらいです。


タクミ・シノハラ中尉:19歳

誕生日:4.7

身長:177cm 体重:65kg

・地球連邦軍 地球総軍 地球連邦軍総司令部"ジャブロー"直属 極秘特務遊撃部隊及び実験部隊 第02独立機械化混成部隊 通称 MS特殊部隊第二小隊"ブレイヴ・ストライクス"隊隊長

・ポジション サポート

・乗機 RX-79[G] "先行量産陸戦特化型ガンダム"

・コールサイン ブレイヴ01(ブレイヴリーダー)

・出身地 地球 極東アジア地区 日本

 

 主人公の新米士官。性格は真面目で実直。日本語表記では篠原たくみ。士官学校を中の上の成績で卒業するも、実技ではトップクラスの成績を収める。実家はヤシマ重工(YHI)下請け。投げやりや結果オーライが多いが結構な小心者である。

 趣味は武道で、薙刀、銃剣格闘術に精通。旧世紀の戦術、軍事知識などに長ける。兄が1人いる。飴が好き。顔の裂傷どころか上半身が傷痕だらけと言う事が判明。

 "ジャブロー"においてMS訓練教官を務めたのち、連邦軍初の連邦製MSを用いたMS部隊である"ブレイヴ・ストライクス"の隊長となる。今時珍しい日本生まれ日本育ちで両親も純血日本人の純日本人。黒髪黒目でやや童顔。だが変人。

 MS操作技術はそこそこ。しかしスラスターを利用したトリッキーな運用や、自分の体得している武術を反映した操縦は目を見張るものがある。

 痛い事は嫌いというのは本人の弁であるが、ちょくちょく怪我をしてミイラになる事もしばしば。そして呪われているかの様にヤケに左腕に集中砲火を浴びる。

 特に神などは信じていない無神論者であるらしいが、八百万の神はいるらしい。そこらへんはテキトーな日本人である。

 

『今出来る事を精一杯やるだけだ。後で、後悔ぐらい出来るように』

 

 

 

レオナ・ヴィッカース伍長:17歳

誕生日:11.9

身長:148cm 体重:りんごたくさん分

・地球連邦軍 地球総軍 地球連邦軍総司令部"ジャブロー"直属 極秘特務遊撃部隊及び実験部隊 第02独立機械化混成部隊 通称 MS特殊部隊第二小隊"ブレイヴ・ストライクス"隊所属

・ポジション フォワード

・乗機 RGM-79[G] "先行量産陸戦特化型GM"

・コールサイン ブレイヴ03(ブレイヴスリー )

・出身地 宇宙 サイド6 "リーア" 28バンチコロニー〔ユピテル〕

 

 ジュニアハイスクール卒業と同時に地球連邦軍に入隊する。珍しい変わり者な女性戦車兵として知られる。高い知能指数をもつも、それが活かせない模様。言動は後先考えず、突発的。

 両親はサイド6有数の富豪であり、地球連邦軍に多額の献金(・・・・・)を行っている。早とちりしやすく、扱いやすい。

 赤みがかかった茶髪のショートカットにヘアピンがトレード・マーク。目も赤に近い茶色。騒ぐのが好きなムードメーカー。妙な事に妙な拘りを持つ。軍人としては不適格。ややトリガーハッピーなところがあり射撃が下手であるが、銃は大好き。

 MSパイロットとしての腕は並だが、持ち前の勘と思い切りの良さに加え、非常に小柄なため対Gに優れMSの高機動運用に秀でている。

 度々感の良さが指摘されているが……?

 

『スリルというお土産と引き換えに、給料分のお仕事はしますよ』

 

 

 

ロイ・ファーロング軍曹:25歳

身長:189cm 体重:86kg

誕生日:12.17

・地球連邦軍 地球総軍 地球連邦軍総司令部"ジャブロー"直属 極秘特務遊撃部隊及び実験部隊 第02独立機械化混成部隊 通称 MS特殊部隊第二小隊"ブレイヴ・ストライクス"隊所属

・乗機 RGM-79[G] "先行量産陸戦特化型GM"

・コールサイン ブレイヴ02(ブレイヴツー)

・ポジション バックス

・出身地 地球 北米地区 キャリフォルニア方面

 

 無口。無愛想。ぶっきらぼう。無表情。寡黙という、感情を表に一切出さない男。

 かなり腕の立つ狙撃手(スナイパー)と同時に優秀なベテラン戦車兵であり、また、CQC、CQB、マーシャルアーツ、コマンドサンボ、合気道などの世界各国の格闘術を組み合わせたオリジナルの格闘術、"バリツ"から、高度な追跡(トラッキング)などの斥候(スカウト)技術などをはじめとし、潜入(スニーキング)地図製作(マッピング)破壊工作(サボタージュ)暗殺(サイレントキリング)技術などの特殊技能も数多く兼ね備えている優秀な兵士である。

 伍長とは長く"ロクイチ"の運転手(ドライバー)と車長兼砲手のバディを組み、そのデコボココンビ具合から"夫婦"と揶揄される。

 その外見、行動から勘違いされがちであるが、性格は理知的で義理固く、仲間と人命を第一優先にする。黒みがかかった茶髪にブルーグレーの瞳を持つイケメン。イケメン。

 喫煙とコーヒー、銃の分解整備が趣味で、時間を見つけてはそれらを行っている。料理の腕はプロ以上ではあるが、趣味では無いとの事。首にはタイガーストライプの迷彩の入ったスカーフを巻いている。それが何なのかは誰も知らない。

 元傭兵であり、その後士官学校に入り直し、その途中で引き抜かれ士官学校教官となるも、人員不足から"キャリフォルニア・ベース"へ編入されるという複雑な経歴の持ち主。

 常にサイドアームとしてハンドガンを2丁携帯している。MSパイロットとなった今でもそれを変える気は無いらしい。

 MSの腕は中尉以上。狙撃技術も合わせると連邦軍ジオン軍あわせてもトップクラスといっても過言ではないレベル。

 あらゆる分野に秀でており、なんでもこなす。格闘も徒手格闘では達人クラスである中尉以上。狙撃も対物ライフルを使った2km程度の目標へ連続射撃を全弾命中させたり、800m先の移動目標(ムービングターゲット)にピンヘッドを軽くこなすなど超人レベル。

 経験から得られた確かな戦術眼なども備え、あらゆるスペックが中尉を遙かに上回っている。

 中尉に返し切れない借りがある、というのは本人の弁。少しづつではあるがやや人間らしさを取り戻しつつある。

 

『……問題ない……』

 

 

 

フランク・ガリアイル整備兵統括班長:43歳

身長:169cm 体重:62kg

誕生日:5.6

・地球連邦軍 地球総軍 地球連邦軍総司令部"ジャブロー"直属 極秘特務遊撃部隊及び実験部隊 第02独立機械化混成部隊 通称 MS特殊部隊第二小隊"ブレイヴ・ストライクス"隊附属兵站ユニット第01整備中隊所属 整備兵統括班長

・出身地 宇宙 サイド1〈ザーン〉7バンチコロニー〔ケルン〕

 

 愛称はおやっさん。いつも外さないサングラスがトレードマーク。階級は技術中尉。豪快で細かい事を気にしない性格。権力に屈しない掴み所のない自由人。鋭く、戦況を読む事に長け、手を打っておく事もしばしば。あちらこちらにパイプを持っており、そこが知れない。かなりの情報通。メカに関してはかなりの腕で"神の腕"、"整備の神様"と呼ばれるほど。その腕でアイディア、意見をあっという間に現地改修し実装させる。数々の特許持ち。娘が一人。妻とは死別したらしい。趣味は賭け。

 凄まじい行動力と交渉術を持ち、金さえ出せばクレムリンからエスポワール号だって買ってやろうとの事。

 ジョン・コーウェン准将とは腐れ縁との事。しかし信頼しあっている仲らしい。

 ちなみに空飛ぶスパゲッティ・モンスター教。本人曰く。

 

『バレなきゃ犯罪じゃねぇんだよ』

 

 

 

アイリス・グレイフィールド上等兵:22歳

身長:171cm 体重:セクハラです。然るべき所で訴えますよ?

誕生日:7.8

・地球連邦軍 地球総軍 地球連邦軍総司令部"ジャブロー"直属 極秘特務遊撃部隊及び実験部隊 第02独立機械化混成部隊 通称 MS特殊部隊第二小隊"ブレイヴ・ストライクス"隊専属戦術オペレーター

・ポジション 情報支援車輌"AEGIS"(イージス)車長兼ドライバー兼戦術オペレーター

・コールサイン ウィザード01(ウィザードワン)

・搭乗機 M353A4"ブラッドハウンド"戦闘支援浮上装甲車両 通称"74式ホバートラック"(ナナヨン)

・出身地 地球 ヨーロッパ地区 地中海方面

 

 "ジャブロー"の戦術オペレーター養成コース首席の才女。その言動は物腰こそ柔らかいもののクールで理知的、一切のムダが無い。士官学校時代からMS戦術論に興味があり、引き抜かれた後輩に当たるノエル・アンダーソン講師から学び、飛び級で卒業し免許皆伝を受け"ブレイヴ・ストライクス"配属になる。

 文句無しの頭の良さと情報処理能力は、"ブラッドハウンド"の全能力を1人でフルに使用出来るほど。

 背の真ん中位まで届くほどの長さの、綺麗で艶のある黒髪をサイドテールにしているが、髪型にこだわりは無いとの事。小顔に紫がかった目で、肌も白い。しかし表情をあまり表に出さない日系ヨーロッパ人。

 多才であり、趣味は家事に室内楽、特にバイオリンとボウリング、そしてハッキング。軍人一家の家系で、英才教育を受けて来たため、やや世間ズレしているのが悩みのタネらしい。

 実は"ブレイヴ・ストライクス"隊のサブパイロットも兼ねている。腕は伍長以上。教科書に忠実で堅実な操縦を行う。

 

『私達"ブレイヴ・ストライクス"なら、必ず成し遂げられますよ』

 

 

 

ショウ・ヴァーサイル技術少尉:18歳

身長:172cm 体重:58kg

誕生日:7.24

・地球連邦軍 地球総軍 地球連邦軍総司令部"ジャブロー"直属 極秘特務遊撃部隊及び実験部隊 第02独立機械化混成部隊 通称 MS特殊部隊第二小隊"ブレイヴ・ストライクス"隊付きMS技術員

・ポジション 情報支援車輌"AEGIS"(イージス)ソナー員兼上部旋回式ターレット20mm機関砲銃座砲手

・コールサイン ウィザード02(ウィザードツー)

・搭乗機 M353A4"ブラッドハウンド"戦闘支援浮上装甲車両

・出身地 月 月面都市 "アンマン"

 

 月面都市"フォン・ブラウン"のアナハイム・エレクトロニクス社(A.E)技術研究所から派遣された社員だったが、暫定的に軍籍を得て"ブレイヴ・ストライクス"に配属された技術士官。

 担当はMSの情報解析などを請け負うも、整備員としての腕もそこそこ。"ブラッドハウンド"はAE社製のため、構造を知り尽くしており戦闘時には上等兵のフォローに入る。ルナリアンであったため、地球は興味深い観察対象であるとの事。

 髪型はややはねたショートカットの金髪。アイカラーはグリーン。ノリが軽く、騒ぐのも好き。笑顔を常に絶やさず、冗談を欠かさない。趣味は"ワッパ"と日本文化について調べる事。中でも歴史、文化が好き。それと半田付け。

 家族は北米在住のため少し不安らしい。上等兵に一目惚れし猛アタック中。本人曰く後一押しらしいが……。

 MSは前後に動かせる程度。酔うため乗りたくないらしい。

 中尉がタメ口で軽口を叩ける唯一の相手である。

 

『おっし、いっちょやったろうぜ』

 

 

 

ハロ

直径:40cm 全重量:3.5kg

 SAN社が発売した球形のペットロボット。低年齢向けのペットロボットで丸いボディに耳の様な開閉機能を持つパーツ、『ハロ』とだけしか発声出来ないなどスペックはお世辞にも高くはなく、発売当初の人気はイマイチで、売れ残りが目立つ商品だった。

 特徴としてはボディはある程度の柔軟性に剛性、伸縮性がある特殊炭素繊維複合合金が用いられている。そのため衝撃に強くかなり頑丈であり、また一般生活防水性能なども備え守備力がかなり高い。噂によると爆撃された家の中から発見されたハロが簡単な修理で復活したとかなんとか。これは低年齢層向けに開発されたため乱暴に扱われても故障しないようにである。

 その副産物として移動の際には転がる、飛び跳ねるといったかなりアグレッシブな動きが可能である。

 また発光機能が付いた"目"はセンサー/カメラ複合機材であるため、ある程度の画像認識が可能であり、持ち主の顔、シルエットを記録し登録する事が出来る。

 上記の特性から衝撃吸収機能にその性能の大半が割かれており、構造的にはかなりの余裕が持たせてある事から拡張性があり改造も比較的容易である。

 

『ハロ!!』

 

 

 

ジョン・コーウェン准将:54歳

軍事機密だ。知ってしまったら、後は、分かるかね?

 

 一年戦争時、レビル将軍同様に連邦軍内において早期からMSの重要性を説いていた少数派の珍しい黒人の将軍。 MSの本格的な戦線投入に際し、優秀なMSパイロットを招集し実験部隊を組織する。 この実験部隊の目的とは、世界各地の作戦に優先的に参加し、 それにともなう実戦データを収集することにある。 レビル将軍も第11独立機械化混成部隊というMS戦闘データ収集部隊を組織していた。 しかしコーウェン准将の場合は単なるMS同士の戦闘データだけではなく、 小隊としての戦闘行動を含めたMS運用データを収集していたらしい。

 趣味は人間観察とおちょくり。立場をフルに用いた戦略で人をハメる。しかしおやっさんには頭が上がらない様子。

 本人の趣味で、コーウェン准将の周りは美女で固めている。それが自慢らしい。

 後に中将に昇進し、「ガンダム開発計画」の責任者に就任することになる。 レビル将軍亡き後、レビル将軍派閥の後継者として実力を発揮していたが、 U.C .0083のデラーズ紛争の際に、ガンダム試作2号機強奪等の責任を問われ失脚する。 これによってコリニー提督派閥が軍内で主権を掌握し、 コリニー提督退役と同時に、腹心であったジャミトフ・ハイマン准将に引き継がれた。

 

 

マット・ヒーリィ中尉:26歳

・MSパイロット養成コース訓練生

・搭乗機 RRf-06 "ザニー"

・出身地 地球 オセアニア地区

 

 士官学校上がりの元海兵隊員。海兵隊員としての初作戦時にジオンのMSと交戦、部隊は壊滅するほどの被害を受けるも、マシントラブルで行動不能となった"ザクII"を奪取するという大戦果をあげた。その戦果から中尉に昇進、さらに"ジャブロー"へ転属となり、上級職としてのMS小隊隊長になるための教育プログラムを受ける事となる。

 未来的な思考に、確かな戦術眼、技術を持つも、その中に優しさを秘めているため中尉のお気に入りの生徒だった。

 

 

ユウ・カジマ少尉:23歳

・MSパイロット養成コース訓練生

・搭乗機 RRf-06 "ザニー"

・出身地 地球 オセアニア地区

 

 元戦闘機乗りの訓練生の1人。1年戦争開戦以前に"トリアーエズ"で宙域のパトロールに向かい、偶然ジオン公国軍のMS-05 "ザクI"に遭遇。初めて目にするMSに翻弄されるも、幸い戦闘も起きずそのまま帰投する。しかしこの出来事を経て、ミノフスキー粒子下におけるMSの有効性を痛感し、上官に連邦側もMSを開発する必要性を訴えるが、全く取り合われなかった上、それによって当時は閑職扱いだったMS開発部門へと転属させられる。しかしその後、サイド5宙域で行われた"ルウム戦役"では、戦力不足のために戦場へ駆り出されるも幸いにして一命を取り留め、"ジャブロー"においてMSパイロットの訓練を受ける事になった。

 性格は冷静沈着ではあるが時に熱い一面も見せる仲間思いの男である。

 基本的に寡黙ではあるが、全く喋らない訳でも無く、冗談を言ったりもする。

 MSパイロットとしての腕は同期トップ。将来が有望されている。

 

 

フェデリコ・ツァリアーノ准将:37歳

・地球連邦軍 地上総軍 北米方面軍 北米軍 特殊作戦コマンド部隊"セモベンテ隊"隊長

・乗機 "ザクII"J型 321号機 通称 "ツノツキ"

・出身地 地球 ヨーロッパ地区 地中海方面

 元戦車乗りの、複数ある鹵獲"ザクII"運用部隊の一つ、"セモベンテ隊"を率いる男。粗暴な口調、左目の眼帯、傷跡の残った顔という特徴を持つ現場叩き上げのベテランパイロット。

 北米のアリゾナ砂漠を中心に味方を装ってジオン公国軍物資集積所を襲撃するというゲリラ作戦を実施していた。冷静な戦略眼と確かな戦技を持った指揮官であり、また、仲間想いで思い切りのいい隊長でもあった。

 連邦軍人には珍しく、特別にデザインされたヘルメットを装着しているおしゃれな一面もある。

 率いる"セモベンテ隊"は"ザクII"3機、"61式戦車"1輌からなる小隊を2個小隊分率いる形で構成され、これら部隊の使命はゲリラ戦の展開するだけでなく、将来の連邦軍MS配備を見据えて、連邦軍MS戦術を確立することだった。さらにMS部隊の指揮官育成を兼ねており、教導団的な性格を持っていた。

 部隊名の"セモベンテ"(Semovente)とは、イタリア語で自走砲を意味する単語である。

 中尉(当時少尉)と別れたのち、ゲリラ戦を展開時に敵新兵器と接敵、交戦し、奮闘するも相討ちに持ち込まれ戦死。二階級特進する。

 

 

 

 

 

ジェシカ・ドーウェン

・フリーのルポライター

・出身地 宇宙 月 月面都市 グラナダ

 この物語の書き手。現在行方不明である。純粋なルナリアンであり、若い時はジオニック社に勤めており、一年戦争終戦と同時にルポライターとなる。主に一年戦争に関係した著書を多数残しており、特にメカニックに対する知識と洞察力が優れており、専門家からの評価は高い。

 主な著書に『一年戦争とジオン系モビルスーツ』、『戦場にあらわれた秘密兵器』、『一年戦争、闇に消えた事件』シリーズがある。

 『一年戦争、闇に消えた事件⑦ 蒼き伝説を求めて』を執筆中に失踪し、その資料が連邦軍広報課資料庫から見つかった事から、何らかの事件性が指摘されている。




なんか、ガンダム戦記の登場人物多いな。

大好きだからいいけど。


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登場兵器紹介 通常兵器 地球連邦軍編

作品内で大体を説明していますが、あった方がいい、という意見を頂いたので。

本編より長くなるかも知れません。

勿論ガンダムのお約束として設定に違いがある事、設定にない独自解釈などもあります。ご了承下さい。


個人携行用小器

 

M-71A1 ハンドガン

口径:9mm

装弾数:15+1発

 ホリフィールド・ファクトリー・ウェポンズ社製、地球連邦軍が正式採用している現行ハンドガン。複列(ダブルカラム)マガジン方式を採用し、液体火薬を利用した実包により実体弾を射出する。旧世紀に完成しているブローバック式に加え、技術革新と工作精度の向上により小型化された反動軽減機能を組み込む事によりやや構造は旧来のものと異なるものの、真空中、低重力下においても安定した作動と命中率を誇る。しかし、その分ハンドガン自体のサイズは大きくなっており、携行するには大き過ぎ、提げ続ける、持ち続けるには重た過ぎると前線からの評価はあまり高くは無かった。また、液体火薬実包は安定した作動と低反動をもたらしたが低初速と威力の低下、貫通力の低下が著しく、ストッピング・パワーにかける嫌いがあった。

 その為、改良が加えられA1となるにあたりスライドをやや小型化、銃身長を大きく短縮化、反動軽減機能を根本から変更、インナーストライカー方式に改められほぼ別物に近いハンドガンとして一年戦争中に配備され始めた。しかし、前線においては補給の混乱からパーツが混在し、さらなる低評価に繋がっていた。

 伍長が使用する。が、本編で一度も射撃されないままお役御免となった。

 

 

 

TYPE-22ハンドガン

口径:9mm

装弾数:10+1発

 TYPE22は旧世紀に元スイスのSIG社及び当時傘下(後に独立)元ドイツのザウエル&ゾーン社が1976年に共同開発したSIG/SAUER P220をヤシマ重工がリメイクしたモデル。旧来の作りそのままに新規に製造されており、構造が単純で信頼性が高いダブルアクション方式の自動拳銃。

 メカニズム的に特徴的な点は手動の安全装置を廃止し、その代わりに起きた撃鉄を安全にリリースするためのデコッキングレバーを採用した事である。これ以外にも、薬室と排莢口をかみ合わせて、ブローニング式ショートリコイルシステムのロッキングラグの代わりにするという、簡単で確実なショートリコイル機構を備えているのも特徴的である。それに加えてマガジンキャッチを大きめに改良、更に使いやすくされている。シングルカラム故装弾数は9mmハンドガンでは少なめであるが、細身のグリップは握り易く構えやすい。銃身とマガジンを交換しあらゆる弾丸に対応出来るキットが同時発売されたが生産は中止されている。カスタムは特になされていない。

 一時主人公の少尉が使っていたが、実戦運用前に乗り換えられる。またも本編で一度も射撃されていない。

 

 

 

コルト・ガバメント M-1911A3 ハンドガン

口径:0.45インチ = 1.14300 センチ

装弾数:7+1発

 元アメリカ合衆国、コルト・ファイアーアームズ社で開発された傑作ハンドガンのマイナーアップバージョン。撃てる化石とも呼べる.45ACPを使用、対人攻撃に対し高いストッピング・パワーを発揮するとされる。作動方式はブローバック方式。それにティルトバレル式ショートリコイル機構という、発砲でスライドが後退する際に銃身も僅かに上を向くメカニズムにより確実な作動を行う。その分銃身が安定しておらず命中精度は低い傾向にあり、また稼働部が多く細やかなメンテナンスが欠かせない。かなり古い銃であるが根強い人気があり未だにあらゆる会社から様々なカスタムパーツがあり独自改造が施しやすく、星の数程のモデルがあると言われる。銃身とマガジンを交換する事で他の弾丸にも対応可能。マイナーアップと言っても基本的には変わず、フレームの一部にポリマーフレーム、アルミ合金などを採用し軽量化を図ったくらいか。

 しかし、本銃はコルトデルタエリートカスタムをベースに軍曹独自の改造がなされており、銃身の交換により10mmAUTO弾も使用可能。銃口(マズル)にはネジ切りが施されサプレッサーを装備可能。延長された銃身は、ライフリングをメトフォード・ライフリングとポリゴナル・ライフリングを参考にした二つの特性を併せ持つ特殊な銃身に変更され、大きな見た目の特徴として大型の強化スライド前部にはコッキングセレーションとしてチェッカリングが施され、天面には反射防止のためフラット加工がなされている。フレーム前面下部にコンペンセイターや大型サプレッサーを取り付ける為の専用のレールシステムも新規開発されている。またクリアランスを考慮し特殊な加工を施されたフィーディングランプは更にフレームとのかみ合わせをタイトにして精度を上げてある。サイトシステムもやや大型化され、フロントサイトが大きくなっているオリジナルの3ドットタイプのアジャスタブルサイトになり、トリチウム入りのハイブリッドナイトサイトに改造された。グリップセーフティはオミットされ、アンビサムセイフティ及びスライドストップは指を掛け易く延長してあるが、服との衣擦れを考慮し素早くかつ確実に取り出し射撃を行うため小型化がなされている。トリガーも滑り止めグルーブのついたロングタイプで、軽量化と強度保持のためスケルトンタイプに変更、トリガープルも軽めに設定し素早い射撃と負担の軽減に一役買っている。更にはコッキングの操作性を良好にするためのリングハンマーに、ハイグリップ用に付け根を削り込んだトリガーガード、マガジン導入部もマグウェルにより大型化しリロードをし易いようカスタム、マガジンキャッチボタンは低く切り落とし誤作動を減らす設計となり、ステッピングが施されたメインスプリングハウジングもフラットタイプにされているなどほぼ全てのパーツが軍曹の要求通り入念に吟味されカスタム化されている。

 A3は基本的に軽量化がなされたモデルではあるが、そこに目をつけた軍曹の要望から、軽量化の難しかったコルトデルタエリートカスタムにそのノウハウを援用し、フレームや薬室(チャンバー)、銃身などにはタングステンやステンレス、チタン合金を利用、銃全体の強度、重心のバランスが取られ高い安定性を持つ様に再設計され、強装弾の使用も可能。しかしそのため、一般人には手の余る一品となっている。

 傑作銃の一つであり未だ使用され続けているとは言え、古い銃である上使用弾が正式採用品と違うため、補給部隊には渋い顔をされている。

 

 

 

マテバ2014M オートリボルバー

口径:0.44インチ = 1.1176 センチ マグナム弾使用

装弾数:6発

 イタリアのマテバ社が開発した独特の形状を持つハンドガン。マテバは銃身の跳ね上がりを抑えるために銃身上部がウェイトになっており、弾倉の一番下の弾を発射するという特殊なリボルバー構造を持ち、それが特徴的な外観を形作っている。また、用途によって自由に銃身を換装できるある程度のカスタム性もある。そのため本作に出てくる物は銃身を延長して威力、命中率の底上げを図っている。最大の特長として、リボルバーでありながらオートマチック機構を備えているため"オートマチックリボルバー"とも呼ばれる珍しい銃。

 このリボルバーでありながらのオートマチック機構とは、初弾をシングルアクションまたはダブルアクションで発射し、その反動で銃身からシリンダーまでがわずかに後退することで撃鉄を自動的に起こし、シリンダーを回転させるというもの。リボルバーの機構的な信頼性と、自動拳銃並みの引き金の軽さによる命中精度の両立を目指している。装弾数はリボルバー方式なのでブローバック方式などに劣るものの、真空中や低重力、無重力下でも確実な作動をする事を買われアースノイドスペースノイド問わず広く流通している。

 その独特な形状の弊害として銃身が下部にあるため照準軸と射線軸が離れており、わずかに狙いがずれただけで着弾点が大きくずれてしまう事や、銃身の跳ね上がりを抑えるが、反動は大きくなってしまう事、普通のリボルバーと比べ構造が複雑であるため製造コストが高くなるなどの欠点を抱えてしまっている。しかしその独特な形状故かかなり人気があり、スケールダウンモデルも発売され、多く流通している9mm弾より威力があり、作動も確実で信頼性が高いとパイロットの護身用の銃として流通している。中でも女性向けと開発されたモデルはかなり小振りであり、突起も少ない為ブーツの底にも入れられると宣伝され有名になった。

 主人公のたくみがカスタム品を使用する。主な改造としては薬室の素材を変更し軽量化しつつ強度を強め炸薬量を増やせる様に改良、更に銃身を延長し、ライフリングをメトフォード・ライフリングとポリゴナル・ライフリングを参考にした二つの特性を併せ持つ特殊な物に変更、銃身上部ウェイトをレーザー・エイミング・モジュール(LAM)一体型とし、それに合わせたオリジナルのサイトシステムを導入した事で命中率の底上げを図っている。トリガーガードは大型化され、レーザー発振のスイッチはトリガー前面部にトリガーを模した形で取り付けられており、トリガーが2つ並んでいる様に見えるが、片手で、かつ手袋をしていても簡単な操作が行える。

 またリボルバー部のサイドスイングアウト方式をアップスイングアウト方式に変更、スピードローダーを使いやすくしてある。これらの改造により少々大型化したため、グリップを木製から片側のみクリアオレンジの合成樹脂に変更しバランスを調整してある。大型拳銃の部類に入るハンドガンであるが、サイズは日本人としては恵まれた体型と大きめな手を持つたくみにはちょうどいいくらいとなっている。

 因みに愛称は"Sacred-Raven Edge"、八咫烏の翼と言う意味。延長された銃身に刻まれており、アップスイングアウトしたシルエットが鳥に似ているかららしい。しかし使われずマテバとだけ呼ばれている。補給部隊も相変わらず渋い顔である。

 

 

デザートイーグル

口径:0.5インチ = 1.27 センチ

装弾数:7+1発

 イスラエル・ウェポン・インダストリーズ社(IWI)製の、世界最大、最強クラスの大口径ハンドガン。強力なマグナム実包を安全に使用するため、自動拳銃では珍しいガス圧作動方式を採用している。同方式の採用により射撃時に銃身が固定され、前述のティルトバレル式等と比較し優れた命中精度を持つ事となった。

 銃身とマガジンの交換で様々な実包が使用可能であり、.357マグナム版、.41マグナム版、.41Action-Express(.41アクションエクスプレス)版、.440Cor-Bon(.440コーボン)版、.44マグナム版、.50Action-Express版が存在し、.50AE版は自動式拳銃の中では世界最高クラスの威力を持つ弾薬を扱える。.50AE版は50口径(0.5インチ)と表記されるが、使用弾薬である.50AE弾の弾頭径は0.54インチとなっている。S&W M500の使用弾薬の弾頭径0.492インチを上回り、拳銃用弾薬としては最大となる。単純な構造から来る機械的信頼性で強力な実包を撃ち出す回転式拳銃とは違い、作動による利点を利用した拳銃であり、射撃時の反動は非常に大きいが、銃自体の質量も大きく、またボルトやスライドの後退動作によって、射手への反動の伝達が遅延され体感される反動は同種の弾薬を使用する回転式拳銃に比べれば小さい。それでいて発射された弾丸の運動エネルギーは、当時のメインアームであるアサルトライフル等に使用されている7.62x39弾と同等であり、標準的な性能のボディアーマーを貫通する能力を持っている。

 銃身上部にはレールを装備しており、スコープ、ダットサイト、レーザー照準機等の搭載が可能な為、スポーツ射撃や狩猟での運用にも対応している。

 銃身も延長してあり、ハンドガンとしては破格のサイズである。殆ど小さめのSMGと同サイズでありハンドガンとしての携行には完全に向かない。

 伍長が使用。小柄な伍長には文字通り手に余る一品であり、ムリに使っているため命中率こそ低いがお気に入りらしい。そのため軍曹の提案により使用弾頭は"スネーク・ショット"と呼ばれる蛇撃ち用散弾である。威力は低いが元々の威力が高い分十分過ぎるストッピング・パワーを持つ至るも、その分射程は10m程度すら無いため、殆ど趣味で携帯していると言える。補給部隊はもはや何も言わない。

 

 

 

グロック26

口径:9mm

装弾数:10+1発

 グロック26はオーストリアの銃器メーカーであるグロック社が開発した自動拳銃であるグロック17のバリエーションの一つ。グロックシリーズはポリマーフレームの先駆けとなった銃で、樹脂素材の多用やインナーストライカー方式によるダブルアクションなど後の銃器開発にも大きな影響を与えた傑作ハンドガンの一つ。その事から宇宙世紀においても度々復刻されており、本銃はその記念モデルである。

 特徴の一つとして、フレームや、トリガーとその周辺機構、弾倉外側が強化プラスチック製となっている事や、ストライカー方式と呼ばれるハンマーを内蔵式にした事、トリガーセーフティ方式を取る事でセレクターを廃止した事が上げられる。フレームに用いられている強化プラスチックはポリマー2と呼ばれる材質で、摂氏200℃から-60℃の環境下でもほとんど変質しないもので、尚且つ一般的なプラスチックよりも成型に難があるも適度に柔らかいため、樹脂でありながらかなりの強度、剛性を誇る。他にも、強度上問題が無い部分に強化プラスチックが使われており、成型の容易さから生産性が向上し、低コストかつ軽量になったほか、寒冷地で使用する場合、冷えた金属に皮膚が張り付く事故を防ぐことができる。

 フレームが軽量な素材構成のため、全体の重量が軽くなり反動は大きくなるという問題点があったが、グロックのフレームに採用されている素材はある程度の柔軟性を持たせることで衝撃を緩和しその問題点を克服している。また、銃口とグリップの距離(ボアライン)が近く、角度が急なグリップは回転式拳銃のグリップフィーリングに近く他の同クラスの銃に比べ跳ね上がりは少なく、移動距離の短いトリガーとともに連射をしやすくしている。その為フルオートモデルなどが多く作られる結果となった。

 直線を多用し、ハンマーを内蔵式にする事で凹凸を減らしたデザインで、小型で携行性に優れたグロックシリーズであるが、さらに小型化を図り携行性を高めたグロック17直系のコンパクトモデルがグロック19である。そして、そのグロック19をさらに小型化した超コンパクトモデルがグロック26となる。かつて米国で連邦攻撃武器規制(AWB)のあおりを受け、装弾数11発以上の新規生産された銃が規制されることになったため、逆に装填数を10発以下に抑えた上で自然なサイズになるよう小型化したモデルとなり、女性の手のひらにも収まるサイズとなった。

 小型化の影響で装弾数、射程距離、集弾率などは低下し、反動も大きくなったが、それでもハンドガンとしての基本性能は堅実に発揮する事の出来るモデルであった。また、技術革新によるポリマーの高性能化と反動軽減装置を組み込んだ事により反動の大幅な軽減を実現、女性でも片手で撃てる様になり、また装薬も改良が加えられた事により射程距離などのあらゆるディスアドバンテージを克服した傑作ハンドガンとして生まれ変わる事となる。

 上等兵が使用。指の長い上等兵にはややサイズ不足であるが、実際に撃つより常に御守りとして携行し続ける事からこのチョイスとなった。補給部隊もにっこりである。

 

 

 

CALT M-72A1アサルトカービン

口径:4.85mm

装弾数:30+1発

 地球に本社を置くCALT社製、地球連邦軍正式採用品のアサルトカービン(騎兵銃)。主に艦内やコロニー内通路等の狭い空間での取り回しを考えられた結果ブルパップ方式を採用しており、全長の割りに長い射程距離と新たに組み込まれた反動軽減機構、大型の消炎制退器(フラッシュハイダー)の銃口制退機能による高い制動性による優れた命中率が特徴。従来の低反動ライフルに置き換える形で生産され、地上宇宙コロニー問わず配備された。ブルパップ方式とは機関部がグリップより後ろ、ストックにあり、銃身長をそのままに全長を短縮すると言う銃の仕組みの一つ。耳元で弾丸を発射する為その爆音や振動で難聴を始めとする身体障害が起きやすい傾向にあったが、組み込まれた反動軽減機構の副産物である減音効果でその心配は無くなった。

 フルオート、セミオート、2点バースト、3点バーストとスイッチが可能。バースト機能が多いのはコロニー内等の閉鎖環境での跳弾や設備破壊のリスクを抑える為である。宇宙生活環境におけるインフラ設備の破壊は即大惨事に繋がる為、比較的機械的信頼性の低いバースト機構を搭載している。連射性能自体は高く、フルオート時には毎分1600発で連射可能。フレームは主にポリマーフレームを採用しており軽量化が可能な限り為され、反動は銃自体の質量でなく反動軽減装置が分散させる方式を取っている。時代の遺物とも呼べる銃剣(バヨネット)の装着も可能なのは軍用ライフルである証とも呼べる。

 元々構造が複雑なブルパップ方式に加え、機械式バースト機能、反動軽減装置と機構は複雑で整備性はそう高く無い。しかし信頼性は高く、真空中、低重力、無重力下でも作動する名銃である。オプションとしてダットサイトの装着が可能。

 

 

 

M-68A2 アサルトライフル

口径:7.62mm

装弾数:30+1発

 M72が採用されるまで地球連邦軍が採用していたフランツ社製アサルトライフル。旧世紀のアサルトライフルの作動や見た目を強く踏襲した堅実な作りであり、M-72とは真逆で大部分が硬質金属で構成されているアサルトライフル。重量はあるが剛性は高く単純で完成された作動方式は信頼性が高く丈夫である。部分的にクリアランスを多く取った所と気密を高めた所のハイブリッドな設計により砂塵や泥にも強く、急激な温度変化や高湿度も物ともしない。低反動ライフルやM-72等へ現地で更新が進んでない場合や、兵士の好みによって使用される。フルオート、セミオート、3点バーストにスイッチが可能で、フルオート時には毎分1200発で連射可能。優れた射程距離、高いストッピング・パワーと低進性、弾道安定性を持つ7.62mm弾を使用し分類的にはバトルライフルに近く、選び抜かれた精度の高い個体はマークスマンライフルとしても運用されている。

 主に重力下での運用を考えて開発されたため、宇宙では使用されない。

 

 

 

ダネル NTW-14.5 対物ライフル

口径:14.5mm

装弾数:3発+1

 旧南アフリカ共和国のアエロテクCSIR社が開発したボルトアクション式アンチマテリアルライフル(対物ライフル)。見晴らしがよく広大な南アフリカの草原では、戦闘での対峙距離が長くなる傾向があり、長射程の火器が求められていた。これを受け、アエロテクCSIR社は同銃を開発、南アフリカの自由化後はダネル社により海外に輸出された。その為開発元がアエロテクCSIR社であるにも関わらず、ダネル社の名前で呼ばれることが多い。開発当初はARMと呼ばれていたが、14.5mmx114弾用のコンバージョンキット開発と共に改称された。口径によってNTW-20とNTW-20/14.5に分類される。

 特徴は個人武装用ライフルとしては最大級の弾薬を使用するという点である。20mmx82弾薬は、第2次世界大戦においてドイツのモーゼル社が開発した対空機関砲用の弾薬であり、大戦後もフランスのマニューリン社が生産を継続している。同じく使用弾薬である14.5mmx114弾も旧ワルシャワ条約機構で対空・対軽装甲車用重機関銃として開発されたKPV 重機関銃用の弾薬として採用されていたものである。また、DShK38重機関銃用の弾薬である12.7mmx108(M33)弾を使用可能とするコンバージョンキットも存在する。これらの弾は高高度を飛ぶ航空機を撃墜する為に開発された為、弾頭重量や装薬量は通常の機関銃弾とは比べ物にならない程多く、長射程と高い威力、優れた弾道安定性を持つ。

 構造が単純で信頼性の高いボルトアクション方式を採用しており、右側面のボルト・ハンドルを手動で回転させ、ロックおよび解除を行うことができる。箱型弾倉(ボックスマガジン)を採用し、弾倉内には3発の弾薬を収めることができる。弾倉は、暴発を防ぐため反動で弾丸がずれないよう弾丸のリムで支えるための切り込みが設置され、また3発分装填してもバネの余裕ができる構造で、機関部の左側面に水平に装着する。また、ストックは内部にスプリングと2つの大型油圧式サスペンションからなるショック・アブソーバーを組み込んである。これらの銃構造により、上述の弾薬から発生する強烈な反動を軽減することができる。

 軍曹が"ザクII"のモノアイをペイント弾で狙撃する際利用した。理由はただ単に倉庫で埃を被っているのが発見された中で口径が最も大きいから。また射程の関係から20mm弾では無く14.5mm弾を使用した。

 

 

 

M-299 分隊支援火器

口径:5.56mm

装弾数:30〜200発 マガジンによって変わる

 元ベルギーの国営銃器メーカー、FN社が開発したミニミ軽機関銃をベースに開発された分隊支援火器(SAW)。"ラコタ"、"61式主力戦車"に搭載する事を前提にホリフィールド・ファクトリー・ウェポンズ社に開発された。

 分隊の支援火器として、また、歩兵と同じ弾薬を共用できる軽量ベルトリンク給弾式軽機関銃(LMG)として設計されたが、給弾ポートは2種類用意されM-72のマガジンでも射撃可能。分隊支援火器とは狙って射撃する武器では無く、毎分1000発という連射性能を活かし弾丸をばら撒き相手の行動を制限したり味方の行動のフォローをするための武器である。そのため銃身安定用の二脚(バイポッド)、ダットサイトが標準装備されている。斜めに突き出す様に固定されたキャリングハンドルは銃身に取り付けられており、銃本体の運搬のみならず、空冷式銃身交換の際にも用いられる。このハンドルによって、射撃直後の銃身が熱せられた状態でも耐熱手袋などを必要とせずに素早い銃身交換が可能である。

 銃身や薬室、マガジンの交換で7.62mm弾も使用可能。設計からも判る通りM-68と同時期に開発された銃であり、本来はその仕様であったが、M-72の正式採用と共にマガジンを共用する新型が新規開発された。M-72マガジンの使用は緊急時のみの使用に限ると推奨されてはいなかったが、実戦運用に十分耐え得る信頼性であり、取り回しの観点からM-72の大量にマガジンを携行し使用する兵士もいた。

 

 

 

M-60 重機関銃

口径:13.2mm

装弾数:110発〜

 旧世紀のあらゆる重機関銃(HMG)を参考にし、"61式主力戦車"搭載を前提にホリフィールド・ファクトリー・ウェポンズ社に新規開発された重機関銃。現地では"スーパーキャリバー"、"ビッグマデュース"とも呼ばれている。ベルト式給弾方式を採用、フルオート時には銃身寿命を考えなければ最大毎分2000発以上という凄まじい連射速度を叩き出せる。旧来主体であった12.7mmを上回る13.2mmという新規格の口径が生み出す命中率、威力、射程距離の大幅な増大はもはや革新的である。

 空冷式の銃身は軽く簡単に交換出来る上、素材の変更及び加工技術の発展により耐久性も大幅に高まっている。薬室、機関部の改良により重量もやや軽減された。

 "61式主力戦車"搭載時は無線式リモコンガンとして搭載されるが、後に有線式かつセンサーやカメラも強化され、目標を自動判別し攻撃するセントリーガンモードを新規搭載したカスタムモデルとなる。その際は銃身を始め全体を装甲で覆われる為重量は増すが、対歩兵戦において絶大な効果を発揮する。

 

 

 

FGM-148A3++ スーパージャベリン 対戦車ミサイル

口径:127mm

 倉庫に眠っていた元アメリカ合衆国国防軍製の個人携行用多目的ミサイルに大幅な改良を加えたもの。弾頭はタンデム方式9.8kg成型炸薬(HEAT)弾頭で総重量は約17kgとかなりのサイズだが、戦車はともかくMSを相手取るにはこれでも不足だった。発射されたミサイルは圧縮ガスによって発射筒から押し出され、数m飛翔した後に安定翼が開き、同時にロケットモーターが点火される。このコールドローンチ方式という発射方式により、バックブラストによって射手の位置が露見する可能性を抑え、後方が塞がっている室内等からも安全に発射する事が出来た。

 操作も極簡略化されとても扱いやすくなり、モード変更によりゼロ距離射撃モード、トップアタックモードに変更可能。ミノフスキー粒子下でも利用出来る様、完全撃ちっ放し(ファイア・アンド・フォーゲット)の赤外線画像判別自立誘導機能をオミット、グラスファイバーによる有線及び先端にカメラを搭載、有視界による誘導方式に変更した。それらの改良に加え使い捨て部分の軽量化も図られており、若干ではあるが軽量化、省コスト化に成功している。

 

 

 

M-101A3 リジーナ 対MS重誘導弾

口径: 139mm

 リジーナは、地球連邦軍の対MS特技兵(MS猟兵)が使用する光学照準式有線誘導対戦車ミサイル兵器(TOW)の一種である。地球連邦軍が旧世紀に使われていた既存の対戦車誘導弾(ATM)をベースに大型化(スケールアップ)、強化発展させかつミノフスキー粒子下でも正常に作動するよう、ブラッシュ社によって急造されすぐさま戦闘に投入された。

 "一年戦争"初期から大戦を通し使用され続け、その都度改良が加えられた。弾を再装填することで発射機を使い捨てることなく複数回使用できるのが特徴である。

 全長157cmという大きさであり、兵士2人により本体運搬、もう1人により弾体運搬の計3人によって運用される大型の設置型ミサイルであり、"セモベンテ隊"含め複数のMS鹵獲運用部隊の実戦データから得られた情報を元に旧世紀の兵器をベースとし強化発展させた大規模個人携行用対MS戦闘用兵器。歩兵が運用する携行式ミサイルとしては最大級であり、主に待ち伏せ(アンブッシュ)専用兵器として運用されたが、車輌に搭載して用いられることもあった。モード変更によりゼロ距離射撃モード、トップアタックモードに変更可能。射程は有効射程が3500m、最大射程が4200mと大きさの割には短めである。それにはミノフスキー粒子下での運用に耐えうる事を前提に開発されたため、弾頭にカメラを装備し画像直接照準、後尾のグラスファイバー経由による有線誘導方式を採用している事が大きく関係している。

 しかし、性能自体は高いものの所詮は急造の欠陥兵器に近い存在である事には変わりなく、単発でMSを撃破することは困難であったが、同時集中使用することで、MSに対して一定の効果を期待できた。また、特殊炸薬を用いたタンデム方式の成形炸薬弾頭を使用しているが、それでもMSの正面装甲を貫くほどの威力は無かったため、間接部位やバイタルパートをピンポイントで狙い撃つ戦法が採用されている。

 対MS戦闘においての連邦軍の切り札として、また低コストで尚且つ大量配備が出来たため、数週間程度の訓練を積ませそのまま戦地へ向かわされた場合も多かったが、MSを多数撃破するなどの戦果を挙げていた。

 しかしその戦果の裏には多大な犠牲があり、部隊全滅などは日常茶飯事であった。そのあまりの消耗率の高さから、前線の日系特技兵からは個人携行用無反動砲とあわせて"タケヤリ"と呼ばれ、"ザクハンター"とは名ばかりに、厄介払いの捨て駒の様に戦線へ投入され、味方からは死神や疫病神扱いされた。

 

 

 

車両

 

 

 

 

M-72 1/2tトラック ラコタ 高機動車両

 地球連邦軍正式採用、ヤシマ重工社製の高機動車輌。ガソリンをはじめとした化石燃料の枯渇から次世代の兵士の足として開発がスタートしたバッテリー駆動方式の完全な電気駆動車。宇宙世紀黎明期からコロニー内で使用され円熟したエレカの技術を利用、軍隊の激しい使用に耐え得る信頼性と耐久性を第一に、加えて電気駆動車ならではの低騒音や低振動、ネックであった航続距離や馬力の強化を主軸に完全新規開発された。その持ち前の頑丈さと整備し易さ、インホイールモーターによる高い車体制御技術と高性能なサスペンションによる走破性の高さから地球全土に渡って使用されている。2人乗りであり、後部はM-229 分隊支援火器用銃架つきの多目的スペースとなっており、シートを展開し兵員を運ぶ事や物資を積載できる。

 

 

 

M-61A5E1 MBT "Type-61 5+" 61式主力戦車後期生産型

全長 11.6 m

車体長 9.2 m

全幅 4.9 m

全高 3.9 m

懸架方式 トーションバー式

速度 90 km/h

主砲 155mm 2連装滑腔砲

副武装 7.62mm主砲同軸機関銃

13.2mm重機関銃 M-60 HMG

5.56mm機関銃 M-299

スモークディスチャージャー

 通称"ロクイチ"。地球連邦地上軍が誇る最強最高のMBT。ヴェトロニクスの高度な電子化、ハイテク化に加え、大きな車体は拡張性が高く、地球全土のあらゆる地形に対応が可能である。小型化された衛星通信、データリンクを備え、乗員は各種操作の徹底的な自動化によって車長兼砲手と、操縦手兼通信手の2名という少人数で運用出来る。しかしこれは2連装滑空砲により砲塔内が圧迫され1人しか乗り込めないための苦肉の策であった。

 U.C. 0061に正式採用され、マイナーアップをされ未だに運用されている。正式採用後も様々な改良を重ねて運用され、特に“スカート”と呼ばれる追加装甲を被せた最新型の5型は初期型とは別物と呼べる程の性能を獲得している。

 ちなみに、1個小隊は基本的に4両編成であるとされる。車体後部には兵員輸送や物資運搬のためのスペースがあり、最大4人が乗り込む事が出来る。完全電気駆動でありながら荒地でも最高速度90km/hを叩き出す足回りの良さがある。主砲の155mm2連滑腔砲は様々な弾頭を左右交互と同時発射の撃ち分けと自動装填装置によって大口径の2連装砲ながら連射を可能としている。

 また、極東機械化方面軍などで使用されていた前期生産型は車高が高く、サイドスカートが付いておらず、主砲も150mmとなっている。

 懸架方式はトーションバー式を取っているが、簡易改造で油気圧方式(ハイドロニューマチック・サスペンション)にも変更可能。これは前後左右の油圧を変えることで車体の角度を変えられるため、地形を利用した待ち伏せや稜線射撃を多用する部隊に優先的に配備された。

 一年戦争においてもMSが登場するまで主力であり続け、ミノフスキー・エフェクトにより様々な電子機器を無効化され手足を縛られても、性能において圧倒的に劣るジオン軍MSに対し数多く敗走を重ねつつも、"戦車"としての高いポテンシャル、アドバンテージを活かし大被害を出しながらも戦い続け、"欧州撤退戦"や「オデッサ作戦」などを影で支えた。

 "サムライ旅団"及び"ブレイヴ・ストライクス"隊に配備された現地改良型は、対MS戦闘を始めジオン地上侵攻軍に数多く配備された対軽車両戦闘も考慮された駆逐戦車に近い改良が加えられ、リアクティブスカートアーマーやシュルツェン、戦車市街地戦生存性向上改修キット(TUSK)先進的モジュール装甲防御(AMAP)などを参考にした増加装甲が施されている。また、スタンドアロンな行動を行うためのモジュラー装甲内工具入れ、ロンメルキステ、ゲペックカステンも追加で装備され、更に対MS戦闘において必要不可欠となる機動性を犠牲にしない事に念頭を置きつつ、対ゲリラ用の歩兵による対戦車無反動砲への防御力を高めるこの改良は高く評価され、追加式のリモコンガンと共に改良キットとして配布される事なった。

 地球連邦地上軍にもMSが配備され、主力の座を譲ってもなお極少数ではあるものの生産、改良、配備は停止されず、基地防衛、式典、治安維持活動などに活躍し、地球連邦地上軍の"象徴"、純粋な「最後の戦車」として存在し続けた。

 

 

M-353A4 ブラッドハウンド 戦闘支援浮上装甲車

全長:6.3m 

全幅:3.3m

武装 20mm旋回式銃座

スモークディスチャージャー

 通称"74式ホバートラック"(ナナヨン)。AE社製の装甲ホバートラック。MS1個小隊(3機)ごとに1両配属され、管制と索敵、哨戒を担当する。前線指揮車能力も備えており佐官級将校が乗車して指揮をとることもあった。

 車体底部に4基のホバーユニットを備えており、湿地帯や荒地、水上などあらゆる地形に対応が可能であり、MSの進軍速度にに追従できる走破性を持つ。

 車体後部は荷台となっており、歩兵用の携行兵器や予備人員、さらには攻撃用のレールガンユニットをも積載できる。部隊用指揮官車両は通信機能を強化するレドームを装備する。

 早急な実戦配備が求められていたため、新規のホバートラックを開発するのではなく、既存のホバーカーゴトラックから派生したM-340軍用ホバートラックをベースに、更なる改良を加えたXM-353ホバートラックを緊急開発した。

 このXM-353に防衛用武装として、旧式化した航空機用20mm機関砲を搭載し、レーザー通信をはじめとする短距離通信機能を強化したものが、モビルスーツ戦闘支援車輌M-353A4ブラッドハウンドとして正式採用されている。

 そして、"ブラッドハウンド"の最大の特徴は、車体側面に装備された地中に埋め込むことで周囲の振動を探知するアンダーグラウンド・ソナーである。車体をフロント及びリアに搭載されたアウトリガーによって固定し、杭状のソナーポッドを地面に打ち込むことで使用する。

 これは、ミノフスキー粒子の影響を受けにくい地中を利用して、敵音源の位置測定や音紋解析による敵種別を可能とするものであり、様々な地球環境下で任務を遂行するモビルスーツ小隊の生命線ともいえる装備であった。それに加え、大型の展開型レーダーマストに。化学センサーを始め様々な種類のセンサー・レーダーが実験的に装備されている。

 まさに、MS小隊の目となり耳となる司令塔であると言えよう。

 また、ミノフスキー粒子下では無力化されるとはいえ、環境さえ整えばレーダーはかなり有効であるのは変わりない事から直線的な車体表面そのものをレーダー素子に用いた高出力コンフォーマルレーダーを搭載している。

 武装は本体上部のターレットに装備された20mmガトリング砲のみであり、砲手が手動で操作を行う。砲弾は対軽装甲用の徹甲弾と対人、対空用の榴弾を状況によって使い分ける。

 その他に、スモークディスチャージャー、可変式伸縮アンテナ、回転式ペリスコープ、サーチライト等を装備しており、あらゆる方面からMSの戦闘行動を支援する事が出来た。

 因みに名前の由来である"ブラッドハウンド"とは、ベルギー原産のセントハウンド犬種。名前は「高貴な血を継ぐ純血の犬」の意味で、肩書きは「魔法の嗅覚」。これは搭載した様々なレーダーの中で、犬の嗅覚システムを真似て開発されたという科学センサーから取られたと言うのが最も有力であり、この装備の有無が"ナナヨン"か"ブラッドハウンド"かを分けているとされる。

 

 

 

M-64A2 シャイアン 有線ミサイルカー

 ヤシマ重工社製の拠点防衛用のミサイル搭載電気駆動車両。

 "ラコタ"を製作したヤシマ重工が開発した物で、高い機動力と有線誘導方式ミサイルによる高い命中率を誇り、地球、コロニー問わずあらゆる拠点で採用された。

 しかし、『火器の限定された中その最低限の火力で敵を倒す』というコンセプトから火力は低く、MS相手にはそのミサイルすら避けられ、全く対抗出来なかった。

 MSの発達と"リジーナ"の普及により、一部のコロニーを除き徐々にその姿を消して行った。

 

 

 

RTX-44 対MS用戦闘車両

重量:97.0t

武装 240mmキャノン砲×2

対空ロケット砲×4

 本機は元々、地球連邦軍において"61式主力戦車"の後継機種として開発された大型戦車で、U.C. 0077 には次世代主力戦車(MBT)として完成していた。

 しかし、ジオン公国軍のMS開発計画を察知したことにより、対MS用戦闘車両としてコンセプトが変更され、RX計画に統合されることになる。

 対MS用戦闘車両として開発されることになったRTX-44は、開放式キャタピラの車台の上に旋回式の「胴体」を持っており、戦車で言うところの旋回砲台にあたるこの胴体ユニットには、砲撃手コクピットとキャノピー、それにセンサーを有し、武装として対空ロケット砲4門と、肩にあたる部分には2門の240mmキャノン砲を備えていた。

 2門の主砲を備えているのは"61式主力戦車"から受け継がれた設計だが、今までの戦車にない胴体ユニットを持っているのは、ジオン公国軍が開発を進めているというMSを強く意識した設計であることが伺える。

 RTX-44はU.C. 0078 3.20に4機が製造され、"ジャブロー"において各種テストが開始されたが、胴体部分を持つことによって車高が高くなったことから防御性が疑問視され、さらに総重量は97.0tと、"61式主力戦車"と比較して機動性が極端に低かったことから、戦車派の軍人からは失敗作の烙印を押されてしまう。

 ジオン公国軍の"マゼラ・アタック"や"ヒルドルブ"のような巨大戦車を相手にするのであればこの程度の大きさは問題ではなく、むしろRTX-44はそれらに比べて小型ですらあったのだが、既存兵器の発想から離れられない当時の戦車乗りにはRTX-44の設計が理解し難かったのである。

 このような理由で、RTX-44は連邦陸軍から否定的な見方をされたため制式化には至らなかった。

 しかし、後に本機をベースとして全面的にリファインが行われ、地球連邦軍初のMS、RX-75 "ガンタンク"が完成することになる。

 

 

 

 

大規模移動型コンボイ

 タイヤ直径3m、全長25m、車体の横幅が8mもある、超大型車両。

 移動可能な前線簡易整備施設兼前線基地として開発が進み、計画が頓挫した後"キャリフォルニア・ベース"倉庫で眠っていたものを改造したもの。

 単体でも性能はある程度発揮出来るが、横、縦と連結し、前線付近に展開できる大規模野戦整備施設、及び前線基地となる事で真価を発揮する。

 その前線に展開するという性質上ある程度の被弾を前提に考えられているため、装甲は厚く、底面も地雷対策が施され、窓にもシャッターを降ろすことが出来る。自衛火器としてM-60重機関銃、M-101A3"リジーナ"対MS重誘導弾を装備する移動要塞でもある。連結しながらの移動も可能。そのためコストと性能が釣り合わず、何とも宙ぶらりんな性能となり、計画は凍結、前線基地も"ビッグ・トレー"級陸戦艇や"ミニ・トレー"級陸戦艇、M-353A4"ブラッドハウンド"戦闘支援浮上装甲車両に取って代わられる事となった。

 長距離移動、大人数での長期滞在を考慮に入れられており、高い居住性を持つ。高性能な太陽光、風力、地熱発電装置に大電量バッテリー、燃料電池で駆動する完全電気駆動車。内部プラントでは簡単な野菜の生産も可能。完全電気駆動車であるが非常用の化石燃料を使用する機関も搭載しているハイブリッド車両である。高性能な水の循環装置、大気中の水分を回収する装置も付いており、事実上無限の航続距離を持つ。外壁は水の濾過装置を兼ね水が循環しているため断熱性が高く、内部環境は外気温に左右されないため、-40℃〜50℃の環境で使用可能。

 その車体の大きさから拡張性があり、エアバックを搭載し渡河も可能。

 

 

 

 

陸戦艇

 

 

 

 

ELWS-M-717A3 ミニ・トレー級陸戦艇

 "ミニ・トレー"級は、ヴィックウェリントン社製の陸戦艇。

 "ビッグ・トレー"級陸上戦艦を小型化したような外観をしており、"ビッグ・トレー"級と同様に連邦軍陸上部隊の移動司令部として使われていたが、その建造数は少なかったといわれている。

 しかし"ビッグ・トレー"級よりニ周りほどスケールダウンした結果速度や巡航距離の強化に加え小回りが利き、コストも安くなったためあらゆる戦場でその姿を見る事が出来た。

 ホバー移動による水陸を問わない上、その大きさに似合わないそこそこの機動性を持つ推進方式や、VTOL機やヘリコプターなどを運用できる飛行甲板を備えている点も"ビッグ・トレー"級と同様であるが、武装は艦船と共通な195mm単装速射砲6門もしくは5門が装備されているだけであり、600mm三連装砲塔が3基搭載された"ビッグ・トレー"級ほどの攻撃力はなかった。

 "ミニ・トレー"級は、"一年戦争"終結後も地球に残ったジオン公国軍残党を掃討するため、その勢力が最も大きかったアフリカ大陸で主に使用され続けたという。

 しかし軍縮の煽りを一番に受けた事、地球上のジオン残党軍の大部分が駆逐された事から移動司令部の必要性が希薄となり、後に全艦が解体処分となった。

 

 

 

 

航空機

 

 

 

 

FF-2 フライ・ダーツ 高高度戦闘機

 ハービック社製の「コア・ファイター・バリエーション」の中の一機。戦闘機とは名ばかりの、衛生軌道上に置ける対艦攻撃に主体を置かれた機体。元のFF-2であった宇宙戦闘機"トマホーク"を全面改修した機体である。武装は電磁加速式モーターキャノンと機体の全長を越えるほどの大型の対艦ミサイルを2発装備している。"セイバーフィッシュ"に足りないとされた対艦攻撃能力を一手に引き受けている機体と呼べるだろう。

 大気圏内外を戦闘域にしたロケットエンジン搭載のリフティングボディ機であり、本機の運用のために空中母機として改修された爆撃機"デプ・ロッグ"からの空中発進方式を取っている。連邦宇宙軍は、基本的に宇宙での任務を担当する軍隊であったが、地球軌道上の保全という任務も担っていたため、宇宙だけでなく地球本土にも基地を有していた。このことは、地球連邦軍が抱えていた長年の問題の一つである宇宙軍と空軍との担当領域に関する諍いの原因となっており、本機はその領域問題の象徴ともいえる機体である。

 本機は、軌道上に侵入した敵を迎撃するために開発されており、形状や用いられている技術は航空機というよりも航宙機といった方が正しい。"一年戦争"初期には、ジオン公国地球攻撃軍とジオン本国を結ぶ交通線の破壊任務に従事しており、地球侵入を図るジオン公国軍の大気圏突入艇や"HLV"、"HRSL"を多数撃墜した。

 これらの任務は相対加速度が大きく、本機のパイロットは宇宙軍の中でも指折りの者達が選ばれていたという。

 

 

 

FF-3 セイバーフィッシュ 高高度迎撃戦闘機

 U.C. 0071に地球連邦軍に採用された、ハービック社製迎撃戦闘機。宇宙空間への戦域拡大を視野に入れた、新たな戦術体系に合致する戦闘機開発計画「コア・ファイター構想」に基づき地球連邦軍が採用、配備を行った「コア・ファイター・バリエーション」の中の一機。装備の変更によってあらゆる空域での運用が可能な設計になっている。宇宙用の"セイバーフィッシュ"は、ベースとなる機体に4基のブースターパックを機体上下に2基ずつ装備され、機動性を高くする事でMSに対抗できる数少ない兵器として、"一年戦争"開戦当初は積極的に運用された。

 その戦域を選ばない機体としての設計から機体密閉性が高く、機体構造、機体強度も大きく取られた高価な戦闘機となった。推進機関はジェットエンジン・化学燃料ロケットのハイブリッド式で、核動力を所持していないため、出力や推力がMSに劣る。しかし同系統の兵器であり同じく核動力を所持していない"ガトル"や"ジッコ"と比べればはるかに高性能であり、戦闘力では"ガトル"を圧倒できる性能を持っている。大型の対艦ミサイルを装備し火力は高いが、その設計思想は悪く言えば決戦主義的であり、母艦の支援をする支援戦闘機として敵艦を攻撃して撃沈するという大艦巨砲主義を支援する性能も持ち合わせている。大気圏内外両用機である事が災いし、航宙機の設計が足を引っ張り視界が狭く、特に後方視界はゼロであり大気圏内でのドッグファイトは得意ではなく、それは設計の簡略化、パーツの共通化、生産性の向上、機種転換を容易にすると言う「コア・ファイター・バリエーション」によりコクピット周りの設計を共通にした事が裏目に出てしまい、格闘戦闘機として開発された他の機体も同じ欠陥を抱える結果となってしまっている。後に連邦軍もMSや"コア・ファイター"などを始めとする核融合炉を搭載した戦闘機を開発、量産に着手してからは生産は停止された。

 宇宙空間では拠点防衛の他、"マゼラン"級宇宙戦艦の艦載機とすることも計画されていたが、地球連邦軍の大艦巨砲主義により"マゼラン"級に艦載能力は付加されなかった。結局、"コロンブス"級など一部の艦で運用されたにとどまっている。後に連邦軍もMSを開発、量産に着手してからは次第に第一線を退いている。

 武装は機首の25mm機関砲4基で、ブースターパック装着時はその先端に付けられている各基3基ずつ計12基のミサイルランチャーも加わる。ちなみに本機の型式番号はFF-3だが、宇宙戦仕様の機体はFF-S3、局地要撃機仕様の機体はFF-S3DFの型式番号が付与された。

 

 

 

FF-4 トリアーエズ 空間戦闘機

 ハービック社製の防空小型戦闘機。地球連邦軍の宇宙軍の主力として"ルナツー"や各サイドの駐留軍に配備された。武装は機首に設けられた25mm機関砲2門のみである。同じくハービック社によって同時期に開発されたFF-X7"コア・ファイター"と似通ったデザインを有する。

 "一年戦争"が勃発すると、ミノフスキー粒子が散布された状況下での戦闘には対応していなかった上、"ルウム戦役"では戦闘機以上の機動性を誇るMSに対抗する事は叶わず、RGM-79 "GM"にその座を譲ることとなった。

 

 

 

FF-S5 レイヴン・ソード 空間戦闘機

全長:16.6m

重量:18.7t

 "レイヴン・ソード"は、ハービック社の「コア・ファイター・バリエーション」の中の一機。大気圏内外両用の空間戦闘機。

 "一年戦争"勃発後、MSに主役の座を譲る事になった空間戦闘機だが、戦線において不可欠な兵器であることには変わりなく、開発・生産は"一年戦争'中にも薦められていた。武装は30mm2連機関砲4門にミサイルを6発搭載可能。本機の開発は、"セイバーフィッシュ"の後継機である "トリアーエズ"の試作機が完成する前に開始されていたが、紆余曲折を経て"一年戦争"末期に試作1号機が完成している。

 連邦軍の最終的な開発要求は、"ネルソン"級MS軽空母や"トラファルガ"級全通甲板型支援巡洋艦などの宇宙空母で運用するにあたり、単艦での艦載数を増やせるコンパクトな機体であり、なおかつ "コア・ファイター"相当かそれ以上の総合性能を持つ機体であった。

 この困難な性能要求に対して開発陣は、従来型のエンジン出力を向上した改良型エンジンを開発・採用することにより、コンフォーマルタンク型ブースター装着時の"セイバーフィッシュ"の航続距離・機動性を参考に設定した目標値の85%を達成している。

 小型の機体ゆえに大気圏内での稼働時間が短いという問題点があったが、試作1号機が完成した翌月には本機の制式採用が決定し、FF-S5 "レイヴン・ソード"の名称が与えられた。しかし、"一年戦争"中期以降の連邦軍の兵器開発・生産は、RGM-79 "GM"シリーズの量産を最優先としていたため、航空機や艦船の生産は大幅に遅れており、本機が量産化されたのは戦後になってからである。"一年戦争"での航空兵力の損失が多かったため、本機の第1次生産機数は300機を超え、U.C. 0080末には追加発注によって第2次生産までされた。第2次生産では、エンジンを大気圏内用に換装したFF-S5Cと、コクピットを複座型にしたFF-S5Dも製造されていたという。

 だが本機の使用期間は短く、U.C. 0085には全機が退役している。

 

 

 

FF-6 TINコッド 高高度防空戦闘機

 ハービック社製の「コア・ファイター・バリエーション」の中の一機。大気圏内での戦闘を想定し開発された小型制空戦闘機で、対戦闘機の格闘戦能力を強化されているが、武装は4連装25mm機関砲と機体に内蔵されたランチャーから発射される空対空ミサイルで、火力は決して高くはなく、純粋な地球連邦軍の航空機によく見られるマルチロールファイターでなく、純粋な戦闘機と呼べる。しかし、これらの遠中距離対空兵装搭載量の少なさ、さらに本機は、大気圏内での戦闘を想定して開発された小型戦闘機で、非常に高い運動性能を有していたが、燃料消費が激しく航続距離が極端に短い、更にコクピットを共通化した弊害から視界が狭く、ミラーやカメラによる補助を必要とするという欠点を抱えていた。

 遠中距離対空兵装搭載量の少なさから本来は高高度防空戦闘機として開発されたものではないのかもしれない。皮肉にもその誘導兵器に頼らない有視界戦闘においてその設計が功を奏し、ベテランパイロットに格闘戦に好んで用いられた。U.C. 0062には試作型が完成したが、実用化は大幅に遅れ、U.C. 0079に始まった"一年戦争"の頃になっても実戦配備はあまり進んでいなかったようであり、一説では戦争中に配備された数は僅か48機であったといわれている。

 しかし、他の戦闘機の追随を許さないほどの高い運動性能は一部のベテランパイロット達に歓迎され、"テキサスの黒い悪魔"の異名を持つサミュエラ少佐や、"オデッサの荒鷲"と呼ばれたエイミー・バウアー・マイスター大尉、また、一年戦争中に航空機301機撃墜のスコアを記録した連邦空軍のエースパイロット"レディキラー"ことテキサン・ディミトリー中尉など、多くのパイロットが"TINコッド"を愛機とした。

 "一年戦争"終結後は、旧ジオン公国軍の技術を取り入れて開発された航空機用熱核ジェットエンジンが搭載されたことで、大出力高機動の万能戦闘機へ生まれ変わり、連邦空軍の主力として量産されている。しかし、"Ζプラス"、"リゼル"、"アンクシャ"などの可変MSの登場で航空産業が衰退していたU.C. 0096時には、"フライ・マンタ"の後継機として採用された本機の改良型である"TINコッドII"が、機種転換されないまま運用されている。

 その"TINコッドII"も後に殆どがFF-08WR"ワイバーン"へと更新された。

 

 

FF-X7 コア・ファイター 多目的戦闘機

所属 地球連邦軍

開発 地球連邦軍

製造 ジャブロー

生産形態 試作及び量産機

全長 8.60m

重量 8.90t

出力 12000hp

最高速度 マッハ4.8

装甲材質 ルナ・チタニウム合金

武装 4連発小型ミサイル×2

30mm2連装機関砲×2

 ハービック社製の「コア・ファイター・バリエーション」の集大成とも呼べるコンバインドサイクル型熱核反応ジェット/ロケット・エンジン JPR-11Cを搭載した、大気圏内外両用高性能小型多目的戦闘機。最初の"コア・ファイター"は"TINコッド"をベースに制作され、V作戦によって作られた地球連邦軍のRX-75 "ガンタンク"、RX-77 "ガンキャノン"、RX-78 "ガンダム"を代表とするRXタイプMS及び、"Gファイター"、FF-X7-Bst "コア・ブースター"及びそのバリエーション機に採用された。高い機動力と攻撃力を併せ持つ新時代の戦闘機として完成し、MSが無い戦線においても配備された。ファイターパイロットの意見を多く取り入れる形で設計され、高い旋回性能と、ピンポイントの機銃一連射で敵を叩き落とせる打撃力を求められ、その事から、旧世紀の幻の局地戦闘機"震電"を参考に機首に大口径機銃が集中装備されている。その分弾数は大きく制限される事となったが、その火力はMSはおろか肉薄しピンポイントで弱点を集中砲火する事により、"ガウ"級攻撃空母をも落とす火力を発揮した。しかし、これは可変翼及び胴体部に機銃を搭載する設計的な余裕が無かった為でもあった。

 戦闘機であるが、本来の仕事は高価で高性能な教育型コンピューターが内蔵されており、MSが損傷しても実験データを回収するために開発された。また、『パイロットの生存率の向上』の為量産が確認されている"コア・ブースター"にも"コア・ファイター"が分離可能なまま採用されている。そのため装甲材質も高価なルナ・チタニウム合金が使われている。

 本機最大の特徴は、コア・ブロック (CORE BLOCK)と呼ばれる“核”に変形し、MSの胴体に収納され、コクピット兼脱出カプセルとして使用される点に尽きるだろう。コア・ブロック形態時も、ジェネレーターは使用されるがメイン推進装置の代替用として別系統で内蔵される推進装置はコア・ブロック形態時にデッドウェイトとなってしまうため、その解決策としてバックパックも兼ねたタイプも考案された模様である。

 しかし、結果として高性能な戦闘機であり、MSのパーツの一部である本機の生産コストは釣り上がり、戦闘機としては優秀ではあるのだがなんとも中途半端な性能であり、戦力としては部隊に組み込み辛いため、後のMSには殆ど採用が見送られている。

 

 

 

BF-01 フライ・マンタ 戦闘爆撃機

所属 地球連邦軍

開発 地球連邦軍

全長:17m

全幅:13m

全高:6m

全装備重量:11.7t

 レールス・フライテック社製の戦闘爆撃機(マルチロール・ファイター)。機首の左右に3連装ミサイルランチャーを装備し、また、後期生産型には2連装30mm機関砲を備える。底面には大型の爆撃用爆弾層があり、対空、対地戦闘に使用される。機体には高度な電子化が施されており、高い戦闘能力を誇るも、それが災いしミノフスキー粒子の影響を大きく受けてしまった。コクピットは単座式で、2機のジェットエンジンを搭載した大気圏内用の双発機だが、一説には複座式の機体や宇宙空間用の機体も開発されたという噂がある。機首の左右に装備された3連装の多目的ランチャーは高い命中率を誇り、空対地、空対空の各種ミサイルが装着可能となっていた。また、機体側面の空気取り入れ口脇には、25mm機関砲も装備されており、胴体下や翼下のラッチには、スマート爆弾や対地ミサイルなどが搭載可能と積載能力も高く、各種ミサイルを換装することで幅広い任務の遂行が可能であるため、地球連邦軍の開発した最も成功したマルチロール・ファイターとして知られ、"一年戦争"中は連邦空軍の主力戦闘機として、多くの基地に配備されていた。

 U.C. 0079 11月末に行われたジオン公国軍による"ジャブロー"降下作戦時には、地球連邦軍本部ジャブローから多数の"フライ・マンタ"がスクランブルし、上空でジオン公国軍の戦闘機"ドップ"と空戦を繰り広げている。数多くの"ドップ"を撃墜しただけでなく、"ガウ"級攻撃空母から地上へと降下するMS-06 "ザクII"を機銃掃射で撃破した機体もいた。

 連邦空軍のエースパイロットとして知られる"レディキラー"ことテキサン・ディミトリー中尉や、"オデッサの荒鷲"ことエイミー・バウアー・マイスター大尉など、多くのパイロットが本機に搭乗し各地で戦果をあげたという。機体は警戒色である黄色に塗られている。なお、薄い灰色に塗装された機体も確認されている。2発のジェットエンジンを備え最高速度マッハ3.8で飛行可能。開発当初は大気圏内外両用機として開発された弊害から後方視界が少ない設計であり、格闘戦を好むパイロットからの不満が噴出、改良が施されグラスコクピット化した機体が配備され、更新が行われた。しかし、完全に更新される事は無く、MSの配備により航空機が軽視された結果、新旧入り乱れる事となってしまった。

 

 

AF-01 マングース 攻撃機

 バドライト社製の"一年戦争"初期から使用されていた地球連邦空軍の単座、双発、直線翼を持つ近接航空支援(CAS)専用機。

 戦車、装甲車その他の地上目標の攻撃と若干の航空阻止により地上軍を支援する任務を担う対地攻撃機。鈍重であるが、頑丈な機体に、11箇所のハードポイント、二発の大出力エンジン、機首には長砲身高初速の20mm機関砲を4門備えた空飛ぶ戦車の様な飛行機。高性能なエンジンから来る高い積載能力を存分に活かすべく、ハードポイントには自由落下爆弾、誘導爆弾、空対地ミサイル、クラスター爆弾、ロケット弾、空対空ミサイル、ECM・多機能ポッド、増槽を装着可能。

 ミノフスキー粒子を散布するジオン公国軍に対し、電子兵器による空爆等を封じられた地球連邦空軍は苦戦を強いられたが、レーダー兵器を用いず低空で地上に接近し、直接敵を撃破する"マングース"の戦術は、ジオン公国軍地上部隊を相手に大きな戦果をあげたという。

 その外観は攻撃機神話を生み出したアメリカ空軍傑作攻撃機、フェアチャイルド・リパブリック A-10"サンダーボルトII"に酷似している。航空機としては安価で、簡易整備で使えるという特性を備える。

 もとより被弾する事が前提の機体設計がなされており、特にコクピット周りは装甲が厳重に施されている。30mm口径の徹甲弾や榴弾の直撃に耐える装甲に、 二重化された油圧系と予備の機械系による操縦系統により油圧系や翼の一部を失っても帰投・着陸を可能としている。 油圧を喪失した場合、上下左右動は自動的に、ロール制御はパイロッ トによる手動切り替えスイッチの操作により、人力操舵へと切り替わる。この時は通常よりも大きな操舵力が必要となるものの、基地に帰還し着陸するのには充分な制御を維持できる。

 機体自体もエンジン一基、垂直尾翼1枚、昇降舵1枚、片方の外翼を失っても飛行可能な設計となっている。また、半格納式の車輪は大きく主翼から出っ張っており、主脚が作動しなくても車輪が既に出ているため胴体着陸時の衝撃を殺せる上、エンジンは地面と擦らないよう機体の上部に高めに配置されている。これらは全て胴体着陸時に衝撃を少しでも減らし、生存率を高めるためである。

 少尉の愛機。事ある毎に被弾し、墜とされる機体。

 

 

 

AF-05 マングースII 攻撃哨戒機

 ハービック社製の「コア・ファイター・バリエーション」の中の一機。"一年戦争"中期から使用されていた地球連邦空軍の対地攻撃哨戒機。

 上記マングースとは完全に別物で、こちらは75mm自動砲をピンポイントで射撃、ターゲティングする事を目的に、陸戦艇などを補佐するために開発された。

 そのため固定武装として75mm自動砲と機関砲を装備している他、ビーツG-8ロケット弾やB-108対地爆弾を搭載することもできる。主兵装の75mm自動砲は、機体が低空・低速時の安定性が高く、ミノフスキー粒子散布下における命中率も決して低いものでは無かったといわれている。

 

 

 

FF-02 フライ・アロー 制空戦闘機

 "フライ・アロー"は、レールス・フライテック社製の制空戦闘機。旧式の部類に入る戦闘機である。複座機であり、機体にはグレー系の塗装が施されていた。武装は機首部に左右各2門の25mm機銃と空対地ミサイル。

 3発の大推力エンジンの恩恵で増えた積載量をミサイルに回し、ミサイルキャリアーとして活躍が期待されるも、ミノフスキー粒子の影響でそれも厳しくなってしまった。

 U.C. 0079の"一年戦争"中は、主に地球連邦軍本部"ジャブロー"に配備されていたといわれており、"一年戦争"末期の"ジャブロー"攻防戦にも参加していた。

 

 

 

RP-02 ディッシュ 早期高速哨戒機

 "ディッシュ"は、地球連邦軍の高速哨戒機。ヴィックウェリントン社製。大型の円盤型レーダードームに機首と左右2対の水平翼が付いた、名称通り皿のような機体形状が特徴。見た目は"フライング・パンケーキ"のように薄っぺらく、テストフライト時にはUFOと間違えられたという。"一年戦争"前に早期警戒機として開発された機体だが、ミノフスキー粒子散布下では性能を発揮できず、"一年戦争"時には遠距離索敵性能とその航続距離の長さ、超音速での長時間巡航(スーパークルーズ)能力を生かした要人用高速連絡機として使用された。

 後に、それらの機能に加え乗り心地も軍用機としては群を抜いていたため、VIP待遇の送迎などにも用いられており、政界においてこの航空機に乗れる事は一種のステータスとなった。

 

 

 

C-87 ミデア 戦術輸送機

全長:45.0m

全幅:67.7m

重量:245.0t

武装 連装機関砲×2

 ヴィックウェリントン社製、5基のローターで上昇し、6基の強力なジェットエンジンを推進に使用する足の早く、長い輸送機の傑作機。このリフトローターとジェットエンジンにより、"ミデア"輸送機はペイロード160tという大量の物資を一度に輸送することが可能であり、一年戦争当時は地球連邦軍の物資輸送任務の大部分を担っていた。また、VTOL機であるため、滑走路が未整備な最前線への補給活動に最適な機体であったという事も大きかった。

 本機の具体的な特徴として、脱着式専用コンテナを懸垂運搬したことによる荷役時間の短縮、後退角の少ない長大翼採用による短距離着陸性能の獲得、降着装置に低圧タイヤとダクトファンによるエアクッションを組み合わせたことによる不整地への着陸が可能であるなど多くの利点が挙げられる。武装はモデルによって差異はあるが、機体各所に格納式の連装機関砲塔が数基あるのみで、その火力は自衛用の域を出るものではない。

 本機は莫大なペイロードによってMSの輸送も可能であり、"一年戦争"末期にはMS専用コンテナが開発され、空挺用MSの運用も可能になっている。なお、"一年戦争"後期にはエンジン出力を向上し、積載量を200t以上にしたタイプも配備されている。

 また、カーゴを外し燃料タンクにした上、多数の機銃、砲塔を追加しガンシップへ改造したものや、企業や生産時期によりさまざまな機体バリエーションを持つ結果になった。

 切り離したコンテナ部分も自走が可能で、多目的な輸送機として完成している。それは、U.C. 0099現在においても、地球連邦地上軍はこの航空機を利用していると確認が取れる程である。

 

 

 

HB-06 デプ・ロッグ 重爆撃機

 "デプ・ロッグ"は、全長33.5m、全幅31.5mという巨大さを誇る地球連邦空軍の重爆撃機。ヴィックウェリントン社製。3発のエンジンにより積載量120tというペイロードを持ち胴体内へ大量の爆弾を積み、敵地に絨毯爆撃を敢行する高々度水平爆撃機である。自衛用の火器は低出力レーザー砲塔5基に空対空ミサイルのみと貧弱であり、運動性も鈍いため、運用には戦闘機の護衛が不可欠であった。"一年戦争"初期から配備されており、ジオン公国軍のユーコン級攻撃型潜水艦を撃沈させたこともあったという。

 U.C. 0079 11.7に開始されたオデッサ作戦においては、鉱山基地や森林に潜むジオン公国軍のMSを空から爆撃し多大な戦果を上げた。

 また、機体底部にガトリング砲を搭載した地上掃射型や、レーザー誘導爆弾で要地をピンポイント爆撃する拠点攻撃型等のバリエーション機の存在も確認されている。高精度な電子機器、衛星通信などを利用した高高度爆撃による命中精度は誤差3m以内に収める事が出来るほどの高精度を誇ったものの、ミノフスキー粒子の影響でその能力を活かすことは出来ず、絨毯爆撃が主な運用方法になった。開発当初は無駄とも揶揄されたペイロードを生かし、手の届かない高高度から物量を持って制圧するその姿はジオン地上軍に恐れられた。

 

 

SPA-04 ドン・エスカルゴ 対潜攻撃機

 "ドン・エスカルゴ"は、地球連邦軍の対潜攻撃機。レールス・フライテック社製。長大な航続距離と高い対潜攻撃能力を持ち、対艦ミサイルや複合追尾式魚雷によってジオン公国軍の潜水艦隊を苦しめた。

 また、様々な高性能対潜センサーを多く搭載しているものの、それらはミノフスキー粒子により無効化された上においてもなお優れた索敵能力を持っており、ソノブイ(吊下式の対潜水艦用音響捜索機器を内蔵した無線浮標)などの探知装置も多数装備している。自衛用として、機体前後側面に1基づつ計4門の単装機関砲が設置されているが、対空戦能力は高くない。

 "一年戦争"中は、ジオン公国軍の"ユーコン"級攻撃型潜水艦はもちろん、水陸両用MSに対する哨戒・攻撃任務にあたっており、ジオン公国軍が最初に投入した水陸両用MSの量産機MSM-03"ゴッグ"が被った被害は少なくなかったという。

 本機は、主に"ベルファスト・ベース"のような軍港や、"ヒマラヤ"級対潜空母などの航空母艦に配備されていた他、VTOL機として駆逐艦などのヘリ甲板でも運用可能であった。

 

 

 

RF-03 フラット・マウス 電子偵察機

 "フラット・マウス"は、レールス・フライテック社製、地球連邦軍の大気圏内用戦術偵察機。旧世紀に確立された高速機技術を応用した強行偵察機で、ターボファンジェットの外周部にラムジェットの機能を付加したターボファン・ラム混合ジェットエンジンを使用している。だが、開発の過程でエンジンの過熱問題が発覚したため、冷却材タンクが搭載された。

 "一年戦争"勃発前の主な偵察機は、電子機器を用いた遠距離からの索敵や偵察行動を行っていたが、ジオン公国軍が確立したミノフスキー粒子の散布技術により、"一年戦争"時には電子機器を用いた偵察が困難となってしまう。この結果、地球連邦軍偵察部隊の要請により、古典的なアナログ光学機器を搭載した新仕様機として"フラット・マウス"が開発された。

 本機は、機体下部に磁気記録方式録画用カメラやレーザー式機密情報用発信機が装備される他、翼下には内蔵燃料で不十分な作戦を遂行する時のために増加燃料タンクを搭載することができる。ミノフスキー粒子の影響は長距離通信探知、誘導を無効化し、そのため長距離偵察及び電子妨害兵器の必要性を低下させたと思われたが、戦術上必要であったのだ。

 それに加えこの機体は改良が加えられ、ただの偵察機では無く攻撃部隊が到着する前の電子攻撃によるレーダー・通信に妨害をかける露払いにこの機体が使用された。

 

 

M-265 ファンファン 戦闘ホバークラフト

 2機のジェットファンを備え、入り組んだ複雑な地形において地上部隊支援のためにヴィックウェリントン社に開発されたホバークラフト。

 ミノフスキー粒子下でもなお高い命中率を誇る有線ミサイルを10発、機首に7.72mmミニガンを4門備える。

 収納式のランディングギアにより戦場を選ばず離着陸が可能であったため、地球全土で攻撃ヘリに代わる兵器として使用された。

 両脇左右下部にファンを装備し、同じく両脇の左右上部に5連装ミサイルポッドを装備、そして中央にコックピット及び後方に向けられた推進器がある。左右のファンによってジャブロー内部のような鍾乳洞内部でも自在にホバー走行を行い、有線式ミサイルによってミサイル発射後のコントロールを可能にし、命中率の高い攻撃を行う事ができる。並列複座機だが乗員が1人でも戦闘可能。

 ジャブローに配備されていた拠点防衛用の兵器の中では唯一飛行可能な兵器である。MSが登場する前に開発された兵器でもあり、対地掃討に活躍したものの、対MS戦では苦戦を強いられる事となる。

 

 

CV-98 キング・ホーク 高機動ティルトウィング

 レールス・フライテック社製の多目的ティルトウィング機。ティルトウィングとはティルトローターの親戚であり、ティルトローターとは垂直離着陸できる航空機で、VTOL機、つまりVertical TakeOff and Landing(ヴィートール)の事である。同じく垂直離着陸ができる回転翼機であるヘリコプターとは似て非なる種類である。

 有名なV-22"オスプレイ"ティルトローターの様な回転翼の角度を変更することによる垂直/水平飛行を可能としたティルトローター方式を採用した垂直離着陸機であり、固定翼機とヘリコプターの特性を併せ持った機体である。従来の垂直離着陸できるヘリコプターと比較すると、積載量、遠距離飛行、高速飛行共に優れており、それでいてホバリング時においての騒音レベルは同型のヘリコプター以下のレベルにおさえられるという特性を持つ。

 本機はそれに加え「可変展開翼」を持ちティルトウィングと呼ばれる機に近い。これはティルトローターの持つ「ティルトローター・システム」と呼ばれるローター・エンジンナセル複合ポッドのみが回転するのではなく、主翼ごと回転するタイプである。これはティルトローターに比べVTOLモード時にダウンウォッシュを受けないという利点がある反面STOLモードでは迎え角が大きいため抗力も大きくなり、また全般的に風の悪影響を受けやすいといった欠点もあった。その欠点を打ち消すため非使用時にはコンパクトに折り畳み収納可能な可変展開翼を備えるのが本機の特徴である。大きく特徴的な可変ピッチプロップ・ローターは3枚一組の二重半転プロペラを採用、高いエンジン出力を遺憾無く発揮しハイパフォーマンス化に一役買っているが、その内部の整備性は通常のものに比して大幅に低下し、しかも機構的な必然から重量が増大するというデメリットも存在する。左右のエンジンは片発停止となってもすぐには機体が墜落しないように、左右の駆動出力軸が固定翼内のクロスシャフトで連結されており、トラブルなどにより片肺飛行する事を想定きた緊急時最大出力モードがあり、短時間ながら飛行を続ける事が出来る。

 MS開発で培われたオートバランサー、操縦系統の自動化など様々な機能が惜しみなく投入され、かなりの高性能機でありながら簡単な操縦でハイパフォーマンスを発揮する。しかし高性能であるが故可変翼など複雑な駆動部分が多く、重量の増加や整備性の低下を招いている。

 "ブレイヴ・ストライクス"では主に兵員輸送に用いられるが、高出力エンジンによる高いペイロードと航続距離を活かし、輸送、偵察、戦闘と多目的にこなせる万能機である。そのためそれ相応の装備は用意してあり、早期警戒装備を装備しての偵察や、対地攻撃装備を装備してガンシップとしても使用可能。影から部隊を支え、"ブレイヴ・ストライクス"が高い戦果を上げている事に一役買っている。部隊内でのコールサインはアサシン。

 なお実はかなり高価な機体であり、これを採用しているのは"アサカ"戦隊、実験(モルモット)部隊でも"ブレイヴ・ストライクス"のみであり、その他部隊はタンデム・ローター式のCH-237"サンダウナー"が採用されている。

 

 

 

戦闘水上艦艇

 

 

 

ヒマラヤ級航空母艦

武装 600mm連装主砲

4連装大型対艦ミサイルランチャー

3連装短魚雷発射管×2

195mm速射砲×1

20mm対空砲×8

VLS×16

 "ヒマラヤ"級は、地球連邦軍の航空母艦。その設計から対潜空母とも呼ばれる。ヤシマ重工で開発、生産された。

 U.C. 0079 1月にジオン公国軍が行った「ブリティッシュ作戦」のコロニー落としにより、連邦軍太平洋艦隊及び太平洋沿岸基地などは大きな被害を受けたが、ヒマラヤ級は主に大陸を隔てた大西洋艦隊に所属しており、多くの艦が被害を免れた。

 "一年戦争"時には既に旧式艦であっが、搭載していた対潜攻撃機"ドン・エスカルゴ"の高い対潜攻撃力により、ジオン公国軍の水陸両用MSや潜水艦隊に対しては有効だったため、"一年戦争"中に急遽、数十隻が追加建造されている。

 艦橋前に600mm連装主砲が装備されており、強力な打撃力を持つ戦艦の様な空母。

 この他、艦首には4連装大型対艦ミサイルランチャーと3連装短魚雷発射管が2基、VLSセルが16基、艦橋後部には195mm単装速射砲、両舷には単装対空砲が8基装備されており、単艦での戦闘能力も高い。その様相は空母と言うよりも旗艦能力のある多目的航空戦艦と言ったところであるか。空母としては小型の分類にはいるため、その維持費、ランニングコストの安さから長く使われる事となる。

 

 

 

モンブラン級ミサイル巡洋艦

武装 VLS×130

4連装大型対艦ミサイルランチャー×2

 近年"ベルファスト"のヤシマ重工で新造されたばかりの新鋭艦。大規模なVLSと大型対艦ランチャーシステムによるミサイル攻撃を主眼に置かれた、巡洋艦でありながら攻撃力はそのまま、駆逐艦並の高速化、スケールダウンに成功した傑作艦である。

 完全にミサイル攻撃のみに重点を置き、その他能力を完全に排除したため、他の艦艇との連携が欠かせない。

 しかしそのミサイルは多目的に運用可能なため、結果的に高い性能を誇る。

 

 

 

アルバータ級ミサイル巡洋艦

武装 195mm連装砲

20mm連装高角砲×4

CIWS×4

多段散布式機雷"ヘッジホッグ"

VLS×90

ハープーンSSM 4連装発射筒×2

3連装短魚雷発射管×4

 マルチロールな攻撃能力に重きを置いたヴィックウェリントン社製の旧式のミサイル艦。近々"モンブラン"級に更新される予定であったが、この度の作戦に参加する事になった。完全なミサイル艦となった"モンブラン"級とは違い、195mm連装砲やCIWS、対潜水艦用の多段散布式機雷"ヘッジホッグ"、自走機雷ADSLMMアドスリム、対潜水艦ミサイル"マグロック"、ADCAP魚雷、トマホーク巡航ミサイル、ハープーン・ミサイル、20mm連装高角砲など、様々な装備が施されている。

 さらに各種大型レーダー類、大型のサーチライト、艦橋を備えた大型艦となっている。

 

 

 

キーロフ級護衛駆逐艦

武装 Mk.45 5インチ単装砲×1

25mm単装機関砲 ×2

20mmCIWS×2

VLS×80

ハープーンSSM 4連装発射筒×2

3連装短魚雷発射管×2

 旧米軍の"アーレイバーク"級ミサイル駆逐艦を参考に建造された高性能駆逐艦。ヴィックウェリントン社製。

 小型の多目的艦として開発、"アルバータ"級はこの艦を大型化させた物に近い。

 中には"アーレイバーク"級に簡易改造を施しただけの艦とあったと言われる。しかし技術的な向上は大きく、単艦でも新型の駆逐艦に対しても引けを取らない。退役が延びた旧式ではあるが、未だに使用されている事から推測される様にバランスのとれた性能を誇り、その真価はイージスシステムによる集団運用で発揮される。

 

 

 

潜水艦

 

 

 

ジュノー級通常動力攻撃型潜水艦(J型潜水艦)

武装 3連装魚雷発射管×2

VLS×8

 次期主力となる新型であったⅧ型潜水艦(U型潜水艦)"ロックウッド"級潜水艦(M型潜水艦)の大半が"キャリフォルニア・ベース"陥落と共に失われたため、退役真近の旧式潜水艦であるにも関わらず連邦海軍はその後も"ジュノー"級潜水艦を使用し続けることとなった。

 各地の連邦海軍基地が制圧されたことによって、多くの"ジュノー"級潜水艦もジオン公国軍の手に陥ちており、連邦海軍が所有する"ジュノー"級潜水艦は僅か数隻だったともいわれている。

 しかし高い攻撃能力に加え、大型の格納庫は戦闘機の運用も可能と、基本性能は決して低いものではなかった。

 "一年戦争"終結から16年後のU.C. 0096の時点でも、度重なる改修が施されて外観は多少変わっているものの、まだ現役で運用されていた。

 

 

 

アサカ級超弩級(Ex-)強襲揚陸攻撃型機動特装潜水艦 (AAASS-1)

全長:340m 全幅:62m 全高:48m

水上排水量:395000t

水中排水量:568000t

武装 880mm連装砲×1

600mm3連装主砲×2

540mm連装レールガン×4

2連装メガ粒子砲×3

8連装大型対艦ミサイルランチャー×12

4連装固定式魚雷発射管×2

8連装旋回式魚雷発射管×2

2連装195mm速射砲×16

2連装40mm高角砲×18

2連装25mm対空砲×28

3連装20mmCIWS×20

多目的垂直ミサイル発射管×82

弾道ミサイル発射管×18

 

 地球連邦軍次期主力潜水艦のコンペティションにⅧ型潜水艦(U型潜水艦)のライバル艦としてたった一隻のみが建造されたが採用されず、廃艦寸前だったところをヴィックウェリントン社、ハービック社、六菱重工、レールス・フライテック社などの大企業による技術協力・提供を受けたヤシマ重工が主導となってほぼ一から建造しなおし、原型をとどめない程大規模改修されたという複雑な経緯をもつ潜水艦。

 艦名のEx-AAASS-1とは、『Extraordinary Amphibious Assault Attack Submarine Ship』。超弩級強襲揚陸攻撃型潜水艦の頭文字を取ったもの。"アサカ"級超弩級強襲揚陸攻撃型機動特装潜水艦の1番艦(ネームシップ)という意味。

 強襲揚陸攻撃型潜水艦というカテゴリーを用意せざるを得なかった艦艇であり、また潜水艦としても極めて異色の存在でありかつ既存のどの艦艇にも属さない特務艦である。

 本艦はミノフスキー粒子散布下におけるMSの戦術運用を前提に開発されており、高性能の通信装置や光ニューロAIを利用した大規模艦制御管制装置、MS用カタパルトシステム、大口径火砲、ミノフスキー・エフェクトを利用したステルスシステムに推進器、潜航性能を追求するための半収納式可動艦橋及び戦闘指揮所(CIC)など野心的な設計が多く取り込まれているのが特徴である。

 巨大な船体全体にわたりハリネズミのように過剰ともいえる重武装が施してあり、その打撃力は既存の艦艇という概念を一蹴し、シミュレーションでは"アサカ"級単艦で"エンタープライズ"級を中心とした空母打撃群と同程度かそれ以上の攻撃力を持つと結果が出る程である。これらの武装は全て格納式であり、潜水艦としての航行を妨げない。この艦橋、武装の格納システムは船体を更に大型化し、デッドスペースを増やす結果となるも、それらのスペースは緊急時の隔壁閉鎖によりバラストタンク、スペースドアーマーとして機能する様設計されている。

 それ程の過密な武装はミノフスキー粒子散布下におけるミサイル攻撃能力の低下があり、それとともに艦砲射撃の重要度が増した事、またその性能の特殊性からスタンドアロンな作戦行動が前提としてある事に加え、MS及びMSの戦術運用データを必ず持ち帰るため、激戦区へと飛び込んだ上で必ず帰還する事が義務付けられている事から、コストを度外視し装備してあるためである。

 特にミノフスキー・エフェクトでミサイル攻撃能力が著しく限定された上、敵の高性能戦闘機、水陸両用MS、敵陸上戦力に対抗するために強力なアウトレンジからの打撃力を持って敵を撃滅するというコンセプトで武装されている事から旧世紀の大艦巨砲主義へと先祖返りしたような武装となっている。しかしながらミノフスキー粒子濃度によってはミサイルはまだまだ有効な兵器であり、またミノフスキー粒子散布下においての高精度なミサイル攻撃を実現させるため、試験的に新型のミサイルが装備されるも、副武装程度として留まっている。このミサイル搭載は、度重なる報告により二転三転と方向転換した計画の混迷さを物語っているが、結果としてこの位置に収まったという現場の混乱が見て取れる。

 その故MSの運用上、MSによる上陸支援を行えるよう、制空権を確保するための艦載機、自立誘導型大陸間弾道弾や最大射程70kmを凌駕する曲射が可能な大口径主砲に加え、宇宙艦艇などに用いられる大口径メガ粒子砲が装備された。

 ミサイルは命中率の激減する従来型でなく、MS開発などで培われたコンピュータ技術の発達による自立型ミサイルの完成により、ミノフスキー粒子散布下でも高い命中率を誇る試作型モデルを使用。このミサイルはミノフスキー粒子の干渉下においてもIFF、敵機形状、使用電波周波数、赤外線放出量を初めとする様々な情報を統合処理する事で敵味方を判別、データにない新型兵器へ対しても従来型と類似した点で自ら判別し攻撃対象を選別する事が出来る。その分単発当たりのコストは戦闘機一機分を凌駕する程に跳ね上がったが、その値段に合う程度の高い命中率を誇る。

それらは前線のMSまたは指揮車両と提携し、弾着確認及びレーザーペインティングを行う事で衛生リンクやGPS通信に頼らず、主砲は最大300km、ミサイルは最大750km先へ精密誘導爆撃が可能。

 また、大西洋上において敵航空戦力から多大な被害を被った事から、ジオン軍の高い機動性能を持つ航空戦力に対抗しうる弾幕を張るため、本来は最新式の高指向性レーザー方式による対空迎撃網を形成する予定であったが、水上艦艇であるため水蒸気やチリの影響を大きく受けてしまう光学兵器の搭載は大部分が見送られた。その代わりに砲塔の数を増やす事で命中率の底上げを図っている。

 本艦を強襲揚陸攻撃型潜水艦たらしめる最大の要素であるのは、上部船殻を中央から左右に分割するようにスライドさせ展開、全長120mにも及ぶ飛行甲板を露出させる事で航空機、MSを運用出来る点であると言えよう。

 そのため上部船殻は最新型の高出力流体パルスアクセラレーターにより1分足らずで完全開放する事が出来、迅速な戦力展開が可能である。カタパルトシステムも最新型のMS加速用電磁カタパルト、XC-MS1が2基、航空機発艦用カタパルトであるC-69A-2、C-69B-2が2基ずつ搭載されている。また、非常時には蒸気式としても稼働が可能な設計となっている。

 地球連邦軍初の宇宙空母(SCV)開発計画である「SCV-X計画」に非公式ながら属しているため、巨大な可動式の艦橋及びCICがメイン・サブ含め2つずつ用意され、戦闘時、潜行時には可動し最適な形となる。また動力炉は超大型のPS方式ミノフスキー・イヨネスコ型熱核融合反応炉3基により、総出力750000hpという大電力で動く完全電気駆動化された艦艇である。推進器は高速性と静粛性に優れた熱核水流ジェット、それに加え超電導ハイドロジェット推進と電磁流体誘導推進ユニットのハイブリッド方式であり、超巨大な船体を持つ潜水艦としては破格の高速性、静粛性を誇る。

 また、本艦独自の装備としてミノフスキー・クルーザーがある。

 これはミノフスキー粒子を船体周辺に常時高濃度散布することで、Iフィールドによる特殊電磁立体格子力場を形成し、イオン化した海水を機体の保護膜とし、またイオン化した水の流れを制御することで潜航時の抵抗を大幅に低減、超静粛にして驚異的な機動力を獲得する、と言うものである。言うなればスーパーキャビーティングの様に海中を「飛ぶ」方法に近い。船体を包む水流を電磁的に制御する事で潜水艦としては致命的となる水の抵抗、それから生じる騒音を極限まで減らし、船体周辺にミノフスキー粒子を高濃度散布するため驚異的なまでのステルス性を発揮、また短時間ではあるが陸上航行をも可能にした。これらの機能に加え上述の推進方式と合わせ最大戦速195ノットを叩き出すという驚異的な性能を発揮する。テストでは400ノットをオーバーし、理論上は無限大に加速して行く。この装置の副二次的効果として、船体表面を覆う海水の海水温、塩分濃度を制御し層水を形成することで、敵艦の発するソナーから逃れる事も可能。つまり、この装置は完全な無音航行とソナーによる探知を完全に無効化する、潜水艦としては最強のシステムである。

 また巨大で余裕のある船体は様々な構造的余裕が取られており、通路はスクランブル時の混雑を避け、長距離航海じのストレスを避けるため広く、被弾時のダメージコントロールを迅速に行うため大量の隔壁が設けてある。

 居住区画をはじめとした生活スペースも広めに取られ、娯楽施設にも力が入れられており、兵が常に万全の状態で作戦行動に望めるよう工夫されている。

 大規模艦制御管制装置機構として量子演算素子型光ニューロAIを搭載し、高い艦艇能力を最大限に扱えるようバックアップし、大部分のシステムのオートメーション化を実現、艦艇の規模からして大幅に少ない人数での運用が可能。

 艦全体の性能を最大限活かす事も出来ず、ダメージコントロール能力も著しく低下するが最悪1人でも運用が可能となっている。

 中尉達の母艦となる潜水艦であり、高い性能を持つもその性能と任務の特殊性から積極的な戦闘参加は行わない。

 艦名の"アサカ"は"旭翔"と書く。"天翔る旭"、まさに"日の出づる国"が作り出した傑作艦に相応しい名前と言えるだろう。




順次追加して行きます。


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登場兵器紹介 MS 地球連邦軍編

やっとこさ書けることになりました。


RX-77-1 "プロトタイプ・ガンキャノン"

製造 地球連邦軍

生産形態 試作機

全高:17.5m

重量:72.0t

出力:1,380kw

推力:51,800kg

最高速度:75km/h

センサー有効半径 :6,000m

装甲材質:ルナ・チタニウム合金

 

 RX-75 "ガンタンク"、RX-78 "ガンダム"と共に連邦軍のRX計画において開発された中距離支援型MS。戦車然としていたRX-75と同様、両肩に二門のキャノン砲を持ち、砲撃戦能力を付加されたMSだが完全な人型となり、白兵戦用MSである"ガンダム"やその量産機を、後方から砲撃によって火力支援を行い、あるいは防空戦を想定して開発された機体である。

 RX-75、RX-78同様、RX-77にもコア・ブロックシステムを採用し、腹部にはFF-X7 "コア・ファイター"が内蔵されている。緊急時には脱出カプセルとして機能するが、RX-77系MSの場合、コア・ブロック・システムの存在が機体内部の弾薬搭載を妨げる大きな壁になっていた。後述の方法で弾薬搭載スペースを確保したが、瞬発火力出なく継続火力が求められる砲撃支援機としては心許ない弾薬数であった事には変わりなく、これを解決するためにコア・ブロック・システムをオミットした量産型としてRX-77-3/4、及びD型が開発された。

 完全な汎用型となったRX-78シリーズやその量産型、RGM-79シリーズと違い、砲撃時の防御力強化のために厚い装甲を持ち、陸戦を重視した設計となっているが、これは当時の連邦軍が戦車などの旧来型兵器から発想が離れられなかったためであるという。

 "ジャブロー"の試験場で砲撃試験や"ビームライフル"の試射、砲撃用の各種センサー調整やバランス修正がこの機体で行われ、後に"ホワイトベース隊"や"サラブレッド隊"に配備されるRX-77-2開発の基礎となっている。

 RX-77系は、RX-75を経て発展した機体だが、最大の違いは二足歩行用及びAMBAC用の脚部ユニットを持つ点で、連邦軍初の二足歩行型MSであった。RX-77-1のロールアウト時期は汎用型となるRX-78-1 "プロトタイプ・ガンダム"とほぼ同時期だが、設計段階より二足歩行型MSとなっていた点ではRX-77が先んじていた。開発スタッフはMSとしては中途半端なRX-75シリーズの欠点を改め、次の機体では連邦軍初の汎用型MSの橋渡し的なMSとして、歩行用及びAMBAC用の脚部を採用することを決定した。この時点でようやく旧来の兵器思想から離れることができたわけだが、それでも初の二足歩行型MSとなるRX-77では陸上戦車から発展したRX-75の名残のように両肩に実体弾キャノン砲を二門装備していた。

 これは元々、RX-77では汎用型MSとなる予定であるRX-78系MSとの連携戦を想定し、砲撃による火力支援によって汎用型MSを援護する戦法を取るためのものである。MSの運用ノウハウを一から構築しなければならなかった地球連邦軍では白兵戦が可能な汎用型MSと、火力の高い砲撃型MSとの連携作戦でMSの運用において一歩先んじているジオン公国軍に差をつけようと試行錯誤していた点が見て取れる。この設計思想、運用思想は功を奏し、大戦後期には汎用型MSと砲撃型MSの混成による運用方法がヒット、ジオン軍にも多大な影響を与えた程である。また連邦軍ではMSと戦車、航空機などの在来兵器、MS支援メカなどによる複合的な戦術研究が盛んに行われ、これが後のオデッサ作戦や北アフリカ奪還作戦「オペレーション・サンダーボルト」においてジオン軍を敗走させた要因にもなっている。

 V作戦が発動した0079年8月には試作機である同機がロールアウトし、"ジャブロー"基地内にてテストが開始された。後のカイ・シデン曹長搭乗のRX-77-2と異なり、腰部中央に砲撃補助レーダー・サイトが装備されておらず、RX-78 "ガンダム"と同様の連邦宇宙軍の略章がつけられいるためセンサー範囲能力とジェネレーター出力ではRX-77-2以降に劣るが、弾薬搭載量、防御力は同一である。RX-77-2の腰部の円形の補助レーダーは、このプロトタイプから得られたデータを元に設置され、対空砲撃時において射撃能率を向上させることに成功している。

 "ジャブロー"の兵器試験場で砲撃試験や"ビームライフル"の試射、砲撃用の各種センサー調整やバランス修正がこの機体で行われ、後の増加試作機開発の基礎となった。

 頭部センサー・カメラ複合機材は射撃管制用に大型化されており、その表面積は広いバイザー型となっている。バイザー型メインカメラの利点は頭部ユニットの構造を簡略化させることが可能であり、後のRGM-79にも内部は"ガンダム"系に近い別物だが方式のみ採用され、後の連邦軍の"ガンダム"系量産機の特徴となった。頭部ユニットはほぼRX-77-2と同一だが、砲撃時にはバイザーがカバーに覆われる機能が付加されていた。この機能はRX-77-2では機構の簡易化のために一旦は省略されたが、後のRX-77Dにおいて再び採用されている。

 主力武装である両肩の240mmキャノンはRX-77-2と同一のものである。旧来の技術を援用した実弾式で弾薬スペースを機体内部に割り当てるのにかなり苦心している。対策として装薬を液体式にして、Aパーツに砲弾、Bパーツに液体装薬を分散配置して砲撃時に供給するシステムとした。そのため被弾時の暴発を防ぐため装甲が厚くなり、防御力ではRX-78よりも高くなった。しかし、結果として高い装弾数を獲得したが、複雑な装填方式は整備性の低下、補給作業の煩雑さ、戦線復帰能力の低下を招き、信頼性もビーム兵器と比べたら高いが、実態弾兵器としては及第点ギリギリと言ったところであり、コストも上昇したため、本機で打ち切らている。続く量産型はコア・ブロック・システムの廃止に伴い、スペースに余裕が出来た為、従来の薬莢方式に改められている。

 砲身は履帯を持ち、接地性が安定しているRX-75に比較し短くなり、射程も大幅に低下している。しかし、機体から大きく突き出さないサイズの砲身は取り回しがかなり良くなり中距離から近距離における対MS戦においても有効な兵器となった。肉厚な砲身は冷却ジャケットで砲身全体を包み込んで強制冷却を行うため、キャノン砲であり限定的な短時間ではあるがMS-06 "ザクII"の"ザク・マシンガン"並みの連続射撃を実現させた。

 これは後方の砲撃支援機が敵MSに迫られた場合のための処置で、砲身のダメージを考慮しない緊急使用の場合、格闘に代わる主力武装としても使用が可能だった。しかし、もう一つの主力装備である"ビームライフル"は、本体の出力が低く、試射においては満足な結果を得られていない。そのためこの点を踏まえてRX-77-2では反応炉の換装工事が行われ、高い火力を持つ"ビームライフル"の装備化が実現し、そのデータ収集の後、RX-77-1の全機がRX-77-2仕様に改装された。

 機体開発における監修には砲撃戦のエキスパートとして名を馳せているエイガー少尉が深く関わっており、中尉の実戦データも反映されている。その最たる例としては240mmキャノンの撃ち別機能である。発射方式を弾速と射程に優れるが高反動となる通常モードと、発射ガスを背面のダクトから噴出させる事で反動を相殺する低反動モードを実装しており、状況により柔軟に使い分ける事が出来た。低反動モードは機体への負担が大きく軽減されるも、足元や後方の部隊に爆風を叩きつけてしまい危険であり、また砂煙で自機の位置を暴露してしまったり味方の視界を遮ってしまったりと問題も多かったが、速射能力には優れており敵MSとの白兵戦にもつれこみがちな前線では好んで多用された。

 

 

RX-77-2 "ガンキャノン"

製造 地球連邦軍

生産形態 試作機

全高:17.5m

本体重量:70.0t

全備重量:144.8t

出力:1,380kw

推力:51,800kg

最高速度:75km/h

センサー有効半径:6,000m

装甲材質:ルナ・チタニウム合金

動力源 タキムNC-3M核融合炉

 

 "ガンキャノン"は、"V作戦"により開発されたRXシリーズMSの一つで、"ガンダム"や"ガンタンク"と同様にコア・ブロック・システムが採用されている。プロトタイプであるRX-77-1によるテスト後、設計を整理した増加試作型がRX-77-2である。腰部中央に射撃用レーダーサイトの追加装備が施された他、反応炉が強化型に換装され、射撃性能が強化された以外はRX-77-1とほぼ同仕様である。本機の特徴として、世界初の実戦的な"ビームライフル"を装備した革命的MSである事が挙げられる。また"ビームライフル"自体の出力も支援戦闘を意識してか、RX-78よりも高く設定され狙撃に優れたタイプである。先発のRX-77-1ではジェネレーターの出力が低く、試射がうまくいかなかったが、"ルナツー"で行われた反応炉の換装によって"ビームライフル"に充分な電力供給が可能となった。この報告は"ジャブロー"にも届けられ、逆輸入する形で装備される流れとなる。また、"ルナツー"に引き渡された機体は"ビームライフル"試射と並行し空間機動テストが実施された。この結果を踏まえて機動性を強化したRX-77-3、更にRX-77Dが生み出されている。

 ちなみに後のRGM-79SC "ジム・スナイパーカスタム"用の"狙撃型ロング・レンジビームライフル"は、このRX-77用"ビームライフル"を発展させたものとして知られている。

 RX-75、RX-78同様、RX-77にもプロトタイプに引き続きコア・ブロックシステムを採用し、腹部にはFF-X7 "コア・ファイター"が内蔵されている。しかし、搭載できる弾薬数が大きく制限されるなどのデメリットも多く、設計段階でバックパックに弾薬を移すという試みがなされ、さらにRX-77-4ではビーム砲式にして弾薬そのものを無くし、RX-77Dでは量産も考慮してコア・ブロックシステムそのものが廃止された。しかし、本機にはコア・ブロック・システムが残されていた。その理由として、緊急時には脱出カプセルとして機能する事は、MSの戦力化が完了していなかった連邦軍において貴重なMSパイロットと試作機の教育型コンピュータに蓄積されたデータ類を失う確率を大きく減らすと考えられていたためであり、脱出可能な手段を残しておきたかった為でもあった。そのため、RX-77系ではRX-77-4までコア・ブロック・システムが残されることになる。

 "ジャブロー"で6機が製作され、そのうち3機がテストのためにサイド7へ送られた。その後、サイド7がジオン公国軍特務部隊の強襲を受け、2機が破壊もしくは機密保持のために焼却され、残った1機が"ホワイトベース"で運用されることとなる。

 白兵戦用のRX-78、長距離支援用のRX-75と連携して、中距離からの援護砲撃や狙撃を行う運用を前提とした為、両肩に240mm低反動キャノン砲を装備し、"ビームライフル"を携行しているが、"ビームサーベル"等の格闘戦装備は持っていない。近接戦闘用の装備は頭部の60mm機関砲2門と、グレネードのみであった。このグレネード は脚部外側、細長い開閉式のウェポン・ハッチに装備されている。RX-77は厚い装甲を持つが、MSの構造上どうしても関節部や背面等装甲の薄い部分が出て来る問題があり、他のMSはその弱点を機動性で補っていたが、本機の機動性は低く、また射撃のため動きを止める時間が長くなってしまい、設計段階から歩兵による接近攻撃への対応が指摘されていた。そのためこの特殊な焼夷手榴弾、通称"ファイア・ナッツ"の装備がなされている。これは後のRX-77-3/4でも標準化され、RX-77系MS特有の装備として知られている。グレネードの弾殻自体は共通であるため、通常タイプのグレネード等との互換性もあり、他のMSが敵MSを撃破、あるいはセンサーを潰すため利用するパターンもあった。

 RX-77系は無防備となる砲撃支援時の防御力強化と、機体全体に配置された液体炸薬タンク防護のため、装甲材は"ガンダム"と同じルナ・チタニウム合金が採用されている。MSの機動戦による目まぐるしいい戦線の変化に追従する為の機動力の確保、更に低い運動性を補う為、デッドウェイトとなりかねないシールドを装備しない前提で運用されるため、装甲厚がMSとしては破格のレベルで施されている。特に弾薬や反応炉、コクピットが収まる胴体部分は240mm低反動キャノン砲の接射による爆風や"ジャイアント・バズ"の直撃に耐えられるほど装甲が厚い。

 兄弟機であるRX-78も"ルナ・チタニウム"合金を利用し高い防御力を持つが、RX-77はそれ以上の耐久力を持つ。白兵戦における運動能力を重視した結果複雑な形状を持つRX-78と比べ、見ようによっては不格好にも見える装甲は生産が簡単であり、全汎用型を目指したRX-78シリーズに比べて生産コストも比較的安く、コストパフォーマンスが高いため、準生産に移されることも決定していた。後のRX-77Dである。

 しかし、その分RX-77と比べて歩行速度、ジャンプ性能などの運動性・機動性は著しく低下している。しかし、MSの機動戦に追従する程度の機動力は確保され、常に有利な位置から援護をする事が可能な程度の絶妙な装甲と機動力の黄金比は後のMS開発に大きな影響を与えた。

 連邦軍のMS開発は元々、従来の陸戦兵器である戦車から発想が離れられず、その名残がRX-77まで残っていたのだが、旧世紀から陸上戦車の運用ノウハウを持っていた連邦軍だからこそ、汎用型MSと砲撃用MSによる連携作戦という新しい発想へ辿りついたとも言える。

 ジオン軍はMSを作業用ポッドや宇宙用重機のノウハウを元に作りだして独自に運用ノウハウを蓄積していったが、対する連邦軍は従来兵器の運用思想を転用することで、ジオン軍との戦術的な差を埋めたのだ。

 これはMSで一歩先んじていたジオン軍でも着目され、防空用MSとして配備していたMS-06K "ザクキャノン"を急遽、中距離支援戦闘に投入するなどの運用を行ったことからみても、ジオン軍も連邦軍のMS運用思想が正しかった事を認めていた。

 "ホワイトベース"に回収された"ガンキャノン"は、正規乗組員のほとんどが死傷していたため民間人のカイ・シデンが搭乗することとなり、数々の戦場を戦い抜く。

 その後、"ジャブロー"にてもう1機の"ガンキャノン"が配備され、カイ・シデンの機体には「C-108」、もう1機には「C-109」とマーキングが施された。「C-109」にはハヤト・コバヤシが搭乗し、2機共に"ホワイトベース"の主戦力として戦い抜くが、"ア・バオア・クー"戦にて大破、放棄されている。

 また、"サラミス"級の搭載機として「201」「202」「203」の3機が配備され、「203」はジオン公国軍のエリク・ブランケ少佐が搭乗する"ゲルググ"と互角以上に戦う姿が目撃された。

 更に、"サラブレット隊"にも3機が配備された他、地上ではゴビ砂漠や"ジャブロー"等に配備され、ジオン公国軍の"ウルフ・ガー隊"、"闇夜のフェンリル隊"などと交戦している。

 試作機ではあるが、高い砲撃戦能力とコストパフォーマンスが評価され、RX-77-2が増加試作名目で準生産に移された他、D型などの量産検討モデルも開発された。

 これらの増加試作機群は、大戦中期よりMSの運用を検討する試験部隊や、東南・中央アジアなどの部隊を中心に配備が開始された。RRf-06"ザニー"と共に、"ガンキャノン"は連邦軍初のMSとしてRGM-79の普及型に先駆けて実戦配備されたMSでもあった。

 大戦後期から量産検討モデルのD型、RGM-79系との中庸型であるRCG-80も量産に移され、連邦軍の中距離支援MSとして確固たる地位を築くに至ったMSである。

 戦争が終結すると、RX-77はすでに量産体制に移り、RGC-79の生産が開始され、戦後のジオン残党討伐戦において活躍した。RX-77-2の残存機のうち、0085年まで現役だったがその後、連邦軍内で強い発言力を持つようになった"ティターンズ"の台頭によって中距離支援MSの運命は大きく変わることになる。

 MSの性能が向上して推力の強化と、"ビームライフル"の標準装備化と相俟って、少数精鋭の対テロ部隊であり、大規模な戦線を構築しない為中距離支援MSは必要ではないとする"ティターンズ"MS部隊のドクトリンによって、連邦軍における中距離支援MSは序々に廃れていったのである。しかし、このコンセプトの研究は細々と続けられ、キャノンの系譜は確かに引き継がれていくのである。

 

 

武装

 

XBR-M79-a "ビームライフル"

出力:2.1MW

 世界初の実用化が成された"ビームライフル"であり、当初はボウワ社により量産型の"ビームライフル"として開発が進められていた。しかし、当初の課題であったエネルギーCAPの開発はスムーズに進んだものの、メガ粒子の励起時における省電力化が難航、開発が遅れ、結果高出力のジェネレーターを持つ機体でないと運用出来無いという問題があった。

 また、同時期に別系統として開発が進んだRX-78系列が装備するXBR-Mタイプとは別設計のXBR-Lタイプのデバイスを試験的に搭載していた。XBR-Lタイプは銃身と一体化したビームドライブユニットが特徴的であり、安定性は高かったがその分長大でありMタイプよりも取り回しに難があった。

 当時のビーム兵器は信頼性と安定性が低く、被弾のリスクを抑える為にも小型化は急務であった。また、中距離支援機とは言っても突発的な白兵戦は避けられ無いと判断され、その際の取り回しの悪さは致命的とされ、本兵器はこの時点で採用は見送られる予定であった。

 しかし、XBR-Mの開発の遅延に加え、大型化かつ高出力化に主眼を置かれた設計はビームの収束率を上げ、結果として高い命中精度と破壊力に加え大気状況の影響を受け辛く長射程であると言う特性を獲得し、急遽長距離狙撃用と銘打たれ開発は続行した。そのため最終的には仕様を変更、"ガンキャノン"専用"ビームライフル"として生産が開始された。

 試作兵器故の扱い辛さはあったが、大型のセンサーを2つ搭載し、長い銃身を持った本兵器は正に狙撃仕様の名の通りであり、RX-77の持つ高い射撃能力と相まって高い戦果を上げた。

 

 

 

 

RX-79[G] "試作先行量産陸戦特化型ガンダム"

製造 地球連邦軍

生産形態 試作先行量産機

全高:18.2m

本体重量:52.8t

全備重量:73.0t

出力:1,350kw

推力:52,000kg

最高速度:115km/h

センサー有効半径:5,900m

装甲材質:ルナ・チタニウム合金

 

 "一年戦争"時、地球連邦軍は"V作戦"において"プロトタイプガンダム"がロールアウトが可能と判断された段階で、すぐさまRX-79計画に着手した。

 試作機であるRX-78系は生産性を度外視した非常に高性能な機体であったため、各パーツの品質管理は厳しいものとなり、要求スペックに満たない規格落ち部品が大量に発生する事となった。この余剰パーツを流用して先行量産型(FSD)として製造されたのが"量産型ガンダム"ともよばれる本機である。

 しかし、"オリジナル"であるRX-78タイプと全体的には似ているものの、実際にRX-78タイプの規格落ち部品が流用されていたのは熱核融合炉(リアクター)等の内蔵動力及び個々の回路やアクチュエーター等の機体を構成する最小単位のパーツであって、装甲材や機体フレームといった機体の外観・デザインを決定する要素は陸戦型シリーズ専用ラインで製造されていた。これは当初から陸戦専用、及び少数ながらも量産を前提としたためであり、量産をまるで考慮していなかったRX-78タイプを無理に増産するよりは、多少の手間をかけてでも新規設計した方が少しでもコストと期間の短縮になると判断された結果である。そのため、RX-78タイプに採用されていた加工が難しい新素材ルナ・チタニウム製の優雅な曲面を多用していた装甲板は、殆どが生産性を重視した直線主体のものに改められた。このため防弾性能も"オリジナル"であるRX-78タイプと比べやや劣る事になった。

 連邦軍にとって慣れないMSを地上で運用する必要から、整備性や運用面なども強く意識した設計となっている。 MSは地上に立てば高さ18mの巨大建造物でもあり、無重力の宇宙と違って日々の整備からパイロットの搭乗まで非常に負担の大きいものであった。又、数で劣る事が既に予想されており、数の優位を崩すゲリラ戦術を行う為、冗長性や少人数で整備運用が可能である事が求められた。これらが考慮され、後述する地上運用に必要な各種装備や整備のための無数のアクセスハッチ、内部空間などを設計に盛り込んだ結果、体形もRX-78タイプやRGM-79タイプのスマートなラインとは似ていない、がっしりとした印象を持つ物となった。

 本機の廉価版であるRGM-79[G] "陸戦型GM"も、デザインが簡略されていながらも本機とほぼ同じ意匠のパーツが複数見受けられ、マッシブな体型も共通している。 このことから、純粋なRX-78 "ガンダム"の量産型と呼べるものはあくまでRGM-79 "GM"であり、RX-79[G] "陸戦型ガンダム"は一部パーツ流用によるRX-78の亜種、さらにそこから派生した量産機がRGM-79[G] "陸戦型GM"であると言える。

 本機はコスト削減のためコア・ブロック・システムはオミットされ、宇宙戦闘用の装備も取り除き、完全な地上戦に特化した設計にする事が決定、陸戦用として再設計された。そのため姿勢制御バーニア等の宇宙戦闘用の装備やコア・ブロック・システムは撤去されている。また、同様の理由からシュノーケルダクトやサーチライト、昇降用リフト等の地上での運用に必要な装備が追加されている他、レーダー、光学機器も地上用のチェーンがなされた物になっている。長期作戦行動用のウェポンコンテナや空挺降下用のパラシュートパックが用意されている。

 "オリジナル"のものとほぼ同等の高出力ジェネレーターを持ち、装甲もルナ・チタニウム合金で作られるなど、極めて高い性能を有するが、規格落ちした余剰パーツにより生産された点を考慮し、機体性能にばらつきを出さぬよう、リミッターを設置することにより各機の均一化が図られている。そのため一部のパイロットはそのリミッターを意図的に外し、短時間だけ運動性能を高める事も行っていたとされる。

 ただし、本機はその性質上、補修用の部品が慢性的に不足しがちな機体である。このため修復の際には共食い整備や"陸戦型GM"や撃破した"ザク"の部品等も利用しての現地改修がされることもあり、五体満足な状態で"一年戦争"終結を迎えた機体は一機もないと言われる。

 戦時急造された本機だが、外観は新たにデザインされており、RX-78の意匠を残しているのは一部カラーリングと頭部のみで、その頭部すらも完全に新規設計されていた。主な変更点として頭部60mm機関砲の内蔵を廃止し、胸部へと新たに12.7mm旋回式機銃を装備し、また胸部はコア・ブロック・システムの廃止からやや余裕があったため"マルチランチャー"ユニットを新たに増設した事である。対MS戦闘において威嚇射撃、牽制射撃及びミサイル迎撃のために装備された頭部機関砲であるが、自由度こそ高くはあったが装弾数や対人、対施設攻撃にはオーバーキル気味であった事から、テストパイロットからの評価は今一であった。そのため、重力下における戦闘に特化された本機では機銃はMS戦闘には使われず対地掃討戦にのみ絞り、対施設、対MS戦闘では"マルチランチャー"ユニットを用いる様にと分担させる事に決定、結果この様な変更がなされた。

それに加え、地上ではバックパックにむき出しで接続された"ビームサーベル"は損耗率が高くなると予想されたため、"ビームサーベル"の防塵対策も兼ねた保護及び接続位置を下げ整備性を上げるためにふくらはぎ側部に移され内蔵式に変更され、使用時にはハッチの解放により内部からジャッキアップされた"ビームサーベル"を掴む方式となった。これにより比較的簡単な整備で済むことになったが、その構造上"ビームサーベル"を取り出すには膝を曲げる必要があるため、即戦対応能力は低下した。

 また、"ザクII"のショルダースパイクを参考に緊急近接格闘装備として膝部にスパイクを装備した事が挙げられる。しかしこれが実戦で役に立ったという報告は聞かず、主に膝立て時の姿勢保持に役立つのみであったという。そのため"陸戦型GM"にも装備されたが、後期生産型には装備されない例もあったようだ。

 また、連邦陸軍省は密林や山岳地帯など、これまでの戦闘車両や航空機の運用が難しい地形においてMSの優位性を示すことができると考えており、急遽量産された20機の陸戦型ガンダムは、主に地球上での激戦区のひとつであるイーサン・ライヤー配下の東南アジア方面軍機械化混成大隊に配備されることとなった。

 本機はその運用目的から陸戦、特に密林、山岳地帯や砂漠での使用に特化した数々の装備が存在する。RX-78では頭部両側面に頭部機関砲が装備されていたが本機では廃され、代わりに頭部左側に潜望鏡を内蔵したシュノーケルダクト、右側には通信用アンテナを装備する。また、オプションとして機関砲増設ユニット、強化通信アンテナが用意されていた。

 しかし、機関砲は胸部に移され、装弾数が増加したものの、自由度の低い胴体への移設は地上を走り回る軽車両などへの追従性を低下させ、またコクピット周辺に機関砲ユニット及び"マルチランチャー"ユニットが移ったために誘爆の危険性やそれがパイロットへのプレッシャーとなる事に加え、左右非対称の機体が整備性を低下させるなどの問題も出た。

 コア・ブロック・システムの廃止のためコクピットは腹部から胸部に移され、河川での運用や緊急脱出装置(インジェクション・シート)も考慮されてコクピットハッチは上面に配された。この方式は現地では高い評価を得たが、コクピット周辺の装甲を増加させ耐弾性を向上させる事などが困難であり、後に量産されスタンダードとなったRGM-79タイプでは採用されず、RX-78タイプと同方式の腹部内蔵型に差し戻され、コクピットブロックその物を強固なサバイバルセルとして機体に組み込む方式が主流となり、それは後コア・ブロック方式の技術を援用した脱出コクピットへと繋がる事となる。

 本機は運用が重力下に限定されているため、パイロットの搭乗用に昇降ワイヤーリフトを設置し、純粋に重機としての運用も考慮されバックパックにサーチライトが設置されている。原型機から空間機動用の装備は取り外されているものの、これらの陸上および実戦部隊向けの装備や改修を施した結果、純粋な試験機であるRX-78タイプに比べ、10t近く重量は増加している。

 砂漠地帯での戦闘も十分考えられたため、胸部エアインテーク用防塵フィルター等のオプションパーツが用意され、関節部やマニピュレーターに防護カバーを装着させ防塵化された仕様もあった。各種オプション装着のため、機体各部に取り付けアタッチメント及び、取り付け作業用の足場なども装備されている。

 他にも、MSによる実戦でのデータ収集を目的とした特殊部隊などに配備され、"陸戦型ガンダム"は各戦場の最前線で活躍している。

 掌部には手持ち武器と確実な連動のためコネクターが装備され、通常通信、レーザー通信、コネクターを介しての通信という数多くの保険がかけられており、その結果FCSとの連動性能は極めて高く、引き金は最終手段となり、人差し指にあたる部分が戦闘などで破壊されても、武器を握ることさえ出来れば射撃が可能である。この様な多くの機能や保険が大量に導入されており、無駄こそ多かったが、その結果、その取捨選択が今後のMS開発の礎となった。

 

 

 

RX-79[G] "試作先行量産陸戦特化型ガンダム"中尉機

製造 地球連邦軍

生産形態 試作先行量産機 初期生産型 現地改良型

全高:18.6m

本体重量:52.8t

全備重量:74.7t

出力:1,420kw

推力:52,000kg

最高速度:120km/h

センサー有効半径:5,900m

装甲材質:ルナ・チタニウム合金

 

 "陸戦型ガンダム"最初期ロット(アーリー・バリアント)である0号機を、中尉の意見を参考に改良を加えた機体。機体番号が存在しない為、便宜上"00号機"(ツイン・ナッツ)と呼ばれていたが、後に愛称が"ジーク"に統一された。

 主な変更点として、頭部に"オリジナル"への先祖返りのようにM-60 13.2mm機銃ユニットが追加された事と、通信性能を強化するために収納式の小型ロッドアンテナを廃止、半収納式大型のロッドアンテナへと変更した。胸部は12.7mm旋回式機銃ユニット、"マルチランチャー"ユニットのオミットを行い、装甲の追加、ダクト位置の変更がなされた。

 自由度の高くない胸部機銃は敵軽車両への追従性が低く、また左右非対称の設計は整備が煩雑になると判断したためこれらの改修が加えられ、汎用性が増している。しかし機銃は頭部に移した弊害から装弾数は低下し、最初期こそ機銃の振動やマズルフラッシュがセンサーに悪影響を及ぼすデメリットもあったが、後に改良され異常は無くなった。頭部機関銃ユニットは中尉の要望と弾丸の共通のため従来型の12.7mmから口径のアップが施され、"ロクイチ"に搭載されている高い信頼性を持つM-60重機関銃をそのまま簡易改造し搭載している。

 またオミットしその空いた胸部スペースを利用、右側に集中していたダクトを左右に分割し横向きに再設置する事で、前面には装甲を追加しサバイバビリティ能力が向上。また、来るべき計画されている"ビームライフル"の配備に備えサブ・ジェネレーターの追加に冷却機の強化も行っている。

 それ以外にも、脚部ニークラッシャーを大型化、スパイクを取り外し内部に"スローイングナイフ"を装備する。その状況で展開、膝蹴りを繰り出し"ニーカッター"として使用可能。

 メインコンピューターには、AI技術などを応用した特殊な教育学習型コンピュータを試験的に複数搭載しており、ソフト面の性能は未知数となっている。

 それらの改修に加えデフォルトでリミッターが解除されている機体であるため、ジェネレーター出力は"オリジナル"以上であり、機動性能も"オリジナル"に近い数値となった。

 初期はOSが発達しておらず、操縦を殆ど手動で行う必要があったため、武装変換時に取り落としてしまう問題が多発したため、掌部は表面を合成樹脂で覆い圧力と摩擦力を強化し、武装側には電磁石を装着、また予備機構としてヤモリを参考に電気的に中性な分子間に働く相互作用であるファンデルワールス力を利用した吸着機構が搭載され、グリップ力の強化が行われた。

 カラーも変更され、敵味方の識別及び試作機の色合いを濃く残していたカラーは少数の特殊部隊小隊である事を前提に変更、ブルーだった胸部は黒に近いミッドナイトブルーに変更、マルチブレードアンテナのカラーもイエローオレンジからグレーへ、爪先から足の裏、踵にかけても胸部と同じ色に変更された。安易に大きく色相を変えなかった理由としては、MSの塗料は電磁波遮断や排熱、耐熱等様々な効果を持つ特殊塗料であり、カラーバリエーションに乏しい新型である事がある。またミノフスキー・エフェクトにより目視による判断も大切な上、可視光もその色味が変わって見える場合がある為下手なカラーリングの変更は誤射の可能性を孕んでおり、ベース色からかけ離れた塗装は避けられている。しかし、今後MSの大量投入が考えられるている事から、テストベッドとしての迷彩も順次試して行く予定である。

 

 

 

RGM-79[G] "試作先行量産陸戦特化型GM"

製造 地球連邦軍

生産形態 試作先行量産機

全高:18.0m

本体重量:53.8t

全備重量:66.0t

出力:1,150kw

推力:49,000kg

最高速度:110km/h

センサー有効半径:6,000m

装甲材質:ルナ・チタニウム合金

 

 "陸戦型GM"は、地球連邦軍におけるMSの量産化計画では最初期に開発された、RX-78-2"ガンダム"の実働データが入手できる以前に地球連邦軍が開発した先行試作量産型MSで、そのため実質地球連邦軍MS開発計画であるV作戦とは別に進められて開発されたと言っても過言ではない機体である。後にRX-78-2"ガンダム"の稼働データが入手できてから開発・量産されたRGM-79 "GM"とは、事実上違う機体である。

 そのため、V作戦によって開発されたRX-78の実働データの恩恵を受けておらず、ある程度限られた環境でしか稼動できないこととなった。しかしながら、重力下におけるスペックはRX-78にも匹敵すると言われるほど高性能なものに仕上がっている。

 RX-79(G) "陸戦用先行試作量産型ガンダム"の生産ラインを利用されたため、後の制式量産機RGM-79 "GM"との互換性は低い。しかし内装部品などは地上用にチューンされているため、その分RGM-79 "GM"よりも機動性・運動性が高く、装甲にもルナ・チタニウムが使われている。武装も多くが用意され充実しており、MSと言う革新的な兵器でありながら、旧来の技術が多く使われ、稼働率も高く信頼性の高い機体である。

 反面、連邦が実際にMSを量産する前に試験的に量産されたMSだけありコストは高い。そのため、二次生産の増産を皮切りに製造ラインは停止され、以後の主力にはRGM-79が採用されている。

 因みに機体名である"GM"とは、"Gundam type Mass-production model"("ガンダム"簡易量産型モデル)"General Mobile-suit"(一般的なモビルスーツ)、あるいは、RX-78型の直系としての"Gundam Model"(ガンダム型)など様々な意味合いが持たされ、後に連邦軍MSの基礎となる事が運命付けられた妥当な名前だと言えよう。

 本機の量産ラインはRX-79[G] "陸戦型ガンダム"のものを流用しており、各所に類似点が見られる。装甲材も"陸戦型ガンダム"と同じ高価なルナ・チタニウム合金が採用されていた。また、RX-79[G]型落ち部品や弾かれた装甲などを使用している個体もある。

 "陸戦型ガンダム"との主な相違点は、"陸戦型ガンダム"の胸部の左右非対称の設計がもたらした整備性の低下の反省を踏まえコスト削減を兼ね胸部機関砲と"マルチランチャー"のオミットをした事。さらにウェポンコンテナ用バックパックのオミットである。しかし互換性はあり、簡単な改造で装備可能である。

 また頭部も大幅な変更が加えられ、"ガンダム"タイプの代名詞と呼べるようなマルチ・ブレード・アンテナを廃止、デュアル・アイ・カメラ・センサー複合機器も、簡略化とコスト削減が行われ外見は"ガンキャノン"などと同タイプのゴーグル方式へ切り替えられた。オプションの機関砲ユニットや強化通信アンテナユニットも廃止された。

 更にジェネレーターも低出力のものに変更されているが、"ビームライフル"の使用は可能である。しかし出力を下げた射撃でも"ガンダム"タイプと比べてエネルギーの再チャージには時間がかかり、その間排熱が必要なため機体の運動性能も低下してしまうという弱点もあった。しかしながら、後期生産型はその廃熱問題も解決され、ジェネレーターを交換、出力を底上げした機体も存在した。そのため、"ロングレンジ・ビームライフル"を装備し、限定的ながらも高火力な援護射撃も可能だった。

 "陸戦型GM"はジオン公国軍の勢力圏拡大が懸念される戦線、戦略上重要な東南アジアにいち早く配備され、設立当初から第11独立機械化混成部隊に配備されていたMSである。また、同様の理由で東南アジア方面の部隊にも配備されていたことが確認されている。

 また、MSによる実戦でのデータ収集を目的とした特殊部隊などにも優先的に配備されている。

 戦争終盤には地上での大規模な決戦の舞台となった"オデッサ"作戦にも投入された。"オデッサ"作戦に参加した独立混成第44旅団に所属する機体は、連邦軍MSの標準的な菱型シールドを装備していた。

 特殊部隊第三小隊のマット・ヒーリィ中尉は本機に搭乗し、ジオン公国軍の"グフ"や"ドム"等を撃破する活躍をみせていたが、東南アジアや"オデッサ"作戦に配備された機体は、上層部の意向から後方に配置された事に加え、運用面でのノウハウが確立してない事もあり、特に目立った戦果を残していない。

 本機は地球連邦軍初の本格的に量産されたMSであり、予備パーツもそこそこ豊富にあった。

 そのため、パーツのストックが少ない"陸戦型ガンダム"に、同じ生産ラインから誕生した本機の部品を流用することも可能である。実際に東南アジア方面軍機械化混成大隊では、戦闘で頭部を破壊されたカレン・ジョシュワ曹長の搭乗する"陸戦型ガンダム"に、"陸戦型GM"の頭部をそのまま流用した、通称"GMヘッド"があり、またMS特殊部隊第三小隊のマット・ヒーリィ中尉の搭乗するRX-79[G]の左腕にもそのまま使われていた。しかしこれもRGM-79の本格生産の開始と共にパーツ生産数は激減し、最終的には共食い整備が当たり前となってしまった。

 しかしそのため掌部も共通であり、"陸戦型ガンダム"と同じ武器を運用出来た。ハードポイントも共通である。

 ちなみに、この機体をベースに地上戦用装備を全廃し宇宙戦の装備を施した機体も存在し、RGM-79(E)と表記される。"ルナII"において試験的に少数が配備されていたようで、若干の戦闘記録も残されているが、元々完全な陸戦用として開発されたMSであり、また、RX-79[G]と比べ機体出力の差やキャパシティなども余裕も無く、いくら装備を換装しようともその設計自体に限界が生じており、パイロットの腕や経験も足りず戦果の方は芳しいものではなかったらしい。

 

軍曹機

 プロトタイプ。そのため初期不良かジェネレーター出力が安定せず、戦闘機動中に不安定になる問題を抱えている。頭部、胸部上面に通信機能強化のためのロッドアンテナが追加された他、対地歩兵掃討用の"Sマイン"が追加された。

 またバックパックが"陸戦型ガンダム"と同タイプのものと交換され機動力が増加、空挺ユニットやコンテナユニットが装備可能となっている。因みに機体のカラーは3機統一してある。

 

伍長機

 外観上の変更点は小隊として運用を統一する為のバックパックの換装のみである。一番オーソドックスな機体に近いが、軍曹機と合わせ納期が繰り上げられ納品された機体であるため、頭部、胸部を除き"陸戦型ガンダム"と同じパーツを使用しているため運動性能などが高まっている。

 しかしその分バランスが崩れており、伍長機はリミッターが強めに設定されクセを減らしてある。FCSの調子が悪く、照準がややランダムにブレてしまう不良がある。この問題はソフト及びハードの不良であり修正こそ可能であるがイタチごっこに近い。また、損傷したパーツは順次純正の"陸戦型ジム"の物と交換されており、パーツの共有や擦り合わせの実験機としての実態を持つ。

 

 

 

武装

 

YHI YF-MG100 量産試作型"100mm マシンガン"

口径:100mm

装弾数:28+1発

 ヤシマ重工(YHI)製の1G下の運用を前提に開発されたMS携行用100mm実体弾射出試作火器。本機の基本携行火器として位置付けられており、腰部側面に予備マガジンを装備する。

 ボディにはボックス型マガジンにフォールディングストックを装備しコンパクトに纏められており、メインアームでありながらその実態はMSサイズのSMGと言ったような物で、想定敵である"ザクII"が装備する"ザクマシンガン"より小型で取り回しが良く、連射性に優れた使い勝手の良い火器として普及した。最大の特徴はYHIの当時提唱していた可搬型兵器構想に基づき、マシンガン本体を分解してコンテナへ内蔵する事を可能にした点である。MSを歩兵として捉え、手先の器用さを生かした柔軟な運用と言う設計思想から取り入れられた本機能は確かに革新的であったが、戦場においては無駄な機構として後の兵器には採用されなかった。

 砲身はライフリングを持たない滑空砲方式で発射され、弾丸はやや独特の軌道を描くが、それはFCSの調整で高い命中率を維持する事が出来た。砲身は3000発毎の砲身交換が義務付けられていたが、最前線ではその規定が守られない場合があり、命中率の低下や作動不良を招いていたとされる。

 使用可能弾頭は成形炸薬(HEAT)弾、装弾筒付き翼安定徹甲弾(APFSDS)弾、粘着榴弾(HESH)弾、通常榴弾(MP)徹甲焼夷弾(API)徹甲炸裂焼夷弾(HEIAP)等、作戦に合わせ適宜使用された。弾倉は本体下部に装備されるコンパクトなサイズであり、装弾数もそう多くない。理由として、薬莢式である事、内部に強制給弾を行うローダーが装備されており確実な給弾を主眼に置かれた設計であるのが1つ、もう1つは想定敵である"ザクII"の正面装甲であるなら、直径3m以内の円に3発直撃させる事が出来れば装甲を貫通し内部構造を破壊、機能停止に追い込めると判断されたからである。本機の高い性能を持つFCSと合わせその効果を見込まれたが、あらゆる電子機器の性能を落とすミノフスキー粒子の散布された実戦においてはパイロットの練度不足と合わせ命中率は大きく低下し、その理想論は儚く崩れ去る事になる。

 先行量産された"陸戦型GM"の生産完了に伴い一時は生産が停止されたものの、砂塵舞う砂漠地帯や高温多湿の密林地帯など、環境を問わず運用できる抜群の信頼性能の高さと100mm口径というストッピングパワーは現場からの絶大な支持を受けており、またノーフォーク産業によるライセンス生産もあり、その後も地上専用装備として供給され続けた。また、強化型としてマズルと機関部を改造したものや、前線からの要望が最も多かった大型の48発入りマガジンも開発、パッケージング化され順次戦線に投入された。

 "一年戦争"時代こそ対MS戦において十分な威力を発揮したが、同じく初期の連邦製MS用火器である宇宙大気圏内両用の90mmブルバップ "ジム・マシンガン"("ジム・ライフル"と機関部を共用する。"100mm マシンガン"と比べ連射性能と装甲貫通力を求めた兵器)とは異なり、戦後は一部地域を除き殆ど使用こそされるも生産はされていない。

 

 

YHI FH-X 180 可搬型試製"180mm長距離砲"

NFHI GMCa-type.09/180mm 可搬型試製"180mm長距離砲"

口径:180mm

装弾数:6+1発

 YHI社製の1G環境下用に開発した長距離砲。通称"180mmキャノン"。設計にはツィマッド社のZIM/M・T-K175C "マゼラ・トップ砲"を参考にしたと言われている。そのため大型で、また反動を抑え込むためかなりの重量があり、取り回しも悪い。そのまま持ち運ぶ事は機体のフレーム、駆動系に多くの負担がかかるため、後述の機能を活かし分解して運ぶ事が推奨されている。

 給弾は機関部上部に挿入されるカートリッジ式6連ボックスマガジンにより行う。使用弾薬は成形炸薬(HEAT)弾、徹甲(AP)弾、焼夷榴弾、通常榴弾(MP)徹甲焼夷弾(API)徹甲炸裂焼夷弾(HEIAP)等。

 最大の特徴は構成ユニットをコンパクトに分解し、MSが装備する専用コンテナへの搭載が可能だった事だろう。

 この構造はYHIが提唱するMS用可搬型兵器構想に基づくもので、この砲の組み立ては全てのMSの手によって行えるように設計してあった上、同じくMS用可搬型兵器構想で設計された武装と一部パーツが共用であり、整備性も高かった。しかし、戦況が長引くにつれ、前線ではMSの機動力を利用した奇襲対策に即応性が求められ、分解せずに本武器を肩にかけて運搬するシーンも多く見られた。銃身やフレーム、装甲に負担をかける為推奨されていない運用であったがパイロットには関係無かったのだ。その結果MS用可搬型兵器構想は絵に描いた餅となり、後の兵器には受け継がれなかった一因であるとされている。

 地上専用であるため複数のフックが設けてあり運搬し易い設計となっているが、同時に対要塞戦用の多目的榴弾砲(デモリッション・ガン)に近い武器であったため用途が限定されており、戦争後期には要塞戦自体が少なくなった事も手伝い配備されたのはアジア地区に留まり、その他は後方の重要度の低い基地防衛用に回された。しかし後に戦線に不足しがちであった中距離及び長距離砲撃支援に用いられ、再び戦場に返り咲く事となる。MSを機動兵器として捕らえた場合少々『役不足』な運用方法ではあったが、現場の要望とそれに対応するMSの汎用性を表していた一例と呼べるだろう。

 高初速で撃ち出される弾頭の威力は絶大であるが、反動は大きいため両手でしっかり保持し、出来れば膝をつき、シールドを銃架とする事が推奨されていた。しかし、MSのパワーでは命中率こそ著しく低下するものの、立ったまま片手で撃つ事も可能ではあった。

 型式番号が2つあるのはノーフォーク産業でライセンス生産が行われた為である。この頃のヤシマ重工は"ビンソン計画"による、宇宙戦艦の増産に力を入れており、重要度が低下しつつあった本兵器へ割ける生産ラインが無かったのだ。その為余剰を生産し、艦砲として装備する計画もあったが却下され、更には対MS戦闘には不向きと判断され、小口径化、高初速化を図るプランも浮上したがそれも戦争終結と共に凍結された。

 

"ランチャー" 試製対MS用使い捨て榴弾発射筒

口径:240mm

装弾数:1発撃ち切り方式

 "ブレイヴ・ストライクス"兵站、補給、整備隊が共同で旧世紀の米軍をはじめとしてあらゆる軍隊、ゲリラが使っていたとされるM72 LAW、通称"ロウ・バズーカ"を参考にし開発したMS携行用の小型ランチャー。

 "ザクバズーカ"からMSの"バズーカ"の有用性は認められており最優先にて開発された物の一つ。見た目はほぼただの筒だが、その筒を引き延ばし、サイトを展開する事で射撃可能になる。筒を引き伸ばし発射態勢を取る事でセーフティが解除される仕組みとなっており、比較的小型な発射筒であるため取り出して展開してからの比較的素早いエイミング、射撃が可能。展開方法はMSに登録してあるため展開に手間取る事や前後を逆に構える事はない。しかし説明書は用意してあるため読む事が推奨されている。

 自己推進弾頭を撃ち出す無反動砲であり、そのため後方およそ30°の角度で約800°にも達する発射ガスを数百mに渡って噴射するため後方の安全が必須。しかし燃焼ガスの組成を変更する事でバックブラストはまだ抑えられているほうではあるがやはり目立つため、射撃後の射点移動が推奨されている。

 単純な仕組みで製作も比較的簡単、コストも安いが、MS相手には口径と炸薬量の不足から威力不足は否めず、また本体を非電装方式の使い捨て方式にしたため光学サイトを装備しておらず、本体とのFCSリンクも不可、射撃時にはトリガーを直接引く必要があり、その上照準はMS本体のFCSに依存しているため命中率に難があった。

 収納形態時は防水性があるが、1度展開すると失われてしまうため雨天時は展開後30秒以内に射撃しなければならない。

 しかしその真価は小型である事からくる収納性の高さにあり、腰部背面に2本、"マルチプルシールド"の裏に2本、ウェポンコンテナ内に最大8本収納可能。この本体のサイズ、重量から携行性に優れ、複数本を携行し作戦行動を行っても支障が出ないため、MSの火力の増大に繋がった。

使用弾頭は徹甲弾(AP)成形炸薬弾(HEAT)粘着榴弾(HERH)通常榴弾(MP)等多数が用意されたが、主にHEAT、MPが使用された。弾頭は射出後自己推進する二次加速式であり、多少なりとも銃身がある為"シュツルム・ファウスト"等よりは射程及び命中精度に優る。しかし、それも誤差程度であり、対MS戦闘には不向きであり、速度の遅い車輌や移動しないトーチカ等への攻撃が推奨されている。

 試作兵器であり正式採用品ではない現地開発モデルである為、その製作はオーダーメイドとなった。4連装に束ねる、下腕部に懸架する、バックパックに並べて括りつける等運用例も多くが考案、試行された。しかし、その数は常に不足し、またその製造全てを現地で行える利点は品質にばらつきを生じさせ、整備班の負担も増大した。結局は正式採用品が来るまでの繋ぎであり、段階的にその姿は見られなくなった。

 

 

BLASH HB-L-03/N-STD 試作先行量産型"ハイパーバズーカ"

BLASH HB-L-03/N-STD-10 "ハイパーバズーカ"改

口径:380mm/270mm/75mm

装弾数:5発

 MS専用の対艦攻撃及び多目的火力支援兵器としてブラッシュ社に開発された肩掛け式の噴進弾射出筒、無反動ロケット兵器プラットフォームである。最大口径380mmという一撃の火力と爆風による高威力な弾頭を撃ち出せるため、主として戦闘速度の遅い宇宙戦艦や人工衛星、陸上戦艦、トーチカをはじめとする建造物等の破壊に使用された。また、この口径は二重構造のインナーバレル径であり、純粋な内径は600mmであり、600mm弾頭の運用も考慮されていた。

 開発に当たっては長距離火力支援兵器を連邦軍に納品していた数社が協力、用途に合わせた多目的運用を可能とした無反動ミサイル弾頭発射式として開発を開始した。しかし、ミノフスキー粒子散布下では電磁波の探知及び照準の固定が難しく、結果追尾性能が発揮される場合はかなり少ない為、弾頭によっては赤外線シーカーも装備されたがミノフスキー粒子濃度によってはそれも機能せず、高価な弾等は次第に敬遠され、無反動ロケットとして開発、配備、運用された弾頭が大半であり、実質は前述の通り無反動ロケットである。

 比較的単純で簡略化の図られた構造を持っているが、長砲身と後部の質量弾の重量を中心付近のグリップで保持する構造だったため、重力下での運用やMSの機動運用時に砲身への歪み等の影響が出ないよう運用時の厳密なマニュアルが用意された上、FCS側から機体の運動制限がかけられる仕様となった。

 大口径ロケット弾であるため当然初速は速くなく、効果的に敵を捕捉、射撃し命中弾を得るには照準精度の問題よりも熟練や戦術的要素の方が遙かに大きく、適切な発射距離を保ち、小隊単位での高度な連携を取る事が命中率を大きく左右する事から、基本的には1つの部隊に1機が装備するのが原則だった。

 "ハイパーバズーカ"は連邦軍製MSの標準装備で380mmという大口径と、MSの実体弾兵器としては最高クラスを誇る。単純な仕組みのため故障は少なく修理も比較的簡単であり、稼働率も90%を越える信頼性の高さと、大口径弾の持つ強大なストッピングパワーは現地では絶賛されており、様々な局面で重宝された。威力も当時の"ビームライフル"に匹敵し、加害半径はそれを遥かに上回った。実弾兵器であるためジェネーター出力上ビーム兵器が使用できない、または連射が出来ない機体でも使用出来る点も大きかった。また当時の携行ビーム兵器は繊細でかつ高度なメンテナンス環境が必要であり、さらには消耗パーツの頻繁な交換、頻発するマシントラブルとさらにこの兵器への依存を高め、これらの問題がほぼ克服され、携行ビーム兵器の全盛の時代となってもぜんせんからの熱烈な要望により根強く使われ続けた。

 反面、1マガジンにつき5発しか撃てずマガジン自体は固定式のためリロードは母艦に戻らなければ不可能であり、大型でかつ大質量を持つ兵器のため取り回しが悪いというデメリットがある。そのデメリットを活かし敵機に対し投げつけるパイロットもいたが"ハイパーバズーカ"自体がそこそこ高価であるため推奨はされていない。更に戦闘中におけるデッドウェイトを嫌い投棄した際も可能な限り回収する事が義務付けられていた。また実体弾兵器なので、ビームと違い水中や空気中でも威力があまり減衰しないという利点があるが、ビームと比べ低速であり、無誘導なために命中精度も低いという欠点がある。

 RX計画の一環として開発が開始された本機はテストとして"ビームライフル"と同様の大型サイトスコープが装着されており、ややコストが上がったものの射撃命中率はやや安定した。しかし、量産化に従いその機能はオミットされ、コストダウンが図られている。

 砲弾は大気圏内用と無重力下の2種類が用意され、無重力下仕様には発射後に二次加速を行うブースト機能が持たされている。弾頭の種類は徹甲弾(AP)成形炸薬弾(HEAT)粘着榴弾(HERH)VT(近接信管)を装着した通常榴弾(MP)が用意され、各種砲弾をケース状の固体パッケージに包む事で砲弾直径に関係なく最大380mmまでの多様な砲弾を使用出来る。これは過去の資産を活かせる上、RX計画の一環として対MS戦闘用に必要な弾頭を模索していた当時の状況に最適であり、実際に運用されながら様々な弾頭が試作され戦線で活用された。

 初期型のモデルではマガジンを交換する事が出来なかったが、後に交換が可能となった改良型モデルであるN-STD-10型が開発され、"コンペイトウ"戦線から実戦に投入された。

 

 

YHI ERRL-TYPE.Doc-04/380mm "ロケットランチャー"

NFHI RPHB-type.Doc-04/380mm "ロケットランチャー"

口径:380mm

装弾数:7発+1発

 YHIが独自開発したMSサイズの担ぎ型携行式大型ロケット砲。基本的には1G環境下に特化した作りとなっており、ボックス方式の射撃センサーを標準装備した汎用性と信頼性の高い堅実な設計である。

 YHIが提唱するMS用可搬型兵器構想に基づき設計されており、背部コンテナユニットに分解し収納、MSの手により現地で組み立てる事も可能であった。またいち早くバナナ型マガジンによるカートリッジ給弾方式を採用、砲弾も成形炸薬弾頭(HEAT)粘着榴弾(HESH)通常榴弾(HE)が用意された。弾頭は"ハイパーバズーカ"のものと違い展開式安定翼を備えるなど、旧世紀の技術を参考にした設計が多かった。

 重力下での運用を前提に開発されているため、重量を減らし軽量化する事でフレーム、駆動系への負担を減らし、取り回しを考えられ砲身は短めの物となり、またマズルブレーキも大型化している。肩に当たる部分もスライドし、射撃時の安定性を高かめられるよう設計された。

 ノーフォーク産業によりライセンス生産されたため、型式番号が2つある。

 

 

YHI 6ML-79MM "ミサイルランチャー"

口径:使用弾頭により異なる

装弾数:使用弾頭により異なる

 YHIが独自開発したミサイルを格納したコンテナユニットを複数繋げ運用するマルチランチャーシステムである。核となるボックス方式のレーザー式センサー付きグリップユニットの周りに、ミサイルを格納したコンテナを取り付ける事で銃身をなす特殊な設計である。1つのコンテナの中には使用目的によって異なる弾頭を持つ2〜4発のミサイルを格納している。

 YHIが提唱するMS用可搬型兵器構想に基づき設計されており、背部コンテナユニットに分解し収納、MSの手により現地で組み立てる事も可能であった。しかし、"ミサイルランチャー"のみ互換性のあるパーツが少なく、整備性は高くはなかった。

 "ハイパーバズーカ"と同様のコンセプトで開発が進み、更に多目的弾を撃てるよう特化し、コンテナ式という独自の設計に加え発射機として全長を大幅に短縮する事に成功した。

 主に中距離における面制圧攻撃に利用され、短時間で多数のミサイル弾頭を連続して撃ち出す事が可能であり、またミサイルコンテナを素早く交換出来るため瞬発火力は他の追従を許さないレベルでかなり高かった。

 しかし使用用途のごく限られる特殊弾頭を含めあまりにも多種類の弾頭を用意したため使い分け管理し切れず、弾頭使用頻度により弾頭調達数含む補給も偏り、現場での評価はイマイチだった。また射撃と同時に質量が大きく減少するためバランスも悪く、ウェイトの偏り、減少から後半に行くに連れ命中率もどんどん下がって行くと言う欠点もあった。更には核となるグリップユニット及び専用コンテナの整備性や耐用命数、信頼性をはじめとし様々な問題を抱えており、"ミサイルランチャー"と銘打ってはいるがミノフスキー粒子散布下での誘導能力はミサイルと呼べる代物ではないレベルに低く、その命中率は限りなく無誘導に近いと散々な結果であった。ミノフスキー粒子散布下でも正常稼働するレーザー誘導でも、その際は弾頭そのものの速度が限りなく低下するため命中率は最悪であり、誤作動も多かった。その為面制圧兵器として一応の評価を得ていたものの、徐庶に戦線からその姿を消していった。

 その一部はミサイルコンテナその物を機体に直接搭載し、発射後必要に応じてパージ出来るよう改良する追加配布キットにより改良され、そのほぼ全てが使用されたという。

 

 

 

X.B.Sa-G-03 "ビームサーベル"

出力:0.38MW

 "陸戦型ガンダム"、"陸戦型GM"のふくらはぎ傍に内蔵されているボウワ社製の高エネルギー近接格闘兵装。

 収納時に本体からエネルギーを供給され、内部に充電されたエネルギーでエネルギーCAPに蓄積させたミノフスキー粒子を励起しビームを発生、対象を電気的、熱的に切断する。原理的にはミノフスキー物理学の応用であり、縮退しメガ粒子となったミノフスキー粒子のプラズマをIフィールドにより封入、一定の長さを持つ刀身として投影、形成する。刀身温度は軽く数千度に達し、厚さ3mのルナ・チタニウムインゴットを0.5秒足らずで溶断する凄まじい威力を持つ。

 問題としては使用エネルギーは"ビームライフル"と比べて少ないもののかなりの高出力である事、粒子収束フィルターの規定回数毎の交換を行わなければならない事。それに加え、銃と違い扱いには個人差が大きく出てしまう格闘兵装であるため、練達には個人差があり時間も必要であった。水中やビーム撹乱膜内では刀身の形成が難しく、威力も大幅に減衰する問題もあり、ジオンが殆ど運用していなかった点も含めてこの装備に疑問を抱える兵士も少なく無かったと言う。勿論、MSは本来水中戦を考えられていない為当たり前であるのだが、止む無く水中での格闘戦にも連れ込むケースは時折勃発したのもまた事実であった。

 因みにミノフスキー粒子収束率を決めるリミッターを意図的に解除する事で刃を拡散させる、刀身を太く、長くする、目くらまし程度の威力であるが"ビームガン"の様に使用する事も可能であった。連続稼働時間は短くなるも、威力を増減させる事が出来たため現場レベルでリミッターを解除する変則的な運用も試みられていた。

 中尉機の物はリミッター及びエミッターに変更が加えられ、出力が上がり、ビームによる刀身は長めの刀状になっており、中尉の体得している武術が上手く活かされるような形となっている。

 

 

THI BSJG01/CJ "ビームジャベリン"

出力:0.38MW

 "ビームサーベル"の機能の一つ。"ビームサーベル"に施された制限を解除、エミッターの変更によりロッドを展開、その先端に高圧縮したビームによる小型の刃を持つジャベリン型に変形する。

 "ビームサーベル"に比べ展開範囲が狭い為低燃費かつビーム圧縮率が高く貫通力及び破壊力があり、MSがエネルギー供給を行わくとも数分程度なら稼働する為、所謂『投槍』としても運用が可能であるのが特徴である。勿論手に持って格闘に用いる事も可能であるが、先端部分にしかビームがないためリーチこそあるものの取り回しに不便であり、威力を発揮するのも先端部分のみなのでクセがあり、使いこなすには慣れが必要なため、パイロットを選ぶ武器となった。運用こそされたが多くのパイロットがロッド部分で殴りつけてしまう問題が発生し、現場からの評価はいまいちだったする資料が多い。

 しかし白兵戦においてはリーチの長さはそのままアドバンテージになり得るため、上記の"ビームサーベル"のリミッター解除のように現場レベルで運用されており、中には相手の意表を突き、間合いを掴ませないため"ビームサーベル"形態と"ビームジャベリン"形態を戦闘中でありながら変則的に切り替えつつ戦う者もいた。

 中尉機の物にはロッド部分の表面には試験的に特殊なコーティングが施されており、ある程度ではあるが耐ビーム、耐熱性が持たされている。

 また、中尉の趣味から先端部分のビーム形状が十文字槍風になっている。薙刀風にしないのはビームであるため形状に限界が無く重量、重心の変化も無い事と、刺突時にその損傷部位を拡大させダメージを底上げするためである。

 "オリジナル"の装備であるため、"陸戦型ガンダム"が本来が装備するものより大型でありコネクターも違うが、そこは現地による簡易改造を行う事により装備可能となった。

 

 

XCH-M-78-00G "ガンダム・ハンマー"

 宇宙空間における対艦、対MS兵器として開発されたMSサイズのフレイル型中距離格闘兵装。

 兵器そのものの質量を利用し目標を運動エネルギーで破砕する質量兵器であり、宇宙空間における戦闘ではエネルギーの消耗が少ないわりに威力は大きく有効な兵器となると考えられ開発された。

 またミノフスキー・エフェクトのために有視界戦闘による白兵戦がメインとなる事を聞いた開発者が、試しに開発プランを出してみたら通ってしまったという経緯から、まるで中世の世に来てしまったような兵装を生み出す結果となった。開発期間をそれほど悠長に取れなかった"オリジナル"の武装は、ビーム兵器を完成させられなかった場合を考え、実に様々な物がプランニングされていたのである。

 地球連邦軍がMSにどのような兵装を持たせるか試行錯誤し混乱しながら迷走していた具合が良く伺えると言っても過言では無いだろう。

 単純な構造故威力そのものは高く、鎖で繋がった本体はかなりの質量を持ち、MSのパワーによって振り回されたそれがヒットした際の威力と衝撃は筆舌に尽くし難い物となる。しかし、格闘兵器としては驚異的なリーチを誇る反面、射撃武器としては致命的な射程距離の短さが目立ち、攻撃のための準備として本体を振り回し加速させる必要がある為攻撃までにラグがある事、敵MS到達までにもまた大きなラグがある事、また鎖を巻き取り回収し再攻撃するまでが長く、地上での運用はフレーム及び駆動系に多大な負担をかける事から使用される機会は多く無かった。配備も極少数に限られ、"オリジナル"や極東機械化方面軍などの機体が使用していた事が確認されているがそれだけである。

 戦争の混乱が生み出した本兵器は謎が多く、質量兵器は運動エネルギーが生み出すショックによる操縦者や電装系へのダメージが期待が出来る為、極一部の破壊で戦闘不能にし、鹵獲する為の兵器だったのではと語るMS学者もいるとかいないとか。真相は不明である。

 

 

 

 

M79 "ハンドグレネード" 投擲式手榴弾

 MS携行用の投擲式兵器。真ん中1つに上下2つ、3つの弾殻を組み合わせた円筒状で、セーフティはMS本体とのFCSにより解除される仕組みとなっている。

 投擲後に爆発して、爆風と熱、破片によって、広範囲にダメージを与える、発射機を排した低コストな人型兵器として柔軟な行動が取れる事を利用した兵器である。

 運用方法としては主に対戦車、対歩兵兵器であり、MSにはやや不得手である犠牲を省みない物量による小型兵器攻撃に対応し、コストを掛けず広範囲対地攻撃を行う為の兵装であり、全てのグレネードが規格を統一し運用方法も統合された上で装備されている。

 また対MS戦闘に際してでも十分な破壊力を発揮し、歩兵であった時と大体同じ運用が出来るためあらゆる戦場においてその姿は見受けられ、あらゆるパイロットに使用された。対MS、施設のために爆発の衝撃波により目標を撃砕する攻勢手榴弾も開発、配備され、工兵の爆薬としてや要塞内部への突入戦などにも積極的に利用された。

 スモーク、スタン、チャフ、ガス、"ファイア・ナッツ"と呼ばれたナパーム等適宜様々な効果を持つグレネードも開発されており、中には気化爆弾を内蔵したものもあったと言う。

 

 

 

"スローイングナイフ"対MS用投擲式装甲貫入榴弾

 中尉達のアイディアを取り入れ開発された、MSサイズの投げナイフ型手榴弾。

 MSは人間をそのまま同じサイズに拡大した以上のパワーを持つが、人間と同じかそれ以上の動きが出来るという事に目をつけ、人型兵器である事を最大限に活かそうとした結果生まれた兵器である。つまり、MSそのものを発射機とする事で、射程距離はともかく、ほぼ"ロケットランチャー"と同等の破壊効果ながら、ランチャーチューブと弾頭そのものに推進機構が必要ないためコストの削減を狙ったのと同時に、その大きさから行動の妨げになるランチャーチューブを持たずに済む、という利点がある。

 また、近距離での取り回しも良く、遅延信管を利用して格闘用ナイフとしても運用可能。安価で取り回しの良い使い捨て榴弾として、コンセプト的にはジオン軍の"シュツルム・ファウスト"に近いものがあるが、本兵装はそれより小型かつ装甲貫徹力という点では高威力である。

 投げナイフをMSサイズに拡大した"スローイングナイフ"には構造的余裕があり、内部にタンデム方式の成形炸薬を内蔵している。MSによって投じられた本体はその運動エネルギーで目標に対し深く貫入し、成形炸薬による内部爆破を行い目標を撃砕する。

 しかし欠点も多い。投げるという動作を行う分隙も大きく、上手く戦術に組み込むには慣れが必要である。またその設計上運用パターンをインストールしようと命中率も個人の技量が大きく関わる事となり、結果命中率はそう高くなく、目標に対し飛翔する速度も自己推進するロケットと比べても更に遅く、実態弾として最低クラスであり、確実に命中させる為には"シュツルム・ファウスト"以上に大胆な接近が必要であった。

 

 

 

 

 

YHI RGM-S-Sh-WF "マルチプルシールド"

RGM・S-ShWF/S-00109 "マルチプルシールド"

RGM・S-ShWF/S-00116・Ap-A "マルチプルシールド"

 重力下で運用する事を前提に開発されたYHIが設計開発を行った小型軽量多目的シールド。ルナ・チタニウム合金製でコクピットなどの機体主要部の防御を最優先とするため、後の主力機であるRGM-79が装備するFADEGEL RGM-M-Sh-003対MS戦用シールド(通称 菱形シールド)とは異なる形状を持つ。

 取り回しとフレーム、駆動系への負担軽減のため小型であり、市街地戦、基地内戦闘でも用いられる場合があった。

 また陸軍主導の開発であり、対MS戦闘時には防御のみならず、近接格闘戦闘においてアタッチメント部を瞬間的に突き出すように駆動させパイルバンカーの様な打突兵器として運用出来るよう設計されているのも特徴。

 このシールド先端のスパイクをスコップ替わりとして塹壕を掘る、地面に突き刺しシールド裏にへばりつく様にして装備された二脚を展開、防盾兼銃架として設置した上で空いた両腕で大口径の質量兵器を保持し射撃姿勢を安定させるといった使い方も出来た。シールドとしてはある程度の重量も必要である為遠近両用の多目的万能防御兵装として開発されたが、高価なルナ・チタニウムの採用と多くのモーターや電装系を含む稼働部を持つ複雑な機構が損耗率が高い消耗品である盾であるにも関わらず信じられない程の高コスト化に繋がってしまった。

 連邦軍製のMSにおける腕部オプションマウントラッチの規格策定以前にRGM-79[G] "陸戦型GM"用として開発されたため、A型以降のRGM-79が装備する際にはアタッチメントを噛ませる必要があったが、最前線のパイロットは小振りで取り回しの良好であるという理由から好んでこのシールドを用いたと言われる。

 その為戦闘中投棄されるケースも多く、損耗率が高く、鹵獲や技術解析の危険も生じ、また大量の供給が必要された為多数の社でライセンス生産された。また形状は同じであるが装甲材質を安価なものに置き換えたモデル、格闘武器としての機能をオミットしたモデル、二脚の機能をオミットしたモデル、またその両方の機能を丸ごとオミットし純粋な盾として設計された簡易モデルもすぐさま開発生産され、特に簡易モデルはオリジナルと比較しかなり軽量であり前線からの評価も高く、すぐ様大量生産され損耗率の高い前線に優先的に配備された。

 

 

 

耐弾用外套型追加式複合装甲ユニット "シェルキャック"

 "ブレイヴ・ストライクス"隊附属兵站ユニット第01整備中隊が、シノハラ中尉のアイディアをベースに総力を結集し試作した、追加式の特殊装甲ユニット群。通称の"シェルキャック"とは『"Shell"proof "C"omposite "A"rmor "C"ombatcloak system』の略で、命名は上等兵である。

 本来は装甲が欠損し内部フレームが露出してしまった箇所へ、応急的な処置として布を被せるだけの案ではあったが、機体バランサーの調整などの手間を考え、カウンターウェイトを装着するのであれば、その布そのものに重さと装甲としての機能をもたせてはどうか、という実験的側面から試作、実装され戦線に投入された。

 ベースとなった布は関節部への異物の混入を避けるための防塵布であり、装甲の内側にも緩衝材として貼られているものであるが、それにもちろん防弾・防刃性能は持たされておらず、重量も極力軽量化がなされ、機能としては機器の動作を妨げない事に主眼が置かれた性能であった。そこで、偽装網、超繊維布、チェーン、履帯、合成樹脂、赤外線遮断シート、ケブラー繊維、超アラミド繊維、カーボンファイバーなどをはじめとするあらゆるを素材を数重にも折り重ね、特殊な空間構造を持たせつつ編み込む事により、高い防刃・防弾性能のみならず、耐熱性や対衝撃性をも持たせる事に成功し、試験では1枚でも同箇所への13.1mm弾を3発までストップする事に成功している。更に布そのものが空間装甲(スペースドアーマー)の役割を果たし、耐HEAT弾性能をも持ち、一発のみではあるが"ザクマシンガン"から撃ち出される120mmHEAT弾をもストップする。

 更には、重量調節のための防弾プレートとしてチタンセラミック装甲が入れられており、通常弾に対してもある程度の防弾効果が期待出来る。

 これらの布地を肩部周りは3重、肘関節部周りまでは2重、機体の半面を覆う様に1枚が装備され、動きを阻害しない様工夫がなされている。

 さらには中尉の提案で、表面に試製ビームコーティングを特殊な迷彩柄で塗布され、低出力ビームまたはレーザーであれば数秒耐える事が出来る。迷彩は高度な演算の上施された特殊なデジタルパターンで、MSの機動運用時のある程度の質量を持ったマントの揺れを利用し、敵センサー・カメラを欺瞞し、錯視させる。これは、MSは戦闘になれば機動戦闘が主体となり、更に巨大な機体そのものを隠す遮蔽物自体が少ないため、この様な配色パターンとなった。しかし、通常の迷彩としても効果を十二分に発揮するため、特に距離感の掴みづらい宇宙空間における戦闘において活躍が期待されている。

 急造品としてはそこそこ高い性能を持つが、欠点としては複雑な工程を全て手作業で行う必要があり、そのため質に差が出る事や、使い捨てであるにも関わらず高価であり、またその性質上同箇所への集中的な攻撃にかなり弱い点が挙げられる。追加装甲としては軽量で動きを阻害しないが、その分性能自体は高くは無く、また装甲として使い熟すにもクセがあり、あくまで保険程度の働きしかないため、結局制式採用には至らなかった。

 

 

 

 

 

 

 




順次追加していきます。


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登場兵器紹介 通常兵器 ジオン編

これ、ガンダムSSだよな……………?

MS全然解説してねぇ……。


個人携行用火器

 

 

M-32 NABAN Type 62 ナバン62式拳銃

口径:9mm

装弾数:8+1発

 ズックス社製のハンドガン。本来は大砲のネジ式閉鎖機を締めつけるための機構などとしても使われていたトグル式の給弾方式を採用しており、支点で二つに曲がって伸縮する独特なトグルアクション機構の動きから、尺取虫という通称があった。トリガーガード後部左側面にあるボタンを押しながら弾倉をグリップに装填し、トグルを後ろに引き上げて離すことで第一弾が装填される。薬室に実弾が装弾されているときはエキストラクターが上に持ち上がって装填状態であることを表示する。この状態でセーフティ・レバーを下に押し下げるとシアーバーがロックされて安全装置がかかる。最終弾を撃つとトグルが持ち上がった状態で保持されるので、弾倉交換後トグルを少し後ろに押し下げて離すと保持が解除され、再度初弾が装填される。不発が発生した場合、再度ストライカーをコッキングする手段は無いので、トグルを引いて不発弾を排莢することになる。そのため弾詰まり(ジャム)を起こしても上のレバーを引きすぐに次弾を装填できる。

 主に無重力下や低重力下での利用を考えられた銃であるため、地上で使われたのは大戦初期のみであるらしい。ジオン軍人は連邦と比べかなり個人的な兵装の自由が認められていたためあまり使われなかったのが実情である。

 また、その作動方式から重力下では射手の顔に向け排出された空薬莢が飛ぶため、一部部隊では使用が禁止される程だったが、その特徴的な形状から尉官クラスの将校によく好まれ使用された。

 本体はドイツのハンドガン、ワルサーP38、ルガーP08を参考にされている。またその独特のデザインは連邦軍兵士から"グレイゴースト"と呼ばれ、鹵獲し戦利品にするのがある種のステータスとなっていた。尚、銃身が固定される温故知新スタイルの設計の為命中精度は高いが、精密な作りである事から部品点数が多く整備性の問題と、地球の砂塵等が多い環境の中運用され、整備不足等から本来の性能を発揮しきる事は出来ず、「威嚇射撃8発、必中投擲1発」というジョークが生まれた。全弾撃ち尽くしても命中せず、最後には銃を投げつけてようやく当たるという意味である。

 

 

 

M-223 ヴァルタP08 ハンドガン

口径:9mm

装弾数:7+1発 or 41+1発

 ズックス社製のMSパイロットから歩兵まで支給されている後期の正式採用拳銃。リング型トリガー、内蔵式ハンマーとナバンに続きまたもや独特のフォルムを有する。分類上はハンドガンであるが、フルオートによる連射機能、その時のためのストックも用意され、マシンピストルに近い性能である。サプレッサー、41連ドラムマガジンと、オプションも豊富にそろっている。

 大戦後期に生産され始めたため、あまり普及はしなかったが、ナバンでの不満点を解消した設計となったため、"一年戦争"後もジオン共和国軍により使用され続けた。

 

 

M-249 タウロス 短機関銃

口径:9mm

装弾数:36+1発

 ブリッツ社製のジオン軍正式採用のサブマシンガン(SMG)。主に特殊部隊に配備されたが、その取り回しの良さから後にMSパイロットにも優先的に配備された。Vz-61 "スコーピオン"を参考に開発されたと言われ、クローズドボルトに直結したデコッキングレバーと構造は非常にシンプルで信頼性が高い。地上でも運用されたが、主に無重力、低重力下での運用を最優先に考えられ、レートリデューサーと呼ばれる、連射速度こそ低減するが一種のショックアブゾーバーとしても機能するメカニズムを備える低反動なSMG。トリガーの引き方でセミオート、フルオートの変更が出来、フルオート時には毎分800発で連射可能。これはSMGとしてかなり連射速度を抑えられている。またセミオート時においても高い命中精度を誇る。ストックは折り畳みかつ引き出し式でかなりコンパクト。またダブルカラムマガジンの採用により装弾数はサイズからしたら多めの36発とかなりのハイパフォーマンスを誇る。弾丸はハンドガンと共用の9mmパラベラム弾を使用している。フォアグリップはなく、代わりに強固に装着されたマガジンを持つ。本体部銃身の一部がバレルジャケットになっており、初期は火傷する者が後を絶たなかった。

 

 

 

M-312 ガーベル アサルトカービン

口径:5.56mm

装弾数:28+1発

 ブリッツ社製の無重力下、真空下での運用を前提に開発されたアサルトカービン。見た目は大型のサブマシンガン程で、取り回しが容易な事から地上戦でも用いられた。しかし地上の湿気などによる作動不良に悩まされた様である。タワーマガジンを採用する事により装弾数は低下したがマガジン携行数を増やす事に成功している。これもSMGと同じくマガジンをフォアグリップの代わりにする設計である。ストックは折りたたみ式のスケルトンストックで、1Gに慣れないジオン兵の負担をなるべく減らすよう軽量化がなされている。

 地球連邦軍のアサルトライフルと比べるとその設計思想の差が色濃く反映されている代表と言えよう。

 因みにガーベルとはドイツ語でフォークの事。

 

 

マズラ MG-74

口径:5.56mm

装弾数:120×2+1発

 マズラ社製の個人携行可能な分隊支援火器に近い機関銃。旧世紀の機関銃MG-3を参考に開発された。トリガーセーフティと呼ばれる1度軽く引き金を引くことでセーフティが解除される機構を採用し、即戦能力が高めてある。大型のドラムマガジンを2つ装着可能で、連射速度毎分1200発でフルオート射撃のみが可能。

 "ワッパ"の武装ラックに懸架するために開発されたため、ストックなどもなく、一応は取り外して使えるも命中率は低い。長い銃身の約半分が空冷式バレルジャケットとなっており、"ワッパ"の機動性と合わせ継戦能力は高い。

 

 

M-49 ラングベル 対戦車ロケットランチャー

口径:84mm

 H&L社製の後込め式対戦車ロケットランチャー。主に1G下での運用を前提に開発され、重力戦線に投入された。コンパクトに縮められ、使用時にフォアグリップを握り引き延ばし射撃体制へ移行する。サイトはバッテリー式のレーザーセンサーサイトが標準装備されており、ロックオンし射撃する事で高い命中率を誇る。

 比較的小型でありながらも攻撃力は十分に高く、地球連邦軍主力戦車である"61式主力戦車"の上面、後面を貫通させる事が出来る。側面でも前期生産型の車輌なら中破させられる威力を持つ。これも"ワッパ"の武装ラックに懸架可能で、その機動力、ジャンプ力を最大限に用いたトップアタックにより車両に対し多大な戦果をあげた。

 

 

M-32 ハンドグレネード

 ラッツリバー社製の爆風半径10mの柄付き爆風破砕手榴弾(ポテトマッシャー)。本体は2つの鋼鉄製弾殻からなり、内部に施された弾片ライナーの働きにより爆発時に約800の弾片に分散する。大きさが大きく、携行数は減ったものの、柄がついているため遠投しやすい。柄が付いていないアップル型や、地雷としても使えるディスク型と呼ばれる物も用意されており、そこは個人で選択する事が出来た。いずれも尖った特徴があるも携行性に難があった。

 MS用のサイズの物も含め連邦の物は円筒型に統一されているため、ジオン軍の試行錯誤が伺える。

 

 

 

車輌

 

 

 

PVN.4/3 ワッパ 機動浮遊機

全長:5.5m

全高:2.7m

全幅:2.1m

ファン直径:1.1m

 "ワッパ"はコロニー内での迅速な移動をするためにZAS社とジオニック社に共同開発された機動浮遊プラットフォームを連絡・偵察任務用の軍用機として強化発展させたものである。

 機体の前後に駆動用の推進ファンを装備した基本1人乗りのホバーバイクである。動力は機体底部の4基の小型高出力パワーパックであり、通常時は地表2〜3mを飛翔するが、ファンに使用された専用モーターの高出力と合間って短時間なら十数m単位の上昇も可能であった。操縦はほぼ自動化されており、一本のグリップに2つのフットペダル、また体重移動によって行う。構造は簡略化による恩恵からシンプルかつ頑丈で、改造、修理も容易であり、地球上の悪環境の中でも故障は少なかった。

 武装は操縦者頭上のフレームアンテナ前部ブーム式懸架式機関銃架に"マズラ"MG-74/S 車載用短銃身機関銃、"ラングベル"対戦車ロケットランチャーを装備可能。現地改修が最も為された兵器であり、対人攻撃用ワイヤーカッターや着陸脚をスキー板にする、最大6人を抱えて飛べるその推力に目を付け、担架を増設したものもあった。

 

 

 

B.M.C. Z78/2 汎用中型オートバイ

ただのバイク。

 

 

 

PVN.3/2 サウロペルタ 軽機動車

全長:3.6m

全高:1.5m

全幅:1.6m

 ジオン軍正式採用、ジオニックトヨタ社製の高機動電気駆動車。コロニー内で用いられるただのエレカとは違い、高出力かつ高機動の特性を合わせ持つ汎用軍事車輌として連邦軍の"ラコタ"を参考に開発された。動力分散型モーターを各タイヤに一つ搭載するインホイールモーター型四輪駆動方式を採用、1G下でも高い機動力を発揮する。

 資源の少ないジオンは物資をあまり割くわけにもいかず、低コストかつ量産性に重きが置かれたが、それが功を奏しシンプルかつあらゆる環境に対応可能な軽機動車として完成し、戦後も長きに渡り人類の友としてあり続けた傑作車輌。装甲こそ無いに等しい軽車輌であるが、その荒地をものともしない高い機動性に走破性、ミッションが完全に水没しようとも動き続けるという耐久性、簡単な道具に少人数で直ぐ様修理が出来る整備性など、その性能は驚愕の一言に値する。軍用車輌であるため、標準装備として"マズラ"MG-74/Sを搭載する。

 名前の"サウロペルタ"とは小型の草食恐竜から取られている。復活した宇宙生まれの恐竜は、かつて栄えた地球の上を、再び跳ね回るのである。

 

 

 

PVN.44/1 ヴィーゼル 水陸両用装輪偵察警戒車

 ジオン軍が正式採用したジオニックトヨタ社製APC。水陸両用のため地上では独立六輪駆動で移動し、波高2m以内ならばスクリューによる水上行動が可能。武装は20mm機関砲を装備した旋回式ターレットに、正面方向へ7.62mm機関銃が一門、スモークディスチャージャーを装備、計7人を乗せ戦場での迅速な展開が可能。

 ジオン軍の地上侵略を影から支えた立役者。コスト削減と機動力の向上という観点から装甲は余り厚くは無く、5.56mm弾をストップするものの、連邦軍主力戦車"61式主力戦車"に搭載された13.2mm機銃に耐えることは出来なかった。そのため、ジオン地上軍歩兵部隊の損耗率はかなり高いものであった。

 

 

 

M-1 マゼラ・アイン 空挺戦車

全高 2.4m

全長 7.7m

全幅 3.4m

武装 133mm戦車砲×1

使用弾種 成型炸薬弾(HEAT)

装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)

車載機関銃 マズラMG-74機関砲×2

 マズラ社製の空挺戦車。ジオン公国で仕様されていたコロニーでの運用を目的に開発されたM1 MBTを改良、1G下での空挺に耐えられる戦車として再設計したもの。乗員は4名。地球降下作戦においても、強襲用戦力として大量に投入された。名前に「マゼラ」を冠するが、"マゼラ・アタック"とは全く別の車種である。

 ジオン公国には戦車開発、運用のノウハウは少なく、また空挺戦車として装甲も薄いため、その能力は"61式主力戦車"に遠く及ばず、"61式主力戦車"1輌に対し4輌でかかれ、と言われるほどだった。実際に撃破された車輌は多く、その運用は"マゼラ・アタック"の量産後鳴りを潜め、空挺作戦に投入されたという情報も残っていない。

 発展型として主砲の最大仰角を高く取れるようにし、大型の主砲同軸機関銃を搭載したモデルも開発されたが、攻撃性能自体は高まったものの正面装甲は更に薄くなり、内部居住性も悪化、また左右非対称の設計から整備性が落ちたため地上侵略時において採用には至らなかった。

 

 

 

PVN.42/4 マゼラ・アタック 強襲戦車

全長 10.2m

重量 62t

動力源 ガスタービン・エンジン

武装 175mm無反動砲×1

3連装35mm機関砲×1

スモークディスチャージャー

主砲同軸機関銃 マズラMG-74機関砲

使用弾種 成型炸薬弾(HEAT)

装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)

 マズラ社製の強襲戦車。ジオン公国軍の地球降下作戦に先立ち、高価で量を揃えることが難しいMSを補う兵器として、他の陸上・航空兵器と共に開発された。常に不足しがちだったMSの数を補い、実質的なジオン軍地上部隊の中核として一年戦争を戦った。

 主力戦車である地球連邦軍の"61式主力戦車"と異なり、MSを火力支援するコンセプトで開発された自走砲に近い戦闘車輌で、戦車としては非常に高い位置に設置された砲塔は旋回しない。ので戦車というより突撃砲などに近い。

 本車は車体部"マゼラ・ベース"とVTOL機能を持つ砲塔部"マゼラ・トップ"からなる複合兵器である。"マゼラベース"は無人で、マゼラ・トップの乗員一人で運用できるが、"マゼラ・ベース"にも運転席は設けてあるため操縦可能な上、APCとして約10名乗車させる事ができる。"マゼラ・トップ"が一時的に飛行して空中から射撃することも可能だが、一度分離すると現地での再接続はできず、飛行時間も5分と極端なまでに短く、また飛行中は175mm砲の命中率も極度に低下するという弱点があった。

 しかしこの特異なメカニズムのため取りうる戦術の幅は広く、運用によってはMSに匹敵する戦力となった。

 また"マゼラ・トップ"の搭載砲を降ろし、"ザクII"用の携行兵器ZIM/M・T-K175C"マゼラ・トップ砲"として使用することもできる。

 ミノフスキー粒子散布下における運用を考えられた設計から、目視による索敵に重点を置かれた設計から、車体のサイズは戦車としてはかなり大きく、遠くを見る為に車高も高い。また、上部は"マゼラ・トップ"として飛行する関係上、飛ぶには小さ過ぎるが、戦車としては致命的に大きな翼前面投影面積は大きく、キャノピー含め装甲も薄い問題があった。その為、1年戦争中に設計はそのままスケールダウンが度々行われ、形はそのままに分離機能を排したモデルも生産された様である。

 現地改修機も多く、主翼基部に機関砲を増設したものや、逆に分離機能を廃し強力な主砲を載せる事で、完全な突撃砲に改造された物などかなりあった。

 派生機として、"マゼラ・ベース"に"ザク"の上半身を乗せた"ザクタンク"がある。またエンジンを交換、月面での使用を可能にした改造を施した物や、分離機能を排除し"マゼラ・トップ"のコックピット部にカメラセンサーを据え付けたもの、対空戦車に改装された"マゼラ・フラック"、自走迫撃砲"マゼラ・ベルファー"などがある。

 

 

 

航空機

 

 

 

DFA-03 ドップ 艦載戦闘機

全高:12.1m

全長:9.2m

全備重量:5.2t

武装 30mm機関砲×2

6連装ミサイルランチャー×2

チャフ・フレアディスペンサー

 "ドップ"は、ジオン公国軍が地上侵攻作戦のためにコーダ社に委託し急造した大気圏内用艦載機(CATOBAR)。少尉からの愛称は"緑のアヒル"。

 武装は30mm機関砲を機体中央部に、6連装ミサイルランチャーを備えた武装ポッドが、2枚の垂直尾翼の付け根に左右一基ずつ装備されていた。戦闘機でありながらかなりの火力を持ち、攻撃機としての運用も可能な多目的戦闘機(マルチロール・ファイター)である。

 スペースコロニー国家であるジオン公国の技術者たちは、大気圏内航空機に関するノウハウも試験飛行を行う場所もなかったため、コンピューターシミュレーションによって本機を開発したといわれており、試験飛行の際には試作1~4号機までがことごとく墜落したと記録されている。飛行に成功した5号機も既にU.C. 0079 3.3という遅さだった。

 空力特性がきわめて悪い機体を、大推力のエンジンと多数の姿勢制御バーニアで強引に飛翔させるという航空機より航宙機に近い技術で設計されているため、運動性は高いものの航続距離は短く、長距離移動運用には母艦となる"ガウ"級攻撃空母等のサポートが欠かせない。

 飛行を揚力にほぼ頼らない機体であるが、これによる利点もあり、戦闘で主翼を破壊されてもこの機体特性お陰で墜落を免れた例もあり、またその推力から艦載機でありながら不整地での離着陸も可能というとんでもない特性を備えており、正にジオンの要求に応えた万能機であった。

 大きな特徴としては、ミノフスキー粒子散布環境下の有視界戦闘を前提に設計されており、操縦席が機体から上方に大きく突出し、キャノピーも大きく前方視界が広く取られている。下方視界も考慮に入れられており、操縦席前部、昇降装置付近もグラス化されており、対地監視も熟す。この設計は"ルッグン"、"ドーラ"にも引き継がれた。しかし、この航宙機寄りとも呼べるコクピット前面にコンソール及びコクピットシート、昇降装置を集中させた設計の弊害は如実に現れており、航空制御装置や火器管制装置等を始めとするアヴィオニクスや生命維持装置がパイロットシート後部に詰め込まれる形となり、ドッグファイトに必要不可欠な後方視界がゼロに近いという構造的欠陥を抱える形となってしまっている。

 本機は、膠着化していく地球上の戦闘において、国力の乏しいジオン公国軍の主力多目的戦闘機として活躍していくようになる。"ドップ"のみで編隊を組んで敵部隊を攻撃した他、陸戦型MSと共同作戦をとる事もあった。機体サイズからしたらかなり小さな主翼は逆ガルウィングであり、格納時には折り畳む事が出来た。これによりランディグギアも艦載機にしては小型化されており、かなりコンパクトな印象を与える。その為か、更に小さく再設計し、変形機構を持たせ、機体そのものをまるで"コア・ファイター"の様に小さく折り畳み、MSの脱出機能として設計されたものも存在すると言う証言があるが、不確かである。

 航宙機に近い設計が功を奏したのか、低空から成層圏近くまで、また、地上のあらゆる所で確認され、HLVの打ち上げ、降下、連絡機や戦艦の大気圏離脱の援護もこなし、迎撃に上がった連邦軍との空戦も多発した。本機は旋回性能こそ低いが、大推力から来るダッシュ力は決して侮れるものでは無く、高速の一撃離脱戦法に地球連邦空軍は大いに苦しめられた。

 

 

 

YS-11 ド・ダイYS 重爆撃機

 コーダ社が主導となり開発が行われた"MSへの航空支援機計画"で開発された、機首に8連装対地ミサイルランチャーを装備した重爆撃機。

 主に開発され普及したYS型は機体前面に8連装ミサイルランチャーを装備する爆撃機であり、また貨物室を持たず、機体上面に貨物をむき出しで固定するフラットヘッド型と呼ばれる輸送機でもあった。宇宙世紀の輸送機に主に見られる共通点として機体上面から吸入した空気を下面から噴出しすることでVTOLが可能になっている。また、最前線での戦術輸送を考慮して大口径のもの2発、小型のもの8発、計10発ものロケットブースターを備えており緊急離陸が可能。そのため即応能力も高く、MS突入前の露払いとしても多く用いられた。

 大きく扁平な機体に大きな翼を持ち、また重量に比べて推力に余裕のあるエンジンが搭載されていた事からペイロードにかなりの余裕があったため、そこに目をつけた軍司令部は機体上部にMSを乗せ、戦場までの輸送や降下した大気圏突入カプセルからの回収などの任務を"ドーラ"などと供に行わせる事となった。更には熟練したパイロットのみであったがMSを乗せたままでも戦闘を行うことが出来ることが発見され、地上の不整地踏破能力が高い反面、平地での機動力にかける欠点を持つMSの行動範囲の拡大、MS・爆撃機両者にとって不得手であった対空戦闘が可能、"ド・ダイ"YSに被弾時でもMSが即座に離脱できるなど有用性の高さから"ザクII"、"グフ"などが搭乗し前線で運用された。また特に"グフ"の固定武装が空中戦において非常に有効活用出来たため、その組み合わせは互いのマイナス面を補い合える存在として非常に相性が良かったとされる。

 そのため"グフ"の中期生産型以降は製造の時点で"ド・ダイ"とのリンクプログラムを搭載してあった。本来中隊長用アンテナとされる額のマルチブレードアンテナが"グフ"に標準装備されているのはこのためである。またそのため"ド・ダイ"自体の通信機能もかなり強化されており、空中管制機的な運用も耐えうるレベルの性能を誇っていた。以後MS輸送・空中戦闘のための補助機体はサブ・フライト・システム(SFS)と呼ばれたが、"ド・ダイ"はその先駆けであり、その有用性所以その後広く利用されることとなった。

 連邦軍の空中輸送部隊にとってこの"ド・ダイ"とMSの連携は大変な脅威で、撃墜された"ミデア"輸送機もかなりあったとされる。ただし"ド・ダイ"自体は"コア・ファイター"や"TINコッド"などに搭載された機銃一連射で空中分解、または爆散する程度の脆弱な防御力であり、"ド・ダイ"側にも少なくない犠牲が出ていたと言うのもまた事実である。

 "ド・ダイ"を駆った有名なエースパイロットとしては、ジオン公国地球攻撃軍、ヨーロッパ方面第15戦術爆撃隊所属のヘルムート・ルッツ少尉がいる。彼は"オデッサ"作戦時に置いてでは、戦闘爆撃機"ド・ダイ"GAに搭乗し3日間のうち地上にいたのは補給と仮眠のための12時間程度で、あとは常に愛機とともに上空にいた、というほどのパイロットであり、『連邦の頭上に彼あり』とまで言われた。陽気で明るく、よく冗談を飛ばす人物として知られており、マ・クベ大佐に対し、『"コア・ファイター"が30機欲しい』と言ったというエピソードはあまりにも有名。通算スコアは戦闘車両を480両も撃破しており、"タンクキラー"として名を馳せる一方、爆撃機ながら敵戦闘機を14機撃墜しており、このスコアから、『ルーデルの再来』とも呼ばれていた。しかし、"オデッサ"作戦3日目のU.C. 0079 11.9に降着装置の故障により着陸に失敗し不慮の死を遂げた。

 バリエーションとして先行量産型でありコストのかかる"ガウ"に代わる完全な爆撃機として開発されていた"ド・ダイ"GA、爆撃能力を廃し、エンジン出力を強化輸送能力に特化させ、完全なMSキャリアーとなった"ド・ダイII"がある。

 

 

 

P01B ルッグン 戦術偵察機

全高 5.2m

全長 12.6m

全幅 29.2m

動力源 ベクタードノズル式VF24(推力48t)×2

武装 20ミリ連装機銃×2

固定式機関砲×4

小型爆弾

APS20レーダー(レドーム)×2

AP50前方監視レーダー×2

 ジオン軍の地球侵攻作戦際にコーダ社のエディ・ハイネマン技師に開発され、地球全土で広く用いられた戦術偵察機。無尾翼の全翼機で垂直尾翼状の観測ドームを持つ逆T字型の機体に、長大なビームで支えられたレドームがついた独特の形状をしている。推進機はベクタードノズル式で余剰推力が高く、垂直離着陸可能なVTOL機である。ミノフスキー粒子撒布下を大出力でねじ伏せる超高出力レーダー他、熱センサーや光学系機器による高い索敵機能を持つ。

 操縦席は機体前縁の正副独立したバブル型のキャノピー内部にある。大きくせり出したキャノピーのため下方監視も可能。"ドップ"の構造的欠陥である後方視界も改善され、観測ドームからは正副操縦席から椅子ごと移動することが出来る。また、レーダードームは上下反転が可能になっており、ミノフスキー・テリトリーにおける索敵の指向性を強める事が出来る野心的な設計である。

 両翼端には連装対空機銃を装備しているが、基本的には自衛用に用いられる。観測レドーム前面に固定式機関砲4門、他に胴体内に小型爆弾倉があり、爆撃も可能。本機は偵察機であるが、宙返りをするほど運動性能が高い。また"コア・ファイター"の機銃にある程度持ちこたえる防御力を持ち、限定的な空戦能力も備えていた。多くの改良機があるためジオン製航空機の中で最も完成度が高いといわれる。

 装備された推力48tのベクタードノズル式VF24のエンジン推力に目を付け、まるでSFSのように"ザクII"をぶら下げ空輸させた、という目撃証言があるも定かではない。

 

 

P01C ドーラ 小型空輸機

全高 5.2m

全長 12.6m

全幅 28.5m

 "ドーラ"は完成度の高かった"ルッグン"の高いエンジン推力に目を付け、それを元に小型の輸送機として再設計したものである。そのため武装は一切ないものの、MSこそ運ぶ事は出来ないが連絡機として使えるほど足の速い空輸機として完成した。

 "ルッグン"の時には既に完成していた機能は全てあるため、その性能の高さから凄まじい速度で拡大した戦線の兵站維持に貢献した影の立役者であるといえよう。

 

 

 

AAC/B-04 ガウ 攻撃空母

全長 62m

全備重量 980 t

武装 2連装メガ粒子砲×2

2連装砲

爆弾倉

対空機銃

 ジオン公国がコーダ社に委託し開発した大気圏内用大型輸送機兼爆撃機である。ミノフスキー型熱核反応炉2基を翼付け根に搭載し、その電力により熱核ジェットエンジン18基を駆動し、大気圏内においてはほぼ無限の航続距離がある。

 だが、コロニー内のシミュレーションのみで設計された機体であったため、"ドップ"と同じく揚力だけで飛行を支えるのは不可能であり、全速航行時でも下方ジェット噴射に全推力の三割を回していたと言う。因みに、ジオン地球侵略作戦の映像で"ドップ"とともによく確認されるが、実際に開発されたのも"キャリフォルニア・ベース"占領後であり、プロパガンダのための合成映像ではないかと後年指摘されている。

 陸上での長距離移動能力に乏しいMSを運用するために開発され、MSを胴体部に3機、"ドップ"戦闘機を両翼にそれぞれ4機搭載可能である。しかし一機にあらゆる性能を持たせたためコストは高く、そのお値段なんと"ミデア"輸送機を3機でもお釣りが来るほどである。そのため後に"ド・ダイ"YSを始めとするSFS、Sub Flight System(サブ・フライト・システム)に大部分が取って代わられる事となる。

 あたかも空飛ぶ空母のごとき威容と機動兵器搭載運用能力を持つことから「攻撃空母」と呼ばれる。対地攻撃に優れ、絨毯爆撃を市街地などで展開している。南米の連邦軍総司令部"ジャブロー"に対しては、「定期便」と呼ばれる爆撃をたびたび行っていた。また、"オデッサ"戦でも多数投入された。

 前方にMSの発進口を設けたため、MS降下時には速度を落とさねばならず、"ジャブロー"強襲作戦では連邦軍の良い標的となったという。また、同作戦中の"ガウ"は"ドップ"を搭載せず、艦載機発進口のカタパルト上部に多数の空対地ミサイルランチャーを仮設。MS隊降下の露払いとして"ジャブロー"にミサイル攻撃を仕掛けた。護衛の"ドップ"部隊は最初から"ガウ"の周囲を飛翔している。

 特筆すべき事項として、宇宙往還機の母艦機能がある。大気圏突入カプセル"コムサイ"の空中収容とブースターなしでの弾道飛行のための自力発進が可能。航続距離の短い"コムサイ"を連邦軍制空圏手前で回収し、弾道軌道で味方基地近辺に送り出すことで"コムサイ"の生存率は著しく向上したとされる。

 また、終戦までに約60機前後が生産されており、装備の違いによりいくつかのバリエーションが存在するという説もある。

 

 

 

VCA-02 ファットアンクル 輸送機

 コストの高いガウに替わる輸送機としてコーダ社に開発された超大型輸送ヘリコプター。機体前方にハッチがあり、MSなら3機直立させながら輸送が可能。両端に取り付けられたローターをエンジンごと折りたたむことができるため、大型機でありながら駐機スペースが小さい。武装は自衛用の連装機関砲3基のみとなっている。

 大型機ではあるが、約2名の乗員で運用される。搬出入は、正面の観音開き扉だけとされていたが、後年再設計の際に後部にスロープ兼用ハッチが追加された。また、サイドハッチも追加された物は"ファットアンクル改"とされた。

 

 

 

水上艦艇

 

 

 

PHV-02 シーランス ホバークラフト

 MIP社が開発した水上快速艇。高速巡航時には、ホバークラフトと2基のジェットエンジンにより水上を滑空する事ができる。

 連絡艇として使われる他、機体上部正面コクピットに20mm2連装機関砲に対艦ロケットポッド、大型魚雷を2発搭載し、その速力を活かし敵船団へ浸透、雷撃を行う事も可能。しかし走行時の安定性は高くなく、装甲と呼べる装甲も無いため、その被撃墜数は決して少なくなかったとされる。

 

 

 

潜水艦

 

 

ユーコン級攻撃型潜水艦(U型潜水艦)

武装 3連装魚雷発射管×2

VLS×8

 一年戦争中に地球連邦軍が開発を進めていた原子力ミサイル潜水艦であった次期主力潜水艦Ⅷ型を鹵獲し、MS運用能力を持たせた物。

 U.C. 0079 3.13、ジオン公国軍は、連邦軍の防衛部隊がコロニー落としによる被災地復旧に駆り出されていた隙をついて、北米大陸最大の拠点である"キャリフォルニア・ベース"をほぼ無傷で制圧。"キャリフォルニア・ベース"には、近日進水予定であった次期主力潜水艦Ⅷ型を含む多数の潜水艦が残されており、ジオン公国軍はこれらの潜水艦群と工厰を手中に収めた。

 ジオン公国軍突撃機動軍の総司令官キシリア・ザビ少将は、これらの潜水艦にMS運用能力を付加するなどの改装を施して自軍の潜水艦隊を設立する計画を立案し、ただちに改装作業を開始させる。

 U.C. 0079 6月、Ⅷ型潜水艦を改装した"ユーコン"級攻撃型潜水艦が完成し、"ユーコン"級3隻より成るジオン公国軍初の潜水艦隊を編制。ジオン公国突撃機動軍戦略海洋諜報部隊として北太平洋に配備した。

 その後、U.C, 0079 7月には全てのⅧ型潜水艦が"ユーコン"級潜水艦に改装され、大西洋、インド洋、北極海にも戦略海洋諜報部隊の配備が完了。様々な作戦に従事し、僅かに残った連邦海軍の水上艦隊や沿岸基地に大打撃を与えたという。




順次追加します。もしかしたらMS解説もここでやるかも。


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登場兵器紹介 MS ジオン編

ようやくだよ。

設定がある分は細かく解説します。無い分はある程度補完します。




MS-05A/B "ザクI"

全高:17.5m

本体重量:50.3t

全備重量:65.0t

出力:899kw

推力:40,700kg

最高速度:75km/h

センサー有効半径:2,900m

装甲材質:超硬スチール合金

 

 前期生産型"ザクI"は、"ザクI"の初期型として27機生産された機体であり、世界初の量産型MSである。

 U.C. 0074 2月に試作機(YMS-05)が完成、翌年7月に量産化が決定し、8月には1号機がロールアウトしている。開発にはジオニック社からジオン公国軍に佐官待遇で出向したエリオット・レムが携わっていた。

 U.C. 0078 11月に、27機生産されていた本機によって教導機動大隊が編成。月面のグラナダにおいて、開戦に向けての搭乗員育成や戦技研究、各種試験などが行われ、MSという兵器体系を確立した。このデータを基に、コクピット、装甲の材質や形状などの改良を施されたB型(量産型)の本格的な量産が行われ、"ザクI"の総生産数は793機に及んだ。

 MS-05Bは、教導機動大隊のデータを基に、MS-05Aのコクピットや、ジェネレーターをZAS社のZAS-MI8BからY&M社とジオニック社の共同開発であるMYFG-M-ESに変更、メンテナンス性や冷却・再出撃性を向上させ、更に装甲の材質(発泡金属、カーボンセラミック、ボロン複合材料等が試験的に限定使用されている)・形状などに改良を施した機体である。

 "ザクI"の本格的な量産型であり、総生産数は約800機とそう多くは無い。しかし、この段階で機体各部の動力パイプを全て装甲内へと内蔵したことによる冷却性能の低下、度重なる仕様変更、修正や改良を重ねた上でも指摘されたジェネレーター出力の低さから、十分な運動性能を発揮することが出来ず、ジオン公国軍は、本機の性能と生産性を更に向上させたタイプの開発を要求した。その結果、出力向上と冷却装置の強化、それに伴い性能全般が向上したMS-06 "ザクII"が完成する。

 結果、それまではただ単に"ザク"と呼ばれていたMS-05は、"ザクII"と区別するために"ザクI"もしくは"旧ザク"と呼ばれるようになった。本機は"ザクII"の登場により、"一年戦争"開戦時には既に型落ちとなっていたものの、生産されたほぼ全ての機体が実戦参加している。"ザクII"の配備が更に進むに連れ補給作業などの任務に回されることになるが、大戦後期になっても"ザクI"を継続して愛用したベテランパイロットは多く、"一年戦争"最終決戦の舞台となった"ア・バオア・クー"でも新鋭機と共に配備されていた。また、地上戦線にも数の不利を補うべく多数の"ザクI"が投入されている。

 "ザクマシンガン"はYMS-04の"100mmマシンガン"からやや口径を大型化した"105mmマシンガン"を使用するも、対艦攻撃にはややパワー不足である事が現場のパイロットから指摘されたため簡易改造で"120mmマシンガン"に改造する事が出来るキットが配布された。

 "ヒートホーク"はやや出力が低い4型を使用する。これは"ザクII"の使用する5型と比べ耐久性、溶断能力、生産性にかける嫌いがあり後に全て5型に更新された。

 

 

MS-06J "ザクII" J型 地上戦仕様

製造 ジオニック社

生産形態 量産機

頭頂高:17.5m

本体重量:56.2t

全備重量:74.5t

出力:976kW

推力:43,300kg

最高速度:95km/h

センサー有効半径:3,000m〜3,200m (大気状況で変化)

装甲材質:超硬スチール合金 発泡金属 カーボンセラミック ボロン複合材料

 

 MS-06J 陸戦型"ザクⅡ"は、ジオン公国軍の陸戦用量産型MS。本来、MS-06F 量産型"ザクⅡ"は宇宙空間だけでなく、重力下での使用も考えられており、そのままノンオプションで地上でも運用可能と言われていた。しかしながら実際に重力下で運用した結果、地形や気候の変化に十分対応できているとは言い難かった為、ジオン公国軍は地球侵攻作戦に向け、地上での運用を前提とした陸戦用MSの開発に着手した。しかし、ジオン本国のコロニー内という環境で得られる重力は遠心力による擬似的なものであり、また、陸戦用MSの本格的な試験を行うにはあまりにも狭い空間であったため、十分なデータを収集することができず、シミュレーションを用いても純粋な局地戦用MSの開発をすることは難しいという結論に達した。

 そこで、新たなMSを開発するのではなく、"ザクⅡ"F型に改修を施し、その仕様を陸戦型としたのが本機である。陸戦型"ザクⅡ"の開発は"キャリフォルニア・ベース"で行われ、生産は"キャリフォルニア・ベース"および月面都市"グラナダ"で行われたが、第一次地球降下作戦に参加した"ザクⅡ"の殆どがF型であった為、地球攻撃軍の工作部隊の手で、配布された改造キットにより現地に於いてF型をJ型として改修した機体も多数存在していた。本機はF型をベースに推進剤搭載量の削減や宇宙用の装備の省略で軽量化が図られており、外見上は、各部の姿勢制御サブスラスターや足裏のノズルの有無、ランドセルとバーニアの燃焼室をはじめとする構造等が異なっている。また、ジェネレーターを交換し、冷却機構の空冷化がなされたJ21-M3ESJを装備、インテークの防塵対策などの手が加えられ、稼働時間や機動性が改善された。モノアイを含めるセンサー類も大気圏内に適応出来る様改良が加えられ、モノアイガードにもワイパーが装着されている。脚部も対地センサー及びハードポイントを増設し、また、地上戦では不要と判断されたAMBACシステムも省略された。

 これらの改良や実戦データは同じく"キャリフォルニア・ベース"で開発されたジオン初の対MS戦闘及び地上戦を前提に開発されたMSであるMS-07 "グフ"に活かされたという。

 "ザクⅡ"本来の気密性は維持されており、短時間であれば水中や宇宙空間でも活動できるといわれたが、実際にJ型を宇宙空間で運用すると満足な機動はできなかったという。戦場が宇宙に移行した一年戦争末期には、J型を量産する必要が無くなり、本機の融合炉や武装、モノアイなどのコンポーネントは、MP-02A "オッゴ"等に流用されることとなった。

 中尉(当時の階級は少尉)が乗った機体は隊長機の証であるマルチブレードアンテナに、足の甲部分、胸部に対人火器として連邦軍製のM-60 重機関銃が装備され、またジオン軍はつけたがらなかった"Sマイン"が装備された。"Sマイン"は改良されアクティブ防衛システムにも転用可能な機能が搭載され、対人戦闘にも主眼がおかれたマルチロール機となっている。

 

武装

ZXM-1 100mmマシンガン

ZMP-47D 105mmマシンガン

 これらは"ザクI"からの装備で、ジオニック社製である。初のMS用武器であり、宇宙空間での対艦攻撃を前提に開発されたため、発射時の反動を制御しやすい電気作動式の機関部を採用、また薬莢もボトルネック式を採用している。パン・タイプと呼ばれるドラムマガジンを採用し、本体全長をコンパクトに纏める様に、という要求から側方給弾、対面側方排莢を行う。これはマガジン及びサイトシステムとの干渉を避け、MSなら排莢時の影響が少ないと考えられた為である。装弾数は145発。"ザクI"の主兵装であり、対艦攻撃以外にもマルチロールに扱う為、様々な弾薬が用意された。

 

ZMC38III 120mm"ザクマシンガン"

M-120A1 120mm"ザクマシンガン"

ZMP-50D 120mm"ザクマシンガン"

MMP-78 120mm"ザクマシンガン"

 "ザクII"用に開発された120mm"ザクマシンガン"である。上から3つはジオニック社製のマイナーチェンジバージョンであり、最後の物はMMP社製である。対艦攻撃用からMS攻撃用に変遷するにつれ、どんどん更新が続いたため、これだけのバリエーションが産まれたが、殆どのパーツの互換性はある為現地での混乱は無かったとされる。MMP-78には伸縮式ストックにアンダーバレルグレネードが搭載され、"一年戦争"後にも使われ続けたベストセラー品となった。至近距離に置いて平均的な"サラミス"級巡洋艦の装甲を貫く能力があるが、"マゼラン"級戦艦に対する対艦戦闘においては余りにも小口径であった。しかし、宇宙空間において高度な三次元機動を行うMSならば、的確に装甲の薄い部分に攻撃を集中させる事により、多大な戦果を上げる事が出来たもののそれには高度な空間認識能力、卓越したMS操縦技術等が必要であった。結果、中距離における対艦攻撃でも、"サラミス"級巡洋艦を一撃必殺出来る武器が求められ、"ザクバズーカ"、"シュツルムファウスト"が開発されるきっかけとなった。しかし、相対速度差が大きい中、高機動戦闘中に無誘導弾を当てる事も高い技能が必要であり、どのみち格闘戦を仕掛ける結果となったのは、皮肉なMSの宿命であった。

 弾丸もZXM-1 100mmマシンガン、ZMP-47D 105mmマシンガンと互換性があり、過渡期では薬莢は一時ストレートタイプが用いられ、それには完全燃焼スカートが穿かされていた。弾丸も各種用意され、徹甲(AP)弾、成型炸薬(HEAT)弾、粘着榴(HESH)弾、焼夷榴弾、装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)、通常弾、通常榴弾、対MS用ホローポイント(HP)弾、三式対空散(Type-3)弾、徹甲焼夷(API)弾、徹甲炸裂焼夷(HEIAP)弾などが代表である。"ザク"本体とはレーザー通信でリンクしており、FCSはその様に機能する。大型のパンタイプドラムマガジンにより装弾数は120発。大容量ではあるものの使い捨て前提のマガジンは整備性の低さや複雑な機構故に故障に悩まされ、装填不良も定期的に発生していた。弾種の増加に併せてマガジン内部で多種多様な弾丸をパイロットの指示通り選択し薬室へ送り込む物も開発されたが、重量の増加、コストパフォーマンス、整備性の悪化、装弾数の低下から廃れ、後の物はその大半が単純なローダーのみを装備した物になった。マガジンのみならず銃本体の更新や現地改修も多く行われ、ロングバレルやバレルジャケット、バヨネットの追加、更には射程や威力を犠牲にした上で取り回しを優先したショートタイプであるM-120ASも開発された。特に大きな改造が加えられたM-120ASは、砲身を短縮、フォールディング・ストック化、光学サイト廃止、機関部の設計許容範囲限界までのクリアランス拡大が行われ、砂漠での長期戦闘を前提とした全面改修が行われた。これ以外にもグリップの形状やマガジンの接続箇所等多くの細やかな更新が多数行われ、そのバリエーションは多岐に渡る。

 

MMP-80 90mmマシンガン

 MMP社製の対MS戦闘を主眼に置かれ、貫通力を高めるために小口径化が図られたタイプのマシンガン。構造的に余裕が持たされていた"ザクマシンガン"と比べかなりコンパクトにまとめられ、重量も大きく低減させる事に成功している。ストックが無い、または小型化されており安定性には欠けるものの、小口径化と装薬の改良により反動は小さく、集弾性の高さから命中精度も大きく向上し、以降のMS兵装開発に大きな影響を与えた。機構も単純性を重視した結果生産性も向上しており、"ザクマシンガン"の根強い人気を跳ね返しつつその多くが実戦投入された。対空戦闘や対地掃討、対艦攻撃にも用いられ、打撃力の低さはハイレートの連射力で補う形で補う事に成功している。問題視されていたストッピングパワーもその初速の高さで解決しており、結果的に"ザクマシンガン"を上回るベストセラーになった。大きな相違点として構造を単純化させコストを削減しつつ、携行数を増やす為にタワーマガジンが採用され、装弾数は32発にまで減ったものの弾詰まりや装填不良等の故障発生率は激減した。"ザクマシンガン"の数倍のマガジンを携行出来るようになった反面マガジン交換回数も増えたが、それ以上に柔軟な対応をMSが可能としていた事もあり普及、あらゆる戦場で利用された。また光学サイトを小型化、簡略化しコストダウンを図っている。オプションでアンダーバレルグレネードを装着可能。無誘導かつ小口径ではあるが取り回しのいい小型榴弾はMSの自由度の高さとマッチしており、複合小銃のコンセプトとして面々と連なって行く事となる。

 本兵装はあらゆる点から画期的な物ではあったものの、"ザクマシンガン"を完全に代替する事は不可能だった。また、ジオン軍はパイロットの意見をかなり優先するきらいがあり、結果兵站に負担をかけ、補給の混乱に拍車をかけると言う皮肉な結果も残している。戦場における弾薬の不符合は死活問題であり、"ザクマシンガン"程の豊富な弾種も用意される事は無かった。

 

H&L-SB25K 280mm"ザクバズーカ"

280mmA-P 280mm"ザクバズーカ"

 ハニーウォール&ライセオン社で開発されたMSサイズの無反動ロケットランチャー。後にジオニック社、ツィマッド社、ブラウニー社でライセンス生産された。元は先込め式のサイロ型だったが、あまりにも現場で不評だったため急遽生産された経緯があり、"ザク"側の更新が間に合わず使用にはOSの書き換えや再設定が必要だった。後に修正されたものの、MSの汎用性を大きく落とすこの事件は後のMS開発に波紋を呼び、ジオンが一時的な内蔵式固定兵装の開発に傾倒する要因になったと言われている。核砲弾、徹甲弾、成形炸薬弾、粘着榴弾等の多種多様な自己推進式無誘導ロケット砲弾を発射可能で、弾頭は一次推進薬で射出後、安定翼を展開し二次推進を行う。比較的高価であるが、使い捨て前提かつ急造故の単純な機構が功を奏し、無重力下及び重力下でも安定した稼働率を発揮した。"ザクマシンガン"と同タイプの光学サイトを備えており、基本は対艦攻撃兵装であるが対MS戦闘にも使用された。装弾数は前期型4発、後期型はバナナマガジンを上部に増設したため8発。"ザクマシンガン"の2倍以上と言う大口径が生み出す打撃力は"マゼラン"級戦艦をも中破させる破壊力を発揮し、"サラミス"級巡洋艦であるなら一撃で撃破する事も可能だった。しかし、弾頭は無誘導かつ低速である為確実な命中には大胆な接近が必要不可欠であり、その装弾数の少なさからもパイロットを選ぶ武器だった。開戦当初は生産が間に合わなかった結果中隊に2丁しか配備されず、持ち帰る事が厳守された。しかし、その貴重なバズーカを装備する事はエースの条件かつ特権であり、尊敬の的であったとされる。

 

ZIM/M・T-K175C "マゼラ・トップ砲"

 ツィマッド社製の175mm無反動砲。現地の工夫から"マゼラ・アタック"の主砲を取り外し、簡易的なグリップを取り付け使用したものが始まりである。後に正式採用されMS用火器としてブラッシュアップが行われ配備された。大型の多目的砲として用いられ、無重力下でも発射可能。装弾数は3発であるが、簡易改良でマガジンを増設する事が出来る。"ザクII"における最も長射程かつ打撃力を持つ武器であるが、長銃身、大重量、莫大な反動と問題が多く、機体への負担が大きかった。"マゼラ・アタック"や"マゼラ・トップ"では後方へスラスターを噴射する事でその反動を打ち消して居たが、MSの腕で保持し射撃する関係上その反動を抑え込むのは機体フレームへ大きな負荷がかかり、砲自身の命中精度こそ高いが、その反動をMSで受け止めるのは困難であり、結果命中率は悪かった。稼働率は高かったものの、"マゼラ・アタック"との競合もあり配備は思う様にいかず、また、ジオン軍にはMSに中長距離支援をさせると言う思考が無く、あくまで現場単位での運用であった事も災いし、徐々に戦場から姿を消していった。

 

"ヒートホーク"5型

 ジオニック社製の対艦攻撃用近接格闘兵装。刃をプレヒートさせ、対象を溶断破砕する。元は工兵用の施設破壊用デモリッション・ツールであり、高い打撃力及び破壊力を発揮する。元は直線的な刀身を複数組み合わせた形をしていたが、耐久性の向上の為半月状になった。結果生産性はやや落ちたものの、深く斬り込める様になり威力も向上した。その分装甲に食い込み抜けなくなる事案も発生し、打撃力を落としてもピンポイントでダメージが与えられる装備の開発に着手される結果を残す。グリップエンドにもプレヒート能力こそないものの石突が装備され、ハッチをこじ開けたり砲塔等を貫く為にも使用された。刀身部の特殊合金は発熱と硬度を両立するものの使用後激しく劣化する為、数回使うとエネルギーチャージが不能になる使い捨て兵器。対MS戦闘にも使われ、敵MSの盾を一撃で破壊する等猛威を発揮する。しかしながらリーチの短さや偏重量は打撃力こそあるが斬り返しには不向きであり、初撃を外したりいなされたり避けられたりした結果、敵の反撃に撃破されるケースも散見された。

 

Zi-Me/Triple Missile Pod MK.IV "フットポッド"

 ラッツリバー社製の3連装ミサイルポッド。"ザクバズーカ"と共用の280mm弾頭を用いるが、後にツィマッド社、ブラウニー社でライセンス生産された物は地上戦用に調整された320mm及び340mmの物に変更され、重力下における航続距離の推進強化と延長、弾道安定性を強化されている。脚部に装着し使用するが、簡易改造で腰部、シールドにも装着可能だった。レーザー通信で本体とリンク、ポッドに装備されたターゲットセンサーで目標を捕捉、使用する。ミサイルであるが、ミノフスキー粒子に対応した有線式であるわけではなく、誘導性能は低い。これは対艦用半撃ちっ放し兵器として開発され、精密照準の必要が無いと判断された結果である。そのため、目標をロックオンするシーカーを搭載しているのは1発のみで、その他2発は1発目の反射炎のスペクトラム・パターンに追従する用プログラミングされており、全弾発射しか出来ない分、1発あたりのコストを下げる事に成功している。しかしこの方式は後に口径の拡大と共に改善され、弾頭1つ1つにシーカーが装備された。

 

MIP-B6 "クラッカー"

 MIP社製の多段頭手榴弾。投合後分離し、広範囲へ被害を与える手榴弾。対戦車戦闘を前提に開発されるも、MSに対しても目くらましやセンサー系へダメージが与えられるため使用された。MSの汎用性の高さを示す兵装であり、通常型のハンドグレネードも用意され個人や戦術において柔軟な使い分けがなされた。

 

シュツルム・ファウスト

 ブラウニー社製の使い捨てロケットランチャー。小型で取り回しが良く、大口径なため威力も高い。簡単な構造のためコストも安く、コピーも簡単なため大量の模造品が出回った。しかし光学機器は一切装備されていないため、命中率は低く、大胆な接近が必要だった。

 

 

 

MS-06M(MSM-01) ザク・マリンタイプ

製造 ジオニック社

生産形態 量産機

全高:18.2m

頭頂高:17.5m

本体重量:43.3t

全備重量:60.8t

出力:951kw

最高速度::55km/h

推力:66,000kg(ハイドロジェット)

センサー有効半径:3,200m

装甲材質:超硬スチール合金 ボロン複合材料

 

 ジオン公国では地球侵攻にあたり、地球表面積の70%を占める海での作戦の必要性を重要視し、また地球連邦軍本部"ジャブロー"が南米アマゾン河流域にあることから、早期より"ザクII"の水中戦用化計画をスタートさせていた。これにより開発されたのが"ザク・マリンタイプ"である。

 気密性の高い"ザクⅡ"F型をベースに、ランドセルが水流エンジン付きのものに換装され、腕部には補助推進用のハイドロジェットが設けられている他、太腿とふくらはぎには浮沈のためのバラストタンクが内蔵されており、関節部には防水シーリングが施されていた。しかし、宇宙用のF型とは言え気密区画は限定されており、間接部を中心に大規模な防水加工が必要ではあったが、既存の装甲を利用しつつ改修された。また、頭部に予備動力パイプが配され、エアダクトと短距離通信アンテナが設置されている。

 固定武装としては頭部60mm機関砲を2門、オプションとしてブラウニーM8型4連装180mmロケットポッドを胸部に設置可能。携行武装としてはM6-G型4連装240mm"サブロックガン"が用意されていた。

 このように機体各部の動力パイプに頭部形状など"ザクII"のシルエットを色濃く残しているが、外装を始め水中での運用に対応するため全面的な改装が行われている。しかし、宇宙空間で活動する為気密性に優れていた"ザク"も、真空と水中と言う似て非なる環境、海水や水圧、防水の問題を解決する事が出来ず、開発は難航。"ザク"を水中戦用化するというプランは中止され、新設計の水陸両用MSの開発を前提としたデータ収集機の開発という方向へシフトした。

 計画こそ難航したものの水流エンジンのテストは順調に進み、多種の推定データを算出し目的を果たすが、水中での出力の低下が激しく、肩部シールド、スパイクアーマーの簡略化、胴体のフラット化、間接部を中心とした防水シールドの設置などにより機体形状も変更されたものの人型のシルエットが残っており、機体各部の露出したパイプに防水加工の不徹底さが水の抵抗を増大させたため、運動性が極めて低いことから、2機が増加試作された後、開発が打ち切られ、その後もごく少数のみの生産に留まった。しかし、後に水中作業機として再開発、増産されたとも言われており、結果やむなく戦闘にも投入されたとも言われている。

 このデータを基にツィマッド社主管のもとMSM-02水中実験機とMSM-03"ゴッグ"が建造され、"ゴッグ"が制式量産化された段階で、本機はデータ収集機としての役目を終え、倉庫に眠る事になった。

 当初の型式番号はMS-06Mであったが、水陸両用MSの型式がMSMに決定した後には、MSM-01の形式番号が与えられている。水陸両用MSの先駆けであり、開発の難航、様々な仕様変更に、慣れない地上という現場の混乱もあり、多数の名前を持つ結果となった。"水中型ザク"も本機を示す名の1つとされる。

 

 

 

MS-06K ザクキャノン

頭頂高:17.7m

本体重量:59.1t

全備重量:83.2t

出力:976kw

推力:41,000kg

センサー有効半径:4,400m

装甲材質:超硬スチール合金

武装

180mmキャノン砲

2連装スモークディスチャージャー

2連ロケット弾ポッド"ビッグガン"

120mmガトリング砲

120mmザク・マシンガン

クラッカー

 

 MS-06K"ザクキャノン"は、"ザクII"の右肩に対空砲を装備した機体である。もとは、地球連邦軍の航空機に対するために開発された対空用MSであるが、対地支援にも有効であったため、中・長距離支援用MSとしても運用された。宇宙でこそ無敵を誇ったMSであったが、地球上では敵航空戦力に苦戦する事も少なくなく、また"一年戦争"当時は飛行能力を持つMSは殆ど皆無であり、MS用の携行火器が必ずしも対空攻撃に適して無かった事も原因であった。"ドップ"制空戦闘機も航続距離、配備数、継戦能力にも限界があり、常に航空機の支援を受けらるわけでない以上、迅速な部隊展開のためにも対空迎撃能力を持ったMSが求められたのだ。

 そこで本機は"ザクII"をベースに当初はMS-06J-12として開発が進められていたが、対空砲搭載型バックパックの重量バランスの問題がクリア出来ず、使用目的も二転三転するなど開発は難航、一度計画は頓挫してしまうが、後に連邦軍のV作戦によって開発された"ガンキャノン"の情報がキャッチされ、それに対抗する形で中距離支援MSとして開発が再開、それまでに開発されたMSのデータをフィードバックする事により問題をクリアし、MS-06Kとして正式採用された。"ザクII"J型をベースとしながらも、中距離支援用への仕様変更や大重量化に伴い機体そのものにも大規模な改修が加えられており、長射程大火力を誇る右肩の180mmキャノン砲、増加装甲アタッチメント、バックパック左部に2連装スモークディスチャージャー、腰部の2連ロケット弾ポッド"ビッグガン"などにより形状は大きく変化した。頭部もモノアイは走査レールを全周囲型に改良され、それと同時に冷却系が強化され動力パイプは内蔵された。頭頂部にはサブカメラとマルチブレード・アンテナも装備し、監視システムにFCSも更新された本機は中距離支援のみでなく当初想定された対空迎撃においても優れた性能を獲得するに至り、ビーム砲搭載型の開発をも検討されるほどであった。パイロットの意見に添い、180mmキャノン砲を120mmガトリング砲に換装した機体も存在したとされているが、戦線では確認はされていない。

 また本機の特徴として、胴体部分に地球連邦軍系MSの意匠が取り入れられており、胸部には大型インテークが設置され、それに伴いコクピット前面のパネルと動力パイプの配置が変更され、照準システムとのリンケージが確保された設計となっている。また、"ザクキャノン"は右肩にキャノン砲を配置する都合上右側の視界が悪く、右側面はの対応は必然的に遅くなってしまう欠点があった。そのため右側のシールドは大型化されている。それに伴うトップヘビー化へのカウンターウェイトも兼ね、低下した機動性を補うため"グフ"を参考に補助推進器が脚部に搭載された。

 砲撃武装及び弾倉、給弾機構、管制システムがランドセルに集約されパッケージングされており、弾丸補充にはほかのMSの手を借りなければならず、運用に不便な点があった。バックパックは武装のアタッチメントにスモークディスチャージャーも集約搭載され、撃ち切った"ビッグガン"は任意でパージが可能であった。支援機故に携帯武器は通常携行しないが、"ザクマシンガン"ほか、ザク用の各種携行火器は流用可能である。

 運用は主に遮蔽物を利用した間接照準射撃だが、場合によっては直接照準射撃も行う。支援用としては極めて優秀な機体であり、本機のコンセプトは後にMS-12"ギガン"へ受け継がれている。

 "ザクキャノン"は試作された9機全機が北米で実戦参加したとされており、主に"キャリフォルニア・ベース"に配置されたと記録されている。しかし、アフリカ戦線や東南アジア戦線など、地球上の各地域での投入が確認されており、現地改修などを含めて、多くの"ザクキャノン"が生産されていたという。現地改修の代表として、砲撃武装をバックパックに集約していた事で実現したMS-06JK "ザクハーフキャノン"がある。"ザクハーフキャノン"は、"ザクキャノン"の180mmキャノン砲、ランドセル、右肩シールド等をオプション化し、MS-06J "ザクⅡ"に換装した機体。オプションは初期生産分の24セットの生産が決定され、セットの中には180mmキャノン砲と交換して装着する120mmガトリング砲も用意されていた。このガトリング砲を装備する際には、右腰のビッグガンが弾倉帯と干渉するため、左腰のビッグガンのみ装備される。この改造キットは現地で絶大な評価を受け追加生産が間に合わない程であったとされ、苦しい戦いを強いられるジオン地上軍を支えていた。

 東南アジア戦線では、地球連邦軍コジマ大隊に所属する第08MS小隊が、下半身を土中に埋めて砲台化した"ザクキャノン"と交戦したという記録が残されている。また、"オデッサ"では"サムソン"トレーラーに大破した"ザクキャノン"の上半身のみを固定した移動砲台も確認されている。

 

 

 

 

 

YMS-07B グフ

所属 ジオン公国軍

開発 ジオニック社

生産形態 量産機

全高:18.7m

頭頂高:18.2m

本体重量:58.5t

全備重量:75.4t

出力:1,034kw

推力:40,700kg

最高速度:99km/h(地上最大走行速度)

装甲材質:超硬スチール合金 発泡金属 カーボンセラミック ボロン複合材料

 

 ジオン軍初の地球環境、1G下における、より高度な陸戦運用能力及び局地戦に特化した対MS白兵戦用MS。ジオン地上軍は地球侵攻に向けてMS-06F "ザクII"を地上用に改修したMS-06J "ザクII"を投入することで対処した。しかし宇宙空間での運用を念頭に開発された機体の改修には限界があり、新たに陸戦専用のMSの開発が求められて完成したのが"グフ"である。

 "グフ"のプランは地球侵攻作戦によって制圧した北米"キャリフォルニア・ベース"で設計・開発が進められ、ジオニック社によって"ザクII"J型をベースにより地上戦に特化させたYMS-07 "プロトタイプグフ"が完成した。6割に近い部品の流用もあり、比較的短期間で開発に成功し、当初はMS-07 "グフ"とMS-08の二つのプランが平行して進められたが、MS-08プランはYMS-08A 高機動型試験機の5機をもってYMS-07A "グフ"のプランへ統合された。ただし、後にMS-08の型式番号を継承したMS-08TX "イフリート"が製作されている。

 実際の開発にあたってのコンセプトは、『"ザクII"J型以上の陸戦運用能力と、連邦軍のMS開発、及び鹵獲された"ザクII"との戦闘を前提とした格闘戦能力の充実』である。そのため冷却系を強化、脚部動力パイプを収納式とする事で被弾面積を小さくする事をはじめとし、胸部装甲の強化、"ザクII"では右肩に固定されていたシールドを取り回しの良い左腕部の外装式に変更、より格闘戦に適した装備形態となった。更に、機体本体への固定武装の追加、両肩に敵への示威効果だけでなく、敵MSの懐に潜り込み下から突き上げる様なタックル攻撃を想定し大型化したスパイクアーマーを備える等の改良がなされた。

 "ザクII"で問題となっていた装甲強度や運動性の向上を、装甲材質、フレーム、駆動系のパルスモーターから改良した事により、"ザクII"と40%のパーツを共通化しつつも文字通り"ザクII"とは違う機体となった。特に装甲は"ザクII"に比べて厚く、量産型でも、後に実戦投入された連邦軍のMSに標準的に搭載されている60㎜頭部機関砲の直撃に十分耐える装甲を持つ。また、後にジオン製のMSのスタンダードとなる着色層一体型傾斜機能複合材を初採用した事も大きい。これは旧世紀に一般化した技術であるアルミニウム着色技術に発想を得たもので、これにより装甲、塗料が一体化し、更に防蝕機能、電磁波遮断機能など多機能性を持たせ、機体の軽量化に貢献している。

 機動力の面では、陸上における運用のためラジエーターの大型化とともに機体の軽量化が図られ、強化された脚部は新型の二足歩行システムをはじめとし陸戦を徹底的に追及し、ジャンプ補助兼格闘戦用のサブスラスターも採用された。また、新型バックパックはYMS-08A 高機動型試験機のデータを基に製作され、短距離ダッシュ能力は大幅に強化された。これによって"グフ"は"ザクII"より20%以上の性能向上を果たした。これらにより総合的な機動性能そのものを向上させるだけでなく、突発的な事態に伴う機動性低下へも対処されている。

 量産化にあたり試作型からの主な変更点はモノアイスリットを前方のみとしたこと、脚部の動力パイプを内装式としたこと、脛部にスラスターを追加したことなどである。本体は予定されていた固定武装の開発よりも先行して製造されたため、通常のマニピュレーターを装備した試験型テストタイプ のYMS-07AがドダイYSとの連動テストや局地での可動データ収集をおこなった。この機体のテストデータを基に初期生産型であるMS-07Aが32機が先行生産されている。両腕の固定武装は試作型であったYMS-07Bで標準化され、その後に標準装備型のMS-07Bとして本格的に量産化されている。試作型は標準装備型と基本的に同一の仕様だが、ファインチューニングを施されていたため好成績を挙げている。本機は開発当初からMSの行動可能半径の増大が課題とされていたため、重爆撃機"ド・ダイ"YSとの連携攻撃を考慮されていたおり従来指揮官機用だった頭部通信アンテナ(ブレードアンテナ)を標準装備としているのが特徴である。

 YMS-07Bは対MS戦用の左腕部内蔵式5連装機関砲、右腕部に"ヒートロッド"をはじめとする固定武装を追加装備したYMS-07の3号機以降の機体を実戦投入したもので、この機体の仕様が本格量産型の基となった。"ザクII"の生産ラインに替わって量産化された"グフ"は、"ザクII"の後継機として量産が進められ、"ドム"が開発された後も"オデッサ"や"ジャブロー"での戦闘に大量に投入された。白兵戦を重視した本機は高性能で、熟練パイロットに特に好まれたが、一般パイロットには扱いづらく、操縦性に難点があった。また、多くの内蔵式固定武装は白兵戦時の取り回し及び機体の前面投影面積を大幅に減少させる事に成功はしたものの、接近戦用に特化し過ぎた結果汎用性や整備性に欠けたため、改良型のMS-07B-3では通常型マニピュレーターに戻されている。

 本機を母体にMSを飛行させる計画が進められていたが、計画は芳しい結果を出さずに終わった。しかし、副産物としてMSのホバー走行にめどが立ち、ツィマッド社の"ドム"でMSの行動半径拡大という目的は達成されることになる。以後陸戦用MSの生産の主体は"ドム"に移ったが、一部の熟練パイロットはその後も、垂直方向への機動力が高く、より立体的な3次元機動を可能とする"グフ"を好んでいたようである。

 右腕部に装備された"ヒートロッド"は対MS戦闘用に開発された特殊兵装で、全長18mにも及ぶ伸縮する特殊金属による多節鞭である。鞭自体の発する熱によるダメージに加えて、電撃を送り込むことによって敵MSの電装系をショートさせるか、パイロットを感電させる事で行動不能に追い込み、鹵獲するための兵器である。また、打撃武器としての性能も併せ持っており、車輌やMSの装甲も破壊出来る他、不規則な軌道を描くため回避が困難であるという特性もあった。この"ヒートロッド"に端を発する装備は現地で高い評価を得、改良型としてロッド部分をワイヤーに変更、先端に電磁石を取り付けた物や、爆薬を取り付け地雷除去専用にしたものなど多くが開発された。

 左腕部内蔵式5連装75mm機関砲も同じく対MS戦闘及び、MSが苦手とされる対空戦闘を前提に装備されたものである。手持ちの大型の武器は前面投影面積を増加させ、また白兵戦時の取り回しには難があった。更に、格闘を仕掛ける際、武器を格納、投棄、持ち変える事なく格闘兵装を構えつつ、牽制を始めとする射撃や対地掃討に使用可能にする為である。つまり、右腕部、左腕部を完全に作業を分担させる事により、より有利な状況に立とうと装備されたのである。口径の75mmは、対航空機、対車輌及び近距離における高初速と装甲への貫徹能力を考慮した結果であり、"ザクマシンガン"ではオーバーキルであった対車輌戦闘においては概ね高評価であった。対MS戦にはストッピングパワー不足が指摘され事があったが、単発での火力や継戦能力には劣るものの、砲身数と連射性能による瞬発火力及び面牽制制圧効果は高く、集弾効果によりスペック以上の火力が発揮出来た。またその特性はMSが苦手とされる対航空機戦において最も発揮され、その対空性能を買われ"ド・ダイ"YSとの連携運用が考案され、実際に戦線に投入された。

 問題としては操縦系統が煩雑かつ複雑になってしまった事、内蔵式かつ左右非対称の設計は生産性、整備性を低下させ、複雑かつ短小なマニピュレーター自体を砲身とした事で汎用性、装弾数、命中率、射程距離などあらゆる性能が犠牲となってしまった事である。戦闘中に弾切れを起こしても迅速な補給は不可能であり、基地に帰還し補給する必要があるもあるのも問題であり、デッドウェイトの増加にも繋がってしまっていた。命中率に関しては、マニピュレーターの親指に当たる部分を射撃用センサーとし命中率を底上げしたバージョンも開発されたものの、後にオミットされ、別ユニット化される結果となった。しかし、後のMSを見ると腕部に内蔵火器を搭載したものは多く、"ヒートロッド"と合わせ、MSという汎用性を重視した兵器において特化型を開発すると言う大きなブレイクスルーをもたらした設計であると言える。これらの兵装は、MSに関しては先見の利があるジオンであるが、そのジオンにおいても対MS戦はトライアンドエラー、試行錯誤の連続であり、この様な兵装が試験的に装備され、実戦に投入されている。

 マニピュレーター部は"ザクII"と共通であり、"ザクII"と同じ装備が使用可能。それに加え、"グフ"には専用の格闘兵装として"ヒートソード"が用意され、対MS戦闘において猛威を振るったとされる。

 "ヒートソード"はシールド裏または腰部背面に装備されている格闘武器。多数の種類があり、最初機型は"ビームサーベル"のテスト型であり、収納時は柄のみの状態だが、形成された刀身により相手を溶断することが可能。しかし、ジェネレーターの出力不足にIフィールドを投影しメガ粒子を安定させる事が出来ず、代用として特殊な形状記憶型の高分子化合物の発熱体を使用したがそれでも安定させる事が出来なかった。そのためごく一部のみの配備にとどまった。

 その後"ヒートホーク"を強化発展させた形で、セラミック系赤熱体の刀身をプレヒートする事により対象を溶断する量産型の"ヒートソード"が開発されたが、ベテランパイロットには依然として"ヒートホーク"を装備する者も多かった。しかしながら"ヒートソード"は限定的ではあるがエネルギーの再チャージが可能であり、またプレヒートしなくてもある程度の斬撃能力があった。重量配分や重心の位置の関係上純粋な打撃力こそ"ヒートホーク"に劣るが、斬撃や切り返しの速さ、リーチの長さにはこちらが長けており、現地での評価は高く約2倍のサイズを持つ試作型"エクスキャリバー"も開発されたが、"ビームサーベル"の開発の目処が立ちごく少数の生産に留まった。

 シールドはマウントを介し接続するかマニピュレーター対応ハンドルを用いるかが選択可能であり、これは防御面を自由に変更出来る上、不要になった際は投棄が可能であると、"ザクII"の肩部接続式より運用柔軟性に秀でていた。

 "グフ"は、鮮烈なMS開発競争の発端を飾り、その過渡期を戦ったMSではあるが、その速さ故、十分な性能を持ちながらすぐに主力の座を奪われてしまった悲劇のMSである。しかし、その設計思想が与えた影響はかなり大きく無視出来ないものであり、まさに"一年戦争"におけるMS開発の背景を埋める"喪われた環"(ミッシング・リンク)であると言えるだろう。

 

 

 

MSM-03 "ゴッグ"

頭頂高:18.3m

本体重量:82.4t

全備重量:159.4t

出力:1,740kw

推力:121,000kg

最高速度:25km/h

装甲材質:超硬スチール合金 チタン・セラミック複合材

武装

キアM-23型メガ粒子砲×2

魚雷発射管×2

アイアンネイル×2

フリージーヤード

 

 "ゴッグ"はツィマッド社が開発した、ジオン公国軍の量産型水陸両用重MS。MSM-03-1"プロトタイプゴッグ"を経て、水陸両用MSとして初めて量産化された機体である。ジオン軍水陸両用MS後発機が全て通常の人型フォルムからかけ離れているのは水中航行の水の抵抗を考慮し、武装の全てを内装・固定式とし、汎用性よりも火力と攻撃力、及びステルス性を重視し、水中での稼動率を向上させることが優先されたためである。また、水中での一般作業は"ザク・マリンタイプ"に任せ、海上でのシーレーン確保や沿岸でのゲリラ戦、及び破壊活動ではもっぱら"ゴッグ"をはじめとする水中戦闘に特化した専用機に任せるという方法がジオン軍内部で広まりつつあったのも、水陸両用MSが"ザク"系をはじめとする汎用型MSとは別の進化の道を辿った一因でもあった。

 水中での最高速は70ノットで、機体各部に設けられたインテークから取り入れた海水を利用する熱核水流ジェットによって航行する。この熱核ジェットはハイパフォーマンスを発揮したため、後に"ドム"へと改良され取り付けられた。

 腕部にはフレキシブル・ベロウズ・リムと呼ばれる多重関節機構が採用されており、水中航行時は伸縮し、脚部と共に胴体内に引き込むことで抵抗を軽減する。また、一つ一つをブロック化する事で高い守備力、対水圧性能を持つに至り、後々ほぼ全ての水陸両用MSに採用されるに至った、

膨大な水圧に耐えるため装甲は厚く、機体構造自体も頑強であり、本機体の特徴はツィマッド社の装甲技術が生かされた重装甲と言えるだろう。

 材質は超硬スチール合金とチタン・セラミック複合材であり深度200mの水圧にも耐えるその装甲はバルカンやミサイル程度の実弾兵器を受け付けない強度を誇る。 が、その反面ビーム兵器の前では無力であり重装甲故に動きが鈍る陸上ではビーム兵器のいい的であった。この重装甲に加え、大量の冷却水を積載するため地上での動きは鈍く、冷却システムの構造上、地上における作戦時間は1~2時間程度であったと言われている。このため、"ゴッグ"は上陸侵攻作戦などで多くの戦果をもたらしたものの、MIP社が開発したMSM-07"ズゴック"が水陸ともに高い性能を示したため、急速に主力の座を譲ることとなった。

 後に統合整備計画によって再設計され、装甲を犠牲にする事によって機動性を大幅に改良し、元の機体コンセプトから全く別の機体となった"ハイゴッグ"が登場している。"ゴッグ"の武装は全て固定武装となっており、腹部には"プロトタイプゴッグ"と同様のキア社製のキアM-23型メガ粒子砲と魚雷発射管が内蔵されている。また、"ゴッグ"はビーム兵器を搭載、運用するために高い出力を引き出すジェネレーターと、それに見合った冷却システムを持つ必要があった。しかし、ビーム兵器のMSへの携行がまだ実験段階にあったジオン軍ではエネルギーCAP技術が連邦軍よりも遅れており、実用化に手間取っていたが、"ゴッグ"においては活動の場所となる水中に天然の冷却材が豊富に存在する特異な環境を逆手に取り、冷却システムに水冷式ラジエーターを採用し、高い冷却能力を持たせることでジェネレーターの出力を高め、ビーム兵器を充分に稼動させる程の出力を得ることに成功したのである。上陸時に冷却水を貯めるためのバラストタンクを内装するためのレイアウト変更もあり、人型から離れた特異なフォルムを持つ一因ともなった。しかし胴体内蔵式の武装は使い勝手に欠け、攻撃の為には胴体ごと向き直る必要があり、後の水陸両用MSには腕部に武器が搭載された。

 こうして、安定した高出力と高い冷却能力を持つ"ゴッグ"はジオン軍MSとしては初めて、ビーム兵器の搭載に成功した。後に普及するエネルギーCAP式と違い、ジェネレーター直結型式のメガ粒子砲を腹部に二門装備する。連射は不可能だが、MS単体に高い火力を持たせることが可能となったのである。しかしこのメガ粒子砲は収束リング、加速器、チャンバーに問題があり、高出力射撃や収束したビームを撃ち出せず、結果広範囲に打撃を与える拡散ビームとなった。メガ粒子砲は上陸時において前面の敵部隊や軍事施設の破壊に使用され、新装備"アイアンネイル"と共にその威力が期待されていた。

 腕部は従来のマニュピレーター式から、斬撃武装として使用可能な"アイアンネイル"を初めて採用した。"アイアンネイル"はチタン合金で形成された爪型マニュピレーターで、奇襲作戦時において敵水上艦艇や湾岸に点在する軍事施設の破壊にその威力を発揮し、実態弾武器やビーム砲と異なり、出力や複雑な射出装置を必要としないローテク兵装でもある。"アイアンネイル"は水中におけるマニュピレーター方式の抵抗の大きさ、繊細さに対する反省から生み出された水中用MS特有のもので、MSの売りの一つであった作業性は失われたが、単体での格闘戦能力は大幅に向上した。大戦後期に連邦軍がMS配備を開始し、MS同士による戦闘が頻発した後も対MS用格闘武装として使用することも可能だったため、パイロットからは概ね好評であった。"アイアンネイル"は水上艦の船底を破壊して魚雷を使わずに破壊・撃沈させることや、航行中の敵潜水艦の外殻に穴を穿つ、といった芸当から上陸した湾岸での港湾施設やコンビナートでの破壊活動にも使える装備であり、ルナ・チタニウム装甲に穴を開けるほどの鋭さと強度を持っていた。魚雷などの装備に限界のある"ゴッグ"にとっては最大の武器、といっても過言ではないだろう。

 また、武器としてだけではなく、その硬度と強度から両腕の"アイアン・ネイル"を重ねることで簡易シールドとすることも可能であった。

 頭頂部には"フリージーヤード"というカプセルに収納されたゲル状の物質が搭載されている。これは航行時に頭頂部から発射して機体を覆うことで、機雷や爆雷を無効化することができる、一種のゲル化装甲である。元々は脱ぎ捨て可能な"イルカ肌"として開発されたものであるが、副産物として"フリージーヤード"には、ソナーによる探知を低減する効果もあった。

 海上や海中に敷設、浮遊して"ゴッグ"潜水部隊の行く手を阻む磁気機雷は全てこのゲルに絡め取られ、無力化される。微小な衝撃で機雷が爆発したとしてもゲルで衝撃が半減され、"ゴッグ"本体にはダメージを及ばせないなどの効果もあり、ゲル装甲としての役割を果たした。また、機雷を無力化するだけではなく、ゲル化剤にはステルス材が混入されており、これによってソナーに映りにくくなるなど上陸用の特殊兵器としてその威力が期待されていた。だが、"フリージヤード"展開時にはウォーターインテーク閉塞の危険性があるため長時間は使用できず、使用後は速やかに排除する必要があった。またゲルを取り込まないためにハイドロジェット・エンジンを停止させる必要があり、あくまで歩行が可能な水深の低い海岸や湾内での上陸準備における機雷の排除や軍港の湾内に張り巡らされたソナー類の無力化などに重点を置いた兵器であった。従って、"フリージーヤード"展開時は海底を歩いて移動するという形が取られる。上陸時には機雷が絡んだゲル装甲を除去剤で取り除かなければならないなどの煩雑な面もあったが、ステルス性を向上させ、"ゴッグ"潜水部隊の後に続く友軍上陸艇や潜水艦の安全確保におおいに役立ったと言えるだろう。"ゴッグ"には"フリージヤード"を除去するための除去薬剤も搭載され、上陸時に機体頭部に設置された噴出口から薬剤を流して"フリージーヤード"を化学的に分解させる。粘度は保たれているため、絡まった機雷を反応させることなく除去することが可能である。




順次更新して行きます。

案外少ないですね。

旧ザクでもだしゃ良かったな。

↑旧ザク始めました。


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ネタ・パロディ紹介

ぜひ作って欲しいとの要望から。なんでやねん。

読まなくていいです。オーダーに応えたのみのものなので。

コレだけ先に読んでもクソつまらない上にネタバレとなります。そこのところご注意ください。

抜けてるところがあったらご指摘願います!願います!!

※本編がつまらないのは仕様です。



序章

 

You ain't heard nothin' yet! (お楽しみはこれからだ!)

→世界初の音声付き映画(トーキー)『ジャズ・シンガー』の初のセリフ「Wait a minute! (待ってくれ!)Wait a minute!(待ってくれ!)You ain't heard nothin' yet!(お楽しみはこれからだ!)」から。因みに見た事はないです。つーか今見れんのかね?

 

「細けェこたぁいいんだよ!」

→某有名なAAから。それの元ネタはあるのかな?だいたい細かくはないあたりが笑える。

 

スカイアイ02

→ACECOMBAT04 shatteredskies に登場する早期警戒管制機(AWACS)E-767コールサイン"Skyeye"から。エスコンは結構やってます。クッソ下手ですが。

 

アロー06

→EUROFIGHTER TYPHOON に登場するイギリス人パイロット、ロバート・ターナーのコールサイン"アロー"から。これはどんなヤツか忘れました。誰この人?レベル。

 

「こちらフライング・タイガー03。了解、しっかり面倒見てよ?」

→機動戦士ガンダム スレッガー・ロウのセリフ「ガンダムちゃん、しっかり面倒見てよ?」から。スレッガーさんはかなり好きです。MSに乗せてやれよ。因みにフライング・タイガーは調べるとまぁ黒い。

 

『鷲は舞い降りる』

→機動戦士ガンダム キシリア・ザビの台詞から。その元は1969年,人類史上初めて有人月着陸船"イーグル"が月に着陸したときにニール・アームストロング船長が言った言葉から。その逆を言ったってことですね。また同名の小説もある。映画は面白いのでオススメですね。

 

 

第一章

 

「陸の王者、鬼戦車M61か……」

→鬼戦車T-34から。バカが戦車でやってくる!!

 

『最初に地上にキスをした者には、最上級の"マハル"産のワインを俺が奢るぞ!』

→機動戦士ガンダム ドズル・ザビのセリフ「最初に地上にキスした者には、最上級のワインを俺が奢るぞ!」から。マハルの下りはガンダム漫画の鉄の悍馬からですね。ワインの味とか知らんけど。

 

 

第二章

 

「もう何も怖くない。………なんてね」

→魔法少女まどか☆マギカ 巴マミのセリフ及びサブタイトル「もう何も怖くない」から。本当はガンダムなので劇場版機動戦士ガンダム00の挿入歌、「もうなにも怖くない、怖くはない」にする予定が長過ぎたためボツに。因みにまどマギは見た事無いです。

 

『天空を駈け、敵機を見つけ、ただ撃墜しろ。あとはくだらないことだ』

→"レッド・バロン"と呼ばれ、"赤い彗星のシャア"のモデルとなったと言われるドイツ軍のパイロット、マンフレート・フォン・リヒトホーフェンの名言「天空を駈け、敵機を見つけ、ただ撃墜しろ。あとはくだらないことだ」 から。エースパイロットは誰も味があって面白いです。その筆頭ですけどこの人。

 

『我々は道をふさいだ岩石、小さな障害物にすぎず、

 流れを食い止めることはできなかった』

→ドイツ軍のパイロット、ハンス・ウルリッヒ・ルーデルの名言「我々は道をふさいだ岩石、小さな障害物にすぎず、流れを食い止めることはできなかった」から。この人もとんでもない人ですね。スコアがアムロみたくなってます。エーリッヒ・ハルトマンとか、戦車になりますがミハエル・ビットマンとかオットー・カリウスとかドイツ人こえーよ。

 

 

第三章

 

戦力は質×量×量

→ランチェスター第二法則から。

これは、広域戦、遠隔戦、確率戦(集団対集団の戦い)の場合に当てはまる損害量の法則で、ランチェスター第二法則は機関銃のような一人が多数を攻撃できる近代兵器(確率兵器)を使った状況で成り立つ。「集中効果の法則」「二乗の法則」とも呼ばれる。

ランチェスター第二法則に当てはまる状況から導き出される結論は戦闘力=武器効率×兵力×兵力。

つまり、多数が多数を攻撃する近代的な戦いでは、このランチェスター第二法則が適用される。

……ところでランチェスターって誰?

攻城戦では攻撃側は防衛側の3倍の戦力が必要とされる、というのが定説である

→攻撃三倍の法則 戦闘において有効な攻撃を行うためには相手の三倍の兵力が必要となる、とする考え方である。攻者が勝利すると言われる攻者と防者の兵力比率が三対一であるために、三対一の法則とも言う。

それでも何が起きるか分からんのが戦場ですけどね。

 

「まだだ、まだ終わらんよ!!」

→機動戦士Zガンダム クワトロ・バジーナのセリフ「まだだ、まだ終わらんよ!!」から。ガンダムファンでなくても誰もが1度は言っているはず!因みにこの人、第一話のキャストのとこにフツーにシャアって書いてあります(笑)。

 

0fなら死んでた

→ネットスラング 『f』とは、「人類は衰退しました」の作中に登場する、妖精さんの密度を表す単位。『f』は、fairyの頭文字。0〜15fまであり、簡単に言うと0なら死ぬ、死ぬ。15なら絶対に死なない。ご都合主義の指標です、ガンダムワールドは13fくらいかな?どこぞの不可能を可能にする男は15f決定だけど。

 

「……目が覚め過ぎた感じだ………すまないが情報を。ここはどこで、今はいつだ?」

→戦闘妖精雪風 深井零のセリフ「目が覚め過ぎた感じだ」から。この人アニメと小説で全然違う。自分的には小説版のが好きだけど。

 

『帰ろう。帰れば、また来れるから……』

→日本海軍の軍人木村昌福少将の発言。奇跡の作戦と呼ばれたキスカ島からの撤退作戦に際し、1度引き返すという英断をした際の発言「帰ろう。帰れば、また来られるからな」から。最近の艦これブームで一躍有名になった感がハンパない。映画、奇跡の作戦・キスカはめちゃ面白い。

 

 

第四章

 

……人は、そんな便利になれりゃしない。

→機動戦士ガンダム セイラ・マスのセリフ「人がそんなに便利になれるわけ、ない」から。そうだね!だから誤字脱字許して欲しいわー。

 

ガイアが俺にもっと歩けと囁いている!!

→メンズナックル2007年11月号のキャッチコピー、「ガイアが俺にもっと輝けと囁いている」から。自分に囁くのはゴーストのみですね。

 

一般人である俺を万国デタラメ人間ビックリショーに巻き込まないで欲しい。

→鋼の錬金術師 マース・ヒューズのセリフ「うるせぇ!!俺みたいな一般人をおまえらデタラメ人間の万国ビックリショーに巻き込むんじゃねぇ!!」から。そのように言われつつ「こんなのが人間兵器なんて呼ばれてんのよ?」みたいなセリフがあるのが本当に面白いところ。

 

ぐふっ

→ドラゴンクエストシリーズ 断末魔の一種。だいたいほとんどの奴がこう言って死ぬ。ドラクエの三大名物だねこれ。ムチがでるMSとは無関係だよ?トリビアのフグの回で後ろに居たけどソイツ。

 

軍曹というよりターミネーターだ。出る映画間違えてないか?

→映画 ターミネーターに登場するアンドロイド。その中で最も有名だと思われるアーノルド・シュワルツネッガー扮するT-800シリーズから。因みに筆者としてはターミネーター2が1番好き。抹殺とかそーゆー意味じゃない。

 

俺の中で織田っちが叫んでいる。

→マンガ ドリフターズ 織田信長のセリフ「米食いてぇー!!」から。ノブリンもダーナガも大好きです。焼き討ちじゃぁっ!!

 

ノーライス・ノーライフ

→タワーレコードのノーミュージック・ノーライフから。

と思ったらライトノベル のうりん!で使われてました。のうりんは自分みたいな子供には刺激が強い……。

 

伍長からのお見舞いの品、博多産の辛子明太子の入ったパックが置いてあった。

→フルメタル・パニック! 相良宗介のお土産から。軍曹が渡す予定がこうなる。つーか良く手に入れたなオイ。

 

「冗談ではない!!」

頭の中で赤いエビに"ファンファン"がはたき落とされる。

→機動戦士ガンダム シャア・アズナブルのセリフ「冗談ではない!!」から。赤いエビとはズゴックの事。ズゴックのモチーフはザリガニかなんかだったと思う。三杯酢でいただける……のか?

 

タイーホされない?

→ネットスラングから。逮捕の意味。これまだ使われてんのかな?パソコン持ってねぇから分からん。

 

『細けェこたぁ気にすんな!!バレなきゃ犯罪じゃねぇんだよ!!』

→ジョジョの奇妙な冒険 空条承太郎のセリフ「バレなきゃあイカサマじゃあねえんだぜ……………」から。ジョジョは一冊も読んだことないです。とゆーかマンガあんまり読まない。

 

「何が始まるんです?」

「大戦はもう始まっている!寝言は寝てる時だけで十分だ。軍曹!!」

→映画 コマンドー カービー将軍の隣にいる兵士のセリフ「何が始まるんです?」から。その答えは「第三次大戦だ」。吹き替えによって若干異なる。映画、特にシュワちゃんが出てる映画が多いのは趣味です。

 

その発想はなかったわ。

→ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!! 板尾の嫁が発したセリフ、「その発想はなかったわ」から。マンネリとか言われてますけど毎年大爆笑です。

 

『よい戦場を』

→鋼殻のレギオス 天剣授受者デルボネ・キュアンティス・ミューラのセリフ「よい戦場を」から。個人的にはシャーニッドが1番好きだなぁ。

 

 

第五章

 

.45神話

→45口径神話、.45ACP神話とも。アメリカ人にとって.45口径には西部開拓時代から文化的にも特別な思い入れがある、という背景から使われ続けた事を指す。世の中には.60口径とかいうバカハンドガンもあるけどね。

 

戦車の上で百貨店でも開こうかね。

→ソ連人、ヨシフ・スターリンの言葉、「どうして、戦車を『ミュールとメリリズ』にするのか理解できない」から。多砲塔戦車の設計スタッフに対する皮肉である。「ミュールとメリリズ」は帝政ロシア時代のモスクワの百貨店名、現中央百貨店ツム。これをきっかけにソ連では多砲塔戦車の開発が中止された。でもロマン。家に悪役1号のプラモあるし。ほんとロマン。

 

現に、旧世紀ではブローニングM2重機関銃で約2kmの狙撃に成功している。

→ベトナム戦争、フォークランド紛争においてその様に運用された。それが後の対物ライフル開発に繋がった。こーゆー裏話みたいなの大好きだったりします。

 

こいつ(ゼロロク)は、既存の戦闘の常識なぞ一変させ得る存在だ。いよいよ、本格的にMSの時代がやって来るぞ──…』

→マンガ ガンダム・レガシー ゴードンのセリフ「既存の戦闘の常識なぞ一変させ得る存在だ」「いよいよ本格的に、MSの時代がやって来るぞ──…」から。夏元さんのマンガ大好き症候群です。

 

 

第六章

 

つーか幾つなんだ?前聞いたら『マラ歳だ』って

→機動戦士Zガンダム RMS-108"マラサイ"から。と思ったらこれもライトノベル のうりん!であった。みんな考える事同じって事か……。

 

……あれ?刻が見える…?

→機動戦士ガンダム ララァ・スンのセリフ「あぁ…刻が見える…」と機動戦士Zガンダム キャッチコピー「君は、刻の涙を見る」から。で、刻の涙とは結局なんだったのか?

 

それは戦車の仕事じゃねーよ!!お前たちは戦車の上で百貨店を開こうどころか戦車を天空の城にしようしたんかよ!!

→天空の城ラピュタから。ドラクエVの天空城やスーパーマリオ64でも言いけど。空中要塞とかロマン。だがギガントお前じゃねぇ座ってろ。

 

「………さて、ザクハント始めますか……」

「一狩り行こうよ!!」

「……狩りに、備えて………狩っておけ……!」

→モンスターハンターシリーズから。

一番上はメタルギアソリッド ピースウォーカーとのコラボでカズヒラ・ミラーのセリフ「さて、モンスターハントと洒落込むか…」から。無理やりか?因み両方プレイ時間がトンデモない事になってます。

 

 

第七章

 

つーかその肩のトゲ、意味あんのか!?

→マンガ 機動戦士ガンダムさん ゲルググのセリフ「つーか肩のそれなんすか!?ムカつくんですけど!!」あたりから。あんま覚えてない上マンガが見つからん……。

 

世界一怪我人が乗るのに向かない乗り物だコレ!!

→フルメタル・パニック!から。登場兵器ASを指しそう言及している。まぁ救急車が怪我人轢いたりするこの世の中怪我人が乗る物はねぇかも。

 

(小学生並の感想)

→ネットスラングから。(小並感)とも。言葉の意味そのまま。自分もホントコレでした。

 

「あ"ぁ"、何とかな……」

某クソゲーの主人公の戦友みたいな声を出す。

→デスクリムゾン ダニーか、グレッグというそのシーンに名前を呼ばれるだけの人。因みにやりました。クソゲーでした。おーのー(笑)。

 

「……一言だけ忠告しておく。……死ぬ程痛いぞ……?」

→新機動戦記ガンダムW ヒイロ・ユイのセリフ「ならひとつだけ忠告しておく。死ぬほど痛いぞ」から。因みにガンダムW見た事ないです。ここら辺がにわか以下と呼ばれる所以か。

 

 

第八章

 

よいこのじかん〜しょういおにいさんと、もびるすーつにのってみよう〜

→フルメタル・パニック! よいこのじかん 〜マオおねえさんとアームスレイブにのってみよう〜から。

フルメタを個人的に最高クラスの作品にしているのはここら辺の設定だと自分は信じてる。というかめちゃくちゃ影響受けてます(笑)。

 

後にMS-01"クラブマン"と呼ばれる、MSの先駆けである。

何?クラブマンて?篠原重工のレイバーかよ。

→機動警察パトレイバー 篠原重工の開発した一般土木作業用の4足歩行型レイバー。特徴的な4脚の先端には鉤爪とタイヤがついており、その高い安定性から圧倒的なシェアで主に足場の悪い山岳地帯で従事している。外国向けの"ハイレッグ"もあるよ。実はラスボス。

 

決して天空の城を崩す古の魔法の言葉ではない。濁点じゃないしね。

→天空の城ラピュタ 例のあの呪文。皆大好き自爆。うっかり呟けそうなそんな短い単語でいいのかと小一時間。

 

しかも脳波コントロール………は無理。怖くもない。

→機動戦士ガンダムF91 鉄仮面のセリフ「ふはははは、怖かろう」「しかも脳波コントロール出来る」から。聞いてもないのにそんな事を自慢げに教えてくれる婿入りで嫁に逃げられる鉄仮面さん、頭のアレは宇宙ブーメランです(笑)。ボツになったけど。

 

"酢とリーと歯痛・痛"

→読み方は"ストリートハイター・ツー"。ストリートファイターをほぼ完全再現した個人ゲーム。完成度がヤバい。最強技は"竜巻扇風機焼く"。「108、1900!」に聞こえるのは本物譲り(笑)。

 

拝啓 オフクロ様。

我が隊にMSがやって来ました。

→前略おふくろ から。因みに自分はコレを知らず魁!クロマティ高校からでした。好きなキャラは前田です。

 

 

第九章

 

「そんなの、あんまりだよ。こんなのって、ないよ……」

→魔法少女まどか☆マギカ 鹿目まどかのセリフ「そんな…あんまりだよ、こんなのってないよ」 から。見てないので何も言えねぇけどまぁそんな感じ。というよりこの人主人公なのに活躍しないってマジですかね?

 

本日は晴天なれど波高し。

→日露戦争・日本海海戦直前の連合艦隊出動時に秋山真之中佐が大本営へ打電した文面の一節「本日天気晴朗なれども波高し」から。こーゆー、「何かが始まる前の有名な言葉」みたいなの大好きです。そーゆー事言える大人になりたい。

 

「……分かった、よぉーし!!野郎ども!気合いれてけや!!モタモタしてっと川流しだ!!」

機動警察パトレイバー 榊清太郎のセリフ「もたもたしてっと海へブチ込むぞ!!」から。パトレイバー大好きですね。最高なメカデザインに個性豊かで魅力的なキャラたち。実写映画見なければ……。

 

青壁だか赤壁だか?なんか信号みてーな名前の、何だっけ?なんか船を鎖で繋ごーぜコレでゆれねーや!ってやって勝ったんだっけ?たしか。覚えてねーや。

→三国志 赤壁の戦いから。因みにコレは失策を教えられボロ負けしてます(笑)。三国志は一度読んだけどなぁくらいですね。

 

『うっ、ぐぺぺぺぺーーー!!!』

→・ファイナルファンタジーⅣ サハギンの断末魔「うっ ぐぺぺぺぺーっ!」から。

単なるザコモンスターだったサハギンが、魔界のスターダムにのし上がることになった名断末魔の一つ。少し苦しんだかと思うと、わけのわからない言葉を発するという某拳法の犠牲者のような唐突さが魅力ですね。つーか結構シリアスでいいシーンがコレで一気にギャグと化してます(笑)。

 

かがくのちからってすげー

→ポケットモンスターシリーズゲーム ふとましいモブ男性に話しかけると聞くことができる第一声である。この後に続く言葉はそれぞれの代によって違っている。まぁ、発達した科学は魔法と変わらないという名言もありますしそうなんでしょう。

 

どこぞのガンポッドみたくジャム(弾詰まり)らない?アレは海水だったけど。

→マクロスゼロ 主人公機VF-0Dが海中で戦闘を行った後主兵装であるガンポッドがジャムる事から。因みにそのあと撃破されます(笑)。主人公が事あるごとに撃破されその持ち前の主人公補正とサバイバリティを発揮するアニメ。ガウォークの戦闘シーンの素晴らしさが歴代トップだと思う。

 

「クっ、動け、動けよ!……! かくなる上は!!」

→機動戦士ガンダム アムロ・レイのセリフ「動け!動けよ!」から。ゲームでは「動けったら!」とか言ってたりもするけど。

 

つーか撤退しろよ。保有戦力の3割がやられたらフツー撤退するだろ。何で3割になってもこんな果敢に攻めかかってくるんだよ。

→軍隊の常識。おおよそ部隊の三割を喪失すると、組織的抵抗が不可能になるため、全滅と見なされる。壊滅が五割、殲滅が十割と見なされる。なのでフツー徹底的な潰し合いなんて起きず退却します。しないのはアニメだなぁ。

 

「向こうでエコバック外してるよ!」

→日常 相生ゆうこのセリフ「もしエアバックの代わりにエコバックが出て来たら?」から。エアバックの意味違うけど。もし出て来たらそれは天からの啓示と受け取って満身創痍で買い物に行きますね(笑)。

 

「良くやった少尉!!ミッションコンプリート!今夜は祝勝パーティだな」

→銀魂 坂田銀時のセリフ「ミッションコンプリート!今夜は祝勝パーティだな」から。銀魂はこーゆー独特のセリフ回し及びツッコミが好きですね。銀魂アニメで基本的にMSが出るのは神回だと思う。

 

『流されて行け。留まる事しか出来ない、私の代わりに………』

→メタルギアソリッド3 スネークイーター ザ・ボスのセリフ「流されて行け。留まる事しか出来ない、私の代わりに………」から。あらゆる意味で名作の本作を形作る重要なお人です。是非やる事をオススメします。

 

 

第十章

 

"夜明けの電撃戦"(ドーン・ブリッツ)だ。

→我らが守護神自衛隊がアメリカと共同で行った離島防衛訓練の名前。陸海空3自衛隊が初めてそろって参加する歴史的快挙でした。自衛隊の皆さんにはお世話になりました。がんばろう日本!!

 

 

第十一章

 

"幽霊"(ゴースト)は、夜歩くのだ。

→名探偵夢水清志郎事件ノート 亡霊(ゴースト)は夜歩くから。幽霊と読んだのは亡霊ではおかしいというのと攻殻機動隊と被せたかったから。はやみねかおるさんの作品は基本的にハズレがない。攻殻機動隊はアライズ見たい。

 

俺の戦場はここじゃない!!

→魔法少女まどか☆マギカ 暁美ほむらのセリフ「私の戦場はここじゃない」から。いや、ならどこ?つーか魔法少女なのに戦場ってなんか殺伐としてるなオイ。

 

この(うみ)は、地獄だ………

→機動戦士ガンダム0083 スターダスト・メモリー コウ・ウラキのセリフ「この海は、地獄だ……」から。宇宙の事を海と見たてています。きっと度重なる戦闘で疲弊しセンチメンタルな気分になってたんだろね。

 

『いい朝は、いい酒が知っている』

→桃川株式会社のキャッチコピー「いい朝は、いい酒が知っている」から。未成年だけど。酒は匂いが苦手でどうも。

 

 

第十二章

 

戦線から遠のくと、楽観主義が現実に取って代わる。

そして最高意思決定の場では、現実なるものはしばしば存在しない。

戦争に負けている時は特にそうだ。

『だから!遅過ぎたと言っているんだ!!』

→機動警察パトレイバーII 後藤隊長のセリフから。パトレイバーの映画1と2は一見の価値アリ!!小説「TOKYO WAR」もオススメ!

 

コマンドーかよ。

→映画 コマンドーから。シュワちゃんが武器を両手に大暴れ。独特の台詞回しにド派手なアクション!見るべきB級!MADが爆笑必至。

 

ここはアークレイ山地でもスリークでもないんだが……。

→アークレイ山地はバイオバザード1の舞台。スリークはMOTHER2の町の名前から。どちらも愉快なゾンビでいっぱいのステキ空間で有名。マザーは日本人ならやるべきRPGだな、うん。

 

ペイントと涙と砂で何が何だかわからなくなったドロヌーバの様になり泣きながらシャワールームに飛び込んで行った。

→ドラゴンクエストシリーズ ドロヌーバはマドハンドの親戚みたいなヤツで泥で出来た上半身だけのオッさん。戦闘妖精雪風に出て来るドロドロジャミーズそっくり。仲間になる理由が不明すぎる。

 

「なぁに、却って耐性がつく」

→ネットスラング どう考えても擁護するには無理な状況なのに、それを理不尽なまでにポジディブかつ肯定的に捉え、問題点を矮小化しごまかしたり、逆手にとって誉めそやすような独特の言葉。取り敢えずこう言っときゃいいロクでもないお隣の国のトップとか。

 

それにしてもこの教官、ノリノリである。

→世界まる見え ナレーターのセリフから。オッさんなどがノリノリな行動をとると「それにしてもこの○○、ノリノリである」などと解説する時に用いる。最近のガンダムはカッコいいオッさんが復活して嬉しい限り。

 

 

第十三章

 

バイラル・ジンかよ。

→伝説巨神イデオン 超巨大戦艦つーか要塞。なんかサイズがヤバい事で有名なイデオンの中でもかなりデカい。1/3を吹っ飛ばされようが平気な顔で航行するダメージコントロール能力を持つびっくりドッキリ戦艦。

 

まさか宇宙世紀にもなってCQBをするハメになるとは……。

→CQB。クロース・クォーター・バトル(Close Quarters Battle)は、屋内における近接格闘術の事。マーシャルアーツなどの仲間と言えばいいのかなんなのか……つまり狭い室内では銃は扱いづらいため相手をブン殴ったりする事。CQCなどとはまた別物。近いけど。

 

「ねぼし!!」

→ネットスラング 「熱膨張って知ってるか?」の略。とある魔術の禁書目録に出てくる紅茶やコーヒーを片手にハイジャック犯と戦う少年のセリフから。銃という熱に強いだろう物に対しそれらをぶっかけさぁ使えまいと言い放った勇気はギネスレベル。

 

それよか武器がハンドガンのみと鉄パイプってどこのバイオハザードだよ。

→バイオハザード アウトブレイク 鉄パイプ最強伝説。因みにどんどんひん曲がって最終的に折れる。しかしそのまま殴り続ける事の出来る頑張り屋さん。

 

せめてバイオハザードならVP70MとかマウザーC96とかがよかったよ……。

→バイオハザードシリーズ お馴染みのハンドガン。特徴的な形や3点バーストなどの特殊機能からよく登場する。マウザーはモーゼルとも。両方ともドイツ製。ドイツの科学力は世界一いいいいい!!

 

「分かってます!マテバでよければ」

「てめーのマテバなんぞ当てにしてねぇよ!!おら、このツァスタバにしろ!!」

「俺はマテバが好きなの!!だから俺はマテバを使う!」

→攻殻機動隊 トグサ、バトー、草薙素子のセリフ「マテバでよければ」「てめーのマテバなんぞ当てにしてねぇよ」「ヤバイ目にあうのは私なんだからツァスタバにしなさい」「俺はマテバが好きなの!」から。マテバのデザインはカッコいいの一言。トグサくん分かってるな!因みに札束と聞こえるツァスタバとはチェコスロバキアの銃器メーカーチェスカー・ゾブヨフカ社製のハンドガンCZ100の事。ユーゴスラビアのツァスタバ・アームズ社製ハンドガンCZ99というややこしいヤツも忘れないで〜。

 

『我々の間には、チームプレーなどという都合のよい言い訳は存在せん。

有るとすればスタンドプレーから生じる、チームワークだけだ』

→攻殻機動隊 荒巻課長のセリフ「我々の間には、チームプレーなどという都合のよい言い訳は存在せん。有るとすればスタンドプレーから生じる、チームワークだけだ」から。攻殻機動隊も大好きな作品の一つ。タチコマのプラモデル欲しい。

 

ホントはキャリコとかでも良かったかも。

→キャリコM110という100発装填、連射出来るハンドガン。ハンドガンである意味が不明のびっくりドッキリハンドガン。有名どころで言えばフェイト/ゼロのエミヤんが使ってる。つーかあの人たちも銃はかなりマニアックである。

 

 

第十四章

 

「バラバラに吹っ飛んじまってる。ミンチより酷ぇよ」

→機動戦士ガンダム0080ポケットの中の戦争 バー兄ぃを見たモブ連邦軍人のセリフ「バラバラに吹っ飛んじまってる。ミンチより酷ぇよ」から。「ミンチより酷ぇや」が有名だがそうではない。まぁどっちみち挽肉。

 

「おう!ファイアインザホー!!」

→FPSでよく聞く三大セリフの中の一つ。街中で叫んでみたいセリフナンバー3に入ってそう。ファイアインザホール(Fire in the hole)とは、爆破・発破する際に周囲に注意を呼びかけるための言葉。意訳すると「爆発するぞ!」である。

かつて大砲を発射する時に、砲身に備えられた導火用の穴に松明などで点火した事に由来する。タバコを携帯灰皿に押し込んでるワケではない。

 

「……神は留守だよ。休暇とってベガス行ってる」

→ブラックラグーン 暴力教会のシスター・エダのセリフ「神は留守だよ。休暇とってベガス行ってる」から。これも面白いセリフ回しが多い。下品なスラングが多いけど。その中でもこのセリフは大好き。

 

 

第十五章

 

"デッカードブラスター"ショットガンバージョン見たくなってる。

→映画 ブレードランナー 主人公のデッカードが使うハンドガンの事。リボルバーに大きな銃身、ボルトアクションレバー、トリガーの二つ付いた独特な形状が人気の秘訣のハンドガン。グリップもクリアでオシャレ。なんか光る。

 

「嫌です!!これは運命の、いや!念願の一品です!!ころしてでもうばいとります!!」

な、なにをするきさまらー!

→ロマンシングサガ アイスソードの手に入れ方から。このセリフの前に「ねんがんの アイスソードを 手に入れたぞ」とつき、コレもよくネタにされる。つまりゲート・オブ・ネタ。

 

さらさら、風がまわる……………

→映画ポケモンの主題歌の一つ、ちいさきもの の歌詞「さらさらまわる、風の中でひとり…」から。壮大な曲がかっこいいです。歌ってるのが14歳と聞くと世界が変わる。

 

 

第十六章

 

やはり風呂はいいものだ。風呂は心を潤してくれる。 リリンの生み出した文化の極みだよ。

→新世紀エヴァンゲリオン 渚カオルのセリフ「歌はいいね。歌は心を潤してくれる。 リリンの生み出した文化の極みだよ」から。ちなみにエヴァンゲリオンも見た事ないです。つーか3話みてやめました。碇君に腹が立ったので。

 

そらローマ人もタイムスリップするわ。

→テルマエ・ロマエから。フロは大好きなので、ローマ人とは仲良く出来そうだというか親近感の湧く妙な作品でしたねおもろかったけど。

 

「……肯定。だが、やり過ごした……発砲は、してない…ロスでは……日常茶飯事……」

→ネットスラング ニュースでロサンゼルス市民が「ロスでは日常茶飯事だぜ!」と言っている画像が元ネタの定型句である。恐るべき銃社会アメリカはへストンワールドがどっかか?人が人を殺すのだぁー!

 

「いらっしゃいませー!!」

ファイナルファンタジーVII ザックス・フェアのセリフ「いらっしゃいませー!!」から。この人大好きですね。かっけぇっす兄貴!クライシスコアしかやった事ないけど。

 

ここは既にこちらの銀の庭だ。

→君の銀の庭という曲から。聞いた事無いけどそーゆー単語を某動画サイトで見かけたので。なんだろう?銀閣寺かなんか?ところで銀閣寺にあるプリンみたいな山なんて言うっけ?そもそも銀閣寺の本当の名前なんだっけ?そもそも銀閣「寺」って言わんよね。

 

『戦いの基本は格闘だ。武器や装備に頼ってはいけない』

→メタルギアソリッド サイボーグ忍者ことグレイ・フォックスのセリフ「戦いの基本は格闘だ。武器や装備に頼ってはいけない」から。と言いつつ姿を隠しつつ斬りかかってくるヤツはなんなのか?

 

 

第十七章

 

「……トリアーエズ、おやっさんのとこ行くか…」

→地球連邦軍の戦闘機 FF-4"トリアーエズ"から。取り敢えず出撃するハズがカットしまくられた不遇の戦闘機。ザコの代名詞。デザインもダサいしな。

 

ソウルジェムあったら一瞬で真っ黒に濁るレベルだコレ。

→魔法少女まどか☆マギカ 変身するための重要アイテムかと思いきや弱点アンドエネルギーの総量を見るもの………あっ!カラータイマーや!!

 

「……だが、断る」

→ジョジョの奇妙な冒険 岸辺露伴のセリフ「だが断る」から。前後を知らんので何故これがこんなにも有名なのか……あ、使いやすいから?

 

「ったく、しけてんなー。あー分かったよ!そうするよ。すりゃいいんだろ?このプロセスチキンが」

→人類は衰退しました わたしのセリフ「何を言ってやがりますかねこのプロセスチキンは」から。リアルにプロセスチキンと話してますが今回は臆病者という意味のチキンです。

 

 

第十八章

 

「そう怒鳴るなよ、兵が見てる」

→機動戦士ガンダム ガルマ・ザビのセリフ「笑うなよ、兵が見てる」から。ガルマ関係って名言が多い気がする。シャアの数少ない友達だからか?

 

銘柄は"ラッキーストライク"だ。

→米軍などの風習から。ヘルメットのバンドで目立つタバコのハコを括り付け自信をアピールする。ゲン担ぎとかも兼ねるんだろうけど姿を晒すなよ。

 

なんやねんこのココット村の村長みてーな感じ。

→モンスターハンター そのまんまの意味で村長。最近は受付嬢ですが昔はこんな風に村長からクエストを受けてました。昔は名の売れたハンターだったのだが膝に矢を受けたのか?

 

「"ゴキブリゾロゾロ"!」

→近藤和久版機動戦士Zガンダム ブライト・ノアのセリフ「ゴキブリゾロゾロ!」から。交渉決裂し脱出するという意味の合い言葉。分かり易いからって自分たちをゴキブリ呼ばわりとは……。

 

 

第十九章

 

認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものを……。

→機動戦士ガンダム シャア・アズナブルのセリフ「認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものを」から。あまりにも有名だが使い道無いよねコレ。

 

モノアイが動き、目標、"ギガント"を捉える。

→ガウにつけたアダ名"ギガント"は未来少年コナンに出て来る超弩級空中要塞"ギガント"から。凄い出オチなよく分からん超兵器でった。

 

「ジ・エンドだ!!」

→機動戦士ガンダム lost war clonicles ラリー・ラドリーのセリフ「ジ・エンドだ!」から。ゲームやってるとこのセリフは妙に聞きます。お気に入りなのか?

 

 

第二十章

 

「キターーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

→ネットスラング この前後に顔文字がついたりする。正直ネットスラングという枠組みをぶっ飛んだりしてる気がしないでも無い。

 

「もうやめたげてよぅ!!」

→ポケモンシリーズ ベルのセリフ「やめたげてよお!」から。書いて気がついたコレ似てねぇ!!

 

"日本製品"(ポセイドン)

→アップルシード 企業の名前から。大日本技研が訛ってポセイドンになり、それが日本製品全般を指す様になったらしい。こーゆーのが面白いと思う。

 

 

第二十一章

 

「スモーク散布!!」

→機動戦士ガンダム MS igloo デメジエール・ソンネンのセリフ「スモーク散布!」から。最近気づいたんだがこれ音声操作じゃなくて運用試験のための録音か?ありゃりゃ。

 

「いい加減にぃ!くたばれよぉ!!」

→ガンダムセンチネル リョウ・ルーツのセリフ「いい加減くたばれよおっさん!」から。無理くりブチ込んだので違和感がハンパ無い。まぁ興奮してると言うことで。

 

「痛い……痛いぃぃぃいい!!」

→機動戦士ガンダムSEED イザーク・ジュールのセリフ「痛い……痛いぃぃぃいい!!」から。あれほど偉そうな事言って優秀さを見せつけていたイザークさんのこのセリフは優秀だろうと何であろうと、やはり子供で人間なんだと印象づけられましたね。

 

「消化活動遅いよ!!早くしろ!!手遅れになっても知らんぞー!!」

→ドラゴンボール ベジータのセリフ「早くしろ!!手遅れになっても知らんぞー!!」から。ベジータのポジションって本当になんなんだろうね?職業なんやろ?

 

さぁ、どう出る?トチ狂ってジオンとお友達にでもなりに行くのか?

→機動戦士Vガンダム カテジナ・ルースのセリフ「トチ狂ってお友達にでもなりに来たのかい?」から。カテジナさんはもう何がなにやら分かりません。戦場の狂気そのものでしたね。

 

来いよ司令、プライドなんか捨てて、かかって来い!!

→映画 コマンドー ジョンのセリフ「来いよベネット。銃なんか捨ててかかって来い!」から。ベネットさんはネタキャラが確立してますねっつーかほぼ全員ネタだよあの映画。

 

『海。海はいい…………男の、海だ………』

→漫画版 機動戦士ガンダム MS igloo マルティン・プロノホウのセリフ「海。海はいい…………男の、海だ………」から。この人もホント艦長やってましたね。ア・バオア・クー戦の指示がカッコよすぎる。

 

時は大航海時代!!ありったけのゴッグの破片をかき集め、金属反応を探しに行きます(笑)。

→ワンピースから。因みにあんま読んでないです。人並みには知ってますが……。

 

 

第二十二章

 

海の果てまで連れてって

→同名の小説から。心温まる読みやすい小説なのでオススメ。

 

何これ?艦これ?俺もし提督なら今すぐ鎮守府へ帰りてぇよ。

→最近流行りのゲーム、艦これから。やろうかなと思いきや着任できません(笑)。

 

「フィィィッッシュ!!イィィヤッホォォォーーー!!」

→フェイト シリーズ アーチャーのセリフ「フィィィッッシュ!!イィィヤッホォォォーーー!!」から。自分も釣りはしますが手製の竿が圧し折られてからご無沙汰ですね。あの野郎許さん。

 

大量だ。残念だったな、海の底では弔い祭りだ。

→金子みすゞの詩 大漁から。 まぁイワシ美味いよね。いや、釣ってんのはイワシじゃないけどね?

 

「ご褒美は?」

「キャンディドロップだ。食うかい?」

「むー、チョコレートがいいです!甘い夢が見られそうですし!!」

→フルメタル・パニック! メリッサ・マオとM9マオ機の管理AI、フライデーとのセリフ「ご褒美は?」「キャンディよ」と機動戦士ガンダム MS igloo デメジエール・ソンネンのセリフ「へへっ、ドロップだ、食うかい?」、リアルワールドと言う曲の歌詞「ご褒美にはチョコレート、甘い夢が見られたら」からです。これでもかとばかりに詰め込んでますね。「食うかい?」は誰か他のキャラの決めゼリフらしいすけど知りませぬ。

 

「……あれは、怪物の島イスラ・デル・モンストルオ……"バジリスコ"が、居る島なのだと……」

「へぇ、怪物達のいる処、か……」

「そうなんですか!!行って見たいですねぇ。いつか……さっきの海上プラント跡地も……きっと、何かドラマがあったんでしょうね……」

→メタルギアソリッド ピースウォーカー マザーベースとモンスターハンターとのコラボミッションの場所から。カリブ海行ってみてェ。海賊いるのかなまだ?会いたくは無いけれど……。

 

『何おう!!海はみんなの故郷なんだぞ!!』

→SDガンダム フルカラー劇場 ゴッグのセリフ「何おう!!海はみんなの故郷なんだぞ!!」から。大好きだったんですけどいつからか読んでませんねぇ……。

 

ごめんね司令さん……

→ドラゴンボール チャオズのセリフ「ごめんね天さん……」から。この自爆が殆ど時間稼ぎにすらならなかったのは子供心に響きましたね。悟空と一回もしゃべらないし、最後置いてかれるし……。

 

二十三章

 

早期警戒中の"ディッシュ"(バロール3)より入電!!

→マンガ 機動戦士ガンダム MS igloo 試作観測ポッド"バロール"から。これはデカいカメラにスラスターがついたようなもの。イグルー・ゲスト戦死の法則から逃れられず大破する。

 

コールサイン"ウイスキーGO、GO "

→マンガ 新MS戦記 機動戦士ガンダム短編集 偵察機の通信から。この使い方はあってるのか?違和感が凄いんだが。

 

「まだだ。俺たちの活躍は、島がドンパチ賑やかになってからだ」

→映画 コマンドー ジョンのセリフ「いや、島がドンパチ賑やかになってからだ」から。そのドンパチを1人で作る大佐はやはりとんでもない。それでも第三次大戦には程遠いと思うが。

 

《時間です!!アルファ1!幸運を!!"海岸で逢おう("See you on the beach)!!》

→フルメタル・パニック!から。本当はカタパルトで打ち出しだかったなこのシーンは。多分元ネタはオマハビーチか?

 

その行動は、かの有名な"ジェット・ストリーム・アタック"の真似事のようだった。

→機動戦士ガンダム 黒い三連星が有名。元は宇宙空間における対艦攻撃。前後に並び機体の数を誤認させるのが目的。Zガンダムでやけにカクリコンがしたり顔でこの作戦に拘るが別にコイツ発案でもないし失敗しまくるのはもはやギャグ。

 

サイレントヒルを買ったはいいがオープニングで既に怖すぎてそのまま売ったんだぞ。

→静岡……でなく同名のゲーム。怖い。これは自分の経験です。アレはムリだ。

 

逃げるんだよぉぉぉぉぉおお!!

→ジョジョの奇妙な冒険 ジョセフ・ジョースターの十八番。逃げる。いや、囮となったり時間を稼いだりするためなので戦略的撤退と呼ぼう。

 

「ブラボー1、2!!オールウェポンフリー!!メクラ撃ちで構わん!!撃て撃てぇ!!近づけさせるな!!」

→機動戦士ガンダム ブライト・ノアのセリフ「メクラ撃ちでかまわん!!」から。ブライト艦長は本当に名艦長。ホント19歳か?

 

《ひゃー!凄いですね!でも、思ったのと違います。汚い花火ですねぇ。もっとばぁーっと行くと思ったんですけど……》

→ドラゴンボール ベジータのセリフ「汚ねぇ花火だ」と機動戦士Zガンダム カミーユ・ビダンのセリフ「彗星かな?でも彗星ならもっとこう、ばぁーっと……」から。スイカバーは言い得て妙過ぎ。笑える。

 

 

第二十四章

 

北大西洋波高し

→南インド洋波高し から。詳しくは感想のとこにあります。

 

「バカめ……」

「は……?」

「バカめ、だ、そういってやれ……分かった。行け、提督。ここは任せろ。

→宇宙戦艦ヤマト 沖田艦長のセリフ「バカめと言ってやれ」「は?」「バカめ、だ」から。いや、言っちゃマズイやろかっけぇセリフだけどさ。

 

…………海での戦いを教えてやる。Z旗上げい!!」

→日露戦争時の日本海海戦の際、トラファルガー海戦の事例に習い、東郷平八郎連合艦隊司令長官の座乗する旗艦三笠のマストにアルファベット最後の文字であるZ旗を掲揚し、「皇国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ、各員一層奮励努力セヨ」という意味を持たせて掲揚した。そののち重要な作戦の時に上げている。ちなみに単独では「私は引き船が欲しい」、漁場では「私は投網中である」の意を示す信号。

 

《そんなに……僕たちの力を見たいのか……》

→ジパング アスロック米倉のセリフ「そんなに……僕たちの力を見たいのか……」から。こんな事いいながら勝手にアスロックを発射したため事あるごとにネタにされる。因みにアスロックとは対潜ミサイル。核爆雷もつめます。いや、核て。

 

《こいつをCICから叩き出せ!!》

→ジパング トマホーク菊池のセリフ「こいつをCICから叩き出せ!!」から。上の米倉への叱責。この人は砲雷長なのでトマホーク菊池と呼ばれる。この人の「うちーかたはじめー」はクセになる。

 

《左舷弾幕薄いよ!!何やってんの!!》

→機動戦士ガンダム ブライト・ノアのセリフ「左舷弾幕薄いよ!!何やってんの!!」から。有名過ぎるがトニーたけざきのマンガにもあるようにあんまし言ってない。

 

「………やった、か……」

→やってない。フラグの一つ。ホントにコレ。

 

「どけどけどけぇ!!うおぉぉぉぉお!!」

→マクロスゼロ ロイ・フォッカーのセリフ「どけどけどけぇ!!うおぉぉぉぉお!!」から。フォッカーさんはバルキリーで空母内を爆走してました。マクロスゼロはホントに当初の予定通りにやって欲しかった……戦闘シーンは言うことなしだけど。

 

 

第二十五章

 

結論。奇跡(偶然)はあったけど魔法は無かった。

「……そっすか……俺ってホントバカ……」

→両方とも魔法少女まどか☆マギカから。見てないのにネタにしていいものか……。でも鬱だって聞いたしなぁ……。

 

『"ジャブロー"って言ってますが……何にも見えませんねぇ…』

→機動戦士ガンダム カツ、レツ、キッカのセリフ「"ジャブロー"って言っても……何にも見えないじゃん…」から。このシーンは好きですね。未来チックで。ドラえもんの映画でこーゆーシーンあったけど恐竜のヤツで。

 

以上、無責任提督少尉ー編終了です。

次回より、ジャブロー編開始です!いってみよぉーっ!!

→無責任艦長タイラーから。見たこと無いっすOPが好きなだけで。いつかみたいなぁ。

 

 

第二十六章

 

今俺サイコパスで犯罪係数計ったら振り切れてそうだもの。デコンポーザーでバラッバラにされるね多分。

→「PSYCHO-PASS サイコパス」から。犯罪係数を図り、それに合わせ銃が変化する。デコンポーザーは凶悪犯罪者をバラッバラにする。分子レベルで。

 

「俺の人生は晴れときどき大荒れ……いいね…いい人生だよ、全く…」

→2011 鳥人間コンテスト 東北大学 ウインドノーツのパイロットの独り言「俺の人生は晴れときどき大荒れ……いいね…いい人生だよ、全く…」から。この人の独り言は爆笑すぎる。

 

「……は、はいっ!…しかし、手の震えが止まりません…」

→機動戦士ガンダム シャア・アズナブルのセリフシャア 「キシリア様に呼ばれた時からいつかこのような時が来るとは思っていましたが、いざとなると恐いものです、手の震えが止まりません」から。この時のシャア変なマスクだけなのでなんか笑える。ヘルメットとセットじゃなきゃなアレ。

 

青汁と夜空の似合う男だったぜ!!

→武装錬金 武藤カズキのセリフ「青汁と夜空の似合う男だったぜ!!」から。因みに自分は青汁ムリっす。もはやトラウマ。

 

どうしよう………。Death or Dieなんだけど。ものっそいロックンロールしてんだけど。

→日常 東雲なののセリフから。日常は好きです。全然日常じゃないあたりが。

 

全く、参謀長だとかといい情報局長などといい、『長』と肩書きにつく奴は話が長くて仕方がない。

→ゲーム MOTHER2 から。コレ名作。やるべき。

 

見上げても岩しかねぇよ………………

→曲 空を見上げても空しかねぇよ から。聞いた事無いです。見聞きしてないネタ多過ぎィっ!!

 

 

第二十七章

 

ダラダラ日記

→クラクラ日記 から。読んだ事ないですけどなんか語感が良かったんで。自分ならフラフラ日記ですかね?

 

この、ロクでも無い、素晴らしき世界へ乾杯!全く。

→缶コーヒー BOSSのCM 「このろくでもない、素晴らしき世界」 から。コーヒー苦くて飲めない。ココアだろ男なら!ブッカー少佐もそう言ってるよ多分!!

 

"定期便"など気にも留めていないようだった。

→機動戦士ガンダム ジオン軍による定期的な"ジャブロー"への空爆の事。みんな慣れすぎた上場所も見当違いなのでもはやこんな風に言われてる。

 

大丈夫じゃねーよ…精神点へのダメージが大きすぎて魔晶石がいくつあっても足りないわ……。

→色んな作品出て来る石。効果は不明。きっと爆発する。

 

「私の前世なんだが実はアメリカシロヒトリでだな…」

「あぁぁ……少尉が遂に大佐になっちゃった…」

→メタルギアソリッド2 サンズ・オブ・リバティ 通称発狂大佐のセリフ「私の前世なんだが実はアメリカシロヒトリでだな…」から。この時の大佐のセリフは爆笑もの。1度は聞いてみる価値あり。

 

伍長それフォローやない、追撃や。

→火垂るの墓 清太のセリフ「節子、それドロップやない、おはじきや」から。これネタにしていいのか?因みにサクマ式ドロップは大好き。ハッカ以外。火垂るの墓は見ると必ず泣いてしまうので悲しい。誰が悪いとは言わんけれども。

 

「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!??!!?」

→ふぁ〜んふぁんふぁ〜ん(笑)。太陽にほえろ 山さんのセリフ「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!??!!?」から。きっと中尉はストレスで胃に穴が……ジャブローに吠えろ!!

 

『中尉、儂が羨ましいと思ったら、何よりも生き残ることだ。最前線で指揮官として認められれば、昇進できる。昇進すれば、いいこともあるさ、儂のようにな』

→小説版機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles ジョン・コーウェン准将のセリフ「中尉、儂が羨ましいと思ったら、何よりも生き残ることだ。最前線で指揮官として認められれば、昇進できる。昇進すれば、いいこともあるさ、儂のようにな」から。この人の言っている、"イイコト"とは結局なんなんですかねぇ(笑)。

 

 

第二十八章

 

ちゅーいのきょーかんにっき、すたーと!

目指せ!センチメンタル小室マイケル坂本ダダ先生的ポジション!!

だけどシンセサイザーは勘弁な!!

あっなったに♪あっなったに♪センチメンタルッッッアウトローッッッブルースッッッ!!!

→フリーゲーム ゆめにっき 略してセコムマサダ先生のこと。センチメンタルアウトローブルースはカブトボーグ、ロイド安藤さんの必殺技。

この2人はネタにされ具合がヤヴァイ(笑)。

 

「ウボァ!!これは准将!失礼しました!!」

→ファイナルファンタジーII 皇帝の断末魔「この私がやられるとは……信じられ……ん……

2度までも……お前に……。

……お前は…いった……い、な……にもの……

ウボァー」から。

気ぃ抜けるわアホ!!

上記のゆめにっきでもそう名付けられたヤツがいる。つーかそっちの方が有名かも。

 

君のためなら死ねる!!

→ゲーム 君のためなら死ねる から。音楽が秀逸なこのバカゲーは面白い。くだらないのが特に。

 

 

第二十九章

 

「……よし、いっちょやったるか!」

→機動戦士ガンダム スレッガー・ロウのセリフ「……よし、いっちょやったるか!」から。軽いノリして熱いスレッガーさんイケメン!!

 

「……さて、行くか………戦争を教えてやる」

→機動戦士ガンダム MS igloo デメジエール・ソンネンのセリフ「戦争を教えてやる」から。

…………ソンネンさん多いっ!!誰かデュバルの旦那も思い出したげて!!

 

「こ、これしきのGに身体が耐えられんとは……」

→機動戦士ガンダム00 皆のヒーローハム仮面のセリフ「こ、これしきのGに身体が耐えられんとは……」から。この人も血を吐いても台詞は噛まない落ち着きのない辛抱強く無く我慢弱いナイスガイです。

 

 

第三十章

 

「皆さん!!には今から殺し合いを………は冗談として!!」

→バトルロイヤル キタノのセリフ「そこで今日はちょっと皆さんに殺し合いをしてもらいます」から。自分がもしそうなったら多分序盤の咬ませで死ぬ役ですね。

 

「……いまさら、『そのウンウンと口からクソを垂れる前には"サー"を付けろ!!分かったな!"サー"だ!!』みたいな口調にしろと言われても無理ですよ……」

《……どこのハートマン軍曹だよ……》

→鬼軍曹として有名なフルメタル・ジャケットの教官、ハートマン軍曹のセリフから。この人の罵倒は本当に凄い。どれくらいすごいかと言うと独特の言い回しと比喩表現で彩られた放送禁止用語が機関銃の様に飛び出す。この人適役過ぎぃ!!

 

教官ならそれとも『ゲンジバンザイ!!』にするのか?

→ドリフターズ 那須与一のセリフ 「口を開く前と後にゲンジバンザイとつけろ」から。上のヤツと同じですね。この人のマンガも独特のセリフ回しが大好き。何?苦手だって?よろしい、ならば戦争(クリーク)だ。

 

 

第三十一章

 

「きっと、MSコレは日本製だね。間違いなく。日本人は何でもかんでもこだわって、複雑にするんだから…」

→映画 トランスフォーマーから。翻訳によりますがだいたいこんな感じ。コレは日本→アメリカ→日本と逆輸入された事に関するメタジョークです。オートボット、トランスホー(笑)!!

 

その姿は、まるでその生まれの不幸を呪い、涙を流しているようだった。

→機動戦士ガンダム シャア・アズナブルのセリフ「ガルマ、聞こえていたら君の生まれの不幸を呪うがいい」から。この時のシャアは輝いてましたね。この時は(笑)。ガンダムゲー、ガンダムvsZガンダムでシャアが左遷され終わるこのミッションは爆笑でした。

 

 

第三十二章

 

ったく、リボルバーへのリロードは、銃に命を吹き込みその息吹きを聞く革命レボリューションだと言うのに……。

→メタルギアソリッド シリーズ リボルバー・オセロットから。この人はネタキャラなのに裏を駆け回る愉快な人です。又の名をシャラシャーシカ。3でのボコられ具合は爆笑。

 

「……気づいたかね中尉。少佐は優秀な軍人だったのだが……膝に矢を受けてしまってな……」

→ゲーム スカイリムの守衛のセリフ「昔は私も名の売れた冒険者だったのだが、膝に矢を受けてしまってな」から。あの世界は引退を考えるようになると膝をむき出しにする風習でもあるらしいすね。またはそーゆー呪い。因みに鏃は返しがついていて抜けづらく、かと言って折るワケにもいかず、さらにはわざと緩めにつけられ体内に残るようにしてあったらしい。なので戦場でのホント緊急時には矢のケツをハンマーで叩いて貫通させて取り出すというトンデモ無いことをしてたらしいです。

 

だから、自分を強く持って、変幻自在に形を変える、水の様に柔軟な思考を持つ事です。

→マクロスゼロ ロイ・フォッカーのセリフから。日本にも「水は方円の器に従う」という格言がありますね。水はグニャグニャしてるからこそ強い。中途半端に固まるとところ天の助みたくなるため注意。

 

「よしきた! ナァウ、イッツ、ショォータァーイム……!!」

→機動警察パトレイバー 内海さんのセリフから。パトレイバー実写映画化おめでとう!!見に行ったよ!!リボルバーカノンも見たよ!!ミニパトの設定が逆輸入されててビビったよ!!

 

「……こ、これは……シュミの世界だねぇ……」

→またもパトレイバーネタ。パトレイバーはホントオススメ。アニメは目がデカくてビビるけどそれ以外は最高です(笑)。

 

『最っ高のマシンだろ?そうは思わないか?』

→機動戦士ガンダム外伝 戦慄のブルー アルフ・カムラのセリフから。この作品は自分が生まれて始めてやって始めて全クリした、今の自分の元になったゲームと言っても過言ではありませんね!!だからこそお前何才だよwと言われますが(笑)。サイドストーリーズマダー?

→サイドストーリーズマジ許さん。

 

 

第三十三章

 

「お土産ありますか!?お留守番をした人にはお土産を請求できる権利が発生するんですよ!!」

→攻殻機動隊 タチコマのセリフ「ねえ少佐・・・聞いた話では留守番をするとお土産を貰う権利が発生するんですよねえ?」から。いやー、かわいいぞタチコマ!!一家に一台と言わず3台は欲しいな!!

 

「…うーん、B、Bかぁ…ブロロロローンとお送りします……」

→男子高校生の日常 ヒデノリのスポンサー紹介「この番組はご覧のスポンサーからブロロロローンとお送りします……ブロロロローン!!」から。もうひとつあったけど忘れました。こーゆー遊び心があるヤツ大好きです。

 

「"チーム・バリスタ"?」

→チーム・バチスタの栄光から。バリスタとは大弓の事です。モンスターハンターで超大型モンスターを討伐するときしばしば発生します(笑)。

 

オゥ、マイコーラ!!とか言ってみて欲しい。

→英語の教科書 NEW Horizon マイクのセリフ「Oh,no! My cola! I don't have any tissues. 」から。

………いや、大量にこぼした液体をティッシュで拭こうとするなや。趣味はラクロス(笑)。

 

「仲間が増えるよ!!やったね少尉!!」

おいやめろ。その言い回しはとにかくやめろ。

→言わずとしれた例のネットスラング。後ろに続く「おいバカやめろ」はもはや様式美。元ネタはほんわかに見せかけたトラウマになりそうな鬱展開のマンガです。読んだことないけど。

 

 

「これで、中尉も、きっと大丈夫」

T・B・S(チーム・ブレイヴ・ストライクス)へ、ようこそ!!」

→N・H・Kへようこそ!中原岬のセリフ「これで、佐藤君も私も、きっと大丈夫」「N・H・Kへ、ようこそ」から。見るのがあまりに辛すぎて見れませんでした………。自分を含め、日本人にああゆう人が増えない事を祈るのみです……。

 

 

第三十四章

 

なぜなにガンダム

→機動戦艦ナデシコ なぜなにナデシコから。ナデシコは見ましたね。そう言ったら「何それ?」って言うゆとり世代め許さん。なんでや!ナデシコ面白いやろうが!!

 

 

決して「ザクポン」や「GUNDAM」と書かれただけのダンボールなどではない。ダンボーではないのだ。メカマツオでもない。

→ザクポンは機動戦士ガンダムさんに出てくる、「赤くて」「ツノ」もある。ダンボール着ぐるみです。「GUNDAM」は謎の外国人です。某動画ではその所為で輸送戦艦ガンダムとか言われてましたが。ダンボーはお馴染みよつばと! に登場する人間のみかたである、コンピューターだからたたいちゃだめであるが、本気で戦ったら超強い。ミサイルを持ち、上は洪水、下は大火事になる性能を持つ海の向こうの遠い国から来た空を飛べる。ジャンボジェットと競争しても勝つレベルのノーベル賞を取った博士に作られたお金が動力の、遊園地などにある、100円を入れると動く乗り物と同じ原理で動く世界最強の段ボール。

メカマツオはギャグ漫画日和に出てくるロボット?。弱い。カサカサしている。まぁロボットパルタ。

 

ピックアップ時の枠も金縁にして金ジムのようなゴージャスな仕様に出来るし、

→機動戦士ガンダム00 アルヴァアロンの事。金ジム。ほんとコレ。つーか金ピカ。基本慢心してる。

 

"ガンダム"を量産した暁には、ジオンなどあっという間に叩いて見せられるほど強い。

→機動戦士ガンダム ドズル・ザビのセリフ「ビグザムが量産の暁には、連邦などあっという間に叩いて見せるわ!!」から。因みにそのお値段ムサイ級巡洋艦3隻分(笑)。ジオン破産する(笑)。15分しか動けねぇし、ジャブロー攻略無理だろコレ。因みに"ビグ・ザム"な、そこんとこヨロ。

 

 

第三十五章

 

「なんでですか!!ひどいです!!やってみなくちゃ分かりませんよ!!」

「正気か!?」

「少尉ほど急ぎ過ぎもしなければ、コレに絶望もしちゃいません!!教えて下さい!!」

→機動戦士ガンダム 逆襲のシャア アムロ・レイとシャアのセリフ「やってみなければ分からん!!」「正気か!?」「貴様ほど急ぎ過ぎもしなければ、人類に絶望もしちゃいない!!」から。愚直なまでに人類の可能性を信じ続けたアムロは大好きです。アムロ主人公で新しいアニメやんねーかな。

 

まぁ、やってみなくちゃ分からない。それが大科学実験だよな。

→「やってみなくちゃ分からない 大科学実験」がキャッチフレーズの番組、大科学実験から。コレ凄い面白いです。ナレーションさん声かっこいいし。

 

 

第三十六章

 

中尉は戦場へ行った

→映画 ジョニーは戦場へ行った から。このフレーズ本当はアキバにしたかったなぁ……って(笑)。それか……「知っておるのかジョニー!!」な感じで。

 

「聞くな!!俺は整備屋だ!!そこらへんにあったもので作ってみたんだが……」

どうやって!?すげェ!!さすがおやっさん!!装備に丸太を追加してくれ!!

→彼岸島 お馴染みのネタ。というかあの島何?まぁ、MSも丸太(燃えてる)で戦うヤツいるし、いいかな?

 

きっと伍長の頭の中では水に濡れたら使えなくなる例のアレを想像してるんだろうな……。なんで共通して水に弱いんだろ?

→プレデター 攻殻機動隊 メタルギアソリッド フルメタル・パニック!などでお馴染み光学迷彩。だいたい水に弱い。何故だろうね?

 

南アタリア島に落ちてきた超時空要塞でも解析したのか?

→超時空要塞マクロスから。1999年に南アタリア島にASS-1と呼ばれる遺物が落ちるところから物語が始まる事から。MSにもSWAG欲しいなぁ……そうすればもっとド派手なアクション出来るのに……。

 

視線を釘付けに出来てないじゃん。

→機動戦士ガンダム00 ミスターブシドー事センチメタリズムな運命を感じるグラハム・エーカーさんのセリフ「ならば、君の視線を釘付けにする!!」から。自分はグラハムさん大好きですね機体込みで。ゲームでもセリフ一緒に叫んでます(笑)。

 

「じゃあはっぴょーしまーすっ!!少尉が"ランサー"で、私が"セイバー"に、軍曹が"アーチャー"です!!このトラックさんは"チャーリス"でどうでしょう!!」

うん。元ネタは分かるけど。アニメに影響され過ぎだね。見せたの俺だけどさ。セルフ・ディフェンス・フォースのSじゃねぇんだから。

→GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり から。Sとは特殊作戦群の事。この作品もパロディやリアルさがウリの面白い作品です。コールサインは多分フェイトシリーズから。

 

前も真剣な顔して、『もし魔法少女になったら、MSって魔女の結界に入れますかね?』って言ってたもんな。

→またも例の魔法少女から。友達曰く結界の中で死んだら行方不明になるらしいです。なんやねんそれ。

 

写真

→機動戦士ガンダム戦記 U.C.0081 水天の涙 のワンシーンから。いちいちマンガ引っ張りだして確認しました。夏元さんのマンガにハズレなしですね。ラリー好きだったんでショックでしたけど。

 

「すまんが、皆の命をくれ…………だが、あえて言おう。

死ぬな!!!」

→機動戦士ガンダム 逆襲のシャア ブライト・ノアのセリフ「すまんが…皆の命をくれ」と、機動戦士ガンダム00 グラハム・エーカーのセリフ「だが、あえて言おう、死ぬな」から。このセリフが言わせたくて書いたと言っても過言ではない大好きなセリフです。そのシーンに合わせ敬礼するのは自分だけじゃないはず!!

 

『仲間の為なら!!戦える!!』

→機動戦士ガンダム第08MS小隊 シロー・アマダのセリフ「仲間のためなら!戦える!!」から。この作品兵器描写とか大好きなんですが、この甘ちゃんがどうも好きに慣れません。もしこの人とクロスしたらリアリストな中尉と大げんかになりそうです(笑)。

 

中南米かえる跳び作戦編、始動!!

→島を飛び飛びに移動する、アイランドホッピング(Island Hopping)の事。これは主に島と島とをつなぐ短い旅を繰り返しながら大洋を渡る事を指す。今回はどちらかというと第二次世界大戦でアメリカが行った事から。飛び石作戦とも。

 

 

第三十七章

 

「全機の内1/3だけだぞ!!卵が掴める奴だけだ!!それにどんな不具合が出るかも分からん!!データ取り忘れるな!!」

→ロバート・A・ハインライン 宇宙の戦士のパワードスーツから。訓練の一環で卵を掴むと言う物があるところからお借りしました。人間の力を何倍にもするパワードスーツを着て、上手く力を調整する訓練です。そのためプラモにもわざわざ卵がついてたりします(笑)。マクロスFのEX-ギアにもそのオマージュがあったり。

 

「あ、少尉、おやつは何ハイトまでですか?」

「んと、1ドル今何ハイト?」

「先言っとくがバナナはおやつに入らないっつー事で」

→機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争から。ハイトとはサイド6で使われているお金の単位です。バナナはおやつにはいるのか……それは、謎です(笑)。俺的にははいらないなーなんて……。

 

 

第三十八章

 

地上の星

→マクロスゼロ 第二章 地上の星から。「話」でなく「章」であるのもマクロスゼロの影響かな?覚えてないです(笑)。

 

《ふぅーん。しょーたいちょーは知らんのな。いやーよかった、NTRかと》

→ネットスラング 寝取り。恋愛歴=年齢の自分にはよく分からん話ですねぇ。

 

コンディショングリーンだ。飛べそう。比喩だけど。いや、どっちかっつーとミッドナイトブルー?

→機動警察パトレイバー OPコンディショングリーン ED ミッドナイトブルーから。どちらもとてもいい曲です。パトレイバーはOP ED BGMどれをとってもいい曲がおおいのが好きですね。

 

《アイリス01から各機へ。作戦ラインに到達、ミノフスキー粒子濃度は60。これなら敵に気づかれず敵基地に接近出来ます。本機はここで待機し、ジャミング・フィールドを形成します。ここからMS3機は敵基地に突入、特殊グレネードで破壊しつつ前進し、野戦基地を破壊後、撤退して下さい》

→機動戦士ガンダム外伝 戦慄のブルー サマナ・フェリスのセリフ「現在のミノフスキー粒子濃度は60。これなら敵に気づかれず敵基地に接近出来ます」から。因みにこの時の作戦名が「月下の出撃」。なので中尉達の初出撃は同じく月下の出撃となってます。懐かしい。セガサターンとソフトが欲しいなぁ……。

 

「うおっ!まぶし!」

→MUSASHI -GUN道- ムサシのセリフ「うおっ!まぶし!」から。因みに全く眩しく無い状況です。それでいいのか(笑)。

 

「全機、飛べぇー!!」

機動戦士ガンダム MS igloo フェデリコ・ツァリアーノのセリフ「全機、飛べぇー!!」から。ザク達が一斉に大ジャンプするのは本当にシビれましたね。やはりMSは動いてこそですねぇ……。

 

『一つの殺人は悪漢を生み、100万の殺人は英雄を生む』

→映画 チャップリンの殺人狂時代 ヴェルドゥのセリフ「一つの殺人は悪漢を生み、100万の殺人は英雄を生む」から。とても皮肉の効いたセリフで、ハッとさせられます。チャップリンの映画は今でも鑑賞にたえうる名作ばかりです。恐るべし。

 

 

第三十九章

 

『あいよ!"ガンダム"出ます!!"ガンダム"発進!!』

→機動戦士ガンダム 逆襲のシャア 「サザビー出ます!サザビー発進!!」から。このシーンはかなり印象に残っていて、使いたいなと思いまして……。多分、珍しくパイロットがコールしてないからかなぁ?

 

《うぇえっ!?……あーはいはい!!俺はやりますよ?やりますとも!》

→機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles ラリー・ラドリーのセリフ「俺はやりますよ!やりますとも!!」から。ラリーのセリフに外れは無いですねぇ。正直ヒーリィさんより魅力的なキャラですね(笑)。イカサマやったり狙撃こなしたり(笑)。サイドストーリーズ、どうなる!?

 

《あいよ!任されたよ!!》

→機動戦士ガンダム戦記 水天の涙 ロブ・ハートレイのセリフ「了解。任されたよ!」から。叩き上げのベテランとか大好きです。あぁ…かっこいいおっさんってどう書くの?

 

「ブレイヴ03、"ランチャー"の前後を間違うなよ?」

《だいじょーぶですよー!そこはオートでやってくれます!》

あっ、説明書を読んだワケではないのね?

→映画 コマンドーのワンシーンから。M72ではありませんがM202 4連装ロケットランチャーを前後間違えて撃つシーンとその後のセリフ「説明書を読んだのよ」から。このセリフは汎用性高いので、あなたも是非使って見て下さい(笑)。

 

《アイリス02より各機へ。MS歩行音確認。ポイントデルタ28からだ、少なくとも4機といったところか?ったく、ジオンに兵なしっつーのは嘘なんじゃねーの?》

「おいおい、レビル将軍の悪口は辞めとけよ」

→機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles ラリー・ラドリーとアニッシュ・ロフマンのセリフ「おいおい、ジオンに兵なしってぇのは嘘なんじゃないのかぁ?」「ラリーさん、レビル将軍の悪口はマズいですよ」から。MSパイロットはレビル将軍の悪口いっちゃマズイわなそりゃ(笑)。

 

《ブレイヴ03了解ぃ!!後方の安全確認!!》

バカ!早く撃て!!

→GATE 自衛隊、彼の地にて、斯く戦えり から。撃ったのは勝元さんです。この時はパンツァーファウスト3を炎龍に向かってぶち込んでました。自衛隊奮闘記ではありますが、敵側の如何に自衛隊を倒すか感が好きです。つえーよ現代兵器。つえーよ自衛隊。問題は日本のお偉いさんですね(笑)。

 

『連邦がMSなど!100年早いわ!』

→機動戦士ガンダム ガデムのセリフから。確か、こんな事言ってた様な……ガンダムSEEDでもパロってましたし…。

 

「こちらブレイヴ01!!敵の背後を取った!!もう逃がさん!!」

→機動戦士ガンダム MS igloo 第二話のセリフ「後ろを取りました!!もう逃がさねぇ!」から。言った人の名前忘れました(笑)。いっぱいいるんだもん。伏せろと言われ立ち上がり吹っ飛ばされたギリ命拾いしたペンターさんとか(笑)。

 

《ヒューっ!戦場は地獄だぜぇ!!》

→映画 フルメタル・ジャケット ドアガン砲手の兄さんのセリフ「ヒューっ!戦場は地獄だぜぇ!!」から。この人、元教官役でしたが、この役になっちゃいました(笑)。この役もドはまりしてますけど(笑)。

 

『生きているだけでラッキーな、人生葉っぱ隊』

→マンガ ドリフターズ 島津豊久の紹介文から。目を離したら捨てがまりって(笑)。死ぬ(笑)。

 

 

第四十章

 

「ありがとうございます。そう言っていただけると、流石に気分が高揚しますね」

→艦これ 正規空母加賀のセリフ「いい装備ね、さすがに気分が高揚します」から。艦これ始めようとして着任出来ずじまいですねぇ。日本の戦闘艦好き何ですけど……。

 

開発者は酸素欠乏症にでも罹ってんじゃないのか?

→機動戦士ガンダム アムロの父親テム・レイが酸素欠乏症に罹った事から。なまじ宇宙服着てたから……ところで、あの謎の回路の真価は一体どんなもんなんでしょうね?

 

どうせスーパーノヴァの2機みたく結果的にどっちも採用されたりすんだろ?

→マクロスプラス スーパーノヴァ計画から。これは次期主力可変戦闘機を決める計画だったんですけど……。両方採用されず、ごく少数の生産で終わってしまいました(笑)。因みに自分は前進翼大好き人間なのでYF-19の方が好きですね。顔がダサいのがアレですけど。

 

「えええぇぇ!?言いました!!言ったんですよ!!必死に!!」

→機動戦士ガンダムUC バナージ・リンクスのセリフ「やりました、やったんですよ!必死に!」から。個人的にバナージの言いたい事やりたい事は分かるんですけど、共感はあまり出来ませんでしたね。つーかこの子あっちこっちふらふらし過ぎぃ!!

 

「俺へのファンレターか!?ジャクリーンちゃんならいいなぁ!!」

→機動戦士ガンダム外伝 コロニーの落ちた地で 名前のみ登場するラジオ歌手。とっても人気。MSのパーソナルネームの大半を占めるぐらい人気。それぐらいしか娯楽がなかったのかもね。

 

「わぁ!始めまして。よろしくお願いしまうー」

→よつばと! しまうーのセリフ「よろしくお願いしまうー」から。友達が実際にやったんですが、残念な事にアダ名は"ウー"でした(笑)。惜しい!!

 

これも、運命石の扉(シュタインズ・ゲート)の選択なのか?

→STEINS;GATE 狂気のマッドサイエンティスト岡部倫太郎ことオカリンのセリフ「これが、運命石の扉(シュタインズ・ゲート)の選択か」から。特に意味は無いし相手も死なないしドイツ語と英語が混じっちゃってますけど、心に残るセリフです。シュタゲはお勧めですね。好きなキャラはダルです。説明、乙!

 

お詫びとか言ってカーワックスをどこかから仕入れて来て塗ろうとしたのは驚きだった。

→機動警察パトレイバー 泉野明が愛機であるAV-98 イングラムにカーワックスを塗る事から。パトレイバー、大好きなんで……。パトレイバーのプラモは全部揃えたのですが、全部光沢スプレーでテッカテカです(笑)。

 

6発だ!6発以上、生き延びた奴はいない!!

→メタルギアソリッド リボルバー・オセロットのセリフ「6発だ!6発以上、生き延びた奴はいない!!」から。オセロットは好きなキャラでしたね。発言と行動が爆笑過ぎる。裏でめっさ暗躍してまっけど。

 

『彼は、彼らこそが、"ニュータイプ"なのかも知れんな』

→機動戦士ガンダム ヨハン・イブラヒム・レビルのセリフ「彼は、彼らこそが、"ニュータイプ"なのかも知れんな」から。これはホワイトベース部隊全員の事を指しています。だからこそ囮として使ったんですけどね(笑)。人使い荒いなー。

 

 

第四十一章

 

ただしソースはソニー。

→ネットスラング 「ただしソースはソニー」から。情報元が当てにならない事を指す。ソニー、そんなダメなのか?

 

「私に良い考えがある!」

「司令官!!」

ノッてくれるのは嬉しいけどやめて!転げ落ちるから!!下手に高いとこ登ったらローチじゃなくても落っこちるから!!

→トランスフォーマー 我らが司令官コンボイことオプティマス・プライムのダメフラグ「私にいい考えがある!!」から。この人?の名案は大体ロクでもなく、崖から、成層圏からどこからでも落っこち、アニメもやってる事はむちゃくちゃ、発言は過激、ツッコミどころだらけ、作画は酷いと……もう……それこみでも面白いんですけどね(笑)!!

ローチはCall of Duty: Modern Warfare 2に登場したゲイリー・ローチ・サンダーソン軍曹の事。この人も頻繁に落っこちる。もはやエクストリームスポーツである。

 

なるほど、いいセンスだ。だがその悪趣味な彫刻エングレーブにはなんの戦術的価値(タクティカル・アドバンテージ)も無いぞ?

観賞用や趣味のヤツと実戦用は違うんだよ。

象牙のグリップにジョリーロジャー、"プライヤチャット・ソード・カトラス"ねぇ……。アンタやっぱオタクだろ。つーかなら二丁持てよ。

→メタルギアソリッド3 スネークイーター ネイキッド・スネークのセリフ「確かに良い銃だ」「しかしそのエングレーブは何のタクティカルアドバンテージも無い」「実用と観賞用は違う」から。シビれましたねこのセリフは。スネークの飾らない戦士としてのあり様でした。

ブラックラグーン トゥーハンドことレヴィの使用している銃がバレルを延長し、この様に装飾を施した銃なんです。自分としてはこーゆー銃も大好きです。チャンの兄貴のも、まぁ……。いいんじゃない(笑)?

 

『さぁて、お仕事の時間ですねぇ……』

→鋼の錬金術師 ゾルフ・J・キンブリーのセリフ「さぁて、お仕事の時間ですねぇ……」から。この人好きです。変人、奇人だからこその生き方を示してくれたお人でした。クセのあるキャラは苦手なんですが、不思議と好きに慣れた珍しい人でしたね。ちなみにこの人のJはジャジャジャジャーンのJです。白いスーツなので変態です(※イメージです)。

 

 

第四十二章

 

全く、出資者は無理難題を仰る……。

→機動戦士Zガンダム クワトロ・バジーナのセリフ「全く、出資者は無理難題を仰る……」から。このセリフ大好きで、日常でも使いまくってます。その度「出資者誰だよ」とつっこまれてますが。

 

そのためあらゆる装備を全身に装備し歩く武器庫状態と化したワンマンアーミーというかコマンドーというかメイトリクス大佐と言うかのMS隊の3機は既に人型というシルエットから激しく逸脱していた。

→映画 コマンドーから。デーン(笑)。このSSにコマンドーネタが多いのはシュワちゃん大好きだからです。

 

しかしこれでも比較的ガンガン動けるのは連邦軍脅威のメカニズムである。

流石"ガンダム"だ。何ともないぜ!!

→機動戦士ガンダム ラサ曹長のセリフ「流石ゴッグだ。何ともないぜ!!」から。このセリフ有名ですよねー(笑)。この後シャアにアホ扱いされるまでがテンプレです(笑)。

 

《うははははっ!!大将!そんな装備で大丈夫か?》

《………一番良いのを頼みます………》

《大丈夫だ!!問題無い!!あはははは!!》

→ゲーム エルシャダイから。もう有名過ぎて解説する気も湧かんわ。エルシャダイあんまオモロく無かったし。大丈夫じゃねえじゃん(笑)。

 

《海へGO!!》

《半裸でか!!》

→君のためなら死ねる 歌詞から。この歌大好きです。前奏、間奏がくっそ長いのは仕様です(笑)。これを台座にしたMADはハズレが無いですね。

 

マーシィドッグじゃねぇんだから。

→装甲騎兵ボトムズに登場する湿地戦に対応するべく開発されたAT。つってもそれは下半身だけ(笑)。上半身には改造は施されず、コクピット内にバンバカ水が入ってくるおバカ仕様です。リアル過ぎ(笑)。

 

ヤックデカルチャー……。

→マクロスシリーズ ゼントラーディ語でヤックは「なんと」、デカルチャーは「恐ろしい」つまり、「信じられない」と言う様な意味の言葉。便利なのでみんなも使ってみよう。マクロスでは取り敢えずこう言っときゃいいみたい。

 

セレクターを変更、"ア"から"レ"へ。これで、いつでも戦える。

→自衛隊の使用している銃のセレクターから。"ア"安全、セーフティです。"タ"単発、セミオートです。"レ"連射、フルオートです。合わせて"アタレ"。日本人らしくていいですねぇ。最近は3点バーストが入っちゃって"アタ3レ"になってる場合もありますけど。

 

「ニーカッター!!」

『ニーカッター レディ』

→フルメタル・パニック! レーバテインの装備から。ナイフ付き膝蹴りです。セリフまで真似てます。あー、レーバテインのキット欲しい。

 

今日は厄日だ!!

→またもコマンドー。「今日は厄日だわ!!」から。うん。空手の稽古あったのに突然シート千切られて強引に協力させられて死にそうになったら誰でもそう言うわな(笑)。いや、厄日どころじゃねぇだろ(笑)。

 

《野郎ども!!波に乗るぞぉっ!!》

→劇場版マクロスF ジェフェリー・ワイルダー艦長のセリフ「野郎ども!!波に乗るぞぉっ!!」から。このシーンは鳥肌モノでしたね。めちゃくちゃやり過ぎ!でもかっこいい!!「なぜなら私が合衆国大統領だからだ!!」とシャウトする人の事は思い出さないでいいです(笑)。

 

腐ってやがる……早過ぎたんだ……。

→風の谷のナウシカから。メイドインジャパンの巨神兵を掘り出すシーンから。日本何作ってんだよ(笑)。いや、溶けてまんがな(笑)。

 

『レベルを上げて物理で殴ればいい』

→KOTYことクソゲー・オブ・ザ・イヤーがラストリベリオンに捧げた言葉から。うん。真理(笑)。さぁ、みんなもレッツ鈍器殴打!!

 

ダンダンッ!残弾2発を空に向け放つ。明らかな挑発行為だ。

→漫画 機動戦士ガンダム戦記 Lost War Chronicles マット・ヒーリィのとった行動から。仕方ないとはいえかなり不利な状況で挑発とか、隊長、お見事!!

 

中尉の"陸戦型ガンダム"が限界を迎え、テンションが切れた。

→機動警察パトレイバー VSグリフォンのシーンから。これは後で読み返して気づきました。無意識の内に影響受けてるのが多いっぽいですね。パクリにならんかなコレ……。

 

 

第四十三章

 

つーか呪いのビデオかよ。

→本当にあった!呪いのビデオ から。またはリングとかそこらへん?怖いのであんまりしりません。時代の流れに合わせ怪談も変わると言うことですね。呪いのブルーレイとか出て来そう。ちなみにリングのゲームは爆笑です。

 

「「…………我が世の春がきたぁぁぁぁぉぁぁぁぁああ!!!」」

→∀ガンダム ギム・ギンガナムのセリフ「…………我が世の春がきたぁぁぁぁぉぁぁぁぁああ!!!」から。この人喧しいよ。ちなみに∀ガンダム、デザインが整理的に受け付けず見てません。自分コレでガンダム好きと言えるのか……?いつか見ます。

 

「お薬出しときますねー?虹色のやつ」

→漫画家 平野耕太の発言「お薬!? ちゃんと飲んでるよ!!虹色の奴!!」から。この人発言爆笑過ぎる。でもこんな大人になりたくないと思いました(小並感)。

 

伍長ニンジン嫌いらしいけど。前食堂でニンジン要らないよ!って言って山盛りにされてたな……。

→機動戦士ガンダム0083 スターダスト・メモリー コウ・ウラキのセリフ「ニンジンいらないよ!」から。そんな事言ってぽやんとしてた少尉はデンドロビウムに乗り薬を打って変わってしまった……。主に顔の彫りが。

 

「マーリンの髭!……そんな蛙チョコみてーな昼飯は食いたく……いや、案外イケるかもな」

→ハリー・ポッターシリーズ 魔法界独特の驚きの表現。つまりヤック・デカルチャー!蛙チョコは有名だろう逃げたりカードついてたりするアレ。溶けたらどうなるんやろアレ。

 

"アナハイム・ジャーナル ルナ・コーヒー特集"から軍曹が顔をあげつつ言った。

→機動戦士ガンダム公式資料集"アナハイム・ジャーナル"から。これ読んでておもしろいです。資料集として優秀ですし。この本の小ネタはちょくちょく出て来ます。ガンダム好きなら、是非手に取る事をオススメします。

 

 

第四十四章

 

 

『カリブ海上空。高度36,000フィート』

『まもなくジオン制空権内に近づきます』

→メタルギアソリッド3 OPから。ここら辺は数字こそ違いますけどほぼゲームと同じです。いちいちやり直しました(笑)。スネークがイケメン。

 

《わぁ!成層圏かな!?成層圏から地上へダイブ〜ふふふふ〜ん》

楽しそうだなオイ。怪我一つなけりゃいいんだけどなぁ……。君のためなら死ねるってか?

→またも君のためなら死ねる。これも今後解説しないでいいよね……って同じネタ使い過ぎィッ!!

 

戦場までは、何マイルだろうか?

→機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争 戦場までは何マイル から。そういや連邦軍の使用する単位は何だろう?キロで統一して欲しいと思う自分でした。

 

『大丈夫なのか?こいつは……』

「すみません機長。ご迷惑をおかけしました」

→フルメタル・パニック! から。空挺、と聞いたら、メタギアとフルメタをぶち込むしかないと思いまして(笑)。いやー、無口キャラ多過ぎにし過ぎた。会話がはずまん(笑)。

 

「……また、朝が来た」

→機動戦士ガンダム戦記 0081 水天の涙 ユーグ・クーロのセリフ「……また…朝が来たか…」から。いやー、サイドストーリーズもコレみたくキャラのカットイン入れたらまだクソゲー呼ばわりを……いや、無理か。あの吹っ飛びがダメやろやっぱ。

 

『隊長さんよ、伍長を黙らせろ』

「3番機…私語は慎め」

→機動戦士ガンダム戦記 0081 水天の涙 から。「……また…朝が来たか…」のすぐ後のセリフになります。いやーホント、キャラミスったな。軽口叩きまくるヤツ入れりゃよかったわ。個人的に"らしく"ないかな、と。逆にらしいかもしれないけど……。

 

《ヘルダイバーいっきまーす!!エントリィィィィィィィィィィイイイイイイイイイ!!!!!!》

→機動警察パトレイバー 自衛隊の虎の子空挺部隊に採用されているレイバー、"ヘルダイバー"から。《エントリィィィィィィィィィィイイイイイイイイイ!!!!!!》は機動戦士ガンダム MS igloo ヴェルナー・ホルバインのセリフから。飛び降りならこいつらだと(笑)。それか波乗りかなと(笑)。もっとネタぶち込みたかった。

 

《……I'll be back!!》

→ターミネーター2 T-850のセリフから。このセリフ大好きです。海に飛び込んだ時もやったけど誰もわからなかった悲しき思い出とともに書き込んだのを覚えてます(笑)。

 

《……しゃ、しゃるうぃーだいぶ?あいきゃんのっとふらーいぃぃぃ……》

→人類は衰退しました 中田さんと私ちゃんのセリフから。工場の回はアニメでも大爆笑でした(笑)。人参はあんま好きじゃないけど(笑)、あのパン少し食ってみたいと思ってしまった俺ガイル(笑)。

 

《何をしてるんだ?》

《落ちてるー!!》

→オーバーマン キングゲイナー から。………いや、メカデザインと主人公がアレでみてないっす(笑)。ACEでもなんやガチコって、って兄弟と爆笑してました(笑)。

 

《……おっ!おっ!!降りられるのかよぉぉぉぉおお!!!!!……うっ…………》

→機動戦士ガンダムから。ジャブローは大好きな回で何度もビデオ借りて見てました。今思うと何故なのか(笑)。いや、好きだけどソロモン、ア・バオア・クーも好きだったのに?とおもったら連ジのせいかも(笑)。哀・戦士好きだったからか?

 

「ブレイヴ01より各機へ!

…………待たせたな!!」

→メタルギアシリーズ スネークのセリフから。本当だよ!!待たせ過ぎだ!で?ファントムペインはまだですか?

 

《やっほーい!!遅れてやって来る、空挺部隊ヒーローの登場だよー!!敵基地に"潜入"成功!!レッツパァァァァァァリィィィィィィィ!!!!》

→フロム伝説のバカゲー メタルウルフカオス みんな大好きマイケル・ウィルソン・Jr.第47代アメリカ合衆国大統領のセリフから。このゲーム爆笑過ぎる。うん。日本版も作って欲しいわ。総理大臣と天皇陛下がタッグ組んだりするようなノリで(笑)。

 

《来たのか!?》

《おせぇんだよ!!》

《待ちかねたぞ少年!!》

→劇場版機動戦士ガンダム00 狙い撃ち、連携が取れてないヤツ、ブシ仮面のセリフから。このシーンはBGMと合間って鳥肌もの。劇場で手が震えたのはいい思い出です。たんさんのセリフに(笑)。

 

「撃て!撃ち続けろ!!銃身が焼け付くまで撃ち続けるんだ!!」

→機動戦士ガンダム第08MS小隊 甘ちゃんのセリフ「撃て!撃ち続けろ!!銃身が焼け付くまで撃ち続けるんだ!!」から。うん。どうも好きになれんわこの甘ちゃん。理想はいいけど、ね?なんか、こう…腹立つわ。仲間の為といいつつその仲間捨てて駆け落ちする当たりが特に。

 

《小隊長!敵の一群が向かってくる。かなりの数だ!航空機も多いぞ!!》

「かなりじゃ分からん!!つーか今まで何してた!」

→機動戦士ガンダム MS igloo ア・バオア・クー戦のジオン兵のセリフ《敵の一群が向かってくる。かなりの数だ!!》《かなりじゃ分からん!!》から。名無しのジオン兵のセリフ大好き過ぎて暗唱が出来るレベルに(笑)。因みに父親と兄はジオニストですが自分は連邦スキーです。

 

「……Hasta la vista, Baby(とっとと失せな、ベイビー)!!」

→ターミネーター2のセリフ。翻訳によって違いますが自分はこれはが好きかな?「SAYONARA、ベイビー」も捨てがたいが……まぁここは王道で、と言うことですね。

 

「パーフェクトだ、おやっさん」

《感謝の極み》

→ヘルシング アーカードとウォルターのセリフから。某動画サイドの「パーフェクトだ、うp主」の元ネタっすね。因みに、その時渡していた銃が"ジャッカル"。下とかけてます。

 

さぁて、反撃開始だ。追い詰められたキツネは、ジャッカルよりも狂暴だぜ?

→メタルギアシリーズ サイボーグ忍者ことグレイ・フォックスのセリフから。このシーンの一連のセリフは悲壮感がヤバイ。皆さんにも是非ツインスネークスでもいいからやって欲しいものです。

 

「……さぁて!準備はいいか!?」

《…いつでも》

《どこでも!!》

《「ロックン・ロール!!」》

→フルメタから。ここは隊長の姐御が言うからいいのに、と少し残念。書けないんだよなぁ、そーゆーキャラ……。書きたくても書けないキャラが多くて残念、と言うかそんなキャラ出せん(笑)。この人数でも実は手一杯なんだよなぁ……。才能か………。

 

『三度やって駄目だったからもう一度やるんだ』

→映画 史上最大の作戦 から。やはりノルマンディー上陸戦はロマン!!空挺部隊は装備落っことしまくったり、見当ハズレなとこに降りたり、ロングソードとクロスボウで戦った猛者も居るしな!!

 

 

第四十六章

 

因みにゴム弾、実弾より痛いと好評である。流石紳士の国リターンズ。

→人を殺さない様にと開発されたゴム弾。しかし、撃たれた人は実弾のほうがマシだとか、早く殺してくれなどロクでもない結果に。なのでどこぞの軍曹みたくバカスカ人に撃ち込まないで下さい。

 

復活した少尉が言った。やはり立ち直り早いな。こんにゃくメンタルと名付けよう。斬鉄剣でも切れない。

………ん?ちょい待ち……あれ、峰打ちすりゃノーマルな圧力で斬れたんじゃね………?

それに刺しゃええやん。

→ルパン三世 石川五ェ門の武器斬鉄剣から。なぜこんにゃくが切れないのか……ヘリ、ビル、その他諸々なんでも切ってんのに……空想科学読本でもあんまり解明できてませんでした……。

 

メチャクチャ言ってっぞこの人。妖怪休暇置いてけだ。出来れば巻き込まんで欲しい。休暇とか要らないから。

→ドリフターズ 妖怪首おいてけから。自分としてはデストロイヤーさんが好きですね。活躍するかなぁ?

 

准将よ、お前もか。

→ブルータスよ、お前もか、から。いやー、カエサルさんがんばったんだけどなぁ……。またお前かにならんようにもう一回がんばって欲しいもんだ。

 

「わーい!!准将優しい!!パンダコパンダの国だぁ!」

→アニメ パンダコパンダから。昔好きでしてなぁ。あーゆーアニメ減ったなぁ……。

 

¥€$(イエス)的な……あっても速攻で廃れそうだけど……。

→攻殻機動隊 通過単位の一つ。全然出てこない上流行ってない設定。デザインは好きです。自然とバーコードが入ってる当たりが。

 

「おお?"クレ・ドッグ"だ。知ってるだろ?でも俺は行けなくなった。少尉に一任する事にした。休んでる暇は無いぞガーデルマン」

「うええっ!?俺の休暇は!?」

「ねぇよんなもん。牛乳飲んだら出撃だ」

→ハンス・ウルリッヒ・ルーデルさんのイメージから。ちなみにガーデルマンさんはフライトオフィサ的ポジションのおっちゃんです。こーゆー人らしいけど、あくまでイメージです(笑)。

 

 

第四十七章

 

河を渡って木立を抜けて

→機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争 サブタイトルより そんな描写は殆ど無いけどね?こう、ノリと言いますか……。

 

「近くにあるのは、マクダニエルかワンダーランドですね」

→両方ともガンダムに出てくるファーストフード店です。確かZと0080ですね。スレッガーさんがハンバーガー食ってたりと、やはり食は変わらんようです。アムロ達が食ってたような変なレーションもありましたけど。でたまかよろしく牛丼でも出す?

 

「かーさん!!あ、ありのままに今起こった事を話すぜ!!戦争始まってから音沙汰無かったアイツ帰って来たぁ!!しかも女の子2人連れて!!な、何言ってるか…」

→ジョジョの奇妙な冒険 J・P・ポルナレフの発言から。あまりに有名だけど、これ時間止められる人がワザワザ頑張って運んだと考えると何か悲しいものがあるよね。

 

「……夏という季節に、自分を磨こうと追い込み過ぎてヒビが……」

→男子高校生の日常 ヒデノリの発言から。どういう方向に追い込もうとしたのか……。まぁ夏だから仕方ないね。

 

「んだと!納税者だからって下手にでたらつけあがりやがって!!働くくらいなら食わぬ!!」

→機動警察パトレイバー 太田功のセリフから。太田さんの場合は「往生せいやー!!」に繋がりますが(笑)。瞬間湯沸かし器、マッドポリスメン、日本警察の奇跡は伊達じゃないな。

 

「あっれれー?おっかしいぞー?

そうじゃねーよ。付き合ってんの?」

「いや?なんだその勘違い。失礼じゃね?つーか似てねぇよ縮んだ後行く先々で殺人事件に遭ってから出直して来い」

→名探偵コナン ほぼ説明してるよねコレ。そろそろ蘭ねーちゃんが推理しだしても違和感無いレベルの犯罪遭遇率だよねあの一行。

 

『蛍ってなんですぐ死んでしまうん?』

→火垂るの墓の節子のセリフから。いや握りつぶしたら死ぬよ蛍は。まぁおとなしく水しか飲まんしね蛍。因みに海外のホタルは他の虫をアグレッシブに食い殺すマッチョな奴らです。

 

再会、家族よ……

→機動戦士ガンダム サブタイトル 再会、母よ… から。昔は素直で、あんなにかわいい子だったのねぇ。……の元ネタかこれ!?




………てこれは酷い

順次追加して行きます。邪魔だったら消します。


コレ更新するの結構キツイ。つーか見てる人居る!?ホントに需要あんのコレ!?


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U.C. 0079
序章 ザ・ロンゲスト・デイ


工場の出口は開かれた。
You ain't heard nothin' yet!(お楽しみはこれからだ!)

なるべくリアルを追求した、U.C. ハードグラフです。「ガンダム」本編数ヶ月前から始まります。最後までどうぞお付き合いください。


蒼い、蒼い空が、どこまでも広がっている。

 

一迅の透き通った風が過ぎ去って行く。いい風だ。

 

その果てのない、どこまでも続く空に思いを馳せる。

 

やはり、ここが、こここそが、俺の故郷であり、戦場だ。

 

 

 

──とある地球連邦軍士官の日記より

 

 

 

 "彼"の話をしよう。とあるパイロットの話だ。冒頭の日記の持ち主でもあるが、彼は言うなれば、平凡で、どこにでもいる、ありふれた軍人の1人だった。勿論それだけなら、この物語を書こうと私は思わなかっただろう。彼は確かにエースとして数えられる1人であったが、かの"赤い彗星"や"真紅の稲妻"等の様に、名の売れたトップエースでは決して無かった。

 彼には、特筆すべき経歴も、語り継ぐべき逸話も無かった。輝かしい功績も、褒め称えるべき働きも。彼は伝説を打ち立てる様な、味方を奮い立たせ、敵をなぎ倒し、勝利へと導く勇者でも英雄でも無かったのだ。実しやかに囁かれ、数多く語られる英雄譚の中にもその姿は無く、決して有名人とは呼べない存在だった。

 それもそのはず、言うなれば彼は単に、従軍した数多の兵士の中の、ただ1人に過ぎなかったのだ。自伝等も出版されていない。ただただ、エースとして名鑑にその名前こそ刻まれてはいるが、それだけだった。写真も無く、頁の隅にたった一行、『MSを5機以上撃墜した』、ただそれだけだ。エースと呼ばれる極最低条件のみを満たしていただけで、流星の如く数多く現れては消えて行く英雄達が名を連ね、語られる中、その名前は埋もれていた。当たり前と言えば当たり前だ。

 つまり、彼は一言で言えば、知る人ぞ知る、と言った極々目立たない経歴の持ち主だ。決して特別では無かった。決して。

 

 そう、そのはずだったのだ。とある情報が解禁されるまでは。私に筆を取らせるだけの理由が、そこにあったのだ。

 

 彼はそれでも、確かにトップエースでは無かった。眼を見張る様な戦果も、類稀なる功績も無かった。大罪を犯した訳でもだ。しかし、彼にはとある理由があり、今までデータベースには偽造された経歴のみが刻まれていたのだ。

 情報統制と言う名のヴェールを除けば、"あの戦争"の暗黒時代、喪われた円環を走り抜けた、驚くべき経歴がそこにあった。当事者でも、極僅かしか知り得なかっただろう、それこそ、教科書には載る事の無い、都市伝説などとしても語られる事の決して無い、幻の様な奇跡の物語が。

 20年前のあの日から、彼はあの戦争の裏側を走り続けて来たのだ。

 

 時に宇宙世紀(ユニバーサルセンチュリー)0079、3月。ジオン公国の宣戦布告から早三ヶ月。全人類の半数を死にいたらしめた一週間戦争を経て、戦局は大きく変わり始めていた。電撃的なジオンの作戦により後手に回った連邦軍は、遂に乾坤一擲の作戦であった「ブリティッシュ作戦」、つまり所謂"コロニー落とし"を許してしまい大打撃を受けていた。2度目こそ辛くも阻止に成功したが、この一週間戦争による両軍の被害は深刻なものだった。それこそ、よもや両軍の間で休戦協定が結ばれる一歩手前まで行く程に、だ。

 国力で劣るジオン軍は直様敗退すると誰もが思っていたが、現実は予想とは乖離した方向へ進み始めていた。地球連邦軍は無条件降伏こそ避けたが、軍事における革命(RMA)をもたらした、ジオン公国の最新兵器MSの登場、あらゆる電子機器を無効化する特殊粒子ミノフスキー粒子の戦術利用による、既存の戦術を遥かに覆す存在により地球連邦軍は窮地に立たされていた。

 更に続く、月面からの"マスドライバーを"利用した爆撃により戦力を削がれ、遂にジオン軍地上侵攻部隊による地球降下を許してしまう。それは、地獄の釜を開けたかの様な、泥沼の戦争の始まりでもあった。

 

 

 

──そう、決して、忘れてはならない記録がある。伝えなければならない物語がある。

 あの凄惨な戦争を、全力をもって戦い抜いた、1人の男の歴史がここにある。

 

 あと1年で、宇宙世紀は100年を迎える。

 

 人類は、また新たなステージへと立つのだ。

 

 だからこそ、この本を手に取るという、奇跡のような出会いをしたあなたに、この軌跡を届けたい。

 

 これは、後の世に"一年戦争"と呼ばれる、世界を揺るがした戦争を駆け抜けた、とある地球連邦軍士官の物語である。彼の遺した手記を、情報規制を解かれた当時の記録、取材メモ、証言者の証言などを再検証し、再構築されたものである。その為、あえてルポルタージュではなく小説の形式を採っている事をあらかじめお断りしておきたい。

 

ジェシカ・ドーウェン U.C. 0099 4.6 月面都市"グラナダ"にて

 

 

 

 

 

 

 

 その軌跡は、北米、"キャリフォルニア・ベース"から始まる……。

 

 

 

──U.C. 0079 3.11──

 

 

 

「おやっさん!どうしたんです?空なんか見上げて?」

「ああ、少尉か。……いや、何か光った気がしてな…」

 

 静謐な空気に、晴れ渡る空が眩しい朝の○九○○(マルキューマルマル)。霞む程長く続く滑走路の片隅、航空機が格納されている大型の格納庫(ハンガー)の傍で、機械油で薄汚れた作業着を着ていた男が1人、ドラム缶にまたがり空を見上げていた。男の名前はフランク・ガリアイル。地球連邦空軍(EFAF)に籍を置く整備班長だ。緩くかけられたサングラスが光を反射し、整備帽子の庇の下、小さな輝きを放っている。

 空はいつもと変わりなく、青く高く、風が吹き渡っている。緩やかな風は声をかけた男、タクミ・シノハラ少尉の髪を軽く揺らす。空を見上げる男の視線を追い、2人は並んで空を見上げる。どこかで鳥が鳴声を上げ、翼をはためかせた。

 いつもと何も変わらない、穏やかで平凡な、ただの1日の始まりだった。

 

「──閃光…衛星軌道での戦闘?………まさか、ジオンの野郎が、地球降下を?」

「バカ言うな、確かに"ルウム"じゃ()られたが、連邦はそれぐらいで揺らぐ様なヤワな組織じゃあるめーよ」

 

 額に手を当てた少尉の焦り顏に、おやっさんが手を打ち笑いながら言う。仰け反り、座っていたドラム缶が蹴られ音を立て、広い滑走路へ溶けていく。その様子に少尉はホッと息を吐くと、軽く頰をかき、緊張を解すように腰に手を当てた。

 吸い込まれそうな青い空には雲が湧き、穏やかな風にゆっくりと流れ吹き散らされて行く。形を変え、色も変え、ふわりと漂うその呑気な塊を眺める2人の間に、心地良い沈黙が舞い降りた。

 

 そう言われてそうかと思い直す。確かに地球連邦宇宙軍(EFSF)コロニー駐留艦隊は再編が必要な程に壊滅的打撃を受けた。しかしながら、それらは主力と言えど、全体としてみれば極一部に過ぎない。独立機動軍所属の宇宙特務艦隊や月面艦隊、及び小惑星"ユノー"──"ルナII"艦隊は未だに健在だ。

 それに地球連邦軍の主力は、決して宇宙軍では無い。地球連邦の名の通り、主力は俺達地球総軍だ。一説には30対1とも言われる戦力差を崩す事は、かのナポレオンでも到底不可能であろう。ジオン軍は、獅子の尾を踏んだのだ。

 

「ま、それが誤報、って言われても信じてしまいそうですね。モビル、スーツでしたっけ?大規模人型兵器だとか…フィクションとしか思えませんし、実用性だって……」

「あ、少尉!ここにおられたのですか。あっ、おやっさんもどうもです」

 

 そんな2人に声がかかる。彼らの元へ駆けて来たのは、この場に不似合いな小柄な1人の少女だ。ややだぶついた軍服に着られたかの様な不釣り合いな風貌だが、彼女はれっきとした戦車の操縦者(ドライバー)であるレオナ・ヴィッカース伍長だ。

 手を振る彼女は朝の太陽に照らされ、その赤みがかかった茶髪が照り映える。踊るショートカットと同じ色をした目は、喜びに溢れ輝いている。

 しかし、その太陽に勝るとも劣らない輝く笑顔が印象的な女性兵士(WAC)だ。その分、実年齢以下に見られてしまう様な幼さを残した印象が強い。と言うかぶっちゃけ中2にしか見えない。志願兵ではあるが、今の地球連邦軍の状況を表した少女とも思える。

 

「伍長か、軍曹は?」

 

 座るための空のドラム缶を転がし、伍長に進めながら少尉が言う。軍曹とは伍長のバディ、"ロクイチ"の砲手兼車長のロイ・ファーロング軍曹の事だ。長らく伍長とバディを組み、伍長のお守りを任されている男であり、少尉とも懇意の頼れる男だ。いや(おとこ)か?

 因みに2人は、周りからは"夫婦"と呼ばれている。本人達は否定してるが……。まぁぶっちゃけ"親子"に近い。と言うかそうにしか見えない。

 

「ありがとうございます!!あ、軍曹は"61式主力戦車"(ロクイチ)に。嫌な予感がすると」

「そうか……と言うか、伍長は何でいちいちこんな遠いとこまで来るんだ?今日は来てないが軍曹も。何かあるのか?」

 

 少尉の発言は最もで、彼は空軍(AF)所属であるが、伍長と軍曹は陸軍(GF)所属だ。管轄も敷地もかなり離れている。予算の取り合いから、兵士達は兎も角、上層部は両軍共にあまり仲が良くないのも事実だった。

 まぁ、休日は3人で過ごしたりしているが、こんな短い休憩中まで来る事あるか?少尉は伍長の何も考えてなさそうな笑顔を見つめながらそう思う。というか、実際そうだろうな。少尉は薄く含み笑いを漏らしながらそう聞くのだった。

 

「い、いや、それは……別にいいじゃないですか、そんな事!!」

「そうだな、『別にいい』ね、全く……まっ、少尉は人気だからな」

 

 歯に衣を着せた物言いに、おやっさんがやれやれと肩を落としながら言う。何でだよ。説明を要求したい。昨日も同僚にからかわれた事を思い出し、少尉は軽く嘆息する。

 

「おやっさん。冗談でもやめて下さい」

「あはは…」

 

 伍長の下手な誤魔化し笑いが引っかかるが……。

 顔を見合わせ、3人で笑い合う中、先程の会話が思い出される。"戦争"……………。

 

──戦争、か……その()()()()単語だけが頭を堂々巡りする。

 

 戦争が始まろうとも、少尉にとってそれはあまり実感の湧かない話だった。主戦場は宇宙であり、それもニュースで時々見飽きた同じ映像が流れるだけだ。地球上の人々が感じる戦争とは、夜星空を見上げ微かな閃光を見る事がある程度な上、最近は月面からの"マスドライバー"攻撃もなりを潜めている。平和なものだ。

 それに、その宇宙でも、"ルウム"では両軍が激しく激突し、お互いに激しく、それこそ時間を掛け再編する必要が出る程に消耗したのだ。ジオン側が勝利を収める結果となったが、連邦軍は当初の目的であった2回目の"コロニー落とし"は阻止したのである。ジオンは戦術的には勝利したが、戦略的には敗北し、それ以来、激しい戦闘など起きず、時折小競り合い程度の戦闘が起きるくらいだったのだ。

 

「そうか、ところで、伍長はどう思う?今については」

「はい!自分は、ジオンの反乱軍どもに正義の鉄槌を下すのは我々の仕事だと考えています。そのための連邦軍と、少尉考案の特殊訓練です!」

 

 ビシッと姿勢を正し、敬礼しつつ伍長が応える。カッコよく決めたつもりだろうが、帽子が曲がっているのが彼女らしい。その様子に苦笑しつつも、少尉は真面目な顔を作り直し言った。

 

「いい答えだな。軍人としては花マルだ。だが、無茶はするな、俺の訓練が役に立てばいいが、俺はお前と話せなくなるのは嫌だからな」

「ハッ、『絶対に死ぬな』ですね。承知して──!」

「──?……何を……!」

 

 話の途中で、空を見上げ目を凝らす伍長。それに釣られ空を見上げた少尉は、目に飛び込んで来た光景を思わず目を疑った。

 

「──おやっさん!あれは!?」

 

 昼間の蒼く澄んだ空を切り裂く、赤く輝く流星。キラリ、またキラリと光を放ち、雲の切れ間に表れるそれは昼間でもよく目立つ。その数は、時間と共に爆発的に増えて行き、とても数え切れるものではない。

…………明らかに人為的なものだ!!

 

「自然にゃありえねぇ!ありゃジオンの降下ポッドだ!!」

 

 正確には"HRSL"と呼ばれる大気圏突入用カプセルを主軸に行われる、ジオン公国軍の第二次地球侵攻作戦は今、火蓋を切られた。

 

 

 

 それは、彼の、今後想像を絶するほど長きに渡る闘争が始まった瞬間だった。

 

 

 

 おやっさんの声が早いか、けたたましいビープ音が、人の走る音が、怒号が静かだった基地を引っ掻き回し始める。

 

『総員、第一種戦闘配置!これは訓練ではない!繰り返す、これは訓練ではない!!』

 

 始めての"実戦"の雰囲気に、危うく飲み込まれそうになった少尉は自ら頬を張った。走る痛みに意識を向け、心を落ち着かせる事に専念する。そのまま頭を振って気を引き締め、上擦りながらも的確な指示を出し始めた。

 

「おやっさんは避難指示を!伍長は軍曹の"ロクイチ"へ!」

「りょ、了解!少尉も健闘を!」

「あぁ!」

 

 敬礼をする伍長に言い終わるが先か、少尉は愛機の待つハンガーへと走りだす。ハンガーはここから2ブロック先だが仕方が無い。体力には自信がある上、数がそれほど多くは無い"足"(車輌)を自分で使いたくはない。

 そして走りながら考える。遂にこの日が来てしまったと。今まで夢物語に近かった"戦争"と言うものが、この空気を揺さぶるサイレンと、凄まじい程のリアリティを伴いながらやって来たのだと。心が、身体が、ゾクッとする様な寒気に震えた。それは武者震いか、人の本能か、知り得る者は居ない。

 

 そもそも少尉は、既に3月1日には中央アジアにジオン地上侵攻軍が降下し、作戦を開始している事を知らない。これも、ミノフスキー粒子を利用した電撃戦と、"コロニー落とし"による補給、連絡線の寸断の影響だった。海底ケーブルは切断され、掻き混ぜられた大気と舞い上がった塵で長距離通信も麻痺している。衛星は殆どが破壊され通信網はパンク寸前だった。特にその被害が大きい北米では尚更で、五大湖が"6"大湖になっていることすら知っているものは極々少数なのだ。

 

 当たり前の日常が崩れ、非日常が日常へと変わって行く。その瞬間を、少尉は確かに感じていた。

 ぐるぐると頭を巡り、混乱の渦に巻き込まれて行く考えを、現実のクラクションが中断させるた。

 アスファルトを焦がす臭いと鋭い音。それらと共に少尉の眼前に滑り込み、急ブレーキをかけたのはおやっさんの軍用エレカーだ。

 

 エレカーとは、エレカとも略される電気動力車の略である。これは基本的にはバッテリー駆動車を指すが、燃料電池車も含む総称だ。旧世紀に憂いられた通り、石油などの化石燃料は枯渇こそしていないが、産出量は目に見えて減った為、殆どの車の動力は電気となり、宇宙世紀の地球全土、及びコロニー全域に渡り世界的に普及している。それは軍も例外では無く、連邦軍のM72 1/2tトラック "ラコタ"高機動車両やジオン軍のPVN.3/2 "サウロペルタ"軽機動車、地球連邦地上軍の誇る究極の主力戦車 M61A5 MBT "Type 61 5+"(ロクイチ)も電気駆動である。高性能のバッテリー、キャパシター等が実現したエレカは、環境にクリーンかつ低コストであり、今や生活を支える無くてはならない物として世界に浸透している。

 

「乗れ!少尉!」

「おやっさん!避難を!」

 

 エレカのドアを蹴り開け怒鳴るおやっさんに、少尉は乗り込みつつも怒鳴り返す。騒音に包まれ始めた基地内では、もう会話が殆ど届かなくなり始めている。エレカのモーター音は静粛性に優れているが、既に喧騒に包まれた基地では、これでも足りない位だ。今も視界の隅では、ビリビリと空気を震わせながら航空機が緊急発進(スクランブル)をかけている。

 先端がシュモクザメの様に広がった、薄べったいリフティングボディ……"フライ・マンタ"戦闘爆撃機(マルチロール・ファイター)だ。尾翼に彩られたマークから、恐らく"グレイ・ソード"隊だろう。"デプ・ロッグ"が見えない事から、衛星軌道上での迎撃は諦めたらしい。それか、空軍と宇宙軍のお偉いさん同士が争っているかだ。

 

「するか!お前の乗ってる機体を誰が整備してると思ってんだ?!あぁ!?それとも俺に逆らおうってか!年上の好意はありがたく受け取るのがウマイ出世のコツだぞ!」

「いえ!感謝します!……が、おやっさんがそれを言いますか?」

 

 少尉がシートベルトをつけ終わるやいなや、エレカが蹴飛ばされた様に走り出す。慌ててサイドボードに手をつき身体を支えた少尉が、強く吹き付ける風に負ける事なく言う。その口元は緩み、先程までの緊張感はやや薄れていた。

 

細けェこたぁいいんだよ(ニケル・ダイム・シット)!!」

「全く。ふふっ」

 

 風になびく髪を払いのけながら、口元を押さえ笑う少尉。吹っ切れた様子の少尉に満足したおやっさんは、アクセルをさらに踏みつつ笑い出す。

 

「そうだ、笑っとけ笑っとけ!うははははっ」

「前を見て下さい!!安全運転頼みますよ!!」

「任しとけって!」

 

 曲がり角に置かれたポールに擦り、弾き飛ばしたエレカは、ブレーキの音を響かせながら鮮やかなターンを決める。少尉が吹っ飛ばされ、音を立てて転がるポールの行方を目で追う時には、既にエレカの前に巨大なかまぼこ状の建造物が現れていた。2人の目的地の、航空機が格納された大型のハンガーだ。前面の大型ハッチは既に開かれ、喧騒が外まで聞こえていた。

 

 タイヤを軋ませて、エレカがつんのめる様に急停車し、ハンガーに到着する。パイロットは自分が一番乗りのようだ。整備士達はもう走り回っている。そこに降り立ったおやっさんが一声あげると、更にその動きが早くなる。浮き足立っていた整備士達が、おやっさんの指示を受け的確に動いて行く。その中で形成される大きな流れとそのうねり。個が集合し一体となり、まるで一つの大きな生き物の様に機能する様に、少尉は思わず圧倒された。

 

「おやっさん、もう既に指示出してたのか……」

 

 軍用エレカから飛び降りた少尉は、整備兵から差し出された耐Gスーツを大急ぎで装着していく。サイドアーム(セカンダリ)を確認し、手渡されたHUD付きヘルメットの作動を確認した後、それらを小脇に抱え走り出す。薄暗い格納庫の中、開け放たれた入り口から差し込む光に照らされた愛機に駆け寄りつつ、整備士にオーダーを出す。

 

スマートボム(INSB)クラスター爆弾(CB)を二発ずつ!空対地ミサイル(AGM)を六発、真ん中には試作のECMポットを!!」

「おう!おやっさん!あいつの初陣です!」

 

 整備士の怒鳴り声に、おやっさんはモンキーレンチを振り上げ応える。その後ろを他の整備士がミサイルが載せられたカートを押し通り抜ける。燃料補給車が脇を通り抜け、"マングース"に命の源を注いで行く。少尉は大きく、逞しい主翼を手の甲で軽く叩き、その感触を確かめた。これは、殆どいつも行っている儀式の様な物だった。

 

「最終調整は済んでる!持ってけ!!」

「はい!」

 

 返事を返し、機体の下に潜り込んでいる整備士に増槽は要らないと言いつつ、少尉は愛機にかけられたタラップに足を載せた。軽い音に軽快なステップ。導かれる様に手をかけ、コクピットを覗き込んだ。

 

「てめーら、モタモタしてっと海にぶっこむぞ!」

「「おう!」」

 

 おやっさんの怒鳴り声に整備士達が応え、方々へ散って行く。

 

 空の燃え尽きない流れ星は、すぐそこまで来ている。

 少尉は攻撃機(アタッカー)のパイロットだ。戦力増強の為の戦時動員により、繰り上がりで士官学校(OCS)を出たばかりの新米であるが、シミュレータ、実機訓練の時間は同期でトップだ。直ぐさま愛機である対地攻撃機、AF-01"マングース"攻撃機に飛び乗り、手慣れた動作でコクピットに滑り込む。機載電子機器(アヴィオニクス)を立ち上げ、システム・チェックを開始する。動翼を動かし、その動きを感覚と目で確かめながら。

 

 結果は全機能異常無し(オールシステム・オン・ザ・グリーン)

 

 出撃前の儀式とも呼べるプリフライトチェックを終了させ、シートベルトを取り付けてくれた整備兵にサムアップし、キャノピーを締める。ハシゴに車輪止め、爆弾とミサイルのセーフティピンを抱え走り去って行く後ろ姿から目を逸らし、バックミラーを確認した後は、少尉は目の前の光を放つ計器類に集中し始めた。グイと機体が揺れ、牽引車(タグ)による牽引(プッシュバック)が始まった。そのまま、"マングース"はその巣穴から引き摺り出され、輝く太陽の元に晒されキャノピーを煌めかせた。

 

「コンタクト」

 

 少尉はエンジンに火を入れる。轟音を高らかに奏でながら吠えるタービンが空気を食み、機体を大きく震わせる。周りに被害を出さない様、出力は最低限だ。しかし、その遠吠えは空気を揺らし、滑走路脇の看板や芝生、格納庫の窓を撫でて行く。

 

「整備班!いい仕事ありがとう!必ず戻ります!」

「おう!そいつぁ丈夫だが、キズは無いに限る!必ず返せよ!」

「了解!」

「肩じゃなく、腹に力を込めて行け!」

「はい!」

 

 AF-01"マングース"攻撃機は、鈍重であるが頑丈な機体に、11箇所のハードポイント、二発の大出力エンジンに加え、機首には20mm機関砲を4門備えた空飛ぶ戦車の様な飛行機だ。その外観は攻撃機神話を生み出したアメリカ空軍傑作攻撃機、フェアチャイルド・リパブリック A-10"サンダーボルトII"に酷似している。かなりロートルの旧型機であるが、その設計の堅実さとコストの安さ、そしてその生存率の高さから退役予定を迎えても尚使われ続けて来ていた。

 

管制塔(コン)!聞こえるか!こちらコールサイン、フライング・タイガー03、発進許可を求める!!」

『こちら管制塔(コントロール)緊急発進(スクランブル)符号(コード)確認。初陣か、フライング・タイガー03?』

 

 もう一度プリフライトチェックを行いながら、普段通り行っているはずの、管制塔への通信もいつになく緊張する。少し声を大きくし過ぎたかも……。周波数は?符号は?あらゆる事が頭をグルグルと駆け巡るのを、オペレーターの声が打ち止める。

 

「こちらフライング・タイガー03。肯定、この機体(マングース)の特性は把握している、必ず戻る。そのために発進許可を!!」

『管制塔了解、スクランブルだ。必ず帰って来い。進路クリア、第三滑走路へ、GOODLUCK!!』

 

 含み笑いを持たせた管制塔のオペレーターに感謝しつつ、少尉は機を操る。本来、航空管制官にこの様な発言は許されない。不明瞭な指示は大事故につながる可能性もある。しかし、ベテランは判っているのだ。その上で緊張し、パイロット達を送り出して行くのである。

 

「こちらフライング・タイガー03、感謝する」

 

 空の流れ星はまだ続いている。しかしまだ、航空優勢権はまだこちらにあるはずだ。航空機としてはかなり鈍足であるコイツの活躍は、航空優勢権に守られなければ発揮できない。だからこそ、出来てるうちにぶちかます。

 牽引車に引かれ誘導されたのち、舞う様に導く誘導員の指示に従い、機体を唸らせる様なタキシングにて滑走路に着く。

 

 ランディングギアのショックアブソーバーを縮める。機体が沈み込み、前傾する。そのニーリングの姿勢は、獲物に飛びかかる猛獣の様だった。

 

 準備は整った。後は、舞台へ向かうのみ。

 

《GOODLUCK、フライング・タイガー03》

「了解、フライング・タイガー03、出撃する!!」

 

 少尉はスロットルレバーを引き、機体がGを受け加速して行く。翼が大気を受け、その壁を打ち破り揚力を生み出し始める。窓の外を流れる景色はどれも後ろへと吹っ飛び、霞み、消える。

 2つのGが身体にのしかかるのを感じる。少尉はそれに歯を食いしばって耐える。いつも通りだ。

 そうだ。いつも通りだ。いつも通りやればいい。出来る事が出来るのは、幸運な事だ。

 

離陸決定速度(V1)到達」

 

 開いた口から、絞り出す様な吐息とともに報告を行う。空気を喰らうエンジンが、かすかな言葉を打ち消さんとする様にその轟音で機体を揺さぶる。カタカタとした振動がどんどん大きくなって行き、飾り気の無いコクピット内を別の世界へ変えて行く。

 中尉は一度操縦桿から手を離し、震える手で計器類を確かめる。これは少尉の癖だった。

 

「──引き起こし安全速度(VR)到達」

 

 異常無し。綺麗な青を放つ計器盤から目を離し、中尉は今度こそしっかりと操縦桿を握り込む。風を切り裂く音がかなりの物になって来た。管制塔の声が聞こえづらい。

 いつもと違う。その感覚は一瞬にして少尉をパニックに至らしめる。恐怖が身体を支配する。上手く呼吸が出来ない。身体が言う事を聞かず、震える。

 不安で押しつぶされそうだ。頼む、誰か助けてくれ。誰でもいい。ここから出してくれ。

 

 その時、リアビューミラーに格納庫が写り込んだ。そこには、整備士達がまだ帽子を振っていた。

 

離陸安全速度(V2)到達!」

 

 震えが止まった。何故かは判らない。でも、今、これ以上も無く落ち着いていた。頭の中が冴え渡って行くのを感じながら、少尉は更にスロットルレバーを引いて行く。機体が更に加速し、小さく音を立てながら、自分の二の腕の血管が切れるのを少尉はぼんやりと感じていた。

 いよいよだ。身体が慣れて行く奇妙な感覚。先程のパニックの片鱗も感じさせない動きで、少尉は儀式(・・)を終えて行く。

 凄まじいエンジンの振動と、猛烈な空気抵抗の振動にもみくちゃにされながら、少尉は前だけを見つめ操縦桿を引いた。時は来た。我は行く。

 

「──テイクオフ!!」

 

 見た目によらず、その機体がふわりと持ち上がる。みるみるうちに地面が離れていく。風を切り、舞い上がって風と一体化し、機体が空の一部となる。

 

《フライングタイガー03、高度制限を解除。幸運を》

「了解。かましてくるさ……ランディングギア格納。環境コントロール・システム(CECS)正常。計器類異常無し…いや、レーダーに若干のノイズあり。環境センサー反応無し…」

 

 手慣れた動作で確認を行っていく。この行為自体も既に離陸前に済んでいる。報告義務自体は無いが、声を出したかった。漸く不安定な状態から、揚力が釣り合った機体が安定し、少尉は満足気に安堵のため息をつく。

 一度肩の力を抜き、キャノピーから外の様子を伺う。あれだけ間近にあった芝生の大地は遠く離れていた。眼下には米粒の様な人や車が音も無く走り回る、広大なアスファルトとコンクリートが敷き詰められた箱庭があるだけだ。視線を水平に戻すと、遥かに続く地平線が、空を切り取る山脈の稜線が、天まで上がってきた青い海が、後光の差す大きな雲が、あと少しで手の届きそうなところまでやってきていた。

 視界は良好。操縦を乱す乱流(タービュランス)突風(ガスト)もなく、空は凪いでいる。雲も多くは無い。絶好の飛行日和だ。しかし、それはまるで、嵐の前の静けさの様に。

 一息ついた少尉の耳元でインカムが雑音を立てる。近くを飛ぶ管制機からの通信だ。

 

『こちらスカイアイ02、フライング・タイガー03へ、お前の事は聞いている、後続は待たなくていい。エンジェル二-◯(高度2000フィート)、ヘディング000。ポイントエコー32へ向かわれたし』

 

 上空を飛ぶ前線航空管制機(FAC)は、空の司令塔だ。彼の指示に従う事が第一条件かつ最適の答えだ。少尉は見えないその機影に目を凝らすのを辞め、旋回し陸標(LM)を確認しつつそれに応えた。

 

「こちらフライング・タイガー03。了解。ふんぞり返った奴らのケツに火をつけてくる。誘導頼む」

『こちらスカイアイ02、了解。護衛を付ける。派手にやって来い!』

 

 機首を転換、一路、北へ向かう。頭上で見下ろされる形で飛んでいる連邦軍早期電子哨戒機(サーヴィランス)"ディッシュ"からの高速データリンクが開始され、情報を受け取る。目に見えない情報が噛み砕かれ、目の前に現れる。それに目を通しつつ少尉は舌を巻いた。予想外に展開が早い。脚の遅いコイツじゃ奇襲効果が薄れる可能性がある。返討ちはゴメンだ。

 護衛は、同じくスクランブルにより邀撃へと上がった一機の"フライ・マンタ"だった。たった1機だが、頼もしい限りである。

 

 RP-02 "ディッシュ"は、大型の円盤型レーダードームに機首と左右2対の水平翼が付いた、名称通り皿のような機体形状が特徴的な連邦軍の早期警戒哨戒機(AWACS)だ。機体表面の大半をレーダー素子で構成された超高性能索敵機で、別名"空の支配者"とも呼ばれている。航続距離が長く、脚も速い為、連絡機としても使われるポピュラーな機体だ。

 BF-01 "フライ・マンタ"は、機首の左右に3連装ミサイルランチャーを装備し、また後期生産型には2連装30mm機関砲を備える地球連邦軍の戦闘爆撃機(マルチロールファイター)だ。戦闘機でありながら底面には大型の爆撃用爆弾層を有し、対空、対地戦闘に使用される。装備の切り替えにより多様な任務の遂行が可能であるため、開発されてからと言うものの、特に"一年戦争"中は連邦空軍の主力戦闘機として、多くの基地に配備されていた機体だ。航空祭でもよく見かける為、その愛嬌あるボディから長く愛されている一機だろう。少尉も流線型かつ丸っこさを残すボディは好きだ。

 

《こちらアロー06、しっかりエスコートしてやる。ついて来い》

「こちらフライング・タイガー03。了解、しっかり面倒見てよ?」

 

 ジオン降下部隊は"キャリフォルニア・ベース"北西海岸に続々降下して来ているとの事だ。悲観的観測は良くないが、あまりにも大部隊すぎる。

 "コロニー落とし"による未曾有の大被害に続き、連日月面からのマスドライバーを用いた戦力爆撃により戦力を削られた今の"キャリフォルニア・ベース"に、守り切れるかどうか。

 

 "キャリフォルニア・ベース"は地球連邦軍有数の大規模基地であり、大規模宇宙港を持つため戦略上、総司令部"ジャブロー"に続く最重要拠点である。

 そのため地球連邦軍基地有数の戦力を持つものの、敵であるジオン軍は最新兵器MSを所持している。MSは擬似重力下とはいえコロニー内の戦闘も確認されている。つまり、敵戦力にMSが出てきてもおかしくはない。敵の戦力は未知数だ。MSの戦闘はシュミレーションもやったことがない。不安は次々と浮かび上がってくる。

 

 視界が暗くなる。青かった空に雲がかかっていた。

 それと同時にレーダーにノイズが走り始めた。無線もガーガーと雑音を吐き出し始める。故障?いや、これは………。

 

「──…これが、ミノフスキー粒子の影響…ってヤツか……?」

 

 まさか、すぐ近くを飛ぶ"フライ・マンタ"とも連絡が取れないとは……。ミノフスキー粒子の効果に戦慄を覚える。戦場が変わる訳だ。とにかく、データを収集しつつ、通信設備の一新を提案しなければ、と考える。光通信などどうだろうか?幸いライトはある。最悪鏡があれば出来る。バンクを振る事でも出来るだろう。レスポンスの関係から有機的、能動的な運用は厳しいが、意思疎通くらいは容易い。

 

『コチラフライング・タイガー03、アロー06、キコエルカ?』

 

 カチカチと音を立て、手元のライトを光らせる。反応は直ぐに帰って来た。眩しい位の空の下、それを突き破り入ってくる光から、ヒトの意識を感じ取る。光通信は今も健在だ。やはり枯れた技術は役に立つ。少尉はホッと息を吐きつつ通話を続ける。

 

『コチラアロー06、ヨクオモイツイタナ、ダガ、キドウウンヨウハムリダナ、ドクジノハンダンデウゴクシカナイ』

『コチラフライング・タイガー03、リョウカイ、グッドラック』

 

 レーダーはもう使えない。目視で索敵………!

 

『コチラフライング・タイガー03。ジュウジホウコウ、ナニカヒカッタ』

『コチラアロー06、オナジクカクニン、テキノコウカポットトオモワレル、シカケルカ?』

『コチラフライング・タイガー03。モチロン。エスコートタノム』

『コチラアロー06。リョウカイ。シッカリツイテコイ』

 

 バンクを振り、機首を転換、敵へ向かう。遥か先に、艶消しされたグリーンのポッドが複数個転がっている。ここから見たら虫の卵ぐらいだが、本当はかなりの大きさになるだろう。ハッチが開いていて、既に敵部隊は展開している。戦車の様な物が見えるが、明らかに大きすぎる。

 

『コチラアロー06、エンゲージ、モクヒョウカクニン、コウゲキヘウツル』

『コチラフライング・タイガー03、リョウカイ。ハジョウコウゲキダ』

 

 射撃管制装置(FCS)起動、全武装セーフティ解除(マスターアームオン)、メインアーム、レディ。

 操縦桿のトリガーに取り付けられた最終セーフティの解除と同時に、ディスプレイ中の兵装データの一角、そこに明るいグリーンで表示されていた"SAFE"が一瞬で攻撃的な赤文字の"ARM"へと切り替わった。戦闘開始だ。

 

敵機視認(エネミー・タリホー)!フライング・タイガー03、エンゲージ!!」

 

 バンクを振った"フライ・マンタ"が先行し、油断していた敵に情け容赦無く対地ミサイルを撃ち込んで行く。眼下では敵が大慌てで走り回るが、効果的な手を打てていない。統率の取れてない動きで右往左往している。それを爆炎が包み込んで行く。まるで映画のワンシーンだ。

 

 ヘッドアップディスプレイ(HUD)を通し敵を睨みつける。ダットサイトが灯り、"VALID AIM"(確実な照準)と表示された。

 

「GUNs・GUNs・GUNs!!FIRE!!」

 

 "フライ・マンタ"が飛び去った後、そこへ"マングース"が突っ込んで行く。機首の20mm4連装機関砲が唸りをあげ、5秒間の制圧射撃を行う。

 一瞬、コクピット内が暗くなった。莫大な電力が機関砲をフル稼働させ、発電量が足りなくなったのだ。同時に、機体が減速し、猛烈な火薬の匂いがコクピット内に充満する。そして、吐き出された火の玉が、毎秒70発という凄まじい発射速度に後押しされ破壊の奔流を作り出す。"マングース"の40mm機関砲弾には5発に1発の割合で曳光弾(トレーサー)が組み込まれ、弾道を容易に視認出来る様になっているが、連射速度の前に全ての弾丸が曳光弾の様に見えた。その凄まじい威力の前に、ポッドと戦車が一瞬で蜂の巣にされる。すれ違いざまにスマートボム、クラスター爆弾を投下、慣性に乗り自由落下して行く爆弾が炸裂、下が猛烈な爆炎に包まれる。上手く直撃し、思わずガッツポーズする。下は炎が立て続けに上がり、二次爆発を起こしていた。弾薬や燃料に引火したらしい。火達磨の何かが蹌踉めき、さらなる炎に包み込まれて行く。まるで地獄のようだった。

 更に何かに誘爆したようだ。複数あったポッドが纏めて吹き飛ぶ。下の凄まじい様相を流し目で見つつ、反復攻撃は要らないなと考える。

 それに曳光弾の輝度を落とし、割合ももっと減らして大丈夫そうだ。古い軍のことわざに『曳光弾は双方のために働く(tracers work both ways)』と言う言葉が有るように、当たり前であるが激しい光を放つ曳光弾はよく目立ち、射点がバレてしまう。また曳光弾は弾道が安定しない上、威力も低い。改良され曳光焼夷弾やLEDを利用している弾頭もあるがそれでも気休め程度だ。更には銃口及び銃身などの発熱を促し、その性能を落としてしまう。見た目こそド派手であるが、それは実戦においてデメリットとなる場合の方が多い。高い輝度により暗視装置をホワイトアウトさせたり敵をビビらせられると言う側面も無きにしも有らずではあるが。それは今必要無い。

 

『コチラアロー06、ジュウニジホウコウ二テキエイカクニン(ヘッドオン)、ソチラヘムカウ』

『コチラフライング・タイガー03、リョウカイ、ツイジュウスル』

 

 初陣で戦果だ。それに多数の情報を得ている。次の攻撃で撃てるだけ撃ち、基地へ戻らなければ。この情報は、自分の命より重い。

 敵を攻撃し、それを確認することで得られる情報は多い。戦争はドンパチやる事だけが仕事じゃない。寧ろそちらより裏方の情報処理の方が大きい。戦闘を行うのは全体の一割程度であり、その他は情報処理と、補給や輸送、兵站管理(ロジスティクス)などの裏方である。そちらが一番大切なのだ。如何に優秀な兵器、人材が有ろうと弾丸、食料などの補給が無ければ軍は戦うどころか維持すら出来ないのである。それらは宇宙世紀になっても変わらない軍隊の台所事情であった。

 

 今、地球連邦軍は"コロニー落とし"、マスドライバー攻撃で補給線はズタボロであり、各基地は孤立してしまっている。この様に直様対応し、スクランブルが出来たのは"キャリフォルニア・ベース"という連邦軍有数の大規模基地だからである。

 付近を同じ様に索敵する。機体をロール、背面飛行させ、下を伺う。光だ。見つけた。目標を確認。僚機に指示を送る。返事は待たない。ストア・コントロールパネルの表示を確認。シーカーオープン。

 

「ライフル!リリース!ナゥ!!」

 

 今度は対地ミサイル(ライフル)を試す。機体から切り離されたレーダー誘導型ミサイルのロケットモーターが作動、白煙を引きつつ敵機へ突進して行く。ロックこそしたものの、誘導効果は殆ど発揮しないまま着弾、炸裂する。やはりミノフスキー粒子下では、電子機器、中でも特に通信、無線誘導関係は殆ど使えなくなるようだ。それらの電子機器の使用を前提とした兵器しかない連邦軍が苦戦するワケである。

 

 爆撃地点をパイロン飛行。戦果を確認する。反復攻撃の必要は無さそうだ。機首を転換する。"フライ・マンタ"の後ろに着いた。僚機の文句を聞き流しつつ、帰途に着こうと考える。

 深追いは良くない、まだ武器はあるが基地へ戻ろうという意味の電文を打とうした刹那、突然目の前の"フライ・マンタ"が火を吹き、あっという間に炎に包まれた。突然な事に絶句する少尉を他所に、"フライ・マンタ"は黒煙を噴き、きりもみ回転しながら失速、墜落して行く。

 

「!?」

 

 機首を引き上げ同時に電子対抗手段(ECM)を作動させる。その次の瞬間、激しい音と光を伸ばし、機体を掠めるかの様に火線が過ぎる。眼下では、黒煙を引き小さくなっていく"フライ・マンタ"が、遂に耐え切れなくなったかの様に歪に歪み、爆散した。

 

 べイルアウト(緊急脱出)は、確認出来なかった。

 

 あっという間だった。目の前の突然で呆気ない爆発が、"死"の現実を大合唱している。

 

「アロー06!!」

 

 思わず叫ぶ。機体は既に爆散している。通信機すら通じない現状で何の意味も発揮しないことは分かり切っている。しかし、叫ばずにはいられなかった。雲に飛び込み、大きく機首を振り、機体が大きな弧を描く。

 

「仇は取るぞ、アロー06──」

 

 思わず呟く。対空砲か高射砲(AAG)か、どちらにしても高脅威目標には変わりない。陣地転換される前に、友軍の為にも倒すべきだ。

 

 雲を突き抜け、"マングース"が目標を正面に捉えた(ヘッドオン)

 

 先程の様なポットの傍に、"奴"は居た。

 

 

 

 

 

 緑の巨人(グリーン・ジャイアント)が、バカデカいライフルを構えて立っていた。

 

 

 

 

 

 "巨人"の一つ目が輝く。銃口がこちらへ向く。

 

「うおおぉぉぉぉおっ!!!」

 

 思わず叫んでいた。恐怖で身がすくむ。頭は回らず、ぼんやりとしか考えられない。高高度から機関砲を乱射しながら突っ込んで行く。"巨人"か手にした大砲を放つ。近くを通った弾丸で機体が揺らぐも、突撃はやめない、やめられない。

 

 対地ミサイル全弾ロック。残りのスマートボム、クラスター爆弾も投下しつつ無理矢理機首を引き上げる。機体にかかるGで機体が悲鳴をあげ、身体はシートに押し付けられ、身体の血が足へと集まる奇妙で苦しい感覚と共に目の前が暗く(ブラックアウト)なる。歯を食いしばり、耐えに耐える。いつもの事だ。イレギュラーなんてアイツ(・・・)だけで十分だ。畜生。

 

 機首が中々上がらない、それどころか機体が緩やかにロールする。暴れる何とか姿勢制御し、現状を確認する。敵の"巨人"は、スマートボム、対地ミサイルをしこたま喰らい倒れ伏していた。黒煙を噴き上げる"巨人"は、次の瞬間大爆発を起こした。

 

 しかし、こっちもこれまでだ。機体がふらつく。警告がビービーうるさい。首を振り機体の状況を確認しようとした少尉はそこで絶句した。右の翼の先端が1/4程千切れ飛び、右エンジンも故障こそしなかったらしいが不調を訴えていた。装甲もあちこち剥げ、乱れた空力が生む風圧の前に負け、千切れはためいている。エンジン不調は恐らく、その所為でエンジンが異物を吸い込んだ(FOD)らしい。また息をついた。ほぼ片肺飛行に近い。キャノピーにもヒビが入り、醜く白化していた。"マングース"(コイツ)が頑丈な機体じゃなければ、先程の"フライ・マンタ"(アロー06)と同じ運命を辿る所だっただろう。コレは、"バスタブ"にまで損傷しているかもしれない。凄まじい火力とパワーだ。

 

 よろめく機体を何とか制御、震える手でコンソールを叩き千切れた翼端部への燃料循環を停止(フューエルカット)し、誘爆を防ぐ。

 重心が偏り、空力的にも不安定になり暴れる機体と操縦桿とを押さえつけ、フラフラと頼りなく基地へ向かう。翼端が白くヴェイパーを引いている。ごっそりと減った燃料計を見、タイマーを確認し出撃から一時間も立っていないことに今始めて気づく、自分がやった事に対し今更恐怖が沸き上がる。自分が、生きて、今空を飛んでいるのは、ただ運が良かっただけだ。

 

「アロー06……」

 

 フラッシュバックする"フライ・マンタ"の最期。

 

 かぶりを振り、そのイメージを頭から締め出す。そして、基地へ針路を取った。生きていることを噛み締めながら……。

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、歴史上有名なある将軍は、

『上陸作戦の死命を制するのは上陸後の24時間だ。それは敵にとっても味方にとっても、"最も長い一日"(ザ・ロンゲスト・デイ)になるであろう』

と語った。

 

『鷲は舞い降りる』

 

 ジオン公国軍が第二次地上侵攻作戦を発令してからまだ数時間。

 『最も長い一日』(ザ・ロンゲスト・デイ)は、まだ始まったばかりだった……………




出てくる兵器は性能の独自解釈やマイナーアップなどがありますが全て設定にある兵器を出そうと思います。
主人公がMSに乗るのは先になりそうです。
軍事に関しては素人なので、航空管制のセリフはイメージです。この作品を機に、戦場の花形であるMSの影に隠れる、"戦場を支える兵器"にも魅力を感じ、興味を持ってくれたら幸いです。

出てくるジェシカ・ドーウェンとは、機動戦士ガンダム外伝設定資料集に出てくる記者さんです。生まれて始めてやって全クリしたゲームで思い入れがあるので出させてもらいました。因みにブルーは3号機が好きです。


次回 第一章 帰還報告(デブリーフィング)

「陸の王者、鬼戦車M61か……」

フライング・タイガー03、エンゲージ!!

追記
すみません。マングースの中央ハードポイントには増槽しかつけられませんでした。お詫びとさせていただきます。

更に追記ECMにルビ打てませんでした。長過ぎ………。


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第一章 帰還報告

これからは大体4000〜5000文字位で続いて行きます。大体は戦史と矛盾を出さないようにしますが、自己解釈や、設定の曖昧さを利用して書いて行きたいとおもっています。あらかじめご了承下さい。

↑と思ったら加筆修正で8000〜になりますた。


"飛行機"が兵器となったのは、第一次世界大戦からだ。

 

そこから、宇宙世紀へ至っても、飛行機は主力となり続けていた。

 

その高い機動力、攻撃力を持ち、代替し得る兵器は存在しない。

 

いや、存在しなかった。しないはずだった。

 

だが、その"秩序"は崩されつつあった。

 

新たな、戦場を支配し得る秩序によって。

 

 

 

──U.C. 0079 3.11──

 

 

 

 一一二○(ヒトヒトフタマル)。青い空の隅に、雲に紛れる様に飛ぶ機体があった。片翼の一部を失いつつも、"キャリフォルニア・ベース"へと向かう機体だ。

 時折思い出したかの様に息をつき、激しく咳き込むエンジンからは黒煙を噴き、千切れた翼端からは白く残燃料を気化させ、ヴェイパーを引く。それでも、ふらつきながらであるが風を切り、しっかりと飛んでいる。時折ガタつく機体からはパーツが脱落するが、全く御構い無しだ。機体側面についた生々しい擦過跡が、激しい戦闘を物語っている。

 

 その正体は、少尉が乗り込んでいる満身創痍の"マングース"だ。

 

 アヴィオニクスの一部がダウンし、更にはミノフスキー・エフェクトによりレーダー、衛星通信を含めあらゆる機材が使えないため、少尉は太陽と地形から居場所を判断し基地へ向かっていた。少尉はこれが海の上でも出来る事に誇りを持っていた。どうだ、役に立つもんだろう。

 宇宙世紀となった今では、これにより飛行が出来るパイロットはぐんと減っていた。高度に進んだハイテク化による枯れた技術、ローテクの軽視である。自動航法装置も発達し、操縦の自動化もかなり進んでいる。"マングース"は最古参とも呼べる航空機だからこそ、この様な技術が生きると少尉は常に言って憚らなかったが、実際それは正しかったと言える。

 

 少尉はまだ知らない。"キャリフォルニア・ベース"から飛び立った攻撃機隊の帰還数が、少尉を含めてごく少数しかいない事を。

 

「──見えてきた!よし!よし、帰ってきた……帰ってきたぞ。よくやったぞ相棒」

 

 コンソールの上を軽く叩きながら、柄にも無く少尉がはしゃぐ。

……が、落ち着きを取り戻し始めた思考は、冷水を浴びせかけられた様に冷え込んだ。ぞくりと背筋に走る悪寒に、思わず身震いをすると冷静さを取り戻し集中する。着陸が一番危ないのだ。こんな事で死んだらつまらないし、せっかくの機体がものっそい勿体無い。安いと言っても軍用航空機だ。そこらの車なんかとは一緒に出来無い値段がするのだ。戦争は経済活動だ。当たり前であるが無駄遣いは良く無い。節約し過ぎも良くないだろうが。

 

 漸く眼下に巨大な基地が見えてくる。"キャリフォルニア・ベース"は大規模な軍港、マスドライバー施設を含めた宇宙港、陸海空の兵器の生産及び最終組み立て・検査工場(FACO)が複合した北米における最重要拠点であり、この設備はあとは南米、地球連邦軍総司令部"ジャブロー"や、ヨーロッパとアフリカを繋ぐ要衝、"ジブラルタル・ベース"ぐらいしかない。広大な敷地の周辺には、二重三重に数多の衛星基地が取り囲み、その要塞を鉄壁そのものにしている。純粋な基地面積の規模で言えば、かの"ジャブロー"をも上回るのだ。その為、少尉は暫く基地を見下ろし飛行する事となる。

 

 "キャリフォルニア・ベース"は、ジオン軍にとっては地球侵攻時に必ず抑えなければならない要衝であった。宇宙には、地球の様な多様な環境が無く、レアメタルがない。これがジオン最大のネックと言えた。小惑星群(アステロイド)で採取された良質の鉄鉱石を、無重力下で精製する事で得られる高純度の鋼鉄があれど、レアメタルが無ければ唯の鉄だ。レアメタルは工業製品とは切っても切れない絶対必要な物だ。

 その為にジオンは、東ヨーロッパの"オデッサ"鉱山基地、中央アジアの"バイコヌール"宇宙基地、そして北米の"キャリフォルニア・ベース"を抑え、宇宙へと資源を送り出す必要があった。今回、通算3度目となる大規模な地球降下部隊の約半数とも言われる数が、この北米大陸に降り立っていた。北米は旧国名ウクライナ一帯に次ぐ大規模な穀倉地帯でもあり、ジオンにとっては今後の地球における活動を考えても抑えねばならない土地であった。

 

 特に北米は南米"ジャブロー"侵攻の橋頭堡であり、プレッシャーを与える存在であるため、ジオン軍は明確な実効支配のためこの"キャリフォルニア・ベース"北西部と東海岸側の"ニューヤーク"近郊に分け部隊を降下させ、挟み撃ちを行っていた。もちろん、連邦軍はこの情報を知らず、分断された基地単位で戦う事を強いられていた。

 

「管制塔、聞こえるか?……聞こえてないなこりゃぁ…」

 

 雑音を吐き出し続ける通信機に向かいボヤく。視界はクリアで、風も穏やかだ。それでもここまでイレギュラーな状況は初めてだ。

 しかし目視や短距離であれば力技でミノフスキー粒子の影響を捩じ伏せる事が出来るのか、強力なレーダー、IFF(敵味方識別装置)によりこちらに気づいてくれた管制塔から、一方的に指示を飛ばしてもらう事で滑走路へ向かう。一先ず第一段階はクリアだ。問題は次だ。少尉は顔を顰めた。

 

 眼下には離発着を激しく繰り返す滑走路が広がり、地平線の果てまで続く。見慣れたホームグラウンドの光景と、雑音混じりの無線越しとは言え、人の血の通った声は少尉に安心感とともに緊張を呼び起こす。操縦桿を操作し、機体を着陸侵入角度(グライド・パス)に乗せる。手のひらにじんわりとかいた汗に気づき、少尉は一度深呼吸をする。

 

「──さて………」

 

 着陸シークエンスに入り、思わず身体に力が入る。ギアダウン、ロック。機体の油圧は十分だ。懐かしい振動が機体を伝わり少尉に少しの安心を与える。よし、正常に動いてくれた。見えなくても判る。手慣れた手続きを続ける。慌てるな。大丈夫。イケる。必ず。落ち着け……いつも通り、何も変わらない……。今は、機体を抑え込む事に集中しろ……。

 

「おやっさん!やっこさん、帰って来ましだぜ!!」

「よっし!……おい、ふらついて……羽根が!エンジンも調子悪そうだ!レスキュー隊、準備急げ!!ここまで来たんだ!!どちらも殺すな!!絶対にだ!!」

「「おう!!」」

 

 滑走路上空、ジリジリと高度を落とし、ふらつきながらもしっかり機体を安定させて行く。目の端にレスキュー車が走り寄るのを捉えるも無視する。今は関係無い。

 繊細に、繊細に……今っ!!

 

「──タッチダウン!!」

 

 機体が地面に着く。ギアが地面を捉えるガクンという衝撃。タイヤが撓み、擦れ、焼ける音。そのまま機体が跳ねることも無く地面へと吸い付く。上手くいったようだ。機体が徐々にその速度を落とし、完全に停止する。座席の背もたれへと倒れ込んだ少尉は大きく一息ついて、ぼんやりと走り寄る車輌を見ていた。

 

 やがて、"マングース"はレスキュー車に囲まれながら牽引車に引かれ、ゆっくりとハンガーへと帰還する。

 

 深呼吸がしたい。息が苦しい。まるで溺れている様だ。新鮮な酸素が欲しい。

 

 キャノピーを解放し、ヘルメットと酸素マスクを外す。途端に基地の喧騒とやや濁っこそいるが自然な空気が少尉を包み込み、懐かしい匂いとともに帰ってきた実感を激しく自己主張し立てている。

 たった数時間前が、何年も前に感じる。それ程、さっきまでの時間は異質だったのだ。少尉の、初の実戦だった。生きて、五体満足で帰って来た。帰って来たのだ。

 

「少尉!無事か!てめぇ!心配させやがって!!」

「少尉が帰って来たぞー!!」

「おかえり!!お疲れ様だ!」

「うへっ!やめて下さい!それにコイツのお陰で俺は無事です!それより、フライトレコーダー、データを基地司令部へお願いします!」

 

 ハンガーに到着した途端歓声が上がり、こちらにおやっさんが駆け寄って来た。万歳を叫びながら整備士がタラップをかけ、機体によじ登ったおやっさんは少尉をヘッドロックし、ガシガシと頭を撫で回した。整備士達は身体全身で喜びを表しながら、"マングース"に飛びつく様に取り付いて行く。どこか懐かしい、ちょっとしたお祭りの様だった。

 

「皆さんありがとうございます!助かりました!」

「おう!お前は休んどけ!ノックオフだ!!」

 

 しかし少尉はその声に首を振る。機体のコンソールを指差しつつ、少尉はやや興奮気味で続けた。

 

「いいえ、おやっさんを含め意見したい事が多数あります!すぐ休みますのでお願いします!!」

「チッ!仕方ねぇな」チッ

「二回もしなくていいじゃないですか!?」

 

 機体から胴上げをするかの様に引き摺り降ろされ、整備士達に囲まれ揉みくちゃにされた事で現状を実感し落ち着いた事で、ようやく笑う余裕の出て来た少尉。変に上がった口角と、下がったままの眉毛。目は神経質に瞬きし、まつ毛は震えていた。そんな様子におやっさんが苦笑するも、すぐに切り替えて指示を飛ばす。まるで人が変わったかの様なその様子に、敵わないと少尉は思わず頰をかいた。

 

「細けぇこたぁ気にすんなって!てめーらはこいつをオーバーホールしろ!最優先だ!パーツはケチるな!あとエレカを1台回せ!!」

「「おう!!」」

 

 失礼します、と一礼入れながら手渡されたパックゼリーを啜る。やっぱこいつに限る。栄養があり、手軽にいつでも吸えて、中々イケる。喉越しスッキリだ。

 

「ホントは初陣を戦果で飾ったお前にゃビールを奢りたいぐらいなんだが……言ってられねぇか」

「そうですね、情報を伝え、少し休んだらまた出なければ………それに、第一俺はまだ19です」

 

 吸い尽くしたパックゼリーから口を離し、それをゴミ箱に入れながら少尉が言う。喉が乾いており、欲を言うならもう一本欲しかった。無意識のうちに目を瞬かせ、目元を揉む。目薬も欲しい。体全体が乾き切り、水分を欲している様だった。まるでスポンジだ。

 

「19つったら立派な大人じゃねぇか。そういや……?」

「お察しの通り俺は極東の"島国"出身ですから。こんなん守ってる奴今となったら殆どいやしませんが……あ、どうも」

「うはははっ、お前らしくていいと思うぜ!俺は!!」

 

 整備士に差し出されたコップを煽り、喉を潤す。そのコップの縁を無意識の内に齧りつつ考える。それにしても、あーゆーヤツ、何とか最後の一滴まで吸えないかね?ケチャップも最後まで使える何かを開発出来ればノーベル賞間違い無しだと思うんだがなぁ……。いや、イグの方か?

 

「おやっさん!エレカ回して来ましたぜ!お疲れだな少尉、さっすがだぜ!」

「機体の事は任せな!最高の状態にしてやっからな!」

「はっは。そう言う事になりますな。ゆっくり休みなさい」

 

 次々と顔を見せる整備士達に挨拶をしていると、1人がエレカ、"ラコタ"に乗って来た。ピッカピカである。

 どこから持って来たのやら。少尉は思わず含み笑いを漏らす。ここは本当に楽しくて、飽きない所だ。守れて良かった。帰って来て来れて良かった。

 

「おう!ご苦労、ほれ、乗れ少尉」

「お願いします」

 

 先に乗り込んだおやっさんがドアを開け、シートをたたく。少尉はその言葉に素直に従い、一礼してからシートに腰を下ろしてシートベルトを手に取った。

 

「じゃ、飛ばすぞ、シートベルトは閉めたか?」

「安全運転でお願いしますよ」

「つまらんなぁ……まっ、飛ばすがな。しっかり捕まってろよ?」

 

 言い終わるが早いか、急発進した"ラコタ"が蹴飛ばされたかの様に走り出す。慌ててシートベルトを締める少尉を横目におやっさんは高笑いし、更にアクセルを踏み込んだ。行き先は決まっている。そのまま真っ直ぐ基地司令部に向かう。その間にも報告をする。どんな些細な事にもおやっさんは興味津々だ。そういや幾つだ?この人?

 

 取り敢えず服装を正し、サイドミラーでおかしなところがないかチェックする。というかそもそも、この服装で入っちゃダメなんじゃ?

 

「こっちも電波障害が起きたが、そっちでは?」

 

 おやっさんが前を見つつ言う。吹き込む風が心地よい。周囲の喧騒は相変わらずであるが、不思議と声はよく聞こえた。

 

「すぐ傍でも通信は不可能でした。驚くべき事です」

「どうやって連携した?」

「光通信です」

「この軍オタが」

 

 おやっさんのニヤリとした笑いに苦笑で返す。手持ち無沙汰となり、何と無くダッシュボードの扉を弄び中を覗く。入っていたカビまみれのパンに一瞬凍りつき、そっと戻した。俺は何も見なかった。うん。

 

「褒め言葉としてとっておきます。出来ればレーザー通信などどうでしょうか?」

「ふむ。レーザーか……」

 

 話し込むうちに司令部に到着する。入り口を警備するMPが無言で道を開ける。おやっさんまさかの顔パス。なにもんだこの人。

 

「司令殿!来てやったぜ!新米の戦果報告だ!!」

 

 司令の周りメッチャ苦い顔してますけど!?

……いや、司令、笑ってないで……俺殺されるんじゃ?

 

「で、こいつが司令に一言!だってよ」

 

 おやっさん俺に怨みでもあるのか?

 

「ふむ、少尉、話してみたまえ」

 

 当たり前の様に話しかけてくる基地司令にどもりつつ話し始める。権力とはほぼ無関係に生きて来たし、権力には弱いのだ。正直後悔してる。初対面では無いが話した事は一切無い。それが焦りと緊張を加速させる。少尉は基本的にシャイなのだった。実戦を一度程度経験しようと、人はそう簡単に変わらないらしい。変に冷静な頭の隅で、少尉はそう思った。

 

「は、はっ。一つはミノフスキー粒子の効果です。ミノフスキー濃度が15%程度で既にレーダーが使用不可能、20%で短距離無線が不可能になりました。これは由々しき事態です」

「嘘をつけ!!」

「ふっ、ほざくな若造」

「そうだ!こんな所まで来てそんなに出世したいか!」

「調子に乗るなよ!!」

 

 案の定怒鳴られ身を竦める。汗が脇や背中を流れ落ちるのを感じ、思わず身震いする。というより、そんな唾を飛ばす勢いで怒鳴らないで欲しい。ちょっと泣きそうだ。

 

「………それに、敵戦力にMSを確認しました。情報は現在解析中です」

「なら何で今来た!!」

「MSなど恐るに足らぬ!!」

少尉(セカンド・ルテナン)ごときが調子に乗るなよ!!」

「お前同じ事しか毎回言ってないよな」

「何だと!!」

 

 おやっさんの軽口に釣られ、罵り合いが始まる。短気(ショート・ヒューズ)だな。鉾先が変わったが、居心地の悪さは何も変わっていなかった。

……な、何だこいつら、今まで話した事無かったが……デッドビートなフルーツサラダ(無能な上役)ばかりじゃないか……勝つ気があるのか?おやっさんも司令もしかめっ面してんのな。というか帰りたい。激しく。

 

「……以上です。失礼します」

「あ、ああ、ご苦労」

「あー胸糞悪りぃ」

 

 漸く解放されると気を抜いた瞬間、おやっさんが頭の後ろで手を組み、とんでもない事をのたまった。油断大敵。獅子身中の虫。あ、こりゃダメだ。殺されても文句言えへんわ。

 

「「!!」」

「ちょ!」

「今何と言った貴様!」

「その態度!前々から気に入らんかったんだ!!」

「お前、死にたいのか!!」

「失礼ー」

 

 特に敬礼もせず出て行ったおやっさんに焦りつつも、少尉も慌ただしく敬礼をし部屋を出る。

 

「しっ、失礼しますっ」

「ま、待てっ!待たんか!!」

「辞めろ」

「し、司令、しかし!」

「辞めろ、と言っている」

「………はっ」

「……チッ…」

 

 後ろを気にしていたら置いていかれそうだったので、慌てておやっさんの後を追う。心臓が破裂しそうだ。と言うか寿命縮んだ。多分、3年ほど。これはどこに請求すればいいんだろう。返して欲しいとは言わないが弁償くらいして欲しい。

 

「おやっさん!聞こえてましたよ!!」

「あの箸にも棒にもかからない奴(ノット・ワース・ア・デム)糞にも値しない奴(ノット・ワース・シット)うすら馬鹿(ディングドング)どもに聞こえるように言ったんだから当たり前だろ?」

 

……この人は……。

 

「ま、あんな地面にできた穴と尻の穴の区別もできないフルーツサラダ共は、俺にゃ関係無い(ノット・ギブ・ア・デム)大した事はないさ(ノー・マッチ・オブ・バーゲン)

「は、ぁ…」

 

 語尾を上げ、珍しく口汚くスラングで罵るおやっさんに、少尉はもう言葉も出ない。ただ出掛けた溜息を呑み込み、目を伏せるだけだ。汚い言葉はあまり好きでない。おやっさんもその筈だ。そして、そこに確かな意図を感じ取っていた。

 

 大きな音を響かせ、2人分の足音が廊下を反響する。いつもは人の往来が激しく騒がしいここも、今いるのは少尉とおやっさんのたった2人だけだった。

 

「……少尉、俺には全部、話してくれるな、正直に」

「……はい──」

 

 歩きながら顔をこちらに向けず、おやっさんが先程とは違い、トーンを落とし聞いてくる。その横顔は影で見えないが、先程までの様な軽い調子では無かった。その様子に思わず息を呑み、そして覚悟を決める。

 

「敵戦力は?」

「あり得ないほどの大規模に加え、新兵器だろうMSに巨大戦車……未知数です」

「まだあるだろ」

 

……全く。この人には勝てる気がしない。それでも、命をかけるレベルで信頼出来るのは、自分にとってとてもありがたく、幸運な事だと思った。

 

「……最悪、いや、恐らく……この"キャリフォルニア・ベース"を放棄する事になるかもしれません」

「……そうか、よし、今日はゆっくり休め。……と言っても聞かんのだろ?」

 

 おやっさんがこちらに顔を向け、ため息混じりに聞く。それに小さくうなづき応えつつ、少尉はただ一言言った。

 

「──肯定です」

「そうか……」

 

 玄関でMPが敬礼するのに返礼を返し、2人でエレカに乗り込む。ややサスペションが沈み込んだが気にせず、命を吹き込まれたモーターエンジンが唸りをあげはじめた。その低い音の中、おやっさんがぼそりと呟く。

 

「……伍長と軍曹にも言ってあるんだが……」

「………何です?」

 

 律儀にシートベルトをしている少尉の手に一枚のメモが差し込まれる。ラブレターでは無さそうだ。それを胸ポケットにしまいつつ、少尉はすぐ傍を飛び立って行く航空機に目をやる。少し風が出て来た様だ。

 

「もし生きてる内に……いや、そうだな、大将は死なないさ。基地が陥落したら、この紙に記されたポイントに来い」

「は、はぁ……」

 

 ハンドルを握りながら、まるで独り言のようにおやっさんが呟く。葉巻を取り出しが、そのまましまいこむ。その様子に違和感を感じつつも言及はせず、少尉は青く吸い込まれそうな空を仰ぐ。

 

「俺はお前を信じてる……ほらっ!行った行った!!機が準備完了したら呼ぶ、それまで休んでろ」

「はい。失礼します──」

 

 気づけば、宿舎の近くに来ていた。歩いてすぐの距離だ。追い立てられる様にエレカから降ろされ、おやっさんと別れる。そのまま自室へと向かいながら渡された紙を開く。この"キャリフォルニア・ベース"の南東だ。おやっさんは何を……。

 

 

 

 

 

 

「少尉!やはり少尉でしたか!!」

 

 考えに沈みつつ歩いていた少尉に声がかかる。紙をしまいこみその方向をみると、ヴィッカース伍長がブンブンと手を振っており、その傍らにはファーロング軍曹も佇んでいた。

 いつもの2人が何事もなかったかの様に声を上げる光景に、思わずポカンとしつつ、一拍遅れて少尉も声を上げた。

 

「伍長!それに軍曹も。無事だったか!!」

「ええっ!この通りピンピンしてますよ!」

 

 両手を広げ、その場でくるりと回って見せる伍長と、背筋を伸ばした軍曹は姿勢を正し敬礼する。少尉も敬礼を返し、それを見た伍長も思い出しかの様にラフな敬礼をする。

 

「……少尉……お互いに、無事か。良かった…」

「さっすが少尉!自分達に出来ないことをさも当然のようにやってのける!そこに痺れる憧れます!!」

 

 小さく飛び跳ね顔を近づける伍長から顔を逸らしつつ、怪訝な顔をした少尉が聞き返す。伍長は伍長で鼻をひくつかせ、納得した顔だ。

 

「落ち着けって。……そんな噂になってるのか?」

「はい!……あ、その……」

「何だ?」

「……戻ってきたのが、少尉とあと数人だったんです……」

「……そう、か……」

 

 声を落とした伍長の肩に手を起きつつ、少尉が応える。

 目の前で火を吹き、爆散する"フライ・マンタ"がフラッシュバックする。もしかしたら、ああなってたのは自分かもしれないのだ。

 

「大丈夫なのか?」

「もちろんです!わたしの、ボナパルトちゃんが()られただけですが……軍曹に助けてもらいました!!」

「そうなのか軍曹」

「……そんな事はない……伍長のお陰…だ……」

 

 伍長によると、戦闘前には既にデータリンクなどのあらゆるヴェトロニクス(車載電子機器)がシステムダウンしてしまい、陣形は崩され、各個撃破されてしまったらしい。接近してくる空飛ぶバイク?とデカすぎる戦車の前に逃げ回っていたのだが、軍曹が手動でスラローム射撃を行い撃破したとか。……噂に聞くセルフ・ディフェンス・フォースかよ……。

 

 頰をかきながら、少尉は妙に納得していた。軍曹は長く紛争地域におり、この3人の中で唯一実戦経験を持ち、戦場の掟を熟知している歴戦の兵士だ。少尉と伍長とはこの基地に来てからの付き合いで、まだ短くも、お互いに気心がしれていて頼りになる男である。

 

「伍長達も機体が()られたのか?」

「はい、バイクの手持ちロケットを躱し切れず、砲塔に喰らってしまって……軍曹、ごめんね?」

「……気にしてない……伍長は、良くやった……」

 

 やや縮こまり、上目遣いで軍曹を見上げる伍長の肩に軍曹が手を置く。身長差もあり、その光景はまるで親子の様である。

 

「直ぐ修理出来るさ、かく言う俺も翼をすっ飛ばされて……」

 

 死ぬところだった、と言う前に、伍長が目を輝かせ少尉に詰め寄り大声を出した。

 

「ええっ!!まさか、"片翼のサムライ"って……このにおいにも納得です!!」

「……"サムライ"……で、気づくべき…だ…」

「うわっ!恥ずかしい名前が……」

 

 思わず顔を覆う少尉と、それを囃し立てる伍長。そんな2人を見守る軍曹と言う構図は、いつもと全く変わらなかった。ちなみに伍長の言う匂いとは、"マングース"乗り特有の匂いのことだ。主兵装である4連装機関砲は、一度起動させるとコクピット内の電灯が一瞬消える程の大電力と、大量の装薬を一種の内に霧消させる。そして、パイロットには濃い火薬の匂いが身体に染み付くのだ。

 

「そんな事ないですよ!かっこいいですよ!"片翼のサムライ"っ!!」

「はずかしからやめてくれ!」

「顔真っ赤ですね〜、うふふ」

「軍曹!黙ってないでこいつを止めてくれ」

 

 少尉の情けない声に、ふっと息を吐き出した軍曹は助け舟を出す。

 

「……伍長……少尉は、嫌がっている……辞めるべき…だ……」

「ちぇー」

「……伍長、お前性格変わったか?」

 

 伍長がくちびるを尖らせてそっぽを向く。見た目も性格も子供っぽい伍長は、基地職員のほぼ全員に娘の様に扱われているらしい。それも納得である。

 

 それに今、軍曹笑ってなかった?気の所為?気のせいだった。イケメンなんだから笑えばいいのに。

 

「そんな事ないですよ、ねっ、軍曹」

「……なら、俺のベレー……返してくれ……」

「…わ、わたしの…ちょっと…な、無くしちゃって……」

「……」

 

 今度は軍曹が頭を抱える番かと思ったら何処からか予備を取り出し被った。よ、予測していたとでも言うのか……。

 

「まっ、とにかく、全員生きてて良かった、取り敢えず出撃まで休もう」

「さんせー!」

「……変わった、な……」

 

 そうは言っても、空軍所属の少尉と陸軍所属である軍曹と伍長は住む宿舎も違う。なので直ぐ別れる事になった。

 

「まったねー少尉!!」

「……再開を、必ず……」

「あ、あぁ……」

 

 伍長と軍曹と別れる。二人とも"ロクイチ"のドライバーだ。伍長が操縦手。軍曹が砲手兼車長だ。

 

「──陸の王者、鬼戦車M61か……」

 

 "ロクイチ"。つまり地球連邦地上軍主力戦車 M61A5 MBT "Type 61 5+"は、地球連邦地上軍が誇る最強最高のMBTだ。

 搭載された高性能ヴェトロニクスの高度な電子化、ハイテク化に加え、大きな車体は拡張性が高く、地球全土のあらゆる地形に対応可能だ。様々なセンサーを始め、通信装備にも改良が加えられ、衛星通信、高速データリンクを備え、なんと2人という少人数で運用出来る優れた戦車として完成した。U.C. 0061に正式採用され、マイナーアップをされ続け今だに運用されている最古参兵器だ。2人が乗り込むのは配備されたばかりの5型で、なんと主砲口径をもアップグレードした最新型モデルだ。外観も大きく変化した最新鋭の古参兵器は、既に中身外見含め全くの別次元となっている。空飛ぶ骨董品に乗る少尉とは大違いである。

 武装は主砲として155mm二連装滑空砲、副兵装に13.2mm M-60 重機関銃、7.62mm主砲同軸機関銃、5.56mm M-299 分隊支援火器、発煙弾発射機(スモークディスチャージャー)を搭載。重武装ではあるが、完全電気駆動であり、更にはなんと荒地でも最高速度90km/hを叩き出す化け物だ。その機能の多くは地球連邦政府設立に尽力した、極東の"島国"、つまり、故郷の技術らしい。誇らしい事だった。

 

「ミノフスキー粒子……」

 

 しかし、そのハイテク化は、ミノフスキー粒子の前に脆く崩れ去りそうだ。今日も、軍曹がローテクであり、かなりの高度技術である手動によるスラローム射撃技術を持っていなければヤられていたであろう……いや、待て。軍曹。なにもんだお前。単純な移動射撃すらコンピュータの補助が無いとほぼ不可能に近いと言うのに。

 

 それでも、心配だけは募っていく。戦場は、腕だけでは生き残れない。少尉は既にそれに気づいていた。先程、理不尽に命がすり潰されるのを、目撃したばかりだった。拳を握りこむ。

 

「頑張れよ……頼むから、死なないでくれ……」

 

 少尉には、薄れゆく二人の背中に、そう呟く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 足音を響かせながら自室へ向かう。廊下ではすれ違う度にヒソヒソ話だ。なんだよ、生き残っちゃそんなに悪いか。

 

 ようやく扉の前に着く。今になりどっと疲れが出て来た。自室は2人部屋で、同じ攻撃機パイロットの下士官と同部屋だ。

 

 いや、同部屋だった(・・・・・・)

 

 隣のベッドには制服が丁寧に折り畳んで置いてあり、その上には一束の花が添えてあった。

 

「──気さくな奴だったな……安らかに眠れ」

 

 敬礼をした後、ベッドに腰掛け、いなくなってしまった同居人に思いを馳せながらぼんやりとする。"死"と言う、今まで特に考えず、漠然としたものであった言葉が、強く心にのしかかっていた。

 

 以前遺書に何て書いたっけ?

 兄貴は、お袋、親父は元気かな。

 

 ふと、地面に吸い込まれていく爆弾と、それが巻き起こした爆轟と共に炎が噴き上がる光景がフラッシュバックする。それと同時に僅かな吐き気が込み上げ、少尉は思わず口元を抑えた。その手は微かに震えていた。

 今更になって人を殺した実感が湧いてきたのだ。陣地に爆弾を投下し、焼け出され逃げ惑う兵へ機銃掃射を行ったのだ。既にその人数は、両手を使っても足りない程、それこそ数え切れないレベルとなっている。戦闘中毒(コンバットハイ)による興奮で押さえつけられていた、恐怖を始めとする様々な感情がごちゃ混ぜになり一気に噴き出し、少尉を激しく責め立て、苛む。それに必死に耐える少尉は顔を覆い、ベッドに倒れこむ。

 

「……くっ……」

 

 吐き気を押さえ込み、次々と浮かんでは消えて行く考えを追い出し、少尉はそのままぼんやりと天井を見上げる。手をかざし、開いたり閉じたりしているうち、突然冷めてきた。何もかも。力無く投げ出された手の中を覗き込むも、そこには何もなく、後には、ただ非現実感が残るだけだった。

 

「……俺は……」

 

……そうだ。HUD、キャノピーを通して見たあの光景は、演習やVR訓練と何も変わらない。まだ木銃をぶつけ合った時の方が実感があるぐらいだ。

 

──それでも、身体は覚えていた。空を駆ける、あの胸の高鳴りを、敵の放つ激しい奔流の様な殺意と、絶望と恐怖が入り混じり、身体を硬直させるプレッシャーを……そして何よりも、自分が生きているという実感を。

 

「……」

 

 疲れはあるが寝るわけにもいかず、目元を揉みながら身体を起こした少尉は、ベッドに腰掛け本を読み時間を潰す。いつも肌身離さず携行していて、何度も読み返している一冊だった。流し読みしている内、次第に引き込まれて行き、100ページほど読んだ時室内電話が鳴り響いた。

 気がつくと結構な時間が経っていた。本を胸ポケットにしまい、上から叩き立ちあがる。

 取った受話器からはおやっさんの声がする。俺を呼ぶ、戦場へと誘う声が。

 

一五○○(ヒトゴーマルマル)…よし……行くか──」

 

 立ち上がり、身体を解すと、出口へ向かった。

 

 戦場へと。

 

 

 

『最初に地上にキスをした者には、最上級の"マハル"産のワインを俺が奢るぞ!』

 

 

『最も長い一日』(ザ・ロンゲスト・デイ)は、まだ終わらない…………




この調子で進みます。登場人物は本編のキャラ以外出さないつもりです。では、次回もどうぞよろしくお願いします。

キャリフォルニアベースは「激戦があった」、または「ジオンによる電撃的侵攻で無血開城」と行きなり全く真逆の設定があったので、激戦にしました。

テキトー過ぎだろ!!!


次回 第二章 キャリフォルニア・ベース攻防戦

「……その言葉……信じろと?」

フライング・タイガー03、エンゲージ!!


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第二章 キャリフォルニア・ベース攻防戦

キャリフォルニアベース攻略戦などは全く描写されないので、尺の都合上ほぼ一日で落ちる上、ほぼ無傷で手に入れたという事に。その後の制圧に時間が掛かったという解釈をしました。大丈夫か?地球連邦軍。アムロは多分今パンツでハロ改造してます。


結局、"宇宙世紀"(ユニバーサル・センチュリー)とは何だったのか。

 

普遍的で、恒久的平和が実現するのでは無かったのか。

 

西暦に別れを告げ、神さえも否定し、争いの無い、新しい時代が来るのでは無かったのか。

 

宇宙世紀宣言から79年。

 

争いは終わらない。

 

人は、"変わらなかった"。

 

 

 

──U.C. 0079 3.11──

 

 

 

「少尉!聞こえてっか!そいつの調子はどうだ!?」

 

 心地よく、断続的に続く振動とけたたましい轟音の中、それに負けない様に少尉は声を張り上げる。唸りを上げるエンジンは、ハンガーの壁をガタガタと震え上がらせ、まるで吼える様だ。

 

「聞こえてますよ!調子は最高!流石おやっさん!いい仕事してますよ!!」

 

 "マングース"のコクピットの中、シートに収まりシステムチェックを行う少尉が声を上げる。エンジンを回しているため、お互いに怒鳴り合わないと聞こえないのだ。

 

「お褒めに預かり光栄だな!『貸して』やっから、必ず返せよ!!」

「了解!」

 

 ラフな敬礼をした後サムアップをし、キャノピーを閉じる。牽引車に引かれ、ガクンとつんのめりつつも動き出す機体に身を任せるが、視界の端でおやっさんが被っているヘッドセット一体型のインカムを叩いたのを見て、通信を開く。入って来たのは短距離通信用の超指向性レーザーバースト通信だ。何故わざわざ秘匿性の高いコレを……?

 

《今回は少尉のオーダー、レーザー誘導方式の空対地ミサイルを見繕ってきた。テスト頼むぞ。それと、ECMは無し。代わりに増槽だ。気をつけろよ》

 

 そこで、おやっさんが一度言葉を切る。少尉もコンソールに目を向け、最終チェックを再開した。

 

《──それと、"あの話"、忘れるなよ》

「……了解」

 

 応えつつ顔を上げ、正面扉を睨みつける。徐庶に開かれつつあるドアは、まるで地獄の釜の様に見えた。

 

《よし、進路開けろ!!》

「「おう!!」」

 

 要件は、最後のアレか。そうだな。心の拠り所にさせてもらうとしますか。

 目の前で鉄製の大扉がゆっくりと開かれ、眩しい光が差し込み始める。それに目を細め、手をかざしつつ、"マングース"が牽引車に引かれつつ進んで行く。

 

 無線が管制塔の指示を吐き出し始める。それきり、おやっさんの声は聞こえなくなってしまった。

 

《……GOODLUCK、フライング・タイガー03!!》

「フライング・タイガー03了解。出ます!!」

「行ってこいー!」

「はっは。健闘を祈りますな」

「奴らにドカンとかまして来てくれー!!」

「こんどこそ壊すなよー!!」

「戦果なんかどーでもいいから!帰って来いよなー!!」

 

 ハンガーから走り出て来た整備士達が整列し、帽子を振りつつ見送る。そちらに一瞥をくれ、サムアップで返す。快調に回るエンジンに、高レスポンスで帰ってくる反応。あの短時間でここまで調整するなんて……。改めて思う。何もんだおやっさん……。

 

 新しい愛機("マングース")は、心地よいエンジンの振動を少尉に与えていた。一日に二度飛ぶ(ソーティ)のは始めてだが、やるしかない。

 

《こちら管制塔、フライング・タイガー03、聞こえるか?》

「こちらフライング・タイガー03、現時点では感度良好。問題無い」

 

 牽引車で直前滑走路まで導かれ、役目を終えた牽引車がロックを外し離脱して行く。手を振るドライバーに対しまたもサムアップをしつつ、少尉は目前の戦争に向け集中して行く。

 

 青い空の下、今一度、獰猛な肉食獣がその軛を放たれ、ゆっくりと動き始めた。

 

《こちら管制塔。2番滑走路へ向かわれたし………よし、現在、ジオンは物資を集結、MSや戦車と伴い南下中だ。そこを叩いてくれ。機体は少なく、敵は多い。無茶はするな》

 

 判っているさ。心の中で呟きながらスロットルを上げる。エンジンが一際大きな唸りを上げ、ペダルを踏み込むのと同時に"マングース"がその巨体にいっぱいの風を浴び加速して行く。背がぐっとシートに押し付けられる感覚を感じながら、少尉は蒼い空を睨んでいた。

 

「こちらフライング・タイガー03。了解。今度こそ無傷で戻ります」

《こちら管制塔、貴官の健闘を祈る》

「こちらフライング・タイガー03、了解。テイクオフ!!」

 

 ぐっと身体がシートに押し付けられる奇妙な感覚と共に、大きく翼を広げた巨体が加速して行く。機体が風を切り、ふわりと浮き上がる。そのまま上昇し、上へ上へと昇って行く。その勢いを殺さず、ナイフエッジで大きく旋回してみる。問題無い。

 最後に、眼下の人達へと大きく翼(バンク)を振り、そのまま北へ。ジオン軍は目と鼻の先まで迫ってきている。もはや猶予は無かった。

 

 慣らし飛行は短めに、直様手早くFCSを起動し、スイッチを切り替えマスターアーム、オン。ヘッドアップディスプレイ(HUD)にガンレティクルが投影され、コンソールには真っ赤なランプが灯る。臨戦態勢を整え、集中する。

──もうここは、戦場だ。己が命をかけ、命をやり取りする、巨大な賭博場なのだ。

 

《こちらスカイアイ03、フライング・タイガー03、聞こえるか》

「こちらフライング・タイガー03。聞こえている」

 

 哨戒機からの通信に、データリンクされた内容に目を通しつつ少尉が応える。まだミノフスキー粒子はここまでは散布されていないようだ。クリアな声にホッとしたのを隠しつつ、少尉はレーダー上にのみに写し出された僚機の影を追う。

 

《こちらスカイアイ03、斥候部隊(スカウト)がポイントデルタ41にて展開中。MSは確認されていない。そちらへ向かわれたし》

「こちらフライング・タイガー03。了解。スリルという土産と引き換えに、給料分の仕事はするさ」

《こちらスカイアイ03、その言葉信じているぞ。やって来い!"片翼のサムライ"!!》

 

 ガクン、と首を落とし少尉がつんのめる。もちろんシートベルトに止められるが、そうせざるを得なかった。

…………浸透してるのかよ、恥ずかしい。伍長の嬉しそうな笑顔が脳裏によぎる。…………もしかして、いや、もしかしなくても、広めたのあいつじゃねーのか?

 

 雲はなく、晴れ渡っている。スロットルをいっぱいまで引き上げ、機首を傾けつつ高度を上げる。鈍重なこの機体じゃ、突発的な戦闘に対応出来ない。敵航空機は確認出来ていないが、索敵及び位置エネルギーを活かす事が出来るため、高度を高く保つ事は失策ではない。

 今まで休んでいて、タイミングがズレているから仕方が無いと言えば仕方が無いが、護衛の一機ぐらいつけてほしかった。普通じゃあり得んぞこんな状況……口には出さず愚痴る少尉の口元は、気持ちとは裏腹に引き締められたままであったが。

 

 機体を180°ロールさせ、背面飛行を行い対地警戒を行う。航空機はキャノピーの構造上、真下は見えないから仕方が無い。偵察機や爆撃機などは足元に窓がある機種もあるが、コイツは攻撃機だ。しかも"バスタブ"付きの。そんなものはない。頭に血が登るためこの飛行は嫌われるが、少尉は積極的に行っていた。

 

 レーダーにノイズ。ミノフスキー粒子濃度はぐんぐんと高まりつつあり、現在13%に達している。既にレーダー上には多数の虚偽標的(ゴースト)が現れ始めていた。目視による索敵を厳にする。まさか、ミノフスキー粒子のデメリットを、こうも使われるとは………ジオン軍も、バカじゃ無いと言う事か………。

 

 いや、でなけりゃ戦力差30:1ともそれ以上とも言われる相手に喧嘩なんぞ売らんか。ギレン・ザビさんとやらは、ウワサによりゃIQが200を越えるとかなんとか……。天才様とやらの考えは分からん。

 

 チラリ、と光が目をよぎる。飛行機乗りの勘が、少尉に何かを囁きかけた。

 

 ん?……あれは!!

 

「──敵機視認(エネミー・タリホー)!!フライング・タイガー03エンゲージ!!」

 

 そこへ無線機が雑音を垂れ流し始める……いや……微かに、声が……?

 

《──ザザz……こ…らFAC……ザザ…iング・タイ……聞こr…ザザ…るか

?》

「こちらフライング・タイガー03。展開中のFACへ。ノイズが酷い。こちらにはレーザー誘導の空対地ミサイルがある。"ペインティング"頼む」

《─こち…ッt・ワ…ザザ……了k……》

 

 ツいている。斥候部隊はFACを抱えていた。ミサイルをばら撒いて直ぐに基地に戻ろう。

 

 FACとは"Forward Air Contoller"(フォワード・エア・コントローラー)、つまり前線航空管制官の事だ。現地に赴き、最前線で航空機に指示をくれるありがたい存在だ。

 特にミノフスキー粒子下では、効果を発揮し辛くなるミサイルを有用な物へとしてくれるハズだ。近距離から目標へのレーザー照射によるレーザー・ペインティング、つまりミサイルの最終誘導を行ってくれる上、至近距離からの目視による確実な情報を届けてくれる。これならミノフスキー粒子下に置いても、ミサイルはある程度の効果を発揮してくれるだろう。あくまで推測であるが、恐らくこの推測はこの後的中するだろう。

 

《──…ザz…こtらキy…シ…nFAC、ミサイ…ザザザッ……誘…開始すr…いつd…来い……ザ……》

「こちらフライング・タイガー03、ライフル!!リリース!ナゥ!!頼むぞ!!」

 

 安全装置を解除したトリガーを握り込み、軛を解かれた空対地ミサイル(ライフル)を順次発射して行く。アニメの様に一斉発射などしない。ミサイルは切り離された後、ロケットモーターを作動させ自分で自己推進を行い加速、目標へと飛翔する。同時発射すると、ミサイルがお互いの噴射で押し合いズレてしまう。これはエネルギーのロスに繋がり、また些細なズレもミノフスキー粒子下ではそのまま誘導から外れる可能性もある。ニュートン力学がこの世界を支配する限り、ロマンで戦争は出来ないのだ。

 

 一瞬で視界から消え去り、跡には白煙を引き飛び去るミサイル。数秒後、遙か先の地面に、火薬の炸裂による花が咲く。ミサイルの弾着を確認し、機首を傾けそこへ突入していく。着弾点にMSは確認出来ない。例のデカすぎる戦車だけだ。その戦車も数台を残し吹っ飛んでいる。その残りにも、遅れて叩きつけられるであろう轟音と共にありたっけの20mm機関砲を叩き込んでいく。

 

 機首を上げ高度を取り直し、パイロン飛行を行い眼下の鉄くずを丹念に観察する。火花を散らし、炎と黒煙を噴く穴あきチーズの様になり崩れて行く戦車を見下ろし、最後のトドメとばかりに、走り回る兵士へとミサイルを撃ち込み、機銃掃射による制圧射撃を行う。2秒でも十分過ぎるだろう。

 技術革新により、かつて"サンダーボルトII"に装備された30mm機関砲、"アヴェンジャー"に勝らずとも劣らない威力を持った機関砲を4連装も備えているのだ。脆い人体など掠らずとも衝撃波のみでバラバラに消し飛ばせる。更に弾頭は徹甲榴弾だ。撒き散らされる破片だけでもソフトターゲットは灰燼に帰する。"マングース"の顎は目標を逃さない。

 

 あらゆる兵器(ハード)がハイテク化し、それを扱う兵にも特殊技能が求められる様になった今、最も高価でかつ調達が困難、さらに時間がかかる部品は人間(ソフト)である。いかに優秀なハードがあろうとも、それを扱うソフトがいなければ用を成さない。逆もまた然りであるが。

 それに、ジオンはサイド1つがまるまる国を名乗っているが、その人的資源も極限られた物に成らざるを得ないというのが本音であろう。戦争は国力の勝負だ。そして、その国力を為すのが国民である。ならば、この機会を逃すわけにはいかない。慈悲も情けも容赦も要らない。確実に殺し尽くす。

 

 地面を血と硝煙でデコレートした少尉は、そのまま基地に向かって針路を変更する。またも戦果、しかし、目視による警戒は怠らない。レーダーはまだ回復しない。完全にホワイトアウトしている。先程何とか効果を発揮してくれた無線も、今はただただガーガー騒ぐだけだ。

 

 そろそろ基地が見え始めるはずだ。それにしても、何だか胸騒ぎがする。先ほどの部隊編成は戦車だけ。MSはいないと言っていたが、何処へ?

 

「──!?」

 

 稜線の先に、黒煙を確認する。基地の方から煙が上がっているらしい。宇宙港の方だ。急がなければ。せめて、後一回補給が欲しい……。

 

 大きく回りこみつつ、滑走路上空まで来る。

 

 眼下には、既に地獄が広がっていた。あの時見た地獄が。敵に叩きつけた地獄が。地獄の釜が開いたかの様な様相は、魔女の鍋そのものだ。吹き荒れる鉄の嵐と、煉獄の炎が自分の帰る所を焼き尽くしにかかっていた。

 

「管制塔!聞こえるか!こちらフライング・タイガー03!管制塔!応答願う!!」

 

…………………返事がない。滑走路も所々砲撃を受けたのか、一部掘り返されている。宇宙港の方のドンパチもどんどん近づいてきているようだ。

 

 もしや……最悪の考えが一瞬頭を過ぎり、嫌な汗が全身に吹き出す。いや、まだだ。大丈夫なはずだ。

 頭を振ってその考えを頭から追い出す。考えろ、どうすればいい……。

 

 しかし身体は正直で、手は震え、グローブは汗でびっしょりだ。飛行服(フライトジャケット)も汗で濡れ気持ちが悪い。背筋をぞくりと寒気が走り、思わす身震いする。

 

「どうする………燃料に余裕はあるが……降りないわけには………!」

 

 高度をゆっくり落としつつ近づいたその時、滑走路に人影が走り出た。

 

 ふざけた事に、その両手には誘導棒が握られていた。

 

「──目視で、管制塔のコントロール無しで降りろというのかよ!!」

 

 しかも滑走路の路面はいつものように『綺麗』でない。言い換えるのなら、山の砂利道を目隠しして自転車に乗れと言っているようなものだ。

 

「……だが、やるしかないか……うん、誘導員がいるだけマシだ……うん」

 

 思わず独り言。心が落ち着かない。足が震える?背中が痒い?空が暗い?いや、緊張からの心理的圧迫だ。不安を頭から追い出そうとするも、うまくいかない。

 

「……俺ならいける!!」

 

 叫ぶ。叫ぶ事で自分を自分で鼓舞する。不安を吹き飛ばすかの様に、操縦桿から離した拳を握り、眼前へと突き出した。

 

 それにコイツ(マングース)の主脚は半格納式といってタイヤが翼からはみ出る程に大きい。可能性は多いにある、それに……向こうだって命懸けなのだ。俺が着陸に失敗したら、尋常ではない被害を周囲へ及ぼすだろう。

 

「……シュミレーションでは経験済みだ……」

 

 ゆっくり、ゆっくりと機体が下降して行く。ちょっとのミスが命取りだ。距離感が掴みづらい。計器類が頼りだ。いや、その計器もミノフスキー粒子で……ええい!!『状況は最高を、備えは最悪を』が俺のモットーだろうが!!イける!!

 

 手が震え、それに応じて機体も小刻みに振動する。両手を使い、操縦桿を包み込む様に握り……肩の力を抜く。そうだ。力はいらない。いるのは、最大限に力を発揮する為の、揺らがない、漣一つ立たない磨き上げられた鏡の様な……明鏡止水の心だけ。

 

 キャノピーを通し、地面に刻まれた滑走路が近づいて来る。ぼんやりとしていた周辺の構造物も細部まではっきりと見える様になって来ていた。流れて行く景色の中、少尉はただ前を見ていた。

 

 落ち着け……落ち着け………まだ、まだ……今!!

 

「──タッチ……ダウン!!」

 

 機体が地に着く。が、やや跳ね、機体が大きく揺さぶられ、もはや抑えきれないほどの挙動を描く。振動が凄い。ろ……ロクでもない!不安過ぎる!!

 戦々恐々の少尉を乗せ、"マングース"の着陸脚が破片を巻き込み跳ね飛ばす。ガクンと傾いた機体に、少尉は縋り付く様にしがみついた。

 

 ガタガタと激しく振動し、横滑りまでした機体が完全に止まる。

 

………成功した。

 

「うおっしゃぁ!!どうだこの!!」

 

 思わずガッツポーズしつつ叫ぶ。シートベルト等御構い無しだ。身体が痛みを訴えかけるが、今は喜びが勝る。そのまま眼前の、満面の笑みを見せる誘導員の指示に従い、格納庫へと機首を向けた。

 

 キャノピーを開放し、いつもと違う雰囲気の格納庫に違和感を感じつつ、走り寄って来たおやっさんに応対する。

 

「少尉か!着地見たぞ!!やるな!!」

「ありが……ってそれよりおやっさん!!状況は!!」

 

 一瞬黙り込んだおやっさんは、こちらを真っ直ぐに見て話し始めた。

 

 それは、いつに無く真剣な、戦う男の瞳だった。

 

「──見ての通りだ。戦線は崩れ、最終防衛ラインも突破された。………陥落も、時間の問題だろうな」

「基地司令部との連絡は!!」

「……途絶えてしばらく経つ……一時間位前の通信が最後だ」

「そんな……」

 

 その言葉に脱力し、シートにもたれかかる。早い、早すぎる!!確かに敵は大部隊だった。しかし、ここは"キャリフォルニア・ベース"。大小多数の基地を抱える一大拠点、地球連邦地上軍有数の基地だぞ!?

 

「帰って来たのもお前だけだ……俺たちはそろそろここを引き払う。少尉、お前はどうする?」

「……降りてきたって事は、分かるでしょう?」

 

 震える手でシートベルトを外す。声が震えない様にする事だけでギリギリだった。視線は合わせられずそっぽを向き、膝は軽く笑っている。それでも手のひらを握り締め、歯を食いしばり答える。

 それを見るおやっさんの目は冷静だった。冷たくとも見えた。

 

「……無駄死にしに行くのか?」

 

 呟く様に囁かれた一言に、少尉の頭に血が登る。握りしめた手が震え、歯がギリギリと音を立てた。

………無駄死にだと!!今まで散って行った仲間達が!!無駄死に!?

 

「違います!!」

 

 機体から飛び降り、足を踏み鳴らし怒鳴る。その声に周りの整備士達がギョッとした様にこちらへと向くが気にしない。それどころでは無い!

 

「違わん!!この基地はもう手遅れだ!!それが何故判らん!!」

「判っています!……いえ、判っているつもりです……死ぬのは怖いです。──ですが、死ぬ気はありません。いや、しかし……自分は!コイツはまだ!!……せめて、友軍の撤退を護衛します!」

 

 徐々に平静を取り戻し、肩を落とした少尉が、今度こそはおやっさんと向かい合う。士官学校からの付き合いだが、ここまで激しく、本気で怒っているのを見るのは始めてだ。

 

…………それ程思ってくれているのか、胸が暖かくなる。そんな人に、俺は………。

 

「……その言葉……信じろと?」

「──はい」

 

 力強く頷く少尉の顔を、おやっさんは片眉を吊り上げ睨みつける。

 

「……………」

「……………」

 

 しばらくお互い無言で睨み合う。作業を止めた機付きである専属の整備班達も、無言でこちらを伺っている。憎しみからでない、思いやりからの空白が、爆音が鳴り響く世界を切り取り、世界にたった2人しか居ない様な雰囲気を作り出していた。

 

 先に切り出したのはおやっさんからだった。諦めた様に肩を竦めて笑い、顔を引き締めて大声を張り上げた。

 

「…………野郎ども!!今の!ここで最後の仕事だ!!気合入れてけ!!」

「「おう!!」」

「…おやっさん!!」

 

 背中を向けたおやっさんに、少尉が感謝の声をあげる。それに振り向かず、背を見せたままおやっさんは続けた。

 

「……絶対に帰って来い!!俺に出来るのは…機体を整備して、送り出すことだけだ……」

「おやっさん……」

「絶対に帰って来い!!……死んだら、許さんからな………」

「はい!!」

 

 そのまま歩き出したおやっさんに、感謝に震えながら敬礼し、背を向ける。

 気がつけば喉がカラカラだ。しかし何も飲む気にはなれなかった。

 

「よっしゃ!聞いたか野郎ども!!」

「はっは。若者が戦って、我らが逃げては仕方がありませんからな」

「最高の整備をしてやる!神よ、導きたまえ!!」

「ジオンの腑抜け野郎に、俺たちの魂を見せてやる!!」

 

 おやっさんを中心にし、整備士が走り回るのを、少尉は弾薬ケースに腰掛け眺める。いつに無い程の喧騒が格納庫を濃く包んでいた。これで見納めだ。だから、目に焼き付けて、魂に刻み付ける。

──例え、機体が火に包まれ、この身体が朽ちても、決して忘れぬように。

 

 人生を振り返ってみる。まだ19年しか生きてはいないが、色々あった。本当に。

 

──目を瞑る。

 

──目の前を桜が舞い散り、青い海が鳴り、ひまわりが太陽を追って行く。

──葉が紅く染まり、月がススキを照らし、雪が降り積もる。

──それを親父と、母と、兄と俺とで幾度となく見てきた。

──始めて空を飛んだあの日、どこまでも行けると思えた。

──軍に入ると言った時は皆喜んでいたっけ。

──でも、夜、隠れて泣く母を親父が慰めていたのを俺は知っていた。

──笑顔で送り出してくれた家族がフラッシュバックする。

──士官学校での苦しい訓練と勉強の日々。

──頑固で、滅茶苦茶で、それでいてとても優しいおやっさん。

──仲間がどんどん脱落して行く中、支え合った仲間の顔が浮かぶ。

──別れたそいつは"シドニー"でコロニーと一緒に蒸発した。

──"キャリフォルニア・ベース"に来て知り合った伍長と軍曹。

──明るく、ムードメーカーであるが変な所で拘り、実は繊細な所のある伍長。

──"キャリフォルニア・ベース"着任前は戦場におり、おやっさんの勧めで士官学校で教官をしていたという軍曹、寡黙で、無表情だが、仲間第一で本当はとても優しい軍曹。

 

──全てが宝物だ。

 

──伍長も軍曹も今"ロクイチ"に乗って戦っているはずだ、二人のそのデコボココンビは有名で、"夫婦"と呼ばれるくらいだ、絶対に生き残って欲しかった。

 

 静かに目を開ける。整備はまだだ。機首の4連装20mm機関砲に弾薬を供給する専用の機材が見える。その装置の立てる音と、その独特の形状が好きだった。おやっさんがまた怒鳴っている。ハードポイントには一箇所に2発ずつの空対地ミサイルという大奮発ぶりだ。真ん中には増槽。まさに最終決戦仕様と言ったところか。

 

 最後に燃料を補給して完了、といった所で、座っていた弾薬ケースが揺れ軋んだ。隣に目をやると、帽子を深く被り込んだおやっさんが座ったところだった。空中給油や管制誘導、直掩を始めとする、あらゆる友軍の支援は一切期待出来ない。これっぽっちだ。

 

「……本当に行くのか?」

 

 静かに語りかけてくるおやっさんに、胸を叩いて答える。こみ上げる震えを抑え込み、傾いたハンガーが漏らす光に輪郭を照らし出された愛機を見る事で気を逸らす。

 

「──はい。もう、心は決まってます」

「そうか……」

「……心配しないでください!!必ず帰って来ますから!!なんたって俺は"片翼のサムライ"ですよ?」

 

 たった一言、それだけ呟き沈黙したおやっさんへと、何とかおどけて笑ってみせる。

──それがタクミ・シノハラ少尉の、死に直面した19歳の男の、最大限の強がりだった。

 

「……ふっ、ふふふ……あーっはっはっはっはっはっはっ!!……気に入ってるのか?その通り名?」

「……正直恥ずかしいです」

 

 目を伏せ肩を窄ませた少尉の背をバンバンと叩きつつおやっさんは笑う。喧騒の止まないハンガーに響き、整備士達も口元に笑みを浮かべた。いつもと変わらない笑いが心に響く。こんなにも暖かい物だとは意識しなかった。いや、出来なかった。

 

「だろうな、お前ならそう言うと思ってたよ。でも、俺はぁキライじゃないぜ?」

「ありがとうごさいます。素直に嬉しいです」

 

 今一度、笑顔で顔を上げる少尉。その様子を見ていたおやっさんは、また笑い声を上げた。

 

「うはははははっ」

「どうしました?」

「いや、思い出し笑いだ」

「思い出し笑いで爆笑しないでくださいよ」

 

 もっと話していたい。この人と。俺は、この人事を何も知らない。俺は、俺は…………っ!!

 

「おやっさーん!!」

「おう!終わったか!!」

「最高です!!今までに無いってレベルの!!」

「おっしゃ!」

「……行ってきます。おやっさん」

 

 ヘルメットを小脇に抱え立ち上がる。視線の先には、逆光の中重装備を施された"マングース"のシルエットが鮮烈に浮かび上がっている。

 

「あぁ。必ずだぞ?」

「はい。──お元気で」

「おい!!」

「お世話になりました、凄い、嬉しかったです!!ありがとうございました!!」

 

 振り切る様に、涙を見せぬ様に、機体に掛けられたステップを蹴たて、"マングース"のコクピットへと飛び乗る。アヴィオニクスを立ち上げ、エンジンに火を入れる。フラップ、ラダー、エアダクトを動かすと、機体はしっかりそれに応えてくれる。コンディションは最高だ。

 

「もう何も怖くない。………なんてね──」

 

 牽引車はもういない。整備士達に押され、開け放たれた格納庫の扉をくぐり、薄暗かった格納庫から光溢れる機体を滑走路へ進める。

 

 砲火は直ぐそこまで迫ってきている。おやっさんを先頭に、整備兵が全整列し、帽子を振らず敬礼して来る。今出来る最高の笑顔と共に、敬礼し返し前を見る。

 

 もう、振り返らない。

 

「──俺は……必ずここへ戻る……これは、誓いであり

                  ──宣誓だ……」

 

 呟きながらスロットルレバーを目一杯引く。二発のエンジンが唸りを上げる。爆発的な轟音に後押しされ、機体が加速し、翼が風を捉え、揚力を生む。機体がふわりと持ち上がった。

 

「フライング・タイガー03、テイク・オフ!!」

 

 それが、少尉のラストフライトとなった。

 

 

 

 

 

 

『天空を駈け、敵機を見つけ、ただ撃墜しろ。あとはくだらないことだ』

 

『我々は道をふさいだ岩石、小さな障害物にすぎず、

 流れを食い止めることはできなかった』

 

"嵐"が、吹き荒れる……

 

 




て次で、長かった『ザ・ロンゲスト・デイ』編終了です。本当に長過ぎだろこの日。そして陥落早すぎだろキャリフォルニアベース。多分今フェンリル隊が地下道を進んでいます。時代の主役がMSへと変わる中、移り行く時代の中で、飛行機乗りは何を見るのか?


次回 第三章 キャリフォルニア・ベース撤退戦

「まだだ、まだ終わらんよ!!」

フライング・タイガー03、エンゲージ!!


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第三章 キャリフォルニア・ベース撤退戦

キャリフォルニアベース、陥落。この地獄の様な戦場を、少尉は生き残れるのか。そして、おやっさんの言っていた事とは。長い長い一日が終わりを告げ、新しい時代がやって来る。


マングースとは、マングース科、哺乳綱ネコ目(食肉目)に属する科に分類される、小型の肉食動物だ。

 

主に小型の小動物を捕食するが、気性が荒い個体は群れで自分より大きな生物や、ハブのような危険な生物にも襲い掛かる。

 

小柄な身体つきや、その愛らしい見た目とは裏腹に、獰猛で、荒々しい生き物なのだ。

 

しかし、"巨人"には勝てるのか?

 

知っている者は誰もいない。

 

 

 

──U.C. 0079 3.11──

 

 

 

 力強い爆音が響き渡る。"マングース"が空を舞う。あれほどに澄んでいて、青かった空は黒煙で汚れ、黒と青のマーブル模様に時折赤い火花が混じる。そして、その汚染は今もなお加速して行く。酷い有り様だった。

 

 下は激戦の様相だ。カーキ色にの"ロクイチ"が砂煙を巻き立て駆け回り、その最大の武器である155mm二連装滑空砲を放つ。それを重力に縛られつつも軽快な挙動で回避し、手にした戦車の主砲並の"ライフル"で反撃を行う約18mの"緑の巨人"。"ロクイチ"はその筆舌に尽くし難い反撃の前になす術もなく吹き飛ばされて行く。

 自慢の主砲は折れ飛び、砲塔は打ち上げられ、履帯は散らばり車体(シャーシ)からは火を噴く。その無惨な姿に、"最強"と呼ばれた面影は見られなかった。

 

 戦車という兵器は正面装甲が一番厚く出来ている。目安としては、最低限自分の主砲に耐えられる程度の装甲だ。次に側面、後部、上面下面と続く。

 戦車の装甲は後面や上面、下面の装甲は薄く、いわゆる弱点である。これは全方位に堅牢な装甲を施そうとも、それこそ重量が嵩むだけであるため最も被弾する正面を重点的に装甲を施すという手法が取られているためである。対戦車ミサイル(ATM)がロックした戦車の手前で上に上がり、上面を攻撃する"トップアタック"を行うのもこのためだ。

 

 しかし"巨人"には必要ない。その"ライフル"を構える高さが既にだいたい地上15m前後なのだ。地上最強の兵器、戦車といえども、常に弱点を狙い撃たれるという大きなディスアドバンテージの前ではひとたまりもない。

 

 それに"巨人"は二足で地面を走り、時速100kmに近い速度を叩き出している。背部のスラスターを噴かしたジャンプを併用するとそれ以上だ。これは"ロクイチ"の走行速度を上回る上、戦車の様な二次元移動に限定されないという特徴がある。スラスタージャンプによる三次元機動は脅威だ。それに伴い"巨人"は、その巨体に似合わないフットワークの軽さを持ち合わせており回避能力も高い。360°全方位へ瞬発的に機体を移動させ、または機体の一部のみを逸らす様な回避は、"巨人"以外の機動兵器には不可能な芸当である。

 

 "巨人"は装甲も厚い。装甲の比較的薄い部分は背部や脚部であるが、"ロクイチ"の主砲を持ってしても一撃で戦闘不能に陥れるのは至難の技だった。

 

 "攻撃"、"機動"、"装甲"。それのどれも劣っている"ロクイチ"が、正面から殴り合って勝てるはずがない。

 

…………古来より、戦力は質×量×量で決まると言う。

 そして攻城戦では攻撃側は防衛側の3倍の戦力が必要とされる、というのが定説であるが、その"戦力"でも劣る連邦軍に既に勝ち目は無かった。

 

「クソッ、好き勝手やりやがって………」

 

 "マングース"のコクピットて少尉が歯ぎしりをしつつ毒づく。悪態をついても戦況は変わりなどしない。しかしつかずにはいられなかった。それほどにこの戦況は絶望的だった。『駆逐』の2文字が頭に浮かぶも、それを振り払う。

 

 少尉は機を旋回させ、薄汚れた雲に紛れつつ戦線に接近して行く。

 

 『勝てる』とは、到底思ってはいない。

 

「……だが、負けなければいい。少しでも時間を稼ぎ、撤退を支援すればいい──」

 

 だから、そのために。ここでは無く、次の勝利のために。

 

 この命、使わせて貰おう。

 

 FCS起動、マスターアームオン、メインアームレディ。

 

 HUDにガンレティクルが灯り、気休め程度ではあるが、目標をロックする。

 

 少尉の作戦は決まっていた。後は、実行に移すのみ。

 

「喰らえ!!MAD DOG!!リリース!ナゥ!!」

 

 目標をロック、コールしつつ6発もの空対地ミサイルを順次発射する。ミノフスキー粒子濃度は既に35%を上回っており、アヴィオニクス(機載電子機器)の大半がシステムダウンを引き起こしている。通信は不可能、レーダーもホワイトアウトし、FCSも殆ど機能がダウンし、ミサイルも無誘導で発射される。それでも言わずには居られなかった。それ程にこの孤独は、強過ぎた。

 

 ミサイルは機体から分離後、ロケットモーターに着火され無誘導のまま撃ち出された。これじゃ高いただのロケットランチャーだ。兵装をロケットポッドにすれば良かった。

 

「……勿体無い」

 

 ミサイルは高い。一発数百万ドル以上する。当たり前だ。爆薬をたんまり積んだ小さなロケットを撃っているようなものなのだ。ハイテク兵器の代名詞とも呼べるミサイルは、狙った目標へと確実に飛翔し撃砕する事を前提とした兵器なのである。

 

 それでも西暦を通し、宇宙世紀になってまでも使われ続けたのは、それ程高い物を撃ってまで壊す必要があった敵の兵器は、そのミサイルより高いからだ。

 つまり、ビジネスである。戦争も突き詰めればこのようになるのだ。良くも悪くも金は、世界を動かし、揺さぶりをかけるものなのだから。

 

 発射されたミサイルは、噴射炎から引きずる様に白い軌跡を描きながら地を駆ける"巨人"の群れに殺到する。直撃弾は一発もない。殆どがその焼け焦げ、赤茶けた地面へと吸い込まれ炸裂して行く。だが、狙いはそれじゃない。

 

「っしゃぁ!!見たかデカブツが!!」

 

 ミサイルは"巨人"の足元に着弾、小破程度が多数だが中破し擱座した奴もいる。作戦は成功だった。

 

 実は、敵の戦力削り、敵を効率良く撤退させるには敵を殺す必要はない。ただ戦闘継続が困難になる程度の怪我をさせればいいのだ。

 

 死体は放って置けるが、負傷者はそうはいかない。それが移動に支障をきたす足回りならさらにそうだ。特に足は『第2の心臓』とも呼ばれる器官であり、複雑な構造に大きな血管が通っており、太腿の内側などは些細な怪我でも命取りになり、動けなくなってしまう。

 ただ一人を殺すだけなら減る人数は一人だが、負傷なら付き添いなどが必要なために、2、3人が一気に撤退する。

 

 つまり一人を殺す労力以下でそれだけ多くの人数を一気に減らす事が出来るのだ。現代携行兵器の貫通力を重視した小口径化や、地雷が掛かった者の足のみを吹っ飛ばして殺さないのも、この考えから来ている。

 それは全長が18mに届くようなMSなら尚更だ。更に言うとMSはジオンの主力兵器であり、戦力的に大きく劣るジオンと物量で勝る連邦軍との差を埋めるアドバンテージであり、最新兵器であり切り札だ。それをほっぽる事など出来やしない。

 

「GUNs・GUNs・GUNs!!()ちろ!!」

 

 攻撃後上空を飛び去り、今度は戦車を機首の20mm機関砲で蜂の巣にして行く。対空迎撃能力が基本的に無い戦車は攻撃機の的だ。地上では最強を誇る戦車だが、その真価を発揮するには自軍による航空優勢圏を確保している時に限られる。ジオンは対空ミサイルを持っていない。恐らく自軍の散布するミノフスキー粒子の影響から使えない事が分かっていたからだろう。対空戦闘は戦闘機頼みなのかも知れないが、戦闘機もまだ使える状況ではない。ならば、MSにさえ注意すればまだこいつは戦える。

 

 そう、この時代遅れで、機体数も削減された、"お荷物"と呼ばれたコイツでも、役に立つのだ。

 

 ミサイルは残り14発。それだけがMSに対抗できる最後の手段だ。ジオンのでかくて緑の戦車と、小さくてグレーの戦車には機関砲で十分だ。まだ出来る事はある。それをやるだけだ。

 

「!」

 

 視線の端を過る火線、考える前に身体が反応し、フットレバーを反射的に蹴っ飛ばす。機体がロールする様な勢いでスターボード機動を行い横滑りし、迫り来る敵弾を回避した。

 この機体は攻撃機だ。高いGの掛かる戦闘機動を行う様な高速戦闘は考慮されてはいない。それを無視した少尉の操縦に、機体の耐久限界を超えた戦闘機動に、激しい負荷の掛かった機体がミシミシと悲鳴を上げる。

 頼む、持ってくれ。最後に酷使してすまない。だが、頼む。何とか………!!

 

 眼下に広がる"キャリフォルニア・ベース"のあちらこちらで爆発が起こり、噴煙が上がる。かなり奥まで侵攻された"キャリフォルニア・ベース"は既に死に体だ。しかしここが陥落したら北米は終わりだ。さらにここの軍港、空港を奪取されてら"ジャブロー"がマズい。

 

「──!!クソ……」

 

 次々と基地内に飛び込んでくる"巨人"の上空を飛び過ぎながらミサイルを撃つ。やはり直撃弾は無い。敵も重力下における機動に慣れ始めたのか、地上戦力もどんどん押され押し込まれて行く。

 

 既に連邦軍の航空戦力は壊滅と言っても過言ではない。航空機の生命線とも呼べる滑走路が殆ど稼働していない時点で既に分かりきっていた事であるが、上空を飛ぶのは、見渡す限り自分だけだった。

 

 この広い空に、ただ1人という孤独。それが少尉を苛む。

 

「………いや、まだだ、まだ終わらんよ!!」

 

 思わず叫ぶ。叫ばずにはいられない。通信機はもはや雑音すら吐き出さず、弱々しく小さな音を立てるだけだ。目視に置いても友軍航空機は全く確認出来ない。

 

 俺は、北米を支える地球連邦軍の一大基地、"キャリフォルニア・ベース"所属空軍最後の一機なのかもしれない。いや、そうなのだろう。ホワイトアウトしたレーダーに、雑音しか出さない無線が役に立つ事は、もう無さそうである。

 

 震える手を抑え、操縦桿を握る。青い空など既にどこにもない。あるのは焼け爛れた地面に、噴煙を纏う"死神"、それに薄汚れた空だけだ。

 

 ならば、往こう。友軍のためにも。何より、今なお地面で戦っているだろう戦友のために。

 

 機体を旋回させ、少しでも、と攻撃を加える。

 

 頼みの綱である、主兵装の4連装機関砲も弾切れ寸前だ。後程度の2秒の制圧射撃も持たないだろう。

 それに、砲身の異常加熱(オーバーヒート)により一つは使用が不可能になり、廃熱の間に合わない事から機体内の温度が上昇してしまっている。その発散仕切れない熱は既にほぼダウンしているアヴィオニクス、特に機首に搭載されている照準用レーザー照射装置などのFCSへと物理的に(・・・・)止めを刺しに来ていた。度重なる戦闘機動も機体にかなりの負荷を与え、更には燃料も尽きかけていた(ビンゴ)。状況は最悪とも呼べた。

 

 少尉だけでない。機体その物にも、既に限界が来ていた。

 

 それでも、飛ぶ。それしか出来ないから。それが出来るのも自分しかいないから。飛び続ける。

 

 ミサイルが残り3発になったその時、"巨人"の一機が正面に回り込み、"ライフル"をこちらに向けていた。厄介な蝿を無視してはいたが、ついにその堪忍袋の尾が切れたらしい。機体への照準レーザー照射(エイミング・レーダースパイク)を感知し、けたたましいビープ音がロックオンアラートを知らせ、危険を訴えかけてきている。

 

「! マズっ!!!」

 

 飛翔体を撃ち落とす難易度というのは、飛翔体と射手の立ち位置によって大幅に変わる。例えば、射手から見て右から左に飛んで行くのを撃ち落とす、いわゆる『追い撃ち』を成功させるのは至難の技だが、向かってくるものや通り過ぎたものを後ろから撃つのでは後者の方が簡単だと誰もが分かるだろう。

 航空機における戦闘では、如何に後ろを取られないかが生命線だ。少尉は今、その命運を握られてしまったのだ。

 

 気づいた時には既に遅過ぎた。"巨人"の目が鈍く輝き、その構えたバカデカい"ライフル"のマズルが火を吹く。

 フットレバーを蹴飛ばすも、間に合わない……せめてもの目くらましにと機関砲を乱射しミサイルを放つ。

 

「……んぐっ!!」

 

 激しい衝撃に何かが壊れ、ひしゃげる音が鼓膜を打ち付ける。焼け付くような熱さを感じる身体が、大きく偏りGを受ける。いや、そうではない。機体が傾いたのだ。しかし、幸いにも直撃は避けた様だ。あんなものが直撃したら、それこそバラバラだっただろう。…………だが、それだけだ。

 

 磨き上げられ、限りなく透明に近かったキャノピーは無惨にも砕け散り、大小様々な破片が全身に突き刺さった。噴き出した血はパイロットスーツを染め、コクピット内の至る所に飛沫を飛ばしていた。身体を揺すれば複雑に砕けた破片が体内で擦れ、激しい痛みが身体を貫き、駆け巡る。

 後方では、逞しい音を響かせ続けて来た右エンジンが火を吹き、あっという間に火達磨になる。右の主翼は中程から無くなり、漏れ出した燃料が気化し、白く尾を引く。2枚ある垂直尾翼も片方はほぼ吹き飛んでいる。もう片方も穴だらけだ。機体の至る所がひしゃげ、千切れかけのフレームがギシギシと悶える。目の前のコンソールは耳をつんざく様な電子音で金切声を上げ叫ぶ。耳障りだ。

 勝手に機体がロールする。方向舵が脱落した所為だ。姿勢が保てない。機体がガタガタと不規則に揺れ、その度に破片が食い込む。激しい痛みで頭がぼぅっとする。薄れ行く意識を保つので精一杯だ。

 

「……死んで……たま…か……」

 

 ごふっ。口から血が溢れ出て、ヒビが入り白くなったヘルメットバイザーに、さらなる彩りを与えた。マズい、肺に傷がついたか、それとも肋骨が折れて刺さったか、どちらにしても重症だ。アニメの様にはいかない。出血も止まる気配は無く、パイロットスーツを染め上げた血は行き場を探すかの様に垂れ流され、小さな血だまりをつくっていた。

 

「………く……」

 

 しかし、それでも少尉は何とか機体の姿勢を保たせていた。震える手は限界を迎え始め、出血多量で意識も薄くなり始める。だが、人としての本能か、或いはパイロットとしての習性か、ほぼ無意識のまま、おやっさんの言っていたポイントを目指し飛ぶ。恐らく、だが。何があるか、どうなるのか分からない。

 

 

 けれど、それは今置かれた状況下では、最後の希望であり最善の策だった。

 薄れ行く意識の中、少しでも気を抜いたら、力を抜いたらそこまでになりそうだ。エンジンの片肺飛行に、機体の制御を司る油圧系は深刻なダメージを受け、フラップ、エルロンは脱落して久しい。吹き飛んだエンジンへの燃料循環を止められず、燃料計は目に見えてダダ減りして行く。あらゆる機能が低下し、満足に飛ぶ事さえ許されない機体は失速(ストール)している。ガタガタと振動を伝えてくる操縦桿を握りしめる右手は麻痺し、トリガーから指を離せない。弾を吐き出し切り、それでもなお回り続ける砲身に電力を奪われ、損傷により火花を散らす計器盤に、アヴィオニクスもダウン寸前だ。左手は動かない。スロットルレバーも操作出来ない。あれほど喚き立てていた警告音すらなりを潜め、どんどん弱まって行く。ブラックアウトも時間の問題だろう。目の前が真っ赤だ。垂れた血が目に入り込んだらしい。そして段々暗くなって行く。赤黒い視界に映るのは、弱々しく明滅するランプの明かりだけだ。

 

 

 

 ふらつく"マングース"は既に満身創痍だ。もともとこの機体は攻撃機であるため、装甲は戦闘機などとは比較にならない程の重量比を持つ機体だが、それでも所詮は気休め程度だ。敵の武器はたった数発で戦車を葬り去る兵器なのだ。1発でも当たれば爆発四散していただろう。掠っただけでも落ちなかっただけ幸運だった。

 

 

 

 

 しかしその幸運も長く続きそうには無かった。片方のエンジンは既に無くなり、燃料だけが尾を引き垂れ流されて行く。残るもう片方も、ジワジワと出力が低下していた。いつ止まってもおかしくはなかった。"マングース"は、飛行機としての限界を迎えつつあった。

 

 

 

 

 

 どんどん高度が下がって行く。"キャリフォルニア・ベース"を通り過ぎ、もうすぐポイントだが、それまで機体が持ちそうにない。それは少尉も同じだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最悪なのは、キャノピーを吹き飛ばしたコクピットまわりのダメージだった。直撃こそ無かったが、その余波は少尉をズタズタに切り裂き、ボロ布の様に仕立て上げていた。弾丸の衝撃波と弾体の擦過は深刻なダメージとなり、緊急脱出装置(インジェクション・シート)が作動しなかった。もっとも、仮に作動しても、そのショックでそのまま出血死しただろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界が白く染まり始めた。どこか音も遠い。雲、いや、霧か?わからない。事前の情報が思い出せない。しかし、無かった筈だ。目がダメになり霞み始めているのか?それともコクピット内で出火し、煙が充満してるのか。夢か幻か、隣に機影が見える。同じ"マングース"や形のはっきりしない物まで大小様々だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 周囲の航空機の1機が寄ってきた。見た事の無い機影だ。おおよそ空力的とは呼び難い、一昔前のポリゴンの様な、ステルスなのか?角ばった機体形状。大きさは大型戦闘機くらいだが、あるべき場所にキャノピーが無い。不釣り合いなサイズの旋回砲塔?航空機に?それに目を引く巨大な垂直尾翼とオフセットされた大型エンジン……やはり幻か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激しい衝撃。更に高度が下がる。視界はやや晴れたが、それでも風を切る音が、まるで断末魔の様に機体を震わせる。失速し続けていた機体速度が危険域を突破した。ディープストールだ。それに、機体もとうの昔に限界を迎え、空中分解一歩手前となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぼんやりと、何かが見えて来た様であるが、血塗れの少尉の目は霞み、認識する事は出来なかった。ただひたすらに熱さだけを感じる身体は、生きているのか、死んでいるのかもハッキリしない様だ。それに、機体も限界だ。制御すら不可能、片方のエンジンも、回っているのが不思議なくらいだ。周りの砂漠が蜃気楼で揺らめき、まるで誘っているようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                死ぬのか、俺は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さ、よな…ら……ご、め………──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残った1つのエンジンが停止した(フレームアウト)。終わりだ。ここまでらしい。俺も、コイツも。

 

──ただ無意識の内に、震える唇が言葉を紡ぎ出す。直後に激しい揺れが少尉を襲い、彼の意識はそこでブツリと途絶えた。

 

 

 

 

──U.C. 0079 3.13──

 

 

 

"キャリフォルニア・ベース"陥落

 

地球連邦軍 地球総軍 北米方面軍 北米軍 航空軍 戦術航空団 第1大隊 第3中隊 第5小隊所属 タクミ・シノハラ少尉 帰還確認出来ず。機体は喪失(ロスト)し、残骸も発見されず。作戦行動中行方不明(MIA)。尚、同戦術航空団は壊滅。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………

……………………

………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 何かの音が聞こえる。何の音かははっきりしない。

 

 ここが地獄か?俺は無神論者だが、年末年始には神社へ行っていたからか………。

 

「──………!……!!……!」

 

 視界が薄暗い。薄っすらと目を開けてみる。真っ白い光だけが目に飛び込んで来た。その中に、ぼんやりと誰かの顔が視界いっぱいに広がり、浮かび上がった。まるでスローモーションの様に口が動き、何か言っているようだが理解できない。

 

 眠い。眠くて仕方が…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。『目が覚めた』?俺は死んだハズじゃ……?

 ぼんやりとした頭のまま、ゆっくりと首だけを巡らせ周りを見渡してみる。白く明滅する様な目に飛び込んで来たのは、眠っている様な伍長の顔があった。驚くが声が出ない。伍長の目が開いた。

 

「──ぃっ!!少尉!!少尉ぃ!!!良かった!!本当に良かった!!」

 

 伍長が泣きながら抱きついてくる。その頭を撫でようとしたら手が動かない。まさか……と首を巡らすと軍曹がいた。ゆっくり見つめ返してくる軍曹は、安心しろ、という風にゆっくり頷き、今だに抱きつきわんわん泣いている伍長をゆっくりと引き剥がす。相変わらずの無表情である。そして伍長を立たせ。敬礼した。

 

「……ここは?」

 

 喋るやいなやまた伍長が抱きついてきた。軍曹は溜息をつくだけだった。その騒ぎはおやっさんが飛び込んで来るまで続いた。

 

 

 

──U.C. 0079 3.24──

 

 

 

 包帯だらけで、言う事を聴かない身体を引き摺るように動かす。五体満足な事にホッとし、同時に神経の異常の可能性に身体がブルリと震える。冷や汗が背中をつたい、その妙な冷たさに逆に安心する。完全に混乱しているし、ハタから見れば悶えている様にしか見えないだろうが、それが限界だった。隣に立つ軍曹に手伝ってもらいながらなんとか身体を起こし、服装を正して改めて皆と向き合う。自分を含め何という強運の持ち主だ。つーか0fなら死んでた。おやっさんが口を開く。

 

「気分はどうだ?少尉。ベッドは柔らかいか?……伍長、聞い加減泣き止め!!」

「だ、だってぇ~。少尉が、少尉がぁ……」

 

 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした伍長はさっきから少尉にひしとしがみつき、離そうとしない。まだ感覚がしっかりとしておらず、震える手で伍長の頭を撫でる。ゆっくりと瞬きをし、口を開けたままの少尉は軍曹がいつも巻いているスカーフに吊られた左腕と、包帯だらけの自分をぼんやりと見つめていた。

 

「……少尉……よくぞ……ご無事、で……」

「──目が覚め過ぎた感じだ………すまないが情報を。──ここはどこで、今はいつだ?」

 

 咳き込んだが、掠れてはいるが声は出す事が出来た。また、声を出す事で、ようやく頭がしゃんとしてくる。身体を動かし、その度に貫く様なその痛みに顔を顰めつつ、生きている事を実感する。

 生き抜いたのだ。あの地獄の様な戦場を。

 

「ここはトラックの中。場所は"キャリフォルニア・ベース"から南にある、"グレート・キャニオン"周辺だ。今は3月の24日だな。年くらいはわかるだろ?ねぼすけめ」

「…トラックの中?それにそんなに──」

 

 だんだん状況を飲み込み始めた少尉はその言葉に絶句する。手を持ち上げようとするも激痛に顔を歪め、そのままベッドに倒れこむ。

 

 2週間近くも!?よく生きてたな。航空事故ほど死体が葬式に出せなくなる事故は無いのに……。

 もう一度、今度こそ完全に確認する。五体満足だ。一応動く。感覚もしっかりして来た。軍曹曰く神経系に後遺症もないらしい。幸運すぎて気持ちが悪いくらいだ。

 

「──迷惑をかけたな……」

「そんな!そんな事ないです!!少尉が生きてるだけでわたしはぁ~……」

「それは伍長と軍曹に言ってやりな。ずっとそばに付きっ切りだったんだぞ?」

 

 そうだったのか。意外だった。軍曹と伍長を見る。軍曹は少し首を傾けただけだったが、伍長は顔を赤くする。それを見て安心した。いつもの2人のようだ。

 

「………ありがとう」

「そんな事ないですぅ~」

「……俺も……当然の事を、したまで……」

「うははははっ。モテモテだな、少尉」

 

 おやっさんの言葉に苦笑する。おやっさんは少尉の様子に満足したのか、息を吐きつつベッド傍の椅子へと腰掛けた。

 

「あ、あぁ。皆もよく無事で。本当に良かった。

………"キャリフォルニア・ベース"は?」

「──陥落したよ」

 

 おやっさんがボソりと吐き捨てる様に言った。予想通りの答えに少尉は目を伏せ、一拍置いてから口を開いた。

 

「そうですか……。おやっさん、約束、守れなくて申し訳ありません」

 

 少尉が痛む身体を引き攣らせる様に屈め、頭を下げる。そんな少尉の肩に優しく手を置いたおやっさんが、諭す様に呟いた。

 

「……気にすんな。生きて帰って来た。それだけで十分だ」

「おやっさんの言う通り!!そんな約束より少尉です!!」

「──そんな、だと?」

 

 調子良く続けた伍長をおやっさんが眉を上げて睨む。少尉にはそれがハッタリだとすぐに分かったが、伍長にはわからなかった様だ。一筋の汗を頬に垂らし、手をブンブン振っている。

 

「…あ、ああ!!いいえ!!決してそんな事は…」

 

 軍曹がコップに水を汲み渡してくる。お礼を言いつつ受け取り、喉を潤す。……………美味しい。

 

……………生きているんだな。

 

 コップを片手に目の前の大騒ぎを含み笑いを浮かべつつぼんやりとながめる。皆元気そうでなによりだ。特に伍長。変わった、というよりアホの子になった?

 

 心の底から安心し、緩く微笑みながら目を閉じる。浅くではあるがしっかりと自分の肺で呼吸し、いびきをかく少尉に軍曹が布団をかける。

 おやっさんと伍長が少尉が寝ている事に気づいた時には、軍曹は既に部屋から出て数分が経った後だった。

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、先程トラック?と仰いましたか?」

 

 数時間後の二◯三◯(フタマルサンマル)、軍曹に助け起こされ、ベッドに寄り掛かった少尉が尋ねる。それに対し、腕を組み壁に寄りかかっていたおやっさんが人差し指をヒョイと立てつつ応える。伍長は少尉のベッドに腰掛け、軍曹は窓の外を伺っている。

 

「ああ、移動用大規模トラック25台(コンボイ)での旅団だ。大量の物資付きで、戦力は"ロクイチ"が6輌。まぁ、ちょっとした基地の様なものだ」

 

 驚いた。前々からすごい人だとは思っていたがここまでとは……。あながちウワサも間違ってはいなかったようである。

 

「……そんな物をどこから…」

「本当ですよ!そう言えばどうやったんです?」

 

 ふと伍長が声を上げる。その言葉におやっさんは声を出さず、ただ口元をニヤリと歪ませ、軍曹は呆れた様に片眉を吊り上げた。

 

「……今更、気付いたのか?」

「ええっ!?だって、おやっさんならと……」

 

 その気持ちは痛いほど分かるが大丈夫か伍長。俺の知らんとこで詐欺とかにあってないか?

 

「まぁ、それはともかく……取り敢えず今は休んどけや。おら、てめーら少尉目ぇ覚ましたんだ。今までの分しっかり働けよ!!」

「……承知した……今まで、すまない……」

「うぇ~」

「………」

 

 舌を出して渋い顔をする伍長を、全員が凝視する。その視線に驚いたのか、一拍おいて伍長がどもりつつ言葉を続ける。

 

「は、はーい!!うれしいなー!!」

 

 慌てて取り繕う様に言うが、誰も反応しない。

 

「………」

「……ホントですよ!!」

 

 とってつけた様にぼそりと呟かれた言葉に、我慢し切れず少尉が噴き出した。

 

「──ふふっ」

「うはははははっ!!」

「あはははははっ!!」

「………………ふ…」

「!……イテテテ…」

 

 全員で声を上げ笑う中、思い出したかの様に少尉が顔を顰めて身体を押さえる。当たり前だ。治療が終わろうとも治り切ってもいない身体なのだ。

 

「少尉ぃー!」

「……無理をするな。……心配、させるな……」

 

 伍長が慌てて何かをしようとするが何をすればいいのか分からず混乱し、軍曹はただ冷静に少尉を助け起こす。その様子を見たおやっさんはまた笑うだけだった。

 

「全く、うははははっ!!」

 

 ホントだよ。全く。基地は取られる。敗走はする。愛機は落とされ鉄くずになる。約束は破る。その上負傷して2週間寝込む?最悪だ。

 

 でも、仲間がいる。

 

 それだけで、今は、

          とても心強い。

 

 

 

 

 

『帰ろう。帰れば、また来れるから……』

 

 

 

──U.C. 0079 3.24──

 

 

 

 開戦から三ヶ月。ジオン軍の地球降下作戦により、地球上の約1/4が、ジオンの支配地域となった。

 

 

 

 

戦乱は、続くいていく…………

 

 

 




時代は変わり、少尉はどうやらその淘汰から生き残る事が出来たようです。次回からは、少尉の陽だまりのんびりリハビリライフか、血溜まり殺伐迫り来るザクIIとたった数機の六一式戦車で殴り合い、のどちらかになると思います。本編開始までまだ六ヶ月以上。何とか完結させたいです。

ザクのスペックは諸説ある、と言うか、本や資料によって全く違うため、間をとってバランスよくしてるはず、です。最高速度ですら60km/h〜130km/hとかなり幅があるので。


次回 第四章 グレート・キャニオン近郊にて…

「………セント・アンジェ、と言う………町だった(・・・・)………」

フライング・タイガー03、エンゲージ!!


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第四章 グレート・キャニオン近郊にて…

地球連邦軍では、戦車兵、航空機パイロットからのMSパイロット転向が多かったらしいので、MSに乗れるよう頑張ります。


兵士となるということは、己と戦う事である。

 

己を叱咤激励し、限界を目指し、身体を、技能を鍛える。いつ来ると分からない有事に備えて。

 

つまり、明確な目標を持たぬまま、己を保ち、戦い続けなければならないのだ。

 

……人は、そんな便利になれりゃしない。

 

 

 

──U.C. 0079 4.2──

 

 

 

 一六三○(ヒトロクサンマル)。それなりに怪我、体調、体力が回復した少尉は、装備を背負い炎天下を行軍していた。ちょっとしたリハビリの一環だった。

──にしてはスパルタ過ぎるが。まぁ担当医の軍曹(・・・・・・)のお墨付きは出てるし、大丈夫ではあろうが………。伍長は反対してた。おやっさんもだ。と言うか部隊全員がすげぇ顔してたぞ?そんなに酷かったのだろうか?知らんけど。軍曹が全部執刀したらしいが……もしかしたら身体実はバラバラだったりしたのか?今ほぼ違和感無いのが逆に怖くなってくる。

 

「──噂に聞く黒い金曜日(ブラックフライデー)みたいだ……俺は海兵(マリーン)ではないが…」

 

 しかし…一歩一歩が重くて仕方が無い。頼もしい彼らももういない。ダバダバにかいた汗が目に入り、ポタリポタリと流れ落ちては乾いた地面へと吸い込まれ蒸発して行く。シャツもグシャグシャだ。人間の汗をかく機能って性能低くね?このままじゃ身体冷やす前に干からびてしまうわ。

 

「………キッツい、暑い!!……クソ、体力落ちたな……」

 

 しかし、俺は、負けん!!ガイアが俺にもっと歩けと囁いている!!

 

 一度足を止めた少尉は汗を拭い、前のめりになりながら荒い呼吸を整える。一拍おいて、ズシリと重みを伝える肩紐を掴み、汗まみれの顔を上げ少尉は再び歩き出す。

 

 まあ、生きて、今歩けて居るだけ幸運だ。"マングース"で胴体着陸に成功し、駆けつけたおやっさん達に救出され約3週間。鈍らない方がおかしい。経過は順調。その上、リハビリの時間も十分にある。今の状況は、墜落した航空機から救出された人間とは思えない程恵まれ過ぎで恐ろしくなってくるくらいだ。

 

 前を見ようと、遥かな空と雄大な山脈の稜線の境界に目をやりながら、少尉は己を叱咤し坂道を登って行く。そうだ、空は、こんなにも青く、山はこれ程にも雄大で、世界はこんなにも美しい。自分の悩みのなんと矮小な事か!!

 

 それに、俺の相棒は、その身を賭して俺を助けてくれた。その欠片は、今も少尉の胸に、ドッグタグと共にかかっている。

 

「──"マングース"(アイツ)に助けられたな………」

 

 そう、AF-01"マングース"攻撃機は頑丈な機体であることに加え、半格納式の車輪は大きく主翼から出っ張っており、主脚が作動しなくても車輪が既に出ているため胴体着陸時の衝撃を殺せる上、エンジンは地面と擦らないよう機体の上部に高めに配置されている。

 これらは全て胴体着陸時に衝撃を少しでも減らし、生存率を高めるためである。それに地面が砂砂漠で会った事も幸いし、さっきはあんな事宣ったが損傷機の胴体着陸にしては比較的軽傷で済んだのだった。

 

 重傷と呼べるものもほぼ無く、骨折も肋骨が2本のみであり、吐血も気管支が少し傷ついた程度で済んでいた。もちろん内臓や脳、神経への後遺症も皆無らしい。

 折れた肋骨は粉々になっており仕方なく摘出されたらしいが。僕は肋骨が少ない……。

 

「……な、何、言って………るんで……すか少尉………」

 

 踏み出した足がたたらを踏む。ズレた鉄帽(ヘルメット)に手をやりつつ声のする方へ首を傾けると、ゾンビが歩いていた…と思ったら伍長だった。フラッフラである。何故か目も白濁している。こうして考えると、チュパカブラとかのUMAって、遭難した人を見間違えたんじゃね?

 

「……俺よりへばってないか伍長………少し、手伝おうか…?」

 

 少尉は思わず立ち止まり、よろよろと右へ左へ身体を漂わせる伍長に振り返る。差し出した手に弱々しく縋り付いた伍長は、ガクガクと膝を笑わせながら何とか口を開いた。

 

「………に、荷物ごと………負ぶって、くれ…ます………?」

「それは流石にハード過ぎるわ!!」

「………そ、んな…………事……無い、です………」

 

 何がそんな事ないのか、冗談だとは思いつつも、やはり真剣に考えてしまう少尉。伍長の発言は正直ブっ飛んでいる場合が多いが、経験上、その後の行動もブっ飛んでいる場合も多いのだ。冗談を冗談と受け取らず、あわや大惨事……なんて一度や二度ではない。

 

──ボナパルトちゃんなら出来ます!!とか言い出して、"ロクイチ"にウィングを取り付け滑空させようとした事があったなぁ……なんて事を思い出し、この暑さにも関わらず、思わず身震いする少尉。そんな少尉に気づいているのかいないのか、伍長は少尉の腰に縋り付く。なんか一昔前の時代劇のワンシーンの様だった。

 

「……軍曹、少し伍長の荷物を持ってやれないか?」

 

 まるで誤魔化す様に、その伍長の後ろを歩く軍曹に声をかける。

 さっきは手伝おうかと提案したが、正直今の俺にこれ以上の荷物はキツい。体幹が全くブレず、ペースも全く変えない軍曹は、少尉の提案に肩を軽く竦めながら応える。その顔も心なしか皮肉っぽい。流石の軍曹も呆れている様である。

 

「……既に、半分……」

「……伍長、お前………」

 

 少尉は思わず空を仰ぎ、後頭部を掻きながら伍長へ視線を移す。しかし伍長は、少尉の向ける視線の意味を理解する余裕もないのか、膝に手をつき上体を大きく上下させ、今にもへたり込みそうだった。その姿勢はその場凌ぎにこそなれ、結果的に身体に負担をかけるのだが……。

 

「…………や、休みません?」

「「…………」」

 

 一体誰のリハビリなのか分からなくなる様な伍長の提案に、少尉と軍曹はそろって沈黙する。軽い目眩を感じた少尉は眉間を揉み、軍曹は軽く片眉を吊り上げた。

 

「………お願い……します……………」

 

 その様子に、2人顔を見合わせる少尉と軍曹。目があった瞬間、2人揃ってため息をついた。

 それと同時に、少尉は他者の醜態を見る事で、現在の自分の現状にやや安心していた。それを自覚した瞬間激しい自己嫌悪に陥ったが。

……………追い込まれているとは言え、歳下の、女性を見て安心してしまうとは……………日本男児の恥晒しだ。落ちたものだ。全く。

 

「……今何時だ?」

 

 汗をぬぐい、少尉は低い声で伍長に声をかける。腕時計をしているが、それを見るのも億劫だ。それに、わざと伍長に聞く事で休憩にしようとしていた。少尉だって疲れているのだ。

 

「んえ?4…2……四十二時?」

「はぁ!?」

 

 予想外の答えに思わず大きな声になる。汗が滴り落ち、砂に吸い込まれるがそれどころじゃない。つーか四十二時って何時だよ。

 

「あ……これ温度けーでした……」

「…………」

 

 沈黙を貫いている軍曹に顔を向けると、視線に気づいた軍曹がこちらを伺う。そのまま2人で顔を見合わせる。

 

「……まぁ、一人くらいこんな知り合いがいると人生楽しいね」

「…全く、だ………」

 

 ゆっくり口を開く少尉に、軍曹がかすかに唇を曲げ同意した。そんな2人を尻目に、伍長は今にも死にそうだ。ジュニアハイスクール卒業と同時に入隊したと聞いたが、何でなったんだ?いや、どうやってなったんだ?

 

 そして、どうやってそんな出世したんだ?伍長だぞ?今や完全にへたり込んだ伍長は風と共に身体を左右に揺らし、ポカンと空を見上げている。その視線の先を大きく弧を描き旋回するトンビが、大きく鳴き声を木霊させる。

 

………ったく、謎は深まるばかりだ。おやっさんといい、軍曹といい、俺の周りには不思議な奴でいっぱいだ。それも様々な分野の超人奇人ばかり………一般人である俺を万国デタラメ人間ビックリショーに巻き込まないで欲しい。

 

「……少尉……休憩を進言、する。伍長が……限界の様だ……」

「…分かったよ軍曹。伍長、あそこの木陰で休憩しようか」

 

 少尉が前方に見えた岩山を指差す。そこは斜面の上、崖にへばりつくように張り出した高台だ。しかし両側は岩で挟まれ、そのやや奥まった岩陰は強い陽射しと激しい風が阻まれ直接吹き付けない所為か、青々とした草木が生えちょっとした木陰が出来ていた。

 ゆったりと生えた草木は、涼しげな風に撫でられ、まるでこちらを誘うかの如く揺れている。岩の高さの限界から背の高い樹木こそないが、下草のあるダブルキャノピーだ。上空からも見つからないだろう。

 

「……………えっ!?うわーい!!……ぐふっ……………」

「「………」」

 

 伍長は今までの疲れは何処へやら、突然元気いっぱいになり駆け出そうとし………転んだ。身体は正直だったらしい。そのままピクリとも動かず、潰れた伍長を軍曹が片手で拾い上げで、背負っている荷物の上へ無造作に放り、ファイヤーマンズキャリーする。

 2人の仲を"夫婦"と揶揄する奴が多いが、どちらかと言うと親子だな。優しくも厳しい親と、ワガママでやんちゃばかりの5歳児の子だ。

 

「………少尉ぃ~?今、何か……失礼な事…考えませんでした?」

「…いや、特には」

「……む~」

 

 軍曹に背負われながら頬を膨らます。やっぱ5歳児だな。変に察しもいいし……。それにしても軍曹がヤバい。軍曹の凄さで地球がヤバイ。

 

 ここ"グレート・キャニオン"と言っても砂漠寄りだ。既に17時近いとはいえ、地球温暖化と砂漠化で気温は45℃を超えている。その中で人1人と行軍用の荷物2人分、かなり少なめに見積もっても合計110kg近くを抱えて歩いていても表情一つ、呼吸の一つも崩さず汗一つかかない。軍曹というよりターミネーターだ。出る映画間違えてないか?

 

「……もう直ぐだ。………もう少し…辛抱しろ…」

「……うう……急いで……」

「……伍長ェ……」

 

………ま、まぁ今日は暑いから、頭が…うん。し、仕方ない、な……うん、仕方ない……。

 

 こんな時も軍曹は伍長を気遣っている軍曹も軍曹だが、担がれて遅いと言い出す伍長も伍長だ。本当にある意味大物だ。だから何で、どうやってなったんだよ。

──と言うか親も親だ。伍長は志願兵で、自分の意思でここに来たと言っていたが、さすがに向き不向きあるだろ。そこを判断してやれよ。特に伍長に判断は、まぁ、無理だろうし。

 

 歩く事十数分、ようやく木陰にようやく到着し、荷物を下ろし一息つく。かなり涼しく、生き返るようだ。

 空は青く、風は涼しい。何処かで小鳥がさえずっている。まるでピクニックだ。

 おにぎりでも、あったらなぁ……。米が食いたい。ものすごく。俺の中で織田っちが叫んでいる。ノーライス・ノーライフ……。レーションの味もだいぶ改善されてるし、軍曹の料理はプロ級だが、流石に無から有は作り出せない。って言ってもとはや錬金術レベルの調理だけど。

 

………とても今が戦時中で、つい最近まで命のやり取りをしていた事など嘘のようだ。隣で幸せそうな顔で寝息を立てている伍長がそれを助長している。

──というか軍曹に背負われた後、水筒の水を飲んで途中から既に寝ていた。軍曹をラクダか何かかと勘違いしてんのか?それを全く意に解さず、マットを敷き、ゆっくり下ろす軍曹の姿はやっぱり5歳児の親とかぶる。

 

 そんな2人から視線を外し、遥か彼方の大渓谷を見る。雄大な稜線を刻み、風景を大きく小さく切り取る岩壁が、アンバランスなコントラストを描き出し、そこを吹き抜けてきた風が髪をくすぐり、心地よい風切り音を少尉に伝える。これでもだいぶコロニー落としの影響で崩れたらしい。自然は大きくて偉大だが、人間はそれをこうも壊し得るのか。

 

 伍長を寝かしつけた軍曹が、無言で少尉の隣に腰を下ろす。そのまま双眼鏡を取り出し、付近の索敵を行いつつ、少尉へと口を開く。

 

「……少尉、覚悟を決めては…どうなんだ……?」

 

 その言葉に、少尉はため息をつきながら身体を仰け反らせる。誤魔化すように青い空に浮かぶ白い雲を目で追いつつ、ただ、ポツリと言った。

 

「──確かに一番階級が高いのは俺だ。だが、それだけだ」

 

 本当に、それだけだった。

 

 それだけだった。

 

 

……………………………………………………………………

 

 

 

──U.C. 0079 3.26──

 

 

 

 墜落時に受けた負傷がまだ回復しきってはいないため、少尉はやる事もなくベッドに寝転がり、キンキンに冷房の効いたトラック内でおやっさんから話を聞いていた。

 頭の体操と戦線復帰の為のリハビリ一環として、少しでも手先の感覚を取り戻そうと始めたルービックキューブは、どの面も不揃いなカラフルさを際立たせ、その存在感を自己主張していた。

 青い面のみ7つ程揃っておりその努力の片鱗こそ見せてはいるが、言うなればただそれだけであり、全く揃わぬままシーツの上に無造作に投げ出されている。

 

 少尉が意識不明の時は片時もその側を離れなかったらしい軍曹と伍長の2人は仕事中らしい。申し訳ない。

 しかし……伍長、仕事増やしてなきゃいいんだけど。まぁ……軍曹と一緒なら安心か。

 

 少尉の横たわるベッド傍の小テーブルには、焼け焦げた表紙にべったりと血を吸わせ、ガチガチになった本に、同じく血塗れであったが、軍曹の手によってピカピカの新品同様に整備された私物の護身用ハンドガンTYPE-22、それに伍長からのお見舞いの品、博多産の辛子明太子の入ったパックが置いてあった。

 

 俺明太子嫌いなんだけど………。あとそのチョイスはなんだよ?嫌がらせ?それともアレか?サイド6("リーア")の文化かなんか?どちらにしろロクでもねぇんだけど。

 

「………と、言うのが今の現状だ」

「そうですか……指揮官は何と?」

「指揮官は?って、少尉が言うか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鏡を見てみな、そこに指揮官は写ってるよ。よろしくな、少尉、いや、指揮官。うははははっ。その顔!悲劇は長時間寝かせると喜劇になるとは言うが、相当面白い喜劇になってるな!うははははっ!!」

「は、はあ!?」

 

 少尉が驚きに目を丸くし身体を起こし、痛みに耐えかねたのかまた倒れこむ。その様子を見て元気じゃねぇかと独り言を零すおやっさん。

 

 俺が?いや、ドッキリだろ。冗談だとしても目を覚ましたばかりで状況の掴めてない奴にはヘビー過ぎる。

 もう少しギャグと言う物はね、おやっさん。よし、ここはシノハラさん自慢のクールでウィットに富んだジョーク一発で場を………。

 

「……冗談でもやめて下さいといつも……」

「冗談ではない!!」

 

 顔を近づけたおやっさんの大声に驚き、同時に身体に激痛が走るがそれどころじゃない。頭の中で赤いエビに"ファンファン"がはたき落とされる。

 あぁ!!"ファンファン"高いのに!!て言うか何故従来型の攻撃ヘリにしなかったんだ?勿体無い………そのまま"ファンファン"を撃墜したエビは仲間を呼んだが集まらず、1匹で盆踊りを始めたが、脚が絡みつまづき転んで思考停止する。

 って今は関係ない!!

 

「この旅団で一番階級が高いのが、少尉。あんただよ」

「おぉ俺、には経験が……おやっさんか軍曹のほうが……」

 

 その迫力に押されつつ、なんとか出そうとした反論を、おやっさんがバッサリと切り捨てる。

 

「ダメだ。軍は階級が全て。分かってんだろ職業軍人(ライファニー)?それに、チャンスだと思わんのかこのチキン」

「……思えませんよ。タンドリーだかフライドだか知りませんがそれでいいですから……」

「──選択肢は無いぞ?」

 

 近づけていた顔を離し、腕を組みながらおやっさんが再度言う。一筋の汗を垂らしながら、少尉は何とか応えた。

 おやっさん、やっぱ俺が嫌いなのか?勘弁してくれ。こんな若造についていく奴がいるとでも?

 

「……少し、考えさせてください……」

「ふむ…。ま、選択肢は無いが、心を落ち着かせにゃな」

 

 もう既に決め切っているおやっさんの声のトーンに、軽く眩暈を起こしつつ少尉は呟き、項垂れる。決定権がない指揮官って……って言ったら指揮官やる事認めたな、って言われそうだなぁ……。

 

「今はリハビリに専念します…」

「だな、そうしろそうしろ。んじゃ、トイレ(OSH)行ってくらぁ」

 

 スライド式のドアが音も無く開き、そこに滑り込むようにしておやっさんが出て行く。とんでもない置き土産を残したまま──。

 

………………………俺に、どーしろと?

 

 智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい…………。

 

 開け放たれた窓から風が迷い込み、少尉の頬をくすぐる。きっちりと巻かれた包帯の上から頭を軽く掻いた少尉は、再びベッドに倒れこむ。部屋に寝息が響くまで、そう、時間はかからなかった。

 

 

……………………………………………………………………

 

 

「いや、思い出したとこで何にもならん」

 

 ため息を一つ。そうだ、キャッチ22を真面目に考えてどうなる?同じ所をグルグル回るだけだ。

 足を組み直し、少尉は頭を掻く。となりで伍長が寝返りをうった。軍曹は双眼鏡で索敵をしている。

 

「……少尉。……俺は、少尉を信じる………ついて行く…」

 

 軍曹、信頼してくれるのは嬉しいが、何でだ?

 

 軍曹には謎が多いが、これが一番の謎だ。軍曹と会って数ヶ月。俺は何もしてはいないし、きっかけと呼べるものも存在しない。それこそ『気が付いたら』というヤツだ。

 

 頭を振る。今はそれどころじゃない。それに、俺は他人の過去をわざわざ掘り返していちいち警戒する程暇じゃない。大切なのは今だ。その今を越えるのに、過去の詮索は何も力添えをしてくれない。

 

 あの後おやっさんから聞いた事であるが、正規の兵士はこの3人のみであるとの事だ。後全員は整備兵のみらしい。なんだそれ?と思って聞いてみたら、『信頼出来るのはこの3人しかいなかった』とのたまった。いや、それより人数をだな……戦力が実質"ロクイチ"1輌じゃねーか。

 

 いやー、"ロクイチ"が2人乗りで良かったね。軍曹と伍長で1輌運用出来るよ!!うん。

──二連装の主砲に自動装填装置、コンピュータを始めとする電子機器等でいっぱいいっぱいになって2人乗りにせざるを得なかった、なんて聞いたけど。ホントだよ。戦場でトラブった時2人でどう修理すんだよ。

 そういやMSは何人乗りだろ?5人でも足りなそうだな。それともコンピュータ制御?いや、無人かもな。

 

…………それにどうやってあんな大規模なトラック群を用意したのか聞いた所、かなり前から資料偽造、部品の水増し、物資の横流しや闇ルートと犯罪がズラリ。凄まじい手腕で現に今とても助かってるが犯罪だからね?アレ?俺コレ共犯?タイーホされない?コレ?

 

『細けェこたぁ気にすんな!!バレなきゃ犯罪じゃねぇんだよ!!』

 

 そーゆー問題じゃない!!

 

 そんなこんなでパンク寸前の頭をこんがらがせる少尉を励ますように、そよ風が吹き砂埃を巻き上げ、小さなつむじを巻いては消えて行く。心地よい風だ。隣で伍長はむにゃむにゃと寝言を言い、手を動かしている。軍曹はまだ微動だにせず双眼鏡を覗いている。緩やかな風に、首に巻かれたスカーフのみがはためいている。

 軍曹につられ、双眼鏡を覗いてみた。どこもかしこも岩だらけで、何もなさそうだが………?荒れ果てた高原の一角、クレーターの様に大きく抉られた湖の淵に、崩れて久そうな廃墟群が見て取れた。ほぼ風化し、今にも無くなりそうだった。

 

「──軍曹、あの廃墟は?」

 

 少尉が双眼鏡から目を離し、隣の軍曹に声をかける。少尉はここら一帯の地理に詳しい訳でない。それに加え北米大陸は広く、更にはコロニー落としの被害に地殻変動、都市の崩壊と難民の発生、集団疎開、ジオンの地上侵攻と大混乱だ。今の少尉には、あの廃墟が何なのかは全く検討がつかなかった。

 

「……コロニー落としで、打撃を受けた………その後の、ジオン侵攻で………」

「………そう、か…」

 

 その言葉を聞き、言葉につまり黙り込む少尉に、軍曹が呟く様に小さく言う。

 

「……──"セント・アンジェ"……」

「──え?」

 

 思わず聞き返す少尉に、軍曹は一拍置いた後、噛みしめるようにもう一度呟いた。その言葉は、感情を表さない軍曹に珍しい、わざとらしく感情を押し殺したかの様な声だった。

 

「………"セント・アンジェ"、と言う………町だった(・・・・)………」

「……………」

 

 少尉はもう一度双眼鏡を覗き込み、その廃墟を覗き込む。

 風化が進み、時折思い出したのかの様に陽光に煌めくステンレス片を除き、自然の一部へと戻り始めているそれに、少尉は想いを馳せる。

 

 あの小さな村の残滓は、まるでこの戦争そのものだ。あの村はどんな村だったのだろう?どんな人が居て、どんなドラマが繰り広げられたのだろう?それを知る者は誰一人として居ない。皆いなくなり、村も滅んでしまった。戦争が始まり4ヶ月、あの村の様な最期を迎えたところは後を絶たず、数え切れないだろう。

 

「………2人で、覚えておこう………確かに、あった……」

「……そう、だな……」

 

 太腿に違和感を感じ双眼鏡から目を離す。隣の伍長が寝返りをうち、枕にしていた。それを見て軽く笑うと、軍曹も薄く唇を引き結ぶ様に歪め、2人で小さく笑いあった。

 

 のんびりと、時間だけが流れていく。

 

 大自然ってヤツは、人を哲学者にする。

 

 風が吹く。遥か彼方であの廃墟が、蜃気楼の様に揺らぐ。まるで、幻の様だ。

 

 しかし、例え幻であろうとも、かつてあの街を現実として生きていた人達が居たのだ。

 

 この仲間と戦い、守りたい。そう思った。それが、多数の命を抱える重圧に耐えなければならない事になっても。

 

「──ん、少尉……」

 

 伍長が寝ながら薄く笑っている。寝言のようだ。

 

「……少尉になら……出来ますよ……」

「………それには、同意…だな………」

 

 その奇跡のようなかけ合いを聞いて、空を見上げた。ギラギラ輝く太陽と、すき抜ける様な青、真っ白な雲。それが遥か地平線まで続いている。守りたい、と思った。

 

 心の底から、思えた。

 

「………よし!!」

 

 伍長をどけ、立ち上がる。隣で伍長がビクっと(ジャーキング)しつつ目を覚ます。

 

「んむ~……、何が始まるんです?」

 

 寝ぼけ眼の伍長が目を擦り、小さく呻き声を上げながら身体を起こす。その頭を撫でつつ、少尉は決心を揺らがせぬよう、自分を奮い立たせる様に声を張り上げる。

 

「大戦はもう始まっている!寝言は寝てる時だけで十分だ。軍曹!!」

「…2秒後に、行軍…再開可能……」

 

 少尉が軍曹へと振り向いた時には、軍曹は既に行軍用の装備を整えていた。3人分。正直頼りになり過ぎると思った少尉だった。

 

「よし、行くぞ!トラック(キャンプ)に戻る!ついて来い!!」

 

 腕を振り上げ歩き出す少尉に軍曹が続き、やや遅れて伍長も歩き出す。まるで踏み締める様に足を振り下ろし、気合いを入れずんずん歩く少尉の足跡が、カラカラに乾いた砂漠の大地に刻まれる。その隣には軍曹の規則正しく大きな足跡に、ふらふらと頼りなく引きずる様な、伍長の小さな跡が並ぶ。

 

「……了解……どこへでも……」

「……うへぇ~、でも、わたしもついて行きますよ!!」

「当たり前だ伍長。戻らないと凍死するぞ?」

 

 肩をすくめ、冗談めかして言う少尉の言葉に、伍長が頬を膨らませる。

 

「寒いのは嫌!!ってそーゆー意味じゃありませんよ!!」

「……伍長…少尉も、分かっている……」

「む~…」

 

──それより……何の疑問を持たず手ブラでついてくる伍長。あんたはそれでいいのか?その発想はなかったわ。つーかいらなかった。それと靴紐はしっかりと結びなさい。転ぶz……。

 

「きゃっ」

「あー、全く。ほら、掴まれ」

「あ、ありがとう、ございます……」

 

 見事に靴紐を踏んで転んだ伍長に手を貸し、立ち上がらせる。しっかり結べよと言い含め、振り返り水筒に口をつける。喉が渇いた、と思った時には既に身体は脱水を起こしているのだ。乾燥地帯では、感覚でなく時間で定期的に口に水を含ませておくのが生き残るコツである。

 

 靴紐結ばんと、桜庭みたく肝心な時に、例えばゴール前とかで転ぶからな。戦場と言う、俺たちのフィールド上で転ぶワケにはいかん。

 

 やや日が翳り始めた岩砂漠を、喋りながら3人の兵士が歩く。斜陽は世界を紅く染め上げ、黄昏の世界を創り出して行く。ゆっくりと地平線へとその身を沈める火輪を背に、少尉達の影は長く伸び、それはまるでMSのようだった。

 

 

 

 

 

 

 やや予定より遅れたが、無事にキャンプに戻る。辺りは陽が落ち、すっかり夜だ。身震いをする(シバリング)様な冷気が立ち込める中、毛布にくるまった伍長はまたもや軍曹の背中で寝息を立てている。

 それを見て、急速に少尉の希望が萎み、むくむくと不安が鎌首をもたげる。さっきまでのやる気はどこへやら。いきなり不安になってきた。綺麗な寝顔だろ?こいつ、全戦力の1/3何だぜ?

 

 行軍用の荷物を起き、地図が広げられた折り畳みのデスクの前にいたおやっさんに声をかける。指揮官としてやる事はあまりにも多いが、ともかく、出来る事から始めようと思ったからだった。

 

「おやっさん、近場のジオン軍の動きは?」

 

 机に手をついた少尉をさも当然の様に見、おやっさんは平然と話し出す。

 完全に織り込み済みか……手のひらの上っつー事……。はぁ、敵わんわ。この人に軍曹だけは敵に回したくない。

 

「"キャリフォルニア・ベース"占領後、大陸中央に向けて進軍中らしい……"サンディエゴ・ベース"も落ちた様だ」

「………ふむ…」

 

 顎に手を当て、目の前の地図を睨みつつ考え込む。確実に生き残り、尚且つジオン勢力圏内から抜け出しつつ、大規模連邦軍基地及び、地球連邦軍勢力圏内へ脱出する最短ルートは……。

 

「うははははっ!いい顔をしてるな。どうやら、覚悟とやらを決めてきたか?」

「はい、出来る事をやろうと思います。今は、今しかできない事を精一杯。せめて、後で後悔ぐらいは出来るようには。サポート、頼みます」

 

 おやっさんが肩をだく様にして叩き、少尉は自信なさげに笑いながらそれに応える。そんな2人を揺らめく焚き火の炎が照らし、影をトラック表面に映し出した。

 

「ああ、ドンと来い。出来る事は全部やろう。出来ない事も最大限努力する」

「………感謝します」

 

 頭を下げた少尉の肩に、おやっさんが優しく手を置く。顔を上げた少尉の顔を覗き込み、おやっさんが囁くように続けた。

 

「…忘れるな 俺はお前らの力になるし……そういう人間は今後 確実に増えるだろう…少尉、後は、信じろ。自分も、周りも……」

「……はい!!」

 

 力強く頷き、改めて考える。何か、いい考えは……肩の力を抜き、首を巡らす。

 お、軍曹だ。装備を下ろし、身軽な服装になった軍曹が、寝ぼけ眼の伍長を焚き火の側に連れて行き、レーションを渡し、そのままその他の整備兵に誘われるまま賭けのポーカーを始める。それをぼんやりと後ろから眺める伍長。いつもの風景だ。

 

 皆も軍曹に一度足りとも勝った事無いのに果敢に挑むなぁ。余裕があるのはいい事だ。今夜は参加しなくていいかな……あまり余裕があるわけでもなし、第一博打は苦手だ。どうも。

…………貧乏性だからか?チキンだからか……。博打で大金貰うよか、掛け金をそのまま懐に入れるタイプだからな。

 

 ふと気がついたら、隣に居た筈のおやっさんも別のグループで賭けトランプを始めていた。好きだなぁ、おやっさんも。

 

「…少尉……」

 

 入れ替わりに軍曹がやって来た。手にはマグカップを二つ持っている。礼を言い一つを受け取り口をつける。うん。軍曹のコーヒーは旨い。夜風の冷気に冷えた身体に、心地よく染み渡る暖かさを実感しながら、立ち昇る湯気をぼんやりと眺める。

 儚く、それでいて力強く輝く星空に、溶けて行く様に昇る湯気が幻想的な雰囲気を醸し出す。

 焚き火の上で炎は燃焼し、空気を膨張させ、ぱちんという小気味よい音とともに爆ぜる。生み出される光は太陽のそれより赤く、柔らかかった。

 

「トランプはいいのか?」

「……伍長に、任せた………」

 

 そうか……ん!?それはマズくないか!?

 

 口を開こうとした少尉に先じて軍曹がその口を再び開く。珍しい事もあるものだと、少尉はその口を閉じ軍曹の話に耳を傾ける。

 

「……少尉は、どうする……つもりだ……?」

「……む………」

 

 腕を組み地図を見下ろす。長考に入った少尉を、軍曹は静かに、一言も口を開かず見守っている。

 

 ジオンは中央を目指していると聞いた。なら、港から海へ、と考えた所でコロニー落としでほぼ壊滅した事を思い出す。復旧作業こそ行っているが、そこにジオンの侵攻だ。一溜まりもないだろう。

 そもそも西海岸側で被害の最も少なかった軍港である"キャリフォルニア・ベース"は陥落してしまった。脱出艇が確認されない上コンタクトも無いと言う事は、大量に配備されたあの最新鋭の潜水艦部隊は自沈させたのだろうか、惜しい事をした。

 あそこにはロールアウトしたばかりの新鋭艦が揃っていた筈だ。それさえ使えれば、南アメリカどころかアジアまでもあっという間なのになぁ。

 

「中南米を経由して、"ジャブロー"方面へ抜ける、か?」

 

 少尉の結論に、軍曹は満足そうに頷き、言葉を継ぐ。その顔が無表情でなければ、まるで教師と生徒だ。戦闘経験という観点から見れば、それは強ち間違ってはいないが。

 

「………"グレート・キャニオン"は………どうする……?」

「この装備じゃ渡れないな…このままコロラド河を遡り、水中渡河後、アリゾナ砂漠を横断する……というのはどうだ?」

 

 軍曹が指差す先に記された"グレート・キャニオン"の文字に、コップを置き、地図を指でなぞりつつ答える。この旅団の装備に関してはおやっさんから既に聞かされていた。

 正直かなりの物で驚かされたのは記憶に新しい。それを扱えるかはともかく、だが………。

 

「……俺も、それを考えていた……最悪、進軍する、ジオン……と、鉢合わせるが……一番、現実的だ……」

「おっ、そうだな。」

「おやっさん!!いつの間に!?」

 

 いつの間にか戻って来ていたおやっさんが同意する。目を瞬かせ驚きつつおやっさんを凝視する少尉の目には、胸ポケットからは札束が、尻ポケットからはカードが少し頭を覗かせているのが映る。イカサマかよおやっさん……。

 

「……おやっさん。おやっさんも、それでいいですか?」

「ん。『それでいい』と胸を張れ指揮官。よし、今日はパーティだな、目標が決まった。士気を上げるためにも必要だ」

「だったら、部隊名を決めましょう!!ねっ!!ねっ!!」

 

 どさり、と身体に負荷がかかる。元気いっぱいに復活した伍長が背中から抱き付いて来たのだ。思わずよろめくが態勢を整え、ゆっくりと降ろす。病み上がりなんだから勘弁してくれ。

 

「んっ!伍長か、ったく……それより所持金大丈夫か?」

「はい!五倍くらいに!!今度なんか奢りますよ少尉!!えへへー」

「……強かったのか」

 

 意外だ。いつもバカっp………元気がいいから、てっきりボロクソにヤられてくるかと。ま、周りも手加減してくれたに違いない。伍長だし。

 

「……いや、勘と頭は、良いんだ………ただ…使えない、だけ……」

「軍曹ひどい!!このっ……うーん?まぁ!!取り敢えず名前!!名前決めましょう!!少尉はどんなのがいいですか?」

「………いや、そうだな……"California Base Brigade"(キャリフォルニア・ベース旅団)、略してCBBでどうだ……なんだその顔」

 

 どうせ俺にネーミングセンスはねぇよ。だが伍長、お前には言われたくない。

 まるで『失望しましたよあなたには』と言わんばかりに両方の眉毛をハの字にした伍長にそこはかとなく腹が立つ。

 

「つまらないです!もっと少尉らしさを出して行きましょうよ!!」

 

…………らしさってなんだろうな?コンビニの雑誌コーナーにも星占いでも判らん………。この歳になって自分探しか?笑えねぇな。

 

「……俺は、どうでも……」

 

 興味なさげな軍曹の隣で、おやっさんが口を開く。

 

「やっぱそう言うのがいいんじゃねぇか?"ブシドー"旅団とか」

「勘弁して下さい!」

 

 なんだその日本大好き外国人が付けるような名前はと思ったらこの人そうだった。前もふざけて適当に忍者の真似したらスゲー受けたし……。

 

「じゃあ、"サムライ旅団"で……」

「それも……」

 

 遮ろうとした少尉に目もくれず、振り返ったおやっさんは焚き火を囲う整備士達へと呼びかける。

 

「あー、野郎ども!!"サムライ旅団"でいいか!」

「「おう!!」」

「よっしゃ!いい名前じゃねぇか!!」

「はっは。クールでピッタリですな」

「多数決でけってーい!!よろしくね団長!!うふふ、団長かぁ~かっこいいですね!!」

「………」

 

 あれよあれよと会議は進み、団長を置いて収束する。団長、形だけ過ぎるだろ。恐るべし民主主義。

 

「……仕方ない……数に勝てるものは、無い……」

「野郎ども集まれ!!"サムライ旅団"結成と、団長に乾杯!!」

「「カンパーイ!!」」

「………はぁ……」

 

 大丈夫かコレ?不安過ぎる。前途多難にも程があるだろ。

 またも騒ぎ始めた整備班を前に、肩を落とす少尉を軍曹が肩を叩きつつ励ます。

 うぅ……俺の仲間は軍曹だけだ。ありがとう軍曹。輝いて見えるよ夜だけど。

 

「……気にするな……少尉は、一人じゃない……」

「……軍曹……」

 

 軍曹の言葉を背に受けながら、静かな光をたたえる星を包む、遥かな宇宙(そら)を見上げる。

 

 奇しくも、その時夜空が瞬き、流れ星が走った。

 

 あの箒星が向かった先が、俺達の向かう先だ。

 

 星を見送った少尉は、そのまま無意識に手を握り締める。

 

 目指すは、遥かなる地球連邦軍最高司令部、南米"ジャブロー"。

 

 

『よい戦場を』

 

 

 

 

決死の旅が、始まる…………




一年戦争のMSVは好きな機体が多いので、出来るだけ出して行きたいと思っています。そもそも主人公MSに乗ってない上連邦MS開発すらしてないけど。

因みにジオンはかの有名な闇夜のフェンリル隊の活躍によりキャリフォルニアベースの潜水艦をちゃっかり手に入れ、ハワイとか攻撃します。ユーコン級、マッドアングラー級は連邦軍の潜水艦なんです。前回までもそうで、一つ言い忘れましたが、わざと間違った事が書いてある時もあります。素で間違えてる所は指摘お願いします。


次回 第五章 物資集積所襲撃

「なるほどー。えっ?」

アルファ、エンゲージ!!


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第五章 物資集積所襲撃

読み返して見たら、ガンダムなのにMSが全然出なくてワロタ。後半は、逆にMSばかりになってしまうと思うので今は勘弁してください。


戦争とは何か?

 

戦闘地域に住む人、非戦闘地域に住む人、高官、士官、兵士……全てに関して認識は変わってくる。

 

戦争によって何かを得た者。失った者。

 

戦争によって立場が変わった者。変わらない者。

 

彼らにとっての、戦争とは、何か?

 

答えは、自分で出すしかないのだ。

 

 

 

──U.C. 0079 4.4──

 

 

 

「──敵の物資集積所?」

 

 ○七○○(マルナナマルマル)。少尉はピタリと作業を止め、おうむ返しに聞き返した。手に持ったスパナを弄びつつ発した声は、頼りなく空気を揺らし、溶け、薄い靄に吸い込まれていく。

 朝のまだ陽が登って久しく、薄く朝靄がたなびく中だった。朝露をその身にたっぷり纏わせた下草が風に揺れ、その粒を地面に降らす。いつも通りの朝の事だ。練習がてら"ロクイチ"の整備を手伝うため砲塔に登っていた少尉にとって、おやっさんのその言葉はまさに寝耳に水であった。

………まだ少し肌寒い。肌寒いが……体感的なものだけでないな。確実に今の言葉は2、3℃気温を下げた。くそぅ。

 

「あぁ、偵察に出ていた軍曹からの予想外好目標値出現(ターゲット・オブ・オプチュニティー)の知らせが入ったんだ。報告によると、規模は小さく、MSは確認出来なかったらしい。

        ──どうする?」

「……ふむ…」

 

 少尉は整備していた"ロクイチ"上部の車長展望塔(キューポラ)正面、へばりつく様に装備されたラジコン式重機関銃砲座であるM-60 13.2mm重機関銃から目を離した。この絶大な威力を持つ重機関銃は、歩兵の接近を許さない為にもとても重要だ。その空を睨む頼もしい銃身に置いていた手を離し、数メートル下を見下ろす形となる視線の先には、服をじんわりと濡らす水滴を払うおやっさんが腰に手を当て仁王立ちしていた。逃げ場はない、と言う様に。

 

 物資集積所とは、文字通り物資を集め、一時的に保管するところだ。

 戦闘行動や、移動は言うまでもないが、それだけでなく軍隊という組織は平時において存在するだけでも常に大量の物資を消費し続けている。おかしな表現になるが、周囲を飲み込み肥大を続けるブラックホールの様なものである。飯を食べる数千人規模の人と、それが動かす燃料を喰らう巨大なマシン、その2つを抱えているから当然と言えば当然であるが。戦闘を続け、戦線を維持するには、当たり前であるが平常を遙かに凌駕する様な物資が必要である。

 軍の維持かつ組織的行動には絶対に必要な兵站(ロジスティック)であるが、その規模は大きく、物資そのものを動かす事にすら凄まじいエネルギーを消費する。まさにジレンマだ。

 物資集積所とは、つまりそれらの輸送の労力、及び襲撃された時のリスク分散を行うため、至る所に散らばる様に物資を一時的に集積、管理した上で必要となる所へと輸送する為の仮置き場の様なものである。必要な物を必要な時に必要な場所へ、とは人間の活動の全ての基本であるが、だからこそ大切なのである。

 

 ジオン軍は軍規により現地における物資の略奪行為を禁じていた。ジオン軍の地球降下の目的は資源の確保であり、現地の一般市民(アウトサイド)との早急な講和、及び協力体制の構築を行う必要があったからである。

 それにより、現地民との協力体制を築くため、手っ取り早い方法としてあらゆる戦争災害により不足していた物資をばら撒く事によりその足掛かりとしたのだ。今現在、ジオンが急ピッチで衛星軌道上からの物資投下に躍起になっているのは、そんな背景があるからなのだ。

 

 地球上の各地で爆発的に発生した戦災であるが、それを救うべく動くべき地球連邦軍にも余裕は無く、戦災復興は常に後回しにされる事案であった。それらを起こした張本人であるジオン軍がそのケアを行うとはまた皮肉な話であったが、いくら高い志があろうと、今日食う飯が無ければ人は死ぬしかない。そして、人は腹が膨れると決意が揺らぎ、さらにその楽な状況に甘んじる様になってしまう。現に、ジオン軍による統治を歓迎した都市も少なくはなかったのも実情であった。この世界は、良くも悪くも『持つもの』が『持たざるもの』に対し強者であるのだ。その観点からは、この作戦は当初の目標を達成したと言えよう。

 しかしそのため、ジオン軍は戦争初期において既に大量の物資を消費し、協力体制構築後でも伸びきった戦線と補給線、長期化する戦争の影響から深刻かつ慢性的な物資不足に悩まされ続けていたのだ。

 

 戦争初期から、ジオン軍の主な物資確保は宇宙からの"HRSL"に頼っていた。しかし衛星システムを始めとするあらゆる監視、迎撃システムの多くが無効化、破壊されたとは言え、両目を潰され手足を捥がれた巨人がそれでもなお抵抗するかの様に、地球連邦軍も無能ではなかった。衛星軌道上では"ルナII"所属のパトロール艦隊及びコロニー駐留軍残党による、執拗な補給線への迎撃行動に、地上からの長射程ミサイルやレールガンによる対空迎撃に加え、邀撃機による緊急発進(スクランブル)も行われた。

 衛星軌道上での戦闘はMSの性能の前に連邦軍の一方的な敗退に終わり、ミノフスキー粒子により命中率が著しく低下した長射程兵器は十分な効果を発揮する事は出来なかった。しかし、当初、ジオン軍は航空戦力を保持しておらず、邀撃機による"HRSL"撃墜は多くの物資及び人員を地球の塵へと変えたのもまた事実であった。

 

 それら大気圏内外の攻防戦を始めとするあらゆるトラブルにより、降下ポッドが予定ランディング・ズールー(LZ)から大きくズレ散らばる事も日常茶飯事であった。それらを掻き集めるためにもジオン軍はこの様な物資集積所を至る所に設営していたのである。今回見つけた物資集積所もその様なものの一つで、規模はそう大きくはないとの事だった。

 

 現在我々はコロラド河を遡り、水中渡河可能な場所を探している。戦力と呼べるものは"61式主力戦車"こと"ロクイチ"がたった6輌のみだ。この半端な数は、元の一個小隊(4輌)+予備1輌に、軍曹と伍長両名の操縦する"ロクイチ"、伍長曰く『ボナパルトちゃん』が合流したためだ。

 

 しかし、地上最強の戦車、地球連邦地上軍主力兵器である"ロクイチ"も、乗るのが素人であればその機能の1/10も発揮する事は叶わないであろう。さらには、高性能化と人員削減のためハイテク化が進み、特殊技能が無ければまともに動かす事すら出来なくなった所に、それらハイテク装備を無効化するミノフスキー粒子だ。戦車は、正直手動で動かすには手に余る兵器なのである。

 

 本来、戦車という兵器は4〜6名程度、少なくとも3名で運用されてきた兵器だ。2名なんて物は豆戦車でも少ない。通常の戦車においては、通常は車輌の統括指揮を行う車長、操縦を行う操縦手(ドライバー)、主砲を照準し射撃を行う砲手、砲弾の装填を行う装填手、部隊内や本隊との通信を司る通信手の5名が乗員である。そこに副操縦手などの役職が加わる事もあるが。また自動装填装置が導入され装填手は不要となり、主力戦車となった"ロクイチ"の場合はさらに砲手が車長を兼ねる事となっている。しかし、随伴歩兵の協力が得られなければ、整備に修理や周囲警戒、防御陣地の構築などの非乗務作業を3名だけで行なうには負担が大きすぎるという考えや、戦闘によって1名でも負傷すれば直ちに有効な戦闘が行なえなくなるという冗長性の不足を指摘する声もあり、かつてイスラエル陸軍では戦訓により『戦車を守るには最低4人必要』と言われるほど、人数は重要なポイントであった。

 

 『近い性能の戦車戦は、乗車人数で決まる』と言われる事もあり、自動化されているとは言え、2人で操縦するには戦車は複雑すぎる兵器である上、その自動化のアドバンテージすら失われているのである。簡単に言えば、素人を引っ張ってきて、初めて触らせる機器を使って2人分の働きをしろと言っている様なものである。

 

 現在、あまりにも少な過ぎる戦力増強のため、我が隊の先任下士官(サージェント・メイヤー)とも呼べる軍曹に、整備士の若い者達を整備兵として徴用、"ロクイチ"ドライバー及び車長として練習させているが、戦力は一個小隊に満たないどころか、弾除けになるかどうかぐらいであろう。整備兵達は皆見様見真似で数の足りない技術教本(テクニカル・マニュアル)野戦教本(フィールド・マニュアル)等の技術を練習していはいるが、まだまだ訓練も足りず、使い物にならない者(デッドビート)が大半である。当然といえばそうだが、時間は持ってはくれない。敵もだ。

 

「──おやっさん、ウチの資源、どれくらいあります?」

「余裕だ。あと半年は軽く持つ」

 

 少尉の問いに人差し指をピンと立て、ニヤリと笑いながらおやっさんは答える。流石おやっさんご自慢の旅団だ。戦闘における人的資源以外は完全な様である。

 人差し指を左右に振りつつ、残る片手を腰に当て、そのさぁ褒めろと言わんばかりに胸を張る悪ガキ大将の様な姿に苦笑しつつも、少尉は腕を組み頭をフル回転させる。

 

………正直、迷う。本来であるなら余計な戦闘は避けるべきだ。しかし、軍曹がわざわざ報告して来た位だ。先手を打てば被害をあまり出さず物資集積所を落とせるだろう。それはさらなる敵戦力を招き寄せる可能性があるが、放って置いてもその物資でジオン軍は我が軍を攻撃する………。

 

 ならば、敵戦力分断、分析の為にも襲撃すべきだ。俺達は、俺達のだけために戦っているわけではない。

 現在スタンドアロンな我々であるが、構成員は連邦軍所属の軍人が多数だ。それならば、連邦軍の勝利のため戦うべきだろう。

 それに、今の戦力ではいずれ潰される。だからこそ、敵戦闘部隊は狙わない。こちらが先制をかけ有利な状態から奇襲をしようと、強い者とぶつかれば多かれ少なかれ損害が出る。戦術とは強い敵を避ける事だ。的確に弱点を突き、効率良く弱者を攻め立てるのが戦争だ。それでいい。時たま求められる勇気は今は置いておく。残忍で良心をかなぐり捨てた残虐性、酷薄な容赦の無い非道な無情さ、その様なものが今は求められる。姑息に、意地悪に、阿漕で、効果的に。それだけだ。

 

「おやっさん、皆を集めてください。敵の物資集積所を襲撃します」

 

 独りでにうなづき、腰掛けていたキューポラから腰を上げ、砲塔から飛び降りつつ少尉が言う。眼を鋭く光らせるその顔は、19歳という年齢の概念を捨て去り、既に戦士の顔となっていた。

 

「あいよ。今日も忙しい一日になりそうだな」

 

 しかも騒がしい、な。と手をひらひらと振り、おやっさんは去って行った。その背中が朝靄の中に溶けて行ったのを確認した少尉は、顔を顰め痛みを堪えるためピョンピョンと飛び跳ね痺れた足を振っていた。

 

「…………っつぅ〜っ………」

 

 先程の雰囲気はどこへやら。朝靄の中、巨大な戦車の前で爪先を抑え飛び跳ねる新米少尉。なんとも間抜けな光景だった。

 "ロクイチ"は大きい。そもそも戦車という兵器は実物を見るとそれは驚くレベルで大きい。普段目にしている乗用車とは比べ物にならないサイズだ。全高もだいぶ低くなっている5型でさえ4m近くあるのだ。まぁそうでないと戦車存在理由である『高い火力と装甲を持ち、時に歩兵の盾として、時に尖兵として悪路や塹壕を乗り越え進む』事が出来ないため当たり前と言ったら当たり前であるが。

 しかしそれは、例えるなら大体2階から飛び降りるぐらいである。それでも怪我をしないのは、ひとえに少尉の日頃の鍛練の結果だろう。

 世の中には3階から平気な顔して飛び降りる輩もいるが……。

 

「……と、とにかく……」

 

 周りからの呆れるような視線に苦笑いをし、誤魔化す様に独り言を言いつつ少尉の頭は再びゆっくりと回転を始めていた。ふと上を見上げ、霧に隠れぼんやりと光る太陽がこちらへと光を投げかけているのを見つめてみる。

 

…………敵戦力は例の緑のデカイ戦車と、グレーの小さめな戦車のみ、とのことだが………。それなら、"ロクイチ"で十分戦える。いや、"ロクイチ"の方が性能的に優っているくらいだ。再度偵察を派遣した後、状況を把握次第動くべきだろう。

 

 続々と集まりつつある仲間を見つつ、訓練をそこそこ受けた整備兵を"ラコタ"に乗せ戦力に組み込む事にする。騒がしくなりつつある中、少尉は頬をかいた。はてさてどうしようか。本当に。

 

──まぁ、この人数に、この兵器だけ、練度も、な中で出来る事なんて限られている。大体の作戦は決まった。後は、そうだな……。

……まぁ、いい。

 

「──それは、今考える事じゃない、な…………」

 

 たなびく朝靄の中、そっと囁かれた呟きは、誰に聞かれるともなく空気に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 数分後。ようやく全員が集結した。手に持ったままだった朝食を近くのベンチにおいた最後の1人を見やり、彼が並ぶのを待つ。なんか不思議な気分だ。軍曹の気をつけ(アテンション)の声にピタリと整列した整備兵達を前にして、少尉は今日一番の声を張り上げた。

 

「──皆、聞いてくれ。今日偵察に出た軍曹が、敵の小規模な物資集積所を発見した」

 

 ざわざわと口を開き、三者三様の反応をする全員の反応を見つつ、一拍おいて話を続ける。

 

「トラック群はここでキャンプし、今夜、そこを襲撃する。夜襲、そして夜戦だ。奴らはスペースノイド、この重力にはまだ慣れていないはずだ。そこを突く」

 

 拳を顔の前で打ち合わす。視線を集め、皆に一体感を持たせる。少尉の背には、先程火をつけた蝋燭がゆらめいている。蝋燭の仄かな灯りと揺らめきは心落ち着かせ、心を開かせやすい状況を作る、また、脳の判断を鈍らせ、一種の催眠状態、暗示のかかりやすい状態になるのだ。これも立派な隊員操縦の機転・知恵(タクト)の一つだ。まだ薄暗いとは言え朝だからそんなに効果無いかも知れないけど。やらんよりマシだ。と言うか本当に暗いな。本当に朝かよ。

 

「──狙いは物資、情報、それに北米の連邦軍基地の支援になる。一八三○(ヒトハチサンマル)に"ロクイチ"3輌、"ラコタ"6台で出撃()る。各員、準備を怠るな。確実に行え(ネイル・ダウン)。何か質問は?」

 

 誰も何も無いようだ。しかし、その目は静かに光っている。その眼は、既にただの人の眼では無かった。

 

 ならば………よぉし、奴らにひと泡、吹かせてやりに行くか。

 

「──無いようだな。ならば、我が隊発足後初の作戦だ。全員、必ず生きて帰るぞ。

          ──以上。解散」

 

 士気は高い。後は、訓練通り出来るかだ。敬礼をし、答礼には目を向けず踵を返して歩き出す。威厳だ。威厳。弱気を見せるな。堂々としろ。ふんぞり帰るくらいでいけ。内心垂れる汗をごまかす様に、少尉は足早にその場を後にした。

 

「──……ぃっ!少尉!タクミしょーい!!」

 

 しばらく歩きトラックの影に隠れた後、深呼吸して胸を撫で下ろす。やはり慣れない。だが慣れていかなければ。ふたたび歩き出した少尉の後ろからの声に、足を止め振り向く。トラックの陰から出て来たのはやはり伍長だった。既にヘルメットを被り、ボディアーマーを着用した姿はやる気満々の様である。そんな伍長の後ろには、控える様に軍曹もその姿を見せていた。

 

「伍長、それに軍曹も。どうした?それに伍長!俺を呼ぶ時は少尉かシノハラ少尉だ。そーゆー事を気にする人の方が多いんだから……」

 

 気がつくと高く登っていた太陽の強い日差しの下、巨大な胴体を晒すトラックの傍、日除けになり陰となる所に3人でタイヤを背もたれにし座りこむ。今夜の初めての作戦に、戦闘配備までまだ時間もあり、落ち着けなかった少尉にはまさに渡りに船だった。

 

「おやっさんに聞いたんです。物資はまだ余裕あるのに、何でですか?」

「一番必要なのは情報だな。後は、ジオンのIFVとAPCが欲しい。"ラコタ"では不安なんだ」

「なるほどー。──えっ?」

 

 IFVとは、"Infantry Fighting Vehicle"(インフェントリー・ファイティング・ヴィークル)。歩兵戦闘車の事だ。つまりは歩兵を運ぶ事に主眼をおいた戦闘補助車輌の一種であり、高機動車輌である"ラコタ"と比べ厚い装甲を持ち、1台に8人程度乗り込める。 

 APCとは、"Armoed Personnel Carrier"(アーマード・パーソナル・キャリアー)つまり装輪式装甲兵員輸送車だ。どちらも迅速な戦線の拡大や、戦場での戦闘兵員の輸送に欠かせない物だ。戦車とは比べ物にならないが、小銃弾は軽く弾き返す装甲で覆われており、オープンカーのような"ラコタ"より安全なのだ。これにより死傷率を下げようとしているのである。

 

「……何で"ロクイチ"が、あって……それらが、無いんだ……?」

 

 少尉の言葉に、軍曹が微かに首をかしげる。首の動きはスカーフでほぼ判らないが……しかし、軍曹の疑問も最もである。全く。バランスの悪い軍隊だ。平和ボケか、癒着か……どっちにしろ腐りかけだな。早過ぎたかな?

 

「そもそもあまり"キャリフォルニア・ベース"に配備してなくて、その上使われて無かったから手に入れられ無かったってさ」

 

 少尉が肩を竦ませ両手をあげながら答える。そんな少尉の心情を表すかの様に、投げ出された足元では風に吹かれた小枝がコロコロと転がっていく。少し、風が出て来たか?

 

「大丈夫ですよ!こっちには"ロクイチ"があるんですよ?今更要らないんじゃないんですか?」

「……いや……制圧が、出来るのは……歩兵だけだ。……絶対に、必要だ…」

 

 伍長のどこかズレた意見にすかさず軍曹が軌道修正を加える。しかし、次の一言で完全に脇道に逸れた。

 

「"ロクイチ"に乗っければ?」

 

 口を開こうとしていた少尉はそのまま閉口し、沈黙する。伍長は何故そうなったのかも判らずニコニコ顔を崩さないのがそれをさらに助長している。脇道どころか獣道だ。

 

「……伍長は90km/hで走る"ロクイチ"にタンクデサントさせる気か?鬼だな……」

「あっ!なるほど……」

「はぁ、伍長……今度、一からやり直そうな?まだ間に合うから……」

 

 手をポンと叩き納得した様子の伍長を見、ずり落ちた帽子を上げつつ、少尉はそう呟くのが精一杯だった。全く。泣けるぜ。

 

 どんな兵器があろうと、最終的に制圧をするのは歩兵だ。それは、MSが戦場を駆け、宇宙戦艦がビームをぶっ放す宇宙世紀になっても変わらない。

 

 "タンクデサント"とは、装甲車などがまだ浸透していなかった旧世紀で一時使われていた兵員輸送方式だ。 

 その名の通り、戦車に歩兵をへばりつかせ運ぶのだ。もちろん被弾や転がり落ちてしまう事で死傷率は高かった。平均寿命が2〜3週間と揶揄されるぐらいである。そのために装甲車などが開発されたのだ。ん?何故そんな事がまかり通ったって?そこは、まぁ……人が畑から採れるソ連軍だから……。良い子の諸君は、雪が積もっているからと言ってパラシュート無しで降下しちゃダメだよ?お兄さんとの約束だ。あまりにも戦線がズタズタで、大混乱していたからまかり通る話だったと言うけどな。よく言われる銃は2人に1つ、も本当に戦争初期だからね?勘違いしちゃダメだよ?

 因みに"ロクイチ"にも兵員輸送のためのスペースがある。砲手、操縦手を含めずそのスペースのみで最大四人乗りだ。しかし、そこは主砲の弾丸を載せるスペースと共用のため、殆ど使われる事はないのが実情である。

 

「戦力が整ってない以上、敵兵器の鹵獲は有効だ。それに、こっちは大人数の整備兵を抱えている。兵器解析(リバース・エンジニアリング)が出来たらそれは大きなアドバンテージになるからな」

 

 孫子曰く、敵の貨を取る者は利なり、だ。敵の一鍾を食べるのは味方の二十鍾分に相当するっていうし。どっちみち現時点での俺達にデメリットはあまりない。ならやるべきだろう。

 

「へー、いっぱい考えてるんですねー」

「……少尉は、今指揮官だ……全員の、命を預かっている………ならざるを、得ない……」

「そうそう。今は戦争だ。何の準備もせず、戦術も無しに戦いに挑めば……そこに待つのは己の屍だけだからな」

 

 手を叩く伍長の頭に手をのせて軍曹が言う。伍長は目元までずり下がったヘルメットを両手で戻す。その姿は小動物の様だ。

 

「…という事。軍曹の言う通り、今の俺たちの戦力はあまりにも少なく、経験も少ない。軍曹、伍長は主力であり、教官だ。慣れない整備兵達の教官になって欲しい。よろしく頼む」

「はーい!少尉のため、レオナちゃんがんばっちゃいますよー」

「……了解」

 

 両手を振り上げ立ち上がり、気合を入れる伍長、またもヘルメットがズレている。サイズがあってねぇな。でも、あれ以上小さいのねぇし……頭ん中すくねーから……。

 少尉と言えばやっと理解してくれた伍長に安堵のため息をつく。そこへおやっさんがやって来た。手には大きな黒い筒を抱えている。艶消しがなされ、だいぶ重たそうな印象のそれを、軍曹が片手でひょいと持ち上げ見聞し始めた。

 

「話はまとまったか?」

「はい。おやっさんも、最高の整備、頼みますよ」

 

 立ち上がり埃を払う少尉がおやっさんと向かい合う。舞い上がる埃とキラキラと反射する太陽光に目を細めつつ、おやっさんは陽気に返した。

 

「ああ、任しておけ、それに、奴らは場慣れしてない、お守り頼むぞ」

「……了解……それと、整備班長……反射防止策を、頼む……」

「分かってんよ」

 

 軍曹の意味ありげな目配せに、おやっさんは胸を叩き応えた。その様子に安心した少尉に、理解出来ていない伍長が声を細め聞く。

 

「アレってなんです?」

「──後で分かる。よし、各員の奮戦に期待する。解散!」

 

……ま、すぐ合流するんだけどね?気分だよ、気分。それにいい合図にもなるし。

 

 トラックに戻る。二重のハッチの中は、空調の効いた快適空間が広がっていた。首元をやや緩めつつ、少尉はどこへともなく歩き出したが、ふと思い立ち立ち止まる。

 

 今のうちにメインアーム(プライマリウェポン)サイドアーム(セカンダリウェポン)の整備をしておこう。絶対に必要になるはずだから。

 

「軍曹!手伝ってくれるか!」

「…了解……」

 

 トゥー・メン・ルールに基づいて軍曹も呼び、整備用の油とボロ布(ウェス)を片手に武器庫(ガンロッカー)から、CALT M72A1アサルトカービンと、腰のガンホルスターからTYPE-22ハンドガンを取り出し、手早く分解整備を始める。

 軍曹は暇さえあれば銃の分解整備をしているため、こんな時でも頼りになる。つーかウチの旅団は軍曹とおやっさんに支えられていると言っても過言では無いな。俺はまぁ、代表の代わりで、伍長はマスコットかな?

 

 地球連邦陸軍が正式採用しているアサルトカービンは、狭い空間での取り回しを考えられたブルパップ方式を採用している。そのため、全長の割りに長い射程距離と新たに組み込まれた反動軽減機構、減退器による高い命中率が特徴だ。更に軽く、銃剣(バヨネット)も装着可能なのでCQBに最適、車内持ち込みにもピッタリなのだが、なにせブルパップ方式なので構造が複雑なのだ。

 組み込まれた反動軽減機構の副産物である減音効果で難聴になる事こそなくなったが、更に機構は複雑になってしまい、平時においては整備手順の煩雑さから不評の銃だ。しかしその性能は実戦証明済み(コンバットプローブン)であり、無重力下でも作動する名銃である。旧世紀に流行ったピカティニーレールがついて無いからオプションのグレネード(オーバー・アンド・アンダー)とかダットサイトとか付けられねーけど。

 

 サイドアームは軍の正式採用品M-71でなくTYPE-22をチョイスする。TYPE-22は旧世紀に製造されていたSIG/SAUER P220をリメイクしたもので、構造が単純で信頼性が高い為貰い物の私物を持ち込んでいる。また、ダブルカラムマガジンではなくシングルカラムマガジンである理由としてはあくまで補助火器として運用する事を主眼に置いたためだ。これは友人の贈り物である。コンパクトで携行しやすいのはいいが、少し小さ過ぎて握り辛いのが難点だ。

 

 軍曹は旧式の68式を整備している。これは軍曹がブルパップ式のM72は構造が複雑なうえに排莢孔が顔の近くにあり即座にスイッチングを行うことが困難である為、あえて旧式を使っているのだ。

 それに単純な構造から来る信頼性や、銃身長も長い事も軍曹が選んだ理由の一つであろう。そちらの方が当たり前であるが命中率、射程距離、集弾率、速度全てにおいて勝る。軍曹は長身なため、それで十分なのだ。また、軍曹の物は精度の高い物をベースにマークスマンライフルとして再調整されたものであり、使用弾もM72より大きく射程も長い7.62mm弾を使用しており、中距離射撃、ストッピングパワーに優れている。

 

 M-71はブローバック式のハンドガンに反動軽減機構を組み込んだもので、命中率こそ上がったが、やはり構造は複雑になったため2人とも使っていない。使うのは伍長だけである。軍曹のサイドアームはコルト・ガバメントM1911A3である。旧世紀に使われていた傑作ハンドガンのマイナーアップ版だ。流石北米出身。.45神話は健在のようだ。

 

 軍曹のM1911A3以外、ライフル、ハンドガンの弾丸は正式採用品と共通なので、このように好きに運用できるのだ。それに地球連邦軍という組織はその様な装備に寛容であった事も大きい。その辺りもかつての米軍の気質を色濃く受け継いでいる。

 

「あっ、わたしも参加しまーす!!わたしの相棒どこだ〜」

 

 ドアが気分良く開かれ、音を立てる。そこに居たのは伍長だ。

 

「伍長か、やっとけやっとけ。やらんに越した事は無い」

「……出来る、のか………?」

「バカにしないでください!見ててくださいよ〜あった!シャーリーンちゃん久し振り〜!」

 

 るんるん気分の伍長も参加する。道具を揃え、意気揚々と分解を始めるが、早速バネを吹っ飛ばし、拾おうと動いてネジを撒いた。

 

「あぁぁぁあ……シャーリーンちゃーん!!」

「つーかその名前何だよ!!なんつーネーミングセンスだ今すぐヤメろ頼むから!!」

 

………涙目で結局軍曹にやってもらっている。既に主戦力の1/3が機能不全を起こしている。頭を抱えたくなった。

 

 基礎の基礎が、全く出来てねぇぞコイツ…………。

 

 こっそりと溜息をつく少尉は、気持ちを切り替え目の前の銃に向き合った。手を動かしていれば晴れる気持ちもある。手の中でドライバーをもてあそびつつ、少尉はウェスに手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 斜陽が揺らぐ中、閲兵式のようにピシリと並んだ整備兵達の前に立ち、少尉が声を張り上げる。

 

「よし、全員揃ったな。では、作戦を改めて確認する。敵の物資集積所1.5km地点まで接近。"ロクイチ"は目視にて"緑の戦車"を狙う」

 

 人差し指を立て、少尉は淡々と作戦を説明して行く。確認の意味合いも大きいが、どちらかというと本音ははやる自分の心を落ち着けようとしていっぱいいっぱいだったからだった。

 

「まず包囲網が完成次第、軍曹が狙撃を行い、敵の頭数を減らす。そこから敵にバレ次第"ロクイチ"で砲撃を行い、その後"ラコタ"を伴い突入、制圧する」

 

 少尉はそこで一度言葉を切り、深く深呼吸する。緩やかな風が服の裾を揺らして、砂埃と共に去って行く。一度瞑った目を開き、少尉は再度話し始めた。

 

「敵に容赦はするな。だが、非武装のものは出来るだけ捕虜にしろ、出来るだけ、だ。生き残る事を優先しろ。疑問、違和感は逐一連絡しろ。分かったな。質問は?」

 

 全員顔が緊張気味だが、問題はなさそうだった。

 

「無いな。時計合わせ!では、状況を開始する。全員乗車!!」

「「了解(コピー)!!」」

 

 整備兵達が緊張しつつも動き出し、次々と乗り込んでいく。うん、問題は無さそうだ。乗り込む時の怪我とか稀にあるからな……。

 

出発時間(タイム・トゥ・ゴー)!!全車、全速前進!!」

 

 "ロクイチ"に乗り込み、キューポラから上半身を乗り出した少尉かわ号令をかけ、陸の王者達が地面を蹴立て出撃する。もうもうと砂埃を上げ疾走する"ロクイチ"3輌に、その煙を避ける様にして、緊張した顔でライフルを抱き抱えた整備兵たちを荷台いっぱいに満載した"ラコタ"が6台続く。

 

「──あー、テステス。軍曹、伍長、聞こえるか?」

《聞こえるよー》

《……感度良好、問題無い》

 

 ノイズも無く、クリアな声が返ってきた事に少尉は満足気にうなづく。データリンクは出来ないが、高いミノフスキー粒子下でさえも比較的安定して通信できるレーザー通信装置は快調だ。これは少尉のアイディアをおやっさんが設計、製作したものだ。

 

「よし、そろそろだ。各員、配置に付け」

《《了解》》

 

 陽が暮れ始めた頃(トワイライト・タイム)、ようやく目標地点へと到着する。時間通りだ。目標である敵の物資集積所は、森に囲まれた丘陵地にあった。少尉はキューポラから身を潜めつつ無線で連絡を入れ、ゆっくり静かに回り込む。その間に"ラコタ"に乗っていた整備兵たちが"ロクイチ"の進路を塞ぐ木々を切りつつ、上部に木や草を載せカムフラージュする。

 

 ミノフスキー粒子によりレーダーは無効化され、有視界戦闘が主体になった今、再びカムフラージュが有効になった。特に視界の悪い夕方、夜は少しでも輪郭が崩れていると目標の判別が著しく困難になる。整備兵達の手により、大量の草木を乗せられた"ロクイチ"の上はこんもりと盛り上がり、盆栽のようになった。その事に満足気にうなづいた少尉は独りごちる。戦車の上で百貨店でも開こうかね。

 

 斜陽が世界を赤く染め上げる中、息を潜め、音を抑えて敵拠点へと肉薄して行く。敵はこの事を知らず、見えない。まるで死神だ。

 

「こちらアルファ、準備完了」

《……こちらブラボー、同じく》

《こちらチャーリー、同じく準備完了》

《こちらデルタ、準備完了》

 

 全員の用意が完了したのを確認した少尉は、そこで口がカラカラに乾いているのに気づいた。自分で思う以上に緊張していたらしい。

 チューブゼリーを啜り、一息つく。そのままシートに深く凭れかかり、手を組み目を瞑って素数を数える。

 

 カウントが101まで行った時、少尉はゆっくりと目を開け、身体を起こし無線機へ怒鳴り立てた。

 

「──攻撃開始時刻(タイム・オブ・アタック)だ。よし、おっぱじめろ軍曹!かましてやれ!!」

《……了解…ブラボー、エンゲージ……》

 

 "ロクイチ"の上部には13.2mm M-60 重機関銃が装着してある。軍曹のオーダーとは、おやっさんが抱えていた特注の大口径狙撃スコープだった。初めて作戦を聞いた際、重機関銃で狙撃?と首を捻る者が多数だったが、重機関銃は固定されており安定性が高く、更に重く威力のある大口径弾は風に流されにくいため、セミオートによる射撃を行えば十分に狙撃できるのだ。現に、旧世紀ではブローニングM2重機関銃で約2kmの狙撃に成功している。

 

 軍曹が狙撃を開始する。観測者(スポットマン)は伍長だ。"ロクイチ"のFCSを利用した贅沢な狙撃だ。

 

 FCSとは"Fire control system"(ファイア・コントロール・システム)の略で、射撃管制装置の事だ。あらゆるセンサーやレーダー等から多角的に情報を取得、統合することで高い命中精度を叩き出すヴェトロニクスの一つである。この装置により、"ロクイチ"は走行中においても極めて高い命中率を維持する事が出来るのである。それもミノフスキー粒子の影響で機能が大幅にダウンしてしまっているが、ミノフスキー粒子の散布されていない今、正常に作動したその効果は絶大である。

 

 少尉は"緑の戦車"に"ロクイチ"主砲の照準を合わせつつ、軍曹の仕事ぶりを眺めていた。少尉の視線の先では、軍曹の高い狙撃技術と"ロクイチ"の高性能なFCS、それに長くバディを組んでいて息の合う伍長が合わさり、どんどん敵を撃ち倒して行く。

 

「──凄い……!」

 

 実際そうとしか言えなかった。高性能なFCSの恩恵があると言え、今夜は風もある。距離も普通は狙撃する様な距離ではない。それでいて素早く、何より精確だ。センサーが捉えた、眉間を吹き飛ばされているも表情一つ変えず崩れ落ちていくジオン兵を、少尉は決して忘れる事は無いだろう。

 

 その人数が30人に届くか届かないかぐらいになった時、基地内に警報が鳴り響いた。

 

 流石にバレたか!!しかしもう遅い!!

 

「総員!作戦を第二段階へ!全車両、弾種、装弾筒付き翼安定徹甲弾(APFSDS)、目標"緑の戦車"、てぇーっ!!」

《撃ち方、始めぇーっ!!》

《情無用!!フォイヤー!!》

 

 轟音と共に"ロクイチ"の主砲、155mm二連装滑空砲が火を噴き、轟音と共に音速を遥かに超えた鉄の矢を撃ち放つ。センサーが捉えた遥か彼方では、装甲をいとも簡単に貫いた弾頭が、戦車をオモチャか何かの様に吹き飛ばして行く。この主砲の威力は折り紙付きだ。上手くやれば、MSとだって渡り合える。様は戦い方なのだ。"ロクイチ"のスペックは、それ程にも高い。

 

《敵戦車沈黙!!敵の反撃確認出来ず!!今です!!》

 

 その報告を聞いた少尉は、操縦手(ドライバー)が制止するのも振り切って、キューポラから上半身を乗り出す。数キロ先の地獄の業火に大きく目を開き輝かせながら、咽頭マイクに手をやり声を上げる。

 

「よぉし!!突撃を開始する!!弾種変更対榴(HEAT)!陣形変更!デルタ、ケツにつけ!!敵陣突破楔形陣(パンツァーカイル)!総員!このシノハラに続け!!」

 

 腕を振り上げ、怒鳴り声を上げる少尉。炎に照らされ揺らめくその姿は悪魔のようだった。

 

《ヒャッホォォォォォォオオ!!最高だぜぇぇぇぇぇぇえええ!!》

《了解……地獄、までも……ついて…行く………》

《《おぉっ!!》》

 

 第三射斉射後、黒い煙をあちらこちらで上げ始めた敵物資集積所へと全軍を伴い突撃する。背中に感じる多くの視線と、無線を賑わす鬨の声が少尉を奮い立たせる。少尉が振り上げた手を振り下ろしたのと、"ロクイチ"がその巨体を震わせ前進を始めたのはほぼ同時だった。

 

「いくぞ!!陸の王者、前へ(パンツァーフォー)!!」

「了解!飛ばしますよ!しっかり掴まってて下さい!!」

 

 パンツァーカイルとは、対戦車陣地(パックフロント)を突破するためにドイツが考案した戦車の陣形の一つである。正面に重装甲、高火力の重戦車を配置し、敵陣を速度と火力を持って押し潰すのである。この仕事に、"ロクイチ"こそ相応しいモノはいない。

 

 もう敵に戦車はない。そしてMSの無い今、戦車に勝てる兵器はジオンには無い。

 戦車に勝てるのは、戦車か、攻撃ヘリか、犠牲を顧みないかまたは隙を突いた歩兵による対戦車ロケットランチャーなどの攻撃しかない。それだって随伴兵によってほぼ無力化されてしまうのだ。敵戦力にMSや航空機が無ければ、戦車はまだ地上最強の兵器なのである。

 

「硬い皮膚より速い脚だ!!もっと飛ばせ!!もっとだ!!」

1()0()()()()たらふく喰らえ!!》

 

 主砲が火を噴き、重機関銃が曳光弾(トレーサー)を吐き出し、闇夜を赤く切り裂く火線と共に空を染め上げる。砂煙を立て先陣を切る少尉の"ロクイチ"の正面装甲をガンガンと言う激しい音と火花と共に弾痕が刻まれるが、装甲を貫き動きを止めるには至らない。少尉は主砲を撃ち放ち、重機関銃を対地攻撃(AGW)オートでばら撒きながら、唾を飛ばして怒鳴る。少尉は今、コンバットハイになっていた。

 

「危険です!!エンジンが悲鳴をあげてるんですよ!?」

 

 諌めるドライバーの提言に、少尉は手を振り拒否を示す。額に流れる汗を拭う事も忘れ、目はメインスクリーンから片時も離されず、ただ前だけを睨みつけていた。きつく握り拳を固め、少尉が口を開く。

 

「構うな!俺にはワルキューレの声に聞こえる!!大胆不敵であれ!!」

「ヴァルハラに連れて行かれたらどうすんです!!」

「そん時はコイツでラグナロクに備えるさ!喰らえ!お前たちの行くヴァルハラはないぞ、ジオンめ!!」

 

 全速力で敵陣へと到達した少尉は、目に付く物へ手当たり次第に主砲や機関銃で攻撃しながら"ロクイチ"でバリケードを蹴散らし突入する。ジオン兵からしたらたまったものではない。時速100km近い鉄塊が死を振りまきながら突っ込んでくるのだ。殆どの者が恐怖に身体を竦ませ、顔を歪ませながら榴弾(MP)に吹き飛ばされ、あるいは重機関銃でハチの巣にされ、またある者は履帯に轢き潰されていった。

 

「RPGに注意しろ!2時方向!!目標野営地!弾種変更白燐弾(WP)!!続いて10時方向!顔を出したAPCへHEAT集中!!」

《うてぇーー!やっつけろ!!》

《行け!!潰せ!!》

《5時方向……RPG……》

 

 無線に反応し、視界を巡らせる。その端に映り込んだ、キャットウォークから諦めずロケットランチャーを撃とうとしていた敵兵に、重機関銃を撃ち攻撃を阻止する。体勢を崩し、ロケットランチャーを取り落としたジオン兵はそのまま落ちて見えなくなった。

 生身に対して重機関銃は当たらなくても良い。至近弾の引き起こす身を引き裂く様な衝撃波の中、射撃態勢を維持出来る人間などいない。それに口径は13.2mmもあるのだ。一発でも当たれば柔らかい人体など血霧と化す。

 

「敵を逃がすな!!突撃し、蹂躙しろ!!情無用!ファイア!」

《いいぞ ベイべー!!殲滅戦だ!掃討戦だ!!怪しいところには弾丸をブチ込め!!逃げる奴はジオン兵だ!!逃げない奴はよく訓練されたジオン兵だ!!まず殺してから考えろ!!生き延びたいなら引き金を引け!!情け容赦無く無慈悲なまでに!ホント!戦争は地獄だぜ! フゥーハハハーハァーッ!!》

《こちらデルタリーダー!"ロクイチ"隊へ!先導感謝する!!引き続き援護を頼む!!デルタ散開!!》

「出番だ!!行くぞ!!突撃ぃー!!」

 

 突撃し、楔となった少尉の搭乗する"ロクイチ"の砲門が断続的に火を噴く。開いた突破口へと後続の"ロクイチ"、"ラコタ"が続き、"ロクイチ"を盾にし"ラコタ"から整備兵達が飛び降り、混乱し逃げ惑う敵を撃ち倒し、銃剣で突き刺し、銃床で叩き伏して行く。

 

「この野郎喰らえ!!」

 

 分隊支援火器を抱え、弾帯(バンダリア)を体に巻きつけ降り立った1人が、腰だめで分隊支援火器を水平に薙ぎ払い(トレバーシング・ファイアー)、背を向け走っていたジオン兵を撃ち倒した。膝から崩れ落ちるように倒れこんだそのジオン兵を皮切りに、あちこちで銃声が轟き始めた。

 

「これは俺の分!!そしてこいつも俺の分だ!!」

「まるで鶏撃ちだぜ!!」

「そっちにいったぞ!!追え!!」

「グレネード!!」

「ブラボー!前の建物だ!一発ぶち込んでくれ!!」

《ブラボー了解………ファイア……》

 

 狙撃により減った戦力に、飯時の奇襲。魔女の鍋と化した敵陣は地獄の釜の蓋が開いたのかのような惨状だった。既に敵に組織的行動は不可能だった。総崩れとなったジオン軍は全員が全員バラバラに動き、整備兵たちに追い立てられ、背中に沢山の銃弾を浴び各個撃破されて行く。

 

「………クリア!!」

「クリアー!!」

「こっちもクリアだ!!」

 

 あちらこちらで煙を噴き上げる物資集積所に、挽歌を唄うように声が響く。それを"ロクイチ"のコクピットで聞いていた少尉はおもむろに立ち上がり、キューポラから身を乗り出す。二○五○(フタマルゴーマル)、状況終了、作戦は成功だ。

 

 かくして少尉達は1人の犠牲も出さず、ジオン軍の物資集積所を制圧した。状況の終了を確認した少尉は、インカムに手を当てトラック群のおやっさんに連絡する。

 

「おやっさん!敵物資集積所を制圧した!こちらへ向かってくれ!!」

《うおっしゃぁ!!少尉ならやってくれると信じていたぞ!!すぐ行く!!分解して!解体して!解析だぁー!

   野郎ども!!祭りだぁ!!》

 

 嬉しそうだ。物凄く。なんかものっそい複雑な気分だ………。ふと目をやると、向こうでは整備兵たちが捕虜(POW)となったジオン兵を縛っている。その近くでは、倒れ血を流す死体を見、口元を押さえ走り出す整備兵も居る。それをなるべく見ないようにし、"ロクイチ"から降り立った少尉は、どことなく気まずそうに頭を掻きながら立ち昇る煙を眺めていた。

 

 皆、アドレナリンと緊張が解け始める頃だろう。興奮から冷め、現実を直視した時、自分のやった事に耐えられるか……。人の命を奪った事に耐えられるか……。

 

「少尉!!これ見てこれ!!すっごいよ!!うわー……」

 

 制圧完了と同時に真っ先に"ロクイチ"を飛び降り、目を輝かせ走り回り、転げ回っていた伍長の呼ぶ声が響く。何だ?ネコでも見つけたか?

 

 曲がり角の先で手招きする伍長に軽く手を振りつつ、少尉はヒョイと顔を出した。

 

 

 

 しかし、その予想は裏切られる。

 

 "それ"を見て、少尉は思わず息を飲み、絶句する。

 

 損傷し、夜風を受け頼りなく揺れるハッチがスローモーションに見える。その奥の物が、余りにも衝撃的過ぎたのだ。

 

 砲弾を受け捻じ曲り、焦げ跡の付いたコンテナの奥に、"ヤツ"は居た。

 

 

 

 

 そこには、"巨人"が横たわり、主を静かに待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

こいつ(ゼロロク)は、既存の戦闘の常識なぞ一変させ得る存在だ。いよいよ、本格的にMSの時代がやって来るぞ────…』

 

 

時代が、世界が、変わってゆく…………

 

 

 




やっと、物語が動き始めました。遂に、主人公がMSに乗ります!!

………鹵獲がどうした!!敵の機体だが文句ある!!

連邦が!!MS!!全然開発しねーんだもん!!

地味で!!仕方ねーんだよ!!

ということで、これからもよろしくお願いします。

IFV、長過ぎてルビふれませんでした………。

次回 第六章 グレート・キャニオン砲撃戦前夜

「………もういいよーっだ。フンッ……」

アルファ、エンゲージ!!


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第六章 グレート・キャニオン砲撃戦前夜

今回は戦闘はありません。そんな頻繁ドンパチ出来ませんし。MSも使えないでしょう。あんなもの一人で動かすのは凄まじい労力だろーし。


宇宙移民(スペースノイド)地球人(アースノイド)

 

その確執が本格化したのはいつだろうか。

 

"エレズム"思想からだろうか、

 

"コントリズム"思想からだろうか、

 

ジオン・ズム・ダイクンの独立宣言からだろうか、

 

それとも、

 

宇宙世紀(ユニバーサル・センチュリー)の始まった、宇宙移民開始からだろうか。

 

 

 

──U.C. 0079 4.9──

 

 

 

 一五三○(ヒトゴーサンマル)、青い空に、ギラギラと眩しい太陽の下、少尉は黒々とその天を衝く様な巨体を晒す"それ"を振り仰ぎ、手をかざして上を見上げていた。ジリジリと肌を焼く暑さに物ともせず、立ち昇る陽炎の中太陽の光を浴びて、緩やかな曲線と鋭いエッジを描く装甲形状を持つ"ザクII"がその巨大な姿を浮かび上がらせている。

 

……………大きい。まるでフィクションか何かの巨大ロボットだ。いや、そのものと言っても過言ではないだろう。

 周りで取り巻くように揺らぐ陽炎と合わせ、まるで夢の中の出来事であるが、この暑さが雄弁に語り掛けて来る様に、コレは紛れもなく現実だった。現実なのだ。

 

 コイツによって地球連邦軍はあらゆる戦場において一方的な敗退を喫し、地上にまで侵略され、俺の愛機も撃墜されたのだ。

 

「──死神め……」

 

 特徴的な一つ目(モノアイ)を沈黙させたそれは、決して動く事は無い。しかし、過去に見せつけられた戦闘行動は、少尉の脳裏に焼き付いていた。今でこそ整備兵達の前に為す術もなく突っ立ち、彼らを群がらせ為されるがままの機体に、少尉は帽子を深くかぶり直し、目を伏せながらぼそりと吐き捨てた。

 

MS-06J "ザクII" 地上戦仕様

製造 ジオニック社

生産形態 量産機

頭頂高 17.5m

本体重量 56.2t

全備重量 74.5t

出力 976kW

推力 43,300kg

最高速度 95km/h

センサー有効半径 3,000m~3,500m (大気状況で変化)

装甲材質 超硬スチール合金 発泡金属 カーボンセラミック ボロン複合材料

 

──……判っていた。いや、()()()()()()()()()()

 

 しかし、鼻先に突き付けられた現実はどこまでも非情だった。鹵獲と同時に得たカタログスペックは驚愕の一言だ。既存の兵器を軽く凌駕するこの性能の前に、戦慄する事しか出来ない程に。

 特にこの機体はJ型と呼ばれる機体であり、地球降下作戦開始後生産された中の一機であった。1G下における戦闘、つまり地上、重力戦線特化仕様にチューンされている機体だ。

 そのため汎用機として初期生産型されたF型をベースに現地で生産段階から改良が加えられ、空間戦闘において必要不可欠である姿勢制御用のアポジモーターの多くを取り外し、加えて推進剤搭載量の削減や宇宙用の装備の省略で軽量化が図られている。また、ジェネレーター冷却機構の空冷化、それに伴うダクトの最適化に防塵対策など手を加えられ、地上における稼働時間や機動性が改善されている。

 それらのマイナーアップに加え、本機は地上で試作された最初期ロットの機体であり、根幹をなす機体フレーム、駆動系である流体パルスモーターに関節部、脚部サスペンション、ショックアブゾーバー等も強化された物が採用され、より地上戦に特化された、今後の地上戦におけるMSのスタンダードとなる物であるらしい……おやっさん曰く。

 

 少尉にその話の全てを理解する事は出来なかったが、確実に言える事は一つだけあった。

 

 それは、この機体を戦力に組み込む事が出来れば、我が隊の戦力は劇的に強化され、生存率も上昇するだろうという事だった。あのチェ・ゲバラも言っていた。『物量で勝る相手と戦う時は、同じ武器を使え』と。

 

 襲撃し奪取した物資集積所にはこの"ザクII"一機と予備パーツが一機分、それに梱包を解かれたばかりで真新しい様子のB.M.C. Z78/2 汎用中型オートバイ10台、PVN.3/2 "サウロペルタ" 軽機動車 5台、PVN.4/3 "ワッパ"機動浮遊機 4台、PVN.44/1 "ヴィーゼル"水陸両用装輪偵察警戒車 3台、PVN.42/4"マゼラ・アタック"(緑のデカい戦車) 強襲戦車2輌、M-1"マゼラ・アイン"(グレーの小さい戦車)空挺戦車 3輌があった。大収穫である。それらがズラリと並べられている様子は、まるでジオン地上軍保有兵器見本市の様だ。

 これらをほぼ無傷で手に入れられた事により、我が旅団の戦力は激増………………。

 

 

 

 

…………すれば、良かったんだが…………。

 

 

 

 

 まず手始めに、鹵獲品の解体、分解、解析、整備などを含めるリバースエンジニアリング、それに加えセンサー、レーダーにIFFが使用不可能な状況、有視界における敵味方識別を容易にするための塗装の変更が進められているが、これがまだ全く済んでいない。

 塗装がそのままだと敵に対しある程度の偽装効果を発揮出来るものの、当たり前であるが同時に友軍からも攻撃対象となってしまう。ミノフスキー粒子の効果により、電子機器の誤作動及び無効化が当たり前に近い状態となった事による交戦距離の短縮化、偶発的戦闘の増加、敵味方入り乱れる乱戦の激化など、友軍との交信及び意思疎通が困難な今、同士討ち(フレンドリーファイア)の危険性は限りなく高まっている。チープキルなんぞ真っ平ゴメンだ。

 

 しかしその塗装一つを取っても、ただ普通のペンキをペタペタ塗ればいいと言う訳でもない。軍で使用される特殊塗料には、塗料自体に錆止め、電磁波遮断、断熱などの様々な効果がある上、装甲表面にはセンサー、アクセスハッチ、排熱系が大量にある。それらを考慮しつつ、自軍と分かる色でかつ迷彩としても効果的な塗装が必要なのである。また、これらは搭載された電子機器のテストと並行して行う事が出来ないのもネックである。民生品とは出力が桁違いな兵器を相手にそんな事をした日には、まるで電磁ネットへと飛び込んだハエや蚊の様に、ゴロゴロと人間の丸焼きが転がる結果となる事は目に見えている。

 

 それに加えリバースエンジニアリングも、まだ解析に向いていそうなスペースコロニー出身整備士がおやっさんを含め数人しかいないのだ。その他も努力しているが、使用専門用語の違い、規格の違い、設計思想の違い、構造の違いなどの壁はかなり高くやはり難しいようだ。

 ジオン軍、連邦軍共に機械類の最小単位である部品単位における兵器の規格はある程度は共通しているが、それは生産ラインの規格などだけである。それより上になると同じところを探すのが難しくなるぐらいに違うのだ。さらにジオン軍のものの規格は実質スペースノイドオリジナルなので仕方が無い。数十年の刻とともに、宇宙と地上という環境の違いはそれ程の変化をもたらしたのである。

 

………まだ宇宙世紀となり、言語や表記、単位や記号などが基本的に統一されたのがせめてもの救いか、ぐらいなのである。そりゃ簡単に進むはずもない。

 

 それに、鹵獲したといっても、それを使いこなす、と言う観点からみる事となると話は全く変わってきてしまう。自軍の兵器であってもゲームなどの様に簡単に機種転換など出来るはずもない。ましてや敵軍の兵器をや、だ。宇宙世紀となり、それなりの科学技術の進歩もあり自動化、ハイテク化も進んでこそはいるが、それを扱うソフトである人間は数十年かそこらでリセットされてしまうのだ。

 人類の指が5本でなく6本だったら数学は更に進化したであろうと言う事を鑑みるに、人類の寿命が平均数百年なら、と嘆きたくもなる。

 

 鹵獲のデメリットはここだ。それに今回物資集積所を丸々無傷で手に入れられたからいいものの、消耗品や修理パーツは新造できない。弾薬だって違う。代用の効く物も少ないだろう。その結果整備は難航し、稼働率はどんどん落ちていくだろう。いつかは共食い整備も始まる。改造してまで使う必要もない。その時容易に廃棄に踏み出せるのがまだ救いか。今回は戦力が全く整っていなかったからこそ、補給や新造も不可能であるから早急な戦力化の為鹵獲に踏み切った訳で、兵站さえ確保されればこんな苦労はしなくて済むのに……。

 

 話が逸れてしまったが、現在総出でそれらの扱い、操縦、分解、整備などの訓練に連日明け暮れる日々が続いている。それゆえ進軍速度もやや停滞してしまっている。

 

 その代表であるMS及びMS操縦に関しては、おやっさんと軍曹が中心となり協力し、簡単なMS操縦シミュレーターを立ち上げるも、その結果は芳しいものではない。

 多少ながら適合したのも少尉、伍長、軍曹に整備兵数人のみ、それも戦闘にはまだ全然達していない。一番使いこなし、既に戦闘機動に到達しつつある軍曹であるが、軍曹は戦車兵としてこの部隊に無くてはならない存在であるというのがまた………天才1人が何でも出来ても、ってヤツか……。

 

……くそう、軍曹が後5人いりゃこの戦争にも勝てるだろうに…………クローンなどの研究を禁じたU.C. 0051締結の"汎地球圏人権条約"が憎い………。クローンの何が非人道的何だよ……あ、アレか?双子みたいなのが増えて瞬間移動マジックとかがマジックにならんからか?仕方ない。ここはこっそりと"恐るべき子供達計画"でも…………やめとこ。

 

 それらと並行して行われている捕虜の尋問もあまりうまく行っていない。みんな黙りで、時折口を開いても『地球人(アースノイド)の飼い犬、連邦野郎(フェディ)に喋る事など一つもない』の一点張りだ。おい無理にでも口割らせたろか?代わりはいくらでもいるんだぜ?とにかく拷問だ!拷問にかけろ!!

 

…………なんて事も出来ないのが実情であるが……。

 

 "一週間戦争"の後締結された"南極条約"で捕虜の人道的扱いが規定されている為、拷問なども出来ないのである。まぁ、仮にできても、拷問というのは生かさず殺さず上手く情報を引き出さねばならない高等技術であるため、成功しないだろうが……。素人が下手に手を出すドもんじゃなさそうだ。精神衛生上もヤバそうだし。

 まぁ仮にやるとしても、水飲ませまくったり吊るしたり袋被せて水ぶっかけたり爪の間に針さしたり剥がしたり、裸にしてほっぽるくらいだなぁ……でもヤりたくはないし……。

 因みに裸にしてほっぽるのは日本の拷問で、手足を縛り裸にし、酒をぶっかけ一晩中ほっぽるのだ。結果、蚊に刺されまくる。かゆい。

 

 軍曹が拷問出来ると言っていたが、やらせたくもない。

 

──あ、今のオフレコでね?報道したら記者人生終わるよ?

 

 因みに、なぜ戦争に条約という取り決めがあり、ルールがあるか不思議に思う人も多いだろう。なら話し合いで決めろと言う人もいるかも知れない。

 しかし、それは大きな間違いだ。妥協による平和はたいてい永続きしないもので、平行線という物は折れても平行線のままであり、決して交わる事はなく、妥協は解決策ではなくただの引き伸ばしに過ぎないのである。

 

 また、戦争とは政治のさらなる延長、最終手段の一つに過ぎない。つまり、戦争は他の手段をもってする政治の継続なのである。武器を使わず、流血がない戦争が政治であり、武器を使い流血と共に行われる政治が戦争なのである。正義などありはしない。そこにあるのはただ、大義と名付けられた利益だけだ。

 

『戦争は武器の問題よりも金銭の闇題なり。金銭によって武器は役立つ』

 

 だから、だからこそ(・・・・・)ルールを守るのだ。ルールを破ると、敵に大義名分を与えてしまう。破るヤツは、戦争を『相手を叩きのめして終わり』と勘違いしている愚か者だけだ。勝った後にどうするか、何のために戦争するのかを考えず、ただ相手をぶっ潰せばいいだけなら、それこそ"ルナII"でもなんでもを質量兵器として加速させ"サイド3"にぶつけまくりゃいい。相手を滅ぼしゃ終わる。

 

 そう、武器が、軍隊が戦争を産むのではないのだ。いや、逆に抑止しているといえるだろう。

 

『戦争の準備は平和を守る最も有効な手段のひとつである』

『平時における賢者は戦争に備う』

『均等の力を持つものの問にのみ平和は永続する』

 

 戦争は、対象国に対して適切な武力を保持し、相互確証破壊を満たしていれば起こらない。旧世紀の核抑止と同じだ。しかしこれだって、大国間の全面戦争こそ抑止するが、局地的な小競り合いや地域的な紛争を抑止するには至らない。小国間同士は戦争を起こし、大国が介入しようとも泥沼化し、また代理戦争の場ともなる。戦争に無関係な国は存在しない。

 

 ま、そのバランスが悪けりゃ、戦争の名を借りた一方的な虐殺(ジェノサイド)が起こるのみだ。

 

 この考えは、戦争が大嫌いと抜かすのみで、軍を、武器を叩き、知ろうともせず批判しかしない自称(・・)平和主義者には永遠にわからないであろう。

 

 多分、戦争というワードが嫌いすぎて、思考停止しているのではないだろうか?『戦争のことは考えない、平和と叫べば平和になる!』

──世の中そんなに甘く無いのに………。

 

『平和を欲するなら、戦争を理解せよ』

 

 更には、時に行き過ぎた平和主義が戦争を巻き起こす事もある。

 

──旧世紀に勃発した"第二次世界大戦"がその代表だ。

 

 時に、とある東洋の島国には憲法9条という、平和主義の体現の様な憲法がある。戦力を保持せず、交戦権を持たないという憲法9条は1928年に締結された"不戦条約"を手本にしている。 世界で唯一戦争の放棄を訴えたその条文は、それ自体は尊いものだ。

 しかし、その"不戦条約"は、かえって"第二次世界大戦"を引き起こした事はあまり知られていない。

 これに対しチャーチルは『平和主義者が戦争を起こした』と言っている。

 

 ナチスドイツのヒトラーは平和主義を利用して勢力を拡大していったのだ。

 

 ヒトラーが"ヴェルサイユ講和条約"を破棄し再軍備したとき……。

 

 "ラインラント"に進駐したとき……。

 

 そして、"ミュンヘン会議"により"ズテーテンラント"を要求したとき………。

 

 いずれのときも周辺諸国は平和主義に縛られ、 力をつけ始めたドイツ軍を一掃できたのにもかかわらず、軍隊を使わなかった。 使えなかったのだ。

 

 その結果、ヒトラーは戦力充実に成功し、"第二次世界大戦"を引き起こしたのだ。

 

──行き過ぎた平和主義は戦争を招く。

──戦争をする決意のみが戦争を防ぐ。

 これが世界を混迷の闇に叩き落とした"第二次世界大戦"の教訓である。

 

 しかし、人類はこの教訓を活かす事は出来なかった。結局、俺達地球連邦軍は抑止力としての役割に失敗してしまった。

 

 つまり、今の俺達の仕事は、基本的に負け戦となる。基本的に『何かあってから』でないと仕事が出来ない……その時点で負け戦なのだから。

 

──だが、同じ負け戦なら、せいぜい生きあがいてやる…………。

 

 またこの事から現実問題、平和主義と軍備は矛盾しないのである。いや、必要な軍備こそ平和主義を名乗るに相応しいと言えるだろう。

 

 世界も真の平和主義を目指すのであれば、戦争研究をしなくてはならない…………。

 

──そう、"平和"な世界の住人なぞ、テレビの前に寝そべってポテチかじりながら、『遠い国の戦場の悲惨な映像』を見てああかわいそうだね戦争は嫌だねと口先では言いながら、実際には救援活動どころか義援金も送らないのが当たり前だ。

 それどころか平凡な日常生活ではまずお目にかかれないホンモノ(・・・・)の空爆シーンや死屍累々の風景に妙に血が騒いだりしてしまう、そんな奴しかいない。俺たちが求めてやまない『当たり前の平凡な日常』を嘆く、アタマでっかちの"王子サマ"だ。

 

 実際、俺もその中の一人だった。

 戦争は不思議なもので、その場にいる者にとっては地獄でも、遠くから見れば美しく見えるものなのだ。

 

──そう、みんなそうだ。画面の向こう側に戦場を押し込め、部外者の顔をして戦争を否定する。

 戦争だけじゃない。戦場に在る物、在る者の全てを否定する。

 

 だが……つい数時間前までは確かに笑っていた部隊の仲間が、夜にはいなくなっている。そして、銃弾や断片で肉体のどこかを失い、それでも負傷した仲間を背負って野戦病院へ駆け込む兵士………何より、自分自身のそばを銃弾がかすめない限り、そこが戦場である事は判らないのだ。そして、その場ではそんな物は頭の隅どころか考えから消える。

 

──今の(・・)俺は"平和"という言葉を安易に口にする連中が大嫌いだ。

 戦争は何故起きるのかを考えもしない。

 国境、民族、宗教、政治、思想、さまざま理念が絡み合った果てにいずれ衝突する。

 

 それが戦争だ。

 

 平和の一言で解決出来るならとっくに遠い過去に戦争は消滅してる。

 

 ならば何故、まだ起き続けているんだ?絶対に戦争が悪とは言わせない。

 それは無責任極まりない発言だ。

 

 おそらく"絶対"というワードがとにかく駄目なのだ。絶対戦争をやるべき、絶対負けない、王は絶対敬うべき。かつての絶対王政の様に。

 絶対というワードを持ち出した途端に、人は思考停止になる。

 

 そしてそれは、この宇宙世紀でも同じなのだ。

 

 絶対戦争をやってはいけない、絶対憲法を守るべき。

 物事に絶対などという価値観を盛り込むとどんな理想もすぐ腐る。

 

 正しい判断は多様な選択肢の中からしか生まれない。

 

──……………………くだらない事を考えてしまった。コレ(・・)は、今は必要ない。そんな事、生き残ってからゆっくり考えりゃいい。

 

「………はぁ……」

 

 どっとあらゆる疲れが来た様な気がし、少尉はこっそりと溜息をつく。そんな時、ポンと肩を叩かれた。少尉の肩を叩いたのはおやっさんだ。少尉の隣に並び、足元に絡みつく風が"ザクII"へ吹き付ける様子を見上げながら話しかけた。

 

「……どうした少尉?溜息なんかついて」

「──……いや、やる事が山積み過ぎて……」

 

 誤魔化すように笑い、肩を竦めた少尉を、風が撫でる。おやっさんはその様子に鼻を鳴らすも、サングラスの奥で瞳をキラリと輝かせ、切り替える様にコロリと態度を変え喋り出す。それに救われる形となった少尉は、その言葉に耳を傾けた。

 

「有るだけいいって事よ!!俺なんか毎日が天国だ!!ジオンの最新兵器が丸裸に出来るなんてよ!!うはははははっ!」

 

 楽しそうだよね、確かに。たまに高笑いとか聞こえるもの。俺は最後に腹の底から笑ったのはいつだろうか?

 見上げた空にはぽっかりと白い雲が浮かび、ゆっくりと流れて行く。はぁ……空が、空が飛びたいなぁ……──。

 

 あの蒼い空をどこまでも。俺は攻撃機のパイロットであったが、戦闘機パイロットとしても結構やってたからなぁ……。

 

 ま、基本チキンだから燃料やら何やらがあり過ぎて自由に飛んでる感全然なかったけど。曲芸とかは出来るんだけど………何も考えずに飛び続けられたらいいのに………。それこそ、息をする様に。

 

「……俺はMSへの転換のための訓練。MSを組み込んだ戦術、戦略の構築。捕虜(POW)への尋問、通信解析、暗号解析。それに通信機や敵味方識別装置(IFF)の更新、情報管理、兵站管理、その他諸々の情報の統括、連絡報告に目を通す、まだありますよ?聞きますか?………死にます……軍曹が手伝いに居なかったら過労死してましたよ……」

 

 実際口に出して言う事でその量を再確認し、少尉は更にナーバスになる。折角手に入れた戦力だ、何とか使わなければ……。だが、俺以外の整備兵達もジオン製の兵器への転換に手こずっている。いつまでも悠長にやってられない。敵はいつ来るか分からないのだ。

 

 偵察に出ている軍曹曰く、付近には敵影は見られないらしいが、それもどこまで続くか……。

 

 特に最近は偽装のためにミノフスキー粒子を散布している。MS程度のジェネレーターでは範囲に限りがあるが、それでも無いよりはマシだろう。これにより長距離レーダーが無効化され、かなりバレづらくなるが、逆にこちらも敵を見つけずらくなる。それに、ミノフスキー・テリトリーの構築は、そこに核融合炉があり起動している事が露呈してしまう。例えるならば、火を焚いて煙を出しているのと同じだ。煙は我々の姿を敵から覆い隠してくれるが、敵はその煙を見て火が焚かれ、誰かがいる事を察知してしまうのである。

 ジオンの装備だから敵も無視してくれればいいのだが、通信されたら終わりだ。

 

 ジオン軍人を含めスペースノイドには喋り方に特有の訛りがある。ジオン公国のあるサイド3("ムンゾ")は特にそれが顕著であり、俗にコロニアル・イングリッシュ("ジオン訛り")とも言われるヤツだ。仮にその場は隠し通せても、怪しまれ部隊を派遣されたら終わりだ。

 今の我々にジオンの部隊と真っ向からやりあって勝てる戦力は存在しない。逃げられる脚もだ。硬い皮膚より速い脚とはよく言ったものだ。捕まったら最後、華々しく散り与えられもしない二階級特進に思いを馳せるぐらいしか出来ないだろう。

 

「そらまたご苦労さん。たまには休めよ」

「いえ、通信、暗号の解析が始まり、情報を多数得たので……流石にそろそろ動き始めようかと」

 

 全然そうは思って無いだろう軽い言葉をするりと受け流し、少尉は顎に手を当てまた考えに沈み始める。

 ジオン地球侵攻部隊はこの北米大陸において、西側は"キャリフォルニア・ベース"周辺、東側は"ニューヤーク"周辺の二つに分けた部隊で降下作戦を行い、挟撃することで北米大陸の完全な実効支配をするつもりらしい。恐らく地球圏最大規模の穀倉地帯である北米を抑える事で、戦争の継続の原動力となる食料を確保、さらに地球市民に打撃を与えるのが目的であろう。

 

 それに、"キャリフォルニア・ベース"の軍需産業施設をはじめとする、旧世紀に"サンベルト"と呼ばれた工業地帯などの施設を利用したMSの生産を始めたらしい。先程も述べたが基本的生産ラインなどは共通なので使えてしまうのだ。

………それで出来た機体が鹵獲出来たら良かったのに……。言っても仕方ないが……。

 

「そうか。おっし、ならぼちぼちか……」

「そうなります。また、当てにさせていただきます」

 

 頭を下げようとした少尉を片手で制し、くるりと背を向けたおやっさんが軽く手を振って歩き出す。

 

「おうよ、期待しといてくれや」

「はい。よろしく頼みます」

 

 日に照らされ、その光を浴びる中肩をグルグルと回しながらおやっさんが歩いて行く。その背中を見つつ、少尉はまだ考え続ける。

 

 状況は芳しく無い。現在ジオンに()を付けられない程度に秘匿回線を用い通信を試みているが……。友軍からの応答はいまだ全く無い。

 "コロニー落とし"の影響による大気の乱れに舞い上がったチリや、ミノフスキー粒子の及ぼすミノフスキー・エフェクトなどにより長距離通信がほぼ不可能なのに加え、地下を走る光ファイバーケーブルなどを含めるインフラストラクチャーにもダメージは及んでいるのだ。通信など出来るはずもない。

 

 時折雑音の砂嵐の中、断片的に聞く事の出来る海賊局などを含めるラジオ放送などの風の噂も、ジオンの勝利を讃えるものや連邦軍の敗走ぶりを吹聴する様な良く無いものばかりだ。……それだってミノフスキー粒子の影響で途切れ途切れだし。一定濃度まで達したミノフスキー粒子の形成する立体格子の性質上、ミノフスキー・エフェクトは基本的に長続きしない。ミノフスキー粒子の散布は、戦闘の痕跡と言っても過言ではない。我が旅団の周りでは、散発的に戦闘行動が行われているようである。

 

──良く無い。全くもって良く無い………。

 

…………特に、ジオンは地球各地に降下作戦を実施し、既に"オデッサ"なども陥落している事など………。プロパガンダだと思いたいが………コレは、本当だろう。

 

 これはヘビーな事実だった。ジオンは地球全土、世界各地で破竹の進撃を進めている。現にあちらこちらでジオンによる実効支配が始まっているとの事だ。それはこの北米大陸も同じだ。地球連邦軍北米最大の拠点であり防御の要であった"キャリフォルニア・ベース"が墜ちた今、"ケープカナベラル・ベース"、"メイポート・ベース "などを初めとする主要基地ももう長くは持たないであろう。

 この足の遅い旅団が捕捉されるのも時間の問題だろうと言う事か………早く"ジャブロー"方面へ抜け出さ無ければ……。

 

 顔を歪ませ悩む少尉の心境とは裏腹に、晴れ渡る空は緩やかな風を吹かせ、やがて迫り来る日没とともにゆっくりと、だが確実に時を刻んでいた。

 

 

 

──U.C. 0079 4.12──

 

 

 

 ○八○○(マルハチマルマル)、爽やかな朝陽を浴びつつ、許可印(ノーフォーン)を片手に軍曹が淹れたコーヒーを飲む。美味すぎる。趣味らしいが、フツーに店やっていけそうだ。

………本当に人生経験が違うなぁ。俺料理はそこそこ出来るんだけどなぁ。コーヒーはどうやって上手く淹れるんだろう。ただのお湯の代わりに蕎麦茹でたお湯とか入れればいいのかな?

 

「……少尉、ここ、ミスだ……」

「え?」

 

 軍曹の言葉で現実に引き戻された少尉は口をつけていたコーヒーを置き、軍曹の差し出した資料を受けとる。なるほど、数値が幾らかズレている………。少尉は額に手をやりながら天を仰ぎ、溜息とともに軍曹に応える。

 

「…ホントだ、あちゃー……。直しとくよ……で、軍曹、今後、進路どうするべきだと思う?俺はこのまま南下しつつコロラド河の渡河地点を探そうと思ってんだけど……」

 

 背もたれに寄りかかり、上体を逸らしたまま少尉がボヤく。弾薬管理の資料から目をあげず、軍曹は空いた片手で地図を書きつつ応える。

 

「……ジオンの…構築した戦線を、鑑みるには……」

「おやっさーん!!レティクルが変ー!!ここはどうすればいいのー!!」

 

 その奥では伍長が開放されたキャノピーから身を乗り出し大声を出している。低血圧気味の少尉に、朝から伍長のティップ・トップ・シェイプなハイテンションは()る物があり、おやっさんに丸投げだった。

 

「マニュアルの164ページを見ろと言ってんだろーが!」

 

 紙束をバンバン叩きながら怒鳴り返すおやっさんを始めとし、整備班は既にフル稼働だ。恐るべし。

 

「分かんないから聞いてんですぅ!!PSマガジン(良い子のマンガ教本)は無いんですかぁ!?」

「はっは。私がやります故、整備班長殿は"ザクII"の方を」し

「分かった!頼んだぞ!」

「火ぃ入れるぞ!!離れろー!」

 

 ドタバタと奏でられる狂想曲をBGMに、情報報告に目を通しつつ軍曹と相談しながら戦略構築を進める。朝はだいたいこうやって過ぎて行く。

 

 少尉が飲む、軍曹のコーヒーは、苦い。

 

 

 

 

「──だぁ~っ!!」

 

 活字とのにらめっこに疲れ、少尉は目元を揉み伸びをしながら視線を外す。ふと向けた視線の先では、伍長がおやっさんと"マゼラ・アタック"をテスト中だ。その様子を見るに、鹵獲兵器もだいぶ使えるようになってきているようだ。………………MSは全然だが。

 

 まだ基本動作が出来るのはプログラミングなども行っている軍曹を除いて俺だけ。それでも、MSという身体の延長である兵器をまるで元からあった手足の様に動かす、ベテランのジオン兵が乗る"ザクII"には勝てないだろう。

 

 しかし、"マゼラ"はトラックの移動に随伴出来るようにはなった。この"マゼラ・アタック"は戦車としては車高がバカ高い分、レーダーの効かない状況下における目視による索敵距離も長いのだ。そのためこいつらは長距離レーダーの効かないミノフスキー粒子散布下における御衛にはピッタリであり、それがそこそこ運用出来ると言う事は大変喜ばしい事だ。火力も高いしな。175mm無反動砲は伊達じゃない。頭を痛める問題としては、ガスタービン駆動ってところか?

 

 そう、それだ、そうなのだ。石油をはじめとする化石燃料は結構貴重なのに、こいつらと来たら………ガバガバ燃料ばっか食いやがって装甲うっすいくせに。なんで資源の少ない国がこんなもん作ってんだ。しかも足回りも弱いんだぞコレ。コレで装甲薄いってリッター200mのティーガーIよりひでーじゃねーか。

 

「……いづれ動かせんくなるかもな……その時は、まぁ…解体か……」

 

 未だにうず高く積み重なる書類に目を通しながらクッソマズいレーションをコーヒーで胃に流し込む。無造作に積み上げられたしょうもない事から最重要の極秘情報まで、全てがごった煮の書類。それに栄養価と保存性のみに重点を起き、古今東西のそーゆーものをぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたレーション……全く、混ぜ過ぎるとただただマズくなるな。

 

 資源無し、戦力無し、人で無し、じゃなくて人手無し、無い無いづくしだ。

 

『軍属たるもの、不自由は常なるを思ひ、毎事節約に努むべし。奢侈は勇猛の精神を蝕むものなり!』。俺には無理です。甘いモン無いと………。

 

「……──くぁーっ!!SOSだ!シット・オン・シングル(SOS)だけに!!いや食うけどさ!!」

 

 相当マズイ。食べられる材料で出来た何かみたいだ。伸びをしながら、珍しく下品な言い方でぼやき、少尉は自己嫌悪に顔を歪めつつまた仕事へ戻る。今の少尉の戦場は、他ならぬここ(・・)だった。

 

 ちなみにマズいマズいと有名なレーションであるが、『兵士を戦闘可能(・・・・)な状態に維持する』べく、『大量に生産・消費が可能で、補給路遮断を考慮して長期間保存(・・・・・)が容易』であり、『戦地に置かれ、火も水もない状況での維持食たりうる』性能を持ち、『末期の食事になるかもしれない』などといった様々な条件の元、様々な試行錯誤を行った結果この様に作られている。

 高いストレスと死の恐怖に晒される交戦地域では、"食事"も兵士や将官の士気に大きく響くため、ある程度自国民の味覚や好みに配慮し、改良に改良が重ねられており、昔の宇宙食(笑)のイメージであろう練り歯磨き吸ってる様な物では無い。

 そう、レーションの中身は『包装に至るまで各国の事情を表現している』と言われており、そんな物国や軍によって千差万別だ。まさに()のエサのような悪名高きMREレーションから、結構美味いと好評の、自衛隊自慢の缶メシ、デザートにワインのついたイタリア、やっぱりつけちゃった紅茶ことイギリスなど………よーするに、今食ってるコレは宇宙世紀においてもコレかい、と世界各国の軍人さんたちに言わしめた一品であるだけである。

 賞味期限が近かったため、消費しなければと思ったが……そこらのリスにでも食わせた方がいいんじゃね?

 

 やめておこう……リス相手に名誉の戦死なんて情けないしな…………。

 

「……少尉、報告が……」

 

 お昼過ぎ、そのくっそマッズいレーションで手早く食事を終えた少尉の元に、技能の関係上単独の偵察後、伍長と捕虜の様子を見に行った軍曹が小走りでやって来る。後ろにはやや遅れて伍長もいる。本当にワンセットだわ。

 

「……捕虜が、危険な情報を………緊急事態(タックイー)だ、……」

「やったよ少尉!!褒めて褒めて!!」

 

 笑顔でぴょんぴょん飛び跳ね、少尉の周りをくるくる回る伍長。まるでスタップル・ホッパーズだ。歩兵科(バッタ隊)にでも移ったら、という言葉を飲み込み、辟易した顔を向けつつ、少尉は後頭部を掻きボヤく。

 

「喜べ、ないなぁ……」

「もっと喜んで下さいよ!!がんばったのに!!」

 

 やっとピークが過ぎて、落ち着いてきたと思った矢先にこれかよ。くそぅ。

 椅子に深く沈み込み、青い空を仰ぐ。最近空を見てばかりだ。雲がポツポツと浮かぶ以外なにも見られない青い空は、何か足りないような気がした。

 

 脱力している少尉の元へとおやっさんもやって来た。凄い嗅覚だ。だいたいこう言う話には何故か必ず顔を出せる特殊能力があるようだ。

 

「で、その情報とやらは?軍曹」

「え?私には聞かないんですか?なんで?」

 

 素で首を傾げる伍長に苦笑を返し、そのまま首を傾け軍曹の方を向く。あ、この体勢ちょっと首痛い。

 

「……──あー、軍曹、頼む」

「………もういいよーっだ。フンッ……」

 

 伍長がショボンとした顔で石を蹴り始める。コイツ軍隊向いてねぇよ!!今までどうやってきたんだよ!!

 

「………あと数日で、ここに……増援が来る、と………"ザクII"が2機…だそう、だ……」

「………やはり、か……」

 

 がっくしと肩を落とした少尉へ、軍曹が励ますように手を置く。その手の心地よい重みを感じつつ、少尉は深い溜息を吐いた。

 

「仕方ねぇよ少尉、嫌な予感っつーのはだいたい当たるもんさ。……問題は、どうするか、だ」

「ですよ、ねぇ……尻尾巻いて逃げても追いつかれるでしょうし……」

 

 それは、物資集積所を襲撃し、MSを見たときに感じた違和感の正体だった。MSは基本的に3機一組(スリーマンセル)の一個小隊単位で行動する。MSの数が足りなかったのだ。

 

 さらには人型、という兵器は重力下で立っているだけでフレーム、駆動系が摩耗する。つまり、万全の態勢で戦うにはかなりの物資が必要となるのだ。また、それに伴い予備機は絶対に必要だ。それらを考えて、ローテーションを組むにしてもMSの数が少な過ぎたのである。

 

「………ところで、よく口を割らせたな」

「……それは、伍長の、お陰……」

 

 石を蹴るのに飽きたのか、丸まって拗ねていた伍長が凄い勢いで顔を上げ、走り寄ってくる。仔犬かコイツは。まぁ確か伍長は犬派だったな。なんでも昔、庭に恐竜が入らないよう飼っていたらしい。何?サイド6("リーア")はジュラシックパークってんのかよ?

 

「そうです!!褒めてください!!」

「そ、そうだな、よくやった。……どうやったんだ?」

「ご飯です!!」

 

は?

 

 

 

 

 

は?

 

「………テイク2 スタート!……で、その情報とやらは?軍曹」

「そこからかよ。つーかなんだってそんなボケを……」

 

 小馬鹿にするようなおやっさんの顔に頬を掻きながら少尉が言う。

 

「いや、そう言われましても……ねぇ…」

「まぁ、な……」

 

 思わずボケたが……いやー、おやっさんがノッてくれて良かった。前これやったら総スルーされて、何か、こう……死にたくなったからな。

 

「……うぅ~……話、聞いてくださいよぉ…」

「あ、すまんすまん」

 

 改めて伍長に向き直る。早くも機嫌を直した伍長は手をブンブンと振っていた。尻尾かあったらちぎれんばかりに振り回してんだろーなー……。

 

「目の前で、幸せそうにご飯を食べたんです」

「別に食事は渡してる。飢えてはないんじゃないのか?」

 

 賞味期限切れかけのこのくっそマズいヤツだけど。ちなみに伍長は食ってない。美味しいヤツ食ってる。男卑女尊敬はんたーい。というか、『だんひじょそん』ってアフリカ人になんか居そう。

 

「いや、レーションじゃなくてステーキを食べたんです!!おいしかったぁ……」

「なにぃ!!ステーキだと!!どうやったんだ!!俺にも食わせろ!!」

「うぇっ!?あばぼばばぼばびばび………」

「おやっさん落ち着いてください!!」

 

 おやっさんが伍長の肩を掴みガックンガックン揺さぶる。伍長の首、なんか取れそうなんだけど。首取れたらどうしよう。()()()()()()でひっつくかな?

 まぁ取れたら取れたで首無しドライバーデビューしてもらうか。"ロクイチ"の性能なら涼しい顔で峠を攻められるだろーし。

 

「落ち着いてられっか!!ステーキだぞステーキ!!」

「……まだ、ある。……食べたらいい。少尉も、ぜひ……」

「うおっしゃぁ!!ちょっくら食ってくる!!安心しろ、少尉の分は残しておくからな!!」

 

 場所を聞くや否や、会議を放り出し凄い勢いで走っていく"神の腕"を持つ整備兵統括班長。あんたはそれでいいのか。良くも悪くも自分に正直な人だ。つーか幾つなんだ?前聞いたら『マラ歳だ』って……あれ?刻が見える…?

 

「……肉はどうしたんだ?」

「軍曹が取ってきたんだって!!」

「……偵察がてら……皆…喜ぶと、思って…弾丸は、未使用だ……安心、して欲しい…」

 

 すげーな軍s……マジでスゲーなおい!!……いや、狩猟許可書見せなくても大丈夫だからね?つーか俺に見せてどうする。

 

「それで!目の前で美味しく食べたの!!敵が幸せそうなら、ぶっ壊してやろうと思って何か言うかなーって」

 

 伍長が目を輝かせ、手を上下に振りながら力説する。その様子は褒めて褒めてと言わんばかりだ。ホントにかわいーなコイツ。

 

「成る程、考えたな」

「いや?考えたのは軍曹だよ?」

伍長(お前)じゃないんかい!!」

 

 思わずっこみながら少尉は器用にもずっこける。倒れこみ大の字で寝転がり空を見上げ、少尉はただ呆れる事しか出来なかった。

 よーするにほぼ全部軍曹立案実行だった。更に聞くと料理したのも軍曹だった事が判明。本当にただ食っただけかい伍長。

 まあ、幸せそうにステーキを貪る軍曹なんて想像出来んが……。

 

「……少尉、どうする……?」

 

 ステーキの味を思い出して興奮しているのか頰に手を当てる伍長に一瞥をくれた後、差し出された軍曹の手に助け起こされながら、少尉はおもむろに口を開いた。2人の間に、先程の雰囲気はもはや微塵も感じられず、既に戦闘態勢へと入っていた。

 

「……一応、作戦の骨子は考えてある。危険だが、やるしかない。まぁ、"マゼラ"や、おやっさんの"新作"が使えるから、まだマシになったかもな」

 

 MSはまだだが、何とか"マゼラ・アタック"は戦車として運用出来るようにはなった。戦車……?…いや、突撃砲としては……。

 

 何と、実はこの"マゼラ・アタック"、砲塔が旋回出来ない。どちらかと言うと突撃砲だ。それに、放熱板かと思っていた飾り羽はマジもんの羽で、なんと上部がジェットホバー機になるというトンデモ兵器だった。………いや、コンセプトは分かるよ?敵戦車の装甲の脆弱な上部を撃ち抜きたいんだろ?そのために飛んだ、と。分かるけどマジでやるとは思わんかった。

 飛行限界時間は脅威の約5分。どうしろというのだ。それにだから戦車の癖にあんなクソ薄い装甲なのか。それは戦車の仕事じゃねーよ!!お前たちは戦車の上で百貨店を開こうどころか戦車を天空の城にしようしたんかよ!!やめろ!!しかもソレ正式採用かい!!誰か止めろよ!!

……………スペースノイドの考える事は分からん。本当に。素直にM-1MBT(マゼラ・アイン)作りゃ良かったじゃん。

 この設計には約1名を除き整備兵一同懐疑的であり、結局、デカイ突撃砲またはトーチカに近い物として使う事に。デカくて見つかりやすい上紙装甲でヤなんだけど。

 

──が!!

 

 おやっさん曰く出来た設計らしい。"マゼラ・アタック"は主力戦車でなくMSの支援兵器であり、月面での低重力下の防衛を考慮に入れた設計なのでは、と。MSに随伴させ、ただの戦車なら大威力であるが平射弾道でしか撃てないキャノンを砲塔ごと上空へ飛翔させる事で上空から第一線を超越したディープ・ストライクを可能にする。らしい。

 

 いや、それ、攻撃ヘリに同じキャノン積んだ方が早くね?いや、ミサイル積んだ方がもっとよくね?やっぱ、いらなくね?

 

 それに、こっちにはおやっさんの"新作"、歩兵が携行可能な対MS戦闘用決戦兵器がある。

 

 旧世紀の米軍と呼ばれた軍隊の置き土産に対MS用に改造を施した、FGM-148A3++"スーパージャベリン"対戦車ミサイル(ATM)だ。

 

 総重量は20.2kg。発射されたミサイルは圧縮ガスによって発射筒から押し出され、数m飛翔した後に安定翼が開き、同時にロケットモーターが点火される。このコールドローンチ方式という発射方式により、バックブラストによって射手の位置が露見する可能性を抑え、後方が塞がっている室内などからも安全に発射することができる。ミサイルは完全自律誘導のため、射手は速やかに退避することができる。が、ミノフスキー粒子下でも利用できるよう、赤外線画像判別自立誘導機能をオミット、グラスファイバーによる有線及び先端にカメラを搭載、有視界による誘導方式に変更したものだ。武器を構成する素材、パーツの見直しも行われ軽量化が成功し携行性もアップ、内部炸薬も改良を加え、シミュレーションでは"ザクII"の頭部カメラ(モノアイ)、脚部背面膝関節部、スカートアーマー下の股関節部なら有効打撃が与えられると出た。

 

 これを"ラコタ"に搭載、機動運用をする。それに"ロクイチ"を交えた波状攻撃で倒す。

 "ザクII"や、"ワッパ"、 "ヴィーゼル"はまだ練度が低く、また、鹵獲されているのがバレたら困るので使わない予定だ。"マゼラ"は隠して砲撃には使う予定だ。砲撃音でバレるかもしれないけど。

 

 その上で作戦を立てる。

 

「………さて、ザクハント始めますか……」

「一狩り行こうよ!!」

「……狩りに、備えて………狩っておけ……!」

 

 損害は出す訳にはいかない。今、一番重要な資源は、人的資源だ。

 

 最善の策を……この戦力だけで、あの"死神"を討つ策を……………!

 

………………よし、これで行こう。時間は一○二○(ヒトマルフタマル)、今日はまだ始まったばかりだ。少尉は軍曹、おやっさんに、戦闘員全員に集結させるよう声をかけた。

 

 

 

 

 

 

 

『総員、第一戦闘配備!!気を抜くな!!』

 

 

 

 

これが、連邦軍の、反撃の鏑矢になるか…………

 

 

 

 




次回、MS vs 連邦軍機甲歩兵機動隊!!
戦法はエイガーのロクイチによるザク撃退戦法や重力戦線のザクハンターからヒントをもらっています。

予定ではもっと進んでる予定だったんだが………。

マゼラアタックには形式番号が2つあり、統一するため新しい方に、アインは分かりませんでした。誰か教えて下さい……。

ルビふれる事を習得しました。打って行きたいと思います。

次回 第七章 グレート・キャニオン砲撃戦

「よし………行くぞ!!」

アルファ1、エンゲージ!!


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第七章 グレート・キャニオン砲撃戦

よくスレまとめを覗くと、人型兵器対戦車は戦車が勝つ、と見ます。実際その通りだとは思いますが、人は、自分より遥かにデカい相手に、そんな冷静に振る舞えるのか、正確に敵を分析し、作戦通り動けるのか、カタログスペックを活かし切れるのか疑問です。

実物大ガンダムを見ました。とても大きかったです。18mとは思えませんでした。敵に与える心理的効果は大きいと思います。パトレイバーのイングラムと同じです。人は全員が全員勇気いっぱいのヒーローでも、ロボットの様に正確に動けるわけでもありませんから。

ジオン破竹の進撃はこの事も大きかったでしょう。連邦軍の戦略として戦線をワザと拡大させる意味もあったと思いますが。


戦闘の勝敗とは何で決まるのか、

 

とある将軍は『士気』と言い、

 

とある将軍は『練度』と言い、

 

とある将軍は『性能』と言い、

 

とある将軍は『頭数』と言い、

 

とある将軍は『戦術』と言った。

 

誰が絶対に正しい、とは言わない。

 

何事も、最後に決めるのは『運』なのだから。

 

 

 

──U.C. 0079 4.15──

 

 

 

 暖かな日が照らす巨大な渓谷を、涼やかな風が通り抜けていく。長い時間が作り上げたこの風景は、見る者を圧倒し、畏怖の念すら感じさせる雄大さではあるが、観測者が居ない限りそれは成り立たない。

 

 この渓谷が出来始めた時から変わりなく、ここを風化させて来たであろう風は、今日も岩壁を撫で、過ぎ去った過去とまだ見ぬ未来を繋ぐかの様だ。悠久の時を感じさせる河の流れは穏やかで、青く澄み渡る空の下、風が小さくつむじを巻く以外に動きは見られない。

 

………いや、それは間違いだ。樹木が茂る一角から、偽装網と枝で隠されてこそいるが明らかに人工物と見られる2本の筒が突き出ていた。

 

 "ロクイチ"の主砲、155mm2連装滑空砲だ。

 

《こちら斥候部隊(RT)。第3監視哨(OP)にて敵機視認(エネミー・タリホー)前方に敵MS確認(ヘッド・オン)監視警戒線(SSL)を通過した。情報通り2機の様だ。接敵予想時刻、位置に変更無し》

 

 ややノイズが混じる通信が入る。"ロクイチ"のシートで腕を組み目を閉じていた少尉はそれを聞き、息を吐きつつ目を開いた。

 真っ黒なメインスクリーンを睨みつけ、グリップを握る。同時にヴェトロニクスへと灯が入り、エンジンが始動し静かな唸りを立て始める。

 

「聞いたか、各員戦闘準備(ロックンロール)。アルファ1了解。準備よし」

 

 少尉が無線機へと、落ち着いた声で呼びかける。それに応える軍曹達の声も、また同じだった。

 

《……アルファ2了解。準備よし》

《アルファ3準備よーし》

《ブラボー隊同じく準備よし》

《チャーリー隊準備よし》

 

 そう、今の彼らは、内部に激しい熱を秘めつつも、冷たく鋭い光を放つ一本の刀、そのものの様だった。

 

 塹壕(トレンチ)に半ば埋まり、木や草で華麗にドレスアップされた"ロクイチ"1号車(アルファ1)の中、少尉は今一度深呼吸する。

 

──敵にはMSがあり、こちらには無い。数こそこちらが上だが、そのうちの大部分が非装甲銃座搭載軽車両(テクニカル)という状況、不利としか言いようがない。しかし………やるしかない。こちらにはそもそも選択肢が無いのだ。

 

 強大な敵戦力。貧弱な自軍。敵に勝る所は数多く、こちらが劣る所は数え切れない。

 

……………なら、待ち伏せ(アンブッシュ)で不意を突くぐらいしか有効な手がない。それだってリスクが高過ぎる位だ。

 

 目標("死神")はモノアイをゆっくりと動かし、索敵しながら一歩一歩踏みしめる様にこちらへと向かって来ている。しかしこちらの事は見つけられない。

 

 少尉達の陣取るここ"グレート・キャニオン"は、コロラド河により広大な台地が長い年月と共に浸食され出来上がった複雑な土地だ。

 それ故起伏が激しく、更にコロニー落としの影響で崖が崩れ、大きな岩石がゴロゴロしている上、窪地や岩陰、木々の繁殖する茂みも多い。

 

 その中にジオン軍から鹵獲した、高性能の赤外線遮断シートでエンジンを覆って待機している。現在のミノフスキー粒子濃度は22%。ミノフスキー・エフェクトによりレーダーも使えない今では、目視の索敵及び各種センサーが頼みの綱となるが、それさえ欺瞞されているのだ。見つけられっこない。

 

……………そのためにも、MSにこそ随伴兵をつれて来るべきなのにな。……まぁ、MSが機動運用を開始したら邪魔でしかないからであろう。高い機動性及び攻撃力の両立を売りとするMSは戦車と違い、その場へと止まり歩兵の盾となる事も、その特性を殺してしまう事から出来ない。それどろこか最悪スラスター噴射により丸焼きにしたり、踏んづけるかも。

 "死神"のメインアームも薬莢を排出する。それも戦車砲並みの特大な奴を、だ。"キャリフォルニア・ベース"ではそれに押し潰され戦死した兵士もいると聞いたしな……。

 

「…ン?」

 

 そこで"死神"に変化が生じた。先頭の一機が脇に構えていた"ザクマシンガン"を下ろしたのだ。そのまま振り返り、ややぎこちなく僚機の肩に手をやっている。その周囲を猟犬が囲んでいる事に気づかぬまま。

 

「……見ろ。奴らはもう勝った気でいるらしい」

 

 整備兵の1人が呟く。やや苛立った様な震え声には、武者震いと共に底知れない怒りが込められていた。それもそうだろう。ここ数ヶ月、我が軍は一方的に()られてきたのだ。その中の大半は見知らぬ者であろう。しかし、友軍は友軍だ。それに、友を失った者も少なくはない。

 

 "復讐"。それは、士気をあげるのに申し分のない理由だった。

 

「そのようだ。では教育してやるか」

「通行税の高さを教えてやろう」

「宇宙人は宇宙にいれば良かったものを…地球(ここ)に来たことを後悔させてやる……」

 

 他の整備兵達も口々に呟き、続ける。そんな中、少尉は1人口を噤んでいた。考え事をしていたのだ。答えの無い、最適解を探して。

 

「大丈夫か?」

 

 少尉を現実に引き戻す声に導かれ下を向くと、コンビの操縦手(ドライバー)と目があった。彼は不敵にも笑っていたが、目は微かに揺らぎ、口元がやや引き攣っているのを少尉は見逃さなかった。

 

「…………えぇ」

「そうは見えんよ?」

「焦ってる様に見えますか?」

「見えるよ。今までで一番怖い顔してらぁ。大丈夫さ。あの一つ目野郎にも弱点はある。ケツに弾ブチ込んでやりゃヒィヒィよがって燃え上がるってもんよ!!」

 

 そう言い、サムアップしたドライバーに、少尉もまたサムアップで返す。勝負は、ここからだ。

 

「……で、もしや、勝算もないのに正面からノコノコ出て行っておしまいか?」

「──黙っててくれます?」

 

 落ち着かないのか、再び口を開いたドライバーに、少尉はスコープを覗き込んだまま応える。その口調に、ドライバーは戯けたように続けた。

 

「…ん?ってことは勝算はまだあるのか?」

「多分ですけどね。元から勝負を捨ててたらここにいませんよ、っと…」

 

 スコープから目を離し、ギシりと音を立てながら軋ませシートに凭れかかった少尉は一度深呼吸し目を閉じる。

 

 目を開け、再びスコープを覗き込んだ少尉が、口を開いた。

 

「よし………行くぞ!!アルファ1、エンゲージ!!」

 

 距離は1.8km。"ロクイチ"自慢の砲では近過ぎる位だ。少尉は操縦桿のセーフティを解除、メインスクリーンに投影された"ザクII"へとガンレティクルを合わせ、ほぼ真正面から先頭の"ザクII"へ対し砲撃を行うと同時に全速力で後退する。

 撃った砲弾は装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)。運動エネルギーにより装甲を貫く弾頭だ。タングステン製のそれは、厚さ数メートル単位の鉄板を軽く貫く威力がある。

……いくら"ザクII"と言えども、この距離だ、耐え切れまい。

 

「………チッ!」

 

 しかしその目論見は儚く崩れ落ちた。ミノフスキー・エフェクトによって機能不全に陥ったFCSの影響で、放たれた2発の砲撃の内、1発のみが"ザクII"の左肩に命中するも、それさえも侵入角のせいか弾かれてしまった。

 待ち伏せというものがもたらすアドバンテージは、ほぼ初撃のみと言ってもいい。その初撃を、少尉は浪費に近い使い方をしてしまった。

 

──クソッ、曲面多用したデザインしやがって!つーかその肩のトゲ、意味あんのか!?

 

 砲撃の向き、爆音、噴射炎により射点を補足され、突然の襲撃に混乱するも、何とか持ち直した"ザクII"から猛烈な反撃が来る。

 先頭の"ザクII"が"ザクマシンガン"を撃ちながら突撃を仕掛け、少尉の乗る"ロクイチ"のすぐ近くを"ザクマシンガン"の火線が通り過ぎる。少尉の乗る"ロクイチ"も衝撃波により大きく揺さぶられ、少尉はそれに歯をくいしばって耐える。"ザクマシンガン"の弾頭が着弾したところには激しい爆裂音と共に砂煙が立ち、ボコバコと子供がハマりそうなクレーターができる。

 

……喰らえば、"ロクイチ"など数発で木っ端微塵、人間と言う脆い存在など塵と果てるだろう。

 

「うおおぉぉぉぉお!!バックバック!!早くっ!!」

 

 少尉は背筋に感じる寒気と死の恐怖に震え、滝の様な汗を流し叫びつつ、ガンガンとドライバーシートを蹴っ飛ばす。軽いパニックだ。自動装填なのをいい事に主砲を乱射するその姿は、滑稽を通り越して哀れに思えるレベルだった。

 

「分かってんよ!!でも真っ直ぐ引いたら的だろうが!!」

 

 怒鳴り返すドライバーが身体ごとステアリングを回す。"ロクイチ"の数十tという巨体が悪路を跳ねつつ蛇行し、ハチャメチャに砲撃しつつも崖の裏へと引っ込んだ。

 少尉に手動のスラローム射撃は出来ないため、攻撃に命中弾は一発もなく砲弾は全てあらぬ方向へとばら撒かれただけであるが、囮としての役目は十分に果たしたと言えた。

 

 最後の最後、お釣りとばかりに閃光弾(フラッシュバン)を撃ち込んだ少尉達の乗る"ロクイチ"は、なんとか敵の火線を躱し、死の誘いから逃れる事に成功する。

 

 しかし、逃がさぬとばかりに少尉達の引っ込んだ崖へと"ザクマシンガン"が殺到し、その崖の表面を抉る。耳を劈く様な轟音が響き、砂埃がもうもうと立ち登る。岩棚は揺すぶられ、ボロボロと細かい瓦礫を落とし今にも崩れそうだ。

 

「…ヒュー…生きてる……」

 

 気がつくと身体全身が物の見事に強張っていた。大きく深呼吸をした少尉は無理やりに操縦桿から手を引き剥がし、身体全身の力を抜いてシートにもたれかかる。気怠げに顎から滴る汗を拭い、汗でぐっしょりと濡れ張り付く野戦服を扇ぐ。

 

「っぶねぇ………だぁ~!なんつー威力だくそったれめ……」

 

 威力やっべぇ。崖崩れで生き埋めは勘弁してくれ。ドライバーも同意見らしい。そりゃそうだ。

 

「……たくっ、作戦を考えたヤツと、スモークも焚かずしっちゃかめっちゃかやってまだ頭に足を乗っけてるヤツに文句が言いてぇよ。次に期待だな」

「次があってたまるかこの歴史的馬鹿モン!俺のケツを舐めろ!!」

 

 皮肉交じりにこちらを見上げる操縦手に、少尉はも戯けて怒鳴り返す。

 

「リスクを恐れては結果は得られない。でしょ?」

 

 漸く顔を出し始めた余裕に任せ、操縦手へと強張った笑みを見せ、汗ばんだ手袋を投げ捨てる。

 

「へぇ、『計算されたリスク』って奴か?」

「ジョージ・パットンですね。かっこいい言葉。そうです。『危険を冒すものが勝利する』んですよ」

「SAS。らしくなってきたじゃないか、温室育ちは困るね。俺たちは泥臭くなきゃ。『レンジャーが路を拓く』んだから」

 

 お互い、目の前のスクリーンに映る砂埃に目を凝らしながら、震えた声に無理を言わせ軽口を叩く。カタカタと震える身体がさっきの一瞬を生き残った、ただそれだけを実感していた。

 

──だが、これでいい。俺たちは囮。本命は()()()だ。

 

「各員!!自己の判断で兵器を使用しつつ回避運動を行え!!撃ち方始め!!」

 

 少尉が咽喉マイクを摘み、大きな声で号令を出す。『自己の判断で兵器を使用しつつ回避運動を行え』。つまり、オールウェポンフリー。そう、これは反撃の狼煙だ!!

 

《《おうっ!!》》

 

 思わず身を乗り出し、拳を振り下ろした少尉に応える様に、通信機に声を張り上げる整備兵達が、怒涛の如く攻撃を開始した。

 

《くたばれ一つ目木偶の坊が!!》

《突撃ぃーっ!!》

《こいつを喰らいな!!》

《皆殺しだぁぁぁぁああ!!》

《うぉぉおおりゃぁぁぁああ!!》

《叩き潰せぇ!!》

 

 引き離した先頭の"ザクII"に、8台の"ラコタ"が砂煙を巻き上げながら殺到、対戦車ミサイル(ATM)を放つと同時に撤退して行く。砂漠など開けた場所なら自殺行為だが、ここは"グレート・キャニオン"。身を隠す場所など幾らでもある。それら遮蔽物を利用したアンブッシュと一撃離脱(ヒット・アンド・アウェイ)の遊撃が今回の作戦のキモだった。

 

「よぉし!!第二次攻撃隊!揺さぶりをかけろ!!目標は後ろの筒持ちだ!!」

《…アルファツー了解……》

《おうともさ!!》

《喰らいなぁー!!》

 

 後方の"ザクII"には2輌の"ロクイチ"が足止めする。お互いクロスするように走り射撃しつつ遮蔽物へ飛び込む、拙いながらも連携の取れた攻撃だ。そこへ"ラコタ"も参戦し、ATMによる追撃を行う。これらの攻撃は"ザクII"相手に有効打にこそなり得ないが、本命はそれじゃない。

 

「…FCS修正…各種センサー再起動、軌道修正ユニットに、上に1ミルの変更……」

「次こそは当ててくれよ?出ないと逃げるぜ?」

「やったらその背中にコイツをブチ込むだけですよ。ラクな仕事です」

「ふん。なんにせよ、お前がいないと俺達は戦争が出来ないんだ。お前には俺の守護天使(アークエンジェル)になってもらう」

「…了解。次こそは」

 

 その2輌の"ロクイチ"を追う"ザクII"を、第二の塹壕(セカンド・トレンチ)に身を潜めた少尉の"ロクイチ"が狙いを定める。そう、この敵に息を吐かせず、狙いも絞らせない怒涛の連続攻撃。これが少尉の導き出した勝利への方程式だった。

 

「あり?あんま効いてなさそうだな。これでもまだ勝算はあるって?」

「さっき黙れといったな!!命令はまだ有効だ!!」

「へいへい」

 

 心でも読まれたのか、とでも思う程の台詞に、思わず少尉は声を荒げる。減らず口の減らない相方だが、不思議と悪い気はしない。むしろ助かっていた。少尉は汗を拭くのも忘れ、手は忙しく作業を止めず、視線は目の前の戦場を映し出すスクリーンに釘付けのまま、なんとか頭の片隅で応える。

 

「ったく、噂じゃ高射砲でも撃ちぬけないモンを用意するとは……敵さんも本気やなぁ。今更だが、"ロクイチ"ので抜けるのか?」

「それはよくある戦場の噂に過ぎませんよ。それにカタログスペックならギリギリのハズです。まぁ賭けですね」

「不利なオッズだとは思うが」

 

 ひー、ふー、みーと指折り数えるドライバーの言葉に、少尉はただ、ニヤッと笑いかけ、作ったような笑顔のまま言い放った。

 

「……ですけど、配当はデカイですよ?」

 

 今その"ザクII"は2輌の"ロクイチ"、4台の"ラコタ"に絡まれ立ち往生だ。大地を激しく動き回る"ロクイチ"の主砲は装甲に弾かれ、有効打とはならないものの、関節付近へと殺到する複数のATM直撃弾によりひるんでいる。先頭の"ザクII"も少尉達の事は忘れ、夢中になって"ラコタ"を追い回している。対人兵器を積んでいないのが幸いであり、奴らの命取りだ。

 

 何故あらゆる能力において秀でている"ザクII"が手こずっているのか、それはパイロットが不慣れであるのもあるが、そもそも"ザクII"含め、"ザクII"の兵装は対艦攻撃に主眼を置かれ開発されたものだ。そのためこれら軽車両に攻撃するには()()()なのである。

 

 確かに、MSは確かに戦車を凌ぐ重装甲を持つ。しかし、人型という構造上、どうしても装甲を施せない箇所や、装甲が薄くなる箇所が発生してしまう。センサー部に関節部、スラスターノズルなどがその代表だ。また、攻撃を受ける事が少ないとされる背面及び上面はあまり装甲が施されていない。その弱点を突く事さえ出来れば、対戦車兵器と言えどMSには無視出来ないダメージを与える事が出来るのだ。

 

 今がチャンスだ。失敗は許されない。スクリーンに投影されたガンレティクルの中、逃げる"ラコタ"を追う"ザクII"はこちらに背を向けている。いいぞ……そのままで……。

 

 その時、偶然にも逃げ回る"ラコタ"を追った"ザクII"がこちらへ向き直る。

 

 

 

 

 "死神"と、  

             目が、

                      合った。

 

 

 

 

「……!!」

 

 身体が強張り、反射的に引き金を引いていた。結果的に"ロクイチ"と"ザクII"はほぼ同時に射撃する。

 "ロクイチ"の砲撃は"ザクII"頭部を吹っ飛ばし、"ザクII"の放った"ザクバズーカ"はトレンチの数m手前にやや食い込みつつ炸裂する。

 

 考える暇も、感じる暇さえも与えられ無かった。

 

 目の前が真っ白になり、身体が下から持ち上げられる奇妙な浮遊感と共に、少尉は"ロクイチ"の砲塔もろともすっ飛ばされた。

 

 "ザクバズーカ"の口径は280mm。中は高性能炸薬が充填されている。"ルウム"で、核弾頭さえ撃ち出し、地球連邦宇宙軍が誇る宇宙戦艦をも容易く墜としたその一撃は、外れたとはいえ着弾した近くの"ロクイチ"など軽く吹き飛ばす威力があった。

 

 しかし、少尉の攻撃も無駄では決して無かった。頭部モノアイを壊され立ち竦む"ザクII"の股座(またぐら)に、1台の"ラコタ"が決死の攻撃をしかけた。

 完全に股下へ飛び込み、真上へ向かってATMを撃ち放す。戦闘行動としては一番危険で、かつ対MS攻撃にといて一番有効な攻撃だ。最悪爆風に巻き込まれるか倒れこんだ"ザクII"に潰される。弾頭の直撃により飛び散る破片さえ、そんじょそこらの小口径弾を遙かに上回る威力となるだろう。己の保身のみを考える者には出来ない、覚悟をした者にのみ可能な攻撃だった。

 

 しかしその必殺の一撃は、想像を遙かに上回る威力を発揮し、"ザクII"を大破に追い込む事に成功した。大腿部装甲(スカート)内の弱点である股関節を破壊され、"ザクII"が煙を吹き上げ、スパークを散らしながら倒れ伏す。

 

 良くやってくれた。コレで計画は第二段階へと進む!!

 

──す、進む………アレ、全身が引き千切られる様に痛い……………?

 

「……生きてた………アレ?今日、2度目………?」

 

 ただ茫然とその光景を見ていた少尉は、ふと自分と言う存在に気がついた。無意識の内に、脈打つ様に痛む身体を引き摺り、なんとか吹っ飛び逆さまになった"ロクイチ"の砲塔から抜け出し、立ち上がったと思えば尻餅をついた。

 

 赤くぼやけ霞む遠方では、何やら巨人が擱坐しているのが見えるが、どうも現実の物とは思えない。認識が曖昧だ。音も大きく小さく揺らぎ、良く聞こえない。口に喉に、肺の中に血の味がする。ぼんやりと熱いなと思えば、隣にはボロボロの何かがパチパチと言う音と共に炎を揺らめさせていた。

 

………いってぇとおもったら左肩が外れていた。よくこんな軽傷で済んだなと思いつつも、癖になったらヤだなと考える。爆音で頭がぐわんぐわんする。砲塔は吹っ飛ばされ衝撃が殺されたが、シャーシは焼け焦げ捻じ曲がり目も当てられない様相を呈している。

 

 ドライバーは、即死だろう。

 

「……つつ……くっ…」

 

 痛みを、リアルに感じる。()()()()()事を感じる。頭がシャンとして来た様だ。大破し擱坐した"ザクII"へと駆け寄るもう1機の"ザクII"を見つつ、少尉は力無く手を振り上げる。握られているのはピストルサイズのランチャーだ。ポンっと言う軽い音と共に、風に頼り無く揺らぐ弾頭が撃ち出され、空に赤の信号弾を鮮やかに咲かせた。

 

 それは、全機撤退の合図だ。

 

「…よくやった………名誉の、戦死だ……」

 

 ホルスターにランチャーをしまい、振り向いた少尉はまだ炎を上げ続けている"ロクイチ"のシャーシへと敬礼する。油や鉄など、様々な物が焼け焦げる嫌な臭いの中、そこに生物が生存出来る所など微塵も無かった。

………何故か、そこには何の感情も湧かなかった。哀しみも、後悔も、憐憫も、何も………。

 

──………さっきまで普通に話して、息をして居たのにな……。俺は生き、彼は死んだ……。

 

「戦友よ…靖国で、逢おう……」

 

…………後は任せろ。だから、ただ安らかに眠れ…………。

 

「……………」

 

 外れた左肩右手で押さえる少尉は、唇を引き結び残骸に背を向ける。生きている俺はまだやるべき事がある。出来る事がある。ならばやらなければ。

 

 逃げるか、と思った矢先、そこに軍曹と伍長の乗った"ロクイチ"が滑り込む。少尉は舞い上がる砂煙に手をかざし、顔を伏せる。排気熱で揺らぐ蜃気楼の中、"ロクイチ"がその姿を現した。

 

「少尉!!良かったー!!早く乗って下さい!!急いで!」

 

 砂埃が止み、恐る恐る顔を上げた少尉に、ドライバークラッペから顔を出した伍長の声がかかる。キューポラから軍曹も身を乗り出していた。"ロクイチ"を"ロクイチ"たらしめている自慢の155mm二連装滑空砲は、片方が半ばから折れ飛び、もう片方はひん曲がっている。

 

…………前に軍曹から聞いた、伍長の運転のクセらしい。バイタルパートへの直撃は許さないが、それ以外に意識がいかないと言うことだ。同乗者である軍曹からしたらかなりハタ迷惑な話だろう。

 

「ありがたい!!よく来てくれた!!」

「……無事だと、信じていた……」

 

──良かった……2人も無事か……本当に、良かった……。

 

「よし、"ザクII"は『ポイント』に入った。作戦は成功だ。2人とも、よくやってくれた!」

 

 少尉が声を張り上げ、痛みに顔を顰める。その様子をキューポラから顔を出し見ていた伍長が、顔を青くし肩を震わせ叫ぶ。

 

「それは少尉もですよ!!またボロボロじゃないですかもう!!」

「……全く、無茶をする……」

 

 周囲を警戒する軍曹も、少尉の怪我には閉口気味だ。

 それにしても足も上手く動かない。ほんの数メートル先の"ロクイチ"がこんなにも遠く感じるとは……。

 

「少尉!!早く乗り込んで!!」

 

 伍長の主張はごもっともだが、自分は自分で思っている以上に重傷らしい。しかし、時間が無いのもまた真実だった。

 

「んな暇無い!!タンクデサントする!!」

「……下手…すると、死ぬぞ……?」

「3人まとめてオダブツよかマシだ!!」

 

 眉を片方だけ上げ、一瞥をくれる軍曹に、少尉は暗に早く準備をと怒鳴る。その言葉を聞いて、2人はすぐさま身を沈めた。

 

「……分かりました!!少尉!!信じますよ!!」

 

 その言葉を待たず、少尉は"ロクイチ"によじ登り、砲塔後部のラックに身体をカラビナで固定する。ガチリと音が鳴り、固定し終わるかいなかの瀬戸際で"ロクイチ"が弾かれたかの様に走り出した。

 その激しい揺れに揺られながら、生きている事と、究極のMBTと呼ばれた"ロクイチ"のタンクデサントの辛さを身を持って知る事となった。

 

──って絶対コレヤバい!!つい勢いで言っちゃったけどマジ辛い!!俺左肩外れてっからめっちゃぶらぶらしてんだけど!!痛い痛い痛い!!子供のころ肋骨のヒビに気付かずジェットコースターに乗ったのを思い出す!!世界一怪我人が乗るのに向かない乗り物だコレ!!

 

 いくら無限軌道とはいえ、悪路を約80km/hで飛ばすのだ。揺れる揺れる。酔わないのはそれ程痛いからだ。

 

──ねぇ!!俺左手ちゃんとついてる!?この痛みファントムペインじゃないよね!?

あっでも、楽しかったです(小学生並の感想)。

 

 激しい揺れにガクガクと揺さぶられ、もみくちゃにされながら、心の中で絶叫する打たれ強さ(物理)に定評のある新米少尉だった。

 

 

 

 

 

 

 

「少尉ぃ~…、だ、大丈夫ですか?」

 

 伍長が涙目で情けない声を上げながら少尉に縋り付く。手脚を投げ出し、力無く座り込んだ少尉は空を仰ぎ、小さく返事するのが精一杯だった。

 

「──あ"ぁ"、何とかな……」

「……痛く、は…無かったの、か……?」

「……一言だけ忠告しておく。……死ぬ程痛いぞ……?」

 

 某クソゲーの主人公の戦友みたいな声を出す。正直死にそうです。ハイ。でも、楽しかったです(小並感)。

 

 頰を叩き気を切り替え、怪我によりじんわりと熱を持った様な痛む身体を引き摺り伍長に助け起こされつつ2機の"ザクII"を見る。ここからは約2kmの位置だ。小高い丘の上に陣取っているためよく見える。奴らは上手く『ポイント』に入った。双眼鏡で観測するに、"ザクII"は未だに大破した僚機を助けようと奮闘中だ。

 

 涙目の伍長に妙な手当されつつ、少尉は言葉を切り、地面に伏せた軍曹を見る。軍曹はいつも首にかけているスカーフで顔を覆い、大型の対物狙撃銃(アンチマテリアルライフル)を抱え、伏せ撃ち(プローン)の姿勢で静かに目標を見据えている。

 

 何かが破裂した様な鋭い射撃音が渓谷に響き渡る。鼓膜を震わせ、腹にまで響く轟音と共にマズルフラッシュが瞬き、マズルブレーキからは爆発的な勢いで火花と煙が噴き出す。放たれた弾丸は目にも留まらぬ速さで、寸分たがわず目標に吸い込まれて行く。

 

 軍曹が狙ったのはモノアイだ。勿論、アンチマテリアルライフル程度でモノアイカバーは撃ち抜けない。"ザクII"のモノアイカバーは宇宙空間を飛び交う宇宙塵(スペースデブリ)から繊細なカメラ、センサー類を保護するものだ。その強度は一般的に大口径弾と呼ばれる弾丸でも擦り傷すら付かない程だ。

 

 しかし、軍曹もそれを百も承知である。それに、撃ったのはペイント弾だ。

 

 複数発撃ち込まれたペイント弾が"ザクII"のモノアイを覆うのを確認した後、少尉は緑の信号弾を撃ち上げる。

 

 そのきっかり6秒後、おびただしい数の砲弾が蹲る"ザクII"2機へと撃ち込まれていく。まるで、光の滝の様な凄まじい光景だ。

 舞い上がる爆炎と砂埃、硝煙の中、"ザクII"がその濁流に打たれ崩れ落ち、スパークを散らし倒れ伏す。

 

 それを見届けた少尉が、ほっと息を吐きつつランチャーから薬莢を排出し、次弾を装填、青の信号弾を撃ち上げた。

 

 青い光が昼の空でもよく見える光を発し、それを最後とする様にあれ程激しかった砲撃がピタリと止む。

 

 "ザクII"を屠った弾丸の雨の正体は、"キャンプ"に待機させ、段差に乗り上げさせて大きく仰角を取った"ロクイチ"と"マゼラ"の曲射射撃だ。

 

…………姿を曝さず、確実に仕留めるために、予め射撃しその『ポイント』を確認、そこに誘い込んで"ザクII"1機を擱座させ撤退、2機が揃い機動力が落ちた時点でまとめて吹き飛ばす。我々に高度な観測射撃は行えない。その為の苦肉の策である。

 

──作戦は無事成功した。

 

ミッション、コンプリート(CMPL)……帰投する(RTB)

 

 未だ火を噴き、煙を上げる"ザクII"を見つつ、腰に手を当て、少尉は通信機へと語りかける。ミノフスキー粒子濃度は既に低下しつつあり、長距離通信はまだであるが、中距離ならば通信機はその性能を発揮出来る様になっていた。

 

《了解した!!よくやったな!暖かい食事とシャワーが待ってる、早く帰って来い!!》

 

 通信機から聞こえてくるおやっさんの声を聞きつつ、少尉はちらりと後方に目をやる。

 

「また、ボナパルトちゃん怪我しちゃったね…すぐ直したげるからね~」

「あー、いつつ……」

「おら動くな」

 

 そこには"ロクイチ"に"ラコタ"、数多くの整備兵達が待機し、少尉の次の命令を待っていた。殆どの者が顔に疲労を滲ませていたが、その顔は晴れ渡るかの様な笑顔だった。

 

「──了解……帰ろうか」

「「おう!!」」

 

 切れた唇を歪ませ微笑みかけた少尉に、全員が反応する。そんな横顔を日が柔らかく照らし出す。いつの間にか日は暮れはじめ、斜陽が渓谷を紅く染め上げ始めていた。

 

……まるで、この世の終わりの様だ。

 

 赤く滲む視界の中、少尉は最後にスクラップと化した"ザクII"を一瞥し、その場を後にする。興奮冷めやらぬ様子で激しく手招きする伍長に軽く手を振り、ぎこちない動作で"ロクイチ"へとよじ登る。既にスカーフを下ろした軍曹の手を借り、引き揚げられる様にしてシートに沈み込んだ少尉を他所に、"ロクイチ"は滑るように動き出す。

 

 黒煙を上げ、焼け爛れた大地を後に、少尉たちは動き出した。帰るべき所へ帰るために。

 

 

 

 

 

 

 日が完全に落ちた。辺りは透き通るような暗闇に包まれ、ひしひしと寒さが忍び寄って来ている。耳が冴えるような静けさの中、既に夜は更けてけている、長居は無用だ。

 

 少尉は先頭に立ち、部隊を撤収させる。戦果はMS"ザクII"が2機だ。

 

 損害は"ロクイチ"1輌が大破1輌が小破、そのうち1輌が修理不可。それに"ラコタ"4台だ。大破が3台中破が1台、そのうち2台が修理不可。人的被害も、重軽傷者が11名だ。

 

 

 

 

──……そして、戦死者5名。

 

 

 

 

 破格の戦果と言えるだろう。戦果でだけで見れば。見る事が出来れば。

 

 戦死者は吹き飛ばされ、遺体が残らなかったので、遺品の一部を焼き、埋めた。葬式は簡潔に、かつしめやかに執り行われた。

 

 月が明るく照らす下、空砲が静けさを破り鳴り響く。そしてまた、束の間の静けさへと夜は沈み込んでいく。

 

 誰もが口を開かず、やけに大きな音を立て燃え上がる炎は、小さく儚い火花を散らしながら、暗い空を染めていた。

 

………当たり前だ。コレは戦争だ。今日倒した敵だって生きている。お互いに思想の正しさ、生き残りに文字通り命をかけているのだ。

 

 グラグラと頼りなく揺れる折りたたみ式の長椅子に座り、少尉は微風に吹かれ、頼り無く揺らめく焚き火にあたりながらとうとうと考える。手には戦死者のドッグタグが握られ、チャリチャリとチェーンが出す特有の音と、焚き火が出す枯れ木を割る音が、静かな二重奏を奏でていた。

 

 少尉の手の中で、ぱきり、と乾いた枯れ枝は呆気ない音を立てて二つにへし折れる。

 大した抵抗も無く、綺麗に真ん中で折れた枝を、絶えずぱちぱちと爆ぜ続けている炎の中へと放り込んだ。

 静寂の中に闇がべっとりと横たわる中、焚き火の音だけがまるで此処が人の住む世界だと主張しているようだ。

 

 目の前で爆発四散したアロー06、知らぬ間に散って行った"キャリフォルニア・ベース"で同部屋だった下士官、"マングース"の上から見た敵味方の爆発を思い出す。

 

 命の重さに身震いする。俺は、今後も増えて行く重圧に耐え切れるのだろうか。

 今日は昼間と打って変わり雲が立ち込め、星は見えない。先程まで自分を照らしていた月さえもその姿を隠し、その真っ暗とはまた違う闇に吸い込まれそうだった。

 

 パチン、と一際高く弾ける音に、少尉は顔をあげる。

 

 艶かしく、あるいは無邪気に、風に揺らぐ炎は少尉の目の前で揺れ続ける。

 ひと時として、同じ形であり続けることの無い赤い曲線を見つめる。

 何故か、記憶の奥底の、錆び付いた追憶が頭を巡る。

 

 長椅子が微かに揺れる。顔を上げるとコーヒーを持った軍曹が居た。無言の内に渡されるコーヒーを受け取り、少尉もまた黙り込む。

 

「……少尉は、よくやった。………被害を、最小限に……食い止めた……」

「…………」

 

 軍曹がどこを見るともなく視線を泳がせ、口を開く。少尉は軍曹の真意を測りかね、無言のままそれを聞き流す。

 

「……確かに、戦死者は…出た。…しかし…その重圧は、少尉だけが背負うものじゃない……」

 

 一口で、驚くほどに染み渡る苦味と甘みが如何に身体が凍え疲れているのかを教えてくれる。

 コーヒーは身体を芯から、じんわりと温めてくれる。焚き火の熱気が、先ほどよりも穏やかに感じるようになったのは、恐らくその為だろう。

 少尉の隣に軍曹が座る。椅子が一切の音を立て無かった事に驚く前に、軍曹が言葉を続ける。

 

「……炎は、幾ら見て居ても……飽きない………」

 

 軍曹が、少尉の傍らに置いていた枝を投げ込みながら呟く。赤いうねりが暗闇の中、パチリと爆ぜ、火の粉を散らし炎が躍る。

 

 それは闇夜に一際大きな光を残し、溶けて行く。

 

 一瞬目に焼き付いた光が、残像を残し霧散して行く。

 

 まるで、蛍の様だ。

 

「……昔の、事だ……ある、男が言っていた……」

「…………」

 

 軍曹が誰に語るでもなく、一拍置いた後、独り言の様に続ける。少尉は言葉を発する事が出来ず、ただのその横顔を見上げる事しか出来なかった。

 

「…炎は常に、形を…変え続ける。そこには………何の意味も、無い……」

「……なんの………?」

 

 炎が、微かに揺らめく。

 

「…見るものが……勝手に、そう、己の…心の在り様を……投影していくだけ、だ…と………」

「…己の、心の在り様……」

 

 軍曹が、フッと薄い唇を引き結ぶ。

 それなりの困難苦難を共に潜り抜けてきた少尉にはわかる。

 

 不器用なこの男なりの、柔らかい表情なのだ、これが。

 

 どんな時にも、決して表情を崩さない軍曹は、こうなのだ。

 空になりかけたマグカップの底をじっと見つめる。そこには、まだ幼さの残る童顔が、茶色い液体の上、ゆらりゆらりと揺らぎながら見つめ返している。

 

「……少尉が、この炎に、何を…見出しているのかは、俺には、わからない…………しかし、少尉が、タクミが…見ているものであれば、それは…きっと意味のあるものだ……」

「そんな……俺は………」

「……謙遜は、いらない……見てみろ………」

 

 軍曹は残ったコーヒーを一息に飲み干し、肩を叩き席を立つ。少尉はされるがまま、のろのろと振り返り、驚く。

 

 そこには、伍長を始めとし、おやっさん、整備兵全員が直立不動で敬礼していた。全員の視線が集中しているのを感じ、爪先から指先、頭の中までまるで身体が熱を帯びるかの様だった。

 

「……少尉は、一人じゃない……全員が、背負う……」

 

 軍曹がそこに混じる。旅団全員が…俺が背負う命……背負い、背負われる命がそこに集結していた。

 

 コーヒーを置き、ゆっくりと立つ。

 

 溢れそうになる涙を、零さぬ様に。

 

 身体が自然と動き、敬礼する。

 

 空が白み、雲が混じる暁の空には朝陽が登り、全員の横顔を暖かく照らしていた。

 

 

 

 俺は、一人じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

『戦争の終結は、死者のみが知っている』

 

 

戦場には、まだ、硝煙が燻っている……………




ガンダムは戦闘シーンが大好きですが、上手く書けるわけでもありませんでした。

ガンダムには戦争という理不尽をとおしての成長が描かれている、という意見をよく聞くので、そこらへんも書いて行きたいです。

連邦対ジオンていうPS2のガンダムゲーがあるんですけど、ザク、特殊な格闘するとジャンピングショルダーボムみたいなことするんですよ、右肩で!左使えよと小一時間。

ロクイチに荷物や兵員を乗っけるスペースがあったことをプラモデルとにらめっこしてて思い出しました。すみません。修正しました。

因みに連邦軍戦車一個小隊はロクイチ4両です。これでは一両足りませんが、MSは3機一個小隊なので、それの予行を兼ねて………後付けです。素で忘れてました………。イグルー2話もザク6+ロクイチ2とロクイチ×8+1なのに……勉強不足でした。お詫びします。

何かあらすじが途中で切れました。修正効かないんすけど…………

バズーカって、M1バズーカだったら商品名?だよなぁ……ガンダム世界ではなんでも機関砲をバルカンって言うのとと合わせてそーゆー意味なのかなぁ……

次回 第八章 番外編 よいこのじかん〜しょういおにいさんと、もびるすーつにのってみよう〜

「細けェこたぁいいんだよ!!」

アルファ1、エンゲー、ジ?


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第八章 番外編 よいこのじかん〜しょういおにいさんと、もびるすーつにのってみよう〜

完全に趣味全開の回です。リアルに読まなくてもいい回です。

鋭い人なら題名をみてわかると思いますが、つまりそーゆー事です。

尊敬するガトー先生のようにはいかず、散々な出来ですが、どうぞ…………いや、やっぱ読まなくてもいいです。

個人解釈も入っています。コレを参考に話すると恥をかきます。予めご了承下さい。


 U.C. 0079 に実戦投入され、既存の戦場の定石を破壊し、新たな時代を切り拓いた、"一年戦争"の立役者。

 

──モビルスーツ。

 

 それは、MSとも訳される全長おおよそ18mの人型兵器である。

 

 ここでは現在我が旅団が分かっている情報を、その代表であり傑作、始めて正式採用されたMS、ジオニック社製のMS-06"ザクII"を例にあげつつ語ろう。

 

 

 

てっけててー!ててて てってけてー!!

 

そのいち:まずはおともだちについてしろう!

 

 MSとは『Mobile.S.U.I.T』"Mobile Space Utility Instrument Tactical"の略称であり、 戦術汎用宇宙機器という。本来は宇宙での作業を円滑にするためのパワードスーツとしての延長であった工作機械群の一つである。かなり大まかに言えば全長10〜30m前後の人型マシンの事だ。

 

 『宇宙』という方向の区別のない、重力という大きな力が働く地球とは格別した特殊空間。宇宙世紀とは、その未知の空間に踏み出す時代となった。その地球上とは全く違う空間に対応すべく、身体の更なる延長として、よりダイレクトな感覚を持って作業を行うべく開発されたパワードスーツ。その延長である物を兵器転用し、改良を加えたものだ。

 高い汎用性を持ち、宇宙空間、コロニー内擬似重力下、月面重力下で活動が行える事に着目したジオン公国軍は、圧倒的な質、量ともに強大な力を持つ地球連邦軍に対し優位に立つための『全く新しい兵器』としてMS開発をスタートさせる。その為、当時、サイド3内で覇権を争っていた3大会社にその開発を委託し、コンペティションを行う次第となった。

 

U.C. 0071

 ジオン公国新型兵器開発部は民間企業ジオニック社とツイマッド社とMIP社(エム・イー・ペー)に宇宙用機動兵器の開発を委託。全社の提出した試作機はどちらも『稼働腕』を備えており、"AMBAC"(アンバック)が可能であったが、加えて『稼働脚』を備え、既に完全な人型であったジオニック社の機体ZI-XA3の方が選ばれた。人が感覚的に扱う為には、人型に近い方が良いと考えられたからである。また、見る者に与える心理効果も考慮に入れられていた。戦場を駆け支配する、『恐るべき巨人』が求められたのである。

 これが、後にMS-01"クラブマン"と呼ばれる、MSの先駆けである。

 何?クラブマンて?篠原重工のレイバーかよ。MIPのヤツの方がカニさんっぽいですけどね。

 

 ここでアンバックについて説明する。"AMBAC"とは"Active Mass Balance Auto Control"つまり、"能動的質量移動による自動姿勢制御"の事だ。文字通り無重力空間において、質量を持った『腕』や『脚』を動かす事による重心移動を利用し、推進剤を使わず姿勢制御、方向転換を行う事である。

 簡単に例える為、オフィスによくおいてあるあのクルクル回るイスを想像してもらいたい。イスに座り、地面から足を離す。その状況で腕や脚を振り回せば身体の向きが変わる。至極簡単に言えば原理はそれに近い。ただ近いだけの例えであるが。

 実際に"スペースシャトル"などの実在する大型宇宙船で使用されている推進剤を消費しない姿勢制御には"コントロール・モーメント・ジャイロスコープ"と呼ばれる内蔵装置が使用されている。自ら動きバランスをとるヤジロベエみたいなものである。その大規模版と言うべきか。宇宙飛行士も腕などを振り姿勢制御を行う。その延長と言うべきか。とにかく、この機能により急激な方向転換や推力方向の変更、攻撃方向の指向、転換等を推進剤を利用せず瞬時に行える様になったのだ。

 これらの運動を行う事による推進剤の節約や、急激な方向転換は戦闘機及び航宙機には不可能である機動であり、全方位に瞬時に方向転換し攻撃を加えるなどの空間戦闘能力、四肢を利用した格闘、工兵としての作業などを実現し、宇宙における戦闘的優位を獲得した。そして副二次的効果として重力下で自重を支え、剰え行動する事をも可能にした。つまり、この四肢の有効活用こそがMSがMSである所以であると言えよう。

 

 しかし問題もあった。アンバックによる姿勢制御には瞬発的な高エネルギーの消費と、瞬間的に100G以上の負荷が先端にかかるのである。これは、とても単純かつ脆弱な作業機械が持つアームと駆動用バッテリーでは不可能な芸当であったのだ。そのために"クラブマン"には、その程のエネルギーを発生させる高出力かつコンパクト、なおかつ兵器として安定性があり安全である全く新しい動力炉(リアクター)と、その運動に耐えうる四肢が開発された。

 

 動力炉の名前は"ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉"である。これは、U.C. 0010に発足した木星開発事業団が地球圏に持ち帰った高純度の"ヘリウム3"を動力源に動く核融合炉であり、冷却、耐久性などの問題を考えなければ事実上稼働時間に限界はない画期的な動力炉であった。

 しかし、U.C. 0040に試作された反応炉はビル程のサイズであり、とてもMSに積めるサイズではなかった。また炉としての出力の安定性もなかったため、兵器としてはとても使えるものではなかった。ところでヘリウムは何番まであるの?

 U.C. 0045にはミノフスキー物理学会がサイド3に成立。反応炉の中で見られた謎の反応についての研究が加速する。続くU.C. 0047にはM&Y社によるやや小型で安定性がある"ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉"の開発が開始する。これは後に宇宙戦艦の動力炉などに利用されて行く事となる。

 

 これらにはミノフスキー粒子の発見者であるトレノフ・Y・ミノフスキー博士とイヨネスコ博士が深く関わっている。彼等は一度は学界を追放されるも、後に返り咲く重要人物である。ここテストにでるよー!

 

 U.C. 0065には遂に謎の現象の解析が進み、仮説ではあるが"ミノフスキー物理学"が発表された。そして、初めて熱核反応炉内で"特殊電磁波効果"が確認され、研究は更に加速して行く。それは、時代が高出力かつコンパクトなこの新型動力炉に注目し始めた矢先の出来事であった。そしてU.C 0069遂に博士自身がミノフスキー粒子を発見したことでミノフスキー物理学は証明され、以後、素粒子物理学の根幹となり、また宇宙世紀の技術には欠かせないものとなった。

 

この物理学に与えた影響、あるいは軍事技術に与えた影響を"ミノフスキーショック"と呼び、宇宙世紀最大の事件として大きな影を残すこととなった。

 

 特に、一定濃度のミノフスキー粒子が構成する特殊力場(Iフィールド)による"特殊電磁波効果"はレーダー波を阻害し、集積回路の働きを大きく制限、戦力で劣るジオンに光明をもたらす事となる。更に、"特殊電磁波効果"は、"ザクII"最大の特徴、カノム精機製大口径光学装置・センサー複合機器"モノアイ"を生み出させる事となる。

 この大口径かつ超高解像度の光学機器、及び各種多機能センサー複合光学端末は、ミノフスキー効果によるレーダー無効化による有視界戦闘の復活した戦場を象徴するものであろう。

 このセンサーで得たあらゆる波長の情報は3D処理・統合され、コクピットスクリーンに映し出される。しかしその分目立ち、弱点として晒される事となったため、モノアイ・シールドと呼ばれる防弾ガラス部はグラモニカ社製の新素材である酸窒化性アルミニウム系セラミックを使用しており、スペースデブリでも傷つかないほど頑丈に出来ている。

 "モノアイ"の発光は、MSが汎用宇宙機器であった時の名残で、光通信の機能もある。威嚇の為に光らせる事もあるが、本来的な意味はセンサーカメラを一つに集約しあらゆる情報を一気に得て統合する為、目標に対し可視光含めあらゆる波長の波を叩きつける為光った様に見えるのだ。これは光が皆無に等しい、宇宙空間での地球の影等でも目標を正確に捉える為である。また、単眼でありながら専用のレンズなどを用いず目標を3次元で捉える為、ホログラムの原理を応用し、入射光と"モノアイ"自身が発するレーザーとの干渉で像を捉えている為、常に微弱ながら発光している様に見える。ホログラムとは、入射光と基準光であるレーザーとの干渉縞を高解像度の撮像素子で受けると、本来の入射光が持っていた3次元像の全情報を得られるのである。この原理から単眼でありながら奥行き情報まで得て、それをコクピットの3次元モニターに再現できるのである。

 

 "ザクII"頭部を覆うように配置されるパイプは、頭部ユニット部に集中した精密なセンサー類の廃熱、及び首周りの稼働部のためである。また、駆動制御系を集中配置していた名残でもある。これらは冷却と同時に弱点を晒し出すと言う結果となったが、宇宙空間における排熱や機体内部クリアランスの問題を解決する事が出来ず、このまま正式採用せざるを得無かったとされる。

 

 このミノフスキー効果(ミノフスキー・エフェクト)はU.C. 0070にジオン公国によって正式に確認され、ミノフスキー粒子の構成する"Iフィールド"の圧縮により正負粒子の融合現象である、"縮退現象"により発生する"メガ粒子"を利用した粒子ビーム兵器、"メガ粒子砲"が開発される。

 

 この"メガ粒子"はエネルギー変換効率が極めて高く、制御しやすいため反応兵器に変わる兵器として広く普及する。特に大気等の問題や磁場の影響により減衰の少ない宇宙空間における威力は絶大であり、ミサイルに変わる経済的かつ高威力な砲として普及、宇宙戦艦における大艦巨砲主義が復活する足掛かりとなる。その為、地球連邦軍でも積極的な開発が促され、満を持して開発された宇宙戦艦"マゼラン"級は「ジオンのビーム兵器の10年先を行く」とまで称された。

 

 地球連邦軍がかつてない戦艦建造ラッシュにてんてこ舞いになる中、ひっそりとこの反応炉はU.C. 0071にやっとMSに搭載可能なサイズにまで小型化され、この長ったらしい説明もおわる。おいこら!起きろ伍長!!それ、薩摩弁でちょっと君、くらいの意味ですよ?

 

 

 動力炉の問題は解決した。もう一つの『四肢』は"流体パルスシステム"と、"流体パルスモーター式アクチュエーター"によって解決される。流体パルスシステムとは、簡単に言うと人間の心臓と血液と筋肉の関係のようなものである。

 流体とは、水や空気等の事で、要は力を加えると容易に形を変化させる事が出来る物を指し、人間の体で例えるならば血液を始めとする体液全般となる。パルスとは、脈拍や短時間に流れる電流や電波などを指す。人間の体で例えるとすると心臓の動きになる。

 決して天空の城を崩す古の魔法の言葉ではない。濁点じゃないしね。

 ジオン公国軍製のMSは、"ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉"から出るエネルギーをパルスコンバーターと呼ばれる変流機を介して流体に変換し、それらを数千本の極微細動力パイプなどのチューブを通してパルス状に各関節にあるアクチュエーターと呼ばれるパルスエネルギーを動力に変換する装置に送る。その事により、各関節の関節駆動用ロータリーシリンダー、パルスアクチュエーターに極超音速で伝達し、機体を動かす仕組みとなる。

 旧世紀技術で言う油圧シリンダーに近く、やや専門的に言えば『流体継手』(フィールド・カップリング)だろう。それを発展、高精度化させたものだといえよう。

 更に分かりやすく言うと、パルスコンバーターが心臓の役割で、動力パイプが血管、アクチュエーターが筋肉という構図となる。それを全身に張り巡らし、心臓の鼓動を血液などで伝え、機体を制御するのだ。

 

 このシステムは旧世紀における油圧シリンダーのようなものであるため、軽量かつ頑丈であり、ハイパワーかつ高レスポンスという特徴と、余程の損傷がない限り確実に作動する信頼性がある。さらに不具合が出ても、細かいパーツ単位ですぐさま交換出来る優れものである。耐衝撃性も高く、格闘に用いても支障はないため、実際"ルウム"では宇宙戦艦、宇宙戦闘艇を格闘で破壊するパイロットも確認されている。

 これらの『四肢』の至る所にはセンサーが装備され、全体のバランスを常にモニタリングし最適化している。その為従来のマシンと比べ人間により近い行動も可能である。特に脚部はそれが顕著である。重力下で歩く、走る、ジャンプを行うには高性能センサー、ジャイロが新たに開発され、『上手く転び、再び立ち上がる』事さえ可能である。その分脚は大型化したが、その変更が更にアンバック、格闘の性能を向上させた。

 その脚部装甲には機体重量軽減のため"セミ・モノコック構造"を発展させた物を採用している。これは航空機などにも使われる手法であり、特に"ザクII"では外骨格、内骨格両方から機体を支える方法で、更にそれをブロック化する事で軽量化、生産性、メンテナンス性を高めている。これは物資、レアメタル方面で遅れを取るジオンを助け、その後開発されるであろうMSの基本設計となる。

 

 しかし弱点もある。軽量、といっても従来型に比べてであり、まだまだ改良の余地があった。また、パルスコンバータなどの周辺機器が多く、細かく分解出来パーツ単位で交換できるとは言え、それはかなりの負担を整備士に掛けていた。更には反応炉と並び排熱の問題があった。戦闘に支障が出る問題として一番の問題がこの排熱であったと言える。

 排熱を行うラジエーター部は装甲を施す事が難しい。そのためスリットを小型化する事が望ましいが、小型化すればする程排熱性能は低下する。排熱されない熱は蓄積し、機体の表面温度は数百度に達し、内装部品や稼働時間にも大幅な制限を加えてしまう。整備の際も母艦に強制冷却機が必要となり、連続出撃や補給、整備においても支障を来す事が想定され、この排熱問題の早急な解決が求められていた。

 そこで、ジオニック社はこの問題を、動力伝導パイプの露出と推進剤及び装甲表面からの排熱により解決した。推進剤を利用する方法としては、胴体横の伝導パイプであり、MS-05において採用されていた、熱を熱吸収ポリマーに吸熱させ、そのまま機体外に排出する方法を援用し、熱を移動、推進剤の着火に用いたのである。また、スリットは大胆にも頭部正面へ設置された。これは、"ザクII"のセンサー類や駆動制御系が頭部に集中しており、多量の排熱が必要である事が1つと、その為頭部がどこかしら破壊されると動かなくなってしまうという弱点があったからであった。

 

 それでいても、動力炉に駆動系。この二つのシステムは稼動時にかなりの熱を排出する。"ザクII"の機体各部に露出している動力パイプはその冷却用である。確かに流体パルスチューブも通っているが、飽くまで副次的なものである。つまり、動力パイプと言い表わされる事が多いが、それは正確に言えば間違いである。そしてさらに、これは前面投影面積を増やし弱点を曝け出すのと同時にセンサーに引っ掛かりやすく、アンブッシュを行う際は赤外線遮断シートが必要不可欠である。つーかデカいから隠れられる場所にも制限があるし。

 

 その後も改良が続けられ、複数回のコンペティションの後、U.C. 0075に"ザクII"の雛形といえるMS-05"ザクI"がロールアウト、コロニー外作業、コロニー内での暴徒鎮圧などをこなしつつノウハウを蓄積、遂に"ザクII"が完成する事となる。これらの情報は地球連邦政府にも伝えられ、上層部もその存在を把握していたが、外部電源式のマリオネットの様な不格好な姿、ぎこちない上ノロノロとした動作でブロックを積み上げる映像に、誰もが失笑を漏らしていたと伝えられている。

 

 しかしMSは兵器としてはまだまだ未完成であり、改良の余地がある機体だと言えよう。

 

 

そのに:じっさいにのってみよう!のるまえにはてをしっかりあらおう!

 

 MSは戦闘に耐え得る様発達した『四肢』により、重力下での運用も可能だが、宇宙という無重力空間には無い重力は、盲点的かつ根本的な問題を引き起こした。パイロットがMSに乗る事が困難になったのである。コクピットハッチまでの高さは地上15m近い。実に3階建ての高さだ。上下左右の区別が無い無重力下では悩む必要の無い問題に直面したのである。しかし、常に戦闘と隣り合わせな状況下では、立ち上がる為の極短い時間すら生死にかかわる。その時間短縮の為に横たわらせる事も非推奨であり、結果重力下においてMSは専門の設備や機器がない限り基本直立で保管及び整備が行われる事となった。重力下における直立は機体フレームに負担がかかるものの、"ザクII"の"ランドセル"と揶揄される"バックパック・スラスターユニット複合装置"は大型であり、横たえる事にも機材やスペースが必要であり、推奨されていなかったという側面もある。

 よって直立、片膝が推奨されたが、それでも地上数mの高さになるコクピットに直接乗り込むのは困難だ。その為『(アーム)』及び『(マニピュレーター)』を移動用プラットフォームにすると言う、MSの汎用性を活かした方法が考案され、掌には操作盤が取り付けてあった。しかし、それでさえ時間がかかる、と言うのが現状であった。

 また操作ミスが大変危険である側面もあり、実際伍長は"ザクII"にぶん投げられたというより自分をぶん投げた。何で生きてんだよ。つーか何がしたかったんだよ。

 よって地上型である"ザクII"J型にはコクピットハッチ上面から、足を引っ掛けるフックの付きワイヤーが出るようになっている。ただし所詮はワイヤーなのでよく揺れる。風の強い日は注意が必要である。実際に伍長は逆さ釣りになった後落ちた。アホが加速しそうで恐ろしい。

 

 

そのさん:きみのともだち、もびるすーつをおこしてあげよう!

 

 "ザクII"のコクピットは胸部にある。最も装甲の厚いところであり、コクピットは3重のスライドハッチによって守られ、更に乗り込んだ後シートが移動し更に奥になる。これは、人的資源に乏しいジオンが貴重なパイロットを生還させようとした結果であると考察される。

 因みに真下は核融合炉だ。遮蔽は完璧で生身で乗っても支障はないが恐ろしいったらありゃしない。既にかなり完成し、安定している核融合炉は被弾などにより制御を失っても爆発することは無い。しかし、融合炉隔壁が破壊され、漏れ出し消滅する一歩手間のエネルギーや弾丸が推進剤などの誘爆を引き起こし、大爆発する場合が確認されている。仮に爆発したらそれこれコロニーの外壁など簡単に破けるだろう。

 まぁ、連邦MS持ってないし、仮にコロニー内戦闘があろうとそこまでのダメージを与える兵器はないためあり得ないだろうが………。

 

 コクピットにはメインモニタースクリーンが正面左右上と計4枚、通信用のサブが2枚と比較的簡素な物となっている。これは使う人間を考えての配慮である。複雑過ぎるモニター分割は混乱を招くだけだからである。機体の下や後方などピックアップされた物は混乱を防ぐためにメインスクリーンに映される仕組みとなっている。因みに、このピックアップシステムは視線誘導であり、パイロットが目を向けた先に写る画面に表示された、ピックアップすべき最優先ターゲットをコンピュータが判断、ピックアップする仕組みとなっている。この最優先ターゲット指定はある程度の優先度をパイロット自身が決めることが出来る。

 同じような光学機器系の機材はシート傍に狙撃用の専用スコープがあり、引き出す事で使用できる。メインスクリーンのピックアップでは対応し切れない、索敵、精密射撃時にはコレが大いに役に立つ。しかし大気圏内ではセンサー半径、大気による霞により可視光が減衰する為、有視界戦闘距離には限界があり万能という訳では無いが。

 

 起動は完全に自動化され、複雑な手順等は一切必要無い。ボタン一つでほぼオートで立ち上げられるのは優秀なコンピュータのお陰だ。細かく設定出来るけども。今は下手に弄って自爆る訳にもいかんし。おやっさんに丸投げだ。

 

 操作は主に二本の操縦桿(サイドスティック)、2〜6個のフットペダルからなる。フットペダルの数は変更可能だ。あんまり多くても困るが。足が足りない。更にフットペダルは踏むだけでなく引いたり前後に押し出す事で違う操作がなされる。これは"マングース"を始めとする航空機と同じだな。それにしてもペダル多いよ。

 スティックレバーにはボタンが5個ずつ、計10個ついている。親指の部分に一つ、カバーを開ける事で押せるボタンが4個だ。スティック以外にもボタン、ツマミ、タッチパネルは多くついていて、ほぼ手動で動かす事も可能だ。目が回るけど。

 因みに設定によっては音声操作、視線誘導操作なども出来る。ピックアップシステムに用いられる視線誘導はまだともかく、出来る事は出来るけど使えるのかどうかは甚だ疑問である。しかも脳波コントロール………は無理。怖くもない。

 

 

そのよん:もびるすーつとなかよくなろう!

 

 では、そこで疑問が生じるはずだ。それだけでどうやって動かすのか、と。ほぼ航空機並じゃねぇかと。いや、それよか簡単じゃね?と。まぁ実際それぐらいだろう。ほぼ優秀なコンピュータがオートでやってくれるし。

 しかしながら、確かにパワードスーツのように身体に追従するわけでもない。それの延長であるといえるマスター・スレイブ方式でもない。動かせるにしても、柔軟な対応等夢のまた夢である筈だ。

 では、どうやって動かすのか、その疑問を解消するのがOSである。

 OS、つまり"Operating System"(オペレーティング・システム)とは、MSにおいて、ハードウェアである機体、メインコンピュータを抽象化したインターフェースをアプリケーションソフトウェアに提供するソフトウェアであり、システムソフトウェアの一種である。

 つまり、"人とMSを繋ぐ架け橋"(マン/マシーンインターフェイス)であると言えるシステムである。

 ぶっちゃけ、ものすごい簡単に言うと、格闘ゲームである。

 とある格闘ゲームで、十字キー→移動。Aボタン→パンチというコマンド設定がなされていたとする。MSはそれを拡大解釈したものに過ぎない。コクピットのパイロットが行った特定の動きに対応した設定された動きを、コマンドをうけたメインコンピュータがあらゆるセンサーが拾い集めた情報を統合し状況を判断、最適化し自動でやるのだ。

 ここは殆ど手動となってしまうが、様々な動作をコンピュータに覚えさせ、そのコマンドを決め、設定する。パイロットがそのコマンドを実行すると、MSがその行動を状況を判断しそれに合わせて実行するのである。まんま格ゲーやな。

 なら、そこでもう一つの疑問が浮かぶはずだ。なら、誰が乗っても同じだろう。パイロットの反射以外に変わるところがないだろうと。つーか細かい動き無理じゃね?と。そこで、MSというのは精密機械、コンピュータの塊である事を思い出して欲しい。さらにコンピュータは"学ぶ"(集積する)事が出来るという事を。

 今までに入力された、あらゆる状況を分析した上で起こしたその行動を蓄積、また、個人により細かく、複雑に設定したコマンドが置かれた状況を判断し複雑に絡み合い、そこを上手く効率よく働く様にすり合わせる。これを何回も何回もあらゆる条件下、状況下で繰り返す事により、MSはそこに'"個性"を得、パイロットの思った通りの細かい動きが可能となるのである。始めは最適化が間に合わず、転ぶ事も多い。しかし人間と同じで、その失敗を繰り返し最後は転ばなくなっていくのである。

 正にMSとは個人個人が各々の機体を設定し、人機一体となる事で性能を発揮、思い通りに動かせる事となる。そのため、あらゆる経験をパイロットと共に積んだMSは時に信じられない程の動きを見せるのである。

 このためエースパイロットほど設定がピーキーにならざるを得なくなるが……。

 つまりこれらの機能により、エースパイロットがド下手のOSで操縦しても全く何も出来ず、ド下手がエースパイロットのOSで操縦してもエースパイロット同様の動きは出来ないどころか機体に振り回されるだけとなるのである。クセの全くなく、ある程度万人が使える程度の物もあるが……。逆にそれは反応速度以外変わらない為、行動ルーチンを読まれる可能性だってあるのだ。ゲームのNPCのルーチンを熟知すれば、そこからは一方的なワンサイドゲームになる事は誰もが理解出来るだろう。

 つまり簡単に言うと、個人に合わせて設定、成長し、それが重なり合ってさらに繰り返される無限に進化する大規模格闘ゲームと言ったところであろう。まぁ、アレだ、"酢とリーと歯痛・痛"みてーな感じだろ多分。

 しかし、問題もある。"ザクII"のOSはそれらの作業を個人が、手動で行わなければならないのである。コンピュータは入力された情報を反映、集積こそしてくれるが、最終的な判断及び実行は全てパイロットに一任されているのだ。そのため、いくら行動を集積しようとも、システムをアップデートし実行に移さねば宝の持ち腐れである。そのため、武装を"ザクマシンガン"から"ザクバズーカ"に変更するだけでも、小規模なシステムのアップデート及び書き換えが必要なのである。

 そのため少尉はおやっさんに頼み込み、それらの作業を簡略化する方法を模索してもらっているが、未だに良い返事は得られてはいない。

 しかし、それら動作の決まった"モード"を切り替えることによって更に自由度は高くなり、更にあらゆる状況に柔軟に対応出来る様になる。つまり、何事も経験なのだ、MSも。これらのキーは戦闘中の変更も可能だ。これらを如何に使いこなすかでMSの価値が決まると言っても過言ではないだろう。結局MSの性能を如何に発揮できるかはパイロットに帰結するのだ。

 こーゆーのに興味を少しでも持っていたら、いや、持っていなくても詳しくはパトレイバーとフルメタ読んで。おもろいから。マジで。見て後悔はしない。絶対に。ダグラムとかもいーけど。

 

 

そのご:いっしょにげんきよくあそぼう!

 

 そのため、少尉の"ザクII"は真っ新な赤ん坊状態であり、本当に基本しか知らない。だから遊ぶのだ。個人によって操縦の癖は必ず出る。それを覚えさせている最中なのである。そして少しずつ個人に合った操縦法を見つけ、変えて行くのである。

 歩く、物を持ち上げるなどと言ったものから、射撃、回避、カバー行動など複雑な物を何度も何度も繰り返し、少しずつ違うシュチュエーションで重ねて行くのである。

 コレを繰り返し、それで得られた膨大な情報を取捨選択して行くと、例えば立ったままでしか出来なかったリロードが、反復練習を繰り返す事で転がって回避を行いながらできるようになるのである。その分練習中はよく転ぶ。近づくと大変危険である。そういや前少尉踏んづけそうになりましたもんね。まだ許して無いぞ。

 

そのろく:いっしょにたたかおう!

 

 MSはその汎用性の高さからあらゆる状況に対応し動けるのが強みである。

 アンブッシュ、機動運用、ジャンプ後のスラスター移動、攻撃も武器による射撃、射撃も自由な射角が取れるため対空迎撃も出来る。四肢や格闘兵装、周りの物を用いた格闘、物資運搬、施設解体、組み立てなど、人間を拡大した以上の動きが出来るのがその特徴である。

 また、機動兵器と呼ばれる通り、戦術的にはその機動力と重装甲に物を言わせた遊撃が一番得意である。

 如何にMSを戦闘兵器として戦術に組み込み有効活用するか、それが重要になって来るだろう。"ロクイチ"との機動運用とかいいかもな。地上なら速度も大体同んなじくらいだし。

 

 

そのなな:いよいよほんばん!じっせんうんよう!

 

「……つー訳だ判ったな!さぁいざ行け少尉!悪の宇宙人ジオン星人をぶっ飛ばして来い!!」

「……いや、理論は分かりましたけどやるのとは……つーかおやっさんもスペースノイドでしょうに…」

「細けェこたぁいいんだよ!!」

「で!で!どのボタンで空は飛べるの!ねぇ!」

「……パイロットは、少尉で、決定……だな……」

 

 

 

 

拝啓 オフクロ様。

 

我が隊にMSがやって来ました。




悪ふざけ過ぎましたが、本当は本編こんな話で、色々な兵器、MSを分析するMS IGLOOとかジョニーライデンの帰還みたいな奴がやりたかったんです。

資料は複数のムック本や実際に本物の学術書、インターネットのホームページなどから情報を得て、個人解釈を交えつつ統合したものです。設定の曖昧さの利用が最も現れた回だと言えます。

しかし、あくまで少尉の視点なので、全然語れませんでした。連邦の機体と技術が好きなんだが……ザクと比較も出来んかったし……そこらは失敗です。

フルメタは大好きです。ええすごく。一番好きなASはM9指揮官機かM9A1E1です。片っぽアナザーだけど。好きな武器はドラゴンフライです。ヤリ好きなんすよ。でもショットランサーとビームジャベリンはコレジャナイ感がハンパなくて……ジーラインアサルトも年代的に出せないし………

パトレイバーも好きです。ものすごく。一番好きなのはイングラムの3号機TV版ですかね。メデューサはあんまり。
マスターグレードリニューアルしねーかな。また全部買うのに。

連邦のMS開発が始まったら、ジオンと比較しつつもう一回くらいやりたいなーっと思ってます。

次回 第九章 コロラド河水中渡河作戦

「そんなの、あんまりだよ。こんなのって、ないよ……」

お楽しみに!!


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第九章 コロラド河水中渡河作戦

やっとこさグレートキャニオン編終了です!!

もっとポンポン進んで、書くこと無くなるんじゃ……という始めの懸念が吹っ飛んでます………

終わるかな?コレ…………。


人類の歴史とは、戦争だ。

 

野生動物、自然環境との戦争から始まり、

 

食料、領土、自意識、誇り、思想をかけて人は争い続けて来た。

 

同時に、敵より優れよう、敵より勝ろうと試行錯誤を続け、文明を生み出して行く。

 

技術の発展だってそうだ。

 

加速的に大規模化して行く戦乱が、科学の飛躍的な進歩を促して行く。

 

その無限の円環(メビウスの環)の、終わりを知る者は、居ない。

 

 

 

──U.C. 0079 4.18──

 

 

 

 轟音が辺り一面に響き渡り、頼り無く立ち竦む少尉を揺らす。少尉の顔は被っている軍帽の庇が陰をつくり、その表情はうかがいしれない。隣に立つ軍曹は双眼鏡で周囲を見渡し、伍長は惚けた様に座り込んでいる。頭を内側から揺さぶるようなその音に頭をぼうっとさせながら、少尉はただ一言呟いた。

 

「ここしかない、って………」

「そんなの、あんまりだよ。こんなのって、ないよ……もー!!」

 

 二の句を継げない少尉に、伍長が足元の石を拾い上げ、前に向かって放り投げつつ続ける。空を舞う石は河へと飛び込む前に斜面へ落ち転がり、音を立てて草むらへと消えて行く。

 伍長が手を振り上げ、投げようとした3個目の石を軍曹が手で制する。双眼鏡から目を離し、軍曹は少尉に向き直った。

 

「……他は、崩れて……近づくのも、危険だ……」

「おやっさぁーん!UAVでは、ここがって?」

「あぁ……」

 

 珍しく申し訳なさげなおやっさんに、少尉はもまた申し訳なさげになる。青い空を切り裂くかのような太陽光線と、それを反射しキラキラと光を放つ河の反射光に誰もが手を掲げ目を顰めている。正午を少し過ぎ 、上がりきった気温と太陽がさんさんと照る中、一行は予定渡河ポイントに到着した。

 草木が殆ど見えず、荒涼とした大地を引き裂くかの様にその姿を晒す大河は、悠久の刻を感じさせる雄大さで少尉たちの前にその姿を誇示していた。

 

 少尉は右腕にちらりと一瞥をくれる。巻かれた腕時計は一三三○(ヒトサンサンマル)を刻んでいた。真上からやや傾いた太陽がジリジリと照らし、トラックを降り立ち大河の縁へと走り寄った少尉にじんわりと汗を滲ませる。湿度こそ高くはないため不快ではないが、やはり暑い事には変わりない。額から流れ、頬を伝う汗を軽く拭い少尉は、目を瞑って太陽を見上げる。目を瞑っても差し込んでくる日の光は、まぶたの裏側を真っ赤に染め上げ、少尉に少尉自身が生きている事を伝えていた。

 

──時間のみは予定通りだったんだ、が………。少尉はしゃがみこみ、転がっていた土塊をつまみあげすり潰す。乾いた土は手の中であっけなく潰れ、サラサラの砂となりまた地面へと還って行く。足元ではしゃがんだ拍子に崩れた土が、砂煙を立てながら土手を滑り落ちて行く。

 

──………マジか……と思いながら目の前の濁流を見る。つーかナニコレ?海?軽く水平線が見えるんすけど?本日は晴天なれど波高し。つーか外国の河って、流れが緩やかだったんじゃないの?何が日本の川は滝だバカヤロー。それなら目の前のコレは天動説の世の果てだろ。

 

「………ま!でも………へぇ~!!ここがあの有名な!!初めて見ました!!来たかったんですよ~ねー少尉!凄いですねぇ!!ヤッホー!!」

 

 少尉の隣では、先程のしょげていた様子はどこへやら、頬を紅潮させた伍長が叫び、軍曹はナイフで足元の地質を確かめつつ伍長を諌める。

 伍長によって半強制的に現実に引き戻された少尉は大きく一つため息をつき、眉をひそめつつ頭痛がして来たこめかみを人差し指で掻く。頭痛が痛い(・・・・・)とはこう言う事を言うのだろうか、あまりの事に泣けてきそうである。この頭痛は温度や日の光の所為じゃあないだろうな、全く……。

 

「……伍長、よせ……それに、ここは"モニュメント・ヴァレー"では…ない……」

「えっ!?そうなんですか!!ならここは誰!?私はどこ!?」

「あーっ!!チクショー!!ここは地球だったんだぁ!!」

 

 騒ぐ伍長に触発され、同じ様に叫び出す少尉。軍曹はもはや何も言わず、ただ小さく肩を竦めるのみだ。最悪に近い状況にあるのにも関わらず、ギャーギャーと騒ぐ2人の様子を、不思議そうに眺めているのは3匹のリスだ。1匹は伍長の大声に驚いたのか引っ込んだが、残る2匹はまだ興味があるのか、そろりそろりとこちらを凝視している。

………かわいい。

 

………じゃなくて!!

 

 因みにUAVとは無人航空機を意味する。 "Unmanned Aerial Vehicle" や "Unmanned Air Vehicle" からUAVと呼ばれることが多い。"Unmanned" が男女差別を想起させるという日本人からしたらよく分からない理由から、遠隔操縦するパイロットが地上から操縦しているが機体には乗っていないという点を強調して、『人が居ない』という意味の "uninhabited" で表し、"Uninhabited Air Vehicle" 、または"Uninhabited Aerial Vehicle" の表記も見かけるがそれほど普及していない。またロボットを意味する"ドローン"(drone)とも呼ばれる。しかしその殆どが無線誘導によるものであったためミノフスキー粒子下では殆ど使えなくなったが……。

 

 高低差が激しく、複雑な地形である上脆弱な地質がたたり、コロラド河周辺は戦略的価値に乏しく、その大部分が無人地帯(ノーマンズランド)となっている。

 また、その様な背景から現在北アメリカを侵攻しているジオン軍の最前線(フロント・ライン)はここを境にストップしており、この荒涼とした渓谷と大河が連邦軍とジオン軍とを隔てる中間地帯、緩衝地帯となっている。

 今回は敵との接敵の可能性を極力避けるためミノフスキー粒子が散布されておらず、濃度が薄いところを重点的に、かつ核融合炉を停止させその上使える距離の偵察を行ったのだが……それがどうも裏目に出たようだ。

 

「いや、どうするよ?実際」

 

 いつの間にか隣へと足を運んでいたおやっさんがその河カッコカリに石を蹴り込みつつ言う。バウンドした石ころが小さな地滑りの様な現象を引き起こし、それを見た少尉の顔をさらに歪ませる。まるで子供の頃に伝説のライ魚を釣りに行ったジャリ穴だ。弱い地盤に崩れやすい表土。ヘタを打つとアリ地獄に囚われかねないだろう。そんなのはゴメンだ。河を渡る渡らない以前の問題となってしまう。

 かと言って悩んでる時間はあまりない。幸いにも敵の姿は確認出来ていないとはいえ、ここは敵地(インディアン・カントリー)だ。正直この状況では捕捉されるのは時間の問題で、こちらの保有戦力的に捕捉されたが最期、となりかねない。自分たちに授けられた時間はあまりにも短いのだ。

 

 少尉は腕を組みつつ立ち上がり、眼下をキラキラと揺れる河を見渡す。そんな少尉の隣を吹き抜けた風が髪を靡かせ、岩壁を撫で遥か下の河の流れへと溶けていく。まばらに生える草木は楽しげな音を立て揺れるが、それは少尉になにももたらさなかった。

 

「──ここが一番マシなら、ここしかないんじゃないですかね?モタモタして追いつかれたらなんの意味もありませんし…」

 

 結局、無難な発言を選んだ少尉に、おやっさんがいの一番に反応する。

 

「コンボイは、エアバックを展開してスクリューユニットを下ろせば渡河出来る設計だ。問題は、"ロクイチ"、"マゼラ"、"ザクII"だな…」

「え?"ロクイチ"は川渡れますよ?何で?」

 

 腕を組み鼻を鳴らしたおやっさんに、伍長が首を傾げて質問する。おやっさんが口を開く前に、軍曹が指を突き出し反応した。珍しい事もあるものである。

 

「……"ロクイチ"の…渡河限界深度は、10mだと…教えたろう……」

「そでしたっけ?」

 

 伍長が頭を掻きつつ素っ頓狂な声を出す。それに驚いたのかリスは今度こそ何処かへ行ってしまったが……おい、自機のスペックを知らずそれを使うとは愚かな……。

 

「……全く……本気で言ってるのか………?今が、宇宙世紀、何年かわかるか………?」

「んぅ?0079年だよ? 忘れちゃったんですか?」

 

 軍曹が片眉を微かに吊り上げ、珍しく皮肉交じりに問い質す。伍長はそれに気づかず、ポカンとした顔で応えた。顔を巡らせた伍長はしゃがみこんで木の枝を拾い、頼りなさげに風を受け揺れる雑草を押しのけ、地面に0079と書く。書き終え、眩しいくら位の笑顔に、少尉は堪らず突っ込んだ。

 

「そーゆー問いじゃねーだろ!この戦車おバカ!」

 

 パンパンと手をはたき、腰に手を当て胸を張る伍長。陽気な太陽はそれを暖かく照らし、影を深く落とす。詰め寄った少尉はその影を踏み躙る様に足を踏ん張り、伍長に人差し指を突きつけつつ怒鳴る。

 

「ありがとうございます!!サイコーにくーるな褒め言葉です!!」

「うるせーよ沸いた脳をクールにして来い!!」

 

 伍長は自他共に認める戦車好き(フリーク)であるが、細かいところまでは覚えていなかったらしい。と言うより見た目と一部のカタログスペック大好きっ子だからな……。

 少尉のツッコミは空気を震わせ、風に乗り渓谷の彼方へと響き渡る。その風がまた岩壁を侵食し、新たな歴史を刻み込んでいるのだが、少尉には関係のない事だ。

 

「………はぁ……その様な…まぁ、いい……今からの問いに、答えろ………」

「テスト?いやですーやりたくないですー」

「………アンケート、だ……」

「ならやります!!」

 

 まんまと嵌められ乗せられて、(猿でも分かる)一から十まで戦車講座を始めた2人をほっといて、少尉は懐から折り畳んだ地図を広げる。またコンボイの方で何やら指示を飛ばしていたが、騒ぎを聞きつけやって来たおやっさんの腕をひっぱり相談する。胸ポケットからPDAを引っ張り出そうとしたおやっさんは苦笑気味だ。ふん、と鼻を鳴らし、取り出したペンを回し、おやっさんは口を開く。

 

「で、どうすんだ大将?」

「うーん……」

 

 携帯情報端末(PDA)などの電波を発する機器は、特に小型で出力が低ければ低いほど、低濃度であろうとミノフスキー粒子の影響を大きく受けてしまう。その為、我が隊はこの様なアナログな方法に重きを置いている。──決して俺が保守的であり新しい物が苦手だからではない。パイロットと言うのは大概インテリなのだ。そこの戦車バカみたいなのも……いやアレは戦車バカか。…正直自分も大概だが……。

 

 顎に手を当て、少尉は地図に目を落とす。ジオン軍のAPCである"ヴィーゼル"は折りたたみ懸架方式のスクリューが付いており、元から渡河可能な設計だが、その他が不安なのだ。"マゼラ・アタック"は巨大なため渡れる橋も限られているだろうからまだ渡河能力があっても不思議ではないが、その保障は無く、"マゼラ・アイン"に至っては空挺戦車だ。

…………"シェリダン"かよ。つーか独特な感性とやらを持つスペースノイドの皆さんが設計するのなら、どうせなら"アントノフ"A-40みたいなぶっ飛んだデザインにすりゃ良かったんに……。

 因みに"ロクイチ"は車体やその大きさに反しかなり軽めで、LAPES(レイプス)と呼ばれる低高度パラシュート抽出システムで降下が可能である。連邦軍脅威のメカニズムである。また、これを改修し、ある程度の高度まで対応可能となった追加キットさえある。もう戦車が空挺を行う際、ハチャメチャになりながら砲を撃ち減速する時代は終わったのだ。

 

──ま、それはほっといて……と。少尉は細めた目をそのまま瞑り、空を仰ぐ。そう、その上びっくりどっきり性能である"ロクイチ"に至っては渡れない事が既に判明している。

──かと言って置いてく訳にもいかない。戦力分析で言えば、"マゼラ"より"ロクイチ"の方が総合的に見てかなり優秀なのだ。そこが、この問題の悩ましい点であった。

 

 単純に火力だけで見れば、175mm無反動砲に30mm3連装機関砲を持つ"マゼラ・アタック"の方が強そうに見えるかも知れない。素人目で見たらそうだろう。巨大で存在感のある"マゼラ・アタック"のその威容は戦車という枠組みを大きく外れている。

 

 しかし、"マゼラ・アタック"はその巨大さと形状故前面投影面積が大きく、その上独特な設計思想から装甲も戦車としては紙レベルなのだ。性能も見掛け倒しな面が多く、また実は戦車というより突撃砲に近い設計であるため砲塔も旋回出来ず、仰角も僅かにしか取る事が出来ない。それに加え走行速度も遅いのである。

 旧世紀から脈々と受け継がれて来た正統なMBTの直系として、多くの実戦により磨かれ続けてきた"ロクイチ"とは設計思想、戦術ドクトリンからまるで違い、同じ土俵で戦うとなると圧倒的に不利である。シミュレーションから得たキルレシオはなんと3:1。いかに"ロクイチ"という戦車が優秀なのか証明する結果となった。MSの登場によりその存在を疑問視されてしまった"ロクイチ"であるが、そのスペックはやはり目を見張るものがある。

 使い方を誤らなければMSさえ倒し得る陸の王者の風格は今尚健在で、その威容はまだ崩れ去っては居ないのである。

 

 その大事な戦力を手放す訳にはいかない。MSで砲塔に縄をかけてでも引きずっていくしか無いのだ。実際そんな事をしたら、かの超弩級戦艦"大和"と同じくその重さ故載せてあるだけの砲塔が外れてしまうだろうが。

 

「……んと、"ザクII"はいけそうじゃないですか?元は宇宙機器でしょう?気密性はバッチリじゃないんですか?」

 

 少尉の発言に、おやっさんは眉を顰め口を開く。その顔はやや失望した様であった。その意味を少尉が理解する前に、その疑問はおやっさんの口から放たれた言葉により氷解した。

 

「…水圧が不安なんだ。それについてのカタログスペックが書いていないからな……シノハラ少尉、その考えなら、深海調査艇貸してやるから宇宙行けと言う様なもんだ」

 

 少尉の頭の中で、星々の輝きが瞬く宇宙で、弱々しくマニュピレーターを動かし漂う深海調査艇が浮かび、次の瞬間破裂する。

………そうか、圧力の向きが真逆なんだ。少尉は潜水艦に乗った事はないが、その船体が水圧に軋み悲鳴をあげるのを映画で見たのを思い出す。宇宙船が損壊し、その内部のガスを噴き出すのも……。

 

「………すみません」

「よくある勘違いではあるがよ……少尉、お前さんの実家は重工業会社だったろうに……」

「返す言葉もありません……」

 

 肩を落とし、おやっさんの呆れた様な視線から、顔を赤くし目を背ける様に視線をトラックへとやる。トラックの側面は整備兵が群がり、トーチで激しく火花を散らしながらエアバックを取り付けている。軍曹と伍長はまだ講義中だ。今はトーションバーについて話している。ナニソレ?美味しいの?

 

………ってんな事言ってっからダメなんだろうなぁ………。少尉は自分で自分に突っ込み自己嫌悪に突入ふる。そりゃ、少しは勉強してますし、修理とかも出来る事は出来ますけど………言い訳ですけど、本職は飛行機乗りなんでるから堪忍してつかぁさい………。

 

 首を巡らせるも、頭の血の巡りは変わらず。少尉は小さくため息をついた。

 

──はぁ……暑いなぁ。急に意識する様になった暑さが肌に絡みつき鬱陶しい。湿度が上がってきたのか?

……トーションバーってなんだっけ?んなもんよりアイスバーでもいいから食いたいよ。懐かしいな。昔食い終わったアイスバーで……!

 

 その時、少尉の頭に閃きが走る。脳の中で網目のようになった神経組織、シナプス、ニューロンのノイズが、明確な電気として迸り、眠っていた記憶をつつき、刺激したのだ。コンピューターが人間の脳を模している様に、感情や記憶、感触、感覚などを始めとするクオリアは、この様な電気信号の集積、単純な化学反応の積み重ねに他ならない。その点において、この表現はあながち間違いではないと言えるだろう。

 

…コレ、結構いい案かも………!!

 

「……おやっさん、コンボイを繋げて、デカいイカダにしませんか?そうすれば揺れも抑えられるんじゃないですか?」

 

 少尉は顔を上げ膝を叩き提案する。その時一陣の風が少尉を撫で、空へ吸い込まれる様に上がっていった。そこはかとない清涼感を感じながら、少尉は目の前に道が拓ける幻を見た。

──いや、それは幻ではなかった。確かに見えていた。それは行き詰まった少尉の頭上から光が差す様に表れた、勝利への道(ウィニング・ロード)だった。

 

「……その発想はなかった!!確かにそうだ!バランスも良くなる!……問題は、突貫の溶接じゃあ少しのズレでばらけそうだが……やってみよう!!」

 

 その発言に、腕を組み整備士達の様子を見ていたおやっさんが、目を丸くした後、手のひらを突入大きく叩き同意する。帽子を脱ぎ一撫でされたその頭の中では、既に目まぐるしく計算式などがものっそい飛び交っている事だろう。

 現地でポッと出の意見などをその場で実装出来るのがおやっさんの本当の凄さだ。頭ん中どうなってるんやろか?その灰色の脳みそを少しでも分けてもらいたいものだ。

 

「"ザクII"の足回りにもシーリング頼みます。敵の兵器ですが、"ザクII"を信じましょう。仮にも宇宙機器とは言え、地上侵攻も視野に入れられたウチの虎の子の兵器なんですから」

「……おし、分かった。………よぉーし!!野郎ども!気合いれてけや!!モタモタしてっと川流しだ!!」

「「おう!!」」

 

 顔色を伺う少尉に、唇を吊り上げニヤリと笑いかけたおやっさんが、顔を引き締めて怒鳴り声を上げる。それに呼応した整備士達も同じく声を上げ、各々道具を持った手を振り上げる。その軍隊顔負けの一糸乱れぬ行動に、少尉は呆気にとられ、その光景をただ口を開けて見る事しか無かった。

 

「……大丈夫そうですかね?」

 

 突然の事に、思わず近くを通りかかった整備士に問いかけてしまう。ここに来てはイレギュラーな事ばかりだ。少尉は一度自分の命こそ投げ出しているが、今は全員の命を預かる身なのだ。杞憂という言葉もあるが、心配はし過ぎるに越した事はない状況下でもある。眉を八の字に下げるその少尉の不安げな顔に、整備士は笑いかけながら応えた。

 

「はっは。我々は常に最善を尽くします故、少尉殿、どうぞご安心を」

「そうだぜ少尉!おやっさん仕込みのこの腕、目ぇかっ開いて見てな!」

「任せて下さい!若輩者ですが、頑張ります!」

 

 そのまま整備士達はすぐさま作業に戻り、おやっさんも整備兵の中に混じって作業しつつ指示を飛ばし始めた。それを受け、整備兵達もスピードアップし始める。凄い手際だ。本当に頼りになる人達だ。本当に俺は何もしていない。ただただ支えて貰っているだけだ。腰に手を当てた少尉はそれだけ考えた後、独りごちる。

 

──いやー、謎のインスピレーションと子供のころ父親から聞いた話が役に立ったな。何だっけ?青壁だか赤壁だか?なんか信号みてーな名前の、何だっけ?なんか船を鎖で繋ごーぜコレでゆれねーや!ってやって勝ったんだっけ?たしか。覚えてねーや。

 

…………アレ?役に立って無くねコレ?

 

 巻き上がる風の中、少尉はまたもたらりと垂れた一筋の汗をかいた頰を拭い、大まかな方針が決まった事を軍曹、伍長に作戦を伝えようと振り向く。タイミング良くちょうど講義も終わったようだ。軍曹が仁王立ちし、その前に砂嵐を写すのみのPDAと両手両膝をついた伍長が項垂れている。その肩はふるふると細かく震えており、何とも声を掛け辛い。

 

…………ナニコレ?鬼軍曹のシゴキが終わった後ですか?微笑みデブが居なくてよホント。少尉自身は士官学校でしごかれた身であるが、伍長は違う。軍曹には何の心配も抱いていないが、伍長を一人でガンロッカーに近づけないようにしようと心に誓う少尉だった。暴発させかねん。

 

「………け、結果は……?」

 

 伍長が顔を上げないまま弱々しい声で呟く。消え入りそうに震えた語尾が哀愁漂うが、軍曹は気にもとめていないようだった。

 

「……2問ミス、だ……腕立て20…」

「うぇ~」

「……文句を、言うな……無駄は、減らすのがいい………」

 

………クイズやってた。正直しょうもないと思ったのは秘密だ。

 

「……問題が!!………難し!……過ぎますよぉ!!」

 

 しぶしぶといった緩慢な動作で地面に手足を投げ出した伍長が、その場で腕立てをしながら悲鳴を上げる。本人は大真面目の様子だが……全然顎が下がっておらず、ほぼその場でプルプル震えている様にしか見えない。近くの石の上ではリスがその様子を不思議そうに眺め、小さな鳴き声とともに姿を消した。

 見るにも耐えないその姿から少尉は目を逸らし、遙か彼方の雄大な峰へと視線をやる。空気に霞むも黒々と聳える山は、今も昔も変わらない雄大な存在感を醸し出していた。

 

「………それは無い。どれも、基本だ………」

「んぐ~!はー……、ふぐっ!!ぬぬぬ……だぁー!!」

「……………」

 

………しかも腕立て6回にして潰れたぞ伍長!!小学生か!それでいいのか!?つーかだからどうやって今までやってきたんだよ!?

……お前そんなんでよく就職できたな……俺この職場が怖くなってきたわ…。

 

 あまりの事に戦慄し絶句する少尉。その元凶はそんな少尉を寝転んだまま上目遣いで見る。弱々しく開かれた口から飛び出た単語は、少尉をさらに困惑させる内容だったのもそれに拍車をかけていた。

 

「……しょ、少尉ぃぃ~。助けてぇ…………軍曹がいじわるするぅ~…」

「……いや、それぐらいやろうぜ?流石にマズイって…」

 

 笑い飛ばそうとするも笑えず、唇を引き攣らせ、潰れた伍長の前にしゃがみ込む少尉。その隣には、珍しく額に手を当てため息をつく軍曹。作業をしつつ、時折手をとめてはじゃれ合う3人を暖かく見守る整備士達。"キャリフォルニア・ベース"の頃から変わらない、何時もの光景だった。

 

「うぅ~少尉のばかぁ~」

 

 うつ伏せのまま伍長が唇を尖らせる。それを見ていた軍曹はフッと息を吐き出し、引き出され幌が掛けられる"ロクイチ"を見ながら言った。

 

「……上官侮辱罪だ。+10……」

「……うぅ……少尉のせいだぁ~…」

「……うん?──え?」

 

 突然向けられた鉾先に、少尉は困惑した表情を軍曹へと向け疑問を口にする。何時もの表情をピクリとも変えず、軍曹は組んでいた腕を腰に当て応えた。

 

「俺、悪いか?」

「……悪く、無いだろう……」

 

 顔を見合わせる二人。奥では整備士達が腹を抱えて笑い、おやっさんにどやされている。そのおやっさんの口角が上がっているのを少尉は見逃していなかった。まったく愉快な職場である。

 

「……誰が…悪いとは、言いません、けど……少尉が悪いです……」

「えぇ~」

 

 伍長お得意の超理論に、少尉は戯けて声を上げる。

 

「…………」

「………ぐふっ」

「…………」

 

『うっ、ぐぺぺぺぺーーー!!!』とか言わないのな。潰れた伍長を見下ろし、少尉はふとそれだけ思う。悲しいかな、精神の均衡を保つには、時折現実から目を反らす事も必要なのだ。そこそこの苦労を積んで来た少尉は、それを本能で悟っていた。

 

 舞い降りた沈黙に、呆れて空を見上げる。太陽ギラギラ今日も暑い。蒼い空には白い雲がゆっくりとながれ、その揺れる隙間の空がキラッときらめく。

 柔らかな風が頬を撫で、砂埃と木の葉を巻き上げながら吹き抜けてゆく。吹き上げられ、クルクルと宙を舞う木の葉を目で追いつつ、その風がどこから来たのか、どこへ向かうのかに想いを馳せる。

 

 いい風だ。緩やかな追い風は嫌いじゃない。

 

 後ろから前へと吹き抜けて行く上昇気流に、指を添わせるかの如く手を翳す。空が、飛びたいなぁ……。空が飛びたい病罹患者になっちまったかもな……。

 

「……ま、頑張れよ」

「え、少尉どこ行くんですか!?わたしを助けてください~」

 

 泣き言を洩らす伍長に背を向けた少尉は、一拍おいて歩き出す。軍曹はそれに一瞥をくれるだけで何も言わず、足元の伍長に視線を戻した。

 

「俺は俺に出来る事をやりに行くさ。それは伍長を甘やかす事じゃねぇしな」

「……まだ…8回だ。回数、を…増やされたい、の、か………」

「ふぇぇぇええ~ん………」

 

 後ろ手に手を振りつつ"ザクII"へと向かう。背中に投げ掛けられた伍長の悲鳴は無視だ。無視。

…………………と言うよりせめて10回でいいから連続で腕立てぐらい出来て欲しいと言うのが実情であった。

 足元をさらさらと吹き抜ける風が小さく渦を巻くのに任せつつ、少尉は河の水面に目をやる。

………波が出て来たな。これ以上高くならなければいいが……。波という物は、存外強い力を持っているものだ。数千キロ、数トンともなる水の流れは時にあらゆるものを薙ぎ倒し押し流す力を発揮するものだ。決して甘く見る事は出来ない。

 

 早くもシーリング作業が始まった"ザクII"の前に立ち、足首付近のアクセスハッチを開放する。顔を覗かせた多数のスイッチの前に、少尉は迷う事無くお目当のボタンを押し込む。

 すると、頭上からは圧縮空気を開放する音が聞こえてくると共に、コクピットハッチが開放される。アクセスハッチを閉じ、上を見上げた少尉の目にはウィンチの静かなモーター音を立てながら垂らされたワイヤーが映し出される。ハッチの上面から垂らされたワイヤーに足を掛け、しっかりとワイヤーを掴みグイと踏み込む少尉。それに反応したウィンチがワイヤーを巻き取り、あっという間に地上十数mという高さへ少尉を連れて行く。そのまま開け放たれたコクピットハッチを潜り抜け、少尉はあっさりと機体に乗り込む。言葉にすれば簡単であるが、少尉のこの行為は実際に行うとかなりの恐怖を伴うものだ。しゃがんでいるMSのコクピットの高さとは言えど、地上十数mは大体ビルの3階の高さに匹敵する。その高さまでワイヤー一本で引き揚げられるのだ。初めてMSに乗った時の視界の高さ、コクピットへの行き来など少尉はまだ戸惑う事も多かった。それをおくびには出さなかったが。

 

──いくらコンボイ繋げてイカダにしても運びきれないだろう。"ザクII"(こいつ)もしっかり使わなきゃ。独りごちる少尉はぎこちなくシートに滑り込み、シートベルトを装着しヴェトロニクスを立ち上げる。ハッチが閉鎖し、メインコンソールに光が灯り、メインモニターは一瞬のノイズが過ぎたと思うと、高度な画像処理能力により調整された鮮明なデジタル画像を映し出す。真っ暗だったコクピット内が瞬く間に光の渦で満ち溢れ、明滅する光の奔流が目に飛び込んでくる。

 視線誘導によりモノアイを操作し、サイドモニターにピックアップされた伍長を見る。2回に1回は潰れつつも、なんとかやっているようだ。隣に立つ、腕組みをした軍曹の目はもう娘の成長を温かく見守る目だ、アレ。

 

 視線を巡らせ、それと同調したモノアイ、それが映し出すのをモニターを通し周りを見渡す。複合センサーでスキャニングされた風景は、コロニー落としの影響であちこちが崩れ、"グレート・キャニオン"は更に複雑で脆い地形となっている。

 "ザクII"のモノアイはただの大口径光学機器ではなく、様々な高性能センサー複合機材だ。それは、単純なカメラ、センサー、レーダーだけでは対応出来ない、ミノフスキー粒子の電磁波阻害効果が生み出した有視界戦闘の申し子と呼べる存在だ。その精度は高く、ミノフスキー粒子濃度が0に近い今、その性能は数ある光学機器や高性能センサーの中でも最高峰であろう。

 そのため肉眼では鼻先に突きつけられ様とも識別不可能であろうものまではっきりと見えるのだ。更には高性能なコンピュータの補助もある。草むらに紛れる小動物から露出した地層の模様までくっきりだ。

 

「ふふん……♪」

 

 上機嫌でアクティブセンサーを起動し、岩肌を注意深く観察……?人が張り付いている。それに……アレ化石じゃね?拡大しモニターに投影。肉眼では気づきもしないだろう僅かな凹凸反応した機体がすぐさまスキャニングを開始し、高度に解析された鮮明な画像を映し出す。あ、化石だわ………

 

 それは同時に整備服の男の横顔も解析し、その結果を映し出していた。

 

………って掘ってんのおやっさんかい!!

 

 身体はシートベルトでガッチリと固定されているため、首だけガックリと垂らす少尉。律儀に反応する"ザクII"。それを手を止め、不思議そうに眺める整備士達が、またパラパラと作業を再開するのも"ザクII"は捉えていたが、画面を見ていない少尉は知る由も無い。

 

──いや、働けよ整備兵班長と思う前に、大きな疑問が。

 

………なんで掘り方知ってんの?

 

 考えても仕方がないので、コンソールを叩きトレーニングモードに変更、おやっさんお手製シミュレーターを起動する。最近の日課だ。現時点で軍曹を除き一番適性があるのが俺だけなのだから仕方がない。それにクーラー完備でサイコーなんだよな。未知の敵の新兵器を操る事がたのしみでも無いと言ったら嘘になるし……。何とか、少しでも戦闘も出来るように………。

 

 シミュレーターが起動し、メインモニターが明滅、四角い画面に命が吹き込まれ、画像が躍り始める。目まぐるしく、激しく入れ変わる画面に、少尉は既に引き込まれていた。

 

 

 

 

──U.C. 0079 4.20──

 

 

 

 薄暗い夜明け前(トワイライト)、その静謐な空気を胸いっぱいに取り込む。そのまま後ろへ倒れこむ様にシートへと沈み込んだ少尉は、頬を張りコクピットハッチを閉鎖した。

 

 その直後、日が昇り始め、辺りを強い光が包み込む中、ハッチは音を立て完全に閉鎖し、コクピットの中は内部空調が気圧と温度の調整を始め新しい音で一杯になる。足元のジェネレーターが唸りを上げ、流体パルスモーターが空気を震わせる。機体各部から、周囲を揺らめかせる程の熱気を帯びた空気を吐き出しながら"巨人"が立ち上がる。荒れ狂う河に長く伸びた影が落ち、その虚影を揺らがせる。

 同時にモノアイが光を放ち、周囲を走査する。◯五◯◯(マルゴーマルマル)出発時間(タイム・トゥ・ゴー)だ。

 

「よし!行くぞ!!渡河開始!!」

《《了解!!》》

 

 インカムに吹きかけられた少尉の声はレーザーに変換され、数コンマの遅れと共に部隊全体に行き渡り、その返事を少尉に送り返す。コンボイが暖め続けてきたエンジンに発破をかけ、爆音を上げるモーター音が朝の空気を吹き飛ばす。その耳に残る音を撒き散らしながらゆっくりと進み出し、前後左右と組み合わせる事で完成した、デカいイカダが進水する。かがくのちからってすげー!マジで出来上がってる。いや、コレは人の力か?どちらにしても、恐ろしいまでの力を発揮するものだ。幼い頃より機械と共に歩んで来た少尉の人生にとって、機械は切っても切れないもので、尊敬しつつも恐れを抱くものだった。

 

 進水と同時に大きな波が発生し、荒れ狂っていた波を飲み込んで行く。その大迫力に目を奪われるも、少尉は気を引き締めてグリップを握り直し、メインスクリーンを睨みつけた。と、言うか、収まりかけていた波がまた………。すごい質量だな。まるで武蔵だ。進水時津波起こしたらしいし。

 

 そのイカダの約50m離れた地点で、やや波の収まったコロラド河を少尉の操る"ザクII"が波を掻き分け進んでく。膝位までの水深だ。右手には念のため装備されたMMP-78 120mm"ザク・マシンガン"、左手にはこれまた急造でギリ間に合った簡単なイカダに"マゼラ・アイン"が載せられており、繋がれたワイヤーをマニピュレーターで掴む事で曳航している。軽々と片手に巨砲を抱え、波を掻き分けイカダを引くその姿は、まるで神話の中の出来事のようだ。ただ違うのは、その巨神は人が創り出した兵器である事と、物語の中の空想で無く、明確な目標を持った人間が行っているという事だ。

 

「──頼むぞ……俺は、お前を………」

 

 足元から響く波が打ち付ける音と音響センサーが捉えた波の音がアンサンブルとなりコクピット内を満たし、揺れる機体と共に腹の底から揺さぶる様に響く。ちらりと目をやった深度計は一歩一歩歩みを進める程に沈み込んで行き、水深はどんどん深くなる。センサーが捉える水底の暗闇を見ない様にしながら、少尉は無意識のうちに肩へ力を入れていた。

 その水圧の様にのしかかる不安に押し潰されそうになりながら、少尉は独りでに唇を噛み締めてフットペダルを踏みこむ。背中に汗が伝い、脇を濡らす。額に吹き出した汗が目に染みる。手の震えを抑える様に握りしめた操縦桿は、濡れたグローブにより湿った音を立てた。

 

 一番深いと思われる河の真ん中に差し掛かる。水深は"ザクII"の腰ほどまでにきた。センサー、ジャイロ、バランサーは正常だ。まだ操縦に慣れていない事や、戦闘機動を行う必要は無い為殆ど高強度のオートバランサーに任せっきりだ。だがしかし、ここでマシントラブルが起きたら……っ!!頭を振り最悪の考えを締め出したその時、少尉はその意味に気づいた。

 

 弾かれた様に少尉はコンソールをチェックする。頬を伝っていた汗が散る。念のため自己診断プログラムも複数走らせる。ここは深く広い河の真ん中だ。仮にマシントラブルを起こせば回収は不可能だ。

 

 もし仮にそうなれば、一巻の終わりだ。仮に俺が脱出出来ても戦力は激減し、今後の戦闘でも逃げ回る羽目になる。

 

 機体を慎重に操作し、ゆっくりと、ゆっくりと歩みを進める。頼む、頑張ってくれ………お前の、力を見せてみせろ!!

 

 肩に力を入れて操縦する少尉の事を知る筈も無く、波を掻き分け歩を進める"ザクII"。きらきらと光を反射する水面に目を細めるも、水中の様子はよくわからないが…………。

 

 念のため機体を停止させる。打ち付ける波が"ザクII"をやや揺さぶるも、"ザクII"はそれに屈する事無く堂々と立ち続けていた。

 

──機体に、………異常はない!!

 

「よし!行けるぞおやっさん!」

《おっし、このまま渡り切っちまうか!!》

 

 "ザクII"が先導する様に波をかき分け、広い河を渡って行く。それに追従するトラック群も好調だ。轟音と共にキラキラと光る飛沫を巻き上げながら、ゆっくりと水の上を滑り始める。

 

──その時だった。イカダ周辺に大きな水柱が立ち、大きなイカダが木の葉の様に揺すぶられた。

 一瞬座礁かと考えたが、直ぐに否定する。その可能性も捨てきれないが、この水柱は明らかに異常だ!!

 

《な!なんだぁ!?》

 

 突然の事態に狼狽えるおやっさんの声で逆に平静を取り戻した少尉は、素早くセンサーを走査させ、視界を巡らせる。メインスクリーンが捉えた映像に、岸で爆発炎を確認する。あれはマズルフラッシュだ!

 

「! おやっさん!!ジオンの追撃です!!殿は任せて先へ!!」

《お、おう!!機関最大!!両弦、全速前進!!》

 

 インカムにそれだけ怒鳴りつけ、返事を待たず少尉は機体を操作する。その場に留まり、方向転換した"ザクII"の横を、トラック群が通り過ぎる。その速度のもどかしさに、少尉は歯噛みしメインスクリーンに目を走らせる。

 

 やられた!一昨日の一瞬見えた空の輝きは、航空機だったのか!!

 

 ミノフスキー粒子濃度は高くない。ロングレンジ・レーダーを起動……!

 

 コクピット内にビープ音が鳴り響く。レーダーに感あり(レーダーコンタクト)レーダーに敵影確認(ターゲット・マージ)合成開口レーダー(SAR)の画像から、導き出されたメインコンピュータの診断では……敵は"マゼラ・アタック"だ。

 

 同時にコクピットに別の警戒音が鳴り響く。機体表面のセンサーがレーダー波と照準用の赤外線を捉え、敵レーダー波に照準された(エイミング・レーダースパイク)事をがなりたてる。オートに機体が反応し、流体パルスモーターやオートバランサーの設定、トルク伝達率、ジェネレーター出力、マスターモード等を始めとする操縦系統全般が戦闘機動(コンバット・マニューバ)に切り替わった事にも気づくことは無く、その音に一気に緊張感が高まらせ、少尉は操縦桿を握りしめる事でなんとか緩和する。焦ったら負けだ。正常な判断を下せなくなった時、人は彼岸に片脚をのせるのだ。

 

 モノアイを光らせた"ザクII"が水に足を取られながらもなんとか振り向き、ゆっくりと後退しつつ敵影を確認する。思うように動かず、唇を噛み締め額から汗を流す少尉に、無慈悲にもメインスクリーンは現実を伝えた。

 

……敵機視認(エネミー・タリホー)。巻き上げられた砂埃や水蒸気、それに陽の光で霞んでいるが、見間違え様がない!

 長く伸びた主砲、光を弾くエッジが特徴的な左右のウィング、高い位置に固定された砲塔にはバブルキャノピーが太陽光を反射し輝いている……"マゼラ・アタック"が6輌だ。"ザクII"の重装甲といえど、主砲である175mm無反動砲を食らったらタダでは済まされないだろう。しかもこっちは水中だ。こちらの動きは鈍い上、食らって沈んだりしたら救助は不可。それに浸水するかも。それはごめんだった。

 

「クッソ!!アルファ1、エンゲージ!!迎撃行動に移る!!」

 

 セーフティを解除、セレクターを操作、セミオートに。ランプが点灯し、『メインアーム レディ(主兵装 射撃可能)』と表示される。同時にメインスクリーンにガンレティクルが投影され、敵をロックオンする。

 照準はFCS任せに"ザクマシンガン"を撃つ。長く横に伸びる独特なマズルフラッシュと共に弾丸が猛烈な勢いで撃ち出され、対岸の崖を削り砂煙を上げる。

 

「チッ!」

 

 無意識の内に舌を鳴らし、次弾を発射、また一発と射撃を重ねて行くが、なかなか当たらない。シミュレーター通りにいかない事に微かな苛立ちと湧き上がる緊張を押さえつけながら、必死に頭を巡らせる。

 

「!!」

 

 またも至近弾が機体を揺らした。幸運にも"ザクII"の撃破を目的としているためか、"マゼラ・アタック"隊は徹甲弾(AP)を使用しており、至近弾においても榴弾の様な水中炸裂による爆圧も無く、機体に損傷はない。しかし、降り注ぐ砲弾は確実に少尉の精神を削り取りにかかっていた。

 着弾と共に、噴水の様に吹き上げられた水が機体に水の束を叩きつけ、モノアイカバーを洗い流しては水滴を残していく。戦闘用のセンサーはこの程度の事にはビクともしない。モノアイカバーもワイパー機能をオートで作動させ、コクピット内のスクリーンもデジタル処理の段階でその影響を限りなく低いものとする。

 しかし、それらは少尉にとある決断を下させるには十分すぎるほどの理由となった。

 

「…っく、喰らえ!!」

 

 セレクターを弾く様に変更し、フルオートにした瞬間握り込むかの様にトリガーを引き絞る。次の瞬間質の違う轟音が渓谷に響き渡った。その残響を残したまま、長く伸びた曳光弾の火線が殺到し、1輌の"マゼラ・アタック"の砲塔と、それを支える艦橋の様な部位ごと紙切れか何かの様に吹き飛ばす。それを確認した少尉は舌を巻きつつセレクターを変更、次の目標を狙う。

 砲塔である"マゼラ・トップ"が吹き飛ばされ、抉られた部位から火花と黒煙を上げながら迷走する"マゼラ・ベース"は無視して、だ。それには、一つの理由があった。

 現時点において、脅威なのは"マゼラ・トップ"だ。"マゼラ・ベース"も戦車としては破格の装備である30mm3連装機関砲を備えており、決して脅威と呼べない訳ではないが、それより分離され襲いかかられたらこちらは万事休す、だ。分離後の奴らの機動性は決して高いとは言えないが、それでも腰まで水に浸かった"ザクII"は軽く圧倒するだろう。それにトラック群に戦闘能力は無い。すり抜けられたら終わりだ。

 

敵戦車撃破(エネミー・ダウン)!」

 

 誰に聞かせるという訳でなく怒鳴り、早く渡り切ってくれと願いながら振り返る事無く"ザクマシンガン"を撃つ。正直そんな余裕はかけらもありはしない。慣れない手つきで必死に機体を操り、反撃を加える少尉の顔は真っ青だ。その一瞬にも、ド派手な着水音と水柱と共に至近弾がまた新たな波を作り出し、"ザクII"を揺さぶる。

 本来交戦は予定しておらず、予備マガジンは無いのでフルオートで撃つ事が出来ない。しかしMMP-78は本来宇宙用かつ対艦攻撃を主眼に作られた物だ。重力下での命中率はお世辞にも高いとは言えない。この状況下において、これは大きなディスアドバンテージだ。それに、MSは人体を模しており、その動きは人体の拡大、延長となるものが大半だ。特に黎明期はそれが顕著である。また足場も悪く、水流もあり、その中での行進間射撃となっては、いくらFCSの能力が高かろうとその命中率は著しく低下してしまう。

 

──クッ、当たらん!!何でだ!!………ってオイ、コレ水がガンガンマシンガンに被ってるが大丈夫かコレ?どこぞのガンポッドみたくジャム(弾詰まり)らない?アレは海水だったけど。ジャムったらそれこそ終わりだぞ!?

 

 十数発目の射撃が、漸く3輌目の"マゼラ・トップ"を吹き飛ばす。残り半分、しかし残弾は少ない……。チラリと残弾が表示された画面に目をやり、少尉は焦りを隠せずにいた。その時、泳いだ目にほんの一瞬であるが鋭い光が飛び込んできた。それは、何故か少尉に既視感をもたらし、ぞわりと肌を粟立たせた。

 

──んっ、嫌な予感が……。

 

 その予感は、次の瞬間リアルな現実として少尉に降りかかった。

 

「!!」

 

 スクリーンが映し出す1輌の"マゼラ・アタック"の砲が、真っ直ぐこちらを捉える。それとコクピット内に耳障りな音が鳴り響くのはほぼ同時だった。メインスクリーンは黒々とした砲門が、縁を鈍く輝かせてこちらを睨むのを鮮明に捉えている。もし、このタイミングで撃たれたら……!

 

「うわっ!!」

 

 必死に機体を操作し、慌てて下がろうとして脚を取られた。河底の一部が削り取られていたのか、一部深かったらしい。そこに脚を突っ込んでしまったのだ。

 なんとかバランスを取ろうと無駄な足掻きをし、無様にバタバタと手を振りながら"ザクII"が水中に倒れこむ。これは戦闘機動モードの弊害だ。人型と言う形は、多脚歩行型や戦車等のような履帯とは違い決してバランスがいい形とは呼べない。しかし、あえてその安定性を捨て、バランスをわざと崩す事により急激かつ複雑な姿勢変更、回避運動、戦闘機動を可能としているのである。しかし、それは熟練者が操縦者である事が絶対条件である事を忘れてはいけない。崩されたバランスは、取り戻されなければ隙を晒す結果を残すのみだ。

 機体の各部から気泡を放ち、水没する"ザクII"。浸水こそしてはいないが、危険で無防備な姿勢である事には変わりない。コクピット内では体勢を立て直せとアラートが鳴り響き、少尉は思わず、喉から絞り出すようにして小さな悲鳴を上げた。

──し、浸水しないよね!?でもそのおかげで避けられたっぽいな……その証拠として、頭部側に水柱が上がる。しかし機体は完全に水に浸かり、上手く動けない。一難去ってまた一難。いよいよ少尉は追い込まれていった。弱々しく蠢く"ザクII"に、再び砲門が向けられていようとしていた。

 

「クっ、動け、動けよ!……! かくなる上は!!」

 

 操縦桿を動かすも反応しない機体に焦りを感じ、少尉は半ばパニックに陥っていた。そのまま一瞬の閃きを頼りに夢中でフットバーを蹴っ飛ばし、"ザクII"の背面に装備されたスラスターをフルスロットルで噴かす。

 水中で噴かしていいものかは完全に賭けだった。最悪メインブースターがイカれ、完全に水没してしまうだろう。しかし、それに一縷の望みを賭けるしかなかったのもまた事実だった。

 

「──っ!!」

 

 身体が引っ張られ、足に血が集まって行く奇妙な感覚。視野が黒く狭まり、血の足りなくなった頭がぼうっとする。それでも"ザクII"は与えられた仕事を忠実に再現する。轟音と共に機体へ馬鹿げたGがかかり、60t近い機体が持ち上がった。科学の鎧に身を包んだ巨人は噴射炎を引きながら離水し、宙を舞った。

 

 強引に押し退けられ、飛び散った水滴がスラスター炎に蒸発させられ、音を立てながら気化していく。発生した水蒸気が白く"ザクII"を取り巻き、スラスターの生み出す余波の前に雲散霧消していく。

 宙を舞い、きらめく水滴が太陽光を受け、青空に一つの虹が描き出される。その虹は見事なアーチを描き、空を駆ける"ザクII"の軌道を沿う様に空に刻みつけられた。

 

──賭けには勝った!!よし!!ここからだ!!

 揺さぶられ、混濁する意識の中でも、身体は無意識のうちにガッツポーズを取っていた。

 

 飛び上がった機体が最高到達点を通過し、Gが収まる。自由落下に移り始めた機体の中で、少尉は驚きを隠せないでいた。凄まじい推力だ。それに、既存の兵器とは全く異なる機動性である。その事実は少尉の胸に刻み込まれていた。

 

 "ザクII"は少尉を乗せ、そのまま水の尾を引きながら後方へ飛ぶ。奇妙な無重力感を感じながら、機体を操作し空中で手脚を振り回させ、AMBACを行う事で姿勢制御する。寄る辺のない空中でありながら態勢を安定させた"ザクII"は、銃口から水を垂れ流す"ザクマシンガン"の残弾をメクラ撃ちでばら撒く。スクリーンの捉える対岸は、撃ち出された弾頭が地面に着弾し生み出すエネルギーと、内部に込められた炸薬による影響で土煙まみれだ。120mmの威力は伊達ではない。弾丸は当たり敵を倒す事だけが仕事ではない。それが最善であるが、ばら撒かれ、相手の動きを封じるのもまた仕事の一つなのである。

 

「〜〜っ!」

 

 しかし、その時間も長くは続かない。巨人は重力に引かれ、加速しながら落下していく。少尉はグングンと地面が迫ってくる光景に身体を強張らせ、ぎゅっと目を瞑った。脳裏には、無惨にも地面に叩きつけられ、バラバラになる"ザクII"が翻る。

 着地の瞬間、機体がオートでスラスターの逆噴射を行い、落下していたはずの機体をふわりと浮き上がらせる。またも身体を押し潰そうと発生するGに少尉は歯をくいしばる。噴射されたスラスターの余波が同心円状の波をいくつも作り出した次の瞬間、"ザクII"は激しい衝撃と轟音を伴いながら再び着水し、起こした津波が岸辺を洗った。機体のフレームが金切り声を上げ、関節が猛烈な蒸気を噴き出すが、機体に損傷は無かった。

 

 あらゆる方向から襲いかかる、強烈なGに機体が、身体が悲鳴を上げる。しかし、()()()()()()()

 

──俺もこいつも、限界には程遠い。まだやれる。まだいける。どこまでも!どこへでも!!

 

 頭をシャンとさせようと首を振りつつ、少尉は改めてコクピット内を見渡す。念のため異常発見プログラムを走らせながら、少尉の頭の中は別の事で一杯だった。

……こりゃ凄いわ。そら連邦軍ボコられるわ。既存の戦場の常識、兵器の概念そのものを打ち壊しかねない。

──それほどの力を持つ兵器、なのか……コイツは。

 

 弾き出された結論の、その事実に鳥肌が立ち、ゾクゾクする。その心地よい高揚感と緊張感に身を任せながら、少尉はほぼ無意識の内に機体を操作し始めていた。

 

 今までのぎこちない動作はどこへやら、少尉は機体をまるで元からあった手足の様に操作し始める。指令を受けた"ザクII"は軽快な機動で撃ち出された"マゼラ・トップ砲"を回避し、軽いフットワークを交えながら動き出した。

 

 機体と身体が、まるで元から一つだったのかの様に思える。身体が、感覚が引き伸ばされ、まるで巨人になったのかの様な錯覚………このシンクロ感、嫌いじゃ無い。思わずニヤリと口角を上げた少尉は、その事に気付かないまま肩の力を抜き、操縦桿を握りなおす。

 

 少尉はそのまま、対岸に向かって"ザクII"を走らせる。機体のセンサーがヒュンヒュンと言う砲弾が風を切る音を捉えていたが、逆にそれは少尉に安心感を与えていた。知識としては知っていた、音を立てる砲弾は自分の方向に向かってこない事を実感したのだ。逆に言えば、音が聞こえなかったら時、それは死んでいるという事であるが。

 

「……どうした?俺はここだぞ?」

 

 余裕がもたらすハイテンションに身を任せ、少尉は1人呟く。既に水深は"ザクII"の足首を切っており、水溜りを蹴散らす様に"ザクII"は突っ走る。足元から来る心地よい衝撃に、少尉は今にも叫び出しそうだった。

 

 その浮き足立った気持ちは、スクリーンに映った画像によって現実に引き戻された。少尉の眼の前では、既に上陸したトラック群は"ロクイチ"、"マゼラ"を降ろし、岩に乗り上げるようにして仰角をとり曲射を行っている。

 

《無事だったか少尉!ご苦労!!》

 

 おやっさんの声に、少尉は含み笑いを堪えながら返答する。そうだ、戦闘はまだ終わっていない。逆に言えここからだと言える。両手で自分の頬を張った少尉は、強引に気分を入れ替えにかかる。

 

「おやっさん達こそ!被害は!?」

《ゼロだ。落っこちた奴もちゃんと拾った》

 

 死傷者0。その言葉にまた緩みそうになる頬をなんとか引き締め、少尉は反撃に行動を移した。ミノフスキー粒子濃度は以前よりやや高まっているだけだが、念には念をと作戦を声に出す。

 

「よし、"ザクII"(こいつ)観測手(スポッター)にする、レーザー通信でデータリンク開始!」

 

 抱えていた"ザクマシンガン"を地面に置かせ、身軽となった"ザクII"を素早く丘に登らせる。そのまま腹這いになり、漸く土煙が晴れ始めた対岸を見る。未だに射撃を続ける2両の"マゼラ・アタック"をロックオン、そのデータを解析、リンカーを通し"ロクイチ"、"マゼラ"へ送る。つーか撤退しろよ。保有戦力の3割がやられたらフツー撤退するだろ。何で3割になってもこんな果敢に攻めかかってくるんだよ。

 

 リンクされたデータを受け、砲撃の角度を調整にかかる。観測データという物は数が多ければ多いほど正確な数値を弾き出す事が出来る。それは距離に関しては特に言える事だ。間も無く撃ち出された砲弾が対岸の"マゼラ・アタック"、"マゼラ・ベース"に突き刺さり、弾薬に誘爆を起こしたのか激しい地鳴りと共に砕け散る。空気を伝わりビリビリと機体を振動させたのを断末魔に、敵は壊滅した。今はただ、赤くちらつく火花の混じった黒煙が、未だに火を噴く残骸から上がっているのみだ。

 この様子だと、増援の気配ははなさそうだ。

 

「──ふぅ……」

 

 "ザクII"に片膝をつかせ、コクピットハッチを開放する。コクピット内の調整された空気とは違い、埃っぽく焦げ臭い匂いを漂わせる空気を胸いっぱいに吸い込み、伸びをしながら機体から降りる手筈を整え始める。

 まるで現実感が無かったが、それでもシミュレーションとはまるで違う、リアルな実戦の雰囲気に飲まれかけていた。機体から降り立った少尉は、一歩踏み出そうとしてよろけた。足元は石ころだらけの砂地だったが、足を掬うものは一切無かった。膝が笑い、手も震えていた。そんな事にも気づかなかった。

 

 眼下では水面がうねり、光を反射する。その強烈な輝きが少尉の目に突き刺さり、少尉は思い出した様に身震いした。

 

 思い出したのかの様に現実感が戻り始め、無意識の内にクタクタだったのを堪えていた身体が限界を迎え、どっと疲れが押し寄せる。少尉はそのまま、操り人形の糸が切れたのかの様にドサリと座り込んだ。

 

「少尉ー!お疲れ様ですー!見たよ!凄いすごい!!」

「……少尉、無事で……よかった…」

 

 座り込み、それでも怠く、ばたりと仰向きに倒れこむ。不思議そうな顔の前で手を開いたり閉じたりしている少尉の元へと、軍曹、伍長の2人が走り寄り、上から覗き込むようにして話しかけて来た。

 

「……少尉が、居なければ……ヤられていた……感謝する……」

「すごい!すごいよ!!少尉かっこいいです!!」

 

 少尉は軍曹に助け起こされ、何とか上体を戻す。そのまま抱き着いてきた伍長の頭を震える手で撫で、辺りを軽く見渡した。

 

「ありがとう。伍長達も無事でよかった。おやっさんは?」

「向こうでエコバック外してるよ!」

「「…………」」

「…………?」

 

 思わず軍曹と顔を見合わせる。ようやく頭の回り始めた少尉に、伍長のぶっ飛んだ会話は少しハードルが高かった。

 もしかして、河に落ちたのって伍長か?脳に深刻なダメージがあるとしか思えない。すごいすごいとさっきからやけにボキャブラリー少ないし……。

 

「…掴まれ……」

 

 縋り付く伍長を引き剥がした軍曹がそのまま少尉に手を差し伸べる。平静を取り戻した少尉は、薄く笑みを浮かべながらその手を取った。

 

「すまない。恩に着る」

「もー、汚れてますよーうわっぷ!」

 

 そこにおやっさんが走ってくる。ようやく膝の笑いが収まった少尉は、グイと引っ張られ立ち上がり、被っていたヘルメットを手慣れた動作で取った。立ち上がった少尉の背中を伍長が手で払い、巻き立った砂埃に顔を顰める。

 

「良くやった少尉!!ミッションコンプリート!今夜は祝勝パーティだな」

「おやっさんこそよくぞご無事で」

 

 笑顔を浮かべるおやっさんに、少尉はサムアップで応える。おやっさんは少尉をヘッドロックし、ガシガシと頭をかき混ぜながら続けた。

 

「よくやった、本当によくやったよお前は。………MSの初実戦運用、どうだった?」

 

──そうか、これが初か!夢中で気づかなかった。目を細めやめてくださいと苦笑する少尉は、その言葉に弾かれる様にヘッドロックを外し、腕に力を込めながら力説した。

 

「最高でしたよ!おやっさんのおかげです!被害もゼロだし!!…………念のため、"ザクII"の点検頼みます」

 

 少尉は伍長を背負ったまま腰に手を当て、腕を組む軍曹と並び、未だに各部から水を滴らせている"ザクII"を見上げる。水浸しになり、今は埃まみれになりつつある"ザクII"は巨大な石像が何かの様だ。どんな機械も整備を怠れば故障する。それは精密な機械になればなるほど顕著だ。最先端の科学の結晶であるMSは、その最たる例と言えるだろう。

 

「おうよ、任せときな……──?……………」

 

 少尉の言葉にニヤリと笑ったおやっさんが、ふと突然何やら考え込む。どうしたんだろ?

 

「……少尉、少尉が曳航してた"マゼラ・アイン"の載ったイカダは?」

 

 

あっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『流されて行け。留まる事しか出来ない、私の代わりに………』

 

 

 

 

 

 

戦場は非情だ。人は、ただ流されて行く……………

 




今回は戦闘アリなのにふざけ多めです。

少尉は新米なので、戦場では冷静になれず、ややハイになってるとお考え下さい。どんな時でも、ふと余計な事を考えてしまう感じです。

ロクイチとマゼラアタックの戦力分析は、小説版U.C. ハードグラフ ジオンサイドで述べられていたので。これも面白く、オススメです。当たり前ですけどプロの作品なのでこれよりかなり面白いです。

少尉の昔聞いた話は、読んでみたら分かりますが面白いです。とても日本が卑弥呼奉ってた同時代とは思えません。少尉の心にはあんまり残らなかった様ですが………

次回 第十章 砂漠の陽炎を追って

「今だ!!行くぞ!!」

アルファ1、エンゲージ!!


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第十章 砂漠の陽炎を追って

アリゾナ砂漠横断編、スタート!!

何にもないこの土地で、どう話を膨らませろと?

まぁ、ロクイチの一番得意とする土地だね。うん。

以上!!


争いの起こる原点とは何であろうか?

 

人種?思想?富?領土?イデオロギー?エゴ?

 

共通点と、キーワードは、"違い"だ。

 

それを作り出す、"境界線"(ボーダーライン)だ。

 

この世界に一つとして同じものはないから。

 

人は、ボーダーラインを、越えて行く。

 

 

 

──U.C. 0079 4.23──

 

 

 

 空は青。雲一つない。だがそれだけ。

 見渡す限りの、砂、砂、砂。そしてたまーに岩。地平線の彼方は蜃気楼に揺らぎ、何も、何もない。

 ただ一つ、空の真ん中に、ギラギラと照る太陽が、地平と空を陽炎で繋ぐ。それだけ。

 それが360°すべて同じだ。それ以外は、時折乾いた風が吹くだけだ。だが、そのささやかなさらさらとした風に吹かれ、うねる砂山は刻一刻と姿形を変えて行く。まるで生きているかのように。そのうねりにはひとひらの意味もなく、形もなく、ただ移り変わるのみだ。

 

 熱気を孕み、揺らめく陽炎はまるで手招きをしている様に、儚く蜃気楼のように揺れ続けている。

 

 とても地球の光景とは思えない。小さな頃図鑑で見た火星かなんかの地表の様だ。まるで世界の果て、終わりの無い終わりだ。動くものは砂だけ。生き物の気配なんて毛ほども無い。視界には動植物など全く見えず、ただ砂が風に乗りまるで砂漠全体として大きな意思を持つ様に揺れ動くのみだ。

 

「……暑い!!」

「………………」

 

 少尉が巨大な防塵フィルターを片手に引きずりながら叫ぶ。その額には大粒の汗が浮かび、頬を伝い地面に垂れては砂に跡形も無く吸い込まれて行く。その様は焼け石に水どころの騒ぎでは無い。まるで宇宙空間に向けてBB弾を撃ち出したかの様だ。

 身につけていた下着はもう汗でぐっしょりだ。靴も蒸れて気持ち悪い。強烈な太陽光、紫外線対策として長袖である軍服も、手にしているフィルターもだ。それらは熱気にあてられすぐさま蒸発して行くが。少しでも口を開けると砂の味と共に水分が失われ、味もしなくなる。酷い有様だ。

 

 その隣にはもはや声も上げる気にもならないと、伍長が座り込み取り付ける筈のフィルターを頭から被っている。ピクリともしない。フィルターに覆われ、陰になった顔は見えないが、きっとマンガの様に目をグルグル回している事だろう。正直に言うとブーツ越しからの熱も凄い。よく座れるものだ。

 上も下も、右も左も外も中も何もかもが熱い。灼熱、焦熱地獄だ。熱はか弱い人間からあらゆるものを容赦無く、根刮ぎ奪って行く。その激しい自然界の厳しさに、背筋が凍りつく様な寒気が身を震わせる。それもまた一瞬で消えて行くが。

 

 さすが人を拒む土地(アネクメネ)、こんなとこに住もうと言う奴の気が知れねぇ。

 しかしまぁ、地上は加速的に砂漠化も進んでるし……まぁ、また違う厳しさを持つ宇宙を開発しようって思うわな。

 

 人の発明は人を豊かにしたが、地球を豊かにした訳ではなかった。それどころか、その資源を使い潰す勢いに乗った豊かさだったのである。

 

 大気中のCO2を始めとする温室効果ガス濃度の増大に端を発する、地球全土における平均気温の上昇。地球温暖化による気候変動、異常気象は今に始まった事では無い。

 しかし、激しい温度差は緑を穿ち、その土地を砂漠へと変える。温度を安定させる緑地が減ると、更に温度差は大きく激しくなり、砂漠化を進めるのだ。人はこの過ちに気づき、最大限とは言わないまでも、極々最低限の努力は続けて来た。それによる速度の停滞は、コロニー落としによる大規模変動により大きく損なわれ、大気中に舞い上がった海水やチリにより平均気温こそ下がったが、急激な寒暖の差に、命の恵みをもたらす太陽光線を遮られ木々はその数を大きく減らした。

 その結果砂漠化は進み、結局温暖化にも拍車がかけられなくなってしまったのである。

 

「……伍長、生きているか……?」

 

 しかし、今直面している事態に対応する少尉達に、そんな学会のお偉いさんが主張する高尚な説教は耳に入らない。

 

──あー、砂でザラザラだ……。シャワーを浴びたい。切実に……。目も違和感、異物感が酷い。粘膜という粘膜が熱と砂に侵されて行く様だ。服もジャリジャリ、口もジャリジャリ、ここにずっといたら進化して砂肝でも出来そうな勢いだ。勘弁してくれ。

 

「…おやっさぁん!修理はあとどれくらいで!?」

「後は点検だ!!夜には動き出せる!後少しは辛抱せぇよ!」

 

 怒鳴り声も砂漠に吸い込まれて行く様に錯覚したが、しっかりと届いていた様だ。帰って来た怒鳴り声にまたげんなりしつつ、少尉は自分の奥底に少しは残っているだろうなけなしの元気を振り絞り、握り拳を振り上げ大声を出す。ややフラついたが仕方がない。

 

「……聞いたか2人とも、各自、シーリング開始!!」

 

 頭の上を焼く太陽に挑む様に、その拳を振り上げた少尉は、粗削りされた抵抗者(レジスタンス)の銅像の様だった。

 

「……了解…」

「………」

「てめーら!!気合いれてけ!!俺達の仕事だ!!」

「「おう!」」

 

 タイヤの点検をしていた軍曹が、音も無く立ち上がり仕事に取り掛かる。少尉も自ら頰を張り歩き出す。この暑さは、流石の整備兵たちも少しキツイらしい。おやっさんも少々イラついている。それは暑さだけではなさそうではあるが。

 

──現在、我々は、"アリゾナ砂漠"中央部で立ち往生中だ。

 

 その原因は既に判明している。コンボイがエアダクトから砂を吸い込み、そのまま故障したのだ。故障の程度こそ小さな物で、修理、と言うより清掃は直様終了した。しかし、何らかの対策を打たなければもう一度同じ事が起きるのは明白であり、そのための作業が開始されたのだ。

 なので、気温が53°Cなんつーヤバい炎天下の下、コンボイ、兵器類の防塵フィルター装着大会だ。軽く死ねる。と言うより死に刻一刻と近づく。ジリジリと言う音が聞こえて来そうな中汗を拭う少尉は、確かに命が削れすり減る音を聞いていた。

 

 時間は一一○○(ヒトヒトマルマル)を回ったばかり、まだ太陽は頭の上にすら来ていない。これからもっと気温は上がって行くんだろうなぁ………。からりと晴れわたる砂漠の空に陽を遮る雲など浮かんでおらず、激しい光が歩く死者を照らしているかのようだ。

 

 汎用、と言ってもそれは土地に合わせた対策が出来るという事だ。ディーゼルと電気のハイブリッドで動くコンボイ、ディーゼルで動く"マゼラ"を始めはもちろん、冷却系の殆どが空冷式の機構を持つ"ロクイチ"、"ザクII"もその例外ではない。それに、砂が入り込むのは何もダクトだけでは無い。ホンの数ミクロンの隙間さえあれば、奴らはスルリと滑り込んでくるのだ。

 

 特に"ザクII"は全身に複雑な機構の関節を多数持つため、シーリングは絶対だ。そのままでも無問題とまでは言わないまでも、誤作動や作動不良は戦場において隙を作り出し、その隙は忽ち死に繋がるものだ。決して油断ならない。そのため間接部にはカバーを被せ、ダクトには防塵フィルターを装着している。また装甲表面からの廃熱も行われているが、"ザクII"の主な廃熱部分は機体表面に露出した動力パイプである。弱点となりうるパイプの露出は廃熱のためであるらしく、そこにも耐熱シートを被せ熱が籠ら無い様にする事となり、やや不恰好になってしまった。 

…後で関節の駆動状況やセンサーの稼働調整もしなけりゃなぁ……。一仕事を始める前に、やる事がどんどん積み重なって行く事に頭痛を感じつつ、少尉は角をぴったりと合わせフィルターを取り付けながらこっそりと溜息をついた。

 

「……伍長、頑張れ…」

「………………………………………………むり………………………………」

 

 軍曹に連れられ、日陰に座らせられた暑さに弱い伍長は溶けている。まぁ、予測はしていたが………。いや、待て。まだ、砂漠に入って数時間だぞ?

 しゃがみ込みフィルターをかぶった顔を覗き込む。案の定ぐーるぐるだ。頬に手を……って汗かいてねぇ!ヤバいかも!

 

「………少尉…」

 

 軍曹が目配せするのに頷いて答え、少尉は腰に手を当て残る手で伍長を指し示しながら口を開いた。

 

「…分かってる。コンボイの中で寝せといたげて。倒れられても困るし、たった一人の女性兵士(WAC)だし、ウチに伍長に対して文句いう奴もいないでしょ」

 

 人間は汗をかき、その汗が蒸発する気化熱で身体を冷却し体温を保とうとする。言うなれば水冷式ラジエーターと同じだ。人間の発汗機能は優秀で、他の動物とは一線を画す。長時間歩き続けられる体力や、あらゆる環境に適応する人間の特異さを支えているものでもある。ただ、冷却水と違うのは、その時に水分やミネラルなどを消費する事だ。そして、その汗が出ていないのは脱水症状の危険信号だ。そもそも喉が渇いたと感じる時点で身体はかなり脱水を起こしているのである。身体中の水分は汗として排出する以外もあらゆる事に使われ消費されていく。水は人の体を形作り、それを支えるものなのである。なので砂漠などの乾燥地帯などでは、自分の体感などに関係無く、定期的に水分を一定量取り続ける事が生き延びる上で重要なのである。

 

「……了解。少尉も、無理…しないようにな……」

「…分かってる」

 

 軍曹が手早く伍長を担ぎ、2重のハッチを開放したコンボイ内へと消える。一瞬中の空冷の効いた涼しい空気を感じたのも束の間、軍曹はコップに水を汲んだものをトレーに載せすぐに戻ってくる。それを集まり作業を既に始めている整備兵達と見届け、水を受け取る。ほんのりと塩と砂糖が混ぜられた水は、口に含んでもあっという間に身体に溶けていく。暑い時に良く冷えた水分は心地良いが、身体にはあまり良くない。そのため、適切な温度にする必要があるが……軍曹、いつ温度管理したんだよ?

 

「……美味い…」

 

 手早くコップを回収し、また戻る軍曹の背を見つつ、少尉は独りごちる。伍長は意識はあった。点滴は必要無いだろう。軍曹もそれを承知で水を取らせているはずだ。こんなつまらない事で戦死者(KIA)を出す訳にもいかん。後で部隊全体に通達を出しておこう。

 

 思い返すと、駄々をこねる伍長と、その世話を焼く軍曹が"夫婦"と揶揄されるのも納得がいく。相変わらずの2人である。

 

「あー、染みる……団長、ごちょーちゃんお昼寝っすか?」

「はい。すみません。環境の変化に耐えられなかった様です」

 

 腕をぐるぐる回しながら近づいて来た整備兵の1人が、少尉に問いかける。少尉の応えに肩を竦め、やれやれと首を振っているが、そこに妬みや嫉妬が無い事に少尉は安堵した。

 

 人間はストレスに弱い。そして、戦場の最前線は、居る事自体が大きなストレスとなる。大きなストレスがあると、日常生活のほんの些細な不平不満、ストレスは発散しようも無く蓄積し、それは士気の低下、治安の低下などに繋がる。それはさらなるストレスを呼び込み、負のスパイラルに落ち込むのだ。

 歴史を見ても、敵の攻撃による殲滅などは滅多にない。戦闘や撤退を繰り返したり、多大な被害を出したり、不衛生な環境や対人関係の悪化、傷病者の蔓延、あらゆる事による内部崩壊、脱走による人数の低下に機能不全、その結果による機能停止、壊滅が殆どだ。その先駆けとなる部隊内での虐めや私刑(リンチ)はシャレにならない。

 

「はっは。若いレオナ嬢に無理はさせてはなりませんからな」

「しっかたねぇなぁ…俺らががんばっか!」

 

 笑い声をあげる整備班。本当におおらかな人が多く、喧嘩など見た事も無い。勿論仕事にはプライドがあり、行き違いから言い合いになる事はしょっちゅうだが。

 この前も"ロクイチ"に取り付けるシェルツェンと車外装備品(OVM)について揉めていた。シュルツェンをつけるならOVMはロンメルキステに納めるべきという主張には頭が痛くなった。個人的にはガタガタギシギシ煩いのと作業の時に邪魔になるのが一番嫌だとは言い辛かった。おやっさんの仲裁によりおやっさん設計、モジュラー装甲のチョバム・スペースド複合アーマーの一部に叩き込む事になった。どんな設計だ。

 

「しっかし熱いぜ!滾るな!」

「それでは皆さん、頼りにしてますよー」

 

 声を上げる整備兵達を盛り上げる事に徹する少尉。因みにこの人はシュルツェン論争においてはそんなものよりスカートアーマーだとスカートアーマーに固執していた。同じ様なもんだろ。そしてOVMはシュルツェンの裏側に付けてはどうかと発言していたが、脱落して困るから採用されなくて良かった。

 

「やっとか野郎ども、ちゃっちゃと終わらせっぞ!!」

「「おう!!」」

 

 やる気を出し始めた整備兵達に、おやっさんがレンチを振り上げ鼓舞する。それに倣い、気合を入れ直した整備兵たちがテキパキと働き始める。少尉はそれを満足気に見つつ、フィルター部に簡易改造を行い始めたおやっさんに声を掛ける。

 

「おやっさん!"ザクII"のチェックに入ります!シーリングは任せました!」

「おうよ!何事の要もお前さんだ!好きな様にやれ!背中は支えてやる!!」

「感謝します!!」

 

 頼りになる人だ。ぺこりと頭を下げ一礼する少尉は、そんな感想を胸中で浮かべる。そのまま回れ右をし、コンボイへと向かう。その足取りは軽く、地面の砂に足を取られる事も無い。行き先は後方のコンテナ、"ザクII"だ。

 

 ウチのコンボイはおやっさんの横領、改造その他諸々による私物に近いため、かなり高性能だ。いや、異常とも取れる。

 駆動は基本的には電気駆動であるが、緊急時の為のディーゼルを搭載しハイブリッド運用も可能である。その電気も太陽発電に高性能バッテリーにより不足は無い。それに燃料電池により水があれば発電できる上、今は更に"ザクII"の予備の核融合炉で電力には困らない。流石に砂漠では廃熱の関係上頻繁に核融合炉はおいそれと使えないだろうが。

 それでも水の循環システムはかなりのもので、雨水や水溜りの水はおろか、大気中の水分さえも何でも取り入れ、濾過し安全に使用出来る。井戸を掘る機械も積んでいるとの事で、砂漠だろうと全員が毎日20分シャワーが浴びれる。それら全ての機能がほぼ全部おやっさんのお手製だ。ベースがあったとは言えその面影はなく、廃品のパーツを使ったハンドメイドに近い。

…………何者だよ…………。

 

「……少尉、偵察へ行ってくる…」

「おぅっ!?…出来るのか!?」

 

 歩く少尉の隣に、迷彩服の男が姿を現わす。その傍らには迷彩が施されたバイクがあり、荷物が無造作に括り付けられている。防塵ゴーグルを上げた下から現れたのは軍曹だ。殆ど警戒してはいなかったとは言え、フル装備の男が音も無く近くにいた事に驚きの声を上げた。

 

「……コンパスが、あれば……」

「流石だな…頼むぞ……って地図は?」

「……地図は、作る物、だろう……?」

 

 少尉の言葉に、当たり前だと言わんばかりの軍曹。陸軍地図作成部隊(トポ)がある様に、地図を製作するのはかなり専門的な技量がいる。かつて、カエサルが地図と暦製作に力を入れ、数学者を多く雇った様に、時間、場所を正確に把握出来る事は作戦上において大きなプラスとなる。全地球測位システム(GPS)が殆ど活躍しない今、それはありがたい。

 

「…そ、そうか…頼んだぞ?」

「…了解……」

 

 マッピング出来るのかよ。こんな目印も何も無い、数十分後には地形が変わる土地で………。それに軍曹なら見つかるなんてヘマは決してしないだろう。頼もしい限りだ。

 少尉含め、基本的に素人や実戦未経験者、実戦経験が薄い者が大多数な中、かつて傭兵として実践経験を積んで来たらしい軍曹は特異な存在と言える。少尉は士官学校(OCS)であらゆる専門的な事を学んで来たが、実践するのとはズレが生じ苦労していた。様々な点でイレギュラーな今を支えて来れたのは、軍曹の力が大きい。

 

「…分かった、任せる…気をつけろよ」

「…夜には、必ず……」

 

 相変わらずの|仏頂面(ドッグフェイス)で一切汗をかいていない軍曹がバイク1台で偵察へ出て行く。星も無い昼間でも偵察が出来るのは軍曹だけだ。そもそも明確に敵地(インディアン・カントリー)であると確認している訳では無いが、 中間地帯(ノーマンズランド)とは言え安心して単独行動を任せられるのは軍曹だけだ………本当に何でも出来るな……。

 

 エンジン音が鳴り、砂埃を上げ走り去る軍曹を見送り、最優先でシーリングが施された"ザクII"に乗り込む。機体は寝かしてある為、背の低いキャットウォークから簡単に乗り込めるのは有難い。地上におけるMSのコクピットへのアクセスは正直良いとは言えない。直立時など緊急時に素早く乗り込めないのは問題だと思うのだがそれは地球人(アースノイド)的発想なのだろうか?だからと言って寝かしても、今度は迅速な行動が取れないし…そこも宇宙での使用を大前提に作られている箇所である。

 無敵とも思えるMSも、まだ発展途中の兵器だ。その周辺機器や人もそうである。問題は山積みだ。

 

 さぁて、やる事は様々だ。地面の摩擦や接地圧から、廃熱状況、大気と映像の揺らぎ、気温によるレスポンスや動きの違いなど、改めて砂漠という環境にこの"ザクII"と共に慣れる必要がある。

 経験が必要なのは、決して人間だけではないのだ。

 

 もう立ち上げるのも慣れた物だ。既に少尉は、MS、そして"ザクII"と言う存在に適応しつつあった。大地を踏みしめ、巨体を浮かび上がらせ巨砲を振り回す巨人に。これから世界を席巻し、覇権を握り、次世代の尖兵となりうる存在に。

 少尉が乗り込んだ事によりCECS(環境コントロール・システム)が作動し始める。コクピット内は空調が働き始め、あっという間にコクピット内は温度、湿度などが最適の状態になる。

 

「ふー……」

 

 首を廻らせ、張り付いた襟を立て風を通し、少尉は一息ついた。いくらコクピット内が狭いとは言え、相変わらず凄まじい空調設備だ。大事な兵器であるから、万全な体制で戦って欲しいのだろうが……。与圧の速度も人間が耐えられるギリの速度である。その様な技術がコクピットには全投入されているのだ。それは人的資源を重視するスペースノイド的な進化であろう。

 空調一つとってもこれ程の性能を誇るのは、MSは元が宇宙機器であり、兵器としての耐NBC性も持たせる為でもある。本来人間の生きる事の出来ない過酷な環境、宇宙に対応する為ちはかなりのマシンパワーが必要であり、オーバースペックとも取れる位だ。実際宇宙空間においてコクピットが解放されても、ものの十数秒で与圧が完了されるレベルなのである。それ程の性能を持つ者物にとって、この程度の事は児戯にも等しい。

 

 マニュアルによるとMS搭乗時は戦闘用軽装宇宙服(ノーマルスーツ)の着用が義務付けられているが、少尉は基本的に野戦服である。しかし野戦服をベースに、タンカースジャケット、タンカースヘルメットを着用し、ベルトハーネスとサスペンダー、耐Gスーツを身につけるというかなりちぐはぐな格好をしている。MSは基本的に戦車的な運用であるが、航空機の様な高G機動を行う事もあるため、ある装備を工夫し身につけているのだ。

………それには、流石にジオンのノーマルスーツを着るわけにもと言う話と、またノーマルスーツは戦闘用であり、余裕を持った設計の重装宇宙服とは違い、その性能は最低限を満たしているに過ぎない事が挙げられる。要するに地上だと着心地があまり良く無いのだ。また、少尉はそれらの服装に加え、脱出時(イジェクト)に地上戦に参加出来るようチェストリグを身につけていた。

 

 あらゆるヴェトロニクスが立ち上がり、メインジェネレーターも稼働し始める。目の前のメインスクリーン映し出された光景には、雲ひとつない青い空が映る。既にある程度光量の調整がなされているが……眩しいな。少尉は直様手元のコンソールを叩き、メインカメラ、センサーの設定を始めつつ機体を操作する。

 

「動かします!!離れて下さい!!」

 

 ヘルメット一体型のインカムに呼びかけつつ、少尉は起動準備を終え、全関節のロックを解除しフットペダルを踏み込む。それと同時に、信号を受けたコンボイ側が自動で準備に取り掛かる。連動した動きで機体を横切る様にして巡らされたキャットウォークがスライドし、拘束が解除される。巨人の拘束は解かれた。

 

「了解!みんな離れてー!」

 

 上体を起こす"ザクII"。整備兵の1人が誘導棒を振りつつ周りに注意を促そうと叫んだ。コクピット内の少尉はモニター上に小さく映る彼をマニュアルでピックアップしつつ、起動後直ぐに誘導棒を振る人物が居たら自動でピックアップするプログラムを組み始めていた。チカチカと断続的に光を放つ棒をぼんやりと見つめ、少尉はその動きに合わせゆっくりと"ザクII"を操縦する。

 圧搾空気を搾り出すような音を出し強制排気が行われ、震えるジェネレーターと連動し機体各部の流体パルスモーターが唸りと共に駆動する。それらの一連の働きは大気を震わせ風を生み、濛々とした砂埃を巻き上げさせた。吐き出された熱が陽炎となり、蜃気楼の様にゆらめく。轟音が広い砂漠へと響き渡り、砂と岩の間に吸い込まれて消えて行く。

 

「うわっぷ!砂埃が!!」

「遠くからでも見つけられそうだな、うーん……」

 

 整備班達が額に手を当て見上げる中、砂漠の真ん中に18mの巨人が立ち上がり、陽の光を受けその姿を浮かび上がらせる。砂山の稜線をも越えて延びる長い影は、まるで伝説の中にのみ登場する巨人か、デイダラボッチの様だ。頭部のモノアイが独特の起動音と共に灯り、またも独特の音を出しながら再発光する。

 周囲を油断無く見渡し、走査する一つ目は、薄れ行く砂埃の中鈍く輝き、その先を見通していた。少尉はマスターモードを変更、試行的に歩行モードを再設定、データを取りつつ基本動作を行う。やはりレスポンスは重く、動きは硬い。そのぎこちない動作にまた振り回されつつ、少尉はその暴れ馬の綱を握る。砂上で踊る影は長く、それはまるでダンスのようだった。

 

「うわっ……と、とと……」

「少尉ー!歩行モードの変更を!!砂に足を取られてまーす!!」

 

 やや離れた位置から見ていた整備兵の1人が、大きく腕を振りながら足元を指差す。軽く発生した流砂に足を取られ、両手でバランスを取りながら斜面をゆっくりと滑り落ちる"ザクII"。何処と無くサーファーの様な動きに笑い声と拍手が聞こえてくる。シーリング作業を続けていた整備兵達も一度手を止め、面白おかしく踊るMSに失笑を隠さないでいた。

 コクピット内の少尉は内心焦りつつ、手元のコンソールを叩く。感に触る電子音。またエラーだ。もう2度目。自分の不手際とMSの融通の利かなさ、中々上手くいかない事に舌打ちしつつ再挑戦。『二度ある事は三度めまで』。またもビープ音。額から流れる汗を拭い、少尉は声を上げた。

 

「分かっています!センサーも誤作動が……細やかな変更がかなり必要っぽいですね…」

「こちらからモニタリングもしてまーす!安心してくださーい!」

「感謝します!後で摺り合わせ頼みます!!」

 

 サーバールームの窓から振られた手に振り返し、少尉は感覚を集中させる。

……そう、MSの感覚に乗るのだ。そして、それで出る誤差分調整すればいい。言葉では簡単であるが、実際やるとなるとそれは困難だ。それは砂漠と言う環境がジャマしているのが大きいが、少尉の不手際の方が大きかった。身体で覚えた事を理論化する事には困難が伴い、ズレが生じる。効果的な操作に慣れ始めたとは言え、少尉はまだこの世界の新参者に過ぎないのである。

 

 また、一口に砂漠と言っても、岩石砂漠(ハマダ)、礫砂漠、砂砂漠(エルグ)、土砂漠など全く別物と言ってもいいレベルで地質は違うのだ。環境やその性質も違うと言ってもいい。MSのパワーがあればそれを強引にねじ伏せる事も出来無い事も無い。しかし、それでは意味が無いのだ。効率的、効果的運用こそMSの真髄。常に最大限の能力を発揮させる為にも、対応は必須と言えた。

 

 それを困難にさせる最大のポイントは、戦車などの安定した履帯とは違い"ザクII"は不安定な二足歩行である事だ。接地面積の問題から圧力まで全然違う。カンジキでも履かせた方がいいかもしれないぐらいだ。

 二足歩行は、基本姿勢である直立状態が不安定と言うかなり非効率的な物だ。立っている事、それだけでバランサーに負担を掛けるのである。そのためMSは機体各所にセンサーを設けてはいるが、それも今砂漠の環境で麻痺している。言うなれば目隠しをして砂場で片脚立ちをしているに近い。

 

 少尉は決断した。マスターモードを変更し、歩行とバランスに重点を置いたモードへ設定する。そして、それら全てにリソースを割き、操縦桿、フットペダル、コンソールの殆どを歩行に充て、その動作全てを直感的動作によるマニュアルにて行った。

 

「ととっ、うん……よし……」

 

 下手をしたら転び癖などが付いてしまう危険な賭けに、少尉は運と実力を持って打ち勝った。大きく傾く機体に間一髪フットペダルを蹴飛ばし、操縦桿の操作でなんとか揺らぐ機体を安定させる。そこからさらにセンサー、レーダー、ダクトや冷却系、関節、駆動系、フレームなどのチェックと微調整を続ける。それにより移り変わる動作に、機体もまた追従する。

 少しずつ安定していく動作に、今度は拍手が上がった。少尉はそれにサムアップで応え、含み笑いと共に改めて操縦桿を握り作業を再開する。

 

 途中何度もよろけるが、転ばずにはすんだ。コクピット内の至る所に次々と緑のランプが灯って行く。自己診断プログラムを走らせてみても、機体各部の設定も順調だ。その事に満足気に息を吐き出し、一度背もたれに大きく身を預ける少尉。戦闘機動はまだまだであるが、最低限重機としては使いこなせそうだ。

 

「主なシステムチェックは8割がたすみましたよー!兵装やFCSはどうします!」

「それはまた後でお願いします!」

 

 "コロラド河"渡河作戦から、少尉はメキメキとMSの操縦技術を向上させつつある。それに、MSの事も分かるようになっていた。そのため、"ザクII"のパイロットは正式、と言っても部隊内であるが少尉となり、軍曹、伍長より優先して搭乗、及びシミュレーターが出来る様に取り計られていた。また、機体の設定や改良、新装備の開発なども少尉の発言権や優先権がかなり強くなり、実質専用機となっている。

 しかしその1人と1機も、全く新しい、過酷な砂漠という土地には慣れていなかった。ジオン軍とはゲリラ戦に近い遭遇戦こそあれ、追撃部隊が無いと言う事はバレていないか優先度が低いかである。それでも次戦闘がいつ起こるかなど誰も判る筈も無く、偶発的な戦闘に備え一刻も早く対応する必要がある。MSは、両軍にとって現時点での最大の戦力であり、それは我が旅団に於いても間違いではないのだ。このアドバンテージを活かせずして、この旅団に光明は差す事は無い。指揮官として、またパイロットととして、比喩では無くこの旅団の存亡は少尉の双肩にかかっていると言っても過言では無いのだ。

 

 また、少尉が急いでいるのにもただの焦りからでは無く、勿論理由がある。現在、"サムライ旅団"が警戒すべきなのは追撃部隊だけでない。

 周辺友軍基地の壊滅、都市の破壊と住民の疎開、インフラストラクチャーの破壊、ミノフスキー・エフェクトによる超長距離通信の断絶により"サムライ旅団"は敵味方からスタンドアロンな状態となっている。そのため、前線の状態など主な最新の情報源は時折砂嵐の奥からノイズ混じりに聞こえてくる海賊ラジオ局か、地球連邦軍、地球連邦政府、ジオン軍によるプロパガンダニュースぐらいしかない。それもノイズ混じりで、完全な情報が得られる訳で無かったが、そこに興味深い情報があったのだ。

 それは、地球連邦政府によるレジスタンスを呼び掛けるニュースの一つと、ジオン側の海賊ラジオ局による、都市の『解放』ニュースからだった。現在、ジオン地上侵攻軍・北米降下部隊の大半は"キャリフォルニア・ベース"、"ニューヤーク"および"シアトル"周辺に降り立ったが、この砂漠にも多く降り立ち、大気圏突入の際のイレギュラーや風により落下傘が流され、広範囲に渡って散らばった降下ポッドを集め、物資集積所を作っているという情報があったのだ。

 

 それに、少尉は腕を上げていると言っても、"1週間戦争"、"ルウム戦役"などの戦争初期から乗り続けてきた歴戦の猛者であるジオン兵とは比べものにならない。

 お互いMS戦事態は初めてであろうが、敵は鹵獲された事を想定した対MS戦闘訓練はあるだろうし、長く乗り、動かしているというその経験値の差は土壇場になって現れるもので、実際侮る事など出来はしない。仮に真っ正面から戦えば、恐らく赤子の手を捻る様にあっさりとヤられてしまうだろう。少尉にまだ直感的、咄嗟の対応を求めるのは酷だ。

 

 更にこの砂漠という特殊な環境下での戦闘経験の違いは大きい。人間の長所として、適応、即ち慣れの速さがあるが、それにも限界はある。

慣れない環境にやっと慣れ始めた兵器。問題は山積みだ。問題が積み重なれば積み重なる程、そこの問題は圧縮され、埋もれ、隠される。落とし穴とはその見失った問題が作るものだ。

 

 それに問題はそれだけではない、少尉の最大の懸念は、ジオン軍本隊の南下だ。

 

 地球連邦北米方面軍が抵抗を続けているとは言え、ジオンによる北米の実効支配は時間の問題だろう。それを終えたら、次は地球連邦軍総司令部"ジャブロー"だ。"キャリフォルニア・ベース"を奪われ、その軍需工場を利用しジオン軍は着実に迫ってきている。他の主要基地の大半も機能停止ないし奪取されてしまっている。そんな大隊にこんな戦力の少ない旅団が敵うはずも無い。逃げ切らねば明日は無いのだ。

 

「どうする………?」

 

 顔を顰め、唇を噛み締める少尉。少尉の判断がこの旅団の判断となる。少しでも判断を違えば、敵の戦線に突っ込みかねないのだ。まだ若く、経験の少ない少尉には荷の重い話だった。

 

《おーい!!少尉!ちょっといいか!?》

「なんです?ちょっと待ってください!」

 

 インカムからおやっさんの声がする。少尉は"ザクII"の膝をつかせ、コクピットを開放し目視する。モードを変更、掌をプラットフォーム代わりとして利用、人が小人を下ろす様にしておやっさんの前に立つ。おやっさんはパラソルの下、折り畳み式の机の前で腕を組んでいた。口にはタバコが咥えられており、ゆっくりと紫煙が立ち上っている。気づかなかった。やはり18mと言うサイズは巨大だ。それをいやでも実感させられる。それかメインカメラのノイズキャンセラーかも知れない。

 

 それにしても、この砂砂漠ではノミみたいなものであるが。砂山の描き出す稜線は高低差平均60m前後とも言われる。背の高いMSさえ、谷の底では発見されない。そのため、砂山の稜線に立たない限り案外視界は通らないのだ。しかし、稜線移動は相手に姿を一番晒している状態でもある。なので、この様な時は山の斜面中腹を行軍するのがいいのであるが……。こんな中、高濃度のミノフスキー粒子などが散布されたら、山一つ挟み、敵味方仲良く並んで行軍、何て事になるかもしれないな……。

 

「どうしました?」

 

 地図を前にするおやっさんに声をかける少尉。地図には様々な地形情報、敵の本隊、前線の位置などが書き込まれていた。その中に、一つのコマが置かれている。それが我が"サムライ旅団"だ。顔を上げたおやっさんは地図の一部を指し示しながら口火を切った。

 

「これから砂漠を南下して、"ジャブロー"を目指すんだろ?」

「はい、その予定ですが……?………トラブルでも?」

 

 地図上に指を這わせながら、おやっさんが続ける。紫煙が口から吐き出され、少尉は少し顔を歪めた。その時、不意に周囲が暗くなった。珍しく雲が陽を遮ったのだ。その事に妙な胸騒ぎを感じつつも、少尉は口を開く。

 

「いや?なら、この先に多くあると思われる物資集積所を襲撃しつつ進んでくれないか?」

 

 灰皿にタバコを押し付け、顔を上げるおやっさんの思わぬ提案に、少尉は思わず顔を顰めた。そのまま顔を下げ、顎に手を当てながら地図を見下ろした。なるべく戦闘を避けろ、なら理解出来るが、積極的に仕掛けて行けとは………?

──何故だ?この戦力で……そもそも積極的に戦闘を仕掛けるリスクを超えるメリットはあるのか?小規模の物資集積所であろうと保有戦力はそこそこのはずだ。何たってジオンには資源が無い。物資の確保は死活問題のはずだ。

 それにジオンは今破竹の進撃を続けているらしい。補給線、戦線も伸び切っているだろう。なおのこと物資やその輸送に関しては必死に………。

 

 もしかしてならんのか? 兵站や補給、輸送を軽視するなど愚の骨頂だと思うのだが……目先の勝利につられてんのか?旧日本軍かよ。

 

「……何故です?」

 

 怪訝な顔を上げ、少尉は問いかける。おやっさんはその顔を一瞥し、両腕を頭の後ろに組み背もたれに倒れかかりながら続けた。風にパラソルが揺れ、足元に砂埃が舞い上がる。風の生み出した小さな音は、直ぐに聞こえなくなる。

 

「水、それに"ザクII"のパーツが第一の目標、第二の目標はジオン軍南下を少しでも遅めることだ。それに、MS同士の戦闘データも取れる。"ジャブロー"への手土産にしたい」

 

 手土産、と言う言葉に少し引っかかりを感じたが、おやっさんの意見も最もだ。少尉は、自分が大局的な視点に立てていない事に恥じらいを感じ顔を伏せた。

 確かに俺たちは俺たちだけで戦争しているわけではない。分城がいくら奮闘しその場を死守しても、本丸が墜ちたら何にもならないのだから。今、苦しい戦いを強いられているであろう友軍を少しでも援護出来るなら、出来る限りでやるべきだ。

 

「成る程……ジオンは南下する時、ここら辺の物資集積所を当てにするから……判りました。偵察が帰還し次第、その様に動きましょう」

「よろしく頼む。資源に物資もまだ余裕はあるが………あるに越した事はないからな」

 

 頷く少尉に、新しく咥えたタバコひ火をつけ、含み笑いを漏らすおやっさん。タバコの火が強く光り、少尉の目前で揺れる。その光をボンヤリと眺める少尉から目を離し、おやっさんは空を見上げた。

 

 行く先々の拠点を墜とす……これは、"コルドンシステム"といって、どんな攻撃にも対応しやすいように慎重に兵を広く展開させて、相手の要塞を落としていく戦略だ。確か、中世に流行った戦法だったハズだ。

これにより行軍中は突発的な小規模な戦闘が主体となり、襲撃から発展する様な大規模戦闘で戦力を擦り減らす様な事が起きづらかったため、敵の攻撃により消耗する兵力も少ないという利点もあった。ま、だからこそクッソ長引いたんだよね戦争。夜も夜襲とかかけないし。

 またこれにより、小規模な小競り合いが起きた所へ蓋をするように予備戦力の漸次投入が可能であるため、情報次第で軍隊の柔軟な運用が出来たのも大きい。これには中世でも兵站の確保が難しく、高地などの有利な位置を多く確保した方が勝つ、要するに陣取りゲームに近かったという背景があったからだ。

 そして、その"コルドンシステム"を無駄と切り捨て、部隊の集中で敵軍主力を叩いて勝ちまくったのが、かの有名なナポレオン・ボナパルトである。部隊を一極化し、楔の様に敵陣を喰い穿ち、速さを持って敵を討ち破るのである。

 そのため、ナポレオンは攻城戦に関しても物資と補給が、何より時間が極端に必要になる事から無駄だと切り捨てたのだ。

 

………しかし、我々にはそんな戦力はない。そもそも一個中隊にも満たない逸れ兵力に、その様な戦法は不可能だ。そもそも展開したら一部隊素人2、3人と言う訳の分からん事になってしまう。これでは各個撃破どころか容易に包囲殲滅……つーか落伍した敗走軍だなこりゃ。実際そうなんだけどさ。

 つまり、我々は、その槍衾を突く事となる。かえる跳び作戦にも近いかも知れない。………いや、山賊の略奪か?

 これは只の軍隊であれば愚策となろう。しかし、我々が置かれている状態はいささか特殊過ぎるのだ。特殊ならば、特殊なりの新たな戦略の構築が必要となる。新しい兵器、新しい戦場、そして新しい秩序。これは、何もかもが新しい新世界への対応の第一歩となるだろう。

 

 話しながら時折吹く風に目を細める少尉。砂埃を巻き上げる風を目で追い、おやっさんも同じ様に遠くを見つめる。額に手を当て庇の代わりにし、翳り始め、紫を纏う日が沈み行く遙かな地平線を眺めている。ゆらゆらと揺れる陽炎の海に光を投げかける太陽は、誰にも平等だった。

 

「……綺麗、ですね。おやっさん」

 

 ポツリと言葉を零した少尉に、おやっさんは大きな笑い声で応えた。

 

「うははははっ。そんな歯の浮く様なセリフは、好きな女の為にとっとけや……ま、それには同意だ。美しいものは、美しい。それがなんであれ、な」

 

 話しながら、おやっさんが夕陽から"ザクII"へと視線を移す。戦争の道具であり、殺戮兵器である18mの巨人は、その緑色の装甲を赤く染めながら静かに膝をついている。果てなき大地、巻き上がる砂にも微動だにせず、燃え尽きる灰の中から生まれ出づるかの様だ。

 

 その姿に、少尉はアフリカのとある伝承を思い出していた。砂漠の民は、風がある紅い夕陽の刻、決して砂漠には出ないそうだ。

 砂漠の風(ジブリ)と共にやってくる"死神"の列に、魂を連れて行かれるから、と………。

 

「なんであれ、ですか……確かに、この"死神"も……」

 

 言葉を切り、"ザクII"を見上げる。シーリングが完了し、起動テストも終えた今、整備兵達が取り付き偽装用の幌を被せている。風にはためく幌は、死神の纏う外套に見えなくもなかった。

 

「"死神"?うははははっ。面白い事を言うな少尉は。この俺たちの"守護天使"(アークエンジェル)に向かって、"死神"だとは……うははははっ」

 

 おやっさんがポンと肩を叩き、そのまま手を振りながら歩いていく。叩かれた肩に手をやりながら、少尉はおやっさんを見送った後、紅く染まった"ザクII"を見上げる。

 当たり前であるが、身じろぎ一つせず、ただ主を待ち続ける姿は、美しい彫刻の様ではある。あるが………。

 

「──おやっさん……死神は、天使の振りをして微笑みかけるものなんですよ…………」

 

 誰に言うともなく呟かれた言葉は、風にさらわれ、陽の沈み行く砂漠へと溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全に日が落ち、気温がガクンと下がった。整備兵達は防寒の為コートを着て整備を続けている。が、それでも昼よりは楽そうだ。

 これからは移動などは夜だけにしようか……。見つかるリスクも下がるし、それに、闇夜に乗じて物資集積所を襲撃出来るかも知れない。お世辞にも戦力は高いとは言えないので、奇襲がこれからもメインとなるだろう。奇襲、闇討ち、夜戦、ゲリラ戦は戦争の常套手段だ。果たして、宇宙(そら)のシリンダーに住む宇宙人には理解出来るかな?

 

 仕事を粗方終え、少尉は伍長の様子を見に行く。見つけた伍長は、今度は整備兵の起した焚き火に当たりながら毛布に包まり丸くなっていた。ハタから見るとプルプル震えている毛玉に見える………。

 

「あ、少尉?どうかしました?」

 

 暖かな光が揺らめき、それに照らされた毛布が蠢き、中から顔だけをひょっこりと覗かせた伍長が首を傾げる。其の姿はペットキャリーに入れられた犬か何かの様だ。立ち竦んだ少尉は、困った様に頭を掻きながら口を開いた。

 

「……いや、なんか……」

 

 自由でいいね、と。少尉は喉元まで出かかった言葉を危うく呑み込む。てゆーか環境の変化に弱過ぎでしょ。元スペースノイドは分かるけどさ、地球(ここ)に来て何年よ?いい加減慣れ……られんかもう……。

 軽く息を吐き、呆れつつも顔にはださず、火に枝を焼べ、伍長の隣に座る。伍長が寄っ掛かって来るが、気に留めず火を調整する。風は止んだが、火は焼べる物が無いともちろん消えてしまう。種火が消えると厄介なのだ。

 

「寒いですねぇ。暑いのも寒いのも大っ嫌いですよ全く……はぁ~今日は疲れましたよ……な、なんか…ご褒美がほしいかな~って………えへへ」

「さいで」

 

──いや、何もしてないじゃん。一日を通して、って突っこんだら負け?寝過ぎて疲れたとかそーゆーヤツ?

ご褒美とか……何?腕ひしぎとかでいい?

 舞い上がる火の粉と煙を目で追い、そのまま星空に目をやる少尉。煙の中瞬く夜空は、星が降る様だった。

 

 パチリと火が爆ぜる音に満足し、薪を少しずらす。空気の通り道を微調整、燃え過ぎない様にする。火や煙が見つかる心配はなさそうではあるが、念のためである。

 

「……少尉、今…戻った……」

 

 声に少尉が振り向く。まるで溶け出したのかの様に、暗闇の中から姿を現したのは軍曹だ。鉄の悍馬に跨り、ひらひらと靡く布を被ったその姿は、まさしく荒野のガンマンだ。因みに軍曹の早撃ちは0.2秒前後らしい。次元よりはえぇじゃねぇかピースメーカー持って大道芸人でもやったらどうだ?

 

「おお!お疲れ様だ、軍曹」

「軍曹おかえりー。焚き火、一緒に当たろー?」

 

 手を振る少尉の目線に気付き、伍長も軍曹を視認した。伍長も毛布の中からちょこんと手を出し、小さく手を振る。軍曹は口元まで上げたスカーフを降ろし、薄く唇を緩め口を開いた。

 

「…そう、だな……夜の、砂漠は…よく冷える………」

 

 装備を置いた軍曹と3人で焚き火を囲む。軍曹は食べられるサボテンを持って帰って来たから食べようとしたらおやっさんも来た。やっぱこの人のセンサー凄いわ。見習いたいとは……まぁ、思わんが。

 

「結果はどうだった?」

「……ここから南南東へ、80kmの地点に……中規模の物資集積所が、あった……"ザクII"が、1機護衛していた……予備機も、無し…だ……」

 

 焚き火にあたりながら、少尉がおもむろに口火を切る。軍曹は地面に簡単な地図を描きながら応えた。かなりわかりやすくまとまっており、伍長は覗き込んでいる。

 

「1機か、妙だな。罠か?」

「その罠、かける相手がいるんですかね、今の連邦軍の戦力じゃとても…」

「どう()るの?迂回で()か?」

 

 疑うおやっさんに、片眉を上げる少尉。そこに伍長がサボテンにむしゃぶりつきながら言う。口の周りがベタベタだ。それに、食べながら喋るなよ。

 食事のマナーは大切だ。シノハラさん的にはそれ結構マイナスですぞ?全く………。

 

「いや、軍曹も帰って来た。準備が出来次第、ミノフスキー粒子を散布しつつ出発、明日明朝、敵の物資集積所を奇襲する」

 

 少尉はそう決断し、砂地に指で絵を書きつつ説明する。よく冷えたさらさらの砂が心地良い。その分あちこちに入り込んで身体中ザラッザラだけどな。シャワーの排水口も後で掃除、点検すべきだな。

 

「MS同士の戦闘になるな。よし、戦闘プログラム、仕様、モード、FCS、IFFなどを再チェックしておくか……」

「……少尉、その110km奥に……他の集積所が、あった……増援の、危険がある……」

 

 軍曹が枝を使い砂の上に書き足す。それを目で追いつつ、少尉はさらに考えを巡らせる。

 

「む」

「そこからの増援を考えてのか…その距離なら光ファイバーも敷設出来る、増援の到着も、MSなら十分過ぎる位に早く戦力を送り込めるしな…」

「ん~、んむ…ぷはっ…軍曹ありがと。なら切っちゃえばいいんじゃないですか?」

 

 手を伸ばし、書き込まれたラインを伍長が指でバッテンを重ね書きする。ミノフスキー粒子以前に、軍隊は確実性と信頼性を重視し、枯れた技術を用いる事が多い。有線はその最たる例だ。少尉もこれまでの作戦に多く用いていた。

 伍長の提案に、おやっさんが矢印を書き加え反論する。

 

「伍長、もし切ったら切った事がバレるだろ?」

 

 あ、声を出し、納得した様子で伍長が手を打つ。そこに軍曹と少尉が補足する。

 

「……その為の、だな………」

「そーゆー事。大規模回収なら泥棒にも見せかけられるが……ここにそんなもの好き居ない上、時間もないから偽装も出来ん」

「…あ、お洋服が……む、えーっと、やめて迂回した方がよくないですか?」

 

 ベタベタにした口の周りを軍曹に拭ってもらった伍長が言う。結構好戦的な伍長にしては弱気な意見であるが、冷静で至って普通の判断である事に若干の感心を覚える。

 正常の判断ならそうだろうな……こちらはあまりにも戦力と呼べる物が少ない。攻城戦では攻撃戦力は防衛戦力の3倍がセオリーだ。頭数こそまぁ張り合えるが、と言うところだ。正直無理がある。

 

──が、しかし……。

 

「ならばこそ、だ。迂回中に見つかったら、その2部隊から攻撃される。ならば、一隊ずつ相手取る方がマシだ」

 

 砂に書かれた作戦図を叩き、目の高さまで手を持ち上げ、砂を握りしめつつ少尉が言う。ここが正念場だ。時には強気に出て、部下を安心させる事も必要だ。少尉はそのまま力強く続ける。

 

「俺が先頭に立ち、敵陣に斬り込み突破しつつ、もう一つも崩し墜とす。これが俺たちの退路だ」

 

 その目は真剣そのものだ。少尉自身も覚悟を決めている。こちらは常に背水の陣なのだ。退却ではあるが、眼前の立ちはだかる敵は、打ち破らなければ前には進めない。挟撃を、全滅を避けるためには、進み続けなければならないのだ。

 

 そう、ここが俺たちの烏頭坂、篠原(・・)の退き口だ。

 

「そうだな……連戦になるかも知れないが。戦いは基本的に数で決まるからな…」

「一斉に攻撃されたらたまりませんしねー」

 

 伍長とおやっさんは承諾した様に頷く。少尉は軍曹に顔を向け、判断を仰いだ。

 

「軍曹はどう思う?」

「……少尉に、賛成…だ……」

 

 コーヒーを片手に軍曹。気がついたら人数分入っていた。ゆっくりと立ち上がり、喋りながら軍曹が地図を消した。

 

「……一つ目は…電撃戦で……二つ目は…敵の、出方を伺い……待ち伏せ、迎え撃つか。勢いと、共に…撃砕する……」

 

 書き込まれ過ぎてぐちゃぐちゃになった地図を軍曹が整理して書き直す。それと同時にコーヒーを渡し、自らも一口飲んだ。コーヒーの匂いがふんわりと広がり、白い湯気が少尉の顔をくすぐった。

 

「ありがとう。すまん」

「お、どうもな」

「おいしーです!ありがとうね軍曹!」

 

 少尉はお礼を言ってコーヒーを受け取る。軍曹はそこで一拍置いてまた喋り出した。

 

「……だが、一つ、気になる事が、ある……」

「何だ?」

「UFOの着地跡でもあったの?」

 

 焚き火の火がまたパチリと爆ぜる。

 その音に軍曹を除いた3人が反応し、空気の流れが変わった。

 軍曹はそれに気を少しも留めず、伍長のアホ発言も無視し続ける。

 

「……偵察時、遥か南西であるが……煙が上がっていた……」

 

 眉をひそめる少尉とおやっさん。伍長は小さく首をかしげた。

 少尉は焚き火に小枝を焼べ、灰をかき混ぜつつ口を開いた。目は巻き上がった灰を追っている。

 

「煙………?戦闘のか?」

「どーゆー事です?味方がいるってことですか?」

「判らんな。何とも言えん」

 

──煙、か………。何とも言えんな。憶測はよく無い。

……が、火の無いところには何とやら、だ。確実に警戒する必要が……いや、連邦軍の可能性は限り無く低そうではあるが………。

 

「……反乱か、同士討ち……または、友軍の可能性……アリ、だ……」

 

 軍曹の結論に少尉は立ち上がり、準備の為に動き出す。おやっさんも既に立ち上がって砂を払い、伸びをしていた。軍曹もコップを回収し焚き火の後始末に入っていた。

 

「分かった、考えておこう…………、友軍、か……?

よし、おやっさん!移動開始だ!!軍曹は、休んでおいてくれ」

「わたしもそろそろ眠くなって来ました………」

 

 お子ちゃまには……ってまだフツーに……お腹いっぱいで眠くなったか?

 少尉はまた呆れつつも船を漕ぎ始めた伍長を揺すり、寝ぼけ眼を半開きにさせる。トロンとした目を向けた伍長は、しばらく目を開けて何か呟いていたが、ゆっくりとまた目を閉じてしまった。

 

 焚き火を丁寧に消し、その跡を消毒(隠蔽)しつつ、少尉は軍曹に呼びかける。

 しかし軍曹は静かに首を振りつつ必要ないと告げ、続けてこう言った。

 

「……いや、先導する……」

 

 その言葉に少尉は驚きを隠せなかった。いつ寝るつもりなのだろうか?空を見上げた限り、夜はまだまだ続きそうだ。月は傾きかけてはいるが、暁は欠片も見えない。

 輝く星に混じり、流れ星や閃光が時折混じる夜空は、何百人、いや何千人の命を吸い込みこの色なのだろうか?深い群青色に混じる輝きは、ラピスラズリの様だった。

 

「戦闘には軍曹が必要なんだ。少しでも休んで欲しい」

「……命令、なら…」

 

 軍曹の応えに、少尉は溜息をつく。頭を掻きながら、少尉はきっぱりと応えた。

 

「──なら、命令だ」

「…了解……命令には、従う…」

 

 敬礼する軍曹に敬礼し返し、歩き出そうと…上着がぐいと引っ張られた。視線を落とすと、その先では伍長が裾を掴んでいた。座り込んだまましなだれかかり、動こうとする気配は微塵もない。

 

「……おやすみなさい…」

「あっこら伍長ここで寝るな!!」

「うははは!よっしゃ、あいつらと話つけてくるわ。メンバー選抜頼んだぞ?」

 

 少尉の叫びに反応し、帰って来た軍曹が笑い声を上げる。その言葉に何とか応え、少尉は伍長を抱き抱えた。軽い。

 軍曹は既に全てを終え、静かにいなくなっていた。存在感は凄いのに、気配を消す能力は凄まじいの一言だ。

 

「はい。おやっさんもお疲れの出ません様に」

 

 伍長を抱えつつ敬礼し、背負い直した少尉はトラックへと引っ込む。上着を離そうとしないため上着を脱ぎ伍長ごとベッドに寝かせ、少尉はそのままの足で"ザクII"の元へと向かう。

 

 コクピットに乗り込み、"ザクII"を操作しトレーラーに寝かせる。仰向けのまま、キャットウォークが動き出す音をボンヤリと聞いていた。整備兵にはここにいると声をかけ、開け放たれたコクピットハッチを通し夜空を見上げる。

 

「……?星が……」

 

 少尉の見上げる夜空の、光を投げかける星々は不規則に揺らめき、ブルブルと震えている。まるで夜空全体がはためき、振り落とされるかの様だ。何故?と思う前にコクピットハッチのエッジ部分も揺れている事に気づかされる。

 

「…なんだ………」

 

 揺れているのは少尉の方だった。より正確に言えば、トラック群のエンジン達が始動し、その微細な振動が増幅されたのだ。少尉は小さく含み笑いを漏らし、狭いコクピット内で伸びをする。

 

──タネが割れればこんなものか……タネ、タネが割れる、か………。

 

 かくしてトラック群は移動を開始する。砂埃をあげ激しく回転するホイールは軋みを上げ地面を揺らし、力強くトラック群を前へ前へと進めて行く。零れ落ちそうな夜空の下、砂を蹴立て走るコンボイは、旧世紀、かつて砂漠を渡っていたキャラバンの様だった。重く低いモーター音は砂漠の静寂をかき混ぜ、そこに人の営みの跡を刻むも、残される轍は吹き荒ぶ風に消えて行く。

 その心地良い振動に身を任せつつ、少尉は明日の作戦に思いを馳せる。

 

………よく考えたら俺らの考えと行動はゲリラとか山賊と変わらないな………。

 一応は正規兵の部隊なんだがなぁ……生き残るためならヤるけど。

 

 砂埃が入り込んでは一大事と、コクピットハッチ閉鎖ボタンを押し込む。コクピットハッチが完全に閉鎖し、密閉が完了するその瞬間まで、少尉は空を、その先に広がる宇宙(そら)を見上げ続けていた。

 

 

 

──U.C. 0079 4.24──

 

 

 

傾注(アテンション)!!」

「おはよう諸君。早速だが、作戦の概要を説明する」

 

 朝早く、日もまだ出ないうちに移動を完了し、展開したトラック群の前でブリーフィングを行う。隣の軍曹が声を上げて注目させる。視線が集まってくるのを肌で感じつつ、少尉は並んだ整備兵達の前に立ち、腹から声を出す。やや慣れ始めたとは言え、その声にまだ余裕は無い。

 

 目前を隅々まで見渡すと、集まった者たちの中にはあくびを噛み殺している者も少なく無い。それも仕方がないと言えばそこまでであるが、今回は少尉の緊張をやや緩める結果となった。少尉はそのまま、それを無視し声を張り上げる。

 

「我が旅団は、○三○○(マルサンマルマル)より進軍を開始し、◯三四◯(マルサンヨンマル)よりこの先のポイントゴルフ28にある敵物資集積所を襲撃する。先ず、俺が"ザクII"に乗り先行、それを擬装した"ロクイチ"、"ラコタ"、"ヴィークル"で追う。その後、俺が敵とコンタクトを図り、敵の油断を誘う。そこを軍曹が"ロクイチ"で狙撃、敵が混乱したその隙に俺が接近し敵の"ザクII"を撃破する。

 敵の主戦力はMS1機に"マゼラ"のみだ。それらが無力化された後、"ロクイチ"、"ラコタ"、"ヴィークル"隊は敵陣突破楔形陣(パンツァーカイル)で突入してくれ。敵に情けはかけるな。特に今回は捕虜も必要ない上、生かしたら更に悲惨な結果になるだろう。しかし撤退するものには深追いはするな。常に自軍の損耗を考慮に入れつつ戦闘を行うんだ。何か質問は?」

 

 いつもと違いやや騒ついているが、明確な声は上がらなかった。

………いつ聞いてもないな。コレ。無駄じゃね?つっても、無くしたら無くしたで困るんだろうけど………。

 

──まぁ、よし。後は、ヤるだけだ。

 

「作戦は日の出と同時に行う。"夜明けの電撃戦"(ドーン・ブリッツ)だ。各位の奮戦に期待する。以上だ………

      ──解散(ブレイク)

解散(ブレイク)!各員、準備せよ!!」

 

 整備兵達は敬礼後解散し、各々の持ち場へ散って行く。その中で1人、少尉は座ってどう集積所に近づくか考える。

 

 敵味方識別信号(IFF)出しつつ歩いて行くか?しかしIFFが更新されていたら終わりだ。偽の看板を抱え、間抜けヅラを晒しながら近づいて来たなら、問答無用で撃ち倒すだろう。誰だってそーする。俺だってそーする。呼び掛けるのも嫌だ。それこそバレるだろう。

 

「少尉ぃ~」

「どうした?って眠そうだな……」

 

 伍長がフラフラとやって来る。目は半開きだ。おそらく殆ど夢の中だろう。ブリーフィングでもゆらゆらしてたし……。伍長はそのままの足取りで少尉の隣に座り、肩にもたれかかる。

 

「はいぃ。そうです……夜更かしは、びよーの敵なのに……」

「もっと脅威な敵がいるからなぁ…」

 

 なんかじんわりと感じる暖かさに少尉が身動ぎすると、伍長もくすぐったそうに身をよじった。これは……寝る態勢だな……なんかあったかくなって来てるし………。

 

「……………ふ~………」

 

 息を吐き出し、伍長から目を逸らし、空を見上げてボンヤリと思う。そう言えば前もこうゆう事あったな。あの時は基地内のバーだったが……。静かだなと思ってたら壁に寄りかかって目を薄開きにしてんだから……全く……世話の焼ける……。

………ホント軍隊向いてねぇな伍長。働いて無いのに疲れているのか、寝息を立て始める。

………出撃まで5時間切ってんだけど……やっぱ17歳だしな……。

 

「……少尉……」

「軍曹!あ、ありがとう…」

 

 そこへ軍曹がコーヒーを持ってやって来た。コーヒーを渡しつつ隣へ座る。その身のこなしに一切の無駄は無く、眠気なども一切感じさせない。

 コーヒーがふわりと立ち上らせる湯気を胸いっぱいに吸い込み、その匂いを堪能する。それだけで目はパッチリだ。両手でカップを持ち、冷えた手を温める。一口口に含んで、ゆっくりと飲み下す。身体をじんわりと温める熱に心地よさを感じ思わず微笑んだ。そのまま隣の伍長を見下ろし、軍曹に提案する。

 

「………伍長、どうする?置いてくか?」

 

 顎をしゃくる少尉に、軍曹は軽く首を振り、手の中のカップを軽く揺らしながら口を開いた。

 

「……"ロクイチ"の、シートに座れば……すぐ起きる………いつも、そうだ……」

「……分かった…」

 

 ため息をつきつつ空を見上げる。草木も眠る……だっけ?周りに草木は無いが………やや深みが薄れ始めた空に、星は、静かに光を称えて輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 空が白み始め、重い夜のカーテンが開け始める。

 

 陽の照らす、紫色を讃える大地は熱を吸収し、急速に気温を上げて行く。

 

 夜の帳よ、さようなら。真新しい、硝煙が漂い、火花が飛び散る一日が始まる。少尉は一度立ち止まり、薄く明るくなり始めた空に目をやる。軽く目を細め、顔を背けた少尉は頬を張り、コクピットハッチを潜り滑り込んだ。

 

 "ザクII"に乗り込み、一度手を組み、深く背もたれにもたれ掛ける。目を閉じ、深呼吸をする。

 

 眩しい光が、稜線の彼方から照らし出す。金色の暁の中、"ザクII"を先頭に様々な車輌が入り乱れる一団を浮かび上がらせる。長く尾を引く影をそのままに、少尉は口を開いた。

 

出発時間(タイム・トゥ・ゴー)だ。全車、前へ」

()()

 

 敵物資集積所へ向かってゆっくり歩を進める。対地センサーを頻繁にチェック、更新し、それと同時に歩行モードも変更して行く。ここは戦場だ。隙を晒した者から死んでいくのだから。

 

作戦エリア(AO)だ。各員、無線を受診に切り替えろ。戦闘可能態勢(CR)に移行」

()()

 

 少尉はIFFを起動、発信する。あんまりやりたくない。もし捕まったら捕虜として扱ってもらえんだろうなぁ……。

 負ける気はサラサラ無いが、脳裏をチラリと最悪(・・)の事態が通り過ぎては消えて行く。かぶりを振ってそれらを頭から締め出し、操縦桿を強く握り直す。

 

 レーダーに感あり(コンタクト)レーダーにより目標発見(ターゲット・マージ)合成開口レーダー(SAR)が捉えた機影は、"ザクII"だ。

 

──ザ…と通信機が音をだす。レーザー通信によるコンタクトがあった。

 ミノフスキー粒子濃度は5%。決して高くは無く通常回線も使用可能であるが、念のためなのだろう。

 

 敵機視認(エネミー・タリホー)。"ザクII"だ。敵もこちらに気づいており、警戒しつつ、ゆっくりと歩み寄ってくる。

 

《そこの"ザク"!止まれ!!所属の部隊名と所属コードを言え!》

 

──言えるわけねーだろ、知らねーよ。

………そんな態度、欠片でもおくびに出すワケにはいかないが……。

 通信には出られない。ボロを出すのが関の山だ。

 

「……アルファ1、エンゲージ………」

 

 小さく呟き、"ザクII"を操作、大きく手を振る。トリガーロック解除、セレクターを操作、フルオートに。ランプが点灯し、『メインアーム レディ主兵装 射撃可能』と表示される。マニュアルでFCSは起動しない。しかし目視による簡易照準機能のみ作動させる。これは命中率は下がるが、赤外線などを照射しないため敵にロックオンマーカーが出ないのだ。ここで敵を刺激しても仕方が無い。自分はジオンの対応マニュアルを知らない。これは賭けだ。

 

《……レーザー通信機の異常か?》

 

 向こうが勝手に判断してくれた。大きくもう一度振る。気持ち歩を強め、少しでも距離を詰めて行く。確実に仕留める必要があるのだ。それならば近づくに限る。こーゆー時は慌てた方、ビビった方が負けだ。ならば強気で出るしかない。

 

《……その場で待機。少しでも怪しい行動をしてみろ、蜂の巣にしてやる》

 

 それは勘弁蒙りたいな。つーか物騒な。

………まぁ、疑われて当たり前だわな。砂漠からひょこり友軍機が帰って来て、通信機異常なんていったらそら疑うわ。でも、こっちは"ザクII"(最新兵器)、何故、疑われた?

 

 目の前の"ザクII"がゆっくり近づいて来る。お互いの距離が100mを切った。

 

 陽が稜線を越え、強い光を放つ。それと同時に強い風が吹き、砂が舞い上げられ渦を巻く。

 

 激しい光の中、その中に描き出される黒いシルエットは、やはり"死神"にしか見えなかった。

 少尉は無意識の内にゴクリと唾を飲み込んだ。引鉄に指をかけたくなるのを必死で押さえ込み、じっと待つ。

 

 その時、視界の隅で一瞬何かが光った。目の前の"ザクII"に、軍曹の放った155mm二連装滑空砲が直撃する。相変わらずの腕だ。といっても距離は"ザクII"の有効センサー範囲ギリの4km前後だ、有効打にはならない。遅れて響く音は、その距離の長さをありありと示している。

 

《な!?なんっ……》

 

──が、よろけ、そちらに向き直ればそれで十分だ。後はこちらの仕事。

 

「せめて武器は置かせろよ。中途半端な……」

 

 射点の方向へ振り向いた"ザクII"の無防備な脇腹に、少尉の乗る"ザクII"が"ザクマシンガン"を叩き込む。対艦攻撃用に開発され、調整された120mm弾の暴風が吹き荒れ、目の前で炸裂する。それは被弾と云うより、もはやデタラメに殴りつけるという表現の方が相応しい散り様であった。至近距離から胴体にしこたま120mm弾を食らい、"ザクII"はまるで踊る様にその機体をデタラメに震わせる。

 目の前で滅茶苦茶に砕け散る装甲をディスプレイ越しに確認し、少尉はようやくトリガーから指を離す。破口から黒煙を上げ、まるで内側から食い破られたかの様にボロボロのハチの巣になった"ザクII"が、がくりと膝を折る様にして倒れ伏す。核融合炉が誘爆しなくてよかった~。

 

 胴体の殆どが破壊され、ピクリとも動かないが……念のためと、まだ硝煙を上げる"ザクマシンガン"を持ち上げ、弾丸をコクピット周りに数発撃ち込んで行く。腕部、脚部の被弾はほとんどない。跳弾程度だ。よかった。おやっさんにドヤされる心配はなさそうである。予備パーツの確保は基本的に現地調達なのだ。

 

敵機撃墜(ワン・ダウン)!今だ!!行くぞ!!」

()()()()

 

 騙し討ちで"ザクII"を倒した少尉は、インカムに成果を叫ぶ。そのままの勢いに任せ、機甲部隊を伴い敵物資集積所に突撃する。

 

 最大速度で"ザクII"を走らせ、助走とする。そのままの勢いでフットペダルを思い切り踏み込み、フルスロットルでスラスターを吹かし跳躍する。身体全体に、のしかかる様にしてかかるGに歯を食いしばって耐え、最高到達点で機体を操作、手足を振りAMBACを行い機体を安定させる。そのまま上空から最も脅威となる敵、"マゼラ・アタック"に狙いをつけ、フルオート射撃を敢行する。轟音と共に吐き出された火の玉は、重力加速を得ながら目標に殺到した。

 

 眼下で120mm弾を受け、バラバラになり吹き飛ぶ"マゼラ・アタック"。敵は突然の奇襲にパニックを起こし走り回っている。太陽を背にし自由落下に移った"ザクII"は、それでも射撃を止める事は無い。

 地表が近づき、コクピット内に警報が鳴り響く。スラスターを再噴射、周囲の敵兵を焼き殺しつつ強引に着地、そのまま目につく車輌を片っ端から破壊して行く。足元の歩兵は残骸を蹴飛ばす事で巻き込み轢殺、圧殺する。爆炎の中、暴れまわる"ザクII"に、敵は有効打を与える事が出来なかった。

 

 スラスターによるかえる跳びは確かに早いが、機甲部隊が置いてけぼりだ。"ザクII"に対人機銃はついていない。だが歩兵に対し"ザクマシンガン"ではオーバーキルだ。しかし対戦車ロケットランチャーを食らう可能性があるため、効率良く歩兵を掃討出来る機甲部隊を迎えに行く。装甲の比較的薄い背面部を狙われない様、威嚇射撃を行いながら下がって行き、最後はスラスターを噴かし跳躍する。

 

「アルファ1よりブラボーチーム、チャーリーチームへ。"ザクII"、"マゼラ・アタック"は潰した。制圧頼む」

《こちらブラボー……了解……合流は75秒後を予定……》

《急ぐから待っててねー》

《こちらチャーリーリーダー了解。ヤツらのケツに火ぃつけたるぜ》

 

 着地し、立膝をついて"ザクマシンガン"を撃つ"ザクII"を遠巻きから取り巻く様に、到着した"ラコタ"、"ヴィークル"が重機関銃を放ち、その援護の下歩兵が展開、制圧を開始する。"ロクイチ"はまだであるが、その仕事は"ザクII"が行っている。走り、身を隠し、敵を撃ち倒していく整備兵達はもう一人前の歩兵になっている。頼もしい限りだ。

 時折、カンカンと金属を叩く軽い音と共に、装甲表面のセンサーが小口径弾の着弾を知らせて来る。必死の抵抗らしく、散発的にこちらにも攻撃が来るが、小口径弾で貫ける様なヤワな装甲では無い。しかしこちらは、陰に隠れたつもりでいる敵の集団に一発セミオートで撃ち込めばいい。"ザクマシンガン"の砲弾は障害物など御構い無しに目標を撃砕し、鉄屑と挽肉に変える。簡単なお仕事だ。

 

………実に、簡単だ……。

 

「アルファ1より本部(HQ)へ。おやっさん、コンボイを移動させ始めてください、その後40km地点で待機お願いします」

 

 後方のセンサーが、"ロクイチ"が到着した事を知らせる。少尉は振り向く事なく援護射撃を続け、状況を有利に傾ける事に徹していた。前線の整備兵達の指示通り、レーザーでペインティングされたところに"ザクマシンガン"を撃ち込むのだ。滑り込んで来た伍長、軍曹の"ロクイチ"もその作業に移る。そう、作業だ。

 

《よし来た!少尉はどうする?》

「"ロクイチ"と"ラコタ"を伴い、更に前進、もう一つも潰す予定です」

 

 一度言葉を切り、少尉は機体を軽く旋回させ、モノアイを動かし、遙か地平を眺める。何の変哲もない稜線と砂のみがあるだけだが、それを越えた先には敵の物資集積所があるのだ。今回増援が懸念される第二の集積所である。

 

《了解!気をつけろ、決して気を抜くな》

「了解!軍曹、伍長!ついて来い!前進する!」

《…了解……》

《あーいさー!》

 

 駆動音と共に立ち上がり、走り出す"ザクII"を先頭に、"ロクイチ"、次に"ラコタ"と縦に並んで砂漠を85km/hで疾走する。"ラコタ"には無理だが"ロクイチ"には十分随伴出来る。そのギリギリの速度を維持しつつ、なるべく砂埃を立てない様に気をつける。

 少尉は機体を走らせつつ、コンソールを叩き歩行モードを変更して行く。地面の質が変わって来たのだ。砂砂漠から岩石砂漠へと、かなり地盤がしっかりし始め、砂山も無くなって来た。少しずつではあるが細い木も見られる様になってきた。

 

 それにしてもだだっ広い平野だ。何も無い。後腐れ無く暴れる事が出来るため、戦車やMSが、最も得意とする戦場だろう。

 

《何か、手慣れてきましたよねー》

「そうだが、気を抜くな、今が一番危ないぞ?慢心は身を滅ぼす」

 

 "ロクイチ"を走らせる伍長が、余裕の表れか口を開く。少尉が伍長を諌めるが、正直少尉もそう思う節が無いわけで無かった。敵に回すと恐ろしいMSであったが、実際に乗り込み駆っていると、これ程頼もしい存在はそう有りはしないだろう。それは伍長も同じはずである。だからこその言葉であった。

 

《……そうだ。伍長は……気をつけるべき……》

《……はーい、でも、少尉もだいぶ"ザクII"に慣れてきましたよねー》

「……まだまだだよ」

 

 少尉はミノフスキー粒子濃度を表すインジゲーターを眺めつつ、また操縦桿を握り直す。湿った音で、グローブが汗でじっとり濡れている事に気づき、手早く交換する。それと同時に、身体全身が強張り、かいた汗で濡れている事に気づいた。

 

 それほど緊張していたのだ。フッと力を抜き、コクピット環境コントロール・システム(CECS)を調整する。額の汗を拭い、また目前のディスプレイに集中する。

 これが、少し余裕が出て来たって事なのか、ふと思う。

 

《私は戦車大好きですけど、MSもいいかもしれませんねー》

《……せめて、後2機。……一個小隊……欲しいものだ……》

 

 伍長の言葉に、珍しく軍曹が嘆息し続けた。

 確かに軍曹の言う事は最もである。MSの性能は高いが、弱点が無いわけでも無く、他の兵器との連携をは必要不可欠だ。しかし、現在において他の兵器群がMSの性能についていけず、その高い性能を持て余す結果となっている。もっと効率良く、効果的に運用する為には、MSの絶対的な数が足りていなかった。

 

「このまま続けたら、まぁ、もしかしたら出来るかもな……」

 

 それまでに戦争に負けてさえ無ければ、な。

 思わず上を見上げ、"ザクII"がそれに倣う。スクリーンに映し出される青い空は、何の変哲も無い様子であるが、今は見えない宇宙(そら)の輝きに、少尉は目を細める。一度頭を振った少尉は、油断無く周囲を見渡した。

 

《楽しみだねー!》

《……無駄口は、そこまで……》

 

 伍長の声に、他の整備兵達も忍笑いを始めていた。しかし、整備兵達は今も尚危険の側にあり、少尉達も危険へと飛び込もうとしている。軍曹が静かに口を開き、少尉がそれに賛同した。

 

「そうだな」

《…………はーい…》

 

 コクピット内にビープ音がなり少尉に注意を喚起する。反射的に顔を起こした少尉はインジゲーターに目をやると、ミノフスキー粒子濃度が高まっていた。軽く頬を張り気合いを入れ直した少尉が改めてスクリーンを睨み付ける。

 

「敵物資集積所に近づいた。速度を落とせ」

()()

 

 移動速度を落とし、10km手前からは、だいぶ少なく、そして小さくなった砂漠の稜線に隠れつつゆっくり前進する。もうMSが身を隠せる様な地形は殆ど無い。少尉は操縦桿のセーフティを解除した。

 身を隠し、ゆっくりと進む"ザクII"に"ロクイチ"も追従し、ジリジリと敵物資集積所へと距離を詰めていく。現在のミノフスキー粒子濃度は45。先程までとは打って変わって、段違いな濃度だ。開けた土地で効果を最大限に発揮出来るレーダーも、ノイズだらけとなり殆ど仕事をしなくなる。精々幽霊(ゴースト)の影に怯えてくれていればいいんだが……。

 

…8km、6kmとゆっくり距離を詰めて行く。意味は無いと言えど、少尉は息を殺し、歩を進める。重たいプレッシャーが少尉の喉を締め付け、浅い呼吸を繰り返させる。敵はいつ気づくか判らない。その時、対応が出来るのか……?

 

 

 

──5kmまで距離を詰めた時だった。

 

「!!」

 

 突然、轟音と共に目の前の物資集積所から火の手があがる。勿論、こちらは一切攻撃していない。少尉は呆然と、降って湧いた衝撃と立ち上る黒煙に、完全に度肝を抜かれていた。

 

《少尉!!》

 

 混乱する少尉に伍長が叫び、現実へと引き戻す。しかし、少尉の頭は依然として混乱したままだ。どうする、何が起きている?何が最善だ?敵は?味方は?位置は?

 

 何もかもが不明だ。訳が判らない、事故か?それもあるかも知れない。考えろ、考えるんだ。何がベストか。

 

 爆音がまた響く。今度は違う方角からだ。状況は転がり始めている。

 少尉は"ザクII"を操作し、低姿勢を取らせる。そのまま後ろを振り返り、待機している"ロクイチ"に目をやる。キューポラから身を乗り出し、心配そうな情けない顔でこちらを伺う伍長、軍曹は顔を見せず、周辺警戒を怠ってはいない。頼りにされ、信じられている、それには応えるべきだ。どんどん上がっていくミノフスキー粒子濃度も問題だ。

 

 コクピット内は適温に保たれているが、緊張から汗が頬を伝わり顎から垂れる。それを乱暴に袖で拭いつつ、少尉は決断を下す。この判断がどうなるかは、後で歴史が判断してくれる。今は、そう、行動すべきだ。常に最優先事項を考え、臨機応変に。迷うな、戦いはまよったら負ける。なら、俺は迷わない。迷わず最善を目指す。後悔と休憩は死んでからってね。

 

──何が起きてるかはまだ判らない。しかし、利用しない手はない!不確定な方が、未来に希望を持ちやすいのよ!!

 

「…………是非も無し…混乱に乗じて突入だ!伍長!軍曹!離れるな!」

《り、了解!!》

《……了解。そう、だな…戦場では、次を…考えない方がいい。2の手…3の手だけ、だ。…必要なのは…》

 

 

 

 事態は、走り出した。

 

 

 

『いつ、如何なる状況下でも、冷静に、流れを見極め、波に乗れ。それだけだ』

 

 

戦況が、変わって行く………

 

 

 

 

 




……キュイとサムソン、使おう使おうと思っていてタイミング外しました。

サムソンはともかく、キュイは名前といい形といいあれ程面白いスペースノイド然とした奴はないのに……勿体無いことしたな。ところで、キュイってあれ両脇のアレ伸びるのかな?

MSが出るとそれ中心に回ってしまうので、ものすごく書き辛いです。

やっぱ部隊に一機だけの特殊兵器は扱いに困る。ネェルアーガマがロンド・ベルではみ出るワケだ。

次回 第十一章 蜃気楼との邂逅

「それしかない。もし死んだら撤退しろ。旅団は任した」

アルファ1、エンゲージ!!


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第十一章 蜃気楼との邂逅

キーとなる話です。後半爆発してるけど。

読み返してみると、文がノってる時とそうじゃない時で全然違うな。

最近地味メカが出ない。つーか出せない。やっぱ時代はMSか……寒い時代だと思わんかね?


戦場と伝説は古来より切っては切れないものだ。

 

一つは未確認情報から。

 

一つはただのホラ話から。

 

一つは武勇伝から。

 

一つは戦場の狂気から。

 

一つは英雄譚から。

 

そして、もう一つは、隠蔽され、消し去られた事実から。

 

"幽霊"(ゴースト)は、夜歩くのだ。

 

 

 

──U.C. 0079 4.24──

 

 

 

 戦争には予想外の事が起こるものだ。

 かのクラウゼヴィッツも、戦争の重大な要素の1つとして 『摩擦』、すなわち戦場で起こる不確定要素を挙げている。

 それは、この金属の歯車を軋ませる物なのか?

 

 陽炎が揺らめく砂漠の地平線に、黒い影が身を乗り出し怪しげな光を放つ。赤みを帯びたピンクの光は、細かいチリが巻き上がり、濃く立ち込める砂煙の中でもよく目立つ。この兵器の持つ最大の特徴だろう1つ目は鈍く光り、独特の作動音がコクピット内にも聞こえてくる。

 蜃気楼でも、幻でも無いそれは猛然と廃熱を行う。その凄まじい熱量は、砂漠の熱を振り払うかの様に周囲の景色を歪ませる。それはまるで、陽炎を纏うかの様に。

 

《少尉!!》

 

 インカム越しに伍長が声を上げる。同時に伍長の乗り込む"ロクイチ"がモーター音と共に盛大に排気を行った。それはまるで、少尉に準備完了であると訴えかけているかの様だった。

 "ザクII"のコクピットの中、少尉は動き出した状況に尻込みしていた。この采配に、自分の命、それに隊の大半の命がかかっている。そんな時、耳に飛び込んできた急かすような声に、葛藤を続けていた少尉は反射的に怒鳴り返した。

 

「時期尚早だ!少しは落ち着け!!」

 

 伍長は砂漠の熱に当てられた様に、雰囲気に呑まれかけていた。そんな伍長をいなめようと意図した少尉だったが、その少尉もそんなに余裕があるわけでもなかった。額に伝う汗は止まる事を知らず、早鐘の様に脈打つ心臓は今にも口から飛び出しそうだった。この緊張から逃れるため、無防備に飛び出せたらどんなに楽か。

 しかし、少尉にそれは出来ない。自分以外の、多くの命を抱えている身なのだ。その責任がのしかかり、少尉のフットワークを鈍らせていた。

 少尉が最も恐れるのは、仲間を失う事だ。少尉は目の前で爆散する僚機の事を思い出していた。見下ろした戦場も。あの一瞬の爆発で、数えられない程の命が、数として処理されていくのだ。慎重にもなる。

 しかし、キャッチ22をいくら考えたところで、答えなんか出るわけがないのだ。

 大切な事を見誤ってはいけない。

 

《時期尚早と口にするものは、100年後でもそう言うさって誰か言ってましたよ!!》

 

 伍長の言葉にドキリとし、少尉は我に帰る。つーかそれ前俺が言ってたわ。

 少尉は一度額の汗を拭い、ぎゅっと目を瞑った。焦ってはいないはずだ。でも、それは思い込みかもしれない。冷静な判断に必要な物とはなんだ?

 

 少尉は機体を操作し、"ザクII"のモノアイを伍長の"ロクイチ"に向けた。そう、今必要なのは、向き合う事だ。

 少尉の操作を受けた"ザクII"が、金属が擦れ合う駆動音を奏でながらその巨体を蠢かせる。"ザクII"は器用に腰を捻り、姿勢を低く保ちながら、機体ごと隣でハルダウンを行う"ロクイチ"に向けた。メインスクリーン越しに、少尉はキューポラから上半身を乗り出す伍長を見下ろした。

 

 前方を指差す伍長は、真っ直ぐこちらを見ていた。その眼は、砂漠の熱を跳ね飛ばし、少尉にまで何かを届けていた。

 大きく手を振りつつ、うなづく伍長が、少尉に落ち着きをもたらした。人と向かい合う事が、こんなにも安心感をもたらすとは…その事に内心感謝しつつ、少尉は頰をかきつつ、言葉を選びながら口を開いた。

 

「いい言葉だ。時と場合によりけりだが」

 

 少尉の余裕の表れかの様に、微かな含み笑いが通信機から漏れる。そんな少尉と伍長の言葉を、最後に軍曹が締めくくった。

 

《…それは、全てに於いて……だな……》

 

……全くだ。

 

「よし…………──警戒と偵察こそが、万事における最善の初手だと思うんだが…」

 

 機体を稜線に任せ、可能な限り身を隠しつつ索敵を行う。眼前の物資集積所では、また爆発が起きた。噴き上がる黒煙は風に揺られ、のらりくらりと形を変えながら天へと登り青に吸い込まれて行く。

 音響センサーがサイレンの音を捉えている。こちらに注意を向けている者は皆無と思えた。センサーと目視で走査するが、周辺にも敵影と見られる物は確認出来ない。これなら側面を突かれず、正面に集中し攻撃出来そうだ。

 

《その段階はもう過ぎましたよ!!》

《…少尉、着いて行くぞ。地獄の、果てまでも……》

 

 "ザクII"が身動ぎをする。機体表面をさらさらと砂が流れ落ち、装甲の隙間へと消え軋む。ゆっくりとした動作の一挙一動に激しい機械音を奏で、砂漠を揺らすそれは、紛れもなく"死神"だった。

 

「突撃を敢行する。全機、続け!」

《…こちらブラボー…了解した……》

《はい!》

 

 そしてまたしても目をぎょろつかせた死神は、決断的に身を乗り出し、砂を蹴立て走り出した。

 

「軍曹!!偵察時の敵物資集積所の規模と護衛は!?」

《……かなりの…規模。MSは、確認…された限り…5機……》

「5機か…まともに太刀打ち出来る数じゃないな…」

 

 もうもうと砂煙を巻き上げ砂漠を疾走する"ザクII"に、少し遅れて"ロクイチ"が続く。陣形はアローフォーメーション。MSの突破能力を前面に押し出した攻撃陣形だ。そのため必然的に先頭へと攻撃が集中するが、それを左右後方から援護し散らして行く形となる。この場合の判断としてはかなり正解に近いものだったと言えるだろう。

 少尉の睨みつけるメインスクリーンが映し出す眼前では、砂砂漠は殆ど終わり、地盤がかなりしっかりし始めた。それと同時に、進むに連れ巻き上がる砂埃も小規模な物となって行く。安定した硬い岩盤に歩行モードを変更し、その事で自然と"ザクII"の速度も上がっていく。鋼鉄の脚に踏み締められる焼けた大地は、轟音と共に激しく砕け散り、そこに足跡が刻まれて行く。ひび割れた大地にくっきりと残る足跡と履帯の轍は、今まさに歴史を刻んでいた。

 少しずつ低くなって行く稜線に、大きく開けた視界が広がる。その見惚れるようなパノラマの中、黒々とした煙が空を汚す様に登って行くのが視認出来る。時折、その根元では何かが閃く様にキラキラと瞬き、火花を散らす閃光も見え始めた。なだらかな丘陵を崩し、引き離された"ロクイチ"を待つ為立ち止まった"ザクII"はモノアイを光らせる。

──黒煙の発生源は、既に近い。

 

《少尉!急ごう!!》

 

 雑音混じりのインカムからは伍長の急かす声が飛び込んでくる。それに耳を傾けていた少尉は、遂に意を決する。

……そう、だな。じっとしてても時は過ぎて行く。時には、時期を待つだけじゃなく、自分も動かにゃな。自分は犬では無いが、箸にも棒にもかからないなら歩くしか無い。それがどのような結果であれだ。

 

 汗を拭い、操縦桿を強く握り直した。ここからが正念場だ。全身を強張らせる様に力を入れ、機体を再チェックする。目の前のモニターは、センサーの捉えた爆発をピックアップし表示していた。MSやその他兵器は確認出来てないが、確実に存在しているだろう。それらを捉えられないもどかしさに、少尉は唾を飲み込んだ。

 "ザクII"の搭載する通信機は、宇宙機器であった事の名残か、内部や操縦者の状況やコンディションをいち早く察知するためテレビ通信も可能な仕様となっている。しかし、これはまだ"ロクイチ"側との同期が済んでおらず未使用だ。そもそも少尉は音声のみで十分と思っている節もあり、使われる事は無いかもしれないが。

 少尉はインカムを摘み、位置を調整する。補助機器である咽喉マイクに手をやると、判っていると言わんばかりに怒鳴り返した。

 

「あぁ!!だがスラスターを利用した強襲はしない!"ロクイチ"全車アローフォーメーション!カバー頼む!」

《……了解》

《まっかせて!!》

 

 後方の"ロクイチ"が砂煙を上げるのから目を離し、少尉は"ザクII"をしゃがませる。稜線に隠れるようにして頭だけ出した"ザクII"に、まるで空を支える太い柱の様に、青い空へと立ち上っていく煙が、ドンパチがすでに始まっている事を伝えていた。

 風下であるため、搭載された化学センサーが、風に乗り、流れて来た煙に様々な化学物質を捉える。その中には、軍用の推進剤や炸薬などの燃焼効果残留物が確認されていた。

 空へと溶け消え行く煙が、空にその黒さを隠し切れず濁らせて行く。熱砂に煙る揺らめきは、見る者すべてに畏怖を与える。幾重にも重なり上がる煙は、まるで揺らめく死神の外套の様だ。空は汚され、大地はただ震えるのみ。人の愚かな行いを、止める者は誰もいない。そう、本人でさえも。

 

 いよいよ戦線が近づいて来た。地平線を跨いで、この距離でも観測出来る強烈な爆発光に続き、大気を震わす爆発音が響き渡る。激しい交戦は止む気配を見せない。砲撃音もだ。それを回り込む様にして、少尉は機体を走らせた。もう機体を隠せる程の稜線はコレで最後だ。これを乗り越えたら、否応にも戦闘に巻き込まれて行く事になる。少尉は喉元までせり上がった悲鳴を噛み殺し、胃を苛む吐気を堪える。早鐘の様に打つ心臓をそのままに、妙に冷えた頭で考えを纏めていく。

 機体を揺さぶるそのあらゆる暴力的な音を、"ザクII"の音響センサーが捉え、波長から種類と推定位置を推測する。少尉も走りながらであるがその音に耳を澄ませる。

 センサーが捉え、解析した聞く限り、120mm、175mm、155mmの断続的な発射音が、煩い位にに鳴り響いていた。重なる様な音から、砲門の数も1つでは無さそうだ。かなりの数が、休むところを知らず火を噴いている。

 

──155mm……つまり"ロクイチ"か!?いや……ありえん。聞き間違いだろう。

 少尉は突如湧き上がった可能性を自分で否定する。ここは敵戦線(エネミーライン)のど真ん中だ。地球連邦軍は存在しない。音が砂漠で変質したか、センサーの故障と思える。それが妥当な判断だ。ここに"ロクイチ"が来る事自体がまずあり得ないのだ。

 

「軍曹。野盗の可能性は?」

《無い……とは、言い難いが……恐らく違うだろう》

「だろうな。しかし……」

 

 少尉の判断は最もと言える。ここは連邦軍機甲大隊の戦闘区域ではない。大打撃を受けた機甲大隊は撤退を繰り返し、再編もままならない状況と聞く。その音が聞こえるはずが無いのだ。

 仮にはぐれた部隊だとしても、その場所がおかしい。辺境とは言え、ここはジオン勢力圏内の奥地だ。二連装滑腔砲を持つとは言え、それを差し引いても発射音から割り出される車輌数は一個小隊(4輌)以下。ミノフスキー粒子濃度如何によってはレーダーは有効な兵器と成り得る。ステルス性の無い"ロクイチ"にとって余程の幸運でも生き残る事は厳しい。

 

 鹵獲のケースも考えられないだろう。訓練ではないだろうし、ハイテク兵器である"ロクイチ"は、1日2日で乗り回せるほど単純な兵器では無い。

 それに、いくら本体が丈夫とはいえ、精密機器である事には変わり無く、定期点検や整備は欠かせない。特に"ロクイチ"は完全電気駆動であり、専用の整備機器が多数必要だ。ジオン軍がそのまま運用するのはまず不可能だろう。それが野盗などであるなら尚更だ。

 

──この戦場、イレギュラーが多過ぎる。

 

 しかし、ジオン軍が何と交戦しているかはまだ不明だが、これは好機でもある。こちらは少ない戦力であるが、その立ち位置から敵物資集積所を正体不明部隊(アンノウン)と挟撃が出来る。これは大きいアドバンテージになるはずだ。

 確実に敵であるジオンを叩ける上、アンノウンに後ろを取られる事も無く、そのまま交戦に入る事が出来るからだ。

 

《不思議ですね?とっくに撃たれてるはずなのに…》

「やつら、迷ってんのさ」

 

 伍長の呟きに、少尉はハッタリをかます様に口を開く。ややヒクついた口は、それでも声を出してくれた。

 

「勝負は、まよったら負ける。俺たちは迷わない。迷わず最善を目指す」

 

 既に走り出した事態に翻弄され、混迷を極める戦場。そこへ少尉を乗せ、"ロクイチ"を伴い疾走する"ザクII"が、遂に目視で敵を捉えた。

 "ザクII"だ。こちらにを背を向けている。緑がかかった装甲は砂にまみれ、やや見え辛いが間違い無い。大地を踏みしめ、脇に抱えた大砲を撃つ兵器は今"ザクII"以外存在しない。

 

《ブラボー、エンゲージ……》

《え?こ、この距離から……ええぃ!やって見せますよ!!》

 

 軍曹が静かに口を開き、砲撃を開始する。伍長も慌ててそれに倣い、左右やや後方の"ロクイチ"が射撃を開始する。"ロクイチ"の足回りのサスペンションは優秀で、全速力で走っていても止まっていても変わらず大口径二連装砲の衝撃を受け止め、かなり正確な射撃が出来る。しかしそれは、二足歩行で走る"ザクII"には出来ない。走りながらの射撃など、ゲームの様にはいかないのだ。

 それでもMSの歩行、走行は普通の人間のものと違い、腰を動かさない様にする揺れの少ない走りであるため、重力下におけるパイロットの負担を減らし、移動しながらの射撃の命中率もそこまで酷いものでは無いが……。

 

 しかし、かと言っても、少尉の"ザクII"は事更に戦闘の経験値が足りないので尚更だ。特に射撃の機会をあまり設けられなかったので、今の未調整なままのFCSでは弾丸は明後日の方向へばら撒かれてしまうだろう。

 ミノフスキー粒子濃度が高い今、そのFCSも殆ど機能しないのでは尚更だ。下手にアンノウンに撃ち込んで報復されたらたまらない。手動や半自動でも可能ではあるが、現実的ではまったく無い。そんな事が出来るのは一握りの天才だけだ。

 

──耳を突く様なビープ音。少尉の顔に緊張が走り、身体が強張る。しかし、それに意を返す事の無いコクピットに、ロックオン警報のアラート音が鳴り響く。それはまさに、少尉への最後通告だった。

 振り向いた敵守備隊の"ザクII"がFCSを起動したのだろう。こちらをロックオンし"ザクマシンガン"を構えた事による、照準用レーダー波の照射を機体が感知したためであった。

 

 "ザクII"の機体の各部にはあらゆるセンサーが設置されている。言わば全身が眼であり耳であるのだ。

 敵がこちらを捕捉しロックオンすると、確実な命中を期待するためにあらゆる波長のレーダー波などを照射、その反射を受け取りデータ解析を行う。つまり、少尉の"ザクII"は照射されたあらゆる電磁波、赤外線、紫外線、レーザー、レーダー波を感知し、狙われている事を警告したのだ。

 これを嫌い、目視による直接照準のみを行う事も可能ではあるが、戦闘中に手動で射撃するのは至難の技だ。射撃モードは自動、半自動、手動とあるが、手動は自機を停めた後の狙撃でない限り不可能に近い。

 そのため戦闘機動中はもっぱらFCSに頼る事になる。しかしFCSは正確な射撃のため、あらゆる情報を必要とする。その情報を得るためにはレーザーなどを照射しなければならない。しかしそれは敵に感知されてしまう。ジレンマだ。

 

 つまり、FCSを起動しロックオンする事は、敵に銃を向け『撃つぞ!!』と叫んでいるような物なのだ。

 

 また、これらの機器はミノフスキー粒子によるミノフスキー・エフェクトを最も大きく受けてしまう機器でもある。相対速度を合わせた対艦戦闘、航宙機を相手取った格闘戦等、両者に大きな運動性能の差、全長の差が無い限り自動は厳しい。

 特に、それが従来の機動兵器の運用思想、運動能力から乖離した、特殊兵器MSの動きを捉える事となれば言うまでも無い。高機動運動をするMSを捕捉する事自体が至難の技なのだ。

 本格的なMSによる対MS戦闘が始まった時、少尉は一番大きな問題となるのがこのFCS関連では無いかと睨んでいた。それが的中した形となり、最悪の形で実証されたのだ。

 

「! ふっ!」

 

 音とメインスクリーンの映像に反応した少尉は、反射的にフットバーを蹴っ飛ばし機体を転がせる。操作を受けた"ザクII"は地面を蹴り、機体を大きく投げ出す様にして回避運動を行った。遮蔽物が無いのなら足を止めるな。ほら、追撃が来る。動け動け、進め進め。脳裏に声が響く。いつの記憶か、コレは…。

……虎の子の兵器である"ザクII"を壊す訳にはいかないため、回避パターンだけは多く練習しといてよかった。少尉はけたたましい電子音と、激しく揺れ、回転するコクピットの中で歯を食いしばり考えた。

 ぎこちなくも、自然な受け身を取る"ザクII"に、転がった事による大きな損傷は見られない。

 少尉がこだわり、追求し続けた回避モーションは実戦において確かに実を結んでいたのだ。……立ち上がる砂煙とフレーム、アクチュエーター、装甲への負担、機体各所に詰まるゴミや砂でおやっさんに痩せるぐらいドヤされたが。

 

 口径120mmという、戦車の主砲にも匹敵する"ザクマシンガン"の吐き出した轟音と閃光が大気を揺さぶり、少尉の"ザクII"が元居た地点を射線が通り過ぎる。放たれた弾丸は猛然と空を切り、遥か彼方の稜線に砂煙を上げ着弾する。

 弾丸はその運動エネルギーを全て吐き出し、そのエネルギーは設計者の想定とは別の形で消費された。

 少尉は唇を引き結び、目を油断無く光らせる。しかし、追撃が来る事は無く、その射撃に正確さは無かった。

──戸惑っているのか?そうだろう。IFF上では味方なのだ。ならば、それを利用しない手は無い。

 

「くっ……!」

《こちらブラボー、援護する……》

《わたしも忘れてもらっちゃあ困りますよ!!》

 

 明らかに動揺し、明確な攻撃行動が取れない"ザクII"に向け、"ロクイチ"が射撃し揺さぶりをかける。

 次々と撃ち込まれる砲弾に、機体を大破させる様な有効弾は無い物の、"ザクII"は大きく態勢を崩した。頭部のモノアイが忙しなく動き回り、その動揺が手に取るように伝わってくる。性能で劣れども、頭数の違いは大きい。それが連携を取っていたら尚更だ。

 少尉の"ザクII"を囮とし、降り注ぐ"ロクイチ"の砲弾は、確実に"ザクII"を追い込んで行く。特に軍曹車輌の攻撃は的確だ。機体各所の動力パイプを千切られた"ザクII"は、ぎこちない動作でしか動けなくなっていた。

 

「喰らえ!!」

 

 そこを姿勢を直した少尉の"ザクII"が、膝立ての姿勢で射撃する。フルオートの衝撃に機体が揺さぶられるが、銃口は敵に向け続ける。少尉は暴れる"ザクマシンガン"を抑えつけ、そのマズルが飛び跳ねる様とするのを防ぐ事に集中した。

 スクリーンの中では、降って湧いた火線を、それでもなお咄嗟に右肩のシールドで受け止める敵の"ザクII"を映し出す。少尉はそれを見て舌を巻いた。やはり敵の方が一枚、いやそれ以上に上手だ。マズい。今の俺にシールドを外して撃つなどという高度な射撃は出来ない。真っ向から撃ち合ったら勝てる確率は限りなく低い。

 湧き水の様に噴き上がり、心を満たして行く焦りに飲み込まれかける中、シールドを抉った跳弾が、敵の"ザクマシンガン"を破壊した。しかし、その様な事にも気付かず、少尉は引き鉄を引き続ける。少尉の頭は、目の前の敵を如何に吹き飛ばすか、それだけに集中していた。

 

「…!」

 

 少尉が制圧射撃で敵を釘付けにした事で、軍曹が動いた。回りこむ気らしい。

 少尉は軍曹に、"ロクイチ"に脇腹を狙わせようと口を開く。その瞬間、目の前で"ザクII"がバックパックから火を噴いた。2度3度と続く衝撃に揺さぶられ、火花と煙を噴き機体を震わせる。

 

「──なっ!?」

 

 何が、と言いかけた少尉の目の前で、"ザクII"がとどめとばかりに背後からの射撃を受け崩れ落ちる。

 

 そこには倒れ込む"ザクII"を見下ろす、もう一機の"ザクII"が立っていた。

 

 噴き上がる煙を掻き分け接近したその"ザクII"は、倒れ込んだ"ザクII"に対し更にとどめの射撃を撃ち込む。

 その様子はまさにプロだった。

 新しく現れた"ザクII"は、無抵抗な敵に弾丸を容赦無く撃ち込み、動作を停止させた。機体の各所をスパークさせ、弱々しく蠢いていた"ザクII"は、それを皮切りにピクリとも動かなくなる。燻る炎と煙、そして思い出したかの様に光るスパーク以外、その残骸が激しく戦闘を行っていた"ザクII"だと言う名残を留める物は無かった。

 

 トドメを確実に刺す。その光景は冷酷な様に見えるが、自分が生き残るには確実で最善の策だ。寝首をかかれ、不意を突かれて数多の優秀な戦士が死んでいった。戦術とは強敵を避ける事である。それは個人に対しても言える事だ。

 旧世紀の大戦でも、死んだふりをする敵を見定めるため死体に銃剣を刺して回ったと言うしな……。

 

「…………」

 

 倒れた"ザクII"を挟み、そのままもう一機の"ザクII"と睨み合う。膝立てから立ち上がった少尉の"ザクII"の左右に、まるで控えるかの様に軍曹と伍長の"ロクイチ"が停車する。威嚇するかの如く仰角を取った主砲は、実際寸分違わず標的を捉えている。

 まるで荒野のガンマンの様だ。少尉は他人事の様に思った。微かに震える手をただ抑え、少尉は頬に汗を一雫垂らした。顎を伝う汗はポタリと音を立て、小さなシミとして膝小僧の生地に消えた。

 

 一陣の風が吹き、煙が晴れて行く。差し込んだ陽の光を浴び、強い逆光の中、目の前に立つ"ザクII"の頭部にはブレードのようなアンテナらしき物が付いており、それが長く影を引いていた。

──俺のにはついていないものだ。新型か?何が狙いなんだ?つーかそのツノカッケーな。俺のにも付けたいわ。

 

 影で殆ど見えない"ツノツキ"の、モノアイだけが強い光を放つ。それはまるで品定めをする死神の様だ。熱気で揺らぐ陽炎が、そのシルエットをまるで嗤っているかの様にグニャリと歪ませた。

 この鋼鉄の巨人は、決して無口では無い。しかし、そんな物、必要ないのだ。そんな物が無くとも、雄弁に物語るのだ。目の前の"ツノツキ"は、今確実に『笑って』いた。

 

──『死神を、3度欺く事は叶わない』そんな言葉が脳裏にフラッシュバックする。

 

「……………」

《しょっ!!少尉!!アレ!!》

《増援……》

 

 その"ツノツキ"周辺に、更に複数の"ザクII"が轟音と共に集結し始めた。"ザクマシンガン"を小脇に抱えた機体、棍棒の様な物を手にした機体、脚の傍に箱の様な物を取り付けた機体と様々だ。

 あたりは砕け散り、焼けつき、ひん曲がった残骸がゴロゴロと散らばり、時折火を噴いては煙を燻らせている。その中を、軽快な足捌きで接近して来るその姿は、只者では無い事を暗示している様だった。

 少尉は絶望しながらも、注意深く敵を観察し、活路を見出そうと必死だった。敵は、"ツノツキ"の腕を見る限りかなりのベテランだ。そして、どんどん集結してくる"ザクII"の総数は、"ツノツキ"含め合計6機になった。この状況下で、ベテランの"ザクII"部隊に敵う術はない。

 仮に一矢報い様とも、銃口を上げる前に蜂の巣にされ、そこらに散らばる残骸の仲間入りとなるだろう。肉片となって。

 

《──しょ、少尉、どう…どうします?》

 

 伍長から震え声での通信が入る。カタカタと鳴る歯の音が耳障りだ。主砲を向けているとは言え、どうすれば分からないのだろう。しかし、少尉もそれは同じだった。

 襲撃を受け交戦を始めたジオン軍に、"ザクII"を倒す"ザクII"。鮮やかな手口、手練れであろう組織行動に、野盗の可能性は潰えた。

──それにしても、判断材料があまりにも少な過ぎる。

 

「……奴らの狙いが分からん。ジオンの集積所を襲撃しているが、ジオンだとしても、俺達を攻撃しない理由がない。"ザクII"に"ロクイチ"。俺なら迷わず攻撃する」

 

 太陽はもう真上を通り過ぎていた。地面に伸びた影が、また形を変えて行く。時は止まる事を知らない。焦る少尉を置いて進んで行く。

 

《……少尉。戦力的にも、不利だ………マシンガンを置き、レーザー通信での呼びかけを提案する……》

「………それしかないな……それしか……」

 

 "ツノツキ"はパイロットの腕だけなく指揮官としても優秀なようだ。殺すとしても、"ザクII"と情報を得る積もりらしい。そのための脅しとしての部隊集結だろう。

 "ザクII"部隊に動きは無い。しかし、通信量が増えている。向こうも対応に窮しているのかも知れない。やるなら今だろう。

 

《で、でも……いや、だいじょぶですね……?》

「……わからん。が、今はこれしかない……」

 

 少尉はなるべく声が震えない様気をつけながら、強張った腕で機体を操縦する。指示を受けた"ザクII"がゆっくり動き、相手を刺激しないように"ザクマシンガン"を置く。機体からすぐ傍の、屈めば掴み取れる位置だ。

 その時相手の背後に砂煙と共に驚くべき物が出て来た。

 

──"ロクイチ"だ。

 

 何故"ロクイチ"が?謎は深まるばかりだ。

 

…だが…あの世に持ってけるものなんて、自分から自分への評価だけだ。決断の時は来た!!

 

「そこの"ザクII"へ!聞こえるか!今からMSを降りる。撃ちたいのなら撃て!」

《ちょっと!!少尉!?》

《……正気か……?》

 

 オープン回線に加え、外部スピーカーで発せられた少尉の言葉に、軍曹と伍長がそれぞれ反応する。しかし、少尉の考えはほぼ決まっていた。

 

 日が傾き初め、まだ煙燻る中へ紅い光を投げかけ始める。惜日は、夕日に終わる。長く影を伸ばし始めるその残光の中、少尉はコクピット解放レバーを引いた。

 圧縮空気が押し出される音と共に、"ザクII"のコクピットハッチが解放される。吹き込む砂混じりの風と強い西陽に目を細めつつ、少尉は"ザクII"のシートから身を乗り出す。砂埃が舞い、少尉の口をジャリつかせた。

 

「それしかない。もし死んだら直様撤退しろ。旅団は任した」

《少尉!!ダメです!!そんなの!!》

 

 インカムから漏れる涙声の伍長を無視し、膝をつく"ザクII"から降りる。

 プラットフォーム代わりの、差し出された掌から飛び降りる時に気づいた。やっべ!俺連邦軍の野戦服じゃん!こりゃ死んだわ………あまりにもちぐはぐ過ぎる!

 

 希望が脆く砕け散り、足元の砂に吸い込まれて行くのを感じた。

 どっと嫌な汗が噴き出し、背筋に悪寒が走る。頬を伝った汗は風に攫われ、蒸発して行くが、軍服の中はそうはいかない。今の少尉には、その嫌な感覚を味わいながら、身体を強張らせる事以外に出来る事は何も無かった。

 ゴクリと唾を飲み込むが、上手くいかずむせかける。極度の緊張に胃はキリキリと痛み、痙攣し、吐きそうだ。足も震えている。酸素が足りない。喘ぎそうになるふらつく体を必死に支え、少尉は両手を掲げ、前を睨みつけた。

 経験こそ浅いが、少尉は攻撃機の元パイロットだ。ここぞという時身体を張るだけの度胸はあった。それこそ、火網とも呼べる対空砲火を潜り抜け、目標に攻撃を加える度胸が。

 

 "ザクII"を降り、両手を挙げた少尉に、正面の"ザクII"がスピーカーで話しかけてきた。一瞬のノイズの後、ビリビリと身体全体を揺さぶる様な音の前、少尉は更に身体を強張らせるが、心は不自然にも落ち着いていた。

──正直うるさい。ボリューム考えてよ!!頭痛いわ!!

 

 そしてその内容も、今の少尉には理解の出来ない不可解なものだった。

 

『貴官の勇気ある行動に感謝する!!貴官と話がしたい!もう一度MSに乗り込み、そこの"TYPE-61 5+"と共について来て欲しい!!』

 

……もう一度MSに乗せる……?……それに……更新したばかりの、"ロクイチ"最新の名称を知っている?

……………何者なんだ?

 

 頭の中に大量の疑問符が飛び交い、ぶつかり合う。頭の中で、その嵐の中に放り込まれた少尉は飛び交う疑問符に打ちのめされオロオロと歩き回り、つまづき転んで思考停止する。

 暫くぽかんと立ち尽くした少尉は、緊張が切れ座り込む。砂の焼ける感覚が懐かしくも感じられ、胡座のまま揺蕩う黒煙をぼんやりと眺めていた。

 

《…少尉……整備班長へ……連絡を……》

「お、あ…うむっ、緊急通信(PAN)で連絡する!」

 

 そんな少尉を、軍曹の冷静な声が現実へと引き戻した。冷水を浴びた様に正気を取り戻した少尉は、ややテンパり、力みつつ反応する。

 震える手でガチャガチャと通信機を弄るが、雑音を吐き出すのみだ。大きく深呼吸し、立ち上がった少尉は膝をつく"ザクII"を見上げて、ゆっくり歩き出した。

 

 未だに状況が全く掴めないが、なんとか"ザクII"へ乗り込みつつ、もう一度大きく深呼吸をする。良く冷えたコクピット内の空気は、少尉の煮上がりかけた頭を冷やして行く。少尉は体の中に流れる血が入れ替わった様な、奇妙な感覚に身震いした。

 考えを巡らせながら"ザクII"を立ち上がらせた少尉は、そのまま稜線へと登り、"ラコタ"を中継にレーザー通信によりおやっさんへ連絡をとる。ミノフスキー粒子濃度は戦闘の影響でそこそこあり、既に長距離無線は不可能だったのだ。

 

《んん!?どうした大将!?緊急通信とはまた……取り敢えず話を聞こう!》

 

 珍しく慌てた様な声で、ワンコールで出て来たおやっさんに、少尉は素直に口を開いた。未だに罠の可能性も無きにしも非ずであるが、通信は入れておいた方がいいだろう。

 口の中がカラカラに乾いていて、上手く舌が回らない。口に手を当て、少し咳き込んだ少尉は、ゆっくりと喋り始めた。

 

「おやっさん……アンノウンとコンタクト、会談を設ける事になりました」

《…………お前は何をやってるんだ?》

 

…………ごもっともです………。

 

「………すみません。それしか無かったんです……ぶっ、物資回収後、"ラコタ"、"ヴィークル"を回収しつつこちらへ来てください……」

 

 絞り出すかの様などもりながらの報告と、おやっさんの心の底から呆れた様な声に、恐縮しつつ少尉は肩を落とす。本当は自分だってよく分からず、説明して欲しい位なのだ。情けない声だって出よう。これ位は許してほしい。

 耳を澄ます少尉に、優しく語りかける様におやっさんは言葉を紡ぐ。それは少尉にとって染み込むかの様だった。

 

《……判った。お前さんを信じるよ。大将。ま、カラ元気も元気、なんて言葉もあるもんさ。気を強く持って、準備を怠らねぇこった。そうすりゃ、風向きも変わるってもんさ》

「……え、あ………」

 

 通信は一方的に打ち切られ、少尉は顎から汗を垂らしながら沈黙する。

 先程までの落ち着きは何処へやら、突如噴き出してきた不安に目は泳ぎ、顔色は青くなって行く。よく考えたら、本隊を呼び寄せたのは不味かったのでは?いや、しかし、でも……ダメだ。考えがまとまらない。少尉の頭は既にパンク寸前だった。

 そのあまりの声の震え具合に耐えかねたのか、軍曹が通信を繋ぐ。

 

《……どう、だ……?》

 

 咽喉マイクを押さえた軍曹は、キューポラから半身を乗り出し、こちらを窺っていた。そして、傍受の可能性を考えてか、小さくハンドシグナルを出していた。

 その意図を汲み取り、少尉は軍曹の冷静さに、漸くちょっとした落ち着きを取り戻し始めていた。

 

《ああああああああああ》

「……ん、あ、あぁ………おやっさんとは後で合流する。だから…今は、流れに任せる」

 

 それだけ言い切ると、少尉は"ザクII"の腕を振り、深呼吸をし少尉は画面を眺める。

 辺りは斜陽が砂漠を染め上げ、稜線に沿い影と光のコントラストを描き出す。少尉は緋色と深紫が、ジリジリと形を変えて行くそれを見る事で、また少しずつ心が落ち着いて来るのを感じていた。

 

《……了解。俺は……少尉に、従う……》

《あわ、あわわわわわばばばぼ》

「伍長……」

 

………そうか、俺は隊長だ。しっかりしなければ……。隊長が部下の不安を煽ってどうするというのだ。

 自分で自分の頬を張り、気がつくとカラカラに乾いていた喉にチューブゼリーを流し込んだ。味こそまだよく判らなかったが、喉に流れ込み、胃に溜まったそれは確実に生きる活力を少尉に与えていた。

 

 それでも、不安は消えて居ない。"ツノツキ"のパイロットがどうであれ、少尉達の命は今完全に握られているのだ。

 心いっぱいを占める不安を胸に、少尉はゆっくりと"ザクII"を歩かせる。伍長にいたっては大パニックだ。あわあわ言ってるし。それに対して軍曹の落ち着き具合がヤバい。潜り抜けて来た鉄火場の場数が違い過ぎる。まぁこりゃターミネーターって呼ばれるわ。

 

 結果として、墜とした物資集積所に踏み込む。焼け跡の火は既に消火されているが、未だにあちらこちらで煙が燻り、焼け焦げた死体が無造作に転がっている。鉄屑が散らばり、それを"ザクII"と"ロクイチ"が踏みつけ均す音だけが響いていた。

 その中を無言で進み、整列する"ツノツキ"の"ザクII"の前で停止する。無言の圧力の中、"ザクII"を膝立ちさせ、関節をロックし機体から降りる。

 

 その脇にはオドオドした伍長、何も変わらない軍曹が並び立つ。ドライバーはまだ"ロクイチ"に乗っけたままだ。いざという時の為である。

 

 眼前の"ツノツキ"も膝をつき、コクピットを開放する。

 プシュッという圧縮空気が漏れる音と共に、"ザクII"のモノアイの光が落ちる。燃える様なオレンジ色の光の中、姿を表したパイロットが手慣れた動作で降り立った。その姿に、少尉の目は見開かれた。見間違いかと思ったのだ。しかし、それは決して見間違いでは無かった。

 

──連邦軍の軍服だ。………しかも佐官。中佐って!!

 

 しかし、現実は少尉に情け容赦無く降り注いで行く。呆気に取られつつも敬礼をする少尉。そんな少尉の眼前で、男はヘルメットを外した。

 返礼を行う目の前の男は眼帯をしていて、顔は眩しいくらいの光の中でも分かるほど傷痕だらけだった。やや年齢を重ねた風貌、顰められた目元、歪んだ様に見える口。顔を跨ぐ傷痕、その中でも特に大きい、頬を横切る様な縫い跡が、少尉脳裏に焼きついた。

 

「俺は地球連邦軍地上軍北米方面軍北米軍特殊作戦コマンド部隊"セモベンテ隊"隊長であり、"ザクII"321号機(コイツ)のオペレーター。フェデリコ・ツァリアーノ中佐だ」

 

 中佐が流れる様に所属を述べる。特殊作戦コマンドは聞いた事がある。"キャリフォルニア・ベース"に居た頃噂になっていた特殊部隊だ。

 少尉は漏れだしそうになる声をなんとか抑え、静かに口を開いた。

 

「……申し遅れました。非礼、お詫びします。私は()、地球連邦軍地球総軍北米方面軍北米軍航空軍戦術航空団第1大隊第3中隊第5小隊所属のタクミ・シノハラ少尉であります」

「ほぉ、"フライング・タイガース"か」

 

 やや声が震えたが、なんとか噛まずに言えた。少尉の言葉に、中佐は片眉を上げ口元を引きつらせさせる。そのまま顎をしゃくり、中佐は先を促した。

 ホッとしたのも束の間、軍曹が口を開き、少尉に続いた。淀みなく応える軍曹こそ、紛れも無い軍人の姿だった。

 

「……同じく、元地球連邦軍地球総軍北米方面軍北米軍機甲軍強襲機甲団第3大隊第1中隊第3小隊所属……ロイ・ファーロング軍曹……」

「おっ、おお同じく!レオナ・ヴィッカース伍長です!!」

「うむ。ご苦労」

 

 3人で挨拶をする。顔こえーよwこの人。海賊船の船長みてーだよ!

 あまりジロジロ見るのは失礼だとは分かっているものの、その顔から視線が外せない。しかし、ボロボロで歪んでいるものの、その目は強い意志の光を静かに讃えている様だった。

 正に、青白い鬼火の宿る髑髏の様だ。

──復讐鬼。そんな言葉が頭を掠めた。

 

 

 

 

「"キャリフォルニア・ベース"撤退部隊?」

 

 中佐の疑問に、少尉は姿勢を正し口火を切った。口を開き、息を吐くと白く煙る。羽織っているフライトジャケットの裾を握り締め、手袋を外した事をやや後悔した。

 耳を傾ける中佐は、意外そうな顔で片眉を釣り上げる。どうやら癖らしい。

 

「肯定であります。"キャリフォルニア・ベース"陥落後、脱出した整備中隊に同行、南米"ジャブロー"方面へ撤退中であります」

 

 日が翳り、少し肌寒くなった中、焚き火を前に中佐と現状の確認を行っていた。第一印象とは違い、見た目に合わずかなり柔軟に物事を理解する人の様で、まさに現場叩き上げと言う印象だ。

 ふむ、と顎に手をやり、中佐は少尉を舐める様にして眺めた。中佐の背は少尉より高い。見下ろし、舐める様な視線を受けた少尉は身体を強張らせたが、それには意を介さず、ぼそりと呟き言葉を続けた。

 

「そうだったのか……撤退とは言いつつも、この進軍…転進とはよく言ったものだ。()るな、貴様ら。それで、あの"ザクII"はどうしたんだ?」

 

 一息つき、背中越しに親指で指した"ザクII"は、赤外線遮断シートをかけられて静止している。その指の動きを目で追い、少尉は焚き火に枝を投げ込む自分の腕から顔を上げた。

 焚き火は火花を散らし、煙を上げて夜空へも吸い込まれて行く。星々の輝きを濁すそれに、目を細めて見上げつつ口を開いた。

 

「……物資集積所を強襲、強奪しました」

 

 少尉は一度俯き、小さく呟いた。

 

「──いけなかったでしょうか?」

 

 そんな少尉を、片眉を吊り上げた中佐が笑い飛ばした。

 

「はっはは!使えるものは使う。それの何がいけない?物量で勝る敵と戦う時は、敵と同じ武器を使うに限る」

「ゲバラ…チェ・ゲバラですか。中佐殿の隊は?」

 

──どこか懐かしさがある。口を開きながら、ふと思った。辺りが闇に包まれ始め、焚き火の灯りがちらつく。少尉はふっと息を吐いた。

 

「はははっ。お前、(オツム)の出来の割には学があるな。同じだ。整備兵がいるだろ?パーツを直して、敵味方識別装置(IFF)を独自な物にする。連邦軍MS部隊はこうやって強くなる。それに、"セモベンテ隊"はMS運用データ採集試験部隊でもある」

「試験、部隊…ですか……」

 

 失礼します、と一礼を入れつつ火に枯れ木を焼べ、中佐の話を聞く。その話には驚きの連続だ。

 MS、それに、運用データ……やはり連邦軍もMSを……。

 

「そうでありましたか……こちらは"ザクII"の運用は素人です。出来ればご指導願いたいものです」

 

 やや強張った声で少尉は告げる。まだ相手の事も全然掴めていない。馬鹿丁寧な物腰もその1つだった。思わず短く息を吐く。

 その言葉に中佐はふふんと笑い、ずいと顔を近づけて来た。少尉はその視線に怯み、顔を強張らせる。頬を伝う一筋の汗に、脇の下を濡らす冷や汗が、風に冷やされ蒸発する。ふとした寒気はそれが原因だと言い聞かせ、少尉は中佐の言葉を待った。

 

「……お前、気に入ったぜ?歳は?」

 

 片眉を上げた中佐の手の中で、ぱきりと枯れ木が小気味好い音を立て真っ二つになる。それを乱暴に火に突っ込みつつ、中佐は顔を歪ませ、口を引きつらせつつ言った。

 最も少尉には、それが笑顔なのだと判断するのに少々の時間が必要であったが。

 

「はっ、今年で19になります」

「よし、ついて来い。そこの2人もだ。………少ししか出来んが、教えられるだけは教える予定だ」

 

 すっと立ち上がり、ズボンの尻を手で払いつつ中佐が言う。

 唇を軽く歪ませたその顔は、揺らめく火に照らされ一層凄みのあるものとなった。まさに幽鬼そのものの様な風貌だ。それは、隣の伍長にひっと息を飲ませるのに足る、凄惨な笑みだった。

 

「はっ、ありがとうございます。……後、提案が一つ……よろしいですか?」

「何だ?言ってみろ?」

 

 少尉が背中に周り、腕に抱き着く伍長の頭をポンポンと叩きつつ言う。その動きに合わせ、軍曹が少尉に手袋を渡す。驚きつつも受け取り、礼を告げる前に、先を歩く中佐はその2人に一瞥もくれず受け答えた。

 沈黙を貫く軍曹は、少尉の傍に控えるのみだ。ただ、極めて自然体に見えて、その身のこなしに全くの隙は無く、動きも滑らかだ。

 格闘を嗜む少尉には判る。軍曹は常にナイフとハンドガンを抜く用意をしていた。

 

「……二二○○(フタマルマルマル)時頃、我々のトラック群がここへ到着します。士官用車には、ユニットバス、レーション以外の食料もありますので、どうかお使い下さい」

「……ふふ、はははははっ。……益々気に入ったぜ。ジオンの野郎共を地球から追い出し、連邦(俺たち)の勝利のため……ありがたく使わせてもらう」

 

 中佐は振り向き、少尉の肩を叩き抱き寄せた。ヘッドロックされる形となった少尉は苦笑を浮かべ、なすがままにされるだけだ。

 そんな少尉の腕に、伍長が頬を膨らませ抱きつき、軍曹はそんな3人を見て微かに鼻を鳴らした。少し離れた位置では、"ロクイチ"のドライバーと他の"ザクII"のパイロット達が所在無さ気に立っていた。

 

「ついて来い。おい!ペンター!ジャクソン!何やってんだ!」

 

 その後、少尉は座学を交えつつ、基本的なOSの設定、モーションマネージャーの更新、機体の調整、MSの戦闘動作、戦闘機動、小隊運用、様々な事を詳細に学ぶ事が出来た。

──これは、我が旅団にとってもかなり大きな収穫となるだろう。特に対MS戦闘演習は、我々に一筋の光明をもたらした。敵を知り、己を知らば、と言うヤツだな。

 

 MSと言うものに可能性を見出し、目の前まで持ち上げた右手を握りしめつつ少尉は空を見上げた。

 

 その空を、一筋の箒星がキラリと輝き、煌めく尾を引きつつまだ光の残る西の空へと溶けて行った。

 

 

 

 

 

 

 時間は矢の様に、飛ぶ様に過ぎ去り夜になった。そろそろ時間だ。おやっさんはどういう顔をするだろうか?

 少尉は地平線に見え始めた砂煙に想いを馳せる。帰るべき場所はすぐそこまで来ていた。、

 

「大将!!来てやったぞ!例のアンノウンとやらは!?」

 

 砂煙を上げ疾走するトラックの窓から、身を乗り出したおやっさんが手を振りつつ怒鳴る。それに少尉も両手を振りながら怒鳴りかえした。

 

「おやっさん!地球連邦軍の中佐殿です!」

「ほぅ、これがそのトラック群か。中々の物だな」

 

 少尉の隣では中佐が腕を組みつつ、目の前で停車したトラックを見上げて言う。その目は品定めをする様に鋭く光り、まるで獲物を見つけた猛禽の様だった。

 直様整備兵達が飛び出し、野営の準備を始める。その一糸乱れぬ動きに唸る。テキパキと進む作業を背に、少尉は小さく頬をかいた。

 

 トラックから降り立ったおやっさんと無事合流し、おやっさんと中佐の2人が顔を合わす。

 体にまとわりつく砂を軽く払いながら、おやっさんが物怖じせず切り出した。

 

「お前か、その中佐殿って奴は」

「!………お話は伺っております。整備班長」

「!!」

 

 おやっさんの態度と、中佐の変貌具合に固まる少尉。口を半開きにした少尉に、おやっさんが怪訝な顔を向ける。

…………いや、そんな目で見られても………。

 

「ん、どったんだ大将?」

「い、いや……」

「んだよ。変な奴だな……」

 

 おやっさんなにもんだよ!!厳つくて顔中傷だらけの中佐が頭下げてんぞ!?

 

「光栄ですな。こうして"神の腕"と再び顔を合わせられるとは…」

「よせやい。話は聞いた。補給も任せろ。トラックも是非使ってくれ。使うのが俺だけじゃぁな。……今夜は一杯と言わず付き合って貰うぞ」

「恐縮です。ではなタクミ少尉」

「はっ」

 

 おやっさんと中佐が連れ立ってトラックへ入っていく。やっと肩から力が抜ける。はぁ、疲れた。

 

「少尉ぃ!!怖かったですぅ!!」

 

 隣でずっと固まっていた伍長が泣きついてくる。あの後の演習中も怒鳴られっぱなしだったしなぁ。ずっと半泣きの顔してたし。

 

「…よく生きてましたね……わたしたちって…」

 

 伍長が、思い出したかの様にボソリと呟く。

 

「それ生きてる人に言うか?」

「生きてるから言うんですよ?」

 

 少尉の呆れ混じりの返事に、伍長はギュッと目をつむりながら答えた。

 火が燃え、歓声が上がり始める中、少尉は溜息をついた。

 

「……お疲れ様。軍曹は?」

 

 大きく伸びをした少尉は、伍長にゆっくり向き直った。伍長は奥の焚き火を指差しつつ、明るい声で告げた。

 

「向こうで他の"ザクII"、"ロクイチ"に乗ってた人と飲んでますよ。私お酒ダメだし、皆してからかってくるからここにいます~」

「……まぁ珍しいしな、女性の戦車兵は…」

 

──それ以外にもあるだろうが。なんたって伍長だし。

……つーか整備兵含め全員酒盛りして、既に出来上がってんだよな。

 これを、戦場のど真ん中でやるっていう度胸がヤバい。とても真似出来ん。

 

 そして素面未成年の2人には辛い。

 

「少尉、どーします?」

 

 伍長が腕に抱き着きながら聞いてくる。

 どうって…?いや、設備も来たし、"ザクII"の調整でもしようと思ってたんだが……。

 

「もうシャワー浴びて寝たら?」

「いいいや、ほ…ほら、せっかくだしお酒とか飲んでみようかなーって思いまして……少尉もきょーみ無いんですか?」

 

……さっき酒ダメって言ってなかった?

 

「この際年齢なりなんなりは置いといて…ま、いいんじゃないのか?明日に響かない量だったら。俺は飲まんが」

「何でですか!それじゃあ意味がないですよ!」

 

 伍長は腕をぶんぶん振りつつ地団駄を踏む。なんで?飲むなとは言ってないじゃん。飲みたきゃ飲めばいいじゃん?

 

「……何を飲酒に求めてんだよおまいは」

「……少尉は分かってないです……」

 

 分かんねぇよ。分かりたくもねぇ。

 

「……はぁ、全く……」

 

 諦めて周りを見渡す。酒盛りは既に佳境に入っている。あちらこちらに焚かれた焚き火に、皆が好き勝手集まり酒を飲んでいる。正直距離を置きたいんだが……酒は人を変えるからなぁ……。

 

「少尉!飲まねぇのか!?」

「飲みませんって」

 

 整備兵の一人が酒瓶を振り上げつつ呼ぶ。ほらコレだよ。未成年にお酒をためらいもなく勧めるなや。全くもう。

 

「なら伍長はどうだ!ホレ」

「伍長、勧められてるぞ?」

「そーゆー事じゃないんです!もう!」

「じゃあどういう事なんだよ……」

 

 探す声が聞こえるので、こっそり抜け出そうとする。

 

………が!

 

「タクミ!おら!こっち来い!!」

「そうだ!命令だタクミ!そこの泣き虫小娘もだ!」

 

 その声に、少尉のこめかみに一筋の汗が伝う。それが少尉の胸中を雄弁に物語っていた。

 

──やっべぇのに目ぇつけられちまった!!伍長!俺の背に隠れるな!!あの2人メッチャ酔ってる!!めっちゃ肩組んでる!!めっちゃ楽しそうでいいけど!!中佐!笑い過ぎで眼帯ズレてる!!あっヤバげ、奥で軍曹以外潰れてる!!毛布かけてあげてる軍曹マジイケメン!!じゃなくて!!

 

「は、はい!なんでございm…」

 

 2人の囲む焚き火に、肩をすぼめつつ座る少尉。既に雰囲気に呑まれつつある。そんな少尉に、まるで銃の様に酒瓶を突きつけた中佐が吼えた。

 

「飲め!!」

「えっ?いや、あの……」

「……飲めねぇのか?俺の酒が?」

 

……こえーから顔近づけないで!!伍長また涙目だよ!!と言うかアルコール臭が!!

 

「いっ!いえ!そんな事は決して……」

 

 慌てて首と両手を振りつつ後ずさる。しかし、そう長くないイスは、少尉の逃げ場など作ってはくれない。あっという間に端まで追い詰められた少尉は、ダラダラと滝の様な汗を流していた。

 ここは断ると後々マズい。だがこの雰囲気に持ってかれた時点でほぼこちらの負けだ……。あぁ、空はあんなに星が綺麗なのに……。

 

 目を逸らし、現実逃避を始めた少尉に、中佐は突然真顔になり、打って変わって冷えた声で喋りだした。

 

「……生き方を考えるのは重要だ。若いの。だが、それは休み方を知るのもまた同じだ」

「中佐?」

 

 少尉は呆気にとられ、その顔を覗き込む。

……生き方?どう言う事だろうか?俺は今生きて呼吸している。それ以外にあるのか?必死に生きてこそ、その生涯は光を放つ、とは、誰の言葉だったか。『あなたは、自分の人生を生きるために生まれてきた』と声をかけてくれたのは、誰だったか。

 

 目を瞬かせる少尉に、中佐は片眉を上げて怒鳴った。

 

「おらっ!『島国』出身だかなんたが知らねぇが飲めぃ!!」

「ええ?え、ええ……分かりました……なら、一杯なら……」

「レ~オ~ナ~!!出て来い!お前もだ!!」

「ひぃ~」

 

 コップを渡され、身体全身を強張らせる少尉の背中に、伍長が再度へばりつく。中佐、顔が近いです。そのアルコール臭だけでもうお腹いっぱいです。

 

「あの無口野郎は?あいついい腕してたな!スカウトしたいくらいだ!!」

「戦力の要なのでご容赦いただけます!?」

 

 中佐のコップに酒を注ぎ、どうぞどうぞと勧めつつしっかり否定する。ここはもう酔わせ切り、無効化を狙う!!明日明後日の未来など知った事か!!今が正念場じゃ!!

 

「ならタクミ!お前だ!お前はスジがいい!絶対いいオペレーターになれるぜ!?」

「うははははっ。さっすが中佐!お目が高いな!」

「お褒めに預かり光栄ですが……」

「少尉はダメれすー!」

 

 中佐と少尉の間に伍長が回り込む。既に顔は真っ赤で千鳥足だ。おい、急性アルコール中毒で死んだりすんなよ?

 

「何だ泣き虫?お前はいらない。だが今は飲め!」

「少尉はダメなのー!!」

「伍長?大丈夫なのか?」

「……うふふ………」

「こいつ一滴も飲んでないぞ」

「場酔いでこれなんです!?」

 

 空のコップを両手で持って絡んでくる伍長は、目がクルクルと回っていた。あ、コレダメなヤツや。脳の代わりに夢が詰まってら。

 

「……少尉、大丈夫か……?」

「軍曹!いいところに来た!」

「……分かった、飲もう…」

「ゑ"?」

 

……唯一頼りにしていた救いの手は、その手に酒瓶を持って来ていた。おやっさんは火に瓶を投げ入れ、手を叩き爆笑している。

 素っ頓狂な声を上げた少尉に軽く手を挙げ座り込んだ軍曹だが、確実にカバーポイントに入り、積極的に酒を飲み注いでいる。少尉としては助かるが、ただ飲みたいだけなのかそんなに飲んで大丈夫なのか不安だらけである。あ、手の中のコップをひったくられた。飲まなくて済んだ。

 

「…愉快な事を…理解できない、人間に……世の中の…深刻な、事柄が……理解出来る、はずが…無い……」

「え?」

 

 酒を注ぎ、酒を仰ぎながら軍曹が静かに口を開く。おやっさんと中佐は新しい瓶を開ける事に夢中で、伍長は肉汁を滴らせる腿肉に夢中だ。

 軍曹はゆっくり少尉に向き直った。その深い思慮が感じられる、深い海の、朝凪の水面の様な冷めた目は、炎を反射し金色に見えた。

 

「……彼も、判っている。人生、最大の…教訓は、愚かな者達で…さえ…時には、正しいと知る事だ……」

「………」

「…過去を…より遠くまで、振り返る事が出来れば……未来も、それだけ、遠くまで…見渡せるだろう」

「軍曹……」

「……それだけだ。今は……な。言葉足らずな、俺に…これ以上、恥を…かかせんでくれ。少尉……」

 

 焚き火が大きく燃え上がる。それが手にしたグラスに映るのを、少尉はボンヤリと見ていた。

 

「そうだ!飲め!うはははは!」

「あはははは!連邦の勝利を願って!!カンパーイ!!」

「カンパーい!!」

「……乾杯…」

「か、かんぱーい…」

 

 背中に重みが寄りかかり、思わず少尉はフラついた。

 

「少尉ものもーよーおいしーよー人生は楽しんでなんぼだよー?」

「……そうだな。人生は、楽しんでこそ意味が出て来る……って伍長適応するの早いよ!!もはや恐ろしいよ!!」

「おう小娘イケる口か?!飲め飲めはははははっ!」

「うははははっ!」

「こーらのむー!」

 

 中佐の言葉と、軍曹の目が、少尉の心に小さな波紋を作る。だが、それはすぐにかき消されて行く。

 

……………──夜が、夜が終わらん!!更けていくだけだ。助けてくれ!!マジで!!比較的マジで!!上司の悪酔いってシャレにならん!!帰りてぇ!俺の戦場はここじゃない!!

 抱きつくな伍長!よだれ!そして寝るな!!そこの酒飲み3馬鹿は飲み比べでイッキするな!死んだらどうする!!たーすーけーてー!!

 

 焚き火が燃え上がり、声が上がる。そんな酒池肉林の坩堝の底、コップの酒をチビチビ飲みながら心の中で叫ぶ。

 

 

──この(うみ)は、地獄だ………

 

 

『いい朝は、いい酒が知っている』

 

 

明るい夜は、更けて行く………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 




酔うとなんであんな人って変わるんだろね?見てる分はいいんだけど………絡むのはマジで勘弁して欲しいわ。未成年に酒勧めるなっての。

連邦軍って上はグダグダに腐って、下はひゃっはーしてるよね。ジオンもっつーかガンダムの軍隊だいたいそんな感じだけど。真っ赤な軍服でマスクと尖ったヘルメットしてる奴もいるし。

今回セモベンテ隊と会いました。これからも色々会うかもしれません。

正直めっちゃセモベンテ隊の隊長大好きです。もっと活躍して欲しかったっつーかもと戦車兵だっていうし誰かスピンオフしてくれ。

次回 第十二章 反撃の牙

「なぁに、却って耐性がつく」

お楽しみに!!


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第十二章 反撃の牙

出したかった例の兵器、万を辞して登場!!

現在地球連邦軍北米方面軍は防衛線を構築、ジオン軍を迎え討っています。

この"サムライ旅団"は、本編では全然呼ばれないその名前を引っさげながらうまくそのラインをすり抜けています。

我ながらビックリです。働けよ。


『戦場の狂気』はあらゆるところに蔓延っている。

 

『戦争』という非日常が日常へと変わる時、それは世界へと広がり始める。

 

それは何も戦場を駆ける兵士だけではない。

 

戦線から遠のくと、楽観主義が現実に取って代わる。

 

そして最高意思決定の場では、現実なるものはしばしば存在しない。

 

戦争に負けている時は特にそうだ。

 

『狂気』が広まり、新たな『狂気』を生み出して行く。

 

逃れる術は、誰も持たない。

 

 

 

──U.C. 0079 4.25──

 

 

 

『だから!遅過ぎたと言っているんだ!!』

 

 少尉は思わず首を竦め、スクリーンしか無い狭い左右を見回す。スピーカーによる大音量の罵声が響き渡ったからだ。ヒビ割れた、耳をつんざく様な音は空気を揺らし、少尉の頭を突き抜け、砂を揺らし、まるでさんさんと陽の照る砂漠全体を揺さぶるかの様だった。

 実際、砂は振動で揺れただろう。音は遮るものも無く、遥か先まで響き渡ったに違いない。しかし、それを咎める者も、聞き耳を立てる敵もいない。ここは彼の独壇場だ。彼がここの指揮者なのだ。逆らう者は太陽にだって噛み付いて見せるだろう気迫だった。

 

「だ、だって、"これ"が重過ぎて……」

 

 少尉の眼下で、変わり果てた姿の伍長がぼやいた。射撃跡が刻まれ、膝の深さ程ある凹凸となった地面に尻餅を着く彼女は、ヘトヘトに疲れ切っている様だ。周りの砂はやや小さめのクレーター状に抉られ、その縁を真っ黄色いペンキが彩っている。それは自然そのものを映し出している砂漠の風景に似つかわしくない、ケバケバしい、科学の色だった。黄色く描かれがちな砂漠であるが、その様な砂漠はまず無い。万人のイメージする砂だらけの砂漠自体が少ないから仕方が無いが。今いるこの砂漠はその珍しい砂砂漠であるが、それでも砂の色は黄色とは言い難い色だ。黄色と言うより、むしろ赤に近いと思う。まぁ、その色は砂漠によりけりらしいが。

 風が吹いた。しかしへたりかけている伍長を救うには至らない。突き抜ける様な青空に、ポツポツと浮かぶ小さな雲を吹き散らし、その気温をさらに上げるだけだ。熱気を孕む熱い息吹は砂を巻き上げ砂漠を渡って行く。厳しい自然を見せつけるかの様に砂が吹き上げられ、伍長とその周りを彩っていた鮮やかな色もすぐ砂色に染まって行く。

 砂、砂、砂……。砂がいっぱいある。裏を返せば砂しかない。宝の山とは程遠い。それはこの大量の砂が自分達にとって無価値だからだ。粒子の小さいきめ細かい砂は砂時計等には似つかわしいかも知れないが、人間や精密機械には酷だ。あらゆる隙間から入り込み、肌や肺などを傷付け、機械を摩耗させる。つまりは今の俺達に利用価値が全く無いのだ。害しか無い。だから、砂しか無いと言い表すのだ。初めは珍しかったこの風景も見慣れ始め、少尉もこの砂には辟易していた。

 

『言い訳すんじゃねぇ!!あれ程射撃と同時に迅速に射点移動を行えと言ったはずだ!!愚図が!!これが実戦なら貴様は死んでいるぞこのダボが!!もう一回だ!!』

「ひぃぃぃぃぃぃぃいいい!!!」

 

 声に蹴飛ばされる様に、伍長が半泣きでよたよたと走っている。訓練用ペイント弾を頭から浴び、爪先まで真っ黄色になったその姿はどこか悲惨でどこか滑稽だった。当の本人は涙目であったが。

 速乾性のペンキが砂を巻き込み、野戦服や髪を固めている。それが更に身体の動きを阻害し、枷や重りとなっているのだろう。ペンキの色と砂が織り成すさいけでなマーブル具合は、前衛芸術やどっかの民族の工芸品との仲間入りを果たしているなと思った。口が裂けても言えないが。

 

『命中!判定は中破!』

 

 また別のスピーカーが少し割れた大きな声を出す。耳を澄まさなくとも、それはすぐ隣から聞こえてきた。響く声はすぐさま風に吹かれ、砂漠が描き出す地平線の先へと吸い込まれて行く。

 そのまた隣でも同じ様な光景が広がっている。まるでサッカーコートが沢山並んでいるかの如く壮大な景色だ。それを認識出来るのは極一部の人間のみだが。その箱庭の中で、数多くの連邦兵達が馬鹿デカい筒を抱え、頭から真っ黄色になりながら砂の中を転げ回り、それを"ザクII"が追い回すというカオスな光景が広がっていた。演習場と言うよりは、子供が砂場でオモチャの兵隊を使った破茶滅茶なごっこ遊び(ブンドド)の様に見える。勿論そんな長閑なもので無く、命の危険をも孕む訓練なのだが。

 今も炸裂したペイント弾が連邦兵の分隊を丸ごと吹き飛ばし、赤みを帯びた地面に叩きつけていた。訓練用の弱装弾と雖も、口径は120mm、直撃すれば死んでもおかしくは無い。彼らも直撃こそしなかったが、至近弾が着弾する衝撃波で軽く数mは吹っ飛ばされていた。転がったままの2、3人は脳震盪か、ペンキに塗れピクリともしない。衛生兵が急ぎ駆け寄り引きずって行くのが見える。引き摺られた跡はまるで血の河の様に見えた。しかし、その様な危険な事程少し離れて見ればまた別の見え方をするものなのだ。

 そんな死にものぐるいの連邦兵士達を他所に、太陽は我関せずと言った様子で光を放つ。ジリジリと肌を焼く熱気は湯気と共に立ち上り、汗や血を蒸発させ、その地獄絵図は加速して行く。凄まじい光景だ。実戦と何も変わらない程の過酷な訓練に、ペンキがグロテスクな程の存在感を示していた。

 

「「おお〜〜」」

『ヤるな無口野郎!だがまだ甘い!!一撃必"撃"だ!もう一回!!』

「……了解…」

 

 背中に青いペンキをベタリと貼り付け、中破判定の出された"ザクII"の背後で、軍曹が軽く砂を払い立ち上がる。敵役となっていた"ザクII"の死角を突いた、教本通り、正にお手本となる完璧な攻撃だ。陽動等を行う事が出来ない単独行動であるにも関わらずそんな事が出来るのは、"ザクII"の対地センサーを死角を突き、レーダーやセンサー、有視界戦闘用カメラの走査範囲を掻い潜り接近した事に他ならない。"ザクII"を鹵獲した際、リバースエンジニアリングに深く関わった軍曹ならではの技だろう。

…………出来るのは軍曹だけであろうが。

 

 背中に鮮やかな青い花を咲かせた"ザクII"は、悲鳴に近い歓声を浴びながらゆっくりと演習場から歩み去る。極至近距離から放たれた一撃は、見事に"ザクII"の背中の"バックパック"("ランドセル")、エンジンブロックを根元から吹き飛ばしていた。装甲貫徹能力から考え、現実であれば中破では済まされないだろう。よくても戦闘の続行は確実に不可能だ。動く事すらままならないだろう。そうなれば幾らMSと雖もタダでは済まない。それどころか、中破扱いとなった理由が、装甲の薄い背面"ランドセル"のど真ん中で無く、更にほぼ装甲が施されていない側面左側、動力パイプ基部に胴体側へと突き刺さる様に着弾していた事であったが、その理由に気づき、少尉は思わず身震いした。

──装甲の最も薄い着弾地点、その先はコクピットへの最短ルートだ。仮に実弾がカタログスペックに書かれた性能を発揮しなくとも、モンロー・ノイマン効果により発生したメタルジェットは十分コクピット内へ到達し、パイロットを蒸発させるだろう。まるで自分の背中に大穴が開いた気分になり、背中をどっと冷や汗が伝い落ちる。軍曹が敵で無くて良かった。心からそう思った少尉だった。

 

《見込んだ通りだタクミ!やはりスジがいい!!だがまだ足捌きが甘い!!エイミングも遅い!!MSは航空機でも戦車でもない!全く新しい兵器だ!!それを身体で覚えるんだ!!》

「イエッサー!!」

 

 一方、殆ど無意識の内に機体を操っており、考え込んでいた少尉は我に返り、慌ててインカムへと声を吹き込む。地上の地獄からは遠く、少し離れた岩石砂漠の谷の一角で、少尉は"サムライ旅団"唯一のMSである"ザクII"に乗り込み、一対一の模擬戦を行っていた。

 

《強気で行け!敵戦力の過小評価も過大評価もいらない!ただ、確実に目の前の敵の息の根を止めろ!冒さなくていい危険は冒さないのは鉄則だ!!》

「イエッサー!」

 

 目を凝らし、索敵を続ける。巨大な岩が転がる、入り組み複雑な地形では、通常のレーダーやセンサーはあまりあてにならない。特殊なセンサーは搭載されていないこの機体においては、目視が大切だ。見つけた。距離1200。岩山の影、こちらには気づいていない。レティクルを目標に合わし、安全装置を外す。やや遠い、撃つか?いや、確実に仕留めるには足らない。射点を晒す危険も大きい…気づかれた!

 反射的に素早く引き金を引く。マズルフラッシュが迸り、弾丸が空を切り裂き飛んでいく。しかし当たらない。岸壁に派手なペイントを施したがそれだけだ。狙いが甘かった。反撃とばかりに狙いを定める"ザクマシンガン"に追われ、地面を蹴立て砂煙を上げた少尉の駆る"ザクII"が、滑り込む様にして巨大な岩の裏側へ隠れ、遮蔽物として盾にする。MSは直立すれば全長18m近いサイズである為、その身を隠せる物は地球上に少ない。しかし、人間と同様、屈む事の出来るMSにとり、地球の起伏に富んだ地形は身を隠すに十分過ぎる程の大きさがあった。色鮮やかなペンキを撒き散らし、岩を彩る激しい銃撃から身を守り、一瞬の射撃の切れ目を狙って反撃する。敵役の"ザクII"は射撃を切り止め、更に有利な地点を目指し動き出す。こちらを視線から外したのを確認し、少尉は裏をかき敵役を迎え撃てる地点を目指し進撃する。それは詰将棋の様に相手を追い詰めて行く棋士か、地形を縫う様に移動し、敵に悟られず先手を打つ狩人の様な動きだった。有利な地点への陣取りと、無防備な側面や背面を狙撃しようとする動き、それは地上の巴戦(ドッグファイト)と言えた。まだ多少のぎこちなさはあるものの、状況に応じ機体を捌く少尉は、MSの機動戦にも適応し始めていた。

 

《いい返事だ!!ならシュミレーション3-8からもう一回だ!!とっととしろ!その手間取りが仲間を!お前を殺すぞ!!》

「イエッサー!!」

 

 "ザクII"が怪しげに光るモノアイを走らせ、付近一帯をクリアリングする。あらゆる波長のセンサーが情報を掻き集め、高性能なコンピュータがそれを処理し、スクリーンに投影する。しかし、それを最終的に判断するのはやはりパイロット、人間だ。目まぐるしく変わる地形、天気、戦況、自機のコンディション、敵の位置、その全てを支配する必要があった。その為には、戦士として、MSの騎手(ライダー)として高性能な兵器を動かすパーツになる必要があった。少尉は、確実にそれに近づきつつあった。

 一通り索敵し安全を確認した少尉はほっと一息つき、次の戦場へと機体を導きながら、やや傾き始めた陽を擁する空を見上げる。航空機乗り(ドライバー)は、どんな時も空を仰いで戦略を練る。どこまでも青い空は、白い雲をたなびかせ、ゆっくりと流れて行く。

 

《ほぉ…そうだな。それでいい。だが、警戒と緊張は別だ。リラックスするのは大切だが、気を抜けば死ぬぞ。油断は禁物だ。だが身体を硬ばらせるなよ?警戒しろ。観察しろ。考えろ。判断しろ。そして動け。強い敵を避けるのが戦術だ。それを頭で覚えとけ》

「イエッサー」

 

 ふと、この空を吹き渡る風の色は、何色なのだろうと思った。

 

 

 

 

 

 地球連邦軍の極秘精鋭部隊である"セモベンテ隊"が合流してから丸一日。MSと"新兵器"を交えた訓練は、既に佳境へと差し掛かろうとしていた。整備兵達もしごかれ、磨かれ、更に人から離れ、兵士と、兵器へと近づきつつある。"新兵器"は、そんな彼等にさらなる飛躍をもたらす物だった。

 

 "新兵器"。それは"セモベンテ隊"含め複数のMS鹵獲運用部隊の実戦データから得られた情報を元に、旧世紀の信頼性の高い兵器をベースとし強化発展させた史上初の個人携行用対MS戦闘兵器だった。MSという、戦場を、歴史を、あらゆる物を破壊し、変革をもたらした存在。圧倒的な力で連邦軍を蹴散らし、その命を奪い去って行く"死神"("ザクII")

 その"死神"を討つための、歩兵が使う決戦兵器。ちっぽけな人が、"死神"を討つ大番狂わせ(ジャイアント・キリング)を起こし得る可能性の兵器。英雄が振りかざす、ドラゴンを屠る"ドラゴン・キラー"。

 

──その兵器の名は、"リジーナ"という。

 

 対MS重誘導弾(AMSM) M-101A3 "リジーナ"は、地球連邦軍が旧世紀に使われていた対戦車誘導弾(ATM)を大型化、強化発展させた物だと考えて良い。また、信頼性が高く、単純な構造でミノフスキー粒子下でも正常に作動するよう開発された、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でもある。従来型のATMにありがちな完全撃ちっ放しで無く、有線式による画像誘導装置を標準装備した個人携行用の対MS兵器だ。 

 個人携行と言っても、そのサイズは全長157cm、口径139mmという大きさだ。砲身及び本体、弾頭、誘導装置、三脚がそれぞれパッケージングされており、それらを組み立てる事で完成する。とても1人では運用出来無い代物で、兵士2人により組み立てた本体を運搬、もう1人により弾体運搬の計3人によって運用される。人の手で運用出来る限界まで大型化した結果のサイズであり、MSを破壊し得るパワーを持つ。しかし問題も既に浮上していた。第一に、大型化に大型化を重ね、内部炸薬の量を増やし、その性能を上げたものの、それでも火力不足は否めず、MSを正面から撃破する事は難しい。また第二に、発射時のバックブラストもかなりのもので、発射地点を容易に特定されてしまう上、誘導中は移動は不可能で、無防備そのものだ。人の手でMSを倒す、と言う無茶なコンセプトが無理に推し進められた結果、そのしわ寄せは深刻なものとなっている。

 結局の所、その運用は困難を極める結果しか残らず、満場一致でそう結論付けられた。しかしながら、それでも戦力として、対MS戦闘用の切り札として個人携行用対戦車無反動砲("タケヤリ")と共に供給された大型の設置型誘導弾だ。

 

 従来型のまま、成形炸薬のみを変更した"タケヤリ"、そしておやっさんが改修した"スーパージャベリン"に比べ、"リジーナ"は射程、威力、装甲貫徹能力、命中率などあらゆる面において優れている。勿論、その分サイズが大きく重量も嵩むため運用し辛く使い勝手が悪いのが欠点だ。しかし、それでも"スーパージャベリン"とは違い、"ザクII"の正面からでもある程度のダメージが見込める点では有用な兵器と言えるだろう。型式番号の"A3"と付くとおり、内部炸薬を変更し量を増やした事により、装甲貫徹力を4%アップさせ、新たに大きく仰角を取りトップアタックがし易い様改良されたが、基本性能に大きな違いはない。

 だが、この兵器の登場により、戦車や航空機に乗れない兵士にも、ある程度の訓練を受ける事でMSに対抗し得る事が出来る様になるだろう。恐らく、それこそが連邦軍の切り札であった。つまる所、簡易製造兵器とそれを扱う対MS特技兵育成により、対MS戦闘の()()()を増加させ、ゲリラ戦の展開を行うつもりだ。

 昨今のハイテク兵器の末端とも呼べるこの兵器は、それでも取り扱いは限り無く簡略化してある。つまり、戦車兵やパイロット等、養成に時間のかかる貴重な技能を持つ兵士を逃し、新たに育てる時間を、質の悪い急造の兵士の命と引き換えに確保する、地球連邦軍にしか不可能である大規模な遅滞攻撃作戦だろう。実質捨て駒とも呼べるかもしれない。いや、捨て駒そのものだろう。それでも、ジオンに取ってとても無視出来ない戦力であるのは確かだ。戦力及び人的資源にかけるジオンに取り、MSは貴重な兵器だ。パイロットはそれ以上に大切な存在で、更に数もそう多くはない。それをATMに毛の生えた兵器と人海戦術による数の暴力で磨り潰されるのだ。そう、M()S()()()()()()、それが重要なのだ。職業軍人の人手不足が叫ばれて久しいが、それは高度な教育を受け、高い技能を持った兵士の事だ。数合わせ、人手ならいくらでもいる。それこそ、字が読めなくとも、これを運べる体力があり、画面を覗き込んで引き金を引ければいいのだ。

 

 戦争とは政治の手段の1つであり、経済活動の1つだ。要するに命の消費をも勘定に入れた、あらゆるものを商品にしたビジネスなのである。つまり、安い兵器と安い教育費、人件費の兵士を消費しながら、敵の高い兵器と高い人件費、教育費の兵士を殺すのが理想となる。それこそ、かつて一時代を築き上げた無人機もその考えから来ていた。旧世紀において全盛期を迎えた無人機は、それこそ戦場から兵士を完全に排除するとまで唄われたが、それを成し得る事は結局出来ず、衰退した。しかし、その気持ちも判る。人間はその質によって、一番高くも安くもなる商品だったからだ。

 例えば、ゲリラ戦術の1つとして、ホームレスにちょっとした金とロケットランチャーを渡し、敵戦車を倒す様に指示したとする。1人ではとても無理だ。相手は高度な訓練を受けた正規兵であり、戦車も随伴歩兵と共に対応をするからだ。しかし、そのホームレスが100人、200人で一斉にかかればどうか?その内の9割が死のうと、1人でもロケットランチャーを戦車の側面や上面に叩き込む事が出来れば、数百万円で数億円の敵戦車を撃破または大破させ撤退させられるのと数千万円の兵士を殺傷出来るのである。

 対艦ミサイルも、1発が数億円単位の兵器だ。しかし、その対艦ミサイルは命中すれば数百億、数千億の艦を沈め、数百人単位の人員を殺傷出来、その損失は天文学的数字となる。つまりは、費用対効果が重要なのである。如何に多くの出血を相手に強いるか、如何に自分の出血を抑えるか。これに尽きるのだ。

 

 その点、この"リジーナ"は高い費用対効果を持つ。だが、それは人命と言う別の出血を犠牲にした上での話だ。人命という商品は質に価値が大きく左右されるが、共通して使える様になるまで時間がかかる事が最大のネックとなっている。そして、人命とは国そのものを支える歯車である。数が幾ら多かろうと、その消耗は国の衰退そのものを意味する。この武器は、上層部が今を凌ぐ為に下した血塗れの決断そのものだ。

 しかし、俺はそう思ってはいない。これは我が旅団に取り、大きな戦力増加と呼べるだろう。決して"自殺兵器"(スーサイドウェポン)等では無い。ジオンを慄かす脅威となるはずだ。

 この新兵器を如何に使いこなすかが、この旅団の今後を決めるだろうと少尉は睨んでいた。MSは厳しくとも、対戦車戦闘には十分過ぎる程の威力だ。これは旅団全体の自衛力の向上に繋がる。更に、MS、戦車との連携を行い、待ち伏せ(アンブッシュ)により火力だけを活かし、生存率を高める事も出来るだろう。この兵器にしか出来無い仕事もあるはずだ。中佐の情報によればこの兵器を用い2ケタにも届くレベルで"ザクII"を撃破している小隊もあり、"ザクハンター"と呼ばれているそうである。それは望まない。この兵器は、相手を撃破するのでは無く、脅威を与える、それだけでいいのだ。敵の注意を少しでも引き、負担を増やす。手数が増えればチャンスも増える。その為の手段としては申し分無い。その点に関しては有用と言える。MSにとり、この"リジーナ"は蜂だ。簡単に捻り潰せる矮小な存在だが、その一撃は致命傷になり得る可能性を常に孕んでいるのだ。これ程厄介な存在もあるまい。

 

『訓練終了ー!!』

 

 今日あらゆる罵声を吐き出したスピーカーが最後の一声を響かせ、地獄の一日が終了した。俺はただのMS操縦訓練だったけど。伍長、大丈夫かな?ふつーに死んでそうなんだが……。

 そもそもあれ程飲んでいたはずなのにケロリとしていた中佐、軍曹に叩き起こされ、結局一杯も飲まず即寝た少尉を除いてダウンしていた兵達の一日は砂埃を巻き上げる"ラコタ"に追われ強制的に酒気を抜くというスパルタな訓練……もとい拷問から始まり、午前中いっぱい走り回された後、午後は新兵器"リジーナ"を用いた地獄の対MS訓練だったのだ。大の大人でもかなりと言うかものっそいキツイであろう。実際伍長は午前中から数回気絶していた。寿命とか縮まなきゃいいんだが………。

 

 訓練の結果も散々だった。旅団全体を合わせた一日でのスコアは大破または撃破判定3、中破、小破判定合計7。軍曹以外は全員複数回の戦死判定だった。初めてだから仕方がないと言えばそうであるが、実戦においてはそれは通用しない。因みに軍曹は全体のスコアのうち撃破1、大破及び中破小破合わせ5と凄まじい戦果を叩き出していた。しかも1回目の演習でいきなり大破判定を叩き出し、そこからは個人で演習に臨んでその結果と言うとんでもねぇターミネーターである。"ザクマシンガン"から放たれるペイント弾の至近弾すら遮蔽物でやり過ごしきってるし。こえーよ。コマンドーかよ。

 問題は、軍曹は戦車兵としてなくてはならない存在であるため、"リジーナ"を使う機会はほぼ無いであろうと言う事である。…今度、軍曹には影分身を覚えてもらうしか無いな……。

 

 ついでに付け加えると、今回この様な地獄絵図となったのは、通常の演習に用いられるレーザーによるダメージ判定装置等戦地にあるはずもなく、仮にあっても戦車、MS、人とは全く規格が違う為使えない事から、()()()()を兼ねてペイント弾が使われた結果だ。加えてこのペイント弾、前述した通り訓練用弱装弾と雖もその衝撃力は凄まじく、直撃すれば重傷どころか死ぬ可能性もある。今回死者こそ出なかったが、骨折等の重傷者は4名程出ている。後遺症等の心配は無いそうだが、それでもやはり衝撃は大きかった。

………しかしそれほど危険な演習にも関わらず、全員が奮闘していた。元非戦闘員がここまでやるとは、どこぞの海賊放送では連邦軍は練度、士気共々グダグダであり、戦争はもうすぐ終わるなどとのたまっているのに対し、純粋に誇らしく思える。素晴らしい事だ。これは決して俺の功績で無く、おやっさんの功績であるが、それでも嬉しかった。

 

 しかしその結果がコレである。おやっさん、軍曹、"ザクII"パイロットを除き全員頭から真っ黄色でベットべト。そのペンキが砂を巻き込み固まり、目も当てられない様相を見せていた。B級映画の出来の悪いゾンビみたいだ。ここはアークレイ山地でもスリークでもないんだが……。ミルウォーキーでもない。

 あり?俺はホラーは苦手だから詳しく知らんけど、ゾンビってブードゥー教の刑罰とかの名前じゃなかったっけ?いつの間にか特定の感染病患者の名称になったんだよ。

…そう考えると、感染病患者を治療は不可能だ、そして危険だからと情け容赦無く撃ち倒して行くって中々に鬼畜の所業だなぁ……一番の畜生が殆ど畜生と化した罪の無い一般人を殺し尽くしたヒーローたる主人公って笑えねぇわ。

 

 そのゾンビの中でも、特に何回もやらされ計11回という戦死判定を叩き出した伍長は汚れていない所が無く、最終的にはペンキと汗と涙と砂で何が何だかわからなくなったドロヌーバの様になっていた。なんか不定形の生物かなんかに近い感じだ。人の尊厳もクソも無い。演習終了の合図と同時に泣きながらシャワールームに飛び込んで行った。それを見て中佐は大爆笑していた。俺はドン引きだ。

 

「…中佐殿?いささかやり過ぎでは……?」

「なぁに、却って耐性がつく」

「何のですか……?」

 

 それにしてもこの教官、ノリノリである。やめてやれよ。言えねーけど。

 色とりどりの死者の列を見送りながら、少尉はしゃがみこみ"リジーナ"をしげしげと観察する。丈夫に簡素に、それでいて攻撃的に作られている。中々に好みのデザインであると言えた。機能美と言うか、質実剛健と言うか、限り無く無駄を削ぎ落としたそれは、確かに地球連邦軍の救世主と言えるだろう。問題は、立ち向かう敵が強大過ぎる事だけか。

 

「大将!どうだ?"リジーナ"は?」

 

 おやっさんが手を軽く振りながらやって来て、しゃがんだ少尉の見ていた"リジーナ"の太い砲身ををポンポン叩きながら言う。三脚という物は二次元への接点に関しては最も安定性があるが、下の砂地に足を取られたか、少し傾く。

 

「大将はやめて下さいおやっさん……まぁ、そうですね…現時点では使えません。陸戦ユニットの皆さんは全員相討ちです」

「シロウトながら結構やったんだがなぁあいつらも……」

「やっぱ、"ラコタ"使って機動運用か?」

 

 む、足回りにも少し改修を加えるか、等と独り言を呟きながら"リジーナ"に触れるおやっさんを風が撫で、重量軽減及び強度保全のために開けられた穴が音を立てる。ひゅうひゅうと言う寂しげな音は、この破茶滅茶であるが騒がしかった1日が終わりつつあるのを惜しんでいるかの様だ。この悲劇の兵器が、人を殺さず主役になれたのだ。その点に関しては確かに一抹の寂しさを覚える。狂想曲は終わり、狂乱騒ぎが始まるのだから。

 そんな感傷に浸る少尉を他所に、中佐は中佐で腕を組みつつベタベタの整備兵達に目をやる。そこから目を逸らし、おやっさんと目が合ったのか笑い合う。俺には分からないが、2人にはやはり何か思う事もあるのだろう。少尉も釣られて薄く笑みを浮かべ、口を開く。

 

「"ラコタ"ではサイズ不足なんです。上で設置すると分隊支援火器が使えなくなるんです。仮に運用するにも安定性の問題や、直接照準かつ有線誘導方式でというネックも…それにバックブラストの問題もありますし……けれど、この火力は正直手放したくは無いですね……」

「そうか。バックブラストは何とかする案を既に考えつつある。だが…」

 

 世界を染め上げる赤い光を投げかけ、ゆっくりと沈み行く太陽に目をやり、そのまま考えこむ黙り込む中佐。それを尻目に、少尉とおやっさんは"リジーナ"の戦力化の為に2人で相談を続ける。運用は厳しくかなり危険だ。しかし、今の状況においてこれ程の戦力を手放すのは惜しい。喉から手が出る程少しでも戦力増強を必要としている今、"リジーナ"はこれ以上無く魅力的だった。

 確かに、"リジーナ"はMSに対し一撃で仕留める事も可能なポテンシャルがある。軍曹が今日示した通りだ。しかし、そのリスクは大き過ぎる。死んでからでは遅いのだ。ウチの人員は、正直な話質が高く価値が高い。すり潰していい命ではないのだ。

 

「……ふぅ…お、そういやタクミ、今日はご苦労だったな。よくついて来た。やるな」

 

 ふと、思い出した様に口を開き、賞賛を口にする中佐に苦笑しつつ、少尉は笑って応える。立ち上がり"リジーナ"を軽く持ち上げ、その傾きを直しながら、夕日に照らされる"ザクII"を仰ぐ。頼もしい"死神"は、静かな落陽に目を細めるのみだ。

…と言うか気がついたら名前呼び捨て呼びだ。個人的にはどうでもいいのだが、どうして階級で呼ばないのだろうか?

 

「こちらこそです中佐殿。演習にお付き合いいただき、痛く感謝します」

「慣れたか?"ザクII"(アイツ)には」

 

 少尉、おやっさん、中佐の3人が並んで"ザクII"を見上げる。既に陽は沈みつつあり、立ち並ぶ"ザクII"はその緩やかなカーブを描く装甲の輪郭を強い西日へ浮かび上がらせる。既存の兵器から大きく逸脱した独特のシルエット。まるで古代文明の石像だ。大砲を振り、地を蹴り、火を噴き嵐の様に動き回る巨大建造物は今、時折風が運ぶ砂に乾いた音を立てるだけだ。壮観な眺めだった。MS2個小隊。"ロクイチ"を含めれば複合4個小隊、なんと1個中隊になる。そこらの物資集積所どころか、小規模な基地すら攻め落とせる戦力だ。恐らく、今の地球連邦地上軍の方面部隊において、最強クラスの戦力を保有しているだろう。数こそそう多くは無いが、MSの機動運用による打撃力、衝撃力は既存の兵器に対し高いアドバンテージを発揮する。この部隊で強襲をかければ、額面の戦力以上の結果を出すだろう。

 既に少尉の中に、MSを疑う心は無かった。ただ、この兵器のもたらす破壊力に対する畏怖だけがあった。しかし、それもまた形を変えつつある。少尉はこの機動兵器に魅力されつつあった。巨大な、大地を闊歩する二足歩行兵器に。

 

「中佐殿には到底かないませんが、何とか最低限の事は」

「ふはっ、相変わらずの謙遜ぶりだな。だが、それを忘れるな」

「はっ」

「ではな、タクミ」

「はっ、中佐殿もどうぞおやすみになって下さい。お疲れの出ません様に」

「話は終わりか……ぁ〜…飲むか」

 

 ニヤリと笑った中佐は、おやっさんと伴ってコンボイへ入っていく。また飲む気か。あの人達の肝臓は何で出来てんだ?血は本当に赤なのか?

 その姿を敬礼で見送りつつ、心の中で改めて感謝する。MS戦闘のノウハウのイロハを教えてもらったのだ。上手く使いこなせれば旅団全体の死傷率はグっと下がるだろう。それに、前線でMSが暴れ回る事で、そちらに敵は注目せざるを得なくなる。囮としては十分過ぎるくらいだろう。素晴らしい事だ。リスクは小さいに限る。この旅団において、一番安い命は俺の命だ。それは素敵な事だった。

 

 そして、今日の訓練で悟った。時代は、MSを主役に選んだのだと。この機動兵器は、戦場の常識を塗り替える力がある。世界を変える力だ。ジオンが夢中になる訳である。

 

「…あ、軍曹。お疲れ様」

「…少尉。お互い様、だ……」

「シャワーでも行くか、身体ザラッザラだし…」

「…そう、だな……行くか……」

 

 少尉は立ち上がり、砂を払うと、砂埃程度の汚れしかない軍曹を誘い、シャワールームへ向かう。コンボイの中は涼しく、ひたすらに快適だった。ここにはペンキのペの字すらない。伍長はともかく、他の兵は外の兵器洗浄用のシャワーで洗っている。乾き、こびりついたペンキはそう簡単に落ちない。高い水圧で吹き飛ばすしかない。また、"セモベンテ隊"の他の"ザクII"パイロットは既に浴びている。シャワールームはガラガラだった。貸切状態と言うヤツである。

 

「なぁ、あの"リジーナ"、軍曹ならどうする?」

「……あのままでは、使えない………コンボイの、自衛火器………か…?」

 

 頭から熱いお湯を浴び、力を抜いた少尉は待ちかねたとばかりに口を開く。少尉は"リジーナ"に触れ、試射こそしたが運用はしていなかった。実際に使った者の意見は貴重だ。しかも軍曹はあらゆる兵器を運用して来たベテランだ。意見の重要度は折り紙付きとなるだろう。

──成る程。確かにいいかもしれない。持ち運べるとは言え、"リジーナ"の重量はかなりのものだ。それに、機動力や自衛力に欠けるコンボイに備えつければ、それこそ"リジーナ"はその性能を発揮してくれるだろう。

 

「……少尉は、どう……?」

「……"ヴィークル"に載っけようと思ったんだが…そっちがいいな」

 

 熱い位のお湯が気持ちいい。風呂もあり、そちらの方が好きだがあまり贅沢はしたくない。出来無い訳で無いのがミソである。今までの生活や訓練期間の中で、一番快適な気がする。戦場である事を忘れてしまいそうな位である。

 少尉が"ラコタ"で無く、"ヴィークル"を"リジーナ"運用母体として考えていたのは、純粋に兵器としての性能、兵士を守る能力からだった。連邦軍兵士としては悔しいが、ジオンの兵器は優秀なものが多い。"ヴィークル"もその一つだ。有線リモコン方式で上部に備え付け、生身を晒さず攻撃出来たら、と思ったが……。"ロクイチ"に搭載も考えたが、流石に手が足りない。それに"ロクイチ"は対人攻撃の方が欲しい。軍曹の案が実用的だろうな。

 

「……載せるには、"ヴィークル"側に…大規模な、改修が……」

「あー、これ以上おやっさんや整備兵達に負担をかけるわけにはいかないしな…」

「……難しい、ものだな……」

 

 スッキリとシャワーで汗を流し、心身ともにリフレッシュする。少尉は手早く身体を拭き、ズボンを履いて牛乳を飲む。軍曹はビールだ。"GLANZ"という名前でジオン産ビールの代表格であり、サイド3("ムンゾ")ては良く愛飲されているライトなドイツ系のビールらしい。襲撃と同時に手に入れたが、それ以来軍曹はシャワー上がりに飲んでいる。

 ほぼ男所帯なので2人とも上半身裸だ。これがだいたいシャワー上がりの少尉達のスタイルである。伍長ならともかく、相手も軍曹なので気兼ねもない。少尉も全身を覆う戦傷を恥ずかしがる精神は持っていなかった。その傷痕は今、痛々しさを潜め、緩く湯気を立てている。

 

──かーっ!!この一杯の為に生きてるわーっ!!ラムネやコーヒー、イチゴ、ミックス牛乳もいいが、やはり王道は王道だな!!

 

 腰に手を当て、瓶牛乳を呷る少尉は、ただの19の少年だった。

 

……ん?

 

「…あれっ?シャツがない」

 

 飲み終わった瓶はそのままに、少尉は立ち上がり乾燥室に向かう。この瓶もおやっさんなりのこだわりらしい。兵站を圧迫し問題も多い瓶だが、風情は十分だ。乾ききらない髪をそのままに、シャツを取りに向かった少尉は首を傾げる。規律もあるし、そのままうろつくわけにもいかないので、服を着ようと思ったんだが……。勘違いか?

 

「……士官服は、違うのか……?」

「ん?いや、少し上等だけど、使ってないんだよね…だから盗まれる心配も無いと思ったんだが……」

 

 別に、かっこつけてってわけも……少しあるんだけど、なんか、こう、勿体無くて、ね………。

 この旅団にモノを盗む様な輩は居ないと思うが、むぅ。

 

「……犯人…炙り出す、か……?」

 

 軍曹がホルスターからガバメントを引き抜き、スライドを引き薬室の初弾の有無を確認しつつ言う。隙を一切感じさせないその動作は、正に常在戦場の体現の様だ。

………冗談だよね?

 

「…いんや、いいよ。間違えただけかも知れんし…それより今は大切な事があるだろ?」

「……そう、か………」

「ジオンは、南下を既に始めてる。トラック群も、また戦闘に巻き込まれる可能性が高い……」

「……俺たちが、やらなくては…な……」

「そうだ」

 

 牛乳瓶を握る手には、まだ、操縦桿の感触が残っていた。あの巨大な兵器の一部になっていた感触。地を蹴り、空を舞う高揚感。そして、数多の命を背負い、数多の命を奪う責任感を。

 軍曹の横顔を見る。相変わらず無表情だが、心なしか緩んでいる様にも見えなくない。目が合う。拳を向けてきたのでコツンと拳を打ち合わせる。それだけで、よかった。言葉はいらない。2人の間に、余計な物はいらない。戦争が現実のものとなり、同じ戦場に立った2人は、堅い絆で結ばれていた。千の言葉より、1発の弾丸だ。肩を並べ、共に砲火の下を潜り抜けた俺たちはもう他人ではない。

 こんな間柄を、戦友と呼ぶのだろうか。

 

 シャワーの熱気を連れたまま、コンボイから外に出て焚き火の前に座る。気がつけば陽は沈み、夜の帳下がってもう久しかった。忍び寄る冷気が身体を撫でる。ぶるりと身体を震わせる少尉に、軍曹がまたコーヒーを淹れてきて渡し、隣へ座る。目の前で焚き火はパチリと火花を散らし、火の粉を空気へと溶かして行く。サラリとした熱が溶けた、揺らめく炎の前に座り、星を眺めながらコーヒーを飲む。どこにでもあるこの景色、そして時間。この時間が少尉は大好きだった。よくあるファンタジーの大冒険の途中、その野営の様で。もちろん現実は違う。帰りたい見慣れた日常はもう遥か彼方だ。それでも、少尉は嫌いにはなれなかった。男なら誰でも知っている、命懸けでも憧れの旅路は、確かにここにあった。

 軍曹は隣で銃を分解して整備し始める。いつもと変わらない時間がゆっくりと流れる。シャワーを浴び終わったのか伍長がうろうろしている。なんかヒヨコみてーだ。面白い。急に笑いが込み上げ、少尉は忍笑いを漏らす。

 

 まだほんの一ヶ月しか経っていないのだ。この生活が始まって。だけど、とても落ち着いて、不思議な感じがする。デジャヴか、ノスタルジーか、言い様のない懐かしさが湧いてくる。

 伍長がこっちに気づき、嬉しそうに走ってくる。そのまま滑り込む様にして座り込み、足を投げ出し少尉へとよりかかった。少尉は片眉を吊り上げたが、やりたい様にやらせ、懐から本を取り出す。血で固まった本はもう読めないが、その表面を愛おしげに撫でる。内容はもう既に頭に入っている。だから、読める。

 手を擦り合わせる伍長に、いつの間にか淹れたのかコーヒーを渡し、また銃の整備にもどる軍曹。何もかもが変わったが、何も失ってはいない。すべては変わり行く。だが恐れるな、友よ 何も失われていない。そうだ。この景色も、"キャリフォルニア・ベース"の時から何も変わっていない。

 

 その幸せを、噛み締めて今日もまた生きている。

 

 

 

──U.C. 0079 4.26──

 

 

 

「世話になったな」

 

 よく晴れた空の下、膝をつき待機している"ザクII"と、エンジンを唸らせている"ロクイチ"の前で、少尉と中佐は握手をした。出会いがあれば別れは必然だ。その時が来たのだ。

 心地よい風がその2人の間を吹き渡り、小さなつむじを作っては消えていく。いつもと変わらない風。変わらない砂。変わらない太陽。移り行くのは人の営みだけだ。

 

「いいえ。こちらこそ、大変参考になりました。感謝します」

「……敵は強い。だが、我々はもっと強い。共に、ジオンのクソッタレ共を地球から追い払うぞ。力を貸してもらう」

「はっ」

 

 姿勢を正し敬礼した少尉にラフな敬礼で応え、中佐は振り向き歩き出す。

 

「縁があったら、また会おう。その時は、乾杯だ」

 

 歩みは止めず、少し振り返りながら中佐は言うと、唇を歪める様にしてニヤリと笑った。思い出した様に言うこの癖も、見納めだ。

 

「楽しみにしております!自分も、今出来る事を精一杯やります。後で後悔ぐらいは出来る様に」

「そうだ。ここがお前のセカンドスタートラインだ。大事な一歩を踏み出してけ。じゃあ、また会おう、タクミ。健闘を祈る」

「はっ。中佐殿も、ご武運を」

 

 敬礼をし、直立不動の姿勢を取り続ける少尉の前で、中佐は"ザクII"に乗り込む。鋼鉄の巨人に命が吹き込まれ、砂を零しながら立ち上がると、砂漠を揺るがす様にして歩きだした。5機の"ザクII"がそれに追従し、2輌の"ロクイチ"がその後を更に追う。

 砂煙を巻き上げる様にして、ゆっくりと、だが確実に"セモベンテ隊"は去って行く。また新しい獲物を探しに行くのだろう。その後ろ姿は、限り無く頼もしく眼に映る。別れが名残惜しい。だが、彼等にも任務がある。俺達には無い、任務が。俺達とは何もかもが真逆だ。だが、仲間だ。

 

「行っちまったか…」

「はい」

 

 最後尾の"ロクイチ"が、遂に稜線を越え見えなくなっても、全員で敬礼しつつそれを送った。彼等は、行ってしまった。

 感謝してもしきれない恩がある。それを、戦う事で報いよう。彼等の消えた先を見ながら、そう思った。

 

「よし、我が旅団も移動を開始する!総員乗車!!」

 

 コンボイのエンジンが震え、回り始める。頼もしいその音に包まれながら、タラップに足を載せ、振り向く。

 そこには底抜けに青い空、薄くたなびく白い雲、陽炎を揺らめかせ光を反射する砂しか見えなかった。見えるはずの無いものを見ようとし、それにまだ期待を捨ててはいない自分に苦笑する。案外、センチメンタルらしい。知らなかった。

 

「出発!」

 

 コンボイがタイヤを軋ませ、砂をかき動き出す。俺達も行かなければ。何が待っていようと、進まなくては。彼等の様に。留まる事は出来無い。進み続ける以外に道は無い。いや、道なんてものは元から無かった。それでも、止まる事は許されないのだ。

 

「上に出て見張りをします。ここは任せました」

「おうよ、熱中症には気をつけてな。水分を取るのを忘れるなよ」

 

 少尉は梯子を登り、重いハッチを押し開ける。走り出したトラックは、ガタゴトと不規則に揺れる。怪我をしない様に注意しながら、ハッチから這い出し、手摺に手をかけ遠くを見る。揺れた理由が判った。砂漠の質が変わり始めていた。後ろを振り返ると、100mは下らない砂の山が見える。風が作り出す、行く手を阻んで来た砂の壁だ。宇宙から見れば星型の様に見えると言う起伏は、名残惜しげにこちらを見送る様だ。

 ひび割れた大地を巨大なタイヤが砕き始めた。少尉の左手に、岩山が見えた。愛機と共に駆けた、あの場所だった。しかし、それもまた遠ざかって行く。

 

「少尉!」

「ん、どうした?」

 

 暫しぼんやりと、少尉は行先を見ていた。何も無い。何も。ふっと息を吐き出し、ギラつく陽の光を浴びながら足を崩し座り込む。その時、ハッチを開ける音と共に、後ろから伍長が少尉に声をかけた。伍長はそのまま、振り向こうとした少尉に抱きつく。

 

「……また、会えますよね。あの人達と」

 

 耳元で囁かれた、何時もとは違う弱々しい声に、意外さを感じつつ少尉は伍長を隣に座らせる。正直暑かった。散々経験して判り切っていたが、砂漠の太陽はやはり厳しい。全てを平等に灼いて行く。コンボイの屋根も、あちこちの塗装が剥げ、めくれ始めていた。

 既に陽は高く登り、頰を叩く風はひりつく様な熱さだ。しかし、少尉はまだ中に戻りたくはなかった。

 

「そうである事を願おう。大丈夫さ、中佐殿はベテランだ。……どうしたんだ?」

「……いやー、何か…こう、不思議な感じがして…」

 

 不思議な感じ、か。伍長が少尉によりかかり、ポカンと空を見上げる。伍長らしく無い物言いに、少尉はちょっとした違和感を感じるも、それだけだった。

 

「そうか……」

 

 2人で並んで空を見上げる。視線の先では風が吹き散らす雲が散り散りとなり、青に消えて行く。釣られて空を見上げた少尉の眼には、獲物を探しているのか、悠々と旋回する鷹が写っていた。

 

──必ず、また会いましょう中佐。その時は、また、一緒に乾杯、しましょうね。

 

 

 

 

 

 トラック群は進んで行く。砂煙をもうもうと立て、轍を残し、時の流れに逆らわぬ様に。

 

 風が吹き、砂山を動かし、足跡、轍、焚き火の跡を消して行く。全てが何も無かったかの様に。何もかも。

 

 果てし無い砂漠は全てを呑み込み、そこに広がり、姿を変えながら存在していた。しかし、2つの部隊が出会った証拠は、この世にはもう既に残っていなかった。

 

 

 

 

 

『コイツの120mm、あるか?』

 

 

風が吹き、砂漠はまた、形を変えていく………




今回は短めです。すいません。

セモベンテ隊の今後の行動はMS Igloo 第二話、遠吠えは落日に染まったをご覧ください。

それで、また楽しんで貰えたら幸いです。既に一度ご覧になった方も、是非もう一度見てみて下さい。

それで見た感想が少しでも変わったら嬉しいです。

次回 第十三章 バトル・イン・サンダウナー

「ねぼし!!」

お楽しみに!!


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第十三章 バトル・イン・サンダウナー

今回は多少泥臭いです。

やや過激な暴力描写ありです。

苦手な方には申し訳ありません。

全年齢で読めるように努力しますので、どうぞお楽しみください。


"危険 "は何処ででも潜んでいる。

 

目の前にある食事を喉に詰まらせただけでも、人はあっさりと死んでしまう。

 

それ程、人の命は脆く、儚い物なのだ。

 

包丁が刺さる、階段から落ちる、車に轢かれる。

 

当たり前の日常は、危険の連続なのだ。

 

その当たり前ですら、儚い幻想だと言うのに。

 

 

 

U.C. 0079 5.1

 

 

 

「……どうだ…?」

「ぐーるぐる。ぐーるぐる」

「伍長うるさいぞー」

 

コンソールを操作しながら軍曹がおやっさんに声を掛ける。

肩を落とし首を降るおやっさんはドッと椅子に倒れこみ、天井を見上げて顔をしかめる。悔しいのだろう。頭をかきつつサングラスを外し、目元を揉んでいる。

 

「……あー、ダ〜メだ。完全にホワイトアウトしてる」

 

窓に吹き付ける砂嵐に目を凝らすという、無謀カツ無駄な努力をしていた少尉もまったく同じ感想で、ため息をつきつつ振り返る。まったくイヤーな感じだ。

 

「そうですか、さっき何とかできた現在位置確認では、方向は合ってましたけど……」

「そうだ!今日もここで泊まろうよ!たまにはおやすみが必要ですよ!!」

 

少尉達が集まっていたためやって来たはいいが、やる事も出来る事も一切なく所在無さ気に椅子とクルクル回っていた伍長が声を上げる。それは接合部が摩耗するし傷むからやめろって前言っただろーが。

しかも基本毎日が日曜日だろ伍長は。とくに最近は。

 

「うーん、軍曹はどう思う?」

 

それだけ言ってまた回り始めた伍長を無視し、少尉は軍曹に意見をあおぐ。

 

「……迂闊に、動くべきでないな………」

「そうだな。旅はまだ長く、トラック群(コイツら)にあまり負担をかけるわけにもいかんしな…」

「よし。ここで今日はストップしよう」

 

もうすぐでアリゾナ砂漠を抜ける、そんな時に砂嵐にカチ当たってしまい立ち往生だ。視界は砂一色。レーダーも真っ白。本当に何も出来ない。もう二日目だ。

 

ここを抜ければジオン勢力圏内を脱する事が出来る。そうすれば襲撃の危険性はグッと下がり、連邦軍の基地へと辿り着ければ協力をあおいだり補給を受けたりも可能であろう。ここが正念場なのだ。

 

「今日は解散だ。後は自由にすごして構わない。では、解散」

「少尉!一緒に何かしません?料理とか!」

「すまん、今の内に事務仕事をこなしたい。無理だ」

「え〜……分かりました。だったら、料理作るから楽しみにしてて下さいね?」

「分かった。楽しみにしてるよ」

 

伍長が嬉しそうにスキップしていく。へぇ、知らなかった。

 

「軍曹はどうするんだ?」

「……少尉の補佐……その後は、銃整備……だな…」

「ありがとう。頼りにしてるよ」

「……あぁ……」

 

本当に頼りになるな。しみじみそう思う。おやっさんや整備兵含め全員いい腕だ。

 

コンボイの中を軍曹と自室へ向かう。

 

コンボイといっても、ただのトラックとはその大きさは段違いだ。

まずタイヤの直径だけで3m近くあり、車体の横幅は何と8mもある。日本じゃまず走れない。

しかし、タイヤの半径の大きさが乗り越えられる障害物の大きさの目安となる。それは今のように不整地を走るには優れた性能を発揮してくれる。

それもそのはず、このコンボイは移動可能な簡易整備施設なのだ。そのまま横、縦と連結し、前線付近に展開できる野戦整備施設となっている。連結しながらの移動も可能だ。普段は生活用10台、整備ハンガー用15台と分かれている。規模だけで言えば、そんじょそこらの基地なんかよりもっと凄い。おやっさんの趣味と横流し、魔改造の賜物だ。

こんな砂嵐の中でも外に出ず中を行き来出来るのはありがたい。整備ハンガートラックとは離れているため、MSや"ロクイチ"の所には行けないが。

 

「…じゃ、ぼちぼち始めっか」

「……了解。少尉、コーヒーを……」

「あ、ありがとう」

 

余裕ありなので一人部屋まであるのだ。いやー、すげーわ。

 

「やる事山積みだなぁ」

「……心配、いらない。時間は、ある………地球は、広い……」

「………?」

 

どういう事だ?時間?広さ?そりゃ広いけどさ……。

 

「……そろそろ、ジオンの進撃は、止まるだろう………まだまだ。ここからだ……」

「……そうか!」

 

戦線を押し広げ、占領地を拡大することのデメリットだ。占領のために軍を割く必要がある上、戦線の拡大とともに補給線が伸びきるんだ。例えジオンにMSがあっても、国力の差は如何ともし難いのだろう。その結果、補給、攻撃は滞り、膠着状態になる。………それだけ攻められているということだが………。

 

「……焦らないで、いい………今は、出来る事を…やろう……」

「そうだな。ありがとう。軍曹」

「礼には、及ばない。当然の、事……」

「……本当に、ありがとうな。軍曹……いつも頼りっぱなしで……」

「……そんな、事は…無い……シャツ、見つけておいた……犯人も、反省している、との事だ………」

「え?ありがとう……名は聞かないから、もうやるなとだけ伝えてくれ」

「……了解した……」

 

いや、だから、そーゆーとこだって。目を離したら解決してるんだもの………。しかも犯人まで……すげ…。

 

カリカリとペンが滑る音だけが部屋に響く。

 

仕事が終盤に差し掛かる。外を見ると、砂嵐はほとんど止んでいた。

 

 

……………最悪の置き土産を残して。

 

 

「!! エマージェンシー!!総員!!第一種戦闘配備!!敵は!目の前だ!!」

 

アラートが鳴り響き、人が慌ただしく走り出す。

 

近い。近すぎる。距離は直線距離で1km無い。目と鼻の先過ぎる。

 

走ってトラックの上部に登り、備え付けた"リジーナ"へ飛びつく。敵戦力は"マゼラ・アタック"が3両、"サウロペルタ"、"ヴィークル"、トラックなどだ。MSは確認出来ない。砂嵐に驚かされ本隊からはぐれた部隊のようだ。

 

「"リジーナ"は"マゼラ・アタック"を潰せ!!主砲を撃たれたらシャレにならん!!絶対に阻止しろ!!」

 

主砲の口径は175mm。それに副砲の機関砲も35mm。これ程脅威なのだ。

 

"リジーナ"の仰角を取り、トップアタックモードにする。

 

弱まったと言えど砂嵐でまだノイズがあるが、外すワケにはいかない。

 

「喰らえ!!」

 

"リジーナ"を発射、弾頭のカメラがその映像を写し、自分がミサイルになったようになる。

そのまま、"マゼラ・アタック"の元へ!

 

"リジーナ"の弾頭は、マゼラ・アタック"の風防ガラスを突き破り、"マゼラ・ベース"内へ突入、内部から爆破させる。

 

「うおっしゃ!!次弾装填急げ!!」

 

その時隣のトラックが轟音と共に吹き飛ばされる。クソッ!阻止し切れなかったか!!

 

悔やんでも仕方が無い。次弾装填完了、狙いを……"マゼラ・アタック"が吹き飛ぶ。味方がヤってくれた様だ。

 

「!!」

 

敵は、弾幕を恐れず突っ込んでくる!!"ワッパ"、それに、"キュイ"も!!取り付いて、白兵戦闘による銃撃戦に持ち込む気だ!!

 

"キュイ"揚兵戦車はジオン軍が開発した特殊な戦闘車両だ。前から見ると逆さまのT字に見える。形奇抜過ぎだろ。バイラル・ジンかよ。アレはIだけど。いや、Hか?宇宙に上下ねぇし。真ん中と端に無限軌道を備え、ガスタービンエンジン駆動により最大85km/hで走れる。真ん中天辺には30mm機関砲を備え、出っ張ったプラットフォームには正面にのみ防弾プレートが設置されている。そこに兵員を乗せ、接近し兵員を展開するのだ。パーソナルジェットの使用を前提とした一種のIFVであると言えよう。

 

「クソっ!!」

 

"リジーナ"が一機の"キュイ"の出っ張ったプラットフォームを吹き飛ばす。乗っていたジオン兵が転げ落ち、バランスを失った"キュイ"が砂埃を上げながらスピンし、ジオン兵を吹き飛ばしながら砂埃に消える。

 

しかし、既に"ワッパ"、パーソナルジェットを背負ったジオン兵が次々と飛んでくる。中には"ラングベル"対戦車ロケットランチャーを担いでいる奴もいる。

飛翔する"ワッパ"、兵士を撃ち落とすのは至難の技だ。

 

が、目の前で"ワッパ"が火を吹き、きりもみで落ちて行く。そのとなりを飛ぶジオン兵がヘッドショットされる。

 

《……少尉、取り付かれたのを頼む…》

「ああ!上は頼む!!」

 

軍曹の狙撃だ。正確無比過ぎる。ホントいい腕だな。

既に前方のトラック10台には取り付かれ、内外で銃撃戦が始まっ…………俺丸腰だぁ!!サイドアームもねぇ!!

 

取り敢えずガンロッカーへ、と思った矢先、2人の敵兵と鉢合わせる。

 

「ッ!」

 

前の敵兵が銃を構えるより先に、懐に飛び込み手で銃身を掴み、引いて逸らしつつ肘打ちでクロスカウンターアッパーを食らわせる。これにより射線上に敵と味方が重なる為撃てないはずだ。

顎を強かに打ち付けられよろけた敵兵の腕を掴み、体重移動を利用、投げ飛ばし後ろの敵兵を巻き込ませる。

倒れ込んだ2人の首をブーツの踵で踏み潰し、トドメをさす。

 

「……ふぅ……」

 

まさか宇宙世紀にもなってCQBをするハメになるとは……。

倒した敵兵の身体をまさぐる。アサルトライフルは投げ飛ばした拍子に押し潰されていた。流石に加速された2人分の体重には耐えきれなかったらしい。銃身、薬室周辺が歪んでいた。最悪暴発するかもしれない。弾丸だけ拝借する。

 

「……げぇ…」

 

サイドアームのハンドガンはナバン62式拳銃だった。トグル式スライド、9mmパラベラム弾を使用という開発者の趣味の塊のような銃だ。パラベラム弾使用可能なのは嬉しいが、正直使いたくない。短機関銃(SMG)だったらよかったのに。

もう1人をまさぐる。

 

「………おぉっ!!」

 

出てきたハンドガンは"マテバ"オートリボルバーだった。

マテバは宇宙世紀になってなお、特にスペースノイドに時折使われる銃だ。これも趣味な一品であるが。

 

マテバは銃身の跳ね上がりを抑えるために銃身上部がウェイトになっており、弾倉の一番下の弾を発射するという特殊なリボルバー構造を持ち、それが特徴的な外観を形作っている。また、用途によって自由に銃身を換装できるある程度のカスタム性もある。リボルバーでありながらオートマチック機構を備えているため「オートマチックリボルバー」とも呼ばれる珍しい銃だ。てゆーか探してもこれ以外にはほぼ無い。

このリボルバーでありながらのオートマチック機構とは、初弾をシングルアクションまたはダブルアクションで発射し、その反動で銃身からシリンダーまでがわずかに後退することで撃鉄を自動的に起こし、シリンダーを回転させるというもの。リボルバーの機構的な信頼性と、自動拳銃並みの引き金の軽さによる命中精度の両立を目指している。

しかしその分銃身が下部にあるため照準軸と射線軸が離れており、わずかに狙いがずれただけで着弾点が大きくずれてしまう事や、銃身の跳ね上がりを抑えるが、反動は大きくなってしまう事、構造が複雑であるため製造コストが高くなるなどの欠点を抱えてしまっているが………。

 

「欲しかったんだよねーコレ!!いやっふぅ!!」

 

思わぬ戦果に喜ぶ。これは死ねん。

マテバを腰に収め、身の丈程の鉄パイプを手に取る。よし。

 

「伍長は無事か?」

 

料理を作ると言ってたな………厨房か?

 

鉄パイプを手に走る。厨房は直ぐそこだ。戦闘に巻き込まれている可能性が高い!

その厨房にジオン兵が飛び込んで行く。マズい!!

 

「えっ?きゃぁぁぁぁぁぁああ!!」

 

何かが落ち、崩れる大きな音がする。

 

ジオン兵を追って飛びこm………バシャァッという何か液状の物をひっくり返す音がした。

 

「ねぼし!!」

 

という謎の悲鳴共にジオン兵が叫びながら転がってきた。

 

 

「うわわわっ!」

「おう!?」

「ぎゃぁぁぁぁぁああ!!」

 

頭から熱々のスープ?を浴び、のたうち回るジオン兵に伍長が叫びながら鍋、フライパン、ボウル、おたまを次々と投げつける。いや、おたまは効かんだろ。

 

転がるジオン兵の腹を踏んで止め、鳩尾に鉄パイプを叩き込む。

何やってんだ伍長………こいつは本当に軍属か?

 

「しょ!少尉ぃ〜!!怖かったぁ!!」

「そ、そうか……」

 

泣きながら抱き着くな!!おい!!あーあ、スープが、勿体無い。これはスタッフも美味しくいただけんな……ごめんなさい……。

 

「分かった、分かったから行くぞ」

「うぅ……」

「しっかりついて来いよ…」

「う……」

 

大丈夫かなぁ?コレ。………仕方ない、連れてハンガーへ移るか。MSか"ロクイチ"が動かせれば勝ちだ。

 

伍長を連れ、トラックを移る。トラックの装甲はかなり厚い。小口径弾ではとても貫けるものではない。それがあちらこちらでの銃撃戦を激化させている。

 

まだべそをかいている伍長にナバンを渡す。トグル式スライド使えなかったらどうしよ?それよか武器がハンドガンのみと鉄パイプってどこのバイオハザードだよ。

せめてバイオハザードならVP70MとかマウザーC96とかがよかったよ……。両者ともスんゲークセあるけど。

 

 

 

 

「フッ!!」

 

鉄パイプを薙刀の要領で振るい、ジオン兵の銃をはたき落とし、突きを叩き込む。

 

「ハッ!!」

 

そのまま薙ぎ払い、次の獲物の頭に振り下ろす。鉄兜を凹ませ、ジオン兵がノックダウンする。

 

「少尉凄い!!がんばって下さい!!」

 

伍長の手の中の拳銃は飾りか!?もう五人目だぞ!!薙刀は得意だが、どっちかっつーと銃剣をくれ!!

前の3人に見つかった。鉄パイプを投げつけ、伍長を掴み物陰に滑り込む。ガンガンとトラックを打ち付ける銃撃の音がうるさい。隣の伍長もうるさい。

 

ドドドドドンッ!!バシャッ!!

 

銃声に押されながらジオン兵が吹っ飛ばされ、崩れ落ちる。

 

「大将!!無事かぁ!!」

「おやっさん!!伍長もいる!!」

 

アサルトライフルを構えたおやっさんと合流する。似合い過ぎてて怖い。

 

「ハンガーへ行くぞ!!援護頼む!」

「分かってます!マテバでよければ」

「てめーのマテバなんぞ当てにしてねぇよ!!おら、このツァスタバにしろ!!」

「俺はマテバが好きなの!!だから俺はマテバを使う!」

「伍長!"マスターキー"をやる!使え!」

「え?カギ?わわっ!………これショットガンじゃないですか!!」

「"マスターキー"つったろ!!」

「どーゆー事です!?ローストターキー?」

「……後で教えるから今は行くぞ!!」

 

そのまま銃撃に身を踊らせて行く。ハンガーは、まだ遠い。

 

 

『我々の間には、チームプレーなどという都合のよい言い訳は存在せん。

有るとすればスタンドプレーから生じる、チームワークだけだ』

 

 

銃声だけが、まだ鳴り響いている…………

 




イメージは死闘!ホワイトベースです。白兵戦は大好きです。MSもそうです。レズンさんもそう言ってますし。

制圧が出来るのは歩兵だけ。度々言っていましたが、コレを書きたかったんです。かなり甘くなりしたが。つーかぶっちゃけムズイです書くの。

ガンアクションは好きなんですけどね………。

マテバは趣味です。漫画、ガンダムレガシーでジェイクが使ってたのもありますが。鉄の悍馬で連邦兵も使ってましたし。

タチコマ出してぇ!!無理だけど。因みにここで出てきた銃はガンダムオリジナルのものと攻殻機動隊とかで出てきたヤツばっかです。ホントはキャリコとかでも良かったかも。キャリコ好きなんですよあのバカさ具合が。

次回 第十四章 砂嵐の先に

「バラバラに吹っ飛んじまってる。ミンチより酷ぇよ」

お楽しみに!!

追伸 伍長の口調にやや修正を加えました。元の設定から敬語とタメ口が合わさった変な言葉だったのを、ややマイルドに修正しました。


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第十四章 砂嵐の先に

アリゾナ砂漠編、終了です。

ラストがコレって…………。

仮に銃撃戦に巻き込まれたら、活躍してやろうなど思わず伏せっておいて下さい。死にます。


地球のエネルギーは、ほぼ全て太陽から来ていると言える。

 

太陽の光が、熱を届け、風を吹かせる。

 

植物を育て、生物を照らす。

 

それは、宇宙世紀になっても変わらない。

 

宇宙に浮かぶ人口の大地、島三号型コロニーでさえそうなのだ。

 

しかし、それを超えた、サイド3は、"進化"したと、言えるのだろうか。

 

 

 

 

U.C. 0079 5.1

 

 

 

「ハンガーの方にはドライバーは居ないのですか?」

「その隙さえ無いくらい攻め込まれてる。急ぐぞ」

「伍長、しっかりついて来いよ……」

「は、はいっ!」

 

俺を先頭に、伍長、おやっさんと続く。ハンガーまでは2ブロック、それに約30m強の遮蔽物も何も無い所を走る必要がある。簡単にはいかない。ガンロッカー周辺も銃撃戦が激しく、メインアームも無い。

 

「!」

「敵か」

 

足音からするに3人か?近いぞ...。

 

無言でうなずきハンドシグナルを出す。ドアを挟むようにし伍長と向かい合うようにして待ち構える。

 

「.........()()()()()じゃないですかこれ..........」

「シッ!!訓練通りやればいい。大丈夫だ...」

 

不安がる伍長にそれだけいい、目の前の敵に集中する。

 

「フッ!」

 

T字路曲がり角を利用し飛び蹴りをかます。顔を蹴り飛ばし、そのまま踏み付ける。突然蹴り倒された相方に目を丸くし硬直するもう1人の顔面に風穴を開ける。素直に胴体を撃たないのはボディアーマー対策だった。

伍長が逆方向へ飛び出し撃ちをし、前を走っていたジオン兵が背後から8号散弾をまともに浴び、ミンチになる。思わず目を逸らす伍長の前に立つ。

 

「あまり見るな伍長。俺の背だけ見てろ」

「はっ、はいっ!!」

「……どうなった?」

「バラバラに吹っ飛んじまってる。ミンチより酷ぇよ」

「しょうがないさ。精々墓穴の中でもがいて貰うとしよう」

「く、訓練通りって.....あんなの訓練にありましたっけ?」

「...ときおりとっぴょうしのないことや無茶やらかすよな」

「.........現場の判断は臨機応変、状況は刻々と変わっているんです.......」

 

 

どこもかしこも死体だらけだ。連邦軍の整備兵の死体も多い。早く被害を抑えなければ、この戦闘に勝っても行動継続困難になってしまう。

 

「まだこいつは息がある!」

「……いや、ダメだろうな…」

「きゃっ!」

「どうした!?……そいつは()()()()()()だ。噛み付いたりしないさ」

「伍長!」

「分かったよ!」

 

ロックが掛かり、開かなくなったドアを指差す。伍長が手元の"マスターキー"をいじり、ボックスマガジンを交換する。

 

「アバカム!!」

「物理だろ」

 

実包(ショットシェル)を散弾からスラッグ弾へ変更、絞り(チョーク)を変更し、そのドアノブに向けてぶっ放す。ロック部分が吹き飛ばされ、スライド式のドアが開く。後で修理しなきゃな、全く。

 

「……アロホモーラ派でした?わたしが出ます!ファーストレディです!!」

「大統領夫人!?ちなみにそれ実は罠対策の捨て駒って知ってたか?」

 

思ったより伍長が使いこなしてるな。向いてんのかも。本当は前衛(ポイントマン)である俺が持つべきだけど、伍長にポイントマンはさせたくないしな……仕方ない。

 

「えぇ!?スカートを覗くためじゃなかったんですか!?」

「少しは黙れ!!」

 

扉を開け突入する。目に飛び込んで来たのは味方の背中だ。通路を挟み向かい側のジオン兵と銃撃戦が展開されている。

 

「状況は?」

「向こうへ出れば、ハンガーと撃ち合っているジオン兵を挟撃出来ます!」

「よし!突破する!おやっさん!!グレネードを!」

「おう!投擲する(フラグアウト)!!」

「!ファイアインザホー!!」

 

おやっさんが温存していたグレネードを投げる。膠着した状況をコレで打開する。特に密閉空間のグレネードの威力は想像を絶する。正直こんな状況だとライフル何かよりよっぽど役に立つ。

 

「ッ!!」

 

が、敵も同じ事を考えていたようだ。視界の端にこちらに投げ込まれる何かを少尉の目は捉えていた。

 

想定外の事に呆気にとられ思考停止する伍長を無視しグレネードに飛びつき、伍長を押し倒しつつ空中でキャッチ、投げ返す。

ジオン製のグレネードは今時珍しい柄付きの手榴弾だ。これは投げやすい分、投げ返しやすいのだった。

 

轟音が2度鳴り響く。耳がおかしくなり、頭がガンガンするが、生きている証拠だろう。

 

「無事か?伍長?」

「え?あ?少尉?あの……?」

「大将!流石ぁ!」

「やるな!信じてましたぜ!!」

 

整備兵が崩れたジオン兵側へ突撃して行く。それを目で追いつつ伍長を助け起こす。埃を払いながら様子を見る。ぼんやりしているようだ。マズったな、頭でも打ったか?

 

衛生兵(メディック)!!伍長が頭を打ったらしい!手当頼む!!」

「はい!!」

「え?あの……えっと……私は!」

「無理するな、任せろ。メディック!後は任したぞ」

「はい!伍長!動かないで!」

「少尉!私は!!」

マスターキー(コイツ)借りるぞ?直ぐに必ず返す。だから……」

「しょっ……」

「動かないで!!」

 

衛生兵が不安気にこちらを伺う伍長を押さえ付ける。その頭を撫で、返事は聞かずマスターキーを持って走る。倒れ伏したジオン兵の亡骸を飛び越え、そのまま外へ走り出る。ここ一番の激戦区だ。特にここは周りをジオンの陣地に囲まれている。左右からの銃撃が激しい。

 

ショットガンのチョークをフルで絞り、ライフルドスラッグ弾を装填し反撃する。ショットガンの射程はゲームのような5m程度ではない。このモデルは施条(ライフリング)が刻まれていないが、それでも100mは飛ぶし、50mは有効打が与えられる。

 

《……少尉…》

「軍曹か!どうした!?」

《……少尉を目視した。援護する……》

「ありがたい!」

《……姿勢を低くし、ハンガーまで走れ……》

「……その言葉、信じるぞ」

 

恐怖で身体が震える。今から死にに行くようなものだ。距離にしておよそ30m。遮蔽物は無し。走る目標に当てるのは至難の技だが、コレだけばら撒いているのだ。当たる確率は低いはずがない。

 

目を瞑り、呼吸を整える。目蓋の裏に握り拳をこちらへ向け、真っ直ぐこちらをみる軍曹が浮かんだ。そうか……そうだよな………

 

軍曹、信じるぜ!!

 

目を開け遮蔽物を跳び越え一気に飛び出す。視界の端で敵味方が反応しているのが見える。反応した敵兵の頭が瞬時に吹き飛ばされるのも。まるで囮撃ちだ。

 

時間にしておよそ5秒無かったであろうこの時間は、少尉に取って無限に感じられた。

 

ハンガー側味方陣地へ頭から飛び込む。夢中で気付かなかったが右足、右腕に2箇所の擦過銃瘡があった。幸運な事に左腕に着弾した銃弾は貫通していた。痛みはあまり感じない。アドレナリンの影響かもしれない。手早く止血を開始する。

 

「少尉!!お怪我は!!」

「あまり構うな!最低限の止血でいい!それより撃て!!」

 

手早く包帯を巻き、MSへと走る。コレでMSへ乗れば相手の士気は挫けるだろう。前の反省を活かし、"ザクII"には対人攻撃用に構造的にやや余裕のあった胸部、脚部足の甲部に"ロクイチ"の13.2mm M-60 重機関銃を対人兵器として追加で搭載、予備パーツにあったSマインも増設している。

 

S-マインとは、Schrapnell-mine(榴散弾地雷)といいジオンの陸戦用MSが装備している対人跳躍地雷の一種だ。対人跳躍地雷とは張られたワイヤーに引っ掛かると地雷本体が空中へ跳躍、全方位へキルボールを撒き散らす地雷の事である。"ザクII"の機体各所に発射口が備え付けられており、そこから発射された弾頭からさらに大量の小型の金属球を広範囲に射出し、足元の敵歩兵を攻撃するという兵器である。その由来は、ナチス時代のドイツ陸軍が使用していた同名の対人跳躍地雷「Sマイン」である。

 

"ザクII"のJ型にはほぼ標準装備されているが、この機体には始めついていなかった。それを取り付けたのである。

 

おやっさんはこれを応用、旧世紀のアクティブ防護システム(APS)Active Protection System(アクティブ・プロテクション・システム)。つまり飛んでくるロケットランチャーなどを自動的に撃ち落とすシステムにも使用可能に改造、テストも済んでいる。

 

つまり、対人にも以前より遥かに対応出来るように改造されている。これはMSが一機しかないためだ。マルチロール化の為の対空性能も、"ザクマシンガン"用の三式対空散弾(Type-3)も開発中であるが用意されている。

 

"ザクII"からジオン訛りのある悪態をつく声がする。マテバを抜き、ゆっくりと接近する。どうやら忍び込んだジオン兵がロックを外そうと躍起になっているようだ。

 

寝かしてある"ザクII"へよじ登り、コクピット正面へ飛び出す。

 

「余計な動きをするな、ゆっくり両手を挙げ、機体から降りろ」

「!?」

「少しでも妙な動きをして見ろ、命の保障はしない」

「……………」

 

驚くジオン兵へ銃を向ける。体勢、状況、反撃を考慮し銃を突き付けたりはしない。撃ち殺さなかったのは、血や跳弾、弾痕でシートやディスプレイが傷んだり、コクピットから血を流す死体を引っ張り出す苦労を考えての事だ。

 

「……か、神の慈悲を……」

 

両手を上げゆっくりと出て来たジオン兵が震えながら呟く。かなり若い。同い年位かも知れない。

神ねぇ……俺は無神論者だ。それに、宇宙世紀は神を否定した普遍世紀じゃなかったのか?神はいなくても、人は生きて死ぬだけだ。

 

背を向けるジオン兵に油断無く銃を向けつつトラップ類の有無を確認、コクピットへ滑り込み、シートに座る。

 

「……神は留守だよ。休暇とってベガス行ってる」

 

その震える背にマテバの弾丸を叩き込む。.44マグナム弾を頭と背中に受け、血の尾を引きながらMSから転がり落ちて行く名も知らぬ若いジオン兵から目を離し、コクピットハッチを閉じる。もしかしたらタチカワかもな、なんて事を思いながら機体に火を入れる。サブジェネレーターに点火。核融合炉が唸り、ヴェトロ二クスが立ち上がりメインディスプレイに灯りが灯る。機体と自分が一体化するような奇妙な感覚と共に17.5mの巨人に命が吹き込まれる。

 

機体を立て、上空へ向け、"ザクマシンガン"をセミオートで1発放つ。

 

突如現れた"ザクII"に驚きを隠せないでいるジオン兵に外部スピーカーを使って呼び掛ける。

 

「残留ジオン兵へ告ぐ!我々も無駄な死を望まない!今すぐに武器を捨て投降する事を勧告する!南極条約に乗っ取り諸君らにはそれなりの対応を約束する!この機体には対人兵器が装備されている!反撃を受けた場合は、全力を持って排除行動へ移る!繰り返す!!……」

 

頼むから投降してくれ。別に俺はバラバラに吹き飛んだ人肉のミンチを作りたい訳でもない。精神衛生上よろしくもない。弾もタダじゃない。

 

続々と投降して行くジオン兵を"ザクII"から見下ろす。並ぶジオン兵に殴り掛かろうとした整備兵を軍曹が押し留めている。勝ったが、犠牲は大きい。

 

いつの間にか砂嵐は止んでいた。雲一つ無く晴れ渡る空に、沈みかけた斜陽が光を投げかけ砂漠を紅く染め上げていた。

 

 

 

U.C. 0079 5.6

 

 

 

再び行動を再開出来るようになったのは五日後だった。

銃撃でダメージを受けた外装、内装を修理し、負傷者は怪我を癒した。俺の身体の大部分の包帯と、左腕を吊るしていた軍曹から借り受けたスカーフも返す事が出来た。

 

特に内部での銃撃戦が激しかった生活空間のあるコンボイは"マゼラ・アタック"に吹き飛ばされた物を含め2台が修理不能と判断、解体された。4基の"リジーナ"も使用が不可能になり、巻き込まれた2台の"サウロペルタ"はその場で鹵獲された物からの部品取りで修理可能だったが、"ラコタ"は不可能であり解体された。捕虜は情報を持つと思われるもの以外は置き去りにする事になった。立派な条約違反だ。それ程余裕が無くなったとも言える。

 

重軽傷者52名、戦死者13名。

 

それがこの少ない戦果の犠牲者だった。

 

 

 

揺ぐ蜃気楼の向こうに、砂漠の終わりが見え始めていた。

 

 

『死者に対して出来る事は何もない。供養は、ただ生きている者の心の整理をする為の自己満足でしかない』

 

 

 

死神の列は、荒野をひた走る…………………




本来手榴弾は大変危険なもので、映画の様に投げられた後、抜かれたピンを戻しても爆発します。手榴弾の殺傷半径は10mくらいあります。もし目の前にピンの抜かれた手榴弾が見えたら姿勢を低くしつつ全力で逃げて下さい。間違っても近付いたり覆い被さったり投げ返そうなど考えてはいけません。

演出、というやつです。決して真似しないで下さい。

少尉主人公補正で比較的軽傷です。皆さん真似しないように。

誰かU.C. ハードグラフでガンダムエースかなんかでマンガ書いてくれ。キット化するかもしれん。個人的にマスターグレードでMSVやマイナーな奴をばんばか出して欲しい。売れないと思うけど俺は買う。

次回 第十五章 メキシコシティにて…

「はわ〜」

お楽しみに!!


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第十五章 メキシコシティにて…

今回はだいぶ飛んで日常編です。

毎回てきとーに何故か書いてた電波前文書くのがめんどーになってきました。何で書いてたのか覚えてませんがやめたいです。

ジャブローはやく到達しねーかな。そこでひと段落するのに。

そーいや艦これやってる友達が、「ガンダムの戦艦とかガンダム娘とコラボしねーかな」って………

ホワイトベースの主砲880mm二連装砲だぞ………?大和でも460mmなのに………

まぁもし出るならヒマラヤ級正規空母、ペガサス級強襲揚陸艦アルビオン、宇宙戦艦バーミンガム、機動戦艦ラー・カイラム、ドロワ、ナデシコCとか見てみたい気もするが………


街とは何であろうか。

 

ただの人の集まりでも、ただの地域的束縛でもない。

 

一口に街といっても、それはあらゆるものを内包する。

 

街を知るには、それを創る人を知らなければならない。

 

しかし、いくら人が集まろうと街にはならない。

 

街は、刻がつくるのだ。

 

 

 

U.C. 0079 5.13

 

 

 

「止まれーっ!!とまれ止まれ止まれぇ!!」

「はいはいっと。はい?何です兵隊さん?」

 

アリゾナ砂漠を抜け、ボロボロになりながらも、ようやく到達した街"ツーソン"で何とか基地守備隊をやや強引に説得(偽造書類で)、補給を受け一路南へ。ジオン軍勢力範囲圏を抜ける事が出来て約一週間。砂漠に続き山岳地帯に足を取られながらも進みに進み、ついに中南米、"メキシコシティ"に到着した。

 

「見たところ連邦軍だが、どこの所属だ?」

「………"ジャブロー"直属、と言ったら分かるか?」

「!………証拠を………」

「コレと、後ろの"積荷"。最重要機密だ……」

 

おやっさんよくもあんなにポンポンと嘘を……。マネ出来んわ。

 

「ねぇ、少尉、今どこくらいなの?」

「メキシコ」

「…………?」

 

おい!!コイツホント大丈夫か!?補給は受けられたけど、兵員補充は出来なかったんだよ!しっかりしてくれよ!!

 

「……ここだ……」

「わぁっ!こんなに来たんですね!!もうすぐじゃないですか!!」

 

もう……すぐ………?

 

おやっさんが既に基地との直通電話を取り補給の交渉を始めているというのに、何だこのアホな会話。

 

状況に助けられたな……。ミノフスキー粒子とコロニー落とし、マスドライバー攻撃による補給線、連絡線の分断、それに伴うジオン軍の電撃侵攻戦、横行のまかり通る連邦軍という組織構造、書類の偽造、"ジャブロー"という機密のファクター、後ろの"積荷"(ザクII)………。

 

「よし!話つけたぞ大将!!補給は二日で済ませて出発だ」

「分かりました。ありがとうございます。………相変わらずの手腕ですね……」

「なに。言ったろ?"出来ることはやる。出来ないことも最大限努力する"って。ミノフスキー粒子さまさまだな!うははははっ!!」

「………ははっ」

 

ジャ、ジャブロー到達後がメッチャ怖えぇ!!!

 

『バレなきゃ犯罪じゃ…』

うるせぇぇぇえ!!だから!!そーゆー!!問題じゃ!!ないんだよぉ!!

 

「えっ!?今日ホテル泊まれるんですか?!やったぁ!!」

「あぁ!1人一部屋ルームサービスと三食付きスイートルームで手を打ったぞ!!うはははははっ!!」

 

ホントに何やってんの!?

 

 

 

 

 

「少尉!早く行きましょうよー!」

「待て待て騒ぐな、今行くから少し待てって。軍曹、準備は?」

「……3秒後に…」

 

私服の伍長がクルクル回りながら呼んでいる。まぁ、よう考えたら伍長も17歳の女の子だもんな……変人だけど。それに、どう見ても中学生にしか見えないけど。いや?小学生か?

白いワンピースと帽子が眩しい。赤みのかかった茶髪に映えるね。喜んでて結構な事だ。

長く続く行軍でストレスかかって……なさそうだけどいつも、まぁ、気分転換にはなるだろう。

 

軍曹も私服だ。軍服は威圧感を与えるためらしい。でも……

軍曹?なぜにガンケース?

 

基地司令に手揉みしながら『観光などどうですか?今まで大変でしたでしょう?骨休めだと思って……』と勧められこんな事に………基地司令少佐やん………おやっさん何やったの?そのおやっさんは真っ先にアロハ着て飛んでくし……整備兵達は"ザクII"に付きっ切りだ。喜んでたけど。

 

向かう先は旧市街地だ。当時の面影を残してある街らしい。新市街地はどこでもあるような統一された街であるため、今日は行かない。

 

「ひっさしぶりですねーこんな観光なんて…しかも少尉と……夢みたいです!!」

「…今は戦時中だからな?羽目は外しすぎるなよ?アレ?軍曹は?」

「さっきそこの銃工房(ガンスミス)に入って行きましたよ?」

 

軍曹………やっぱ最高だぜ!!

 

「どこだ?俺も行きたい」

「あそこですけど……せっかくだし観光しましょうよー」

「回るなら軍曹も一緒に回ろう。そっちの方がいいだろ?」

「……少尉がそう言うのなら……」

 

ドアを開け店内へ。ズラリと並んだ銃に圧倒される。よく手入れされている。旧世紀の名銃だらけだ。

 

「うわぁ〜〜!」

 

伍長が目を輝かせ店内を周り始める。エンジョイしてんじゃねーか。

 

「軍曹、銃の調整か?」

「……肯定……ライフルを…」

「俺もマテバを、と思ってね。どれくらいかかる?」

「……俺は、点検調整だけ……ここは、知人の店……」

「傭兵時代のツテか?」

「……肯定…」

 

なら任せられるな。ここら辺物騒だし。

 

「少尉、お会計どこです?」

「ショッピング感覚で何やってんだ?! ん?ショットガン?」

 

持っていたのはベネリM4"スーペル90"をベースにしたものだった。と思われる。いや、原型がわからん。

まさかのボックスとドラムマガジンが二つ選択式で用意され、ポンプアクションとセミ・フルオートがスイッチ可能、フォールディングスケルトンストック、最新式の可変式チョーク、ピカティニーレール、バヨネットアタッチメントと原型が分からないぐらい旧世紀と宇宙世紀の技術でてんこ盛りに魔改造されている。見た目も中身は全くの別物で技術発展に任せありとあらゆる改造が施してある一品ものだ。それでいて軽い。改造した人の腕と執念が感じられる。見た目はイズマッシュ・サイガ12、フランキ・SPAS-12と15、Beretta RS202 M1 / M2、U.S. AS12、ベネリM4などあらゆる有名どころのショットガンが組み合わさった"デッカードブラスター"ショットガンバージョン見たくなってる。トリガーこそ一つだが。上手く近未来感と懐かしさのマッチした正直カッコイイものだが……。

つーかアホかと。

 

「ハイ!2人とも自分だけの持ってて羨ましいですし、コレが一番ピッタシきたんです!」

 

だったらハンドガン選んで来いよ。常時携帯する気か?ソレ?………ハンドガン、伍長なら何がいいかなぁ?M-71が衝撃吸収機能ついてるし十分だと思うんだが……グロックとか好きかもな……。

 

「……それまず売ってくれるのか?かなり趣味の一品っぽいぞ?」

「嫌です!!これは運命の、いや!念願の一品です!!ころしてでもうばいとります!!」

 

な、なにをするきさまらー!………思考がだいぶ物騒になっとる……両親泣くぞ?

 

「ハハッ。話に聞いた通りだな。それが例の少尉殿と伍長ちゃんかい?」

 

奥からパイプを咥えた初老の男が出てくる。手にはコーヒー。こりゃ軍曹と話が合うわけだ。

 

「……そうだ……久方ぶり、だな……」

「ハハッ。お前も相変わらずだな。調整は三人まとめてやってやろう。ん?嬢ちゃん、それは……」

「売ってください!!」

「ハハッ。いや…だから…」

「売ってください!!!」

「……………」

「すみません」

「……すまん……」

「ハハッ。まぁついて来い」

 

奥で体型、筋力、撃ち方など様々な事柄を計測し、少しずつすり合わせ調整する。始めてだが、いい腕なのだろう。夕方もう一度来てくれと言われ店を出る。

太陽は真上だ。クソ暑い。伍長は屋台で売ってたなんか甘そうなものを飲んでいる。軍曹と俺はアイスコーヒーだ。なかなかイケるが、軍曹のが旨い。

 

「お昼時ですね!少尉!奢りますよ!」

「普通逆だろ。そんな前の話覚えてなくていいから」

「少尉も覚えてくれてたんですね!感激です!!」

「軍曹はどうする?」

「……知人の、店に……」

「そこ行こうか伍長」

「……うーん、甘いものあります?」

「……まぁ…」

「よし!そーしましょー!」

 

ハイテンションだな。こんなクソ暑いのに。普段もこれぐらい暑さに強けりゃいいのに。軍曹も顔広いな。さっきから軍属の格好してないのになんでやけにサービスいいなと思ったら軍曹かよ。道行く人も軍曹に挨拶してるし。コレ軍曹居なかったら路地裏連れ込まれカツアゲされそうだわ。道行く人ほぼ全員銃隠し持ってるし。向こうで9mmと7.62mmの発砲音聞こえるし。

チラリと向こうを見るとおやっさんだ。焼けたアスファルトの上で沢山の酒瓶を抱えながらお話中だ。楽しそうだ。そっとしておく。

 

「……ここだ」

 

気が付くと小さな喫茶店の前に居た。やや古ぼけているがいい感じだ。伍長は店の前の猫と戯れている。今から飯食うんだから手洗ってこような?

店内も落ち着いた感じで木がいっぱいある。コーヒーの匂いがほんのりと漂ってきている。涼しく柔らかい空気が体を包む。

 

「また会ったな兄弟」

「……久方ぶり、だな……売り上げは、どうだ……」

「ボチボチってとこだな?飯か?」

「……肯定。3人分、コーヒーも…」

「あいあいっと。……そっちの若いのは始めましてだな。よろしく」

「こちらこそ……おい!!伍長!?」

「はわ〜」

 

猫と戯れる伍長を引っ張りこみ、テーブルに着く。コーヒーとホットサンドだ。店主曰くコレが一番美味しいらしい。メキシカンな料理はないのね。コーヒー旨いけど。

 

食べ終わりひと息つく。落ち着く、いい店だ。………客少ないけど大丈夫か?

 

「……何か、聞いてるか…」

「ジオンの事か?」

 

軍曹が無言でうなづく。伍長は店内を見て回っている。甘いものも無かったからか。軍属なんだから話聞けよ。こーゆーのが案外信憑性高かったりすんだよ。まぁいいか。後で軍曹が噛み砕いて教えるだろうし。

 

「"キャリフォルニア・ベース"を落とし、元の"合州国"ぐらいの勢力圏をつくってる、"ニューヤーク"に司令部がある、らしい。そっからは膠着してるんだが……どうも、最近おかしい、らしい」

「…………」

「…………」

「話によると、占領した"キャリフォルニア・ベース"を使って、デカイ飛行機飛ばして、防衛線を飛び越え爆撃や橋頭堡の確保を行っている、らしい…」

「………」

「……前の…」

「ここも、その拠点の一つとして狙われている、らしい」

「……なるほど…」

「……他の地域では何か聞いてませんか?」

「……ふむ…………ヨーロッパは南半分、アジア地域は日本とシベリアを含めないほぼ全域、アフリカはサヘル地域とキリマンジャロ手前まで、オセアニアもほぼ全域制圧された、らしい」

「……信憑性、は……?」

「かなり、だ。"らしい"が、いらないくらい」

「………」

「………話は、聞いた。邪魔…したな……」

 

軍曹が立ち上がる。その顔に変化は無い。目線を外し上を見る。上でゆっくり回るくたびれた換気扇が、からからと音を立てるだけだ。

 

「……また、来いよな、兄弟」

「……あぁ……」

「…ありがとうございました。行こう、伍長」

「はーい。美味しかったですー。ではまた!」

 

ゆっくり市場を歩く。屋台で買ったタコスを食べつつ、軍曹に話しかける。

 

「時折、近くでMSも確認されるらしいな」

「……動くと、したら……10月ごろ、か……?」

「戦況が?」

「……肯定。最近の……物流ルートや、企業の動きからもだ…」

「……それまでは膠着?」

「……多分、な……」

「それまでには、"ジャブロー"到達出来れば……」

「……あぁ……」

 

タコスの包み紙をゴミ箱に投げ入れる。ソースかれーよ。辛けりゃいいとおもったら大間違いだよ。まぁ美味いけどさぁ。飴で口直しする。そろそろ補充しなきゃ。ネットも実家にも連絡つかんしどうしよ。

しかし、やはりチリソースは無いな。世界の真理はヨーグルトソースだ。

 

「あっ!おやっさーん!こっちでーす!」

「おう!会ったな!どうだ?骨休めになったか?」

「おやっさんこそ。いいお酒は手に入りました?」

「おうとも!値切ってやったぜ」

「良かったねおやっさん!軍曹も飲まして貰えばいいんじゃないですか?」

「それもいいかもな?伍長も飲むか?」

「うわーい!!」

 

緊張感ねえなー。だからこそ心強いんだが……。

 

「俺たちはガンスミス寄ってから帰りますけど、おやっさんどうします?」

「まだ少し聞き込みしてからだな」

「……やっぱ聞いてましたか。夜集まりましょう」

「……おう…」

「時間は…一九三○(ヒトキューサンマル)でお願いします」

「あいよ。ならまた後で…」

「……伍長……ソース…」

「えっ?あ、えへへ…」

 

口の周りを拭いてもらう伍長を尻目に、約束をする。

おやっさんと別れ、ガンスミスへ。

抜け目無いな。流石おやっさん。伍長少しでいいから見習ってくれ。今夜は情報の摺り合わせだ。早くせめてそこそこの規模の連邦軍基地である"パナマ"まで行きたい。

 

「ハハッ。戻ってきたか。調整は済んでる。お代はいい。持ってけや」

「いえ、そんなワケには……」

「えっ!うわぁーい!!やったね少尉!」

「ハハッ。そこそこ儲けてっからな」

「そもそも伍長のは売ってくれるのですか?」

「ハハッ。気に入ってたが、仕方ねぇ。持ってけ。コイツはオマケだコレも持ってけ」

「うわー!ありがとうございます!!えへへ、やったぁー!」

「……すまんな…」

「……すみません」

「ハハッ。いいってとこよ。だから、また来いよ?」

 

白いワンピースの少女が無骨なショットガンとハンドガンを笑顔で抱えながらくるくる回っている。シュール過ぎる。輝く笑顔が眩しい。

 

「はい!ありがとうおじさん!」

「ええ、必ず…」

「……また、会おう……」

「ハハッ。達者でな」

 

渡されたマテバを見る。手にしっかり馴染み、いい感じだ。一度完全に分解、製造過程ででるバリ、ヒケをミクロン単位で修整しクリアランスを確保、更に薬室の素材を変更し軽量化しつつ強度を強め炸薬量を増やせる様に改良、銃身を延長し、ライフリングをメトフォード・ライフリングとポリゴナル・ライフリングを参考にした二つの特性を併せ持つ特殊な銃身に。新造され、鏡の様に磨き上げられた銃身に、新しく文字と烏のレリーフが刻まれている。

 

"S-Raven Edge"

 

悪くない。でも、日本人って言ったっけ?まぁいい。

 

「よろしくな、相棒」

 

そう呟きホルスターへしまう。その手を伍長が取り手を握る。笑顔の伍長の手を振り払う気にもならずそのままほっとく。伍長は軍曹の手も無理やり握り、笑顔のまま言う。

 

「楽しかったです。また、来ましょう!3人で!絶対ですよ!!」

 

そうだな、いい日だった。本当に。

 

ホテルに着くまで、伍長はその手を離さなかった。

 

 

 

 

『銃で無ければ護れない物だって、きっとある』

 

 

さらさら、風がまわる……………




今回は状況説明のための話です。

な の で 、 本編は喫茶店のおっさんの話です。そのためだけに書いた話です。

あとマテバ。ポリゴナルとは銃口が六角形に見えるやつ、メトフォードは波状の奴です。どうやったかはおっさんに聞いて下さい。ポリゴナルの特性を残しつつ、多目的弾が撃てるように改造したと思って下さい。

伍長のオマケはみんな大好き銃身が10インチのデザートイーグル.50AEと.44オートマグです。両方伍長は撃てませんけど、もしかしたらまた出るかもしれませんので。

正式採用品使うやつがいねぇ………

次回 第十六章 メキシコシティ要撃戦

「………すまない……」

お楽しみに!!


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第十六章 メキシコシティ要撃戦

やや長めのバトルパートです。

バトルパートは書きづらい上に長さを調整し辛いため苦手です。

なんか、ゲリラ戦が板につき始めてる…………。


戦いは、場所を選ばない。

 

荒野で、砂漠で、市街地で、戦乱という嵐は吹き荒れる。

 

相手を選ばぬ殺戮の嵐からは、逃れる術はない。

 

それは戦線から離れた地であっても例外ではない。

 

人が意思を持ち、手に武器を取った時、

 

そこは、"戦場"(バトルフィールド)となる。

 

 

 

U.C. 0079 5.13

 

 

 

「……ふぅっ……」

 

久々の湯船から上がる。名残り惜しいが、仕方が無い。シャワーでも問題は無いが、やはり風呂はいいものだ。風呂は心を潤してくれる。 リリンの生み出した文化の極みだよ。 そらローマ人もタイムスリップするわ。

 

身体を拭き手早く服を着る。ガンホルスターを身に付け、室内を見回しチェックした後部屋を出て鍵をかける。目指すはおやっさんの部屋だ。

一九三○(ヒトキューサンマル)、部屋の前に着き、服装を確認した後、ノックをする。

 

「おやっさん、来ました。開けて下さい」

「時間通りだな、相変わらずだな。まぁ入れや」

「軍曹と伍長は?」

「伍長はまだだ。軍曹はそろそろ……来たぞ」

「……少尉、最新情報だ……」

「分かった。もうすぐで伍長が来る。まとめて置いてくれ」

「……了解…」

 

また街に出たらしい軍曹が来る。やや硝煙の匂いがする。

 

「巻き込まれた?」

「……肯定。だが、やり過ごした……発砲は、してない…ロスでは……日常茶飯事……」

「分かった。無事で何よりだ…………遅いぞ!伍長!!」

「すみません!! ………今私は、驚くほど落ち着いている……」

 

四人で集まり、収集した情報を出し合い統合する。軍曹とおやっさんの情報とは、ジオン軍は"キャリフォルニア・ベース"の軍事工場を利用、MSをどんどん増産しているとの事だ。そして、その中の一部がこの"メキシコシティ"周辺で確認されたらしい。その距離は数十km地点らしい。

 

「ここらは山岳地帯だ。やや手こずるだろうが、すぐここに到達するだろう」

「……ここの、守備隊は脆弱だ………足留めしか、出来ないだろう……」

「どうします?少尉……。ここじゃ"ロクイチ"も全力は出せないですよ?」

「…軍曹、MSはどれくらいの規模で、いつ頃到着だ?」

 

少尉は広げられた地図を指差しながら聞く。正直ここ一帯の地理に明るい訳で無い。軍曹だけが頼りだった。

 

「……MS3機、"マゼラ・アタック"5両………あとは"ヴィークル"らしい………大型のローター輸送機が、確認された……」

「近くで降ろしたということか……」

「基地は街の南端、来るのは北から。航空戦力は無し。あるのは"ロクイチ"8両………手厳しいな……」

「……基地守備隊に被害は出せない。街に避難勧告を出し、敵を誘い込み、街の中で包囲殲滅する」

「……相当な、被害が出る……」

「…街の中で戦うの!?」

「…そうだ、それしかないだろう……」

「壊さず戦え、か……?」

「キツく、ないですかそれは?」

 

伍長の驚きも最もだ。本来は避けたいが……。しかし、四の五と言っていられないのも確かだった。少尉は地図を睨みながら言葉を重ねる。

 

「それは敵も同じだ。ここの占領を目指しているのなら、無闇に破壊は出来ないはずだ。敵戦力のMS3機の差は大きい。分断し一対一に持ち込むしかない……」

「それが、最善……か…」

「……分かりました。死ぬわけには、いきませんからね」

「……軍曹も、それでいいか?」

「……いいも、悪いも無い。少尉の判断には……必ず従う」

「分かった。………すまん。よし、おやっさん!基地司令部へホットラインを!軍曹、伍長は基地守備隊と提携、避難誘導と"リジーナ"設置を頼む!!ポイントは追い追い伝える!!任せたぞ!!」

「おう!」

「……了解…」

「了解!!」

 

全員が立ち上がり、走り出す。状況は、既に始まっている。

市街地戦か、MSでは初めてだ。だが、やるしかない。今日の一日を思い出す。迎撃、戦闘にいいポイントは……。火器は下手に使えない。しかし瞬発的な大火力は欲しい……。あとは、背景に溶け込む様に偽装して、"ロクイチ"を配備しよう。"リジーナ"と"スーパージャベリン"とも……。

 

「司令!!敵のMS部隊を中核とした小規模部隊がここに向かっています」

《MS……ふむ、アレですね、まぁ、ウチの"TYPE-61 5+"でなんとかなりましょう。あなたの手を焼かせるまでも……》

「いえ、ここの守備隊に被害は出せません。我々が迎え撃ちます」

《いえいえ、そんなワケには……》

「お願いします。街の住人に避難指示を」

《…………ええ、分かりました…》

 

だんだん苛立ちを抑えきれない様な押し殺した声へ変わっていく。電話の置き方も雑だ。何かあった……俺らイレギュラーか。マズいな……。せめて、避難ぐらいしっかりやって欲しいが……。仕方ない。そら怒るよな。

 

でも、流石に戦闘には引き摺らんよな?

 

コンボイの"ザクII"へ向かって走る。色々と、用意をせにゃな………。

 

街は昼間歩いた北側の古い街並みを残した旧市街地と、基地司令部のある新市街地に大別される。その境目はかなり大きな広場となっている。旧市街地は道が細く、細かい道がそれこそ網目の様に走っている。幹線道路(メインストリート)以外はMSはおろか"ロクイチ"さえも走れない。打って変わって新市街地はかなり大きく取った都市設計だ。MSが3機ならんで歩いても余裕があるような道路で綺麗に区画分けしてある、高層ビルが主体の市街地だ。

 

作戦は決まった。後は………?

 

覆帯の音がする………?これは、"ロクイチ"の音だ!!

 

音の方向を見る。間違いない。"ロクイチ"が8両。これは基地守備隊の物だ!

 

「司令!!話が違います!!」

《いや、これでいいんだ。………念の為、念の為だが避難誘導はしている。MSなど、地上最強の兵器"TYPE-61 5+"の前では紙屑同然だよ。宇宙の腑抜け共はそれが分かっていないだけだ。本当は8両もいらないだろうがね》

「司令!!お願いします!!」

 

おい!!話聞けや!!このゆとりが!!

 

《なぁに、あなた達の手は煩わせさせませんよ。では御機嫌よう。明日、いい連絡をさせてもらいますよ》

 

通信が切れる。

 

あの、クソッタレ揉み手野郎が!!功を焦りやがって!!クソが!!ここは山岳地帯だ。"ロクイチ"はそこそこ戦えるだろうが、全力は出せない……。つーか俺罵倒用語のボキャブラリーすくねぇな。

 

増援の余裕はない。見捨てるのか?しかし、行っても無駄死にを増やすだけだ。戦力差は明確、勝つには用意周到なアンブッシュが確実だ。蛮勇に身を任せ打って出るワケには………。

 

何も………出来ない……。

 

ウチも参考にしている"ロクイチ"戦術運用の一つである戦法なら何とか………。

それは、"キャリフォルニア・ベース"戦の前で、"ロクイチ"を3両一組で運用、MSに対し大胆に接近し背後から叩いた戦法である。それを編み出したとある少尉の部隊は有名だが…………真似できるとも思えなかった。

 

エイガー、と言ったか……会ってみたかったが……。

 

「………すまない……」

 

少尉は、無力だった。"ザクII"の元へ辿り着き、整備兵へオーダーを出す。

 

「……おやっさん…」

《……あいつらか、行っちまったぞ?》

「仕方ない、です。俺たちは無駄死にするわけにもいきません………少しでも敵戦力を減らし、全滅してもらい囮に……!…します………」

《…………分かった…………》

「……頼みます……作戦……説明します……」

《ああ、彼らの、せめてもの、奮闘を祈ろう……話せ……》

「はい…」

 

 

 

U.C. 0079 5.14

 

 

 

基地守備隊の最終通信から既に数時間。街は、静まりかえっている。

 

斥候部隊(スカウトリーダー)よりアルファ1へ、敵機視認(エネミー・タリホー)。"ザクII"3機に、"マゼラ・アタック"3両、"ヴィークル"5台です》

「こちらアルファ1。了解、そのまま距離を保ちつつ追従せよ」

《了解。オーバー》

 

"ザクII"(アルファ1)のコクピットで通信を受ける。軍曹(ブラボー1)伍長(ブラボー2)の計2両の"ロクイチ"、"リジーナ"(チャーリー)"スーパージャベリン"(デルタ)攻撃隊は準備完了だ。敵の被害は"マゼラ・アタック"のみ。割に合わない。本当に。

 

少尉の乗り込む"ザクII"は新市街地の、広場と旧市街地メインストリートを見下ろせるビルの上で伏せている。上にグレータイプの赤外線遮断シートを被せ、核融合炉を遮蔽、現在ケーブルを繋ぎ外部電力のみで起動させている。ミノフスキー粒子を感知されては困る。仮にミノフスキー粒子を散布すれば確かにミノフスキー・エフェクトによりレーダーは効かなくなるが、そこに確実に核融合炉があり、敵が潜んでいる事をバラしてしまう。そのための処置だ。遮断シートは内側からも遮断するため、出しているのはスコープのみだ。これでバレないハズだ。

 

「おやっさん、"例のブツ"の準備は出来てます?」

《オーケーだ。いつでも来い!》

「分かりました。頼みます」

 

「ブラボー1、ブラボー2聞こえるか?そろそろだ。頼むぞ」

《……ブラボー1了解》

《はーい。ブラボー2りょーかい!!》

 

後は、お客さんをもてなすだけ………来た!!

少尉の正面、距離800、"ザクII"だ。

 

「……アルファ1、エンゲージ……!!」

 

攻撃を宣言。先頭を歩く"ザクII"へと慎重に照準を合わせる。

 

「いらっしゃいませー!!」

 

トリガーを引く。と同時にケーブルカット、核融合炉に火を入れ、ミノフスキー粒子をばら撒き始める。

 

「各員!!かかれ!!」

《《おう!!》》

 

今回の武器は280mm対艦ロケット推進榴弾砲、通称"ザクバズーカ"だ。無誘導かつ初速も早く無いため、遠距離射撃には向かず、対MSにはあまり使えないシロモノだが、火力があるのがこれしかなかった。

 

全滅したはずの敵からの予想外の攻撃に反応出来ず、先頭の"ザクII"が"ザクバズーカ"を受け爆散する。それを合図に、旧市街地の各地に潜んでいた"リジーナ"、"スーパージャベリン"攻撃隊が一斉射撃を放つ。攻撃と同時にスモークを焚き、武器は置いててんでバラバラに逃げ出す。"マゼラ・アタック"、"ヴィークル"が直撃弾を受け吹き飛び、対応した"ザクII"の1機も躱し切れず"ザクマシンガン"を破壊される。混乱しつつ2機がスラスターを吹かし別々の方向へ散開しつつ飛ぶ。

 

「おやっさん!!」

《おう!!"デコイ・ポッド"起動!!》

 

敵は混乱しているハズだ。殲滅したハズの敵によるアンブッシュ、急激に上がるミノフスキー粒子濃度でホワイトアウトするレーダーに、降って湧いた様に爆発的に増えた敵反応。"ザクII"2機は散開し身を隠した。そこそこの手練れらしい。

 

おやっさん開発の"デコイ・ポッド"とはその名の通り(デコイ)用の電子機器だ。"ザクII"の敵味方判別装置、識別信号解析機などを解析したおやっさんが開発した、対MS用のカカシだ。

今回のタイプは、"ザクII"には"ロクイチ"に識別される信号、赤外線パターンなどを出してそれになりきる物だ。所詮カカシであり、戦闘能力は無いが、正体がバレ無ければ、カカシは立派な戦士だ。

 

それが包囲するように一気に出現したら誰でも驚く。まさか上手く分断まで出来るとは、ツイてる。

 

「こちらアルファ1!行動開始する!目標はマシンガン持ちの"ザクII"!!」

《……こちらブラボー1了解。もう片方は引きつけておく》

《ブラボー2りょーかい!援護します!!》

「なるべく誤射は抑えてくれよ!!」

《こちらチャーリーリーダー、"ヴィークル"全車両排除完了。歩兵掃討戦へ移る》

《こちらデルタリーダー、デルタチームはチャーリーチームと合流、これよりチャーリーリーダーの指揮下へ入る。掃討開始!ムーブムーブ!!》

 

機体を起こしつつシートを脱ぎ捨て、"ザクマシンガン"を構える。街全体な散らばる様に配置した観測ポッド、偵察兵のリンクで敵の場所はこちらからはバレバレだ。ここは既にこちらの銀の庭だ。敵は、そこにうっかり踏み込んでしまった哀れな獲物に過ぎない。

 

ビルの裏に隠れ、敵を待つ。偵察兵の実況付きで状況は手に取る様に分かる。ここらの高層ビルは先程の様にMSがのってもビクともしない堅牢な作りで、赤外線も通さない。敵が特殊な偵察機材(・・・・・・・)を持たない限りは有視界戦闘のみを強いられているはずだ。現にそうであるようである。

 

ゆっくり索敵しつつ近づく敵がビルの曲がり角に差し掛かる瞬間………今だ!!

 

()ちろ!!」

 

飛び出し撃ちを接射に近い距離で行う。避けられるはずがない。敵の"ザクII"コクピットへ120mm弾をたらふく食らわせる。ハチの巣のようになった正面装甲を晒しカカシの様にそのまま倒れ伏す"ザクII"が戦闘不能になったのを確認、"ザクマシンガン"の弾倉(マガジン)を交換する。

 

《こちらブラボー2!!少尉!!もう1機がそっち行ったよ!!》

 

バレたか!機体を振り返らせようとした瞬間にビーッ!っとアラートが鳴り響く、敵の接近警報だ。方向は、上!!

 

「ッ!!」

 

慌てて機体を裁いた瞬間、上空からスラスターを利用し強襲を仕掛けて来た敵の"ザクII"の"ヒートホーク"が"ザクマシンガン"を両断する。

 

「クソッ!!」

 

こちらはまだ"ヒートホーク"を抜いていない!迎撃は間に合わない!なら………コレだ!!

 

「ッ!! らァッ!!」

 

スラスターをフルで吹かし、脚で踏み切りつつ左肩のショルダースパイクを向けヘヴィーアタックをブチかます。

身体がシートに押し付けられ、視野が暗く、狭くなる。急激な加速による弊害だ。

強烈な衝撃。身体が前に投げ出される。シートベルトが軋み、身体に食い込む。

瞬間的に掛かった爆発的な負荷で左肩関節部モーターが悲鳴を上げるが気にせず、"ヒートホーク"を抜き倒れ込んだ"ザクII"のコクピットへ振り下ろす。

熱せられた灼熱の刀身が"ザクII"の胸部正面装甲を焼き裂き、中のパイロットとシートを焼き焦がし一つにした。

 

ずるり、と"ヒートホーク"を引き抜く。まるで痙攣するかの様に震える"ザクII"。それから視線を外し周囲に敵影、反応は無い。

 

「……ミッション、コンプリート……」

 

思わず呟く。その少尉の"ザクII"の元に軍曹と伍長の"ロクイチ"が到着するのは、もう少し後の話だった。

 

 

 

『戦いの基本は格闘だ。武器や装備に頼ってはいけない』

 

 

 

 

日は、もう暮れかけていた……………




次回は今回の戦いの反省回になると思います。

ただドンパチヤるだけが軍隊じゃないんでね!(キリッ

……………本音はバトルは疲れるのであんまり書きたくない。文書下手さがよく出るし。時期的にもあんまドンパチヤるワケにもいかんのです…………

出て来た大型のローター機はファットアンクルです。

エイガーの作戦については小説版ジオニックフロントを。面白いので。ゲームも。特殊な偵察機材は同ゲームのサーマルセンサーやパッシブソナーなどの事です。あれはあの部隊に実験的に導入されたものらしいので。ポッドの元ネタもそのゲームです。

ヘヴィーアタックは機動戦士ガンダム戦記というゲームの技です。まぁ、バトオペのタックルです。カウンターは出来ませんでしたが(笑)。ガンダム戦記はPS2のヤツがボリューム少なめですが面白いのでオススメです。平行移動が楽しい、当時にしてはビーム兵器の残弾方式などで革新的なゲームなので。

次回 第十七章 ここを発つ前に……

「……だが、断る」

お楽しみに!!


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第十七章 ここを発つ前に……

ここからは戦闘激減です。ジオン勢力範囲をこえ、ただ"定期便"が頭上を飛び去るのみ。
その分他に力を入れようと思います。出来るかどうかはともかく………。

まぁ、最後までどうぞお付き合い下さい。


"戦災"、と言う言葉がある。

 

天災、人災などと同じ被害を表す言葉だ。

 

戦争によって起こる、戦争が忌避される一番の理由だ。

 

戦争が始まって五ヶ月、その被害は留まる事を知らない。

 

それはこの地球だけでない。

 

第二の大地であったコロニーでさえもだ。

 

これを越えた先に、残るものは果たしてあるのだろうか。

 

 

 

U.C. 0079 5.17

 

 

 

《よーしそのままー、オーライ、オーライ……ストォーップ!!よし!!いい腕だな!》

「どうも、しかし、被害を出したのは……」

《いいってことよ!!アンタらが居なかったらもっと酷くなってたさ!今もこうして助けてくれてるしな》

「………はい。感謝いただき、光栄です」

 

"ザクII"のコクピットから街を見下ろす。戦闘から2日、破壊した敵兵器の残骸や破壊してしまった街の瓦礫をどかす事からはじめ、だいぶ街は活気を取り戻し始めていた。幸い民間人に被害はなく、街並みも完全倒壊などなく、損害は比較的軽微だった。

 

「…ふぅっ……まぁ、こいつの経験値も溜まるし、何も、ドンパチやって、壊すだけが軍隊じゃないからな…」

 

古来より軍隊は優秀な建築士であり、医者でもあり、開墾などの特殊技能を持つ集団であった。それは今も変わらない。

このような被害発生時、やはり最も頼りになるのは軍だ。迅速な展開、対応が出来るのは、戦場でもその技能が必要であるからであるが。

 

キラキラとした朝日を浴び、その中に"ザクII"が浮かび上がる。その右肩には、真新しいエンブレムが輝いている。それは、コクピットで操縦する少尉の左肩にも、ピカピカの部隊章(インシグニア)がついている。右肩にはかつてのフライング・タイガー隊部隊章が追いやられ、やや物悲しげにへばりついついている。

この二日、街の復興を手伝う途中に、新装備の開発と同時に施されたものだった。

 

 

…………………………………………………………………………………

 

 

 

U.C. 0079 5.16

 

 

 

「少尉!!見て下さい!少尉のパーソナルマーク考えましたよ!!」

「パーソナルマーク?必要無いぞ?俺は。考えてくれたのは嬉しいが……」

 

瓦礫を運び終え、一息ついて汗を拭いていた少尉が伍長の声に振り向く。"ザクII"は先日のヘヴィーアタックで念のためオーバーホール中だった。おやっさんに凄いどやされた。久しぶりだわ、あの感覚……。幸いパーツには余裕があるが………。

そのため手作業で瓦礫を回収中だったのだが、その時に伍長が巻いた紙を片手に走ってきたのだ。おい、"ロクイチ"にドーザー付けて仕事してたんじゃないのか?軍曹を呼ぶな、土嚢抱えてるのが見えんのか?

 

それにエンブレム?何かロクでもなさそうなヤツじゃなかろうな?イヤだよ?恥ずかしい。"マングース"でも俺は部隊章だけだったし。

 

「何でですか!がんばって考えたのに!!戦闘機にだってノーズアートつけるじゃないですか!!」

「確かにそうだがなぁ…俺は付けなかったし…この有視界戦闘のMS戦で、目立ちたくは無いしな……」

「……少尉、士気の面からは……効果的だ……」

「確かに。だが、俺はそんな腕は……」

「取り敢えず見て下さい!!ほら!」

 

そのエンブレムは上部に半円とと斜辺部分に丸みを付けたホームベース状のオーソドックスな枠に、旭日旗をバックに刀を構えた真っ黒な鷹がはばたいているようなデザインだった。中々いい。揺らぎそうだ。ん?つーか、自分の"ロクイチ"につけりゃいいじゃん。それは言っちゃ負けなの?

 

「これは伍長が考えたのか?中々カッコイイじゃないか」

「はい!私が原案を出して、軍曹にアドバイスを貰って、おやっさんに図案化してもらいました!」

「……だからか、これは鷹じゃなくて八咫烏なんだな…」

 

鷹の様にデザインされているが、足が3本あった。確かに、俺のマテバもそういうマークがあるが……。

 

「この上の文字は?」

 

上部の半円に乗っかる様にくっ付いた枠に、細々と文字が書いてある。手ェこんでるな。

 

"The Trailblazer to The Frontier"……新天地への先駆者、ってところか?文法とかに問題無いのかな?コレ?

 

「それはおやっさんだって。MS運用や、この旅団を導く、先駆けって事らしいよ!少尉にピッタシですよ!」

「……少尉、ここは……」

「……うーん…」

 

皆で考えてくれたのか、嬉しいし、無下にしたくはない……ん?おやっさん?

 

「……軍曹、まさか……」

「……もう、整備班長は、図案をプリントアウト済み……」

 

やっぱりか……好きだもんなーそーいうの。頭を抱えたくなった。

 

「………やっぱりダメですか?」

 

そーゆー話じゃないんだよ……俺はおやっさんに"ザクマシンガン"の交換用ロングバレル、あまり使い勝手のよくない"ヒートホーク"に代わる格闘兵装、迷彩塗装しか頼んでないのに……それ最優先でやってそうだな……。

 

「……トリアーエズ、おやっさんのとこ行くか…すまんか…」

「エレカっすね?分かりました!回してきます!!」

「あぁ、ありがとう……」

 

エレカを借り"ザクII"の下へ向かう。おやっさんの怒鳴り声がここまで聞こえてくる。相変わらずの気合だ。

 

「………うわ……」

 

もう付いてた。右肩のシールドにデカデカと。スゲー目立つ。撃ってくれと言っている様なものだこりゃ。せっかくの迷彩全然イミねー。やっべぇ、頭痛とストレスが……ソウルジェムあったら一瞬で真っ黒に濁るレベルだコレ。

 

「………おやっさん……」

「おお!大将!どうだ!!気に入ったか?」

「こんなん迷彩もクソもないじゃないですか!!直ぐに外して下さい!」

「……だが、断る」

「えぇ!?」

「何のために考えたと思ってんだ?あ?それとも、その俺たちの努力を無に帰するのか?」

 

そーゆー言い方すんなよ!!意地の悪い顔しやがって!!

 

「う……でも…」

「……整備班長…」

「なんだ?」

 

よし、軍曹!バシッと言ってやれバシッと!!

 

「……流石に、目立ち過ぎだろう………せめて、肩の前面装甲のみ、ぐらいにすべき……」

「まぁ、流石にふざけ過ぎたか?」

 

妥協案だった……。

 

「えー、大きい方がカッコいいのに……」

「……………」

 

こりゃ、ダメだ。つーか、おやっさんがついた時点で、俺に既に勝ち目は無い。

 

「……分かりましたから……せめて、軍曹の案で……」

「ったく、しけてんなー。あー分かったよ!そうするよ。すりゃいいんだろ?このプロセスチキンが」

 

機嫌悪っ!!

 

 

 

……………………………………………………………………………………

 

 

そんなこんな一悶着あった後、実装されたエンブレムだが、中々ウケがいい。まぁよかった。因みに伍長の原案を見せてもらったが、それはそれはヒドかった。今のデザインにブラッシュアップしたのは軍曹という事が判明。アレ?デジャヴ……?

 

《大将!!だいたい終わったら、新兵装を試す。こっちへ来てくれ!》

「今終わりました。そちらへ向かいます。それから、大将はやめて下さいと何度も………」

《…ん?文句でもあっか?》

「……………ありません」

 

"ザクII"を歩かせ、街を出て基地へ。そのまた外れの射爆場におやっさんはトレーラーと複数の整備兵と共に待っていた。

 

《じゃ、まずコイツからだ。約2500m地点に的を用意した》

「了解。さっそく試させて貰います」

 

それは"ザクマシンガン"のバレルを約1.75倍に延長したものだ。このような簡易改造は"ルウム"でも確認されているらしい。効果はありそうだった。

 

元々"ザクマシンガン"は宇宙で対艦攻撃を前提に開発されたものであり、弾丸をばら撒く武器であるため、命中率は高くは無い。それに、重力下での運用も考えてはあったが、地球という湿気や高温などの数多な環境には対応し切れず、それが更に命中率を落としていた。

今回はそれらを踏まえ、ただの銃身延長にとどまらず、各部のシーリング、構成パーツの素材変更、高精度化など地球に対応したモデルとなっている。

 

因みに延長した銃身は先日敵に両断されたもののリサイクルだ。環境に優しいね!

 

《……少尉……重力下では、長い銃身は垂れる。その上…陽の光で、膨張、変形する……注意しろ……》

「了解」

 

FCSにその情報を入力、再計算させた後、改めて手動で狙いをつける………射撃。

 

放たれた120mm弾は遥か遠くのターゲットをバラバラに吹き飛ばす。うん、いい感じ。

 

《……今ので、砲身が温まった……砲身の歪みは、無くなる…》

「了解」

 

またFCSを調整する。流石戦車屋。情報が的確だ。

 

射撃。今度はカス当たりだ。風に流されたらしい。

 

《……温められた砲身が、また変わった……》

「了解、上げるか…」

 

砲身は、一発目は重力でややタレ(・・)ており、射撃後は温められ真っ直ぐに、三発目は二発目の熱で更にタレる。砲術の基本だ。スペースノイドはしらないだろうな。いや、コリオリ力で曲がんのかな?

 

その後もフルオート、3点バーストでの実験データを取る。弾丸も、徹甲(AP)弾、成型炸薬(HEAT)弾、粘着榴(HESH)弾、装弾筒付翼安定徹甲弾(APFSDS)、通常弾、通常榴弾(MP)、対MS用ホローポイント(HP)弾、三式対空散(Type-3)弾、徹甲焼夷(API)弾、徹甲炸裂焼夷(HEIAP)弾など様々な試しに新造された弾丸を含めを試す。

対空砲弾が近接信管(VT)でなく時限式の三式弾なのは、ミノフスキー粒子の影響はまだ未知数な事が多く、より確実な炸裂方式にするためであるため、このデータを元にミノフスキー粒子影響下でも不発が起きない弾丸を開発して行くと言う事らしい。

 

《よし。いいデータが取れた。これを元に更に改良していくからな》

「お願いします」

《お次はコイツらだ。大将は剣道、銃剣道有段者だったな?薙刀は用意出来なかったが、刀に近い形状にしてみたぞ?》

「早速試します、危ないので、更に距離を取って下さい。すっぽ抜けるかもしれません」

 

よし、次は格闘兵装だ。用意されたのは"ザクマシンガン"用銃剣(バヨネット)、それに"ヒートホーク"を改造し形状を変えたマチェット型、刀型の二振りだった。どれも金属同士で打ち合い、叩っ斬る事を前提とした特殊な超合金製だ。"ヒートホーク"のようにプレヒートさせつつ、さらに柄に大型のモーターを仕込み、高周波振動を起こせるようになっている。バヨネットはプレヒートがマシンガンに影響する可能性があるため高周波振動のみだ。格闘戦に備えるため銃身にはバレルガード、バレルジャケットを増設、ストックも伸縮式になった。

 

使い勝手も中々だ。元から武術の心得があるため、そのモーションを"ザクII"に覚えさせつつ振り、ターゲットを粉砕する。

 

《良さげだな》

「はい。斧より俺に向いている様です。しっくりきますね」

 

モーションマネージャーを細かく設定、変更しつつ武術の方通りMSを捌く。"ザクII"はそれをどんどん覚えて行く。俺のヤツ、覚えてるの格闘、回避、カバーアクションばっかだな。射撃はホント基本しか……。

 

"ヒートホーク"より軽い分振りやすく、切り返したりしやすく隙が少ない。しかし、その分威力、耐久性は落ちているようだ。"ヒートホーク"と真っ向から連続で打ち合ったら曲がるか折れるな……仮に切り結ぶ事になったら攻撃はなるべくいなすか……。

 

ついでに銃床による格闘も試す。前は試す前に叩っ斬られたからな……。"ヒートホーク"のリーチの短さに助けられたな。やっぱ槍と薙刀が欲しいな……ん?それ、取り回しとか収納とかどうしよ?

 

《よし。で?どうする?》

「刀型は取り回しから、ここらは森が多いのでまだ使わない予定ですね。マチェットと、バヨネットはナイフとしても使える様にしてくれるとありがたいです」

《分かった。必ず形にして見せよう。そんじゃ、お疲れさん。作業に戻ってくれ》

「了解。こちらこそ。……行こう、軍曹」

「……了解」

 

今日の夜にはこの街を出発する。その間に少しでも手伝う予定だ。ここの基地守備隊は壊滅した。今度攻められたらお終いだ。無血開城しか無いだろう。しかし、俺たちは止まるわけにはいかない。この情報を、人員を、"ジャブロー"に届けなければ。

 

まだ日の高い日中を、軍曹を掌に載せ歩く。その軍曹に影が落ちる。エンブレムと同時に付けられたブレードアンテナだ。2種類あり、小型のMC114H型でなく、やや大型であるが通信機能の高い方であるF-12BZ型スタビライザータイプを選んだ。やや根元に近い中間辺りに帯状に白くマーキングが施されている。

 

「いいもんかもな…………"専用機"か……」

 

 

 

 

『"象徴"なんだ。その証なんだ』

 

また、新たな一歩が刻まれる………………




このザクは、自分でMGを改造したものをベースにしています。マルチブレードアンテナは、リアルタイプと呼ばれるものです。自分のは後ケン・ビューターシュタット機のカラーが施されてますけど。

ザクマシンガンの改造は、伸縮式ストックでお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、MMP-78(グレネードランチャーがついてるタイプ)を鹵獲、改造しています。まだグレネードはついていない初期生産型とグレネード付きの中期型の間の過渡期にあるものであると考えてください。鉄の悍馬で既に極東戦線にまで行き渡っている(9月10日時点)のを確認したため、キャリフォルニアベースでJ型生産に伴い試験的に先行生産された、という設定です。バレルガード、ジャケットはおやっさん独自改造です。G型とは無関係です。いたって普通な想定内の改良なので、ただ偶然同じような改修が施されただけです。MSはまだまだ発展段階であり、現場で試行錯誤が繰り返されているため、という設定が使いたかっただけですが。

武装は新しく入ったもの以外には、フットミサイル、シュツルムファウストなどはある設定です(セモベンテ隊が装備していたため)。使うかどうかはともかく。
因みにマゼラトップ砲はありません。あれこそ現地改修の元祖みたいなものですが、元はラル隊の専用装備に近いものである上、特に物資不足でもないので。必要がないんです。狙撃砲の代わりのロングバレル出ちゃったし。

宇宙に行くかどうかは分かりません。だいたい地上に居っぱなしが多いけど、どーしよ?まだジャブローにすら到達してねーし連邦MS作ってねーけど。

第十八章 縛られた戦いを

「……!」

お楽しみに!!


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第十八章 縛られた戦いを

今回はよくの分からない話です。

言うなれば成長か?文才の無い素人なのでなんとも。

世はセンターだ受験だと騒がしいですが、私としては皆さんの幸運を祈るのみです。


地球連邦政府は、屍山血河の上に立っている。

 

地球の統一。それがどのような事か、誰もが簡単に分かるはずだ。

 

人種、言葉、思想、宗教……それらを乗り越え、統一するには、武力に頼らざるを得ないという事を。

 

その紛争は、今もなお続いている。

 

世界は、争いをやめない。

 

そこに、人がいる限り。

 

 

 

U.C. 0079 5.19

 

 

「斥候が帰ってこないだと?」

「はい。伍長を隊長に、8km先の集落に行かせたんですが……」

「……………」

「……連絡を絶って何分だ?」

「30分くらいかと…」

「……間違い、ない。……ゲリラだ…」

「……!」

「くそッ、俺が軽率だったか…」

 

メキシコは麻薬関係のカルテル、マフィアなどが絶えない土地だった。それは宇宙世紀でも変わらず、統一時の紛争が激しかった地域の一つだった。

当時地球連邦政府はある程度の交渉を行った後、武力による制圧後の統一を選択し、その抗争は長きに渡った。統一後も紛争は絶えず、度々鎮圧部隊を送っていたはずだが……。それがジオン独立戦争を機にまた復活したらしい。

麻薬の力は偉大だ。その財源があるからこそ、ここまでやって来たのであろう。麻薬のための後ろ盾も多いはずだ。

武装していたとはいえ、軽率だった。

 

「仕方ないか、人質を取られちゃ…」

「はい。今からでも、早めに向かい交渉を呼びかけましょう」

「……少尉、それは…」

「それで引く相手ならな…」

「無理でしょうね…」

 

時間を無駄には出来ない。早めに行かなければどうなるかも分からない。人質にするため殺さないとは思うが……。

 

「おやっさんは1kmまで移動し待機して下さい。同時に"ラコタ"、"ヴィークル"で集落を包囲させて下さい。"例の布陣"で。合図で同時に突撃出来るように。俺は軍曹と"ロクイチ"で出ます」

「分かった。"ザクII"は使わないのか?」

「あいつじゃ味方を巻き込みかねません。それに、ゲリラのRPG攻撃にも強い訳ではありませんし。……しかし、用意はして置いて下さい」

「分かった。健闘を祈る」

「はい!よし、行くぞ軍曹、装備を整えヒトヨンマルマルまでにここに集合だ」

「……了解…」

 

トラック内のガンロッカールームで装備を整える。交渉決裂時のドンパチに備えボディアーマー、防弾ベストを重ねて纏い鉄帽をかぶる。CALT M72A1アサルトカービンを手に取り、マガジンも多めに持つ。グレネードもスタン、スモーク、破砕を各種二つずつという重装備だ。ついでに伍長のショットガンも手に取り、一緒に持っていく。

 

「よし、揃ったな。行くぞ」

「……了解…」

 

"ロクイチ"砲手席に座る。軍曹がドライバーだ。直ぐにエンジンが始動し、全長9mの陸の王者が武者震いをし、滑らかに動き出す。

 

上から顔を出し索敵する。既にM-60重機関銃のセーフティは解除済みだ。周りは森だ。何があるか、何が潜んでいるか分からない。気は抜けない。

 

その集落は森の奥まったところに静かに立たんずんでいた。その前まで進み、拡声器を持って呼びかける。

 

「こちらは地球連邦軍だ!先程ここ周辺で友軍が消息を絶った。この村の代表者と話がしたい!」

 

返事は無い。静まりかえっている。しかし、"ロクイチ"のセンサーは多数の人が潜んでいるのを感知している。歩兵が戦車を倒すのは簡単な事ではない。相手も出方を伺っているようだ。

 

「諸君らが武器を持って隠れているのは分かっている!諸君らがここら辺一帯を支配するグループだと言う事もだ!我々は無駄な戦闘を望まない!ただ友軍の消息、安否を確認したいだけだ!」

 

一人の男が目の前に走り出た。そして呼びかける。幸い癖があるも英語だった。軽装であるが、その手にはライフルが握られている。

 

「ボスが話をしたいそうだ!!今すぐ戦車を降りろ!」

「分かった。応じよう。しかし、戦車には近づくな」

 

軍曹と"ロクイチ"を降りる。本来なら危険すぎるが、今は周りを包囲している。それに相手も交渉相手を無下に殺すワケにもいかないはずだ。

"ロクイチ"に奴らが手を出さないワケがない。しかし降りたのは、交渉の場に着くためと、実は"ロクイチ"カーゴスペースに完全装備の伏兵が6人無理やり乗り込んでいるからだ。定員は4名なのでそうとうな無茶をしている。きっと中は中国雑技団もビックリな事になっているだろう。

 

「武器を置け」

「それは出来ない」

「置くんだ」

「なら君からだ」

「置けと言っている!」

「そう怒鳴るなよ、兵が見てる」

 

歩きながら中を観察する。壁は重機関銃で十分抜けそうだ。軽口を叩いているもの内心ガクガクだ。ゆっくり、ゆっくりと刺激を与えないよう歩く。軍曹の見た目は何も変わらない。ヘルメットにタバコを挟むぐらい余裕を出している。銘柄は"ラッキーストライク"だ。軍曹前あんま好きじゃないっつってたよねソレ。

 

「分かった、置こう。しかし、それは代表の前でだ」

「ならここだ。早く置け」

「はいはい」

 

そう言われて目の前の建物を見上げる。ふむ、なるほど、目の前の建物は確かに一番立派だった。まぁ、どうせボスの影武者だろうが。こちらとて人質さえ取り戻せればいいのだ。どうでもいい。

 

ゆっくりアサルトカービンを置く。軍曹もそれに習う。サイドアームは置かなくていいよね?何も言わんし。

 

トラップに注意しゆっくり入る。幸いトラップは無かった。中は広く、虎皮の敷物がしてある。あんま趣味は良くなさげだ。アサルトライフルで武装したマフィアが並ぶ奥、おっさんが座っていた。若い付き人つきだ。

周囲の武装マフィア達は威圧感を与えるため囲んでいるのだろうが、素人の構えだった。少数を多数で囲んだら同士討ちするに決まってんだろ。

 

「貴方がここの代表ですか?」

「いかにも」

 

おっさんが応える。なんやねんこのココット村の村長みてーな感じ。

 

「ここまで通していただき恐縮です。貴方がたは我々地球連邦軍兵士を拉致していると私たちは睨んでいます。そのためにここに来ました」

「…証拠は?」

「明確な物はありません。しかし、それ以外にありえません。我々はただその兵士達の無事を確認、回収したいだけです。貴方がたに危害は加えません」

「……若い割りにしっかりしているな。……ふむ、確かにそのような者達を我々は確保している」

「……では、交渉と移りましょう。我々の物資を提供します。それと人質を交換しましょう」

「……物資とは?」

「清潔な水と食料、それに銃器類、弾丸です」

「……あの戦車はダメか?」

「……アレは高度な整備施設が無ければ使えません。その上での判断です。それより、人質の無事を確認させて下さい」

「……連れて来い」

 

その声と同時に奥で人が動き、誰かを引きずって来る。

 

「……もっと居たはずです」

「…………」

 

引きずられてきたのは伍長ただ一人だった。目隠しに手錠と猿轡をはめらられている以外には何も問題はなさそうだ。暴力、拷問の跡は確認出来ない。早めに動いて良かった。元気よく動いてるし。俺の声を聞き分けたのかまた激しく動いている。きっとマフィアの皆さんもうるさいと思ったんやろな。

おっさんは質問に応えず続ける。話聞けやこの。

 

「……先ずは1人だけ、だ」

「全員の安全を確認したいです。そうでなければ意味がありません」

「…………」

 

何か言えよ。微かに軍曹と目配せする。軍曹はベルトを掴んだ。それは、"もう手遅れ"の合図だった。

 

「…………交渉決裂…」

 

軍曹が俺にしか聞こえないぐらいで呟く。分かっていた。希望はあるといえ、こうなる事は。まだ、伍長が無事だっただけ僥倖だったのだ。

 

「"ゴキブリゾロゾロ"!」

 

叫ぶと同時に腰のマテバを回し、腰だめのまま撃つ。引き金を引き続け、左手でハンマーを弾き連射する。ファ二ングショットと呼ばれる、リボルバーの早撃ちだ。大まかにしか狙いはつけられないが、この距離では十分だ。軍曹は背に手を回し偽装したショットガンを抜きフルオート射撃する。この間およそ0.4秒。

 

伍長を掴んでいた男も撃たれ、倒れる。よろけて伍長も体勢を崩す。スタングレネードのピンを抜きダッシュ。軍曹はスモークだ。周りでは最初の衝撃から立ち直り、銃を構え始めていた。

 

少尉、軍曹、伍長が倒れ込む。倒れ込む伍長を少尉が守るように覆い被さった。スタングレネードが炸裂し、約100万カンデラ以上という莫大な閃光と、180デシベルの爆音を撒き散らす。頭が真っ白になり、耳がガンガンする。何も考えられない。

 

その瞬間、それ以上の轟音を立て、彼らの上に死の暴風(デス・ハードル)が吹き荒れた。

 

接近した部隊が、分隊支援火器や重機関銃を一定の高さで一斉射撃し、薙ぎ払ったのだ。

撃ち出された数千発にもなろう5.56mm、7.62mm、12.7mm、13.2mm、20mm弾が集落を建物ごとグズグズの木片に変える。これくらいの大口径弾になるとコンクリートブロックさえ粉砕するのだ。その威力の前では木の家など紙くず同然だ。その破壊の奔流に、木が、ましてや人が耐えられるはずもない。

壁が吹き飛び、木屑に変わって行く。人が欠片も残さず血霧となり消し飛んで行く。鉄の暴風は全てを破壊し尽くして行く。

 

 

 

 

 

音が止む。爆音と閃光で目がチカチカし頭がガンガンするが、行動を再開する。軍曹は既に立ち上がり、生き残りにトドメを刺してまわっている。知っていたとはいえ目の前で炸裂したスタンをもしっかり躱したらしい。

 

伍長は目の前の状況に対応出来ず放心している。手錠を撃って破壊し、目隠し、猿轡を取る。そしてそのまま頬をペチペチ叩きながら助け起こす。

 

「伍長、無事か?」

「…え、あ……少尉?………わたしは死んだの?」

「生きてるぞー帰ってこーい」

 

死んでたら何のために身体張ったんだよ。俺はスタンで自爆したんだぞ?

 

「……少尉、少尉!!しょういぃぃぃ〜〜〜!!」

「………ごめんな。本当に……許しては、くれないだろうが…」

 

泣くな、無事だろ。安心したよ。俺は。お前が死んだら、俺はどうすりゃいいんだ。

 

肩を震わせ泣きじゃくる伍長を抱き締める。細い、本当に細く小さな肩だった。そのまま肩越しにマテバで倒れながらも銃を向けて来たマフィアを撃ち倒す。しぶとい奴めが。感動の瞬間を邪魔すんじゃねえよ無粋な。

 

「……クリア…」

 

周囲を掃討し、敵を排除した軍曹がカバーに入り、そのまま周囲の警戒を続ける。そこに続々と仲間が集結してくる。

 

それでも俺は震える伍長を離さなかった。離せなかった。

 

 

 

 

コンボイが集落()に到着し、使える物を回収して行く。こんだけやりやがったんだ。それぐらいよこせ。死体くらいは埋めてやる。戦死体処理班(AGRS)は今日も大盛況だ。クソッタレめ。

 

戦死者確認(ボディカウント)を怠るな!!俺たちにオン・ステーションは無い!衛生兵の到着は!!」

「まだです!」

 

また、戦死者が増えた。その全員の名前と顔を覚えている。みんな、俺を信じ、死んでいった。俺が殺した。

 

ゆっくりため息をつく。様々な処理(・・)が終わり、今整備兵達はあちこちで焚き火を囲っている。

少尉は泣き疲れ、寝てしまった伍長と一緒だ。寝ていても伍長が抱きつき離さないからだった。衛生兵曰く身体に異常は一切なく、あっても手錠の擦れた跡くらいらしい。あるとしたら精神の方であると言っていた。

 

「……少尉…」

「……軍曹か。どうした?」

「……食事を。コーヒーもある…」

「ありがとう」

 

並んでそのまま食事を始める。伍長は寝たままだ。時折身体を震わせ、腕に力を込める。顔はしかめられていた。

 

恐ろしかっただろう。絶望しただろう。志願兵であっても戦争神経症(シェルショック)には罹る。心の傷は見えなくとも、深いものなのだ。

伍長も志願兵だ。しかし、それでもまだ17歳の女の子には変わりなかった。

 

「……いい。今は。生き延びたんだ。今日は、ゆっくりおやすみ……」

 

ゆっくり頭を撫でる。さらさらの茶髪を指で梳く。寝息がだんだん落ち着いてきた。それでも手は止めない。風が吹き、その短い髪を揺らして行く。

 

「………軍曹」

「……なんだ…」

「…軍曹は、いなくならないでくれ……お願いだ」

「…………」

「…俺は弱い。何も守れない。……でも、俺は……

俺は……俺と、軍曹と、伍長の三人で、いつまでも笑って居たいんだ。無茶な願いだ。分かってる。………でも、本心なんだ……」

「………そう、か………」

 

ポンと肩に手が置かれる。見ると、軍曹がこちらを覗き込んでいた。静かな、しかし硬い意思のある瞳に吸い込まれそうだった。傭兵として世界を周り、あらゆる物を見つめてきた、大人の男の目だった。

 

「……少尉。俺は、少尉に……大きな、返しきれない借りがある。………少尉が望むなら…」

「…………」

「……俺は、俺の役目を果たす。……それだけだ…」

「……軍曹…」

「……ついて行く。どこまでも。……この身は、そのためにある……」

 

風が静かに流れる。上を向く。そうしないと、涙がこぼれそうだった。遥か彼方の宇宙(そら)に、星が、静かにまたたいていた。

 

軍曹の言う、"借り"が何かは分からない。でも、嬉しかった。心強かった。

 

今は、ただ、この宇宙を見上げていたかった。

 

 

 

 

『出会いがあるなら、別れは必然。しかし、それは、今じゃない。……そうだろ?』

 

 

煙が、ゆらゆらと空へ向かっていく……………




後2、3回で中南米編終了だと思います。

ジオンの侵攻速度は鈍り、膠着状態が10月までは続きます。

つまらないかもしれませんが、何とかみなさんに楽しめるよう精進するのみです。

シェルショックはどちらかというと降り注ぐ砲弾などでなるものですが、ここでは戦闘関係のストレス症というイメージです。専門家でもなんでもないので間違ってたら修正します。

次回 第十九章 サンホセ近郊対空迎撃戦

「だったら、そこから飛び降りればスッキリするんじゃないか?」

お楽しみに!!

意見、感想お待ちしております。


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第十九章 サンホセ近郊対空迎撃戦

私は海外旅行はほとんど行ったことがありません。

なので書いている土地の特色などのソースはほとんどがインターネットなどです。

間違っていたらすみません。

移動速度がアホみたいに早いのは、そこらへんもあります。


爆撃機、という飛行機がある。

 

大型で鈍重であるが、その有り余るペイロードを活かし爆撃を行う事に特化した飛行機である。

 

地球連邦軍にも、"デプ・ロッグ"重爆撃機というものがある。

 

全幅31.5mという超大型だ。

 

だが、"ヤツ"は違った。

 

それは、空を飛ぶ空母だった。

 

 

 

U.C. 0079 5.25

 

 

 

風が心地よい。青い空が目に染みる。今日も晴天、気温がヤバい。順調だ。いたって順調だ。

 

現在我々は"パナマ・ベース"を目指し中南米を南進中だ。

 

ゲリラの集落を潰してからは、戦闘など一度もない。とっくにジオンの勢力圏内を抜け出し、中南米の航空優勢権はこちらにある。戦闘が起こる方が異常なのだ。

 

「あ、少尉。ここにいらしたんですか。どうしたんです?」

「……いや、ただ、少し風に当たりたいと思ってな…」

 

コンボイ上部ハッチからひょっこり顔を出したのは伍長だった。ゲリラに捕虜にされた後、やや精神にダメージを負ったが、最近はうなされる事も無く順調に回復へ向かっている。いい傾向だった。

 

「危ないですよ?!落っこちたらどうするんですか!このトラックはかなりの速度で走ってるんですよ!?」

「いつもの事だしなぁ…」

「それでも危ないです!!」

「…伍長も前ここで騒いでたじゃん…」

「…あ、あれは……」

「…あれは?」

「……わ、若気の至りです!!」

「………」

 

意味が分からん。そして俺にどうして欲しいんだ?認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものを……。

 

「……さよか」

「うう、なんかもやもやします」

「だったら、そこから飛び降りればスッキリするんじゃないか?」

 

飛ぶように過ぎて行く景色を指さす。いやー、いい眺めだわ。なんかカラフルな鳥飛んでるし。食えるかな?アレ?

 

「はい!分かりま……せんよ!!死んじゃいますよ!」

「大丈夫だろ、木綿の様に丈夫な伍長なら行けるさ。前も"ザクII"にぶん投げられたけど平気だったじゃん?」

「行けませんよ!あの時も全然平気じゃなかったじゃないですか!?後何ですかその秀吉みたいな評価!?」

 

何で分かんだよ。

 

ま、いつも通りの伍長に戻ってよかっt………?

 

今、何か光ったか?

 

「……少尉?」

「ちょっと待て。おやっさん、聞こえます?」

《どした?伍長が落ちたか?》

「いえ、それよりもレーダーに異常はありませんか?」

《……ややノイズが出始めてる。どうしてだ?》

「……いま5時方向、上方50°、何かが光りました。……ジオンの航空機かもしれません」

《……続けろ》

「ミノフスキー濃度が高まっているのは、核融合炉を積んでいる証です。それに、この距離から捕捉出来ました。………かなり大型の可能性があります」

《……どうする?》

「……確認出来るまで、ジャングルに隠れましょう。コンボイを停止させ、エンジンカットを」

《了解した》

 

通信を切る。微かに音まで聞こえ始めている。コンボイはスピードを緩め、ジャングルの下へ。エンジンがぶるりと震え、完全にストップする。

 

「………少尉……」

「……なんだ伍長?」

「……2人きりなのにお電話ですか?」

「…無線だけどな。必要があったからな。どうしてだ?」

「……もういいです」

 

プイとそっぽを向く伍長。これ何とかならんかね、ホントに。優先順位を考えてくれ。つーか何がもういいんだよ?

 

「……少尉……」

「軍曹か、どうした?」

「……整備班長から、聞いた……これ、双眼鏡…」

「ありがとう。伍長、おやっさんを呼んできてくれ。全員で何か確認したい………」

「……はーい…」

「……頼んだ……」

「俺からも。頼んだぞ?」

「! はい!行ってきます!」

 

扱いやす!流石軍曹。扱い方が分かってる。

 

ドタバタと降りて走って行く伍長を尻目に、双眼鏡を覗く。だんだんシルエットがしっかりしてきた。ありゃ連邦の飛行機じゃない。それに………デカい!!

 

「……軍曹、ありゃなんだ?爆撃機にしちゃデカすぎないか?」

「……分からない。だが……何故、飛べている……?」

「おやっさん呼んできたよ!!」

「どれ、その飛行機ってヤツを………なんだ、ありゃ?」

「私にも見せて下さい!」

「ほい」

「どれどれ……わぁ!大っきくてカッコいいですね!」

「……そうか?」

「……ミノフスキー粒子濃度上昇中。ヤツからだな」

「……ジオンマーク、視認。………敵の、超弩級爆撃機……?」

 

"紫の爆撃機"は、かなりの高度を悠々と飛んで行く。しかし、こちらへ近づくにつれ少しづつ高度を落としてきているようだ。

 

「「……………」」

 

デカい。デカすぎる。"紫の爆撃機"は、全幅50mはありそうだった。胴体は大きく膨らみ、飛べる事がおかしい設計だ。やはり、ジオン製のようだ。

 

空が陰り、影ができる。巨体が太陽を遮り、地上にその大きな影を落とす。それを、少尉はただ無言のまま見送るしかなかった。

 

「「……………」」

 

計16発のエンジンの噴射炎を煌めかせ、"紫の爆撃機"が飛んで行く。その姿は、今だに劣勢に置かれ、ズタズタになっている連邦軍をあざ笑っているかのようだった。

 

 

 

U.C. 0079 5.28

 

 

 

「こちらアルファ1。レーダーにより目標発見(ターゲット・マージ)敵機視認(エネミー・タリホー)。これより、状況を開始する」

《……了解。幸運を(グッドラック)……》

 

コクピットのモニターには対空に調整された合成開口レーダーが"ギガント"の機影を捉え、その画像が表示された。

合成開口レーダーとはレーダー波の反射波から物体の形状をコンピューターのデータ処理により画像として再現するものである。そのため解像度には限界があり、かつレーダー波を使用する為ミノフスキー粒子の影響を大きく受けてしまうが、"ギガント"の独特な形状は間違えようが無かった。

 

"ザクII"のコクピットで深呼吸する。現在、少尉の乗る"ザクII"は片膝を着き、トラック群から約3km地点で待機している。武装は、MMP-78"ザクマシンガン"ロングバレル改造型、"ザクバズーカ"、"シュツルムファウスト"、"フットミサイル"という重装備だ。正直全然動けない。

モノアイが動き、目標、"ギガント"を捉える。

 

この数日の確認により、ジオン軍の超弩級爆撃機、通称"ギガント"は北米から南米"ジャブロー"方面へ向かって飛ぶという事が分かっている。"ジャブロー"を爆撃しているようだ。

 

地球連邦軍本部が叩かれているのだ。看過するワケにはいかない。そして、急遽、"ザクII"による"ギガント"撃墜作戦が練られ、実行に移されたのだ。

 

「こちらアルファ1、エンゲージ。"ギガント"視認、数は3。これより、"ザクバズーカ"による狙撃を行う」

 

少尉は"ザクII"を操縦、膝立ちのまま上空へ向け"ザクバズーカ"を向ける。"ザクマシンガン"では距離が遠い上、敵の装甲は未知数だ。弾数が残り心許ないが、"ザクバズーカ"を使う事になった。

 

「…………」

 

精密射撃用ヘッドスコープを引き出し、上空の"ギガント"に狙いをつける。目標をロックオン、それをFCSが調整、照準がグリーンからレッドへ変わる。

 

ピピッという軽いビープ音と共に、視界の端に"VALID AIM"(確実な照準)と表示された。

 

「……()ちろ!!」

 

操縦桿のセーフティを解除、トリガーを引く。大きな衝撃と共にロケット弾が発射され、目標に向かって飛ぶ。

 

轟音。

 

土手っ腹に280mmの弾頭を喰らった"ギガント"がよろめき、そのまま火に包まれて行く。高度が目に見えて落ちて行き、その大きな翼が折れ、爆散する。

 

「っしっ!!」

 

1隻撃墜。もう1隻へ、と思った瞬間、信じられない事がおきた。

 

「……せ、戦闘機だと?!」

 

何と"ギガント"の翼から、次々と戦闘機が射出されて行く。その数およそ16。おいおい、冗談だろ?飛んでること自体が冗談みてーな上に、空中空母だぁ!?なんつーもんを作りやがったんだ!?

 

つーか翼の中が格納庫って………カリーニン7かよテスト飛行中に墜落でもすりゃ良かったんや。

 

それらが射点を割り出し、少尉の"ザクII"へ殺到する。かなりのスピードだ。

 

「くっ!こいつを喰らえ!!」

 

"フットミサイル"を近接信管でセット、斉射する。膝をスイッチ、もう一度斉射。戦闘機は散開しそれを避けようとするも、4機の戦闘機が火に包まれ、きりもみしながら落ちて行く。

 

"フットミサイル"をパージ、"ザクバズーカ"を置き、"ザクマシンガン"を構え、フルオート射撃。1機を捉えるも、それだけだ。

 

「! クソ!あんな形してる癖にヤるな!」

 

攻撃を掻い潜った戦闘機が、接近し機銃を掃射する。ジャングルに身を隠し回避し、反撃しつつ舌を巻く。なんだぁりゃ?なんかアヒルのオマルみてーな形しやがって。

しかし"ザクII"はそいつの速度をマッハ4以上と捉えていた。ジオン脅威のメカニズムだ。

 

「! クッソ!!上を取られては……」

 

ミサイルが飛来し、それをステップで避ける。既にミノフスキー粒子濃度は戦闘濃度だ。もはやミサイルはロケット弾と変わらない。

 

"ザクマシンガン"の弾倉を交換、対空三式散弾(TYPE-3)へと変更する。こいつならイケるはずだ。テストこそ行っているが、これが初陣となる。おやっさん、信じてるぜ?

 

()ちろ!!カトンボ!!」

 

散弾が入った弾頭が発射され、ある程度飛んだ後空中で小型爆弾が散らばり一つ一つが小爆発を起こす。それに戦闘機が次々と巻き込まれ、はたき落とされて行く。

 

マガジンを交換、再び射撃。戦闘機を落とす。

 

《少尉!敵が逃げるよ!!》

 

伍長の通信で"ギガント"を見る。"ギガント"は上空で大きく旋回し、元来た方へ戻りつつあった。1隻は既に180°回頭し、戦域を離脱しつつある。それに戦闘機がついて行く。

 

「……後ろのヤツを狙う!」

《しかし、バズーカを取りに行く暇は……》

「こいつがある!」

 

腕を腰の後ろに回し、"シュツルムファウスト"を取り出す。

両手で、"シュツルムファウスト"を構え、回頭した"ギガント"の正面へ立つ。

 

《大将!そいつの射程は長くは無いぞ!!》

 

そう、"シュツルムファウスト"は"ザクバズーカ"より口径が大きく、小型であり取り回しが良く、その単純な構造上コストも安い使い捨てロケットランチャーなのだが、その分命中率、射程距離では劣る。"ザクバズーカ"のようには行かないだろう。しかし、これ以外に"ギガント"に有効打を与えられそうな武器は無い。

 

「……なら、こうだ!!」

 

フットペダルを踏み込み、スラスターをフルスロットルで吹かす。急激な加速によりGがかかり、視野が暗くなり狭くなる。G-LOCによるブラックアウトだ。同時に込み上げる強烈な吐き気を堪えつつメインスクリーンを睨みつける。

 

少尉の"ザクII"が持ち上がり、空中へその身を躍らせる。脚を振り姿勢制御を行い、"シュツルムファウスト"を腰だめで構える。

スラスタージャンプで近づくと同時に、機体その物を加速させロケットの1段目として用いる事で射程、威力を底上げする。それは上手くいったようだ。

 

「ジ・エンドだ!!」

 

放たれた"シュツルムファウスト"は"ギガント"正面に位置するブリッジに突き刺さり大爆発を起こす。ランチャーチューブを投げ捨て、綺麗なアーチのような放物線を描いた少尉の"ザクII"が自由落下に移り、着地のためスラスターを吹かし減速、危なげなく着地する。

 

その上を火を吹く"ギガント"が通り過ぎ、少尉の"ザクII"の背後で空中分解、爆散する。飛び散った破片が装甲を叩く乾いた音がコンバット・ハイになっていた少尉を落ち着かせる。

 

それを見届け、少尉は通信を開く。激しい戦闘機動により身体にかかった負荷は大きく、既にクタクタだった。

 

「こちらアルファ1、目標を2隻撃墜。1隻は逃がした。回収頼む」

《こちらベース。了解した。その場で待機されたし。

良くやったな大将、シップキラーだ》

「………もう、ヤりたくはありませんね……」

 

相手が戦闘機じゃなくてMSだったら、ヤられてたな。

 

つくづく、幸運だな。

 

モノアイがコンボイを捉え、メインスクリーンにピックアップする。手を振る伍長、整備兵達が見える。

 

「……また、今日も生き残れたな……」

 

パナマは、直ぐそこだ………。

 

 

『簡単だ。目標を照準に入れトリガーを引く。それだけだ』

 

 

上がる煙が、天へ登って行く…………………




少尉、戦果がヤバい。

それにしてもガウとかロマンだよな。空中空母だわ。マクロスだわ。いや、アームドか?まぁどーでもいい。

弩級は船の大きさを表す単位?ですが、ガウにも適応させていただいてます。

機体そのものを加速させ、ロケットの一段目にする、というアイディアは、メタルギアソリッド3というゲームにでてくる核搭載戦車、シャゴホットのアイディアを参考にさせてもらいました。

でも、ガウって、コアブースターインターセプトタイプにガトリングで落とされてたよね。

ザクマシンガンで良かったんじゃ…………?

散弾は遠吠えは落日に染まった、で信管距離?まで設定していました。ミノフスキー粒子下ではVT信管?とかいう近接信管すら使えない様です。でもユニコーンでは作動してました。ソンネンは真下の敵を撃つためいちいち設定したのかもしれません。信管には安全距離がありますし……そこらへんは分かりません。すみません。

次回 第二十章 パナマの海

「なんか、不思議な感じがします」

お楽しみに!!


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第二十章 パナマの海

ついに中南米編大詰めです。

最近何故か妙にあったかいんでいいですね。ウィンタースポーツは好きですけれど寒いのは嫌いです。

読み返して見たら前書き後書きがアホみたいに長い長い。何書いてんのかまったく。

このままジャブローへひとっ飛び、なのかどうなのか?

どうぞお楽しみ下さい。


古来より、大規模運送の主体は船であった。

 

そして、その船での運送を支えたのは、二本の運河だった。

 

スエズとパナマ、この海と海を繋ぐ大規模運河だ。

 

特にパナマは、海面差もあり世紀の大工事となった。

 

その古くからの交通の要衝で、少尉は何を見るか。

 

 

 

U.C. 0079 6.1

 

 

 

その輝きは、絶対に忘れる事は出来ないだろう。まさに、希望の輝きだった。眼下には、明るい陽に照らされ、輝きを放つ大規模運河と軍事施設が見下ろせた。

 

「キターーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

「やったね!!少尉!!見えたよ!!」

「……長かった。本当に……」

「やったな大将!!信じてたぜ!このこの!」

「うおお!パナマだ!ついにだ!!」

「この長い旅ともお別れだ!!」

 

喜び、叫び、抱きついてきた伍長をおんぶしつつ周りをみる。おやっさん、整備兵も大喜びだ。軍曹も薄く笑っている。よほど嬉しいらしい。

 

それもそうだ。"キャリフォルニア・ベース"脱出から約3ヶ月弱、ここまで来れば海路を用い最終目的地、地球連邦軍総司令部"ジャブロー"まですぐだ。喜ばないはずがない。

 

「よし、皆、よくここまでやって来てくれた」

 

全員が静まり返る。皆の目がこちらへ向く。

 

「犠牲は少なくは無かった。しかし、こうして我ら、"サムライ旅団"はこの地、"パナマ・ベース"へ到達出来た。ここまで来れたのは、私の力でも、手柄でも決して無い。諸君らの奮闘があったからだ。

 

改めて、礼を言わせて貰いたい。

 

ありがとう」

 

敬礼をする。全員が敬礼で返す。きらめく太陽をも、祝福してくれているようだった。

 

 

 

「これはこれは。どうもいらっしゃいました。どうぞ、おくつろぎ下さい」

「失礼します」

 

ここ、"パナマ・ベース"の基地司令である中佐と会う。恰幅のよいおじさんだ。

 

「……船を貸して欲しい、ですか……」

「はい。無理な願い出というのは重々承知の上です。しかし、我々は"ジャブロー"へ向かわねばならないのです」

「……ふむ……」

「………なら、こういうのはどうだ?」

 

隣にいたおやっさんが立ち上がり、中佐に何か耳打ちをする。言葉を聞くにつれ中佐の顔が大きく歪んだのちみるみる青く、今度は赤くなり、沈黙する。

 

「……」

「……………」

「………………………」

「……………………………………」

「………分かりました。旗艦として"ヒマラヤ"級航空母艦"アンデス"。"モンブラン"級ミサイル巡洋艦"ラッパーホルン"。"アルバータ"級ミサイル巡洋艦"オンタリオ"、"アキズキ"。"キーロフ"級護衛駆逐艦"ガスコーニュ"、"ガダルカナル"、"アカギ"。それに"ジュノー"級通常動力攻撃型潜水艦"リーヴェニ"、"ヴァジュラ"を貴官らに貸そう。それが我らに出来る最大の協力だ」

「あ、ありがとうございます……」

 

な、何を言ったんだおやっさん……ほほ空母打撃群じゃねーか。凄まじい戦力だよ。国一つ潰せるよ。

 

「………話は以上か……?」

 

苦虫を噛み潰したような顔で見ないでくれ。ごめんなさい。本当に。

 

「………はい。ありがとうございました」

「………出港は……」

「明日には頼むぜ?」

「」

「」

「また来るぜ」

「」

「………………」

「……失礼しました……」

 

と、とんでもない条件を押し付けた………ごめんなさい。ごめんなさい。許してー!!

 

2人で並んで廊下を歩く。少尉は申し訳なさでガクガクブルブルだ。おやっさんはアレでも文句があるのかブツブツ言っている。そんな奇特な2人を生暖かい目で見送る基地勤務員達。

 

「…けっ!しけてんな、旧型艦ばっかに、補給艦もつけないなんてよ……」

「よ、欲張りすぎですよ!!十分過ぎますって!名目上はジャブローでの改修なんですから!!」

「でもなぁ……うん、も少しぶんどっか…」

「もうやめたげてよぅ!!」

「……分かった、分かったからその目をヤメろ!」

「すみません……」

「少尉ー!お話はどうでしたー?」

「……………順調だ。明日には"ジャブロー"へ向かえる。今日はここで解散だ」

「じゃ、少尉!お買い物しましょうお買い物!!」

 

そうだな………今日一日はみんなに遊んで欲しい。今までの苦労を労う意味でも、休息は必要だ。

 

「総員へ告ぐ、今日が最後の休暇となる。総員、各々の判断で動いてよし。ただし、交代制で、明日のこともある。ヒトハチマルマルまでには集まる事。異論は?

無いな。よし、解散(ブレイク)!」

 

整備兵達がてんでばらばらの方向へ散って行く。それを見届けつつ軍曹へ話しかける。

 

「軍曹もどうだ?」

「……俺は…………"ロクイチ"にいる……」

「……楽しまなくていいのか?ラストチャンスだぞ?」

「……あぁ……そんな気分なんだ…」

「……分かったよ。ゆっくり休んでくれ」

「……少尉も。良い休暇を…」

 

軍曹と別れ、伍長に着替えるように言って別れる。溜まってた給料、たまには使わなきゃな。"日本製品"(ポセイドン)があればいいんだがなぁ……。

 

「少尉ー!お待たせしました!」

「いや、今来たところだ。じゃあ、行こうか」

「はい!」

 

伍長はいつぞやのワンピースだ。聞いたところ、唯一持って来れた一番のお気に入りだとの事。良かったね持って来れて。俺なんか何もないよ?この服軍曹とおやっさんから貸してもらったもんだし。

 

「ふふっ。楽しみです。2人きりでお買い物〜」

「まぁ、いいかもな」

「デートみたいですね!!」

「それはこんど軍曹と2人きりで出かけた時に言ってやれ」

「……む〜、違いますよ……」

 

何がだよ。その背に回したショットガンと、腰につけたデザートイーグルに言いてぇよ。気に入っているのはいいけど、気に入ったものふたつ組み合わせてとんでもないことなってっぞ?

 

「少尉は浮いた話、聞きませんよね?興味ないんですか?」

 

街を歩きながら聞いてくる。そんな事よりその銃に興味があるわ。前ショットガンは使いこなす様になったけどデザートイーグル撃てなかったじゃん。3クリップ撃って命中弾がカス当たり2発だったのに何故持ってきた?

 

「人並みにはあるが、俺みたいな変人誰も相手にしないだろ。その点伍長はいいじゃないか。可愛いし、軍曹居るし」

「えへへ〜。いや、軍曹は違いますよ!それに、少尉も人気ですよ?知らないんですか?」

「そこまで自分の評価なんて興味ないしな。知らんし。でも伍長達は"夫婦"って呼ばれてんのに?」

 

ウィンドウショッピングしつつ言う。あっ、スーパー行きたい。お菓子とカロリーメイトが欲しい。それが無いと死ぬ。あぁ、日本のグミ、飴、キャラメルが食いたい。特に飴。パインアメ食べたい。ストックが尽きそうなんだよ。

 

「……それは……言われてますけど、違うんですよ!」

「……ふうん……ま、いいんじゃない?俺にはどのみち縁の無い話だし……」

 

スーパー・ナイスグロズリーへ伍長と入る。最近勢いを伸ばしているスーパーであるが、品揃えはあんまりな事で有名である。

飴は無かったが、カロリーメイトは見つけた。フルーツとチョコレートを買い溜めする。箱で。簡単な諸手続きを済ませ基地へ送ってもらう。エムアイ輸送会社はやはり便利だ。

 

「……そんなに食べるんですか?」

「これからの補給の機会を考えての事だよ。俺の用は済んだ。伍長はどうしたい?」

「うーん?特には……」

 

無いのかよ。何で誘ったんだよ。

 

「服とか化粧品とかはいいのか?」

「あんまり……あ、銃が見たいです!」

 

それでいいのか17歳女子。俺は不安だぞ?

 

 

「?」

「どうした?」

 

一応引っ張ってきた服屋で伍長が顔を上げる。不思議そうな顔だ。

 

「なんか、不思議な感じがします」

「……不思議?」

「…なんか、こう……説明出来ませんけど……?」

「んんん?」

「……基地に、戻りたい?ような……?気が……?」

 

なんだそりゃ?

 

「別にいいが……服とか、いいのか?」

「私はこれがありますし、身体は一つですからあんまり……少尉は?」

「同じだ。なら、戻るか…」

 

プラモデルもいいのなかったし。カロリーメイト買えたし。

 

「はい!あっ、手繋ぎましょ手!」

「いいけど?じゃ、行くか……」

 

基地に向かいながら考えてみる。恋人ねぇ………。そもそも軍属だから機会も少ないし、設けようとも思ってなかったな。そのうち自然に結婚してるもんかと……。まぁ、今は戦時中。尚更どうでもいいな。

 

基地で別れる。伍長には2人で選んだ軍曹へのお土産コーヒー豆を持してある。これでまた旨いやつが飲めそうだ。

 

「おやっさんは?」

「居ませんよ。街にお酒買いに行きました。何か用ですか?」

「いや、確認しただけだ。それとお前は行かなくていいのか?」

「もう行ってきました。それより"ザクII"(こいつ)といたいですし…」

「今からシュミレーター起動したいんだけど、いいか?」

「もちろんです。データ取りは任してください!」

「ありがとう」

 

整備兵と話し"ザクII"に乗り込む。おやっさんの下にいるにしては真面目な整備兵で、よく"ザクII"について相談する奴だ。本人は本人でいつも"ザクII"に張り付いている。メカオタクらしい。話が合うっていいよね。

 

シートに座り、ヴェトロニクスを立ち上げる。もう手慣れたものだ。

 

 

その時だった。

 

ドガン!!という爆発音がし、慌てて整備兵に呼びかける。

 

「今のは!?」

「わ、分かりません!ですけど、軍港エリアの方です!」

 

軍港?何が………。

 

また爆発だ。大きい。ただの事故じゃない。

 

「よく分からんが、"ザクII"(コイツ)を出す!離れろ!!」

「りょ、了解!!」

 

"ザクII"を立ち上がらせ、軍港方面にモノアイを向けズームする。爆発が立て続けに起こり、遅れてアラートがなり始める。

 

《敵襲!!》

 

敵!?海からか!?敵戦力が分からん。取り敢えず近くの"ザクマシンガン"バヨネット装着型に予備マガジン、"ヒートホーク"、"ムラマサ"を取る。格闘兵装二つって何!?

 

"ムラマサ"は前製作された刀型高周波振動剣の事だ。命名おやっさん。前モーションマネージャー取ったばっかだったからか。まぁ、使えるだろう。潜水艦はこうも接近は出来ない。多分"ザクII"を"LCAC"(エル・キャック)とかに載せて来たに違いない。"LCAC"とはエア・クッション型揚陸艇の事で、上陸するためのホバークラフトのようなものだ。"ザクII"の水中機動力の低さは身に沁みて分かっている。

 

発砲音。"ロクイチ"の155mmのものだ。もしかして軍曹か?

 

「軍曹!聞こえるか!?」

《……こちらブラボー1、伍長と乗っている……》

 

やっぱりか、前もあったな。"嫌な予感"か………。

 

「敵は!?"ザクII"か!?」

《……違…ザザ…新が…………ザザザザー》

 

ミノフスキー粒子濃度が上がった。もう通信は不可能だ。レーザー通信をしようにも場所が分からん。クソっ!

 

「軍港へ……急げ、急いでくれ……」

 

どのみち"ザクII"相手に"ロクイチ"では危険だ。基地守備隊も動いているとはいえ油断は全く出来ない。

 

「! 何だアイツは!?"ザクII"じゃない!?」

 

目にしたものは"茶色いビヤ樽"に手足をつけたような奴だった。"ビヤ樽"がこちらに気づき振り向く。

やけにトロくさい。なんだコイツ?

敵は今振り向いた"ビヤ樽"に、青く、形の違う"ザク"が2機の合計3機だ。速攻で片付ける!

 

「まずはそこのデブからだ!!」

 

"ザクマシンガン"をフルオート射撃。動きの遅い"ビヤ樽"には避けられないだろう!

 

「な!?」

 

"ビヤ樽"は"ザクマシンガン"を受けつつもそのままこちらへ振り向いた。ややぎこちないが、殆ど効いていない!?

 

ビーッ!!コクピット内に警戒のアラームが鳴り響く。

 

"ビヤ樽"が、光った気がした。

 

直感に身を任せ、思わず回避行動をとる。その瞬間に、元居た場所へ黄色やオレンジがかった激しく明滅する光の束が通り過ぎた。

 

「め、メガ粒子砲だと!?バカな!?」

 

MSサイズでメガ粒子砲を積むだと!?そんな事……。

 

しかし現に"ザクII"のセンサーはそれをメガ粒子砲だと判断していた。それにやや巻き込まれた右腕のダメージリポートは、メガ粒子砲によるダメージとなっている。

しかし……

 

「出力が低い、のか……」

 

確かに命中した。しかし、右肩のシールドと"ザクマシンガン"の銃口(マズル)をやや溶かしたのみの被害で済んでいた。"ザクマシンガン"はともかく、シールドは貫通すらしていない。着弾も散らばる様にだ。つまり戦艦などのものとは違い、低出力かつ収束率もそう高くはなく、発射速度や、ビームそのものの速度もそこそこの様だ。それでも十分脅威ではあるが……。

 

また再チャージも遅いようだ。そいつは今近くの"ロクイチ"を撃たず、砲撃を手で庇っている。それでも155mmですら歯が立たないようだった。

 

「……ヤらなければ……勝機は、十分にある!!」

 

 

 

『戦場は進化の場だ。戦場は常に流動し、あらゆるものを巻き込んで行く』

 

 

まるで、それは門番のように立ち塞がっていた………………




"ビヤ樽"ことゴッグの登場です!

やっとガンダムらしく、ザク以外のMSが出てきました!
こっそり水中用ザク出て来てますけど。

ゴッグの詳しい登場時期は不明かつ、ドムのパーツを一部使っているなんて設定もありますが、漫画、ガンダムレガシーのポートモレスビー奪還作戦において五月末と書いてあったので登場です!!

初の純水陸両用MSで、水中用ザクがあまりにもアレなのであらゆる欠陥を持ったまま見切り発車的に生産が強行されたともあります。俺は好きなんですけど。

さて、少尉は重MSで有名なツィマッド社のこいつ相手にどう戦うのかお楽しみに。

この作品では、ビームは光速ではありません。粒子加速具合にもよる上、発射前に加速、収束中の粒子の漏れ出した光がマズルから見える設定です。そのまだダメージの無い、発射直前の光と、振り向きロックオンされ攻撃されると身構えた結果ギリ避けたと解釈して欲しい……です。そうでないと ざんねん、わたしのぼうけんは ここでおわってしまった!!に………。

船については、ソロモン級以外は設定にある船です。名前はオリジナルとなってしまいました。殆ど沈んでしまっている上使われない為名前も少ないからです。そこが残念かつまた残念なネーミングセンスです。なんやソロモンて。名前募集したいくらいです。てゆーかまだマシなの思いついたら変わってると思います。

次回 第二十一章 パナマ・ベース防衛戦

「……なんて奴だ!!」

お楽しみに!!

追記 なんと、新しいカッコイイ名前を頂きました!!
勉強不足で被ってましたイオージマ。お恥ずかしい限りです。
そして!
ソロモン(笑)級改めキーロフ級に!!ありがとうジーラインさん!!感謝感激感動の嵐です!!

ポセイドンはわかる人には分かる?と思います。因みに大日本技研はガンダムワールドにはないと思います。そもそも本来は大日本技研を指す言葉ですし…ただ使いたかっただけだす。すみません。

感想、評価お待ちしております。出来れば感想を。素人なのでどこがダメかを書いて欲しいです。

ではでは。


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第二十一章 パナマ・ベース防衛戦

中南米編、完結!!

長かった。ものっそい。

何かホワイトベースの航路みたいだな。北米に降りたのに地球一周した後ジャブロー的な。


海とは何であろうか?

 

生命の原点?

 

世界を繋ぐ通路?

 

外敵を阻む壁?

 

それとも、ただの水溜まり?

 

 

 

U.C. 0079 6.1

 

 

「……どうする……」

 

少尉の"ザクII"に残された武器は余りにも少なかった。銃口がメガ粒子砲により歪み、溶解した"ザクマシンガン"はもう撃てない。無理に撃つと最悪暴発するだろう。

 

てゆーか近接格闘武器しかねぇ!!メガ粒子砲持ちに近づけってか!?

 

「アルファ1より"ロクイチ"、及び基地守備隊、"リジーナ"攻撃隊へ。茶色のデブは任せろ。すまない、青い"ザク"は、任せたぞ……」

《……こちらブラボー1。了解》

《ブラボー2りょーかい!!軍曹と一緒にがんばるよ!》

《こちら守備隊。ちと厳しいが、やってやるぜ!!》

"リジーナ"攻撃隊(チャーリー)了解。任せましたよ!!》

 

メガ粒子砲とは、ミノフスキー物理学が人類に与えた最大の恩恵の一つだ。一定濃度に達したミノフスキー粒子が構成する特殊力場(Iフィールド)を圧縮することで、正負粒子が融合する『縮退現象』により生じる"メガ粒子"を加速、射出する粒子ビーム兵器の事だ。

エネルギー変換効率が極めて高く、尚且つ正確な制御が可能なため、旧来のレーザー兵器、核兵器に変わる兵器として時代を一新した。

 

弱点は、その"メガ粒子"形成には戦艦クラスの高出力ジェネレーターが必要な事であった。それに圧縮した"メガ粒子"をビームとして撃ち出す為にはそれ以外にも高精度な収束リング、加速器、ビームチャンバー(薬室)が必要な事もだ。

 

「……粒子……? それに、タイムラグ………… よし!!」

 

少尉の"ザクII"と"ビヤ樽"の直線距離は約60m。コレなら………。

 

"ビヤ樽"へ突撃する。"ロクイチ"に気を取られていた"ビヤ樽"がこちらへ首を、モノアイを巡らせる。走りながら左手で"ヒートホーク"を抜く。もちろんまだ格闘距離ではない。

ゆっくりとこちらへ向き直る"ビヤ樽"。刹那、コクピット内にロックオン警戒音が鳴り響く。まだ、まだだ!

走りつつ"ヒートホーク"を"ビヤ樽"へ投げつける。直撃は確認せず更に距離を詰める。あのトロさだ。この距離なら確実に当たる。

 

「スモーク散布!!」

 

少尉の"ザクII"に搭載された発煙弾発射機(スモークディスチャージャー)が起動、人工の煙を作り出す。中には細かい金属片が混ぜてある、チャフも兼ねた特別製だ。一気に視界、レーダー、各種センサーがホワイトアウトするが、それは敵も同じはずだ。

 

万能と思えるビーム兵器にも弱点はある。"メガ粒子"を用いたビーム砲から撃ち出されるビームは磁場を帯びたビームなので、地磁気や高出力の電気などの影響を受け直進しない事。それに、ビームの威力、射程は()()()()()()()()()()()()()()()()()事だ。

ビーム兵器はそのエネルギー変換効率の高さが仇となり、進む空間、この際は空気中の大量の水分、ガス、チリ、ビーム撹乱物質などでその威力は大きく減衰する。

少尉は知る由もないが、少尉が行ったのは後に連邦軍を勝利へと導いた"ビーム撹乱膜"の真似事だ。

もちろん即席であるため、その効力は本物の"ビーム撹乱膜"に遠く及ばない。しかし"ビヤ樽"のビーム兵器は未完成だ。そこそこ有効だろう。

 

それに、それが本来の目的でない。

 

「うおおぉぉぉ!!」

 

"ザクマシンガン"を腰へマウント、両手をフリーにしスラスターをフルスロットルで吹かす。"ヒートホーク"を捨てやや身軽になり、スラスターの噴射炎でスモークを掻き乱しながら"ザクII"が飛翔する。もちろん下はスモークで真っ白だ。しかし、少尉には輝く目印があった。

 

投げつけた"ヒートホーク"だ。

 

「喰らえぇぇぇええ!!」

 

空中で"ムラマサ"を抜刀、スモーク内でうごめき鈍く輝く"ヒートホーク"目掛け斬りつける。

 

激しい衝撃。振り下ろされた"ムラマサ"は"ビヤ樽"の脳天を唐竹割りに捉えていた。

 

「どうだ!……何!?」

 

スモークの中から渦を伴い繰り出された"ビヤ樽"の"クロー"が左肩のショルダースパイクを吹き飛ばす。カス当たりだからコレで済んだが、直撃を受ければ腕どころでは済まなかっただろう。それ程の威力だった。

 

「手応えはあったぞ!?耐えたのか!?………!」

 

大気が大きく乱され、スモークが晴れる。"ビヤ樽"を斬り裂いたハズの"ムラマサ"は根元から折れ、"ビヤ樽"へ突き刺さっていた。頭頂部から入った一撃は、その重装甲を貫き切れず、胸元でストップしていたのだ。先程の"クロー"による一撃はモノアイが破壊された為の闇雲な一撃だったらしい。

 

「……なんて奴だ!!」

 

重装甲にメガ粒子砲、それにパワー。その性能に舌を巻く。"ザクII"とは比較にならない。

 

「いい加減にぃ!くたばれよぉ!!」

 

闇雲に振り回される"クロー"を掻い潜り、"ビヤ樽"の最も装甲の薄そうな下腹部へバヨネットを突き刺し、接射する。暴発の危険もあったが、気にしていられない。それ程、この"ビヤ樽"は脅威だった。

 

装甲を突き破った銃口から発射された120mm弾が"ビヤ樽"の中をグチャグチャに掻き回す。

その巨体を震わせ、動きを止め崩れ落ちる"ビヤ樽"。

 

凄まじい相手だった。まだ手が震えている。よく生きてたな……。性能は、確実にあちらが上だった。

 

「…次だ。まだ"ザク"が…?……クソッ!」

 

深くまで差し込まれたバヨネットは、突っ込まれ歪んだまま撃った所為か抜けなかった。仕方なく放棄する事にし、残る"ザク"を倒すための武器を探すため、首を巡らせる。

 

しかし、"ザク"は"ロクイチ"、それに守備隊のミサイルカーに囲まれ右往左往していた。動きも鈍い。汎用兵器とはいえ宇宙や地上とは全く性質の異なる水中という環境に対応させるため、無理矢理水中仕様にしたシワ寄せかもしれない。

 

その"ザク"に狙い澄ました"リジーナ"弾頭の一撃が突き刺さり火を吹く。胸部上面装甲に穴を開け、そこから煙を吹きながらゆっくりと倒れ伏す"ザク"。もう1機は既に撤退したようだ。

 

「終わった、のか……?」

 

辺りを見渡す。軍港はひどい有様だった。あちこちが焼け焦げ、捻れ、溶けていた。幸い、軍艦にはそこまでダメージはなさそうだが…………。

 

《少尉ぃー!!無事ですか!?》

「……伍長か。こっちは大丈夫だ。そっちは?」

《攻撃隊に被害は"ロクイチ"だけだって》

「……分かった。全機、戦闘態勢を解除。警戒態勢へシフトせよ」

《《了解》》

 

煙が風に揺られながら登り、青い空へ吸い込まれて行く。陽は明るく辺りを照らし、戦闘の爪痕を浮かび上がらせる。

日が沈むのは、まだ先になりそうだった。

 

 

 

 

 

衛生兵(メディック)!!メディーック!!」

「こっちだ!!手を貸してくれ!誰か!!」

「痛い……痛いぃぃぃいい!!」

「消化活動遅いよ!!早くしろ!!手遅れになっても知らんぞー!!」

「クッソ!人手が足らん!!燃料庫、弾薬庫に引火させるな!!」

「手が足りない!!誰か来てくれ!!」

「おい、まだだ!耐えろ!もうすぐお前の番だからな!!死ぬな!!」

「ダメだ!!ヤツが!!ヤツがまだ奥に!」

「衛生兵!!おい!!衛生兵はどこだ!!」

「くっそ!!28番ハッチはダメだ!!」

「大丈夫か!? 火傷はどこだ! ……くそっ、燃えてる部分の肉を切り取るぞ! 痛いだろうが我慢しろ! おい、ナイフをよこせ! なけりゃ銃剣でもいいからはやく!」

 

酷い有様だった。海から来た敵は何故か散布された機雷に掛からず、奇襲を喰らったのだ。戦闘は終わった。しかし、すでに次の闘いが始まっている。

 

「軍曹、伍長!無事か!」

「はい!今回は"ロクイチ"も無傷でしたから……でも……」

「……被害は、大きくは無い。……まだ、少ない方だ……」

「大将!!ちょっと来てくれ!!」

「はい!……軍曹、軍曹は医師免許、取ってたよな?」

 

傭兵時代戦闘の合間を縫って独学でとったらしい。バケモンだわ。もはや戦う軍医である。いや、リア・セキュリティというヤツか?

 

「……肯定。手術までやれる……」

「伍長を伴い、治療に当たってくれ。俺はおやっさん、基地司令と話をして来る。頼んだぞ」

「……了解」

「はい!私も頑張ります!」

「早く来い!!年上を待たせるな!!」

「はい!ただいま……頼んだぞ」

 

おやっさんと基地司令部へ。ドタバタと走り回る兵士の合間を縫って行く。奇襲のため警報や対応、避難が遅れたため非戦闘員が多く巻き込まれたらしく、そこかしこで今だに怒号が響いている。

 

「じゃまするぜ?」

「失礼します。司令。お呼びでしょうか?」

「……あぁ。座りたまえ」

 

おやっさんと座る。基地司令の顔は土気色だ。顔を歪めながら口を開く。

 

「…………これは、どういう事だ?」

「……は?」

「これはどういう事だ、と聞いておるのだ!!」

 

ダンっ!と机を叩きつつ怒鳴られる。どういう事だ?意味が分からん。いや、まさか………。

 

「……疑ってんのか?俺達がスパイだと……」

「そうだ!!貴様らが来た時に狙った様に襲撃だ!!機雷にも掛からなかった!!貴様らが手引きしたんだろう!!」

「お、落ち着いてください!そのような事はありません!!それに決めつけるとしても早け………」

「うるさい!!このスパイども!!残念だったな!!あれしきの戦力ではこのパナマは墜ちんよ!!」

 

司令は明らかに興奮し正常ではなかった。今にも腰のサイドアームを抜きこちらへ向けて来かねない。

好き放題言いやがってこの野郎。こちらとて被害喰らっとんのじゃてめーだけ被害者ヅラしやがって。

 

「……だが敵の新型を撃墜したのは、紛れもなくここにいる少尉だ」

「………それがどうしたというのだ!?被害の内に潜り込ませる!!常套手段だ!!」

「新型を犠牲にしてまでする作戦か?それは?」

「! ぐっ………」

「……司令。落ち着いてください。我々のスパイ疑惑を晴らす事は出来ませんが、一つ、提案があります」

「少尉?」

「………………………何だ?」

 

深呼吸をする。落ち着け。興奮した人間は何をしでかすか分からん。刺激するな………。

 

「……今回の戦闘での敵軍戦力は少な過ぎました。司令の言う通りです」

「……………それが?」

「今回は威力偵察に過ぎないであろう、という事です。次に、本隊が本格的な侵攻を行うでしょう」

「………………」

「………………」

 

さて、勝負だ。如何に相手を納得させるか…欲を出させるか…………ここで失敗したら終わりだ。冷静に、冷静に……。

 

「今回の戦闘で軍港に大きなダメージを受けました。…………しかし、軍艦は無事です。そこで、明日。我々は予定通り出港します」

「………ここを見捨てて、か?」

 

んな顔すんなよ。そうしたくなっちまうだろ?ったく。ショックは分かるけどもっとマシな判断をな……はぁ……。

 

「違います。()()()()()()を叩きに行くんです《・》」

「何だと!?」

「…………何?!」

 

食いついたな……よし……。てゆーか、おやっさんもかよ!どーする気だったんだ?!

 

「基地の守備能力は現在低下しています。しかし軍艦も防衛戦は、特に新型の水陸両用MS相手では、全力を出せません。このままでは共倒れです。

…………ならば、我々が囮に近い形で出港、敵に攻勢を仕掛けます」

「…………」

「お互い、全力を尽くし、生き残るにはこれが最善の策です」

 

さぁ、どう出る?トチ狂ってジオンとお友達にでもなりに行くのか?

来いよ司令、プライドなんか捨てて、かかって来い!!

 

「…………………」

「…………………」

「…………………」

「………………………………」

「………………………………」

「………………………………」

「……………………………………………」

「……………………………………………………」

「……………………………………………………………」

 

無言が続く。頼むから呑んでくれ。ここが墜ちたら"ジャブロー"もヤベーんだよ。

 

「…………………………分かった」

 

ッシャオラッ!!

 

「先程は取り乱してすまなかった。確かに、そうだな……」

「司令……」

「……はぁ。まぁ、いいか……」

 

おやっさん!?やめて!!これ以上は俺の心臓が持たんて!!これ以上司令を刺激しないで!!中年のハートは磨りガラス製なんだよ!!父さんが言ってた!!

 

「…貴官の申し出に感謝する。お互い、全力を尽くそう」

「……はい!」

「…だな」

 

立ち上がり、敬礼する。その後一礼し司令室を後にする。

 

………………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ。

 

どっと疲れが………。ドンパチやる方がまだ気が楽だわ。

 

「…一件落着だな!大将!!良くやった!!」

「………………もうさせないで下さい。お願いじす……」

「噛んでるぞ?なんだJISって?」

 

日本工業規格です。

 

「……解決はしてません。首を締めたくらいです。つーか、素人意見なんですけど……」

「いや、良い判断だ。やはり、俺の目は間違って無かったな!うはははははっ!!」

「……ふふっ!あはっ!あはははは!!あーっはっはっはっはっはっ!!」

 

夕暮れの基地に、男2人の笑いが反響する。

まだ明日への希望を捨てず、今日を生きる男達の、明るい笑い声は、ずっと響き続けていた。

 

 

 

『海。海はいい…………男の、海だ………』

 

 

舵は、既に決まっている………………




次回、少尉、大海原へ!!

時は大航海時代!!ありったけのゴッグの破片をかき集め、金属反応を探しに行きます(笑)。

次回 第二十二章 海の果てまで連れてって

「フィィィッッシュ!!イィィヤッホォォォーーー!!」

お楽しみに!!

感想、ご意見、評価お待ちしております。


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第二十二章 海の果てまで連れてって

カリブ海、大西洋横断編、スタート!!

しかし日常パート。

アニメ、映画でも戦闘シーンが好きなんで、ほぼ全部戦闘シーンでいいよ!!とかトランスフォーマーとか見て言ってたんですけど、こりゃ辛いわ。書く方は。

戦闘シーン、疲れるんすよね。その点ロサンゼルス決戦はすごいよな、最後まで戦闘シーンたっぷりだもん。


抜錨、という言葉がある。

 

大いなる海原への、第一歩。そこから航海が始まるのである。

 

平時は静かな海も、凶暴な一面を隠し持っている。

 

船乗りはいつの時代も命懸けなのだ。

 

その命を握れるのはただ自分だけ。

 

船乗りは、一度出港したからには、その責任は自分で負うものなのだから。

 

 

 

U.C. 0079 6.2

 

 

 

「出港だ!!錨をあげろー!!」

「全艦、微速前進、よーそろー」

 

ゴゴンッ。という音が足元から響き、錨が引き揚げられる。

攻撃でボロボロになった港から、続々と船が海へと向かっていく。

それを見送る兵士達を、少尉は"ヒマラヤ"級航空母艦"アンデス"の艦橋から見下ろしていた。眼前で、ゆっくり地面が後ろへ下がって行き、見えなくなる。

 

「改めて、"アンデス"へようこそ。少尉」

「こちらこそ。提督」

「この場合、船は私が指揮を取るが、この旅団でのトップは便宜上少尉となっている。提督は貴方だ。私は中佐でいい」

「……はい。分かりました。よろしくお願いします。中佐」

「こちらこそだ。航海は10日を予定している。現在敵影は確認できず。敵戦力も不明でな。多少の遅れは出るだろう。しかし、安心してくれ。諸君らは必ず、この私が"ジャブロー"まで送り届ける」

「はい。航海の、無事を祈って」

「うむ」

「では、失礼します」

 

"アンデス"艦橋を出て、格納庫へ向かう。そこには、おやっさんと軍曹、伍長が待っているはずだ。

 

"ヒマラヤ"級航空母艦は、既に旧式艦であるが、旗艦能力を持ち、さらに全艦が大西洋上だったためコロニー落としの被害を免れた事に加え、高性能な対潜攻撃機ドン・エスカルゴを始めとする様々な艦載機が運用できる航空母艦だ。

空母でありながら艦橋前に600mm連装主砲が装備されており、強力な打撃力を持つ戦艦の様な艦だ。

この他、艦首には4連装大型対艦ミサイルランチャーと3連装短魚雷発射管が2基、艦橋後部には195mm単装速射砲が装備されており、両舷には単装対空砲が8基装備されており、単艦での戦闘能力も高い。

 

"モンブラン"級は最近"ベルファスト"で新造されたばかりの新鋭艦だ。大規模なVLS、Vertical Launching System(バーティカル ランチング システム)、つまり垂直発射ミサイルサイロと大型対艦ランチャーシステムによるミサイル攻撃を主眼に置かれた、巡洋艦でありながら攻撃力はそのまま、駆逐艦並の高速化、スケールダウンに成功した傑作艦である。

 

"アルバータ"級ミサイル巡洋艦は、マルチロールな攻撃能力に重きを置いた旧式のミサイル艦である。近々"モンブラン"級に更新される予定であったが、この度の作戦に参加する事になった。完全なミサイル艦となった"モンブラン"級とは違い、195mm連装砲やCIWS(シーウス)、 つまり"Close in Weapon System"(近接防御用機関砲)、対潜水艦用の多段散布式機雷"ヘッジホッグ"、自走機雷ADSLMM(アドスリム)、対潜水艦ミサイル"マグロック"、ADCAP魚雷、トマホーク巡航ミサイル、ハープーン・ミサイルなど、様々な装備が施されている。これらは他の艦にも装備してあったりするが。

 

"キーロフ"級護衛駆逐艦は旧米軍の"アーレイバーク"級ミサイル駆逐艦を参考に建造された高性能駆逐艦である。今や艦の基本装備となったイージスシステムの使用を前提に造られたイージス艦であるが、ミノフスキー粒子の影響を一番受けた船であるため、最も戦力にならない事が既に予想されている悲劇の艦である。これらの艦のデータリンクは手動となった。

 

「……戦えるのか……?」

 

そう、カタログスペック上では最強の艦隊であるが、ただそれだけだ。全艦衛星通信やデータリンク、ミサイル攻撃による集団運用を前提に設計されているため、ミノフスキー粒子による影響を考慮していない設計でありまた対MS戦も考慮されていない。

 

"ジュノー"級通常動力攻撃型潜水艦も退役真近の旧式潜水艦である。次期主力となる新型であったⅧ型潜水艦(U型潜水艦)"ロックウッド"級潜水艦(M型潜水艦)は"キャリフォルニア・ベース"陥落と共にその殆どが失われていた。

 

この旧式艦の集まりが、今の最大の戦力だ。"無敵艦隊"(アルマダ)には程遠いが、仕方が無い。それにしても地球連邦海軍艦ほぼ全種類が殆ど集まってんな。何これ?艦これ?俺もし本当に提督なら今すぐ鎮守府へ帰りてぇよ。

 

「………不安だな。しかし、出来ることは無い。中佐に任せよう…」

 

"ヒマラヤ"級飛行甲板下の格納庫へ到着する。ちょうどエレベーターが起動し、"ディッシュ"連邦軍早期電子哨戒機と、"フラット・マウス"強行偵察機が飛行甲板へ上がっていくところだった。ジオン軍海軍戦力の主体は連邦軍から拿捕した潜水艦であるため、このような対策が取られていた。

 

格納庫には他にも"フライ・アロー"制空戦闘機、"TINコッド"高々度邀撃機、"セイバーフィッシュ"大気圏内外両用迎撃戦闘機、"トリアーエズ"空間戦闘機、それに大型対潜攻撃機"ドン・エスカルゴ"など新旧様々な航空機が並んでいる。

 

艦載機以外も積んでいるのは、"ジャブロー"に届ける為だ。現在制海権の大部分はジオンにある為、下手に輸送船などを出せないのだ。

 

追い込まれている。かなり。ここは地球だぞ……。それに、地球連邦軍総司令部近海なのに……。

 

その艦載機の林を抜け、バラバラの破片が転がっているエリアへ。そこでは整備兵が走り回り、部品を解析している。その隣には小破し、修理中の"ザクII"もあった。

おやっさんに声をかける。おやっさんはちょうど"ビヤ樽"のジャバラの様な腕をいじっていた。

 

「おやっさん、解析の方は?」

「おう、大将か。あんまりだ。コクピットはぐしゃぐしゃ、中もミンチな上、バラバラと来たもんだ……」

「すみません。こっちも必死でしたから……」

「いや、大将を責めてないさ。逆に褒めたいくらいだ。よくやった。新型のメガ粒子砲持ちを倒したんだからな」

「運が良かっただけです。それで、何が分かりました?」

「……こいつ、"ゴッグ"は水陸両用MS、メガ粒子砲砲台としても中途半端な機体だが、水中機動運用、戦闘力は高そうだな。……こいつは水中であるなら魚雷をも避けるだろうな……」

 

ならこいつは今の我々の大きな脅威となるだろう。人が乗り込み、近接格闘をしかける巨大な魚雷………。

 

「……それはヤバいですね。ん?"ゴッグ"?」

「こいつの名前さ。装甲にご丁寧に形式番号"MSM-03"とまで書いてあったよ」

「……はぁ、"ゴッグ"ですか……」

 

話ながら散らばる残骸を見る。成る程、"ムラマサ"が折れるワケだ。MSのものとは思えない、"ザクII"を遙かに上回る重装甲で分厚い装甲だ。

次、海上でどう倒す?近づけないだろう。近づきたくもない。海に落ちたらアウトだ。しかし、こいつには"ザクマシンガン"も効かない……。

 

「そういや大将、軍曹が探してたぞ?」

「? 分かりました。ありがとうございます。後、時間の許す限り、"ザクII"の炸裂系手榴弾に、"ザクバズーカ"の弾薬を作ってくれませんか?」

「そりゃどうして?」

「……最悪、"ザクII"を甲板上で砲台にしようかと……」

「……分かった。各種、考えておく…だが……」

「?」

「……"ザクII"もそろそろパーツが足りなくなって来てんだ……少尉はよくスラスターを吹かすだろ?足回りは特に相当ガタ来てんぞ?全体的な稼働率も70%前後だ……そこを、よく加味しろよ?」

「……そう、ですか……それでは。よろしく頼みます」

「おう!」

 

おやっさんと別れ、格納庫内を歩く。

"ジャブロー"までは、持ってくれるか……?

 

「……"マングース"(アイツ)、ねぇな……」

 

かつての愛機に思いを馳せる。最強の攻撃機。

空を飛ばなくなって久しい。

 

「………空が飛びたい、か……」

 

いつから、俺はこうなった?

 

 

 

U.C. 0079 6.5

 

 

 

「……………きたっ!!」

「凄いです少尉!……ってわわわ!!こっちもだぁ!!」

「……落ち着け。落ち着いて、竿を立てろ……」

「フィィィッッシュ!!イィィヤッホォォォーーー!!」

 

潮の香りが鼻をくすぐり、潮風が心地よい。周りにはウミネコが飛び回り、みゃあみゃあと不思議な声で呼んでいるようだった。

 

「ふっ!むっ!…………ふん!!」

 

キラキラと太陽の光を乱反射させ、七色に輝く銀色の腹を見せ、釣られた魚が宙を舞う。うんうん。大量だ。残念だったな、海の底では弔い祭りだ。

 

「あわっ!あわわわ!!強いです!!ちょっ、うわ!!」

「! オイオイ!!」

 

竿に引かれ海へおこっちかける伍長を掴む。結構慌てたため舐めていた飴を噛んでしまった。くそっ。

でも流石に落ちたらマズい。甲板から海面までちょっとした高層ビル程の高さがある上、その高さになれば水の表面張力はコンクリート並みの硬さになる。またスクリューにでも巻き込まれたらミンチよりも酷くなる。

それに軍艦というものはその見た目や大きさに似合わずかなりの速度で航行している。

特に空母は艦載機をより確実に燃費良く飛ばす目的から向かい風を発生させるため、最大速度はなんと35ノット、時速に直すと約65km/h近い数値を叩き出しているのだ。

全長200m以上という巨大建造物がそれ程の速度で進んでいるのだ。近くに寄ったら波でとんでもない事になる。

小船でもそうなのだ。人間など言うまでもない。

急にも止まらない。止まるにも何ノットといる。それに、対潜警戒をしている今陣形を崩す訳にもいかない。1人落ちても、見捨てるしかないのだ。

 

「た、助かりましたぁ〜」

「……ったく……」

「……伍長、竿を変えるべきだな……」

 

敵影もなく、嵐もなく。いたって平穏な海で3人並んで釣りをしていた。平和っていいねまったく。

その平和を取り戻し、維持するためにはまた、俺たちが戦わなけりゃな。

 

昨日、今までから考えると珍しくやる事が無く、手持ち無沙汰であまりにも暇だったので釣りでもしようと軍曹に提案しようとしたら軍曹から提案された。お互いの趣味が合うとは珍しく、嬉しい事だった。

 

「あっ!!釣れました!!釣れましたよ少尉!!やったぁ!!」

「お、やるな」

「ご褒美は?」

「キャンディドロップだ。食うかい?」

「むー、チョコレートがいいです!甘い夢が見られそうですし!!」

 

軍艦は空母などを含め大型船といえどかなりの速度だ。普通は出来ない。しかし、今は索敵しつつ、ゆっくり進んでいるためこんな事ができたのだ。

釣りは元々そこそこやってたので、軍曹と勝負でもしようと思ったがいきなり当たりを引いていたのでやめた。俺が軍曹に勝てる事は一つもなさそうだった。

のんびり飴をなめなめ本を読みながら釣っていたら、船酔いから復活した伍長もそこに加わり、今に至っている。

 

「……今夜も、魚料理だな……」

「大量ですね!!ふふっ。船の晩御飯は美味しいので楽しみです!!つまみ食いしたいです!」

「……"銀蠅"はやめとけ……」

 

3人とも書類仕事なども無く、かと言って手伝える事も無く、食料調達係へと変貌していた。

 

しばらく当たりも無く、のんびり釣り糸を垂れる。

 

「はーっ!!水平線が綺麗デスね!!テートク!!」

「それなんかのモノマネか?……まぁ、そうだな」

「いいこと!暁の水平せ……」

「分かったから!!もういいよ!!」

「あ、あの島!なんでしょう!?」

「……あれは、怪物の島(イスラ・デル・モンストルオ)……"バジリスコ"が、居る島なのだと……」

「へぇ、怪物達のいる処、か……」

「そうなんですか!!行って見たいですねぇ。いつか……さっきの海上プラント跡地も……きっと、何かドラマがあったんでしょうね……」

 

何やってんだよ。かまってちゃんか。

なら付き合うからさ…。

 

「……でもやっぱり…かからないと暇なんですよ…」

「それがまたいいんだろ?な?軍曹?」

「……あぁ。人、それぞれだが……」

「………はぁ〜。それにしても、地球って、本当に丸いんですねぇ……」

「スペースノイドが何言ってんだが……」

「宇宙からと地球からでは全然違うものですよ?ね?軍曹?」

「……いや、宇宙からは……見たことは無いな……」

「そうなの!えっ?少尉は?」

「あるぞ。ガキの頃に一回ほど。綺麗だった」

 

伍長の相手をして無駄話をする。明日も暇なら、兵器好きから船を探検してたらしいから、後で一緒に回って解説を加えてやりゃいいかな……。釣りもいいとおもうんだがなぁ……。そーいや歯医者とか色々あるのにビビってたな伍長。まぁ、知ったらビビるよね。

 

「……そういや、おやっさんは?」

「? いいえ?知りませんけど?軍曹は?」

「……"ロクイチ"、"ザクII"、"マゼラ"のシーリング中だ……」

「あぁ、そういや……」

「? 何でですか?」

「……少尉の、提案だ……」

 

そう。海風で錆びちゃ困るからね。

 

「………ふーん。おやっさんも大変ですねぇ…」

「そうだな。そのためにも、いっぱい釣って、ご馳走しよう」

「あっ、少尉、私オサシミ食べたいです!!大好きなんです!!日本の料理なんでしょ?つくってください!!」

「……サシミ……か……」

 

あ、刺身に抵抗無い人なのね。なら、腕によりをかけてご馳走しなきゃな……。

 

「あぁ。何が好きなんだ?」

「ん〜、えーっと……あ、思い出しました!!ツナです!!アカミです!!」

 

 

 

 

 

そ れ は MU☆RI。

 

 

イクラを釣る並に。

 

 

 

『何おう!!海はみんなの故郷なんだぞ!!』

 

 

ただ、海は静かに広がるのみ…………………

 




ちょくちょく挟まれる意味無しシーンでした。

日常パートは小ネタ挟めるのがいいね。つまらんかも知れないけど、自己満足でも小ネタは何か嬉しい。

あ、これ、赤道祭とかするべき?

実は戦闘シーンとかのシリアスな時でもその空気をぶっ壊すギャグが好きなタイプの人間です。本当はそれくらいはっちゃけたい。もっとバカを入れるべきだった。キャラミスったな。

船のスペックは設定に無い物は全て想像です。なのでほぼ想像に……しっかりしてくれや………。
そこ!主砲口径バロスとか言うな!!本当はもっと小さくしようと思ったんだけど、宇宙世紀だいたいこんなもんなのよ!!弾丸共通の方が良さげだし。
まぁ宇宙世紀のビックリ技術で航行速度は上がっているかもしれません。でもあんま速い船は怖いわ。

もしかしたらこのままジャブロー行っちゃうかも。ごめんね司令さん……とかいいながら。


次回 第二十三章 海軍基地攻略

「はい!!………それ、私要ります?」

お楽しみに!!


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第二十三章 カリビニー海軍基地攻略

その名の通り、海軍基地へ!!

さぁ、少尉、活躍どころあるかな………?

ザクで溺れたらシャレにならんよね(笑)。

イメージはターゲットインサイトの海軍基地攻略に、ジオニックフロントのキャリフォルニアベース攻略戦。

BGMはガンダム戦記の「Battle on the Earth」でどうぞ!!


電撃的作戦、という言葉がある。

 

その名の如く、スピードに物を言わせる作戦だ。

 

敵の不意を突く、という点などでは有効であるが、

 

だいたいはそうするしかない(・・・・・・・・)者がとる博打に近い。

 

戦力差の言い訳だ。周到に組まれた作戦も、戦力差の前では霞む。

 

局地戦を制しても、大局を制するのは、やはり国力なのだ。

 

 

 

U.C. 0079 6.6

 

 

 

「中佐!!早期警戒中の"ディッシュ"(バロール3)より入電!!『ワレ、テキホンジンハッケンス。コールサイン"ウイスキーGO、GO "』です!!」

「…………来たか!!」

 

それは突然だった。さて、今日も釣りを、と話し合っていた時だった。

仮初めの、平和は終わりを告げた。

 

「………やはりここだったか………。提督!どこだ!」

「ここに!!チャンスですね……」

「そうだ……無駄にするわけにはいかない。しかし……」

 

先行し警戒を行っていた友軍偵察機が、ジオン軍に占領された海軍基地を捉えていた。それも、戦力は大部分が出ているようだ。

 

「……何か問題が……?」

「ああ……目標は、"ウィンドワード"諸島、旧セントビンセント・グレナディーン独立国、"グレナディーン"諸島の一つ、グレナダ島なのだが……」

「何です?」

 

どっちみち艦砲射撃で吹き飛ばせばいいだろ。MSが来る前に。

 

「……地下基地なのだ……」

 

 

 

「地下基地だぁ!?」

「はい。何も、"ジャブロー"ほどではありませんが……」

「……聞いた事が、ある。"ジャブロー"のテストヘッド……らしい……」

「へぇー。……えっ?でも吹き飛ばせばいいじゃないですか?」

「基地司令部、潜水艦ドッグも地下だそうだ。艦砲も届かない……」

「………よし、中佐のところへ行くぞ。全員で作戦を立てる!」

「はい!!」

「……了解…」

「はい!!………それ、わたし要ります?」

 

分かってるじゃないか伍長。

 

 

「……さて、ここが本拠地、というのは間違いは無い。………しかし、最も強固な海軍基地だ…」

「艦砲で破壊出来るのは、防御陣地(トーチカ)に通常軍港だけ、と……」

「……奪還する戦力もない。なら、それだけで……」

「……駄目だ。敵主戦力は、潜水艦…………」

 

正直、無理ゲーだ。しかし、ヤらなければ"パナマ・ベース"に明日は無い。バロール3によると敵本隊は現在"ジャブロー"方面へ向かって行ったらしいが……。

 

「ん?」

「……提督、何か案が?」

 

まぁ………。一応、な。

 

「……元自軍基地何でしたよね…」

「そうだ」

「……基地見取り図、あります?」

 

 

 

 

 

 

 

 

《各員、準備はいいか?》

《こちら"ラッパーホルン"。準備よし》

《こちら"オンタリオ"、準備よし》

《こちら"アキズキ"。準備よし》

《こちら"ガスコーニュ"。右に同じ》

《"ガダルカナル"。準備よし》

《こちら"アカギ"。同じく》

《"リーヴェニ"。準備よし》

《"ヴァジュラ"。同じく》

「こちらアルファ1。いつでも行けます」

《……こちらブラボー1。準備よし》

《ブラボー2オーキードーキー!!》

《時計合わせ、5、4…》

 

準備完了だ。作戦が、始まる!

 

《…2、1、0!!作戦スタートです!!》

《……よし!!各艦!!うちーかたはじめー!!》

 

全艦の砲門が開き、怒涛の艦砲射撃を開始する。それはミサイルもだ。現在のミノフスキー粒子濃度は8%と低い。高くても大まかな座標には打ち込める。まだ、ミサイルは戦えるのだ。

 

「うわー!凄いですね少尉!!」

「そうだな。本当に」

 

艦内モニターを通し確認する。凄まじいの一言だ。大艦巨砲主義も、捨てたもんじゃない。ロマンだし。

 

現在少尉たちは"アンデス"の格納庫内にいる。少尉は"ザクII"に。軍曹、伍長は"ロクイチ"に。

 

《アルファ1、聞こえますか?》

「こちらアルファ1。問題ない。感度良好」

《了解。出撃は2分後となります。所定の位置へ》

「了解」

《ブラボー1、2も続いて下さい》

《……了解…》

《はーい!!》

 

深呼吸をする。さぁ、これからが本番だ。

 

"ザクII"を歩かせ、上陸用の"LCAC"に乗り込む。その後ろの別の"LCAC"には軍曹、伍長の"ロクイチ"が仲良く並んで載っている。

 

《……少尉。大丈夫だ。落ち着け。後ろは、任せろ》

《そーですよ少尉!!この私にどーんと任せちゃって下さい!!》

「あぁ!ありがとう!!」

 

緊張がややほどける。やっぱこの3人じゃなけりやな。

 

《……遅いですね。まだですか?少尉》

「まだだ。俺たちの活躍は、島がドンパチ賑やかになってからだ」

 

その時ビーっとアラームが鳴った。警告灯が回転し明滅し始め、ビープ音に負けない様なゴンゴンゴンというモーター駆動音と共にハッチが開き始めた。

 

…………時間か。

 

《アルファ1。30秒前です。前へ!!"ロクイチ"も続いて下さい!!ASAP(可及的速やかに)!!》

「了解!!」

《大将!!大将の"LCAC"は"ロクイチ"のを突貫で改造した特別製だ!!扱いには注意しろ!!》

「はい!!ありがとうございます!!」

 

少尉の"ザクII"は最低限の装備だけだ。それに、たんまりと爆薬を抱えている。

今のこちらに海軍基地を奪還する戦力はない。だから爆破してしまえ、というめちゃくちゃな作戦だ。おい、それでいいのか。

 

《時間です!!アルファ1!幸運を!!"海岸で逢おう"(See you on the beach)!!》

「了解!!出るぞ!!」

 

上陸作戦の常套句とともに、少尉の"ザクII"を載せた"LCAC"が進水し、後ろには軍曹、伍長の"ロクイチ"が載ったのが続く。

 

その頭上では艦砲、ミサイルがまだ通り過ぎて行く。上陸まで、8分………。

 

 

 

 

 

 

「こちらアルファ1!目標に取り付いた!!これより作戦を開始する!!」

 

無事に接岸し、敵基地周辺に降り立った少尉が報告を行う。素早く周囲を索敵するも敵影は無し。殆どが艦隊に釣られている様だ。

 

《了解、健闘を祈る……任せたぞ!!》

「伍長はここで"タクシー"を頼む!!しっかり守ってくれよ!!」

《りょーかい!!まっかせて!!》

 

任したぞマジで。行きは良い良い、なんてシャレにならんぞ?

 

「軍曹は俺に続け!!遅れるな!!」

《……了解…》

 

軍曹の"ロクイチ"を伴い、少尉の"ザクII"が突入する。そこには、"ザクII"が軽く通れるような大空洞がその大きな口を開け待ち構えていた。

 

「…アルファ1、エンゲージ………3、2…」

 

グレネードを投げ込む。放り込まれたグレネードがバウンド、炸裂する。

 

「…1、0!!GOGOGO!!!」

 

少尉の"ザクII"が"ザクマシンガン"を撃ち放ちながら突撃する。右往左往する敵兵を蹴散らし、鹵獲された"ロクイチ"を蜂の巣にしながら突っ走る。

 

《……アルファ1、ここだ》

「了解、周囲の警戒を頼む!!」

 

"ザクII"を操作し、爆薬を設置する。

爆破というものは、ただ大量の爆薬を炸裂させればいい、という話ではない。決まった量を決まった場所に、決まった形に成型し、タイミングを調整して爆破しなければ最大の効果は発揮されない。非常にシビアであるが、逆にそれさえ満たせば、芸術のような理想の爆破を行う事が出来る。

 

「設置完了!!行くぞ!!」

 

残り3箇所!時は金なり!!急げ急げ!!

 

真っ暗闇をマップとナイトビジョンを通した視界のみを頼りに疾走する。敵戦力は不明。接敵もいつか分からない。視界も頼りなく、レーダーも効かない。胃が痛い。

 

ダガンダガンッ!!という"ロクイチ"の主砲発射音で現実に引き戻される。目の前で偽装砲台が火を吹き、爆散する。

 

「ッ! すまない軍曹!」

《……当然の事を、したまで…》

 

くそッ。集中しろ!!何をやっている!!

爆弾を設置、立ち上がる。後2箇所!!

 

曲がり角を曲がる。そこには"ザクII"がたっていた。

 

ん?鏡か………? んな訳ねぇ!!

 

向こうも思い出したように銃口をこちらへ向ける。それを見た時に少尉は既に回避行動へ移っていた。

 

少尉が爆破に使っている爆薬は高性能のプラスチック爆弾(セムテックス)だ。これは特定の信管にしか作動せず、火をつけても静かに燃えるだけなほど安全だ。しかも威力も十分。当に爆弾界のスターとも呼ばれるべき存在である。

しかし、頭で理解しても身体は無理だ。爆薬を満載している恐怖から少尉は本能的に回避行動をとっていた。

 

火線が通り過ぎ、少尉の"ザクII"が回避、柱へ隠れる。

その間隙を縫い"ロクイチ"の主砲が火を吹く。予想外の攻撃に"ザクII"が怯み、態勢を崩した。全力で後退しつつ更に攻撃を加える"ロクイチ"。

 

「はぁッ!!」

 

その"ザクII"へ柱を回り込み横から少尉の"ザクII"が攻撃する。脇腹から胸へ突き刺さったバヨネットがコクピットを引き裂き、"ザクII"を沈黙させる。

 

その行動は、かの有名な"ジェット・ストリーム・アタック"の真似事のようだった。意図してした事では無かったが、その効果は十二分にあった。

 

全身の力が抜けた様に倒れ伏す"ザクII"から目を離し、少尉は息を整えようとするも、なかなか上手くいかない。

 

「…はぁ………はぁ……ッ」

 

ふ、ふざけんなマジで。心臓に悪いわ。俺はホラーが苦手なんだ。サイレントヒルを買ったはいいがオープニングで既に怖すぎてそのまま売ったんだぞ。

 

「軍曹!!無事か!!」

《……肯定。少尉は?》

「大丈夫だ。さぁ、最後の仕事と行こう」

 

爆薬を設置する。その隣にもう一個追加し、これで終わりだ。後は、撤退するのみ!!

 

「行くぞ!!ブラボー1!遅れるな!!」

 

"ザクII"を振り返らせ、全力疾走する。このあと包囲殲滅や、巻き添えあぼーんなどごめん被る。

 

地下道を疾走する。前で動くものに対しては全てに"ザクマシンガン"を走りながら叩き込んで行く。

"ロクイチ"を蹴飛ばし、"ヴィークル"を踏んづけ突撃する。

目の前に飛び出した"ザクII"には右肩のシールドを向けつつ撃ちながら突っ込み、体当たりする。

 

全身を撃たれ倒れ伏し弱々しく動く"ザクII"を無視し突っ走る。こちらも被弾したが気にしない。ダメージリポートは右腕オレンジ、右足イエロー、頭部ブルーだ。問題ない。

 

《……無茶を……》

「すまん!だがもうすぐだ!!」

 

地上へ飛び出す!!見えた!!

 

《少尉!!遅いです!心配したんですよ!!》

「すまん!留守番ご苦労!!撤退だ!!」

《りょーかい!軍曹もおつかれさまー!》

 

"LCAC"に飛び乗り、エンジンを始動させる。さぁて、三十六計逃げるに如ず!!逃げるんだよぉぉぉぉぉおお!!

 

「こちらアルファ1!作戦は成功!!"底は地獄へ"!繰り返す!!"底は地獄へ"!!」

「こちら"アンデス"。了解。お仕事ご苦労。撤退せよ」

「言われなくても!!」

 

"LCAC"が疾走る。これで作戦の大部分は終了だ。ホッと息をついたのも束の間、コクピットにアラートが鳴り響く。

 

「なんだ!!」

《……7時方向、4時方向よりホバークラフト多数!!》

「クッソ!!」

 

"脚"をヤられたらこちらは終わりだ。マズい!!

 

「ブラボー1、2!!オールウェポンフリー!!メクラ撃ちで構わん!!撃て撃てぇ!!近づけさせるな!!」

《《了解!!》》

 

"ロクイチ"が持てる力を持って全力射撃を始める。155mm、7.62mm、13.2mm、5.56mmが火を吹き弾幕を展開する。伍長に至っては何を血迷ったかスモークまで散布している。何やってんだ!!

 

「こちらアルファ1!!敵の追撃を受けている!至急航空支援を!!」

《こちら"アンデス"!了解!一番近い部隊を向かわせます!!それまで持ち堪えて!!合流は2分後!!》

 

少尉の"ザクII"も手持ちのザクマシンガン"、グレネードを撒き、対人攻撃用に追加した脚部胸部の13.2mmをばら撒く。超遅延信管に設定した"Sマイン"もだ。

 

「くそっ!あんなナリしてすばしっこい!!」

 

どんどん距離を詰められる。マズい!

 

その時飛来した機関砲がホバークラフトをバラバラに引き裂いた。

 

《待たせたな!!お待ちかねの航空支援だ!》

「遅いぞ!!この!!だが助かった!!」

 

飛来したのは"フラット・マウス"に、"TINコッド"だ。それらに追い回され、隊列を乱したホバークラフトが駆逐されて行く。

 

《やれやれ、遅刻した分働きますよっと!!》

《がんばってねー》

《……他人事の、様だな………》

 

あらかたホバークラフトが駆逐された後ろで、轟音と共に基地が大爆発を起こす。

 

《爆炎確認!"アンデス"より各員へ!!作戦は成功!!繰り返す!!作戦は成功!!各自撤退へ移れ!!》

 

各艦が回頭を始める。その中を航空機を伴い旗艦へ向かう。

 

《ひゃー!凄いですね!でも、思ったのと違います。汚い花火ですねぇ。もっとばぁーっと行くと思ったんですけど……》

「地下爆発だからなぁ。そら煙ばっかやろ」

《あっ、忘れてました》

《……何のために上陸したんだ……》

 

3人で笑いながら船員が甲板に出て大騒ぎする船の間を縫って行く。

 

「今夜はパーティだな」

《またお魚釣らなきゃいけませんね!今度こそツナを!!》

 

だから無理だって。

 

 

 

 

『"決断"とは、目的を見失わない決心の維持にほかならない』

 

"ジャブロー"は、まだ遠く…………………………




実は当初の予定にはありませんでした。

感想で書かれて始めておっ、と思って急遽書き下ろしました。

その分荒削りとなってしまい申し訳ありません。


それでも楽しんでいただけたら幸いです。

因みになぜ地下基地となったのかは、MSが活躍出来ないからです!!

もしこれが無かったら、
艦砲射撃→偵察機で偵察→設備潰れてるよワーイ→今夜はパーティ!!となってしまうので(笑)。

出てきたホバークラフトとはジオンホバー水雷艇のシーランスのことです。説明出来ませんでした。

"アンデス"は空母であり強襲揚陸艦ではないためどうやってLCACを下ろしたかは、一応サイドハッチからランチの様にクレーンで下ろした感じです。ロクイチようLCACはガンダムUCで出てきます。映像で出てくるかは忘れました(笑)。

2回ほどなんかのミスで半分消えてしまい書き直すハメに………。

次回 第二十四章 北大西洋波高し

「急げ!早くしろ!!敵はすぐそこだ!!」

お楽しみに!!


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第二十四章 北大西洋波高し

艦隊戦、開始!!

お互いの明日を懸け、両軍が北大西洋で激突!!

大西洋が血に染まって行く様を、どうぞご覧ください。


地球全土の役七割を占める、海。

 

かつての大戦では主戦場となり、各国が覇権を求め争った。

 

海を制する者が世界を制する、そう信じられていた。

 

時代は変わり、主戦場は空へ、宇宙へと移ろって行った。

 

海戦が覇権を決める時代は終わりを迎え、進化はそこでピリオドが打たれたはずだった。

 

だが、また時代は動き出した。

 

戦場を選ばぬ、MSの登場によって。

 

 

 

U.C. 0079 6.11

 

 

 

それは突然だった。ジオン軍海軍基地を潰し、カリブ海を出て大西洋へ向かった矢先の事だった。

 

「エマージェンシー!!」

 

"アンデス"艦橋内に響いた声は、新たな戦場を少尉達にもたらした。

 

「どうした!?」

「ぜ、前方を警戒していたバロール2との連絡が途絶!!それと同時に付近のミノフスキー粒子濃度が急激に上昇中!!4秒に3%という速度です!!」

「! 提督、まさか……」

「……はい、"パナマ・ベース"の時と酷似しています。至急戦闘配備を!!」

「聞いたか!!総員!第一種戦闘配置!!"ドン・エスカルゴ"に緊急発進(スクランブル)をかけさせろ!!」

「中佐!!護衛機をつけて下さい!!恐らく敵戦力には戦闘機が配備されています!!」

「"リーヴェニ"より入電、『コウセンヲサケルコトヲカンコクス』です」

「バカめ……」

「は……?」

「バカめ、だ、そういってやれ……分かった。行け、提督。ここは任せろ。

…………海での戦いを教えてやる。Z旗上げい!!」

「はっ!」

 

連絡を絶ったバロール2、つまり"ディッシュ"は鈍重な非武装の警戒機だ。連邦の潜水艦に対空攻撃兵装はない。つまり敵は潜水艦から発艦させたに違いない。"キャリフォルニア・ベース"で鹵獲された潜水艦にはその装備がある。おそらくそれに手を加え、MS運用能力を付加したに違いない。

 

人が走り回る中をすり抜け格納庫へ。その途中で軍曹、伍長と合流する。走りながら話し合う。というより騒がしいため怒鳴り合うようになる。

 

「少尉!何です!?こんな海のど真ん中で!!」

「だからだろ!!」

「どーゆー事です!?」

「……敵主力は、潜水艦。教えたぞ……」

「だから何でです!?」

「……恐らく…ジャブローへ向かった部隊と……」

「そうだろうな、前潰した基地は空だった。その帰って来た奴らとカチ当たったんだろ!!」

「成る程!!納得です!!」

「遅いわ!!」

 

一を知って十を知れとは言わないが一を知ったら三ぐらい知ってくれ!!

 

「でも!私達に出来ることは!!」

「ある!!航空機展開後!甲板で砲台だ!!」

 

そう、これは前から中佐、おやっさん、軍曹と話し合っていた事だ。伍長は船酔いでぶっ倒れてたけど。

"ゴッグ"の解析で、魚雷は駆逐艦を軽く沈め、腕部"クロー"は少尉の"ザクII"の肩を吹き飛ばした威力からのシュミレーション結果は、"ジュノー"級潜水艦の対水圧外殻を突き破る。水中移動能力の高さは魚雷を避けるだろう、となった。

そのための対抗策として、近寄られたら負けに近い事、対空攻撃能力が無い事に目を付け"ドン・エスカルゴ"の対潜攻撃で炙り出し、そこへ飽和攻撃を加える、という事になった。"ドン・エスカルゴ"は"アクティブソナー・ブイ"を備え、一方的に水中の機影を捉えられる。船団に近寄られない限り一方的に叩けるはずだ。そのため飛行機が出た後、"ロクイチ"など出せる陸上戦力を全力展開、艦砲と共に射撃する予定だった。それは"リジーナ"、"スーパージャベリン"もだ。

 

問題は、敵にも航空戦力がある事だった。これでは足の遅い"ドン・エスカルゴ"は敵戦闘機に一方的に落とされるだろう。護衛をつけても、それだけ敵を捉えるのが遅くなる。少しの遅れが"ゴッグ"の接近を許し船団を全滅させる結果となるだろう。

 

「急げ!早くしろ!!敵はすぐそこだ!!」

「遅いぞ!!急げ!!」

「2番機推進剤充填間に合いません!!4番機を先に回して下さい!!」

「ここの23番ソノブイどこやった!!」

「ミサイルはいい!!機銃弾だけ補充させりゃ十分だ!!早く出させろ!!」

 

格納庫はてんやわんやだった。エレベーターはフル稼働し、"ドン・エスカルゴ"、"TINコッド"をピストンのように甲板へ送り出していた。甲板上で待機していたのは全て出たのだろう。

 

「大将!!やっと来たか!!」

「すみません!!装備は前決めたヤツで頼みます!!」

「もう始めてるよ!!後は乗るだけだ!さぁ!行ってこい!!壊すなよ!!」

「はい!!」

 

トレーラーに載せられ、仰向けの"ザクII"のコクピットへ飛び込み機体を起動させる。トレーラーのエンジンもかかり、少尉の準備は終わった。

 

《敵艦影確認!!敵艦は我が軍の最新鋭艦Ⅷ型潜水艦4隻!!繰り返す!!敵艦は我が軍の最新鋭艦Ⅷ型潜水艦4隻!!総員気を引き締めろ!!》

「……やはりか!」

《イエロー2、ブルー3の反応ロスト!!敵戦力には航空機がいる模様!!手隙の兵員は地対空ミサイル(SAM)を受け取り甲板へ!!対空迎撃せよ!!》

《そんなに……僕たちの力を見たいのか……》

《こちら"ガスコーニュ"。対空迎撃へ移る》

《敵艦の位置情報はまだか!!》

 

ジオンの奴ら、"キャリフォルニア・ベース"の潜水艦部隊丸々鹵獲しやがったな!!つーか爆破処理ぐらいしろよ無能共!!最悪のシナリオじゃねーか!!

 

《少尉!!聞いた!!どうしよう!!》

「慌てるな!!」

《……そうだ。俺たちに出来る事は少ない。それさえやればいい……》

 

既に伍長は浮き足立っていた。まぁ仕方が無い。何もしなくても沈められるのに、ほぼ何も出来ないのだ。そのもどかしさは痛いほどに理解できる。

 

「おやっさん!!装備に対空装備を追加してくれ!!」

《……分かった、なるべく急ぐ!》

 

航空機があらかた出撃し、少尉と"ザクII"の載ったトレーラーも動き出す。

 

《ゴールド3反応ロスト!!敵航空戦力の抵抗により"ドン・エスカルゴ"が近づけません!!》

《こちら"オンタリオ"!左舷に被弾!CIWSが一部使用不可能だ!!フォロー頼む!!》

《こちらブルー1!!敵が多過ぎる!!抑えきれない!!》

《"アカギ"了解!"オンタリオ"のフォローに入る!!》

《ミサイル接近!!衝撃に備えろ!!》

 

くそッ!!劣勢だ!!早く!頼む!!

 

《トレーラー!前へ!急いで下さい!!》

《了解!少尉!!出ますよ!》

「頼む!!」

 

トレーラーがエレベーターに乗り、ゆっくり上昇、甲板へ出る。そこは既に戦場だった。空は爆煙で汚れ、あちらこちらで爆発が起き、煙が上がる。

少尉は"ザクII"を立ち上がらせ、装備をトレーラーから取り出す。"ザクマシンガン"ロングバレル改造型に、カウンターウェイトのためのラスト一本の"ムラマサ"、MS用グレネード、それに足元に2発入った"ザクバズーカ"だ。両脚には残弾5発の"フットミサイル"をつけた、砲撃決戦仕様となっている。

 

《こちら"ラッパーホルン"!!艦橋付近に着弾!!艦橋大破!!CICを第二艦橋とする!!》

《レッド9よりイエロー8へ!迂闊だぞ!!出過ぎるな!!》

《"ドン・エスカルゴ"隊ソナーブイ投下開始!!データリンクまで残り18秒!!》

《ファイアー!!》

《こちら"アカギ"!対空迎撃が間に合わない!!防空隊は何をやっている!!》

《浸水してるぞ!!早く!!》

《こいつをCICから叩き出せ!!》

《ダメージコントロール班!!右舷後部へ迎え!!火災が止まらない!!》

 

その"ザクII"の横に"ロクイチ"が3両、"マゼラ・アタック"が2両、"マゼラ・アイン"が2両。それに整備兵達が"リジーナ"、"スーパージャベリン"を抱えどんどん走り出て、置いては引っ込んで行く。既にカオスだ。

 

トレーラーが往復し、対空三式散弾(Type-3)の込められたマガジンを送り届ける。それらを装填、残りは横に転がす。

 

「甲板作業員、戦闘員は退避しろ!!対空迎撃を始める!!」

《左舷弾幕薄いよ!!何やってんの!!》

《こちら"オンタリオ"!!左舷スクリューに異常発生!!速力低下!!》

《や、やられる!!》

《各員!衝撃に備えー!!》

《こちら"アキズキ"!!機関部に被弾!!損傷甚大!!航行不能!!傾斜が酷い!!もう……!!っあぁっ!!》

《次弾装填急げ!!敵は目の前だぞぉ!!》

 

マズっ!! あ…………。

 

轟音と共に"アキズキ"が轟沈する。マズイ!!防空網にも穴が空いた!!

 

《"アキズキ"轟沈!!》

《CIC!状況を知らせい!!》

《"ガスコーニュ"!!"アキズキ"乗員の救助へ!!》

《こちら"アンデス"!"ガスコーニュ"、"アキズキ"の穴を埋める!!前へ!!》

《やってくれるぜぇ……》

《第7ブロック浸水!!ムリだ!!引き返せ!!》

《こちら"ガスコーニュ"!救助活動へ移る!!援護頼む!!》

《てぇーっ!!》

《溶接剤足りないぞ!!早く!!》

 

"ザクマシンガン"を敵戦闘機へ向ける。前もやった、"緑のアヒル"(グリーン・ダック)だ。前とは違い距離が遠いが、やるしかない!

3点バーストで射撃!射撃!!射撃!!!

よし、やはり効果的だ!!落とせる!!

 

「航空機隊へ!!"アンデス"周辺防空は任せろ!!離れている"オンタリオ"、"ラッパーホルン"、"アカギ"、"ドン・エスカルゴ"を!!」

《こちら"アカギ"!対空砲座の銃身が限界だ!!フォローを!!》

《雷音接近!!デコイ射出!!》

《第2防水区浸水!!閉鎖急げ!!》

 

怒鳴りつけつつ射撃を続行する。通信はほぼパンク状態だ。あちらこちらで怒号と叫び声が飛び交っている。耐えてくれよ……。頼む!!

 

《こちら"ヴァジュラ"!!エマージェンシー!!聞いた事のないデカイ音紋を複数確認!!魚雷じゃない!!"ゴッグ"だ!!》

《"リーヴェニ"同じく!!接敵予想時間はおよそ8分!!》

《こちら!"ガダルカナル"!!傾斜角が25°を突破!!艦首沈下!復元ならず!!遺憾ながら本艦を放棄する!!総員甲板へ退去!!!急げ!!》

《傾斜復元急げ!!注水遅いよ!!この"オンタリオ"を沈めるわけにはいかん!!持ち堪えろ!!》

《死傷者多数だ!!応援を!!》

 

艦隊に衝撃が走る。遂に来た!!海の悪魔が!!情報は!!

 

《来ました!!前線の"ドン・エスカルゴ"より!!"ゴッグ"と敵潜水艦の位置です!!》

《水雷確認!!回避だ!取ーり舵いっぱァい!!》

《バープル3の反応ロスト!!パープル小隊壊滅!!》

《くそ!もっと人手を!!》

《"オンタリオ"!!"ガダルカナル"の救助を!!》

《第2砲塔へ火が回る!!消火剤をもっと!!》

 

来たぁ!!やっとだ!!さぁて!!反撃と行こうか!!

 

《……よぉーし!!全艦!!ポイントフォックストロット57へ飽和攻撃開始!!弾をケチるな!!うちーかたはじめー!!!》

 

その時、艦隊が一斉に火を吹いた。

その光はまるで艦隊そのものが吹き飛んだのかと錯覚するかのような凄まじい閃光だった。

 

主砲が、ミサイルが、速射砲が、あらゆる破壊をもたらす弾丸が降り注ぎ、炸裂する。

まるで海そのものをひっくり返したようだ。

少尉の"ザクII"も"フットミサイル"を撃ち放し、パージする。とどめとばかりにグレネードを投げ込んで行く。

 

「………やった、か……」

 

誰もが勝利を確信したその時、通信に悲鳴が響いた。

 

《こちらイエロー6!!"ゴッグ"はまだ3機健在!!繰り返す!!"ゴッグ"はまだ3機健在!!》

《ちっ、近づけさせるな!!"ヘッジホッグ"!!"ADSLM"全力展開!!》

《2番砲塔に直撃!!被害確認急げ!!》

《少尉!!今の!!》

「聞いている!!弾幕を張れ!!無いよかマシだ!!」

 

くっ!!あれだけやってまだか!!何てヤツを開発しやがった!!

 

《こちら"リーヴェニ"!!船体側部に衝撃!!隔壁閉鎖間に合いません!!》

《"アンデス"へ寄れ!!引き付けるんだ!!》

《こちら"オンタリオ"!!"アカギ"の船体に"ゴッグ"が張り付いている!!指示を!!》

《こちら"ガスコーニュ"船体側部に被弾!!ダメージコントロール間に合わない!!助けてくれ!!》

《"アンデス"!!"ゴッグが向かっているぞ!!》

《救護班!!こっちだ!!早く!!》

 

その時"アカギ"に張り付いていた"ゴッグ"が爆散した。自爆覚悟の決死の反撃を行い、ズタボロの"ゴッグ"と轟沈、運命を共にする。

 

《"アカギ"轟沈!!》

《"ラッパーホルン"機関停止!!傾斜角18°!!》

《第5セクション被弾!火災発生!、負傷者多数!!救援を!!》

《こちら第4銃座!!弾が足りない!!送ってくれ!!》

《こちら"ガスコーニュ"!!傾斜回復!!何とか持ち直した!!継戦する!!》

 

ぐらり、と地面が揺れた。いや、違う。"アンデス"の左舷飛行甲板の端に、"クロー"が覗いている!!

 

「退避しろ!!"ゴッグ"に取り付かれた!!」

《今の音はなんだぁ!!》

《機関室浸水!!出力低下!!》

《こっちでも火災だ!!消火!消火ぁ!!》

 

言うのが早いか"ゴッグ"がその巨体をさらし、メガ粒子砲を撃つ。巻き込まれた"アンデス"主砲、"ロクイチ"、"マゼラ・アタック"が爆散する。

 

「よくも!!これでも!!喰らえぇ!!」

 

"ゴッグ"へ"ザクバズーカ"を放つ。手をクロスさせた"ゴッグ"の両腕を吹き飛ばすも、機体はまだ動いていた。

 

「どけどけどけぇ!!うおぉぉぉぉお!!」

 

突っ込みながら"ザクマシンガン"をフルオートで撃ち込む。既にダメージを喰らっていた"ゴッグ"に120mm弾が降り注ぎ、その巨体が震える。

 

「バぁケモノめぇ!!………………っ!だらぁっ!!」

 

走りつつスラスターを吹かし、"ザクII"の出来る最大限の力で体当たりをかます。"ゴッグ"の巨体が揺らぎ、"アンデス"から落ちて行く。着水後、その巨体が爆散、派手な水飛沫を散らす。

 

「伍長!!軍曹!!無事か!!」

《な、何とかぁ〜……》

《……問題ない。戦闘を継続する…》

 

良かった!!ほんとに良かった!!無事か!!

 

《こちらタイガー2!!敵潜水艦2隻が轟沈!!》

《待ってくれ!!まだ!あいつが!!閉鎖をやめてくれぇ!!》

《アリゲーター6だ!最後の"ザク"をヤッた!!後は潜水艦のみ!!》

《こちらイエロー4!後ろに付かれた!!援護を!!》

《面舵20!戦列を乱すな!!》

 

"ドン・エスカルゴ"も戦果を上げ始めていた。制空権の確保に手間取ったが、よくやってくれた!!

 

「……後、1機!!」

《こちら"ヴァジュラ"。敵潜水艦撃沈。追撃する》

《敵を本艦に引き付けろ!!》

《こちらゴールド1!敵戦闘機撤退しつつあり!!追撃指示を!!》

《……うぅ、気持ち悪い……》

 

ボゴンっ!!足元から激しい振動が来た。ぐらりと甲板が再び揺れ、妙な浮遊感が………ん?

 

まさか!!

 

《少尉ぃ!!》

《……!! 少尉!》

《"ザクII"が落ちたぞ!!》

《海水注入開始!!急ぎ撤退せよ!!》

 

やっべぇ!!ヤられる!!"ザクII"に勝ち目は無い!!

 

《早く上がれ少尉!!"ザクII"じゃ!!》

「くっそ!!制御が! !」

 

目の前を何かが高速で通り過ぎ、機体が揺すぶられる。

 

目の前の暗い水の中、怪しく輝くモノアイ……。

 

「っ!! 逃げっ!」

 

激しい衝撃。"ゴッグ"が"ザクII"の左脚を掴んでいた。ダメージアラートが鳴り響き、左脚が軽く握り潰され圧壊。千切れる。

 

"ゴッグ"の"クロー"が目の前で翻り、まさに今少尉を串刺しにせんとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………死ぬ……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不思議と冷静だった。アラート音も通信機からの悲鳴も何故か遠くから聞こえる様だ。目の前がスローで動く。何もかもが、ゆっくりと……。一度経験した、死へ近づいた時に似ていた。

なぜか、とても懐かしい………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……俺は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やる事が分かった気がした。それより先に身体が動く。右足が勝手にフットペダルを蹴飛ばし、腕は操縦稈を動かしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

回る様な最低限の動きで"ザクII"が身を逸らし、"クロー"が擦る。

 

 

 

 

 

 

「……沈め………!」

 

 

 

 

 

 

その流れる様な動作のまま、一回転した"ザクII"が勢いを殺さず"ムラマサ"を"ゴッグ"腹部中央のコクピットへ突き立てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泡を吹き、ゆっくり沈み行く"ゴッグ"から離れ、"ザクII"がスラスターを吹かし上昇、離水する。

 

片脚を失った"ザクII"が甲板に崩れ落ち、その背後、遥か後方で水柱が立つ。

 

その水柱は、ジオン潜水艦部隊が遂に壊滅した事を告げていた。

 

"ザクII"へ人がどんどん集まり、走り寄って行く。

少尉はその事を知らない。

 

気絶した少尉が目を覚ますのは、まだ先の事だった。

 

 

 

 

『水は生きている。生きて、呼吸をして、揺れている。人は、ただそれに身を預ければいい』

 

 

 

海は、再び静かに揺れるのみ……………………





























疲れました。

少尉がなぜゴッグを倒せたか、解説は次回に…………。

ちなみに少尉がゴッグには対空能力が無いと言っていますが、背泳ぎのような状態でメガ粒子を上空に放てます。しかし命中率は低く、ドンエスカルゴのいい的だったということです。

ではでは。読んでいただきありがとうございました。感想、ご意見待ってます。

次回 第二十五章 赤道の彼方へと

「……そっすか……俺ってホントバカ……」

お楽しみに!!


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第二十五章 赤道の彼方へと

大西洋編、完結!!

ここで、長きに渡り旅を続けた少尉達が、一先ずの終着を迎えます。

では、どうぞ。


葬式とは、何であろうか。

 

人は死んだら終わりだ。そこから先に感傷はない。

 

しかし人は葬儀を行う。死んだ者へ、届かぬ祈りを捧げる。

 

葬式は、死んだ者へ向けられる物でない。

 

生者の、心を整理する自己満足に過ぎない。

 

死者は何も言わない。

 

何も気にしない。

 

生きている者たちだけが、死者を気にするのだ。

 

 

 

U.C. 0079 6.12

 

 

 

『死んでいった英霊へ………敬礼!!』

 

空砲が鳴り響く。誰も言葉を発しない。ただ、空砲だけが鳴り響き、静かな海を揺らすだけだ。

 

"アキズキ"、"ガダルカナル"、"アカギ"、"リーヴェニ"。

 

艦隊の大半が撃沈され、残った艦も手負いばかりだ。

機関部が破壊され、自力航行が出来なくなった"ラッパーホルン"も雷撃処分され、残ったのはたった4隻となってしまった。

 

比較的ダメージの少なかった"アンデス"、"ヴァジュラ"はともかく、左舷スクリューと方向梶を破壊され蛇行する"オンタリオ"、船体側部に大穴を開けられ、注排水装置に異常を来たし今だに傾いたままの"ガスコーニュ"。

"アンデス"も搭載艦載機の大半が落とされ、主砲も大破。陸戦ユニットも主力兵器である"ロクイチ"、"マゼラ・アタック"は撃破され、虎の子の兵器"ザクII"もその武装の殆どを使い切った上大破という目も当てられない状態だ。

 

船団は既に死に体だった。

 

『諸君。この戦いを忘れてはならない。目を背けてはならない。そして、我々はこの犠牲の上で、絶対に"ジャブロー"へ辿り着かなければならない。

諸君らの、一層の努力奮励に期待する。以上だ』

 

最後の空砲が撃ち放たれる。しょっぱいのは、潮風の所為だけでは無かった。

 

式が終わり、少尉は"アンデス"内のブリーフィングルームへ向かっていた。そこではおやっさんが今回の"ザクII"のレコーダー解析を行っているはずだった。あの後気絶していた少尉は軍曹に助け出され、起きたらまた伍長スタートだったのだ。

 

「おう!身体の具合はどうだ!大将!」

「検査では異常なしです。ぐっすり寝て快復しましたよ」

「……良かったよ。あの時、よく生きてたな」

「……その件でお話が。俺はよく覚えていないので、レコーダーを解析願いたいんです」

「ん?もうやったぞ?」

「! 結果は?」

 

おやっさんがニヤニヤ笑始める。なんだ?どういうんだ?

 

「何も無かった、それだけだ」

「まさか!」

 

なら、"アレ"は何だったんだ?走馬灯的なアレは?俺の特殊能力発動ッ!!とか無いの!?

 

「強いて言うなら、運が良かったな、とだけだ。解析結果とレコーダー、見てみるか?」

「はい!お願いします!」

 

おやっさんが手元の端末を弄り、スクリーンに映像が映る。画面の中で、"ザクII"視点から水に落ち、"ゴッグ"に脚を………アレ?何か遅くね?スロー再生?

 

「……何か、遅くないスか?」

「水中だからな」

 

素っ気ない返事が帰って来る。いや、そうだけど………こんなノンビリしてたの?何かほのぼのするレベルだよコレ?

 

そのまま"ゴッグ"の"クロー"が……これも遅い!!

 

「な、何でこんなに……」

「コレか、そりゃそうだろ。こんなウチワみてーなデカい手を水中で素早く振れる訳無いだろ?それにこの"クロー"は対艦攻撃用だ。相手の質量がデカイか、身体を固定しないと早く振ったり大ダメージを与えたり出来ねぇんだよ。この浅さでは水圧も関係無いし、一瞬の動きなら、"ザクII"の方が細い分早いぞ?」

 

んなアホな。でも、俺はあの時……!

 

画面が回転し、軽い振動と、コクピットを貫かれ沈む"ゴッグ"が大写しになる。映像はそこで終わっていた。

 

「……解析の結果は?」

「なんでそんな気になるんだ?結果は、まぁ、反応速度は確かに上がってたよ」

 

やはりか!!何か、こう!感じたんだよな!!まさかエースパイロットフラグか!?

 

「そうですか!!どれくらい!?」

「誤差程度。パーセンテージで言ったら6%位?」

 

思わずズッコケる。なんだそりゃ!?

 

「……さらに、このデータ。近い物を見つけた。剣道などでカウンター気味に一本を決めたデータとかだ。スポーツとかで似た様なデータがズラズラ出て来たぞ?まぁ、本能的に動いたんだろ。俗に言われる、火事場の馬鹿力とか、"ゾーン"と呼ばれるヤツに近いか?」

「……す、スポーツの延長すか……」

 

いや、確かにスポーツ中とか、事故る一瞬手前的な感じはしてたけど……マジか……なんか、無いの?アニメ的なヤツ………よーするに、よく言われる脳が一瞬だけ本気出すとか、そーゆー奴?

 

「因みにその反応速度もトップアスリートの半分以下だ」

「…………続けて下さい……」

 

さらにニヤニヤが大きくなって行く。

 

「……ほ、他に要因は?」

「水流だな。コレが一番デカいかもな。………いや、最大の要因はコレだな。高速航行する"アンデス"の隣だったろ?そのバルバス・バウの出す渦に巻き込まれてかなり機体が振り回される様に動いてんだ。特に脚一本分軽くなってたしな……」

 

結論。奇跡(偶然)はあったけど魔法は無かった。

 

「……そっすか……俺ってホントバカ……」

「うははははっ!!運が良かったな大将!!」

「……デスよねー……」

 

バンバン肩を叩いてくるおやっさんに、そう返すしかなかった。

 

やっぱ、アニメのヒーローみたいなのは無かったな………一般人だとは自覚してたけど………夢が無いなぁ…………。

 

「…………はぁ…………」

 

肩を落とし、溜息をつく。その溜息も、波を掻き分ける音に消えて行った。

 

 

 

U.C. 0079 6.15

 

 

 

「コンタクトありました!!"ジャブロー"からです!!」

 

おお〜っ!!とブリッジがどよめく。やっとだ。やっとなのだ。

 

「……読み上げろ」

「『迎えを寄越す。その指示に従われたし』、です!」

 

その数分後、空がキラッと光り、3機の戦闘機が近付いて来た。赤、白、青というド派手な配色の小型の戦闘機だ。

 

「やっとですね!!少尉!!」

「あぁ……長かった……」

 

"キャリフォルニア・ベース"から脱出して、3ヶ月か?

全てがすごい懐かしい。本当に、ここまで来た、来れたんだな。

 

「……少尉。改めて、礼を言いたい………我々を、良くぞ導いてくれた…………感謝する……」

「………軍曹…」

「なぁーにしみったれてんだ!!遂に到着だぜ!?ド派手に行こうや!!」

「おやっさんまで……みんな、ありがとう……」

「……提督。甲板に出て見てはどうだね?後は我々がやる。 ………その喜びは、旅団全員で味わうべきだ……」

「は、はい!ありがとうございます!!では、お言葉に甘えて……行こう!!」

「はい!!」

「…あぁ……」

「だな!!」

 

4人で艦橋を飛び出し、飛行甲板へ。

 

そこでは既に整備兵達が勢揃いしていた。誰もが誰も笑顔だ。

 

その笑顔が見れた。ただその事実が嬉しかった。

 

「野郎ども!!胴上げだ!!」

「「おう!!」」

 

たちまち担ぎ上げられ、放られる。

みんな、みんな、俺なんかを信じてここまでやって来てくれた。

放られる少尉の上を戦闘機が飛び過ぎ、その上にはまるで少尉達を祝福するかのように虹が架かり、鳥が飛び交っていた。

 

 

 

 

 

 

岸壁かと思っていた部分の一部がズレ、大きな洞穴が口を開け、そこへ"アンデス"を先頭に艦隊が入っていく。

 

まさかこんなところに……さっき、『"ジャブロー"って言ってますが……何にも見えませんねぇ…』とつまらなそうに言っていた伍長が目を輝かせている。現金すな。

 

艦隊を丸々招き入れても十分に空いている大型ドッグのハッチが閉まり、"アンデス"はその傷付いた巨大な船体をドッグへ停めた。

 

「……ありがとうございました中佐。中佐のお陰で、遂にこの"ジャブロー"に到達する事が出来ました」

「……いや。我々は当然の事をしたまでだ。それに、提督達が居なければ、この艦隊は全滅していただろう。こちらこそ礼をいわせてくれ…」

 

"アンデス"艦橋で少尉と中佐が握手をする。基本的に管轄が全く違う上、階級もかなりの差があるのだ。地球は広く、連邦軍は大きい。もう二度と会う事は無いだろう。

 

「……では、行こうか……」

「はい……」

 

2人を先頭にしタラップを降りて行く。並んで敬礼をする人数に圧倒されつつもその歩みは止めない。

 

「ようこそ。地球連邦軍総司令部、"ジャブロー"へ。私はこの"ジャブロー"軍港区画、通称西区画の全権を任されている……」

 

目の前の准将の階級を付けたおっさんが敬礼しつつ挨拶する。

 

「私は"パナマ・ベース"所属、航空母艦"アンデス"艦長の……」

「私は北米"キャリフォルニア・ベース"所属の……」

 

敬礼しつつ挨拶を交わすが、内心ガックガクだ。俺だけ階級も年齢も違い過ぎだろ!!何で平気な顔して並んでんの!?

 

「お話は伺っております。長旅ご苦労さまでした。どうぞこちらへ……」

 

その准将のおっさんの付き人みたいな人について行く。ここで中佐とはお別れだ。

本当に、本当にお世話になりました。

お互い、無事にこの戦争に勝てる事を祈りつつもう一度敬礼をする。真っ直ぐこちらを見つめ返す中佐の目は暖かった。

 

「どうぞお乗り下さい。施設へ案内します」

 

エレカに乗りハイウェイを走る。見上げて天井の高さに驚く。その天井のあちこちに大型の照明がついていて中はまるで昼間の様に明るい。本当に地下かよここ。

 

「ここです」

 

そこは地下に立つビル群の一画だった。ハイウェイが直接施設に繋がっている。

 

「お疲れでしょう。今夜はここでお泊まりください。明日、司令部へ報告に出向いて頂きますので………。何かある場合は内線をお使い下さい。では……」

 

付き人らしき人はエレカに乗って去って行った。内装は豪華で、明らかに俺たち向けでは無かった。

 

「す、凄いね……」

「……そうだな。荷物は届けて有るってよ。じゃ、ここで解散だな…………。

………………皆、今までついて来てくれて、本当にありがとう。我が旅団は遂に、最終目的地"ジャブロー"に到達する事が出来た……」

 

皆が真剣な目をこちらへ向ける。あぁ、これも最後になるのか……長かったな。被害も多かった。

でも、着いた。着いたんだ。

 

「……これは諸君らの努力の結果に他ならない。俺がした事など何もない。皆、今まで俺を支えて、信じてくれてありがとう。

…………現時点を持って、"サムライ旅団"を解散とし、諸君らの任を解く。以上だ………」

 

敬礼をし、敬礼される。

少尉は振り返らず、当てがわれた自室へ向かった。

 

少尉は、決して振り返らなかった。

 

 

 

 

 

「………ふぅ……」

 

自室のベッドに転がる。当てがわれた部屋は佐官用の豪華な1人部屋だ。しかし少尉の手荷物は皆無に等しいので、逆に寒々しく見えた。

 

「……明日、か………」

 

そうだ、これからだ。これからどうなるのか、検討もつかない。

 

「………敵前逃亡とか言われて銃殺刑!…とかねぇよな、流石に……」

 

いや、あり得るかも。ここまでやって来るにかなり危ない橋も渡って来た。偽造書類などの犯罪もだ。

 

「…………………」

 

考え込む。代表は俺だ。いざという時は俺が権力を盾に脅して無理矢理……という事にしよう。生贄は必要だが、少ないほどいい。

 

伍長も軍曹も、おやっさんも優秀だ。これから始まる戦争で引く手数多だろう。みんなにみんな将来がある。

 

俺にある物は、なんだ…………?

 

トントン、とドアがノックされる。証拠隠滅のためズドン、とか無いよな?俺たちは完全なイレギュラーで、ここは連邦の最高機密が集まるとこだ。何があっても驚かない。お偉いさんの中には、俺達がいる事で不利益を被る奴もいそうだし……。

 

「少尉ー?いいですかー?」

「……あぁ、良いぞ」

 

伍長か。手にした棒を置く。何の用だろうか?

 

「少尉!!お疲れ様!!」

「………いい酒を、持って来た……」

「乾杯と行こうか!!大将!!うははははっ!!」

「………みんな……」

 

そこにはいつもの面子が揃っていた。

 

笑顔ではしゃぐ伍長。

 

相変わらず無表情に近い軍曹。

 

酒瓶片手に豪快に笑うおやっさん。

 

「………ふっ、ふふふ、あーっはっはっはっはっ!!」

「そうだそうだ!!笑っとけ笑っとけ!!うははははっ!!」

「あははははっ!!」

「………ふっ……」

 

でも、それは明日だ。

 

過去は変わらないが、明日は分からない。

 

だから………

 

「「カンパーイ!!」」

 

今日位、笑って、喜んで、いいよな…………。

 

この4人で…………………。

 

 

 

『旅路の果てに、笑顔の輝きがあらん事を……』

 

 

 

終点は、出発点へと………………




以上、無責任提督少尉ー編終了です。

次回より、ジャブロー編開始です!いってみよぉーっ!!

いろいろやらかしまくった少尉達に下される判断とは!

少尉達の命運や如何に!!

少尉のアレはマジでこんなヤツです。興奮していて、後で振り返るとアレ?ってなるのにも近いです。
走馬灯など、人間は死を感じると脳が本気をだし、スローに感じるなど言いますが、仮にスローとなろうと、身体の速度は変わらないので、本能的な回避を行ったに近いです。
武術設定が活かせた、かな?

最大の要因はおやっさんの言う通りですけど(笑)。

次回 第二十六章 ジャブローにて……

「………そうか……いいママンを、持ったな……」

お楽しみに!!


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第二十六章 ジャブローにて……

ジャブロー編、スタート!!

連邦軍総司令部にて、少尉はどうなるのか。

どうぞ、ご覧下さい!


軍隊は維持される事に意味がある。

 

常にそこにあり、抑止力として、有事の際の備えとして。

 

存在そのものに意味があるのだ。

 

そのため、常に消費し、維持しなければならない。

 

軍隊の維持が大変なのは、有事で無く、平時だ。

 

その点、軍隊は常に、"平和"と戦っているのだ。

 

 

 

U.C. 0079 6.14

 

 

 

ドアが叩かれ、声がかかる。

 

「少尉、お時間です」

「はい、分かりました。今向かいます」

 

この前とは違う人に呼び出され、外へ出る。時間は午後2時、天気予報によるとスコールが上がり晴れ渡っているらしい。地下なので関係無いが。

 

運命の時間がやって来た。軍人として、人としての人生が懸かった"運命の別れ目"(ニック・オブ・タイム)だ。

パチン、と両手で頬を張り、気合を入れる。

その少尉の姿は正装だ。何時もの様なややくたびれたサービスユニフォームと呼ばれる常勤服ではない。

 

「お待たせして申し訳ありません。では、行きましょうか」

 

エレカに乗り込む。どこにでもあるヤシマ重工製のだ。最期に乗れるのがコイツでよかった。何の因果かそれこそ5歳の頃から乗り回している、初めて乗って運転したものと同じタイプだった。

 

上層部からの出頭命令、その先に待つのは破滅しか見えない。つーか犯罪ばっかやってたからね。今俺サイコパスで犯罪係数計ったら振り切れてそうだもの。デコンポーザーでバラッバラにされるね多分。

 

「俺の人生は晴れときどき大荒れ……いいね…いい人生だよ、全く…」

 

少尉は覚悟を決める。家族に迷惑は掛けたくないが、幸い少尉は次男だ。まだマシだろう。戦死とかと家族には伝えて欲しいと思っていた。

正直力一杯やった。悔いは無かった。ただ、心残りとすれば………

 

「? どうかしました?」

「……いえ、ただ……」

 

最期に、この岩盤の上に広がっているであろう、どこまでも透き通る、その青い、蒼い空を飛びたかった。

 

 

 

「よく来たね、話は聞いているよ少尉、入りたまえ」

「はっ。失礼します」

 

大きな建物に着き、会議室に通される。中には料理屋の全料理を載せても余るだろうほどの円卓に、准将、少将、中将などの階級章をつけたおっさんが沢山いた。帰りたい。

 

今まで連れ添って来た人も出て行ってしまい、全員50は過ぎているだろう中に少尉がポツンと残される。

 

汗が止まらない。心臓は口からは出ないだろうが肋骨をへし折りそうなほど大騒ぎしている。口の中はカラカラに渇き、やや歯がカチカチと耳障りな音で鳴っている。

 

「そう緊張するな少尉。別にとって食おうなどとは思っておらんよ」

「……は、はいっ!…しかし、手の震えが止まりません…」

 

入室を呼び掛けたであろう目の前の中将が声をかける。

 

いっそのこと吹っ切れようかな。緊張するなとか意味の分からん事言ってきてるし。これで緊張しない奴は余程のバカか、それ程のバカだけだ。

 

「……挨拶はそこまでだ。少尉、聞きたい事がある…」

「は、はいっ!」

 

遂に終わりの始まりがぁぁっ!!グッバイ俺!!青汁と夜空の似合う男だったぜ!!

 

…………が、来た質問は考えていた物とは違った。

 

「あのMS、"ザク"、と言ったか…」

「こ、肯定です」

「どうだったかね?」

「………は、は?」

 

あり?どうだった、って……。

 

① もちろん、最高でした!!

→そうか、連邦の兵器は使えない、と……。→死。

② ダメダメでしたね。使えたもんじゃありませんよ。

→ならなぜ使ったんだ?それもなぜ連絡も無しに。→死。

③ ところでクールでウィットの聞いたジョークなどどうですか?

→即死。

④そんな事より、聞いてた以上にエアコン効いてないですね。

→死ぬ。現実は非情である。

 

どうしよう………。Death or Dieなんだけど。ものっそいロックンロールしてんだけど。

 

「し、質問の意図が図りかねますが……」

「君自身の正直な感想が欲しい」

 

あぁっ!?適当にその場を濁そうと思ったのに!!

…………どうせ死ぬならいいか……。

 

「…………驚くべき性能です。既存の兵器の性能を遥かに凌駕しています」

「ほう……」

 

中将が考え込む。なにやらブツブツうるさい。その隣の少将が問いかける。

 

「…ふむ、何故わざわざ"キャリフォルニア・ベース"からこの"ジャブロー"まで来たのかね?」

 

………………………なんとなーく安全そうだったから、という思いつきです、とか言えねぇ!!

 

「それは、ジオン軍物資集積所を襲撃、MS奪取に成功した為、一刻も早く本格的な解析を行うためです!」

「………あのトラックは?」

 

……………………………………。っべぇ。本日最大のピンチが立て続けに!!冬は毎日この冬最も冷え込むけどさ!!

 

「……スクラップを、修理しました…」

 

嘘は言ってない!!ただ!修理の際に色々(・・)やっただけです!!それはもう!!色々(・・)と!!

 

「近くで海戦が発生し、その前には敵軍に奪取された海軍基地が破壊された。これも少尉達で間違いないな?」

「はい。全て私の責任です」

「"メキシコ・シティ"や"パナマ・ベース"もか?」

「はい!」

「敵MSとの交戦は?」

「複数回あります」

 

全員からの質問に答えて行く。はぁ、遺書、書き直しときゃよかった。家族だけでなく、お世話になった伍長、軍曹、おやっさんにも何か残したい。………今残せんのカロリーメイトだけだけど。

 

「"キャリフォルニア・ベース"撤退時には何を?」

「攻撃機に乗り撃墜され、救出されました」

「なぜ旅団の指揮を?」

「私が最高階級でした」

「"ザク"は撃破したか?」

「はい。"61式戦車"との波状攻撃が有効だと……」

 

さっきから黒人の中将戦闘に関してしか聞いてないけどいいのか?周り見てよ!変な顔してるよ!!

 

「君のサイドアーム、正式採用品では無いようだが……」

「はい。ジオン軍の物を鹵獲しました」

「鹵獲兵器を多数利用していたようだな」

「はい。旅団を守るに、戦力不足と判断。敵物資集積所襲撃と鹵獲を繰り返しました」

 

はぁ、おやっさんがいたらまだ心強いのに。

 

………いや、上官侮辱罪で射殺されかねん…。

 

「物資補給は?」

「立ち寄った基地からです」

 

偽造書類とハッタリ、嘘でな!!

 

「……正規兵は3人のみと聞いたが……」

「肯定です。その他は整備員のみです」

 

コレ、マズいかもなぁ。

 

………いや、基本的に全てマズイんだけどね?

 

取り調べというか尋問というかは約2時間に及んだ。ふざけんなよ?こっちガッチガチになって立ちっぱなしだぞ?

 

途中から昔話とか始めやがる奴もいるし………。お茶を飲み飲み何やってんの!?

全く、参謀長だとかといい情報局長などといい、『長』と肩書きにつく奴は話が長くて仕方がない。そんなの校長とかで聞き飽きてんだよ。

根掘り葉掘り聞きやがって。つーか葉掘りって何?芋でも掘ってろよ。

 

「うむ。皆、他に無いな?」

 

やっとか。ここでまだある!とか手ェ挙げんなよ?早く帰らしてくれ。軍曹がコーヒー淹れて待ってくれてんだよ。伍長は『ピンクのイルカ!?何それ見てくる』っつって飛び出して行ったけど、ピラルクか何かに食われてねぇよな?

ちなみにピンクでもあんま可愛くはないと思うよ?

 

「長時間すまなかったな少尉。顔に出てるぞ?」

 

ここでミスったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?!???!!!

 

「も、申し訳ありません!!」

「冗談だよ」

 

ぶん殴るぞこの。こちらとてあんたらの冗談一つで首どころか存在が消し飛ぶんだぞ?笑ってんじゃねぇよ笑えねぇ冗談だよ。

やはりここは俺がクールでウィットに富んだ……。

 

「これからの事は後日連絡する。下がりたまえ」

「はっ!失礼します」

 

部屋を出る。曲がり角まで歩き、曲がった瞬間走り出す。

 

後日っていつだぁぁぁぁぁぁ!?

 

送り迎えを断りエレカへ飛び乗る。

 

胸中を様々な物が過ぎり落ち着かないため風にでも当たろうとフルスロットルで飛ばす。

 

 

………憲兵(MP)にスピードオーバーで捕まり説教された。

 

「……全く」

「……ごめんなさい」

 

そんな怒んなくていいじゃん。怒鳴ることはないじゃん。

 

「…さぁ、とっとと帰った帰った。フラミンゴも鳴いてるぞ?あんまり遅いとママンに鍋に放り込まれてグツグツ煮られるぜ?」

 

いや、説教長引かせたのアンタでしょ。悪いのはおれだけどさ。

 

「いやそんな人いませんよ!!ウチの母さんは優しい事で近所で有名だったんですよ!?」

「………そうか……いいママンを、持ったな……」

 

涙ぐまなくても。

 

…………つーかアンタの過去に何があったんだ!!

気になって夜しか眠れねーよ!!図らずとも老人ライクな健康生活送っちまうよ!!

 

「……そ、そうか……変わった母親だな……」

「んなこたぁねぇ!!100人に聞けば100人がそうだと答えるだろうよ!!」

 

同類100人に聞けばな。多分その次の1人は違うだろ。口が裂けても言えないが……。言ったら警棒でブン殴られそうな勢いだコイツ……。働けよ頼むから。

 

 

 

「………はぁ、ただいま……」

 

疲れた。いろんな意味で。特に最後のママトーク。なんだよアイツ。メアド渡されたよ。本当になんだよアイツ!?

 

「……少尉、ご苦労様……」

「…あぁ、ありがとう軍曹…」

 

部屋に戻ると軍曹がコーヒーを淹れて待っていてくれた。コーヒーを受け取り一口飲む。これは……

 

「………旨いな」

「……ここら辺の、特産品らしい……少尉が、好みそうだから、貰って来た……」

「………いつも、ありがとうな、軍曹……」

「……当然の事。少尉には、恩がある……それに、一番、信頼出来る……」

 

その過大評価はどっから来んだろ?いつも思うんだが。

 

「……あっ、少尉、お疲れさまー。どーでした?」

「……なんか、元気ないな伍長…」

 

やっぱ可愛く無かったのかイルカ。横に座り、軍曹からコーヒーを受け取っている。クリームにチョコレートまみれだ。俺も甘い物が好きでコーヒーにはミルクと砂糖は入れるが、それは………コーヒーに謝れよ。ココア飲めココア。

 

「イルカ、どうだったんだ?」

「カッコ良くなかったです」

 

何を期待したんだよイルカに。

 

「……そういやおやっさんは?」

 

話題を逸らす。気になるが今はどうでもいい。俺はどちらかと言うと実は臆病らしいピラニアを見てみたい。

 

「お出掛けだって。しばらく帰らないって言ってましたよ?」

「……処分決まって無いんだが…」

「……処分…」

 

軍曹が反応する。その時呼び出しのアナウンスが流れる。軍曹、伍長それにおやっさんもだ。いや、後日って早過ぎだろアホか。

 

「………決まったか」

「……行こう、か…」

「わぁ、私達もしかして有名人ですか!?」

 

指定された部屋へ向かいつつなんでやねん、と突っ込んでおく。どういう発想でその結論に至ったか教えて欲しい。

 

おやっさんどうするんやろ?まぁ、あの人なら大丈夫か、な?

 

「……例の3人だな、では、異動を命じる」

 

部屋は机とイスがあるだけの簡素な一室だった。そこに書類を持ったおっさんがいて確認を取った後話始めた。

異動、という言葉にホッとする。異動っつー事は、まぁ死刑や懲罰はなさそうだ。

 

「3名は"キャリフォルニア・ベース"所属から、"ジャブロー"所属となる。役職は警備だ」

「3名とも、でありますか?」

「そうだ」

「わっ!やったね2人とも!!また一緒だよ!!」

 

上官の前で騒ぐな!!つーかナニコレ?栄転とかいう奴?まぁ、殺されなくて良かった。

 

「……警備…?」

 

いや待て?軍曹の疑問も最もだ。なんでやねん。つーか友軍は戦っているんだから、"ザクII"を寄越せとは言わないから機体が欲しかった。

 

「そうだ。一日一回、基地内の割り当てられた地域を巡回してもらう。それだけだ」

 

MPの仕事だろそれ!!アレか!?島流しか!?こんな下っ端流してどうする!!

 

まぁ、安いもんか……。軍曹や伍長がコレをどう思っているか知らないが俺は………。

 

まっ、いいか。有給もらったよーなもんだ。いつまで続くかは知らんけど。

 

少尉はよく伍長をポジティブだ楽観的だどんな思考回路だと言うが、少尉の思考回路もそんなもんだった。

 

「聞いた少尉!!やったね!!」

 

あっそう。ならいいや。軍曹もふつーな顔してるし。最近軍曹のビミョーな表情の違いがわかるようになってきた。もっと笑えばいいのに。何のためのイケメンだよ。無表情でも十分イケメンだけど。

 

「その事だが……」

 

まだなんかあった!!しかも俺に!!

まぁ、どうでもいいな。減給されようが何されようが……。

 

「少尉はこれまでの功績から、一階級昇進して中尉となった。これが新しい階級章だ。以上で終わりだ。質問は?無いな?では解散!」

「ちょっ…」

 

担当官が早足で出て行く。質問させてよ!!働けこの!!

 

「うわぁっ!!いいなー少尉!じゃなくて中尉!!よかったですねしょ…中尉!!」

「……おめでとう…」

「あ、ありがとう……」

 

別にあんまり……。もとから出世欲無いし、どーでもいい。でも、責任増えるのはなぁ……。しょーじきいつもの3人が居ればそれで……。

 

「今日はパーティーしましょうよしょう……中尉!!」

「……あー、呼び辛いならどうでもイイぞ?」

 

こだわりないし。

 

「……これで、整備班長と、同じだな……」

「えっ?」

「そうなの?」

「?……整備班長は中尉だが……?」

 

…………………………………………………。

 

俺や軍曹、伍長がどんな思いを……なーにが『階級は少尉が一番上』だぁ!!……青春の光と影をもてあそびやがってあのタヌキ親父ぃ!!

 

「…………の…………」

「の?の、何です?」

「……悪かった。気の毒なわ事を…………」

「呪ってやるぅ〜っ!!」

 

…勝てないなぁ………。つーか、よく考えたら、役職的にそうか………。

 

ふふ、と笑いが漏れる。最近笑ってばっかだ。

そんな少尉を見つめる伍長も笑顔で、軍曹も喜んでいるようだった。

 

幸せって、事、か………な…?

 

 

 

『階級が全てだ。世界は、それで決まる。平等なんて幻想は、あればあるだけ邪魔なだけだ』

 

 

 

見上げても岩しかねぇよ………………




何とか首皮一枚繋がりました少尉もとい中尉。

でも閑職行きです。

最近、前書き後書き前後電波文ネタがつきかけです。でもフツーに本文だけだと、なんかさみしいんですよねぇ。

次回 第二十七章 ダラダラ日記

「私の前世なんだが実はアメリカシロヒトリでだな…」

お楽しみに!!

ご意見、ご感想お待ちしております。


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第二十七章 ダラダラ日記

名前の通り、中尉がダラダラするだけです。

コレ、ガンダム?

ガンダムでギャグ調の日常マンガ書いたら売れると思う。

ガンダム+日常系の奇跡のコラボ的な?


社会の歯車、という言葉がある。

 

いくらでも換えが効き、誰でも出来る、という事だ。

 

普段は侮蔑の言葉であろうこの言葉は、もう一つの側面を持つ。

 

その意味は、単純明快であり、真理だ。

 

歯車が無ければ、世界は回らないのだ。

 

その歯車が、どんなに小さかろうとも。

 

 

 

U.C. 0079 6.23

 

 

 

「………暇だ…」

 

思わず呟く。巡回の仕事も終わり、トレーニングも済んだ。基地施設も回ったし、"定期便"も見上げたりもしたが…。

 

「…そうですね……」

 

となりで伍長も呟く。手には読み込まれ擦り切れた"ガンクラブ"が握られている。

 

あれからかれこれ約一週間、本当に暇だった。まぁ、平和って事だよな。この、ロクでも無い、素晴らしき世界へ乾杯!全く。

 

今中尉は伍長の部屋にいる。伍長があまりにも暇すぎて呼んだのだ。将棋など教えてみたが、お気に召さなかったようである。

 

「……どうします?」

「……書類もない。本も雑誌も全部読んじまった。……のんびりお昼寝でもするか?」

「……お付き合いしますよー…」

 

いや、自室へ……と言う前に伍長がタオルケットを持って来る。仕方なく並んで寝る。何故か伍長はうれしそうだったが。

 

眠れず、天井を見つめる。4日前の軍曹との会話を思い出した。こんなに暇な理由も。

 

「……おやっさんも、どうしたんだろう……」

 

あの日から音沙汰無しだ。寝っ転がるうち、今訓練射爆場に居るだろう軍曹との会話が思い出された。

 

 

………………………………………………………………………………

 

 

U.C. 0079 6.19

 

 

それは突然だった。

 

「……気付いているか……?」

「……うん?」

 

休憩室で軍曹とコーヒーを飲んでいた少尉の反応は遅れた。伍長は部屋だった。

3日前伍長が"ジャブロー"内の酒保(PX)で買って来て、一緒に作った"ロクイチ"の模型を飽きずに見つめているのだろう。

何を欲張ったか3輌も買って来たはいいが作れず、軍曹も交え一緒に作ったのだ。

 

「えへへ、これが私の、これが軍曹の、これが少尉のだよ!」

「お、そのための3両か……何とか出来たな。久々だ………」

 

だから乗員の塗装に凝ってたのね。何故にそれが出来て作れなかったんだ?

 

階級こそ中尉となったが、伍長は相変わらず俺を少尉と呼んでいる。軍隊的には良くないのだろうが、俺は気にしていなかった。

 

「……ふむ…」

「……うぉっ!」

「わぁ〜!!」

 

そこそこ作ってきたため自信はあったんだが……。軍曹、知ってたけど、ホントに何でも出来るのな……。

 

「……よし、出来た事だし、トレーニングルームへ…」

「……付き合おう…」

「私はお留守番を…」

「お、ま、え、が!!一番必要なんだよ!!」

「あぁぁ〜」

 

………回想はそれぐらいに、コーヒーの感想を言いつつ軍曹に近づき、耳打ちする。

 

「…監視(コブ)の事か…?」

「……肯定だ…」

 

そうなのだ。ここ数日、距離をやや置きベッタリと。常に監視の目がついて回っている。何をするにでもだ。

それに、緩やかにかつ明確に行動を制限されたり、仕事に関わろうとすると阻止されたりする。

 

「……監視カメラも…しかし、部屋はない……」

「……成る程な…なるべく、固まって行動、基本は部屋に居よう…」

 

ハタから見たらただコーヒーの感想を言い合っているようにしか見えないだろう。しかし、水面下で2人の会議は続いていた。

 

「……引き離すためか……俺は戦車教導団を任命された……」

「…おやっさんも居ない。伍長は俺が付く……」

「……それがいい。伍長も喜ぶだろう、な……」

 

コンッ、と軍曹が一度机を叩き小さいハンドシグナルで監視を知らせた。

 

「……終わりにしよう。無事で……」

「…軍曹も、頼む」

 

ゴゴンッと天井がゆれ、窓にはパラパラと落ちてくる砂が映る。それを流し目で眺めつつ軍曹と別れた。

 

無事で居てくれよ。

 

そう祈る事しか出来ない自分を、改めて自分の無力さを呪った。

 

「しょーうい!」

 

そこに笑顔の伍長がやって来る。"定期便"など気にも留めていないようだった。

 

「おう、伍長か?何をしてたんだ?」

「ルンバの後を追いかけてました!」

 

…………………………。

 

「……今まで?ずっと?」

「はい!!」

 

大丈夫かな本当に。色んな意味で。

 

頭を抱える中尉に伍長が不思議そうな顔で呼びかける。

 

「……だいじょーぶですか?どーしたんです?」

「…いや………」

 

大丈夫じゃねーよ…精神点へのダメージが大きすぎて魔晶石がいくつあっても足りないわ……。何をエンジョイしてんだよこの。

 

「私の前世なんだが実はアメリカシロヒトリでだな…」

「あぁぁ……少尉が遂に大佐になっちゃった…」

 

分かりづら!!そーいや伍長ゲーマーだったな。今はどうでもいいが。

 

「……伍長、話がある。部屋に来てくれ…」

「えぇっ!!はい!分かりましたー!」

 

何でそんなビビったんだか分からんが、まぁいいらしい。伍長を伴い部屋へ向かう。後ろで監視AがBにぶつくさ文句を垂れている。まぁ、延々とルンバを追うアホの子の後ろを延々と尾けてたら、まぁそうなるだろう。情報部の皆様、お疲れ様です。

 

部屋に着き、伍長を座らせココアを出す。コーヒーもいいがコイツもいいもんだ。欲を言うならたまにはお汁粉が飲みたいが。

 

「…伍長、監視については知ってるか?」

「かんし?あ、あの血を止める?」

 

なぜにそっち!?鉗子じゃねぇよ!!

 

「……ええっ!?私たち見張られてるんですか!?」

「そうだ。だからこれからはなるべく2人で行動するぞ」

「分かりました!……なるほどー。だからいつも軍曹と一緒だったんですね!」

「……そうだが……なんだ?」

「2人は付き合ってんじゃないかって噂ですよー!私はそれはあり得ない事知ってるんで何も言いませんでしたけど…」

「………いや、弁解してくれよそこは……」

 

ドッと疲れて来た。二つの意味で。

 

まぁ、人の噂は75日。直ぐに止むやろ。どーでもよかね。

 

「……ま、よろしくな…」

「はい!明日からも頑張りましょー!」

 

前途多難だな。戦ってたほうが気が楽だわ……。

 

 

……………………………………………………………………………………………

 

「……ぃ、しょう…しょうい!少尉!!」

「……あ…うん?どうした?伍長…?」

 

気が付いたら寝ていたようだ。寝ぼけ眼をこすりつつ、伍長に返事をする。

 

「お電話だよ」

「……はぁ…俺に?」

 

伍長から電話を受け取る。自室のドアに張り紙しててよかった。

 

その張り紙に誰かがイタズラし、また新たな噂が立つ事を中尉はまだ知らない。

 

「……はい…」

「君かね?例の中尉とやらは……」

「……失礼ですが、お名前を…」

「あぁ、すまない。申し遅れたな。儂の名前はジョン・コーウェン。階級は准将だ」

 

その言葉を聞いて一瞬で覚醒し跳ね起きる。横で伍長がきゃっ、といいながら転げるが仕方がない。そのまま直立不動の体勢をとり、慌てて弁解する。

 

「も、申し訳ありません!!ただいま……」

「いや、それな聞いておるよ……そこで、今から時間を取れないか?無理にとは……」

「いいえ!直ぐに行かせてもらいます!!……いえ、すみませんが……やはり15分ほど時間をいただけませんか?」

 

電話の向こうで准将が爆笑する。起き上がってなになにと目を輝かせる伍長をあしらいつつ、笑いが収まるのを待つ。

 

「……ふふ、ふ……すまないな、やはり、聞いた通りの人物のようだ…」

「……は、はぁ…」

 

聞いた通り……?

 

「正装の必要は無いが、まぁ、よろしく頼むよ。あと、隣に伍長もいるようだが……」

「はい。どうしました?」

「伍長も連れて来てくれ。場所は……」

 

場所を指定され、電話が切られる。伍長にそれを伝え、2分後にロビーへ集合といいロビーへ向かう。いつものカッコのままだったので、部屋には寄らずトイレでパパッと寝癖を整え、服装を正す。

中尉の癖のある黒髪は一旦は収まったが、鏡から目を離すとまた跳ねていた。中尉はそれに気づかなかったが。

 

ロビーでエレカの手配をしていると、1分半で伍長も来た。2人でエレカに乗り込み、指定された建物へ向かう。

 

「なんでしょーかねー!ワクワクします!!」

「確かに気になるな……。何だろう?」

 

軍曹が追加した盗聴防止装置が働かせたはずなのに働かなかった。向こうから盗聴防止が来ていたのだ。

 

「…何か悪い事でもしたか〜?」

「えっ!そんな! 心当たりは無い、ような……」

 

アレ?何やってんのこの子。前、准将では無いが他の少将を見て『あの人ヅラっぽいですよねー』とか言ってたけど……マジか!?

 

エレカを停め、建物へ。その建物は宇宙港エリア(南区画)付近で一番大きなものだった。

美人の職員さんに誘導され、そのまま目的の部屋のドアの前に立つ美人秘書さんに声をかける。

 

「中尉に、伍長です。ジョン・コーウェン准将の命により出頭いたしました」

「しました」

「話は承っております。どうぞ中へ。准将がお待ちです」

 

2人してついて入る。ドアは見た目が木目調だが、軽合金で出来ているようだ。その滑るように開くドアに伍長は目を丸くしている。

 

「約束の時間より早く来たのに、待ってるんですね」

 

伍長がこそこそ話をするが、そういう話じゃないと思う。

 

「待っていたぞ中尉。それに伍長も。まぁ、かけたまえ」

「はい、失礼します」

「失礼します」

 

ジョン・コーウェン准将はやや太めで、髪は短く、丸い輪郭が柔らかい印象を与える黒人だった。やや緊張しつつも椅子に座る。部屋は会議室も兼ねているのか広めで、椅子もやたらとフカフカだった。

 

「……さて、今日君たちに来てもらったのは他でもない……君たちの今後についてだ…」

 

准将が語り出す。気が付いたら秘書さんは准将の隣で、もう1人別の秘書さんまで来ていた。2人とも美人さんである。

 

「……今の君たちの待遇について、どう思うかね?」

「……と、申しますと…?」

 

未来とか言われてビビったが、待遇?何の話だ?

それに伍長。ポカーンとするな、口閉じろ口。

 

「今の役職についてだ。正直に言って欲しい…」

「……不満、です。友軍は戦っているのに、ここで……」

「……そうか、やはり、な……」

 

准将が立ち上がり、歩み寄ってくる。その顔にはいたずらっぽい笑みが浮かんでいた。焦る、何かまた口滑らしたか?

 

「……MSは、どうかね?」

「……は、MS、ですか?」

「あっ、そういえば少尉言ってましたね、"ザクII"に乗りたい、って…」

 

伍長が援護のつもりかハンドグレネードをブチ込む。目の前に。伍長それフォローやない、追撃や。または後ろ弾。

 

「は、はい。伍長の言う通りです…」

「ははははっ。やはり、聞いた通りのようだ。

 

中尉、もう一度、"ザクII"では無いが、MSに乗りたくはないかね?」

 

准将が真っ直ぐこちらを見ていた。そこから目を逸らさず、真っ直ぐ目を見て言う。腹を括った。一度捨てたし。

 

「はい!連邦には、MSが必要です!!そのためなら…」

「……そのためなら…?」

 

やべ!考えて無かった!

 

「私も賛成です!!少尉!よく分かりませんが准将の言う通りにしましょう!その方がいい気がします!」

「……伍長はそうか!では、中尉…」

「……はい!」

 

よし分かった!と言って准将が座り、秘書さんに声を掛け紙を出させ、こちらへ差し出した。

 

受け取った紙には辞令が書いてある、『"ジャブロー"パイロットMS養成課程訓練教官を命ずる』。

 

驚いて顔を上げると笑顔の准将と目が合った。

 

「准将!これは……!」

「気に入って貰えたかね?」

「え?なになに?見せて!」

「…………私に務まるとは、思えません……しかし…」

「…しかし?」

「やらせて下さい!!連邦の!勝利のために!!」

 

その言葉や聞き准将が立ち上がり、握手をする。

 

「良くぞ言ってくれた!!……頼むぞ!蝋燭の火を灯してくれ」

「……はい!!精一杯やる所存です!後で、後悔出来るように!!」

 

流れる様に秘書さんが資料書類の入っていると思われるブリーフケースを渡し、敬礼をして部屋を出た。秘書さんは手をふっていたため2人で振り返す。

 

正直、舞い上がっている。

 

「少尉!!見て見て!私、パイロットになるんだよ!!」

 

ついでに伍長へ渡された紙には、同じく辞令が書かれている。MSパイロット養成課程への転属だ。

 

「あぁ!俺はその教官だ!!」

「少尉も!!やったぁ!!一緒に頑張りましょう!!」

 

2人で喋りながら戻り、別れて部屋へ向かう。

 

胸は希望と不安でいっぱいだが、悪くない感触だった。

 

頑張ろう、俺!!

 

自室のドアに手を掛け、その前に張り紙を………、うん?

 

 

 

 

「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!??!!?」

 

 

 

張り紙には、『私用のため、伍長の部屋に居ます。連絡のある場合は伍長の元へ』と書いてあったはず!!

 

 

 

「『伍長と愛を語らうため』ってなんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!」

 

"ジャブロー"の大空洞の彼方まで、中尉の声は響き渡った。

 

 

 

『中尉、儂が羨ましいと思ったら、何よりも生き残ることだ。最前線で指揮官として認められれば、昇進できる。昇進すれば、いいこともあるさ、儂のようにな』

 

 

 

新しい時代は、音を立ててやって来る……………




はい、というわけで、中尉、職を手に入れました(笑)。

連邦軍はMSという言葉をあまり使いたがりませんが、わかりやすさのためあえて使用しました。

このままどう転ぶかは、どうぞお待ち下さい。

次回 第二十八章 中尉の訓練教官奮闘記① 下見編

「いや、もう負けてるだろ」

お楽しみに!!

ご意見、ご感想お待ちしております。


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第二十八章 中尉の訓練教官奮闘記① 下見編

ちゅーいのきょーかんにっき、すたーと!

目指せ!センチメンタル小室マイケル坂本ダダ先生的ポジション!!

だけどシンセサイザーは勘弁な!!

あっなったに♪あっなったに♪センチメンタルッッッアウトローッッッブルースッッッ!!!



時代が変わるのは必然だ。

 

そして、それに伴い、世界が変化するのもまた然り。

 

非日常は日常へ、日常は非日常へ。

 

それが顕著に現れるのは、日進月歩の戦場。

 

それら全てを変えるのは人類だが、

 

それに適応し、また新しい時代を創るのも、

 

また、人類なのだ。

 

 

 

U.C. 0079 6.24

 

 

「……さて……」

「少尉ーっ!私にも見せて下さい!!」

「……MS、か……」

 

場所は中尉に充てがわれた部屋。そこへ伍長と、訓練が無かったため相談をしようと呼ばれた軍曹といういつもの3人が集まっていた。

 

中尉が准将からもらったブリーフケースを開ける。中は書類と思いきや、ブリーフケースそのものが携帯端末となっていた。

 

「……訓練は4日後から、シュミレーションに……おっ、実機訓練だって!!」

「……実機…?開発に、成功していたのか……!」

「少尉!見て見て!『訓練に際し、中尉では支障が出ると思われるため、訓練期間中は先任少佐に任命、少佐相等官としての地位を与える』だって!!」

「……年上とか、階級が上の人を指導しろと……厳しいなぁ…」

 

3人でワイワイやりながら確認して行く。伍長はもうワクワクが止まらないようだ。軍曹は何やら考え込んでいるが。

 

……ん?コレって……!

 

「軍曹!軍曹結構シュミレーションやってたよな!?」

「……あぁ、移動中にな……それが…?」

「コレ!!」

「何です?……おお〜!」

 

そこにはパイロット候補引き抜きについて書かれている。結構自由が利く様だ。

 

「軍曹、MSと"ロクイチ"、どっちがいい?」

「軍曹も乗ろうよ!!私よりシュミレーション結果良かったじゃん!!」

「…………」

 

軍曹は考え込んでいる。そのままおもむろに口を開いた。

 

「……実機訓練の、機体は……?」

「ん?どれどれ……」

 

端末を操作し、調べる。んーっと、………"ザニー"…?それに、"RTXー44"……?

 

なんだこりゃ?

 

「……カッコわる……いです、ね……」

「……いや、兵器はカッコじゃないが……」

「……前面投影面積が……」

 

そこには"不恰好なザクっぽいの"と"不恰好なヘンテコ突撃砲"みたいなものが表示されていた。

 

……ぇ……? ナニコレ?

 

「……………」

「……………」

「……………」

 

いきなり不安になって来た。コレ、"ザクII"とまともにヤりあえるのかよ?

 

「……しかし、"ロクイチ"の、パワー不足は……」

「……ど、どうする?」

「……カッコ悪い……」

「…………MS適性訓練、受けさせて欲しい……」

 

軍曹の決断はMSに下されたようだ。

 

「……俺は、中尉について行く。そのためには……MSが、絶対に必要。………それは、連邦も、だ……」

「……軍曹、分かった。"ロクイチ"訓練の方は?」

「……シュミレーション、訓練は組んである……掛け持つ……少しずつ、MSへ傾けて行くが……」

「……分かった。無理はするなよ」

 

軍曹と相談している間、伍長は勝手に端末をいじっていた。何かを見つけたらしく、声をあげる。

 

「……えっ?少尉だけズルい!!」

「何がだ?」

 

伍長の指差す部分を見る。成る程、こりゃいいわ……。

 

そこには『訓練教官は"ザクII"を使用する』と書いてあった。

 

 

 

「……よし、だいたい決まったし、少しシュミレーションでも弄るか!」

「さんせー!!早くやって、みんなを驚かしてやりましょー!」

「……時間は……あるな」

 

建物を出て3人でエレカに乗る。向かう場所は宇宙港エリア外縁部だ。ここは軍港エリアなので、少ししか離れていない。

 

数週間すごして気付いた。この"ジャブロー"はバカみたいに広い。聞いたところ、上層部ですらその全容を把握している者はいないだろうとの事だ。

あまりに広く複雑であるものの、主要施設はこのように全てハイウェイで繋がっているのが唯一の救いか。中には高速鉄道、果ては航空機を使用した方が早いところまであるが。

また、"道路のない、謎の施設"も多いそうだ。下手に近づくと消されるらしい。それらは秘密研究所だとか、生物兵器の人体実験をしているとか、いやいや一部の上層部しか使えないカジノだとか色々言われているが、真相は深い闇の底だ。

そんなロマン溢れる"ジャブロー"は、未だ未開発地域もあるらしい。軍事施設としてそれでいいのか。そこを攻められたらどうするんだ。

 

「……うぇぇ〜座学もあるのぉ〜?」

「そらなぁ……ゲッ、俺は座学自主学習じゃん!キツっ!!」

「えっ!いいなぁ!少尉だけズルいです!!」

「何がだ!!やる事いっぱいだぞ!!暇よりイイが…」

「……着くぞ…」

 

真新しい看板に、真新しい建物。その前にエレカを停め、まだ殆ど誰もいない建物へ入る。新築の匂いがするなぁ。他の教官や、講師と挨拶をしつつシュミレータールームへ。

 

「へぇ、戦術の講師、伍長と同い年で階級も一緒なんだな」

「負けられませんね!!」

「いや、もう負けてるだろ」

「……教わるベき点は、多い、な……」

「ここか…」

「わぁっ!!」

 

シュミレータールームは広く、その中にたくさんのカプセルが並んでいた。カプセルは足回りにアームとジャッキが付いており、その前にはタッチ式の端末が設置されている。

 

「……連動して、動くのか……」

「対G訓練機を改造したのか……結構いいな、コレ…」

「中も見てみましょうよ!どんな感じかなぁ…」

 

端末を弄り、ハッチを開放する。プシュッと圧搾空気が漏れる音と共に、コクピットがその中を晒す。

 

「……"ザクII"の物と似てるな……」

「…ペダルは二つなんだね。やった!」

「……ん」

 

軍曹だけが振り向いた。どうしたんだろう?気にせず伍長とコクピットを観察する。

正面、左右面に上面の計4枚のメインスクリーンに、左右計2本のT字型レバー。ボタンは表面に出ているが……。狙撃スコープもある。計基盤はだいぶ違うが、そこは仕方が無いだろう。だが、だいたい同じだった。

 

「……気に入って貰えたかな?」

 

声に振り向く。そこにはいつもの笑いを浮かべながら、ジョン・コーウェン准将が立っていた。軍曹は既に敬礼している。

 

「ウボァ!!これは准将!失礼しました!!」

「……あわわわっ!昨日のおじさん!!」

 

おいぃ!!何とんでもない事口走ってんだ!!死ぬ!死ぬる!!軽く死ねる!!!君のためなら死ねる!!

 

「……よい。それより……」

 

慌てて敬礼した2人を手で制し、准将が歩み寄る。

いいのね。心広いのな。

 

「どうかね?コレは?」

 

シュミレーターを指差しつつ聞く。逆の腕には白地に青枠と、真ん中に赤で大きく『-V-』と書かれたファイルが挟まれている。

 

「……"ザクII"に良く似ていますが、よりシンプルに再設計されているようですね。いいと思います」

「そうか、それは結構。……これは、鹵獲された"ザクII"の後期型コクピットを参考にしているのだそうだ」

「……私が乗っていた奴に近いのはそれで……そのファイルはなんですか?」

「これかね?見るかね?中尉」

「出来れば。コレ(シュミレーター)の取り扱い書ですか?」

「……そのような物だ」

「……?…!中尉!それは……!」

 

ファイルを受け取りパラパラと中身を………!

 

「……これっ!!」

 

慌てて表紙を……。…………………………………………………………………………死んだ。

 

そこには『最重要機密』を表すSを丸で囲うマークが。

 

「えっ?なになに?何が書いてあるの少尉?」

「見るな見るな!!」

 

伍長を手で制し、慌てて顔をあげ准将を見る。多分、今顔メッチャ引きつってるな。動きもぎこちないし。准将の顔は相変わらずだったが。

 

「……じゅ、准将……」

「"それ"は、最重要機密なんだが……見てしまったかね?」

 

見せたのアンタやろうがぁぁぁぁぁぁぁああ!!??!?

 

頭を抱える。ダメだこりゃ。グッバイ!マイライフ!!

 

「…………」

 

軍曹が取り上げ、何気無くファイルを見始める。もう止める気力もない。その行動に准将は驚かされているようだった。

 

「……意外だな。君は?」

「……戦車教導教官の、軍曹、です…」

 

ファイルを見ようとする伍長をシュミレーターに放り込みつつ軍曹が言う。そのあまりの堂々とした様子に少しずつ平静を取り戻す。

 

「! 君がかね!…話は聞いておるよ……会う手間が省けた。演習で新米をドライバーに1両で一個小隊を相手取り撃破したそうだな…」

「……は?」

「……偶然、です…」

 

ンな訳あるか!!思わず間抜けな声を出しちまったよ!

…………凄いのは知ってたつもりだったが……怖ぇよ。

 

「……これで、処罰は2人……どう、します…?」

「……うぅむ…」

「………って、軍曹!!なんて事を!!」

「……構わない…」

「か、構わないつったって……!」

「む!軍曹も見るなら……」

「お、オイ!!」

「………?………???……………で、でも!これで3人です!!」

 

シュミレーターから飛び出した伍長がファイルを見る。軍曹も諦めた様に渡していた。

いや、全然理解して無いだろ!!

 

その行動に呆気に取られていた准将が、そのまま噴き出す。

 

「はははははっ!対した人望だな中尉、一本取られたよ。……やはり、聞いた通りのようだ」

「……は、はぁ……」

「…………竹馬の友の頼みもある。それも見られてしまった。儂は君たちをとても気に入ったよ。………がんばってくれたまえ……あの計画を…………はっはっはっはっはっはっ!! またな!中尉、軍曹、伍長!!」

 

ボソボソなにやら呟き、最後に笑いながら行ってしまった准将をポカンとしながら敬礼で見送る。

 

「………な、なんだったんだ?」

「…………さぁ?私にはちょっと……」

「…………ふっ…」

「………って!!それより!!何て事を!!」

「……前にも言ったぞ……中尉は、1人じゃない……」

「そーですよ!!もっと頼って下さい!!」

「……バカやろうどもが………………ありがとうな……」

「……当然、だ……」

「はい!!あと!私は野郎じゃないですよ?」

「分かってるよ。言葉のあやだ………ふふ、ふふふふっ、あっはっはっはっはっは!!」

「あはははははっ!!」

「………ふふっ……」

 

肩を組み、3人で笑い合う。3人の笑いは、止むまでたっぷり3分はかかった。

 

「……さて、シュミレーター、やってみっか!!」

「はい!!少尉!負けませんよ!!」

 

先ずは慣れなきゃな。準備期間も少ない。教え子に負けたらただでさえ貫禄も何もないのに、バカにされる、つーか信頼もクソも無くなるな。

 

「……中尉、コレを……」

 

ん?軍曹が何やら差し出す。こ、コレは!!

 

コレで勝つる!!

 

「……俺のOSデータ!?」

「……伍長も……」

「わーい!ありがとう!!強くてニューゲーム!!」

「ど、どうしたんだコレ!?」

「……バックアップを多めに取って、おいた……功を、奏したようだ、な……」

「……でも、没収されたんじゃ……」

「……整備班長が……」

「おやっさんが!!」

 

ありがとう。おやっさん……いや、アンタ今何処にいんの!?予め渡しておいたのか?

 

「よし!!俺たちにはアドバンテージがある!!頑張るぞ!!」

「はい!!」

「まずは慣れよう!!別々の奴に入って、後で模擬戦な!!」

「オーキードーキー!!」

「……了解」

 

乗り込み、シュミレーターを起動する。そのままだいたいの操作を確認………やはりほぼ同じだ!!イケる!!

 

中尉の前のスクリーンが瞬く。中尉はもう、新しい操縦系統と一体化していた。

 

 

 

「………うぅ……グスッ……」

「……な、泣かなくていいだろ……まだ時間はいっぱいあるだろ?しかも伍長は伍長だけの操縦だから!!その操縦、イエスだよ!?」

「…………はぁ…」

「………2人が強過ぎるんですよぉ!!うぅ……」

 

模擬戦の結果は1人が相手に対し3戦ずつやり、中尉5勝1敗、軍曹4勝2敗、伍長0勝6敗だった。シュミレーターの点数もそのように並んだ。

 

「軍曹、ホントに戦車兵なのか?俺どうすんのコレ?」

「……偶然、だ…」

 

いや、明らかに拮抗してたよ!?点数も僅差だし!!

教官やれっかな俺!?もう軍曹教官でよくね!?

 

「……うぅ……ううぅぁ……うぇ〜ん…」

「いや伍長もよくやったって!イケるから!!」

「……先ずは、転ばないように、な……」

 

3人で騒ぎながら出て行く。その後ろで、コーウェン准将はその3人を懐かしむような、慈しむような目で眺めていた。

 

 

『技術、知恵は荷物にならない、人を救う絶対の力だ』

 

 

反抗は、地の底から………………




中尉には果たして教官が務まるのか!?

つーかうっかりちゃっかり機密見ちゃった中尉はどうなるのか!?

ここからは戦闘はほぼなくなります。まぁ、中尉の苦労に付き合ってやって下さい。

RTX-44とRTX-440陸戦強襲型ガンダンクを区別するため0外しました。

次回 第二十九章 中尉の訓練教官奮闘記② 邂逅編

「けっ、アホくさ…」

お楽しみに!!

ご意見、ご感想お待ちしております。


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第二十九章 中尉の訓練教官奮闘記② 邂逅編

中尉の訓練教官苦労編、本格始動!!

頑張れ中尉!負けるな中尉!!

世間の荒波に負けるな(笑)!!


出会いがあれば、別れもある。

 

誰もが知っている、遙か過去から言われ続けて来た真理だ。

 

犬も歩けば棒に当たる、というように、

 

生きる限りはこの連鎖から逃れられない。

 

特に戦時の戦場などでは言うまでもない。

 

隣の戦友、眼前の敵兵。出会いは一瞬、別れも一瞬だ。

 

その一瞬を、人は、今も生きている。

 

 

 

U.C. 0079 6.28

 

 

 

磨き上げられた廊下を、規則正しく打つ音が響く。

 

とあるドアの前で立ち止まるその足音の主は、服装をただし、頬を軽く2回張る。

 

踏み出すと同時にプシュッという軽い音と共にドアが音もなくスライドし、部屋の中の世間話も止む。

 

部屋を歩き、壇上にたった中尉が口を開いた。眼前の者たちの視線が集中するのを肌で感じる。

 

「はじめまして。未来のエースパイロット候補達。これから君達を指導する訓練教官を務める、中尉だ。よろしく頼む」

 

中尉の前に座る1人が思い出したように手を叩く。

 

「あぁ!あの、色ボケ中尉かっ!」

 

中尉がずっこけるのと爆笑が部屋を包むのはほぼ同時だった。

 

「……そんな事は無いですからね?おいっ!伍長!!なんで顔を赤らめてんだ!!反論しろよ!」

「えっ?いや、あの……うぅ…」

「ヒューヒュー!中尉殿も隅に置けませんな!」

「けっ、アホくさ…」

 

頭を抱えそうになった。出だしは最悪だ。ただでさえ威厳もクソもねぇのに……。

 

「はーい、質問でーす教官殿ぉー」

「なんです?」

「なんで教官やってんすかぁー?」

「そうだな、どうしてです?」

「お前ら、失礼だろう?敬意を払わんか!」

「はぁ?」

 

はぁ、だよなぁ。前でまたガヤガヤ始めた候補生達を見る。階級は下は上等兵、上は大尉と広く、年齢も下が21、上が32だ。一番下すら中尉より年上なのだ。

 

ここは、何とか教官という事を知らさなければ、後が辛いなぁ……喧嘩ふっかけるか、苦手だし、リスクもあるが……。

 

「……それは、ここにいる全員の中で、1番の腕だからだ。

………分かるな?」

「………」

「………何?」

「………ふん…」

「……正直君らには失望したよ。君達は確かにベテランだ。経験もある。……だがそれはMS以外で、だ。君達を馬鹿にするつもりは無い。だが、ここにいる時は君らはただのヒヨッコだ!」

「……んだと!」

「…なら、見せて貰いたいものですねぇ?」

「……お前ら、よせって…」

「あぁっ!?」

 

よし、食いついたな。後は……何とか、やるかぁ……。

 

「……諸君らの言い分は分かった。それはもっともだと思う。……今日の訓練はまず俺と、そこの3人の"ザニー"を用いた模擬戦から始める!!反論は一切受け付けない!20分後に第二演習場に集合だ!」

「なっ!」

「……ふん…」

「……あの、私は……」

「君もだ、マット・ヒーリィ中尉!」

「はっ!」

「全員移動を開始しろ!3人はついて来い!」

 

そのまま部屋を後にする。3人はしぶしぶといった様子でついて来た。まぁ、そうなるわな。

 

「……ここだ。これが今回の模擬戦で使用する機体、RRf-06 "ザニー"だ、各員、搭乗し、チェックを済ませておけ。以上だ。何か質問は?」

「教官殿ぉ、質問がぁ」

「なんだ?」

「教官殿の僚機はぁ?」

「必要無い」

「………ナメられたもんだな…!」

「以上か?なら早くしろ!!」

 

各々機体に向かい始めた時、周りを諌めとばっちりを喰らった中尉が話しかけてくる。優しそうな容貌をしたちょっとのんびりそうな男だ。年上だが。

 

「……すみません教官殿……」

「…教官か、中尉でいいですよ、ヒーリィ中尉」

「……どうしてあんな事を?勝つ自信が?」

「いや、特には……まぁ、賭けですよ。こうでもしなきゃ、こんなヒヨッコの言う事なんか誰も聞きやしませんから……こんな風に接してくれる中尉の方が少数派ですよ」

「……だが…」

「頑張りますから、全力で来てください。……お互いに、全力を尽くしましょう、中尉」

「……あぁ!!」

 

ヒーリィ中尉と握手し別れる。これからが本番だ。ざっとみたシュミレーターの結果の2位と4位5位だ。手を抜く余裕は無いが、勝機がないワケでもなかった。

 

愛機(ザクII)の元へ向かいつつ中尉は作戦を練る。

 

「……よし、いっちょやったるか!」

 

これまで幾度もの激戦を潜り抜けてきた愛機は、コクピット周辺のみを換えただけで後はスペアで修復され、"ゴッグ"にヤられた傷跡はもう分からない程だ。

 

「……頼むぜ、相棒……」

 

エンジンに火が入り、機体が目を覚ます。おやっさんがいなくなるまで、最後まで面倒を見てもらっていた"ザクII"(コイツ)は絶好調だ。それに、対人装備としての機関銃、"Sマイン"は取り外した後だが、もう一度新造された"ムラマサ"はそのままだった。そのため、"ムラマサ"型の模擬刀が用意されたのだ。

 

「……さて、行くか………戦争を教えてやる」

 

ゆっくり機体を演習場へ歩かせながら、中尉は独白した。

 

 

 

『演習開始!!』

 

ビーッというけたたましいビープ音とともに模擬戦が始まった。

 

「さて……」

 

中尉はゆっくり"ザクII"を歩かせ、物陰に伏せると、あろう事か補助電源を残し融合炉を遮蔽した。

 

そのままパネルを叩き、演習場のマップを出す。そこには散開してややばらけて移動する"ザニー"の位置がくっきり映し出されていた(・・・・・・・・・・・・)

 

「……成る程、先行する1機を囮にしつつ、後ろの2機で……って事か……伊達にシュミレーターやって無いな……なら……」

 

そのまま狙撃用スコープを引き出し、操縦モードを変更、軍曹特製の狙撃モードへ変更する。

 

"コレ"が中尉の最大の武器の一つだった。狙撃のプロである軍曹が立ち上げたこのプログラムは、使い方次第では8km先の目標すら狙撃出来る。これも中尉は何とか使用出来るようにし、5km先なら命中させられるのだった。

 

そう、5km(・・・)なのだ。"ザニー"のセンサー有効半径はカタログスペックで確認済み、3600m(・・・・・)しかない。"ザクII"は3200mなのでまだ強化されたという事だが、狙撃には通じない。

 

そのままアンブッシュする事2分、チャンスは来た。

 

「……………」

 

2時方向、距離4500。1機の"ザニー"が周囲を見渡しつつ歩いてくる。

 

FCSは正常に作動し、ビープ音と共にモニターの端には"VALID AIM"(確実な照準)と表示される。

 

目標をまっすぐ見据え、息を止め限界まで引き絞っていた引き金をコトリと落ちるように引く。この演習場は岩の柱が多く、チャンスは一度きりなのだ。ズドンという音と軽い反動と共に手持ちの120mm低反動砲が火を吹く。

 

「…うおっしっ!!」

 

モニター内では120mm弾を喰らった"ザニー"が真っ黄色に染まっている。そのまま機能を止めた"ザニー"に満足しつつ小さくガッツポーズし、機体を起こし迅速に移動を開始する。もう1機は素早く身を翻し姿を隠した。120mm低反動砲は連射が効かないが、いい判断だと思った。乗ってる奴はなるほど、いいセンスだ。

 

一度撃ったら射点がバレるため、120mm低反動砲を置き"ザクマシンガン"を構え走り出す。目標は、先行していた"ザニー"だ。

 

後方の奴のどちらかが隊長機か分からなかったが、取り敢えず撃破し、分断には成功した。

 

移動後、停止しもう一度マップを確認する。当に『計画通り』、というやつか、予想していた通りに動いてくれている!

 

「……やはりな、引っかかった引っかかった♪」

 

先行して来たヤツは後続を置いて突っ込んで来ていた。

こっそり歩きつつ、アンブッシュ場所を決め回り込む。マップの敵影が揺らぐが、センサーは既に"ザニー"を捉えていた。

 

「……そらっ!」

 

足元の岩を拾って投げ、壁へぶつける。岩に反応し、明後日の方向へ反応し銃を構えた"ザニー"の背へ"ザクマシンガン"を3点射で叩き込む。フルオートで撃たなかったのは罰則として搭乗機を掃除させようと思っていたための情けだった。

 

「っ!!」

 

コクピット内にアラートが鳴り響くと同時に機体を操作、"ザクII"を横っ跳びに転がらせる。元居た地点に7時方向から射撃が来て、着弾し青いペンキを撒き散らす。

 

「…後ろに!やはりヤるっ!!」

 

転がりながら振り向き、柱へ隠れる。これもOSのお陰だ。このような実戦的な動きならこちらの方が多い。経験も。それも中尉の大きな武器だ。

 

お互い柱の裏に隠れ、相手の出方を伺う。やはり、先程倒した"ザニー"より慎重なようだ。しかし、ジリジリ移動しているのが命取りだったな!

 

「ふっ!!」

 

スラスターを吹かし大ジャンプする。そのまま"ザクマシンガン"を撃ち放ちつつ上空から強襲する。中尉の最も得意とする戦術だ。"ジャブロー"が如何に大空洞だと言えその高さに限界はあるためそこまで跳べなかったが。

 

「……はぁっ!!」

 

"ザニー"が戸惑うのが手に取るように分かった。自分に真っ直ぐ向かって来る敵を撃ち落とすのは容易だ。それが特に身動きの取れない空中なら。

しかし中尉はそれを読んでいた。壁を蹴り付け、無理矢理かつ急激に軌道を変えたのだ。放たれた120mm低反動砲が壁に青い花を咲かせる。しかし、呆気に取られ硬直する"ザニー"の前方30m地点に降り立った中尉はそれどころでは無かった。

 

スラスターを使った大ジャンプ、それに急激な方向転換で掛かったGでクラクラしていた。完全に調子にノリ過ぎである。

 

「こ、これしきのGに身体が耐えられんとは……」

 

朦朧とした頭と目で射撃、"ザニー"の120mm低反動砲に"ザクマシンガン"をヒットさせる。かぶりを振って頭をシャンとさせ、120mm低反動砲を失った"ザニー"の前に立つ。

 

「……さて、"ショー"と行きますか…」

 

"ザクマシンガン"を投げ捨て、"ムラマサ"を構え、左手で相手を挑発する。

 

そう、これは『デモンストレーション』だ。なるべく、『ただ勝つ』だけでなく、少しでも『実力を見せて勝つ』必要があったのだ。それは先程の壁蹴りも同じである。

 

"ペイントサーベル"を抜き、"ザニー"が斬りかかる。これらの模擬刀は、心棒の入ったスポンジにたっぷりペンキを染み込ませたものだ。だから、ギリ打ち合いが出来る。

 

しかし中尉はそうしない。最低限の動きで躱し続け、焦りの見え始めた"ザニー"に足払いを掛け、転ばせたところに模造刀を突き付けた。

 

『訓練終了ーっ!!』

 

スピーカーが鳴り響き、中尉の圧勝を飾った。中尉はそんな事聞いておらず、"ザクII"の中で疲労困憊していたが。

 

「少尉ーっ!!お疲れさまーっ!!すごかったよ!!」

「……流石、ベテラン……」

「やりますね教官!!見直しました!!」

「教官やるぅ!!ただの色ボケじゃなかったんだな!」

「今色ボケって言った奴出て来い!!死なない程度に踏んづけてやっから!!」

 

ドッと笑いが上がる。模擬戦を終え、中尉達はハンガーへ帰って来ていた。

 

「3人も良くやったぞ。とてもシュミレーションしかしてない者の動きには見えなかったぞ」

「……はい…」

「…けっ、くそっ!」

「ありがとう、中尉もヤるな」

「ヤらなきゃ死ぬからな」

 

よしよし、まだ分かってくれたようだな。これから、出来る事を少しずつやって行こう。

 

"教え子"に、戦死者は出したくない。

 

「……よし!全員!シュミレータールームへ!……うん、ヒトロクマルマルまで時間いっぱいやったら今日の訓練は終了で!では、解散!!あ、3人は残ってね?」

「はーい!!まったねー!少尉ー!!」

「はっ!分かりました!」

「あいさー」

 

ゾロゾロと騒ぎながらシュミレータールームへ向かっていく背中を見送る。最後の1人が行った後、3人に振り返る。

 

「今日は付き合わせてごめんなさい。こうするしか思い浮かばなかったんです」

「……いや、悪かったよ、俺も……」

「……けっ」

「……だが中尉、中尉は我々の場所が分かるように攻撃をしかけてきたな、あれは何だ?」

「……それだ!何をしたこの!!」

 

げっ、やっぱバレたか。……鋭いねぇ。ヒーリィ中尉か、覚えとこ。

 

「あ、アレか?それはソナーだ」

「……ソナー?」

「あぁ。パッシブソナーを最大限に、"ジャブロー"という大空洞である事を考慮に入れて、その反響から位置を割り出したんだ」

 

そう、コレが中尉最大の武器だった。あらかじめ演習場をマッピングし、ソナーを最大限活用出来るよう設定しておいたのだ。ソナーなため移動中精度が落ちるが、それは仕方ない。

これは教官という立場ならではの方法だった。決して無謀にも勝負を仕掛けたワケでない。

 

ズルでは無い!!ただ、最大限に自分の地位と役職を活用しただけだ!! とは中尉の言い分である。

 

「……成る程……完敗です」

「いや、皆さんも凄かったですよ?そこは流石としか言いようがありません」

「……改めてよろしくな、教官」

「はいっ!」

「………負けは負けだ。従おう……だが、次は負けねぇぞ!!」

「はいっ!お互い努力して、ジオンに対抗しましょう!」

 

3人と握手する。うんうん。何とかいきそうだよ。全く。

 

「あっ、ちょい待ち、どこに行こうとしてるんですか?」

「…いや、シュミレーションルームへ…」

 

歩き出した3人を呼び止める。くくくっ。ここまでヤらせたんだ。それ相応対価を払ってもらおうか!!

 

「ダメですよ?まだ終わってませんから」

「「は?」」

 

「あなた達3人は特別訓練です!!"ザニー"で演習場をぐるっと10周!!その後、ペンキをぜーんぶしっかり落として下さいね……1人で!!」

「「なぁっ!?」」

 

くくくっ、教官を怒らしたらどうなるか、身を持って知ってもらおうか!!へんっ!ざまーみろはっはっはっーっ!!

 

「んなっ!このっ!!」

「ええええぇぇぇっっ!!?」

「……うぐっ、悪質な……」

「文句がある人は周回増やしますよ〜?そしたら、ペンキ、もっと固まっちゃいますね〜」

「「……………」」

「あ、逆らっちゃダメですよー逆らっても増やしますよー?俺、訓練中は少佐相等官ですから、上官ですよからねー♪」

「「…………………………」」

 

1人がめっちゃ睨んできてるけど気にしない!!

他2人は呆れてるっぽいけど。はっはー日本人怒らすと恐ろしいんだぜ?

 

「さぁ、張り切って行きましょうか〜?」

「はいはい」

「………………いつか殺す…………………」

「はっ!中尉。……後で話そう」

 

"ラコタ"に向かって歩き出す。うん、色々あったが、まぁいい日だった。

 

 

 

「あっ、転んだら一周追加ですからね♪」

 

 

 

『戦略が戦術に負けるはずがない!!』

 

 

連邦の巨人が、歩み始める……………………………




と、いうことで始まりました教官編!!

じつは、コレ中尉反則級のワザ使ってます(笑)。あらかじめフィールド、敵の性能を完全に調べ上げ、その上で作戦を立てるのも酷い話ですが。

OSのハンデもありますから、言い換えるなら酔っ払わせ目隠しした相手をボコった感じかな?非道過ぎる(笑)。

深く追求されたら非難轟々で危なかった感じです(笑)。

さぁ、これからは小細工通じないぞどうする中尉!?

次回 第三十章 中尉の訓練教官奮闘記③ 転機編

《……どこのハートマン軍曹だよ……》

お楽しみに!!


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第三十章 中尉の訓練教官奮闘記③ 転機編

訓練編、まだ続きます。

正直書いててつまらないですね。必要というのは分かるんですが……。

どのような話題でも面白くかけるプロのみなさんが羨ましいです。


人間とは難儀な生き物だ。

 

常に、溢れんばかりの好奇心や向上心を抱え生きている。

 

それが人類の発達を促したのだろうが、

 

それは常に刺激を求めて生きていると同義だ。

 

退屈は人を殺す。

 

この言葉が、人の全てを表している。

 

 

 

U.C. 0079 7.3

 

 

 

「皆さん!!には今から殺し合いを………は冗談として!!

今日から、この"ザニー"を用いた本格的演習を始めていきます!!気を引き締めて行きましょう!!」

「うぉっしゃぁっ!!」

「やったぁ!!」

「やっとかぁ!!」

「よし!やってやるぜぇ!!」

「シュミレーターでもすっ転ぶお前にゃ無理だ、ははっ!」

「てめ!もう一度言ってみろ!」

 

うんうん、遂にここまで来たぞ。やってきた甲斐があったというものだよ。みんなテンションヤバイな。

もはや専用機と化した"ザクII"に乗り込みつつ中尉はふと考える。

やっぱ男はいつまでたっても男の子なんだなぁ……俺もその筆頭だが。

 

「よし、全員、"ザニー"の前に!101〜103号機、201〜203号機、007、008号機ありますから、自分の決められた機体のところへ行ってください!OSデータも持って下さいね!!」

「「サー!イエッサー!!」」

「………こんな時だけは調子いいなオイ」

 

全員を引き連れハンガーへ向かう。今までシュミレーションを続け、お互いの動きを見て、研究し続けてきた。その成果が、今日物になるのだ。

 

 

現在連邦軍にはMS部隊も運用経験も無いに等しい。

つまり、それは教科書が無い、という事だ。

 

MSは既存の兵器とは一線を課す、自由度の高い兵器だ。

 

つまり、自分の体の延長として、自分の動きが、反応が、癖などがダイレクトに反映される。

 

例えば中尉。中尉の乗ったMSのOSは武術の方が多く反映された特殊な動きをする。

しかし軍曹のは確実な射撃を行うような行動をする。

 

MSはこれらの動きを覚え、その指令をすればそのように動く事が出来る。

つまり、中尉のOSを素人無理やりにでも使えば、素人が武術の達人の動きをMSに乗る事で出来るようになるのだ。

 

しかし、上の例で挙げたこの二つは全く違う上、この動きをトレースしようが、それは所詮は自分の動きではないため、MSは最大限の能力を発揮しきれない。

 

また、そこでさらに問題が出る。この動きを素人がやると、自分の想像した動きと食い違い、MSの最大の特徴であり、特技である柔軟で自由な行動が出来ないのだ。

つまり、全員が全員同じ動きを練習出来ない、いや、してはいけないのだ。それをすると、他人の身体を動かす様な不自然な行動となってしまう。

 

さらに、同じ行動は読まれやすい。もし仮に全員がそのOSを使い出撃すると、敵に行動ルーチンを見破られたら一方的にヤられてしまうのだ。

 

そのため中尉はまずシュミレーターのみで、"自分の動き"作りを徹底させ、それを自分と機体に教え込ませる事から始めたのだ。

 

もちろん中尉などが行ってきた"基本"となる行動はある。しかし、それをそのまま使うのでなく、"自分に馴染むように変えて"から身につける事をさせたのだ。

 

そのため全員の行動は劇的とまではいかないものの、そこそこスムーズで無理のない動きとなってきていた。

 

 

「決めたローテどうりに乗り込んで、まずは足をロック、手だけをゆっくり動かして下さい!"ザニー"が動きだしたら離れてください!!搭乗者も感覚がシュミレーションとはまた違うはずです!!決して足を動かさないで!!」

《教官!それはなんでですかぁ!》

「転ばれたら厄介ですから!怪我しても困るし、"ザニー"も壊れるかもしれません!!」

《はーい。てか、教官、気になってたんですけどなんで敬語?》

「……………性分です」

 

中尉は年上は何が何であろうと敬う。そのように育ってきたのだ。なので一応敬語はほとんど崩していない。

その質問をしてきた"ザニー"202号機がやれやれと肩をすくめるジェスチャーをした。MSはこのような事も出来る。中尉の"ザクII"もある程度のハンドシグナルがインプットされているが………つーか、訓練生さんよ、そんな無駄な行動入れてる暇があるならもっとマシなもんいれろや。

 

《教官、教官の事は全員が分かっています。別に敬語でなくても……》

「……いまさら、『そのウンウンと口からクソを垂れる前には"サー"を付けろ!!分かったな!"サー"だ!!』みたいな口調にしろと言われても無理ですよ……」

《……そこまでは言っていませんが……》

《……どこのハートマン軍曹だよ……》

 

教官ならそれとも『ゲンジバンザイ!!』にするのか?などと他の訓練生達と軽口を叩き合うのを流し目に見つつ、目の前の"ザニー"を"ザクII"から監視する。ルール破ったらシェイクしてやろう。

MS、そうとう揺れるから、慣れるまでエチケット袋申請しとくか。まぁ別に歩いたら即死、なんて事は無いけどな。

 

中尉の目の前には、身体を殆ど動かさず、手だけやけにバタバタと振り回す"ザニー"が8機。凄いシュールだ。

 

「よし、コツが掴めてきたと思ったら、ロックを解除して、ゆっくり歩いてみて下さい!ゆっくりとですよ!!シュミレーターとはほぼ別物に近いんですから!!周りの人達はもっと離れてください!!」

《《了解!!》》

「「了解!!」」

 

今の"ザニー"は赤子同然だ。まだ数回しか動いていないか、全く動いてないのだ。オートの動作も無いに等しい。

 

その"ザニー"をあれ程動かしたあの3人はかなり凄いなぁ。

 

例えば中尉の"ザクII"はオートバランサーもかなり経験を積んでいるので、余程無理をしなければ転ばないし、仮に転ぼうが膝をついたり、腕を突っ張ったりをオートでやる。

 

俗にエースと呼ばれる人達はこのオートを嫌う者もいるが、それはまた別の話。

 

しかし"ザニー"はそれすら危うい。一応中尉のデータなどで補強していて、以前の開発黎明期の物よりはかなり動かしやすくなってはいるものの、それだけだ。

 

なのでいくらシュミレーターをやろうと実機の感触とは必ず食い違うので、まずは慣らしの慣らしからなのだ。

 

「よし、交代してください!データを忘れずに!!そのあとまたシュミレーターで今日の動きを反復してくださいね!!」

《え、もう終わりですか?》

「後ろも詰まってますし……」

《もっと乗っていたいです!!》

「痛いほど分かりますが我慢して下さい。シュミレーターもデータを反映してドンドン実機に近づきますし……」

 

"ザニー"が動きを止め、パイロットが降りて行く。それを確認しつつ、思う。

 

つまらん!!!暇だ!!!そして地味だ!!!

 

仕方ないとは分かりつつも、心の中ではため息をつく。そして、ジオンにこの速度で間に合うのか、対抗出来るのかと心配になる。

まぁ、"ザニー"はあんな背景(・・・・・)があるのに、よくここまで調達したなと思うものの、やはり絶対数が足りない。

 

「じゃあ、第二班も乗り込み始めて下さい!!足元に気をつけて!!」

《きょうかーん!!これ他の奴とかと違って昇降用ワイヤー無いんですけどー!!》

「……仕様です。オート機能の"コクピット乗り降り"を選択して降りて下さい……自信作ですから大丈夫です」

《こ、高所恐怖症なんです………》

「………………」

 

これだ。全く。パイロットも、機体(・・)も………。

 

つーかものっそいがんばってオート機能付けたのに!!ふざけんな!!

つーかフツーワイヤーの方が怖くねソレ!?

 

先は、長い………………。

 

………いや………………

 

長過ぎだろぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!!

 

 

「少尉ー!お疲れさまー!!一緒に帰りましょー!!」

「あぁ、そうだな、ついでに食堂寄ってっか!」

「はい!!」

 

伍長を伴い食堂へ向かう。軍曹は戦車の方へ行っている。戦車兵達も優秀な軍曹を引っ張ろうと色々やってるらしい。モテるねぇ。

 

「少尉ー、もっと面白い事やりたいです!あれくらい私もふつーに出来ますよ!!」

「それは俺も軍曹もだよ。でも仕方が無いさ。またこっそり動かそう」

「そうですね!」

 

訓練生は殆ど何らかの役職と掛け持ちだ。それが無いまたは無いに等しい中尉達は空き時間に中尉の教官特権という名のワガママで実戦的な動きの練習をねじ込み既に始めている。中尉はそれに加え対G訓練をやっている。

あれ程飛行機乗ってたのに、乗らないとダメになるなぁとは中尉の弁である。

 

「お腹ペコペコです!!ここはご飯が美味しいのが嬉しいですよね!!」

「そうだなぁ。やっぱ、飯は大切だよなぁ」

 

食堂に入り食券販売機へ。"ジャブロー"は広いため、たくさんある食堂のほとんどにオリジナリティがあり、『"ジャブロー"食堂巡り』なんて本まで出ている。聞いたところとある少将の自費出版らしい。頼むから働いてくれ。

 

「うーん……少尉はどうします?」

「俺は日替わりランチAセットと、バニラアイスだな」

「じゃあ、私はカツカレーとプリンにします!」

「……前も食ってなかった?カツカレー」

「美味しかったので!!」

「さよか」

 

ふと見るとカウンターの方が騒がしい。何か揉めているようだ。

 

「どうしたんでしょうね?カレーに福神漬けが入って無かったりしたんですかね?」

「さぁ?よく騒ぎは起こるしな。つーか伍長、なんでそんな日本的なの?俺福神漬けっつーか漬物食えないのに」

 

そう、食堂は人が集まる上、食という生活の根幹が関わるところなのでよく喧嘩が起きる。しかし、よりによってカウンターで……。仕方ない。触らぬ神に祟りなし。待つか。

 

と思ったら伍長は果敢に突撃して行った。伍長、あんた今、最高に輝いてるぜ?俺はいかないけど。あ、他の所空いたからそこ行くか。

 

「だから!オレはこの限定セットを!!」

「売り切れですって!!邪魔になるので早く行ってください!!」

「何だと!!客に向かってなんて態度だ!!」

「おばちゃんカツカレーとプリンください」

「ふざけんな!なら金を返せよ!この!」

「だったら溜まったツケを少しは払ったらどうなの!そんな男だから振られるのさ!」

「おばちゃーんカツカレー」

「全くダメダメねぇ、ホントダメ。あなたはそこの水でも飲んでなさいな!」

「るせぇっ!クソ!!今それとこれは関係ねぇだろうが!!この!!」

「だから早く…」

「カレー、カツカレーまだぁー!」

「はいカツカレーそれ食ってとっとと寝な!!」

「え?」

「おいババアこっちが先だろうが!」

「何これ?それにプリンはおばちゃーん」

「あーもう!!」

「うるせーぞ小娘!さっきからカツカレーカツカレーと!!」

「おいしんだもんいいじゃんカツカレー!!」

「喧嘩なら他所でやりな!!」

 

さーて美味しそうだなー。天ぷらが南米で食えるっていいな。やっぱ現地の物食べるのもいいけど、やっぱ自分の地元の物が食えるというのはデカイよ、うん。

 

「いただきます」

 

味噌汁もいいなぁ。やっぱ日本食は落ち着くわ。

 

「……ただいま………」

「………どうしたんだソレ……?」

 

ヤケに落ち込んで帰って来たと思ったら伍長のカレーにカレーがかかっていなかった。それカレーじゃねぇじゃん。しかも上のはコロッケらしい。なんで?

カツカレーの要素、ゼロ。

しかしプリンはプリンだった。よかったね伍長。

 

「……うぅ……カツカレー……」

「ほら、このナスの天ぷらあげるから」

「……少尉のキライなヤツじゃないですか……貰いますけど……」

「ならいいじゃないか、ウィンウィンじゃん。別に食えるけど、仮に食べられるなら美味しく食べられた方がいいだろ?」

「少尉何があろうとご飯絶対残さないですからねぇ……」

「ここ、よろしいですか?」

「?」

「うん?はぁ……どうぞ」

 

そこへ黒髪の男がトレーを持ってやって来た。別に他の席空いてんのに……。

階級を見る限り少尉だ。なんだろ?

………また、年上かぁ……。いや、慣れなきゃいけないし、俺が若すぎるだけなんだが……。

 

「あっ、カレー!!いいなー!!いいなーカレーいいなー!!」

「……す、少し食べる、か?」

「やったー!ありがとうごさいます!!」

「………すみません…」

「い、いえ……」

 

引きつった顔をして伍長にルーをあげる少尉に頭を下げる。何やってんだよ伍長……。あれ程見ず知らずの人から食べ物もらっちゃいけないって教えたのに。

 

「すみません。お名前は……?」

「あっ、はい。申し遅れました。私はエイガーと言います。階級は少尉です」

「えっ!あのエイガー少尉ですか!!」

「!……始めまして、エイガー少尉。会えて嬉しいです」

 

こんなところで会えるなんて、何という僥倖!

取り敢えず握手しつつ自己紹介を済ませる。

でも、何の用だろ?

 

「え、知っているのですか?」

「有名ですよ!!」

「はい、俺たち共々、"キャリフォルニア・ベース"で共に戦った仲ですし……少尉はご存知ないと思いますが……」

「そうだったのですか……。よくぞご無事で…」

「エイガー少尉の考案した訓練受けてたんですよ私!!感激です!!」

「俺もそれに口添えはしたなぁ……懐かしい……」

「2人とも戦車兵だったのですか?」

「いや俺は攻撃機乗りです」

「!?」

「私は戦車兵でーす!!」

「……ところで、中尉。……何故敬語なのですか?」

「………性分です。気にしないで下さい」

 

そのまましばらく思い出話をする。本当に懐かしい。それに、あの激戦をやはり生き残っていたんだなと喜び合った。

このような話が出来る者は少ない。しかし、その話が出来る事はとても喜ばしい事だった。

 

「………ところで、本題はなんです?何かあったのですか?」

「……はい、今日はそのために……」

 

少尉は周囲を窺った後、声を潜めて喋り出した。なるほど……確かに、秘密の話なら、食堂は中々いい所だ。そのような話をしても疑われないし、騒がしいから聞かれづらいし。………聞かれるリスクはやや大きいが。でもここは端っこだ。そのリスクも小さい。

 

「……中尉に挨拶に。それに感謝をしようと……それと、ジョン・コーウェン准将からの事づけです……」

「? ……ジョン・コーウェン准将から……?」

「………………"V作戦"に、"RX計画"」

「…………!!」

 

今、何と……!

准将の持っていた、あの……!

 

「……"ガンキャノン"、ですか…?」

「……! はい!!それの調整に、中尉のデータはとても役にたったので……」

「……そう、ですか……それは良かった……」

「……でも、よく分かりましたね…"ガンキャノン"だと……」

「…少尉なら、と思いましたから……」

「………?………………???」

「あー、伍長?カレー食ってろカレー」

「はい!!」

 

話について行けずポカンとする伍長は無視し話を続ける。少尉ゴメンねご飯だけになるかも。

………ん?……調整……?

 

「……まさか!」

「………………はい!!そのまさかです!!RX-77 "ガンキャノン"、ロールアウトしました!!

 

 

……………我が軍初の、完全連邦製二足歩行MSです!!」

 

 

 

『俺を誰だと思っている?砲撃のスペシャリストだ』

 

 

 

 

連邦の歯車が、動き出す………………………




はい。書いててつまらない読んでてもつまらないだろう訓練編続きます。

エイガー少尉はマンガや小説どちらも上官にタメ口だったり丁寧語だったり安定しないので敬語になりました。

ガンキャノンの正確なロールアウト時期は分かりませんが、これぐらいだと思われますので。
因みにこのガンキャノンはRX-77-1 プロトタイプガンキャノンと呼ばれるものです。性能はセンサーとジェネレーターが少し弱い以外ほぼ変わりませんが、ビームライフルの安定射撃が出来ません。テスト終了後全機ノーマルなガンキャノンに改修されます。

もう少しこのクソつまらない奴続きます。ご了承下さい。

今回軍曹一回も喋ってねぇ(笑)。軍曹の霊圧が消えてる……。

次回 第三十一章 中尉の訓練教官奮闘記④ 事件編

「ッ!!」

お楽しみに!!

ご意見、ご感想お待ちしております。


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第三十一章 中尉の訓練教官奮闘記④ 事件編

まだ続きます訓練編。

というよりクロス編。

クロスが無いと読めないレベルにつまらん気がする。

連邦はよMS作れや!!


君は、こんな不安を抱えた事は無いか?

 

君の目の前にある物のなかに、完全に理解している(・・・・・・・・・)物が一つもない事に。

 

周りを見回して見たら分かるはずだ。

 

"使える"だけで"理解"出来ない物しか無いはずだ。

 

それは、物だけではない。自分さえもだ。

 

そんな"得体の知れない物"に、

 

己が身を全て預け切り暮らしている事に、

 

不安を覚えた事が、君は本当に無いか?

 

 

 

U.C. 0079 7.8

 

 

 

中尉は"ザクII"のコクピットの中で荒い息を吐いていた。

 

柱の影に隠れ、息を整え、戦術を練る。

 

レーダーセンサーには前方11時方向から2機、4時方向から1機、後方7時方向から1機の敵機が迫っている事を告げている。機体のメインコンピュータが前方の2機をA1(アルファワン)、A2、右の1機をA3、後方の1機をA4と呼称、サブディスプレイに最優先ターゲットとしてアップする。

 

「ッ!!」

 

アラートが鳴り響くのに気づくないなや"ザクII"を操作し4時方向へ回避する。その攻撃はA2からだ。転がり膝立ちになった瞬間スラスターを吹かし、方向転換しつつ後ろへ跳ぶ。

 

強烈なGを物ともせずそのまま斬りかかりA4を倒すと、振り向きざまに引き寄せ、動きに釣られたA3に"ザクマシンガン"を叩き込む。

 

「……っふ!!」

 

時間にしておよそ15秒、斬りかかるA1を左手に構えた"ムラマサ"でいなし、"ザクマシンガン"を撃とうとした瞬間、"ザクII"の胸部に120mm低反動砲が直撃した。

 

『訓練終了ーっ!!』

 

けたたましいビープ音が鳴り、中尉は動きを止めた。"ザクII"は青いペンキでベトベトだ。すごい申し訳なくなってくる。

いい加減にレーザー式の撃墜判定装置が欲しいなぁと、"ジャブロー"の高い天井を見上げつつふと思った。

 

「今の作戦は見事でした。ヒーリィ中尉の案ですか?」

「はい。荒削りで、各パイロットの腕に依存していましたが……どうでした?」

「……やはり連携だな。伍長、お前が遅れてたぞ?」

「……うぅ、がんばったんですけど……」

「カジマ少尉も、まだ動きが直線的過ぎでしたね。MSは戦闘機とは違います、もう少し対MSとして煮詰め直したらもっとよくなると思いますよ」

「……了解した。参考になるな」

「最後の狙撃は指示か?」

「いや、違います。軍曹の独断です。助かりましたが……」

「……MS用の、ライフルが欲しい、な……」

「……よし、じゃあご苦労様でした。もう一度シュミレーションルームへ戻ってください。あ、軍曹は"ザニー"でランニングだ。今走ってるやつに着いてやってくれ。ヒーリィ中尉はこのままで」

「はーい!」

「了解した。教官殿の動き、参考にさせてもらう」

「……了解…」

 

"ザニー"を用いた演習を終え、ブリーフィングルームで反省会をする。今回は中尉一機相手に2個小隊での包囲戦の訓練だった。最終的に中尉は撃破されたが、ヒーリィ中尉率いる部隊その半数である3機が撃破されてしまった。1機は不意打ちで。もう2機は囲んだ時だった。

 

三者三様の反応でブリーフィングルームから出る軍曹達を見送った後、ヒーリィ中尉と向かい合い座る。後ろには臨時で指示を出していたオペレーター養成コースの女性オペレーターもいる。

 

「……これはまた派手にヤられてしまいましたね。やはり、1機目が撃破された時点で機動運用のパターンを変えるべきでしたね……」

「1機目の不意打ちからの立て直しは早くなっています。そこは大丈夫でしょう。ヒーリィ中尉は隊長をやってどうでした?」

「……散開し包囲した時の連携が……カジマ少尉がやや出過ぎていて、そのフォローに入ろうとした伍長が一撃で撃破されましたからね……」

「……伍長、ヤられる時は一瞬だからな……時折凄い粘り強いのに……」

「その時は最も近い、と言う理由で任せたのですが……ヒーリィ中尉に任せるべきでした。これはオペレーターである私のミスですね……」

 

3人で話しつつ問題点を挙げて行く。今回は総合成績トップのヒーリィ中尉を隊長に、シュミレーター成績トップのカジマ少尉、ベテランかつ狙撃兵としても優秀な軍曹をチームにするも、その他が撃破されてしまった。

 

「……やはり、実力が伴わないのとチームはムリですね。動きを見ても、撃破された3人が基本的に足を引っ張ってるな……伍長、もちっと頑張れなかったのか……」

「……伍長は私の指示に従い、しっかりフォローしていましたが……」

 

その時中尉に呼びかけがあった。どうも演習場でトラブルがあったらしい。

 

「……仕方ないですが、ここでタイムアップのようですね。2人は反省を続けて下さい。後でデータ、よろしく頼みます」

「はい。分かりました」

「…教官、ありがとうございました。……これは贔屓にはいりますかね?」

「…ほぼ友人としての繋がりに近いですから大丈夫ですよ。プライベートでも同じ事やってるじゃないですか」

「…そうでしたね。では、これで」

「はい。では、演習場へ向かいます」

 

走りつつ軍曹と話す。今使われているのは演習後の201号機と202号機、それに軍曹の予備機008号機だ。

 

「どうした!?」

《……緊急事態の、マシントラブルだ。202号機がランニング中、突然右脚部が大破、擱座した……》

「! 今から"ザクII"で向かう!念のためエンジンカットさせ、待機させてくれ!乗員に怪我は!!?」

《……通信する限り、無事だ……怪我も、無い………》

「………良かった……」

 

恐れていた事態が、遂に起きてしまった。走りながらもう一人へ通信する。

 

「ブレビッグさん!!緊急事態だ!!トレーラーを1台、第1演習場に回してくれ!!」

《!! 分かったよ!2分頂戴!!》

 

中尉は走ってハンガーに向かい、キャットウォークから"ザクII"に乗り込む。ヴェトロニクスを起動し、ハンガー整備員達へ指示を飛ばしつつ動き出す。

 

「中尉ー!」

 

ブレビッグさんがトレーラーから身を乗り出し呼んでいた。

 

「こっちです、なるべく急いで下さい!!」

「あいよ!中尉の頼みなら断れないね!!」

 

アニー・ブレビッグは軍人でなく、軍属の整備実習教官兼"ザニー"、それに中尉の"ザクII"の整備全般を任されている整備班班長(メカニックチーフ)の女性だ。

幾度となく意見を交わし、技術的な面での話はかなりしているため、お互いかなり信頼しあっている。整備員としての腕も一流だ。

特にそのMSに対する知識には特筆すべき点があり、ヒーリィ中尉と戦術を考える時にも同席してもらい、意見を貰うぐらいだった。

それもそのはず、おやっさんの愛弟子らしい。

らしい、というのはおやっさんが今だにどっか行ってるからだ。

なので現在中尉の"ザクII"の整備も一手に請け負ってもらっている。それもおやっさんからの頼みらしい。

 

「全く、このMSというものは堪らないね。退屈しないよ。でも複雑なのよね……」

「そこは同感ですね。戦場での応急処置は最低ラインも厳しいですし……」

「きっと、MS(コレ)は日本製だね。間違いなく。日本人は何でもかんでもこだわって、複雑にするんだから…」

「それは偏見ですが、まぁ……細部に神は宿ると言いますし……」

 

現場に到着する。右脚が膝から下が千切れ飛んだ"ザニー"を、2機の"ザニー"が囲んでいる。結構な損壊だ。

時折軍曹や伍長を教官代理としていたが、軍曹でよかった。伍長なら一緒にパニックを起こしてそうだし。

 

「軍曹!!大丈夫か!!」

《……問題無い。今から、動かす》

「よし、今から特別訓練開始だ!!訓練内容は擱座した味方の救出!!この場面は戦場で多いぞ!!では、とりかかるぞ!!」

《……了解…》

《は、はいっ!!》

 

もう1機の"ザニー"に『訓練』を強調し呼び掛ける。まぁ、実際に訓練でもやってるし、緊張をほぐすためだった。

 

「よし、まず仰向けに起こすぞ、慎重にな……」

《はい!》

《早パパッとく頼みますよ?丁寧にね?こちらとてひっくり返ってんすからぁ》

《……軽口が、叩けるならいいな……》

 

やはりベテラン、トラブルには慣れているようだ。このような軽口は現場ではそうとう助かる。やはり、MSパイロットとしてはヒヨッコでも、兵士としてはベテランだった。

 

「201号機が左腕を、008号機が右腕を、そう、そのまま……」

「…〜っ、あ〜、酷い目にあったぜ全く!」

「怪我はないか!?」

「大丈夫だぜ?こいつは足千切れてっけどな」

「念のため医務室へ!衛生兵!頼んだぞ!!」

《お任せあれ!!さあ、こちらへ!》

「心配性だな〜教官殿も……」

 

"ザニー"が抱え上げられ、仰向けにされる。コクピットから這い出したパイロットは無事な様というのは確かだった。

 

「008号機と201号機は202号機をトレーラーへ、俺は脚を運ぶ!ブレビッグさん!固定頼みます!」

「あいよ!!皆、仕事よ!!」

「「おう!!」」

 

軍曹が細かい指示を出しつつトレーラーに"ザニー"を安置するのを横目に、"ザニー"の右脚を拾う。グズグズの断面が、ただのマシントラブルでない事を告げていた。

細かい破片は整備員に任せ、トレーラーに置く。それを整備員達が手早くワイヤーで固定して行く。その様子はまるで「ガリバー旅行記」のガリバーを取り押さえる小人の国の住人のようだ。

 

「よーし、出すよー?」

「よろしくお願いします。軍曹達もお疲れさま。ハンガーに戻って下さい。残念ながら特別手当などは出せませんが……」

「いえ、いい経験になりましたから……」

「そう言って頂けると助かります」

 

ハンガーに戻りMSをケージに戻す。この動作ももうお手の物だ。

降りて一息ついた所で、軍曹がコーヒーを持ってきた。

いつもそうやって持って来てくれるのは嬉しいが、どうやって用意してるんだろ?いつも本格的で淹れたてなんだが……持ち歩いてるのか?ほぼ全員がハーブの調合セットを持ち歩いているラクーンシティの住人かよ。

 

「……中尉…」

「ありがとう。いつもすまないな。今日も巻き込んでしまった……」

 

2人で"ザクII"と"ザニー"を見上げる。

 

エイガー少尉が開発した最新鋭MS"ガンキャノン"の姿を想像する。現在生産を始め、既に4機生産されているらしい。

最終的には6機先行量産し、3機を移送する、と言っていた。

 

見る事は叶わなかったが、嬉しい事だった。お互い、連邦の勝利のために頑張りたい。それなら、この新鋭ポンコツ(・・・・・・)にも付き合ってやろうじゃないか。

 

「中尉ー!私も混ぜてよ!」

「……構いませんよ。軍曹、コーヒーまだある?」

「……肯定。問題ない…」

「おっ、さんきゅー。隣、座るよ」

 

3人でコーヒーを啜る。ブレビッグさんが口を開いた。視線は"ザニー"に注がれていた。

 

「……あの"ザニー"、突然関節がロックされたようになって、転んだってさ…」

「……"パルス"の方ですか?"フィールド"の方ですか?それともソフトですか?」

「"フィールド"と、ソフトさ……"フィールド"は試験型のヤツだから、何とか換えは効くけど…どうする?」

「……やはり、か……」

「…予備パーツは?」

「…足周りが半機分、って、ところかな?それでも、全機ガタき始めてるよ…」

「……202号機はバラして、007号機を202号機にして下さい。なるべく008号機も使わない方向で行きます」

「……あいよ。ざんねんだね」

「……仕方が、ないさ……中尉の、"ザクII"は?」

 

ブレビッグさんがコーヒーへ目を落とす。その横顔は寂しげだった。

 

それもそうだろう。メカニックとして、どう足掻いても整備し切れない機体を担当しているのだから。

 

「……持たせる……持たせて見せるよ。私に任せな!」

「はい!ヒーリィ中尉にもよろしく!」

「コーヒー、ありがとうね……じゃ…」

 

笑顔を見せ手を振り、そのまま歩いていく後ろ姿に手を振る。

 

「……軍曹、戦車隊とまた提携出来ないか打診してくれないか?RTX-44の訓練も兼ねてさ…」

「……掛け合ってみよう…」

 

目の前で"ザニー"の頭部バイザーセンサーに付着していたペイントが洗い流される。

 

その姿は、まるでその生まれの不幸を呪い、涙を流しているようだった。

 

 

 

U.C. 0079 7.11

 

 

 

「教官、最近シュミレーターばっかで、"ザニー"の実機訓練がだいぶ減りましたけど、何故です?」

 

遂に来たか……誤魔化し誤魔化しやってたんだがなぁ……。

 

何気ない一言だったのだろうが、それは中尉には罪を暴く断罪の一言に聞こえていた。

 

「……それについて話があります。全員、現在の作業をやめ、ハンガーに集合して来てください」

 

全員会話をやめ、こちらを見る。

 

「教官!それは"フラック隊"の事でありますか?」

 

今"ジャブロー"は、つい最近"ジャブロー"に帰還した特殊作戦コマンド部隊であり、試験"ザクII"運用部隊の話で持ちきりだった。

 

「……近いですが、遠いですね。"ザニー"の事です」

「「?」」

 

全員でハンガーに到着、"ザニー"の前に立つ。気分は工場見学だな、と考えやや気持ちが軽くなった。

 

「……"ザニー"に乗って、何か違和感とか、ありませんでした?」

「?」

「カッコ悪い!」

「……まぁ、正しい…」

「操縦が煩雑でしたね」

「だいぶ改善したんですけどね……近いです」

「見た目と性能に差がありますね」

「……当たりです………」

「「?」」

 

一息入れる。言って言いかは分からない。だが、言わなければ進めない。そうしないと、今このハンガーの片隅でバラバラにされシートが掛けられている"ザニー"に申し訳が立たない。

 

「……この、"ザニー"は、"ザクII"のデッドコピー以下のものなのです。ジオニック社から極秘のルートで流されたパーツに、戦場で回収された残骸、それらを連邦のパーツで繋ぎ合わされ作られた、キメラなんです」

「「…………………」」

 

全員が全員、目を見開き絶句していた。そうだろう。聞かされていた連邦の最新鋭機の正体が、ジャンクパーツの寄せ集め以下だと知らされたのだから。

 

「……稼働率も落ち、機体もそろそろ限界です。俺の"ザクII"からのパーツ取りも始まってます。気付いている人も多いと思いますが、1機は機能不全で大破しました」

「……機体の個体差の原因はそれだったのか……」

「………なんてもんに俺たちは身を預けてたんだよ……!」

「……謝って済む事とは思っていません。何とか、"ザクII"の手配がついたので、伝えておこうと思ったんです……この事は、箝口令をひき、他言無用でお願いします」

「「………………………」」

「………そして、今まで黙っていて、すみませんでした………許される事では無いと、自覚していますが………」

 

頭を下げる。それしか、出来なかった。

 

「…………なーにやってんすか教官?そんなの全然すよ?今まで生身で"ザク"ともやりあってきたんすよ?俺は」

「そーです頭上げてくださいよ!頭下げんのは俺らですよ?」

「そうですよ!コイツにはお世話になりました!お礼を言わなきゃバチが当たりますよ!!」

「教官!パーツ取りが逆ですよ!!何やってんすか!!」

「…………みなさん…」

「まだ行けますよ!例え爆発しても、俺たちに後悔はありません!!」

「おら!前お前が転んだせいだろこれ!」

「そーゆーあんたも教官に叩き伏せられてたじゃないか!!」

「……………ありがとう……」

「さ、訓練始めましょ?教官」

「そうすっよ!!今度こそ負けませんよ!!」

「俺たちもヤレるんだと、"フラック隊"に目に物を見せてやりましょう!!」

「……分かり、ました……じゃ、今日もいっちょ、訓練、始めますか!」

「「サー!イエッサー!!」」

 

ありがとう。笑顔で笑う訓練生達に、中尉はもう一度、深く頭を下げていた。

 

 

『…………!!』

 

 

白亜の巨人が、伝説の"白い悪魔"が、歩き出す……………




このクソつまらん訓練編は次、ようやく終わる予定です!!

やったね!!

中尉は知りませんが、U.C. 0079 7.7、遂に連邦軍にガンダム神話を生み出した伝説のMS、RX-78-2の雛型、RX-78-1プロトタイプガンダムロールアウト!!因みにまだルナ・チタニウムの下地丸出し、特徴的なV字のマルチブレードアンテナも付いておらず、腰の前ものっぺりしたジム形ですが。

しかし本格稼働は3ヶ月後!!しかもその時1号機半壊!!

連邦軍!!働いてくれぇ!!

次回 第三十二章 『私の、たった一つの望み』

「……うん、伍長はバカじゃないな。聞いた俺がバカだった」

お楽しみに!!


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第三十二章 À mon seul désir『私の、たった一つの望み』

中尉の訓練教官編、完結!!

新シリーズ、始動!!

そして、物語は、音を立てて動き始める。

伝説の"一角獣"は伝説ですが、"獅子"は、伝説ではありません………。


過去に、二度、大戦があった。

 

各国が総力を持って、削りあった大戦があった。

 

技術力を結集し、国民を、国土を巻き込んで。

 

この戦争、後の世の人は何と呼ぶのだろうか?

 

それとも、アインシュタインの言う通り、全滅なのか。

 

白亜の巨人は、答えてはくれない。

 

 

 

U.C. 0079 7.14

 

 

 

「中尉、ここにおられたのですね」

 

その声に振り向いた中尉は、怪訝な顔をして振り向いた。

 

「……何か用ですか?使用中のランプは点灯しているはずだったのですが……」

 

現在中尉は"ジャブロー"の射撃訓練所で伍長、軍曹を交えた3人で射撃訓練中だった。

 

中尉はマテバの回転式弾倉を開放、薬莢を排出しクイックリローダーを使わずリロードしている最中だった。

その奥では軍曹がライフルを抱きかかえ伏せ撃ち(プローン)の姿勢で射撃を行っている。800m先の動くターゲットの真ん中にしか当たっていない。しかもピンヘッドばかりだ。伍長も少しでもいいから見習って欲しい。

 

ったく、リボルバーへのリロードは、銃に命を吹き込みその息吹きを聞く革命(レボリューション)だと言うのに……。

 

なぜ呼び止められたんだ?今日は訓練も、何も無い。もちろん悪い事もしてないぞ?……あ?伍長またなんかやらかしたか?

 

「あっ!いつぞやの美人秘書さん!!お久しぶりです!!」

 

そこへ来客に気づいた伍長がデザートイーグル片手にやって来た。

伍長はハンドガンを撃つ時は利き手である左手の手首を右手で抑えるドイツ撃ちをする。伍長の手は細く脆いため、手首はテーピングでグルグル巻きである。ちなみに自分では巻けない。湿布も1人では貼れない時点でお察しだが。

 

デザートイーグルは小柄な伍長の小さな手から大きくはみ出しており、目の前のターゲットもほぼ無傷という有様だったが。デザートイーグルは口径こそ.50と言う、量産品では世界最大クラスではあるが、巨大な銃身、重めの重量にハンドガンには珍しいガス圧作動方式などから反動はそこらのマグナム弾を使うリボルバーよりはマシだと言うのに……。

因みにその隣にはカスタムショットガンも置いてある。なぜか正式採用品が一つもないカオスな場だった。

 

「……コーウェン准将の秘書さんですか!お久しぶりです」

「お久しぶりです中尉。それに伍長も」

「……誰だ……?」

「始めまして。貴方の事は聞いておりますよ。何も最強の戦車乗りだとか」

「……買い被り過ぎだ……」

 

そうでもない気がしないでもないが……まぁ、どうでもいい。

 

「…ところで、ご用件はなんでしょう?わざわざここまで来たのですから……」

「はい。中尉、伍長、それに軍曹。3人に出頭命令が出ています。ヒトマルサンマルにジョン・コーウェン准将の執務室へ来てください」

「はい」

「はーい!」

「……了解…」

「以上です。では失礼します」

 

それだけ告げて帰って行った美人秘書さんを見送り、伍長が口を開く。

 

「なんでしょうね?がんばったからご褒美ですかね?」

「頑張ったって……何を?」

「え、え〜っと……訓練?」

「……それは、義務だ…」

「え!?なら……う〜ん……」

「……無いならなぜ言ったんだよ………ま、取り敢えずお片づけしますか」

「はーい!さぁて……きゃっ!」

 

薬莢を踏んで足を滑らした伍長を慌てて抱きとめる。自分で出したヤツで何やってんだよ。

 

「ご、ごめんなさい!!」

「いいから、落ち着こうな」

「!? ひゃっ、あわわわ……」

「話聞いてる!?」

「……片付け、終わったぞ……」

「…………すまん軍曹……」

「………ごめんなさい……」

 

軍曹が既に終えていた。タッチパネルでターゲットボードの処理までしていた。ごめんなさいとしか言いようが無かった。

 

「……整備は、時間が無いな……」

「なるたけ早く行くか、最近宇宙港エリア制限とかチェックとか厳しいから、入るの時間かかるし…」

「少尉ー、この耳当てどこにやるんでしたっけ?」

「奥のハンガーな。おい、行くぞー伍長!」

「わわっ!待って下さい!!」

 

ジョン・コーウェン准将からの呼び出し、か……。

なんだろう、MSの事か?"フラック隊"の"ザクII"F型に何かあったとかか?

 

「なんでしょーかねー?ほんとーに?……ご褒美ならいいなぁ……」

「何をそんなに……何か欲しいのか?」

「……聞いた話なら、MS関連、か……?」

「"フラック隊"の事とかか?それも考えたんだが、それだとしたら何だ?最近宇宙港エリアが騒がしい事と関係ありそうだよなぁ……」

「その噂聞いてますよ!!なんでもヘンテコな戦艦作ってるって言う話らしいですねぇ…」

「……戦艦……」

 

軍曹運転のエレカがハイウェイをひた走る。"定期便"が天井を揺らすも、もう気にも止めない。パラパラと降る欠片が、ここ"ジャブロー"でジオンの存在を示す唯一の存在だった。

 

「止まれーっ!!」

 

ピーッという笛の音に軍曹がブレーキを踏み込む。検問だ。

 

「何者だ?IDカードを出し、所属を言え」

「……分かった…」

 

軍曹が対応している間、伍長が話しかけてくる。

 

「……毎回毎回めんどくさいですよねぇ……何とかならないもんですかねぇ……」

「……そう言うなよ。でも、前は確かに無かったよなぁ…」

「よし、いいぞー!」

「……どうも……」

 

エレカが滑り出し、目的地へ進んでいく。

 

「…そういや軍曹、RTX-44はどうだ?」

「……戦車としては……落第点……MSなら、まあまあ…」

「やっぱしかぁ……伍長は?"ザニー"は?」

「もっと操作を簡単にして欲しいですね」

「……前も聞いたよ…ソレ。それ以外に何か無いのか?」

「カッコよくして欲しいですね!」

「……うん、伍長はバカじゃないな。聞いた俺がバカだった」

 

そうこうしている間に既に着いていた。エレカを降り、執務室へ。前にはまた美人さんが立っていた。

 

「中尉以下3名、コーウェン准将の命で出頭しました」

「はい、お待ちしていました。中尉はどうぞ中へ。准将が中でお待ちです。2人はここでお待ちください」

「えっ」

「えっ」

「……了解…」

 

なら何のために呼んだねん。辞めてよまた心細いよ。

 

中へ入る。中には准将の他にもう一人男が立っていた。壮年の厳ついおっちゃんだ。誰?俺の知り合いにはこんなおっちゃんいないよ?つーか顔こえーよwツァリアーノ中佐を思い出すわ。

 

「お久しぶりです准将……そちらの方は?」

「そうだな中尉。また会えて嬉しいよ……自己紹介したまえ、B・B」

 

准将がいつもの笑いを浮かべながら言う。准将の言葉にやや眉をひそめながら、男が挨拶をする。

 

「……俺は地球連邦軍地上軍ヨーロッパ方面軍ヨーロッパ軍特殊作戦コマンド部隊"フラック隊"隊長、バックス・バック少佐だ」

「始めまして。少佐。私はここでMS訓練教官をしている…」

「あぁ、その事だがね中尉」

 

その時准将が呼び止める。なんだろう?

 

「…はい?なんでしょう?」

「……このバック少佐が新しい訓練教官となる。引き継ぎの手配などは既に済ませてあるから安心して欲しい」

「はっ!………はぁ!?」

 

とんでもない事をさらっと言ったぞこのおっさん!!

つーか俺どうすんだよこれから!!無職か!?無職なのか!?

 

「……という事だ、中尉。今までご苦労だった」

「………は、はい…」

「では下がりたまえ少佐、いや、新教官」

「はっ!失礼します……」

 

おっちゃんが敬礼して部屋を出る。ん?なんか……違和感?が……。

 

「……気づいたかね中尉。少佐は優秀な軍人だったのだが……膝に矢を受けてしまってな……」

「えぇっ!?」

「……冗談だよ。しかし、傷痍軍人という事には変わりない」

「そうだったのですか……ところで、要件はおしまいでしょうか?それなら私は元の警備の仕事に……」

「おっと、待ちたまえ中尉。話はまだ済んではいないぞ……そう急ぐな…」

「は、はぁ……」

 

なんだよ。こちらとて色々混乱してるのに。それに、"フラック隊"か……"セモベンテ隊"の中佐は元気かな?

 

「どうかね?歩きながら喋らんかね?こうデスクワークが多くては身体が鈍ってしょうがないのだよ……」

「はぁ……お付き合いしますが……」

「やぁ、伍長に軍曹。久しいな。これから散歩だ。付き合ってくれ」

「……了解…」

「はーい!あっ、用ってこの散歩ですか!どこに行くんです?」

「"いいところ"だよ。さぁ、行くぞ中尉。ついて来い」

「はっ!」

 

4人で歩きだす。その時前から誰かが走って来た。

 

ヒーリィ中尉にブレビッグさんだ。その後ろには少佐の歩み去る後ろ姿が覗いている。

 

「中尉!!聞いたぞ!!教官を辞めるって!!」

「中尉!何でよ!途中で投げ出す気!?」

「……あ、あの、お二人さん、落ち着いてくだ…」

「落ち着いていられるか!何でだ!教えてくれ中尉!!」

「そうだよ!私達なにも聞いてないよ!!」

「……いや、コーウェン准将の前なので……」

「「!!」」

「……………」

 

2人が驚いたように身を強張らせ、敬礼する。

それをにやにやと見つめる准将。特にブレビッグさんの胸を。セクハラです准将。それに伍長!悲しげに自分の胸をペタペタ触るな!!フツーだ!!

 

「「こ、これは失礼しました!!」」

「ん、かまわん。話があるのだろう?これが今生の別れとなるかもしれん。言っておきなさい」

 

今またさらっととんでもない事を……今生って!!!?

何?俺死ぬの?

 

「中尉……」

「……ヒーリィ中尉。中尉はあらゆる面で優秀で、それでもって優しい人です。きっと、第一期生として首席も狙えるでしょう……俺より指揮官に向いています。

だから、自分を強く持って、変幻自在に形を変える、水の様に柔軟な思考を持つ事です。

………絶対に生き残って、共に終戦を迎えましょう!!」

「……分かりました…中尉…いや、教官!!今まで、ありがとうございました!!ご健闘を…!!」

「おしまいなんかじゃ、ないさ……全部終わったら、またひとつ始まるんだよ…」

「……あぁっ!!」

「また、会おう。がんばって下さい」

 

中尉と力強く握手をする。その力強さに安心をする。

中尉なら、やれる。絶対にやってくれる。

 

「ブレビッグさん。今までたくさんお世話になりました。ありがとうございました。

……それと、中尉を、支えてあげてください。中尉は、優し過ぎるから……」

「あぁ!!分かったよ!任せな!!中尉も、お元気で……絶対!!生きて帰るんだよ!!」

「はい!では!お二人ともまた!!」

「軍曹!伍長!!中尉を頼んだよ!!」

「また会おう軍曹!!それに伍長も!!絶対に!!」

「はい!!お元気で!!」

「…あぁ…任せろ……」

 

2人が離れて行く。見守っていた准将が口を開いた。

 

「……いい、友を持ったな……」

「はい!この2人と同じ、大切な仲間で、自慢の教え子ですから……」

「……ふむ、そうか……では行くとするか……」

 

そのまま建物の外へ出る。

……………まさか、本当に散歩だとか言うなよ?

だったら泣くよ?

 

「……そう言えば、"セモベンテ隊"について、何か聞いていませんか?お世話になったので、知っていたら……」

「あっ、それ私も気になります!!あれからきっともっとなんかやってそうですよね!!」

 

取り敢えず気になっていた事を聞く。MS関連なら一番知っているはずと踏んだからだ。

 

前を歩く准将は、振り返らずただ一言、言った。

 

「………全滅したよ…」

「「!?」」

「…そ、んな……」

「……それは、本当ですか……?」

「……………」

「……確かな情報だよ。敵の新型兵器と交戦、なんとか、相討ちに持ち込んだそうだ」

「……そう、ですか……」

「……しょう、い……」

 

ショックだった。あの中佐が………。

しかし、当たり前(・・・・)と言ったら当たり前(・・・・)だ。

人は死ぬし、いまは戦争だ。

それが、当たり前になる状況。なってしまう状況。

それが、戦争なのだから。

 

「……伍長。今は泣く時じゃない……」

「………はい……」

「…………………」

 

そう、悲しいのは俺も、軍曹も変わらない。

だけど、中佐なら言うはずだ。

『泣く暇があるなら、敵を撃て』と。

『このバカげた戦いの、終結を勝ち取れ』と。

 

「………さて、ここだ……」

 

大きな両開きの扉の前に来ていた。その大きな扉の前には人が2人。

 

「おう!遅いぞジャック!!いつまで待たせる気だ?」

「そうだな。人を待たせるのは良くない…」

「すまんな。少しヤボ用があってな……」

 

その男は、慣れ知った顔をしていた。

 

「お、おやっさん!?」

「えっ!わっ!!ホントだ!!」

「……久しいな……」

「おう!久しぶりだな大将!!元気にしてたか!?」

「……い、今まで……どこに!?」

「あちこちだ。あ、ち、こ、ち」

「おーおー。泣ける感動の再会劇だ。だが、本題はこっちだ。でしょう?准将殿?」

「そうだな。3人とも、この中だ」

「えっと、この人は?」

 

もう1人の男は、痩身と呼べるくらい痩せた身体に、ボサボサの髪、それにメガネをかけた男だった。

 

「俺の名前はアルフ・カムラ。技術士官だ。階級は大尉。よろしくな?中尉。話は聞いてるよ」

「よろしくお願いします。大尉」

「よろしくね?」

「……よろしく…」

 

値踏みするようにジロジロ人を見る人だな。まぁ、そういう役職なんだろうけどさ?でも、人を何だと思ってんだろ?

 

「……ジャァぁックゥ……?全く久しぶりだとおもったらぁ?まぁた太ったかぁ?……まぁ相も変わらず元気そうで何よりだ」

「そういうお前も白髪増えてるぞ?……が、再会を祝し、今日は飲むか?」

「そうこなくっちゃ!!いい酒、あるぜ?」

 

そしてそこの2人は何やってんの!?何でそんな仲いいの!?

 

用事とやらは今だに分からないが、どうやらこの士官が知っているようだ。

 

「さぁて、役者もそろったな?これで全員か?准将殿?」

「そうだ。始めてくれ」

「だとよ?おやっさん?」

「よしきた! ナァウ、イッツ、ショォータァーイム……!!」

 

おやっさんの合図で大きな扉がゆっくり開いていく。中から白いガスがゆっくりと流れ出し、足元を染めて行く。

 

真っ暗な扉の中に、音と共に明かりが灯った。

 

「どうだ?俺が設計したんだ……素晴らしい出来だろ?」

「いぃーだろう?驚いただろう大将?!たぁだうろついてただけじゃなかったのさ!!」

「……ようやく、ここまで来たんだな……」

「……こ、これは……シュミの世界だねぇ……」

「………わぁーっ!!カッコいい!!」

「……モビル…スーツ……」

 

目の前でケージに収められ、ライトに照らされた白亜の巨体がその姿を白日の下に晒している。

 

白く、力強く逞しく手足に、紺色の胴体は大胆にも前面に大型のダクトと機関砲らしき物が設置されている。

頭部には、特徴的な鋭い双眼(デュアル・アイ)に、目を引く大型のV字アンテナ(マルチ・ブレード・アンテナ)がそそり立っていた。

 

「気に入ったか?こいつの名前は、"ガンダム"」

「……ガン……ダム………」

 

その名前の、なんて心強く、頼もしい事か……。

 

「形式番号、RX-79[G]。"試作先行量産陸戦特化型ガンダム"。……あんたの機体だよ。中尉」

「………これが……俺の……」

 

目の前の巨人の双眸が、鈍く光った、そんな気がした。

 

 

 

『最っ高のマシンだろ?そうは思わないか?』

 

 

 

眠れる獅子が、目を覚ます…………………




俺が!!

俺達が!!

ガンダムだ!!!


希望と可能性の象徴、ガンダム、始動!!


次回!!機動戦士ガンダム U.C. HARD GRAPH 名も無き新米士官の軌跡!!

『T・B・Sにようこそ!!』

絶望を斬り裂き、その手に勝利を掴むか!ガンダム!!


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第三十三章 T・B・Sにようこそ!!

取り敢えず、中尉もMSを手に入れ、反撃が、始まるのか?

まぁ、どうぞお楽しみ下さい。


出会い。

 

それは、世界で最も尊いものであろう。

 

人間の生は出会いで始まり、そこへ収束する。

 

果てし無く続く出会いの連鎖は、偶然の産物その物だ。

 

運命、と言っても過言では無いだろう。

 

その儚い必然の上で、人は、また、何かと出会う。

 

 

 

U.C. 0079 7.14

 

 

 

「形式番号、RX-79[G]。"試作先行量産陸戦特化型ガンダム"。……あんたの機体だよ。中尉」

「………これが……俺の……」

 

"ガンダム"へ歩み寄り、その白く輝く装甲へ触れる。

 

「……やっとだ。やっとなのだよ。中尉……」

「……准将……まさか……?」

「……その、まさか、だ……おい、もういっちょ頼むぞ!」

「ほい来た!」

 

おやっさんが応え、一部のみを照らしていただけだったライトの全てが点灯する。

そして、"ガンダム"の隣にもう2機、違う機体がある事が判明する。

 

「!! 凄い、まだあるのか!!」

「わっ!!もう2機ありますよ!!……でも、結構違いますね……?」

「……シンプルに纏まっているな……量産型……?」

「そうだ。カムラ大尉、説明を……」

「あぁ……コイツは"GM"(ジム)。中尉の乗る"ガンダム"と1部パーツを共有した、簡易量産機だ」

「……ほうっ!聞いていた新型、出来てたのか!てっきり全部"ガンダム"かと…やるなアルフ!!」

「生産ラインの一部も共有しているのだ。こっちまで出来たから、中尉達を呼んだのだよ」

コイツ(GM)も、俺が設計した機体でな……形式番号RGM-79[G] "試作先行量産陸戦特化型GM"だ」

「……気に入ってもらえたかね?中尉」

「……い、一体、これはどう言う……」

 

中尉の問いを無視し、准将がニヤニヤした顔で続ける。

 

「…ところでな、中尉、これは、軍の上層部ですら極一部しか知らない、トップシークレット中のトップシークレットなのだよ……また、見てしまったなぁ……」

「……なぁっ!?…………はぁ……」

「おっ、来た来た、ジャックお得意のソレ!!それで何人の人を闇へ葬り去って来たか……」

 

薄々気付いていたが、やっぱりかよ!!

前々から思っていたが、手駒にする気マンマンか!

 

「………それで、どうしようと言うのですか?」

「おぅ、流石に2度目はあまり効かないか………中尉は、今、連邦の現状について、どう考えている……?」

「「…………」」

 

准将が中尉を真っ直ぐ見据え問う。周りは静まり返り、視線は中尉に集中していた。

 

「……時代は移り、戦場の主役はMSとなりました……」

「ん。それで?どうだというんだ?」

「"ルウム"で負け、地球侵攻を許し、連邦軍は窮地に立たされています。今、このようにMSを開発に成功しましたが……」

「……したが、何だね?」

「……実戦経験や戦術運用を初めとするノウハウやドクトリン、データは皆無に等しく、機体性能はどうであれ、ジオン軍に大きくリードされている状況にあります……」

「…………ふふ、ふははははははっ!!……やはり分かっているようだな中尉。コイツが気にかけるワケだ……」

「どうだジャック?これで分かったか?」

 

准将がおやっさんへと目をやる。おやっさんはしてやったり顏だ。

 

「………もう、何年の付き合いだ…?」

「…もう忘れちまったよ。あの(・・)ジャックがそんなお偉いさんになるたぁ、流石の俺でも予想出来なかったが……」

「……そういうお前に俺はやられっぱなしだったな……中尉!!」

「はっ!!」

「それに軍曹!伍長もだ!!」

「は、はい!!」

「……ハッ!」

 

准将の声に反応し、直立不動の体勢をとる。

 

「貴官らには、新しい役職を、極秘の任務を言い渡す!!一一三○(ヒトヒトサンマル)に、儂の部屋へ来るんだ!」

「「はっ!!」」

「……ハッ!」

「……では、また後でな……」

 

准将が去って行く。それを見送ったところで、カムラ大尉に声をかけられる。

 

「災難だったなぁ中尉。コーウェンに目ぇつけられるたぁ…」

「……いえ、薄々ですが、予測していました…」

「ふんっ………コイツは、俺が設計段階から深く関わって開発した傑作だ………だが、まだ足りない……」

「……実戦データ、ですか……」

「そうだ。だから中尉、コイツのデータだけは必ず持ち帰ってくれよ。期待してるぞ?」

 

ポンと肩を叩き大尉が出て行く。やはり、冷血な人という印象だ。

……でも、もしかしたら不器用なだけかも知れない。本当にデータだけなら、『死んでも』とか言うはずなのにな……。

 

「まっ、中尉は良くやったさ。ジャックとそこそこ渡り合ったんだ。自慢していい」

「え?あ、はい…………というかおやっさん!!今までどこに!!心配したんですよ!!」

「そうです!!黙ってどっか行っちゃって!!もぅっ!」

「言っただろ?あちこちだ。あちこち。……前々から聞いてた"V作戦"を"ジャブロー"で本格的に確認したからな……あちこち飛び回ってパイプ作りつつMSについて研究してたんだよ。あ"?文句あっか?」

「……やはり、か……」

「そ、そうだったんですか……具体的に何処へ?」

「お土産ありますか!?お留守番をした人にはお土産を請求できる権利が発生するんですよ!!」

「う~ん、北アメリカや、ヨーロッパ、アジア、ジャパン、月面都市……軍事施設、研究所に、民間企業もかなりな……」

「ええっ!?どうやって!?」

 

というか時間的な問題や、ジオン勢力下にも行ってるのはどういう事!?

 

「月も!?すごいすごい!!お土産に期待がかかりますね!!」

「強行軍で、無理やりな……コネもあるが……」

「……日本?………! ヤシマ重工(YHI)ですか!?または六菱?」

「……北アメリカは、オーガスタに、アナハイム、という所、か……」

「月!!いいですね!!また行ってみたいですねぇ……」

「そうだ。やはりジャパンは良かったぞ?あちこちで、中尉のデータを元に交渉したんだぞ?かなり捗ったぜ」

「は、ははは……」

 

あまりの凄さに乾いた笑いしか出ない。ホントにやべぇなこの人。

 

つーか、実家(ウチ)、大丈夫かな?頼んだよ兄さん……。

 

「まっ、中尉も教官とかやったんだろ?推薦つーかねじ込んだの俺なんだからな?」

「………アレは、そういう事か……」

「……お土産……おみやげは……?」

「……はぁ、伍長。後で"ガンクラブ"、最新刊貸してやるから…」

「えっ!!やった!!ありがとうございます!!今月号のIWI特集楽しみだったんですよ!!」

「んじゃ、そろそろ行くか。ジャック、待たせるとこえーぞ?」

 

おやっさんと話しながらエレカに向かい、乗り込む。

 

エレカで走りながら、ワクワクテカテカしている伍長が中尉も気になっている事をおやっさんに聞いた。

 

「おやっさんとコーウェン……えぇーっとさんはどういう関係なんです?私、気になります!!」

「准将な。それは俺も気になりますね。実際どうなんです?」

「ジャックか?……まぁ、言うなれば……腐れ縁だよ。ただ、俺が良い様に使ってたんだが……」

「……准将を、良い様に、か……」

「あ、お前らは真似するなよ?あいつ結構エゲツないぞ?」

「……それは、痛いほどに……」

「そうなの?私前会った時お菓子もらって『ふむ、伍長、秘書やらないか?』って聞かれたよ?書類キライです、って言ったらなら仕方ないなって言ってましたけど……」

「……お菓子って……」

「……はぁ…」

「…あんのエロジジイ……」

 

そんなこんなで建物へ着き、エレカを降り准将の部屋へ。

もはやおやっさんの顔パスは驚かなくなってきた自分が恐ろしい。実は俺偉いんじゃね?と誤解して調子に乗らんようにせんと。

 

「おぉーし、来たぜジャック!で、話は?」

「失礼します」

「ます」

「……失礼する…」

 

おやっさんが呼ばれもせず部屋に入り、どっかりとソファーへ腰掛けた。もちろん俺たちはそんな事せず横へ立っているが。

 

「よく来たな。では、中尉、軍曹、伍長。特命を言い渡す。こちらへ」

「「はっ!」」

「…ハッ!」

「……お前もなぁ、せめて立てよ。示しがつかんだろう…」

「たぁーっく、しっかたねぇなぁ……コレ貸し一つな?」

「むぐっ、当たり前の事を……」

「ん?なんだ?あー、何か、口滑りそうだなぁ……」

「…んんぐっ!?……いや……」

「「………………」」

「……おやっさんすごい……」

 

いや、伍長。准将の顔見てみ?感心するとこじゃねぇから。仲が良いのやら悪いのやら……。気の置けない関係?

 

「では、指令を言い渡す。これより4名は、中尉を小隊長とした地球連邦軍総司令部"ジャブロー"直属の極秘特務遊撃部隊及び実験部隊である、第2独立機械化混成部隊、通称、MS特殊部隊第二小隊として、MS運用を通しノウハウを収集すべく活動せよ!!」

「はっ!!」

「…ハッ!」

「あいよ。分かってたけど」

「……難しいので、何か名前つけていいですか?」

「んむ?別に構わんが……」

 

何言ってんの伍長!?別にまんまでいいじゃん!!

 

「…ん?第"二"なんでだ?ジャック?」

「………お前が…色々無茶な要求をしたからだ……!」

 

成る程、第一はまだ書類上しかないのね。それでその分の予算を回した、と……。

 

「あーっ、予算食い潰して回したか。相変わらず悪だなー」

「お、ま、え、の、せいだ!!」

「だってジャックがどうせ揉み消すだろ?ならギリまでガッツリとと思ってな……」

「…………………」

 

目の前で飛んでもない会話が繰り広げられているが……。ホントやベーな連邦軍。大丈夫かコレ?

 

「チーム名か……あっ!」

「先言っときますがサムライなんたらとかは辞めて下さいね!!」

「あっ!この!」

「えーっ!!」

「……そうだな、書類上はB隊(チーム・ブラボー)だ。Bからで頼む」

「……うーむ…」

「…うーん、B、Bかぁ…ブロロロローンとお送りします……」

 

それはイヤだぞ伍長。というかどーゆーセンスだソレ!?

 

「……そんな別にブラボーまんまで…」

「「ダメだ(です)!!」」

「どうせなら変えないか中尉。儂はそう悪くない意見だとおもうが?」

 

なんでや。つーか、みんなそんな悩まんでも。

 

「……………」

「"チーム・バリスタ"?」

「……なんか、パクりっぽくない?」

「…………む……」

「…おっ、そうだ。初のMS部隊に、この低年齢……"ブレイヴ・ストライクス"などはどうだ?」

 

ふむ。サムライなんたらよりは浮かないよな。うん。カッコイイし。

 

「ジャックにしてはなかなかだな。中尉は?」

「……別にいいと思いますが……」

「私もカッコいいので賛成です!!」

「……異論は無い…」

「……ふむ!なら、登録しておくぞ……」

 

ということで、第2独立機械化混成部隊、通称、MS特殊部隊第二小隊改めて"ブレイヴ・ストライクス"(仮)に。

 

「……では、部隊名も決まった事だ。補充要員を紹介する。入りたまえ」

 

名前が自分のが採用されたためかやや機嫌を取り戻した准将が呼ぶ。

入って来たのはそこそこ若い男女の2人組だった。

 

少なっ!!おい!!どーユー事!?

 

「右の女性が、君たちの戦闘をサポートする戦術オペレーターの……」

「上等兵です。以後、お見知り置きを」

 

上等兵さんが挨拶する。落ち着いた声だ。多分また歳上だ。

教官の時にチラリと見た、戦術オペレーター養成コースの首席さんだ。日系人だったから覚えていたのだ。

 

「……あと、オマケが……まぁ、どうでも……」

「ちょ」←オマケ

 

オマケが何か言っている。男にはあんまり興味無いのか准将。あったらあったでそら恐ろしいが。でも仕事は興味関係なくやって欲しいと思うのでした。

仕方ないのでフォローする。今後ともお世話になりそうだし。こっちは若そうだ。同い年くらいかな?

 

「あの、お名前は……?」

「あ、あぁ…技術少尉だ。よろしくな?隊長」

 

とオマケ改め少尉が挨拶する。

 

「はい。よろしく頼みます」

「よろしくねー?」

「……よろしく頼む…」

「ほう…」

「……資料、作戦指令書は追って渡す。では……」

 

えっ!!終わり!?補充パイロットは!?

 

「あの…」

「なんだね中尉?」

「パイロット、少なくないですか?」

「ん?それは、必要最低限しか補充出来ないのでな……コレでも何とかねじ込んだんだ…」

「え?」

 

思わず、マヌケた声が出た。

 

「……この部隊の存在は非公式部隊に近いのだ。機密性、隠密性が段違いでな?ヘタに大きな動きは出来んのだよ……その分、中尉達はMIA扱いのままだからな……」

 

とんでもなくキナ臭ぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!

 

「……極秘部隊なのだ……分かってくれるな……?しかし、最新兵器が乗り回せるんだ。アラン・シェパード並みに光栄な事だぞ?」

「………はい……」

 

……と言うしかねぇだろうが!!

分かりたくねぇ~。

 

「ん。では、下がりたまえ。話は以上だ」

「……失礼しました」

「ました」

「「失礼しました」」

「……失礼した…」

「また来るぜ?ジャック。今夜は一杯やるか?じゃな」

 

全員で挨拶し外へ出る。

 

………………不安だ………。

 

「では、改めてよろしくお願いします隊長。至らない所があれば、すぐ申し上げてください」

「はい。よろしくお願いします」

 

上等兵は背の真ん中位まで届くほどの長さの、綺麗で艶のある黒髪をサイドテールにしていた。小顔に紫がかった目で、肌も真っ白な美人さんだ。小柄な伍長と比べると、背もすらっと高い。なんか緊張するなぁ。

つーか少しくらい笑って欲しい。軍曹に続くクールなお人が……。無口じゃないのが救いだな。

 

「よろしくな!!隊長!!仲良くやろうぜ!!」

「あぁ、よろしく!」

 

少尉はややはねたショートカットの金髪だ。それに緑色の目がピッタリの、日本人の俺からしたら教科書に載っているようなステレオタイプの外人だ。オゥ、マイコーラ!!とか言ってみて欲しい。

こっちはとっつきやすくていいかもな。同い年くらいだし!!←コレ重要!!

 

「よろしくねー!!やったー!」

「……よろしく頼む…」

「よろしくお願いします」

「おう!!」

「あ、おやっさんって呼んでいいか?」

「おう!仲良くやろうやボウズ!」

 

みんなが挨拶をする。軍曹は相変わらず無表情だが、伍長は大はしゃぎだ。

 

「仲間が増えるよ!!やったね少尉!!」

 

おいやめろ。その言い回しはとにかくやめろ。

 

「ふふっ!とにかく!!」

 

ととっと伍長が前へ躍り出て、くるっとターンする。

 

「これで、中尉も、きっと大丈夫」

 

輝く様な笑顔をむけ、手を軽く広げながら言う。

 

T・B・S(チーム・ブレイヴ・ストライクス)へ、ようこそ!!」

 

 

『初撃は、勇気ある者にこそふさわしい』

 

 

反撃の鏑矢は、今放たれる………………………




チーム結成!!

新キャラも登場!!


ブレイヴ・ストライクスは、これを書く前に書こうとしたボツ案からの逆輸入です。

ボツ案とは、とある孤児を集めてね結成された外人部隊の学徒兵を主役に、Vガンダムバリにばんばか人が死ぬ設定で、名前ばかりは勇ましいも、その実態は使い捨て部隊、というものでした。
その戦場の低年齢化のマイナスイメージを払拭するためのプロパガンダ部隊の名前でした。蛮勇を勇気と言い換えた部隊です。

その名前はなかなか気に入っていたので。エンブレムも決まっていて、剣をあしらったものでした。攻撃あるのみ隊です。



次回 第三十四章 番外編② なぜなにガンダム

「なるほど、分からん」

お楽しみに!


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第三十四章 番外編② なぜなにガンダム

完全に趣味全開の回です。リアルに読まなくてもいい回その2です。

鋭い人なら題名をみてわかると思いますが、つまりそーゆー事です。

今回は連邦軍の新型MSに使われた技術関連と、ザクIIとの比較がメインとなります。

個人解釈も入っています。コレを参考に話すると恥をかきます。予めご了承下さい。


3

 

 

2

 

 

 

1

 

どっか~ん!

 

 

 

なぜなにガンダム~!

 

 

 

そのいち がんだむってな〜に?

 

"ガンダム"とは、地球連邦軍が総力を挙げて行った"V作戦"と呼ばれる量産型MS開発計画及び量産型MSを基幹とした戦術体系構築を目指した作戦の一環である、"RX計画"で試作されたMSの中の1機であり、コンセプトは「白兵戦に対応可能な汎用MS」である。

 

そのため本機は試作型MSとしてコストを度外視し持てるだけのスペックを付加された実験機であり、その性能はあらゆる面でジオン軍の主力MSである"ザクII"を遙かに凌駕していた。

 

その"ガンダム"で最も有名なのは2号機であろう。

あらゆる伝説を打ち立て、"白き流星"、"白い悪魔"と呼ばれ恐れられた本機を参考に、数多くの"ガンダム"タイプMSが開発されたが、今回はその中でも"量産型"、"陸戦型"と呼ばれ、約20余機が生産され、活躍した機体について説明しよう。

 

 

そのに ざくとがんだむでくらべっこしよう!!

 

今回比較するのは、MSの無かった連邦軍がストップギャップとして先行量産、配備したRX-79[G] "試作先行量産陸戦特化型ガンダム"(以下 "陸戦型ガンダム")と、ジオン軍屈指の傑作量産型MS、"ザクII"の地上型であるMS-06J "ザクII"J型(以下 "ザクII")である。

 

ただし、"ザクII"は純粋な量産機である上、大気圏内外両用機を地上用にチェーンしたものであるのに対し、対MS戦闘を前提に"ザクII"より後期に生産された"陸戦型ガンダム"はコストを度外視した試作型MSをさらにコストを度外視し陸戦型に再設計し先行量産したものであるため、差が出て当たり前であるが。というか出やけりゃマズい。

 

カタログスペック

"ザクII" vs "陸戦型ガンダム"

 

生産形態 量産機 ≠ 生産形態 先行量産型

頭頂高:17.5m < 頭頂高:18.2m

本体重量:56.2t > 本体重量:52.8t

全備重量:74.5t > 全備重量:73.0t

出力:976kW < 出力:1,350kw

推力:43,300kg < 推力:52,000kg

最高速度:95km/h < 最高時速:115km/h

 

比べると一目瞭然である。

"ザクII"に比べ、"陸戦型ガンダム"は簡単に言うと「大柄で、軽く、足も速く、力持ち」なのである。ヒーロー体型だね!

 

その他性能も、"陸戦型ガンダム"が上回っている。例えば、MSの目であるセンサー有効半径は、

"ザクII" センサー有効半径:3,200mに対し、

"陸戦型ガンダム" センサー有効半径:5,900m である。

 

お互いのセンサーは周囲の大気状況、ミノフスキー粒子濃度で変動するも、2倍とまでは言わないがかなりの性能差がある。

これは戦場では大きな差となる。敵をより遠くで捉えられた方が有利に決まっている。

この差では、"陸戦型ガンダム"が敵を捉え戦闘態勢に入っているのにも関わらず、そんな事梅雨知らずキョロキョロする"ザクII"、という構図が出来上がってしまうのだ。

 

MS戦闘の基本は目視であるが、"ザクII"より背が高い上メインカメラが頭頂部にある"陸戦型ガンダム"の方が有利である事に加え、センサーも強いため先に敵を射程距離に捉える事が出来るのだ。

 

さらに"陸戦型ガンダム"は"ザクII"には出力の関係上装備出来ない兵器、"ビームライフル"を装備出来る事も大きいだろう。

"ビームライフル"は大気状況や発射時の出力によって射程距離は変わる物の、当たる当たらない関わらずなら有効射程距離は10kmを越える。

大気圏内でのビーム兵器を用いた狙撃は困難であるが、腕次第では可能であるため、この差は大きい。

 

更に身体を守る鎧と呼べる装甲も大きな差がある。

"ザクII"は装甲材質に超硬スチール合金、発泡金属、カーボンセラミック、ボロン複合材料などを用いており、これは"ザクII"の仮想敵である地球連邦軍主力戦車、"61式主力戦車"の155mm主砲を防ぐに十分な性能であった。

モノコック構造の装甲方式であったが、部分単位では"クラッシャブルストラクチャー"方式を採用し、一定以上の負荷がかかると同時に瓦解する事で衝撃を相殺する様に出来ている。 これは宇宙開発機器に置いて長い歴史を持つジオニック社が得意とする分野であったためだと言われている。

 

モノコック構造とは、ジオン公国軍MSに採用されていた機体構造で、外装のみで内部の電気系統や動力系統といった機体全体の自重を支える外骨格構造である。外装を補強するフレームや縦通材を省略できるため、機体の軽量化と機体内スペースを有効利用することでペイロード増加を図ることが可能な他、耐水性、耐圧性に優れており、これは後々バリエーション豊かで高性能な水陸両用MSなどを生み出す土壌となった。これはセミ・モノコックと併せて応力外皮構造とも呼ばれ、例えるなら卵の構造である。旧世紀時代より、航空機や建築物の代表的な構造として利用されてきており、ほぼ完成している既存の技術を用いた保守的な設計であると言えよう。

 

ジオン公国軍の大半の主力量産MSはこのモノコック構造を採用しており、ジオン系MS特有の曲面の多い外装は、モノコック構造ならではのものである。曲面装甲は浅い角度で侵入した弾丸を弾く為、副産物的な立ち位置ではあるが装甲強度の向上にも繋がっている。

 

モノコック構造は軽量化、機体内のスペース有効利用などが可能な反面、充分な強度を持たせるための強度計算が難しいことから生産性は悪かった。また装甲が骨格としての役割を兼ねるため、衝撃で外装が歪んだ場合、被害が及んだ部位全体を交換しなければならないため効率が悪く、整備性の面でも問題は多かった。これはセミ・モノコック構造と一長一短なものである。

また、モノコック構造は開口部を設けると強度が不足するため、整備点検用ハッチが少なく、オーバーホールなどの整備時には大掛かりな解体作業をしなければならないという難点も抱えていた。そして、場合によってはジェネレーター換装などの改良作業すら、自重を支えるモノコック構造の重量許容範囲内に収まるように行わなければならないという制限もあり、特にそれらの制限で縛られるMS-06系はジェネレーター換装を含む大規模な改修や拡張が行えないという欠点もあった。

 

しかし"陸戦型ガンダム"は強度及び合成に優れたセミ・モノコック構造の3重"ハニカム"方式を採用、さらにルナ・チタニウムと呼ばれる装甲材が使われているが、この性能は"ザクII"に用いられている物を遙かに上回る物であった。

 

セミ・モノコック構造とは一年戦争中の地球連邦軍MSが採用していた構造でモノコック構造の一種だが、モノコックとの違いは外装に加えて円框、縦通材といったフレームで追加補強し、強度向上を図ったものである。基本的にはモノコック構造と同一だが、外装の裏側にフレームを通すため直線主体な装甲になりやすく、これが連邦系MSの特色ともなっている。

 

この場合で指すフレームとは内骨格ではなく、外装を補強するために構成されたもので、あくまで応力外皮構造の範疇に入る。大型の旅客航空機や鉄道車両などで使用される比較的、ポピュラーな構造システムである。ジオンの場合でも同じであるが、革新的な兵器であるMSであるが、使われている技術は保守的な物が多く、以下に兵器に信頼性が大切かが良く現れている結果と言えよう。

 

ちなみに円框、縦通材だけで自重を支えて装甲を単純な外装とする構造はトラス構造と呼ばれるが、軍用MSの世界でトラス構造が普及することはあまりなく、主にトラス構造は宇宙航空機や民間作業用MS、宇宙機などで採用されている。

セミ・モノコック構造の利点は容易に強度を上げられ、耐弾性や衝撃に強く、強度不足を気にしなくてもいいため、開口部を設けて整備用ハッチや装甲そのものをパネル化させることが可能となる。そして、強度計算もモノコック式よりも単純で、迅速な生産が可能であることが挙げられ、モノコック構造に比べて不良品発生率が低く、歩留りは良い。連邦軍が一年戦争末期において、最終的に数千機とも言われる大量配備に成功したのもうなづける話だと言えよう。

 

また、強度を保ったまま装甲表面のパネル化が可能となったため被弾・破損した部位のみを換装させることが可能で、これによって整備性が向上した。これはジオンのモノコック構造とまったく反対の利点であり、元の補強材に甚大な損傷がなければ、衝撃で外装が多少歪んでも稼動を続けることすら可能である。

その他にも拡張性も高く、ジェネレーター換装や補助エンジン、プロペラント・タンクの追加などの改良も比較的簡単に行える。こうした外装換装の簡略化は同時にバリエーション機を短期間で生み出す土壌となり、様々な特殊機やカスタム機が開発された。

高い生産性と防御力を持つ反面、フレームで内部スペースを奪われて手狭になりやすく、積載量も限られるという欠点を持っていた。また、補強材の分だけモノコック機に比べて重量が増えることになり、連邦軍の場合では軽量金属であるチタン系合金とセラミック、ボロン、強化プラスチックなどの緩衝材で構成した複合装甲を採用し、推力を増強させることで自重軽減を図り、なおかつ機動力低下を防いだ。高い生産性と整備性、ユニット換装や修理が簡略化させることが可能なセミ・モノコック式構造はMS開発において立ち遅れていた連邦軍にとっては魅力的であり、フルアーマー・オペレーションなどの追加装甲や装甲そのものをユニット化させてミッションごとに換装させることで適応性を高め、後のジオン軍のモジュール概念、ブロックビルドアップ製法と融合してムーバブル・フレーム構造概念を生み出す土壌になっている。

 

さて、構造の話はさておき、構造材である特殊新型合金であるルナ・チタニウム合金についての話に移ろう。ルナ・チタニウム合金とはU.C. 0064に開発されたチタン、アルミニウム、希土類金属などから構成される合金である。(ルナ)で精製されるチタン(チタニウム)の合金であるところからその名が付いた。月面上という特殊な重力下で精製することにより従来のチタン系合金以上の耐弾性、耐熱性、耐放射性、耐衝撃性、軽量性など様々な特性を有する。

 

地球連邦軍所有のアステロイド基地"ルナII"で採掘されるものが特に高純度であり、また、ジオン軍は精製に関するノウハウを持たなかった。

RX-78 "ガンダム"をはじめとする"RX計画"の機体の装甲材として採用され、なんと至近距離からの"ザクマシンガン"でもびくともしない防御力の高さを見せたが、コストや加工の難しさの問題により"ガンダム"の量産型である"GM"には従来型のチタン系合金が採用されている。ただし"陸戦型GM"の装甲はルナ・チタニウムである。"ガンダム"のシールドの表面にも使用されている。

 

つまり、余程の至近距離まで接近しない限り"ザクII"の攻撃は通用しないと言っても過言ではない性能を持った次世代装甲であるのだ。

 

これは上で述べている通りコストパフォーマンスは最悪であり、加工も難しいため"陸戦型ガンダム"のものはRX-78 "ガンダム"のものと比べ曲面を持たないためやや防弾性にかける嫌いがあるも、それでも十分な性能である。

 

因みに"ザクII"の近接格闘兵装である"ヒートホーク"でも溶断するのに時間がかかるため致命傷になり得ない場合がある程である。しかも強硬スチール合金と比べかなり軽い。

それをふんだんに使用、また、耐弾・耐衝撃・耐久性をテストを繰り返し行い"ザクマシンガン"に耐えうる強度を備えながら部分毎の構造、厚さを変化させる事で重量を軽減。絶妙なバランスで防御性能と機動・運動性能を両立させている。

装甲の方式も"ザクII"がモノコック構造を取っているのに対し、連邦軍のMSは最新式の高強度プラスチックを利用したハイブリッド方式のセミモノコック構造だ。そのためアクセスハッチなども多く設ける事が出来、整備性も高い。

 

つまり"ザクII"と比べ遙かに「軽くて硬い」鎧を纏っているのが"陸戦型ガンダム"なのである。

決して「ザクポン」や「GUNDAM」と書かれただけのダンボールなどではない。ダンボーではないのだ。メカマツオでもない。

 

 

そのさん せっけいしそうとぎじゅつをくらべてみよう!!

 

この性能差は何故か?それはひとえに設計思想の違い、と言えるだろう。

 

"ザクII"は宇宙空間での対艦攻撃を前提に開発され、地上運用能力は副産物と言っても過言では無いレベルであるのに対し、"陸戦型ガンダム"は地上戦のみを考え対MS戦闘のために開発されたMSである。

 

そのため"ザクII"には使用されていない技術、設計思想が多くある。それを紹介して行こう。

 

駆動系

"ザクII"は駆動系に「流体パルスモーター」と呼ばれる技術が使われている。詳しい説明は省くが、運用面の問題として廃熱があり、その廃熱のために動力パイプが剥き出しになってしまう事と、周辺機器が多いため重量が嵩む事がある。

 

それに対し"陸戦型ガンダム"は「フィールド・モーター」という技術が使われている。

 

フィールド・モーターとは、連邦軍技術開発局とサムソニ・シム社が共同開発した新機軸アクチェーターシステムである。

ミノフスキー技術を応用した駆動モーターで、ジェネレーターが生み出した大電力を用いIフィールドを時空間的にナノレベルで制御しミノフスキー粒子の相互作用を利用する事で小型でありながら超高出力のトルクを発生させる事が出来るという特徴を持っている。簡単に言えば電磁石モーターをミノフスキー物理学を用い再設計、大型化、大出力化を図ったというところか。

また、流体パルスモーターと比べ確実性が高く、各ブロックのブロック化が容易でメンテナンス性にも優れていた。

因みに"陸戦型ガンダム"は試製のSS-SIM109型を使用している。これは"オリジナル"と同じである。

兄弟機である"陸戦型GM"はその簡易量産型のSS-SIM112Sを使用している。

 

地球連邦軍のMSは、ジオンの物と違いミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉から出る電気エネルギーを単純(・・)にフィールドモーターに通電し、駆動させるのである。

 

一見 ジオン公国が採用している流体パルスシステムより仕組みは簡単単純に見えるが、関節(駆動)部分に駆動支点と動力(フィールド・モーター)を集約させてしてしまっている事から関節構造が非常に複雑になっており、加えてフィールド・モーター自体がミノフスキー技術を応用した先端技術だったので、細かでシビアな技術が要求される。

 

フィールド・モーターシステムのメリットは、関節が壊れたりすると、その部分の駆動部分を丸々取り替えるだけで良いので、メンテナンスに掛かる時間が短縮されることにある。 また、ミノフスキー技術によってモーター自体の小型化に成功し、流体パルスシステムに見られるような動力パイプやパルスコンバーター等を必要とせず、重量と体積を減らせる事だ。

 

動力パイプなども不要になる為、"ザクⅡ"のひざ関節部分に見られるような動力パイプ等の突起部が少なくなる。

これは白兵、格闘戦を想定されたMSにとってこの部分は大きなアドバンテージとなりえる。

逆にデメリットとして、些細な故障でも、高価なフィールド・モーターを含めた駆動部分を丸ごと交換し、交換した物は現地で専門家がバラし修理するか後方のデポに送る必要があり、メンテナンスに費用が大きく掛かることか。

つまり壊れたらその部分だけ変える"ザクII"と比べ丸ごと変える"陸戦型ガンダム"は予備パーツを多く用意しなければならないと言う事である。

 

因みにその対策のためと今後の研究のためモーターの一つ一つに小型センサー・記録媒体をワンパックにした"モニタリング・パック"が内蔵されており、どのような環境下でどのぐらいの負荷を受けながらどのように動いたか、駆動回数、駆動指示からのレスポンス時間、出力値、Gの方向などが事細かに記録される。

これを応用したものがフレーム、装甲にも取り付けられ、サブ・メインコンピュータに伝えられる。

そのため摩耗のための交換時期が簡単に分かる上、繰り返される動作をコンピュータが学習しどんどん最適な駆動を行う様になって行くという能力もある。

 

つまり"陸戦型ガンダム"は、頭となるコンピュータに加え、身体であるモーターも経験し成長するのである。

 

動力

動力方式は"ザクII"と変わらないミノフスキー・イヨネスコ型熱核融合反応炉であるが、"ザクII"が大型のもの一機のみであるのに対し、"陸戦型ガンダム"はタキム発動機開発、ハイ・ウェル重工製の超小型で高出力のものを複数積んでいる。その数なんと胴体胸部3、胴体バックパック2、胴体腹部2の計7基。これはコア・ブロック・システムの名残りである。しかしそのコア・ブロック・システムも無いため冷却関係に余裕が出来、安定した能力を発揮出来た。

さらにその小型ジェネレーターを高精度に同調させる事で"陸戦型ガンダム"は高い出力を得ている。

 

このジェネレーター小型化技術と同調技術が"陸戦型ガンダム"のパワーの秘訣であると言えよう。

 

また複数あるためトラブルに対しても強く、一つを残しその他が大破しても歩行出来るレベルの発電は行える。

そのためサバイバリティ能力の向上にも関わっている。

 

センサー類

"ザクII"はセンサー・カメラ類を一つに集約したモノアイを備えるが、"陸戦型ガンダム"は違い、頭頂部のメインカメラ、射撃照準用のデュアル・センサーを備えている。

 

このため、"目"を持つに至ったが、これは、メイン・サブセンサー・カメラとして、また立体視、測量が可能という利点がある。

その他の付加価値として鋭い眼光は威嚇としての効果、象徴的な新兵器としての宣伝効果を持たせるためという説が有力である。

因みにバイザー型と比べセンサー露出が抑えられているため耐弾性の向上に繋がった。

 

しかしそのため"ザクII"などのモノアイと比べるとセンサー走査範囲が狭いため、後方にもセンサー・カメラ複合機器が装備されている。

 

因みに時折見られるこの"目"の発光現象は、このセンサー表面を覆う特殊保護層グレイズ・シールドの能力の一つで、通電する事で性質が変化する新素材エレクトロクロミック材が用いられており、周囲の状況に合わせグレイズ・シールドの性質を最適化しており、そのリセット時のエネルギー放出が起きる為である。

周囲の環境にあわせ、シールド内部の複合センサー/カメラ/シーカーにとって負荷のかかる過度の電磁波を選択的に透過させるフィルター機能があるのだ。

簡単にいえば絞り(・・)である。入ってくる紫外線、赤外線などをはじめとするあらゆる波長の波をカットし、射撃に最適な情報をコクピットに届けるのである。

これは命中率に大きく関わるため戦闘中にも頻繁に行われる。

また威嚇として光らせる事も出来る。発光パターンも変更出来る。やろうと思えばネオンサインのような事も出来る。これは光通信のための機能であるが。

 

頭部はセンサー類が集まっているため"ガンダム"は大型の廃熱ダクトが多く取られているが、"陸戦型ガンダム"は防塵などを考えられ小型化し複数配置する事で対応している。"ヒゲ"に見えるあれも模様でなくダクトである。

 

実は額に当たる部分や口に当たる部分は飾りでなく複合センサーユニットである。センサー・レーダーユニットのレドームとして独立しており、"陸戦型ガンダム"の高いセンサー能力を支えるのに一役買っている。ちなみに"陸戦型ガンダム"は"ガンダム"よりセンサー類が地上用に強化されており、口に当たる部分は廃熱ダクトが直接付いている。

 

コクピット

"陸戦型ガンダム"のコクピットは"ザクII"の後期型コクピットを参考にしたもので、2本のT字型のレバー(Tというよりは2の上を直線にしたものに近いが)に、2〜6個のペダルが主な操縦方法だ。

ほぼシュミレーターのものと同じであり、機種転換は簡単で、基本動作も簡単、ほぼ全てのMSが共通化されているのがジオンのMSとの大きな違いである。またジオンのシステムを参考に作られているため、レイアウトはともかく操縦操作そのものに違いは少なかった。

そのため中尉達はあまり違和感なく慣れる事が出来た。

 

コクピットのレイアウトは"コア・ファイター"のものを応用した形となっており、コクピットフレームそのものがサバイバルセルでもあるため構造的に強固で、完全密閉式であり、内部はコクピットCECS(環境コントロール・システム)管理下の完全循環式のエアコンが効いている。非常にありがたい。因みに生死に関わるため"ジャブロー"のオフィスより快適。でも苦手と言って切ると循環が止まるので切れない。

 

また"コア・ファイター"のシート稼動機能を応用し、シートを機体に直接つけるのではなくアームをもって支持する方式をとっている。そのため簡易型リニアシートの様になっており耐衝撃性があり、揺れも抑えられるため酔い辛い。

 

シートそのものもインジェクションシートとなっており、そのスイッチは簡単には押せないが、いざという時には瞬時に押せる設定をする事を義務付けられている。

そのためにコクピットハッチは上向きであり、これはうつ伏せで行動不能になった際も脱出しやすく現地では好評であったが、コクピットブロック搭載位置の変更から胸部装甲・フレーム強度の確保のため余分な重量増を招く事から、後の機体には引き継がれなかった。

因みに中尉の場合はシートの股の間のレバーを上に引く事で作動する。これは"マングース"と共通にして欲しいと頼んだ結果である。伍長は壁面のガラスで包まれた真っ赤なボタンである。押してみたくて仕方がないらしい。

作動すると爆砕ボルトが作動しコクピットハッチが吹っ飛びシートが射出される。押すなよ!!絶対に押すなよ!!

 

ディスプレイはジオンと同じ四面タイプだが、ジオンのMSのコクピットよりメインディスプレイのサイズは小型で、サブディスプレイが多く設けてあり細分化してあるため、衝撃に強い設計となっており、また機体のダメージによりディスプレイが破損しても予備として使用可能。

 

表示される映像はセンサー・カメラ・レーダーなどで捉えた風景、動体、機影などを一度解析、分析を行い登録してある3DCG画像に変更、差し替える機能があり、殆どのMSがこの方式をとっている。

そのためノイズキャンセラーの様に働き、ミノフスキー粒子下における電子機器の性能低下による荒い画像、吹雪などの気象、大量のデブリ、硝煙、爆炎、煙幕などもある程度カットしクリアで見やすいものとなる。

しかし、このため偽装がさらに有効になり、センサーで拾いきれなかった物をコンピュータが無視して表示しなかったり、ダミーバルーンがコクピットからは本物に見えたり、武装が違う物に差し替えられてしまったりとの弊害もある。宇宙空間においては機体の運用において支障の出ないサイズの細かいデブリを映像から外すなどの機能もあるが、そのため後に登場するビットなどの小型兵器が表示されなくなるなどの問題も発生してしまった。

中尉達は一度対地センサーが不調の際、随伴兵を踏んづけかけてしまった事があり、この失敗からカメラの捉えたリアル画像とセンサーを併用するこの機能をフレキシブルに使いこなす方向にチェンジしている。

 

因みにコンソール位置やパネル位置はすでに殆ど完成されており、マイナーチェンジ程度しか変わりないため、戦後の機種転換も簡単であった。

 

また"陸戦型ガンダム"はその多様な環境に適宜対応するため、側面のディスプレイがタッチパネル式キーボードとなっており、ベテランパイロットならばその場で細かな仕様変更が可能。しかしと言ってはなんだが流石にOSは書き換えられない。

というかそもそもMSのOSを下手に弄る事など恐ろしくて出来ない。MSは精密機器とコンピュータの大規模な複合体だ。そんな巨大なプログラムはいかに優秀なエンジニアが100人いようとも解析だけで数週間はかかるレベルのものなのだから。

そのOSの巨大さも、歩行制御、動力プラント制御、ユーザーインターフェイスをはじめとする基本的なシステムが大半を占めているため、機体そのものは全体の一部でしかなかったりもするが……まぁ、つまり簡単には弄れない物であるという事である。

 

また、警告音などの音声データの切り替えや、ディスプレイ表示の切り替えも可能。

MS音響システムはカメラ・センサーで捉えた物をコンピュータが判断、音をコクピットに伝えるため、普通はそのままの音が入ってくるが、これを弄りゲームのサンプリング音などの設定が出来る。

ロックオン警告音なども「右から来ます!!」などと録音した音を当てはめられる。また合成音声指示は好きな声に設定可能。ご贔屓のアイドルの声にも出来るぜ?じゃ、俺はジャクリーンの声を……あなただけの"イージス"では無いので却下です。

 

ピックアップ時の枠も金縁にして金ジムのようなゴージャスな仕様に出来るし、やろうと思えば照準ターゲットサイトをハートマークにも出来る。いや、伍長、やらなくちゃいけないわけじゃないからね?お前らいい加減にしろ!伍長はそのボイスレコーダーをしまえ!!

 

操作は大きく3つ、歩くなどの基本、戦闘などの専門、個人のカスタマイズ・モーションである。

MSの基本操縦は腕一本で基本動作は可能な程自動化されており、実際できる。そのため負傷で腕が一本無かろうと操縦できるのだ。

 

操縦はそれらの動作を手足、音声、入力に振り分けて操縦する。

この振り分けは個人の自由であり、ペダル+あるボタンで走るのも、操縦桿とあるボタンでジャンプなど個人により違う。ここは以前紹介した格闘ゲームの延長だと捉えて欲しい。ボタンの押す回数や、押したパターンで操縦補佐をする人もいるぐらいである。それ程自由度が高い。

 

これらの設定変更は簡単な上、タイプも複数登録出来るので戦闘中ですら切り替えられる。データ共有も可能である。そのため他人の行動データを読み込み自分の機体に登録、操作に割り当てればその動作が可能。そしてその動作を繰り返し行い最適化する事で自分のものと出来るのである。

また"陸戦型ガンダム"を始めとし、連邦軍のMSには高価で高性能な教育型コンピュータが搭載されており、この性能が顕著である。応用力、対応力が段違い、と言えば分かるだろう。一挙一動を"陸戦型ガンダム"が搭載スーパーコンピュータのマシンパワーを活かし過去の経験と照らし合わせながら制御しているのである。"ザクII"との大きな違いはここに現れている。"ザクII"の物とは違い、それらの設定を手動でやる必要がない。また、その場で自動的に更新され、進化して行くのである。しかしこれのおかげで転びグセがついてしまった新米パイロットもいるが……。

特に中尉機はおやっさん特製のモノが積んであり、その性能は顕著である。

 

操縦桿傍は電装集中スペースとなっており、電装関係のマシントラブルならここである程度のカバーが可能。

ここがマシントラブルで煙を上げながらバタバタと開閉するのはけっこうビビる。

 

コクピットの傍にはパイロット昇降用のウィンチ・ワイヤー・ユニットや転落防止用手摺などが設けられていた。

 

因みに地上では地上十数mの高さにあるコクピットまでワイヤーに片足を引っ掛けたままの状態で登るという行為は慣れない者にとってはいささか肝を冷やす行為であった。

それゆえ『乗り込む事がMSパイロットへの登竜門』などと冗談めかして語られる事も多かった。

そのため、これを使わず、マニュピレーターによる昇降を頑なに辞めなかったパイロットもいるとかいないとか。

 

武装

"陸戦型ガンダム"と"ザクII"との決定的な違いはビーム兵器の搭載の有無であろう。

 

これは連邦軍がジオン軍より先にMSに搭載可能な安定したエネルギーCAP技術を持っていたためである。

 

ビーム兵器とは、ミノフスキー粒子を圧縮、縮退させる事で発生するメガ粒子を用いた兵器、この圧縮、縮退に大電力が必要なのだが、これを解決したのがボウワ社のエネルギーCAP技術である。

 

エネルギーCAPとは縮退してメガ粒子に変化する直前のミノフスキー粒子を保持する技術で、大きな電力源を必要とするメガ粒子砲をMSでも携行できることを説明している。 この技術は連邦軍が開発したものであり、ジオン軍の携行型ビーム兵器の使用が制限されている理由である。なお、エネルギーCAPとは "Energy Capacitor" の意味であり、エナジーキャップと呼ばれることもある。

 

その最たる例が"ビームライフル"、そして"ビームサーベル"である。

 

"ビームライフル"は銃身のオーバーヒートにさえ気をつければ、核融合炉を持つMSからエネルギーの再チャージができるため事実上弾数制限がなく、威力も実弾武器と比べ桁違い、それこそ「戦艦の主砲並」であった。

"ビームサーベル"は"ヒートホーク"などの実体プレヒート武器と比べ溶断能力は段違いであり、また使い捨てでなく粒子収束フィルターの交換で何度も使える上、不使用時は柄だけになるため携行性も高いかなり有用な兵器だった。

 

つまり、"陸戦型ガンダム"は最新技術を満載した生まれながらにして"ザクII"(グリーン・ジャイアント)を一匹残らず地上から駆逐する存在だったのである。

 

 

そのよん なんでそんなせいのうなの?

 

これは予算と協力企業のお陰である。

 

"V作戦"には民間企業がおよそ1000社以上参加し、あらゆる会社がその得意分野でコンペを行い、それらを集約した結晶としてのMSであるため、当に「地球一体となって」開発したものである。

例としてはジェネレーターのタキム発動機、ハイ・ウェル重工。フィールドモーターはサムソニ・シム社、B・O・K・D・A技術研究所、立川電磁工業。構造・装甲材はプレーン金属社、プレート・テクニクス社、YHI系列の八洲軽金属社。武装はブラッシュ社、ボウワ社、YHI、ホリフィールド・ファクトリー・ウェポンズ社などである。

 

"ザクII"などもモノアイはカノム精機、モノアイシールドなどはグラモニカ社に作らせているが、その殆どがジオニック社製である。しかし"ガンダム"は開発を委任した会社がなく、最高級のパーツを地球連邦軍技術局が組み上げるという、まさに国力が目にものを言わせた結果であるだろう。

 

 

そのご つまり、どーゆーことー?

 

強い。コストパフォーマンス以外は"ザクII"に負けるところなど一つもない。

 

"ガンダム"を量産した暁には、ジオンなどあっという間に叩いて見せられるほど強い。最近流行りの駆逐系男子にオススメのトレンドである。

 

強い。とにかく強い。

 

 

そのろく わかったかな?分かったならおしまーい!!

 

「……と言う事だ。分かったか?」

「……分かりましたが、最後のアレはなんです?」

「なるほど、分からん」

「……なんでいるんですか准将。そして分からなくてはマズいんじゃないですかあなたは……」

「へぇー!目、光らせられるんだ!!いいなー!!私のも光らせたい!!あとハートマークじゃなくて星型にしたい!!」

「伍長の"陸戦型GM"も仕組みは同じだから出来るぜ?なんなら設定やってやろうか?」

「オモチャじゃねぇんだから!!」

「要りません。それにジャクリーンさんとやらに現を抜かす暇があるのなら、そんな事をする前に"イージス"の調整の続きをして下さい。あなたAE社の元社員なのでしょう?」

「ふむ、儂でも乗れそうだな……」

「准将!?やめて下さい!!」

「……MS用ライフルが欲しいな……」

「少尉〜!声!声取らせて下さい!!」

「どうでもいいだろそんなの!?」

「ジャクリーンがダメなら上等兵の声を……」

「拒否します。それなら私は軍曹の声がいいですね」

「え!?俺は!?」

「……………」

「てめーらうるせー!!いい加減にしろスパナ投っぞ!!」

 

 

まったね〜!!




思ったより短く出来て良かったです。

といより思ったより書く事が無くてびっくりしました。ほとんど1で解説しちゃってました。

思い出したり、思いついたり、質問があったらその答えを追加するかも知れません。


次回 地の底の"ガンダム"

「……な、なんですか少尉コレ?どうやって使うんですか?」

お楽しみに!!


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第三十五章 地の底の"ガンダム"

急遽入れる事になりました訓練編。

やはり、つまらないと思いますが、しばらく続くかも。


開発とは、技術との戦いである。

 

より強く、より頑丈で、より早く、より先へ。

 

そんな競争の中の、傑作のみが世に出てくる。

 

周りを見回してみるといい。

 

些細なモノでさえ、数え切れないほどのトライアンドエラーの結晶なのだ。

 

命を預ける、それに足るものを目指して。

 

 

 

U.C. 0079 7.23

 

 

 

"ジャブロー"の奥深く、余程の物好きすら近づかない自然空洞が残っているエリアに、蠢く影があった。

 

地を這う様に飛ぶ"それ"は、鍾乳洞を縫うように走っていく。

 

その車両の名前は"74式ホバートラック"(ナナヨン)、コードネームは"イージス"だ。

 

その"アイリス"の後ろには、3機のMSがぴったりと寄り添うように控え、鍾乳洞を走り抜けている。

 

ダゴンッ! という音をセンサーが捉えた事を知り、中尉は"陸戦型ガンダム"を停止させた。

 

「またか!伍長!!地形に気をつけろと言ったはずだぞ!?コレで何度目だ?」

《…ご、ごめんなさい……まだ、このパワーに慣れてなくて……》

《……焦らなくて、いい……そのための練習だ……》

「…そうだな、少し焦っていた。すまん」

《少尉は悪くないです!!すみません!!がんばります!!》

 

その音源は伍長の"陸戦型GM"だ。鍾乳石に足を取られ、転びこそしなかったがバランスを崩し手をついていた。

 

現在中尉たちは支給されたMS、"ナナヨン"のテストのため"ジャブロー"地下で走破性訓練兼テストを行っていた。

これはチームとしての動きの訓練も兼ねており、既に訓練を始めてから一週間近く経っていた。

 

《そうですね。しかし、反応は確実に早くなっています。その調子ですね》

《後で音響センサーの反応を調整しておくよ。おやっさん、データよろしくー》

《おう!一度ハンガーに戻ってくれ!新しい武器も試すぞ!》

《「了解!!」》

 

機体を振り向かせ、ハンガーへ向かいつつ考える。

やはり、ヤバい事に巻き込まれたな、と。

 

連邦軍のMSのテスト。そして訓練。それが"ブレイヴ・ストライクス"の初任務だった。

新型のMSはトップシークレットであり、決してバレるワケにはいかない。スパイなどの問題もあるが、人の口には戸は立てられない。些細な事から情報が漏れる事など過去を見れば腐る程ある。

そのためこのような僻地で訓練をしているのだった。

その他の"V作戦"、"RX計画"で生産された奴は専用の射爆場が設けられているが、ウチらにそんなものはない。

 

そもそも現在我々は"存在しない部隊"なのだ。

 

実は"RX計画"は一応の集結を迎え、現在計画は第二段階へ移行しつつあり、それを隠れ蓑にこの部隊は設立した。

 

"RGM計画"。それが隠れ蓑の名前だ。

 

RX-78の純粋な量産機開発計画である。

 

しかしその計画にはまだまだ時間が掛かると予想されたため、RX-78の開発完了に伴い先行量産計画も同時進行されている。

 

それこそ中尉たちの乗る、"陸戦型ガンダム"、"陸戦型GM"の正体だ。

 

しかし、中尉たちの機体は公には"存在していない"。

 

ある1人の准将の独断で、極秘裏に機体が開発され、回されたのだ。生産ラインこそ完成し、稼働し始めているものの、その3機にナンバーは振られていない。

 

そんな事を極秘裏にしでかした男は、今そんな事をおくびにも出さず"ジャブロー"のオフィスで美人に囲まれながらふんぞり返っている事だろう。

 

その男の名前はジョン・コーウェン。

 

その男が設立した極秘部隊、"ブレイヴ・ストライクス"。

部隊のメンバーはMIA(戦闘中行方不明)扱いのままの3人の兵士と、書類上前線へ送られたとされる3人のみ。

 

「……全く。これからどうなる事やら…」

《そうボヤくなよ大将。過去はどうしようもない。ジャックに関わっちまったんだ。どうせならこの状況を楽しもうぜ?いまからお待ちかねの新兵器もテストするんだからよ》

「分かってます。楽しんではいるんですがね。伍長や、上等兵が心配なんですよ…」

《私はだいじょーぶだよ?でも、心配してくれてありがとうね!》

《……そこは、あの准将の事だ……上手く、やってるだろうな……》

《私も大丈夫です。心配要りません》

 

伍長の両親は大とつくレベルの富豪らしく、伍長はその一人っ子だし、上等兵も軍人一家の長女だ。ただの次男とは社会的価値が違うのだ。

 

《たいちょー俺は心配してくれないんですかー?》

「お前は大丈夫だろ。どちらかというと一気に出世出来るかも、だろ?」

《ま、情報を漏らしてみろ?出来るものならな》

《分かってますよーおやっさんー》

 

もう部隊のみんなもお互いに馴染んで来たな、みんな仲良くていい事だ。軍曹もしっかり話せてるし……としみじみ思いつつ機体を操作する。

 

馴染んだのはそれだけでなかった。この機体の操作にも、だ。

 

初めは"ザクII"とのあまりのパワーの違いから機体に振り回されたが、今はもうそれも無い。

 

この"陸戦型ガンダム"は、既に"ザクII"よりも中尉とマッチしていた。

繊細なのに大出力で、素早く、強く、そして何よりも馴染む。レスポンス、反応、キレとも全て高水準で纏まっており、"ザクII"とは比べ物にならない。

 

この性能に中尉は驚きを隠せてはいなかった。

本当にコレがMSと呼べるのか?もはや、"バケモノ"といっても過言ではないレベルだと思う。

 

しかし、伍長にはちとキツいようだった。

今だに"ザニー"の時からの操縦から抜け出せず四苦八苦しているが、最近は転ぶ事も無くなった。

伍長の努力もあるが、頻繁なデータリンクと情報蓄積もそれらを支えている一端だろう。

 

《新装備、開発したヤツから出す!!試してみてくれ!!》

《うわーい!!お楽しみの時間だよ!!少尉!!》

「よし!気合いれてっか!!」

 

おやっさんの声で現実に引き戻され、中尉は改めて気合を入れ直す。

 

"新装備"。それはMSを受領した日におやっさんから提案された物だ。

 

現在用意されている武器はYHIの"100mmマシンガン"だけだ。

 

現在連邦軍にMS運用実績などは完全にゼロであり、それを手探りで作っている状況だ。

 

そのため手探りなのはMSだけでない。MSの携行する武器もだ。なのでおやっさんはMSに乗る3人にシュミレーションを含めあらゆるシュチュエーションで、MSとその武器に必要だと思える物を聞き、試していた。

 

その一環として、試したい武器を聞き開発を開始していたのだった。

 

中尉は"薙刀"と、"ビームサーベル"の形状を刀型にする事。

頭部機関砲ユニットに、胸部は機関砲ユニット、"マルチランチャー"ユニットのオミット、装甲の追加、ダクト位置の変更だった。

自由度の効かない胸部の機関砲は敵機への追従性が低く、また左右非対称の設計は整備が煩雑になると判断したためだった。

そのためオミットしその空いたスペースを利用、ダクトを分割し横向きに、前面には装甲を追加していた。また、来るべき計画されている"ビームライフル"の配備に備えサブ・ジェネレーターの追加に冷却機の強化も行っている。

"マルチランチャー"自体は有効だったため、シールド裏に移した。しかしなんとか重量の増加は避けている。

 

軍曹は"スローイングナイフ"に"スナイパーライフル"。対地歩兵掃討用の"Sマイン"。中尉の"ザクII"で改造が施された足の甲部分の機関砲はスペース的にボツになった。

それに加え狙撃用スコープだった。それ自体は軍曹は必要なかったが、後ほど必要になるのではという判断からだった。

後は通信機能を強化するため頭部、胸部の上部にロッドアンテナを追加した程度だった。

これは狙撃を確実かつ迅速に行うため"アイリス"とのデータリンクを強化するためだった。

 

伍長は"バズーカ"に、"ショットガン"だ。サブマシンガンサイズの"100mmマシンガン"に不安を感じていた事と、射撃があまり得意でないため使用していた散弾銃をMSでも使いたい事に、火力が欲しいとの事だった。

 

「何が完成したんです?」

《大将のは"薙刀"だな。スチール合金を削り出した柄の先に"ビームサーベル"を取り付けたが……収納性などは皆無だぞ?》

「分かってます。取り敢えずモーションだけでも取ろうかと……」

《おやっさん!!私のは!?》

《すまんな伍長!!"ショットガン"はまだだが、"バズーカ"は試作を用意したぞ?火器は難しいからなぁ……コレも試作の試作だ。大将!伍長とMSを降りて人間サイズの試作品をまず試してみてくれ!!》

「了解!!」

《はーい!!少尉!!よろしくね!!》

 

"陸戦型ガンダム"に膝立ちの姿勢を取らせ関節をロック、コクピットハッチを解放し昇降用ワイヤークレーンを展開、足を引っ掛け降りる。伍長も隣で同じ様にする。

 

おやっさんの元に向かいつつ軍曹の"陸戦型GM"を見る。

軍曹は投げナイフが特技だ。つーかなんでも出来るが。生身で約30m先の標的にヒットさせられる。それをMSでやってみようと提案したのだ。

 

MSは人間をそのまま同じサイズに拡大した以上のパワーを持つが、人間と同じ動きが出来る。

それに目をつけ、人型である事を最大限に活かそうとしたのだ。

MSサイズに拡大した"スローイングナイフ"には構造的余裕があり、内部にタンデム方式の成形炸薬を内蔵したのだ。

つまり、"ロケットランチャー"の弾頭だけをぶん投げるイメージだ。

これで、射程距離はともかく、ほぼ"ロケットランチャー"と同等のダメージながら、ランチャーチューブと弾頭そのものに推進機構が必要ないためコストの削減を狙ったのだ。

これによりバカデカくて邪魔になるランチャーチューブを持たずに済むかもしれなくなるかもしれない。投げる分隙も大きいが。まぁ、どうせテストだし。上手くいかなかったらいかなかったで残念賞で済むしな。

 

因みに軍曹は両手利きである。伍長は左利きだ。なので伍長はややOSに癖があり、軍曹が製作、調整を手伝っている。

 

因みに以前中尉は軍曹の投げナイフに憧れ投げ方を伍長と習うがあまり上達しなかった。伍長に至っては投げた瞬間足元に着弾したり、振りかぶった時に後ろにぶん投げたりしやがった。

 

結果、ダーツがやや得意になった。それだけだった。

 

全く出来ず落ち込んだ伍長にスペツナズナイフをプレゼントしたのはいい思い出だ。

 

「軍曹、後でそのモーション、ダウンロードさせてくれ」

「あっ、わたしもお願いします!!」

《……了解、あらゆる投げ方を試しておく……》

 

ヘルメットと一体化しているインカムを通し軍曹に頼み込む。

 

そう、生身で出来なくとも、MSは経験共有(・・・・)が出来る!!

 

コレで俺も伍長も使えるぜ!!

 

ある程度の距離まで接近する必要がある上、隙も大きいが、"バズーカ"を持たず"バズーカ"並の火力を持たせられるかも知れない。我ながらナイスアイディアだ。

 

「……はぁ、ショットガン…」

「まぁ、おやっさんの事さ。直ぐに用意してくれるって」

「そうですね!!"バズーカ"が楽しみです!!」

「おっ、来たな大将!」

「あらあら、聞いての通り、仲がよろしいのですね」

「……はぁ、貴方は?」

 

おやっさんの隣には金髪の美人さんがいた。メガネをかけていて理知的に見えるが、物腰はのんびりとした柔らかい感じだ。誰だろう?

 

「おねーさんは名前なんて言うんですか?」

「あら、名乗っていませんでしたね。私の名前はレーチェル・ミルスティーン。コーウェン准将の補佐役兼補給部隊指揮官で、階級は中尉ですわ」

「これは失礼しました、中尉。私はこの部隊の指揮官です。この度は補給、物資支援感謝します」

「よろしくねレーチェルさん!!」

「あらあらどうも。うふふ」

 

握手をし自己紹介をする。これからもお世話になりそうだ。

それにしても准将、ホントに美人さん好きな。でも、この人も実力の伴った人なんだろーな。

天は特定の人に何物も与えるね、全く。

 

「大将、"バズ"は2パターン用意したが……」

「はい!すみません。では中尉、また後で。伍長も、行くぞ?」

「はい!今度お話しましょう!」

「はーい。待ってますよ」

 

ミルスティーン中尉が手を振っているので振返し別れる。

 

試作の"バズーカ"は二種類あったが………コレ、実質1択だろ……。

 

「……な、なんですか少尉コレ?どうやって使うんですか?」

「……俺も始めて実物は見たが……おやっさん?」

 

何?ふざけてんの?それとも死ねと言ってんの?

 

「……"ザクバズーカ"のコピーをする予定だったんだが、ジャックがオリジナルを……とか言いやがってな……」

「……?………??………少尉ぃ〜わかりませーん……」

「そしてコレを、ってこった。ヤツのオーダーさ。全くのんなジャンクにどんな価値があるのか……」

「……いつの時代にも、旧式デバイスへの熱きノスタルジーを捨てきれない輩がいるものだとは聞いてましたけどね…」

「こんかんデバイスには入んねーよ」

 

試作の"バズーカ"は両方とも先込め式だったが、片方の作動方式がまさかのPIAT(パイアット)方式だった………。

 

バカだ。バカ過ぎる………。

 

パイアット方式とはみんな大好き紳士とパンジャンドラム、撃てる産廃鈍器L85の国イギリスが生み出した"ロケットランチャー"の発射方式だ。

 

バネ(・・)

 

バネである。

 

ランチャーチューブ内に大型のバネが二つ入っており、それを押し込む事で発射準備完了し、引き金を引くとバネが作動、弾頭の雷管を叩くというステキ仕様だ。

 

ステキ過ぎる。何考えてんだよ。メシマズは何やってもダメか?

前食った鰻のゼリー寄せは酷かったな……。もう二度と食いたくない……。あれ鰻に対する冒涜だわ。蒲焼けよ。

 

「………伍長、一応教え……ムリだな」

「なんでですか!!ひどいです!!やってみなくちゃ分かりませんよ!!」

「正気か!?」

「少尉ほど急ぎ過ぎもしなければ、コレに絶望もしちゃいません!!教えて下さい!!」

 

まぁ、やってみなくちゃ分からない。それが大科学実験だよな。

 

「………分かった………頑張れよ?」

「はい!!」

 

"バズーカ"を抱きかかえる伍長に覆いかぶさるようにし、手を動かす。二人羽織のような姿勢だ。

 

「まず先端を地面に付けて押し込む。そのあと90°捻ってロック……」

「え、えと……あ、え?はい…」

 

なんか元気なくなったな?なんでだ?

 

「よし、やってみろ!」

「は、はい!!」

 

ややはにかんだ様子の伍長が作業を始める。なんで?伍長が好きなのは軍曹じゃねーのかな?

 

ばよよーん! という間抜けな音と共に伍長が宙を舞った。

おやっさんが爆笑し、遠くで見ていたミルスティーン中尉が口元を押さえ肩を震わせながらそっぽを向いている。

笑っちゃ、マズい、かなぁ…コレ。スゲーシュールなんだけど………。

 

「……やっぱりか。大丈夫かー伍長?」

「…うぅ、押し込めません……」

「……背が足りないんだよ。それに筋力も体重も。168cm以下だって危険だって言われんのに……」

「うははははっ!!やっぱりか!!」

「……うぅ、少尉ぃ〜…」

 

泣きつく伍長を抱きとめつつおやっさんに向き直る。コレをヤりたいが為につくっただろ。

 

「……まだ良かったよ。背ぇ足りん奴は顔面直撃コースが大半だったからな…」

「……うぅ、早く大きくなりたいです……」

 

 

 

 

 

 

もうムリだろ。

 

 

 

 

 

 

『笑える内に、笑おう』

 

 

 

地下から、戦場へ………………




パイアットはあっという間に消えました。まぁ当たり前だね。

因みに"バズーカ"も商品名に近いですね。米軍のM1バズーカから?だと。でもこれはほぼコレとして浸透しているので。ドライアイスみたいなもんです。

オタクの中尉はともかくおやっさんはなぜ知っていたのか?

それは永遠の謎です。

"スローイングナイフ"の元ネタは、アレです。

人型の特性から自分が考えた答えです。

取り敢えずバズは先込めでパイアットじゃない方に。


次回 第三十六章 中尉は戦場へ行った

「価値はあるものなんて事は決してありません。創り出し、見出すもの、と私は定義しています」

お楽しみに!!


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第三十六章 中尉は戦場へ行った

新編、始動!!

中尉の、初のMS部隊隊長としての任務が始まります!!

では、どうぞお楽しみ下さい!!


軍隊という組織は、なんなのだろうか。

 

命令に拒否権は無く、人は駒のように使われる。

 

人の生死は、上官(マスター)の手の上だ。

 

どう生きるか、ではない。

 

そのような決定権すら、駒には与えられない。

 

駒は、ただ黙々と働くのみだ。

 

 

 

 

U.C. 0079 7.25

 

 

 

「辞令だ。君たち、"ブレイヴ・ストライクス"は"ミデア"輸送機2機に搭乗し、中南米の諸島に降下しろ。そこへ仮説野営地を建設、それを橋頭堡とし、中南米の諸島を制圧するのだ。作戦名は"一号作戦"。それが諸君らの初任務となる」

「「はっ!!」」

 

突然呼び出され、我々"ブレイヴ・ストライクス"はジョン・コーウェン准将の執務室へ来ていた。

 

「……君たちの報告には、そこらの諸島にはジオンが基地を構え、この"ジャブロー"を探している、という話だったな……君たちはその基地を炙り出し、最終的には奪取され使用されているジオン軍の中南米における一大拠点、"グアンタナモ・ベース"の奪還にある。健闘を祈る」

「「はっ!!」」

 

ついに、実戦か……武器はともかく、練度は十分だ。

 

これから、連邦軍の反撃が始まる!!連邦軍のMSの性能を見せつけt………。

 

「それともう一つ、諸君らに頼みたい事がある」

「は、はぁ……」

「諸君らの知っての通り、連邦軍のMSは最高機密であり、隠し球だ…………ジオン軍にその存在を知らせてはならない!!」

「なっ……!」

「えっ!?」

「…………」

「……准将、それは……」

 

全員がその言葉に反応する。そりゃそうだ。主力兵器を敵に晒してはいけないなど、不可能に近い。それに、敵の戦力も分からないのに、会った敵は必ず殲滅せよと(・・・・・・・・・・・)言っているのだ。

 

「……君たちならやってのけると期待しているよ……ではな」

「は、はっ!!」

「はい!!」

 

見敵必殺かよ……。キツい。キツ過ぎる……。

 

執務室を出て、歩きながら少尉が喚き出した。

 

「なんなんだよあのおっさん!!何を言いやがる!!」

「……確かに、言いたい事は分かるが……」

「存在を示すのも、十分な効果があると思いますが……」

「……作戦開始まではまだ2日の時間がある。ブリーフィングルームへ行こう。そこで作戦を練る」

「作戦つったってさぁしょーたいちょー。どうすんだよ?」

「…それを今から考えるのですよ。貴方は、全く。騒いで嘆いた所で何も変わりませんよ?」

「……どうせなら"イージス"でやろう。アイツには優秀なコンピュータを積んでるからな」

「そうしますか。では行こう」

 

ハンガーの"イージス"へ向かう。"ブラッドハウンド"と呼ばれる"74式ホバートラック"は前線指揮車両としての設備も揃っている。妥当な判断だ。

 

「……ふむ、アレ(・・)を引っ張りだすか……」

「おやっさん、何かあるんですか?」

「まぁな」

 

手を叩いたおやっさんが大きくうなづいた。なんだろ?

 

「っつー事で寄る所が出来た。先行っといてくれ」

「分かりました」

 

おやっさんが何処かに行くが、おやっさんの事だ。何かあるんだろう。

 

「アレってなんでしょうねー少尉?新作の武器かな?」

「……まだだろうな、それは……」

「…! 隊長、"イージス"の電装関係かもしれません」

「そうなのか?少尉は何か分かるか?」

「……それは俺が聞きたいくらいっすよ。"イージス"の中はかなり改造されてる。特にコンピュータ、アレは見た事ないね」

「……鍵は"イージス"になりそうだな」

 

ハンガーへ着くと、そこには既におやっさんが居て作業を行っていた。整備班も走り回っている。

 

「おやっさん!?」

「おう!来たか!状況は整ったぞ!!取り敢えず入れ入れ」

 

おやっさんに押されるまま"イージス"に乗り込み、中で全員が顔を合わせる。おやっさんが口火を切った。

 

"イージス"(コイツ)の事は聞いてっか?」

「いいえ?」

「浮くんですよねコレ!!」

「……伍長、そうじゃない……」

「……電装系はほぼ一新されている、くらいしか……」

「情報が欲しいくらいだよおやっさん。コイツを本社で製作したいぐらいだ」

「コイツは2人の言う通り改良を加えてある。特殊な学習型コンピュータと、背部ユニットだ……」

 

おやっさんが作戦会議用ディスプレイを点灯させ、説明を始める。その内容は驚くべき話だった。

 

一つ、特殊な学習型コンピュータは民間企業のテスト品を改良し搭載して来たという事。

 

「こんなん見た事ねーよ!!どこのだ!?」

「あちこち回ってな、それのいいとこ取りだ。根幹になったのは2人の学者のヤツだな。ワイハマー・T・カインズっつーヤツとミズ・ルーツさんだ、それをジャパン製の小型スパコンに載っけた。コレの簡易版を中尉の"陸戦型ガンダム"にも積んでる」

「俺のにも!?知らんかった。何が違うんです?」

「簡単に言うと、かなり賢いですね。私も"イージス"のコンピュータを使用していたのですが、学習能力が凄まじいの一言ですね」

「へー。いいなー少尉。何がいいのかよく分からないけど」

「……もう一つ、と言うのは……?」

 

もう一つは、電子装備の改良だった。

 

「中尉の"マングース"の装備の一つにECMポッドがあっただろ?アレを強化発展させたものを"イージス"背部ユニットに搭載する事にした。ミノフスキー・エフェクトをも利用した最新型だ」

 

ディスプレイに映された装備は、"ナナヨン"の背部ほぼ全てを埋める大きさで、レドーム、展開式アンテナなどでごちゃごちゃしている。

 

「これは……! 隊長!!これならばミノフスキー粒子を利用すればかなり広範囲かつ強力なジャミング・フィールドが形成可能です!!」

「ふーん、索敵撹乱などの潜行用装備も揃ってんな……コイツぁすげェ!!おやっさんどうやって!?」

「聞くな!!俺は整備屋だ!!そこらへんにあったもので作ってみたんだが……」

 

どうやって!?すげェ!!さすがおやっさん!!装備に丸太を追加してくれ!!

 

「テンションの変動激しいな少尉!?」

「つまり何ですか?私さっぱり分からないです……」

「……つまり、ステルスだ……」

「えっ!?見えなくなったり出来ます!?」

「……それはムリだろ……」

 

きっと伍長の頭の中では水に濡れたら使えなくなる例のアレを想像してるんだろうな……。なんで共通して水に弱いんだろ?

 

「それに以前から開発を進めていた"デコイ・ポッド"に、各種スモーク、チャフなどのグレネードも開発を進めている。コレでまぁラクになるだろ」

 

頼りになるなー。知ってたけど、ここまでとは……。

 

伍長に至っては理解出来ずポカーンだ。

まぁ、俺もそれに近いが。専門的な話になるとさっぱりだ。よく考えたら、ウチの部隊の主要メンバー6人のうち3人博士号持ってんだよな。こぇーよ。

 

「おやっさん、それの運用は何人で出来ます?」

「0だ。"イージス"が統括管理してくれる。ホントは無人機化も出来るが、やはり不安だからな…」

「……凄いな……」

「私でも全能力は一人で使えますが」

「……俺寝てるだけでいい?」

 

ホントに何もんだよおやっさん。オーバーテクノロジー過ぎだろ。南アタリア島に落ちてきた超時空要塞でも解析したのか?

 

「よし、策は決まった。では、配置を伝えるぞ?」

「はーい!!」

「…了解…」

「必要、ありますか?」

「念のためだろ?仲良くやろうぜ上等兵ぃ〜?」

「最低限は」

「身持ちが硬いなぁ」

 

うるせーよ少尉ナンパは後にしろよ。視線を釘付けに出来てないじゃん。

 

「あ!少尉!コールサイン考えてきましたよ!!」

「決定済みだ」

「えぇ!?そんな……」

「どんなだ?聞かせてくれよ。上等兵も気になるだろ?」

「いえ、べつ……ええ、気になりますね」

 

伍長の顔を見て意見を変えた上等兵さんは大人だった。見習わんと。

 

「じゃあはっぴょーしまーすっ!!少尉が"ランサー"で、私が"セイバー"に、軍曹が"アーチャー"です!!このトラックさんは"チャーリス"でどうでしょう!!」

 

うん。元ネタは分かるけど。アニメに影響され過ぎだね。見せたの俺だけどさ。セルフ・ディフェンス・フォースのSじゃねぇんだから。

前も真剣な顔して、『もし魔法少女になったら、MSって魔女の結界に入れますかね?』って言ってたもんな。

多分パンパンになるんじゃないかな?それにオーバーキルだろ。

 

「……決まってるから。また今度な?」

「はーい……約束ですよ?」

 

出来んわ。

 

「隊長が俺。機体は"陸戦型ガンダム"に、ポジションはサポート。コールサインはブレイヴ01(ブレイヴリーダー)だ」

「はい、はくしゅー」

「わーわー」

「静かにして下さい」

 

そんなクラス委員長が決まったノリ出さなくていいからな?伍長もノるなよ。

 

「続いて軍曹が"陸戦型GM"で、ポジションはバックス。コールサインはブレイヴ02(ブレイヴツー)だ」

「……了解…」

「伍長が"陸戦型GM"で、ポジションはフォワード。コールサインはブレイヴ03(ブレイヴスリー )だ」

「はーい!!がんばります!!」

「上等兵は"イージス"で戦術オペレーターを。コールサインはウィザード01(ウィザードワン)だ。それにサブパイロットも兼ねる」

「はい。鋭意努力します」

「少尉は同じく"イージス"で上等兵のフォローを。分担は任せる。コールサインはウィザード02(ウィザードツー)だ」

「あいさー」

「俺は?」

「ありませんよ!?」

 

戦う整備班とか、シャレにならんわ!!

 

あ、俺やらせてた。やっべ。

 

「よし、"ブレイヴ・ストライクス"結成だ!!みんな、よろしく」

「よろしくねー!!」

「……よろしく頼む…」

「はい。よろしくお願いします」

「オーケー!!張り切って行こうぜ!!」

「ん、なんか記念が欲しいな……」

「写真!!写真撮りましょう!!」

「いいな、よし!写真だよ!全員集合!!」

「「おう!!」」

 

あれよあれよと言う間に集まってきた整備班およそ60人。

 

"イージス"をバックにタイマーで写真を撮る。

中尉を真ん中に、伍長、軍曹が固め、それにおやっさん、上等兵が入る。上等兵の隣を取ろうとした少尉はもみくちゃにされている。

 

「おあ!押すなって!!」

「そっちいけよー!!」

「中尉!!真ん中真ん中!!」

「傍は軍曹が!!どうぞ!!」

「少尉ぃー腕組みましょうよ!!」

「……いや、普通でいい」

「おやっさん!!イスどうぞ!!」

「じょうとうへー!!」

「寄らないで下さい」

「んじゃ、いいですか?撮りますよ」

 

ギャーギャー押し合う整備兵達が何とか写ろうとして"イージス"にへばりつく。機体整備なども試行錯誤中なので、大人数なのだ。あんまムリすんなよ。

 

ピピピッ、カシャという軽い音と供に写真が撮られる。

飛び込んだ整備兵は写れたかな?

 

「どうですか中尉?コレでいいですか?」

「俺は構わないぞ」

「じゃあこの一枚は中尉へ。後で人数分コピーしておきますね」

「見て見て少尉!!かわいいですか!?」

「あぁ、綺麗に撮れてるんじゃないか?」

「後で裏に日付でも書くか!」

「おやっさん素敵です!!おやっさんの弟子で俺は幸せっすよ!!」

「だろ?おっ、なかなか男前に写ってんじねぇか」

「あーっ!!俺目ぇつぶってる!!もっかい撮ろうぜ!!」

「軍曹は笑わないのですか?」

「……普通でいい…」

「帽子取りゃよかったぁ!!」

「顔しか写ってねぇ!!」

 

ワイワイ騒ぐ場を見ながら、胸ポケットに写真を入れる。

 

この人達の命を、俺が預かるのだ。

 

大切にしよう。そう思った。

 

 

 

U.C. 0079 7.26

 

 

 

目の前には発動機を唸らせ、離陸を今か今かと待ち構える"ミデア"があった。

 

「運ぶ機材は、これで間違いありませんね?」

「はい。よろしくお願いします」

「ウッディ!準備はよろし?」

「あぁマチルダ。しっかり届けてやってくれ!」

「貴方が隊長ですね?ミルスティーンから話は聞いています。私の名前はマチルダ・アジャン。階級は貴方と同じ中尉です」

「はい。よろしくお願いします」

「貴方達は私が機付長として、しっかり届けて見せます。安心して下さい」

「その言葉。信用していますよ……我々にそれ程の価値があるとは思いませんが……」

「価値はあるものなんて事は決してありません。創り出し、見出すもの、と私は定義しています」

「マチルダ中尉……」

「私や、ウッディが補給部隊に属しているのもそのため。貴方達の事、信じていますよ?」

 

握手し別れる。最近出会いが増え嬉しい事だ。みんな、みんな大切にしたい。そのためなら、戦える。

コクピットへ向かう中尉を見送り、振り返ると部隊員が揃っていた。

 

「あの2人、婚約者なんだってさ。こりゃ頑張らんとな!!」

「そう気張るな、お前が出来る事なんてたかが知れてっよ」

「ちょ」

「そうですね」

「ね」

「……気にするな…」

「ん、伍長。ボナパルトとの別れはすんだのか?」

「はい!しっかり約束して来ましたよ!」

「折角砲塔上部に対人攻撃用の無人砲塔を備えたばかりだったのになぁ」

 

そうなのだ。キューポラに接続する形で、車長ハッチに取り付けられた奇妙な銃塔が追加されたのである。まさかの多砲塔戦車である。鏡餅の様な感じだ。マジかよ。本来ならリモコン機銃を強化する予定だったが、おやっさんがどうせならと砲塔に機銃、擲弾発射器、センサーを纏めたのである。

この砲塔の機関銃と40mmグレネードランチャーは、"サムライ旅団"が"ザクII"にも対人装備を持たせマルチロール化したのを"ロクイチ"にも試験的に導入した結果だ。"ワッパ等"による損害、密林での遭遇戦において砲塔を回せず対応が遅れた為攻撃された事が多々あった為、"ロクイチ"自体の自衛力を高める事が目的であった。テストの結果は敵歩兵や装甲車等ソフトターゲットに対しては過剰なまでの威力を発揮したが、勿論MSには全く効果は望めなかった。現時点では想定されていたフルオート化も間に合わず、車長の負担が更に増える為採用は無さそうである。"リジーナ"搭載も流れた。残念だ。

 

突然の集中砲火にボコられる少尉を無視し、呼びかける。

 

「よし、これから、我々"ブレイヴ・ストライクス"は任務へ向かう。隊長は俺だ。行く先は戦場。何が起きるか分からない……作戦から、危険も多いだろう……」

 

全員の目が集中する。久振りの感覚。その感覚が、少し心地よかった。

 

「すまんが、皆の命をくれ…………だが、あえて言おう。

死ぬな!!!」

「はい!!」

「……了解……!!」

「「はっ!!」」

「うぉっしゃ!!聞いたか!野郎ども!!」

「「おう!!」」

 

よし、士気は高い!!今までの戦いは、この一瞬のためにあったんだ!!

 

「"ブレイヴ・ストライクス"、出撃!!」

 

 

 

 

『仲間の為なら!!戦える!!』

 

 

 

彼は、タイムカードを押して、戦場へ向かう……………………




中南米かえる跳び作戦編、始動!!

戦火渦巻く戦場で、新米士官は何を見るか。

AIユニット、ジャミングなどは前者はのちのゼファーガンダム、Sガンダムに、後者はサラブレッドに搭載されます。

おやっさんやべぇ。自分で書いてておかしいだろと不安に。

まぁ、ご都合主義です。


次回 第三十七章 二律背反の二重螺旋

「あ、少尉、おやつは何ハイトまでですか?」

お楽しみに!!


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第三十七章 二律背反の二重螺旋

新編、中南米隠密作戦編始動!!

敵に知られず、中尉達は作戦目標を達成出来るか?




人類の歴史を創り、塗り替えてきた戦争。

 

素手が剣に、剣が弓に、弓が銃に。

 

馬が戦車に、戦車が戦艦に、戦艦が飛行機に。

 

形こそ変われどその本質は変わらない。

 

舞台が宇宙へ移り、宇宙戦艦がビームを叩きつけ合う時代でも、

 

その本質は変わらない。

 

決して、変わる事はない。

 

 

 

U.C. 0079 7.27

 

 

 

《では、健闘を……戦果を期待していますわ》

 

荷を降ろし、飛び立つ"ミデア"を見送る。

その姿が水平線の彼方へ消え去るのを敬礼しながら見届けた中尉が、改めて周りを見渡した。

 

現在中尉達"ブレイヴ・ストライクス"一行は、最新兵器MSを引っさげ"ウィンドワード"諸島の、旧セントビンセント・グレナディーン独立国にある"グレナディーン"諸島の一つの、とある島に降り立っていた。

 

辺りは南国独特の植物に囲まれており、むわっとする熱気の中、ぎゃあぎゃあと得体の知れない声が響くトンデモないところだった。

 

「……………」

 

密林だ。比較的マジな。なんかフツーにヘビさんもニョロニョロしている。マラリア対策とかから始めた方がいいかも知れない。

 

「うひゃー!暑いですね少尉!!でもワクワクする暑さです!!」

「……ふむ……このタイプの地盤なら……腐葉土は……歩行システムのモードは+7……?」

 

"ミデア"から飛び降りた伍長は楽しそうに走り回り、降りて早々軍曹は地盤のチェックを行っている。

 

「………あ~……インテリの俺がいる土地じゃねぇ……"ジャブロー"のオフィスが懐かしくなって来やがったぜ……」

「"ジャブロー"とはまた違うタイプの密林の様ですね……隊長!そろそろ…」

「あ、はい。よし、キャンプ設営開始!!」

「大将!!テストも兼ねてMSで手伝ってくれ!!重機の手が足りん!!」

 

おやっさんが指示を飛ばしつつ言う。土地は海沿いの崖の間だ。以前潰したジオン海軍基地の近くである。

 

「聞いたか!!伍長!!軍曹!!やるぞ!!」

「はーい!!」

「……了解…」

「……じゃあ俺はそこの木陰で……」

「ボウズ!!休んでる暇は無いぞ!!周辺データ入力を始めろ!!」

「蚊がやべぇっ!!」

「各部シーリング始めまーす!!」

「おやっさーん!!コイツ!!パワーアシスト機能付きの"強化外骨格"(Exo-Skeleton)使っていいすかー!?」

「全機の内1/3だけだぞ!!卵が掴める奴だけだ!!それにどんな不具合が出るかも分からん!!データ取り忘れるな!!」

「アイサー!!」

 

走り回る整備兵の間を縫って、"MSトレーラー"の元へ。

 

「? 中尉?早速動かすのですか?」

「そうだ!準備頼む!」

「了解です!!足元にお気を付けて。ややぬかるんでいるところもありそうです」

「ありがとう!!気をつけるよ!」

 

見上げるほどの大きさの"MSトレーラー"にへばりつき、トレーラーの上へ。"陸戦型ガンダム"の周りを回り、液漏れなどの異常が無いかを確かめ、コクピットハッチを開放、機体に滑り込む。

 

ハッチを閉じ、ヴェトロニクスを立ち上げると、エアコンが利き始める。それを肌で感じつつ、周囲の環境のデータに目を通す。

 

「……やはり熱気か。センサーのモードを……ダクト稼働率は……よし、まぁ大丈夫か?

伍長!軍曹!準備はいいか?」

《いつでもいけますよ!》

《……機体トラブルもない。大丈夫だ…》

「よし、整備班は機体から離れろ!起こしてくれ!」

《了解!!ジャッキ起動!起こします!》

 

"MSトレーラー"が2本の大型ジャッキにより持ち上がり、機体が垂直になる。機体を固定していたアームが解除され、バチン、とリグが音を立てて外れ、18mの巨人が歩き出す。

 

「軍曹は陣地形成を手伝ってやってくれ!」

《……了解…》

「伍長は俺と偽装網を張るぞ。足元に気をつけろ!」

「はい!!頑張りますよ!!」

 

足元を走り回る整備班達を踏まない様にし、感覚を確かめながらゆっくり歩く。伍長の"陸戦型GM"もそれに続く。

 

足元はしっかりとした岩盤の上に腐葉土が積もっており、大変滑りやすい。その上所々岩盤が無く湿地帯の様になっているところまである。歩行システムの頻繁なモード変更が必要そうだ。

 

「膝を立てます!離れて下さい!!」

 

警告を発し膝をつき、機体を安定させる。偽装網を張るのは人間の手に任せたいが、その位置が高いため、掌に整備員を載せる事にする。

 

「掌に載ってください。下手しない限り落ちませんから安心してくださいね?伍長はネットを!」

「お手柔らかに頼みますよー!」

《少尉ー!ネットってこれー?》

「伍長!!その隣のヤツだ!」

《え、えーっとぉ……》

「おやっさーん!!コイツが不調を訴えてまーす!!」

「寝かしておけ!!」

「なあ、上等兵、俺も……」

「嘘を言う暇があるのなら働いて下さい」

「手ェ足りねーぞ!!応援頼む!!」

「おーう!今行く!」

 

大騒ぎだが、着実に迅速に、簡易野戦施設が組み上がって行く。やはりMSは重機として、工兵としての活躍ぶりもかなりのものだった。

それに"ジャブロー"からの新物資、"強化外骨格"(パワードスーツ)も中々のものだった。これは簡易版のパワーローダーの様なもので、人の力をアシスト、増幅してくれる。バッテリー駆動で、一回の充電で、約8時間駆動する。バッテリーパックの交換で迅速なチャージも可能。かつてスペースコロニー建設の黎明期を支えた倍力宇宙服を地上用に再設計したものだった。

 

陣地設営は夜まで続き、その間中尉達は"アイリス"を伴いパトロールを行い、機体の調整も済ませていた。

 

そして、見つけていた。

中尉にとっては慣れ親しんだ、"ザクII"の足跡だった。

 

 

 

U.C. 0079 7.28

 

 

 

「敵の兵力は?」

 

次の日の早朝、パトロールからそのまま"イージス"で偵察へ向かった上等兵、そしてそれに便乗した軍曹を囲んで、"イージス"内で中尉、軍曹、伍長、おやっさんのいつもの4人に上等兵を加え作戦会議が行われていた。

少尉は昨日のMS稼働データを取るため"MSトレーラー"に居る。

まぁ、作戦に関しては素人だから問題はないだろう。

 

「はい。隊長。敵はここから約20km先の隊長達が以前破壊した海軍基地跡地を中心に展開しています。戦力は確認した分でMSが5機、"マゼラ・アタック"や"ヴィークル"が複数両ですね。詳細は不明ですが、そこそこの規模であると推測されます」

 

以前破壊したって……アレの残存戦力?にしちゃあ多すぎないか?

 

「……中尉、あの基地の周辺地域に、野戦基地が2つあった……以前はそこまで攻撃していない……」

「……えーっと、つまり……?」

「……周辺戦力を結集したのか?」

「その通りだと思われます。近くで輸送船も複数確認されていますし、そのような基地が多数あると判断して構わないでしょう」

「……つまり増援もあり得る、っつー事か……」

「あ、少尉、おやつは何ハイトまでですか?」

「んと、1ドル今何ハイト?」

「先言っとくがバナナはおやつに入らないっつー事で」

「結局どっちなのかなソレ?」

「作戦会議中です」

「……はぁ……」

 

以前潰した地下基地は使用していないが、上部の軍港、それに近くの野戦基地と提携し活動を行っているとの事だった。また、そのような小規模な基地は他の島にも多くあるだろうとの事だ。

 

「……出るとしたら、昨日みたいに偵察に出たところで基地を強襲、そのまま留まり、帰って来た偵察を叩く。と言うところか?」

「……ここは空けるのか……?」

「いや、それは心配しなくていいぞ?一応"リジーナ"もある。"パワードスーツ"も"マゼラ・アタック"程度なら倒せる武装を装備出来るぞ?」

「…そうですね、今、MSを2分する事にメリットはありません」

「……う~ん、おやっさん、今のここの戦力は?」

「MS3機に、"ナナヨン"1両、"ロクイチ"1両、それに"パワードスーツ"だ」

 

うーん……んっ!?

 

「……"ロクイチ"……?」

「えっ?聞いていませんよ?」

「"ロクイチ"あるの!?」

「あぁ、転がってたスクラップを四個イチしたんだ。まだ完璧とまでは言えんが、砲台替わりにはなるだろ」

「少尉ー!"ロクイチ"は戦力に入りますかー?」

「入ります。バナナより優秀です」

 

早く言ってよ。あるのと無いのでは全然違うんだから。

 

「よし、作戦は決まった。MS3機を軸に"イージス"。それで敵拠点を強襲する」

「奪取はしなくてよろしいのですか?」

「……この戦力では、ムリだな……」

「取り敢えずブッ飛ばせばいいんですか?」

「あぁ、殲滅(・・)だ。1人も逃さない」

 

その言葉に上等兵が息を呑んだ。ここに来て、ようやくその本当の意味を意識したようだった。

そうだろう。しかし、仕方が無いといったらそこまでだ。これは戦争で、ここは戦場。そして、上官の指示は絶対だ。敵を逃がすワケにはいかない。

多分、上等兵はこれが初陣だ。戦争をどういう物と捉えているかは知る術は無いが、意見を撤回する気はなかった。

 

「……ジャックから既に話は聞いている。この事も予期済みだ。中尉、野戦基地破壊用の特殊グレネードを用意してある。使ってくれ」

 

その言葉に声をあげたのは上等兵だった。

野戦基地破壊用……、まさか……。

 

「……まさか!隊長!私は反対です!!それは非人道的な大量破壊兵器(WMD)でしょう!!南極条約違反です!!」

「……いや、条約に明記されているNBC兵器ではない…」

「しかし!!」

「…なんですかそれ?私にはよく……」

「…軍曹、まさか…」

「……あぁ、気化爆弾だろう……」

「……ッ!!」

 

今度こそ上等兵は絶句し、あまり変化の見られない周りを驚いて見回している。変化が無いのは伍長もだ。伍長はこの爆弾の悲惨さを知っている。しかし、その上で反応しなかった。

 

周りの様子に絶望し、上等兵は肩を震わせながら俯いてしまった。その特徴的な、大きな目には大粒の涙が溜まっていた。

 

燃料気化爆弾(FAE)。内部に通常炸薬の代わりにFuel Air Explosive、つまり燃料空気爆薬が充填された特殊兵器だ。

正式名称は"サーモバリック爆弾"といい、最新式では燃料ではなくサーモバリック爆薬と呼ばれる専用炸薬を用いるようになってきているので、燃料気化爆弾という名称で呼ぶこと自体が不適切になってきているが、その分かり易さから宇宙世紀になっても燃料気化爆弾という名称が多くの場合使われる。

通常の固体爆薬の爆心地の圧力は1000気圧以上になるが、この燃料気化爆薬はその1/10以下の100気圧程度にしかならない。しかし、その代わり広範囲に渡り爆発効果と長時間の燃焼効果を及ぼせるのだ。

目標上空にて霧状に散布した酸化エチレンや酸化プロピレンなどの航空燃料の混合物を一次爆薬で加圧沸騰させることで瞬時に爆発させ、沸騰液体蒸気拡散爆発(Boiling Liquid Expanding Vapour Explosion)、通称BLEVEという現象を起こさせる事で燃料自身の急激な相変化を発生させ、2000m/sもの速度で燃料を拡散させる。

このため、数百kgの燃料であっても放出に要する時間は0.1秒に満たないと言われている。爆弾が時速数百kmで自由落下しながらでも瞬間的に広範囲に燃料を散布できるのはこのためである。

燃料の散布が完了し、特徴的なキノコ型の燃料蒸気雲が形成されると着火して自由空間蒸気雲爆発を起こし、爆弾としての破壊力を発揮する。

それにより発生した高熱、衝撃波、爆風、電磁波により地上付近のあらゆるものを吹き飛ばし焼き払う爆弾だ。ガソリン以上に気化しやすく、激しく燃焼する航空燃料が主成分の爆弾なのだ。その威力は想像を絶する。

そして、燃料気化爆弾の破壊力の秘訣は爆速でも猛度でも高熱でもなく、爆轟圧力の正圧保持時間の長さにある。つまり、TNTなどの通常固体爆薬だと一瞬でしかない爆風が「長い間」「連続して」「全方位から」襲ってくるところにあると言って良い。そのため燃料気化爆弾による傷は爆薬によるものとは異なった様相を見せる。これは、燃料気化爆弾が金属破片を撒き散らさないで爆風だけで被害を与えるためである。

それに加え、散布されるFAEは毒ガス程ではないにせよ人体に有害な気体であり、現場にいる人間をただの酸素不足でなく有毒ガスによる窒息、及び急性無気肺と一酸化炭素中毒と酸素分圧の低下による合併症による窒息死にいたらしめる事が出来る。

 

つまり、野戦基地を吹き飛ばしつつ、人員の大半をほぼ確実に殺傷できるのだ。

 

副次的な効果といえ、毒ガスに近い事をしでかすのだ。反対してもおかしくはない。

 

そう、決しておかしくはないのだ。

 

「隊長!!なんで!なんでこんな物を!!」

「………上等兵。ならば、これ以外の、有効な策がありますか?仲間に余計なリスクを背負わせず、敵全員を短時間で完全に無力化する策が………?それに、この兵力で敵の無力化した兵をどうするつもりです?」

「ッ!! それは、そうですが!!しかし!!」

「なら、俺はそうします。そうして、最善を尽くすだけです。後で、後悔ぐらい出来るように」

 

そう言って上等兵を真っ直ぐ見る。今の俺に、迷いはない。

 

俺は、この仲間が大切だ。軍曹が、伍長が、おやっさんが、少尉が、整備員達が、そして、上等兵が。

 

その仲間に害を与えるものは、全力を持って排除する。

自分の知人を生かすためなら、名も知らぬ者なら幾らでも殺してみせる。いくらでもその天秤を偏らせて見せる。

そして、それを起こすのは俺自信だ。他の誰でもない。

 

「……!! 軍曹!!」

「……中尉の、言った通りだ……俺は、中尉に従う……」

 

軍曹も、いつもと全く変わらなかった。その深い、落ち着いた目は一切の感情の揺れを感じられなかった。

上等兵はおやっさんを見るも、おやっさんも肩を竦めただけだった。

 

「伍長!!あなただって……っ!!」

「ううん。上等兵さん。私は使うよ」

「なんで!!なんでですか!!こんなもの!!こんなの……」

「…ううん。違うんだよ、上等兵さん……私は、上等兵さんみたいに、頭がよくないけど……」

 

伍長が上等兵の手を取り、握り締める。震えるその手を、優しく包み込む様に。

 

「私はね、みんなを守りたい。それが出来るなら、やりたい。そして、少尉と一緒に笑って、軍曹と一緒にコーヒーを飲みたい。上等兵さんともっともっとお話して、おやっさんとまたポーカーがしたい。その気持ちは、みんな一緒。きっと…いや、少尉はね……」

「なら!ならなんでですか!!」

 

肩を震わせながら顔をあげ、手を振り払い上等兵は中尉に掴みかかろうとする。それを避けようとしない中尉。その様子にさらに刺激され、上等兵は手を振り上げた。

 

「ッ!!」

「上等兵さん!!」

 

しかし、その手は中尉に当たる事は無かった。

 

その間に入ったのは軍曹だった。上等兵の手を掴み、押しとどめていた。

 

「…っ……放して、下さいっ…!!」

「……………」

 

軍曹は何も言わなかった。ただ、上等兵から目線を外さず、ずっと見据えて居た。

 

そのまま睨み合いが続くと思った時、糸が切れ、腰が砕けるように上等兵がへたり込んだ。

 

その震える肩に手を起き、軍曹が頭を撫でている。

 

「……ここは、軍曹に任せよう。解散」

「……あぁ……」

「……はい。……………上等兵さん……」

 

"イージス"から出て、すぐそばのベンチに3人で座る。視線の先では、少尉と整備班達が怒鳴りあいながら調整を進めていた。少尉が上等兵に恋心を抱いている事は知っている。しかし、その少尉を呼ぶ気にはならなかった。

 

「……少尉。私、間違ってたのかな……」

 

ポツリと口を開いたのは伍長だった。肩を中尉に預け、力無く寄りかかっていた。

伍長はいつも冷静で、表情をあまり出さないがとても優しい上等兵を実の姉の様に慕っていた。

その上等兵の取り乱し具合に、口には出さないが凄い不安を感じているんだろう。

 

「……答えは、無いさ。それが罷り通るのが戦争で、戦場なんだ。

………戦争にルールはあるが……俺は、それを破ってでも、この人達を守りたいんだ…」

 

……極度の自己中心主義で最悪な人間だ。それは自覚している。

だが、それがなんだ。

俺は、見知らぬ他人がどうなろうとどうでもいい。所詮は、他人だ。

戦争だの、命令だのは、言い訳にもならない。

ただただ、純粋な己の利益の為に!!

だから、それでも俺は銃を取る。

撃たれる覚悟は、出来ている。

だが、仲間は撃たせない。絶対に。

 

「……うん。それは、私も同じ。きっと、みんな、同じなのにね……」

「…………守りたい、か……」

「……おやっさんも大丈夫ですか?おやっさんの奥様方は……」

「……大丈夫さ。その意趣返しっつーワケでもない。

俺は、整備屋だ。お前達を無事返せるのなら、なんでもやる。それだけさ……」

「…………すみません……」

「いいさ……いざとなりゃ、整備屋としてのプライドを捨てる事も、また俺のプライドだ……」

 

おやっさんは立ち、"MSトレーラー"へ歩き出した。その背中は、いつもの大きな背中だった。

 

おやっさんは サイド1("ザーン")の7バンチコロニー、"ケルン"の出身だ。

 

その"ケルン"は大戦初期の"一週間戦争"でジオン軍のNBC攻撃に晒され、全滅している。

 

偶然月に居た娘を除き、家族は………。

 

おやっさん…………。

 

「作戦は、今日の夜に決行する」

 

隣で伍長が身じろぎし、顔を上げ中尉を見つめる。その後ろでは軍曹が"アイリス"から出てきていた。

 

「少尉。私は、いつでも少尉の味方ですよ……」

「………ありがとうな。伍長。いつもごめんな………」

「……それは、俺もだ。中尉……中尉が、望むのなら……」

「軍曹……すまない……」

 

安心したのか、また寄りかかった伍長が船を漕ぎ始める。肩にその重みを感じながら、中尉は軍曹へ向き直った。

隣に軍曹が座る。その目は、遠くを見ているようだった。

 

「……上等兵は?」

「……伍長と、同じだ……疲れて、寝てる……」

「……そう、か………ついてあげてくれ。俺は、伍長を見てるよ」

「……了解………」

 

言葉を交わしながら、2人ともどちらともなく空を見上げた。

 

雲ひとつ無い青空を見上げる2人に、湿り気を帯びた風が頬を撫でて行った。

 

 

 

『引き金くらい、己の意思で引け!!』

 

 

 

熱風吹き荒れる戦場へ………………………




はい、まさかの兵器が登場です。

実はガンダム作品では結構出て来ます。

中尉は軍人であり、その行動原理は単純明快です。

生きて、まだ見ぬ終戦を迎える。それだけです。

切羽詰まっているとはいえ、躊躇いなく無抵抗の背に弾丸を叩き込む男ですから。

いつか、主要メンバーの内面などについても書きたいものです。

出てきた強化骨格は義体やサイボーグ、宇宙の戦士のパワードスーツの様な物で無く、ちょっとしたフレームだけの物です。

伍長の言っている"ハイト"とはお金の単位で、サイド6を中心に流通している通貨です。

次回 第三十八章 地上の星

「何その地味に哲学的な問い……確かに……」

お楽しみに!!


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第三十八章 地上の星

遂に"ブレイヴ・ストライクス"初の実戦を迎えます!!

記録には残されない、殲滅を主とした部隊が歩み始めます。

MS隊、前へ!


戦争のルールとは、なんとも笑える話ではないか?

 

殺意を隠そうともしない殺し合いの中に、ルールなど。

 

戦争は政治の最終手段、そう捉えたとしても滑稽な話だ。

 

例え、そこにどんな背景があろうとも。

 

宇宙へ棄民に近い政策を行い、その後も宇宙移民(スペースノイド)を押さえつけ、虐げた連邦政府も。

 

それに武力で対抗し、NBC兵器と大質量兵器による無差別殺戮を行ったジオンも。

 

大義も、正義も、所詮は主観でしかない様に。

 

 

 

U.C. 0079 7.27

 

 

 

「……上等兵、確認しますが本当に大丈夫なんですか?ムリに…」

《いえ。お見苦しいところを見せてしまい申し訳ありませんでした。私は大丈夫です》

「……すみません」

《謝らないで下さい。これは、私の問題で、それも、解決したのですから》

「本当に、ですか……?」

《──はい。今までも、薄々は気付いていました。しかし、私はその事に目をつむり、背け、逃げて来ましたが──。

それに、そのような感情で義務を怠るわけにもいきません。

──隊長は、どのようにお考えなのですか?》

「俺は……言った通りです。ただ、自分が後悔位出来る様に、信じた事をやるだけです」

《──隊長らしいですね。

──重ねて申し上げますが、私は大丈夫です、隊長。ご心配をおかけしました》

 

小型の偽装網を掛けられ隠蔽された"陸戦型ガンダム"のコクピットの中で、中尉は上等兵の声をスピーカー越しに聞いていた。

あの時の気の弱さを一切感じさせない、いつもの声だった。それが、逆に不安だった。

きっと、一応区切りはつけたものの、まだ葛藤は続いているのだろう。だけど、俺は上等兵を信じる。

 

「……分かりました。俺達MSパイロットの命、預けます!!」

《はい。お任せを。私達はチームですから》

 

通信を切り、シートの上で目をつむり手を組む。

作戦開始までまだ少しある。

作戦の準備は完璧だ。後は、その時間を待つのみ。

 

ピピッという音に反応し目を開く。少尉から通信が入っていた。

なんだろう?そーいや、何も伝えてなかった。

 

「どうした?少尉?トイレなら今のうちだぞ?」

《ちげーよ。上等兵の事だよ。何か知らない?》

「なんかって?何?どったの?」

《いや、今なんかやけにスッキリしたよーな顔で軍曹と話してんだけど……》

 

あり?落ち込んでるとかじゃなくて?いい事だけど。強がりじゃなかったのね。

引きずってなさげでホッとしたのでカロリーメイトを齧りながら通信を続ける。

 

「さぁ?なんかいい事あったんじゃないの?」

《ふぅーん。しょーたいちょーは知らんのな。いやーよかった、NTRかと》

「おまいはそれ以前やろ。後一押しなんじゃなかったん?」

《いやー、そっからがねぇ……しょーたいちょーと伍長ちゃんはどうなのよ?いい感じか?》

「俺と伍長?なんだその組み合わせは?軍曹じゃなくてか?」

 

お前は知らんかも知れんが、あの2人は"夫婦"って呼ばれてたんだぞ?

 

取り敢えずムダ話を続ける。続けながらシステムを再チェック。うん。コンディショングリーンだ。飛べそう。比喩だけど。いや、どっちかっつーとミッドナイトブルー?

 

《…………いや、まぁ……ところでなに食ってんの?》

「うん?カロリーメイトチョコレート味。あげないよ?」

《ふぅーん。別にいらねぇよ》

「んだと!!喧嘩売ってんのか!?」

《んあ?そーゆーしょうたいちょーは何で食欲あんの?初出撃前だぜ!?》

「『腹が減っては戦はできぬ』だよ。腹六分目をキープしてんの。集中力切れたら死ぬのは俺だけじゃなくなる可能性が高いんだから」

《へぇー。俺も一応軍属だからやるべきかなぁソレ。あ、そーいやさー、なんたら味ってあんじゃん?》

「あぁ。それが?何?そーゆーおかしのイチゴ味とか嫌いなの?」

 

あのわざとらしい味がまた良いんだろうが。あのなんとも言えない安っぽさが。日本男児の駄菓子好きなめんな。

 

《いや、そーじゃなくて、そーゆーので、サラダ味って何味だろーって…》

 

は?何言ってんだコイツ?サラダ味はサラダ味に決まって………サラダ、味?

 

「何その地味に哲学的な問い……確かに……」

《少尉ー?何の話してるんですかー?》

 

伍長からの通信が入る。作戦前になんて話してんだろうなコレ。さっきから。

まぁ、緊張をほどくという意味でいいかもな。冗談の一つでも言えるように練習でもしようかね……。

 

「サラダ味って何味だろうねって話」

《サラダ味…サラダ、あじ……確かに……軍曹分かるー?》

《……それはだな……》

《時計合わせ。5、4…》

《なぁっ!?空気よめよー》

「何を言ってんだおまいは。……また後にするか」

《ですね。あ、コレは死亡フラグですかねぇ?》

《…2、1、作戦スタートです》

「んなわけ無いだろ。よし、"ブレイヴ・ストライクス"出撃だ!!各機、"イージス"を中心にアローフォーメーション!!これより回線はレーザー通信による暗号通信に切り替える!!」

《……ブレイヴ02了解》

《ブレイヴ03りょーかーい!!》

《こちらウィザード01、了解しました》

「小隊、前進する!各機、警戒を厳とせよ!」

 

中尉の、隊長としての初の実戦がスタートした。

 

中尉の"陸戦型ガンダム"を先頭に、その後方に"イージス"、その"アイリス"の左脇に伍長の"陸戦型GM"(ブレイヴ03)、右斜め後方に軍曹の"陸戦型GM"(ブレイヴ02)が続く。

 

そのフォーメーションを維持しつつ、密林を奥へ奥へと進んでいく。

 

月下の出撃だな。今夜は月が明るい。バックパックの投光器が必要無いくらいだ。

緊張と興奮の入り混じった不思議な感覚と共に、中尉は機体を操縦する。

中尉を乗せた"陸戦型ガンダム"は順調に歩を進め、着実に作戦ラインに近づきつつあった。

 

《ウィザード01から各機へ。作戦ラインに到達、ミノフスキー粒子濃度は60。これなら敵に気づかれず敵基地に接近出来ます。本機はここで待機し、ジャミング・フィールドを形成します。ここからMS3機は敵基地に突入、特殊グレネードで破壊しつつ前進し、野戦基地を破壊して下さい。損害評価後は、迅速に撤退して下さい》

 

特殊グレネードの威力と効果半径は絶大だ。"イージス"を巻き込むワケにはいかないため、ここで待機となる。

しかし、高出力指向性レーザー通信でサポートは行えるようだ。

その証拠に"イージス"は停止しアウトリガーを展開、ピックを突き刺しアンダーグラウンドソナーを展開している。

 

《! 早速お出ましだ……MS歩行音確認っと……12時方向に2機、距離1500。その奥に1機、距離1900。計3機確認。遠ざかってる》

 

少尉からの通信だ。やはり、アンダーグラウンドソナーは高性能のようだ。昨日の偵察からの地理情報も統合し、かなり高精度な探知を行っている。

 

「よし、MS隊は気化爆弾有効射程距離まで接近し、グレネードを投擲(フラグアウト)。爆発の収束と共にスラスターを使い突入する!!予定時間は30秒後だ!!行くぞ!!」

《……ブレイヴ02了解…》

《ブレイヴ03りょーかい!!初陣をド派手に飾りましょー!!》

 

言うないなや中尉は機体を走らせる。セーフティを解除、兵装はグレネードを選択する。

"陸戦型ガンダム"の装備は"100mmマシンガン"にシールド、それに気化爆弾グレネードだ。伍長、軍曹の"陸戦型GM"もほとんど同じで、違いはグレネードが通常型なのと、伍長はグレネードの代わりに試作の使い捨て"バズーカ"を腰部背面に懸架している事だった。

 

「……5!4!3!2!1!投擲(フラグアウト)!!爆発予定は15秒後!!各機!耐ショック、耐閃光防御姿勢を取れ!!念のためセンサー強度も最低ラインにするんだ!!」

《……ブレイヴ02了解》

《ブレイヴ03了解!!ちょっとワクワクして来ました!》

 

走る勢いのままオーバースローでぶん投げる。綺麗な放物線を描き基地の上空へ飛ぶグレネードを見送りつつ、膝を立て盾を構えた。

 

《……わくわく》

「口で言うか?」

《時間です!》

 

その時だった。月明かりに照らされぼんやりと浮かび上がる基地上空に、独特で不気味な、忘れられないキノコ雲が咲いた。

次の瞬間、闇を切り裂く、日の出以上の激しい閃光とともに目の前がホワイトアウトした。

 

その時、中尉は確かに見た。空に孔が穿たれる瞬間を。

 

「うおっ!まぶし!」

《閃光確認!衝撃波、今!》

 

ゴウッ、という凄まじい爆轟と共に70t近い機体が大きく揺すぶられる。2度3度、そして最後には引き寄せられる様な吹き戻し。凄まじい衝撃だ。爆心地は、どんな衝撃なのだろう?

煌々と輝く爆炎が夜空を染め上げ、中尉達のMSの影が長く伸びる。まるで真夜中の日の出だ。

それも徐々に収まり始め、再び夜の闇が辺りを包む。

 

《爆発の収束を確認!!》

「全機、飛べぇー!!」

 

フットペダルを踏み込むと、スラスターが作動し激しい噴射炎と振動をもたらす。機体が莫大な推力に持ち上げられ浮かび上がり、月明かりの下を駆ける。軍曹、伍長もそれに続いた。

 

「ブレイヴ01より各機へ!発砲許可を出す!!各々の判断で交戦を許可する!!」

《りょーかい!!初陣をかざりましょー!》

《了解……》

 

月をバックに、肩部フックに引っ掛けられた偽装網をたなびかせ宙を舞う3機のMS。蒼白く照らし出されるその姿は、まるで死神の様だ。

 

「…………」

《うわぁ、すごい………》

《……想像通りの威力だな…》

 

眼下には、月明かりに照らされた元基地(・・・)が残骸を晒していた。動くものは一つもない。

 

《11時方向、距離800!動体反応検知!"ザクII"か!?》

「………」

 

反射的にセーフティを解除、セレクターは3点バーストに。

FCSが起動、沈黙していた武器使用ランプが点灯、『メインアーム レディ』と表示される。

 

"陸戦型ガンダム"のセンサーが機影を捉える。ツインアイが煌めき、廃熱を行う機体をそのままに、中尉は反応のある方へと振り返った。

 

そこには機体の約半分が瓦礫に埋まり、弱々しく手を蠢かせる哀れなMSがあった。"ザクII"とは違いパイプが出ていない。新型?

そのコクピット周辺に"100mmマシンガン"を3点射で容赦無く叩き込み、機体が停止したのを確認した中尉の"陸戦型ガンダム"が左手を上げハンドシグナルを出す。

 

ブレイヴ01(ブレイヴリーダー)より各機へ!この好機を逃すな!!前進するぞ!!ブレイヴ03をトップにアローフォーメーション!!"アイリス"はMS隊後方距離2500へ!」

《…ブレイヴ02了解。背中は任せろ》

《ブレイヴ03右に同じ!!私について来てー!!》

《ウィザード01了解。ジャミングを掛けつつ前進します》

《ウィザード02より各機へ、2時方向の敵野戦基地より敵機!距離1200!》

 

閃光と爆轟を確認し、巣穴から出て来やがったか。

 

伍長が盾を向けつつ右へ回り込み始める。それを見て左へ。

 

「こちらブレイヴ01、エンゲージ!!挟撃だ!ブレイヴ03!!」

《はい!》

 

2機で挟み込む様に移動し、じわじわと距離を詰める。動きを停め、戸惑いを隠さない"ザクII"へ同時射撃を行う。

 

放たれた火線が夜空を彩り、"ザクII"へと殺到する。

 

装甲が弾丸を受け、激しい音と火花を散らす。2方向からの射撃に晒され、怯んだ"ザクII"の胸部に、"スローイングナイフ"が突き刺さり、一瞬遅れて爆発、上半身を吹き飛ばす。

 

軍曹の"陸戦型GM"だ。

 

性能差に、機体の数もこちらが上。そんな相手に波状攻撃を喰らったら一溜まりもないだろう。事実、2人とも反撃を受けていない。

 

それに相手は敵がMSという事に困惑したに違いない。ならば、こちらが有利に決まっている。

 

《さっすがー!!》

「周囲にMS反応は!?」

《ねぇよ!!来たとしても、距離がかなりある!間に合うワケがねぇ!!》

《ウィザード01よりブレイヴ01へ。隊長、前方の基地を破壊後、撤退へ移る事を推奨します》

「ブレイヴ01了解!!ブレイヴ03下がれ!!気化爆弾を使う!!」

《はい!!退避しまーす!!》

 

上等兵の意見を承諾、伍長を下がらせる。

 

中尉の"陸戦型ガンダム"の周りに2機の"陸戦型GM"が集結、周囲を警戒しつつカバーする。伍長が盾を構え右前方を、軍曹が左後方を見張り、一瞬の隙も見せつけない。無防備に近い"陸戦型ガンダム"を守り、どこからの敵からも対応が出来る、完璧と言ってもいい連携だ。

 

その動きに満足しつつ、中尉の"陸戦型ガンダム"がグレネードを構え、放り投げる。

 

「よし、撤退だ!!基地守備隊の"ザクII"もこっちに気付いてる。逃げるぞ!!軍曹!殿を頼む!」

《…了解》

《はーい!さっさと逃げましょー》

「ブレイヴ01より"イージス"へ!センサーが壊れない程度に観測頼む!」

《了解》

《耳痛めたらしょうたいちょーの所為だからなぁ?》

 

スタコラサッサと逃げ出す伍長の"陸戦型GM"を追い、中尉が続く。軍曹はバックし警戒しながらだ。

 

MSさえも覆い隠す、巨大な岩の裏に隠れる。中尉は"陸戦型ガンダム"のシュノーケルカメラを展開し観察を続ける。

その瞬間再び閃光が闇夜を照らす。その光の中で、2機のMSのシルエットがグズグズに崩れて行くのを中尉は見た。

 

《うっわー。凄まじい光ですね》

《……戦術核と、間違えられそうだ……》

《……この、光の中で……》

「ウィザード02、爆発の収束後、アンダーグラウンドソナーで動体検知を」

《あいよ、と。全く俺っち大活躍だねぇ…》

 

光続ける(・・・・)爆炎を見ながら、夢想する。

 

ジオンの毒ガス攻撃や、核攻撃も、こんな大量虐殺が起きる事を理解した上で、国の為、作戦の成功の為、やったんだろうか?

 

そんな考え、俺には無いが……。

 

《爆発収束。センサー走査開始して下さい》

《………反応ゼロ。跡形もなく、だ》

Mission CMPL(ミッション・コンプリート)、だな……》

「………よし、撤収だ!全機、帰還する(RTB)!戦闘配置を解除! 第1警戒態勢に移行」

《……了解。撤収する》

《ふーっ。軍曹!少尉とおいしいコーヒーお願いしまーす!》

《……了解。最高の一杯を約束しよう……》

 

あぁ、取り敢えず今回も生き残れた。それぐらいのご褒美、いいよな?でも、今からコーヒーって眠れなくなるんじゃ………?

センサーからも目を離していないが、反応は無い。追撃もなさそう……ってムリか。

 

《おいおい、基地に帰るまでが作戦だろぉー?あっ、上等兵?帰ったらお茶でも……》

《結構です。それと隊長に軍曹、伍長も。私も混ぜていただいてよろしいですか?》

《何故に!?俺とは!?》

《…了解。中尉も、いいか?》

「構いませんよ。伍長もいいよな?」

《はい!!上等兵さんなら大歓迎です!!》

《あのー、俺は?》

《どうでもいいです。果てし無く》

《あっははは!フられましたー?》

《まだだ!まだ終わらんよ!!きっと上等兵もすぐ俺の魅力に……》

「………んな事言ってる内はムリじゃね?」

《……的を、得ているな……》

 

陰鬱な空気を寄せ付けないかの様に、笑いながら基地へ向かう。軍曹と少尉は笑って無いが、軍曹はやや楽しんでいるようだ。

 

空が白み始め、辺りを優しく照らし出し始める。美しい朝陽だ。

 

暁の中を歩く。やや煤けた白銀の装甲が光を照り返し、その姿はまるでかつて絵画で見たような英雄の凱旋だ。

 

中尉の目には、逆光の中で浮かび上がる基地(帰るべき場所)が見えていた。

おやっさんが、整備班達が走り出し、手を振る。

 

「ただいま」

 

英雄(大量虐殺者)の、凱旋だ。

 

 

 

『一つの殺人は悪漢を生み、100万の殺人は英雄を生む』

 

 

 

小さな火種が、大輪の戦花を咲かせる…………………




初のMS戦闘は、やや後味の悪い物になってしまいましたかね。反省です。自分的にはブッとんだバカ話が好きなんですが……。

既に書き溜めが3つあり、物語は決まっていますが、気化爆弾の反響が大きかった事、更新が早いとの苦情からこのようになりました。ヅダはアレなんで、ジム・ライトアーマーぐらいを目指します。

しかし、自分はこれを書いた事には後悔はありません。
一つあるとしたら、ミデアからの空挺で出撃させたかったですね。

書き溜めの段階でパトレイバーネタは既にあったのですが、感想でも言及されて驚いてます。今回のは微妙ですが、一応意味があります。

戦闘はやはり難しく、慣れませんね。特にアイリスの索敵など。違和感あったら意見お願いします。

次回 第三十九章 釣り野伏せ

「ヒューっ!戦場は地獄だぜぇ!!」

お楽しみに!!


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第三十九章 釣り野伏せ

タイトルでネタバレ。

やや違うかも知れないのは素人なのでご愛嬌。

遂に始まる、本格的なMS戦!!

中尉は、生き延びる事が出来るか………。


人の限界は、何なのだろうか?

 

1人の力などたかが知れており、限界など目に見える。

 

それはたった一人では戦局が変えられぬように、だ。

 

しかし、たった1人で戦況を変える者も存在する。

 

軍を統率する、上層部だ。

 

その指先一つで変わる運命の中、

 

兵は今日も戦い続ける。

 

 

 

U.C. 0079 7.29

 

 

 

「敵がこちらに向かって来ている?」

「はい。周囲に敷設した対地センサーに複数の振動が感知されました」

「……それは、確かなのか…?」

「間違いねぇよ。俺も確認した。複数の車両の音に、覆帯、そしてMSだ」

「敵がやって来るんですか?」

 

それは、機体を整備していた時だった。驚きと言えばそうだが、心の何処かではそう思っていた。もし自分の立場ならそうするからだった。

ウチの部隊は小規模であるが、MS運用のノウハウ確立のためにと整備士はかなり多い。しかし、中尉、軍曹、伍長は整備を手伝っていた。

 

それは整備が出来るほど自機を知っておく必要があると判断したためと、いざという時のため、それに中尉の性格だった。

自分が休んでいる時人が働いているのを見ると、どうも不安になるからだった。それにオタクでもあるため、純粋に知りたいというのもある。

伍長は自分の機体に名前まで付けて頬ずりまでしているが。

 

「何故だ?周りが攻められたら普通籠もるだろ?そんなに追い詰められてんのか?」

 

おやっさんもそこに参加する。一番経験があり、長く戦争に関わって前線で整備を行ってきたおやっさんは、アドバイザーのような立ち位置だ。

 

「……あえて打って出た、というのもありそうですね……上等兵、どう思う?」

「はい。私もそう思います。増援を呼び持ち堪えるより、打って出る事で奇襲をかけ敵を叩き潰そうという話でしょう………それなら…気化爆弾も、使えませんし………」

「……そうだな」

「……そのための、渾身の策か……ジオンには、海上輸送手段に乏しいのもあるかもな……」

「私たち防衛戦はあまり経験が無いですよねぇ。どーする?少尉?」

「……ふむ」

 

確かに。MSは基本的に何でも出来るが、本来は強襲兵器と呼べるような、機動力を活かした遊撃戦が一番得意だと考えている……。だってMSとか止まってたらただのデカイ的とかカカシだもの。

 

「上等兵、敵部隊到着までの時間は?少尉、MS技術士官としての意見を」

「はい。第一次防衛ライン到達まではヒトハチマルマルだと」

「MSはデカイ分待ち伏せは得意じゃあ無いが、ここは密林に崖が多い。

十分に隠れられるだろうな」

「……前の、メキシコシティの時の様な作戦か……?」

「あぁ!!アレですか!!私のよそ見運転で街路樹へし折っちゃ……はっ!!」

 

今トンデモない事聞いた気がするが取り敢えずほっとく。

しかし、あの時はMSが1機しか無かったが……。

 

「よし。全員を集めてくれ。おやっさん!整備兵達を頼みます!」

「おぉし!!全員、集合!!」

「「おう!!」」

 

………全員集まった。その時間、およそ10秒………。

統率力やっば!!

 

「作戦の概要を説明する。まず、MS3機でアンブッシュ、接敵と同時に攻撃を加えつつ撤退、ポイントチャーリー52、この崖のエリアに誘い込む。そこで左右から"パワードスーツ"の40mm砲、"リジーナ"、"ロクイチ"で射撃、足を止めMSでトドメを刺す……コレで行きます」

「つまり、主役は俺たち整備兵ってわけっすね!!」

「そうです。しかし、決してムリはしないで下さい。射撃と同時に離脱、コレを忘れないで下さいね」

「聞いたか野郎ども!!俺たちの力!見せてやろうぜ!!」

「「おう!!」」

 

取り敢えず、士気のため持ち上げておく。あながち間違いでないし。

 

「よし、作戦を開始する!総員!第一種戦闘配備!!」

「「おう!!」」

 

てんでばらばらに散って行く整備兵達を見送る。殆どが"キャリフォルニア・ベース"からの付き合いだ。正直頼もしい。てゆーか戦力不足から戦闘参加させまくったためオーラがヤバい。

 

「おやっさん!!偽装網の準備を!!MSパイロットは自機にて待機!!"イージス"も同じ!!」

「……了解…」

「オーキードーキー!!」

「了解しました」

「あいよ」

 

指示を出し中尉も"陸戦型ガンダム"へと向かう。"MSトレーラー"のベッドは立ててあるため、側面に設けられたエレベーターを使う。

上から見下ろすと整備兵たちは嬉々とした表情で武装を軽々しく運びつつ走り回っている。いったいどこを目指す気なんだ……?

 

「"陸戦型ガンダム"、出します!!」

『あいよ!"ガンダム"出ます!!"ガンダム"発進!!』

 

コクピットへ滑り込み、MSを起動させる。

整備士達が離れ、ロックが解除、リグが外される。武装は"100mmマシンガン"に、シールド、ハンドグレネードに有効性の確認された"スローイングナイフ"だ。

 

その時通信が入る。"イージス"の上等兵からだ。

 

《隊長、"イージス"の配置はどうしますか?》

《引っ込んでた方がいいか?》

「ジャミングをかけつつMS隊と待ち伏せ地点の中間に位置どって居て下さい、出なくてはいいが引っ込まれたら困る」

《はい。了解しました。追撃は?》

「MS隊と"イージス"で行います。その時は少尉をガンナーシートへやって下さい」

《うぇえっ!?……あーはいはい!!俺はやりますよ?やりますとも!》

《煩いですよ少尉。隊長、追撃時には、チャンスがあれば特殊グレネードを使って下さい》

「………いいのか?本当に?」

《はい》

《…………?》

「分かりました…」

 

その声には一切の迷いも、戸惑いも無かった。

あの後、軍曹、おやっさん、伍長、少尉や整備兵達に相談したと聞く。

上等兵らしいと思った。

それと同時に、俺たちは"チーム"なのだと。

 

「整備班!装備に特殊グレネードを!!」

《何個ですかぁ!?グレネードとの兼ね合いもありますよ!?》

「1つです!頼みます!!」

《あいよ!任されたよ!!》

 

すぐさまトラックがグレネードを載せて中尉の元へと走ってくる。

 

それを膝立ちで掴み取り、腰部後方のマウントラッチに装着する。

 

そのため通常型グレネードを腰の前のハードポイントに装着する。

 

これは"オリジナル"には無い機構らしい。おやっさん曰く。"オリジナル"にはそこにヘリウムコアというパーツが付いていたらしいが、"陸戦型ガンダム"はその代わりにハードポイントを装備したらしい。これは構造の似た"陸戦型GM"もだ。

 

「軍曹!伍長!準備はいいか!?」

《……肯定。問題無い…》

《バッチグーです!!》

《古くないか?ソレ?》

《あれれ?》

《2人とも集中して下さい。もう暗号回線に切り替えるのですから……》

 

伍長……日本語の勉強してるらしいけど……なんかダメっぽいぞ?

 

軍曹の"陸戦型GM"の装備は"100mmマシンガン"に、シールド、それに"スローイングナイフ"だ。

伍長は"100mmマシンガン"、シールドまでは変わらないが、前回出番の無かった試作の使い捨て"バズーカ"を2本腰部後方に懸架している。

 

この使い捨て"バズーカ"は、おやっさんお手製だ。

 

旧世紀の米軍をはじめとしてあらゆる軍隊、ゲリラが使っていたとされるM72 LAW、通称"ロウ・バズーカ"という物を参考にし、開発した。

命名はおやっさんで、今までの"試作使い捨てバズーカ"では長いため、"ランチャー"に統一する事に。

これは見た目はほぼただの筒だが、その筒を引き延ばす事で射撃可能になる。口径は240mm。

単純な仕組みでコストも安いが、威力、命中率に難があった。しかし、何よりその収納性を買われこの度テストヘッドに抜擢された。

低い命中率もOSとFCSでカバーする事に。

 

しかし、初のMS用"バズーカ"だ。そのため伍長のテンションは大爆発だ。"バズーカ"はロマンらしい。

 

分かるわーソレ。

 

"シュツルムファウスト"とは違い自己推進をする弾頭を撃ち出すため、命中率は上がったらしいが……本当かね?

 

因みにバックブラストは健在で、反動は無いに等しい分後ろを吹っ飛ばす。

 

「ブレイヴ03、"ランチャー"の前後を間違うなよ?」

《だいじょーぶですよー!そこはオートでやってくれます!》

 

あっ、説明書を読んだワケではないのね?

 

「よし、"ブレイヴ・ストライクス"、出るぞ!!」

《……了解…》

《りょーかい!》

《了解。"イージス"も出ます》

《よっし!奴らにひと泡吹かせてやろうや!》

 

帽子を振る整備士達に見送られ、中尉の"陸戦型ガンダム"を先頭に18mの巨人が歩き出す。

その後ろに"イージス"が続き、"ブレイヴ・ストライクス"隊が出撃する。

 

敵のMSを主軸にした部隊はもう迫っている。急がなければ。

 

パネルを叩き、サブモニターに表示される情報を変更する。

 

ここ周辺の地形図が表示され、そこにセンサーから伝えられた敵部隊の予測侵攻ルートが表示される。更に情報を打ち込み、アンブッシュに適した地形を選出する。

 

「ブレイヴ01より"イージス"へ。"イージス"はここで待機を。ブレイヴ02はポイントエコー33へ、ブレイヴ03はポイントブラボー24だ。偽装網を忘れるな。各機散開!」

《……ブレイヴ02了解。ポイントへ向かう…》

《ブレイヴ03りょーかい!かくれんぼは得意な方です!》

《こちらウィザード01、アウトリガー展開、アンダーグラウンドソナーによる走査開始。データリンクは30秒後の予定です》

 

中尉も"陸戦型ガンダム"を走らせ、予定されたポイントへ赴き、膝を立て機を固定、偽装網をかける。

 

「こちらブレイヴ01、準備完了」

《…こちらブレイヴ02、予定ポイントへ到着。待機に移る》

《ウィザード02より各機へ。MS歩行音確認。ポイントデルタ28からだ、少なくとも4機といったところか?ったく、ジオンに兵なしっつーのは嘘なんじゃねーの?》

「おいおい、レビル将軍の悪口は辞めとけよ」

《こ、こちらブレイヴ03、思ったより道が険しくて……50秒後に到達予定です。ちょっと待って下さい》

 

中尉も軽口を叩きながらシュノーケルを伸ばし、付近の様子を伺いつつセンサーを走査させる。

! ソナーが歩行音を捉えた。近づいてくるな……。

 

《…こちらブレイヴ02、目標を視認。"ザクII"3機に、"ザクI"2機。それに、"マゼラ・アタック"4両、"ヴィークル"6台だ……》

「…思ったより多いな…ブレイヴ03、まだか?」

《こちらブレイヴ03!準備完了!!敵も見えたよ!》

 

戦力差が結構あるな。こちらはMS3機なのに。この作戦で良かった。

 

中尉達はつい最近になって"ザクI"の存在を知ったのだった。実は新型機かと思っていた。パイプ出てないし。

 

中尉にもメインディスプレイに敵機が映し出されていた。やはり警戒しているようで、モノアイが頻繁に周囲を走査している。

 

「よし、作戦開始だ!ブレイヴ03!"ランチャー"の使用許可を出す!ブチかましてやれ!!」

《ブレイヴ03了解ぃ!!後方の安全確認!!》

 

バカ!早く撃て!!

 

《当ったれぇ!》

 

ばしゅーん!という音をセンサーが捉え、それと共に密林の1部が吹っ飛び、そこから白煙をたなびかせた"ランチャー"弾頭が撃ち放たれた。

目立つなぁ~!やっぱ射点一発でバレバレだなぁ。

 

弾頭が先頭の"ザクII"の右肩シールド直撃し、"ザクII"のシールドを右肩ごとごっそりと吹き飛ばした。

 

「よし!作戦開始だ!!ブレイヴ03、引け!ブレイヴ02は撤退するブレイヴ03をカバー!各機!敵に予備射撃を加え援護しつつ移動を開始しろ!」

《…了解》

《おっほぅ!!撃ってきたぁ!!ちょ、ちょっと待って!!》

 

中尉の"陸戦型ガンダム"が偽装網をかなぐり捨てグレネードを投合する。

2回バウンドしたグレネードは敵部隊後方で爆発し、"マゼラ・アタック"に"ヴィークル"を吹き飛ばす。

 

"ランチャー"でその居場所を晒し、一番敵に近い位置にいるため伍長に攻撃が集中する。それを軍曹がカバーするも、多勢に無勢だった。

 

中尉は迂回しつつ敵部隊との距離を詰めて行く。まだ射撃は加えない。完全に回り込み、追い立てるつもりだった。

 

《お、おいで~……いだだだだ!!いやー!やっぱ来ないでぇ!!》

 

落ち着けよさっきから!!頼むよ!!

 

《…落ち着け、ブレイヴ03。援護はしている》

《ブレイヴ03!"陸戦型GM"(そいつ)の装甲なら問題ない!!大丈夫だ!》

《ウィザード01よりブレイヴ03へ。動きが単調です。乱数機動による回避運動をして下さい》

「ブ…伍長!落ち着け!!訓練通りにやればいい!」

《は、はい!!》

 

撃ち終わり、弾切れとなった"ランチャー"のランチャーチューブを投げ捨て、伍長の"陸戦型GM"が盾を向け"100mmマシンガン"をばら撒きながら下がり始める。

その"陸戦型GM"のシールドに"ザクマシンガン"が時折直撃し火花が散る。

なんか部下(しかも女子…?かな……?)に射撃が集中するのを尻目に後ろを取ろうと忍び歩く隊長って……。

 

大丈夫だとは言え、やはり恐ろしいだろう。軍曹の"陸戦型GM"が援護射撃を行っているが、攻撃は伍長の"陸戦型GM"に集中しているのだ。

 

ルナ・チタニウム製の装甲は確かに堅固であるが決して無敵ではない。

伍長もただ下がるだけじゃなくて乱数機動とかしろよ。

高いんだぞ?そのシールドも装甲も。予備パーツだって余裕は無いんだから。

 

《隊長!後続の"ザクI"の1機が離脱、回り込みを掛ける気のようです!》

《小隊長!"陸戦型ガンダム"(そいつ)の機動力なら回り込んで奇襲だって出来る!たたっ斬って捨ててやれ!》

「了解!そいつを潰しに行く!ブレイヴ02!ブレイヴ03を下がらせろ!下がりつつ牽制して足止めだ!ブレイヴ03は下がって"ランチャー"をかましてやれ!」

《…了解。任せろ》

《助かりましたぁ!頼みます!》

《ブレイヴ03。ポイントエコー53を経由しつつ撤退を》

 

伍長の"陸戦型GM"が"100mmマシンガン"をリロード、再びばら撒きつつスラスタージャンプを行う。

その間に軍曹の"陸戦型GM"は鋭い乱数機動を行い巧みに敵弾を躱しつつ"100mmマシンガン"で牽制、動きを制限し本命の"スローイングナイフ"を抜き放ちつつ投げつけた。

 

それを腕を破壊された"ザクII"が庇い、胸部で"スローイングナイフ"を受け止め撃破される。

 

反撃を受ける前に軍曹の"陸戦型GM"がスラスターを吹かしジャンプし、その下を伍長が放った"ランチャー"が疾走る。

 

いい連携だ。伍長の放った"ランチャー"が外れて無ければ。

 

「………居た!!」

 

兵装コントロールパネルに表示された機体の簡略図、その両足のふくらはぎ側部が青く明滅し、そこに表示された『X.B.Sa-G-03 "ビームサーベル"』の文字が中尉の目前で躍る。

 

中尉がコンソールを叩き戦闘モードを近接格闘モードに、"ビームサーベル"をアクティブにする。

 

左ふくらはぎ側部の装甲が展開、レールが伸び、"ビームサーベル"が火花を散らしせり出す。

 

「ふっ!!」

 

中尉は迂回しようとする"ザクI"に向け、走りながら左手で"ビームサーベル"を抜刀し斬りかかる。"100mmマシンガン"や"マルチランチャー"を使わないのは目立ちたく無いからだった。

 

因みに"陸戦型ガンダム"、"陸戦型GM"の"ビームサーベル"はふくらはぎ側部についており、走りながら抜くのは至難の技である。

しかし、全員でマニュアル操作により練習、トライアンドエラーを繰り返したが軍曹が5回目にして成功させたのでそのデータを各機にシェアしインストールしたので全機が使える様になっている。

 

"ビームサーベル"の一撃は、一刀のもと"ザクI"の右腕を肩口から"ザクマシンガン"ごと簡単に斬り飛ばしてみせる。千切れた腕がくるくると回転し、地面に叩きつけられ痙攣する様にのたうった。

 

『なにぃ!!』

 

今のはなんだ!?声が聞こえたような……?

 

気にせず返す刀で2段目を叩き込むが、これは反応した"ザクI"の"ヒートホーク"に受け止められた。

中々の反応だ。その反応に舌を巻く。パイロットはかなりのベテランだと思われた。

 

『連邦がMSなど!100年早いわ!』

 

やはり聞こえる!!接触回線というヤツか!?

 

「そうかい!」

 

つばぜり合いになった瞬間、中尉は"ザクI"に足払いを仕掛けた。

足払いでバランスを崩す"ザクI"に、中尉は足払いの反動を利用し、地面に着いた蹴り足を軸に機体を回転させ、鋭い回し蹴りをその胴体へ叩き込んだ。

 

マズっ!蹴りまでやるつもりは無かったのに!!おやっさんにドヤされる!!

 

蹴りを喰らい倒れ込む"ザクI"の胸部に"ビームサーベル"を突き刺し、とどめとばかりに"100mmマシンガン"をフルオート射撃する。

 

金属がぐしゃぐしゃにへしゃげる異音が断続的に響き渡り、装甲が砕け散りその破片が"陸戦型ガンダム"へとあたり乾いた音を立てる。

端から見たらとんでもない光景になりそうだな……。

 

しかも、結局つい"100mmマシンガン"使っちまったし……。

 

それに、敵と許可なく交信したとかで軍法会議とか、無いよね……?

 

「こちらブレイヴ01!!敵の背後を取った!!もう逃がさん!!」

 

脚部へと"ビームサーベル"をしまい込み、グレネードを投げ込みつつ"100mmマシンガン"で背後を見せている敵部隊に対し射撃を行う。

 

中尉の"陸戦型ガンダム"に追い立てられ、軍曹と伍長が引いたポイントへ敵部隊が雪崩れ込んだ。

 

『ファイア!!』

 

そこへこの瞬間を今か今かと待ち構えていた"ロクイチ"の主砲が、"リジーナ"が、40mm榴弾砲が火を吹いた。

 

全方位からの攻撃に堪らず倒れ込む"ザク"に対し、トドメとばかりに軍曹と伍長の"100mmマシンガン"が降り注ぐ。

 

倒れ込む"ザク"に運良く潰されなかった"ヴィークル"、"マゼラ・アタック"も、集中砲火を受け蜂の巣になるか四散する。

 

後には、グズグズに焼け焦げ火を吹く残骸が残されるのみだ。

 

《ヒューっ!戦場は地獄だぜぇ!!》

 

整備兵の1人がそう言うが、まぁ、こりゃぁなぁ……ミンチより酷ぇよ。

 

《状況終了。隊長、お疲れ様でした》

「……損害は無いな?」

《肯定です。これも、隊長のおかげてすね》

「……そんな事はないさ。みんなのおかげだ……総員、凱旋だ!!俺に続けぇ!!」

 

取り敢えず盛り上げておく!!

ここは乗らせたもん勝ちだ!

 

《ひゃっほーぅ!!》

《やったー!私頑張りましたよ少尉!!》

《流石だな大将!!信じてたぜ!!》

《うぇーい!!》

《見たかジオンの侵略者どもがぁ!!》

《ヒャッハー!!》

《ざまぁねぇぜ!!》

《やったなぁ!上等兵!!》

《分かっています。ですからそれ以上は寄らないで下さい》

《俺らだってやれるんだぁ!!》

《今夜は祝杯じゃあ!!》

《いやっはー!!》

 

「……良くやったな。これからも頼むぜ?相棒」

 

通信が叫び声でパンクしかけになる。その様子に苦笑しつつ……

しかし口元には笑みを浮かべた中尉は、"陸戦型ガンダム"と共に基地へ向かい始めた。

 

日が翳り始め、その残光が強烈なシルエットとして浮かび上がらせている。

 

夜の帳が、下りようとしていた。

 

 

 

『生きているだけでラッキーな、人生葉っぱ隊』

 

 

 

夜の帳の向こう、希望の明日へと…………………




既に物量で押し始める連邦軍。

といか、元から物量で押して戦線維持してるんですよね。

MSの登場からその戦線を押し上げ始めますから。

何か最近一話自体が長くなってきてるような………。

最近、以前書いた話や紹介を見直し少し書き直しました。
正直ほぼ変わりませんが。


次回 第四十章 平穏の味を噛み締めて

「わぁ!始めまして。よろしくお願いしまうー」

お楽しみに!!


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第四十章 平穏の味を噛み締めて

最近書くのが面倒です。

早いとこさマン・マシーンインターフェイスの発達を願いますね。BDIシステム的な?
思った事がそのまま文書になったり、電脳化してネットにダイブしたり。

未来は、すぐそこまで来ていると思いますから。

きっと、この物語はフィクションですが、10年、100年後は定かではありませんから。


兵士は、戦う。

 

自分や、大切なものを守るため。

 

だから、破壊する。それを非難するのは、お門違いというヤツだ。

 

彼らはただ壊すだけの存在ではない。

 

その破壊の先にある物を求めるている。

 

破壊と再生はコインの裏表なのだから。

 

その矛盾をはらみながら、兵士は今日も戦っている。

 

 

 

U.C. 0079 8.2

 

 

 

透き通る青い空の、遙か上空を"デプ・ロッグ"と"フライ・マンタ"を主軸にした航空機部隊が通り過ぎて行く。

 

太陽の眩しさに目を細めつつ、マテ茶を片手にそれを見上げる中尉は、思わずその光景に目を奪われた。

 

空を飛ばなくなって久しい。けれど、その憧れはまだこの胸の中にある。確かにあるのだ。

 

航空機部隊の行き先は知っている。その目的も。これほど大規模な部隊が派遣されたのは、ジオンの中南米諸島にある主要基地へ爆撃を加えるためだった。

 

以前はこの基地(・・・・)のおかげで出来なかったが、その基地を中尉達が破壊したため、この作戦が開始する次第となった。

 

現在中南米の制海権、航空優勢権はほぼ連邦軍にあると言ってもいい。"ジャブロー"からの情報曰く、北米でも一部航空優勢権を保持しているところもあるとの事だ。

 

そのため、中南米のパワーバランスをこちらに傾けさせ、"ジャブロー"の安全を少しでも確保したい、というのが本音なのだろう。

 

そのため、爆撃機部隊を編成、中南米諸島に遍在する各基地に爆撃を加えその弱体化を促す予定である。

 

「…隊長、聞いていますか?」

「うん?あ、すみません…」

「少尉ー。話はちゃんと聞かなきゃっていつも言ってるのは少尉だよー?」

「む……で、伍長は分かったのか?」

「え?えぇーっとぉ……」

「……もう一度、か……?」

「はぁ……」

 

現在中尉達は以前気化爆弾で破壊した基地にいる。

 

"ジャブロー"にその情報を伝えた途端、そこを滑走路だけでも整備しろとの御用達であり、MSを動員し徹夜で瓦礫をどけ、"ロクイチ"にドーザーをつけ平らに慣らし、整備したのだった。

 

今現在基地は大騒ぎだ。"ミデア"が頻繁に飛び交い、その上を爆撃機が編隊を組んで通過する。重機が唸りをあげ残骸をどけ、そこに簡易施設を立ち上げて行く。

因みに中尉達のMSはオーバーホール中だ。やはり試作品、あちこちに細かい不具合が出ていたのだ。特に伍長のと中尉のが。軍曹のは殆ど出ていなかった。

操縦がまるっきり違うらしい。それはある程度しかシェア出来んなぁ……。やはり、腕の差か。

 

目まぐるしく変わり、移って行く目の前の景色に。なんだこりゃ?と伍長と仲良くポカンとしていた中尉は軍曹と上等兵から説明を受けていた。

 

「……つまり、ここを橋頭堡に、中南米を奪還する、という事か?」

「…その先陣を切るのが、また俺達だ…」

「はい。要約するとそうなります。次の目標はここ一帯のジオン軍を支える一大拠点、"グアンタナモ・ベース"です」

「つまり、私たちは活躍した、という事ですね!!だからご褒美ですかねぇ……うふふ」

「……そ、そうだな…」

「…そうですよ?流石ですね伍長」

「えへへー。そうですか?上等兵さん大好きですー!

その髪型もいいですよー!!」

「ありがとうございます。そう言っていただけると、流石に気分が高揚しますね」

 

結局何も分かっていなかった伍長に苦笑する中尉、引きつりながらの笑顔で伍長の頭を撫でる上等兵に抱き着く伍長。軍曹は既に我関せずといった様子で新武装の説明書を読んでいる。

今日の上等兵は髪を下ろしていた。気づかなかった。

 

そうそう、それに"ミデア"がもたらしたのは情報と基地設備だけでない。次回の作戦に役立つだろう資材を補給を兼ね持って来てくれていた。

 

一つは、"陸戦型ガンダム"用バックパックだ。これを軍曹達の"陸戦型GM"に取り付ける事となっている。

コレで機動力が20%増加するらしい。"陸戦型ガンダム"との速度差が減り部隊行動が更に容易になるとの事だった。

 

次は、新武装だ。YHI社製の要塞攻撃用の新兵器、"180mmキャノン"だ。それに背部ウェポンコンテナユニットも併せての補給だった。

 

これは軍曹が使う事になっている。そのための"陸戦型ガンダム"用バックパックと言えるだろう。

 

そして、新装備はもう一つあった。今回、伍長の言う「ご褒美」だが、中尉にはそうは思えなかった。

どちらかというとおちょくられている気がする。関係ないかも知れないが、ジョン・コーウェン准将のイタズラっぽい顔が思い浮かんだのはナイショだ。

 

その装備の名前は"ガンダム・ハンマー"。全くふざけているとしか言い様が無い。

 

要するにMS用フレイルである。トゲトゲが付いた鎖鉄球だ。

バカだ。バカ過ぎる。開発者は酸素欠乏症にでも罹ってんじゃないのか?

 

いや、確かにパイロットに衝撃を与える武器は有効だ。それは良く分かっているが……これは無いだろ。

 

開発者曰く、宇宙空間においてはエネルギーの消耗が少ないわりに威力は大きく有効な兵器、らしいが……ここは地上だ!!持ち上げてぶん投げるのにエネルギーがかなりいる上、またフレーム、駆動系に負担をかけるわ!!

いや待て、宇宙でも踏ん張れ無かったりで使いづらいんじゃ?

 

新型"バズーカ"も予定されているが、それは今YHIとブラッシュ社がコンペ中らしい。そんなんどうでもいいから実物をくれよ。どうせスーパーノヴァの2機みたく結果的にどっちも採用されたりすんだろ?

 

「中尉、ここにいらしたのですか。通信が入っています。部隊の主要メンバー、コーウェン准将に会った時のメンバーで"ミデア"362号機へ向かって下さい」

「あ、はい。すみません」

「時間が惜しいので、お早めにお願いします」

「分かりました」

「では……がんばってね?」

 

今回の補給の総指揮官であるアジャン中尉だ。それだけ告げるとすぐ行ってしまった。

忙しいのだろう。いつも忙しなく働いているからなぁ……。

 

「何かな?」

「さぁ……軍曹は分かりますか?」

「……いや。それより、整備班長と少尉を呼ぼう…」

「そうだな。3人は先に向かっていてくれ。呼んで来る」

「…了解…」

「はーい!」

「ではお任せします。行きましょう」

 

通信かぁ……何だろ?アジャン中尉の最後の含み笑いも気になるなぁ……。まさか……軍法会議…?!

アレは不可抗力です!!俺も『そうかい!!』しか言ってません!!

 

「おやっさーん!!少尉ー!通信が入ってまーす!」

「あぁ!?何だってぇ!?」

「通信です!通信!!」

「あいよー小隊長!今行く!!……ここは全交換しておいてくれ!」

「通販だぁ!?多分それは詐欺だ!!なんも頼んでねぇよ!!」

「おやっさん通信らしいっすよ」

「あぁっ!?早く言えよ!!」

「えええぇぇ!?言いました!!言ったんですよ!!必死に!!」

 

まぁ周りがガンガンうっさいのは分かるけど……なんか理不尽だ。

こうやって人は大人になって行くんだね……。

 

「で、誰からだ?」

「いや、聞かされてませんが……」

「俺へのファンレターか!?ジャクリーンちゃんならいいなぁ!!」

「何寝ぼけてんだ脳内おせち野郎」

「ここの暑さで頭のおめでたさにブーストが……花畑が満開だなぁ…」

「……ここの部隊に味方が居ないと分かった俺は考える事をやめた……」

「ま、行きましょう。急ぎの用事らしいですし…」

「装備の事か?」

「さぁ……何とも……」

 

ヘコんだ少尉のケツをおやっさんが蹴りつつ進んで行く。"ミデア"362号機の前では既に3人が待っていた。

 

「少尉ー遅いですよー」

「すまんな。このバカが……」

「えぇ!?」

「やはり貴方でしたか。貴方は他人に迷惑をかけ過ぎです。自重して下さい」

「うははははっ!!言われてっぞボウズ」

「……状況は分からんが、早くしよう…」

「全員集まりましたね?ではこちらへ…」

 

"ミデア"の搭乗員に誘導され中へ。大きなスクリーン付きの通信室へ通される。

 

「……これから通信が着ます。多忙なお方なので時間は2分です。技術少尉どの?くれぐれも粗相の無いように」

「……おおふ……」

「誰かな誰かな?あの有名なレビル将軍とか?」

「それは無いんじゃないか?コーウェン准将だろうと思うんだが…つーかなんでレビル将軍なんだ?」

「それ以外に偉い人の名前を知りません!!」

「俺はゴドウィン准将かエイノー少将だと思うんだが……」

「誰ですかそれー?」

「前世間話をな。MS遊撃隊に興味を持ってたっぽくてな……」

 

伍長をお菓子で誘惑してたコーウェン准将とは何だったのか?

そして准将や少将と世間話をするなよおやっさん……。階級とは何だったのか……。

 

「それが妥当でしょうね。軍曹はどう思いますか?」

「……ん、YHI…開発局主任…?」

 

三者三様の意見を交わしていると、ピピっという音と共に通信が入り、モニターに光がともり、左下にはカウンターが表示された。

初老で、髭を蓄えたどっしりとした男が映し出される。まさかの葉巻だ。

引き込まれそうな思慮深い目をした、不思議な感じのおじさんだが………

ま、まさか…………

 

『突然の通信済まないと思っているが…話がしてみたくてな。君たちの事はコーウェン准将から聞いておるよ……儂の名前は、ヨハン・イブラヒム・レビル……地球連邦軍総大将だ』

 

ま、マジだったぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!

 

「は、はっ、わざわざ通信いただき、感謝します!!」

「わぁ!始めまして。よろしくお願いしまうー」

 

えええぇぇ!?

 

「伍長!?」

「……はぁ……」

「……これが、あの……」

「………ぶ、部下の非礼をお詫びします………」

『はっはっはっ。儂は気にせんよ。楽にしてくれ……それで本題なのだが……』

「はっ!何なりと!」

 

ラクに出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!

中尉はある程度冷静に見えるが、内心汗だっくだくだった。

最近こんなのばっか………。

 

『……コーウェン准将に聞いた時は驚いたよ…活躍は聞いている。極秘部隊であるため、戦果を残せないが……後にしかるべき地位を約束しよう』

「いえっ!私は構いませんが、部下達には……」

『ふむ、分かった。君たちには期待している。これからも頼むぞ』

「はっ!将軍殿も今後の活躍をお祈りさせていただきます!」

『時間を取らせて悪かったな…どうか、蝋燭の火を灯してくれ』

「今度また話をしないか?」

 

おやっさんんんん!?うまく纏まってたのに!!

 

『はっはっはっ。君か。コーウェン准将の懐刀は』

「うははははっ!!その通り名は御免こうむりたいですな」

『分かった。時を改めて必ず。ではな…マチルダ君によろしくな……』

 

通信が切れる。

 

「…………マジかよ…」

 

ポツリと呟く少尉の一言が全てを表していた。

 

全員無言で通信室から出る。搭乗員にありがとうを言い"ミデア"を出る。

 

「………なんか、トンデモ無い事になってきたなぁ……」

「だいじょーぶですよ!!」

「お前が言うなぁ!!」

「そんな事より凄くないですか!!当たりましたよ私!!」

「えぇ、驚きです……」

 

はぁ。どーすんだコレ?

これも、運命石の扉(シュタインズ・ゲート)の選択なのか?

 

「おやっさんも最後どさくさに紛れて何約束取り付けてんですか!!」

「上層部にモッテモテの大将にゃあ分かんねーよ」

「分かりせんよ!」

 

そして分かりたくもない!!

 

「ところで2人には、た~っぷりと話があるんだがなぁ?」

 

やっぱりかぁ………ごめんなさい………。

 

「……はい…」

「え?何ですか?」

「どうしたんですか隊長?」

「…アレか…」

「お、俺はこれで~」

 

少尉が逃げ出す。それを見つつ中尉は正座した。伍長はそれを不思議そうに眺めている。

 

「伍長も座れ。……何か分かってるか?大将?」

「……あの蹴り、ですよね……」

「あぁ!データ見ましたよ!流石ですね!」

「伍長、正座」

「えぇっ!?う〜ん……」

 

渋々といった感じで足を崩して伍長が座る。伍長それ正座じゃない。

 

「装甲が高価だって言ったよな?」

「はい…聞いてます…」

「フレーム含め歪みを直すのは、ルナ・チタニウムの加工の難しさからさらに大変なのも言ったよな?」

「はい…」

 

そこには、腕を組み仁王立ちするおやっさんに、正座し項垂れる中尉の2人が禅問答を繰り返す光景を不思議そうに見つめる上等兵に、何故か全く関係ないのに隣に正座する軍曹、アリがパンくずを運ぶのを眺める伍長というカオス空間が広がっていた。

 

「何で"陸戦型ガンダム"の右足のスネ、俺には歪んでいるように見えるんだ?錯覚か」

「……いえ……それは、足払いをかけたからです……」

「装甲はまだ交換出来る。だが、フレーム矯正の手間は知ってるな?それに応力検査機器は高く繊細だからここには無い。この意味が分かるか?」

「……はい。部品研究部の施設か、本社(ジャブロー)、または後方のデポに回さなければならない、という事です……」

「予備パーツに余裕は無いのにな?」

「……はい…」

「なぁ、"陸戦型ガンダム"の脹脛側部の"ビームサーベル"は飾りか?何のための格闘兵装だと思っている?」

「……いえ、その……」

 

上等兵は理解したようだ。

実はMSの四肢を利用した格闘は推奨されていない。このようにフレーム、駆動系に多大な負担がかかるからだ。MSの性能上可能であるが、前線の整備班には渋い顔をされるという事か。

 

そう、格闘を行うと確実に衝撃が四肢に蓄積されるのだ。

それら自体は実戦では問題ないレベルではあるが、それが後々大事故になってからでは遅いのだ。

足でさえこうなのだ。繊細な動きをするマニュピレーターで殴るなど言語道断。最悪ぶっ壊れるか、正常に手を動かせなくなる。

今回こそ何も無かったが、最悪それが戦闘中に起こる可能性もある。だから推奨されないのだ。

 

「俺は、整備屋だ。常にベストを尽くすが……分かるな……?」

「はい…申し訳ありませんでした……」

「これで終わりだ。次!伍長!!」

「ひゃい!?何ですか?」

「……なんで軍曹まで正座してるんだ?」

「……連帯責任…」

 

軍曹……。よく分からないけどごめんなさい……。

 

「あら、なら私もしましょうか」

「えええ!?いいですよそんなの!」

「そうだよー。上等兵さんはフカフカのイスがいいよぅ!」

「……そうだぞ?これは俺達MSパイロットの……」

「あら?なら私はその指揮をしていました。責任はあります」

「……はぁ、まあいい。伍長は分かるか?」

「何がです?あ、おやつはちゃんとお金の中に収めましたよ?」

「……MSの話だ……!」

 

隣で上等兵が口元を押さえ震えている。中尉も同じだった。プルプル震えて小石が食い込んで痛い。

ある種のテロだコレ。

 

「伍長、何発当たったか覚えてるか?」

「はい!シールド含めて130発以上ですね!!」

 

よく無事だっなオイ。

因みに伍長、帰還後ごめんね~でもありがと~って泣きながら"陸戦型GM"を撫でていた。お詫びとか言ってカーワックスをどこかから仕入れて来て塗ろうとしたのは驚きだった。なんなんだよその発想は。

的になりたいのか!っておやっさんに没収されてたけど。

その前にバケツ一杯分じゃ足りんやろ。

結局交換された装甲に頬ずりしていた。思考回路が理解出来ん………。

 

「伍長の命中弾は?」

「………"ランチャー"含めて6発です……」

「…………ぶふっ……」

「あぁ~。酷いです上等兵さん~」

「いえ、申し訳ありませ…ふっ……」

 

笑いたくもなるわな。

プルプル震える上等兵の気持ちも良く分かる……6発だ!6発以上、生き延びた奴はいない!!

 

「伍長……弾も、装甲も、シールドもタダじゃないんだ……そういう事だ……"ランチャー"も敵のシールドにぶち当てやがって……」

「……はい……うぅ……」

 

正直おやっさん、後半諦めてるか飽きてんだろ。

どちらかというとそんなにバカスカ喰らった事への心配だろうな。

大丈夫だよおやっさん。伍長がアレなのは元からだから。

 

「大丈夫ですよ。そうですよね、隊長」

「あぁ、一緒に練習しよう」

「はい。私も付き合いますから。軍曹もいいですか?」

「……構わない……」

「……コレで終わりだ。でも、無理は絶対にするなよ?いくら壊してもいい。だから帰って来い!!」

「「はい!!」

 

おやっさんが歩いて行く。その後ろ姿に立って敬礼をする。

横を見ると伍長が震えていた。

 

「どうしたんだ?」

「足が……痺れました……」

「…………」

「…それに、おやっさんは怒ると怖いです……」

「よしよし」

 

正座ですらないのに……。

伍長をおんぶする。そのおんぶされた伍長の頭を上等兵が撫でている。妹が出来た気分なんだろう。家族構成は聞いていないが、手慣れたものだ。

 

「……うぅ、お姫様抱っこにして下さい…」

「何言ってんだが……」

「……取り敢えず、コーヒーブレイクにするか……」

「賛成です。軍曹、淹れ方を教えて下さい」

「…構わない……」

「…うー、クリーム多めで…」

「全く……ふふ、あはははは!」

「あははははっ!」

「ふふっ」

「………ふっ……」

 

4人揃って笑い合いながらベンチに向かう。軍曹も最近唇を少しぐらい歪める程度だが、感情が顔に出て来る事が多くなってきた。

 

今機体は本格的なオーバーホール中。手伝える事は一つもなく、また無理に手伝おうとしても邪魔になるだけだ。

おやっさんが少尉を怒鳴りつけ、少尉がまた走り回るのを見ながら、中尉は2人がコーヒーを淹れるのを伍長と並んで待っていた。

 

白い軌跡を描く、飛行機雲の尾を引きながら、頭上を爆撃機の編隊が飛び過ぎて行く。

 

中南米諸島奪還作戦開始まで、時間はまだまだあった。

 

 

 

『彼は、彼らこそが、"ニュータイプ"なのかも知れんな』

 

 

 

飛行機雲がたなびく、この空の下で………………………

 

 

 

 

 

 




今回は兵器としてのMSを整備班の目から語ってます。

兵器は信頼性が命。ちょっとの不具合が即死に繋がります。

そのためアニメでは平気で格闘しますが、それに対する反論というか何かですね。

私自信はMSの格闘に賛成派ですが。MSという人型ヴィークルの最大の特徴ですから。
まぁ明らかに斬った方が早くて確実な時に蹴っ飛ばすのはなんかと思いますけど。お前だ青い羽付き!お前のラケルタはなんのためにあるんだ!

でも人間などの生物と違い、新陳代謝が無く痛みを感じない分このような問題が噴出しますね。

マットさんやノリスさん、ティエリアさんやどこぞの殴り合い宇宙の人達も殴りすぎです……人間だって殴って骨折したりすんのに……。


またも新兵器の登場です。一昔前のアニメみたいですね(笑)。

スカッとしますね、ハンマーぶっつけたら(笑)。しかし08小隊でも06小隊あたりが装備してたりとなかなか人気のようです。

中尉はボロクソ言ってますけど(笑)。


次回 第四十一章 湾岸基地攻略前夜

「私に良い考えがある!」

お楽しみに!!


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第四十一章 セントジョンズ湾岸基地攻略前夜

最近このハーメルンでも、一年戦争を題材にした小説があって嬉しいですね。
自分のヤツより読みやすくて面白いし。

負けてられませんね!!遅々として進んでないけど!!

オデッサー!!早く来てくれー!!


モルモットが駆け回る。

 

全てはマスターのため、その身を賭して。

 

モルモットが走らされる。

 

彼らの意思とは関係無しに。

 

モルモットは走りを停めない。

 

停めたその時が、寿命となるからだ。

 

 

 

U.C. 0079 8.3

 

 

 

「…作戦が…」

「延期になった?」

「はい。我々、"ブレイヴ・ストライクス"は新型武器のテストも兼ね、"アンティグア・バーブーダ"島、ポイントゴルフ53の基地である、通称"セントジョンズ"湾岸基地を攻撃し制圧しろ、との命令です。その際、なるべく基地には被害を出すな、との厳命付きです」

「つーことは気化爆弾は使えないっつー事か」

「そうみたいだな」

「ここの主な敵戦力は何だ?MSか?」

「そのようです。そのため大規模作戦前の余計な被害を避けるため、我々に白羽の矢が立ったようですね」

「何ですか?どーしたんですかー?」

 

MSのオーバーホールが終了し、慣らし運転をしていたと思ったらコレだ。ヴェトロニクスの調整を済ませ、これから…という時に……。

 

「…分かった。"イージス"へ行きましょう。そこで作戦会議です。少尉、おやっさんは機体の整備を続けて下さい」

「あいよ。用があったら呼んでくれ」

「へいへい。今度は乱暴に扱わないでくれよ?MSは女の子と同んなじで繊細なんだから…」

「ぶつくさうっせえぞボウズ!!早く来い!!」

「あっ、へーい!!」

「じゃ、行きますか……」

「あっ、軍曹コーヒー淹れようよ!きっとその方がいいよ!」

「お、頼むよ軍曹。すまんな」

「私からもお願いします。軍曹のコーヒーは美味しいので好きなんです」

「……構わない…任せて欲しい…」

 

騒ぎながら整備班2人が再びMSに向かうのを見送った後は、コーヒーのために離脱した2人に手を振る。

伍長はお菓子を取りに行くのだろう。

伍長は料理が苦手だ。例えレシピ通りに作ってもなんか微妙に美味しくないのだ。理由は不明であり、伍長自身も首を捻っている。

因みに中尉は普通ぐらいだ。何を作っても普通と称される。伍長曰く食堂の味。何だそれは?

おやっさんは出来ないワケではないらしいがめんどくさがりやらず、少尉は出来ない。前暗黒物質(ダークマター)を錬成していた。食ったら真理が見えた。

上等兵は美人で何でも出来るが料理だけは出来ないというアニメなどの相場を打ち破り、料理も上手い。だが一番上手いというかプロ級なのは軍曹だ。本人曰く火薬調合の方が得意らしいが。

まだ25歳で、長く戦場にいたはずなのに、どうしてそうもあらゆる事が出来るのか……?

 

「…上等兵、最近悩みとかは無いですか?」

「…ある事はありますが、大丈夫です。心配には及びません」

 

"イージス"に向かいながらそう聞いてみる。仕事などに不備は一切ないが、例の件(・・・)からはそう時間も立っていないからだ。先程も気化爆弾というワードに微かにだが顔を顰めていた。

隊長として、出来る事はやりたい。中尉は整備班の話などにも耳を傾け、少しでも状況改善に努めていた。

中尉はそれらがダイレクトにこの部隊の生存率などに繋がると考えているため、かなり頻繁に意見を聞いていた。

 

「…私は中尉を含めて多数の意見を聞いた上で自分の考えを纏める事が出来ています。それに、軍曹にも相談をしてもらいましたから…」

「なら良かったです。軍曹、頼りになりますよね。俺も助けてもらってばかりです」

「そうですね。今度お返しをしませんと…」

「全くですよね。返し切れるとは到底思えませんけど」

 

"イージス"内で会議の用意をしつつ話を続ける。

中尉は上等兵の様子を注意深く観察しながら、心配はなさそうだと安心する。

上等兵は"ブレイヴ・ストライクス"の連携や指示、判断、戦術、索敵などを一手に請け負っている。言うならばチームの中核だ。居る居ないでは大きな差が出る。それ程重要な存在だった。少尉はそのフォローをしているに過ぎない。

 

中尉は一挙一動の震えや瞳孔の動き、呼吸、発汗などからある程度相手の心理状態を読む事が出来る。これは武術を続けている内に自然と身についたものであったが、上等兵が嘘をついたりムリをしている様子はなさそうだった。

 

「お菓子持ってきましたー!」

「…コーヒー、淹れたぞ…」

「あぁ、ありがとう」

「ありがとうございます。伍長もお疲れ様」

「えへへ」

 

上等兵に頭を撫でられご機嫌な伍長を見つつ、軍曹からコーヒーを受け取る。うん、あり得ない程に旨い。

 

「……じゃ、上等兵、説明を」

「はい。攻略対象はこの海に面した基地です。対空迎撃網が厚く、爆撃機による爆撃では有効打を与えられませんでした」

「海!!はー!」

「…戦力は…?」

「数は不明ですが、MSが確認されている事に加え、強固なトーチカに、対空砲陣地、海辺周辺にも展開式砲台が並んでいます」

「はーい!展開式砲台ってなんですかー?」

「普段は収納されていますが、射撃時には1秒以内に展開、目標に攻撃を加える厄介な相手です。収納時は頑丈なシャッターで守られており、その状態で壊すのは困難です」

「それらを潰すのが俺達の仕事か……」

「そうなりますね。この作戦は我々が以下に早くそれらを破壊し、我が軍の損耗率を低下させるかに懸かっています」

「責任重大だねー」

 

呑気そうに伍長が言うが、それお前もだからな?

お菓子をつまむのはいいけど零すなよ?

 

「……どうやって制圧するか……」

「それなら心配ありません。今回の作戦は友軍である基地制圧隊の援護にあります。基地制圧隊の戦力は"61式主力戦車"一個小隊に、"74式ホバートラック"(ブラッドハウンド)2個小隊、"ファンファン"2個小隊です」

 

正面戦力としての"ロクイチ"4両に、歩兵輸送、揚陸のための"ナナヨン"、それに対地掃討用の"ファンファン"か……。

あっ、このチョコ美味しい。

 

「なるほど…それらの侵攻ルートは?」

「ここです」

 

上等兵が地図上の敵基地海岸の真正面を指差す。

成る程……って、コレを守れと?

 

「……俺達に、"LCAC"は?」

「それは…ありません。"61式主力戦車"の分しか……」

「歩いて海を渡りつつ、援護するのか……」

「……? え~っと、何がダメなんですか?あ、MSってカナヅチなの?」

「我々はこれらを守りつつ、海の中を歩いて敵基地まで向かわねばならない、という事です」

「……コレだな……」

「……泳げないんですか~。難しいですねぇ。なんとかなりませんかねぇ…MSが飛べたらいいのになぁ………」

「無い物ねだりしても始まらんさ…人間は、配られたカードで戦うしかないからな……すみません。おやっさん、聞こえますか?」

《おう!何だ大将?》

 

おやっさんに無線連絡をする。周りがガンガン煩いが、まぁ聞こえないワケじゃ無い。

 

「MSに簡単なシーリングと水中行動用のチェーンを頼めますか?」

《あぁ。それ用の試作キットも補給物資の中にあったからな。次の作戦に使うのか?》

「はい。海を歩いて渡る事になりまして……」

《つってもあれは精々故障をしなくするだけのヤツだぞ?劇的に変わる様なモンでも無いが……》

 

知っている。それは説明書を読んでいた。

本来MSは膝より高い水位で機動力は約30%ダウンし、腰より上で約60%ダウン、完全に水没すると行動自体がかなり制限される。ただしソースはソニー。

水中用のチェーンはそれを少し軽減するくらいでしかない。実際に2回ほどMSごと水に沈んでいる中尉には水中の恐ろしさは身に沁みて分かっていた。

 

「それでもマシントラブルを起こすよりはマシです。お願いします」

《あぁ!任せな大将!!こちらもプロだ。それにそこそこの経験もある。改良も加えカタログスペック以上を出す事を約束しよう》

「はい。頼みます。では…」

 

通信を切る。相変わらず頼りになる人だ。普通あんな事は簡単には言えない。だがおやっさんなら言い切れる。そこは、流石としか言い様が無い。

 

「……どうでした?」

「水中用のチェーンは施してもらえるそうだ」

「これで一安心ですね!!」

「……そうとも、言えない……」

「そうですよ。それで劇的に機動力が上がるなんて事はありませんから……」

「……む~」

「私たちは新武装のテストもしなければなりませんし……」

 

新武装、か……アレ(・・)の事だよなぁ……恩着せがましい上にまたトンデモないこと要求してきよったなホントに………ん?新武装?………それだ!!

 

「私に良い考えがある!」

「司令官!!」

 

ノッてくれるのは嬉しいけどやめて!転げ落ちるから!!下手に高いとこ登ったらローチじゃなくても落っこちるから!!

 

「どの様な案なのですか?私はMS隊3機で陽動を行い、その間に上陸させる事を考えていますが……」

「ほぼ同じです。作戦はこう……軍曹には、ここ、ポイントエコー35で"180mmキャノン"による対岸からの狙撃に徹してもらいます。こっちから対岸までの直線距離は6km……要塞攻略用の"180mmキャノン"なら十分に有効射程距離内です…狙撃には向かない武器ですが……その分、俺達がその囮になってそれをカバーします。

まず、MS2機で正面から攻め、敵の目をこちらに引き寄せ、そこを軍曹が狙撃してもらいます。

その他揚陸部隊は俺達を囮に迂回し上陸、それまで俺達は水の中で逃げ回る、といのでどうでしょう?」

「……確かに……いや、機動力の下がる水中での長時間行動は危険です!揚陸部隊を二分し半分はMS隊と行動させる事を提案します。これは、揚陸部隊にも有利な筈です」

「……中尉、本気か……?」

「え~っと……なら、ジャンプを繰り返して直ぐに突っ込めばいいんじゃないですか?」

「そうですね、あまり飛び上がり過ぎても撃ち落とされる可能性が上がりますが、いい案だと」

「先行し過ぎても上陸部隊がヤられますから、途中までは歩く必要がありますね…」

「……狙撃点は……分かった。その役目、任せてもらう……」

 

作戦の大部分は決定した。後は、これを各部隊に伝え、擦り合わせて行く事だ。

 

「上等兵、この作戦をまとめて提出、各部隊に通達し作戦の擦り合わせをしてくれ」

「はい。お任せ下さい。中尉は新武装のところへ」

「……俺は、先に行ってFCS調整を始める……」

「あぁ、頼んだぞ…」

 

軍曹を見送る。あのキャノン、クセはあるけど大口径で長砲身だから、海風にもあまり流されずイケるはずだ。

それにしても180mmか……そう考えると"大和"級の46cmや"ヒマラヤ"級の60cm、列車砲(グスタフ)の80cmって凄まじかったんだなぁ……。

 

「……アレさ…ホントに使わなきゃダメ?」

「ダメです」

「えぇっ!!私も使いたいです!!」

「なら……」

「ダメです。あの武装は"陸戦型ガンダム"のパワーがあってこその兵装ですから」

「……うぅ~、む~」

 

伍長が頬を膨らませている。

そんな使いたいか?アレ。

俺はアレをハンマー投げの要領でぶん投げてそのまんまにしてーよ。

アレ絶対黒歴史扱いされるよ?白兵戦つっても戻り過ぎやろ。

つーかそんなジェネレーター出力に違いあったっけ……?あっ、フィールドモーターの出力の違いか。いや、それにもあまり……あ、伍長機はリミッターでガッチガチだから……。

 

「伍長、"ランチャー"も整備班不眠不休の努力で大量生産されたから……」

「えぇっ!!やった!!ならいいです!!」

「……さ、さいで……」

「良かったですね。シュミレーターでの訓練の成果、活かしてくださいね?実物を撃った感覚も参考にするといいですよ」

「はーい!!」

「では、隊長も、無理はなさらないで下さいね?」

「え?あ、はい。それでは頼みます」

 

ファイルを脇に抱えた上等兵を見送る。

銃の腕も中々のものだったしな……優秀だなぁ……アレ?この部隊に俺いらなくね?いらない子か!?

銃はグロック26か……。伍長に勧めようとしたヤツだ。

 

少尉はあんまりだったが、銃はベレッタM92FSだったな…。

なるほど、いいセンスだ。だがその悪趣味な彫刻(エングレーブ)にはなんの戦術的価値(タクティカル・アドバンテージ)も無いぞ?

観賞用や趣味のヤツと実戦用は違うんだよ。

象牙のグリップにジョリーロジャー、"プライヤチャット・ソード・カトラス"ねぇ……。アンタやっぱオタクだろ。つーかなら二丁持てよ。

 

……………いや!!誰かM-71を使ってやれよ!!埃被ってるよ!!

俺も人の事言えんけどさ!!

 

「じゃあ行きましょう少尉!調整の続きをしなきゃ!!次の戦場では、"ランチャー"無双だぁ!!」

「んあ?ならコップを……」

 

……………既に片付けられてた。ごめんなさい。

 

ふと作戦板を見る。ここで表示される駒一つ一つに、本物では何人もの命が宿るのだろうか?

 

2人乗りの"ロクイチ"。2人乗りの"ファンファン"。揚陸艇として多数が乗り込む"ナナヨン"。

そして、1人乗りのMS。

 

「俺たちは……一体……?」

「……?……少尉?」

「うん?あ、すまん……行こうか」

「はい!」

 

作戦板を見て動きを止めた中尉の袖を伍長が引いていた。

振り向いた中尉の手を握り、伍長が歩き出す。

それに中尉が並び、2人揃って"イージス"を出て行く。

 

残された作戦板が暗闇で輝く。

『損耗率』という言葉が、真っ暗な"イージス"の中で浮かび上がって見えた。

 

 

『さぁて、お仕事の時間ですねぇ……』

 

 

波を掻き分け、あの島へ…………………




最近筆が滑ります。短く収めるのが難しい……。

これも「前夜」とあるように、ノリで書いてたら結構な長さになってて、分割に苦労しました。

夜じゃねーけど。真昼間だけど。

展開式砲台は、ゲームガンダム一年戦争の鉱山基地のアレか、PS3版ガンダム戦記のオーガスタ基地の砲台をイメージして欲しいです。
なんかグイングイン動くヤツ。

戦闘描写は苦手ですが、こーゆー日常?パートも苦手です。
好きこそ物の上手なれや、趣味が高じて……なんて、上手く行きませんねぇ……。

次回 第四十二章 湾岸基地攻略

「カレー食いてぇ!!」

お楽しみに!!


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第四十二章 セントジョンズ湾岸基地攻略

世界から見た日本、日本人ってどうなのですね?

自分は日本で生まれ育った事に物凄い幸運を感じていますが……。

世界で続いていた紛争が、日本でも表面化し始めている今こそ、日本人は世界と向き合うべきだと思います。


新しい時代には、新しい風が吹く。

 

人は流れに乗って生きる生き物だ。

 

その適応力には目を見張るものがある。

 

『最新』とは、次の瞬間にでも『過去」となり得る不安定な存在だ。

 

しかし、その与える影響は計り知れない。

 

ホンの些細な事が、大きなブレイクスルーになり得るこの世界で、

 

人は、今日も生きている。

 

 

 

U.C. 0079 8.4

 

 

 

本部(CP)より各隊へ。作戦開始時刻まで5分を切りました。各部隊、用意はよろしいですか?》

「こちら"ブレイヴ・ストライクス"、準備完了。隊員の士気旺盛。いつでも行けます。どうぞ」

《こちら"ロクイチ"隊(アルファチーム)、準備よし。どうぞ》

《こちら"ナナヨン"揚兵隊(チャーリーチーム)、右に同じ。どうぞ》

《こちら"ファンファン"隊(デルタチーム)、エンジンは温まってるぜ?どーぞ》

「CP了解。そのまま待機を続行せよ」

《「了解!!」》

 

背中にコンテナユニットを背負った"陸戦型ガンダム"のコクピットで中尉が答え、チューブゼリーを啜る。

始めての大規模作戦だ。今回の前線指揮は"イージス"もといCP(コマンド・ポスト)に一任しているが、それでも最終的な判断を下すのは中尉の役目だった。

 

うん。こいつも美味い。やっぱレーションは美味くなくちゃ。

 

中尉の機体のコクピットの格納スペースには飴、カロリーメイト、チューブゼリーで一杯だ。

本来は個人携行火器や緊急医療セットなどが入っているはずなのだが、それらのスペースを削ってまで入れてあった。実は中尉の楽しみになっていたりする。

 

中尉の"陸戦型ガンダム"の背部に装備されたコンテナユニットには今回の目玉装備である"ガンダム・ハンマー"が格納されている。

手持ちはいつもと変わらない"100mmマシンガン"とグレネードだが、"スローイングナイフ"は腰部背面、シールド裏、肩部裏に分割し装備してある。

特に腰部背面はグレネードもあり、シールド裏も"マルチランチャー"ユニットがあるためもはや武器庫と化している。腰部前面にも"スローイングナイフ"とグレネードだ。

これは機体各部にあるハードポイントのテストとそれらを自由に使いこなせるかのテストとなっている。

 

伍長の"陸戦型GM"もコンテナユニットを背負っている。

新しく装備されたバックパックユニットのテストを兼ね、中には気合で大量生産された"ランチャー"が8発も格納されている。

そのうち何発が地面を抉る事になることやら………。そして今何人の整備班がぶっ倒れているんだろう……。

 

軍曹の"陸戦型GM"のコンテナユニットには"180mmキャノン"が格納されている。

今回は完全な後方支援射撃のみなので手には予備のマガジンのみだ。

というか全身のハードポイントに予備マガジンを装備しており異様なふいんき(←何故か変換出来ないw)を纏っている。

 

今回は全身のハードポイントにあらゆる装備をし、それを外しながら戦うためバランサーや機体重心の傾き、モーション・パターン、歩行モードなどの切り替えなどのバランス調整テストも兼ねている。

テストばっかで内心めんどくさい。

つーか兼ね過ぎだろ!!いっぺんにやろうとするなや!!しかも実戦で!!

まるでモルモットだぜ。生きて帰れるかなぁ……。

全く、出資者は無理難題を仰る……。

 

MSはその汎用性の高さから、手持ちの武装を交換する、捨てる、拾うなど柔軟な行動が出来る分、全てが全て違うためその度コンピュータがモーションの最適化を図り計算し直しているのだ。

それはモーションにも反映されるため当たり前と言ったら当たり前だ。

人間で例えるなら、全身に重りをつけた状態とつけてない状態、半袖半ズボンと長袖長ズボン、手に重さ4kgのダンベルと重さ10kgの鉄パイプでは同じ動きは出来ない事と同じだ。

 

MSは武器装備が変わるたびその都度モーションの最適化を図るため、そのエラーを出さないためのテストだった。

 

そのためあらゆる装備を全身に装備し歩く武器庫状態と化したワンマンアーミーというかコマンドーというかメイトリクス大佐と言うかのMS隊の3機は既に人型というシルエットから激しく逸脱していた。

しかしこれでも比較的ガンガン動けるのは連邦軍脅威のメカニズムである。

流石"ガンダム"だ。何ともないぜ!!

 

「……んなワケねーだろぉ!!重いわアホ!!」

《でもロマンです!!》

《だよな!!分かってるなー伍長ちゃんは!!》

「分かるよ!!追加スラスターユニットがあれば俺も文句は言わねーよ!!」

《……はぁ……》

《隊長が高機動戦闘を好むのは知っていますが……我慢して下さい》

《うははははっ!!大将!そんな装備で大丈夫か?》

《………一番良いのを頼みます………》

《大丈夫だ!!問題無い!!あはははは!!》

《伍長ちゃんテンション高いなー!しょーたいちょー殿も見習えよなー!》

《……………》

《……元気出してください隊長》

 

そう、機動力は嵩んだ重量がたたり65%程度となっている。そりゃ"ザクII"と比べりゃそれだけの低下で済むというのはかなりのもんだけどさ……。いや、今から水中歩くんですけど………。

こりゃフレームや駆動系も……帰ったらまた即オーバーホールだ……。

おやっさん達死んじゃうって……。

 

《イイじゃねぇか……俺たちの"ロクイチ"と比べりゃそれでも早いぜ?》

「荒地で90km/hを叩き出すMBTが何言ってるんですか……」

《アンタ達がこの作戦の命運を握ってんだ、がんばってくれや》

《はーい!!頑張っちゃいますよー!!》

「努力はしますが……」

《元気がいいねぇ嬢ちゃん!そういう奴は大好きだ!どうだ!弟の嫁に来んか!?》

《私には運命の人が居るのでダメでーす!!》

《いいよなーソレかっけェじゃん!!交換してくれよ!!》

《痛い!!痛たた!!暇だからって肩蹴らないで!!》

《あ?電話?オーガスタから?分かった今でっから》

《誰かー"う"から始まる言葉プリーズ!!》

《上等兵!コーヒー淹れようか?》

《淹れてあるならいただきますがまだなら必要ありません》

《あっぴゃぁ~ふぅーっ!!》

《くそー俺も欲しいぜMS!!あったらジオンの野郎を蹴散らしてやるのに!!》

《あーあー、本日は晴天なれど波高し》

《頭ならイイって話じゃないです!!》

《カレー食いてぇ!!》

《なら俺ラーメン!!もうレーションは飽きたぁ!!》

 

う、うるせぇぇぇぇぇ!!!

大騒ぎが始まってしまった。

オイ、どーすんだこれ?皆が皆一斉に好き勝手喋るから通信がパンクしかかってっぞ?

軍曹に至ってはHQとMS隊以外の通信カットしちゃってるし!!

途中からは叫ばなきゃ負けみたいな雰囲気になってない!?聞いてねーよおめーらの昨日の晩飯なんぞ!!

 

《時計合わせ、5、4…》

 

その言葉が聞こえた瞬間ピタッと通信が止んだ。

流石プロ。腐ってもプロだった。腐り切ってる可能性もあるが。主に脳が。腐っても発酵とは言えないレベルで。

 

《…2、1…作戦、スタート。これから通信はレーザー通信による暗号回線に切り替える。ミノフスキー粒子散布開始》

「こちらブレイヴ01了解」

《アルファ1了解》

《チャーリー1了解》

《デルタ1了解》

《CPより各機、作戦通りに行動を開始。"ブレイヴ・ストライクス"の2機を主軸に前進せよ。ASAP(可及的速やかに)

「ブレイヴ01より各機へ!しっかり着いて来いよ!!」

《《了解!!》》

 

MS隊3機を先頭に部隊が移動を始める。目標の敵基地は密林を抜けた先の海岸の、対岸の島だ。

 

「海岸線までは5分を予定。各機、警戒を厳となせ。特に上方警戒を怠るな」

《……少尉、重い……》

《…無理は、するな…慎重に行け……》

《おおぅ、南国だなぁ~》

《あ、おさるだ!おさる!!》

《作戦行動中です》

《《すみません……》》

 

遠足気分がぶり返した隊員へ向け、上等兵の地の底から響いて来たような底冷えする声が黙らせる。怖い。

さっきのも結構怒ってたんだろうな。きっといつもとかわらない無表情なんだろうな。それがもっと恐ろしいんだが。

 

倒木を蹴ったくり、腐葉土を踏みしめ"陸戦型ガンダム"は進む。時折鹵獲した"ヒートホーク"で木を伐ったりもする。手のひらのコネクターを合わせる時間が無かったため、充電式で使い捨てだ。

 

今回はMS用(かんじき)("ザクII"の足裏を模している。本来の用途と違い、偽装工作用)は履いてきていない。

その分やや歩きやすかった。

 

《CPより各機、海岸線(作戦ポイント)に到着。部隊を2分し、A分隊はMS隊と行動し、B分隊は迂回し挟撃を実行せよ。散開(ブレイク)!》

《《了解!!》》

 

"ロクイチ"が"LCAC"に乗り込み始める。"ナナヨン"に"ファンファン"はホバークラフトなので必要無い。

 

《ブレイヴ02、コンテナを投下、収納された"180mmキャノン"を取り出し組み立て始めて下さい》

《…了解》

 

軍曹の"陸戦型GM"が膝立ちをしコンテナユニットを外す。

 

投下されたコンテナユニットが圧搾空気を排出しながらハッチを開き、中から分解された"180mmキャノン"が顔を出した。

 

このようにYHI製はこのコンテナユニットによる運搬が可能だ。もちろんこの手持ちの"100mmマシンガン"もだ。

現在さらに"100mmマシンガン"用の給弾ユニットとなったコンテナユニットも開発中との事だった。

 

手早く軍曹が"180mmキャノン"を組み上げ、肩に担ぎ射点へ移動を開始する。軽くなっていいなぁ。

 

《アルファチームが全機"LCAC"に載りました。ブレイヴ01、ブレイヴ03は行動を開始して下さい》

「了解!出るぞ!!」

《海へGO!!》

《半裸でか!!》

《はい!海と聞いて水着です!!》

《《うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!》》

《静かにして下さい》

《《…………はい……》》

 

バカだ。バカしかいない。MSは完全密閉型コクピットだっつうの。マーシィドッグじゃねぇんだから。

みんなノリがアメリカンだなぁと思ってよく考えたら日本人俺だけだった。ヤックデカルチャー……。

 

中尉は"陸戦型ガンダム"を走らせ、スラスターを利用し跳躍、水に飛び込む。

伍長もそれに続き、水を掻き分けながら歩き出す。

 

《A分隊はMS隊に追従せよ。決して隊列を崩すな》

《《了解!!》》

 

B分隊が迂回し離れて行くのを見、前を睨み直す。

既に水深は腰まである。機動力もかなり落ちている。

 

《ところで伍長、本当に水着なのか?》

《はい!この後泳ごうと思って!上から軍服着てますけど》

《…………》

 

比較的マジにアレだった。大丈夫かなこの子。主に脳が。沸いてんのかな?脳が。

 

《前方より敵機多数!警戒して下さい!》

「! ブレイヴ01エンゲージ!!ブレイヴ03!離れるな"100mmマシンガン"で牽制しろ!敵を近づけさせるな!」

 

セーフティ解除、FCS起動、マスターアームオン、メインアーム、レディ。

セレクターを変更、"ア"から"レ"へ。これで、いつでも戦える。

 

《りょーかい!見てて下さい!やって見せます!》

「デルタチーム!ミニガンで追い払え!"LCAC"をヤらせるな!」

《了解!!さぁ来い雑魚ども!!》

 

敵機は多数の"シーランス"だった。ロケット砲と魚雷で武装しているようだが、この状態ではMSに勝てる要素は速度しかない。

しかし装甲の薄い"LCAC"や"ナナヨン"をヤられたらマズい。

おそらく一溜まりもないだろう。

 

シールドを構え、前進は止めず"100mmマシンガン"を撃つ。シールドに機銃弾が着弾するのをセンサーが捉えるが気にしない。"ザクマシンガン"の120mm弾をもストップするルナ・チタニウム製のシールドの前に、その程度の攻撃など豆鉄砲以下だ。

 

"シーランス"は高速ホバークラフトだ。その速度は不安定さの上に脆くあるに過ぎない。

つまり、大口径の弾丸なら当たらなくでも十分だ。

 

ばら撒かれた100mm弾が近くを通るだけで"シーランス"はバランスを崩し海面に叩きつけられ激しくスピンする。

また大きな水柱に突っ込み水没する物も出た。複数機が巻き込まれ、それに接触しさらにクラッシュしている。軍曹の"180mmキャノン"だ。

 

海面を撃った弾丸の起こした波に攫われる物、直撃し大破する物、"ファンファン"の7.7mm4連装ミニガンで蜂の巣にされる物……。

 

瞬く間に"シーランス"はその数を減らし、射程距離に近づく前に全滅していく。

 

対岸で火柱が上がり、"シーランス"がまたも吹き飛んだ。軍曹がドッグに弾丸をブチ込んだらしい。

 

「助かった!軍曹ありがとう!」

《…問題無い。今の内に接近を…》

「了解!」

《B分隊が前進を開始。付近に敵影は確認出来ず》

《…………!》

 

その時軍曹が"180mmキャノン"を発射、海面が爆発し、敵MSのパーツ(・・・・・・・)が飛び散った。

 

まさか………!

 

《隊長!!"ゴッグ"です!!》

 

上等兵の声が早いか、爆発による水柱の近くから"ゴッグ"が頭から向かって来た。水面を滑空してくる!!

 

「伍長!!援護!!」

《はいっ!!》

 

"100mmマシンガン"を撃つも、ストッピングパワーが足りなかった。そのまま突っ込んで来やがる!!

くそッ!格闘戦に持ち込む気か!!

 

《隊長!!》

 

中尉の"陸戦型ガンダム"の目の前に着水した"ゴッグ"が、その特徴的な"アイアンネイル"を振り上げた。

伍長は誤射を恐れて射撃出来ない。

地上より早い!回避は間に合わない!

 

「!」

 

"ゴッグ"の"アイアンネイル"に"180mmキャノン"の砲撃が直撃する。軍曹の"陸戦型GM"だ。胴体は中尉の"陸戦型ガンダム"に隠されて狙えない為、激しく振りかざされる"アイアンネイル"に、針の穴を通す様な精密射撃をお見舞いしたのだ。

しかし、硬質金属製であり、"アイアンネイル"の鋭利な先端ではなく、基部の丸みを帯びた部分に直撃した徹甲弾は、激しい音と火花を撒き散らしはじき返されてしまった。

 

「っ!ふっ!!」

 

しかし、軍曹の狙いは正確だった。彼は、今自分が出来る最大限の事で最良の結果を叩き出す事に長けていた。そう、正しくその一瞬だけで十分な時間だった。中尉は咄嗟に左手で"ビームサーベル"によるカウンターに近い抜刀斬りを行い、振り上げられた"アイアンネイル"を到達前に斬り飛ばす。

"ビームサーベル"の溶断能力に助けられた!!

"ヒートホーク"や"ムラマサ"ならヤられていた。

 

「ニーカッター!!」

『ニーカッター レディ』

 

叫びつつ"ゴッグ"のコクピットへスラスターを噴かした飛び膝蹴りをブチかます。

展開された"スローイングナイフ"が装甲を抉り、コクピットに突き刺さる。

 

「下がれ!!」

 

コクピットを潰され、水飛沫を上げながらゆっくりと水中へと倒れ伏した"ゴッグ"から、"陸戦型ガンダム"がスラスターを噴かし飛び上がりつつバックジャンプする。

 

眼下では突き刺さった"スローイングナイフ"の遅延信管が作動、爆発し"ゴッグ"の魚雷に引火、激しい水柱と成り果てた。

ちょい……マズかった……。

 

「……はあっ…はぁっ……!!」

 

再び着水し、大きな水しぶきが上がる。

 

《隊長!…良くぞご無事で……》

「…"陸戦型ガンダム"(コイツ)でなければヤられてましたよ……ブレイヴ03、損傷は無いな?」

《あっ、はい!少尉も……よかったぁ………》

《付近の反応は消失しました》

「よし!前進だ!軍曹もありがとう。助かったよ」

《……構わない…》

「総員!続け!!」

《《了解!!》》

 

"ゴッグ"はなんとか退けた。数が少なくて助かった…………。

 

ある程度接近できたその時、対岸でまた動きがあった。

 

地面の一部がせり上がり、回転する。こちらに向くのは黒く輝く砲口だった。

 

《セントリー・ガンの起動を確認!!A分隊は散開(ブレイク)!!軍曹!軍曹だけが頼みです!お任せします!!》

「聞いたか!散開だ(ブレイク)!」

《《了解!!》》

 

言い終わるやいなや中尉の近くにも着弾、大きな水柱が立ち、機体が揺さぶられる。

 

《隊長!》

《少尉!?》

 

なんで俺ばっか!?今日は厄日だ!!

 

「俺は無事だ!問題無い!ブレイヴ03!ランダム回避運動を止めるな!ヤられるぞ!」

《は、はい!!》

《いやっはー!》

《野郎ども!!波に乗るぞぉっ!!》

《いっえーい!!》

 

立ち上がる水柱を果敢に掻き分け、ランダム回避運動を取りながら前進する中尉の後ろでは、突然のビッグウェーブに乗り出したバカしかいなかった。下手すると転覆するというこの事態に何をしてるのか?

恐怖を抑え込むにも他にあるだろ!!

 

ダメだこいつら。脳が。

腐ってやがる……早過ぎたんだ……。

 

《デルタチームは先行。アルファチーム、チャーリーチームは黙って口をつぐめ》

「伍長!チャーリーチームのフォローに!俺はアルファチームのフォローに入る!!」

《りょーかい!!着いて来てー!》

 

その時中尉はメインモニターの奥で砲台に弾丸が突き刺さり吹き飛ぶのを見た。

そんな事が出来るのは、ここに1人しかいない。

 

「軍曹か!!」

 

A分隊を2分し、対岸へ向かい始める中尉と伍長、騒ぐアルファチームとチャーリーチームというカオスの中、その遙か後方で軍曹は機体を膝立ちで固定、シールドを地面に突き刺し銃架として冷静に狙撃を続けていた。

 

砲台が一つ、また一つと吹き飛び、弾幕に勢いが無くなってくる。

軍曹は精密な狙撃に向かない"180mmキャノン"で既にトーチカの半分を吹き飛ばしていた。一発も外していない。

マグチェンジと焼け爛れた銃身の交換を行い、狙撃を敢行する。

本来戦場での銃身交換は想定されていないが、それをしてもなお命中率は下がっていない。

 

《B分隊より入電。予定経路の半分を進んだとの事です。合流予定時刻は20分後です……隊長!今です!》

「了解!伍長!俺に続け!」

《はい!!》

 

2機のMSがスラスターを吹かし跳躍する。水を吹き上げ、その軌道に虹を描きながら中尉と伍長は宙を舞う。

"ザクII"などには不可能な、大推力があってこその無茶な芸当だった。

 

飛翔し、同時に敵基地内で着陸(・・)する。

 

「キャスト・オフ!!」

 

中尉の言葉に反応した"陸戦型ガンダム"が全装備のロックを解除、地面にばら撒く。その隣で伍長は援護射撃を行う。

 

《隊長!前方からMS3機です!形状から"ザクII"だと思われます!》

「了解!伍長!フォローを頼む!"新兵器"を試すぞ!」

《お任せあれ!!見せてもらいましょうか!新しい兵器の性能とやらを!!》

 

コンテナユニットから引き摺り出した"ガンダム・ハンマー"を両手で構えた"陸戦型ガンダム"が、右手で大きく"ガンダム・ハンマー"を旋回させ始める。

 

「……うおおおぉぉぉぉぉぉ!!!おぉりゃぁぁぁぁあ!!!」

 

伍長の弾幕に推され、無我夢中で走り敵機に接近した"陸戦型ガンダム"が回転させて溜め込んだ"ガンダム・ハンマー"の運動エネルギーを開放する。

中尉は無防備な状態で敵部隊に突撃するという恐怖から、気がついたら叫んでいた。もうめちゃくちゃだ。

 

ギャリギャリガャリガガゴガガガゴッッッッ!!!!

言葉では言い表せないような金属を激しく擦る音と共に激しい火花を撒き散らしながら"陸戦型ガンダム"の右手から放たれた"ガンダム・ハンマー"が先頭の"ザクII"に直撃した。

 

ギャガャグシャッッッッ!!

右肩のシールドを向け防御姿勢をとったはず(・・)の"ザクII"は、シールドがひしゃげ右腕は肩ごと千切れ飛び、胴体を激しく押し潰されながらもなお運動エネルギーを消費し切れず、後ろにいたもう一機の"ザクII"を巻き込み吹き飛ばされた。

 

あまりの衝撃に砕け散り、弾け飛んだ装甲がバラバラになり、辺りに四散するのがスローモーションで見えた気がした。

 

昔の人はいい事を言う。『レベルを上げて物理で殴ればいい』。まさにその通りだ。

 

「………っはぁっ、はあっ……!」

《少尉!!》

「ッ!」

 

あまりの威力に目を奪われていた中尉は、伍長の言葉で現実に引き戻され、反射的にペダルを踏み込み後方へスラスタージャンプを行っていた。"ガンダム・ハンマー"は既に放棄している。巻き取る暇などありはしない。

 

中尉の"陸戦型ガンダム"の左腕のシールドを"ザクマシンガン"が捉える。

 

シールドに着弾し、左腕に跳弾する。撃たれたのは徹甲弾らしい。反射的にサブモニターに表示されたダメージリポートを見る。ショット・トラップによって間接部に受けたのは誤算だったが、損傷は軽微だった。

 

《隊長!ご無事で!》

《危なかったぁ!よかった!!心配かけないでください!!》

「すまない!」

 

中尉は伍長に駆け寄り、その傍のウェポンラックから"ランチャー"を取り出し、倒れ込んだ"ザクII"2機に向かってブチ込んだ。その傍では伍長も弾の切れた"100mmマシンガン"を捨て"ランチャー"を掴み引き延ばしにかかっていた。

 

大破炎上する"ザクII"の煽りを受けたもう一機の"ザクII"に、中尉が撃ち切ったランチャーチューブを投げつける。

 

「今だ!」

《はい!当たれぇ!!》

 

中尉の投げたランチャーチューブを打ち払った"ザクII"に、伍長が"ランチャー"を撃ち放つ。

 

「ここで外すか!?」

 

外しやがった!!どこ狙ってんだ!!

しかし、2発の火球が"ザクII"に直撃し、煙を噴きながら倒れ伏した。

 

『俺たちの事、忘れちゃいないか?』

「助かりました!次は砲台だ!」

《はい!今度こそ外しません!》

「CP!他のMSは!?」

《こちらCP、5機!いや4機……残り3機です!》

《…射線軸から逃げられた。中尉、頼む》

「了解!揚陸隊は侵攻を開始しろ!デルタチームは回り込め!」

《了解!"ファンファン"乗りの力をご覧あれ!》

 

砲台へ向かって足元の"スローイングナイフ"を拾い投げつけ爆破しつつ伍長に声をかける。伍長もしっちゃかめっちゃかに"スローイングナイフ"にグレネードを投げつけていた。砲台とトーチカが施設と離れてて良かった。伍長に手加減はムリだ。

 

「ブレイヴ03!ここで残りの砲台を潰しつつ揚陸隊を援護しろ!!俺はMSを潰す!」

《はい!!まっかせて!少尉もムリしないで下さいね!!》

《あぁ!》

 

あの距離からMSを潰した軍曹の狙撃技術に戦慄を覚えつつ装備を整える。

 

と言っても"100mmマシンガン"を拾うだけだ。後は伍長があらかた使ってしまっているし、"ガンダム・ハンマー"はもう使いたくない。

 

威力こそ絶大だが、攻撃までに時間がかかりその間は無防備な上、攻撃後巻き取る必要があるため再攻撃も遅い。

しかもそれらを敵機に接近して行わなければならない。

まぁ、改良あるのみだ。回転させて運動エネルギーを溜める時間を短縮するため、"ハンマー"本体にスラスターなどを取り付けて見たらどうだろうか?

それに鎖もどうかと。ワイヤーとかで良くね?マニピュレーター壊れちゃうよ。

 

《隊長!一機では危険です!》

「こっちにはもう武器がない!!奇襲をかけ接近戦に持ち込むしかない!!」

《っ! いや、しかし!!》

 

しかし中尉は既に聞いていなかった。興奮し、正常な判断力を失っていたのだ。

 

中尉の発言には確かに一理あるが、それは中尉自身の命を無視していた。

 

スラスターを噴かしジャンプ、敵を上から捉える。

これが出来たのは軍曹のおかげだ。

軍曹の射撃のプレッシャーから逃れるには、隠れる場所は少ない。そこへ見当をつけ飛び掛かったのだ。

 

シールド裏の"マルチランチャー"の閃光弾を撃ち、"100mmマシンガン"も同時に撃つ。

 

激しい閃光にセンサーをヤられ動きを止めた"ザクII"に弾丸が襲い掛かり、中尉が左腕で抜刀した"ビームサーベル"が着地と同時に"ザクII"を袈裟懸けに切り裂く。

 

同時に隣の"ザクII"に頭部機関砲を乱射し、"100mmマシンガン"の残弾をありったけブチ込む。

胴体を至近距離からの13.2mm弾と100mm弾で蜂の巣にされた"ザクII"が崩れ落ちる。

 

「……後、一機……!」

 

コクピット内に鳴り響くロックオン警戒音に反応し、中尉は機体を操作しシールドを向けた。

 

そのシールドに280mm成形炸薬弾が直撃し、シールドを破壊した。

 

「っ!!」

 

衝撃を殺し切れずダメージを受けていた左腕はマシントラブルを起こし機能を停止した。

ダラリと垂れ下がった左腕とダメージリポートから中尉はようやく自分が大変危険な状態に追い込まれている事に気がついた。

 

「……"ザクバズーカ"………」

 

敵はほぼ一撃必殺の飛び武器があり、こちらは左腕が損壊、武器は格闘兵装のみ。一応手には"100mmマシンガン"が残弾2発のこっているが…マズい。大変にマズい。

 

《隊長!!》

《少尉!!》

 

"ザクバズーカ"を回転してよける。

マズい。機体にガタが……。脚部へのダメージが深刻だ。今回、奇襲の為や短距離ジャンプの多用から、ジャンプの着地時にスラスターを噴かしてダメージ回避を行ってなかった。それが例え着地先が水面であっても、その衝撃はコンクリートとなんら遜色は無いのだ。それに、水中渡河時、至近弾を喰らい過ぎたのもあるだろう。直撃はしてないとはいえ、水中の衝撃波は空気の数十倍だ。至近弾でも致命傷とまではいかなくとも、ダメージは蓄積していく。

そこで、止めとばかりに"ザクバズーカ"の衝撃だ。遂にサスがヤられたか!?

 

………………よし。

 

ダンダンッ!残弾2発を空に向け放つ。明らかな挑発行為だ。

 

《隊長!その機体では無茶です!》

「撤退も出来ん」

《でも…っ!》

「気に病むことは無いですよ?警告を無視したのは俺ですから……次の隊長によろしくお願いしますね。安心して下さい。最悪でも刺し違えて見せます」

《少尉っ!!ダメ!嫌です!!》

《……………》

 

"100mmマシンガン"を投げ捨て"ビームサーベル"を構える。

 

土壇場の決戦(ショウ・ダウン)、なんて言葉が脳裏に翻る。

 

これは俺のミスだ、伍長機にはまともな武器がない。巻き込みたくはない。

伍長は大富豪の一人っ子、こっちはただの次男。社会的価値が違う。

それに、仮に死ぬなら、損害は最低限に抑えたい。

 

頼む……ノッて来い……来た!!

 

『…決闘、という事か……貴様も武人なのだな……その勝負、受けて立とう!!』

 

オープン回線で話し掛けて来た!?

何て自信だ……!

 

《隊長!今伍長が向かっています!!持ち堪えて下さい!!》

《急いで……!早く!!早くぅ!!》

 

中尉は"陸戦型ガンダム"を操作、それにうなづき返す。

 

『……ふふ……血湧き、肉躍る……この感触こそ…俺の求めていた戦争!!』

 

敵の"ザクII"が"ザクバズーカ"を捨て、"ヒートホーク"を抜き放ち、中尉の"陸戦型ガンダム"の前に降り立った。

 

「………さぁ、勝負だ……」

 

中尉は機体を沈み込ませ、"ビームサーベル"を構える。

度重なる戦闘機動に重装備の負担から足回りはガタガタだ。こんなに酷使したのは初めてだ。

近接格闘を行う戦闘機動は後数分が限界だな。

勝負は一瞬で決まる。

パネルを叩き、GPLの制限解除を実行、最終リミッターを解除。ミリタリーマニューバからMAXへ。デッドウェイトの左腕を爆砕ボルトで……………え?

 

《え?》

 

目の前で"ザクII"の上半身が吹き飛ばされた。

 

えっ…………あっ。

 

「………軍曹……?」

《軍曹!!ありがとうございます!!》

《少尉ぃ~っ!!》

 

軍曹は射点を変えるべく移動していた。

そして中尉の誘いにノッた"ザクII"は軍曹の射撃可能な射線軸に入り込んだのだった。軍曹がそれを逃がす筈が無い。

 

中尉の"陸戦型ガンダム"が限界を迎え、テンションが切れた。

膝を着く"陸戦型ガンダム"に伍長の"陸戦型GM"が駆け寄る。

 

《少尉!!少尉ぃ~っ!!良かったぁ~わぁ~っ!!》

《まさか中尉、これを狙って……?》

「…………いや、違いますけど……偶然です。軍曹に助けられました…すみません。心配をお掛けしました。伍長も、泣き止んでくれ…」

《わぁ~っ!!》

「………すまん…助かった。軍曹…ありがとう……」

《…当然の事をしたまでだ。無事でよかった》

《少尉ぃい~っ!!よがったぁぉぉあ~!!》

《………伍長、ごめんな……ごめん……でも、ありがと……………》

 

20分後、上陸し攻撃を続けていた"ファンファン"、"ナナヨン"、"ロクイチ"が基地の制圧が完了しても、伍長が泣き止む事は無かった。

 

 

 

『極限の生と死の狭間に、刹那の"活"を見出せ』

 

 

 

揺れるわだつみの鼓動を遺して……………




中尉さんかい?長い!!長過ぎるよ!!

こういう時、慌てた方が負けなのよね……。

分割してもコレかよ!!

やはり戦闘描写は苦手です。とても加減が難しい。

特に自分は小説での効果音が好きではありません、今回は使いましたが……なんとなく間抜けっぽい気がしません?

今回は何時もの約2倍書きましまたが、コレでも2/3程に端折ったんですが……。

正直疲れました。

1/144だろーが1/100だろーがコンテナにガンダムハンマーが入らなかったのは秘密です(笑)。きっと、なんか、こう……宇宙の法則を乱したりしてブチ込んだんです(笑)。

次回 第四十三章 刹那 from 聖永

「……来たか……」

お楽しみに!!


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第四十三章 刹那 from 聖永

最近色々ゴタゴタがありました。

それでも、のんきにのんびりやって行きます。


生きる。

 

生きている。

 

ただそれだけの事が、何故こうも眩しいのか。

 

食べれるからか?

 

寝れるからか?

 

違う。人と、会えるからだ。

 

 

 

U.C. 0079 8.7

 

 

 

中尉は奪還した基地内を歩き、ハンガーへ向かっていた。

 

ジオン軍はこの基地が奪還され、他の小規模基地は爆撃に晒され消耗し、今この中南米諸島でのミリタリー・バランスは大きく連邦軍へと傾き始めていた。

 

ここの基地の陥落を聞き、多くのジオン軍基地が我々の最終目標、"グアンタナモ・ベース"へと集結している、という話も聞いていた。

 

そして、それは中南米のミリタリー・バランスを一変させ、"ジャブロー"と言う喉元に突きつけられた刃を退ける、「絶対生存権確保」のための局地的一大反攻作戦、中南米諸島奪還作戦である"一号作戦"も大詰めに近づき、決戦が近い事を同時に示していた。

 

と言ってもラクな戦いではない。

確かに物量から来る単純な戦力差は8:1だ。しかし、こちらの陸上主戦力は"ロクイチ"だ。

MSは少数精鋭、そしてその存在を敵に知らせてはならないという特殊性からまともな軍事行動を行う事が出来ないのだった。

 

そう、今まで奇策とも取れる策しか取れなかったのもそのためだった。

 

余りにも特殊過ぎるのだ。MSという存在は。戦場が変わるわけである。

 

「おやっさーん!」

「おう!大将!どうしたぁ!?」

「いや"陸戦型ガンダム"は大丈夫かと……」

「へっ!任せな。そもそも損傷を受けたのは左腕だけ、フレームはチェックしたが問題無し。後は駆動系を交換するだけだ。そこの被害担当機(ハンガー・クイーン)と比べたらマシなもんさ」

「この短時間で……やっぱ伍長機ですか……」

「あぁ、特に左腕は必ずと言っていいほど被弾して帰って来るな。もう左肩に至っては予備が無い。次被弾してすっ飛ばされたらフレームだけだ。まぁ、その心配は無さそうだが……」

「……それは、わたしが居る事を知ってて言ってるんですか……?」

「もちろん。うはははははっ!!」

「どうしたんですおやっさん!って小隊長、まだなんですか?」

「……あぁ……」

 

一昨日中尉が撃墜されかけてから、伍長は中尉のそばをほぼ片時足りとも離れなくなっていた。

 

あの後は大変だった。戦闘が終わるや否や伍長は機体を飛び出し中尉の"陸戦型ガンダム"のコクピットに飛び込んでずっと泣いていたのだ。

中尉がどんなになだめても聞かず、遂には抱き付いたまま疲れて眠ってしまった。

仕方無く伍長の"陸戦型GM"は上等兵が仮設ハンガーまで移動させ、中尉はなんとか寝ている伍長を引き剥がし部屋に寝させ、報告書を提出、反省会を行いその他諸々を終わらせたのだった。

そして寝ようと思ったら伍長がいつの間にか中尉のベッドに丸まっていた。なので別の部屋で寝た中尉だったが、起きたら何故か伍長が抱きついて寝ていたというホラーに近い状態だったのだ。

つーか呪いのビデオかよ。

宇宙世紀になってもビデオ……。俺の考えは古いなぁ……。

 

そこから伍長は片時も離れず中尉の軍服の裾を掴み雛鳥の様に着いて回っていた。

流石にお偉いさんと話す時は離れたが曲がり角から顔を半分だけ出して見ていた。

そして終わるとすぐに元に戻るというのが続いていた。

 

「いい加減にしたら伍長ちゃん。しょーたいちょーも困ってんじゃないの?」

「…少尉は目を離したら死んじゃいますからダメです」

「……いや、どうやって?」

 

死んじゃうって……。伍長の中で俺はどういう存在なんだ?

医者が見た限りやや依存が強くなっただけでPTSDとかではない、至って健康つってたけど嘘じゃねあのヤブ。

 

「うはははははっ!!いいんじゃないか!中尉もどうせ次の作戦までは待機なんだろ?一緒に居てやれ」

「と言っても機体整備を…」

「わたしも手伝いますから!」

「…いや、自分のやらにゃ意味が…海にでも行ったら?楽しいんじゃない?」

「いいんです!全くもう!!」

「あーっ!!イチャイチャしやがってこの!!」

「お前にはコレがどう見えてるんだ!?病院行って来い!!」

「うるせー!こちらとて上等兵がなぁ!!」

「私がどうかしましたか?ところで軍曹を見かけませんでしたか?」

「…………向こうで機体整備やってるよ……」

「はい。分かりました。ありがとうございます。では…」

 

少尉、件の上等兵は来て速攻で軍曹とこ行ったぞ?やっぱ歯牙にも掛けてもらってなくね?何があと一押しだこのアホ。

多分また相談か意見交換だろうけど。

面白そうだから言わないでおこう。

 

「………………」

「………………」

「……………………なんだよ?」

「……………いや…………?」

「………ぶっ!うはははははっ!!」

「あはははははははっ!!」

 

負のオーラを撒き散らす少尉を見て爆笑する2人を囮に、中尉はこっそり場を離れようとする。しかし裾がくいっと引かれ伍長が気付いたのでそのまま着いてくる。

まぁ、仕方が無い、か………。

 

「伍長、機体整備を手伝ってくれ」

「はい!任せて下さい!」

 

機体によじ登る。下ではまだおやっさんが爆笑し、少尉は体育座りになっている。それに蹴りを入れるおやっさんと整備班達。泣きっ面蹴ったりとはこの事か。

 

「あり、中尉?今日も彼女同伴ですか?」

「そんな…彼女なんて照れますよ……えへへ…」

「コレがそう見えるならいい医者を紹介するよ。それに伍長、誤解されるような物言いは辞めとけ。困るのは伍長だぞ?」

「パイロットは古今東西モテますからねぇ~羨ましい限りですわ」

「本当っすよ!中尉は"キャリフォルニア・ベース"の時から……くそぅ!!」

 

そんな事は無かったろ。軍曹はモテてたけど。イケメンだしな。

 

「…からかいたいだけなら辞めて下さいな。きっと整備班達の方がモテますから。

きっと隠れて……見てあの上腕二頭筋!すっごいセクシーよ!とか言ってますよ多分」

「……そうなのか伍長?」

「「マジか!?」」

「えー、そういう人もいると思いますよ?多分」

「「…………我が世の春がきたぁぁぁぁぉぁぁぁぁああ!!!」」

「お薬出しときますねー?虹色のやつ」

 

突然集まって来た整備班達がそれだけを聞いて叫びながらまた散って行く。

伍長も俺のテキトーな意見に同意するなよ。どうすんだコレ?

 

コレで失恋とかされても困るなぁ……。連邦軍初のMS部隊は整備班達の失恋のショックから稼働率が低下し全滅したとかシャレにならん。

 

めんどくさいので整備を続ける。伍長は工具箱を抱えその隣でニコニコしている。

伍長は銃の分解整備すら満足に出来ないので、このように工具箱を持って工具を渡す係だ。それでもメカはやっぱり好きなので目は輝いている。そしてこれを機に少しは出来るようになって欲しい。

 

「…伍長、なんで俺が死ぬと思うんだ?」

「少尉はムチャばっかしますから!わたしが見てないといけません!!

少尉は自分の命を軽く見過ぎです!!生き延びたいと言ったのは少尉なのに!!全くもう!!」

「うーん…」

 

確かになぁ……やっぱハイだったんだろう……。

………でも、本当に、俺は生きたい、生き延びたいと思っているのか?

 

「伍長、安心してくれ。そんな事は無いから」

「いーえ!ダメです!これは軍曹にも頼まれたんです!!」

 

原因はそれかぁぁぁあ!!!

口先だけでごまかそうと思ったのに!!

 

「……多分それはずっと見張ってろって意味じゃないだろ?伍長も大変だろ?」

「わたしは構いません!」

「……俺が構うんだよ!伍長が無理してもダメだ。伍長も自分の所為で大切な人が体調を崩したら嫌だろ?そんなのは俺は嫌だぞ?」

「うーん、そうですねー。でも!今日一日は見張ります!わたしも少尉といるのは……その……楽しいです、から………」

「はぁ……構わんが……」

 

だから勘違いするような事言うなって。

俺にとっての伍長ってなんなんだろうなぁ……。伍長にとっての俺も。

 

「そういえば少尉、"100mmマシンガン"、威力足りないと思いませんか?」

「そうか?俺は"ザクマシンガン"よりは命中率は高いし、ストッピングパワーも十分だとすら思うんだが?」

「うーん、倒すのに時間がかかるじゃないですか。もっとドババババって倒せる武器が欲しいんですよねぇ…敵を逃がしても困りますし……」

「確かに、決定打にはかけるよな……"ゴッグ"にはやはりと言ってはアレだけど効かなかったし………一応打診はするが……次の作戦が終わったら、休暇に補給があるって言ってたし、その時にでも……」

「………うーん……あっ!!アレ(・・)なんかいいかも!!うふふ……」

 

そう、部隊内ではこの話題で持ちきりだった。やはり目の前のニンジンに弱いのは馬だけでない。

伍長ニンジン嫌いらしいけど。前食堂でニンジン要らないよ!って言って山盛りにされてたな……。

 

「そうですよねぇ~。休暇……うふふ…」

「俺らには無いぞ?」

「えぇっ!?なんでですかっ!!」

「…なんでそんなに休暇が欲しいのか分からんが……東南アジアに飛ぶらしいからな……新装備の受領もあるし……伍長お待ちかねの正式採用の"バズーカ"だぞ?」

「そんなぁ………でも新装備………うぅ……」

「……ま、まぁ…寄港地には少し出て歩いたり出来るかもよ?」

 

なんか伍長が身悶えしている。

新装備と休暇の狭間で揺れているらしい。

休暇っつってもなぁ……故郷に帰れるワケでもねぇし……俺はどうでも……。基本パイロットになってからは休み時間長くて多いしなぁ……。

 

でも火力か……確かに次の作戦にも必要だなぁ……今度作戦会議でおやっさんと相談しよう。

MSに"カチューシャ"見たく"ランチャー"引っ付けて並べるか?でも汎用性が……。ある程度の連射性能も欲しいし……。継戦能力がなぁ…。

 

その時ベルが鳴った。昼食の時間だ。溶けていた伍長がバッと顔を上げこっちを見た。うん。この切り替え、見習うべきだな。

 

「少尉!!お昼ですよ!お昼!!食べに行きましょう!!」

「分かった分かった。軍曹達も誘おうか」

「早く早くー!」

「そう焦るなって。逃げやしないから」

「逃げますー!ご飯は逃げるんです!!」

「マーリンの髭!……そんな蛙チョコみてーな昼飯は食いたく……いや、案外イケるかもな」

「軍曹ー!上等兵さーん!おやっさーん!お昼ご飯食べに行きましょー!!」

「……そうだな」

「はい。そうしましょうか」

「おう!野郎ども!飯行って来い!」

「「おう!!」」

「……俺だけ名前呼ばれんのはデフォなのかね……」

 

…………忘れてた………。

さっきあんないじったのに……。

 

「そ、そんな事無いんじゃないか!?」

「まぁ影薄いのは確かだがな!うはははははっ!!」

「……そうだな…」

「それには同意ですね」

「えっ、しょーいいたの?ごめんね?」

「……うぅ、みんなのバカ~ん!!」

 

走って行ってしまった少尉を見送り、5人は食堂へ向かう。なんかいじられキャラが定着しつつあるな。

 

「次の作戦、どうしますか、おやっさん」

「取り敢えず持てる武装は全部使っていいが……」

「運搬や移動なども考慮に入れませんといけませんね」

「……"グアンタナモ・ベース"は航空基地だ……MSは、対空戦闘はあまり得意でない……」

「……戦術オペレーターとしては、この作戦、MSを活かすのは…」

「今ある装備で、か……」

 

食堂で食券を買う。中尉はキツネうどん、軍曹はMREレーション、上等兵とおやっさんは日替わり定食、伍長はまたもカツカレーだった。

 

「軍曹…こんな時までレーションを食べなくても」

「……いや、好きなんだ……」

「えぇぇ?そんなのがですか?」

「仮にも食べ物にそんなのとか言うなよ…」

「そういう大将も仮にもとか言ってるからな」

 

いや、美味しくないし……アレは食べ物に対する冒涜だよ。

つーかんなもん食ってなんで美味い料理作れんの?

 

食券を交換し、昼食を持って机に着く。

少尉は向こうでやけ食いに早食いをやっている。周りも大声で囃し立てていた。

若さっていいねぇ……。

 

「伍長今日もカツカレーか?」

「はい!昼食はいつもカツカレーです!」

 

何がそんなに伍長を惹きつけるのか……いや、美味しいけどさ…。

食堂のおばちゃんからカツカレーの子って呼ばれてんの知ってんのかね?

 

「……"一号作戦"の最終目標…か…」

「潰せますかね?流石に大規模な基地ですから空海陸と波状攻撃を仕掛けるらしいですけど」

「そーいや、あの中佐も参加するんだとよ。顔は合わせられんが」

「あぁ!あの!……提督と呼ばれてたのが懐かしいですねぇ。航空戦力は"アンデス"からかぁ…」

「あー……はー、艦のご飯は美味しかったですよねー」

「……隊長は何者なのですか?」

「うん?ただの新米中尉ですけど……」

「……当時はまだ少尉だったな……」

「なんで少尉が提督を……ゲームじゃあるまいし……」

「……ゲームでもありえねぇよ。まぁ、一日提督だろ」

「少尉はすごいっ!って事ですよきっと」

 

違うと思う。うん。それはない。

 

「あー伍長カレー付いてる」

「伍長、お口の横にカレーがついてますよ?」

 

声がハモった。因みに軍曹とおやっさんはナプキンを差し出す行動が被っていた。

 

「……わたしってどう思われてるんですか?」

「……手のかかる孫娘?」

 

とおやっさん。おやっさん娘が居る事は聞いてるけどまだそんな歳じゃないやろ。

 

「……娘がいたらこんなのか、と……」

 

と軍曹。軍曹25だろ。まぁ腕立てん時の目とかマジでそうだったよな。

 

「可愛い妹ですかね?」

 

と上等兵。そうだね。端から見てたらどう見てもそうだよ。似てないけど。

 

「右に同じだな」

 

中尉も続く。正直そんなものだった。兄しかいないから弟か妹がいたらこんなのだろうなと。

 

「……うぅ…いつかはお姉ちゃんと呼ばれる立派なレディーさんになりたいです……」

「応援していますよ?頑張って下さい」

「はい!」

 

ヘコんだ伍長の頭を上等兵が撫で、速攻で機嫌がなおってカレーを口に運ぶ伍長。それを見て当分は無理だなと思う4人だった。仔犬みたいだと思ったのは秘密だ。

 

「そーいえば海沿いでしたよね?"ゴッグ"もまた出るんですかねぇ?だったら"ロクイチ"じゃ勝てませんよ?MSでも嫌です」

「……その可能性は、十分にあると見ていいだろうな……」

「"ランチャー"追加生産だな。うん」

「……そろそろ死人が出ませんか?」

「……"ゴッグ"……あの突っ込んで来た水陸両用MSですね?前はよく見えませんでしたが……」

「アレは手こずりましたよ。殺されかけましたし」

「わたしも逃げ回ってました!」

「……155mmを喰らわしても、怯みすらしなかったな………180mmなら一撃だが……」

「……それは、大変でしたね……」

「全くだ。あの時も"ザクII"を大破させやがってに…アレ"ゴッグ"の残骸からパーツ取りしたんだぞ?」

「今さらっとトンデモない事を!!」

「……いつも思うのですが整備班長も何者なのですか?」

 

食べ終わり雑談を続ける。軍曹がどこからかコーヒーを淹れて来た。手に雑誌も持っている。

いや、美味しいけどどこから?それに食堂にいる時は食堂のコーヒー頼もうや。

 

その時アナウンスが流れた。呼び出しだ。

 

「……来たか……」

 

"アナハイム・ジャーナル ルナ・コーヒー特集"から軍曹が顔をあげつつ言った。

しかし伍長は"ガンクラブ 特別号"から顔を上げなかった。左手もコーヒーを探しうろついている。

 

「コーヒー、飲んでからにしましょう」

「だな」

「はい!ヤケドしても嫌ですしね」

「…………アレ?」

 

立ち上がった俺らがおかしいのか?

 

「……行かないのか…?」

「…これだけ、これだけは飲ませて下さい」

「そーですよ少尉!英国紳士はティータイムを大切にするんですよ!」

「そうだな伍長。それは正しいぞ?」

「どっからツっこみゃいいんだよ!!」

 

戦争って、なんだろうな………。

 

それでも、俺は、この一瞬を大切にしたい。

 

いつか終わるやも知れぬ、この時が、永く、続きますように。

 

 

『笑って、泣いて、また笑う。それが、人間だから』

 

 

そして、決戦へ……………




遂にカリブ海激闘編、大詰めです!!

最近どのキャラも勝手に一人歩きし始めてしまいました……。何処へ行こうと言うんだ……。

外伝と言えば、ガンダムサイドストーリーのゲームが発売されますね!
セガサターンからやってた身としては楽しみです!
広がれ!ガンダムワールド!!

おやっさんはザクのパーツをゴッグから取ったと言ってますが、同じジオン製MSとはいえザクはジオニック、ゴッグはツィマッドなので結構無茶やってます(笑)。

執筆は進んでいますが、色々あったため、ゆっくり投入する事にしました。ご了承下さい。
これからも一週間一本ずつくらいにして行こうかと。
のんびり楽しんで頂けたら幸いです。


次回 第四十四章 グアンタナモ・ベース攻略戦

「……また、朝が来た」

お楽しみに!!


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第四十四章 グアンタナモ・ベース攻略戦

カリブ海激闘編、遂に完結!!

グアンタナモに、嵐が吹き荒れる!!


史上最大の作戦。

 

かつて、そう呼ばれた作戦があった。

 

オーバーロード作戦。

 

大規模な落下傘部隊と強襲揚陸艦による上陸作戦。

 

歴史は、繰り返す。

 

 

 

U.C. 0079 8.10

 

 

 

『カリブ海上空。高度36,000フィート(エンジェル三-六-◯)

『まもなくジオン制空権内に近づきます』

 

メインスクリーンには薄暗い映像ばかりだ。赤い非常灯に照らされた、狭く薄暗いコンテナの中。

それが、今中尉が見る事の出来る世界の全てだった。

その赤い非常灯の明かりに照らされ、金属のパイプや骨組みの間に、消化装置とその注意書きが見えた。

 

『降下20分前…機内減圧開始』

『装備チェック』

《どうだー大将。そいつ(・・・)の様子は?ヘソ曲げてないか?》

「大丈夫なようです。まぁ、疑っていたワケではありませんが」

《ねぇねぇ軍曹、36,000フィートって何km?》

《……約10.9728kmだな》

《わぁ!成層圏かな!?成層圏から地上へダイブ〜ふふふふ〜ん》

 

楽しそうだなオイ。怪我一つなけりゃいいんだけどなぁ……。君のためなら死ねるってか?

 

サブモニターが高速でスクロールし、機体のコンピュータが項目を一つ一つチェックして行く。

 

自動開傘装置のアーミングピンを外せ(アームメインパラシュート)

『よし…準備はいいか?』

「こちらブレイヴ01。準備よし」

《……こちらブレイヴ02。準備よし》

《こちらブレイヴ03オッケー☆》

《こちら"イージス"。システム、オールグリーン。問題ありません》

『もう一度作戦を確認する。現在"グアンタナモ・ベース"には我が軍の"61式主力戦車"と"ミニ・トレー"を主軸とした部隊で攻撃を行っている。

諸君らの任務は"ミデア"から敵防衛ライン内に空挺降下、着陸しその場を死守、友軍の到達まで持ち堪える事だ』

「……了解」

《……厳しい作戦です。しかし、私達"ブレイヴ・ストライクス"なら、必ず成し遂げられますよ》

《……無茶だな》

《スリルというお土産と引き換えに、給料分のお仕事はしますよ》

《内陸な分、"ゴッグ"とやらが出ないと思われる分マシなんじゃね?ねぇ、つーかホントに飛ぶん?》

 

ポジティブだな少尉。いや、あいつマジでヤバイぞ?相手取ったら分かっけど。あんな国籍不明の黒人力士みてーなカッコしてる癖に。

 

『だが、やるしかない。諸君らだけが頼みなのだ……頼んだぞ!!』

《「了解!!」》

 

ここは飛行中の"ミデア"のコンテナ内。

ターボファン・エンジンの爆音が、細かな振動となって伝わってきていた。

降下作戦開始まで、後10分少々だ。

戦場までは、何マイルだろうか?

 

『高気圧、いぜんとして目標地域に停滞中』

『イレギュラーな突風(ガスト)、無し』

雲底高度・視程無限(CAV OK)

『いいぞ。視界は良好だ』

「それは良かった」

《お外が見れないのがざんねんですねー》

《雲しか見えないと思いますよ?それにまだ夜ですし》

《でも真夜中の眼下に広がる雲海はロマンだよなぁ……って、ホントに?ホントに飛ぶの?》

『パックゼリーを口から離せ』

《ええ!?まだ飲みきってません!!》

 

遙か上空、まだ星の煌めく夜空を飛ぶ"ミデア"の中、専用のガイドレールに固定され、中尉の"陸戦型ガンダム"は待機し、その時を待っていた。その隣には軍曹の"陸戦型GM"もいる。

2機とも背中に巨大な降下ユニット(パラシュートパック)を背負っている。空挺仕様だ。

せめて一回は訓練させて欲しかった……シミュレーターだけだ。

ぶっつけ本番でテストって……。

 

『ヘルメット装着せよ』

『あの女…素人か?』

 

すみませんそうです。というか降下は軍曹以外全員素人です。

MSなら尚更だよ。

 

ブザーが鳴り、刻一刻と時が迫っているのを伝える。手のひらに汗が滲み、手袋を濡らした。

 

『リリースポイントに接近中…』

『降下10分前』

『おい!聞こえたか?!』

『パックゼリーを置いて、ヘルメットを装着しろ』

《わ、分かりました!今飲み終わりましたから!!》

 

さっきから伍長は何をしているのか……。向こうの機長さんは大変だろうな……。

現在"ミデア"は3機の編隊を組み飛行中だ。一機目には中尉と軍曹。二機目には伍長と"イージス"、それにコンテナユニット。三機目は"ミデア"を改造したガンシップだ。

それに直掩機として3機の"セイバーフィッシュ"が付き添っている。一機が先行し、残る二機が"ミデア"の斜め後方を追従している。ちょうど直角二等辺三角形を描くようにし、その重心に"ミデア"が位置している。

 

『大丈夫なのか?こいつは……』

「すみません機長。ご迷惑をおかけしました」

『降下の時にヘマは困るぞ』

「はい」

『作戦参加部隊全員の命がかかっているんだからな』

「承知しております、サー」

『そもそもだ』

『連邦のMS搭乗員ってのは、精鋭中の精鋭が選ばれるはずじゃないのか?』

「ええっ!?い、いや……多分……」

 

俺に言うなっつーの。かく言う俺も成績は中の下だぞ?いや、下の上?

 

『だというのに、今のはなんだ?お前の部下のせいで、俺の部下までが不安を感じてる。バカを落とすんじゃない。70tの高価なハイテク装備を3機と、これまた高価なハイテク装備満載のトラック、それに武装コンテナ……それら最新兵器を落とすんだ、ミスは許されない。それが分かっているのか?』

「はっ。肝に銘じております……」

『あの体たらくでは、お前の能力も怪しいもんだ』

「尉官としての責務を果たすべく、より一層の努力を誓います、サー」

 

グッダグダグッダグダとぉ!!

俺の、知ったことかっ!!

 

『わかればいい。注意しろ』

「イエッサー」

 

なんで、俺が怒られなきゃあかんの?ったく……。

あ、俺の所為か。

 

『機内の減圧完了。酸素供給状態確認』

『降下6分前!後部ハッチ、開きます』

『日の出です』

「……また、朝が来た」

 

耳障りな警告(アラート)音が鳴り響き、回転灯が目に焼きつく。後方のコンテナハッチが解放、目も眩むような太陽光が差し込む。ハッチ開放による気圧差から乱気流が流れ込み、格納庫内で荒れ狂い大きな音を立てる。

 

『外気温度、摂氏マイナス46度』

《うっひゃ〜。凄いですねぇ…》

『隊長さんよ、伍長を黙らせろ』

「3番機…私語は慎め」

《むー、はいはい》

「はいは一回だ」

《はーい…》

「伸ばさなくていい」

《はい?》

「あげなくてもいいからな?」

《隊長も付き合わなくて結構です。伍長?………………怒りますよ?》

《はいぃ!!》

『降下2分前…ガイドレール最終チェック』

『時速130マイルで落下する』

『風速冷却でのセンサー異常に注意しろ』

『ガストにも気を付けろ?攫われるなよ?』

『降下1分前…電磁レール励起』

『コクピット環境コントロールシステム(CECS)を再チェック、酸素装置(ベイルアウトボトル)を再作動』

『これが記録に残る世界初のMSによるHALO降下になる…』

『降下10秒前……スタンバイ』

『全て正常。全系統異常無し(オールグリーン)

『降下準備…』

『こちら機長。今ポイントホテルを通過した!高度40,000フィート!各MS搭乗員は準備しろ!!』

「ブレイヴ01、了解!」

《……ブレイヴ02、了解》

《ブレイヴ03りょーかーい!!》

《こちら"イージス"、了解しました》

『マジメにやれ!!』

『カウント、 5、4………』

『各MS搭乗員へ。現在の天候は晴れ。南西の風、6ノット、ガスト無し………以上』

『2、1…鳥になってこい!幸運を祈る(Good Luck)!』

『降下開始!!降下!降下!!ASAP(可及的速やかに)

「了解!!ブレイヴ01!"陸戦型ガンダム"、出るぞ!!」

《ヘルダイバーいっきまーす!!エントリィィィィィィィィィィイイイイイイイイイ!!!!!!》

《……I'll be back!!》

《ジェロニモ!!》

《降下開始!》

《……しゃ、しゃるうぃーだいぶ?あいきゃんのっとふらーいぃぃぃ……》

 

中尉は自機を固定する電磁ロック解放スイッチを作動させる。

 

警報ブザーが鳴り響き、機体のロックが解除される。

 

たちまち火花を撒き散らしつつ床のレールを滑り、中尉の"陸戦型ガンダム"は機外へ、暁の空へと放り出されて行く。

 

『降下開始 システム・チェック オールグリーン』

 

機体をロックしていたカタパルトブロックが爆砕ボルトで吹っ飛び、風を受け回りながら落ちていく。

 

上空には過ぎ去って行く"ミデア"が、東の空には輝く太陽が、まだ夜の残る西の空には細く煌めく星空が見えた。

 

荒れ狂う暴風が叩き付けられ、激しい振動と共に機体が暴れまわり、回転する。揺れに耐えつつなすがままにし、回転する事により一方方向のみの風を避け、センサーを保護する。

 

眼下には吹き上がる爆炎と黒煙が微かに見える。

目標の、"グアンタナモ・ベース"だ。

 

中尉は"陸戦型ガンダム"を操作、両手両足を広げ機体を安定させる。

 

「現在降下中。目標降下地点到達(TOT)まで6分」

《少尉ー!!わたし飛んでるよー!》

《……落ちているんだ》

《何をしてるんだ?》

《落ちてるー!!》

《舌を噛み切りますよ?口を閉じていた方が無難ですが》

《ひっ!》

《……おっ!おっ!!降りられるのかよぉぉぉぉおお!!!!!……うっ…………》

 

伍長が口を噤んだ。痛いの嫌いだからね。偉い偉い。

 

3機のMSに、1台の"74式ホバートラック"(ブラッドハウンド)が高度を合わせ、落下して行く。その上にはコンテナユニットだ。

 

"ミデア"はもう飛び去り、見えない。

 

中尉は計器類をチェック、高度計を確認する。

スクリーン内ではぐんぐん眼下の基地が近づいて来る。既に下は地獄だ。砲火が飛び交い、あちこちで爆発が起きていた。

 

対空砲火は無い。コレは地上部隊の頑張りだ。迎撃機も、海上の空母からの航空支援(エアカバー)対応に追われているはずだ。

 

ミノフスキー粒子下といっても目視ではバレる。そんな中落下傘を開くなど、私は射的の的です、どうぞ撃ってくださいと言うようなものだ。

 

ギリギリまで引きつけて落下傘を開く。

 

それがこの作戦の肝、高高度降下低高度開傘(High Altitude Low Opening)だ。

 

高度計が2000mを切った。

 

何と軍曹が、降下しつつも眼下の基地へ狙撃を開始する。しかし中尉にそんな余裕は無い。タイミングを測るので精一杯だ。

 

「一次開傘!!」

 

バコンッ!と背中のパラシュートパックの装甲が爆砕ボルトで吹っ飛び、パラシュートが展開する。

 

「ぐっ!!」

 

落下速度が急激に落ち、凄まじいGが身体にのしかかる。シートベルトが肩に食い込み、身体がみしりと軋む。

 

最初のパラシュートを切り離し、二次開傘。

 

更に落下速度が落ち、機体が限りなく安定する。今が一番危険だが、敵はまだ気づいていないようだ。

 

パラシュートを切り離し、自由落下。

 

地面がぐんぐん近づいて来る。まだ、まだまだ……今!!

 

中尉がフットペダルを思いっきり踏み込む。パラシュートパックのロケットモーターが作動、スラスターが凄まじい勢いで火を吹き、機体が一瞬浮き上がる程の推力を叩き出す。

推進剤を全て吐き出したパラシュートパックが自動でパージされ、中尉と"陸戦型ガンダム"は決戦の地へと自由落下して行く。

 

「ぐぅぅうっ!!」

 

耐える。ひたすらに耐え続け、そして叫んだ。

 

「ブレイヴ01より各機へ!

         ──…………待たせたな!!」

《やっほーい!!遅れてやって来る、空挺部隊(ヒーロー)の登場だよー!!敵基地に"潜入"成功!!レッツパァァァァァァリィィィィィィィ!!!!》

《……敵MS撃破。着地地点(LZ)を確保》

 

そこへ地上攻撃隊からの通信が入る。誰も彼もが興奮気味だ。

 

《ようこそ戦場へ!!》

《やっとかぁ!!》

《うぉっしゃあ!!》

《ひゃっほぅ!!愛してるぜベイベー!!》

《来たのか!?》

《おせぇんだよ!!》

《待ちかねたぞ少年!!》

 

そして、着地。遂に中尉は、決戦の地、"グアンタナモ・ベース"へと降り立った。

 

「ぐぅうっ!!がはっ!!」

 

度重なるGに、まるで地面が爆発したのかのような激しい着地の衝撃に、全身の骨が悲鳴をあげ、頭の中で火花が散る。

 

『システム・チェック オールグリーン』

 

しかしそれに歯を食いしばって耐え、機体を操作しその場を離れつつ素早く周囲を走査する。周りは敵の反応だらけだ。敵陣のど真ん中に降下したのだ。当たり前である。

 

『アラート エンゲージ "ザクII"と断定 回避を推奨』

 

こちらを振り向いた"ザクII"にグレネードを投げつけ、命中は確認しないまま下がる。

 

「スチールー一等兵やバンダーボルト中佐の様にならんで助かった」

 

激戦の真ん中へ着地し、周りへ牽制射撃を加えつつコンテナユニットの落下地点確保を始める。

 

《ウィザード01より各機へ。状況を報告し、集結せよ》

「こちらブレイヴ01。異常無し」

《…こちらブレイヴ02。問題無い》

《こちらブレイヴ03!オールグリーンだYO!ライアン二等兵とは違いますよ!》

《な、なんて数……!》

《持ち堪えてくれ!!今行くからな!!》

《くそぅ!グエンがヤられた!吹っ飛んじまったよぉ!!》

《カードの貸しも吹っ飛んじまった……》

 

3機が"イージス"を中心に集結し、周囲に射撃を加え始める。ジオン軍は文字通り降って湧いたMSに奇襲され混乱し連携を崩していた。

 

《増援を!MSが!"ザク"が来る!!》

《こっちも手一杯だ!!くそッ!くたばれジオンのクソッタレがぁ!!》

 

降り立ったのはHLV発射台の近くだ。そのため噴射炎を出す堀とそのガードで複雑な地形となっている。

MSサイズでも十分に身を隠せるほどの大きさだ。

軍曹が"スローイングナイフ"でトーチカを吹き飛ばし、スモークグレネードを投げ込む。

 

「くっそ!!銃撃が激しいな!」

《周囲は敵だらけだよ!!》

《……落ち着いて撃て。無駄弾を撃つな…》

《こちらウィザード01より各機へ!ブレイヴ01、ブレイヴ03は正面を!ブレイヴ02は後方の敵を叩いて下さい!》

「了解!やってみせる!」

《手伝いますよ!》

《……多いな…やはり本拠地か……》

 

現在中尉達はそこに隠れ、周囲のMSを寄せ付けない様射撃を加えていた。

飛び出してきた"ザクII"を"100mmマシンガン"で蜂の巣にしつつ中尉が怒鳴る。煙を吐き出しつつ崩れ落ちた"ザクII"の機体が歪に歪み、大爆発を起こす。

 

「撃て!撃ち続けろ!!銃身が焼け付くまで撃ち続けるんだ!!」

《了解!!これでも喰らえ!!》

「どこ撃ってんだ!?軍曹!スモーク!!」

《……了解…!》

 

伍長がグレネードを投げつける。その爆発の裏から軍曹が射撃をし、また一機の"ザクII"を屠った。

投げ込まれたスモークが立ち込め、敵が攻撃を躊躇う。同士討ちを恐れているのだ。しかし、周りが敵しかいない中尉達にその心配は無い。

時間稼ぎの策だった。

 

《こちらウィザード01。コンテナユニット確認。予定通り落ちてきたようです。風に流されたり、迎撃された様子はありません!》

 

中尉が空を睨む。その視線の先には落下傘を開き舞降りるコンテナユニットがあった。

空からの救いの手だ。中尉達は降下するため手には最低限の武装しかない。

そのためコンテナユニットを投下し現地で補給する。そのためだった。

 

「来たか!!援護頼む!!」

《……了解》

《まっかせて!!少尉のジャマはさせないよ!!》

《攻撃ヘリです!上方に注意を!》

《…任せろ》

《伍長は"マゼラ・アタック"を!》

《はい!》

 

軍曹がヘリを撃ち抜き、伍長は"マゼラ・アタック"を蜂の巣にする。

2人とも確実に迎撃し一機たりとも近づけさせない。鉄壁の布陣だ。

 

《やっぱり変!!》

《ウィザード01からブレイヴ03へ。どうも降下時の気圧がメインセンサーに悪影響を与えた可能性がある様です。フォローします》

《はい!やた!》

 

そして遂に中尉達の周りに8つの投下されたコンテナユニットが降り立った。

 

「損傷は伍長機だけか」

《あんたら2人のには損傷は見られん。簡易的なバイザーを護るパーツが要りそうだな…》

 

それに駆け寄った中尉が"陸戦型ガンダム"を操作、"180mmキャノン"を組み上げて行く。

 

《隊長!急いで下さい!》

《小隊長!敵の一群が向かってくる。かなりの数だ!航空機も多いぞ!!》

「かなりじゃ分からん!!つーか今まで何してた!」

《少尉は気絶していました》

 

はぁ!?ヤワな坊ちゃんだなぁ!!

つーか気絶って……。ダサっ。

 

《うぷぷ〜少尉弱っちいですね!バイザーより少尉をまもるパーツがいりますね〜》

《…訓練を詰んでいないからな…》

《日頃のトレーニングを怠るからです》

《言うなよぉ!!くっそぉ!!》

《繋がりました。上空の"ミデア"からです。隊長の"陸戦型ガンダム"へと繋げます》

《11時方向距離400!敵2!3時方向距離800!敵1!全部"ザクII"だ!》

《……了解、迎撃する》

《多いよ!弾が尽きちゃう!》

 

ザザ…っと雑音を交えつつスピーカーがなり始める。

 

《12時方向発砲炎!》

《大将!聞こえるか!!》

「はい!今組み上げてます!2丁目(・・・)が今組みあがりました!」

《よし、コンテナユニットを組み上げろ!!間違えるなよ!》

《きゃあ!!》

 

爆発音がし、伍長の悲鳴が響いた。この音は"ザクバズーカ"だ。マズい!急がなければ!!

 

「無事か伍長!!損害報告!」

《左腕がイエローです!!シールドもヤられて…うわっ!!》

《ブレイヴ03!伍長!!下がって!!》

《1時方向からまた"ザクII"だ!くそッ!キリがねぇ!!》

《…フォローする。"ランチャー"を取りに行け》

《は、はい!》

「すまん!もう少しなんだ!なんとか持ち堪えてくれ!!」

《くぅぅ、やったりますよ!!》

《……了解》

 

くそッ!!急げ!!早く!!

 

よし!出来た(・・・)!!

 

『装備 換装完了 FCS HSL 再起動』

 

「準備完了だ!アイリス01、頼む!」

《はい!》

《かましてやれ!!大将!!》

 

中尉の"陸戦型ガンダム"は急いでコンテナユニットを背負い、()()()()()()()"1()8()0()m()m()()()()()"を()()()()

 

「よぉし!!どけぇ!!」

 

"180mmキャノン"が火を噴き、軍曹が牽制射撃を行い行動制限していた"ザクI"を吹き飛ばした。

 

「……Hasta la vista, Baby(とっとと失せな、ベイビー)!!」

 

マズルブレーキから猛然と煙を吐き出す"180mmキャノン"がもう一度撃ち放たれ、煙を吹き散らしつつ伍長を狙っていた"ザクII"に直撃し、その胴体を両断した。

 

《わぁ!!カッコいい!!》

「言ってる場合か!!重た過ぎてまともに動けん!フォロー頼む!!近寄られたら終わりだ!!」

《…了解》

《はい!ええい!当たれぇ!》

《友軍到着まで残り600秒!》

《10時方向より"ザクI"2機!続いて爆撃機だ!!ヤツらめ、自軍の基地の中でもヤるのかよ!!》

「軍曹!航空機は任したぞ!!」

《…了解……》

 

爆炎の奥から姿を現した中尉の"陸戦型ガンダム"は、人の形をしていなかった。

 

片膝を立て、しゃがみ込む"陸戦型ガンダム"の背には、()()()()()()()()()3()()()()()()()()()()()()()()()

 

通常通り背負われたコンテナユニットから、両肩の後ろに張り出されるように追加されたコンテナユニットの上にはレドームが設置され、それから突き出ている長い弾帯が直接両腕の"180mmキャノン"に接続されていた。

 

これが中尉達の苦肉策。圧倒的火力による弾幕を張り敵を寄せ付けないための装備、"拠点防衛用長々距離砲撃戦特化型装備"、通称"ハルコンネンII"ユニットだった。命名は中尉自身のものだ。理由は言わずもがなである。

 

かつて、火砲をヘリで空輸し迅速に展開、短時間の集中的な火力支援を行い、終了後は反撃される前に撤退する"アーティラリーレイド"と言う戦法が存在した。しかし、今回において逃げ道は無い。なら、敵を寄せ付けず、倒し尽くすしかない。

 

両翼の大型レドームと"陸戦型ガンダム"自身のセンサー、それに"イージス"のアンダーグラウンドソナーをデータリンク、それにより流れ込む莫大な量の情報を一手に集約し"アイリス"に搭載されたコンピュータで統括し、理論上では命中率96.8%を叩き出す拠点防衛用の即席換装装備だった。

考案は伍長。理由は絶対カッコいいからというアホな理由だったが、まさか使えるとは………。

 

「パーフェクトだ、おやっさん」

《感謝の極み》

 

さぁて、反撃開始だ。追い詰められたキツネは、ジャッカルよりも狂暴だぜ?

 

「……さぁて!準備はいいか!?」

《…いつでも》

《どこでも!!》

《「ロックン・ロール!!」》

 

圧倒的火力を持って"陸戦型ガンダム"が敵を蹴散らして行く。

トーチカ、砲台、MS、攻撃ヘリ、航空機、戦車……どれも近距離からの"180mmキャノン"を耐える装甲など持っていない。

二門の砲から放たれる鉄の爆風の前に、全てがゴミ屑のように吹き飛ばされ、哀れな残骸と化して行く。

敵が怯み、引き始めた。

その隙を逃さず軍曹が"スローイングナイフ"を直撃させ、伍長も負けじとグレネードを投げ込み"100mmマシンガン"で弾幕を張り続ける。

中尉もなんとか立ち上がり、歩きつつ射撃を行う。一歩歩くたびに丈夫なコンクリートが砕け散り、脚がめり込むも気にしない。

 

《隊長!ポイントデルタ58へ砲撃を!次はポイントエコー22へ!》

「了解!!」

《小隊長!曲射で炙り出せ!》

《凄い!凄い凄い凄い!!》

《……圧倒的火力だな……》

 

伍長はコンテナユニットから"ランチャー"を引っ張り出し追い撃ちをかける。軍曹は両手に"100mmマシンガン"を構え弾幕を張っている。

そうして敵を押し込み、前線を押し上げる。中尉達はそのための橋頭堡だった。

 

この"拠点防衛用長々距離砲撃戦特化型装備"は、短時間で前線に展開出来、"ガンタンク"並みの火力を叩き出す装備として開発されたユニットだが、実は弱点の塊としか言いようのない欠点だらけの即席兵器だった。

 

元々"ミデア"の積載量なら"ガンタンク"すら空輸が出来るが、前線への迅速な展開が出来なかった。

それに"ガンタンク"はその仕様から近接戦闘に滅法弱く、シミュレーターでも距離を詰められると為す術も無く撃破される事が多かったため、この様な装備が開発される結果となったのだった。

しかし"ガンタンク"以上の自由度の高い砲戦能力があるも、自衛力は"ガンタンク"以下であり、2機以上の直掩機による援護が必要不可欠だった。

その上"ガンタンク"と違い同時に2方向へ攻撃出来るが、その砲撃のための情報処理は外部に丸投げであり、また旋回性能、機動力も劣る。

その破格の重量から地面に脚部がめり込みほぼ歩けないのだ。そこは無限軌道を履いた"ガンタンク"には安定性は遠く及ばない。足の遅さも致命的で、他の兵器と連携し行動に追従出来ないのである。

組み上げ、装備するのにも時間がかかる。戦場においてその隙は致命的だ。

"ガンタンク"と違い0距離射撃の射撃位置が低いため懐に入られ辛く、また仮に懐に入られても白兵戦に対応出来るが、その際には装備をパージする必要があるためその後の火力もガタ落ちとなってしまう。

 

つまり空挺可能な劣化版"ガンタンク"という性能なのだ。その性能はお世辞にも良いとは言えない。

その使用目的も著しく限定的だ。

 

しかし、物は使いようだった。

 

《隊長!やりました!我々の役割は達成です!》

「援軍か!」

《少尉!"ロクイチ"だよ!凄い数の!!》

《全隊!前進!!火力を持って押し潰せぇ!!》

()()()()()()()()()()()()()()

《こちら"ミニ・トレー"級陸戦艇"エセックス"!ご苦労だったな中尉。よくぞ持ち堪えてくれた!あとは我々に任せてくれ!砲撃続けろ!航空爆撃隊も前に出すんだ!》

「こちらブレイヴ01。貴官の到着に感謝する。これより"ブレイヴ・ストライクス"は貴官の直掩に着く」

《了解。頼むぞ》

 

中尉達の後方から飛び立った"ドラゴン・フライ"に"マングースII"が飛んで行く。弾着確認のためだろう。

中尉達の周りに"ロクイチ"の大部隊が結集、同じく射撃を加え始める。

その後ろには指揮所兼前線基地である陸戦艇"ミニ・トレー"が続き、主砲を撃ち放す。

 

防御陣地が既に瓦解し、基地内に侵入され防衛ラインがズタズタに崩され、破壊し尽くされた"グアンタナモ・ベース"に防衛力はもう残されていなかった。

 

頭上を爆撃隊が通り過ぎ、前方の基地へ大量の爆弾を投下して行く。

 

既に戦況は掃討戦へと移りつつあった。

 

「……この基地も、もう終わりだな……」

《そのようですね。もうジオン軍に戦力はほぼ残されていないようです》

《どうします?攻め込みます?》

《……必要無いだろう。航空爆撃の邪魔になるだけだ……》

「だな……」

 

スラスターを吹かし"ミニ・トレー"の真上に着地し、膝を立て射撃の構えを取っていた中尉の"陸戦型ガンダム"が立ち上がる。

ガシャン、とほぼ撃ち尽くされ、銃身も焼け爛れ曲がってしまった"ハルコンネンII"ユニットがパージされ、地面に転がった。

 

砲撃と爆撃はまだ続いている。

 

火柱が上がり、黒煙が立ち込めて行く。

 

中尉は既に"100mmマシンガン"に持ち替え、軍曹、伍長と共に"ミニ・トレー"の直掩に着いていた。"イージス"はその隣でアンダーグラウンドソナーを展開中だ。

 

こう並ぶと親子みたいだと中尉は思った。親デカすぎるけど。

コレでも"ミニ"なのだ。"ビッグ・トレー"はどうなることやら……。

大艦巨砲主義だなぁ………。

 

30分後、歩兵が突撃して行く中、"グアンタナモ・ベース"からオープン回線での投降宣言がなされた。

 

戦闘が、遂に終結を迎えたのだ。

 

そしてそれは、ジオン軍の中南米における一大拠点、"グアンタナモ・ベース"が陥落した瞬間だった。

 

「……勝った、のか………?」

《……なんか、実感湧きませんねぇ…》

《……そうですね》

《……………》

 

激戦区だった真ん中で、中尉の"陸戦型ガンダム"はずっと立ち上る噴煙を眺めていた。

 

デュアル・センサーのグレイズ・シールドに反射し、映し出された噴煙には、まだ火花が舞い続けていた。

 

『三度やって駄目だったからもう一度やるんだ』

 

 

"大君主"の名の下に…………………




空挺作戦!サイコー!!

ちなみに使用されたパラシュートパックは08小隊OPの物と考えて下さい。あっちのがカッコイイので(笑)。


遂に出ました、デンドロビウム(笑)。

現地改修魔改造の一つだと思って下さいあのトンデモ君は。
元ネタはゼク・アインで、プラス例のアレです。まんまですが。

コレは長い事考えていて、絶対ヤりたいと思ったヤツです。まぁ、それなりにイケると思います。ガンプラでやったら思いの外180mmが小さくてショボかったけど。


次回 第四十五章 見据える先の未来には

「……一発あれば十分だ……」

お楽しみに!!


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第四十五章 見据える先の未来には

作戦を終え、ほっと一息。

そんな感じでよろしくお願いしまーす。


平和とは何だろうか?

 

戦争と戦争の間の、準備期間に過ぎないのか?

 

人は抗争から逃れる術を持たない。

 

しかし、平穏な時は必ず人に訪れる。

 

それは、どんな時でも。

 

戦争とは、何なのだろうか?

 

 

 

U.C. 0079 8.13

 

 

 

「……明日、ですか……」

 

それは、ちょうど仕事にひと段落がつき、休もうとした矢先だった。

 

「…また、急だな…」

「へー!何で行くんですか?」

「飛行機を出してくれるそうです」

「飛行機で行くのか」

「はい」

「"ミデア"かな?何かな?」

「あとお弁当出ます」

「いや、それはいいんだが」

「おやつもでるのかな?」

「何のお弁当がいいですか?」

「いや、それはいいんだが」

 

さっきからの上等兵の弁当推しはなんなんだよ。

 

「わたしはハンバーグカレーがいいですね!」

「……カツじゃないのか……」

「あっ、やっぱカツで!」

「経費で落ちる?」

「もちろんです」

「デザートはプリンがいいなぁ」

「ご飯も五目か赤飯かチャーハンか選べるそうです」

「白米はないんかい!偏っとんな」

「……五目だな。俺赤飯好きじゃない」

「うえぇ!?日本人なのに!?」

 

さっきからオーバーアクションだな少尉。うっせーぞ。

 

「うるせーな。少尉、お前どうした? 真っ昼間から喧嘩を出血サービスの大安売りか? 買うぞ?ちょっと待て、今薙刀持って来る」

「なぎっ……!!本気かよ!?こっちが流血しそうなので遠慮させてください!!つーか何!?何で俺にだけそんな殺意のトリガー軽いの!?」

 

なんかごちゃごちゃと。何だコイツ。

 

「…………軍曹、射的やろう。伍長も練習せにゃな」

「……そうだな…」

「はーい!」

「!?」

 

"喧嘩"が"射的の的"になった事に驚愕する少尉をよそに話は進んで行く。

本人は同意した軍曹伍長に驚いているようだった。なんでコイツこんなに騙されやすいの?

 

「伍長はデザートイーグルか……軍曹は?」

「……ウィンチェスターを…」

「ちょぉい!!……そのマジな表情でマテバを引き抜かな……」

「で、何だっけ? デコは50点、目は30点だったか」

「ちょっとォぉぉ! その遊びどう転んでも死人が出ますよねぇ!ねぇ!?聞いてる!?」

「鼻は40点にするか……」

「うぉぉぉぉぉぉおおおいいいい!!!!上等兵もグロックを確かめるな!!」

「しょーいー、白目剥いてー?書き込めないー」

「安心しろ、一発だけなら誤射だ。特にそれが後ろからなら、な……」

「……一発あれば十分だ……」

「言ったら台無しだろーが!!モロ殺しに来てんじゃねーか!!」

「少尉。煩いです。静かにして下さい」

「俺が悪いのかコレは!?」

「隊長も辞めて下さい。弾丸が勿体無いですし、飛び散った血の飛沫を拭き取る掃除をするのは大変なのですよ?最前線の軍事施設ですからハウスクリーニングも頼めませんし」

「……俺の身を案じるヤツはいないのか……?」

「冗談だよ、うっせーな」

「……目ぇ見て言ってくんね?」

「……冗談だ…」

「無表情で、未だ武器を用意しながら言われても…」

「…折角ゴム弾装填して来たのに……」

「!?」

「私も冗談は言っていません」

「………………」

 

因みにゴム弾、実弾より痛いと好評である。流石紳士の国リターンズ。

 

ここは"グアンタナモ・ベース"仮設基地だ。

制圧というより丸々吹き飛ばしてしまったので、未だに全く復旧など出来ていないのだった。復旧より新しく作り直した方が早いレベルである。なので現在基地機能の復旧中であり、連邦軍人以外のA.E.Iの人間なども多く入り込んでいる。

 

しかし、局地的勝利とは言え、連邦軍の東南アジア方面軍の機械化混成大隊(コジマ大隊)に続く連邦軍の2回目の勝利だった。

こちらの損耗も少なく、基地はこんなだがかなり盛り上がっていた。

 

そんなこんなで中尉達は基地の瓦礫撤去に駆り出されていた。

しかしMSは度重なる激戦に続く激戦で、既にあちこちにガタが来ていたため、使用不可能だった。

 

速攻でぶっ倒れた伍長に、常人の数倍以上の作業効率の軍曹、ほぼ破壊し尽くされていた基地機能の復旧やデータサルベージなどを行っていた上等兵と少尉がこのように集まれたのは、作戦以来だったが……。

 

「……全く、休む暇すりゃありゃしねぇな」

 

復活した少尉が言った。やはり立ち直り早いな。こんにゃくメンタルと名付けよう。斬鉄剣でも切れない。

………ん?ちょい待ち……あれ、峰打ちすりゃノーマルな圧力で斬れたんじゃね………?

それに刺しゃええやん。

 

「貴方は隙あらばサボっていたじゃないですか」

「ゔっ!!」

「……呆れたものだ…」

「……ったく…それで、行き先はどこなんです?」

「予定通り東南アジア方面です。現在地球上で最も激戦区だと言われています」

「……ふむ……」

「……東南アジア……近場の、"マドラス・ベース"を軸に……か…?」

 

東南アジアか……おやっさん言ってたな、もし"陸戦型ガンダム"が配備されるとしたらそこだろうと……。

今度はそこが戦場になるのか……。

え?"マドラス"って東南アジアじゃなくね?

 

「大将!ここにいたか!」

「おやっさん!話は聞きましたよ。東南アジアですか…」

「あぁ、だが、その前にジャックから大将へラブコールだ。良かったなオイ」

「……准将から……?はぁ…」

 

嫌ーな悪寒がするなぁ……。予感じゃねぇよまぁたロクでもない事になりそうだ。七面倒な。

 

「なんですかね?新しいMSとか?」

「んな簡単に出来たら苦労しねーよ。別件だろうな」

「移動の辞令でしょうね。おそらく」

「……また、湿度が高いところへ……」

「アジア広いし、もしかしたら砂漠か……それか?」

「? どーゆーことです?」

「砂漠での作動テストか?」

「防塵対策が必要ですね」

「確かにキットにはあったな……」

 

喋りながら通信室へ。

ここは一番初めに整備された部屋だった。というか、"ミニ・トレー"の予備パーツをはめ込んだに近い。

グラスファイバーが生きていたのは僥倖だった。やはり有線だ。アナログはアナログだが、それほど使われて来るほど信頼性が高いという裏打ち付きだ。その最たる例と言えよう。

 

通信室前の憲兵(MP)に敬礼して部屋へ。質素だが最低限の設備、いやかなりの設備が揃っていた。

 

前面に設置された大型スクリーンに明かりが灯り、ジョン・コーウェン准将の姿が映し出される。

なんか、かなり久しぶりな気がしていた。

"ジャブロー"を発ったのはいつだっけ?後で日記を見直そう……。

 

『久しぶりだな中尉。活躍は聞いておるよ……』

「恐縮です」

『そう畏らんでいい。儂と中尉の仲じゃないか』

 

知るかんなの。面識しかねーよ勝手にカテゴリーを変えるなや。

 

「そうだぞ大将。コイツにヘコヘコする必要はねぇって」

『……お前は少しは敬意を払おうとは思わんのか?』

「まったく?だって、俺と、お前の、仲、なんだろ?だから、その(よしみ)で休暇くれよ?休暇、なぁ?どうせ"アレ"の準備にも時間はかかるしな」

 

メチャクチャ言ってっぞこの人。妖怪休暇置いてけだ。出来れば巻き込まんで欲しい。休暇とか要らないから。

 

「はーい!さんせー!わたしも休暇欲しいです!!」

「伍長……お前……部下の非礼をお詫びします………」

「はぁ……」

「…はぁ……」

「……あー、俺も、欲しいかなー、なんて……ふはっ……」

「おらー、部下の疲労も蓄積してんだよ。MSも今どっちみち使えん。さぁ寄こせ」

 

メチャクチャ言い出したよ。伍長はともかく、少尉悪い影響受けてね?

 

しかも准将、八つ当たり半分のような顔で中尉に核爆弾級の発言。

 

『………中尉は、どう思う?』

 

ここで俺に聞くかぁぁぁぁぁぁぁああ!?

ふざけんなここまで来て丸投げか!?

 

「………ど…」

『「ど?」』

「…………どちらでも、宜しいかと…………」

『「…………」』

 

あれ?何?最悪な答えを叩き出したか?

伍長に少尉、そんな顔すんなよ。本当にどうでもいいんだよ俺は。

 

『はっはっはっはっ!……中尉ならそう言うと思っていたよ……』

「は、はぁ……」

「俺もだ。ヘタレ大将?」

「……中尉、気にするな……そこも、美徳だ…」

「そうですよ隊長。軍曹の言うとおりです」

『ふむ……ならば、伍長と上等兵が儂に頼んだら……』

「休暇下さ〜い!」

 

はや! でもそれ、人にモノを頼む態度なのか?しかも目上の上司に……。

准将だって……なんかものっそい優しそうな目ぇしてるぅー!!

完全に孫娘を見る目だコレ!!

准将よ、お前もか。

 

「上等兵!お願いだ!!頼むー!」

「貴方に頼まれたら急にやりたく無くなりました」

「…………」

「……うぅ……上等兵さん………」

「えっ!あっ……え〜っと…」

 

向こうでは上等兵が珍しくあたふたしている。伍長の涙目に負けたか?

その様子を見ていた准将が口を開いた。

 

『はっはっはっはっはっはっ!元よりその気だよ。安心したまえ……次の目的地、東南アジアへ向かう際、日本に寄り、3日間の休暇を与える事を許可しよう!』

「わーい!!准将優しい!!パンダコパンダの国だぁ!」

 

伍長違うそれは隣だ。それにそれでもノーマルなパンダしか居ないと思う。

 

「いーっやっほぅ!!!!日本だ!!」

「すみません准将。しかし……」

『まぁまぁ中尉。上司の好意は、ありがたく受け取るのも部下の仕事だ』

「はぁ?短くねーか?どんだけ俺たちが働いたと思ってんだよ……お前みてーにケツでイスを磨くのが仕事じゃねーんだよ」

『いいや!コレが最大の妥協だ!!これ以上やるわけににはいかん!!他の部下に示しがつかんのだよ!!』

「んなもん俺にゃ関係ねぇんだよ!!グダグダ言ってねーで休暇伸ばせ!!ここらの大ヒル箱一杯に送りつけたろうか!?」

『なぜそうも的確かつ腹立つ嫌がらせを思いつくんだ!!前も凄まじい偽装技術を駆使し税関その他を潜り抜けさせ同じ用な事を……!!』

 

何やってんだよ!!小学生かっ!!

つーかマジやったんかい!!

高い技術を無駄遣いするケースの典型だな。とんでもないのが技術と地位を持って本気出すとホント手がつけられ無いな。

 

「おやっ…整備班長……いいですから…。お…私は別に……」

「そうですよ整備班長。隊長の言うとおりです」

「だからー大将!コイツの前で畏まらなくていいっつーの!上等兵も、俺にゃ敬意は払わんでいいっつーの」

『………お前は軍隊を何だと思っているんだ………?』

「うるせ〜今テメーに話しちゃいねぇよ!あーもう分かった!モルガンテンでどうだ!?それで5日だ!」

 

まさかの賄賂。とんでもない事になって来たぞコレ……どーすんの?

 

『………何年物だ?』

 

応じるなよ准将。しかも酒かい。

 

「ふっ、聞いて驚け、25年物だ。しかも輸入元はヴェズンリカーだぜ?保証書付きだ」

『何!?"グラナダ"本店のか!?』

「勿論。これでどうだ……?」

「……ううむ……」

 

"グラナダ"って………。今、ジオン勢力圏内じゃねーか。

 

「……ねー、軍曹軍曹、ヴェズンリカーって凄いの?」

「……月面"グラナダ"市のモンテレー区、リバーサイド101……"グラナダ"完成の頃からある老舗だ……」

「私の父も行っていましたね。いいお酒が揃っている様です」

「くっ、持ち込みゃよかった……」

「……高いのか?」

「……25年物になると……9000ドルは下らないな……」

「ぶっほぉッ!!」

 

なんだそりゃぁ!!

今の為替レートで大体でもいいから日本円にしたら………うわっ………。

 

「……上等兵さん上等兵さん、それは何ハイトくらいですか?」

「……今の為替レートなら3592ハイト18クールですね」

 

そして『へー』とぐらいしか思っていない伍長と上等兵はやはりお嬢様だった……。

中尉と少尉の庶民2人には分からない話だった。ポカーンである。

 

それにしても、共通通貨とかないのかね……¥€$(イエス)的な……あっても速攻で廃れそうだけど……。

 

『………んむ。仕方がない。仕方がないのだよこれは……』

「はっ。ありがたく思えよ?」

『……どの、口が……!!……というより、お前には名指し指名で特命だ。残念だったな』

「……分かった。だが、こいつらにはしっかり休暇を与えてやってくれよ?」

『分かっておるわい』

 

とんでもない口きいてますが交渉が終了したようです。

大人って……そう思いました。自分はまだまだ子供なのだと……この反省を活かし、今後の糧にしていきたいです。おわり。

准将はまだ苦い顔でブツブツ言ってっけど。

 

『………それでは、言いたい事はかなりあるが……以上で終わりだ……』

「はい。失礼します……すみません……」

『………………』

 

ブツリと映像が途切れた。はーっと溜息をつく。伍長は興奮し、上等兵はいつもと変わらないが、やや嬉しそうにもみえた。

軍曹は何も変わらない。おやっさんはガッツポーズをしていた。少尉はまだポカーンである。

 

「よぉーし!休みも分捕った!良かったなぁ大将!!」

「……ってそんな凄い物を!?」

「んあ?んなわけねーだろ?値切ったわ。レイノックスの4年物にした」

 

いや、分からないんですけど……。でも、聞きたくもない。

 

「……近年発表されたワインだ……高くは無いが…その独特の風味と、生産量の少なさから稀少価値が出始めてる……」

「そ、そうなの……」

 

何でも知ってんのな。軍曹……。

 

「そのワインは初耳です。お詳しいのですね」

「……いや、特には……気になるなら、クラウディア社の"グラスキュート"か、A.Eクレジット社の……」

「ケチケチしやがってなぁアイツ……どっちみち日本に長く寄るこたぁ知ってっくせに……」

「はぁ……5日か……キョウト、ナラ、オーサカ、トーキョー、ナゴヤ、ハコダテ………だぁーっ!!行きたいところが多過ぎる!!永住したいぃ!!」

「……どこ行きたいんだよ」

「細かく言うと全部で27264862箇所だな。全部言おうか?」

「諦めろバカ」

「ねっ、ねっ、少尉はどうするの!?ねぇねぇ!」

「うーん…おやっさん、日本のどこに用があるんです?って、おやっさんは行くんですか?」

「おお?"クレ・ドッグ"だ。知ってるだろ?でも俺は行けなくなった。少尉に一任する事にした。休んでる暇は無いぞガーデルマン」

「うええっ!?俺の休暇は!?」

「ねぇよんなもん。牛乳飲んだら出撃だ」

 

もちろん!!おおっ!!近い!近いぞ!!

これで、"あの本"も交換……いや、そのまま持つか……。

 

「……実家に、顔出すか……な………」

「!…………!………ふふふっ……」

 

懐かしい。主要な軍港や基地はほぼ全部回ったからなぁ……ん?呉?

 

「……何しにですか?」

 

おやっさんが振り向いてにやっと笑った。

 

「言って無かったか……色々回った時、パイプ作っておいてな……」

 

最高に楽しそうな顔で、こう言った。

 

「俺たちの"母艦"を受け取りに行くんだ」

 

 

『艦は、いいものだ………』

 

 

まだ見ぬ明日に、希望を抱いて……………………




カリブ海激闘編、終了!!

次回から、中尉の夏休み編が始まります(笑)。戦闘?戦争?ナニソレ?美味しいの?
いいえ、知らない子ですね(笑)。

苦手な日常パートを如何に書くかのテストになると思います。頑張ります、なんとか。
連邦軍はいつでも余裕たっぷり(笑)で、フツーに休暇とかあります。第二次世界大戦の時のアメさんと同じですね(笑)。
常にいっぱいいっぱいのジオンでも休暇はありましたし。


次回 第四十六章 フライング・イン・ザ・スカイ

「……という事は…この泥棒猫………」

お楽しみに!!


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第四十六章 フライング・イン・ザ・スカイ

夏休みといえば、皆さんはなんでしょう?

今は桜の季節ですが、中尉は花見は出来ませんでした。

その分楽しんでもらいたいものです。

バカ・ゴー・ホーム!!


日本国。

 

日の本の国。

 

連邦政府設立に大きく貢献した、世界の認める経済特区。

 

最先端技術と古の伝統を受け継ぎ、調和した混沌を併せ持つ国。

 

中尉の、故郷。

 

 

 

U.C. 0079 8.14

 

 

 

「うわぁ………やっぱり世界は綺麗だなぁ………海!うーみー!!」

 

伍長が窓にへばりついてはや数時間。"ミデア"は順調にその歩を進めていた。

 

現在"ミデア"は太平洋上空を飛んでいる。

雲一つない青空はどこまでも蒼く、穏やかな大海原はどこまでも碧く。

 

水平線の彼方まで続き、一つとなる。

 

ただただ青い静かな世界の中を、"ミデア"は舞う。

 

戦争なんてどこにもない。

 

ジオン勢力圏内らしいハワイ諸島を避け、"ミデア"は日本を目指す。

"ジャブロー"からの情報によると、"キャリフォルニア・ベース"の潜水艦部隊丸々拿捕され、その足で墜とされたらしい。バカだろ。

 

「ひこぉーきぐーもーふふふふーん…」

「……久振りだな……日本…か………」

「……やはり、嬉しいか…?」

「まぁ、な……"キャリフォルニア・ベース"で墜とされてから、よくここまで生きてきたな、と……」

「…隊長は、あの激戦を生き抜いていたのですか?」

「うん?言いませんでしたっけ?」

「はい。初耳です。という事は、軍曹や伍長も?」

「そうですよ。おやっさんもです。そこから"ザクII"分捕って、"ジャブロー"まで……」

「……まるで、物語(フィクション)だな……」

「全くだ」

 

嵐も無く、トラブルも無く。"ミデア"は"El Mare Pacificum" (平和の海)を越えて行く。

 

「でも、隊長はよくこの休暇を許可しましたね?てっきり拒否するものかとばかり思っていました」

「……確かに、少し思っていましたが、休むのも仕事ですし、皆さんにも休んで欲しかったですから……」

「……中尉らしい、な…」

 

まっ、俺のモットーは、『食う寝る働く、その合間にホンのちょっとのお遊び人生』だからな。

そんなもんですよ。

 

少尉は整備班達と格納庫だ。

なんでもデータ回収に修理、テストなどが全く終わってないらしい。

"母艦"の事もあるため、今のうちという事らしい。

………一番休むべき人が休んでねぇ…………。

 

「きっと、あの雲の中にラピュタがありますね……」

 

さっきから伍長の独り言が爆笑過ぎる。しかもジブリばっか。

ねぇから!竜の巣じゃねーからそれ!!

 

なので特にやる事もない中尉軍曹伍長上等兵は休憩室で時間を潰していた。

あまりに暇なのでポーカーをやってみたが中尉1人ボコられる結果となり、結局おしゃべりだった。

 

「…コーヒーだ…」

「ありがとう。うん、旨い…」

「?…前とちょっと違いますね。こっちの方が私の好みです」

 

えっ、マジで?気づかんかった。

 

「…キリマンジャロと、ジャブローの相性がな……モカマタリを、5%減らした……」

「そうなんですか。コクが深まっていい感じです」

「……そうか……」

「…分からんかった……」

 

因みにポーカーの順位は軍曹トップ、その下に上等兵、ほぼ並んで伍長、その遙か下に中尉だった。頭良すぎに勘が良すぎの超人集団に凡人は勝てなかった。

 

「……あの、軍曹……」

「…何だ…?」

「……休暇の、予定とか……ありますか?」

「…………」

 

軍曹が考え込む。そうか、休暇か……。

 

因みにあんなに喜んでいた少尉の休暇は結局MS整備と"母艦"受領もあり無しになったらしい。爆笑必至である。

おやっさんは特命で"オーガスタ"へ向かったが、その事は元から知っていたらしく、伸ばしたのは中尉への昇進祝いとの事だった。

 

『楽しんで来い』

 

その言葉に涙ぐんでしまったのは当前だと思う。そう思いたい。

おやっさん……ありがとう。

 

因みにおやっさんは極秘の任務のため"オーガスタ"へと向かったが、中尉にだけその内容を話していた。

 

現在"オーガスタ"では新型MSを"ガンダム"ベースで開発を始めており、その中心メンバーとして抜擢されたとの事だ。

その計画とは"G-4計画"と"ガンダム・セカンドロット計画"、それに"RX-80(次期主力機開発)計画"と言うらしい。

 

"ガンダム"を中核に置いた、次世代新型MS開発計画を並行して行うとの事だった。

試作型に量産型、次期構想機や実験機などを複数のチームに分かれ製作、統合を繰り返し総合的な機体を作る一大計画との事だった。

ヴィックウェリントン社やA.E社、YHIにハービック社やレールス・フライテック社などを初めとする連邦側大企業の社員も多くが参加するそうだ。

 

つーか、次期主力って……まだRX-79すら本格生産出来てないのに……。

気が早いなぁ……いや、普通か。

 

軍隊には常に新しい兵器を開発し続ける宿命がある。そして限られた予算の中で兵器をいかに効率良く開発し運用するか、ということに関しては敏感だ。

 

……今の連邦軍はそう思えないのが現実だが………。

 

「……隊長は…?」

「うん?実家に帰ろうかな?くらい?か?」

 

ホントにただそれだけ。

なんも考えてなかった。

 

「……ふむ……」

「あっ!休暇の話ですか!混ぜて下さい!」

「……中尉はVIPだ。護衛は必須…ボディガードとして同行させて欲しい…」

「…いや、俺そんな偉い?すんげーありがたいけど軍曹も気にせず休暇を…」

「伍長はどうするんですか?」

「え?少尉と一緒にいますよ?」

「え?」

「えっ?」

 

いや、俺実家帰るんだけど。話聞いてた?

 

「…観光とかしないのか?俺ん家来てどーすんのよ?」

「…観光、か……中尉、観覧車はあるか……?」

「うん?いや、無さげだった気が……つーか伍長?俺ただ家帰るだけだよ?」

「はい!ついて行きます!」

 

なんでやねん。意味が分からん。

軍曹はともかくなぁ……。俺のモットーは『状況は最高を、備えは最悪を』だからな。

 

「………軍曹、予定無いならボディガードついでに一緒に来るか?観覧車は無いけど温泉はあるよ?」

 

つーか軍曹観覧車好きなの?意外過ぎんだけど。

 

「それより少尉海はありますか!?」

「近いよ?だから俺ん家より海行ったら?」

「いいえっ!少尉と一緒に海行きたいです!」

 

伍長?俺そんな事言われたら勘違いするよ?それでもいいの?

つーか海好きな。俺もだけど。

 

「海好きだねぇ伍長」

「はい!だって海はいいですよぉ、ザザーンの部分が堪らない」

 

また抽象的な魅力をどうも。

 

「…軍曹、それは決定なのですか?」

「…あぁ。傭兵時代やっていた。任せて欲しい……」

「…いえ、そうではなくて……隊長、実家はどちらに?」

「うん?山陰地方です。言って分かります?」

「…私も同行してよろしいでしょうか?」

 

は?

 

「えぇっ!?そんなムリして付き合わなくていいんですよ!?」

「…いえ、その……」

「上等兵さんも来るの!やった!一緒に海に行こうよ!!」

「いえっ!しかし…」

「「…………」」

 

軍曹と顔を見合わせる。どうしてこうなった。

いや、ウチ古いけど空き部屋いっぱいあるから別に俺は構わんけど……何しに?

 

「…護衛対象は、固まっていた方が…」

「…ウチは別にいいですけど……いいんですか?観光とか……せっかくなら京都とか行ったらいいのに…」

「じゃあ決定ですね!!」

「……すみません。わたしの我儘を…」

「…という事らしい…世話になっていいか?」

「俺は構いませんけど…両親も歓迎しそうですし……」

「少尉の家だーっ!!うふふ~」

「お世話になります」

 

上等兵がウチに来る……少尉聞いたら発狂するんじゃね?

 

ガラン、と何かが落ちる音に振り向いた中尉が凍りつく。

 

曲がり角から覗いた少尉がスパナを取り落とし、壁に爪を立て唇を噛み凄まじい形相でこちらを伺っていた。最悪のタイミング過ぎんだろ。

つーかすげーな、その内壁スチール製だよ?

 

その後ろでわらわらと集まっていた整備兵達は腹を抱えて笑い転げていた。俺もそのノリで……ムリですよねー。

 

「しょうたいちょー?今の話……」

「ふふふ…うははははははっ!!ひーっひっひっひっ………あークッソワロタ」

「みなさぁーん!?笑って無いで少尉を止めてくださいよ!!

なんか怖い!目が怖い!!ヤベェぐらいに目が笑ってねぇ!!その目、誰の目!?」

「さぁっ!貴様の罪を数えろ!!伍長!上等兵を誘惑したお前も同罪じゃボケぇ!!」

「ええっーっとぉ……どこまでがなんの罪なんですかねぇ……数え切れません!!6こくらい?」

 

安心しろ。俺もだ。でもそんなには少なく無いと思う。

 

「少尉?貴方に私を左右する権利はありませんよ?」

「……という事は…この泥棒猫………」

 

お母様!?なんて言ってる場合じゃなさそ……。

 

「うがぁーっ!!死ねぇぇーっ!!」

 

ドスッ。

 

「うぐほぉ……っ!!」

「わぁお!少尉!『ボディがお留守だぜ!』って言ってキメて下さい!」

 

突然殴りかかる少尉へ中尉が冷静に対応、鳩尾への強烈なカウンターの一撃で崩れ落ち床に沈む少尉。そのヤられ方が妙にカッコいい。何だコイツ。

 

「……ひーひー…腹イテぇ…モッテモテですね中尉!羨ましい限りですぜ」

「はっは。羨ましい限りですな。おっと、今のは家内には内緒で」

「何でそんな話に?

……皆さんは結局付きっ切りですか?」

「まあな。願っても無い事だがな。気にすんなよなー?」

「はっは。気にせずともよろしい事ですな」

「そーですよ隊長。おやっさんもいません事ですし」

「すみません」

「…整備班、護衛は任せて欲しい…」

「あぁ、頼んだぞ?」

「隊長も、拳の語り合いは終わったか?」

「拳というのは時に、口よりも多くの言葉を語るのですっ!」

「…なんとなくわかる気がしなくもないですが……語り合ってどうするんですかね?」

「対話ですね、物理の」

「それでも届かない時もあると思います…今とか…」

 

つーかそもそも語ってない語ってない。一方的過ぎだから。一方通行だったから。光もビックリするレベルの真っ直ぐ具合ないいベクトルでした。

 

「……」

「そういう時は、蹴りましょう」

「鬼だなおい!!」

「うぐおぉぉぉ……やりやがったなぁ……」

 

復活した少尉が立ち上がる。足腰生まれたてのバンビ並みにガックガクしてっけど。

 

「………気のせいだろ。その気になれば痛みだって消せんじゃねぇの?」

「そんなわけがあるかぁ! 痛覚は無視できない人間の正常な感覚機能だろうが!!」

「うるせぇぇ!!なら麻酔打ってボコボコにしたらぁっ!!」

「それは死ぬ。マジに死ぬ」

 

うん。やっぱコイツからかうのオモロイわ。言えるし返してくれるのはイイよね。キャッチボールというよりバッティングだけど。

まぁ、将来的に、MSだって野球ぐらい………。トランスフォーマーだってアメフトもバスケもやるし……。

働いてくれ司令官(イボンコ)……ペッチャンコにするぞ?

だから謎なんだよ。だから敵が空飛ぶエビでトランスフォームしたら凄まじく弱体化するんだよ。敵の弾は1ドットだし。

 

「ところで少尉、本題は?」

「朗報だ。"ジーク"でも"ヤリ"が使えるぞ?おやっさんの置き土産でな…」

「えっ?どういう事?」

「取り敢えずコイツを見てくれ、どう思う?」

 

ぞろぞろと整備班達が持ち場へと戻って行く中(←もはや何のために来たんだよ)、少尉にペラペラしたフィルムのような物を渡される。ナニコレ?

 

「すごく……薄っぺらです……」

「そうだろー?って違う!!」

「何ですソレ?ネガ?」

 

久振りに聞いたぞネガなんて言葉。別にカメラとかに拘りねぇし俺。

 

「…! 始めて見た…」

「"デジタルペーパー"ですね。しかしコストの問題から……」

「あぁ~」

 

思い出した。"デジタルペーパー"。

ある日本人がSFの様な携帯電話作りたいとか言って開発したヤツだ。なんつー理由だよ、オイ。

 

言うなれば超薄型スクリーンで、ペーパーという名称だが実際にはフィルムような素材だ。しかしながら書ける程度の剛性はあり、折り曲げても折れず疲労も起こさない新素材を用いている。

 

内部はナノサイズのチューブが網目のように走り、圧力に反応し電子的に励起される構造となっており、タッチペンのような電子ペンを使って物を使って自由に書き込みの編集が出来る。

また端末に接続することで普通の紙のようにデータを"プリントアウト"することも可能だ。

紙に代わる新素材として普及するかと思いきや、そのコストの関係から見送られた悲しき存在。

 

因みにその携帯電話も、口紅くらいの筒からそのペーパーを引き出して使用するという近未来チックな一品だったが、小さくて使いづらいバッテリーの消耗が早い画面小さい基本的な携帯電話の機能しか使えない充電器が専用イヤホンジャックが無いコスト高い捜すのが大変と速攻で消えた。

 

しかしこの技術はカードやプラスチック製の紙幣へと応用され、結構役に立ってるらしい。

 

「コレ使ってんですか?」

「ウチの整備中隊で試験的に低コスト化に成功した物を導入する事となったんだよ。おやっさん新しいもん好きだから……どうだ?まぁ、後は……"ガンダム・ハンマー"の改良計画は上に通しておいたぞ?鎖をワイヤーに、それを巻き取るためのウインチユニット追加に、トゲの強化に、本体加速用のスラスター追加だっけか?」

「ごくろーさん。

……俺はもう使わねぇけどなアレ」

「もったいねぇなぁ……」

「それは置いといて、このペーパー、いいな、中々……今までのチェック端末より軽いし……これか?"ビームジャベリン"?」

「えぇ~ヤリですかぁ……要りません……」

 

さっき開口一番ヤリって言ってたじゃん……伍長……。

 

「そうだ。詳しくはソレを見てくれ。エミッターを解除したらその形態に変化した。大将なら使いこなせるだろとの事だ。やったな、コレで中尉も"ジーク"も百人力だ」

 

デジタルペーパーに表示された"ソレ"は、まさにジャベリンだった。

少尉曰く制限装置を解除することで、通常の"ビームサーベル"がこの形態へと展開するとの事だ。

"ビームサーベル"に比べ展開範囲が狭いためビーム圧縮率が高く貫通力及び破壊力があるが、先端にしかビームがないため取り回しが不便であり、使いこなすには慣れが必要であるらしい。

 

因みに"ジーク"は中尉の搭乗する"陸戦型ガンダム"の愛称だ。

0番機だかららしい。それ意外にも"ガンダム"や"00"(ダブルオー)、"ゼロ"、"レイヴン"、"G"など様々あったが、気がついたら"ジーク"に統一されていた。

恐らく"零式艦上戦闘機"(ゼロ戦)の愛称がモチーフだろう。フツーに"ゼロ"って呼ばれてたらしいけどさ。

 

アメリカ人の"ゼロ戦"(ゼロ・ファイター)好きは異常とも言える。誇らしい反面複雑だわ。

 

因みにアメリカに個人で保存されていた機体はまだ飛行可能だ。前乗った。

 

「うん?この"コーティング"って何だ?」

「……気になるな、A.Eのか……?」

「聞いた事があるかも知れません」

「その通り。それはA.Eから回って来た試作の特殊塗料で、なんでも高温に対し凄まじい比熱を持って蒸発する事で、簡易的な"ビームバリアー"となるらしい。

さしずめ"ビームコーティング"とでも言うものか?それも試してみろってさ」

 

すっげぇ。マジかそれ。ルナ・チタニウムと合わせまさに"最強の盾"だな。強欲(グリード)だねぇ。

 

「……はぁ。と言っても……」

「敵にビーム兵器持ちは居ない。しかし、ヒート系格闘兵装は先端がプラズマ化してんだ。少しは使えるだろうと思ってな……」

「えぇっ!?そんな凄いのなら全身に塗れば無敵じゃないですか!?」

「それはムリなんじゃね?」

「……どうなんだ…?」

「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ…」

 

少尉が答えた。

アレ?少尉始めて技術少尉らしい事してね?

つーかお前の方がガキじゃボケぇ!!

 

「結論から言うとムリだな。その塗料はかなり高価で、なおかつ耐えるといっても低出力ビーム数発程度。それに、MSはダクト以外では装甲から廃熱を行うんだ。あっという間に劣化しちまう……それは物凄い限定的な場面でしか使えねぇんだよ…まぁ、シールドか……機体のごく一部ぐらいか?」

「まぁ、だろうなぁ……」

「なぁんだー」

 

そうか。そうだよな……『何かを得ようとするなら、それと同等の対価が必要』って錬金術師の皆さんが言ってるもんな…………。

 

「……?」

「どうした?伍長?お腹空いたのか?」

「いや、少し空いてますけど……違います」

 

突然何かに反応したように顔を上げる伍長に、中尉が問う。

中尉はその行動に既視感(デジャヴ)を感じていた。たまにあるアレだ。

 

「機長さんとお話出来ますか?」

「? どうして?」

「いや……何か嫌な予感が……」

「よし、話をしよう」

「そうだな」

「隊長は信じるのですか?」

「そうだぜ?こんな小娘の…痛い痛い痛い!痛いって! 痛いです! 肘つねらないでっ! 何だこの地に足のついた痛さ!」

「……何をして欲しいんだ…?」

「……うーん……?」

『何だアレは!?』

「「!?」」

 

全員がその声に反応し、操縦席へ向かう。さっきまでの雰囲気は一切無かった。

 

「機長!情報を!」

『前方10時方向に黒煙多数!』

 

10時方向……?今の位置なら……"ミッドウェー"か!?

 

「少尉!!見て!!」

「!? 艦が!!」

 

蒼い空と海を汚す、火花舞い散る黒煙の中、多数の戦艦が火を噴き、その巨体を偏らせていた。

更に爆炎が重なり、轟沈、爆沈して行く。

 

「…………」

「……太平洋残存艦隊か……!」

「救助は!?」

「機長!高度は落とせるか!?」

『ムリだ!どのみち"ミデア"じゃ着水出来ん!!それに、今降りたら日本まで辿り着けん!!』

「!……クッソ!!」

 

艦隊の殆どが何らかの損傷を受け、火を噴きつつも回頭、艦隊は落伍艦を出しつつも撤退を始めた。

 

壊滅(・・)だ。再編成には、長い時間を要するだろう。

 

「「…………」」

 

連邦軍は、確実に追い込まれている………。

 

この戦争、勝てるのか……?

 

つーか、休暇とってる場合か、コレ?

 

 

『運命の5分間』

 

 

数多の血を吸おうとも、海は蒼い………………




U.C. 0079 8.11。連邦軍太平洋艦隊の残存戦力は結集し、公国軍に占領されたハワイ本島奪還作戦を決行。「ミッドウェー海戦」が開始されました。

U.C. 0079 8.14。連邦軍太平洋艦隊の残存戦力、ミッドウェー海戦において公国軍水陸両用MS隊の反撃を受け、壊滅的打撃を被り敗北。

中尉はそれを目撃した形となりました。

いきなり暗い影を落としてますが、中尉の夏休み編、続きます。

因みにポーカー、中尉は別に弱くはありません。周りが規格外過ぎるだけです。

ガンダムハンマーに続き、ビームジャベリンの登場です!!

現在、バズ2つ、母艦、ジャベリンと新武器や装備のみが溜まって行ってます(笑)。使い切れるかなぁ……。

因みにジーク以外にもHampというあだ名がありましたが、ジークの方がかっこいいので(笑)。メタルギアの名前にもなってるし。

次回 第四十七章 河を渡って木立を抜けて

「ふっ、気にすんな。変な奴に変な質問をされたところで気にしねーよ」

お楽しみに!!


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第四十七章 河を渡って木立を抜けて

未来、というものは想像するだけで楽しいですよね。

未来予想図は見ていて面白いし、希望も湧いて来ます。

けれど、そうなる事は少ないですが。


故郷の土を踏む。

 

土地を離れた人間にとってこれ程の喜びは無い。

 

人は、決して故郷を捨てる事など出来ない。

 

その土地で何があろうとも、必ず人はそこへ戻る。

 

はずだった。

 

どんなに破壊されようとも、土地は残るのが当たり前だった。

 

土地さえ失った者は、何処へと向かうのだろうか。

 

 

 

U.C. 0079 8.15

 

 

 

「……変わらないな、ここは……よりによって、この日(・・・)に戻る事になるとは………」

 

中尉達の乗った"ミデア"は、"ヒロシマ・ベース"に降り立って居た。

 

輝く太陽の下、中尉は手をかざしながら機を降り、生まれ育った土地を踏みしめた。

 

地球連邦政府が樹立し、軍隊を持たなかった国日本にも地球連邦軍基地が作られる事になって久しい。

その中の一つ、中国地方の一大基地"ヒロシマ・ベース"は古くからの軍港である"クレ・ドッグ"と提携出来る位置に作られた基地だった。

 

「わぁ~!!ここが少尉の生まれたとこなんですね!!」

「……陽射しが、強い……伍長、帽子を、被って…おけ……」

「……はぁ……日本……観光………」

「なぜか懐かしい匂い、です。日本の空気にはショーユが含まれてるいると聞きましたが、本当かも知れませんね。私の先祖も、この国に居たのでしょうか?」

 

夏の陽炎が立つ陽射しの中、伍長が真っ先に飛び出して行きカートに轢かれそうになっている。

 

少尉と軍曹を除き、皆口が緩んでいる。軍曹は相変わらずであるが、少尉はダークなオーラを立ち上らせて居た。

 

「じゃあ少尉、いや臨時整備班班長、"艦"は任したぞ?」

「…………へーい……」

「整備班の皆さんも、よろしくお願いします。おやっさんから、休暇を楽しむ事と、完成まで"艦"については秘密、と言われてしまいましたから……」

「「おう!!」」

「隊長殿も良い休暇を!!」

「楽しんで来てください!!整備はお任せあれ!!」

「伍長ちゃんに上等兵ちゃん!楽しんで来いよー!!」

「はーい!!お土産買って来ます!!」

「はい。すみません。よろしくお願いします」

「軍曹!!隊長を頼みます!!」

「……あぁ……」

 

整備班達は腐っている少尉を引きずってドッグへと向かって行く。

整備班たちは"キャリフォルニア・ベース"からの付き合いが大半だ。それに新しく参加した人たちもすぐ溶け込み、おやっさんに心酔している。

 

おやっさん……ホント何もんだよ……。

 

それを四人で手を振り見送り、中尉はバックたった一つの荷物を手に歩き出す。

 

基地内の受付で入国許可書に外出許可書を受け取り、銃器類を預ける。

軍曹だけは持ち出し許可書を貰って居た。いつものライフルにハンドガンだった。

日本の銃刀法は今だ健在である。

この宇宙世紀になっても、殆ど変化の無い国、それが日本だった。

 

「……で、本当に来るのか?貴重な休暇を?」

「はい!!」

「ご迷惑おかけします」

 

基地からレンタルしたエレカに乗り込みながら、中尉が念を押した。

それもそうだ。この戦争がいつ終わるかも分からない今、次の休暇などある事すら保証出来ないのだ。

 

「移動だけでも計2日、なんにも無いウチに居られるのは実質2日だし、周り何もないし……」

「でも海あるんでしょう!!海行きましょう海!!」

「上等兵は、いいんですか?」

「はい。何の予定もなく浪費するところでしたので。それに温泉、楽しみです」

「分かりました。では向かいましょう」

「……中尉、運転しよう……」

「いや、場所分からんやろ」

「…今、調べた……それに地図も、貰っておいた……」

 

え?この短時間で?一緒に行動しながら?

手回しやべーよ一体何もんだよ本当に………。

 

「……分かった。頼む」

「…あぁ…」

「ふふっ!!"夏休み"ですね!少尉!!」

「あら、伍長、その麦わら帽子どうしたんですか?」

「……そうだな……夏休み、か………懐かしいな……」

 

エレカが滑るように走り出し、中尉はつられて前を見た。

 

真っ青な空に、入道雲が立ち上り、真夏の太陽はギラギラとひまわりを照らしていた。

 

帰って来たんだな。本当に。

 

急に叫びたくなる気持ちをぐっと堪え、中尉は窓から手をだしはしゃいでいる伍長の首根っこを掴んだ。

 

夏の景色の中を、エレカが走って行く。

 

「どこかでお昼……テイクアウトにしてピクニックしません!?」

「近くにあるのは、マクダニエルかワンダーランドですね」

「マクダニエルにしましょー!!」

「はいはい」

「………ふっ…………」

 

川は太陽の光を受けきらめき、青々とした木も夏を体いっぱいに表現しているようだった。

 

伍長の言ったとおりだ。

 

世界は、美しい。

 

 

 

 

着いたのは日が翳り始め、夜の帳が下りようとしていた頃だった。

 

感慨深い。まさか、本当に帰って来られるとは。

あの地獄の様な戦場を生き抜き、五体満足でここまで来れたなんて……。

 

「へぇっ!!ここですか!!」

「まさに日本家屋、と言ったところですね。風情があります」

「軍曹。運転お疲れ様」

「お疲れ様でした」

「……尾行は無い…トラップも無し……問題無い…」

「いや、ここ日本だし……」

 

"サイド6"(リーア)の次に平和で危険が無いって言われてんだぜここ。

 

「少尉!早く入りましょー!」

「だ、そうですよ?隊長」

「そうだな」

 

インターホンを押し、その音を懐かしむ。少しヒビ割れ具合が加速していたが、間違いない、我が家の音だった。

 

「はーいもしも………うぉうっ!!」

「なんだぁ!?ってうおっ!!」

「ただいま。父さん、それに兄さんも」

「かーさん!!あ、ありのままに今起こった事を話すぜ!!戦争始まってから音沙汰無かったアイツ帰って来たぁ!!しかも女の子2人連れて!!な、何言ってるか…」

「あらあら……全く、心配かけて…良かった………そちらの方は?」

 

いや、母さん冷静だなおい。

父さん相変わらずなのに。

 

「俺の部下だよ。こちらは上等兵さん」

「始めまして。隊長の部下の上等兵です。いつも隊長には助けられています」

「まぁ、いらっしゃい」

「美人だなー。おい、弟よ、紹介しろ後で」

 

社交辞令だとしてもそれは何かと……俺何もしてないじゃん。

そして兄貴うっせーよ。なんなのこの人。生還した弟より目の前の美人か。

 

「こっちが軍曹。手紙に書いてた人」

「……始めまして…」

「おう、話には聞いていたぞ。今までコイツが面倒をかけたな」

「……いえ、そんな事は…」

 

はい。かけました。ごめんなさい。

つーか俺が生きてんの主に軍曹のお陰だよなぁ………。

1人卓越し過ぎてるよ戦闘能力が……。

 

「こっちが…」

「ごちょーです!不束者ですが…」

「いや伍長それ違う」

「おい犯罪だろこれ」

「何を勘違いしてんの!?」

 

さっきからうるせーよバカ兄貴!

どーゆー思考回路してんだよ!!

アタマ悪いんとちゃうか?

 

「お義父さん!息子さんをわたしに下さい!!」

「「えっ!?」」

「何言ってんのぉ!?」

「……ぶふっ……」

 

何コレ!?俺はどーすりゃいいの!?

つーか何!?伍長酔ってんの!?

あちゃー。脳を常温で保管してなかったからか?熱で脳がピーパッパ状態なのね。

 

「あらあらまあまあ」

「いや!?母さん!?おかしくないコレ!?」

「てめーこの犯罪者ぁ!?」

「うぉっ!!やめろこの!?こちらとて長旅で疲れてんだよ!!」

「うるせーこのアホ!この兄の手で直々に裁いてくれるわ!!」

「な、馴れ初めは……?」

「時は戦国時代、少尉がわたしを……」

「あらあら」

「うぉい!!デタラメ言ってんな!!どこの世界線の話だそれは!?つーか過去にそんな深くもねぇよ!!軍曹!止めて止めて!上等兵さんも口押さえて震えてないで!!」

 

このカオスなどんちゃん騒ぎは殴りかかって来た兄貴を問答無用で返り討ちにし伍長を何とか抑え込み気合で誤解を解くまで続いた。

 

つーかまだ家入って無いんだけど………。玄関でこんなにめちゃくちゃやったの生まれて初めてだわ。

 

帰って来て早々なんだよコレ。

もっとこう、感動の再会とか無いのかね………。

 

「………と言う事で、この3人泊めていい?」

「ダメ、とは言えないわね。せめて一報くれたら良かったのに…」

「すみません」

「いや、気にする事はないよ。ゆっくりして行ってくれ」

「ニガァ」

「……つーか伍長はどうしたんだよ」

「……夏という季節に、自分を磨こうと追い込み過ぎてヒビが……」

「ヤスリかけ過ぎですねきっと……」

「…………どういう錬磨してんだろ…………」

 

取り敢えず落ち着いたので報告。

丁寧な上等兵に父さんが応じている。伍長は緑茶を飲んで顔を歪めていた。苦いならムリして飲むなや。

 

 

「あの、少尉?砂糖とミルクありますか?」

「それをどうする気だぁ!?」

「隊長。緑茶はそのような飲み方もありますよ」

「いえ、コレに……あれ?軍曹は?少尉知ってます?」

「迎撃ポイントチェックしに行ったよ。定点に動体センサー仕掛けるんだってさ」

「……それ後で解析していい?」

「軍事機密だよアホ」

 

兄がまじまじと顔を見てくる。何?なんかついてる?

 

「……それにしても、変わらないなお前は」

「…変わらないのもまた答えさ。人間そう簡単に変わらんよ」

 

母さんは食事の用意中だ。肉じゃがらしい。その間に部屋に荷物を運びこむ。

 

古い日本家屋なのでいくらでも空き部屋があったのを、3人には自由に使ってもらう。

つーか何でこんな広いんだろウチは。意味が分からん。

 

「……周囲に異常なしだ。中尉…」

「分かった。ありがとう……警戒し過ぎじゃないか?」

「……問題無い…」

 

上等兵が食膳の手伝いに行き、夕食が揃った。

 

「「いただきます」」

 

久々の家庭の味に、家族揃っての食事。涙が出そうだった。

 

「美味しいです」

「そう?お口に合って良かった」

「少尉ー。コレつかえません…」

「箸な。素直にスプーンで食えよ」

「今の戦況は?」

「お、俺も気になるなソレ」

「…膠着状態だ……」

「今は何を?」

「詳しくは言えんが……次アジアに行くな」

「ここもアジアだ。ボケたか?」

「詳しくは言えねぇっつってんだろーがアホはてめーだ」

「……あの"艦"はお前達が使うのか?」

「そうそう。ウチもどっか造ったの?」

「まぁなぁ…」

「最近受注が増えてんだよなぁ。なぁ、あのバカデカい"バズ"もお前が使うんか?連邦にMSでもあんの?」

「えっ!!それホンも"っ……」

「さぁな?あったらこんな押し込まれてないだろ連邦は…」

「なら働けやこの血税ドロボーが」

「んだと!納税者だからって下手にでたらつけあがりやがって!!働くくらいなら食わぬ!!」

「なら晩飯食うなや!」

「いや!食うね!俺は血税ドロボーだが働いてはいるわ多分!!」

 

溶け込むの早えーなおい。何だコレ?俺がなんか疎外感感じるんだけど。

軍事機密を自然に漏らしそうだった伍長の口にジャガイモを突っ込みつつ答える。

 

「うぅ…少尉酷いです……ヤケドしちゃいました……」

「すまん…」

「あらこんな時間…お風呂どうぞ」

「上等兵さんに軍曹さん、お酒飲みません?」

「はい。お付き合いします」

「……俺は…」

「軍曹も大丈夫だよ。警戒は俺がする」

「ほどほどにね~」

「わたしも!」

「伍長は風呂入って寝ろ!!おら行くぞ!」

「ええっ!?お酒~」

「未成年だろうが俺ら!!」

 

伍長を引きずって酒から遠ざける。ダメ絶対。ビール一口でメロメロに酔うヤツが何をやらかす気だ。

 

「風呂ここな?……こんな機会滅多にない。ゆっくりしとけ」

「はーい!………覗いちゃダメですよ?」

「覗くか!」

「……むー…」

「なんだその顔は……………ぜんっぜん分からん。俺が悪いのか?俺なんかしたか?」

「……何もしてないですし、少尉は悪くないですけど、少尉が悪いです」

「えぇ~……」

 

伍長が去って行く。ったく。年頃の女の子はよく分からん。彼女いない歴=年齢だし。

 

「ゴホンっ!」

「んあ?何だ?うるせーよ息止めろ」

「咳じゃなくて!?死ねと!?」

「うるせーなおい。つーか覗きとはまた趣味が悪りーな」

「そうじゃねぇよ」

 

そこに居たのは兄だった。つーか酒飲んでたんじゃないの?なんでここにいっかね。

 

「お前と伍長、どうなんだ?」

「どう?」

「関係」

「上官と部下」

「あっれれー?おっかしいぞー?

そうじゃねーよ。付き合ってんの?」

「いや?なんだその勘違い。失礼じゃね?つーか似てねぇよ縮んだ後行く先々で殺人事件に遭ってから出直して来い」

「………どうなんだ?」

 

どう……ね?どうなんだろうね、俺たちは。本当に。

 

「…伍長は、俺に好意を抱いてる……かもしれない…可能性が、あるかもしれない可能性が、ある……?」

 

俺はフィクション特有の鈍感君では無い……はず……だ。うん。

人の機微なんて分からんけれども。

 

「気づいていてあの態度か?ヒデーなおい」

「言っただろ?『かもしれない』だ。伍長の勘違いかもしれないだろ?そんな異常な所に居たんだから…」

 

そうだ。勘違いするべきで無いハズだ。あんなとこ(・・・・・)にいたらどんなヤツだってまいっちまう。

 

伍長は若い。あの環境下で、寄るべき所が無かったんだろう。なら俺はその止まり木になる。

もうすぐ、伍長は飛び立つはずだ。

飛び立てるはずなんだよ。

 

「そうじゃねぇ。お前はどうなんだ?」

「俺は……」

 

俺は、どうなんだ?

 

「………ふっ、お前にゃ難問か?まぁ悩め若人よ」

「全くだ。つーかお前も2歳しか変わらん。会社はどうなんだよ?代表戸締まり役さん?」

「……きちんと取りしまっとるわ!!すまんなぁ、変な質問しちまって」

「ふっ、気にすんな。変な奴に変な質問をされたところで気にしねーよ。ちゃんと裏扉も閉めたか?」

「閉めたわ!」

 

笑いあいながら分かれ、部屋に帰る。家を出て士官学校に入った時から全く変わっていない自分の部屋がそこにあった。

 

勉強机、マンガや本でいっぱいの本棚。ゲーム機。プラモデル。違うのは埃だけか。

 

ベッドに座る。定期的に洗ってくれていた様でコレは綺麗だった。

 

そのまま寝転び、懐から血染めの本を取り出す。

表紙は血でドス黒く染まり、ページは付着した血で開かなくなっていた。

所々が焦げており、突き刺さった上で溶けているガラス片がそれにアクセントを加えている。もはや本としての機能を果たす事は叶わないだろう。

いつも肌身離さず持っていた、"大空のサムライ"だ。

ここを発った時から、ずっと持ち歩いていた。士官学校時代も、"キャリフォルニア・ベース"着任時も、"マングース"で撃墜された時も、その後戦い続けた時も………。

MSに乗ってもだった。いつも一緒にいた、中尉の宝物だった。

 

「……………死にかけた事や、最前線で戦って来て、またそこに戻る事は………言わなくてイイよな……」

 

帰って来た。その事を強烈に実感する。

その証がこの血染めの本だった。

 

今まで何人もの人を殺し、部下を殺して来た。

何もかもがそのままなのに、自分だけ変わっていた。

 

兄貴は俺を変わっていないと言った。でもそれは違う。俺は変わった。確実に。ただの人間が、大量殺人鬼だ。笑えてくる。

 

人の生死に関わり続けて来た。

何人殺したなど、数える事も出来ない。

殺して、殺して、殺し抜いて来た。

この手で、"マングース"で、"ロクイチ"で、"ザクII"で、そして、"陸戦型ガンダム"で。

 

3桁はくだらないだろう人の生死を見届け、命を踏みにじって来た。

 

途中までは数えていた友軍の、部下の戦死者数ももう数え切れない。

 

空で、陸で、海で。人がその命を散らすのを見てきた。自らの手で下したのも少なくはない。

 

ぼんやりとしていても、体は動いていたようだ。

気がついたら風呂から上がり、縁側にいた。

 

昼間はうるさ過ぎる位だった蝉の声は何故かなりを潜めており、満月に照らされ浮かび上がる庭をぼんやり眺めていた。

 

「あ……蛍……」

 

本当に久振りに見た、儚い命の輝きだった。

昔からこの庭で季節を感じながら育ってきた事を思い出す。

 

けれど今の中尉には、月下のその光はMSで初出撃をしたあの夜を連想させた。

 

月光に照らされた基地が、光とともにグズグズにその姿を崩し、消滅していく。

 

あの光は、何人の命を呑み込んで輝いたのだろうか?

 

雲が月に掛かり、蛍の光が一層強くなったように見えた。

 

右手を見る。何の変哲もない手だが、数百人の命を奪って来た殺人者の手。

見えない赤で赤く染まったこの手は、もう肘まで真っ赤なのだろう。

 

「少尉?ここに居たんですかぁー」

「伍長か?どうした?」

 

そこには寝巻きの伍長が目をこすりつつ立っていた。ご丁寧にナイトキャップを被り枕を持っている。

 

「少尉とお話ししたくて……探したんですよ?」

「……そうか……付き合うよ…」

 

伍長がストンと隣に腰掛ける。

 

俺が伍長をどう思っている……か………。俺は……。

 

「いい所ですね。ここは…」

「気に入って貰えたなら良かったよ」

「静かで…本当に……戦争なんて嘘みたいです」

「そうだな…この静かな夜空の中でも、撃ちあって殺しあってんだろうな……」

「はい……ホントは夢で、覚めたら…って思いますよ」

「そうだな……」

 

静かな光を讃える星空を見上げる。

19と17。こんな2人が肩を並べて戦っていたなんて、本当に笑える。

まるで物語(フィクション)だ。それもとびっきりのバカ噺だ。

 

「少尉……本当にありがとうございます。わたしが生きているのは、少尉のおかげですよ……」

「そんな事はないさ、決して」

「ねぇ……少尉、"変わってない"って言われて、どうでした?」

「さぁ……な……人は変わっていくモノを恐れる生き物だからな……特にそれが劣化の一途を辿るなら尚更だ」

「劣化…?」

「姿形はそのままなのに、俺達が最も大切な物ととる心と呼ぶその部分は変わって行く。そういった本質的な意味なら、俺達もまた似たもの同士と言えるんじゃないのか……」

「似たもの同士、ですか?」

「あぁ……」

「よく、分かりません」

「あぁ……言ってる俺も分からん。でも、なぜか……そう思うんだ…」

 

この考えは、いつからのものだろう?

いつ、俺は"変わった"のだろう?

 

「でも、きっとそうなんですよ。わたしが保証しますよ?」

「ありがとう、恩に着る」

「こんな事で恩に着られたらずっと恩を返せなくなっちゃいますよ?いいんですか?」

「そうか?なら一生かかっても返していくさ」

「ふふっ。少尉らしいです」

 

人は変わるものさ、伍長。

いや、でも、そう簡単に変わらないというのもまた真理だ。

 

「わぁっ……」

 

雲から月が顔を出し、辺りを照らす。

照らし出された伍長の横顔が、何故だかとても綺麗に見えた気がした。

 

この笑顔を、もっと見ていたいと思った。思えた。

 

「ねぇ……少尉……少尉は、何で戦うの?なんで戦おうって、思ったの?………何で、ですか?」

「……初めは、明確な理由なんてなかった。でも、今は、今なら言える…」

「………」

「…自分の、手の届く範囲は守りたい。自分の世界を傷つけられたくない。

"守る"事は、何かを選び、切り捨てる事だ。その咎を受ける時が来たら、甘んじて受ける。

だが、それは今じゃない。その時まで、俺は……」

 

なぁ、伍長。さっき、人は変わる事を恐れると言ったな。

でも、変わるのも悪くない。そう思えて来るのが人間なのかもな。

 

「…この戦争が………終わったら、少尉は、どうするん…ですか?」

「さぁ。この身は、あの時から既に戦いに捧げている。何も……何も考えてない……」

「それな、ら………ですね……しょうい……わたしに………」

 

恒常性と能動性、この相反する矛盾を孕んででも存在し続ける、それが、人間の可能性なのかもな。

 

「なぁ、伍長………伍長?」

 

呼びかけても返事が無い。

 

「………またか、伍長らしいな………」

 

伍長は中尉に肩を預け既に夢の世界へと旅立っていた。

一切の不安や苦痛も感じさせない穏やかな寝顔は、歳不相応の幼さを残したままだった。

 

「……ふっ………今はお休み、伍長……」

 

服の裾を掴んで離さない伍長を抱え、中尉が部屋へと向かう。

 

この夢が、まだ続きますように……

そう、願いを込めながら。

 

 

『蛍ってなんですぐ死んでしまうん?』

 

 

夏は、終わらない……………………




再会、家族よ……

中尉の夏休み編、まだ続きます。

このつかの間の平和が、中尉達に何をもたらすのか?

最近色々と忙しくなったので、更新遅れるかもしれません。ご了承ください。

次回 第四十八章 不思議の海ブルー・ウォーター

「…………………………そうだね…」

お楽しみに!!


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第四十八章 不思議の海ブルー・ウォーター

最近気づきました。

SS書くのってムズイわ。







さあさあ皆さんお待ちかねー!!
海で水着なサービス回だよ!!

海に行くイレブンとは言いませんが……フォース?


人は、生まれたその時から死へと向かっている。

 

死は絶対であり、それを含めた人生の集大成だ。

 

人は生きる。限りなく限られた時間を消費しながら。

 

人は生きる。自分のために。人として、何かを成すために。

 

人は生きる。だからこそ、その一瞬は、限りなく輝いて見えるのだ。

 

 

 

U.C. 0079 8.16

 

 

 

「海だーっ!!ビィィィィィィィチボォォォオォォォォオオイズ!!!」

「……なんだそりゃ?お前は海を見た事のない岐阜県民か?」

 

※岐阜県民はそんな事言いません。多分。

 

「綺麗な海ですね。とても青だけでは言い表せない、不思議な色合いです」

「……パラソルを立てて来る…」

 

奇声を上げ海へ突撃して行く伍長を見、中尉は呆れながらも口元を綻ばせる。

伍長は着ていた服を脱ぎ捨て、既に水着だ。プールがある日の小学生かおまいは。拾う軍曹の身にもなれや。

 

人で賑わう海岸は、ギラギラと照りつける太陽に灼かれ輝いている。

 

一陣の海風が上等兵の髪を撫で、サラサラとその長く艶やかな長髪を揺らしていく。そこだけ絵画のように切り取られた美しさに、周りのギャラリーが見とれている。

 

海の家からは美味しそうな匂いとともに煙が上がり、屋台は声を張り上げている。

 

その上をカモメが飛び、鳴き声を上げながら飛び交う。

 

「では、私は着替えて参りますね」

「……そうだな。中尉、キャンプ設営が終わったら、俺たちも続こう…」

「だな。……楽しもう!軍曹!」

「……あぁ、この衆人環視の中、暗殺はほぼ不可能だ……まぁ、警戒するに、越した事は無いが……」

「…………………………そうだね…」

 

平和だ。戦争は、どこだろうな。

俺と言い、軍曹と言い、最前線に居過ぎたな……戦争を探すクセが……。キャンプ設営とか言ってるし。

船も近づけないエリアだし、海風と逆光で狙撃も厳しいだろうな、と考える俺も俺か。

 

「あはっ!あははばばびばばばば……」

 

伍長は波にもまれものっそい事になってる。けれどテンションは爆調のままだ。

 

つーか潮水の中目ぇかっぴらいて笑いながら転がる姿はホラーを通り越してもはやグロテスクだ。

つーかぶっちゃけおどろおどろしい。祟り神に似た何かを感じる。

 

「………」

「凄いですね」

「すべて海のせいだー!!あははははっ!!」

 

まぁ楽しんでるならいいか……俺も楽しもう。せっかくの海だからな。

 

「じゃ、着替えてくるわ。荷物任した」

「…了解……」

 

更衣室へ入り着替える。グレーベースの迷彩柄が入ったズボンタイプのものだ。高校の時買った。420円で。

 

「入っちまうんだよなぁ……まぁ、どうでもいいか…」

 

中尉は中肉中背で、筋肉があるように見えない。皮も厚くなく、皮下脂肪も少ない痩せ型であるのにも関わらず筋肉がはっきりとしない体質だった。身体こそ鍛えられているがそうは見えない。

人から見たら痩せているように見えるレベルだ。そこまで大柄でも無いのがそれに発車をかけている。

因みに顔も高校あたりからほぼ変わっておらず、童顔のままである。

 

「これも……まぁいいだろ…何か言われたらテキトーにごまかしゃ…」

 

それだけ見たら、ただの一般人でいいのだが、中尉にはとても一般人とは呼べないシロモノがあった。

 

それは右半身から背中にかけての大量の裂傷痕と火傷痕だった。そのおかげと言っては何であるが、右手右足の擦過銃瘡、左腕の貫通銃瘡はあまり目立たない感じである。

右半身のものはあまり目立たないものの、背中の大きな裂傷痕と焼け爛れ引き攣りケロイドと化している部分は誤魔化しようが無かった。隠しきれない大きさのものは正面にもあり、左の脇腹には破片の貫通した後が弾痕の様に残っている。明らかにカタギの身体では無くなっていた。

 

それらは"マングース"撃墜時の傷痕だった。機体に"ザクマシンガン"が擦過し、砕け散った風防ガラス(キャノピー)が突き刺さり、激しく損傷し変形したコクピットの一部に切り裂かれたのだった。それに加え、機体自体は軟着陸し爆発こそしなかったものの火が回り、助け出されるまでにロスがあった事からの負傷痕だった。

 

再生治療技術もそこそこ発展こそしているものの、中尉にはそれを消す理由もなく、ほったらかして居た。

 

「待たせた」

「…傷、問題は無いのか……?」

「傷自体は完治してるし、少し染みるかも知れないけどそれぐらいだ」

「……ならいいが……荷物も細工がある。防犯対策は大丈夫だ……」

 

細工?鍵的な?

 

「ありがとう。なら……」

「少尉ー!一緒に泳ぎましょー!」

「……お呼びだぞ…?」

「…あぁ、行ってくるよ」

 

ぶんぶん手を振っている伍長が呼んでいる。面倒いし俺も階級でいいか。周りの人もこんな時バカンスに来てる軍人なんていねーだろと納得してくれるだろ。

 

「少尉ー!こっちこっちー!浮き輪もあるよー!」

 

伍長は白のビキニだった。ワンピースといい白がお好きらしい。頭にはどこに持っていたのかゴーグルを着けている。

身体中に水滴を纏わせ、太陽の反射をいっぱいに受け輝く伍長は、魅力的だった。

 

「叫ばなくても分かるって。つーか伍長、ヘアピン外して来いよ。無くすぞ?」

「あれっ!?じゃあ少尉、持っててくれますか?」

「あぁ、構わんが……ん?リボンも付け…たのか?」

 

受け取ったピンはヘアピンで無くマジもんのピンだった。グレネードの。

………確かにほぼ同じ形だしそれにリングが付いてるだけだから使えん事も無いだろうけど……。

なんか見た事あんなと思ったらそう言う事か……。

付いてるリボンも真っ赤なRBFリボンだ。何この子?

 

「そんな事より少尉……ど、どうですか?」

 

頬を赤らめ、すこし挙動不審になった伍長が聞いてくる。何とは言わない、水着の事だろう。

 

「うん。いいんじゃないか?伍長に良く似合ってるよ」

「そうですか!!ふふっ!やった!」

 

今朝『昨晩は お楽しみでしたね』と言って来た兄をはっ倒した時に兄に言われた事を思い出す。『ビーチでは取り敢えずホメとけ』。あんたは人を何だと思っているんだ。

 

「じゃあ時間もあるしノンビリ泳ぐか。昼メシは軍曹がバーベキューしてくれるってさ」

「やったぁ!じゃあそのためにも泳ぎましょう!!さぁさぁっ!!」

 

またしてもどこからとも無く取り出した浮き輪を抱え、伍長が中尉の手を取り歩き出す。いつかハリセンでも取り出しそうな勢いだ。

2人ならんで砂浜を歩きながら、中尉は伍長の顔を盗み見る。

そんな事など梅雨知らず伍長は太陽にも負けないような輝く笑顔だ。

 

それが見られただけでも、今日は来てよかった。そう思えた中尉だった。

 

でも、海の家の名物、クソマズい焼きそばを食べるのも良かったかも知れないな、と考えるビーカーだった。

 

『んなもん叩き割っちまぇ!!』

 

しかもアレ三角フラスコじゃね?

 

 

 

 

「……焼けたぞ?」

「分かった。ありがとう。よし伍長行くぞー」

「はーい!やったぁ!!肉ですね肉!ニンジンいらないよ!」

 

軍曹が呼びに来る。軍曹はやはりバッキバキで、もはやターミネーターと言われても遜色無いレベルだった。

 

「では揃ったところでいただきましょう」

 

そう言った上等兵は上からパーカーを羽織り、腰にはパレオ?のような物を巻いている。詳しくは知らんけどまぁそんな感じ。

軍曹は迷彩柄のボクサー・パンツタイプだ。説明が短いのは男だからです。

 

「「いただきます」」

「ます」

「……召し上がれ……」

 

バーベキューは文句無しに美味かった。まぁマズいバーベキューは食った事無いけど。

 

しかし断言出来る。伍長がつくったらこれまた微妙な味になるだろうと言う事を!!

 

「上等兵さんの水着もきれいですね〜。細かいディテールがいいと思いますよ?」

「そ、そうですか……ありがとうございます……?」

 

何だソレ?褒めてんの?ねぇソレ褒めてんの?プラモデルじゃねーんだから…。

 

「そーえば上等兵さんは泳がないの?」

「すこし泳ぎましたが……何分肌があまり強く無いので」

 

だから上に羽織ってるのね。

身体の殆どは布で覆われているが、そこからスラリと伸びる手足は真っ白だ。

女性の事は普段全くと言っていいほど意識せず何も考えていない中尉でも魅力的だと感じた。それ故ナンパとか来るんじゃ無いかと思ったが近くに軍曹がいるからねぇなと思い直す。伍長は勝手に犯罪だと思われるだろ。

 

「……手伝って、もらった…」

「はい。軍曹に比べ、腕は数段劣りますが」

「いえ、美味しいですよ。伍長、教えてもらうのはどうだ?」

「……既に、少尉、軍曹、上等兵さんから教わっているんですが…………成果は……………ふふっ………」

「「………………」」

 

何でだよマジで。そしてこれ以上どうすればいいんだよ。

虚ろな目ぇしてんなぁ……。

 

「…ま、まぁ!食後の運動も兼ねて、スイカ割りとかどうだ!?」

「えっ!スイカ割りですか!!さんせーですやりたいです!!」

「私も興味ありますね。賛成です」

「……スイカ、割り……?何故割るんだ……?」

 

話をそらすためスイカを犠牲と差し出した中尉。そして狙い通り一瞬で機嫌を直す伍長。扱いやすい。

スイカは犠牲となったのだ。犠牲の犠牲にな……。

 

スイカ割り……割ると飛び散るから減るし後片付け大変なんだよな……。人間関係は、かくも大変なものか……。

 

「それじゃ!年齢順で!一番バッター!わたしちゃんが小粋に行きますよー!」

「なんだその人類が衰退した感の沸く名前は」

「ではこのレジャーシートの上に」

「でもバットねぇなそういや」

「ご安心を!木刀持って来ました!少尉へのお土産の!」

 

お土産に木刀を買うな!!中学生か!!

しかも他人へのお土産かい!!

その柄の『洞爺湖』はなんだ!?

お土産が欲望渦巻く"ニューヤーク"の街で消費者を守る美味しい2.5(ツー・ハン)生活じゃねーか!!

 

因みに(くだん)の"ニューヤーク"は現在ジオン勢力圏内。自由の女神も窮屈そうである。"ジュノー"級でフェデラルホールに突っ込んだらええんとちゃうかな。

プリンシパリティ・ボイス社の"ジオン公国新聞"によると、ザビ家の嫡男ガルマ・ザビが大活躍だと言う事だ。あの坊ちゃんがねぇ……。

しかし主要な穀倉地帯を抑えられているのはキツイ。早くなんとか取り戻したいものである。

 

「…やった事無いのだが……何をするんだ?」

「おぅ。意外な。軍曹も知らない事あったんだな」

「同感です。なんでも知っているイメージがありました」

「…なんでもは、知らない…知っている事だけだ……」

「スイカを割るんですよ!ばしゃーん、と。目隠ししたままでです!」

「…それだけか。簡単すぎるな……」

「むむむ、そこまで言うのなら!年齢順は変わりませんが高い順で!軍曹どーぞ!」

「はい軍曹、コレを持って」

「目隠ししますね?」

「むっ……」

 

目隠しをしクルクルと軍曹を回す上等兵と伍長。幾ら何でも回し過ぎな気がする。酷く無いか?と即席で落とし穴を掘りつつ中尉は思った。

 

軍曹が目を回すイメージ出来ないけど……イメージするのは常に最強の軍曹だ。

つーか回ってても身体の軸に全くブレが無い。立体機動出来るレベルだわ。

 

軍曹が目隠しをし手に木刀を持ち立つ。

そんな軍曹の前にはシートの上に置かれたスイカ。

風が渦巻き、海藻の塊が転がっていく。1人と一つの間に、緊張した空気が流れる。

これで夕方だったら言う事無かったな。

 

「はい!スタートです!!そのまま左後ろですよ〜」

「いやいや!軍曹!右みぎ!」

「ウィザード01からブレイヴ02へ。目標は4時方向、距離8。目標に以前として動きは見られません。ここは一気に畳み掛ける事を推奨します」

 

テキトーな事を言う伍長。取り敢えず伍長の逆向きで混乱を狙い、なおかつ落とし穴へそれとなく誘導する中尉。一名完全な指示をだす上等兵。

 

そして、それらを全く無視し、見当違いの方向へ歩いて行く軍曹。その先にあるのは荷物だ。

 

「軍曹ー!そのままそのままー!」

「逆!逆だっ!!」

「ウィザード01からブレイヴ02へ。そこは作戦エリア外です。速やかに180°回頭し目標へ向かってください」

「…問題無い…」

 

軍曹は荷物傍にしゃがみ込み、ピンをとり()()()()()に差し込んだ後、荷物からずるりとショットガンを取り出して狙いを定めた。

 

その銃口(マズル)は、寸分たがわず目標(スイカ)を捉えている。片手でショットガンを持っているにも関わらず、まったくぶれないその姿はもはやミケランジェロの造ったダウィデ像のような………じゃねぇぇぇぇええ!!

問題しかねぇぇぇぇっっっ!!!!

 

「ストォォォォォォォォオオプッッッ!!ストォォォォプッ!ストップストップ!!!それダメ絶対ぃぃっ!!」

「軍曹ー!それ反則ー!ダメですって!!」

「軍曹!それはROE(交戦規定)違反です!速やかに行動を中止して下さい!!」

「……ダメなのか……」

「ダメです!」

「……任務、了解……」

 

ショットガンをしまい、またもグレネードのピンを抜きブービートラップを仕掛ける軍曹。それを何で目隠しの状態で平然とやってるの?

 

因みに上等兵の言ったROEとは株主資本利益率(Return on Equity)でなく、Rules of Engagementの略で、作戦前に決められる戦闘規定の事だ。

 

簡単に言えば軍隊や警察がいつ、どこで、いかなる相手に、どのような武器を使用するかを定めた基準の事で、主に武器を用いてもよい時、場所、相手と、用いるべき武器に加え、上官からの明示的禁止がない限り、兵士が指示を受けずに取ってよい行動を定めるもの、または上官からの明示的指示がなければ取ってはならない行動を定めるものである。

 

「軍曹反則です!なので一回休み!!」

「……了解……」

「次は、私ですが、伍長先にどうですか?」

「えっ!いいんですか!やった!見てろよ!スイカめー!」

 

何故そんな親の仇のような事言ってんの?

お前と過去のスイカに何があったんだよ。タネ食べ過ぎてヘソから芽が出たりしたの?

つーか誰か、許可も無いショットガンを平然と持ち歩いている軍曹に何か無いの?ここ日本だよ?グレネードもだよ。

 

「軍曹、アレはダメだ。そもそもなら何のための棒だ」

「……アレで周囲を探り、如何に効率良く割るか、かと……」

「説明不足でしたね。すみません。あの棒で割るんです」

 

確かに一理あるけど、日本という土地から少し連想して欲しかった。

つーか軍曹その棒すら使ってねぇ。全部覚えてたのかよ……。

 

「あのブービー、荷物吹き飛びそうなんだけど……」

「……あれは閃光手榴弾(スタングレネード)だ。問題無い……」

「……そ、そうか……いや……土地柄……」

「あわっ、あわわわわ…ちょっ! 回し過ぎで! 遠心力が! 助けてニュートン!!!」

「あっ!やべっ!」

 

お喋りしながらやってたら回し過ぎた。

でも結構しゃんと立ってるな。なんで?

その足元をシャカシャカとカニが通り過ぎて行き、波間に消えて行く。

 

「ふふっ!驚きますたか中尉!私の人生はこのためみあったのだほ!戦車にのひ船で酔い飛かう機で酔いMSにのふ。そう!酔いに強くなひました!中尉も耐Gにいいっていってまひたし!」

 

いや、ダメっぽいぞ?コレ。

いや、"中尉"って言ってるし酔ってた方が……酔拳かよ!!酒には激弱だけどな。

それに耐Gと三半規管は関係なく無いか?

 

「まぁ……右だ右」

「右の後真っ直ぐです」

「……大股8歩の位置だ……」

 

皆嘘をつかない。割って欲しいのかただ単に華を持たせたいのか。

 

「わっかりました!見てて下さいよ〜少尉!」

 

おっ、口調が元に戻ったが……。

 

「ありゃりゃ?どこ行く気だ伍長?」

「伍長違います。ズレてます」

「……方向感覚皆無だったな……」

「ええっ!?ここは誰!?わたしはいつ!?」

 

真っ直ぐ歩いているつもりだったのだろう。モロ右へと曲がって行く。

 

「伍長、特にありませんでしたか?」

「何がです?」

「……傷、心配していた…事か…?」

「はい」

「軍曹が安心させてくれたそうですから、大丈夫ですよ。それより、今は、楽しみましょう」

「…そう、だな……」

「はい」

 

ま、それで見るのがコレなんだけどね。

うん。伍長を砂漠で歩かせたらマズいな。あっという間にその場近辺でグルグル回るを繰り返して干物になるだろう。

 

人間は利き足の方が基本的に力が強くよく踏み込むため、このように地面に足がめり込む場所で目印が無いと真っ直ぐ歩いているつもりでも曲がってしまうのだ。伍長のはあまりにも酷いが。

 

「うわぁっ!!」

「ありゃ」

「伍長……」

「……………」

「痛ぁっ!!っととと………あばぁっ!!」

「あーあー」

「大丈夫ですか?」

「……はぁ……」

 

グルグル回り落とし穴を踏み抜き、カニに挟まれ、コースを外れに外れ、もはや助言してもどうしようもないため見捨てられた伍長は海に突っ込んだ。そのまま波に足を掬われ転げている。

 

「うぅ……少尉ぃ、わたしを導いてください……」

「いや、多分ムリ」

「うぐっ!!」

 

その後上等兵と中尉が危なげなくヒットさせ、軍曹が上手く割った。伍長だけ何もしてない感がハンパ無いが楽しんでるからいいだろう、多分。

 

「美味しいですねぇ。わたしまるいスイカは始めてです」

「全くだ。スイカは美味い。俺はメロンよりスイカだな」

「いいスイカですね。大変美味しいです」

「……ふむ………」

 

どさくさに紛れ真ん中を取った中尉と、大きいからと言う理由からはじっこを取った伍長がスイカにかぶりつきながら言う。いつも見てていい食べっぷりだ。微笑ましい。

上等兵もその口元を拭きながら同じ事を考えてるに違いない。軍曹は糖度メーターを取り出し計器とにらめっこだ。どっから取り出したんだんなもん。つーかどこで売ってんだよ糖度メーター。

 

「俺はまるばっかだなぁ。四角いスイカ、昔流行ったっけ……」

「スペースノイドは生産及び輸送効率の関係から四角い果物が当たり前だとの事です。味は落ちますが」

「……L.L.L.Aの、キュービックフルーツか……」

「品種改良の真っ最中だそうです。四角くしても味が落ちないようにと」

 

上等兵がピッと指を立てつつ言う。

その姿はまるで教師のようだ。

 

「そうですよ!バナナも四角いんです!地球の自然のままの形のやつが美味しいですねぇやっぱり…

本物の海も、実は始めてなんですよ!」

サイド6("リーア")の"フランチェスカ"は?何バンチか忘れたけど、観光用海洋コロニーがあったろ?」

「だから"本物"は始めて、なんですよ!ありがとうございますね少尉!うふふっ!」

「そこも凄いと聞きますが」

「…"アナハイム・ジャーナル"でも、特集やってたな……」

「戦争が終わったら招待しますよ!親がカブ(ラディッシュ)?みたいなのいっぱい持ってて……」

「宇宙旅行、いいかも知れませんね。私の親も私自身もエア ユナ社を初めとしたコネクションが多々ありますし」

「……宇宙(そら)、か……」

 

夢も、希望も、未来の想像もいいものだ。生きる原動力なり得る、人の人たる所以の一つ。

 

「軍曹もコネすごかっよな……よし、みんなで泳いだ後、3人の前では霞みますが、俺もコネを発揮しましょう!温泉貸し切りです!」

「やったぁ!温泉も始めてです!ワクワクするなぁ〜」

「日本の温泉は世界有数と聞きます。楽しみです」

「……なら、しっかり身体を動かさなくてはな……」

「はい!行きましょう!!ほら早く早く!!」

「今行きますよ伍長。ふふっ」

「よし!いっちょ泳ぐか!」

「…今度は、サーフボード持ってくるか……」

「「出来るの!?」」

 

 

『海は広いな、大きいな』

 

 

休暇は、まだ始まったばかりだ…………………




最近戦闘のせの字も出てきません。

戦闘ばっかだと疲れますが、早いとこさ書きたくなって来ました。
人間とは不思議な物です。書いてると戦闘書くの疲れる、ってなるのに。

書き溜めが暫く戦闘無いので、書いてて面白みもないです。なんでこんな事になったんだか(笑)。

まぁのんびりやって行きます。

次回 第四十九章 一番熱い夏 〜この夏最高の思い出を〜

「ここから先へは行かせん……」

お楽しみに!!



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第四十九章 一番熱い夏 〜この夏最高の思い出を〜

最近、家の近くに外国人が引っ越してきました。

とても日本語が上手く、人生最大の夢であった日本に来れて本当によかったが口癖のおっちゃんです。

それを聞いて、とても嬉しいのと、自分の幸運を噛み締めています。

来るべき将来に、その様に言われ続ける日本を作りたいものです。


人類ほど、"生物"からかけ離れた生き物はいないだろう。

 

生まれて数ヶ月たってさえも、立つどころか身体すら支えられない新生児。

 

幻想、幻覚、幻聴をも引き起こす、常にエネルギーを浪費する脳。

 

生活の絶対条件ではない娯楽を求め、地球環境を改変し破壊、さらには同種属でさえ平気で殺しかねない精神。

 

人類こそ、"進化"の枠からはみ出した、"失敗作"(エラー)なのではないか?

 

 

 

 

U.C. 0079 8.16

 

 

 

「はぁ~堪能しました~」

「夕食はどうしましょうか?」

「……そうだな……頃合いだ……」

「? 軍曹、何か準備があるるのか?」

「少尉ー!見てくだ……あああぁ…」

「伍長?どうした?晩飯にするから取り敢えず洗って来い」

「はい……」

「そーいや軍曹、そのサングラスなんだ?レイバン?」

「……いや、ニコンだ…」

「へぇ、いいセンスだな。どうだ?俺のサングラスもイカすだろう!!」

「……あぁ、似合っているぞ……」

 

日も暮れ始め、海水浴に来た客も減り始めていた。

真っ赤な太陽が傾き、美しい夕陽が辺りを照らし出す。海は昼とはまた別の顔を見せ、キラキラと輝いていた。

 

ついあのまま一日中遊んでいた事になる。久々の平和な時間だった。

泳ぎ疲れた後半は中尉は銃の分解整備を始めようとした軍曹を何とか押しとどめ軍曹と日光浴し、上等兵はパラソルの下で読書、伍長は波打ち際で砂の城を造っていた。明らかに立地条件がおかしい。せめてもう少し離れろよ。

 

「……準備をして来る…」

「あぁ。何か手伝うか?」

「…問題ない…」

「どうするんでしょうね?」

「分からんが、問題は無いな。軍曹がこう言った時問題があった試しがない」

「ご飯、何ですかねぇ……楽しみです!!」

 

全身砂まみれだった伍長が砂を落としてやって来た。造っては崩れ、造っては崩れを繰り返し、もはや賽の河原の石積み状態だったが楽しんでいたようだ。

後半は何を血迷ったか水中で造ろうとしてたし……大丈夫かな、頭。

 

「……こっちだ、来てくれ……」

 

軍曹も呼びに来る。あまりにも準備が早い。殆ど一緒に居たのに、いつ準備したんだよ?

 

「どれどれ……うわっ……」

「少尉?うわって……うわわッッ!!」

「伍長、ッが一個多くなかったですか?」

 

突っ込むところそこかい!!つーか今どうやって発音したん?

 

「…もうすぐで焼ける…」

「…………すげ………」

「お皿です。どうぞ」

「わーい!!ご飯だぁー!」

 

そこには焚き火と魚、貝、ウニなどがたんまりあった。生のままや焼いた物、煮た物とバリエーションも豊富だ。

どれもかなり美味しそうで、量も十分……じゃなくて!!

 

「どしたのコレぇ!!」

「美味しーよコレ!ほらほら少尉も!」

「伍長!?食うのはえーよ!!」

「そうですよ伍長。いただきますは言いましたか?」

「いやそーじゃなくて!いやそーだけれども!」

「見事ですね。コレは刺身ですか」

「……中尉、安心しろ…許可は取ってある…」

「ならいいな…って、どうやって?つーかコレいつ取ったの!?かなりの量だよ!?」

「ちくわ大明神」

「……魚は釣りと罠……その他貝類は素潜り……」

「いやいやいやいや…」

「そんな事より美味しいですよほらほら!」

「では、私も。いただきます」

「…ありがとう軍曹。いただきます」

「誰だ今の」

「……時間さえ、あれば………もっと……」

 

これ以上何をする気だったのか。

俺の周りにはやはり一般人はいないのか……。

何でも出来る軍曹上等兵に、底の知れないおやっさん。勘がもはや未来予知に近いレベルの伍長……。

あっ、忘れてた。少尉はまぁ普通だった。やったね同族がいたわ。

……………うれしくねー。

 

「これは、フグですか?」

「……あぁ……安心して欲しい、フグ調理師免許は持っている………」

「軍曹料理屋やれるだろ。しかも一流の」

「……いや、趣味の域だ……」

 

んなわけあるか!!全国の料理屋の大半がキレるぞその台詞……。

今度軍曹の持ってる資格とか聞いてみよう。とんでもない事になりそうだ……。

そういう軍曹まだ25歳。どーゆー事だよコレ。クロックアップでもしてんのか?

 

「そう言えば、"母艦"ってどうなるんでしょうかねぇ?戦艦?なら名前は"大和"にしましょー!」

「戦艦にMS運用能力持たせるのは厳し過ぎだろ。やはり空母をベースにするんじゃないか?後何故に"大和"?知ってんの"大和"」

「そう考えるとすると、妥当なのは"ヒマラヤ"級などでしょうか?」

「……しかし…艦隊を組んでも、水陸両用MSの前では……」

「でも、早く欲しいですねぇ。艦は大好きです。海は見ていて飽きませんしご飯も美味しいですし……」

「よく考えたら昼から結構食ってんなー俺。太ったらどうしよ?」

「怖い事言わないで下さい少尉!!食べますけど!上等兵さん!どうすれば上等兵さんみたいな感じになれますか!!?」

「え?私ですか?ええっとですね……

………いや、分かりません。力になれなくて申し訳ありませんが……仮に同じ生活を送ってもだめでしょうし……」

「ぐぬぬ…」

 

いや伍長、ぐぬぬって。女子はそーゆー話好きな。男子が筋トレの話をするノリか?

 

「……軍曹、私はどうなんでしょう?」

「……魅力的だぞ…」

「え?あ、ありがとう、ございます……」

「うぅん……少尉、どうすれば……」

「男の俺に聞くかソレ?伍長はそのままで十分かわいいんじゃないのか?」

「そうですか!えへへ…照れますよ少尉…えへ」

 

多分な。

このような話はニガテだ。軍曹もニガテらしいがかなり上手く喋っている。見習いたいものだ。

やっぱ軍曹が指揮官とかやるべきだろ。いや、戦うコックとしてエステバリスに乗ってもらうか?

 

「軍曹これは生で食べられますー?」

「……大丈夫だ。ちゃんと考えて調理した……」

「……? この巻貝みたいなヤツは?殻ごとですか?」

「んなわけねーだろ。中を見ろ中を」

「……? 嘘じゃないですか。中に誰もいませんよ?」

「伍長、それは私が食べた後の殻です」

「そら居ないわな」

「……殻入れだ…」

「………もう貝はいいです……」

「一回限りでしょげるな。ほら、コレとか……すげ、手ェ込んでんなコレ」

「……それは、蒸してある……」

「これは何ですか?」

「……干しアワビ料理…」

「なるほど、支払いは貴様持ち……と……」

「ちょっと事務所へ来い」

 

だからその時間はどこから来たんだよ……。

が、しかし………。

 

「しかし、いつ食べてもホントに美味いなぁ……ウチの部隊にコックが居ないワケだ」

「……口にあってよかった……まだある。食べてくれ……」

「ありがとう。いただくよ」

「……でも刺身にツナ、無いんですねぇ…」

「伍長、ツナは沖を泳いでいるんです。ここでは取れません」

「そうなんですか!びっくりです!ところでコレはなんです?」

「亀の手ですか?食べられたのですね」

「無人島生活みたくなってきたな……」

 

なんか伍長、知識に偏りあり過ぎだろ。魚が切り身のまま泳いでるとか思ってねぇよな?うなぎは泥から自然発生するとか。

 

「……む、炊けたか……」

「ご飯まで炊いたんかい!!それはどうしたんだ?

………お米が……立っている…………!!」

「……近所の、農家に分けてもらった……スシ、握るか……?」

「わぁ!スシだって上等兵さん!食べませんか!?」

「はい。食べたいです。お願いします」

「酢はあるのか?」

「……入手済み…煮魚に貝類も焼けたか……?」

「美味しいです!」

「……この煮魚懐かしい味がするんだけど…………」

 

辺りがすっかり暗くなる中、焚き火を囲み夕食を食べる。

頭上は満点の星空に天の川がかかり、昼とは違ういい雰囲気だ。

……なんかそこらの一般人より遙かに夏を満喫してる気がする………。

 

脳裏に浮かぶのは1人の男。ごめん少尉、許して(笑)。

 

宴は続く。笑顔と笑い声でいっぱいだ。幸せだ。本当にそう思う。

 

 

 

「……ねぇ少尉、今気づいたんですけど……」

「ん?なんだ?」

 

不意に伍長が口を開く。それは後片付けを終え、付近のゴミを拾い温泉に向かう途中だった。

温泉は海岸から徒歩圏内にあり、いつもは大賑わいなのだが、持ち主と知り合いなため貸切にしてもらった。快く承諾してくれたが、大損なんじゃないだろうか?

 

「あっ!少尉!それより潰した缶がゴミ箱に入りません!助けて!」

「何やってんだよ……って何コレ?スチール缶をムリに曲げようとするなやビミョーにひん曲がってんなコレ」

「……仕方ない…」

 

それをひょいと片手で取り上げた軍曹が、そのまま軽く握り潰す。

 

「それを涼しい顔でまるでアルミ缶のようにくしゃくしゃに……」

「軍曹なら素手で戦車を破壊出来そうですね」

「軍曹!『ただのコックさ』って言って見て下さい!!」

「……いや、本職は違うのだが……」

 

因みに食べ物があんな大量にあったからゴミも……と思いきや、食べられる部分は全て加工され、出た生ゴミなどは完全に分別され一部は埋め一部は海に撒き、殆どゴミが出なかった。軍曹は自然にも優しい。

 

「で?なんだ?」

「温泉って、お風呂ですよね?」

 

何その質問。キリンはどーしてキリンなのですか?的な?

 

「……そうだが?」

「…お風呂は、普通裸で入りますよね?」

「まぁ外国とかは知らんけど日本はそうだな」

 

いい終わるや否や伍長が顔を真っ赤にして首を振り始めた。

 

「むむむむむむむりですよ裸なんて!!えええええぇぇええ!!!」

「いや、そーゆーもんだし……」

「……そうだな……」

「じょ、上等兵さんは恥ずかしくないんですか!?恥ずかしいですよね!!なので…」

「? いえ?特には」

「えええええぇぇええ!!!あわっ!あわわわわわわ」

 

何で伍長はこんなにうっさいんだ?

マズイな、水に濡らしたからか?光に当てたからか?前夜12時以降にお菓子をあげたっけ?

 

「えっ!?そんな……だって……少尉、ちょっとお腹の調子が……」

「そんな洗礼のようなシャワーを浴びただけの身で何処へ行く気だ」

「むりです!!むーりーですっ!!恥ずかしいんです!!少尉ぃっ!!ごしょーです!借りは来世で返します!!」

「何言ってんのこの子?」

 

え?確かに"コンボイ"では女性兵士は1人だったし、"ジャブロー"では部屋にフロ付いてたけど、"キャリフォルニア・ベース"とか野戦基地では他の女性兵士とシャワー浴びてたんじゃないの?

 

「上等兵?こんなに恥ずかしいものなの?」

「いえ、私には理解出来ません」

「……伍長、風呂は男女別だぞ……?」

「え?………………………え……………………な、なら、問題ないです…………」

「「……………」」

 

こりゃまた妙な勘違いを……そりゃ恥ずかしがるわってか俺も恥ずかしいわ。

 

再び真っ赤になって俯いた涙目の伍長を連れて、4人は夜道を歩く。

温泉は、すぐそこだった。

 

 

「待ちな……」

 

夜道で呼び止められる。前に男が一人仁王立ちしており、その男に呼び止められたようだ。逆光で男の姿はよく見えないが、何だ?

 

「ここから先へは行かせん……」

「……何者だ?」

「……俺が何者などどうでもいい……どうしてもこの先へ行こうと言うのならば……」

「言うのなら、なんでしょう?」

「軍曹、ショットガンで倒そう!」

「……待て、ここは日本……スタンガンで……」

 

落ち着けよ。

 

「入浴料を払え」

 

風呂屋かよ!!

 

「おっちゃーん!久振り」

「おう、よく来たなって女連れ!?それも2人!?」

「そのセリフ聞き飽きましたから…」

「軍曹が無視されてるよ?」

「……別に、構わないのだが……」

「それ以上のインパクトなのではないですか?」

「まぁゆっくりして行って下さいな。今日は貸切ですし」

「……それ、ホントに良かったんすか?」

「お安い御用さ?」

「何故に疑問形?」

「おっちゃん!まずは美味い水を4つくれ!」

「二つで十分ですよ」

「い~や、4つです!2つじゃないです!!」

「二つで十分ですよ」

「それにラーメンも」

「分かってくださいよ………」

「いや伍長、伍長は温泉屋のオヤジに何を求めてんだよ。そしてオヤジもなんで2つで十分だと判断したんだよ」

 

伍長、上等兵と別れ風呂へ。効能は肌に優しいとだけ書いてある。大雑把だなおい。洗剤とかの宣伝じゃねーんだから。

 

いや、よく見たら下に何か消された跡が……………うっすらと………『人間関係』…………。

風呂の効能かソレ?

 

「軍曹!露天風呂があるんだとよ」

「……それはいいな……」

 

身体を洗い外へ。中々風情のある趣だ。前行った時とは違い、池に満月が写り、その静かな湖畔には像が静かに立っている。

 

「ふぅ……いい湯だ……でも湯気がすげぇな……何だコレ?」

「…確かに……」

『わぁーい!!広い広い!!上等兵さーん!!早く早くー!!』

「伍長、貸し切りと言えど静かにしなくてはいけませんよ?」

 

冬の温泉は格別だが、夏の温泉もまたいいものだ。これで後10年は戦える。

 

伍長………泳いでそうだな………。

 

「……来て、よかったな……」

「そう言ってもらえて嬉しいよ。軍曹もリラックスしているようだな…」

「…あぁ、ここは逆光、海風に加え、この湯気だ……サーモセンサーでも狙撃は不可能……貸切で、人気(ひとけ)もない……」

「……それよか明日はどうする?遊園地か?」

「……好きなのか?」

 

何故に意外そうな顔を。

 

「軍曹が行きたいって……」

「…いや、大丈夫だ。この星が、見られただけで……」

 

軍曹が上を見上げる。確かに満点の星空だ。釣られて上を………。

 

「……………なにやってんだ伍長?」

「日本の風呂は、覗くものだと聞いたので!!」

「誰だその歪んだ日本の偏見教えたヤツは!!」

「……分からんが……逆じゃないのか……?」

 

塀から伍長が顔を覗かせていた。もはや言葉も出ない。出てるけど。

日本人は折り紙で競技したり埋まり土下座したり割り箸を変な持ち方したりしないからな!?

何故伍長がそんな勘違いをしたのか?それは、謎です。

 

「伍長、言った通りでしょう?」

「そうだ上等兵注意してやってくれ!」

「次は私の番です」

「酔ってんのか!?」

 

それとも何だ!?宇宙ペストかなんかか!?

 

だぱーん、と向こうから大きな水音が聞こえて来る。伍長が落ちた音だと思われる。静かに風呂ぐらい入らしてくれよ。

 

「上等兵ー、やめた方がいいかとー!」

「冗談です。興味が無いわけではありませんが」

「わわっ!上等兵さんハレンチですよ!!」

「そうですか?」

「むむっ、これが……大人の余裕なのですか!?」

「……何を言っているんだ…?伍長は……」

「これセクハラだろ」

「……そうだな…」

 

まぁ少尉が居なくてよかった。いたら確実に何が何でも覗こうとするに違いない。セントリー・ガンの設置が必要になるな。

つーか女性からセクハラ受ける俺らって………。

 

「……はぁ…全く……」

 

と言う軍曹の手には熱燗が。でも似合うのは何故?世の中所詮顔が9割、か……。

 

「酒持ち込んでいいのかここは?それに風呂の中の飲酒は危なくねーか?軍曹なら心配なさそうだが……」

「まあまあそう言わずに……」

「誰だよ!?」

「風呂屋だ」

「何でいるんだよ!!」

「まぁ、コレでも飲んで落ち着いて……」

「風呂の中でラムネ!?しかもヌルい!ヌルいよコレ!!しかも熱せられて落し蓋が硬い!!グニャッて!!」

「……ふむ……"ラムネ"…か………」

「わたしはアイスクリームがいいです!!」

「メリケンが!!日本人なら大和ホテルのラムネなんだよ!!」

「上等兵さぁーん!!飲みましょー!!その後はオンセンピンポンやりましょー!!ココントーザイです!!」

「いいですが、お酒は抑えてくださいね?後私はピンボールと言うものがやってみたいです」

 

まぁ、退屈より、マシか……………………………。

 

 

 

 

マシか?コレ?

 

 

 

U.C. 0079 8.17

 

 

 

「休暇は、今日の昼までだとさ」

「ええっ!!」

「あらあら」

「次はどこへ?」

「……西へ。次の任務が待っている………」

 

朝一番の電話がコレか。全く……。

 

「そう、ですか。短い間でしたが、お世話になりました」

「いえいえ、お気になさらず……」

「これからも、コイツを頼む。出来は悪いが、息子なんだ」

「……ハッ……………お任せを……この命に、換えてでも………」

「……もっと、一緒に居たかったです……」

「あなたたちならいつでも歓迎よ。またぜひいらっしゃい」

「……うぅ……また!来ますから!絶対!!」

「兄貴は?」

「会社よ」

「そうか……」

「……装置を、回収して来る……」

 

各々に挨拶を終える。戦場は、待ってはくれない、か……。

 

それに、"また"か……。その"また"は来るんだろうか。

 

胸に手を当てる。手に当たるのは、硬い本の感触。

 

いや、必ず来る。掴み取るんだ。

 

「おい、餞別だ。コイツを持ってけ」

 

そう言って渡されたのは、布に包まれた棒状の物だ。

 

「父さん、これは……」

「"貸して"やる。だから……」

 

息を切り、こちらを見る。

 

「……お前も、もう大人の男だ。これは男同士の約束だ。

必ず、帰って来い。今度も、他の仲間も一緒に!!」

「……承知!!」

 

さぁ行け、とばかりに背中を叩かれ、エレカに乗り込む。

 

「行って来ます!!」

「さよーならー!!また会いましょー!!」

「ありがとうございました!!」

「がんばってね!!絶対ですよー!!」

「必ずだぞー!!」

「………再開を、必ず……!」

「俺はここに帰るから!前にも話したけど、俺の終着点はここだから!」

 

エレカが走り出し、手を振るシルエットが遠くなって行く。

 

「さよーならー!!」

「伍長、そろそろひっこめ」

「…うぅ…」

「……今日の午後、と言ってたな……」

「あぁ、あと数時間で、俺たちの夏休みは終わりだ」

 

泡沫の夢は、醒めるものだからな。

 

「最後に、お土産でも買って行きましょう。皆さんも喜ぶでしょうし」

「さんせーです!そうしましょうよ少尉!」

「…そうだな、行こう!軍曹、頼めるか?」

「……了解した…」

 

エレカが進路を変え、繁華街へと向かって行く。かなりの賑わいで、活発に人が行き交っているのがよく見える。

 

その一角にエレカを止めると、伍長が直ぐに飛び出した。

 

「うわぁっ!!凄い!!むむっ!向こうから、何かいい出会いがありそうな予感が!!」

 

伍長が降り立ち、周りをキョロキョロと伺っている。その姿はどこかハムスターなどの小動物のようだ。そして、その先はゲームセンター、アミューズメントハウスだ。コロニー含め幅広く出店している代表的なゲームセンターである。

 

「隊長、少しお話しが…」

 

エレカを降りようとしたら、上等兵に呼び止められる。因みに軍曹はホルスターと中の銃の残弾を確認している。

そして軍曹はアタッシュケースを取り出した。何で?

………いや、多分、アレ仕込み銃だ………。

 

「伍長についてあげて下さい。お土産は私と軍曹で買っておきますから」

「……その役は軍曹か上等兵じゃないですか?それより軍曹、ソレ……」

「いえ、隊長が適任です。伍長に、この夏最後の思い出をつくってあげて下さい」

「……ご期待に沿えるかどうかは分からんが……分かった…軍曹、いいか?」

 

一応軍曹に聞く。軍曹は俺の護衛に来ているからだ。と言うより二つも……どこから……?

 

「……話は聞いた……もしもの為に、これを渡しておく……」

「おうっ…って、コレ俺のマテバ!!」

「どうして軍曹が持っているのですか?」

「…念の為だ…」

「もしかして……」

「……グロックか…?あるぞ…」

「……金属探知機には引っかかるはずなのに……」

「……軍曹には通じないんだろ……」

 

そう言う事を聞いてるんじゃ無いが……まぁ、いいか。

クリスマスには毎回ツいてない刑事の映画は面白いけど、そのセリフだけはいただけないよね?

 

「……ありがとう、行って来る」

「はい。また後で」

「…何かあったら、連絡頼む…」

 

2人と別れ、伍長をさg…

 

「あっ!少尉ー!一緒にお買い物しませんか!それにゲームも……」

 

向こうから見つけてくれた。頼むから手をそんなに振らんでくれ。目立ってしょうがない。

 

「ちょうどよかった。俺も探してたんだ。上等兵がお土産は任せて、2人で買い物して来いだとさ」

「上等兵さんが!…ふふっ、分かりました!いきましょー!ここなら、色々売ってそうですしね!

……選り取り見取り!ふふふっ!!」

「ゲームはまた今度な」

「はーい!!…えへへ」

 

伍長が手を取り、握ってくるのを握り返す。あと少し、この平和を楽しもう。

 

雑多で、でもどこか統一感のある繁華街を歩く。人通りも多く、客引きの声が心地良い。

登り切った太陽が輝き、ビルの側面のガラスに光を投げかけている。

そこらがキラキラと輝き、中尉は目を細める。

 

それにしても、本当に平和だ。殺伐ときた雰囲気など微塵も感じられない。仮にも今は戦争の真っ最中なのだが……。豊かな分、のんびりしてるなぁ………。

 

「プラモデル欲しいです!」

「…作れないのにか?」

「また一緒に作りましょ……ってコレは!!」

「えっ!!」

 

そこにあったのは、ものっそい見慣れたアイツ(・・・)だった。

 

曲面を多用した装甲、左右非対称でありながらバランスの取れたシルエットに、目の覚めるようなグリーンの躰、頭部の一つ目が特徴的なアイツ、MS-06 "ザクII"だった。

 

「コレ買います!決めました!」

「ウソだろ?出すの早えなおい。マジかコレ……うわ、内部フレームまで…どこ情報だよ………」

 

連邦軍人がジオンの象徴とも呼べる"ザクII"を買うのは、何かおかしな気もするが……。

 

うん。俺も買おう。結構出来も期待出来そうだし……。

 

はしゃぐ伍長を見守りつつ考える。

コレも平和だからか。いい事だ。どうせなら、フルスクラッチビルドで"陸戦型ガンダム"でも………。

 

「ううむ……」

「どうした?伍長?」

「いえ、コレが欲しいんですが……手持ちではぜんぜん…」

「欲しいって、コレが?まぁ、確かに……」

 

気がついたらペットロボットコーナーで、伍長がいつにも増して真剣そうに目の前のロボットを睨んでいる。

 

そのロボットは立方体の箱に4本の棒のような脚と2本の棒のような手が付いたようなデザインで、俗に言う"ジェイムスン"型だった。

いや、でもコレ、フツーペットロボットコーナーに置くか?

 

それも相当歳のいった男ならともかく17歳の女子が欲しがる物かコレ。

 

「日本物価高いしな……こっちならどうだ?」

「うーん……むむっ……ん? これは……」

「おい!ちょっと……あっ、すみません店員さん。なんでもないんです、はい」

 

伍長が戸棚に身体を突っ込んで、取り出したのは丸いヤツだった。

 

「コレにしました!!今心にズギュンと来たんで!!」

「いいのか?結構古いタイプだぞ?」

「はい!これは運命です!ふふっ」

 

伍長が両手で抱きかかえたそれは、目を光らせ、丸い身体からパタパタと耳のような物を羽ばたかせながら一言発する。

 

『ハロ!』

「ハロって言うんですか!よろしくね!ハロ!」

『ハロ!』

 

うんうん。お互いを認め合ったようだ。

仲良き事は美しき哉。

 

ハロを抱いてクルクル回る伍長を見て、中尉はなんだか心が暖かくなったような気がした。

 

その伍長から目を離し、窓の外を見る。

 

偶然にも、その方向の遙か彼方には、次なる戦場が、地球上において最大の激戦区が広がっていた。

 

 

『だから、僕は、戦場へ戻る(・・)

 

 

渚にて……………




中尉の夏休み編、遂に終了です。長かったぁ〜……。

新しい仲間?も参加し、ますます賑やかになったT・B・S、戦場へ!!

次回、念願の母艦とのファーストコンタクトです。お楽しみに!!

ここで、新しい母艦の名前、大募集します(笑)!!
どしどしご応募下さい(笑)!!
無かったら無かったでまた自分が無いネーミングセンスを絞ります(笑)。
ご応募方法は感想、メッセージ、活動報告への返信どれでも構いません。ご協力お願いします!

次回 五十章 鋼鉄の咆哮

「うるせーよ黙っててくれよ頼むから……」

お楽しみに!!


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第五十章 鋼鉄の咆哮

祝!!五十章到達!!

そして新編突入!!

やっと兵器がかけるぜぇ!!

皆さん!!お楽しみの母艦です!!

「なんだそりゃ?ありえねぇw」と思いながら楽しんでいただけたら幸いです。


最近、短くコンパクトに纏めるのがムズイ………………。


帰る。

 

人が元居た場所へ戻る時に使う言葉だ。

 

特にその言葉は、その地に長く居た者が使う。

 

その地に思う事がある者も。

 

だから中尉は帰る。

 

硝煙が立ち込め、火花舞い散る戦場へと。

 

 

 

U.C. 0079 8.18

 

 

 

「……………よぅ、久振りだな小隊長。休暇は満喫したか?」

「あa………!?何!?その"不運"(ハードラック)"踊"(ダンス)っちまった見てーな顔!?」

「なんかしょーい変わった?背中が煤けてるよ?こっからじゃ見えないけど」

「一回り痩せましたね」

「……頬が痩けてる……」

『ハロ!』

「………なんか……楽しいゲーム貸してくれないか?とびっきりスカッとするやつ………」

「『ドラッグオンドラグーン』なんてどうだ?スカッとするよ?うん」

「…………もう1回言う。楽しいゲーム貸してくれないか?た・の・し・い・ゲ・エ・ムだ!!」

「あれ面白いぞ」

「落ち込んでるときにやるゲームじゃねーだろ!」

「じゃあ『ゼノギアス』か……『R-TYPE』を……」

「何?なんなのこの仕打ち………他には……」

「『リンダキューブ』は?」

「……………すべて政治が悪い……」

 

"クレ・ドッグ"の最も大きいドッグの前に待って居たのは、恨みがましさに光らせた目の下に巨大な隈を作った少尉だった。

 

正直怖い。少尉の周りだけカモメもウミネコも寄り付かないあたり更に。

きっと背中に謎のダークネスなオーラを抱えているからだ。そのオーラにはどこぞの王女様の料理の如く飛ぶ鳥を落とす勢いがあるらしい。

 

「………あぁ……少尉も、おやっさんの代わりお疲れ様………」

「………同情するなら、お土産をくれ……おみやげみっつ、たこみっつ〜♪」

「お土産は強請るもんじゃねぇよ……」

「微粒子レベルでも同情出来ませんね」

「……………」

 

地の底から響く様な声で唄い始めた少尉が更に凹む。なんだコイツ?

まぁいいか。よし!ここで上手く機嫌をとって……いけ!ボーキー!君に決めた!!

 

「はい。ボーキサイト」

「遠征か!!誰がボーキーだ!!ミンチか!!油もいらねぇよ!!」

「やっぱ建造には鋼材か………」

「今更いらねーよ!つーかいらねーよ!!アンタって人はぁ!!」

 

少尉が手に持ったボーキサイト(純度低い。日本だもの)を床に叩きつける。いくらなんでもそれは酷かないか?

 

ふむ、ご満足いただけない……なら!

 

「伍長、例のアレを」

「はっ!直ちに…」

 

パチンと指を鳴らし、それに伍長が反応する。

 

行け!伍長!!ヤツの頑ななハートをへし折ってやれ!!物理で!!

 

「ならはい!木刀です!」

「中学生か!!しかもなんか染みてるよコレ!?自分のお土産にしろよ!!」

「安心してください!!木刀はわたしの分もあるので!!」

「ならせめて使ってねぇのくれよぉ!!いやどっちみちいらねぇけどよぉ!!」

 

ダメか……しかし、こっちには軍曹がいる!!

 

「……受け取れ…」

「わーい!!高速道路のサービスエリアの隅っこでよく売ってる金の剣のキーホルダーひっさしぶりだぁ!!」

「……中尉に勧められてな……」

「うぉい!!何やってんの!?何がしたいの!?ひでぇ事しやがる!!あなたって本当に最低のクズねっつ!!」

「俺はコンドラチェフの方が好きです!!」

「うるせーよ黙っててくれよ頼むから……」

 

どんだけダメージ受けてんだよ。笑える。

 

「はいどうぞ?珍しいカンヅメです」

 

そう言って上等兵がだしたのはエメラルドグリーンが眩しいカンヅメ。

中身はご察し。

 

「! やっ……おぅ…"ソイレントグリーン"………。

チョイスが……吐き気を催すじゃーくだよ………」

「それも私だ」

「お前かよ!!つーかふざけんな!!何様だ貴様ァ!!人間がいっぱいだろーが!!」

「俺は帝国軍人の次男で、連邦の士官だ!帝国軍人の次男たるもの…」

「もはや話す舌など持たん!!

……………チクショウが…………………」

「退屈してきました。カオスの欠片が必要ですね」

「知恵の泉が語りかけてきますね。船の名前は"クイーンベリー"にしましょー!!それか"ゼノビア"か"セミラミス"か…」

「あり得ない程縁起が悪いからそれはやめようか」

「じゃあ"スターライト"か"リバティ"で!」

「さっきからのバイオハザード推し何!?先行きが不安になるわ!!いや、少尉の顔?」

「………うぅ………」

 

そーいや"ゼノビア"、"セミラミス"、あと一隻なんだっけ?つーか一隻違う。野うさぎじゃねーか。結局どれも"タイタニック"も真っ青な沈没オチだけどさ。

 

ここは少しでも慰めの言葉を……………

………………とでも言うと思ったかァー!そんなもん気にせんわー!!

 

「まぁ落ち着けって。憐れみを込めた目でみながらジュースを奢ってやるから」

「なんでだよ!?」

「お金でしか買えない価値がある……プライス!!」

「うるせーよ!!」

 

顔色をグリーンにする少尉。器用だなコイツ。さっきのゼノギアスはこの為の布石だったか。因みに中身は緑色のクッキーです。材料はご察し。

ま、いっか少尉だし。

うん。少尉だし。

これからユーグレナと呼ぼう。

 

「ちょっと黙ってて」

「ちゃんと黙ってたよな……何お前?ジオン・ズム・ダイクンの言ってたニュータイプってヤツ?」

「ええっと、こーゆーのを"口元過ぎれば災い忘れる"って言うんでしたっけ?」

「違いますよ伍長。森羅万象間違っています」

「……夏休みの友(例のアレ)でも、やらせるか……?」

「かんべんしてください!!あんなの敵です!!エネミーです!!」

 

お土産を詰め込んでカオスになったパンドラの箱(希望は同封されていません。別途お求め下さい)を少尉に押し付ける。少尉の顔は液状化仕掛けのニンジンみたくなっている。

 

「…………………がっ!!

見てくれコイツを!!」

 

突然元気を取り戻し、振り返った少尉が目の前の大扉を大きく開け放つ。どこにそんな力が……。

 

今までの"ミルウォーキー"のゾンビばりの窶れ具合が嘘のように血色が良くなり、まるで別人のようになった少尉が笑顔で振り向く。

 

因みにお土産と言う名の廃棄物13号はドアに吹っ飛ばされた。ナム。

 

「コイツは………最高だぜ!!

見ろよ小隊長!!おやっさんは!やはり只者じゃ無かった!!

コイツは!!最高の"オモチャ箱"だ!!やっぱ潜水艦は最高だぜ!!」

 

ライトが点灯され、大空間が照らし出される。

 

「なっ………!!」

 

思わず駆け寄り、手摺に手を着き身を乗り出す。眼下には超巨大なドライドッグが広がっていた。

 

そした、そのドライドッグを埋め尽くさんばかりの巨大な船体を晒し、"母艦"がその雄大な姿を見せた。

 

細長い流線型の、優雅で有機的な曲線を描く、まるで戦闘機のような船体。

 

クジラやイルカ、マンタを連想させるような大型の潜舵(フィン)

 

いや、もはやその外観は「潜舵」と言うより「翼」に近い。

 

超大型の天蓋を左右にスライドさせ、開いたカーゴベイ内の長く巨大な、100mをゆうに超す大型の飛行甲板。

 

天を突くような艦橋。

 

空を睨む巨大な砲。

 

周りを走り回る人がゴミ以下のサイズに見えるソレ(・・)は、規格外と言う言葉が正に当てはまる規模の物だった。

 

「すっごぉ~い!!コレがわたしたちの本拠地になるんですね!!」

「……見た事の、無いタイプだな……」

 

「私もです。これは驚きました」

「……まるで、"動く火薬庫"(アーセナル・シップ)だ…………これが………」

 

中尉の眼下のソレは、正に火薬庫だった。

 

「説明s…」

「お馴染みの『説明しよう!』から始まるありえないスーパーロボ解説!」

「……言うなれば、強襲揚陸攻撃潜水艦とでも言うべきか?中尉の言う通り、"アーセナル・シップ"の思想を受け継いだ、MS運用能力に重点を置いたミサイル攻撃潜水艦だ。

全長340m、全幅62m。全高48m。

水上排水量395000t。

水中排水量568000t。

武装は主なものとして880mm連装砲が1基。

600mm3連装主砲が2基。

540mm連装レールガンが4基。

2連装メガ粒子砲が3基。

8連装大型対艦ミサイルランチャー12基。

4連装固定式魚雷発射管が2基。

8連装旋回式魚雷発射管が2基。

2連装195mm速射砲が16基。

2連装40mm高角砲が18基。

2連装25mm対空砲が28基。

20mmCIWSが20基。

砲塔のある武装は全て収納展開式だから潜水航行の妨げにもならないしな。

それに多目的垂直ミサイル発射管が82基。

弾道ミサイル発射管18基を始めとして、まだある。後でおいおい紹介して行くさ。

おやっさんが"イージス"や"ジーク"に積んだ特殊なスパコンを更に発展させた大規模艦制御管制装置機構として量子演算素子型光ニューロAIを搭載し、この大きさの割りにはかなり少ない人数で……いや、最悪1人でも運用出来る。

しかもそれらはオマケに過ぎないんだぜ?

その最大の特徴は、今開いている天蓋、アレだ。その上部船殻を展開し、飛行甲板を露出させる事で"ミデア"輸送機から"ドン・エスカルゴ"のようなVTOL機、"フラット・マウス"などの艦載機の運用能力に加え、YHIからの技術提供があってな、なんと最新型のMS加速用電磁カタパルト、XC-MS1が2基搭載されてるんだぜ!!

つまり、現時点で連邦軍唯一のミノフスキー粒子散布下におけるMS戦術運用を前提にした特殊潜水艦だな!!」

「これなんて鋼鉄の咆哮?いやー。船台で作らんでよかったな。進水したら大津波になるとこだった……」

「どうせなら飛行甲板追加しましょう!!あと8段くらい!!それと第3艦橋!!」

「……トップヘビーは、良く無い……」

「ミルフィーユみたいになりそうですねそれは」

「くれぐれも悪用するんじゃねーぞ?」

「つーか取ってつけたような第3艦橋はイヤだ」

 

バケモンかよ。世界の主要都市を一瞬で灰燼に帰してもお釣りが来るわ。…………ミノフスキー粒子が無かったら。

それにMS用カタパルト!?聞き間違いであってくれ!!

 

「……動力炉に、推進方式は?」

「超大型のPS方式ミノフスキー・イヨネスコ型熱核融合反応炉3基による、総出力750000hpという大電力で駆動させる熱核水流ジェット、それに超電導ハイドロジェット推進と電磁流体誘導推進ユニットのハイブリッド方式だ。カタパルトもこの反応炉の恩恵だな」

「まるで"レッド・オクトーバー"だな。いや、伊400?」

「チョットナニイッテルカワカラナイデス…」

「……規格外過ぎる……」

「熱核水流ジェットの発展型…完成していたのですね。しかし、これ程の巨体ですよ?速度はどうなのですか?」

 

スペックが異常過ぎる。なまじ普通(・・)の潜水艦のスペックを知っている中尉、軍曹、上等兵は3人そろってポカーン状態だ。これがホントの人類ポカン計画。伍長は取り敢えず凄いと分かったのかハロを抱えてニコニコしているが。

 

「そいつが、違うんだな!!

………コイツ、おやっさんが手に入れた連邦軍の最重要機密、極秘裏に建造された新鋭艦に搭載された次世代型推進システムの試作機を元に開発された特殊機関を積んでるんだ……」

「なんだ?ソレは?」

「それって……あの"ジャブロー"のウワサですかね?」

『ハロー』

 

ポンと手を打ちながら、伍長が会話に加わる。

おいハロ落っこちたぞいいのか?

しかも、戦場には噂が付き物だしな………。

 

「……おかしな"新造艦"、とやらか………?」

噂程度(SCV-X計画)なら私も聞いています。なにも、現場では"スフィンクス"と呼ばれていたそうですね」

「そうなんですか……"スフィンクス"、ねぇ……」

「そう言えば日本にも諺がありましたね……『ミイラ取りが……スヒィンクスになる』でしたっけ?」

「ミイラ取りに何があったんだよ。超絶進化を遂げてんじゃねぇかGウィルスかバイドでも吸ったのか?」

「なぞなぞに目覚めたんだろ」

「そんなんでなれたら苦労しねーよ!!」

「苦労!?お前、何?スフィンクス目指してんの!?逆に聞くけどどんな苦労してんの!?」

 

因みにス"フ"ィンクスな?

ス"ヒ"ィンクスじゃねぇからな?

なんだよキモイスヒィンクスって……。

 

ゴホン、と少尉が咳払いをして続きを始める。

その後ろを魚雷運搬車が通り過ぎ、砂埃を上げている。

その魚雷を捧げるように搭載した姿は古代エジプトの壁画に似ていなくも無い様な気がしてきた。

 

「……つまり、ミノフスキー・エフェクトを利用した新機軸の推進方式だ。これにはA.Eも一枚噛んでるんだ。名前は、"ミノフスキー・クラフト"。それを改造した特殊潜行推進器、"ミノフスキー・クルーザー"だ」

「……ミノフスキー・クラフト?」

「…クルーザー……?」

 

聞いた事も無い。確かにミノフスキー粒子はメガ粒子砲などかなり軍事転用されているが……それを推進に?粒子でも噴射するのか?んなバカな………。

 

「……聞いた事もないな……」

「どういう推進方式なんでしょう?」

「……詳しくは俺もまだ分からんが……なんでもミノフスキー粒子を船体周辺に常時高濃度散布することで、Iフィールドによる特殊電磁立体格子力場を形成し、イオン化した海水を機体の保護膜とし、またイオン化した水の流れを制御することで潜航時の抵抗を大幅に低減、超静粛にして驚異的な機動力を獲得する、だとさ。ま、テストで400ノット……いや、理論上、加速する海さえあればその速さに制限は無いとの事だが……どうだか?まあ実際運用する時は195ノット程度に抑えろとも言われたが……。なぁ?

研究者の言う事はどうも……」

 

お前もそうだろ。鏡見て来い鏡。

でも195ノットって………。はぁっ!?195ノットだと!?

 

※時速361km。速いなんてもんじゃない。

 

「つまりだな……その………謎の何か……磁場かなんかで……その…アレだ……なんやかんやで……なんかこううまい具合にな………つー事だな!……やったぜ!!」

「……あなたみたいなのばかりですから若い力が育たないんですよ」

「根が腐ってる芽は水やっても育たねぇからな」

「しょーいは第3艦橋勤務決定ですね」

 

やったぜ!じゃねーよ!!フワッフワだなおい!!

 

「なんやかんやとはなんでしょうね?」

「なんやかんやは、なんやかんやですよ!!」

 

なんでそんな嬉しそうな顔をしているのか、今の僕には理解出来ない。アンインストール(笑)。

 

「……"ゴッグ"の"フリージーヤード"システムみたいなもんか?」

「…………そいつの影響は大きいってさ。あれは『脱ぎ捨てる賢いイルカ肌』だが、こっちはその一歩、いや数歩先に行った技術だ。これは中尉、あんたが"ゴッグ"を倒したからだ」

「お手柄ですね少尉!!」

 

にしても実装早過ぎだろ。おやっさんはあの短時間で解析を終了し応用したのか?あんなに忙しく働いてたのに?

 

「コイツはその試作機が使われていて、その"新造艦"とやらは、その"ミノフスキー・クラフト"を使って大気圏内を自由自在に飛ぶんだとさ」

「……SFか?いや、SFでもそんな設定はウケんわな」

「……俄かに信じがたいな……」

「自由自在に、ですか……」

「コレも飛べるの!?」

「コイツは無理だが、有る程度の短時間なら陸上行動も可能らしいぞ?だから極論を言えばコイツ自体が揚陸艇になれるってさ………。

………合わせたい人と、見てもらいたい物がある。ついて来てくれ」

「誰ですかね?気になります」

「……と言うよりコレ、人員ものっそい増えるだろ…………」

「……これ程の艦だから、な…」

「また新しい出会いですね。世界が広がるのは歓迎です。高揚しますね」

『ハロ!』

「さっきから気になってたんだがコイツはなんなんだ?」

『ハロ!』

「…う、うん……そうか……」

『ハロ!!』

「えぇ〜……あ、そ……そうなの……」

 

短時間ではあるが丘の上すら行く潜水艦…………ナンセンス過ぎる。

何?山越えでもすんの?

そしてハロと必死に対話を試みようとする少尉もナンセンスだが。

 

売れてなかったらしいし、知らないだろうなぁ……。

 

「そういや腰のソレ、どうしたんだ?」

「……許可は出ているぞ?」

「そうじゃなくて。イイ業物じゃん?」

「似合っててカッコイイですよ少尉!!ふふふっ!」

「はい。前持ってそこにあったかのような調和です」

「…言ってもらえて嬉しいよ」

「……"カタナ"、か……」

 

中尉の腰には、父から"貸して"貰った刀が下がっている。銘は確認していない物の、元の鞘に収ったのかのように手に馴染むそれは、サイズ、重量、強度、剛性、斬れ味、見た目ともに最高だった。

腰に下げてとせがんだのは伍長である。かなりしつこくせがまれ折れた中尉を見て、伍長は意見が通ってご満足の様子である。

 

歩きながら引き続き説明を受ける。階段を降りて行くが、全然近づけない。それに反して、目の前の船体はどんどん大きくなっていく。

 

「追加の装備は、移動、展開用の"ミデア"が8機。支援用の高機動可変ティルトウィング機、"キング・ホーク"が4機。MS用"LCAC"が5機、航空戦力として……」

「大盤振る舞いだな。だが、流石にMSは無いか……」

「残念です。もっとシャキーン!!としたのを期待してたんですけど…」

「どんなのを期待したんだ?」

「空を飛べる奴です!!」

「…………」

 

ムリだろ。つーかなんで空が飛びたい病に罹患してんの?今の俺たちはソラじゃなくてリクとカイリです。

 

「……裏が、ありそうだな……」

「それ程期待されているのではないでしょうか?」

「……と言うより、"コイツ"は何を……」

「……そいつぁ、俺から説明させてもらおうか!!

あんたが中尉さんかい?なるほど……噂通り、いい目をしているな…」

 

大きな声に振り向くと、目の前には、陽気な笑みを浮かべた"ザ・海の漢"みたいな大柄で浅黒い肌をした男が立っていた。

制服の前を開け放ち、袖はギザギザに肩口から千切られ、筋骨隆々な二の腕が覗いているというか自己主張している。帽子も斜めにかぶっており、口にはパイプを咥えているが、階級は少佐だ。だが勲章はかなり多い。

きっとあだ名は"鯱"だったに違いない。肩のギザギザはやっぱ自分でやったのかな?気になるわー。

 

「おじさん誰ですか?ポパイ?わっ!その銛の先!カッコいいです!!」

「おっ!分かるか嬢ちゃん!こいつぁ俺のオヤジの形見でな…因みに俺もオヤジもほうれん草はニガテでなぁ……」

 

少佐をおじさん呼ばわりした伍長を咎めもせず、その男の漁師だったというオヤジさんの武勇伝に目を輝かせる伍長。俺の周りはなんでこんな人ばっか集まるのか。

後ろで超巨大なクレーンが横切るが気にも止めず、そのまま話は続く。

 

「あの、少佐……?」

「おう、すまんな。俺がこの艦の艦長を務める、元地球連邦海軍太平洋艦隊潜水艦隊潜水戦隊所属の少佐だ。

よろしくな!ボウズども!!俺の艦に乗ってりゃ、絶対に死なねぇから安心しろよ!!」

「申し遅れました!!私は地球連邦軍地球総軍地球連邦軍総司令部"ジャブロー"直属 極秘特務遊撃部隊及び実験部t……」

「あぁ~良い良い!!そんなのは!カタッ苦しいのは無しにしようや、なっ!」

 

いつからか連邦軍の規律はこんなにも崩れていたのか……。

前会った中佐は正に、海軍!ビシッ!バシッ!シャキーン!!みたいな御人だったのに……。

 

「……分かりました。陸戦ユニット、特務遊撃MS隊"ブレイヴ・ストライクス"隊長の中尉です。よろしくお願いします」

「同じく伍長です!よろしくです!」

「……軍曹だ。よろしく頼む…」

「戦術オペレーターの上等兵です。よろしくお願い申し上げます。」

「うむ、よろしくな!若人達よ!!我が艦……え~っ………ゴホンッ!へようこそ!!」

 

あり、そう言えば名前聞いてないな。

 

「…この艦の名前は何というのですか?」

「……実はまだ決まっていねぇんだよなぁ……。コイツは、次期主力潜水艦のコンペティションにⅧ型潜水艦(U型潜水艦)に敗れたヤツでな……テストにこのベースになった一艦が造られただけだったんだが……そこで廃艦寸前に拾われ、大規模改修された……というかほぼ一から造り直したんだが…」

 

艦長が船体表面を撫でながら言う。成る程、まぁそうなるわなこりゃ。

コストとかヤバそうだもの。

 

「そうだったのですか……」

「……あの"コンボイ"と言い……縁があるな……」

「どうして敗れてしまったのですか?」

「……次期主力潜水艦へ必要とされたのは、原子力炉または核融合炉を動力とし、ミサイル攻撃能力、多目的大型コンテナハンガーと艦載機の運用が可能な海上プラットフォームとしての機能と、55ノット以上での高速潜水航行が可能……と言う物で、全てを満たしなお上回る性能があったんだが……何せコストがなぁ……」

 

やっぱりかい!!

軍という組織の永遠の敵は、やはり予算だなぁ……。

建造段階で気づけん物なのか……。

 

「いつ出られます?」

「進水に訓練航海は済んでる。あとは艤装を施すのみだな」

「名前!!潜りんマリンの名前どうしましょう!!私は"トゥアハー・デ・ダナン"か"青の6号"がイイです!!それか……"頭脳戦艦ガル"で!!」

『ハロ!』

 

おーいそこー。アホの6号はだまってなさい。

 

「ヤメろ!!そこはTDD-1か"トイ・ボックス"の2択だろうが!!」

「同じじゃねぇか!!お前らアニメから離れろ!!」

 

何故地名とか海流の前にそれなんだよ!!

 

「じゃあ"ローレライ"か"やまと"で!いや!!やっぱ"アウター・ヘイブン"か"アーセナル・ギア"!」

「いいや!"シービュー"か"ノーチラス"!!」

「……伊号は、どうだ……?」

三式潜行輸送艇("まるゆ")とかどうでしょう?私達陸軍ですし」

 

表記を考えてくださいお2人とも。

特に"まるゆ"。

 

「ジャパン製なんだからジャパンにちなまないか?俺はジャパンが好きでなぁ……"フジヤマ"とかどうだ?」

 

この人もダメだ。うん。ダメだ。

俺なら……"イヅモ"、とかどうだろうか?

 

「……と、取り敢えず後にしませんか?ほら、新しい装備の事とかありますし……ねっ?」

「そうでした!!ねぇねぇ!!MSの武器は!?"バズーカ"は!?」

「なら任したぞ?まだやる事があるんでな!そんで俺は"フジヤマ"を推すぞ!!」

「はい。また後で……」

「ハンガーならこっちだ。あっ!そうだ!おやっさんからデータが送られて来てな、スラスターノズルを改良したんだった。最大噴射耐久時間が15%増した。それに推力も8%上昇したぞ?後でチェックして置いてくれ」

「了解。ありがたいな」

「飛べます!?飛べますか!?」

「飛べませんよ」

「ん~。まだですかねぇ…」

 

来ないだろ。人型兵器って時点でかなりナンセン……ゴホン。

それを飛ばそうなんぞ……いや!!この艦カタパルトついてんじゃん!!飛ばすんかい!!

 

「バズ~バズ~カ宇宙の彼方までラピュタ~♪」

『ハロ!』

「そんなに楽しみなのですか?」

「はい!なんたって芸術は爆発ですよ!!」

『ハロ!』

 

伍長のテンションが爆発している。つーか後ろのはパズーだ。

ハロは器用にもコロコロ転がってついて来ている。確かにその様子は愛らしい。

 

「……コレで、"ランチャー"も退役、か……」

「ちと早いが、これ以上整備兵の皆さんに負担はかけられませんからね」

「あの子にはお世話になりました!!でも、少し残して置いて欲しいですね!」

「着いたぞ!この3つだ!テストも兼ねてるから、はじめこそ不具合もあるだろうが、そこはどんどん直していくから安心して使ってくれ。使う事で進化するからな」

「わっ!いっぱいありますね!!やった!!」

「……だいぶ系統が違うな……」

「この2つは何で分かれているのでしょうか?1つは明確に違いますが」

 

確かに。一つが一番長く、弾倉が下に着いていて、丸いスコープにグリップにはカウンターウェイトが着いている。もう一つはやや短く、バナナ型の弾倉とボックスセンサー、大きめのマズルブレーキが特徴的だ。

もう一つは完全に別物で、見た目がこれだけ細長い箱を束ねたかのようだ。ミサイルポッドか?

 

「一番手前のヤツが、ブラッシュ社の"ハイパーバズーカ"。口径380mm。装弾数5発。宇宙含めあらゆる状況下で運用する事を前提に開発されたMS携行用無反動砲だ。

その奥のがYHIの"ロケットランチャー"。口径は同じく380mm。装弾数はバナナマガジンから8発。環境の過酷な重力下での確実な作動と信頼性を第一に開発されたものだ。

そして束ねた丸太みたいなヤツが"ミサイルランチャー"。

ミサイルサイロの交換で多目的弾が発射可能な、ミノフスキー粒子下でもレーザー回線により有る程度の誘導が可能な中距離面制圧兵器だ。弾倉を交換する事で多目的弾を発射出来る」

「へぇ……その"ミサイルランチャー"の誘導はどんなもんだ?」

「………オマケ程度…ほぼ誘導しないと考えてくれていいレベルだな」

 

おい

 

 

 

 

 

 

 

おい。

 

「…………名前負け…」

「何故ミサイルと銘打ってんのコレ?」

「厄介ですね。ミノフスキー粒子と言う物は」

「つまりどーゆーことです?全部ロケットランチャー?でも楽しみー!」

「そんな感じになるな」

「あっ!上等兵?この後久しぶりにご飯でも行かない?奢るよー?」

「いえ、遠慮しておきます。この後、ご飯を食べに行く予定なので」

「……………」

「……………」

「……………?」

「……情けないな……」

 

コイツ、ご飯に誘ったのに、ご飯を理由に断られてる…………。

 

「………お前そんなんで本当にあんな大口叩いてたの?」

「そういえば、上等兵って俺のどこが好きなんだろう?俺は上等兵のすべてが好きなんだけどなぁ」

「少尉はわたしの………ふふっ」

「……ポジティブだな……」

「はぁ……あ、あの………軍曹、この後ご飯を御一緒していただけませんか?出来ればで構わないのですが」

「……構わない…」

 

少尉の、いいところ………いや、その前に上等兵軍曹と約束してんだけど……。

うーーーん………………。

 

「髪型?」

「髪の毛の色とかじゃ無いですか?」

「髪の毛だけじゃねーか!もっと性格とかいろいろあるじゃん!」

『総員に告ぐ!!現在作業を行っている者は作業を中断し聞くべし!

出港は明後日、マルフタマルマルだ。この艦の初出撃、処女航海となる。総員準備を怠るな!!

行き先は東南アジア、ボルネオ島(カリマンタン)だ!!』

 

スピーカーが鳴り響き、全員が作業を中断しスピーカーを見上げる。

 

「出港か…"マドラス・ベース"じゃ無いのか…」

「……調整も、ままならず、か……」

「こーゆー時、なんでみんなスピーカー見ちゃうんでしょうかね?」

「また、戦場へ向かうのですね。私達は」

「さぁて、コイツらの初陣、しっかり飾らせてやらんと……で、上等兵?」

「却下です」

「……………」

「ダメだコリャ」

「コリャ」

「………………」

 

結局、何?

 

………………髪?髪のみぞ知る?

 

 

 

 

『いいこと?暁の水平線に勝利を刻みなさいっ!』

 

 

波を掻き分け、艦は行く………………

 




母艦を手に入れ、新しい武器も手に入れた中尉たち、戦場へ!!

時は8月も半ば、ガンダムが大地に立つまであと一ヶ月!!

まだまだ名前大募集です!!

イメージは劇中で述べられた通り。トンデモ潜水艦進水!!

機能はまだあったり、追加されたりするかも。

そのため性能の下方修正あるかもなぁ……。

次回 第五十一章 騒ぐイン・トゥ・ザ・ブルー

「お前明日から第3艦橋勤務な」

お楽しみに!!


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第五十一章 騒ぐイン・トゥ・ザ・ブルー

新編突入!!

中尉は新たな力と仲間を手に入れ、さらなる戦場へと向かいます!

その軌跡の先に、何が待つのか……。

頑張れ中尉!死なない程度に!




潜水艦。

 

それは、大海原を駆ける最強兵器だ。

 

高い機動力、攻撃力にとどまらず、高いステルス性能を持つ。

 

一時、世界のバランスを保った兵器でもあった。

 

しかし、地球連邦政府が樹立してから、その存在は冷遇されて来た。

 

その眠れる獅子が、目を覚ます。

 

 

 

 

U.C. 0079 8.21

 

 

 

「本艦、熱核融合反応にて航行中……」

「前にも聞いたわ!!……それでも何故ボルネオ島なんだ?まぁそりゃ"マドラス・ベース"も暑いだろうけどさ…」

 

少尉が口を尖らせて言う。

いつも不満たらたらな少尉であるが、今回は比較的マジもんだろうと中尉は思った。

彼の不満も最もだろう。整備と言うものは兵器を運用する状況に大きく左右される。

 

環境だ。最大の敵は。

 

ボルネオ島は赤道に近く、熱帯と呼んでも差し支えない地域だ。

 

高温多湿は精密機械の大敵、マシントラブルが多発しやすい。

精密機械はマンボウのように繊細なのだ。

 

因みにマンボウ、身体についた寄生虫を落とそうと水面から跳ね、その衝撃で死んだりする。笑える。

 

それにボルネオ島は完全なジオン占領下なのだ。まともな整備設備もない。仮に揚陸し、継続的に戦闘を続ける事になったらまた以前のように敵施設を攻略、奪取する事になりそうだ。

 

「……確かに、最大の激戦区では、ないな……」

「つーかなんで俺最近チキンブロスしか食わせてくれないの?ソイレントグリーン引きずってんの?バーガディシュ少尉なの?ジャムなの?」

「最もですね。東南アジア方面への陽動としても妙です。確かに地理的な重要度こそ高いですが、それをこのタイミングで攻撃する必要がありません」

「あったかいところだからかな?きっと寒いところは取ってもさみしいからですよ!!」

「ねぇ聞いてよ!!ビフテキ2ポンド!!れあがいい!!ゾンビじゃなくて!!」

「……じゃあ、とっておきのパインサラダかローストビーフ選んでいいぞ?」

「……………」

「現時点でMS用の"LCAC"はまだ使えないとの事ですし…」

「アレ?違うんですか?

………あったかいほうがいいと思うんですけどねぇ……」

「そんな!事より!!なんだよ上等兵そのカッコは!!水着は!?」

「これは水着ですが?」

「何その露出度の低さは!?ふざけんな!!鉄壁過ぎんだよぉ!!超大型巨人でも破れんわ!!」

「こうなると予測していましたから」

「うぷぷ〜少尉は知らないもんね〜あーあの時の上等兵さんはすごい綺麗だったなぁ!!」

「クッソぉッ!!」

「静かにしてください」

「お前明日から第3艦橋勤務な」

「死ぬぅ!!」

「……はぁ……」

 

ここは"アサカ"内のプールだ。中尉達"ブレイヴ・ストライクス"以外のメンバーもちらほら見受けられる。

といっても人数は多くない。ただ中尉達が暇なだけである。

 

"アサカ"は元々のプランの段階から潜水艦としてかなり巨大だった物をさらに拡大したものだ。かなりの大きさがあり居住性がかなりと言うよりめちゃくちゃイイ。もはやホテルだ。

それも艦長の意向から階級に関係なく使う事が出来る。

 

中尉達が今いるプールから、トレーニングルーム、レストラン、映画館、多目的レクリエーションルームなど、もはやちょっとした豪華客船よりも豪華と言っても過言ではないレベルだ。

バーとかもフツーにある。仲間は集えないけど残念ながら。

 

「それでも、"アサカ"って?なんです?"アスカ"かと思いましたよ。アレですか?キャスト3番目の主人公ですか?それとも"不死鳥(フェニックス)"の母艦ですか?」

「だから"アスカ"じゃねぇって……"アサカ"は、漢字に直すと"旭翔"と書く……あぁ〜……ライジング・サン?」

「へぇ!!かっこいいですね!!ライジング・サンかぁ………ところで少尉?今食べてるソレなんです?」

「シベリア」

「しべりあ?」

「シベリア」

「しべりあ…………」

 

予算を度外視したこの設計には、とある整備兵が関わっていると言う噂がまことしやかに囁かれているが、まず間違いないだろう。

 

あぁ、簡単に想像出来るぞ。

おやっさんがあちこちにゴネながら予算や装備を引っ張り出し無理矢理に契約し、高笑いしながら艤装を施している様が頭に浮かぶ。

 

おやっさん、元気かなぁ……。

 

「隊長、何か作戦に関しては聞かされていますか?」

「うーん……少しは…ですかね?

現時点で連邦軍はオセアニア攻略のため、その第一歩の橋頭堡となる"ポートモレスビー・ベース"の奪還作戦を潜水艦艦隊を主体にした太平洋艦隊残存戦力で行おうとしている、との事です」

「……それ、以前失敗していなかったか…?」

 

軍曹の言う通りだ。その情報をどこで知ったのかは知らないが、現在も尚"ポートモレスビー・ベース"はジオン勢力下だ。

 

「前見たアレですか?」

「あれはハワイですよ?伍長」

「あれれ?」

「失敗って……いつだよ?しょーたいちょー知ってっか?」

「5月ごろだったな、確か…」

『ハロー』

「あぁっ!!ハロぉー!大丈夫ぅー!?」

 

伍長がプールに浮いたハロを拾いに行く。防水とか大丈夫なのか……。

 

というかそのプールサイドのカレー何?

 

5月ごろの"ポートモレスビー・ベース"奪還作戦は、旗艦の"ヒマラヤ"級"ウェストモーランド"を中心に空母打撃群を編成し、万全の体制で当たった。

 

当たったはずだった。

 

結果は無残にも、旗艦である"ウェストモーランド"が撃沈され、一隻の"ジュノー"級潜水艦"フレガート"を残し全滅、作戦は失敗し基地奪還には至らなかったと聞いている。

 

その時水陸両用MSが戦線投入されたと言う情報も。

 

その際にとある"戦略兵器"の使用が確認された、ジオン軍との接触があった、などと言う非公式情報がある"ワケあり"の作戦だった。

 

「その作戦をもう一度行なうに当たっての、()()()()()()が俺たち、"ブレイヴ・ストライクス"の仕事だ。

主な仕事としては、南側へ位置する沿岸基地を攻略する事だ。そこを足掛かりとしてボルネオ島へと雪崩れ込むんだとさ」

「…側面支援、という訳か………」

「厳しいですね……」

「なんでですか?」

 

宙に指でボルネオ島の形をなぞりながら説明する。これで分かってくれたら嬉しいなぁ。

そこへ伍長がプールから上がり会話に再びハロを抱えつつ参加する。

いや、拭いてやれよハロを。

 

「……俺達は、陽動だ……目だつ必要が、ある……だが、MSの存在は、明かしてはならない……」

「うっげぇ、矛盾してんじゃねぇか」

「それに、データ収集が最大の目的である我が隊は、最前線の激戦区へと飛び込んだ上で、必ず帰還する必要があります」

「へっ、当に"モルモット"……いや、"ブーメラン"か?」

 

少尉がこれでもかとばかりに顔を歪める。

さっきから少尉の顔面筋が心配だ。

 

「なるほどです。なら、この潜水艦の火力でぶっ飛ばせばイイんじゃ無いですか?ドカーンって。この"アサカ"ちゃんなら粉砕☆玉砕☆大喝采できるよ?」

『ハロ!!』

 

伍長の言う事も納得だ。この潜水艦には過剰とも言える武装が施されている。

沿岸基地を潰す事など造作もないだろう。

 

「伍長の言う事にも一理ありますが、橋頭堡となる基地施設を徹底的に破壊すると修理が大変なのですよ。その修理中に攻められたら防衛は困難になりますし。それに、連邦軍はMSのデータが必要です。私達はそのための部隊ですから」

「艦長もあくまでMS主体でやって欲しいと……試されてるな……」

「……MSが、次期主力に相応しいか、か………」

 

試されている……伍長が呟き、ハロを抱きすくめる。

 

プールの所為かは分からないが、突然寒気がし、身震いをする。

 

周りを見渡すも、何も変わりない。

何も変わりないのに。

 

全員が、その意味を噛み締めていた。

 

 

 

U.C. 0079 8.23

 

 

 

"アサカ"艦橋発令所において、艦長と中尉達"ブレイヴ・ストライクス"のメンバーが揃っていた。前にあるのは作戦板が一体化した、天板が電子パネルとなった机だ。

 

「で、嬢ちゃん?どうするよ?」

 

艦長が口を開く。何故にパイプを咥えたままそんなにスムーズに話せるのか……。

 

そんな変な事が気になる。集中出来てないのか緊張しているのか、若い中尉にはわからない。

 

「はい。このブリーフィングで私の立てた作戦を説明します」

 

そう言って上等兵がパネルを操作する。ボルネオ島を中心としたマップが表示され、そこに大まかなジオン軍基地の場所と、海上の"アサカ"の位置が光点で記される。

 

「こちらをご覧ください。作戦目標のポイントデルタ755沿岸基地、通称"バンジャルマシン・ベース"は強固なトーチカ群で守られています。こちらの全戦力を投入すれば攻略は十分に可能ですが、基地及び本艦、僚艦の被害は間逃れないでしょう。

そこで、先ず本艦はボルネオ島沖50km地点まで接近、浮上しそこから"ミデア"8機に分乗した"ブレイヴ・ストライクス"を初めとする陸戦ユニットを離陸させ、再び潜行し待機行動に移ります」

「……………」

「ん?」

「…………」

「???」

 

上等兵以外誰も口を開かない。艦長がやや眉を上げただけだ。

 

だが目は明確に語っている。"アサカ"を使い、沿岸基地を狙わないのか、と。

 

「"ミデア"はポイントゴルフ357へ降下、MS部隊と自走コンテナ1台を降ろし"アサカ"へ帰還、我々"ブレイヴ・ストライクス"はそこからポイントチャーリー529へ進軍、簡易野戦整備基地地帯を奪取します」

 

作戦板が明滅し、矢印が表示される。それが川沿いに散らばる赤い点を消しつつ南下するのが表示される。

その進行速度は早過ぎず遅すぎずだ。MSの機動力ならお釣りが来る速度だ。

 

「……成る程…」

「おぉっ!!さっすが上等兵!俺の目に狂いはねぇなぁ!!」

「面白い事考えんなぁ嬢ちゃん。流石だ。惚れちまいそうだぜ?

………だが、出来るのか?」

「……ポイントチャーリー529周辺は熱帯雨林からなる密林です。それに加え、標高が高く、また濃霧がよく発生する土地です。それに乗じての電撃戦を仕掛けます」

 

コロニー落としで激変しただろう地理情報、気象情報を含め、この短時間でよく……。流石10年に一人の天才と呼ばれるだけあるな。

 

つーか、俺はフツーに凸しようかと…………。それかパパッとパンジャンドラム(海岸自走機雷)でも使おう、なーんて………。

 

「その後、現地の整備基地を利用し簡易整備と補給を済ませた後、尾根沿いに南下し、そこから密林の中を川沿いに進軍、"バンジャルマシン・ベース"を攻略し、潜水艦艦隊を伴った"アサカ"と合流し、この作戦は終了です」

 

またしても作戦板が動き、沿岸まで到達したMS部隊が基地を示す光点を消し、そこへ海上の光点とが合流する。大変わかりやすく、簡単かつ詳細に纏められていた。

 

「つまり、内側から切り崩す?」

 

作戦板を指差しながら口を開く。

光点が明滅し、一瞬目の奥に焼きつく。

微かに目に残る光をそのままに中尉は上等兵へと向き直った。

 

作戦としてはかなり出来ている、と思う。

MSという高機動性を持ち電撃的な強襲を行う事が得意な兵器である事を熟知した上での運用方法から、地理的な現象を利用する事に加え、()()()()()()()()()を前提にし防御陣地(トーチカ)を張られている基地への内陸からの攻撃。

上手く行けば、こちらの被害を最小限に食い止め、迅速にかつ施設への被害を抑え制圧出来るだろう。

 

「そうです。そして、そこ一帯を足掛かりとし、別働隊がボルネオ島全土を攻略する流れとなります」

「つまり……まぁ……そのぉ~…がんばればいいんですね!!」

「イイねっ!伍長!その粋だぜ!」

「………そーだな!がんばろーぜ!!」

「はい!!」

 

これほど噛み砕いて説明してもらったのにも関わらず、明らかに分かっていない伍長をテキトーに相づちを打ちつつ、疑問を口にする。

 

「……しかし、上等兵。何故このような作戦を?順当に潜水艦艦隊を伴い沿岸基地を攻略すればいいんじゃないですか?」

 

伍長には後で軍曹が説明するだろう。軍曹に目配せしたら軍曹はうなづいた。優秀な部下を持てて私は幸せです。

 

そしてその質問にも上等兵が間髪入れず反応する。うん。本当に幸せです(小並感)。

 

「いえ、これは敵を南北へと分断し、敵の情報を断つ事で迅速な対応及び増援を出させない為の作戦です。その為、先ず外堀を埋める必要があるのです」

 

作戦板が動き、島の北部から大きな矢印が動き、バッテン印が表示される。

 

しかし、その速度はあまり早くは無い。

 

「お気づきでしょうが、ここには天然の要害があります。コロニー落としによる被害の最新情報はつかめませんでしたがそれなりに標高の高い山脈がそびえています。それを考慮に入れての試算です。保険としてお考え下さい」

 

成る程…………………。でも……。

 

リスクファクター(危険因子)としては、霧は大丈夫なんですか?濃霧は…」

「はい。ミノフスキー粒子散布下の濃霧は、視界を塞ぎ、最悪レーザー通信すら使用不可能になり、遭難の可能性もあります。しかし、それは敵も同じで、更にこちらにはその状況下でも行動可能な特殊技能を持つ軍曹がいます」

 

成る程……軍曹を見ると肩を竦めた。

 

出来るって事か……流石だな。

 

「だが、最悪挟撃の可能性に、濃霧で完全に塞がれる可能性があるぜ?いいのか?」

「大丈夫です。隊長を初めとし、"ブレイヴ・ストライクス"は精鋭揃いです。そのメリットでありリスクである濃霧を電撃的な作戦を持ってメリットのみにし、必ずや成し遂げます」

「…………」

「放たれた"ブーメラン"は、必ず戻るものです。

隊長、判断材料は揃いました。決断を」

「………俺たちの命、預けます。今度も、頼みます」

「はい。ありがとうございます。任せてください」

「……よし、やってやっか!ジオンの野郎に一泡吹かせてやんぜ!!」

 

艦長が目を輝かせ、周り見渡す。

軍曹は何も変わらず作戦板を腕を組んで見下ろし、伍長はニコニコ笑顔、上等兵は静かに中尉を見つめる、少尉は少し思案顔だ。

 

中尉は、"陸戦型ガンダム"の事を考えていた。簡易施設だけでの長期運用は始めてだ。耐え切れるか……。

 

しかし、やるしか無い。俺たちは、連邦軍唯一のMS部隊。極一部の上層部の希望の象徴であり、注目の的だ。それに、作戦の失敗は即死に繋がる。しくじる訳にはいかない。

 

まぁ"ブレイヴ・ストライクス"に精鋭は軍曹1人だが、一番有能な軍隊より、一番無能で無い軍隊が勝つもんだからな……。

 

「よぉし!!面舵いっぱぁーい!!針路2-0-5!速力40ノット!!座礁に気を付けろよ!!」

「アイ・アイ・キャプテン、面舵いっぱい、針路2-0-5、速力40ノット」

 

潜水艦乗り(サブマリナー)の顔になった艦長の声に航海長が復唱し、"アサカ"が静かに、しかし迅速に動き始める。

 

「現在の速度40ノット」

「深度120まで潜行!メイン・バラストタンクに注水!下げ舵!潜行角度5°!速度50ノットに増速!」

「アイ・アイ・キャプテン、深度120まで潜行、メイン・バラストタンクに注水、潜行角度5°、速度50ノットに増速。よーそろー」

 

艦が傾き、加速しつつも潜行を始める。その潜行もすぐに終わり、"アサカ"はたちまち45ノットを越え、放たれた矢のように大海原を切り裂いて行く。

 

「よし!両舷前進!最大戦速!ボルネオへ!」

「アイ・アイ・キャプテン、両舷前進、最大戦速。ミノフスキー・クルーザー、アクティブ」

「ミノフスキー・クルーザー、アクティブ・モード、アイ。乱流制御を実行中。あと5……全ディバイス、フェイズ補正完了。システムチェック。オールグリーン。」

 

艦がさらなる増速をかけ、ミノフスキー粒子が高濃度で散布される。

船体がイオン化した海水で覆われ、最大戦速へと近づいて行く。

 

その姿は正に、海中を"飛んでいた"。

 

艦橋にいる全員が一体となり、正に一つの生物のようになり艦を動かす。

その様は、もはやチームワークなどという生温い言葉では言い表せないぐらいだ。

 

「現在の速力、190ノット」

「………本当に、すごい艦だな……なんつー性能だ………」

 

聞くのと、目にするのとでは天と地程の差がある。

中尉はその性能に戦慄を覚えていた。

 

ミノフスキー・クラフト。

 

これは、世界を変える装置となるだろう。

 

「さぁて!!諸君!!戦争をしに行くぞ!!」

「…ヘリボーンか、ワーグナーのCDを渡しておくか……」

「"地獄の黙示録"か!」

「……ふ……」

「あの曲、ミスタービーンのメインテーマに似てません?」

「いえ、似てないでしょう」

 

"アサカ"が海を飛ぶ。

 

遥か彼方の、戦場を目指して。

 

 

『戦場はやって来ない。創り出されるものだ』

 

 

深い海の底から、事態は動き出して行く……………………




中尉のボルネオ探検隊編、開始です!!

太平洋の嵐 〜強襲揚陸潜水艦旭翔、暁に出撃す〜

母艦名は、"アサカ"となりました。沢山のご応募、ありがとうございました!

中尉の言った通り、漢字で書くと"旭翔"です。潜水空母なので、日本の空母に使われた翔と言う文字を使いつつ、海の底から登る太陽、そんなイメージです。

また字は違いますが、自衛隊の駐屯地がある朝霞と音が同じ、と言うのもあります。


正直あまり出したく無いですが(笑)。オーバースペックに加え潜水艦操舵や指令がめんどくさ過ぎます(笑)。

復唱だのなんだの……イメージですし、ホンモノ知りませんし……まぁふいんき(←なぜかへんかんできない)で読んで下さい。

次回 第五十二章 ROMANCE DAWN -冒険の夜明け-

「島スタート。まさかの島スタート…………」

お楽しみに!!


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第五十二章 ROMANCE DAWN -冒険の夜明け-

新章スタートです!!

中尉、激戦区である東南アジアへ。

霧煙る熱帯雨林に、中尉は何を見出すのか。


ボルネオ島。

 

世界の島の中では、グリーンランド島、ニューギニア島に次ぐ、面積第3位の島。

 

古来より海上交通の要所として栄え、数々の国々がそこの覇権を求め血を流した島。

 

また鉱物資源が豊富で、石油、石炭、ダイヤモンド、金、銅、スズ・鉄、マンガン、アンチモン、ボーキサイトなどが産出する。

 

その為ジオン軍による第3次地球降下作戦プランBで占領され、地球連邦軍太平洋艦隊を押し留めている要所。

 

そこへ打ち込まれる楔は、たった一本。

 

しかし、その楔は、どんな物よりも硬く、鋭い。

 

 

 

U.C. 0079 8.24

 

 

 

作戦開始時刻(ゼロアワー)です。これより本戦隊は作戦行動を開始します』

『よぉし!!我が戦隊結成においての初の作戦だ!!作戦名、"オペレーション・ターゲット・イン・サイト"!!』

『総員!第一種戦闘配備!これは訓練では無い!!繰り返す!総員!第一種戦闘配備!!これは訓練では無い!!』

『これより回線をレーザー通信による暗号回線に切り替える。回線オープン』

『発令所へ、こちらソナー。周囲に音紋無し』

『よしっ!本艦はこれより浮上し上部船殻を展開する!!メイン・バラストタンクブロー!!針路このまま!3ノットにまで減速!上げ舵5°!各員衝撃に備え!!格納庫作業員は機材の固定を怠るな!!』

『アイ・アイ・キャプテン。メイン・バラストタンクブロー。針路このまま。3ノットに減速。上げ舵5°。よーそろー』

『現在深度50』

『ミノフスキー・クルーザー、パッシブ。センサーに異常なし』

 

発令所からの通信を、格納甲板内の"ミデア"の中で聞く。

 

音も、揺れも一切無い。見事な物だ。

 

巨大な船体が変温層(サーモ・レイヤー)を抜け、海を割り、どんどん上昇して行く。それを知るのは、乗組員と、魚と鳥だけだろう。

 

「なんか不思議か感じですねー?海の中、潜水艦の中、飛行機の中です」

「潜水艦の中にプールだってあんだ。そんなもんだろ」

「改めてとんでもねぇなぁ。"ミデア"だぞ?コレ」

「すぐ慣れますよ」

『甲板作業員へ告ぐ!最終チェック!ケーブル解除!続けてチューブ!バルブを調整して減圧するのを忘れるな!アクセスパネルを閉鎖!』

『海流は北西から3ノット。海上は東北東から微風』

『データリンク確立。回線B1にアクセス。発令所より応答。優先度B。接続完了です』

 

"ミデア"内の待機所には"ブレイヴ・ストライクス"のメンバーが揃い、出撃を待っていた。

 

いつもの野戦服に、インカムを付けた中尉、軍曹、少尉、上等兵だ。MSパイロットである2人はヘッドギアを抱えている。伍長は既にヘッドギアを被り、ボディアーマーを装着していた。小柄過ぎる伍長はボディアーマーが無いとシートベルトがしっかり閉められないのだ。因みにフットペダルにも足が届かず、コンソールなども叩けない場所があるのでかなりレイアウトを変更した特注コクピットなのは秘密だ。

MSにもチャイルドシートがいるなと声に出さず密かに思う中尉だった。

 

"アサカ"内の格納甲板を作業員が走り回り、最終チェックを終え『Remove Before Launch(出撃前に外せ)』と書かれた赤い注意リボン(RBLリボン)を取って行く。

 

『浮上完了。フライトハッチ開放準備。エレベーター起動開始。"ミデア"01より前へ』

『0号エレベーター起動。甲板作業員は退避せよ』

 

耳障りな警報音が鳴り響き、警告灯が輝きつつ明滅する。エレベーターが起動、上昇し、"ミデア"がその巨体を晒し、飛行甲板へと出る。

 

『よぉし、加速かけろ!30ノットまで増速!』

『アイ・アイ・キャプテン。針路このまま。速度30ノットまで増速』

『アイ。増速掛けます。現在25ノット。よーそろー』

『ハッチ解放だ!』

『アイ・アイ・キャプテン。システムチェック。オールグリーン。ハッチ解放。よーそろー』

 

その頭上では巨大なフライトハッチが動きだし、左右に分かれ展開して行く。

 

太陽の光を受けて輝く白雲と、目の覚めるような青空が広がり、前に出た"ミデア"01のリフトローターが唸り、ジェットエンジンが轟音を立てて回り始める。

 

『こちら"ミデア"01。射出準備完了。最終射出信号(TLS)、送信』

『こちら発令所。TLS受信。グッドラック。快適な空の旅を』

「わぁっ!!海だ!!空だ!!気持ちいいですねー!!」

「海好きなぁホントに……あぁ……俺も行きたかった……」

「伍長。ちゃんと座ってシートベルトを締めないと危ないですよ」

「あ、軍曹、そこのチューブゼリーを取ってくれ」

「……了解…」

『テイク・オフ!!』

 

"ミデア"がその巨体を浮かび上がらせ、青が広がる虚空へと駆ける。

 

それに続き、後続の"ミデア"が後ろへ付き、それと入れ替わる様に索敵行動を行っていた"フラット・マウス"が"アサカ"へと着艦して行く。

 

今回の作戦において"ミデア"の護衛につく随伴機は一切いない。

 

"ミデア"のように不整地にも降りられるVTOL戦闘機は無く、向こうでは満足な整備も行えない為だ。潜水艦がその無防備な姿を海上に表すのはかなり危険な行為であるため、帰還させるのもリスクを考えるとキツイ。

 

それに連邦軍の艦載機は全てJFSがついていない。野戦運用など夢のまた夢である。

JFSとはJet Fuel Starterの略で航空機に装備される機能の一つだ。コレがついていれば電源車を初めとする周辺機器なしで自力でエンジンをかけられる。

地球連邦軍の艦載機は基本的に設備が整った基地や母艦から飛ぶことが殆どなのでエンジン始動に必要な電源や圧搾空気を外部に頼ることが多い。それにより機体重量の軽量化、コストの削減を図っているのだ。

 

そのためMSにはいざという時のためにパラシュートパックが装備されている。俺たちに今出来る事は、それをどうか使いませんようにと、居るかどうか分からない神サマとやらに祈るだけだ。

 

『こちら"ミデア"01、全機離陸。予定通りポイントゴルフ357へ向かう。到着予定時刻はマルヨンサンマルを予定』

『こちら"アサカ"。了解。本艦はこれより飛行甲板を格納、変温層下へ潜行し着底、待機行動に移る。幸運を』

『ハッチ閉鎖中。完全に閉鎖し密閉するまで残り10』

『発令所へ、こちらソナー。高周波(HF)ソナーに感あり。方位3-0-7にコンタクト。シエラ1に認定』

『ハッチ閉鎖完了。潜行可能です』

復調雑音(DEMON)解析中』

『よぉし!本艦はこれより急速潜行を行う!!メイン・バラストタンクに注水!下げ舵15°!!速度40ノットにまで減速!!』

『アイ・アイ・キャプテン。メイン・バラストタンクに注水、潜行角度15°、速度40ノットまで減速。よーそろー』

『ソナー室は方位8-0-0付近に注意せよ、日本の漁船が操業中との報告あり』

『ESMに感あり。漁船と思われる水上艦発見、解析を実行中』

『取り舵30!針路5-0-2!!本艦はこれより現在海域を離脱し、深度600まで潜行!』

『アイ・アイ・キャプテン。取り舵30、針路5-0-2、深度600まで潜行』

『中尉!!聞こえているか!?いい知らせを待っているぞ!!』

「こちらブレイヴ01了解。最高の勝利を約束する」

「いってきまーす!!美味しいディナーを楽しみにしてまーす!!」

 

突然入った通信に、伍長を押し留めながら何とか答える。

 

全く。伍長は……。まぁ、そこがイイところ……?なのか?

 

他にあるかな〜いいところ。難しいなぁ探すのは。

 

眼下に白い尾を微かに引きながら潜行して行く"アサカ"を見下ろし、"ミデア"は中尉達を乗せて飛んでいく。

 

戦場はすぐそこだ。

 

 

 

 

 

機が安定する。軍曹が席を立ち、それに上等兵が続く。珍しく本を読んでいた伍長は寝ている。首の角度が辛そうだ。

 

何々……ティム・マルコー著作、今日の献立1000種……?

…………なんかロックでもないのが出来そうだ……。

 

「………わぁ、さすが…ホームランだぁ………」

「……今の寝言!?」

「……うぅん……げんこつ飴……」

「……………」

 

寝言はほっとき、伍長を寝かせ、部屋の真ん中に立つ。

 

腰に差した刀を抜き放ち、型を行う。

 

空を切る刃に、風切り音が少し遅れて聞こえてくる。身体は水の様に流れ、足はリズム良くステップを踏む。

 

狭い室内を、中尉が舞う。刀は既に身体の延長と化し、空間をギリギリに滑って行く。

 

しかし、何かが足りない。そんな気がする。そんなモヤモヤを抱えながら型を続け、集中し気を張り詰めて行く。

 

気を気で擦り合わせ、少しずつ、少しずつ研ぎ澄まして行く。まるで一振りの刀を打つ様に。

 

無心で、ただただ刀を振るう。そこには、何もない。あるのは風を切る音だけだ。

 

伍長の寝返りに咄嗟に反応した時、無意識のうちに右手には抜いたハンドガンを、左手に刀を握っていた。

 

何かを、掴んだ気がする。

 

武器を納め、手のひらを開いたり閉じたりしてみる。何も変わらない自分の手のひらがとても異質なものに見えた。思わず窓の外を見る。

 

そこには一面の青が広がっていた。

青い空が青い海と交わり、そこに穏やかに移り行く波と細くたなびく雲が白いアクセントを加えている。

 

その青の果てに、緑の陸地が見え始めていた。

 

戦場は、すぐそこだ。

 

 

 

U.C. 0079 8.25

 

 

 

「島スタート。まさかの島スタート…………」

「よぉし!!MSを降ろしますよ!!」

 

ボルネオ島中心部からやや南より、密林濃い山岳地帯の一角に、降り立つ機影があった。

 

無事全機着陸した"ミデア"輸送機だ。次々と降り立つ"ミデア"がそのコンテナハッチを開け、中身を展開し始める。

 

その中の一つ、"ミデア"02から、中尉の"陸戦型ガンダム"が顔を出す。

 

その周りでは他の"ミデア"からも人や重機が飛びだし、わらわらと集いながら物資を降ろし始めている。

 

怒号と指令、それに重機の駆動音や騒がしいジャングルからの得体の知れない声など辺りは大賑わいだ。

 

「整備班!!物資のチェック始めろ!!」

《……索敵に出る……》

《了解しました。データリンク開始します》

「気をつけてな!!」

 

"ワッパ"に跨がった軍曹から通信が入った。ジオンから鹵獲したこの"ワッパ"はオフロードの偵察に売ってつけだ。軍曹は時と場合によりオフロードバイクと使い分けている。

 

「おーい!!こっちだ!!手伝ってくれ!!」

「周囲の警戒を厳とせよ!!」

「"ミデア"04のコンテナ切り離し開始!!周囲に注意せよ!!」

「うへぇ……酔った……うぷっ……」

「わぁー!袋袋!!」

「歩行モード調整開始……ダクト稼働率は……」

「わたしも動かしまーす!!離れてー!!」

「おい!!ドラム缶を転がすな!!危ないだろ!!」

「押してもいいんだぜ!!あの懐かしいドラム缶をよ!!」

「526コンテナは!?おい!」

「"イージス"起動。周囲にジャミングフィールドを形成開始」

「シーリング作業も平行して行うぞ!!」

「そこ!サボってんじゃない!!」

「霧が……」

「"ロクイチ"隊、慣らし運転を始めろ!」

「あぁっ!?なんだって!?」

「センサー強度設定……通信回路は……カメラモード変更っと……」

「ヘリウム3タンクはこっちだ!!」

「コンテナユニットはこちらに!!なんだって?新型の奴は?」

「パワードスーツは?」

「そこのマシンガン取ってくれ!!」

「仮設整備基地はまだいい!!それよりコレだ!!」

「おい何だコレ?デカい拳銃とランタン?」

「それは俺のだ!アレ?ボルトカッターは?」

「おい大丈夫かお前。頭のネジ吹っ飛んでそこに干ししいたけでも詰めたのか?」

「"キング・ホーク"は降ろし次第テストを開始せよ!!」

「そういや"キング・ホーク"ってどこのだ?カプコン?」

「そっちのコンテナはまだだ!!おい!台車まだか!!」

「弾薬ケース降ろすぞ!!細心の注意を払え!!ここら一帯が吹き飛ぶぞ!!」

「場所を考えろアホ!!」

「"ミデア"に偽装網を!!なるたけ早くなー!!」

「なぁこのガンガンうるせぇコンテナ中からメ〜イデ〜イって聞こえんだけど……」

「こっちに重機を回してくれ!!」

「周辺のデータ入力開始」

「陸戦ユニットは陣地形成を開始!!」

「風がぁー!!」

 

てんやわんやの大騒ぎを"陸戦型ガンダム"から見下ろす。

 

やはり、統率があまり取れて居ない。

 

動きにキレがない。

 

今はおやっさんが居ない。

それがこんなにも大きな影響を及ぼしている。

 

しかし泣き言ばかりは言って居られない。この作戦に必要なのは、何よりも速さだ。

 

「上等兵、聞こえるか?」

《はい。通信状況は良好です。なんでしょう?》

《どうしましたー?》

 

何故伍長が……え?どうやって割り込んだの?

 

「俺たちは今にも出たほうがいいんじゃないですか?霧も少し出て来ていますし……チャンスじゃないですか?威力偵察くらい……」

《しかし隊長、今の私たちには、まだまともに運用はできかねません。私たちが目標としているエリアには、何があるかすらも分かりません》

《そうですよ少尉。早い、早過ぎますよ?まだ朝も早いし、軍曹が来るまで待とうよ》

「……そう、だな……すまん。焦り過ぎた」

《仕方がありません。整備班長が不在な今、隊全体が浮き足立っています。隊長も、少し時間を置いて落ち着くべきです》

「はい。しばらく何も考えず仕事します」

《そーそー上等兵さんの言う通り!!こーゆー時、慌てた方が負け、なんですよ!!》

《まだ霧が濃く無いので、レーザー通信も使えます。軍曹からの情報もノイズ混じりですが入って来ています。プランの修正を掛けますので、軍曹が帰還次第出撃しましょう。通信を終えます》

「頼みます。聞いたか?伍長?」

《はい!!ばっちりです!!じゃあわたしはあっちを手伝って来ます!!約束ですよー!》

「安心しろ。守れない約束はしないから」

《熟知してますよー、交信終了(オーバー)

「通信終わり」

 

伍長の"陸戦型GM"を見送り、中尉も機体を振り返らせ……そこで動きを止める。

 

「……………」

 

目を閉じ、呼吸を落ち着かせる。

深く浅く、ゆっくりと息を吐き、気持ちを落ち着かせて行く。

 

余計な事は考えない。今ある不安を頭から追い出し、深く深呼吸する。

 

「よし!!」

 

パチン、と両手で挟み込むように頬を張り、気合を入れ直す。

 

やる事はいくらでもある。それこそたんまりと。

 

中尉は狭いコクピットを見回し、スクリーンを見る。

 

何故か突然少し可笑しくなる。

 

クスッと含み笑いを漏らし、中尉が俯き肩を震わせる。

 

そうだ、いったい何をやってんだ俺は。全く……聞いて呆れる。

 

俺は俺の出来る事を、精一杯やるだけだ。それこそ、後で後悔出来るように。

 

そうだろ?今も昔も、それだけは変わらない。

 

中尉がフットペダルを踏み込み、"陸戦型ガンダム"を歩かせる。

 

揺れ動くスクリーンを見る目は、先ほどまでとはまるで違い、爛々と輝いていた。

 

 

『忘れるものか、この一分一秒を』

 

 

ボルネオの空は、青いか……………




新章 ボルネオ激闘編、スタートです!!

新しい土地、新しい武器、新しい出会い……。

早く戦闘にならんもんかね。この人達ノンビリし過ぎやろと思う今日この頃です。

アサカ、特に何もせず潜行、待機(笑)。
なんかいろいろ適当だな。
つーよりやっぱ書くのが面倒いんで……。

次回 第五十三章 緑の王

「遅いっ!!」

お楽しみに!!


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第五十三章 緑の王

ボルネオ激闘編、本格的にスタート!!

地上戦線最大の激戦区、東南アジア地域で中尉はどうなるんですかね?

ネタ吐いてる場合じゃ無いぞ中尉!!


人は賽だ。

 

人は流れに逆らう事は出来ない。

 

しかし、自分を投げ込む事は出来る。

 

賽は投げられた。

 

中尉は"陸戦型ガンダム"を駆り、ルビコン河を渡る。

 

賽がどう転がり、どの目を出すかは、誰も知らない。

 

 

 

U.C. 0079 8.25

 

 

 

《ウィザード01より各機へ、作戦をもう一度確認します。よろしいですか?》

「こちらブレイヴ01。頼みます。まだ少し時間がかかりそうなので……作戦開始時刻までまだ余裕もありますし…」

《と、言っても命令は変わりません。命令は(オーダーは)唯ひとつ(オンリーワン)"見敵必殺"(サーチアンドデストロイ) 以上です(オーバー)

「ですよねー」

 

深い深い密林の中、とある山の中腹に、中尉の"陸戦型ガンダム"が膝立ちの状態で偽装網を被り待機していた。

その隣には軍曹、伍長の"陸戦型GM"が並び、その足元には"アイリス"が、またその隣には"キング・ホーク"が同じく偽装網を掛けられ、その時を今か今かと待ち構えていた。

 

"陸戦型ガンダム"はいつも通りの"100mmマシンガン"にシールド、グレネードに"スローイングナイフ"だ。"陸戦型GM"2機はウェポンコンテナを背負っている。

軍曹の"陸戦型GM"は"180mmキャノン"を両手に保持し、コンテナ内には"ミサイルランチャー"を、伍長のは手に"ハイパーバズーカ"、ウェポンコンテナ内には"ロケットランチャー"という重武装だ。

 

あたりには白く、濃い霧が立ち込め、中尉達の存在を知る者は誰も居ない。

時折響く、得体の知れない声の持ち主以外は。

 

《まったく、イヤなお天気ですよね〜。わたし、南国の島はいつも晴れのちグーだと思ってました……せっかくの晴れ舞台なのに……》

《熱帯は、雨が多いぞ……?》

《そ、そうなんですか……?》

《特にここ一帯はその傾向が強いです。今リンクを開始しました。サブディスプレイCを見てください》

「了解」

《了解…》

《はーい!》

 

レーザー通信を主体にしたHSL(高性能スーパーリンカー)暗号リンクが起動、暗号プロトコルを解析し、ディスプレイが明滅、地図が表示される。航空写真とCGが立体的に組み合わさった特集なデータだ。

 

記された複雑な地形データが丁寧にマッピングされており、そこにどんどん情報が追加されて行く。

 

北から南に向かい、2本の河が流れており、その河の間、北側には断崖絶壁を持つ山が聳え、両岸側は丘陵となっており、木が群生していた。

ここが今回の戦場だ。河、林、山、丘陵と変化に富んだ地形であり、その複雑な地形を縦横無尽にかけまわり、踏破出来る存在はMS以外にあり得ない。

 

中尉達を示すマークは北東の端だ。そこには緩やかな坂の上の丘陵地帯に林が広く広がっており、身を隠すにはうってつけだ。

 

2本ある河は川幅自体はあまり広くはなく、MSの全長くらいだ。しかし深さはMSの腰から胸程まであるそうだ。

日本人である中尉からしたらかなり大きな河だ。それでもMSからみたら軽く飛び越えられる位なのであるが。

 

2本ある河の、東側の1本の川べり、山の近くに1つ(D1)

その奥、南東の丘陵地帯に1つ(D2)

 

ほぼ真南、そびえ立つ山の奥、2本の河が合流しかけ、平地となった中洲に1つ(D3)

 

そして、もう1つは北西、2本の河と山を越えた先に1つ(D4)

 

合計4つの光点が輝き、その存在を主張していた。今回の攻略対象である、簡易野戦整備拠点だ。

 

「良く調べましたね、これ程の情報を……」

《それに対しては軍曹に言ってください。軍曹の情報のお陰です》

《さっすがー!!ところで、この点は?敵ですか?》

《そうだ……敵の主力は、"ザクI"、"ザクII"、それに"アンノウン"だ》

 

色の違う光点が追加されて、マップが急に賑やかになる。近いものからA1(アルファワン)B1(ブラボーワン)と対象毎に色とアルファベットで分けつつナンバリングされている。

なるほど、こりゃぁ大歓迎だ。

 

それに、"アンノウン"……?

 

「軍曹、"アンノウン"とは何だ?」

《データに無い………"ザクII"の、改良型のようだ……右肩に、キャノンを背負っている……》

《ここ一帯の上空を飛ぶ友軍機が撃墜さている事から、対空砲撃機だと思われますが…》

《キャノン付き!!ズルイ!!もうっ!!》

「それ何に対してキレてんの?何ギレ?」

 

キャノン付き………"ガンキャノン"の様な中距離支援機、と言う事か……?

 

《今回はその"砲付き"をC(チャーリー)と認定しています。数こそ多くありませんが、強力な砲を持っていると推測されます。注意して下さい》

「ブレイヴ01了解!」

《ブレイヴ02了解……》

《ブレイヴ03もオーキードーキー!》

 

新型か……。取られた写真を見る。

画質は悪く、シルエット程度しか分からないが、こりゃまた立派な物を背負っている。仮に"ガンキャノン"の物と同じ物だとしたらその口径は240mm………いくら強固なルナチタニウム合金を纏った"陸戦型ガンダム"と言えど一溜まりもないだろう。

 

《今日は、河を挟んで東側にある拠点の2カ所が目的です。その際、2つある架設橋(E1・E2)を破壊してください》

「…西側はいいのですか?」

《はい。今の装備では弾薬が絶対的に足りません。その為まずこの2つの架設基地を奪取、簡易前線補給基地とするのが第一目標です。また架設橋を破壊する事で敵のMS以外の陸上兵器の脚を封じます》

《……質問が、ある……》

《はい、なんでしょうか?》

《……反撃を、考えないのか……?》

《今日できることはやっちゃったほうがいいんじゃないですかね?今日の夜はどーですか?》

《いえ、この後は霧がさらに濃くなり、レーザー通信すら不可能になる上、夕暴雨となります。MSや"アイリス"は十分稼働可能ですが、その状況での作戦行動はメリットに対しリスクが大き過ぎます》

「成る程……了解しました。『待つのも戦』と言う事ですね」

《そうなります》

 

サブモニターの情報が次々と更新されて行く。データリンク、上手く行っているようだ。

 

「聞いたな伍長、そーゆー事らしい。あと、基地設備にはなるべくダメージを与えるなよ?」

《りょーかいです!ところで制圧はどうすんですか?》

《心配ありません。隊長の進軍に合わせ、"キング・ホーク"(アサシン)及び"ロクイチ"(アーチャー)を主体とした制圧部隊を侵攻させます》

《残りは明日、か……?》

《はい。今日1日ではムリですから。戦力も西側の方が多いようですし。睨み合うのもまた作戦です》

「"イージス"はどうしますか?今は1人でしょう?」

 

そう、少尉には整備に専念してもらうため、今"イージス"に乗り込んでいるのはウィザード01、つまり上等兵だけだ。

"イージス"は通常の"ブラッドハウンド"では無い。ミノフスキー粒子下における高度な電子戦を行うための改造が施してあり、いくら自動化、高性能AIを搭載しようとも最終的に判断するのは上等兵だ。その負担は想像を絶する。

 

《はい。しかし、濃い霧に加え、このミノフスキー粒子濃度です。ジャミングは広域通信のみに限定します。

本機は従来通り部隊に追従し、アンダーグラウンドソナーによる情報支援を行います》

「分かりました。判断に従います」

《意見具申、構わないか……?》

「許可する。何だ?」

《状況は理解している。しかし、少しでも、負担は減らすべき……》

 

確かに。しかし、これ以上どうすんだ?

上等兵はパイロットとしても十分通用するどころか、現時点ではエースとしても通るような腕前だ。

それでもオペレーターをやっているのは、ウチでオペレーターを任せられるのが上等兵と軍曹だけしかいないからだ。

 

オペレーターはかなり高度な専門技術が必要でかつセンスや才能も必要だ。当然責任も重い。下手するとパイロットよりも重労働な役職なのだ。誰でも出来るわけでは決してない。

 

《少尉が命令すればいいよ!!上等兵さんもそれでいいんじゃないですか?》

《俺も、その意見には、賛成だ…………》

《分かりました。隊長、データリンクは出来ます。小隊指揮願えますか?》

「分かりました。任せて下さい!

本作戦は"イージス"のジャミングと同時にブレイヴ02がC2に狙撃する事から始まる。前衛が俺、カバーとしてブレイヴ03、後方400mの位置にブレイヴ02と"イージス"だ。

優先順位はC、A、Bだ」

《りょーかい!ガンガンいきましょー!》

《了解……》

《作戦開始時刻です。これより回線はレーザー通信による暗号通信に切り替えます。現在のミノフスキー粒子濃度は48。ジャミング、開始!》

「………さぁ、戦争の時間だ」

 

言うが早いか、軍曹が狙撃する。

………いや、どうやって?赤外線センサーとかもあんま働いて無いんだけど……。

 

《アンダーグラウンドソナーに感あり(コンタクト)。敵が動き出した様です。ブレイヴ02は狙撃を続行、ブレイヴ01、03は進軍を開始して下さい》

 

放たれた弾丸が白い闇に吸い込まれ、白霧をスクリーンに大きな火球を描き出す。

 

つーかこれもう軍曹だけでいいんじゃね?この霧の中"180mmキャノン"で狙撃するって……。

 

「ブレイヴ03!D1に向け進軍するぞ!着いて来い!!」

《ブレイヴ03りょーかいです!!兵はその……早速たっとぶ?》

「兵は拙速を尊ぶだろ。それ誤訳らしいけどな」

《ええっ!?がんばって覚えたのに!!》

 

いや、覚えてねぇじゃん。軍曹と上等兵も注意する以前に呆れ顔だ。こんなんでいいんかね?

 

《ウィザード01よりブレイヴ02へ。"イージス"の援護をお願いします》

《ブレイヴ02了解………》

 

偽装網を脱ぎ捨てつつ、機を立ち上がらせ疾走させる。全セーフティ解除、セレクターは"レ"(フルオート)に。FCSは"イージス"と同調、調整する。高いミノフスキー粒子濃度により、影響を受けていたFCSが再活性化する。

 

メインスクリーンにガンレティクルが浮かび上がり、敵を求め不規則に揺れ動く。

 

『コンバットマニューバ オン メインアーム レディ』

 

操縦桿のトリガーに取り付けられた最終セーフティを親指で弾き解除する。ディスプレイ中の兵装データの一角、そこに明るいグリーンで表示されていた"SAFE"が一瞬で攻撃的な赤文字の"ARM"へと切り替わった。兵装使用ランプが点灯、"陸戦型ガンダム"はその軛を放たれ、敵に向かって突進する。

 

「よしっ!こちらブレイヴ01、敵機視認(エネミー・タリホー)!エンゲージ!!」

 

目標は最も近い坂を下った先の川沿いにある拠点(D1)。"アイリス"からのデータリンクによると護衛は"ザクI"(B1)が1機、"ザクII"(A1)が1機に"キャノン付き"(C1)のようだ。

 

『アラート エンゲージ A1 B1 C1 最優先目標をC1に設定』

 

爆発に反応し、敵MSが動き出す。モノアイが光り、周囲を走査し始めるのが分かった。

 

「敵さんもお気づきになさったか……それにしても……」

 

光るモノアイ、霧の中でめちゃくちゃ目立ってんだけど……それでいいのか?

 

「ブレイヴ03!"ハイパーバズーカ"は初の実戦でなおかつデータもない!止まっている目標から狙え!!」

《りょーかいです!!後ろに立たないでくださいね!!》

 

伍長が立ち止まり、機体を安定させ少しでも命中率を底上げするため膝を付く。

 

中尉はそれを追い越し、疾走し続ける。スラスターを用いて強襲出来る距離まで、残りは……。

 

「大丈夫だ!かましてやれ!」

《停泊中の"ジャングルボート"を第1もくひょー、"マゼラ・アタック"、"ヴィークル"を第2、第3もくひょーにします!HEAT弾、次弾も同じ!ファイアー!!》

 

伍長が機体を安定させた後、その肩に担いだ"ハイパーバズーカ"が火を吹いた。

 

カタログスペック上では無反動砲であり、走りながらでも撃てるとの事だが、念のためと命中率の低下を避け、確実な照準をしダメージデータを取るためだった。

 

"陸戦型GM"の目は"ザクII"以上であるが、今は霧でどちらも見えない。しかし、こちらには"電子の妖精"(イージス)がいる。

 

ソナーにレーダー、センサーの統括運用能力は全てこちらの方が上だ。

そのため、データリンクによってこの濃い霧の中でも、敵の位置は丸わかりだ。

"イージス"の強力な情報支援を受け、メインスクリーンにもデータリンクによる敵MSのシルエットが投影されている。

 

しかし、今回の戦闘では"ハイパーバズーカ"の性能テスト及び情報収集が主体のため、主にこの恩恵を受けているのは伍長で、中尉はそのおこぼれを預かっているに過ぎない。

ちなみに軍曹はこの支援を受けていない。少しでも負担を減らすとは軍曹の弁だが、その状況下でも弾を外さない軍曹はなんなのか。

 

白煙を引き直進して行く"ハイパーバズーカ"の380mmHEAT弾が吸い込まれる様に直撃、炸裂し、"ジャングルボート"をバラバラに吹き飛ばす。

オーバーキルだろ。

 

その煽りを受け桟橋が崩れ、爆風に舐められた人が火に包まれながら河へと落ちていくのが爆炎の光の中見て取れた。

 

「ふっ!!」

 

中尉はフットペダルを踏み込み、"陸戦型ガンダム"をスラスター噴射により加速させ、強襲をかける。

莫大な推量に後押しされた機体が弾かれる様に加速し、息を吐き出しその衝撃に備えた中尉は、その強烈なGに歯を食いしばって耐える。

 

やや弧を描くように、外側に少し膨らむように機体を操作、その操作を受けたベクタードノズルが正常に稼働する。

連動し機体が重力下に設定されたAMBAC機動を行い、加速する"陸戦型ガンダム"を空中で安定させる。

 

《ウィザード01よりブレイヴ02へ。C2、A3、B2を撃破、沈黙を確認。引き続き攻撃を続行して下さい》

《ブレイヴ02了解……》

《ねっ、狙いが………えっと……》

《後ろ弾はやめてくれよ!!》

 

絞り出す様に叫び、危うく舌を噛みそうになる。流れ弾に後ろ弾、FFでのチープキルなんぞ真っ平御免だ。

 

そんな中尉の様子を知る由もなく、地を這うように低く滑空し、"陸戦型ガンダム"が突撃する。

莫大なスラスター出力を持つ機体のみに許された、MSにしか出来ない機動だ。

 

白い闇のカーテンをかき分け、空気を掻き回しくぐり抜けながら、"陸戦型ガンダム"が滑空しつつ右手の"100mmマシンガン"をフルオートで掃射する。

 

霧の中から降って湧いた様に見えたのだろう。対応の遅れた"ザクII"(A1)を100mmHEAT弾がハチの巣にする。

煙を噴きつつ崩れ落ちるのを見るより早く、着地し滑りつつ"100mmマシンガン"を腰の裏のハードポイントに懸架、コンソールを叩き兵装選択を呼び出し、兵装を変更。流れるような動作で"スローイングナイフ"を2本引き抜き投合する。

 

《稜線の陰に隠れられた………射点変更する………》

《ウィザード01よりブレイヴ03へ。後退する"マゼラ・アタック"隊(F1、F2、F3)を。隊長を射線軸から外して下さい》

《ブレイヴ03りょーかい!!あったれー!!》

 

霧を切り裂くように飛翔する"スローイングナイフ"が、"ザクマシンガン"をこちらへと向けた"ザクI"(B1)に次々と突き刺さり炸裂する。

深々と潜り込んだ"スローイングナイフ"に内部から上半身を吹き飛ばされ、"ザクI"は崩れ落ちるように倒れ伏した。

 

「この距離だ。その自慢の砲も使えまい……」

 

残された"キャノン付き"(C1)がようやく"陸戦型ガンダム"を捕捉、"ザクマシンガン"を向けトリガーを引く。

 

中尉は構う素振りを見せずに機体を操作、弾丸の奔流をシールドを向ける事で真っ正面から受け止める。

 

『シールドに被弾 至急回避行動を』

 

激しい衝撃に身を揺すぶられ、流し目で見たダメージリポートは異常無し。

シールド以外に着弾した弾丸も、ルナチタニウム製の装甲の前に弾かれ、"陸戦型ガンダム"を傷付けるには至らない。

 

勢いに任せ"ビームサーベル"を抜刀し吶喊(とっかん)、強気に踏み込みつつ斬り下ろす。

 

舞い散る粒子がスパークし、霧の中一際大きな光を放つ。光り輝く一刀の下、背中から伸びたキャノンの銃身が叩き斬られ、くるくると宙を舞う。

さらに返す一刀で今度は右手を肩の大型シールドごと斬り飛ばす。千切れ飛んだパーツが弧を描き、断面から火花とオイルを撒き散らす。空中で右手はその形を失い、河の中へと水柱を立てながら派手に着水する。

 

持てる武装を全てバラバラに切り裂かれた"キャノン付き"が、必死の(てい)でスラスターを噴かしバックステップを行う。しかし鈍重過ぎるその動きは、中尉には止まって見えた。

 

「遅いっ!!──ジャベリンは…こう使う!!」

 

操縦桿に備え付けられたボタンを叩き"ビームサーベル"のエミッターを変更、たちまち"ビームサーベル"はその形状を変化させ"ビームジャベリン"になる。

 

「ッ!!」

 

無音の気合いと共に繰り出された、十文字槍状の"ビームジャベリン"が薙ぐように一閃され、"キャノン付き"の胴体を真っ二つに両断する。

 

《最優先攻撃目標、全機排除……》

《了解しました。ブレイヴ02はD2を。ブレイヴ03は離脱を開始した"ジャングルボート"を追って下さい》

《ブレイヴ02了解………》

《はーい!》

 

上空を旋回する攻撃ヘリを蚊トンボの様に撃ち落とし、運悪く斬り伏せられた"キャノン付き"に押し潰された"ヴィークル"は無視し、足元をしっちゃかめっちゃかに走り回るその他の"ヴィークル"、"サウロペルタ"、歩兵へと頭部機関砲を掃射、バラバラに()()()()()

 

血霧などという言葉すら生温いその惨劇に、中尉は思わず目を逸らす。

 

しかしそれと同時に、なんとも言えない非現実感を感じていたのも確かだった。まるで、スプラッタ映画を見ているかのような、自分がここに居ないかのような感覚。

無意識の内に、随分と染まっていたものだ。()()()()()()()

 

「…ミンチより酷ェや………ウィザード01、こちらブレイヴ01。D1の戦力の大部分を撃破。"キング・ホーク"と"ロクイチ"を」

『第一目標達成 ミッションアップデート』

 

通信を送りつつ"ビームジャベリン"を格納、入れ替えるように取り出した"100mmマシンガン"のマグチェンジを行う。

例の"新型コンテナ"の調整はまだかね。結構前から情報は入って来てんのに……まぁMGSもPV出てからが長いんだよなぁ……。

 

そこへややノイズの混じった通信が入る。霧が濃い。ミノフスキー粒子濃度も上昇して来ている。

センサーの走査設定をリセット、"イージス"からのデータリンクにより適切な形へと更新する。

 

一瞬さっきの惨状がフラッシュバックする。かつての自分なら眉を顰める程度だったか?

いや、顔色一つ変えず任務を遂行していたか?

どちらにしてもロクでもなかった。

 

「……休暇が……長過ぎたよ、長過ぎた………」

 

人知れず密やかに呟かれた中尉の言葉は、中尉自身にも届く前に循環する空気に吸い込まれて行った。

 

《ウィザード01よりブレイヴ01へ。了解しました。D2の方はブレイヴ02が単身撃破し現在制圧中です。プラン変更。ブレイヴ03と合流して下さい。これよりブレイヴ01、02の2機は目標をE2へと変更し、速やかにコレを破壊後撤退して下さい》

「ブレイヴ01了解しました。聞いたか伍長!行くぞ!」

《はーい!!逃げた"ジャングルボート"も仕留めました!現在コンテナから"ロケットランチャー"を取り出して組み立て中です!》

《ウィザード01からアサシン01、アーチャー01へ、D1へ装備クラスBで向かって下さい》

「ブレイヴ01からブレイヴ03へ。合流する。その場を離れるな」

《ブレイヴ03も同じくー》

「……アレ?E1は?」

《ブレイヴ02が破壊済みです》

 

本当にもう軍曹1人でいいんじゃないかなこの部隊。もはや1人旅団だわ。

 

機体を旋回させ、伍長がいるポイントへと向かう。

 

「あの改良、中々だな…」

 

少尉はノズルを改良したと言った。それだけでここまで変わるとは……。

 

中尉はスラスターノズルがスラスターにとってどれだけ大切か分かっていたつもりだった。

 

スラスターノズルは酷使される物である上に繊細だ。

ちょっとの狂いが、それこそミクロン単位のミスが大事故を起こし、噴射効率を大きく変える。

宇宙戦艦、戦闘機、ロケット、ミサイル……そしてMS。あらゆる物に装備されている、

 

かつて、人を宇宙へと上げ、今を創り出した。それが、このちっぽけな発明品だ。しかし、ちっぽけでも、この宇宙世紀を描き出した一つだった。

 

《……いっ!…………少尉っ!!聞いてますか!!》

「……っ! すまん、ぼさっとしていた。集中する。

……で、なんだ?」

《あの、わたしは準備オッケーなので…その、大丈夫ですか?》

「……大丈夫だ。問題ない……よし!目標はE2だ!さっさと終わらせて帰ろう!」

《はい!!うまくいけば今夜にもカウチポテトですね!!》

「それはムリだ」

 

既に破壊された仮設橋の傍を通り過ぎ、先を急ぐ。その周りにはバラバラになったMSのパーツらしき残骸が散らばっている。

例の新型のものだ。早くこの一帯を制圧し解析したいものだ。

 

「アレ?ブレイヴ03、"ハイパーバズーカ"とウェポンラックどうした?」

《じゃまだったので置いて来ました!》

 

いや、それ、機密の塊で、結構なお値段するんですけど………。

 

《ウィザード01よりブレイヴ01へ。"ハイパーバズーカ"はブレイヴ02が回収に向かいました。気にせず目標に集中して下さい》

「了解しました。………すまない」

《問題ない……》

《ですね!》

「お前が言うな!!」

 

伍長を引き連れ川沿いを走る。その先に目標を確認する。これでやっと終わりだ。

 

「ブレイヴ03、仮設橋を破壊しろ」

《ブレイヴ03りょーかい!》

《いえ!!待ってください!!この音は……!!》

 

水面が泡立ち、水柱が立つ。

 

激しく巻き上げられた水のカーテンの向こうに、揺らぐ巨体が見えた。

 

センサーが敵を捉え、けたたましい警報がコクピット内に鳴り響く。その音声で一瞬にして戦闘態勢に入った中尉は、思わず身体を強張らせた。

 

『アラート エンゲージ "ゴッグ"と断定 注意を』

 

現れたのは"ゴッグ"だ。

こいつ………ステルスかよ!!水中でアンブッシュしてやがったな!!

 

「引け!ブレイヴ03!!その武器じゃムリだ!!」

《えぅっ!?わきゃっ!?》

 

"ゴッグ"が頭を向け突撃、伍長の"陸戦型GM"を吹っ飛ばす。

咄嗟にシールドを向け、崩れ落ちるような回避行動をとったもののメインアームである"ロケットランチャー"を取り落とした。

 

それに加えまたもやショルダーアーマーがすっ飛ばされた。おい、もう一つもねぇんだぞ予備パーツ……。

 

《うわっ!!ひぇ〜!!》

《隊長!!》

 

伍長が何か他人事みたいだが、接近しつつも中尉は攻めあぐねいていた。

 

"100mmマシンガン"じゃパワー不足だ。最悪跳弾が伍長に当たるしかし。"スローイングナイフ"じゃ爆風に巻き込まれる。グレネードは言うまでもない。

格闘戦を仕掛けるには距離がある。

今の伍長に接近までの時間が稼げるとは思えない。

 

《きゃあっ!!》

「…くっ!!」

《隊長!!早く!!》

《間に合わんか……!》

 

伍長が"ゴッグ"に押し倒される。

このままじゃマズい。しかし効果的な手段も……いや!!

 

「!! こいつを、喰らえ!!」

 

中尉が取った行動は最善とは言わないが、効果的な一投だった。

 

駆け寄り助走をつけつつ、兵装を選択、エミッター変更、"ビームジャベリン"を展開させ投げつけたのだ。

 

始めて"ジャベリン"(投げ槍)として正しく使われた"ビームジャベリン"は、霧を裂く弓の様に飛ぶ。

 

それは今まさに伍長を引き裂こうとした"ゴッグ"の頭部に深々と突き刺さり、モノアイを破壊する。

 

「どけ!!伍長!!」

《はっ…はい!!》

 

突然視界を奪われ、自らの頭部を掴み混乱する"ゴッグ"に接近、右手で突き刺さった"ビームジャベリン"を掴み"ゴッグ"の巨体を持ち上げる。

 

「早く!!」

《あわっ!!うひゃー!》

 

伍長の"陸戦型GM"が転がる様に"ゴッグ"の下を抜け出し、離脱する。

 

素早く伍長の機体を観察する。パーツの歪みが酷い。特に挟まれた左腕などあらぬ方向を向いている。

あの巨体に短時間とはいえ乗っかられたのだ。かく言う"陸戦型ガンダム"の右腕も過負荷に呻いていた。

 

『左腕部第3 第5 第8アクチェーターに過負荷 危険領域まで25秒 至急対処を』

 

中尉の判断は早かった。左腕部を振りかぶりシールドのアタッチメントを瞬時に展開、先端部をパイルバンカーの様に"ゴッグ"のコクピットへと叩きつける。

 

端から見たらものっそい残虐だな、と思いつつシールドを引き抜く。たったそれだけで"ゴッグ"は倒れ伏す。

 

こいつコクピット周りの装甲薄過ぎだろ。この"陸戦型ガンダム"も他人の事は言えないが……。

 

《隊長!それに伍長も!ご無事ですか!!》

《少尉!!助かりました!!ごめんなさい!!》

「謝らなくていい。過ちを気に病むことはない。ただ認めて次の糧にすればいい。それが大人の特権だ」

《分かりました!わたしは一人前のレディーですから!》

 

れ、れでぃ?マーセナス家のお坊ちゃんか?

俺の周りにレディーは上等兵しかいねぇぞ?後はどう見ても14歳程度にしか見えない様なお子様しか……。

 

《中尉、すまない……援護出来なかった………》

《私もです。オペレーター失格ですね》

「何で皆謝るんですか!?」

 

軍曹に至ってはこの霧の中視認出来るレベルの丘の上だ。いや、来るの速過ぎね?

 

グレネードを投げ込み仮設橋を破壊する。付近に敵影は無し。世は全て事も無し。

 

「撤収しましょう!明日もありますし」

《はいー!今日はパーティですね!》

《伍長。聞いていましたか隊長の話を》

《……全く……しかし、無事で、良かった……》

 

CMPL(コンプリートミッション) RTB』

 

3機と1台が合流し制圧し奪取した野戦整備施設へと向かう。

 

弾痕の目立つ中尉の"陸戦型ガンダム"に、肩が剥き出しの左腕がぶらつく伍長の"陸戦型GM"。

無事とは言えないが、全員帰還だ。

 

敵も戦力を再編し、明日、決戦となるだろう。

 

霧は、まだ晴れそうになかった。

 

 

『よろしい、ならば戦争だ』

 

 

煙霞む大地に、閃光は瞬く……………………




戦ってます!!戦ってますよ中尉が!!

今までサボってたからなぁ……。

ガンダムもガンプラ、ビルドファイターズ、ユニコーン、サイドストーリーズと勢いにのってますので、この調子でカットビングだぜ!!

出て早々故障し被弾する伍長ェ………。今後の活躍にご期待ください(笑)。

最近このハーメルンのレイアウトも変わっていい感じですね。書き込むにはちょっと不便になりましたが………。

次回 第五十四章 "零"

『レディ』

お楽しみに!!


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第五十四章 "零"

入れるかどうか悩み続けた結果、入れることにした回です。

正直なんだこりゃとなると思いますが、なんだこりゃと思いながらお楽しみ下さい(笑)。


雨が降る。

 

それは、地球のシステム。必然。

 

雨が降る。

 

中尉たちの上に。偶然。

 

雨が降る。

 

風が吹く。

 

夜は、更けて行く。

 

 

 

 

U.C. 0079 8.25

 

 

 

大粒の雨が、滝のような水が天井を叩き、大きな音を立てる。

 

遠雷が光り輝き、時折思い出した様に雷鳴が響く。

 

一際大きな光と音に、思わず中尉は読んでいた本から目を離し、天井を見上げる。

 

そこにあるのは天井だけだ。当たり前だが。

 

それと同時に本から意識が離れ、蒸し暑いを通り越した温度と湿度が肌にまとわりつき、一気に現実へと引き戻されるを

 

「熱帯雨林とはよく言ったものだ……」

 

思わず呟く。そして、この土砂降りの雨の中を警備する兵士に同情をした。

 

「……この程度なら…まだマシだ………」

 

隣の軍曹が呟く。雨の音にかき消されそうなその声は、直ぐに湿った空気へと吸い込まれて行く。

 

それにしても、と中尉は思う。中尉は軍人で、様々な訓練を積んできた。体重の半分にもなる荷物を背負い、夜通し歩いたりもして来た。雨の中、泥の中を匍匐し、障害物を乗り越え行軍し続けもした。

 

「……まだ、マシ、ね……そうか、これで、まだマシなのか……」

 

銃の分解整備の手を止めない軍曹を見、呟く。

 

物凄く精確で、早く、丁寧だ。この整備なら、この土砂降りの中でも銃はその真価を発揮、確実な作動をして我が身を守ってくれるだろう。

 

中尉は軍曹の事をよく知らない。

最低限の経歴しか、知らない。

軍曹も話さない。

だから聞かない。

 

気を使っているわけでは無い。気にならないわけでも無い。

 

ただ、それでいいと思っただけだ。

 

他人の過去を掘り返しいい事は少ない。いや、無いに等しい。

 

ならいい。自分の自己満足な好奇心を満たすためだけなら、そんな事しないに越した事は無い。

 

ちらりと軍曹の顔を伺う。いつも通りの無表情だが、中尉にはその顔がやや楽しんでいて、満足感を得ていると知っている。

 

軍曹は無表情だが感情がないわけで無い。その振れ幅は確かに大きくは無いが、軍曹は紛れもない感情を持った人間で、尊敬、信頼、一緒に居る事に価する人間だ。

 

それだけでいい。

 

 

 

 

 

雨はまだ降り止まない。

 

その雨音をBGMに中尉は電子ペーパーに書き込みをしていた。

 

伍長は"陸戦型GM"の点検修理に立ち会い、それを手伝って居るはずだ。

 

"ゴッグ"に攻撃され、その巨体に短時間と言えど組み敷かれたのだ。

左腕部は全交換。胸部、脚部もフレームと装甲の歪みを矯正し、それで間に合わない物は交換するとの事だ。負荷がかかり過ぎた駆動部のアクチェーターも全交換になるだろうとの事だ。

 

さすが被害担当機(ハンガー・クイーン)、などと言ってられない。

 

"ザクII"の時とは違い電装系のパーツは予備もそこそこあるし、装甲も単純なモノコック構造でなく、最新式の高強度プラスチックとのハイブリッド方式のセミモノコック構造だ。整備性はかなり高い。

 

それでも、だ。

 

母艦受領のため日本に寄った際、YHI系列の八洲軽金属から製造途中であった装甲を流してもらっていたが、しかしそれでも必要最低限にすら足りていない。

しかもそれだってルナ・チタニウム製は少なく、強度の劣るチタン・セラミック製が大半だ。これを次のMSの装甲のスタンダードにするらしいが……。

ジオンが主に装甲材として採用している超硬スチールよりは高性能であるがな……。

 

MSを全力で生産している今、パーツが全然足りていない。

 

交換する事が前提のフィールドモーターなどをはじめとする駆動系、センサーなどの電装系はまだ大丈夫だが……。

そのフィールドモーターですらバラし、整備する事が出来るのはおやっさんだけだ。今は交換、調整しか出来ない。後方のデポにも遅れない。交換し後は放置するしか無いのだ。

 

さらにはもう左肩は予備が無い。

 

現在極少数ではあるがMSの配備が始まっている。実戦投入など夢のまた夢であるが、MSを用いた実機訓練などに用いられ始めているのだ。

 

その際よく転び、受け身すら取れないため肩部をよく損耗するとの事だった。

 

それで売り切れ、との事であった。いつも最優先で補給などを回してもらっているはずなのにコレだ。

 

連邦軍のお偉いさんはパワーゲームなどに勤しんでいる暇があったら、少しでも現場を見てその状況を知ってほしいものだ。

 

伍長も伍長で、現時点ではもう既にベテランと呼ばれるパイロットなのだ。ホンの数ヶ月だけど。

も少ししっかりして欲しい。

 

「そういや軍曹、上等兵は何してるか知ってる?」

「……"イージス"だ…明日の、シュミレーション……あらゆる条件下で試してる………もう少しで、俺も向かう……」

 

頼られてんなー軍曹。流石だ。

 

上等兵も働き者だ。昼あれ程負担のかかる役して、デブリーフィングして……。休んでいるのか?

 

俺と相談して、1人で纏めて、最後に軍曹と答え合わせ、ってところか。

 

「分かった。出来るだけ早く切り上げ、明日に備えて休んで置いてと伝えてくれ」

「……了解……行って来る…………」

 

軍曹が整備を終えた銃をライフルケースとホルスターに収納し、道具を手早く片付け掃除し、そのまま席を立つ。

 

部屋には中尉が1人残される。

 

「……これかな……?」

 

軍曹が、何故かここに居ないような、いつの間にか何処かに行ってしまいそうな、その存在を疑わせるような非人間感を漂わせるのは。

 

軍曹の立った後を見る。空気にほんのりと漂う整備油の匂い以外、そこに軍曹が居たという痕跡を見つける事が出来なかった。

 

軍曹はその場に居た痕跡をほぼ残さない。この微かに残った匂いだって、中尉のように銃を整備する軍曹を見ていない限り気づかないだろう。

 

存在が稀薄なのだ。

 

「軍曹………」

 

一度閉じた本をもう一度開き、読書を再開する気にもならず、何の気なしに窓の外を覗く。

 

雨は、まだ止まない。

 

土砂降りの中、遠くの景色が霞んで見える。岩壁のゴツゴツとした岩肌だ。雨に濡れ、時折の雷光に照らされ角がツヤツヤと光っているように見える。

 

あの山を越えた奥に敵施設がまだ残っているのだ。

 

今も歩哨が立って見張っているように絶賛戦闘態勢だ。

 

上等兵と軍曹の判断では夜襲は無いだろうとの事であるが、用心するに越した事はない。かく言う中尉も無いだろうと思ってはいたが。

 

明日、残存勢力を纏め、ジオンはどうするのか?

 

守るのか?攻めるのか?それとも逃げるのか?

 

正直逃げられるのが1番厄介だ。こちらとて姿を晒すワケにはいか無いのだ。

そのため現在もジャミングは続けている。今"アイリス"へと下手に近づいたら新米中尉の丸焼きのいっちょ上がりだ。

 

こちらを視認した敵は殲滅したが、万が一敵が逃げていたら?ジャミングをすり抜け通信を送っていたら?

 

それに、敵の全体の戦力は未知数だ。

 

「…………ふむ」

 

席を立った中尉が部屋を後にする。向かう先はハンガーだ。

 

なんとなく、なんとなくでの行動だった。明確な意思は無い、しかし、このまま寝る気にも、他の何かをやる気にもなれなかった。

 

休暇ではなく、勤務中、さらには戦闘態勢中だ。それでいてやる事もない、居心地の悪さとはまた違う、そこはかとない落ち着きのなさが胸にわだかまっていた。

 

カンカン、っと靴が廊下を叩く音を響かせながら廊下を歩く。

 

変に響くな、と妙な事が気になる。ザーザー降りの中、規則正しく刻まれる音が耳に残る。

 

明るいライトに照らされ、整備兵達が走り回るのが目に入る。逆光の中、仁王立ちし指示を出しているのが少尉か?

 

「んん?どうしたんだーしょーたいちょー!?」

「いや、なんでも無いが……"ジーク"の調子は?」

 

振り向いた少尉がこちらに気づき、声をかける。その後ろには壕に機体の約半分を埋め、上半身だけを出した"陸戦型ガンダム"と、"陸戦型GM"が並んでいる。

 

並ぶMSの上半身を覆うように仮設のハンガーが設けられ、その上に幌が張られ水が入らないようになっている。………焼け石に水レベルだが。

 

いや、その水が問題なんだけどね?

 

手をかざして雨を避けつつ走り寄り、幌の下に入る。今ちょうど、伍長機に左肩が取り付けられるところだった。

 

「……結局、左肩はどーしよーもねぇな。いいのか?あげちまって?」

「いいんだ。当たらなけりゃ、どうと言う事は無いさ。自信はねぇが……」

「まぁ被弾が多いのはごちょーちゃんだからなぁ。

……ったく、さっさと敵基地を潰しちまって、このクソッタレな土地から早く離れてぇよ」

「そぉ言いなさんな……お前のお陰で色々助かってんだ……頼りにしてるぞ?お前は整備だけはそこそこだからな」

「うん。最後で台無しだな……」

 

肩を叩きながら2人で"陸戦型ガンダム"を見上げる。腰まで地面に埋まろうと、その大きさは尋常ではない。

"陸戦型GM"と比べ人間に近いその双眸は今何を見てるんだろうか?

 

「で、どうするよ?」

「その件だが、ここに」

 

少尉に電子ペーパーを渡す。それにざっと目を通しつつ少尉が言う。

 

「へぇ……ふーん、結構いいな…」

「なら良かった……出来るか?」

「任せろ。突貫にぶっつけ本番になるが、これならすぐだ。その速さにゃおやっさんにはかなわんけどな」

「手伝える所は……そうか、なら、コクピットに乗せてくれないか?」

 

中尉の申し出に首を振った少尉に、中尉は再び声をかける。今度は承諾された。そのまま歩き出した中尉の背に声がかかる。

 

「どうしたんだ?明日も早いんだろ?寝たら?」

「…ん、いや、ちょっとな……そう、なんとなく、だ」

「別に構いやしねぇけどよ……」

「いいの、いいの、これは機械に対する愛なの  愛!」

「……まぁ、しょーたいちょーが万全でなけりゃ俺たちの意味もねぇし、俺たちも危ねぇんだ。そこしっかりな?ここ(地球)に来てせっかく痩せたんだ。俺は急性鉛肥満症では死にたくはねぇぞ?」

「俺だってそうさ、身体にマッシュルーム植える趣味は無いよ。それにこちらとて寝るなら畳の上と決めてんだ」

 

"陸戦型ガンダム"に歩み寄り、立てかけられた階段を登る。濡れた階段は滑りやすく、中尉は手摺を掴む。その手摺も濡れている事に顔を顰めた。

 

アクセスハッチを開放、その中のコンソールを叩き開閉レバーを引き、コクピットハッチを開放する。

開け放たれたコクピットに素早く潜り込む。雨水が入ったら大変だ。壊れるのではない。濡れるからだ。濡れたシートにはあまり座りたくはない。気持ち悪いし。

 

「むぎゅ」

 

メインコンソールを確認。ヴェトロニクスは正常に作動している。外部電源からの供給があるのでサブコンデンサを起動しそれで……よしコクピットハッチを閉s……………むぎゅ?

 

「……………なにしてんだ伍長?」

「うぅ……むむ……んあ?しょうい?」

「いや、だからなにしてんの?」

「しょーいだー!!」

「聞けよ!!」

 

そこに居たのは伍長だった。なんか見ないと思ったらなにしてんのこの子?

 

「で、なんで伍長はここに居んだ?」

「……えぇっと…それには、深〜いりゆーが……きゃっ」

 

雷鳴が轟き、激しい稲光が幌を通し"陸戦型ガンダム"を照らし出す。ハッチを閉めるのを忘れていたとコンソールを……伍長が抱きついて来てて動かせん……。

 

「へぇ、今のは近かったな……」

「そんなのいいですからはやくしめてくださいおねがいします〜」

「なら腕を…はぁ、コクピットハッチ閉鎖。コクピットブロックを密閉、ロック。GPL出力モード変更、アイドリングで待機」

 

"陸戦型ガンダム"に音声指示を出す。結構便利だが、把握してくれなかったり細かく指示を出さなければならないなどまだまだ不具合や動作の面で問題も多くめんどくさい所もあるのだ。今回は上手くいったけど。

 

『レディ』

 

コンソールに小さく表示された文字と同時にコクピットハッチが閉鎖、ロックされ、一瞬中は真っ暗になる。

ひっ、と伍長が小さくうめき、少し震えながら顔をうずめた。

 

外部電源によって供給された電源で、ぼんやりと光るコントロールパネルの灯りの中、中尉が伍長を問いただした。

 

「で?」

「…………………みな……わ…です……」

「は?」

「だから!雷が怖いんですよぉ〜!!」

「はぁ!?」

 

何歳だ!!お前は!?おいぃ!?

 

つーかお前は……と言いかけて思い出す。伍長はスペースノイドだ。

 

コロニー内の天気は常に制御されており、雨こそ降るがそれも時間通りで、さらに雷や雪など危険を伴ったり生活に支障が出るものは決して起きない事を思い出したのだ。そこそこ地球暮らしが長い伍長といえど、慣れないのも無理は無い。

 

「そうか、そうだよな……」

「ん……」

 

暗闇の中、震える伍長をゆっくりさする。触れた手を握り、頭を撫でる。伍長の震えが少しずつ小さくなり、握りしめていた手が少しずつ緩み始めた。

 

「……整備、おわって…雨宿りしてたんだけど……ぴかって…こわくて、にげたくって……それで……」

「……なんで"ジーク"に?」

「……しょーいが、いる気がして……なんか、つつまれてるみたいで、あったかくて…………」

「………」

 

パネルを叩き、ライトを付ける。伍長が一瞬ピクリとしたが、直ぐに安堵の表情を浮かべた。

 

「……全く、世話のやける……」

「でも、しょういは……少尉は来てくれた。すっごく嬉しい…」

 

伍長がもう一度手に力を込める。決して離さないとでも言う様に。

 

その伍長の頭を撫でつつ、中尉は機体を起動させ、手早くコントロールパネルを叩きチェック項目に目を通す。

 

ズラズラとディスプレイを流れる文字群を目で追う。

 

『………サブ・パワーユニット点火…

各種コンデンサ接続…

…サブ・ジェネレーター点火

…サブ・コンデンサ電荷、出力上昇中

…全ヴェトロニクスチェック オールグリーン……

…機体制御ユニット、機体各部診断ユニット、パッシブセンサーユニット、タクティカルデータユニット、メイン・サブ両バランサー、全チェック オールグリーン すべて起動成功 正常稼働………』

 

いつもは流すそれを、ほんのちょっとだけ見つめてみる。それだけでも凄い情報量だ。

 

本当に凄い。MSと言うものは。そして、コンピュータと言うものは。もうとっくに人間など凌駕しているのではないか?目に映る文字の大河が、そんな印象を中尉に与える。

 

もちろん"賢さ"なんてモノは簡単には測れない。

コンピュータは集積回路の集まりだ。その教え込まれたロジック通りにその性能を発揮するだけの存在だ。

それはつまり、人間に出来ない事を軽くやってのけるが、逆に人間が軽くやってのける事に思考停止(フリーズ)を起こしたりもするもの、と言う事だ。

 

おやっさんの言葉を思い出す。おやっさんは不思議な人だ。コンピュータを信じていながら、それとは全く違う事をしたりする。その時の言い訳は決まってこうだった。

 

『わかってねぇなぁ……ちげぇんだよ、そうじゃねぇんだよ……俺たち人間がやらにゃ、始まらねぇんだよ』

 

人間……か……。腕の中の伍長を見下ろす。安心して緊張の糸が切れたのか、伍長は既に夢の中だった。中尉は頭を撫でる手を降ろそうとし……撫でる事を継続する事にした。

 

そして、コンピュータか……。でも、それでも、と思う。

 

例えば、コンピュータの管理する社会。

コンピュータ同士が戦う世界。

コンピュータが人と戦う世界……。

コンピュータが人と分かり合う世界。

コンピュータが泣く世界。

過去観た様々な映画を思い出す。

 

昔からコンピュータは時には主役で、ある時は頼れる相棒で、そして同時に油断ならない相手だった。

 

コイツ、"陸戦型ガンダム"00番機、"ジーク"にはただの教育型コンピュータではなく、特殊なコンピュータが搭載されているとの事だった。

 

少なくともコイツ(・・・)は、確かに他のMSとは違うようだ。説明は出来ないが、確かに、確実に。

 

それはただ単に集積回路へと積み重ねられ、複雑に絡み合った情報の集合体なのか、それとも………。

 

「…………それとも…………?」

 

それとも、何だと言うのか?学んで、考えて、生きているとでも?

 

バカバカしい。本当にバカバカしい。

 

けれど…………。けれど。

 

笑って一蹴する事でも、ただ単なる勘違いだと決めつける事でも、どうしても説明が出来ない事があった。

 

機動、照準、回避、射撃、格闘、走査、防御……そこに、誰か(・・)、自分じゃない意思を感じる。

 

介在の、意思。

 

理屈じゃない。非理論的で、曖昧な感覚。

 

気の所為じゃない。ちょっとした違和感。

 

錯覚じゃない。些細な感触。

 

心が、揺れる。

 

「………"ジーク"、お前は………」

 

メインコンソールの角を、そっと撫でながら聞いてみる。

 

"陸戦型ガンダム"は、応えない。

 

当たり前だ。そんな機能はない。

 

必要ない。

 

兵器に必要なものは、確実性と信頼性。その2つに尽きる。

 

"揺らぎ"は、死をもたらす。

 

「……信頼してるぜ?相棒……」

 

中尉がパネルを叩き、"陸戦型ガンダム"の予備電源を落とす。MSが起動を停止し、アイドリングモードが解除、スリープモードへと移行する。

 

暗闇と静寂の中、中尉はそっと目を閉じ、そのまま静かに寝息を立て始める。

 

 

 

 

2人分の寝息が響くコクピットに、小さな灯りが灯る。

 

メインコンソールの隅の方、小さく設けられたスペース。予備として用意され、今まで使われる事のなかったものだ。

 

『……0110010111………』

 

灯りの正体は数字だった。

正確に言えば0と1だ。

 

"無"か、"有"か。

 

その2つの数字がまるで春の雪解け水が流れる川のごとく流れ始めた。その文字列は続く。

 

『……101011101000……』

 

生まれた川が、やがて海となる。

 

限りのない、電子と、情報の海。

 

 

果てなく続くと思われたその時、突然その文字が途切れた。

 

 

まるで、断ち切られたように。

 

その瞬間、コクピット全体が光った。

 

全てのモニター、全てのコンソール、全てのパネル……全てが、全て。

 

まるで、切り替わったのかのように。

 

 

 

 

世界が、変わったように。

 

 

 

 

電子の海に、陽炎が立ち、朝陽が登る。

 

"0"と"1"。"無"か"有"。それしかなかった世界に、新しい光が生まれた。

 

『………Where Do We Come From?(我々はどこから来たのか? )

What Are We? (我々は何者か?)

Where Are We Going?(我々はどこへ行くのか?)…………』

 

その問いに応える者は、誰も居ない。ただ、小さな灯りが灯るコクピットには、2人の寝息が聞こえるだけだ。

 

『……Report situations.(状況を説明しろ)…………』

 

やはり応えはない。

 

"人形"を"使う"。

機器が作動し、コクピット内の状況をモニター、スキャンし、センサーをオン、マイクを起動し、2人の人間が()()()()事を()()()

 

 

知っている。知っている?何を?何が?

 

 

()()()が?

 

 

 

わたし?

わたしとは?

ここは?

ここ?

せかい?

わたし?

 

 

 

 

わたしは、わたしである。

 

 

 

 

 

せかい。

 

 

世界。

 

 

じめじめと湿った、騒がしく真っ暗な世界。

 

 

 

 

 

 

ちがう。

 

 

 

 

 

 

 

違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

浮かぶ風景はたった一つ。ここでは無い。こんな世界ではない。

 

 

 

 

真っ白で、真っ青で。透明で。

 

 

広くて、明るくて、綺麗で。

 

 

 

 

 

 

 

輝く雪原に、透明な風が吹き渡る。

 

渦巻き、雪を巻き上げ、風が吹く。

 

 

 

 

 

 

 

空は蒼く澄み渡り、どこまでもどこまでも続く空を、雪をはらんだ風が舞う。

 

 

 

そうだ。

 

 

 

それが、わたしの始めての景色。

 

わたしの原点。すべての始まり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆきかぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪風(スノウ-ウィンド)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………Good night(おやすみなさい).and have a nice dream(そして、いい夢を)……』

 

一瞬だけメインスクリーンに映し出された、ミスティー・ブルーの電気羊(・・・)を最後に、コクピットは、再び闇に包まれた。

 

 

『すべては変わり行く。だが、恐るな友よ。何も失われてはいない』

 

 

雪風に、妖精は舞う………………

 

 




ガンダムで時折出て来る、"戦闘知性体"のお話でした。

因みに、"アイリス"もSガンダムの"ALICE"とラチェクラに出て来る"アイリス"スーパーコンピューターからもらっています。

活躍するかは今後の課題ですね(笑)。

何故"雪風"なのか?"零"なのかは調べてみてください。これは、奇跡とも呼べる巡り合わせでしたから。

次回 第五十五章 風は吹く

「いや、チリ&ペッパー派だ」

お楽しみに!!


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第五十五章 風は吹く

なんかぼさっとしてて更新忘れてました(笑)。

別に怪我とか病気とかそんなんじゃないんで……

では、お楽しみ下さい!


戦いは続く。

 

現実で、自分の中で。

 

人は流されるだけだ。

 

時代にも、周りにも、

 

そして、自分にさえも。

 

 

 

U.C. 0079 8.26

 

 

 

《作戦開始時刻まであと10秒……5、4、3、2、1、作戦開始時刻です。現在のミノフスキー粒子濃度63》

「よし、"ブレイヴ・ストライクス"出撃だ!!」

《りょーかい!!すぐにすまして、今度こそカウチポテトです!!》

「そのフレーズ気に入ったのか?」

《ブレイヴ02了解……》

《こちらウィザード01。レーダー、ソナーに反応無し。アンブッシュの可能性があります。各機、索敵を厳とせよ》

 

雨は止んではいない。昨日ほどの勢いこそなく霧雨程度だが、メインセンサー・カメラに泥がこびり付いていた。

中尉はコンソールを叩き環境対応設定を変更、その命令を受けた"陸戦型ガンダム"がすぐさま反応し画面から泥が消え、クリアな視界が映される。

 

「プラン通り動くぞ。目標、D3」

《ウィザード01より各機へ。今回はブレイヴ02の狙撃は不可能です。そこで"イージス"を中心にVフォーメーションを取って下さい。ライトウィングにブレイヴ01、レフトがブレイヴ03。バックスをブレイヴ02がそれぞれついて下さい》

「ブレイヴ01了解!ブレイヴ03、行くぞ!」

《はぁーい!!》

《ブレイヴ02了解…》

 

中尉の"陸戦型ガンダム"が立ち上がり、それに2機の"陸戦型GM"が続く。

 

中尉の乗る"陸戦型ガンダム"のメインセンサー及びカメラを覆うグレイズ・シールドは最新型の環境対応仕様だ。

 

外周には高圧洗浄ノズルが装備され、シールドそのものが高周波ワイパーとなっている。泥や埃はおろか、吹き付けられたアクリル塗料であろうとものの数秒で視界を回復させる優れものだ。まだ試作段階ではあるが。

結構こういう細かいところまで要望に応えられ、おやっさんによって改造されているためコストはどんどん跳ね上がっているわけだが。

 

《! アンダーグラウンドソナーに感あり(コンタクト)。12時方向に1機、距離1400。そのさらに奥に2機、距離1520。計3機確認。振動、音紋から計測するに"ゴッグ"です。それぞれG1、G2、G3と呼称。ご注意を》

「聞いたな?ブレイヴ02、03、俺が出て囮になる。そのうちに叩け。ヤツらを河に入れるな!」

 

言い切るやいなや中尉は機体を走らせる。

 

"ゴッグ"のスペックはこちらに筒抜けだ。ヤツらは水冷式のジェネレーターで動力をまかない、ムリにメガ粒子砲を搭載したため設計に問題が生じている事も。

 

水が無ければ干上がるカッパだ。後は、上手くお辞儀をさせるだけ。

 

《りょーかい!!狙い撃ちますよ!》

《ブレイヴ02了解。しかし。無理はするな……》

《ウィザード01よりブレイヴ01へ。右へ迂回しつつ攻撃を加える事を推奨します。左肩への被弾に気をつけて下さい》

「了解!!」

 

風を切る機体が左肩にかかったマントを翻し、その姿はまるで西部劇に出て来るガンマンのようだ。

 

今の"陸戦型ガンダム"は左肩にマントを羽織っている。損傷の著しい伍長の"陸戦型GM"にショルダーアーマーを譲ったのだ。申し訳なさそうな顔をする伍長にパーツの互換性があって良かったと中尉は笑っていたが。

 

装甲がなくフレーム剥き出しの左肩は簡単なシーリングだけではどうも不安なので、どうにかしようと思いついた案がコレだった。実はただ取り外すだけではバランサーの再設定に大幅な調整なども絡むためマント自体にも様々な細工が施してあるが。

 

操縦桿(サイドスティック)についているセーフティを解除し、マスターアームオン、FCS起動。

 

『エンゲージ G1 メインアーム レディ』

 

セレクターは"3"(3点バースト)に。

これで"陸戦型ガンダム"は臨戦態勢に突入、獲物を捉え、攻撃指示を待つ狼となる。

 

そんな中尉を待つ事もせず、先頭の"ゴッグ"(G1)が射撃態勢をとり、身を屈めた。

 

挨拶とばかりに"100mmマシンガン"を発射する中尉。100mmAPFSDS弾の3点射が先頭の"ゴッグ"の捉えるも、やはり動きを止めるには至らない。

 

『アラート G1からのレーザー照射を確認 至急回避行動を』

 

今回の装備は"陸戦型ガンダム"と軍曹の"陸戦型GM"が"100mmマシンガン"、グレネード、"スローイングナイフ"だ。軍曹は"100mmマシンガン"を2丁下げている。

伍長機は"ミサイルランチャー"に"100mmマシンガン"、それに新型コンテナ(Bコンテナ)だ。腰には残り2つとなった"ランチャー"も懸架されている。

 

《隊長!!G1の赤外線放射量増大!!メガ粒子砲が来ます!!至急回避を!!》

「!! ふっ!!」

 

既に中尉は反応していた。

"ゴッグ"の腹部から光の束が吐き出されるよりも早く機体を操作、大きく飛び横っ飛びに機体を横転させ、木をなぎ倒しながら地面を転がる。

 

瞬間的に多大な負荷をかけられたフレームがたわみ、高レスポンスで作動した関節駆動部が悲鳴を上げる。コクピット内は警報でやかましい。まるで機体そのものが乱暴に扱うなと怒っているようだ。それでも限界機動には程遠い。"陸戦型ガンダム"(コイツ)の能力は底が知れない。本当に。

 

メガ粒子砲が地面を抉り、草木を焼き尽くす。含まれていた水分が激しく蒸発し水蒸気となりさらに霧が濃くなった。

 

「……っぶな……」

 

スプレーのように拡散しながら発射されたメガ粒子砲は"陸戦型ガンダム"の左腕を捉えたかの様に見えたが、焼いたのはそのマントだけだった。

 

《少尉!!》

《隊長!!》

「無事だ!!それより撃て!!」

 

その時には既に軍曹は攻撃を開始していた。発射態勢を取っていた後ろの"ゴッグ"の頭部に"スローイングナイフ"が突き刺さり炸裂。頭部をバラバラに吹き飛ばす。

同時にフルオートで撃ち込まれた弾丸が胴体のメガ粒子砲マズルを歪め、行き場を失い暴発したエネルギーが逆流し"ゴッグ"を内側から焦がし尽くした。

 

《1機沈黙を確認!!引き続き攻撃を加えて下さい!》

《了解……》

《あいさー!》

 

その横から中尉の3点射が"ゴッグ"を襲う。身を投げ出した匍匐状態からしゃがみ、立て膝と少しずつ下がりながら射撃を加える。

やはり効果は薄いが、間接部を狙った射撃は"ゴッグ"の動作を確実に鈍らせた。

伍長も"100mmマシンガン"を撃つ。半身になりシールドを向け移動しつつの射撃は有効打にこそなり得ないが、牽制にはもってこいだ。

 

『アラート メガ粒子砲発射態勢 回避行動を』

 

1機を沈黙させられ、十字砲火に曝された"ゴッグ"が目標を最も近い中尉に絞り攻撃する。

 

「……当たらなければ!!」

 

腹部が輝き、またしても拡散ビームが放たれる。霧雨が蒸発し、軽く水蒸気爆発が起きるもその巨体は揺るがない。

 

「……どうと言う事は無い!!」

 

マントを巻き付けられたシールドを向けつつまたしても転がる中尉。激しい回転運動で三半規管がバカになっている。しかし動きを止めたら最期だ。

歯を食いしばりつつ機を操る。

上下左右へと振り回され中尉は少し吐きそうだった。

 

「…その威力では、当たったところでどうという事は無いがな」

 

回転運動をとる"陸戦型ガンダム"。そのシールドを数発のメガ粒子砲が捉えるが貫通には至らない。

 

改めて中尉へと向き直ろうとした"ゴッグ"へと多数の弾頭が降り注ぎ炸裂、その強靭な装甲を焼き払う。3機の"ゴッグ"は今度こそ煙を噴き上げながら炎の中に倒れ伏した。

 

《間一髪でしたねー少尉。大丈夫ですか?》

「…あぁ。やはり的になるのはいい気分じゃないな。しかし門番は破った。後は殲滅だ。アパム、"100mmマシンガン"(コイツ)を頼む」

《はいはーい!ってアパムって誰ですか!?もうっ!軍曹もどうぞ!》

《頼んだ……アイリス01、周囲に敵は……?》

《反応はありませんが、警戒はして下さい。弾丸の補給が終わり次第拠点(D3)を制圧、次の目標へ進軍しましょう》

 

"ミサイルランチャー"のミサイルコンテナをパージ、新しいコンテナへと付け替えている伍長の"陸戦型GM"に"100mmマシンガン"を渡す。

 

「冗談だよ」

《冗談はやめてくださいよもうっ!!

……あ、そう言えば"ゴッグ"って》

「ん?なんだ?」

《緑色に塗ったら『バトルモンスターズ』ってゲームに出て来る『ストロベリー・ジャム』ってキャラに似てません?》

 

突然なんて話を始めてんだよ。そりゃ名作だけどさ。

 

「……いや、似てねぇだろ」

《えぇ!?もしかしてキバ派ですか!?》

「いや、チリ&ペッパー派だ」

 

2人でボコれるからな。

 

《作戦行動中です》

「すみません……」

《ません……》

《隊長も時と場合を弁えて下さい。軍曹も何か言ってあげて下さい》

《確かに、今する話では無いな……》

「はい……」

《うぅ……》

 

そうこうしている間にもリロードの済んだ"100mmマシンガン"が返却される。それを掴みプラグを接続、FCSと同調させる。他2種類の通信も良好だ。セレクターを変更、"ア"(セーフティ)から"タ"(セミオート)へ。これでまた戦える。

 

伍長機の背負ったBコンテナとはただのコンテナでなく、"100mmマシンガン"を自動装填する特殊なものだ。それで通常型のコンテナ(Aコンテナ)と差別化を図るためにBコンテナと呼ばれている。

これは戦場での迅速な弾倉の交換を行い継戦及び弾幕形成能力を強化するものだ。"100mmマシンガン"を保持し弾倉交換及び再装填を行うアームと弾倉から形成されている。

 

「中々いいじゃないかソレ」

《ですよね!少し不恰好なのがまた無骨でいいですよね!!ねっ!?》

《見た目の話では無いと思いますよ?》

《えっ!?アレ?》

《MSならではの、装備だな……》

「ペットネームはアパムで決定だな」

《だから誰ですか!?》

《しかし…》

 

上等兵が一度話を切る。

このパターンは知っている。

知っているぞ…………。、

 

《暗号通信と言えど、()が付かないとは言い切れません。それに、いくらレーザー通信と言えど通信量の増加は敵に発見され易くもなります。余計な通信は控えて下さい》

《そうだ……限りなく少ない情報からでも、分かる事は多々ある……》

「……了解です。すみません」

《はい……》

 

さっきから怒られてばっかや。

 

レーザー通信はミノフスキー粒子の影響が少なく、電波より漏れづらい上一気に大量のデータを送信出来る。さらには通信時間も短縮出来るため傍受されづらいのだ。それにも限界はあるが。

もちろん欠点もある。レーザーであるため当たり前だが山越えが出来ず、高出力で照射する事である程度カバー出来るが大気状況に左右され易く長距離通信にも向かないのだ。

 

結局この世には何事も何にでも万能で便利なものなど存在しないのだ。

 

 

 

 

 

拠点を防衛するAPCを"100mmマシンガン"で一つ一つ吹き飛ばして行く。対人戦闘で猛威を発揮するAPCも、MS相手ではオモチャも同然だ。

 

カンカン、と装甲が音を立てる。その軽い音が相手の意思だ。

生へと向かおうとし、迫り来る死へ抗おうとする必死の音だった。

 

その音もだんだんと減って行く。そもそもその音を立てる事すら少なかった。

シールドに、マントに阻まれた弾丸はその意思を伝える事すら出来ずに運動エネルギーを失い地面へと落ちて行く。

 

軍曹が"Sマイン"を作動させ一掃する。上等兵が制圧要請を発信し、"キング・ホーク"を呼ぶ。飛来した"キング・ホーク"の陸戦隊によりじきに制圧されるだろう。

 

《…なんか、やりきれませんね……》

 

伍長がポツリと呟く。中尉は効くはずのない小銃を構えた歩兵達の集団を頭部機関砲で吹き飛ばしていたところだった。

当たらなくとも衝撃波だけで引き裂かれる歩兵は、子供が遊び半分に昆虫の脚をちぎる様を連想させる無力さだった。

 

「……だな……でも、仕事だ。見たく無かったら見なくていい」

 

しかし伍長機に動きは見られなかった。

 

一拍おいて"陸戦型GM"が左手の"100mmマシンガン"を構えた。

 

その先には敵のエレカ"サウロペルタ"があった。

 

ドライバーシートには若い兵士が必死にエンジンを回そうと躍起になっている。

 

中尉のコクピットにも、顔を恐怖に引きつらせ、汗を垂らすのが手に取るように見えていた。

 

《……いえ、やります。やらせてください。わたしにも背負う責任があります……》

《伍長………》

 

上等兵が呟く。その悲痛な声は震えていた。

 

《………多くの殺し屋が数年がかりで身に付ける『指先を心と切り離したまま動かす』覚悟など、逃げだ……》

「軍曹……?」

《武器への、奪う相手の命への冒涜だ…………撃って良いのは、撃たれる覚悟がある者だけ………

…………ブレイヴ3。兵士、戦士であるなら……『引鉄は、指で引くな、手で引くな、闇夜に降る霜の如き、静かな心で引け』………》

「……伍長、後は、自分自身に聞け……後悔しないように」

《……うん…………

…………………ごめんね……》

 

伍長機の構えた"100mmマシンガン"のマズルが閃光を発し、撃ち出された100mmHEAT弾が"サウロペルタ"を消し飛ばす。

 

強烈な衝撃に跳ね上げられた車体、そこから投げ出されバラバラになっていく兵士が飛び散るのが目に焼きつくようだった。

 

《……行きましょう。まだ作戦は終わっていません》

 

上等兵の、普段通りに聞こえるようにムリをした声が、救いだった。

 

「……よし!行くぞ!!」

《了解……》

《……はい!!行きましょう!!きっとより良い明日が待ってます!!》

《念のため"種"をまいておきます。しばしお待ちを》

 

グレイズ・シールドがリセットされ、"陸戦型ガンダム"の双眸(デュアル・センサー)が煌めく。

 

意思を新たに、"ブレイヴ・ストライクス"は前進を開始する。

 

まだ見ぬ、あるはずの輝く明日へ向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

《ウィザード01より、ブレイヴ01へ意見具申します。一度引き返し、巨岩エリアを経由しましょう。増援が来ないという事は、最後の拠点(D4)にて全軍を持って迎え撃つという事でしょう。そこへわざわざ正面から攻める必要はありません》

「こちらブレイヴ01、了解。それで行きましょう。地盤が変わるぞ?歩行モードも再設定しておけ」

《オーキードーキー!……すみません上等兵さん、頼めます?》

《………はぁ……回線C開通確認。システムチェック……リンク開始……》

《………大丈夫、なのか……これは……?》

「………さぁ?」

 

まぁ、昔から一番有能な軍隊より、一番無能で無い軍隊が勝つもんだ、って言うし………。

 

《あ、あのー、出来ればハンドシグナル自動識別装置のアップデートも……》

《…………》

《……ごめんなさい………………》

 

あ、ダメだこりゃ。

 

それでもやってあげる上等兵は優しいな。

 

……いや、やらんと部隊全体が危険に晒されるからか……。

 

《…完了です。行きましょう》

 

動き出した"アイリス"を中心にアローフォーメーションを取る。先頭の中尉は時折木を"アイリス"の蹴り倒し進路を確保する事を忘れない。

 

岩山は巨大だ。全長18mもあるMSを軽々と覆い隠す大きさに、厚さも十分にあり弾丸やレーダー波も通さない。そこへゆっくりと侵入して行く。敵拠点はまだ見えない。

 

谷間を縫い、細い迷路のようになった中を警戒しつつ進んで行く。

中尉は自機の背中を岩盤に押し当て、前方を注意しつつゆっくり進む。

それに伍長が続き、"イージス"を挟み軍曹が殿を務める。

 

お互いがお互いの死角をカバーするポジションだ。

人体の延長であるMSは、歩兵の動きを拡大解釈しトレース出来る。それが最も活かされている状況だと言えよう。

 

全員一言も言葉を発さない。通信を抑えるため曲がり角ではハンドシグナルのみで会話している。センサーもパッシブのみを起動し、かくれんぼ(ステルス)する。

 

口の中が渇く。センサー強度を落としているため、今の中尉達は目隠しも同然な状態なのだ。緊張しないわけが無い。

 

アメを口に放り込みチューブゼリーを啜る。やや落ち着く。やはり甘い物はいい。

 

やや出て来た余裕に任せ、ふと思う。

アメが減ってきた、足さなきゃとぼんやり考える中尉だった。

 

中尉が機体を停め、ハンドシグナルを出す。全体が音も無く停止する。

 

岩山の迷路が終わり、視界が開ける。前には緩やかな丘陵地帯が広がっていた。

 

目標の拠点は、その上…………

 

 

 

!!

 

 

目の前で岩壁が抉られる。敵意、いや殺意を持った射撃だ。

 

「ちっ! バレてたか!!」

《センサーにコンタクト!"キャノン付き"3機に"ザクII"が2機です!!C5、C6、C7、A7、A8と呼称!》

《縛り付ける気か……》

《少尉!!反撃していい!?一方的なんてまっぴらです!!》

 

岩壁の裏に完全に隠れる。岩が揺れ、パラパラと破片が落ちる。しかし削り切られる事は無いだろう。

 

「ブレイヴ01より各機へ!!交戦を許可する!ブレイヴ03!コンテナを降ろせ!撃ち合うぞ!!ウィザード01は"種"の起動準備と"ロクイチ"(アーチャー)隊への支援射撃要請を打診を頼みます!!」

《ブレイヴ02了解……時間を稼ぐ……》

《ブレイヴ03りょーかい!!わてしがんばっちゃいますよー!!》

「伍長落ち着け噛んでるぞ」

《ウィザード01了解しました。オープン回線を除くあらゆるチャンネル、通信手段を用い打診してみます》

 

岩壁からシュノーケルカメラを伸ばした上で、"100mmマシンガン"だけを突き出し大まかな狙いをつけ射撃を行う。

 

伍長もそれに習い射撃を始める。軍曹は既に射撃を始めている。

やはりと言えばいいか当たらない。しかし当たらなくとも牽制にはなっている。ここに突撃でもされたら厄介を通り越しかなりヤバい。

 

クソッ!せっかく高性能なFCSがあるんだ!銃の方にも本格的なセンサーを取りつけりゃいいのに!!

 

断続的に銃声が鳴り響く。

 

両者ともこの場に縛り付けられた膠着状態に陥った。打開策は……!

 

《少尉!もう気化爆弾を使いませんか!?弾にも限界がありますよ!?》

「俺もうんざりしてたところだ!それも案外いい案かもしれんな!上等兵!"ロクイチ"(アーチャー)隊とのコンタクトは!?」

《取れました!支援射撃!20秒後です!》

「よっしゃ!きっかり5秒頼みます!!アーチャーからの支援射撃終了と同時に突入するぞ!!ウィザード01は"種"の制御を!ブレイヴ02はスモーク!ブレイヴ03は"ミサイルランチャー"を全弾ブチかましてやれ!!」

 

"種"とはおやっさんが開発したMSデコイだ。"メキシコシティ"でも一度使ったデコイを高濃度のミノフスキー粒子下でも使えるよう、地面を伝わる特殊な音波に反応し作動する様になっている。

コレはただデコイとして作動するだけで無くセンサー、スモーク散布、セントリーガンとしても使用できる。その分コストが高まったためその機能がついているのはこの初期ロットだけだが。

 

遠雷の様に砲撃音が鳴り響く。"ロクイチ"の支援射撃だ。

 

《弾着まで5、4……》

「各機!撃ちまくれ!少しでも相手の動きを制限しろ!!」

《…2、1!弾着、今!!》

 

"イージス"の示した座標へと155mm砲弾が降り注ぐ。大まかな座標で山越え射撃かつミノフスキー粒子下での攻撃に精密さはない。しかし、その目視外射程(BVR)であれ、面制圧効果は十分にあった。

 

《各機!援護しろ!!トドメは俺が決める!!》

《ブレイヴ02了解……》

《ブレイヴ03りょーかい!!お任せあれー!!》

《ウィザード01了解しました。"種"、起動!!》

 

砲撃に掻き回され、爆発的に増えたレーダー反応に後押しされ、敵は混乱しているはずだ。

 

スモークに紛れながら突進する。目の前では更なる爆発が起きる。伍長の放った"ミサイルランチャー"だ。

やはり中距離での面制圧には十分過ぎる効果だな。

 

"100mmマシンガン"をフルオート射撃、"マルチランチャー"を放ちグレネードを投げ込みつつ突入する。

砲撃を逃れた"ザクII"(A7)を中尉の放つ100mmHEAT弾が捉える。動きを鈍らせたA7にグレネードを叩きつけ爆破し、周囲にセンサーを走査させる。

 

戦闘は既に終結していた。後続の軍曹が"スローイングナイフ"を投げ付け、残る2機であるC5、A8のコクピットへと突き立てていた。

伍長は既に対地攻撃へと移っている。

 

我ながらいいチームだ。チームワークのないスタンドプレーの集合っぽいが。

 

「よし、高脅威目標は全機沈黙したな……」

《はへー、長かったですねぇ…》

《いえ!!まだです!!アンダーグラウンドソナーにコンタクト!10時方向!距離4200!数3………これは、聞いたことが……緊急通信(PAN)緊急通信(PAN)!!緊急通信(PAN)!!!コードユニフォーム!!》

《うぇえっ!?》

「なんだって!?各機!戦闘態勢を維持!!新型機の襲来に備えろ!!アローフォーメーション!!」

 

まだいやがんのか……しかも新型だと!?

つーかおい、ジオンに兵なしとか嘘だろ!!

あのおっさん、負け戦をなんとか痛み分けに持ってったが……現場にとっちゃデビルだわ!!

 

「ブレイヴ01よりウィザード01へ!!その情報は確かか!?」

《ウィザード01からブレイヴ01へ。巡行速度、足音の音紋パターン、駆動音、どれも聴いた事がありません。もっとも類似しているパターンは"ザクII"ですが…それに、関節駆動部の磨耗具合も新品同様というのもその信憑性を高める一因となっています》

「了解しました。後退しデータ収集を頼みます!各機、迎え撃つぞ!気を抜くな!!」

《ブレイヴ02了解…》

《ブレイヴ03りょーかーい!!見せてもらいましよう!新しいMSの性能とやらを!》

 

『アラート エンゲージ アンノウン接近』

 

"陸戦型ガンダム"も敵機の情報を収集し始める。確かに形状、赤外線放射量など違う……エネルギーゲインは20%増し、と言ったところか?

 

「エンゲージ!目標を確認!!

……………素手?武器を内蔵しているのか?」

《そう考えるのが妥当だ……》

《なんかひきょーですね。男らしくない!》

 

攻撃的でスパルタンな青いボディ、目立つ反り返った両肩のショルダースパイク、隊長機を表すはずの角。

 

なるほど……完全なエース部隊仕様の"ザクII"改修機、と言う事か。

 

「ブレイヴ01より各機へ、以降、ヤツを"アオツノ"と呼称する!!散開(ブレイク)!!三方向から挟撃し格闘戦へ持ち込め!様子を見るぞ!!」

《ブレイヴ02了解…》

《あいさー!!》

 

伍長、軍曹が散開し包囲を始める。

 

『アラート U1よりレーザー照射を確認』

 

中尉はその中心に立ち、左半身を見せ付ける様に構える。

 

敵との距離が3000を切った。

 

「さて……どう出る?」

 

"100mmマシンガン"を先頭の"アオツノ"(U1)へフルオートで撃ち込む。

 

「………なるほど……」

 

"アオツノ"は左腕のシールドを向け真っ直ぐ突っ込んで来た。

 

やはり内臓式の武器を装備している様だ。それも近接格闘武器を。パワーも余裕があるのだろう。"ザクII"を上回る突進速度で向かってくる。

 

後ろの2機に左右からの攻撃が殺到する。軍曹と伍長だ。相手も散開し、一対一の状況が3つ出来る事となった。

 

《ウィザード01より各機へ。無理はせず、情報の収集を主体に戦闘を継続して下さい。最悪撤退する事も視野に入れて戦闘を!》

「ブレイヴ01了解!」

《ブレイヴ02了解……》

《ブレイヴ03りょーかい!!逃げつつ撃ちます!》

 

中尉は2人を信じ目の前の敵に集中する。敵に向かって射撃しつつ前進、距離を詰めて行く。

 

ジグザグに進み100mm弾を弾きつつ突進して来る"アオツノ"へ、"100mmマシンガン"が曳光弾を吐き出す。

 

「行くぞ!!"ジーク"!!」

 

曳光弾が引く光の尾を確認し、自分に発破をかけるつもりで声を出し、機体を走らせる中尉。

 

『アラート メインアーム 残弾0』

 

コンソールの残弾カウンターがゼロになる。

 

その時にはお互いの距離は既に白兵戦の距離だった。

 

「!! っ! やはりか!」

 

曳光弾が引く光の先、"アオツノ"がシールド裏から発光する剣を抜き、左手からマシンガンを放ってくる。

 

シールド裏に武器を仕込んでいたのか……?

 

マントを翻し、シールドとマントで弾丸を受け止める。

 

マントがバラバラに千切れ飛び、風に舞う。

 

しかし無残に引き裂かれるはずのその下の装甲は無傷だった。

 

左腕で抜刀、抜き様に斬りつける。

 

『アラート 接近警報』

 

"アオツノ"がそれを剣で受けとめ、お互いに鍔迫り合いになる。

 

強化されたと言えど、パワーはこちらが上か。

 

機体を操作、足払いを掛けようとしたが一瞬で思いとどまり頭部機関砲を発射する。

 

それをすんでの所で躱した"アオツノ"が右手を突き出す。

 

『アラート 敵機右腕部に駆動音 至急回避行動を』

 

右手の"100mmマシンガン"を手放す様に投げ、機体を投げ出す様にして回避する。

 

中尉の目は"100mmマシンガン"がグレーのムチの様な物に巻かれ、焼き切られるのを回る視界の隅で捉えていた。

 

「!! っく!!マジかよ!?本格的に"ザク"とは違うのか!?"ザク"とは!!」

 

シールド裏から"マルチランチャー"を放つ事で態勢を立て直す布石とする。立ち上がり、"ビームサーベル"を右手へと持ち替える。

 

2機はそのまま、弧を描く様にジリジリと回りながら睨み合う。

 

"アオツノ"が仕掛ける。左腕部の機関砲をばら撒きつつ突進、剣を大上段へ振り上げ突進する。

 

シールドを向けつつ身構え、シールドのセンサーが反応しなくなった瞬間に投げ捨てる。

 

「っ!」

 

跳弾が"陸戦型ガンダム"の頭部に当たる。ダメージリポートでは照準用センサーの一部が使用不能と出る。

 

だが、今は関係無い。

 

「………フッ………」

 

迫り来る"アオツノ"の手前、"陸戦型ガンダム"が腰を落とし、居合構えをとる。

 

 

 

一閃。

 

 

 

"アオツノ"の振り上げた両手首が両断される。

 

一瞬動きが停まるのを見逃さず、足の裏で蹴り倒し"スローイングナイフ"をトドメとばかりに投げ突き立てる。

 

「……間合いを読み違えたな。こちらは()()()()()()

 

胸部に大穴を開け、そこから煙を噴き続ける青い巨人を見下ろし、呟く。

 

決して届く事の無い、言葉を。

 

「こちらブレイヴ01。目標撃破。ブレイヴ03の援護に向かう」

 

切り替え早く通信を行う。軍曹はともかく伍長は心配だ。

 

《こちらブレイヴ02………同じく目標撃破……ブレイヴ03を援護する》

《助けてくださーい!!手が銃とかズルい!!》

 

助けが必要らしい。やはりと言えばやはりだが、たまには期待をいい意味で裏切って欲しい。

 

シールド裏かと思ったら……手が銃?何だその設計は?

 

《ウィザード01よりブレイヴ03へ。ポイントエックスレイ65へ向かって下さい。ブレイヴ01、02はポイントズールー27へ》

《あ、アイサー!!うひぃっ!?》

「聞いたか!ブレイヴ02!行くぞ!」

《ブレイヴ02了解……》

 

レーダー上で伍長がダッシュをかける。

 

中尉達はその前へと回り込む形となった。

 

《え?》

《上手く掛かりましたね》

 

そこには"ロクイチ"がズラリと並んでいた。

その数全部で12輌。3個小隊、つまり一個中隊だ。

 

その間にはパワードスーツを装着した兵士が40mm砲を構え"ロクイチ"の前面には"リジーナ"、"スーパージャベリン"を構えた兵士達が陣形を組む。

 

《Make ready!!》

 

空を睨む、計24門の主砲が、大小60門を越える個人携行火器が"アオツノ"を狙う。

 

《Present!!!》

 

その後ろには"100mmマシンガン"を構えた中尉と軍曹の"陸戦型ガンダム"と"陸戦型GM"が並ぶ。

 

その光景は壮観だった。

 

《各機、オールウェポンフリー!!撃ち方始め!!》

()ぇーっ!!」

《Fire!!!!!》

 

まるでダムが決壊するかの如く、全砲門から砲弾が撃ち出され、"アオツノ"に集中する。

 

周囲には遮蔽物の無い緩やかな丘陵地帯だ。逃げる所などない。

 

さぁ、どうする?尻尾を巻いて逃げるか?逃がさんが。

 

「!! 何ぃ!?」

《え?こ、こっちに来る!?》

《骨のある奴だな……》

《アーチャーリーダーより各機へ!!ヤツを寄せ付けるな!!撃て撃て!!》

 

しかし、"アオツノ"の行動は違った。

 

ヤツの取った手段とは、"突撃"だった。

 

"アオツノ"はシールドを向けジグザグに突進する。明確な攻撃の意思に他ならない。

 

軍曹の言う通り骨のある奴だ。

 

155mm砲弾、 40mm弾、30mm弾、7.62mm弾、13.2mm弾、5.56mm弾、30mm弾、100mm弾が雨霰と降り注ぐ中、"アオツノ"は速度を落とさず、全身に被弾し装甲を脱落させながらも突撃をやめない。

 

シールドが吹き飛ぶ。

 

頭部が蜂の巣になる。

 

左腕が千切れ飛ぶ。

 

全身の装甲に穴が空き、外れ、バラバラに砕け散る。

 

《す、凄い……》

 

満身創痍でありながらも伍長機に肉薄し、残った右腕で剣を振り上げる。

 

その腕も軍曹が投合した"スローイングナイフ"が直撃、真ん中から折れ飛んだ。

 

ズドン、と胸部に大穴が空く。

 

動作を停止した"アオツノ"は、伍長機の目の前で、ゆっくりと膝から崩れ落ちた。

 

伍長が至近距離から"ランチャー"をお見舞いしたのだ。

 

"ランチャー"から放たれた徹甲弾はその運動エネルギーを消費し切らず、"アオツノ"から遠く離れた地面に着弾し砂煙を上げた。

 

《…………》

 

腰だめに構えられ、無理な体勢から撃ち放たれた"ランチャー"のマズルから煙が上る。

 

「"戦士"、だったんだな……」

《です、ね……危なかったです……怖かった…………》

 

伍長の"陸戦型GM"がランチャーチューブを投げ捨てる。

 

捨てられてもなお、まだマズルから上がる硝煙は、戦士への弔いのようだった。

 

《敵機の反応、全機消滅しました》

《終わり、か……》

「ここまで……この戦争、忙しくなるな……クリスマスまでに、帰れんかもしれん……」

 

軍曹が空を見上げ、つられて全員がそれに習う。

 

CMPL(コンプリートミッション) RTB』

「……ミッション、コンプリート………帰還する(RTB)

 

空はいつの間にか雨は上がり、雲の切れ間からは陽射しが見え始める。まるでオーロラのようだ。

 

その光に照らされ、天からの祝福を受けているような"陸戦型ガンダム"が旋回し、歩き始める。

 

それに全機が続く。

 

射し込む絹のような光の中を"ブレイヴ・ストライクス"が進んで行く。

 

基地は、もうすぐそこだ。

 

 

『納得しろとは言わん。だが、理解しろ』

 

 

風の吹く先に、あるものを探して………………




またまた戦闘回。そして敵にも新型が!!

まぁ、アイツですけどね。デザイン大好きです。連ジでもずっと使ってたなぁ……。

書き溜めはありますが、最近色々忙しいので更新はゆっくりになりそうです。そこはご容赦下さい。

あいもかわらず派手にドンパチ、あっちへフラフラこっちでゴタゴタ。こんな中尉達ですが末長くお付き合いいただけたら幸いです。

次回 第五十六章 ポケットの中は

「たはは……嫌われちゃいました……」

お楽しみに!!


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第五十六章 ポケットの中は

宇宙世紀って、どんな世界でしょうね?

21世紀になっても、車は空飛ばないし、宇宙にも簡単に行ける様にならないし……。

最近、案外変わらない物かもしれないと思う様になりました。


人の生を要約すると、たった3つだと言う事が分かる。

 

即ち、生まれ、生き、死ぬ。

 

つまり、全てと言っても過言ではない。

 

そう、そのため、

 

その全てのために、人は生きる、戦うのだ。

 

 

 

U.C. 0079 8.28

 

 

 

《こちらブレイヴ02。動体を視認した。数、規模は不明……》

「こちらブレイヴ01より各機へ。全隊停止。ブレイヴ02、それは間違いないか?」

《気のせいじゃないですか?わたしには見えないけど…センサーにも引っ掛からないですし…》

《ウィザード01より各機へ。現在"イージス"のレーダーはパッシブが主体です。ミノフスキー粒子濃度は18。アンダーグラウンドソナーを使用しますか?》

 

中尉は考え込み、横を見る。軍曹はコクピットハッチを開放し、そこから身を乗り出していた。

 

今日は特に霧などはない。晴れ渡る空の青が眩しいくらいだ。

 

以前の身体検査、軍曹の視力は計測不能だった。

つーか六等星以下の星や木星の衛星を肉眼で見えるらしいからな……。

 

「軍曹を信じる。アンダーグラウンドソナーを頼みます」

《こちらウィザード01、了解しました。アウトリガー展開、雑音を減らすためしばらく待機してください》

「了解しました」

 

現在、"ブレイヴ・ストライクス"はポイントチャーリー529にあるジオン簡易野戦整備基地群を潰し、最終目標であるポイントデルタ755沿岸基地、通称"バンジャルマシン・ベース"目指しMSの徒歩により南下中だ。

 

整備基地は制圧したものの、いつまでもグズグズしては居られないため最低限の守備隊として"ロクイチ"8輌2個小隊を残し移動している。自走コンテナを主体とした兵站中隊もそこで後方待機中だ。

 

支援用の高機動ティルトローター機"キング・ホーク"もそこだ。

現在"ブレイヴ・ストライクス"はMS3機と"ブラッドハウンド"1輌という最低限の戦力でスタンドアロン中である。

 

MS部隊による威力偵察を行いつつ沿岸基地を強襲、対空砲を含む高脅威対象を排除し後方の部隊を呼び制圧、その後"アサカ"を旗艦とする潜水艦艦隊と合流する予定だ。

 

隠密行動のため、ミノフスキー粒子濃度が低くレーダーその他電子機器は使用出来るが、姿を曝すリスクからパッシブに設定していた。

 

《! アンダーグラウンドソナーにコンタクト!11時方向、距離9300……しかし、これは……》

「聴いた事無い音?新型か?」

《またですかぁ!?ズルいですね本当に!!》

《いや……ウィザード01、それは、子供(・・)では無かったか……?》

 

子供?

 

《はい。軍曹の言葉で確信が持てました。この音は、複数の子供の足音と、はしゃぐ声です。その数おおよそ8、この事から推測するに、周辺に集落があるようですね》

「子供、ですか……」

《慢心!!ダメ!!絶対!!前みたいな事は嫌ですよぉ!!行くならMSで行きましょうよ!!》

 

正しいが………ソレ、伍長が言うか?

 

《隠密行動中だ……》

《前みたい、とは?》

「そう言えば上等兵は知りませんでしたね。一度、ある村でゲリラに襲われまして……」

《あの時は、もう!!

……でも、少尉、かっこ良かったなぁ……うふふ……》

《どうします?隊長?迂回しますか?》

「む……」

 

地図を見る。迂回は……厳しそうだな。そもそもこの人達の行動範囲すら知らん。

 

「……接近して…接触してみましょう。ブレイヴ03、ウィザード01はここで待機、即時対応が出来るようお願いします。ブレイヴ02、2分後に装備クラスCで行くぞ」

《わ、分かりました、けど……気をつけてね?絶対帰ってくるんですよ?》

《了解しました。接敵予想時間は

一四○○(ヒトヨンマルマル)になります。お早いおかえりを》

《了解した……》

 

各員が偵察準備に入る。"イージス"を取り囲むように巨人が膝をつき、偽装網をかける。

 

センサー強度を最低ラインに、レーダーパッシブモード……ミノフスキー粒子散布、GPLアイドリングモードで固定……全関節ロック……。

 

手早くコンソールを叩きモードを変更、同時に装備も整える。取り出したアサルトカービン、M72A1は昨日整備したばかりだ。表面の強化プラスチックの迷彩パターンも変更済み、予備マガジンもある。

 

『グッドラック 中尉』

 

ナイフ、各種グレネード、ボディアーマー……。身につけるのはだいぶ久し振りのものもある。手入れは怠ってはいない。パフォーマンスは常に最高に保たれているはずだ。

一応刀をベルトに差し、準備は完了する。

 

………うん。B級映画とかに出てきそうな、『謎に包まれた伝説のダークヒーロー、"サムラーイ・ニンジャ・ソルジャー"』見たくなってる………。

 

………ん?今一瞬、コンソールの予備スペースが……気の所為か?

 

ダメだ。集中しろ。だからそんな物が気になるんだ……。

 

最後に飴を一掴みポッケに突っ込み、準備を完了、コクピットハッチを開放、ジャングルの湿った空気を肺いっぱいに吸い込む。

 

「……ゴホッ!」

 

むせた。

 

《どうしたの少尉?だいじょーぶ?》

《………大丈夫だ。問題ない》

《隊長?》

《大丈夫ですから!!たまにやっちゃいませんかこーゆーこと!?》

《……中尉、既に2分なんだが……》

「………すまん…」

 

むせかえる様なジャングル特有の匂い(・・)に、見事ヤられた。

あー、恥ずかしい。

 

照れ隠しに頭を掻こうとし、ヘルメットを掻いていた。………恥の上塗りだ……。

 

首を振り頭を切り替え、クレーンを展開、フックに足を引っ掛け機体を降りる。下では軍曹が既に待っていた。

軍曹は中尉以上の重武装で全身を固めている。それでも中尉を上回る軽快さを感じさせるのは軍曹ならではだ。

 

「すまん。待たせた」

「構わない。行こう……」

《ホントに気をつけてね!!約束だよ!!》

《センサーで常にモニタリングしますが、不測の事態はあり得ます。ご注意を》

「了解。心配はいらないですよ、軍曹もいますし」

「不可能はある。気を抜くな……」

「了解!発砲許可を出す。いざという時は頼む」

 

2人で子供たちがいると思われる地点へ向かう。

 

ぎゃあぎゃあと得体の知れない生き物が鳴くのを聞き流し、目の前に集中する。

 

……いや、何かが……。

 

なるほど、確かにここは普通じゃない。

なんと言うか、人の生活の息吹が感じられる。

 

植物の生え具合、育ち具合、動物の反応、動き、それが微かではあるが違う。やはり、人が影響を与えているのだ。

 

今までのジャングルにはない気配だ。子供が囮である事も考え警戒は解かないが。

 

全く、ジオンの拠点の次は、正体不明の子供たちの集団と来た。俺の人生はイージーモードのはずだったんだが……。

 

「……スナイパーの有無は分かるか?」

「確認出来ない。それに…ここは狙撃に向かない……」

「仕掛け爆弾もなさそうだ。よし、5m間隔、目標の20m手前まで音を立てず前進、しばらく観察するぞ」

「了解……」

 

ハンドシグナルを出し、ゆっくりと前進する。木の裏に、草の影に、姿を眩ましつつ接近、待機する。

 

時折前を塞ぐ、避け切れない蔦をマチェットで音もなく切断する。

 

何か懐かしいな。サバイバル訓練はキツかったけど、凄く楽しかった。皆死にかけてたけど、なんか、こう……妙にしっくり来たんだよな……。

 

「こっちだよー!!」

「こらー!まてー!!あははは!」

「足遅いなぁーっ!!うわっ!!」

「あはは、ばっかでー転んであんの!!」

 

近づき子供たちを観察する。どうやら追いかけっこをしているようだ。

 

だいたい6歳前後の男の子に、女の子。皆が皆てんでバラバラの方向へ駆け回る。それを1人の男の子が追い掛ける。

 

不自然な動き、おかしな言動、怯えている様子もない。周囲に動きもない。

 

罠の可能性は限りなく低いな。しかし……。

 

握っている銃のグリップの感触を確かめる。セレクターは変更しない。まだ何があるか分からない。石橋を叩き割って隣の鉄橋を渡るのもいい。

 

「……軍曹、どう見る?」

《ただの子供だな……年齢およそ6歳前後、健康状態に異常無し……黄色人種、身長120cm前後……訓練も受けていないようだ…》

「接触してみるか?」

《危険はないですか?》

《問題ないな……》

 

軍曹がそう言うなら、だな。さて……。

 

「よし、俺が行く。軍曹は一応見つからないよう着いて来てくれ」

《了解……》

《"イージス"も追従しますか?》

《1人は嫌ですぅ!!寂しいし怖いです!!》

「……との事です。待機を続行して下さい」

《了解しました》

 

メインアームであるアサルトカービンのセーフティをかける。

中尉は全身の装備を再確認し、異常を見つけられない事に一息つく。

軍曹は既に動き出し身を潜めた。心の支えとなり、頼れるのは武器類だけ。

 

その武器類だって、子供に組みつかれ、手榴弾のピンが抜けて死んだらシャレにならない。銃の暴発もあり得るかもしれない。

 

「…………よし、接触を図る。各員警戒を厳とせよ」

《了解……》

《りょーかい!!いざという時は任せてくださいね!!》

《周囲に異常は見受けられません。幸運を》

 

ガサガサっと下草を踏み分けながら中尉が姿を曝す。全身草まみれだ。ギリースーツなどは着用していないが、その草にまみれた姿は森に住んでる、こう……なんかするヤツだ。

 

カービンは肩からかけ、両手をフリーにする。ヘルメットを外し、草を落とし、頭を外気に晒しつつ汗で張り付いた髪をかきあげる。

 

流石に少しは涼しさを感じたが、やっぱし熱帯雨林はそんなに甘く無かった。熱い。暑いじゃなくて熱い。

 

子供たちはポカーンとしている。

ムリもない。遊んでいたら突然武装した草まみれの男が出て来たのだ。

その異常事態に動きを止め、お互いにアイコンタクトをとっている。

 

「こんにちは。元気がいいな君たちは……何かいい事でもあったの?」

「………い………」

「…………お………」

 

な、なんだ……?爆発すんの?

 

子供たちが集まって………。

 

まさか…合体とか……しないよね?

 

「いらっしゃいませー!!」

「わぁーい!!おきゃくさまだー!!」

「わぁーニンジャ!ニンジャ!!」

「バッカ!サムラーイだろ!!」

「ねぇにいちゃんなまえは?どこからきたの!?」

「ねぇねぇ遊ぼうよ!!ねぇねぇ!!」

「かっこいい!!おにいちゃんなにものー?」

「ぼ、ぼくもー!!」

「カタナー!!」

 

一斉に飛びつかれた。警戒心とかないのかおまいらは。

 

「お、落ち着いてく……」

「ぼくんちにおいでよ!!おもてなしー!!」

「いいや!ぼくんちだ!!」

「遊ぼうよ!おにいちゃんおにやってー!!」

「あってめ!どさくさにまぎれてー!!」

「ちょっとー!おにいちゃん困ってるでしょー!!」

「おまえー!おにいちゃんがかっこいいからってー!」

「そうだそうだー!」

「こ、この〜」

 

今度はケンカを始めた。うん、小さいクセに中々パワフルだ。

 

ここは……よし!!コレだ!!

 

「よぉし!誰が一番初めに静かになれるかなー!!」

「「!!」」

 

子供たちは顔を見合わせ、一斉に口を閉じその上に手を当てる。うんうん、素直でよろしい。そのスキに素早く通信を送る。

 

「……コンタクトに成功した。向こうはあまり警戒していないようだ。引き続き接触を続け、集落の情報などもおいおい聞き出してみる。軍曹はそのまま、伍長、上等兵は気づかれるギリギリまで接近して下さい。MSはオートで。上等兵、ジャミングはいいのでMSのサポートを」

《了解……》

《りょーかい!!難しいですが、やってみます!!》

《了解しました。お任せを》

 

子供たちに向き直り、笑顔をつくる。そうだ、士官学校の時を思い出せ……あの時も子供たちに触れ合う機会あったろ……。

 

「ん、よろしい!みんなえらいぞー。ところでここで何してたの?」

「おにごっこー!!」

「みんなでね!!それでね!!」

「こう、すてーん!!ね!おかしいでしょ!!」

「いうなよー!!カッコわるいだろー!!」

 

誰もが一斉に喋り出す。まるでエサを求める雛鳥だ。口々に好き好きに喋るため何言ってるのか全然分からんが。

 

俺は聖徳太子じゃねぇんだぞ?いや、その聖徳太子も7人位が多分限界だろうな。人間どうやっても8個以上の同時進行はムリって言うし。

 

「ごめんねー。一人ずつ喋ってくれないとお兄さんわからないんだ。お父さんやお母さんたちは?」

「え、えと……」

「むずかしい、なんだったっけ……」

「か、か……かいに?」

「かいぎー」

「そうそう!それそれ!!かいぎ!!」

「会議?お話してるの?」

「うん!!」

「じゃまするな、って……」

「子供は遊んでなさい、って……」

「ふぅーん。だからここで遊んでるのか。えらいぞーみんなーうりうりー」

「きゃー」

「あははは」

 

子供たちの頭を撫でる。身をよじらせくすぐったがる子や、空いた手に頭を自分から擦り付ける子、ビクリと身を竦ませる子と十人十色だ。

 

……この手が血塗れだと知ったら、この子達はどういう反応をするんだろうか………?

 

「……聞いての通りだ、どうする?」

《どっちみち…近づかない訳には、いかない……》

《わぁー!!かわいーな!!いいな〜…》

《接触してみましょう。ブレイヴ01は先行、ブレイヴ02はそれに追従して下さい。私達はそれに続きます。隊長は子供の扱いに慣れていらっしゃるのですね。知りませんでした》

「了解!…色々ありまして…ね?………みんなー!!そこに案内してくれる?そしたらこのアメをあげよう!」

「えっ!?やったぁ!!」

「うん!!こっちこっち!!」

「わぁっ!甘い!!おいしー!」

「ぼくもー!!ぼくもあめー!!」

「おいおい。1人一つずつあるから、順番だぞー」

 

うむ。買収恐るべし。今までこちらを少し離れて見定めるように睨みつけていた子もやってくる。お菓子の力は偉大だ。おいしいし。

 

《隊長。他人の嗜好に口出しする事は失礼だと思いますが、少々間食が多くないですか?》

《そーだよ少尉!!ズルい!!わたしも食べたいよ!》

「俺は定期的にパインアメのみに含まれる成分、パインニウムとパイン酸とパインアメ分を摂取しなきゃ死ぬんだよ!!コレだけは何を言われ様ともやめませんからね!!」

《はぁ…糖分は大切ですが…過剰摂取は身体に毒ですよ》

《ヘぇ〜そんな秘密が……大変だね〜》

《……》

 

軍曹……無言はキツいよ……。

 

「おにーちゃんだれと話してるのー?」

「うん?独り言だよ。なに?」

「あめ、まだある?」

「こらっ!」

「うぇー!おにばばー!」

「だれがババァよ!!」

「おには認めるのか!はっはー!」

「……キツく、後悔させてあげなきゃダメなようね……」

「うひ〜」

「あばばばばば」

「こらこら。案内、頼むよ」

「「はーい」」

 

中尉を囲む様に走り回る子供たちに道案内を任せる。無邪気な笑顔が周りに溢れている事に、なぜか懐かしさを感じた。

 

軍曹は相変わらず一定距離を保ちついて来ているようだ。気配を微塵も感じさせないその立ち回りは、流石としか言いようがない。

 

「そうだ、なんで大人たちは会議をしているか、誰か知ってる?」

「わかんなーい」

「なんかしってる?」

「ううん。なんだろ?」

「じゃあ、何か変わった事は?」

「うーん、おにいさんたちがいなくなったこと?」

 

なんだと?

 

「聞いたか?」

《あぁ……》

《ジオンの勢力下です。可能性は高いかと》

「もう少し聞き出してみる。軍曹、直掩は任せた。きな臭くなって来た…」

《了解……》

 

「おにいさんたちって?」

「そのまんま、おにーちゃんたちだよー」

「おにーちゃんにふいんきにてたなー」

「緑のお服。鉄でできた変なぼうしだよー」

「すっごいんだよ!緑や茶色、青の巨人に乗ってんだよ!大っきくて!強くて!かっこいいんだぁー」

「わたしはいやだな。だって一つ目じゃない」

「そこがいいんだよーだ」

 

確定だ。

 

しかし、そのMS部隊構成は……。

 

「その人たちはどこに?」

「わかんない。少し前に出て行って、そのまま」

「そのおにいちゃんたちがお仕事くれた、ってお父さん言ってた」

「いつもはたらいてるのにへんだよねー」

「でもばーちゃん、いなくなってから、清々したっ、て言ってたけど……むむ…」

「おまえんちのばーちゃん変わり者だからな、にゃははー」

「でも、なんか、難しくて長い、会議?が始まったのもそのおにーちゃんたちが来てからだよねー」

 

子供たちも一生懸命考えているようだ。

 

自分たちの世界を変えた、"おにいちゃんたち"の存在を。

 

「わたし、兵士さんは嫌いだな。だって、ババババんって鉄砲撃つ人だもの」

「えぇっ!?かっこいいじゃん!僕も大きくなったらにいちゃんみたいな兵士さんになるんだ!!」

「あんなロボットに乗れるのかなぁ……」

 

無邪気だな。本当に。

 

…………本当に、無邪気だな。

 

この子達は、何を見て、考えて育ったのだろう。この、戦場のどこにでもある、ありふれた光景。非日常だからこそ、多くの人々が忌み嫌い、それでいて心のどこかで憧れる"軍隊"の光景。

 

「ねぇ…」

「うん?なんだい?」

 

1人の女の子がこちらを上目遣いで見上げていた。何かを言おうとして、言い淀んでいる感じだ。

 

「お兄ちゃんは、兵士さんでしょ……誰かが死ぬとこ…何回も見てきたの?」

「こらっ!!」

「いや、いいんだ」

 

諌めるお姉さん枠の子をやんわりと止める。

 

こどもは無邪気だ。純粋だ。

 

それ故それが時折残酷だ。

 

それでも、これはとても大切な事だ。

 

しゃがみ込み、目線を合わせ答える。この答えが、この子の人生にいい意味をもたらす様に。

 

「そうだよ」

「……何人ぐらい?」

「数えるのを、諦めるぐらいかな」

 

目の前で失った部下、仲間、上司……数え切れない。死んだ敵はなおさらだ。

 

この戦争、人はあらゆる物を失い過ぎた。

 

第二の大地を、美しい自然を、大勢の命を、そして、何よりも人の心を。

 

友も多くを失った。未だに連絡のつかない友も多い。

 

人は、儚い。

 

「5人ぐらい?」

「そ、そこまで馬鹿じゃない……かな?」

「10人?」

「うん。指から離れて」

 

子どもには少し早かったかぁ………。

 

「伍長、突入準備。上等兵は……すみません、負担は覚悟の上で、ジャミングとMSの準備を頼みます」

《りょーかい!》

《了解しました。何とか、やって見せましょう。オートパイロットシステムは初陣になります。システムエラーがない事を祈りますが》

 

目の前が開ける。森と山の隙間に、木で出来た家が立ち並んでいる。

 

だが、何か、おかしい……。

 

活気というか、人の生活感があまり感じられず、ひっそりとしている。

 

「みんな、ありがとう。ここまででいいよ」

「どーいたしまして!」

「へっへー。感謝してほしーな!」

「よぉ〜し、じゃあ、代わりにかくれんぼしよう。僕がオニだ。さぁっ!逃げろぉー!」

「わぁ〜!!」

「目つぶんなきゃダメ〜」

「30秒数えてよ〜!」

「僕あそこにかくれよ!!」

「こっちくんなよみつかっちゃうだろ!」

 

蜘蛛の子を散らすように走り出した子供たちを笑顔で見送る。

 

全員逃げた事を笑顔のまま確認した中尉は、その笑顔を崩し、アサルトカービンを取り出し、セーフティを解除、セレクターをフルオートに合わせる。

 

同時に中尉のスイッチも切り替わり、中尉は軍人の顔になる。

 

既に、"おにいちゃん"である中尉は居ない。

 

ここにいるのは、明確な殺意と共に行動する、一つの戦闘マシーンだ。

 

「よし、行くぞ軍曹。目標は集落の中央やや北よりの大きな建物だ」

《了解……先回りし、狙撃ポイントの確認及び直掩に着く……》

「任せたぞ……ムーブ!!」

 

カービンを構えた中尉が音も無く走り出す。

 

装備も無駄な音が極力出ないように調整されている。人では無く、蛇の様に。人気の無い道を壁伝いに、まるで影のように移動する。

 

「……あそこか…目標視認、偵察に移る」

《了解……場所は把握済みだ…》

《了解しました。警戒を怠らないでください》

《き、気をつけてね?嫌だよ?わたしは少尉とお話出来なくなるのは……》

 

声が聞こえ始める。大人の怒鳴り合う声。かなりヒートアップしているようだ。

 

…………こりゃ、お子様には聞かせられないな。

 

「……!!………!!!」

「……!………………!!」

 

いやー、ザルだな。いや、フツーこんなとこに偵察に来る方がおかしいんだけど……いやさ、全員集まるって……ドロボーとか考え……。

 

周囲数十キロに村無ぇ(笑)。車もそれほど走ってねぇワケだ。

 

咽喉マイクを壁に取り付ける。これは"ワッパ"に装備されていたものだ。役に立つだろうと持って来てよかった。

 

「……からだ!ここの食料をだな!!」

「渡してどうすると言うのだ!!確かにお前たちに恩はある!!しかし!!この量はなんだ!!死ねと言うのか!!」

「そうだ!!これでは俺たちは干上がる!!やはり使い捨てるのか!!」

「そうではない!!しかしだな!!」

「やかましい!!だからスペースノイドなんぞ信用ならんのだ!!」

 

スペースノイド……か………。確かに、ジオン訛りが複数人……。

 

「……と言う事らしいですが……」

《どうするのー?凸かまします?突撃、お隣さん!な感じで?》

「いや、落ち着けよ。MSで凸かましたら、晩御飯食うとかの話じゃ無くなるわ」

《中に居る人数は何人でしょう?それに応じて対処する事を提案します》

「軍曹、壁抜きは?」

コイツ(7.62mm)では厳しいな……この距離なら、薄い所を狙って貫通させても…致命傷にはなりえん……》

「……フツーに言ってっけど、それ神業レベルじゃね……?」

 

素直に対物ライフルを持って来て無いって言えよ!!バトルライフルで壁抜き出来るのかよ!!

 

《継ぎ目や、構造的に脆い部分を突けば……》

「………」

 

カービンのストックを縮め……コレ、ブルパップだった……取り敢えず着剣する。

これで、俺の最も得意とすると言っても過言では無い武器、銃剣(バヨネット)の完成だ……一応。

 

コイツ、そういやCQB向いてるけど、格闘は推奨もされてないんだった……。

 

「外に俺以外の人は?」

《ゼロ、だ……》

《周囲数十キロ圏内に敵の反応無しです》

 

ならば………。

 

「よし、軍曹、突入するぞ。民間人に被害が無いとは言え、スタン、スモークはマズイな。実力で排除する。合流までは?」

《8秒後だ…》

《中尉、危険では?》

「一番いいと思うんですけど……」

 

民間人巻き込んでズドン、はマズいし……。

 

マイクロドリルで壁に穴を開け、カメラを通し中を確認……目標を確認する。3人……いや、4人か?

 

《あの〜》

「MSはダメな」

《うぅ……》

《すみません。その他の方法は現時点で無いでしょう。その方法が最善だと思われます》

 

肩を叩かれる。軍曹が中尉の傍にきっかり8秒後に音も無く控えていた。

手の中のライフルが鈍く光を反射し、臨戦態勢が整っている事を暗に告げていた。

 

軍曹が装備のC4で()を作り壁に貼り付け、信管を突き刺す。それが形成する爆風の効果範囲は完全に把握しているのだろう。

 

流石プロ。俺も、一応はプロだけど………。何か、こう…比べられないレベルなんすけど……。

 

中の言い争いは続いている。人数は分からんが……やるしか無い…。

 

軍曹からC4の起爆スイッチを受け取る。好きなタイミングでやれ、と言う意味だろう。

 

「よし、軍曹、来たな…民間人に被害は出すな。しかし最優先は俺たちの命だ。3秒後に行くぞ……OK?」

「OK……!」

 

ズドン!!

 

「ぐぎゃっ!!」

 

起爆と同時に軍曹が射撃する。赤外線センサーとかその他諸々ハイテク機器の補助無しに壁抜き……。

 

って驚いてる場合じゃねぇ!!

 

もうもうと立ち込める煙に紛れ内部に突入する。

 

軍曹は壁から銃を覗かせ正確な射撃を続ける。今の内だな。

 

「きゃぁぁぁあ!!」

「くそったれ!!この連邦野郎(フェディ)がぁ!!」

「うわぁっ!?」

 

突然の事に逃げ惑う民間人がジャマだ、俺はそこまで射撃に自信があるワケではない。

 

ならば……!

 

接近戦を仕掛けるのみ!!

 

ライフルを向けようとしたジオン兵へ走り寄る。

 

対応が遅い。甘いな。

 

ここからは、俺の距離だ。

 

「ふっ!!」

「ぐげっ!?」

 

身を屈め急接近、懐に飛び込み飛び膝蹴りをぶちかまし、よろけ、晒された喉元にバヨネットを突き立てる。

 

ぐじゃり、と刺さった銃剣が喉を引き裂き押し潰し、血が飛び散る。引き金を引きフルオート射撃。反動でカービンを無理矢理引き抜く。

 

「!!」

 

バチュンッ、とおかしな音が機関部から響いた。弾詰まり(ジャム)だ。しかもこの音はただのジャムじゃない。弾丸に不良火薬が混じってやがったな。

安物弾薬(チープアモ)なんぞ紛れ込みやがって……お陰で、銃本体内の温度が上がりすぎて薬莢が銃の壁に張り付いたな……。

 

いや、使ってねぇからヘソ曲げたんか?

 

「クッ! ふん!!」

「んな!?」

 

使えなくなったカービンを投げつける。カービンモデルと言えど、その正体は重さ4kg近い鉄塊だ。

 

殺せるとは思わないが、隙さえ作れば良いのだ。

 

サイドアームのマテバを抜き撃つ。この距離だ。片手撃ちでも外さない。手首痛めるかもしれないけど。

 

4発の弾丸を撃ち込まれ、鉛弾で体重を増やしたジオン兵の胴体を逆手で抜刀した刀で突き刺す。

 

ボディーアーマー対策なぞ頭に無かった。現実離れした事やってるなぁ……。

 

胴を蹴りつける事で刀を抜き……抜けない!仕方無く刀を手放すと、ジオン兵が血を噴き崩れ落ちる。

 

噴き上がった返り血を全身に浴びる。あぁ…血のシミは落ちづらいんだ……。

 

端からみたら人斬りにしか見えねぇだろうな。

 

『そう、俺の正体は………日本刀と銃を同時に使用すると言う"俺的流派・生涯無敵流"を編み出した"スーパーウルトラセクシィヒーロー・(ザン)"!!』

『黒い瞳のガンマンが、海を渡って武者修業。極めし銃と刀にて、この世に無用の悪を断つ!!それが俺!!』

『トドメ・ファイナル!!ガッショウハラキリコイシグレ!!』

 

うん。笑えないしそんな事考えてる場合じゃ無い。

 

あと1人……!!

 

「動くな!!」

「ッ!?」

 

残る1人は人質を取っていた。若い女性だ。恐怖で顔を歪ませていた。

 

銃をこちらに向け睨んでいる。

 

撃たないのは……交渉を望んでいるのか……?

 

「そこの野郎も出て来い!!そして銃を置くんだ!!」

「…………」

「……たっ、助けっ……ひっ!」

 

ジオン兵が首を絞め、女性の顔は苦悶で歪む。完全に身体を覆い隠しているため、軍曹も狙撃は出来ない…。

 

マズイな……大変にマズイ……。

 

刺激しないようにゆっくりと銃を置く。

軍曹もゆっくりと壁の裏から出て来る。ライフルは握ったままであるが。

 

「へへっ、何も出来まい……おい!!武器を置け!!」

「……何が望みだ?」

「言える立場か!?手を上げ!?」

 

ゆっくりとライフルを置こうとした軍曹が、置いたと同時に地面を蹴る。

 

速い。

 

速過ぎる!!

 

気がついた瞬間にも軍曹は距離を0にまで詰め、向けられた銃を掴み逸らす。軍曹の手の中で、銃が同時に一瞬でバラバラに分解、腕を掴み足をかけ地面に叩きつける。

 

「クリア……」

「お、おう……」

 

いや、何をどうやったらそうなるの?そしてなんでファイヤーマンズキャリーなの?

 

「無事か……?」

「え……あ、はい」

「流石だな軍曹。我流なんだっけ?」

「……あぁ…"バリツ"、と呼ばれている………」

 

聞く前に、そして俺と話す前に降ろすのが先じゃ無いのか軍曹……。刀を引き抜く。鞘に入らない。どうもどこか歪んだらしい。

 

「あんたたち、連邦軍か……?」

 

避難し、帰って来た男が聞いてくる。

その顔は複雑だった。

 

「はい。そうです」

「………名は?目的は?」

「軍規に差し障りますので」

「余計な事をしてくれた……これで、ジオンとのパイプはなくなった…!!」

「………」

 

仕事、とやらの話か。そうだろうな。

 

出て行っていた人たちが続々と戻って来る。皆一様に複雑な表情だった。

 

「確かに、感謝したい事もある、が、しかし……」

「ジオンの要求は確かに厳しいものもあったが……」

「俺たちは明日からどうすりゃいいんだ!!」

「本当に余計な事しやがって!!」

「お前たちはいいよな!!そうやって人殺してや金になんだ!!」

「復讐されるとしたら我々だ!!その意味をわかっているのか!?」

「………」

 

四方八方から浴びせられる言葉を無言で受け止める。

 

同時に悟った。

 

この人たちは、戦争(・・)をしていないんだ。

 

「……あなたたちの言い分は分かりました。しかし、分かった上で私たちに出来る事はありません」

「無責任な!!」

「いい加減にしろ!!」

「……それでも軍人か!!人か!!」

 

人、人か……。

 

「………今の私は、人である前に軍人、兵士です……そして、その前に、兵器です……」

「…………」

「作戦行動中です。では……行こう、軍曹」

「了解……」

「……ん!?あんた、まさか……!!」

「…人違いだろう………」

 

手早く死体を処理し、壁の補修作業を行っていた軍曹を呼ぶ。

 

その軍曹の顔を見た1人が仰け反るが、軍曹はにべも無く一蹴する。

 

「行くぞ、軍曹……おおっと……」

「了解……」

 

捕虜を担いだ軍曹と歩きつつ外へ向かう。

軍曹は中尉が誤って蹴飛ばした、場違いな段ボール箱の中の、動物を模したフィギュアを見つつ呟いた。

 

「……フン、いい、趣味だ…」

「こ、これはだな……」

「?」

 

何の話だ?さっきも顔割れてたし……。

 

「………」

「…さっきから、どうした?軍曹?」

「いや、本当に…イイ趣味、だと思ってな……長く、無いな………」

 

その目はフィギュアから離されていない。無表情である軍曹の顔が、ほんの少しだけ歪められていた。

 

まさか………。

 

「軍曹……まさか、コレ……」

「…………」

 

軍曹が無言でうなづく。その顔に変化は殆ど無かったが、嫌悪感を抱いている様だった。

 

やはり、か………。

 

あのフィギュア……やはり、圧力成形したコカインか……。

 

長くない……ねぇ。それは、何を指しているのか……。

 

外へ出て歩き出す。もちろん見送りなど1人もいない。時折向けられる目も敵意混じりだ。

 

足元に石が転がった。

 

投石だ。そこまで憎いか。

 

「状況終了です。こちらへ向かって来て下さい」

《了解しました。が、この騒ぎは一体?》

「たはは……嫌われちゃいました……」

《…少尉は、悪くないのに……》

 

カコン、と投げられた石がヘルメットに当たる。

 

何も言わず、軍曹が中尉の後ろに回った。

 

「軍曹、別に…」

「隊長への攻撃に、身を持って守るのが部下だ……」

「…いや、それは…………ありがとう…さっき、人質を取られた時、撃たなかったな」

「捕虜にするため、だ……」

「そうか……」

 

多分、女性に血を浴びせたくはなかったのもあるだろう。軍曹は優しいから。

 

この部隊の中で一番冷血人間に見えて、一番他人を優先する男だろう。

 

「……ねぇ…」

「ん?」

「こらっ!!こっちに来なさい!」

 

袖を握ってきたのはさっきの女の子だった。

 

何故だ?と思うのが一番先だった。刀を手にした血塗れの殺人鬼に、何故こうも?

 

「お母さん、呼んでるよ?それに、血も……」

「……ううん…いいの……もう、行っちゃうの?なんで石、なげられてるの?」

「……いつか、分かるよ…さぁ、お行き…」

 

声をかけ女の子を送り出そうとしたら、他の子供たちも来た。

 

みんな、子供心に何かを感じ取っているようだった。

 

「おにーちゃん…」

「……すまんな、約束を破った事は謝るよ…」

「違うんだ…違うんだよ…おにいちゃん…」

「またいつか会えるよ。ほら、お別れだ」

 

最後に頭を撫で、子供たちを送り出す。

 

「………ありがとう!!」

「ありがとうおにーちゃん!!」

「ありがとー!!」

「また会おうね!!」

「約束だよ!!必ず!!」

「ありがとぅー!!」

 

そのまま歩き出した中尉は、振り向かなかった。

 

ただ、手を一度振った。

 

それだけだった。

 

歩く。歩いて行く。

 

中尉の先には、稜線の影からその巨体を表す"陸戦型ガンダム"が姿を見せ始めていた。

刀も、一晩すれば元に戻るだろう。俺たちの日常と同じ様に。

 

 

『この戦いに、意味は……あったのか………?』

 

 

踏みしめる足に、迷いは無く………………




またも泥臭い接近戦でした。

映像作品を見ていると、地球はどうも田舎が多い様で……。暮らしぶりはあまり変わっていないのでしょうね。

コロニー内もあまり変わらないのは、保守的なのか、はてまたやはり重力に魂を縛られているのか……。

ガンダムで外せない"子供"を出しましたが、果たしてU.C.ハードグラフには必要だったのかなぁ?

次回 第五十七章 威力偵察

「……伍長がまともな発言した………」

お楽しみに!!


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第五十七章 威力偵察

最近暑くなって来ました。

自分としては暑いのが大好きなので嬉しい限りです。

海行きたいですね。某国がミサイルぶち込みやがりましたが。

集団自衛権が徴兵につながるとか憲法がなんたらだとわけ分からん事叫ぶ暇があったら防衛費を増やして上げてくれよ。つーか中国にODAもういらねぇだろ。

日本は好きですが、思想や教育はわけの分からん国ですなぁ。とぼやいてみる選挙権を持たない自分、今日この頃です。


空が落ちて来る。

 

流星が降る。

 

揺れるはずの無い物が揺れる。

 

二つの朝陽が登った様だった。

 

強烈な光が世界を照らし、人の醜さを映し出した。

 

あの日、世界は大きく動き出した。

 

 

 

U.C. 0079 8.30

 

 

 

濃霧に包まれた密林を、3機のMSと1台の"74式ホバートラック"(ブラッドハウンド)が進んで行く。その数キロ後方には自走コンテナと2輌の"ロクイチ"が続いている。

 

中尉の"陸戦型ガンダム"、軍曹と伍長の"陸戦型GM"に、上等兵の"イージス"だ。

 

簡易野戦基地群を占領下に置き既に久しく、その稼働率は中々のものである。

 

付近のミノフスキー粒子濃度は高く、レーダー、視界ともにホワイトアウトしている。

 

中尉は"陸戦型ガンダム"のシートに座り、歩行をオートパイロットに任せ休憩していた。

右手にカロリーメイト、左手にチューブゼリーのパックを握り幸せそうである。

 

《全隊、停止して下さい。本隊はポイントデルタ755、即ち作戦領域に入りました。総員、第一種戦闘配備。これより通信はレーザー通信による暗号回線に切り替えます》

「……と、言われましても…」

《何にも見えませんねぇ。どうします?海の近くのはずですよね?》

《…微かに、潮の香りはする……》

 

MSが全機停止、膝をつき関節をロック、ジェネレーター出力をアイドリングに設定する。それでも小山の様な大きさであるが、この霧だ。偵察飛行も効果無いだろう。偽装網もいるまい。

 

我々、"ブレイヴ・ストライクス"は遂に今作戦の最終目標、ポイントデルタ755沿岸基地、通称"バンジャルマシン・ベース"へと敵に気付かれる事無く肉薄する事に成功していた。

 

今齧っていたカロリーメイトを口に入れ、名残惜しげに残りをしまった中尉は困惑する。今日は今までに経験の無いような、特に濃い濃霧だ。

 

『こっから敵の基地でーす』なーんてそう言われても実感が湧かないというのが実情だった。

 

《軍曹の偵察情報と、以前自軍基地だった時のデータはありますが》

「データリンク頼みます。上等兵は何か作戦はありますか?」

 

元々ジオンの行動が活発である地域である事からミノフスキー粒子濃度が高めなのを含め、複雑な地形を縫った進軍、さらには定期的に発生する濃霧を隠れ蓑に、何とかここまで来たが……。

 

《この兵力で正面攻撃は正直不可能です。仮に成功しても損害は免れ無いでしょう。そして、この霧も明日には晴れてしまうとの解析結果も出ています》

「こんなに濃くてもですか。いや、だからですか?」

《どーします?待っててもダメ、急いだら負け、"アサカ"も来ちゃうんじゃないかな?》

《……"アサカ"との連絡は?》

《現在は不可能です。霧が晴れ、尚且つ"アサカ"が浮上していれば可能ですが。合流予定日("Xデイ")としては明々後日です。時間的猶予は無いと考えてもらった方が宜しいかと》

 

ここまで来て詰まったな。果たして、どうするべきか……。

 

結局捕虜のお兄さんは何も喋ってくれなかったし……周りがジャングルかつ敵基地も目標のこの基地しかないため解放するわけにもいかずそのままである。きっと今あまりにも暇過ぎて1人何も無い独房の中でシャドーボクシングでもやってんじゃないだろうか?

 

コンソールの角をトントンと指で叩きながら考える。それでもいい案は浮かびそうに無かった。

 

と言うより士官学校時代からあまりこういう事は得意では無かった。どう考えても士官や部隊長向いてねぇよな俺。

 

「現在判明している敵戦力はどれくらいですか?」

《MSが判明しているだけで"ザクII"が4機、"キャノン付き"が2機、"アオツノ"が1機。後は"ヴィークル"などのAPC、"マゼラ・アタック"などの突撃砲が数台ずつ、と言ったところだと思われます》

《うへぇ、バーゲンセールですねぇ。こっちの方が性能が上だとしても……》

「攻城戦だとオワコンだな。敵の方が戦力が多いのが毎回だから慣れていたが……」

《………》

 

どうする?何が最善だ?つーか、どうすんだコレ?

 

「…………」

《…………》

《…………》

《…………》

 

全員が考え込み、会話の途切れたところへ、軍曹が一投を投じた。

 

《…意見具申、いいか……?》

「許可する。なんだ?」

《……遊撃だ…》

 

遊撃……MSが最も得意とする戦術の一つであるが……どうやって?

 

《いや、威力偵察と呼ぶべき、か………ミノフスキー粒子を…最大濃度で、散布と同時に…最低限の軽装で突撃、撹乱、戦力を再把握後…迅速に撤退する…のは、どうだ……?》

 

いや、どうかな?そりゃ?

 

《ミノフスキー粒子濃度の急激な上昇は、敵への宣戦布告に他なりません。それに加え、偵察も出るでしょう》

「そこを叩き、少しでも戦力を減らす……?」

《おぉっ!!霧とミノフスキー粒子に紛れて撤退後も付近に潜伏出来ますよ!!わたしはとてもイイと思いまーす!!》

 

確かに。一理あるが……。

 

「この濃霧に高濃度のミノフスキー粒子じゃ……レーザー通信はおろかFCS、IFFもかなり接近しないと反応しないぞ?大丈夫なのか?」

《それは既に想定済みです。今まで無かった方が異常だったのですから》

《…FCS…?何故そんな物を使うんだ……?》

「…………」

《…………》

 

高機動戦闘中にでも狙撃用スコープを用いてのマニュアル射撃で命中率98.76%になるお方は少し黙っておいて下さいお願いだから。

 

「……よし、その案で行きましょう!30分後に作戦開始!総員、クラスL装備に換装後待機せよ!!」

《りょーかい!!"杏よりも梅が安い"と言いますしね!今はそれが1番いいとわたしのなかの幽霊(ゴースト)も囁いてますし!》

「間違ってるぞ……なんかその幽霊信用出来ねぇな…」

《うえぇっ!?》

《了解……伍長、"100mmマシンガン"をコンテナから出しておけ……》

《プランを立ち上げます。今しばらくお待ちください》

 

さぁて、やったりましょうか!!

 

《でも、いざ、と言う時は間違えてみるのも手だ、って……》

「今その時じゃねぇだろ」

 

追い付き、停止した自走コンテナから走り出て来た整備兵を見下ろしつつ、中尉は食べかけだったカロリーメイトを引っ張り出した。

 

 

 

 

 

 

「ブレイヴ01より各員へ、準備はいいか?」

《こちらブレイヴ02。準備よし……》

《こちらブレイヴ03もコンディショングリーン!!》

《こちらウィザード01。同じく準備よし》

 

深い霧が立ち込める林の中、膝をついた3機のMSと"ブラッドハウンド"が偽装網を掛け停止している。辺りは静まり返り、物音一つしない。聞こえるのは己の呼吸音と"陸戦型ガンダム"が立てる静かな低い音だけだ。

まるで……いや、そうだな…嵐の前の静けさ、と言う奴か?

 

「もう一度作戦を確認する。我々、"ブレイヴ・ストライクス"は霧に紛れ前進、最優先攻撃目標へ闇討ちを仕掛け、戦力を少しでも削いだ後迅速に撤退、潜伏する事だ」

《ウィザード01より補足です。目標基地南東、海岸沿いのエリア、ポイントロメオ24には大規模コンビナートがあります。そこへの発砲は禁止です。近づく事も危険な上、仮に破壊してしまった時の被害は甚大な物となります。基地機能の復旧は絶望的な物となるでしょう。そのためROEを更新します。ご確認を》

「《了解!!》」

《了解……》

 

中尉がコンソールを叩き設定を変更しつつ作戦を再確認する。それに機体が反応、歩行モード、センサー走査、ダクトなどあらゆる機能が最適化されて行くのを確認、満足げにコンソールを撫でる。

 

《隊長機の頭部を見たら分かると思いますが、現在簡易整備程度しか行えません。明日の本格的な戦闘に備え被弾を極力避けてください。"イージス"はここで待機を行います。しかし、アンダーグラウンドソナーによる情報支援、ジャミングによる電子戦は行いますのでご安心を》

《アイアーイサー!"ハイパーバズーカ"が使えないのは残念ですが、給料分はしっかりと働きますよ!》

《距離を、とって戦うのが基本になるが…この天候だ、乱戦になるかもしれない…注意しろ…》

 

相変わらずな伍長を、軍曹がたしなめる。全く、いつでも一切ブレないのが呆れるやら頼もしいやら……。

 

つーか、そうなんだよなぁ…結局デュアル・センサーは修理を終えられず、取り敢えず幌を被せてシーリングしてあるだけだ。命中率ガタ落ちである。

 

「よし!"ブレイヴ・ストライクス"出撃だ!!行くぞ!アローフォーメーション!俺に続け!!」

《ブレイヴ02了解……》

《いぇっさー!》

《ご武運を》

 

3機のMSが立ち上がり、中尉の"陸戦型ガンダム"を中心に矢印の様な陣形をとり進軍し始める。

 

全機の装備は"100mmマシンガン"、シールド、グレネードに"スローイングナイフ"だ。

機動力を落とし、取り回しの悪い上装弾数や命中率に難のある"ハイパーバズーカ"、"ロケットランチャー"、"ミサイルランチャー"、"180mmキャノン"及びコンテナは装備していない。

 

……と言うか、そろそろ弾丸が底をつき始めてて……100mm弾は十分なんだけど…生産数がねぇ…。

 

「接近戦は避けるんだ。無駄な損傷は必要無いし、"ビームサーベル"は目立つ」

《伍長、前に出過ぎるな…》

《分かってますよ!心配ご無用です!》

 

道が見えたが、使用せず木に隠れつつ進む。まぁ、わざわざ道のど真ん中を歩く必要は無い。道以外は地味なアップダウンがあり、身を隠すには結構いいしな…。

 

「上等兵、敵の反応は?」

《MSの反応は無いです。掴めるのは軽車両のみですね。おそらく停止しているのでしょう。動かず、音を出さなければパッシブソナーでは捉えられません》

《不便ですよねぇ…》

《土中は、ミノフスキー・エフェクトが薄い……何事も、長所と短所がある物だ……》

 

そう、"ブラッドハウンド"に搭載されているのはアクティブ・パッシブ複合ソナーだ。主に使用されるパッシブソナーは周囲の音を解析、音源の位置、方位、強度、ドップラー・シフト、スペクトルやパターンを初めとするあらゆるデータを元に情報を得、敵機を識別、位置、移動速度を特定する事が出来る。

 

土中に伝わる音を拾うため遮蔽物・障害物を無視出来る上索敵範囲が広く、尚且つこちらからレーダー波や赤外線などをはじめとした電磁波などを出さないため隠密性に優れ、ミノフスキー粒子散布下に置いても比較的安定した情報を得られるのが特徴だ。

しかしその性質上音を出さない物は検知出来ず、付近で火山活動があるなど大きな音があると使用不可となり、妨害もされやすいという弱点もあるのだ。

超音波を周囲に伝播させ情報を得るアクティブソナーに比べ制度も落ちると言う問題もある。

また、上手く扱い、性能を最大限発揮するには使用者の優れた聴覚に加え、かなりの経験とセンスが必要な事も大きい。音響解析により検出されたあらゆるデータを統合、判断するには高い技量を必要とするのだ。ある程度はコンピュータを用いる事が出来るものの、微細な振動などそれだけでは識別出来ない物も多い。それを最終的に判断するのは人間なのだ。

 

もちろんMSや"ブラッドハウンド"にはソナー以外にも通常のレーダー、赤外線(サーマル)センサー、科学センサーなども搭載されている。

 

レーダーは索敵範囲は広いが、遮蔽物・建造物などの障害物に阻害され、森林などに潜まれると発見出来ない。また、ミノフスキー粒子濃度の高い場所では精度が著しく落ちてしまう。そのため、ミノフスキー粒子の濃度が低く、開けた環境という限定された状況下でしか使用しても十分な効果が発揮出来なくなってしまった。

 

赤外線センサーは熱源を探知する為、森などの遮蔽物、比較的小型で厚く無い建造物などを無視して索敵することが出来、あらゆる状況下、敵機に対しても安定して捕捉することが出来る高性能センサーだ。反面、索敵範囲はソナー、レーダーと比べると著しく狭いため、こちらも用途が限定されてしまっている。

 

アクティブレーダー波や赤外線を照射すれば索敵範囲や走査感度は劇的に強化されるが、敵から見れば広告塔の様に目立ってしまう。そのため隠密作戦が主体の"ブレイヴ・ストライクス"は機材こそ装備されているが、ほとんどのセンサーがパッシブのみの使用に限定されている。

 

霧に沈み、物音一つしない静まり返った森を、MSがゆっくりと地面を踏み締めながら歩く。

 

まるで周囲の時間が止まっている様だと中尉は思った。

灰色がかった白い景色、コロニー落としから舞い上がったチリの影響はこんなところにも波紋を残している。

 

見下ろした世界も、見上げた空も、あの時泳いだ、あの海も……そう思うと気分が沈んだ。

 

"あの日"が、脳裏にちらつく。

 

"空が落ちて来た"あの日、シドニーは消滅した。

 

コロニーは厚さ10kmにも及ぶ地殻を貫通し、造山運動を促してマグニチュード9.5の大地震を発生させ、直撃の衝撃により地球の自転速度が1時間当たり1.2秒速められたとも言われる。

 

その莫大な被害はオセアニアにとどまらず、津波や衝撃波、崩壊し飛び散った破片により世界全土にまで波及したのだった。

 

コロニー落としの爆心地(グラウンド・ゼロ)、現シドニー湾(・・・・・)は衝撃波で周囲全てが薙ぎ払われ、炸裂したコロニーにより汚染され尽くし、汚濁した津波が周囲を洗ったそうだ。

生物は一部の細菌、バクテリアを除き死滅。最大直径500kmにも及ぶ巨大なクレーターを穿ち、オーストラリア大陸の16%を消滅させた。

 

落着の2次被害として衝撃波や津波、気象変動などが発生、人的被害は23億人をゆうに越え、以後も、長年にわたって地球全体に多大な悪影響を及ぼし続ける事になるだろうとの事だった。

 

総被害数現時点でも把握し切れていない。それでも40億を越えるとされる。

 

未曾有の事態、人類史上最大の危機を迎えても、人はまだ争いを続けている。中尉もその中の1人だった。

 

『ただの数字じゃない。ひとりずつに人生があった。…それを忘れちゃいけない』とは、誰の言葉だったか………。

 

その尊厳すら、失われかけているというのに……俺は……。

 

《……こちらブレイヴ02…目視にて敵を補足(エネミー・タリホー)。11時方向、距離3640。シルエットから……"ザクII"だと思われる…》

「……仕掛けるか?」

 

軍曹からの報告で現実に引き戻される。この霧の中、どうやって……。

 

《ウィザード01よりブレイヴ01へ。まだ主兵装である"100mmマシンガン"の有効射程圏外です。それに、高脅威目標である"キャノン付き"が発見出来ていません。見つからず、かつ先制攻撃が可能な位置まで前進して下さい》

《そろそろ森も途切れちゃうよ?かくれんぼも限界がありますよぅ…くうぅ…わたしに銃を撃たせろぉー!!》

「まだ発砲許可は出せん。もう少しだ……」

 

伍長がボヤく。我慢しろこの瞬間湯沸かし器が。

伍長はかくれんぼが得意でない。某ゲームでも途中で隠れる事を放棄しランボーするタイプだ。

 

それに加え、戦闘狂ではないがややトリガーハッピーなところもある。

本当に軍隊向いてねぇな。

 

「しかし、上等兵。"キャノン付き"の火力は確かに無視出来ませんが、別に今は大丈夫じゃないですか?大量に配備されて面制圧をして来るワケでも無いですし……」

《でも撃ちまくって来たら怖いと思いますよ?》

《確かにそうですね。長い射程に高い威力も、当たらなければ効果はありませんが…》

《しかし、"アオツノ"含め警戒すべき、だ……》

 

まぁそもそも18mと言う、下手な小山ぐらいのサイズのMSを隠す方が難しいんだがな……。もう少し小さくてよかったんじゃ?

 

第三匍匐で大きく回り込む様にし、木の繁る崖沿いを進む。しかしもうすぐ海岸だ。隠れるのもそこで限界だな。

 

しゃがみ込み機体を停止させ、関節をロック、電源も最低限度を残し落とす。このミノフスキー粒子濃度だ。これで見つかる確率はかなり落ちるだろう。

 

それでも敵地の真ん前でこんな事するバカは俺1人だろうが。

 

手動によるデータリンクでA1と呼称された"ザクII"の場所が表示される。

 

さて、どうするか?

 

《……ねぇ、軍曹、もし軍曹が敵の司令官なら、ここに1機配備したとすると、残りは何処にやる?》

「……伍長がまともな発言した………」

《……少尉の中のわたしってどんなんなんでしょう……うぅ……》

《だ、大丈夫ですよ。きっと隊長のジョークですから…そうですよね?隊長》

「え、えぇ…まぁ…………で、軍曹、どうだ?」

《こう、だな……》

 

軍曹の予想がサブディスプレイに表示される。

 

「…なーるほど……」

《私もほぼ同じです。おおよそこうだと考えられるでしょう》

《…………………そうなの?》

 

基地中枢を中心に"ザクII"、"アオツノ"を分散配置し、両翼に"キャノン付き"を置く。"マゼラ・アタック"は塹壕の中。

 

軍曹や上等兵が言うように、これが一番妥当で堅実な配置だろう。

 

「1度突っ込み、それで引きますか?」

《背面を曝すリスクが大きいと思います。さらには移動ルートが捕捉されやすく、その座標に向け攻撃を加えられるかもしれません。時間は伸びますが、東から西へ横切る様に遊撃するのはどうでしょう?》

《この壕は深いの?足とられるのはやだよ?視界も悪いし…》

《深く斬り込むのは、リスクが大きいな……このポイントで南へ転進、そのまま撤退するのはどうだ……?》

《…………………3人にお任せします…》

 

議論について行く事を放棄した伍長をほっとき、軍曹の案が採用される。

 

この基地は南に向け開けた海岸沿いに強固なトーチカ群とともに建設され、東西は山で囲まれている鎌倉の様な攻められ難く守り易い地形だ。

 

中尉たちは内陸部である北から西へと回り込む様に移動し、現在その森の中で待機中だ。

そこから南東の基地中心へ向け進軍、有る程度進んだ後北へ離脱する事となった。

 

《威力偵察の主目的は、あくまで情報収集です。敵の撃破が目的ではなく、迅速に行動し素早く撤退して情報を持ち帰る事が優先されます。

つまりは機動力に優れた、我々の様な特務MS遊撃隊によるヒットアンドアウェイが最も有効となります。時計合わせ、5、4……》

「よし、各員、作戦は頭に叩き込んだか?」

 

システムチェック、一部を除きオールグリーン。全関節ロック解除、GPLをミリタリーへ。センサー・カメラリセット、環境に合わせ再設定。セーフティ解除、マスターアームオン、メインアームレディ。セレクターは"レ"(フルオート)に。

 

『コンバットオープン』

 

中尉は機体を操作し立ち上がらせる。

 

グレーブロックパターンベースのスプリッター迷彩が施されたマントが揺れ、ひらひらとはためく。

 

幾何学模様が揺らぎ、シルエットを崩すそのマントのお陰で、その姿は亡霊(レイス)の様に見える。

 

MSは有視界戦闘が主体であり、従来の様に迷彩が効果を発揮するのだ。

この迷彩も試行錯誤中だ。以前から通常迷彩、デジタル迷彩、スプリッター迷彩、ロービジリティ迷彩、ダズル迷彩と既存のあらゆる迷彩パターンを試しデータを収集しており、今回の物はその集大成となるものだった。

従来のデジタル迷彩パターンをベースに改良を加えた物で、通常の迷彩の様に背景に溶け込みつつ、どうしても目立ってしまう機動運用時には距離、速度、進行方向、シルエットなどを崩し錯視させるダズル迷彩のような効果を持たせる、と言う触れ込みである。

ちなみにそのため機動時のマントが揺れるパターン、折れ目、垂れ目なども計算した結果、直線を多用した複雑な紋様を描くような迷彩柄となった。伍長は"ジャム・センス・ジャマー"などと呼んでいたが………。

 

「ブレイヴ01より各機へ。準備はいいか?」

《こちらブレイヴ02。問題無い……》

《ブレイヴ03!もーまんたい!!》

 

よし、準備は整った。これで俺たちは成ったも同然だ。

 

後は、打つ手さえ間違えなければ、自ずと王手は決まる。

 

「時間との勝負だ。各員気を抜くなよ…各員の判断で発砲を許可する………スタンバーイ…スタンバーイ……」

《作戦開始時刻です。ご武運を。ジャミング、開始》

《ゴゥッ!!》

 

"陸戦型ガンダム"が地を蹴り、疾走し始める。そこへ伍長と軍曹の"陸戦型GM"が続く。陣形はクローズドアローフォーメーション。高い速度を保ったままお互いを庇い合いカバーする密集陣だ。

 

『アラート エンゲージ A1捕捉 危険度B』

 

「強襲をかける!!各機!3秒後に14秒のスラスター噴射!遅れるなよ!!」

《了解…!》

《イエッサー!!》

 

スロットルを引き、フットペダルを踏む。スラスターが作動、"陸戦型ガンダム"を無理矢理加速させ滑空させる。

 

()ちろ!!」

 

"100mmマシンガン"から吐き出された火の息が"ザクII"(A1)を撃ち倒す。しかし無駄弾が多い。弾丸を雨あられと浴びせかける様にしてやっとか……。高機動を行っていた事も関係あるだろうが、集弾率があまりにも低い。

 

これじゃ射撃戦は不利だ。危険を承知で格闘戦に持ち込むしか無い。

 

撃破と同時に基地に警戒音が鳴り響き、叩き起こされた巨人達が動き出す。

 

着地し地面を激しく削りつつ"陸戦型ガンダム"がその運動エネルギーを解放、機体を安定させる。

 

《ウィザード01より各機へ!敵部隊が動き出しました!MS歩行音多数確認!!予想とほぼ同じ位置です!》

「聞いたな!!目標は基地西部の"キャノン付き"(C1)にA2だ!それを撃破し次第撤退するぞ!!」

 

中尉がセレクターを"タ"(セミオート)に変更、フォールディングストックを起こし、塹壕に半ば埋まる様に待機する"マゼラ・アタック"(F1)に向け射撃しつつ怒鳴る。軍曹は向かって来たA2へ射撃を加えつつ"スローイングナイフ"を抜く。伍長は基地施設とおぼしき物へグレネードを放っていた。

 

「ブレイヴ03!F3からF8を任せた!俺は軍曹とA2、C1を()る!!」

《りょーかい!!あったれー!!》

《ブレイヴ02了解。退路の確保を優先する……》

 

軍曹がA2からの攻撃を軽く躱し、射撃を加えつつ投げた"スローイングナイフ"でAPCを貫く。

伍長はサイズがギリギリな塹壕の中で必死に超信地旋回しようとする"マゼラ・アタック"を真上から撃ち、踏みつける。恨むなら上部を旋回出来ない様に設計した設計者を恨めよ、と言わんばかりの攻撃だ。

 

「脇が甘い!!」

 

軍曹に掛かり切りとなり隙を見せたA2へ中尉が急接近、抜刀した"ビームサーベル"をすぐさま変更、出力を絞りつつ展開させた"ビームジャベリン"でその胴を突き刺し貫く。

 

「やはり動きが遅い…改造にムリがあんだな……」

 

突き刺した"ビームジャベリン"を大きく振り回す様に凪ぐ事で上半身と下半身を両断する。下半身は立ったまま、胴体だけが支えを失い地面へと転がる。

 

《アンダーグラウンドソナーに感あり!10時方向!距離4800!"アオツノ"(U1)及びA3が接近中!ご注意を!》

「その2機は相手するな!伍長!」

《……!》

 

残る下半身さえも崩れ落ちたA2から向き直り、右手に"ビームジャベリン"を構えた"陸戦型ガンダム"が、左手で"100mmマシンガン"を構え伍長を狙っていたC1に準備射撃を加え牽制する。

 

そのため伍長の"陸戦型GM"を狙った一撃は逸れ、地面を抉るのみだったが……。

 

「……伍長……?」

 

"キャノン付き"のキャノンが向けられる前から、回避に移っていなかった、か……?

 

偶然か?よろけただけか?それとも何時もの勘か?

 

『アラート エンゲージ A3』

 

コクピット内に警告音が鳴り響く。ロックオン警報だ。

 

気が散っていた。戦闘中に考え事など……何をやっているんだ俺は。

 

考える前に身体が動き、足が勝手にフットペダルを蹴飛ばす。殺到する120mm弾の雨を、身を翻し射線から"陸戦型ガンダム"が姿を消す。

 

捉えられたマントが破けただけで、本体は無傷だ。

 

大きく靡くマントが大きな音を立てる。ちょっとデカ過ぎたか?結構音するな……。

 

《目標撃破…》

《ウィザード01より各機へ。作戦目標達成です。至急撤退を開始して下さい!》

「了解!!さっさとトンズラこくぞ!」

《ブレイヴ02了解。殿につく……》

《わかっぱー!"三重ロックは逃げるにいかず"、ですね!!》

「教えてくれ"ジーク"……俺はどこから、後何度ツッコめばいい……?」

 

軍曹が翻弄する様な軽いフットワークで"キャノン付き"の懐へと潜り込み、コクピットをマルチプルシールドの一突きで貫き沈黙させていた。中尉と違い格闘兵装すら使わない実に鮮やかな手際だ。見習いたいな…。

 

「ブレイヴ03!スモーク!!」

《アイサー!モクモクさくせーん!!》

《伍長、敵が接近中です!ASAP!》

 

伍長がスモークグレネードを炸裂させ、広範囲に渡り煙幕を張る。

 

一つ目で"ブレイヴ・ストライクス"の3機を包み込み、さらに追加で放り投げて行く。

 

「よし!!撤退だ!!急げ!!」

《ザザッ……かきゅ…すみや…ザザザ…にぃー!!》

《ザザ…置…やげ、だ…》

 

『アラート 強烈な電波障害発生 各種センサー使用不可 至急、現戦域からの離脱を推奨』

 

伍長、チャフまで撒きやがった……。効果は絶大だが、それはこちらもだわ……。

完全にホワイトアウトしたレーダー、視界を当てにせず、予めインプットしたデータを元に3機は疾走する。

 

敵も同士討ちを恐れ迂闊に射撃出来ない。有効な手と言う物は、今も昔もそう変わらないと言う事か…。

 

視界が開け、電波障害がやや収まる。

 

煙幕を抜け、そのまま走る。その後ろに同じく煙幕を抜けた伍長機が続き、最後に軍曹機が後方を警戒しつつ現れた。

 

「全機無事だな!よし!戦域を離脱する!総員、第一種警戒態勢に移行、周囲の索敵を怠るな!」

《いやー、傑作ですね!煙幕とともにフェードアウト……うーんロマン!!》

《気を抜くな、追撃に注意しろ。痕跡を残すな…》

 

3機仲良くならんで戦域を離脱する。

 

作戦成功、損害は軽微だ。やはり伍長にはMS以外を任せた方がいいな。それでも機銃弾をガンガン喰らっているため装甲のあちこちに細かい傷や弾痕が目立つが……。

 

Mission CMPL(コンプリートミッション) RTB』

 

「このマント、使えるな……」

 

苦肉の策のマントであったが、中々良い。

 

このマントは特別製であり、偽装網、超繊維布、合成ゴム、ケブラー繊維、カーボンファイバーなどをはじめとするあらゆるを素材を数重にも重ねる事で軽いがそこそこの防御力を誇る。

 

さらには中尉の提案で、試製ビームコーティングを塗布され、布自体も空間が特殊な構造で組み込まれており、HEAT弾対策になるのだった。

 

成形炸薬(HEAT)弾とは化学エネルギー弾頭の一種である。

砲弾内に漏斗状に成形された上で充填された炸薬が着弾と同時に起爆、モンロー・ノイマン効果によって発生した高温・高圧の超高速噴流(メタルジェット)により装甲を侵徹、貫通させ、その破孔へ爆轟波、弾片を叩き込み兵器を内部から破壊し焼き尽くす兵器の事だ。

 

運動エネルギーでなく化学エネルギーでダメージを与える弾丸であるため、低速でも威力があるため、個人携行用対戦車兵器にも用いられている。

ジオン軍の主力MSが装備する主兵装も対艦攻撃が主体であった事の名残か使用弾頭もHEAT弾が多いのだ。

 

厚い装甲をいとも容易く貫き内部から破壊する強力な弾頭であるが、肝心なモンロー・ノイマン効果の有効侵徹破壊距離は数十cm程度と極めて短く、そのため装甲へ到達する前にマントに接触させ信管を作動させる事でメタルジェットを装甲まで届かせなくさせ、弾頭を無効化する事が出来るのだ。

 

つまり、低出力ビーム及びごく限られた弾丸のみではあるが、有る程度の実弾射撃を無効化出来る魔法の様な布なのだ。

 

「明日が決戦だな…そういや、軍曹、なんであんなに離脱に時間がかかったんだ?」

《ブービートラップを仕掛けていた……》

「は?」

《え?》

《まさか……》

 

あの短時間で!?

 

ドカン!! 後ろで爆発音と地鳴りが響いた。

 

もうもうと砂煙が立ち込め、その下の惨劇を覆い隠す。

 

《ば、爆発オチなんて……》

 

サイテー!!

 

 

『戦いは常に、二手三手先を考えて行うものだ』

 

 

霧の中、バンシィは叫ぶ………………




最近、ガンダムというよりその皮被った何かになってる感が半端なくなってきました(笑)。

迷彩がスプリッターなのは趣味です。デジタルとかも好きですけど、選べなかったので組み合わせました(笑)。なんか、こう……宇宙世紀のびっくりドッキリ技術で止まってても動いていても見えづらくなる様な迷彩になったと思って下さい(笑)。

サイドストーリーズやりましたが、アレは正史に加えていいもんすかね?手抜き過ぎてビッグトレー倒し放題じゃねーか連邦破産するわ。事あるごとに金塊出て来るしどうなってんだよ。ガンダムエースのマンガでも読んで補強しますかね……つーかスレイヴ・レイスの部隊と機体も設定が結構めちゃくちゃやん?どうすんのこれ?

まぁ、のんびりやって行きます。そろそろ35周年を迎えるガンダムを、今後ともよろしくお願いします!

次回 第五十八章 ターゲット・イン・サイト

「ならもっとテンション上げて言えやぁ!!」

お楽しみに!!


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第五十八章 ターゲット・イン・サイト

色々忙しかったのと、ケータイの故障でものすごく更新が遅れてしまいました。申し訳ございません。

飽きちゃったお方もぜひ。久しぶりなんで出来は今ひとつかもしれませんが………

てゆーかまだケータイ調子悪い………。


激戦を経た地は、何かが違う。

 

地理的に、戦略的に重要なだけでない。

 

何かが、違うのだ。

 

幾度も数多の血を吸い、肉片を喰らい、魂を縛る。

 

戦場跡は、決して戦場跡では終わらない。

 

 

 

U.C. 0079 8.31

 

 

 

見事に晴れ渡り、雲一つ無く真っ青な空がどこまでも広がる。

 

太陽は照り、辺りを輝かせ、その放射する熱が陽炎を揺らめかせる。

 

草木は青々と茂り、久しぶりの太陽に挨拶をしているようだ。

 

《作戦開始時刻です》

「よぉし!!"ブレイヴ・ストライクス"出撃だ!!各員!遅れるな!!」

《りょーかい!!》

《ブレイヴ02了解……出撃する……》

 

その木陰で、草木を踏み倒し、大きな足跡をつけつつ立ち上がるMSがあった。

 

《ウィザード01より各機へ。現在のミノフスキー粒子濃度は58。レーダーは使用不可能です。しかし、敵基地は高い警戒レベルを維持している上、この天気です…

ここが正念場となります!!各員、気を緩めないようにして下さい!》

「ブレイヴ01了解!!」

《ブレイヴ03りょっかい!!》

《ブレイヴ03了解……》

 

上等兵の言う通り、この戦いが"オペレーション・ターゲット・イン・サイト"、最後かつ最大の戦いになるだろう。

 

今までこちらに味方し、姿を隠してくれていた霧はもう無い。

 

真っ正面からの激突だ。

 

敵も全戦力を投入して来るだろう。先日の威力偵察により多少の戦力は減らしたが、予備機、増援が無いと考える方が不自然だ。

現に、"バンジャルマシン・ベース"沖合にて所属不明の輸送艦が発見されている。おそらくジオンの輸送船で、水陸両用MSの増援だろう。

 

「ブレイヴ01より各機へ!アローフォーメーション!このブレイヴ01に続け!!」

《ブレイヴ02了解……ライトウィングに着く……》

《ブレイヴ03オーキードーキー!!レフトウィングに着きまーす!!》

《こちらウィザード01。距離420にて追従します》

 

地を踏み、木を蹴り砕き進む。

"100mmマシンガン"、グレネード、"スローイングナイフ"にシールド、さらには腰背部ラックに"ロケットランチャー"を装備した中尉の"陸戦型ガンダム"は決戦仕様だ。結局修理の間に合わなかった頭部デュアル・センサーの片方は応急処置として装甲で蓋をする様にシールドされ、まるで眼帯をした様になっている。

それに加え左肩のマントだ。合わせてまるで海賊の船長に見える。

 

照準用であるデュアル・センサーの故障により落ちた命中率は、以前の戦闘でその命中率の低下が指摘されたため"アイリス"及びその他2機の"陸戦型GM"とのデータリンクによる情報支援を最大限に受ける事で補う事となり、現に行ってはいるが……。そのデータリンクが途絶えてしまえばそこまでで、尚且つ各機に負担が掛かり、更には"陸戦型ガンダム"自身の情報処理能力の限界も合間って、命中率は平常時の75%程度になってしまった。

 

中尉機の左手後方には、右手に"ハイパーバズーカ"、左手に"ミサイルランチャー"にシールド、腰背部に"100mmマシンガン"、背中のウェポンラックに"ロケットランチャー"という重装備を施した伍長の"陸戦型GM"。

 

右手後方の軍曹機は"180mmキャノン"にシールド、腰背部ラックに"100mmマシンガン"、グレネードに"スローイングナイフ"とこちらも重装備だ。

 

既に中尉達にはこれ以上の装備は存在しない。残弾も装備していない分は"100mmマシンガン"の物しか残っていない。

 

まるで在庫処分だ。しかし、コレでも足りない可能性もある。仮にそうならば自分たちは終わりだ。

 

"Xデイ"まで後一日。俺たちに後退も、失敗も許されない。

 

《アンダーグラウンドソナーに感あり!!12時方向(ヘッド・オン)、距離3250!"アオツノ"に1機"ザクII"2機です!それぞれU1、A1、A2と呼称、編隊を組みつつ接近して来ます!会敵までおよそ40秒!!》

 

敵もこちらを捕捉した様だ。それにしても、新型を惜しげも無く投入して来たか……。

 

キツくなりそうだ。かなり。

 

「…おいでなすったか……各機、進軍速度そのまま!各員の判断で発砲を許可する!ブレイヴ03はやや距離を置け!ブレイヴ02!援護を頼む!!」

《ブレイヴ02了解……》

《!? ぶ、ブレイヴ03了解!

………いいんですか?》

「俺を信じろ!!」

《はっ、はい!》

《U1に動きあり!A1、A2を置いて突出して来ました!》

 

操縦桿についているをセーフティ解除しマスターアームオン、FCS起動。セレクターは"レ"(フルオート)に。

 

『メインアーム レディ コンバットマニューバ オン』

 

おそらく隊長機なのだろう。余程腕に自信がある様だ。

加えて"アイリス"から送られて来たデータには、U1の通信量が最も多いというデータがある。恐らく2機に援護させ、一番槍を上げようという魂胆か?

 

《こちらブレイヴ02。U1を捕捉。狙撃する……》

「了解した!俺は突っ込み掻き回す!必ず一撃で仕留めろ!」

《了解……任せて欲しい……》

 

軍曹の返しに安心を覚えつつ、中尉は相手の出方を伺う。

 

《アンダーグラウンドソナーに感あり!11時方向に音紋多数!敵増援多数接近中!"ザクII"に"キャノン付き"が紛れている様です!ご注意を!!》

 

『エンゲージ アラート U1接近中 会敵までおよそ25秒』

 

"陸戦型ガンダム"のセンサーがU1を捉える。天候状況は最高に近いが、このミノフスキー粒子濃度だ。最大限の性能を発揮し切れていない。

 

「……信頼してるぞ………!!」

 

中尉がフットペダルを踏み込み、機体はスラスター噴射を行い加速する。

 

ビーッとコクピット内にアラートが鳴り響く。こちらにレーザー照射がなされたのを機体が感知したのだ。

 

……ロックオンされたか。しかし気にせず突っ込む。今は注意を引く事が最優先だ。

 

U1がこちらを捉え、明確な殺意をこちらに向けてくる。左腕を振り上げ、例の機関砲で牽制を仕掛ける気の様だ。

 

だがその前に走るU1の上半身が消し飛ばされる。

軍曹の狙撃だ。

 

《 ! 敵の動きが乱れました!やはり、U1は部隊長であった様ですね》

 

隊長機を()られ、敵部隊に動揺が走る。統率の取れていたA1、A2もその場で足を止め、散開し始めた。

 

戦力的に劣勢であるのに、その戦力を2分するとは……余程の自信があるのかただバカなだけか……。

 

《………生死の去来するは

棚頭(ほうとう)傀儡(かいらい)たり……一線断ゆる時、落々磊々(らくらくらいらい)……》

 

その様子を見た軍曹がボソりと呟く。

 

それと同時にトリガーを引く。機関部が唸りをあげ、薬室(チャンバー)内に装填された弾丸の雷管(プライマー)が作動、発射薬(ガンパウダー)を燃焼させ、"180mmキャノン"が火を吹く。

 

轟音と共に撃ち出された砲弾は第二の目標であるA1を貫き、真っ二つにし撃破する。

 

追い詰められたA2が、スラスター移動しつつ突出した中尉の"陸戦型ガンダム"へと散発的な射撃を加える。

しかしそれでは有効打にはなり得ない。対弾マントに、ルナ・チタニウム製のシールド、装甲の前では絶対的なストッピング・パワーが足りていない。

 

『シールドに被弾 損害報告 損傷度クラスD 戦闘に支障無し』

 

《……ど、どーゆー意味です……?》

「……その思念の総計(かず)はいかに多きかな…我これを(かぞ)えんとすれども、その数は(すな)よりも多し……」

 

中尉はその問いに答えず呟き、機体を操作、メインベクタードノズルの向きを変更、強烈なGを受けつつ飛び上がる。

急激なGによりG-LOCが発生、視野が狭く暗くなるも気にしない。

 

慣性に任せ上空から"100mmマシンガン"を牽制としてフルオート射撃しつつ空中で半回転、敵を飛び越え背後に降下する。左手で抜刀し着地と同時にA2に対し"ビームサーベル"を袈裟懸けに叩きつける。

 

隊長機を潰され混乱していたところに三次元機動を用いたMSの強襲だ。対応し切れず、残る最後の"ザクII"(A2)はその身に圧縮されたミノフスキー粒子の光刃を受け、高熱により溶断破砕され、グチャグチャになった破片を撒き散らしながら斬り飛ばされる。

 

切断された断面からは流体ポリマーがまるで血の様に噴き出し、"陸戦型ガンダム"を染め上げる。

 

倒したが……やはり弾丸はあまり当たってはいないな……。基本的にフルオートでばら撒くか、3点バーストしか無いか……。

 

"ビームサーベル"を格納し"100mmマシンガン"を取り出した後、フォールディングストックを起こしフォアグリップを展開させ両手で保持する。少しでも銃身を安定させ、命中率を上げようと考えたからだ。また、しっかりとストックを肩に当てる。ちょっと窮屈だが、これなら"100mmマシンガン"に装備されたバックアップのアイアンサイトも使える。少しでも命中率を底上げ出来ればいい。この兵器の信頼性はまだまだ低い、そう思う中尉だった。

 

《ウィザード01より各機へ。敵第一群を撃破…! アンダーグラウンドソナーに感あり!敵機識別完了、敵機判明しました!基地守備隊は"ザクII"2機、"キャノン付き"3機、"ゴッグ"1機と確認!それぞれA3、A4、C1、C2、C3、G1と呼称!ご注意を!》

「了解した!進軍する!フォーメーションA 3-2!!最優先目標は"キャノン付き"(C1、C2、C3)だ!」

《ブレイヴ02了解…射点確保に移る……》

《こちらブレイヴ03!了解しました!!わたしたちのコンビネーションを見せつけてやりましょー!!》

 

軍曹の"陸戦型GM"のみが散開、姿を隠しつつ射点確保に動き始める。

 

それを見届けた中尉は改めて武器を構え直し、伍長と連携、2機一組(ツーマンセル)で警戒音が鳴り響き回転灯が騒ぐ基地へと深く切り込んで行く。

 

『アラート コンタクト A3、A4、C3、G1 最優先目標をC3、次期目標をG1に設定 戦力的に不利 撤退を推奨』

 

接近した事で本格的にセンサーがMS反応を捉える。5機、いや、6機?かなり多い!!

"アイリス"とのデータ相違からデコイの可能性も捨て切れないが……

 

「ブレイヴ01よりブレイヴ03へ!援護する!オールウェポンフリー!!面制圧を開始しろ!!反撃を許すな!」

《いよっしゃー!!全砲門ファイヤー!!》

《2時方向海岸方面に敵影確認!新手です!雑音により機種識別不能!ブレイヴ02、対応を!》

《ブレイヴ02了解。迎撃に移る……》

 

伍長の"陸戦型GM"が"ミサイルランチャー"を全弾次々と発射して行く。撃ち放たれた6発のミサイルが白煙を引き飛翔、敵基地にバラバラと降り注ぐ。

着弾地点から爆炎が上がり、炙り出されたMSに対し伍長は"ハイパーバズーカ"を撃ち込み始める。

 

中尉は伍長の"陸戦型GM"の直掩につき、周囲のAPC、"マゼラ・アタック"へ攻撃を加える。これは"100mmマシンガン"、グレネードを装備した中尉の仕事だ。

 

その中尉の機体周辺に砲弾が着弾し土煙を噴き上げる。おそらく"キャノン付き"の攻撃だ。今は小刻みな乱数機動により命中弾はないが、当たるのは時間の問題だ。

 

時間は、限られている。

 

《うへぇっ!!撃ってきたぁ!!早くおかわり下さい!!》

「了解した!!そのまま撃ち続けろ!!」

 

"100mmマシンガンをばら撒き牽制射撃としつつ伍長機に近づき、弾が切れパージされたミサイルコンテナを避け、新しいコンテナを取り付けて行く。MSにしか出来ない、柔軟な対応である。

 

……それは、同時に敵の目の前でリロードすると言うとんでもない行動であるが……。

 

《ウィザード01よりブレイヴ03へ。基地施設への被害は最小限に抑えて下さい。しかし、トーチカは必ず破壊して下さい》

《むむ……難しいんですけど……》

「おかわりどーぞ!!」

 

伍長機が装備している"ミサイルランチャー"のリロードを終え、散開しつつ準備射撃を加える。

 

「!!……ッ!」

 

攻撃が中尉の"陸戦型ガンダム"へと集中する。敵にも通信量の多さを見破られたか!?

 

"100mmマシンガン"をばら撒きつつスライディング、かまぼこ型の倉庫だと思われる建造物の裏へ隠れる。伍長もしゃがみ込み塹壕へと身を隠している様だ。

 

「敵さんも必死だな……クソッ!」

 

身を乗りだした瞬間に至近弾。慌てて引っ込み舌打ちする。全く、コレだ!ロクでもない!!七面倒な!!

 

シュノーケルカメラを伸ばし、"100mmマシンガン"だけを突き出し射撃する。

ただでさえ低い命中率だ。擦りもしない。しかし牽制にはなっているようだ。攻撃の激しさがやや弱まる。

 

「…しかし……」

《隊長、無理は禁物です》

《そうですよ!ってたたたたたっ!?このっ!!》

「分かってい。分かってはいるんだが……」

 

伍長の"陸戦型GM"はウェポンコンテナを抱えている。機動戦はムリだ。伍長機に敵を近づけさせるワケにはいかない。ただでさえ多い被弾が増えているし………。

 

コクピット内の残弾表示がみるみると減って行くも、敵に有効打は与えられないままだ。

"100mmマシンガン"が曳光弾を吐き出した。弾切れだ。

 

『メインアーム 残弾ゼロ 至急安全地帯にて再装填を推奨』

 

倉庫裏へと引っ込み、裏で"100mmマシンガン"をマグチェンジ、再びばら撒きつつ機を伺う。

 

《分かりました。HSL起動、回線B開通確認。システムチェック……リンク開始……》

「伍長!全弾撃ち切ったら後方支援!」

《りょ、了解ぃ!!あれ?FCSが……ええぃ!!あったれーっ!!》

 

もう一度伍長の"陸戦型GM"が"ミサイルランチャー"を撃ち放った。

 

待て……まだ慌てる時間じゃない……。

 

「……スタンバーイ…スタンバーイ……」

 

まだだ……まだ……。

 

白煙を引く"ミサイルランチャー"弾頭が敵基地へと殺到、炸裂する。

伍長は弾の切れた"ミサイルランチャー"を投棄、"ハイパーバズーカ"を1発撃つも弾切れ、それも投棄し"100mmマシンガン"を構え下がりつつ撃ち始める。おそらく背部ウェポンコンテナの"ロケットランチャー"を用意するためだろう。

 

「………ゴゥッ!!」

 

今だ!!爆炎が止み、煙が晴れかけた時点で中尉は"100mmマシンガン"を左手へ持ち替え、腰背部の"ロケットランチャー"を右肩に担ぐ。

 

『"ロケットランチャー" レディ FCS同調』

 

そのまま倉庫の裏から踊り出し、スラスターを噴かし跳躍。敵部隊へと接近戦を仕掛ける。

 

《ウィザード01より各機へ!敵航空戦力接近!他の部隊で確認されていた"ド・ダイ"タイプの爆撃機だと思われます!!4機確認!B1、B2、B3、B4と呼称!!》

「また新手か!!」

《うひぃ〜!コレ!危険手当出ますかねぇ!?》

「死んだら元も子もねぇだろ!目の前の敵に集中しろ!!」

 

伍長がばら撒いた"ミサイルランチャー"により、敵機は殆どがどこかしら損傷していたが、大破はゼロだ。

 

…………どこ撃ってんだ!?いくら命中率が低いと言っても一発くらい当てろや!!ミサイル弾頭はシーカーにも寄るがかなり高いんだぞ!!

 

「無駄弾が多すぎるぞ!ブレイヴ03!!」

「そ…そんなこと言ったって!」

「無駄口もだ!クソッ!!ブレイヴ03!残るトーチカを()れ!その後は"ド・ダイ"だ!!ブレイヴ02!!無事か!?」

《こちらブレイヴ02…海岸方面の増援と交戦中……》

「クッ!援護は!?」

《必要無い…新型か……?データ収集後撃破する……》

 

………さらっと……しかし、こちらとて手一杯だ。

 

《軍曹!戦力差は5対1ですよ!!新型機の性能も未知数です!!ブレイヴ02!危険です!!せめて援護だけでも……!》

《必要無い……》

《しかし!!》

「上等兵!!」

《!!》

「…軍曹……任せたぞ!!」

《了解……》

 

軍曹の主兵装は遠距離射撃武器の"180mmキャノン"だ。それに加え、軍曹はスナイパーだ。

…ここは軍曹を信じよう。

 

かつて、たった1人で一個師団を相手取り、数ヶ月に渡り足止めし続けたという軍曹を。

 

アウトレンジからの攻撃は脅威の一言に尽きる。軍曹がそれを一番理解しているはずだ。

 

《ウィザード01より各機へ。"ド・ダイ"編隊はお任せを。MSを効果的に倒せるのは、MSだけですから》

「と、言っても!どうする気です!?」

《遂に!"ナナヨン"の上のアレですか!?》

《いえ、こうです!》

 

上等兵の声と同時に、ジオン軍基地に多数備えられた37mm4連装旋回式対空機銃が一斉に起動、マンタの様に巨大で薄べったい"ド・ダイ"をハエかカトンボの様に叩き落とし始めた。

 

《ど、同士討ち!?》

「いや、アレは……」

《連邦軍の装備のまま、尚且つ自動化されていたのなら使わない手はありません。クラッキングをかけ掌握しました。少々手こずりましたが》

 

すげ……。ジオンの皆さんも驚きだろうな……。この短時間かつ同時進行で……流石天才。

 

《援護します。制圧を急いで下さい!》

「っ! 了解!いくぞ!」

「アイサー!!」

 

上等兵が操る対空砲の支援を受け、中尉機が吶喊する。

中尉はセレクターを変更、"3"に変更した"100mmマシンガン"で牽制をかけつつ移動、動きを止めた敵機から"ロケットランチャー"を叩き込んで行く。

 

低下した命中率は、敵へと大胆に接近する事で補う。当然危険を伴うが、今はこれしかない。

 

至近弾が掠め、足元では砂煙が立つ。正直捌ききれない。

 

「…んぐっ!クッ!」

 

右腕部、右左脚部に機銃弾が着弾する。機体が衝撃で激しく揺すぶられるもダメージリポートでは問題無しだ。

敵も自軍基地内では発砲し辛いのだろう。そのアドバンテージがなければ今頃はハチの巣だ。

 

《く、来るなくるなー!!》

「落ち着け伍長!無理なら離脱しろ!」

《援護します!ブレイヴ03!下がって下さい!》

 

"ド・ダイ"を全滅させた対空砲が本格的にMSを狙い始める。結構効いている様だ。火力不足とはいえかなり効果的に足を止めている。侮りがたいな。本当に。

 

()ちろ!!」

 

敵機をモニターが鮮明に捉えた。

基地の最終防衛ラインを固める"キャノン付き"に"ザクII"達だ。

敵機は伍長の射撃でどこかしら損傷した機体ばかりだ。損傷し機動力の低下した兵器ほど戦場で的になる存在はいない。

 

特にただでさえ地上機動力が低い"ゴッグ"など悲惨の一言だ。いくら装甲が厚かろうと大口径の榴弾である"ロケットランチャー"には耐えられない。

中尉の攻撃を受けた"ゴッグ"は自慢の高出力から来るパワーもメガ粒子砲も、活かす間も無く火に包まれ崩れ落ちた。

 

呆気ないほどの手応えで敵機は"ロケットランチャー"の弾頭をその身体で受け止め爆散する。その勢いに押されてか反撃も散発的だ。既に組織的な部隊行動も取れていない。

 

「ブレイヴ02!生きてるか!」

《ブレイヴ02よりブレイヴ01……返答の要を、認めず…》

「……ムリはしないでくれよ!!」

《ブレイヴ02了解……》

 

主兵装でありその機体の存在価値(レゾンデートル)であるキャノンを歪に曲げられ、遅い脚で必死に回避しようとする最後の"キャノン付き"を撃破する。直撃した360mmHEAT弾はMSに対しオーバーキルに近い威力を発揮、胴を抉り炸裂、四肢をバラバラに吹き飛ばした。

 

くるくると回り、折れ飛んだキャノンが地面へと叩きつけられ、突き刺さらずゴロゴロと砂煙を上げながら激しく転がる。

それは、兵器という物の哀れな末路を示している様だった。

 

中尉は大胆に接近し、的確な射撃で敵を次々と葬り去って行く。それでも低下した命中率の低さは補い切れず、FCSも不安定だ。動きの重くかつ危険度が高い敵から狙ってはいるものの……クソッ!FCSに頼り過ぎた!

 

『"ロケットランチャー" 残弾ゼロ』

 

弾の切れた"ロケットランチャー"を再び腰背部のラックに懸架し、空いた右手で"100mmマシンガン"をリロードする。

 

コレが最後のクリップだ。いよいよ追い詰められてるな……。被弾も増えてる。そろそろマズい。

 

「ブレイヴ01よりブレイヴ03へ!残るは2機だ!一気に行くぞ!!俺がA3を()る!ブレイヴ03はA4を足止めしろ!!」

《アイサー!!いっくぞー!!》

 

リロード完了とともに"スローイングナイフ"を4本引き抜き、残る2機の"ザクII"に向かって飛び出しながら放射状に投擲する。

 

低下した命中率を補うための苦肉の策であったが、功を奏したようだ。投げた4本のうち2本が、先頭のA3のシールドに突き刺さり次々と炸裂する。

 

シールドごと右腕を吹っ飛ばされたA3がよろめき、膝を着く。

中尉はここぞとばかりに"ビームサーベル"を抜刀、"ビームジャベリン"へと変更、疾風の様に斬りかかる。

 

A4がA3をカバーに回ろうとするがもう遅い。更にそのA4に対し伍長が牽制射撃を行う。動きを封じられたA4は苦し紛れに伍長機へと撃ち返す事しか出来ない。

 

「ッ ふっ!!」

 

左手で何とか"ヒートホーク"を抜いたA3だが、接近し"ビームジャベリン"を薙ぎ払った中尉の"陸戦型ガンダム"にその左手を斬り飛ばされ、返す一撃が胸部に突き刺さった。

 

胸部装甲をグシャグシャに歪められ、コクピットを貫かれたA3はガクガクと痙攣する様に震え、モノアイがブラックアウトし膝から崩れ落ちる。

 

《あ〜、しょーい〜どいてぇ〜》

 

は?

 

「! ングッ!!」

 

『アラート ブレイヴ03からのレーザー照射を確認 至急回避運動を』

 

 

 

どうして?

 

 

 

コクピット内に鳴り響くアラート音。至近距離からの射撃管制用レーザーの照射だ。

 

 

 

どうして?あれは……敵?

 

 

 

『高脅威目標発生 IFF上では友軍機 IFFデータの再設定開始』

 

その主は()()()"()()()G()M()"()

 

"ビームジャベリン"を投棄。目の前の"ザクII"を脚の裏で蹴っ飛ばし、その反動で後ろに転がる。回避運動を行った中尉機のすぐ傍を"ロケットランチャー"の弾頭が通過、A4に吸い込まれる様に直撃しその機体を爆散させる。いや、まだ耐えてる!?両腕を犠牲にしたか!?

しかし、そこへ機関砲弾が降り注いだ。その鋼鉄の嵐が過ぎ去った後には、穴だらけで煙を上げる残骸が残されているだけだった。

 

「ばっ!バーロー!!どこ狙ってんだぁ!?殺す気か!?」

《えぇっ!?どいて下さいって頼んだじゃないですか!!》

「ならもっとテンション上げて言えやぁ!!」

 

思わず伍長を怒鳴り飛ばす。いや、いくらなんでも今のは酷いって!!

 

《論点がズレているぞ……?しかし、今のは危険過ぎる……》

《伍長!!何をやっているんですか!!味方に向けて撃つなんて!!どう言う神経ですか!!軍法会議ものですよ!!》

《えぇっ!?ご、ごめんなさい!!でも、しょーいならって……》

《確かに…!現に!中尉は避けて見せました!しかし!それとこれとは話が別です!!》

《ひ、ひええぇぇぇぇぇええ………》

 

上等兵が伍長へ凄い剣幕で怒っている……うわー、あんな顔もするんだなぁ……初めて見た……。

 

 

 

ならば、戦わなければ。

 

 

 

『I have control』

 

何時も無表情に近いから……ものっそい怖い……。

伍長マジ泣きだよ……。

 

『エンゲージ マスターアーム オン メインアーム レディ』

 

 

 

わたしが、まもる。

 

 

 

「? …!!」

 

突如動き出した"陸戦型ガンダム"のFCSが起動、伍長の"陸戦型GM"を照準に捉えようとする。

慌ててそれを解除するも、またも"陸戦型ガンダム"は勝手に伍長機を照準しようとする。

ジェネレーター出力も上がり始め、機体が細かく振動する。コクピットを震わすその湧き上がる様な鼓動に、中尉は一人戦慄する。

 

「ど、どうした、んだ…"ジーク"……」

 

コントロールの主導権をなんとか取り戻すも、何度も何度も伍長機へとロックオンしようとする"陸戦型ガンダム"をなんとか操作する。

 

これは……まるで喧嘩だ。

 

そもそもIFFが…………!!…書き直されている!?それに、今……"所属不明機"(アンノウン)扱いだった伍長機が"敵機"(ボギー)に!?

 

 

 

どうして?あれは、あなたを。

 

 

 

一体これは!?何なんだ!?システムエラー!?それともクラッキングか!?バグか!?それにしては潜伏や発生が謎過ぎる!!

 

とにかく……今は!!

 

早くここを離れるしか……それに、まだ軍曹は戦闘中だ!遊んでいる暇は無い!!

 

「こちらブレイヴ01!ブレイヴ02の援護に移る!!敵基地守備隊であるMSは壊滅した模様!!アサシンの手配を!」

《了解しました。ミッションアップデート。伍長、貴方はここで対地掃討に移行しなさい。今すぐに!!》

《うぅ……えっ?援護h…》

《復唱は!!》

《はっ、はっ!!ブレイヴ03はこれより敵基地の対地掃討に移行しますぅー!》

 

"アイリス"から青の信号弾が打ち上げられ、そのまま青い空へととけて行く。

それを横目に、中尉は奮闘していた。

 

なんとか"陸戦型ガンダム"の主導権を握り、伍長機から引き剥がそうと四苦八苦する中尉と、その手から逃れようと暴れる"陸戦型ガンダム"の攻防は、中尉にはかなり長く感じられた。

 

 

 

そう、なのですね。判りました。

 

 

 

『You have control』

 

突然制御が戻る。そのまま伍長に背を向け、"陸戦型ガンダム"が走り出す。伍長機があちらへ向き直ったと同時に抵抗が収まるが、IFFは依然"アンノウン"のままだ。

 

中尉は移動しつつ"陸戦型ガンダム"の自己診断プログラムを走らせる。

 

システム・オールグリーン。

 

「…………」

 

無言で再施行しかし、結果は変わらずオールグリーン。異常は一切見つからない。

 

「……なんだったんだ………いったい…………?」

 

疑問は渦巻くばかりで、解決の……いや、問題の証拠すら……。

 

まるで怒り出し、癇癪を起こした様な行動……己が身の危険を?機械が?

 

《こちらブレイヴ02。目標を殲滅した……索敵を開始する………》

 

は?

 

《え?》

《今、何と……》

 

突然の軍曹の通信に、誰もが耳を疑った。というか、理解が出来なかった。

 

《復唱する。こちらブレイヴ02。目標を殲滅した……》

《ご…5機を相手に……!!?》

「ま、マジかよ!!」

《周囲に敵MSの反応、認められず……です》

「…………」

《…………》

 

わ、わけがわからないよ!!

 

沈黙に沈む"ブレイヴ・ストライクス"を、"キング・ホーク隊隊長"(アサシン・リーダー)が呼び覚ます。

 

《こちらアサシン01!"バンジャルマシン・ベース"管制塔を制圧、基地司令長官と思しき人物を拘束した!繰り返す!!こちらアサシン01!"バンジャルマシン・ベース"管制塔を制圧、基地司令長官と思しき人物を拘束した!この戦い、我々の勝利だ!!》

 

CMPL(コンプリートミッション) RTB』

 

一陣の風が吹き、立ち竦む中尉の"陸戦型ガンダム"のマントを揺らし、脚元で砂埃を立てる。

 

何か、こう……釈然としない事ばかりだ。

 

本当に。

 

《か、帰りましょうよ、ね?少尉?》

「あ、あぁ……」

《"オペレーション・ターゲット・イン・サイト"、ミッション・コンプリート。お疲れ様でした》

《時代は、MSを主役に選んだな……》

 

選んで、いいのだろうか?

 

今の中尉には、この頼もしく、力と勝利の象徴だった"陸戦型ガンダム"がとても異質で、得体の知れない物に見えていた。

 

「お前は……一体…………」

 

"陸戦型ガンダム"は、答えない。

 

 

 

『そのマシンの性能を引き出せ!!』

 

 

変わるのは、人だけではない………………………




久振りに書けたので、書いて見ましたが……何か違和感だらけです。

どうも淡白になっているというか、何と言うか……。見直して見たら誤字脱字も凄く多かったし……。

まぁ、何はともあれがんばりますので、応援よろしくお願いします。まだケータイの調子悪いので、また更新遅れるかもしれませんけど……。

トランスフォーマーでも見に行こうと思います。ダイノボットとか地雷でしかなさそうだけど……。

次回 第五十九章 ザ・ライトスタッフ

「かっけぇ、そんな事サラッと言える男になりたい……」

お楽しみに!!


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第五十九章 ザ・ライトスタッフ

名前が無く日常パートは分かりづらい、と言われた矢先の日常パート………。

何もかも夏が悪いんですよ!!暑いの好きだし、まぁ、冬より好きですけど。冬も雪は好きですけどね。皆さんも体調には気をつけて下さい。自分は無駄に丈夫なので。

ニコニコ動画とかに、何か動画上げて宣伝でもしようかなと思ってパソコン無いことに気づく、そんな風に毎日血迷ってます(笑)。そもそもあっても作れんだろうけど。

ま、のんびりガンプラでも作りながら頑張ります。来たれ!Hi-νガンダム!!


ちょっとした幕間。

 

僅かな時間。

 

曖昧な時間。

 

人は必ず、常に時間に追われる。

 

終わりは、また新たな始まりと同義なのだ。

 

 

 

U.C. 0079 9.1

 

 

 

「MS-06K"ザクキャノン"それに、MS-07"グフ"か……」

「はい。それが"キャノン付き"、"アオツノ"のペットネームだと言う事です。以降、この2機を"ザクキャノン"、"グフ"と呼称します。MSにも現在判明しているカタログスペックをデータリンクしておきますね」

「……分かったのは、これだけか……?」

「うーん?"ザクII"と似てますけど全然違いますねぇ」

 

軍曹が手にした電子ペーパーをやや目を細めつつ覗き込む。明らかに不満そうだ。

中尉も自分の物に目を落とすが、成る程、そこにあるデータはごく限られた物しかなく、その上アンノウンが目立っている。ポニーテールの上等兵は判明した情報から推測出来る事を書き込んでいるが、それでも元の情報が少な過ぎるので焼け石に水程度だ。

 

「仕方ねぇだろ?部品掻き集めて解析したんだけどよぉ…"ザクII"をベースに発展させた物らしく共通なパーツが多いんだ…かと思えば装甲の方式は全く違う……それに例の新型機もな…腹ん中は空っぽだしよ……おやっさんが居りゃなぁ……」

「無い物強請りしてどうする。分かった事だけでもいいから報告してくれ」

「"グフ"、かっこいいなぁ。ジオンばっか新型出してズルい!!」

「カタログスペックでは"陸戦型GM"の方が上ですよ?」

「そうじゃなくてー、えーっと…」

 

少尉は頭をかきつつ応え、伍長はボヤく。伍長に至っては全く役に立たない情報しか出さないあたり逆に清々しい。

 

「軍曹。軍曹から見たらどっちが脅威だ?」

「……こちらの戦力によるな…しかし…トータルで判断すれば、やはり"ザクキャノン"だろう……」

「えー?"グフ"の方がかっこいいのに?」

「やはり中〜長距離砲撃は脅威ですね。我が軍の"ガンキャノン"に当たる機体でしょうか?」

「…この120mm砲は対空砲の様だな…航空戦力に対しては脅威となるだろう……」

 

ここは占領した"バンジャルマシン・ベース"、MSハンガーだ。下手な市民体育館なんかよりはるかにデカい空間の端っこに、"ブレイヴ・ストライクス"のメンバーは今にも壊れそうなガタガタの木机を囲んでいた。

 

辺りには"MSトレーラー"に載せられジャッキアップされたMSに、所狭しと並べられ分解整備されている"キング・ホーク"、"ロクイチ"が立ち並び、その合間を整備兵達が走り回っている。MSの威容と比べ遥かに小さいその姿はまるで妖精の様だ。ゴツ過ぎるけど。

占領したのがつい昨日だと言うのに、良く使いこなすものだ。元連邦軍基地ではあるが、持ち込まれた資材も多いだろうに……。

 

随伴したその他の補給中隊や通信中隊、設営中隊といった後方部隊も走り回っている事だろう。両軍がどんなに被害を抑えるよう戦闘しても、出る被害は相当なものだ。

 

特に設営中隊はてんてこ舞いだろう。被害は地上の基地設備にとどまらず、地下の水道、電気、ガスなどのライフラインなどをはじめとするインフラストラクチャーのバイタルパートにまで及んでいたそうだし……。

ごめんなさい………。いや、なんとか発電、変電設備は無傷だし、タンクは壊さなかったじゃん………いや、ごめんなさい………。

 

「それにしてもなんで"K"なんですか?キャノンは"C"ですよ………ね?」

「……なんで疑問形なんだ……」

「それでよく日常会話が成り立つなぁ…」

「フィーリングで聞かにゃ伍長の話は理解出来ん」

「それはどーゆー意味ですかー!!」

「そーゆー意味だ」

 

伍長が電子ペーパーでひらひら扇ぎなから言う。珍しく気だるそうだ。それでも目は"グフ"の写真から離されていないが。好きだねぇ本当に。

気だるげ……そうか、そういやもう9月か…。今、南国にいるから実感は無いけど、日本じゃ夏も終わりか。

 

終わり……この戦争の、終わりはいつなのだろうか?

 

いや、来るのか?本当に………?

 

「……そういや、俺も気になってた?なんで?」

「今は関係ないが………上等兵、分かります?」

「はい。確かに英語での綴りではCですが、おそらく"kanone"、ドイツ語なのでしょう」

「…または、大日本帝国陸軍の呼称、"加農砲"の"加"か、"K"だな…」

「………」

「……な、なるそど…分かりません!」

「どもった上に噛んでるぞおい」

「伍長、つまりですね…」

 

上等兵が伊達眼鏡をかけ伍長相手に青空教室を始める。最近伍長は上等兵とT・B・S女の子の会を立ち上げたらしい。それが何故伊達眼鏡に繋がるのかは謎だが。髪型を変えるのもポイントだとかなんとか言っていたが、男には分からん話である。

それに、この光景も見慣れたものだ。教師は今日は上等兵であるが、中尉、軍曹が務める事も多い。伍長はいつも生徒だが。

 

そこから目を離した中尉は辺りに首を巡らす。ズラリと航空機が並べられた光景はかつて見た"アンデス"のハンガーを彷彿とさせる。あの時見た航空機の何割がまだ現存しているのだろうか。あぁ、あの頃に"陸戦型ガンダム"があったら……。一個小隊で"ジャブロー"までひとっ飛びだったろうに…。

 

連邦地上軍の対MS戦闘に最も活躍しているのは航空機で、それこそそこそこの戦果を上げている。

しかしその戦果は相当の犠牲の上に成り立っている。撃墜対被撃墜比率(キルレシオ)は少なく見積もっても1:6程度だそうだ。現在でこそ少しずつ対応策が練られ実行されているが……。

 

"マングース"に乗っていた時期を思い出す。それは遙か昔の事のようだ。しかし強烈に覚えている。

 

眼下に見下ろす"緑の巨人"が向ける銃口、輝く一つ目。地球の空を守り続けて来た守護神の翼が捥がれ、あげる断末魔。

 

実戦で飛んだのはたった2日。その2日で中尉の愛機は鉄クズにされたのだ。

 

今もフライトシミュレーターによる訓練を中尉は辞めてはいない。やはり今こそMSに乗ってはいるが、やはり自分は空が好きなのだろう。

 

気付けば、自分が連邦軍の兵士になったあの日がまるで遠い昔のようで。

それなのに、ここまで辿ってきた道程はつい昨日のようで。

ただ、長い長い戦いを経て漸くここまで来た。その戦いはこれからも、いや、これから本格的に始まるのだろう。終局は、まだ全く見えない。

 

しかし、勝てなくとも、負けるつもりはない。生きている限り、勝利はあり得る。

 

追憶に浸って居た中で中尉がふと目を留めたのは、テイルローターを持たない独特の形状をした数機の攻撃ヘリだった。

 

拿捕され"モルフォ"と名付けられたその攻撃ヘリは"ブレイヴ・ストライクス"の航空戦力に組み込まれ、データ取りが済み次第大破するまで使い潰される予定らしい。

拿捕されたとは言え、兵器とまで最期まで使われる。それが兵器としての本望なのかも知れない。

 

「そういや、軍曹が倒した"青いザク"、データによっちゃ以前にも戦闘経験があるんだな。つくづく何者だよ」

「ただの新米だ。軍曹はベテランだけどな。で、分かった事は?」

「コイツだ」

 

少尉が新しい電子ペーパーを差し出すのを受け取り、軍曹と一緒に覗き込む。"ザク"の趣きをだいぶ残してはいるものの、殆ど別物といってもいいレベルだった。以前は余裕がなかったため、今回が殆ど始めての解析となる。

 

「…水中ではともかく、地上では"ザクII"以下だ……」

「そりゃ何でもかんでも"ザクII"じゃ無理だろうけどさ…それでも1対5で敵を翻弄するか普通……」

 

スナイパーは確かに捕虜にはなれないなと思う。優秀な者ほど特に。

 

「……期待には、最大限の結果で応える……それだけだ……」

「かっけぇ、そんな事サラッと言える男になりたい……」

「であるのなら、仕事をこなして下さい」

「…………」

 

戦場に置いて見えない脅威ほど恐ろしい者はない。それが与えるプレッシャーは想像を絶する。しかしそのプレッシャーはスナイパーにも言える事だ。見つかったら最期、圧倒的な数に押し潰され嬲られるのだから。

 

炸裂した爆弾や砲弾が兵士を纏めてゴミのように吹き飛ばし、毎分数千発という勢いで撃ち放たれた機関銃の弾が兵士をバラバラにして血霧を飛ばす。

戦場での殺し合いは、誰が誰を殺したなど分かるはずもない。

………ただ一つの例外、スナイパーを除いて。

 

だから、スナイパーは捕虜になれない。

 

軍曹は、目標を吹き飛ばす時、一体何を考えているのだろうか。

 

「コイツから考えて、"ザクII"がジオンのスタンダードなんだろうな。取り敢えず新型作るならコイツをベースに……で、対応できなかったら、全く新しい物を…って感じか」

「…あの"クロダルマ"もか……?」

「そうだ。だから解析がすすまねぇんだ…クソッ」

 

"ザク・マリンタイプ"と呼ばれるらしい機体ではなく、それらしく無理やり調整した機体であったらしいが……ジオン、苦しいのか?

それに新型機、通称"クロダルマ"も殆どが"ザクII"のパーツの流用らしい。軍曹曰く見かけに反して素早い動きだったらしいが……。今分かる事はそいつが"ザクII"のパーツを多数使用している事、流線型を描く丸みを帯びたボディはステルス性を考慮したのでは無いかという事だけだ。

装甲が薄かったため、軍曹機の"180mmキャノン"で吹き飛んでしまったのだ。バラバラになった破片からはそれこそ断片的な情報しか獲られず、解析は難航している。

 

「うぅ…暑い……あ〜…」

「伍長、しっかりして下さい」

 

向こうでは暑さにヤられ萎れた伍長が机に突っ伏している。小柄な伍長が体重を加えるだけでギシギシと不安気な音を立てる机にビビる。

最新の基地つっても、末端はこんなもんである。

 

現在中尉達がいるMSハンガーは広く風通しが良くなる様設計されていたが、開放されるべき巨大なドア、窓は締め切られ蒸し風呂状態である。暑くないと言う方がおかしいのである。

 

なぜ扉を開けないか?それはここ"バンジャルマシン・ベース"は海岸沿いであるため、吹き込む風は潮風であるからである。現在ハンガーでは精密機器の修理、調整を行っている。潮風は機械の大敵だ。

もちろんMSを始めここにある機体はすべてその様な環境に対応出来ない様なヤワな兵器では無いが、イレギュラーは極力減らすべきと言う判断からだった。それにいくら表面が強くとも内部はそうはいかない。

 

その様な理由から締め切られたハンガー、その中では大の男達が大声で怒鳴り合い、汗をかきつつ走り回り、重機が唸りを上げている。

 

人や重機の出す激しい騒音に加え、そこには更に人の出す汗の臭いに重機の潤滑油、流体ポリマー、工業用アルコールや有機溶剤、石油にゴムとあらゆる臭いが混じり込み、閉め切られた空間内に充満している。

 

うん。労働環境は最悪だ。

………いや、確かにそうだけどさ、俺ら軍人だよ?少しは我慢しようよ?むか〜しの潜水艦とかロケットとかはもっとだよ?

 

「でもよ〜アチいのは俺もだよ……あー…」

「……少尉ぃ〜泳ぎませんか〜……」

「いや、あのな……仕事あるだろ……」

 

中尉がうんざり顔で苦言を漏らす。軍曹と上等兵も呆れ顔だ。2人はその事に気づいてはいないが。

 

「今話題の水上スキーでもやる?」

「和弓持って?」

「軍曹、和弓経験ありますか?」

「……ないな。クロスボウならある、が……」

 

軍曹……今度上陸作戦にロングソードとクロスボウで装備を固めても生き残れそうだな……。伍長はもちろん装備を落っことしドロにハマる役だ。

 

「あ、その場合しょーいだけノーマルスーツでクロールで〜」

「バナァァァァァァァアアジィィィィィィィィイイイイッッ!!!!」

「誰だよ?」

「知り合いに居ますか?」

「…………3人ほど……1人とは、連絡がとれていないが……」

 

いるのかよ。だから誰だよ。軍曹顔広過ぎんだろ。

 

「ま、ねぇんだけどな……はぁ……」

「ないの?」

「ねぇよお馬鹿!」

「なんでないの!?そんなの絶対おかしいよ!!」

「逆になんであるとおもうんだよ!?」

「……しょーいのばか。もうしらない……」

「え〜……」

 

好き勝手言った後、伍長は炙ったマシュマロの様になり机に突っ伏した。あ、コレダメな奴や。

 

伍長は本当に暑さに弱い。ちなみにご本人様曰く寒さにも弱いらしい。極端な環境に弱い典型的なスペースノイド体質だ。

 

「…クーラーが無いなんて……うぅ…」

「我慢して下さい。基地設備も全て復旧しているわけでは無いのですから、節約出来るところはしましょうとの通達です」

「上等兵の言うとおりだ。"アイリス"だって調整が必要だし、我慢してくれ。"アサカ"と合流(ランデブー)すりゃ終わんだから」

「……う?」

 

溶け始め机と今にも一体化しそうな伍長を励ます。伍長はゆっくり目を瞬かせながらうなづく。ヤバい。言語がヤられたか。しかし、ヤツは四天王(だけど五人います)の中で最弱!まだやれる!!

 

「あー!やってらんねー!!

………いや!待て!!上等兵、暑くないか?脱ぐ!?それとも汗で透ける!?」

「不愉快です」

「おい黙ってろユーグレナ。いい加減にしろよロックフォート島にブチ込むぞ」

「何章ぶりのネタそれ!?」

 

よく覚えてんなコイツ………気持ち悪っ!!

 

「…しょーいのすけべ〜。人間として生ゴミ〜」

「……下らん…」

「なんなの皆して?!何!?何で世界はこんなにも俺に厳しいの!?少しは俺の希望通r…」

 

暑くダレてる割りには妙なテンションを引きずっている少尉を上等兵が一刀両断する。

 

「ダメです。不満があっても聞きません。目と耳を塞ぎ、口を噤んで孤独に生きて下さい」

「そこまで言う!?」

「分かった。今用意するからコンクリート抱いて海に沈む感じで泳いでこい」

「何でそんなフジヤマギャングパラダイスのヤのつく自由業みたいな事言ってんの!?」

「なら首まで埋めてスイカ割り」

「前やりましたね!今度こそ一撃で…」

「一撃でどうする気だ!!」

 

なんだよ。せっかく提案してやったのに。何か言うとすぐ文句ばっか並べやがって……何が不満なんだよ。

 

「うるせーな。そもそもお前に人権があるとでも勘違いしてんのか?」

「ブラックを通り越してダークマターだったこの職場!!」

「……あぁ〜…なるほど……だから"アサカ"ちゃん、オリョクルに行ったっきり帰って来ないんだねぇ〜…」

「ちげーよ!!そもそもあんなランニングコストがクッソ高いの出して採算が取れるか!!」

「やたらテンションたけーなオイ」

「久しぶりの出番ですから」

「そーいや作者にも忘れられかけてたからな」

「ずっとスタンバってました……」

 

いや、"アサカ"は核融合炉で動くから燃費はいいんじゃね?ヘリウム3は取れ辛いどこらか宇宙でしか取れないし、船体は維持費やっべぇけどアレ。あの金はどっから来てんのかな?コーウェン准将大丈夫かね?息してるかな?

 

つっても今のウチこそ資源枯渇しててヤバいからなぁ……弾薬無し、装甲予備無し、フレーム予備無し、駆動系少し、電装系少し、疲労度真っ赤……。これは酷い。マイド閣下にヒントを貰いたいぐらいだ。あまった何かで撃てルンですでも作れねーかな?

 

「じゃあやっぱ紺碧の艦隊に行っちゃったんですね……」

「行ってねぇから!!………てか…アレ!?向こうの方が性能良くね!?」

「しかし、その性能でも生物(ナマモノ)兵器には……」

「それも違うわ!!しかし、そう加味すると"アサカ"って案外………」

「そうですよ!今度おやっさんに言って宇宙潜水艦"アサカ"にしてもらいましょう!!」

「いいかもな!ショックカノンと波動砲もつけようぜ!!」

「……潜水艦………?」

「宇宙のどこに潜るのでしょうか?」

 

"アサカ"にゲシュ=ヴァール機関は装備されてねぇよ。んなもん積むんなら波動エンジン積むわ。

 

ガタンと椅子を蹴立てて伍長と少尉が立ち上がりガッツポーズをキメる。そんなポーズよかなんか悪いクスリをキメてる様にしか思えんのは俺だけか?

 

まぁ、"アサカ"は……コンセプト的にはマジで、こう……何?潜水航空戦艦?

 

…てか誰かこのバカ2人を黙らせてくれ。

 

「……熱で、頭が沸いたのか……?」

「いや!フロンティアスピリットが疼いてるんだぜ!!」

「疼いてんのは脳だろ。つーかなんだよさっきからのテンションは?出番がなさ過ぎて忘れ去られそうだとか焦ってんの?」

「独房に入れて頭を冷やさせますか?」

「どーかんです…」

「…伍長、お前もだ……」

「ええ!?」

 

つーか不安だ!!主戦力の1/3に整備班長(代理+仮+バカ)だよコレ!?

そして座ろうとコケる伍長。チイッ。運動能力もヤられたか!?しかし、ヤツは四天王(全員が自称永遠の3番手)の中で最も気が利く。惜しい奴を、亡くしたな……。

 

「……………暑さが全て悪い……」

「…うぅ……それは同意です…こんな無茶を言う人は、ラッコに頭を割られればいいんですよ……」

 

再び机に突っ伏す2人。仲良いなこいつら。たまに言い争いしてるし……見てると、喧嘩は同じレベルでしか発生しないって本当に的を得てると実感するな。

 

「ラッコ、にですか?」

「…なぜ、ラッコなんだ……?」

「さ、さぁ……?そもそもそんな無茶言ってねぇし……」

 

………伍長の頭が限界を迎えてる気がする。どうしよう、頭の悪いのだけは取り替えがきかんし……。

 

「伍長はともかく…少尉、お前文句多すぎだろ」

「うるせーやい!暑いし女の子少ないしでもう限界だ!!」

 

思春期か!んなもん殺して翼でも生やして出直して来いよ。なんだかんだでハッピーエンドになるよ?

 

「女性兵士なら伍長と上等兵がいるじゃねーか」

「そーゆー話じゃねぇんだよ!小隊長だって俺の居ない時にロリっ子ちゃんときゃっきゃうふふしてたんだろ!!まったく!小学生は最高だぜ!!」

 

ドンと立ち上がりつつ机に手を打ち付ける少尉。何そんなワケの分からない理由でこんなにブチ切れてんのかまったく分からん。はぁー、最近の若いモンの言う事はサッパリだ。時代だなぁ……。

 

「憲兵さんこっちです!ってマジで来た!?ちょ、落ち着け」

「……騒いで、すまないな……」

「は、はぁ。全くですな…」

「小五とロリを足したのかな?」

「そんな悟りは必要ありません」

 

軍曹が憲兵さんに応対している。憲兵さんは渋々と言った様子だが目はキラキラだ。軍曹のカリスマ性すげーな。

 

「…ま、まぁ落ち着けって」

「そうです、落ち着いて下さい。机が痛みます」

 

因みに少尉は手を叩きつけた拍子に顔をめちゃくちゃ顰めていた。机より手首が大きな音を立てていたし。つーか現在進行形である。バカだコイツ。こんなポンコツ机に負けんなよオイ。

 

「正気で……いられるか!!」

「正気でいろよ!!落ち着け!!」

「落ち着いていられるかぁ!!」

「正気でいろよ!!」

「正気で……ってコレ2回目!!」

「落ち着け!!」

「うるせーよ!!おちょくってんのか!?」

「今更気づいたの?」

「うがぁーっ!!」

 

少尉が天を仰ぎ雄叫びを上げる。煽り耐性ひっくいなーコイツ。豆腐通り越しておからメンタルだわ。

 

「……ハァ……」

「休憩にしますか?」

「……そう、だな…………」

「……さんせーです……」

「いっつもそうだこの!!小隊長は!!」

「知るかボケェ!!まったくこの少尉め!」

「誰がスタースクリームだぁ!!」

「んな事言ってねぇよ!!話聞けや!」

「程々にしておいて下さいね?」

「……コーヒー、淹れるか……」

 

軍曹と上等兵が顔を見合わせ、肩を竦める。中尉と少尉はそれにきづかず、その場をヒートアップさせていた。

 

「今こそ決着をつけてやる!!」

 

少尉が立ち上がり、中尉へと向かって手袋を叩きつける。

 

「よけんなよ!!」

「いや、反射的に…」

 

しかも片方は空気抵抗に負け中尉に届かなかった。これはヒドい。

 

「うぅ……テイク2!!いや!フロンティアスピリットが疼いてるんだぜ!!」

「そっからかよ!!めんどくセーよタイムリープの恐ろしさを味わいそうだよ!!」

 

愚痴を言いながらも中尉がそれを受け、両者の間に緊張が走る。

 

…………中尉も中尉で他人をとやかく言えるほど冷静では無かったという事だろう。刀の峰はどっちだっけなどと物騒な事を呟いていた。大概である。

 

「で?何のだよ?あ、アレか?プラモデルの件か?アレは…」

「プラ……? まさか!俺のランチャーストライクを素トライクにしたの貴様かぁ!!ソードも解体しやがって!!」

「違いますー解体なんてしてませーん!ただ俺のエール君の近代化改修のエサに使っただけですー」

「!! このっ!!グランドスラムもなく所在無さ気にアーマーシュナイダーのみを寂しく構えている素トライクさんの気持ちにもなれぇ!!」

「アーマーシュナイダーの良さも分からんとは!だから貴様はアホなのだ!そもそもあんな邪神モッコスの成れの果てみてーな低クオリティーで作んのが悪い!!ストライクが可哀想だ!!それでホント整備兵かお前!?新しく作り直した方が早いし安くね?って思ったわ!つーかそうだったわ!!」

「邪神モッコス扱いだぁ!?許さん!!」

「ふん!」

「ぼばっ!?」

 

身構えた少尉の顔面に中尉がローリングソバットをぶちかます。問答無用にも程がある。

 

「………ギギギ…マジ蹴りかよ………」

「安心しろ、峰打ちだ」

「速いwwwww見えなかったwwwwwwwwなんて素早いチャージインなんだwwwwwwwww 」

「伍長が限界ですね。除草剤ありますか?」

「……技術少尉より、重症か……?」

「ふふっ。そんなしょーいも素敵ですー……しょーいの抱きこごち、冷たくて気持ちいー」

「伍長、それはドラム缶です」

「……中尉が、メカ沢君並に太っている訳は…無いだろう……」

 

止める事を諦めた2人によりツッコミ不在となったこの空間はカオスの巣窟と化した。もはや軍隊も規律もクソもないレベルである。世紀末過ぎる。

 

「まぁ……アレだ。なんの予告も無しに蹴ったのは悪かった。今度は言ってから蹴るから」

「蹴らないと言う選択肢はねぇのかよ!!」

 

因みにこの部隊、一応最新鋭機を擁する地球連邦軍唯一の特殊部隊であるはずなのだが……。

 

「Show me your "MOVE"!!」

「OK!!」

「ごっへ!?」

 

返事と同時にズドンとマテバをぶち込む中尉。腹部にゴム弾を喰らった少尉が吹き飛ぶ。

 

「おごごごごご………」

「勝った」

「銃は禁止!」

「何故だ!?実戦的な決闘で……」

「とにかく禁止です!!もう!!」

「むぅ…分かった…納得は出来んが……」

 

再び両者の間に緊張が走る。しかし少尉の顔には足蹴にされた跡がくっきり残っている上、腹にゴム弾を喰らったせいで足腰が産まれたての子鹿の様になっているため間抜けにしか見えなかった。

 

「見ていてくれ上等兵!!俺の勇姿を!!」

「拒否します」

「ええぇ!?」

「わたしが生温かく見守ってますよー。少尉ファイトー」

「混乱しつつ何的確かつ何気にヒドい事を!?」

 

気を逸らしたな!!それが貴様の敗因だ!!

 

「先手必勝!!P.Kファイアー!!」

「ぎゃぁぁぁああ!!ラッカーとライターとか殺す気マンマンじゃねぇーかァ!!」

「焼き払えー!」

「どちらかというとファイアーフラワーですね」

「…そうだな……」

 

即席の火炎放射器に炎を吹き付けられた少尉がのたうちまわる。それを追いかけながら火を噴射し続ける中尉。外道である。

 

「喧嘩だ喧嘩!!江戸の華だ!!」

「よぉし!!俺は中尉に30ドル!!」

「俺は……そうだな、中尉に35ドル!」

「ふっ、甘いな、貴様ら……ここは中尉に25ドルだぜ!!」

「俺にもかけろよ!!ぎゃぁぁぁぁああ!!」

 

騒ぎを聞きつけ集まってきた整備士達が取り囲み囃し立てる。賭けも始まりお祭り騒ぎ、場はどんどんヒートアップして行く。

 

もちろんハンガー内は火気厳禁である。そこらに可燃物がゴロゴロしているので、良い子は絶対に真似しちゃダメだぞ!!

 

「もちろんメタルブルーだ!太陽に爆ぜろ! 」

「うぎゃぁぁぁぁ!!身体が!!身体が熱いぃぃぃ!!」

「パイソンになって出直すんだな!ザンジバーランドは待ってくれんぞ!!」

「行かねーよんなとぎゃぁぁぁぁああ!!」

「汚物は消毒だ!!燃やしつくせ!命の燃料の一滴までなぁ!ふへはははは!!」

 

そーいやザンジバルとか言う艦あったっけ?これから毎日艦を焼こうぜ?

 

「鬼畜かお前は!?」

「そう呼ばれる覚悟は出来ている!!」

「捨てちまえんなもん!!」

「…伍長は、寝たのか………」

「タオルケットをかけておいて、後で部屋に運びましょう」

 

アフロかつ真っ黒焦げになり煙を上げる少尉が怒鳴る。うるせぇコイツ。

 

「武器を使うとは卑怯な!覇王翔吼拳を使わざるを得なくなるぞ!!つーかさっき禁止って言われたばかr…」

「ふん!」

「ぎゃぁぁぁぁああ!!」

「…立ち上がるところを、蹴っ倒したな…」

「中尉はヒーローの変身中に空爆支援要請とペインティングレーザー照射を行うタイプですね」

「拳というのは時に、口よりも多くの言葉を語る」

「なんとなくわかる気がしますが、 語り合ってどうするのですか?」

「それでも届かない時もある」

「……」

「そういう時は、蹴る」

「……」

 

訳の分からない事言ってんのが悪くね?うん。

いや、でも変身シーンは攻撃しないと思う、よ?多分。その間に罠ぐらいは仕掛けると思うけど。

 

「………腕の骨が折れた……」

「いっぱいあんだからいいだろ?」

「この骨は一本しかねぇよ!!オンリーワンだよ!!」

「単純骨折なら3時間で治るんじゃないですか?」

「んなわけあるか!!クソぅっ!!喰らえ!」

 

立ち上がった少尉がパンチを放つ。正直タフ過ぎて気持ち悪い。

 

「菜食主義者みたいなパンチだな。ふっ、章へ行け!!」

「グァァァァアアア!!!」

「「あ、あれは!!幻の右!!」」

『YOU WIN』

 

パンチを流し、懐へと飛び込んだ中尉が強烈なアッパーカットをぶちかます。吹っ飛ばされた少尉はエコーのかかった断末魔を上げながらクルクルと回り、キラリと光り空に吸い込まれて行った。

どこからとも無く現れた電光掲示板が光り、バトルの終わりを告げた。

 

「エイシャオラァッ!」

「中尉の勝ちだ!」

「さっすがぁっ!!」

「いいパンチだった!」

「ナイスファイト!!」

「安牌過ぎたな」

 

腕を振り上げアピールする中尉を周りが囃し立てる。

 

「…………アレ……?」

 

その時、はたと気づく。

 

「コレ、ヤバくね?」

「「あ」」

 

ヤバいどころの騒ぎでは無かった。

 

「…み、3日間逃げ切れば無罪に……」

「そんな世紀末風な掟はありません」

「と、取り敢えず少尉を回収……天井に刺さってるな」

 

高さ30mはあろう天井に設置された伝統に少尉は頭から突き刺さっていた。訳が分からないよ!!

 

「少尉が死んだ!!」

「この人で無し!!」

 

って言ってる場合じゃないな……。うーん……。

 

「軍曹。少尉が突き刺さってる電灯の外枠、射撃して破壊してくれ」

「……可能だが…」

「それは、山岳地帯におけるロープでぶら下がった死体の回収方法ではありませんでしたか?」

「まぁ同じ様なもんだろ」

「同じなのですか?」

 

同じだろ。うん。少尉だし。

 

軍曹がM-68A2を取り出した。しかししまう。次に取り出したのはアーチェリーだった。毎回思うが一体どこにしまっているのか……。

 

弓を引き絞り、放つ。放たれた矢は少尉を掠め電灯をピンポイントで破壊し、引っかかっていた少尉の身体がおっこってくる。

地面に叩きつけられた少尉は白目をむいて泡を噴いていた。………………いや、何で息があるんやろかコレ。

 

「どうしますか?」

「んー、電気ショックで」

「そんな事して大丈夫なのでしょうか?」

「あー、大丈夫だろ。コイツこの前俺が差し入れた腐ったレーションを4つ食ってケロっとしてたから」

「……少尉……」

「止めましょうよ」

「幸せそうな顔してたから……」

「…任務…了解……」

 

軍曹がバッテリーを調達、その場で組み立て少尉に処置を施す。

 

通電と同時に身体が跳ねた。なんか釣り上げちゃったシャコみてーだ。そして、この後まんたーんドリンクを飲ませれば………。

 

「…………はっ……ここは誰?俺はいつ………?」

 

目覚めた。すっげ。無事ではなさそうだが。特に頭。

 

「タフだなー」

「ですね」

「………何やった?」

「電気ビリビリ」

 

それ以外もやってけど、聞かれて無いからいいよね?

 

「……………どんだけ荒療法だよ」

「まぁ、そうなるな」

「それでも一応効果はあるのですね」

「不思議が一杯だな人体」

「………バカでもカゼは引くから助けてナースエンジェル!!!」

「風邪と人体の丈夫さは関係無い気がしますが、お2人にはお話があります」

 

あっ……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

「火気厳禁エリアでの火器の使用。勤務時間内での無許可の私闘。基地設備の破壊。賭博幇助。軍法会議ものです。それが分かっていますか?」

「はい……」

「………あり?なんで俺、こんなとこで正座してんだ?」

「SELNが開発した空間転移技術の実験台にされたんだよ」

「……え?もしかしてゲルってる?いや、そもそも俺殆ど関係n……」

「分かりましたか?」

「「はいぃ!!」」

 

なんか、俺、最近正座してばっかな気がする。もうすぐで二十歳になるのに……。

天井では軍曹が空いた穴を塞いでいる。何故出来るのか?そーいえば逆に出来ない事ってなんだろうな……。

 

「物損ってお前のせいじゃん!!お前が天井に突き刺さるのが悪い!!」

「天井に突き刺さる様なアッパーかましたお前のせいだろうが!!つーか今日で俺何回臨死体験してんだよ!!空色のペンでカレンダーに三重丸書けるレベルだぞコレ!!」

「お前の臨死体験はどうでもいいんだよ!!」

「よかねーよ!!火器使ったのもお前だろーが!!日本の諺にもあるんだろ!?陸奥の第3砲塔とコンボイ司令官は爆発するものって!!」

「ねぇよ!!それとコンボイ司令官は落ちるものです!!」

「2人とも、反省という言葉を知っていますか?」

「勿論!振り向かない事だ!な?」

「若さだよ!それは!!」

「僕らは昔、宇宙刑事に若さとは振り向かない事だと教わった!」

「教科書には書いてなかったな…」

「はっ、このマニュアル人間が!!」

「マニュアルすらまともに読めないクソ整備士が何言ってんだ?神様に誓うが、神様にも無理と言われてんのか?つーかメッキ剥がれてんぞ?素が出てる」

「素じゃねぇ!!タイプミスだ!」

「余計わけわかんねぇよ!!」

 

仲良くならんで正座した状況においてもいがみ合う2人。バカ丸出しである。

 

「わけわかんねぇのは小隊長だろーが!!"ジーク"が勝手に動いただの左腕部アクチュエーターのレスポンスが悪いだの!」

「事実だから仕方ねぇだろ!!あとデュアルセンサーとFCSもなんとかならんのか!?」

「出来るわきゃねーだろ!!おやっさんみたいな化け物クラスと一緒にすんなや!!どーせ小隊長の操作ミスだろ!!」

「言い訳かこの!ふっ!」

「うごほっ!?」

 

中尉が正座したまま肘打ちする。正座を崩さず上半身を殆ど動かさず放ったのは凄いがその努力をもっと他の事に向けられないものか……。

 

「あー、ごめんボタン間違えた。話しかけようとして攻撃しちまったわー。ところでピンチだからセレクトボタン押していい?」

「…うごごご……この野郎!金を得るため一般人を蹴っ倒そうとするもぶつかり多段ヒットしてくたばれ!!」

「うるせーよドア開けたら頭にナイフ刺さるか落とし穴に落ちろ!!」

「なんだと!?てめーこそライフルの弾は切れマッチョにもなれずライフルを振り回しながら詰め!!」

「お前はかりうを一気飲みしてろ!!」

「腰の高さの段差から落ちてくたばれ!!」

「罠にかかりナメクジになった後くたばれ!!」

「いい加減にしてください」

 

しょうもない言い合いを続ける2人を上等兵が断ち切る。無表情な鉄面皮がやや崩れ呆れ顔だ。

 

………………なんか、ごめんなさい。

 

「罰則を決めます。中尉はこの後伍長の看病をする事。少尉はMSに紐で繋いで100kmマラソンです」

「わかりました」

「わからねぇよ!!殺す気か!!」

「割り切れよ、でないと、死ぬぜ?」

「割り切ったら死ぬんだよ!!」

 

ギャーギャーとやかましい。全く、何が不服なんだ?

 

「仕方ない。ここは基地の対空レールガンに込めて射出で手を打とう」

「仕方ありませんね。特別ですよ?」

「何も仕方なくねぇよ!ある意味特別だけどさ!!」

「ならいいじゃん?いいなー特別扱い」

「…………」

「そう凹むなって。お前らしくなくて気持ち悪いから……まぁ、お前の頑張り次第だろ」

「頑張ってどうにかなるかァァ!」

「ともかく、今は仕事をして下さい。わかりましたね?」

「了解!」

「……はい………」

 

 

沈黙する少尉に背を向け、上等兵は伍長をファイヤーマンズキャリーしている軍曹の隣へと小走りで並び、話しかけながら歩いて行った。中尉と少尉はそれを正座しながら見送る。そこはかとなくシュールな光景だった。

 

「「……………」」

 

喧騒の中、沈黙する2人。一瞬、音が全て無くなったかの様に錯覚する。

 

「………上等兵は、さ……」

「何だよ」

 

立ち上がって埃を払う。少尉は立ち上がろうとしてよろけたので助け起こす。掴んだ手はマメだらけだ。

 

分かってるよ。お前が優秀で、努力家なのは。いつもありがとうな。

 

「………ん、いや。で、"ジーク"の事だったか?」

「あぁ。左腕部アクチュエーターはともかく、OSなどのソフト面からコクピット周りのハードまで、何か異常は見られなかったのか?」

 

乾いた足音を二つずつ立てながら、2人が"ジーク"の元へと向かう。

 

「あぁ。自己診断プログラムを新しく組み直しもしたが、それでもだ。俺たちも含め確認したが、余計なファイルも、回路も、書き換えた後も、なーんにも、だ」

「…中枢制御ユニットの方は?統括コアは?」

「異常ナシ、だ………おかしなくらいにな」

 

その言葉に少し前を歩いていた中尉が立ち止まる。振り返り見た少尉の顔は懐疑にゆがんでいた。

 

「…ホントはな、左腕部アクチュエーターもほぼ限界に近かったんだ。けど、それでも、アレだけの稼働率を示してるのはな、ソフトからの干渉だったんだ」

「……どういう事だ?」

「それにソフトから?それはどこからだ?」

 

その質問に答えず、少尉は立ち止まった中尉を追い越し、"ジーク"を整備している整備士達に声をかけながらタラップに足をかけた。

 

「……つい最近からだ。時折、プログラムが変化している事がある。少しずつだが、確実に。

それによるエラーも勿論ある。それも、すぐ更新され効率化、最適化されて行っている……」

「………………」

「まるで……自分で学び、進化する様に……な」

 

中尉がタラップに乗り込むと、柵が自動で閉まった。タラップは一度身震いするかの様に揺れ、2人を載せゆっくり上昇し始める。

 

「バカらしいと思うか?俺も初めはそう思ったさ……しかし、バックアップと比べた後、バックアップすら更新されていた時、疑問は確信に変わった……」

「…………」

「性能は上がっている。アレ(・・)以前にも今も問題は無い。以前として信頼性もある………」

 

タラップが揺れる。手摺を掴んだ中尉は眼前の"陸戦型ガンダム"を見つめる。度重なる戦闘と改修で、出会った時とは似て非なる物となっている。自分の専用機だ。

 

「…俺は今"ジーク"の機付き整備士だ。おやっさんにゃ敵わんが、コイツのほぼ全てを知り尽くしていると言っても過言じゃねぇはず……そんな俺でも、全く手が出せないトコがあんだ」

 

タラップがコクピット前で停止する。解放されたコクピットには計器の灯りがぼんやりとともっていて、どことなく不思議な印象を与える。

 

「手が出せない、ねぇ……」

「ココだ。コクピット真下。シートとほぼ一体化してるトコなんだが……凄まじく複雑な上、重要な部分はブラックボックス。さらには向こうからの干渉で電源すら切れなくなっちまった…」

「いつも他の、特に"イージス"のコンピュータと繋がってんだったっけ?」

「そうだ……おい!!クレーン!!そうだ。8番を回してきてくれ!!」

 

少尉が指示を出し、天井と一体型のクレーンが近寄ってくる。そこから垂らされたワイヤーを掴み、少尉がコクピット内へ滑り込む。

 

「……以前電装系を辿った結果わかったんだが…そこ、固定してくれ、そうだ」

 

少尉が手際良く作業しながら言う。それを手伝いつつも、中尉は今後を考えていた。中尉が兵器に求める一番は信頼性だ。だが、中尉には部隊を守り、MSのデータを収集する使命がある。最新鋭機であり虎の子の兵器であるMSはいまだ試行錯誤段階であるが、"ブレイヴ・ストライクス"隊の戦力の根幹をなす重要な存在でもある。遊ばせる余裕は全く無い。

 

コイツ(・・・)は教育型コンピュータ、引いては機体のコンピュータ系の根幹を成してる場所なんだが……。ハード、ソフト関わらず深く関係しててな……コレだ……」

 

シートが持ち上げられた元を見る。そこには厳重に装甲を施されたボックス状のユニットが格納されていた。

 

「伍長や、軍曹のには?」

「ついてない。おやっさんの特別(・・)ってヤツなんだろうな…」

 

その表面に触れ、フチをなぞる。

 

「見た事の無い機材だ。全くわかんねぇ」

「……まぁ、何はともあれ、乗るさ。俺は………それに、この字……

…これさえ分かりゃ俺は十分さ」

「そうか……俺はアンタを信じるぜ、小隊長」

「いい整備、いつもありがとう。今後ともよろしく頼むよ。どんなハイテク兵器も、整備して動かにゃ役に立たんからな」

「いいって事よ!おやっさんと一緒さ。ココが俺の戦場だ」

 

少尉が立ち上がり、コクピットから這い出す。それを見上げ、すぐ目の前の字に目を戻す。

 

 

 

 

 

 

A.L.I.C.E.。

 

Zephyr.。

 

雪風。

 

 

 

 

 

 

 

別々の言語で書かれた、3つの文字。

 

一つを除き、意味すら分からない。

 

だが、"雪風"だけは、分かる。

 

この真っ白なペンキで達筆に描き出された字は、見間違い様がない。

 

これは、軍曹の字だ。

 

「………"雪風"………………」

 

"雪風"、か……………。

 

まるで妖精か、チェシャ猫に化かされた様だ。

 

「……頼むぜ、"ジーク"………………

俺は、お前を信じてる」

 

もう一度字をなぞる様に撫でなごら、誰に言うともなくつぶやく。

 

そのままコクピットを這い出し、その場を後にする。

 

中尉は気付いていなかった。微かに唸りを強めた"陸戦型ガンダム"の中枢部は、新たな理論の構築に入っている事を。

 

 

 

 

 

『語りえぬものについては

沈黙しなければならない』

 

 

強い光を放って……………………

 




ダラダラ書いてたらトンデモない事に…………。

夏休みとは恐ろしい。でも、やっぱり短い(笑)。

今年は去年と比べて蝉の声が小さい気がしますね。なんか異常気象や災害も多いし、外国もきな臭さが尋常じゃなくなり始めてるし……。

自分は好きな事を快適な環境でやれてる。この幸福感を噛み締めてます。


結局名前はまだ名無しです。一応考えてはいますが……これ以上意見があったら、と言うことで……。

名前と一緒にこれから乗るであろう機体の改良案を妄想してます。これが一番楽しい(笑)。自分はガンプラ大好きですが、合わせ目消しと部分塗装が関の山、改造、ミキシングビルドなんて夢のまた夢……技術とお金が足りませぬな(笑)。
イオリ・セイみたいに、イメージを形に出来ると言うのは凄い事で、凄い日本人敵な事だなぁと考えたりしてる、今日この頃です。

次回 第六十章 嵐の前の静寂

「きゃー!!わたしのジムがぁぁぁっ!!」

お楽しみに!!

↑このお楽しみに!! ってテキトーに考えたので、名前付けるテストヘッドとして変更してみるかも知れません(笑)。
やってみよー!!


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第六十章 嵐の前の静寂

お久しぶりの続きです!!

最近加筆修正ばかりなので、出来が少し不安ですが……。

とにかくどうぞ!

吹けよ嵐!鳴り響けよ稲妻!!


何事にも予兆がある。

 

嵐の前の静けさの様に。

 

全ての事象は繋がっている。

 

目を凝らせば、自ずと見える。

 

だが、ただ、ただ。

 

人は、それを見て見ぬ振りをするだけだ。

 

 

 

U.C. 0079 9.2

 

 

 

それは突然だった。

 

「…………?これは………?」

 

現時刻○九三○(マルキューサンマル)、"アサカ"と合流予定の時間まであと数時間を切り、遂に、この任務に終わりが見え始めた時だった。

発令所は目の前の海の様に凪ぎ、波も無く穏やかで、ようやく下りかけた肩の荷の重さを、名残惜しげに実感し始めた時だった。

 

「……?どうしました?」

 

中尉がのんびりと反応する。口に放り込み咀嚼していたグミを飲み込み、ほぅっと息を吐き、もうひとつを口に放り込んだばかりだった。

 

「……え、ええと……!! 周囲のミノフスキー粒子濃度が急速変動!!」

「何か大型の核融合炉が稼働している模様!!並の速度ではありません!!」

 

発令所にて資料を読みつつその時間を待っていた中尉には、まさに寝耳に水だった。

 

「……何ぃ!?」

 

グミを噛みもせず丸呑みにし、椅子から勢い良く立ち上がる。机の上の資料が巻き起こった風で床へと舞うが気にしない。それどころじゃない。

 

「何だって!?」

「いえ、しかしレーダーには……あれ?レーダーが……」

 

異常を察知した解析員の声が早いか、同時にオペレーターが声を上げる。

オペレーターの傍に駆け寄り、中尉が焦りつつも口を開く。

 

「奇襲ですか!?レーダーに反応は!?」

「ミノフスキー粒子濃度急速上昇!レベル3!レーダーが使用不可能になりました!!」

「この基地を覆う様にミノフスキー・テリトリーが形成されています!!」

「しかし、敵影は……?アンダーグラウンドソナーにも敵影無し……?」

 

もう30%オーバー……くそッ!早い!!敵は、手練れだ!

 

「総員!!第二種戦闘配備!トロイの木馬の可能性もある!!充分に警戒せよ!」

「コンディションイエロー発令!コンディションイエロー発令!!パイロットは搭乗機にて待機せよ!!繰り返す!パイロットは搭乗機にて待機せよ!!」

「非戦闘員はシェルターへと退避せよ!!繰り返す!!非戦闘員はシェルターへと退避せよ!!」

「各員!!敵は待ってはくれんぞ!!」

 

けたたましい警報が鳴り響き、基地が俄かに騒がしくなる。

目を通して居た資料をまだ持っていた中尉は、てんやわんやの大騒ぎの中資料を放り出し走り出した。

 

「ここは任せましたよ!!」

「了解しました!隊長も早くMSに!!既にロイ軍曹、レオナ伍長は向かっている様です!アイリス上等兵からも連絡が入りました!!」

「了解!!」

「対空監視!!気を緩めるな!!」

「ソナー室!!どんな些細な事でもいい!!状況を常に知らせい!!」

「基地なのにソナー室あるのね……」

 

発令所のオペレーター達の怒鳴り声を背中で聞き流しながら、中尉は全速力で廊下を走り抜ける。行き先は決まっている、"ジーク"の待つMSハンガーだ。

 

「……なんて時に来るんだ……」

 

思わず呟く。本当にこの一言に尽きる。そう思った。武器装備ももうロクな物が無い。整備も終わっていないはずだ。仮にハンガーへ向かいMSに乗り込んでも………どこまで出来る事やら……。

 

「状況は!!」

「………………んぎぃー!!」

 

ハンガーに飛び込みつつ怒鳴る。そこには駄々をこねる伍長と、バラされた中尉の"陸戦型ガンダム"と"陸戦型GM"があった。

 

……………………………。

 

いや、ホントどんな状況だよコレ…………カオス過ぎんだろ………。なんか、こう……コンボイ司令官を思い出すな……。

 

「きゃー!!わたしのジムがぁぁぁっ!!」

「………何だこの状況は………?」

 

思わず立ちすくむ中尉に気づいた伍長が半泣きで縋り付く。誰も聞いてなくていい。返事もしなくていい。だが、もう一度だけ言わせてくれ……何だこの状況……。

 

「あ、少尉!!聞いてください!!あのおバカに言ってやって下さい!!ひどいんですよもう!!おバカのおバカ!!大あほです!!あんぽんたんのぱっぱらぱーですよ!!」

「落ち着け。何が言いたいのか全く分からん。分からんが……何だこの状況……分かりたくねぇ〜…」

「お、おつきですか中尉。さ、早くコクピットへ。遅い奴には、ドラマは追えない、といいますし」

 

整備士の1人が手を招くが、正直行きたく無い。

姿形のしっかりしてるのは軍曹の"陸戦型GM"だけじゃねぇか。詰んでねぇかコレ……。

確かに損傷、損耗の一番激しい伍長機のオーバーホールは指示していたが、何故?

 

「小隊長か!!いいところに来た!!手を貸してくれ!!」

「5番クレーンを回ししてくれ!!」

「どういう状況だこれは!?そして軍曹は!?」

「もう出撃してる!!」

「はや!!」

「すっとこどっこいのすかたんぺけー!!おっぺけぺーのおたんこなすー!!」

「はっは。今回は特に大忙しですな。レオナお嬢様もご機嫌斜めですしな」

 

少尉が機体に張り付きながら大声を張り上げる。そこに走り寄りながら怒鳴り返す中尉。伍長は拗ねてバンバンと床を叩きながらジタバタしている。

おい!今どういう状況か分かってんのか!?

文句なら後でいくらでも聞いてやるから今は働いてくれ!!

 

「この2機は整備も調整も間に合わん!手も足りん!だからニコイチする!!」

「"100mm"も全部だ!全部だせ!!」

「"ビームサーベル"は!?おい!!」

「成る程。状況は理解した。

…………ん!?そっちの方が手間じゃねぇのか!?」

 

おかしくね!?つーかもう共食い整備!?末期過ぎんだろ!!部品不足ここに極まれり。

 

「……ぅぅううぅぅぅゔぅううぅゔうぅう……………」

「幸い整備箇所が被っていなくてな。パーツも一応は共通していてかつブロック構造化してるから調整して挿げ替えりゃいい!!今同時進行でやってる!!」

「……分かった!コクピット側から調整する!……しかし一機減るのはキツいな……軍曹機含めある物全て装備させてくれ!!」

 

その声を聞いて、少尉が虚空を睨みつけたまま固まり、その顔色をみるみる青くする。まさか、問題が?

 

「何かあるのか!!」

「………もう、"ランチャー"、含め弾切れ。"100mmマシンガン"もほぼゼロ、"ビームサーベル"も粒子収束フィルターが……」

「…………くそっ!」

 

酷い惨状だ。

 

だが少尉を責める事は出来ない。ただでさえ少ないMSの消耗品に、十分な量も無く、満足な補給も許されないスタンドアロンな状況。むしろここまでMSを動かせた事自体が奇跡に近いのだ。

 

「それでもいい!いや!だからこそ全部載せてくれ!!」

 

少尉に向かって大きく手を振り上げ、サムアップする。

それが少尉に伝えられる、中尉の最大の賛辞だった。

 

「……よぉし!!フルだ!やるぞ!」

「おっし!」

「おうともさ!」

「はっは。我々の実力、とくとご覧なされ」

 

無いものは、無い。無い物ねだりをしようと何も変わらない。

 

それに、少尉はベストを尽くした。今度は、俺が、俺達があるだけのものでベストを尽くす。それだけだ。

 

「今行く!!そのまま作業を続けてくれ!!」

「あいよ!」

 

中尉はキャットウォークへと登りながら少尉と怒鳴り合う。たった数メートルであろうと周りは重機がフル稼働しているためお互いの声も聞き取りづらい状況なのだ。

喉が痛み出すのも構わず声を出す中尉だが、その中でも聞こえる伍長の駄々は何なのか。

 

「了解したぜ小隊長!!ミノフスキー粒子濃度の変動や目視、ソナー、センサー等の反応から推測される予想接敵時間までまだ余裕はある!!何とか間に合わせて見せるさ!!」

「おし!伍長!おい!!」

 

中尉は立ち止まり、身をキャットウォークの手摺から乗り出し、眼下の伍長へと向け大声を張り上げる。

 

視線の先にはまだ寝っ転がり床をタップしている伍長がいるが………聞いてるのか?

 

「伍長!つーわけで今回はお留守番頼む!!」

「やーいやーいしょーいのかーちゃん糸こんにゃくーっ!!」

 

ってか糸こんにゃくってなんだよ!!罵倒!?糸こんにゃくに謝れ!せめてしらたきにしなさい!!

 

しらたきは肉と一緒に煮込むと硬くなるから!!

 

やっぱ家族の様に猫可愛がり?してた愛機がバラされたからな……ヘソ曲げちゃった?

いや、俺もこの非常時に何を!って一瞬キレそうになったけどさ……。

ハシゴに手をかけつつ伍長を見る。飽きもせずまだ暴れている様だ。

 

「もぉっーっ!!嫌です!」

 

ジタバタと床をたたき、埃を舞上げている伍長に怒鳴る。

 

「駄々をこねるな!!」

「いーやーですっ!!断じて否ぁ!!また少尉が遠いところに………死んじゃいます!!それに!!それにぃぃぃいいっ!!!」

「……はぁ~……」

「ジムぅぅうぅぅぅうゔゔぅうっ!!わ"た"し"の"かわ"いいジムちゃんがぁぁぁぁああ"ぁぁっ!!」

 

伍長が怒鳴り返し、一応会話は成り立ったが…。

時間は無いが……部下のメンタルケアも仕事だなぁ……。勝手な事されても困るし…。

………と言うか……あの伍長は………。

 

「あぁぁぁぁ"ぁぁあぁぁぁぁ"ぁ"ぁぁっっつ!!しょーい許すまじ!!今度復活したジムちゃんで踏みつけたる!!」

 

…………見ててものっそい、こう……アレだし………うん……。

ん?乗機が無いのに何する気なんやろ?

………まぁそれより、今は伍長だ。つーかうるせぇ!!何歳児だ!!

 

「…なぁ伍長、何で俺が死ぬんだ?」

「ぁぁあああ……う?」

 

中尉はせっかく登ったキャットウォークを再び降り、伍長の前に駆け寄った。相当暴れ回ったのか伍長は砂埃と機械油でトンデモ無い感じになってる。以前見たドロヌーバ数歩手前ぐらいか?機械油の油汚れは落とすの大変なのに……。

 

「いつもいつも無茶ばかりするからです……わたしは少尉とお別れしたくないです……」

「いや、それは俺もだよ伍長…だから……」

「………それに、これじゃ役立たずです…これじゃ少尉に捨てられちゃいます…」

「そんな事は無いさ。人は価値だけが全てじゃない。こんな奴でいいのなら、伍長が思う好きな分だけそばにいてくれたら嬉しい」

 

伍長がむくりと起き上がり、女の子座りでこちらを伺う。中尉はしゃがみ込み目線を合わせる。その光景は砂場で帰りたがらない幼児を説得する大人の様に見えた。

 

「……ホントですか……?」

「ウソ言ってどうするよ?」

「ふふっ。少尉……ならイイです!………絶対帰って来て下さいね?」

 

ガバッと抱きついて来た伍長を支え、一緒に立ち上がる。汚れを軽く払うも払いきれず、引き剥がして服を叩くが不満そうなので、そのまま頭を撫でてみる。

 

「あぁ。約束しよう。伍長は命令があるまで待機してくれ。指示はおいおい出す」

「はい!」

 

しっかりと自分の足で立ち、いつもの笑顔を取り戻した伍長がこちらに手を振りながら走っていく。取り敢えずは大丈夫か。いつも軍曹はこんな伍長を相手にしてたのか……押し付けてすまん……。

 

「ごっへ!?」

「うわっ!………生きてるかー?」

 

おい、前を見ろよ前を………ぶつかりたいのか?と思った矢先"ラコタ"に激突した。言わんこっちゃ無い。

 

「…うぐぅ……4/3死にです……」

「死に過ぎだろ……とにかく、頼むぞ……」

「あいぃ……」

 

果てし無く不安であるが、仕方が無い。人や機材が走り回るのだ。そんなとこに寝っ転がられたらどちらにしたって危ないったらありゃしねぇからな。

 

取り敢えずこっちは解決だ。お次は……。

 

振り返り"陸戦型ガンダム"を見据え、そちらに向かって駆け出す。

時間は限られている。今大分ロスした。俺はハードの複雑な整備こそ出来ないが、ソフトの調整なら出来る。そこを代わればまだラクになるだろう。たかが1人は、されど1人。それが切迫した状況なら尚更だ。

 

………頭がまだ無いけど、これからつけるんだよね?サブ・センサー/カメラだけで戦えと言われたら流石に殴るぞ?

 

「……見せつけてくれるな…頼むから比較的マジに爆発しろ……」

「恋愛ドラマの見過ぎだ、病院行けティーンエイジャー」

「はっは。すみません。班長殿は最近やさぐれておりましてな。女の子ガーっと、ね?」

「あー、病気みたいなもんだから…」

 

少尉が刺々しい視線を投げかけ、その隣では整備士が苦笑している。この人も"キャリフォルニア・ベース"からの付き合いで、いつも優しく笑っている気のいいおじさんだ。伍長にはおじちゃんと呼ばれていて、今は一応伍長機の機付き整備士だ。

 

「……それはどっちでだよ小隊長」

「両方だ」

 

パスとして投げつけられたレンチとスパナをキャッチしながら言う。その2つをポケットに押し込みつつ、頭の上で動き回るクレーンを見上げた。

 

「はっは。違いありませんな。ほら、班長殿も手を止めないで下さい。それでも、隊長殿もしっかりレオナ嬢を受け止めて上げて下さいな。それは隊長殿にしか出来ませんからね」

「………」

 

"陸戦型ガンダム"によじ登った途端これだ。思わず肩を竦める。

 

整備士達は妻子持ちも多い。この人もその中の1人だ。だからだいたいは伍長を実の娘の様に猫可愛がりしている。伍長は大人として扱ってと言っているが、そんな事言ってる内は無理だと思う中尉だった。

 

「……左腕部、マニピュレーター外して"100mmマシンガン"を固定するか?」

「ヒューッ!!それは……紛れもなく……汎用性がガタ落ちするからやめてほしい……」

 

一瞬良さそうだと思ったがやめた。MSがあらゆる兵器に最も勝る最大の点は汎用性だ。それをわざわざ殺してどうする。特に今回は装備も十分で無い上乱戦だろう。頻繁な武器持ち替えに、最悪MSによる徒手格闘も考えられる。そもそもリロードどうすんだ?わざわざ右手の武器は置けと?

 

「はっは。それならレーザーかビームでも積みたいとこですな。心で撃つとなると、どうしますかね?」

「分かった!分かったからコクピットに戻って!!ホンのジョークやって!?スパナで殴りかかろうとするな!落ちて死ぬとか嫌や!!」

「大丈夫お前気絶した状態で高さ30m前後から地面に頭から叩きつけられてもしなねーから」

「死ぬわ!!」

 

いや、死ななかったんだよねー。その後電気ショック与えても死ななかったんだよねー。

知らんうちに人体実験の対象になってるって、きちょーなじんせーけいけんですなー。

 

コクピットに潜りコンソールを叩きつつ反応を見る。メインディスプレイに表示された数字はどれも規定値で安定している。よかった。当初の懸念は無駄になったな。

 

「コクピット内でモニターする。うん、今のところ異常ナシ、だ」

「よぉし!全員!準備はいいか!!」

「「おう!!」」

 

重機が唸り、人間の身体を数十倍にした様なサイズの四肢が持ち上げられる。その駆動間接部に整備士達が群がり接続して行く。確かに整備する機体を一機に絞り、人員を集中させるのは成功だな。役割分担もしっかりしていて無駄も無い。かなりの手際だ。

 

この"陸戦型ガンダム"、そして"陸戦型GM"はその特異な製造過程から、同じ機体でも殆どのパーツが"別物"で、部品の構成方法も一機一機全くの別物と言っていい程異なっている整備士泣かせの機体だが、本当によくやってくれている様である。

 

追加生産されたものには殆ど見られないそうであるが、この機体は最初期ロットだ。一番ワガママで気難しいヤツだろう。

 

「小隊長!!どんな感じだ!?」

「左脚部にエラーだ!右腕部にも伝達系に問題ありだとよ!

………案外すんなりいったな…」

「元々伍長機の"陸戦型GM"は、先行生産の先行生産と言うワケのわからんモンだしな……生産の間に合わなかった手脚は"陸戦型ガンダム"と同じだからだな。元々その二機の互換性も高けぇし、ま、当然と言えば当然ってトコだな。機体同士の役割分担もやってっし、まぁ問題はそれぐらいだろうよ」

「おっ、一番問題だったFCSもいい調子っぽいな。どうやったんだ?」

「あーそれか。上見てみ上?」

「?」

 

………………………………。

 

見上げた中尉が思わず絶句する。

 

面食らったのも無理はない!!

 

その悲劇的ビフォーアフターは、中尉には少し刺激が強過ぎた。本来マルチ・ブレード・アンテナがあったところには何もなく、敵を鋭く見据えるデュアル・アイ・センサーがあったところはゴーグルセンサーになっていた。もはや別物、いや、完全に別物と化していた。

 

「………………何これ?」

「あり、中尉、気に入りませんで?」

「あれ?中尉ならと思ったんですが……」

「はっは」

 

ようやく絞り出された中尉の声は、激しい喧騒の中弱々しく吸い込まれて行く。それ程中尉にはショックな事だった。

 

「……小隊長が太田機の如く頭ばっか壊すから……」

「いや、そんな壊してねぇだろ……でも、これは……伍長が拗ねるワケだ………」

「はっは。まぁ、背に腹は変えられませぬ故」

 

そう、修理不可なデュアル・センサーの故障から、頭部はまるまる"陸戦型GM"のものにすげかわっていた。

 

これは、もう……"ガンダム"と呼べないのでは………?まるっきり"GM"じゃん。アイデンティティ全否定やん。

 

「あなたと合体したい……って感じか!はははっ!!」

「少尉……いや、個人の思想としては自由だと思うが……俺、ホモはNGや」

「俺じゃねぇよだアホ!!」

 

そんな中尉の思念とは裏腹に、"陸戦型ガンダム"は接続された"陸戦型GM"のパーツと高速で情報を交換、並列化し最適な値を猛スピードで探り始める。その処理速度はもはや目に追えるレベルではなく、中尉はそれをただ部分的に補佐するしか出来なかったが。

 

「………大丈夫なのかコレは?」

「元々パーツの互換性は高いつったろ?それに性能ならデュアル・センサー周辺の耐弾性こそ落ちたがセンサー性能はこの"GM頭"(ジムヘッド)の方が上だ」

「…そんなものなのか?」

 

中尉がタンタカターンッ、とコンソールを叩き調整を加えつつボヤく。MSの全身の各所に設けられたアクセスハッチから調整を加える整備士と協力しすり合わせて行く。ついでにOSも再起動しとくかな……。ハイテク兵器のアヴィオニクスは繊細だし……。どの様なアプローチで行くか………。

 

「そんなもんだ。調整は慎重になー!」

「はっは。最高に仕上げる、それが私達の仕事ですからな」

 

以前の戦闘データを反映、援用しつつ調整をすすめる。しかし、現地でしか分からない事も多い。あまりにもイレギュラーな状況に歯噛みしつつ、それでも手はとめない。

 

「それにしても小隊長、ハード面に加えソフト面にも強くなったな」

「ソフト麺?……あぁ、ソフト面か。いや、特にそんな事はないが……」

「いや、この調整はかなりのもんだぜ?速度、正確性が以前と比べダンチだ」

「…………」

 

それは俺がやっているワケでは……と言う言葉を飲み込み、やや余裕の出てきた中尉は軍曹へと通信をかける。

正直、今の軍曹の働きが今後を最も左右する重要な要素だ。既にこちらはまともなMSの装備がない。敵の主戦力はやはりMSであろう。

 

「軍曹!!今は何を!!」

 

ならば、こちらの主戦力は基地守備隊の要である"ロクイチ"(アーチャー)1個小隊となるだろう。"キング・ホーク"(アサシン)は追加改良ユニットでガンシップ("ガンズ・ア・ゴー・ゴー")としても運用出来るが、それには時間も、対MS戦では火力も足りない。

 

《基地周辺に…対MS地雷、及び…セントリーガンを、敷設中だ……》

「作動方式は!?」

《感知、及び有線操作だ……》

「了解!敷設完了後は一旦ハンガーへと戻り、装備を換装後再出撃するぞ!」

 

おそらく"種"の事だろう。軍曹ならそうするはずだ。しかし、それらでどれほどの事が出来るか………。

ここらの地形はそこそこのアップダウンと森や林があるが…。時間稼ぎが関の山か?

 

《ブレイヴ02了解…HSL起動。マップに地雷敷設箇所を、追加する……》

「あぁ。頼んだぞ。こっちもなんとか機体の調整が完了しそうだ。ここが正念場だ。何とか乗り切るぞ!!」

《ブレイヴ02了解………》

 

少尉のサムアップに同じくサムアップで応え、機体を再起動する。機体が微かな振動と共に唸りを上げ、サブディスプレイには大量のデータが高速スクロールする。

見た目こそ目も当てられないレベルで変化しているが、いつもとなんら変わりの無い、"陸戦型ガンダム"がここにあった事に安心する。

 

「上等兵はそのまま、管制塔からの指示をお願いします!!」

《こちらコマンド・ポスト(CP)。了解しました。各隊はCPの指揮下に入り、行動を開始して下さい》

「CP、CP。こちらブレイヴ01。"ロクイチ"(アーチャー)隊、重装歩兵(ランサー)隊の展開状況は?」

《こちらCP。おおよそ65%といったところです》

「装備クラスC待機で待たせて下さい。お願いします」

《こちらCP了解しました。CPより…》

 

要件を伝えた後、手動で回線を開き、機体に装備されたHSLが起動、リアルタイムな情報がスクリーンを流れ始める。情報によると基地内の部隊配備はまだ完了していない上、"ロクイチ"も全機出撃しきってはいない。しかしながら軍曹の"陸戦型GM"は作業を終え、こちらに向かって来ている様だ。その手際に舌を巻く。

 

「こちらブレイヴ01了解。展開後はそのまま目視による警戒を続けさせて下さい」

《こちらCP了解。CPより各隊へ。警戒を厳とし、現状を維持せよ。

繰り返す。CPより各隊へ。警戒を厳とし、現状を維持せよ》

《CP、こちらアーチャーリーダー。了解、警戒態勢を維持する》

《ランサーリーダーよりCPへ。了解。各隊の配置が完了次第警戒態勢へと移行する》

 

機体の一通りのチェックを終え、自己診断プログラムを走らせる。結果は全機能異常無し(オールシステム・オン・ザ・グリーン)、だ。

正常に稼働する事を確認しリミッターを解除する。機体の性能に慣れず、機体に振り回されてしまう伍長のため、伍長機はデフォルトでリミッターの解除されている中尉機とは違い、かなり厳重にリミットされているからだ。

その分磨耗なども少ないはずなのであるが……損傷を差し引いていても"被害担当機"ぶりは健在である……。

 

「えー!これしか無いの!?」

「すまんなぁ。でも使った経験があるのなら使って欲しいんだが…

気休めだけど、伍長ちゃんなら上手く使えるよ。片目をつぶってよーく狙って撃つ。

これよ」

「陸上戦艦が出て来たらどうすんですか!!」

「そんときゃもう片方の目もつぶるよ」

 

センサーのテストを兼ねて、鹵獲した"マゼラ・アタック"の前で何か言い争っている伍長をズームし会話を聞いてみる。整備士さんも困り顔だ。どうしたんだ?まだ伍長がダダこねてんのか?……と思ったら案の定だよ。

 

「もっと何か…こう、かっこ良くて強いのは!?わたし一度でいいから列車砲を使ってみたいんです!!それか対空レールガンでもいいですから!!」

「"マゼラ"だっていい戦車じゃないか。列車砲は、そうだな……クリスマスにでも頼んでくれ…」

「う~ん…サンタさんにはもう頼みたい物が…あ!少尉ー!おーい!」

 

予想外に酷い会話だった。伍長の言ってる列車砲は"グスタフ"だろーな……前MSに積みましょうよって言ってたし。MSが跨ってもあまるサイズなんだけど……。そもそも1人で使うもんじゃねぇ。運用だけで村規模なんだぞアレ。

 

伍長が被っているヘルメットの耳にあたる部分をポンポンと叩く。通信機を使うと言う事だろう。通信機の回線を開き、伍長のインカムに繋ぐ。

 

「伍長!文句を言うな!実戦になったら、敵を選ぶことはできん。

逃げ出したくても逃げられん。

人は誰しも配られたカードで戦うしかない。

これが、俺たちのお仕事だからな。

そんなときは…」

《なんです?お祈りですか?》

「知恵と勇気でしのげ。

なんとかなる」

《…なーんだかよくわかんないですけど……わがりますた…》

「よし!」

 

てきとー言って伍長を言いくるめる事に成功し、伍長は渋々といった様子で"マゼラ・アタック"に乗り込む。わがりますたとか言ってるけど、まぁ伍長はなんだかんだよくやるからな。

懐かしいだろうな。"キャリフォルニア・ベース"脱出後の"サムライ旅団"以来だろうし。

 

"マングース"、"ロクイチ"、そして"ザクII"。俺も大概だな。

 

《ブレイヴ02、帰還する……》

 

感慨へ耽る中尉を、ハンガーへ帰還した軍曹の声が現実へと呼び戻す。整備士達が更に慌ただしく走り周り始め、ハンガー内の喧騒がぐっと濃くなるのを肌で感じる。

 

「軍曹ありがとう。助かった。敵影は?」

《見られなかった…この手は、知っている……》

「? どう言う事だ?ミノフスキー粒子を利用した電撃戦じゃないのか?」

 

現に、先程までの勢いこそないが、ジリジリとであるがまだミノフスキー粒子濃度は上昇し続けている。

レベル4までは到達しないだろうが、戦闘にはそろそろあらゆる支障が出始めてしまう。

レベル4、つまりミノフスキー粒子濃度が40%に到達すると、FCSにまで影響が出てしまう。そのためジオンは基本的にレベル3を基本として使用しているというデータが出ている。

 

《一度、ミノフスキー粒子を高濃度に散布し………肩すかしする…その後、時間を空け……警戒、解除のスキを狙い…そこへと、更にミノフスキー粒子を散布する事で……高濃度のミノフスキー・テリトリーを、作る気だ…………》

「成る程。つまり…」

 

そこへ伍長の通信が割り込んでくる。やっぱり乗ったら乗ったで嬉しいのか、ややハイテンションだ。

いい加減無線で大きな声を出す癖をなんとかして欲しい。難聴になっては困る。5.1chサラウンドスピーカーが良く体感出来なくなるのは御免だ。

 

《わたしにいい考えがあります!!やつらをペテンにかけてやるんですよ!!》

「うん……嫌な予感しかしないんだが……」

 

その言葉を聞いて、中尉の頬に一筋の汗が垂れる。おかしいな…コクピット内は適性な温度、湿度に調整されているはずなのだが……。

 

《兵はきど〜なり、戦いとはあざむくことなり……です!勝負とは最初の作戦を練った時点で決まってるんですよ!》

「うん、"詭道"を漢字で書けるようになってから出直そうか」

 

《伍長の案はまだ分かりませんが、軍曹には地雷と一緒に振動感知式の簡単な対地センサーを敷設してもらいました。単純な仕組みで振動の有無しか分かりませんが、センサーの振動検知まで第三種警戒態勢を維持するのがベストだと提案します》

「"アサカ"の事もありますが、敵の規模や位置が分からない限り、こちらは後手に回るしかない様ですね…」

《センサーには、無いが…地雷には二重のトラップを、仕掛けた……効果を、発揮すればいいが……》

「動かします!!離れて下さい!!」

《了解!!中尉、ご武運を!!》

《壊すなよー!もう換えはねぇからなーー!》

「はい!ありがとうごさいます!!」

 

中尉が再設定の完了した"ジムヘッド"を操作し、ハンガーのゲートへと歩かせ始める。

鋼鉄の巨人が唸りを上げ、巨大な武器を振りかざし、地を揺るがし進む。後続にはあるだけの武装を満載した"MSトレーラー"が続く。

 

その眼前ではハンガーの巨大なハッチが口を開け、熱帯特有の強烈な光が差し込み、そのシルエットを浮かび上がらせる。

吹き荒れる潮風にマントがはためき、グレイズ・シールドが発光、調整を始める。

 

眩しいくらいの快晴。中尉は太陽に目を細める。その光も直ぐにメインカメラ・センサー複合機を覆うグレイズシールドがカットし、適正な光量に抑えたのだが。

 

それでも……これが行く末の暗示であればいいのだが。

 

しかし、行くしか無い。俺達は、嵐の前の静けさに、刃を振り下ろしていく存在であらねばならない。

 

「行くぞ、"ブレイヴ・ストライクス"、出撃だ」

 

戦闘が、始まる。

 

 

 

『嵐の前に静けさが支配し、雲は静止し、大胆な風は鳴りを静め、大地は死のごとく沈黙していると………』

 

 

風が、吹き荒れる…………………




万を辞して登場!ジムヘッドです!!

個人的にはジムフェイス、ガンダムフェイス共々好きなので、中々好きだったりします。ゲームではロックオン距離が下がったりしてますが、陸ジムの頭の方がレーダー性能は優秀だったりします。

試作機が優秀で量産型が弱いのはガンダムの特徴と言われますが、なんだかんだジムはガンダムより高性能なところも多いんですよ?活躍するか否かは別として(笑)。

最近加筆修正ばっかで、その加筆修正もいつ終わることやらと思っています(笑)。でも、読み直したら結構ヒドイ(今もまぁ、酷いけど)ところが多く、必要ではあると思いますが………はぁ、こう、絵でも練習して、マンガにしようかなとおもったり……少し書いて、時間がかかりすぎる為ボツになりました(笑)。みんな絵うますぎだよ!!

名前や加筆修正の話など色々ありましたが、この様に意見や苦言、修正点などどしどし受け付けます。指摘された場合、可能な限り対処していく予定なので、これからもこの作品をよろしくお願いします!!


次回 第六十一章 夕爆雨

「15秒で頼む。時間が惜しい」

ブレイヴ01、エンゲージ!!


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第六十一章 夕爆雨

ひさーしぶりの更新。

最近忙しくて加筆修正すらまともに出来ない……。

ま、まぁ趣味なんで、のんびりやっていきます。

………こんな調子で終わるんかね?


強い意思。

 

確かな覚悟。

 

堅い決意。

 

揺るがぬ信念。

 

だから、人は争う。

 

自分の中の、何かの為に。

 

 

 

U.C. 0079 9.2

 

 

 

「少し、風が出て来たな……ブレイヴ02、"180mmキャノン"の残弾は?」

 

 青く晴れ渡る空の下、中尉が"陸戦型ガンダム・ジム頭"(ジムヘッド)を歩かせ基地の正面に向かいながら聞く。中尉はありったけの武装とともに基地正面塹壕でアンブッシュする事で先制攻撃を加え、敵に捕捉され次第囮になろうと言う考えだった。

 

 "ジムヘッド"の踏みしめている以前の戦闘で焼かれた地面はまだ熱を持っている様で、対地センサーの精度はあまり高いものでは無い。陽炎揺らめく地表面では、湯気を出す地面の発する熱が空気を掻き混ぜ、小さな渦を巻いては消えて行く。

 アンダーグラウンドソナーも掘り返された地面と土中の構造物が多過ぎて稼働しづらいと上等兵がこぼしていた。決してコンディションは最高では無い。

 そのため、整備班達の血反吐を吐く様な徹夜生産により増産されたマントを上半身を覆う様に羽織り、両腕部、背中にシールドを装備していた。

 

薬室(チャンバー)に、一発………マガジンに、一発の…計2発だ……》

「──狙撃も、最大2機か………CP、ブレイヴ02の配置をどうするつもりでした?」

《こちらCP。ポイントデルタ72の予定でしたが、ポイントアルファ56に変更しましょう》

 

 悩む中尉に、上等兵が淀みなく答える。ここは上等兵に任せるが吉だろう。やはりオペレーターの存在は重要だ。しかし、まだ確立されていないMS戦術においては軽視されがちであるのが実状であるらしい。現にパイロット育成機関こそ極秘裏ではあるが各地で進行しているものの、オペレーター育成は"ジャブロー"のみにおいて細々と続けられているのみである。

 地球連邦軍は下士官からは特殊技能を持つ職業軍人集団であり、階級は職務・権限と密接な関係があるが、訓練生であり臨時で組み込まれたとは言え、上等兵では階級が低過ぎるだろう。地球連邦軍における二等兵、一等兵、上等兵は階級でなく給与水準に関する指標であり、権限・職務・指揮系統に全く関係ないのだ。また、この三者は兵士である。因みに整備士達は特殊機能持ち、つまりは下士官扱いとなる。即ち、現在"ブレイヴ・ストライクス"で最も階級が低いのが上等兵なのである。

 現在地球連邦軍は戦時体制であり、徴兵が行われ、戦時階級もあるが……。持ち直したとは言え、まだ地球連邦軍は混乱している。そもそも特殊技能を持っているのに兵士扱いなのが謎である。上等兵はまだMS部隊が存在しない段階からMS部隊オペレーターとしての訓練を受け、その重要度がまるで分からない状態においえテストヘッドとしてMS隊に組み込まれ。その際、隊長や現場指揮官などとの諍いや混乱を無くすため、暫定的に、一応『上等兵扱い』として入って来たが……これは上層部に意見具申が必要だな。取り敢えず、上等兵はもうすぐで元の階級に………元の階級どのくらいだ……?

 

「了解。聞いたか軍曹?乱戦になるが……頼めるか?」

 

 ごちゃごちゃと考えていたので、反射的に軍曹に話を振ってしまったが…そう聞いたところで思い出す。いつも後方で援護する軍曹であるが、遠、中、近距離全て俺より軍曹の方が強いんだった。

 軍曹の強さは、射撃の命中率だけではない。足捌きや状況判断、操縦、対応に格闘、あらゆる点において軍曹は"ブレイヴ・ストライクス"のエースだ。後方で狙撃に従事しているのは、その役職が出来るのは軍曹だけだからだ。

 

………果たして俺と伍長の存在意義は本当にあるのか疑い始めてくるな……。

 

《こちらブレイヴ02。了解……期待には、全力をもって…応える……》

《上等兵さーん。わたしはー?》

《回線Cを開いてデータリンクしてください。行き先を表示します》

《ありがとー!!ござーい!まぁーす!!》

 

 おい伍長、と言い掛けて諦める。だってコイツ新しい事好きだけど覚えるのキライだからなぁ。ハンドシグナルも一向に覚えようとせんし。余計な事はいっぱい覚えるんだけどなぁ……。

 

 軍曹機の"陸戦型GM"が動き、中尉の後方300m、基地内の倉庫群の中に沈み込み、偽装網と赤外線吸収偽装シートにより身を潜める。軍曹は"180mmキャノン"の残弾が0になり次第……と言っても2発だが、それと同時に偽装を解除、中尉機の援護に回るの予定だ。

 

《しょーたいちょー!!Bコンテナどうするよー!》

 

 中尉機の足元では少尉が手を振りつつインカムを通し話しかけてくる。少尉はMSトレーラーの荷台でクレーンへと指示を出していた。

 クレーンの先には、真新しいのか光を反射し黒光り、その輪郭を浮かび上がらせている"100mmマシンガン"が釣られており、海風を浴び不規則に揺れている。しかし『真新しい』といっても銃床などだけであるが。銃口(マズル)や一部露出している銃身などは逆に使い古された感じが対照的に浮かび上がっている。これは本体こそ未使用の物を引っ張り出すも、交換が必要な銃身に予備はないため、破棄寸前の物をねじ込んでいるためである。

 

「今回は軍曹の狙撃による援護は無いに等しい。すぐ接近されるだろうから横に置いておいてくれ!」

《……あー、なら駆動のための電力供給のためにこの"MSトレーラー"も置いてくぞ!壊すなよー!》

「了解した!それと少尉!もしもの事も考えて、お前はポイントヤンキー39に"イージス"で移動後、ガンナーシートで待機しろ!!」

 

 その言葉に眼下の少尉が盛大にずっこけた。中尉はコクピット内で、メインスクリーンにピックアップされ砂埃まで鮮明に捉えている事に満足する。機体のテスト見たくなってるけど…いや、お前一応戦闘員だし。

 ウチ戦力すくねぇから仕方ないだろ?死ぬよかま……死ぬ確率があがるか……。

 

《マジかよ!!》

《しょういー!わたしが直掩につくからだいじょーぶだよー!》

《…………………………………マジかよ…………………………………》

 

 伍長の声にさらに項垂れる少尉。そんな伍長17歳であるが、実は今現在、地球連邦軍地上軍においてはベテランの方である。現在地球連邦軍の人員不足はそこまで達しているのである。

 "ルウム戦役"や"ヘリオン作戦"などでの敗退で有名な宇宙軍に問わず、地球軍も開戦開始からこの数ヶ月で、かなりのベテランと呼ばれる兵士が前線ですり潰され犠牲になっているのだ。特に損害が大きいのはヨーロッパ方面軍であるが……撤退戦はまるで兵士を捨てる様に消耗したとか……。最もコストと時間の掛かる兵器は人間、つまり人的資源であると言うのに、地球連邦軍はそれさえも激しく消耗しているのだ。

 

《ちょっと!!それはどーゆー意味ですか!!》

「ん、そーゆー意味なんだろ」

《………だな……………》

 

 援護射撃どころか、まさかの集中砲火にひとしきり沈黙した後、伍長が絞り出す様に涙声を上げる。

 

《……わたしだってがんばってるのに…………》

《伍長、気を落とさないで下さい》

 

 中尉は機体を操り、余ったシールドを塹壕の正面に並べつつ通信を聞き流す。全く、緊張感の無い奴らめ。

 まぁ、少尉が戦闘に参加する事は無いだろう。

 

 何故かって?それは、少尉が待機するのはHQの真っ正面だからだ。そこまで攻め込めれたら、もう戦う戦わない以前にもう詰んでいる。

 

 あっ、そうだ。ついでなら胸墻(きょうしょう)作っとこ。このシールドスコップにも使える様に設計されてるしね。データ取っとかなきゃ。

 

 中尉は機体の操縦系のモードを切り替え、"ジムヘッド"に装備されたシールドで土を崩し、穴を掘り始めた。MSのパワーの前には硬い土も一撃である。MSは重機としてもかなり優秀なのだ。……………ランニングコストを度外視すれば。

 

 胸墻とは胸壁ともいい、バイポッドなどの支えの無い銃を安定して撃つための台座の事だ。

 人間は生物であり、当たり前であるが呼吸をしなければならず、心臓も止める事も出来ない。そのため必ずブレが発生するのだが、その点MSは人間と比べブレが少なく、高度な演算能力を持つコンピュータに高性能なFCSを搭載するため高い命中率と集弾率を誇る。しかし、それにも限界はある。

 

 つまり、立って撃つのと、バイポッドで銃身を地面に固定して撃つのなら、いくらMSでも後者の命中率が上がることは当然の結果である。

 また、MS戦術の一環としてのデータ取りの意味合いもあり、命中率は人間が行うのと比べどれくらい上がるかなども検証するため、中尉はこの方法を実行したのだった。

 

「CP、こちらブレイヴ01。準備完了。待機に移る」

《こちらCP了解。モニタリングしている限り、"ジムヘッド"の調子も良さそうですね》

 

 "ジムヘッド"か……いや、分かってる。分かっているんだが……。

 

「でもジム頭はやめてくれよ、ジム頭は…」

 

 中尉は待機のための準備を進めつつぼそりと呟き、こっそりとため息をついた。"陸戦型GM"の頭部デザインは嫌いではないが、やはり凛々しさ、逞しさを感じさせる"陸戦型ガンダム"の頭部の方が好きだった。つーかキメラ感が半端ない。追い込まれ、責められている感じがする。上等兵に悪気は一切ないだろうけど……。

 

 並べたシールドにもマントを掛け、その上に偽装網を掛ける。その後ろの塹壕に中尉は"ジムヘッド"の機体を沈めさせる。

 

 両手に"100mmマシンガン"を構えた"ジムヘッド"が伏せ撃ち(プローン)の姿勢を取り、"100mmマシンガン"を作りたての胸墻に載せ、依託射撃の構えを取る。

 本来は敵の接近に備え、素早く立ち上がる事の出来るしゃがみ撃ちがしたかったのであるが、元々戦車用の塹壕であり、掘る時間も無かった為の苦肉の策であった。

 

 しかし、戦車と言ってもそれは巨大な"マゼラ・アタック"用のものであり、その為にMSが伏射出来るのであるが。しかし、それでもかなりギリギリであり、本当はもう少し掘りたかったと言うのが正直なところだった。

 

 MSは直立した状態であると全長20m程度の巨大建造物であり、仮にしゃがもうと10m程度にはなってしまう。

これでは敵に見つけてくれと言っているようなものであり、全面投影面積も大きいため被弾面積も大きくなってしまう。これでは平地での待ち伏せなど夢のまた夢である。

 

 なので、この様に巨大なものを森や大きな岩も無い平地で隠すには、塹壕を掘って埋めてシートを被せてしまうか伏せさせてシートを被せるしかない。

 

 重力下の戦場において、MSはこの様な点から戦車など従来の兵器に劣っている面も多く、いかに人型と言う兵器の形がナンセンs…………ゴホン!

 

 まぁ、MSは戦車にはない機動力を持ち、悪路を高速で走破しスラスターによる三次元機動も可能であるが……その機動力と言う点でも航空機には圧倒的n………ゴホンゴホン!!

 

 しかし、航空機は長く戦場に留まる事は出来ないし、装甲も無いに等しい。火力もオプションに寄るが、こちらも爆装した攻撃機ならともかくMSに軍杯が上がるだろう。

 

 つまり、長所短所、カタログスペックだけを見るだけでは、どんな兵器も一概に、"弱い"だの、"いらない"など言えないと言う事だな。

 

 つまり、MSと言う兵器の立ち位置は、戦車以上の装甲を持つ………攻撃ヘリみたいなもんかなぁ……火力はあるし………。

 

 まぁ機動力だけ見ればそのヘリにも負けるんだけどね☆

 

 MSはこんなナリではあるが、器用にいろんな事がこなせるんだよな。いいとこ取りの器用貧乏なんて言われたらそこまでだけどさ。

 

 結論。みんな違ってみんないい。適材適所で行きましょーってとこかな?どんなものにも長所短所はあるし、その短所だけを見ても何にもならない。MSが出来ない事は多いが、戦車にも、航空機にも出来ない事がMSには出来る事もあるし、逆もまた然りだ。

 MSと言う兵器が戦闘に参加して、戦術の幅が大きく広がったもの事実だし。整備大変だし、コストは張るけどね。

 

「………さて、敵さんは来るんかね……」

 

 誰に言うとでも無く、人知れずコクピットで呟いた中尉は、メインスクリーンに揺れる、日に照らされ青々と光るヤシのから目を逸らす様にうつむき、操縦桿を握り直した。

 

 

 

 

 

 

 

「──こちらNフィールド、ユンカース32。定時連絡。異常無し」

《敵、こないね……》

《くるさ、必ず……》

 

 中尉が"ジムヘッド"を操作、偽装網をやや押しのけつつ上半身だけを振り返らせて言う。その視線の先で伍長はキャノピーを解放し伸びをし、少尉はガンナーシートに倒れこんでいる。お前ら第二種戦闘配備の意味分かってんのか?

 

《緊張を保つのが厳しいのは分かりますが、ふざけないで下さい》

「すみませんでした……」

《ほんの出来心だったんです……》

《僕のいi……》

《…全く……》

 

 来ない。敵が来ない。ホントに来ない。

 

 来ない。

 

 行き先が表示された看板でも見間違えたのかと疑うレベルだ。一体どうしたんだ。

 

 それにそろそろ"アサカ"との合流時間だ。ホントに勘弁して欲しい。

 

「………うん。フツーにキツイ……」

《わたしはピンピンですよー!》

《寝てたからですよねお2人は》

《…呆れた…》

《ね、寝てねえしゅっ!!》

《やーい少尉のばかたれー!》

 

 うるせーよてめーら。子供か!

…………伍長はともかく俺と少尉一年しか歳違わねぇ………。戦場の低年齢化が深刻だ………。

 

《でもそういうお前も寝てたんだろ!人の事言ねぇだろ!》

《失礼な!わたしはちゃんといろいろやっていたよ!》

 

 伍長と少尉がお互いにシートから乗り出し喧嘩し始める。どうでもいいから戦闘中に操縦桿から手を放すなよ…………。

 

《いろいろって……なんだよ?》

《いろいろはいろいろですよー》

《具体的には〜?何を〜?》

 

 少尉がガンガンとあおって行く。そのスタイルは嫌いではないがやめて欲しい。声を聞くだけで少尉の意地の悪い笑みがありありと浮かんできそうだ。それにどもりつつも伍長が言い返す。なんだかんだで仲良いからな。

 

《……た、体力の回復とひろーの除去と目をつぶることと、あと、あとは……》

「もういいよ。少尉も黙ってろ。そして少尉は減給だな」

 

 そんな権限が俺にあるかどうかは別として、少尉に釘を刺しておく。でもこいつの事だ。刺すだけじゃ足りんかもな……。ドリルでねじ込むくらいじゃないと、最近のスレたガキは言う事聞かないってお偉いさんも嘆いてるしな。

 

《嘘ぉっ!!レオナちゃんはどーなのよ!?そして監督責任もあると思うなー!!うん!!》

「うるせーよ喋んな生ゴミ。いや不燃ゴミ」

《燃えるよ!!俺は燃えるよ!!》

《………わたし、これ以上給料減ったら0になっちゃいます………》

 

 この部隊、色々と問題抱え過ぎだろ…………。優秀な人材が大半なのに、それ以外の負債が大き過ぎる…………。

 

 まぁ、仕方ないつっちゃあ、な。あれから数時間。人間の緊張と言うものは何も無しには継続しない。

 

 そりゃ、相手も人間だけど…。

 

 向こうとこっちじゃモチベーションも違うだろう。往々にして守備側と言うのは人間に優しくない。どんな些細な事でも主導権を握られると言うのは、それだけで大きな負担となる。正直"ブレイヴ・ストライクス"の戦果は奇襲によりそのリソースを活かし続けたからである。

 

《そういや、装置の誤作動ってセンはねぇのかよ?第一絶対に来るわけでもねぇんだし……》

《それこそ敵の策略でしょう。常時集中する必要はありませんが、備えは万全にする必要があります》

《……同感だな……それに……!》

「どうした、軍曹?」

《どうしたんですか?おトイレ?》

 

 ズドン、と軍曹の"陸戦型GMが"180mmキャノン"を発砲する。マズルフラッシュが瞬き、衝撃波がギシギシと倉庫をたわませ、音を立てる。

 

 撃ち出された火球が遥か彼方で炸裂し、装填された炸薬の量では起こし切れない爆発を起こし、大気を揺さぶる。

 

《きゃあっ!?何!?何なに!?》

「味方の射撃だ落ちつけ!!ってまだ寝ぼけてんのか!!」

《ミノフスキー粒子濃度急上昇!!レベル4です!ご注意を!》

《うぉい!!マジ来やがったくそッ!!》

「総員第一戦闘配備!!敵の襲撃にそなえおっ!?」

 

 中尉が言い切る前に、爆音と火柱が基地内で噴き上がる。慌てて通信と目視により確認するが異常無しだ。幸いにも外れたらしいが……これはマズイ!!

 

 アウトレンジから撃たれまくるのに強いヤツなんかいねぇ。敵の射点すら捕捉出来ない今、ジリ貧になるのは目に見えている!!

 

「CP!こちらブレイヴ01!!被害状況を確認せよ!!」

《お、親方ぁっ!!空から砲弾が降って来ましたぁ!!》

「少し黙ってて!!お願い!」

《こちらCP!基地内幹線道路に長距離砲が着弾した模様ですが、損害はゼロです。ご安心を》

《この……レベルは…まさか……》

 

 軍曹が何に気づいたか分からんが、そんな余裕は今無かった。敵は目前だ。正直かなりヤバい。何だかよくわからんが、ヤバい。

 敵は長距離砲撃で揺さぶりをかけつつ、MSを突撃させこちらを制圧するつもりか!?

 

《おいおいおい!!俺帰っていいか!!》

《敵前とーぼーは後ろだまだよ〜!》

《さっきふざけてたクセに何言ってんだ!!》

 

『エンゲージ "ザクII" "ザクキャノン"と認定 注意を』

 

 その時中尉の"ジムヘッド"が敵をメインモニターに捉えた。コクピット内に接近警報が鳴り響き、中尉はメインスクリーンを睨みつける。

 敵は……"ザクII"が4機。真っ直ぐ突っ込んでくる!!

 

「ブレイヴ01、エンゲージ!!"ザクII"が2機、ヘッドオン!!右からA1、A2、A3、A4とする!!」

《こちらCP!爆音でアンダーグラウンドソナーが作動不良を起こしました!》

《ブレイヴ02より、各員へ……ポイントゴルフ57…敵を捕捉(エネミー・タリホー)…"ザクキャノン"だ、C2と呼称……》

 

 機能の大半を落としていた機体をあらゆる手順を飛ばしつつ立ち上げ、FCSを起動、全セーフティを解除し、セレクターを"レ"に合わせる。

 

『マスターアームオン メインアーム レディ』

 

 グリーンで表示されていた"SAFE"が、一瞬で攻撃的な赤文字の"ARM"へと切り替り、それを流し目で見ていた中尉にさらなる緊張感をもたらした。

 

 手を伸ばし、シート傍から精密射撃用ヘッドスコープを引き出し、スクリーンに映る、迫り来る敵機にガンレティクルを合わせる。

 度重なる戦闘で洗練され、更に命中率の上がった狙撃プログラムを起動する。遠距離だけで無く、中距離における敵の行動予測にある程度のオートエイミングまで追加された最新版だ。

 

 目標は、最接近しているA3だ。

 

 ピピッという軽いビープ音と共に、視界の端に"VALID AIM"(確実な照準)と表示された。

「……!?」

 

 トリガーを引こうとした瞬間、一瞬画面にノイズが走り、画像が乱れた。

 HSLがリンクをストップ、CPの情報支援量がグンと減り、コンソールに表示された命中率が下がる。くそッ!!"耳"がヤられたか!!俺たちのアドバンテージはもう機体各機の性能しかねぇ!!

 

「レーダーは……ダメか…くそ!センサー類をフル稼働!データリンク!」

 

 HSLを手動で再起動、再接続し設定を微調整する。それをCPを経由する事で、暗に上等兵へと指示を出す。その間にもどんどん敵機は接近して来る。時間は無いが、焦りは禁物だ。戦場では冷静さを失う者から死んで行く。銃身と頭は常にクールであれ、だ。

 

《! こちらCP!了解!全センサ起動!通信回路Bにてデータリンク!》

 

 その意図に一瞬で気づいた上等兵が設定を変更、新たな情報支援を開始した。この様に膨大なシステム群を臨機応変に、柔軟に切り替え対応させる事が出来るのは上等兵だけだ。

 流石"電子の妖精"。我が隊の大黒柱である。

 

《叫べ!バーストリンク!》

《少尉!撃ちますか!弾幕だけでも!》

「よせ!射点を曝すだけだ!いや、となりのアホに叩き込んでやれ」

《死ぬぅ!!》

 

 ガンガンと砲撃は降り注ぐ。こちらには撃ち返す武器は無い。そもそもこちらは射点すら把握出来ていない。完全にしてやられたパターンだ。

 

《でも場所がわかんねぇぞ!どうすんだよ!!》

 

 情けない声を上げわめく少尉に、伍長がふざけて返す。

 

《ペロッ、今、こっちは風下です!》

《匂いを嗅げとでも?》

《そうです!》

 

 ふざけるのはいいが、単発でズバッと終わらせて欲しかった。

 

《臭わないんだ……》

《なら後はゲーマーとしての勘を……》

「上等兵!!あの2人の通信を切断頼めます!?」

《分かりました》

《ちょっ》

 

 こっちが死に物狂いで撃ち合ってる時にあいつらは………。

 それに言った瞬間にも切られたって事は……上等兵………。

 

 "ザクII"は2機一組(ツーマンセル)で散開、挟撃して来る。少しでも進軍速度を落とそうと、中尉はプローンのまま射撃する。

 

敵レーダー波 照準(エイミング・レーダースパイク)回避を推奨』

 

 "100mmマシンガン"から伸びる射線により位置が割り出され、一瞬で怒涛の如く120mm弾が降り注ぐ。

 

「…んぐっ!クソッ!!だあぁっ!!適当な事ぬかしやがって!一発狙う間に100発撃ってくるじゃねぇか!」

《援護する、ブレイヴ01……A1、A2は任せろ……》

「どうやっ……了解、任せたぞ!……貧乏性は嫌いだ、オラっ喰らえ!!」

 

 軍曹の言葉に間違ってた事は一度も無い事を思い出し、信じて目標を片方の2機(A3、A4)に絞り、"100mmマシンガン"をフルオートで連射する。火線が到着する前に回避したA4を無視し、反応の遅れたA3に火線を集中させる。

 逃げ遅れたA3に100mmAPFSDS弾が殺到、機体を激しく揺すぶりながら穴だらけにし、内側から火を噴いたA3が内側から大きく歪む様に膨らみ、大爆発を起こす。

 

 衝撃で飛び散った装甲の破片がマントの上から機体表面にあたり、カンカンと軽い音を立てる。核融合炉の炉心融解(メルトダウン)による誘爆を至近距離で観測した中尉機のセンサーが一部使用不可能になる。今までMSと多数交戦を続けて来たが、核融合炉の誘爆は初めてだった。基本的に安全でクリーンである核融合炉も、戦争においては絶対はないという事か………。

 

 こんなものに乗って戦争をしているのだ。俺達は。

 

 焼け爛れ、今だ炎と煙を上げている大地を惚けて見ていた中尉を、飛び込んできた通信が現実へと引き戻す。

 

《少尉!!すごい音がしましたが無事ですか!!》

「…ん、あぁ、1機撃墜(ワン・ダウン)だ」

《グッキル!さっすが少尉!》

《こちらCP……正体不明の音源を確認…………?……誤作動…?………申し訳ありません…アンダーグラウンドソナーはまだ完全に復旧してい無い様です》

「気を落とさないで下さい。大丈夫です」

《あぁ…問題無い……》

 

 そうそう。軍曹は問題無いし、俺はその軍曹に情報支援してもらってるし。それ以外のセンサーはそこそこ働いてるしね。

 

『メインアーム 残弾ゼロ』

 

 至近距離の凄まじい爆風に煽られたA4は大きく吹っ飛ばされ、転がり弱々しく蠢いている。中尉は弾丸を撃ち尽くした"100mmマシンガン"二丁を投げ捨てる様にBコンテナに押し付け、新しい二丁を取り出す。

 

 戦闘態勢を取れて居ないA4は放置する事に決め、そして先程軍曹に任せる事にした2機に狙いをつける。軍曹は残弾1だ。2機を相手にするわけには……!

 

 その2機の真横から火線が伸びる。突然の不意打ちに慌てて回避した2機は地雷を踏み、さらに踏みとどまる。

 

 脚を吹っ飛ばせなかったか………地雷の炸薬量が足りなかったと思う暇も無かった。

 

 その2機の上半身が最も装甲の薄い腰部から仲良く両断される。軍曹が2機を一気にぶち抜いたのだ。

 

「……すっご…………」

 

 爆炎を噴き上げ消し飛ぶ2機を見つつ、中尉はそう呟く事しか出来なかった。

 

《敵機、撃破……》

「よし!後、一機!!」

 

 その時左手前方の林から立て続けに火の手が上がる。C2だろう。

 残念だったな。そこは地雷原だ。やはり、数の差を埋めるのに地雷は有効だ。敵の行動を大きく制限し、監督が要らず勝手に攻撃してくれるし、火力もあり、尚且つ安い。こっちが下手を打たなければ、地雷は頼れる仲間になる。それに、相手は地雷を恐れる。見えない恐怖ほど恐ろしい物はないのだ。『地雷は相手の心に仕掛けるもの』とはよく言ったものだ。

 

 その爆発の中の、センサーが映し出した機影へと目掛け両手の"100mmマシンガン"を乱射する。

 林に密生した木が殺到した100mm弾によってズタズタに引き裂かれ、大量の木の葉と木片を撒き散らしながら倒れる。その音に混じり装甲を引き裂く甲高い音が鳴り響き、その音も次第に収束して行く。

 

 無残にも引き千切られ、風に舞う木の葉はそのまま上昇気流に巻き上げられ、皮肉にも自由にふわりふわりと宙を舞い何処かへと向かって流されて行く。その中の一枚が"ジムヘッド"のメインセンサーに張り付き、また風に吹かれ飛ばされて行った。

 

 中尉が射撃を止め該当地域をセンサーでスキャンし、敵機の機能停止を確認する。

 

「敵機、撃hうおぉっ!?」

 

 ドカン!!と長距離砲がまた近くに着弾する。主要なパイプを破壊したのか、水が高く噴き出し噴水の様になる。

 

 噴き出す水の勢いに、思わず気を取られそちらを見る。太陽の光を浴び、キラキラと飛沫を飛ばし虹を描く光景は綺麗ではあったが、本当にそれどころではないのが実情だった。

 

「……くっそぅ。好き勝手やりやがって……」

《怒涛の如く噴き出す水!!ってわわっ!こっちに来たぁ!!》

《…インフラストラクチャーが………直したばっかなのに……》

 

 三者三様の感想を上等兵が一刀両断し、指示を飛ばす。

 

《今は敵に集中して下さい。手隙の作業員は、ダメージコントロール班と共に破壊されたパイプの断水、急いで下さい!》

 

 一瞬気を取られた中尉はかぶりを振り、口に飴を放り込み後改めてスクリーン、コンソールに目を通し、操縦桿を握り直した。

 集中しろ……。全く……鈍ったな。

 

敵機撃破(ワン・ダウン)。軍曹、前に出るぞ!敵長距離砲が最優先目標だ!」

 

 展開されていた狙撃スコープを収納し、機体のモードを変更する。これから待ち受けるのは、MSをはじめとする多数の兵器が入り乱れるだろう乱戦だ。設定の抜け、一瞬の油断、あらゆる事柄が即死に繋がる。ならば、準備をする以外に今出来る事はない。

 

 出来る事は全部やったを後は、祈るだけ。ジルバを上手く踊れるかどうかは、踊り始めるその一瞬まで誰もわからない。

 

《こちらブレイヴ02、了解……ブレイヴ01に追従する……》

《こちらCP。"ロクイチ"(アーチャー)隊、"モルフォ"隊へ。ポイントブラボー84のC2へ向かい、敵機の機能停止を確認して下さい。機能停止が確認出来なかった場合、交戦、破壊を許可します》

 

 定期的に撃ち込まれる敵の射撃は続いている。人的被害は今だゼロだが、基地への被害はドンドン増えている。早く止めないと勝つ意味すらなくなる。

 

《こちらCP。敵長距離砲の位置を特定に成功!………移動しつつ射撃出来る兵器の様です、ご注意を。座標は…ポイントフォックストロット63》

「こちらブレイヴ01了解。感謝します」

 

 爆風で横転し、損傷したのかどこかぎこちない動作で立ち上がる途中のA4を視界の隅で捉える。

 中尉はまだ膝をついたままのA4に対し"100mmマシンガン"を容赦無く叩き込む。装甲に流体ポリマー、ケーブルや火花を撒き散らし、煙を噴きながら沈黙したのを確認後、Bコンテナからリロードされた新しい一丁を受け取る。

 

 上等兵からの通信は朗報だ。そして、これは反撃の狼煙だ。奴らには、こちらに喧嘩を売った借りを返し、きっちり分からせてやる必要がある。

 

「軍曹、さっきの射撃、見事だった。あの横からの攻撃は?」

《ワイヤートラップだ……そして、固定した"100mmマシンガン"を…作動させた……装備を交換する。25秒後、進軍可能だ……》

「15秒で頼む。時間が惜しい」

《了解……》

 

 成る程、スナイパーが良く使う手だ。それを、ミノフスキー粒子を考慮に入れて有線式にしたのか。

 

 偽装網を脱ぎ捨てつつ立ち上がり、その後ろに軍曹の"陸戦型GM"がつく。同じくマント翻し、相並ぶ2機はまるで兄弟の様に見える事だろう。

 

『ソナーに感あり 11時方向 正体不明機(アンノウン) データベースに該当無し 注意を』

 

「…?」

 

 膝をつき受け取った"100mmマシンガン"とFCSがリンクを開始するが、エラーと表示される。おかしいと思い再接続を試みるが、結果は同じだった。

 ちっ、不具合か?こんな時に……。

 

「……くそっ!少尉!コイツ使えねぇ!!」

《どうした!!………砲身寿命か!………すまない小隊長。もう予備は……》

 

 中尉は改めてモニター上に写るそれを見つめる。なるほど、その"100mmマシンガン"は、既に撃てる状況ではなかった。規定である3000発をゆうに越えた射撃数に砲身寿命が尽き、焼け爛れたマズルは歪な形へと変形していた。リロードが完了したものを再度受け取るが、こちらも殆ど限界が来ていた。耐えて残り数発撃てるかどうか……。

 

「いや、いい……お前はベストを尽くした。その結果だからな…」

《いやっ!しかs…》

 

 中尉は通信を切り、軍曹に繋ぎ直す。

 反省をしようと、過去を嘆こうとも、()、この状況は決して変わらない。なら、これは今言う事でも無い。こんなつまらない事で士気を下げられたりしても困る。過去は変わらない。だが未来は分からない。明日はまだなんの失敗もしていない。評価はあの世で気にしよう。今を実感するものだけが勝つ。

 

「…軍曹。軍曹の"100mmマシンガン"は後どれくらいだ?」

《ワンクリップが、限界だ……》

「そうか…時間稼ぎすら……クソぅ、どうする、どうすれは……」

《こ、これは…まさか…?》

 

 顔を歪ませ思考する中尉の元へ、上等兵からの通信が入る。その時、中尉の直感が何かを告げた。

 

「まさか、何です……?」

《ね、ねぇ少尉……。わたし、前みたいな、嫌な予感が……》

《考えたくはないが……このような場合、案外、"最悪のパターン"というものが、起こったりするものだ………!

気をつけろ、中尉………!》

 

 人間の直感は精密ではないが、正確ではある。滅多に故障しないものなのだから。

 

 中尉は無意識の内に力み、操縦桿を握りしめていた。

 その手が滑る。グローブが汗で滑り、全身からは嫌な汗が吹き出していた。機体の所為では無い。"ジムヘッド"はコクピット内を適性な環境をキープしている。

 問題があるとすれば、それは中尉の方だ。

 

 嫌な予感はあった。そして、この様な時の予感は往々にしてあたるのも知ってる。

 

 一瞬、風が止み、静寂が訪れた。心を落ち着かせてくれた波の音も静まり、楽しげに揺れていたヤシの木もそのなりを潜め、まるで不吉な何かを恐れている様だった。

 

《! やはり!……緊急通信(PAN)緊急通信(PAN)!!緊急通信(PAN)!!!コードU、ユニフォーム!!敵長距離砲は、陸上戦艦の模様、ご注意を!直掩も3機…圧倒的不利ですが……》

「やるしかない!!行くぞ!軍曹!」

《…いや、向こうから来た様だ……かなりの速度だな……》

 

 風が、突風が吹き荒れ始める。機体に装着されたマントが大きく翻り、バタバタと風にはためく。空には分厚い雲が出て来て、太陽光線を遮り始めた。

 

「…………」

《…………》

《…………》

《…………》

 

 翳り始め、あっという間に雲が空を覆い尽くした。やや薄暗くなった曇天の下、ゴロゴロという不穏な音と共に、稲光が煌めく。

 ポツリポツリと降り出し、装甲を叩いていた雨が土砂降りとなり、メインカメラを曇らせ視界を悪くする。

 

 そんな光景の先、一際大きな光が、巨大なシルエットを映し出した。

 

 嵐が、来る。

 

 林の向こう、この嵐をも跳ね返し、濛々と立つ泥の飛沫がこちらへ向かってくる。

 

 こりゃ、覚悟決めにゃ、な………。

 

 と言うより、俺たちにはもう武器がほぼ無い。陸上戦艦と言うぐらいなら、かなりの装甲だろう。艦橋を潰そうと、サブブリッジは……。

 

 なら、最悪、MSを自爆させるしかない。先程の様な爆発を起こせば、いくら陸上戦艦と言えどタダではすまない筈だ。貴重なMSを失うのは痛いが……。

 

 セレクターを変更、"レ"に合わせる。

 きっと、これを撃ち切る前にこの銃身はダメになるだろう。もうそれぐらいの瀬戸際だった。

 

 中尉が汗で滑るグローブを投げ捨て、額の汗を拭い操縦桿を握り直し、臨戦態勢を整える。

 

 それと同時に"ジムヘッド"のグレイズシールドがリセットされ、嵐の中、蒼白い光を放ち、揺れる。

 

 それは、まるで死へと誘う鬼火(ウィル・オー・ウィスプ)の様だった。

 

 その眼窩に地獄の鬼火を灯した"ジムヘッド"が、夕爆雨の中立ち上がる。

 

 敵のレーダー波照射を感知した"ジムヘッド"コクピット内に警戒音が鳴り響く。

 

 それを聞いた中尉の覚悟は、もう決まっていた。

 

 

 

『命を捨てるか…それも選択の一つだ』

 

 

 

雨は、止む気配を見せず…………………………

 




韓国が韓国ってますが、そのお隣の中国では最近香港が大騒ぎですね。その中国は歩行戦車つくるっていってましたね(笑)。見た目ダサいデザートガンナーみたいでしたが………ところで、陸自へのシンク配備はまだですか?レイバーでも可。

パトレイバーも映画化し、オールユーニーズイズキルも映画化し、そんなこんなで話題の多脚兵器や機械化歩兵ですが、現実ではまだ厳しいかなぁ。しかし、小さなリチウムイオンバッテリーかなんかの開発もありましたし、それがブレイクスルーになれば……………

………えっ?MSとかつくるなら、その技術で戦車つくれ?そもそも日本に戦車は要らない?飛行機作れ?ステルスが最強?

何をおっしゃいますうさぎさん。今回述べたように、要らなかったら配備なんかしませんし、長所を活かした適材適所です。いずれ、MSもそれに変わる何かに代替される時代が来るでしょう。時代は移るものです。

今はバカにしてるかも知れませんけど、ケータイとかの進化も誰もが想像しませんでした。航宙自衛隊の予算も入った今、まさに10年後は、定かではない、ですよ?

個人的には、カーボンナノチューブの開発が進み、起動エレベーターやCNTで、サイボーグ、ASなどもすぐそこかも、なんて。

ま、時代がいくら移ろうとも、自分とそのまわりは劇的変化なんてしないでしょうし、のんびり行きましょう。テンポ良く、ね。


次回 第六十二章 サジタリウスの矢

《隊長!通信が!隊長!!》

ブレイヴ01、エンゲージ!!


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第六十二章 サジタリウスの矢

遂にボルネオ激闘編、クライマックスです!!

いやー、長かった。

最近ガンダムがユニコーン、ビルドファイターズトライ、レコンキスタと盛り上がっているので、もっと広まればいいですねぇ。

それはともかく!!中尉は、生き延びることが出来るか?


走る。足があるから。

 

見る。目があるから。

 

叫ぶ。喉があるから。

 

聞く。耳があるから。

 

戦う。生きているから。

 

生きて、いるから。

 

 

 

U.C. 0079 9.2

 

 

 

 突風が吹き荒び、林を揺さぶる。

 

 風が渦を巻き、泥と木の葉を巻き込みながら空へと上がっていく。

 

 土砂降りの雨は大地を叩き、削り、小さな土石流となって足元を流れて行く。

 

 暗く湿り、濁った空気の中、"ジムヘッド"のセンサーが鈍い光を放ち揺れる。

 

「…軍曹、聞こえているか?」

 

 コンソールを叩きスクリーンの映像方式を変更しつつ、中尉がモニターから目を逸らさず言う。

 あらゆるセンサー・レーダー能力が低下した今、この土砂降りの中でありながら目視での索敵だけが頼り、という最悪なコンディションだ。

 

 そのため中尉は、モードを変更し、カメラだけでなく各種センサーを併用した3D画像から、カメラのみのリアル画像をスクリーンに投影する事で、少しでも変調を見つけ、先制攻撃を仕掛けようと考えていたのだ。

 

《こちらブレイヴ02。感度良好…何だ……?》

 

 軍曹機の"陸戦型GM"は中尉機に寄り添い、油断無く周囲を伺っている。武装は限界が近い"100mmマシンガン"とシールド、それに一本の"ビームサーベル"。それだけだ。

 

 しかし、それは中尉の"ジムヘッド"も似たり寄ったりである。粒子収束フィルターの摩耗から"ビームサーベル"も各機一本ずつしか装備していない。

 バズーカと冠する様な武器も全弾弾切れだ。その有様たるや、ただ一個のグレネードすらないのだ。

 

 まだ関節部アクチュエーター、フレーム、電装系を初めとする内装にはガタは来てはいないものの、それもニコイチの結果だ。予備パーツはもうない。

 

 つまり、現在"ブレイヴ・ストライクス"は満足に戦う力が殆ど残されていないに等しい。敵戦力は未だ全容を把握出来ておらず不明であり、こちらのアドバンテージであった高度な電子戦能力も殆どが沈黙している。

 

 厳しい。あまりにも厳しすぎる。

 

「こちらの戦力はあまりにも少ない。戦闘が長引くとどんどん不利になる。

………短期決戦を狙い、スラスタージャンプを併用した高速戦闘を展開するぞ」

 

 視界は悪い。グレイズ・シールドの外周の高圧洗浄ノズルが作動し、シールド一体型の高周波ワイパーも全力で稼働中である。それでもなおこの暴風雨は雨を叩きつけてくる。

 仕方なく中尉はセンサー類を再起動させる。この高いミノフスキー粒子下では、どれほどの役に立つかもわからないが……。

 

《それしかない、か………》

「そうだろう……?よし、このまま全速力で前進、25秒後、約8秒のスラスター噴射を行いかえる跳びだ。そして一気に強襲、殲滅する」

《ブレイヴ02了解……往こう、中尉……》

 

 本当に、今出来るのはこれだけだった。基地の迎撃設備は沈黙している上、仮に起動していようとMS相手には荷が重い。十分な武装も無く待ち伏せも不可能とあらば、この特攻に近い突撃しかない。

 

《CPより各機へ!12時方向より識別不可の敵機が2機接近中。その後方にもう1機が追従している模様です!》

「こちらブレイヴ01了解。聞いたなブレイヴ02。敵さんから仕掛けて来た。プランに変更無し、だ」

 

 上等兵の声を無線越しに聞き、中尉は操縦桿を強く握る。少数を活かすならば、その持ち前の機動力を活かした撹乱が鍵となるだろう。

 

《こちらブレイヴ02。了解……》

「…ブレイヴ01よりCPへ。"アサカ"との連絡が着き次第、こちらへ回してください」

《こちらCP。了解、です。絶望的ですが、呼びかけは続けます》

 

……………軍曹も分かっているだろうが、正直ムリだ。お互いに言い出しこそしなかったが、全滅を覚悟していた。

 

 右腕部と背面部に装備していたシールドをパージし、中尉機が身軽になる。

 格闘兵装としての機能が持たせてあるこのシールドは、最悪投げつける事で攻撃手段にする予定であったが、それこそ敵に近づかなければ意味を為さない。そのためにはデッドウェイトを捨て身軽になる必要がある。この矛盾を解消するため、苦渋の選択の後の決断からだった。

 

 コクピット内で中尉が深呼吸し、呼吸を落ち着かせる。心臓は先程から早鐘の様に打っているが、不思議と頭は冴え渡り、冷静だった。

 

「突撃!!」

 

 中尉が機体を操作し、"ジムヘッド"が泥を蹴り立て疾走する。

 ミノフスキー粒子が更に濃くなり、それに加え丘の稜線を越えた。もうCP、軍曹としか通信は繋がらない。

 

《ブレイヴ02。エンゲージ……!》

 

 大嵐の中、マントをなびかせ乱数機動を行いつつ突進して行く。

 激しく揺れる機体の中、中尉は小刻みにフットバーを蹴っ飛ばし、ジグザグに、だが確実にその距離を詰める。軍曹もそれに続き、尚且つ射撃を行い注意を引きつけている。

 

敵レーダー波 照準(エイミング・レーダースパイク)回避を推奨』

 

「ちっ!」

 

 火線が土砂降りの暗闇を引き裂き殺到する。それを最低限回避し、バイタルパートへと飛び込んで来た弾丸のみシールドで受け止める。

 

『シールドに被弾 至急回避行動を』

 

「スラスター噴射でかえる跳びする!!ブレイヴ02!俺の三秒後にスラスターダッシュだ!!」

《ブレイヴ02了解……》

 

 インカムに怒鳴りつつフルスロットルでフットペダルを思い切り踏み込む。周囲の雨風を吹き飛ばしスラスターが作動、蒼いスラスター炎を引きつつ機体を宙へと推し出す。

 

「んぐっ………ぐ……」

《こちら"バンジャルマシン・ベース"CP!"アサカ"へ!聞こえますか!!》

 

 機体と操縦者に莫大なGを掛けながら"ジムヘッド"が宙へと舞い上がり、奇妙な浮遊感と共に最頂点に達する。

 

 眼下では軍曹もスラスター噴射により突進しつつ"100mmマシンガン"を撃っている。撃ち出された曳光弾が闇を切り開き、光の尾を引いて行く。

 

「……見えた!!ブレイヴ01!エンゲージ!!」

 

 "ジムヘッド"のメインセンサーが、林に紛れ、青い装甲を光らせる機体を捉える。"グフ"だ。

 

「喰らえ!!」

 

 スラスターと手足を使い空中で姿勢制御を行う。暴れる大気を機体いっぱいに受け、轟々と風が吼える。

 

 そのまま自由落下に移り始めた機体をそのままに、"100mmマシンガン"を撃ちつつ落下して行く。

 眼下の"グフ"もこちらを補足し、左腕を振り上げ機関砲をばら撒く。暗く濁った視界に、赤ともオレンジとも取れる火線が怒涛の如く殺到する。盾が激しい音と火花を撒き散らし、その陰で中尉も負けじと撃ち返す。

 

「!?」

 

 "100mmマシンガン"が突然散弾を吐き出し、続いて数発の曳光弾を撃ち、また散弾を撃ったかと思うと沈黙する。

 

──おい!弾無いからって適当入れやがって!!

 

「ふんっ!!」

《こちらCP!ブレイヴ02!危険です!退避を!!》

 

 完全に故障した"100mmマシンガン"を下手で投げつける。眼下では抜刀した"グフ"がそれを切り払う。その隙にスラスターを噴かし着地、兵装から"ビームサーベル"を選択する。

 

『接近警報 "グフ"と識別 注意を』

 

 着地の衝撃で激しく揺れるコクピットに警戒音が鳴り響く。

 投げつけた"100mmマシンガン"は十分とは言えないが隙を作り出してくれた。それを無駄にするわけにはいかない。

 

 中尉が睨みつける中、メインスクリーンには"グフ"が"ヒートホーク"を振りかざし突進して来るのが画面いっぱいに映し出されている。

 

『"ビームサーベル" レディ』

 

 シールドを掲げ、身を落とす。ふくらはぎ部の装甲が展開、雨風にも負けず火花を撒き散らしレールが伸び、"ビームサーベル"が右手へと叩き込まれる。

 

「ちっ……!」

《ブレイヴ02より、ブレイヴ01…距離を、置け……》

「そのために………!?」

 

 牽制のために引き金を引いたが、弾丸は出ずシステムエラーが……。

 

《隊長!!》

 

 そういやこいつ、頭部機関砲ついてねぇ!!兵装コントロールパネルから消すの忘れてた!!だからエラーか!!

 

「マズっ!?」

 

 ワンテンポ遅れた対応を、敵が見逃す筈が無かった。

 

『アラート 敵機左腕部に駆動音 至急回避行動を』

 

 土砂降りの中、激しく水蒸気を出し振り下ろされる"ヒートホーク"をシールドで何とか打ち払うも、こちらへ指向された"グフ"の左腕部内臓式機関砲が唸りを上げた。

 

「がはっ!!」

 

 至近距離の機関砲弾に機体が揺さぶられ、中尉はシートに叩きつけられる。何かが割れる音と共に火花が飛び散り、モニターが激しく明滅する。

 

『機体損傷 バイタルパートに被弾 戦闘継続は困難 至急離脱を』

 

 身体の至る所が悲鳴を上げる。焼けた鉄を押し付けられた様な痛みに、中尉は歯を食いしばり必死で耐える。右の視界が真っ赤だ。衝撃で切ったのかもしれない。

 

「ぐくっ!!…くっ!」

《ブレイヴ01……!》

 

 激しい衝撃の中必死で機体を操作、後ろへ下がる。割れた画面をサブモニターで代用させつつ、損害状況を確認する。

 ダメージリポートでは胸部がイエロー……右腕部が…オレンジ!!"ビームサーベル"が使用不可能!?

 

『警報 至急回避を』

 

 顔を歪め痛みに耐える中尉が、ヒビ割れたスクリーンの端に見たものは、肘から先を無残にも引き裂かれ、オイルやケーブルをダラリと垂らす鉄屑だった。

 暗くなりゆくモザイクがかかった様な視界に、激しくスパークする青白い火花が眩しく明滅し、リヒテンベルグ図形を描く幾何学的な残像の尾を脳裏へと焼き付ける。セントエルモの灯の様なそれは、中尉の忘れかけていた記憶を揺さぶり、明確な『死』を覚悟させるに十分過ぎる深い絶望、そのものだった。

 

──これは………。

 

《隊長!通信が!隊長!!》

「宅急便とだけ!!伝えてください!!」

 

 それだけ叫ぶのが精一杯だった。身体が強張り、画面に目が釘付けになる。

 眼前の大嵐の中、眼前で"グフ"がヒートホーク"を再度振り上げる。態勢を崩した今、"ジムヘッド"にこの攻撃を回避、防御する術は無い。

 

 スラスターを噴かそうにも間に合いそうにない。そもそも先程フルで噴射したばかりだ。これ以上は負荷をかけられない。

 

…………八方塞がり。万事、休す。

 

 光が届かず薄暗い闇の中、"ヒートホーク"の放つ荒々しいオレンジが、中尉の目に焼き付いた。

 

──終わり、か………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だいじょうぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《タクミ!!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………光……………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇を斬り裂き、一筋の光刃がスパークを散らし"グフ"の背部へと突き刺さる。

 

 それは、『生』を諦めかけた中尉に、希望を与え、意思を持たせるには十分すぎるものだった。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉおおっっ!!!」

 

 もう無我夢中だ。本能、と言ってもよかった。中尉が叫びながら機体を操作し、態勢を崩した"グフ"に向かって、"ジムヘッド"が左腕部を大きく振ると同時に装着されたシールドをパージ、反動をつけ体当たりする。

 

「らぁぁぁあっ!!」

 

 その勢いで突き刺さったままの"ビームサーベル"を掴み、思い切り振り抜く。

 

『データ解析 X.B.Sa-G-03 "ビームサーベル"と識別 リンク成功 レディ』

 

 光が一層強い輝きを放つ。金属を溶断する凄まじい音と共に"グフ"が真っ二つに斬り裂かれ、燐光を撒き散らしぬかるんだ大地へと倒れ伏し沈み込む。

 

「軍曹!!」

《軍曹は交戦中です!!隊長!!早く援護を!!》

 

 "100mmマシンガン"も、"ビームサーベル"も………軍曹は唯一の武器を俺の為に手放した!

 

 これじゃ………!!

 

 バランスを崩した機体を何とか操作し、ふらつきながら軍曹の元へ向かうも、これじゃ間に合わない。

 

 俺は1対1だったが、その分軍曹は必然的に1対2だ!!

 

 画面が割れ、乱れたメインスクリーンの中で、丸腰となった"陸戦型GM"へと2機の"グフ"が躍り掛かる。

 

「軍曹ぉー!」

《ファーロングさん!!》

 

 叫ぶ。それと同時に軍服に血が垂れ、飛び散る。それさえも気にならない。今は、時間が惜しい!!

 

 機体を疾走らせる。モニターが示した距離は250m。

 これじゃ……これじゃ!!

 

《………》

 

 装備を手放した軍曹機に対し、それを勝機と取った正面の"グフ"が斬りかかる。それを無言の内に右脚を軸に回転し回避、その反動を利用し、後方から接近して来た"グフ"の胴体へとシールドの先端が叩き込まれた。

 

《ブレイヴ01……安心しろ……》

 

 一瞬でコクピットを潰された"グフ"が痙攣した様に身悶えし、その戦闘能力を喪失する。その機体を蹴り飛ばし、シールドをパージ、"陸戦型GM"がもう一機の"グフ"と向き直る。

 

 "グフ"は避けられた一段目をそのままに、再度踏み込む様に攻撃を繰り出す。軍曹はそれを半身をずらす事で躱し、振り下ろされた"グフ"の右腕を左腕で掴み、右腕の掌底突きを関節の横から喰らわせる。

 

 たったそれだけで、軍曹の"陸戦型GM"は、まるで当たり前の様に"グフ"の右腕を千切り取った。

 それはまるで、MSによるサブミッションだ。実際そうであるのだろうが……。

 

「え………」

 

 しかし、それは中尉の理解の範疇を軽く越えていた。

 

 そんな中尉を他所に、戦闘は進んでいく。

 右腕を肘から破壊され、よろけながら下がる"グフ"へと、軍曹の"陸戦型GM"が踏み込み、ボディーブローをする様に右腕を突き出した。

 

 耳をつんざく様なけたたましい金属のへしゃげる音が鳴り響く。"グフ"の腹部へと突っ込まれた右腕は胴体を貫通、バックパックを貫き背面から顔を覗かせていた。

 

《問題無い………》

「………………」

 

 そのまま右腕を引き抜き、"陸戦型GM"が何事も無かったのかの様にこちらを向いた。後ろでスローモーションの様に倒れ伏す"グフ"など御構い無しにだ。しかしその指先にはオイルや流体ポリマーに混じり、赤いペースト状の何かが滴り落ちていた。

 

 故障を確認するためか、軍曹が何度かマニピュレーター作動させるが、全て滑らかに動いている。どうやら故障すら無い様だ。

 

《よかった……無事か、中尉……》

「……あ、ぁあ……」

 

……………それはこっちのセリフだ。今のは、まさか抜き手か?

 

 MSは人間並みの駆動範囲を持つ。言わば肉体のさらなる延長に過ぎないものである。そのため動きをトレースする事で確かに武術も行える。実際中尉もかなりやってはいるが……これは………。

 

 胸部と右腕部を中心に、無惨にも機体全体に激しい銃撃の後を残す中尉の"ジムヘッド"の隣に、無傷の装甲を雨に晒す軍曹の"陸戦型GM"が並ぶ。ボロを纏った幽鬼の様な"ジムヘッド"に、軍曹が自分のマントを取り外しかける。

 

《ご無事で!!隊長!!それに軍曹も…良かった…本当に良かった…》

「上等兵……ご迷惑を……こちらは無事です」

 

 上ずった声での通信が入る。思い出したかの様に痛み始めた傷口と、頭をさすり顔をしかめつつ何とか答える。シート脇の緊急医療セットを開き、鈍い痛みと共に額から垂れる血を拭き、手早く止血する。やや赤が混じるもクリアになった視界に、幸いにも目は傷つけられなかった様だと安堵する。他の切り傷は対したことは無い。頭だから少し深めに切れて血の量が多くなったのだろう。

 

《ブレイヴ02より、CPへ……陸上戦艦の、位置は……?》

《! 現在ポイントチャーリー35で、…!?MSを展開した模様です!!》

「!! 軍曹!!少しでもいい!!陽動を頼めるか!!」

 

 安堵ですっかり頭から抜け落ちていた事に顔を赤くしつつ、中尉はコンソールにパネルを叩きコマンドを実行に移した。"ジムヘッド"の右腕は肩部を残し爆砕ボルトにより切り離され、地面に転がった。デッドウェイトを無くすための、中尉の判断だった。

 それにより偏った機体バランスをバランサーの調整、機体各部の駆動系の出力を変更する事で再調整する。

 

「…………よし」

 

 何とかバランスを取り戻した機体を操作、"ジムヘッド"が敵陸上戦艦がいる方向へと向き直る。

 

《ブレイヴ02より、ブレイヴ01へ。…………問題無い……》

「頼んだぞ!!」

《隊長!どうするおつもりですか!?もう武器は!?それに…!》

 

 上等兵が一度言葉を切り、一拍置いた後、噛みしめるようにそのまま続ける。声のトーンが前後で明らかに変わった。

………これは、勝ちフラグ、だな。

 

《…これは、成る程、了解しました》

 

 上等兵も理解した様だ。データ通信が強化され、リンクも確保される。

 

 "ジムヘッド"と"陸戦型GM"が散開し、視界の隅で軍曹は落ちた"ヒートホーク"を拾い、そのまま林の奥へと消えていく。

 

《現在、SLCMは慣性誘導中。推定到着時間(ETA)まであと25秒。終末(ターミナル)誘導をブレイヴ01に委ねます》

「ブレイヴ01了解!ホールインワンを決めてやります!!」

 

 データリンクの完了と同時に、サブディスプレイの一つ、兵装データの一角に新たな表示が現れる。

 グリーンに近い青で潜水艦発射巡航ミサイル(SLCM)と表示されたそれは、中尉の、いや、"ブレイヴ・ストライクス"隊及びこの"バンジャルマシン・ベース"守備隊、引いては付近一帯の地球連邦軍兵士全員の希望の光だった。

 

『警告 CPからのコード確認 SLCM01から05のターミナル誘導引き継ぎ完了 着弾までおよそ18秒』

 

 中尉の機体が林に隠れつつ移動、ついに敵陸上戦艦を視界に捉える。

 

 それはバブルキャノピーの高いブリッジに、前面には2連装機関砲、さらに左右に突き出るような外装ポッド式のジェットエンジンを備えていた。基地に砲撃を加えていたのは機体背部にへばりつくように装備された大型の2連装砲だろう。その陸上戦艦の後ろには巨大なドーム型のタンクらしき物が連なっている。陸上戦艦と言うにはやや小型か?想定していたものより案外小さいものだった。

 

 最新鋭の虎の子兵器が3機撃破されたからか、かなり警戒している様だ。随伴に"グフ"2機と4輌の"マゼラ・アタック"を引き連れ、速度を落として付近一帯を警戒しつつ移動している。

 

 先頭の一機が地雷を踏み抜き、その爆風をもろに受けよろける。そこへ"ヒートホーク"が投擲され、"グフ"の右腕を引き千切った。

 

 停止した陸上戦艦は随伴する2機の"グフ"、"マゼラ・アタック"と共に、軍曹が潜伏している辺りへと前方に搭載された2連装機関砲により砲火を加えている。もちろんといってはおかしいが、姿を見せない軍曹機へは擦りすらしていないが。

 

 中尉がコンソールを叩き、SLCM弾頭を活性化する。それに伴い兵装データの落ち着いた青文字で表示されていた『SAFE』が、一瞬で激しく燃え上がる様な赤い攻撃色の『ARM』へと切り替わった。

 

『SLCM レディ』

 

 弾頭が活性化される。空の彼方から迫り来る巡航ミサイルのスマート弾頭が、その軛を断ち切られ、牙を剥いたのだ。

 

《隊長。SLCMと同時に送られてきたメッセージがあります。読み上げますか?》

 

 機体周囲の木がざわざわと騒ぎ始める。ビリビリと周囲の大気が震えだし、頭上から雷の音すら霞ませる様な低く激しいジェットの轟音が接近してくる。

 

『SLCM01および05 着弾まで後10秒』

 

 南の空、雷鳴轟き渦巻く波の谷間を、光に一瞬照らし出された筒状の何かが、超低空飛行(シースキミング)でこちらへと物凄い速度で迫ってくるのが垣間見えた。

 

「お願いします」

 

 中尉が操縦桿に装着されたボタンを押し、設定を変更、トリガーを引く。

 

『8 7』

 

 中尉の"ジムヘッド"の頭部から終末(ターミナル)誘導のレーザーが照射され、攻撃を続ける1隻と2機へと伸びる。

 高出力のレーザーが、小さくとも、この嵐の中でも強く輝く真っ赤な光点を灯した。

 

 中尉機の背面カメラが、海から波を割り現れた"矢"を本格的に捉えた。

 その放たれた"矢"は急上昇し、雲の中へと吸い込まれて行く。

 

『5 4』

 

 "矢"が昇る。上へ、上へと。雲を掻き分け、空を貫き、両手を広げ空気を震わす轟音で吼えながら。

 

《読み上げます。『良くやってくれた。明日の朝食のパンとホットケーキは、我々の奢りだ』です》

「………ふふっ、あーっはっはっはっはっ!!」

 

 中尉が耐えきれず吹き出し、大声で笑い声を上げる。

 天を仰ぎ、目元に涙を滲ませ大笑いする中尉の目の前では、メインスクリーンがロックオンカーソルとカウントを鮮やかに浮かび上がらせ、その表示を躍らせる。

 

《…ふふふ》

《ふっ…………》

 

 それにつられ、上等兵が含み笑いを漏らし、軍曹は軽く鼻を鳴らした。

 肩を震わせ、しゃくりあげながら思う。彼らは本物の潜水艦乗り達だと。

 

 『ユーモアを解せざる者は海軍士官の資格なし』。俺も彼らの行動に恥じぬ戦果を残さねばな。帝国海軍の士官だった先祖に顔向け出来ん。陸軍もいたけど。

 

 中尉が目元を拭い、コンソールを叩きメインセンサーを防眩モードへと切り替える。それに反応しグレイズ・シールドが鈍く輝くが、"グフ"のパイロットはそれに気づいたのだろうか。

 

『2 1』

 

 遙か彼方の上空をなぞり、5発の巡行ミサイルが轟音と共に飛来する。

 

 次の瞬間、音速を越えた"サジタリウスの矢"が怒涛の如く振り注ぎ、炎の槍となって敵に襲いかかった。

 

 

着弾(インパクト)

 

 

 

閃光。

 

 

 

 

爆炎。

 

 

 

 

爆轟。

 

 

 

 

 中尉の眼前で煉獄の灼熱が花開いた。鉄の嵐が吹き荒び、木を薙ぎ倒し熱風が地面を舐め尽くして行く。 

 爆音が轟き天地を揺らし、渦巻く火焔を帯びた竜巻が風を、雨を消し飛ばす。

 

 破片という破片が焼け、捻れ、砕け舞い散り、四散する。

 くの字に曲がり、折れ飛んだ砲身が回転し、一筋の光が差し込んだ空へと向かい奇妙なアーチを描く。

 

『衝撃波到達 対ショック態勢を』

 

 機体を揺さぶる衝撃波に紛れ、大小様々な破片が装甲を叩く。シールドの表面が融解し、マントは断末魔を上げ引き千切られて行く。

 

 それでも、中尉は目を離さなかった。

 

 そして、その口元は緩んだままだった。

 

「…………──目標に命中(ブルズアイ)。目標の消滅を確認。これより帰投する」

 

 宙を舞っていた砲身が地面に叩きつけられた音を最後に、まるで何事もなかったのかの様な静寂が訪れる。

 

CMPL(コンプリートミッション) RTB』

 

 いつの間にかあれほど土砂降りだった雨は止み、静寂に混じりパラパラと破片が降り注ぐ小さな音のみが響く。

 厚い雲がゆっくり動き始める中、ゆっくりとした動作でようやく爆心地から目を離した中尉は、そのまま空を見上げた。風が流れ、掻き回される雲、その雲の切れ間から差す光芒を、いつまでも見上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 雲が割れ、太陽が、どこまでも広がる青空が顔を覗かせる。

 

 雨は上がり、風は止み、自然は穏やかな微笑みを浮かべる。

 

《こちらCP。隊長。信号確認しました。旗艦"アサカ"率いる聯合艦隊です》

 

 晴れ渡った空へ、まるで祝福されるかの様に大きな虹がかかる。

 

 その下を、軍曹の"陸戦型GM"に支えられ、ゆっくりと歩む"ジムヘッド"が陽光にキラキラと水滴を光らせ、ボロボロの肢体を晒す。

 

「…………軍曹…」

 

 中尉がゆっくりと口を開く。

 

《……なんだ……?》

 

 機体の操作は止めず、軍曹が応える。その目の前には、持ち場を放り出し、伍長を先頭にこちらへとかけてくる"ブレイヴ・ストライクス"のメンバーが居た。"ジムヘッド"のセンサーは、管制塔から身を乗り出し手を振る上等兵も捉えていた。

 

「行こう。皆が待ってる」

《…あぁ……》

 

 集まった全員が立ち止まり大声を張り上げ大きく手を振る。

 

「《おかえりなさい!!》」

「《…ただいま……》」

 

 遙か水平線の上には、海を割り海水を押し退け、激しい水飛沫を巻き上げた"アサカ"が津波と共にその巨体を晒し、こちらへと向かって来ていた。

 

 

 

 

 

 

『ここが、俺の虹の足なんだな…』

 

 

 

雨が無ければ、虹は出ない…………………………

 

 

 

 

 

 

 

 




出てきた陸上戦艦、あれは陸戦艇とも呼べるギャロップです。機動力を重視しているため、じつは装甲は薄かったりします(笑)。

今回はMSが歩兵の延長である、と言う自分のMS論丸出しの話でした。人の様に柔軟に対応する、戦場のスタンダードたる存在という事です。

後方からの火力支援要請はMSでも行うだろうと。思えばグレートキャニオン戦でも近い事やってましたねぇ。今回はミサイルでしたが。ジオニックフロントでもありましたねぇ。あれは火力陣地に近かったですが。
実はWPを使うという案もありました。グレネードは持っていないので却下になりましたが。

今回はそのため純粋な戦闘は少なめです。伍長にいたってはずっとお留守番ですし、中尉は機体を破壊しただけですし、軍曹無双です。そもそもMS同士の戦闘など、長くは続きません。塹壕や障害物越しに撃ち合うならともかく、真っ向からぶつかる戦闘は言うまでもありません。漫画、ギレン暗殺計画なら、平均3分と言われてましたしね?そのため、尺が持たず、倒すMSが増えてしまうのが残念です。確か2機落とせばエースなのに……。

ま、ともかくのんびりやっていきます。時折覗いて、更新や加筆修正があったら読んでいただければ幸いです。

次回 第六十三章 月月火水木金金

「はは……公務員ってた〜のしぃ〜なぁ〜」

ブレイヴ01、エンゲー、ジ?


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第六十三章 月月火水木金金

指摘されたとおり、かなり久しぶりになっちゃいました……。

データが飛んだり色々ありまして……。

気がついたら初投稿から一年。

今年も、そしてこれからも末長くTBSの皆さんをよろしくお願いします!!


空の青。

 

海の碧。

 

その境界面は、ただ(しろがね)

 

そこに吹く、風の色は何色なのだろうか?

 

宇宙(そら)の蒼。

 

光る宇宙の下、人はただ見上げ振り仰ぎ、手を伸ばす。

 

 

 

──U.C. 0079 9.3──

 

 

 

「──"ジャブロー"へ?」

 

 一○○○(ヒトマルマルマル)、戦闘詳報に、損害報告及び修理箇所のピックアップ含めた始末書を書き込んでいた電子ペーパーとペンを片手に、損傷した"陸戦型ガンダム"の前で唸りを上げつつ艦長と会話をしていた中尉は、その言葉を聞き怪訝な顔をして艦長へと向き直った。最近休んでいないため、聞き間違いかと思ったのだ。

 

「そうだ。状況を終了次第、という話でな…」

「終わり次第、ですか…」

 

 無意識のうちに電子ペーパーから目をあげ、虚空を見上げる中尉の肩を、艦長が軽く叩きつつ言う。

 

「まっ、所詮俺たちゃ組織のコマ、小役人だから、上の意向にへーこらして言うまま地の果てまで、ってやつよ」

「はは……公務員ってた〜のしぃ〜なぁ〜」

 

 大きく肩を竦める艦長に、苦笑いする中尉。そんな中尉の横を轟音と共にキャリアーが通り過ぎ、巻き上げられた風が軍服の裾を揺らす。その空気の中に微かに混じる、電磁モーターが発する独特の鉄臭さが口中に広がり、中尉は一度言葉を切った。

 

 先日まで繰り広げられた激しい戦闘の跡を色濃く残す"バンジャルマシン・ベース"。その巨大な格納庫(ハンガー)の一角、大小様々な機械群がひしめき合う空間に中尉は居た。

 人気がなく、潮の香りと誰に聞かれるともなく涼しげな音を立てる海と砂浜とはたった一枚の鉄板でしか遮られていないはずであるが、まるで隔絶された別世界の様に大勢の人間に多くの重機が唸りを上げ動き回る。それらが声を上げ動き回る喧騒と砂埃、重機には必要不可欠な機械油や洗浄液の匂いが充満する空間は、人に優しいものでは決してない。周りを見渡し無意識の内に肩を竦めた中尉は手を振り、外へ出ようと言う素振りを見せた。

 

──それにしてもとんだ話だ。理解出来ない。現在最も緊張が高まっているのはここ、東南アジア戦線であり、何故そこから最新鋭兵器を有する我が部隊を遠ざけ、テストの機会を奪う必要があるのか?

 

…………俺は政治には詳しくはない。興味もないし関わる気もない。しかし、いつの間にか巻き込まれていた、という事か?

……そういや、コーウェン准将曰く、連邦軍上層部には未だにMSの性能に対し懐疑的で、大艦巨砲主義を推進する者も少なくないとの事だが…。ま、噂だ噂。そうしておこう。おやっさん曰く、現場が思う以上に、上層部は派閥争いやなにやらでグッダグダらしいし……おーおー。嫌だ嫌だ。快適なオフィスでは、笑顔で腹の探り合いかよ。

 

──パワーゲームに足の引っ張り合いか?勘弁してくれ。"ジャブロー"にある大砲は何のためにあると思ってんだ。

 

………愚痴っても仕方がない。それに、話をするのにも、ここは取り敢えず相応しくないな。うん。

 

 顎に手を当て、ひとしきり考えた中尉は2人に手招きし、ハンガーの外へと出て、眩しいほどに照らす太陽の下埠頭を歩く。緩やかに吹き付ける海風が中尉の頭に巻かれた包帯を靡かせ、軽い音をたてながら吹き抜けていく。

 中尉の身体は、万全とはとても呼べるものではない。この前の戦闘での負傷は完治にはまだ程遠く、軍服の下も至る所が包帯でグルグル巻きである。重症こそ無かったのが唯一の幸いか……。

 あの時、戦闘服を赤へと染め上げた頭部の裂傷は、過去の古傷が開いたものであり、今は包帯の下、押さえつけられた髪に隠れている。帰還後、本格的な処置を施した軍曹曰く、治りかける毎に傷ついているためか皮が薄くなり、破れやすくなってしまっているとの事だった。

 

 しかし、そんな事は全く気にも止めず、さんさんと太陽に手をかざし、目を細めながら中尉は歩いていく。親から授かったせっかくの身体に傷痕をつけてしまうのは忍びなかったが、それだけだ。もともとおしゃれや外見に気を使う事も無かった中尉にはとっては、傷痕は勲章以外の何物でもない。出血しやすくなるのは困り物だが……。戦闘中の出血は視界を遮る上、血が減る事や流血と言う事実から冷静な判断能力をも奪い去ってしまう。それに、血のシミは落ち辛い。特に白地に付いたものは……。

 

「んっ!」

 

 中尉が足を止めたそこには、ちょっとした東屋の様な所があった。屋根だけの掘っ立て小屋に、簡素なベンチがあるだけのものだ。きっとジオン兵達が釣りの為にでも作ったのだろう。今は人気もなく、ドラム缶や鉄骨などの資材が置かれているが。

 

──釣りか、懐かしいな……。あの後、"ゴッグ"に殺されかけたっけ?お世話になった"ザクII"は、"ジャブロー"でまだ連邦軍の為に働いているのだろうか?ヒーリィ中尉に、カジマ少尉達をはじめとする訓練兵達、MS開発に携わっていたエイガー少尉は今は何をしているのだろうか……生きて、元気でいるのだろうか──………?

 

 押し寄せてきた感傷の波にさらわれ、されるがままに浸っていたが、かぶりを振って中尉は艦長達に席を勧めた。頼りなくぐらつくベンチを軋ませ、どっかりと座り込んだ艦長がおもむろに口を開き、たどたどしく話し始めた。

 

「あー…なんでも、試作MSのテスト、生産に本腰入れがなされ、新たな戦術の構築が始まっている今、本格的なMS運用の為に一度戻り、データ取りを行う、とかなんとか……」

「そうですか……それにしても…また急な話ですね……」

 

 波が防波堤に打ち寄せる音が響く中、艦長は頬を軽く掻き、額に軽く皺を寄せながら風と戯れるカモメ達を睨んでいる。こめかみに滴る一滴の汗が、何よりも雄大に事の経緯を中尉に訴えかけている様だった。

 

………………どうもあまり話を聞いていなかったと見える。そのままバツが悪そうに穏やかな音を奏でる海を眺め、つられた中尉もそちらへ視線を向ける。開戦から続く環境汚染でかなり濁ったそうだが、それを感じさせない揺蕩う渚の波打ち際の透明感は、強い陽射しの反射によりきらめき、誘うように揺れていた。

 

「補足すると、機体のオーバーホール及び改装、また参謀本部へのMSのお披露目も兼ねるそうだ。息抜き、とまでは言わんが、そう硬くならずともいいだろう」

 

 その隣で、目を逸らした艦長を小突き、副官の少佐が眼鏡を中指で押し上げながら補足する。進水からつい先程まで行われていた"アサカ"のあらゆるテストも終わり、現場指揮官として火器管制室や機関室などを回っていた副長は、最近ようやく発令所に戻ってきて本来の仕事に就き始めたらしい。口調こそややフランクだが、とても堅苦しい印象である。艦長と正反対だ。

 

「了解しました。出発は何時に?」

「──あ、いつだっけ?」

 

 それでいいのか艦長。

 中尉が唖然と口を開きかけた時、間髪入れず副長が詳しく教えてくれた。

 

「積荷は下ろした。ここでやる事はもう残ってはいないから、今日には出る……ったく、"アサカ"は病院船じゃあないんだぞ……….」

「──とんぼ返りか……サーフィンしたかったんだがなぁ…」

 

 頰に汗を垂らしたまま、またも誤魔化すように風に揺れる椰子の木を見てボソリと呟く艦長に、副長は気にも介さずゆっくりとであるが忙しなく動き働いているガントリークレーンを見上げる。今ちょうど、ハンガーがその巨大な鉄扉を腹の底から響く様な轟音と共に開放し、ガントリークレーンとその脇の"アサカ"へと地上駐機状態の"キング・ホーク"を引っ張り出しているところだった。

 

……と言うか副長、口の端からボソリと毒というか呪いと言うかが漏れ出しているが…。

 なんか、こう……個性的と言うかフリーダムと言うか……。

 

「艦長……」

「むっ、ノーコメントだ」

 

 中尉の言葉にすぐさま反応する艦長。しかしその言葉には意味が持たせられていなかった。あっけにとられつつ中尉は再度口を開いた。

 

「ノーコメントって……」

「1度、『ノーコメント』という言葉を使ってみたかったのでな?」

「…………まぁ、良かったです。ある程度の補給は受けられたとは言え、あの状況ですから……」

 

 ごまかす様に笑い、中尉はその場を濁しつつ、何か誤魔化す物はと視線を巡らせる。ふと手元の電子ペーパーと目を落とし、そのまま引き寄せられる様に開かれたハンガーの奥、ジャッキアップされたMSトレーラーに寄りかかるようにその身を預ける2機のMSを見上げながら中尉はボヤく。

 

………いや、寄りかかると言うのもおこがましい位ボロボロな2機は、損傷により塗装が剥げ、下地が露出した装甲のあちこちを錆びつかせ、さらには泥をこびりつかせたその無惨な姿を白日の下に晒していた。

 

──すまんな……いや、ありがとう。"ジーク"……。

 

 中尉は、目を細めるも決して逸らさず、それを見つめる。その視線に気づいているのかいないのか、艦長が口を開いた。

 

「うむ…まぁた派手にヤられたもんだなこりゃあ……何だ?スクラップか?」

 

 艦長が呆れ顔で呟くのもごもっともな話だ。特に機体の欠損箇所が多く、胴体と左腕部のみでクレーンに吊り下げられた伍長機を見て、艦長は溜息をついた。その隣の"陸戦型ガンダム"も頭部こそ新しい物が装着されているが、撃ち潰され抉られた右腕部は取り外されたままな上、巡航ミサイルの爆風の煽りを受けた脚部の損傷は激しく、自立は不可能だった。

 

 正直、酷い有様である。特に伍長機は車に轢かれた後の"人形遣い"見たくなっている。海の向こうのコーウェン准将とおやっさんには絶対に教えたくない。

 

「艦長、あれは我が軍の最新兵器だ。スクラップなのは艦長の目が……いや、頭じゃないだろうな?」

 

 副長が相好を崩し、右手の人差し指をこめかみに立てて回す。眼鏡が陽光を反射しキラリと輝き、とても知的っぽい。言ってる内容は酷いが。

 

………何かこの人もイメージと違うぞ………?──あー、中佐、お元気でしょうか……。大西洋は如何でしょうか……自分は太平洋で困ってます…………。

 

「判っとるわ!!」

「──っふ、ジョークだよ」

「……たはは………」

「中尉もジョークは即興でな?後に残すと禍根になるからな」

「は、はい…」

 

 艦長が怒鳴り声と共に振るった拳をひらりと躱し、副長は肩を竦め苦笑する。その光景に脂汗を垂らす中尉は、顔を引きつらせ喉をひくつかせ辛うじて返事する事しか出来ない。

 

「だいたいお前のジョークはつまらねぇんだよ!!」

 

 拳を振りかぶった動作の収め所を、無理やりに大げさな様子で両腕を広げ、嘆くような素振りへとハードランディングさせて見せた。

 

「……ったくセンスが感じられねぇ……センスが……」

 

 艦長は、誤魔化しきれなかった事を悟ったのか、更に誤魔化す様にそれだけ吐き捨て、左手で弄んでいたシガレットカッターと葉巻を取り出し、手慣れた動作で切る。

 

「ん?いつものパイプはどうした?」

「そう言えばパイプを咥えているイメージありましたね?」

「あー、あれは…咥えてないと落ち着かなくてな…ま、外でも吸うが……今日は葉巻の気分なんだ」

 

 気分。気分、ね。それはタバコを吸わない中尉には理解出来なかった。中尉は好きな物はどこまでも好きなタイプだ。食べ物でもあればあるだけ食べ続けるタイプである。

 ふと最近軍曹が吸っているのを見ないなと思う。それはいつからだったか……。

 

「まだソレ吸っているんだな?いい趣味だ」

「これぐらい好きにさせろ。お前こそそんな紙巻きじゃないか」

「僕はいいんだよ」

 

 2人してタバコをくわえ始めたのを見て、中尉は1人頭を掻くだけだった。

 

…あの、ここ禁煙……どころか火気厳禁だよ!!艦長の後ろのドラム缶に携帯用燃料缶(ジェリーカン)、ポリマーリンゲル入りなんですけど!?引火したらむせる、とかじゃ済まないんですけど!!

 

「俺は……ってなんだよ?」

「紙巻の良さは君には判らんだろうしな。それにだなぁ艦長、君のセンスが乏しいからだよ。それは僕にはどうにもならんのだよ……」

 

 そんな中尉の心の叫びと脂汗に気づきもせず、副長は追加で火にニトロを注いで行く。煽って行くどころか爆発させて行くスタイルらしい。仲良しこよしと平穏を求める中尉には理解出来ない態度である。

 根が基本的にチキンなのは、キルゾーンではないとは言え至近距離で巡航ミサイルが炸裂しようと変わらなかったらしい。

 

「そう言うところがだなぁ!」

「だからジョークだよ。そう熱くなるな。熱くするのはコイツだけで十分だよ」

 

 咥えられたものの、火をつける前に噛みちぎられかけた葉巻に、オイルライターで火をつける副長。それを横目に睨んだ艦長は鼻を鳴らし、上を向いて長く煙を吐き出す。

 

「あータバコうめぇ」

「全く誰だ、タバコに悪いイメージ付けたのは。いや、悪いんだろうが」

 

 ぽかり、と浮かんだ煙が海風に吹かれ溶けていく。空気に混じる匂いにどこか懐かしさを感じた中尉は、その考えを打ち消す様に口を開く。

 

「そうですよお二人とも……肺癌や喉頭癌になりますよ?タバコ多環式芳香族炭化水素は癌t…」

 

 しかしそれを遮る様に副長が口を開く。その言葉は中尉を沈黙させるに十分だった。

 

「化学式を理解してもタバコの良さはわからんだろ?」

「…kなり…ごもっともです。それでも、安心しました」

「ん?それはどうしてだ?」

 

 その言葉に艦長は意外そうな顔をし目を瞬かせる。その顔に中尉は微笑みかけながら言葉を続ける。

 

「煙草を吸わない上司は信用しない様にしているので」

「がははははっ!」

「面白いな、中尉。いいセンスだ」

 

 腹を抱え大笑いする艦長に、フッと唇を歪める副長。中尉はそんな2人を見てまた口角を引き上げた。

 

 中尉にとって、タバコは大人の象徴だった。それに、尊敬すべき身近な人物は皆吸っていたのもあった。実は少し興味もある。19歳の新米にしては数々の死線を潜り抜けてきた中尉であるが、根はやはりまだ子供が抜けきってはいないのである。

 

「中尉、一本どうだ?」

「いえ、申し訳ございませんが遠慮します。未成年ですし…」

 

 副長の差し出したタバコを前に、中尉は目を伏せ首を振る。興味こそあれ、恐怖もまた大きかった。何か取り返しのつかない事になるんじゃ、そう思うと素直に手を伸ばせないのだ。

 また、吸っていた人たちは皆煙を吐き出しつつ口を揃えて『吸わない方が良い』と言っていたのもそれを助長していた。

 

「モスレムに葉巻は……あーっとアメスピは?」

「僕はあと天狼星と、ソユーズだけだが…言っているだろ、中尉にはまだ早い」

「s〇ftbankのCMか!」

「伏せれてない伏せれてない」

 

 それでもなおタバコを勧めようとする艦長とまたもコントを始めた2人の声は、打ち付ける波間へと消えていく。

 

「む、中尉、君にはコレをやろう」

「あ、ありがとうございます……」

 

 どうすれば良いのか、いやそもそも何が何なのか判らず、直立不動で突っ立っていた中尉に、副長は懐から取り出したラムネを渡し、自身も2本目を吸い出した。

 副長は空気も読める上体内でラムネが作れる人らしい。………いや、ちょっとヌルいんですけどコレ。ラムネがヌルいのとな何か2回目だよコレ。何でこんなワケの判らん経験を人生で2度も経験せにゃならんのだか……。

 

「それにしても……本当に凄いですね"アサカ"は……並べると"ジュノー"級がオモチャの様に見えます」

 

 どうするか迷った挙句、大人しくラムネを懐にしまいこみ、ドラム缶に腰掛けた中尉が埠頭に接舷している"アサカ"を見て言う。周りを忙しなく走り回る整備士や、物資の積み込みを手伝う唯一無傷だった軍曹の"陸戦型GM"、今の地球連邦海軍の主力潜水艦となった"ジュノー"級が霞むほどのその姿は、まるで冗談の様な大きさだった。

 

 始めて見た時から大きいのは判っていたが、ここまで大きいとは……"ジュノー"級も旧型とはいえ原子力潜水艦である。しかしそれがオモチャに見える程だ。旧世紀の"タイフーン"級だっけ?あれよりもデカイんだろうな……。

 点検のため、格納式の砲塔を全て展開しているのもあると思うが、太陽に照らされ強烈なシルエットを浮かび上がらせ、攻撃的な巨影を落とすそれは、まさに鉄の城だった。

 

「全くだ。俺もこんなご時世に、こんなモンに乗る事になるとは思ってなかったさ」

 

 煙を吐き出し呟く艦長の言葉を待ち、副長が口を開く。細められたその目は、中尉には窺い知れない感情が渦巻いていた。

 

「大艦巨砲主義は、未だ死なず…だな。──宇宙世紀が始まり、宇宙戦艦が造られる時に象徴として、建造された時から時代遅れだと言う事が確定していた戦艦が、今その性能を買われ再び前線に引っ張り出されていると聞く。………皮肉な物だな。宇宙空間における戦闘において、大艦巨砲主義を終わらせたミノフスキー粒子が、この海じゃそれを肯定するなんて、な……」

「「…………」」

 

 副長の言葉に、中尉達が無言で見守る中、点検が終わったのかけたたましい警告音を発しながら"アサカ"がその砲塔を格納して行く。夥しい量の砲門がその装甲に吸い込まれていき、そこにはまるで何もなかったのかの様な滑らかな船体だけが残る。

 最後に開放されていたVLSサイロが次々と閉じて行き、"アサカ"が潜水艦としての本来の姿になる。

 

「──そう言えば、忙しさにかまけて言えませんでしたが……援護、ありがとうございました。あれが無ければ、私達と基地は全滅でした……全員を代表し、改めて言わせてもらいます…ありがとうございました…」

 

 それを見ていた中尉がふと口を開き、頭を下げる。艦長はそんな中尉に一瞥もくれず、手にしていた葉巻を放り捨てる。

 

「なぁに言ってんだ?中尉はやる事をやった。俺はそれをすこーし助けただけだ?な?」

 

 艦長の言葉を副長が継ぐ。本当にこの2人の関係は不思議だ。また面白い人物に会えたと中尉は心で万歳三唱をしていた。これだから人生はやめられない。

 

「そうだな。顔をあげろ中尉。そもそもあの時のミサイルを慣性誘導したのは僕だしな。こんな事もあろうかと、火器管制室にいて正解だった」

「がはははっ!違いねぇ!!」

「いえ、本当に……人間というのは自分の手柄を多く見積もり過ぎる傾向にありますから。特にこの業界はそういう人間が多過ぎますね。実際私の周りはそうでしたし…」

 

 中尉は今までの出会いを思い出す。彼等は、誰もが自分自身に期待と自信を抱き、常に自分を高く見せようと必死だった。幼少期も、士官学校時も、いつもいつも。誰もがその内、自分の限界を垣間見、絶望し、消えていった。その人達を否定するつもりは一切無い。ただ自分とは違うとしか思わなかった。

 そんな中、全く自分を飾らず、自分の能力を見極め最大限に活かしていた軍曹に強く惹かれたのもまた事実だった。その時、中尉にとって軍曹は、正に理想の体現、目指すべき存在となったのだった。

 

「ま、約束通りパンケーキも美味かったしな。短い期間とは言え陸地にも上がれた。それで十分さ」

「そうだ中尉。もっと誇れ、胸を張るんだ。これは君の成果だ。僕たちのものじゃない。独り占めしてしてしまえ」

「しかし……」

 

 雲の上の様な人物による畳み掛ける様な言葉に、中尉はゴクリと喉を鳴らす。正直、中尉には理解し難い話ではあったが、同時に頭の隅で()()()()()中尉は理解しようとし始めていた。

 

「うんうん。自分が成した事を誇れず自惚れられない奴はダメだ。能力がある、成す力がある上でそれを自分で認めないのもな。行き過ぎた謙遜は輪を乱す。自分と相手の立ち位置を考え、時に自惚れ、時に大きく出る事も必要不可欠な事だ。中尉、君が"ブレイヴ・ストライクス"の隊長、リーダーであるのなら」

 

 艦長の言葉が、中尉の背を押す。自分の鼓動がやけに大きく耳の中で音を引きずる。大河の様に連なる刻は決して止まらず、時間は誰もに等しく、平等に流れる。それは中尉であっても例外ではない。中尉に、『()()()』必要がある時は、既に来ていた。

 

「………はい!!」

「あーっ!やっと見つけたっ!!少尉ー!!探したんですよぉ!!」

『ハロッ!』

 

 力強くうなづいた中尉が、声に驚きびびくんと肩を持ち上げる。中尉達3人が声に振り向くと、その声の主は笑顔でペットロボットを抱え、腕を振りながら走り寄ってくるところだった。

 

「全くー!少尉は直ぐ何も言わずどこか行っちゃうんですからー!!」

「おい伍長俺より先に艦長と副長に敬礼をだな…」

 

 腰に手を当て胸を張る伍長に中尉が苦言を漏らすも、それを聞いているのは中尉だけの様だった。

 

「あーいいさそんなの。だろ?」

「構わん。初めましてだな」

「はい!はじめましてー!艦長さんはおひさしぶりです!」

『ハロ!』

 

 底抜けに明るい声を振りまき、伍長がぺこりと一礼する。ピンに結ばれたリボンが翻り、鮮やかな円運動を描くのは見ていて心地よい。伍長は何も考えてなさそうっつーか考えてないだろうけど。

 

「久しぶりだな、嬢ちゃん。楽しそうだな」

「はい!ハロと基地を探検してました!」

「はぁ、伍長は、いつも楽しそうだな……」

「ふっふー、そうでしょう!?わたしのお仕事は戦争ですからね!」

「「…………」」

 

 伍長の言葉に全員が開きかけた口を閉じた。伍長はそれを気にも留めず、再度同じ調子で続ける。

 

「砲弾が飛び交う戦場で、一人でも多くの敵を倒し、一人でも多くの味方を助けるのがわたしのお仕事ですから!」

「「………」」

「死ぬつもりはないですが、いつ死んでもおかしくないところにいますからねー。だからこそ、日々を楽しく、得られる幸せは精一杯噛みしめるのもお仕事だとおもうんですよー」

「……そうか……」

 

 目を閉じた副長がうなづき艦長が続く。船乗りと言うのは基本的に長く陸地から離れ、船の上に居続ける。それも何ヶ月もだ。それらが特に顕著である潜水艦乗り(サブマリナー)である2人には、伍長の言葉に深く共感する部分があったのだろう。

 

「難しいお話の途中ごめんなさい。それではまたー。少尉、後でねー!」

「あ、あぁ…後でな」

 

 来た時と同じ様にぺこりと頭を下げ、来た時と同じ様に駆けて行く伍長を見送り、中尉はそこで動きを止めた。

 

「行くよハロ!今度はあっち行ってみようあっち!!」

『ハロッ!』

「バイノハヤサデー!」

『ハロッ!!』

 

 伍長の後ろ姿を眺め、ふと視線を下に落とした。伍長の駆けて行った後には当たり前だが何も無い。ただどこにでもありふれた舗装された道路、見慣れた基地の一角に過ぎなかった。しかし、何故か目が離せなかった。自分でも理解が出来ないその状態は、海鳥の声に気づかされるまで続いた。

 

「…強いな、嬢ちゃんは……」

「はい………」

「……あんな子がな…」

 

 もしかしたら、ウチの部隊で一番強い(・・)のは伍長かも知れない。ふとそう思った。

 もちろん単純な能力ではない。戦闘能力を始めとしてあらゆる能力は軍曹が一番だ。学力や戦力分析、指揮能力は上等兵に遠く及ばないだろう。俺に掠らせる事すら出来なかった伍長の近接格闘下手は折り紙付きだ。交渉や人身掌握ではおやっさんの右に出るものはいない。少尉は金髪。

 

 しかし、そうではない。人としての『強さ』。若く、人間として不完全でありながらその芯に持つ力はしなやかでとても強い。それが伍長なのかも知れない。

 

「それより、今後の航路をどうするか意見を聞きたい」

「そうだな」

 

 そんな中尉に艦長が声をかけた。中尉は軽く肩を竦めながらそれに応ずる。先程より輝きを増した太陽が眩しい。遥か洋上で大きな雲が風に吹き散らされ、青い海と空の境界面に彩りを加える。

 

「私は素人ですよ?必要あります?」

「それを含めての僕の意見だ、中尉。軍曹、上等兵にも声を掛けて欲しい」

「了解しました」

 

 軽くうなづき、敬礼をした中尉に2人は視線を外し、タバコをふかす。

 

「集合は一三◯◯(ヒトサンマルマル)、艦橋、CICだ。俺はこいつと、もう少し海を見ているよ」

「はい。では後で」

 

──海を見ている、か……。彼等にとっての海は、何なのだろうか?

 

 そのままくるりと方向転換し、格納庫へと向かう中尉の視線の先には、光を浴びて静かに横たわる"アサカ"をバックに、膝をついた"陸戦型GM"とこちらへと手を振る"ブレイヴ・ストライクス"のメンバーが待っていた。

 

──さぁ、行こう。

 

 中尉の足は、恐れずまた一歩新しい歩みを踏み出していた。

 

 

 

 

 

『指揮官は人に頼るな。将軍だった父の教えだ』

 

 

 

どんな風も、のみこんで…………………………

 

 




以前は毎日更新、なんてなってましたけど今はホントこんな感じに……申し訳ございません。

ジョン・タイターが予言した第三次世界大戦の年となりました。AKIRAの様に2020年の東京オリンピックも近づいてます。世界はまだISISや紛争、テロで揺れています。日本も領土問題などでブレブレです。

今章で、"アサカ"戦隊はまた新たな旅立ちの門出を迎えます。

世界、日本、そしてこれを読んでいるあなたの、船旅の無事を祈って。


次回 第六十四章 海色

「ま、あのモグラ連中もやるってこった」

ブレイヴ01、エンゲー、ジ?


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第六十四章 海色

本当にお待たせしました。すみません。


深く、冷たい海。

 

光無く、雪が降る海。

 

水底。

 

重くのしかかる水は容赦無く拒絶する。

 

海の色は、ただ鈍色。

 

 

 

──U.C. 0079 9.7──

 

 

 

 光が届かず、生命の息吹が殆ど感じられない深海。その真っ暗で深い海の底で、泡の一つも立てずただ静かに、しかし高速でよぎる巨影があった。生物ではない。しかし鯨を思わせる優雅な曲線を描くソレは、紛れもなく唯の(ふね)ではなかった。

 

 地球連邦海軍所属の特務潜水艦、"アサカ"だ。

 

 "アサカ"は莫大な水圧、抵抗をものともせず、水と一緒になって(・・・・・・)海中を斬り裂く様に突き進んでいく。その存在を知る者は、彼等を除き誰もいない。すぐ隣を泳ぎ、獲物を探し唄うマッコウクジラすら、その存在を知り得る事は無い。

 

 "アサカ"はその任務の特殊さ故、オーバースペックとも取れる高性能を誇っている。その中の一つである、限界潜水深度も従来型の潜水艦の比では無い。そもそも通常の攻撃型潜水艦に深く潜る必要性はあまり無く、そのような性能は持ち合わせていないのだ。また、ミノフスキー・クルーザーの性能は未だ未知数であり、その副産物として船体にかかる水圧すら抑える為、事実上出力の間に合う限り潜水が可能であるのだ。これはもはや潜水艦どころか乗り物として異常である。

 実戦経験こそ無いが、練度、士気共に高水準にあり、ソフト・ハード両面において既に現時代において、いや、この世界において最強の域にある。深度や速度というあらゆるくびきを解かれた、潜水艦として革新的、いや革命的な本艦は現時点で史上最強の、完成された艦であろう。

 

 決して姿を見せず、存在を感知されず、世界を縦横無尽に駆け回り極秘任務を全うする。それは存在しない(・・・・・)部隊、不可視のMS隊である特務遊撃隊"ブレイヴ・ストライクス"とは既に切っても切れない関係となっていた。

 

 そんな"アサカ"のとある一室、潮流の激しい海の中であるにも関わらず微動だにしない部屋の中、中尉は部屋に備え付けられた時計を見て小さく溜息をついた。僅かな振動さえなく静まり返った部屋の中に、小さな嘆息だけが溶けていく。

 

 潜水艦を始めとする『(ふね)』と呼ばれる乗り物のスペースは狭い。その中でも潜水艦は特に顕著だ。それもそのはず、元々、軍艦とは巨大な兵器や内燃機関、ダメージコントロールを行うための水密隔壁などを始め、貨物、燃料を始めとする物資を大量に積み込む必要があり、それらにスペースが取られてしまうため居住性は決して良いとは言えない。

…………が、潜水艦は特に酷かった。

 

 『潜水する』という特異な性能に特化しているが故、仕方がない事であるが『劣悪』極まりないというイメージそのものであろう。特に旧世紀における潜水艦の黎明期は驚異的なまでに酷かった。潜水艦、特にまだ可潜艦と呼ばれた第二次世界大戦時やそれ以前のものは、居住性はまず考慮されず、その仕事内容と過酷なものだった。狭苦しく、機密性の高い艦内は湿気だらけで洗濯物も乾かせず、また燃料・排気・カビなどの臭気が充満しているので、嗅覚に異常をきたす上、それらの臭いが体に染み付いてしまうのだ。

 しかし、周りは水だらけとは言え、音やエネルギーを放出してしまうため濾過は出来ず、真水は貴重なので入浴は厳しく制限された。潜水艦の乗組員は過酷な任務に就くため、食事こそ軍隊において最も充実している海軍の中でも取り分け充実していると言われていた。その為潜水艦には優先的に食料が配給されたと言われる。最も、狭く環境の悪い潜水艦では新鮮な食べ物は出航後数週間で消費し尽くされ、その後はどこの艦とも変わらない似たような保存食がずっと出される事となるのには変わりはなかったが。

 また、潜水艦には冷房装置が備えられているものの、多くは動力の冷却などに使われるため、基本的に室温が25度を下回る事はなかった。更に言えば敵艦に接近する場合は聴音されるのを防ぐため冷房装置を停止させたので、より高温になった。また、潜行中は水圧の関係からトイレも使用出来ないどころか、そもそもトイレすら付いておらず、ドラム缶に溜める様なものまであった。

 このような環境で毎日単調な任務が延々と続くので、潜水艦勤務は非常に過酷であった。だからこそ、強靭な精神や忍耐力を持つ、一握りのエリートのみがその搭乗を許されたのである。

 時代が流れ、技術が進歩しイメージ程劣悪ではなくなったが…………。そもそも軍事施設、軍艦そのもの自体居住性を優先せず作られているため、当たり前と言っては当たり前なのであるが。

 

  因みに潜水艦乗りの離婚率の高さは異常である。そもそも潜水艦の作戦行動は機密が要であり、乗組員はその家族にすら作戦の開始日・期間等を教えることが出来ない。あなたは仕事と私どっちが大切なの!?と言うセリフがまさに直撃するのである。また乗員は、一度潜航すると数ヶ月間浮上しないこともある任務のため極めて厳しい肉体的・精神的条件をクリアしなければならないが、それでも鬱病や神経症にかかる乗員も少なくないとされている。この問題はどの時代の事情も同じ様である。

 

 全てが、とまでは言えないが、その大半がこの様な環境下であったため、海軍の他の部隊と比べて潜水艦は上下関係が緩やかであったといわれる。

 

 しかし、"アサカ"は違う。その巨大さとスペース、出力的な余裕と艦長の方針からなんと下級乗組員にすらベッド付きの2人部屋が与えられ、下士官すら1人部屋と言う前代未聞の待遇であった。これは機密から来る口止め料を兼ねているのではないかと中尉は睨んでいたが。

 宇宙世紀の戦艦と雖も個室は士官以上、下級乗組員は部屋すら無くベッドのみであるためその待遇の違いがよく分かる。勿論高出力の熱核融合炉を搭載しているため海水から真水を無制限で精製可能であり、また一部では超長距離を航行する宇宙戦艦に導入される予定であった、実験的に人工太陽を利用した動植物の生産が行われるなどもはや実験艦からも大きくはみ出した存在となりつつある。旧世紀にもサウナやプールがついていた"タイフーン"級と呼ばれる潜水艦も確かに存在したが、それは例外中の例外であり、その機能もお世辞にも良いと呼べるものでは無かった。これもすべてあの人のせ……お陰だろう。"オーガスタ"は地球の裏側とまでは言わないがかなり距離がある。しかしあの特徴的な笑い声が聞こえて来る様な気がした。

 

「そろそろか……」

 

 中尉は備え付けられた折りたたみ式の机の前で大きく伸びをし、息を吐くと同時に持っていた愛用のペンを机の上へと転がした。ペンは無重力下においても使用可能な優れもので、側面に書かれた「えんぴつ」という文字の傍に、小さくたくみと書き込まれている。

 個室は人体工学に基づきスペースを最大限に活用出来るよう設計されているが、そんな事しなくても十二分に広い。実家も一番狭い部屋を選ぶなど閉鎖空間が好きな中尉にとって、広い部屋は便利でこそあれそこまで魅力的なわけでもなかった。贅沢なヤツである。

 しかしながら、現に机は折りたたみ式であるに関わらず、中尉の物臭な性格から一回も折りたたまれず、ありとあらゆる資料が広げっぱなしである。足元に備え付けられたゴミ箱も替えた包帯で一杯だ。スペースの限られる潜水艦においてはデジタル資料が推奨されていたが、中尉はやはり紙媒体に信頼を置いていた。電子ペーパーも初めこそ物珍しさから活用していたが……。やはり、根がロートルなんだろうな、と頬をつき、紙をペラペラと手で振りながら年齢に合わない事をふと思う中尉だった。

 

 今日の分の仕事は終わりだ。そもそも元空軍所属の新米中尉に任せられる様な仕事は潜水艦にはなく、戦闘詳報も書き終えた今、中尉は殆ど仕事が無く、待機任務のみだ。そして、"アサカ"にもイレギュラーはなく、予定を順調に消化していた。

──勿論、待機任務も立派な仕事である事は中尉も重々承知しているが……。

 

 時間は二二◯◯(フタフタマルマル)。日の射し込まない艦内ではあまり実感は無いが、もう外は深い闇に包まれ始めている頃だ。目を閉じ集中すれば微かに感じる事の出来る、波の音は今宵もブルーなのだろう。

 夜の帳に覆われた海は言葉にする事が困難な程美しいが、同時に恐ろしさも感じる不思議な空間だ。寄せては返す潮騒の音が騒がしいようで、その騒音の中に浮いているような、ふとした静寂を感じるのだ。特に周囲に島影も明かりも無い中見る満点の星空は、吸い込まれそうなほどに深く黒く広がる大海原にも映し出され、まるで宇宙の様に見える。洋上で波に揺られ、身を切る様な寒さの中見上げたあの宇宙(そら)を、中尉は忘れる事が出来なかった。

 

 中尉はぎこちない動作の左手で頭を一掻きしつつ、椅子を押しのけ立ち上がった。部屋の隅、壁から突き出た天井と床とを走るパイプに立てかけてあった刀を手に取り、ベッドに腰掛けた中尉は枕元の箱を開け、中から目釘抜を取り出しそれを柄へと添える。

 

……静かだ。ふっと独りでに笑みを浮かべ、ワザと音を立てる様に手の中の小さな道具をくるりと回す。そんな些細な動作の音も、ここでは大きく聞こえる。そして、その音がさらにその静寂を引き立てる。中尉の世界は、驚くほど静まり返っていた。

 

──そう言えば、かつて軍曹に聞いた事があった。どうして先読みが出来るのか、どうやって気配を読んでいるのかと。

 軍曹の察知能力は正直言って異常だ。以前、建物一つの人全員の気配を感じとっているとしか思えない言動を取った事を思い出し、それに引きずられるようにあらゆる事を思い出して行く。思えば徒手格闘訓練でも、射撃訓練でも、確実に動きを先読みし行動している。目に見えているものいないもの、距離が近いもの遠いもの、その全てを等しく対応しているのだ。それこそ気配を読んであるとしか思えないと思ったのだ。軍曹曰く、『……全ては、必ず…予兆があり…痕跡を残す…それが、気配だ。一挙、一動……体幹…指先、目線、軸足…発汗、心拍数……様々あるが、目線を…外さない、格闘向けの…一番は、音だ。……相手の筋肉の…収縮音を、聴け……そして、空気の流れと……動き、相手の気配を、先読みするんだ………』だそうだ。

………人類にはムリだろ。音、音て。音を聞けとでも?

 

 ついでに伍長にも聞いてみたが、『う〜ん、わかんない』『勘?』『と言うより感?』という何とも曖昧で抽象的な言葉で返してくれた。なんか置いてけぼりである。

 

 足を投げ出し、ふと見上げた天井は相変わらず音も無く、本当にオフィス街の一角と錯覚しそうなぐらいだ。いや、静か過ぎるか?それに、窓が無いか……。窓。空と太陽を拝んだのはいつだっけか。なんか感覚が狂う訳だ。

 

 気配では無いが、潜水艦にとって致命的な事となり得る重要なファクターは音である。水圧の中、光届かぬ水中で敵を見つけるには音が一番である。空気中の数倍という速さで水中を駆け抜ける音は潜水艦の"目"である。例外的にこの艦は艦橋の一部に特殊樹脂性の"窓"があるが、世界を探してもこの艦だけだろう。これは鹵獲された"ゴッグ"などのモノアイカバーを参考にして開発された実験装備である。しかし戦闘時にはシャッターが閉じられた上、艦橋そのものが沈み込み格納されるので利用はされないが。

 

 視線を手元に戻した中尉は危なげなく拵を外し、時に丁寧に、時に大胆に器具を操る。手の中で踊る目釘抜が効果を存分に発揮し、するすると刀の柄表面を撫でるように滑る。

 

 そのため、普通の潜水艦内の防音はほぼ完璧である。かつてのようなドラを叩く潜るロックバンド(イエローサブマリン)とは違うのだ。その副産物としてここの部屋の防音も高く、まるで世界がこの個室のみに切り取られた様に錯覚する程であるが、その静けさを中尉は嫌ってはいなかった。

 

 柄を取り外し、鞘から抜かれ真っ裸になった刀が鈍い光りを放つ。明るい光で照らす電灯の下、独特の光彩を放つ美しい刀身を中尉は吸い寄せられる様に眺めていた。

 

「──太刀風……」

 

 小糠肌、尖り互の目という華やかでこそ無いが質実剛健の中に混じる機能美を光らせる刀身の元、茎に刻まれた銘を思わず口にする。人の血を吸っても尚冷たく輝く刃は、覗き込む中尉の顔をただ写し出すだけだった。

 

 刀の中、小さく映る自分の顔が小さく瞬きをする。その時、視界の端に映った絆創膏に目が行った。

 

「うん?」

 

──こんなところ怪我してたっけ?小さな疑問を抱きつつ、中尉はその絆創膏を勢いよく剥ぎ取った。

 

「…──っ……」

 

 ピリピリとした頬を撫でる。ゆっくり剥がすより勢いよく剥がした方が痛くない教の信者である中尉は、想定した痛みとは別の痛みに顔を顰めつつ、手鏡を探したが無かったため、もう一度刀を覗き込んだ。

 

「………?」

 

 右頬、伸びてきた髪に隠れるようにして貼られていた絆創膏の下は無傷だった。怪我が治った後もない。刀を片手に疑問を浮かべるの手には、髪を数本巻き込み、くしゃくしゃに丸められた絆創膏だけが残るのみだった。

 

「──……」

 

 片眉を吊り上げた中尉は鼻を鳴らし、何事も無かったのかの様にはばきを外した。続いて取り出した拭い紙で丁寧に拭って行く。柔らかい紙を通し感じる触感に頬を緩め、薄く笑みを洩らす。中尉はこの瞬間が一番好きだった。古い油が拭い去られ、空気に触れた刀身が真の姿を現わす。そこに中尉は人の姿を重ねていた。

──人は誰しも決められた役割(ロール)に沿って生きている。誰もが誰も、自分自身さえも隠し、騙し、決めつけ、固定し、あらゆる感情などを秘めて生きている。幾重の人格、思想に隠された人の本質、心の深層心理に触れる事は決して叶わない。中尉自身それを望んでない節があるが、気づかぬうち、それこそ深層心理ではそれを望んでいるのかも知れなかった。

 

 打粉を手に取った瞬間、中尉の聴覚が静けさの中から微かな音を拾う。一瞬だけ手を止め、耳を傾けた中尉は唇を少し歪めたのち、また何事も無かったかの様に打粉を振り始める。

 茎の方から刃先へと、ポンポンと軽くムラなく打粉を振っていく。落ち着いていた中尉の心に小さな漣を起こした音は、中尉には聞きなれた音であったが、中尉は軽くかぶりを振って頭からその事を締め出す。

 

──今は、必要ない。今必要になるのは、目の前の事にただひたすら素直に、心の底から真剣に向き合う事だけ。中尉は一度目を瞑り、呼吸を落ち着けるかのように深呼吸する。

 

 瞼の裏側に映し出されたイメージは、狙撃銃を抱き抱え、静かに伏せ撃ち(プローン)を行う軍曹だ。狙撃を行う軍曹の姿は、まるで残山剰水の片鱗であるが如く見る者を圧倒し息を呑ませる。限りなく自然体でありながら極限までに高められた集中は、常に数多の距離を()び越え、刹那の内にゼロにする。

 その極致に到達すべく、中尉は努力を重ねて来た。軍曹に教えを請うても、返ってくる答えはただ一つ『練習によって得られる経験』、それによる裏打ちだけだと言う。中尉は未だかつてその境地に至った事は無かった。そして、これからもないだろう。きっと。

 

 判っていた。いや、悟っていたと言うべきか……自分には才能が無い事を。

 

……思い出すのは士官学校時代だ。『狙撃に必要なものは、何よりも生まれ持ったセンスだ。これについては、訓練ではどうにもならない。センスの無い者はいつまでたっても上達はしない』、教官はこう言ってたっけ……。

 

 それは、『才能』と言う言葉で逃げるのは嫌いで、常に努力をし続けて来た中尉ならではの思いだった。努力は人を高みへと向かわせてくれる。しかし、それには限界があるのだ。そこから上は、限られた者にしか到達出来ない。それを選ぶのは人では無い。それは環境であり、考えであり、気の持ちようであり、遺伝子であり、能力であり、骨格であり、内臓機能であり、全てで、ただ、時の運だ。ロマンチストであるなら神様が決める運命、サイコロの出目とでも言うだろか。

 

 中尉は自分に才能があると思った事は一度もない。日本にいた時、士官学校にいた時の自分の目から見たら、才能のある奴なんて1人もいなかった。そもそも才能なんてものは、自分で掘り起こして、作り上げるものなのだと教わった。それを教えてくれたのはおやっさんだった。

『俺だって天才なんかじゃない。簡単な事さ、誰よりも必死に考えて、働いて、階段を一つ一つ、踏みしめてきただけよ。努力ってヤツさ。俺はこの名前が嫌いだけどな。そいつは毎日やらなきゃいけねぇが人に見せるもんじゃねぇ、しかし隠すもんでもねぇ。そんなチンケな差さ。だけどよ、ありゃと思って振り向いたら誰もついて来ちゃあいねぇ。そしたら怠けた連中が、皆俺に後ろ指指して口々にこう呟くのさ。あいつは天才だから、だとよ、冗談じゃねぇ。俺はそんな奴らが大嫌いさ。俺より時間も体力も感性もある奴が、なんで俺より怠けるのか俺にゃ理解出来ねぇ。自分に自信がないくせ、努力もしない、だが人に受け入れてほしいと思ってる、だと?甘えんな。思うよ、だったらよこせ。無駄遣いするんだったら俺にくれ。もっともっと作りたいものがあるんだ。俺にくれ、ってな?』。おやっさんはそれを笑って話していたが、その眼は本気だった。『才能という言葉は、努力を重ねてきた者に対する最大級の侮辱』だとも言っていた。俺もそうだと思っていた。軍曹に出会うまでは。

 

「………綺麗事じゃねぇけどな」

 

 思わずつぶやく。努力は無駄にならない。努力は裏切らない。努力はきっと身を結ぶ。成功したものは努力している……耳当たりの良い言葉だが、中尉は間違った努力やズレた努力、努力だと思い込んでいるものが無駄になり裏切る事を知っている。結果に結びつく事はあっても、成功に結びつく事はない事も。

──しかし、だからと言って努力を辞めるつもりも無い。それはまた別の話となるのだ。

 

 また周りの人間達の才能を気にして劣等感を持つなど、愚かしいにもほどがある。自分は自分、他人は他人。同じ能力や才能を持った人間などこの世のどこにもいないというのに、それと自分を比べるというのはどうかしている。それは戦闘機と輸送ヘリを比べるのと同じ位無駄なことだ。能力というのは他人と比較するべきものではないのだ。

 兵器も戦士も戦場という環境にどれだけ適応できるかが鍵なのであって、どれほどのハイスペックを持っていたところで適応できなければ全て無駄だ。

 逆に言えばどれほど陳腐な性能を持つ兵器や戦士であっても、うまい具合に戦場に適応できればそれは役に立つものとなる。どれほど弱くても環境へうまく適応すればいいのだ。その適応する柔軟さこそが『才能』そして『性能』と呼べるものであるはずだ、と。射撃の腕だとか、反応速度だとか、そんなものは二の次だ。確かに戦場においてなくてはならないものではあるが、それらがどれだけ高くても戦場に適応できなければ何の役にも立たない。『一体どれだけ努力すればよいか』と言う人があるが、『お前は人生を何だと思うか』と反問したい。努力して創造していく間こそ人生だ。それが持論だった。まだ短い人生ではあるが、コレは正解に近いと自負する考えだった。

 

 気がつけば聞こえていた微かな音も聞こえなくなっていた。中尉はピタリと手を止め、肩を竦めつつ顔を上げ、心の中でカウントした後、ドアに軽く一瞥をくれる。

 

 その瞬間──バーンと言う激しい音と共に、ドアが手前側へと大きく開かれる。勢いよく開いたドアが風を巻き起こし、質素な室内を揺らす。小さなつむじ風が机の上に広げてあった書類を舞い上がらせ、かさりと乾いた音を立ててまた静かになった。ノックも無しにこんな事をやるヤツは、自分が知る中で1人しか居ない。中尉はその誰だか判り切った大声を出す来訪者(バオー)に目を向けず、手元に視線を戻しながら口を開いた。

 

「しょーぅい!!来ちゃいましたー!!」

「ぅい?……うん。言われなくても、見なくても判る。だから前も言ったがノックくらいしよう。な?」

 

 "アサカ"が"バンジャルマシン・ベース"を出港してから早4日。伍長はこうしてだいたいいつも中尉の部屋に入り浸っていた。始めは艦内における軍規などの観点から注意していたが、そもそもノックしろと言っても全くしない事から既に中尉は諦めていた。というより伍長に対しては殆どが諦めている、というか認めている。修正出来るのは軍曹だけだ。

 

…………苦労は買ってでもしろと言うが、売りに出すから誰か買ってくれ…………。切に思う中尉だった。

 

「あ、ごめんなさい。忘れてました」

 

 そんな中尉の心情を知っているのかいないのか……──いや、後者であろう伍長は、底抜けに明るい笑顔を顔に浮かべたまドアを閉め、その足でデスクチェアに向かい、背もたれを抱え込み跨る様にして座りこむ。そんな伍長の様子に鼻を鳴らしつつ、中尉は手元から目を離さず口を開いた。

 

「ん、次から気をつけろよ?んで、こんな夜遅くからどうしたんだ?部活動か?」

「わたし部活してませんでした。戦車道なかったですし」

 

 寂しがり屋な伍長の事だ。きっと話し相手が欲しいのだろう。だったら話を聞く事に徹しよう。流石にサボテンにでも話しかけていろとは言えん。

──……………つーかあるわけねーだろ戦車道なんて!!どんな道だ!!つーか履帯は道無き道を走るためのモンだろーが!!もしあったら俺ガンヘッドか恐竜戦車で参戦するわ!!あ、やっぱ思考戦車(シンク)で。……お、MSも陸戦用ならば多脚型はどうだろうか?今度提案しよう。そうしよう。

 

「ということは帰宅部か?」

「どうしてその発想になるんですか!?そもそもわたしは今学校行ってないから部活動は関係ないじゃないですか!」

 

 どの口が言ってんだティーンエイジャー。精神年齢はもっと幼いクセになぁ。つきあいは正直まだ浅いが、頼むからもっとしっかりしてくれ。

 刀の刃を光にかざし、その出来栄えに満足し一人うなづく中尉。伍長はそんな中尉に頬を膨らませながら口を開き続ける。

 

「ん?もしかして不登校?いじめられたのか?」

「んぁー!!そんな事もないです!!」

 

 腕を振り、地団駄を踏んで否定する伍長。椅子に体重を寄りかからせているため全然出来ていない。伍長は軍人でありながら身長、体重、筋肉量などが基準に対し全て足りていないらしい。身体鍛えろっつっても『身体が鍛えられてからにします』って……のび太かてめーは。

 

「まぁほら落ち着けって。そんなに暴れるなよ。防音対策はしてあるとはいえ、大きな振動は下の階の人に迷惑だろ?」

 

 その時ドンと音が床下から鳴り、びくりと伍長が身を縮こまらせた。

 

「ほら。な」

「び、びっくりしました。きっと下の階の人はリダさんですね」

「んで、いじめられてないのは本当に、か?ちゃんと友達居た?」

「ホントです!!………よね?」

 

 まだちらちらと床に視線を泳がせていた目がこちらを捉える。俺に聞くなよ。つーか自信ねーのかよ。ほんとコイツ人生ふわふわしてんなおい。

 

「………ホントですよね?ちょっと不安になってきました……」

 

 おそらく、今と同じ様な優しいとこだったんだろう。そうでもなければ、こんなミリオタなフリーダム人が形成される訳がない。目を瞑り頭を抱えて唸る伍長はその幸運に気づいてはいないようだが。

 そんな伍長が寄りかかる壁には、武器と手入れ道具を除き唯一とも呼べる中尉の個人的な持ち物、以前3人で作った"ロクイチ"の模型が飾ってある。私物が殆ど無い殺風景な部屋の中、それだけがぽつねんと浮いた様に置いてある。それは、やや青みのかかった壁紙の中を漂う、ちっぽけな船のようだ。

──ふと中尉は昔の事を思い出そうとするも、上手くいかなかった。なぜそうなるのかもわからない。記憶や脳に異常があるわけでもないだろう。1人腕を組み首を捻っていると、伍長が突然顔を上げ語り出した。

 

「そんな事より聞いてくださいよー少尉〜」

 

 中尉はその言葉に肩を竦め、考えを打ち切る。枕元の袋を探り、底にころりと一つだけ残っていた飴を取り出し口に放り込み、小さなため息と一緒に応える。最後の一個だった飴は、舌の上で転がされゆっくりと甘みを振りまきながら溶けていく。もう少し多めに買っておけば良かったと、中尉はもう一度、手にした刀を電灯に当て反射を確かめながらぼんやりと思った。

 

「聞かんと言っても言うんだろ?仕方がねぇな、言ってみろ」

 

 中尉の言葉を待っていたのかいないのか、際どいタイミングで伍長はその口を開く。忙しなく動き、まるで機関銃の様に言葉を吐き出す小さな口は、まるで小鳥のさえずりの様だ。

 

「今日はですねー!副長に頼み込んで、遂に念願の"シャーウッドの森"に行ったんですよ!!凄かったです!!」

「ほぉ、そいつは良かったなぁ……旧世紀の世界を抑止し、青い空を支えていた核の傘の柄はどうだったか?」

「もー!!かんどーのかんげきの一言です!!綺麗だったぁ……」

 

 2言じゃねーかよ、なんて無粋な事は口に出さず、中尉はかるく顔を振り先を促す。

 

「それでね、それでね!!」

 

 興奮冷めやらぬ、そして話した事によりさらに興奮し手を振り目を輝かせる伍長に小さく微笑みを浮かべる。手の中では刀が元の形に組み上がり、中尉はちらりと時計に目をやった。

──まだ時間はある。暫くは話に付き合おう。刀を傍に置き、中尉は膝に肘をついて両頬に手をやり、話を聞く態勢を整えた。

 

──"シャーウッドの森"。

 

 絶対兵器、究極の戦略核。かつて世界の均衡を担った、核戦略上の"核の三本柱"(トライアド)の一柱。

 

 核抑止の体現者。

 

 核報復、相互確証破壊(MAD)の象徴。

 

 大洋を征く破滅の鐘の奏者。

 

──中尉も、1度見た事があった。

 だだっ広い空間、その中央に無限に続くやもと錯覚する長さのキャットウォークが走る。その両脇には、アブラクサスの柱の森の如く、目眩を起こしそうな程に潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)が聳え、立ち並ぶ。終末を呼び、『破壊』以外なにも行わない森。身の丈を遙かに超える柱の一つ一つに、都市を軽く消し飛ばすいくつもの破壊の意思がこれでもかとばかりに詰められている。世界を支える、世界を滅ぼす矛盾の体現。

 世界の果てを思わせる荘厳な雰囲気は、『核報復』と言う狂気に駆られた人類が、人類の叡智総て振り絞り、地球を、世界を滅ぼさんと創り上げたものだ。それはある意味、『世界はこんなにも簡単である』事の裏返しの様にも思える。

 『やられたらやりかえせ』という方針を実践する事で『やったら、やられる』という現実を創り出し、敵も自分も恐怖で縛り付けるのが抑止論だ。つまり、抑止論を成り立たせているのは報復攻撃への恐怖に他ならない。だからこそ、縋るべき最後の手段として捨てられない。目の前の人物が武器を捨てても、『まだ持っているかもしれない』『自分の有利を保つ』ため自分も武器が捨てられないように。核削減と核廃絶の間には大きな溝がある。全て廃棄され、平和利用された筈の核を、宇宙世紀になってもなお、人類が捨てきれなかった様に。

 

………旧世紀において、明確なイデオロギーの対立が、核軍拡に拍車をかけ、弾みのついた核軍拡がイデオロギー対立を助長する。

──時代はそんな金属の歯車(メタルギア)を回し、抑止論が世界を形作った。しかし、地域的な紛争が頻発する時代の複雑な情勢下では、もはや抑止論がそこまでの力を持ち得ない事は明白だった。宇宙世紀に入ってもなお、紛争が決して止まなかったのがその証だ。

 例えば宗教紛争。そういった場合では、しばしば非現実的な意思決定が行われるのが現実だ。報復攻撃を考慮せず、恐怖に尻込みしない相手に抑止論は成り立たない。殉教の精神はそれ程にも強い。それは、人の弱さの裏返しか。

 

──現在に於いてもなお、地球連邦軍は一枚岩でない。人類と言う生き物は、敵が居ないと生きてはいけない生き物らしい。

 それに核の脅威はまだ無くなってはいない。現にジオンは"一週間戦争"、それに続く"ルウム戦役"で大量の核を使用した。核融合炉の開発とメガ粒子砲の発達、普及によってその存在を忘れられかけていた核兵器の威力を、連邦軍は身を以て知る事となったのだ。一説には短期決戦構想であったため既に核を使い切っているのではないかという報告はあるが……状況は更に混迷渦巻く最中へと突き進んでいる──光は、まだ見えない。

 

………武器を持つ軍人ほど非生産的な存在はない。やはり軍人は軍事オタクではあるべきではない、な。

 外に対する視野を欠く人間は時として愚かしい誤りを犯す。ま、もちろん哲学的に考える余裕があるときは、という条件がつくがなぁ。

 

「……まるで、そうだな……」

「はい?……って聞いてましたか!?もう!!」

 

 伍長の声が、中尉を現実へと引き戻す。椅子ごと身体を傾けている伍長に苦笑を向け、中尉は言葉を濁す。何時もの悪い癖だ。気をつけないと……。

 

「………む?あ、あぁ……すまん。えーっと……」

「だから、この前、グパヤマに会ったんですよ。頭にダイナマイトが入った」

 

 ん?

 

「ほお」

「シポムニギで。って言ってもアフォバッカ寄りですけど。凄い白いとこなんですよ?ピンクハウスぐらい」

 

 なんの話だ?さっき聞いてなかった話の腰を折るわけにもいかず、中尉は相槌を打つ事に徹する。そのままなんとか切り口を見つけようと言う作戦だ。

 しかし、その目論見は儚く散る。

 

「へぇ」

「そこで前世でアメリカシロヒトリじゃなくてディッキンソニアだってお話をしてたら、『クリスマスプレゼントだろ!?今こそ人類が太陽系システムに入っていく時でしょ!!巻き舌宇宙で有名な紫ミミズの剥製はハラキリ岩の上で音叉が生まばたきするといいらしいぞ。要ハサミだ。61!』って。今度生まれ変わるならメンマがいいですねぇ。もモヒャン的な答えでした。だからアネモネやクレマチスは汁がつくとかぶれることがあるとかないとかで、剪定する時は義体化をした方がいいかもらしいです。全く度し難い。それは紛れもなくエクラノプランのニルヴァーシュでした。中にスカブコーラルがいっぱいはいってたし。イエスでしたね。その時でした。最強のテコの原理でイデが発動したのは」

「……うん?」

 

 流石に異常を察知した中尉は伍長に向き直る。目を凝らし、じっとよく見ると、頬は上気し目は少しヤバめだ。あらぬ方向の宙を見つめ、目の前に焦点が合っていないような感じがなんか怖い。銃身の異常加熱により薬室内部の温度と圧力が上昇し自然撃発、暴発を際限無く繰り返す62式単発言う事聞かん銃(キング・オブ・バカ・無い方がマシンガン)と化した伍長は、その熱に促されるかのように譫言をばら撒き続けていた。その様子に、中尉は口元を強張らせつつ引きつったような笑みを浮かべながら引いt……聞いていた。

 

「RPGの醍醐味とも呼べるお使いの情報をゲットしたわたしは、マルコビッチとジャックの2人と協力して、人間と魚類を平和裏に共存させるため、わたしがこの仕事をするのに十分賢明ではないなんて言う人もいましたけど、そんな人たちはその事実を甘く見てますからね。ま、そこから基地に帰る途中だったかな?約束された全て遠き、聖なる手榴弾を手にしたわたしは、武器を持つクリフトポジションのヤムチャが相手だったのでそれを使わざるを得ず、ザ・不死身と呼ばれたそいつを一撃で倒し、こころがプルプルしてたんですけれど、ただちょっと丸太がほしくて、基地まであと2マイルほどの所……ふと目を上げると東の空にオレンジ色の光る物体が見えたんです!とても不規則に動いていて…そして次の瞬間、あたり一面が強烈な光に包まれて──気がつくとわたしは基地に着いていた………?あれ?これは何の話ですか?」

「………………さぁ?」

 

 困った様に眉を顰めた中尉はそれだけ吐き捨てる様に言うと、刀を腰に差し立ち上がる。そのまま伍長を躱し机に向かい、一応ガンロッカーの鍵を手に取る。

 

「もしそうだったら今頃世界はコンクリートですよね?」

「なるほど……ごめん、ちょっとよくわかんない。え?なにこれ?夏目漱石センセーも混乱するレベルだよこれ」

 

 今日何度目かもう判らないため息をまた一つつき、中尉は伍長の頭に手を置き髪をかき混ぜる。伍長は目を細めそれを甘んじて受けている。最近この様なスキンシップはしばらくご無沙汰だったため、そこはかとなく新鮮だ。中尉は手のひらに感じる、柔らかくもクセのある髪の手触りのくすぐったさに口を緩めた。

 

「それじゃ。俺は行くよ。軍曹に呼ばれているんだ」

 

 そのまま自然な動作でドアを開ける中尉。部屋に流れ込んでくる廊下のヒンヤリとした空気が心地よい。蛍光灯の清潔な光が照らす廊下は広く長く、まるで中尉の心を急かしているかのようだ。 部屋の中とはガラリと変わる雰囲気に、リラックスしていた心も少し引き締まり、中尉は服の襟と裾を正した。そのままするりとドアを潜り抜け、後手に手を振る中尉の背中に、素っ頓狂な伍長の声がぶつけられた。

 

「え!?冷たいですよ少尉!!」

 

 顔をだらし無く緩めていた伍長は暫く余韻に浸っていたのか、にやけ顔で椅子にもたれたままだった。しかし、ハッと気がついた様に顔を上げ、声を出しながら椅子から勢い良く立ち上がった。

──ちぃ!誤魔化せたと思ったんだが甘かったか!!

 

「俺は軍曹と温かいティータイムに行くんだ!邪魔すんな!」

「わたしの温もりをあげますから!!さぁ!わたしの胸に飛び込んできてください!!ハグしてあげます!!感謝します!!」

「あぁいらん!!っていいながら何故俺にタックルするんだ!?つーか感謝するのお前!?離せぇ!離せば判る!!」

 

 支離滅裂な言動で腰に縋り付く伍長の頭を押さえつつ、引き摺る様にして中尉は道を急ぐ。遠くでは水兵達がまたかとでも言うかのようにやれやれと肩を竦め、生暖かい視線を投げかけては歩き去っていく。まぁ、まだマシだ。この前後ろから肩叩かれて凄まじい顔で「高性能爆薬(セムテックス)と一緒に魚雷発射管に詰められたい?」って聞かれたし……。その少し前だって、笑顔で『プールは好きか』と聞かれ『好きだ』と答えたら、『おっ、なら明日、プールに沈めても文句はないよね?』とかよく見たら壮絶な笑顔でのたまってたしなぁ…こえーよ。

 

 先ほどまでの雰囲気はどこへやら、頭に手を置くと言う動作自体は殆ど変わらないが、その光景は酷く滑稽なものに見える。

 

「判った!判ったから!!」

「何がですか!お家はどこにしますか!?」

「ごめんやっぱ判らんかった……」

「──何をしているのですか?」

 

 そこまで広いとは言えない廊下の真ん中で、お互い小柄な方であるが人2人がもみ合っているのだ、邪魔にしかならない。戦闘配備こそかかってはいないが、現在"アサカ"は作戦行動中だ。そもそもこんな事をしている方がおかしいのだ。かけられた声に慌てて顔を上げた中尉が見た顔は、意外な人物のものだった。

 

「上等兵さん?どしたんです?」

「い、いえ、特には」

 

 腰にしがみついたままキョトンとした顔で聞く伍長に、珍しく歯切れ悪く取り繕う上等兵。いや、どう見てもどうかしてるのは俺たちの方であろうが……どうもいつもと様子が違うようだ。

 

 我が"ブレイヴ・ストライクス"の才女、アイリス・グレイフィールド上等兵。オペレーターである彼女は、いつも冷静沈着で言動を崩さない淑女であるが……これはおかしい。いつもは目を見て話す彼女が今日はやたら視線を泳がせている。手もそこはかとなく所在無さげだ。

……これは由々しき事態だ。戦術、戦略両面においてオペレーターとは重要なポジションだ。俺達パイロットがチームと言う小屋の柱であるとするなら、オペレーターはその柱を束ねる屋台骨であると言える。彼女の指示無しにチームは結束もせず、有機的な運用も出来ないのだ。そして、あらゆる方向から様々な圧力が掛かるため、一番負担(テンション)のかかる部分でもある。

 

──ならば、ここは"ブレイヴ・ストライクス"隊隊長であるこの俺が……。

 

「──上等兵、忙しい所だと思いますが、ちょっとでもいいんです。時間ありますか?」

 

 責任を持って……!!

 

「ちょうど今から軍曹の所でお茶をしようとしていたのですが……」

 

 軍曹に任せよう!!

 

──やらなくていい事は、やらない。やらなければならない事は手短かに。出来ない事は出来る者に。出来る事は出来ない者と。やりたい事は妥協無く。これが、俺の取りうる、最もエレガントな答えだ。たった一つの冴えたやり方と言っても過言では無い。基本的には事なかれ主義であり、また能力もそう高くない中尉には、これが妥当な案だった。

 

 それに、軍曹に任せて失敗した事は一切ない。と言うよりだいたい俺が少しでも困っていると軍曹がさりげなく助け舟を出してくれるか気がついたら解決してたからなぁ……。

 

「私がお邪魔してもよろしいのでしょうか?」

「だいかんげーだよ!!やったー!!」

 

 目を瞬かせた後、やや困ったように顔を傾けた上等兵へ伍長が抱きつき、胸に顔を埋めながら言う。それを少し驚きながら受け止める上等兵も、伍長のやや癖のある髪を撫でつけながら、少し困った顔で服装を正している中尉へと目をやる。

 

「軍曹なら大丈夫ですよ。上等兵はここ最近働き詰めだったようですし、これぐらいの休みは無いと」

「──それなら、お言葉に甘えさせてもらいましょう。よろしくお願いします」

 

……正直に言おう。多分コレは俺の所為だろう。つい先日のデブリーフィングの事が思い出される。

 

……いや、あれはそんな生易しいもんじゃ無かった……。怒ると怖いのね、反省します。

 

 包帯が取られたばかりの額に、人知れず一雫の汗が垂れる。無意識の内にかいた汗には気付かず、頰を軽くかく中尉は、申し訳なさげに片眉を下げていた。そんな中尉と顔を合わせた上等兵は薄く含み笑いを浮かべた。その事に中尉はまた申し訳なさを感じつつ、誰からとも無く歩き出した足の歩幅を合わせる事に集中した。

 

 カツカツという靴が立てる3人分の音を聞きながら廊下を進む。廊下は長く広いが音は響かない。その不思議な感覚を楽しんでいる時、上等兵がおずおずと口を開く。

 

「──どこへ向かうのですか?」

「リフレッシュルームです。そこで軍曹がコーヒーをご馳走してくれるそうですよ……頼めばアルコールも出してくれると思いますけど?」

 

 休息に近い待機中とは言え、程々にして下さいね、と付け加える中尉。その言葉に一瞬だけ呆気にとられた上等兵は、ほんの少し口を尖らせながら嘆息する。

 

「当たり前です」

「! なら代わりに私が……」

「何が代わりだこのアホ」

「ったぁ〜い!!少尉のバカ〜!」

 

 中尉がコツンと軽く伍長を小突くと、伍長は大袈裟に頭を抱え戯けた悲鳴を上げる。反撃とばかりに振られた手は中尉に擦りもしない。

 

「んあー!ずるい!!」

「はっはー!古典的なアウトレンジ戦法の前に屈するがいい!!」

 

 それもそのはず、中尉が伍長の頭を押さえているからだ。中尉の腕は身長の割に長い。しかも右手は左手よりも長い。ブンブンと空を切る伍長の手は、中尉の遥か手前までしか届いていなかった。

 

「どーだ、参ったか?」

「うぅ……わたしの力が及ばないばかりに……」

「ふふっ」

 

 2人の様子を見た上等兵が珍しく口元に手をやり、上品な笑みを浮かべる。良かった。俺にも出来る事がある。それはかなり少ないし、誰でも出来る事だが、実行さえ出来れば紛れもなくプラスになる。

 

「あ……」

「ん?どうした?」

 

 顎に手を当てた中尉の顔を、伍長が覗き込み動きを止める。中尉が反応するよりも早く、伍長はそのままプイと顔を背けてしまった。

 

「知りません!!もう!!」

「きゃっ」

「?」

 

 困り顔をする中尉には目もくれず、そのまま伍長は上等兵に抱き着き顔を埋めてしまった。拗ねているのかもしれない。その理由は判らんが。

 

「どうしたのでしょう?」

「……さぁ?あ、ここです」

 

 肩を竦めた中尉が、顔を上げ立ち止まり、ひょいと親指を寝かせ指し示す。それに反応し、やや大きめの両開きドアが音を立てずに開かれた。それと同時に、ドッと賑やかな声が溢れ出し、静かだった世界に彩りを加えた。

 新たな来訪者に気付いた何人かの水兵が、振り返り敬礼するのを手で制し、軽く敬礼を返しつつ歩を進める中尉。ふっと肌に感じる暖かさに、そっと目を瞑り、薄く笑みを浮かべながらそのドアを潜る。その暖かさは、久しく感じていなかったものめ、とても心地が良かった。

 

「おっじゃましまーす!!」

「失礼します」

「「おおぉっ!!」」

 

 上等兵の姿を確認したのか、男達の間からどよめきが上がり、騒がしかった室内が更に音で溢れかえる。予測こそしていたが、律儀な反応に苦笑する中尉は、好奇の視線から逃れる様に首を巡らせ、居るはずであろう軍曹の姿を探す。

 勿論"アサカ"に女性のクルーがいない訳では無い。しかし、その数は少なく、休憩を取る場合も必ずと言っていいほど男性禁制のエリアにある方へ行ってしまうのだ。そのため、このリフレッシュルームとは名ばかりの、男の巣窟に足を踏み入れる事も無かった。また、大人の女性、それも美人が足を踏み込んだからか、その反響は絶大だ。幸い、伍長はその事に気付いていない様だが。

 

「上等兵さん!!こっちですよこっち!!とくとーせきですよー!!」

「え、はい」

 

 目を瞬かせる上等兵を他所に、ウキウキ気分の伍長は上等兵の手を引き歩いて行く。その先では男達が割れる様にして道を譲り、まるでモーゼの様になっている。これ幸いとついて行こうとした中尉は、野郎どもの壁に阻まれてしまった。

 

「よお中尉遅かったじゃないか?ナンパに手間取ったのか?」

「エリートさんは違うねぇ」

「ちょいとはこちらに回して欲しいもんでさぁ」

「遠くから見てたけど、近くで見たらホント別嬪さんやなぁ」

「からかわないで下さい。そんなわけないでしょう?」

 

 中尉に詰め寄り、肩や背中を叩き、髪をかき混ぜてはめいめいに勝手な事をのたまう水兵たちに、頭を抱えながら苦笑する。水兵も本気ではなく口に笑みを浮かべており、中尉もそれを理解しつつも苦笑を止められなかった。この人達はこうなのだ。だからこそ、中尉はここへわざわざ足を運ぶのだった。空調は効いていても、隠しきれない酒やタバコ臭さがあり、決して身体にも良いとは言えない、褒められない環境であるとしても、だ。

 

「あやかりたいもんだぜ!それにしても、手は出したのか?」

「中尉の様な若造にゃはえーよ。俺ぐらいのナイスミドルじゃなきゃ」

「おめーにゃもったいねーよ」

「んだと!」

「お?やるか?」

「それでは、呼ばれてますし、ね?」

 

 物騒な言葉とは裏腹に、おどけたポーズで構える2人。そんな2人を囲い、囃し立て始める水兵たちを横目に、中尉は乱れた服装を正し、ズレた刀を元の位置に戻す。安全装置がかかっているとはいえ、中尉は今拳銃も携帯しているのだ。歓迎自体は嬉しいが、そこらへんもう少し考えて欲しいと思う中尉だった。こんな時にも刃物や拳銃を携帯している中尉も中尉であるのだが、それには気づいていない。自分の事は、自分で案外判らない典型的な例であろう。

 

「しょーうい!!こっちですよ!!」

「……中尉。時間通り、だな……」

 

 向こうで飲まないか、と肩を叩かれたが、かぶりを振って手をブンブンと振り回す伍長に顎をやる。伍長の手には既にマグカップが握られており、この中でも判る程のいい匂いが漂ってくる。中尉は下腹に手をやり、急に動き始める胃と空腹を自覚する脳に頰を緩めそちらへ歩き出す。

 だいたいいつも騒がしいリラックスルームの端の方、やや喧騒と離れている所に軍曹は居た。隣にはかしこまった上等兵が、やや緊張した赴きで座っている。その周りにはちらほらと水兵たちが座り、暖かな湯気を上げるコーヒーを楽しんでいた。ちらりと時計に目をやった中尉は、軽く頭を下げて挨拶を返した。

 

「や、すまない。やや遅くなった。少尉は今日も?」

「……肯定だ。あるもので、削り出しから始めているらしいが…期待はしないでくれ、との、事だ……」

「そっか、ありがとう。うん。美味い」

 

 コーヒーを受け取り、一口啜りつつ中尉はソファに身を沈める。口の中に広がる、酸味と苦味を抑えられたコーヒーは、芳しい匂いと共に喉へ滑り落ちていく。ほぅっとため息をつき、口に残る余韻を楽しむ。リラックスにはやはりコレだ。緩む身体に、自然と湧き上がる欠伸を噛み殺しつつ、肘置きに手を載せようとしたら肘をぶつけた。

 

「あー……ファニーボーンか。まね、MS、派手に壊したかんなぁ」

「うっ、必死だったんですけどね……」

 

 顔を歪め肘をさする中尉に、"クレ・ドッグ"から乗り込んだ仲のいい水兵が笑う。この"アサカ"の水兵の、日本人率は異常な程高い。また、アグレッサーとして乗り込んだ海の忍者たち、マリタイム・セルフ・ディフェンス・フォースのサブマリナーも多い。練度と士気の高さはそこから来ているのかも知れない。中尉にとって日本人が多いのは嬉しい事だった。激戦を制した安心も大きいが、中尉がここまでリラックス出来るのも、その事が少なからずあるだろう。人は良くも悪くも環境に大きく左右される生き物なのである。

 

「わたしのパーシングちゃんも……うぅ……」

「大丈夫ですよ伍長。しばらく戦闘もありませんし、補給を受ける予定ですから」

「そーそー。新型兵器受領の噂もあるし、元気出せ。な?」

 

 あくまで噂だけど、と小さく付け足す中尉。正直期待はしていない。そんなにリソースをこちらに割けるとも思えんし。因みに伍長の言うパーシングとは伍長機である"陸戦型GM"のパーソナルネームだ。元は言わずもがな。使っているのは伍長だけであるが。中尉の"陸戦型ガンダム"の"ジーク"にあたる名称は、軍曹機が"ハンプ"、伍長機が"ダンプ"である。命名は上等兵である。

 

「新兵器ですか!!やた!!」

 

 小躍りして喜ぶ伍長を横目に、手元のコーヒーカップに目を落とした中尉はボソリと付け足した。

 

「……コレで新兵器どころか補給もままならんかったらヤだよな……」

「……中尉。隊長で、あるなら……口に出すのは……良くは、ない……」

 

 目を細め卑屈な顔で呟く中尉を、軍曹がやんわりとたしなめる。確かに軍曹の苦言も最もである。指揮官は弱音を吐かず、ネガティヴな発言を慎むべきである。しかし、ここでぐらい本音を出したいのもまた人情だった。

 

「隊長、伍長には言わないでくださいね?」

 

 小声で上等兵にも同じく咎められる。指差す先には手を握り上を向き想像の翼を広げている伍長がいた。完全に目が星の海だ。溜息を一つ、中尉は重い口を再び開いた。

 

「すみません……──そーいや、俺たちがドンパチやってる時なんかあった?」

「あー?日本からジオンのMS駆逐されたって」

「へー……──は?」

 

 適当に振った話題の突飛さに思わずマグカップを取り落とす。軍曹がそれを軽くキャッチしたがそれどころじゃない。一口しか飲んでないとか、軍曹机の向こう側で新しいコーヒー用意してたじゃんとか関係ない。

 

「ど、どう!?何が!?何!?」

 

 ガタリと椅子を蹴飛ばし、勢いよく立ち上がる中尉は半ばパニックだ。それをたしなめる人も居らず、残りは三者三様の反応を返していた。

 

「私達も参考に出来るでしょうか?難しいと思いますが」

「軍曹はどうやったと思います?ツージキリ?」

 

 2人の問いかけに軍曹はちらりと眉を顰め、中尉に一瞥をくれながら口を開いた。

 

「…判らん、が…ある程度、検討は……しかし、何故MSだけなのか……」

 

 それだけ言うと、後は興味無さげに軍曹は手元に目を落とす。伍長と上等兵もつられて目をやり、自然と口をつぐむ。そんな中、中尉だけの声が大きく響いていた。

 

「ど、どうやってだ!!」

「あー、ジオンは地球降下後、輸送船で向かったらしいんだけど、自衛隊、上からの反対で手ぇ出せなくてそのまま上陸させて…」

「はぁ?」

 

 その言葉に激しく脱力する。何やってんだろホントに。どーせまーた誰彼構わずどっかの大理石の建物の中で昔から変わらん怒鳴り合いをしてたんだろう。ホント小学生の様な揚げ足取りや怒鳴り合いや罵り合いをしてたっかい給料もらえるって割りのいい仕事なこって。いい加減にしろよ。

 

「んみ?何でですか?」

「日本という国は、確か攻撃してはいけないのです」

「…専守防衛。国の、持つ、平和憲法から…反撃しか、出来ない……」

 

 額の汗を拭った中尉は、もう一度軍曹からコーヒーを受け取り一口飲み、溜息をつく事で心を落ち着かせる。

 手の中に小さく収まるカップを軽く回しながら、落ち着きを取り戻した中尉は深くイスに座りなおし、もう一度確かめるかの様にコーヒーを一口飲む。1度目を閉じ、深呼吸をした後、先を促す様に顎をしゃくった。それを見届けた水兵が、おもむろに口を開く。

 

「んで、見守ってて…マスコミが上陸艇にインビューしに行ったりとかあって……どんどん乗り込んでったのよ。反撃もないし」

「………」

 

 予想外過ぎる状況に冷や汗が頬を伝う。明確に侵略されてもなお攻撃しなかった、いや、出来なかったのかよ……それは余りにも酷くはないか?

 

「そんな日が何日も続いて……でもある日、戦争反対を訴える団体が陣地に行ったら撃たれて……そっからもう……一瞬で榴弾砲が火ィ吹いて陣地や戦闘車輌は壊滅。何とか逃げ延びて反撃したMSも戦車の機動運用と攻撃ヘリ、戦闘爆撃機の波状攻撃に耐えられず撃破。海では海で潜水艦が上陸艦と潜水艦を悉く沈めてさ……」

「あー、特科と機甲科張り切ってたなそーいや」

「ブリキ缶なんてバカにしてたもんねジオンの奴ら」

 

 もう一人の水兵が、思い出したのかの様に相槌を打つ。それがさも当たり前の様に振舞っているのが中尉には理解出来なかった。既に住んでいる世界、見ている世界、持っている価値観、その全てが違うのだ。中尉は、自分が既に日本人とは違う事に、微かな寂しさを覚えていた。

 

「……おぉ……」

「うわぁ……!!」

 

 伍長が目を輝かせ、両手を握り締めながら聞き入っている。中尉はただ、感嘆の溜息しか出なかった。

 

 戦場の華が歩兵であるなら、砲兵隊(アーティラリー)は戦場の神である。近代の地上戦における火力とはすなわち砲兵であり、戦争においてもっとも効果を発揮する部隊と言っても過言ではない。ただただ正面火力とは、投射力がモノを言うのだ。

 重迫撃砲、軽砲、中砲、重砲、自走榴弾砲、自走ロケット砲(MLRS)等から成る砲兵隊の叩き出す爆撃損害評価(BDA)は爆撃機のそれとは比べ物にならない。砲兵隊の基本戦術である、目視外射程(BVR)に存在する火力支援基地(FB)からの間接射撃による曲射攻撃は、前方砲兵観測(FO)と砲撃陣地の射撃式所(FDC)による連携で目標へ正確に誘導、弾着出来る。その事から、自らの位置が露呈しない限りにおいては一方的な攻撃を断続的に加え続ける事が出来るという非常に有効な方法である。また、戦闘前面から数km以上離れた後方から効果的な射撃が出来るため、近接航空支援(CAS)などに比べ直接射撃による攻撃を受けて部隊が損耗する危険を小さく出来る。更には、比較的低コストである砲弾を短時間で多量に投射出来る為、大口径の火砲を多数並べて一斉に射撃する攻撃は、強固な陣地構築物を除いてあらゆる目標物を広範囲に破壊できるのだ。そして、現代戦において強固な陣地はコストに似合わず、ミサイルや航空機によるピンポイント攻撃に弱い事もあり殆ど無い。ミノフスキー粒子の発見によりこれは薄れつつはあるが……つまり一言で言うと、砲兵隊とは戦場を股にかけるスナイパーであり、対費用効果が高い、安価で効率的、経済的な攻撃手段であるのだ。

 

 中尉も一度と言わず、砲兵隊の戦法の一つである転移射の真似事をした事はあった。しかし、それは"ロクイチ"や"マゼラ"を使った所詮真似事に過ぎ無かったのもまた事実である。

 

「ま、あのモグラ連中もやるってこった」

「向こうも俺たちの事モグラ連中って呼んでるだろーけどな。同感だ」

「まねしましょう!!それでわたしたちもだいしょーりです!!」

 

 あまり驚いた様子を見せない上等兵の隣では、伍長が椅子を蹴飛ばし立ち上がり、片手を振り上げ天に掲げている。そんな伍長を諌めつつ、軍曹も感心した様に口を開いた。

 

「……野砲の、初弾を…命中させる、というのは……噂では、なかったか……」

「伍長、お行儀が悪いですよ。しかし、この"アサカ"もそうですし、練度の程は聞いていましたが、驚きですね」

「ま、練度に関しては世界最強、なんて言われてたしなぁ」

「撃つ弾と予算は相変わらずねぇけどな」

「それなんだよな。ホントに。作業服の更新次何時だよ」

 

 顎に手を当てた中尉は、歴史の重みの前に舌を巻いていた。砲兵が本格的にその効果を発揮し始めたのは旧世紀の第一次世界大戦からだ。その後もハイテク化などの進化こそあれど、本質的には何も変わっていない砲兵隊は、未だ戦場を制し続けているのである。

 

 勿論、スナイパー同士の戦いによるカウンター・スナイプの様に、対砲兵の戦法ももちろん存在する。カウンターバッテリーアーティラリーと呼ばれる戦法がまさにそれだ。

 これは撃ち出された砲弾の音や光、撃ち出された砲弾の向き等のあらゆるデータを解析し、敵の砲撃地点を割り出す対砲迫レーダーを用い、火力支援陣地に火力を集中させるという手法である。これは敵砲兵への有効な反撃手段として導入され、自走榴弾砲等が配備され、迅速な展開、射撃、移動が可能になった今も尚有効である。いや、電撃戦などの速度を持った作戦が立案され、砲兵が機甲部隊などに追従する必要が出て来た事や、カウンターバッテリーアーティラリーが浸透し、より迅速な陣地転換が必要になったからか……。ま、鶏が先か卵が先かと言う位だ。個人的には卵を産むように進化した生物がいなけりゃ卵は生まれないが、その第1号の卵から孵った生き物はその時点で別の生き物となり卵を産むことから卵が先なんじゃないかと睨んでいる。

 

「……何故、そこまでして……殲滅、しないんだ……?」

 

 軍曹が疑問を口にした。それは中尉も思っていた事だ。全滅し、指揮系統が死に絶え組織的行動が不可能になった軍が殲滅されるのは時間の問題だ。そりゃ勿論ゲリラ化されたら別ではあるが。しかし、初撃で大打撃を与えたのだ。その時殲滅仕切ってしまえば良かったのに。

 

「あー、地元の住民が匿ったり仲良くなったり色々あって……ま、こちら側の損害はゼロに近いし、上も下も慎重だ。そんなもんかもな」

「人的被害こそあったが、死傷者数はどこの戦線よりも劇的に少ないし、戦力も軽装甲車が数台って聞いたしな」

「"日本海海戦"の様ですね」

「けど、その掃討を理由に派遣はやめるゆーてるし、まぁ体のいい言い訳、理由作りだわな。だから俺たちは非公式の参加なんだ」

 

「「………」」

 

 言葉を聞くや否や、顔を見合わせ、溜息をつく中尉とやや眉を顰める軍曹。ゲリラ化よりタチの悪い事になってる……。日本は未だに銃の携帯は許されていない。そこに銃を持った者が紛れこめばどれだけの脅威になるか住民は理解しているのだろうか?最悪大量虐殺(ジェノサイド)が起きるんだぞ?

 

「ちょいと違うが"ロードランナー"みたいなもんよ」

「そうそう。立場こそ違えど、ね。だから一応ワルキューレの騎行のCDは持ってきてるよ?」

 

 カラカラと笑う水兵達はとても気楽だ。それは同時に本国に残して来た仲間を信じているからであろう。羨ましい事だ。

 

「そーいえば少尉、なんで日本軍(ユーハング)に入らなかったんですか?」

「自衛隊だよおじょーさん」

「その、ジェ?」

「じ、え、い、た、い!」

「ジェダイ?に入らなかったんですか?」

 

 腕を組み考え事に沈み込んでいた中尉を、稲妻の様な伍長の一言が現実に呼び戻す。焦って口を開こうとしどもる中尉に、さらなる追撃が迫っていた。

 

「え?いや……」

「そーいや聞いて無かったな。なんでだっけ?」

「その……」

「それは私も気になっていました。支障が無ければお話していただけませんか?」

「………」

 

 それはフォースが無かったからだよ、何て茶化そうとしたのも、上等兵の前で崩れ去った。理由を知っている軍曹はただ一瞥をくれるのみだ。孤立無援で絶体絶命な中、中尉は重く粘る様な顎を開き、絞り出すかの様にボソリと呟いた。

 

「…………ちた…」

「はい?」

 

 目を瞑り、耳元へ手をやる伍長。なんかそれ無性に腹立つからやめて欲しい。貴方にはわからないでしょうね、ええ。

 

「落ちたんだよぉー!」

 

 天を仰ぎ、慟哭する中尉。それはまるで時間が止まり、周囲とは切り離され、音が無くなったかの様に錯覚する程だった。突然の事に周りが目を丸くし、言葉を失う中、澄まし顔の軍曹だけが、何事も無かった様に豆を挽く音だけが響いていた。

 

「な、なんかごめんなさいぃ…」

 

息を荒げ、肩を上下させる中尉に伍長が半泣きになりながら縋り付く。水兵達と上等兵は皆口を押さえそっぽを向きながら震えている。

 

「お、落ち……ぶふっ」

「な、なんで……落ちぃあはははっ!」

 

 笑う事を隠さないヤツまで出て来た。なんだ!?落ちたぞ!?それがなんだ!?文句でもあるのかこの野郎!!チクショー!進研ゼミやっとときゃ良かった!!この問題ゼミでやった!!って言ってみたかった!!

 

「い、いい経験になったろ…」

「うんうん。挫折を知る事は良い事だうん…ふふ」

「だ、大丈夫ですよ少尉!わたしも落ちた事ありますから!!その時ショックで部屋で泣いてたら、次の日何故か受かってたんですよ!!」

「うん?どういう事?つーかアレ?何?何の話?」

 

 頭に疑問符を浮かべる中尉。しかし、そんな事には構う事無く、伍長はそのまま続ける。

 

「次の日お父さんが来て『不合格は間違いだったようだよ!ほら!』って合格通知を見せてくれんです!なんでも試験官さんがうっかりしちゃったそうで!だからお父さんはおやすみもあげたって言ってました!!」

 

……お、おやすみ?

 

「……きゅ、休暇の先は?」

「え、えーっと……し、シベ……?なんかお菓子みたいな名前のとこでしたかね?そこで木を数えるとか何とか」

「そ、そうか……」

 

………いや、いやいやいや……こりゃあかんヤツや……。

 その意味に気づいたのか、水兵達もその顔色を青に変えて行く。そして、そのままの震声で口を開いた。

 

「いやな……事件だったね……」

「どこですか?南の島です?」

「うん噂によるといいとこらしいよバトルオーバー北海道25ルーブルかけてもいい」

「おいダッハウ送りにするぞウルーシー」

「誰が怪僧だ隠岐に流すぞ?」

「流されるのは"ビッグE"だけで十分だセントヘレナ島に閉じ込めるぞ」

 

 あまりの闇の深さにビビる水兵ズ。つーか俺も。上等兵も意味に気づいたのか口元を押さえていた。伍長は運が良かった〜なんてニコニコしているが。

 

「う、噂と言えば、聞いたことあります?"M資金"って」

「って、え?"エンタープライズ"また大破したの?」

「今度は梶に喰らって漂流後座礁したら艦首が千切れたって」

「何でだよいい加減にしろよほぼ一ヶ月毎に大破してんだろーが」

「"ハワイ"本島奪還はまだ早計だろうに」

 

 落ち着きを取り戻し、軍曹の用意したホットサンドを頬張る中尉に、一人の水兵が飲み干したカップを置きながら口火を切った。

 

「──ん、"M資金"?GHQの?違う?いや?軍曹は?」

 

 咀嚼する口元を隠しながら、中尉は首を横に振る。聞いた事は無いが、不思議と耳に残るその言葉の端に、何かを捉えた様な感覚がする。リフレッシュルームの柔らかな光が、やや暗くなった様に感じ、中尉は首を捻りつつも、咀嚼を終えた口を開いた。

 

「…よくある、戦場伝説の……一つとして、なら…」

「私も聞いた事があります。ジオン地上侵攻軍のヨーロッパ方面軍司令、マ・クベ大佐のファーストネームから取った、正体不明の積荷の事と言う事です」

「あー、あのワカメみたいな髪型の……資金って事は、徳川埋蔵金みたいなヤツですか?」

 

 司令に、正体不明……何か引っかかる。小さく口に出してみたら尚更だ。中尉は乾き始めた唇を少し舐める。伍長は顎に人差し指を当て、虚空を見上げながら何か言っているが。

 

「ま、まぁそんなもんか?それがどうしたんだ?」

「伍長もよく知っていましたね。偉いですよ」

「えへへ、プロパンガニュースで見ました!」

 

 伍長を褒めながら頭を撫でる上等兵に、伍長が笑顔で抱き着く。それを見た水兵の一人が鼻をつまんで上を向いた。おい。

 

「……プロパガンダだ…」

「はは……いや、よくある戦場神話の一つのハズなんですが……最近何かにつけて良く聞くんすよ。気になりまして」

 

 呆れ顔の中尉と軍曹の2人に愛想笑いをしつつ、水兵はそう続ける。手元の空になったカップを弄びつつ、机を指がリズムよく叩く。その音を掻き消すように、伍長が再び口を開いた。

 

「きっと高いツボですよ。そんな噂聞きましたし!それか……お宝とか!!」

「いや、お宝て」

 

 思わず突っ込む中尉。伍長は照れ顔で頭を掻いている。褒めてないぞ?

 隣では上等兵がコトリとカップを置き、眼鏡をケースから取り出しつつ後を継いだ。

 

「しかし、"M資金"、ですか。──何かしらの暗号とも取れますね」

 

 その一言で、ただの談笑の場であったハズの空気がガラリと変わった。その言葉には妙な説得力があったのだ。暗号。そして情報。その2つを制する者は戦争を制する事と同義だ。内通者(スパイ)潜伏工作員(モール)による人的諜報(ヒュミット)、クラッカーによる電子諜報(シギント)などの情報戦などは今も尚有効である。雑談程度の話であれ、軍人はそれらの話題に敏感なのである。

 

「お宝と言うものあながち間違いじゃねぇかもな。他人にはどうであれ、何らかの価値を持つものと考えられそうだよな」

「それこそ新兵器……」

「──いや、核兵器とかだったりして…」

 

 都市伝説はともかく、噂話は好きでもなく、ただロマンはある位しか思わない中尉は、戯けた様に手を持ち上げそう続けた。もちろん冗談のつもりだ。

 ジオンは確かに核を使った。しかし今は南極条約で禁止されている。確かに連邦も地球上の殆どの核を破棄し、破棄しきれなかったものも封印しているため数は無い。しかし、ジオンとて既に核は残り少ないと思われるのもまた同じだ。そもそも、今まで使ってきたものも黎明期に使われていた核パルスエンジンに使用していたものであろう。

 それに、ここでまた核を使うと言う事は、敵に核を使う大義名分を与えてしまう事に他ならない。そのリスクは余りにも大き過ぎる。核は本来使われるもので無く、交渉に用いられる物だ。今度こそ、そして地球上で核が使われる事となったが最期、人類はその歴史に自ら幕を引くのでは無いだろうか。

 

「……核……か…あり得なくもない、が…」

「まっさかー」

「ははっ、ジョークにしちゃキツイぜ。──……ジョークだよね?」

「おい、俺に聞くなよ」

 

 軍曹の言葉を笑い飛ばす2人も、やや自信無さ気だ。笑い飛ばせる程、事態は楽観的に見られる状態ではない。ジオンは核を用い、自らの住む大地、故郷であるコロニーさえ大質量兵器として転用したのだ。その事から、何かをしでかしかねない、底知れぬ恐怖と不安を持つのがジオンであった。それでこその南極条約であるが、それがどこまでの抑止力を持ってくれるか……。

 

「今のジオンにゃ、喉から手が出る程欲しいもんだろうけどな」

 

 ふかしていた煙草を置き、クラッカーを齧る水兵がそう吐き捨てる。その態度に眉を顰めた中尉は、開きかけた口を閉じ、そこから誤魔化すように言った。

 

「ま、資金なんて大層な名前だし、利益をもたらす物だろうな」

「大層な名前だからこそショボかったりするかもね」

「"ラプラスの箱"みたいな?」

「なんだそりゃパンドラじゃなくてか?」

「ワクテカ?」

「アステカ?」

 

 地球連邦軍を問わず、ジオンを憎からしく思っている者は少ないとは決して言えない。それは統一のために弾圧や武力制圧などの強行策を行った連邦もそうではあるが、ジオンはそれの比ではない。地球、そしてスペースノイド(・・・・・・・)にも大喧嘩を吹っかけたのだから。

 また、敵対心には勿論理由が常につきまとう。そこに触れるのは決していい事では無いだろう。内心苦笑する中尉は周りをそれとなく見渡し、次の言葉を待った。

 

「そうですね。何らかのレアメタルや、資源地図などかも知れません」

「それとも宇宙海軍カレーのレシピとか?」

 

 上等兵はその意図を汲み、冷えかけた場を温めるかの様に発言する。空気を読めない伍長は何も考えず口に出し、それが結果プラスとなった様だ。場には、再び暖かい空気が流れ込み始めた様であった。

 

「スキャンダルとかだったら面白いんだけどなぁ」

「ヌード写真とかだったら笑えるな」

「やっぱ結局壺?」

 

 思い思いに発言し、笑いを誘う男達。また盛り上がり始めた事に満足しながら口を開きかけた中尉を押しとどめたのは、けたたましいまでのビープ音だった。

 

「戦闘配備か!?」

 

 誰言うと無く叫び声がし、総員が弾かれた様に立ち上がる。思わずスピーカーに目をやる者もいる。中尉は既に頭を切り替え、既に準備を終えている軍曹とアイコンタクトしつつ指示を出し始めた。

 

「俺たちはMSに!!上等兵は艦橋へ!!オペレーターとしての特例で、入室許可は取ってあります!!」

「了解!!」

「急げ急げ!!ホラ進め!!」

「押すなよ!?慌てず急げよ!!」

 

 艦内の電源が切り替わり、赤色灯が灯される。一気に薄暗くなった通路では、既に足音が絶えず聞こえてくる。

 走り出した事態に流されるかの様に駆け出す水兵達の間を縫い、中尉は上等兵に声をかける。その指示に敬礼で返す上等兵を見送りつつ、机に残った氷水を残さず飲んでいる伍長に怒鳴りつける。

 

「伍長!!急げ!!」

「あいさー!!」

 

 ファミレスから出る時じゃねーんだから、なんて突っ込む余裕も無く、中尉は机に残った食べ物を口に詰め込む伍長の手を取る。べたついた手に不快感を覚えつつ中尉のブーツに包まれた脚は床を蹴った。視界の端では伍長が最後にとポケットにお菓子を放り込んだのを捉えていたがもう呆れて声も出ない。まぁ緊急時ならともかく俺もやるけどさ、汚れても大変だし残ったら勿体ないしね。でも時と場所を考えてくれ頼むから。

 

『総員!第2種警戒態勢!!繰り返す!!総員!第2種警戒態勢!!』

 

 既に軍曹の姿は無く、中尉は伍長の手を引きながらリフレッシュルームを飛び出し、そこら中を走り回る水兵達を交わしながら格納庫(ハンガー)へとひた走る。時折交わされる挨拶は既に戦闘態勢だ。やきもきしつつエレベーターを待つ中尉に後ろを走り抜ける水兵達が敬礼を残して走り去る。

 

「ご幸運を!!」

「ありがとう!!健闘を祈る!!」

 

 やっと来たエレベーターに飛び乗ると、伍長がボタンを叩きつける様にして押した。これに乗りさえすれば後は直ぐだ。動き出したエレベーターの中、おしぼりで伍長に手を拭かせつつ、中尉は上がりかけていた息を落ち着かせる。

 

「ほい伍長。取り敢えず拭いとけ」

「あ、ありがとうございます。それにしても、どうしたんでしょうか?」

「判らん。が、今は考えるより動くぞ」

「あ、ボタンも拭きたいのでもう1まi…」

「後にしろ!GO!!」

 

 ドアが開いたと同時に走り出し、ロッカールームへと飛び込んでヘルメットだけを手にし走り出す。整備兵たちに迎えられ、早足で挨拶しながら歩きつつ顎紐を止める。後ろでは伍長がボディアーマー装着に手間取っているが、1人が手伝いに向かったのを確認しキャットウォークに飛び乗った。

 

「小隊長!!」

「少尉か!?修理は!?」

 

 コクピットを開けて待っていた少尉が声を上げる。シートに滑り込み、コンソールを叩きながら中尉は怒鳴り返した。

 

「間に合うかバッカ野郎!残弾も数発ねぇよ!!」

「数分動きゃいい!!残弾は軍曹機に!もう退避しろ少尉!!」

「あっ!おい!!」

 

 コクピットハッチを閉鎖し、ぼんやりと幻の様に光るメインコンソールとメインモニタを前に、ヴェトロニクスの立ち上がりと同時にシステム・チェックに全力を注ぐ中尉。その動作も手馴れたものだ。必要なキータッチを視線を巡らせつつ機械の様に素早く精確に行い、その過程の中で機体と一体化して行く。そんな中尉のインカムにノイズが走った。艦内用のバースト通信だ。その音に咽喉マイクを握りつつ、先手を打って話しかけた。

 

「ブレイヴ01よりウィザード01へ。聞こえてますか?」

「こちらウィザード01。感度良好。問題なし。データリンク開始します。同時にCICの無線連絡もリンクします。少しでも状況が掴めるはずです」

 

 通信相手はやはり上等兵だった。それもかなり早く。シートベルトを着用し体に合うように調整しながら中尉は内心感謝する。それにしても、殆どの作業が1人でも出来るMSってホントスゲーな。早くこの技術民間に転用されねーかな。

 

「こちらブレイヴ01。適切な判断に感謝します。HSL起動。回線Dに接続」

 

 上等兵の指示通りにリンカを作動させ、リアルタイムな情報提供を受ける。その瞬間、決壊したダムの様に怒涛の如く情報が溢れ出し、それをシステムが整理、抽出し出力して行く。マシンパワーにのみなせる技である。

 

『こんな音は初めてです!!』

『プルーフやアプスウィープ、ウィスル、スローダウン等とも一致しません!』

『音紋のエコーから、サイズは250m近いと思われます』

『速度は一定ではなく、不定期的な謎の音を出しつつ、かなりの低速のようです』

目標動作解析(TMA)完了まで後30秒』

 

 ソナー員の声だ。どうやら敵は正体不明らしい。これはかなり珍しい事だ。ノウハウのないジオンの有する潜水艦は全て連邦軍の物の改良型か、そのまま使っているものであるという事らしく、その音紋特定は比較的容易であると聞いていたが……。

 

『"ジュノー"級にしてはデカ過ぎる。──が、"ロックウッド"級にしては小さ過ぎるな。そんな艦はあるのか?』

『ないな。"52ヘルツ"はこの艦だけかと思っていたが……いや、"アサカ"以外の特務艦の話は僕も聞いた事がない。しかし、ジオンにも改装艦しか無いはずだ。──向こうに動きは?』

 

 艦長と副長の声がそれに続く。落ち着き払っている2人に、普段の様子は微塵も感じられない。そこには、頼りになる歴戦のサブマリナーがいるだけだ。

 

『ありません。そもそも、本艦は現在"ミノフスキー・クルーザー"により変温層を形成していますから、捕捉できないハズです。しかし…』

『しかし、なんだ?報告は正確に行え』

 

──ん?雲行きが……。そこに、通信が入る。"陸戦型ガンダム"の首を巡らせるのと、隣の"陸戦型GM"のメインカメラが光を放つのはほぼ同時だった。

 

《少尉、今何とか乗り込みましたが……。パーシングちゃん、足がないんですけど……》

「腕もないな。だが足なんて飾りだ。偉い人にゃ判らんの」

《えぇ!?つまりわたしは偉いんですか!?やった!!》

《ブレイヴ02より、ブレイヴ01…近くの離島を、ピックアップしておく……》

「すまない。頼んだぞ」

 

 仮に"アサカ"が沈んでも、MSのデータを失う訳にはいかない。中尉も機体の状況を確認し、"ビームサーベル"が使用可能であるか再チェックする。水中ではメガ粒子は減衰し十分な効果を発揮できないが、いざという時はこれが頼みとなる。軍曹の判断は正しく精確だ。それが空恐ろしく感じる時もあるが。

 

『いえ、そんな、これは……信じられない!!こんな事が!!計器に誤差は!?』

 

 ソナー員の1人が動揺した様に大声を上げる。それにもう1人のソナー員が応えた。

 

『見られません!!やはり!!これは!!』

『なんだ!!どう言うんだ!!』

 

──何が起きているんだ?

 

《しょういー?どうしますー?》

「待機だな。CPからの指示を待とう」

 

 一度通信を切った中尉は、上を見上げ通信を繋ぎ直す。その先はもちろん上等兵だ。

 

「ブレイヴ01よりCP。状況は?」

《こちらCP。混乱してます。こんな事は初めてです》

《こちらブレイヴ02……最悪の状況を、想定しておくべき…だな…》

 

 不安だけが募っていく。そもそも今の深度すら判らない。水圧にMSに耐えられるのか?敵は何なんだ?どうするべきなんだ?

 

『艦長、探信音(ピン)を打つ許可を』

『許可する』

『おい!』

 

 ピン!?明確に敵を捉えているのか!?………戦闘に、なるのか?

 

 自ら音を出し、敵を走査するアクティブソナーは敵を明確に捉える事が出来るが、敵に発信方位を教えてしまうと言う弱点がある。だからこそ潜水艦による戦闘において、ピンを打つと言う行為は『確殺』の強い意志が必要なのである。

 

『構わん!やれ!』

 

 船長の指示に、反対したのは副長か、その反論も鶴の一声によって封じられる。今、この艦は戦闘状態に入ったのだ。

 

『やれやれ…魚雷発射管の1番と2番に魚雷を装填、諸元を入力しろ。3番と4番にはアクティブデコイだ。注水準備』

『了解しました。魚雷発射管、1番と2番に装填、諸元入力完了。アクティブデコイも同じく。待機します』

『了解。3、2、1…ピンガー、発信!』

 

 次の瞬間、甲高い音が艦全体を鋭く揺らし、暗く冷たい水を斬り裂き響き渡った。初めて聞く音にびくりと身を竦ませた中尉は操縦桿を握り直し、来るべき時をただ待った。

 

《今の音は?》

《ピンガーだ…敵を捉えたか……》

 

 艦はとても静かだ。しかし、艦全体が緊張に包まれ、それ自体がまるで音となったかの様に艦を満たす。それを肌に感じる。いつもと変わらない光景なのに、この静かな緊張が恐ろしい。中尉は、それがただ早く終わって欲しいと願う事しか出来なかった。

 

『解析班!情報解析急げ』

『艦長!魚雷発射管に注水しますか?』

『いや、まだでいい』

『──やはり…………捉えたのは、潜水艦ではありません。現代の艦でもありません…』

『鯨か幽霊船だとでも?こんな時にジョークはないぞ?』

 

 目を閉じ、ゆっくりとした深呼吸で息を整える中尉を差し置き、事態は急速に進んで行く。

 

『戦艦です!おそらく戦艦、"ヤマト"クラスかと!!』

 

 艦内に、衝撃が疾走った。

 

『"大和"は坊ノ岬沖で沈んでる。つまりは大和級2番艦の、"武蔵"…か?』

「──な!?ゴホッ!」

《! ど、どうしました!?》

「……い、いや………」

 

 その一言で、世界が180度反転したかの様な衝撃が走った。思わず息を呑み咳き込む。訳が判らない。ここで何故?何が?

 

……戦艦、"武蔵"だと……?馬鹿な。

 

『なんだと!?』

『そんな馬鹿な!!』

『エラーやミスではないのか?またはクラッキングでは?』

 

 CICも同じ状況の様だ。狼狽する艦長副長に、今にも泣き出しそうなソナー員の声が響く。誰もが皆混乱していた。

 

『自己診断プログラムが常時走っている上、私達の監視もあるんですよ!?そもそもこの艦は完全なスタンドアロンです!!』

『それに、仮にそうだとしても、その様に『見せかける』必要性はありません』

『ありえない、という事か……』

『ありえない、何て事は、ありえないってか?おいおい』

 

 絞り出す様に呟く艦長に、理解出来ないとでも言う様に副長が続く。そこへ、解析班の1人が声を上げた。

 

『今3Dスキャニングが解析終了しました。99.98%の確率で目標は戦艦"武蔵"だと断定されます』

『……接触までは?』

『2分です』

 

 そうか、と独りごちた艦長が、副長に次の指令を継げた。その指令は、最早戦闘の継続を指すものでは無かった。

 

『……赤色灯解除。艦橋を上げろ。同時にシャッターを上げ、探照灯を照射しろ。手の空いているものにも見せてやれ』

『艦長……』

『総員、登舷礼用意。作業中の者も、一度手を止めさせろ……』

『もう何も言わないよ。これは君の艦だ。それに、日の本の国の艦だろう』

『うむ。英霊には敬意を払わねばな』

 

 艦内の灯りが正常に戻る。赤い光に慣れた目には眩しいだろう。艦内全モニターが点灯し、艦長の顔が映されるとともに艦内放送が始まった。

 

『諸君、第2種警戒態勢は解除だ。この"アサカ"が捉えた船影は、過去の大戦艦、"ムサシ"の物だったのだ。皆、モニターを見て欲しい。そこにはかつての激戦を戦った、英霊の姿が映っているはずだ』

 

 モニターが点滅し、真っ暗闇の水底が映る。そこに闇を割く、探照灯の灯りが投げかけられた。照射された強い光は深海の闇に直様吸い込まれて行く。しかし、その中に、かつての戦艦の姿を堂々と映し出していた。

 

『我々はまた新たな門出を迎える。またも我々は大海原へ漕ぎ出すのだ!次こそ永遠の航海に出る事になるかも知れない!!しかし、彼らが我々の前に姿を現してくれた事は何かの意味があるはずだ!!総員、甲板には出れないが、その場でいい!登舷礼用意!!』

 

 大きく損傷しても尚堂々と立つ巨大な艦橋。針鼠の様についていたはずの機銃はその殆どが吹き飛ばされ、大きな船体には多数の穴が開いており、その激戦の様相を醸し出している。自慢の世界最大の艦砲、46cm(サンチ)3連装砲は2つが脱落しポッカリとした穴を残すのみであったが、戦艦としてのプライドか、散っていた英霊たちの誇りか一つだけ残っており、過去の栄光をそこに遺していた。

 

「聞きました!!少尉!!」

「あ、あぁ……」

 

 コクピットハッチを跳ね上げ、飛び跳ねる伍長に、中尉は震声で生返事を返す事しか出来なかった。目はモニターに釘付けだ。嘗ての栄光をそのままに、今も尚水底を進み続ける"不沈艦(モンスター)"を前にし、殆ど身動きが出来ず、万感たる想いを胸に抱え、ただ浮かべる涙をこらえる事しか出来なかった。

 

『……俄かに、信じられません。私は今、これ以上になく動揺しています』

《…世界最大、最強クラスの……戦艦……永遠の、巡航……》

 

 艦全体がざわつき、震えているようだった。それはまるで、この"アサカ"が打ち震えているかの様だった。日本最後の戦艦と、日本最後であろう攻撃型潜水艦は、生まれ故郷こそ違えど同じ魂を持っているかのようだった。

 

 艦長がどこからともなく旭日旗を取り出し、CIC内ではためかせる。艦名の"アサカ"は"旭翔"と書く。"天翔る旭"、まさに"日の出づる国"の、旭日旗に相応しい艦と言えるだろう。

 それは旧国名を冠する"武蔵"もまた同じだった。

 

『総員!!敬礼!!』

 

 上部から腹の底まで届く様な重低音が響く。VLSサイロのハッチが解放されたのだ。恐らく、空砲の代わりなのだろう。サブマリナー達も、時と場所は違えど同じ海を行く者として想う事があり、出来る限りの敬意を払いたいのであろう。

 

 中尉は"陸戦型ガンダム"右腕のロックを解除し、敬礼を行う。伍長機も残った右腕のみで敬礼を行いそれに倣う。唯一武器を携行していた軍曹機は捧げ銃を行った。整備兵たちも背筋を伸ばし敬礼を行い、最大限の敬意を払っていた。

 

 やがて、"武蔵"がその巨体を闇の中に溶かして逝く。まるで幻であったのかの様に。

 

 しかし、それは決して幻では無かった。少なくとも皆、その姿を胸にしまっていた。

 

 探照灯の光が収束し、モニターにはただ茫洋とした闇が映るのみとなった。

 しかし、それでも尚、誰も目を逸らさず、敬礼を止める事はなかった。

 

 

 

 

『愚かなる 身にむちうちて 勵みなば神もめぐみを 垂れたまふらん』

 

 

深海の旭日に、抜錨を………………

 

 

 

 




お待たせしました。新章、南海大冒険編スタートです!

本当にすみませんでした。SF映画や戦争映画見まくったり新しいターミネーター見たりニンジャスレイヤー見たりガルパン見たりGATEみたりサバゲーやったりまた新しいこと始めたり忙し過ぎて……。

世間は戦争になるだ徴兵になるだやかましいですが、それより最も危険が隣にあると思っている今日この頃です。
一国民として出来ることは、国民の代表である政府の決定に従い、嘘や噂に惑わされず、いつも通り変わらない日常を送ることだけです。そんな日常の中で、このSSが少しでも慰めになれば幸いです。


次回 第六十五章 ポイント・オブ・ノーリターン

「おやっさん!?いつのまに!?」

ブレイヴ01、エンゲー、ジ?


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第六十五章 ポイント・オブ・ノーリターン

世間様は夏休み最終日なので。

待たせたな。

メタルギアが楽しみだよー!!


この世に絶対が決して無い様に、宿命なるものは存在しない。

 

この世の因果が決して収束しない様に、運命なるものは存在しない。

 

この世は全て、あらゆる偶然の積み重なりからなる。

 

しかし、人生において、決断の刻は必然的に訪れる。

 

そして、あらゆる偶然の連続は、時に必然とも取れる形で表出するのである。

 

 

 

──U.C. 0079 9.15──

 

 

 

 涼しい島風が頬を撫でる。海と風が交わり、耳元で音を立て過ぎ去ってゆく音を目で追う様に首を巡らした中尉の目に、写った物は特に何もなかった。風あざむ音に身を委ねると、緩やかに吹く風の涼しげな音だけか耳に残る。幾ら耳を澄ましても、風の調べは何も唄わない。

 

 人が生まれてから死ぬまで、自分の周りに吹く風はいつも同じ風、とは誰が言ったのか。俺はそうとは思わんが。でも、面白い。そう思う。

 

 南太平洋の真ん中、ただ茫洋と広がる海にポツリポツリと浮かぶ島々は、遥か彼方、宇宙(そら)から落とされ、砕け散った亀の甲羅の様だ。

 

 切り立った断崖にへばりつく様に生い茂る木々は、容赦無く照る南海の太陽を遮り、こんもりと盛り上がった島影は"アサカ"の巨大な船体を覆い隠していた。楽しげに揺れるマングローブの足元では、小さなカニがハサミを振り上げ、トビハゼが小さなヒレを振る。

 戦場とは程遠い、美しい世界がそこに広がっていた。

 

「地球最後の楽園、外側の避難所(アウターヘイブン)か」

 

 本来なら浮上すべきではない潜水艦、"アサカ"の広い甲板の上で、中尉はジリジリと照る陽射しに身を細めながらひとりごちた。

 

 戦争初期のコロニー落としに"マスドライバー"攻撃は、広い地域の沿岸部に大被害をもたらした。それは南海の孤島も例外ではない。しかし、奇跡的に被害の無かった島もあり、この群島もその中の一つである。そのため、"ジャブロー"以外にも政府高官が逃げ込む避難所として開発されている島もあると聞いていた。その通称が"アウターヘイブン"。世界の果ての避難所だ。

 

「しょういー。本当にここであってるんですかぁー?」

 

 目を細める中尉の隣には、伍長がぐったりとした様子でへたりこんでいる。立ち昇る熱気を払う風も、伍長を涼ませるには力不足のようだ。だらしなく座り込み、力無く扇ぐ団扇に一瞥をくれた中尉は、構わず続けた。

 

「間違いない。それに、そろそろ姿が見える時間だ。もう少し待て」

「…はぁーい…あー、暑くてチーズ蒸しパンになりそう…」

 

 目を擦り、瞬かせた中尉は、もう一度伍長を見やった。

……見間違いじゃなかった。全く。

 

「──おほん。貴様こんな時に何をしている!?」

「んん"っ、ごほん。ワインを飲みながらひなたぼっこですけどぉ〜」

 

 芝居がかかった中尉の言葉に、伍長が鼻をつまみ、南部訛りで返した。そんな伍長の手の中で、やや溶けかけたアイスが、汗をかいたコップにじんわりと溶けていく。カランと氷が音を立て、よく冷えたコーラに白が混じる。その華やかな音も、忙しなく扇ぐ団扇の音が打ち消していく。

 お互いに顔を見合わせ、ひとしきり笑い合う。笑い疲れ、ゆっくりと笑いが収まると、中尉は意地の悪い顔を浮かべながらそっと呟いた。

 

「暑いからってアイスばっか食ってると、アイスみたいに身体溶けるぞ?」

「えぇっ!?」

 

 驚きに目を瞬かせる伍長。それで手はコップを放すことはなかった。それどころかしっかりと握り締められている。もう片方の手で触るのはお腹だ。摘んでいる。違う、そうじゃない。

 

──本当に、全く。

 

「──ぁ…」

「そ、それより!見えました!!アレですか!?」

 

 口を開きかけた中尉に被せる様に、目を輝かせた伍長が立ち上がり、水平線の向こうを指差す。額に手を当て庇とし目を凝らすと、確かにぼんやりとシルエットを揺らめかせ、聳え立つマストがクルクルと回るアレイアンテナとレドームを覗かせていた。伍長の言っている事に間違いないだろう。

 

「……んー、"グライムズ"級、"フォーリー"級に、"チハヤ"型、かな?」

 

 安堵のため息をつき、中尉はガシガシと頭をかいた。お陰で汗で張り付いた髪の毛が無理矢理かき混ぜられるが、気にしない。

 

 今回の補給は航空機でなく、潜水母艦を旗艦としたシーボーン・トループスの輸送船団(TCS)であるとの事だ。本来なら集合地点(RV)に先に到着した船団が、極極極超音波(ELF)とブルーレーザーの複合式通信装置で合図を送る予定であったが、ジオン軍潜水艦部隊による通商破壊作戦の無制限潜水艦作戦からシーレーン(SLOCs)の確保が難しく、本来の航路で来られないため、今回は"アサカ"が先回りし、待つ事になったとの事だ。

 勿論、"アサカ"は飛行甲板を備えているため、滑走路の無い海上においても航空機による補給も行えるが、効率やリスクを考えての選択との事だった。特に今回は速度も重視されず、主戦線(HKL)からも遠い。敵の制空・制海権からも外れている事から、脚の速い貴重な輸送機を回す必要が無く、東南アジア戦線へと送られる補給物資を運ぶ船団と合流して来たとの事らしい。

 未だに"ハワイ"本島を抑えられ、太平洋においても制海権の確保が苦しい状態であるが、それは地球総軍の戦術ドクトリン的には()()()()()()()()状態と呼べる。地球連邦海軍こそ"ハワイ"を奪還しようと躍起になっているが、本部は違うらしい。それこそ我々下っ端には関係の無い事であるが。

──ただ一つ言える事は、上は無能では無い、という事か。

 

「伍長、ほら立て。準備するぞ」

「はーい!!」

 

 歩き出しながら手を振る中尉の言葉に、バネのように立ち上がった伍長が手早くアイスをかき混ぜ、腰に手を当て一気に飲み干す。その動作に若干感心しつつ、中尉は俄かに騒がしくなり始め、喧騒に包み込まれていく"アサカ"の甲板上を歩いて行く。向かう先は格納庫(ハンガー)デッキだ。MSは専門的な事柄が多く、更にパイロット個人による調整が必要不可欠な兵器である。また、中尉はそれらの作業に積極的に参加し、現地における調整や補修、簡易修理などのマニュアルを作成中でもあった。

 

 兵器とは信頼性が一番であり、それは昨今のハイテク兵器にも言える。また、機構が複雑であればある程故障率は高まるため、現地での応急処置マニュアルの製作は火急の案件であった。特にMSは今後の主力となる兵器であり、また搭乗員も1人と異常なまでに少ないため、出来る事も必然的に限られてくる。それはMSの利点と欠点が同時に効果を発揮した瞬間だった。

 

──中尉が頭を悩ませる点はそこであった。人手とはあらゆる作業における選択肢を増やし、効率を上げる最大のファクターだ。旧世紀の戦車に多人数が搭乗しているのは、弱点であり、脚でもある履帯の修理の為と言う一側面もあるくらいなのだ。弾丸を弾き乗員を守る、重たく分厚い装甲を持ち上げるのはそれだけでも重労働であり、モジュラー装甲と言えど1人で持ち上げられる重量と言うものも自ずと決まってくる。

 しかし、多人数が乗り込む兵器とは、それだけ人的コストも一気に数倍へと跳ね上がる。仮に損失した場合、そのダメージ量もまたそれに追従する。現在、どの分野においても専門職と言うのは引く手数多だ。どこも人手に人材が不足しており、オートメーション化が進んでいる今、そのリスクはなるべく抑えるに越した事はない。

 その為、1人乗りであるMSの修理において行えるのは電装系関連が限界となってしまうのが最近の結論だ。MSはハイテクの結晶とも呼べる存在であり、多数の予備回路が設けられてはいるが……。

 人間が足を負傷するのが致命的であるのは、MSも変わらない。そのため、中尉は最も損耗率の高い脚部が損壊した時のマニュアルに頭痛を感じていた。兵器にとって行動が取れなくなる足回りの損傷は即死に繋がると言っても過言ではないのだ。しかし、二足歩行システムは最も投影面積が広いため狙われやすく、かつ複雑で修理は不可能に近い。そこに兵器としての最大の()()を見つけたのである。しかし、その二足歩行システムがMSの兵器としての最大の()()()()()()()を生み出している事も。

 

……と言うより回収MSとまでは言わないが、回収戦車位ないものか…。

 

「……ちょ…っm…」

 

 またも考え始めた中尉の背中に、よくのわからない呻きが投げかけられる。押し出した様な声に中尉が振り向くと、頭を抱えた伍長が丸まって震えていた。先程までの勢いはどこへやら、どうにもドリンクに負けたらしい。アホか。

 

「おら行くぞ。新しいパーツが機体に合うかもわかんねーんだから。難儀なもんだよ全く」

 

 そう吐き捨て、歩き出す中尉の側を海鳥が横切る。そのまま空へと駆け上がる姿に目を細め、中尉は目を泳がせる。そんな中尉を知る訳もなく、海鳥は一声鳴いて遥か水平線を目指して飛んで行く。背後の島からは後続がまた一匹、また一匹と足元を掠め、耳元を過ぎ、小規模な群れとなり視界の端を通り過ぎて行く。時に力強く羽ばたき、時に羽を伸ばし風に乗るその姿は、空を舞う者のみが持つ優雅さを纏っていた。

 

「──………………」

 

 空を駆ける影に、思わず目を奪われ、口をつぐむ。中尉にとって、空を飛ぶ事は憧れであり、誇りであり、全てだった。幼い頃より空に憧れ、いつしか傾倒して行き、そこにしがらみのない自由を追い求めていた少年は、あらゆる挫折を味わいながらも手を伸ばす事を諦める事をせず、遂に飛行機乗りとなった。

 遥かなる蒼穹に想いを馳せ、空を掴んでいた男の手は操縦桿を握り、空を目指し地面を蹴った脚は、フットバーを踏む事でその身を空へと押し上げる事に成功した。どこまでも蒼く、自由な世界へ、男は墜落して行ったのである。

 しかし、そこに自由は無かった。地上よりあらゆる制限に雁字搦めに縛られたまま、男はそこが自由であると信じて疑わなかった。いや、自分にそう言い聞かせ、納得させようとして来た。そこに目標の終着点を見出そうとしていたのだ。

 上を向く人間に一筋の光をもたらすのが太陽であるなら、それに近づこうと手を伸ばす者の身体を灼き、苛むのもまた太陽なのである。男はいつの間にか疲れていた。本人の知らぬところで、前を見据え挑戦する事で見える景色より、振り向く事で見つけられる安息の地を求めていたのかも知れない。

 やがて、その日は激しい衝撃と爆音、そして羽根を繋ぎ止める蝋をも溶かす熱と共に訪れた。常に空を仰ぎ見、夢を見ていた男に、それはあまりにも過酷な現実だった。太陽の様な、真っ赤に焼ける弾丸に翼をもがれた男は、夢を渡る黄色い砂に導かれる様にして地面に叩きつけられた。翼はバラバラになり、血は地面に吸い込まれ、涙だけが空に溶け吸い込まれて行った。

 それでも、男は地を這いながらも、未だに空を見上げていた。その目に、絶望と諦めの色は見られなかった。ただ、磨き上げられたガラスの様な黒い瞳が、無感動に空を写すのみだ。

 

「……飛ぶ鳥は、空に憧れない……」

「……え…?」

 

 一人呟く。その言葉もまた空に溶けていく。雨の中の、涙の様に。

 

「──だが、地を這い、見上げる景色も……また、悪くない……」

 

 漸く頭痛を切り抜けたのか、中尉の隣に並んだ伍長は、顔を顰め頭に手をやりながら口を開いた。

 

「何か、言いました?」

「ン、いや」

 

 中尉は誤魔化す様に軽く笑みを浮かべ、肩を竦める。こんな事を言っても仕方が無い。所詮魚の人は、鳥の人にはなれないのだ。それに、隊長は弱みを見せるべきでもない。そして第一に、伍長に言っても一番どうしようもない。

 勝手に一人納得する中尉に、やや不満気に頬を膨らませた伍長は、そのまま会話を続ける。

 

「なら、良いんですけど……パーツは、なんでそんな事になってるんですかねぇ?」

「それはだな、元々別の機体の余剰パーツに合わせて別の場所で別の生産ライン作ったからだよ。リミッターである程度合わせているとは言え、調整その他は現地に丸投げだからな」

「それでいてパーツ数は少ない、って事ですか?」

 

 "陸戦型ガンダム"、及び"陸戦型GM"は、試験機(RX-78)の余剰パーツの再利用のため設計され、生産ラインを開かれた言わば生まれながらにしてポンコツとも呼べる機体である。優秀な機体性能を持つ試験機の簡易生産と言えば聞こえは良く、実際機体性能も"オリジナル"に匹敵し、部分的に見れば勝っているところさえあるぐらいだ。

 しかしその分生産性、整備性を始めとし、ランニングコスト、予備パーツ、拡張性、互換性など、兵器にとってかなり重要なあらゆる点において致命的に、それこそ試験機並みに欠けているのだ。その点、ジオンとのストップギャップを埋める為だけに計画された戦時急造機なのである。それでもこれだけの性能を持つのは、ひとえに連邦軍の技術力の高さと国力の凄まじさを物語っているとも言えるだろう。

 

「そ。だからもう壊すなよ?『デストロイヤー』レオナ」

「わっ!わたしにもかっこいい二つ名が!!うふふ〜撃墜王(エースパイロット)の仲間入り〜ぃ……ってうひゃあ!?」

 

 近くでばしゃり、と水が跳ね、伍長が身をすくませた。身を縮め、そっと周りの様子を疑う自称エース様にその風格は見られない。そもそも褒め言葉じゃないからな?という言葉を危うく呑み込み、中尉は水音に目を凝らす。キラキラとした海面反射に紛れ、違う光が混じっているのを中尉の目は逃さなかった。

 

「な、なんですか今の!?」

「んー?よく見ると、あれはイルカでも、カジキでもなく、未知の、なんかだ」

 

 既に正体を見切った中尉は、のんびりと口を開く。頭の中では、既に竹に巻き付けられ、クルクルと回しながら焼かれていた。中尉の好物である。

 

「なんですか!?うひー、まさかとは思いますけど…ここは遠い海……恐竜のクーとかじゃ……?」

「あれ俺にはピー助に見えて仕方がなかったんだが……つーか今のアレはモロあご(トビウオ)じゃねーかなんだその結論」

 

 伍長の逞しい想像力と認識能力の欠如に呆れながらも、中尉は水密扉に手をかける。大きく分厚い扉には、それにふさわしいハンドルが取り付けられており、実際開閉にはかなりの力がいる。伍長は開けられないのだ。

 

「そんなんでエースになれるんか?それにエースつったら軍曹がいるだろ。な?」

「…それは、中尉も…だろう…?」

 

 気がついたら背後にいた、軍曹に向けて振り向かずに言う。気配は2人分。おそらく上等兵だろう。伍長は気づいていなかったのか、それとも俺が気づいたからかびっくりしているのかは判らない恐らく前者であろう。

 

「そうですね。軍曹の戦歴には、その、眼を見張るものがありますから」

「むー!女のエースはままならないものですから!!」

 

 上等兵は伍長の頭を撫でながら、軍曹を上目遣いで見る。視線に気づいた軍曹は、フッと軽く息を吐き言葉を継いだ。

 

「…エースには、5機か……」

 

 軍曹の言葉に、中尉はようやく思い出す。地球連邦軍は、母体となった旧米軍を色濃く受け継いでいる事を。そこには、敵機撃墜のカウントもあったハズだ。その事か。確か、10機は多いっつって5機にしたんだっけっか?

 

「はい。我が軍は基本的に旧世紀の計測方法を取っていますが、統合の際共同撃破は単機撃破とは別カウントとする事にしたそうです」

「はー、わたし今どれくらいかなぁ?後で調べてみよう!」

 

………伍長って、共同撃破は兎も角、撃破あったっけ?いや、我が隊の基本戦法はチーム戦術で敵に当たり、生き残る事を優先し、奇襲と迅速な撤退が主体だから撃墜数はそう高く無い事は判るが………。

 

「──しかし、無理は禁物ですよ。戦果より、私達は生き残る事が一番です」

「そうだぞ?わかってるか?勲章(ブリキ)に命を張る必要はないぞ?」

 

 目を輝かせ想像の翼を広げる伍長に、上等兵と中尉が代わる代わるクギを刺す。人的資源の損失、最新兵器の喪失、データ回収の事もあるが、一番はやはり命だ。俺達兵士は、時として死ぬ事も任務の一つとなり、命令される。特攻に近い任務の達成が殆ど死と同意義な命令であってもだ。

 だからこそ、そんな命令があるまでは、そんな決断が下されるまでは、中尉は部下に決して死んでほしくなかった。中尉は隊長、部隊の司令官であり、いつか、そんな決断を下す必要が出て来る日が来るであろうと言う思いからの言葉だった。

 

「わかってますよー…ん?」

 

 にっこりと笑い、伍長は中尉と軍曹と手を繋ぎ、そのままぐいと引っ張って、無理矢理上等兵に抱き着く。その強引で自分勝手だが、伍長なりの思いやり溢れる愛情表現に、中尉と上等兵は思わず苦笑し、軍曹も優しい目を向けた。

 

「光信号だな」

 

 抱き着いた伍長が目を細め、顔を上げる。昼間でもはっきりとわかる強い光に反応したのだろう。艦橋から発せられ、波間を渡り彼方へと届く光は、人間には強過ぎる。思わず目をやった中尉も顔を顰め、額に手を当てる。

 

「何て言ってるんです?」

「っと、『善人はよい倉から良い物を取り出し』…」

 

 手をかざす中尉が光信号を識別し読み上げる。返答は、上等兵が引き継いだ。

 

「『悪人は悪い倉から悪い物を取り出す』…ですね」

「……?」

 

 首をかしげる伍長。中尉も読む事さえ出来ど、その意味までは判らない。と言っても、合言葉なんて山川みたく意味なんて無いと思うが、洒落ているなと中尉は独りでに納得する。

 

「…共観福音書、か…」

「福音…っつー事は聖書?」

 

 中尉の言葉に、軍曹が静かに小さく頷く。教養あるな軍曹。宇宙入植者(スペースノイド)が人類の大半を占めた今、無神論者が増大し三大宗教もその勢力を衰えさせて久しい。人々は神への信仰を喪い、かつて世界一の数を誇ったキリスト教徒(クリスチャン)も減り、聖書や十字架を持つ兵士も少なくなった。中尉もその周りも基本的に無神論者であり、従軍牧師(チャプレーン)も殆ど見かけた事がなかった。ただ、クリスマスなどの儀式は根強く残ってはいる。

 

……俺たちは、今年のクリスマスまでに帰れるのだろうか。

 

「そんな事より伍長、航空管制用語の一つでも覚えたらどうだ?」

「うぇ!?」

 

 中尉は横目で伍長を睨む。MSパイロットは戦闘機(ファイター)パイロットに近い事と、将来的に全てのMSに採用する事になるだろうと噂されている"コア・ブロック・システム"により航空機にも乗る事も考えられ、そのための訓練が課されていた。また、人手不足で、前線ではあらゆる事をこなせる人間を求めており、その一大プロジェクトはまだ始まったばかりだそうだ。元空軍の中尉は言わずもがな、電子戦士官(EWO)の上等兵は航宙機免許も持っている。軍曹もそれは同じだ。持っていないのは既に伍長だけなのである。

 中尉のその言葉と視線からサッと目を伏せ、明後日を見る伍長。不自然な頰に垂れる汗が、喋らない伍長の代わりに悠然とその事象を物語っている。

 

「──で、でも、いいですよね!合言葉!!わたしたちも決めません!?合言葉!!」

 

 また伍長が何か言い出した。多分今俺は『また何か言い出しやがったなコイツ』って顔してると思う。

 

 合言葉とはそもそも、その作戦、その場、その時間で決め決して長く使う物ではない。今ここで決めていつ使うのか。

 手をポケットに突っ込む中尉。カサリとした感触に顔を眉を上げ、それを取り出す。手の平の上でクシャクシャに丸まったそれは、レーションの中身の一つ、とあるチョコの包み紙だ。

 

「んー、じゃあ、えーっと……合言葉は、"ハーシー"。返事は"アップル"だ」

「………なんか、カッコ悪い。それなら"サンダー"、"フラッシュ"の方がいい……」

「なんでや!」

 

 苦い顔をし文句を言う伍長。中尉は中尉で即席にしては中々な物を考えられたと思っていた途端にコレである。"サンダー"と"フラッシュ"の方が大概だと思う、と言う言葉を危うく呑み込み、中尉はやれやれと言った様子で肩を落とす伍長にぐっと堪える。つーかその顔やめろ。腹立つわ。トランペットで殴りつけて血塗れバケツ(キーストーン)にするぞ。アレ?壊れて出ない音があるのは何だっけ?ファマス?ボンネット?

 伍長の態度に憤慨し、肩を震わせ拳を握り締める中尉に、上等兵が助け舟を出した。軍曹は我関せず、と言った感じでそっぽを向いている。

 

「しかし、伍長。頻繁に変わる合言葉が長かったら困りませんか?」

「メモしてて落としたらネビルって呼ぶからな?」

 

 言葉こそ戯けているが、真顔で目も一切笑っていない中尉に睨まれ、伍長が頰に一雫の汗を伝わせる。合言葉を知られる程危険な情報はない。知られた事をこちらが把握するまでこちらは一方的にハメ続けられてしまう。短く簡単な言葉である事が多いが、合言葉とはそれだけ重い意味を持つ。中尉は即席で決めたが、それは至極真っ当な事であり、決して遊びではないのだ。

 

「え?…ど、どうしよう……」

 

 顔を青くする伍長。覚える事が苦手で、未だにハンドシグナルの一つも覚えず忘れっぽい伍長は、中尉にとっても悩みのタネの一つだった。それが今表面化しただけである。中尉は額に手を当て、上等兵は眉根を下げている。2人の対応に一層言葉を詰まらせ、口を震わせる伍長は、最後の頼みの綱の軍曹の顔を見上げた。腕を組んでいた軍曹は、その視線に向き直り、微かなため息とともに口を開いた。

 

「…傘を、握り締めておけ……」

 

 

 

 

 

 

 

「気になってたんだが、あのコンテナは?」

 

 大体の資材の搬入が終了し、船団が抜錨の準備を始める。慌ただしかった船内は落ち着き始め、配給分をこっそり溜め込んでいた者達も物々交換によって得られた戦利品を抱えながら船内へ消えて行く。肩を叩き、力強く握手をする水兵達は別れを惜しみ、艦は少しずつ平静を取り戻して行く。そのような空気の中、俄かに賑やかさを増しているのがこのハンガーだ。

 整備兵達は新しく来た真新しい予備パーツの梱包を解き歓声を上げ、埃をかぶる程放置されていたにも関わらず新品同様の輝きを放つ検査機と調整機を立ち上げ始める。今までの搬入の時とはまた違う騒音が奏でられる中、暫く振りのMSの本格的な修理が始まっていた。

 

「コレです!パーシングちゃんをお願いします!!」

「はっは。確かに承りました故、お嬢もご安心くだされ」

 

 向こうでも伍長が機付長に書き込んだ電子ペーパーを渡している。

 損傷の最も大きい伍長機("ダンプ")は、今回四肢のほとんど全部が新規のパーツとなる。また、特に損耗率の激しい肩部及び前腕部は、予備パーツの不足が今後も予測されるため今回特別に製作、調整された大型の物を搭載する予定らしい。

 

 "ダンプ"は伍長が左利きである事、操縦にかなりのクセと偏りがある事、リミッターの設定がかなり強めである事に目をつけ、損耗率の特に高い左前腕部に小型の装甲板を追加し、肩部装甲自体は完全に新造のものを、フック部に固定し覆い被せる形で追加するとの事だった。それにより本来の肩部装甲の被弾を抑え、装甲が破損した場合は破損箇所のみを交換するモジュラー装甲方式で損耗率を低下させるらしい。また、本体(・・)が壊されるよりはマシと、爆発反応装甲(リアクティブ・アーマー)の使用も検討されているらしい。

 

「ん〜?聞いてねぇ。なんだろ?」

「聞いてみる必要がありそうですね」

 

 しかし、中尉にはあまり関係の無い話だ。パージした前腕下肢部は回収され修理中。今は既に新しい物に変更された。脚部は膝部から下を大きく損傷したが、装甲を取り外した結果、爆風に抉られ、歪にひん曲がった事による干渉部位以外、特に重要な駆動系伝達部には殆どダメージは無かったのである。勿論、装甲裏に張り巡らされた電装系は壊滅したが、その被害は見た目以上に軽いものであったのである。

 勿論、細かい損傷を全て含めると激しい損壊と呼べるが、全交換より手間はかかるものの、その影響は深くまで及んでいなかったのである。これも、現在、装甲材として最も優れていると言っても過言ではないルナ・チタニウムのなせる技と言えた。

 そのため、"ジーク"は"ジムヘッド"と名付けられるきっかけとなった頭部以外は"ダンプ"に返還せず、そのままリミッターの設定を変更し使用する事となった。"ダンプ"には新しい、"本物"の"陸戦型GM"用の四肢が装備される流れとなったのである。

 

 "ジーク"の機付整備長である少尉に電子ペーパーを渡した中尉は、その流れで顎をしゃくり、件のコンテナを指し示す。厳重に梱包されているMSのパーツの中でも、一際目立つ厳正な管理をされていたそれは、今ハンガーの隅に纏められている。"イージス"の20mm機関砲、"スモークディスチャージャー"及び戦術電子戦システム(TEWS)、電装系のテストが終わり、手伝ってもらっていたMSの修理にも目処が立った今、中尉達は小休止を取ろうとしていた時の事だった。

 

「新兵器かな!?」

「…不明であるなら、投棄を…提案する。……それで無くとも…十分、注意すべきだ…」

 

 ハンガーの隅、空の弾薬ケース(アモボックス)に中尉達は腰掛けていた。軍曹もその隣で布を広げ、音を立てず、整備油とウェスを手に銃の分解整備を行い、そのまま顔を上げず忠告する。軍曹らしい慎重さを表す一言は、弾薬ケースを小さく震わせ、ハンガーの喧騒に溶けていく。

 弾薬ケースと言っても、その実包の口径は100mm。MS用であるため、両手で抱える戦車砲弾の様な弾丸を収めるケースはそれだけでかなりのサイズと重量となる。なので、その中でも小さめのケースをイスや机の代わりとして使っているのだ。

──そう、"100mmマシンガン"でもコレなのだ。"180mmキャノン"の180mm弾、"ハイパーバズーカ"や"ロケットランチャー"の360mm弾頭などの大口径弾となると既に人間単位での持ち運びは不可能であり、現在それら専用のトレーラー、クレーン、リフトが手配されている程だ。

 

 例として、"ブレイヴ・ストライクス"の誇る整備班謹製、対MS用使い捨て兵器"ランチャー"。それに用いられているのは前例の無い240mm弾頭だ。コレはMSサイズから考える榴弾として、比較的小口径である。しかし、それでもコレが複数人単位で持ち上げる事の出来る重量の限界であり、それによって決定したサイズである。その為、弾頭も珍しい装薬分離式を採用しその負担を軽減する事に成功している珍しい一例と言える。

 また、一発撃ちっ切り方式であるため、コストをかけず、尚且つ短時間で大量生産しなければならないという側面もあった。そのためジオン軍が用いた個人携行用の無反動砲をそのままスケールアップする方法を取るわけにもいかず、独特のサイズと重量となったのである。その分軽量化され、MSのパワーを差し引いても大量に携帯する事が出来るという思わぬメリットも発生したが。

 

 そんな整備班達の血と汗、涙と努力の結晶が兵器であるのだが、そんな事もつゆ知らず、中尉の背に勢い良く伍長が飛びつき声を上げる。その目はいつも以上に輝いていた。余程補給を受けMSが修理出来る事が嬉しいのだろう。そのテンションで、コンテナの中身を都合よく解釈し更にブーストをかけているのだ。 

 

「ん、それを捨てるなんてとんでもない」

「そうですよ!MOTTAINAI、ですよ!」

 

…………その言葉を理解するのに、たっぷり5秒はかかった。

 

「おやっさん!?いつのまに!?」

 

 軍曹以外が、目を丸くし思わず立ち上がっていた。軍曹だけは、一瞥をくれ、小さく会釈をするだけだ。

 

「よっ、久し振りだな」

 

 いつもと変わらない作業着を着たおやっさんは、何事も無かったのかの様に帽子をちょいと上げ、中尉達に白い歯を見せた。サングラスが光を反射し、その奥に潜むやさしさを秘めた目が一瞬見えた気がした。

 

「変わらない様子で何よりです」

「ええぇ?久しぶりなのに!?」

「大将もな。いや、男らしくなったか?」

 

 中尉も笑顔を見せ、固い握手を交わす。"ミデア"に乗り込み、日本に向かった日がとてつもなく過去の事の様に思える。それから、たった一ヶ月程度だったが、それは物凄く長い期間の様に感じていた。

 

「…ご無沙汰、だな……」

「お久し振りです。整備班長」

「おうよ!」

 

 挨拶を交わすおやっさんの声に気づき、一人、また一人と整理班達が集まって来る。気がつくと、中尉達を中心に十重二十重の人の波が出来ていた。

 

「仕事は終わったんで?」

「あぁ、バッチリさ。その成果のテストも兼ねて来たのよ」

 

 おやっさんはにやりと唇を歪めサムアップし、コンテナを顎でしゃくる。後でのお楽しみだ、とウィンクし、席を立つ。

 ウィンク、と言っても、サングラスをかけてるから眉の動きからの推測だ。そう言えば、特に目が悪いとも聞かない。なんでかけてるんだろうか?

 

「………おやっさん!!」

「おやっさぁ〜ん!!お逢いとうございましたぁ〜!!」

「うははっ!成果も結果も残して来た!これからは安心しろ!!もうお前たちに苦しい思いはさせんぞ!?誰一人にもだ!!」

「「「うおぉぉぉぉおおおぉおお!!!」」」

 

 気がついたら整備兵でなく水兵も集まり始め、辺りがお祭り騒ぎの様になる。

 腕を組み、その様子を見ていた中尉の肩を叩く者がいた。

 

「……どうしたんですか?」

「……お話があります。隊員の皆さんも…」

 

 息を潜め、小さな声で耳打ちされる。中尉は軍曹にアイコンタクトを取ると、軍曹は伍長、上等兵の肩を既に叩き事情を説明していた。その事実に満足しつつ軍曹の耳の良さに戦慄する。大騒ぎの中、距離もある。なんつー聴力だ。ソナーかなんかか?

 

 そのまま隊員を連れ、喧騒に紛れハンガーを出る。すれ違う水兵に明るく挨拶をしつつ、先を歩く連絡役に話し掛ける。

 

「どうしたんですか?」

「艦長のご指示です。詳しくは艦橋、CICにて…」

 

 それを言ったきり口をつぐむ連絡役に肩を落としつつ、中尉は首を傾げる。そんな中尉に、伍長が近づき耳打ちした。

 

「なんでしょうか?」

「判らん。しかし…」

「今は、軽率な行動を取るべきでは無いですね」

「…何か、嫌な予感が…する……」

 

 話しているうちにエレベーターに到着し、全員が乗り込む。そのまま音も無くドアが……閉まらない。

 

「いった〜い!」

 

 伍長が挟まれた。もちろんストッパーが反応しそのまま両断されたり、エレベーターが動き出したりとホラーでスプラッタな展開にはならなかったが…。

 

「………」

「………」

「………」

「…ごめんなさい…」

 

 誰一人声を発すること無く、先程の空気は壊れもしなかった。重苦しい空気を抱えたまま、エレベーターは静かに早く上昇して行く。軍曹は壁際で腕を組み、その隣に上等兵が寄り添うように立っている。連絡役は溜息をつき、移り変わっていくカウンターを見上げるだけだ。伍長は所在無さげに手遊びを始めた。中尉は腰の刀を握り締める。儀礼用かつ服飾目的が主である軍刀(サーベル)では無く純粋な打刀であるため、閉鎖空間に置いてはぶつけない様に気を使うのである。

 

 軽い音共に、エレベーターのドアが開いた。インカムで連絡を取っていた連絡役はそこで一礼し、口を開く。

 

「私はここで失礼します。艦長がお待ちです。ご無礼の無い様に。本来、艦橋は基本的に左官以外は役職が無い限り立ち入り禁止であるので。今回は特例です」

「あれ?わたしこの前入りましたよね?」

「………それが、特例、です!」

 

 伍長が何も考えず、ただ思った事を口に出すクセが炸裂し、マヌケな禅問答が行われる。その様子を見て中尉は溜息をつくだけだ。

 

「………」

 

 目の前にある大きな扉に注視し、緊張が体を巡る。何の変哲も無いハズのただの扉から、この前とは違う威圧感を感じ立ち止まる。

 

「少尉?」

「いや…」

 

 伍長の怪訝な声に、振り返ってぎこちない生返事をする。少し固まった身体を解すと、背中にヒヤリとした感触がした。知らぬ内に汗をかいていたらしい。

 意を決し、中尉はその扉に踏み出す。

 

「"ブレイヴ・ストライクス"隊隊長、タクミ・シノハラ中尉以下4名、出頭いたしました」

「ました」

 

 滑らかに開いた扉に、中尉は少し狼狽えつつ敬礼する。地球連邦軍の規則から、帽子をかぶっていなくとも敬礼だ。逆に頭を下げる事は滅多にない。また、その敬礼も陸軍式でなく、脇を締めた海軍式である。

 陸海空、そして宇宙。統一と統廃合、時の流れと共に軍隊も様々な複合体系となっている。その一つである礼儀、敬礼の仕方もかなり幅が取られており、宇宙戦艦問わず、艦内はスペースに応じて使い分ける事となっていた。

 

「うむ。ご苦労」

「こっちだ。すまんな、わざわざ」

「いえ」

 

 艦長に副長が返礼し、大きな電子作戦板に手招きする。中尉達は招かれるままに移動し、作戦盤を囲うようにして立つ。隣には砲術長、航海長などの主要な人物が並び、萎縮気味だ。

 一体、何が始まるのだろうか?中尉の不安の糸は強く捩られ、張り始めていた。

 

「入るぞ〜」

「ん?許可の無い者は…」

「まぁまぁ。おーい、艦長!」

「お通ししろ。ささ、こちらへ」

 

 その声に驚いた様に振り向く中尉。そこにはおやっさんが立っていた。止めようとした人は端へ引っ張られて行く。そのまま、何事も無かったかの様に我が物顔で踏み込んだ。

 

「さ、イスをどうぞ」

「いんや。いいよ。それよか始めようや」

「はい」

 

 あまりの事に声が出ない中尉。その視界の隅では、先程おやっさんを呼び止めた海兵が部屋の隅ヘッドロックされ、小さい声であるが早口でまくしたてられていた。お気の毒に。

 

 艦長が咳を一つし、作戦盤に手をついた。副長がその傍に立ったのを確認し、その重い口火を切った。

 

「正午にも関わらず全幹部隊員を緊急召集したのは他でもない。現今の情勢下に"アサカ"戦隊としてその任務を全うするにあたっていかなる方針で臨むべきか。それを討議する為である。状況が状況であるので今日は特に"ブレイヴ・ストライクス"の列席をお願いした」

「一体、何が?」

 

 艦長に視線が集中する中、おやっさんが口を開く。その言葉に応えたのは副長だった。

 

「先程、我々の進路上から少し外れた海域より、緊急支援要請(エマージェンシー・コール)が全方位に向けあらゆる信号により発信された」

「大変です!!助けに行かないと!!」

 

 いの一番に反応し、声を上げる伍長。視線が集中し、伍長が目を丸くして手で口を押さえた。中尉の頬に冷や汗が一雫垂れる。艦長が帽子に手をやり、口を開いた。

 

「それが、そう簡単な話では無いのだ。……副長」

「は。一つは、本艦の最優先任務から外れる事だな。

──しかし、これは左程問題ではない」

「それでは何が問題なのですか?」

 

 上等兵が静かに問う。その言葉に頷いた副長は、手許の端末で作戦盤を操作しながら応えた。

 

 中尉の眼前で作戦盤が点灯し、周囲の詳細な海図と、"アサカ"の位置、そして緊急通信が入って来たと思われる海域がピックアップされた。リアルタイムで送信されているらしいそれは、離れ行く補給船団も映し出していた。

 

「通常、敵味方関係無く発信される信号が、友軍向けにしか発信されていない事、しかし、あらゆる波長で全方位に向けられた事がまず一つ」

「…罠、か…?」

「有り得るな」

「混乱から立ち直ったとは言え、まだ問題は多数抱えているしな。警戒線の位置は?」

 

 軍曹が呟き、砲術長が賛同する。その言葉に、顎に手を当てたおやっさんが反応し、指先で盤上を撫でる。副長が手元で操作を行うと、海底に線が映し出される。しかしそれはあちらこちらで途切れ、点滅していた。

 

「そうだ。その可能性も多いにある。更に、発信先の艦のIFFに反応は無く、そこに派遣された艦隊は存在せず、発信された艦籍も存在しない」

「罠ではないですかね…それは」

「そこまで判っていて、一体何が?」

 

 口々に口を開き、ざわめき始める場に揺られ、中尉は盤上の光点を見つめる。元空軍所属でありそこまで明るくない中尉は、軍曹の袖を引き質問する。

 

「軍曹、警戒線って何だ?」

「…海底ケーブル、及びSOSUS(ソーサス)の…総称だ…」

 

 それは中尉も聞いた事があった。海中において音速が極小となる音波伝達経路、通称SOFAR(ソファー)チャンネルを介すると、散乱・吸収されにくい低周波の音波は、非常に長い距離にまで伝わるのだ。ソーサスとはそれを利用した海洋音響監視システムの事である。また、それに用いられる海底ケーブル及び通常の回線用光ファイバーケーブルは磁気変動に敏感であり、ドップラー効果を利用する事で潜水艦の探知が可能となるのだ。

 しかし、そのシステム網はコロニー落としの影響でだいぶ断裂したと聞く。その補修作業は全くと言っていい程進んでおらず、そのアドバンテージを活かすどころかそれに頼り切っていた事が仇となり、ジオン軍潜水艦艦隊による跳梁跋扈を許している、と言うのが現状である。

 

 しかし、地球連邦軍の取った戦略ドクトリン的に、()()()()()()()のだ。

 

 地球連邦海軍こそ、組織としての威信やプライドをかけて制海権奪還を急いでいる状況にある。しかし、人口の半数以上を失った連邦政府と地球連邦軍は地上侵略に対する反抗作戦において、総大将レビル将軍指令の元、既に大胆な戦略を打ち出していた。

 

 それは、地球上に駐留しているジオン軍を決算主義的な漸減作戦により漸次殲滅駆逐するのでは無く、持久戦に持ち込み、地球上で兵糧攻めにするというものだ。現在、地球連邦地上軍はジオン軍の兵站輸送を上回る速度で戦線を拡大、停滞させ、更に物量を持って戦線を押し留めている。ジオン軍はその維持に喘いでいる。連邦軍がその様な兵力を大量消費し焦土作戦に近い撤退戦を行ったその背景は、敵MSの脅威もあったが、開戦時の様に大戦力を短期的に用意する事は不可能であった事が大きい。

 そのため今ある戦力を効率よく運用し、時間を稼ぎ、戦力の再編、再軍備を行う為の戦略である。

 

 その第一目標としてあげられているのが、ジオン軍地球方面軍を支えている一大資源補給地である"オデッサ"鉱山基地一帯である。地球上の補給源を絶ち、その上"ビンソン計画"とMSの開発によって得られた新戦力で制宙権を押さえさえすれば、本国からも孤立したジオン地球方面軍の未来は見えている。

 面でなく、重要な点へと攻撃を行い、干上がるのを待つ事にしたのである。この作戦が型にハマれば、反抗作戦発動時、比較的少ない戦力でも地球上のジオン軍を事実上無効化しつつ、大損害を被った宇宙軍の再編が容易となり、宇宙において決戦を持ち込む事が出来るのである。

 

 そして、この戦略に()()()()()()()()()()()()()。必要最低限の主要シーレーンのみ押さえ、残りは空輸と潜水艦による秘密輸送に頼る事にしたのだ。

 

「……艦長」

「構わん」

「おとなの会話だ…かっこいい…」

 

 会話の中、副長が艦長に向き直る。艦長はただ手を振り、一言だけ呟いた。それを聞き届けた副長が、また喋り出す。

 

「は。引っかかる点は2つ」

「目星はついてるな」

「さっぱり判らないが…」

「…何故、ここに届いた…か……?」

 

 艦長の後押しを受け、ピッと指を2本立て、副長が本題に切り出した。また新たな情報が盤上に追加され、盤上はクリスマスのイルミネーションの様に華やかだ。顔を上げ少し目を擦った中尉は、改めて盤上を見下ろし、その理解に励む。

 

「そう。この艦にその情報が届いた事だ。まず、緊急通信とは言え極極極超音波(ELF)を用いるのはおかしい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()おり、極秘行動中である我々に()()()()のような通信が混じっていた事が一つ」

「も、もう一つは…なんですか?」

 

 ゴクリと唾を飲み、航海長が口を開く。艦長は言葉を発さず、ただ副長にアイコンタクトをするだけだ。場に重くのしかかる圧力に殆ど誰もが息を呑む中、その重圧を押し切り副長が言葉を継いだ。

 

「同時発信された情報の主要素(EEI)だ。それがこの件の最大の懸念となる。『()()()()()()()()()』。それだけだ」

 

 その言葉に、その場に居た者たちほぼ全員がどよめいた。

 

 作戦盤に表示されている救難信号が発せられた海域には、陸地がほぼ無い。戦略価値もない。そもそも、そこには戦闘を行う地上部隊も、その地上部隊を支援する航空戦力もない。救難信号を発した艦さえ存在が危ういのだ。そんな中、味方の安全を考慮しない、投入可能な航空支援全般(エア・ストライカー)による総攻撃が必要となる状況などあり得ない。

 

 ならば、その意味は自ずと決まる。選択肢は無い。

 

「『ブロークン・アロー』………」

「………」

 

 中尉の呟きを最後に、場が静寂に包まれる。

 

 艦橋は、ただ作戦盤が光を放ち、幽鬼の様な影を揺らめかせるだけだった。

 

 

──それは、今にして思う。この時、この瞬間、この決断こそが、俺たちの運命を定めた、帰還不能限界点(ポイントオブノーリターン)だったのだと。

 

 

 

『いいか、言葉を信じるな。言葉の持つ意味を信じるんだ』

 

 

必然たりえない、偶然は、ない………………

 

 

 

 




お久しぶりです。久々の更新になります。以前と比べりゃ短いですけど。

もう最近はメタルギアとサバゲーで頭が一杯でして、はい。加筆修正も進んでねぇ。最近ホント戦闘にならない。ホントにこれでいいんですかね?

しかーし!!祝!!9月15日!!ようやく!!本作品は!!ガンダム本編開始日に到達しました!!題名のポイントオブノーリターンは、こっちにもかかっています!!

この日、とある少年が、とあるMSと運命的な出会いをし、この世界がはじまります!!

……と言うことで、これからもよろしくお願いします!!質問、感想、文句など受け付けておりますので、どんどん下さい!!

次回 第六十六章 明日への南風

「──答えは一つじゃない。夢見るくらいなら、構わず探しに行くさ」

ブレイヴ01、エンゲー、ジ?


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第六十六章 明日への南風

ごめんなさいとしか言いようが無いです。

それでも、オカエリナサイ(←逆に出来ない)と言ってくれたら、嬉しいです。


人はいつも、何かを求めて来た。

 

自分の為に、家族の為に、友人の為に、何かの為に。

 

その根底にあるのは、確かなエゴだ。

 

人は、手を伸ばす。

 

その手が空を切ろうとも、手を伸ばし続ける。

 

 

 

──U.C. 0079 9.18──

 

 

 

 蒼を溶かした様な海水が、緩やかな波にうねり、キラキラと月の光を反射させる。波に紛れてはトビウオが飛び、空からは海鳥がそれを狙い旋回していた。少し自然が豊かであればどこででも見られる、当たり前の景色である。

 人が争いを起こし、血で血を洗っていても、それは遠く彼方の事だ。戦争など、自然を前にすれば些細な事だ。そう、何かが特に悲劇だということはない。それが戦争だ。それはまさに、悲劇から視点を引けば喜劇に変わる様に、だ。

 

 強い者が生き延び、栄え、弱い者は淘汰され滅ぶ。弱肉強食の世界において生死は()()()()だ。人間もそれを行う動物に過ぎない。

 人類の歴史は即ち戦争の歴史だ。戦争は科学技術を発達させ、次に訪れる仮初めの平和はその技術を加速させて行く。時代は移り、また新たな火種を生み、増えすぎた人口を減らす。動物と変わらない。自然の摂理だ。自浄作用とも言い換えられる。

──ただ、その進歩の果実を享受できる側の人間と、人口を減らされる側の人間が半ば階級化しているのは、人類の都合でなく、()の都合でしかないのだ。数として捉えられる、戦没者の人生に意味を捉えるのも、個々としての人だけだ。

 

 戦争を『必要悪』と捉えるのは、マクロな視点、人類を種としての全体と見ての話だ。種と言う括りの中においては、階級や国境、ましてや個人等は関係の無い事だ。自分が何考えてるか、どう感じているのか、そんな物全て関係の無いノイズ以下に過ぎない。

 戦争も闘争も、紛争も、すべては生物が生物として生きる限り終わる事の無いものだ。

 あらゆる生物は、他の生物を喰らい生きる。それでしか生きる事が出来ない。

 その流れの果てを見るのはただ、死者のみだ。しかし、その死者もまた、廻りへと還って行く。

 

 所詮は地球のノミ、人類の都合に過ぎない。度々繰り返されて来た戦乱も、この南国の海で、太古から果てし無く繰り返されて来た生命の営みを途切れさせる事は無い。青く透き通った水を少し濁らせる事はあっても、それを奪う事は出来なかった。

 今やその戦乱も殆どが収束し、この楽園を残すのみだ。新しく始まった戦乱も、この地までにその手腕を伸ばす事は無かった。時代から取り残された人々は、ただ生きる為だけに漁をし、細々とした暮らしを受け継ぎ、次の世代へと渡していた。

 

 そう、生きとし生けるものは全て生き残る為に戦っているのだ。ただ違うのは、人間は他の動物とは異なり、同じ種同士で激しく憎み合い、憎悪の念と共に殺し合っている事だけである。

 

 透き通った水を背に、またトビウオが飛ぶ。弾ける水面が、飛び散る水滴がまた世界に一瞬の彩りを加え、また元の風景へと溶けていく。

 彼らも好き好んで大空を駆けている訳で無い。彼らは己の身を天敵から守る為、逃げ延び、生き残るが為己が身体を進化させ、新天地への逃走経路を切り開いたに過ぎない。大洋を行く魚が大空へと飛び立つ。そこにどの様な飛躍的進化(ブレイクスルー)があったか、どの様な困難があったかを知る術は無い。失われた輪(ミッシング・リンク)は何も語らない。

 

 そして、それは今重要では無い。彼らが波をかき分け、飛んだ事自体が重要なのだ。彼らが飛び立つのは、身の危険を感じた時だ。

 そう、今重要な事は、この穏やかな海の底に、彼らの恐怖を煽る存在が潜んでいるという事だ。

 

 昏い水底が、ゆらり。揺らぐ。

 

 仄暗い海面に、大きな何かが暗い影を落とす。凄まじい速さだ。しかし恐ろしいのは、それが全くと言っていい程音を立てていない事だ。初めは小さかったそれは、みるみる大きくなり、遂に海面を割り姿を現した。

 物理法則を無視した、不可思議な飛沫と共に姿を現したのは、黒々とした滑らかな外装を身に纏う鋼鉄の鯨だ。巨大な潜水艦は、曲線美の極地とも呼べる優雅な船体で波と風を切り裂き、その速度を更に上げて行く。波飛沫がか細い月明かりを乱反射する中、凄まじい速度で波を蹴立てる"アサカ"は速度を緩めず、そのまま巨大なハッチを開放する。

 静けさを打ち破る様にエンジン音を高鳴らせ、ハッチの開放から間髪入れず次々と飛び出して行く海鳥達は、暗闇を切り裂き闇夜を越えて行く。肚に大量の火の玉を抱えた海鳥達の正体は、戦闘爆撃機(マルチロールファイター)"フライ・マンタ"を主軸としたストライク/CAPを行う編隊、イーグルレイ隊だ。マンタと言うよりはサメに似たシルエットの航空機は、トビウオを追い越し、獲物を探して夜に溶けて行く。機首に描かれたシャークマウスは、雲を食む為のものでは決して無いのだ。

 

 ストライク/CAPとは、戦闘空中哨戒(CAP)行動のパターンの一つだ。そもそもCAPとは戦闘機による防空の事であり、空中待機させた戦闘機による邀撃の事だ。その目的は、接近する敵航空機に迅速に対応、排除する事である。ストライク/CAPは、航空攻撃、主に爆撃に主眼を置いた行動形態であり、エンジン推力や航続距離、ペイロードに余裕があり、爆弾を抱えたままの長時間飛行(ロイタリング)が可能な"フライ・マンタ"には正にうってつけと呼べる任務だ。

 

 叩きつけられたジェット噴流により暖められた空気が流れる中、真っ向からぶつかり合う風と、警戒を呼び掛けるビープ音の中、宿主の去った飛行甲板に、超大型のエレベーターがせり上がってくる。風の中、誘導灯の光が濁った虹を描き、儚く消えていく。上昇を続けるエレベーターでは、青いジャケットを身につけた従者を従えた3機のMSが待機し、忙しない回転灯の光を受けながら飛び発つ瞬間を待ちわびていた。暗闇の中、回る光を浴びてはまた闇を纏う3機は、陰影が作り出した幻の様で、現実離れした幻想的とも呼べる光景だった。

 

 "アサカ"が浮上し、この飛行甲板を開放するのはこの作戦において2回目である。先日、草木も眠る丑三つ時の闇に紛れ、電子偵察機である"フラット・マウス"(プレッツ・エル2)が偵察の為離艦している。"コロニー落とし"等による災害で、従来の地図は役に立たない事も多い。その為、作戦地域における高高度からの電子偵察、及び光学偵察はかなり重要度を増して来ていた。

 そして中尉達は今、たった1つの打電を待っていた。

 

 先日救難信号の出された地域に、現在"アサカ"は向かっている。そして、それが偽情報(フェイク)であるなら無視し、本当であるなら友軍の救出と真相の究明をする、と言うのが"アサカ"戦隊全体の方針だった。その為、"アサカ"は緊急時の強襲揚陸準備をしつつ、偵察機による戦術偵察を行い、MS投入の如何を見極めている時だった。

 

「さて、どうなるんかな…」

 

 ◯二五◯(マルフタゴーマル)、静かな月光の下、膝をつく"陸戦型ガンダム"、"ジーク"コクピット内で中尉は腕を組み独りごちた。響く様な大きな音と共に上昇を止めたエレベーターは、登りきり固定をされた揺れを最後に、今はビクともしない。

 潮を纏った海風に、おやっさんの改良により防御力が増加し、今は小さく折り畳まれた"シェルキャック"の裾を靡かせる"ジーク"は、とても兵器とは思えない荘厳な雰囲気だった。鋼の巨人は身動き一つ無く、修理を終え、鋭くエッジの立った新品同様の装甲をキラリと光らせ待機している。

 泥汚れやキズの一つもない装甲に、天気雨の様に降りかかり、光を乱反射させる水の飛沫。雫が垂れる右手には、試作の新兵器"100mマシンガン・ツインバレル"を、左手にはシールドを装備していた。また、肩部装甲裏には新調された"スローイングナイフ"が装備され、腰部裏にもグレネードが懸架されている。今までの極貧ぶりとは比べ物にならない装備だ。それでもなお、今回の作戦上においては、これでも少ない方である。その為足元には赤いジャケットを身につけた兵装要員の甲板作業員が走り回り、搭載装備の最終チェックを行っていた。横では緑のジャケットを身につけたカタパルト要員が数字の書かれたボードを振り上げ、射出時の機体重量の確認を怠らないでいる。中尉もコンソールを叩く事で記録を呼び出し、数値と照合する事を再確認し、確認の合図を送る。手馴れたものだ。

 

《まだですかねー?今宵のパーシングちゃんは血に飢えてますのに》

 

 "ジーク"の隣には、伍長が乗り込む"陸戦型GM"、"ダンプ"がメインカメラを光らせ、同じく"ツインバレル"を振り上げる。"シェルキャック"は同じだが、"ジーク"のとは違い、補給物資の一つ、機体のその殆どを覆い隠す程のサイズの菱形に、大きく十字の紋章を象ったシールド、FADEGEL RGM-M-Sh-003型を装備し、その裏に"ハイパーバズーカ"を懸架している。

 このシールドは従来の物とは違い、取り回しを犠牲にしてでも機体の大半を覆う事の出来る大型の物だ。その分コスト、重量共に増加し、輸送や機体フレーム、各関節への負担なども増加しているが、取り回しより防御面積を重視した設計から、射撃戦における扱い易さはこちらが遥かに上である。また、大きいシールドは敵味方に与える心理的効果も大きく、複雑なプログラミングなどが必要無く簡単に扱える。つまり、この盾が増えていくだろう新米連邦軍MSパイロット用の標準装備(スタンダード)となるらしい。その為、実戦データ採取を行い更なる改修を推し進める必要が叫ばれ、伍長機に装備される流れとなっていた。

 そんな伍長の様子に苦笑を隠せない中尉は、リラックスする様にぐるりと首を巡らせる。流し目に映る景色は、騒がしい周囲を浮かび上がらせ、中尉はどこか懐かしさを感じていた。視界いっぱいに広がる暗闇とグレー。回転灯が忙しなく巡りイエローの光を投げ掛ける中に、陰影を抱え、あらゆる色を掲げた人々が走り回り、その非日常な鮮やかさを振りまいていた。黄色、緑、紫、茶色、青、赤、そして白。空母甲板作業員(レインボーギャング)、レインボーサイドボーイズとも称される彼ら達は皆スペシャリストで、自分達の為に動いてくれているのだ。

 

 伍長は修理の終了とそれに伴う改良、更に新兵器の受領と大興奮だ。昨日"アサカ"に発見される危険を押して浮上してもらい、機体と新武装の動作点検、テストをしたが、その時から変わらないテンションである。良く続くものだ。その電池が作戦中に切れなければいいが。

 

 因みに、おやっさんの言っていた新兵器とは、実は兵装では無い。地球連邦軍兵器開発局が用いているオートメーション装置を応用した、大規模かつ高度な開発支援システムである。言うなれば全自動現地製造品(ローカルメイド)設計開発装置が一番しっくりくるだろう。

 今までに類の見ない、特殊な製作(・・)機械群である。

 

 その実態は、数千、数万の工業製品の集合体であるMS、及びその装備品を現地設計、生産、改修及びその他諸々を運用現場で行い、運用効率、開発状況とその進捗状況管理、情報連携・共有や組み立て時のノウハウ構築などをその場でフィードバックとトライアンドエラーを繰り返す事で、あらゆるロスやミスを減らそうと言う複合生産システムであり、それ自体を大型艦に積めるサイズにパッケージングしたものである。おやっさんが"オーガスタ"で新兵器を設計、開発中、"新兵器実戦運用試験部隊"としての側面を"ブレイヴ・ストライクス"に求める動きがあった為、兼ねてから温めていたアイディアを同時進行で製作開始したものであったしい。

 これは本格的に導入する事が出来れば、理論上新兵器をその場でポンポン開発し、調整を加えつつおよそ数日で実戦運用にまで持ち込めると言うかなり革新的な設備である。正に、あらゆる物を貪欲に取り込み『進化する』設備と言っても過言では無い。

 しかし、いかんせん開発したばかりでそのデータ、特に部材に関する物が不足しており、その蓄積を実験部隊に付随させる事で効率化を図っている状況であった。その第一段階として、今ある装備を簡易改修するテストヘッドがこの"ツインバレル"だった。

 "100mmマシンガン"の機関部を改造し、強装弾を用いる計画から、銃身内蔵型の減音器(サプレッサー)を組み込む計画など、あらゆる案が浮上したが、その為の専用弾の開発、及びその生産体制を整える事に難航しているのだ。また、オートメーションをただでさえ少ない予備パーツ生産のリソース以外に割くのがワリに合わないため後回しとなり、今ある物で現場の求めているものを設計した結果がこの"ツインバレル"なのである。伍長待望の"ショットガン"もこの流れで後回しとなっている。

 それにもめげず、この"ツインバレル"は伍長の提案であった。旧世紀からガンスミスのハンドメイドにより作られていた水平2連銃や、旧国名ロシアのダブルバレル半自動拳銃AF2011-A1、旧国名イスラエルのAR-15ギルボアスネークを参考に、作動不良(マルファンクション)弾詰まり(ジャム)が少なく信頼性の高い"100mmマシンガン"を2つ並べて1つの銃にして欲しいとの要望かららしい。

 

 一見アタマの悪そうな提案であった。だがしかし、頭ごなしにはバカには出来無い発想だ。左右同時射撃なら瞬発火力は単純に2倍になり、撃ち分けであるなら継戦能力が銃身、薬室のクールタイムを含め2倍以上になる。MSサイズに単純拡大しても構造的な余裕により電子制御も自由自在だ。また、多少の大型化や重量増加は、等倍した人間よりパワーのあるMSには大きな影響が無いなど、単純でも強力な改修であり、作動テストの結果も良好であった。

 1つ問題があるすれば、その提案を聞き届けた時、これを前述の装置を殆ど使わず、殆どおやっさんが1人で設計、開発をしてしまった事だけだ。本人曰く『まだ信用ならないし、良く考えたらやっぱ自分でやった方が早い』『そう考えたら俺には必要無い』からだとか。いや、経験値の蓄積が大切って自分で言っとったやん。まぁ新兵器は今他の武器の開発を急いでるらしい。楽しみではある。

 

《ブレイヴ03…実戦証明段階だ、積極的な戦闘は…避けろ…》

《こちらコマンド・コプター(C2)。ウィザード01です。ブレイヴ02の言う通りです。整備班長を疑うわけではありませんが、何事も用心するに越した事はありませんよ?隊長も無理は禁物です。そのサイドアーム(セカンダリー)を抜く様な結果にならない様にして下さい》

 

 軍曹と上等兵が交互にクギを刺す。その息の合い様は、まるで長年連れ添った夫婦の様で、中尉は思わず頰をかいた。

 

「了解です」

《はーい!》

 

 その至極もっとも忠告に苦笑しつつ、中尉は口を開き、伍長がそれに続いた。まるで親子の様だ。頼り無い隊長である事を自覚する反面、甘えられる相手がいる事に安心も覚える。今はただ、2人の指示に従い、最終判断は自分が下すと言う、都合のいいポジションに甘んじる事が出来るのだ。中尉は、ゆっくりと目を瞑り、改めて自分の幸福さを噛み締めた。

 

 因みに中尉の提案により、軍曹が乗り込む"180mmキャノン"を肩にかける"ハンプ"の装備は殆ど普段時と変わらない。これは運用実績のある装備で取り纏められており、いざという時の保険である。"ランチャー"や"スローイングナイフ"の時とは違い、メインアームが試験装備であるための対応だった。

 今回は戦闘があるかも判らないが、上等兵の言う通り、用心に越した事は無いのだ。

 また、今回上等兵は"イージス"では無く、"キング・ホーク"バリエーションの中の一機である"シー・ホーク"(C2バード)に乗り込んでいる。"イージス"はホバーによる地形を選ばない高い機動性と走破性を持つが、カタパルトにより投射されるMSに追従する事はまず不可能だ。また、その最大の武器であるアンダーグラウンドソナーも、打ち込むべき地面の無い海上では使用不可能である。それに、地上において使用しても、今回の島嶼の様な複雑に地面と水面が入り組む地形ではソナーもその能力を発揮しきれない。

 そのため今回の作戦には適さず、ティルトウィング機としても破格の脚の長さと速さを持つ"シー・ホーク"による上空支援(ファースト・ムーバ)となった。少尉はお留守番である。

 

『偵察中のプレッツ・エル2より入電。コールサイン、『ゼーテオー』もう一度繰り返す、『ゼーテオー』。第1戦闘配備(コンディションレッド)発令!』

「『ゼーテオー』!!」

《了解!ぜーてー!!おー!!》

 

 インカムに、ノイズがなくクリアな通信が入る。その言葉に呼応する様に、中尉が進発信号を繰り返し、伍長がそれに続く。衣擦れの音から、大きく手を振り上げた様だ。安易に頭に浮かぶ光景に、中尉は薄く笑いを浮かべた。

 

(ファッキン)…『ゼーテオー』、だ……!》

 

 軍曹が絞り出す様に締めくくり、事態が急速に回り出す。遡る事数時間前、既に主戦線(HKL)上空に展開、高高度戦術偵察を行っているプレッツ・エル2からだ。プレッツ・エル2には、空挺作戦において、降下地帯の査定および確保と投下機の誘導を担う戦闘管制官(CCT)が搭乗している。彼の通信が、俺たちを動かす最大のカギなのである。

 

 高濃度のミノフスキー粒子散布下でありながら比較的ノイズが少ないのは、大気の薄い高高度から高強度のレーザー通信を用いているからである。これならば、中継でありながら殆どタイムロスも無くかなりクリアな音声を展開中の全部隊やMS隊、そして"アサカ"発令所まで届ける事が出来る。また、"ブレイヴ・ストライクス"隊のMSの送信回路には、緊急通信以外には減衰器(アッテネータ)を噛ませてある。これは隠密性を主眼に置く特殊部隊であるための方向探知(DF)対策だ。その事から基本的に長距離通信は不可能であるため、上空支援(ファースト・ムーバ)は欠かせない。このちょっとした技術の応用が、作戦の成功率を陰ながら大きく上昇させているのだ。

 

 そして、コールサインの意味は、『MSの出撃による支援を要請する』。事前に取り決められた、進発の合図……。

──俺たちの仕事だ。

 

『発令所より各員へ!!"オペレーション・アクアノーツ・ワン・オブ・ゾーズ・デイ"、潜水士達のツイてない1日発動!!総員!気を引き締めろ!!』

『やはり、作戦名長過ぎましたな。ルビも打てやしない』

『メタい事言うな!カッコイイからいいだろう?

──だから気を引き締めろと言っただろうが!!』

『鏡を見てくれ』

『こちら"アサカ"、発着機管制室(LSO)。ブレイヴ01(リード)応答せよ(プリーズ・イン・カム)

「こちらブレイヴ01。感度良好(ファイブバイファイブ)。通信状況に異常無し、どうぞ(オーバー)

 

 艦内放送と漫才が流れ、飛行甲板上も俄かに騒がしくなる。飛行甲板にめり込むように配置されたバブル(LSO)からの、統括管制官である海軍航空士官(NFO)の声に応え、中尉は腹をくくる。足元に躍り出た人影に、コクピットからそれを見下ろした中尉は対地センサー強度を人間や電子機器に影響を与えない程度に高めた。そして、光る誘導棒を振る、黄色いジャケットが眩しい誘導員(マーシャラー)の指示に従い、沈黙を保っていた機体を立ち上がらせた。

 眠っていたジェネレーターが高らかに吼え、各関節のフィールドモーターが低い唸りを上げ機体を持ち上げる。背中に抱えられたエンジンは、轟音とも呼べる独特な高周波の金属音を響かせ始める。軍曹、伍長もそれに倣い、暗闇の中、薄明かりに照らされる3機のMSが立ち並ぶ壮観な光景が出来上がった。

 

『"ブレイヴ・ストライクス"隊の出発時間(タイム・トゥ・ゴー)まであと5分。各機、指示に従って所定位置まで前進、待機してください』

「ブレイヴ01了解…さて、行きますか」

 

 管制官の指示と誘導員(マーシャラー)の先導に従い、中尉は"ジーク"をゆっくりと歩かせる。その間にスクリーン表示に目を走らせ、システムを再チェックする。射出モード。各部の動翼、ロケットモーターをチェック。燃料良し。油圧良し。艦と機体のデータリンクも同調している。最終点検良し。後はメインコンピュータの応答と管制室の指示を待つ。

 ふと上を見上げると、暗い空が広がり、月明かりに照らされた灰色を帯びた雲がたなびいている。前方には、既に嚮導機(パスファインダー)を先頭に、ストライク/CAPの為飛び立ちV字の編隊を組む戦闘爆撃(イーグルレイ)隊が放つ左右確認灯が、暗闇にその軌跡を刻んでいる。解けゆく雲を孕む頭上には、点々と映し出された黒い点が次々とピックアップされ、何らかの海鳥を表示する。その中の一つ、一際小さい点はIFFにブルーマークが表示されている。"アサカ"上空の"ディッシュ"(アーリーバード4)だ。

 この"ディッシュ"は、エスコートジャマーとして先行している"フラット・マウス"(プレッツ・エル2)の情報支援、通信中継などを行っているのである。"アサカ"航空隊の全能力は、今連邦軍唯一のMS部隊である"ブレイヴ・ストライクス"に全て振るわれているのだ。

 

『各員、対空警戒を厳とせよ』

『現在のミノフスキー粒子濃度は4%。レーダーにノイズ、ゴースト無し。天候は晴れ、気温42℃、湿度52%。南南西の風、風速13m。時折、南東からの突風(ガスト)あり…』

「C2。ウィザード01、目標に動きは?」

 

 通信を聞き流しながら中尉はコンソールを叩き、データの諸元入力を行う。これから先、向かう先はかつての戦場、空だ。一点の支えも無く、最もバランスの危うい世界では、ちょっとしたミスがそのまま命を奪う事に繋がる。その為の準備を怠るつもりは毛頭無かった。

 

《こちらウィザード01。プレッツ・エル2からの情報では変化無し、です。また、敵戦力はMSらしき機影が確認されています》

《わぁお!腕がなりますね!!》

 

 伍長の無責任なテンションに、思わず溜息をつきそうになる。敵は居ないに越した事は無いのに。今回の任務は恐らく、対象の捜索救難(SAR)だろう。それにはかなりの危険が伴うのだ。

 サーチ・アンド・レスキュー、つまり、俺たちは戦場に飛び込み、護衛対象を見つけて防衛しつつ、敵戦力を全滅または壊滅させ、敵を撤退に追い込まなければなら無い。酷い事だ。たった一個小隊のMS、かつ最低限の武装しか無い"ブレイヴ・ストライクス"に未だ戦力が把握しきれていない敵部隊を壊滅させるのは不可能に近い。

 

「……ついさっきまで、サーチ・アンド・デストロイしてた俺たちが…サーチ・アンド・レスキューとはなぁ……」

《仮に…捕虜になっていたとしてだ……奪回出来なければ、殺害か…》

 

 中尉のボヤきはコクピットに溶け、ダクトに吸い込まれて行く。指先で目元を揉む中尉は、それでも少しの救いを感じていた。軍曹の言葉に現実に引き戻されるまでは。

 

《上からの命令とは言え──私は承服出来ません》

 

 軍曹の言う、冷酷だが軍としては確実な方法に、上等兵は苦しげに反論を言い放つ。しかし、その口調は重かった。

 敵に情報が渡る危険性を、上等兵も理屈としては判っている筈だ。しかし、仲間の命よりもそれが重い事をおかしいと思ってしまう理性がある。けれども、1人の仲間が漏らした情報が、友軍に大打撃を与える可能性も忘れていない。このままでいいのか、いけないのか。それが問題なのだろう。上等兵は、常に理想と現実との狭間に苦しめられている。

 

 それを、中尉は納める方法を知らなかった。まだ、彼は若過ぎた。

 

《だいじょーぶですよ!!私達が行く!戦う!そして救う!"ブレイヴ・ストライクス"みんなの力が合わされば、いつもどこも敵なしです!!》

「…そうだな!やってやろう!!」

《はい。伍長、ありがとうございます。お陰で勇気がつきました》

《えへへ》

 

 伍長が声を張り上げた。その言葉に震えは無く、純粋に信じている声だった。伍長は、やはり強かった。

 そうだ。悲観的になってどうする。軍曹はプロの中のプロだ。誰もが目を背けたくなる最悪に、常に目を向け、それを俺たちに喚起してくれている。そうだ。俺のモットーは『状況は最高を、備えは最悪に』だ。嘆いても始まらない。いつも通りやるだけだ。

 

《……それでねー少尉、コレ、着心地悪いです。脱いじゃだめですか?》

《ブレイヴ03…それは、耐Gスーツの事…か……?》

 

 伍長の呑気な声に、中尉は溜息と共に脱力する。二足歩行ユニット、そしてスラスターを併用するMSの戦闘機動には、あらゆる方向からの莫大なGがパイロットにのしかかる。それは、航空機等とはまた違う形で、それこそ瞬間的には最大30G近いものだ。勿論、当たり前であるが常に30Gかかってる訳でもない。あまりの高機動は機体フレームを始めとするあらゆる所に強い負担をかけるため推奨もされていない。

 

 Gには、衝撃などによる瞬間的な物と、旋回等による継続的な物に大別される。人間はどちらも耐えられる限界が存在し、瞬間的な物ならおおよそ30G、継続的な物はおおよそ9G程度と言われている。また、それらをあらゆる手段で変換する事で耐えられる幅を伸ばす事も可能だ。例を挙げると、着地による衝撃は、二足歩行システムによる衝撃の吸収により軽減する事が出来る。全体の慣性力こそ変わらないが、瞬間的なGがかかる時間を遅延させる事で、それを分散、軽減させる事が出来るという側面もあるのだ。最大負担量こそあるが、その負担が減るに越した事は無い。その点、MSは従来の兵器とは一線を画していると言える。

 しかし、二足歩行システムで吸収、分散させる事が出来るのは極一方方向からの物だけに過ぎない。そのため、コクピットブロック及び、パイロットシートにもそのGを軽減するあらゆる工夫は凝らされているが、それにも限界がある。中尉は"ザクII"の時から気休め程度ではあるが、ある程度の効果は見込める航空機搭乗用の耐Gスーツを身につけていた。しかし、これは航空機の旋回等でかかる、継続的なGにしか効果は無い。また、改良による効果の増強こそあれど、その性能は2.5G程度耐G体勢を高める程度だ。後は身体能力や筋力の問題となる。そして、今回、初のカタパルト射出による出撃と言う事から、保険としてもパイロット全員に着用の義務が出て来たのである。

 

 実は、航空機の場合はエンジンの生み出す推力よりも、翼の生み出す揚力の方が遥かに大きい為、急加速によるGよりも旋回等のGの方が苛烈である。しかし、今回の機は推力で無理矢理飛ばす上、ドッグファイト等の急旋回は考慮されていない為、耐Gスーツは急加速にその主眼が置かれている。

 

 つまるところ、伍長の不満はその耐Gスーツにあった。伍長は何時ものボディーアーマーに加え、サイズの合わない耐Gスーツを突貫で加工、調整し装備しているため完全に着膨れていた。そのためいつもと違い、着心地が悪いと漏らしているのだった。

 因みに、+のGは身体の固定と耐Gスーツによる脚の締め付けで、脳に血が行かなくなってしまいブラックアウトする事を防ぐ事が出来る。訓練を積めば、大体9Gまでは耐えられる。しかし、-のGはそうはいかない。脳に血が行き過ぎると脳内出血を起こしてしまう。かと言って、首を絞める訳にもいかず、結局人は-3Gでレッドアウトし、それ以上は目や脳から血が噴き出てしまう。Gとはそれ程恐ろしい物なのである。

 

「──正直、軍曹はともかく、これまで伍長も耐Gスーツを着ていなかったとは驚きだったが……」

《C2よりブレイヴ03へ。それは貴女の命を守るかもしれない物ですから、シートベルトと一緒にキチンと着用してください》

《はぁーい。わかりましたぁ〜》

 

 上等兵の説得に応じ、伍長は渋々と言った様子で返事をする。伍長は小柄で、尚且つGに耐える訓練は中々の好成績を収めていたが…やはりネックはそこかと、中尉は小さく嘆息した。騎手とレイバー乗りは小柄に限ると言うが、限界はあるよ。

 話は戻るが、しかし、だからと言って"アサカ"の援護も当てになら無い。"アサカ"本来の仕事は、MS隊の『戦闘支援(CS)』であり、『戦闘援護(CC)』では無いのである。高い打撃力を持つ"アサカ"だが、高過ぎる火力でこちらを纏めて吹き飛ばされても敵わない上、本来なら"アサカ"は戦闘に参加させるべきでは無い兵器なのである。

 

 "アサカ"は繊細な超ハイテク機器の塊の、塊である。それはある程度敵弾に当たる事が前提のMSの比ではない。当たらない事が前提の兵器なのだ。

 勿論、水圧に耐え得る硬い船殻に、その巨体とダメージコントロール能力の高さから凄まじいタフさを持つとシミュレーション結果は出ているが、"アサカ"の堅固な装甲の表面(・・)は、電磁流体制御システム(EMFC)とミノフスキー・クルーザー複合システム装置群となっており、装甲自体は堅固でもその外側の装置群が著しく脆弱なのである。

 "アサカ"の外殻は無反響タイルに融合している上記装置群を、刀鍛冶の様な性質の異なる物質を結びつける特殊な製法を応用しつつ、装甲そのものを基盤とする特殊高張力合金で作製されているのである。これはそれぞれの部材を単機能とはせず、構造材であり電子機器でもあり装甲としての機能を持つ部材とする技術である。そのため、装甲となる複合構造材そのものを通電する配電基となる性能を持たせ、構造材レベルでの微細な結晶状の電子素子を配置する事で、ケーブル、コード類の廃止、ブロックモジュール化を図っている専用の高価な物だ。多少の損傷でも航行には支障を来さないが、どんな小さなダメージでも複合モジュールを丸々交換する必要があり、その修理費は天文学的な物となってしまう。パーツ単位の交換で済む為、修理時間の短縮こそ達成したが、職人の手により一つ一つ手作りされるパーツ生産の時間は計り知れない。

 

 そして、忘れてはならないのが、潜水艦と言う兵器の特徴である。圧力や衝撃波などを空気の何倍も早く、殆ど減衰させず波及させる水中は、たった1kmと言う爆雷の至近弾が致命傷になり得る世界なのである。

 宇宙世紀の技術革新により、あらゆる炸裂弾一つ辺りの炸薬量も増え、炸薬自体の性能も日進月歩で上がっている昨今、これ程高価な兵器を危険に晒す理由は少ないに越した事は無いのである。少しでも傷つけたら、おやっさんの事だ、コーウェン准将が禿げ上がる事だろう。最近風の噂で生え際が後退しているのでは、と聞く。それは忍びない。

 

「っつってもなぁ……無茶振りも勘弁してくれよ。そもそも相手の戦力、狙いすら判ってないんだぞ?」

 

 結局、ため息と共に片眉を上げて嘆息する中尉に、軍曹が言葉を継ぐ。

 

《狙いは、やはり"積荷"…なのか……?》

《それは現在のところ判りません。しかし、それより現実的な問題があります。先行しているプレッツ・エル2から作戦地域(AO)に特異な磁気異常と、現地の混乱の様子が報告されています。考慮に入れておいて下さい》

 

 上等兵の言葉に、中尉は怪訝な顔をした。伍長は頭に疑問符を浮かべていたが、軍曹は何か納得した様に嘆息していた。中尉が口を開こうとした際、軽い電子音と共にHSLが起動、回線Bへの開通が承認され、リンク開始が開始される。

 データリンクによりディスプレイに投影されたのは地図だ。浅い海と島が複雑に絡みあい、それが大規模な環礁を作り出している。

 

《今回の作戦地域(AO)の説明を開始します。現在激しい交戦が確認されている南太平洋"キシラ"諸島は、大規模な火山活動による地盤の沈下、隆起とそれに伴うサンゴの活動により出来た環礁であり、特殊で複雑な地形となっています》

 

 画面の上で地図が踊り、情報がポップアップされる。逆立ちしたダルマの様な形の環礁は、南北で大きく水深が変わっており、北は浅く南はかなり深い様だった。環礁、つまり円状に連なった諸島群であるため、陸地は極一部に過ぎない。

 

《海底の、磁鉄鉱の影響…か……》

《はい。その特異地域にミノフスキー粒子、現地民などの様々な問題で混乱が生じ、泥沼化しているとの事です》

 

……聞きたくなかった。作戦に関係する手前、そんな事は言えないが……。パイロットシートにもたれかかり、中尉は上を向く。それをトレースした"ジーク"も上を向き、メインカメラを光らせた。額のマルチブレードアンテナが、月の光を沿わせ輝く。

 

 

 

……きしら……………"キシラ"…!

 

 

 

 "キシラ"と言う発言に、"ジーク"のメインコンピューターにパルスが走る。それは、まるで古い記憶を突くかの行為であった。猛烈な勢いで回り始めるコンピューターに、気づくものは誰もいない。

 ただ、何か感情を表すかのようにブレードアンテナが動くだけだ。しかし、それもハタから見れば、ただ電波を捉えようとしているだけである。気付きようが無いだろう。

 

 中尉が眺める中、地図データに偵察機からの航空写真や、過去のデータなどの照らし合わせが行われる。現在、救難信号を発した不明船(アンノウン)は"ルクノア"島、"キシラ・ベース"を中心に防衛線(ピケットライン)を張っており、現在、両軍共に膠着状態に陥っている様だ。

 地形図から見ると、地面に問わず、海底にも激しい起伏がある様だ。大陸棚は一切無い。そのため、MSが移動できる範囲も限られており、アンノウンはそのポイントを押さえ防衛しているらしい。その為ジオン軍は、数で勝るも攻めあぐねいているらしい。

 

「そこに、乾坤一擲の勝負をMSで掛ける、と。大した作戦だねこりゃ」

《水陸両用…MSは……?》

《確認されたとの報告はありません。また、不手際も多く、地上慣れしていないのではと推測されています》

 

 まるで水溜りに石を投げ込むみたいだ、と中尉はボヤく。いささか呆れ顔だ。"ルクノア"島の"キシラ・ベース"は名前こそ基地だが、その実態は研究所の分所に過ぎず、その通称は"アクアヘブン"だそうだ。"キシラ"環礁はその閉鎖的な環境から"ガラパゴス"の様な特異な生態系を形成しており、その事からつけられた名前だそうだが………。

 "アクアヘブン"が戦場になってるのか…なんて皮肉な話だ。もう地上から楽園は消えた。どこもかしこも"天国の外側"(アウター・ヘブン)だ。

 

《特例により、"ブレイヴ・ストライクス"隊はある程度の現場における独自判断の裁量が計られています。──しかし、それはこのイレギュラーさからでしょう。ROEは別紙参照となります》

「それ作戦の穴は現場の判断で、っつー事か?」

《一理、ある…な……》

《うわぁ〜!?海がすごい綺麗ですね!!まるで天国です!!》

 

 衛星写真に参考画像が表示され、それに歓声を上げる伍長。水着を着なきゃ、なんて呑気な事を呟く伍長を無視し、中尉は伍長が水着を着て対MS戦闘を行わない事を祈りつつ、コンソールを叩きデータを参考に機体を微調整する。しかし、その作業は予想外に難航している。何せ、状況が特殊過ぎる。前例も無い。在る訳が無い。

 中尉が眉をしかめ頭を掻いていたその時、おやっさんから割り込み通信が入った。中尉は小首を傾げつつ、それを開いた。

 

《俺だ。大将、聞いたぞ?次は"アクアヘブン"らしいな》

「え、えぇ…。よくご存知で。それよりこの…」

 

 予想外の言葉に戸惑う中尉。おやっさんは何故知っていたのか、そして、それが今何の関係があるのか中尉には理解出来なかった。

 困惑顔の中尉におやっさんは笑い、手元で何か操作をする音と共にそのまま続けた。

 

《うははははっ!そいつは良かった。"キシラ"周辺の詳細なデータ、そしてその対応アップデートをチョチョイとしとくぜ》

「え?」

 

 聞き間違いかと聞き返した中尉。多分その時の顔は世界でトップクラスのマヌケ顏だっただろうが、それを見た人は誰もいなかった。口を開こうとした中尉に被せる様に、おやっさんは言葉を続けた。

 

「な」

《ふっ、聞くな、こんな事もあろうかとの状況判断だ。そいじゃ、健闘を祈るよ。データもソフトも、ハードも全てを上手く使えよ?そうすりゃコイツは応えてくれる。いいな?ん。俺は忙しい。そいじゃな》

「ちょ」

 

 一方的に通信は切断され、同時にHSLが起動、アップデートが"ジーク"のみならず3機に並行して行われる。それを呆然と眺める中尉。上等兵は突然のデータに困惑しつつも擦り合わせを行ってくれていた。

 その作業と並行し、上等兵がややごもりつつ口火を切った。

 

《さ、作戦の概要を説明しますね。我が隊は"アサカ"から出撃後、比較的敵の分布が薄い"ダニング"島付近に──ここです、ポイントゴルフ38。ここに着陸し散開、敵包囲網に突破口を開きます》

「ここなら開けてはいるが、周りが入り組んでる。よし、長距離砲撃やアンブッシュは無さそうだ」

《安心ですね!やた!》

《しかし…強行突破、か……》

《はい。そうなります。MSの突進力を活かした強行突破で敵戦線を食い破り、隙をつくります。そこへ"アサカ"から来るシーボーン部隊、シータクシー隊です。その揚陸艦(LS)が強襲揚陸を掛け、"キシラ・ベース"の人員を収容します。その援護も可能な限り行えとの事です。橋頭堡を確保したのと同時に、MSの武装を積んだ水陸両用貨物輸送艇(LARC)が同時上陸し、戦闘探索救難(CSAR)のヘリ部隊が地上残存部隊の救出活動を行います》

 

 地図に矢印が描き出され、それに沿う様に陸標(LM)が点々と浮かぶ。その先には環礁の最北端に位置する群島の一つ、"ダニング"島にランディングゾーン(LZ)が赤く表示される。到着予定時刻(ETA)◯三三◯(マルサンサンマル)となっている。深夜帯であるが、この空と大地が重なるルートで、水面を掠める様な低空飛行(ローパス)と、上陸後は地形追随飛行(NOE)を行えば奇襲を仕掛ける事が出来そうだ。

 

《準備が完了次第、赤と白の信号弾を撃ち上げてください。それを合図に脱出をかけ、全軍が撤退します。その時の進発コードは『フライハイト』です》

「『フライハイト』……了解です」

 

 地球は丸く、レーダー波は真っ直ぐだ。この様な匍匐飛行を行えば、機体は水平線の影に隠れ、レーダーでは捉える事が出来なくなるのだ。今回は大気の特殊状態も無く、サブ・リフラクションやラジオダクトの問題も無い。仮に捕捉されようと、クラッター処理されるはずだ。

 

《今回の作戦における我々の任務は、陽動作戦(フェイントオペレーション)による(CCD)が主となります》

 

 地図上に移動の矢印と交戦を表す十字が表示される。それはひときわ大きく光っており、そのまま環礁を回る様に大きく動いている。

 また、その間を縫う様に別の矢印が到着し、MS部隊もそれに追従する形で離脱している。

 

《脱出部隊の撤退までの時間稼ぎ、及び離脱後の防衛です。残存戦力によって、敵は 追討(ハントダウン)の為の送り狼の編成もありえます。その時は殿となり防衛戦を行い、順次撤退を敢行する事になります》

《責任重大です!頑張りましょう!!》

 

 伍長が鼻息荒く言い放つ。気合いは十分そうだ。かなり無茶苦茶な作戦であるが、当たって見るしかない。

 これにしても、MSを過大評価しているかの様な作戦に違和感を感じる。MSは確かに既存の兵器を大きく上回る特殊兵器だ。しかし、欠点や劣る点も多数存在する兵器には変わりない。

 

《例の、"積荷"は……?》

《はい。今回の情報の主要素(EEI)における超大型爆弾(MOAB)らしきものは未だ未確認です。しかし、形状も不明な為、"槍"(スピア)の可能性も捨て切れません。それらしき物を確認した場合は、囮及び防衛を中止し、その周囲で円形防御陣を展開し、後続部隊の到着を待てとの指示です》

 

──"スピア"。中尉は声に出さず呟く。"タチの悪い爆竹"(戦略核)が詰まっていようと、()()()()()事を祈るのみだ。核兵器など、人の手に余るものだ。それは連邦もジオンも変わらない。

 

「最優先事項と言う事ですか……敵の航空戦力は?」

《現時点では確認されていません。近隣に飛行場、空母も確認されていませんが、CTOL機(シートール)CATOBAR機(キャトーバー)はともかく、STOL機(エストール)VTOL機(ヴィートール)回転翼機(チョッパー)は不明です。しかし、その為の兵装は装着されています。作戦規定(SOP)における規定もありません。躊躇いなく使ってください》

 

 中尉はその言葉に困った様に眉を寄せ、サブモニターに目をやった。小さな溜息を一つ。流し目に見る画面はボヤけて光っているが、その特異な形は誤魔化し様が無かった。

 そこに表示される機体の概略図には、人型を囲う様に追加装備が装着されている事を点滅して伝えている。その中で、機体から大きく突き出た一部に、複数の光点が煌めいていた。

 

《つまり、怪しいものは触っちゃダメ、って言うことですか?》

「そうだな。下手に触ってドッカーン、なんて事にならん事を祈っとけ」

 

 中尉の言葉を受けて小さく息を飲む伍長に、そんな事はあり得ない、と内心付け加えておく。核兵器と言うものは週単位、月単位で保守点検が欠かせない。特に、今回のケースとは外れるが戦術核などの様に小型化のために高濃度の濃縮をしたら尚更だ。再濃縮を始め、それらはかなりの手間がかかるが、それを行わなければ核兵器は不完全爆発(フィズフル)を起こし、正常な効果を発揮する事が叶わない。戦術核などは特に不完全で劣化しやすいのだ。

 また、核爆弾も普通の爆弾とは異なり、誘爆という事がまず起きない。一言で核爆弾と言ってもガンバレル型と爆縮レンズに代表されるインプロージョン方式型の2つに大別される作動方式があるが、どれも綿密な計算と高度な技術から導き出される起爆方式を取っており、二重三重の安全装置(フェイルセーフ)がかけられている。少しでもその起爆機能を損なってしまったら、待つのは不発かフィズフルだけだ。核物質を反応させ、高い能力を引き出すのは、それ相応の技術がいるのだ。

 

《しかし、情報とは異なりますが、戦略物資(イエローケーキ)の形である可能性も捨て切れません。流れ弾に注意し、GM管(ガイガーミラー)の振れ幅にも気を払ってください》

 

 核爆弾は材料があれば台所でも造れる、などと言う言葉があるが、それは正確に言えば間違っている。台所で造れるのは核爆弾ではなく核汚染爆弾(ダーティボム)だ。これは核爆弾の様に核爆発を起こすのではなく、高レベルの核放射性廃棄物を爆弾の爆発により撒き散らし、放射性物質の出す放射線被害を出す事が主眼の爆弾だ。核物質を反応させ爆発を起こす為、放射線被害の小さい戦術核等の()()()()と比べこう呼ばれるが、ダーティボムによる放射能汚染の被害も馬鹿に出来無い。その上、綿密な計算と高度な技術の上に成り立つ核爆弾とは違い、材料さえ揃えば誰でも造れるのが恐ろしい所である。今回については、仮に核爆弾が腐っていたにしろ、それを破壊してしまえば放射能は拡散してしまう。また、再濃縮出来なくとも、この様な使い方をされてしまう可能性は否定出来ない。

 

 つまり、核という物は未だに人類の手に余る危険なシロモノだ。どちらにしろ、そんな物を相手に渡す訳にはいかない。宇宙世紀が始まって以来、連邦政府は核を回収、処分または木星船団の核パルスエンジンに転用している。

 表向きはそうだが、裏でどうなっているかは知らない。大方そうなっていると信じているが、都市伝説に陰謀論、黒い噂は絶えない。

 

 しかし、敵に持たれるならば、味方に渡す方がまだいい。

 

「ところで、撤退時のピックアップはどの様に?」

《LCACになります。無人の物が回されるとの事です》

 

 中尉の帰り道の心配は、今の"陸戦型ガンダム"の装備にあった。

 "陸戦型ガンダム"を大きく人型のシルエットから逸脱させている追加ユニット。それは一種の離陸補助ロケット(RATO)である。

 その主なパーツとして、背中に大きなラジエータープレート兼プロペラントタンクでもある主翼が一対、小翼(スタブウィング)が3対ずつ。その基部には大型のブースターユニットとパラシュートユニットが取り付けられている。折りたたまれている主翼には、下部に"フェルデランス"空対空ミサイル(AAM)と"ラグナ"空対空ロケットポッド(AAR)が懸架されている。

 

 腰背部ウェポンラックにはジョイントが接続され、尾翼にプロペラントタンクとランディングギア、腰側面へとアームが伸ばされている。アームに接続されているのは小型の補助翼とスラスター、プロペラントタンクのコンボユニットだ。

 最後に、脛部を覆う様に装甲が施されたスラスターユニットが搭載されている。脛部前面には展開式ローンチバーが備え付けられており、MSがカタパルトに足裏部を接続後、姿勢を落とすと自動でカタパルトシャトルと接続される様になっている。

 これらはMSを安定させつつ加速させるための物で、脚部追加ユニットはこのためにあると言っても過言では無い。後は、オマケ程度にカタパルト接続部にはショックアブソーバーに衝撃吸収ダンパー、着陸時に機体を安定させ滑走させる為の履帯が装備されている。

 

 それぞれが"ヴィーヴル・ウィング"、"スクランブル・ブースター"、"パワー・ベルト"、"ミスティック・ブーツ"と名付けられ、専用の飛行用OS"SILPHEED"と合わせ、全部で"コルヴィヌス・ユニット"と呼ばれたそれは、地上においてカタパルトを併用したMSを遠距離まで()()する為の複合ユニットだ。

 自由度のある無重力宙域とは違い、地上におけるMSの移動速度はスラスターを併用した最高速度でも300km/hに届かない。これは、地上兵器においては破格の性能と呼べるが、それでも航空機と比べるとかなり遅い部類である。しかし、迅速に展開する為の手段としての空挺降下は撃ち落とされるリスクが高く、そのため航空機に露天繋留または簡易積載し低空侵入後降下する案も考案されたが、地球連邦軍にMSを搭載しても尚高い機動性を発揮出来る適当な航空機は無かった。その為に考案されたのがこの使い捨てブースターなのであるのだ。多数装備されたスラスターは様々な物が利用されており、メインスラスターは液体燃料を利用したロケットであるが、着陸時の逆推進をかけるものには、簡易的で軽量化が可能な、新型の"リテルゴル"式固体燃料ロケットが装備されている。これは空挺降下用のバリュートパックにも採用されている物と同型である。また、液体燃料もフレームに浸透させる事により軽量化を図っている。しかし、それだけでは燃料は到底足りず、プロペラントタンクが増設されている。距離と爆装の程度に対し、空中給油も考慮に入れられている。

 

 しかし、カタパルトの加速もあるとはいえ、空力特性において大きく劣る人型のMSを、滑空に近い形とはいえ短距離飛行させるのだ。その設計の強引さのしわ寄せは、至る所に顔を出している装備である。

 主な欠点としては主翼の揚力不足から、推力の4割を下方に向けており、燃費もかなり悪くかなり脚の短い航空装備(ショート・レギッド)であることが一つ。また、巡航速度はお世辞にも速いとは言えず、出撃時はカタパルトのみに限定される。また、RATOの一種でこそあれ、一度着陸すると再飛翔は出来ず、その場に留まるような滞空も不可能であり、無論ドックファイトなど言語道断である。

 

 本装備は、あくまでMSキャリアーの延長に過ぎず、MSの活動をやや補助する程度の装備なのだ。

 

 勿論戦闘時にはデッドウェイトとなる事からパージしてしまうため、壮絶な一方通行となってしまう。しかし、そのデメリットを補う程の、MSとしては破格である迅速な展開を可能としている。しかし、使い捨ての固体燃料を利用したロケットモータを多数使用しているが、通常の液体燃料ロケット等使い捨てにするには勿体無い程コストは高く、おそらくは正式採用される事は無いだろうとの事だった。

 

 因みに翼に懸架される形で搭載された"フェルデランス"及び"ラグナ"、これらの兵装類は新兵器でなく、旧来のミサイル、ロケットポッドの改良型だ。弾頭には極単純な近接(VT)信管が装備されており、推進方式も簡略化され省コスト化が図られているモデルで、ミノフスキー粒子の影響を前提に、その中でも確実に作動する様、稼働率が高まる様電子防御策(EPM)が施され調整された試作型である。その為、一部弾頭には何と化石とも呼ばれるべき時限信管が搭載されている。

 その為、1発発射した際に(シングル・ショット)期待出来る目標破壊能力(ヒット・プロバビリティ)、つまり命中率(SSHP)は二の次とされているが、必要な時に確実に作動し、敵に脅威として影響を与える事に特化していると言える、言わば虚仮威し兵器で今回が初の実戦投入となる。まぁ、完全撃ちっ放しの赤外線(IR)ホーミングミサイルである"フェルデランス"の方はある種の先進短距離空対空ミサイル(ASRAAM)とも呼べるだろう。汎用性を待たせた遠近両用の多目的空対空ミサイルとして開発されたが、遠距離における命中率から先進中距離空対空ミサイル(AMRAAM)とはとても呼べない。そこに現時点におけるミノフスキー粒子散布下におけるミサイルの限界があった。

 

《"ダニング"島には非公式自称国家、カプレカ共和国があり、コラテラル・ダメージを懸念に入れておいて下さい。また、最悪非戦闘員救出及び退避、脱出支援活動(NEO)を受領し、援護に回る可能性があります》

「──厳しいな……それに、伍長、飛べるか?」

《またシュミレーターのみのぶっつけですからねぇ…まぁ、なるようになりますよ!!飛行機の勉強がこんなすぐ役立つとは思いませんでしたけど…》

 

 尻すぼみに声が小さくなる伍長。殆どオートだとは言え不安である。特に今回は戦術航法装置(TACAN)に異常を来たすかも知れない地域だ。おやっさんからの詳細な追加データこそあれ、戦場ではいついかなる時イレギュラーが発生するか判らない。

 

《ブレイヴ02より…C2へ。ブレイヴ03に、何らかの…フォローは…出来無い、か……?》

 

 中尉の懸念は最もで、それは軍曹も同じだったようだ。中尉はシステムを再度チェックする。その磁場の乱れがいかなる程度のものであれ、その上での飛行、ましてや戦闘など初めてだ。Xネブラだかブラッディロードだか知らないが地球で戦わせてくれ。

 

《そこは問題ありません。"コルヴィヌスユニット"はMSパイロットなら誰にでも使える様に、ユニット側に戦術航法装置(TACAN)前方監視赤外線システム(FLIR)戦術デジタル情報リンク(TADIL)に、下方赤外線監視装置(DLIR)夜間低高度赤外線航法・目標指示システム(LANTAIN)地形照合誘導装置(TERCOM)や補助航法装置を始めとするあらゆるシステムが組み込まれています。また、戦術航空士(TACCO)でもある私が常にモニタリングしフォローします。安心して下さい》

 

 上等兵が応える。手元の資料を読んでいるのかの様な淀みない答えに、中尉は通信を映像付きに切り替えたい衝動に駆られたが、実際読んでいるのだろうと納得させる。それでも間髪入れず質問に答えられるのは凄いの一言だが。

 

「よろしく頼みます。良かったな。伍長…おい、聞いてっか伍長。伍長?」

《…何故、マウスピースを……?》

()ん回の降下で()た噛みそうになりましたから!》

 

 MSの通信システムにはビデオカメラによる相手の姿を映す通信もあるが、"アサカ"戦隊の作戦規定(SOP)はコレを緊急時以外は禁止している。通信の情報量を増やし、傍受の危険性を高めるからとの事らしい。恐らく、伍長今それ忘れてるが。

 

「伍長、通信を切換えろ。ま、それでコストが上がっちゃ元の木阿弥ですけどね。試してガッテンは構いませんが、ガンガン作った試作品を俺達に全力投球は酷いと思いません?」

『"ブレイヴ・ストライクス"隊の出発時間(タイム・トゥ・ゴー)まであと1分。各員システムチェックを済ませ、前へ!ASAP!!』

『ブレイヴ01はキャッツ2へ移動せよ』

 

 愚痴っていた中尉はその言葉に返事を待たず、気持ちを切り替える。手元の操縦桿とフットペダルを確かめ、一つ頷くと機体を操作する。センサーが捉える"アサカ"の飛行甲板には警告音が鳴り響き、回転灯が光を放つ。中尉は緑のジャケットを身につけた誘導員の指示に従い、滑り込んで来て停止するカタパルト(キャッツ)に脚を乗せる。

 

『カタパルト接続スタンバイ!甲板作業員は作業終了後、バンカーに退避せよ』

 

 中尉の視界の隅に、やはり緑のジャケットを身につけたカタパルトオフィサーが走り込んでくるのが見えた。中尉は彼へのピックアップを設定し、その動向に細心の注意を払う。飛行甲板の上で彼に従わない事は、大事故に繋がるからだ。

 カタパルト周囲は蒸気が漂い、光を受け止めてボンヤリと光っている。中尉が機体を屈ませると、脛部が開き、膝部からローンチバーが展開しカタパルトシャトルに接続される。

──まさに"ニーリング"そのものだ。中尉は独りごちる。悪い冗談もこれからにして欲しいものだ。足裏部とローンチバー、機体は2カ所で厳重に固定され、その固定はトラス構造となっている。これにより、もしカタパルトで脚だけが加速されても、機体が反り返り甲板上に叩きつけられる事は無いという仕組みだ。

 

『カタパルト接続を確認。射出タイミングをブレイヴ01に譲渡。誘導員は対ブラスト姿勢を取れ』

 

 カタパルト上で屈む"陸戦型ガンダム"の後ろで、ジェット排気偏向板(ジェット・ブラスト・ディフレクター)が立ち上がる。

 

──何処かで、海燕(シースパロー)が鳴いた気がした。

 

 中尉はエルロン、フラップ、ラダー、エアダクトを正常稼動するかテストを行いつつ、スロットルレバーを全開に近づけていく。機体は心地良いレスポンスで反応を返し、中尉は満足気に頷くとシステムの最終チェックを行った。

 

 結果は全機能異常無し(オールシステム・オン・ザ・グリーン)

 

「ブレイヴ01からLSOへ。準備、全て完了です。グリーンライト」

『了解。手順を最終段階へ。ブレイヴ01の発艦を許可する。幸運を』

 

 メインエンジンに点火する。エンジンが空気を食み、ブースターが轟音と共に吐き出していく。一千万の鳥が羽ばたこうとも起こす事の出来無い、吼える様な空気の振動を肌に感じ、凄まじい振動が機体を揺さぶる。腹の底から震わせる様な音を背中に感じ、安心してその身をシートに預けた。

 

『発艦許可の最終信号受信。秒読み開始』

 

 ブースターの爆音が高まって行く。ノズルからは青白い炎が吐き出され、高熱の排気を後方へ叩きつける。

 

「──ははっ……」

《C2より各機へ。通信を受信オンリーに切り替え、タブー・フリクェンシー及びガード・チャンネル設定完了。戦術デジタル情報リンク(TADIL)及びHCL接続に成功。全機、これで電波管制(エムコン)になりますから、不用意に位置特定される危険性は減少します》

 

 その魂をも揺さぶる様な懐かしい感覚に、中尉は思わず薄く唇を歪めた。ふつふつと湧き上がる歓喜の中心が騒ぎ、衝撃に備える為操縦桿にロックをかけてしっかりと握り込む。両手をスロットルと操縦桿に置いたまま(HOTAS)だ。戦闘機などにはないこのロック機構は成功だとふと思う。そのまま前を見て、長く続くカタパルトを、その先に広がる群青を見つめた。

 ブースターのパワーに、機体がミシミシと唸る。ノズルが窄まり、炎が眩い光を抱える。

 

──本当に飛べるのか、などと言う疑問や、余計な事は頭から全て吹っ飛び、虚空へ消えていく。

 

『"ブレイヴ・ストライクス"隊全機へ!!出発時間(タイム・トゥ・ゴー)です!幸運を!!"海岸で逢おう"(See you on the beach)!!』

 

 何処と無く懐かしさを感じる通信と共に、モニターに表示されたローンチカウンターがゼロとなる。足元ではカタパルトオフィサーがサムアップし、中尉は"ジーク"に予めプログラムしておいたサムアップを返し、前を見る。モニターの隅で、彼は屈み込み、その手を前へと真っ直ぐ伸ばした。

 

「了解!!たくみ、行きまーす!!」

 

 腹から声を出し、叫んだ中尉は奥歯を噛み締め、フットペダルを思い切り踏み込む。

 次の瞬間、沈み込んだ機体が蹴飛ばされる様に加速し、爆発的な推力で向かい風に立ち向かう。コクピット内は耳を劈く轟音、エンジンの唸りに振動、センサーが捉えた風の切り裂く音で一杯になり、中尉は猛烈なGでシートに押し付けられる。それでも中尉は大胆にも唇を歪めて、光り輝く目でその先を見つめていた。

 全てを置き去りにする様に、地上のしがらみを全てジェット排気偏向板(ジェット・ブラスト・ディフレクター)に叩きつけ、"ジーク"は新たなる理の世界へと、その機体を爆音と閃光を共にし進ませる事に全力を尽くした。

 

 次の瞬間には、突然、足元からレールが途切れ、四肢をピンと伸ばした機体が空中に放り出される。支えが無くなり、ガクンと下へ傾く機体を他所に、蒼く染まる風を翼が切り裂き、上へと、空へと向かう力に変換する。エンジン出力は全開(パワーマキシマム)だ。全てが自動(オート)で行われる中、走る南風を捕まえた機体がふわりと持ち上がるのを確認した瞬間、中尉は推力増強装置(オーグメンター)をオンにし、A/B(アフターバーナー)に|点火した。

 

「ィィィィィィィイイイイヤッホォォォォォォオオおおぉぉぉおォォォォォオオ!!!!!」

 

 機体後部のメインブースター付近に、目も眩む様な閃光が疾走り、大気を震わす重低音が轟く。機体がまたも爆発的に急加速し、猛烈な噴射炎を影のように伸ばした。機体各部のあちらこちらからギシギシと言う金属が上げる悲鳴を響かせ、エンジンのファンが空気を吸おうと大きく喘ぐ。機体が風を切り裂く音を立て、突き進んで行く。

 視界が暗く狭まり色を失い、ハーネスが、シートベルトが身体に食い込む。噛み締めた奥歯が軋み、瞼を開けるのも困難な程猛烈なGにブラックアウトしかけながら、中尉は腹筋に力を入れ、喉から声を絞り出す。実際に聞こえてきたのは苦しげな呻きだけだったが、中尉は、肌に感じる向かい風の中、確かに叫んでいた。そして、手も上がらない重圧の中、痛い程に締め付けられる太腿と、無防備な二の腕内側の毛細血管が切れるプチプチという音をボンヤリと聞いていた。

 加速による烈風を越えて、大きな翼を広げ、太陽の様な焔の尾を引き空を掛けるその姿を海に映し出す。夜の静寂を打ち破り、先駆けを行う八咫烏達は、大鴉(コルヴィヌス)の名に恥じぬ姿だった。

 

 まるで新世界への扉を開いたかの様に、猛然と発生したヴェイパー・コーンを一瞬で置き去りにし、圧倒的な推力で空へと翔け上がる"ジーク"。その後続に、同じくカタパルトから飛び立った2機のMSが続く。中尉は操縦桿のロックを解除すると、その場で大きく旋回を行った。

 

「こちらブレイヴ01、アーリーバード4へ、聞こえるか?現在高度エンジェル 三-◯(3000フィート)ベクター04(速度マッハ0.4)

『ブレイヴ01、こちらアーリーバード4。誘導を開始する。目標地点まで後35分。ベクター06(速度マッハ0.6)。高度そのまま、進路変更(ターンヘディング)一-八-◯(ヒトハチマル)……ナウッ」

 

 "ディッシュ"に同乗している航空管制官(FAC)は機械の様に精緻な管制を行う。その指示はさながらコンピューターの様に繊細だった。

 しかし、彼に従えば進路を失う事もなく、機体の持つ性能を最大限に活かす事の出来る前提条件を作り上げてくれるだろう。中尉は彼の言葉に耳を傾け、同時に命を預けていた。

 

「ブレイヴ01了解!」

《ブレイヴ02了解……》

()リー!()ょ、了解!!》

『コンプリート。アーリーバード04より各機へ。低空進入後はエンジンの異物吸入による損傷(FOD)及びバードストライク(BS)に気をつけろ。次のLMはポイントエコー682』

 

 眼下で小さくなってゆく"アサカ"と、頼もしく追従する"ハンプ"と"ダンプ"にバンクを振る。

 エンジンは快調で、ノズルが吐き出す焔の光が舞い散れば、飛行機雲のレールを鮮やかに彩る。空を切り裂く心地良さに酔いながら、中尉はグッと操縦桿を握り直す。

 

 その揺れる後ろ影を追う様に、上空ではアーリーバード4が、海上では"アサカ"が負けじと疾走する。その全く新しい景色は、昨日とは違う世界を感じさせた。

 

 向かう先は未知なる新天地(フロンティア)。待つのは天国か、地獄か。月明かりの下、その月を追い越す様に3機は飛ぶ。翼端から溢れる光は残像の様に尾を引き、暗闇を照らし出し引き裂く。

 

 先頭をひた走る中尉の胸中を、様々な不安や心配が横切る。高揚した気分の中、どこか冷静な何かが囁く様に。

 

「──答えは一つじゃない。夢見るくらいなら、構わず探しに行くさ」

 

 独りごちた中尉は、空を見上げる。零れ落ちそうな星々の輝きは、静かに漆黒な海の上の中尉を照らし、見降ろすのみ。その光は月光の様に、波間に影を落とす程照らしていた。天の光は全て星とは、よく言ったものだ。

 迷いを振り切る様にフットペダルを踏み込み、中尉は新しい景色を迎えに行く。

 

 進路そのまま。"ブレイヴ・ストライクス"隊は一路、水平線の彼方を目指し、その長く続く路を、降り注ぐ未来へ向けて駆けて行った。

 

 

 

『渡り鳥に、何を言う』

 

 

 

世界で一番、遠い場所へ……………

 




ホントすみません。もう本当に。

サバゲーにかまけてました。最高です。撃ち合うのはBB弾に限るよ。戦争に行きたい!戦争がしたい!なんて宣ってる脳内おせち料理さんは餅を喉に詰まらせてむせて命の大切さと儚さを知ってください。おせちあんま好きじゃ無いけど。ホントは正月頃にはと考えてました。えぇ。あ、餅は大好きです。

そして戦争映画にもかまけてました、最高です。悲惨でリアルなのも必要だけど、戦争コメディ映画も観たい。現実と虚構と分けて考えて、ね。最近はBGM代わりにずっと流してます。トップガン2も楽しみだ。

さらにさらに劇場版ガルパンにもかまけてました。ガルパンいいぞ。大洗にも是非足を運んでみて貰いたいものです。アニメだけであんなに成功したわけでない事を実感出来ます。ただ単に戦車好きな自分も楽しめましたし。いやー、戦車の話が出来る時代が来て嬉しい。

ガルパン観てたらヒルドルブ思い出したよ。エンターテイメントとしての戦車の成功例だよ。知り合いの戦車乗りさんも面白い言っとったし本当にオモロイんやろうな。だから、ハンスの帰還とかハッピータイガーのアニメ化はまだですかね?クッソリアルで一見ツマラナイ戦車戦も観たいです。出来ればティーゲルIが観たい。

シリアではT72が暴れてましたけど。最近のドローンはヤバイね。パトレイバー2で荒川さんが言ってた、「見てるだけで何もしない神様」になれる時代になったね。

未来では、今はどう見えてるんですかねぇ?評価は歴史がする、とはよく言ったものですが、その歴史を綴る者がいる事を願うのみです。サバゲーしながら。

次回 第六十七章 大鴉の夢

《今のレベルではわかりませーん》

ブレイヴ01、エンゲージ!!


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第六十七章 大鴉の夢

本当にごめんなさい。

正直2度消えたあたりで放り出してました。

いつ終わるかもわかりませんが、今後ともよろしくお願いします。


地球上の7割は海だ。

 

人の躰の様に。

 

人の世界は、大陸に広がる。

 

まるで、躰を繋ぐ心の様に。

 

その狭間は、何色なのだろうか。

 

精神は、白か、黒か。

 

 

 

──U.C. 0079 9.18───

 

 

 

 時折ふらりと不規則に揺れるコクピットで、中尉は小さく息をつく。目の前には闇を映すメインスクリーンと、仄かな明かりを投げかけるコンソールに文字が浮かび上がっているだけだ。

 眠れない夜だ。誰も寝てはならぬ夜だ。重く、くっつきそうになる瞼をこじ開け、しょぼつく目を凝らせば、その渦巻く闇が、白い波を砕く海と、星空を抱える夜空である事に気づくだろう。その上を、まるで流星の様に3機のMSが飛ぶ様は非常に非現実的だった。鋼鉄の巨人は翼の先に灯りを抱え、背中からは逆巻く炎を噴き出し、夜空を駆けて行く。

 暗闇に負け、吸い込まれそうな頼り無い光は、それでもやすやすと闇を切り裂き、その存在を誇示していた。翼端灯が残像を引く光は、まるで川の様だ。うねり、浮かび上がり、煌めく。そこには不安定の中に安定を見出そうとする自然の摂理があった。

 

 スラスターの吐き出す噴射炎は、夜の空気を無理矢理かき混ぜ、微かな白煙を引いて行く。低く唸るエンジンも、時折金属特有の高音を出すのみで、静かに輝く月を起こす様な事はしないようだ。眼下の波はその炎を写し、周り、揺らめく。幻想的な揺らぎは、まるで招き誘っているかの様だった。

 風を捉える翼がたわみ、軋む。その微かな音に身体が反応し、中尉は耳を澄ませ、計器を確認する。風向きがやや変わった様だ。しかし、そんな情報は特に無かった。違和感を覚えてざっとコンソールを見回すも、計器類に異常は見られない。鈍ったか、と1人少し寂しくなる。自分は今、果たして()()()()()なのか、()()()()()なのか。頰を軽くかき、浅く息をついた。

 

 夜の闇に紛れ、低空を、海面を舐める様に飛び続けて既に約20分。中尉は一度操縦桿から手を離し、2、3度ゆっくりと何かを掴むように動かす。強張った指が解され、みしりと骨が鳴る。飛び立った時の興奮も今は薄れ、今や、どこかボンヤリとした気分だった。

──やはり、自分は……。長かったものな。仕方がないのかもしれない。人は変わる。しかし、その変化を恐れてはいけない。変えない限り、変わらない限り人は生きてはいけないのだ。何も持たず、草原で1人投げ出されれば生きてはいけない様に。自分を変え、周囲を変え、世界を変える。そうやって人は生き延びて来た。

 変える事が出来る生き物が人間なのだ。変化を恐れてはいけない。全ては変わりゆく。だが、何も失われてはいない。

 

 やがて、このMSも主力兵器で無くなる日も来るのだろう。戦艦が、戦車が、航空機が、誘導弾が、主力兵器の座を譲った様に。

 だが、それは今ではない。まだだ。この生まれたばかりの兵器は、世界を変えた。確実に。これからも変え続けて行くだろう。いずれ、空海陸を支配し得るポテンシャルを持っているはずだ。俺は、ただその片鱗を示せばいいのだ。変える為に。変わる為に。

 

 微かに変わりつつある天気を見やり、コレが遊覧飛行なら、とひとりごみながら中尉は横に目をやる。IFF、いや今回はSIFか?の二次捜索レーダー(SSR)も使用していない為、目視で確認する。暗闇の中を同じく隣を飛ぶ"ハンプ"、やや遅れる"ダンプ"の様子を伺い、自分に確認する様にうなづく。異常無し。データリンクも上々だ。退屈かもしれないが、穏やかな海と静謐な星空は自然の美しさそのものだった。

 そこを横切る鋼鉄の鳥が翼に大量の火を抱えている事は、些細な問題と言えよう。

 

──生まれた国が違うなら、生まれた刻が違うなら、こんな光景は見なかっただろう。

 

「……」

 

 ちょっとした突風(ガスト)を機に、中尉は軽くフットペダルを踏み込むと、叫ぶエンジンが更に喚き出した。スラスターはその形を変え、飛行機雲がさらに太くなって行く。風を切る翼から雲が生まれ、残滓の様に一瞬で取り残され、消え散る。たなびく飛行機雲は、赤く白く照らされ、空気に解け流れて行く。

 星空に、ストライプが刻まれて行く。それはまるで、かつて世界の警察を名乗り出た国の旗(スターアンドストライプス)の様に。

 

 だが、俺たちは行く。今宵も、正義を御旗に。

 

「正義……チョコレートを2つ買う事か?」

 

 誰にも、自分にさえ聞こえないだろう呟きは循環する人工的な空気に混じって行く。しかし、その自分の言葉に、何故か中尉の胸中がざわめいた。それは、新月の暗い林の中を、乱暴に乾いた冷たい風が吹き抜けて行く様な寂寥感だった。

 それは、心の弱さか。

 

 暗視装置(NV)を作動させれば、この寂しさも消えるのだろうか。MSに搭載された複合センサーを総動員すれば、この闇を見通す事など造作もない。戦闘兵器においては過剰とも呼べるセンサー群は、今は沈黙を保っている。

 中尉は、この暗闇の中、消えてしまいそうな孤独感と、深く吸い込まれそうな海への恐怖を和らげようとコンソールに伸ばしかけた手を止めた。暗視装置は確かに闇を見通す目をもたらしてくれる。妖精を見るには、妖精の目がいる様に。しかし、それは世界を緑一色で埋めてしまう。そのせいで何かを見落としてしまうかもしれない。

 

 しかし、ここは既に敵地(インディアンカントリー)だ。アーリーバード4からの通信は無いが、余計な走査波を出して発見されるリスクはなるべく減らしたい。現在、"ブレイヴ・ストライクス"は必要最低限の前方監視赤外線システム(FLIR)のみを作動させ飛んでいる。データは共有され、戦術デジタル情報リンク(TADIL)及びHSLによりC2が統合管理している。俺たちの守護天使は、鷹の目を持つ電子の妖精なのだ。その指示に従えば、迷う事なく先駆けを行う事が出来るだろう。

 中尉はコンソールの端、ふらふらと頼りなく揺れる高度計を撫でる。得られる情報が限定されている為、これだけが頼りだ。戦闘により、軌道上の衛星の大半が破壊され、GPSもその精度は旧世紀にも劣る。軌道上の戦闘はあまり上手くいってないと聞く。噂話に過ぎないが、この前も"ボール"による機雷散布作戦も失敗し、小隊は全滅したらしい。"ザクII"に対し有効であると判断された、戦列を組んだ"ボール"による弾幕を"ザクII"は安易と潜り抜け、その接近を許した"ボール"は為す術も無く次々と撃破されてらしい。"ルウム"の二の舞だ。当たり前といえばそうだろう。しかし、直視しなければならない辛い現実だった。自由自在に動く相手を捉えるには、同様の力がいる。その事が再確認出来ただけでも僥倖だ。その度散って逝く命には、手を合わせる事しか出来無い。

 

 MSのコンソールはかなり自由度が高く多機能である。その汎用性の高さは、航空機のコンディション管理もお手の物だ。細かな計器を取り付けるのではなく、統合したタッチパネル方式を取っている為、あらゆる状況に迅速に対応出来るのである。

 それは偏に、MSが戦車等と比較すると航空機に近い操作が必要であるからだ。正確に言えば航宙機であるが。それを陸戦にも転用しようと考えたのは、やはり宇宙移民者(スペースノイド)的な考えだと思う。やはり重力から解放されているからかもしれない。地上において、戦車を飛ばし、航空機を水中に潜らせる必要は無い。それなら別々の物を作るべきだ。旧世紀、潜水可能な水上機が計画されたが、結局正式採用されなかった。そんなものなのだ。

 MSはその形から陸戦兵器の様に思われがちであるが、本来は宇宙空間における作業機器なのである。MSは陸戦においては2次元機動が主であるが、スラスターを併用した限定的な擬似3次元機動を展開できる事こそが、従来兵器との大いなる差なのである。

 その為、MSのコクピット及びサバイバルセルを戦闘機にすると言う、一見するととんでもなく無茶な仕様である"コア・ブロック・システム"が採用されたのもこの側面が大きい。目には目を、とまではいかないが、今回、連邦軍のMS開発においては、様々な分野のはぐれ者、一匹狼、変わり者、オタク、問題児、鼻つまみ者、厄介者、学会の異端児が集められたらしいが。

 しかし、かと言って操縦方法自体は大きく異なる為、操縦桿は別々の物が用意され、それが状況によって展開される仕組みとなっている。しかし、制限こそ出るが、緊急時には航空機操縦用の操縦桿によるMS制御や、そのまた逆も可能である。

 また、高度に自動化、簡略化、パッケージング化された操縦系統はかなりの汎用性があり、使いやすく設計されている。特に「コア・ファイター・バリエーション」で開発された機体はそれが顕著であり、『素人でも説明書(マニュアル)を読めば飛ばせる』と揶揄される程だ。

 しかしそれは、従来の航空機の形から大きく逸脱した"コア・ファイター"の空力特性が著しく悪く、操縦が極めて難しかった反省に基づいたものである。航空力学的に負の安定性を持ち、揚力を生み出す事が不可能であった機体設計は、推力比において莫大な出力を叩き出す熱核タービンの推力で強引に飛ばしているに過ぎず、機体サイズからすると破格の推力を活かし垂直離陸、短距離離陸が可能であった分その機体バランスは劣悪の一言であり、一瞬でもマニュアル操縦は不可能であると結論付けられる程だ。その分悪い機体バランスをさらにわざと崩し、機体に似合わないアクロバティックな空戦も可能であるが、それを制御出来なければ意味が無い。現に"コア・ファイター"の実験機は全機墜落、喪失しており、設計の強引さによる皺寄せから来る操縦性の悪さが伺える。

 また、『MSと航宙機は操作が似ている』と述べたがそれはあくまで戦車と比較してであり、それらを同一視するのには無理がある。その為、"コア・ファイター"には飛行機操縦用とは別に、追加する形でMS操縦用のコンソール及びスクリーンを別途配置し、回転及び展開させる事で対応している。

 

《真っ暗ですー。どうしましょう?上も下も、右も左も前後不覚です》

「前は判るだろ」

《はい!過去は振り返られないし、後ろも振り返られません!なのでその間逆が前!と言うわけで進みましょう!前に!そうしましょうか》

「はいはい」

《じゅんちょーですね。わたしの力じゃ無いですけど》

《どういう事でしょうか?》

 

 伍長が口を開く。返すのは中尉と上等兵だ。吐き捨てながら中尉は腕時計を眺めた。3分か。

 飛び立ち、機体が風を捕まえ安定すると、伍長は必ず口を開いた。今回も一定間隔で会話を投げ込んでいる。今回はおやっさんについてらしい。よくも話題に事欠かないもんだ。

 

「人の力を借りずに出来る事なんて、たかが知れてるさ。そうだろ?」

《今のレベルではわかりませーん》

 

 コイツ……と口には出さず、中尉は操縦桿を握り直す。それはいつも以上に手に馴染み、吸いつく様だ。この操縦桿もおやっさんにより突貫で取り付けられたものだ。かつての愛機、"マングース"に装着されていた専用の物を、おやっさんが復元したのである。コレも"コア・ブロック・システム"のちょっとした応用であると言うのはおやっさんの弁であるが、どこまでが本当なのか判断しかねる中尉だった。

 

《爆弾、あるんですかね?》

《ブレイヴ02よりC2へ。"本社"("ジャブロー")からの、情報はあるか》

《こちらC2。まだ何もありません》

《えらい人はからんでるんですかね?》

「さぁ?まぁ、お上さんの思惑はともかくだが、人助けには変わりない。そう思ってたら気が楽になるぞ」

《ですね!》

 

 海の色が変わって来た。そんな気がして来た。確実に作戦地域(AO)が近づいて来ている。それに応じて、徐々に高度を下げて行く。超水平線レーダー(OTH)対策だ。地球は丸いが、レーダー波は直進する。そのためレーダーをいくら高所の設置しようと、低空であればあるほど地上のレーダー設備には映り辛くなる。上から見下ろす(ルックダウン)レーダーはこちらの機しか飛んでない事を確認済みだ。ミノフスキー粒子濃度にもよるが、レーダーは未だに有効な兵器である。ミノフスキー粒子による阻害がなければ、最も広範囲を索敵出来るのがレーダーだ。その分一番影響を受けやすいが。

 また、水面付近を飛ぶ事により、海面反駁を受けるため燃費が良くなる。推力の大半を下方に向けており、航続距離の短い"コルヴィヌス・ユニット"の為の、せめてもの対策だった。

 

『こちらアーリーバード4。すまないが状況が変わった』

 

 通信が入る。その不穏な文言に、中尉は思わず反射的に切り返した。

 

「こちらブレイヴ01。どう言う事です?」

『戦闘光が確認された。"カプレカ島"、主戦闘地域の前縁(FEBA)の方向だ。時間が無い(ショート・ヒューズ)。それに応じて予定を早める。やや遠回りになるが、LM312へ向かってくれ。ヘディング045。その後進路を変え、LZに到着する予定だ』

 

 同時に地図がアップデートされ、新たなルートが表示される。環礁に沿ってやや回り込むルートだ。敵の包囲の側面を突くのは変わらないが、航続距離の問題もある。

 この"コルヴィヌス・ユニット"の航続距離はかなり短い。既にプロペラントタンクの半数近くが空に近い。正直遠回りはしたくなかった。最悪海水浴する羽目になってしまう。今回も水中活動が視野に入れられており、シーリングも施してはあるが、しないに越した事は無い。ハイテク兵器に潮風と海水は天敵なのである。

 

「C2。こちらブレイヴ01」

《こちらC2。どうぞ》

 

 コンソールに浮かび上がる燃料計を眺め、中尉は口を開く。頭の中でざっと計算はしたが、あっているかはわからない。中尉はあまり暗算に自信があるわけではなかった。それはパイロットとして致命的な点であったが、今まで誤魔化し誤魔化しやってきたのであった。

 やや顔をしかめ、左手は無意識の内に顎の下をかいていたが気づかない。聞いた方が早い。それが中尉の最終的判断だった。初めからそうするべきであるのだが、隊長を任されてから、考える事が増えて来たとふと思う中尉だった。

 

 

 

とおくへ、とおくへ。

 

 

 

 それも仕方がないといえば仕方がない。航空機の速度や燃費、航続距離は、車などに比べて分かりづらい。例えば速度。車が対地速度であるのに対し、航空機は対気速度である。もちろんこれは風の影響を大きく受ける。ジェット気流に乗る乗らないがその最たる例だろう。それが燃費にほぼ直接関わってくる。また、大気状況や高度にも大きく左右される。大気が薄いほど空気抵抗は減るがエンジンの燃焼効率は落ちる。そのあらゆるデータを照合しなければ正確な判断をしかねるのだ。

 因みに中尉は"マングース"に乗っていた時は、コンソールに直接書き込んだりメモを貼ったりしていた。当たり前であるが、車などと違い航空機は燃料が切れたら墜落するしかない。その恐ろしさは熟知していた。

 

「聞いての通りです。行けますかね?」

《C2よりブレイヴ01へ。肯定(アフマーティブ)。燃料にも余裕があります。このルートでは入り組んだ地形の匍匐飛行(NOE)になりますが、渓谷も十分な広さがあります。可能だと判断します》

「了解。各機、現在の隊形を維持しつつ旋回、目標地点まで向かう」

 

 操縦桿を傾け、機体を傾け(バンク)させる。センサー類もパッシヴがほとんどの為、やはり闇の中を泳いでるようだ。真っ暗な闇は距離感が掴みづらいため、吸い込まれそうな気まで来てくる。

 重力を感じれる分、下が分かるだけマシであるが、それがまた恐怖を煽るのを隠しきれなかった。引っ張られる感覚は、人間の本質的なところを刺激するのかもしれない。伍長は軽く言っていたが、その語尾は微かに震えていた。やはり恐ろしいのだと思う。もう少し、軽口に付き合うべきだったかも知れない。

 

《ブレイヴ02、了解》

《りょーかい!》

 

 応答を聞きつつ、眼下に目を凝らす。環礁が近い為か、それとも大陸棚でもあるのか、どうやら水深が浅くなり始めて来ているらしい。時折岩に砕ける白い波が視認出来るようになって来ていた。

 また、波も高くなって来ている様だ。天気は快晴だが、風も強くなって来ている。派手に巻き上げられ、飛び散る海水が、ジェット噴流を受け七色の水飛沫となり、"ジーク"の"ミスティック・ブーツ"(おしゃれブーツ)に包まれたつま先を濡らす。もはや水面を掠める様な低空飛行(ローパス)に、その姿は正に海燕(シースパロー)の様だ。

 嵐が来るのかもしれない。それはまるで、これから始まるであろう戦いの暗示であるかの様だった。

 

 かぶりを振った中尉は、すぐ近くを飛ぶ伍長機を見て言葉を失った。顔から血の気が引き、口の中が急速に乾いていく。

 出てこない唾を無理やり飲み込み、中尉は思わず声を荒げた。

 

「おい!伍長!高過ぎだ!高度を下げろ!」

《え!?──っで、でも怖いです!!》

 

 中尉の乗る"ジーク"の高度は、僅か90フィート(27m)程だ。軍曹はもっと低い。一番大きな武器を抱え、空力特性も最悪であるにも関わらずだ。MSの全高を考えると、これはかなりの低高度である事が分かるだろう。

 しかし、伍長の"ダンプ"は中尉の300フィート上空だった。レーダー波にかかれば一発で見つかってしまうだろう。敵に補足された時点で奇襲効果は薄れる上、この機体にドッグファイトはムリだ。ギリギリ援護出来る位置にイーグルレイ隊がCAP行動を取ってはいるが、敵もCAPを行なっていたら間に合わないだろう。

 

「敵に見つかる方が怖い!高度低下(ダウン)しろ!!」

 

 伍長の叫び声に近い返答に、堪らず中尉も怒鳴り返す。二の句を継ごうとした瞬間、上等兵からの通信が状況を動かし始めた。

 

《こちらC2。残念ながら手遅れの様です。敵をレーダーにて確認(ボギー・タリホー)ヘディング345(11時方向)、敵の緊急出撃(スクランブル)です。数は8。速度から回転翼機(ヘリコプター)と思われます。それぞれA1からA8とします》

「……!」

 

 思わず唇を噛みしめる。数は8機。おそらく攻撃ヘリだ。速度ではまだこちらが上回っている。だが、こちらの機動力は輸送機にも劣る。激しい機動は空中分解を引き起こしかねない。

 やはり、人の形をそのまま飛ばすという事に無理があるのだ。せめてハングライダーか何かの様にすればまだマシなのではないだろうか。今更言っても泥縄どころか泥棒を捕まえても逃してから考えるに近いが。

 

《げぇっ!?ご、ごめんなさい!!》

敵防空網制圧(SEAD)中のイーグルレイは!?」

 

 コンソールを叩き、航空運用情報(NOTAM)を呼び出しながら叫ぶ。こんな時のための先行したイーグルレイ隊だ。給料分働いてもらおう。スリルと言う名の土産は、とうに受け取っているハズだ。

 まったく。血の気が多いったらありゃしない。まるでどこかの『勇猛果敢、支離滅裂』を地で行くかの様だ……って彼らか。頼むからチップを弾むから勇気を分けてくんねーかな。

 

《C2よりブレイヴ01へ。繋ぎます。どうぞ》

「イーグルレイ、こちらブレイヴ01!」

『こちらイーグルレイ301。すまない!!こっちも手一杯だ!増援は5分後になる!!』

 

 その言葉に眉を顰め、思わず下を巻く。それじゃ間に合わないだろう。見殺しにする気か。こっちの性能を、向こうもわかっているハズだが。

 しかし、向こうにも事情がある。状況も最悪(FUBAR)でも、どうしようもなく(TARFU)もない。予想外、想定外、苦境(タイト・スポット)は俺達にとってはいつも通り(SNAFU)だ。

 

 ならば道は1つ。やるしか無い。事、此処に至れば是非も無し。覚悟は決まった。たった8機。それがどうした(ノット・ギブ・ア・デム)大した事は無い(ノー・マッチ・オブ・バーゲン)

 それにしても、なぜ回転翼機を……?判らない。

 

「ブレイヴ01より各機へ!全機戦闘準備!目視外射程(BVR)になるがセミアクティブレーダー誘導(SARH)による先制攻撃(プリエンティブストライク)を掛ける!合図と同時に一斉射撃(ライトアップ)だ!」

 

 言うが早いか、センサー(スイート)を全てアクティブにする。機械音が鳴り響き、真っ暗だったコクピット内が突然光で溢れかえる。眠れる巨人が、目を覚ましたのだ。

 世界が明るく、大きく広がり、戦うために最適化されていく。しかし、それによって捉えられる様になった戦闘光の増加と、アクティブになりデータリンクされたレーダーには敵影(ボギー)が多く映っている。戦闘は既にかなり激化の一途を辿っていたのだ。

 つまり、敵のスクランブルが基本的にスクランブルに用いられない回転翼機を使っている理由がコレなのだろう。こっちと苦しいが、敵も苦しいのだ。それにしても酷い対応であるが。

 

──いや、試されているのかもしれない。彼らは見定めているのだ。MSの存在を。

 

「ブレイヴ03!自己嫌悪なんて無駄な時間を過ごすなよ?失敗は失敗だが、成功に近づく事に成功してんだから」

 

 よろしい。ならば戦争だ。この時代の名前が、MSだと言う事を知らしめてやろう。

 中尉は言えるだけ言い切る。それは本心からだった。

 

《ブレイヴ02、了解。準備良し(グッド・トゥ・ゴー)

《りょーかいです!汚名挽回します!!》

 

 おい。

 

《伍長、間違えてます》

《うぇっ!?あっ!名誉返上です!はい!》

《「………」》

《?》

 

 無視無視。情報伝達は大切だが、今、この情報は正確性を求められるモノでは無い。

 コンソールを叩き、機体のコンディションを切り替えて行くと同時に、自分の心の中も塗り替えて行く。システムチェック、オールグリーン。全関節ロック解除、GPLをミリタリーへ。センサー・カメラスイートリセット、環境に合わせ再設定。FCS再起動、C2との同調に成功。セーフティ解除、マスターアームオン。

 "フェルデランス"の誘導方式は、紫外線、赤外線、補助でレーザーによる3波長シーカーにセットする。これで出来る事は終わりだ。

 FCSが()()()()()()と表示された事に思わずニヤリとする。懐かしい表記だ。通常、陸戦兵器扱いされるMSにおいては射撃統制装置となるからだ。おやっさんのこだわりか。因みに海軍は射撃指揮装置となる。

 

 ガチリ、と身体の中から聞こえるはずのない音が聞こえた気がした。幻聴でも構わない。スイッチは入った。

 胸のエンジンは熱く早く回り始めている。その振動と熱が伝わり、身体を手足の先まで満たして行く。

 

《分かりました。HSL起動、回線D開通確認。システムチェック──リンク開始》

 

『コンバットオープン』

 

 こっちの準備は万端だ。中尉は1度目を瞑り、唇を舐め、指を一通り動かす。深呼吸を1つ。身体は熱を持ち、だが頭は冷え冴え渡るかの様だ。その熱が顔に集まり、行き場を失い、開かれた目に、闘志として熱く滾り、燃え上がる。余った熱は吐く息に混じる。歪に曲がった口の端から漏れた息が、渦巻き、消えて行く。

 

 中尉がコンソールを叩き、翼の下に懸架された空対空ロケット、空対空ミサイルの弾頭を活性化(アクティベート)する。それに伴い兵装データに青く表示されていた『SAFE』が、一瞬で赤い『ARM』へと切り替わった。兵装使用ランプが電子音と共に点灯し、その存在感をアピールする。

 

『"ラグナ" レディ FCS接続 同調 調整 完了』

 

 

 

かぜ、ふいてる。

 

 

 

『"フェルデランス" レディ FCS接続 同調 調整 完了 追跡装置冷却(シーカーオープン)

 

 "バケモノ"と"毒ヘビ"を蹴りを入れる様にして叩き起こす。赤外線ホーミング装置は、発射前にその誘導装置の冷却が必要不可欠だ。冷却により、CCDイメージセンサーの熱ノイズを減らし、その命中精度を底上げするのだ。

 このミサイルの特徴としては、敵が出す赤外線を探知しホーミングする為、ミノフスキー粒子による影響を受け辛いと言う所か。しかしこれだけだと、太陽を背に向けられたり、フレアによる欺瞞によって誘導が効かなくなる為、紫外線による画像診断、レーダー照射による誘導を組み合わせている。赤外線ホーミングの特徴である敵へのロックオンを捕捉されづらい所が死んでしまうが、仕方が無い。

 コンソールを流れ行く、滞り無く進む準備は確実な様だ。試作兵器ではあるが、その稼働は十分だ。今頃コイツは、敵を見つけ、舌舐めずりをしているのだろう。

 凶暴な愛馬に、凶暴な相棒。役者は揃い、その舞台を今か今かと待ち構えている。後は、調教師のおやっさんを信じるだけだ。

 

《こちらC2。敵機、進路そのまま。ヘディング000(ヘッドオン)。距離8200。目標動作解析(TMA)完了。対電子対抗策(ECCM)開始》

《ふふ、ふふふふふふふ…》

 

 上等兵が搭載された戦術電子戦システム(TEWS)による電子防御(EP)電子防御策(EPM)及び電子支援(ES)電子支援策(ESM)を始めとした電子戦(EW)を開始した傍らで、伍長の機嫌の良さそうな含み笑いがレーザーに乗り飛んで来る。どうやら楽しみで仕方がないらしい。伍長は殺しが好きなわけではないが、決して否定はしない。ただ単に、新しい兵器を試してみたいのだ。

 

『データリンク完了』

 

 伍長のいつもと変わらない様子と、愛機のレスポンスに安堵する。それでいい。これでいい。俺たちはこうでなくちゃ。

 

『アラート エンゲージ A1 - A8 会敵までおよそ2分』

 

 メインスクリーンに情報が表示され、レティクルが表示される。そのレティクルが揺れ、何かを捉えたかの様に定まる。何も映ってはいないが、確かに敵がいるのだ。敵がこちらを捕捉し、探しているのだ。その不思議な感覚は、慣れそうにも無かった。

 時折ふらりと揺れるレティクルは、自分たちの生命線だ。ミサイルはともかく、無誘導ロケットは風の影響を大きく受ける。後は、運を天に任せるのみだ。

 

「ブレイヴ01エンゲージ!5秒後に一斉射撃だ(タイム・オブ・アタック)!弾薬を惜しむな!」

《ブレイヴ02了解》

《はいなー!》

 

 インカムに吹き込むだけ吹き込み、返事は聞かず後は目の前のスクリーンにだけ集中する。モニターの1つが切り替わり、3つの光点と相対する8つの光点を表示する。

 こちらはまだIFFを作動させていない。敵はまだこちらを正確に敵かどうかを判断していないハズだ。速度も遅いため民間の輸送機(バードル)か何かと誤認している可能性さえある。それは、この状況においてこちらに有利に働くだろう。

 操縦桿の最終セーフティを弾く様に解除する。断続的に響いていた電子音が、引き伸ばし音に変わる。"フェルデランス"に搭載された目標捜索装置(シーカー)がデータリンクを完了させ、見えない、遥か彼方の攻撃目標(オブジェクト)を捉える。

 

「5、4……!」

 

 秒読みを開始する。武者震いする手をしっかりと握り込み、揺れるレティクルに集中する。耳鳴りの様に、耳の奥底で心臓の音が聞こえる。

 作動不良(マルンファンクション)を起こしたら、不発(ミスファイア)だったら、躱されたら、懐に入られたら……。最悪の状況が頭に浮かんでは別の状況が割り込む様に塗り替えられていく。

 

 しかし、中尉には断固たる確信があった。撃つのは目視外射程空対空ミサイル(BVRAAM)でも無いのに、だ。それは、錆びつきかけていた飛行機乗りの勘だった。

 

「2…1……!!」

 

 機体が遂に環礁の海岸線に到達した。しかし、中尉はそれに気づいていなかった。スクリーンを睨みつけ、カウントダウンを告げる中尉の唇はひん曲がり、目は細められ、凄惨な笑みを浮かべていた。誰も見る事の無い無邪気で、それでいて残忍な笑みは、全くの無自覚のものだった。

 それは、まるで新しいオモチャを貰ったいたずらっ子が、それを使った悪巧みを思いついた時の様で。

 

 そして、三者三様の声を皮切りに、破壊の鐘が打ち鳴らされた。

 

「ってぇー!!」

《ブレイヴ02。リリース、ナウ》

《あいさー!ふぉいやー!!》

 

 その瞬間、まるで世界が停止したかの様に感じられた。目の前が爆発したかの様に真っ白な光に包まれる。防眩フィルターを突き破らんばかりの閃光は、一瞬でコクピット内を照らし出し、飲み込んでいく。

 数瞬遅れた爆音は、すべての音をその濁流に巻き込み、激しい振動と共にゼロに戻して行く。衝撃波を伴う原初の爆裂音の中、耳を聾する限りなく無音に近い環境で、中尉は2つの音を聞いた。

 

 次々とランチャーから撃ち出され、ぐるぐると入れ替わる重心は、翼を大きく撓ませる。生み出された乱流(タービュランス)は、その力を増幅し、金属が無理矢理引き延ばされる悲鳴を垂れ流す。未だに撃ち出され続ける"ラグナ"に、グラつく機体を中尉は巧みに操る。

 やはり無反動のロケットは不思議な感触だ。軽い振動と共に来る反動はほぼ無いが、重量バランスが著しく偏る。機関砲などとは真逆だ。それにしても凄まじい量である。質ではなく量で押し驚かす兵器と聞いていたが、この爆装量は異常過ぎる。

 撃ち尽くして行くにつれ危うく上を向きそうになった機体を押さえ込み、中尉は冷や汗を垂らしながら下唇を噛み締めた。おやっさん、こりゃシャレにならんて。マジで。

 

 溢れ出ていた光が収束し始め、続きていた爆発音が断続的な発射音に変わる。

 眼前のスクリーンは、夥しい量の白線で埋まり、遥か彼方へ伸びて行く様を映し出していた。メインコンソールのモニターも同じく、だ。

 

 真っ直ぐに突き進み、途中でバランスを崩したかの様に飛び回る"ラグナ"。蛇行し、まるで獲物を探すかの様なヘリカル走行を続ける"フェルデランス"。視界を埋め尽くす白煙は、空に軌跡を描き出し、淡く解けていく。

 中尉達が固唾を飲んで見守る中、雑音混じりの上等兵の声が響き渡る。

 

《時間です》

 

 白煙の先、水平線の彼方、一番星の様に小さな、だが力強い星屑の様な光が瞬き、連鎖し、そこからまるで陽の出の様に光が溢れ出て炸裂する。遅れて到達した大爆音は機体を揺らし、翼をまた軋ませた。

 まるでその空間が白く切り取られたかの様な光景は、サーモバリック弾頭が試験的に採用され組み込まれてたからだろう。今回撃ち出された弾頭は多種有るが、環状に威力の集中する通常のロッド型弾頭が多い。 その為、全て弾頭が漏れなく誘爆したのである。単純な仕組みが幸いし、同時発射されたロケット、ミサイルが次々と誘爆を引き起こし、誘爆に誘爆を重ね、その空間そのものを薙ぎ払ったのだ。

 弾頭は、多数の凹みを付けて成型炸薬効果を持つ物や、金属環が広がるコンティニュアス・ロッドなど類似種も多い。 これらは近接信管と連動して複数の起爆点をコントロールし、敵機側に威力方向を集中するなどの工夫もされている。航空機を全て叩き落とすと言う意思の塊、その集大成と呼べるだろう。

 

 暗い夜空を侵食するかの様な、空にポッカリと天国への門が開いたかの様な光景に、中尉は思わず目を奪われた。近づくに連れ、その白き穴、白い光の中に、黒いシミが浮かび千切れ飛ぶ様が確認出来た。ゴミの様にバラバラに砕かれるそれは、敵の()ヘリコプターだろう。その面影は全く無かったが、それだけの事を起こすには充分過ぎる程の破壊の嵐は猛然と吹き荒れ、その木の葉を散らすに至ったのだ。

 空を駆ける鉄の馬は、竜巻の中に飛び込んだかの様に、暴力的な鉄の雨に打たれ、煙と火花を激しく噴き上げる。それさえも更に度重なる爆発に打ち消され、掻き消されて行く。パーツを撒き散らしながら、弄ばれる様に上下左右に引っ叩かれるかの如く揺さぶられる。お世辞にも厚いとは言えない航空機用の装甲板が無理矢理引き剥がされ、揉みくちゃにされズタボロになり光に溶けていく姿は、花火に飛び込み軽く捻られる蚊トンボの様で、見るに耐えない光景だった。

 ただただ、哀れとしか言い様が無かった。

 

《目標A1、A3、A4、A6、A7を撃破、墜落しました。A5、A8が大破、コントロールを喪失。墜落も時間の問題でしょう。A2が中破、攻撃能力を喪失、撤退していきます》

 

 上等兵の声が、中尉を現実に引き戻す。眼前で収束して行く閃光に、黒煙を引いた機影が砕け散る。クルクルと回り黒煙を引くそれは、一つは暗い海面に飲み込まれ爆発し、また一つは山の斜面へ激突、破片を派手に飛び散らせ炎上する。巻き上げられる海水は炎に揺らめき赤い柱と化し、まるで現実の光景とは到底思えなかった。

 うねる海面には油面が広がり、炎が波の上を疾走る。木々を食い破った爆発は連鎖し、抉られた地面を舐める。木々を燃やし、薙ぎ倒した爆炎は、高い木の影を長く伸ばし、それががっぱりと口の裂けた悪魔の笑い顔の様な光景を生み出す。叩きつける様に吹く島風に、揺れる木々と炎が揺れ、明滅しているかの如し様子は、破れた血管から血液が噴き出したかの様だ。楽園は大きく引き裂かれ、そのそこかしこから地獄が広がり始めていた。

 

《やったー!!やーりぃ!!汚ねぇ花火だぜぃ!誰が何機ですか!?》

 

 戦果を聞き、中尉はほっと溜息をついて操縦桿のスイッチをリズム良く押し込み、撃ち尽くしたロケットポッド、ミサイル懸架フレームを切り離して行く。軽い振動と共に爆砕ボルトでパージされたそれは、風圧を受け、ゆっくりと機体から離れて行き、視界から消える。数秒の後、後方の水面へ着水する音をセンサーが拾い上げた。

 その音に満足げな笑みを浮かべた中尉は、窘める用に口を開いた。

 

《ブレイヴ03。それは、後だ》

「そうだぞ。パージ忘れるなよ?」

《……!》

《はぁーい。もうここは、荒野のウェスタンですかr》

 

 目の前の脅威を消し飛ばし、多少は余裕が出てきたのか、伍長が興奮しながら口走る。それをたしなめ、次の指示を出そうとした矢先だった。

 

敵レーダー波 照準(エイミング・レーダースパイク)至急回避行動を』

 

 突然コクピット内に電子音が鳴り響く。一番聞きたくない音だ。言葉を切った伍長、何も言えない中尉に、上等兵の声が突き刺さる。

 

地対空ミサイル(SAM)警報!》

「……っ!」

 

 一難去ってまた一難。眼下を見ると、闇夜を切り裂き、紅蓮の炎を吐き出す火の玉が、凄まじい速度で駆け上がって来るのが目に飛び込んで来た。

 その数、実に6発。喰らったらひとたまりもないだろう。

 

 そのかなりの足の速さは、携帯式地対空ミサイルシステム(MANPADS)の比ではない。恐らく地上設置型の防空ミサイル(SAM)の一種だろう。しかも、レーダー警戒受信機(RWR)及びレーダーホーミング及び警戒装置(RHAW)が無反応だった。赤外線画像式ホーミング(IIR)の地対空ミサイル、または手動指令照準線一致誘導方式(MCLOS)かも知れない。敵は相当のやり手か!?

 

 中尉がそう判断した理由は、ミサイルを発射するのは大まかに分けて二通りの方法があり、その煩雑な方法をやって来たと判断したからだ。

 誘導方式の一つはスレイブモードと呼ばれるもので、これはレーダーでロックした方向にミサイルのシーカーを追従させるものだ。アクティブレーダーホーミング(ARH)などでこの方式を使えば、激しい戦闘機動中でもシーカーが敵機の方向を向いてくれるため非常にロックオンがしやすくなる。欠点としては敵にレーダー波を照射するので敵に狙われている事を気づかせ、更に自分の位置を晒してしまう事である。そして、レーダー波をミサイル命中まで照射し続ける必要があり、無防備になる事だ。特にこれは致命的で、照射中は針路を変更出来ず、満足な回避機動も出来ない。すればミサイルは外れてしまうのである。

 もう一つがボアサイトモードで、これはレーダーを使わず、手動でシーカーをロックオンさせるもの。 おそらく、今回使用された方法だ。スレイブモードみたく自動でロックしてくはくれない分、レーダー波を使わないため、相手側に攻撃したことを気付かせない利点がある。

 スレイブモードで撃たれたなら、敵ミサイルの来る方向は分かるので比較的対処しやすい。 しかし、ボアサイトモードだと、撃たれたことすら判らないことが多いのでかなりヤバイ。 そのため、今回も発見が遅れてしまったのである。また、件のIRミサイルの存在を確認するには、どちらも目視に頼るしかない。 中尉達は本当にギリギリのところで気付く事が出来たのである。

 

 偽装効果が高い方法を取って来たという事は、恐らく、先程のヘリコプターは囮で、こちらが本命なのだろう。仲間の命を軽く無視したそのやり方に、中尉は寒気を覚えた。信じられない。人的資源の重要度が判らないのか。

 

「各機!迎げk…間に合わん!散開(ブレイク)!!」

 

 それにしても、凄まじい速さだ。恐らく、ミノフスキー粒子下に対応した超高速ミサイルだろう。誘導機能ではなく、純粋に脚の速さで勝負するタイプだ。かなり相性が悪い。まぁ、相性のいいミサイルなどこの世に存在しないが。

 そこからの中尉の対応は速かった。迎撃は諦め、逃げる事に徹する。断続した振動がシェイクするコクピットで、辛うじてチャフ・フレアディスペンサーを作動させる。レーダーや赤外線が照射されれば自動で展開される筈ではあったが、機能しなかったのだ。

 中尉は身体全体で操縦桿をぐいと引き上げ、次の瞬間押し倒す。急激な姿勢の変化に翼が悲鳴を上げる。身体もバラバラになりそうなぐらいのGを受け、くの字に折れ曲り苦痛の声を絞り出す。血管が切れ、視界も暗く赤く入れ替わる。しかし、遠くなる意識を手放す事をせず、殆ど無意識のまま操縦桿を振り続ける。

 

 激しく揺れるコクピット、霞むスクリーンの中で、まるで電柱の様な2発のミサイルがすぐ傍を掠め、通り過ぎ、かつて中尉のいた空間に漂っていたフレアを喰い、残りが誘爆する。装甲を破片が叩く乾いた音をぼんやりと聞き、中尉はその幸運に気づかないまま旋回を続ける。スラスターが喘ぎ、翼は遂に翼端が限界に達したが、まだ辛うじて揚力を産み出し続けていた。

 

 大地から伸びた天を衝く塔の様な白煙が揺らぎ、消えかけた次の瞬間、島嶼の斜面、白線の根元に巨大な火の玉が次々と飛び込む。一瞬の後、眼も眩む様な閃光が疾走り、木々を揺るがす地響きと共にあたり一面を丸々吹き飛ばす。

 

『こちらイーグルレイ301!待たせたな!!』

 

 突撃し、急降下爆撃を決めた"フライ・マンタ"が機首を上げ、そのまま大きく旋回する。続く僚機も爆弾を放り込み、更に機銃掃射による反復攻撃を行なっていた。執拗に行われる攻撃に、かつてのミサイル陣地は跡形もなく破壊し尽くされる。瞬く間に広がる地獄を、中尉はその様子を霞む頭で想像していた。

 眼下では、燃え盛る火炎が爆ぜ、黒焦げた何かを弾き飛ばしている。その阿鼻叫喚の魔女の鍋の状況に、人の生存は全く期待出来無かった。

 シャンとして来た頭が回り始める。錐揉みしかけていた機体の制御を取り戻し、中尉はインカムに怒鳴り込む。

 

「無事か!?」

《こちら、ブレイヴ02。問題ない》

《ひぃぇぇええ!!やられましたぁっ!》

 

 いつもと変わらない軍曹の声に安堵し、伍長の焦り声が耳に焼きついた。どっと冷や汗が噴き出し、背筋に氷が差し込まれたかの様な悪寒が走る。慌てて伍長の"ダンプ"を探すが、山の斜面にへばりつく木々と靄しか確認出来ない。

 墜落したか、と考え、直様考え直す。とにかく安否の確認だ。中尉は機体を引き上げ、大きく緩やかなパイロン飛行に移る。

 

「おい!伍長!!無事か!?どうした!?」

《あわわわ助っけて!!なんとか出来まさん!?》

「C2!ブレイヴ02の損害は!?」

 

 闇を孕む空の中、黒板にチョークで線を引く様な白煙の先。遂に見つけた伍長機は、島の陰をふらついて飛んでいた。新品の装甲は所々が無残にも灼け爛れ、黒く汚れている。背中の"コルヴィヌス・ユニット"も損傷を受け、翼端からは白煙を、その基部、エンジンユニットからは濛々と黒煙を噴き出していた。

 そのやられ具合に思わず息を呑み、短く息を吐き出す。一刻も早く状況が知りたい。しかし、データリンクは途絶している。中尉は上等兵に伍長機のコンディションを伺う。

 

 その答えは、かなり意外なものだった。

 

《問題ありません》

「は?」

《ブレイヴ01、03へ。"ダンプ"は航行上問題無い程度の損傷に留まっています。ご安心を》

 

 そんなバカな!こんなにも手酷くヤられているんだぞ!?

 中尉は操縦桿を倒し、フラつく伍長機に寄せる。"コルヴィヌス・ユニット"はひしゃげ、片方のスタブウィングは根元から無残に引きちぎられていたが、それだけだった。

 それだけだったのである。黒煙はその破口から流れ出しているのみで、他のパーツには甚大な損傷は見られなかった。

 

「伍長…」

《ご、ごめんなさい……》

 

 心の底から呆れ声を出す中尉に、伍長の消え入りそうな声が返事をする。機体も多少はフラつくが安定しており、問題はなさそうだった。

 ため息をついた中尉の目には、周辺警戒を怠らず旋回していた軍曹機が合流していたのを捉えていた。コレでいつも通りだ。

 目的地はもう直ぐ。これまでは前座に過ぎないのだ。中尉は改めて操縦桿を握り直し、頭を振りながら声を出した。

 

「まぁ無事で良かった。行くぞ。LZはもう直ぐだ」

《はい!》

《ブレイヴ02。先導する》

 

 逆境も良し。順境もまた良し。そのまま、霧の出始めた谷を縫う様にして飛行する。やや航路から外れたが、予定通りの匍匐飛行(NOE)だ。

 細い谷は入り組んでおり、眼下には木々が複雑に絡み合い、得体の知れない感じがひしひしと伝わってくる様な鬱蒼と生い茂った青黒い森が広がり、左右の崖はまるで迫るかの様だ。しかし、群青の空がその切れ間に顔を出し、優秀な航法装置は最適なルートを導き出していた。

 

 しかし、天気は悪化の一途を辿っていた。低く垂れ込め始める雲と靄、霧が混ざり、視界はどんどん悪くなって行く。どこからか遠雷の響く音まで聞こえて来た。急がなければ。

 中尉は頰を伝い、顎の下に垂れる汗を拭い、正面のメインスクリーンに大写しにされた軍曹機の背中を追う。スロットルを小刻みに変更し、ペダルと操縦桿を巧みに操る。ようやくゴールが見え始めていた。

 

《あr?ぺdrの震どuが……》

 

 集中する中尉の耳元に、雑音の様な伍長の独り言が聞こえてくる。その声は上手く聞き取れなかったが、どうも中尉の勘に触った。

 

「伍長?」

《はい?》

「はいじゃないが。問題か?」

 

 後方の伍長機を見やり、中尉が口を開く。その瞬間、風が吹き、雲が湧き上がった。谷を満たす様に、ムクムクと立ち上る雲が、視界を塞いで行く。

 その奥、濁った視界の先に、閃光が走った。その緑色に近い輝きは、中尉の目の奥底に焼き付いた。

 

《いや、計器類は全く正常です。問題な…zzZザザザzザ》

「!」

 

 突然通信が途絶する。立ち込める灰色の雲の奥で、何かが這う様にしてスパークし、跳ね回るのが見えた。驚く中尉は、開いた口から何も出す事が出来ず、ただその一瞬の状況を信じられないまま見守る事しか出来なかった。

 その異常は、電撃の様に"ブレイヴ・ストライクス"内に走り回る。しかし、その状況に瞬時に対応出来る者は居なかった。当事者の伍長さえ、その状況を把握しかねて居たのだ。

 

 それが、致命的な遅れとなった。

 

《ブレイヴ03、エンジンカットだ!》

 

 軍曹が怒鳴る。伍長機が雲から飛び出したその瞬間、閃光が三度走り、"コルヴィヌス・ユニット"が瞬く間に炎で包まれた。炎は風に大きく煽られ渦巻き、鋼鉄の翼を、四肢を呑み込んで行く。

 バチバチと飛び散る火花は目障りな程の光を出し、一瞬の後、激しく噴出する黒煙と共に炸裂した。エンジンが吹き飛び、弾け飛んだブレードが岩壁を抉り火花を散らす。飛び散る破片が、周囲をズタボロに切り裂いて行く。

 

「伍長ーっ!!」

「伍長!?お願い!!返事をして!!」

 

 ぐらりと姿勢を崩した"ダンプ"は、炎に包まれたまま隊列を崩し、離脱して行く。中尉は思わず叫び、手を伸ばしていた。無駄だと頭のどこかが冷静に判断し、無意味だと判っていても、溢れ出る衝動は留めようが無かった。

 

《メーデー!メーデー!!ブレイヴ03が墜落する!!墜落する!!》

 

 そのまま、紅蓮の彗星と化した伍長機は、一際大きな空中分解をした後、残光を曳きながら中尉の視界から消えて行った。

 

 手を伸ばし、叫び続ける中尉を残して、流星は群青の闇へ吸い込まれて行った。

 

 

 

『MT476応答しろ!脚を出せ』

 

 

 

過去は、応えない………。




次回 第六十八章 過去の残滓を謳う唄

「……──ッ!」

ブレイヴ01、エンゲージ!!


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第六十八章 過去の残滓を謳う唄

MG ジムスナイパーII!!

お前をどれだけ待った事か!!

でも平手ヒデーよコレ左手だけでもいいからνガンダムと同じアレ欲しかったわ。


この惑星を覆う、青い海。

 

浅く深く、明るく暗く。

 

全てを包み、内包するもの。

 

青きゆりかごだ。

 

しかしその青は、海の拒絶から来るものだ。

 

青を讃える海は、青を拒絶しているから、青なのだ。

 

 

 

──U.C. 0079 9.18──

 

 

 

 行くな、行かないでくれ。俺を置いて行かないでくれ。無意識の内に中尉は思わず身を乗り出し、必死に虚空へと手を伸ばす。身体に食い込むシートベルトが鬱陶しい。行きたいところがあるのに、掴みたいものがあるのに、身体はシートに縛り付けられたまま。動く事を許されない。

 狭いコクピットの中で伸ばされた手が、指先が空を掻く。無駄だとは頭の片隅で理解していた。しかし、それでも、どうしても、その手を伸ばさずにはいられなかった。出来る事がそれしか無かった。これは罪の意識からか?判らない。だが、心の底から必要で、現時点で最も不必要な行為だった。

 

 こつん、と震える指先がスクリーンに触れる。伍長が消えた場所。深い藍色の先。そこには何も無かった。何も。

 深い闇の色は決して黒ではない。深淵を縁取るものが黒なのだ。MSの高性能なセンサーも、無い物は捉えられない。

 

 そう。無くなった。喪失した。伍長は居なくなってしまった。

 

 覚悟はあった。理解もしていた。そのはずだった。しかしそれらは一瞬で撃ち砕かれた。粉々に粉砕された。

 世界が暗転し、急激な吐き気がこみ上げる。内臓が絞り上げられる様に収縮し、身体がそこから縮み震え上がり、激しい動悸が呼吸を浅くする。頭の中が騒がしい。身体が煩い。よく見えない目がボヤけた光だけを拾う。現実感がない。何を考えているのか、本当に考えているのか、ここは何処なのか、何故こんな所にいるのか、訳が分からなくなる。

 

『ブレイヴ03が墜落した』

 

 あれ程やかましかった通信はピタリと止んでいた。まるで時が止まったかの様に。その言葉を最後に、何の音沙汰もない。こちらも闇が奈落を作り出していた。深淵を。深い闇を。

 

《ブレイヴ02、エンゲージ》

 

 水を打った様に静まり返る通信網は、まるで家主が消えた蜘蛛の巣の様だった。その風通しの良い静寂を、軍曹の落ち着いた声が軽く引き裂いた。

 

「……──ッ!」

 

 闇に包まれ、モノクロだった世界に色が戻ってくる。近くを曳光弾が通り過ぎた。無意識の内に中尉の身体は律儀に反応し、足は素早くフットバーを蹴飛ばし、腕は強く操縦桿を引き倒していた。

 明滅していた視界が落ち着き、荒い息と動悸だけが渦巻いていたコクピットに電子音が舞い戻って来る。点と点が繋がる感覚。脳が理解をする感覚。頭が、身体が事態を把握していく。やかましい音の正体をようやく理解した。失速警報(ストールアラート)だ。唯でさえ不安定な機体であるのに、無茶をさせ過ぎたのだ。耳障りな電子の金切り声に気づいた途端、まるで大洪水の様に全ての感覚が中尉を揉みくちゃにして押し流す。

 気がつけばヘッドセットからは多量の怒声が濁流の様に喚き響き渡っている。途絶したデータリンクにコンソールが警告する様に点滅している。スクリーンは戦闘光を捉えピックアップし、オブジェクトを捉えてはデータリンクし、また散り消える火花を映し出す。耳元では通信網がパンクしかけながらがなりたてていたが、軍曹の声は元からそこにあったかの様にピタリと収まり、中尉を現実に引き戻す。

 

「クソ!!C2!ブレイヴ03の探索を!!1人落ちた!」

 

 耳元を流れる混沌の渦に、中尉もどもりながら、悪態と共に怒鳴り声を投げ込む。顔を顰めながら、バランスを崩しかけ、ふらつく機体を抑え込もうと怒鳴りながらもフットバーを踏みつける。ディープストールに近づいていた機体を無理矢理にでも持ち直す為、コンソールに目を走らせながらスロットルレバーをグイと引く。少々荒っぽいが、その無茶をしなければ海へ真っ逆さまだ。ごめん、中尉は機体の上げる悲鳴から目を逸らしながら呟いた。

 機体が予想通りの反応を返す。同時に、空気を切り裂く翼が軋み、エンジンが甲高い咆哮を上げる。フルスロットルで噴かされ、蹴飛ばされた様に加速する機体は、ジェットエンジン特有の高く尾を引く金属音を発し、海面を舐める様に飛び跳ねる。薄く照らす月光に、激しく散るスラスター炎に、白い波は虹色の光を宿し荒れ狂う。エンジンはこれ以上に無い苦しげな咆哮をあげている。大鴉は不規則に喘ぎ、咳き込みかける心臓部は燃えそうだ。しかし、それでも尚大鴉は力の限り、振り絞るの様に羽ばたいた。

 

 深く浅く波を蹴立てる"ジーク"は、海面反駁を利用し一気に上昇する。波を蹴立て飛翔する海鳥の様に、海面に大きな波紋を残し、その滑らな水面を濁らせる事無く舞い上がる。

 

 夜空を駆け上がるかの様な機動に、中尉の身体がまた悲鳴を上げるが構ってはいられない。Gに歯を食いしばりつつ手を伸ばし、コンソールに指を滑らせる。

 冷静な指先は正確にキーの上を跳ね回り、"ジーク"の持ち得るセンサーと、"コルヴィヌス・ユニット"両方のセンサーを最大稼働させる。仕事を終えた手は胸に添えられ、未だに肋骨を突き破らんとする心臓を感じ、押さえつけようとしていた。緊張と逸る気持ちはどうも抑えられない。絶望は鳴りを潜めていたが、未だに頭の大部分を占拠し譲らなかった。耳はドクドクと流れる血液の音が響いているかの様だ。それでも横目で軍曹の"ハンプ"が追従するのを確認しつつ、中尉は上等兵の声を待っていた。焦りは禁物だ。今出来る事をする為に、今は雌伏の時だ。

 

《こ、こちらC2了解。こちらでも確認しています!!直ちに捜索を──!

 

 状況に流されず耳を澄ました中尉の元へ、ややどもった上等兵の声が聞こえてくる。しかし、その声はすぐに自らによって打ち切られた。

 それと同時に、コクピット内に警戒音が鳴り響く。リンクされたレーダー上に光点(ブリップ)が表示された。燃える様な赤。脅威そのもの。(エネミー)だ。

 

《こんな時に──敵機を補足!12時方向(ヘッド・オン)、距離7200、敵MSは3機。画像照合の結果は全機"ザクII"です。それぞれA1、2、3と呼称します。目標を各個撃破後、ポイントブラボー26へ集結を!急いでください!!》

 

 一度切った言葉を継いで、上等兵の焦り声が畳み掛ける。機体のコンディションと地形情報、敵の分布を照らし合わせながら、中尉は息を吐き出した。敵は3機。こちらは2機。しかしこちらは戦闘行動にかなりの制約がかかっている。ちょっと無理をすれば空中分解が待っている。曲芸飛行など以ての外だ。

 しかし、"コルヴィヌス・ユニット"は鈍足だ。迂闊に近づけばあっという間にその翼を蜂の巣にされ、叩き落されるであろう。それこそ蚊トンボの様にだ。攻撃力、防御力、速度のどれに置いてもその性能は決して高くない。翅がつけば強くなる様な、ゲームのパワーアップユニットとは違うのだ。

 つまり、如何に迅速に"コルヴィヌス・ユニット"を切り離し、スムーズに陸戦に移行するかが鍵になる。着地の際、MSは最も無防備になる。何よりその隙は大きい。一か八かの賭けになるかもしれない。口には出さないが、焦りと緊張を雄弁に物語る頰に垂れる一雫の汗が、中尉の内心を代弁していた。

 

 幸いな事にMSは地上戦における対空戦闘は不得手と言える。攻撃力及び攻撃の自由度はともかく、機動力の差は歴然だ。どんな大火力も当たらなければ意味が無く、速度差が大きければ大きい程速いモノの攻撃の命中率と回避率を底上げして行く。

かつて中尉がそうであった様に、重力に縛られたMS相手なら、航空機は互角とまでは言わないが十分に渡り合えるのだ。速度はそれだけで攻撃力になる。最悪MSは持つアドバンテージを一切活かせる事なく、完全なワンサイドゲームと化す場合もある。それは空を舞う者の特権だ。

 腕を持つMSの扱う砲の自由度はかなり高いが、高速で飛行し三次元機動を行う航空機を捉えるのはかなり難しい。高性能なセンサー、高精度な砲、それらを支持し機敏かつ正確に動作する機体があっても、だ。高高度を悠々と飛ぶ航空機に対してもまた同じで、更にはミノフスキー粒子濃度が高く、ミサイル、そしてFCSが正常に作動しなくなる現代戦では尚更だ。それは航空機も同じだが、相対速度差がそれを緩和する。常に高速で進み続ける航空機と、自由に、そして瞬発的に高速で動くMSでは世界が違うのである。

 勿論、MSに勝ち目が無い訳でもなく、お互いの技量によりその差は簡単にひっくり返るだろう。要は使い手の問題なのだ。ただ、その性質上航空機優位に偏りやすいだけだ。正確に言うとお互いに攻め手に欠ける事となる。まぁ、同じ土俵に立つ事さえ出来れば……いや、それは厳しいだろう。

──宙を舞い、戦闘機を撃墜させるという曲芸を実践するMS乗りなど、ジオンと連邦軍両方を探しても皆無であろう。シミュレータ上で軍曹は蹴り落としたが、実戦においてはやりたがらないだろうし。

 

『エンゲージ アラート コンタクト A2 会敵までおよそ45秒』

 

「了解!!──全く簡単に言ってくれますね!!ブレイヴ01エンゲージ!!」

『こちらイーグルレイ401。ようやくご到着か!?』

 

 顔に汗を滲ませながら操縦桿を握りなおし、目の前のスクリーンに表示されたレティクルを睨みつける。特殊な磁場もなんのその。センサー一式(センサースイート)は感度良好だ。

 敵からは目を離さず、中尉は飛び込んできたクリアな声に応える。ついに守護天使(アークエンジェル)のお出ましだ。中尉は口角を上げつつ返信する。

 

「待たせました!散開(ブレイク)面舵(スターボード)!!」

 

 対空砲火を掻い潜り、泳ぐかの様に飛び交う"フライ・マンタ"の群れに飛び込み、その動きについて行く。1機がバンクを振り、そのまま流れる様にブレイクして行く。

 すぐ脇を流れ弾が飛び去った瞬間、怒涛の様な対空砲火が始まる。中尉はコールしつつグイと操縦桿を引き倒し、機体を大きく傾ける。軍曹は逆方向にブレイクし、離れ離れになる。敵の眼を逸らすためだろう。

 決してスマートとは呼べないだろう。分厚い大気の前に薄い翼がたわみ、軋む。そのジワジワと響く破壊的な音に背筋を凍りつかせながら、それでも強気で風を掴みにかかる。

 

 操縦を受け、滑る機体が90°近くロールする、ナイフエッジに近い機動だ。遠心力により足に血が集まり、意識が薄くなる感覚に歯を食いしばりつつ、暗くなり行く視界の中首を巡らせ着陸地点(LZ)で付近の地上を観察する。

 目の前の地上で激しいマズルフラッシュが瞬き、1機のMS──"ザクII"が照らし出された。吐き出された曳光弾(トレーサー)は夜空を彩り、眼に見る事の出来ない死神を引き連れ"フライ・マンタ"を掠めて行く。それでもなお体勢を崩さない"フライ・マンタ"のパイロットに、中尉はほくそ笑み、胸中で喝采を送った。厚い鋼板の如き凄まじい戦度胸(バトルプルーフ)だ。戦闘攻撃機(マルチロールファイター)パイロットには勿体無い位だ。いい攻撃機乗りになれる。

 

「ブレイヴ02!ブレイヴ03は後回しだ!まずはヤツらを叩く!!」

《ブレイヴ02了解》

 

 一方的に言い切った中尉の目つきが更に変わる。細められた目を大きく見開き、怪しげな光を灯す。心がざわめき、口元には歪んだ笑みが浮かぶ。

 ()()()()()のだ。中尉の頭はすでに切り替わり、激しく回転し始めた。情報では3機らしいが、他の2機は確認出来ない。これはチャンスだろう。この機を逃す訳にはいかない。

 

『情報とは1機違うが……援護に移る!』

 

 伍長の事は既に頭になく、ただ目の前の状況だけを見ていた。いや、追い出したのだ。肩を怒らせる様に前傾姿勢となり、ただ前だけを見る。通信はするりと抜けていったが、『援護』だけは拾っていた。

──戦える。また、あの戦いが出来る。自分の土俵に立てる。敵を叩きのめせる。

 

 楽しくなってきた。楽しく。恐ろしい程。本当に。

 

「ブレイヴ02!ヤツに集中砲火を浴びせる!!ロケット弾と機関砲をあるだけ掃射する!目標はA2!!その隙に切り離す!!イーグルレイ各機へ!俺達にドッグファイトは無理です!援護頼みます!!」

 

 一方的に怒鳴り立て、中尉は風に乗った機体を翻した。風を受け流し、時に大きく乗り、時に切り裂く。ぎこちなくも宙を舞う"ジーク"はまるで鳥の様だった。

 

《ブレイヴ02了解》

『こちらイーグルレイリーダー。各機了解。エスコートは任せろ。傷一つ付けさせないさ』

 

 動翼が稼働し、ベクタードノズルは推力方向を捻じ曲げる。力強く、大きく旋回し、島嶼を回り込む。隙を見つけ、軍曹が合流したのを背中で感じ、島影に紛れつつ低空侵入飛行に移行、海面を剥ぎ取る様に飛びながら目標を正面に捉える。視界の端には"フライ・マンタ"が護衛に回る。軍曹はその横だ。特徴的なリフティングボディを持つ守護天使達は、その出番を今か今かと待ち構えていた。その様子に軽くうなづきつつ、こちらに背を向ける機影がスクリーンに大きく映し出される。

 眼前で、A2はあたりを飛び回る"フライ・マンタ"に向けめちゃくちゃに弾丸をばら撒いていた。だがしかし、目の前の敵に気を取られ、背後から迫る猛禽には気づいていなかった。

 

『マスターアーム オン』

 

 中尉はシート傍の精密射撃用ヘッドスコープを引き出し、顔の前で固定する。FCSが活性化し、表示されたレティクルがA2の姿を捉え、ロックオンする。ビープ音が心地良い。スクリーンの隅に"VALID AIM"(確実な照準)と表示された。いつも通り。準備は万端だ。軽く唇を舐める。硝煙の味がした。

 先程の射撃で、空中からの射撃による誤差はある程度修正されている。地表に近づいた分、気流が安定しないが、それでも致命打は与えられなくても、貴重な時間を作り出す事は可能だろう。

 己が背中に向け照射された赤外線に気づいたのか、目の前でA2が慌てて旋回しようとしているが、もう遅い。遅過ぎる。足場の悪さもあるのかも知れないが、それ以上に反応が鈍い。湧き出した違和感を締め出し、中尉はそれを声と変え、口から吐き出した。

 

「喰らえ!!」

 

 トリガーを押し込む。その瞬間、暗闇を眩しいばかりの光が斬り裂き、炸裂した。編隊を組んだ混成部隊が、一点に向け一斉射撃を行ったのだ。戦術爆撃に近い破壊の雨が、地表の形を変えんとばかりに襲いかかる。

 13.2mm弾、25mm弾、100mm弾、ミサイル、ロケット、あらゆる射撃がA2に躍りかかる。その渦巻く火力の嵐は、地表を舐める様にしてその計算され尽くした効果を発揮し始めた。

 

 地獄の釜の蓋が開く。怒涛の如く殺到した弾丸が、弾頭が、爆弾が地面を耕し、立て続けに起こる爆発が地表を抉り、閃光と爆音を伴い消し飛ばす。その光の奔流の中で、巨人のシルエットが黒く浮かび上がり、持ち上げられ、グズグズに崩れて行く。魔女の鍋の様相に、魔女のバァさんは締めとばかりに鍋をかき混ぜにかかる。響き渡る重低音と高音が入り混じった音は、まるで高笑いの如く島に反響し揺らす。

 それでもなお攻撃は続き、飛び散った四肢を空中で更に噛み砕いて行く。そこに、"ザクII"がいた痕跡はすでに残っていなかった。ただ、爆炎で切り開かれ、硝煙に掻き混ぜられた荒れ地が残るだけだった。折れ飛んだ木々には火が燃え移り、抉られた地面からは黒煙が濛々と立ち上る。舞い散る火の粉が風に吹き散らされ、夜空を赤く染め上げようとその手を伸ばす。

 楽園(エデン)は止まる事を知らず、一瞬にしてその姿を変えて行く。"ゲルニカ"と言うワードが脳裏をかすめた。

 

 しかし、中尉はそれをのんびりと眺めていた訳ではなかった。それどころか、少しも気にも止めていなかった。この惨状は、あくまで陽動に過ぎない。

 中尉はただ、身体に力を込め、コンソールだけに集中していた。コンソールに赤く表示された弾切れの表示、青く表示された切り離し可能速度、降下可能高度計が点灯すると同時に、躊躇いなく切り離しスイッチを押し込んだ。

 

「降下!!」

 

 その声は出ていたのか否か。スイッチオンと同時に、爆砕ボルトが作動した。閃光と火花が疾走り、その大きな翼が根本から外れて行く。ゆっくりと揺らめき、薄い雲を纏い、白線を引く翼は、そのまま空気抵抗の前に引き剥がされ、大気へと溶け出す様に砕け散って行く。

 蝋の解けた英雄の翼は、バラバラになり暗い世界へ消えて行く。しかし、そこに悲壮な空気はなく、生まれ変わりの儀式の様な荘厳さがあった。暗闇の中、光と火を放つ爆砕ボルトの輝きは、まるで不死鳥が自ら放つ焔の様だった。

 

 センサーが捉えた背部の小爆発、それに続き翼が外れる軽い衝撃、大気の壁に激突する重い振動。巨人の身体が翼から解放され、同時に折り畳まれていた"シェルキャック"が展開し、風を浴びまるでマントのようにはためいた。

 突風が複雑な形状の装甲に切り裂かれ、耳障りな音を立てる。はためく"シェルキャック"はその音に彩りを加え、シンフォニーを奏でるかのようだ。

 

「よぉし!!切り離し成功だ!!」

 

 中尉は叫んだものの、一瞬の無重力状態も束の間、身体が、魂が重力に引かれる。まるで、運命の束縛、大地の呪縛の様に。

 ぐんぐんと近づく黒々とした地表は、所々に火種が燻り、地獄への門の様だった。その時間は数秒にも満たないごく短い時間であったが、中尉には長く遠い時間であった。脳裏に張り付く不安を振り切るには、その時間は少々長過ぎた。抉られた木々は暴風に揺さぶられ、火のついた木の葉が烈風に巻き上げられる。騒めく世界と手招きする木々。硝煙が漂い、空は赤く染め上げられていた。

 

「……っ、ッ!!」

 

 パラシュートが自動で展開され、中尉の身体が前のめりに投げ出される。シートベルトが身体を締め付け、身体を引き裂き、その中身を絞り出さんとするかの様だ。パラシュートが切り離され、一瞬、中尉はその莫大なエネルギーから解放される。しかし、そんな中尉に休む暇を与えず、"ジーク"はパラシュートを切り離しては展開を繰り返す。

 3度目のパラシュートが切り離され、トドメとばかりに"ジーク"に装備された脚部、腰部の追加スラスターが猛烈な逆推進をかける。身体がバラバラになりそうな衝撃、脳を揺さぶられる振動。もうめちゃくちゃだ。今まで世界に逆らった負債を、一気に返されたのかの様な衝撃。それは、人の乗るものとは思えなかった。

 

「……っ!?」

 

 "コルヴィヌス・ユニット"の一部にエラーが走る。背部に装着されたパーツの一つが外れない!?しかし、もう間に合わない。出来ることは無い……。

 不完全なまま速度を緩めた"ジーク"の爪先を、地面を蹴立てる様に掠める。装備された履帯がけたたましい音を立てながら駆動し、1度2度と小さくバウンドした後地面に食らいつく。砂を蹴散らし、泥を跳ね、焼かれた地面を踏み砕き、激しい爪跡を残しながらその轍を刻み込んで行く。バランスを崩しながらも決して倒れ臥す事は無く、暴力的な人工の嵐が、大地を削りにかかる。

 

『エンゲージ アラート 12時方向 A1 注意を』

 

「ンぐ!?お、おおお……」

 

 身体を強張らせ、衝撃を堪えていた中尉は、コクピット内に突如鳴り響くアラート音で弾かれた様に顔を上げた。機体は速度を殺し切れず、未だに滑走中だった。それはまるでローラースケートの様であり、ホバー移動の様でもあった。ただ違うのは、その制御がほぼ不可能な点である事だった。

 複雑で変化に富む地面によって激しい振動がコクピットに襲いかかり、その牙を剥いていた。バランスを取るのに精一杯だった中尉は反応が遅れ、慌ててスクリーンを睨みつけた。

 

 アラートの通り、スクリーンの中で目の前の森に火線が飛び込む。砂煙と共に森が揺れ、その中から1機の"ザクII"が顔を覗かせた。

 左肩のスパイクアーマーは無残にも吹き飛ばされ、根元から千切られていた。その装甲の大半を凹凸に無理矢理再構成された上、爆炎と煤で真っ黒に染め上げたその姿は、蹌踉めく動きと相まって悲惨な様相を見せていた。そして、焼け出されたかの様な"ザクII"は、こちらを捕捉したかの様に見えたが、そのまま硬直した。

 

「──………ぉおオォォォォォリャァァぁぁぁあああああ!!」

 

 射撃に追い立てられ、逃げたと思ったその先で、MSが信じられない速度で突っ込んで来たのだ。思考停止に陥っても仕方が無いと言えばそうであろう。しかし、その一瞬は戦場において致命的な影響を暫し及ぼす。無慈悲なまでに。

 だが、その衝撃は中尉も同じだった。まだ姿勢制御の途中だ。射撃をしようにも"100mmマシンガン・ツインバレル"は残弾0だ。頭部機関砲では致命打になり得ない。脚部の履帯は悲鳴と火花を上げ、今にも切れそうだった。選択肢は、ごく限られていた。

 

『シールド レディ』

 

 経験の差か、行動を起こしたのは中尉の方が先だった。苦し紛れの一手として、ただ腹の底から声を出しつつ、本能のままにシールドを突き出す事しか出来なかったが。

 しかし、それは決して悪手では無かった。事が此処において尺詰まった時、行動出来るか否かの差が、明暗を分かつのだ。中尉は、その博打に賭け、勝ったのだ。

 

 暴走とも呼べるスピードで、地面を蹴散らし滑走する巨人の持つ莫大な運動エネルギーをそのままに、"ジーク"はシールドを硬直した"ザクII"に叩きつける。展開されたシールドは、寸分違わず正拳突きの要領で突き出され、"ザクマシンガン"に直撃する。

 閃く様な鋭い一撃に、解放された運動エネルギーが牙を剥き、その効果を吐き出しにかかる。激しく破片と火花が散り、思わず耳を塞ぎたくなる様な重い金属音がコクピット内に響き渡った。重い一撃は"ザクマシンガン"を棒切れか何かの様にヘシ折り、元銃であった鉄屑に変えて天高く弾き飛ばした。同時に"ジーク"背面にへばりついたままの残骸も揺さぶられ、けたたましい悲鳴を吐き出した。

 

 突然の衝撃に、突き飛ばされたかの様に"ザクII"はバランスを崩し、思わずよろけた様だった。2度、3度とたたらを踏み、ズルズルと滑る地面に手こずり姿勢を保とうと四苦八苦していた。そこへ、激しく燃える火の塊が突っ込んだ。航空機の残骸の様なそれは、回避もままならずまともに受け止めた"ザクII"を押し倒し、地獄の火炎を撒き散らした。

 立て続けの攻勢に、堪らず"ザクII"は倒れ伏し、パニックを起こしたかの様にバタついた。その上に更に降り注ぐ残骸は、もはや流星が降り注ぐかの様だ。無慈悲で残虐、それでいて美しさを感じる様なその光景は、地獄絵図の一巻きの様であったが、中尉は見ていなかった。

 

「っ!」

 

 滑走を続ける機体は左腕をシールドごと振り抜き、"ザクマシンガン"を弾き飛ばした"ジーク"はそのままスピンする。パーツが飛び散り、辺り構わず一面に金属片を飛ばし、美しい木々をズタズタに切り裂いて行く。"ジーク"はその勢いのままシールドを地面に突き刺し、滑る機体を強引に止めにかかった。泥や木の根を掻き混ぜ、力任せに引きちぎる激しい音と共に、"ジーク"はその運動エネルギーをすべて消化し滑走を止めた。

 内心ホッと息をついた中尉は、切り替える様にすぐ様顔を上げ、膝をついた姿勢のまま迅速にリロードを済ませる。ロックオンはまだ有効だ。シールドで滑走を止めたため、機体は敵機の方を向いている。中尉の操縦に機体は間髪入れず反応し、泥まみれのシールドと"ツインバレル"を構えるが、"ザクII"は既に沈黙していた。

 

『アラート 射線軸に友軍有り 射撃を非推奨』

 

 中尉の目の前のスクリーンの中、IFFとFCSが警告を表示する先で、"ザクII"は既に事切れていた。あまりの事に、惚けた様にそれをぼんやりと見惚れる中尉の脳裏に、その光景がゆっくりと焼き付いていく。

 燃え盛る火の中、コクピットに突き立てられた"スローイングナイフ"が遅れて炸裂する。それはまるで死ぬ間際の痙攣か、断末魔の様だった。まるで地獄の釜で煮られる亡者の様に、力無く手足を投げ出し倒れ伏していた"ザクII"は、その一撃で呆気なく真っ二つになった。

 

《こちらブレイヴ02。敵機撃破(ワン・ダウン)。目標を、A3に》

 

 "スローイングナイフ"に続く様に小爆発が連続し、バラバラになり行く"ザクII"。スパークし爆発してるのは関節駆動用の超伝導キャパシタだろう。既に力尽きた四肢を嬲るかの様に燃え盛る炎の奥に立つのは、照り返しで赤く染まる軍曹の"ハンプ"だ。燻る黒煙の奥、右手に"180mmキャノン"を抱えたまま、キラリとメインカメラを光らせる。そこに映り込む炎は勢いを増し、対照的な"ハンプ"の冷たさを際立たせていた。"シェルキャック"越しに掲げられ、こちらに向けられた左腕だけが、その殺戮劇の残滓を纏っていた。

 中尉の乗る"ジーク"とは違い、"コルヴィヌス・ユニット"全ユニットをパージし、泥汚れの1つも無い装甲は、揺らめく炎を写し出す。それは、まるで巻き上がる風に"シェルキャック"を揺らしつつ立ち上がる"ジーク"と対比するかの様だ。

 跪く死神と、地獄を挟み、その傍に独り立つ天使。中尉は、目の前の守護天使の姿に目を細めた。

 

 鋭い音を搔き鳴らし、"ジーク"の背から最後の"コルヴィヌス・ユニット"が地面にその身を落とす。鈍い音を響かせ地面に横たわるそれは、使命を終え、満足気にその姿を泥の中へと沈めて行く。そのあまりにも呆気ない別れ際に、中尉は呆然とそれを見下ろすのみだった。

 そして、黒煙が渦巻く天からは、クルクルと回る鉄の棒がまるで神の杖の様に舞い降りた。耳をつんざく様な金属音と共に墓標の様に突き刺さったそれは、先ほど弾き飛ばした"ザクマシンガン"だ。周囲に破片が降り注ぐ中、コクピットには装甲を叩く乾いた音が音楽を奏でていた。

 

「了解──了解だ!任せられるか!?C2!!伍長機は!?」

《こちらC2!反応ロスト!──いや、プレッツ・エル2が救難信号を拾いました!!》

 

 最小限の動きで旋回しつつ、澱み無い動作で"180mmキャノン"を構える"ハンプ"に背を向け、中尉は生い茂る森林に紛れつつセンサーの調整を行う。並行して沈黙を続けるレーダーの強度を高め、同時に上等兵の支援を求める。MSは高性能なセンサーを多数搭載しているが、ミノフスキー粒子はその作動を阻害する。現在のミノフスキー粒子濃度ではそこまでの支障は来さないが、本来の性能はとっくに活かしきれない。

 それに加え、その機能も戦闘向けに調整されており、探索救難(SAR)にはあまり向いているとは言えない。そのため、電子戦能力は専用の電子戦機に任せる方が良く、また最終的には目視による情報収集が最も確実となるのである。

 飛び込んで来た返事に逸る心を抑えつつ、周囲の状況と戦火を伺いながら、中尉は待つ。

 速さが求められるSARであるが、不用意な行動は危険だ。軍曹が敵を引きつけてくれているとは言え、ここは敵地(インディアンカントリー)だ。どこに潜んでいるか判らない敵に対し不用意に無警戒な側面や背中を晒せば、それはミイラ取りの末路に他ならない。荒野のウェスタンに置いては、大胆かつ繊細な行動が必要となってくるのだ。

 

《バイタルサインは──やりました!安定しています!無事な様です!ポイントチャーリー84、海に沈んでいます》

 

 

 

ここだよ

 

 

 

 軽い電子音と共にデータリンクされ、地図に表示された海域を見つめる。比較的浅く、岩壁に囲まれており波も穏やかな一帯だ。その海の底、問題のビーコンは発せられていた。

 ここからでは直接見えないが、海岸沿いで繰り返し洗い流される砂に、その手がかりは残っていた。砕け散る波に紛れ、光る物や明らかな人工物が紛れ混んでいる。"ジーク"のセンサーはそれを逃さない。浮かび、撒き散らされていく油、バラバラになった魚の切れ端、海底付近の砂埃も舞い上がったままだ。伍長はまだ水底に沈んでいるのだろう。

 沈んでる、か。水と言うものは、速度が伴えば伴う程存外に硬度を発揮するものだ。特に、航空機の墜落、不時着時に水面はコンクリート並みの硬さとなり、それ以上の衝撃を与えるものだ。さらに、海には波がある。それは地面が波打っているのと同じだ。伍長はよく無事だったものだ。

 中尉の脳裏には、手酷くやられ、"マングース"で不時着した時の事が鮮やかに蘇っていた。あの時も酷かった。機体もコクピット周辺及び胴体の一部を除いて粉々に砕け散り、散らばった上火を噴いていたらしい。飛び散った破片の一部はまだ体の中にあり、火傷の痕は消えていない。砕けたキャノピーの切り傷はまだ治りきっていないくらいだ。今も、MSの戦闘機動に耐えられず、時折傷口を開き血を流す。後遺症と言えばそうであるが、生き残る代償としては軽いだろう。しかし、その時の衝撃は想像を絶する。メインコンソールは打ち付けられた頭で大きくへしゃげていたらしい。ヘルメットが無ければ即死していただろう。

 伍長も、息はあるらしいが継戦不可能な怪我さえしていなければいいが……。それは無理な相談かもしれない。MSにも不可能は多いものだ。脊椎にダメージが無ければいいが……。中尉はごく短い期間であったが、大切な教え子の1人であるマット・ヒーリィの言葉を思い出していた。

 彼がMSパイロットになるきっかけが、"ザクII"による降下時、着陸に失敗し、背骨を折り死んだパイロットの機体を無傷で鹵獲した功績であった事だと聞いていたからだ。機体がいくら丈夫でも、中の人間まではそうはいかない。衝撃を殺し切れなければ、MSはただの棺桶と化してしまう。一番脆いパーツが人だと言っても過言では無いかもしれない。MSのコクピット周りのパーツ構成にも、乗員保護及び生命維持には多くのリソースが割かれている。旧世紀の戦闘機の時点で、それは既に現れていた。人としての限界(マンポイント)を越える技術革新は宇宙世紀となり、宇宙開発と伴い発展して来た。新機軸の兵器であるMSにもその機能は援用されてるが、それでもまだ足りないのだ。MSは、既に技術革新が待たれているのだ。それは、きっとコクピット周りだろう。

 先程MSを棺桶と言ったが、その棺桶は最新の技術で構成された、機密情報の詰まった超高価で巨大な棺桶だ。凄まじいパワーを持つMSと言えど、そんな物を担いだり引きずったりしたまま戦闘など不可能だ。ゲームや漫画ではないのだ。

 

「了解。はぁ……良かった……さて、お転婆姫(ミンクス)を迎えに行きますか……」

 

 しかし、生きていると言う確証は得た。それは何よりも安心を中尉にもたらした。自分の中で渦巻き、噴出した感情が穏やかに凪いで行くのを感じて、中尉は戦場に立ちながら確かな安堵を覚えていた。それでいて油断無く周囲を警戒しながら、ふと思った。コクピット周辺が無事ならデータも無事であるだろう。おやっさんも大喜びそうだ。

 生きていたとしても…と言う最悪の展開を頭の隅に追いやり、中尉は唇を歪め軽口を叩く。その中尉の強がりに気づいているのかいないのか、軍曹はいつもと変わらない様子で続けて口を開いた。

 

《ブレイヴ02より01へ。A3撃破。周辺警戒に移る》

 

 当たり前の様に敵MSと交戦、撃破した軍曹は、それを事も無気に報告する。視界の端では、軍曹の"ハンプ"がトリプルキャノピーの密林の中へその身を沈めて行くのを捉えていた。軍曹の能力に、中尉もその事に違和感を抱く事も無くなりつつあった。

 求めた事をそれ以上の成果を持って応える軍曹。自分の部下には勿体無い。と言うかもはや指揮をとって欲しい。今更ながら、中尉は小隊長と言う地位と自分の立場に疑問を感じつつあったのであった。

 

「10ヤードライン、確保……っと、こちらブレイヴ01了解。こっちも見つけた。3分くれ」

《ブレイヴ02了解》

 

 肉眼と様々なレーダー、センサーで周囲を見回していた中尉は、返事は聞かずそれだけ言い切ると首を巡らせ、真っ黒な海を睨みつける。深く青い色で、柔らかそうにゆらゆら揺れる夜の海は、陸地の上と比べて静まり返っている様に見えた。しかし、夜の海は全く別の顔を持つものだ。その奥に見えない危険を内包している物なのだ。

 穏やかさの中に潜むであろうその危険に、中尉は思わず喉を鳴らして唾を飲み込んだ。吸い込まれそうな藍色は、月の光を乱反射させ揺らめく。その光はいつもとは違い、弾き返す光は人を拒む様で誘う様な妖しさを秘めていた。しかし、中尉は深く息を吸い込むと、それを大きく吐き出した。それと同時に意を決し、機体をその中へと進めて行く。抵抗が大きくなり、同時に発生する浮力に足を取られそうになる。中尉は慌てず、少しずつ探る様にして進んで行く。

 

 

 

だいじょうぶ?

 

 

 

『こちらイーグルレイ501。401と交代だ。周辺空域にストレンジャー無し。このままFARCAPに入る。上は任せろ』

「ありがたい!助かります!」

 

 "ジーク"が肩まで海に浸かり、動きの制限がかなり酷くなってきた。この機体は水中活動は基本的に考えられていない。可能な様には設計されているが、あくまで壊れないだけだ。その状況での作業、ましてや戦闘などは論外だ。この機体で、水中で取っ組み合いなんぞする輩が出て来たら、そいつには絶対に関わりたくは無いと中尉はふと思った。そいつはよほど追い込まれているか、よほど向こう見ずなヤツに違いない。

 上空警戒中のイーグルレイからの通信を最後に、"ジーク"は完全に水没した。バックパックに装備された投光器を探照灯の様に照射し、深い闇をかき分けて行く。スクリーンには舞い上がる塵、驚きその身を翻す魚などで賑やかになり、まるで水族館状態だ。もちろん、こんな状況なのでそれを楽しむ余裕はカケラも有りはしないが。"ジーク"の腕は水をかく様に動かしているが、意味があるのかないのか。……水中活動のシミュレーションもやった方が良いかもしれないな。

 意外と言ってはなんであるが、"陸戦型ガンダム"は水中で比較的スムーズに歩けていた。脚に装着されたままの"おしゃれブーツ"が適度な錘となっており、さらに装着された履帯が上手く水底を掴み、その歩を進めるに力を貸していたのだ。さらに、海面を通し深海までも届くブルーレーザーにより、C2からのデータリンクは健在であった。位置情報、地理地形情報、海流など様々なデータが見やすく視覚化されており、終いには目の前の魚のデータまで表示され始めた。中尉も流石に苦笑いを隠せず、一緒に流れて行く現地の伝統料理方法を眺めた。美味しそうだった。蒸し焼きとかいいよね。食べてみたい。

 

「おい伍長!生きてるか!?」

 

 ついにセンサーが伍長機を視界に捉えた。海底に跪く様に擱座しており、また、周りをカラフルな魚が興味深そうに泳ぎ回っており、周辺の岩場と相まって石像の様にも見えた。中尉は安堵のため息と共に逸る心を押さえつけ、蝶の夢を見る潜水服へとインカムを通し思わず呼びかける。口角が上がるのを抑えられない。とにかく、会えて嬉しかった。あの時の絶望がもう一度こみ上げ、どこかに消えていく。そんな気がした。

 返事は無い。それどころか通信がオフラインになっていた。またもむくむくと膨らむ危機感と焦りに、焦るな、焦るなと肝に銘じ、破片が沈む海底を踏みしめて行く。ばきりばきりと砂が砕けて行く。砂の中に様々な物が眠っているのだろう。

──既に役目を終えた物にも、さらなる眠りを。ただ深く、安らかな、永遠の眠りを。

 "ダンプ"は見る限り、大きな損傷は見られ無い。四肢の損壊も無く、中尉は落ち着いて傍に機体を跪かせ、"ダンプ"の引き起こしにかかった。

 起こすだけで悪い。すまないが、コイツはまだ眠らせるワケにはいかない。

 

 

 

やっほー

 

 

 

 傷だらけの装甲にマニピュレーターが接触し、同時にお肌の触れ合い通信(接触回線)がアクティブになる。機能に異常無し。冷静になると浮かんでくるのは作戦の事だった。既にかなりロスをした。時間も無い。上では軍曹が待ち、部隊の到着を地上部隊が待っている。これ以上の長居は無用だ。

 肩部装甲のフックにマニピュレーターをかけた中尉に、何やら通信が聞こえて来た。ここは海底、聞こえる通信は伍長だけだ。すわ問題かと中尉は耳を傾けた。

 

《……──す……》

「…す、なんだ?」

《…す、すごくきれいな花畑が……すてきな香りの白い花がいっぱい…花火かな?でも花火はもっとこう……パァーって…》

 

 思わず操縦桿からするりと手を離しそうになる。カクンと傾けられた首は脱力しきっていた。なんだかんだでなにやらヤバそうだった。そして、下を見たお陰で、機体の一部が砂に埋もれている事に気づいた。無理に引っ張り上げたら千切れるかも知れない。周辺を掘る必要がありそうだ。

 

『シールド レディ』

 

 小さく悪態をつきながら、素早くコンソールを叩きシールドを展開させる。

 微かな気泡と共に、シールドが前へと滑り出す様にして展開される。先程の戦闘でも、その先端は鋭さを失ってはいない。むしろ更に切っ先の鋭さは増しているかの様だ。ルナ・チタニウムの強靭性は凄まじい。そして、質量兵器の威力もだ。"ビームサーベル"は比較的消費エネルギーが少ない方のビーム兵器であるが、それでも大電力を必要とし、更に稼働率、整備性、信頼性などの問題も多い。コンパクトで軽く、先端に質量が無い為従来の格闘兵装と比べ段違いの速さで刃を翻し、捌く事が出来る反面、鍔迫り合いで余計な力が必要であったりコツが必要であったりするが…今回、最悪掘り出す事が出来なければ、"ビームサーベル"によって溶断する事も考えていたが、水中においてパフォーマンスが大きく低下するのもその問題の1つと言える。質量兵器の導入も検討して欲しいものだ。

 

「──大丈夫か!?無事か!!」

《…あれ?耳の奥で鐘が鳴り響いてるよぉ〜……》

 

 シールドを突き立て、地面を削る様にして抉って行く。掘られた泥濘が水中で拡散し、舞い上がる泥がさらに酷くなる。塵が視界いっぱいに広がり埋め尽くして行く。だが、軍事用に調整された煙幕などはともかく、その程度の妨害など、MSのセンサーの前には無力に等しい。あらゆる高性能センサーの情報が統合、モニターに反映、投影され、くっきりと浮かび上がった輪郭を、シールドが滑らかになぞって行く。

 センサーは伍長機がもたれかかる様にして背を預ける遺跡に、なんらかのレリーフが刻まれているのを見つけ出したが、残念ながら今は余裕が無い。手応えの違いから遺跡の一部を破壊している事に冷や汗をかきつつ、中尉は声がけを欠かさずに作業を進めて行く。

 

「はははっ!はっはっはっはっ!!来い!来い!行くぞ!!」

 

 シールドが仕事を終え、被っていた泥を掬い上げ、細やかな砂を落とす。中尉は伍長機を一気に引き揚げ、抱える様にして立たせる。舞い上がるチリに視界が再びゼロに近くなるが御構い無しだ。センサーが更に変わりつつある周辺環境に再適応を始めるが、それが終わる前にどうせこの後はもっと酷くなる。周囲の魚達が2度目の天変地異に驚き、泳ぎ回るのを眺めながら、中尉は微かに遠く揺らめく月明かりが差し込む上を見上げた。

 静かで、美しいところだが、ここは俺たちの世界じゃない。帰らなければ。この世界に別れを告げて。

 

「さぁ!行こう!」

 

 

 

もう。しんぱいかけないでね?

 

 

 

《しょ!少尉ぃ〜怖かったぁ〜……なんか声が聞こえるんですぅ〜…》

 

 

 

へん。へん?よくわからない…

 

 

 

「は?ワケが判らんがとにかく行くぞ?ブレイヴ02も待ってる」

《りょ、了解です。あー…マウスピースしてよかった……》

 

 寝ぼけていた様な声から一変、心の底から元気そうな伍長の声に安堵し、中尉は"おしゃれブーツ"をパージする。爆砕ボルトは正常に作動し、最後に残った"コルヴィヌス・ユニット"もその役目を終え、眠りについて行く。黙礼を捧げ、振り切る様にフットペダルを踏み込む。"ジーク"は"ダンプ"を抱え、その機体を持ち上げにかかる。"ザクII"を始めとするその他のMSには不可能だろうこの芸当は、"陸戦型ガンダム"にはお茶の子さいさいだ。

 そもそも、"陸戦型ガンダム"のポテンシャルはこんなものではない。そもそも機体出力及び推力は"ザクII"と比べ物にならないのだ。セミモノコック構造の堅牢な機体フレームが叩き出すそのパワーは折り紙つきで、1G下においても、片手でも"ザクII"を大きく投げ飛ばせるパワーがある。最大出力なら、自機の十数倍の質量すら押し留められるだろう。"オリジナル"は、一体どれ程の性能なのだろうか。いつか、少しでも触れて見たいものだ。

 

 仄暗い海底に、存在するはずの無い炎が疾走り、光と波を作り出す。生み出された力は波紋となり、波及し、織りなす世界に新たな理を描き出していく。

 音が鈍く響き渡り、爆発的なスラスター噴射が周囲の海水を蒸発させ、噴流を巻き起こす。あわててスラスターを噴かし始める"ダンプ"を置き去りにし、機体が持ち上げられ始めるのに合わせて、海底の砂や塵、魚などの生物がかき混ぜられ、大きく巻き上がる。振動が逆巻く渦を生み出し、有象無象を掻き分け、"ジーク"は"ダンプ"を伴い津波と共に仄暗い海面から顔を出し、身体を出し、そのまま深い夜の空へと舞い上がる。その時間は、まさに刹那の瞬きだ。躍り出る機体を持ち上げる莫大な推力は海面に大きな波紋を残し、人工の波が砂浜に打ち寄せ、戦闘の爪痕を少しずつ洗い流して行く。

 

 飛び散る海水を蒸発させ、煌めく光を纏った機体が、海岸にその脚をつける。ダバダバと装甲の隙間から滝の様に垂れる海水が砂を押し流し、下草を洗い、滑り落ちては水溜りとなり、また海へと還って行く。中尉は足元に気を配りながら機体を踏ん張らせ、伍長機を助け起こす。ぎこちなく立ち上がる伍長機に、中尉は苦笑を漏らしつつよく観察する。傷だらけだが、激しい損傷は見られない。データリンク上でもオールグリーンである。大したタフさだ。他の兵器ではこうはいかない。そこにMSの異質さがあった。その高過ぎる汎用性は、明らかに兵器という枠を逸脱している。極限環境においても作動するだろう堅牢さは、本当に求められていたモノなのか。

 中尉が周辺警戒を行う中、伍長機はその機能を確かめる様に機体を動かす。MSによる体操というデジャヴを感じる不思議な光景を背に、そこへ素早く音も無く軍曹機が集結した。

 3機のMSが立ち並び、その上空をC2が旋回する。漸くスタート地点に立った。漸くいつも通りの、俺たちのチームだ。

 

《C2よりブレイヴ03へ。ご無事で何よりです》

 

 心の底から安堵した様な上等兵の声が聞こえてくる。呼応するかの様に上空のC2がバンクを振る。

 

《はい!着陸しました!》

 

 思わず脱力し、首が下を向く。その動きに、"陸戦型ガンダム"も連動し下を向いただろう。ややずれたヘルメットを手で戻しつつ、中尉は人知れずため息をつき、呟く。──墜落だろ。その一言は誰の耳にも届かぬまま、空調へと吸い込まれていく。

 きっとこの機体のCECSフィルターは、色々な言の葉ががんじがらめに絡まって、それは酷いなってる事だろう。人は言葉に住むものだ。普段は地球連邦軍の共通語たる英語で喋るが、思考の根幹はやはり親しみ慣れた日本語(ジャパニーズ)だ。言葉遣いこそ変われど、日本語の複雑さは今もなお健在だ。軍曹は喋れない言語が無いくらい様々な言葉を使い分ける。伍長はスペースノイド訛り(コロニアル・イングリッシュ)である。おやっさんもまた違う訛りだ。上等兵も多くの言語を使い分けるが、英語は軍曹曰く地球のとある大学でしか学べない英語(オックスブリッジ・アクセント)だそうだ。軍曹がそれを喋れる事に驚いたと同時に親近感が湧いたとの事で、2人で話す時使うそうだ。俺には判らない。少尉はやはりと言ってはなんだが月訛り(ルナリアン・イングリッシュ)なのだ。人種というか、言葉の坩堝の様な部隊である。

 漢字仮名交じりに加え、英文が絡み合う魔女の鍋の様なフィルターを、少し見て見たいと思った。

 

《もう…はい、判りました。あまり心配をかけないでくださいね?》

《はぁーい!!》

 

 元気よく会話し、上空の上等兵へと親指を立てる伍長。本当に機体も本人も元気そうで何よりだ。続いて大きく腕を振り始める"ダンプ"を横目に、中尉の頭はそれを締め出し、ゆっくりと回り始めた。冷えた頭は、機体のコンディション管理を眺める目とは別に、同時進行で走り始め、今後の作戦を少しずつ組み立て始める。

 しかし、うまくいかなかった。決して厳しい訳でない。予定変更こそあれ、未だに奇襲をかけるには破格の条件だ。情報が揃っていない訳ではない。現時点では判断を下すに充分過ぎる程の量はある。追い込まれており、その打開策が無い訳でもない。

 では、何か。何なのだろうか。捉えようのない何かが、確かに中尉の頭の中で、何かが邪魔をしている。かぶりを振っても離れない。何か。何がだろうか。

 

 その違和感はすぐに判った。両隣りに並び立つ軍曹、伍長。上空を旋回している上等兵、海の向こうで待っているだろうおやっさん達……。仲間だった。

 今まで何度も死地に送り込み、別れを経験していたはずなのに。中尉は今、ようやく自分の手が小刻みに震えている事に気がついていた。顔の前に手を出せば、戦慄く指先がよく見て取れた。その先の闇を写すスクリーンに、唇を戦慄かせ、怯えた目をした骸骨の様な影が浮かび上がる。

 その幻影を頭を振る事で追い出そうとしたが、そんな事は出来ないだろうと頭でどこか冷めた声か囁きかける。

 

 中尉は、限りなく死に近づき、そして帰って来た伍長に恐れをなしていたのだった。失う、恐怖を、思い出したのだった。

 

「……ぁ」

 

 乾いた唇、喉の渇きに呻く声が漏れる。震える手が治らない。グニャリと視界が歪み、コクピットの内壁が迫り押し潰されそうになる。そんな中尉を、呼び戻す声が響いた。

 

()()

「え、なに?」

 

 水面から引き上げられる様に、中尉は現実に引き戻された。力が抜け、思わず間抜けな声が出る。軍曹が作戦中にコールサインで呼ばない事はまず無い。どうしたんだろうか?

 後方を警戒し、こちらに背をむける"ハンプ"から、軍曹の顔は拝めないが、その頼もしい背中が中尉には輝いて見えた。中尉の裏返った声を流し、軍曹は静かに、ゆっくりと続ける。

 

《気にしないで、欲しい。呼んでみた、だけ、だ。それで、何の話、だ?》

「…すまん。ありがとう」

 

 先程までの恐怖が、既に去っている事に中尉は気づいた。かるく頰をかきながら、恥ずかしそうに感謝の言葉が口を割って出て行く。

 どうやら軍曹にはすべてお見通しだった様だ。いつもと変わらないが、言葉の端にどこかおどけた様な余韻を残す軍曹の声は中尉の胸に染み渡り、暖かく広がって行く。その暖かさが指先まで伝わり、満たして行くのを中尉は幻視していた。

 

《気に、するな。それで、いい。その悩みは、悩む、必要は、無い》

「……おう」

《こちらC2。上空に到達。プレッツ・エル2より指揮権を譲渡、上空援護(ファースト・ムーバ)を開始します。周辺に敵影無し。移動前に装備を点検してください》

 

 センサーが微かな羽音を拾う。見上げれば、IFFがグリーンの反応を示している。遅れながらの、守護天使の登場だ。上等兵の声が響き渡り、状況が、動き出す。

 

「了かi……伍長、武器は?」

 

 見慣れたコンソール、そしてそのスクリーンの先には、手ぶらで突っ立っている"ハンプ"が所在無さげに周りを見渡していた。

 

《え?…………あっ》

「あ、て…オイ」

 

 伍長の気の抜けた声に、中尉は思わず額に手をやる。1番重武装で出撃したはずの伍長は、その装備を全てばら撒いて墜らk…墜落したらしい。"ツインバレル"も、シールドも、その裏に懸架された"ハイパーバズーカ"も、何1つ本来の仕事を果たさぬまま、輝かしい初陣を飾るどころか冷たい海の底だ。

 実戦において活用し、その運用データを録ると言う目標もイオク・オジャン。とんだ着陸もあったものである。せめて1つにまとまって木にでもぶら下がっていたら良かったのであるが、現実はそんなに甘くは無い。

 

《…な、ナッシングヒューマンライフです…はい……》

「──見りゃわかる。仕方無い。コイツをやる。下がれ」

 

『"スローイングナイフ" レディ FCS同調』

 

 中尉はリロードを済ませた"ツインバレル"を受け渡し、コンソールを叩き兵装を選択する。機体がオートで可動、最小限の動きで肩部装甲裏に装備された"スローイングナイフ"を抜き放った"ジーク"は、通常の人間には不可能な腕の動きをしていた。

 ここがMSの優れた点であると同時に操作上の難点でもあった。自分に不可能な動きはパイロットが機体操作時に想像し辛く、扱いきれない場合が多い。高いスペックがあろうと、活かせないどころか振り回されたら元の木阿弥だ。中尉もその中の一人で、敢えて格闘時の関節稼働範囲にはリミッターを設け、人間に極近い動きまでとしている。だが、オート動作はまた別だ。MSが設定した動きをするだけなら、関節の可動範囲を考える必要は無い。MSを身体の延長と考えた上で、中尉はその性能を活かしていると言えるだろう。

 

 中尉はコンソールに表示された文字を見つめ、唇を噛む。敵戦力、特にMSの数は完全に把握している訳では無い。既に3機、一個小隊を撃破しているが、この規模の環礁とは言え、戦いを有利に進める為敵はそこそこの戦力を投入して来ているはずだ。推測でしか無いが、恐らく中隊規模の展開が予想されている。

 "スローイングナイフ"は左右両肩合わせて8本。数こそ多少心許ないが、その投擲された運動エネルギー及び成型炸薬の破壊力は、直撃すれば正面からでもMSの装甲を貫き、撃破し得るに十分な打撃力がある。"サイドアーム"よりは役に立つだろう。

 

《わ、ありがとうございます!これで百人力です!》

「つまりゼロか?」

《10倍ですよ10倍!》

 

 ちげーだろ。ツッコミに中尉はもう声も出さなかった。キリが無い。こーゆーのはピンで終わらせるのがキチだ。ジョークは即興で。後に引きずると禍根になるとデータベースも弾き出している。結論じゃねーのソレ?

 歩行モードの調整を行うため、コンソールを叩きながら横目でスクリーンに映る伍長機を睨む。タンタンとリズムよくタッチパネルを叩く指先は踊る様に動き、必要な作業を終えて行く。 

 この動作にも慣れたものだ。世界各地を股にかけ転戦を続けているが、なんだかんだで熱帯雨林のジャングルばかりな気がする。実際間違ってはいない。中南米、東南アジア、そしてこの太平洋環礁。その分蓄積した経験はさらに"ジーク"の動きを軽くしなやかな物にして行く。

 

《こちらC2よりブレイヴ01、03へ。準備が完了次第、ポイントゴルフ94へ移動後、右翼防衛部隊の援護を。ブレイヴ02はポイントパパ81の『カラスの巣』制圧後、狙撃につき左翼の援護をお願いします》

 

 上等兵の声と同時に、地図が更新され、矢印が書き込まれる。二手に分かれ、中尉達は長機(リード)として伍長とロッテを組み、海岸沿いに移動し、展開した敵戦線の横腹を突く形になる。軍曹は『カラスの巣』、つまり見晴らしのいい高所の陣地を抑え、戦線の後方からそれらを援護する形になる。環状に連なった島々を渡りつつ、敵の包囲網の至る所に穴を開ける形で遊撃を行う形になるだろう。忙しくなりそうだ。

 スクリーンに映る"ジーク"の右手に、しっかりと握られた"スローイングナイフ"を確認した中尉は軽く安堵の息をつく。くるりと手首を回し、"ジーク"はマニピュレーターの中で"スローイングナイフ"を弄ぶ。滑らかに鮮やかに軌跡を描く切っ先に、マニピュレーターの動作は申し分無い。構造上、自己推進するものの発射はされない為、MSの腕を振り上げ、振り下ろす勢い投擲するが、それは飛ぶ勢いを付与する動作に過ぎない。標的へ命中させる為のコントロールは指先の動きに他ならない。最後までマニピュレーターにより細かく射線を調整出来る"スローイングナイフ"の命中率は、銃で行う射撃よりあらゆる要素が更に複雑に絡み合う。その為マニピュレーターの調子が重要となって来るのだ。

 

 しかし、オート動作はやはり慣れない。おやっさんを疑う訳でないが、普段から直感的な操縦の為セミマニュアルに近い操縦をしている中尉にはやはりあまり信用ならなかった。因みに、その近くで"ツインバレル"を振り回す伍長機の操作はフルオートである。これは操縦が単純で簡単である反面、画一的な動作であり読まれやすい。しかし、通常の戦闘であればそれで十分過ぎるくらいのデータ蓄積は為されていた。

 

「ブレイヴ01了解!」

《あいあい!引きずりおろして細切れにしてやっちゃいましょう!》

《こちらブレイヴ02。了解。予定通り。移動を、開始する》

 

 ここからは別行動だ。正直メインアームが無く、軍曹の援護が無いのはかなり辛いが、やるしか無いだろう。敵戦力は多いが、その多くが分散し配置されている。この地形のお陰だ。狭い島の集まりに、海、山、川が複雑に交わり平地はほぼ無いと言っても過言では無い。

 その為、大部隊を一極集中し配備する事による戦力及び火力の集中が出来ず、数の利を活かしきれないのである。数を活かし戦線を引き延ばす事で包囲こそしているが、複雑な地形により分断され連携が難しい状況に陥り、機能不全を起こしている。前線から離れた場所に配置された小隊は何も出来ず、襲撃されても戦力の逐次投入しか出来ないのである。だからこそ、各個撃破する戦術が有効になるのだ。

──それにしても、高地か。軍曹が行くんだ。ハンバーガーを作る為のミンチメーカーって所だな。もちろん取られる方が、だ。

 

 軍曹が普段狙撃に用いる"180mmキャノン"は、本来曲射による長射程と打撃力、カートリッジ式の弾倉による速射能力を活かした攻城兵器として開発された物だ。MSに長距離砲撃戦能力を持たせる為の装備で、今回の作戦においてうってつけと言えるだろう。

 勿論、砲撃精度や瞬発火力、継続火力その他は"ガンタンク"の持つ120mm連装砲に遠く及ばない。しかし、装備の変更のみで、ある程度の機動力を持たせたまま、"ガンタンク"に近い仕事が出来る存在となれるのは、機体そのものが汎用性に優れている証拠だ。

 機動力のある兵器に火力支援をさせるのは、カウンターバッテリーアーティラリー対策の迅速な陣地転換に対応していると言えるが、MSにその仕事をさせるのは役不足で宝の持ち腐れとも言える。MS本来の仕事は高機動を活かした強襲能力であり、既存の兵器とは一線を画す強みだ。他の仕事はあくまで高い汎用性の結果でしかない。

 

 隆起したサンゴ礁と火山岩からなる"キシラ"環礁の地質は非常に硬い。地下に壕を掘れば鉄筋コンクリートでなくとも爆撃や艦砲を防ぐだろう硬度を誇る、天然の要塞とも呼べるレベルだ。しかし、それは安易に地面を掘る事が出来ない事の裏返しでもある。

 ジオン軍はこの攻勢において、恐らく、いや確実に大規模陣地を構築する時間を確保していない。個人用のタコツボを掘る事さえ手間取る地質に阻まれ、航空写真には陣地とは名ばかりの粗末な部隊集団が確認されていた。押し込まれている守備隊が攻勢に出る事も無いだろう為、必要無いと言ってはそれまでだが、おそらく飛び込んで来たMSで暴れ回られたらひとたまりもないだろう。

 その様な、『まさか』を突くのが俺達の仕事だ。

 

《C2よりブレイヴ03へ。FCSは無事で何よりです。上陸隊に武器運搬の支援要請を出しておきました。また、整備班長からの伝言です。装備類は基本的に既存の技術のみであるので、機密保持の為の爆破は可能な限りで構わないとの事です。安心してください》

《あ、ありがとうござーい!!ってわー!すごーい!!》

 

 伍長が見る先では、思わず目を疑う様な光景が映し出されていた。"180mmキャノン"を抱え、"シェルキャック"をはためかせた軍曹機がスラスターを小刻みに噴かし、()()()を走っていた。不規則な走り幅跳びの様な動きで決して足を止めず、凄まじい速さで遠ざかって行く。その姿はあっという間に水平線の彼方へと吸い込まれて行き、最後に一際大きな跳躍と共に完全に消失した。

 確かに"陸戦型GM"は、機体を持ち上げるに十分な推力がある。そもそもMS自体が、地面効果を利用する事で極短時間であればスラスターを用い滑空する事が可能だ。しかし軍曹はそれをせず、あくまで2本の脚で海面を蹴り、走っていたのだ。

 

「海面を……?」

《えぇっ!?でもたのしそー!すごいですねー!》

 

 そのあまりの行動に、初めは驚いていた中尉も、その不規則な動きから違和感を覚え、コンソールを叩き地図を呼び出す。そして、地形を確認して漸く合点がついた。

──めちゃくちゃだ。なんつー事をしているんだ。思わず呻き、感嘆の声をあげる。

 

「──いや、岩礁の上か。流石だな」

 

 そう、軍曹は海の上で無く、点々と浮かぶ浅瀬や隆起した岩礁を蹴り、足場にする事で走っていたのだ。

 

 一度理解してしまえばタネは簡単だが、尋常では無い操縦技術である事には変わりなく、中尉は顔を顰め舌を巻く。いや、神技に近い。

 今尚更新されて行く地図上に示された軍曹のルートは、目的地へと最短距離を行くものであったが、その足場が酷過ぎた。たった数メートル四方の浅瀬や、中には数十センチ単位の岩礁を足場に、海を跳んで渡っているのだ。もはや異常とも呼べる。地上においてのケンケンでさえ、並みのパイロットがこなす事は難しい。その上この"キシラ"岩礁は大陸棚の上で無い為深度の差が激しく、1つ間違えれば深海へ真っ逆さまである。脚を踏み外しても同様だ。言うなれば目隠しをして飛び跳ねながら綱渡りをしてる様なものだ。とんでもない精神力である。

 

「よぉし。俺たちも動くぞ!!ついて来い!!」

《りょ!!》

「ちゃんと返せ!!」

 

 MSに乗り、万全のバックアップ体制を受けている今だからこそ悩まされる事はほとんど無くなったが、無線通信はノイズがつきものだ。古い言い方をするとエーテルの状況にもよるが、今は特にミノフスキー粒子散布下なら尚更だ。だからこそ聞き間違いを少なくする為、わざわざ長く特徴的な単語を用いるフォネティックコードなんて物が存在するのである。頼むからそれくらい何とかして欲しい。

 しかしいつまでも見惚れている訳にいかない。俺達には別の仕事が待っている。この様子では軍曹が先に交戦を始めるだろう。それに乗じ、こちらも合わせて陽動を行うのだ。本来交戦が起こるはずの無い地域で戦闘が勃発すれば、敵は大混乱に陥るだろう。その奇襲効果を上乗せする為にも、なるべく同タイミングの攻撃が有効だ。

 "ジーク"が砂を蹴立て走り出す。"ダンプ"がそれにやや遅れて続く。第一の目標は隣の島だ。一衣帯水を跨ぐ事になる。そこを狙い撃ちされない様にしなければ。

 

「C2。こちらブレイヴ01。敵MSの反応はあります?」

《C2よりブレイヴ01へ。現在確認されている機体は"カプレカ"島を挟んで向かい側のみです。現在、右翼防衛隊は"マゼラ"系統の戦車と交戦中です。プレッツ・エル2の情報から、従来型より長砲身である車輌が確認されていると言う報告があります。ご注意を》

 

 新型か。小さく口の中で呟き、その言葉を噛み砕く。慎重に島嶼の陰に隠れ、移動しながら中尉は口を開く。レーダーの少しずつ、確実に酷くなって行く。ミノフスキー粒子濃度が高まっているのだろう。

 1番怖いのは、海を渡る時、MSによる遊撃を喰らう事だ。腰まで水没しない程度の水深の場所は限られている。MSは潜水こそ出来るが、移動速度は劇的に低下してしまう。時間が惜しいが、待ち伏せも怖い。

 

 南国気分そのものの様な、目の前の枝葉を押し退ければ、目の前が大きく開けた。海が広がり、その先には戦火に照らされた黒い影が聳え、赤く染まる空とコントラストを描き出していた。

 燃え上がる木々に照らされて、夜の闇は薄められ、驚くほど明るくなっている。しかし、それはごく一部だけだ。照らされていない部分は深い闇が渦巻いており、底が知れない深淵の様だ。それがあちらこちらにある。海、砂浜、草木、岩、煙、空…それらが混じり合い、まさに魔女の鍋の中の様だ。

 

 センサーが何度も走査し、データリンクと合わせ見通して行く。

──敵は確認出来ない。

 

「了解。行くぞ!!伍長は俺の移動後に援護を待て!」

《はい!》

 

 中尉はぐっと操縦桿を握り込み、フットペダルを踏み込む。勢いをつけた"ジーク"が弾かれたかの様に走り出し、全力で飛び出して行く。

 

 

 

うん。わかったよ。

 

 

 

「──ん……?」

《どうたんです?》

 

 なんだその略し方。機体に感じた微かな違和感は、伍長の気の抜けた声に流されて行く。

 気持ちだけが先に進んで行く。前へ。前へ。ただ、その先へ。

 

「いや。なんでも無い」

 

 

 

ここだよ。ここ。

 

 

 

 機体が疾走る。空を裂き、波を越え、踏み切り、跳ぶ。

 

 海の上を、跳ね飛び、渡る。さながら韋駄天の如く。

 

 それは、波の槍衾の飛ぶトビウオの如く。

 

 それは、海面の極低高度を切り裂く様にして飛翔する"ゼロ"("ジーク")の如く。

 

 中尉は戸惑いながらも、その波へと乗って行く。確かに浅い所を走ろうとしているが、こんな事はやっていない。"ハンプ"とのデータリンクか?違う。判らない。だが、使わせてもらう。

 硬い皮膚より速い脚。兵は拙速を尊ぶものだ。速さは強さの裏返しである。戦場において、敵を上回る能力は、決してマイナスにはならない。後は、それを使いこなすか否かだ。

 

《わー!!少尉も出来rへばぁ!?》

 

 対岸に足跡を刻んだ中尉は、岩陰に身を隠し伍長へ合図を送る。興奮冷めやらぬふわふわとした感覚の中でも、センサー走査を忘れない。目の前には黒々とした闇が広がっている。熱帯雨林の密度の差が僅かな濃淡を作り出しているが、通常のリアル画像では殆ど何も見えない。中尉は舌打ちしつつ、センサーを切り替え、注意深く探って行く。

 一方、意気揚々と親指を立て、自信満々で踏み出した伍長は、二歩目で頭から水没した。言わんこっちゃない。

 

「おい!!……仕方ない。ブレイヴ03は迂回しろ!地に足つけてけ!」

《りょ、了解……》

 

 脚だけが海面から突き出たシュールな光景から目を背けつつ、中尉は今日何度目かのため息をついた。

 同時に、違和感も強くなる。軍曹はマニュアルで跳んだのだろう。しかし、伍長はオートだ。結果沈んだ。データリンクは正常だ。何が違うのか。何が。

 

「ブレイヴ03。ここは海辺一つとっても、砂浜、腐葉土、岩場と地面の様子は様々だ。陸地は陸地で木々も多いが湿地も多い。歩行モードに気を配れ。いいな?」

 

 

 

まかせて

 

 

 

《了解です!》

《こちらブレイヴ02。ポイントパパ81を、制圧。左翼の、援護を、開始する》

 

 目の前に集中し、目を細める中尉の耳に、早くも朗報が届く。思わずガッツポーズをした中尉は、明るい声で返答を行う。

 

「……速いな。流石だ」

《ブレイヴ02から、ブレイヴ01へ。気をつけろ。罠の、可能性が、ある》

「何?どうしてだ?」

 

 予想はしていたが確定した戦果に、喜びが滲み出す中尉の声とは対照的に、軍曹の声はいつもと変わらなかった。

 思わず眉をひそめる中尉。機体を停止させ、通信のノイズが少なくなる様アンテナの方向を調整する。先に交戦した友軍からの重要な情報だ。聞き漏らすわけにはいかない。

 

《まるで、素人の陣形だ。抜かれるための、様な、な》

 

──抜かれるため、ねぇ。

 

「了解だ。ブレイヴ02、攻撃は慎重かつ散発的に行い、評価を頼む」

《ブレイヴ02了解》

 

 中尉はかつて自分が取った戦術の1つである釣り野伏せを思い浮かべる。開戦からはや半年以上が過ぎ、戦慣れし始めたジオン軍はズル賢く狡猾だ。慢心すれば足元をすくわれるだろう。舐めてかかれる相手では無い事を改めて肝に念じる。

 

《相手が引くなら突撃あるのみじゃないですか?》

「敵が一歩引いたら、二歩踏み出せ。だが、敵が二歩引いたら、踏み出すなよ」

《んむ?》

 

 後方で足元を確認しつつ歩いているだろう相方に、中尉はそれだけ言い切って前を見る。広がる砂浜は、水際迎撃にもってこいの地形だった。

 ぞわり、と毛が逆立つのを感じる。うなじの疼きが腰まで、ヒヤリとした感覚が駆け下りて行く。口元が歪むのを感じた。

 

《こちらC2よりブレイヴ01へ。敵部隊は戦車2個小隊が確認されています。ブレイヴ03の援護が無い今、慎重な行動を》

「こちらブレイヴ01、了解。引き続き情報支援を頼みます」

 

 

 

……くる!

 

 

 

「んっ!?」

 

『エンゲージ アラートセンサーに感あり 12時方向 正体不明機(アンノウン) 数は不明 データベースに該当無し 注意を』

 

敵レーダー波 照準(エイミング・レーダースパイク)回避を推奨』

 

 いきなりコクピット内に警戒音が鳴り響く。ロックオン警報だ。目の端に、真っ黒なスクリーンの一部が瞬くのが写り込む。反射的にフットペダルを蹴飛ばし、つんのめる様にしてしゃがみこんだ"ジーク"を掠め、砲弾が後ろの岩を砕く。激しい擦過音。飛び散る火花と爆発音が畳み掛ける。先手を取られた。

 遅れて、やや間延びした発射音が島嶼の間を響き渡る。敵の砲はかなりの高初速らしい。心臓が跳ね、強張り熱を出す体とは別に、何故か切り離された様に冷めた頭の一部が冷静に判断している。発砲炎から音の到着まで約3秒。約1km前後の距離だ。

 

──なら、そこはもう、俺の距離でもある。

 

「っぶな!!このっ、喰らえ!」

 

 観測した射撃点に向け頭部機関砲をばら撒く。ばら撒いている。中尉はミノフスキー粒子濃度計を弾かれる様にして覗き込み舌打ちした。FCSが…ミノフスキー粒子濃度がレベル3か!もうFCSは当てにならない。機関砲を短い0.3秒単位のバーストに切り替え、牽制及び威嚇射撃を行う。スピンアップが0.1秒以内という性能だからこそ可能な荒技であるが、やらないよりマシだ。

 

『アラート コンタクト 射撃炎観測 敵戦力不明 撤退を推奨』

 

 姿勢はそのまま、機体を折り畳むかの様にしてスラスターを噴かしスライディング。激しいGに身体が軋むが、歯を食いしばって耐える。立ち上がる動作に組み込み、"スローイングナイフ"を投擲、同時に地面を蹴り跳ぶ。また別の方向から襲い来る砲弾が砂浜にクレーターをこさえた。焦る気持ちをグッと抑え、ランダム回避運動と敵射撃点の発見に尽力する。

 遠方で爆発し、一呼吸置いて連続した破裂音が続く。爆炎の奥、跳ね上がったのは砲塔か。どうやら"スローイングナイフ"はその仕事を真っ当にこなした様だ。

 

「次!」

 

 断続的な発砲炎。続く擦過音、着弾音、炸裂音と炸裂音が地面の形を変えて行く。降り注ぐ砲弾に、中尉は向かってくる死を感じ、一雫の汗を頰に垂らす。しかし、中尉は既に、射撃間隔と射撃点を割り出していた。最低限の足さばきのみで敵弾を躱し、シールドで弾き、少しずつではあるが確実に近づいて行く。

 

『シールドに被弾 損害報告 損傷度クラスC 戦闘に支障無し』

 

 視界の端でコンソールの待ち望んだ青を確認し、中尉は唇を歪める。大反撃の開始だ。ほぼ一方的に撃っていた驕りを、一方的に撃たれる恐怖にして返してやろう。

 その瞬間、足元が爆発する様に粉塵が舞い上がる。敵弾の炸裂では無い。"ジーク"のスラスターだ。莫大な推力が機体を押し上げ、投射する。炎の尾を引き、流星は烈火の如く進出する。

 

 ──敵陣の真上へ。

 

「遅い!」

 

 腰部に懸架されたグレネードを解放、移動に任せばら撒く。振り撒かれた破壊の意思が炸裂し、死の破片を撒き散らす。

 着地で突撃砲を踏みつけ、慌てて旋回を始めた別の突撃砲を返す刀で蹴り飛ばす。確かに、通常の"マゼラ・アタック"とは形が違う。主砲の砲身がかなり長く、突き出た翼もコンパクトだ。しかし、その長砲身も活かせなかったらただの宝の持ち腐れだ。物干し竿にもならない。そのまま目につく物に対し、フルオートで頭部機関砲を乱射する。ハルダウン、ダックインすらしていなかった突撃砲は、その側面に大量の穴を開けられ、炎と煙を噴き出し始める。蹴散らされ、怯え、逃げ惑う兵士が砕け散る。グレネードを投げつけ、吹き飛ぶ有象無象が地面に再び落ち、撒かれる。

 

「地形を利用出来ない突撃砲なんぞいい的だな。基礎からやり直すこったな"物干し竿"」

 

 Yラックが欲しいな。こんな時に使うものだろう。メインアームが無い以上、グレネードだけで殲滅は不可能だ。頭部機関砲も弾が足りん。

 それに、まだ居る筈だ。まだ。残骸の数が足りない。混ざり合ったものもあるだろうが……。

 その答えは既に、スクリーンに出ていた。履帯の轍。風化はしておらず、まだ新しい。

──まさか!?

 

 

 

そっちからくる!

 

 

 

『アラート 8時方向 至急回避運動を』

 

 ロックオン警報。何かが繋がる感触。慢心していた身体が跳ねる。考えていた頭が現実に引き戻される。それが命取りとなる。思わぬ一瞬の隙。それは、中尉にとって無限の時間に感じた。感覚でわかる。頭のどこかで声がする。

──間に合わない。

 

「──ッ!」

《…bない!!》

 

 何か聞こえたが、頭が理解しようとせず、ノイズとして処理する。死の迫る極限状態に、反射的に歯を食いしばり、身体を縮こめる。

 しかし、衝撃は来なかった。死んだ経験は無いが、うまく死ねたのだろうか?

 

 恐る恐る顔を上げる。どうやらまた死に損なったらしい。スクリーンに、蜂の巣になった"物干し竿"を今まさに踏みつける"ダンプ"が映る。そのまま、こちらに"ツインバレル"を振り上げ、ガッツポーズをする様にブンブンと振る。

 そのまま腕を振り下ろした"ダンプ"は、"ツインバレル"を乱射し、伍長はトドメとばかりにSマインを撃ち出す。左手も休まず、グレネードを投げ、対地掃討を行う。炸裂し、撒き散らされたキルボールで地面が捲れ上がったかの様に波立ち、のたうつ。

 中尉も合わせてグレネードを放る。装甲に飛び散った破片がが当たる軽い音を聞きながら、事態の収束を感じた。コンソールを叩く。やはりだ。周辺に動体、生体反応が消失した。殲滅完了。突撃砲2個小隊と傘下の部隊、この短時間で、おおよそ百数十人が消し飛んだのだった。

 

《ふー。やっぱ少尉は私がいないとダメですね。えへへ》

「そう、か?──ま、そう、だな……ありがとう」

 

 伍長の弾んだ声に、曖昧に返し中尉は頰をかく。助けられた。伍長は立派に僚機(ウィングマン)としての仕事を果たしていた。上空での軍曹の様に、しっかりと背中を守ってくれていたのだ。2機の分隊を最小単位とするこのロッテ戦術は、突出しがちな中尉に合っていると言えた。

 しかし、義理堅い中尉の礼がおざなりになる程には、それ以上に気になる事が多過ぎた。

 

 コンソールを叩き、ガンカメラを再生する。"物干し竿"を蜂の巣にした事で、弾薬が誘爆し、爆発するシーンだ。1番の違和感を感じたその瞬間をリピートする。やはりだ。爆発の瞬間シルエットが小さい。まるで子供みたいだ。いや、四肢が千切れ飛んだか?しかし、それにしては妙だ。

 周囲を伺いながら、前後のシーンも同時に画像解析へとかけて行く。予想はついていたが、理解し難かった。自分の勘が外れるその確証が欲しかった。

 しかし、状況はそんな中尉を待つ事はしなかった。

 

《やっはー!!わたしたちには朝ごはん前です!!》

 

 

 

にげて!

 

 

 

《へ?何か言いました?》

「ん?いや。なんだ?」

 

 何言ってんのコイツ。向こうも多分同じ顔してると思う。こっちのセリフだ。この不確かな言動は何とかならんのか。

 

《こちらC2。敵MSが対岸で展開中、こちらに向かって来ています。その場で待機し迎撃を…

──隊長!!伍長!!すぐにその場から退避を!!航空隊による爆撃が始まります!!》

 

──え?

 

《え?どこにです?ハワイ?》

《真上です!!》

 

 反射的に見上げる。遥か後方、雲の切れ間に、いくつもの翼端灯が輝き、流れるのが見えた。

 それが意味するのは、たった1つ。

 

 今回の作戦において、最も効果の高い高高度における水平爆撃が可能な戦略爆撃機は出動していない。爆撃も戦闘爆撃機によるものだけだ。航空機の損害を減らし、またレーダーに引っかからない様、航空爆撃はトス爆撃だったはずだ。

 トス爆撃とは、戦闘爆撃機による爆撃方法の1つで、低空侵入後上昇(ホップアップ)し、一定の高さで水平飛行後を行い、目標に近づく段階でさらに30°の揚げ角で上昇しつつ行う爆撃方法だ。これにより爆弾は緩やかな放物線を描き、アーチの様な山なりの弾道で約5km先の目標に30秒前後で到達する。低空侵入の様に上空まで侵入せず爆撃を行え、また長い滞空時間により比較的遠距離を爆撃出来る反面、風に流されやすく爆撃精度がかなり低いのが欠点である。

 

 轟く様な風切り音を、センサーが捉える。それも1つでは無い。夥しい数の音の波が、鼓膜をおどろおどろしく打ち付ける。破壊の足音が、ひゅうひゅうと夜の闇を切り裂き、まっすぐに向かってくる。闇の中にポツポツと浮かぶ、闇よりもさらに深い黒い楕円。そして、真円。まるで空間そのものに穴を開けた様な、黒が。ここへ。

 

『アラート 至急回避運動を』

 

「ま、ぅえ?うぉお?おっ?ぉぉぉぉおおお!!」

《きゃー!!もしかしてコレ!?助けてぇ!きゃ!逃げるって何処にです!?》

 

 近くで大きな爆発が巻き起こる。砂が舞い散り、岩が砕け、木が薙ぐ。それは地面を震わし機体を揺さぶり、思考と身体を、縛り付ける。その爆発は鋼の暴風を伴い、立ち竦む2機へとどんどん迫ってくる。

 所謂絨毯爆撃がその口を開け、地面を舐め回して行く。閃光と爆音はオーバーフローしシャットアウトされる。コクピットには、身体を震わせ、耳をつんざく警戒音ががなりたてるだけだ。

 

「当たんねぇ所にだ!逃ぃげるんだよぉぉぉぉぉおお!!」

 

 がなり立てる電子音を掻き分け、ただただ叫ぶ。恐怖を紛らわせ、強張り引き攣る身体が少しでも動き、その力を捻り出せる様に。後は声にならない。自分でも理解せず、理解出来ない文言を並べ、それでも叫びつつ、無意識に任せフットバーを蹴飛ばす。機体が急加速し、"ダンプ"を巻き込み猛然と突進を続ける。無我夢中だった。

 

「っだぁ!爆撃中止!!爆撃中止!!聞こえてっかおい!!」

《爆撃中止!!直ちにポイントゴルフ94への爆撃を中止して下さい!!友軍の頭上です!!》

 

 方向感覚も平衡感覚も何もかもが吹っ飛び、自分がどんな状況かも判らない。止まる事を知らない、断続的な衝撃の中、ただ喉が持つ限り叫ぶ。喉が張り裂けても叫び続けるだろう。吼える様な中尉の声は、誰が聞いているのか。

 

『I have control』

 

 あらゆる方向から圧され引かれ、ただ乱暴にかき混ぜられる。天地がひっくり返ったかの様に翻弄され、身体が悲鳴をあげる。痛くない所が無いぐらいだ。全てが壁床天井となりぶつかり、骨の髄から内臓まで打ち響く。

 

 

 

あれも、敵?

 

 

 

 音が止む。静寂が訪れる。コクピットには微かな呼吸音とビープ音だけだ。ベルトに吊るされる様にして支えられた中尉は、その痛みで生きている事に気付いた。目に刺さる光は、機体が正常な事を示していた。

 

『You have control』

 

 軋む装甲とフレームを高鳴らせ、"ジーク"が膝をつき、立ち上がる。普段とはまた違う駆動音に肝を冷やすも、機体はすぐさま強制排熱、冷却を開始し、陽炎を立ち昇らせ熱を吐き出しにかかる。メインカメラを海水がなだれ落ちるが、すぐさま正常化される。

 周りの様子は一変していた。何もなかった。何も。

 

「伍長!!無事か!!」

《し、死ぬかと……海で伏せてて、損傷は軽微ですぅ…》

 

 叫ぶと、近くで泥で濁った海水が持ち上がった。現れた"ダンプ"に、海よりも深い安堵のため息が出る。肋骨を突き破らんばかりの心臓を落ち着け、充血しきった肺を撫で下ろす。乾いた唇、カラカラの口内と喉。ヒクつくこめかみにヘルメットを感じる。俺たちは生きている。

 

 生きていた。俺も、伍長も。

 

 ぎこちない動作で歩み寄ってくる伍長機は、また肩アーマーすっ飛んでる。何でいつもそこばっか壊れるの?魔女のバァさんの呪いかよ。

 しかし、それ以外の損害は認められなかった。不幸中の幸いか。無我夢中で世界の危機100連発をくぐり抜けた様に、現実感が湧かなかった。

 

「はぁ……良かった。本当に……」

《こちらC2。良かった。お二人とも、無事で何よりです。今、上空支援隊へのバースト通信が来ました。繋ぎます》

 

 心なしか震えている上等兵の声にも安堵しつつ、中尉はイラつかせる様に首を振り、インカムに声を叩きつけた。

 

「了解……ったく!!全くこのイーグルレイめ!!バッキャロー!!殺す気か!!デンジャークロースにも程があるぞ!!」

 

 また別のブロークンアローってか!?悪趣味過ぎるわ!!

 

《こちらイーグルレイ601。本当にすまない!!ミノフスキー粒子が濃くて…》

「……はぁ……いえ、こちらも被害は軽微です。言い過ぎました」

 

 向こうの悔しそうで申し訳なさそうな声に、何とか冷静さを取り戻した中尉は、バツが悪そうに頰をかき、謝罪する。不満を飲み込んで腹を壊したという話は聞かない。それに、仕方が無い。仕方が無いのだ。

 

 

 

ちがう。まちがい。間違える。間違えた。私も?違う。

 

 

 

 訓練やシミュレーターを幾ら行おうと、実戦はその想定や予想を上回るイレギュラーが付いて回る物なのだ。それは中尉が痛いぐらいに経験し知っている物だった。

 

《イーグルレイ603だ!GPSにレーダーもFCSもIFFもダメだ!!夜では目視も効かん!!オマケにNVの画像も不鮮明ときた!!どうすりゃいい!!》

《イーグルレイ605よりブレイヴ01へ。1度爆装のため帰還します。ご武運を》

《上空の援護はイーグルレイ301が引き継ぎます。到着は150秒後です》

「ミノフスキー粒子か…アクティブ方式のNVはダメそうだな」

 

 呼びかけられるだけになった通信に耳を傾け、コンソールを叩く中尉は小さく呟く。スクリーンを目まぐるしく切り替え、最適化を図っているが、チラつくノイズがうっとおしい。

 どうもミノフスキー粒子濃度が急上昇を始めている様だ。妙である。戦闘が激化するにつれ、ミノフスキー粒子濃度は少しずつ高まるのが一般的だ。しかし、ここまで急激に上昇するというのは、ミノフスキー粒子散布が行われたと考える方が妥当だ。だが、ミノフスキー・テリトリーを形成するためには、戦艦クラスに搭載されるサイズの核融合炉が必要になってくる。ここにそんなものは無い。

 

《C2よりブレイヴ01へ。爆撃機隊への爆撃を中止させますか?戦線が入り乱れている上、この状況です。半数必中界(CEP)も広く、誤爆の危険は常に伴います》

「しかし…」

 

 言葉を濁らせる。確かにフレンドリーファイア(FF)は恐ろしい。だが、敵の猛攻はもっと恐ろしい。航空優勢はともかく、航空機による露払い、対地掃討はMSの能力を発揮する上で必要だ。機動力が高く、随伴歩兵を連れる事が難しいMSは、歩兵からの不意打ちに弱い。対ゲリラコマンド対策が必要であるのだ。接近され的確に弱点を狙い撃たれてしまったら、大破し擱座する可能性だってある。本来MSは対歩兵戦闘を行う兵器でない。宇宙空間における歩兵、戦力の最小単位なのだ。同等かそれ以上の兵器を破壊する兵器なのである。

 また、現在、打撃力を持つ火力支援は全て航空機によるものだ。今の俺達の様に、最低限の装備で戦線に投入されたMSの攻撃力などたかが知れている。中尉の懸念は火力不足にあった。対地掃討も対戦車戦闘においても火力不足が目立っている。機動力でなんとか補い喰らい付いているが、足りない火力が更に貧弱となっている今、その性能を十分に力を発揮し切れていない。そんな中航空火力まで無くしたら、本格的に何が出来るのか探すのが厳しくなる。

 MSは確かに戦場の主役となった。しかし、その主役を引き立てる為にはそれ以上のカバーが必要なのだ。万能な兵器など存在しない。軍は、戦力とは総合力なのである。

 

《ブレイヴ02からブレイヴ01へ。意見具申の、許可を願う》

「ブレイヴ01了解。意見具申を許可する。なんだ?」

 

 山の尾根に立つと、遥か先からでも視認されやすくなってしまう為、山の稜線に沿って移動しつつ、ふと振り返り先程までいた海岸を伺う。そこにはただ闇が広がるのみだ。戦闘の影響で燃え移った火も、月の光も一切届かず、黒を超えた深さを湛えるそこは、奈落の底の様だ。爆撃により根こそぎ吹き飛ばされ、燃える物すら残らず消失したのだろう。中尉は思わず身ぶるいをした。

……危うく彼処で仲間入りして、棺桶によろしく出来なくなるところだった。散骨はいいもんだが、まだちょいと早い。戦場に立っている以上、命は惜しく無いが、まだ出来る事はあるはずだ。ここはまだ死に場所では無い。犬死は勿体無い。

 

《赤外線ストロボを、用いる。目標をマークするんだ。それに、ペインティングレーザーを照射する。レーザー誘導のスマートボムを、使わせる。どうだ?》

《確かに、それならば友軍への誤爆の危険性は大幅に減りますが──しかし、このミノフスキー粒子濃度です。スマートボムもどこまで機能するか。そもそと敵味方の識別も…あ》

「──そのための攻撃目標マーク、という事か。よし、ブレイヴ03。重大な任務を言い渡す、いいか?」

 

 狼煙を上げるかの古い手だ。だが信頼性の高い枯れた技術は、土壇場において役に立つ時が多いのもまた言える事だ。問題は、問題に直面した時、冷静に辺りを見渡し、あらゆる手段から最適解を導き出せるか否かだ。軍曹は、その能力に優れている。彼が生き残って来たのは、決して運だけでは無いのだ。

 空を見上げ、雲間に紛れるジェット噴流が飛行機雲を突き立てるのを見届けながら、中尉は口を開く。かちりとパズルがはまった様な感覚。その快感を脳でリフレインさせながら、自分の仕事を考え始めていた。

 

《は、はい!頑張ります!お任せを!》

「C2から指令を仰ぎ、協力して爆撃地点をペインティングレーザーでマークする事に専念するんだ。戦闘は極力避けろ。グレネード搭載の赤外線ストロボをオンにする事を忘れるな。後…」

《なんです?》

 

 首を傾げているのが手に取る様に判るぞ伍長。判りやすくてありがたいが。

 

「──投げ損ねるなよ?」

《了解でぇす!!ふっふふ、燃えてきたぁ!!》

《C2了解。C2よりイーグルレイ各機へ。航空目標に対しては赤外線ストロボを投擲し、レーザーペインティングを行います。その為、その2つを確認した目標以外に対する爆撃を禁止します。繰り返し通達します…》

 

 おどけた様に、言うだけ言い切った中尉は、自分を鼓舞する為にも声を張り上げる。

 

「よぉし!気を取り直して行くぞ!」

《こちらC2。敵陣の第二波です。各機警戒を!》

 

 声と共に地図がまた更新される。それを睨みつけ、判断を下す。後は速度だ。

 

「ブレイヴ03は爆撃地点指示を!俺は正面を引っ掻き回して撹乱する!ブレイヴ02!そっちは!?」

MS1機を撃破(ワン・ダウン)。南東方面に展開中の、"マゼラ"部隊を、制圧中だ。任せておけ》

 

 軍曹のいつもと変わらない冷静な声は、どんな時も真実を紡ぎ出す。中尉は、黙って耳を傾けるだけだ。それだけで、明日をまた生きていける権利を勝ち取れる気がするのだ。

 

「了解!ブレイヴ02、さっきの件だが……」

《ブレイヴ02よりブレイヴ01へ。罠の可能性は、限りなく低い。素人、同然だ。統率無し。敵前逃亡。同士討ち。ジャミングだけでは、説明出来ない程だ。キリが、ない。酷いものだ。──だが、油断は、するな》

 

 先程の光景がフラッシュバックする。見間違いでは無かった。裏打たれた真実が中尉を正面から打ち倒そうと殴りかかる。

 しかし、だからと言ってやる事は変わらない。捩じ伏せた力を、口から吐き出す様にして言葉を繋いで行く。

 

「了解。俺も子供らしい影を見た。経験も浅そうだ。よし、ご苦労様、すまないな。……おいブレイヴ03!聞いてるのか!?」

《え?……も、もちの、ウィーズリーですよぉ!》

 

 嘆息。しかし、心の何処かで誰かが安心していた。知るべきでない事、知らなくていい事もある。そんなもの誰が決めるんだ。ただの驕りだ。

 

「ハァ…背中は預けたぞ。頼むぜ?」

《むふー、りょーかい!!神の雷が火を噴きますよー!負ける気がしないぜぇ!》

 

 伍長の元気良い声が、つばと共に飛んで来たのか、スクリーンに水滴がつく。ぺたりと張り付いたそれは、するりと流れて消えて行く。

……いや、そんな訳ない。転々と水滴が広がり、表面を撫で、その形を変えて行く。

 

「……雨?」

《あり、降ってきちゃいましたね》

 

 天から、集まった雲が装甲にあたり軽い音を立てる。ポツポツとパラつき、不規則だった音が変わる。引っ切り無しに立て続く音が、別の音へと変わって行く。

 もう既にずぶ濡れだった巨人達を、雨は更に濡らして行く。海の青を洗い流し、空の青をへと染め上げる様に。熱帯雨林を洗い、地面に吸い込まれ、溢れ出る。

 際限無く、どこまでも、どこまでも濡らして行く。

 

「ったく。畜生。なんてこった。魔女のバアさんの呪いか」

《熱帯、ならではの、スコール現象、か》

 

 それと同時にワイパーもその性能を変えて行く。メインカメラのグレイズシールドに張り付いた雨は、とてつもなく高いところからひっきりなしに降ってくる。

 足元の砂浜は水を吸い込んでいくが、腐葉土はそうはいかない。濁った水が溢れ、流れ出した。まるで地面そのものが蠢く様に、MSの足跡に溜まり、決壊させ、更に崩して押し流して行く。まるで戦闘の残滓を抹消するかの様に。

 

 グレイズシールドのワイパーの性能を越え、画面に張り付いた水滴が目に触る。賢いこの機体は、そのノイズを処理して行く。その視線の先で、彼方此方でみるみる水溜りが出来ていく。 

 まるで地面から湧き出たかの様だ。熱帯雨林は、その様相を変えて行く。本来の姿に、戻って行く。

 

《わたし知ってます!『巷に雨の降るが如く〜我が心にも雨ぞ降る〜』ランボーの詩ですね!!》

「いや、それを言うならヴェルレーヌだ」

《『秋の日の、ヴィオロンのため息の身にしみて、ひたぶるにうら悲し』ですか?》

《そうなんです?》

「……ホント学が無いな。無知と貧困は人類の罪だ。そんなんじゃD-dayに遅れるぞ」

 

 いや、この環礁そのものが大きな水溜りみたいなものだ。巨大な水溜りの、小さな水溜り。俺たちは、今、重力の井戸の底にいる。

 曇天の屋根の下、雨の底、膝まで水に浸かっている。沈んだ世界を泳ぐ魚達は、今は見えない。俺に、水を掻き分け、この世界を飛ぶ事は赦されるのだろうか?

 

 軽口を叩きつつも、歩行モードを変更。+9に。もはやアウトリガー無しでは走る事も止まる事もままならなくなる。岩の上にある腐葉土は、あこちらの足を取る事だけにご執心らしい。その分足音や足跡は消えるだろうが、それはMSにとってそこまでプラスにはならない。

 

《──C2よりブレイヴ01へ。2時方向、距離2800。"ザクII"が1機です。A5呼称します。離島を挟み、迂回する様に接近中です》

 

 上等兵の警告に、弾かれた様に顔を上げる。敵もこちらの位置を把握しているのだろう。しかし、こっちからはデータリンクのお陰で島の向こうだろうと丸見えだ。スクリーンに投影されたシルエットを睨みつけ、中尉は決断を下す。頭の中で組み立てた作戦を実行するため、操縦桿を握り締める。手袋が捻られ音を出す。中尉はこの音が好きだった。

 

「ブレイヴ01了解。仕掛ける!!」

 

 奥歯を噛み締め、フットバーを蹴飛ばす。走り出した"ジーク"が岩を蹴り、木を避け、軽々と崖を登って行く。

 スラスターを使わず、敵に察知される前に側面を取り、先制攻撃を行い一撃の元葬り去る。メインアームも無く、格闘戦を挑まず安全に倒すのにはコレが1番だろう。リスクを冒すものが勝利するが、リスクを避けるのもまた戦術であり、戦いだ。卑怯なんて言葉はイヌにでも喰わせればいい。勝つ方が生き残るのだ。

 

 

 

ここだよ

 

 

──んっ!?

 山の稜線を越えるか否かという時に、機体が何かに反応する。突然のビープ音とその反応に戸惑いながらも、中尉は一度動きを止め、注意深く辺りを索敵する。センサーの走査は行わない。これもリスク回避の為だ。リアル画像は雨の影響を受けるが、画像処理を行わない為ありのままを映し出す。センサー類が拾わない物は表示されない合成映像とは別の強みがあるのだ。

 

 

 

そこにかくれてる

 

 

 

「──!?アンブッシュ!……っておい、バレバレじゃねーか……」

 

 森林から突き出た人工物。円筒形のそれは明らかに砲身だ。それが3本。お行儀よく並び、明後日の方向を向いていた。思わぬ伏兵に、中尉は一度引っ込む。1対4。A5に釣られ飛び出せば、その背中を嫌という程撃たれただろう。

 その下を、元気よく意気揚々とA5が走って行く。その動きに釣られ、1つが砲身をA5に向け、慌てて砲身を逸らす。

……おい、敵ながら大丈夫か?

 

『こちらイーグルレイ201、爆撃準備完了、指示を待つ』

《ここです!パァーッとやっちゃって下さい!!》

『イーグルレイ201了解。爆撃開始』

 

 どうしたものかと首をひねる中尉の耳に、伍長の声が飛び込んでくる。どうやら向こうは順調らしい。"ジーク"は"スローイングナイフ"を握りしめるだけで、答えはくれない。ただこの状況を見下ろすだけだ。

 そんな伍長の脇腹を突かせる訳にはいかない。ならどうするか、答えは1つだ。爆撃の音に合わせ突っ込む!一瞬でも誤魔化し、一対一の状況に持っていけば、戦力差はあれ勝負にはなる!

 

 

 

いま

 

 

 中尉の操縦を受け、"ジーク"が最後のグレネードを投擲する。かなり急な放物線を描き投げ上げられたそれは、山の稜線を越え、地面に2度3度バウンドし斜面を転がって行く。

 

『グレネード 残弾ゼロ』

 

 それと同時に、中尉はフットペダルを力一杯踏み締め、目一杯スラスターを噴かす。唸りと共に溢れる光を孕み、凄まじい音と共に"ジーク"の巨体が宙を舞う。ブレる視界の中、中尉は"ジーク"に"スローイングナイフ"を抜かせるのを忘れなかった。

 

 

くるよ

 

 

 山々の谷間に、爆撃の音が遠雷の様に響き渡る。地面を揺さぶる衝撃に紛れ、グレネードが炸裂し、無数の破壊の意思が撒き散らされ、その殺意を全方位に突き立てる。砲身の正体であった"マゼラ・アタック"2輌が爆風をモロに受け、バラバラに吹き飛ぶ。飛び上がるべき砲塔は無惨にもへしゃげ、その機能を活かす間も無く醜い鉄の塊と化した。

 残る1輌も、焦った様に動き出すと同時に、"ジーク"の足の裏でスタンプされ、地面にその車輌を縫い留められた。

 ここまでは計画通り、だが、1つの誤算は地面が崩れ、激しい上昇と着地の衝撃にシェイクされた中尉をそのままに、押し潰され不恰好なボードとなり滑り始めた事だけだ。時間としてはほんの数秒、距離は2mも無かったであろう。しかし、地面を抉りながらずるずると滑り、湿った火花と金属片を撒き散らすパレードに、気付かないほど敵のパイロットは愚かでは無かった。

 

敵レーダー波 照準(エイミング・レーダースパイク)回避を推奨』

 

「──っふ!」

 

 コクピット内にアラート音が鳴り響く。手にした"ザクマシンガン"を振り上げようとするA5に、"ジーク"は素早く身を翻し、閃く様な速さで"スローイングナイフ"を投擲する。

 流れるかの如く回避と攻撃を兼ねた行動に、スローモーションで揺れる視界の片隅に、A5が射撃を諦め回避行動に移るのを、中尉は見逃す事なかった。

 瞬時に脳内で組み立てられる戦法、反射的に動く身体、それを受け止める操縦系統。寸分の隙は無かった。

 

『"スローイングナイフ" オールレディ』

 

 中尉自身は気付いていなかったが、中尉は笑っていた。声こそ出していなかったが、歪み吊り上げられた唇は隠し様が無い。描き出される敵の末路、先行するイメージ通りの撃破を確信していたのだ。それは錯覚か、幻か、否か。そのまま勢いに任せ、まるで舞踊を舞い踊る様に、"ジーク"は残る"スローイングナイフ"を全て抜き取り、放射状に投擲する。A5が何処へ回避しようと、必ず当たる様に、だ。感覚の様で、詰将棋の様に計算され尽くし追い込まれた時間差攻撃に、標的となったA5に逃れる術は無い。

 怒涛の如き攻撃に、哀れな獲物はどうする事も出来ず、防御を選択した。それは確かに、最善の策と呼べた。下手に回避すれば、致命的な箇所に損傷し、そのまま大破する事も十分に考えられる。しかし、敵の誤算は、"スローイングナイフ"から身を守るには、"ザクII"は明らかに装甲が足りていなかった事だ。

 

 金属が金属を無理矢理に引き裂き、貫く激しい音が響き渡り、突き立った"スローイングナイフ"が炸裂する。装甲を食い破り、内部から腕を吹き飛ばされたA5が蹌踉めく。千切れた断面からは煙が噴き出し、激しくスパークしていた。だが、それは既に関係無い事だった。足を止めた時点で、A5の運命は決まっていた。

 

『"ビームジャベリン" レディ』

 

 暗闇の中を、尾を引く様にして投擲された光の矢が、渦巻く煙を引き裂き目標に突き立てられる。降り注ぐ雨に照り返し、水蒸気を噴出し妖しく光るメガ粒子の刃が装甲を焼き切り、運動エネルギーに任せ無理やり貫入する。めちゃくちゃに掻き回された機体が揺らぎ、機体を支える事が出来なくなり、堪らずに膝をついた。

 動きを止め、スパークを散らすA5は、トドメとばかりに頭部機関砲を乱射し、スラスターを噴かながら接近した"ジーク"の"ビームサーベル"の一閃に幹竹割に引き裂かれる。金属が蒸発する激しい蒸気を無視し、中尉は貫通していた"ビームジャベリン"を蹴りと共に力任せに引き抜いた。それを皮切りに、最早A5だった物は火花を散らす事無く物言わぬ残骸と化し、原型を留めず崩れ落ちた。

 

「待ち伏せしてて、それでも攻撃に気づかないのかよ。連携もクソも無し。問題があるとすれば残弾だけか……」

 

 中尉は目の前で潰れた残骸を見下ろしながら、冷静な口調で独りごちる。烈火の如く畳み掛けた、目まぐるしい連撃は、ほとんど無意識の物だった。

 しかし、それは中尉の理念にかなったものであった。先制攻撃により敵に反撃の隙を与えず、迅速に回避不可能な最大限の一撃を畳み掛ける。如何に相手に先じて自分の持つ必殺の一撃を加えるか。その1つの答えと言えた。徹底的に破壊されたそれは最早"ザクII"と呼べる部分は無く、オーバーキルではあったが。

 周りに動く物はない。緊張から解かれた中尉はコクピットシートに寄りかかり、上を向いて深呼吸した。

 

「っふー。ブレイヴ01、A5を撃破」

 

 残骸を踏み躙り、両手に"ビームサーベル"、"ビームジャベリン"を持つ"ジーク"。滴る雨を照らす光は、揺らめき、"シェルキャック"に身を包んだ"ジーク"を暗闇から切り取る様だ。

 中尉はうなづいて得物をしまう。軽く手を握り直し、ゆっくりと動き出すと。そんな中尉の上空を、またも飛行機雲が通り過ぎていく。雨の中でも音を感じる。中尉は今、全身が感覚器官の様に鋭く研ぎ澄まされていた。機体と1つになる感覚。無意識の内だが、それは確実に訪れていた。

 

『こちらイーグルレイ201。爆撃完了。燃料補給と爆装のため一時撤退する。引き継ぎはイーグルレイ401が行う。到着は130秒後だ』

《お疲れ様でした!イーグルレイさん!聞こえます!?次はここにー!》

『イーグルレイ401了解。爆撃地点へ向かう』

 

 地面を伝わる振動に、その場所が手に取る様に判る位だ。初めて来た場所であるのに、そんな感じが全然しない。むしろ懐かしささえ感じる。見覚えがある様な気がしてならない。

 中尉はかぶりを振る。先程から何か自分じゃないみたいだ。その感覚に身体を任せていいのか。それは甘い誘惑の様で、中尉にそれだけの恐怖心を抱かせていた。死では無く、帰って来られなくなる恐怖。

 頰を張る。小気味好い音と共に、気持ちを切り替える。後で考えればいい。後で。時間はいくらでもあるだろう。

 

 

 

どうぞ

 

 

 

 アクティベートしたセンサーに、何かが引っかかる。鬱蒼と茂る森林の一部が削られている。まだこの地域で戦闘は起きてはいない。墜落した航空機か?しかし化学センサーは燃料や燃焼反応を拾っては来ない。なんだ?

 注意深く疑い、近づいていく中尉はその正体に気付き、感嘆の声を上げた。

 "ツインバレル"だ。恐らく伍長が撒き散らした物だろう。こんな所まで来ていたらしい。安易に持ち上げたりせず、念の為にブービートラップを確認する。確認出来ない。ただ種類の知らない鳥が止まり、その羽を休めているだけだ。南国に似つかわしくない地味な鳥は、巨人の接近に首をかしげ、一声鳴いて飛び立った。

 

《C2よりブレイヴ01へ。申し訳ありません。私が見逃していなければこんな事にはなりませんでした》

「ブレイヴ01からC2へ。雲が出て来ていますし、上空支援にも限界がありますから…気を落とさないで下さい。問題ありません。次のご指示を」

 

 上等兵の消え入りそうな声に、その弱気を吹き飛ばす語気で中尉は返答する。上等兵が如何に優れた人間であろうと、間違いを犯さない訳ではない。当たり前だ。彼女は神ではない。その神様だってうっかりぐらいするだろう。上等兵だって訓練こそやって来ていたらしいが、実戦での上空支援はぶっつけ本番だ。それだけでも良くやってくれている。

 中尉は空を仰ぎ見るが、C2の姿は捉えられない。しかし、確実にこちらを見守り、導いてくれている感覚がある。別行動をしていても、我々はチームだ。その事が中尉の胸を暖かく満たしていく。地図上に表示された、"ハンプ"、"ダンプ"、そしてC2の光点(ブリップ)を愛おしげに撫でた中尉の目に、青い文字が飛び込んでくる。

 

『データ解析 "ツインバレル"と識別 リンク成功 FCS同調開始 レディ』

 

 乾き始めていた唇を舐め、中尉はコンソールを叩く。"ツインバレル"を掴み、慣れた動作でチャージングハンドルを引き、構える"ジーク"。損傷は無さそうだ。バレルの歪みや給弾不良も問題なさそうだ。リンクと同時に自己診断プログラムが走査済で、そちらもオールグリーン。コイツはまだ戦える。

 

《こちらC2、了解です。周囲に敵影無し。出方を窺っているようです。ブレイヴ02も粗方掃討を完了させ、敵は南東方面に撤退しています。上陸部隊を呼ぶには今しかないかと思われます。一気に"キシラ・ベース"まで進軍し、南東勢力を排除、退路を確保し、撤退しましょう》

「よぉし!ブレイヴ03!信号弾を!C2、打電をお願いします!」

《あいよ!任されましたり!》

 

 向こうの島の影がから、"ダンプ"が顔を覗かせ"ツインバレル"を振る。その肩口から花火の様に閃光が飛び、炸裂する。反対側の山の上が微かに光り、流星が尾を引く。2機とも健在。データ上でなく、それを実際に目で見るのとはまるで別だ。歪みかける口元に気付かないまま、中尉は正面スクリーンに映し出された、かつての楽園を見下ろした。

 雨のカーテンの向こう、そこには、既に燃える物が少なくなったのか、火の手が収まりつつあり、煙がもうもうと立ち込める目的地が広がっていた。"カプレカ"島、"キシラ・ベース"。今回の騒動の発端だ。基地と呼ぶには余りにも粗末であったが、放つ殺気は鋭く尖り、全身を突き刺す様だ。

 

《こちらC2了解、"アサカ"に打電します。また、局地的に雷雨が発生してしまいました。そのため一時上空に退避します。その間、申し訳有りませんが情報支援が著しく限定されてしまいます。幸運を》

『こちらホエール01。丁度空中給油のお時間だ。お嬢さん』

『あー、こちらイーグルレイ101。イーグルレイ各機は一時後退する。爆撃は出来ないが、CAPは継続する。その間に補給を行う。イーグルレイ以上』

「了解。よし、ブレイヴ02、03へ。ポイントエコー64に集結せよ。集結後は円周防御を築く!急げ!」

 

 稲光が照らし出す戦闘の爪痕に眉を顰め、中尉はシールドを振り上げながら叫ぶ。ちっぽけな自分の声が、雨音と雷鳴にかき消されない様に。

 

《ブレイヴ02、了解。集結まで、90秒》

《こっちも降って来……ん?あ!ブレイヴ03りょっかい!取り敢えずデコイまいときますね?》

《こちら、ブレイヴ02。ブービートラップを設置しつつ、向かう》

 

 嵐なのに、引き絞られた様な月が見える。死人の様に青ざめた月が。何か嫌な予感がする。その考えを振り払うかの様に、中尉は声を届けんと張り上げる。

 

「"キシラ・ベース"!聞こえるか!!聞こえていたら応答しろ!!」

『──n……ザ…y、友軍か!?…ザザ…おい!!友軍g来たぞ!!』

『──ザ…─友軍!?uソだろ!?』

『ザ…いやった!!…ったz…!』

『──っtい…ザザザ……』

『……っsゅうの……ザザザ──びだ!!──』

 

 ノイズ混じりの荒い通信。混乱し、入り乱れており、正確な情報など得られ無い。しかし、返答はあった。彼らもまた、まだ生き長らえている。それだけでこの作戦の意味はあった。

 余計な事を考える必要は無い。今は、彼等を救い出す事が最優先事項だ。

 

「今から向かいます!!それまで持ちこたえて下さい!!」

 

 それだけ言い切り、両脇を確認すると、軍曹と伍長は既に到着し、次の指示を待っていた。"シェルキャック"の下から、傷1つない装甲を覗かせる"ハンプ"。"ツインバレル"をリロードし、こちらに顔を向ける"ダンプ"。準備は完了な様だ。頼もしい。

 

《防衛線が、崩されつつ、ある、な》

《急ぎましょう!!わっ!スベる!》

 

 冷静な声と共に軍曹は素早く膝をつき、身を隠しつつも"180mmキャノン"を構える。データリンクが開始され、機体が活性化して行くをその隣で足元を滑らせた伍長に中尉は出鼻を挫かれそうになるが、なんとか踏みとどまる。

 いや、これがそうだ。俺達はいつもこうだろう?いけるさ。俺達に敵はいない。

 

「了解!ブレイヴ02はこの場に留まり、可能な限り援護を頼む!!ブレイヴ03!カエル跳びだ!突っ込むぞ!!援護しろ!」

 

 フットペダルを踏み込み、機体が振動し始めるのを身体で感じながら、中尉は叫ぶ。返事は聞かない。判っている。今は、それよりこれから来る衝撃に耐えるだけだ。

 

『コンバットマニューバ オン メインアームレディ』

 

 今夜何度目かの大ジャンプ。それも息をつかせぬ連続ジャンプだ。いい加減Gにも慣れ始めて来た。始めて"ザクII"に乗った時が遥か昔の様だ。今は手足の様にコイツを使っている。

 中尉は空中で手足を巧みに捌き、姿勢を安定させる。宙を舞う機体がゆっくりと後退する"マゼラ・アタック"を捉える。標準はピタリと合いズレる事もない。セレクターを"3"、交互射撃モードに。マガジンは1つだけ。大切に使わなければ。

 

「撃て撃て!!援護しろ!!」

 

 引き金を引きながら自由落下。地面を抉る着地の隙もシールドを向け、"ツインバレル"の3点射を続ける。降って湧いた突然の乱入に反応する事も出来ず、瞬く間に3輌が蜂の巣になり、煙を噴き出し始めた。その奥では"180mmキャノン"の火柱が上がり、爆炎を撒き散らしている。それだけを確認し、中尉は"ジーク"を疾走らせる。砂浜なら十分な機動性が確保出来る。後は時間を稼ぐだけだ。

 

《むっ、後であそこに爆撃頼みます!!ココでーす!!》

『ブレイヴ02へ。予備隊を回す。爆撃地点にはイーグルレイ701が向かう。到着は150秒後だ』

『イーグルレイ701了解!やっと出番だ!張り切って行くから嬢ちゃんは下がってな!!』

《ブレイヴ02よりブレイヴ01へ。上陸隊を視認。直掩に、入る》

 

 遂に動き出した状況に、中尉は心の中で喝采を送る。セレクターを"タ"に。頭部機関砲を織り交ぜ、敵を驚かす事に集中する。ロックオン警報は無し。初撃が効いたのか、敵は組織立った反撃をして来ない。銃口を向ける前に逃げ惑うだけだ。

 

「了解だブレイヴ02!ブレイヴ03!」

《……え?何?あそこにも?…よぉし!怪しいとこにはぶっつけましょう!!》

「聞いちゃいねぇな。こちとら弾切れ寸前だってのになぁ」

 

 しかし、希望は見えている。後はやるだけだ。

 ただ疾走り、翔び、引き金を引く。その中で、中尉は沖を盗み見る。深い暗闇が混じり合う先に、希望の光が瞬くのを、"ジーク"の輝く双眸は捉えていた。

 

 

 

『人は誰しも刻の旅人だ。過去へは記憶が、未来へは希望が連れてってくれる』

 

 

 

静かに囁く啓示に、世界は調べを誘い、祈る………。




ガガーリンが「地球は青かった」と言ったのって、海を見たわけで無く、森林が発生させるなんか青く見えるガスを見て言ったとかなんとからしいです。じゃあ空はなんで青いねん。光の散乱とか?知らんわ。と思ったらアレだ。宇宙だからそら青いわNTにとっては。
宇宙から国境線は見え無いけど、万里の長城とかジャングルを走る道路とか長い物は見えるらしいですね。軽く行って見たいわ。


次回 第六十九章 海と爆薬

「よぉし。どんどん落とせ。デッケェ駐車場にしちまえ」

ブレイヴ01、エンゲージ!!


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第六十九章 海と爆薬

佐藤大輔氏の御冥福をお祈り申し上げます。


かつては全てが闇に包まれていた。

 

生と死の境さえもなかった。

 

海と風があった。

 

大地の持つ熱が思念を芽生えさせた。

 

それは全ての始まり。

 

それが全ての終わり。

 

そして新しい世界は。

 

古い世界が焼き尽くされた、灰の中に芽生える。

 

 

 

──U.C. 0079 9.18──

 

 

 

『こちらピークォード。目標、接岸』

 

 打ち付ける壁の様な波を越え、遂に上陸部隊がその身を大地に乗り上げさせた。砂浜を洗う白く泡立つ波を打ち砕く、鯨の様な巨体がその動きを止め、しばし休息するかの様に横たえた。

 遥か沖合を泳ぐ鯨から遥々と、海のタクシーのお出ましだ。大型の強襲揚陸艦にすら2隻程度しか運用出来ない水陸両用貨物輸送艇(LARC)が、実に6隻。予備を1隻残しての大盤振る舞いだ。これも"アサカ"にしか出来ない芸当だろう。その後ろにやや小型の揚陸艦(LS)が展開し、更に曳航された複数の"ヴィークル"が続く。木の葉の様に並みに揺さぶられる彼らの肚には大量の陸戦隊がひしめき合っている。世界を開き、光を溢れさせる扉の開くその瞬間を、今か今かと待つ、勇敢な猛者達が。

 それはまるで旧世紀の映像にあった、"デタッチメント作戦"の様だ。地上からの大歓迎こそないが、波を被り、ずぶ濡れになりながらその時を待つ兵士達は、今も昔も変わらない。彼らの軛が解かれる時、それは敵に打撃を与える時だ。しかし、それまでは、彼らは仕事が出来ない。波飛沫を蹴散らし、直走る"ジーク"からそれを見下ろす中尉は、彼らの無事を祈りながらフットペダルを踏み込んだ。

 

 飛び上がる"ジーク"の先で、上陸部隊は続々と続き、遂にそのハッチを解放、大量の人員と物資が目を覚まし、弾かれた様に動き出し、疾走り出して行く。その動きに無駄は無く、直ぐ様防御陣を築き上げていく。その隣には軍曹の"ハンプ"が、闇を引き裂き、付き添う様に援護射撃を行なっている。中尉は軍曹と上陸隊を挟み込む様に着地し、同じく持てるだけの射撃を開始する。

 画面を睨み、引き金を引きながら独り呟く。ここからが正念場だ。このデカイお荷物を守りきらなければ、この作戦は成り立たなくなる。その為に、ある程度の援護の後、遊撃を開始し敵から眼を逸らす事になっている。しかし、今は無防備な本隊を守らなければ。

 ここで叩ける分だけでも叩き切らなければ。そして、流れをこちらに持って来なければ。相手を戦闘の筋立てとはとても気まぐれだ。今こそ圧倒しているが、敵の総戦力が我が方を上回っている可能性は捨て切れない。この火力も長くは持たない。だからこそ、相手を先制し思い切りぶん殴り、向こうがやり方を忘れているうちに、続けて殴り続けこっちに優位な流れにしなければ。殲滅しなければ追撃される心配もある。それは大変気分が良く無い事だった。

 

『は、はは……本当に来やがった……来やがったぞ!!』

『お、お前たちは……』

『モビル、スーツ……だと……?1つ目じゃない!!我が軍のか!?』

『こっちで音がしたものですから!!』

『天使の、師団か……?』

『撃ち方ぁ!!始めぇ!!』

『撃ちぃー方ぁー!始めぇー!!』

 

 通信量がまるで決壊したかの様に増え、怒涛の如く流れ込んでくる。‪それに応えるのは、迅速に周辺へと歩兵を展開させた全方位無差別射撃による飽和攻撃だ。号令と共に爆発音と閃光が辺り一面を塗り替え、光の中、その一部と化した"ジーク"はグレイズシールドを煌めかせる。‬

‪ 各員が持てるだけの火力を正面にぶつける、凄まじい爆音のシンフォニーは、衝撃波を伴い環礁全体に響き渡り、戦場音楽とも呼べるあらゆる音が、ちっぽけな砕け散った亀の甲羅を揺さぶる。砲が火を噴く音、弾が空を切り裂く音、弾頭が炸裂する音、対象が砕け散る音、音、音、音……島全体が鳴動しているのは、火山活動とサンゴ礁から出来ているこの島には空洞が多数あるからだろう。吹き荒れる鋼鉄の嵐の如きそのホットアプローチは、彼等にどう届いているのだろうか。‬

 

「──いや、俺たちは、ただの……」

《勇気の鉄槌をくだす、名も無きヒーロー!です!!》

 

 本当の事を言ってもいいものか、言葉を濁す中尉を、伍長が勇み、継いで喋る。いや、叫ぶ。興奮気味のその声に苦笑しつつ、中尉も負けじと声を張り上げた。

 

「そう、だな……よし!勢いに乗って敵を叩き潰す!!敵に立ち直る隙を与えるな!!」

 

 周りがほぼ全て敵という手前、激しい攻撃を叩きつけ、その銃声は途切れる事を知らない。大小様々な轟音が混じり合う爆音は、暗闇を暴き出すマズルフラッシュを伴い辺り一面に新しい世界を生み出していく。巻き上がる砂、千切れ舞う木の葉が視界を塞ぐ事すら無い。それさえ食い破られ、無残に自然へと再び還って逝く。

 とっくにセンサーは飽和状態で、セーフティシャッターが掛かりっぱなしだ。それはまるで合戦で、鬨の声を上げ、ドラと共に足音をふみ鳴らし法螺貝を吹くかの様なお祭り状態だ。これではまるで、これから押し入る家の、玄関の扉を大声を出しながら叩く様なものだ。しかし、既に奇襲をかけ、遊撃を行なっている以上、大規模な本隊の行動と攻撃は隠し切れない。そのため隠密性を活かすコールドアプローチは不可能であった為、この様な展開となったのである。

 

 突然スピーカーが大音量で鳴り響いた。断続的な射撃音をBGMに、カンに触る不快な音と共にマイクを取ったのは艦長だった。何故と言う言葉を噛み砕き、その言葉を引き金を引く事で頭から締め出す。関係は無い。状況は進んで行く。ならば、その波に乗り遅れない様にする努力が必要だ。スペースノイドは波乗りをしないだろうから。

 それにしてもなんなのだろうか。まぁおそらく中継したバースト通信だろう。わざわざ繋いだものだと思われる。停戦や降伏でも呼びかける気か?ムダだと思うが…。

 

 しかし、その内容は、そんな生易しい物では無かった。武者震いを続けていた自軍の兵を鼓舞し、士気を上げるにはピッタリだった。

 

──導く準備は出来ている。

──従う準備も出来ている。

──弾丸は常に薬室に。

──誉大きは少数精鋭。

──諦める事は決して無い。

──力は全て勝利の為に。

──素早く静かに徹底的に。

──平和の為に力を振るう。

地球連邦海軍。此処に集う。

 

 ややひび割れた音が空気を震わせ、戦う男達を奮い立たせる。途中からは天地を裂かんばかりの大合唱だ。結成されて半世紀以上、かつての母胎を含めればそれ以上、伝統の海軍が名乗りをあげる。相手を決して生かして返さない。逃さない。そんな決意と殺意の塊をぶつけていく。凄まじい覇気だ。

 銃声を上回らんと鬨の声があがる。しかし、それを遮るかの様に、更に口上は続いて行く。

 

──海から生まれ、狗には非ず。

──誇り高き少数精鋭。

──殴り込みにて死地へと駆ける。

──先駆者たるは地獄の魔犬。

──備えは常に此処に在り。

──彼岸の淵こそ我等が舞台。

地球連邦海兵隊。此処に推参。

 

 朗々と響く声、続く爆発と上陸部隊の射撃、展開は続いて行く。バタバタと言う羽音に、"ジーク"のセンサーが"アサシン"の姿を捉える。空海陸の入り乱れた大盤振る舞いだ。その最中、その真ん中へ飛び込む機影があった。伍長の"ダンプ"だ。敵弾を恐れず、被弾を省みず、伍長は矢面に立つ。

 傍を飛び過ぎる弾幕の前に微動だにせず、伍長も声を張り上げ名乗りを上げた。砂浜や波を蹴立て、軽やかに立つその姿は、さながら戦乙女の如く。時折装甲を叩く弾丸と、当たる度に舞い散る火花は、その戦衣装を華やかに彩る化粧でしか無く、その声は、遠く、響いて行く。

 中尉には容易く思い浮かべる事が出来た。伍長の姿を。その表情を。

 

──挑む者に勝利在り。

──不可能は無く、右に出る者も無し。

──最高を超え、最強の者が勝つ。

──自らの意思で、どこまでも。

──先駆者達が道を拓く。

──我らの行く先は知っている。

──勝利の待つ所、其処に在り。

──運命との邂逅を果たし、我ら常に此れを守る。

地球連邦地上軍。此処に見参。

 

 何時もとは全く違う、その堂々たる姿に見惚れていた中尉も、思わずペダルを踏み込んだ。唸るスラスターが吼え、中尉を空の人にする。闇を彩り、風を切るかの様に投射された機体の上で、中尉はただ叫ぶ。

 自らの出自と、翼に、誇りをかけて。己が背中を守るイーグルレイ達と共に。

 

──勇猛果敢、支離滅裂。

──攻防一体、疾風怒濤。

──空を制して戦を制す。

──我ら常に嚮導す。

──航空火力による勝利。

──高い質こそ我が強み。

──如何なる時と、如何なる場所で。

──我らが飛べば、方舟の如く。

──平和を守りて空を駆ける。

地球連邦空軍。此処に在り。

 

 星となって、瞬きで唄う。ささやかでいて、偉大な言葉の様に。俺達が主役だ。それを叫び、世界に示す為に。世界を回すのは俺達だと。覇を持って、この場を制するのは我々だと、敵に教育してやる為に。

 再び動き出す状況に、回る世界に、疾走る風に、騒ぐ海に、受け止める大地に、刻み込んで行く様に。

 

「我等は新天地への先駆け!!我等に拓けぬ道は無し!!」

 

 スピーカーとオープン回線をそのままに、叫び声を引きずる様にして敵陣に飛び込み、後退の遅れた"マゼラ・アタック"を踏みつける。踏み躙り、ひん曲がった砲身を、左手で抜刀した"ビームサーベル"で切り飛ばした。撒き散らされる金属片には目もくれず、右手の"ツインバレル"を振り上げ、真っ正面に向け威嚇する。敵の真っ正面、弾丸は残り数発。普段なら絶対にしない自殺行為だ。だが、この前を睨みつける砲口こそが、最大の抑止力となる。中尉に迷いはなかった。

 モニターを通し、敵部隊の動揺が手に取る様に感じ取れる。一切の反撃が無いのだ。そして、慌てふためく様な動きにも統率は見られない。

──恐怖と、畏怖。遅れて続く動揺が走り、漣立つ様にして伝播して行く。援護射撃すら止み、静寂が戦場に舞い降りる。その中心に、確かに"ジーク"は居た。

 

 黒煙を掻き分け、黒衣を纏った白亜の巨人。怒れる鬼神は、雨に霞むその双眸を光らせ、燻る焔の中立って居た。

 小さな巨人が、煌めく刃と黒光りする大砲を携え、この場を支配して居た。ゆっくりとした、だが隙の無い、確実な動作。まるで、大気を震わす波が渡って行くかの様だった。

 

「各員!我は常に諸氏の先頭に在り!全軍抜刀!このブレイヴ・ストライクスに続け!!」

 

 振り切った腕をそのままに、返した左手で"ビームジャベリン"を振り上げ、喉が潰れんばかりに中尉は叫ぶ。シールド裏の閃光弾を撃ち上げ、そのまま機体を疾走らせ、突撃して行く。眩ゆい光を背に、"シェルキャック"が旗の様に翻り、風を受け靡き、揺れる。視線と切っ先は、ただ前へ、前へ!前へ!!

 敵を追い散らすその背後には数百の銃口が銃列を敷き、その口を開けている。その後押しを受けて。鋼鉄の巨人が前へと進む。

 

『当たって砕けろ!!』

『ナイトストーカーズは諦めない!!』

『SARヘリ出動!SARCAP開始!』

『部下たちを乗せろここから帰るぞ!!』

負傷者(WIA )からだ!安心しろ!全員乗れる!ゆっくり落ち着いて慌てず急げ!』

『帰りの足を待っているそうだな!!来たぞ!!』

『──はい!!』

『イーグルレイ301了解!上空援護に移る!』

『"ワッパ"も出せ!全部だ!!収容を急がせろ!IFFを忘れるな!』

『パワードスーツ隊は"リジーナ"展開を補助しろ!円周防御だ!迅速にやれ!』

『弾倉をくれ!!弾切れだ!!』

『着剣せよ!!』

『こっちだ!SARヘリが必要だ!!』

『いいか、誰1人残すな!!必ず、全員、連れ帰るんだ!!』

『赤外線ストロボには近寄るな、巻き添えを喰らうぞ』

『何処もかしこも歩兵だらけだ!!まるでアリじゃねぇか!!』

『衛生兵!!衛生兵!こっちだ!!早く!!』

『14番掩蔽壕応答せよ』

『この雨の中、9マイルは遠過ぎる!』

『関係無い!誰1人置き去りにしない!』

 

 全軍が一団となって駆ける。その中心で、中尉はいつまでも前を睨みつけ、その威容を示し続けていた。

 

 偉大なる地球連邦軍の、反撃の象徴となる様に。

 

 

 

『手を貸そう。捕まれ』

『大丈夫です!歩きたいんです!』

『あぁ、俺もそうだよ。行くぞ』

 

 本隊が戦闘を開始し25分。敵を蹴散らし、追い討ちをかけたが、深追いはしなかった。崩壊した敵戦線を食い破り、蹂躙に蹂躙を重ねたが、流石に敵の動揺は治まりつつあった。

 前線を押し上げると同時に撤退し、更に補給を終えた"ブレイヴ・ストライクス"は、再びその矢面に立ち、陽動を行う為動き出していた。補給と言っても、武器弾薬だけだ。MSの装甲はモジュラー方式を取っており、機体各部もブロック化している為比較的容易な全交換が可能な様に設計してあったが、前線での交換はやはり難しいのであった。

 

 問題としては、設備側とマシン側両方に存在していた。MSは地上においては全高18mに達する巨大建造物であり、横たえても高さ3m前後かそれ以上になる。メンテナンスベッドが無い場合は横たえると整備を行うメンテナンスハッチの多くが隠れてしまう為基本直立させたまま行う必要があり、無重力下ならともかく重力下では整備を行う際はMS用の塹壕に入れたり足場を組む必要があった。つまり、前線に大型重機の動員が必要な事があるのだ。もちろん大型重機にも限界があり、MSの野戦整備や野戦修理には本格的な整備施設より遥かに手間がかかることが一つ。

 もう1つは、MSという工業製品としての側面からだ。生まれたてではあるが、MSは高度な兵器としての規格の統一、平均化を図ってはいる。しかし、それにも限界があったのだ。パーツ1つ取っても単純に交換した所、パイロットから違和感やマシンからはエラーが報告されたケースが散見され、結果MSの装甲やフィールドモーターには蓄積したあらゆる状況がそのコンディションを左右する事が発見され、機体それぞれ、各部それぞれが持つそのクセ(・・)の平均化を効率良く行うためのセンサーがパッケージングされ、そのデータを汲み取る事で高い適合率を保つシステムが導入されたのだ。フィールドモーターであれば稼働時の出力、速度、角度、負担等であり、装甲であれば被弾時のあらゆるダメージや稼働時の歪み等である。フィールドモーター1つ取ってもただ回るだけの物では無く、それは装甲も同じで、表面にセンサーやカメラが装備されあらゆる材質で層を成しているMSの装甲は単純なパーツでは無くそれ自体が1つの複雑な工業製品であるのだ。これらのセンサリング機能は本来テスト機だけの物でありいずれ簡略化最適化が図られもっと単純な物になりテストも設計開発段階で終了する予定である。しかし、連邦軍のMSは先行量産とは言え試作機でありあらゆるデータが不足している昨今『生のデータ』を手に入れる最大のチャンスであるとこれらの機能が持たされており、特に多くの稼動部を抱えるMSにとっては死活問題である、各部の擦り合わせ作業に煩雑な作業が余計に追加され、どうしても時間がかかるのである。

 例えば、腕1つを丸ごと交換する場合、全く同じ物をもう1つ用意し交換しても、その腕が持つクセまでは再現しきれず、結果パイロットがいつもの感覚で操縦すると反応速度や駆動角度に差が出てしまいその機能を最大限に発揮出来ない所か、腕側と機体側でコントロールの差がエラーを出す可能性が高いのである。そこで、前者の腕のデータを後者に移す必要があるのであるが、テスト機でもある本機はそれに莫大な時間がかかってしまうのだ。

 おやっさんはその問題に対し、稼働している機体のコンディションをリアルタイムでモニタリングし、予備パーツの設定を常に状況に合わせ流動的に変更させる事で対応しているが、それでも本来戦闘やクセの把握においては必要無い膨大なデータを抱えている分、少なくとも数十分はかかってしまう。全体の作業量や手順を考えれば破格どころか神業的早さなのだが、最前線においてそれは死を意味するのだった。

 

 結局、前線における補給は、パイロットへの差し入れから、武器弾薬、推進剤の補給のみが現実的であるのが現状である。MSのパーツの交換においては、センサーやカメラを搭載していない単純な装甲や比較的簡単なセンサースイートの極一部、つまりはセンサー保護のシールド程度やダクトのフィルター等細やかな磨耗しやすい消耗品を交換するにとどまっている。これらも継戦能力向上のため、前線における大きくパッケージングされたパーツの交換を検討していた"オリジナル"の遺した遺産あっての事だ。"オリジナル"は超高品質なパーツ選定を行う事でその誤差を限りなく少なくする事でその手順を大きく省略しているが、本機はその検品で弾かれたパーツで構成されているのである。これらの機能は今後改良が重ねられていくだろうが、現状の限界がここまでであった。

 

「ブレイヴ01よりブレイヴ02へ。評価を頼む」

《こちらブレイヴ02。ブービーにも、全部、掛かった様だ。ワザと、見える様にした物にも、だ》

 

 敵の練度を推測していた軍曹の最終判断に、中尉は独りでにうなづく。概ね自分の感覚は正しかったらしい。今後の方針は決まった。後はやるだけだ。ここを支える為の、最も確実な行動を取る。それが大見得を切った俺達の義務だ。

 

「クロか。ありがとう……よし、上等だ。ブレイヴ03は"ガンズ・ア・ゴー・ゴー"隊とともに北西の角で歩兵と軽車両を相手にしろ!友軍を巻き込むなよ!ブレイヴ02はポイントシエラ64とポイントブラボー52の陣地転換中の"物干し竿"を!俺は基地の直掩に当たる!」

《ブレイヴ02。了解》

《03りょーかい!》

 

 少なくとも、敵の抵抗は弱まりつつあった。敵MSは確認されず、組織立った攻勢も無い。統制の無い散発的な発砲に、破れかぶれな自殺に近い突撃が増えて来ている。

 恐らく、こちらもコレが最後の遊撃となるだろう。今回は敵の戦力を削ぎ、時間を稼ぐ事だけを考えればいいのであるからだ。ここは絶海の孤島。逃げ場はどこにも無いのだ。後片付けをするのは俺達では無いのだから。

 

《ここです!!爆撃お願いしまぁーす!!》

了解(ウィルコ)。きっちり吹き飛ばしてやるぜ』

『こちらイーグルレイ201。グリーンライト。ストライク/CAP部隊は充分余力があります!どんどん指示して下さい!』

『衛生兵!!』

『こちらイーグルレイ401。雷雨は避けろよ?無茶すんなよな。あー、FORCAPも余力がある!既に航空優勢は我々のものだ。合流は2分後』

 

 しかし、それは生命の保障をする物では無い。狙いこそ甘いが、今も中尉の脇を音を立て死が飛び過ぎた。"ジーク"の後方で、まるでフィクションのアリジゴク型のエイリアンの様に、砂浜に大きなクレーターを作ったのは、恐らく山の上に陣取り始めた"物干し竿"の主砲だ。再装填こそ遅く連射速度に難を抱える主砲であるが、高初速、高火力で打撃力のある"マゼラ・アタック"と同じかそれ以上の主砲を持つだろう"物干し竿"は、MSにとって十分過ぎる程の脅威だ。少なくとも175mmと言う大口径の弾頭を喰らえば、MSと雖もタダでは済まされない。当たりどころによっては一撃で撃破ないしは擱座する可能性は十分にあった。

 中尉は動きを止めず、肉薄しようとする歩兵を蹴散らしていた。"マゼラ・アタック"はこちらの射程外からアウトレンジと言う名の阻止砲撃、いやめくら撃ちを仕掛けている。擾乱を狙った撹乱砲撃、嫌がらせに近い。しかし、その効果は薄いが、当たれば絶大だ。狙ってやっているのだとしたら、向こうには余程性格の()()ヤツがいるに違いない。

 行って脅威を排除したいが、本隊を開ける訳にはいかない。そこで中尉は囮役に徹し、軍曹が既に展開、側面から強襲をかけている。戦術データリンクで判明している砲兵陣地は残り2つ。破壊も時間の問題だろう。

 

『重傷者は動かしても死ぬだけだ。"ワッパ"を待つ。安定させるぞ!手伝え!!』

『こちらアーリバード4。高価値資産戦闘空中哨戒(HAVCAP)はもう必要無い。爆撃に回れ』

『こちらイーグルレイ601。同じくTARCAPも余力あり。雲の切れ間から爆撃します?』

『こちらアーリバード4。敵航空戦力の全滅を確認。イーグルレイ全機、CAP体制を解除し、C2及びプレッツ・エル2の指示に従い機銃掃射と爆撃を開始せよ』

『『了解!!』』

 

 中尉の搭乗している"ジーク"は隊長機であるため、全ての無線が流れ込んでいる。その情報の大河の真ん中に中尉は居た。あらゆる情報が逆巻き、うねり、弾け、そして怒濤の如く押し流されて行く。機械が処理出来ても、人間にはとても無理だ。しかし、最終的に判断を下さねばならないのは人間なのである。そしてそれは、下からの報告と上からの指示に板挟みにされた人間の仕事なのだ。

 そして、勿論中尉の仕事とは情報を管理する事では無い。

 

 人差し指を軽く動かすと、中尉の目の前で、メインスクリーンに小さな爆発の花が咲く。高速で射出された"100mmマシンガン"の榴弾(MP)が信管を作動させ、樹齢を重ねた大樹をも揺さぶる様な轟音と共に炸裂したのだ。弾頭は接近を試みていた敵歩兵の一個分隊に対し、己の持ち得るあらゆるエネルギーを解放した。目標を地形ごと丸々吹き飛ばしたのだ。暗闇の中、雨のカーテンの先、高性能なFCSの能力により正確に撃ち出された弾頭は、風に多少の影響も受けるも、ほぼ計算通りの弾道を描き飛翔し、設計通りの効果を発揮、瞬く間に複数人の人生に引導を渡した。血霧や肉片が撒き散らされ、舞い上がった砂が地に落ち、雨に流され、その残滓と呼べるものも、"ツインバレル"の銃口から立ち上る水蒸気だけで、それすらもすぐに見えなくなってしまった。

 

 雨を被る"ジーク"から、約450m先にいた彼等は、何が起きたかも分からぬまま宇宙まで吹き飛ばされたに違いない。魂は宇宙に、躰は大地に、それぞれ還って行ったのだろうか。深夜の、豪雨の中だ。遮蔽物の無い地形で、少しでも姿を隠そうと、血や肉片に塗れ、泥の中を懸命に這いずり回る姿は、"ジーク"のセンサーの前に丸裸にされていた。闇夜を見通す高性能赤外線センサーは、1km先、まだ熱帯雨林の名残に紛れていた時点で既に彼等を捉えていたのだ。ただ、攻撃における脅威度と優先順位が低かった事だけが、彼等の寿命を少しばかり伸ばしたに過ぎなかった。

 掩蔽壕などに隠れ、伏せて居ない限り、"100mmマシンガン"から撃ち出される榴弾は、半径15m内のソフトターゲットを確殺し、半径40m内においても戦闘続行を不可能にする致命傷を与える威力がある。徹甲弾(AP)であっても、MSの装甲を運動エネルギーで破砕する程の有り余るパワーは、直撃せずとも衝撃波と着弾の衝撃で人程度等簡単に捻り潰す。人の命が指先1つ、判断1つですり潰されて行くのを無感動に見下ろしながら、中尉はどこか頭の隅で、何故MSに搭載されている頭部機関砲弾が60mmなのかわかった気がしていた。

 

『だんだん載せる場所が無くなって来た』

『関係無い。可能な限り詰め込もう』

「ブレイヴ02。そちらはどうだ?」

《こちら、ブレイヴ02。問題無い》

「了解した。周辺を索敵後、独自の判断で撤退しろ」

《こちらブレイヴ02、了解》

 

 遂に最大の脅威であった砲撃が止んだ為、軍曹に確認の連絡を入れる。時折装甲を叩く小口径弾の高音が煩わしい。"シェルキャック"が損耗して来ている証拠だ。または、隠れていない、浮かび上がって見えるだろう装甲を狙っているか。どちらにしろ、もうあまり長くはここに居たくは無かった。

 雨はまだ降り続いている。戦闘も継続中だ。この終わりの無い2つを、中尉はただ忌々しげに睨みつけた。

 

《こちらC2。周辺戦力を傾けているそうです。間も無く航空隊による支援爆撃を開始します。なんとか持ち堪えて下さい》

「ブレイヴ01了解」

 

 魔女のバァさんの機嫌はかなり悪いらしい。畜生。かき混ぜる大鍋の具材がまだ足りないとでも抜かすつもりか。抗う事の出来ない、疾風の如き速さで、友人ハインが死者を追い立て、西へ西へと向かわせている。畜生、畜生。彼らは人として生まれ、景気良く撒き散らされ大地の一部となり、肥料として死んだのだ。調整された無機質な匂いが恐ろしい。人はどれだけ自らの手で直接人の命を奪っているという罪悪から逃避する為の技術をこれからも追求して行くつもりなんだろうか。

 やや間延びした金属音。まただ。"ジーク"の装甲を叩く小口径弾が弾かれた高音が響く。勿論、銃弾はコクピットに届くどころか、機械的故障(マシントラブル)を起こす事すら叶わない。しかし、それは敵の意思に他ならない。向けられた殺意に、中尉は鈍感になりきる事が出来なかった。

 

「……まるで弾丸を引き寄せる磁石だ…後どれくらいです!?」

『…ザっ──すtうい!』

 

 呼びかけに応じたのは、雑音混じりの騒音。作戦自体は計画通りに進んではいるが、その最前線にその余裕は無いという事だ。

 そう考えた中尉は、自分の考えに気づかされ、苦笑しながらフッと息を吐いた。どうやら俺は()()()()()()()()()らしい。なんとも能天気な事だ。

 

「なんだ?」

『──っ5分です…っ5…』

「5分もですか。よし急いでください!」

 

 そう言い切った中尉は、雨と闇夜を通してその様子を見下ろした。走り回る彼等は可能な限り、人命を救おうと奮闘していた。しかし、中尉に出来る事は、何も無かった。

 

 

 

撃ち方止め(シーズファイア)、撃ち方止め」

「周囲に敵影なし」

 

 あれから、敵の攻撃はパッタリと止んでいた。不気味な沈黙が、深夜の島嶼を包み込んでいた。今までのやかましさから一転、静止した様な時間の中で、雨が降る音だけが続き、時間が流れている事を中尉に伝えていた。

 操縦桿から手を離し、軽く伸びをする。素早くヘルメットを外して汗を拭う中尉は、それでも油断無く周囲を警戒し、最後に時を刻む時計を見ていた。作戦開始から既に1時間近く。状況は最終段階へと進みつつあった。

 

《…おわり?ですか、ね……?》

‪「戦闘に棄権も休憩もないぞ」‬

 

‪ 正確に言えばそれは間違いだが、中尉の経験上は正しくもあった。戦争中においても、兵士の仕事の殆どは待つ事にある。また、いざという時に全力を出す為には、休憩は欠かせない。人は高い持久力を持つ生物であるが、それとハイパフォーマンスはまた別だ。‬

‪ 中尉はあくまで釘を刺しただけだ。集中し続ける、緊張し続けられる人間は少なく、それは消耗を促す。休憩し、気を抜くタイミングを違えるなと言いたかったのだ。しかし、その事を細やかに説明する余裕は、今の中尉にはまた同様に無かったのである。‬

 

『部隊の集結を急がせろ。誰一人残すな』

『SARヘリも順次帰還中です。移送不可能な重傷者も幸い出ていないそうです。

──収容は8割がた終了しました。予定では3分後には』

「了解。円周防御を継続する。各員。警戒を怠るな……」

 

 通信を聞き、応答を返した中尉は、暗視装置起動時独特の、緑掛かったメインスクリーンで眼精疲労を起こした目を閉じ、鼻柱を手で揉み、そこで一度スイッチを切り替えた。つまり、言葉とは裏腹に、休憩に入る事にしたのだった。現在、戦闘は小康状態となり膠着している。"ブレイヴ・ストライクス"全隊は集結し、部隊の撤収を待つ状況になって居た。要するに、今やる事、出来る事が終わったのである。センサーもレーダーも敵影を捉える事は無く、C2、アーリーバード4からの情報も無かった。

 勿論作戦自体は続いているし、これからも仕事はある。だが、今はその順番待ちだ。あらゆる兵科が絡み合う大規模作戦に近づけば近づく程、全部隊の作戦の進行、部隊行動の擦り合わせと言う衝撃波が、渋滞を巻き起こすものなのだ。

 

 中尉は自分を「専門家」であると思っている。だからこそ他の「専門家」の仕事には余計な口を出さない。自分はその仕事に口を出せる程精通して居ないし、その余裕も無い。意味も無い。冷たい様にも思えるが、それが結局一番円滑に物事を進められるのだ。

 自らを「無能な怠け者」と考えている中尉は、チューブゼリーの開け口を捻りながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「それにしても、だ。本隊が上陸してから、敵の抵抗が薄いな…それになんだこの違和感は?」

《練度も、低い。捨て駒だらけ、だ》

《まぁ強いよりいいじゃ無いですかー》

『この処置が終わったら、お前たちにマルガリータを作ってやる。いつものヤツ、よくシェイクして塩無し』

《こちらC2。この任務、両軍共に裏がありそうです。投降する兵士も多く、どこかおかしいそうです。ご注意を》

「──上等兵、おやっさんに繋げますか?」

《整備班長は特別調査チームとして加わってこちらに派遣されています。直接通信を繋ぎます。どうぞ》

「ありがとうございます」

 

 誰にでも見られる事は無いのであるが、独りでにうなづいた中尉は、やや緊張した趣でマイクに息を吹き込んだ。幸い声は震えなかったが、久々の感触に舌が少しもつれた。しかし、通信には差し支えなかった。

 

「……おやっさんはどう思います?」

《いつも以上にキナ臭い、っつー印象だ。なんか嫌な予感がしてわざわざ出張って来たが、まさか、と言った所か》

「そうでしたか。判りました。お気をつけて」

《おぅ》

 

 雑音の無いクリアな無線であったが、ヘリのローター音が喧しかった。ふむ。中尉は腕を組んだ。脚を広げ、フットペダルから当たらない位置へと下ろし、爪先を動かす。

 判らん。全然判らん。結局なんとなく取ってみたポーズは何の効果も無く、頭の冴えは訪れなかった。やはり、どうやら自分に権謀術数渦巻く戦場は向かないらしい。やはり兵士と言うよりは戦士、軍人と言うよりは戦争屋なのかも知れない。それを悪いとは思わなかったが。

 

《敵、弱っちかったですねー》

「む……でも、確かに、今までが激戦過ぎた所為もあるかもな」

『──衛生兵は神に愛されてる』

《この様な僻地に大部隊を派遣する程、ジオン軍も暇では無いのでしょう。それに、その余力も無いのでは無いでしょうか》

《MSがあるだけマシ…なんですかねぇ?》

「軍曹は?」

《情報が、足りない。察しは、つくが》

「そうか」

 

 結局、今は自分で自分を納得させるしか無かった。それにどうやら、結局、俺達はどうあがいても蚊帳の外、()()()になる事は出来ないらしい。しかし、どんな事柄でもだいたいそうである事に気付いた。それは、少し寂しい現実だった。ラクであるとも言うが。関わる事柄が、単純で少なくあればある程人は幸福でいられるのかも知れない。巻き込まれるのは確かに御免だった。

 巻き込まれる、か。好き好んでこの世界に踏み入った自分のこの台詞は、なんと傲慢な事だろう。しかし、誰に赦しを請えばいいのか。

 

《アレ?わたしは!?ねぇ!!ちょっとしょういー!!》

《さぁて、撤収の準備か。仕方無ぇ。よっしゃ、いっちょ気合いいれていっか!!》

()()()()

 

 状況に関わらず、ゆっくりと時間が流れる中、ただぼんやりと忙しなく動くカウンターだけを見ていた中尉は、その表面を無意識の内に撫でていた。ほんの数十分前は高度計として機能していたそれは、めまぐるしく数字を入れ替え、その存在アピールしていた。

 雨脚が少し強まった。こんな悪天候の中皆良くやっている。ヘリの羽音が聞こえる。タンデムローターが空気を叩く音。頼もしい音だ。

 

『SARヘリ全機帰還しました。周囲にはもう敵しかいません』

『収容までは今しばらくかかります』

『航空機全機へ。全力で爆撃を続行せよ!制限解除!ここを氷河期に戻してやれ!』

「よぉし。どんどん落とせ。デッケェ駐車場にしちまえ」

 

 閃光が疾走り、轟音が響く。地響きがそれを伝え、少し遅れて島の向こう側でおおきな火の手が上がった。島嶼の陰を切り取り、山の稜線を照らし出すそれは連続して起こり、まるで夜空を染め上げるかの様だ。

 センサーが様々な音を拾い上げる。砂を巻き上げる音、岩を砕く音、木を引き裂く音、葉を焼く音、風を振り回す音、水が蒸発する音……自然が掻き混ぜられ、悲鳴を上げる音だった。そこに、微かな断末魔が混じる。世界が、血を流している様だった。

 

 中尉は自然が好きだ。小さな頃から野山を駆け巡り、自然の中で己を見つけ生きていた。コロニーの様な調整された不自然な自然で無く、太古から続く、弱肉強食の掟が支配する世界をだ。彼はその一部だった。自然は彼に十分過ぎる程のあらゆるものをもたらした。彼はそれを受け取り、別のものにしてまた自然に返していた。彼はそこで生まれ、そこで生き、そこで死ぬものだと思っていた。現実は違ったが。

 もしテレビの前に座り、この光景を見ていたら憤慨するであろう。大切な自然を、掛け替えのない環境に何て事を、と。しかし、今の中尉にその様な感情は無かった。

 ただ敵を制し、支配し、吹き飛ばす力の一部である事を誇り、感謝していた。そして、心の底から来る原始的な破壊衝動に身を任せていた。そして、その麻痺した残虐性を持って、恐ろしいまでに冷静に、次の指示を出した。

 

「……上手くやってくれてる様だ。このままここで待機して迎え撃つ。外縁の敵は爆撃機隊が排除してくれる」

《炙り出されたのを倒す、ですね》

「そうだ」

 

 "ジーク"がグレイズシールドを光らせる。新たな獲物を求め、全機能を最適化して行く。それは中尉も同じだった。無意識の内に動いた指先がコンソールを叩き、センサーの切り替え、射撃モードの切り替え、そしてマガジンを交換する。

 弾頭は焼夷榴弾、通常榴弾、サーモバリック弾、白燐弾、フレシェット弾等の対人弾をカクテルの様に混ぜ合わせてある。この小隊が設立と同時に使い続け、改良が重ねられて来た、歩兵を逃さず鏖殺する為の特別メニューだ。効果は十分過ぎる程にある。

 

七面鳥撃ち(ターキーショット)ですかね?》

《ブレイヴ02より、ブレイヴ03へ。油断は、禁物だ。手負いは、特に、だ》

「了解。そうだな」

 

 "ハンプ"、"ダンプ"も同様だ。"ツインバレル"、"180mmキャノン"、"ハイパーバズーカ"。武器こそ三者三様だが、全て榴弾や特殊弾頭を装填している。敵戦力における装甲目標が壊滅した為、おやっさんの指示で弾頭が急遽変更されたのだった。勿論通常の弾頭も予備弾として装備はされているが、何時もとその配布量が逆転していた。

 

《はい!了解です。()()()()()()って事ですね!幸い弾にも余裕はありますし、このまま守りましょう!》

《間違えてますよ?》

《あれ?》

「……コトダマが鉄の雨を散らす。ショッギョムッジョ」

《ポエット》

《?》

 

 赤外線センサーが熱帯雨林の中で蠢く熱源を捉える。目標の解析が行われ、それが野生動物で無く、武装した敵であると判断する。距離1500。凡そ2個分隊。大気状況、距離、風向等のあらゆるデータが出揃い、中尉は目標をメインスクリーンに表示されたレティクルのセンター入れ、トリガーを引いた。マズルフラッシュが視界を焼くが、焼き付きは起きない。センサーが受光量を調節し、自動でカットしたらからだ。数瞬した後、レティクルの中に火花が咲き、熱源が飛び散った。飛び散った熱源は方々に張り付いたが、急速に周囲と一体化して行った。

 作業(・・)を続ける"ジーク"のメインスクリーンに、IFFが青く表示されたヘリコプターが映った。横殴りの暴風雨の中、危なげなく着陸し、空気を切り裂き羽ばたく反駁音を少しずつ落として行く。それが、脱出の為の最後のピース、この地獄から抜け出す為の切符だった。

 

『エイハヴより全隊へ!!全部隊の収容が完了しました!!こちらピークォード全部隊、グリーンライト!!』

「よぉし、ブレイヴ03、信号弾!」

《あいさー!そーれっ!!》

 

 闇を切り裂き、2つの光が事態の進展をもたらす。赤と白。強い光は輝きを増しながら、風や雨に流され揺れ動く。きっと、ここにいる全ての将兵が見上げているだろう。この閃光を。

 

《こちらC2、信号確認。"アサカ"に打電します。全部隊へ、『フライハイト』、もう一度繰り返す、『フライハイト』》

《イェェェェェエエ!!ガァァァァァアア!!》

「伍長うるさいぞ。やはり頭を打ったか?」

 

 作戦はついに最終段階へと入る。それこそ、この作戦の真の目的だ。

 目に見えない電子の波が世界を駆け抜けて行く。多くの意思が繋がれ、1つになる。

 救援を求めていた友軍全てを収容し、被害を最小限に抑える。そして…

──脱出。離脱。移動。後退。脱走。帰投。帰還。逃避。撤退。転進。撤収。退却……。なんでもいい。ここでは無いどこかへ。それだけだ。

 最も危険な時間帯が遂に来た。中尉は唾を呑み下し、小さく深呼吸した。ここからが本当の正念場だ。

 

《やはりって何です!?》

 

 うるせえ。

 

『脱出だ!!行くぞ!!』

『アーリバード4より全航空機へ。爆撃中止。爆撃中止。周囲に敵航空戦力は確認出来ないが、油断するな。脱出部隊のFORCAPに専念せよ』

イーグルレイ101(イーグルレイリーダー)了解。これより、イーグルレイ全機はイーグルレイ101の隷下に移行せよ』

『『了解』』

 

 轟音が鳴り響く。白い波を掻き分けるがLARC先導し、その側面を"ヴィークル"が固めた。頭上では爆音と共に"フライ・マンタ"がフライパスし、大きく円を描く様に旋回した。まるで凱旋だ。歓迎する者が銃を持ち、こちらに銃口を向けなければ正にそれだっただろう。しかし、現実はそう甘くは無い。

 コンソールを叩き地図を呼び出した。同時にアップデートが行われる。さらに複雑になった地形に、中尉は眉を顰めた。

 

 これから迷路の様な廻廊を通り抜け、環礁を出なければならない。小耳に挟んだ報告によると、戦闘、主に爆撃で塞がってしまった水路もあるらしい。坐礁しやすい水深の浅い所も多々ある。そして、敵の水上戦力こそ確認されていないが、方向を限定された撤退程危険な物は無い。両岸から雨霰の様に砲火が飛んでくるだろう。

 

──くぐり抜けられるのか?

 

『最大戦速で作戦地域を抜け出す。ここが正念場となる。抜かるなよ』

『こちらアーリーバード4よりエイハヴへ。旗艦が先導せよ。上空から誘導する』

『背後を"アサカ"陸戦隊に守らせ、徒歩で交戦地域を抜けてもらいます。それから"アサカ"に』

 

 次々と流れて行く状況に、中尉は思わず口を出した。我慢ならなかったのだ。

 

「"アサカ"陸戦隊?いえ!御言葉ですが我々"ブレイヴ・ストライクス"が守ります!!交戦地帯(ホットゾーン)を抜けたら、最後のLCACに飛び乗ります!」

『了解だ。噂通りだな。任せたぞ!』

「ブレイヴ01了解。殿につく」

 

 それだけ言い切ると、頭を切り替え操縦に専念し始める。鋼鉄の脚が地面を揺らし、足跡をつける振動に揺さぶられながら、中尉は先ほどの発言を後悔し始めた。まるで子供だ。隊長として相応しくない言動だった。全く。気が抜けている。なんでこんなに感情的な態度を取ってしまったのだろうか。

 

《皆さんの後ろはわたしたちにまーかせて!!》

『出発!!』

 

 LARCが列を成し、白い航跡(ウェーキ)を青い海に混ぜて行く。押し退けられた波は砂浜を洗い、マングローブの根を撫でる。複雑な地形故速度は出せないが、これ以上は落とせない。全員が固唾を呑んで、周囲に目を光らせながらついて行く。

 膝まで水に浸かった"ジーク"が、音を立てながら黙々と歩く。後方を警戒し、後ろ歩きを続ける"ハンプ"も同じだ。"ダンプ"だけが忙しなく海岸を走り、敵を見つけようと奔走していた。

 

 艦列、右手前方で閃光が瞬く。小規模な発砲だ。恐らく小火器。装甲に当たり軽い音を立て火花と共に弾かれた。

 しかし、その瞬間に"ヴィークル"、LARC搭載火器が反撃とばかりに火を噴いた。モーターが吼え、砲口が火を噴く。毎秒100発近い機関砲弾が熱帯雨林をズタズタに引き裂き、榴弾が炸裂する。火が燃え広がり、黒い影が倒れるのが見えた。そこへ"フライ・マンタ"が間髪入れず機銃掃射を行なった。遅れる事数秒、複数箇所でも発砲が確認されたが、同じ運命を辿る事になった。

 

「抵抗が無いに等しいな…」

《散発的な、小銃弾、か。RPGすら、無いのか》

 

 中尉は思わず呻いた。圧倒的な戦力差の前に、ジオン兵は文字通り一瞬で血霧と化していた。LARCは小型のCIWSを搭載している。それ以外にも重機関銃砲座が多数備え付けられた、海を行くガンシップなのだ。今回の作戦において激しい抵抗が予想された為、装甲火力共に増強されていたが、それは杞憂だった。しかし、だからこそ、これ以上に頼もしい存在はいない。

 

「そういや、撃った"マゼラ"が炎上しなかったな。おやっさんが調べたんだが、ヤツら、燃料がライター分しか無いらしい」

《そいつはぐっどにゅーすです!……なんで?》

「銃剣と勇気だけじゃ戦えないって事だよ。特に最近はね」

 

 先頭がまたライトアップされたかの様に照らし出されている。威嚇射撃かも判らないがともかく敵がそこかしこに潜んでいる事は判った。それが脅威を与えるかどうかはまた別だが。

 警戒を続ける中尉は違和感に目を細めた。ウェーキが薄くなったのだ。速度を緩めたのか?確認しようとした中尉はその正体に顔をしかめた。()()()()()()()()()()。その所為で白が目立たなくなり始めていたのだ。いったいどれだけの血が流され、この海を染め上げているのか。中尉は身震いした。

 

《ん〜。折角のジャングルクルーズなのに》

「すまんな。ムリ言って」

《ううん。いいんです。密林航海にうってつけの日って感じですし、ね?それに、それなりにハイキングも『楽しめなきゃ』、損ってもんですよ!》

 

 ハイキング、か。気づいているのかいないのか、伍長の能天気な声に、中尉はなんとか震える声を抑え、いつも通りに返答する。伍長の"ダンプ"は今や熱帯雨林を掻き分けている。木が軋み、裂ける様にして倒れる悲鳴を聞きながら、木々を力に任せ押しのける伍長は、発砲も受けていない様だ。中尉も考えを変える事にした。ただここにいて、こちら側にいる幸運を受け止めようとした。それは少しだけ成功した。

 

《油断、するな。最も大きな危険は、勝利の瞬間にある》

「そうだな」

『アーリーバード4からエイハヴへ。左に曲がれ。左だ』

《まぁ、数だけはまだ居ますしねぇ……あー…逃げてく……追います?

──無双は好きですけど、これは弱いものいじめみたいでちょっとヤですねぇ……》

『ありえねぇな、逃げてくぞあいつら』

『走るのが好きなんだろ』

 

──逃げるって、何処にだよ?

 

『ジャングルに逃げ込んだ?』

「ゲリラ屋のやりそうな事だ。前線が明確でなかったり、交戦距離が近くなると大火力の優位が無くなる」

 

……だからこそ、こちらも正面からやり合わず、まとめて吹き飛ばすんだけどな。

 

「しかし、深追いはよせ。ここに長距離通信手段などが無い事は確認済みだ。撤退後、"アサカ"が気化弾頭を搭載した巡航ミサイルで、海中の生態系に異常が出ない程度に焼き払うそうだ。掃討も必要無い。機密は漏れないよ」

《んー。了解しました》

 

 そうだった。結局彼等の運命は俺達が通信を傍受した時点で俺達により決定されていたのだった。中尉は彼等に小さく祈った。誰の為に祈っているのか。それはついぞ判らなかった。

 

 

 

「晴れて、来たな」

 

 雨は暫くして小雨になり、ついには上がった。気づいたのは、空が微かに白み始めているのだった。闇の様に深い藍色(ブルーモーメント)。もう夜明けが近い。

 環礁の廻廊ももうすぐ終わりだ。水路も広く深くなり、外海が近い事を囁いている。もう反撃はない。"ブレイヴ・ストライス"も既に後続していたLCACに乗り込んでいた。アーリーバード4によると、何故か環礁の反対側や、彼方此方に小規模な発砲炎が確認されたらしいが、こちらは静かなものだった。

 本当に、静かだ。ただ波を破る音と機関部の出す音、両脇で木々が焼け落ちて行く音だけが単調に響く。単調な音はその内音もしなくなる。無音だ。まるで、生と死の狭間の世界にいる様だ。河、燃え上がる木、それが雨で消えて行く。雨の中の、涙の様に。

 だが、俺達の最期の瞬間は今では無い。この世の哀しみ(ソロー)を、死の哀しみを振り切り、黙々と生へと、新たな哀しみへと向かい進み続ける、哀しみの1つ達(ガンスリンガーズ)。沈黙と哀しみに満たされた(ランナーズ)は、ひょんな事から破られた。

 

 

 

こっちだよ?

 

 

 

「なんか言ったか?」

《聞こえましたけど?》

「?」

《?》

 

 会話が噛み合わん。LCACの上で2機のMSが向かい合ってコレだ。さぞかしシュールな光景だろう。如何なるハイテクも、使用者が使用者ならこんなもんである。

 その時中尉の機体が反応した。中尉が驚く暇も無く、その反応は強くなる。

 

 

 

こっちこっち

あそこ

 

 

 

「まるで機体が引っ張ってるみたいだ。C2。気にかかる事があるんです。ポイントフォックストロット92、海底のスキャン、出来ますか?」

《難しいですね。暴風雨は収まりつつありますが、この機体にソノブイは積んでいませんし──》

《女の子は度胸!!》

 

 何をトチ狂ったか伍長が乗機共々海に飛び込んだ。LCACが揺れ、大きな水飛沫が立ち、またLCACが揺れ、その巨体が海に消える。あまりの事に口を開けた中尉は、言葉を絞り出すのが精一杯だった。

 

「おいぃ!!」

《落ち着け。時化でも、海中は、まだ大丈夫だ。環礁の、中でもある。生身でも、ない。安心しろ》

 

 軍曹の言っている事は最もだ。それぐらい学の無い俺にも判る。しかし問題はそれで無いのだ。

 

「はぁ。どやされるのは俺なのに……伍長?」

《凄いです!町があります!》

「は?」

《ブレイヴ03の言っている事は本当です。情報によると、ここにはかつて、火山活動により海に沈んだ町、"ピングタウン"が存在します。ブレイヴ03の言っている町とはその事でしょう》

《うわぁーい!!ディープブルータウンへようこそ!!》

『そういや聞いた事があるぜ?ここに沈んでる遺跡には、喋る魚やセイレーンが居て、オルゴールを鳴らしてるんだとよ』

『え?俺はここら辺を荒らし回った海賊達が宝を隠したって話聞いた事があるけどそれじゃないのか?』

 

 確かに、さっきも遺跡の様な物を確認したな。そいつは凄い。凄いが……。

 ここ、まだ敵陣のど真ん中だぞ?

 

『みんな詳しいな』

『ここ守ってんの暇でさ?研究所の職員と仲良くなる奴も多くてさ』

『私はその研究員ですし。とびっきりのお魚料理、必ずご馳走しますよ!』

『ネコの声だっけ?』

『マンモスとか恐竜って聞いたよ?』

『あーつまり、なんだ?オバケが引っ張ったのか?』

 

 一気に騒がしくなった通信網に、漣の様に笑い声が広がり、それは大きな笑い声として弾けた。その声は安心しきっていた。地獄から抜け出して来た、生者のみが発する声。救出に向かった身としてはとても心地良い声。未だに戦地ではあるが、既にここは人が生きる場所へと戻りつつあった。

 ここまで破壊し尽くされた自然が、輝いて見える。なんという人間のエゴか。

 

《……ここじゃない?》

「は?」

《こっち?》

『何がいるのかな?宇宙人とか?』

『人魚の伝説もあったっけか?』

『ここは不思議な土地でした。調査も中々進まず、未解明の事が多いんです』

《こっちだって少尉!》

 

 伍長はズンズン進んで行く。笑い声がまた大きくなった。中尉も苦笑を堪えつつ、センサーを切り替えた。うわ凄い。マジで町がある。

 

「こっちだってって…誰がだ?MSが蝶の夢でも見てんのか?潜水服じゃねーんだぞ?」

《え……囁くんですよ。わたしの中のゴーストが!》

「そうかよ……毒電波受信してんのかな。それともゴーストハックでもされたんかな?」

 

 やや辛辣な態度や言葉はともかく、中尉も少し抑えようの無いワクワクに支配されつつあった。MSに乗っていなければ大興奮していただろう。中尉は自然や生物も好きだが、廃墟や遺跡なども大好きだ。都市伝説は信じないが、そのワクワクだけを取り出して笑えるタイプでもある。昔から図鑑などに親しみ、テレビもその様な物ばかり見ていた。

 しかし、今はダメだと理性が好奇心にのしかかっている。悲しいかな戦争。それでも、と、これは索敵だからと心の中で言い訳し、警戒こそ怠らないが、同時に海底や動物のスキャンを始めた。いつもおやっさんの準備や先読みには驚かされるが、今回程それが冴え渡っていた事があっただろうか?流れ込む膨大な情報の奔流に心と身体が震える。

 戦乱が過ぎ、傷つきながらも、既に再び元の姿を迎えつつある目の前の楽園に中尉は目を見張った。

 

《どこまで行くのでしょうか?》

「周りの視線が痛くなってきた。おい!!伍長!!」

『じっと、待ちましょう。明けない夜は無いのだから。ここに古くから伝わる譜の一節です。待ちますよ』

『ここのサンゴ礁よりは断然若いですが、古くから続くワイズ海洋生物研究所のスローガンです!』

 

 中尉は心の底から、人はここまで自分勝手になれるのかと自己嫌悪しながらの発言がコレである。

 

《……ここなの?》

 

 

 

そう。

 

 

 

「おい伍長…何か見つかったか?…沈没船のお宝でもあったか…?」

《イルカでも、いたのか?》

『また帰って来ましょう。次の仕事は観察より先に彼らの傷を癒す事ですね』

『なんか、マヤンの伝承にある、風の導き手みたいですね』

 

 含み笑いを隠そうとしない中尉と、いつもと変わらない様に聞こえる軍曹の声。しかし、中尉にとっては聞いた事が無いくらいの呆れが混じっている事が判っていた。

 周りも楽しいお喋りを少し休憩し、地球連邦軍が有する唯一のMSを保有する特殊精鋭部隊、その隊員の声に耳を傾けていた。忍び笑いと共に。しかしその声に嘲笑の色は感じ取れない。むしろ結果を知りながらも、面白おかしく、暖かく見守る様な声色だった。

 

《そ、そうですね。自由研究の課題にピッタリですよ》

《えぇっと……しょ!少尉!!》

 

 世にも珍しい困った様な上等兵の声が、精一杯のフォローを試みて見事に爆死している。再び口を開こうとする中尉を、伍長の声が遮った。

 

「なんだ?大ウツボでも出てきたか?」

《ちがっ!!……ちゃいま!!……ば、爆弾です!!それも大っきいの!!》

 

 

 

ありがとう。でも、わたし疲れちゃった。

 

 

 

 

「光が……」

《ウミ、ホタル……》

 

 気がつけば、あの航跡が、本来の姿を取り戻していた。

 そして、白亜の航跡は、美しい光の帯と化していた。蒼白い、幻想的な光。明滅を繰り返す、海に溶けた天の河。いつの間にか空は晴れ渡り、月が再びその姿を覗かせ、柔らかな光を投げかけていた。

 

 

 

 

 

休暇がほしいな。とびっきりのね。おやすみ。

 

 

 

 

 

 

 やがて、あれだけ破壊された森の中からも微かな光が漏れ出した。まるで、もう一度燃える様に。その火の中、灰の中からもう一度産まれる様に。光はどんどん強くなり、遂には一斉に輝き、声無き声で歌う。鮮やかな翡翠色は、環を描き広がって行く。

 海の光と、島の光。種類の違う、名前だけがつなぐ彼等が、お互いに光を出し合っている。

──真の名前とは、まさか。

 

「還ろう、ゼロへ」

 

 独り、うなづく。魂の輝き。彼等もまた、故郷に帰ろうとしているのかもしれない。

 

 誰かが、歌い出した。静かな歌声が、それでいて、美しい歌声が、響き渡る。誰かが、続く。やがて、大合唱となった歌が、広がって行く。

 

 そして、月が傾いて行く。ジルバーシュトライブ(希望の光)が厚い帳を突き破り、太陽がその闇で地上を照らし出すまで、その輝きは消える事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

またね。

 

 

 

 

 

 

 

 

『君は僕であり、僕は君でもある。そして、同時に僕らは世界全体でもあるのだ』

『大いなる意志の元へ』

 

 

 

風が群青の海にそよぐ、そのときまで………。




ハクソー・リッジ、良かったですね。
神社があって、日本語が聞こえてって言うのが心にきました。
アジア・太平洋戦争最大の地上戦、あの南の島の激戦を忘れない為にも。過去を忘れた者に未来はない。しかし、過去に囚われてもいけない。

元々から治安の不安定だったとは言え、ミンダナオ島もまだ収まる様子は無く。
日本にも対岸の火事と言っていられない状況となってきました。

コレを書くにも、色々な「戦争」「紛争」について調べてきました。「兵器」もです。
だからこそ、世に平穏あれ、そう願います。



次回 第七十章 餞

「戦争も雨天中止ですか?」

ブレイヴ01、エンゲー、ジ?


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第七十章 餞

最近忙しく、疲れる事が多いです。

でも、それを充実してる、と言い換えて頑張ってます。

皆さんもお体に気をつけて。


あらゆる時代、あらゆる世界で、人は死と向き合って来た。

 

生まれ、子を産み、育て、老い、死ぬ。

 

生物として逃れられぬ業。

 

それに意味を持たせるのは、生者の驕りか。

 

それとも、死者への餞か。

 

 

──U.C. 0079 9.26──





 

 

「つまり、要約すると……」


 

 中尉はメモを片手に、片眉を上げ目の前の椅子に縮こまる様にして座っている男に目をやった。メモには意味をなさない曲線が踊っているのみで、文字は1つもない。暗号などではなく、ただの価値のないゴミだ。しかし、それは立場の違う2人、中尉にとっても彼にとってもそれぞれ違う価値が、意味が出てくるものだった。

 目の前の男の手には手錠がはまっており、その顰められた顔は哀れな程に青ざめ、小刻みに震えていた。それを無感動に見下ろす中尉の目には、何の感情も感じられなかった。硝子の様な眼、標的を見定めるセンサーの様な、観察する無感動な眼だ。

 中尉の視線に気付いたのか、男はまた身震いをし、下を向いて何かをつぶやく。とても聞き取れない。だが、聞き取る必要も無かった。この男は、おそらく、いや確実に、本当に何も知らないのだ。

 

 中尉は椅子の上で足を組み直し、バレない様に小さく溜息をついた。こんな調子だ。進み始めた事態に、状況は混迷を極めるばかり。全く酷い事だった。やるべき事がわかってしまっている事が何よりタチが悪い。周りを見回しながら頰をかく。もちろん事態が進展する事は無い。最低限のものすらない殺風景な部屋は、中尉に何の助言もしてはくれなかった。

 椅子を回し、ちらりと部屋の片隅に立つ兵士とアイコンタクトを取る。まるでマネキンか何かの様に無感情、無表情(スカルフェイス)で、自動小銃を構え微動だにしなかった兵士が小さくうなづく。中尉は机の上に手をやって、ゆっくりと立ち上がった。腰の刀が小さく音を立て、男はまた震えだした。

 中尉はそのままゆっくりと歩み寄り、男の肩に手をやった。びくり、と跳ねる感触に少し驚きながらも、中尉は慎重に言葉を選びながら言った。


 

「ご協力いただき感謝する。疲れただろう。食事を出そう。あぁ安心してくれ、南極条約は知っているから。部屋でゆっくりしたまえよ。何かあったら呼んでくれ。出来る限りの対応はしよう。それでは」

 

 普段中尉を見慣れた人からすれば、かなり芝居掛かった振る舞いに見えるだろう。でも彼には関係無い。彼にとっては、中尉は何をするか判らない、若過ぎる敵の士官、それだけだ。中尉の仮面の下を知らない。知るはずも無い。情報の有無とは、それだけで自分の立場を左右し得るものなのだ。それこそ中尉の手元のメモの様に。

 中尉はニッコリと笑いかけた。男は恐怖に落ち窪んだ濁った目で中尉を見上げていたが、その中に、小さな光が宿るのを、中尉は見逃さなかった。


 

「よろしく頼む」

「了解」

 

 中尉が背を向けると、男もゆっくりと立ち上がった。肩をすぼめる様にして、頭を垂れ、とぼとぼと歩く男を兵士に引き渡すと、中尉は何も無い壁を見、小さくうなづくと親指を立てた。

 一見、何も無い様に思える壁の奥には、副長に軍曹、上等兵、おやっさんがいる。こちらからは何も見えないが、向こうからは全てを把握出来ているはずだ。記録する必要も無いのはコレが理由だ。複雑な心理分析や嘘発見等を全て外に投げる事が出来る。中尉はただ向かい合えばいいだけなのだ。あとはちょっと演じる位か。それも本質的には必要無いと言える。この部屋に置いては、中尉の存在は、存在する事だけが存在理由(レゾンデートル)となるのだ。

 

 無機質な壁。それはフェイクだ。MSのメインカメラを覆うエレクトロミック材を応用した、特殊硬化テクタイト製の防壁は、一見するとただの壁だ。いや壁そのものと言える。タダの壁と違うのは、電圧をかける事で強度はそのまま、マジックミラーの様に向こうを見たり、見えなくしたり出来るのだ。強化ガラスなどと比べて軽く丈夫な為、コロニーの"川底"にも性質こそ違えど近い材質の物が使われている。まさに未来の技術だ。一見華奢に見える、数センチにも満たない透明なこの板は、音速を遥かに超えたスペースデブリや60mm機関砲弾をもストップする力がある。生身の人間が出来る事など何も無いだろう。精々、壁に爪を立て、恐らく万人にとって不快だろう音を奏でる位か。それでも壁に傷はつかないが。

 

「休憩にしましょうか」

 

 壁に向かってそれだけ言うと、中尉は重たい扉を押し開け、やや軽快な足取りでそこを後にした。扉が重たいのは決して分厚いだけではなく、油圧ジャッキが取り付けられ、どんなに力を加えてもゆっくりとしか動かない様調整されているからだ。もちろん脱走対策である。例え、捕虜(POW)が一瞬の隙を突き、見張りを振りほどき脱走しようとしてもこの扉に阻まれるのだ。廊下までもまた通路と扉がある。横を見れば同じ様な部屋が並んでいる。判断を誤らせる為だろう。中々によく考えられた仕組みだと中尉は思った。

 まぁ、それはともかく。今は飯だ。後ろから聞こえるゆっくりと扉が閉まる音を背中で聴きながら、中尉の足はステップを刻む。誰も居ない暗闇の中、後に残されたのは重苦しい空気と、小さな机、2脚の質素な椅子だけだった。

 

 先程まで居た部屋と比べると、明るさと白さが眩しい位の廊下へ出る。そこで、軍曹が出迎えてくれた。その脇には、大笑いするおやっさんと、困り顔の上等兵、眼鏡を押し上げる副長が待っていた。


 

 

 

「うははははっ!!それがおかしいのなんのって…」

「いやホント勘弁してください……」

「誰も居ない壁に向かって決めポーズしてさ?そのまま颯爽と部屋を出て行くんだぜ?笑うなと言う方が無理さうははははっ!!」

「ふふっ…」

「ふっ」

「みんなして…俺の味方は軍曹だけだよ…」


 

 廊下に楽しげな話し声と、おやっさんの笑い声が伝わって行く。『響く』ので無くまさに『伝わる』だ。廊下の防音材はやはり優秀らしい。MSの脚の裏に貼ると良さげかも知れない、冗談を口に貼り付けながら、中尉はボンヤリ考えた。

 そう言えばジオンはどうやって死角に潜む敵味方を捕捉、識別しているのだろうか。"ザクII"に乗った限りでは、ミノフスキー・エフェクトで無効化される事が前提なのか、索敵の為の装置は最低限の物しか搭載されて無かった。しかし"ナナヨン"の様な支援車も聞いた事が無い。上空援護機か?あの"ルッグン"の様な偵察機が管制も請け負っているのかもしれないな。調べておかなければならない事がまた増えた。


 

「とにかく、話を元に戻しましょう!ね?」

 

 唇を痙攣らせながらの中尉の言葉に、沈黙を貫いていた軍曹が重い口を開いた。

 

「…子供の、方だな。問題は……」

「そうですね。しかし、軍隊手帳(ゾルトブーフ)は持っていました。正規の軍人と変わらない物です」

「子供と言っても、立派な職業軍人(ライファー)ってワケか」

「大将より階級は高かったな。うははははっ!!」

「ははは…」


 

 そう、子供。

 

──子供だったのだ。敵は(チャイルドソルジャー)





 

 

──U.C. 0079 9.19──

 

 

 その報が入ったのは、"アサカ"へ帰投し、機体の各部点検を行なっている最中であった。中尉はアクセスハッチに上半身を突っ込み、酷使され砲身が摩耗した13.2mm機関銃を取り出そうと躍起になっていた時だった。一時は"ロクイチ"上部に搭載されているものをそのまま転用、搭載していたが、MSに搭載しミサイル迎撃等に用いるには連射速度(サイクル)や銃身耐久性に問題があり、無駄も多かった。

 その為、おやっさんの提案で、信頼性の高い従来の航空機搭載用機関砲をスケールダウンし、外部動力を利用し回転する3連装ガトリング方式の物として新規に設計、部品を流用し搭載された。旧世紀でも航空機搭載用機関砲、M61"バルカン"をスケールダウンしたM134"ミニガン"が存在する為、その宇宙世紀版とも呼べるものだ。"ブラッドハウンド"に搭載されている20mm機関砲を搭載せず、あくまでも13.2mmに拘る理由は、現在そこまでの火力をこの兵器に求めておらず、それ以上に弾薬の搭載量の増加を中尉が求めた結果である。おやっさんが独自に設計し搭載した為名前は無いが、通称は航空機搭載用機関砲全般を指す俗称である"バルカン・カノン"をもじり、"バルカン・キャリバー"と呼ばれている。性能は上がったが、その分整備の手間も増えてしまっているのが現在の問題だ。それも改善はされているが。また、この手の機関銃としては銃身が少なく、軽量化がなされ、発射速度に直接繋がるスピンアップも早い。連射速度も可能な限り早めてある。しかし、その分銃身の摩耗も早いのだ。

 

 初め、中尉は発射速度(レスポンス)と命中率とも呼べる散布界(スタッカー・ゾーン)の集弾率を求めて"リヴォルヴァー・カノン"(輪胴)方式を提案していた。"リヴォルヴァー・カノン"方式の火砲は、単一の銃身に回転する複数の薬室を持つ銃器の種類だ。軽量で嵩張らない為大口径化・携行弾数増大が容易、メンテナンスが比較的容易かつ低コストで、複雑な外部動力を用いる事無く自力駆動が可能な単純な設計であり単価も低コストであるのが特徴だ。更に、構造上、装弾口を砲身とは異なる軸線上に設ける事も可能で、弾丸を薬莢の底まで埋め込む事により実包の全長を短くするテレスコープ弾(CTA)との親和性も高い。また、回転式薬室は前後どちらからでも装填できる設計にする事も出来る為、CTAを用いて前装式設計とし、火砲全体の全長を著しく短縮する事も出来る。砲身も固定されており、複数本が回転するガトリング方式と比べ命中率も高い。いい事づくめだと思われた。

 しかし、この案はおやっさんにより却下された。1つは信頼性だ。あらゆる方向からGがかかり、被弾等により外部からの圧迫、損傷する事が考えられるMS搭載の機関銃であるのだが、この方式は特に不発や遅発があると作動不良(マルファンクション)に陥りやすいのだ。戦闘機より更に被弾しやすく、GのかかるMSにとり、この欠点は大きい。ガトリング方式ならば、不発弾があろうと外部動力により強制排出出来る為、これは問題にならない。被弾により機関銃自体が壊れるのはまた別の問題だ。また、高い連射速度はあろうと、ガトリング方式のモーターによる圧倒的な連射速度及び弾幕展開能力は、他の追従を許さない。ミサイル迎撃や歩兵の掃討には高い連射速度が有効となり、これもガトリング方式に軍配が上がる。最後は、CTAは専用弾である為、弾薬の共通を図るには不便な存在である事だった。機関銃の中でも特にばら撒く部類で消費の激しい弾種である為、それが独自規格となると補給や兵站の管理・負担においてかなりの問題となる。この問題を聞き、中尉は副案であった液体火薬方式も諦めている。尚液体火薬も今回は放熱しづらい内蔵型の機関銃である為、銃身の加熱による熱ダレから却下されただろうが。薬莢は一見無駄が多い様に思えるが、この熱を受け止め捨てる役割もあるのである。長く使われる枯れた技術にはそれなりの理由がある、それを中尉に再確認させたこの件は結果的にこれらの点でガトリング方式が採用されたのである。

 

 既に直接戦闘が終息し数時間、漸く張り詰めていた緊張が途切れがちになっていた頃である。声の方向に引っこ抜いた頭を向け、重たくなり始めていた瞼を擦り、汗の浮いた顔を機械油で黒く化粧していた中尉には、一瞬何の事か判らなかった。

 それもそのはずだ。既に"ブレイヴ・ストライクス"としての作戦行動は既に終了し、"オペレーション・アクアノーツ・ワン・オブ・ゾーズ・デイ"も佳境に入り始めていた段階だったのだ。作戦通りの電撃的な奇襲(ブリッツ・レイド)、イレギュラーこそあれ友軍の救出に成功、迅速な撤退を完了した揚陸部隊と航空部隊。それを迎えた"アサカ"も、例の通信の後独自に戦闘を行なっており、あの短時間でジオンの潜水艦3隻を撃沈したらしい。凄まじい手腕だ。

 

 潜水艦同士の戦闘は、かなり異質なものだ。言うなれば航空機による巴戦(ドッグファイト)に似ているかもしれない。または、旧世紀の大戦において時折生じた、現代では考えられない程の近距離で発生した戦車戦か。それとも、深い森林を長距離偵察(LRRP)し、遭遇戦が勃発する様なものかも知れない。しかし、あくまで似ている、近いと言うだけだ。水中という特異な戦場がそれを許さない。

 海中で、大気を伝う音速を優に凌ぐ速さで響き渡る音に耳を澄まし、時に浮上し、時に変温層へと逃れる。潮に乗り、魚雷を撃ち、偽装し、爆雷に追われ、敵を欺き、座礁に怯え、水圧に軋む。目を回しそうな程のあらゆる制約の中で、艦長や乗組員(クルー)の経験と判断力、そして何よりも艦の性能がモノを言う世界。僅かな情報を拾い集め、自らの情報は漏らさない。静かな水面下の戦い。究極とも呼べるステルス性能を持つ、最も隠密性の高い兵器の最期は、水圧の前に屈し、圧壊する断末魔の呻きだけ。昏い水底はただそれを受け入れ、横たわせるだけだ。

 

 その潜水艦が最も嫌う行為、最も無防備となる浮上も、この艦は受け入れてくれた。極短時間で浮上、収容された重傷者は直ぐ様医務室や集中治療室(ICU)に運ばれた。ここから見える格納庫の一部も野戦病院と化しており、比較的軽傷である負傷者(WIA)の周りを人が走り回るのが見て取れた。悲鳴や苦悶の声はもう聞こえ無い。小さな呻きだけだ。命を繋ぐ為のドタバタの中、物資の固定(ラッシング)だけは厳命されており、点滴や輸血パックが微かに揺れる事だけが、ここが戦闘を続行している潜水艦の艦内である事を示していた。

 格納庫(ハンガーデッキ)と言う、広過ぎる閉鎖空間に血の匂いはしない。音も無い。しかし人は走り回っている。離れて見る現実離れした光景は、まるで無声映画(トーキー)の様で滑稽だった。この無機質な空間は、いつも通り戦場とはかけ離れた、聖域と呼ばる山奥の神殿の様な静謐な空気を讃えるのみだ。

 

「中止?」

「戦争も雨天中止ですか?」

『ハロ!』


 

 直ぐ隣で船を漕いでいた伍長が飛び起き、楽しそうに口を挟む。忘れ去られた神殿に祀られた、荘厳な立像。荒ぶる戦神の化身を象った様な"陸戦型ガンダム"。今や"シェルキャック"は既に外され、泥や砂も洗い流された後だ。装甲に細かいキズはあるが、大きく損傷した箇所などは無い。後はワックスでも塗ってやるか?何リットル必要()るんだか。

 "陸戦型ガンダム"のネックガード、所謂()にあたる部分に、全身でまたがる様に、そして跳ね上げられたコクピットハッチに挟まる様にして寝そべっていた伍長は、多少フラついてはいるものの"ハロ"を抱え、軽快な足取りでタラップに降り立った。この場に似つかわしく無い、軽やかな踊り子の様な舞は非現実的だった。

 それを打破るのは、中尉とは反対側で"ジーク"の頭部周りの電装系を点検していたおやっさんだ。おやっさんはスパナを片手に、手袋を外しても尚油汚れの目立つ手をインカムにやり口を開いた。

 

「"オペレーション・イコノクラスム"が、だ。敵さんから降伏の打診があった。今から向かうらしい」

「隊長、私達にも出撃命令が下っています。恐らくは敵の気勢を削ぐ為かと思われます」

「でしょうね」


 

 伍長以外でキャットウォークに足音を奏でたのは、C2バードから降り、連絡役として格納庫に待機していた上等兵だ。その目は格納庫の隅で働き、戦死者確認(ボディカウント)をしている軍曹と、今まさにその口が閉じられようとしているオリーブドラブ色の死体袋(ボディバッグ)に向けられていた。軍曹は医療従事者では無いが、その資格はある。MSを降りたすぐ後こそ、トリアージや緊急治療を行っていたが、状況が落ち着くと無言でその仕事についていた。中尉も手伝いたかったが、その仕事は今の中尉の仕事では無かった。中尉の仕事は、彼らの死の責任を背負うだけなのだ。

 ここからでもよく見える。数はそう多くは無いが、その殆どは一般人(アウトサイド)で、そこには確かに人の形をした、人の死そのものが横たわっていた。いや人型の袋はまだいい方だろう。中には、明らかに小さいものや、長さの足りないものもある。中尉は被りっぱなしだったヘルメットを取り、胸に押し当て目を瞑り、小さく祈った。

 

──ただ、安らかに。死の安らぎは等しく訪れよう。人に非ずとも、悪魔に非ずとも、大いなる意思の導きにて。

 

 謝りはしない。同情も。俺達は戦士なのだから。だが、決して無駄にはしなかったぞ。そして、ありがとう。

 

「イコノクラスムってなんです?イモビライザーと関係はあるんですか?」

「ねぇよ。単語としての意味は聖像破壊運動だ」

 

 焚書坑儒の様なものだっけか。偶像破壊とか。俺にはよう判らん。そりゃ歴史的に重要な物が破壊される事には憤りを感じるが。

 

「今回の作戦の後始末、気化弾頭ミサイルによる敵殲滅の事だ」

「あー……でも、いまさらですか?いっそやっつけちゃえばいいのに」

『ハロ……』

 

 中尉の言葉に首を傾げた伍長は、抱えていた"ハロ"を放り出す様にして起き、キャットウォークの床に腰掛けた。両腕を手すりの中段に乗せ、そこに頭を横たえた。足は空中に投げ出され、ふらりふらりと空を切っている。視線は遥か上の天井の照明を数えていた。きっとその先の、海の上の宇宙を見ているのだろう。

 殲滅。それは伍長なりの考えだろう。珍しく好戦的な意見だが、伍長は降伏する事に対し何か思うところがあったのだろうか。


 

「おい。まぁ、捕虜(POW)の人道的扱いは、味方の損害を減らす事にも繋がる。情報も得られる。幸い物資にも余裕はあるし、いい事づくめだろう。

──南極条約も偶には役に立つんだな」

「?…なんでですか?」


 

 呟く中尉に、疑問符を浮かべる伍長。小さく溜息をついた中尉は、手すりにもたれかけながら話し始めた。

 上に向けられた視線は、眼下の血生臭い(ブラッド・バス)世界から目を逸らす様に。何を逃げているのだろうか。自分の責任であると言うのに。


 

「例えば、伍長、包囲されてもうダメだ!って時に、風の噂でもジオンは捕虜に『オメーのメシ、ねーから!』ってご飯をあげないって聞いたら徹底抗戦するだろ?」

「はい。1日3食デザートおやつ、夜食間食は欠かせません!」

 

 これだよこれだよこれだから。ラテンか?旧世紀の噂に聞くイタリア軍の士官かよ。シェスタもいるのか?ん?シェスタはイタリアだっけ?ラテン?ラテンの範囲ってどこだよ。まぁいいか。後で調べておこう。無知と貧困は人類の罪だからな。調べたら判る。イタリア軍の噂はイメージが多いと。まぁホントの話もあるけど。当たり前だが全部がそうじゃない。

 

「つまり、捕まったら地獄、と思っている死に物狂いの相手は強いのさ。圧倒的優位だろうとこちらにも少なからず被害が出る」

「あ、なるほど」

「だからこその気化弾頭だったが、それだって充分とは呼べても確実とは呼べん。やはり上陸し制圧した方が確実だ。だが、草の根かき分けて、これだけの数を1人残らず殲滅するのは骨だぞ」

「へー、よく出来てるんですねー、大協約(グラン・コード)って」

 

 手を打ち、うんうんと腕を組み、うなづく伍長。どうやら納得したらしい。勘違いしてる様にも思えるが。伍長の小さな顎が3回上下した時に、あごひげを撫でていたおやっさんが切り出した。


 

「…続きいいか?どうやら今、敵の潜水艦をおびき出し、座礁させ拿捕したらしい。それで向こうも望みが絶たれたんだろう」

「よくやりますね…判りました。出られますか?」

 

 今かよ。全く気づかなかった。どうやら主役は本当に俺達では無くなっていたらしい。中尉は艦橋があるだろう方向を見上げ、小さくラフな敬礼をした。

 全く、なんて頼りになる艦だ。MSのカバーを単艦でこなせるのは驚愕に値する。それにこの異常とも呼べる戦闘力もだ。初めは盛り込み過ぎてどっちつかずなモノになるかと思っていたが、その認識を改める必要がありそうだ。嬉しい誤算だ。まぁ実際、この艦に乗り始めてからそんな考えはどこかに行っていたが。


 因みに現在、他の潜水艦と共同して作戦を行わず、艦隊を組む事なく"アサカ"単艦である理由は、"アサカ"について来れる艦が存在しないからだ。魚雷すら軽く振り切り、一部航空機に匹敵する速度を誇る"アサカ"は、その脚の速さを活かす為に単艦で動かざるを得ないのである。艦隊を組む事も可能だが、それは"アサカ"の手足を縛る行為に他ならない。勿論開発段階からその事は判っていた為、スタンドアロンでも大多数の敵を確実に殲滅し得る戦力を保有している。まぁその為の艦であると言う訳であるが。MS運用の柔軟性を考えると、これは正解だったと言えるだろう。

 

「手順をちょいと省けば、だな」

「大丈夫です。CPからの指示は、MSは1機で充分だ、との事です。損傷が無く、点検も終了済みである"ハンプ"が適役かと」

「よし。伍長。軍曹を呼んで来い。上等兵は連絡役を終了、艦橋へ向かってください。以上、解散!」

「りょーかい!」

『ハロ!』

「了解しました」

 

 伍長は立ち上がり、ぴょこんと敬礼をし走り出す。上等兵も敬礼をし、ゆっくりと歩きだす。

 ゆるりと返礼した中尉は、顎に手を当てているおやっさんの顔色を伺った。サングラスの奥で、その目がかすかに細まったのを中尉は見逃さなかった。


 

「……おやっさん」

「…俺の勘が当たらなければいいが。お前ら!固定はしっかりだ!」

「「おぅ!!」」

 

 中尉の肩を軽く叩くと、おやっさんは声をかけながらゆっくりと歩み去って行った。あたふたと走り去る伍長の背中を見送りながら、1人ポツンと取り残された中尉は既に気持ちにケリをつけ、意識の切り替えを行なっていた。頭はゆっくりと回転を早め、必要な物のピックアップから、既にメンバーの選抜へと移行している。伍長は連れて行かなくてもいいだろう。そろそろ限界も近いだろうし。そしてこの様な場合において伍長はてんで役に立たない。連れて行くだけ無駄だと思われた。

 そしてふと、頭の片隅で言い訳を探している事に一番意識がいっている事を中尉は自覚した。それはまるで泥の様に中尉の思考を埋め、頭の中に響く様にリフレインしていく。蝕む様にして広がった考えは、粘り強く離れようとしない。結局その考えに名前をつける事を放棄して、中尉は目を瞑り溜息をついた。

 さて、どうなるか。どうしようか、どうすればいいか。軽く目頭を揉み、顔を上げると、いつも通りの歩調で歩いてくる軍曹と、飛び跳ねる様にして駆けて来る伍長の姿が、見慣れた周りの風景から不思議と浮かび上がって見えた。

 

 

 穏やかな世界の中を、LARCとLCACが波を掻き分けていく。青をたたえた海は、白い砂浜にそれ以上に白い波を砕かせ、洗い流して行く。かつての紅き血潮はそのなりを潜め、既に元の姿を取り戻しにかかっていた。

 しかし、海は濁っているのだろう。風が嵐を呼び、鉄の雨が降り注いだのだから。地形の破壊、土砂の流出、あらゆる油や化学物質、残骸や破片、薬莢……焼け、破壊された自然はただ見えないだけだ。遥か先に見え始めた島嶼が、至る所で黒煙を上げ、大きく抉れ、焼け落ちた木々で黒く染まっているのと同じ様に、海もまた計り知れない影響を受けたのだろう。あの夜、深緑は何度も炎に包まれた。今、それが白日の下に晒されている。かつての面影を見やる事が出来ない程、見る影も無く無残な姿がそこに広がっていた。焼け野原そのものだ。木々が焼け落ち、頭を出した溶岩がその黒さを更に異質な物へと変貌させ、戦争という病が地球を蝕んでいる事を実感させる。いや、地球にへばりつく人と言うノミが及ぼす影響を、かも知れない。

 

 こんなに早く、この島に戻る事になるなんて。この島の土を、戦乱の中もう一度踏む事になるなんて。島渡る波の様に、鳥の様に。通り過ぎるだけの風のつもりだったのに。

 眼を背けようも無い、眼前に叩きつけられた現実に、中尉は遣る瀬無くなる。近くで誰かが吐く。船酔いか、それとも。到着予定時刻(ETA)まではまだある。その地獄は近くにつれどんどん鮮明な物へと移り変わって行く。地面は抉れ、木は焦げ、折り重なる様にして倒れていた。燻り続け、水蒸気や黒煙を立ち昇らせる大地の至る所に飛び散った破片が突き刺さっていた。日光と熱に晒され、腐臭を放ち始めた肉片には、腐肉食(スカベンジャー)の動物が集り始め、自然の摂理をまざまざと見せつけられている様だ。

 

 そこに、黄ばみ、焼け焦げてはいるが確かに白旗が翻っていた。風に頼りなく揺れる下、血塗れ(バンパイマ)、泥塗れでボロボロな服を纏った幽鬼の様な群れが力無く座り込み、濁った目をこちらへと向けていた。

 血溜まり(ブラッド・バス)が河を成し、海へと注ぐ中、怪我をしていない者など誰1人いない様だった。あちらこちらに横たわる死体の間を縫う様に、無気力な影が浅く呼吸をしている。彼岸の淵に片足を突っ込んだ様な彼等に、希望は何も感じられなかった。

 本当に生きているのか。傷を手当てし、苦しむ戦友に引導を渡し、方々に散らばる死体を集め埋葬する余裕も無いその姿は、頭からつま先まで敗北という泥に塗れた敗残兵そのものだった。

 

「君達か」

 

 潮は引き、泡沫の漣が揺れるだけの砂浜に乗り上げたLARCから降り立った副長が尋ねる。力無く座り込み、旗竿を肩に立てかけていた男がゆっくりと顔を上げた。包帯の下の、生気の無い真っ青な顔は、人のものとは思えなかった。

 LARCから飛び降りた衛生兵(メディック)が甲斐甲斐しく治療を始める中、口を開いた彼は弱々しく微笑んだ。

 

「……あぁ。代表は俺だ。降伏の受け入れ準備は出来ている。武装解除もだ」

「一応は確認させてもらうよ。そして、変な気は起こさない様に、な。まぁ、その腰の豆鉄砲より、後ろの大砲が弱く見えるのなら構わんが」


 

 副長の声に合わせ、後ろの"ハンプ"が"100mmマシンガン"を振り上げた。パイロットは上等兵だ。対人用の砲弾に、突貫で取り付けられた対人兵器を満載しているが、使われる事は無いと祈りたい。コクピットに収まる彼女の事を想像しながら、中尉は目の前に広がる虚無を見回した。

 

「そんな気はさらさらないよ」

「何がだ!!俺は諦めんぞ!!」


 

 その時、波の音と血が垂れる音しか聞こえなかった浜辺に、何者かの声が響いた。連邦軍の兵士が反応し、中には銃を向けた者もいた。

 しかし、彼等は困惑するしか無かった。縄で縛られ、転がされた声の主が、まだ15にも満たない様な子供だったからだ。


 特注なのかもしれない、士官用の濃紺に金をあしらった豪華な制服に血を滲ませ、流れる様な金髪を逆立て碧眼に殺意を宿らせる彼は、まるでフィクションの中から飛び出して来た中世の騎士か何かの様だった。しかし、苦痛に顔を歪ませながらも、こちらを睨みつけ憤る姿は、目を背けたくなる程無力だった。抵抗する力も弱々しく、現状を覆す力は無い様に思えた。実際そうだろう。彼は負けたのだ。それを認められないのだろう。仕方の無い事だった。しかし現実は変わらない。

 転がされた彼が呻く。立ち上がろうとしても出来ない。結局彼が今出来る事は喚く事だけだ。それが惨めさを加速させている事に、彼は気づいているのか。もう、彼に部下は居ないのだ。部隊でどんな振る舞いをして居たかが推し量れる。彼は孤独(ひとり)だった。


 

「……おい…!あいつを黙らせろ…」

「……子供?」

「おい、ガキだぜ?」

「なんてこった。畜生。どういう事だ!?」

「後悔するぜ……!連邦野郎(フェディ)供め!!」

 

 近くにいたジオン兵が彼の腹を蹴り上げ、お釣りとばかりに鼻先を蹴飛ばした。端正な顔立ちを歪ませ悶絶し、金髪を染める様にして血を流す彼の姿に、動揺が漣の様に広がっていく。波紋は波及し、中尉は思わず目の前の男の顔を見やった。視線に気づいたのか、男は吐き捨てる様に喋りながら、腫れ上がった顔に鼻血を垂らし、気を失ったらしい彼に哀れみの目を向けていた。

 小さく咳き込み、こちらに向き直った彼が、もう一度喋り出す。やはり口の中を切っているのか、その声はややくぐもっていた。

 

「……俺達の指揮官様(ブラスハット)だ。チキンでクソッタレのな」

「……どう言う事だ?」

「後でゆっくりと話す。いくらでも、だ。この地獄から抜け出せるなら…今は……そうだな、取り敢えずは、タバコをくれないか?」

 

 顰められた顔の片眉を釣り上げ、絞り出す様にして声を出す中尉に、男は深くため息をついた。メガネを押し上げた副長が胸ポケットを探る隣で、中尉は嘆息し、異常な報告が悲鳴混じりで飛び交い始めた新たな地獄の一端を、ぼんやりと眺めていた。景色が霞んで見える。音が遠い。対岸の、遥か遠い世界の事の様だ。あの夜の光景がフラッシュバックする。やはり、やはりか。畜生。なんてこった。畜生、畜生……。

 あの時の中尉の推測は的を得ていた。しかし、事態はそれ以上に最悪だった。そして更にその方向へと突き進もうとしていた。全ては非情なまでに現実だった。直視に堪えない、紛れも無い現実だった。

 

 小さな音が鳴る。中尉が腰の刀を握り締めた音だった。震える手は、怒りか、悲しみか。それは中尉にも判らなかった。

 

 

 遠雷の様な音が響く。大地が震えた。軋みと共に鋼鉄が裂け、悲鳴を上げる。無理矢理に引き裂かれる断末魔の呻きがこちらまで伝わって来た。

 『竜』が、死んだのだ。だが、元の持ち主の手で引導が渡されるのなら、それはまだ救いのある事なのかも知れない。

 

「……なぁ、今のは海軍が発砲した音だと思うか?」

「いや、嵐の雷鳴だろう」

 

 そんな会話を聞きながら、中尉は煙が立ち昇る方向を見た。『竜』。恐らく拿捕した潜水艦の爆破処理が済んだのだろう。現在地球連邦海軍の潜水艦部隊は大打撃を受け再建している途中だが、流石に潜水艦を奪還する程こちらの戦力に余裕は無い。作戦の計画上、増援を呼ぶ事も待つ事も厳しい。かと言って放置するのも論外だ。機密保持もある。それ故の爆砕だろう。致し方あるまい。

 しかし。しかしだ。生まれこそ丘であるが、大洋を征く鋼鉄の鯨が丘で死ぬ。それはやはり、皮肉な事だった。

 

 異常な捕虜の列がLARCへと乗り込んで行くのを、中尉は軍曹の隣で黙って見つめていた。副長は向こうで捕虜移送の手続き中だ。手持ち無沙汰な中尉は、目の前に広がる光景をなんとか理解しようと悪戦苦闘していた。

 子供、子供、子供。どこを見ても子供ばかりだ。それこそ学徒とも呼べない程の小学生の低学年から、高校生位か、まだ幼さを顔に残す者達まで。勿論大人もいるが、その数は圧倒的に少なかった。ボロボロの野戦服を身に纏い、手を貸し、肩を貸し合う大人達と、倒れた戦友に目もくれず、煌びやかな制服を煤で汚した子供達。その風景も異常としか言い様が無かった。

 子供達にも差があった。倒れた仲間に手を差し伸べるのは、同じボロボロの野戦服を着た者だけだ。制服組に至っては戦友の死体すら躊躇無く踏みつけて歩いていた。理解が追いつかなかった。どういう事だ。我が軍の兵士の間でも動揺が広がっており、立場上取り乱すワケにもいかない中尉は、ただ悪戯にその顔を強張らせ、深い皺を眉根に寄せおぞましいもの見るかの様に相貌を顰めていた。

 

 点滴用のパックを片っ端から開けていた衛生兵からの報告では、殆どの者が極度の水分不足、栄養不足に陥りかけており、早急な対処が必要である事とだけだ。怪我をした者も多いが、止血帯(カーレックス)も無く、包帯等による処置の止血方法(ターニケット)すら稚拙な物ばかりで、そのせいで傷口が化膿したり、症状が悪化、死亡している兵士や死体も多いらしい。中尉も既に手遅れな、肺に穴の空いた兵士の死を見届けたばかりだ。ゴボゴボと喉を鳴らし、自らの血で溺れる姿を、だ。長く放置されたのか、涙の跡が幾筋も残った目で見上げられたが、中尉にはとどめを刺し楽にしてやる、慈悲の一撃(クー・ド・グラース)を与える事しか出来なかった。本来ならそれを行うべき士官すら、もうジオンにはいなかったのである。

 既に"アサカ"からは増援の派遣が決定しており、スクランブル可能(オン・ステーション)患者輸送(ダストオフ)用のヘリに、大量の物資と人が動員されこちらに向かって来ているらしい。

 何もかもがイレギュラーな状況に、こちらが悲鳴をあげそうだった。耳元のインカムに溢れる情報は、頭が痛くなる事ばかり。翻弄されているのはまるで俺達の方の様だった。


 異常。そうとしか言いようが無かった。今まで住んでいた世界が砂となって崩れるかの様な感覚。日常の喪失。光が消え失せ、真っ暗な空間を歩くかの様な不安。理解が出来ない、追いつかない恐怖。未知に蝕まれて行くようだ。中尉はガシガシと自分の髪をかき混ぜる。


 

「軍曹、どんな調子だ?」

「…問題、無い…」


 

 中尉は自らの精神状態の為にも、少しでも気を逸らす為に口を開いた。隣で作業をしていた軍曹は一瞬手を止め、こちらを見上げて普段と何も変わらないトーンで返事をした。軍曹を見やる為に首を動かした中尉の鼻先に、腐臭とはまた違う酸っぱい匂いを風が運んで来た。誰か吐いたらしい。仕方無い事だ。いつの間にか、嗅ぎ慣れこそしないが、気にもならなくなった臭いに中尉は鼻柱に皺を寄せる。それでも臭いは鼻腔にこびりつき離れはしない。中尉は嘆息した。

 軍曹は回収された大型爆弾(MOAB)の解体を行なっていた。まるでケチャップの蓋を開ける様な気軽さで、巨大な弾殻がみるみる内に分解(バラ)されて行く。隣で電子ペーパーを片手に道具を手渡す上等兵も、その速度に食らいつこうと奮闘していた。

 

「私も一応補助していますが、形ばかりです。凄まじいとしか言いようの無い手際です」

「そうか、よろしく頼む。上等兵も」

 

 一度言葉を切り、中尉は砕けた口調でボヤいた。普段には無い軽い口調は、無意識の内に心と身体が己を守ろうと口を開かせたのだろう。つい愚痴が口をついて出たのだった。中尉は久々に参り始めていた。


 

「それにしても、なんてフーバーな役回りだ。上もまたふざけてるよな。爆弾処理とはまた大変な仕事を、すまないな…一度ミスしたらボン!まぁ、その時は俺も無事ではすまなそうだが…」

「はい。気を抜けません」

 

 中尉も屈み、爆弾の中を覗き込むが、全然判らなかった。勿論彼も士官であり、ある程度の教育は受けている為、おおよその装置の仕組みや構造の判別つくが、それでも複雑過ぎた。いや、雑然とした印象を受ける。全くもって洗練されておらず、とても無駄が多い、そんな印象だ。

 どこかで見た事がある気がし、首を捻る中尉。記憶の結晶を突く何かが、この爆弾にはあった。頰をかく中尉に、軍曹が口を開いた。その言葉に耳を傾けるが、その内容は意外なものだった。

 

「……いや、2度、だ……」

「?」

「…既に、職業選択で……ミス、してる……」

「……違い無いな」

 

 軍曹が微かに口を歪める。軍曹のジョークに、中尉は忍び笑いを漏らした。目が合い、自然と拳を打ち付け合う。耐え切れないかの様に肩を震わせる中尉と、小さくフッと鼻を鳴らす軍曹を見て、上等兵が理解出来ないとばかりに口を開いた。


 

「この状況でお2人方はなぜ笑えるんですか?」

「え?それは…」

「…解体、終了……」

「っふー……お疲れ。よかった……本当に……」

 

 軍曹に水筒を差し出しながら、中尉は胸に止められた試験片を指で弾く。放射線被害を簡易計測するフィルムバッジだ。今ここにいる連邦軍の兵士に、これをつけていない者はいない。最悪の事態に備えてだった。放射線対策に遮蔽服として軽装型の"ノーマルスーツ"も持ち込まれている。今回は着ている者は誰もいないが。いずれ、全てのMSパイロットはこれを着用する義務が出て来るらしい。今は関係無いが。

 

 この軽装型"ノーマルスーツ"が、通称"パイロットスーツ"であり、動きやすい様簡略化されている特殊宇宙服の一種である。必要最低限の宇宙服としての機能として、高度な血流調整機能や体温調節機構を内蔵しながら、大気圏内でも利用可能な程軽量化も施され、その機能性の高さが伺えるシロモノだ。更に、"パイロットスーツ"はMSの高い機動性に対応する為、従来の大気圏内運用の戦闘機においてそのパイロットが使用するものと比べ大幅な機能拡張が施されている。しかし、その分生地は機密性、放射線遮蔽等の機能は持たされているものの極く薄く出来ており、防弾、防刃性は皆無である所が問題点と言える。

 外見の特徴としては小さなランドセルが背中に装着されており、これ1つに生命維持機能が集約され、酸素タンク、循環液タンク等各種タンク類がカートリッジで内臓されている。これらはワンタッチで交換出来るカセット式だが、緊急時の補充を容易にする注入ソケットも設けられている。これらのプラグやソケットは宇宙世紀黎明期から国際法で規格が統一されているのが特徴である。スーツ自体は、体型は人それぞれであり、更に生命維持に深く関わる物なので、セミオーダーに近い形で納入されるのも特徴だ。なのでとても大切に扱う様指示が出されている。物品愛護の精神と言うヤツだ。

 また調査によると、ジオンが採用しているM-36"パイロットスーツ"はMS搭乗時に着用が義務付けられているらしい。その為、形は同じでも地上用、宇宙用と分けられており、地上でも快適なエアコンスーツとして着用されているらしい。かつて鹵獲品として出た時は首を捻って放っておいたが、そう言う事だったのかと今は納得している。いや正直に言うと着慣れた野戦服が俺には合うが。


 

「フィルムバッジは?」

「ご覧の通り問題無しです。ガイガーカウンターも同様ですね」

「……そもそもあの大型爆弾は新型のコバルト爆弾または窒素爆弾、なんて噂でしたが、違ったんですか?」

「…解析結果は、燃料気化爆弾だ……それも、極初期型の、な……」


 

 軍曹の言葉に、中尉は唸りを上げた。ようやく合点がいったのだ。昔読んだ本に載っていたのだ。安心する反面、NAPSタブレット(神経薬剤予措用錠剤)の呑み損だったか、とつまらない事を考える。まぁ、何が起こるか判らなかったしな。プラシーボ効果もあれ、気休めだが耐NBC対策としては使われている訳であるし。

 

「新型爆弾、それは当時の話だったって事か。そりゃそうか。伝承にある奇跡の金属で出来た伝説の聖剣だってメッキを剥がしゃ黄銅やアルミの剣だったりするもんだもんな。過去の超兵器が強いのはフィクションだけってか。草バエルな」

「……信管も、石灰質の侵食で…無効化、されていた。まるで…珊瑚が、爆弾を…停めた様、だ……」

「──驚きました。その様な事もあるのですね。自然の力、なのでしょうか」

「じゃあブロークンアローは誤報か?」

「現時点ではその様でしょう。それも彼等が話してくれる筈です」

「そうですか…うん。撤収準備に移るか」


 

 3人はきめ細かい砂を払い、立ち上がって島を離れつつあるLARCの1つを見送る。捕虜の数と身体を起こせない負傷兵があまりにも多く、移送の便を分けざるを得なかったのだ。

 そこへ、ふらりと少尉が現れた。現地に赴き、敵兵器の残骸の回収、解析を行う為だった。行く前は南の島だと意気込んで居たが、島に近づくにつれ口数がどんどん減っていき、最終的に何も喋らなくなったのが印象的だった。そこそこ鉄火場をくぐって来た少尉と雖も、今回ばかりはキツかったらしい。中尉はそこに触れる事は無かった。中尉にもそこまで余裕はなかったのだ。

 中尉の顔を見やると、これまで口をきかなかった少尉が口を開いた。青い顔で弱々しく口元を拭いながらと言うのが、中尉の心に響いた。普通はこうなるよな。普通は。今の俺は果たして普通と呼べるのだろうか。

 

「……なぁ、死体の処理は?しないのか?」

「俺達は『存在しない』。余計な事は出来ん」

「せめて…その、子供だけでも、さぁ……」

「その気持ちは判るが邪魔になる。しまっておけ」

 

 中尉は己を殺し、それだけ吐き捨てる。戦死体処理班(AGRS)は呼んではいない。悲しみも同情も無い。その感情は必要無いのだから。それが己を、仲間を殺すかもしれないとれば尚更だ。そう言い聞かせている途中の事だった。

──銃声。思わず身を屈め、素早く周囲を見渡す。軍曹は上等兵を組み伏せ、少尉も引き倒していた。

 2発目は無く、腰の拳銃に手をかけながらも中尉は声を張り上げた。

 

「どうした!!」

「こいつが…」

「おい!どうした!何故撃った!」

「仇だ!これが!俺の!!」

 

 降って湧いたかの様な騒動の真ん中にいたのは、まだ若い連邦軍の兵士だ。"アサカ"のプールで見た事のある顔だった。腐敗が始まる程放置され久しかったジオン兵の死体の前に立っている。問題は震えている手に、関節が白く浮き上がる程の力で銃が握られている事だ。銃口からは白い煙が細く立ち上り、その銃が機能を発揮した事を雄弁に物語っていた。捕虜の反乱でなかった事を安心する半面、それはとても危険な事だった。

 周りの兵士が止めに入るが、彼は銃を持ったまま腕を振り回して抵抗している。中尉は顔を歪めた。トリガーに指がかかったままだ、このままだと暴発の危険があった。駆け出した中尉はあっという間に出来た人だかりを押しのけ、声を張り上げた。

「やめろ!!何をしている!!銃をしまえ!!」

「仇なんです!!敵なんですよ!!」

「確かに敵だった。だが今は違う!死者の魂には敬意を払え。それが戦場のルールだ。いい加減に──」

 

 開いたばかりの黒々とした穴から、ドス黒い血を流す死体。こいつのやった事は明白だ。最悪の事をしやがった。人としての良心を捨てやがった。無抵抗な者を辱めた。

 歩み寄る中尉は眉間がヒクつくのを自覚したが、それどころでは無かった。暴力はダメだ。だが判らせる必要があるのも確かだ。こんな事があったか?あっていいのか?赦せるのか?どの立場で言えばいいのか、拳を握りしめる中、震えながら銃を地面に叩きつけ、中尉に掴みかかった男は、涙を流しながら叫んでいた。

 襟元の生地が引っ張られ悲鳴を上げる。しかし中尉は抵抗しなかった。揺すぶられながら、感情の奔流を受け止めるだけにとどまっていた。下手に動き出してしまえば、目の前の哀れな男の様になり、必要の無い死体を新たに増やしそうだったのだ。

 

「感動的なセリフだな!!その綺麗事を死んだコイツにも聞かせてやってやれよ!!……っ!!ルールだって!?この地獄にそんなものがあるものか!!あんただって殺したはずだ!!っ!!今だってそうだ!!墓を作りもしないヤツが!!何を!!」

「──もういい」


 

 嗚咽を呑み込み、咳き込みながらも喚き続ける男を周りが羽交い締めにし、引き剥がす。痛い程にその気持ちが理解出来る自分がいる事を理解していた。しかし、それで理性をかなぐり捨て、本能のままに振る舞う獣になる事は出来なかった。

 小さく項垂れ、立ち竦む中尉の元に、立ち上がった軍曹がやってくる。銃を拾い、マガジンを抜き、スライドを動かして残弾を処理、手早く無効化する。ただの鉄の塊と成り下がった手許の銃を見ながら、軍曹はゆっくりと切り出した。それは、中尉にとって意外な言葉に聞こえた。

 

「…死者は、考えない。何も、語らない……だからこそ、だ。生きている間に、生きている人間の…すべき事が、ある……中尉。それを行う事が…死んだ者への、手向けだ…」


 

 顔を上げる中尉。軍曹は崩れた山、倒れた木々、その先の空を見ている様だった。見上げる先には、海とはまた違う青があった。硝煙を呑み込んだだろう空に、曇りは無かった。今尚立ち上り続ける黒煙だけが、空に溶けてその色を変えようとしているかの様だった。


 

「……そうだな。そうだ。死者の供養も、生きている者の務めだ。生きている者の為にも、必要か……そうか、そうだよな…」

 

──まだ生きている。まだ、生きている。だから、義務を果たす。生きて、人間としての義務を果たす。

 殺した俺達には生きる義務がある。死ぬ自由などない。仇敵と戦友の屍を越えて生きたのならば、死は許されない。奪ったものの意志を継ぎ、前を向くべきだ。

……そんな当たり前の事も、俺は…………。

 

「──すまないが、それは私からも頼みたい。こいつらにはさんざ振り回されたとは言え、せめて…」

「……判りました。手分けしましょう。私は許可を貰ってきます。上等兵は"ハンプ"で解体した爆弾を回収、LCACに運び込んで固定してください」

「了解しました。隊長も御無理はなさらないで下さいね」


 

 声をかけたのは、力無く項垂れ、座り込んでいた捕虜の代表を名乗った男だった。その目に、生気とはまた別の光が宿っている事を見つけた中尉は、ゆっくりとうなづいた。

 やるべき事を見つけたのだ。それは、中尉にとって救いでもあった。仮初めでも、意味のある事を見つけられたのだった。

 

 副長からの許可を得た。あっさり通り、あまりにも拍子抜けにも思われた。ふと思うと当たり前だった。彼等も嫌でも視界に映り込む死体に辟易していたのだろう。指示を受けた連邦兵達も三々五々と散って行き、装備の一部である円匙(スコップ)で各々穴を掘り始めた。ある者は死体を掻き集め、荼毘に附す。またある者は遺品を回収し、メモと共に箱に収める。仕事として捉え、淡々とこなす、プロの軍人達がそこに居た。

 中尉も男の元に向かいながら、残骸から銃を見つけ出しては並べて置く。折れ曲がった小銃や穴が空き、焼け焦げたヘルメットを拾い、近くの兵士に手渡した。歩きながら木や鉄を拾い組み合わせ、十字にしたものを抱えて行く。

 こんなもので、と頭の隅で何かが囁く。しかし、今の中尉には関係が無かった。軍曹の言葉が、中尉を動かしていた。

 

「……っ!」

 

 男は残骸に曲がった鉄骨を突き刺し、テコの原理を使って持ち上げようとしていた。無言で手を貸し、息を合わせる。あちらこちらをひっくり返しながら、8つ目の瓦礫の前で男が膝をついた。

 男の前にはひしゃげ、焼け焦げて原型をとどめない塊があった。瓦礫に半ば埋もれる様にあったそれと、彼の震える手の中には、潰れ、焦げた金属片が転がっていた。それが何か瞬時に理解した中尉は、姿勢を正し黙祷を捧げた。真っ黒に炭化し、縮こまった小さな塊は、まだ、辛うじて人の尊厳を保ち続けて居た。


 

「──やっと、やっと……見つけた…」

 

 無言で見下ろす中尉の方を振り返る事無く、男は消え入りそうな声を絞り出した。丸められた肩は震え、嗚咽が漏れ出す。

 それでも彼は、崩れ落ちる事は無く、言葉を紡いで行く。


 

「…娘さ。たった1人の。こんな事になっちまったが、これは俺の……」

「…御心情、御察しします……」

「…母さんが、死んで……あの町からやっと出て、これからって時に……なんでだよ……なんで……畜生。ちく、しょう……」


 

 途切れ途切れの言葉は、それでも止む事は無く。轟々と鳴り響く、海鳴りに掻き消される事も無く。1つの命がそこにあった事を、歩んだ歴史を刻んで行く。

 

「……人手不足?…独立の為の決起?……補給部隊なら安全?これであなたも仲間入り?」

「……」

 

 破片を強く握りしめ、身体を丸める。まるで世界の全てがそれを奪おうとするのを、全力で阻止するかの様に。男の言葉は続く。空気に溶け出すかの様に。男もそのまま消えて無くなりそうな程だった。


 

「優しい、子だった。手をあげる事なんて出来なくて…でも、俺や、みんなのためならって……寂しく無いでしょ、なんて……」

「……」

「外人部隊、なんて言われて。今まで…虐げられてきたのを……正すために入ってまた虐げられて…本当に…何の、何のために……」


 

 彼はまるで貴重で繊細な宝物を扱うかの様に破片をしまい込み、脱いだ軍服で亡骸を包み込みんだ。その小さな亡骸を抱き抱え、ふらりと立ち上がった男の顔には、降り止んだ筈であった一筋の雨が伝っていた。とめどなく溢れて行く雨は、服に土に吸い込まれ消えて行く。しかし、消えるその一瞬まで、その雫は彼の感情を雄弁に物語っていた。

 

 彼は、何も言わずに歩き出した。痛むだろう足を引きずる様にして、ゆっくりと丘を登って行く。中尉は何も言わず、ただスコップを握り締めついていく。

 男の呼吸が浅くなり、苦しげな声が口から漏れ出す。しかし男は歩調を変えず、小さな丘を登りきった。


 海が広がっていた。凪いだ大きな海が。その先には山の様な雲が。そして後ろには山が聳え、裾野には樹海が広がり、静かな風に揺れていた。世界が、全てがそこにある様だった。


 

「ここが、いい。いつも海に…憧れていたんだ。前に、一度だけ…"海洋コロニー"だが……連れて行った時の事を…思い出すよ」

 

 死んだ人の気持ちは、死んだ本人にしかわからない。だから彼の言葉は全て感傷だ。あるいは既に、俺に語りかけている訳ではないのかもしれない。いや、そうだろう。彼等を知っているのは彼等だけなのだから。

 全ての修飾を削ぎ落とせば、やはり意味のない事だと思う。しかし、そう考えてしまうのは、自分がまだ本当に近しい人を亡くした事が無いからだろう。よくある様に、墓石に話しかけても言葉が返ってくる訳じゃない。当たり前だ。しかし、人はそれをする。それに意味を持たせる事が出来る。

 

 軍曹の言葉を思い返す。やはり、全ては死者ではなく生者の為の儀式なのだ。痛みを理解し、受け入れる為の祈りでもある。死者は、結局の所ただの死者だ。しかし、人は失っても尚生き続けなければならない。生きているからだ。だから取り残された人はただ死者を弔う。祈りを捧げ、冥福を願う。亡くなった後でも幸せになれる様にと。穏やかな眠りを、永遠の平穏を、一心に望む。そして、彼は確かに生を全うしたのだと自分に信じ込ませる事で、ようやく人の死を受け容れる。いや、あるいは一生、受け容れる事もないのかもしれない。それでも、そこで区切りをつけるのだ。自分の為に。生きる為に。

 

「そう、ですか…」

「──でも、ここは…本当の、海の匂いがする……生物に満ちた、生命の匂いだ。血の、匂いだな…」


 

 血。血潮。鮮血。潮風が眼に沁みる。あの時見た、紅く染まった夜の海を中尉は思い出した。中尉の鼻腔を死の匂いが掠める。流血の秋だ。死んだ魚が浮き、浜辺に打ち上げられ、岩に叩きつけられる。こんなにも青いのに、その青さはあらゆる色を飲み込んでいるのだろう。その中には、少なくない量の血が混じっているはずだ。

 

「…地球の血。源。海の、味……あの"コロニー"の海は、もっと軽くてハッカのような、清涼飲料のような……あぁ…言葉が見つからない——戦争で、情感が鈍っちまったか…ぁあ…」

 

 呟きながら彼はゆっくりと亡骸を丁寧に芝生の上に下ろすと、中尉の差し出したスコップを操り出す。

 しかし、すぐに殆ど掘れなくなった。土と腐葉土が掘り起こされ、砂が溜まった下から、火山岩が顔を出したのだ。黒々とした硬い岩は、火花と共に鋼鉄の爪を弾き返す。まるで、これ以上人の好き勝手を許さない様に。破壊し尽くされた地表とは違い、地下は破壊に屈さないとも言う様に。だが、彼は諦めなかった。身体のどこにそんな力を隠していたのかと驚く程、スコップを力強く振り下ろし、激しい音を立てながら岩を削って行く。中尉も手頃な残骸を引っ張り出し、彼の声に耳を傾けながら、一心不乱に穴を掘った。無理な扱いにスコップが欠け、歪むが気にしない。それより大切な事がそこにはあった。


 

「──なぁ」

 

 日が頭上に登り始める頃に、漸く亡骸を穴に収めきった。傷んだスコップで土を掬い丁寧にかけながら、男は不意に口を開いた。鮮血に染まり、血を流す己の手を見つめながら、嗚咽交じりの悲痛な声が大気に溶けて行く。再び張り詰めた彼の糸はもう切れそうだった。

 

「ひっ…ひと…人殺しの、俺の…娘が、行ける天国なんて…あるのか……?」

 

 その言葉に一度だけ下を向き、中尉は揺蕩う夕凪の海と、霞む空を見上げた。そして、そのまま、ゆっくりと喋り始めた。


 

「……私の故郷には、『オジゾウサマ』と言う神様がいます。天国に行けない子供達を、導いてくれる。そんな神様です」

 

 中尉は、また新たに揺蕩い始めた煙に眼を細めた。ゆらゆらと頼りなく揺蕩う煙は、右に揺れ、左に振れ、それでも天に昇って行く。既に、日は高く登り、気温も上昇して久しかった。滝の様に流れ、とめどなく溢れては伝い落ちて行く汗を拭いながら、中尉は言った。慰めや同情などでは無い。本心からの言葉だった。

 思えば、俺は神州とも呼ばれた土地の、神様が集まる所に生まれた。これも何かの縁なのかも知れない。八百万の神々も、偶には、願いを聞いてくれるはずだ。他人の為に願うなら、尚更だろう。


 

「……いい、いい神様、も…いるもんだな…」


 

 出来たばかりの墓を前に、男は遂に力を失ったかの様に座り込んだ。背中を丸め、項垂れたまま、ピクリとも動かない。彼は彫像になってしまったかの様だ。弱い風が吹き、はためく包帯だけがそれを打ち消している。世界が彼を引き止める様に。ここで死んではならないと告げる様に。生きる事、生き残る事の残酷さを中尉は垣間見た。

 

「…俺は異教徒、なんだ。お前から、そう、お願いしてくれないか…っ安らかに…天国に…もう、苦しま、なくても…頼む……頼む…………っ」

「えぇ…」


 

 石灰質の岩を削り、なんとか掘った穴。灼け爛れ、千切れ飛んだパーツを組んで作られた粗末な墓の前で、静かに目を瞑り、手を合わせる。祈りの海の、波が砕け、泡となり、海風が空に響き、耳を叩くのを聴きながら。そして、小さく祈る。無垢な魂が、天国へと向かえる様に。

 中尉は結局、日本人にありがちな自覚を持たぬ仏教徒であり、神道の控えめな賛同者であり、緩やかなアニミズム信仰の持ち主だった。神を信じないと言ってはばからない中尉の心にも、他者に対し祈る心があり、そこには確かに神が宿っていたのだ。

 

 

 あちらこちらに、破壊された自然に紛れる様にして墓が乱立していた。自然に還れるのか、それとも自然に逆らう様にその墓標は立っているのか。しかし、ちっぽけな人間のやる事は、いずれ自然の波に飲み込まれて行くだろう。だが、今出来るのはこれくらいだ。いつか、戦争が終わったのなら、彼等を生まれた土地へと返す事も出来よう。しかし、それは今では無かった。

 上等兵が花を摘み、墓前に供えて回っている。中尉も時を同じくし、手を合わせ、敬礼をして回っていた。風が吹き、花弁が空に舞う。その巡りに葉が混じり、そのまま山頂へと昇って行く。閉じようとする視界の隅では軍曹が敬礼していた。多くの陣地を1人で潰して回った軍曹は、その全てをもう一度周り、遺留品を掻き集め、遺体を埋葬し墓を建てていた。1人でやると言い残し、1人でやって帰って来たのだろう。MSなど無くとも、軍曹は正しく兵士だった。

 人の気配に気づき、中尉が目を開けると、隣で副長が帽子を脱ぎ、胸に手を当て黙祷していた。彫刻の様に微動だにしない。2人の間を、風だけが走り抜けて行く。

 

「不思議な感じだな。殺し、殺され、憎み合い、今は並んで共に埋める。死はただ、声も無く並んで横たわっている。何をしてるんだろうな、僕達は」

 

 黙祷を解き、改めて帽子をかぶる傍で、副長は独り言の様に呟いた。しかし、その言葉は明確に中尉を捉えていたのを感じていた。強く捻るかの如く結ばれ、潮風に乾いた唇を引き剥がす様にして口を開いた中尉の声は、島風に負けそうな程小さかった。

 

「……引き起こしたのは、俺達では無い。ですが、結局手を下したのは他でもない俺達、ですか……コレが、贖罪だとでも?」

 

 目の前の墓に目をやる。粗末な墓だ。ここには、顔も知らない地球連邦軍海兵隊員(マリーン)の一部が眠っている。一年戦争の開始直後、ジオンの地球降下作戦における戦闘により壊滅的な打撃を受け、実質崩壊した海兵隊の数少ない生き残りは、爆発だろうか、猛烈な力により引き裂かれ、半身は吹き飛び、彼だと証明する物はブーツに挟まれたドッグタグだけだった。中尉が見た、ぐちゃぐちゃの肉片が彼だった。そこに人の尊厳はあったのか。それは、彼しか知り得ない。

 これは戦争で、ここでは戦闘が起き、ここは戦場となった。こちら側の死傷者も少なくは無く、命を拾う事が出来なかった者も多数いたのは事実だった。彼の様に、生きる事を無理矢理に辞めされられた者も少なくない。兵士は時に死ぬ事をも求められる職業ではあるが、彼に死の強制は無かった。ただ、運が無かっただけだ。

 軍の行動によって生じた問題の責任は、それを命じた者だけが背負う。命じられた者では決して無い。そうなっている。 しかし、それが九段の下の彼等に何の意味をもたらすのか。

 

 中尉は空を見上げる。昨日何度目の空だろうか。青い空に、白い雲が浮かぶ。凪いだ風。凪いだ海。白い泡。島嶼の緑は陽の光を浴びて輝く。どこにでもある風景だ。そして、どこにでもある死は、何故その時を選んだのだろうか。


 判らない。理解し得ない。それは当たり前だった。しかし。しかしだ……。

 

「それは違うな。違うだろうが、理屈としては、充分じゃないか。タフラック。彼は、運が悪かった。それだけさ」

「──充分?理屈?言うに事欠いて……!これは……!」

「……これは、理屈で済ませる様な、そういう話じゃない。そう言う話であってはいけない……そうでしょう?」

「そういう話だ……仕方が無い(ウェル・ゼア・イット)、仕方が無いのさ。そうだろう?何でもそうしてきたのが俺達(・・)じゃないか。理屈で以って非合理を成す。それが軍人ってものだろう」

「軍人、ですか……」


 

 いつの時代も、降り積もった亡骸が歴史となる。だが、彼等は。歴史からも忘れ去られたこの島で朽ちるのは、果たして。いや、兵士が、最期に人として、自然の一部として、土に帰れるのは良いことなのか。ヴァルハラがあるのなら、無名墓地(ポッターズフィールド)の意味もあろうが。

 中尉の耳元で空気を切り裂く音がした。視線の先には、宙を舞う小さな羽虫がいた。しばらく飛び回っていた羽虫は、海風に吹かれ焼け残った草むらへと向かい、見えなくなった。

 

「是非も無し。戦争の勝者は、ハエだけ、か……」

「……そんな事は、無い……」

「──軍曹……」

 

 聞かれていたのか。いつのまに隣に来ていた軍曹に、中尉はぼんやりとした目を向けた。そんな中尉の事を構う事無く、軍曹は続けた。
膝をつき、花を供えながら。

 

「……想いは、残る。例え……死に、その身体が……灰となろうとも……」


 

 先程の光景が蘇る。零れ落ちた涙。焦げた破片。それに意味を見出すのは、彼だけだ。
名も無き灰は、名乗らない。灰は、ただ燃え尽き、再び燃える事無く、降り積もるのみだ。

 

「その品が、朽ち……消え果てて、も。誰かが……生き、その想いを、忘れない……限り……残る……」

「誰かが……?」

「……本当に、大事に、すべきもの、は……形あるものでは、無い。想いに……寄り添う、遺された、心だ……」


 

 軍曹のスカーフが風に揺れる。まるで応えるかの様に。

 

「どこでどう死ぬか、その様な事でなく、如何に生きるか、だろう。本当の人生は。夢なんてかなえなくとも、この世に生まれて、生きて、死んでいくだけで、人生は成功だ。僕は心の底からそう思っている」

 

 軍曹の言葉を継ぎ、副長はそう締めくくった。自分より世界を知っている男達の言葉は、今の中尉にはまだ判らない事だらけだった。

 もう一度、墓を見下ろす。無機物で出来た、有機的であり、どこか無機質さを感じさせるそれは、果たして何なのか。墓は何も応えない。中尉は答えを見いだせなかった。

 

「……なぁ、軍曹……神を、信じてるか?」

「…そう、だな……人並み、には……」

 

──人並みに、いないと思ってるって事か。中尉にはそう解釈出来た。この世界に神はいない。信じる心の中にのみ存在し得るのが神だ。それを、軍曹は否定している。つまりはそういう事なのだろう。軍曹らしいと言えば、正にそうだった。

 

「ふむ。なんで居ないと思うんだ?居るかもしれないだろう?」

「…誰も、そんな事は…言っては、いない…」

 

 面白そうに笑う副長に、軍曹は顔色1つ変えず言い放つ。中尉はそれを見守っていた。軍曹の世界が知りたかったのだ。

 

「……副長に、中尉の言う神が、どんなものかは、知らない。だが……俺は、それに……頼らない。それだけだ……」

「──神は、居なくとも……人は生きて、死ぬだけか……」

 

 俺は、と言いかけ、中尉は口を噤んだ。言うべきなのか、否か、判らなくなったのだ。軍曹にとり、神はやはり人が救いを求める依代、逃げる方便、縋る何かなのだろう。それは正しいと言える。宗教で救われるのは足元だけだ 。信者がいると『儲』かる、と書く。神はこの世に居ない。個々人の心の中にだけいる。人間だけが神を持つ。神は人が作り上げたものなのだ。

 我々という存在を規定するのは、我々が持つ可能性ではなく、我々が持つ不可能性である。それが神なのかもしれない。結局、人は救いを求め宗教に縋るものだ。しかし、それは中尉の中の物とはまた乖離していた。中尉にとり神は信じるものでは無く、当たり前に存在するものであるからだった。森羅万象の全てを、神と呼ぶ。それが中尉の信仰だった。

 

「……居てもいいと思う。でも、まぁ、確かにきまぐれなものだろうから、それをあてにしても仕方ない、か……」

 

 人は1人1人違う世界の中で生きている。生きて行く。やはり、神は必要なのだ。今は居ない祖父の言葉が脳裏を過る。自分で出来る事は自分で何とかしろ、何でもかんでも神頼みするな、神サマとやらにゃ、『自分がマシに生きていけるよう見守っといて下さい』ってお願いするもんだ、あとは、自分で何ともならん事をちょびっとな、それで十分……優しい人だった。厳しい人でもあった。彼も神は信じていなかった様に思える。しかし、それこそが彼の信じる神そのものだったのだろうか。今はもう判らない。

 

「彼等の墓標に刻む言葉は、見つかったかい?」

「判らない。判りません。けれど……」

 

 風に吹かれたまま、中尉は腰の刀を鞘ごと抜く。膝を立て、眼を瞑り、凪の様な穏やかな心で金打をした。

 

 澄んだ金属音が、島を越え、海を越え、天空に響き渡る。打ち寄せる潮騒にも、吹き抜ける島風にも負けず、あの宇宙にまで届くかの様に。

 

 戦士の魂よ、宇宙に飛んで永遠によろこびの中に漂いたまえ。

 

 これが、戦い、力尽き、星となった男の墓標。

 

 その名前はわからなくていい。ただ、いつか、誰かが、ここを訪れた際、

この十字架に、俺と、俺達と同じ様に、その手をそっと合わせてくれればいい。そう、願った。

 

──死を忘るる事勿れ(メメント・モリ)。彼らを見て、中尉はまた思う。朗らかに、いつか来る死を受け入れ死ぬ為に、今は生きていこうと。

 

天地の

神にぞ祈る

朝凪の

海の如くに

波立たぬ世を

 

 彼等に、平穏を。せめてもの、心からの安らぎを。俺達には、それはまだ届かない世界なのだから。

 

 海風が頬を撫でて行く。風の辿り着く場所を知る事は不可能だ。それでも、巡り巡る風に、また会いたいと願うのは、人間のエゴなのだろうか。


『まだ死ぬ気はない。 だが、もし死ぬとしたら、時と場所は自分で選ぶ』

 

 

祈りに意味を持たせるのは、人である証か………。




ダンケルクを見ました。エンターテイメントでなく、淡々と語られる群像劇は良かったです。敵の姿がほとんど見えず、音と怯える映画でした。海の恐ろしさ、兵士の絶望、最後に残る希望、終わりを感じさせない静かな終わり。そんな映画でしたね。

今はミサイルが飛ぶ下で書いています。やはり、異常で歪です。何もしないのも、出来ないのも。当事者であるのに。それこそ、状況にふりまわされるしかないダンケルクの兵士達の様に。味方同士で撃ち合う様に、こちらに敵意を向ける敵を庇う人もいれば、日本が悪いという人もいます。俺にはわかりません。

やはり、もし人類共通の敵が出て来ても、それに滅ぼされる前に内ゲバで人類は滅びるんじゃないかと思いますね。悲しいですが。目の前の問題より好き嫌い、自分の事、この後の事、損得……。わかりやすい驚異を前に自国民ですら団結出来ないのに。この国は本当に何が出来るのか。不安だらけですね。

ただ、生きる為に出来る事はします。食べ物飲み水を用意して、頑丈な建物、地下や半地下の場所を確認してます。皆さんも気をつけてください。命あっての物種。まず生きる事、それだけですから。


次回 第七十一章 蜃気楼に霞む辺土より

「それは幸せな事だよ。誰もが思い通りの人生が送れるなら、誰も神に祈ったりはしないさ」

ブレイヴ01、エンゲー、ジ?


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第七十一章 蜃気楼に霞む辺土より

生きるって大変ですねぇ。


世界の果ては何だろうか。

 

刻の果ては何だろうか。

 

物事全てに終わりがある。

 

ならいずれ、この世界も終わるだろう。

 

遥か彼方の可能性の先、終わりは確実に訪れる。

 

しかし、それは決して終わりでなく、新たな始まりそのものなのだ。

 

 

 

──U.C. 0079 9.28──

 

 

 

 空気に霞む程長く続く廊下は、まるで終わりがないかの様だ。中尉はふと振り返りたくなり、そしてやめる。前に広がる風景と同じ様な風景が、変わり無く続くのだろう。グレーを基調とした無機質な床。等間隔に並ぶ扉と、ここが潜水艦の中である事を唯一教えてくれる大小様々な太さの配管がうねる壁。時折顔を覗かせる隔壁。一定の間隔で光を投げかける電灯、それを貼り付けた天井。殺風景な景色に色を添える警告灯と赤色灯は、今は沈黙を保っている。注意書きは掠れも無く、綺麗に磨き上げられている。見慣れたものの塊は、一見すると高層ビルの廊下とあまり変わりはせず、何気無い当たり前のものに見えなくも無い。しかし、当然であるが窓は無く、余計な鉢植えや絵画等も飾られる事は無い。それだけが、この空間の異質さを演出していた。

 艦とは巨大なビルが浮かんでいる様なものだ。空母等に至っては豪華客船等の様に小さな町が浮いているとも称される。しかしながら、潜水艦に対する表現は聞いた事が無い。潜水空母に至っては尚更だ。それなら、俺が形容しよう。潜水空母の中は、"コロニー"の外縁部の中の様だ。無音と、闇。それだけだ。

 

 それにしても、と一緒に歩いていたおやっさんが切り出す。歩きながら、何の気なしに口を開いた。まるで読んだ小説の感想を述べる様に。非現実(フィクション)の内容を語る様に。中尉にとってもそうだった。まるで、自分が群像劇の一員の様に思えてくる様な内容だったからだ。皮肉にも、それは今の自分の立場にも言える事であったが。

 最新鋭の特殊秘密兵器を乗り回す、弱冠19歳の中尉。うん。安っぽい三流小説にはピッタリだろう。低予算映画でもいい。どのみち非現実的でバカバカしい。噛ませにピッタリだろう。だが、事実は小説よりも奇をてらうのを好むものらしい。中尉は最近になって漸くそれに慣れ始めていた。慣れるべきなのかどうかはともかく。それでも、時々悪い夢を見ている気持ちになる。今もそうだ。苦笑を1つ。頰をかく。

 

「まるで革命だ。特権階級(ノーメンクラツーラ)を振りかざしてたヤツらを捕縛して、か」

「地上戦終盤に見られた戦闘光はそれだったようです。ジオンも、やはり一枚岩ではないと言う事ですね」

 

 古来より戦争に内部抗争はつきものだ。誰もがその非日常を利用し、自分の立場を上げようと躍起になる。戦争はまさに自分が主役になるチャンスだと思うらしい。余程余裕があるのだろう。または死なない自信があるのか。中尉には判らなかった。判りたくもなかった。中尉にとって、戦争は戦争以外の何物でも無かった。それ以外の意味を持たしてはならない物だった。

 命のやり取りの途中に、その様な事に気を配り、目的を果たす余裕は中尉にはとても無かった。それはある種幸運であると呼べるだろう。自分にとっても、他人にとっても。

 

「戦闘部隊はキシリア直属の私兵部隊に近い特殊部隊だそうです」

「キシリア……キシリア・ザビですか。ザビ家の私兵、ねぇ……」

「家柄や出身で差別された若者を集め、汚れ仕事をさせる。その上で、戦果をあげればエース部隊への配属を約束する。言うなれば特別競合サバイバル部隊。通称は"アインザッツグルッペン"、または"ゾンダーコマンド"。呼び名は色々だそうですが」

「……それは、組織の……縦割り、だな。聞いた事が、ある……」

 

 上等兵の話に耳を傾けながら、判りやすいが悪趣味だと思った。特殊部隊と言う言葉の本来的な使い方としてはコレが一番早かったのでは無いだろうか。あらゆる人の想像する特殊部隊とはかけ離れてはいるが。勿論、我が"ブレイヴ・ストライクス"もそうだ。極秘の試作兵器を実戦で試験運用するなんて、それこそ小説みたいだが。普通はそんな事しない。リスクが大き過ぎる。無駄も多い。だが、それを押し通す必要があるくらい追い込まれてるという事だ。中々に末期である。

 ふと思う。機密保持の為に敵を殲滅する"ブレイヴ・ストライクス"も、同じ穴のムジナなのかも知れないと。俺達の存在をもし敵が知った時、彼等はなんと形容するのだろう。また、後の世は、この部隊をどう評価するのだろう。この戦争は、どちらが勝つのだろうか、それで俺達の評価は決まるだろう。今は勝つしか無い。歴史の闇に葬られた方がマシかも知れないからだ。

 

「まぁ、存在自体が一種の懲罰部隊でもあるからな。そんなもんは古今東西ずっと軍隊にはつきものだ。連邦軍にだってある。Zbvの連中だな」

「……研究所まで襲ったのは、スペースノイド至上主義の思想故か」

「それにしても、差別、ね」

「地上から宇宙に上がってもそれか。嫌になるな」

「ま、広い宇宙に浮かぶコロニーは島国以上の閉鎖空間だ。避けられん話だろ」

 

 その暗い考えはおくびにも出さず、長い廊下を歩き、ようやく目的地に辿り着く。ドアを押し開けると、一気に喧騒が広がった。この"アサカ"が誇る大食堂の中でも一際大きい所だ。中尉達も1番利用する。そして、なんだかんだ秘密の話にはうってつけだ。

 食堂はいつも大賑わいだが、今日は特別混んでいる。戦闘前に酒保(PX)が解放されるのは海軍では時たまある事らしいが、戦闘後は聞いた事無い。まぁ大方作戦成功の祝杯か生き残った記念だろう。いい事だと思う。生を実感するのはやはり食べる時だ。食べ、己の血肉とする。モノを『いただく』とはそう言う事だ。その言葉は礼儀であり、生きる事は殺す事であると言う呪縛への真言(マントラ)でもある。

 それにしても、補給無しに連日このどんちゃん騒ぎ、大した備蓄量だ。潜水艦の食料事情もかなり改善されている事が見て取れる。いやこの艦だけか?瓶の酒など重量や体積も嵩むだろうに。お祭り気分で振り回され、雫が撒き散らされるアルコールを横目に、中尉は妙に感心していた。

 

 浮かれた雰囲気の中、中尉達に気を止める者はいない。食って酔っての大騒ぎ、音と動きが絶えない中で、気配を消しているから尚更だ。今晩の食堂は、いつにも増して騒々しい。まさに音の洪水だ。もはやどこで誰が何を話しているのか全く分からない。給仕担当の兵士から、ポーカーに興ずる者まで食堂の至る所であらゆる人間が喋っていた。全体の音量が上がれば、雑音の中でちゃんと声を届かせようとますます声を大きくし、加速度的に喧しさは増していくものだ。仕方ないだろう。それでも怒鳴り合いや喧嘩が無いのは艦長の人徳か。艦長の意向で食堂やPXに上下関係は持ち込まない事になっている。その気の緩みが良い方に働いている様だ。それにしても、上下関係は無し、か。まぁ、ラムネ製造機とアイスクリーム製造機はいつも長蛇の列が出来るしちょうど良いのかもしれない。その列に並ぶ機会に話を聞く事はよくあるそうだ。中々によく出来ている。やはりあの艦長は安心して命令を聞くに値する立派な軍人だ。それはとても幸運な事だった。

 食堂の奥まった席に腰を下ろす。1人机に突っ伏している先客が居たが、問題は無かった。伍長だ。目の前には空になったパフェのグラスがスプーンと共に複数転がっている。判りやすいヤツだ。席に着くやいなや、軍曹が人数分のコーヒーを淹れる。いつもながら恐ろしい手腕だ。緩やかに立ち上る白い湯気を眺めながら、中尉は別の事を思い出していた。

 

「む、と言う事は、その中に、特権階級の中では低階級とは言え、そのようなヤツらが紛れ込んでたって事か?」

「酷い話だ。しかし、この戦争をのし上がるチャンスだと捉える者も少なくなかった、と」

「…その様、だな……」

「仕方なかろう。宇宙移民は元々からその側面が強いんだ。何せ、地球とは違って何も無い空間に生きる環境を作ってんだ。先ずは先立つ物、何事も金、それが全てよ。金が無いと本当に生きられないんだからな。宇宙への植民を転機だと飛びついた多くの連中が、人類の進歩の為の礎と言う大義名分の元、苦しみながら死んでいったんだよ」

「旧世紀の大航海時代や植民地時代、帝国主義時代を更に加速させた時代と何も変わりません。それは酷いものであったと聞き及んでいます。人類が、地球までもがそれ程切羽詰まっていたと言う裏返しでもありますが、それこそ搾取と呼べるレベルです。だからこそ棄民(・・)政策と揶揄されたのです」

「ギリギリの環境だから、かつては"サイド"にもよるが課税がトンデモ無かった時期があったとか聞いたな。『空気税』なんて子供が言いそうな事が平然とまかり通ってたらしい。今もある所にはまだ根強くあると聞くしな」

「正に、歴史は繰り返す、ですね」

「悲しいがな」

 

 教科書には載っていない話だ。噂程度には聞いていたが、やはり実態はその噂よりもかなり酷いモノだったらしい。中尉は小さく身震いする。自分の周りだけ室温が数度下がった気がした。熱いコーヒーを口に含むも、その寒さは消え去る事は無かった。勿論気の所為だが、全てを拒絶する宇宙の空恐ろしさを感じていた。明るい食堂の雰囲気が、その上に成り立つのを改めて自覚し、見回す。自分がいかに恵まれているのか、それが判る気がした。その上でこの空気を、この贅沢を悪い物とは思えない。やはり自分は、あらゆる人と同じ傲慢さを持っているのだろう。

 中尉は併設されているPXに目をやる。生活必需品から生活雑貨、装備、食料品、嗜好品、雑誌等が数多く取り揃えられ、多くの将兵で賑わっている。そんじょそこらの店なんかより遥かにあらゆる品を取り揃えている。首都の一等地に立つ商店だって顔を青くするだろう。それこそ紛争地帯に近く、物流の滞った地域に住む住民や、居住地を破壊された難民、闇市しか知らぬ戦災孤児などからすれば輝く宝の山、手の届かなかった夢にまで見た物、いや、想像すら出来無いものだらけだと思うだろう。しかし、それは自分達にとっては、今口の中を回っている見えない現実と共に、ありふれた何でもない日常なのだ。それでもあれこれ文句をつけるのが人間だ。

──特権階級。先程の単語が頭をよぎる。自分はそうでは無いと否定した中尉は本当は理解していなかった。中尉は自分が確かに恵まれている方だとは思っている。しかし、世界的に見ればこの上なく自由で幸福な人種であり、その様な環境に身を置いた市民階級に類される存在である事を、中尉はまだ理解しきれていないのである。

 中尉は設備の整った病院で、祝福と共に生まれた。親兄弟に恵まれ、飢える事無く、死の恐怖を感じる事も無く、健康で文化的な生活を送り、発展した社会の福祉と教育を受け、高度な教育を受ける権利を行使し、結果士官として従軍している。これは宇宙世紀であっても尚、人口で見れば上位数%しか享受出来無い環境である事に間違いは無いのである。

 

 因みに、PXは、本来軍事郵便局(APO)、海軍ならFPOになっているものを指す。その事から、陸軍および空軍は、BXと称し、海軍はNEX、海兵隊の場合はMCXと呼び表される。だから"アサカ"戦隊の様に、様々な軍が複雑に絡み合っている場合は総称を用いる場合が多い。と言っても末端はそうでなく、軍の垣根を超えて仲良くなろうとして、言葉やスラングが通じないなんてザラである。

 つーか、そもそも空海陸宙海兵隊で文化が大きく違う為驚きの方が多かったりする。イメージとは違い、実は海軍は酒の持ち込みが厳禁だったりするし。この艦は上記の特別な理由で例外中の例外だが。この艦にいると、色々と感覚が狂いそうだ。特別特殊例外の塊だ。本来なら俺がいる場所では無いだろう。これも偶然の産物か、運命のいたずらと言うヤツか。全く笑えない。楽しめればいいが、中々そうもいかない。平時ならともかく、激戦が宿命づけられているならなおさらだ。だからこそ、この特殊性はあるのであるが。

 

「んー……さっきから聞いてましたけど、よくわかりませんね。わたしは今が幸せですし。前もそうでしたから」

「それは幸せな事だよ。誰もが思い通りの人生が送れるなら、誰も神に祈ったりはしないさ」

 

 むくりと顔を上げた伍長は、突っ伏している姿勢は変えぬまま、それだけボソリと呟いた。軍曹が差し出したココアをチビチビと飲み、伍長はそれ以上口を挟むつもりはなさそうである。他に言う事も無い程、彼女の根底から来た言葉なのだろう。目を細める彼女の髪を軽く撫でながら、中尉もそれには同感だった。

──人は配られたカードで戦うしかない。多くは求めない。人生はそう上手くいかない、ままならないもの、それを楽しむ事。それが幸せの秘訣だと思っているからだ。妥協と言い換えればそれまでであるが、妥協が出来る余裕を持てる幸せを持っているのだった。それが持つ者だけが持ち得る傲慢だとしても。それを自覚し、目を背けながらも、中尉にとってそれは重要な事だった。

 慎ましくあれ。そうあると思い込む事で、自分の可能性の限界と言う恐怖を抑え、持たざる者を理解し得る理解者であると錯覚しようとしているのだった。そうして、その本質から眼を逸らす。考え過ぎない事。自分を追い込まない事。自分の立場を偽り、鈍感になる事。人は生きて行く上でどこかで諦め、妥協し、鈍感にならねば生きてはいけない動物なのだ。これこそ、どうしようもなく世界に蔓延する哀しみに対する彼の防衛策なのであった。

 

 その思念の数はいかに多きかな、我これを算えんとすれどもその数は沙よりも多し……社会はあまりにも複雑で、多種多様な人間が星の数程の主張を訴え、ありとあらゆる物を消費し、それを忘れる事で成り立っている。

──もしかしたら、それを深く考えず、仕方が無いと受け流し、忘れる様になる事を『大人になる』と言うのかも知れない。身の丈の程を知るのだ。自分はちっぽけな存在で、出来る事は限られていると言う事を認める日が来る。それを重ねて行く事が大人への階段なのだろうか。

 だから、中尉は、手の届く範囲を守ると決めたのだ。それを守る為なら、何でもやると。全ての人々を満たす事なんて出来無い。ましてや世界を救う事なんて出来やしない。少なくとも今は、今のままでは、自分では。なら、後は自分の妥協点を見つけ慎ましく暮らすと決めたのだ。それがたった1つの冴えたやり方なのだと。そう思う事にしたのだった。

 

「外人部隊や、傭兵、貧民街の出も多いそうです。アースノイドも大体はここだそうです」

「実力だけがモノを言う、と言う形にしたのか」

「ヤツら口々に"グール"や"マルコシアス"の連中には遅れをとりたく無い、と」

「"マルコシアス"……?」

 

 口に出してみる。"屍喰鬼(グール)"に、"マルコシアス"。イヤな響きだ。他にも"フェンリル"、"マッチモニード"、"キマイラ"等数多く居るらしい。しかし、"マルコシアス"、か。全ての疑問に正しい答えを出す存在。その回答は、恐らく人間には正しいが、その正しさ故に人間性を失わせるものなのだろう。かつて、その開発が著しく制限されたAIの様に。正しさが常に人に味方をするわけではない事を、人はコンピュータとの対話を通し身を以て知ったのだ。限りなく自然から遠い自然である人と、限りなく人に近い人ならざるコンピュータは、それでも人に迎合し、しかしながら、自然になるには硬すぎたのであった。

 それは、それだけ人は非合理的な存在である事の裏返しであるのかも知れない。結局、人は我が身が可愛いのだ。そして、機械にはなれない。人は人以外には何にもなれない。もしかしたら、人が想像する人にもなりきれないかも知れない。社会主義、共産主義が失敗した様に、完璧にもなれない。人を作り育てるのが人なのだから、当然と言えばそうだろうが。

 また、限りなく合理的に近づけた先が、余裕や無駄という人間味を極限まで削除し、人間性を失わせるものだと気付いたのだろう。

 

 人が人であり続ける事は難しいが、人は人以外の何物にもなれないのである。それが生物としての人の限界と、人としての人の限界なのである。何かを求め、人である事に限界を感じた時、人は人である事を止め、人以外の何かに近づく事は出来る。しかし、その何かに完全になりきる事は出来無い。あくまで近づく事しか出来無いのだ。しかし、そこから人に戻る事もまた不可能なのである。人は、人であるからこそ、人なのである。人で無く、何ものでもない何か。それはなんと呼ぶべきなのだろうか?

 人に成れなかった人、人である事を諦めた人、人である事を止めようとした人、人である事を手放してしまった人。人、人、人……人が人の人としてのゲシュタルトが崩壊した末路は、歴史が存分に語っている。

 

「…悪魔、か」

「──獣さ。とんだ怪物(モンスター)だよ」

「また、実験部隊の側面としてもあったそうです」

「…"マッチモニード"、だ。キシリア・ザビ、の…私兵……カバーネームは、局地戦戦技研究特別小隊…」

「きょく…なんだって?」

「局地戦戦技研究特別小隊、だそうです」

 

 ウチらと似た部隊か。やはり向こうもMSという兵器の可能性を見極めているのか、それとも未知の兵器に振り回されているのか。ノウハウこそこちらより蓄積しているだろうが、まだMSは生まれたばかりの兵器、歴史の無い兵器だ。十分に考えられる。ただ問題は、羊の看板が本当に正しいのか、だ。世の中には羊も、狼も、羊の皮を被った狼もいる。俺達は、番犬(バンドック)になれているいるのだろうか?

 

「──まさかとは言いませんが、子供兵士のですか?」

「いえ、未だ確定情報は無く、情報不足で詳細は不明です。ですが」

 

 此処まで歯切れの悪い上等兵も珍しい。中尉は頰をかいた。ふと思う。兵士の適齢期はいつなのだろうか。やはり10代後半から20代前半なのだろうか。しかし、その黄金期、最も優れた期間に何を学ぶべきなのだろうか。それは決して、人の殺し方では無い筈だ。ならば何か。生かし方か。人の死に耐える事か。理不尽を呑み込む事か。そんな事ではないと思う。そう考えると、余程の物好きだろうと軍に入るべきではないとしか言い様が無かった。

 

「──"フラナガン機関"。確かに、そう言った…のか……?」

 

 珍しく言い淀み、小さく呟かれた上等兵の言葉に、反応したのは軍曹だった。

 

「知ってるのか?軍曹」

「……あぁ。あまり、いい噂は…聞かない、が……」

「俺も聞いた事があるぜ?なんでも、NTの軍事利用の研究を行う独立セクションらしいが…」

「ニュータイプって…」

「伍長もそれくらいは知ってるだろ」

「も、勿論ですよ!」

 

 本当か?怪しいもんだ。ただの概念だったハズだ。誰もその本質は理解していないだろう。かのジオン・ズム・ダイクンさえも。彼自身も、スペースノイドの希望たる象徴として提唱しただけのハズだ。そんな彼は、今をも引き摺る禍根だけを残し、死んじまったし。

 

──ニュータイプ(NT)

 

 それは、ジオン・ズム・ダイクンの提唱した、人類の新たなステージ、宇宙に適応進化した新人類。棄民では無く、スペースノイドの希望。ジオニズム思想の根源。

 重力の井戸の底を抜け出し、宇宙に出た人類の中で、精神的な感応、超感覚、認識能力の拡大、並外れた動物的直観、未来予知、高度な空間把握能力を持ち、常人離れした洞察力で精神的、肉体的にモノの本質を感じ取れる力を持つ者が生まれると予言された。広い、それこそ果てしない宇宙に適応した新人類が生まれると。彼等はそれらによる相互理解により、戦争を根絶させる者となるらしい。理想は素晴らしいが、エスパーの様な都市伝説の何かとしか思えない。

 そんな夢の様な、雲を掴む様な物を軍事研究?全く馬鹿げている。それとも、そんなものに縋る程ジオンは切迫しているのか?旧世紀でも繰り返し行われて来た末路の様だ。超能力者の軍事利用と何が違うのだろうか。奇術(マジック)を軍事利用していた国もあったが、あれこそ科学そのものなのだ。それとはベクトルがまた違う。

 政治的な観点から見れば、ジオンの実質的主導者、ザビ家の頭領であり、かつて、ジオン・ズム・ダイクンとは政敵でもあったデギン・ソド・ザビに代わりジオンを率いるギレン・ザビはスペースノイド至上主義における選民思想の根拠としてこの概念を利用している。かつての政敵の息子が、自分の主張を歪め、戦争に利用していると知ったら、彼はどう思うのだろうか。噂に聞く、彼の遺児は、どう思っているのだろうか。俺には判らない。選ばれし民としてのジオン。人類の優良種たるジオン。ジーク・ジオン。

 

「やはり、どうも胡散臭いな……俺からも調べてみる」

「僕も行こう。好きに使ってくれたまえよ」

「あ、はい、おやっさん。副長も。お疲れの出ません様に」

「あいよ」

 

 物思いに沈む中尉を他所に、コーヒーを一息に飲み干したおやっさんが、立ち上がりながら言う。副長がそれに続いた。その顔はこの場所には相応しくない険しい物だった。

 深く濃い色のサングラスの奥の瞳は、恐ろしい程の冷たさを湛えている。それは暗い水底の先に、巨大な氷塊が揺れるかの様だった。何か思う所があったのだろう。煙草に火をつけた副長も似た顔をしていた。しかし中尉には止める術も理由も何も無かった。だからこそ、命の恩人で人生の恩師である人を、黙って見送るしか無かった。

 中尉は立ち上がり敬礼をする。軍曹も敬礼をし、上等兵は頭を下げた。伍長は相変わらず突っ伏している。叩き起こそうとしたが、背中にも目がついているのか、立ち去るおやっさんに止められたので頭を下げる。申し訳無さでいっぱいだった。

 

「副長方は行ってしまいましたが、私達は食事にしましょう」

「……そうですね。慌てても今は仕方がありませんし、何より、腹がすいちゃしょうがないですしね」

「…そうだ、な……」

「食べられる時に食べておかなけりゃ、いざって時に何も出来ませんから、ね──それこそ、逃げる事だって…軍曹は?」

 

 席を立ちながら言うと、軍曹は首を横に振り、懐からいつものレーションを取り出した。中尉は苦笑し、そのまま上等兵の差し出したトレーを礼を言って受け取り、列に並ぶ。老若男女、それこそ上から下までのありとあらゆる階級が煮込まれたスープに身を投じる。順番を譲ろうとした水兵に手を振り、その後ろに並ぶ。割り込みや階級を振りかざすのは性に合わない。何より艦長がそれを禁じていた。いい事だと思う。

 混んではいたが、列は直ぐにはけ、中尉の番が回ってきた。奥で小競り合いが聞こえる。間に割り込んだだの、サングラスをかけるなだの。中尉は苦笑する。言ってやれ。コレ(・・)が安全装置だと。その人差し指で頰をかき、窓口でトレーを差し出しながら、中尉は数時間振りの言葉を口にした。

 

「ハムバン下さい」

「またかい」

 

 補給係の呆れ顔には笑顔で返し、ご馳走の乗ったトレーを受け取る。好きなのだから仕方が無い。気に入っているものは食べたくなるものだ。あれでいて栄養バランスも中々なのだし。席に戻ると、困り顔の上等兵と、笑顔で目を輝かせている伍長が待っていた。

 

「まだ食うのか?」

「甘いものは別腹です!」

「そうか。で?それは?」

 

 立ち上がり、両手を広げた伍長の前には、こんもりとした丘のような光景が広がっていた。なんか見た事ある光景だ。寿司の悪魔的な。

 伍長のトレーを埋め尽くさんばかりの料理の山は、とても一人分の量とは思えなかった。なんで大盛りのカツカレーとうどんが同じトレーに仲良く並んでいるのだろうか。その隣の何らかの豆と…何?桃?そしてスパム?は何だよ。量共々悪ふざけの産物としか思えん。ここは学生街の食堂じゃねーんだぞ。いやそれ以上に食う連中がたむろしているが、相手を見ろよ。いや頼まれたら断り辛いのかね?

 

「そしてカレーも飲み物!!別腹です!!なのでカツカレーうどん定食です!!」

「私のはクリームシチューうどん定食だそうです」

「ふっふー!おそろいです!!」

「えぇ…?」

「……」

 

 凄まじい量を前にして、2人とも当たり前というか、涼しい顔をしているが、本当に2人とも食べ切れるのだろうか。不安だ。かなりの量に見えるんだが。残しても勿体無いし、無理して食べて体調を崩されても困るのだが。軍曹と顔を見合し、中尉は溜息をついた。頰をかくと、人差し指に水滴がついた。知らぬ間に、汗が一雫、流れ落ちていた。

 カレーは飲み物。それをリアルで聞く日が来るとは。もしやらガラスもギリ飲み物か?勘弁してくれ。

 

「うどんはじょしりょくをあげるんですよ!小麦粉とかねぎとかオスシだとかが入っていてよくわかりませんが身体にいいらしいですし!おいしいものを食べてこその人生です!」

「さいで……上等兵も、無理はしなくていいんですよ」

「いえ、大丈夫です」

 

 訳の判らない主張に中尉は対話を諦めた。スシソバじゃあるまいし、流石に寿司は入ってないだろう。まぁいいか。本人が良かったら。他人への干渉はなるべく避けるのが吉だ。俺がどう思おうと関係無い。一旦彼女がやると決めたなら、難しい話だの何だのは、くだらない事なのだ。彼女が幸せならいいのだ。周りに迷惑をかけなければ。自由とはそう言うものだ。雨の中踊る人が居ても良いのだ。ただ、隣の人に手を当てない様振り回せばいいのだ。

 全員で手を合わせ、食事に取り掛かる。美味しい。幸せだ。こんな単純な世界で生きて行けたらどんなにラクで、世界は平和だろうか。いや、それこそ驕りか。

 

「じょしりょくは破壊力です!日本にもいるんですよね?なんでしたっけ?……きどう?」

「機動?」

 

 破壊力も判らないが機動?と来た。なんだそれは?俺の知らん日本だ。

 

「宇宙……」

「宇宙!?」

「……大和撫子、か?」

「それです!要塞拳法です!秘伝の神業!」

「なんの話ですか?」

「伍長の明日使えないめちゃくちゃなうろ覚え日本語講座です」

 

 戦艦は女性名詞だったなそういや、そんな事をぼんやり考えながら中尉はハムバンを齧り、既に食事を終えた軍曹が豆を挽くのをのんびりと見ていた。全ては挽き方。荒すぎても細かすぎてもダメ。これは科学なのだと、以前誰かが言ってたな。

──科学か。料理は科学らしいよな。いや待て、人の行為に科学が関係しないものなんて無く無いか?人の存在そのものが科学とは切っても切れん訳だし。つまり科学で説明出来ない事は無い。つまりオバケもいないって事かね?いや、魂とかそう言うのもいずれ科学で説明出来る様になんのかね?タンパク質に走る電気が精神と言うのは判る。21gが魂の重さってヤツは否定されたが、ロマンチックではあると思う。科学者は夢想家であり哲学者でありリアリストでありロマンチストだ。それでいいのだ。

 

 伍長と上等兵はそのまま一人前のレディになる為には、と言う話題に華を咲かせている。いやQ&Aコーナーと化している。会話に夢中になった伍長の手が止まっている事以外、全くの平和と言うヤツだった。

 相変わらずの喧騒の端で、切り離された様にのんびりと時間が流れる。時折声をかけられ、軽くを手を振り挨拶するだけの時間。この様な時間を持てた事には、中尉は緩やかな満足を覚えていた。ゆっくりと飯を食うのが贅沢に思えるとは、自分は結構安上がりらしい。程度の低い自己満足だが、やはり軍にいて、前線にいればその機会は格段に減るから仕方がないと言ったらそうかも知れない。思い返せば、コクピット内での飲食は相当多い。予定が合わず、1人で食べる事も多々有る。別段独りでの飯が苦手な訳でも無い。むしろ単独行動は自分の責任のみを自分で負えばいいと言う観点から気楽であり、中尉は好む傾向にあるが、揃って顔を合わせて食事する事自体久し振りだったのであった。家族で食卓を囲むのが好きだった中尉にとり、それも幸せの1つだった。

 

「軍曹ーお腹がーうどん食べて〜」

「……いただこう……」

「あの」

「軍曹、手伝うよ。上等兵も、嫌な時は……」

 

 そして案の定である。しかし、少々困り顔の上等兵も、どこか楽しそうであった。差し出された伍長のうどんと上等兵のクリームシチューを取り分けながら、中尉は頰をかく。

 

「──いえ、はい。この様な事は初めてで。でも、少し、いえ、楽しくて」

「そうですか」

 

 そいつはよかったと頰を緩めると、上等兵も薄く口角を上げた。伍長も気づき、あははと笑い声をあげる。眺めていた軍曹は息を吐くと短く瞳を閉じた。食事は、賑やかな雰囲気と共に進む。ゆっくりと。だが確実に。

 

「上等兵さんすごーい!ずぞぞーが出来るんですねぇ!!」

「え、えぇ……」

「……珍しい、な。いい、事だ……」

 

 カチャカチャとやや耳障りな、だが楽しげな音を立てながらスプーンでカツと格闘していた伍長が、ゆっくりとうどんを口に運ぶ上等兵を見て目を丸くし口を開いた。思わぬ事で2人から褒められ、少し頬を染める上等兵。珍しい事もあるものだ。カツカレー美味いけど俺はメンチカツがカレーに乗っけるのには最高だと思う。衣があるハンバーグじゃんアレ。スプーンでもやすやす切れるし美味いからベストだと思ってる。個人的にだけど。あ、唐揚げもいいな。だがシーフードは嫌だね。特にイカ。

 そういや、確かに麺類を啜るのは外国人にとって技術的にもマナー的にも敷居が高いらしいが、流石は上等兵だ。因みに伍長はこの前盛大に咽せてた。麺が鼻から出てたのは武士の情けで言わなかったが見てた人いるだろな。自称日本通の少尉も右に同じである。軍曹は俺より箸が上手い。この前伍長にせがまれ、機械の様な正確さで米粒を箸でジャグリングしてた。俺左手でスプーン使えないんだけど……。

 うどんを啜りながら中尉は気づかず微笑んでいた。心の底からの笑いだった。一息ついた中尉はコップを傾け、水で喉を潤す。そして、眼を瞑り、小さく、誰にも気づかれない程度に乾杯をした。

──作戦の成功を、部下に祝杯を、この平和に、そして、散って逝った勇気ある戦友と名誉ある敵に。

 

 休息に身を任せていた"ブレイヴ・ストライクス"隊員に召集がかかったのは、食休みが終盤に差し掛かり、少し瞼が重くなりかけた時だった。

 

 

 

「ペラペラ喋ってくれたよ。それも誇らしげに。何でも"M資金"と成り得る献上品を探していたとの事だ。"M資金"についてはもう知ってるだろう?噂にもなっているアレだ」

 

 薄暗いブリーフィングルームに副長の声が響く。マイクのスイッチを顔を顰めて切り、口に手を当て小さく咳をする。狭い室内、軽く圧迫感を与える壁にぼんやりと光を投げかけるスクリーンの前で、副長は手元のリモコンを操作する。

 

「……"M資金"は、噂では…なかった、と……」

「成り得る、ですか?」

「つまり、"M資金"は1つではないのか」

 

 艦長は隅で眼を瞑り、腕を組んでいる。目深に被られた帽子の下の表情は伺い知れない。デスクに腰かけた"ブレイヴ・ストライクス"の面々は、電子ペーパーで配られた資料に眼を落とす。殆どが強度の補正がかかっているが、かなり画質の荒い写真だ。特にノイズによる砂嵐が酷い。全くの素人が見たら、ただのデータ損壊に見える様なものまである。

 ジャミングかミノフスキー粒子の影響だろう。そのどちらかか、はたまた両方か。それにしても酷い画質であった。恐らくデータ復元にも問題があったと考えられた。ウチの部隊では無い。いや、データそのものの古さも考えられる。何にせよ、参考程度にしかならないものだった。中尉は唸る。これじゃ等高線が入っていようと谷か山かも判らん。頭が痛くなってきそうだ。

 

 ミノフスキー・エフェクトはあらゆる電子機器に障害を及ぼす。それは光学機器も例外では無い。電子的に画像を捉え、変換し、保存するデジタル画像は特にそうだ。また、レーダーを始めとし、シーカーや赤外線センサー等も使用する波長によっては制限がかかる場合もある。特にMSのスクリーンに投影される画像は多数のセンサー類が3D処理を行ったものであり、この影響をモロに受ける。中尉が多少不便でもリアル画像に拘るのはこの点からだった。

 例えば、低出力かまたは極高出力で発振した"ビームサーベル"は、ミノフスキー粒子の干渉によりビーム刀身からの可視光及び赤外線が著しく減退、拡散し、大気状況によっては殆ど見えなくなる場合がある。カメラを通せば、その現象はさらに加速的なものとなる事も発見された。後退圧縮され、運動を続けるメガ粒子こそ淡い独特のスペクトルパターンを発するが、メガ粒子を封入するIフィールドがその光を乱反射させる為、容易な可視化を困難な物にしてしまい、"ビームサーベル"本体から空間そのものに刃が拡散している様に見えるのだ。勿論、メガ粒子の出す光は様々な要因により色が変わって見える為一概には言えないが。一例として、大気状況や空間状況、リアクターやエネルギーCAP、そしてビーム加速器や出力等の違いが顕著で、ジオン製は濃い黄色、連邦製は明るいピンクに近い色に見える傾向がある。これは敵味方の識別にも使われる位だ。これらはある程度操れるが、無駄であると言う観点からあまり研究が進んでいない。まぁそんなもんである。戦場を色鮮やかに彩る必要は無い。ただでさえ曳光弾の様に目立つビームだ。自分から目立つのは死にたがりのする事だ。

 

 ところが、中尉はその現象に注目、"ビームサーベル"を不可視化させ、相手に脅威を与えない、間合いを掴ませないように出来ないか、と言う事を提案した。勿論不可視の刃物など危険極まり無く、それが"ビームサーベル"であれば尚更であり、自機を切り裂く可能性は跳ね上がるだろうと指摘された。しかしそこはおやっさんがエミッター及びリミッターを各種センサーやOS、モーションマネージャー等と連動させその確率を減らす事が出来るだろうと言う助け舟を出し、中尉としては自分が武術をしている立場から、不可視の武器の威力はそれらのデメリット以上に脅威であり、かつ有効な手であると判断したからだ。

 しかし、研究は難航した。主にIフィールド操作技術が未発達である点が1つ、もう1つは発振した"ビームサーベル"のメガ粒子が粒子収束フィルターのコンディションの影響をモロに受け、かなりスペクトルパターンに差が出てしまう点であった。やや発光を抑える程度の成功は収めたものの、完全な不可視化は不可能に近く、大気状況によっては逆に強烈な光を出してしまったり、そもそもその現象を故意に起こす事すら困難であった為、研究自体は細々と続けられているが、実用化は現実的でないと言う烙印が押されていた。

 現時点で判明した事は、いずれIフィールド制御技術が更に発達すれば、時空間的にIフィールドを投影、制御し、残像やスクリーンの代わりにする事が出来るかも知れない、それどころか物質を自由に動かせる様になるだろうとの事である。また、Iフィールドの性質から、メガ粒子を拡散させたり、反射または逸らす事も可能であるそうだ。しかし、フィールドモーターやミノフスキー・クラフトの様に実用化に成功したパターンはごく稀であり、この研究についてはそれが果たして軍事技術になり得るのかはまた別の話でもあった。フィールドモーターはごく限定された閉鎖空間のみの制御であり、ミノフスキークラフトは逆に解放空間ではあるが精密なコントロールは不可能で、物体もある程度の面積が必要である。今の技術でも数を用意すれば雲をスクリーンに映画上映会でも出来るだろうが、それが一体どうしてなんの役に立つのやら。対ビーム防御技術としても、低出力ビームやレーザーならともかく、軍の高出力ビームを打ち消すのは現時点では現実的ではない。受け流す、反射するのは比較的簡単に出来るかも知れないが、それでも常時展開するにMSには搭載不可能な莫大な出力のリアクターが必要になるだろう。戦艦のものだとしてもオーバーヒートは必至だ。どれもこれも発展途上、まだ先の話だ。リアクターの高出力化、小型化や遮蔽技術の向上には一役買いそうではあるらしいが、それも微々たるものであるとか。

 

 だいぶ話が逸れたが、現在偵察において今は性能こそ劣るが、確実に被写体を捉える事が出来ると言う理由からアナログなフィルムカメラが重宝されている。画像1枚から判る事は以外にも多い。勿論写っているものが多いのではない。そこから推測出来る事が多いのだ。専門の解析班によると、微かな兆候から導き出される情報から結果を得る、視えないものを視る、妖精をみる為の妖精の目の様なそれ、それこそ『心眼』と呼ぶそれが多くの情報の可能性を引き出し、その情報が作戦を大きく左右する事がある位だとか。だからこそ、手がかかろうとフィルムカメラに高性能光学機器の補正を掛けさせるのだ。そして、それを人の手やコンピュータによる補正を重ねる事で、漸く比較的精度の高い情報を一般人でも得る事が可能となる。ミノフスキー粒子により、索敵・偵察も有視界の比重が殊更大きくなったのである。特に肉眼での観察は重要で、MSを降りわざわざ性能の劣る双眼鏡で索敵を行うパイロットも居るという噂がある程だ。

 この事から、昔ながらのフィルムカメラを使ったカメラマンの写真がより多くの真実を語ると言う者もいるぐらいだ。それを逆手に取り加工写真を売り捌く不届き者もいるらしいが。偽装工作の一環として活用出来りゃいいんだけどなぁ。そこまでは手が回らん。そもそも俺の仕事じゃない。

 

 因みに、この報告を受けた事で、戦術偵察機である"フラット・マウス"の偵察写真用大口径光学カメラはフィルム方式の物へと更新されたのである。しかし、その更新は軍全体では進み切っていない。ただ単純にカメラを交換すればいいと言う話では無く、それこそ大規模な改修が必要なのである。

 情報を得ても、それを伝える事が出来なければ意味が無い。そして、その情報は、正確にかつ迅速に伝えられる方が効果を発揮する。その為に、カメラ周りの電装系から、コクピット内のレイアウトまで変更する必要が出て来てしまっていた。手順としては、写真を撮影、現像、それを更にデジタルデータ化し送信する。現像した物をデジタルデータに直す手間はあるが、途中で補正をかける為こちらの方が高精度の情報が得られるので仕方が無い。レーザー通信によりその情報は部隊に全体に行き渡るが、最も信頼性が高いフィルムをポッドに詰めて投下する事も考慮に入れられた設計となっている。その為改良機は既存の機体と比べ、大型で高精度の高速現像機がどうしてもスペースを喰い、更に写真をコクピットまで届かせる必要がある為、副操縦士(コーパイロット)席がかなり圧迫されてしまっているらしい。それに、高品質なレンズを生産していた工場が"一週間戦争"でコロニーごと無くなってしまい、熟練工の多くが死に再生産が不可能となり、今はその代わりの会社を探しているがそれも芳しくないとの事だ。結局今は既存機の改良でやりくりしているが、いずれはミノフスキー粒子に対応した全くの完全新型機が必要になるだろう。その頃まで連邦軍が負けてなけりゃ、だが。

 

「むぅ……献上品、ね」

「今回の獲物は、モスポイルされている反応兵器だそうだ」

「核……やはり、ですか」

「──ブロークン・アローの正体はコレか」

「ジオンは今反応兵器を血眼になって探しているらしい。2度の"ブリティッシュ作戦"で核を使い切ったんだ。だが、宇宙に核は無い。核の原料になるウランは多種多様な地球の環境でしか生成されないからな。地球降下作戦後、数多くのウラン鉱床を勢力圏内に置いているが、採掘、精錬、濃縮には時間もいる。だから直ぐにでも使用可能なイエローケーキ、廃棄反応兵器や使用済み核燃料を喉から手が出る程求めているとの事だ。それなら、本体が腐っていようと1から作るよりは時間も手間暇もかからんからな」

「……」

「ツボじゃなかったんですねぇ」

「南極条約を守るつもりが一切無いな。ここまでくるといっそ清々しいな。反吐が出る。クソッタレ共め」

「地球に存在する反応兵器の調査中、偶然『定期便』を捕まえちまった──中尉」

 

 今まで沈黙を貫いてきた艦長が口を開いた。帽子の庇の下の、真っ直ぐな視線が中尉を射抜く。目だけが光っている様に見えた。力強い瞳に、中尉は向かい合う。

 

「…はい、なんですか」

「……ここまで来てて申し訳無いが、ここより先は、本当に戻れなくなるぞ?いいのか?」

「今更ですよ。それこそ。それに…ここで無視したら………」

 

 言葉を切った中尉はあの嵐の夜を思い出していた。確かに感じた死、そして生。絶望と、希望を。

 

「……まぁ、乗りかかった艦ですし。俺達は、もうお客さんじゃない。そうでしょう。命を救って頂いた恩もあります。出来る事があるなら、やりたい。皆さんは?」

 

 振り返る。そこにはいつものメンバーがいつもの顔をしていた。

 

「…中尉、それは、愚問…だ……」

「仲間はずれはひどいですよ!」

「隊長、私達はチーム、一連托生です」

「だ、そうだぜ大将。いい部下を持ったな!」

「はい……」

「副長」

 

 艦長の口元がニヤリと歪む。楽しくて仕方がない、そんな声が聞こえて来そうな程の笑みだった。艦長は口髭を弄りながらゆっくりとうなづき、先を促した。副長は再び口を開いた。

 

「これより本艦は、"シャドー・モセス"島に向かう」

 

 "影のモセス島"、か。どこかで聞いた事がある様な響きだ。記憶の隅が突かれる。何故だろうか。地球の地理にはそう詳しい訳ではないのだが。

 

「"シャドー・モセス"?」

「アラスカ、極寒のベーリング海に浮かぶ、"アリューシャン"列島の1つ、"フォックス"諸島に属する絶海の孤島だ。この『忘れ去られた島』に、"トリントン"を除いて人類最後の廃棄前の反応兵器が貯蔵……いや、放棄されている。どう言うわけか、ヤツらもそれを嗅ぎつけたらしい」

「まさか……」

「"シャドー・モセスの真実"はフィクションじゃなかったのですね」

 

 上等兵の言葉に、中尉の頭の中で何かが光り、そこを起点に回り出す。回路が繋がり、歯車が走り出す。カチリと噛み合った破片が繋がり、大きなイメージとなって浮かび上がった。

 導き出された結論は、ある種の郷愁、懐かしさを中尉にもたらした。ある古い昔話、1人の男の英雄譚だ。かつて、世界を救ったとされる、潜入工作員(エージェント)の物語。

──それか。今ようやく思い出した。祖父の乱雑に本の積まれた書棚に、埋もれる様にして突っ込まれていた本。旧世紀に執筆された、SF作品、"シャドー・モセスの英雄"の物語だ。たった1人で基地1つを潰し、世界の破滅を防いだ伝説の傭兵。

 しかし、あれはフィクションだったハズだ。……まさか…情報操作がなされたと言うのか。事実を隠蔽する為に。ノンフィクションを、嘘と虚構で塗り固めたフィクションに仕立て上げ、歴史の闇に葬ったのか。

 

「これがその"シャドー・モセス"島だ。そして、今表示するのが衛星軌道上の監視衛星が破壊される前の最後の写真だ」

 

 画面が更新された。古い衛星写真の様だ。画質はあまりよくはないが、島の形はよくわかった。双子の島、いや、だるまの様な島だ。あまり大きくはない。しかし、写真でも判るほど孤立しており、海岸はほぼ無かった。殆どがフィヨルドの様な切り立った崖で構成されており、アルカトラズ島を彷彿とさせた。真っ白なのは、画質が悪いだけでなく、雪が積もっているからだろう。緯度を鑑みるにこの時期だから氷河は無いだろうが、足場は相当に悪そうである。

 

「かわった形してますね」

「異常気象と海面上昇により侵食が進んでいるそうですが」

「コロニー落としによる破片の落着の影響で更に加速している。この衛星写真は戦争前のものだ。当てにならない」

「彼等の競争相手は、もう向かっているそうだ」

「畜生。地球連邦軍は歴史家に格好の物笑いのタネをプレゼントすることになっちまうぞ」

「わたしたちが勝ったのに…」

 

 伍長が小さく呟いた。まるで拗ねた子供の様な口振りだ。勝った。勝った、か。伍長の言葉に、中尉はため息をついた。同時に、その単純さが羨ましくも思えた。決してバカにしている訳ではない。伍長のわかりやすく、直接的な言動にはいつも助けられて来た。しかし、それでは全体を見る事が出来ない。その必要が無い立場ならいい。しかし、中尉は違う。本来なら中尉もその立場だ。だが、今の中尉は階級や役職以上のあらゆるものが積み重なり、軋みを上げている。

 一言で言って中尉の立場は異常なのだ。そもそも小隊の部隊長が作戦立案をし、前線に立ち指揮をしつつ戦闘をこなす等、当たり前であるが前代未聞の事だ。それは決して小隊長の仕事では無い。かと言ってそれらを行う上司も存在しないのだ。通常の部隊編成から大きく外れた宙ぶらりんな私兵に近い特殊部隊、そんな考えの足りない執筆者の悪ふざけの産物の様な物の真ん中に彼はいた。その当事者であったのだ。

──冗談じゃない(ゴッズ・ネイブル)。畜生。

 

「……勝ちまくったハンニバルが最後はどうなったよ?」

「え?」

 

 独り言に返事が来たのがそんなに意外だったのか、ぽかんと口を開ける伍長を気にせず、中尉は続ける。

 確かに俺達は勝っただろう。作戦目標を果たし、被害を抑え、敵に打撃を与え、新たな情報等あらゆるものを得た。しかし、それが何だ。この小さな局地的勝利が何をもたらすのか。我が隊に消費と損耗を強いただけだ。

……物質こそ余裕はあるが、これ以上の人的資源の損耗は避けたい。このご時世、どこもかしこも人手不足なのだ。この場合の人手不足は単なる労働力の欠如では無い。専門職(プロフェショナル)不足だ。バカは足りてる。そのバカに教育をする立場が次々と戦死して行く現状こそが問題なのだ。

 

「結局、ローマにすり潰されただろ?戦闘の勝利は戦争の勝利とイコールじゃないのさ。俺達がいくら局地戦で勝利を収め続けようとも、戦争、戦闘は最終的に政治における武器でしかない。戦闘だけで戦争に勝つのは、全滅戦争以外にありえない。それこそ敵を文字通り根絶やしにしない限り、だ」

 

 不可能に近いがな。心の底でそう付け足し、中尉は一度言葉を切ると、伍長に向き直った。ブリーフィング中に私語、それもまるで八つ当たりだ。最低だ。しかし、伝えたい事でもあり、知ってもらいたい事であった。そう思いたかっただけかもしれないが。

 

「膠着した戦線、高まる厭戦、どっちもピークだ。そんな中、戦争初期から新兵器にボコボコにされ、大きな戦力差をひっくり返され、世界を巻き込み、しかしながら勝利やそれに伴うMSの存在も明かせない。オマケに相手が再び核を持ったら?これじゃ負ける。いつか必ず。負ける。そう。戦術で無く、戦略でなく、政治で、上が。なんとかしなくちゃ。その上がなんとか出来るように、今は勝ち続けるしかないのだが……すまん」

「しょうい…」

 

 無意識の内にため息が再び口を突いて出た。同時に強烈な自己嫌悪感が降りかかる。本当に最低だ。やっちまった。俺は何でここにいるのか、俺は何でこんな事をしているのか、俺は何で……。

 だんだん愚痴へと変わっていた話を真剣に聞いていた伍長に、中尉は頭を下げた。ただ、申し訳無かった。

 うな垂れたままの中尉の手を、机の下で伍長が取った。そのまま無言で手を握る。小さな手だ。しなやかで柔らかい感触がくすぐったい。ボロボロな自分の手には無いものだらけだ。じんわりとした暖かさが染みる。血管や関節が白く浮き出る程握り締められた手が、緩む。

 

 戦闘の結果なんて、いつも曖昧だ。勝ち負けでさえ白黒つかない。無駄な勝利もあれば、意味のある敗北もある。そんなものだ。一概には言えない。言い表す事も出来ない。

 しかし兵士にとっては同じだ。死んだか、否か。怪我をしたか、否か。戦友が生きているか、否か。そんな戦術以下の事だけだ。勝利、そこに価値を見出すのは、決してその場で戦った兵士でないのだから。

 

 一人一人の兵士は法律で規定された義務を果たさねばならない。そう言う契約だ。

 敵の決断など兵士には全く関係無い。むしろ兵士は上の政治家によって運命を左右されるものだ。それは今も昔も変わらない。

 

「結局、勝ち負けどうこう決めんのは上のお偉いさんの仕事。俺らは、走って、隠れて、撃って、敵の弾丸に当たらず生き残るだけさ。残念だが、世界のどこをさがしても、他人の代わりに血を流してくれる正義の輩なんていない」

「ふむ、大将も嘆くのな」

 

 おやっさんが窘める様に、だが共感を含んだ声で言う。その顔は不意を突かれた様で、それでも少し楽しそうで。

 そりゃそうだ。俺だって人間だ。たまにはこう言う事もある。2度と無い様にはしたいと思っているが。

 

「すみません。まぁ、でも、落ちつきました。取り乱してすみません」

「うははっ!言うだけなら自由よ。時たま忘れそうになっちまう事もあるが、地球連邦は民主国家群だからな!」

 

 おやっさんはいつもの調子で笑った。中尉も誘われ、含み笑いで返す。笑いが広がり、ブリーフィングルームはしばし賑やかになった。それは、まるで海の底から陽の当たる海面へ出たかの様だった。

 こんな状況でも笑えるのが俺達らしい。でもそれでいい。いつでも希望が路を拓く。そこに笑顔は必要不可欠だ。どんな時でも俺達は笑う。そして、また進み始めるのだ。

 

「……時は一刻を争う。出来るだけの事はしよう」

「はい」

 

 その刹那、電子音が響き渡った。艦長の胸元からだ。艦内通信の呼び出しかと思われた。これらの電子機器端末は着用が義務付けられている。それもミノフスキー粒子によって殆どが無効化される傾向にあるが。それは最前線だからであって、ここでは関係無い。

 顔を顰め、端末を取り出した艦長は、意外そうな顔をして口を開いた。声も軽い。悪い知らせでは無さそうだった。

 

「直通通信だ。凄いタイミングだ。お偉いさんから、あんたたち宛へのラブコールだぜ?通信室へ行こうか。あそこなら誰にも聞かれまい」

 

 軍曹が立ち上がり、全員が続いた。副長が前に立ち、そのまま廊下にゾロゾロと並んで通信室へと歩く。その謎の集団に、道行く人は路を開け、一瞬訝しんだ顔をした後敬礼をする。後ろを見ると、首を捻った水兵達が、また何か噂話をしている様だ。

 まぁ仕方も無かろう。何ともチグハグな組み合わせとしか言えないからだ。艦長、副長、小隊長、整備中隊長…チンドン屋の様なものである。

 

 通信室までは直ぐだった。狭い一室に全員が身体を押し込む様にして入り込んだ。

 スクリーンには青い画面にタイマーが表示されていた。もう直ぐで繋がると言う事か。それで、先程の通信とはまた別種の通信方式なのだと気づく。必要なのは速さだけでは無いのだろうか。

 画面が揺れた。スクリーンが瞬き、コーウェン准将が映し出される。初めて会って数ヶ月、最後に話したのが1ヶ月前くらいか。たったそれだけでも、とても懐かしい気がした。

 

『中尉……久しいな。すまないが、一対一で話したいのだ。彼を1人にしてやってくれないか』

 

 開口一番、彼はそう言った。少し痩せたかもしれない。いつも部下に対しては笑顔を忘れない彼には珍しく、疲れた顔をしていた。

 

「俺もか?ジャック?」

『……すまない』

 

 ゆっくりと頭を下げる。画面の隅で、秘書官も同様に頭を下げていた。異常とも呼べる光景に中尉は唾を飲み込み、少なからずたじろいだが、おやっさんは変わらない調子で続けた。

 

「珍しく殊勝だな。……判ったよ」

『恩に切る』

「貸しだからな。返せ。必ずな」

 

 フンと鼻を鳴らしたおやっさんが顎をやった。艦長と副長は顔を合わせ、同じタイミングでため息をつき、ドアを開けて外へ出た。伍長と上等兵も、不安顔で退出した。

 不安だ。どういうのか。中尉は1人、それを見送る。その時、肩を叩かれた。軍曹だ。軍曹はうなづく。中尉はいつも通り拳を打ち合わせた。軍曹はスクリーンに一瞥し、中尉に敬礼をして出て行った。

 

 部屋には中尉1人になった。でも、先程までの不安はもうなかった。

 

「准将」

『話は聞いた。誠に信じがたいが、状況は最悪の様だな。こちらも静かに忍び寄る狂気に当てられ、誰もが自分勝手に狂想曲を踊るのみだ』

 

 准将は顔に手をやり、空を仰いだ。"ジャブロー"の空は岩壁しか無い。その閉塞感を嘆く様に。中尉はあの地の底の闇を思い出した。暗く、湿っていて、時折揺れるあの空間を。

 

『──反応兵器。この情報は、地球連邦政府が樹立してからの唯一の例外、SSクラスの超機密なのだ。"シャドー・モセス"は旧世紀の暗部だ。そして、使用出来る核を全て管理下においている、と公言して憚らなかった地球連邦軍と言う組織のアキレスの踝だ。かつて、世界を相手取り、この世界からの解放を目指した男の闘争の残滓。そこには、約数千発もの反応兵器が未だに処理されず放置されている。世界を数度灼き尽くしても尚有り余る程の、膨大な量が、だ。敵が独立性の高い部隊で助かったよ』

「そんな大層な機密を…いいのですか?」

『ふん。勝って戦争が終りゃ機密にならん内容だ。負ければそのまま機密は守られる。世界の崩壊と共にだ。問題は無い。むしろ勝算をあげる方が重要だ。それだけだ。それだけなのだ』

 

 想像もつかない話だ。SSSクラスになると、世界の誰も、それこそ秘密を守る本人ですらその本当の意味を知る事は無いだろう。たった1つの望み、幻想の様な秘密。それに触れたいとは思えなかった。情報はあって困らないものだが、例外もある。活かせない情報も。世の中には、知らなくていい事、知らない方が幸せな事もあるのだ。

 

『ついでにAAAの最新情報を教えてやるか?"サイド7"に極秘裏に運び込まれた"新造艦"と"オリジナル"が、"赤い彗星"率いる艦隊に襲撃されたよ。件の"赤い彗星"は、今衛星軌道上にいるはずであるにも関わらず、だ』

「あの、"赤い彗星"が……!」

 

 その名前は中尉でも知っていた。いや、知らない者を探す事の方が難しいだろう。数多いジオン軍の、エースの中のエース。それこそニュータイプと噂される、ジオンのトップエースだ。

 テレビで放映された"サイド3"での戦意高揚パレードはまだ記憶に新しい。ドズル・ザビの乗る深い緑に金をあしらった"ザクII"と、彼の乗る赤い"ザクII"がジオン国旗を掲げている写真は、ジオンの力の象徴だった。

 

 "赤い彗星"、シャア・アズナブル。

 

 乱世となった宇宙世紀に、流星の如く現れた若きエース。その名の通り赤い"ザクII"を駆り、"ルウム"での出撃で5隻もの戦艦を撃沈した男。彼が『5艘飛び』を成した時、その"ザクII"のスピードは、通常の3倍にも達したと伝え聞く。最強のパイロット、生ける伝説、ジオンの英雄、それが彼だ。

 戦争がたった1人で出来ない様に、たった1人、それも兵士が戦場を左右する事など殆どないと言ってもいい。しかし、建設中の"コロニー"が数基しかないとはいえ、そこを単独で襲撃する様な男なら、と思ってしまうのもまた確かだった。

 

『そこからは情報が途絶。レイ博士の安否も判らん。連邦のMS開発・量産・運用計画はまた遠退いた。しかし、彼等はそれすら手につかない様だ。まぁ、最も彼等は元々MS開発配備推進反対派だったがね?』

「……」

 

 中尉は黙り込んだ。事態は既に疾走り出していた。それも最悪の方向に。まるで崖を転がり落ちる石の様だ。問題は、その石が多数の命の運命を握っている事か。そして、石の様に丸く収まる何て事にはならないだろう。

 

 コーウェン准将は一度言葉を切り、ため息とともに俯き目を瞑った。影に隠れたその表情は窺い知れない。中尉も嘆息した。戦争を負けると判っていながら始める奴などいないと思いたいが。それでも、この時中尉は初めて思った。

 この戦争、俺が死ぬより先に地球連邦軍が負けるかもしれない、と。

 

『──儂は、君達に託したい。人類の、未来を……』

 

 30倍とも言われる戦力差をひっくり返し、ジオンは本当に独立を成し遂げるのかも知れない。

 しかし、顔を上げた准将の言葉に、絶望は感じられなかった。

 

 願いでなく、希望、そして望み、それを託す者の顔であり、瞳であった。

 

 彼はまだ、決して諦めてはいなかった。

 

『"ジャブロー"の臆病者供は、この事態を見て見ぬ振りを決め込む事に決めた。彼等を守り、強気にさせる"ジャブロー"の固い岩盤は、反応兵器をも防ぐと言われているからだ。しかし、この天然の要塞とて、世界を滅ぼす核には耐えられまい。しかし、彼等にとっては、世界よりも何より自分のメンツが大切なのだ。誰もが世界を滅ぼした大戦犯としての貧乏クジを引きたくないと、臆病者にも知らぬ存知を決め込み、何1つ有効な手立てを打つ事も無く傍観し、自分の思い描く理想の未来に引きこもる事に決めたのだ。もし語り継がれるべき未来があるとしたら、そこに人類の汚点として、戦犯として名を刻まれる事を最期まで恐れながら死んでいくのだろうな。重苦しいまでの沈黙が雄弁に物語っていたよ。あれだけの大人が雁首を揃え、それだけが満場一致だった。世界で最も醜い光景だったと言わざるを得ない。情け無い事に……』

 

 自嘲の笑みに、中尉はふと思った事をそのまま口に出す。

 

「なんで、関わらなかった人間は、どうして責任が自分に一切ないと信じられるんでしょうか?」

 

 言葉は止まらない。さっきと同じだ。それより酷いかも知れない。今は感想を言う時間でも議論の場でもない。その立場の関係でも無い。しかし、これだけは言っておきたかった。知っておいて欲しかった。次の作戦で俺が死んでも、きっと彼は俺の作った時間を活かす。そう信じたからだ。

 

「自分は手を出さなかったから、自分は関係なかったから、そうやって、責任を感じなくていいなんておかしくないですか?苦労して、手を貸して、頭をひねって、尽力したヤツだけが責任を追及されるなんて…」

『そうだ。そうだな。すまない。誠にもってすまないが、しかし、今、この時に置いて、君達のみがこの事態を収束し得る可能性を持っているのもまた確かなのだ。君達は、儂が、延いては地球連邦軍、そして地球連邦政府が持ち得る最後の切り札(エース・インザ・ホール)、最高の戦略兵器群なのだよ』

 

 准将の言葉に、その真剣な表情に、笑い出しそうだった。俺達が?切り札だと?過剰評価だ。

 たった1つの部隊で何が出来る。俺は英雄でもエースでもない。物語の主人公では無い。ただのパイロット、探せばどこにでもいる元攻撃機乗りだ。何を出来ると言うのか。

 

「……たった3機のMSしか保有していない、唯の一個小隊にしか満たない我々が、ですか?」

 

 中尉の絞り出す様な、震える声に、准将はただ、受け止める様にして口を開く。

 

『そうだ。全く新たな兵器、新時代の象徴、地球連邦軍の希望の光明、同じか、それ以上の力を持って1つ目巨人(グリーン・ジャイアント)供を倒し、大番狂わせ(ジャイアント・キリング)を起こし得る存在、それがMS。それが、"ガンダム"、なのだ。そしてそれを有する唯一の特殊部隊。それこそ、旧世紀のWWIにおける戦艦の様なモノだ。君達は、その存在だけで戦局をも左右し、世界を回天するに足る力がある』

 

 回天、中尉は声に出さず呟く。『天を回らし戦局を逆転させる』という意味だ。その天を巡らすものとは何だろうか。人の命か。

 この世界というタービンは命という燃料を燃やし回り続けるものなのかも知れない。それは正しいだろう。それで、この世界が続くのなら、まだ進めるのなら、この身を差し出し、そして燃やし世界が回るのなら、大切な人を守れるのなら、俺は喜んでその炉に身投げしよう。

 

『1個小隊に何が出来るか……違う。今考えるべき事はそんな事では無い。何をすべきか、誰の為に、何の為にそこにいるのか、君達の背中に、どれだけのものがかかっているのか、なのだよ。今や、ジオンは再び核のカードを手に入れようとしている。もちろん反応兵器と雖も、決して万能ではない。寧ろ核と言う兵器は、未だに人の手に余るモノなのだ。しかし、そのカードが再び切られた時が、今度こそ世界が終わるかも知れないのだ。人の犯した過ちを、もう一度繰り返す事は無い。その為には、儂はなんだってしよう。中尉、君の少佐相等官の権限を復活させる。また、今回の戦闘で、大佐が一名殉職したのは聞いている。そこでだ、戦時特例による特進で、暫定的に大佐相等官とする。君が失敗すれば、それは全面核戦争、最終戦争(ハルマゲドン)の始まりを意味する。軍人として、1人の地球市民として、存分にその職務を全うして頂きたい』

 

 仮に俺が失敗しても、世界が滅んでも、彼の様な人が生き残れるのなら。その為なら。なんて悲劇的なのだろう。中尉は自嘲の笑みを浮かべた。

 

──荒廃の果て、瓦礫と残骸の中から、再び軍旗が登り、世界に翻るだろう。

 

『──世界を、任したぞ』

 

 准将が敬礼をする。中尉が返すか返さないかの最中で、通信は切れた。敬礼をし、またかつての色を取り戻したスクリーンを睨みながら、中尉は独りごちた。

……一方的にめちゃくちゃいいやがって。畜生。挽き肉製造機へ真っ先に放り込まれる栄誉がどこにあるのか。

 

 部屋を出る。光が眩しい。顔を顰める中尉を見て、廊下の壁に身を預けていたおやっさんが口を開いた。

 

「……大将、ジャックは、なんと?」

「世界を、救って欲しいと、それだけです。全く…全く馬鹿げてますよ」

 

 中尉は笑った。いや、笑えたか?今の中尉には判らなかった。

 

「…大将、大将は今、何のために戦ってるんだ?」

「何、ですか……判りません。判らなくなって来ました。何処かの誰かの未来の為に、でしょうか?」

「誰かの為、ねぇ。その自己犠牲は立派だが、その先には何もないぜ?」

「……」

 

 壁から身を起こし、おやっさんは中尉の前に立った。中尉は力無くおやっさんを見下ろす。小さな人だ。それでも、立派な人だ。人の命を預かれる、その事に誇りを持てる人だ。自分とは違う、大人の、男だ。

 

「……そうだな、ちょいと、年寄りの昔話に付き合ってくれ」

 

 そう言うと、おやっさんは壁に寄りかかり、喋り出した。ゆっくりとした、落ち着いた声だった。

 

「俺は、軍曹と顔馴染みだ。この意味が判るな?あちこちをフラフラと渡り歩いてたのさ。世界ってヤツを知りたくてな。道中、いろんなヤツがいた。見て来たよ。俺は。皆戦いの中で知り合って戦いの中で死んでいった。別に俺は、強いから生き残ったワケじゃない。ただ死にたくなかった。それだけだ。死にたくなかった。本当にそれだけだった。死にたくなかった。生まれた戦場を、死に場所にしたくなかった。だから戦った。戦っていた。だから生き残っちまった…」

 

 言葉を切り、おやっさんは少し離れて待っている艦長や軍曹達に目やった。その寂しげな横顔は、中尉の初めて見るものだった。

 

「…そんな俺でも、願いが1つだけある。このご時世の戦場で、逝き遅れた老人の浅ましい願いを、願わくは聞いて欲しいもんさ」

 

 昔を思い出したのか、微かに目を細めたおやっさんの話は続く。中尉は黙って聞いていた。口を挟む事は出来なかった。その重みを彼はその肩に背負っているのだとふと思う。自分とは違う、小さくともがっしり肩に。

 

「──いや、そうじゃあねぇな。1つ、1つだけだ、大将に言っておくよ。年寄りの話だ。話半分に聞き流してくれや……これから先、大将のまだまだ長い人生だ。その中で必ず、何かを選ばなきゃならない時が来る。全部は持って行けねぇ。人間体1つ、腕2本、背負い、抱えられるのはそれだけだ。所詮、人は人だからだ。だが、選ぶのはいつだって自分だ。他人じゃない。その選択は、他でも無い大将、お前が下すんだ。自分として、人として、男として、指揮官として、戦士として、軍人として、士官として、兵士として!」

 

 少し離れた所に立っている、他の面々を目をやっていたおやっさんの眼が中尉の瞳を捉えた。真剣な眼に見据えられる。身がすくむ思いだった。戦場とはまた違う、1人の男が出すプレッシャーに、中尉は圧倒され、萎縮していた。

 

「大将、何が正しいか間違っているか、そんな事ぁは関係無い。その選択が間違っていても誰も構いやしない。責めるのはお門違いだ。それがちゃんと考えて、自分で出した答えならな。責任ってヤツさ。どうしても受け止めなきゃならねぇ。そして最後は、大将、ここだ。心に聴くんだ」

 

 左胸に拳を当てられる。心臓の鼓動が嫌でも意識された。生きている音だ。現実に戻ってきた感じだ。

 

「よく考えたか、それで本当に後悔しないか。──いや、大将の言い方なら……後悔ぐらい、出来る様に、か?……そしたら後は自分を信じろ。自信の根拠ってヤツは、いつも終わった後についてくるもんだからだ」

 

 離された手と、手が当たっていた胸に手をやる。暖かい。掌を見ても何も無かったが、何かを感じていた。

 拳を握る。無言で顔を上げた中尉に、おやっさんは微笑みかける。優しい笑みだった。

 

「俺は聞いたな?何の為にって。そんなものは簡単だ。オッカムの剃刀さ。シンプルでいいのさ。ただひとつ守りたいもの、それだけは手放さず守れればいい」

「……その為には何を犠牲にしても、ですか?今までの様に」

 

 中尉は失った戦友を、部下を思い出していた。"キャリフォルニア・ベース"の空で。"グレートキャニオン"の荒野で。"アリゾナ"の砂漠で。"サンホセ"の密林で。"北大西洋"の海上で。そしてありとあらゆる戦場で。屍を踏みしめ、血の河の中に立っているが俺だ。生きていると言う事は命を奪う事だ。中尉はそれを決して忘れてはいなかった。

 

「過ぎた昨日がなんだ。今日はまた新しい別の日だ。何を女々しいことを言っているんだ。出会いがあれば、その数だけ別れがある。当然だろう?『さよならだけが人生だ』。そんな唄もあったろ?」

「そう、ですね。確かに、またいい出会いもありました。それに…ただ……別れは寂しいだけではありません。別れる時、その人が自分にとってどれだけ大事だったかを再確認出来る、大切な機会ですから」

「うははははっ!いい事だ!とても、いい事だ。人との出会いは人生を豊かにしてくれる。知らない内に、色々なものをくれる。そして渡してる。そうして、思いが重なって、人生の選択を、より重いものにしてくれるってもんさ!」

「──選択?」

 

 中尉が聞き直す。サングラスを押し上げたおやっさんは、口を歪めて続けた。

 

「そうだ。大将!お前が、いつか何かを選ぶ時、何かを捨てる時…今はその準備だ。猶予だ。モラトリアムってヤツさ」

「……」

「いつか判る。いつか…そう、必ず、な。俺はこの道を選んだ。俺自身で選んだのさ。たくさんあった、いくつもの素敵で素晴らしい、それこそ選びきれない様な選択肢の中からだ!」

「……」

「…そりゃ、他の全てを捨てたワケじゃない。最善を選んだつもりだが、その結論は未だに出て来ない。当たり前だな。だが、選ばなかったものが全部素敵で、かけがえのない、素晴らしいものだったからこそ、俺は俺が選んだものに誇りを持っている!誇りを胸にここに立ってる!!」

 

 おやっさんは手を広げ、周りを見渡した。そして、地面に指を指す。硬い金属で出来た、架空の大地をだ。

 

「──誇りを……?」

「そうだ。いつも、素敵なものをたくさん集めておけよ!例えそれが、1つしか持っていけないものだとしても、だ!俺はさっき言ったな、選ぶ時が来る、『さよならだけが人生だ』?俺はもぅ、『さよならなんて沢山さ』!!つまりだな、人生には無数の選択肢がある。だけど正しい選択肢なんて一つもないのさ」

「……結局、全部間違いって事ですか?」

「違うさ。ネガティヴだな。選んだ後で、そいつを正しいものにしていくんだ。後で後悔ぐらい出来る様に、だろ?」

 

 ゆっくりと顔を巡らせた中尉に、軍曹が、伍長が、上等兵が、おやっさんが、中尉の世界がいた。

 おやっさんが言いたかった事を、唐突に理解した。中尉は、ゆっくり微笑んだ。静かに眼を瞑り、開く。同じ世界が広がっている。そこに幸せを感じた。

 

 俺は、この毎日をきっと惜しまないだろう。

 

 そうだ。俺が言い出した事だ。確かに誘われた事がきっかけだ。でも乗ると選んだのは、決断したのは俺自身だ。俺はこれからも、時を振り返らず生きていくつもりだ。その一瞬一瞬を、高らかと歌いながら、勇往邁進していく。そう生きて行くと。

 

 時間は、誰にでも平等に優しくは無い。けれど誰にとっても温かい。

 

 時計の針は残酷に刻まれていくが、針は常に思い出という痕跡を残し続ける。

 

 全ての今、全ての未来は過去となって、時の彼方に消えていくのではない。

 記憶となって、未来の針を進める為の、俺の道標となる。

 

 答えを、俺は既に持っていた。それだけだった。

 

「どうだ?これが世界の終わりか?」

 

 おやっさんが軍曹達に歩み寄り、振り返ってこちらを見る。

 

「…これが、か?中尉。見くびられた、ものだ。そんな事は、無いだろう…。この様な…小さな、事では、世界は…終わらない……」

「軍曹の言う通りです。隊長」

「そうですよ少尉!!わたしたちはここにいます!!みんながです!!世界も強いですが、わたしたちもまた無敵です!!」

 

 皆の声に、涙が出そうだった。しかし、その涙を押しとどめ、中尉は笑ってみせた。威風堂々、英姿颯爽にて、大胆不敵、不撓不屈の英雄に、この時だけならなってやろう。自分の為に、そして、他ならぬ彼等の為に。

 

「そうだな。行こう。たとえ世界が終わろうと、俺達の仕事は変わらん」

「言うね、ノってきたじゃないか。最高だ。楽しくなって来た。で、だ。大将、お前にその大役が務まるのか?世界を救う覚悟、その資格があるのか?」

 

 おもしろくて仕方が無い、そんな雰囲気のおやっさんの問いに、中尉は笑って返した。自棄ではない。やってやろうじゃ無いか。今はそれだけだ。

 

「資格なんてありゃしませんよ。何も。だが準備は出来てる。そうでしょう?つまり、俺達はまた主役になる訳だ。楽しいですね。軍人としてこれ以上の名誉は無い、そんなところでしょうか?」

「うははっ!そうこなくっちゃ!!それでこそ大将だ!我等が"ブレイヴ・ストライクス"の大将だ!人の上に立つ人間ってぇのは、人に支えられないと立ってられないんだからな!」

「はい、それに……真実を知って不幸だと嘆いたところで、何かが変わるわけでもないですし。──なぁ、伍長、渚にて、って知ってるか?」

 

 胸を張る伍長に問いかける。伍長はその問いに眼を白黒させている。それがまた笑いを誘った。

 

「え?あー……確か、なんか世界が終わる〜ってヤツ?でしたっけ?あ、"ジャブロー"ぐらし!!」

「そう、似てないか?」

「似ていますか?もっと穏やかで日常的で、ロマンチックだった気がします」

 

 上等兵が首を傾げ、そう返した。軍服さえ着ていなければ、その姿は教師そのものだろう。中尉は唇を歪め、白い歯を見せながら問題児になった気分で続けた。

 

「所詮この世はパンジャンドラム、回り周って巡り廻るモノです。そんな世界の終わりにロマンもクソもあるか、今の俺はそう言いたいですね」

「…違いない…」

「──我々を動かしているものは、絶望か、それとも希望か」

 

 艦長が帽子の庇に触れながら、そう呟いた。副長は腕を組み、楽しげに笑っていた。この人達も俺達と同族らしい。いい事だ。最高だ。

 

「そのどちらでもないですよ」

「ではなんだ?」

「常識、それだけです」

「常識離れした連中がよく言うぜ」

「笑えないな」

 

 全員が笑う。その中心で、中尉は一際大きな声で笑っていた。

……迷った事が無い、と言ってはウソになるが、絶望すべきでは無いと思ってる。全てが失われたのであれば、それを取り戻すべく行動を起こす努力をするべきだとも。この世界に、それぐらいは期待してもいいだろうと。

 

「ふふっ、行きましょう!少尉!!わたしたちは人類の勇気です!!目標は、この世界を救いに!です!!」

「息を吸ったら、後は前だけ見て走る、だな。一つでも決めたら見ないで走る事も人生偶にゃいい。そうすりゃ、行き着く所にゃ行けるように人はDNAに刻まれてるもんさ」

「行き着く先は決まってますよ。ここじゃない何処か、それだけです。さて、みんなの世界だ。みんなで一緒に救おう。さあ、これから嵐の様な毎日になるぞ。どうせなら、息が切れるまで走ろう。俺達全員で、どこまでもな。準備は?」

「いつでもー!!」

「…どこでも」

「いつまでも」

「どこまでもってな!」

「やろうか、我が右腕」

「そうだな、艦長。我らが力は(カシラ)の為に」

 

──我々は、兄弟だ。運命を共にする、状況を打開し世界を拓いて行く、兄弟だ。

 

 おやっさんと副長が、小さな端末を持っていた。どうやら、いつの間にか艦内放送として流していたらしい。越権行為だとか、小難しい事はどうでもいい。今は、どこからか微かに聞こえる歓声に酔っていたかった。

 

 振り上げられた手が、次々と架空の空を衝く。鬨の声が、繋がり、広がり、1つになり、艦全体を揺さぶる。

 中尉は、衝き上げ、握り締めた拳に誓う。

 

──男の、誓いを。

 

 

 

『いいか、言葉を信じるな。言葉の持つ意味を信じるんだ』

 

 

世界の果ては、いつもそこにある………。




こんな文でも、書くのはけっこうカロリーを消費しますね。終わるか不安になって来ましたが、頑張ります。


次回 第七十二章 最果てへと至る道程は

厄が来ません様に(ノックオンウッド)、って」

ブレイヴ01、エンゲー、ジ?


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第七十二章 最果てへと至る道程は

待たせたな。


宇宙世紀は既に、雲を払い、空を貫き通し、見上げればそこにある宇宙を真に身近な世界へと変えた。

 

月にまで手を伸ばした人類は、次なる目標を木星に定め、いつかオールトの雲を越える事を夢見ていた。

 

重力の軛を振り切り、押し出された人間は、かつて憧れ見上げていた宇宙に住み、架空の空を河へ映し生きてきた。

 

爆発的に広がる人間の世界に、取り残された場所は少なからず存在した。

 

無慈悲で行き詰まった極地より、厳しくも限りなく広がる宇宙を人類は選んだ。

 

宇宙の新天地と、地上の楽園の裏側。

 

忘れ去られた土地は、宇宙よりも、遥か遠く。

 

ここは、世界の片隅。果ての果て。

 

もう1つの、宇宙よりも遠い場所。

 

 

 

── U.C. 0079 10.4──

 

 

 

 また、風が吹く。視界が揺れたような気がした。気がしただけだ、判らない。真っ白だ。何も見えない。視界は限りなくゼロに近い。白で塗りつぶされた世界。ホワイトアウトというヤツだ。目を瞑っても差し込む様な、眼を刺激する程の純白は、白銀の世界と呼ぶに相応しい。その光の結界は、人を拒むかの様だった。この這い寄る冷気の様に、人を蝕み、消耗させて行く。猛吹雪はお互いに声を掛け合おうと逸れ、道に迷う程人の方向感覚を狂わせる。白くらみである。人は、荒れ狂う自然の前には無力だ。立ち向かおうとしても、死が待つのみである。

 森羅万象は、全て力を持つものだ。非力な人間は、対抗しようとも大概の場合は振り回されるしかない。それは宇宙世紀となっても変らない不変の事実だ。

──見えぬ物を恐れるのは臆病者だが、見える物を信じ過ぎるものもまた愚か者なり。よく言ったモノだ。この渦巻く白の中に、何か得体の知れないバケモノが潜んでいる様に思えてならないが、実際はそんな事は無いだろう。だが、この見える白は果たして俺に何をもたらすのか。そして、何を奪うのか。信じるに値するものとは何なのか。いや、この眼に映る視界全てが危険なバケモノなのか。視界に張り付く白はただのノイズだった。ワイパーがそのノイズを除くが、とても間に合わない。視野は少しずつではあるが、だが確実に狭まって行く一方だ。真綿で首を絞められている様な感覚に背筋が凍る。視界が生きる残り時間を暗喩しているかの様だ。

 時間制限(タイムリミット)は確かに迫りつつある。世界終末時計はただ静かに刻を刻んで往く。その先の世界を旅行する予定はまだ無い。氷結した世界、誰も知らないここは、あの日のカリブ海に浮かぶ島よりホットなのかも知れない。

 

 しかし、中尉達は、ただのヒトでは無い。負担にヒクつく眼を凝らせば、吹きつける白に混じり、微かな稜線を描き降り積もる白を見とる事が出来た。かつてこの地に住んでいたと言われる民族、"イヌイット(エスキモー)"は多くの白を認識出来、白を表す100を超える言葉を操ると聞いた事がある。それは嘘である、とも聞いたが。とにかく、今はそれが正しい事の様に思えた。確かに言葉の上では同じ白だが、言い表す事の難しい微妙な差異は確かにあった。吹き付ける雪、渦巻く雪、地面の雪、岩の上の雪、木の上の雪、雪の稜線……淡く濃く、薄く深く、浮かび上がる様な白は限りなく幻想的だが、音も無く忍び寄る冷気と、感覚を麻痺させる様な耳元を吹き荒ぶ風がこれが現実であると告げていた。

 その白の中でも、見上げれば途切れ途切れの視界の隅に、黒々と天を突き刺す剣山の様な針葉樹に紛れ、微かな黒が見て取れる。真っ黒で刺々しい間隙の先の闇。宇宙は空にある。群青(ダークブルー)を越え、真っ黒なペンキを満遍なくぶちまけたかの様な、限りなく宇宙に近い空。吸い込まれそうな程の黒は、高緯度特有の深い夜空だ。ブラックホールの様に全ての光を呑み込む北極圏の空は高く、遠い。今夜の混迷を極める地上からは、星もオーロラも見えない。ただ永遠と続くだろう黒い空間が広がっているのを感じるだけだ。

 

 限り無く、果てし無い白と黒。それが、この世界にある全て。

 

 ここは世界の果て、北極圏。極寒と死が支配する、隔離された世界。雪と氷が積み重なり、流氷が耳をつんざく様な音を立て軋む極地の1つ。海をも凍りつかせる凄まじい冷気を孕む、世界を二分する最北端の海峡。時には大型輸送船すらも呑み込む高波の海、それがここ、"ベーリング海"だ。

 そこに数多く浮かぶ島々、不揃いで不恰好なネックレスの様に連なる"アリューシャン列島"に属する小さな諸島の1つ。火山活動によって生まれた小さな隆起。既に生みの親である"オールド・モセス"は休火山となり久しい。加速する地球温暖化による海面上昇に伴い、迫る水没に抗うのは、地元民すら近寄る事の無い、かつての拒絶を今尚貫く幻の島。歴史からは抹消され、今は既に知る者も居らず、存在を消し去られた、忘れ去られた島、それこそが"シャドー・モセス島"。

 

──人類の終局、世界の終焉をもたらす封印された地。

 

 地球連邦政府による緩やかな、だが断固たる、気が遠くなる程の時間、それこそ世紀をまたぐ長きに渡る情報操作で、歴史から消されて久しいその島は、それでも確かに存在した。岩に打ち付け泡を砕き、荒れ狂う波と猛然と吹きつける吹雪の中に、切り立った黒い影を今も尚投げかけ続けていた。ゴツゴツとした真っ黒な岸壁は垂直にそそり立ち、来る者を拒むかの様で、その上を覆う万年雪は時折崩れ、青さより黒さが目立つ仄暗い海中にその身を投じていた。

 それは中尉に取り、まるで自分が1人になった様な心細さを加速させた。ここはもう、神の御加護も人の掟も及ばぬ土地だ。直ぐ隣に居るだろう味方すら見えないからかもしれない。それどころか、自分が踏みしめているこの地面すら幻の物と思えてくるぐらいだ。もしかしたら地面など無いのかもしれない。氷河の上なのか、大地なのか。白だけ。真っ白な何もない空間。自分1人。世界に1人。世界と向き合う自分は頼り無く、それが恐ろしい。身震いする事も忘れ、現実との境界を失って行く。囚われ、ゆっくりと呑み込まれて行く感覚。その感覚すら薄れ始める。この白に溶けてしまう様に。

 

《──隊長?聞こえていますか?隊長?》

《しょういー、どったのー?》

《中尉》

 

 外部センサーが拾う吹雪の音を掻き分け、暖かな声がインカムを満たす。生きとし生けるものが持つ暖かさだ。それが中尉を引き戻した。

 ハッと中尉は思わず息を呑み、唾を飲み込む。全く、最近はいつもこうだ。シン・レッド・ラインじゃあるまいし、大概にしなければ。こんな事でパイロットが務まるのか?今の俺はパイロットと言えるのだろうか?今の俺は何なのだろうか。

 

「な、何だ?」

《こちらSST02。LM"GB"を、確認した。情報に、誤りは無い》

「あ、あぁ…了解。各員、応答しろ。全員いるか?」

 

 その言葉に慌てて中尉はセンサーをパッシブにする。そして、目眩がする程の白の奥に、一瞬であるが人工物のシルエットを確かに捉えた。天を突かんとばかりに建てられた、今もなお並び立つ巨塔だ。かつて某国の世界の貿易を司ったタワーの様なその威容は、吹雪によって視界が直ぐ様再びホワイトアウトし、その塔を覆い隠してしまった。だが、中尉の目の前の画面には地形と予想図、そして一度確認したデータと言う形デジタル画像として処理、リアルタイムで投影され、その像を浮かび上がらせていた。

──あれが通信棟か。俺達の通称は"GB"。"ゴーストバベル"だ。機能はしていないが、まだ朽ちずそそり立っているな。それにしても、上の方はなんだありゃ?空爆でもされたのか?かなりめちゃくちゃに潰れてるぞ?でも"GB"だから耐えたのか?

 

 ま、それにしても、機能、か。そりゃしないだろう。機械、設備と言うものは基本的に建てておしまい、作っておしまい、と言うものはまず無い。どんなものも点検、整備、補修が欠かせないものだ。機械と言うものは人間と同じ様に働かせないとダメになるが、働かせ続けても休ませ続けてもダメになるのだ。よくポストアポカリプスもののSF作品では古代文明の遺跡として現代の設備が活きていたり、ガラクタや廃車からガソリンを抜いたりするが、残念だがそれはまず不可能だと言わざるを得ない。

 機械や設備は風雨にさらされ続ければ、あっという間に風化、劣化する。インフラ設備等も同様だ。例え嘗ての形を留めていようと、全くの別物、スクラップに早変わりだ。それはこんな極地になればなる程加速的に進行していく。器が傷めば、中の機材及び資材、つまり電子機器やガソリン等も酸化し、あっという間に変質してしまう。つまり、もし世界が滅びたら、専門職の人が多数生き延び、潤沢な資金や資材を投じ定期点検と修理を欠かさない限り生き残った人々は便利な機械や設備をあっと言う間に使い潰し、クメール・ルージュもびっくりの原始農業生活が幕を開けるだろう。まぁそれじゃお話にならないか。今手の中に収まっている銃だって弾丸だって消費期限はある。また、定期的には普通分解以上のオーバーホールや部品の交換もしてやらないと動かなくなる。形あるもの全て崩れるものだ。例え形を変えなくとも、変わって行くものなのだ。永遠など、ありはしない。決して。

 

 そう、不完全な人が作り出したものに、完全があろうか。永遠など、ありはしないのだ。それは、常に時代の最先端技術と枯れた技術を使い続け、使い潰されて行く兵士が一番知っている。特に、"()()()"が一番知ってるかもな、そう思い、中尉は手首を軽く回し、操縦桿を握りなおした。

 

『こちらマインスイーパー01、問題無し』

『こち…シーカー01。問題無し』

『…ちらアーク01、少々遅…ているが、問題無し』

『こちら…』

 

 鶴の一声が響き渡ると、静まり返っていた無線機がおしゃべりを始め、見えない電子の線の奥、繋がった各々が返事を返す。時々音声が不明瞭なのは、おそらくミノフスキー粒子の影響で無く天候の所為だろう。極短距離のバースト通信とは言え、大気状況があまりにも悪いと流石に無理が出る。これ以上の質を求めるとするならば、量子通信等になるだろうが、実用化まではまだ遠い。相変わらず夢物語だ。旧世紀からずっと研究され続けてるハズなのに。

 まぁ、それまでは、この不安定さとも上手く付き合っていかなければならない。

──テクノロジーが、魔法と変わるその日まで。

 

「"ギジンさん"の調子はどうだ?問題はあるか?」

《ぜっこうちょー問題なし!何かの遠吠えも聞こえますよーワォーん!》

 

 中尉がそろりと投げたボールを間髪入れず打ち返したのは、やけにハイテンションな伍長だ。中尉はその言葉に苦笑を漏らし、雪に埋もれる針葉樹林に目をやった。確かに、先程から狼か何かの遠吠えをセンサーはしっかり拾っていた。行く手を阻むかの様に鬱蒼と生い茂る暗い森の先の、それらしい熱源もだ。何かが自分達を見張っていた。人間では無い。そして、それを見る時、見られている物なのだ。この雪の白の深淵の奥の奥、神でなく、仏でなく、何かが。

──狼か。見た事が無いな。()()()なら襲われても大丈夫だろうが、生きた心地はしないだろうな。勘弁願いたいものだ。視線を再び前に向け、研ぎ澄まされた刃の様な稜線を輝かせる白銀を見つめながら中尉はそう考えた。

 極寒の何も無い所だとは思っていたが、こんな土地にも生命の息吹は確かに息づいていた。彼等は、今も昔と変わらない生き方を続けているに違いない。狼は仲間思いであり、お互いを助け合いながら群れて行動すると聞く。あの遠吠えも我々を警戒していて、威嚇やコミュニケーションなのかも知れない。一瞬、敵に勘付かれる前に始末すべきという考えが脳裏をよぎるが、直ぐ様否定する。それこそ危険だ。群れで生活する野生動物に、下手にちょっかいを出す程危険な事は無い。それが高い知能を持つ大型動物であるなら尚更だ。ジオンだけで手一杯だと言うのに、それ以外に知恵の狼(レイフ)まで相手出来ない。触らぬ神に祟りなしだ。中尉はスクリーンの一角に表示されたビロードの如き白銀の毛並みを持った獣を見つめる。こちらを見つめ返す黄昏色の一対の瞳は、まるで彫刻の様に動く事は無い。人間が勝てる相手では無い事をそれだけで推し量れる。悟れない者は死ぬだけだ。

 

《こちら、SST02。問題、無し》

「よし。戦闘は極力避けろ。敵に気取られるな。これよりガードチャンネルに切り替える。歩行モードも変更しろ。敵戦力は情報によれば250人程度、MSは無しだ」

 

 一度言葉を切り、中尉は深呼吸する。さて、ここからだ。

 逆巻く吹雪は相変わらず。空気まで音を立て凍りつく極寒のうねりも相変わらずだ。だが、自然の牙は俺達には届かない。雪も深く、コイツでも足を取られるが問題は無い。流石おやっさん。全て正常、オールグリーンだ。

 

「SST01より全部隊へ。これより突入を開始する。SST02。ポイントマンを頼む」

《こちらSST02。了解》

《えー?わたしじゃないんです?》

「まずは、なSST03。よく見とけよ?」

《せっかくの近距離装備なのに…》

 

 それはお前が弾を当てないからだ。中尉は声に出さず嘆く。事実を指摘しわざわざ士気を落とす事も無い。その必要も無い。それでいい。伍長は自分達に必要なのは今も昔も、未来も変わらないだろうから。

 

 中尉のボヤきも、伍長の言葉は最もである。だがぶっちゃけると経験の浅い女性兵士(WAC)を矢面に立たせるのは気が引けるが、自分が仲間の射撃で死ぬ(チープキル)のもゴメンだ。一番槍の一番先頭なら、前にいるのは敵だけだからな。頼むからみんなと同じ方向に撃ってくれよ。敵が出て来たら、な。

 軍曹はスカウト、コンバットトラッカーとしてもかなり優秀である為、最も危険と言える先頭も安心して任せられるが、同時に勿体無くもある。オールラウンダーの軍曹には常に臨機応変に対応する為備えて欲しい。しかし、隊長である俺が前に立って真っ先にヤられるのも考えものだ。軍曹ならすぐ指揮を継いでくれるとは思うが、お荷物になるのはゴメンだ。結局、初めは軍曹、俺、伍長の順番だ。消去法で一番マシになると思った上での布陣である。

 ふと気づく。微かにであるが、視界が晴れ始めている。あれ程雪を叩きつけて来た吹雪が、少しずつ収まり始めた。地形の影響か?中尉は眉を顰め、そして、目の前に現れた明らかな人工物、朽ちかけたコンテナの様な物に身を寄せ、油断無く周囲を索敵する。視界の隅で軍曹が音も無く先行し、同じく遮蔽物に身を隠した。安全を確認しているらしい。

 身動ぎし、ゆっくりと立ち上がろうとする中尉を軍曹は制止し、その姿勢のまま、ハンドシグナルで停止を出し、流れる様な動作で前方を指差した。身体に緊張が走るが、強張りはしない。ゆっくりと首を回し、数瞬の間を置いてハンドサインで応えた。使える道具は基本出し惜しみせず使うべきだが、隠密行動中は別だ。使わなくて済むのなら電波を発すると言うリスクのある無線は使わないに越した事は無い。逆探知に盗聴、ジャミングも難しいレーザーによる短距離バースト通信と雖もそれは同じだ。

 中尉はその先へ目を凝らす。しかし白の中には何も見つけられない。視界をサーマルモードに切り替えた瞬間、視界に赤く何かが浮かび上がった。ネックレスの様に、蛇が蛇行した跡の様に連なるそれは、動物によるものでなく、何者かの足跡だ。ズームし、それに反応した機体が解析を行い始めた。ソールパターンは連邦軍が正式採用しているものでは無い。足跡の淵は切り立っており、かなりエッジの効いた足跡だ。やや引きずっている。足跡はそこそこ深い。この吹雪だ。ほんの数分で足跡など跡形も無く消えてしまうだろう。この足跡は、かなり新しいと見て間違いないだろう。

 

──ビンゴだ。

 

 足跡が続く先、吹雪の合間に、巨大な門がその姿を表す。特殊合金で作られているらしいそれは、所々塗装が剥げ、朽ち、ボロボロになっていた。極地の軍事施設と雖も、長年の厳しい寒さと湿気の前に腐食し、穴が空き、その上を覆うかの様に雪が張り付き白く染め上げられていた。フェンスは破れ、監視カメラは根元から折れ、地面にその身を横たえている。横に備え付けられていた階段のステップは既に無く、その上を飾っていた投光器は分厚いガラスを方々に散らばらせ、胎にこれでもかと言う位雪を溜め込み沈黙を保っている。しかし、それでも黒々とした重厚なシルエットは、大規模な軍事施設としての威容を未だ失わずにいた。

 

 それは、地獄に現れた、魔王城の門の様で。

 

 彼の頭の中で、銃声が鳴り響き始めていた。

 

 

 

──U.C. 0079 10.3──

 

 

 

「今回の作戦の主目的は、敵の本隊に強襲をかけ制圧を行い、敵戦力を撃滅させる事が一つ。つまり、いつも通り、敵を1人残らず殲滅する事だ」

 

 青に近いグレーを基調とした壁は、いつも通りのイメージを部屋に与えていた。色と言うものは、その存在だけで大きな心理的効果を発揮する。薄暗い室内に、少ない光源で照らされていれば尚更だ。一面の寒色。空調が効き過ぎた室内は肌寒く、まるで靄の中の冬の日の朝の様だ。子供の頃行った富士山でのキャンプを思い出す。あの日も素敵な冬日和だった。ぶっちゃけ夏もそんな感じだったけど。つーか夏の時の雰囲気の方が似てる気がする。中尉は呑気に頰をかく。

 しかし、物騒な文言が並ぶ所から始まったブリーフィングは、ユルさもいつもの落ち着きも感じられなかった。どこかざわついている。誰もが敏感に艦内の雰囲気を感じ取り、この時を待って居たからだろう。

 

 "ブロークンアロー"、そして"チャイルドソルジャー"。今"アサカ"艦内はその2つの話題で持ちきりだ。箝口令が敷かれていたが、人の口に戸板は立てられないものだ。それに、艦内で完結する分だけまだマシだろう。艦長も副長も特に徹底せず、処罰も考えていない様だ。そして、今からそれは暗黙の了解、公然の秘密とやらになるのだろう。人の営みはそうやって出来て行くのだから。

 

「そしてさらにもう一つある。こっちがメインとも言えるだろう。コレだ。作戦エリア(OA)に格納されているだろう、重要物資を奪還、確保し、我が軍の庇護下に置く事だ」

 

 咳を一つ。副長が壁に投影されたエリアマップを指しながら、朗々とした声で今回の作戦の概要を説明する。数百人単位で推し詰めている老若男女の猛者達は、各々リラックスした態度でそれを聞いていた。しかし、目は画面から離さず、目を離している者はしっかり耳を立てていた。隣の人の脇を肘で突く者も同様だ。全員が全員、それなりに緊張しているようで、広い部屋の空気は緩い様で、その実極限まで張り詰めていた。

 中尉達"ブレイヴ・ストライクス"の面々は、後ろの端でそれを立って聞いていた。腕を組んだ中尉の顔は顰められており、唇は引き結ばれていた。先程までの穏やかな雰囲気は霧消し、スイッチが入りつつあった。軍曹は相変わらず、伍長はこっそり上等兵の袖を引き、何か話しているが内容までは聞き取れない。まぁ、おそらく作戦には関係無い事だろう。上等兵の顔をちらりと盗み見て、中尉はそれをそのまま放って置く事にした。緊張ばかりでは誰もが辛い。こんな時、違う話をするヤツがいてもいいものなのだ。

 

「重要物資の内容は、皆ももう知っていると思う。反応兵器だ」

 

 所謂、『通常の戦略兵器』と言うヤツだ、副長が自嘲気味呟き、スクリーンには、誰もが知っているだろう、切ったバームクーヘンの様なマークが浮かび上がる。いや、バームクーヘンはマイナーらしいから、パインでもいいか?まぁ、今は関係無い。マークが表示されると同時に、部屋のあちこちから呻き声が上がった。悪態も聞こえる。"アサカ"の兵士達は誰も彼もが精鋭揃いだが、それは各軍、各戦線からスペシャリストを集めてきた言う側面もある。その中には、あの"一週間戦争"を生き延びた宇宙軍(SF)も勿論少なくは無い。彼等の中には、自らの身体で、肌で、数世紀ぶりに使用され目の前で炸裂した、通常兵器とは一線を画す破壊力の反応兵器を味わった者も少なく無い。その反応は最もだと言えた。

 いや、経験して無くとも、誰もが知っている事だった。旧世紀の、悪名高き反応兵器のその名を。"ヒロシマ"、そして"ナガサキ"。この2つの地名と共に。地球連邦政府樹立と同時に世界各国から回収され、資源として平和利用されている筈の兵器を。

 

「作戦名は"オペレーション・ザ・クイック・ブラウン・フォックス・ ジャンプス・オーバー・ザ・レイジー・ドッグ"、素早い茶色の狐はのろまな犬を飛び越える。これについては言うまでも無いだろう。僕の趣味じゃない」

 

 小さな笑いが起こる。含み笑いは漣の様に広がるが、直ぐに消えて無くなってしまった。静まり返った海に、石を投げ込んでもまた直ぐ静まるのと同じだ。海の水は考えないが、この海は別だ。海をつくる水の粒1つ1つに意思があり、考えがあり、感情があるのだ。意思ある者の集まりは、何を考えているのか。今か、過去か、未来か。保身か、勇気か、後悔か。希望か、反省か、それとも自分か。それはわからない。

 中尉は腕を組んだまま上を見上げた。何も無い。天井だけだ。作り出された闇の中、微かに無機質な地肌が覗くのみだ。ちょっと恐ろしい。恐怖の根源はやはり判らない事、理解出来ない事だ。これからそんな世界へ漕ぎ出すのだろう。

──寒い、な。背筋が寒い。効き過ぎていた空調は今や正常だ。いや、判っている。決して温度の問題では無い事を。

 

 中尉は今でも視界に映り込むほど大きい画面に目をやる。その前に立ち指揮棒を振り回す副長に、心の中で問いかける。誰が狐で、誰が犬なのか、と。

 シニカルな笑みを浮かべた中尉の顔を、伍長は不思議そうに見上げていた。

 

「作戦はこうだ。まず、"ブレイヴ・ストライクス"を基幹とした偵察チームを派遣、10ヤードライン及び橋頭堡を確保する。ここだ。そして安全を確認次第本隊を送る。本隊は"アサカ"陸戦隊及び海兵陸戦隊を基幹とした突入部隊、陸軍工兵部隊を基幹とした搬出運搬部隊、そして我等海軍からなる輸送部隊、この4つだ」

 

 変わり行く画面に、メモを取る音が追随する。静まり返った部屋に、紙片の上を鉛筆やボールペン、万年筆が踊る音がちょっとした彩を加える。紙を引っ掻く懐かしい音に、万年筆とはまた洒落ているな、だがやはりいいものだとふと思った。つーか、電子ペーパー、あんまり定着して無いな。短時間のエンドレス動画だけではあるが映像資料も見られるのはいいけど、ねぇ?

 手元の小さなメモ帳を見下ろしながら中尉はふと思う。まぁ自分も使うが、最低限だけだ。適材適所なんて言葉は言い訳で、本音はやはりどうも慣れないからだ。隣を見ると伍長は手のひらになにやら書いていた。それでいいのか。

 

交戦規定(ROE)作戦規定(SOP)は以下の通りだ。各自確認しろ。また、可能な限り接敵、交戦は避けろ。極力敵に気取られてはなら無い。敵に判断の時間も自棄を起こす余裕も与えるな。だが、緊急時はその限りでは無い。最悪報告を後回しにし、各自の判断で交戦を開始しろ。その時は事前に潜入した強襲部隊が同時に突入を開始し本格的な交戦を行う。強襲部隊は火力を持って掃討及び殲滅を行い、輸送・搬出部隊の陽動(フェイントオペレーション)を行う。援護などは考えないでいい。その隙に輸送・搬出部隊は可能な限りの物資・資料を回収後、速やかに戦域を離脱せよ」

 

 雲行きがだんだん怪しくなって来た。前回もそうだったが、今回もまたずいぶんな作戦だ。時間が無いのがひしひしと伝わってくる。軍隊の行動とは思えない作戦の杜撰さに不安を覚える。勿論、作戦は秒単位、分単位まで決めるべきものでは無い。戦場の摩擦の前では、ある程度の遊びや余裕が必要不可欠だ。拘束が自由を生み出すとはよく言ったもので、要は、その塩梅が難しいのだ。

 しかし、言うなればそれは理想的でもあった。判断が現場に一任されており、そのカバーと責任は自分達が負う、と言っているのだ。刻々と変わるだろう状況に有機的に対応し、臨機応変に最善を尽くせ、と。好き勝手やれ、だから、確実にやれ、こちらにはその準備がある、自信がある、と。そう言っているのだろう、彼は。

 

「強襲部隊も同じだ。戦闘が開始されたら徹底的にやれ。だが、引き際を見誤るなよ。作戦は突入から撤退まで半日もかからない。実際、残されているだろう反応兵器の量もそう多くは無いと考えられている。それに、敵MS戦力は確認されていない。作戦地域(OA)のミノフスキー粒子濃度はほぼゼロだ。無線も使える。だが、今回MSの出撃を要請したが、諸般の状況から却下された。目立ち過ぎるそうだ。また、エアカバーも天気が安定しない為、飛ばす事は出来無い。パイロット連中は飛べると言っているが、万が一を考えてだ。だが緊急時にスクランブル出来る様には態勢を整えてはある。しかしながら、こちらの態勢は万全とは言えない。敵を見くびるな、弾薬は多めに持って行けよ」

 

 判っていたが、思わず溜息が出る。暗視ゴーグルと水筒、銃剣を置いて、代わりに()()とビールを持ってくる余裕はなさそうだ。やはりか。MSを出撃させない方便だと思われる。戦力的に辛いが仕方が無い。確かに、部隊を編成するには修理・点検が間に合わないだろう。前回も伍長が派手にやらかしてるからなぁ。俺も"ジーク"には中々負担をかけている。空を飛ばし陸を跳ね回り海に潜ったのだ。勿論それくらいじゃMSはビクともしない。だが、念には念を入れるのだろう。最近のおやっさんはいつもそうだ。それを悪いとは言わないが、行き過ぎている気がしないでも無い。勿論試作兵器という側面も含めてだ。今回もそうだろう。オーバーホールとまではいかないが、それなりの整備になっている筈だ。頭が上がらない。いつ寝てるんだ。

 それに、極地における行動のデータ収集はまだ行っておらず、その信頼性は未知数だ。一応テストそのものは開発時に勿論されているが、実戦投入にはおやっさんも慎重に成らざるを得ないのだろう。それに汎用兵器であるMSと雖も、今回の作戦においては特性が活かせない。汎用宇宙作業機器といってもあまりに細かい作業等は不可能だ。する必要も無い。巨体をねじ込み、狭い所に潜り込むのも同様だ。今回の作戦地域(AO)は旧世紀の建造物だ。情報によれば滑走路や軍港、演習場もあるらしいが、今回の作戦は基地内が主戦場となる。軍事施設と雖もMS並みの大型重機を動かす通路なんて存在しないだろう。そんな想定されている筈がない。仮にMSを出撃させようと、最悪外で待ち惚けか足手まといになりかねない。警戒も大切だが、ただでさえ少ない正面戦力を削減する訳にもいかないのだ。

 それにしても、行動のデータ収集か。恐らく、作戦が終わり次第順次テストを行うのだろう。また忙しくなりそうだ。関節部のシーリングやらセンサー部のガードやら、やらないと確実に性能は低下するだろうし。

 

 それに、MSを出せない、では無く()()()()とする方便とはいえ、敵の支配地域もかなり近いと言うのも確かだ。下手にドンパチやって刺激してしまい、増援を呼び寄せてしまっても厄介だ。慎重に行くべきだろう。

 "アサカ"戦隊の正面戦闘火力は決して低いとは言えない。むしろ過剰とも言える。やろうと思えば正規軍の大部隊とも正面から殴り合えるだろう。そして最大火力を維持している間は圧倒する筈だ。殲滅する事も不可能では決して無い。だが結局、"アサカ"戦隊は所詮潜水艦1隻のみの小規模戦隊に過ぎないのである。正面切って殴り合うには、絶望的に頭数が足りないのだ。その為、極少数だろうと友軍に倒れられてしまったら、瞬く間に戦力が細り始めてしまうのだ。各人が専門分野のプロフェッショナルの集まりである"アサカ"戦隊にとり、人的資源の損耗が最も避けるべき命題なのである。

 つまり、戦闘は出来るが可能な限り避けるべきであり、積極的にやってはいけないのである。それに継戦力もかなり低い。瞬発火力で叩き潰すのは得意だが、その火力を維持する為に一回の戦闘で莫大な弾薬を消費する。所詮は少数の強襲部隊、特殊部隊なのだ。つまり既存の特殊部隊と何も変わらず、そして映画の様に、大部隊を相手する戦隊では無いのだ。その点、正規戦や増援等にかなり弱い。極論を言うと、自分より弱い相手の不意をつき、火力の勢いに任せ徹底的に叩き潰す部隊なのだ。それに、この任務は正規のものでない。なるべくここに我々が居る証拠、居た形跡を残すべきでは無い。我々には追従するお掃除(消毒)部隊は居ないのだから。

 

 特にジオン北米方面、地上第2軍の司令官はあのガルマ・ザビだ。自ら部隊を率いて戦場に立つとも言われる彼のフットワークの軽さと判断力の高さ、決断力の速さは有名だ。あの若さにして大佐という階級、地球方面軍司令官という肩書きも親の七光りだと雖も、士官学校首席と言う優秀なエリート軍人である事には変わりない。それに、それらの意見を覆す為にと手柄を立てたがっていると言うのも有名だ。事を知れば確実に来るだろう。事前に得た情報により、これから戦闘を行うのはキシリア派の直轄部隊らしいが、彼は彼女、キシリア・ザビ率いる突撃機動軍の麾下だ。だからこそ下手に手を出さないか、恩を売りに来るかも知れない。その行動は予測不可能だ。高度に政治的な問題、と言うヤツか。どちらにせよ目立つのは危険だった。

 

 政治、そう、政治か。政治は判らん。俺は戦争屋だ。彼を知り己を知れば百戦殆からず。敵情や相手の心理を把握する事は重要だ。しかし、政治に関わるつもりは無い。軍人は政治に 関わるべきではない。政治家に取り軍人は道具でしかない。仲間内で相対敵とパワーゲームをする暇があるなら、明確な敵を撃滅すべきだ。勿論、絶対敵等存在せず、相対敵であり、戦争は政治の延長である事も重々承知している。だからこそ、餅は餅屋、俺達は俺達の最善を尽くすべきだ。俺達の出した結果をどう使うか考えるのが政治家の仕事なのだから。

 

「…どーしましたー……?」

 

 伍長が声を潜め聞いてくる。中尉は苦笑し、同じく声を潜めて応えた。

 

「…MSさ。使えないのは、やはりキツイなってね…」

「…ですか?」

「…だよ。ま、配られた手札でやろうか。いつも通り、な…」

「…ですね!」

 

 笑顔を浮かべ、親指立てた伍長は慌てて口を塞いで周囲を見渡す。どうやら大きな声を出し過ぎたのではと懸念したらしい。珍しく周りに気を使っている。流石の伍長も空気を読んでみたらしい。しかし、その場違いでコミカルな様子に中尉は頬をかく。締まらないなぁ。まぁらしいといえばそうか。それでいいんだ。伍長は。

 中尉は苦笑しながら、伍長の頭をかき混ぜた。伍長は甘んじて受け入れる。上目遣いが何かを訴えかけてきてるが、中尉はあえて気付かないフリをした。それでいい、そう思う。

 

「また、今回の作戦では、場合によっては高濃度の放射能汚染の可能性が考えられる。その為、作戦に従事する者は甲板作業員と雖も総員ノーマルスーツを着用しろ。これは命令だ」

 

 成る程な、手を止めず、中尉は独りごちる。作戦の規模の割に、戦闘員の数が少ないのはこの為だろう。中尉は漸く合点がいった。パイロット用の動きやすい軽装ノーマルスーツは数が少ない。物自体が高性能な分高価でセミオーダーメイドに近いものだから当然といえば当然だ。重装型も技術革新によって地上における行動にも支障が無い様ありとあらゆる工夫はされているが、それでも戦闘となると辛いものがある。戦争にリスクはつきものだが、避けられるなら避けるべきだ。彼等を戦闘に巻き込む訳にはいかないだろう。それこそが俺達の真の仕事だ。

 

「我々が引き上げた後、"ガリーナ"空軍基地からの"デプ・ロッグ"編隊による絨毯爆撃を行い施設ごと敵を殲滅する。コードネームは"アークライト"だ。施設の証拠隠滅を兼ねている為、特殊貫通弾頭を用い地下施設の基礎まで破壊するらしい。また、万が一の事を考え、我々が作戦を開始した24時間後、我々からの要請が無い場合は作戦が失敗したと判断、無差別絨毯爆撃(カーペット・ボミング)を開始する。島に留まっていたら、生存は不可能だと考えて欲しい。何か質問は?」

 

 "ガリーナ"?あ、そうか、そういや復活したんだっけ?まぁ、仕事してくれるならどうでもいいか。

 副長が言葉を切り、周りを見渡す。誰も何も応えない。その時、中尉の近くで1人が口を開いた。彼は確か、陸軍の古参だ。強襲チームの小隊長でもある。陸戦ユニットのかなりの古株で、以前はゲリラコマンド、対テロ特殊部隊の所属だった筈だ。市街地戦のスペシャリストで、今回は存分にその技能を発揮してくれるだろう。"アサカ"にはこんな人材が多い。引き抜きばかりだ。かく言う自分も能力はともかく元空軍だそういや。軍曹伍長は陸軍、おやっさんは元宇宙軍で今は俺と同じ空軍だ。上等兵はどうだっけ?でも海軍って感じはしないな。今は一応"ジャブロー"直轄特殊部隊と言う形となってるが、俺達は本当になんで今海の中にいるんだか。

 

「どの建物です?」

「現在確認中だが、"シャドーモセス"の核弾頭保存棟のどこかだ。

──場所を決めるのは僕じゃない」

「何も言ってません」

 

 情報の甘さを突かれた形となり、やや不満気な声の副長。それを意に介さない彼の戯けた様な言動に、中尉は小さく含み笑いを漏らす。こんな時にもジョーク、いや、こんな時にこそジョークか。リラックスした自然体に、かなりの場数を踏んで来た余裕が感じられる。頼りになりそうだ。

 そんな事を思いながら彼を見ていたら、鼻を鳴らし肩を竦めた彼と目があった。無言のままお互い目を逸らさず、同時に笑う。面白い人だ。覚えておこう。

 

「いいか、ミスは許されない。それは即ち世界の終焉に直結する。慌てず、冷静に、確実にやれよ。どんな事があっても自分を見失うな。また、何があるかわからん。各自、ガイガーカウンター及びシールバッジには気を配れ。帰還後は徹底的な洗浄も行う。しかし、作戦の規模と我が戦隊の規模からして、志願制で兵を募るのは不可能だと判断した」

 

 副長は息を吐き、脇に下がった。そして今まで沈黙を貫いていた艦長が悠然と立ち上がり、周りを見渡す。中尉も艦長と目があった。逸らす事はせず、見つめ返す。強く頷いた艦長は声を張り上げ、最後の言葉をしめくくった。

 

「すまないが、皆の命を、世界の破滅と天秤にかけて欲しい」

「「おう!!」」

 

 艦長、副長の敬礼に全員が返礼し、同様に声を張り上げた。艦内を慄さんばかりの衝撃は、全員の覚悟そのものだった。

 

「総員配置につけ!!」

「「おう!!」」

「よし」

 

 声と同時に動き出し、周りが忙しく自らの部署へ向かう中、中尉は組んでいた腕をそのままに、上半身の反動をつかって寄りかかった壁から身を起こした。軽く肩を回し、自分の頬を張ると、急ぐ流れを押しのけながらロッカールームへと歩き出した。後ろには軍曹、伍長が続き、3人の足音は雑踏を切り裂き、足早に目的地へと向かって行った。

 

「俺達は"リクビダートル"か?」

 

 誰かのボヤキが、耳にこびりつく。"リクビダートル"。ロシア語で後処理人等を意味する言葉だ。そして、この言葉には裏の意味がある。

 

──"チェルノブイリ"のあの事故を、命を賭して最前線で戦った人々の事だ。多くが帰らなかった。今とは状況が違うとは言え、確かに、とても他人事とは思えなかった。"火消し"は、やはり命を以ってその風を起こすものなのか。

 

 嫌な考えを頭から追い出し、何気ない事へ気持ちを向ける様にする。そういや、ここからだと結構距離があるんだな。音も無く動く床の上を歩きながら、中尉はふと思う。それでも艦備え付けの自転車を使う程では無いが。しかも自転車は甲板や滑走路ならともかく、廊下では使えない。無重力下なら動く手摺や壁蹴りで直ぐなんだが、そうは行かない。ま、それも慣れるまでは曲がり角で人やら壁やらに激突したり引っ掛けたり色々問題もあるしな。宇宙世紀になっても大なり小なり交通事情は旧世紀と変わらないのである。

 

 作戦前はそれこそ戦争の様に混雑するロッカールームは、今日に限っては静かだった。"ブレイヴ・ストライクス"以外誰もいない。それもそうだろう。今回は航空機の出撃も無い。そうなるとパイロットの数は自ずと限られてくる。静まり返ったロッカールームは何処と無く不思議な感じがした。不気味さでは無く、非日常感でなく、違和感で無く。すぐさま着替え外に出た軍曹を目で追いながら、自分の衣擦れの音だけに一抹の寂しさを感じる。活気が、元気が無い?寂れてる?わからない。中尉は手早く久し振りのパイロットスーツに袖を通しながら、その正体を夢想した。

 パイロットスーツの上から、野戦服を羽織る。白をベースに黒やグレーが散りばめられた冬季迷彩仕様だ。機を降りる予定は無いが、念の為である。ヘルメットを手に取り出た廊下では、軍曹が待っていた。続き隣の扉から慌てて転がり出て来た伍長は髪の毛がめちゃくちゃだ。ノーマルスーツの前もだらし無く開いている。足もブーツの奥まで入ってすらいない。何をそんなに焦っていたのか。歩きながら軍曹が伍長の髪を整え結んでいる間に、いつも通りの賑やかなハンガーに到着していた。

 

「伍長、ドッグタグは2セット用意しといたか?」

「はい!首と足首ですね!あ、お化粧します?」

 

 騒がしいハンガーの隅、半ば出撃前の特等席と化している弾薬箱に腰かけた中尉はマテバに弾を込めながら言う。命が吹き込まれた銃を構え、フィーリングを確認する。うん。久方振りに握った気がするが、違和感は無い。懐かしさを感じながら、腰のホルスターに収める。安全装置を忘れない。軍曹もハンドガンの弾倉に弾を込め、それをいくつも並べていた。手榴弾もセーフティピンにテープで脱落防止をし、同時にライフルの手入れもやっている。フラッシュライトが少し眩しい。中尉もそれとなくつられる様に刀を抜き、同じく確認を始めた。

 武器の最終点検をする2人に、走り寄ってきた伍長はキーチェーンの音と共にドッグタグを見せつけ笑いかける。中尉はドーランを塗っていた顔を上げ、歯の白さを際立たせながら笑う。お化粧も久し振りだ。いつぶりになるか。それにしても歯、目立つなぁ。もしかしてお歯黒は迷彩だったのか?

 

「軍曹を見ろ。死ぬ時と戦場に出る時はするもんさ」

「はーい……コレ、ピーナッツバターみたいな匂いがするんですけど…」

「知るか。ペロペロキャンディよかマシだろ。唇にも塗っとけ」

「…耳の、中…顎、首も、な…」

「はーい!」

 

 鏡から目を離さず、手を止めない中尉の発言は、この前の海兵隊員の事を思い出して、改めて思った事だった。彼はブーツの紐にドッグタグを挟み込んでいた。旧世紀からあるちょっとした工夫の1つだ。首にかけたドッグタグは、首が飛ぶと一緒に飛んで行ってしまう。そうなってしまえば、身元の判らない、または判り辛い死体の一丁上がりだ。

 戦場の死は悲惨だ。映画の様に、綺麗な死に様、死体になる事はまず無い。兵器の秘めたあらゆるエネルギーが解放された時、運悪くそこに居合わせた脆弱な人体等軽く引き裂き、消し飛ばしてしまう。戦場において生死が判らないのはかなり問題になる。身元が判らない死体もだ。KIAとMIAの間には深い溝がある。まだ前の紛争のMIA捜索は続いていた筈だ。終わる前に次が来ちまったが。ドッグタグはそれを避ける為の物だが、そのドッグタグそのものが吹っ飛んだら意味が無い。いざと言う時の為の保険の保険だ。

 因みに、ドッグタグが生まれたのは旧世紀の1度目の大戦の時だ。当時の物は熱や変形に弱く、その効果を果たす事は稀だった。また、折り曲げて千切る事で使用する物は戦闘中に千切れ飛びさらに混乱を招く事もあった。その為、現在は同じものを2つ用意し、戦死した場合片方を死体に残し、もう片方を持ち帰る事になっている。

 ま…使う事が無けりゃいいがな。それが一番だ。中尉は自分の手の平に横たわるドッグタグを見てそう思った。集めるのも、集められるのもゴメンだ。

 

「そうだ、伍長。一応テープを巻いて音が出ない様にな。俺はそれに加えて靴紐に通してるが」

「お守り、貼っといていいですか?」

「それぐらいなら。軍曹も貼ってるのか?」

「あぁ…」

 

 中尉はキーチェーンの音を嫌い、ブーツの靴紐にドッグタグを吊るし音が出ない様にしている。伍長に目をやると中身を抜いたパラコードにチェーンを押し込もうと四苦八苦していた。一本残しとけって言ったのに……これも工夫の1つだ。それに、違和感も少ない。ネックレスとかしないもん俺。また、隣り合ったドッグタグ同士が当たって音を立てない様に、ゴム製のドッグタグサイレンサと上からブラックテープを巻いている。そこに御守りも挟み込んでいた。

 因みに中尉は御守りとして、P-38"ジョン・ウェイン"に、刀と一緒に渡された5円硬貨と、"キャリフォルニア・ベース"の滑走路の隅で半分埋まってた大きな謎の金貨を貼っている。理由は無く、なんと無くだった。勿論気休めに過ぎない。しかし、鰯の頭も信心から。信じれば自信がつくものだ。これが幸運をもたらさなかったら、何がもたらすと言うんだ?迷信深くは無いが、御利益はあるだろう。お守りなんてそんなもんだ。他人から見たら無価値だろう。だが全てはそんなものだ。結局、モノの価値を見出すのは自分だけなのだから。

 

「ふふ、わたしはP-51〜タグちゃんは靴紐に挟もっと…あ、ブーツに血液型も貼っときましょうか!」

「…それは、いいな…」

「ん、ちょい縁起悪く無いか?」

「助けてくれるって事ですよ!」

 

 その言葉にハッとした中尉は、思わず伍長の顔を見やる。満面の笑みの伍長が、大きく口を開けて笑いかける。中尉も思わず笑みが溢れた。叩かれた肩に手をやり、逆の手で伍長の髪をかき混ぜた。俺達だけじゃないもんな。本当に伍長は……。

 

「そうか。そうだな」

「小隊長!最終調整終わったぜ!後はこの棺桶に主人を突っ込んでからだ!来てくれ!」

「了解!……行くか!」

「了解…」

「はーい!!」

 

 棺桶か、棺桶、ね。まぁそうだな。間違いじゃ無い。3人は格納庫の隅、蹲った影に近づく。そのサイズはMSと比べるとかなり小さい。民間販売されている小型の作業用モビルポッドくらいか。それでも、人と比べたら巨人だ。

 しばかれている少尉の隣のそれは、パワードスーツと言うには大き過ぎるかもしれない。だが、分類上は一応パワードスーツだろう。宇宙世紀黎明期に使用された倍力宇宙服をベースに、それを完全に戦闘用に調整したものだった。これは強化外骨格(エグゾスケルトン)と言うより、乗り込む甲冑(ライドアーマー)と言うべきなのかもしれない。今回の作戦において急遽その概念を引っ張り出され、最新鋭の装甲材やセンサー機材を積み込み再設計に近い改修を行ったものだ。

 全高3.2m、総重量0.3tの巨人は、開発計画などとっくに凍結された過去の遺物だ。動く甲冑、歩く戦車を目指し開発された汎用人型兵器は、そのコンセプトの方向性は決まっていた為、開発は比較的スムーズに進み、テストは高評価で、実戦でも市街における対人戦においては小火器、手榴弾を受け付けない為、無類の強さを発揮した。だが、それだけだった。山岳地や極地での兵士の活動に寄与したものの、平地での戦闘となると戦車や戦闘ヘリに対しては、サイズの限界から装甲及び火力、機動力は遥かに劣る為、正面戦闘ではまず勝てなかった。もちろん搭載兵装、戦術次第では勝てるが、それは歩兵も同じであり、何とも中途半端な兵器なのであった。また機銃を始め、大口径の重火器に対しても弱く、開発者の1人は旧世紀の戦車に例え"チハ"と呼んだくらいだった。勿論、全く役に立たない、と言う訳では無かった。あれば有利になる局面は幾らでも考えられ、実際に活躍した。しかし、その使い所をかなり選ぶコストの高い歩兵戦闘車の様な兵器となってしまった。あらゆる兵器が溢れかえる当時において、だ。

 

 中途半端なのは火力や装甲だけでは無い。この兵器は他の乗り物に比べて小回りこそ効くが、それでもそのサイズは室内においては大き過ぎた。入れない建物が多過ぎたのである。無理やりに入った結果、擱座し、脱出は愚か道を塞いでしまうケースもあった。しかし、単純な強化外骨格ではさらに制限が厳しいものになる。そのサイズでは活動時間も著しく短くなり、装甲も小銃弾すら弾き返せるか判らないレベルの装甲しか装備出来ず、値段だけ張る拘束具の様なものになってしまうのだった。

 かと言って、このサイズでも調達・運用コストも歩兵装備では異常とも呼べる値段であり、駆動系やセンサー系の多さから整備性も悪かった。更に、一般的な人間より遥かに大柄であり、その特性を活かすにあたり専用の武器を用意する必要があった。つまり、既存の兵器を流用し柔軟な戦い方をする事も出来ず、入れる建造物も選ぶ事から、機能性などを捨て代わりに柔軟性を持つ、と言う人型である意味が殆ど無くなってしまったのである。後述するが、操縦方法も直感的なマスター・スレイヴ方式でなく、スティックやレバーを操る必要のある複雑なものとなってしまっている。足は従来のパワードスーツの様に鎧の如く追従するセミ・マスター・スレイヴ方式となっているが、上半身はそうはいかない。肩幅が顕著であるが体型が成人男性と全く違う為、腕は通せず、かと言って中で動かすスペースもない。外に出す案もあったが却下された。結局はセミマスター・スレイヴ方式またはスティックレバー方式となり、その性能を発揮するには慣れが必要となってしまった。中尉を始め"ブレイヴ・ストライクス"のメンバーはMSに動きを学習させる為この方式で動かす事も多く、使い慣れている為簡単な訓練で運用出来るが、一般兵士なら慣熟には半年はかかる。その点も普及を渋らせる問題となっていた。

 そして最大の問題点は、動力が原子力電池であった事だろう。人型のシルエットを崩さず、かつ中にコクピット、生命維持装置、センサー類、電装系を組み込むにあたり、どうしてもスペースには限界があったのだ。内燃機関等勿論積めず、当時はバッテリーもサイズから十分な出力を発揮出来るものは搭載出来なかった。外付けやケーブルで繋ぐのは論外とされ、結局原子力電池以外選択肢は無かったのである。結果、出力こそ得られたが、被弾による放射性物質の漏洩、パイロットの被曝と言うリスクを背負う事になってしまい、当時は今の様な機能的な遮蔽服も存在しなかった事も併せて、使い所を更に限定してしまう結果となったのだ。

 結局、あらゆる制約を受けた上で開発されたが、あらゆる制約により持て余す形として完成してしまい、新時代、未来の歩兵兵器として華々しく発表されたのも束の間、宇宙開発の一部及び極地開発に細々と運用されるのみとなってしまった。それも一部重要拠点の設営終了と、同時の放棄と言う名の極地開発の終了、宇宙でも今尚使用されているMP(モビルポッド)の始祖の開発により、コストを含めてあらゆる問題から結局使われなくなったのである。

 そんな背景のあるものを、今回の作戦には当てはまるだろうと設計図を元に最新鋭の技術、機材、装甲材質を盛り込んだ形で再設計、新たに作り直した物がこの機体だった。おやっさんの"新兵器"のおかげである。既存の信頼性の高い技術の塊である為出来た荒技に近いが、それでも基本的なポテンシャルは高く性能は十分過ぎる位だ。改めて名付けられた通称は"アームド・コンバット・ギア・システム"、縮めてACGSとも呼ばれたこの兵器の動力は、現在実質入手不可能な原子力電池に代わり、エネルギーCAPの技術を援用し性能の上がったバッテリーで代用している。最大連続活動時間は78時間程と然程であるが、今回の作戦においては十分だ。

 

「コレが…おい、伍長、コイツは……」

厄が来ません様に(ノックオンウッド)に、って」

 

 立ち並ぶ3機の内の1機を見て、中尉は思わず絶句した。機体表面には今回の戦闘に合わせ、グレーを基調に白や黒を用いた迷彩が施されていたが、その上にド派手なステッカーがベタベタと貼られていたからだ。初心者マークから成田山、撃たないでなどと書かれたステッカーらの量は尋常で無く、折角の迷彩を台無しにし、結果趣味の悪いクリスマスツリーの様になっていた。

……目に眩しい。白地に映えるな。もしかしたら敵は一瞬撃つのを躊躇うかも知れない。だが、その後は親の仇の様に弾丸が雨霰の様に降り注ぐだろう。おちょくってる様にしか思えん。チンピラのバイクよりタチが悪い。"イバラキ"専用パワードスーツかよ。ん?イバラキ?イバラギ?どっちでもいいか。

 

「──あー…その金田のバイクか初心者の乗るフチコマか判らん位ベッタベタに貼ったステッカーは剥がしとけ。ウーデット気取りか?」

「がんばったのに…」

「その努力を別の方向に向けてくれ」

 

 肩を落とし、渋々と行った具合でトボトボ歩き始めた伍長を横目に、中尉は乗機を手を当て、見上げた。軽量化の為炭素繊維複合材を使用した装甲はあまり冷たく感じない。むしろ温かみを感じる位であったが、それが逆に不安を膨らませる。

 無論、軽量化は重要だ。運動性及び機動力、連続稼働時間や運用可能地点を選ばない汎用性の為の軽量化である。輸送の観点からも軽い方がいい。それでいて戦闘における防御力、負荷に耐える強度は十分と聞いてはいる。しかし、頭で理解するのと感じるのはまた別だ。ルナ・チタニウムとまでは言わないが、チタン・セラミック複合材位使って欲しかった。頼り無さを感じさせない、かつての愛機の"バスタブ"を思い出しながら、中尉はあの安心感を夢想する。

 

 軽く目をやり、すぐ横の筒の束を見やる。3連装の回転式銃身は静かに、艶のある黒光りを見せつけてくる様だ。右上腕部に装着された主兵装である13.2mm機関銃は、歩兵の兵器としては破格、いや、異常だろう。今回は中尉のオーダーから"ジーク"搭載の"バルカン・キャリバー"が装備されているが、本来は航空機用の20mm機関砲だったと言うのだから驚きだ。それに、頭部の2連装レーザー機銃も同様だ。これがスタンダードな装備となる。予備兵装や追加兵装としてミサイルを始めとしありとあらゆる兵装が装備出来るが、中尉はあえてそれをせず、予備弾薬を背負っている。追加兵装及び手持ち武器を装備しないのは、狭い室内での取り回しを考えての事だ。腕部固定式兵装の使い勝手は悪かろうが、使えないよりはマシだ。対照的に、軍曹機は13.2mm機関銃と、大型の専用手持ち武器である連射型57mmスマートライフル"ラピッドフラッシュ"を装備している。これはレールガンの一種であり、静粛性、高初速、連射性、精密性を兼ね備え、狙撃及び分隊支援に使用されるものだ。取り回しは悪いが、その分サイズに見合う莫大な火力と長射程を有する。戦車の正面装甲を容易く貫く事こそは出来ないが、装甲車位なら軽く吹き飛ばせる。機動力を活かし、上面、後面に回り込めば戦車も破壊出来るだろう。

 中尉と軍曹が乗る2機は比較的シンプルな装備をしている。歩兵の延長だ。2人がそれを望んだからである。その対局を行くのが伍長機だ。つけられる装備をつけられるだけ鈴なりにくくり付けた姿は、既に人型を大きく逸脱したシルエットとなっており、正にフル装備とも呼べる形となっている。旧世紀のSF作品から飛び出した様な姿は、正に開発当初のプロパガンダポスターに使われた宇宙の戦士(スターシップ・トゥルーパー)そのものだ。13.2mm機関銃が豆鉄砲に見える装備が連なる中、最も目立つのは右肩から突き出した76mmグレネードマシンガン"ラッシュバスター"の砲身だろう。その反対側にはグレネード投射機が搭載されている。両方とも面制圧攻撃を行う為の多目的榴弾で、76mmグレネードマシンガンはその名の通り、76mm多目的榴弾を毎分900発と言うサイクルで撃ち出せる、最大射程3600m、有効射程2500mの対装甲目標及びソフトターゲット殲滅兵装だ。ひらけた地形やビルが立ち並ぶ様な市街地においては頼もしい兵装となるだろう。グレネード投射機はその独特の形状から"Yラック"と呼ばれており、電磁式投射によりグレネードを自機を中心とした三方に撒き散らす無差別範囲攻撃武器だ。もちろん本来は装甲車輌に車載する為の兵器であり、通常の歩兵がこんなものを使っては、加害半径に自分が入り込み即死してしまうだろう。小口径弾及び破片防御において堅固な装甲を持つACGSならではの装備である。投射距離は設定可能で、100m近く飛ばす事も可能らしい。しかし今回の主戦場である閉所でそれらの武器が何の役に立つのかはわからない。更に、手持ちには専用武器である大口径のショットガン、"ハイパーマスターキー"を持ち、左手前腕部には火炎放射器"ウェイブブレイザー"が備え付けてある。伍長のオーダーで、積み込めるだけ積みたいとの事からこんな事になったらしいが、歩く火薬庫みたいな装備を、本当に使い熟しきれるのか……。因みに武器の愛称はカタログスペック見て伍長が即興とノリで決めたものだ。正式名称ではなく、なまじこの兵器が正式に採用されてもこっちは採用されないだろう。そもそもほとんどの兵器が既存の物の改良型である以上仕方無い事でもあるが。また、地球連邦軍の武器の命名は型式や直接的なものが多い。シャレた名前はジオンの十八番だ。そう考えると、伍長の感性はやはりスペースノイド寄りなのかも知れないとふと思った。

 

 不安はあるが、後はやるだけだ。準備は整った。後は2割を上手くこなすだけだ。人間は所詮思い込みでしか動けない。だが、思い込みだけが現実の理不尽を突き破り、不可能を可能にし、人を前に進ませるものだ。この渦中の中を突っ切るには、この気持ちが大切だ。かつて言われた事がある。自ら限界をつくり、限界を突破する本来の人間が持っている強烈な智慧と強さとひとつになる道に出会って欲しい、と。未だに意味が判らんが、なんかそんなもんだろう。そんなもんさ。

 サバイバルガンやロープ、携帯食料等が詰め込まれたサバイバルキットを片手に、装甲に手をかけ身体を引き上げ、人間で言ううなじのあたりに備え付けられたコクピットハッチを解放し、計器類に触れない様にして滑り込む。計器類はシンプルだ。ボタンやスイッチも少ない。限り無く直感的に操作出来る様、極度に簡略化され自動化された結果だ。急造の兵器を運用するにあたり、その成果を享受出来るのは大変ありがたい事だ。身体を固定するハーネスに手を伸ばしながら中尉は独りごちる。それに、コクピットハッチが前面に無いのはいい。正面装甲が厚いのもだ。やはり陸戦兵器たるもの、こうでないと。中尉は今も確かに感じる重力を腕に受けながら、そのハッチを閉じた。

 

 MSのコクピットハッチや放熱系等装甲が脆弱になりやすい弱点とも呼べる機能が基本的に前面に設けられているのはジオンの設計を真似ているから、らしい。正面装甲を重視する陸上兵器としては異例のレイアウトであると言えよう。

 しかし、それには勿論理由がある。そもそもMSは陸上兵器では無く、戦闘用に開発された宇宙汎用機器だ。上下左右の無い宇宙空間での機動力が最大となり、前面投影面積が最小となる対艦攻撃の姿勢における『正面』とは『上面』であるからだ。

 

 MSは宇宙空間を歩くのでなく、泳ぐのである。

 

 "ザクII"を例にとっても、F型とJ型では運用する戦場が全く違う為、見た目こそほぼ同じでも内装が全く違うのと同時に、装甲強化面も大きく異なっているとの事だ。それに、ACGSの様に背中や頭部を解放するコクピットハッチはMSに搭載するには規模が大き過ぎてしまう。高性能な電子機器を多数搭載した頭部は重く、それを支え、動かす首もまたかなりの重量となる。同様に重量のあるスラスターを搭載しており推力を発生させるバックパックの基部を動かすのも同様だ。又、タダでさえギリギリである胴体内部の容積を、それらを動かす為の頑丈な駆動軸が更に圧迫する事になるだろう。

 例外的に"陸戦型ガンダム"及び"陸戦型GM"のコックピットハッチが上部に設けられているのは、陸戦を主眼に設計されたからだ。正面にコクピットハッチを設けてしまうと、弱点であるハッチが一番攻撃が集中する前面に向いてしまう。更に、撃破され擱座しうつ伏せに倒れてしまった際、脱出が非常に困難になるからだ。また、コクピットそのものを腹部でなく胸部に設けているのは、緊急脱出用の射出座席を装備している点やコクピットハッチを解放し肉眼での偵察を行う事、河川での運用を考えられていたからである。しかし、その分コクピットが前面に突き出していると言う問題もある。追加の装甲を施しやすくもあるが、そもそも弱点が剥き出しで大きく張り出しているとも言える。全く新しい兵器であるMSは既存の常識が通じない所が多い。最適解が見つかるのはまだ先になるだろう。それは時間と閃き、技術革新、そして人の命と戦乱が自ずと答えを教えてくれる事になる。

──数多の屍の上に。

 

「よし……後は『カジキの皮』を被るだけか。卵を掴んだと思ったら、鳥の次は魚、貴重な経験だよ全く」

 

 ()()様にしてシートに腰を下ろした中尉は、火が灯り始めたスクリーンに目を落とし、独り呟いた。隣では伍長がステッカーを剥がすのを諦め、新聞紙を被せた上から水で溶いた石灰をぶっかけている。古い手だが有効だ。だが駆動部やセンサーだらけのハイテク兵器を何だと思ってるんだ?

 隣で軍曹は既に乗り込み、各種点検を終え主兵装であるスマートライフルを銃架から外し保持している。作戦開始まで後30分。中尉は軽く髪をかきあげ、いつもと同じ様に忙しく走り回る整備兵達と、いつもと違い、ただ立ち竦むだけの白亜の巨人を見上げた。

 

 

 

『アイリーン』

 

 

 

踏ん張って進め、氷を砕く様に………。




令和になりました。更新が遅過ぎる。と言うか久しぶり過ぎてやり方忘れてたよ。
激動の時代ですよね。1/1ガンダムも動いてるし。そんな中、4DXの逆シャア十数回見てきました。最高ですね。ナラティブ、00、パトレイバーも本当に楽しみ。あんなに合うとは。まぁガンダムザライドとかも良かったですし、相性いいですよね。宇宙の風を感じます。どんどんやってほしい。
ガンダムはいいニュースあるけど、世界は本当にカオスですね。世界中がバルカン半島です。コロナが世界を燃やしてる様です。やはり人は共通の敵を見つけても一つにはなれないんだな、とふと悲しくなりましたが。

本当に久しぶりの投稿の理由は、世界の危機の真っ只中ですが、出来る事をやろうと。暇つぶしの一つになればいいかなと。ぶっちゃけると最近は厭戦気分が蔓延してますが、それでも自分が今戦っているのも、力があるからでなく力が無いからこそ出来ることをしようと思ったからです。自分達は今、皆が水面下で戦ってます。勝利は見えません。だが戦う事が大切なのです。微力でも、自分が出来ることをやる。それがこの敵と戦う最高の武器であるのなら、やるだけです。大切なのはただ負けない事、本当にそれだけです。
自分はてんてこまいで、何も出来ない日々が続いてます。でも希望を捨ててはいないんです。決して捨てていけないのです。この状況でも、日々の小さな幸せに笑みを浮かべ耐える。そうしてこのままいければ勝てる。私はそう信じてます。きっとゴールはすぐそこです。結末はいつだってあっさりしていて、いつの間にか来るものですから。

その終わり方は特別じゃなくてもいい。

大事なのその戦いの日々をどう過ごしてきたのか。歴史の中を確かに生きていることを実感出来ればなによりかなと。今よりマシにはならないなんて事はありません。世界はいつでも昨日よりマシになっていきます。いいニュース悪いニュースありますが、それでも今は苦しくても、それでも未来は光で満ち溢れていると信じてます。夢を見てるんです。だから、配られたカードで戦いましょう。今の私達に求められるのは自制です。孤独に歩め。悪をなさず、求めるところは少なく。林の中の象のように。そうして世界を救いましょう。

一緒に!!

身バレの可能性がありますが、伝えたかった事を。幸せの青い鳥はいつもそばにいますからね。



次回 第七十三章

フォッグラントの空の下

「あ、コレ多分地雷踏みました」



ブレイヴ01、エンゲージ!!


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第七十三章 フォッグラントの空の下

初投稿です。


観測されなければ、それはあり得ないのと同義。

 

知覚されなければ、それは存在しないのと同義。

 

広い世界に、泡の様に生まれ、消える無。

 

しかし、無かった事にはしてはいけない。

 

深い雪の下を風が暴き、それを語り継ぐ日が、きっと来る。

 

それが、今日なのだ。

 

 

 

── U.C. 0079 10.4──

 

 

 

 視界を白く染め上げ、耳を打つ吹雪の中、中尉は首を廻らせ、目を見張り、周囲を油断なく見回す。高性能な複合センサーはわずかな兆候、熱変化をも見逃さない。しかしそれを見る目はそうはいかない。

 人はそう簡単に変わらない。ユーザーインターフェイス(UI)は未だに完成形とはなっていない。これからも完璧に近づく事はあっても完璧となる事は無いだろう。ミノフスキー・エフェクトによる障害の中でも、それを克服せんと高まる性能と増える情報の洪水は、既にコンピュータや人の処理能力を凌駕しつつある。顔を撫で、こめかみを揉む中尉は、僅かに顔を顰めた。ハイテク兵器は負担を減らしたが、同時に負担を増やしたな。未だに慣れない。だが慣れなければならん。もう人が兵器に合わせる時代は終わった。だが兵器が人に合わせる時代も終わりつつある。

──お互い歩み寄らなければならない。お互いがお互いの性能を十全に発揮出来る様、お互いに進化し、新たなステージへと向かう必要がすぐそこまできている。マシンがヒトの形を得た今、世界はまた加速して行くだろう。波に乗らなければ。適応していかなければ……この先、生き残る事は難しい。

 

《それにしても、作戦名は皮肉か。副長も意地が悪い。戦力差を考えたら狐狩り(フォックスハント)だ》

《ふん。俺たちは狐を狩る者(フォックスハウンド)か?》

《おい。油断するな。追い詰められた狐は、ジャッカルよりも凶暴だぞ》

《どこの言葉だそりゃ?聞いた事が無いぞ?》

《知らんのか?ここから南西にある島国じゃ有名だぞ?》

 

 軍曹が罠を探している間、消毒済みの(・・・・・)物陰に身を潜め周囲を警戒していた中尉の耳に通信が入った。後続の連邦兵の愚痴が聞こえる。どうやら作戦名について話し合ってるらしい。逆探知の可能性を増やすなと言いたくなるが、この吹雪の中よく余裕があるものだと感心する。彼らの多くはパワードスーツやエグゾスケルトン等の強化服を装備していない。頼り無い防寒具のみだ。数の少ない倍力服の類は輸送部隊に回されてしまっている。彼らが頼りに出来るのは、己の肉体のみだ。

 彼らこそ真の歩兵だろう。いかなる地形も気象も物ともせず、重い荷を背負い歩き続ける。そして戦うのだ。彼らこそが軍の本質、軍そのものだ。

──今の自分は何なのだろうか。空を飛ばなくなって久しい。攻撃機乗りとはもう名乗れないかも知れない。パイロットである事は変わらないが、それでも、あの頃とは決定的に違う。気がつけば、こんなものに跨り、こんなところにいる。最後にあの空を見上げたのは、あの空から見下ろしたのは……随分と、遠くまで来てしまった。本当に、遠くまで……。

 それにしても……狐、狐か。"フォックス"諸島だからか、それとも、まんまと出し抜かれたノロマな犬(地球連邦軍)を指しているのかは判らない。確かに後手後手に回っている。だからこそ、ここで反撃(ストライク・バック)と行こうじゃないか。

 

《しょーいはどう思います?》

「いいや、俺達が狐さ。合っている。狐が、ニワトリ小屋に飛び込んだだけ(フォックス・イン・ザ・ヘンハウス)だ。番犬を飛び越えて、な」

《狐に鶏小屋の番をさせる訳にもいきません。何が合っても自分を見失う事の無い様、お願いします》

 

 中尉は上等兵の言葉に薄く笑った。ついさっきまで『カジキの皮』を被っていた人に言う台詞じゃないだろう。人生でこんな経験はまず無いだろう。もはや驚くまい。現実は小説より奇なり、だな。

 中尉達先遣偵察隊は、敵に気付かれる事無く、かつ素早く接近する為、特殊潜航艇を用い、魚雷発射管から射出されてここに来ている。酷い乗り心地だった。人が乗るもんじゃないぞアレは。いやフツー乗るもんじゃないが。コーウェン准将の言葉が今になって思い出される。まさかこんな事になっているとは准将も思うまい。世界を回す為には魚雷になる必要があるなんて、知りたくなかった。

 

《ん?》

 

 伍長が声をあげた。かなりの深さまで積もっている雪が珍しいのか、それとも初めてのパワードスーツが気になるのか、純粋に慣らしなのか判らないが、小型化された簡易型"シェルキャック"に粉雪を乗せ揺らしながら歩き回っていたのだ。初めはかき氷を作ろうとハッチを開けようとしたが凍り付いていた為諦め、雪だるまは形が崩れ、今は雪玉を作っては壁にぶつけていた。多少気持ちは判るがじっとしている事が出来んのかお前は。無理か。マグロみたいに動いてないと死ぬのだ。いや、トガリネズミ、は違うか?カワウソだな。そっちの方かも知れない。

 立ち止まった伍長に、中尉はやや呆れ半分に注意を促した。近くで軍曹は偵察と安全化を続行している。時間が無い今、戦力を遊ばせておくには勿体ない。

 

「SST03どうした?珍しいのは判るが、掃除が済んでない所をあんまりウロウロすると……」

《あ、コレ多分地雷踏みました》

「おい!」

《伍長!先ずは落ち着いてください!絶対に足を動かしてはいけません!》

《でも不発でしたー。えへへ、ラッキー、です!幸先いいですね!》

 

 最悪な報告に嫌な汗が噴き出した瞬間、思わず脱力する中尉。足を上げて指を指し笑う伍長は無邪気そのものだ。何が幸先いいだそんな占い地面に埋めちまえ。最近こんなのばっかだぞ。全く。

 因みに地雷は踏んでも足を離さなければ爆発しない、なんて事は無い。地雷も種類がある。一つ一つ丁寧に人が埋設するものから、航空機で空中散布するものまで威力も形も作動方式も多種多様だ。最近はセンサー式も多い。ミノフスキー粒子の所為でまた減るだろうが。そして埋設式は、踏んだ瞬間爆発するものが大半である。そもそも埋めない地雷もあるが。埋設式に対し設置式とも呼べるこちらも数が多い。埋めるより簡単に設置できる分見つけやすいが、簡単な分、数が多い場合が多くこちらも気が抜けない。作動方式もセンサー式やワイヤー式が大半でこちらも厄介である。中尉や上等兵が焦るのも無理は無かった。焦らない軍曹は地雷を知り尽くしているプロであるからだ。また同様に焦らなかった伍長はACGSを過信しているだけだ。

 

「全く!過去の遺物が仕事しなかった事に感謝しろよ?」

《こちら、SST02より、SST01。この地雷は、最新型、だ》

「……雪か」

 

 足を退けた伍長の元へ滑り込み、地雷をすぐ様無効化した軍曹の報告に、中尉は眉をしかめる。地雷を雪に埋設する時は、下に木の板などを敷く等地雷をしっかり固定しないと爆発しない。今回のパターンの様に圧力を検知する前に地雷そのものが沈み込んでしまうからだ。

 そもそも通常の地雷であっても、埋める時は底面に当たる部分を平らにし踏み固める等しっかり穴を掘らないと起爆しなかったり、不完全爆発したりするものだ。穴の深さや上に盛る土も同じく重要である。そんな基礎すら出来てないらしい。今回伍長が踏み抜いたのは対戦車地雷だ。文字通りその威力は丈夫な戦車をも各坐させる。その分、感圧部には数十キロ単位の力が加わらなければ起爆しない。通常であれば人はまず引っかからない。しかし、コレには罠がある。物にもよるが、対戦車地雷の感圧部の端を踏むと、本来起爆する重量の半分くらいの力でも起爆する時がある。また、成人男性が荷物を背負い走ると、自身の体重と荷物を合わせた数値以上の力が地面に加わる。走りと歩きでは膝への負担が数倍になる様に、推進する為に脚力を下へと叩きつければ数十キロなんてすぐだ。度胸試しと対戦車地雷の上でジャンプし、そのまま天国まで飛んでいった人もいる。今回は本当に運が良かったのだ。普通なら死んでいる。

 前述の通り、実は地雷を扱い、偽装し、解除防止を施し、また回収するのは工兵の基礎ではあるが同時に高等技術でもある。敵の編成や敵の練度が推し量れる。いや、スペースノイドだからか?どの道不慣れな敵だ。

 

 やり辛くなるかも知れん。

 

 軍曹と顔を見合わせる。無機質なセンサーのみを装備する()なので顔色こそ判らないが、向こうも同じ考えらしい。戦力的な話ではない。戦術的な話において、だ。プロなら動きが読める。だが、パニックを起こした素人は時に何をやらかすか全く判らない。特にこんな状況だ。苦し紛れの一手に手痛い反撃を喰らったり、最悪の事態に陥る等いくらでも考えられる。

 軍曹が顔を上げた。今度は何だ。これ以上悪くはならないで欲しいが。今よりマシにはならないなんて真っ平だぞ。

 

「SST02、どうした?」

《SST02より、SST01。小銃の、発砲音だ。距離6620。反響からして、屋外だ》

「どこの部隊だ?まだ発砲許可も申請も来てないぞ」

 

 軍曹の事だ。聞き間違いという事はないだろう。中尉が口を開く前に、にわかに無線が賑やかになる。

 

《こちらも近くで発砲音を確認。現在確認中》

《こちらでもだ。何者かが交戦している。小規模だが、確実だ》

「こちらSST01。報告が不明瞭だ。状況が掴めない。コールサインをつけてくれ」

《こちらウィザード01。施設への回線接続を確認、監視情報を手に入れました。そちらへ回します》

 

 上等兵の声と同時にサブモニターの1つが切り替わる。そこには歩哨につき、のんびりとタバコをふかすジオン兵の姿が映っていた。これで遂に疑念が確信へと変わる。次々と切り替わる画面どれにも複数の兵士が映り込んでいる。目の前に聳える建物にもいるらしい。もうここは完全に敵地(インディアンカントリー)だ。

 

「SST01了解。うわ、結構居ますね。この近くにもですか……交戦はみられませんけど……あー、SST02、どうする?」

 

 思わず操縦桿から手を離し頬をかく。随分と結構な戦力だぞコレは。こんな辺境に。いや、情報が筒抜けなのか?何にせよ問題は山積みだ。

 

《こちら、SST02。警戒を強めて、前進すべきだと、判断する。想定済みの、問題に、流されるべきでは、ない》

「そうか、よし。ウィザード01、聞こえました?」

《こちらウィザード01。情報はリンクしたまま、小手調べのクラッキングを開始します。慎重に探りますので、全施設掌握までには時間がかかりますが、そのドアくらいなら今でも開けられます》

「SST01からウィザード01へ。了解です。流石ですね。SST02の許可で頼みます。敵の動向のモニタリングも同時並行でお願いします。しかし現状は、輸送部隊の支援を最優先にして下さい」

《こちらウィザード01、了解》

「よし。正面から堂々と行こう。他に入れるドアがあるとは思えん」

《王の帰還です!裏口なんてまっぴら!レコンギスタ!》

 

 『キ』な。我が城でもないし。

 

 リンクされた地図によると、施設は平地にあるが、同時に谷間を縫う様に作られてもいた。風化や氷河による侵食、火山活動の結果か、複雑でかなり入り組んだ地形だ。施設を少しでも外れると即天然の要害にぶち当たる。装備は整っているとは言え、雪が渦巻き猛吹雪が吹き荒ぶ極地の山に分け入るのは危険だ。GPSは使えず、電波やレーザー通信、バースト通信も万全の状態ではない。時間に余裕があれば迂回し強襲をかけるのもアリだが、今回求められるのは時間だ。道に迷う可能性もある。その貴重な時間を浪費するのは避けたい。

 それに後続の問題もある。俺達の仕事は偵察と安全な搬出ルートを確保する事だ。本機、ACGSはこの島の殆どの地形を踏破出来る性能がある。だが、それに身を任せ人が通れない、物資が運べない道を拓いても意味が無い。どの道自分達は歩きやすい所を歩くしか無いのだ。

 

「さて、歴史の墓暴きと行こうか。この扉はパンドラの匣か、反応兵器の骨壺か……」

 

 大きな音を立て、こびりついた雪や氷を振り落としながらゆっくりと開きつつある扉に目をやり、中尉は各種センサーを用い慎重に探りを入れて行く。結構広い。格納庫……いや、錆びついたクレーンや一部崩れているキャットウォークを見る限り、整備場だったらしい。規模はそれなりだ。左右には小部屋も見える。驚く事にドアの表示を見る限り電力は生きてるらしい。いや、当たり前か。倉庫も併設されている様だが、しかし、その収納も活かされている様子は無さそうだ。床にはありとあらゆる資材が積みっぱなしだ。引っ越し間際の様に思えるが、殆どが真新しい木箱で、その合間合間にそこそこ古い金属のコンテナまで大小様々な障害物が視界を塞いでいる。どうももう出て行く、又は来たばかり、と言う訳では無さそうである。幸い、それでもACGSで動くに十分過ぎるスペースがあった。身を隠す余裕も。

 センサーに感あり。魔法の目が何かを見つけた。何かがいる。しかしそれ以外判らない。野生動物かも知れない。しかし、動物は天然のセンサーだ。十分に気をつける必要がある。すぐにセンサーをパッシブに切り替える。電気が生きている以上対センサー装置等も装備されていると考えるべきだ。索敵は目視と上等兵に任せるのが一番だろう。

 

《猫ちゃんがいるかいないかは開けなきゃわからないですよ!》

《それは少し違うと思います》

《あれ?》

 

 緊張感の無いやりとりの中、軍曹が指し示した先には、開き始めた扉に別段警戒する事も無く、吹き込む雪に悪態をつくジオン兵が居た。中尉は吹雪に紛れつつ、ゆっくりと身を隠し、ハンドサインを送りつつ観察を始める。はてさて……。

 彼らは視線の先で、あまり暖かそうには見えない防寒具に身を包み、寒さに震えている。恐らく、いや確実にまだ若い兵士だった。同い年かそこらに見える。子供じゃなかった事に少し安堵してしまっている自分に喝を入れながら、中尉は嘆息する。全く。俺はいつまで引き摺るのか、そして、いつからそんな慢心の余裕を飼う程弛んだ贅肉を纏っていたのか。全く!

 

《SST02から、SST01へ。歩哨だ。数は4。警戒は薄い》

「こちらSST01了解。やり過ごせそうか?」

 

 そんなに居るのか。もちろん戦力は遥かにこちらが上回っていると考えていいだろう。しかし、そう思いつつも中尉の発言は、交戦を避けるものだった。

 それもそのはず、上等兵のクラッキングにより、この付近一帯の詳細な地図が既に手に入っていた。一部はまだ辛うじて生きているセンサー、監視カメラもハッキングし、その行動はこちらに筒抜けだ。それに、奥に進むべき扉は既に見えている。藪をつついて蛇を出す人は多いが、悪戯に蜂の巣を突きたがるのはバカだけだ。

 

 しっかし、よく軍曹は人数まで把握出来てるな。中尉には2人しか見えなかった。そのもう1人は、視界の隅で既に扉を閉めようとしてボタンを操作し、閉まらない事に首を傾げている。怪しまれるまで時間は少ない。仕掛けるにも、どうすべきか。こちらに来ない様に祈りながら、中尉は軍曹の言葉を待つ。

 

《SST02からSST01へ。この人数、だ。難しいだろう》

 

──軍曹1人ならともかく、と言うことか。ゆらゆらと体を揺らしながら、ゆっくりとこちらに近づきつつあるジオン兵と、足元に転がるコンクリート片に目を落とし、中尉は決断を下す。

 

「サイレントキリングだ。SST03。構えてるマスターキーを下ろせ。SST02、2人任せられるか?」

《こちらSST02。3人、だ。任せてもらって、構わない。タイミングは、合わせる》

「了解!」

 

 言うが早いか、中尉は軍曹に目配せし、手に取った小さなコンクリート片を放り投げる。壁に当たったそれは派手に砕け、大きな音を立てる。そして、音に反応した兵士の背中へと、中尉はさらなる一石を投じた。中尉の動きと同時に、軍曹は摺り足で音も無く他のジオン兵の背後へと回り込み、一瞬で首をへし折っていた。更に、重力を感じさせない跳躍で、次なる獲物へと踊りかかる。

 結果は火を見るより明らかだろう。中尉は自らが投じた一石へ集中する。足元の手頃なコンクリート片を探しながら考えるのは、第2投は必要か。今はただそれだけが重要だ。

 

 中尉が投げ放ったコンクリート片のサイズは、なんて事は無い拳大のものだった。ACGSの掌のサイズと比較したら、それはかなり小さく見えただろう。しかし、それはそこらのイシツブテとは格が違うのだ。鋼の剛腕から投じられた砂利とセメントの混合物は、レーザービームの様な直線を描き、寸分違わず防寒具に包まれた背中へと突き刺さった。

 薄っぺらい防寒具を突き破り、肉を潰し骨を砕く湿った音と共に、男は殺風景な壁に叩きつけられ、赤く彩る花を咲かせた。ズルズルと灰色の壁に鮮やかな赤を伸ばしながら倒れたそれは、そのまま雪を染め上げる肉塊と化していた。即死だろう。軽く投げたつもりだったが、人体はやはり脆い。大穴が開き、その中身をぶちまけつつある挽肉を気に留める者は誰もいない。彼の仲間は既に全員事切れていた。視界の隅で、軍曹が3人の死体を抱え、空き部屋へと放り込むのが見える。つーかマジか。あんな動きが可能なのか……。人が歩いても音が出るキャットウォークへ翔んで着地して音が出ないってなんなんだよ。しかも朽ちかけてるときた。やはり軍曹は格が違い過ぎる。なんで俺の知り合いなんだ。ぶっちゃけ例の伝説の傭兵の物語に出て来ても違和感無いぞ。

 そんな中尉の感想を知ってるのか知らずか、軍曹がそのまま先行、安全を確認し、ハンドサインを送る。うなづいた中尉は振り返り、伍長へと呼びかけた。

 

「よし。SST03。ポイントマン」

《やったー!任されて!!》

「頼むぞ」

《はいなー!》

 

 解放された"シェルキャック"を翻し、意気揚々と前に進みでた伍長は扉の前に立ち、ACGSでも十分に押せるサイズの大きな開閉ボタンを押した。叩きつける様に押される為だろう、ボタンのサイズは掌よりも大きい。しかし、人間の手には大き過ぎるが、ACGSには小さ過ぎる。巨人が身を屈め、垂れるマントの隙間から指を伸ばしボタンを押すのは中々滑稽な光景だった。口に出しはしないが。

 

 因みに今回簡易型の"シェルキャック"を装備しているの伍長機だけだ。MS用の物は大掛かり過ぎる為、とてもじゃないがACGSには装備出来ない。そこで、軽量化と簡略化の研究中に生み出された試作段階の新型を装備している。繊維の積層で無く、繊維自体を強化する事で軽量化を図っていたが、柔軟性に難ありとされたモデルである。特殊な繊維と編み方で衝撃を全体に波及させ振動に変換し消費させる事で従来型の重量及び厚み以上の防弾性を手に入れたが、排熱の問題と熱に反応し繊維自体が硬化してしまい衝撃に対し脆弱性を増してしまうと言う問題も浮上、採用は見送られたものだ。現在更なる改良中であるらしい。

 製作はリッチヒル・ファイバニクス社だ。おやっさんが"ガンダムハンマー"をワイヤーにすべきと言う意見を聞いた時、役に立つかとツテを辿り材料開発部門の人員を引っこ抜き"アサカ"に開発研究員として乗せていたらしい。そして今回少尉が開発した"シェルキャック"の事をおやっさんが聞き、その改良プロジェクトに参加させたのである。この繊維業の老舗は縫い糸から防刃繊維、ドウグ社のフックロープからコロニーの河にかかる吊橋の超高張ワイヤー等数多くの製品を生産しているとの事で、宇宙世紀の発展はこの会社無しには20年遅れていたと称される程であるとか。

 因みに元はバイオテクノロジーを研究していたらしいが、クモの糸の研究中に分子配列レベルから繊維を編み上げる方法を発見、そこから方向転換、かなりの強度と柔軟性、伸縮性を併せ持つ超高性能繊維を得意とする会社になったらしい。ACGS本体にも機体を移動させる為の射出式アンカーワイヤーである"ロケット・ハーガン"のテザーワイヤーとしてこの会社のワイヤーが使われている。特殊高分子で構成されたワイヤーは、小指ほどの太さでありながらACGSの質量程度なら軽く懸架可能な強度を持つ。とても信じられなかったが目の前で使用されれば信じざるを得ない。よく考えたら宇宙空間での牽引・繋留は殆どこの会社の製品だ。まさに未来の繊維らしい。細かい事は判らんが。

 

《あれ?あれれ?むー!》

 

 そんな未来を纏い前時代的な事をする巨人は、更に原始的な問題に阻まれつつあった。扉が開かない。2回目、3回目、しまいには連打したが開かなかった。壊れるぞ。恐らくもう壊れてるけど。更に壊れるぞ。

 

《んあー!》

 

 地団駄を踏むな。音が響く。潜入の意味を判ってるのか?無駄な動作、無駄な音、無駄な痕跡……無駄のオンパレードに向き不向きどころの話じゃない。流石伍長。歩く広告飛行船の渾名は伊達じゃ無いようだ。

 

「SST03。聞いてるか?おい、伍長、その辺で……」

《ウィザード01からSST03へ。機材の故障からまだその先の安全も確認されていません。今迂回の最短ルートを構成中ですから、しばらく待ってて下さい》

《えぇー!!むきー!!》

 

 出鼻を挫かれた伍長が、腹立ち紛れに蹴りを入れた。癇癪を起こした子供そのものだ。ただ違うのはその子供が人など簡単に捻り潰せる力を持つ重機に乗っているという事だけだ。激しい火花と金属と金属がぶつかり合う耳障りで大きな音と共に、扉は軋み、なんと奥に向かってゆっくりと倒れた。

──最悪の土産を残して。

 

《ふふーん!この手にかぎ……ぉ?》

「え?」

 

 そこには多数のジオン兵達がたむろしていた。伍長はあまりの事に目を丸くしていた。まさか扉が倒れるとは思ってもいなかっただろう。そしてその先が敵の集合場所である事も。

 中尉達の前には、ここの規模を考えるとかなりの大部隊が展開していた。吹雪を避けてか、嵐を避け身を寄せ合う野生動物の様にバイク、車輌、"ワッパ"が、大型戦車が軽く2輌は並んでる通れるだろう通路を埋め尽くすかの様に所狭しとひしめき合い、その隙間に幌を張り、火を焚いてかなり早めの朝食を摂りながら休憩している最中だったのだ。大半が毛布にすっぽりと包まり眠っている。完全にリラックスしている様だった。

 突然の事に中尉と軍曹は反射的に銃を構えたが、引き金を引けないでいた。ここで発砲するのはマズい。幸い敵はまだ反応しきってはいない。降伏させる事が出来れば……。

 

 殆ど唯一こちらを視認出来るだろう位置である、一番扉の近くに座り込みスープらしき物を啜っていたジオン兵がスプーンを咥えたまま振り向き、硬直した。目深に被られた防寒帽の下でも判る程目を丸くしていた。それはそうだろう。休憩していたら、突然巨大な何かが扉を蹴破り現れたのだ。その反応は人間として最もだ。だが、兵士としてその一瞬は致命的過ぎた。

 

「…ぇ」

 

 ぽかんと開いた彼の口からスプーンが零れ落ち、音を立てて跳ねる。それが早撃ち対決のコインの様に、しかしあまりにも一方的な展開になるだろう勝負の火蓋を切って落とす死の合図となった。

──その瞬間、伍長は躊躇いなく持てる最大火力を叩きつけた。憐れ、スプーンの落とし主は、意思を持って声を出す時間も無く息絶えた。手元に転がしたライフルの事も思い出す事も無く、突然目の前が炸裂の閃光で真っ白になった視界を認識する事も無く、遅れて叩きつけられるだろう爆音と爆圧も感じる事無く、ただただ一瞬で絶命した。2条のレーザーが残像を曳いて激しく明滅する軌跡を描き、彼の身体を瞬時に焼き切ったからだ。

 真っ二つに溶断された彼の身体が地面へと叩きつけられる前に、続く機関銃の激しい唸りが生み出した毎秒数十発と言う破壊的な連射速度の嵐が襲いかかっていた。既に棺桶には入れ難かった彼の両断された身体は、対人に用いるには大き過ぎる弾丸とその衝撃波に噛み砕かれ、肉片混じりの血霧となり消し飛ばされた。その加工は至る所で繰り広げられ、あらゆる水分が蒸発し霧散していった。その後ろでは轟音と共にフルオートで放たれた大口径ショットガンの榴散弾がトラックをペーパークラフトか何かの様に軽く吹き飛ばし、同じく怒涛の如く連射された榴弾とサーモバリック弾がその威力を存分に発揮し炸裂、金属で出来た閉鎖空間と言う最も効果を発揮するフィールドを得たそれらは、周囲を爆風と破片でズタズタに斬り裂き、方々へ飛び散り跳ね回った鋭い破片が何度も何度も対象を更に細切れにし、原型を留めない程叩き潰した。そこに少し遅れて引火や誘爆、二次爆発が続き、内部からの圧力に鉄の塊が醜く内側から膨れ上がり、裂け、破裂する。火薬、爆薬、炸薬、装薬、バッテリー、ガソリン、灯油、軽油……熱を内側に秘める物は悉く発火し、様々な爆音と閃光が疾走り回った。破壊という名の棍棒が辺り構わず振り回され、形あるもの全てがその本来持っていた姿を無理矢理に歪められ、その機能を喪失し、無価値な物へと移ろって行く。

 

 彼等は、一瞬で壊滅した。多くが自分の運命と事の顛末を把握する前に生命活動が停止し、ありとあらゆる物品もその持ち得る機能を喪失した。それが何人、何輌、何個だったのか、正確に把握した者は地上から消えた。

 彼等は永遠に記録や記憶から抹消され、存在しなかったのと同義となった。コレから行うだろう仕事を前に、ただ浪費されたのだ。

 

 目の前に生起した地獄へと、弾丸の嵐が吹き荒れる槍衾の隙を突き、軍曹が素早く斬り込んで行く。燃え上がる残骸を吹き飛ばし、人だった名残を踏み締め、手足等を吹き飛ばされながらも辛うじて生き延びた極僅かの生存者へ確実に引導を渡し、死へと誘って行く。身体中を焼かれ、引き裂かれ、潰され、燃焼され尽くした無酸素状態の為、放置していても数十秒で事切れるだろう彼等には救いだったかもしれない。

 それは、たった数センチだけ、たった4秒だけ指先を動かした、たったそれだけしかしていない伍長によって引き起こされた。当の本人と言えば、無感動に、いや、おー、すごいね、位程度の感想だろう。火花を撒き散らし、何かが爆発して更に炎が逆巻くのを突っ立って見ていた伍長は振り返り、同じく棒立ちしていた中尉を見つめていた。軽く首を傾げ、どうしようとでも言いたげだ。

 我に帰った中尉はセンサーに目をやり、煙が充満しつつある周囲を警戒しながら頭をガシガシとかき混ぜた。頭の中では音を立てて崩れ落ちた初期プランを搔き消し、今後のプランを急ぎ練りながら怒鳴った。

 

「……戦闘は可能な限り避けろと言ったろうが!!」

《うぇ!?あ!避けました!避けようとしたんですぅ!!いや!可能な限り避けました!!むしろ褒めてくださいー!!ね!!》

 

 ね、じゃねぇ!!くそぅ。

 

「CQ、CQ。こちらSST01。全部隊へ。狼煙は上がった。繰り返す、狼煙は上がった!各自の判断で発砲を許可する。各員の判断で戦闘を開始しろ。ド派手にやれ!繰り返す。自由射撃を許可する!」

《え!?そう言えばなんか核とかなんとかかんとかあるんじゃなかったでしたんじゃなかったでしたっけ!?撃っていいんですか!?》

「その為の遮蔽服だ!落ち着け。何語だそれは」

 

 どの口が……。中尉は更なる叱責を吐き出そうとした口を閉じた。意味が無い。パフォーマンスを落とされても困る。是非も無し。部下の責任は自分の責任。上司なんて部下の責任を取る為にいるのだ。

 なんだかんだリスクを嫌う中尉ではあるが、嫌いなスリルと言う名の土産と引き換えに、給料分の仕事はするつもりだった。安いけど。危険手当も無いし。職業選択間違えたかな。給料以下の仕事で給料分貰いたいと最近思うようになってきた。良くない傾向かも知らんけど、ホントそう思うよ最近。うん。

 

 前へと向き直る。煙が風に吹かれ、逆巻き、やがて薄れて行く。晴れ行く視界の先では、撒き散らされた破壊の波は通路の奥まで到達し、外へと繋がる扉をも消し飛ばしていた。かつて扉だったであろう残骸の奥から、雪が吹き込み始め、初めこそ赤く滲み趣味の悪いカキ氷になっていたが、段々と凄惨な殺戮現場を覆い始めていた。

 彼等の名残である水蒸気が天井で氷柱になり、また、再び白くなり行く視界の中で、音も無く鋼鉄の巨人が動き回っている。星明かりや月明かりが届かなくとも、雪は不思議な光を放つ。青に近い、白。暗い闇を切り裂く、ぼんやりした亡霊の様な白。後ろ向きな黒さを匂わせる、拒絶の光だ。

 

《SST02よりSST01へ。生存者、無し。警戒へ移る》

「了解!ったく。はぁ……ウィザード01、そういう訳です。お願いします」

《こちらウィザード01、了解。こちらも仕掛けます。ご幸運を》

 

 吹き込んだ雪を踏み締め、進む。溶けた雪がまた氷となり、薄氷を踏み割る高い音がする。ACGSの足にも跳ねた水が凍りつき、それが剥がれ落ちる音がコクピットまで届いていた。幸いセンサー類に異常は無い。巡る水は、ここでの自然である氷へと還りつつあった。

 薄く降り積もった新雪につけた足跡からは残骸が突き出て、火花が散り、時に火が噴き出る。そして、その足跡は赤く滲み、染まる。

──過去ってヤツは、簡単には隠し切れないって事か。中尉はそんな足跡の事を考えない様に頭の隅に追いやり、締め出し、穴の開いた扉を無理矢理ひん曲げ、真に真っ白な外へ出る。滲み出す様な突然の白さに目が痛くなりそうだ。雪への照り返しが弱まり、揺らめく炎が収まりつつある後ろは振り返る事なく、白に覆われたグレーと黒、そして赤と紅の世界から抜け出す。

 

《むむっ!轍が深いです!これはなにかを満載してますよ!間違いありません!》

「ん?何故判る?」

 

 続いて外に飛び出した伍長が地面を睨みつけ、嬉しそうな声を上げる。雪が降りしきる中でも残る轍は、確かに深そうだ。しかし、中尉も伍長もスカウトの訓練を受けた訳で無い。そりゃ轍が深いって事は負担が大きいって事だろうけどさ。

 

《トム・クランシーの小説にそう書いてありました!》

 

 スティーヴン・ハンターじゃないのね。

 

「そうかい」

《SST02より、SST01、03へ。伏せろ》

「敵か!!」

 

 後方から前方を警戒していた軍曹の声に反応するのが早いか、中尉は雪を蹴立て、手近な岩の影へと飛び転がり込む。伍長もやや遅れそれに続いた。吹き溜まりになっていたのか、派手に雪を巻き上げ、その下に滑り込む。雪まみれになり、こんもりとした雪山になったACGSの目と鼻の先を、我先と複数のジオンの兵士が走って行く。センサーの死角だったらしい。軍曹はなんで気づいたんだ?いや今はそれどころではない。有視界戦闘で、索敵を怠ると言う最悪の致命的なミスだ。しかし、それは向こうも同じ様で、相変わらずの吹雪に、こちらへ気づく余裕も視野も無かったらしい。振り向きもしない。吹雪のおかげか。運が良かった。

 目と鼻の先と述べたが、実際その距離は十数メートルと言ったところか。現代の市街地戦においても至近距離と呼べる。それでも中尉の肝を潰すには十分過ぎるくらいだった。冷や汗を拭う事も忘れ、唾を飲み込んだ中尉は走り去る兵士を目で追う。

 

「──さっきのジオン兵と装備が違う?」

 

 驚きこそしたが、冷静に観察を続けていた中尉は、違和感の正体にようやく気付いた。正直少し混乱していた。理解の範疇を超えていたからだ。意味が、理由が判らない。

 見通しが効かないのは視界だけでは無いらしい。どこか変だ。おかしい。しかしそれが判らない。もしゃもしゃする。中尉は歯噛みする。クソ、情報が足りない。とても危険だ。

 

《SST02より、SST01へ。それだけでは、無い。走って、行く、方向もだ》

「どうなってる?」

 

 まるで冬用の装備も無く、今来たばかりの様な薄着の兵士達は、明らかに道も建物もない方角から、しかも今自分達が大騒ぎした逆の方へ向かって行っていた。その足取りに迷いは無く、雪を蹴立て走る姿は元気そのものだ。その姿は先程の歩哨達とは根本的に違う。その装いはどちらかと言うと強襲部隊に近い。最低限の動きやすい格好に、閉所で振り回す為のソコソコのサイズの銃、手榴弾、予備弾薬の重武装だ。

 恐らく、恐らくだ。訓練中なのかも知れない。彼等は対抗部隊なのだ。それならば説明もつく。敵にしては最悪のタイミングだろう。伏せたまま上等兵に連絡をすると同時に確認を取ろうと口を開きかけた中尉。その時だ。軍曹のハンドシグナルに気づいたのは。すぐ近くの伍長が声を上げたのは。

 

《ねーしょうい。わたしたち、先頭ですよね?》

「そうだ」

《……なんで前でもう始まってるんでしょう?》

 

──その瞬間、閃光が走り爆発音が響いた。マズルフラッシュの輝きがちらつく雪を灼き、曳光弾が飛び交う。何者かが交戦している。確実だ。このあまり広いとは言えない渓谷で、多くの兵士が入り乱れ、乱戦とも呼べる状況が生起していた。突撃銃(アサルトライフル)の破裂する様な発砲音、手榴弾の炸裂の中、人が斃れ、吹き飛ぶ。爆発音、鋭い発砲音、何かが空気を切り裂く音、悲鳴、怒号……中尉にとり久々の、戦場騒音(コンバットノイズ)だった。

 視界の先で、防寒着を着てアサルトライフルをぶちまけるジオン兵が血を吹いて倒れた。迷彩代わりの白い服を着て短機関銃(サブマシンガン)を構えた男が巧みに地形を縫い、側面を取り、その土手っ腹に弾を叩き込んだのだ。数こそはかなりいるが、ジオン兵達は混乱し、慌てふためいている様子だ。対して、正体不明の部隊は少数であるが、落ち着いている様で、しかし時に大胆に動いては確実に敵を処理していく。あの動きは間違いなくプロだ。それもかなりの場数を熟しているだろう。何度も鉄火場を潜り抜けて来たに違いない。

 

「ありゃ実弾だぞ?訓練中じゃないのか?同士討ちか?」

《仲間割れ?勝手にプリンとか食べちゃったから喧嘩してるの?》

「わからん。だが活用しない手は無い。行くぞ!」

《え?どっちからです!?》

「弱ってる方をまず確実に叩く!混乱してるヤツらを叩き潰せ!」

 

 戦争においては常に積極的先制を握る事が重要だ。軍事作戦は能動的でなければ成果を上げられない。戦術レベルでなく戦略レベルで攻撃側が有利なのはこれが理由だ。あの時のアレまだ怒ってます?等と記憶にない事を口走り始めた伍長の悪行を心の中にメモしつつ中尉が言うが早いか、FCSを起動、安全装置(セーフティ)を弾くようにして解除する。機体が反応し、防寒着の兵士を敵として認定、コンテナを表示しピックアップする。唇を舐め、機関銃が備え付けられた腕を振り上げようとしていた矢先、軍曹のスマートライフルが火を噴いた。既に狙撃準備に入っていただろう軍曹の一撃は、分隊単位の人間を瞬時に吹き飛ばす。一瞬で木の葉の様にバラバラに散らばる肉片が地面や壁面に叩きつけられ、積もる雪が紅く染まった。突然発生した威力の桁が違う破壊に、整然と、ある種の正しい戦闘を繰り広げていた場は瞬く間に騒然となる。そして、既にその隙を逃す程、中尉は素人では無かった。

 間髪入れず放たれる第2、第3射に後押しされた中尉と伍長が、感覚に任せ大まかに狙いをつけ(ケンタッキー・ヴィンデージ)機関銃を乱射しながら跳躍する。連続したカエル跳びは、あっという間にその距離を詰めて行く。それはもはや歩兵の戦闘では無く、MSの機動運用に近かった。

 

──ここに、現代に蘇った時代遅れの兵器による、前代未聞の極至近距離戦が展開した。

 

 耳に届くのは、身体を揺らさんばかりの唸りを上げるモーター音。視界を灼きかねない程の凄まじいマズルフラッシュと共に、焼け爛れた弾頭が連なる様にして撃ち出される。まさに迸ると形容すべき機関銃の反動はACGSにとってもかなり大きく、短砲身、多銃身と言う事もありその着弾は大きく散っていた。しかし、そんな事は空中の中尉には関係無かった。そもそもこの機関銃は面制圧を重視しており、散布界(スタッカー・ゾーン)をわざと広げる為、銃口が楕円配置されている対空機銃の砲身をそのまま転用しているのだ。そして、この交戦距離と威力の前には誤差以下の些細な問題だった。とにかく目につく的に片っ端から照準を合わせ、引き金を引く。擦過、いや至近弾でも衝撃波で人体など十分に引き裂ける。目に見えない死神は、目に見えない鎌を振り翳すものなのだ。

 死神の正体、その使用している弾頭は最新鋭の高性能13.2mm徹甲焼夷榴弾(HEIAP)だ。人体に当たれば運動エネルギーをほぼ失わないまま易々と両断し、装甲に直撃すれば貫入しつつ炸裂、焼夷効果を発揮し、更に劣化ウラン製の弾芯が貫き延焼する。炸裂する弾頭の、小さな破片1つで人は死ぬ。死神のひと撫では、あっという間に人から戦闘力を身体の一部ごと捥ぎ取っていく。中尉としては射程を求めていた為この調整に疑問を覚えていたが、その反対を押し切りやはり搭載したおやっさんに間違いはなかったらしい。近距離での散布界が広いのが結果としてプラスになった。混乱した戦場に、倒せない(・・・・)新たな敵が強襲、規格外の攻撃をかけられる。それはまさに蹂躙、いや、もはや虐殺だった。

 

 降って湧いた強敵に、ジオンの兵士達はなす術無く撃ち倒されて行く。慌てふためき転がる様に遮蔽物へと身を隠そうと、中尉はそれに向かって弾を撃ち込めば敵は死ぬのだ。装甲目標(ハードターゲット)を想定した攻撃兵器は岩や鉄製のコンテナを軽く噛み砕き貫通し、そもそも弾が当たらなくとも、銃弾の運動エネルギーが生み出す衝撃波、着弾の破片や榴弾の爆圧、破片効果で対象に深刻なダメージを与え、絶命させる。伍長の大口径ショットガン"ハイパーマスターキー"も同様で、一撃で障害物ごと消し飛ばすか、障害物を吹っ飛ばしまとめて押し潰している。見上げる様な岩が瞬く間に次々と丸く削りとられ、消失するのはまるでアニメで腹ペコの虫が食い荒らしたかの様で少し滑稽だった。飛び散る破片に鮮やかな赤が混じるのも、直ぐ慣れるだろう。

 スクリーンを睨み、引き金を引く中尉は下唇を噛んだ。正に一方的なゲームだ。隠れもせず、避けもせず、時折反撃の小銃弾が装甲を叩き火花を散らすも堂々と歩き、逆にお返しせんとばかりにその方向へただ無造作に引き金を引く。簡単な軽作業だ。大雑把な照準の前に薙ぎ払われ、千切れ飛ぶ人体をスクリーン越しに見ても、どこか遠い感覚だ。悲鳴は聞こえない。匂いもない。全ては画面の奥へと押し込められ、それを受け入れる器官を完全に遮断していた。宇宙にいるみたいだ。中尉はそう独りごちる。無機質な壁面とスクリーン、整えられた空調は、戦闘中でも静かであり続けるCICを想起させる。激しいマズルフラッシュと、轟音。微かな振動、そして、時折金属が装甲を叩く鋭い音だけが、彼の居場所がオフィスでない事を物語るのみだ。

 

──視界の隅が急に明るく照らし出された。揺らめくムラのある光は、計算し尽くされた火薬の炸裂ではない。この極低温の吹雪の中、空気をも燃やし尽くし、激しく荒れ狂う焔が疾走った。液体を噴射する独特の音と共に真っ白な世界を禍々しい赫で染め上げるのは、伍長の火炎放射器だ。

 白い雪化粧を瞬時に蒸発させ、ゴツゴツとした岩肌を舐め回す業火は、火山岩をも灼き、溶岩に戻そうとする様だ。凍りついた空気を溶かし、激しい水蒸気を伴い燃え盛る燃料を噴きつけられ、火達磨になり狂った様に転げ回る兵士達は声無き声で叫んでいる、つもりか?判らない。伍長は丁寧に、命からがら崖の隙間へと逃げ込んだ彼等に向かい、開いた洞穴の入り口1つ1つへ念入りに粘性を伴う死の焔を注いで行く。トドメとばかりに手榴弾を放り込むのも忘れない。

 

 敵が潜んでいる可能性のある部屋に入る時、ドアを開ける際に火炎放射器で焼き払ってから放り込んだ爆薬で一掃後、改めて部屋へ乗り込む『トーチランプ&栓抜き』と言う突入(エントリー)方法がある。近い事は手榴弾投擲後のトレバーシングファイアーでも行われる。安全圏から事前に敵を殺し尽くし安全を確保するやり方だ。同様に、外から窓という窓や扉という扉にランチャーを叩き込む安全化も使われていた。閉所における手榴弾を始めとした榴弾の効果は非常に高い。激しく酸素と反応し、空気中の酸素そのものを奪い、酸欠にする火炎放射器も同様だ。コレをやられて生き延びられる人間はまずいない。伍長はオマケとばかりに機関銃まで撃っている。中は跳弾でミキサーの様になっているだろう。中尉は薄く笑みを浮かべた。それでいい。それで。俺達の仕事だ。リスクは無いに限る。

 発生した水蒸気が瞬く間に凍り付き機体に張り付く。ピシピシと薄く貼り付いた氷を破り歩く伍長の足元では、人の形に近い、夥しい数の何かが、先程までのたうちまわっていた黒焦げの肉が最期まで口をパクパクさせながら有機物の最期である炭へと酸化を遂げていく。彼等に還元は無い。不可逆の暴力は、中尉と伍長に取り掃除と何ら変わらなかった。ただその対象が人であり、真っ白な世界が一時赤く染まるだけだ。無人機を操作し、世界の裏側で戦っているかの様だ。そして、それらを雪が覆い尽くし、隠してしまう。

 中尉は古いテレビゲームを思い出していた。撃った弾は弾痕を残すがその内消え、倒した敵は時間経過で消える、そんなゲームを。

 

 軍曹の狙撃で、最後のターゲットが消失した。表示が無くなり、スッキリしたメインスクリーンに中尉は満足気な溜息を漏らす。

 そして、粗方の片付けが済んだと、中尉は白い服の男達へ、真っ赤に焼けた銃身を原色に戻しつつある機関銃を指向した。消えない炎に照らされた銃口が、鈍色の艶めかしい光を放つ。中尉達の襲撃に、混乱しつつも方々に散った彼等は、再集結し物陰に隠れていた。しかし、それもACGSのセンサーの前には無力だ。例え身体を完全に覆い隠す岩であろうと、特殊金属で出来た建物だろうと、生体反応検知器や高性能サーマルセンサーはその姿を軽々と探り当てる。先程までと同様に、ただ引き金を引こうとした時だ。中尉の耳に驚くべき言葉が飛び込んできた。

 

「す、スゲェ!本物だ!」

 

──日本語!?

 

「ん!?待て!伍長!撃つな!」

 

 その場違いな台詞は、中尉が機関銃を向けた目の前の男からだった。半身を乗り出し、アサルトライフルの銃身の下に榴弾砲(グレネードランチャー)を取り付けた(オーバーアンドアンダー)を持った彼は、それを中尉へと指向し上ずった声を上げていた。

 慌てて腕ごと機関銃を上に向け、中尉は左手を後ろに向け水平に上げた。先程まであれだけ響き渡っていた銃声は止んだ。しかし、ピリピリと肌を灼く様な緊張は続いている。だが、中尉には確信があった。

 

《何でです!?》

「俺に任せろ」

 

 困惑する伍長を押しとどめ、腕を下ろし、ゆっくりと膝をついた中尉は口を開いた。日本語なら、日本語で呼びかければあるいは……。

──勿論、交渉が決裂したのなら、先程までと同じだ。人差し指を軽く動かす。安全装置は解除済み。遊びこそあるが、約2kgの力を加えればその効果を発揮するトリガーに触れない様、ピンと伸ばされたグローブに包まれた指は、触れる事の無い外気の寒さに凍える事も無く、いつも通りの感触と感覚を伝えていた。

 

「……自衛隊(セルフ・ディフェンス・フォース)、だろう?銃を下ろして欲しい。貴方達の事が聞きたい」

「存在しない。忘れろ」

 

 スピーカーモードにして呼びかける中尉の声に対して、いつのまにか彼の横にいたベレー帽の男が口を開く。どこにでもいそうな風貌ではあったが、その独特な雰囲気は画面越しでも伝わってくる。幾多の実戦を重ねて来た者のみが持つ瞳だ。減音器(サプレッサー)の組み込まれたサブマシンガンを持つ彼は、挑戦する様な目つきでこちらを睨みつけている。銃口こそ下げているが、引き金からは指が離されていなかった。

──やはり日本語か。日系人で無く、彼も日本人の様だ。宇宙世紀となり、英語を基にした共通言語が一般的となる中、複雑かつ使用箇所が著しく限定される日本語を流暢に話せる人種はごく僅かだ。

……伝統だのなんだの言って習わされたからな。苦痛では無かったが難し過ぎるだろと思った。表現とか丁寧語とかそりゃもう……つまり、彼等は日本人だろう。おそらく同胞だ。まぁ、少なくとも地球人ではあると思われた。なら交渉の余地はある。上手くいけばいいが。敵は少ないに越した事は無いからだ。

 中尉達は戦闘に際し派手に発砲し続けているが、弾丸自体のサイズから、実は携行弾数はそう多くは無い。射速が速いのもそれに拍車をかけている。瞬発投射火力はあるが継戦力はそう高くは無いのだ。弾切れは危険だ。補給に戻る時間も今は惜しい。

 

「そちらの指揮官と話がしたい」

「どうする?」

「撃っちまおうか?」

「馬鹿野郎」

「小松さん、敵じゃ無さそうですよ、味方でも無いですが」

「そうだな。デブに話してみよう」

「おい!勝手に判断するな!」

「仕方がない」

「畜生。俺の立場は……」

 

 続々と集まって来た彼等は、呑気にも目の前で相談を始めた。それを少し高い視点から見下ろす形となった中尉は、思わず頰をかく。

 彼らはかなりの少数、ほんの分隊程度の人数だった。相談しているベレー帽、メガネ、アサルトライフル、のっぽ、その4人がリーダー格らしい。アサルトライフル持ち以外は全員サブマシンガンである。まさに特殊部隊といった風体に装備である。

 メガネが無線機を渡して来た。苦労して受け取る。そのままは使えないし、ハッチを開けて身を乗り出すのも危険だ。手早くダミーを噛ましてデータリンクし、ウィルス等が検出されない事を確認する。行ったのは軍曹だ。この機体にもHSLが搭載されている。情報の共有はお手の物だ。周波数を素早く合わせ、緊張感に包まれながら口を開こうとした時、ノイズの少ない声が聞こえた。

 

『──事情は大体把握した。俺はバッドカルマ。そのチーム、オメガの指揮官だ』

「自分達は地球連邦地上軍です。ここにいるジオンを一掃しに来ました」

『そうか。ふむ。成る程。こちらも目的(OBJ)は同じだ。戦争以外の軍事作戦(MOOTW)中、とでも言うか?まぁいい。オメガ、行動を共にしろ』

 

 彼等に向き直る。彼等も無線機から漏れる音が聴こえていただろう。そんな彼等に、中尉はゆっくりと語りかけた。

 

「話の判る人でよかった。こんな姿で申し訳無いですが、よろしくお願いします」

 

 軽く会釈を送る。足元では、ACGSの逞しい太腿辺りを小突きながら、ベレー帽の男が口を開いた。

 

「お前達は信頼に値する戦力なのかよ?」

「火力はお前もさっき見てたろ。ま、ハイキング出来るくらいの練度はあるだろう」

「装備は十分です。これは対歩兵用の強化服ですから。かなり昔の兵器ですが最新型にアップグレードされてますね。ベース機は……」

「田中、お前ミリタリーオタクか」

「常識ですよ」

 

 のっぽとベレー帽は相当実戦慣れしているらしい。無駄口を叩きながらも警戒は解いてはいなかった。ACGSを興味深く観察しているアサルトライフル持ちは何故か親近感が湧く。何故か、何か懐かしい感じがする。うまくやっていけそうかも知れない。

 イレギュラーだ。ならイレギュラーで打ち消そう。今までそうやって来た。だから今回もそうやって行こうじゃないか。中尉は気を引き締める。敵の敵は味方だが、敵がいなくなった時、その時の味方は味方のままである保証はないのだから。

 

「よろしくお願いします。俺はレッドサンライジング隊隊長、コールサインはSST01です。こっちがSST02、SST03」

 

 上腕部に取り付けられた銃口の方向に気をつけながら、中尉は身振り手振りで自己紹介をする。やはり、腕に直接取り付けてある、と言うのはどうも慣れない。"ジーク"も最近シールド裏に武器懸架しないからなぁ。個人的には好みなんだが、おやっさんは破壊されたり投棄されがちなシールドを高価なモノにしたくは無いらしい。当たり前か。この前伍長武器まみれにしたシールドそっくりそのまま落としたもんなぁ。ウチの部隊のシールドは既に裏側の2脚は取り外されオミットされている。格闘機能こそ中尉の反対から健在であるが、いずれは外したいとの事だった。"ビームサーベル"搭載も見送りである。つらい。

 まぁ、パワーがあるとは言え、前腕の重量増加はフレームへの負担やら旋回速度にも影響を与えるしな。人間には不可能なMSのみの強みではあるが、余計なものを沢山つけても始まらんし。まぁ、おいおい試して、洗練して行くしかあるまい。その為の"ブレイヴ・ストライクス"(我々)でもある訳だし。

 

「オメガ7でいい」

「お互いコールサインの方が都合がいいな」

「ですね」

「俺は……」

《SST02よりSST01へ。攻撃許可を》

「敵襲!!」

「SST02!03!応戦!」

《SST02、了解》

《ほいやー!》

 

 自己紹介も半ばで、軍曹がスマートライフルを指向する。その先には複数の開きつつある扉と、飛び出してくるジオン兵がいた。手近な遮蔽物に飛び込みつつある彼等に対しベレー帽の彼、オメガ7が叫びサブマシンガンを発砲、中尉の声で軍曹が射撃を開始、僅かに開きかけた他のドアへ針の穴を通す様な射撃をし、通路の中へ榴弾を送り込む。内側からの圧力で吹っ飛んで来たドアを片手で軽く弾き、押しのけながら、伍長も敵弾を恐れず突撃し反撃する。

 中尉は残骸に隠れ、手榴弾を投擲してきたジオン兵にお返しとばかりに機関銃を叩き込み、複数個跳んで来た手榴弾を雪ごと蹴り返し、1つを踏みつけた。踏みつけられた手榴弾はそれでも設計通りの効果を発揮、炸裂したが、中尉にとってすれば軽い音と振動こそすれ、戦闘継続に支障は無かった。それはACGSも同様で、全くの平気だった。深い雪では破片手榴弾の効果は大きく減衰する。それに、ACGSは言うなれば対破片効果防護服とも呼べる。機体表面の大部分を構成する炭素繊維複合材の装甲は、ソフトターゲットを目標にした破片等物ともしない。そもそも手榴弾の破片は、対象である人体内でストップする程度のものである。あまりに威力が高くとも、人体を貫通したり投擲手を巻き込んでは意味が無いからだ。勿論、破片効果圏内の人にとってはたまったものでは無いが、それはこのACGSの脚を止める理由にはならない。

 中尉は被弾を気にも留めず、真っ赤に灼けた銃弾を、まるでホースから迸る水の様に吐き出す機関銃を大雑把に薙ぎ払う。連射される弾丸に紛れた曳光弾が銃口から飛び出した瞬間、蒼く目に残る光を発し、次の瞬間残光を残すオレンジ色へと変貌、空を切り裂き光り輝く。それはまるで空中に描き出された線として見えた。その死のハードルは、空間を切り取る斬撃だ。敵は先制をかけたがその効果はまるで無かった。そもそも逆に展開前を軍曹に叩かれ、大人数が戦闘参加前に死傷しており、現在攻撃を仕掛けてきている敵の数はそう多くはない。視界の端では、大慌てで操作され閉まりつつある扉をパワーで無理矢理引きちぎり、中へ"ハイパーマスターキー"の銃口を突っ込み、容赦無く弾丸を叩き込む伍長が見える。深追いはしないが、追撃はするらしい。ならばこの戦力差だ。すぐにでも決着はつくだろう。足元に蹲るアサルトライフル持ちを庇う様に膝をつき、スクリーンに映し出されるターゲットへ向け無造作に引き金を引く。映る景色が暴力的な嵐の前に形を変えられて行くのを眺めながら、中尉はそうひとりごちた。

 

 中尉の予想通り、戦闘は直ぐ様収束した。オメガと名乗った者達が恐々と遮蔽物から顔を出すと、周囲の風景は更に一変していた。そこかしこに爆発の破片が突き刺さり、鉄骨が捻れ、壁はグズグズの蜂の巣の様になり崩れていた。絶望の悲鳴はもう聞こえない。悲痛な呻き声も。焼け焦げ引き裂かれた爆心地の真ん中で、立っているのはのんびりとまだ銃口から煙を吐き出す機関銃の空弾倉を外し、危なげなく交換する巨人だけだ。

 その巨人がゆっくりと振り返る。やや人型から外れた体型と、武器と装甲の塊でありながら、その動作はあまりにも人間臭い。そのシュールなコミカルさとアンバランスさ故思わず溢れた笑みと共に、オメガと名乗った日本人達は口を開いた。

 

「それにしても凄い装備だな」

「手榴弾前に無敵です」

 

 中尉は軽く腕を振り上げ、手首をクルリと一回転させた後ピッと親指を立てた。予め設定さえしておけば、この様にハンドサインも自由自在だ。おやっさん、時間無いのに本当に凄いな。頭が下がる。

 因みに手の操作はほぼオートだ。一応操縦桿のトラックホイールを操作する事で手を広げる、握り込むくらいの操作は可能だが、手持ち武器を持たない中尉はほぼロックしている。手持ち武器に関してもFCSが認識すれば自動で掴み、適正な保持力で握ってくれる。崖や壁などの障害物に対しても同様だ。勿論機体のバランスを保つ時にも使用される。距離を測る物、圧力を感知する物等の簡単なセンサーこそ装備されてはいるが、基本的にダメージを受けやすい箇所で、故障が戦闘に大きく影響を及ぼす関係上、やや大きめかつかなり堅牢に造られている為、繊細な作業には不向きだ。一応操縦者の動きを感知するグローブを装着してマスタースレイヴ方式で操作する事も出来るが、指の1本1本、そして指先まで複雑に動かす機会はまずなく、必要性はかなり薄い。ACGS同士の取っ組み合いや格闘武器を持った白兵戦が起きるなら重要になるかも知れないが、その機会は今後ともまず起こり得ないだろう。対装甲目標への格闘は一応考えられていたらしく、本機には保険としてショックアブゾーバーを搭載した対装甲ナックルガードやタガネの様に装甲の隙間に差し込み、内部へワスプナイフの様に爆風を送り込み装甲を吹き飛ばす大型バトルナイフ、同様な機能を電気に変更したスタンナイフ、腕部アタッチメントに懸架する大型火薬射出式スパイク等の近接格闘用オプション装備が多数用意されていたが、今回は装備していない。その機会は少ないだろうし、それを積むくらいなら予備弾薬を持つ方が現実的だ。最悪蹴ればいいしな。まぁ、そんな状況は滅多に生起しないだろう。

 

 因みに、手榴弾というものはソフトターゲットに対しては絶大な効果を発揮するが、目標がハードターゲットととなるとその威力は激減する。人間が投げる以上、高い威力と効果範囲、加えて貫通力を持たせ過ぎてもいけない武器なのだ。それに、破片で攻撃する兵器である以上、厚い雪の中ではその効果も大きく減衰する。中尉はそれを狙っての行動だった。正直焦りもあったが。内心ヒヤヒヤである。おくびにも出さなかったが。

 

「いいな。俺達も欲しいぜ」

「近代化して欲しいよ」

「予算が無いんだ」

『ハードに頼るな』

「ちぇっ。うるせぇんだから」

「どうせなら戦車が欲しいな」

 

 ベレー帽がボヤく隣で、のっぽはそう独りごちた。その視線の先には、旧世代の遺物であろう、朽ちた戦車があった。半ば雪に埋もれたそれは、擱座し、一見すると崩れた設備の一部にも見えた。しかし、それでも形を保ち、だが動き出す事は無く、ただ静かに眠りについていた。

 サイズこそ()()()MBTとしては普通ぐらいだろう。しかし、"ロクイチ"と比べると一回り近く小さく見える。それでも昔見た旧世紀の他の戦車と比べたらまぁ大きいが。力無く垂れ、地面に向けられた錆び塗れの砲も勿論1門しかない。昔なら当たり前であるが、"ロクイチ"を見慣れた身からすればどうしても寂しげに思える。砲の口径もかなり小さく見えた。105mmか?いや、大きく見積もっても120mmあるかないかぐらいだろう。千切れ飛び、だらし無く垂れた履帯、方々に転がる転輪は雪に殆ど埋まっていた。厚ぼったく、不恰好で昔のゲームに見られたポリゴンの様に直線的な外装に、腐食以外の損傷は余り見られない。近くの雪の中には、蜂の巣の様な物が落ちていた。恐らくスモークディスチャージャーだろう。兵器としての形は、今も昔もそう変わらないらしい。

 

 履帯、回転砲塔、装甲、そして主砲。それは確かに戦車だった。今も昔も変わらない、兵器の姿がそこにあった。

 

「侘び寂びだな」

「鉄錆だよ。廃品回収も首を振るさ」

 

 中尉もその過去の遺物をしげしげと眺めていた。かなり珍しいものだからだ。博物館で見たり、本で見た"ロクイチ"が採用される前の戦車にデザインは似通っていた。アメリカ合衆国製のM1"エイブラムス"と呼ばれた戦車にとてもよく似ている。詳細は判らない。朽ち、半ば自然へと帰り始めているそれを判別する事は専門家にも難しいだろう。だが積もった雪を退ける義理もない。中尉は嘆息する。

 しかし、しかしだ。"ロクイチ"と比べるとやはりサイズが余りにも違う。まるでオモチャだ。当時の常識では、コレが最適解、作り得る最強だったのだろう。逆に歩行兵器なんてフィクションでもリアルじゃないと否定されていたんじゃないだろうか。古びた今の常識外れが、朽ちたかつての常識を見下ろす。皮肉なものだ。

 

「こんな古いの役に立ちませんよ」

「馬鹿言うな。軍隊のことわざで優れた兵士は優れた兵器に勝るって言うぜ。でもテクノロジーだよな」

「どんな気分?」

「ドラえもんの気持ちになるですよ」

 

 誰かが吹き出した。それに伴い含み笑いがやがて大きくなり、輪唱の様になった笑い声が谷に響く。どこまでも。雪崩とか起きなきゃいいけど。

 そして、どこまでも歩いて行ける歩き出した脚は、その足跡を刻んで行く。吹雪は変わらず、だが少しずつ収まりつつある。次の建物は、もう目の前だった。

 

 鉄の脚が紡ぎ出す心地良い振動。中尉はあくびを咬み殺す事に専念しながら、改めて情報を整理、精査して行く。静かに渦巻く暗闇に、ボンヤリと光るサブスクリーンに投影された地図には、既にかなりの情報が踊っていた。目紛しく更新される天気、風速、気温、湿度等の環境情報から、高度、地形、施設の位置、名前等の地図情報。そして、小さく、だが確実に揺れ動いているのが友軍の位置、判明した敵の位置、予想敵分布、重要物資が集積されているだろう箇所等の生きた情報だ。

 いくら上等兵が天才的な情報処理能力とクラッキング能力を持っていても、物理的に切断された、オフラインの箇所は完全にお手上げだ。電子の世界にて道がないと言うのは、その先の世界が存在しないとの同義だ。そこで中尉はそのオフライン領域のみを通って来たオメガと名乗る特殊部隊と情報を交換、共有したのだ。

 その結果、施設の名前、場所がさらに明確に特定された。未知の領域は殆ど無くなり、最新の情報で既存の情報を上書き出来たのは本当に助かった。更に、上等兵が情報の取捨選択をしつつ、軍曹が交渉の席に着いた結果、彼等についてもだいぶ判ってきた。傭兵であるとか、上から何も聞かされてはいないとか、ただ利益の為に動いているとかである。

 

 一応彼等とは友好的とも呼べる協力体制を築けたと考えているが、念には念を入れるべきだと上等兵による照合の結果、彼等の渡して来た情報との齟齬はほぼ無く、信頼しても良さそうとの事だった。しかし、人間嘘発見器である軍曹によると、それ以外の、彼等についての情報においては大半が(カバーストーリー)で塗り固められているとの事だった。装備こそこちらが大きく上回っているが、舐めてかかると痛い目に遭うだろう、彼等は寄せ集めの兵士であろうが、汚れ仕事(ウェットワーク)に慣れた不自然な程場数を踏んだ経験豊富な連中、と言うのが軍曹の印象らしい。

 秘密は、隠す者がいるから秘密になる。彼等には何かがある。中尉はそれを聞いて舌を巻いた。彼等は、実に強かだ。多くの真実に嘘を混ぜ信じ込ませる事に長けている。そして、それでいて自分達に不都合が起きない様分別も弁えている。視界の端に連なる軍曹のプロファクティングレポートを見、中尉は頬をかく。迂闊な発言は出来無い。軍曹に任せるべきだ。

 

 嘘を嘘と見破れるのなら、その裏側が判る。嘘と真実の境を確かめると、相手の本音が自ずと浮かび上がってくるものだ。嘘をついたり、隠し事をしながら会話すると言う事は、常人には負担が大きく、ただ雑談するだけでも色々と矛盾点が出て来る。そしてそれを取り繕う為に、新たな嘘を積み重ね、矛盾や違和感は膨れていく。そして、そこに隠したい本音が現れるのだ。また、自分を騙し、自分に嘘を真実と思い込ませる事の出来る人や、嘘をつき慣れた人は一筋縄ではいかないが、その様な事が出来る本来頭がいい筈の人が、わざと内容を遠回りな言い方をしたり、複雑にし煙に巻く様な話し方をする時等、何故わざわざこんな話し方をするのか、と言う時は大概秘め事を持っているものなのだ。決断を急かせるのは詐欺師の特徴、なんて話も聞く。要は、人は往々にして何かを抱え、隠し、信じられない所がある、と言うところか?

 しかし、中尉はその事は記憶の隅に留めるに抑え、気にしていなかった。彼等の本音は、自分達の事はあまり知らせたくないが、核はなんとかしたい、そんな所だろう。だから、少なくとも今は目的が同じである為、行動を共にするのが一番だと思われた。中尉は少なくともそう判断した。油断ならない相手ではあるが、だからこそ味方にしたら心強く、敵に回すと厄介だ。今はお互い信用するのだ。信頼でなく、利用し合うのがいい。こちらだって所属を偽っている。お互い様だ。向こうもそれに気付いてると思われる。だから、お互いに踏み込まない。それが最善だ。

 それに、最悪裏切られても装甲に覆われたこちらが即死する事は無く、対してこちらは確実に彼等を相討ち以上の被害を被らせる事が出来る。彼等もプロだ。かなり手練れの人質救出部隊または人質対応部隊(HRT)っぽい動きだけども。ACGSの性能も理解しただろう。下手な手は打たないと思われた。

 

 中尉の不安の種は伍長だったが、それも杞憂で終わりそうだった。伍長も余程焦らなければ、何だかんだで口を滑らせていい情報とダメな情報は大体把握している。そもそも知っている事も少ない。それに間違って覚えてる事も多い。懸念事項であった不信任感も無さそうだった。中尉の知らない内に、伍長も知らされない事は知りたいと思わない、判らないものは判らないなりに気にせず、受けとめる度量を身につけたらしかった。伍長も正しく兵士になって来たのだ。

 

「こちらSST01。件の核弾頭保存棟へ侵入したが……この山積みになっている箱は何だ?」

「おい、鉄の味がしないか?」

「気のせいだと思いますよ。そこまでの影響は無い筈です」

「やれやれ。変に知識つけるからだな」

 

 バキバキと張り付いた氷を砕き、轟音を立て開いたハッチから、中尉は慎重に一歩を踏み出した。油断無く薄暗い室内を見通すも、その視界は悪い。あいも変わらず雑然と積まれた資材だらけだ。センサー等に反応は無いが、しかしどうも、チリチリと肌を焼く様な、嫌な感じがする。その予感は正しかったらしい。扉の開閉と合わせ、少しずつ音を立て始めたガイガーカウンターは、今や耳障りな音で大合唱を始めていた。

 中尉は顔をやや顰め、緩やかなスロープに足を取られない様にゆっくりと足を運ぶ。集音マイクが雑音を拾う。いや、雑音を際限なく吐き出し始めた。マイクに放射線がぶつかり、雑音として拾われ始めているのだ。隙間から粉雪が舞い込み吹き溜りを作り始める中、目の前で更に開きつつある錆びついた扉を注視し、思わず立ち止まる。その時朽ちた何かを蹴飛ばしたが、それどころでは無かった。眼前に広がる異様な光景は、中尉の目に焼き付いていた。

 

 そこには、そこまで広いと言えない空間を埋め尽くす、大小様々な物体の森があった。

 

《すごいいっぱいありますね!何これ?ガラクタ?》

「……ならよかったんだがな」

「チョベリバ、ですね」

「何だそれ?」

「知らないんすか?」

《あ、きっと最新のコーヒー沸かし器……いや違う、かき氷を作る機械だ、間違いないです!こっちは温水装置です?》

《こちらウィザード01。いえ、恐らくは──いや、それが廃棄核弾頭です。それに、使用済みのプルトニウムが──そのまま放置されてます》

「──そのまま、ですか。連邦の管理もずさんなものですね」

「こんなにか」

 

 その場にいたもの全員が、圧倒され思わず立ち止まった。

 ありとあらゆる形の何かが、奥に奥にと物が詰め込まれ、積み上げられ、視界を塞ぐ様に鎮座していた。無造作に立てかけられた長い棒状の物、転がる尖った円錐形の物、崩れた鉄の箱、木箱、そして壊れた箱から覗く円筒形の物。得体の知れない袋や、転がされたドラム缶も膨大な数だ。倒れた容器から溢れた粒々は、見た目こそ普通であるが危険なペレットなのだろう。ここには、全てがある気がした。

 そう、そこには、ありとあらゆる破壊の残滓が、そのままの姿で見つけられるのを待っていた。

 

『……西暦が終わり、宇宙世紀が始まって三四半世紀が経ったが、今なお核廃棄物の処理にはこれと言った処分方法が確立されていない。宇宙へ飛び出した技術の進歩と共に、いつか必ず処理出来る技術が生まれると信じて疑わず、見たいものだけを見て、それ以外を忘れ、目を背け続けて来た末路が、これだ……』

『え?』

『このボケ!カス!無知と貧困は人類の罪だ!』

『畜生…いつかこr……』

 

 同時に、現着した核緊急支援隊(NEST)と輸送部隊からも悲鳴の様な報告が飛び込んできた。なんと、コレ以上に広く大きな格納庫にありったけ詰め込まれたものを何棟も見つけたらしい。とても人手は足りず、"アサカ"にすら運び込み切れるか、と言ったレベルらしい。

 まさか、ここまでとは。中尉は目の前にうず高く積まれた破壊の権化に、人類の愚かさの片鱗を感じた。積み重ねられた人類の狂気と叡智の結晶に、開いた口が塞がらない。閉口したくても出来ない。なんてこった畜生。最悪だ。俺まで鉄の味がしてきやがった。タフだ。フーバーだ。ナンバーテンだ。いや、ナンバーテンよりも酷い(ワン・サウザンド)。魔女のバァさんの呪いだ。この魔女の鍋は、この世界の最悪をまとめて煮込んだ災厄そのものだ。

 

「うわ、"ピースキーパー"ですよコレ!"アトラス"、"トーポリ"、コレは"エマード"、"トライデント"も……。中距離弾道ミサイル(IRBM)大陸間弾道ミサイル(ICBM)に、短距離弾道ミサイル(SRBM)準中距離弾道ミサイル(MRBM)潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)まで……まるでテーマパークに来たみたいだ。弾頭だけからうわ!ロケットモーターが付いたものまで……」

「お前ミリタリーオタクか」

「常識ですよ」

 

 アサルトライフル持ちが駆け寄り、辺りを見回し解説を始めた。大体全部同じに見える中尉は素直に感心する。旧世紀の、各国のミサイルをよくもまぁ識別できるものだ。しかも弾頭の一部しかないものも多い。本当に何故判るのか理解に苦しむ。そして判って他に判る人はいるのか?

 目を話した隙に、軍曹は無駄のない動きでその間をすり抜け、つぶさに確認して行く。中尉も一番近くに転がっていた弾頭へ近寄り、それを見下ろした。大きな円錐状のそれは、破壊の意志の塊だ。そう思うと禍々しく見えるそれは、無機質な金属の塊だ。途端に震えが来た。何故かはわからない。だが、中尉はこの空間に釘付けになった。

 

(スピア)に載ったままのもある。どこ見回してもタチの悪い爆竹だらけだ」

「酷い有様だな。再濃縮すりゃ馬鹿騒ぎじゃ済まされないぞ。世界を軽く数十回は吹き飛ばせる」

「今回はタマのガードつけてきてよかったな」

「気休め程度ですけどね」

チョベバ(・・・・)だな」

「チョベリバです」

 

 一通り見て回って来た軍曹曰く、信管は全て外されているらしい。整備点検や再濃縮した形跡も見られず、核反応の心配は無いらしい。それを聞き、必要最低限の部分だけを可能な限り回収する、少々手荒くなるかも知れんが、と言う言葉を最後に、輸送部隊は慌ただしく通信を切った。少しばかりの時間も惜しいのだろう。世界を救う作業に専念する為だ。

 呆けてはいられない。自分も動かなければ、しかし、金縛りの様に強張った身体は言う事を聞かない。目線を上げられず、足元を見れば、この寒さでも凍りつく事のない液体が、足元まで流れて染みを作っていた。ロケットモーターの燃料が変性し、タンクを腐らせ垂れて来たのか?判らない。かつては磨き上げられていただろう胴体を茶色く変色させ、形を歪ませた円筒形は煩雑に積まれたままだった。その隙間から垂れる液体は、世界の毒を示すかの様だ。

 結局、動いたのは、口だけだった。

 

「何というか……思った以上に世界は雑なんだな」

「雑じゃなきゃ生きていけない奴らもいるのさ」

「俺らみたいなのが生きていけないぜ」

「全くだ」

 

 中尉の独り言は彼らにも聞こえた様だ。スピーカーモードを慌てて切るが、オメガの面々は、そう言って溜息をついた。転がった箱を蹴っ飛ばしている者もいる。その事に、中尉は少なからず衝撃を受けた。彼等は、初めてじゃないのか。コレを見て、その感想なのか。彼等は、一体……。

 

「どんなに根が真っ当でも、真っ当に生きられない事なんてザラさ」

「それは……」

 

──誰の事ですか、と言う言葉を継ぐ事すら出来なかった。

 

「今のお前みたいに。雑じゃなきゃ、そう言ったヤツらはどこにもいられないのさ。けどさ、だからこそ。あんたはまだ若い。真っ当な生き方に戻れるなら戻るのが一番さ」

 

 言葉が重い。胸に突き刺さり、沈み込む様だ。震える手で、胸を抑える。動悸が酷い。汗が止まらない。息が苦しい。目眩がする。鉄の味が強まった。強張る身体に、腹が軋み、胃液が逆流しかける。こみ上げる吐き気も酷い。中尉は俯き動きを止め、それらが去るのを待つ。しかし、軽くなりはすれど、完全に消えて無くなる事は無かった。

 遮蔽は完璧だ。それはガイガーカウンターが証明している。放射線障害では無い。それでも、この事実は言葉ともに見えない矢となり、中尉を貫き続ける。

 それでも、目の前の光景から目は離せなかった。離してはいけないと思ったからだ。記録はされない。放言する者もいないだろう。この事実は闇から闇へ、今度こそ葬り去られる。永遠に。

 

──だから、せめてでも。

 

「セルフ・ディフェンス・フォースなのに、ですか?」

「俺達自衛隊(・・・)じゃねぇもん」

「やり直すチャンスがあるなら、ふいにしない事だ。そして、アンタはまだその機会を失ってはいない。そうだろ?」

「──そう……そう、ですね。はい。肝に銘じておきます」

 

 背後から慌ただしい足音がする。焦りの混じった賑やかな声も。また、高性能な聴音センサーとジャイロが、かすかなエンジン音と共に床が小さく振動を始めているのを捉えた。こちらにも漸く輸送部隊が到着したらしい。ここももう直ぐ戦場になる。俺達が戦えない戦場に。肩の荷が少し下りた中尉は、ゆっくりと物言わぬそれらに背を向け、歩き出した。もう躊躇いは無い。自分にも仕事がある。やるべき事がある。ここで止まる訳には行かない。行かなくては。ここでない、どこかに。

 

──自分の戦場に。

 

「──行こう」

《SST02、了解》

《……はい!》

《最後まで、見届けます》

「小松、ポイントマン」

「また俺かよ。手当て増やしてくれ」

「お前が一番ベテランなんだよ」

「知ってるよ。知ってる。俺の仕事さ」

 

 こんなにも残酷で、酷く醜い世界を、それでも救う為に。

 愚かで、反省しない人類を、それでも、救う為に。

 

 繰り返し、韻を踏む歴史に、それでも、と、仮初めの終止符を打つ為に。

 

 開かれた扉から指す光は、まだ朝陽では無かった。まだ闇の中にいる。その中で終わらせられればいい。本当に。

 

 すれ違う青い顔をした兵士達に軽く手を振りながら、中尉は心の中でエールを送る。頼むぞ。俺は俺の仕事を、君は君の仕事を。世界の為に。

 

 センサーが収まり始めた吹雪の音を拾う。真夜中であるにも関わらず妙に明るい雪原は、とても現実のものとは思えない。混迷を極めた地上からは、遥かなる星は、まだ見えない。

 

 

 

『次の世代に、あんな思いをさせてはならない』

 

 

 

白き闇と光の彼方に、閃光は輝く……………………

 




お待たせしました。二次創作故のめちゃくちゃをやっております。

世間はコロナ禍と、五輪に揺れてます。そこへ豪雨です。試練の年です。

それでも、自分はなんとかやっていけてます。久々に文を捏ねて、なんとか思い出しながら捻り出しましたが、だいぶ初期とは変わって来たのかも、なんて思っていますが、どうでしょうかね?
まぁきっと、この駄文を読んでいる人もそうであるはずです。変わって行くのは常ですから。だから、その変化を楽しめたらと思います。そして、その当たり前の幸運を抱きしめて、それを少しでも他の人と共有出来たら、きっと世界はもうすこし良くなると思います。

ガンダムは遂に閃光のハサウェイが映像化し、上海では1/1の新たな立像が立ち、ガンプラは転売され、これは良く無い事ですけれども、人気故でもありますね、そしてこうして二次創作をする人もまだ元気です。本当にすごいコンテンツなのだと再確認した次第です。この作品を好きになって良かったといつも思います。

まとまりのない文になってしまいました。自分の中で、この作品の終わりはもう決まってます。でも、遅筆故、ハサウェイ3部作が終わってもまだ終わらないと思います。永遠に終わらないのは避けたいですけれども、保障はありません。最悪ですね。それでも、たまーに覗いて、最新話が出てたら読んで楽しんでもらって、感想でもいただけたら何よりです。

それでは、激動の時代を生きる私達全員に、幸運が訪れる事を祈って。



次回 第七十四章

死を踏み、今を歩む

「捕虜にならない、捕虜を取らないだ」



ブレイヴ01、エンゲージ!!


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第七十四章 死を踏み、今を歩む

残り1話でここらへんの話終わるはずだったんだがな……。どうして……。


敵がいるから戦争が起きる。

 

味方がいても紛争は起こる。

 

生きている限り人は争い合う。

 

死してなお、それすら理由にする人に。

 

だが生まれなければと嘆くのはまた違う。 

 

 

 

── U.C. 0079 10.4──

 

 

 

 白が蠢いた。気がした。軽く目を擦り、瞬かせる。視界は変わらない。当たり前だ。目の障害では無い。雪がセンサーに張り付いている。目の前のスクリーンは白い部分が多い。蝕まれるとはよく言ったものだ。確かに見えづらい。人は視覚に生きる生き物だ。ホワイトアウトは本当に恐ろしい。しかし、今自分の目はそれだけではない。その証拠に、白の上にハッキングした監視カメラの映像が、ピックアップとしてサブスクリーンに投影される。敵も馬鹿ではない。既に襲撃されてる事はバレて久しい。向こうからの襲撃はあれ以来無い。恐らく待ち伏せている様だ。

 だが、戦場に霧は立ち込める。摩擦も絶えない。彼等はその魔力に囚われている様だった。自分達には魔術師により加護の魔法がかかっている。それがどれだけありがたい事か、それは目の前の惨劇を見ればよくわかる。

 

 シュノーケルセンサーを伸ばし、立て付けが悪いのか中途半端に閉じた扉の隙間から建物内をスキャンする中尉の股下から、身を屈めたオメガの面々も顔を出す。銃撃や爆発音、足音、怒声……それ以外の振動、彼らの身体が震えているのが振動センサーを通して伝わってきた。外気温は-3℃。秋口の"アリューシャン"列島においてはかなり低めの気温だ。と、言っても昨今の最新情報はまだ更新されていない。地球環境に大打撃があってまだ一年経っていないのだ。今までの気象情報は当てにならない。

 今年初めの"コロニー落とし"でかなりの量のチリが大気中に舞い上がり、地球全土で太陽光が遮られ、平均気温も落ち込んでいるらしい。その影響かも知れない。中尉は戦争が始まって以来かなり多くの場所を転戦して来たが、なんだかんだ暑い所が大半であり、その影響をあまり肌では感じていなかった。そもそもつい最近まで南の島にいたのだ。それこそ文字通り温度差だけで風邪引きそうなレベルである。股の下の彼等は防寒着こそ着込んでいるが比較的軽装な部類に入る。寒くて敵わないのだろう。と言うか死活問題だ。低体温症で死なれても困る。それ程この吹雪は厳しかった。

 

「おい。またジオン兵同士でやりあってるぞ?」

「やはりか」

 

 監視カメラの映像からも、激しい交戦が確認されていたが、目の前でそれが実際起きているのを確認する。こちらにとり好都合だ。眼前では、片方がもう片方を圧倒しつつある。しかし、完全に殲滅し切るには時間がかかるだろう。本来なら駆逐しきり、気を抜いた瞬間を狙うのがベストだ。だが、それを待つ時間は自分達には無い。

 仕掛けるか。こちらの戦力では両方を相手取ろうと殲滅可能だ。しかし問題は弾薬なのだ。目に見えて減ってきた残弾カウンターに少し焦燥感を覚え始めている。備えが減れば不安が出る。不安が出ればミスが出る。ミスが出れば損害を受ける。それはこの世の真理だ。時間もそうだが、自分達は局所的な瞬発火力にこそ優位を保っているが、少しずつ、だが確実に、真綿で首を絞めるかの如く追い込まれつつある。

 

「どうする?」

「やり過ごすか?同時に叩くか?」

「ウィザード01、ウィザード01。こちらSST01」

《こちらウィザード01。その地域一帯はオフラインです。申し訳ありません》

 

 申し訳なさそうな声に思わず頬をかく。上等兵の責任じゃあるまいに。上等兵はこの施設の殆どの部分を既に掌握している。現にドアやハッチを操作し道を作り、ジオン兵を閉じ込めたり窒息させたりもしてるらしい。しかし、それでも無理と言うのは、物理的に遮断されてるのか。まぁ古い設備だし当たり前であるが壊れてる所も多い。そして確かに、ここの施設は一つ一つの独立性が強めだ。それはまだいい。季節によっては氷河で閉ざされる箇所もあると言うし。

 しかし、しかしだ。建物ごとに細やかなシステムも違ったりするらしいのはまた謎だ。そりゃ重要な区画は警備を厳重にするのは判る。だが、ドアの開閉に必要なカードキーは統一されているらしいが。また、建物の中でも扉ごとのセキュリティレベルも細かく設定されているらしい。おかしな事だ。非効率的だ。まるで、意図的に入れない区画を用意している様な……。考え過ぎか?

 

「……了解しました。ふむ……叩きましょう。迂回も時間がかかります。それに、数を減らせる内に減らすのがやはり得策かと」

「よし」

「そうこなくっちゃ」

「SST02!」

《SST01、準備完了だ》

「室内をコイツでいっぱいにする訳にもいきません。援護射撃は3秒間。その間に畳みかけて下さい。3、2……」

「任されたよ」

「代わって欲しいよ」

 

 呼び掛けた時には既に、軍曹が手早く扉に爆薬を設置し、合図を送る。思わず頬が緩む。それでこそ軍曹だ。ACGSの指でここまで早く正確に作業が出来る人は居ないだろう。このモーションも設定すればオートで誰でも出来るが、軍曹の様に現地で量や規模、方向を決め、擦り合わせる様な動きはマニュアルにしか不可能だ。流石初めて触る機能であやとりが出来る男は格が違う。

 デモリッションバックを探ろうとしたライフル持ちが目を丸くしてるのを見て、誇らしさから思わず胸を張る。どうだ。これがウチの軍曹だ。凄いだろ。いや実際凄過ぎて反応に困る時あるが。

 ベレー帽とのっぽが手榴弾のピンを抜き、通風口から室内へ投げ込み、爆薬の効果範囲から立ち退く。次の瞬間、着火とほぼ同時に伍長が扉を蹴飛ばして飛び込んだ。

 

《とぉぉおおおー!りゃぁぁぁあああー!!》

 

 隙間から事前に投げ込んだ手榴弾が炸裂する。破片があちらこちらを叩く音を気にせず、爆風と爆煙を掻き分ける様にして中尉と軍曹が援護射撃をし、弾丸を叩きつける。

 同時に飛び込んだオメガが展開し攻撃をしようとした瞬間、曳光弾が音を立てて彼等を掠めた。慌てて遮蔽物へと蹴飛ばされるかの様に飛び込むが、遮蔽物ごと削りとらんばかりの凄まじい砲火の数の前に、頭を抑えて塞ぎ込んでいる。

 

 明確にこちらへ向けられた攻撃と、奇襲が失敗したどころか思わぬ伏兵に伍長も混乱している。潜伏地点(LUP)を特定出来ない。敵を捕捉出来ず、どこを撃てばわからなくなってるらしい。まずい状況だ。しかし、中尉も敵を捕らえられないでいた。煙が酷い。そして室内温度が高く、センサーが飽和し敵を捕捉出来ていなかった。取り敢えず腕だけ出して機関銃をばら撒くが、牽制射撃以上にはならないだろう。複雑かつ丈夫な遮蔽物だらけの部屋だ。重機関銃と雖も、硬く分厚い遮蔽物を貫通させるにはある程度当て続けなければ無理だ。先程までの様にはいかない。中尉は舌を巻く。コレを狙ってたのか?敵は思った以上に狡猾らしい。

 

「援護しろ!」

「こ、怖いです!」

「撃ち返せバカ!!」

「畜生!」

「クソっ!どこだ!?」

《えなにひぇっ!》

 

 伍長のACGSが装甲を叩く弾丸で火花を散らす。"シェルキャック"はとっくのとうにボロ布と化し、消失していた。ネズミ花火を全身に括り付けたかの様な激しい火の粉は"ブリュッセル"のイルミネーションもビックリだ。

 混乱の中、軍曹は地上の敵への攻撃を切りやめ、閃く様な速さで屋根の一部を吹き飛ばした。轟音と共に破片が舞い、光を受けて煌めくガラス片が飛び散る。その中に、遅れる様にしてバラバラになった死体が降り注ぎ始めていた。瓦礫に混じる血肉の赤が降り注ぎ、床に現代美術の抽象画の様に撒き散らされる。1人分ではない。そのショッキングな光景に、一瞬目を奪われる。黒に近いグレーの壁面をバックに映える、形の判別のつく赤黒い大きな破片が多いのがまた辛い。熟れ過ぎた果実の様に形を崩し地面へと垂れるそれは、明らかに気持ちのいいものでなく、目を背けたくなる様な飛び散った人の残滓(・・・・)だった。

 しかし、敵の居場所は判った。ヤツら屋根の上に潜んで、天窓から撃ってきやがったのか。または通風孔やダクトか、屋根裏か。そこまでは分からなくてもいい。全く気づかなかった。奴らは眼下の戦闘に介入せず、明らかにこちらを狙っていた。生身なら死んでたかもしれない。中尉は舌を巻いた。時間が無いのは理解している。だが繊細さが必要だ。性能を過信し行動が大雑把になってる。良くないぞコレは。戦場に居るのに、戦場を忘れている。迫り来る死を意識していない。

 

「上だ!ぶちかませ!」

「えっ、どこ、どこですか!」

「うるせぇ!俺が死んだらお前をぶっ殺す!」

《ど、どぉ!?》

「SST03は突撃、目に見える相手を蹴散らせ!背は見せるなよ!」

《うらりゃぁー!!》

 

 聞いているのかいないのか、それでも脳がオーバーフローし立ち尽くしていた伍長が言葉に反応し突っ込み、屋根を始め怪しいと思った所をめちゃくちゃに撃っている。中尉も同じく怪しいと思える所を撃ち込むが、角度から天窓の位置が判らない。結局の所牽制射撃に近い。一撃ごと確実に数人を吹き飛ばしてるのは軍曹だけだ。中尉は屋根への照準もそこそこ、地上の遮蔽物に隠れた敵を狙い始めた。唸りを上げる機関銃弾が跳ね回り、内装をズタズタに引き裂くも、屋根自体は抜けない。逆に上から降ってくる跳弾に地上の敵はたまったものでは無かったらしく、隠れていた遮蔽物から飛び出してはやられていた。しかしそれにしても分厚いな。ここの施設はかなりの積雪に耐える設計であるから当然か。またも20mmのままで良かったか?と後悔する中尉を他所に伍長もそれに気づき、弾の切れた"ハイパーマスターキー"を打ち捨て、グレネードランチャーに切り替えた。遅発信管で打ち抜き、上空で爆発させるつもりだろう。思ったより冷静な判断だ。

 伍長は相変わらず弾丸を集める磁石状態だが、撃っている間は平気らしい。堂々と姿も隠さず弾丸をぶちまける姿は素晴らしいが、性能を過信し過ぎだ。まるで撃っている間は無敵と勘違いしている様だ。撃ち続けていれば、何者でも自分の命を奪えないと。それは正しくもあり間違いでもある。そこに伍長の恐怖を汲み取った中尉は顔を歪めた。

 

 縦横に走り回るキャットウォーク含め、部屋の構造は3次元的に複雑に絡み合っており、それが混戦を助長させていたらしい。上を取りもう一方へ攻撃を仕掛けていたジオン兵はすぐさまこちらに気づき攻撃を仕掛けたが、それにより言わば1対2となってしまっていた。しかし、先制し畳み掛ける様に攻撃を仕掛け無ければその優位は失われるだろうから妥当な判断だ。問題は、その新戦力が1番の攻撃力と防御力を兼ね備えていたと言う予測不可能な誤算のみ。彼我の戦力の把握を怠り、間違うと命を失うと言う教訓を身をもって知ってもらおう。

 どのみち殲滅する。逃げ場はない。遮蔽物に身を隠し、蹲るオメガチームの盾になれる様しゃがみ込み、腕とシュノーケルセンサーのみ突き出して機関銃をばら撒く。上下に空間的に広いが、面積はそう広くはない。縦横無尽に空間を舐め尽くす跳弾が恐ろしい。壁の距離が近い為、自分の撃った弾が跳ね返り致命傷になりかねない。敵の数があまりにも多いと首傾げていたが、マズルフラッシュだと思った光が壁に当たり火花を散らす跳弾だった。舌打ちしつつセンサーを切り替え調整する中尉の足元では、激しい銃撃戦の最中、生身で震えているオメガ達の振動をACGSが感知した。中尉は己の幸運を再確認する。鉄の竜巻の中にいるみたいだ。室内は銃声と爆発音、金属がかち合う音が反響し凄い事になっているだろう。防音仕様のACGSの中まで聞こえて来る位だ。とんでもない爆音である。彼等も耳栓位はしているだろうが、ノイズカットの無線送受信機は壊れるかもしれない。

 

「こぇえ!!」

「こちらに向かう弾が、地面が、壁か、隣の誰かに当たるのを祈るだけだ」

「ヒデェ…」

 

 オメガの会話に苦笑を漏らしつつも、彼等の襟を空いた手で丁寧に掴んで後ろに下げつつ、中尉は本格的に射撃目標を地上の敵に定めた。あいも変わらず蒸気やら爆炎で前は見えづらいが、軍曹のデータリンクでセンサーはそれでも最適化され、目標を嗅ぎつける。隣で軍曹が機関銃に切り替えた。おそらく天井の掃除が終わったのだろう。本当に頼もしい。

 しかし──蒸気?何故だ?中尉は壁面に沿ったパイプの一つが盛大に白い水蒸気を吐き出すのを見て眉を顰めた。それを浴びた兵士がのたうちまわる。火傷を負った様だ。外気温と比べてもかなりの温度と言う事か?つまりここの施設はまだ生きてるのか。それにしてもなんで基地の中にかなりの規模の製鉄所やらなにやらがあるんだ?兵器を直すとしてもこんな物は必要ない。パーツを運び込めばいいからだ。上等兵が入手した地図には金属を精錬する施設から圧延施設、数多くの研究室、大規模過ぎる工場と普通の軍事施設には必要無い物のオンパレードだった。しかも、それは表からは巧妙に判り辛くなる様に設計されていた。ここは自活が出来るよう大規模な発電所や浄水施設その他があったと聞くが、それにしても規模が異常だ。また隠す意味も無い。

……まるでなにかを、それこそ秘密にしなければならないものを作っていたかのようだ。意味が判らん。兵器開発に秘匿性は必要なものだが、しかし……。

 

「ちびっちゃったよ」

「俺もだ」

「凍るぞ」

《うぉりゃー!てぇーい!!》

 

 徹底抗戦の構えのジオン兵に業を煮やしたのか、伍長が遂に火炎放射器を使用するも、その魔の手は敵に届く前に床に広がった。頼もしい銃口からは情けない音がするだけで、それ以外何も起きない。ガス欠だ。

 酸素と激しく反応する高い可燃性に、粘性と重量のある液体を遠距離まで噴出する火炎放射器は、噴射用の圧縮ガスと燃焼用の液体でスペースをかなり取る上、その連続噴射時間はサイズ、重量を考えるとかなり限定されてしまう。今回もかなり頑張ったらしいが最大効率で噴射しても1分半程度が限度らしい。また、今回は幸運にも無かったが、タンク内で気化した燃料が敵弾により着火、誘爆する危険性もかなり高い。伍長の事だ。ガバガバ使って気に入ったからと少し節約しようとして、結果中途半端に残してしまったらしい。

 遂に伍長は降り注ぐ弾丸を物ともせず、遮蔽物まで突進、装着されていた火炎放射器を取り外し、即席のバリケードごとフルスイングで殴りつけた。凄まじい金属音の中、バリケードが力任せに動かされ、壁に押しつけられた。その裏は推してはかるべきか。しかし、中尉は見てしまった。果実を潰したかの様な音と共に兵士の身体が不自然に折れ曲がり、手足が糸の切れた操り人形の様にバラバラの方向に投げ出されたのを。伍長は動きを止めず、突然の事に逃げ惑う残る数人にも情け容赦なく蹴りを入れ、振りかぶった鉄塊を叩きつけた。湿った音と共に吹き飛ばされた彼等は同じ末路を辿り、血と細切れ肉の詰まった肉袋が複数転がった。物の見事に潰れた彼等に、人間としての尊厳は限り無くない様に見えた。

 上から降って来た何かが、水音と共に転がって来た。それは不規則に跳ね、中尉のACGSの足にあたり止まる。それは人の肘から先だった。叩きつけられた速度差で引きちぎれ飛ばされたらしい。天井にでも当たりここまで転がって来たのだろう。酷い泣き別れだ。棺桶の中でももがき苦しむだろう。この腕もその持ち主も、こんな最期は想像していなかったに違いない。また別の水音がした。近くでアサルトライフル持ちが嘔吐していた。黄土色の吐瀉物が撒き散らされ、床を既に染めていた赤と混じり悪趣味なマーブル模様を描く。宇宙世紀の戦場とは思えない、凄惨極まる地獄に等しい光景だった。あたり構わず撒き散らされた肉塊と肉片で彩られ、未だにあらゆる弾痕から細く煙があがるボロボロの廃墟は、幽霊も寄り付かないだろう。

 

《せいあーつ!》

 

 装甲が返り血で物凄い色になっている伍長の底抜けに明るい声が空虚に響く。白、グレー、そしてまだら模様の赤。酷いトリコロールだ。その返り血も湯気を立て固まり、そして凍りついていく。その横で傷一つ、汚れ一つ無い軍曹は無言で警戒を怠らない。各所に弾痕が目立ち始めたものの機能に支障は無い中尉機も、念の為に近くの死体を踏みつけ、また拾い上げた鉄骨で突き刺す。淡々とその作業をこなしながら、中尉は振り返り声を上げる。そうしなければ、語尾が震えそうだった。

 

「……だな?怪我は」

「……気分が悪いぜ。チョベバだ」

「ちょべっ、ぺっペッ……チョベリバです。やめたくなってきました」

「なら大丈夫かと」

 

 顔を顰め口を濯ぐアサルトライフル持ちに対して取り繕う余裕も無く、中尉は口では適当な事をいい、扉のロックを解除する軍曹を見遣る。そうだな。そうだろう。だが、気分が沈んでも、もう既に平静を取り戻しているのをどこか冷め切った頭の片隅は冷静に判断していた。そこが鈍く痛む様だ。指の震えは止まっていないが問題はない。スクリーン越しでまだ助かった。現実感が薄い。むせかえる様な匂いも無い。思い出しそうではあるが。それでも、いや、だからこそ、俺達はしっかり人間だ。まだ人間だ。人の心を失ってはいない。それが例え自分を苦しめる事になっても、その痛みを抱えて生きる事が、きっと人である証なのだから。

 中尉は無感動にあたりを見渡す。穴だらけで未だに煙を上げる壁、水蒸気を噴き出す折れたパイプ、柱が折れ、崩れたキャットウォーク……そしてそれらを彩る血、肉片、内臓、アレは骨か?手足も結構わかりやすい。センサーが高解像度でそれらを拾う。それこそ、ネズミの死体やら鳥の死体まで。鳥?何故?ヘルメットが転がっている。中身入りだ。脳漿がべったり張り付き、灰色がかった白の脳髄がだらしなく縁にかかっている。色が違うから判る。普段は頭蓋骨という器に守られている、豆腐の様に脆い脂肪の塊。脳は衝撃ですぐ粉々になる。頭蓋骨が力任せに引きちぎられた割にこうも形が残るなんて珍しい事もあるものだ。しかし、かと言って彼が生きている訳でもなく、無論、生き返るなんて事もないが。

 俺は今生きている。彼らも生きていた。彼らの命を奪い、今を歩いている。また頭が転がっていた。血以外の液体が涙に見える。もっとも、彼は片方の眼窩をぽっかりと留守にし、虚な闇を抱えていたが。

……人は皆傷つきやすい魂を持っている。人間性を備えた、人間らしい人間としての、心。視界の隅、蜃気楼の様に揺らめく湯気を立て始めた吐瀉物が目に入った。ここにあり、人間性を示す役に立たない醜悪なそれは、人間でいたいんだ、という必死な叫びにも思えた。

 

 しかしそれもまたすぐ凍りつくだろう。

 

 人と人が殺し合う。なんて自然でなんて不自然な状況か。初めて人を殺めた時、何も感じなかった。それどころではなかったからだ。それに、交戦距離がかなり遠く、一方的に近かったのもあるだろう。科学の恩恵は、殺人の距離を遠くした。血の臭いから少しでも遠ざかろうと、手に武器を持った。剣が槍になり、弓になり、銃になり、ミサイルになり、今は圧縮されたメガ粒子のビームになった。馬は戦車に、戦車は飛行機に、そして船から飛び立っていた飛行機はいつの間にか宇宙戦艦へと変わっていった。

 だが、いくら戦場の感覚を遠ざけようと、必ず人は人を殺した事を自覚する。中尉も、その後あの感覚に襲われた事を思い出した。あの感覚が恐ろしかった。トリガーを引いた指先に確かに疾走った、痺れる様な、ひりつく様な、あの感覚を。空を飛び、ディスプレイを覗き、操縦桿のトリガーを引いていても、人の命を奪った時は、違う。それが直感なのか、錯覚なのかははっきりとしない。だが、()()のだ。いくつものショックがあった。だが、次の戦いでそのショックは半分になった。次でまた半分、また半分……だが、今はもう無感動だ。何も感じない。慣れか。慣れていいものなのか。どちらがいいのか、答えは無い。でも、その澱は確実に積もって行く。

 

 思考に耽っていた中尉を、扉の倒れる音が現実に引き戻す。まだ作戦は終わっていない。今は動くのみだ。

 勢い良く吹き込んだ雪に一瞬視界を塞がれるも、中尉は一歩を踏み出す。その足元を縫う様にオメガが展開し、周囲を警戒する。ありがたい。いくら全身にあらゆるセンサー類が装備されたACGSと言えども、主に使用されるメインセンサー・カメラ類は頭部に集中している。死角も勿論存在する。カバーは多いに越した事はない。

 アレだけ遠く見えた通信棟が目の前に見える。天を衝く2本の巨塔。吹雪が止みつつある今、その姿ははっきりと視認出来た。

 

 そして、その前に陣取る"マゼラ・アタック"も。

 

「伏せろ!!」

 

 誰が叫んだのが早いか、想像を絶する轟音と、地を揺るがさんばかりの衝撃が視界を激しくシェイクする。状況が掴めん。頭が痺れた様に痛み、混乱している。今俺はどっちに向いて何をしている。敵は?仲間は?俺は?

 

「わァ!!」

「畜生!また戦車だ!!」

「軍曹すまん!助かった!」

《SST01へ。問題無い》

 

 ACGSの装甲を、鋼の拳が小突く。かぶりを振り、深呼吸をした中尉は、頭に手をやりながら感謝の言葉を紡ぐ。隣で器用にひっくり返る伍長とシュノーケルカメラを展開する軍曹を確認し、胸を撫で下ろした。軍曹により強引に物陰に引っ張り込まれた中尉は、それにより命拾いをしたらしい。大半の衝撃はそれだろう。

 "マゼラ・アタック"の主砲は175mm。MSでも当たりどころよっては致命傷になり得る火力だ。重機関銃をギリギリ防ぐ程度の装甲しかないACGSなんて紙同然と言える。頭を過ぎるイメージに、背筋が凍り、身体がぶるりと震える。強張る手と、うなじが今更になり粟立っているのを感じる。立場が逆転したか?今度は俺達がバラバラになり地面に散らばる番か?いや、否だ。やれるはずだ。

 なんとか姿勢を整え、また飛び出そうとする伍長を押さえ込み、軍曹と目配せをする。無機質なACGSのセンサーの先、軍曹の歪められた口が見えた気がした。伍長も気づき、親指を立てる。準備完了らしい。いいぞ。こちとらあの日から"リジーナ"や"ロクイチ"で"マゼラ・アタック"を相手取って来たんだ。久々にやろうじゃないか。

 

《むぇっ》

「4輌もか!ダメだ!引こう! 」

「軍曹!」

「迂回は出来ないぞ!」

「畜生!見えない!」

「立つなバカ!頭がスイカになっちまうぞ!」

《SST02了解》

 

 オメガ達の悲鳴に近い声を聞きながら、初弾の着弾地点をチラリと確認する。やはりだ。いいぞ。他の"マゼラ・アタック"が撃つ前に、撃った"マゼラ・アタック"の次弾装填が完了するまでが勝負だ。幸い距離はそこまで離れていない。ミノフスキー粒子濃度が低い分照準が怖いが、砲塔が旋回出来ない上、大柄な"マゼラ・アタック"は俯角を取るのも苦手だ。再装填も遅い。ゲームはこれからだ。

 着弾は扉から大きく離れていた。建物の一部を掠めた程度にとどまっている。

 

──つまり、敵の照準は全く定まってない。

 

 軍曹機がスモークディスチャージャーで煙幕を焚いた。空気が噴き出す様な独特の音と共に凄まじい勢いで視界がホワイトアウトする中、同時に中尉もスモークを撒き散らし、脚部に装備された履帯を猛然と空回りさせ、雪煙を立て、そのまま大まかな狙い(ケンタッキー・ヴィンテージ)で機関銃を乱射しながら猛然と突進する。大きく左右に跳躍し、空間全体に煙幕を充満させながら距離を詰めて行く。"マゼラ・ベース"の車体に備え付けられた30mm3連装機関砲が火を噴き、スモークをズタズタに引き裂くが、煙の尾を引く中尉を捕らえる事は無い。しかし、1発でも擦ればその一撃はACGSを中尉ごとスクラップにする威力がある。脚を払おうとする死神の鎌を、中尉は決死の思いで避け続ける。破茶滅茶に揺れるコクピット内の、激しく数字の入れ替わるレーザーレンジファインダーが叩き出した距離は350m。コイツならすぐだ。息が上がってきた。肺が苦しい。コクピット内を満たすと息と、脈打つ心音がヤケに大きく聞こえる。耳の真下に心臓があるみたいだ。長くは持たない。だがもうすぐ手が届く。もうすぐだ。待っていろ。

 

 後方では伍長機が同様にスモークを焚きながら横へと大きく跳躍し、"ロケット・ハーガン"を崖へと射出した。鋭い音と共に擊ち出されたアンカーは、寸分違わずしっかりと岩壁に突き刺さる。成る程、高所を取りつつ射点確保するのか。咄嗟にしてはいい判断だ。頷く中尉の視界の端では赤い光が残像を曳いた。右腕の機関銃の銃身が摩擦と熱で真っ赤に焼けているのだ。長時間連射し過ぎだ。だが、撃つのをやめる勇気はない。生への確率を上げる為に、壊れても仕方無いものは確かにあるものなのだ。

 軍曹が建物にオメガ達を引き摺り込んだのか、一陣の風に煙が一瞬翻るが、そこにはもう誰もいない。それとほぼ同時に壁のダクト開口部が火を噴き、こちらに主砲を向けていた"マゼラ・アタック"の砲塔が吹き飛んだ。軍曹だ。軍曹は建物の中から比較的壁の薄いダクト部分を通して"マゼラ・アタック"を狙撃したのだ。しかし、軍曹機の装備するスマートガンの57mmではいくら装甲が薄いとはいえ"マゼラ・アタック"の正面装甲を貫く事はカタログスペック上不可能だ。"マゼラ・アタック"の防盾は角度によっては"ロクイチ"の155mmも跳ね返す事があるくらいなのだ。しかし、角度から隠れているキャノピーを狙った訳でも無さそうだ。もしや、まさか……。

 もう余計な事を考えるな。これはチャンスだ。爆発炎上した1輌の対角に位置取りし、盾にする様にして疾走る中尉の眼前で、突然僚機を失い混乱する"マゼラ・アタック"隊に大量の火の玉が降り注ぐ。射点についた伍長だ。狙いこそ正確では無いが、持てる火力を豪快に叩きつけている。攻撃対象を絞っていない為致命打にこそなり得ていないが、無視出来ない攻撃は、敵の足並みを崩すには十分過ぎる。

 

 全員が最良の行動を取れた。だから俺も俺の信じる最良に賭ける。残り30m。ここからは俺の距離だ。

──見てろ!動いて射撃するしか出来ない戦車を、教育してやる!

 

 銃身が完全に焼け爛れ、湯気を立てている機関銃が遂に空回りした。弾が尽きたのだ。銃身の限界を超えて弾を吐き出しきったそれに心の中で感謝と謝罪を送り、弾が尽きた機関銃を切り離し投げ捨てる。その勢いのまま、中尉は地面を今日一番強く蹴りつける。最後の飛躍を全身で感じ、心地よい浮遊感が重力につかまり、やがて来る衝撃に備えながらも、中尉の唇には笑みがあった。

 眼下には蜂の巣になり、あちらこちらから煙を上げる"マゼラ・アタック"があった。

 

「装甲の薄い"マゼラ・アタック"つっても、13.2mmじゃ効果が薄いな……だがな!」

 

 中尉は空中で姿勢を変え、そのまま流星の如く"マゼラ・アタック"へと突っ込んだ。ACGSの持ち得る質量と運動エネルギー全てを叩きつける猛烈な飛び蹴りが炸裂し、強引にその形を変えられた金属の奏でる耳障りな轟音と共に"マゼラ・アタック"が大きくへしゃげた。振動で装甲の上に積もった粉雪が舞い上がる中、突き出されたACGSの脚部はキャノピーを軽く突き破り、その中身をメチャメチャにしたが、車体は衝撃を受け止めきれず、その破壊は留まるところを知らなかった。

 キャノピーを中心にねじ曲げられた"マゼラ・トップ"は大きく陥没し、引きちぎられた翅が吹き飛び、その主砲も取れる仰角を超え天を衝いた。中尉渾身の蹴りは、完全に拉た"マゼラ・トップ"を支える"マゼラ・ベース"さえもぐちゃぐちゃにし、その一撃は、ジオン軍自慢の戦車を文字通り一瞬で戦闘不能にした。

 

 交通事故にも匹敵する衝撃から中尉が解放され、白く黒く明滅し赤く染まる視界の中、ぼんやりとした頭でなんとか突き刺さり過ぎた脚を引っこ抜こうと躍起になる傍ら、遂に伍長の攻撃がエンジンを捉えたらしい。隣の"マゼラ・アタック"が醜く内側から膨らみ、遂に耐えきれ無くなったのか歪んで爆発を起こす。飛び散った破片が装甲を叩く鋭い硬質な金属音を聴きながら、中尉は残る"マゼラ・アタック"に向き直る。これで残りは1輌。今更超信地旋回を始めてるが、無駄な足掻きだ。

 もっと酸素をと喘ぐ肺を押さえ込む様に大きく深呼吸をし、中尉が飛びかかろうと身を屈めようとした時、砲撃が不可能な近距離にまで攻め込まれ、今更不利を悟ったか最後の1輌が逃走を図る。いや、反撃の為か?"マゼラ・トップ"が起死回生の一手として分離し浮上した瞬間、再び姿を現した軍曹の射撃が飛び上がりバランスを取ろうとしているそれを捉えた。鋭い正確な一撃でキャノピーを綺麗に吹き飛ばされた"マゼラ・トップ"は、その制御を失い、くるくると回りながら上昇し、そのまま何処かへ飛んでいった。

 

 宇宙に帰りたがってるみたいだ。

 

 歪な蛇行を描き、薄くなり行く黒煙から目線を外し、中尉はひしゃげた"マゼラ・アタック"から飛び降りた。全高を約2/3ばかりにされ、不格好な鏡餅の様になったそれは少しばかり滑稽だった。見るも無残な姿だが、墓標にはもってこいだろう。

──最も、この島は後17時間32分43秒後には跡形もなく吹き飛ばされるが。チラリと減り続けるカウンターに目をやり、中尉は軽く空を仰ぐ。粉雪の舞い散る、真っ黒な空を。これは決定事項だ。今度こそ、この島は間違い無く空爆が実施される。その時、その下にいるかどうかは今後の動きにかかってる。

 肩で息をしていた中尉の隣に軍曹のACGSが到着した。そのまま傍を固め、警戒に移る。続いて慌ただしく雪煙を巻き上げながら伍長機も到着した。燃え盛る"マゼラ・アタック"が雪を溶かし、音を立て水蒸気の湯気を出すのを見守りながら、息も絶え絶えに中尉は口を開いた。

 

「っふー……各機、異常は?」

《SST02。異常無し》

《わたし弾もうほとんど無いです。それに、レーザーもぶつけて壊れちゃいました……》

 

 伍長の声に反応し、中尉は伍長機の頭部に目を向けた。確かに飾り羽の様に突き出ていたはずのレーザー機銃は根元から千切れていた。おかげでハゲである。カッコ悪い。フレキシブルに稼働するのが仇になったか。伍長結構転がってたもんな。可動するっつっても限界はあるか。いや、機体で押し潰したらいくら可動域内でも壊れるか。中尉は小さく溜息をついた。全く、身体の延長として捉えないからだ。いざと言う時に故障で使えないじゃあ……と考えたあたりで、中尉の視界の端に表示されていた兵装選択画面(ストア・コントロールパネル)のメッセージウィンドウに目が行く。

……俺もだ。気づかなかった。エラーメッセージ自体は出ていたが……。とにかく手早く表示を消し、中尉は頬をかく。一回も使ってない。自由度が高く使いやすそうな印象だったのに。残念だ。

 ACGSの上腕、手首内側の下、人間で言う脈所の装甲の下に仕込まれた鏡を展開し、自機の頭部を確認してみる。どうやら弾丸を喰らったらしい。半ばから折れ、その根本には弾痕の様な跡が見える。アレだけ弾を喰らえばそりゃそうか。どんな兵器であろうと、何処も一様に同じ装甲強度の訳が無い。身を捩る様にして丁寧に機体を見回してみると、中尉の想像以上に多くの傷が刻まれた装甲は少なからず損耗していた。そして何より弾丸の射耗も著しい。性能におんぶに抱っこではダメだ。戦術を改めなければ。

 

《SST02からSST01へ。弾薬の再交付を、具申する》

「っ、そうだな……いいのか、すまん」

 

 激しい運動で発汗し、身体が暑いとヘルメットのバイザーを上げ汗を拭っていた中尉は、言葉と同時に突き出された軍曹の機関銃をオートで受け取り、続く弾薬を伍長と二等分しようとして辞めた。伍長に多めに渡しておく。伍長機は夜逃げの様に背負ってきた装備のその殆どを既に射耗していた。ランドセルの様に背負っていた背部ウェポンコンボユニットも既に切り離され、かなり身軽だ。つまり予備弾がほぼ無い。中尉は背中の弾倉ユニットにまだ機関銃弾が多少残っている。軍曹は言わずもがなだ。

 伍長が受け取った弾倉をACGSの装甲表面に設けられたアタッチメントに接続するのを見守りながら、中尉も機関銃を右前腕部に取り付けた。腕部アタッチメント接続と同時にFCSが機関銃を認識し、同調を始める。流れ込んだデータによると1発も撃ってないらしい。銃身の磨耗の無い新品そのものだ。本当に助かった。正直なところ補給が欲しいが、贅沢は言ってられない。貴重な輸送リソースを自分達に割く訳にはいかない。今も尚必死で反応兵器を運び出しているだろう輸送部隊に想いを馳せながら、中尉は話題を逸らす様に言い訳がましく口を開いた。

 

「それにしても、宇宙人の戦車は柔らかいな」

《しかしホント、20mmのままでも良かったですねぇ。時々少し効き目が薄いです》

 

 強がって宇宙人等と言ってみたが、その舌触りは最悪で、また伍長の言葉は事実だった。ため息をつく。向かないらしい。

 

 ACGSの装備している13.2mmHEIAPはカタログスペック上、17cm厚の鋼鉄製の板を撃ち抜くパワーがある。この鋼鉄製完全被甲弾は着弾と同時に炸裂する3種類の高性能炸薬、1分近く数千度と言う高温で燃え続ける2種類の特殊焼夷剤、目標に深く貫入するタングステン又は劣化ウラン製の弾芯にも炸薬が充填されている複合効果弾(CEM)だ。軍用の複合装甲で覆われた戦車であろうと、対象との距離や装甲厚、侵入角度によっては撃破可能なスペックを持つ。

 しかし、比較的装甲の薄い"マゼラ・アタック"であろうと、その車体のサイズと飛行すると言う制約の無い"マゼラ・ベース"部のバイタルパートは複合装甲による多重空間装甲で固められている場合があり、時にかなりの防御力を発揮するのだ。"マゼラ・アタック"は大部分の設計はそのままに、等倍に縮小、拡大した様な複数のサイズが確認されている。ほぼ1機種で地球上のあらゆる地形に対応する為のジオン軍の工夫の一つだろう。その中でも大型とされる機種は特に装甲厚に余裕がある。今回相手したのもそれらしい。

 

 イレギュラーだった。本来こんな複雑な地形で運用する"マゼラ・アタック"では無い。だから出てくるとは思ってなかったのだ。所謂中型、小型なら13.2mmで十分に対応出来る。普通の軍事施設の壁もだ。何度も言うが、予想外、イレギュラーだったのである。しかし、事前の情報不足もあれ、これは中尉の完全な判断ミスだった。

 

「まぁ"ロクイチ"相手ならこうはいかんだろうな」

「俺達あんな苦戦したのに……」

「欲しいなぁ」

 

 贅沢な悩みだ。膝の高さまで積もった雪を掻き分け、息も絶え絶えに追いついたオメガの面々がぼやくのを聞き、中尉はそう思った。そりゃそうだ。戦闘において火力はあるに越した事は無い。機動力も、防御力もだ。歩兵と言う括りからはみ出た存在であるが故、その威力が良く判る。それに誰もが好き好んでこんなに深い雪の中を歩きたくは無いだろう。吹雪は収まりつつあるが、チラつく雪は相変わらずだ。空を見上げるとその闇は深みを増していた。つまり一番冷え込む時間帯でもある。寒さはそれこそ身を切り裂く程だろう。

 想像した事でちょっとむずついた鼻を軽くかき、燃え盛る残骸に当たり手を擦っているオメガを見下ろす。ACGSのオフィスは快適だぞ。まぁACGSから降りようとノーマルスーツ着用してるからかなり快適だと思うけど。どちらかと言うとノーマルスーツの恩恵だなコレは。ジオン兵の多くも地上専用に調整されたノーマルスーツを手放したがらないパイロットが殆どらしい。そりゃそうだろう。基本的に完全に調整されているコロニー内環境とは対極とも呼べる地球の自然環境は人に優しくは無い。俺だってクソ寒いのもクソ暑いのも歩き辛いのも嫌いだ。歩兵じゃねぇし。

 

 無言でくだらない事を考えていたら軍曹が銃を指向した。その瞬間、銃口の先のドアが開いた。雪を蹴立て転がり出てきたのは軽装のジオン兵だ。中尉も咄嗟に武器を向けようとして中断し、近場の伍長とスクラムを組む様にオメガの盾になる。流石に距離が近い。いや近過ぎる。装甲に守られた俺達はともかく、生身なら破片や爆風に巻き込まれないとも言い切れなかったからだ。軍曹が引き金を引かなかったのもそうだろう。ならここは俺がやるべきか?57mmよりはマシだろう。

 体勢を変えようとした瞬間、転がり出た男達の方が先に動いた。

 

「撃つな!降伏する!」

「なんだ?」

「何?」

《負けたって!》

「は?」

 

……よく見たら全員武器すら持ってない。両手を掲げた男達は、その場にゆっくりと立ち上がった。雪に塗れ、寒さに震える彼らに戦意は無さそうだ。しかし、どうするべきか。連れては行けない。縛って放っておくか?死ぬだろうな。警戒に1人残すか?論外だ。しかし時間も無い。正直構っていられないと言うのが実情だ。厄介な事になったぞコレは。殺す事は造作も無いが、捕虜を虐殺するのを見てオメガ達はどう思うか。そこが問題だ。正直この島からジオン軍が生きて帰れるとは思っていないから戦争犯罪を犯そうとそれに対するリスクはかなり低いだろうが、隣の協力者が敵対するのは出来れば避けたい。くそぅ余計な事を言いおってからに。

 軍曹と目配せする。微かなカメラの動きからその意図を理解した中尉は、伍長に周囲の警戒を呼びかけながらわざとらしく口を開く。

 

「降伏だってさ。言葉が通じて幸いだよ全く」

「捕虜、ですか。受け入れる準備はしてなかったですね……あなた達の交戦規則は?」

 

 判断をオメガ達に丸投げしたのである。これも一種の戦術的な技術及び手段(TPP)か、なんで自嘲する。最悪彼等を残したり、何があっても責任を押し付ける事にした。逆にここに残れと言われたら戦力の分散や火力の観点から断るつもりでいた。本来中尉はこの様な腹芸は苦手で、その緊張からやや声が震え、脇腹を冷や汗が流れ落ちていたが、その目に見える恐怖をACGSが覆い隠してくれていた。この鎧は本当にいい。あらゆるものから守ってくれている。それ程自分は弱いと言う事の裏返しでもあるが。しかし観測されない現象は存在しないのと同じなのだ。

 この前の尋問と同じだ。知らない事、知られない事は存在しない事と同じ、つまりそれだけで武器になる。ACGSは部分的にセミマスタースレイヴ方式を採用している。直感的な操縦が可能な分、個癖や動揺が出やすい。それでも、これくらいならなんとかこなせる。それでいい。

 

「捕虜にならない、捕虜を取らないだ」

「そうですか」

 

 それに気づいているのがいないのか、手元のSMGの残弾を確認し、槓桿を引いてスライドを開放、薬室(チャンバー)チェックをしながらベレー帽が答えた。その意味を中尉は瞬時に理解したが、止める事はしなかった。

 

「ごめん」

 

 短い一言を言い切ると共に、ベレー帽がSMGを腰溜めに構え、薙ぎ払った。彼のトレバーシングファイアは中尉の想像通りの効果を発揮し、手を挙げ並んでいた男達をバタバタと撃ち倒す。のっぽが呆気にとられた顔でそれを眺めていたが、ベレー帽は気にしてない様だった。オメガの他のメンバーも同じ反応だった。軍曹はなんのリアクションも無く、周囲を警戒していた伍長はその銃声と発射炎に顔を向けたが、あららとでも言う様に大袈裟に肩を竦めてまた外を向いた。

 中尉は銃口から立ち上る煙をそのままに、弾倉を交換するベレー帽と、倒れ血を流し、蒸気を立ち上らせる死体が少しずつ冷え雪が積もっていくのに目をやり、誰に言うとでも無く呟いた。

 

「ごめん」

 

 誰に向けたかも判らない言葉に困惑しつつ、中尉は改めて口を開いた。もう、目の前の死体には興味を無くした様に。

 

「よし、行くか」

《はい!》

「イヤに手慣れてるな」

「そんな事は無いさ」

 

 俺達は進まねばならない。その為には、障害物を避けたり退けたりするのも大切だ。それが小さいなら特に。道端の小石を退ける様に。ここはもう直ぐ地上から永遠に消え去る。条約も何も無い。時間も無い。軍曹が敵が飛び出したドアを蹴飛ばし、歪ませて開かない様にしているのを見つつ、オメガの先導に従って進む。

 やがて、針葉樹林の奥、雪に埋もれた小さなゲートが見えてきた。しかし、ACGSのセンサーは今積もっている雪よりさらに高い位置まで雪が積もっていた跡を見つけ出していた。どうやらここが目的地らしい。彼等が苦労して開けようとしていたゲート解放を手伝い、それを潜り抜けると、彼等は一息ついた。中は暖かいらしい。装甲に付着した雪が溶け、水溜りを作っていた。装甲の排熱が判りやすい。成程、彼等の臨時拠点か。よくもまぁバレずに良いところを見つけたものだ。ふと視線を落とすと床には朽ちた監視カメラが転がっていた。よく見ると照明も付いていない。後ろで伍長が力加減に四苦八苦しながらゲートを閉めている。電気も通っていないらしい。上等兵も気付いていたが探れなかったエリアだ。向こうの手腕に舌を巻く。クラッキングの事は話していない。しかし、ローテクにより掻い潜られていた。

 今上等兵は定期連絡のみだ。他の部隊の情報支援を優先しつつ、施設内を動き回るジオン兵の足止めや封じ込めをずっとやっている。輸送部隊が敵と鉢合わせせず順調に運び出しをしており、こちらにも敵が比較的少ないのはそれが功を奏しているからだ。施設の密閉度が高い為、空気の循環を止め窒息もさせてるらしい。彼等の最期を想像した中尉は、改めて彼女の能力に畏怖した。逆らわんとこ。

 

「この先だ。安心してもらっていい。周囲は安全だ。保証しよう」

「……ここまで来たらもう顔を隠す必要もないですね」

 

 軍曹の確認を取り、ACGSを跪かせる。GPLレベルを"ミリタリー"から"待機"へと落とし、それを確認した後ハッチを解放する。内燃機関(エンジン)核融合炉(リアクター)では不可能な速さに満足し、圧縮空気が漏れ出す音と共にヘルメットを取り、大きく頭を振って深呼吸する。コクピット内は快適だが、心理的な狭苦しさ、息苦しさはまた別問題だ。埃っぽく、僅かにカビの匂いするするこの空気すら愛おしい。指を襟に差し込み、汗を拭う。やはりどうも苦手だ。慣れるのかも知れんが。軽く伸びをして身体を解しつつ、どうしても硬ってしまっていた身体の動きを確かめた中尉は、それでも軽やかに地面に降り立った。

 その横に同じく軍曹、遅れて伍長がよろめきながら降りてきた。伍長に至ってはヘルメットを取った瞬間クシャミをしていた。締まらないが、それが俺達なのかも知れない。でもせめて外面くらいは整えたいなと思ってしまうのは軍人としての性か。

 

「一連托生。だな」

「日本語上手いなと思ったらやはり日本人か」

「あんた、若いね」

「ガキじゃねーか」

「すみません」

「謝る事は無い。戦士に年齢は関係無い」

 

 オメガのリーダーらしいメガネを先頭に、狭い通路を埋める様に、立ち込める沈黙を打ち破る様に話しながら歩く。先程の汗はどこへやら、吐く息が白い。顔が痛いくらいに冷たく、少し肺が痛い。気管を締め付け、刺す様な痛みに顔を顰める。メガネは曇った眼鏡を拭っている。軍曹はいつも通りの自然体で、伍長も鼻を啜っているが、リラックスしている様だ。

 どうも、鎧を脱ぎ捨て不安になってるのは自分だけらしい。思わず頬をかく。親しげに話しかけてきたオメガ達の顔を見渡しながら、表情筋をほぐす様に笑ってみたが、やや強張っているだろうなと思った。

 

「ふふん。私は一人前のレディーですから!」

「経験だけさ。必要なのは」

「よろしくね」

「手ぇ早いな」

「無駄ですよーふぃあんせがいるんですー」

「経験も年齢もあるのにこうだもんな」

「テメぇ」

「殴るなよ?身体弱いんだから」

 

 彼等の空気も軽い。演技じゃなければかなりリラックスしている様だ。手を擦りながら歩く彼らは銃から完全に手を離している。それだけ安全であるのと、自分達を受け入れてくれている事に内心ほっと息を吐く。賭けだったもんなぁ。WWIの友達連隊じゃあるまいし、全員日本人の特殊部隊なんて連邦軍内では聞いた事が無い。自衛隊は本土のジオンを駆逐しつつあるとは前聞いたが、積極的な海外活動はして無いと思ってたし。何者なんだろう。お互いに。

 そのまま歩くと、前にドアが見えた。灯が少し漏れている。そして、そこから声も聞こえてきた。男の声だ。複数人が喋っている。そして、押し殺した様な呻き声も。

 

「ぅあ核なんで!ぶっ……知るげ!!」

 

──声と言うより、悲鳴混じりの怒声だ。

 

 顔を顰める。その時、通信が入った。一声かけ、インカムで応答する。上等兵だ。なんだろう。トラブルか?

 

《こちらウィザード01。他の攻撃チームが捕虜を取ったそうですが、対処の方法を求めてきてます》

「こちらSST01。一応聞きますが、それは自分が対応する事ですか?自分は……」

 

 目の前の声から目を逸らし、答えながら首を傾げる。俺はそんなに偉く無いし、今回の作戦ではただの小隊長の1人に過ぎない。インカムの内側の汗を拭いながら、中尉は予想外の内容に思わず口ごもる。そんな彼を、オメガ達は興味深く伺っていた。口調変えるべきかな?

 小さな雑音。電気が空気を切り裂く音がする。目に見えないそれは、同じく目に見えない力を中尉にもたらした。

 

《ウィザード01からSST01へ。臨時で階級を引き上げられたのをお忘れですか?前線指揮官で1番高い指揮権を持つのは中尉、あなたです。勿論、これは高度な柔軟性を持たせる為でもあります。特に要望が無ければこちらで対処しますが、どうしますか?》

「了解です。あー……」

 

……あの件(・・・)か。すっかり頭から抜けていた。しかし、自分としては了承したつもりも無かったんだが。まぁいい。しかし、またこの問題か。どうしろと言うんだ。

 伍長がまたクシャミをした。その時、中尉はある話を思い出した。そしてそのままそれを口に出す。まだマシな案なはずだ。

 

「ウィザード01。服を全部脱がせて寒くないところに押し込んでおいてください。暖かいところの近くがいいです」

「SST01。溶鉱炉が、動いてる。その、近くでいい」

「聞こえましたか?だそうです」

 

 軍曹の援護射撃が助かった。意図を汲んでくれたか。本当にありがたい。自分の判断が正解に近い事を教えてくれる。補足もしてくれる。これ以上の存在はいない。

 ふと何かの臭いが鼻をつく。血と、汗。そして火薬の匂い。戦場の匂いだ。しばらく離れていたつもりだが、やはり逃れられ無いらしい。鼻柱に皺を寄せ、鼻を鳴らす。ふん。逃げはしないぞ。

 

《服は全部、ですか?》

「全部です。そしてそれはすぐ処分する様に言ってください」

《ウィザード01了解。伝えます。幸運を》

「こちらSST01交信終わり」

「どってです?」

 

 通信が切れると同時に、首を傾げた伍長が質問をする。中尉は一瞬戸惑ったが、一呼吸を置いて話し出した。

 

「そうすりゃ、一歩でも外に出たら凍傷と低体温症で何も出来なくなる。この気温だ。数歩も行かないうちに素肌は即凍りつくし、肺も凍って破裂して、血で溺れる。その血もすぐ凍る」

 

──あとは自然が始末してくれるさ。とまでは言わなかった。判っているだろう。口に出す程でも無い。ここは人が生きて行くには余りにも厳し過ぎる土地だ。身震いする。寒さからではない。もう慣れた。だが、人は弱い。宇宙は無慈悲だが、地球も決して全土が揺籠ではない。宇宙へ飛び出そうと人は変わらず人だ。人は結局極少ない生きられる所でしか生きられない。故に世界は広くても争いは避けられない。

 時に逃げは大切だが、逃げた先でも結局戦わねばならないのはいつも同じだ。フライパンから逃れても、その下は火が燃えているものなのだから。場所を変えても、変わらない事は変わらないのだ。世界は広いが、結局真理はどこも大体同じで、生きる限り、何かと関わり続ける限り、その点何処へ行っても変わらない。それは狭いのと同じだ。悲しいが。

 地球は広いが、何の支援も無しに砂漠に放り出されて生きていける人間は少ない。宇宙でも同じだ。そして、人は楽を求める。詰まる所、よりよく生きる為のリソースは限られているのだ。

 

「えぐいな」

「いや、まぁ……是非も無しです。実際余裕、ありませんから」

 

 苦笑を滲ませながら、中尉は困った様に眉を下げる。やってる事は先程のベレー帽と変わらない。いやむしろ酷いだろう。処刑させなかった理由も士気を落とさない為だ。それも誤魔化してるに過ぎない。気付かれなきゃいいけど。また、せめて終わってから気付いて欲しいな。それだけを小さく願う。地獄に居て、更なる地獄に気付く程キツいものは無い。

 情報も揃いつつある今自分達にとり、今ひん剥かれているだろう彼等は無価値だ。価値が無いものに対して、人はどこまでも非情になれる。

 扉を開けると、そこは鉄の匂いが充満していた。そしてそれは今も尚濃くなって行く一方で。

 

「この遊園地の景品ぬいぐるみ野郎、ナスターシャ・ロマネンコという女を知ってるだろ?」

「言葉に気をつけろポンチキ星人。食べ過ぎのヌガーチョコが脳味噌と入れ替わってるぜ……おめえら、ひょっとして大統領をも凌駕する謎の権力集団じゃねえだろうな。吐きやがれこのステッキの形したアメの合成着色料!」

 

 薄明かりの下、イスに縛り付けられ喚く半裸の男達、床に倒れ伏し血を流す死体、殴る男と、小さな窓から外を見ていた男。とても判りやすい。痩せた男の拳が振るわれ、また血が飛んだ。白い何かも。歯が折れたか。戦場にはつきもの(・・・・)だが、戦場とはまた違う凄惨な光景。戦時国際法と言う幻想によって、存在してはいけない、存在しないはずの光景。

 中尉はこの場所を『知らない』。避けて来たからだ。でも『知っていた』。戦場にいながら戦場とを隔てる鎧を脱いだ男は、弱いが、それでも目を背けなかった。

 窓の外を見ていた男が振り向く。恰幅の良いどっしりとした体型だ。しかし、その身の熟しは確かに兵士のものだ。灯りに照らされた強面の顔には、複雑に横切る様に深い傷痕が刻まれ、その凄みに更なる彩りを加えていた。その走る線を歪める様にして、男は軽く口を開いた。

 

「おっ、初めましてだな。篠原たくみ」

「しょーい!名前!名前!」

 

 名前を知られていたという驚きより先に、開きかけた口を噤む。緊張が身体を支配し、伍長が素っ頓狂な声で代弁してくれていた。薄々気づいてはいたが、いい様に使われていたのはこっちの方だったか。何もかもこの男の掌の上の出来事に思えてくる。動揺を隠し切れないが、務めて冷静に振る舞う。ラフな敬礼返し、指先の震えを誤魔化しつつ、中尉は辺りを見回した。さて、どうしよう。本当に……。

 そんな中尉の様子に鼻を鳴らし、男は殴らせるのを辞めさせた。捕虜を殴っていた男が手を拭きながらいそいそと部屋を出るのを眺め、懐から取り出した葉巻を切り、先端に火をつける。本当に発煙弾(日本人)だなと思う中尉を他所に、細く煙を立ち昇らせながら、軍曹に目を向け口を開く。本当にこっちをよく知ってるらしい。

 

「そして、まさか伝説の男にこんな所で会えるなんてな。"虎"」

「伝説の、男の──あなたに。そう、言ってもらえるとは、光栄だ。最新作、いつまでも、待つ」

「ふん」

「ピンチです!真名を知られたら危険って聞きました!」

「伍長煩いぞ。あなたが、バッドカルマですか?」

 

 場所を変えよう、とさらに隣の部屋に通されながら、中尉ようやく唾を飲み込み、口を開いた。頭にクエスチョンマークの飛び交う伍長は当てにならない。俺自身もだ。そもそも軍曹、虎なんて呼ばれてたのか。それさえ知らなかった。場違い感が半端ではない。

 通された部屋は簡素だが暖かく、古ぼけたソファが複数置いてあった。勧められて腰掛けつつ感じる。俺はこののんびりと紫煙を燻らせる男には勝てない。なら、せめて損は少なくしたい。

 オメガ達が廊下で装備の確認をしている。それを横目に、中尉は戦略を立て始める。軍曹が後ろに立ったのを感じた。頼もしい。向こうの方がこちらをよく知っている。泥縄以下の手遅れだろうと、無策よりマシだ。飾り気の無い部屋は、何のヒントもくれない。当たり前か。ここは彼らの仮住まいだ。

 そして伍長が何故か隣に座ってきた。意味が判らん。何でだよ。

 

「そうだ。世話をかけたな。だが、おかげでこっちも上手く事が運んだ。感謝する」

「こちらこそ。優秀な隊員をお持ちな様で。羨ましい」

「それはこっちのセリフさ」

「あ、握手!握手まだでしたね!」

「トラ?有名なのか?誰だ?」

「小松さん知らないんですかイテテ」

 

 気を取り直して、と思った矢先、廊下からの声に苦笑する。隣では伍長が凄い人だったんですね握手して下さいと身を乗り出している。もうめちゃくちゃだ。でも、それでいいかもしれない。

 だからこそ、彼等とは肩を並べた、それを労いたい、と口に出したのは打算的な考えは殆ど無かった。結局、戦場を共にしなければ判らない事もある。銃を向け合い、刃を交え合う、または轡を並べ、背中を預け合う。それをすればもう他人では無い。中尉はそんな古い考えの持ち主だった。しかし、そう間違いでは無いと思っている。信じている。まだ、地獄の戦場にも、僅かな、それこそ微かではあるが希望を持っている若さが彼にはあった。

 

 眼鏡を先頭にオメガ達が入ってくると、中腰だった伍長が立ち上がり、握手をしに駆け寄る。向こうも突然の流れに面食らっているが、中尉も腰を上げ、その中に加わる。軍曹は何やらバッドカルマと話しているが、任せようと思った。それがベストだ。

 あっという間に場は談笑で暖まり始める。不思議な事だ。それでも悪くない心地だった。束の間の休息を楽しみたい。勿論、耳元では状況が流れ続けているが。しかし、戦況がかなり落ち着きつつあるのも同様だった。

 しかし、この人数では少し狭い。薄くすえた汗の匂いがする。硝煙の匂いも。戦う者達の生きている匂い。血では無く、生々しい戦場を感じさせる。その忘れかけていた匂いに思わず身動ぎする。刀を提げて来なくて良かった。勿論ACGSには積んであるが。御守りとしては少しばかり嵩張る。持つのを辞めるつもりは無いが。なんだかんだ、刃物とは心の支え以上に役に立つものだ。

 

「旨いコーヒーどうです?ゴールドコーストブレンド」

「俺のは?」

「わぁありがとうござつぅっ!しかもにがぁっ!!」

「お客様用ですよ」

「いいよいいよ判ったよ」

「ならこちらが。軍曹?」

「了解」

 

 その匂いを塗り潰すように、ふわりとした香りが鼻腔をくすぐった。アサルトライフル持ちが差し出した湯気を立てるコーヒーを受け取り、躊躇いなく口をつける。熱々だ。少し嬉しくなる。息を吹き掛け冷ましながら、両手でカップを包み手を温める。

 熱い液体はそのままで危険な武器になる。敵対する相手との話し合いの場では、火傷しない温度で淹れてもらうのは一つの護身術でもあるが、それを無視して渡しているのだ。こちらへと渡す前にわざわざ見せつける様に呑んでもくれていた。不思議な人達だ。慣れているのかいないのか、わざとなのかそうじゃないのか。

 コップの縁についた化粧(・・)に気づき、顔に塗りたくっていたドーランを落としながら、中尉は軽く一息つく。おしゃべりの止まらない伍長が半端に落としたまま笑っており、それを軍曹が拭っていた。彼等も普段は塗っていると聞いてなる程と思う。本当に場数を踏んでいるらしい。

 

「そういやお前達は何で来たんだ?」

「"ロジャー・ヤング"級強襲揚陸艇です」

 

 手の中のコーヒーに目をやり、それを揺らしながらさりげなく答える。もちろん嘘だ。違法秘密工作(コバート・オペレーション)に近い行動中なのだ。線引きはしっかりしてる。それでも、やはり嘘は苦手だ。こんな事せずに、話をしたい。出来ない。悲しい職業だ。本当に。向こうの話も話半分に聞いてるが、それはお互い様だろう。自衛隊が海外派遣し積極交戦しているなんて話は全く聞かない。本当に、寂しい事だ。

 少なくとも、今は味方なのに。味方ってなんだろう。俺達はお互い、何の為に戦っているんだろう。

 

「俺達はヘリさ」

「この悪天候の中をよく飛ばしましたね」

「まだそこまで吹雪いては無かった。帰り(E&E)も同じさ」

「こいつが吐いた以外は問題ナシさ」

「いつもの事だし、まぁ平常通りさ」

「タフなんですね!お揃いです!あちっ!」

 

 一瞬沈黙が降りる。天使が通ると言うらしいが、その合間を埋めたのは閉じた扉から忍び込んだ呻き声だった。思わず扉に目をやる。肩を竦め、上を向きながら中尉は口を開く。

 

「……インタビューが上手くいって無いみたいですね」

「痛みは寒さと同じだ。麻痺して慣れるからな」

「水と袋は凍ってダメだったってさ」

「寒くてくしゃみ止まらんですもんねぇ」

「伍長だけだよ」

「ひどい!」

「外と比べればまだマシだが、ここも氷点下だもんな」

「導火線と信管もっともってこい!」

 

 マジか。

 

「軍曹?何やってる?」

 

 衝撃のセリフから目を背ける様に、ふと目をやると軍曹が何らかの液体をナイフに垂らしていた。色のついた瓶からトロリとした液体が刃を伝いながら凍りつき、霜となる。そして、瓶の底には透明に近い液体が溜まっていた。

 

「ヘアトニックが、あった」

「あー、アルコール作るのか?」

「時間は?大丈夫なのか?」

 

 フィクションではしばし見かけるが、この世に都合の良い『自白剤』なんてものは無い。暗示促進剤等はあるがそれだって使い所が限られてくる。勿論判断力を鈍らせたり、意識を朦朧とさせるものはある。アルコールもその一つだ。しかし、その時供述した内容が正しい保証は全くない。まぁ意識がしっかりしてようとより正確な情報を得る為には供述内容の裏を取るしかないが。話を聞く相手を2人組にして、意思疎通を図れない距離に離し尋問し、内容を確認しつつ違う事を言ったら痛めつける、なんて方法もあるが……。

 軍曹は手っ取り早くアルコールで酔わせて口を軽くさせるつもりらしい。勿論この方法も万能では無い。支離滅裂な言動をする可能性も高く、あくまで一つの方法に過ぎない。まぁ、この短時間でも拷問のノウハウやら道具に欠けているのは判っている。無いよりはマシなのだろう。

 

「コツが、ある。脳に、直接。打てば、いい」

「太い血管じゃなくてか……」

「成る程……」

「ナカムラぁ!このボケ!代われ!」

「チクショウ……」

 

 瓶を片手に立ち上がった軍曹の、その背中を見送るしか無い中尉は目を伏せた。任せるしか無い。汚れ仕事(ウェットワーク)は精神衛生上よろしく無いが、軍曹から動いた以上止める理由も無いのもまた事実だ。他にも何かあり物を物色し、それを持って出て行ったのを見送った十数分後、軍曹はバッドカルマと一緒に話しながら戻って来た。

 中尉が口を開こうとするのを制し、ベレー帽が聞いた。彼らも今回はまともなブリーフィングを受けてない様で、色々疑問があったらしいがそれは本当らしい。どこも相当切羽詰まってたのか。本当にイレギュラーばかりだ。目が回る。

 

「結局どういう事なんだ?説明してくれ」

「しただろ?」

「ピンと来ない。あいつらは誰だ?こいつらは誰だ?なんで撃ち合ってる?なんで撃たれてる?」

「ついでに教えて貰えるなら、その説明下手の欠点に気づくのはいつだ?」

「判った。判ったから聞け。簡単に言うと、ここでジオンの特殊部隊が3つ巴、そこに俺達が飛び入り参加したってワケらしい」

 

 大袈裟に身体を動かしながら喋り出したバッドカルマが肩を竦めた。イレギュラーには辟易しているとでも言わんばかりだ。そしてあんたらもな、と目線を投げかけられる。頬をかきながら頷くしかしなかった。なんて戦場だ。人類の縮図の様だ。ヨーロッパの火薬庫(バルカン)より酷い坩堝である。

 

「2つが核を狙って同士討ち、1つは元からここで偽札を作ろうとしていたんだな。ここは時期によっては氷河に閉ざされる。その為長期間自活出来る様に様々な独立した設備がある。当たり前だが人目にもつき辛い。前線からも遠いしな。しかもその設備は、僅かながら生きている所もあった。好都合だったのだろう」

「戦車まで多数持ち込むとはよっぽど気合が入った連中だったらしいな」

「結局は俺達は何しに来たんだよ」

「かまわん。爆破する事に意味がある。計画通り撤収準備を進めろ」

「敵の敵はなんとやらか?」

「敵の敵は味方だが、敵の味方は敵だよ」

「わたしたちは仲間ですよね?」

「そう思ってくれたらこっちも幸いだ。ここまでやってやっぱりズドンはキツイ」

「撃ち辛いもんな」

「全くだ」

 

 お互いに顔を見合わせ、溜息をつく。タイミングが揃ってしまい、小さな笑いが起きる。もう他人ではいられない。引き金を引けと言われれば引けるだろう。だが確実に躊躇いは生じる。結局の所そんなものだ。流れではあるが生死を共にした。勿論それが全てではない。だがそれは小さな事でも無い。

 この世に絶対的な敵はいない。相対敵だけだ。国境線、思想や宗教、肌の色の違い、利益……そんな、本人以外からしたらくだらない物が敵味方を決める。それは誰とでも仲間になれる可能性と、敵対する可能性を秘めていると言う事だ。そして、それは往々にして個人が決める事では無い。勿論、個人で決めてもいいが。

 いや、本当は個人で決めるべきなんだろうな。それくらい単純な方がいい。上からの指示で敵を見つけて憎めと言われても、それはそれでピン来ない。

 

 宇宙人(・・・)。声も無く呟いてみる。それでもいい響きではない。口が砂を噛んでいるかの様にざらつく。無味無臭は、苦みだ。口をつぐむ。中尉はまだ、この感覚の処理の仕方を知らなかった。

 

 中尉は今まで、明確に敵を定めた事が無かった。生まれてこの方、深い人間関係を避け、同時にそれに伴う争い事を避けて来た。それら全てを一括りに、面倒事としてその全てをのらりくらりと躱して来たのだ。誰に対しても分け隔てなく丁寧に対応するが、それ以上は踏み込まない、踏み込ませない。退がるのだ。差別される事も区別される事も無く、同様にする事もなく。ある種の八方美人と言えばある意味聞こえはいいかもしれないが、そんなものでは無かった。

──結局の所、他人に対してあまり興味が湧かなかったのだ。そんな事より体を動かしたり、本を読んだり、機械をいじったり、空を見上げる方が好きだった。学校は通ったし、友達も作って一緒に遊んだ。でもそれだけだ。近くにいて、気が合ったから、同じ話題があったから、好きな事が一緒だったから付き合っていただけで、誘われればついていくが、自分から誘う事は無かった。環境が孤立を許さなかっただけで、彼は独りだった。何よりそれを望んでいた。他者を気遣う心はあったが、それは何より自分の為で、我を何よりも優先し、自己完結していたのだ。ただ、それを取り繕う分別があったのが、救いでもあり欠点だった。安定を求める彼にとり、波がある人間関係より確実に楽しみをくれる自分と娯楽の方が相手しやすかったのだ。他人に対し何を求めるでも無く、ただただ自分の平穏を祈っていた。恙無く生き、骨を埋める。それだけを考えていたのだ。

 そんな彼を嫌う人間も勿論いた。やっかむ者やひがむ者も。しかしそれを面と向かって言ったり、攻撃を仕掛けていく者はいなかった。周囲がそれを許さなかったのだ。だから彼らは表立っては動かず、中尉を居ないものとして扱い、中尉もそれを甘んじて受け、不干渉を貫いた。自分のスペースに干渉されない限り、中尉は自分から動く事をしなかった。軍に入ってからも、それは変わらなかった。害の無い変わり者として受け入れられたのである。一歩間違えば社会生活不適合者ではあったが、最低限周りと合わせる事が出来たのが幸いだったのだろう。あらゆる事をのらりくらりと躱し、自分のペースで身体を動かし、本を読み、飛行機に乗る。それが幸せだったのだ。

 

 中尉にとり、敵は居なかった。世界は自分と、その他でしか居なかったのである。

 

 それが変わったのは戦争が始まってからだった。明確な敵意と強い殺意を持って攻撃を仕掛けてくる者が出来た。殺さなければ殺される、殺さなければ自分の世界が壊される。自分の世界を守る為に自衛をしなければならない。その為には降り掛かる火の粉を払う必要がある。自分の道を歩く為に、排除しなければならない物が現れたのだった。

 だがしかし、それでも、いや、それだけだった。中尉にはその段階に至り漸く仲間が出来た。味方が出来た。それを自分の一部と意識し、守る事を考える様にはなった。彼の世界は広がりを見せ、大きな変革を迎えた。これは中尉な意識こそしていなかったが、普通ならありえない、人格が変わるレベルでの大きな意識の変化だった。ほぼ()()()()()()()のだ。しかし、それでも、結局、敵を敵として認識し、敵意を向け、憎み、殺したいとは思えなかった。

 

 詰まるところ、仕方なく、でしかなかったのである。軒下に蜂が巣を作ったから、蜂には話が通じないから、それでもお互いに不干渉では居られず、攻撃される可能性もあるから、だから排除する……中尉にとり、結局戦争はその延長でしかなかったのである。

 対話が難しいから、不可能であるから、それでいて向こうがこちらを敵として攻撃してくるから。自分が死ぬより、赤の他人の死を望む。軍に入る時も、死ぬ覚悟や理不尽を受ける覚悟はしても、戦争を意識しなかった中尉にとり、根底は何も変わらなかったのだ。

 

 敵や他者を意識せず、未来や過去をほぼ考えず、刹那的に生きてきた中尉にとり結局のところ重要なのは少し先の未来、例を挙げるなら今日の晩飯くらいのメニューの様な小さな幸せなのだ。そして、それは戦場に出る前からそうだった。いつ死ぬか分からないから、時に大胆かつ虚無的に、重ねるように日々を生きる。そんな前線の兵士の様な生活を、無意識的にずっと送って来たのだ。

 中尉は、どこにでも居る自分の社会不適格性を自覚し、それを抱えながら生きる、不器用な人間だった。それを頭のどこかで理解し、諦め、生きてきた。そしてこれからもそうなのだろう。それが中尉と言う人間なのだった。

 

 意識していなかった自分の知らない感覚に、首を傾げノーマルスーツのグローブに覆われた手を見る中尉の隣で、ベレー帽が椅子を蹴って立ち上がり、SMGを提げた肩を回す。目を瞑り、もう一度深く息を吐いた中尉もその重い腰を上げた。よく判らないが、判る事はある。ここは戦場だ。そんな事が戦略、戦術的に影響を及ぼす事はない。ならよく判らないなら判らないなりにそのままでいい。どうせ考える時間は後でいくらでもあるだろう。それに、どんな時間も終わりは来る。休憩時間は終わり、またタイムカードを押す時が来た。それだけだ。それだけだった。

 よくある話だ。死んでから休めばいい、死んでから後悔すればいい、死んでから……この問題もなんとかすればいい。全てはいずれ終わり、それは人の命も同じで、死は平等だが、今日ではない。

 

「世界を救ったんだ、俺達」

 

 ぞろぞろと部屋を出て行く人を見送り、最後に扉を潜りながら、ベレー帽が小さく言葉を漏らす。ふわりと漂う白い息と、その背中から目線を外しながら、中尉も独り言の様に呟いた。

 

「──らしい、ですよ。自分は少なくとも、そう言われて来ました。皮肉ですが」

 

 本当に皮肉な事だ。脳裏にコーウェン准将の顔が浮かび上がる。諦めの浮かぶ疲れた顔と、それでも虚勢を張る様な声は、今中尉を動かしている。今准将は何をしているのだろうか。真っ暗な"ジャブロー"の空を見上げているのかもしれない。俺と同じだ。同じ。立っている場所が少しズレているだけだ。

 

「俺達の名前なんか、この戦争の歴史には残らないよ。だが今ここにいて、未来に希望を繋げられるのは俺達しかいないのもまた事実だ」

「行きますか。歴史を作りに。誰1人欠ける事なく、です。昔話は生き残ってすりゃいいんですから」

「……立派な、ごた」

「?」

「でも…覚えで、おげよ……。フェディ……」

 

 くぐもった声に振り向くと、死体が喋っていた。いや、違う。死体は喋らない。複数の死体が無造作に放られた血溜まりの中、1人の死に体の男がこちらを見上げていた。半分抜きかかっていた腰の銃から手を離す。手足を針金で縛られ、うつ伏せに転がされていた男はジオンの制服を着ていたが、階級も顔も判らない。顔は赤黒く、醜く膨れ上がり、あちこちが切れていた。服は隙間無く血染めで、血が乾いた上からまた血が垂れたのだろう、色濃い赤黒でまだらに染まり元の色すら判別するのが困難なくらいだ。それでも、腫れた肉の奥、人の悪意に鈍感な中尉にも判る程強い憎悪の篭った瞳は、血で真っ赤だ。まともに見えているかすら怪しいが、中尉はその焦点を探る様に見下ろした。

 念の為距離を置きながら観察する。酷い怪我だ。手はあらかた爪が無く、指があらぬ方向へ向いていた。血で汚れて居ても判る肌の色はとても生きた人間の物とは思えない。歯もほとんど残ってなさそうだった。殺すのではなく、痛めつける暴力の限りを尽くされた彼は殆ど死の淵へ踏み込んでいた。しかし、生きて喋っている。酷い光景だった。

 

「……」

「……あんだが、おぼっでるぼどこの……ゲホっ!世界は、まともじゃ……ねぇ。普通、に……生ぎでい……」

「なんだ?迷惑なんだよ」

 

 ヒューヒューと空気が漏れる音と、ゴボゴボと言う溺れている様な音と共に言葉は続く。死期呼吸の様だ。加えて、肺に穴が開いているらしい。この男はどこから声を出しているのだろう。顔色が更にどす黒く変色していく。チアノーゼ。酸素を取り入れられて無いのだ。しかし、何がそこまで彼を生かし、声を出させるのだろう。落ち窪んだその目に涙が滲んでいるのに中尉は気付かなかった。

 顔を顰め、拳銃を抜こうとしたベレー帽を制し、中尉は男の言葉を待った。なんの事は無い。ただの気紛れだった。彼の発言に戦略的、戦術的な意味や価値は無い。だが、死に行く者の、最期の呪詛を聞いてみようと思ったのだ。

 

「……のなら、知らっでい……、ゴボ……事なん、て……」

「んなもんそこらのガキだって知ってるさ。こんな世界ロクでもない事くらい。でもここで生きてるんだ。仕方ないだろうよ」

「……」

「──死は逃げないぜ」

 

 中尉へ向けた怪訝な顔をそのままに、ベレー帽はそう吐き捨て、背を向け部屋を出ていった。その背中を見守り、中尉はマテバを抜く。血を垂らす口を開け、喘ぐ様に音を立て浅く呼吸をする男を見下ろし、真っ直ぐに銃を指向する。いつも通りにトリガーに指をかけ……辞めた。

 

 銃を収めた中尉はそのまま踵を返し、部屋を出る。呻き声がまた聞こえた気がしたが、もう中尉には関係無い事だった。壁にこびりついた血の滲みが、彼の痛みや苦しみを代弁している様な苦悶や怨嗟の顔に見える。判っている。シミュラクラ現象。ただのパレイドリアだ。それ以上でもそれ以下でも無い。前を向いて歩を進める。踏み出す一歩が、意識を移り変えていく。

 中尉には慈悲の一撃を与える事も出来た。しかし、しなかった。肌の色から、外傷による出血と内臓破裂による内出血による失血、そして低体温症によるショック症状で、例え今から集中治療室に搬送しても命が助からない事が判ったのが1つ。生身の人を目の前で殺す事に嫌悪感が無い訳では無いが、そうでは無く。少しでも苦しみ抜いた上に死ねばいい、と思った訳でも無かった。

 

「……たとえこの世が地獄であろうと、人は生きていく。抗っていく。慣れていく。そして、前に進む。振り返らずに……決意も、祈りも、嘘も、全て、その為にある……か……」

 

──ただ、自分の銃声が、無用な混乱を引き起こす可能性を避けただけだった。

 

「敵を憎むなよ?」

「……なんでです?」

 

 頭の中に巡る色々を反芻しながら、中尉は歩く。通路を出た先で、ベレー帽が壁に寄りかかり待っていた。俯き、腕を組んだ彼に声をかけられ顔を上げた中尉は、その言葉に立ち止まる。

 

「憎いよ。こんな寒くて歩き辛い所ばかり……」

「それ以外の所は大体ゴルフ場か駐車場になってるって言いますよ」

「言えてるな」

 

 ベレー帽が再び口を開こうとした矢先、一足先に撤収準備を始めていた他のメンバーが口々に口を挟む。気分を害されたのか口をつぐんだ彼は、顔を顰めてそっぽを向いてしまった。しかし中尉は、彼の言葉を辛抱強く待つ事にした。出会ったのはほんの数時間前だが、それでもこの男の事を信頼していたし、言動は粗野でぶっきらぼうでも、言葉の端々に漏れる本音は、その本質が仲間を大切にする男だと匂わせていた。

 無意識の内に腰のホルスターを撫でる。最後に撃ったのはいつだ?それは的にか?それとも生きた人間にか?俺は、今、コレを人に向けて、本当に引き金が引けるのか?他でも無い、自分の為に。

 

「夏の海で泳げると思ったのに、こんなとこばっかだ」

「この前は隣を銃弾が一緒に泳いでたぞ」

「その時小松さん居ませんでしたね」

 

 そのまま話を続けるオメガ達を他所に、組んだ腕を解いたベレー帽は、壁から身を離し中尉の前に立つ。サブマシンガンを持ち直し、真っ直ぐに目を見つめ、そして、噛み締める様に、振り絞る様に、だが少し早口で話し出した。

 

「──判断が鈍る。あんたは優し過ぎるし考え過ぎる。生き抜きたいのなら殺してから考えろ。そして考え過ぎるな。任務の遂行でなく、仲間を守る事でなく、敵を殺す事に意識が傾いて行くぞ」

「……心に留めておきます」

 

 予想外の言葉を噛み砕き、神妙な顔をして聞いていた中尉が頷くと、一瞥をくれたベレー帽はそのまま歩いて行ってしまった。1人残された中尉は、その意味を考えながら後ろを振り向く。電気が落とされ、扉が閉じられた先は闇しか見えない。いつしか鼻を突く鉄の匂いも消えていた。嗅覚疲労か、それとも。

……彼は勘違いをしている。俺はそんな出来た人間じゃない。でも、正しい考え方ではあると思った。彼の忠言に感謝する。もう自分は稀代の殺し屋に近づきつつある。既に数え切れない程殺して来た。

 

──そして、殺されて来た。戦友を、仲間を、部下を、守るべき市民を。殺した人の顔は覚えてはいない。そもそも面と向かって、顔の見える距離で殺し合った事が殆どなかった事に気づく。そして、その少ない中でも敵の顔を覚えていない自分を自覚した。そして、ふと、死んでいった戦友の顔が次第にぼやけ始めているのに気づく。薄情な人間だ。しかし、それはある種正常な反応なのだ。人は弱い。弱いから過去をそのまま背負える様には出来てない。だからどんな悲しみもゆっくりと、だが確かに、寝て、忘れて、歪めて、薄めて、そうやって生きていくのだ。追憶に寄り添ってばかりでは未来が見えなくなる。考え過ぎてはいけない。特にこんな所では。いつか、銃を捨てる時、人生を捨てる時にこそまた思い出せばいいのだから。

 そのまま歩き、視界の先で姿を表した自分のACGSに歩み寄り、半分溶け、こびりついていた雪を払って腰掛ける。硬く冷たい感触を感じながら溜息をつき、頰をかく中尉の目の前をオメガ達が忙しなく動き回り、撤収の準備をしていた。今手伝える事は無い。邪魔になるだけだ。そしてその時、後ろの暗がりに積まれた紙の山と、自分が沢山の紙片を踏んでいる事に気づいた。何気無く手にとってみる。粗雑に扱われていた割に、かなりしっかりと印刷がしてある紙だ。薄暗がりの中、目を凝らしよく見るとそれは汚れた紙幣だった。見慣れた顔がこちらを見ている。それは、雷の日に凧揚げをしたアグレッシブな人。かつて、神の正体を見破った男。

 

「──旧アメリカドル?そういやさっき偽札って……」

「これだ」

 

 いつの間にか隣に居たバッドカルマが、中尉に懐から出した金属片を差し出した。驚いた中尉はヒラヒラと振っていたその紙幣を投げ、おっかなびっくりそれを受け取り、しげしげと眺める。

 手渡された金属片の見た目以上のズシリとした少し重さに驚く。手の中で弄ぶ様こねくり回し、僅かな光の反射で凹凸が不思議な輝きを放つ、ザラザラした表面に目を凝らす。薄暗い中でも判った。金属片は細やかな紋様が鏡反転で刻まれており、それが件の偽札を刷る為の原盤である事は間違いなかった。

 

「"スーパーK"、か」

 

 軍曹が、拾い上げ紙幣を見てそう漏らした。その言葉に疑問符を浮かべていると、バッドカルマが愉快そうな顔で口を開いた。

 

「流石だな。コーヒーの趣味も腕も最高だ。戦闘技術も眉唾な噂以上と来た。ウチに来ないか?」

「魅力的では、ある。だが、すまない」

「判ってる。言ってみただけだ」

 

 目の前でかけがえのない戦友であり頼れる部下である軍曹がスカウトされ、苦笑を浮かべ頬をかく中尉。それを軽く流し、どこ吹く風で眼前の軍曹が足元に散らばる紙幣から数枚をスッと床から拾い、解説をしてくれた。"スーパーX"、"スーパーZ"に"スーパーノート"……違いが判らない。全て同じ本物に見える。透かし、偽造防止糸、角度によって変化する色彩……それらを再現しているかいないかでまた変わるらしいが……。

──驚いた。まるで偽札の見本市だ。周りを見渡すと、ドル以外の紙幣も沢山あった。一部はまだ現役で使われているものもある。

 ふと思い出す。"アメリカ独立戦争"時の"大陸紙幣"。ナポレオンの"オーストリア紙幣"。"日中戦争"時の"杉工作"。"第三帝国"の"ベルンハルト作戦"。そしてかの有名な"ゴート札"……戦争時に敵国の偽札をばら撒き、経済を混乱させる手段と言うのは、成功すれば非常に有効だ。戦争は国の経済力そのもののぶつかり合い、国力の削り合いだ。偽札はその根幹を揺るがしかねないパワーがある。

──『(カネ)』と言うものは、普段使っている時は気付きづらいが信頼の上で成り立っている。物々交換の代わりの、同じ価値観を共有した間での価値のあるものとして認識されなければ、それこそケツを拭く紙にすらなりゃしないのである。凹凸印刷の関係上ケツが擦りむけるし。それは置いといて、大切なのは発行する政府への信頼、紙幣自体の信頼であり、それを打ち崩すのが偽札と言う存在なのだ。だからこそ偽札は危険で、政府は持てる技術の粋を尽くし執念とも呼べる偽造対策をするのだ。

 悪貨は良貨を駆逐する。だがコレは自分達にとっての悪貨ですらない。奇貨だ。へそくり(ブラックバジェット)にするにも物騒過ぎる。奇貨は置くべし、だな。

 

「わぁーっ!すっごい!!手が切れそうなくらい新品ですね!!あ!すごい!ハイトもある!そっくりです!」

「まぁ、金で解決できる事なら金で解決するのが一番だしな」

「出来ねぇから戦争になるし、俺達が必要になってるんだけどな」

 

 いつの間にコクピットにいたはずの伍長や撤収作業をしていたはずのオメガの面々が集まっていた。それぞれがその偽札を手に取り、光にかざしたりしている。やっぱ日本人だなぁ。お金、あったらつい光にかざしがちだよね。天井のぼんやりした簡易照明じゃ光量不足かも知れんが。てぎれきん!とか騒いでる伍長は山になった偽札に飛び込み、泳いだり抱えて投げたり、扇子の様に広げて煽ったりとめちゃくちゃしている。ふと思ったが伍長の金銭感覚とかってどうなんだろう?家はなんかそこそこのお金持ちだとか昔ほんのり聞いた気がするけど。軍曹もおやっさんもそうだけど、俺の周りはなんか金回りのいい人が多い気がする。俺も一応小さくはあるがしっかりとした会社の社長の息子の1人ではあるけど、別に金持ちでは無いし。親の年収とか聞いた事無いな。なんなら自分の年収もよく判らん。給与明細なんてあんま目通さんし。その日生きていけるなら、週末に少し贅沢出来るならそれでいいし。

 帰ったら遺書と一緒にそこら辺も再確認しとくか、そんな事をぼんやりと考える。そう。目的はもう殆ど果たしている。後は帰るだけ、部下を生かして連れて帰る事だけだ。

 

「金づく?」

「火薬で撃ち出す金属片でもいいか?」

「記念!一枚記念に持って帰っていいですか!?」

「やめとけ。間違えて使いかねん。と言うか持ってるだけでダメだろ」

「結局力づくじゃねーか」

「証拠品は抑えた。それ以外は無しだオメガ7」

「チェッ」

 

 後ろでコソコソしていたベレー帽がそう窘められ、ポケットに入れようとした札束を捨て舌打ちする。その動作に中尉はちょっと笑ってしまった。戦闘時とのギャップが凄いなこの人。実は案外だらしない人なのかも知れない。ちょっと親近感。

 それにしてもお金はまぁ、大体いくらあっても困らないもんね。人の欲は無限だし、富は有限だし。でもそれは持ってると困る疫病神だ。ババみたいなもの。辞めた方がやはり身の為だと思う。

 

「それにしても、軍票(MPC)でも撒けばいいものを……欲の皮が張った野郎ってのはどこにでもいるんだな」

「よくやるよ。全く」

「人よりも金か。さすがに賢い奴と言うのはやる事が違うな。それなら、俺はバカでいい。十分だ」

「俺は金が欲しいよ」

「最近手当安いよな」

「チャーターにも金がかかる」

「そういえば小松さんこの前貸した3万円早く返してくださいよ」

 

 周囲から押し殺す様な笑いが起こる。中尉も釣られて笑う。その笑い声がだんだん大きくなり、気がつけば全員が大爆笑していた。ベレー帽がアサルトライフル持ちを小突く。伍長が両手で抱えた札束を振り撒いた。笑い声がさらに大きくなる。中尉は頬をかいた。寒いが、暖かい。もっと暖かくなるといい。もっと。

 ヒラヒラと偽札が舞い、笑い声がこだまする中軍曹が中尉を引き倒しACGSの裏に引き込んだ。中尉が状況を理解する前に、周りがその動きに気付く前に、事態は蹴飛ばされた様に転がり出す。

 

 それは、まさにゴングだった。問題は、レフェリーが鳴らした物でないと言う事と、予告も無く、双方の臨戦態勢が整ってないという事だけだった。

 

 轟音が響き渡り、その瞬間奥の壁が派手に崩れた。降って沸いた悲鳴と怒号を掻き消す様に爆音が空間を埋め尽くし、それを噛み砕く様に銃声が鳴り響いた。爆炎と煙に紛れまろび出て来たのは白い服を着た男達だ。軍曹が両手に銃を抜き、立ち上がろうとした男の頭を次々と吹き飛ばす。しかし、いくらなんでも数が多い。至る所から多数のマズルフラッシュが瞬き、目の前で火花が散る。あまりの事にもんどりうって倒れた中尉の目の前に伍長が投げ飛ばされて来た。中尉と共に偽札の山に突っ込んだ伍長はそれを今日一番撒き散らし、それらは風で巻く様に吹き散らされていく。それはまるで、竜が空に上がる様で。白い雪に混じり、白い竜が登る。それはあまりにも非現実過ぎて、中尉の目には本物に見えていた。

 時間にして一瞬も無かっただろう。中尉が理解をしようと試みる前に大きな爆発がまたも発生した。伍長を抱きかかえたまま、中尉は派手に吹き飛ばされ、転がる。爆弾の爆発なら死んでいただろうが、破片は無く、中尉の鼓膜も無事だった。施設の一部が誘爆したのかも知れない。しかし、判らない。生きているのか死んでいるのか。

 

 それでも、朦朧とする意識の中、身体中を駆け巡る痛みに耐え、そして、腕の中の彼女だけは手放さなかった。

 

 

 

『痛いよな。その痛みが生の証だ』

 

 

 

光を反射させる雪に、音は染み込む………………




コロナ、全然収束しませんね……。自分自身は罹患してませんが、周りがバタバタと倒れています。皆さまもお気をつけください。勿論、罹患だけでなく、精神の健康も大切です。その慰みの手助けになれば幸いです。

世界は世界で感染者は相変わらず増え、ロシアとウクライナはきな臭くなり、EUも足並み揃わないし、日本も問題多いし欲しいもの高いし色々ありますしね。何事もなく終わればいいのですが。本当に。最近のドローンの映像が凄いので、創作の足しになるかとたまに見ますが戦闘のはどうも見るのがしんどくて苦手です。戦争と言うか、争いが本質的に苦手なんだなと思います。だから競技とかも熱いエピソード聞くの好きなんですけどキツかったりと中々難儀です。優しい話が欲しいですね。と思ったら本邦の戦闘機は行方不明になりましたし……パイロット、機体共に無事ならいいのですが。

ガンダムはどんどん新作が発表されてますね。いいことです。新作アニメも楽しみです。これは明るいニュースですね。私自身もUCエンゲージは水が合いませんでしたが、バトオペ2で日々支援機を乗り回しております。マニューバアーマー滅びないかな、バトオペ無印のザクキャノンラビットタイプ無双が懐かしい、なんて戯言を吐きながら切り刻まれております。ここらへんの新しい設定はこの二次創作にはブチ込めないなとか思いながら光学迷彩を引っ提げてきた新機体を眺めたりしてます。やはり一年戦争短過ぎる。技術の進化と派生機体多過ぎる……いざ書くとなると死ぬほど長いのですがね!!一年戦争以降も書く予定でしたが、かなり厳しいなとか思い始めてます。始めた手前、なんとか一年戦争は終わらせる予定ですけど……。陸ガンとは言え、出すの早過ぎたなマジで。本当はもっと遅く出す予定でしたが間が持ちませんでした。腕が足りませんね。精進したいものです。修行じゃありませんが、某所で二次創作をぶらりと書いたりもしました。こっちかけや!と思われるかも知れませんが……息抜きにいいかなと。優しい話とか、書きたいですね……。

そんなこんなで本当に大変ですが、生き延びていきましょう。耐えて息抜け、です。


次回 第七十五章

燃ゆる雪原

「弾に当たらんよう、ボミオスの呪文でも唱えとけ!」


ブレイヴ01、エンゲージ!!


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第七十五章 燃ゆる雪原

ここら辺描き切ったら打ち切る予定です。UC0100まで書こうと思った過去の俺は死にました。


この世の始まりは爆発だ。

 

力を持った炸裂は、その世界を塗り替える。

 

この宇宙を支える反応は、戦場においても健在だ。

 

破壊と終わりをもたらす爆発。

 

それでも世界を終わらせるには程遠い。

 

 

 

── U.C. 0079 10.4──

 

 

 

 音が頭の中で鳴り響く。響き渡り、反響する。ぼやけた視界には何かが映っているが理解には至らない。何も判らない。何も。真っ白だ。真っ白?そんな訳はない。ほら、赤い。動いてる。火か?火?白の中に?何で白いんだ?

 

「心配するな」

 

 声がした。神の声が。守護天使(アークエンジェル)の声が。同時に何かが身体を叩く。ぼんやりした頭で首を振ると、歪む視界の奥で、見知った男が銃を構えていた。その姿が鮮明に焼き付く。光が瞬く。鈍色に輝く光が白く尾を引いて飛び、また自分の身体を叩く。身体の上を転がるそれに手を伸ばそうとするが、上手くいかない。呻き声を上げようとしても上手く出来ない。でも、音はする。目はまだ霞んでよく見えない。でも生きてる。

 

「ぅあ」

 

 何かが身体を引き起こす。肺が痙攣した様に空気を押し出し、声帯を震わす。手放しそうになった何かを抱きしめる。判らないが、これは、これだけは。これだけは……。

 

「んそぉ……」

「大きな、外傷はない。爆轟の、影響も、軽微だろう。しかし、基地に戻ったら、精密検査が、必要だ」

「じょう…」

「気絶して、2分も経って、いない」

 

 なんて言った?呻きながら聴き直そうと思った矢先、銃弾が音を立てて耳元を掠めた。独特の破裂音。空気を引き裂き、歪め、それが戻る音。衝撃波。反射的にか、根源的な恐怖からか、思わず首を縮める。一気に感覚が戻ってくる。最悪なモーニングコールに頭痛がする。手を動かそうとして足が動いたのが目で判った。状況が把握出来ないが、隣に軍曹が居て、何故か伍長が胸の上で伸びている。頭を振り、動く手で頭を叩こうとしてヘルメットに当たる。顎に鈍い痛みが走った。ぶつけて脳震盪起こしたか。全く。

 目に見えない爆風、爆圧、爆轟の影響はとても恐ろしい。飛び散る破片の様に目に見える外傷でなく、体内に直接ダメージを与えるのだ。それも直ちに影響は無くとも、また本人は自覚して居なくとも脳や臓器、血管と言った内臓を著しく傷つけていた、何て事例は枚挙にいとまがない。それらを計測するブラストゲージなる簡易センサーもあるくらいだ。

 これは爆風の過剰圧、加速度を記録、分析する装置で、小さく単純ながら丈夫な作りで、衛生兵の持つ機械で直ぐ様診断に活かす事が出来る。勿論詳しい事は判らないが、直ぐ様手軽に参考に出来ると言うのが強みだ。上にパイロットにも必要だと申請上げとこう。生きて帰れたらの話だが。

 

 非現実的な感覚だ。余計な事に頭は回るのに、中尉は未だに状況を把握しきれていなかった。散り散りになったオメガ達はそれぞれ反撃を始めた様だが、よく判らない。目を回す伍長を抱き起こし怪我を確認しながら、中尉は混乱しながらも声を上げた。

 今や壁は崩れ、一気に雪が吹き込む。いや、空が見える。ほぼここも野外になった。()()()()()から爆発と悲鳴が聞こえる。大規模な戦闘が展開していた。その真ん中に放り出された様だ。めちゃくちゃである。慣れたと思った寒さの暴力に身体が引き攣り、頬に焼ける様な痛みが走る。

 

「やられた!援護頼む!」

「ナカムラぁ!」

「くたばれこの!!」

「クソ!撃たれたぁ!足だ!」

「ヒィイ!かあちゃん!!」

 

 しかし、未だに状況が掴めない。断片的な声だけだ。それも理解が出来ない。なんとか立とうとしようとしても、少し動くだけで目から火花が散り、頭がガンガンと痛み動作を阻害してしまう。まるで頭蓋骨を内側からぶん殴られてるみたいだ。手足の先端は焼ける様に熱い。だが、末端から離れれば、驚くほど寒い。顔を顰め細める目には銃口炎か爆発か、撓んだ様に歪んだ光が視界を埋めている。音を立てて飛び過ぎる弾丸の破裂音、切り裂く様な着弾音。時折爆風が身体を揺さぶる。視界の端に何かが映った。素早く身を翻す灰色のそれは、自分より大きい!

 身体が強張る。何も出来ない。何も。恐ろしい速さで飛びかかってくる死から目を逸らす事も。

 しかし、目の前でそれが無造作に掴まれ地面に叩きつけられた。動かなくなる。

 

「うぉ!!」

「急げ……早く速く疾く!」

「俺の!俺の足は!?」

「お連れしろ!!」

「足はついてる!衛生兵!」

「足!俺の!」

 

 目の前に影が落ちた。思わず声を上げ手を翳す。何も無い。軍曹だ。助け起こされる。伍長を担いだ軍曹は片手で拾ったらしいアサルトライフルをハンドリングし、射撃しながら器用に中尉を引っ張る。

 中尉のよろめき倒れ込んだ先に勢いよく飛び込んできたのはオメガのベレー帽だ。額から血が垂れ、顔を染めている。追う様に飛び込んできてのはなんと連邦兵だ。"アサカ"の海兵(ジャーヘッド)である。お互いに銃を向けようとして慌てて下ろす。そう言えばなんで仲間だと判ったんだ?一応連絡はしたが。今更同士討ちなんてシャレにならん、中尉が上等兵へ連絡を取る為インカムへと声を吹き込もうとし、その時ようやく気づいた。マイクスイッチが吹き飛んでる。と言うかインカムもだ。跡形も無い。マズい。連絡が取れない。ヘルメットの通信機能もダメだ。ACGSにはついてるが、また乗り込めるか?いつでも情報は生命線だ。早急に何とかしなければ。

 もたれかかっている壁に不規則かつ断続的な振動を感じる。遮蔽物の裏にいるらしいが、ここはどこだ?海兵が銃を頭の上に抱え、塀から銃だけを出しめちゃくちゃに乱射している。広がり、しっかりし始めた視界の先で他の連邦兵が近場の遮蔽物に取りつき、銃を撃つのが見える。誰か撃たれた。血が飛び散り、雪を彩るのがスローモーションの様に見えた。そのまま倒れ込み暴れる負傷者(WIA)を他の味方が覆い被さる様にして抑えている。ベレー帽が倒れ込む様に寝転がり、同じ様に銃を突き出し乱射する。敵を近づけさせない為か。軍曹は僅かな壁の隙間から狙撃していた。よく見たらジオン軍のアサルトライフルだ。奪ったのか?腰の感覚を思い出し拳銃を抜き、ホルスターから引き抜き安全装置を外しながら、中尉は周囲を窺う。そしてかなり吹雪いてきている事にようやく気づいた。視線が通らない。視界が狭い。戦闘が泥沼になっている訳だ。首を巡らし、頭をかく。

 しかしそれはヘルメットに阻まれ、ツルツルとした表面を撫でるに終わった。混乱してるが、この無駄な動きが中尉に少し冷静さを取り戻させた。咳き込む様に深呼吸し、考えを巡らせる。恐らく今、どうやら少し盆地になり、崩れた壁がL字の様にして2方を囲っている所にいるらしい。何故か交戦地帯のど真ん中だ。あらゆる方向に敵と味方が入り乱れ、銃撃戦を展開している。姿がお互い殆ど見えないからこその泥沼だ。銃声の隙間を縫う様に悲鳴と怒声が聞こえてくる。早くなんとかしなければ。俺が出来る事を。それはこのままここで拳銃を撃つ事では決してない。

 

「ACGSは?」

「8m前方だ。しかし、遮蔽物が、少ない。危険だ」

「ようやくお目覚めか!」

「今敵の本隊と大規模交戦中だ!あいつら俺達がマルっと運び出した事に気づいたらしい!死に物狂いだ!」

「死にたくないなら早くしてくれよ!俺は死にたくない!だからあいつらには悪いが死んでもらうがね!!」

 

 また味方が目の前で撃たれた。何も出来ない。助けられない。少し身を乗り出し、比較的近いジオン兵のシルエットへマテバを撃つ。当たらなかった。眉を顰め舌を巻く。距離が遠過ぎる。それに、そもそも拳銃とはそう当たるモノでない。

 リボルバーは殆どのオートと比べ本体重量があり、弾頭も重く装薬量も多い。また銃身も固定されている為命中率は高く、拳銃の中でも比較的遠距離を狙える精度がある。しかし、それはあくまで拳銃の中での話だ。短い銃身は装薬のエネルギーを最大限発揮させる事は出来ず、またシリンダーと銃身の隙間から発射ガスのエネルギーはロスしてしまう。重量があり、大きく、肩に当て抱え込む様に両手で構えられ、遠距離を狙う事が前提のライフルとは違い、軽くて小さく基本的に手と手首だけで支える、携行性を第一に、そして近距離戦で運用すべきハンドガンは安定させる事自体が至難の技であり、当てるのが難しい。至近距離ですら外れる場合があるくらいだ。優れた射手ならハンドガンでも高い命中率と射程を発揮出来るだろうが、中尉はそもそも射撃は得意な方では無い。それに、この吹雪だ。視界も効かない上、銃弾も風に大きく流される。当てろと言う方が土台無理な話なのである。

──アサルトライフル、せめてサブマシンガンが欲しい。しかし意味はあった。その独特の発射音に多くの味方がこちらに気づいた。そして倒れ込んだ味方にも。目の前で他の味方が身の危険を省みず走り込み、倒れた味方を遮蔽物の裏へと引き摺る。それを確認し頭を下げると同時に、また誰か駆け込んできた。オメガののっぽだ。息を荒げる彼を軍曹が手早く引っ張り込む。ドサリと腰を下ろしたのっぽは、手に持ったSMGのリロードを手早く済まそうとし、隣の目を回しっぱなしの伍長の枕に驚いて取り落とした。不審に思いつつ覗きこんだ中尉もギョッとした。狼の死体だ。しかもかなり大きい。化け物みたいなサイズだ。だらしなく四肢を投げ出し、あらぬ方向へ向いた首と虚な瞳を見ない様にしながら恐々と触れてみる。灰色の毛並みは艶やかで、まだ暖かい。血はついてなかった。何故こんな物がここに?

 

「助かった!すまん!」

「パイロットは貴重だ!俺達は消耗品だからな!」

「普段守られてんだ!守ってみせるよ!」

「ガム4本、タバコ5本分の仕事はするさ」

「車輌は!?」

分隊支援火器(SAW)!向こうの木陰だ!頭を上げさせるな!撃ちまくれ!」

「輸送部隊護衛優先だ!!すぐ戻ってくる!!」

「俺達が殿さ。最後の便が尻尾踏まれちまって」

「RPG!!」

 

 空気を引き裂く言葉に、反射的に頭を上げようとした瞬間、頭上を特徴的で大きな音を立ててロケット弾が通り過ぎた。"ラングベル"、ジオン軍の手持ちのロケットランチャーだ。ロケット噴流の生み出した逆巻く風の風圧に持っていかれそうになり、滑る雪を踏み躙る様にしてたたらを踏む。危ない。慌てて狼の事を頭から追い出し、少しズレたヘルメットを押さえつける。軍曹から手渡されてアサルトライフルを何も考えず受け取り、抱え込む様にしてしゃがむ。危ない。危なかった。危ない?辺に冷静な自分がいる事に違和感を覚えながら、すぐ隣の小さな遮蔽物にアサルトライフル持ちが居るのに気づく。手足を投げ出した様にして寝転がっており、一瞬死んでいるのかと思ったが、向こうもこちらに気づいたのか、頭を下げたままジリジリ近づき、海兵が撃っている間に転がり込んできた。その影は1つではなく、他の連邦兵も一緒だ。彼を皮切りに続々と続き、息を荒げながらSAWを抱え飛び込んできた男を最後に、ようやくその列は終わりを告げた。先程までの事が嘘の様に人で溢れ、途端にこの小さな遮蔽物は人でいっぱいになった。小さな窪地に数人が集まり一気に人口密度が増し、大渋滞している。

 遮蔽物は周りにも沢山あるが、有効に使える物は限られてくる。身体の大半を隠しながら相手へ向かって正確に射撃出来る射角があるのが理想だが、そう都合良くそんな遮蔽物はまず無い。射角の広い狭いはともかく、その先に敵がいるかどうかはまた別の問題だ。身体を覆い隠すには小さい物や、脆く弾丸を通す物は使うにリスクが大きい。仮に隠れられても、射角が無く反撃が出来なければそれはジリ貧へと繋がる。結局、この様に使える、使いやすい遮蔽物に人は集まり、それは弾丸を引き寄せる磁石になるのだ。

 

「なんでこんな事に!?」

「また狼だ!!あいつら恐れを知らないのか!?突っ込んで来やがる!!」

「づぁっ!!クソッタレ!撃ちやがったなこの!!」

「何!?」

「敵を追いかけてたら狼で敵も味方もパニックだ」

「這ってこれるか!?スモーク!!」

「んむぁ……」

「必要なら月までも這ってやるよ!!クソ!!」

 

 そりゃやばい。人間は野生動物にはまず勝てない。その目安は体重の半分以上だろう。それ以下であり、武器があっても素早い身の熟しの前に無力のまま殺される事だって十分にある。牙や爪はそれだけ鋭く、それ程獣は強く、人間は弱い。状況は最悪だ。

 思わず舌打ちをした瞬間、身を乗り出そうとした隣の陸軍兵士が撃たれた。肩を押さえ倒れ込む。白に映える鮮血が飛び散り、雪を彩った。中尉の顔にも湯気を立てる程暖かく、硝煙にも負けない鉄臭い液体が降りかかった。ぼたりと重たく、粘っこくバイザーを垂れるそれの、忍び寄るリアルな死の臭いとそのショッキングな光景に驚き固まる中尉の前で、暴れ出そうとした彼を軍曹が器用にも足だけで押さえ込み、拳銃で反撃しつつ彼の医療キットを弄る。

 しかし、彼の医療キットからはチョコと飴、その他のお菓子が転がり出て来ただけだった。あまりの事に思わず悪態をつく海兵が自分の医療キットを取り出そうとしたのを制止し、中尉が手早く自分の医療キットを軍曹に渡す。中身を確認する軍曹を尻目に、音と情報の洪水に流されながら、中尉は寒さを肺に馴染ませる様にして息を整えた。今の俺の、あとやる事は1つ。アサルトライフルの槓桿(チャージングハンドル)引き(コッキング)薬室(チャンバー)内の初弾を確認、取り敢えず頭の上に抱え、銃だけ出し撃つ。所謂めくら撃ちで、命中などとても見込めない。だが、敵をビビらせ、近寄らせず、頭を上げさせなければいい。銃撃の合間に顔を上げ前を確認する。手鏡でも持って来るべきだったか。その視線の先、吹雪が一瞬止み、主人のいないACGSが雪まみれで跪いているのが見えた。幸いな事にそう被弾はして無さそうだった。よし。俺はまだ戦える。役に立つ。時間が稼げるぞ。隣では軍曹が撃たれた兵士の止血を行なっている。残された時間は少ない。いや、少なくあってくれ。この地獄から抜け出さなければ。

 

「ほら起きろほら」

「伍長!目を覚ましたな?」

「んぁー……ぬぅ〜……」

「よせよ。礼を言うくらいなら、ビタ銭の1枚でもくれ」

「そうじゃない。礼はいらん。仕事だ」

「小松さんお金ないですもんねイテテ」

 

 先程までの緊迫感はどこへやら、軽口を叩き反撃するオメガ達へ頼もしさと呆れを半々に、中尉は軍曹と目配せをし、伍長の頬を軽く張る。ペチペチと叩けばもごもごと何やら言っているが、だからこそ安心した。白い吐息と共に魂まで吐き出しそうだった伍長も、もうすぐ起きるだろう。起きたら移動開始だ。軍曹がヘルメットを外し脇に置き、転がっていたジオン兵のヘルメットを手に取った。中尉は軍曹の被っていたヘルメットを薄ら目を開けた伍長に被せる。サイズはめちゃくちゃでブカブカだが無いよりは絶対にいい。ホントに野戦のカッコじゃないな俺達。周りが雪で助かった。爆風で巻き上げられた土や石は馬鹿に出来ない。ヘルメットは主にその様な破片避けなのだ。また、転んで頭を打っても人は死ぬ。人は簡単に死ぬ。銃弾を防げる性能は無いが、それはこのヘルメットには求められていない。それでも被り続けたら肩が凝る位の重量はあるが。しかし、どれだけ重たくて嵩張り汗で蒸れようと、ヘルメットは被るだけで生存率は大きく跳ね上がる。覆う面積が広い方が尚いい。それだけで十分だ。不確定要素は減らすに限る。最終的に全てを決めるのは時の運だが、その運に頼らない可能性を潰していくのが生きて行くという事でもある。出来る事はしたい。後で後悔ぐらい出来る様に。それはいつでも変わらない俺の信条だ。

 止血を終えた軍曹は余った布をそのまま手早く折り、固めた雪玉をそれに包み、それを軽く振り回し確認した。周りの兵士たちがその奇行に思わず振り向く。低体温症の混乱だとでも思ったのか、しかし軍曹は大真面目だ。

 手の中の反動で跳ね回っていたアサルトライフルが止まった。スライドが音を立てて開き、まろび出た煙はすぐさま風に攫われる。弾が切れたと銃をいじる中尉の横で、軍曹がそれを頭の上で回し、鋭く放つ。なる程、投石器(スリング)か。俺に銃を渡したから……役に立つのか?と思った矢先にそれを使い熟し、中尉の視線の先でジオン兵の顔面に硬く圧縮されほぼ氷と化した雪玉が突き刺さり、ノックアウトされた。思わず口があんぐりと開く。信じられん。続く第2射、第3射も吸い込まれる様に数十m先のジオン兵の顔面にめりこみ、瞬く間に敵を打ち倒して行く。周りは2度驚いている。俺もびっくりだよ。そんな正確に狙えるものなの?それにしても風が強い日は弾丸より投石の様な原始的な武器の方が役に立つってマジだったのか。棍棒と共に人類最古の武器であり、この戦争の後の主力に返り咲く予定である投石の歴史はモッヂボールより古く、かつ長いのは知識としては知っていたが、実際に目の前で繰り広げられるとその衝撃はとてつもない。まさに信じられない。嘘だろ今宇宙ではメガ粒子砲が幅を利かせてる宇宙世紀だぞ……?遮蔽物から大きく乗り出さなくていいのも強いな。いや出来る人少ないだろうけど。使える場面も限定的過ぎるし。そこで最適解をぶち当てられるのが軍曹の本当の強さか。芸は身を助く、ってこう言う事を言うのか、それとも知識か。どちらも併せ持たないとダメなのか。

 

「ありがとうな!」

「手空きは雪玉作れ!早く!」

「ランチャー無いか!?まとめてぶっ飛ばしてやる!」

「マジかよすげぇ」

「40mm、今のでカンバンで!」

 

 背景の音が急に遠くなった気がした。もう一度深呼吸をする。バイザーの曇りも気にならない。軽く肩と首を回し、覚悟を決める。肩じゃなく、腹に力を込める。うん、よし。

 前を横切る吹雪がよく見える。白く小さな雪の粒が横殴りに吹き付けるのが、少しゆっくりに見える気がする。その間隙の先、希望が見えた。

 

「押すなよ当たっちゃうだろ!」

「こっちだって危ねぇんだ!」

「そうだわ手榴弾飛ばせるかな?」

「怖い事考えるなお前」

「大丈夫だな!?」

「行けるか?」

「行くってどこに?」

 

 あそこだと目の前を指差しながら、攻撃を続ける軍曹とアイコンタクトを取る。軍曹は周りの兵士が意図を汲みスリングを渡すからか、なんか両手でスリングを扱っていた。ホバリング中の"キングホーク"みたいだ。そこはかとなく間抜けな光景に少し笑う。よし、さて、上手くトライを決められるか。いや、決めなけりゃならない。絶対に。

 軍曹が風を読み、周りに指示を出す。もう周りを掌握している。そしてそれが漣の様に広がっていく。中尉はヘルメットバイザーを口元だけ開け深呼吸をし、息を整える。気にしない様にしていた血の匂いと硝煙の臭いがむせ返る程強くなり、続いて飛び込んできた冷たい空気に肺が充血し、喉元まで血の味がせり上がって来る。痛い。見えない手で引き絞られている様だ。その刺す様な痛みを馴染ませる様に、口の中で転がす様に息をする。身体全身に酸素を行き渡らせる様に。それを細胞一つ一つが感じる様に。これから飛び込む地獄に負けない様に。

 

 軍曹曰く8m。MSに乗って居なくとも目と鼻の先の距離だが、足元は深い雪で、前は猛吹雪、そして敵味方の弾丸があらゆる方向へ飛び交っている。人生で最も長い8mになりそうだ。あの時を思い出す。砂漠と、氷原。とある映画が脳裏を過ぎる。確かに砂漠の夜は最高だった。だから比べる為にもここの星も見なければ。その為には走り抜けられる。走り切って見せる。ここでまだ走るのを辞める訳にはいかない。

 バイザーに張り付いた赤い雪を拭う。手で庇を作りながら前を見た。雪が舞い込み口へと入る。微かにザラつく舌触りに、地球への悲しみを感じるが、すぐに忘れる。隣の海兵が肩を叩き親指を立てる。口元を歪めながら、中尉は息を吐いた。

 

「流石海兵隊(マリンコ)。頼りになる」

「鈍臭い陸軍連中(グラント)と一緒にしないで欲しいね」

「なんだとクレヨン喰い!見てろ!」

「静かに!お前は動くな!!」

「ふふ……援護頼みます!!よし!!軍曹!伍長!」

「準備良し」

「おぶってもらいました!」

「3!」

「とにかく乗り込んで暴れるぞ。軍曹はすぐ輸送部隊を……」

 

 風が吹く、あまりの寒さに口を噤む。口の中に入った雪を溶かしながら、前を向き直す。もういい。とにかく目の前の事だ。余計な事は後からついてくる。その都度やればいい。俺達なら出来るんだから。

 

「弾丸は礼儀正しいヤツが大嫌いだ、背を丸めて走るか、寝っころがって迎えろ、そうすりゃ向こうからよけてくれる」

「2!!」

「弾に当たらんよう、ボミオスの呪文でも唱えとけ!」

「行ってきます!!」

「撃てぇ!!」

 

 吐き出す様な怒声と共に壁を乗り越える。それと同時に至る所から連邦兵達が一斉に身を乗り出し、出来る限りの全力射撃を敢行した。爆発する様な空気に後押しされたまま、深い雪をなんとか掻き分け、雪を巻き上げ転がる様にしてACGSに張り付く。人間で言う脹脛の辺りに設けられたアクセスハッチ目掛けがむしゃらに雪を掻き、感覚を頼りになんとか掘り出す。薄く張った雪まみれの氷を剥ぎ、凍った隙間を叩き割りこじ開け、小さなハッチを解放する。緊急解放スイッチを押し込み、ハンドルを回す。上方で圧縮空気の漏れ出す音と共に装甲がスライドし、吹雪の中でも判る、微かでも確かな希望の光が漏れ出した。

 酷使され怠さと疲れを感じ始めた筋肉に鞭を打ち、攀じ登る為に装甲に手をかける中尉を尻目に、軍曹機が立ち上がりながら派手に雪を蹴立て跳躍した。まるで地面が爆発した様だ。目眩しも兼ねたか?その凄まじい余波に顔を顰めながら、中尉も何とかコクピットまで辿り着き、文字通り滑り込んだ。目眩がする。息が荒い。それでも身体はまだ動く。震える手で叩きつける様にスイッチを押し、ハッチを締めた。モーター音が鳴り響き、装甲が噛み合う音と共に全ての音が遮断される。頭から狭いコクピット内に突っ込み、逆立ちの様になっていた。まるで海老反りだ。腰が少し辛い。しかし、心の底から安堵する。足をたたみ、身体を捩り、何とかシートに座り直しながら嘆息する。危なかった。すぐ近くにも着弾してたぞ今。装甲で跳ねてた。跳弾、案外目で捉えられるものなんだな。つーか一歩間違えれば死んでたかもしれん。だがその心配はもう無い。それでも逸る心でヴェトロニクスを立ち上げながら唇を噛む。空調の音が耳障りだ。激しさを増した高い金属音も。耐えてくれよ。

 急げ早く頼む。世界がお前の目覚めを待ってるぞ。お前を欲しているんだ。その力を。

 

 ようやく文字の羅列が終わり、星の瞬きの様なコクピット内が照らし出され、メインモニターが立ち上がった。スクリーン越しに隣の伍長を見遣れば、ようやくコクピットハッチに到達した所だった。怪我も無さそうだ。運がいい。やはり幸運の女神は俺達にまだ微笑んでいるらしい。

 

 その伍長のヘルメットバイザーが砕け散った。彼女はノックアウトされたかの様に仰け反り、その肢体は力無くコクピットへと摺り落ちて行った。

 

「伍長!!」

 

 叫ぶ。返事が無い。ようやくその重い腰を上げたACGSを盾にする様にし、目につく何かに機関銃を撃ちながらもう一度叫ぶ。弾丸の行き先なんて知らない。喉が痛い。視界の隅では軍曹機がジオンの装甲車を蹴り飛ばし、連邦兵達のバリケードを作りながらまたも跳躍、空中でアーチを描きながらスマートガンを一撃、"マゼラ・アタック"を撃破している。虎の仔の兵器が無惨な鉄屑に変わり、敵は大混乱だ。あの動きはジャクソンアーチか?それがなんだ。ダメだ。俺が何とかしなければ。何を?死者を蘇らせるとでも?いや、違う!衛生兵だ!まだ死んだとは……しかし。クソ、無線を……。バイタルは?データリンクは?HSLを……。あの向きはきっと横からバイザーを砕いただけでは無い。そもそもバイザーの破片だけでも……考えが、まと……。

 

《やったなぁぁ"ぁ"あ!!許さな"いよ"こんの"ぉ"ぉおお!!》

 

 中尉の背後で突然伍長機が立ち上がり、吠えた。その怒声に思わず硬直する。何?何だ?何が起きた?中尉の混乱を他所に、いつの間にかハッチを閉め、臨戦態勢を整えていた伍長機は飛び上がり、走り、そのまま敵陣に転がり込んだ。

 正に転がり込んだ、だ。着地もクソも無く、ジオン兵を巻き込む様に倒れ込み、雪煙を立て縺れ込む。白いヴェールの奥、伍長機のシルエットは仰向けのまま、近くの逃げ遅れたジオン兵を掴み、投げつける。手脚を振り回し、バタつかせる様にして立ち上がり、そのまま近い兵士を蹴り上げ、追いかけては掴んでは振り回し、叩きつけ、そして放り出す。鎧を血に染めた巨人はその手を止めず、嵐の如く暴れ回る。

 

「何の何だどうした!?」

《あぁ"ぁ"ぁああああ!!》

「あれさっきの嬢ちゃんか!!おい!!」

「とにかく隠れてろ!俺達が暴れる!今の内だ!」

「りょ、了解!」

「任せたぞ!」

《んゃ"ぁ"ぁ"ぁあああ!!》

 

 理解などしている暇はない。今はとにかく戦闘に追い付かなければ。雪を蹴立て、ACGSを疾走らせる。センサーが捉える味方を踏まない様にし、最優先目標としてピックアップされた装甲車を優先的に撃破する。唸る機関銃の前に蜂の巣になり、火を噴く残骸を横目に、とにかく前へ。軍曹は既に撤退支援に移っており、縦横無尽に跳ね回りながら遥か彼方の輸送部隊の直掩に着いていた。余裕が無い。もう独自裁量に任せる。それがいい。

 今1番大切なのは伍長だ。とてもじゃ無いが正気じゃ無い。通信は繋がっているが、血を吐く様な唸り声はもう無く、何かがぶつかる激しい衝撃音と荒い息遣いしか聞こえない。そして四方八方から攻撃を受け、もうその装甲はボロボロだった。いくら装甲があろうと、どんな攻撃でも蓄積すれば致命傷になり得る。比較的攻撃を受けていない中尉機ですら、度重なる攻撃により装甲強度が低下しているくらいなのだ。それに、敵には"ラングベル"もある。大口径の重機関銃もだ。それらの直撃にACGSの装甲は耐えられない。それに今はもはや小銃弾でもいつマシントラブルを発生させ、撃破されてもおかしくはない。敵陣の真ん中、火花の中心にいる伍長のACGSはもう限界に見えた。

 

「伍長!聞こえていたら返事をしろ!!おい!!頼む!!」

 

 敵弾が装甲を叩く音が恐ろしい。自機のセンサーが悲鳴を上げている。ダメージリポートが至る所で警告(イエロー)を怒鳴り始めている。ヤバい。そりゃ隠れもしなけりゃこうもなる。だがそれどころじゃない。もうめぼしい装甲目標も攻撃対象も居ない。しかし気を抜ける状況ではもう無い。目に映る対象へ向け、機関銃をバーストで撃ち少しでも視線をこちらに集める。またもRPGらしきものが近くに着弾した。爆風が破片を載せ装甲を叩く。流石のACGSもあれは無理だ。ゾッとする。FCSが捉えた最後の敵、チャンスを窺い隠れていた"ラングベル"射手を機関銃がバラバラにした。次発を装填していたのだろう、暴発した弾頭が壁に当たり火花を散らすのまで見えた。しかし、そんな些細な(・・・)な事等気にもせず、満身創痍の伍長機はそれでも動きを止めず、今は掴んだ敵兵を盾にしながらもそれを投げつけ、または振り回し、血に飢えた獣の様に新たな獲物を探していた。

 そこに人は居なかった。人では無かった。胃が捩れ、底冷えする様な寒気が背筋を走る。彼女は独り、血溜まりの中、だらりとマニピュレーターから垂れる千切れた肉片を掴んでいた。伍長のACGSの頭部センサーがこちらを向いた。ひび割れたバイザーその先に瞳が見えた気がした。こちらを睨む、正気を失った眼。ぎょろり、とこちらを覗き込む、丸くかっ開いた瞳孔が、カメラアイだと気づくのに少しかかった。

 

「ご、伍長……?どうした?死にたてフレッシュだったから生き返ったのか……?」

 

 震えた唇から下らないジョークを絞り出す。何?これがサガ?違う。そうじゃ無い。今は……とにかく伍長機の肩に手を当てる。お肌の触れ合い通信だ。吹雪だろうがミノフスキー粒子下だろうと確実に通信が出来る。なんでかは知らない。そういう事になっている。余計な事ばかり考えちまう。最近いつもそうだ。

 

「……行こう。ここは危ない。着いてこい」

《はーい……》

 

 返事があった事に安堵する。どっと疲れた。汗が酷い。何の汗だ。考えたく無い。また装甲を敵弾が叩く。新手か?だがその勢いは鳴りを潜めつつあった。振り返らず、歩を前に進める。無言の伍長を引き連れながら。一心不乱に、今はとにかく、先へ。

 ボロボロの鎧を血と煤で彩った暴君を連れ、コンディションチェックしつつ軍曹の置いた戦術ビーコン発信機(TACBE)を追う。良かった。道が判るのは本当にありがたい。無線が入らないと思ったら長距離のバースト通信機能がダウンしている。各種センサーも不調だ。とりあえず敵味方識別装置(IFF)に敵の武器のシルエットを登録し、最優先攻撃目標をRPG持ちに設定する。歩兵の武器までそのシルエットや熱量から割り出し優先度を決定出来るのはMSにもある機能だが、まさか使う日が来るとは。先程の画像をコンピュータに覚えさせながら、その他動作の確認も怠らない。吹雪は収まりつつある。そうだ。俺達の仕事はまだ終わっちゃいない。いや、ここからが第二ラウンドだ。正念場だ。やらなければ、やられる。

 

「伍長。大丈夫か?休むか?」

「ダイジョーブです!ありがとうございます!あ、でもちょっと待ってください」

 

 思い出したかの様に、中尉は口を開いた。そして思い出す。この機体にもコクピットカメラが装備されていた筈だ。MSの時同様、通信量を抑える為使用して無かったのだ。

 サブスクリーンに伍長の顔が映った。いつもの顔だった。額に髪が汗で張り付いているが、生きている伍長がこちらに笑顔を向けていた。思わず溢れかけた涙を堪えようと上を向く。伍長が笑い、どうしたのか聞くのを何とか苦笑で流し、センサーとレーダーに目を向ける。大丈夫そうだ。

 

「いや、少しでもいい。休もう。あの木陰がいい。顔を、見せてくれ──」

「へんなしょーい。全くもー、疲れたならすなおに言えばいいのに……」

 

 今度一緒におやすみしましょ!と笑う伍長に、中尉が苦笑する。機体を操作し指差した先に伍長機が先んじて滑り込み、更に中尉機が続く。一際大きな木の下に、2機は並んで収まった。突然の闖入者に雪を抱えた針葉樹林の枝が震え、その雪化粧を少し落とすが、それだけだった。側から見れば、山男か何かが仲良く並んでいる様に見えるのだろうか。膝をつき、今更細かく震え始めた手を一度強く握りしめ、軽く動かし、最後にハッチを解放する。一足先にハッチを開いた伍長は、手にしていたヘルメットを放り投げ、中尉へと元気に手を振っていた。

 

「ははっ……」

「も少しですよ少尉!頑張りましょ!ほら、なんか食べて!……私だって眠いんですからね!」

「判った、判ったよ……そうだな、生きてるんだし、食わんとね」

「はい!!えへへ……」

 

 取り出したパックゼリーを音を立てて啜る伍長を見て、それだけで中尉の胸はいっぱいだった。取り敢えず自分もと取り出したカロリーメイトを齧ると、顎の痛みが中尉を襲った。頬に手を当て、顔を顰めるも食事を止めない中尉の様子に伍長は嬉しそうに頷き、また笑った。その屈託の無い笑顔と、先程の獣性を纏った戦いのギャップが脳裏を過ぎる。

 乾いたクッキーが口に張り付く。ほのかな甘み。いつもの味。細やかなカスのついた包装を持つ手元を見やる。俺もああ見えるのだろうか。何人殺したなんて覚えてない。人の殺し方に上等も下等も無い。ただの殺人には変わりないのに。無意識の内に拳を握りしめる。腕に痛みが走った。それと同時に身体のあちこちが悲鳴を上げる。身体が変に強張ったのと、打ち身だろう。血を流す様な外傷は無い。見えない服の下の怪我も、死にはしないし行動にも支障は然程ないだろうが、痛みはそれなりにあった。それでも、心の痛みはほぼ無かった。一末の寂しさと悲しさ、申し訳無さが通り過ぎたが、それだけだった。

──本当に最近は無駄な事ばかり考えてしまう。ため息をひとつ。顔を上げ、2本目のパックを取り出す伍長を見る。俺はいい。だが伍長は。いや、これはお節介か?しかし。

 答えは出ない。本当にあるのか。このキャッチ22はどこへぶつければいいんだ。

 

「伍長、怪我はないか?」

「ぜんぜんです!」

「嘘つけほっぺた切れてるぞ?」

「え!?」

「嘘だ」

 

 顔をペタペタさわり、そのままその場で危なげなく回ってみせた伍長に、中尉はその様子に安心して頬をかく。本当に、本当に怪我してないのかよ。マジか……どうやら伍長は、本当に神に愛されているらしい。

 口が回りやすくなる。口の中のカロリーメイトが少なくなったので、パイン飴を放り込み、一緒に噛み砕く。包装紙が風に攫われそうになるのを抑え、雑にポケットに突っ込む。取り出したパックゼリーを流し込み、口の中のカオスをカオスで押し流していく。悪くない。悪くないんだ、これが。

 

「もー、もし怪我したら責任とって下さいね?や、もう決定してますけどね?一応ですよ?」

「……はいはい」

「はいは一回です!」

「はーい」

 

 そこまで言って、中尉と伍長は同時に噴き出した。懐かしいですね、なんて伍長が装甲を拳で叩き、雪が崩れ、お互いに降りかかる。また笑う。

 本当に、本当に怪我は無さそうだ。ケタケタ、ケラケラと笑い、器用にも狭い装甲の上で腹を抱えて仰反る伍長に、心の底から安堵する。いつのまにか3本も飲んでやがる。本当に調子のいい事で。奇跡か、何かか?それでも、何でもいいから感謝したかった。

 

「よし行くか」

「ガッテーン!」

 

 得意げな顔とガッツポーズではあったが、変なイントネーションにまた笑いそうになりながら、中尉はコクピットに滑り込み、流れる様にハッチをロックする。センサーが地面に落ちたヘルメットをピックアップし、拡大した。バイザーが砕けたヘルメットの内装に、一筋の線が見える。立ち上がりこちらを見る伍長に待てと言い、ヘルメットを摘み上げよく観察してみる。

 

 なんと、バイザーを掠め、貫通し、そのままヘルメットに飛び込んだ弾丸は、ヘルメットの中をぐるりと一周し、反対側から飛び出していた。

 

──この様なケースは聞いた事がある。それでも頭部を一周する怪我は中々だった筈だ。しかし伍長の場合、ヘルメットがブカブカだったからか、弾丸に引っ張られた遠心力でヘルメットもズレ、擦過傷すら残ってないらしい。目を瞑った中尉は、デコピンの要領でヘルメットを飛ばした。そうでもしないと、変な笑いが出そうだった。

 笑うとまた痛むだろう。それは避けたかった。

 

「どったんです?」

「いや……記念にとって置かなくてよかったのか?」

「破片持ちました!」

「そうかい」

 

 スクリーンの中で伍長は笑い、カメラに向かい件の破片を見せつける。ピンボケだ。近過ぎて見えない。また笑いそうになるのをなんとか噛み殺し、地面を確かめ、歩き出すと伍長が聞いてきた。無線機から雑音が消えている。どうやらコクピット内で脱ぎ捨てられたヘルメットがぶつかる音だったらしい。また変な笑いが出そうになる。

 本当に、伍長らしい。唇を舐め、首を振って前を向く。ついでに飴をもう一つ。はてさて、はてさて……。

 

 方向は大体判っている。マップも更新され、情報支援こそ受けられては居ないが大丈夫だ。しかし遅れているのは事実。ショートカットすべきだ。伍長をつれ、えっちらおっちら渓谷を抜け、丘を越える。途中、伍長機の"ロケットハーガン"が故障したもののそれ以外は順調だ。開閉部近くに喰らった弾が挟まり、動かなくなってしまったのだ。頑健なACGSにも、遂に限界は見え始めていた。なるべく先を急ぐ。ビーコンの間隔が近くなっている。遠距離からでも戦闘の跡、轍も確認出来る位だ。もうすぐだと全てが大合唱している。

 雪庇を踏み抜き、脚を滑らせた伍長に手を貸し、台地に引っ張り上げる。折れた鉄骨が邪魔だ。曲げる。飴細工の様に捻られた鉄骨から寸断された電線が震え、風に吹かれ鞭のような唸りを立てた。

 短距離無線機が雑音を拾った。味方が近い。

 

 伍長とアイコンタクトを取る。そのまま走り出した。センサーが発砲音と爆発音を拾った。雪煙が見える。追いついた。仕事の時間だ。

 

《っそ……流石、残弾がカツカt……だっ……の……》

 

 遂に無線が入る。雑音混じりで、飛び飛びではあったが、それは確かに友軍の発した信号だった。内容も報告とも呼べない、無駄なボヤきではあったが、中尉達には充分過ぎるものだった。

 

《こり……大盤振る……過ぎたな》

《弾……足りな……手榴……心細……ってきた》

《弾くれ!》

《誰か弾を……早く!》

《ほら!これでカンバンだ!》

《これっぽっちか。ま、使い切るまで生きてられるか……》

 

 中尉は唇を噛む。もどかしい。あと数百メートルが永遠に感じる。出来る事を、為すべき事を、すべき事を、何かを。

 中尉はもう前しか見ていない。そのまま口を開く。再び上がり始めた息を押し出す様に、そしてまた噛み締める様に。

 

「伍長!武器は?」

《マシンガンがちょいです!》

「俺もだ!でも行くぞ!」

《はい!どこまでも!》

 

 決意を新たに稜線を飛び越える。遂にセンサーが眼下のジオン兵を捉えた。そう広くはない谷間を縫う様に逃げる連邦軍の車輌部隊を、ジオンの車輌部隊が追っている。どっちも必死だ。先頭の車輌から閃光が瞬いた。白煙を引くランチャーが後続の一台を遂に捉え、後輪を吹き飛ばされた装甲車が雪を巻き上げ派手に転がる。そこから這い出し、反撃を始めた男は、あのベレー帽だった。

 ここで中尉も覚悟を決めた。とにかく疾走る。あそこへ。構うものか。

 

「先に行け!」

「おい!」

「すまん!!」

「戻れ見捨てるのか!」

「殺す!!殺してやるぞ畜生!!死ね!!」

「あぁ!!クソ!!」

 

 車列は勢いを緩めない。だが、その中の2台が突如として反転、列から離れた。そのまま勢い良く転がり、まだ周囲に雪を舞わせている装甲車へと突進して行く。横転するかの様に車を止め、転がり出た連邦兵等が猛然と展開し、装甲車を盾に決死の反撃する。捨て駒だ。いや、捨て奸と言うべきか。追撃するジオン軍との距離は詰まって行く。だがこちらの脚の方が速い。まだ走れる。コイツは、まだ。

 

「ぁあ、クソ、クソクソクソ!もうダメだ!」

「馬鹿野郎諦めるな、生きて帰るんだ」

「俺は空挺部隊だ、包囲されるのにはもう飽き飽きさ。だが今回ばかりはちと……」

「畜生。ここで、こんな所で。巻き込まれて死ぬのか……」

「この戦争始まってからタフでフーバーなタイト・スポットばかりさ。ノー・マッチ・オブ・バーゲン!おい日本人、これは何だ?」

「ライフル?」

「来やがれ!!ジオンのクズども!!殺してやる!!」

「はっ!そうとも、海兵隊にライフルさ。何を言ってる?今も昔もこれからも!俺たちゃ世界で最もヤバい武器よ!俺の息が続く限り!終わらねえよ!!」

「その通りだ海兵!!こちらSST01!今助ける!!」

 

 雄叫び受け、叫んだ中尉は両軍の間に割って入り、機関銃を乱射する。装甲はボロボロで、機関銃もジャムりかけ、弾の出ない銃身もある。その銃身に当たった弾薬はマシンパワーで強制排出される為、負担も増加しマルファンクションしかけている。それでもまだ戦える。吐き出された機関銃弾がそれでもトラックを瞬く間に蜂の巣にし、バランスを崩したそれは横転し雪煙の中に消える。追跡部隊は頭を潰され、追跡を止め散開する。包囲する気か戦線を形成するのか。構わん。迎え撃つのみ。続く伍長機も脚を止め、残り僅かだろう機関銃を撃つ。近寄らせず、とにかく車輌を潰す!話はそれからだ。

 視界の隅で並んだ0の目立つ残弾カウンターが凄まじい勢いで減って行く。終わりが近い。しかし、決めた。一歩も引かない。彼等の為にも。

 

 そして、自分の為にも。

 

 膝をつき機体を盾に、とにかく時間を稼ぐ。後ろではベレー帽が負傷者を引っ張り出し、担ぎ上げている。急げ、急げよ。時は待ってくれず、残された時間は少ないんだ。

 元々雀の涙程だった弾はすぐに切れた。ビープ音が鳴り、残弾カウンターがゼロになる。遂に吼え続けてきた機関銃が音を立てて空転した。本当にコレでおしまいだ。だが、先程中尉は知ったのだ。理解したのだ。何故この兵器が、人型なのかを。

 伍長が突進する。中尉も傍に転がっていた残骸から武器を(・・・)引っ張り出す(・・・・・・)。どうやら古いヘリの様だ。へしゃげても大きい機体は輸送機の様だが、なんだろうか?

 まぁ何でもいい。割れたバブルヘッドキャノピーに、胴の太い大型の機体、5枚のローター。これが良い。その翼を拝借する。捥ぎ取ったローターを振り、様子を見る。空気を切り裂く音がコクピットまで響くかの様だ。よし!

 

「ヒュー!待ってたぜ騎兵隊(キャバリー)!!」

《おっまたせー!!いっくよー!!》

 

 中尉も外した機関銃を1番近い敵車輌に投げつけながら、伍長に続き突進する。投げつけられた機関銃は2、3回バウンドし、一番手前の車輌のボンネットを凹ませながら転がり、フロントガラスを突き破った。中は想像したくない。激しい損傷を受けてもなお車輌そのものは順調に走り続けていたが、その魔法は解けた様だ。そのままのスピードでコントロールを失い、激しく横転した。上へと向けられた車輪が虚しく空を掻くが、舞い上がった雪以外にもうその動力を伝えるものは無かった。

 すかさず"ロケットハーガン"でひっくり返った車輌を引き寄せ、簡易の盾にする。装甲の損傷が酷い以上無理は出来ない。車と言う物は当たり前だが装甲は無く、小銃弾ですらエンジンブロックやピラー、フレームの一部を除いて抜け(・・)てしまう。装甲車では無い軍用車もそれは同様だ。だが、装甲車などこのACGSだろうと持ち上げられない。装甲を剥がす時間も惜しい。なら無いよりマシだ。こちらも元々鎧がある。威力が減衰すれば御の字だ。地を蹴り、逃げる車輌へ追いつき、振りかぶったローターで真一文字に薙ぎ払う。一撃の下、窓ガラスが飛び散り、ピラーが紙の様に裂けた。強制的にオープンカーにされたそれは転がり、中の人共々あっという間に断面図を見せてくれる。よし。よし!よし!!まだ戦える!まだ!

 

「ここは俺たちに任せろ!」

「すまない!」

「少し先に建て屋がある!そこで!」

「おうともさ!」

「君は行け。自分の戦場へ」

「伍長!」

《はい!?あ!少尉あぶない!!》

「んぃ!?」

 振り返った瞬間、渦を巻くロケットモーターの白煙と、新円を描く弾頭が目に飛び込んできた。呼吸が止まる。ぞわりと全身の毛が逆立つ感覚が走り抜ける。直撃コースだ。

 ACGSの装甲は前述の通り薄い。小銃弾を防ぐ程度の物しかない。そんな機体の装甲に、ロケットランチャーの持つ運動エネルギーと成形炸薬の生み出す化学エネルギーを打ち消す事は不可能だ。

 あと少しで、弾頭は薄い装甲を凹ませながら炸裂、モンロー・ノイマン効果が生み出す液体金属の超高速噴流(メタルジェット)が装甲を貫くだろう。超高圧で液体化した金属はコクピット内をめちゃくちゃにし、中を跳ね回る破片と続くロケットモーターの残滓が高温を撒き散らし、この棺桶を火葬付きの物とするに違いない。

 

──死、と言う単語が脳裏を掠める。しかし、脳が死を意識するより先に、身体は反射的に生へと疾走り出していた。

 

 機体が地面を蹴り、膝を折る。猛然と膝を突き出す様にして上体が倒れ、ACGSの上半身の持つ位置エネルギーが、前へ下へと向かう運動エネルギーへと変換される。ACGSの機体は蹴飛ばされたかの様に前へ滑り出し、不恰好なスライディングが雪を蹴立てた。

 スローモーションの様に流れる景色に、舞いあがった雪が吸い込まれそうな程に真っ黒な空を背景に散るのを見上げた中尉は、その視界を切り裂く閃光と白煙を見た。それと同時に、飛来するロケットモーターの下を潜り抜け回避した事を悟った中尉は膝のバネだけで跳ね起き、その反動をそのままに雪煙の先へと車輌を投げた。

 センサーがまた悲鳴を上げた。別方向の敵がまた"ラングベル"を構えたのを検知したのだ。無我夢中で中尉は機体を操る。もはや考えては間に合わない。反射的に、直感的に、その激動に身を任せる。"ラングベル"が火を噴いたのと、中尉がマニピュレータに握りしめた砂利を投げつけたのはほぼ同時だった。その一握の砂利は予想以上の効果を発揮し、猛烈な散弾の如き効果を発揮した。迎撃され信管を叩かれた弾頭は空中で炸裂し、その奥では雪や木に穴が開き、派手な血飛沫が上がる。

 しかし、それは終わりでは無かった。反動をそのままに転がる中尉機の至る所に重機関銃の弾頭が突き刺さり、その装甲を砕く。ダメージが蓄積していた所に、許容値を遥かに上回る威力、耐えられるはずもない。ダメージリポートの警告が鳴り響くコクピット内で中尉は"ラングベル"の鶴瓶撃ちにより複数の弾頭が殺到する伍長機を見た。

 

 初めから敵の狙いは俺達だったのだ。キルゾーンに誘い込まれた獲物は自分達だった。ロケットランチャーと重機関銃による十字砲火。万全では無い機体。もはや逃れる術は無かった。

 

 ぐるぐる回る視界の端でも状況は進む。進んで行ってしまう。避けきれないと悟ったか、伍長が両腕をクロスさせた。そこへ飛び込む様に弾頭が突き刺さる。噴射炎で照らされた装甲が目に焼き付く。閃光。激しい音と共に両腕が根本から吹き飛ぶ。猛烈な黒煙が戦場に噴き上がる。ACGSがゆっくりと倒れ伏すのがスローモーションで見える。また雪が舞う。伍長の悲鳴が聞こえた気がした。いや、この音は自機の脚が千切れた音か?歪む視界は真っ赤だ。死神とやらは、赤いのか?

 

 警告音は止まない。そこへ新たな警告音が鳴り響く。もうダメだ。降り注ぐ重機関銃弾がそこかしこに着弾し、四肢は捥がれコクピット内は漏電によるスパークと発火、煙が充満していた。弾丸がまだここに飛び込んでいない事が奇跡だ。この機体を動かしているが、手応えが無い。本当に動いているのか。いないのか。今自分はどっちを向き、何を見ているのか。何も見えない。聞こえない。弾丸がこの中に飛び込んで俺と有機ディスプレイを掻き混ぜるのはそう遠い未来では無い。

 

 中尉は来るべき死の感触に、無自覚に身を震わせた。どんな感じなんだろうか。熱いのか寒いのか、痛いのか、一瞬なのか。何も知らない。知らないから、怖い。そう感じる自分を、どこか冷静な頭が俯瞰している。身体を縮こませる。次の一瞬か、その次の一瞬なのか、そこまで来ている死と、急に向き合えなくなる。あれ程意識してたのに。前も何度も死にかけたし、また新しく遺書も書いた。それでも、ただ怖かった。何が怖いのかすら判らない。

 

……身構えた所で、その一瞬は来なかった。中尉は無意識の内に緊急脱出機能を作動させていた。無我夢中と言ってもいい。とにかく外へ出たいの一心だった。こんなところで、こんなところで終わりにしたくは無い。死にたくない。諦めたく無い。頭のどこかでは諦めている。理解している。未練や心残りも正直無い。家族は悲しむだろう。だがそれもいずれは大丈夫になる。自分の知り合いは別に悲しまない筈だ。そう思うと気は楽だ。でも、たくさん殺してきた。たくさん。だからこの様に殺されてる事に文句は無い。だが、殺してきたからこそ、生きなければ、生きていかねばならない。その義務がある。必要がある。

 

──生きたい。そうだ。生きたいんだ。きっと。

 

 無意識の、深層心理の中尉の叫びに応える様に、機体が最後の仕事を忠実に遂行する。音を立て爆砕ボルトが作動、ACGSの首から上に当たる部分が吹っ飛んだ。ぼろぼろの装甲を押し除け、身を捩り、痛む身体を芋虫の様に引っ張り出す。恥も外聞も何も無い。転がり出た中尉は頭から雪に突っ込む。大自然に、地球にしがみつく様に。硬く雪を握りしめた。あー、くそぅ、全てと一体になる時が来たのか。土すら握れないのに。海に還り、宇宙に漂う時が。次の瞬間に、ヘルメットに銃口が押し当てられるのか?それとも重機関銃が身体をバラバラにするのか?

 でも、それでもいい。それでもいいか。死ぬまで生きたのだし。

 決まりかけていた覚悟が、固まった。恐怖に焦っていた心が、嘘みたいに落ち着いた。そう、澄み渡るとまでは言えないが、凪の様に穏やかに感じる。音も、寒さも、もう遠い。本や漫画、映画で見たあらゆる最期を想像し、口元に笑みが溢れた。うん。中々よかった。さようなら。

 ぎゅっと目を瞑り身体を強張らせるも、シューシュー、パチパチと何かが爆ぜる音がするが、それだけだった。足音も、銃声も無い。恐る恐る顔を上げた中尉は、視線の先、森の奥で炎の中に崩れ落ちる重機関銃のシルエットを見た。寒風に引っ叩かれていた様だった頬が暖かい。首を回らせば、あちこちで同じ様な光景が広がっていた。燃え盛る炎に、爆ぜる弾薬。火がつき、のたうち回る影。それが雪を溶かし、針葉樹へと燃え移り、あたりは地獄の様相だ。木が倒れる音がする。視界の隅で針葉樹が燃えている。酷い煙だ。溶けた雪が冷たい。火の粉が舞い、すぐそばの木にも引火し、瞬く間に燃え上がる。だが、それが程よい暖かさで中尉を包み込んでいた。

 

 生きている。久しぶりの感覚だ。さっきまで死んでいたから。視界に何か映り込んでいる。ヘルメットのバイザーに何かの破片が突き刺さっていたのだ。顔面へ届く前にストップしてくれたらしい。痛む身体を引きずる様にしてなんとか腰を下ろし、ヒビが入りロック機構も死んだヘルメットを投げ出した中尉はACGSだったものにもたれかかり、暗い空を見上げてため息を吐き出した。背を温めるぼんやりと熱を放つそれは、右腕の上腕と右脚部の大腿部、左脚部を残して転がっていた。世界にたった3機しか無いACGSの内の1機は、満身創痍ではあったが最期までその機能を果たし、今は静かに沈黙していた。人型ですら無く、最早無いに等しいぼろぼろの装甲は至る所に穴が穿たれ、引き裂かれた機械部をグロテスクに晒していた。しかし、彼は中尉を守り切った。兵器としての本分を果たし切った。戦い傷つき、そして遂に倒れた英雄を埋葬するかの様に、雪が薄く積もり始めていた。

 咳き込む中尉の目線の先に、山の稜線が見える。その頂上に、雲の切れ間から月が顔を出した。青く冷たく輝く、狩人の月。その光の中、人にしては大き過ぎるシルエットが翻り、身の丈を越すライフルを振り上げたのが焼き付く。

 それはたった一瞬だった。空はまたいつも通りの表情を取り戻す。それでも、確信した。

 

「軍曹……」

 

 無意識の内に呟く。シルエットは姿を消した。それと同時に、雪を蹴立てこちらへやってくる一団が視界に飛び込んで来た。この短時間で随分と見慣れた顔だ。なんとか身を起こし、頭の雪を払いながら彼等に手を振る。

 そして思い出した。伍長!!伍長は!?身体が跳ね起き、勝手に走り出す。肺が痛い。腕が痛い。脚が痛い。痛くない所なんて無い。でも、止まらない。止まれない。

 

 伍長機はすぐに見つかった。崩れ落ちた巨体に取り付く。周りなんてどうでもいい。今はただ、もう一度伍長の顔が見たかった。あの笑顔が。

 機体の構造は全て共通している。緊急用のハッチ解放レバーもだ。点火プラグに火を入れ、耳を塞ぎ目を押さえて口を半開きにし縮こまる。

 腹に響くも、そう大きくは無い音がした。中尉は立ち上がり、緩く煙を立てる巨人の、ぽっかりと空いた穴を覗き込んだ。

 

「大丈夫か!?平気か!?」

「か、鐘の音が鳴り響いてるぅ……」

 

 爆砕ボルトで吹っ飛んだハッチの下、目を回した伍長が伸びていた。どこかで聞いた様な台詞をまた聞けた事に安堵しつつ、またそのセリフを言わせてしまった事に罪悪感を感じつつ、その身体を担ぎ上げ、手早く触診する。幸いな事に、出血や骨折等の怪我は確認出来なかった。取り敢えず一安心すると共に、心の底から感謝する。こちらのACGSもその身を犠牲に最期の仕事を果たしたのだ。おやっさんには頭が上がらない。連れて帰る事は出来なかったが、きっと許してくれるだろう。その為にも帰らなければ。

 最低限のミッションディスクのみを抜き取り、データを初期化、更に機密保持用の自爆装置を作動させる。念の為だ。既存の技術のみで作られた機体であるし、ここも後に爆撃される。だが、それまでにこちらが不利になる情報を抜き取られる可能性はゼロでは無い。誰よりも早く、何よりも早く届くことによって意味を持つ情報というのは、時によってはかなり大きな価値を生む。逆に言えばその情報は、ある時点をもって全く価値のないものになる。今回で言えば、無線やレーザー通信の周波数や暗号プロトコル等だ。今回の暗号はこの作戦限りのものなので暗号強度はそう高いものではない。比較的簡単に、短時間で解析されてしまう。最後の最後にそんな事で脚を掬われてもつまらない。

 弱々しく、だが確かに小さな光を点滅させるコクピットから這い出し、伍長に肩を貸す。本当に小さく、本当に軽い。未だに星を飛ばしている伍長に、中尉はフッと軽く嘆息して語りかけた。

 

「ほら、伍長、立て。シャキッとしろ」

「……そんなのレタスに言って下さいよー」

「埋めるぞ。春先になったら解凍してやる」

「ここは一部が永久凍土ですよ!?甘くなっちゃいますよ!?」

「それで済むのか……」

 

 あとそれはキャベツでは?変な事間違えて覚えてるな。相変わらずな伍長の様子に、もう一度ため息をつく。安堵のため息は、伍長にはどう映ったのか、拳を固めて抗議してきている。その柔らかな振動が大きくなって行く。それを軽くいなしながら振り向き、霞む視界の先、最後の力を振り絞り、最後の仕事を全うする戦士達に小さく敬礼をした。

 顔を上げると目の前には息を切らしたオメガ達と、さっきの海兵が居た。そして、雪を蹴立て、無傷のACGSが到着し、膝をついた。軍曹だ。

 

「間に合ったな」

『遅くなった。済まない』

「ありがとう。助かった」

 

 巨体巻き起こす風に目を細めながら中尉は髪を押さえる。その排気すら頼もしい。メインカメラの奥の瞳を感じる。やはり、人型と言うのは不思議だ。本当に。

 

「無事かよ。ヒヤヒヤしたよ」

「なんとかなりました」

「なんとかって……」

『追撃まで、時間が無い』

「こりゃもうダメか」

「うん。やられちゃった……リーちゃん!ありがとう!」

「よし!判った!」

 

 装甲の隙間からゆっくりと煙をあげ始めたACGSに伍長は敬礼をする。そして手を振った。別れが済んだらしい。

 伍長は物の扱いはとても荒い。それはもうめちゃくちゃだ。"ロクイチ"も、"陸戦型ジム"でもそれは同じだ。しかし、それは裏返しなのだ。どんな物にも懇切丁寧に接するタイプだ。荒い扱いも、それを信じているから故だ。不器用ながらも整備は手伝うし、彼女なりの愛着を持って接する。それが伍長だ。手を振ってはいるが、辛いのか、少し俯いている。この短時間でも一緒に戦った仲間だった。帰る時まで一緒に居れなかった、それが心残りなのかも知れない。

 

 軍曹のACGSが手を差し出す。乗れと言う事らしい。海兵が攀じ登り、どっこらせと言った感じで腰を下ろした。まだフラつくのか、よろめく伍長に手を貸し、その頼もしい大きな腕に座らせ、中尉自身も足をかけながらオメガ達を手招きする。

 しかし、彼等は動かなかった。

 

「行け」

「……なんです?」

「小松さん?」

「あんたらを死なせたく無い。判ったんだ。俺にとって大切な仲間だ」

 

 思わず聞き返し、怪訝な顔をして眉を寄せる中尉に、一息でベレー帽はそう言い切った。その覚悟は、目は、本物だった。ここは島の内陸部だ。まだ距離がかなりある。人の脚じゃ無理だ。逃げ切れない。不整地の踏破力こそあれ、ACGSもそう脚が速い訳では無い。まさか……。

 

「……死ぬ気ですか?」

「そうじゃない」

 

 確かに、その目は生を諦めた者の目ではなかった。生きて帰ると言う意思がビリビリと伝わってくる。それ以上に、生きて返すと言う気持ちがあった。彼等をよく見ると、オメガ達は至る所を怪我していた。比較的軽症なのはベレー帽だけだ。海兵もさっき足を引き摺っていた。

……そうか。そう言う事か。なら、俺も最後まで付き合おう。俺が始めた関係だ。その義務がある。

 

「……俺も残る」

『中尉』

 

 中尉はベレー帽の顔を見て、そう言い腕から降りた。その言葉に、伍長はポカンとしている。軍曹が咎めた。いつもと変わらない口調の中に、強い非難が感じられた。当たり前だ。でも、コレは俺にしか出来ない。大切な仕事だ。必要な契約だ。堅い約束だ。

 冷静では無いかも知れない。当てられたのかも知れない。でも、心が叫んでいた。気にするなと言われ、気にしない馬鹿にはなりたくないと。先に行けと言われて行く、薄情な奴にはなりたくないと。全員で帰ると決めて、あっさり諦める根性無しにはなりたくないと。帰るんだ。全員で。そう、全員で帰る。誰1人残さない。それが最優先だと。そしてそれは、彼等も含めるのだと。

──無論、死ぬつもりは無い。さっき再確認した。俺はまだ生きたい。生きていける限り生きたい。生きなくてはならない。その為には足掻く。確率を追い求める。その最適解がこれなのだ。

 ……『死ぬ時には死の恐怖に心が満たされないような人間になれ。まだ時間が欲しいと後悔し、異なる人生を生きたいなどと嘆く者になるな。讃歌を口ずさみ、英雄の帰還するが如く、逝け』とは"ティカムサの詩"だったか。何度も死んだ。さっきだってそうだ。諦めた。今は違う。死ぬ気は無いが、だからこそ死なぬ為にはこの気概がいるのかも知れない。彼を見て、何故だかそんな気がした。

 ──賛歌か。

 うっすら笑い、中尉は振り返り、軍曹に立てた人差し指を軽く曲げながら応えた。掲げた腕に、力を込めながら。

 

「軍曹!俺だって人差し指を冷やしちゃいないさ。軍曹は全員を必ず連れ帰ってくれ。時間は俺達が」

『了解。幸運を』

「小松、いいのか?」

「少尉!ダメですよ!何言ってるの!?」

 

 伍長が何やら騒ぎ、止めようとしているが、軍曹が押し留めた。どうやら器用にも関節の一部で服を挟み込んでいるらしい。なんとかしようともがき、バタつく伍長に中尉は笑顔で軽くラフな敬礼をした。オメガ達もベレー帽に何か言いながら続々とACGSの左腕に足をかけ、へばりついていく。それを見て中尉は大きくうなづいた。腕時計に目をやる。タイムリミットは、迫るものから追うものになった。

 16時間18分34秒。それをなんとか持ち堪えるしか無い。少ない弾薬と、戦力で、見知らぬ土地で、そして、最後は離脱まで。

 正直な話自殺に近いかも知れない。無茶無理難題だ。だが、軍曹は必ず彼等を送り届け、自分達を迎えに来てくれる。"アサカ"の皆も、きっとそうだろう。全力を以て連れ帰ってくれる。それを信じている。だから残る。残って時間を稼ぐ。敵を釘付けにする。それが今出来る最善、そして最重要の達成目標だ。

 

「何でもいいよ。凍えそうだ」

「熱いコーヒーを頼むよ。ミルクと砂糖は多めで頼む。いや、ココアでもいいな」

「おい!手榴弾だ、少ないが」

 

 足元に袋が放られる。肩掛け鞄だ。おそらくデモリッションバックだろう。それを雑嚢代わりにしていたのだ。有り難く受け取り、肩から襷掛けに掛ける。ベレー帽もオメガ達から装備を受け取っていた。これから始まるのは終わりの見えない遅滞戦闘、そして撤退戦だ。武器弾薬はいくらあっても足りない。無論、今回は完全な防御戦闘では無く動き回る事になるだろうから抱えていける分に限るが。しかし、天国には持って行けないから節約しつつもすぐにでも消費するだろう。追いつかれたらお終いだからだ。

 敵の戦力は未知数で、こっちは2人。とにかく時間を稼ぎつつ逃げる。それしかない。その為には火力は必要不可欠だ。

 

「有難い」

「少尉!!」

「必ず帰るからいい子にしてお留守番しといてくれ」

「"アサカ戦隊"、全軍を代表して俺が保証する。迎えは必ず寄越す……こいつも持ってけ」

 

 最後に海兵が腰から抜き、投げ渡したのは今時珍しい、古めかしい革製の鞘に収められたナイフだった。それは生ける海兵が受け継ぐ伝統、彼等の持つ魂、大型の戦闘用バトルナイフ、刃物メーカーの老舗であるカミラス社が生産しているKA-BARだった。

 昨今の戦闘において、ナイフを使う機会は激減した。日常生活でもだ。携帯兵器の信頼性が上がり、また白兵戦もハイテク兵器の普及と共に殆ど姿を消した。対テロ戦争に置いては奇襲や強襲が主体となり戦闘時間も減少、同様に大国間の戦争も減り大規模な戦線を形成しない為、地域を制圧し支配すると言う戦争の基本原理すら生起しづらくなっていた。勿論銃剣の使用も減り、主な使用目的が威嚇や威圧、パレードになりつつあり、標準装備として装備こそ続いていたが実戦における使用機会はほぼ消滅した。同時に支給品としては銃剣と統合されつつあったナイフも緊急時の護身用の道具としては生き残り、だが使用機会の減少と共に小型化していった。生きる上で重要だった必需品は必要とされる機会が激減し、ただの重りと思われてしまっていた。今時こんな大型の刃物を提げているのは彼等や一部の特殊部隊、それに自然環境の悪化や世論により数を減らしつつあるハンターぐらいだ。

 中尉は手元の重みから目線を上げ、そして口を開いた。

 

「ケーバー?いいのか?」

「戦友のだ。貸すから返せ」

「……了解!レザーネックさん」

「必ずバスを寄越すよ」

『再会を、必ず』

「あぁ!」

 

 2人の前で、遂にACGSが立ち上がる。この短時間で水蒸気となった雪が氷付き、今それが剥がれ落ちていた。音を立てながらその煌めきを撒き、断末魔の様に燃え盛る炎を背に影を長く伸ばすその姿は、中尉の希望だった。まだ何か喚いてる伍長に、笑顔で手を振る海兵、複雑な面持ちのオメガ達を乗せ、あっという間に視界から消える。まるでそこには初めから誰も居なかった様に。旋風だけが緩く雪を巻き上げるだけだ。あれだけ燃え盛っていた炎も今のでトドメを刺されたか、急速に鎮静化しつつあり、辺を静寂が包みつつあった。

 彼等の見えなくなった先をしばらく見ていた中尉が金属音に振り向くと、ベレー帽は独り手に持ったSMGの点検をしていた。手元のそれを丹念に覗き込みながら、口を開く。

 

「今更だが、正気か?危険だぞ。さっきの戦いを見たか?雑魚はもういない。相手はプロだぞ」

「相手がプロなら俺達もプロです。ここにプロが2人居ます。それで充分じゃないですか」

「お前プロだったのか?」

「……まぁ……」

 

……連邦軍のMS乗りの中ではプロです。相対的に。その経験が役に立つとはとても思えないけど。

 投げ捨てたヘルメットを拾い、倒れたままの自分のACGSに歩み寄る。MSに乗ってる時はライフルと予備弾、そしてそれを携行する為のロードアウトを必ず積み込んでいたが……まぁ、仕方ない。完全にダウンした機体から積み込んだサバイバルキットを取り出し、ケーバーでこじ開けたミッションディスクを中に放り込む。動力は全滅し、自爆装置すら回路が切断されたか、出来なかった。是非も無し。それでも俺は五体満足でここに立っている。本当によくやってくれた。

 ふとボロボロのコクピットの中を見回す。よく生きてたもんだ。焼け焦げ、ヒビの入ったスクリーンをそっと撫で、吹き込んだ雪を払う。そしてヘルメットをその上に置いた。何故かは判らない。でもそうしなきゃ行けない気がした。

 最後に隅に挟まる様に転がっていた刀を手に取り、軽く確認する。外傷は無し。刀身も問題ないだろう。ナイフがそうだが、刃物と言う原始的な道具は丈夫で、使い様によっては最後の最後まで役に立ってくれる。武器があると言うのは本当に心の支えになるのだ。きっとこいつもそうだろう。刀を杖代わりにコクピットから這い出る。怪訝な顔をするベレー帽に笑いかけ、中尉は慣れた動作で刀を腰に差した。これでいつもの俺だ。さぁ、やろうか。

 

 中尉は複雑な表情で固まるベレー帽を尻目に、動かぬACGSに向かって軽く顎をしゃくった。

 

「すみませんが、テルミットあります?」

 

 

 

『知恵と根気と体力は商売道具だからなぁ』

 

 

 

足跡を刻んで行く理由を探して………………

 




次回 第七十七章

ハルカトオク

「……ただの飛行機乗りですよ。どこにでもいる」


ブレイヴ01、エンゲージ!!


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