ニセコイ~夢に紡ぐ物語~ (舞翼)
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一年生編
サイカイ


見切り発車作品です。
質には期待しないで下さいm(__)m


「またね、――――ちゃん」

 

 少年がそう問いかけると、少女は目許の涙を右手人差し指で拭いながら、

 

「わ、わたし。は、離れたくないよ……」

 

 少年は「まったく」と溜息を吐いた。

 少年は首にかけていた、月形が括り着いた銀色ネックレスを外し、少女の右手に置いた。

 

「これやる」

 

「……これって――――君の宝物じゃ?」

 

「やるって。だから、泣きやんでくれ。最期の別れじゃないんだし」

 

 少女は目許を、右手人差し指で拭った。

 

「……うん。わたし、泣かない……」

 

「うし。じゃあ、俺は行くな。――――ちゃん元気で。また会えたらいいな」

 

「うん!またね!――――君!」

 

 こうして少年は去って行き、少女の方は頃合いを窺っていた母親が迎えに来たのだった。これは、とある少年の記憶の一幕である――。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~集英組、とある部屋~

 

「起きろ、歩夢。今日は転校初日だろ」

 

 そう言って、俺を起こしに来たのは一条楽。

 集英組の二代目と言われてる一人息子だ。

 

「あ、ああ。今起きる」

 

「んじゃ、居間に来いよ」

 

 楽はそう言って、この場を後にする。

 俺は布団から出て立ち上がり、伸びをする。

 

「時差ボケがここまでキツイとなぁ。つか、懐かし夢を見たなぁ」

 

 んで、俺の名前は神埼歩夢(かんざき あゆむ)。集英組に居候している男子だ。

 俺が小学生に上がるまでは日本に居たのだが、ある事情があり、五年アメリカで、もう五年中国で、計十年海外で過ごしていた。ちなみに、転校する高校は、凡矢理高校と言われる高校だ。

 ともあれ、布団を畳み、ハンガーで壁際にかけている制服に袖を通す。

 

「さて、行くか」

 

 俺は部屋を出て、居間に向かうのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「「「「「おはようごぜぇます!歩夢坊ちゃん!」」」」」

 

 顔を洗い、居間に移動すると野太い男たちの声が響く。――そう、集英組のヤクザさんである。てか、俺っていつの間に“坊ちゃん”になったんだよ……。つーか俺は先に出ないと、転校初日の挨拶回りしなくちゃいけないし。

 椅子に座り、眼前の箸を取って用意してくれた飯を食い終わった俺は、食べ終わった食器を厨房で洗い、食器を元の場所に戻して居間に戻る。

 

「俺は先に出るな」

 

「て、てめぇら整列しろ!歩夢坊ちゃんの送り出しだ!」

 

「「「「「へい!」」」」」

 

 ヤクザさんの皆はそう言い、席を立ってから襖までの道程を作るのだった。

 

「行ってらっしゃいませ!歩夢坊ちゃん!」

 

「「「「「行ってらっしゃいませ!」」」」」

 

「お、おう。行って来ます」

 

 そんな事があり、俺は鞄を持ち、集英組を出て凡矢理高校に向かうのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~職員室~

 

「これから一年間、よろしくお願いします」

 

 俺は職員室に顔を出し、編入するクラスの先生に挨拶をする。

 

「担任の日原教子だ。神埼は、そう畏まらなくていいぞー」

 

「了解です。キョーコ先生」

 

 その時、勢い良く扉が開かれ、金髪美少女が俺の隣に立つ。

 

「おおー、ギリギリだったな桐崎」

 

「お、遅れてごめんなさい」

 

 そう言った彼女の名前は、桐崎千棘。アメリカから転校してきた、日本人とアメリカ人の両親を持つハーフだそうだ。

 ともあれ、キョーコ先生の後を追い、職員室を出て編入するクラスに向かう、俺と桐崎さん。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~一年C組、教壇上~

 

「初めまして、神埼歩夢です。これからよろしくお願いします」

 

「初めまして、アメリカから転校してきた桐崎千棘です。母が日本人で、父がアメリカのハーフですが、日本語はバッチリなので気軽に話しかけて下さいね」

 

 淡白に自己紹介を終わらせる俺と、にっこりと微笑み終わらせる桐崎さん。

 とまあ、無事に自己紹介が終わると思ったのだが――、

 

「「あ――――――ッッ!!」」

 

 互いに、桐崎さんと楽は右手人差しを差し合う。つか、登校中に飛び膝蹴りって……楽、ドンマイ。つーか、指を差し合うのは止めようね……。

 それから距離を縮めて痴話喧嘩?を始めるが、楽が言った「猿女」が決定打になり、楽は桐崎さんに右手で殴られ、後方に飛ばされた。ともあれ、俺はキョーコ先生に指定された席に腰を下ろした。席は、真ん中の列の最後尾だ。で、隣を振り向くと、茶髪で左側のサイドの髪が長い、アシンメトリーな髪型が特徴の女の子と目が合い、俺は目を丸くする。

 

 

 

 

「……え?さ、咲ちゃん(・・・・)

 

「……ゆ、ゆ-君(・・・)、だよね?」

 

 ――――――そう。俺が言った“咲ちゃん”の本名は小野寺小咲。俺が小学生高学年まで、かなり仲良くしていた女の子だ。



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サガシモノ

序盤の投稿はペースが守れる感じなんですけど、後半から落ちる舞翼です。
では、どうぞ。


 ホームルームが終了し、俺と咲ちゃんは教室のベランダに出る。

 

「ひ、久しぶりだな。咲ちゃん」

 

「う、うん。ひ、久しぶりだね。ゆー君」

 

 手摺を握り、体重を預ける俺と咲ちゃんの会話はぎこちない。いやだって、アニメのような再会なんて予想外じゃんか……。俺、誰に言ってるだろ。

 

「じゅ、十年振りだよね。わたしとゆー君」

 

「そうだな。咲ちゃん、昔の面影があったからすぐにわかったよ」

 

「それはこっちもだよ。ゆー君も、全然変わってない。ほぼ昔のまま」

 

 「も、もちろん良い意味でだよ」と咲ちゃんは語尾に付け加えた。んで、俺は「そっか」と返事を返す。

 

「……楽しかったな、二人で遊んだ時間」

 

「も、もちろん、わたしもだよ。ゆー君との共にした時間は、わたしの宝物だから……」

 

 暫し、俺と咲ちゃんの間には沈黙が流れる。

 その沈黙は“気まずい”沈黙ではなく、“心地よい良い”沈黙だ。

 

「……ねぇゆー君。これのこと覚えてる?」

 

 咲ちゃんが首にかけている、月形が括り着けてある銀色のネックレスを右手で取り、右手掌に乗せて右手を差し出す。

 

「覚えてるよ。てか、まだ持っててくれたのか。もう、捨てたのかと思ってた」

 

「そ、そんなこと絶対しないっ!わ、わたしの宝物だもんっ!」

 

「さ、咲ちゃん、声が大きい」

 

 咲ちゃんは、顔を徐々に朱色に染める。てか、昔の咲ちゃんから考えると、こんなに声を張り上げるのは珍しい。でもそうか、咲ちゃん、これも覚えてたのか。

 

「今まで持っててくれてありがとう、咲ちゃん」

 

「ううん。あの時、ゆー君が譲ってくれた物だもん。当然だよ」

 

 「そっか」と言い、俺は苦笑したのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~一年C組、教室内部~

 

「ねぇるりちゃん。るりちゃんは、歩夢のこと聞いてたりするの?」

 

 るりの元に歩み寄った集は、るりにそう問いかける。

 

「ええ、歩夢君のことは少しだけ聞いてるわ。……でも、渾名で呼び合うのは、予想外だったわ」

 

「それねぇ、オレもビックリだよ。これを気に、二人の恋が始まったりして」

 

「それはどうでしょうね。でも、小咲が幸せになるのなら、私は口を挟むことはしないわ」

 

 その時、小咲が声を上げる。

 

『そ、そんなこと絶対にしないっ!わ、わたしの宝物だもんっ!』

 

 この声に目を丸くする、るりと集。

 

「……今の小咲、始めて見たわ」

 

「……あの小野寺が声を上げるとはねぇ」

 

 こうして、歩夢と小咲を見守っていこう。と決めた集とるりであった。

 それからチャイムが鳴り、急いで教室に入った小咲と歩夢は、授業の準備をするのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 一限目が終わり、俺は楽に呼ばれた。

 

「あ、歩夢。オレのペンダント、どっかで見なかったか!?」

 

 俺は「ペンダント?」と頭捻った。

 

「いつも大事に首から下げてた金色のやつか?」

 

 楽から聞いた話だと、小さい時から肌身離さず大切に持っている宝物らしい。

 何でも、十年前に出会った女の子から貰ったと言ってたような。てか、十年前か。俺と何か被るような?被らないような?ま、気にしてもしょうがないか。

 

「ああ。……きっとあの時だ」

 

「もしかして、飛び膝蹴りを食らった時?」

 

「あ、ああ。あの時しか考えられない。オレは放課後ペンダントを探すから、歩夢は先に帰っていいぞ」

 

「いや、俺も手伝うよ。一人よりも、二人。だろ?」

 

「わ、悪い。じゃあ、放課後頼んだ」

 

「あいよ」

 

 俺が席に戻った時、楽は桐崎さんに人差し指を差し、又もや痴話喧嘩?を始めてしまったのであった。楽と桐崎さんは、仲が良いのか悪いのか、今一わからん。

 ともあれ、席に戻ると咲ちゃんが話かけてくれる。

 

「ゆー君。一条君かなり焦ってたけど、何かあったの?」

 

「ああ。楽の大事なペンダントが行方不明らしい。んで、今日の放課後から探すことになった」

 

「わ、わたしも手伝うよ。一条君も早く戻ってきて欲しいはずだもん。――――それに一条君の気持ち、わたしはよくわかるから」

 

 そんな事もあり、俺と咲ちゃんペア、楽と桐崎さんペアでペンダントを探すことになったんだが、一週間経過しても発見することが出来なかった。

 ともあれ、今日の放課後も探索中である。

 

「ゆ、ゆー君はさ、運命の出会いって信じる、かな?」

 

「どうだろうな。まあ、それに似た出会いならあるんじゃないか」

 

「……それって、わ、わたしたち見たいな?」

 

 咲ちゃんは、意を決してそう聞く。

 

「俺はそう思ってるけど。俺と咲ちゃん、運命見たいなもんだろ。十年後に再会なんてそうそうあるもんじゃないと思うからな。つーか、続きしよう」

 

「う、うん」

 

 この時、咲ちゃんの顔が真っ赤になっていたことに気付かなかった俺であった。

 そんな話をしながら、座りながら草を掻き分けていると、楽から聞いていた特徴がある金色のペンダントを発見し、俺はそれを手に取る。

 

「これか?」

 

「一条君から聞いてた特徴とも一致するし、これで間違えないと思うよ」

 

 俺は「そか」と言ってから立ち上がり、未だにペンダントを探している楽たちの元へ向かった

 だが、その途中で――、

 

「うるっせぇな!だったらもう探さなくていいから、どっか行けよ!」

 

 「楽。女の子に、それはダメだろ」と内心で俺は呟く。そして、桐崎さんは無言でこの場を去ってしまった。

 

「……楽。女の子に向かってそれは無いと思うぞ。――――てか、これで合ってるか?」

 

 そう言ってから、俺はペンダントを楽に見せる。

 

「あ、ああ。これだよ!このペンダントだよ!」

 

 楽は立ち上がり、俺の手からペンダントを取ろうとするが俺はそれを躱す。

 

「返してもいいけど、桐崎さんと仲直りするのが条件な」

 

「うっ……あれはゴリラ女が」

 

 楽は俺を再び見る。

 

「わ、わかった。ちゃんと仲直りするから」

 

「なら返す。桐崎さん、まだ学校に居ると思うから」

 

「あ、ああ。悪いな」

 

 そう言って、楽はペンダントを受け取り、校舎に向かって走って行った。

 すると、ごろごろと雷が鳴り、雨が降り出す。

 

「やべ。傘持ってきてねぇや」

 

「じ、じゃあ、わたしの傘に入る?……相合傘になっちゃうけど」

 

 俺の隣に立った咲ちゃんが、そう呟く。

 

「ん、大丈夫だよ。じゃ、行くか」

 

 咲ちゃんは「うん!」と返し、俺たちは下駄箱付近に置いた鞄を持ち、折り畳み傘を差して学校を後にする。ちなみに帰りは、俺が咲ちゃんを送ってから、借りた傘を差して集英組に戻ったのだった。




小咲ちゃんと歩夢君。もう恋人に近くね?と思う作者です。
でもまあ、ここから長い気がするんですけど。


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コイビト

「お、帰ったか歩夢。楽はどうした?」

 

 俺が家に帰り、靴を脱いで居間に入ると、そこには義父が立っていた。

 

「そろそろ帰って来ると思うけど」

 

「そうか。楽が帰ったら、歩夢もオレの部屋に来い。お前にも、第三者として立ち会ってもらうぞ」

 

 「第三者?」と疑問符を浮かべた俺だが、

 

「わかった」

 

 と、返事をするのだった。

 玄関に上がってから靴を脱ぎ、部屋に戻る。それから、楽が帰って来たのは十分後だった。聞いた話だと、桐崎さんと仲直りできたということ。

 ともあれ、義父の部屋入った楽が、

 

「で、何だよ親父。オレと歩夢に話って?」

 

「お前ぇらも小耳に挟んでると思うが、最近ギャングとの抗争があってな、それがいよいよ全面戦争になりそうなのよ」

 

 全面戦争。と聞き、楽は「戦争!って大丈夫かよ!?」驚愕の声を上げ、俺も内心では動揺していた。

 

「そこでだ!オレと向こうのボスと話し合った結果、戦争を回避する方法が見つかってな。しかも、それは楽にしかできないことだ」

 

 楽は「歩夢はどうなんだよ?」と聞いていたが、俺の場合は、血が繋がってないので無理らしい。んでも、見届け人としての影響は絶大ということだ。

 

「お、オレにしかできないことって何だよ?」

 

「ああ。向こうにも、お前ぇさんと同じ歳のお嬢さんが居るらしんだが――――そこでだ、楽。お前ぇには、その子と恋人同士になってくんねぇか?」

 

「は?…………はぁ――――ッ!!」

 

「なーに、フリをするだけでいいんだ。互いの組の二代目が恋人とあっちゃ、若ぇ連中も水差すわけいかねーだろ?」

 

 なるほどねぇ。戦争回避の為の、ニセコイって所か。……でも、俺にも少しは関連がありそうなんだよなぁ。それが何なのかは未だにわからないけど。

 

「悪ぃが、こっちも命がかかってっからな。泣きごと言ってもやってもらうぜ」

 

 義父は部屋を出てから奥の襖に向かって「入ってくれ」と口にする。既に、楽の恋人のフリをするギャングの二代目は到着してるらしい。

 

「さぁ、この子がお前ぇの恋人になる――」

 

 襖が開かれ、現れたのは二人。一人は、男性で父親なんだとわかるが……女の子の方は、見知った顔である。

 

「桐崎千棘ちゃんだ!」

 

 楽の反応は、

 

「へ?」

 

 と、口をポカンと開けるのだった。つーか内心で「俺じゃなくてホントによかったぁ」と思う俺であった。

 そして俺は、目を見開くことになったのだ。

 

「あ、アーデルト(・・・・・)、さん?」

 

 そう。桐崎さんの父親、アーデルトさんは、俺がアメリカ(・・・・)に在住していた時に、お世話になっていた人なのだ。

 

「やぁ歩夢君。数年月ぶりかな」

 

「あ、はい。ご無沙汰してます」

 

 俺が一礼すると、楽と桐崎さんが目を丸くして、

 

「「え――――――ッ!?」」

 

 義父は驚きながら、

 

「何だ、歩夢はアーデルトと知り合いだったのか」

 

「ま、まあ。アメリカで暮らしをしてた時、親身にしてくれた人だよ」

 

 まさか、集英組で再会できるなんて予想外だけど。

 

「ほぉー。世の中、面白ぇこともあるんだなぁ」

 

 確かに、義父の言う通りである、アーデルトさんとの再会や、十年越しに咲ちゃん(小咲)との再会など、世の中何が起こるかわかるもんじゃない。ということなのだろう。

 

「つ、つーか。お前、ギャングの娘だったのか……!?」

 

「あ、あんたこそ……ヤクザの二代目って……」

 

「いやだから、指を差し合うのは止めろよ……」

 

 楽と桐崎さんは人差し指を差し合い、俺は突っ込みを入れるのだった。

 

「何だお前ら。面識があったのか?なら話は早い。改めて紹介だ、楽、歩夢」

 

 義父は、楽と俺を交互に見て呟く。

 

「こいつがギャング組織“ビーハイブ”のボス、アーデルト・桐崎・ウォグナーと桐崎千棘お嬢ちゃんだ」

 

 アーデルトさんは、俺と楽に一礼してから口を開く。

 

「君のことはよく知ってるよ、よろしくね楽君。歩夢君も、またよろしくね」

 

「こちらこそ、お世話になります」

 

「あ、どーも……じゃなくて!」

 

 楽は声を荒げる。

 

「ムリムリムリ!こいつと恋人なんて、絶対ムリ!」

 

「そ、そうよ!パパは知らないでしょうけど、私たち学校ではすっごく仲悪いのよ!?なんで、こんなもやし男と!」

 

「んだと、コラ!そうだぞ親父!こんな奴と上手くいくわけねぇって!」

 

 それからも口論をするが、義父が、

 

「なんだお前ぇら、仲良いじゃんか」

 

「「良くない!」」

 

 と声を合わせる、楽と桐崎さん。

 

「……しかしなぁ。戦争を止める手にゃ、もう他に手はねぇ……それに」

 

 その時、突然壁が破壊され、扉が吹き飛んだ。

 

「見つけましたよ、お嬢……。どうやら、集英組のクソ共がお嬢を攫ったというのは本当だったようですね……」

 

 眼鏡をかけ、髪をバックに整えたスーツを来た奴が乗り込む。その後ろには多数の部下が居る。

 

「く、クロード!」

 

 桐崎さんがそう叫ぶ。

 

「ご安心ください、お嬢。お嬢を守るのがビーハイブの幹部としての私の役目。不肖このクロードがお迎えに上がりました」

 

 この騒ぎを聞き付けた、集英組の皆さんも到着する。

 

「おうおう、ビーハイブの大幹部さん……。こいつぁ、ちょいとお痛が過ぎやしやせんか……?今までは手加減してやって来たけんどのぅ……今度という今度は許さへんぞ」

 

 そう言う、竜さん。

 

「ふん、猿どもが……お嬢に手を出したらどうなるか教えてやる」

 

「やってみろゴラァ……坊っちゃんたちに手を出したら、ビーハイブに関わるもん二度とお郷の土、踏めんようにしてやらァ」

 

 正に一色触発、このままでは戦争が起きてしまうのは時間の問題だろう。

 俺は溜息を吐き、殺気(・・)を醸し出し、低い声で、

 

「……お前ら、少し黙れ……」

 

「……あ、歩夢、坊ちゃん……」

 

「……き、貴様。この殺気は……」

 

 クロードさんが言うように、俺の殺気は海外にいた十年間で身に付けたものだ。

 俺は殺気を霧散させ「やっと黙ったか」と嘆息する。

 

「いいか、よく聞けよ。桐崎千棘と一条楽は恋人同士だ。そんな中、戦争を起こすのか?なぁ義父、アーデルトさん」

 

 クロードさんは「ぼ、ボス」と声を上げる。この場に居ることに気付かなかったのだろう。

 そして、それぞれの親父が、楽と桐崎さんを肩を密着させる。

 

「そうだよ。僕らが認めた恋人さ」

 

「こいつら、超ラブラブの恋人同士だしな」

 

「見届けた、神埼歩夢だ。んじゃ義父。俺はここら辺で」

 

「ああ。助かったぜ、歩夢。後は任せな」

 

 と言うことなので、俺はこの場を離れたのだった。

 そんな事もあり、縁側で月を眺めていたら、俺のスマホが震えた。ポケットに手を突っ込み、スマホの画面を確認する。そして画面に表示された名前は、

 

 ――――――奏倉羽(かなくら ゆい)

 

 俺が中国(・・)に居た時にお世話になった女性だ。

 ともあれ、俺は通話ボタンをタップし、通話口を右耳に当てる。

 

『もしもし、歩夢ちゃん。日本はどうかな?』

 

「楽しいよ。旧友とも会えたし、集英組の皆も良くしてくれるから。羽さんは色々と大丈夫?」

 

 羽さんとは、チャイニーズマフィア、叉焼会(チャーシューかい)首領(ドン)のことだ。

 俺が中国に居た時は、羽さんの傘下で仕事をしていたのだ。

 

『大丈夫……って言いたいと所だけど、ちょっぴり寂しいかな。歩夢ちゃんが中国に居た時は、いつも一緒だったから』

 

「……そう。じゃあ、何か話そうか」

 

『うん!楽しみ!歩夢ちゃんの話』

 

「いやいや、そんなに楽しいものじゃないと思うけど」

 

 俺は「変わらないな、羽さん」と内心で呟きながら、凡矢理高校であったことや、旧友と再会したことなどを話し始めたのだった。




歩夢君は、中国とアメリカで過ごした設定です。だからまあ、羽姉やアーデルトと面識があるんですね。

追記。
~千棘の義弟~の話の流れを似せてる感もあるかもです。


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タイヨウとツキ

短いです。


 次の日の朝。

 俺は布団から出て上体を起こし、伸びをする。それから洗面所の向かい、朝の準備を整えてから居間に行き、厨房で朝飯を作ってから準備を整え指定の椅子に座り、準備した箸で朝食を摂る。

 

「(今日は休みだし、街をぶらぶらするか。引っ越してから、まだ一ヵ月も経過してないし)」

 

 ということなので、俺は朝食を食べ終えると厨房の流しに食器を持っていってから、食器を洗ってから玄関に移動し、靴を履いてから集英組を出てから公園に向かうのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~公園~

 

 公園に到着すると、ベンチの椅子には楽と桐崎さんが座って何かを話していた。てか、楽が家に居なかった理由は、桐崎さんとのデートだったらしい。それにしても、昨日の今日でデートとは以外である。

 

「(……まあ、クロードさんがセッティングした感がありそうだけど)」

 

 俺は内心でそう呟く。

 まあでも、昨日の演技で疑うのは、仕方ないのかも知れない。……つーか、集英組とビーハイブ全体は、楽たちのデートを着けてたのね……。朝のもぬけの空の我点がいったわ。

 

「あれ、ゆー君?」

 

 ベンチを見ていたら、後方から声がかけられる。声の主は、咲ちゃんで間違いはないだよう。ともあれ、後方に体を向ける俺。

 

「あ、咲ちゃん。どこかに買い物」

 

「う、うん。行って来た帰りかな」

 

 俺は「なるほど」と頷く。

 確かに、咲ちゃんが肩からかけているバックの中は、それなりの量の食品が入っている。

 

「んじゃ、家まで手伝うよ」

 

「だ、大丈夫だよ」

 

「いや、構わないから。行こう」

 

 俺は、咲ちゃんの肩から買い物バックを取り、

 

「もう、強引なところは変わってないよね」

 

 と、苦笑する咲ちゃんであった。

 

「まあな。行こう」

 

「ふふ。そうだね」

 

 歩いていると、咲ちゃんが質問する。

 

「さっき一条君と桐崎さんを見たんだけど、二人は付き合ってるのかな?」

 

「うーん…………咲ちゃんにならいっか」

 

 俺は、楽と桐崎さんの状況を説明する。

 その間、咲ちゃんは百面相をしてました。まあ、行き成り“戦争”って言われたら、そうなるのも必然なのかも知れない。

 

「そ、そんな大事なこと、わたしに話しても大丈夫なの?」

 

「うーん。微妙なところだけど、楽たちには事情を知っている人が必要になるかも知れないし、咲ちゃんは他言しないだろ?」

 

「う、うん。そうだけど――――あ、わたし行きたいところがあるんだけど、ゆー君付き合ってくれる?」

 

「ん、いいけど。何処に行くんだ?」

 

「着いたお楽しみ、かな」

 

 ともあれ、その場に向かって歩き出す俺と咲ちゃんであった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 咲ちゃんが言っていた“秘密の場所”に到着すると、そこからは凡矢理市が見渡せる。今が夕方ということもあり、空がオレンジの絨毯のようだ。まあ、俺の比喩表現かも知れんが。

 

「こんな場所があったなんてなぁ」

 

「偶々見つけた場所なんだ。綺麗だよね」

 

「否定はしない。話は変わるんだけど、俺と咲ちゃん名前で呼び合わない?」

 

 渾名でも構わないが、何となく名前で呼びたいからである。

 

「う、うん。いいよ……あ、歩夢君」

 

「あ、ああ。こ、小咲」

 

「ち、ちょっとだけ恥ずかしいね」

 

「ま、まあ。でも、すぐ慣れるだろ」

 

 小咲は「そういえば」と言ってから、バックから“小さな箱”を取り出す。それを開けると、そこには太陽形が括り着いて、銀色のネックレスがあった。

 

「これ、歩夢君に似合うと思って、今日の帰りにアクセサリーショップで購入しちゃったんだ。……ホントは、学校で渡そうと思ったんだけど、貰ってくれるかな?」

 

「あ、ああ。頂くよ」

 

 俺は小咲から箱を受け取り、箱を開けてからネックレスを首にかける。

 

「似合う?」

 

「うん、似合ってる。ふふ、太陽と月って、対になってる感じだね」

 

「だな」

 

 うむ。このネックレスは、いつもかけて於こう。

 高校生だし学校にかけていっても問題ないだろう。

 

「さて、そろそろ帰るか。送ってく」

 

「じゃあ、お願いしよっかな」

 

 このやり取りをしてから、バックを持った俺と小咲は“和菓子屋おのでら”に向かって歩き出した。

 そんな中、俺と小咲を輝くような夕陽が照らすのだった。




小咲ちゃんと、歩夢君の一幕でしたね。


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オモイデ

一週間以内に投稿を頑張ろう。と思っている舞翼です……守れたらいいなぁ(切実)
では、どうぞ。


 翌日。

 俺と楽は一緒に家を出て、通学路を通り学校に向かう。

 

「はぁ……。一昨日は酷い目に遭ったぜ」

 

「まあうん、大変だったな」

 

 俺がそう言うと、楽の片眉が僅かに上がる。

 

「……他人事だと思って、つか変わってくれよ」

 

「いや、俺は居候の身だし、それに一条家の血は流れてないから」

 

 「だよなぁ」と項垂れる楽。

 通学路を歩いていたら、電柱の傍らに桐崎さんが立っていた。俺から見るに、楽の登校を待っていたのだろう。ともあれ、その場に歩み寄る俺と楽。

 

「おはよう、ダーリン。歩夢」

 

 お、おう。俺を名前呼びですか。まあいいけど。

 

「おはよう、ハニー……ずいぶんやつれてんな」

 

「……一昨日のデートの質問攻めにあって」

 

「……あ、ああ。お前もか」

 

 がっくりと肩を落とす桐崎さんと楽。

 

「質問攻め、凄かったよな……。俺、ちょっと引いたし」

 

 俺がそう言うと楽は「見てるだけの薄情者!」と俺に言っていた。

 

「あ、小咲には本当のことを話したから、サポートはしてくれるはずだぞ……悪いな。独断で判断して」

 

「ほ、本当に!?やっぱり、歩夢はもやしより頼りになるわね!」

 

 桐崎さんは、肩を上げてから笑みを浮かべた。やはり、事情を知りサポートしてくれる者の存在は大きいのだろう。

 

「んだとコラ!……まあ、いいや。休まる場所は、学校しかないってことか」

 

「そうね。てか、これを三年?冗談でしょ?」

 

「でも、恋人のフリをしないと戦争だぞ」

 

 楽と桐崎さんは溜息を吐き、

 

「「……だよね」」

 

 と、声を合わせるのだった。

 そんな会話をしながら、学校に到着し、下駄箱で上履きに履き替えてから一年C組に向かう。んで、教室の扉を開き、俺が先に入る。

 

「おはよう、歩夢君」

 

「おはよう、小咲」

 

 教室に入り、此方にやって来た小咲と挨拶を交わす。

 

「座ろう」

 

「うん。――るりちゃん、また休み時間に」

 

 「わかったわ」と、るりちゃんと呼ばれた女の子が返事をする。見た感じ、小咲がかなり気を許している女の子かも知れん。と考えながら席に着席した時、

 

『おおっとー!?一条と桐崎さんじゃねぇかーっ!』

 

 遅れて教室に入って来た楽たちを見て、歓声が上がる。

 

『おーいみんな!二人がきたぞーっ!』

 

『よっ!待ってました!』

 

『おめでとー!お前ら付き合うことになったんだってなっ!』

 

『末永くお幸せにーっ!』

 

 クラスメイトたちの言葉を聞いた所、一昨日デートしたことが露見してたらしい。てか、クラスの情報網怖っ!クラスメイト一人に露見したらこれって……。

 んで、楽は誤解を解こうと思っていたが、外の木から見ていたクロードさんを発見し、

 

『……そ、そーそ。今のは誤解だよ。オレたちはカップルじゃなくて、“超ラブラブのカップル”だっつーの~~!』

 

 今の発言で、楽と桐崎さんは学校でもニセコイは継続ということになった。……頑張れ。とかしか言えない俺であった。

 俺と小咲は対面になり、顔を合わせた。

 

「なんつーか、すぐバレたな」

 

「う、うん。早かったね」

 

「だなぁ。デートから二日しか経ってないのにな。ま、できる範囲でサポートできたら頼む」

 

「わ、わかった」

 

 さすが、頼りになる幼馴染です。

 授業を受け放課後になり下校し、俺と小咲は“秘密の場所へ”とやって来ていた。何でも、あの時の電話で“旧友”のことを“羽さん”に話した所「歩夢ちゃん。その子と話したいな」ということになったので、小咲の承諾をもらい今に至る。つか、無言の“圧力?”のようなものが通話越しから伝わってきて怖かったです、はい……。

 

「じゃあ、かけるな」

 

 小咲が頷いたのを確認してから電話をかけた所、二回の着信音で繋がった。

 

『もしもし、歩夢ちゃん。どうかしたの?』

 

「前“旧友(小咲)”と話したいって言ってたから、電話したんだよ。てか、今変わるよ」

 

 俺は「電話が終わるまで離れてるな」と言って、スマートフォンを小咲に渡して、この場から離れるのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「も、もしもしお電話変わりました。小野寺小咲です」

 

『わたしは奏倉羽、よろしくね。――といっても、わたしと小咲ちゃん歩夢ちゃんは、初めましてじゃないだけどね』

 

 羽さんは『歩夢ちゃんは、わたしの幼少期は覚えてないらしいけどね』と語尾に付け加え苦笑した。そしてわたしは、ある記憶に行き着いた。羽さんと接点があるとしたら“あのこと”しかない。

 

「も、もしかして――天駒高原(・・・・)、ですか」

 

『正解!ま、わたしは三日しか一緒に居れなかったんだけどね。小咲ちゃんは?』

 

 羽さんが聞きたいことは、どれくらい歩夢君と一緒に居たか?ということだろう。

 

「えっと、小学生に上がるまでです。正確な年数はわかりませんが、約五年といった所でしょうか」

 

『ふふ。なら、わたしとの記憶が薄れるのは納得かな。それにしてもずるいなぁ、小咲ちゃん。わたしも同じくらい居たかった』

 

「で、でも。歩夢君から聞いた話だと、五年間中国で過ごしてたって聞いてますよ」

 

 これで、五年対五年だ。歩夢君と一緒にいた時間は変わらないだろう。

 わたしは幼少期の歩夢君を知っていて、羽さんは成長期の歩夢君を知っているということになる。

 

『ふふ。何の勝負してるんだろうね、わたしたち』

 

「そ、そうですね。でもこの期間で、わたしの心は歩夢君に奪われちゃいました」

 

『わたしも同じく、かな』

 

 『「歩夢(君)(ちゃん)タラシだね」』と言って、わたしと羽さんは苦笑した。でも、今は幼馴染の関係でいいかなぁ。と思ってるわたしだけど。

 

『わたしも日本に行きたいなぁ。てか、小咲ちゃんとお茶したいよ』

 

「そ、その時はお願いします」

 

 わたしの予想だと、近い内にそれが叶いそうな気がする。

 

『小咲ちゃん、敬語は外そうよ、初めましてじゃないんだし』

 

「わかり……わ、わかった」

 

 でも、名前は“羽さん”呼びで妥協してもらった。さすがに、呼び捨てはハードルが高いです。

 それから少しだけ、わたしの周囲にあったことや、羽さんの身近で起きていることを話した。

 

『じゃあ、そろそろ切るね。またお話ししたいね』

 

「ん、そうだね。連絡先は、歩夢君から聞けばいいのかな?」

 

『うん、それでいいと思うよ――またね、小咲ちゃん』

 

「またね。羽さん」

 

 そう言って、スマートフォンの通話終了ボタンをタップし、わたしたちの通話が終わった。

 歩夢君は、それを見てからわたしの元まで歩み寄る。

 

「どうだった?羽さんは」

 

「とても優しい人、きっと心も暖かい人だと思う、羽さんは」

 

「そっか。――んじゃ、帰るか」

 

 歩夢君が言うには「羽さんの連絡先は帰ってから送るよ」ということだ。

 

「ん、帰ろう」

 

 そう言ってわたしたちは、“秘密の場所”を後にしたのだった。




歩夢君と小咲ちゃんは、歩夢君の転校初日に連絡先を交換してます。

追記。
羽姉は、小咲ちゃんのことは、歩夢から事前に聞いてます。
小咲ちゃんも、羽姉が中国に在住してることを知ってますね。



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ダンガンツアー

評価がついてテンションが上がっている舞翼です。てか、バーが赤!執筆意欲が増しますね。


「小咲、忘れ物はないか?パスポートとか?」

 

 小咲は荷物を確認し、俺も念の為確認した。

 そして現在、俺と小咲は私服姿で成田空港に赴いていた。何故かと言うと――――今から中国まで弾丸ツアー(・・・・・・・・・)なのだ。これは、小咲と俺、羽さんと、事前に計画していた旅行である。ちなみに、今日は土曜日である。

 

「うん。大丈夫だよ」

 

「俺も大丈夫だ。じゃあ行こうか」

 

 俺と小咲は貴重品が入っているバックを持ち、その他の荷物はエナメルバックの中に詰め込み、ターンテーブルに預けた。それから、係員にチケットを見せ、ターミナルを通り飛行機内部に乗り込む。ちなみに、俺の座席はA-1で小咲はA-2だ。

 

「それにしても、小咲のお母さんはよく許可してくれたよ」

 

 俺のことを知ってるとはいえ、少し緩くないか。と思ってしまう。

 

「そうなのかなぁ。歩夢君の名前を出したら、すんなり許可がもらえちゃったんだよ」

 

「そ、そうなのか。俺、挨拶しといた方がいいのかもなぁ」

 

「――わ、わたしをくださいって?」

 

 顔を桜色に染める小咲。……てか小咲さん、結婚挨拶とか早すぎるからね。――つーか今思い出した。羽さんとは似た約束を交わした気がする。宴会で、酒を飲まされてからあった出来事なので、記憶が曖昧なんだが。

 

「い、いや、それはどうかな。…………ん?てことは。小咲は、俺と結婚しても良いと思ってる?」

 

「え、えーと……――うん」

 

「そ、そうか。――それにしても結婚かぁ。考えたことなかったなぁ」

 

 てか、行き成り結婚って言われても、色々なことを飛ばしてるような気もする。

 シートベルトを着け、そんなことを考えていたら飛行機は離陸し、大空に飛び立つ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 数時間が経過し、アナウンスが流れると除々に飛行機は高度を下げていく。空港に着陸し完全に停止すると、到着を告げるアナウンスが流れる。

 ともあれ、俺はシートベルトを外し、立ち上がり伸びをする。

 

「着いたぞ、小咲」

 

「ん、わかった」

 

 それから小咲も立ち上がり、俺と参照していたバックを肩にかけてから、前から順番に接合部を通りターミナルに移動する。それから預けていた荷物をターンテーブルから受け取り、ターミナルを出たのであった。

 空港を出て指定された場所に向かっていたら、指定場所で俺と小咲を見つけ、両手を振っている羽さんの姿。

 俺と小咲が羽さんも元まで歩み寄ると、羽さんはにっこりと笑い、

 

「遠路はるばる御苦労さま。歩夢ちゃん、小咲ちゃん」

 

「お、おう」

 

「う、うん」

 

 そんなやり取りをしてから、俺と小咲は、羽さんの案内の元叉焼会(チャーシューかい)の城?に向かった。

 小咲にこちら側のことを説明した所――――「わたしは全然気にしないよ。そっち側に足を踏み込む覚悟はあるしね」ということ。俺はそれを聞き、胆座りすぎでしょ。と思った記憶は新しい。

 城に入り、羽さんの部屋に移動している時周囲には、かなり高価な装飾品が飾ってあった。俺がいた頃にはなかったものである。ともあれ、部屋に入った所で、俺と小咲は羽さんに勧められたソファに座った。

 

「で、羽さん。叉焼会(チャーシューかい)は安定してきたの?」

 

「安定はしたよ。やっぱり、歩夢ちゃんの五年間が大きかったよ」

 

 俺は「なるほど」と頷き、

 

「今までのことを考慮すれば、統一には半年強って所か」

 

「ん。統一が終われば、日本に帰れるから待っててね」

 

 羽さんがこう言うと、小咲が口を開く。

 

「じゃあ、帰ってきたらずっと日本に?」

 

「わたしはそのつもりでいるんだけど、今の所どうなるかは未定かな」

 

 羽さんは「歩夢ちゃんたちとずっと一緒に居たいけど」と語尾に付け加え、微笑んだ。

 

「さ。今後の話は後にして、歩夢ちゃんたちは夜の便で帰っちゃうんでしょ?」

 

 「「そうだ(な)(ね)」」と頷く俺と小咲。

 

「じゃあさ、三人でデートしよう!」

 

「……いや、買い物って言った方がよくないか?傍から見ると俺、二股野郎になっちゃうんだけど」

 

 まあ、俺の屁理屈になっちゃうんだろうけど。

 羽さんは「両手に花ってことでいいと思うけど。どうかな、小咲ちゃん?」って言ってるし。

 

「ん、わたしは構わないよ。それに歩夢君、そこは男の子としての甲斐性を見せる所だよっ」

 

 小咲は、羽さんの提案に何の不満も無いということ。

 

「お、おう。善処する」

 

 なんつーか、上手く言い包められた感じになったけど、まあいいか。

 んで、俺たちは立ち上がり、デートの準備をしてから部屋を後にした。ちなみに、デート場所は中華街になった。




歩夢君、リア充爆発しろ。的な感じになってますね(笑)
それにしても、未成年で弾丸ツアーとか凄いです。んで、え?そこ違うでしょ、って部分があったらごめんなさい。
後、羽姉と小咲はヒロイン確定ですね。
ハーレムになるのかなぁ……微妙な所ですね。てか、既に原作崩壊ですね(笑)


では、次回もよろしく(@^^)/~~~


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ダンガンツアー#2

 俺は、小咲と羽さんの間に挟まれるように中華街を歩いていた。

 

「わ、わたし、あれ食べたいっ」

 

 そう言った小咲が指差した露店は小龍包(しょうろんぽう)屋だ。確かに“中国と言ったら”という品かも。

 ともあれ、俺と小咲、羽さんは小龍包(しょうろんぽう)屋に向かい、俺が親仁に注文する。ちなみに、俺は中国語と英語習得済みなので、日常会話で困ることはない。

 

「あ、歩夢君。いつの間に中国語を?」

 

 小咲が俺にそう聞く。

 

「中国に居た頃に教えてもらったんだよ。……でもあれは苦い思い出だな」

 

 殺気の出し方や、戦闘訓練の享受もしてもらったけど。

 すると、羽さんが「ふふ」と笑みを零す。

 

(イエ)ちゃん『粋のいい弟子ができたよ』って喜んでたもんね」

 

「……そ、そうらしいね」

 

 師匠の修行(勉強)は、物理的にも精神的にも追い詰められるので、もう勘弁である。

 そう話していたら、注文していた小龍包(しょうろんぽう)ができたらしく、注文した三つの小龍包(しょうろんぽう)を受け取り、俺が代金を払う。ちなみに三つの種類は、豚、鶏、野菜である。

 割り箸を使って一口食べると、薄皮の中に入った具と熱いスープが洩れ出す。

 

「歩夢ちゃん。――あーん」

 

「わ、わたしも――歩夢君、あーん」

 

 小咲と羽さんは、紙皿の上に乗った一口サイズの小龍包(しょうろんぽう)を割り箸で取り、俺の口許までもってくる。

 

「お、おう」

 

 そう言ってから、俺は口を開けて小龍包(しょうろんぽう)を食べ、飲み込んでから、

 

「美味いよ」

 

 そう感想を言ってから、俺と小咲、羽さんはお互いに食べさえあいながら間食した。……まああれだ、傍から見れば“リア充爆発しろ”的な光景なのだろう。証拠に、男子からの嫉妬の眼差しが凄い……。

 それから、お腹を満たした所で中華街を回ることになった。

 

「(それにしても、日本の横浜中華街と、中国の中華街はあんまり変わらないなぁ)」

 

 まあ、そう似せて建設したからかも知れないけど。

 最後に、お土産屋である。店内には、中国限定のストラップやお菓子、文具などが陳列されていた。取り敢えず、集英組にはお菓子詰めを買っていけば問題ないだろう。

 

「歩夢ちゃん、小咲ちゃん。お揃いしようよ!」

 

 羽さんが手にしたのは、ミサンガである。てかミサンガって、括りつける腕によって意味があるんだっけ?

 ともあれ、羽さんが手にとったミサンガは、ピンク色と水色、黄色で組み合わさったミサンガである。

 

「うん!」

 

「まあいいけど」

 

 んで、羽さんの話によると、ミサンガは利き腕に括りつけよう。ということ。んで、俺が代金を払い、土産袋を片手に購入したミサンガを利き腕に括りつけた。ちなみに俺と小咲で、星形が括り着いた銀色ネックレスを選び、それを羽さんに送った。小咲が言うに「ミサンガをお揃いにするなら、ネックレスもだね!」ということらしい。

 お土産を選び終わり時間を確認すると、俺と小咲が予約した便の時間に差し迫っていた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~中国空港~

 

 バックを肩にかけた俺と小咲は、羽さんとゲート入り口で向かい合っていた。

 

「羽さん。そろそろ時間、だよ」

 

「そうだぞ、羽さん。てか、最期の別れじゃないんだから泣きそうになるなよ」

 

「……やっぱり、今日帰っちゃうの?」

 

 甘えるような、悲しいような声音で、羽さんが問う。

 

「そ、そうだな。つか、明後日学校だし」

 

 「……そっか」と言って、羽さんは顔を伏せた。

 

「ゆ、羽さん。また電話するからっ。め、メールでも構わないよっ」

 

 小咲も、顔を伏せた羽さんを見てしどろもどろである。

 羽さんは顔を上げ、

 

「……ん。なら我慢する」

 

「じゃあ、そろそろ行くね――わぷっ!」

 

 小咲の後半の声は、羽さんが抱きついた時に無意識に洩れたものだ。

 

「またね、小咲ちゃん」

 

「うん。羽さんも元気で」

 

 そう言ってから、羽さんと小咲は抱擁を解き、次いで、俺の胸の中に羽さんが飛び込んでくる。

 俺は優しく抱きしめ、

 

「またね、歩夢ちゃん」

 

「羽さんも元気で」

 

 それから、俺と羽さんは抱擁を解いた。そして俺と小咲は踵を返しゲートに入って行く。その間、後方を見ながら片手を振っていたのは言うまでもない。こうして、俺と小咲の弾丸ツアーの幕が閉じた。




次回から、本編に戻る予定です。でも、どこか飛ばす所が出てくるかも。

追記。
帰りの際、歩夢君たちはエナメルバック等をターンテーブルに乗せてます。


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ベンキョウ

 翌日の学校。

 わたしとるりちゃんは、凡矢理高校の屋上へ柵に両腕を乗せながら、花壇付近で会話をしている一条君と桐崎さんを眺めていた。

 それから体を柵から離し、るりちゃんと向かい合う。

 

「小咲。私に用って何かしら?」

 

 わたしは両腕を柵から離し、るりちゃんと向かい合ってから、事前に準備していたある物を手持ちの鞄から取り出す。

 

「ん。これ、るりちゃんにお土産」

 

 わたしがるりちゃんに手渡したのは、中国で購入した貝殻形が括り着いているストラップだ。

 るりちゃんは、ストラップに記載された製造場所を見て思案顔をする。

 

「……小咲、中国に行ってたの?」

 

「うん。先週の土日を使って行って来たんだ」

 

 るりちゃんは、目を丸くする。

 

「……小咲だけでかしら?」

 

 「歩夢君と一緒にかな」と答えると、るりちゃんはその場で硬直してしまった。確かに、中学時代のわたしを知ってるるりちゃんならば、わたしが男の子と海外旅行。という光景は、衝撃だったのかも知れない。

 

「小母さんが、よく許可を出したわね」

 

「わたしもそう思った。でも、お母さんは歩夢君をよく知ってるし、信頼もしてるんだよ」

 

 「幼馴染だしねっ」と、わたしは語尾に付け加える。てことは、わたしは羽さんとも幼馴染ということになる。

 このことも話した所、るりちゃんは驚愕を通り越して呆れが入っていた。

 

「……歩夢君が転校してきてから、小咲の行動には驚かされてばかりだわ」

 

「そ、そうかな。いつもと変わらないと思うけど」

 

 るりちゃんは溜息を吐く。

 

「無自覚なのね。小咲、一ヵ月前と比べたら良い方向で変わってるわよ。てか、中国に幼馴染がいたとはね」

 

「うん!とっても暖かくて可愛い人なんだ、羽さんは」

 

「そ、そう」

 

 るりちゃんは、若干押され気味に返事をする。

 

「ところで小咲。あなた歩夢君のこと好きでしょ?」

 

「――――大好きだよ。でも今は、幼馴染の関係でいいかなぁって思ってる。逃げにも見えるかも知れないけど、今はこれでいいんだ」

 

「……そう言っても、歩夢君の気持ちはわからないわよ」

 

「んー、でもきっと大丈夫。根拠は無いんだけどね」

 

 ――それにもし、歩夢君が他の子を気になり出しそうになったら、アタックして振り向かせる自信があるしね。……自信家に見えるかも知れないけど、自身の気持ちには嘘はつきたくない。

 

「まあ確かに。小咲と歩夢君は、深い絆(赤い糸)で繋がってると思うから心配いらないかもね」

 

「そうだと嬉しいな」

 

 わたしは、熱い感情を込めて呟いた。

 

「小咲も色々と考えてたのね、意外だわ」

 

「ひ、ひどいよ~、るりちゃん」

 

「ふふ、冗談よ」

 

 るりちゃんは「そういえば」と言ってから、

 

「小咲。そろそろ中間テスト期間だけど、あんた勉強――「あっ!完全に忘れてたよ!」

 

 はあ、と溜息を吐くるりちゃん。

 

「だと思ったわ。一条君と桐崎さん、歩夢君と勉強会を開きましょう」

 

 それと同時に、桐崎さんと一条君の関係が気になるから、それを見極めるということだ。「本音が半分に、私情が半分ね」といい、るりちゃんは花壇付近で会話をしている一条君たちを見つめた。

 もう一つの要素としては「歩夢君と小咲を近場で観察したいわ」ということ。

 

「それじゃあ戻るわよ、小咲」

 

「わ、わかった」

 

 そう言ってから、わたしたちは階段を下り教室に戻る。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「一条君、桐崎さん、歩夢君。今日勉強会開きたいんだけど」

 

 俺と楽、集と桐崎さんが雑談をしていたら、教室に入って来た宮本がそう口にする。ちなみに、場所は一条家が良いということ。

 

「俺は居候の身だし、楽が“承諾”を出せば構わないと思うけど。――で、どうだ、楽」

 

「いいんじゃねぇか。そろそろ中間期間だし」

 

「べ、勉強会っ。私も賛成だよ!」

 

 ということで、今日の放課後一条家で勉強会を開くことに決まった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「お待ちしてやしたぜ、勉強会ですってねー!?」

 

 楽が家の玄関に入ると、大勢のヤクザさんたちが整列していた。その人たちの手には、ボードを一人ずつ持ち、『おいでませ』の文字が映る。

 

「あ、ああ。茶頼む、竜」

 

「了解しやしたア!」

 

 そう言ってから、厨房に向かった竜さん。

 

「……何であんたまで着いてくんのよ、舞子君」

 

「やだなー、るりちゃん。こんなに楽しいこと滅多にないじゃんか」

 

 相変わらずの、集と宮本さんである。

 楽の方は「何でそわそわしてんの?」「わ、わくわくしてないわよっ!」という会話であった。んで、小咲はというと、目を輝かせながら回りを見回していた。

 俺は小咲の隣まで移動し、

 

「小咲、悪いが最初に俺の部屋に来てくれない?羽さんからのプレゼント預かってるから」

 

「う、うん。わかった」

 

 そんなこともあり、皆が上がり楽の部屋に向かう途中で、俺と小咲は皆とわかれる。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 部屋の前に到着し、襖を開け一歩入ると、入った右側には小説が並んだ本棚で、左側には勉強机。奥に鎮座するのは大き目のテレビだ。んで、俺は部屋に入り、送られた物を小咲に手渡す。ちなみに、部屋に入った小咲は、珍しそうに回りを見回していた。

 

「これは、中国語の教本?」

 

「見たいだな。羽さんが言うには『小咲ちゃんも中国語を習得すれば、中国での会話は問題ないよ』だそうだ。まああれだ、中国語が必要になる時がくるってことじゃないか?てか、羽さんの無茶ぶりとも言えるかもな」

 

「な、なるほど」

 

 そんなやりとりがあり、着替えた俺と小咲は、楽の部屋に向かったのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 楽の部屋に入り、俺は空いてる席に座り、小咲は俺の隣に座った。

 ともあれ、俺は持ってきたスクールバックの中から、勉強道具を取り出しテーブルの上に置いて、教科書を開き問題集をシャーペンを持ち問いていく。

 

「歩夢君。この問題わからないんだけど解ける?」

 

「ん。見せてみ」

 

 俺は躓いている問題を見る。

 

「わかる?」

 

「ああ。この問題はな、この計算を先に問いてから、導かれた答えをYに代入するんだ」

 

 俺は問題の解答を導き出す。

 

「やってみ。わからなかったら、いつでも相談してくれ」

 

「うん」

 

 そう言ってから、俺と小咲は勉強を続けるのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「るりちゃん。あの二人、付き合ってたりするの?」

 

 集がそう言うのは尤もだ。

 歩夢が小咲に勉強を教えてる距離は、あと数㎝顔が動いたらキスできる距離感なのだ。

 

「どうでしょうね。でも歩夢君と小咲は、友達以上の関係なのは確かね。――それにあの距離が、歩夢君と小咲のいつもの距離感なんでしょう。きっと、二人の間に入り込める存在なんて一握りだと思うわよ」

 

「だろうね。ていうか、小野寺狙いの男子が玉砕していく様を思い出したよ……」

 

 集の言う通り、あの親密さを見せつけられたら他の男子は諦めるしかないだろう。

 すると、問題集を解き終わった千棘が、小咲が一段落したのを見た。

 

「ねーねー、ところで小野寺さん、小野寺さんは好きな人とかいないの?」

 

 小咲は、想いを隠すことはなかった。

 

「――いるよ。大好きな人が」

 

 小咲の言葉には、想いの強さが込められていた。

 ここまでくれば大体察っせるのだが、千棘はその点鈍感だった、

 

「え、だれだれ?」

 

 小咲は、頬を僅かに桜色に染める。

 

「え、えっと。――――わたしの隣に座る“神埼歩夢”君、だよ」

 

 それを聞いた歩夢は、身悶えるような感覚に陥る。

 歩夢は語っていないが――――歩夢も、小咲が大好きなのだ。二人は、お互いに想っているということだ。

 

「(す、凄ぇ小野寺。言い切ったよ)」

 

「(小咲の行動には驚かされるわ。中学時代はどこにいったのかしら)」

 

「(やっぱ、十年の想いは伊達じゃないねぇ)」

 

 楽、るり、集と内心で声が上がる。

 千棘は目を輝かせ、言葉を続ける。

 

「で、歩夢はどうなの?」

 

 もちろん、歩夢も想いを隠さない。

 

「――――今すぐ一緒になりたいくらい好きだよ」

 

 これはもう勉強会ではなく、公開告白である。

 

「もう理想のカップルじゃない。――私も、素敵な恋がしたいわねー……」

 

 千棘がそう言うと、空気が凍った。

 そう。小咲は事情を知っているが、集とるりはこの件は知らないのだ。

 

「……ジョークよ、ジョーク!ダーリンに、ちょっとイタズラしてみたくなったの~~!」

 

「こ、こら!ひ、ひどいぞハニー!?僕という人がありながら」

 

 慌ててイチャイチャする、千棘と楽。だが、勘の良い集とるりには露見してるだろう。

 すると、集が口を開く。

 

「ねぇねぇ、楽、桐崎さん。ちょっち聞いていいかな?」

 

「あ、ああ」

 

「い、いいわよ」

 

「じゃあ遠慮なく。――お前らって、ぶっちゃけ、どこまで行ってんの?」

 

「「ぶっー!」」

 

 盛大に噴き出す千棘と楽。

 

「ど、どどどどどこまでとおっしゃると……?」

 

「そりゃあもちろんキ……」

 

「集、ちょっとこっち来い!あと歩夢、お前もだ!」

 

「ちょ!俺もかよ!」

 

 千棘の問いに答えようとした集は楽に口を塞がれ、歩夢はというと楽に右腕を引かれて部屋を出ていったのであった。




小咲ちゃんと歩夢君、公開告白になりましたね(笑)
ちなみに、歩夢君は高校三年までの勉学は習得済みです。また、歩夢君と小咲ちゃんが付き合うのかは、未定ですね。

では次回(@^^)/~~~

追記。
お茶等は、歩夢君たちが来る前に運んでます。


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シンソウ

 俺と集は、楽に外に連れられ縁側に座っていた。

 

「何で俺も呼び出されたんだ?」

 

「歩夢は、この件について一番詳しいだろ」

 

 まあ確かに、俺は第三者なので、詳しいと言えば詳しいけど。なので俺が、この件のことを集に説明する。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「なるほどね――。そういう理由で恋人の振りをしてたのか~~。まさか、そんなに大変なことになってるとは」

 

 集は、うんうんと頷く。

 だが、驚きの表情は窺えなかった。

 

「……お前、気づいてたのか?」

 

「なはは……!そりゃ見てばなぁ。でもあえて言うと……。最初の『らぁくぅ!』の時点から気づいてたかな」

 

「なっ!?それ、最初の最初じゃねぇか!」

 

 それは、付き合ってからの初登校の日である。

 集が言うには「こんな面白いこと乗らない手はない」ということ。

 

「一番の驚きは、小野寺と歩夢の関係かな。――てか、歩夢と小野寺、学校以外でもラブラブすぎ」

 

 「告白までしちゃってたし」と、集は語尾に付け加える。

 

「んで歩夢。小野寺と今後どうするん?」

 

 集が濁した言葉は「告白したんだし、付き合うの?」ということだろう。

 うーん。と俺は両腕を組んで考える。

 

「付き合うことはしないだろうな。今は、その時じゃない気がするし」

 

 それは、俺の直感だったりするのだが。

 

「なるどねぇ。てか傍から見ると、もう恋人みたいなもんだしな」

 

「あんなにラブラブだしなぁ」

 

 集と楽にそう言われ、俺は「そ、そうか」と返したのだった。

 ともあれ、話し合いが終わった所で、俺たちは部屋に戻った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「遅かったわね」

 

 そう言ったのは宮本だ。

 勉強体勢は、桐崎さんを中心に問題を解いていた。

 

「まあ、男同士の話ってやつだ。気にするな」

 

 そう言った俺が、元の席に座った所で、

 

「そうだわ、歩夢君」

 

 宮本の表情は、真剣そのものだ。

 

「――小咲を泣かせたら、許さないからね」

 

「それについては問題ないぞ。小咲には笑顔が似合うし、俺はそれを守りたいから」

 

 小咲は、俺の一生を賭けて幸せにすると決めているので、宮本の心配は杞憂だ。

 すると、俺の隣に座っていた小咲が「……バカ」と言って、小咲は俺の右肩に顔を埋めて、ぐぐもった声で呟く。んで、俺は小咲の頭を優しく手を置く。

 

「ま、本当のことだしな」

 

「……うん。ありがとう、歩夢君」

 

 小咲は、顔の赤みが引いてから勉強に戻った。

 てか、竜さんたちは僅かに空いた襖から俺たちを見ていた。まあ、今の楽と桐崎さんを見て『オレたちが一脱ぎしようじゃないですかい』的な感じだと思うけど。

 そう考えていたら竜さんたちが、楽と桐崎さんに蔵からお茶葉を取って来て欲しいと頼んだ。

 

「んじゃ、オレたちは行ってくるわ」

 

 そう言ってから、楽は桐崎さんを連れて席を立った。

 それから十五分が経過したが、楽と桐崎さんが戻って来る様子がない。ともあれ、勉強を一時中断した俺が、

 

「楽たち遅いな。何かあったか?」

 

「そういえば、裏の蔵にお茶葉を取りに行ったんだっけ」

 

 集が思い出したように呟く。

 

「ああ。でも遅いな。俺、様子を見てくるよ。皆はどうする、そろそろ時間だし」

 

「わたしは一緒に探すよ」

 

「私は先にお暇させてもらうわ」

 

「んにゃ。るりちゃんが帰るなら、オレもお暇で」

 

 宮本さんは「私が帰るからって何よ」と集に言っていたが、集は怯むことはなかった。そう言ってから、俺と小咲が部屋を出て、それに続くように鞄を持った集と宮本さんが出る。

 靴に履き替え玄関を出た所で、集たちは門を目指して歩き、俺たちは蔵に向かって歩き出す。

 

「あれって、桐崎さんの知り合いかな?」

 

 目線の先に居たのは、ビーハイブの幹部であるクロードさんだ。クロードさんが蔵のドアを開けたらしく、楽たちと何かを話していた。

 

「大丈夫そうだな」

 

 小咲は「だね」と頷く。

 

「じゃあ、わたしも帰ろうかな」

 

「そか。送ってくよ」

 

 それから小咲は家に上がり、小咲は荷物を纏め帰る準備を整え、玄関で靴を履き再び家を出る。

 

「行くか」

 

「うん。よろしくお願いします」

 

「おう、任せろ」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 集英組を出た所で――俺と右手と小咲の左手が繋がれた。

 

「歩夢君の手、大きいね」

 

「そうか?なら、小咲の手は柔らかいな」

 

 うむ。何で女の子の手は柔らかいんだろうか?……てか、場合によっては、今のってセクハラ発言だったりするかも……。

 

「ふふ、そっか」

 

 そう言って、小咲は微笑んだ。

 それから俺と小咲は、“和菓子屋おのでら”まで着くまで談笑したのだった。




ほぼ毎日投稿、続けばいいなぁ。……どこかで停止しないことを祈ろう(切実)
つーか、小咲ちゃんと歩夢君ラブラブすぎ。こりゃ、確実にどこかの話を飛ばすね(笑)


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テンコウセイ

 ある廃墟で、ビーハイブの幹部であるクロードは、とある人物を呼び出していた。

 クロードは、眼鏡をくいっと上げて話し出す。

 

「……来たか。待ちわびていたぞ」

 

「はい。私が呼ばれた理由はなんでしょうか?」

 

 クロードは、とある人物に写真を渡す。

 

「こいつがお前の次の任務――標的(ターゲット)の、一条楽。既に聞き及んでいると思うが、お嬢は今この男と恋人関係にある」

 

 クロードはわなわなと震えながら、

 

「しかし私は、お嬢はこの男に騙され利用されていると睨んでる。滑稽なガキだ……」

 

 この言葉に鼓舞されるように、とある人物が握っている手に力が入り、写真がクシャクシャになる。

 

「ゆ、許せませんね。一条楽……」

 

「……私では直接動向を探ることはできない。だが、私が育てた優秀な部下のお前ならば、あのクソガキからお嬢を救い出すことが出来るはず」

 

「……了解しました。お嬢は、私が必ず救い出します」

 

 この一件が、とある廃墟で行われたのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「……かなり眠い」

 

「もしかして、羽さんに掴まってた?」

 

 「ああ」と返事をする俺。

 聞いた所、小咲も羽さんに掴まったことがあるらしく、翌日寝不足になったらしい。それから教室に入り、桐崎さんたちに「おはよう」と声をかけてから、自身の席に着席し腕を組んで寝る体勢に入る。てか、集たちの話によると、転校生がこのクラスに来るらしい。

 そんなことを思っていたら、教室の前の扉が開き、キョーコ先生が入って来る。なので、俺は顔を上げた。

 

「よーし、早く座れ。出席とるぞー」

 

 キョーコ先生の言葉によって、生徒が各々の席に着く。キョーコ先生が教壇で出席を取り終わり、

 

「突然だけど、今日は皆に転校生を紹介するぞー。鶫さん、入って来て」

 

「はい」

 

 教室のドアを開けて入って来たのは、ザ・イケメン。っていう者だ。

 

「はじめまして。鶫誠士郎と申します。どうぞ、よろしく」

 

 自己紹介が終わると、凄まじい歓声が巻き起こる。……まあ、主に女子からだが。

 キョーコ先生が空いている席に着いてと鶫さんに言い、鶫さんが楽の隣を通りながらフッと微笑む。すると、楽の隣に座る桐崎さんが立ち上がり鶫さんの名前を呼ぶ。

 

「鶫!?」

 

「お久しぶりです、お嬢――!」

 

 鶫さんが桐崎さんに抱きつき、クラスからは、

 

『転校生が桐崎さんに抱きついた!』

 

『なんだ、なんだ~~~!』

 

 と、声が上がる。

 

「ちょ、いきなり抱きつかないの!?皆が見てるでしょ!?」

 

「ああ、お嬢……!お会いしとうございました……!と、ところでお嬢、ここの教室には歩夢殿がいると聞いているのですが?」

 

「歩夢?歩夢なら、小咲ちゃんの隣よ」

 

 桐崎さんの視線を追うように、鶫さんは俺を見て、俺の前まで歩み寄る。

 

「歩夢殿、お久しぶりです」

 

 俺は「目立ちたくないなぁ」と思いながら、口を開く。

 ――そう。俺がアメリカで在住していた時、俺は鶫さんと銀行強盗たちを鎮圧した経験が何度かあるのだ。

 

「鶫さんも元気そうで」

 

 鶫さんの経験値を見ると、ただの転校生とは言えない。面倒なことが起きなければいいんだけど。

 ともあれ、転校生が一年C組にやって来たのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 時は経過し放課後の教室。

 

「歩夢君は、見に行かなくてよかったの?」

 

「ああ。何か面倒な未来しか見えないし」

 

 小咲、俺と呟く。

 ちなみに、俺と小咲、宮本さんで輪になるように椅子に座っている。

 

「私気になってたんだけど、歩夢君と小咲の出会いって、どんな経緯からなのかしら?」

 

「そうだなぁ。家族旅行って言えばいいのかな」

 

 俺と小咲が出会った場所は、天駒高原という所だ。

 帰り道も同じということもあって、小野寺家は神埼家の車で帰省したのだ。そして偶然もあってか、俺と小咲が通う幼稚園も同じだったのだ。

 これを聞いた宮本さんは関心したように、

 

「凄い運命力ね、歩夢君と小咲」

 

「でも、俺の家はちょっと特殊でな。小学生に上がる前に海外に引っ越したんだよ」

 

 そう、俺の家は裏の世界で暗部(・・)だったのだ。

 今は力が無くなり叉焼会(チャーシューかい)に吸収される形になった。なので、俺の両親は叉焼会(チャーシューかい)の傘下に入り仕事をしている。んで、俺がここにいる理由は『高校生活で楽しい思い出を作って来なさい』って両親が送り出してくれたからだ。

 

「でも十年越しに再会なんて、そうそうあるものじゃないわよ」

 

 まあ確かに、このような偶然はそうそうあるものじゃない。俺から見ても、まるで漫画のようであった。

 

「でも納得が言ったわ。小咲が歩夢君に惹かれた理由」

 

「そうなのか、小咲?」

 

「う、うん。わたし、この時から歩夢君を好きだったんだよ」

 

 小咲は、頬を桜色に染めて言う。

 宮本さんは「一気に甘くなったわね」と呟いてから、

 

「それじゃあ、私は聞きたいことは聞けたから先に帰るわね。――歩夢君、小咲をお願いしてもいいかしら?」

 

「ああ、任せてくれ」

 

 宮本さんは「そう」と頷いてから、傍らに置いてあるバックを肩に下げ、椅子から立ち上がり教室を後にした。

 

「気を使わせちゃったのかな?」

 

「わからん。でも宮本さん、そういう線引きは巧いよな」

 

 そんなやり取りがあり、俺と小咲は支度をしてから椅子から立ち上がり教室を後にした。

 後から聞いた話だが、決闘の結果は楽が勝利したらしいが、鶫さんの性別が露見してしまったということだ。




まだ幼いのに、銀行強盗を鎮圧する歩夢君と鶫のスペック高いなぁ。ちなみ、アメリカに居た時の歩夢君は武道を少しだけかじってます。
本格的な戦闘を覚えたのは、五年後の中国でですね。

追記。
天駒高原の帰りは、神埼家の車で帰ってます。小野寺家は、行きは電車だったということですね。
小野寺家と神崎家の繋がりは、偶々高原であって、偶々帰り道が同じでした。


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リンカン学校#1

「歩夢君。今日から林間学校だよ!楽しみだねっ!」

 

「て、テンション高いな、小咲」

 

 「そりゃそうだよ!」と頷く小咲。

 まあ確かに、泊まり込みの学校行事でイベントが盛り沢山なのだ。小咲がテンションが上がるのも無理はない。

 

「あ、今思い出した。――羽さんが『林間学校の写真待ってます』だってよ」

 

 小咲は笑みを浮かべ、

 

「そっか。たくさん写真送ろうね」

 

「……送り過ぎは良くないと思うぞ」

 

 送り過ぎると羽さんが『わたしも行きたいっ!』って膨れる未来しか見えない。てか、バスの席順はどうなっているのだろうか?俺は “おまかせ”にして寝たからなぁ。

 ともあれ、学校の校門前に到着した俺と小咲。また、校門前では全クラスがバスに乗る準備が終わっており、俺たちが到着して五分後に各バスに乗り込むのだった。ちなみ俺は、楽、集、小咲、桐崎さん、宮本さん、鶇と同じ班である。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 バスの席は、一番後ろに、宮本さん、桐崎さん、楽、鶇さんだ。その右斜めの二人席に、俺と小咲らしい。てか、俺と小咲の席はクラス全員の意思(・・・・・・・・)で決まったということ。

 それから、小咲が窓際に座ったのを確認してから、俺が通路側の席に着席する。

 

「小母さんから教えてもらってたんだが、小咲って料理が壊滅的じゃなかったけ?……着いたら、カレー作りだろ?」

 

「だ、大丈夫だよ。お母さんが言ってたのは、随分前のわたしの評価。今はきちんと作れますっ」

 

 「そうか」と頷く俺。

 

「そ、それにいつか、歩夢君に食べて欲しかったから。わたしの手料理」

 

 小咲の得意料理は、和食全般らしい。特に、肉じゃがが得意だということ。

 

「お、おう」

 

 バスが出発し、急なカーブが差しかかるとバスが遠心力で左右に揺れ、密着度が増す。

 

「わ、悪い。小咲」

 

「か、構わないよ。それより重くないかな、わたし」

 

「いや、軽いくらいだけど。てか小咲、ちゃんと飯食ってるか?」

 

「た、食べてるよ」

 

「本当か?」

 

「ほ、ホントだよっ」

 

 俺は渋々頷いた。

 この時男子クラスメイトは、

 

「(((((――甘いよ!お前らッ!)))))」

 

 このように思っていたらしいが、俺と小咲が知る由もない。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 出発から約一時間後に目的地に到着し、続々と生徒は立ち上がりバスから降車する。

 

「行くぞ、小咲」

 

「うん」

 

 俺は立ち上がってから通路側に移動し、小咲も元に右腕を伸ばし、おずおずと俺の右手を握る。

 それからバスを下り、

 

「よ――し!皆聞けよ――!プリントにも書いてあると思うけど、各班には今から近場のキャンプ場でカレー作ってもらうからな。楽しんで、気をつけて作れよー―!」

 

 キョーコ先生の言葉を聞いて、キャンプ場に向かう俺たち。その間で、楽が顔を引き攣らせたのを俺は見逃さなかった。

 決闘云々の後に、鶫と買い物をしたり、楽が熱を出した時に桐崎さんがお見舞いに行ったり、そこでダークマターのお粥を食べたりとあったらしい。ちなみに俺は、楽の眠りを妨げないように席を外していた。

 

「歩夢と宮本、小野寺は薪を貰って来てくれ。桐崎はオレが指示するから大人しくしてろよ」

 

 必死やね、楽。まあ、あの二の舞は洒落にならないと思うけど。

 さて、俺も仕事をしますか。

 

「行くわよ、小咲、歩夢君」

 

「あいよ。小っこい宮本隊長さま」

 

 宮本さんは、目を細めて俺を見る。

 

「……歩夢君、はっ倒すわよ」

 

「る、るりちゃん。そんな言葉使ったらいけないよ」

 

「そ、そうだぞ。小咲の言う通りだぞ、宮本さん」

 

「……まったく、次はないわよ……」

 

 ともあれ、俺たちは薪を貰いに行った。んで、皆で楽しくカレーを作り、美味しく頂きました。




小咲と歩夢君はクラスで、楽たちに次ぐ公認カップル(本人たちは付き合ってない+そのことに気づいてない)です。
てか、もっと羽姉出したいですね。

追記。
歩夢君と小咲は、学校に行く際にいつも待ち合わせをしてますね。


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リンカン学校#2

 カレーを食べ終わり一休みした所で、俺と小咲は先生たちに露見しないように班から向け出していた。

 

「宮本さん、マジで良い人だな」

 

 そう。俺と小咲は班を抜け出していた。んで、このことを宮本さんに話した所『いいわよ。皆が動き出したころにメールするから、それまで楽しんで来なさい』とのこと。

 

「うん。わたしの大親友だから」

 

 「そうだな」と俺は頷いた。

 それにしても、小咲が俺の提案に頷いてくれたのは意外だった。

 

「んじゃ、行きますか」

 

「うんっ」

 

 俺と小咲は、目的地に向かって歩き出した。まあ、この場から数分の場所なんだけど。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 キャンプ場を抜け出し数分歩くと、俺たちは目的の場所に到着した。

 そこは隠れスポットになっており、木々に囲まれた場所で滝が地面の石をうっていた。

 

「凄いね。こんな場所があるなんて」

 

「隠れスポットらしいからな。さっきスマホで検索して、俺も吃驚したし」

 

 俺と小咲は滝を背景にしてスマホで写真撮影をし、それからスマホで撮影した写真を覗き込む。ちなみに、頬が密着する距離感で撮影をした。

 

「羽さんにこれを送ろうよっ」

 

「……マジ。羽さんが嫉妬する未来しか見えないんだが」

 

 俺は「まあいいか」と呟き、メール欄に移動し、本文に写真を添付し送信する。

 数分間、俺と小咲はこの景色を思い出に残していた所で、小咲のスマホが震える。

 

「あ、時間だって」

 

 スマホの内容は宮本さんからで『そろそろ時間よ。戻って来なさい』とのことだ。

 

「んじゃ、戻るか」

 

「だね」

 

 俺たちがキャンプ場に戻ると、各生徒は移動する準備を整えていて、一班からバスに乗車していく所だった。ちなみ、俺たちの班は十班である。

 

「時間ピッタリだね」

 

「さすが宮本さん、逆算が完璧だな」

 

 宮本さんは「そう。それじゃあ行くわよ」と言って、俺たちに手持ちのバックを持つように促してから、班の皆がバスに乗車する。

 バスに数分揺られ、俺たちは宿舎に到着した。それから説明を受け、各班は二重ドアを潜り指定された部屋に向かう。

 

「結構広いんだな」

 

「こういうとこ、うちの学校気前良いよな」

 

 俺と集が、部屋の内装を見て感嘆な声を上げる。てか、なぜ男女の部屋じゃないのか不思議でしょうがない。あり得ないが、もし間違いがあったらどうするのだろうか?

 ともあれ、各自は肩にかけたバックを下ろし、送られた荷物を紐解いたりする。

 

「ところで舞子君、あなたはベランダと廊下、どっちで寝るの?」

 

「え!?オレ、部屋で寝ちゃダメなの!?」

 

 宮本さんの言葉に、集が声を上げる。

 まあ確かに、襖越しとはいえ男女が同じ部屋で寝るのだ。警戒して当然である。

 

「って、それなら楽と歩夢は?」

 

「そうね。一条君はそこまでの甲斐性はないと思うし、歩夢君は小咲が居るから問題ないわ」

 

 宮本さんは楽をディスり?俺は問題ないと呟く。

 このようなやり取りがあり、俺たちは罰ゲームをかけてババ抜きをすることになったのだった。……まあそこに至るまでに、集のセクハラ発言があったのだが。ちなみに罰ゲームの内容は『初恋のエピソード』ということだ。てか、俺の初恋っていつだろうか?やっぱ、天駒高原の出会い?

 それから、鶫さん、集、桐崎さん、楽、小咲、宮本さん、俺の順で時計回りに座りゲームスタート。鶫さんから始まり、集が鶫さんの手札から一枚カードを引き、桐崎さんが集の手札から一枚カードを引いていくが、ジョーカーを持っている人は完全に露見していた。

 

「(……小咲に桐崎さん、顔に出過ぎだ。てか、宮本さん。わざとジョーカ引いたの?)」

 

 宮本さんは、わざと小咲からジョーカーを引いたのだ。

 

「(俺を嵌めるつもりかも知れないけど、俺は負けても気にしないんだよなぁ)」

 

 そんなことを考えながら一枚カードを引くと、案の定ジョーカーだった。だが俺は、ポーカフェイスが得意だったりする。んで、俺はジョーカーを引いたことを悟られないように手札を混ぜ、鶫さんの前に向ける。

 俺が差し出したカードの中で、鶫さんが引いたカードはジョーカーだ。

 

「(ジョーカーの危機は去ったと)」

 

 ゲームは進み、俺は一位通過。その後も、宮本さん、集、鶫さんと続き、残ったのは、小咲と桐崎さん、楽だ。

 俺の予想では、小咲と桐崎さんが最後に残るはず。だが、俺の予想は外れることになり、楽が小咲が持っていたジョーカーを引き、桐崎さんとの最終対決まで縺れ込んだのだった。

 

「……歩夢君。あなたポーカーフェイス巧すぎだわ。きっとあの時、歩夢君がジョーカーを引いたなんて思わなかったでしょうね」

 

「そうか?集は感づいてそうだったけど」

 

「いや、全然解らなかったから。……てか、歩夢の初恋を聞いたら胸やけしそうだったから、歩夢は抜けて正解だったかもな」

 

「そ、そうか」

 

 それから視線を楽たちに向けると、楽が桐崎さんのジョーカーを引こうとする場面だったが――、

 

「こら――!いつまで遊んでる!とっくに集合時間は過ぎてるぞ――!」

 

 キョーコ先生が襖をバンと開けた。開始から、かなりの時間が経過していたらしい。

 

「…………よかったな」

 

 楽はカードを床に落とし部屋を出た。床に落ちたカードはジョーカーじゃない。あのままゲームを続行すれば、桐崎さんが負けていた。そんなことを考えながら、俺も立ち上がり集合場所へ向かったのだった。




歩夢君、リア充やね(笑)
てか、ご都合主義があったかも知れんが、許してね(^_^;)

では、また次回(@^^)/~~~


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リンカン学校#3

 部屋を出た俺たちはクラスメイトと共に夕食を摂り、食べ終わり部屋で一休みした所で風呂の時間になり、着替えを持って風呂の準備をする。

 

「風呂行こうぜ。集、歩夢」

 

「ああ。てかお前ら、覗きをしようとか考えんなよ」

 

「言わないって、オレもガキじゃねぇーんだし」

 

「しねぇーよ。バレたら退学もんだぞ」

 

 集、楽と呟く。ともあれ、部屋を出て風呂場に向かう俺たち。

 風呂場に向かっている途中でキョーコ先生が、

 

「おーい一条。フロントに電話がかかってるぞ~」

 

 楽は思案顔をする。

 

「電話?誰からだ?」

 

「わからん。てか、俺は待ってるから、集は先に行っていいぞ」

 

「りょーかい。んじゃ、先に行ってるわ」

 

 集はそう言って、先に風呂に向かった。

 数分が経過し、電話を終えた楽が歩み寄る。

 

「誰からだったんだ?義父からか?」

 

「それなんだがよ、誰からも電話がかかってきてなかったんだよ」

 

「つまり、悪戯電話か?」

 

「そうなんじゃねぇか」

 

 そんな話をしながら俺と楽は男風呂の暖簾を潜り、脱衣所で服を脱ぎ、風呂のドアを開け体を洗ってから入浴する。

 「今日一日疲れたなぁ」と思いながら入浴してると、血相を変えて楽がやって来る。

 

「あ、歩夢。緊急事態だ!」

 

 「は?」と思いながら周りを見渡すと、楽の焦りの正体が解った。……これはあれだ、洒落にならない事態である。

 

「……もしかして、ここって女湯、なのか?」

 

「あ、ああ、たぶんな。オレの予想だと、主犯はあのオールバックだと思う」

 

 オールバックとはビーハイブ幹部のクロードさんだろう。……クロードさんは恋人関係に疑問を持っていたので、桐崎さんと楽を引き離す為の策なのだろう。……つっても、この策は拙いでしょ。俺と楽、露見したら社会的に抹殺されるかも知れないし。

 

『すご~~い。露天風呂だ~~』

 

 こ、この声は小咲である。

 いや待て、よりによって小咲も居るのかい!?いや、誰でも拙いんだけどさ!?

 

「……楽。脱出場を探すしかない」

 

「あ、ああ。二手に別れるか。どっちかが生き残る可能性が上がるしな」

 

「……いや待て、その言い方だとどっちかが社会的に抹殺されるってことだよね?」

 

 それから二手に別れる俺と楽。

 「やばいやばい」と考えながら周りを見渡すが、脱出できる場が見つからない。そして、刻一刻と時間が過ぎていく。そして、体を洗い終わった女子が湯船に浸かるではないか……。

 女子から隠れるように潜水すると、壁の方に大きな目の穴を見つけた。もし、あそこが男子湯と繋がっていれば、ここから脱出できる。……それはそれで、露天風呂には欠陥が見つかるってことになるんだけど。

 そんなことを考えながら顔を浮上させると、女子と目が合いました。てか、穴に目を向けている時に湯船に浸り、こちらに移動してたてたらしい。

 

「あ、ああ、歩夢君。なな、なんで女湯にいるの!?」

 

「……た、たぶん、知り合いのせいなんだよ」

 

 俺は今の状況を説明すると、小咲は「……な、なるほど。う、うん、助けてあげる」と頷いた。

 

「で、でも一つ貸しだからね」

 

「マジでありがとうございます。じゃあ、端まで俺を隠せるか?」

 

「端まで?大丈夫だと思うけど」

 

 小咲の背に隠れながら端に移動していると、一人の女子が近づいて来て小咲に話かける。

 

「ねぇねぇ寺ちゃん。私聞きたかったんだけどさ、神埼君とは付き合ってるの?」

 

 すると、もう一人の女子もやって来る。

 

「凄いラブラブだしねぇ。クラスでは、公認カップルになってるんだよ」

 

「そ、そうなんだ。で、でも、付き合ってないよ。わたしと歩夢君」

 

「あれで付き合ってないの?てか、男子で神埼君だけは名前呼びじゃない」

 

「わ、わたしと歩夢君、幼馴染だし、昔から名前で呼んでたから」

 

 「うそ!寺ちゃんと神埼君って幼馴染なの!?」「え?その話聞きたい聞きたい」「私も私も」と言い、女子が徐々にこちらにやって来る。

 俺は小咲が隙を作ってくれてる間に潜水し、男子湯に繋がると思わる穴に飛び込む。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「ぷはっ――!」

 

「おわッ!楽の次は歩夢かよ!ど、どうしたんだよ、お前ら」

 

 男子の一人がそう言う。てか、楽も脱出できたらしい。

 

「い、いや、ちょっとばかり潜水を……。な、楽?」

 

「お、おう。歩夢の言う通りだ……」

 

「てか楽。出ようぜ、俺風呂入ってたのにどっと疲れたわ」

 

「あ、ああ。オレもだ……」

 

 楽はげんなりしながら呟く。

 んで、風呂から上がり下着諸々を購入し、常備してあった浴衣を着て風呂を出た。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~一階フロア~

 

 俺は浴衣姿で、小咲を向き合っていた。

 

「あ、歩夢君。着替え取っといてあげたよ」

 

 そう言って、黒い袋に入った着替えを渡してくれる小咲。

 

「わ、悪い。助かったよ」

 

「んーん、気にしないで」

 

 頭を振る小咲。

 

「ところで何処まで見たの?場合によっては許さないかも」

 

 ……え?小咲の背後に修羅像が見えるんだが。き、気のせい?

 

「み、見たのは小咲の裸だけだ。ほ、他の奴は見てないぞ」

 

 これ、状況によっては変態発言である……。いや、たぶんだけど。

 

「ならいいや」

 

「な、何か軽いな」

 

「ん、減るものじゃないしね。貸し一つで十分だよ。――じゃあ、この話はこれで終わり。歩夢君、星、見に行こう」

 

「りょ、了解だ」

 

 俺と小咲は玄関の二重ドアを潜り外に出る。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ホテルを出て数分歩き、空き地付近で止まってから空を見上げる。

 

「月が綺麗だね」

 

「ああ。綺麗だな」

 

 小咲は苦笑した。

 

「ふふ。歩夢君、月が綺麗だねって意味知ってる?」

 

「知ってるぞ。愛してるって意味だろ?」

 

「じゃあ改めて。歩夢君、愛してます(大好きです)

 

「ああ。俺も愛してるよ(大好きだよ)

 

 それから何十分が経過した所で、俺たちはホテル戻ると一階のフロントは暗くなっていた。おそらく、消灯時間になってしまったのだろう。

 

「わたしたち不良生徒だね」

 

「だなぁ。班から抜け出したり、消灯時間過ぎたりしてるからなぁ」

 

 部屋に戻ると、集たちは大富豪をしていた。全員が揃ってから就寝するとのことだ。……帰って来た所でからかわれたけど。まあ、男女が一緒に帰って来れば当然なのかも知れないけど。

 就寝に入ると、隣から男子の悲鳴が聞こえる。どうやら、集が襖を開けて女子部屋を覗き見しようとし、宮本さんに締められ、布団に包まった状態でテルテル坊主のようにベランダで吊らされた。ちなみに、楽もそれに巻き込まれていた。ともあれ、俺は布団から起き上がり二人を助けてから、三人並んで就寝した。

 ――――こうして、林間学校一日目が終了したのだった。




男子湯に、何で着替えが売ってるの?という突っ込みはなしでお願いします。

では、また次回(@^^)/~~~


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リンカン学校#4

 林間学校二日目。

 俺が椅子に着席して味噌汁を啜っていたら、前に座る集が身を乗り出した。

 

「なあ歩夢。お前今夜のイベント知ってるか?」

 

「肝試しだっけ?」

 

「そ、肝試し。でもただの肝試しじゃないぜ。――クジを使って、男女二組組まれるのだ。更に、重要なルールがもう一つ……」

 

 集は勢いよく立ち上がり、

 

「ペアになった男女は、必ず手を繋がなくてはならない!どうだ、燃えてきただろっ!」

 

「手を繋ぐだけだろ、燃える要素がないと思うんだが」

 

 俺は平静に答える。

 

「淡白な反応すぎるぞ、歩夢。……歩夢のことだし、手を繋ぐのは慣れてそうだけどよ」

 

「いや、慣れてないから。女の子と手を繋ぐは緊張するからね」

 

 そんなことを話しながら、朝食を食べ終えてから立ち上がり、お盆を返却口に返して部屋に戻る。

 戻っている最中に小咲と会い、二階に点在する自動販売機の近くにある長椅子に座る。

 

「おはよう、歩夢君。昨日はよく眠れた?」

 

「何とかな。てか今日の肝試し、一緒のペアになれたらいいな」

 

「そうだね。でも、同じ番号を引くのはかなりの確率だろうし、難しいんじゃないかなぁ」

 

「そりゃそうか。ま、一緒になったらよろしくな」

 

「うんっ、よろしくね」

 

 んで、時は経過し、集合時間となり山を登る事になりました。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~夜~

 

「これより、恒例の肝試し大会を開始する!準備はいいか野郎共――――!」

 

「「「「「おお――――――!!」」」」」

 

 キョーコ先生の合図により、歓声が上がる。つか、先生たちは晩酌ですか……。まあ、こういう機会にしかできないと思うけど。

 

「それでは、女子からクジを引いてくださーい!」

 

 このようにして女子がクジを引いていき、次いで男子が引いていく。

 

「で、歩夢は何番よ?」

 

 隣に立つ集が俺に聞き、俺はクジを開く。

 

「――十二番だ」

 

「……小野寺も十二番らしいし、お前らの運命力ハンパなさ過ぎ。ある意味怖いわ」

 

 「そうか?」と首を傾げる俺。

 ともあれ、十二番が出発となり、

 

「んじゃ行きますか」

 

「ん。よろしくね、歩夢君」

 

 そう言ってから、俺と小咲の右手と左手は自然に繋がれる。

 歩いていると、木々に繋がる暗い道が広がる。

 

「小咲怖がりすぎだ。てか、昔からお化けがダメだっけ」

 

「う、うん。今でもお化け屋敷は、全然ダメで……」

 

 俺は、昔の記憶を呼び起こす。

 

「そうだった。昔から、俺の背に隠れてたのを思い出したよ」

 

「あ、歩夢君は、昔から平気そうだったよね」

 

「作り物だし、殴れば血が出るしな。そう考えたら、全く怖くないな」

 

「ち、小さい時から、げ、現実的に考えてたんだ……」

 

 「まあな」と俺は頷く。

 

「ほら、怖くない怖くない」

 

 俺は小咲の頭を右手でくしゃくしゃと撫でる。

 

「あ、歩夢君。わ、わたしそこまで子供じゃないよ」

 

「悪い悪い。小咲が小動物っぽかったから、つい」

 

 そう言ってから、俺は苦笑した。

 小咲は、俺の右腕にぎゅっと抱きつく。

 

「ふふ。褒めてるのか微妙なところだなぁ」

 

「いや、褒めてるからね」

 

 「まったく」と俺は呟きながら、歩を進める。

 なんつーか、周りのお化けも驚かすのを止めているように見えるのは気のせいだろうか?

 

「「「「「(((((……ここでイチャついてんじゃねぇよ!)))))」」」」」

 

 お化け役の心の声が重なった見たいだが、俺たちが気付くことは無かった。

 それから数分歩き、出口に到着。

 

「……あんたら、楽しそうに出て来たわね」

 

 こちらに歩み寄った宮本さんが、そう呟く。

 

「まあ、ずっと話しながら来たし。てか、お化けは最初しか視界に入らなかったから。何でか解らないけど」

 

「たしかに、なんでだろう?」

 

「……あんたらの、甘い空気の当てられて脅かすのを諦めたからでしょうが」

 

 宮本さんにそう言われるが、俺と小咲は首を傾げる。

 このようにして、林間学校が終わりを迎えたのだった。




これで、林間学校が終わりですね。
歩夢君は、有名お化け屋敷もいけたりしちゃいます(笑)

では、次回(@^^)/~~~

追記。
長椅子に座って話していた小咲と歩夢君は、テルテル坊主事件?についても話してますね。


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ダンガンツアー#3

深夜テンションで書いたので、クオリティには期待しないで下さい。
ともあれ、更新です。


 ~凡矢理空港~

 

 俺と小咲は、空港のエントランス付近で“ある人物”を待っていた。

 数分待っていると、大き目のバックを肩から下げ、膝までの藍色のフレアワンピースに、足丈までの茶色のブーツの格好をした――羽さん(・・・)が歩み寄る。

 ちなみに俺は、黒いV ネックにシャツに、紺色のスラックスにレザーシューズといった恰好で、小咲は膝までの黒いワンピースに、白を基調にしたスニーカー、肩にはブラウンのショルダーバックを下げている。

 

「小咲ちゃん。久しぶりだねっ」

 

「久しぶりだねっ、羽さん。元気だった?」

 

「元気だったよ♪小咲ちゃんも元気そうで何よりですっ」

 

 そう言ってから、羽さんは笑みを浮かべ、小咲と抱き合う。てか、百合百合してんなぁ。と思っている俺である。ともあれ、羽さんは小咲との抱擁を解き「んっ」と言って、両手を開く。……これはあれか、俺にそこに飛び込めと。

 俺は溜息を吐いてから羽さんと抱き合い、数秒抱き合ってから、抱擁を解いたのだった。

 

「久しぶりだねっ。歩夢ちゃん」

 

「だな。三ヵ月ぶりか?」

 

「それくらいかな。でも、いつも一緒に居たように感じだけどね」

 

 まあ確かに。俺と小咲はほぼ毎日、羽さんと連絡をとっていたのだ。

 

「羽さんは、今日の夜の便で中国に戻るんだよね?」

 

 俺がそう聞くと、羽さんは「うん」と頷いた。

 

「だからわたし、歩夢ちゃんたちとデートがしたいな」

 

「……いや、買い物と言ってね。俺、二股野郎になっちゃうから」

 

 ……世間一般で見ると俺は最低野郎になっちゃうからね。まあ、既に手遅れなのかも知れないけど。

 

「わたしは問題ないと思うけど。ね、小咲ちゃん」

 

「う、うん。わたしと羽さん歩夢君のこと大好きだし、問題ないんじゃないかな」

 

「だから、歩夢ちゃんは気にしすぎちゃ、め。だよ」

 

 俺は「そ、そうか」と頷く。

 てか俺は、羽さんたちが了承を貰ったのだし、問題ないか。と思ってしまう。……いや、問題ないと思ったらいけないのかも知れないけど。つか、このやり取り、かなりデジャブなんだが……。

 

「んじゃ、まずは空港から出よう」

 

「ん、わかった」

 

「りょうかいだよ」

 

 そう言ってから俺たちは空港を出て、交通機関を使用し、デート場所の凡矢理タワーに向かった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 俺たちは二重扉を潜り、一階フロアで案内図を見ていた。

 

「わたし、プラネタリウムが見たいな。歩夢ちゃんたちは何か希望とかある?」

 

「いや、俺もそれで構わないよ」

 

「わ、わたしも大丈夫」

 

 俺と小咲は、羽さんの問いに頷いた。

 七階のプラネタリウム会場に向かう為、エレベータへ乗り込み、七階に到着し受付をしてからドームを潜る。

 会場は、蒼くライトアップされた夢空間であり、回りを見渡した小咲と羽さんは「綺麗」と呟く。それから、椅子に座ってから椅子を倒して上空を見上げた。ちなみに、俺は小咲と羽さんに挟まれるように座っている。

 

「星がいっぱいだよ。綺麗だなぁ」

 

「うん。神秘的だよね」

 

「でもこれ、人工物なんだよなぁ」

 

 上から、羽さん、小咲、俺の順で呟く。

 小咲と羽さんは頬を膨らませて、

 

「歩夢ちゃん、それは言っちゃダメだよ」

 

「み、水を差しちゃダメなんだからね」

 

「お、おう。悪い」

 

 そんなやりとりもあり、俺たちは手を繋いで宙を見上げ、一時間の上映が終わった所で椅子から立ち上がり会場を出る。ともあれ、会場を出た所で俺は伸びをする。

 

「展望台に行って見たいんだけど、いいか?」

 

 俺の呟きに「OK」「いいよ」と、小咲と羽さんが答える。

 それからエスカレータを使用し展望台を目指し、展望台デッキから外の景色を眺めた。

 

「人が豆粒、だな」

 

 俺は透明になっている床に立ち、下を眺めそう呟く。

 大半の人はこの床に立つと怖がるのだが、小咲と羽さんは平気そうにしている。

 

「凡矢理高校、見えるかな?」

 

「どうだろう?でも、頑張れば集英組も見えそう」

 

 ともあれ、景色を見終わった所で、二階のお土産売り場へ移動する俺たち。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「キーホルダーとかいいんじゃないか?」

 

 俺が手に取ったのは、凡矢理タワー限定ストラップだ。

 値段もそこそこするが、俺はある仕事(・・・・)を手伝っていたので、手持ちは万単位で通帳の金はかなりの額である。

 

「これもお揃いにしようよ」

 

「わたしはOKだよ」

 

 それと、各自のお土産として限定お菓子を購入した。試食ができたので試食をした所、蕩けるような味わいであった。

 んで、選んだ商品をレジに持っていき会計してから、片手に荷物を持ち、エレベータに乗り一階フロアの出口を出て、凡矢理タワーを後にした。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~凡矢理空港~

 

 飯を食べた所で時間も丁度良くなり、俺と小咲は、羽さんの見送りをしている。

 

「羽さん。今日は楽しかったよ、また遊ぼうな」

 

「わたしも楽しかった。永久の思い出をありがとう、羽さん」

 

 そう言った小咲の目許には、涙が溜まっていた。やはり、別れるのは辛いのだろう。んで、小咲と羽さんは抱擁を交わす。

 

「――組織を統一したら絶対日本に帰るから。だから、また会おうって約束しよう」

 

「――うん。楽しみに待ってるね、羽さん」

 

 数秒抱き合ってから、抱擁を解く。

 

「――歩夢ちゃんもまた会おうね」

 

「――楽しみに待ってる。あっちでも頑張れ、羽さん」

 

 羽さんは「うん」と頷き、俺と抱き合い、俺も優しく腰に手を回す。んで、俺も数秒抱き合ってから抱擁を解いた。それから、羽さんは歩き出し、搭乗する飛行機乗り場に向かって行く。

 数分後。俺と小咲は窓際まで移動し、羽さんが搭乗している飛行機に向かって両手を上げて振った。羽さんから見えてるか解らないが、俺たちは精一杯手を振った。――こうして、俺たちの永久の思い出になったのだった。




歩夢君と小咲ちゃん、羽姉は、もう恋人の域ですね。括りとしてはダブルヒロインだと思うけど、見方によってはハーレムだよなぁ。
ちなみに、購入したキーホルダーはスマホにつけてますね。次回は、本編に戻ります。

では、また次回(@^^)/~~~

追記。
この弾丸ツアーは、歩夢君たちは事前に計画してました。ちなみに、ツアーの曜日は土曜日ですね。


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プレゼント

 ~一年C組廊下~

 

 林間学校が終了し、ある日の出来事。廊下に出て談笑していたのは、俺、小咲、宮本さん、楽。んで、集、桐崎さん、鶫さんは席を外している。

 その横を、結構な量のノートを抱えた桐崎さんが、

 

「――楽~!このノートって何処に持っていけばいいんだっけ?」

 

「ん、ああ。キョーコ先生が、理科準備室に頼む。って言ってただろう」

 

「あ、そっかそっか」

 

 と言い、桐崎さんはふらふらしながら歩いていると、楽が溜息を吐き。

 

「――千棘。オレが半分持つ、ほら」

 

「い、いいわよ。先生に頼まれたのは、私なんだし」

 

「お前はよくても、オレたちがよくないんだよ。ノートが崩れたら、ノートが折り曲がったりするだろうが。そうなったらお前、責任取れるのか?」

 

「うっ……」

 

 桐崎さんは、尤もなことを指摘され、言葉に詰まった。

 結果、楽は桐崎さんからノートを半分受け取り、話しながら理科準備室へ向かったのだった。

 

「桐崎さんと楽、距離が縮まったよな?俺の気の所為かも知れないけど」

 

「わたしも、そう感じるよ。きっと、林間学校の肝試しでなにかあったんだと思うな」

 

 小咲の言う通り、林間学校で何んらかの変化を齎したのは、確かだろう。

 俺の予想だと、風呂場事件と肝試しなにかあったと見た。

 

「名前で思ったんだけど、歩夢君は、千棘ちゃんとるりちゃんは、名字だよね?」

 

「まあ。名前で呼んだ方がいいか?宮本さん」

 

「どっちでも構わないわよ。でも、友達なら名前の方がいいのかもね」

 

 俺は「なるほど」と頷き、

 

「じゃあ、るりで。ちゃんづけの方がいいか?」

 

「いえ、呼び捨てでいいわよ」

 

 その時、教室の前扉が開き、廊下に出て来たのは鶫さんだ。

 

「歩夢殿。お嬢は見てませんか?」

 

「桐崎さんなら、楽と理科準備室に行きましたよ」

 

「それは都合いいです。一条楽には、歩夢殿が伝えくれますか?」

 

「いいですけど。如何かしたんですか?てか、集には?」

 

「……あの男は居なくて大丈夫です。――それで、お願いなんですが。実は今日、お嬢の誕生日なんです。そのサプライズとして、是非パーティには、皆さんに参加して欲しいのですが」

 

「もちろん、お邪魔します」

 

「わ―!もちろん私も参加するよ!」

 

 すると、るりが何かを思いついたように、ポンと手を合わせた。

 

「――小咲、歩夢君。プレゼント選び、任せてもいいかしら?」

 

「いや、るりは来ないのか?」

 

 俺は、るりに問いかける。

 

「歩夢君と小咲で選んだ方が効率的でしょ」

 

 俺とるりは、視線を合わせた。

 なるほど。るりの言葉の裏には「ついでに、デートして来なさい」という言葉が隠れていたのだ。

 

「んじゃ、○○喫茶店に17時集合で。服装は、制服か?」

 

「一度帰ってから私服がいいと思うわ、そのまま会場に来た方が効率的でしょう。一条君には、変わりに私から説明しとくから安心しなさい。小咲もそれでいいかしら?」

 

「う、うん」

 

 ともあれ、プレゼント選びが決定したのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 学校が終わり、一度集英組に帰ってから私服に着替えて、喫茶店に到着した俺。待ち合わせ場所は店内になったので、俺は窓際のテーブル椅子に腰を下ろし、注文したコーヒーを飲んでいた。

 数分経過した所で店舗特有のベルが鳴り、私服姿の小咲が姿を現す。キョロキョロと店内を見回し、俺を見つけると笑みを浮かべて歩み寄り、対面の席に腰を下ろす。

 

「服、似合ってるよ」

 

「あ、ありがとう。でも、黒は背伸びしすぎた感じがするけど」

 

 小咲の今日の私服は、黒を基調とした服だったのだ。

 まあ確かに、デートの時は白が多かったので、黒は背伸びした感があるのだろう。

 

「そんな感じは全くしないぞ。大人っぽくて、十分似合ってるよ」

 

「そ、そっか。じゃあ、今後も黒に挑戦しようかな」

 

「ああ。でも、俺が独占欲剥き出しになる服は勘弁な」

 

「わ、わかった。――そ、そろそろプレゼントについて相談しようか」

 

「そ、そうだな」

 

 時間を見ると、約20分経過していた。……少し話し込んでしまった。デートはついででもあるので、目的を忘れてはいけない。

 

「新しいリボンとか、文具とかはどうだ。余り凝り過ぎると、実用性が皆無になるかも知れないし」

 

「だね。その辺が無難かな。それじゃあ、選びに行こっか」

 

 ともあれ、注文したコーヒを全部飲み、席を立ってから俺が会計をして店を出た。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「良かったね~。良いものが見つかって。喜んでくれるかな、千棘ちゃん」

 

「喜んでくれると思うぞ」

 

 そう言いながら、それぞれ袋紐を片手で持って歩く俺と小咲。

 そんな俺と小咲の空いている手は、優しく繋がれている。

 

「つか、るりは色々な意味で凄いよな。今の状況を作ってくれた張本人だし」

 

「るりちゃんは、私の大親友だから」

 

「お、おう。答えになってるか不明だが、そうなんだろうな」

 

 そう談笑しながら、俺たちは桐崎邸に向かったのだった。




投稿が遅れて申し訳ないです……。
疾走だけはしないので、今後もよろしくお願いしますm(__)m

では、また次回!


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パーティー

 俺と小咲が桐崎さんの家の前に到着すると、そこには、鶫さん、るり、楽、集と揃っていた。ともあれ、なぜ集が居るのか?というのはご愛敬というやつだろう。

 つーか、俺も皆と同じように上を見上げたが、桐崎さんの家はかなり大きい。集英組もそれなりに大きいと思っていたが、ここはそれ以上だろう。

 

「ところで、なぜ貴様がいる?舞子集」

 

「あはは!水臭いな~、誠士郎ちゃん」

 

「帰れ」

 

 鶫さんは集に冷たく言うが、集はそれを受け流している。

 その時、門の向こう側で、此方に歩み寄る人影が映る。

 その表情は唖然。というやつだろう。ということは、鶫さんのサプライズは成功ということだ。

 

「あ、千棘ちゃん。誕生日おめでとう――!」

 

 扉越しに、小咲がそう言う。

 だが桐崎さんは「な、な、な!」と開いた口が閉じていない。

 

「な、何で皆がここに……?」

 

「本日は、お嬢のお誕生日ということで、恐れながら私、お嬢に内緒で皆さんをご招待したのです」

 

 すると門が開き、集の隣に立っていた楽の腕を掴んで、敷地内へと引き連れる。

 これはあれだろう。自身の家がギャングと露見したら拙い。ということなのだろう。

 

「どうしたのかな、一条君と千棘ちゃん?」

 

「あれだな。桐崎さんの家のことだな」

 

「家?暗部さんってこと?」

 

 キョトンと首を傾げる小咲。

 小咲の言うように“暗部”ではないが、“ギャング”と“暗部”は裏世界でいえば同じようなものなのかも知れん、たぶん。

 

「お、おう。そうだけど、よく解ったな」

 

「千棘ちゃんの纏う空気と、歩夢君が纏う空気はほぼ一緒だったから」

 

 「わたし、昔から直感と鼻がいいんだ」と、付け加える小咲。

 いやいや、断言できちゃうとか、小咲の第六感は凄すぎでしょ。鍛えたら、危機管理能力とかを付属できたりするのかも知れない、たぶんだが。

 

「おーい皆―!こいつんちってさー」

 

 楽が門の方に歩いて来ながら、俺たちに呼びかける。

 

「わ――!ち、ちょっと――!」

 

 桐崎さんは慌てて楽を引き止めようとするが、楽が俺たちの事情を話すのだった。

 

「凄いなぁ~。わたし、お嬢様は憧れちゃうな~――あれ、どうしたの?」

 

 小咲は感嘆な声を上げ、るりは無表情だ。

 桐崎さんは、頭を抱えて俯いていたが、小咲たちの反応を見て「え?」と声を上げ、顔を上げる。

 

「え、えっと。小咲ちゃんは怖くないの?」

 

「へ?だって、歩夢君と同じってことでしょ?……あ、あれ。わたしが変なのかな?」

 

「いや、変じゃないぞ。あれだ、小咲は胆が坐ってるってことだ」

 

 すると楽が、

 

「な。小野寺たちなら問題ないって言っただろ」

 

 そんな事もあり、俺たちは鶫さんを先頭に、屋敷に向かって歩き出した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「ハッピーバースデ~~~!お嬢~~~!」

 

「お嬢、お誕生日おめでとうございます~~~!」

 

 鶫さんが案内してくれた大きなドアを開けると、クラッカーの音が鳴り、パーティ会場にいる男たちが桐崎さんを祝う。

 

「これはこれは。お嬢のご学友の方たちもいらして下さったのですか。ようこそ、歓迎いたします」

 

 桐崎さんが囲まれていた所から、白いスーツを着たクロードさんが歩み寄る。

 

「あ、はい!本日はお招きいただき、ありがとうございます!」

 

 そう言って、小咲は感謝の言葉を述べる。

 

「あ、あなたもいらっしゃったんですか。まさか、歩夢坊ちゃんがあの“神速”でしたとは……あの殺気も納得です」

 

 “神速”とは、師匠と組織を潰した時につけられた俺の二つ名である。

 組織を数分で潰したので、この二つ名がつけられたとか。つか、“神速”とか恥ずかし過ぎる。……既に、裏世界には広まっているので、手遅れなのかも知れないけど。ちなみに、顔は上層部にしか露見していないので、俺の生活に被害はない筈。

 

「歩夢君って“神速”って言われてるんだ」

 

 小咲は小悪魔な笑みを浮かべて「歩夢君を弄るネタができた」と言いたい表情である。てか小咲さん、若干羽さんに似てきた?

 

「こ、小咲さん。その二つ名は止めて、ホント、切実に」

 

「ふふ、わかりました」

 

 そう言って、小咲は笑みを浮かべた。

 ともあれ、プレゼント渡しになった所で、小咲が桐崎さんにプレゼントを渡す。

 

「千棘ちゃん。これ、私たちから」

 

 ちなみに、プレゼントの中身はリボンと文房具である。

 

「ありがとう。大切に使わせてもらうね」

 

 そう言って、プレゼントを受け取った桐崎さんは笑みを浮かべる。

 

「フフ。では、次は私から。楽お坊ちゃんのプレゼントに比べられば粗末かも知れませんが。――お受け取り下さい、お嬢!超高級車、マイバッハのオーダーメイドモデルです!」

 

 クロードさんの言葉と共に、真ん中に鎮座されていた布が取られると、中からは黒く輝く車が現れる。見るからに、一億円以上の価値のある車だ。

 

「いや、免許とか持ってないし、いらないわ」

 

 桐崎さんの言葉に、クロードさんは凍りつく。まあ確かに、高校1年で免許が取れる訳でもないし、車を貰っても、困るだけである。

 ともあれ、クロードさんが固まっている中、楽のプレゼントが桐崎さんに渡す番である。

 

「ほ、ほれ。誕生日おめでとう」

 

 桐崎さんが袋の中からプレゼントを取り出して、空気が凍りついた。

 楽が桐崎さんにプレゼントしたのは、頭にリボンをつけたゴリラのぬいぐるみだったからだ。

 会場の中からは、

 

「小僧、どういうつもりだ……?」

 

「こりゃあれか。お嬢がゴリラだとも言いてぇのか……?」

 

「い、いや、オレは真面目に考えて……!これを見た瞬間、びびってときたって言うか……」

 

 男たちに詰め寄られてる中、必死に弁明する楽。

 そんな中、楽を見つめていた桐崎さんが、不意に笑みを零す。

 

「あはは、嬉しいよ。ありがと、楽」

 

 そう言って、笑みを浮かべる桐崎さん。

 本当に喜んでいるのか、それとも期待外れなのかは、本人しか解らなかった。

 ともあれ、プレゼントが渡し終えると、会場は祭りのような騒ぎである。そんな中、俺はシャンパンを受け取り、会場外のベランダに出た。頬に当たる風が、とても心地いい。

 

「久しぶりに騒いだな」

 

 そんなことを呟きながら、月を眺めていたら隣に誰かが立つ。

 

「歩夢君。隣いいかな?」

 

「おう。構わないぞ」

 

 「ありがと」と言い、小咲は笑みを浮かべる。

 

「千棘ちゃんの誕生日、いつも楽しそうにパーティするんだね」

 

「だな。でも俺は、特定の人が祝ってくれれば別にいいけど」

 

 特定の人。それは、日本にいた時は小咲に、中国に居た時には羽さんから祝ってもらった。

 「そっか」と小咲は呟く。

 

「そういえば、小咲の誕生日って6月15日だっけ?」

 

「お、覚えててくれたんだ」

 

「そりゃな。で、その日は遊びに行かないか?楽しくなるように頑張るからさ」

 

「う、うん!楽しみにしてるね。今から楽しみだなぁ」

 

 小咲の嬉しそうな顔を見ると、なぜだか俺も嬉しくなる。

 いつしか、俺たちの手は繋がれていた。そこからの温もりで、お互いの鼓動の音が聞こえてくるようだ。

 

「そろそろ戻るか。体も冷えてきたらいけないし」

 

「うん。戻ろう」

 

 名残惜しそうに俺と小咲は、繋いだ手を解き、会場へ戻った。

 今日と言う日は、思い出の一ページの刻まれた日になったのだった。




歩夢君の二つ名は“神速”です。
まあ、由来は組織を潰した時間(数分で)から取りました。数分で組織を一つ潰すとか、歩夢君はチート過ぎですね(笑)

では、次回(@^^)/~~~


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シャシン

 桐崎さんの誕生パーティーが終わって、翌日のホームルーム。

 キョーコ先生が教壇に立ち、机に両手を置いて口を開く。

 

「は―い、皆注目。林間学校の写真が焼き上がって掲示板に貼り出されているから、放課後、各自欲しい写真の番号を記入して提出すること、OK?……あ、それと、恥ずかしくても好きな奴の写真はゲットしていおけよな、先生からのアドバイス」

 

 それは教師の発言なのか?と、クラスに居る生徒は思ったに違いない、うん。

 ともあれ、本日の授業が終了し放課後。いつものメンバーは、林間学校の写真が貼り出されている廊下へやって来ていた。既に掲示板前は、大勢の人で殺到している。

 

「……わ~!これ、好きな写真買っていいの?」

 

「そうだけど。余り買い過ぎるなよ」

 

 桐崎さんの問いに、楽が答える。

 確かに、貼り出されている写真はかなりの数だ。厳選して選ばないと、金がかなり吹き飛ぶに違いない。

 ともあれ、俺たちは人混みを進みながら掲示板前に到着する。

 

「あれ、わたしと歩夢君の肝試しの写真だっけ?歩夢君、寝むそうにしてるけど」

 

 小咲が一点を指差して、俺に問う。

 

「だな。てか、寝むそうは余計だ」

 

 俺が優しく小咲の頭を叩くと、小咲は「痛い」と言って涙目だ。……なんつーか、罪悪感が凄いんだが。

 

「あ。わたし、あれを買おうかな」

 

 小咲が言う写真とは、俺と楽しそうに笑う写真だ。……俺は、笑顔がぎこちないが。まあ、先生にいきなり写真を撮られたから。ということにしておこう、うん。

 

「いいんじゃないか。んじゃ、さっきの肝試しのやつと、あとは自分が気にいった写真にするか」

 

「うん!」

 

 そう言ってから、俺と小咲は購入する写真の番号を、配られた紙に記入していく。

 ――この時クラスメイトたちは、

 

「「「「「(((((……さすが学年公認カップル。羞恥心が全くない)))))」」」」」

 

 と、思っていたらしいが、俺と小咲が知る由もない。

 

「おやおやダンナ。もっと良い写真が揃ってます。お1つどうです?」

 

 集が両手を擦りながら俺に問う。んで、集が言うには、集が取り扱う写真は、女の子が普段見せない写真を取り扱ってるらしい。てか、そんなことをしてたら、いつか刺されるぞ……。るりからは「最低、クズ、変態、死ね」と罵られてるし。

 

「モロにH写真はオレの主義に反する!オレが求めるのは、絶妙に恥ずかしい写真のみ!――というわけで、るりちゃんと小野寺にお1つ」

 

 集に渡された写真を見たるりは髪の毛を逆立たせ、小咲は顔を真っ赤にして写真を破り捨てた。んで、るりにボコられる集。

 

「……歩夢。お前には特別にこんな物を……」

 

 集が俺に渡した写真は、肩を寄り添い合い、頭をくっ付け合ってる写真だ。

 

「いくらだ?」

 

「1枚500円」

 

「買った」

 

 写真を買って教室に戻る途中、廊下の角を曲がった所で誰かにぶつかってしまった。そしてその衝撃で、先程の写真が手元から落ちてしまう。

 

「ご、ごめんなさい。あれ、歩夢君?」

 

 小咲は「ご、ごめんね」と言って腰を落として、落ちた写真を拾い顔が真っ赤に染める。

 

「な、な、な。こ、この写真って」

 

「あ、ああ。集が撮った写真らしい。記念に貰ったんだ」

 

「そ、そっか。掲示板に貼り出されていると思って、少し焦ったよ。――わたしも、舞子君から貰おうかな」

 

「いいんじゃないか。頼んでみるか」

 

 ともあれ、このようにして林間学校の写真選びが終了したのだった。




今後の話として、所々場面を飛ばす事があるかもしれないので、ご了承緒をm(__)m
実際、検問の件は飛ばしたので。

では、また次回(@^^)/~~~


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テンコウセイ#2

 ~一年C組~

 

「(楽に許嫁ねぇ)」

 

 俺は席に座り、頬杖をついて窓際を覗き込んでいた。

 昨日、一条家で義父の話を聞いていたのだが、楽には許嫁が居るという。そのことを、義父が楽に伝え忘れてていたらしく、最近思い出したらしい。

 

「は~い、全員注目!今日は突然だけど、転校生を紹介するぞ~~!」

 

 キョーコ先生が前扉を開けて教室に入り、「それじゃあ入って来て、橘さん」と促すように手を向けていた。

 「はい」と返事をし、橘と呼ばれた転校生は教壇に上がって一礼した、見た感想としては、清楚な女の子。と言った所だろうか。

 

「皆さん初めまして。橘万里花と申します。何卒、よろしくお願いします」

 

 橘さんを見たクラスの奴らは、

 

『うおぉぉおおおー。またしても美人!』

 

『どうなってんだ!このクラスは!』

 

『モデル!モデルなの!?』

 

『オレ、このクラスで本当によかった!』

 

 と、かなりの騒ぎである。……てか、橘って見たことがあるんだが。……――そう、警視総監の娘だ。“昔”、騒ぎの後始末を押し付けていた記憶がある。

 

「楽様~~~!ずっと、お会いしたかったですわ~~~!」

 

 転校生が楽に抱きついたので、またしてもクラスメイトから声が上がる。

 

『はあぁぁああ!どういうことだよ!』

 

『転校生が一条に抱きついたぞ!』

 

『ちくしょう!また一条なのか!?』

 

 彼女の話によると、橘は楽と許嫁関係にあるらしい。確かに、昨日義父が「ギャングよりある意味、厄介というか……」って言っていた理由が解った。

 すると、隣席の小咲が、

 

「歩夢君は、転校生に興味ないの?」

 

「まあな」

 

 俺が好きなのは、小咲と羽さんだけだしな。と伝えると小咲は顔を真っ赤にして「ありがとう、嬉しいよ」と微笑んでくれた。

 

「ふふ。わたしも羽さんも、歩夢君が大好きだからね」

 

「……でも俺は、世間一般で言うと、優柔不断、二股野郎になるが」

 

「気にしないで。わたしと羽さんが“了解”を出してるんだから問題ないよ。他所は他所、自分は自分。だよ」

 

「そっか」

 

 と、俺は頷く。

 ともあれ、楽は修羅場?というやつに遭遇していた。んで、鶫が拳銃を向けると、盾を持った警察官が教室に突入する……いつも思うが、銃刀法違反に引っ掛からないのが不思議である。

 まあこの後は、橘は仮病?を使い、楽に保健室に連れて行ってもらっていた。

 

「今後、何事もなければいいんだけど」

 

「歩夢君、それをフラグって言うんだよ」

 

 小咲にそう言われ、俺はガックリと肩を落とした。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~屋上~

 

 翌日。

 怒涛の一日?が経過し、現在は放課後の屋上。この場には、小咲、桐崎さん、橘、楽、俺が集まっていた。

 

「……は?俺も過去に会ってる?」

 

 楽に「そうだ」と言われて、俺は目を丸くする。

 いやいや、俺の記憶では“天駒高原”で出会ったのは、小咲と羽さんだったはず。楽、橘、桐崎さんと出会った記憶は無い。

 

「ああ。千棘の親父さんはそう言った。この場に、再び四人集まったのは運命かもね。ってな。んで、橘も昔、オレたちと一緒に居たそうだ」

 

「……悪い、全く思い出せないわ。俺には、小咲と羽さん、二人と一緒に居た思い出しかない」

 

 楽は『羽さん』の名前を聞き、目を丸くし、橘はギョッとしていた。話を聞いた所、楽は羽さんと幼馴染の関係であり、橘は、昔の顔見知りだということ。

 それに、小咲と桐崎さんは一目見た時、お互いが仲良くなれるとほぼ確信していたそうだ。んで、橘と桐崎さんは、楽のペンダントに合うかもしれない鍵を持っている。で、小咲は俺が昔あげた、月形が括りついた銀色のネックレスを首からかけている。

 

「へぇ。そのネックレスは、歩夢があげたものだったんだね」

 

「お、おう。十年間持っててくれたのは、よ、予想外だったけどな」

 

 桐崎さんにそう言われた、俺は言葉を詰まらせながら答えた。

 小咲は、ネックレスをぎゅっと握りしめた。

 

「このネックレスは、わたしの宝物だから。肌身離さず身に付けるって決めてたんだ」

 

 「でも、重い女なのかな?」と、小咲が呟いたので俺は「いや、全く、全然」と呟いた。つーか俺は、可愛い子に想われるとか最高に嬉しいことでもある。

 ともあれ、放課後のチャイムが鳴り完全下校になった所で、オレたちは帰路に着いたのだった。

 




歩夢君は、羽さんとの思い出を最近思い出しました。(思い出全て)

では、また次回(@^^)/~~~


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テツダイ

更新が遅くなりました、すいません。


 時期は7月下旬。

 終業式が終わり、俺たちクラスはキョーコ先生からの注意事項を終え、立ち上がって挨拶を終えると各々談笑しながら教室から出て行く。

 

「歩夢君、帰ろっか」

 

 小咲の話によると、いつものメンバーは飼育係や日直の仕事があり、一緒に帰れないということ。

 

「おう。帰るか」

 

 そう言ってから、俺と小咲は教室から出て、下駄箱で靴に履き替え学校を後にした。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~通学路~

 

 談笑しながら歩いていたら、小咲は口ごもったように、

 

「あ、歩夢君。週末って空いてるかな……?」

 

「予定は入ってないはず。どうかしたのか?」

 

 小咲は、少し困ったように笑みを浮かべながら説明する。

 

「実はね、バイトをお願いしたいの」

 

「バイト?“和菓子屋おのでら”のか?」

 

「う、うん。従業員さんが、急用で来れなくなっちゃって……」

 

 俺は「なるほどな」と頷く。

 ちなみに、その日は人手が足りなくなるので、小咲も店に顔を出すそうだ。

 

「でも俺、和菓子を作ったことないけど、大丈夫なのか?」

 

 一応、俺は料理ができるが、専門料理(和菓子)を作ったことがない。

 

「だ、大丈夫。歩夢君、料理するの上手だもんっ!」

 

「お、おう」

 

 バイトを“了承”と答え、小咲から時間等を聞く俺。

 ともあれ、週末にバイトが決定したのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~週末~

 

 “和菓子屋おのでら”の扉の前に到着し、俺が足を踏み出すと自動扉が開く。

 

「お邪魔しま……」

 

 俺が店内に入った所で、怒鳴り声が俺の耳に届く。……間違いない、小母さんの声である。

 

「んだとぉ~~!?仕入れが一品も来ないだぁ~~!?」

 

 声が聞こえた方を見ると、其処では丸椅子に座って受話器を耳に当てながら、メモ帳とボールペンを持った小母さんの姿。

 

「いい!?夕方には間に合わせて!後でそっちに取りに行くから、わかった!?」

 

 そう言ってから、電話を一方的に切る小母さん。

 小母さんは、受話器を乱暴に元に戻し、額に手を当て呟く。

 

「……ん?」

 

 小母さんは俺を見て、何かを確信したように、

 

「……お前、歩夢の坊やか?」

 

「あ、はい。ご無沙汰してます、小母さん」

 

「ああ。でかくなったなお前」

 

 確かに、小母さんの中では、俺の背丈は小学生で止まっている。

 

「てか、何でウチにいるんだ?」

 

「えーと……」

 

 邪魔になるから帰れ、いう風に小母さんが立ち上がると、小咲が姿を現し、小母さんの腕にしがみ付く。

 

「お母さん!歩夢君は、今日のバイトの人!」

 

「……歩夢の坊やが?」

 

「そ、そう。歩夢君、料理がとっても上手なの!」

 

「……うーん。そこまで小咲が言うなら。じゃ、何か作ってもらいましょうか。駄目だったら帰ってもらうよ」

 

 ……何か、話が勝手に進んでるんだが。

 まあ、和菓子のことは勉強してきたので、基本知識ぐらいは大丈夫だと思うが…………たぶん。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~調理場~

 

 調理着に着替え、俺は和菓子を作る為に調理器具を用意していき、準備したボウルの水気を取りながら調理を進めていく。

 

「(かなり料理慣れしてるね。まあ、和菓子のことはよく解ってないようだけど。……この子、昔からスペックが高かったけど、今でも上がり続けてるのね……)」

 

 小母さんはこのように思っていたらしいが、俺が知る由もない。

 ともあれ、俺は牡丹餅を皿の上で完成させ、小母さんはそれを手に取り、口に入れ咀嚼する。

 

「……ほー」

 

 咀嚼し、牡丹餅を飲み込んだ小母さんがそう呟く。なんつーか、かなり緊張するんだが……。

 そして、小母さんはにっこり笑い、

 

「歩夢の坊や。ウチにお婿に来なさい」

 

「いや、話が飛び過ぎてません!?つか、小咲と俺――まだ(・・)恋人じゃありませんよ」

 

「――“まだ”、ねぇ」

 

 小母さんは、意味深にニヤリと笑う。

 そして、顔を真っ赤に染める、俺と小咲。

 

「ま、その様子だったら、小咲の貰い先は決まってるものよね」

 

 お婿は無理ね。と呟く小母さん。

 

「お母さん!!!」

 

 そこへ、小咲が声を上げる。

 ともあれ、俺は落ち着きと取り戻し息を吐くのだった。

 

「まあそれよりも、これなら少しは任せられそうね。小咲、一番簡単なやつと、餡の作り方を教えてやんな。私は午後まで店番してるから」

 

 先程とは打って変わって、真面目な様子で小咲にそう呟く小母さん。

 ともあれ、小母さんはレジに向かう。

 

「それにしても、あんたらはホント仲が良いのね~~。――私が孫の顔を見るのは、そう遠くないのかしら♡」

 

「お母さん!!!」

 

 にょほほほほ。と笑いながら、小母さんは調理場を後にする。

 

「……小母さん、まるで台風みたいだな」

 

「ご、ごめんね、歩夢君。気にしなくていいから」

 

「お、おう。でも、俺も先のことを考えるよ。だらだらしてたら、小咲たちが不安になっちゃうしな」

 

 「そっか」といい、小咲は微笑んだ。ともあれ、俺は小咲の指示通りに簡単な作業を進めていく。

 作業としては、俺が下準備を整え、小咲が和菓子の飾り付けをして完成させる。

 

「一緒になったら、これが日常の一部になるのかな」

 

「たぶんな。羽さんも加わりそうな感じもするけど」

 

「ふふ、そうだと嬉しいな」

 

 このように会話に花を咲かせながら、俺たちは作業を進めていくのだった。

 

『小咲―。ちょっと出てくるから店番よろしくー』

 

「あ、はーい」

 

 作業を終えた時、店番をしていた小母さんがそう呟いた。

 それから、俺と小咲はレジに向かい、二人並んでお客さんを待つ。すると、一人の老人が店の中に入って来た。

 

「「いらっしゃいませー」」

 

「おおー、今日は小咲ちゃんが店番かい。こりゃツイとるのぉー」

 

「こんにちは、吉野さん。毎度ありがとうございます」

 

「いやいや……えーと、隣の坊やは――」

 

「えっと。未来の旦那さまです」

 

 ……うん、その切り返しは予想してなかった。

 

「なんと!?」

 

 老人は目を丸くする。

 まあ確かに、婚約者です。って言ってるものなんだから。ともあれ、老人がショーケースの中から商品を選び、それを俺が専用のトングで取り箱に詰めてから手渡し、老人から代金を受け取る。

 

「どうじゃ?よかったら今度、儂とデートでも」

 

「もー、またまたご冗談を~」

 

 そう言って老人は、小咲にデートを申し込んでいた。つか、婚約者(偽)が居ると言ったのに、デートを申し込む老人はある意味猛者やね。

 

「お爺さん、小咲を口説くのはその辺にして下さい。お釣りの、615円です」

 

「お、ありがとよ、坊主」

 

 老人は「またよろしくなー」と言って、店を後にする。

 

「随分色気づいたお爺さんだな」

 

「あはは。吉野さんは、いつもああなの。……歩夢君、嫉妬してくれた」

 

「……まあ、そうだな」

 

「ふふ、そっか」

 

 順調に店番をし、バイトが終わりに差しかかった所で、店のドアがガタガタと音を鳴らす。それだけでは無く、外の方からは、強い風の音。その数分後には、大雨が降りつける。

 

「風も強いし、降ってきたね、雨」

 

「だな。そういえば、台風が接近してるってニュースでやっていたような」

 

 また、雨だけでは無く雷の音まで響く。俺もバイトが終わったら、すぐにお暇しよう。

 すると、レジ横の電話が鳴り、小咲が受話器を耳に当てる。

 

「お電話ありがとうございます。和菓子屋おのでらです。……え、お母さん?」

 

 電話の主は小母さんだ。

 この天候だ。交通機関でトラブルがあったのかも知れない。小母さんは大丈夫だろうか?

 

「え!?え、お母さん!待って!」

 

 小咲が、慌てたように声を上げる。

 小咲は、そっと受話器を戻して、俺を見る。

 

「小母さん、どうかしたのか?」

 

「う、うん。お母さん、台風が危なくて帰れないって……」

 

「まあ、そりゃ仕方ないよ」

 

 やはり、小母さんは帰ってくるのは難しいそうだ。

 たぶん、近場のビジネスホテルを取るなどで一時的に凌ぐだろう。と、俺は根拠のない結論に至る。

 

「あ、あとね……」

 

「お、おう。あと、どうした?」

 

 次の小咲の言葉で、俺は驚愕することになる。

 

「――帰るのは危ないから、歩夢君には泊まってもらえって……」

 

「………………………………はい?」

 

 俺と小咲は沈黙し、店内に備え付けられている針時計の音が響く。

 こうして、俺のお泊りが決定したのだった。




次回お泊まり会。
では、次回もよろしく(@^^)/~~~


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オトマリ

「小咲。小父さんは帰ってくる予定はないのか?」

 

「うん。お父さんも今日は用事で帰って来なくて。どっちにしろ、この天候で帰宅は難しいと思う。それに、妹は寮生活だから」

 

「な、なるほど」

 

 ……ってそうじゃなくて、小母さんも居ない、小父さんも居ない、妹も居ないとなると、現状この家には俺と小咲しか居ないということになる。――2人きり、ということだ。

 

「やっぱり駄目だ。さすがに、女の子一人の家に泊まったり出来ないって」

 

 でも、よくよく考えると俺が帰ったら、小咲はこの家に1人になるということ。

 もし、小咲の身に何かあったら、小母さんと小父さんに締められるんじゃないか……何、この板挟み状態は。

 ――そして、数秒の葛藤の上、俺は、

 

「……んじゃ、今日1日お世話になってもいいか?」

 

「う、うん。よろしくお願いします」

 

 ペコリとお辞儀をする小咲。

 いや、小咲の家なんだし、畏まる必要は無いと思うんだが。まあ、客も来ないし店の片付けを手伝おう。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 わたしは、両頬に両手を当て内心で頭を抱えた。

 

「(な、なんでこんなことに。――歩夢君と2人きりとか、心臓がもたない。でも、ニヤニヤが止まらないよ)」

 

「小咲?百面相してるけど、大丈夫か?」

 

 わたしは、ハッとして、誤魔化す為に笑みを浮かべる。

 でも、引き攣った笑みだと思うので、わたしが内心で何かに葛藤してることを、歩夢君は見破っているだろう。――でも歩夢君は、土足で心の中を覗こうとしない。そこには、彼の優しさを感じる。

 

「じゃ、じゃあ。お店の片付けしようか」

 

「了解だ」

 

 わたしたちは、そう言ってからお店の片付けを始める。

 それから、片付けが終わった所で、わたしの隣に立った歩夢君が口を開く。

 

「んで、これからどうするか?」

 

「とりあえず、わたしの部屋に行く?」

 

 言った後に、ハッと気づく。

 いきなり部屋に上がって。は、些か問題があるよね……。

 

「あ、ああ。でも、小咲の部屋に上がって大丈夫なのか?ほら、女の子の事情があるだろ」

 

「う、うん。大丈夫だよ」

 

 そして、わたしは思った。

 今、自分の部屋はどうなってる?綺麗にしてあるよね、大丈夫だよね。という不安があります。

 

「あ、ちょっと待って。少しだけ部屋を片付けさせて、着替えもしたいから」

 

「あ、ああ。落ち着くまで待ってるから、ゆっくり――」

 

 わたしは、歩夢君の言葉を最後まで聞かず、かなりの速さで自室に向かう。

 自室に入った所で、わたしは部屋を片付ける。そして、机の上に立て掛けられている写真立に目をやる。

 その写真立てには、小学生の時の別れ際、両親が撮ってくれた写真が額の中に入っています。

 

「歩夢君、写真のことは覚えてるのかな」

 

 でもまあ、覚えていなくても、10年越しに再会できたので何も寂しくないけど。

 わたしは、引き出しから部屋着を取り出し、白いワンピースを着ることに決める。

 

「これで大丈夫かな」

 

 それから「もういいよー!」と言って、部屋に作業着から着替えた歩夢君を呼び寄せます。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「適当に寛いでくれていいよ」

 

「お、おう」

 

 失礼だと思ったが、俺は部屋を見回した。

 部屋の中には、ぬいぐるみと、可愛らしい家具。そして、回りの装飾品が備え付けられている。

 

「わたし、お茶を入れてくるね」

 

「いや、別に大丈夫だぞ」

 

 だが、小咲は部屋から出て、足音が遠ざかっていく。

 俺が、ボーっとしていると、机に立て掛けられてる写真立てに目がいく。

 そこには、笑顔で映る小咲と、少々仏頂面の俺が映っていた。俺も同じ写真を持っているが、それは実家に置いてきてしまった。

 

「お待たせ、お茶持ってきたよ」

 

「わ、悪いな。そこまでして貰って」

 

「うんん。好きでしてることだから、気にしないで」

 

 といって、小咲は俺の隣に腰を下ろした。

 それから、俺は写真立てを指差す。

 

「なあ小咲。あれって――」

 

「うん。気づいてくれたんだ」

 

「まあな。別れ際に撮った写真だろ。でも俺、仏頂面だな」

 

 「そうだね」と、小咲は微笑んだ。

 それから数分談笑し、立ち上がりカーテンを開けた所、雨、風が止んでいた。

 

「雨、止んだね」

 

「そうだなぁ。でも、小咲を1人にできないよ。予定通り、お世話になります」

 

 小咲に向かい合い、俺はペコリと頭を下げる。

 

「んじゃ、夕食を作りますか」

 

「だね。メニューは、和風ハンバーグとかどうかな?」

 

「そうするか。じゃあ、キッチンに行くか」

 

 小咲の案内の元1階にあるキッチンに到着し、エプロンを掛け、冷蔵庫から取り出した食材を用意した器具の上に並べて包丁で食材を切っていく。

 

「ふふ。さっきも言ったけど、わたしたち夫婦みたいだね」

 

「まあな。将来の予行練習ってことでいいんじゃないか」

 

 ともあれ、和風ハンバーグが完成した所で箸で用意した皿に乗せ、お盆にそれを乗せてから白米をよそった茶碗も乗せテーブルに着席する。

 それから、お盆から皿を取り、眼前に置いていく。

 

「「いただきます」」

 

 音頭を取り、用意した箸で一口してから、白米も口に含み咀嚼して喉に通す。んで、「美味い」と内心で呟く俺。

 俺と小咲は、一言も喋らずご飯を間食した所で手を合わせ、

 

「「ごちそうさまでした」」

 

 と、呟く。

 食器をシンクまで持って行き、俺と小咲は用意されているタワシ等で皿を洗い、用具の上に乗せていく。

 ともあれ、食器が片付け終わった所で、小咲が口を開く。

 

「歩夢君、お風呂どうする?先に入る?」

 

「いや、風呂まで世話になる訳にはいかないよ。1日位どうってことないし」

 

「そ、それは駄目!歩夢君、バイトで汗も流したでしょ。遠慮しないでお風呂に入って、ね?」

 

「いや、それは………………わかった」

 

 俺は僅かに沈黙したが、小咲の真剣な顔を見て折れました、はい。

 

「小咲が先に入れ。男の後は嫌だろ」

 

「わたしはどっちでも構わなかったんだけど。でも、お言葉に甘えるね。……何なら一緒に入る?時間が短縮できるから」

 

「いや駄目だろ。つか、年頃の女の子がそういうことを言うんじゃない」

 

 俺は小咲の額を右手人差す指で小突き、小咲は「あう!」と声を洩らす。

 

「……わたしは別に構わないんだけどなぁ」

 

 と、小咲は小声で呟いていたが、俺はそれを聞こえない振りをする。なんつーか、理性が警報を鳴らしていたからだ。

 そんなこんなで、小咲は着替えを取りに行き、パタパタと風呂場に歩いて行った。

 

「……引っ込み思案な小咲は、何処に行ったんだよ」

 

 羽さんの影響を受け過ぎだな。と呟き、俺は大きな溜息を吐く。

 それから1時間程立っただろうか、居間に移動しテレビを見てた所で、

 

「歩夢君、お風呂上がったよー」

 

 俺の視線の先には、風呂上がりで、頬を若干紅く染めた小咲の姿。

 また、シャンプーの香りや、石鹸の匂いが鼻を擽り、俺の理性という壁を崩そうとする。

 ともあれ、俺はそれを悟られないように、

 

「おう。じゃあ、お風呂いただくわ」

 

「うん。着替え何だけど、お父さんの使って、洗面所に用意したから」

 

「了解だ」

 

 そう言ってから、座っていたソファから立ち上がり風呂場に向かう俺。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 風呂をもらった所で、俺と小咲はテレビを見ながら居間のソファに座っていた。

 

「歩夢君、寝る場所だけど、わたしの部屋でもいいかな?」

 

「いや、俺はソファでも構わないよ。さすがに、寝床まで一緒は拙い気がするし」

 

「ダメだよ。ソファじゃ疲れは取れません。ちゃんとした所で寝よう」

 

 「そう言われてもなぁ」と俺は内心で呟く。

 

「それじゃあ、居間に布団を敷くのはどうだ?」

 

 小咲は「うーん」と考えてから頷いた。

 

「わかった。そうしよっか」

 

 そこからは何事も無く時間が過ぎていった。

 ともあれ、22時になった所で布団を敷き、俺と小咲は布団の中に入り、「おやすみなさい」と言ってから、眠りに着いたのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~翌日~

 

 現在俺は、私服に着替え、小野寺家玄関前に居た。

 

「じゃあ、俺は帰るな」

 

「お母さんも帰って来たことだし、皆で朝ご飯をと食べていっても良かったのに」

 

「いや、これ以上迷惑は居座る訳にはいかない。楽も『飯を作ってあるからな』って言ってたし、集英組で摂るよ」

 

「そっか。じゃあ、また遊びに来てね」

 

「機会があったらな」

 

 そう言って、俺は苦笑した。

 「お世話になりました。またな」と言って、俺は踵を返し歩き出す。歩いている途中で後ろを振り返ると、小咲が小さく手を振ってくれていた。

 このようにして、俺の思い出に刻まれた1日になったのだった。




いつも思うが、小説を書くのって難しい……。

余談ですが、小咲ちゃんは歩夢君の前ではほぼ羞恥心がありません(羽姉も)

では、また次回(@^^)/~~~

追記。
お泊りの夜に、事情は楽に伝えてあります。


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ハッケン

この話は短いかもです。


 七月下旬。俺が小野寺家に泊まった5日後のこと。

 

「「「「「こんにちは~!」」」」」

 

 集英組には、集、鶫、小咲、るり、桐崎さんが玄関を上がり、廊下を歩いていく。

 

「いやぁ~、楽んチで皆と勉強会すんのも二回目かぁ~。しかし、何でこんなタイミングで勉強会?」

 

「さあな。鶫の発案らしいけど」

 

「誠士朗ちゃんが。こりゃまた珍しい」

 

 集がそう呟くと、フン。と鼻を鳴らして鶫が口を開く。

 

「夏休みの宿題など、早めに終わらせておくのに越した事はないだろう?」

 

「真面目だねぇ~」

 

 と、集は笑みを浮かべる。

 

「楽様あ~!お会いしたかったですわぁ~!」

 

 いつの間にかやって来ていた橘が、楽に抱きつき頬擦りをしている。

 そんな中、楽は顔を赤くしていた。

 

「た、橘!くっつくな!」

 

 楽は、橘を引き離そうとするが、橘は楽を抱き続ける。

 鶫の話によれば「貴様らは呼んでないぞ……」と、いうことだ。

 

「まあいい。では、参りましょう」

 

 居間に到着し指定された席に座り、鞄から勉強用具を取り出そうとするが、桐崎さんがある機械に目を向ける。

 そこには、大きめの機械に電源ケーブル、端から線に繋がれた2本の棒を鶫が掴んでいた。

 

「……鶫、企んでるのよ?」

 

「何も企んでいませんよ、お嬢。この機械は、勉強会の合間のレクリエーションにでも使おうかと……」

 

 鶫が、桐崎さんの言葉を否定すると、

 

  ビ――――――!

 

 と、音が鳴る。

 鶫はネットで見つけたと言っていたが、この機械は明らかにネット上で売られている製品ではない。

 俺の予想だと、ビーハイブが開発した嘘発見器(仮)だと思う。

 

「へー、面白そうじゃん!せっかくだし、早速試してみようぜ!」

 

 つーか、楽。それはマズイ気が……。

 桐崎さんとの恋人関係を聞かれたら、鶫には秘密にしているので非常にマズイ……。その証拠に、桐崎さんもかなり焦っている。

 そんなこんなで、鶫からやってみることになった。

 

「私ですか。じゃあ、どなたか私に質問してもらえますか?」

 

「じゃあ、わたしがしていいかな?」

 

「小野寺様?」

 

 手を上げたのは小咲だ。

 

「鶫さんは、今好きな人はいますか?」

 

「ぶふっ!小野寺様!いきなり何を!?――んん、前に話した通り、私に好きな人はいませんよ」

 

 ビ――――――!

 と、嘘発見器は、それを否定するように音を響かせる。

 

「やっぱり!」

 

「違います!」

 

 鶫はそれからも否定するが、嘘発見器はそれを否定する。

 

「嘘発見器なんて元々あてになるようなもんじゃありませんし、そもそも、質問がいけなかったのかもしれません」

 

「うーん…………あ、じゃあ!」

 

「鶫さんは恋をしてますか?」

 

「だからしてませ――」

 

 再び、鶫の発言を否定する嘘発見器。

 そして、鶫は嘘発見器を殴りつける。

 

「おかしいな?うん、この嘘発見器は壊れてるに違いない。そうだ、壊れてる」

 

 鶫は楽に、嘘発見器の棒を渡す。

 

「私のことはどうでもいいんですよ。一条楽。次は貴様の番だ」

 

「えっ、オレ!?」

 

「そうだ。お前はお嬢を本気で愛している?イエス、ノー?さあ、答えろ」

 

 ……知ってた。これを(間接的に)やりたかったんだろう。

 

「そ………そんなもん、イエスに決まってんじゃねぇか」

 

 楽がそう言うと、部屋の中には静寂が流れる。

 嘘発見器の針も動いていない。

 

「くっ……!ど、どうやら本当のようだな……」

 

 悔しげに呟く鶫。

 ……いや、俺も内心ではかなり驚いてる。てか、何で反応しないの?楽と桐崎さん、偽の恋人だよね?

 ともあれ、楽から渡された、嘘発見器の棒を橘が持つ。

 

「それでは、私が。何方か質問をして下さらない」

 

 挙手したのは、桐崎さんだ。

 

「ダーリンとキスしたって言うのは本当?」

 

「それはもちろん……本当ですわ♡」

 

 満面の笑みを浮かべた橘がそう答え、桐崎さんは怒りの形相で楽を見ている。

 兎に角、楽と橘にそのような事があったとは驚きである。

 そして、橘から棒を受け取った桐崎さんの番。

 

「私から質問しますわ。桐崎さんと楽様は、キスはもう済ませたのかしら?」

 

「「なぬっ!」」

 

 驚愕の声を上げる、楽と桐崎さん。

 桐崎さんは顔を引き攣らせ、

 

「いや、それはまだ……。私たちはピュアなお付き合いを……」

 

 否定した桐崎さんだが、嘘発見器が反応を見せていた。

 

「「「「「えっ!?!?」

 

 全員が驚愕の声を呟く。

 

「してないしてない!断じてしてない!」

 

 「つ、次は歩夢よ!」と言って、桐崎さんは嘘発見器の棒を俺に投げ、俺はそれを受け止める。

 

「ほら!誰か質問しなさいよ!」

 

「あ、じゃあオレが!」

 

 そう言ったのは集である。

 

「噂で聞いたんだが、歩夢。お前は、小野寺以外に好きな人がいるのか?」

 

 ――こ、この質問は拙い。場合によっては、社会的に拙い……。

 

「こ、この質問って答えないと駄目……?」

 

 全員(小咲を除く)が、首を縦に振り首肯する。

 俺は「えー、逃げ道無いじゃん……」と内心で溜息を吐き、口を開いた。

 

「ま、まあ」

 

「「「「「マジか!」」」」」

 

 と、今日一番の驚愕の声。

 

「あ、あとあれだ。こ、小咲たち(・・・・)から“了承”を貰ってるから、冷たい目で見るのは勘弁してくれ」

 

「それはホントなの?小咲ちゃん」

 

 桐崎さんが小咲にそう聞くと、

 

「本当だよ、千棘ちゃん」

 

「そ、そうなんだ。理由を聞いていいかな?」

 

 小咲は、右手人差し指を唇に当てる。

 

「えっとね――わたしたちは歩夢君が大好きだから、今の答えになったんだ。どちらかが振られちゃう選択したくなかった。っていう要素もあるんだけどね」

 

 「へぇ」「そういう選択もあるのねぇ」「二股野郎だわ」という様々な反応だ。

 なんつーか、肩身が狭いです……。

 

「つ、つか。何で恋話になってんだよ。勉強しようぜ、勉強」

 

 と、俺は無理矢理話題を変えるのだった。

 この後、からかわれたのは別のお話。




ついに、二股がばれてしまいました(笑)
ですが、歩夢君にはその甲斐性はある筈です!

では、次回(@^^)/~~~


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エンニチ

今回の話は賛否わかれるだろうなぁ。てか、小説描くのって難しい……。


 今日は縁日であり、俺は屋台に立ち、鉄板の上の焼きそばの麺をヘラで混ぜていた。縁日の期間、集英組は屋台を出しており、組の資金源にしているそうだ。

 俺は『何か手伝えないことはないか?』と聞き、屋台の手伝いをしているのだ。さすがに、タダで居候という訳にはいかない。

 

「歩夢坊ちゃんも、楽坊ちゃんも朝から働き通しじゃないですか?そろそろ、休憩を取った方がいいじゃないですかい?」

 

「そうだなぁ。じゃあ、今焼いてるやつを他の連中に渡してから入るよ。――歩夢もそれでいいか?」

 

 俺は楽の問いに「構わないぞ」と頷く。

 それから、焼き上げた焼きそばをプラスチックの容器に盛り付け蓋をしてから、割り箸をつけ袋にいれていく。

 

「んじゃ、行くか」

 

 俺がそう言ってから、楽と一緒に屋台を出て、皆さんの屋台に焼きそばを届けいく。

 渡し終わってた所で、再び周りを見渡す。日が昇っていた頃と比べ、夜の方が賑わっている気がする。

 

「じゃあ、オレはある任務があるから、ここで別れるな」

 

 楽が言うには、今後の事も考えて“恋むすび”というお守りを購入したいらしい。

 何でも、お守りの効果として、持っているだけで恋愛成功成就が発揮し、販売直後に品切れが発生する代物らしい。

 ともあれ、楽と別れた俺は屋台を見て回ることにした所で『――歩夢ちゃん、だよね?』と呼ばれた。その人物は、紫陽花のあしらった桃色の浴衣を身に付けており、長い黒髪はシュシュで纏まられていてサイドポニーだ。

 俺は声の主を見て目を丸くし、

 

「――羽さん(・・・・)?」

 

「久しぶりだね、歩夢ちゃん。まさか、会えるとは思わなかったよ」

 

 羽さんの話では、凡矢理では縁日に合わせて帰国したらしい。

 話を聞いた所、

 

「花火を?」

 

「うん。だから、この日には毎年帰国してるんだよ」

 

 俺は「なるほど」と頷く。

 

「折角だし、一緒に回る?」

 

「お。デートだね」

 

 羽さんはそう言うが、これはデートに入るか微妙な所だ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 俺と羽さんは、様々な遊戯を堪能した。

 金魚掬い、輪投げ、射的。でも射的では、1人分を羽さんと密着して的を打っていたので、俺の理性の壁がガリガリ削られていった……。まあ、役得だったけど。

 談笑しながら歩いていた所、知っている人物(小咲)が映る。相手も俺を視認したらしく笑みを浮かべて、こちらに歩み寄る。

 

「歩夢君、バイト以来だね」

 

 小咲は、向日葵はあしらってある、蒼を基調とした浴衣を身に付けている。

 

「羽さんも久しぶり。また会えて嬉しいよ」

 

「久しぶりだね、小咲ちゃん」

 

 と言って、小咲と羽さんは笑みを浮かべていた。

 

「小咲は、何で縁日に?」

 

「えっとね。縁日で上がる花火を見に来たんだ」

 

 「小咲もなんだ」と内心で呟く。

 ともあれ、一緒に回ろうということになり、俺たちは目的の場所を目指して歩き出す。

 その途中では『早くしないと売れ切れちゃう!』『買えた!買えたよ!』『“恋むすび”ゲット!』等の声が届く。

 

「歩夢君は、“恋むすび”は買わないの?」

 

「歩夢ちゃんは現実主義だし、“神頼み”はしない派からね」

 

 小咲と羽さんがそう呟き「まあな」と俺は頷く。

 数分歩いていたら、見渡しが良い丘(隠しスポット)に到着する。この場所は、屋台を準備していた時、偶然見つけた場所である。

 数分経過した頃、

 

 ド―――ン!

 

 という音が響き渡る。

 花火は様々な形をしていた。輪の花火や、花形を模った花火などだ。

 花火を見ていた、小咲と羽さんの横顔はとても幻想的に見えた。

 

「来年も、また一緒に見ような」

 

「「うん。約束ね」」

 

 俺は、今思った疑問を小咲と羽さんに聞く。気持ちは確認してあるが、一応である。

 

「今思ったんだが、俺たちって付き合ってる、でいいんだよね?」

 

 小咲と羽さんは「確かに、そこはハッキリさせないとね」と頷いた。

 

「気持ちを確認しただけで、そういう形式はとってなかったね」

 

 そして、羽さんと小咲が振り向き、俺の瞳を見ながら――、

 

「――歩夢ちゃん、ずっと好きでした。付き合ってください」

 

「――わたしも、10年前から気持ちは変わっていません。大好きです」

 

「――あ、ああ。俺も大好きだよ。これからも、末長くお願いします」

 

 小咲と羽さんは「ふふ」と笑みを浮かべる。

 

「歩夢君、結婚する時の決めセリフになってるよ」

 

「でも、歩夢ちゃんらしいよ。わたしたちも、末長くよろしくね」

 

 花火が終わった所で、俺たちは将来を誓い合った。

 ちなみに、翌日にデートすることに決まったのは余談である。



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デート

更新です。


 俺は私服姿で、凡矢理である人物を待っていた。

 待ち合わせの30分前に到着したからなのかは解らないが、周りから視線を集めてしまってる気がするが、俺の気のせいだろう、うん。

 

「「お待たせ~!」」

 

 ワンピースを基調とした服装で小咲と羽さんが姿を現し、肩からはショルダーバックを下げている。

 俺は「全然待ってない」と呟いてから、

 

「服、似合ってるよ」

 

「あ、ありがとう」と、羽さんと小咲は微笑んだ。

 

「実は今日の為に合わせたんだ、ワンピース」

 

「昨日、電話で決めたんだよね~」

 

 一見して見れば、姉妹に間違えられてもおかしくない雰囲気である。

 てか、周りからの視線が一気にきつくなったんですが……。まあ、美少女2人を囲っていたら当然なのかも知れない、たぶん……。

 

「んじゃ、行きますか」

 

 改札で電子マネーをタッチし、改札を潜ると、目的の電車に乗り込む。

 ちなみに、デートをする場所は水族館だ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 揺れる電車僅かに混雑していて、俺は小咲と羽さんを壁際まで寄せて盾のように立つ。小咲たちが痴漢にあったりしたら、2人を大事にしている人たちから怒りが落ちる。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん。大丈夫だよ」

 

「わたしも大丈夫だよ」

 

 それから数分揺られ、目的の駅に降り、改札を潜ってホームを後にしたのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 水族館の扉を潜り、受付にチケットを渡して内部に入ると、目の前にはお客を迎えるような大きな水槽。内部には、小魚や海老、鮫などが泳いでいた。

 

「(……いつも思うが、小魚たちはよく鮫に食われないよな)」

 

 それから、小さな小魚だけを入れた水槽や、触れ合いコーナにいるアワビなどを流し見し、金魚展示コーナを通り過ぎる。途中で、イルカショーが開催されていたが、人だかりができていた為断念した。きっと、碌に見ることはできないだろう。「また今度来ような」と俺が苦笑すると「そうだね」と、小咲と羽さんは微笑んだ。

 階段を下りた所にベンチが設置されていたので、一時休憩。ということになり、俺たちはベンチに腰を掛ける。

 腰を掛けて口を開いたのは、羽さんだ。

 

「ずっと、この時間が続けばいいのになぁ」

 

「楽しい時間は、過ぎるのが早いよね」

 

 確かに、俺たちは正午に集まって、今は夕方に差し掛かっていた。

 また、俺たちの空間には騒音は無く、静かな時間が過ぎていた。

 

「そうだな。でも、一緒になったら時間に余裕ができるはず、たぶん」

 

 ……断言できない所が、俺の悪い癖だよなぁ。

 

「一緒で思い出したんだけど、わたしのことは『さん』付けは無しでお願いしたいな」

 

 確かに、敬語は無しなのに『さん』付けは不自然とも言える。

 

「じゃあ、羽ちゃん。でいいかな?」

 

「んじゃ俺は、羽。だな」

 

「うん。今後はそれでお願いね」

 

 「じゃあ、行こうか」と言う俺の言葉に「そうしよっか」と羽と小咲が答えてくれた。

 俺たちは立ち上がり、このエリアを堪能してから、1階に設けられているカフェへ移動し、俺がブラックコーヒー、羽がカフェラテ、小咲がキャラメルラテを注文し、3人で座れる席へ着席する。そのカフェ内部も、ブラックライトに照らされ、人工の光によって幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 ともあれ、俺たちは一口コーヒーを飲み息を吐く。

 

「疲れが吹き飛ぶな」

 

「だねぇ」

 

「結構歩いたからねぇ」

 

 それから水族館の話を数分談笑し、俺たちは立ち上がりゴミ等を片付けてから、1階に点在する色とりどりの熱帯魚コーナに移動する。

 

「餌とかどうしてるのかな?」

 

「うーん。やっぱり、飼育員があげてるとか?」

 

 「たぶんな」と、俺は2人意見に頷く。

 ともあれ、一通り見た所で、俺たちは次の場所へ向かいうのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 最後に向かった場所は、御土産屋だ。

 店内には、イルカやアシカのぬいぐるみや、ヒトデやイルカのネックレス、文具や食べ物と、様々な物が陳列されている。

 その中から、俺が手に取ったのは、限定商品であるマグカップだ。

 

「これ、お揃いにしないか」

 

「たしかに、お家にあっても、邪魔にならないしね」

 

「わたしも賛成かな」

 

 マグカップを購入することになり、俺たちは各自気にいった種類を手に取りレジへ向かってから代金を払い、袋に詰めして貰い、俺たちはそれを右手に持つ。

 ともあれ、こうして俺たちは水族館を出て、羽が泊まっているビジネスホテルまで送った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~ビジネスホテル、正面扉前~

 

「じゃあ羽、また今度だな」

 

「また会えるの、楽しみにしてるね」

 

 俺と小咲は、別れの言葉を羽に掛ける。

 

「わたしも楽しみにしてる。近い内帰るから、待っててね」

 

「「おう(うん)」

 

 そう頷き、手を振ってこの場から離れて行く。

 去り際に、後ろを見た所、羽は俺たちの後ろ姿が見えなくなるまで手を振っていてくれた。ちなみに、予定では後半年で組織を統一するのが目標らしい。このことから、羽のカリスマ性を感じる俺であった。




歩夢君、リア充ですね(笑)

ではでは、次回もよろしく(@^^)/~~~


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ウミベデ

 夏休みの終盤、残りの日数は後1週間だ。

 そんな時、集英組の知り合いが民衆ビーチのチケットを安く売ってくれたらしい。この行事を話し合った所、全員の予定が合った為、海にやって来ているのだ。

 各自が簡単なTシャツ、短パン、パーカー、バレオタイプの水着、と言った恰好である。ともあれ、楽の手にはパラソル、俺の手には大き目のクーラーボックス、集の手には浮輪が下げられている。

 

「私、日本の海って初めて!ノースカロナ以来かな」

 

「私は見るだけですが、モルディブ以来でしょうか」

 

 桐崎さんと橘の会話なのだが、高校生の発言じゃないぞ……。つか、どんだけ金持ちだよ。と突っ込みを俺は入れたくなる。

 

「あー楽しみ楽しみ!私いっちばーん!」

 

 我慢ができなくなった桐崎さんが、両腕を上げながら海の方向に駆け出して行く。

 ともあれ、俺たちも後を追い、指定された場所にパラソルを立て、荷物を置いていく。だが、作業をしていたら――、

 

『おい、なんだあの美女集団……』

 

『レベル高え~~~』

 

『芸能人?見たことないけど……』

 

『どこの雑誌の子だろ…………』

 

 ……いやまあ、こうなる事はわかっていたけどさ。女子のレベルは、段違いに高いし。

 

『それに、あのイケメン……どこかの俳優かな……』

 

『……カッコイイわ』

 

『ほら、話しかけて来なさいよ!』

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「あれだ。視線が怖いんだが……」

 

「し、仕方ないよ。歩夢君、カッコイイし」

 

 小咲はそう言うが、

 

「そうでもないだろ。つか、小咲は可愛すぎ。正直、誰にも見せたくないな、うん」

 

 独占欲丸出しの俺である。

 

「そ、そっか。あ、ありがとう?」

 

 ともあれ、パーカーを羽織ってくれました。ちなみに集が言うには、俺たちの回りには特定の空間らしきものが見えたらしい。「お前ら、何処でもイチャイチャしてるんだな」と、溜息を吐き言われたけど。俺たちはそんなつもりはないんだが、回りから見るとそう映るらしい。

 そんなこともあり、俺と小咲は肩を寄せ合って海を眺めていた。

 

「落ち着くな」

 

「うん。今度は、羽さんとも来ようね」

 

「そうだな」

 

 十分に遊んだ所で、今夜の夕食当番を決める為、俺たちは集まって話し合う。

 決めるのはクジ引きであり、当番は2人。早速クジを引き、当番を決めた。結果は、楽と桐崎さんだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~1時間後~

 

 準備が終わり、バーベキュウコンロの回りに立ちようにして、俺たちは具材を焼いていき、プラスチックの皿の焼けた具材を、渡された割り箸を割ると、手を合わせ、

 

「「「「「いただきます!」」」」」

 

 と言って、合掌し口に運ぶ。

 肉を、巡って争いもあったが、無事に夕食は完食する。夕食の片付けもクジ引きで決めたが、俺はそれを免れた。なんつーか、最初から最後まで任せっきりになったので、申し訳なくなった。

 

「歩夢君、隣いいかな?」

 

 防波堤に腰を下ろし、月が照らしている海を見ていたら、小咲が話かけてくれた。

 

「ああ、いいぞ」

 

「ん、失礼します」

 

 小咲は、俺の隣に腰を下ろした。

 

「不思議だね。10年越しに再会できて、一緒になって、綺麗な景色を見ることが出来るなんて想像してなかったよ」

 

「そうだな。でも、ここまでトントン拍子でこれて、ある意味怖いかも知れんけど」

 

「ふふ、そうだね」

 

 暫しの沈黙が流れるが、それは心地良いものだった。

 

「……歩夢君。キスしても、いい?」

 

「え、あ、おう」

 

 そこからは自然に体が動き、月明かりの中、俺たちの影が1つに重なった。



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コレカラ

皆様お久しぶりですm(__)m
まじで投稿が遅くなってすいません……。話の矛盾点がないか心配です。


「……しちゃったね、キス」

 

 小咲が頬を赤く染めて呟いた。

 てか、俺も赤くなってると思う。――キスは初めてじゃないけど、恥ずかしさが込み上げてきたのである。

 

「まあ、な。てか、何か恥ずかしかったな」

 

「ふふ、そうだね」

 

 小咲は笑みを浮かべた。

 ともあれ、俺と小咲は防波堤から腰を上げた。

 

「さて、そろそろ合流しますか」

 

 小咲は、うんっ。と可愛く頷く。

 

「あ、そういえば、舞子君が記念の花火をやろう、だって」

 

 小咲が言うには、集が海辺でプチ花火大会を開いてから、皆で民宿に戻る予定、ということ。

 

「花火ねぇ。てか、何年ぶりだろ?」

 

 俺の記憶では、小学校低学年が最後。と記憶している。

 そんな時――、

 

『そんなもん、上手くいくわけがねーだろバカ』

 

『うっさいわね!分かったからもう黙っててよ!』

 

 途切れ途切れだが、桐崎さんと楽の会話が聞こえてきた。

 

「桐崎さんと楽の声だな」

 

「喧嘩かな?」

 

「わからん。てか、本音と照れ隠しがぶつかったとか?知らんけど」

 

 だが今後、桐崎さんと楽の間に気まずい空気が流れるのは確かだ。

 

「し、知らないんだ。で、でも、これから一騒動ある、かも?」

 

「小咲さん、なぜ疑問形?……でもそうだなぁ、一騒動あるのは否めないな」

 

 そう思った俺は溜息を吐く。

 そしてこの出来事が、夏休みが終わるまでの一週間強の出来事だった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 新学期。

 夏休みも終わりを迎え、残暑の中再び学校が始まる。

 

「……暑い、焼ける、焦げる、灰になる……」

 

 自分の席に座り、右手で頬杖をしながら俺は窓の外を眺めていた。

 そんな時、職員室から戻って来た隣席の人物が席に座り、苦笑する声がした。

 

「歩夢君。途中で買って来たんだけど、飲む?」

 

 体を小咲の方に向けると、小咲が右手で差し出してくれたのは、購買で購入したと思われるストローが刺されたイチゴ・オレ(紙パック)だ。

 

「でも、わたしの飲みかけになっちゃうんだけど」

 

「いや、構わないよ。もらっていいか?」

 

「ん。どうぞ」

 

「助かる」

 

 俺は小咲からイチゴ・オレ(紙パック)を受け取り、ストローを咥えほぼ一気に啜るのだった。

 そして、ずるずるずる。と啜った所で、席から立ち上がり紙パックをゴミ箱に捨ててから、再び着席する。

 

「やっぱり一条君と千棘ちゃん、あの一件から喧嘩続いちゃってるのかな?」

 

 確かに、教室に入って来た桐崎さんと楽の会話は、いつもと比べると淡白なものだ。

 なんというか、桐崎さんが楽に『必要最低限なことしか話しかけてこないで』、とも取れる。――そして、あの状態でニセ恋とか無理じゃね。とも思ってしまう。

 

「わからん。てか、楽に関しては怒ってる感じはなかったけどな」

 

「そっか。歩夢君、一条君のお家に居候してるだもんね」

 

 俺は、ああ。と頷く。

 

「まあなんだ。時間が解決してくれるのを待つしかないんじゃないか?今は、そっとしておくのがいいと思う」

 

「そうだね。無理に足を踏み込むのは良くないよね」

 

 そうそう。と頷く俺。

 それからチャイムが鳴り、ホームルームが始まりキョーコ先生が出席をとり終わると、キョーコ先生が「舞子、よろしくな~」と言ってから、集がキョーコ先生と入れ替わるようにして教壇に立つ。

 

「はいはい注目~~!それでは早速、今年我がクラスで行われる文化祭の出し物を発表します~~!ちなみに、皆の表を厳選に集計した結果だからな!」

 

 集は、フンス。と鼻を鳴らす。

 

「我がクラスの出し物は演劇に決まった!気になる演目は……――ロミオとジュリエット」

 

 そして集が言うには、今日この場で主役であるロミオとジュリエットの配役を決めたいらしい。

 

「……そこでどうだろう?私に提案があるんだ。――主役であるロミオとジュリエットについてなのだが……我がクラスのラブラブカップル!一条楽と桐崎千棘嬢にお願いしようと思うのだが、いかがだろうかー!」

 

「ちょ、ちょっと待て集!?待てよ、こら!」

 

 楽はこのように声を上げるが、周りは拍手で乗り気である。

 このまま決定だろうと思われたが――、

 

「やらない。演劇に興味もないし、やりたくない。誰か……他の人に……」

 

 ――そう、桐崎さんは反対意見だったのだ。

 これには集も目を丸くしていた。

 

「……う~ん、そっかぁ。残念だけど仕方ないねぇ……。誰か、他の人に……」

 

「はいはい、は~い!」

 

 そう言って挙手したのは橘さんだ。

 

「私がやりますわ!ジュリエット!」

 

 そして、いつものように楽に抱きつく橘さん。

 また、橘さんがジュリエット役なら、他の男子もロミオに立候補するということで、収拾がつかなくなった。これじゃ仕方ないと言うことで、男女から一人ずつクジ引きで。ということになる。

結果選ばれたのは、ロミオ役に楽。ジュリエット役に近藤さんだ。

 ちなみに、俺と小咲は、裏方の準備係である。

 

「マジで裏方でよかったわ」

 

 俺が安堵の息を吐くと、小咲が苦笑する。

 

「ふふ。歩夢君、人前に立つのはちょっと苦手だもんね」

 

「おう。若干コミュ症だしな、俺」

 

「そっかなぁ。全然そんな感じはしないけどなぁ」

 

「そんな風に見せてないだけよ。――とりあえず、文化祭頑張ろうな」

 

「うんっ!よろしくねっ、歩夢君!」

 

 そう言ってから笑みを浮かべる小咲。

 こうして、高校生最初の文化祭が始まるのだった。



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エンゲキ

世間では、クリスマスというやつですね。
まあ舞翼はクリボッチですが……(-_-;)


 ~放課後~

 演劇の練習が始まった所で、俺と小咲は教室を出て、キョーコ先生から頼まれた照明を探す為空き教室に向かい空き教室に入ると、内部は整理整頓された器材が並んでいた。

 

「歩夢君、この照明かな?」

 

 小咲が指差したのは、キョーコ先生から取ってきてくれと頼まれた照明機材だ。

 

「ぽいな。それじゃあ、それを持って教室に戻りますか」

 

 小咲は、うんっ。と頷く。

 

「歩夢君、本格的な準備等は明日からだっけ?」

 

「そ。今日は器材を教室に運ぶだけ。予定では、明日の午前授業は文化祭の下準備に使うらしいぞ」

 

「なるほど。てか、凡矢理高校の文化祭って、かなり力を入れてるんだ」

 

 まあ確かに、午前中の授業を準備時間に費やすと考えると、凡矢理高校はかなり文化祭に力を入れているのだろう。

 ともあれ、俺と小咲は指定された器材を両手で持った。

 

「んじゃ、教室に戻りますか」

 

「そうだね」

 

 そう言ってから、俺と小咲は空き教室を後にしたのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ――文化祭本番も間近に迫り、演劇の練習も本格的になっていた。……まあ、演劇の練習中には、橘さんの乱入に多々あるんだが。

 そんな中、俺と小咲は教室で開催される喫茶店の装飾作りに勤しんでいた。

 

「よ~し!今日も所の練習はここまでにしようーぜ!出演者は全員集まってくれ!」

 

 集が言うには、これから出演者の衣装合わせ、ということだ。

 まあ、トラブルも多少あったが、出演者全員の衣装合わせが終わり、各自が作業の続くをしていたら、廊下から――パンッ!という音が響く。

 桐崎さんが楽の右頬をビンタしたのだ。クラスの皆も「何だ何だ?喧嘩か?」と言いながら、開かれた窓から楽たち眺める。

 すると、俺の隣に座っている小咲が、

 

「……これって完全な仲違い、だよね?」

 

「……だろうなぁ。これは完全に面倒事だろうなぁ、今後に響かなければいいんだが」

 

 具体的には、戦争回避の為のニセ恋。とかだ。

 集英組とビーハイブが戦争となれば、この辺一帯が危険地帯になるだろう。……仮に戦争になっても、せめて一般人に露見しないようにしてほしい。

 てか、これはもう第三者が介入するのは無理だろう。このまま離れるのも、仲直りするもの本人次第。……完全に他人事になっているが、こういう繊細な事柄に第三者が足を踏み入れるのは、嫌な予感しかしない。

 それから、文化祭本番当日まで、桐崎さんと楽はお互いに亀裂を入れたまま迎えるのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ――文化祭当日。二階席。

 

 開演時間残り30分に迫る所で、俺と小咲は照明器具の最終確認を終わらせ、演劇の裏方に回る為舞台裏に向かった。

 舞台裏に移動すると、そこには壁際で顔を俯け体育座りで座っている近藤さんと、楽の姿がある。

 クラスの一人から話を聞いた所、近藤さんが脚立から落ちたクラスメイトを受け留める為に、足を挫いてしまったらしい。

 

「なるほどな。んじゃ、橘さんはどうなんだ?」

 

「ああ。橘さんは――」

 

 飯田の話によると、橘さんは風邪で寝込んでしまって無理だということ。

 

「代役として、小野寺は無理、か?」

 

「ちょっと厳しいかも、ぶっつけ本番で息を合わせるのは――」

 

 俺の隣に立ち小咲がそう言った。

 

「でも、一条君と息を合わせられる子なら居るんじゃないかな?」

 

「そだな。息が合うのはあの子しか居ないんじゃないか?――な、楽?」

 

 俺は、こちらの話を聞く為に傍に来ていた楽に話し掛ける。

 

「仲違いをしてるのは知っているが、楽と息を合わせられる子が居るとしたら、彼女しかいないぞ」

 

「ああ、そうだな。あいつとなら何とか出来る気がする。――歩夢、小野寺、サンキューな。あとで何か奢る!」

 

 そう言ってから、楽はこの場から駆けていった。

 これを気に、仲直りするんだぞ。と念を贈る俺。

 

「自惚れも入ってるかも知れないけど、変わりに、わたしたちが出ることになったらどうする?」

 

「その時はその時だろ。まあ、セリフがわからないから、完全なアドリブになるけどな」

 

「ふふ。それでも、何とかなっちゃうような気もしちゃうけどね」

 

「俺もだ。小咲と一緒なら、何とかなる気がするな」

 

 何でだろうな。と、俺は付け加える。

 それから数十分後、扉が勢いよく開かれ、舞台裏に入って来たのは息を切らせた楽と桐崎さんだ。

 

「一条君、間に合ったんだ」

 

「そうだな。これなら何とかなるんじゃないか」

 

 ともあれ、劇が始まり、劇の冒頭から集の悲しみのナレーションが入り、劇が進んでいく。

 だがやはりと言うべきか、桐崎さんがセリフを忘れてしまい、楽に続きの言葉を聞こうとすると、楽が突っ込みで返すと言う漫才と化してしまったのだ。

 でもまあ、客受けは良いのだ。このまま続けても問題ないとも取れるてしまう。

 

「一条君と千棘ちゃん。かなり息が合ってるね」

 

「偽モノとはいえ、恋人だしな。あの二人は」

 

 舞台裏から劇を見ている小咲と俺がそう言った。

 そして劇は進み、ロミオ()がバルコニーに行こうとするが、そこでは召使やら、本当の恋人?()やらの乱入があった。てか、クロードさん。何やってんの、あんた?まあ、ロミオ()ジュリエット(桐崎さん)を会わせない為に乱入したと予想できるけど。

 ともあれ、ロミオ()が頑張り功を制したのか、劇は大成功に終わったのだった。




演劇はほぼ一気に終わらせました。もし、楽と千棘が間に合わなかったら、代役として歩夢と小咲を。とクラスメイトたちは考えていました。
文化祭は、次で少し書いて終わりかなぁ。てか、春ちゃんの立ち位置をどうしようか。
では、次回(*・ω・)ノ


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オワリ

文化祭終了です。


 劇が終了し、俺と小咲はすぐに教室に戻る気は無く、文化祭を二人で見て回ることにした。

 各クラスの出し物はかなり良くできており、文化祭にかなり力を入れていたことが窺えた。

 俺たちが出し物を一通り見終えると、購買で紙パックのジュースを購入し、ある場所へ移動した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~屋上~

 

「演劇、成功に終わったね」

 

 小咲が手摺に体を預けながら呟く。

 小咲の言う通り、客の反応と拍手を見る限り成功と言えるだろう。

 

「そうだな」

 

 そう言ってから、手摺に体を預けた俺はジュースを一口飲む。

 

「そういえば、クラスでこれからお疲れ様回を開くらしいが、小咲、行くか?」

 

「うーん。わたしは、歩夢君と居られれば参加しなくても大丈夫だよ」

 

 俺は、そうか。と頷く。

 

「それならまぁ、屋上にもうちょっと居るか」

 

 それから俺と小咲は、各教室から聞こえてくる笑い声をBGMとしながら、夏風に当たるのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 クラスメイトSide。

 

「それでは皆の衆!カ――ンパ――イ!」

 

 クラスメイトたちは、各自のジュースが入ったコップを掲げ、音頭を取る。

 

「いやー、大成功!」

 

「ウチのクラス、凄い評判良かったて~~!」

 

「ジュース皆に回して~~!」

 

「お菓子もいっぱいあるよ~~!」

 

 そんな時、クラスメイトの一人が回りを見渡し――、

 

「そういえば、誰か足りなくね」

 

 確かに。と頷くクラスメイト。

 すると集が、

 

「そんなの公認カップル(幼馴染カップル)だろ~。たぶんどこかでイチャついてると思うよ~」

 

 クラスメイトも「ああ、あの二人か」と納得していた。まあ確かに、歩夢たちには修学旅行のクラス行動中に居なくなったという前科もあったりする。

 その時、教室の前扉がガラガラガラと開き、小咲と歩夢が教室に入ると注目の的となる。

 

「な、なんだ?この空気?」

 

「わ、わたしたち登場する間が悪かったり?」

 

 クラスメイトは「いや、全然」と首を振ると、歩夢たちは安堵の息を吐く。

 ともあれ、小咲は女性陣の元へ、歩夢は男性陣の方へ向かうのだった。

 

 クラスメイトSideout。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 俺が男子の元へ向かうと、集が肩に手を回してきた。

 

「歩夢。小野寺と何やっていたんだよ?」

 

「いやまあ、屋上で雑談、だと思うぞ?」

 

 何故か疑問形で答える俺。

 まあでも、屋上で膝枕をしてもらっていたので、雑談が疑問形になるのは仕方ない。

 

「本当か?お前らのことだから、イチャイチャしてるかと思ったぜ」

 

「そうか?俺は自覚ないが」

 

 溜息を吐く集。

 

「あ、そう。つーことは、小野寺も自覚なしかぁ」

 

 俺が、それよりも。と話を切り替える。

 

「てか、楽と桐崎さんは完全に仲直りしたのか?」

 

「仲直りした、って楽が言ってた。まあ、破局は回避した」

 

 俺は、よかった。と安堵の息を吐く。

 俺の中では、破局回避=戦争回避、だしな。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 小咲side。

 

 わたしが椅子に座り、紙コップに入ったオレンジジュース飲んでいると、るりちゃんが話しかけてくれた。

 

「随分遅かったわね、小咲」

 

「そうかな。でも、るりちゃんが言うならそうかも」

 

「ところで、あんたたちは何してたのよ?」

 

「えーと。屋上で雑談?」

 

 歩夢君のリクエストで、膝枕もしてあげたけど。

 あの時の歩夢君、甘えん坊さんだったなぁ。

 

「そう、深くは聞かないわ。でも、学校では不純異性行為は許さないわよ」

 

 わたしはそれを聞き、顔をリンゴのように真っ赤に染める。

 一瞬でも、『そういうこと』を考えた自分が恨めしい。

 

「だ、大丈夫だよ。てか、わたしと歩夢君、付き合ってないよぉ」

 

「……そう。なら教室で砂糖を量産するのは止めなさい」

 

「砂糖を量産?」

 

「……何でもないわ。私たちも打ち上げの続きをしましょうか」

 

 私は、う、うん。と頷いた。

 それからわたしたちは、打ち上げを楽しんだ。

 こうして、高校生初めての文化祭が終わりを迎えたのだった。



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クリスマスイブ

飛ばしても問題ないと思われる話は飛ばしていくかも知れません。
今回も、色々飛ばしてますから。


 ~一年C組、教室~

 

 文化祭が終わってから、アメリカからやって来たと言われるポーラの襲撃以外は、特にこれと言った事件もなく日々が過ぎて行った。

 また、四季の訪れを感じるように、徐々に寒さが回りを包んでいく。

 俺は席に座りながら体を小咲を捉えるようにして動かし、話かける。

 

「そういえば、小咲。クリスマスイブに何か予定入ってるか?」

 

「入ってない、かな」

 

 俺は、そうか。と頷く。

 

「実は羽さんの希望で、テレビ電話を繋げてツリーを見るんだけど、小咲もどうだ?」

 

 小咲は、目をパチクリと瞬く。

 

「わたしも一緒しちゃっていいの?」

 

「もちろん」

 

 ちなみに、小咲も共に。ということは、羽さんの希望だ。

 勿論、俺も小咲に参加して欲しい。

 

「じゃあ、お邪魔しようかな」

 

「んじゃ、よろしくな」

 

 そんな時、

 

「あ――!もうすぐクリスマスか~。イブの日は皆もう予定あんの?」

 

 楽の周囲に集まっていた集がそう呟く。

 集の話によると、クリスマスイブの日に、クラス皆で行うパーティーを企画してるとのことだ。

 

「歩夢と小野寺はどうかな?」

 

「――悪い。イブは小咲と過ごす予定」

 

「ご、ごめんね。舞子君」

 

「いいよいいよ。でも、嵌めは外すなよぉ」

 

 そして、『クリスマス』という言葉を聞いて、桐崎さんは顔を青くしていた。

 何でも、お母さんが帰ってくると言うことだったが、ビーハイブの者が逆らうことすらできない凄腕の母らしいのだ。

 ともあれ、緩やかに時間が経過し、クリスマスイブを迎えるのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~クリスマスイブ当日~

 

 現在俺は、上はタートルネックにミリタリージャケットを羽織り、下はスキニーパンツにチャッカブーツといった出で立ちで小咲の到着を待っていた。

 

「十分前か」

 

 そう呟いてから数分後。

 マフラーを首に巻き、ミニワンピースの上にふんわりとしたコートを羽織り、下はタイツに茶色いブーツを履いた小咲が小走りで手を振りながら待ち合わせ場所に到着した。

 

「お待たせ、歩夢君」

 

「いや、全然待ってないぞ。てか似合ってるな、今日の服装」

 

 というか、小咲に似合わない服なんてあるのか疑問である。

 

「ふふ、ありがとう。歩夢君も似合ってるよ」

 

「そ、そうか。じゃ、じゃあ行くか」

 

 誤魔化すように呟く俺。

 

「ん、歩夢君」

 

 といって小咲は右手を伸ばすと、俺はその左手で優しく握る。そして、目的地はショッピングモール内に展開された大きいモミの木である。

 俺と小咲は、持参した電子カードを改札に翳してから、目的地へ辿り着く路線の電車を待っていたのだが――、

 

「人、多くね?」

 

 そう、電車を待つ白線の内側の人の密集密度が通常と比べると異常なのだ。

 

「今日イブだし、ツリー目的でモールに行く人たちかも」

 

「え?この人数全員?」

 

「全員ではないと思うけど、たぶん半分以上はツリー目的じゃないかな。でも、娯楽目的の人もいると思うよ」

 

 確かに小咲の言う通りなのかもしれない、俺はあのショッピングモールには一度しか訪れたことしかないが、そこはレストランや服屋、ゲームセンターなどが整っており、有名ショッピングモールと言っても過言ではなかったりする。

 ともあれ、電車に搭乗し、目的地の駅で降りた俺と小咲は、ショッピングモールのパンフレッドを入手し、パンフレッドを見ながら目的の場所へ歩き出した。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~クリスマスツリー前~

 

 モミの木がある中庭は、周りがガラス張りされた空間になっており、何とも神秘的な場所だ。

 

「よくこんなにでかい木を運べたな」

 

 ツリーのサイズは、ショッピングモールの天井に届きそうな大きさだ。

 

「だね。でも綺麗だね」

 

 小咲は感嘆な声を上げた。

 そして、スマートフォンに映る人物からの声も――、

 

『たしかに綺麗。でも、不思議な感覚でもあるね』

 

「そりゃそうだろう。羽さんは、厳密言えば中国から見てるんだし」

 

 羽さんは両頬を膨らませた。

 

『歩夢ちゃん、そこは触ったらいけない部分だよっ』

 

 羽さんは、もうっ。と言って苦笑した。

 

『でもそうだね。来年は同じ場所で同じ景色を見たいね』

 

 そうだな、と頷く俺。

 小咲も、楽しみにしてるね。と言い、嬉しそうだ。

 

『歩夢ちゃんと、小咲ちゃんはこれからどうするの?』

 

 うーん。と考え込む小咲。

 

「歩夢君、ご飯でも行く?」

 

 確かに、小腹が空いてきたの否めない。

 出掛ける前に食べてきたんだけどなぁ。

 

「そうするか。てか、テレビ電話も繋げたままにして、羽さんにショッピングモールの案内も入れるのはどうだ?」

 

「それいいね。羽さんもデートだねっ」

 

『ふふ。案内よろしくお願いします♪』

 

 ということなので、俺と小咲、羽さんでショッピングモール案内件、一階にある飲食店へ向かう。

 これが、クリスマスイブの日に起きた出来事である。



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クリスマス

 クリスマスイブが終わり、翌日のクリスマス。

 

「お待たせ、小咲」

 

「待ってないよ。わたしも今来たところ」

 

 今日の夕方、クラス内で行われるクリスマスパーティに参加する為、オレと小咲はあの場所を待ち合わせ場所にし、そこから集が予約したホールに行く事になっているのだ。てか、イブの日に一度行われたらしいので、クリスマスパーティが二回目の開催らしい。

 てことはパーティのやり直しついでで呼ばれた感じか?

 

「でも、どうしてもう一回開くんだろね?」

 

「さあな。ま、俺たちから見ればありがたいけどな」

 

 そんな事を言いながら、俺と小咲は会場に向かって歩を進める。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 会場に到着し、会場内部に入ると、案内に従ってパーティが開かれる広場の扉を開くと、そこでは会場に既に来ていたクラスメイトたちが談笑していた。

 

「お、神崎に小野寺、もう始まるから早くこいよ」

 

「神崎君と寺ちゃんは、ホント仲良しだよねぇ」

 

 クラスメイトにそう言われた俺と小咲は、これが普通だよな。うん、普通だよね。と目線で会話。

 この目線での会話は、俺たちの特権。ともあれ、案内してくれた場所には、既に注文された飲み物がテーブルの上に並んでいた。

 それから数分後、楽と桐崎さんが会場に入って来た所でパーティが開始される。……始まったのだが、クラスメイトはソワソワしている感じである。

 というのは、昨日パーティを開いている時に楽が乱入し、桐崎さんを『高級スイートルーム』に連れていく発言したそうだ。まああれだ。楽から詳細を早く聞きたくて待ちきれない、って所だろう。

 それから当たり障りのない感じで聞いていたクラスメイトたちであったが、痺れを切らしたクラスメイトの一人が何があったんだ!?と聞いていた。

 

「何か凄いことになってるね」

 

 グラスを片手に、小咲が俺にそう聞いてくる。

 

「クリスマスイブだったしな、嵌めを外したんじゃないか?」

 

 俺がそう言うと、小咲が、ふふ。と笑う。

 

「わたしたちも嵌めを外してもよかったんだよ」

 

「……あー、まあ、俺たちには早いというか……俺の甲斐性が無いっていうか。て、てか、俺たちまだ高校一年だし」

 

 でもまあ、早い奴は中学生時代に外してそうだけど。

 そんな時、窓の外を眺めると、綺麗な白が舞落ちていた。

 

「積もるかなぁ」

 

「どうだろうな。でも積もったら、登校が大変になりそうだけど」

 

「もうっ、歩夢君は現実的なんだから。綺麗、とか、神秘的。でいいんだよ」

 

「そ、そうだな。すまん……」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 パーティが進み、先程まで賑わっていたホール内が静まってきた所で、俺が外を歩かないか?と小咲に提案し、パーティ会場から出ると、外は綺麗な白に染まっていた。

 そして周りを見渡すと、腕を組み歩くカップルや、家族連れで楽しそうに談笑する姿が見受けられた。

 

「……リア充爆発しろ」

 

「……うーん。傍から見たら歩夢君もリア充、かも」

 

 そう言って、小咲は苦笑する。

 ……まあ確かに、可愛い子たち(美少女二人)が想ってくれている時点で、俺はリア充なのかも知れんが。

 すると、小咲がぽつりと呟く。

 

「歩夢君と再会してもう半年かぁ。長いようで短かったかも」

 

「俺は短く感じたけど。てか、濃い半年だったよなぁ」

 

 勉強会、林間学校とあるが、その中で一番と言ったら“日帰り中国旅行”だろう。

 

「そういえば、羽さんってお正月に帰省するのかなぁ?」

 

「そんな話は上がってなかったから帰省の予定は無いんじゃないか。てか、後で聞いてみるか?」

 

 何なら、凡矢理から中国に行くのもありだと思うけど。

 俺がそう言うと、小咲が微笑んだ。

 

「うんっ。じゃあ、わたしが後で電話してみていいかな?」

 

「おう。報告待ってるな」

 

 歩道を歩きデパートの二重自動ドアを潜ると、デパートの中心に巨大なクリスマスツリーが鎮座していた。

 かなり大きいクリスマスツリーだ、周りの装飾がツリーの迫力を増している。――昨日のツリーとは違う迫力である。

 

「……綺麗だね」

 

「……そうだな」

 

 取り敢えず、近場のベンチに腰を下ろす。

 小咲は何かを思いついたように鞄からスマホを取り出しカメラを起動させ、写真を撮ってからメール機能を展開させ、添付ファイルに写真を張り付けてメールを送った。

 おそらく当て主は、羽さんで間違えないだろう。……いやでも、昨日一緒にツリーを見ながらショッピングモールの案内をしたんだけどね。

 

「羽さん、見てくれるかな?」

 

「見てくれるよ。てか、羽さんが拗ねている未来が見えるんだが」

 

 羽さんスマホ越しに、『ずるい、小咲ちゃん』と言って、両頬を膨らませているだろう。……いやまあ、多分だけど。

 ともあれ、俺たちのクリスマスはこのようにして幕を閉じていった。




歩夢君と小咲ちゃんの服装は、イブの日と同じ感じです。
それと今後ですが、飛ばしても問題ないかなぁ。って思う話は飛ばすスタイルで行こうと思います(*・ω・)ノ


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シンネン

お久しぶりです。


 ~新年~

 

 俺は袴姿で、とある神社の鳥居前である人物を待っていた。

 その時、パタパタと下駄を鳴らしながら、待ち人が姿を現す。

 

「ごめん。待たせたかな」

 

 そう言ったのは、ピンク色を基調とし、所々に紫陽花があしらってある着物に袖を通した小咲だ。

 俺は「全然」と言ってから、

 

「着物似合ってる」

 

「そ、そうかな」

 

 小咲が言うには「無理に大人びてる」感があるから似合っているか不安だとも言っていた。まああれだ、着物に着られている心配があったのだろう。まあ、そんな心配は一切ないのだが。

 ともあれ、俺と小咲は歩幅を合わせて歩き出し、神社へ足を進めた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「かなり混雑してるな」

 

「年越し直後だから、込んでるのかな?」

 

 俺と小咲は、お賽銭箱の順番を待ちながら呟く。

 順番になり俺と小咲は右手に準備していた5円玉お賽銭箱に入れ、両手を合わせて目を閉じる。

 

「(――歩夢君と、ずっと一緒に居れますように)」

 

「(――皆が健康で過ごせますように)」

 

 願い事が終わった所で本堂を後にし、俺たちは出店を見て回ることになった。

 出店は、破魔矢や松竹飾り、鏡餅や輪飾りなど様々な正月飾りが鎮座していた。

 

「破魔矢でも買っていくかなぁ」

 

「わたしは、注連飾りと餅花かな」

 

 そう言ってから、俺が店員を呼び会計を済ませる。

 目的の物を買い終わった所で、俺たちは神社を後にする事にした。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「ところで、桐崎さんたちはどうしたんだ?」

 

 俺が帰り道で小咲にそう聞く。

 

「一条君のお家だと思うよ。朝千棘ちゃんにメールしたら、一条君と偽デートの予定。って返信があったから」

 

 なるほど。小咲は神社の参拝に桐崎さんを誘っていたのか。

 だとしたら、楽を誘っておけば良かったか?まあでも、楽は家でゆっくりしているので桐崎さんと合流するかもだし、結果オーライということで。

 

「もうすぐ三学期だね」

 

「だなぁ。てか早いな、もう新学期かぁ」

 

 小咲と再会したのを半年前と考えると、時間が経過するが早く感じる。

 

「新学期も、隣の席のままだったら嬉しいんだけどなぁ」

 

「でも新学期だし、それに合わせて席変えとかあるだろ。まあ俺の勘だが」

 

 まあ確実にあるだろう。

 新学期も、小咲の隣がいいなぁ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 初詣が終了し、小咲を自宅に送る道中で、俺は気になっていたことを小咲に質問する。

 

「ところで小咲。春ちゃんは元気か?」

 

 俺が小咲に聞いた“春ちゃん”とは、小野寺小咲の妹で、小野寺春。のことである。

 ともあれ、俺が凡矢理に帰って来てから一度も会ってないので気になったのだ。

 

「うん。春なら元気だよ。でも中学は寮住みだから、今は住んでる地区が違うんだ」

 

 俺は、なるほど。と頷く。

 また小咲が言うには、春ちゃんとは定期的に連絡を取っているということ。

 

「てことは、来年は凡矢理高受験か?」

 

「どうだろう?でも、このまま何もなければ、凡矢理高だと思うな」

 

 確かに、この辺りの高校と言えば凡矢理高しかない。

 もし違う高校となれば、凡矢理を跨ぐことになるだろう。てことは、ほぼ受験は凡矢理高ということだ。

 

「そうか。つか春ちゃん、俺のこと覚えってかな?」

 

「覚えてるんじゃないかな。春と歩夢君、いっぱい遊んでた記憶があるから」

 

 まあ確かに。小咲と遊んでいた時は春ちゃんも一緒だった記憶がある。といっても、昔の記憶なので、春ちゃんが俺のことを覚えているとは限らないが。

 

「でも、一番遊んだのはわたしだけどっ」

 

 ふんす。と胸を張る小咲。……あと、そこまで胸を強調しないで。俺が視線に困るから。……それより独占欲?強すぎませんかねぇ、小咲さん。いやまあ、俺的にはありがたいけど。

 

「いや張り合うなよ。でも確かに、一番小咲とは付き合いが長いな」

 

 小咲は保育園児から小学高学年まで一緒にいたが、春ちゃんと知り合ったのは小学生低学年からだ。

 てことは、春ちゃんとも幼馴染になるのか?

 

「うん。年数では、わたしが一番かなぁ」

 

 年数にすれば、約10年間である。

 ちなみに、春ちゃんとは2年弱だ。

 

「そうだなぁ。羽さんとも4年弱、だからな」

 

 そんなことを話しながら、俺と小咲は、小咲の自宅の玄関前まで到着する。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「またな小咲。明後日の朝迎えに行くよ」

 

「うん、待ってる」

 

 俺は「じゃ」と言ってこの場を後にした。

 そして、明後日からは新学期が始まる――。




凡矢理は、1月の第一週から学校が始まる設定です。
さて、もうそろそろもう一人の幼馴染(春ちゃん)の登場ですね。次回かその次当たりですね。


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サンガッキ

遅れてすいません。
久しぶりにニセコイを書いたので、文章が滅茶苦茶になっていたらすいません……m(__)m



 冬休みも終わり三学期。

 

「……よーし、皆よく聞け!席替え、やるわよ」

 

 始業式が終わり、クラスメイトたちが席に着席した時、キョーコ先生がそう言った。

 まあ確かに、二学期は席替えをしていない記憶がある。

 

「いやぁー、私としたことが二学期にすっかり忘れててねー。ちょうど皆も集まってるし、ちゃっちゃっとやっちゃお~」

 

 クラスメイトの不満や喜びの声が挙がる中、キョーコ先生はクラス委員長にクジを作るように促す。

 そんな中、俺は座っている椅子から横に移動し、隣に座る小咲の方に体を向ける。

 

「もう一回隣になれっかなぁ」

 

 俺としては、今の席の位置から移動しなくてもいいと思っている。あ、もちろん、小咲は隣だけど。

 小咲は微笑みながら、

 

「わたしも隣だったら嬉しいけど、そう簡単にはいかないかもね」

 

「そうだよな。クラスの人数が30人となれば、隣になれる確率も低いだろうしなぁ」

 

 ともあれ、俺の順番になりクジを引くと――、

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ……後ろの窓際になったのはいいが、クラスメイトの女子に囲まれるのは、俺の精神的に宜しくなかったりする。

 

「よろしくね、神埼君。私、伊藤由愛」

 

「あ、伊藤ちゃんずるいー。私は田代七海、よろしくね」

 

「私は矢城由愛、よろしくね」

 

「お、おう」

 

 内心で「……助けて、小咲」と叫ぶ俺。

 ちなみに小咲たちは、いつものメンバーが周囲に集まる感じになっている。でも位置的には、教室の真ん中と最悪な場所でもあるが。

 ……てかあれだ。勝算は薄いが、キョーコ先生に言ってみよう。

 

「き、キョーコ先生。俺、この席から黒板が見えないんです。やり直しを要求したいです」

 

 俺がそう言うと、「そうだそうだ!」「オレの回り、女子全然いないし!」「オレもこんな前の席嫌だ!」「私も、前過ぎるのでやり直しを要求します!」と、自分の席替えの結果に不満を持つ生徒たちが現れる。

 橘さんは「席替えにやり直しなど聞かない」とも言っていたが、キョーコ先生は、

 

「いいわよー?」

 

 キョーコ先生は机に顔を載せながら、だらけた表情で呟く。

 クラス委員長は、クラスメイトのクジを回収する。

 

「いやまあ~、三学期となりゃあんたたちも色々あるだろうし、生徒たちの自主性を重んじ……的な?」

 

 だが、自分の席が気に入らない生徒が続出し、席替えは複数回続く。

 そして、下校の時間に近付き――、

 

「は~い。もう時間がないから、次で最後ね~。うらみっこ無しだよ~」

 

 キョーコ先生がそう言い、クラスメイトたちは緊張の面持ちでクジを引いていく。

 もう、席替えのやり直しは利かないのだ。

 

「じゃー、みんなクジを開いて~」

 

 キョーコ先生がそう言い、皆はクジを開く。

 ともあれ、俺の席は一番後ろの中央である。

 

「こ、小咲、またよろしく」

 

「あ、歩夢君。また隣同士だね。よろしくお願いします」

 

 そう。俺の隣は小咲だったのだ。いや、マジで嬉しい。

 その右隣は、楽と桐崎さんである。

 

「やった!近くに小咲ちゃん!」

 

「うん!千棘ちゃん、よろしくね!」

 

 喜びあう、小咲と桐崎さん。

 

「つーか、また歩夢は小野寺の隣なのな」

 

「楽こそ、前回と同じく桐崎さんの隣だろうが」

 

 俺と楽は、売り言葉に買い言葉というやつである。

 

「まあなんだ。これからもよろしくな、歩夢」

 

「おう。こちらこそよろしく頼む」

 

「((うんうん、いいよね。男の子の友情))」

 

 小咲と桐崎さんはこう思っていたらしいが、俺と楽が知る由もなかった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~帰り道~

 

 学校が終わり、俺と小咲は通学路の歩道を歩く。ちなみに、俺が車道側だ。

 

「もう一年生も終わりかぁ。長いようで短い一年だわ」

 

「ふふ。歩夢君、そのことはこないだも言ってたよ。でも確かに、わたしにとっても長いようで短かったかなぁ」

 

「かもな。この一年で中国に弾丸ツアーをしたり、鶫さんや橘さんの転校や、羽さんとの出会い。桐崎さんと楽のニセコイもあったしな」

 

 まあ、楽と桐崎さんのニセコイは現在進行中なわけだけども。

 その時小咲が、「あ、そういえば」と呟き、

 

「歩夢君。春は来年、凡矢理高校を受験するって電話で言ってたよ」

 

 小咲が言う“春”とは、小咲の妹である――“小野寺春”のことである。

 

「そうか。てことは、春。俺たちの後輩になるわけだ」

 

 楽しみだな。と思いながら、俺と小咲は帰路に着くのだった。




バレンタインとマラソンは飛ばしますね。
歩夢君は、小咲からの本命チョコは確実ですからね。なので、飛ばして言いかなぁ、と。
マラソンは、そこまで物語に関わらないよなぁ、と思いまして。


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二年生編
イモウト


二年生編です。


 春。

 暖かな風が桜の枝を揺らし、髪をくすぐる。――そんな四月の頃。

 私の名前は――小野寺春。

 私は今日から高校一年生。念願叶ってお姉ちゃんと同じ高校である、凡矢理高校の受験を合格。今まさに、新しい生活に期待に胸を膨らませている所です。

 高校一年生初日は、空も真っ青で、桜も咲き、何だか素敵な恋とか始まっちゃいそうな予感です。

 

「お嬢ちゃん可愛いね。高校生?」

 

「学校なんて行かないで、オレたちと遊ぼうぜ」

 

 なんだか初日からピンチです!

 あわわ……どうしよう。ただでさえ中学が女子校で男の人って苦手なのに……。――でも、昔遊んだ男の子は例外だったんだけど。

 

「ほら、こっちに」

 

 私の肩に男の人の右手が触れようとする。……誰か助けて!

 ……ああダメだ。だんだん意識が遠く。

 

「男が群がってナンパとか恥ずかしくないの?てか、男が数人で女子高校生を囲むとか――」

 

「…………え?誰?」

 

 そう呟き、私の意識は遠くなる。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「料理当番がこんなに長引くとは」

 

 いつもなら小咲と待ち合わせをしてから登校するのだが、「今日は遅れるかも知れない」とメールを送り、別々の登校である。

 

「……ん?ナンパか?」

 

 不良が複数で女子高生をナンパするのは見過ごせない俺である。

 そんなことを思いながら俺が女の子の前に立ち、男の一人が女の子の肩に触れようとしている手を片手で弾く。だが女の子は目を閉じ体を強張らせている。

 

「男が群がってナンパとか恥ずかしくないの?てか、男が数人で女子高校生を囲むとか――」

 

 喧嘩には勝てそうな相手だが、この場で暴れるのは避けた方がいいだろう。

 

「あ、なんだよてめぇ」

 

「楯つくと容赦しねぇぞ、テメェ」

 

「そんなつもりはないけど。それにこの子の親は警官だぞ。てか、この子に何かあったら両親は黙ってないと思う。あ、ちなみに、俺はこの子の従妹だから、この子の親に報告してあんたらを捕まえることが出来るんだけど」

 

 咄嗟の思い付きだが、 “警官”という言葉は不良たちを追い払うのは十分な言葉だと思う。

 まあ、不良たちが手を挙げたら、俺も正当防衛をするけど。

 

「……ちっ、行こうぜ。警察(サツ)の世話になるのはごめんだ」

 

 そう言って、不良たちは去って行った。

 俺は後ろを向き、その場で座り込む女の子を見る。どうやら力が抜け座り込んでしまったのだろう。てか、意識があるようでよかった。

 

「大丈夫か?立てる?」

 

 俺が右手を差し出すと、女の子はそれを両手で握り立ち上がる。

 そして俺の姿をハッキリと捉えると、声を絞り出す。

 

「…………歩夢君、だよね?」

 

「そうだけど。何で俺のこと知ってるんだ?」

 

 いや、よくよく見るとこの子、小咲にかなり似ている。ちなみに俺と解った理由は、俺に昔の面影を見たらしい。

 

「間違っていたら申し訳なんだけど、小野寺春?」

 

「う、うん。覚えててくれたんだ」

 

「お、おう。美人になってて最初は気づかなかったけど」

 

 それに髪も長くなっていて、サイドテールになっていたので雰囲気が違ったのもある。

 俺の記憶の春は、短髪で活発な女の子だったのだ。

 

「び、美人!?」

 

 目を丸くする春。

 いやまあ、傍から見ても美人に部類すると思うんだが。

 

「まあうん。俺の記憶では、活発な少女だったし」

 

「……うん。昔の私はそうだったかも」

 

 昔を思い出し、納得する春。

 ともあれ、今の時刻を近場の時計で確認すると、8時30分を回ろうとしている。この場から凡矢理高校目指して走っても完全に遅刻だろう。

 ところで、入学式の集合時間は何時なのだろうか?

 

「なあ春。入学式って何時からだ?」

 

「えーと、8時40分にクラス分けの教室に集合ってなってるよ」

 

「……残念な知らせだが、今から凡矢理まで走っても10分以上かかる。入学式開始は9時00分からだろうけど、色々と個人で準備することもあるだろうから、それを考えると完全に遅刻決定だ」

 

 まあ俺も8時40分までに席に着席しとかなければいけないので、完全に遅刻だが。

 

「仲良く遅刻するか。今から走っても間に合わないし」

 

「うぅ。高校生初日から遅刻なんて……完全に問題児あつかいだよぉ」

 

「まあいいじゃん。学年の有名人になれるぞ」

 

「……悪い意味で名前が広がる、ってことでしょ」

 

「悪いかは解らないけど、不良的な感じで捉えられるだろうなぁ。たぶんだけど」

 

「花の高校生デビューが散々だよぉ」

 

 ガックリと両肩を落とす春。

 まあうん、ドンマイ。としか言えない俺である。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 ~凡矢理高校、掲示板前~

 

「あ、私C組だ」

 

 春は掲示板を見て、自身のクラスを言う。

 

「俺も二年ではC組だぞ。お揃いだな」

 

「……いやいや。組がお揃いだとしても、何かが変わるわけじゃないでしょうが。てか、遅刻の言い訳、どうしよう……」

 

「正直に、ナンパされて遅れました。でいいんじゃないか?教員もわかってくれるさ……たぶん」

 

 春は「歩夢君、たぶんって予防線じゃ」と言って、溜息を吐く。

 いやだって、確実に解ってくれるとは言えないじゃんか。もしかしたら、怒られるかも知れないし。……それは俺にも言えることなんだけどね。

 

「まあ仲良く体育館に入ろうか」

 

「うぅ。わかったよ」

 

 そんなやり取りをし、俺と春は仲良く体育館に入り、注目を集めたのだった。




春ちゃんと歩夢君は幼馴染設定なので、タメ語で話してますね。やっぱり、敬語よりタメ語だよなぁ。と思いまして。

てか、過度のナンパは警察の御世話になるのか解らないので作者の独自解釈です
歩夢君は制服で、女の子(春)が凡矢理の高校生だと認識してます。


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シンガッキ

投稿です。


 入学式を終え、私は自分の席に着席し、机に覆い被さるように体を倒す。

 

「……入学初日から散々の目にあった。登校前からもう一度やり直したい」

 

「春は入学式(遅刻)でかなり目立ってもんね」

 

 私にそう言ったのは、中学時代からの友達である風ちゃん。本名は彩風涼ちゃんだ。

 風ちゃんは苦笑するが、私の高校デビューは前途多難だ。

 

「でも、春が遅れた理由が男の子と逢引だったとはね。それも年上の」

 

 当初は、風ちゃんと一緒に登校することになっていたのだが、今朝のナンパの件で約束を守ることが出来なかったのだ。

 風ちゃんはかなりの時間私を待っており、クラス分けの確認から入学式まで私をずっと気に掛けてくれたのだ。なので私は、凄まじい罪悪感で一杯だ。

 

「はうっ……。ごめんね風ちゃん!」

 

 私は背を正し申し訳ないと謝る。

 変わりと言ってはなんだが、風ちゃんの問いに正直に答えよう。

 

「それと逢引は完全な誤解だよ!確かに歩夢君は年上だけど、幼馴染だもん」

 

 風ちゃんは、私の言葉を聞き目を輝かせる。

 

「うそっ。春って幼馴染が居たんだっ」

 

「うん。歩夢君とは小学生からの付き合いかな。中学校から疎遠になっちゃったけど、今日久しぶりに再会したんだよ」

 

 まさか、本当に再会できるとは思ってなかった。偶然にしても、かなりの確率だろう。

 でも殆んど変わってなかったなぁ、歩夢君。

 

「で、幼馴染君がナンパから助けてくれたと」

 

「まさか、歩夢君が助けてくれたなんて予想外だったんだけどね」

 

 風ちゃんは頷き、

 

「でもそっか~。小野寺姉妹は歩夢君と幼馴染になるんだね」

 

「そうなるかな。でも付き合いの年数でいえば、お姉ちゃんの方が長いんだけどね」

 

 私は小学校低学年からだけど、お姉ちゃんと歩夢君は保育園からの付き合いだ。

 なので、時間。という面で見れば、一番はお姉ちゃんだろう。

 

「それにしても春、幼馴染君には敬語を使わないんだね。年上にはあれだけ気を使ってるのに」

 

 まあ確かに、風ちゃんの言う通り私は年上には必ず敬語を使う。

 でも歩夢君はもう友達感覚だ。もう私たちの間には、最低限の遠慮する(プライベート)位で、それ以外の遠慮は無いだろう。それは、お姉ちゃんにも言えることだ。

 

「うん。歩夢君とは、ほぼ遠慮がない感じかな」

 

「ふ~ん。そうなんだ」

 

 なんか風ちゃん、含みのある「ふ~ん」だ。

 

「あ……もう少しお話を聞きたかったけど、もうすぐチャイムがなるね」

 

 風ちゃんは「じゃあ、私席に戻るね~」と言って、自分の席に着く。

 ともあれ、学校も先生の必要事項を聞いて本日は終了らしい。……私としては、入学式をまともに出席していないので変な感覚なのだけれど。

 

「(さて、私の目的も果たさないとね。歩夢君がいるとはいえ、お姉ちゃんが危険だ)」

 

 私が聞いた噂で、凡矢理高校を “一条楽先輩”が牛耳ってるという噂だ。それから私は、膝の上に置いた両手をギュッと握り締めた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 そう意気込んでいた私ですが、帰り際に担任の先生から、職員室にプリントを運んで。と言われ、プリントを両手で持ち職員室へ向かう。

 

「きゃっ!」

 

「あ、悪ぃ」

 

 職員室までの道程の途中で、廊下の端から現れた男子とぶつかり、持っていたプリントを落しばら撒いてしまった。

 

「(も、もー!何なのよ、今の男子)」

 

 そう思いながら、私は溜息を吐く。てか、男子も悪いのにプリントを拾うのを手伝ってくれないとは……。

 私が散らばったプリントを拾い集めていると、

 

「春?」

 

 後ろを振り向くと、両手でプリントの束を持つ歩夢君。話によれば、入学式を遅刻した代償、らしい。

 ともあれ、歩夢君はプリントを廊下の端に下ろし、散らばったプリントを拾い集める。

 

「あ、歩夢君。私がやるからいいよ」

 

「気にすんな。俺も職員室に向かう次いでだし」

 

 そんなやり取りをした後、私と歩夢君はプリントを両手で持ち職員室に運び、私は歩夢君と並んで教室に向かう。

 

「そういえば歩夢君。凡矢理高校に“一条楽先輩”っているの?」

 

「居るぞ。てか、俺が居候してる家主だしな」

 

「へ?家主?」

 

 あ、あれ。一条先輩ってヤクザの息子だよね?……その場に居て、歩夢君平気なのかな?

 

「そ。両親はまだ海外に居て、俺が日本の高校に通ってるんだよ。んで、両親の知り合いの家に居候、ってことだ」

 

「な、なるほど」

 

 でも確かに、歩夢君は自分で“俺の両親はヤクザ見たいなもんだし”って言ったもんね。じゃあ、私が一条先輩に抱いてる疑問も思い込みだったり、所詮は噂だったするのかな?

 んー、自分の目で見てから決めた方が良いよね。……うん、決めつけは良くないし。

 

「お、いたいた。歩夢、帰るぞー。今日は野郎共が出てるから鍵が閉まってんだ」

 

「わかった。教室から荷物取ってくるわ」

 

「いや、荷物は持ってきたぞ」

 

 歩夢君の友達がそう言って、歩夢君の前までパタパタと歩いて来たのは小野寺小咲。――私の最愛のお姉ちゃんだ。

 

「はい、歩夢君。バック持って来たよ。皆で帰ろう」

 

 そう言ってから、お姉ちゃんは私を見る。

 

「春も今朝ぶりだね。ふふ、入学式目立ってたよ」

 

「お、お姉ちゃん。あれには理由があって」

 

 うぅ、お姉ちゃんにもからかわれるとは。

 でもきっとお姉ちゃんは、歩夢君から一連の流れを聞いているだろう。

 

「ん?小野寺がお姉ちゃん?」

 

 先輩が首を傾げる。

 

「自己紹介が遅れてすいません。私の名前は小野寺春。――小野寺小咲の妹です」

 

「あ、ご丁寧にどうも。オレの名前は一条楽。よろしくな」

 

「よろしくお願いします」

 

 私の第一印象だが、一条先輩が凡矢理を牛耳ってるとは考えにくい。所詮は噂だったのかも知れない。

 まあ第一印象がそう見えるだけかも知れないけど。

 

「てゆうか一条先輩、女の子を何人もキープしておくのはどうかと思います」

 

 そう。一条先輩の後方には金髪の超絶美人さんに、先輩に抱きつく美人さんが現れたからだ。てか歩夢君、何で肩を震わせたの?

 

「き、キープじゃねぇ。オレにはマイハニーがいるぞ。な、なあ、千棘」

 

「そ、そうね。ダーリン」

 

「……まあそういうことにしていきます」

 

 何か腑に落ちないけど、今はそういうことにしておこう。……まあ、お前は何様だ。って言われたらどうしようもないんだけど。

 

「んじゃ、皆で帰りますか」

 

 この場に居る皆が、うんと頷き、私は教室から鞄を持ち先輩たちが待つ場所に向かうのだった。



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