ストライクウィッチーズの世界に日本が転移!?(リメイク) (RIM-156 SM-2ER)
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設定集
設定集 ストライクウィッチーズ1期(人物編)


皆様どうもSM-2です。
いまさらながら、1期で出てくる主要オリジナルキャラクターを紹介させていただきます。
本当に今更ですが・・・・


【ストライクウィッチーズ所属隊員】

 

今浦(いまうら) 和樹(かずき)

性別:男性

年齢:35歳

身長:181㎝

体重:73㎏

誕生日:5月14日

階級:海兵隊少佐

TACネーム:ウッド

原隊:日本国防軍海兵隊第81海兵戦闘航空団第104海兵戦闘飛行隊

ストライクウィッチーズに派遣された戦闘機隊の隊長。扶桑海事変のころからネウロイとの戦闘を経験しているベテランパイロットである。すでに結婚しており、同い年の妻と4歳の息子と3歳の娘がいる。

基本的に温厚な性格で、声を荒げることはあまりない。手を出すことなどほとんどない。それでもだめなことはだめ、いいことはいいとはっきり言うタイプで、501の頼れるお父さんのようになっている。

出身地は沖縄で中学生の頃に日中紛争に遭遇している。そこでの経験から国防軍の戦闘機パイロットを目指すようになった。

そろそろ年齢的に前線勤務の戦闘機パイロットを続けるのは厳しいことから、後方勤務への誘いがかかっている。

TACネームの由来は、和樹の樹からである。

 

緑川(みどりかわ) (あき)

性別:女性

年齢:29歳

身長:170㎝

体重:極秘

誕生日:5月7日

階級:海兵隊大尉

TACネーム:サン

原隊:日本国防軍海兵隊第81海兵戦闘航空団第104海兵戦闘飛行隊

ストライクウィッチーズに派遣された戦闘機隊の隊員。紺色のショートヘアで、アホ毛と珍しい紫目が特徴である。顔のパーツは整っており、かなりの美人。しかし、酒癖がかなり悪く、そのせいで彼氏ができない。酒が入っていなければ、かなり頼れる。

非常に優秀なパイロットで、20代にして大尉ということからもその優秀さがうかがえるだろう。

ちなみに牛乳が大嫌い。

TACネームの由来は、暁から太陽を連想して付けた。

 

川野(かわの) 大翔(はると)

性別:男性

年齢:24歳

身長:176㎝

体重:71㎏

誕生日:10月30日

階級:海兵隊少尉

TACネーム:バイソン

原隊:日本国防軍海兵隊第81海兵戦闘航空団第104海兵戦闘飛行隊

ストライクウィッチーズに派遣された戦闘機隊の隊員。

若いが優秀な戦闘機パイロット。しかし、重度のPTSDを患っており、時々精神科の診察を受けている。本来ならば、パイロットとしては致命的なのだが、症状や原因を鑑みて、戦闘機パイロットとしても問題ないとされている。

妹がいたが、転移後に起きた通り魔事件で失っており、親族は一人もいない。バルクホルンを妹と重ね合わせてしまう。また立ち直る前のバルクホルンの状態を事件直後の自分と重ね合わせてしまい、一時期PTSDが悪化した。

TACネームの由来は、たまたま見たテレビ番組に移っていた動物から

 

桜田(さくらだ) 青空(そら)

性別:男性

年齢:24歳

身長:171㎝

体重:67㎏

誕生日:1月10日

階級:海兵隊少尉

TACネーム:クラウン

原隊:日本国防軍海兵隊第81海兵戦闘航空団第104海兵戦闘飛行隊

ストライクウィッチーズに派遣された戦闘機隊の隊員。

川野と同期の海兵隊戦闘機パイロット。川野とは入隊前からの友人であり、川野の過去を知っていた。訓練生時代に、空間識失調で墜落事故を起こしかけ、ウィングマークも危うかった。しかし、教官の助けなどもあり、なんとかウィングマークを取得。最終課程の戦闘機を使った訓練で優秀な成績を収めたことから501に派遣された。

TACネームの由来は父親の持っていた車から。

 

 

・チャック・ハミルトン・アッカーマン

性別:男性

年齢:31歳

身長:189㎝

体重:76㎏

誕生日:8月8日

階級:海兵隊大尉

TACネーム:ソニック

原隊:アメリカ海兵隊第1海兵航空団第12海兵航空群第121海兵戦闘攻撃飛行隊

ストライクウィッチーズに派遣された戦闘機隊の隊員。

アメリカ合衆国海兵隊の戦闘機パイロット。ドイツ系アメリカ人の父親とイギリス系アメリカ人の母親の息子としてカリフォルニアに生まれる。戦闘機パイロットになるために17歳で海軍兵学校に入校した。

さすがはドイツとイギリス系のハーフというべきか、好きな酒はビール、好きな飲み物は紅茶だという。鉱物はホットドッグ。

また既婚者であり、同じ第12海兵航空群の第242海兵戦闘攻撃飛行隊に妻が所属している*1

TACネームは世界で初めて音速を超えたパイロットと同じ名前なことから、海軍兵学校の同期につけてもらった。

 

・マイケル・キング・ベリー

性別:男性

年齢:28歳

身長:198㎝

体重:89㎏

誕生日:6月29日

階級:海兵隊中尉

TACネーム:キング

原隊:アメリカ海兵隊第1海兵航空団第12海兵航空群第121海兵戦闘攻撃飛行隊

ストライクウィッチーズに派遣された戦闘機隊の隊員。

アメリカ合衆国海兵隊の戦闘機パイロット。アフリカ系アメリカ人の母親とアイスランド系アメリカ人の父親の次男としてイリノイ州に生まれる。17歳で海軍兵学校に入校し、21歳で無事に卒業。そのまま訓練部隊の配属となっていたものの、休暇を取って家族で訪れていた日本で転移現象に巻き込まれた。

転移後、在日米軍は戦闘機パイロットを欲しており、マイケルは訓練は修了していないものの、優秀な成績を収めていたことから国防軍が特別に用意した戦闘機パイロット育成課程において、訓練を修了。そのまま第121海兵戦闘攻撃飛行隊に配属となった。

TACネームは自身のミドルネームと同じ名前でアフリカ系アメリカ人の偉人であるキング牧師からとった。

 

 

【国防軍軍人】

 

藤木(ふじき) 大洋(たいよう)

性別:男性

年齢:49歳

階級:海兵隊少将→海兵隊中将

役職:日本国防軍統合国防参謀司令本部統合作戦参謀本部本部長補佐

    →日本国防軍欧州西部方面派遣軍統括司令官

国防軍海兵隊の将官。欧州西部方面派遣軍の統括司令官として、ガリア解放作戦の前線指揮を執る。表面上は、ガリア解放作戦―オーヴァーロード作戦の総司令官はリベリオン軍の大将とされているが、実際の指揮統括は彼がとることとなっている。

日中紛争にも参加しており、陸上自衛隊第1水陸機動連隊第1中隊副中隊長として、ある島での奪還作戦にも参加した。しかし、彼の部隊の指揮官が戦死してしまったため第1中隊の指揮を執り、監禁されていた島民の開放や敵戦車部隊の撃破などの戦果を挙げたため、紛争後に1等陸尉に昇進。海兵隊が創設されると同時にそちらに移り、少佐となった。

孫と息子夫婦を失うという悲劇的な過去を持っているものの、何とか立ち直っている。

好きな食べ物はイチゴ

 

岩峯(いわみね) (さくら)

性別:女性

年齢:63歳

階級:国防軍元帥→退役元帥

役職:日本国防軍統合国防参謀司令本部司令長官

    →国家安全保障局局長兼内閣特別顧問

日本初の統合国防参謀司令本部司令長官である。国防軍の欧州派遣の指揮を執った。もともとは航空自衛隊の幹部であった。宇宙作戦隊創設時にそちらに配属され、日中紛争後に自衛隊が国防軍に代わるにあたって宇宙作戦隊も国防宇宙軍となり、そちらに移り、中佐となった。

その後、国防宇宙軍作戦総監部司令長官から統合国防参謀司令本部司令長官に昇進し、国防軍の欧州派遣と対ネウロイ戦争の指揮を執った。

退役後は国家安全保障局の局長となった。

夫とは死別しており、3人の孫がいる。

 

峰岸(みねぎし) (こころ)

性別:女性

年齢:35歳

階級:海兵隊少佐

役職:日本国防軍海兵隊第81海兵戦闘航空団第101海兵戦闘飛行隊編隊長

国防軍の女性戦闘機パイロット。今浦と航空学生時代の同期。ジャミング型ネウロイが出現した際の特別対策部隊の指揮官。

 

蕪木(かぶらぎ) (かおる)

性別:男性

年齢:55歳

階級:海軍少将

役職:海軍第3空母護衛艦隊司令

 

河合(かわい)

性別:女性

年齢:45歳

階級:海軍准将

役職:日本国防海軍第2揚陸艦隊司令

 

田辺(たべ)

性別:男性

年齢:49歳

階級:海兵隊少将

役職:日本国海兵隊第1海兵師団師団長

 

(あずま)

性別:男性

年齢:58歳

階級:国防軍元帥

役職:日本国防軍統合国防参謀司令本部司令長官

 

 

【日本政府関係者】

 

大泉(おおいずみ) 幸次郎(こうじろう)

性別:男性

年齢:68歳

役職:内閣総理大臣

 

黒木(くろき)

性別:女性

年齢:57歳

役職:国家戦略情報大臣

*1
本来であれば、米軍であっても夫婦は同じ部隊に所属することはないのだが、結婚は日本が転移に巻き込まれる2日前のことであり、妻は異動命令が出ていたが移動する前に転移に巻き込まれ、所属部隊はそのままになっていた。ちなみに妻は海軍兵学校の同期でもある




いかがでしたでしょうか?
ご意見ご質問があればどしどしお寄せください。


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設定集 ストライクウィッチーズ1期(航空機)

皆様どうもSM-2です。
今回は、ストライクウィッチーズの世界に日本が転移!?の原作ですとアニメ第1期あたりで登場する日本の航空機を紹介いたします。
本来であれば兵器はひとくくりで投稿しようと思っていたのですが、数が多く不可能であったため航空機は分けさせていただきます。


<目次>―――――

固定翼機

 <戦闘機

 ・F-37 ストライクホーク

 ・F/A-3 ジャイアントイーグル

 <爆撃機・偵察機

 ・AQ-5 サイレント

 ・RF-3 イーグルスカウター

 ・RQ-5 スカウター

 <その他固定翼機

 ・EM-1

 ・E-2 ホークアイ

ヘリコプター

 <戦闘ヘリコプター・偵察ヘリコプター

 ・AH-64JG アパッチ・フォートレス

 ・DAH-1 サムライ

 ・27式遠隔操縦偵察システム

 <汎用ヘリコプター

 ・SH-71

 ・UH-71

輸送ヘリコプター

 ・CH-47H チヌーク

 ・CH-47JA チヌーク

 ・V-22 オスプレイ

 

 

<固定翼機>―――――

 

・F-37 ストライクホーク

種別:多目的戦闘機

分類:A型—陸上機/B型-艦上機/C型—STOL機

乗員:1名

エンジン:P&W F140-100ターボファンエンジン2基(C型は改良型のF140-200) (ドライ:140kN/アフターバーナー使用時:202kN)

全長/全幅:16.07m/10.94m

最高速度/巡航速度:M2/M1.2

空虚重量/ぺイロード/最大離陸重量:約12t/約7t/約36t

荷重制限:12G

戦闘行動半径:1543km

航続距離:3400km

固定武装:GAU-12イコライザー 25㎜ガトリング砲

     ハードポイント8つ(胴体内4、主翼6)

F-35の後継機として、アメリカ、ロッキード社が開発したステルス戦闘機。スーパークルーズ機能と無人機管制能力を持つ5.5世代ジェット戦闘機に分類される。最強の戦闘機とうたわれたF-22を上回る機動性をほこり、ステルス性能も非常に優れた戦闘機。STOL機のC型はF-35Bのリフトファンを改良した連装式リフトファンを装備している。ロッキード社が開発したといったが、実際には英、仏、独、日、伊、イスラエル、カナダ、ノルウェー、デンマークの航空機メーカーが開発に参加しており、日本からは三菱重工業がアビオニクス開発などに参加した。そのため三菱は、ライセンス生産権をすでに取得済みであった。

しかし、転移後はステルス機の必要性が薄れ、むしろ格闘性に優れた第4世代ジェット戦闘機の必要性が増したことから、調達量が減っている。しかし、ステルス機は将来絶対に必要になるものでもあるため、技術保護やノウハウを積むために調達自体は続けられている。

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・F/A-3 ジャイアントイーグル

種別:戦闘爆撃機

分類:A型-陸上機/B型-艦上機

乗員:2名

エンジン:IHI F9-2ターボファンエンジン2基 (ドライ131:kN/アフターバーナー使用時:198kN)

全長/全幅:17.31m/13.64m

最高速度/巡航速度:M1,8/M1.1

空虚重量/ぺイロード/最大離陸重量:約16t/約10t/約36t

荷重制限:10G

戦闘行動半径:1591km

航続距離:3500km

固定武装:GAU-12イコライザー 25㎜ガトリング砲

     ハードポイント12(胴体内6つ、翼下8つ)

日本の三菱重工業が中心となって開発された国産ステルス戦闘機。第5世代ジェット戦闘機に分類される。ロッキードマーティン社が技術支援という形で開発に参加した。当初、F-2開発時のように日本の技術を受け渡せというような要求をされるのではないかという声が上がったが、外務省と防衛省の必死の抵抗でそう言ったことはなかった*1。また搭乗員は、操縦士と火器管制官の2人であるが、操縦士一人での運用でも可能となっている。

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・AQ-5 サイレント

種別:無人爆撃機

分類:A型-陸上機/B型-艦上機

乗員:0名

エンジン:GE F151-100 ターボファンエンジン (ドライ70kN/アフターバーナー使用時90kN)

全長/全幅:11m/22.1m

最高速度/巡航速度:810km/740km

空虚重量/ぺイロード/最大離陸重量:0.4t/4t/10t

荷重制限:20G

戦闘行動半径:2,600km

航続距離:6,000km

固定武装:なし

ハ―ドポイント数:8つ

RQ-5を改良した無人爆撃機。空対空任務、空対地任務、空対艦任務に使用可能。ただ空対艦ミサイルの搭載は出来ないため爆撃が主な手段となる。ジャミング等によって操作不能になったり、帰還不可能になった場合は搭載しているセンサーが探知したジャミング発生源に突入し自爆するようになっている。

またF-37から操作することも可能である。

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・RF-3 イーグルスカウター

種別:戦術偵察機

分類:A型-陸上機/B型-艦上機

F/A-3A/Bを改良し偵察ポットを内蔵させた戦術偵察機。陸上型と艦上機型があるが艦上機型はプロトタイプも製造されていない。近年は戦術偵察機にもステルス性が必要となったため、国防空軍は三菱重工業にF/A-3を改良した偵察機を開発するように依頼した。三菱重工業はウェポンベイを大幅に縮小しそこに偵察機具を取り付ける改良を施した。

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・RQ-5 スカウター

種別:無人偵察機

分類:A型-陸上機/B型-艦上機

乗員:0名

エンジン:GE F150 ターボファンエンジン (50kN)

全長/全幅:7m/13.6m

最高速度/巡航速度:730km/690km

空虚重量/ぺイロード/最大離陸重量:0.4t/1t/3t

荷重制限:20G

戦闘行動半径:2,600km

航続距離:6,000km

武装:AIM-9X サイドワインダー 2発

RQ-4の後継として開発されたステルス無人偵察機。B型は艦載機仕様で艦船からの発進が出来る。B型の愛称はシー・スカウタ―。かなりの拡張性があり、自衛用の空対空ミサイルが搭載できる。この機体を改良したAQ-5サイレントはペイロードを拡張したタイプで爆弾や空対地ミサイルが搭載可能。また戦闘機や爆撃機などからの管制も可能で、日本ではF/A-3がその能力を備えている。F/A-3が最大8機の本機を管制し任務にあたることもできる。発展型のAQ-5も同様。

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・EM-1

種別:統合電子戦機

分類:A型-陸上機/B型-艦上機

乗員:7名

エンジン:アリソン T84-27Aターボプロップエンジン2基 (90kN)

全長/全幅:16m/25.8m

最高速度/巡航速度:710km/650km

空虚重量/最大離陸重量:17t/26t

荷重制限:4G

戦闘行動半径:2,300km

航続距離:5,200km

国防海、空軍で開発された新型の電子戦機。一機で電子情報の収集からジャミングまでを行うことができるように設計されている。また新型のミサイル迎撃システム*2と自動防御体発射システム*3を搭載しており、敵ミサイルに対する防御がかなり充実している。本来ならば転移した次の年には、完成予定であったが、転移の影響ですぐに導入する必要性がなくなり、1943年になってようやく実戦配備が始まった新型機である。

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・E-2D/F

種別:早期警戒機

分類:陸上機/艦上機

E-2ホークアイ早期警戒機は国防海軍と国防空軍で導入されている早期警戒機。E-2Fは近年のステルス機の性能向上から、ステルス機へ対する探知能力を高めるためレーダーを更新したタイプである。原子力航空母艦に搭載されており艦隊の目として活躍している。E-2Dは、E-2Fとともに国防空軍が導入している。超低空で侵入してくる目標を探知するために使用されている。

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<回転翼機>―――――

 

・AH-64JG アパッチ・フォートレス

種別:戦闘ヘリコプター

運用者:国防陸軍・海兵隊

全長/胴体幅/全高:18.01m/3.32m/5m

主回転翼直径:14.91m

エンジン:GE製 T700-GE-705D ターボシャフトエンジン2基 (2,731shp)

重量/最大重量:6,319kg/11,334kg

乗員:2名

超過禁止速度/巡航速度:396.1km/241.9km

上昇率:10m/s

航続距離:1693km

実用限界高度:7300m

【武装】

固定:M230A2 28口径30mmチェーンガン

スタブウィング:(その武装のみをかのうな限り搭載した場合)

        AGM-91B JAGM 18発

        25式携帯近距離地対空誘導弾改 20発

        AIM-9X サイドワインダー  2発

        M261ハイドラ70mmロケット弾発射機4機(76発)

2025年にボーイング社が開発したアパッチ・ガーディアンの改良型。2032年に正式採用された。もともと、原型のG型は装甲、電子装備が改良されており、レーダーの索敵範囲が強化され、装甲も25mm砲弾が当たっても最低1時間飛行可能と「要塞」の名にふさわしい防弾性がある。。JG型では追加装甲のゲージ装甲や爆発反応装甲などが装備可能など、主力戦車なみの装備が出来る。また機体強度があがったため超過禁止速度と実用上昇高度は上がったものの、重量が増したため、巡航速度と航続距離が減少した。ちなみに日中紛争後の中東派遣ではゲージ装甲を装備したJG型が武装ゲリラから20mm機関砲の直撃を受けたが基地に無事帰還し軽い修復と整備点検の後、翌日には出撃、任務を遂行した。また国防陸軍の装備する無人ヘリコプターの運用能力も追加されている。

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・DAH-1 サムライ

種別:戦闘ヘリコプター

運用者:国防陸軍・海兵隊・特殊作戦軍

全長/胴体幅/全高:5.1m/0.6m/1m

主回転翼直径:8.4m

エンジン:IHI TS-2 ターボシャフトエンジン1基 (3,512shp)

重量/最大重量:311kg/1.510kg

乗員:0名

超過禁止速度/巡航速度:511km/308km

上昇率:14m/s

航続距離:1221km

実用上昇高度:5800m

【武装】

AGM-91B JAGM8発or25式携帯近距離地対空誘導弾8発orM261ハイドラ70mmロケット弾発射機2基(76発)

日本の川崎重工業が開発した無人戦闘ヘリ。アパッチJシリーズからの運用が可能となっている。武装も強力な物が積めるため、アパッチJ1機でこのサムライを最大の6機まで運用した場合は最大で64発の対戦車ミサイルが同時運用できる。

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・27式遠隔操縦偵察システム

種別:無人偵察ヘリコプター

運用者:国防陸軍・海兵隊・特殊作戦軍

全長/胴体幅/全高:2.9m/0.3m/1m

主回転翼直径:4m

エンジン:IHI EM-1A (400shp)

重量/最大重量:260kg/410kg

乗員:0名

超過禁止速度/巡航速度:130km/90km

上昇率:11m/s

航続距離:400km

実用上昇高度:2500m

無人偵察機システムの後継として。2027年に正式採用されたドローン偵察機。無人偵察機システムよりさらに小型かつ軽量で、静粛性に優れた機体として採用された。運用可能半径は40kmとほどほどである。現在、後続であるRDH-Xが開発中。

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・SH-71A

種別:対潜哨戒ヘリコプター

運用者:国防海軍

全長/胴体幅/全高:21m/5.6m/6.1m

主回転翼直径:17m

エンジン:GE/IHI T901-100G 2基 (3,300shp)

重量/最大重量:6,718㎏/12,178㎏

乗員:4名 最大16名

超過禁止速度/巡航速度:391km/321km

上昇率:11m/s

航続距離:1121km

実用限界高度:4571m

武装:Mk.46短魚雷orMk.50短魚雷orMk.53短魚雷 4発

   AGM-114ヘルファイヤ対艦/対戦車ミサイルorAGM-91B JAGM 16発

   Mk 44 Mod 0 30mmキャノン砲 2門

SH-60の後継機としてシコルスキー・エアクラフトが開発した対潜哨戒ヘリ。日本では独自改良型のSH-60K型と共に併用されることが決定してる。高度な磁気探知機を搭載し対潜哨戒ヘリとして極めて優秀。また対空ミサイルへの防御性能も非常に高く、最新式のシーカー検知システムや自動防御体発射システムを搭載している。現在改良型を川崎重工業が開発中である。

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・UH-71A

種別:汎用ヘリコプター

運用者:国防陸軍・海兵隊・特殊作戦軍

全長/胴体幅/全高:21m/5.6m/6.1m

主回転翼直径:17m

エンジン:GE/IHI T901-100G 2基 (3,300shp)

重量/最大重量:6,718㎏/12,178㎏

乗員:5名 最大15名

超過禁止速度/巡航速度:387km/318km

上昇率:12m/s

航続距離:1121km

実用限界高度:4571m

武装:AGM-114ヘルファイヤ対艦/対戦車ミサイルorAGM-91B JAGM 8発

国防陸軍と海兵隊が運用している汎用ヘリコプター。UH-60Jの後継機として導入された。UH-60よりも多い輸送量と早い速度でヘリボーンを迅速かつ柔軟に展開可能にした。シコルスキー・エアクラフト社の開発であり、西側諸国ではUH-60との交信が進んでいる。こちらもSH-71のような高度なシーカー検知システムと自動防御体発射システムを搭載している。

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・UH-2 

種別:汎用ヘリコプター

運用者:国防陸軍・海兵隊

UH-1Jの後継機として2021年から導入が始まった汎用ヘリコプター。強力な武装は不可能だが、安価で信頼性が高く、生産性が高いことが特徴であり、UH-71Aとの併用が決定している。形はUH-1とそっくりだが、性能は全くの別物。

 

・CH-47H

種別:大型輸送ヘリコプター

運用部隊:国防陸軍/空軍/海兵隊/特殊作戦軍

乗員:3名(操縦士、副操縦士、ロードマスター)+60名

全長/胴体幅/全高:36.2m/5m/5.8m

主回転翼直径:19m

エンジン:GE T901-300E3 2基 (6,461shp)

虚空重量/ペイロード/最大重量:9.3t/不明/26.2t

超過禁止速度/巡航速度:321km/267km

上昇率:11m/s

航続距離:1371km

実用限界高度:3,000m

武装:<ドアガン>4*4

概要:2027年度に初飛行したCH-47の最新型。CH-47Fに更なる改良を加え、エンジンはより高出力の物に変え、機体素材も改良することで、かなりの軽量化かが行われた。またミサイル自動回避システム*5が搭載されており、生存性がかなり上がっている。

国防軍でも2028年度より導入が開始され、CH-47JAは順次退役している。

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・CH-47JA/J(LR)

種別:輸送ヘリコプター

運用者:国防陸軍・空軍・海兵隊

CH-47JAはCH-47Dの日本向けの機体であるCH-47Jを改良し大型燃料バルジを搭載して航続距離を1,037kmに伸ばし、GPSとIGI、機首に気象レーダー、FLIRをもち、NVG対応型のコックピットになっていることから、夜間での作戦能力が向上している。J(LR)型は大型燃料タンク、気象レーダー、地図表示装置、2重化慣性航法装置、床レベリング装置などを装備したJA型に準じた機体となっている。ただ、老朽化が激しいため、後継のCH-47Hに更新が始まっている。

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・V-22B

種別:輸送ヘリコプター

運用者:国防軍全軍

元々はアメリカ海兵隊向けの輸送型であった。2015年から調達が始まった。導入当初は問題にはならなかったが、日中紛争で輸送力向上が求められ、改良型のC型のさらに独自改良型のCJ型に更新されている。ただ海軍型はそこまで輸送能力を必要としていなかったため、本機は主に海軍や空軍に導入されている。

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*1
最終的にはイギリスとの共同開発や単独開発をちらつかせて黙らせた。当時のイギリスはEU離脱による資金難で、共同開発を渋っていたが、日本側からのいくつかの技術移転と開発費の大幅負担を持ち出されて、真剣に日本との共同開発を検討するほどであった。「F-2のようなことになるなら、金をかけたほうがまし」という日本側の態度に、米側は折れたのであった。ただ日本側は米国が納得するように、いくつかの技術の公開を行うことを決めていた。この飴と鞭を使った外交が功を奏したといえるだろう

*2
敵のミサイルに対して小型発射機からレーザーが照射されることで敵ミサイルを迎撃するシステム。ただレーザーは消費電力の関係上、一回の出撃で1度しか使えない

*3
敵ミサイルを探知するとAIが、適切なタイミングを計算して旋回をパイロットに指示し、チャフやフレアを発射するシステム

*4

搭載可能武装:36式8.58㎜汎用機関銃

       M240 7.62㎜汎用機関銃

       M269 8.58㎜汎用機関銃

       AGU-17/A 7.62mmミニガン

      ブローニングM2 50口径12.7㎜重機関銃

*5
コンピューターがミサイルの針路・速度を予想し、適切なタイミングでパイロットに回避行動を指示し、チャフ・フレアを自動散布する装置




いかがでしたでしょうか?
ご意見ご質問があれば、どしどしお寄せください。


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第1章 接触編
第1話 異変


皆様どうもSM-2です。
「ストライクウィッチーズの世界に日本が転移!?」はリメイクいたしました。話の大幅な流れは変わらない予定なので応援よろしくお願いします。


日本を憲法改正させ再軍備に踏み切らせた、あの日中尖閣紛争から15年の月日が流れようとしていた。自衛隊が国防軍に変わり、戦略兵器が導入されるなどあったものの日本は平和な日々を過ごしていた。

そんなある日突如日本が異世界に転移してしまった。

―――――――

最初にその異変に気が付いたのは国防空軍のレーダーサイトだった。

 

「は?レーダーロスト・・・・・?どうなってんだ?」

 

モニターを見ていた若い空曹が思わずそう漏らす。なぜなら日本の排他的経済水域外を飛行していた航空機がレーダーに映らなくなったからだ。それも1機2機ではなく、排他的経済水域外を飛行していたすべての航空機が映らなくなったのだ。

 

「中尉!排他的経済水域外を飛行していたすべての航空機がレーダーロスト!」

 

空曹は自身の上司で当直だった中尉に報告した。

 

「なに?」

 

中尉はその報告を聞くと空曹の受け持つレーダー画面に走り寄った。そしてレーダー画面を確認する。

 

「どういうことだ・・・・・・?とりあえず西空SOCに連絡!それとロストした航空機に無線で呼びかけろ!あとレーダーの故障やもしれん!だれか確認してこい」

 

中尉は素早く指示を出すと当直の分隊は動き出す。

―――――――

一方、報告を受けた防空指揮所も混乱していた。なぜなら各所に設置してあるレーダーサイトからも同様の報告が上がっていたからだ。静かだった防空指揮所は一辺し、ロストした航空機に無線で呼びかける声と怒号が響き渡っていた。

 

西空AAC(西部航空方面軍総司令部)には連絡を入れたのか!?」

 

防空指令所の当直指揮官だった中佐が隣にいた副官にそう尋ねた。

 

「は!築城からF/A-3A2機とここ春日よりF-35JA2機が緊急発進しております!それと芦屋の救難隊にも応援を要請しております!それと西部警戒航空隊に追加発進命令を出しました」

 

すでに、アラート待機していた築城基地のF/A-3A2機と春日基地のF-35JA2機が緊急発進し、レーダー上から航空機が消えた地点へ急行していた。

なぜ戦闘機が?と思うかもしれないがこういった緊急時に真っ先に出動するのは戦闘機だったりする。なぜならアラート待機にある戦闘機はすべて5分以内には離陸できるし、速度も速くガンカメラなどで現場の状況をある程度の精度で素早く司令部に届けられるからである。

そして西部警戒航空隊は日中紛争後に新設された部隊で各航空方面軍に1つずつ置いてある警戒航空隊の一つでありE-767、2機とE-2D、6機を有する部隊で、ここ春日に基地を置いていた。

その時通信士が息を切らして2人のもとにやってきた。

 

「中佐!方面軍司令よりお電話です!」

「なに!」

 

中佐は大慌てで近くの電話の受話器を手に取ると、内線をつなげた。

 

「は、こちら西部航空方面軍防空指揮所。いかがなされましたでしょうか?・・・・・・それは!!間違いないのですか?・・・・・・いえ。それでは・・・・・・」

 

電話を終え、受話器を置いた中佐は険しい顔をしていた。副官は電話の内容が気になり中佐に聞いた。

 

「どうしたのですか?」

「・・・・・・喜界島からの報告で大陸からの電波がなくなったらしい・・・・・・」

 

副官は絶句した。現代社会ではインターネットが普及し1人1台携帯を持っている。そんな時代で電波が途切れるのはあり得ないことだった。ただ考えられるのは核攻撃を受けた際に出るEMPによって電子機器が使えなくなってしまう場合だが、異変の起こる前に大陸に飛んでいく核ミサイルや爆撃機は探知できなかった。

 

「一体、何が起きているんだ?」

―――――――

「一体どうなっている!」

 

第102代内閣総理大臣、石田(いしだ) 茂雄(しげお)は総理官邸の3階廊下で不機嫌そうにそういった。なぜなら、深夜1時に突如起こされ、海外との通信が取れなくなり排他的経済水域外を飛行していた航空機と交信できなくなったといわれたからだ。

とりあえず石田は防災服に着替え、すぐに官邸に向かったため、彼は非常に寝不足だった。

石田は首相執務室の扉を荒々しく開けた。中には官房長官や副総理兼財務大臣、総務、外務、防衛、経産、国交大臣、国家公安委員長、国家戦略情報庁(NSI)長官*1公安情報調査庁(PSIR)長官*2の国家安全保障会議を構成する閣僚10名がすでにいた。

10名は石田が入ってくると立ち上がり礼をする。

 

「状況は?」

 

総理はテーブルの上座に着くなりそう尋ねた。すると防衛大臣が口を開いた。

 

「私から報告させていただきます。午前0時ごろ我が国の排他的経済水域外を飛行中の航空機及び航行中の船舶がすべて、各地のレーダーサイトおよび哨戒中の駆逐艦、巡洋艦、早期警戒機のレーダーよりロストしました。また防衛省情報通信局からの報告では、衛星との通信が取れず、海外の電波も探知できないとのことです。現在、航空機をロストした地点には、アラート待機の戦闘機及び救難隊の捜索機、国防海軍の駆逐艦等が向かっています」

 

すると隣の国交相も口を開いた。

 

「全国の空港からも同様の報告が上がっております。国交省では海保の警備船と救難機が急行しております」

「それと海外にあるすべての大使館及び総領事館との通信も途絶しております」

 

外務大臣はそう報告した。すると経産大臣も報告を始めた。

 

「経産省でも海外の証券所などとの交信ができておりません・・・・・」

「NSIでも海外の諜報員との連絡が全くつかないとの報告を受けました」

 

海外との交信が途絶。その事実に石田は頭を痛める。そして思い出したように総務大臣に聞いた。

 

「そういえば、国内はどうだ?交信ができない地点は・・・・・?」

「幸い、今のところ国内のすべての都道府県、市町村との交信は取れているとのことです」

 

女性の総務大臣がそう答えると石田はホッとした表情になる。

 

「とにかく各省庁には引き続き海外との交信を試みるように伝達してくれ、それと緊急事案対策本部*3を設置する!準備を急げ。あと7時から記者会見を行う準備を」

「「「「「はい」」」」」」」

 

石田が指示を出すと閣僚たちは立ち上がり、一礼した後に資料を持って部屋を出ていく。

 

「本当にこの国はどうしてしまったんだ?」

 

部屋に一人残された石田のつぶやきが大きく響いた。

*1
日中紛争後に内閣情報調査室を発展させ、各省庁の情報機関をまとめて作られた対外情報機関。主に海外での情報収集や工作活動を行う

*2
NSIと同じく日中紛争後に内閣情報調査室と公安調査庁を統合し造られた部署。国内の過激組織の監視や防諜、海外工作員の取り締まりなどを行う

*3
日中紛争後にできた部署で、災害や軍事的威嚇・攻撃があった場合などに設置される




いかがでしょうか?
前回はここら辺は端折っていたのですが、今回は国の中枢の対応なども書かせていただきました。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回!さようなら!

次回 第2話 対応策

お楽しみに


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第2話 対応策

皆さまどうもSM-2です。
ついに夏休みですね!皆さんは予定等立てられていますか?私は勉強ばかりの夏休みになりそうです・・・・・・。
では本編どうぞ!


『――――――以上が現在判明していることであり、現在消息不明の航空機及び船舶の発見には至っておりません。国民の皆様方には冷静に秩序ある行動をとるようお願いいたします』

 

緊急事案対策本部の対策室に設置されたテレビから官房長官の声が聞こえてきた。

午前7時、異変発生から7時間後に首相官邸では記者が集められ、内閣官房長官から正式発表が行われた。

異変から7時間もたっているのにもかかわらず、いまだ何も発見できていないことで官邸には重苦しい空気が流れていた。

 

「まだ何も発見できていないのか?」

「まだ何も・・・・・・」

 

石田の問いに国防軍の制服組トップである、統合国防司令長官*1は首を横に振った。

 

「・・・・・国家緊急事態宣言を発令する・・・・。それと中国、韓国、ロシアの大使を呼んでくれ、国防軍による大陸方面への偵察を勧告する」

「ですがそれだと軍事的挑発になってしまう可能性が!」

 

石田が長い沈黙の後そういうと、外務大臣がそう大声をあげて反論した。

 

「だが、今のままでは何もわからん!日本を救うにはそれしかないんだ!」

 

確かにすべての衛星との通信が途絶えてしまい海外との通信が取れない今、いつになるかわからない通信の回復を待つよりも、自分たちから海外に助けを求めに行ったほうが早い。

 

「それに、最初っから大使に勧告してからなら政府へのダメージ軽減にはなる・・・・・・まぁ、何かあったら総辞職は間違いなしだが・・・・・・・・・閣僚諸君には覚悟を決めてもらいたい・・・・・・・」

 

石田がそういうと閣僚たちは一瞬ざわついたが、顔を見合わせ覚悟を決めたような顔をした。

 

「わかりました!この国のためになるならばこの身を喜んで捧げましょう」

「私も同じです!」

「私もです!」

 

閣僚たちは口々にそういった。石田は心の中で「ありがとう・・・・」というと指示を出した。

 

「では、中国、韓国、ロシアの大使を呼んで現在の状況とこれからの対応を説明してくれ!それと国防軍に出動命令を出してくれ!また中国、韓国、ロシアの艦艇と接触した場合は、現在の我が国の状況と出動した理由を伝え、必要とあらば臨検も受けるように伝えろ!ただ、鹵獲だけはされんようにしろよ」

「わかりました」

 

外務大臣と統合国防司令長官が指示されたことを実行するために部屋から出て行った。

 

「頼むぞ・・・・・・・・」

 

石田は自分の不安を押し殺すように一言そう言った。

―――――――

さて1時間後、永田町にある総理官邸の応接室で中国、韓国、ロシアの大使が外務大臣が来るのを静かに待っていた。

ガチャリと応接室のドアが開き外務大臣とアジア大洋州局局長と外交官2名が入ってきた。

 

「お待たせしました」

 

外務大臣はそういうと、ほかの3名とともに大使たちの向かい側に座った。日本側が着席するとロシア大使が口を開く。

 

「今朝から、どうも大変なようで・・・・・・」

 

親日家のロシア大使は日本人と遜色ないほどの流暢な日本語でそういった。

 

「ええ、今回呼んだのはそのことについてです・・・・・」

 

外務大臣がそういうと隣の韓国大使が今にもかみつきそうな勢いで声を荒げた。

 

「この不可解な現象!日本が仕組んだことではないのですか!?船舶や航空機失踪も!通信途絶も!」

 

いつもはもう少し外交官らしく冷静な口調で噛みついてくるのだが、どうやら本国との通信が途絶え動揺し、地が出てしまっているらしい。典型的な日本嫌いの韓国人らしく、毎度毎度何かと噛みついてくる韓国大使に辟易としつつも外務大臣は丁寧な口調で説明を始める。

 

「まず我が国がそのようなことをしてどのような利益があるのですか?ご存知の通り、我が国の基幹産業は原材料を輸入し加工し輸出することです。その原材料や製品を運んでいる船舶や航空機を失踪させたりしてどうするのですか?それに海外と通信が取れなくなって、我が国にデメリットはあってもメリットは一切ありませんが?」

「ぐっ・・・・・!」

 

韓国大使はそういわれてしまうとぐうの音も出ないのか黙ってしまう。今まで黙っていた中国大使が外務大臣に要求を述べた。

 

「・・・・・私としては日本国内にいる我が国の邦人の保護を願います。それと日本国政府はこの状況を一刻も早く打開していただきたい」

 

15年前に日中紛争で負けてから、中国政府は日本に対し頭が上がらない状況になっている。13億の人民を抱える中国がまとまっていられるのは日本という共通の敵がいたからだ。その共通の敵に負けてしまい、条約ではわざわざ反日教育をしないようにとまで入れられてしまった*2その結果、紛争終結の3年後には民主化を求める暴動が発生してしまい、天安門事件の時のように軍隊を出動させ、鎮圧したが現在も中国は国内に火種を抱えている。そのため国外に敵を作りたくないのだ。

 

「ええ、むろんです。それは確約いたしましょう・・・・・ですがその前に大使の方々にこの状況を打破するためにとあることをしていただきたい・・・・・」

「私たちにできることであれば・・・・・」

 

中国大使がそういうと外務大臣はふぅとため息をつき、話し始めた。

 

「これから我が国は非常事態宣言を発令し、国防軍の出動を命じます」

「ふむ・・・・・妥当ですな・・・・・」

 

中国大使がそういう。するとずっと黙って何かを考えていたロシア大使が横から口を開いた。

 

「外務大臣。先ほどから呼び出されたのがなぜ我々3か国の大使なのかと疑問に思っていたのですが・・・・・・。もしや貴国の国防軍が大陸の偵察に向かうのではないですか?」

「「っ!」」

 

中国、韓国大使はロシア大使の発言に一瞬、顔がこわばる。そして中国大使が顔をこわばらせたまま恐る恐る口を開いた。

 

「ほ、本当なのですか?」

「・・・・・・はい」

 

外務大臣は重々しくうなずいて、ロシア大使の推理を肯定した。

 

「認めませんぞ!そのようなことは断じて認めません!」

 

韓国大使はヒステリックになって、そう喚き散らした。するとロシア大使も苦い顔をする。

 

「さすがにそのようなことは、私だけでは決められません。本国に連絡を取らなくては・・・・・・」

「ええ、分かっています。なので貴方方には調査後に本国との通信が回復した際には我が国の行動の理由などを本国に説明して頂きたい。無論、貴国らが求められるのでしたら謝罪も賠償もいたします」

 

中国大使とロシア大使は外務大臣の言葉を聞くと、彼の目をじっと見つめる。彼の眼は何やら覚悟を決めた、強い意志が宿った眼だった。

中国大使とロシア大使は熟考した末にこう答えた。

 

「・・・・・・わかりました。努力してみましょう」

「・・・・・私も同じくです」

 

二人の答えに外務大臣は嬉しそうな顔をする。韓国大使は返答に困っていた。大陸の調査が行われなければ、いつ回復するか分からない本国との通信の回復を待つしかなくなってしまう。だが、いつになるか分からない上、本国が核攻撃で全滅している可能性すらあった。

すると横から中国とロシア大使の視線がささる。

 

「私は・・・・わかりました・・・・・努力しましょう・・・・・・」

 

2つの大国の大使の圧力に気の弱い韓国大使が首を横にふれるわけもなく、渋々といった様子で頷いた。

 

「大使の方々、ご協力感謝いたします」

「いえ、本国との通信が回復しなければ困るのは我々も一緒です」

「最大限努力しましょう」

 

外務大臣は3カ国の大使と握手をすると部屋から出て行った。

1時間後国防空軍及び国防海軍の戦闘機、偵察機、電子戦機や潜水艦が大陸の調査に向かうのだった。

 

 

*1
自衛隊の統合幕僚長のような役職

*2
反日教育が日本への憎悪感情を増幅させ間接的に紛争につながってしまったという日本の主張から、講和条約には反日教育をしないようにという条文がある




いかがでしたでしょうか?
まぁ、改正したとはいえ憲法の問題からすぐに大陸に飛行機飛ばして偵察!なんてできませんから・・・・・・。まだまだ、こじつけ感はありますがだいぶマシになりました。
中国ロシアは領空侵犯機が戦闘機だったら問答無用で撃墜してきそうですが・・・・・・。
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ではまた次回!さようならぁ!

次回 第3話ブリーフィング

お楽しみに!


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第3話 ブリーフィング

皆さまどうもSM-2です。
今回はかなり短いお話となります。そして早速独自設定要素が・・・・・・・。
では本編どうぞ!


西部航空方面隊築城空軍基地

国防空軍第5戦闘航空団があるこの基地には多数の純国産ステルス複座攻撃戦闘機、F/A-3Aジャイアントイーグルとステルス戦闘機F-35JAが40機羽を休めていた。だが今日はF/A-3AとF-35JAに空対空ミサイルが満載され、F/A-3Aには偵察ポットもつけた状態で空対空ミサイルを積み、出撃準備をしていた。

なぜなら、今朝から海外との通信が一切とれなくなり排他的経済水域外を飛んでいた航空機も全てロストしたからである。

基地の庁舎では集められた約60名のパイロットがブリーフィングを行っていた。

 

「まず、今回の大陸方面調査作戦の参加部隊を発表する」

 

飛行隊長がそう言った。手元の紙に書かれていた調査部隊の参加空軍部隊は以下と通りであった。

―――――――

【戦闘機部隊】 

・第2戦闘航空団(北方航空軍)

 >第102戦闘飛行隊、第113戦闘飛行隊、第117戦闘飛行隊

・第6戦闘航空団(中部航空軍)   

 >第106戦闘飛行隊、第110戦闘飛行隊、第114戦闘飛行隊

・第5戦闘飛行団(西方航空軍)   

 >第105戦闘飛行隊、第111戦闘飛行隊、第115戦闘飛行隊

・第9戦闘攻撃飛行団(南西航空方面軍)   

 >第203戦闘攻撃飛行隊、第204戦闘攻撃飛行隊、第207戦闘攻撃飛行隊

【早期警戒部隊】

・第1早期警戒航空団第1空中警戒管制群

・第1早期警戒航空団第2空中警戒監視群第602警戒飛行隊

・第1早期警戒航空団第2空中警戒監視群第603警戒飛行隊

【偵察機部隊】

・第5偵察航空団(北方航空軍)

 >第505偵察飛行隊、第405無人機偵察飛行隊、第409無人機偵察飛行隊

・第4偵察航空団(西方航空軍)

 >第504偵察飛行隊、第404無人機偵察飛行隊、第410無人機偵察飛行隊

・第3偵察航空団(南西航空軍)

 >第503偵察飛行隊、第405無人機偵察飛行隊、第408無人機偵察飛行隊

―――――――

戦闘機240機、偵察機51機、無人機120機、早期警戒管制機6機、早期警戒機16機の計435機が投入される予定であった。

 

「これは・・・・・・・」

「いささか過剰ではないのか?」

 

パイロットたちはそう漏らす。

435機が投入されるといっても、実際に偵察に向かうのは戦闘機64機と偵察機24機、無人機48機、早期警戒管制機1機、早期警戒機4機の141機である。ほかの294機はアラート待機や整備、予備機である。

 

「確かにそうかもしれない・・・・・だが国家の非常事態だ!大陸の国家が核攻撃で全滅した可能性もある・・・・・様々な事態を想定して行動する!」

 

飛行隊長はそういった。

 

「すでに3カ国の大使には通達をしてあるそうだ!我々の管轄は韓国方面である!もし韓国軍機と遭遇した場合は現在の我が国の状況と偵察の目的を通達せよ」

 

飛行隊長は第6航空団の担当する区域をホワイトボードに張られている世界地図に書きこむ。

 

「我々の担当区域はここ、半島南部の沿岸地帯だ!しっかり頭に叩き込んでおけ!それと北朝鮮方面には近づかないように上層部から指示が来ている!質問のある者はいるか?」

 

飛行隊長はパイロットたちを見渡すがどうやら質問はないようであった。

 

「よし!では1時間後の1000(ヒトマルマルマル)に作戦を開始する!以上」

 

パイロットたちは一斉に立ち上がると、軍人らしいピシッとしたお辞儀をした後部屋から出て行った。

ついに日本国の運命を背負った、大陸調査作戦が始まろうとしていた。




いかがでしたでしょうか?
調査に112機は多すぎかなぁ?最初は150機を投入予定でしたが、いろいろ削りました。
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ではまた次回!さようならぁ!

次回 第4話 接触

お楽しみに!


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第4話 接触

皆さまどうもSM-2です!
アンケートの回答ありがとうございました。おかげで艦名が決まりました。
【原子力空母】
あかぎ型原子力空母 1番艦「あかぎ」
          2番艦「あまぎ」
いぶき型軽空母   1番艦「いぶき」
          2番艦「つくば」
          3番艦「りょうかみ」
          4番艦「ひりゅう」
です。いぶき型4番艦の「ひりゅう」はちゃんとした山の名前です。埼玉県秩父市と山梨県丹波山村の県境にある飛竜山という山です。丁度、かの有名な「飛龍」と発音が同じだったので見つけた時は「ラッキー」と思いながら名づけました。
そういえば作者ががばがば計算してきたんですが、これほどの軍備増強を行う場合120兆円の予算が必要になると思います(たぶんそれより少ないと思う)その予算を15年で組んだ場合、現在の防衛予算に+8兆円すればいいぽいです。あれ?案外安いかな・・・・?もっとかかると思っていた・・・・・。
では本編どうぞ。


作戦開始の10時になったと同時に全国の空軍基地から次々と戦闘機や偵察機、早期警戒機が離陸してゆく。また、国防海軍舞鶴基地からは第2空母打撃艦隊と第5空母護衛艦隊が佐世保基地、大湊基地からはそれぞれ第4空母護衛艦隊、第6空母護衛艦隊が緊急出航*1した。また日本海側に展開していた通常動力型潜水艦、原子力潜水艦は全て大陸方面の調査に向かうのだった。そして潜水艦を除く全ての調査部隊が撮影した映像はリアルタイムで官邸の緊急事案対策本部に送られていた。

―――――――

調査隊の一部である第5戦闘航空団所属のF-35JA*22機(コールサインはワイバーンリーダーとワイバーン4)は韓国南部の方角へ飛行していた。他にも16機の戦闘機は築城基地から針路を5度づつずらして大陸に向かっている。後方にはE-2早期警戒機1機とE-767早期警戒管制機1機が援護についていた。

だが2機のパイロットは戸惑い始めた。なぜなら既に見えてもいいはずの陸地が見えないからだ。

 

「アックス04、ディスイズアックス03(こちら第105戦闘飛行隊第1飛行小隊長機)。もうそろそろ半島直上なんだが・・・・・見えるか?」

「何も見えませんね・・・・・・」

 

半島があるはずの位置はただただ青い大海原が広がっていた。

 

「もう少し先に行ってみるぞ・・・・・・」

「了解」

 

2機のF-35JAは巡航速度でさらに北西に進んでいく。そのすぐ後だった。水平線にうっすらと陸地のような影が見えた。常人なら見えないようなそのうっすらとした影は目の良いファイターパイロット(戦闘機パイロット)だからこそ見えたといえよう。

 

「っ!!陸地が見えたぞ!E-2に報告する!」

 

編隊長のワイバーンリーダーのパイロットは後方で待機している、第602警戒飛行隊所属のE-2D8号機に通信を入れる。

 

「キング8、ディスイズアックス03(こちら第105戦闘飛行隊第1飛行小隊長機)。現在地よりヘディング3-1-5(方位315度)、74マイル先に陸地を発見!マイポジション(現在地)ヘディング3-1-5フロムツイキベース(築城基地より方位315度)、210マイル!」

『アックス03、ディスイズキング8(こちら第602警戒飛行隊8番機)。了解した。当該陸地を調査せよ!』

「ワイバーンリーダー。ラジャー」

 

2機の鋼鉄の猛禽は発見した陸地に針路を変えた。

 

「どういうことなんだ・・・・・・?」

 

しばらくして発見した陸地に向かったF-35JAのパイロット、ワイバーンリーダーは眼下に広がる光景に戸惑った。

なぜならそこには90年以上前の太平洋戦争期に日本が保有していた駆逐艦や空母などの軍艦が多数停泊していたからであった。ただ空母に掲げられている旗や飛行甲板に描かれている国旗は日本のそれではなく、赤い丸の上を一回り小さい黒まるで塗りつぶしたかのような模様だった。

 

「何が起きてるんだ!韓国どころか北朝鮮だって今頃こんな時代遅れの船はもっとらんぞ!」

 

2機のF-35は港の上空で旋回を始める。どうやら港があるのは半島のようであった。この港に来る前にも陸地の上空を飛んでいたが、そこにあるのはまたもや90年前の日本でよく見られた田園風景であった。

 

「ここは・・・・・・まさか・・・・・・・!」

 

僚機であるアックス04のパイロットがあり得ないといった風にそう言った。

 

「どうした?アックス04」

「ココの地形・・・・・・立っている建物や港の形状、街並みこそ違いますが、ここ横須賀にそっくりですよ!」

 

ワイバーンファーストスリーのパイロットはそう言った。

 

「本当か!?」

 

ワイバーンファーストワンのパイロットはその言葉に驚いた。ワイバーン3のパイロットは横須賀の出身だ。確かによく見れば、細部の形は違えど大雑把な地形は横須賀のそれであった。それによく見てみれば戦艦三笠のような船もいるではないか。

日本ではない別の陸地に90年前の軍艦が停泊している横須賀に似た土地は2機のパイロットの頭を混乱させた。

その時、国防軍の部隊ではない第3者の無線が突如入ってきた。

 

『こちら扶桑皇国海軍横須賀航空隊!前方を飛行中の国籍不明機は所属と飛行目的を明かせ!」

「「!?」」

 

2機のパイロットは慌ててレーダー画面を見た。だがそこには航空機を表すアイコンは映し出されていなかった。いや、微弱だが画面には反応がかすかに映っていた。パイロットはその反応から無線で交信してきた相手がいるであろう方を見た。

 

「な、なんだ!?あれは!!」

 

ワイバーンファーストワンのパイロットは思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。それも無理もない。なぜならそこには足に機械をつけた少女が飛んでいたのだから。

――――――

一方、永田町にある首相官邸に設置された緊急事案対策本部でもガンカメラの映像を通じて、その不可解な少女の存在に騒然となっていた。

 

「防衛大臣!あれはいったいなんだ?」

 

石田の戸惑ったような声に防衛大臣は首を横に振った。

 

「わかりません・・・・・・・・」

「・・・・・・3か国の大使を呼んでくれ!この少女について聞きたい!大使たちはまだここにいるよな?」

 

石田が外務大臣にそう聞くと、今まで映像にくぎ付けになっていた外務大臣もハッとして石田の問いに答えた。

 

「はい、現在もここににおります。何かあった時のためにという総理の指示で待っていていただきました・・・・」

「よし、至急この少女の映像を見せるんだ。何か知っているかもしれん。それと接触した戦闘機にはできる限りの情報収集を指示しろ!」

 

石田は矢継ぎ早に指示を出した。指示を受けた閣僚たちは素早く動き始めた。

―――――――

中国、韓国、ロシア大使はさらなる続報を待つためと、外務省職員からの要請で総理官邸の応接室で待機していた。すると突然、内閣官房長官と外務大臣がタブレットをもって入ってくる。

 

「待機してくださっていたことに感謝します」

 

官房長官は3か国の大使にそうお辞儀をした。するとロシア大使がにこやかに笑ってこう返した。

 

「いえ、私たちも一刻も早く続報を聞きたかったですから・・・・・」

「早速ですが、こちらの映像を見ていただきたい。現在、築城基地より北西に650kmの地点を飛行中のF-35JAのガンカメラ映像です」

 

外務大臣はタブレットを操作すると3か国の大使に見せる。すると大使たちは差し出されたタブレットを覗き込むようにみた。

そこには足に不可解な機械をつけた少女が空に飛んでいるという、いかにも摩訶不思議な映像があった。

中国大使はいぶかしげな顔をすると外務大臣に尋ねた。

 

「これは・・・・・?」

「我々にもわかりません・・・・・が、彼女は自身の所属を扶桑皇国海軍と名乗りました」

 

官房長官は首を横に振るとそういった。

 

「パイロットによるとしゃべっていた言語は日本語らしく、身にまとっていた服や肩章は旧軍のそれに近かったとのことです・・・・」

「なんと・・・・・!」

 

ロシア大使が驚いたようにそう言った。

 

「そこで、この映像に心当たりはありませんか・・・・・・・」

 

官房長官はそう尋ねた。

 

「いいえ、私は知りませんが・・・・・・」

「私も、本国でこのような兵器を開発しているという話はついぞ聞いたことがありません・・・・・」

 

ロシア、中国の大使がそれぞれ首を横に振った。

日本側の二人の視線は、先ほどから不機嫌そうにしている韓国大使に向く。

 

「韓国大使はいかがですか?何か心当たりは・・・・・・?」

「・・・・・・私もありません・・・・・・・」

 

韓国大使は短くそう答えた。

 

「そうですか・・・・・・・」

 

官房長官は困った顔をして、再びタブレットの映像に視線を移した。パイロットと少女の会話がタブレットから聞こえてくる。

その時だった。突如赤っぽい光線がガンカメラに映し出された。

――――――

「我々は日本国国防空軍第105戦闘飛行隊第1飛行小隊。飛行目的は周辺海域調査である」

 

ワイバーンリーダーのパイロットは旋回しつつ、無線でしゃべりかけてきた少女にそう返した。服装や持っているものから、現地の軍隊かそれに値する組織に所属する人物であることは疑いようがなかった。

 

『ニホン?・・・・・なんの調査をしているんだ?』

 

どうやら相手は日本という国名を知らないらしい。

 

「大陸方面調査の理由は、本日午前0時に諸外国との通信が取れなくなり、なおかつEEZ(排他的経済水域)外を飛行していた航空機及び、航行していた船舶のすべてが行方不明になったためだ」

 

どうやら相手は信じられないといった様子だ。よく見てみるとこれまた90年前の96式艦上戦闘機そっくりの戦闘機が周りを飛んでいた。

 

「先ほど貴官は扶桑皇国海軍と名乗ったが、我々は扶桑なる国は知らない・・・・・・ここは韓国上空ではないのか?」

 

確かに飛行してきた距離的には韓国上空なのだが、そこにあったのは横須賀によく似た地形の陸地であり、90年前の戦前に日本が保有していたような軍艦や90年前にありそうな木造やレンガの建物がひしめき合っていた。

韓国を感じさせる鉄筋コンクリートのビルや家は全くといっていいほど見られなかった。

 

『カンコク・・・・・・?扶桑を知らないのか?最下位とはいえ、列強に名を連ねる国だぞ?』

「さっきから話がどうもかみ合わないな・・・・・・・」

 

その時、E-2から通信が入った。

 

『アックス03、ディスイズキング8!アンノウンコンタクト(未確認機探知)ターゲットワン(機数1機)アンノウンポジション(目標位置)ヘディングジロワンツー(方位012)レンジワンツージロ(距離120マイル)スピードツーハンドレットフィフティーン(速度215ノット)ベクターワンナインツー(進路192度)エンジェルスリージロ(高度30000フィート)

「なに・・・・・?」

 

アックス03のパイロットは少女との交信を止め、レーダー画面を慌ててみる。すると確かに、E-2のレーダーで探知した位置に正体不明機を表すアイコンが映し出されていた。その横には目標の大きさとスピ―ド、高度が横に書かれていた。

ただこの時、パイロットもE-2の乗員も、西部防空指揮所の職員も相手方のスクランブル機か哨戒機だろうとあまり重大に思っておらず。この正体不明機のことを誰も相手方に伝えようとはしなかった。というよりそれどころではなかったのだ。

なぜなら生身で飛んでいる不可解な少女が原因だった。先ほどから目の前の不可解な少女と交信しているが、やはりどうも話がかみ合わず、そちらの事で手いっぱいだったのである。このとき味方の第2空母打撃艦隊と、第4、第5空母護衛艦隊*3築城の第106航空隊の航空機8機は、ワイバーンリーダーとワイバーン3の飛行している地点から南東に100マイルの地点で待機していた。

既に目の前の少女や戦闘機や中国や韓国、ロシアの兵器ではないと分かった今、この2機に何かあればすぐさま戦闘機がココに殺到する。

その時、再び早期警戒機から通信が入った。

 

『アックス03、ディスイズアレクトリア8!方位0-1-2を飛行中のアンノウンから飛行物体が分離!現場空域に向かっている!スピードスリ―ハンドレット(速度300ノット)レンジワンジロジロ(距離100マイル)!注意せよ』

 

レーダー画面を見ると、なるほど確かに先ほど探知した航空機よりも小さな飛行物体がこちらにまっすぐ向かっている。機数は4機。大きさはこのF-35ほどだが速度はミサイルや戦闘機にしては遅い。

 

「・・・・・一体何なんだ?これ・・・・・・」

 

飛行物体から分離したこの航空機が一体何なのか、日本側に分かるものは一人もいなかった。

ワイバーンリーダーのパイロットは一瞬レシプロの双発機かと思ったが、今飛んでいる飛行機は96式艦上戦闘機そっくりの機体だ。飛んでいるのが零戦や烈風なんかの大戦末期の機体ならいざ知らず。戦争初期に使われていた96式艦上戦闘機そっくりな機体を飛ばす国の双発機が時速648kmも出せるわけがなかった。

一瞬、相手方に確認してみようかとも思ったが目の前の戦闘機はどう見ても戦前の機体。レーダーは積んでいないと思われるし、むしろレーダーと言うものがあるのか怪しい。敵か味方か分からない今、この飛んでくる航空機の事を聞けば、此方は100マイル先の物を探知するすべがあるという情報を相手に与えてしまう。うかつに聞くことはできなかった。

ただ相手方は特段慌てた様子はなく此方のみを警戒しているので、飛んでくる航空機も相手方のものであろうとワイバーンリーダーのパイロットは判断した。

ただ彼にとって誤算だったのは、飛んでくる航空機は相手方の物でもましてや日本の物でもない、どこの国家にも属さないものであったことと、突然飛来したこの2機のジェット戦闘機によって相手方の防空網や通信網はこの上ないほど混乱していたため、相手の監視部隊がこの飛来してくる航空機の存在を報告しても、上層部まで伝わらなかったのだ。

―――――――

それから、14分後。既に謎の少女と接触してから30分が経っていた。燃料はまだまだ残っており、いざとなったら後方に待機している空中給油機のお世話になる予定のため、燃料の心配はなかった。

ワイバーンリーダーのパイロットがふと少女たちの方を見ると何やらあわてているようだった。

 

「・・・・・どうしたんだ?」

 

次の瞬間、1機の96式艦上戦闘機そっくりのレシプロ戦闘機に向かって赤い光線が伸びたかと思うと、その戦闘機は突如爆ぜた。

 

「・・・・・え・・・・・」

 

パイロットはすぐさま辺りを見渡す。すると2機のF-35の右斜め上に何か禍々しさを感じる黒々とした航空機が4機いた。何やら幾何学的な模様が描かれており、ところどころ赤いパネルのようなものがあるそれは、その赤いパネルの部分から、現在国防軍でも研究中のビーム兵器に似た、赤い光線を発射してくる。

レシプロ戦闘機はその黒々とした航空機に向かっていく。だがビ―ムはレシプロ戦闘機に次々と当たり、まるでおもちゃを壊すかのように次々と墜落して行った。唯一、少女はビームのようなものが当たっても青っぽいバリアのようなものが張られ、無傷で航空機に近づいていく。

 

――どういうことだ?機数的には先ほど探知した航空機だろう・・・・・奴らの味方かと思っていたが違うのか!?

 

その時、まるで部外者のように飛んでいた2機の目の前に赤い光線が走った。2機は現在の速度のままでは危ないと判断するとスロットルを上げて、巡航速度であるマッハ1.2に速度を上げた。

すると無線から先ほどの少女の声が聞こえてきた。

 

『なにをしている!さっさと逃げるんだ!たった2機の通常兵器では怪異はおとせない!』

「怪異・・・・?」

 

聞き慣れない単語にパイロットは思わずそう聞き返した。

 

『知らないのか!?人類を襲う、化け物のことだ!』

「つまり・・・・・人類共通の敵ってことか・・・・・?」

 

パイロットはにわかには信じられなかったが、それでも攻撃を受けているので相手は明確な敵であると判断し、今まで通信を取っていた早期警戒機ではなく西部航空方面軍防空指揮所に通信をつなげる。

 

ウェスタンSOC(西方航空軍防空指揮所)!ディスイズアックス03!アイワズアタックト(攻撃を受けた)アンノウン(所属不明機)ハンデット(敵性航空機)だ!プリーズギブミーエンゲージプロミション(交戦許可を求む)!」

『ワイバーンファースト。ディスイズウェスタンSOC。今は交戦を許可できない・・・・・』

 

攻撃されたにもかかわらず、交戦許可を出さない防空指揮所の判断にパイロットは「ふざけるな!」と叫びたくなった。

 

「なぜだ!攻撃されたんだぞ!」

『当該航空機が中国、韓国、ロシアの航空機である可能性もあり、領空侵犯の要撃かもしれない。そうなればココで交戦すれば第3次世界大戦の引き金を引くことにもなりかねない!現在3カ国の大使に確認を取っている』

「くそ!」

 

パイロットは機体を左右上下に揺らしつつ、発射されてくるビームをなんとか避けていた。後ろをみると先ほどまで飛んでいたレシプロ戦闘機は全滅し、不可思議な少女だけが残っていた。

 

 

*1
第4空母護衛艦隊、第5空母護衛艦隊と第6空母護衛艦隊は有事の際にすぐに現場に急行する即応艦隊なので、常に最低限の燃料とミサイルを積んでいる。第2空母打撃艦隊は1カ月後にリムパックに参加するために燃料を満載。標的機を使った演習もするためミサイルも満載してあった

*2
Jシリーズは武装が改良されており、B・C型には機関砲の追加が、A型には砲弾の増量が行われた。また日本の開発したミサイルも使用可能なように改良されている

*3
第6空母護衛艦隊はロシア方面調査担当なので、戦闘機の戦闘行動半径にココが入っていない




いかがでしたでしょうか?
今回、予定していた文字数より739文字も多くなってしまいました。読者様からの要望で文字数を5000文字~6000文字ほどに増やします。次回以降はその範囲内に収められると思います(今回は元々数話に分ける予定の物をくっつけて一つの話にしたので文字数オーバーしてしまった)
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回!さようなら!

次回 第5話 交戦

お楽しみに!


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第5話 交戦

皆さまどうもSM-2です。
最近勉強ばっかでワールドウィッチーズの公式ウェブ見れてなかった・・・・・。ルミナスウィッチーズのPV見ました。なんか一人○これの某駆逐艦に似た口調の人がいた気が・・・・・。
では、本編どうぞ。

※坂本さんの階級を中尉から准尉に変更
※でてくウィッチを坂本さんから別のモブウィッチに変更しました。


「なっ・・・・・・!」

 

タブレットで戦闘機から送られてくるガンカメラの映像を見ていた3カ国の大使は急にカメラの目の前を通った赤い光線に驚いた。

 

「何があった!」

 

外務大臣は後ろにいた職員にそう聞いた。職員は当然何も分からないので首を横に振り「わ、分かりません」としか言えなかった。

官房長官はタブレットを注視しているが、カメラが左右上下にぶれている。(なぜなら、F-35JAのカメラは360度撮影可能なので、先ほどまではパイロットがカメラの視点を少女の方にずっと合わせていたのだが、今は謎の攻撃の回避行動で手いっぱいだからである)

暫く、その部屋にいた5人はタブレットを見ていると、緊急事案対策本部から走ってきたらしい、防衛省の幹部が息を切らしながら入ってきた。

 

「ほ、報告します!現在、朝鮮方面に偵察をしていたF-35JA2機が所属不明機に攻撃を受けているようです!それを受け後方で待機していた第2空母打撃艦隊と第5、第6空母護衛艦隊、築城と那覇から戦闘機が緊急発進しました!ですが、中国、ロシア、韓国の航空機である可能性もあるので現在上空待機しております!」

「何だと!!」

「現在、現場空域上空15000mを飛行中の無人偵察機の映像を出します!」

 

幹部はタブレットを取ると、第2空母打撃艦隊旗艦「あまぎ」より発進したRQ-5Jスカウターの映像に変える。

このRQ-5Jは高性能カメラを搭載しており高度15000mから一人ひとりの顔を識別することすら可能な高性能無人偵察機である。また空対空、空対艦、空対地の各ミサイルも搭載可能である。

そんなRQ-5Jから送られてきた映像には4機の黒々とした戦闘機ほどの大きさの航空機が、盛んに少女や国防軍のF-35に向かって赤いビームのようなものを発射している様子であった。

 

「大使の皆さまに問いたい!この航空機に見覚え、ないし心当たりは?」

 

外務大臣は切羽詰まった様子でそう尋ねた。するとロシア大使が最初に答えた。

 

「全く持って心当たりがありません・・・・・。まずこの航空機が発射しているビームはまだわが国でも研究段階ですよ」

「我が中国でもこのような航空機を開発している等聞いていませんし、ロシア同様ビーム兵器はわが国でも研究段階です」

「私も知りません・・・・・・・」

 

3カ国の大使がそういうと、官房長官が念を押すようにこう言った。

 

「つまり、この4機は貴国らの所属ではないのですね?」

 

するとロシア大使が官房長官にこう言った。

 

「ええ、それにこの航空機にはどこの国の所属かを示す国籍マークがついていません。国際法上、軍用航空機にはどこの国の所属かを示す国籍マークがついていなければなりませんから、この航空機を先に攻撃してきた所属不明の敵性航空機と言う形で撃墜してもかまわないと思いますよ」

「ありがとうございます!」

 

官房長官は3人にそういって頭を下げると部屋からいそいででて行った。

―――――――

「つまり、この航空機は3カ国の航空機ではないんだな?」

 

石田は官房長官からの報告を聞いた後、念を押すようにそう言った。官房長官はその問いに頷く。

 

「はい、3カ国の大使は全く知らないと・・・・・。撃墜してもかまわないとのことです」

「分かった・・・・・・現場に交戦許可を出せ!それとこの4機の母機と思われる航空機も撃墜するよう通達しろ!」

 

石田がそう指示をだすと、会議室にいた統合国防司令長官は部屋に設置されていた電話で防衛省内に設置された統括司令部に交戦を許可する旨を伝えた。

その指示はすぐさま西部航空方面軍、南西航空方面軍と第2空母打撃艦隊、第5、第6空母護衛艦隊に通達され、上空待機していた戦闘機はすぐさま現場に急行した。

―――――――

『アックス03!ディスイズウェスタンSOC』

 

回避運動に専念していた2機のF-35に西方航空軍防空指揮所から通信が入った。

 

「ウェスタンSOC!どうしたんだ!」

 

ワイバーンリーダーはコントロールスティックを操作して先ほどから乱射されてくるビームを避けながら、ぶっきらぼうにそう答えた。

 

『上から交戦許可が出た!現在、待機中の戦闘機F-35JA10機、F-35JB8機、F-35JC4機、F/A-3A4機の計26機だ!』

「本当か!」

 

ワイバーンリーダーのパイロットがそう言った。速度、機動性で優れる制空戦闘機のF-35J*1が22機、ミサイルの搭載量で優れるマルチロールファイター(攻撃戦闘機)のF/A-3*2が4機来るのだ。

これほど心強い味方はいなかった。すると、防空指揮所の航空管制官は日本語ではなく航空管制英語で話し始めた。

 

『アックス03!ディスイズウェスタンSOC。キルハンデット(敵性航空機を撃墜せよ)!なお敵機の発射母機をターゲットアルファと呼称する!』

「ディスイズワイバーンファーストワン・・・・・コピー(了解)

 

コレで撃墜命令は正式な命令となった。

 

「アックス04!聞いたな!」

「ええ!でっかい花火を上げてやりましょう!」

エンゲージ(交戦開始)!!」

―――――――

――油断した!あの飛行機に気を取られててネウロイの接近に気が付かないとは・・・・!

 

不可解な少女――扶桑皇国海軍の機械化航空歩兵(ウィッチ)は手に持った99式2号2型20mm機関銃の銃口を目の前にいる怪異(ネウロイ)にむけると、間髪いれずに引き金を引く。怪異(ネウロイ)の装甲がはがれ耳障りな不協和音が辺りに響く。4:1という数的劣勢と怪異(ネウロイ)がなかなかコアの位置を見せないため苦戦していた。

地上からは増援のウィッチが数名と戦闘機も続々と上がってきており、この増援が戦闘に加われば勝てるだろう。

 

ダダダダダダダダ

 

重厚な発砲音とともに20mm砲弾が発射される。ドラムマガジンがカラになると持っていた予備弾倉を取り出してリロードする。

リロードしながらウィッチは先ほどから怪異(ネウロイ)のビーム攻撃を避けつつこの空域にとどまっている奇妙な飛行機に目を向けた。航空機でありながらプロペラがなく、のっぺりとした印象のそれは一瞬、怪異(ネウロイ)かと思ったが、コックピットのようなものがあり、中に人が乗っていたことから飛行機であることは疑いようがなかったが、ネウロイと戦うわけでもなくこの空域にとどまり続ける飛行機の行動はいまいちわからなかった。

だが次の瞬間、ウィッチは目を疑った。なぜなら奇妙な飛行機の後ろの部分の火が急に強まったかと思うと、レシプロ戦闘機では失速してしまうような急角度で上昇したからだ。

ウィッチがその光景に目を奪われているとインカムから突然96式艦戦のパイロットの声がした。

 

『准尉!後ろにネウロイが!』

「な!」

 

ウィッチはあわてて後ろを向くと、確かにそこにはビームを発射する赤い部分を強い光を出しビームを発射しようとしている怪異(ネウロイ)の姿があった。

銃を構えることは既にかなわず、シールドを貼ってビームを回避しようとした時だった。上空から何かがものすごい勢いで飛んでくると怪異(ネウロイ)のそばで爆発した。

 

「なんだ!」

 

次の瞬間、先ほどの灰色の奇妙な飛行機がものすごい衝撃波とともに目の前を下降していった。奇妙な飛行機が目の前を通りすぎた後に衝撃波とものすごい音がしたので、ウィッチは瞬時に奇妙な航空機が音速を超えていることに気がついた。

―――――――

ウィッチの後ろにいた怪異(ネウロイ)にダメージを与えたのは31式短距離空対空誘導弾だった。このミサイルはアクティブレーダーホーミングで射程は35kmほどである。それまで短距離空対空誘導弾はロックオンされても気が付きにくく誘導装置も小型な赤外線誘導であったが、このミサイルはあえてロックオンすると探知されやすいアクティブレーダーホーミングを採用している。

なぜなら、日中紛争時のある航空戦でF-35が中国軍のJ-20と交戦した際にF-35はECM(電波妨害)を仕掛けて、至近距離からミサイルを発射し5機を撃墜したのだ。この時、中国軍はレーダーが回復する間、下から上昇してくる友軍機を誤射する可能性のある赤外線誘導の短距離空対空ミサイルを発射できずになすすべなく撃墜されてしまった。

紛争後、防衛装備庁ではこの戦術が日本側に仕掛けられた場合になすすべなく戦闘機が撃墜されてしまう可能性があるとして電波妨害を受けると発信源に向かって飛翔するホーンオンジャム機能を持ち、至近距離で撃っても友軍機の誤射の可能性がないアクティブレーダーホーミングの短距離空対空誘導弾の開発を開始した。

知らない人からすれば、なら至近距離でもアクティブレーダーホーミングを持った中距離、長距離空対空ミサイルを撃てばいいではないか?と思うかもしれないが中距離、長距離空対空ミサイルはミサイルの中では比較的軽量でも、空対空ミサイルの中ではものすごく重く、機動性も短距離空対空ミサイルに比べて劣っているため、ドッグファイト(格闘戦)では非常に不向きなのだ。

そうして生まれたのがこの31式短距離空対空誘導弾なのだ。無論、F-35には赤外線誘導の04式短距離空対空誘導弾も4発搭載されていた。

 

「よし!命中!」

 

アックス03のパイロットはそう言った。だが攻撃したネウロイの方をよく見てみると着弾した部分はわずかにえぐれているものの、撃墜には至っていなかった。

 

「どういうことだ!?15kgの高性能指向爆薬だぞ!至近距離でくらって無事なはずがない!」

 

すると見る見るうちに相手はえぐられた個所を再生していく。

 

「・・・・・反則だろ・・・・・」

 

アックス03のパイロットはぽつりとそうつぶやく。すると不可解な少女から再び通信が入った。

 

『コアだ!コアを狙うんだ!』

「コア?何だ?それは?」

 

ワイバーンリーダーのパイロットはそう聞き返した。

 

『赤い正二十面体の発光体だ!それを吹き飛ばさないと怪異(ネウロイ)は再生する!』

「わかった!」

 

ただ、外面からはそんなものは全く見受けられなかった。探すすべがないのでは攻撃のしようがなかった。その時、ワイバーンファーストスリーのパイロットがとあることに気がつく。

 

FLIR(前方監視型赤外線装置)に反応があります!」

「なんだと?」

 

ワイバーンリーダーのパイロットはAN/AAQ-40 EOTSのモードを熱源を点として探知し、追尾するIRSTからサーモグラフィーに近い観測領域の温度分布を表示できるFLIRに変更した。すると、確かに前方のネウロイの上部に熱源を探知できた。

 

「攻撃を31式から04に切り替える!」

「了解!」

 

2機は反転するし、ワイバーンファーストスリーはネウロイをロックオンする。

 

FOX-2(赤外線画像ホーミングミサイル発射)!!」

 

シューーーーゴーーーーーーーーーーー

 

すさまじい轟音とともにマッハ3の速度で04式短距離空対空誘導弾がアックス03の機体のウェポンベイから放り出される。至近距離のため瞬時にシ―カーが作動すると怪異(ネウロイ)のコアと思われる熱源を探知し、その熱源に向かい飛翔していく。

途中、31式短距離空対空誘導弾の攻撃を受けた怪異(ネウロイ)は04式短距離空対空誘導弾を脅威と判断しビームで迎撃しようとしたがマッハ3で飛翔するミサイルに当たることはなく、04式短距離空対空誘導弾は半径10mまで接近するとそのアクティブ・レーザー接近信管がそれを探知すると、15㎏の高性能指向性爆薬はその威力を解放した。

至近距離で爆発したそれは怪異(ネウロイ)の装甲をえぐるがコアはまだ露出しなかった。怪異(ネウロイ)はえぐれた部分をすぐさま再生しようとしたが、そこに2発目、さらに3発目の04式短距離空対空誘導弾が着弾。さらに怪異(ネウロイ)の装甲をえぐり、その無防備なコアを露出させた。

 

「よし!あれがコアだな!」

 

アックス03は再び怪異(ネウロイ)をロックオンするとミサイル発射ボタンをおした。勢いよく発射されたミサイルを今度こそは近づけまいと怪異(ネウロイ)はビームを乱射するが、それは一発も当たることなくミサイルは怪異(ネウロイ)に着弾。コアは粉々に砕け散った。

悲鳴とも断末魔とも付かない耳障りな不協和音を響かせると怪異(ネウロイ)は白い破片をまきちらし砕け散った。

辺りを見回してみると、先ほどの少女の仲間とおぼしき少女が3名ほど増えており、怪異(ネウロイ)の数も2機になっていた。

丁度その時、通信が入った。

 

『アックス03!ディスイズオーガ07!騎兵隊の到着だ!』

 

そんな通信とともに12発ものミサイルが続けざまに2機のネウロイの上部に殺到し、瞬く間に2機をただの白い破片に変えてしまう。アックス03がミサイルの飛んできた方向を見ると、国防海軍第2空母打撃艦隊所属のF-35JC4機(第2空母飛行団第21戦闘飛行隊第2小隊)と第5空母護衛艦隊のF-35JB4機(第3空母航空隊第1戦闘飛行小隊)、第6空母護衛艦隊のF-35JB4機(第4空母航空隊第2戦闘飛行小隊)の計12機がいた。

 

「援軍感謝する!ところでボギー(敵機)の発射母機は?」

『イージス艦で対処するそうだ。SM-2とSM-6の雨あられで叩き落とすらしい』

 

SM-2は終末誘導が赤外線ホーミングなのでコアの破壊には最適であり、SM-6は艦対空ミサイルであるが艦対艦ミサイルの能力もあり、爆薬量も多いためネウロイに損傷を与え、隙を造るには最適であった。

その時、早期警戒機から報告があがった

 

アラート(警報発令)アラート(警報発令)アラート(警報発令)!ディスイズキング8!ターゲットアルファがさらなる飛行物体を発射中!ターゲットポジション(目標位置)ヘディングジロワンツー(方位0-1-2)レンジナインナイン(距離99マイル)エンジェルスリ―ジロ(高度30000フィート)ターゲットフィフティ(機数50機)スピードスリ―ハンドレット(速度300ノット)ベクターワンナインツー(針路192度)!』

 

早期警戒機のレーダーは先ほどのネウロイの発射母機から分離する飛行物体を捉えたのだ。戦いは新たな局面へ進もうとしていた。

*1
本来は統合打撃戦闘機だが日本では制空戦闘機として扱っている

*2
F/A-3は世界有数のミサイル搭載量を誇り胴体のウェポンペイだけで空対空ミサイル6発か対艦ミサイル4発が、翼下のハードポイントには空対空ミサイル14発か、空対空ミサイル2発対艦ミサイル6発が搭載可能。




いかがでしたでしょうか?
そういえば日本のどこの部隊とくっつけようかな・・・・・<気が早い&先走り
PVとか見た感じだとバリバリの戦闘機部隊は不自然かな?ブルーインパルス出すか元ブルーの凄腕パイロットもいいかも知れん・・・・。いや陸自のノーザンとかを常設化した奴を出してもいいかな?
と夢が膨らみます。実際はアニメ見て決める感じですかねぇ・・・・。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回!さようならぁ!

次回 第6話 艦隊防空戦(前編)

お楽しみに!


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第6話 艦隊防空戦(前編)

皆様どうも、SM-2です。
夏休みも終盤。宿題は終わりましたか?今回は艦隊防空戦です。資料が少ないので書くのに苦労しました。
では本編どうぞ。


『対空戦闘よぉい!!これは演習ではない!これは演習ではない!!』

 

大海原を進む30隻の艦艇*1、すべての艦内で切迫したアナウンスが流れていた。そのアナウンスを聞き、艦内の水密扉が占められ乗組員は艦橋やCICなどの戦闘時の所定の場所に向かう。

すべての乗組員が所定の場所につくと、各班の班長がCICに報告する。その報告は航海長や副長などから艦長に伝わり、艦隊司令に報告が入る。

 

「司令!全艦対空戦闘用意よし!」

「了解・・・・・」

 

第2空母打撃艦隊司令であり、この3艦隊をまとめる臨時司令官である宮崎(みやざき) (そら)海軍少将は第2空母打撃艦隊の旗艦「あまぎ」の艦橋でその報告を聞くとこくりとうなずいた。

 

「よし!くま、みょうぎ、ちょうかいにターゲットアルファの撃墜命令をだせ!」

 

宮崎は護衛のイージス艦に今もなお、飛行物体を発射し続けている巨大航空機の撃墜を命じた。

―――――――

「SM-6攻撃用意!」

 

命令を受けたイージス巡洋艦「くま」のCIC内ではミサイルの発射準備が進んでいた。そのほかのイージス駆逐艦「みょうぎ」「ちょうかい」の艦内でも同様であった。

 

イルミネータースタンバイ(ミサイル誘導装置用意よし)!!」

 

イージス艦に搭載されているMk,99イルミネーターが目標の大型航空機に火器管制レーダーを照射する。

 

「SM-6、発射用意!!発射弾数3発・・・・・・」

「データ入力完了!発射用意よし!」

 

武器関連を管理する砲雷長の指示で前部と後部にあるVLSに格納されたSM-6艦隊防空用艦対空ミサイルのセルのふたが静かに開く。

 

リコメンドファイア(発射命令発令)!!」

 

CIC内のミサイルの発射管制員が一つのボタンを押すと艦内にジリリリリリというけたたましい警報が鳴り響き、乗組員の全員がミサイルがこれから発射されることを悟る。

 

サルヴォー(ミサイル斉射)!!」

「てぇー!」

 

砲雷長の指示で、発射管制員はミサイルの発射ボタンを押す。

前後部VLSから白煙を上げてSM-6が3発、勢いよく大空に向けて飛び出す。

 

ゴォォォォシュォォォォォ

 

ブリッチ(艦橋)にいた航海科の監視員が双眼鏡でミサイルが正常に発射され、同じように「みょうぎ」と「ちょうかい」でもSM-6が発射されたことを確認すると、艦内無線でCICに報告する。

 

「艦橋からCIC!SM-6、目標に向かって正常飛行中!ちょうかい及びみょうぎもミサイル各3発の発射を確認!」

「CIC了解!次射用意!着弾次第、第2射を開始する!」

「こちら艦橋!了解した!」

 

航海長はミサイルが飛んで行った方向をじっと見つめつつ、艦内無線でそう返す。

3艦から3発づつ発射されたSM-6長距離艦隊防空用艦対空ミサイルは各艦に搭載されたMk.99ミサイル射撃指揮装置の誘導に従い、先ほどから2次大戦時の戦闘機ほどの飛行物体を発射している大型航空機に向かって飛翔していく。

目標との距離が残り20kmほどになるとミサイルはミサイル自身のシーカーを起動させ自身のレーダーでとらえた目標に向かい正確に飛翔する。

相手は赤いビームをミサイルに向かって発射するが、音速を超えて飛翔するミサイルには当たることはなく、ミサイルはプログラムに従い目標に向かって突っ込んだ。

計9発のSM-6はすべてその接触信管を正常に起動させて、その爆発破砕弾頭を起動させ怪異(ネウロイ)の外殻をやすやすと突き破った。

だが、怪異(ネウロイ)の唯一の弱点たるコアは、外部に露出したのみあり、撃墜には至らなかった。怪異(ネウロイ)は耳障りな不協和音をあたりに響き渡らせると、いったん子機の射出をやめ、損傷した個所の修復に全力を注ぐ。

その間に、自分を攻撃してきた相手は必殺の第2射を用意しているとも知らずに。

――――――

インターセプト(命中)15秒前!!・・・・・・・・10秒前・・・・・・・・」

 

イージス巡洋艦「くま」のCIC内に設置されたレーダー画面には先ほどから子機と思われる飛行物体を射出し続ける赤いアイコンに向かって9発のミサイルを表す青いアイコンが向かっていた。

 

「5‥‥・4・・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・・」

 

ミサイルの射撃管制員が秒読みを始める。青いアイコンは赤いアイコンに今にも重なりそうだった。

 

「・・・・・1・・・・・・マークインターセプト(命中、今)!!」

 

その瞬間、青いアイコンと赤いアイコンが重なり、青いアイコンがすべて消えた。

 

「ミサイル全弾命中なるも、ターゲットサーヴァイブ(目標撃墜できず)!!」

 

時に対艦ミサイルとしても使用可能なSM-6である、命中すればどんな航空機だって撃墜できる。だがそのSM-6が9発も命中したにもかかわらず飛んでいられる敵機の存在にCIC内はかすかにざわつく。

 

「落ち着け!奴は赤外線を放つコアとやらをぶち抜けば撃墜できることは空軍が証明している!!SM-7攻撃用意!発射弾数1発!」

 

砲雷長はCIC内にいた砲雷科の全隊員にそう言い放つ。隊員たちは己の職務を思い出し、ミサイルの発射準備を行った。

 

「データ入力完了!発射用意よし!」

「リコメンドファイア!」

 

砲雷長の指示で艦内のベルが鳴らされ、再びミサイルが斉射されることを告げる。

 

「バーズアウェイ!!」

 

前部に設置されたVLSからRIM-191 SM-7*2が1発、再び発射された。

同じように各艦からも1発ずつSM-7が発射される。

ものすごい白煙とともにSM-7はVLSから飛び出してゆく。SM-7は誘導電波を受けて、先ほどSM-6が飛んで行った方向に飛んで行く。

すぐさま最高時速のマッハ10に到達し、ものすごい早さで目標に向かっていく。

先ほどの損傷が大きすぎでいまだに完全に再生しきれていない怪異(ネウロイ)は、先に発射していた子機から先ほど自分に損傷を与えた細長い何かとよく似たものが再びこちらに近づいていると知らされる。すぐさま子機にその細長い何かの迎撃を命じるがマッハ7のミサイルに子機の放ったビームが当たることはなかった。

そしてSM-7は自身のシーカーで赤外線を放つ目標のコアを補足し、寸分たがわず突っ込み、そのVT信管を作動させた。

 

ドォォォォン

 

ミサイルが命中し再生をし終えていたコアの付近の装甲がはがれる。だが少しはがれただけであり撃墜に入ったっていない。怪異(ネウロイ)は再び再生しようとするがそこに2発目のミサイルが突っ込んできた。

至近距離の爆発で怪異(ネウロイ)の装甲は完全にはがれ、その無防備なコアが露出した。

怪異(ネウロイ)は再び突っ込んでくる3発目のミサイルを発見すると無事なパネルからビームを乱射するが、むなしいほどに当たらず、その瞬間は訪れた。

ミサイルはその無防備なコアに突っ込み、VT信管はコアが半径50mに入ったことを探知するとその高性能爆薬を爆発させた。

爆風に乗って破片が銃弾のようにコアに突っ込んでいき、コアを粉々に砕いた。

 

ドォォォォン

 

コアを砕かれた怪異(ネウロイ)は断末魔のような、耳障りな不協和音をまき散らし、白い破片を残して砕け散った。

―――――――

「・・・・・・ターゲットスプラッシュ(目標撃墜)!!」

 

レーダー画面から一つのアイコンが消えると、レーダー管制員はそう報告した。

 

「よし!」

 

砲雷長はその報告を聞いて小さくガッツポーズをした。

だが、その次の瞬間。レーダー管制員がCIC内に漂っていた楽勝気分を吹き飛ばすような報告を上げた。

 

「敵機!此方に向かってきます!機数40機!!距離150マイル!」

「何だと!?」

 

砲雷長は慌ててレーダー画面をみた。すると確かに30機の敵機が編隊をなして、艦隊に向かってきていた。

 

「ちきしょう!!!」

 

砲雷長はかぶっていた「くま」の識別帽を床にたたきつけた。

―――――――

「これは・・・・・・まずいな・・・・・・」

 

宮崎は「あまぎ」内のCICでイージス艦や早期警戒機から送られてくるレーダー情報を見ると冷や汗をかきつつ、そう呟いた。

 

「すでに3艦隊で輪形陣を汲んでいたのは幸いだな・・・・・・・・」

 

既に第2空母打撃艦隊、第4空母護衛艦隊、第5空母護衛艦隊のそれぞれの旗艦「あまぎ」「ふそう」「たんば」を中心とした、イージス巡洋艦3隻、イージス駆逐艦12隻、汎用駆逐艦12隻の計27隻で輪形陣を汲んでおり、上空にはそれぞれの艦から発艦した戦闘機12機がFORCAP*3を行っていた。

 

「よし!『ふそう』『たんば』にも伝え、戦闘機を追加で上げるように命じろ!CAPの戦闘機はすべてこの40機に仕向けるんだ!」

「わかりました」

 

指示された隊員は命令内容を伝えるべく行動を開始する。

 

「この艦隊を中心として半径70kmは艦隊防空圏として、戦闘機の侵入を禁ずる!」

 

司令の指示で、F-35JC4機、F-35JB8機が指示された目標に向かって飛んでいく。また各空母からも増援の戦闘機が次々と発艦してゆくのだった。

―――――――

オールフレンドリィ(全友軍航空機に告ぐ)、ディスイズあまぎCIC。オーダー(指令)キルターゲット(敵機を撃墜せよ)

 

最終的にF-35JCが16機、F-35JBが20機の計36機の編隊になった戦闘機部隊は既に自機のレーダーで艦隊に近づく40機の航空機を捉えていた。画面上ではその40機は敵機を示す赤いアイコンで表されていた。

既に相手は目視可能圏内にまで近づいており、戦闘機部隊の前方30kmに接近していた。どうやら相手は気がついていないらしく、完全な奇襲が決まりそうだった。

 

「ディスイズブルーモンスター01。ラジャー」

 

臨時で戦闘機隊の指揮を執っている「あまぎ」の第2空母飛行団第21戦闘飛行隊長が「あまぎ」のCICにそう返した。

 

「各機、早期警戒機の割り当てに従ってミサイルの発射準備だ」

 

既に上空で監視を行っているE-2D早期警戒機が目標が重複しないように各機の目標の割り当てを行っており、戦闘機部隊は早期警戒機の定めた目標にミサイルをロックオンした。

 

「FOX-2!!」

 

編隊長のミサイル発射で各機は一気にAIM-9Yサンドワインダ―を2発づつ発射した。36機が発射する72発のミサイルは幻想的にすら思えた。

発射された72発のサンドワインダーはシーカーを起動させ、捕捉していた怪異(ネウロイ)のコアが放つ赤外線を探知すると、そこに向かって正確に向かう。

怪異(ネウロイ)は近づいてくるミサイルに気づくと、先ほど母機の大型ネウロイを撃墜したものと同じであると判断し、ビームを一斉に発射した。

今回は40機が密集していたのと、ビームの発射原にミサイルが飛んで行ったということもあり3,4発のミサイルがビームによっておとされたが、やはりマッハ7で近づいてくるミサイルを全て撃墜することは不可能である。残ったミサイルは全て怪異(ネウロイ)に正確に命中した。

 

ズドォンズドォンズドォン

 

静かだった海上に、大きな爆発音が連続して響き渡る。1機のネウロイに対し2発のサンドワインダーが時間差をつけて着弾する。

1発目のサンドワインダーが怪異(ネウロイ)のコア付近の表面装甲を削り、2発目が弱点であるコアを露出させる。

ミサイルによってコアを露出させられた怪異(ネウロイ)は損傷した個所を再生しようとするが、既に34機のF-35はとどめとなる04式短距離空対空誘導弾を発射していた。

既に戦闘機隊は怪異(ネウロイ)まで約15キロほどまで接近しており、マッハ3の速度のミサイルは15kmという距離を一瞬で駆け抜け、怪異(ネウロイ)に装甲を再生させる暇も与えずにコアを破壊した。

コアを破壊された怪異(ネウロイ)は白い破片をまきちらし、海上に落ちていく。すると生き残ったネウロイの内3機ほどが海面すれすれまで降下した。

――――――

ターゲットスプラッシュ(敵機撃墜)!」

 

コックピット内のディスプレイに表示されるレーダー画面からアイコンが次々と消えていく。相手の数が多すぎるので正確な数が分からないが、相当数を撃墜できたのは分かった。

いくらレーダーがあるとはいえ72発のミサイルと40機の航空機が入り乱れる空戦場を正確に把握するなど不可能であった。

ミサイルの攻撃が終わり、再びレーダー画面を見ると残存敵機は4機であった。元々戦闘機1機につき敵機一機を撃墜する予定であったため奇襲は予定通り成功したと言えた。

 

「残存敵機は4機・・・・・・作戦通りにかたずけるぞ」

 

再び早期警戒機の振り分けに従い、事前に残った4機を担当する予定であった、第2空母飛行団第21戦闘飛行隊所属のF-35JC4機が再びネウロイをロックオンすると、ミサイルを発射した。

 

「FOX-2!」

 

既に15kmという現代戦に置いては至近距離から発射された8発のミサイルは、全て怪異(ネウロイ)に2発づつ命中し、コアを破壊。撃墜するのであった。

早期警戒機やイージス艦のレーダーから敵機の()()()()()が消えたのだった。

今までのレーダー反応から相手方にステルス能力がないことは分かっていたが、念のため早期警戒機はレーダー出力を上げて捜索してみる。だがやはり敵機の反応はなく、その情報を受けた「あまぎ」では敵機を艦隊防空圏内に入れる前に全機撃墜できたと判断した。

 

『オールフレンドリィ。ディスイズあまぎサクラ。敵機は全機撃墜したものと思われる。だが、迎撃隊より方位270度方面にある、未確認の陸地の空域で行われている戦闘は、敵機の数が多いため、燃料弾薬の残量が厳しいとのことだ。よって迎撃隊全機はそちらの空域の戦闘に参加、現在、戦闘中の部隊と交替せよ』

 

「あまぎ」は迎撃に向かった戦闘機隊は最低でも6発以上の空対空ミサイルが残っていることや燃料も十分にあり事から、先ほど発見された陸地の上空で行われている空戦の援護に向かい、燃料弾薬が無くなった戦闘中の部隊と交代するように指示したのだ。

 

「ま、まて!全機といったか?少しはCAPに残しておいた方がいいだろう?」

『大丈夫だ。敵の発射母機は撃墜したし、此方に向かってきた敵機は全機撃墜した。新たな発射母機が現れても、その時には、F/A-3Bがある。心配ない』

 

第2戦闘飛行隊長は戦闘空中哨戒の戦闘機も全て援護に回すという「あまぎ」の指示に不安を覚えた。だが実際、レーダー上には敵機は存在しておらず、敵機にはステルス能力もないと判明しているためレーダーで捉えられないはずがなく、発射母機も撃墜したため現在いる敵機は、その正体不明の陸地の上空で戦闘中の敵機のみという、「あまぎ」の判断はわからないでもない。

だが、この時戦闘飛行隊長は得体のしれない不安に襲われているのであった。だが勘だけでは命令は覆せず、戦闘飛行隊長は他の35機と共に指示された空域に向かうのであった。

 

*1
北方ロシア方面の調査を行う第6空母護衛艦隊はいないが、朝鮮方面を担当する第5空母護衛艦隊と中国方面を担当する第4空母護衛艦隊が合流した。第2空母打撃艦隊は遊撃部隊であったが、陸地が発見されたため2個艦隊と合流したのだ

*2
マッハ20で突っ込んでくるロシア製極超音速対艦ミサイルを完全に無力化するために開発された

*3
友軍部隊の上空で行われる戦闘空中哨戒任務のこと




いかがでしたでしょうか?
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
では、また次回!さようならぁ

次回 第7話 艦隊防空戦(後編)

おたのしみに!


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第7話 艦隊防空戦(後編)

皆様どうもSM-2です!
今回で戦闘回はひと段落します。
では本編どうぞ。


戦闘機隊が「あまぎ」に指示された戦闘空域に向かっている頃、「あまぎ」を含む艦隊に静かに近づく真っ黒な飛行機が飛んでいた。

真っ黒な飛行機は海面から10~15mほどを飛行しており、ジェット戦闘機に比べれば遅いがそれでも時速500kmという猛スピードで飛行しているため、黒い飛行機が飛んだ後の海面は白い水しぶきがあがり、上空から見れば艦艇が3隻航行しているようにも見えなくはなかった。

先ほどの戦闘で40機いた仲間は今や3機のみとなっていたが、どうやらこの低空に降りると攻撃してこなくなるらしい。

真っ黒な航空機は仲間を撃墜した人間の船の群れを目指し、復讐心を宿しながら海面すれすれを飛行しているのであった。

―――――――

「ふぅ・・・・・なんとかしのぎ切ったか・・・・・・」

 

宮崎は「あまぎ」の艦橋で、そうつぶやいた。

一気に40機もの敵機が押し寄せてきたのだ。戦闘機隊や早期警戒機、イージス艦がいるとはいえ、相手は未知数の敵。コアとやらを破壊できるのかが正直不安だった。

だが今回の戦いで相手はステルス能力はおろか、ミサイル防御手段であるチャフやフレアすらも保有していないことや日本の保有する兵器でも十分、撃墜可能であることが判明した。今後、日本が今回のような敵と戦っていく可能性があることを踏まえると、戦略的に考えても大戦果と言えた。

すると艦橋に飛行団司令が入ってくる。この空母「あまぎ」所属の航空機部隊である、第2空母飛行団の司令である。飛行団司令は宮崎に近づくと報告を始めた。

 

「司令、F/A-3B4機はこれからミサイル搭載作業に入るそうです」

「了解。ミサイルは全弾、赤外線誘導で頼むよ」

「了解」

 

今回、F/A-3B戦闘攻撃機は燃料や機関砲弾の補給はしてあったもののミサイルは何にも積んでいなかった。それはF/A-3Bがマルチロール機であり、どういった任務を行うか決まっていなかったからである。艦艇攻撃を行うのなら対艦ミサイルを対空戦闘を行うなら対空ミサイルを、地上への空爆を行うのなら爆弾や空対地ミサイルを搭載する。もし既にミサイルを搭載していた場合、想定していた任務以外の任務を行うのなら、搭載しているミサイルを一旦外して、再び他のミサイルと変えなければいけない。

当然、ミサイルの換装(付け変えのこと)の方が何も積んでいない戦闘機にミサイルを搭載するよりも時間と手間がかかるのだ。

 

「しっかし・・・・・・さっきの敵といい謎の機械を履いて空を飛ぶ少女といい・・・・・・一体どうなっとるんだ・・・・・・?」

 

宮崎は艦隊司令用の赤い椅子に腰かけつつそうつぶやいた。すると、艦内無線で航空管制士官が艦長に報告を入れたらしく、艦長が報告内容を宮崎に伝えるために近づいてきた。

 

「司令!迎撃隊36機、現場空域に到着したとのことです」

「了解。帰還中の増援部隊は?」

「あと、7分で到着します。燃料はまぁまぁありますし空中給油機が待機していますから、燃料切れで、どぼん・・・・・ということはないかと。まぁ弾薬は20mm機関砲弾が全弾残っているだけで、残ってる機体でもAAM-5が1発残っているだけです・・・・・」

 

本来、敵の追撃に備えてミサイルは各機1発から2発は残しておくが、今回は敵の発射母機を撃墜してあるのと交替部隊が来たため、4機が万が一に備えてミサイルを1発づつ残しているだけであった。

だがこの時、誰もそのことを重大に思ってはいなかった。この時の「あまぎ」に乗船していた第2空母打撃艦隊の参謀長は後にこう言った。「あの時、艦隊全体を支配していたのは”慢心”だった。ミサイルも何もなく、速度は遅い。ビーム兵器はあるが戦闘機隊には損害はなかった。それが慢心を呼んだのだ・・・・・。我々が今、ココにいられるのは運が良かったからだ・・・・・・・」

――――――――

それから4分後、帰還途中であった戦闘機隊がそれに気がついた。

 

「ん・・・・・・?」

 

海面に何やら白い筋のようなものが伸びている。気がついた戦闘機のパイロットは電子式光学照準システムを空対地モードに変更すると、その白い筋の方にカメラを向けた。

 

「っ!?」

 

ディスプレイに映し出された映像には、先ほど戦闘機部隊が戦った謎の黒い航空機によく似た影が映っており、その上部には真っ白な物体が映っている。

パイロットはすぐさまその影は敵機だと判断すると、戦闘機隊の隊長に通信を入れる。

 

「右前方の下方に敵機!!機数3機!!!艦隊に近づいています!!」

「何だと!?」

 

隊長は慌てて自身も電子式光学照準システムを起動させ、報告にあった方をみる。確かにそこには3機の敵機が映っていた。

 

「ちっ!!ミサイルが残っている4機は発見した敵機に報告!!それと艦隊にも報告しろ!!」

「了解」

 

ミサイルをまだ搭載していた4機のF-35JCがブレイク(散開)すると急降下していく、F-35はエアブレーキを持たないため、方向舵を左右逆に広げ、速度を調整しつつ、ロックオンをする。

高度が残り1000mになると、発射ボタンをおす。すると胴体下のウェポンベイから04式短距離空対空誘導弾が放り出される。04式はシーカーを起動させると、指定されていた目標に向かい正常に飛んでいく。

敵はコアというものを破壊しなければ再生してしまうため、1機に対し2発のミサイルを使用し数を確実に減らそうと考えていた。1機残ってしまうが、そうなれば機銃で対処するか、艦隊のイージスシステムで撃墜すればいい。1機程度ならば確実に攻撃される前に撃墜できる。

だが、敵機は予想外の行動をとった。ミサイルが接近すると、信管が作動するギリギリの距離で方向を変えたのだ。

20G以上の機動をラクラク行えるミサイルといえど、その急な動きについていけず4発全てが空しくも海面に突っ込んだ。

 

「外れた!?4発全てが!?」

 

敵機が行ったこの機動は、現代戦に置いてミサイルを回避するために使われる機動であり、海面すれすれを飛行しつつ、ミサイルの着弾の直前に旋回をすると、ミサイルはそのまま海面に突っ込んでしまうのだ。

隊長は再び舌打ちすると指示を出す。

 

「全機、ブレイク!ガン(機銃)で対処するぞ!!」

 

ミサイルがないため待機していた8機のF-35JBも急降下していく。本来F-35はA型以外、機銃は付いていないのだが、このJシリーズは領空侵犯機への警告射撃や信号射撃で機銃が必要なため、三菱重工業が改良を加え、JC型とJB型どちらにも機銃が固定装備としてついている。*1

先に攻撃を開始していたF-35JC4機は再び上昇し、ある程度の高度まで行くと反転、一気に降下する。

 

「FOX-3!!」

 

ブォォォォォォォォォォ

 

まるで電動のこぎりのような発砲音をとどろかせ、毎秒66発という驚異的な発射スピードで20mm弾が発射される。

ただ、先ほどから3機は蛇行しており発射された銃弾の大半は海面に水しぶきを上げるのみであった。それでもいくらかの20mm弾は敵機に命中しその装甲を削っていく。だが、それだけである。この敵機の唯一の弱点であり、撃墜可能なコアの破壊は出来なかった。

 

「くそっ!」

 

さすがにこれ以上、急降下を続けると機首の引き起こしが間に合わず、海面とキスする羽目になってしまうのでパイロットは悪態をつきつつ、コントロールスティックを操作し素早く上昇を始めた。

 

「ちょこまかしく動きやがって!!」

 

12機のF-35は降下しつつ機銃を撃ち、再び上昇するという動きを繰り返す。だが、機銃弾のほとんどは当たらず、あたっても致命傷を与えられなかった。

―――――――

「上げろ!上げろ!!」

 

その頃、「あまぎ」の飛行甲板ではF/A-3Bがミサイルを搭載した機体から順次発艦していく。既に4機のF/A-3Bが発艦しており、2機編隊を組むと他の隊を待たずに空戦空域に向かう。

 

「超低空飛行か・・・・・やられた!」

 

宮崎は発艦作業を甲板で見ながら、苦虫を噛んだような顔をしてそうつぶやいた。

その時、CICからさらなる凶報が飛び込んできた。

 

「増援部隊から報告!!機銃、残弾なし!!迎撃不可能!!」

 

機銃は当たらなくとも時間稼ぎにはなる。当然、まっすぐ飛ぶより直線で飛ぶ方が早い。

機銃で時間稼ぎをしている間に此方は戦闘機部隊を上げて、尚且つ敵との距離を少しでも稼ぐつもりだったのだ。

 

「くそっ!!迎撃のF/A-3は!?」

「先頭、間もなく到達します!」

 

最初に発艦した編隊が到着したようだった。

 

「残りの機もとっとと上げるんだ!!随伴はどうなっている?」

「既に全艦、艦対空戦闘用意完了!!」

 

一応護衛艦は迎撃態勢を整えていたが、海面から15m以下という超低空を飛行する航空機を撃墜するのはさしものイージス艦といえども難しい。なぜならレーダーでは海面の乱反射の影響で探知が出来ない上、ミサイルも海面に突っ込んでしまう可能性があるからだ。また主砲で迎撃しようにも此方も接近信管が海面の乱反射の影響で見当違いの場所で作動してしまう可能性もある。

ただ、その場合敵もミサイルを撃てないため必ずホップアップといって、急上昇する。その瞬間を狙い撃墜するのだが、今回の敵機の武装は対艦ミサイルではなく、ビーム兵器だ。艦隊に甚大な損害が考えられていた。

 

「くそっ!」

 

宮崎は再び悪態をつくのだった。

――――――――

ターゲットインサイト(敵機発見!)

 

迎撃に出たF/A-3Bのガンナーがそう報告する。パイロットもガンナーの報告した場所に視点を移す。確かに3機の敵機がいた。

 

「イエローモンスター14。ディスイズ、イエローモンスター13。ターゲットインサイト。事前の想定通り攻撃を開始する!」

「イエローモンスター14。コピー」

 

2機のF/A-3は降下を開始する。すると、ピルム13のガンナーは海面すれすれを飛んでいる敵機3機の内、一番後ろにいる機をロックオンする。

 

「FOX-2!!」

 

翼端のハ―ドポイントからAIM-9Zサイドワインダー*2が2発発射された。

するとすぐさま2機は目標の左右に狙いを定め、機銃を発射する。

 

ブォォォォォォォォォ

 

一瞬、トリガーを引き手を離す。再びトリガーを引く。という動作を繰り返していた。目標に照準があっていないため、目標には当たることはない。

だがそれでいいのだ。この機銃の意味は、敵が左右に避けられないようにすることにあった。敵が左右によければ20mm弾があたるため、敵機はまっすぐ飛ぶしかない。そうなればミサイルは必ず命中するはずであった。

 

ドォォォォン   ドォォォォン

 

2機の目論見通り、発射されたサイドワインダーは敵機に命中した。1発目は装甲をはがして弱点であるコアを露出させ、2発目がコアを破壊した。

 

ターゲットスプラッシュ(敵機撃墜)!!」

 

2機は素早く上昇し、高度を稼ぐ。敵は上昇する2機に向けてビームを乱射する。だが、音速を超えている戦闘機にはかすりもしなかった。

高度7000mほどまで上昇すると、再び降下を開始する。

 

「FOX-2!!」

 

ピルム13の翼からサンドワインダーが発射され、2機は再び固定機銃で攻撃を開始する。

だが2機目の敵は予想外の行動をとった。ミサイルが命中する直前、機銃弾が当たるのを構わずに左に旋回する。

 

「なっ!!」

 

1発目のサンドワインダーはそのまま海面に突っ込み、2発目はかろうじて敵に命中した。

敵は機銃弾では撃墜されないと判断し、毎分6600発の25mm砲弾の嵐をものともせずミサイルを避けたのだ。

カインズリーダーのパイロットは一旦上昇して、再度攻撃しようと思った。だが敵は弱点のコアが露出しており、今を逃せば撃墜できないと判断する。

 

「イエローモンスター14!!そのままガン(機銃)で撃墜するぞ!」

「了解」

 

今度は敵に命中させる気で機銃のトリガーを引く。だが右へ左へ回避運動を行う敵機に、誘導兵器ではない機銃弾が簡単に当たりはしなかった。

だが、奇跡が起きた。発射された機銃弾の内、何発かが露出していたコアにたまたま当たり、それを粉砕した。

 

「よしっ!!」

 

敵機は白い破片をまきちらし墜落していく。残るは1機となった。

 

「最後の奴も片付けるぞ!!」

 

2機はまたしても高度を取るために上昇するが、今度はそれほど高度を取らずに5000mほどで反転し降下を開始した。

 

「FOX-2!!ミサイルのバーゲンセールだ!!遠慮なく受け取りやがれ!」

 

2機は素早く敵機をロックオンすると、ミサイル発射ボタンを押す。すると2機の翼下のハードポイントから4発の04式短距離空対空誘導弾が発射された。すでに2機の機銃弾の残弾は150発を切っており、けん制射撃など不可能であったため、ミサイルの圧倒的数で撃墜するつもりなのだ。

発射された8発のミサイルがたった1機の敵機に突入していく。敵も回避しようと右へ左へ旋回するが、8発ものミサイルを回避するなど不可能であり、3発のミサイルが命中。コアを破壊し敵を撃墜した。

 

オールターゲットスプラッシュ(敵機、全機撃墜)!!」

――――――――

「ふぅ・・・・・・・肝が冷えたな・・・・・」

 

宮崎は戦闘機隊からの報告を聞き、安堵のため息をもらした。

 

「発艦した他の隊はどうしますか?帰還命令を出しますか?」

 

艦長からの問いに宮崎は首を横に振った。

 

「いや、艦隊から半径50kmを哨戒飛行してくれ。まだ低空で突っ込んでくる奴がいるやもしれん・・・・。あとスカウターを上げろ。赤外線カメラで艦隊から半径60kmの円周上を哨戒飛行し他の接近する目標がいないか、確認しておけ・・・・・」

「はっ!」

 

艦長は部下に宮崎に言われた通りに指示をだした。すると、通信士が報告を上げてきた。

 

「未確認陸地上空へ向かった戦闘機隊より報告!”敵機全機撃墜!これより帰還する”以上であります」

「はぁ・・・・・よかったぁ・・・・・」

 

艦橋内にいた隊員たちはその報告を聞いて、喜びだした。

すでに、日が水平線に沈もうとしていた。謎の航空機との交戦が始まりすでに7時間がたとうとしていた。

この後、無人偵察機RQ-5A「スカウター」5機が発艦し、戦闘機隊とともに残存敵機の捜索を行っていたが、既に敵機は全機撃墜したとして交戦開始から10時間がたった、夜の9時に戦闘終了が宣言され、日中尖閣紛争以来15年ぶりの戦闘は日本の勝利で終了した。

この後、政府は未確認陸地に存在する国家に使節団派遣を決定することとなった。

 

*1
ただ、GAU-22 イコライザー 25mmガトリング砲はJA型のみに搭載されており、JB、JC型には長らく西側戦闘機の標準固定機銃として使われていたM61A2バルカン 20mmガトリング砲(両型とも装弾数900発)が装備されている

*2
サイドワインダーの小説内での最新モデル。機動性・速度の向上やフレアなどの欺瞞弾対策が施されている




いかがでしたでしょうか?
最近リアルの方で忙しくなってまいりました。ですので、1ヶ月ほど投稿及び活動を休もうと思っています。
ですので次回の投稿は10月1日とさせていたたきます。長らく投稿を開けてしまいますが、ゆっくりと楽しみにゆっくりと待っていただけると幸いです。
ご意見ご感想お気に入り登録よろしくお願いします。

次回 第8話 艦隊防空戦(後編) 《投稿予定日:10月1日》

お楽しみに


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第8話 使節団出航

皆さまどうもSM-2です!
長い間お待たせいたしました。今回は結構いい出来だと思います。そういえば最近短編小説を執筆中です。ある映画を見ていて書きたくなりました。
では本編どうぞ。

※艦名などを変更


「——地球とは違う惑星に国土全体が転移するという、未曽有の事態が起こり、今日で2週間がたとうとしています」

 

国防海軍佐世保基地の正門前には報道陣が押しかけ、上空には報道ヘリが多数飛んでいた。そのすべてのカメラは、港で出港準備をしている空母を含む国防海軍の艦艇6隻に向けられていた。

 

「あちらに見えます航空母艦『ふそう』を含む第4空母護衛艦隊は屋中外務副大臣ら特別使節団を護衛し、日本より北西に460km先にある国家に向かうということです!ですが国防海軍の空母が出動することについてネットでは、『侵略ではないか』という懸念の声が上がっています。今朝の会見で楠川官房長官は『第4空母護衛艦隊の出動は特定危険飛行生物からの防御手段であり、他国に対し危害を加えるものではない』と述べました」

 

どこかのテレビ局の女性リポーターは、やましろ型軽航空母艦「ふそう」をバックにカメラに向かいそう言っていた。

佐世保基地は日中紛争後に設備が強化され、現在では東シナ海方面の防衛基地として第4空母護衛艦隊、第3艦隊、第3地方艦隊、第3潜水艦隊など多数の艦隊の定係港となっており57隻の艦艇の母港である*1

その基地に扶桑皇国への使節団の代表である外務省外務副大臣の屋中(やなか) 優輝(ゆうき)*2と使節団に加わっている外交官2名、農林水産審議官、経済産業審議官、各1名と農林省と経産省の職員がそれぞれ2名の計9名が黒塗りの国産高級車に乗って入っていく。

 

「あっ!いま、屋中外務副大臣ら特別使節団が基地の中に入っていきます!」

 

カメラは一斉に特別使節団に向けられる。使節団の車列は、たかれるフラッシュを気にすることなく基地の中に入っていった。

車列は第4空母護衛艦隊の停泊している桟橋まで向かう。車は「ふそう」の舷梯のある場所に近づくと、そこで止まり、特別使節団一行は車を降りた。

車を降りると、国防海軍の純白の制服をきた男が5人ほど敬礼で出迎えた。すると右に立っている男が口を開いた。

 

「第4空母護衛艦隊司令、埴見(はなみ)です」

「同旗艦『ふそう』艦長の五十木(いそぎ)です」

 

埴見は日中紛争でイージス艦「あたご」の砲雷長として参加しており、「あたご」は占領された島の防御陣地や尖閣諸島への艦砲射撃を行い上陸部隊を支援。また中国軍からの対艦ミサイル攻撃から艦隊を守り抜き、敵ミサイル駆逐艦を一隻撃沈するという大活躍を見せていた。

五十木も「いずも」の士官として日中紛争に参加しており、「いずも」は敵の潜水艦2隻を撃沈、1隻を撃破。また、陸上自衛隊の部隊の乗るヘリが「いずも」より発艦し、ヘルファイヤなどを搭載したSH-60ととも占領された島を攻撃。敵戦車2両を撃破し、拘束されていた島民を開放した。

2人が自己紹介を終えると、屋中も自己紹介をする。

 

「外務副大臣の屋中です。よろしくお願いします。埴見司令、五十木艦長」

「特別使節団の方々の安全は必ずや、守らせていただきます・・・・・・・では、どうぞこちらへ」

 

二人は簡単な自己紹介を済ませると、埴見が「ふそう」に案内する。埴見ら5人の案内で特別使節団一行は「ふそう」に乗船する。舷梯を登り終えると、6名ほどの作業服を着た隊員が、ピシッと敬礼をして出迎えた。

特別使節団一行はそのまま、艦内にある会議室に通された。会議室では第4空母護衛艦隊に所属する各艦の艦長や、艦隊主席参謀が待っていた。

各艦の艦長などの艦隊の幹部と特別使節団は、改めて自己紹介をする。

自己紹介が終わると、今後の行動の打ち合わせを始める。

 

「自己紹介が終わったところで、今後の予定ですが・・・・・」

 

埴見は主席参謀に目配せすると、主席参謀は控えていた士官とともにプロジェクターを起動する。

 

「まず我々は明日マルナナマルマル(午前7時)にここ佐世保を出港し扶桑皇国を目指します。途中、特定危険飛行生物からの襲撃を警戒し、築城と『あまぎ』の早期警戒機による援護を受けます。そして明日、ヒトゴーマルマル(午後3時)扶桑皇国の横須賀から南東100km地点で扶桑皇国側の艦隊と合流し、ヒトハチマルマル(午後6時)に扶桑皇国の横須賀に入港いたします」

 

スクリーンに大まかなスケジュールが映し出された。

 

「なお、扶桑皇国側が派遣してくる艦艇は、空母2隻、戦艦2隻、巡洋艦6隻、駆逐艦12隻の計22隻だそうです」

 

日本側の約2倍近い艦艇が出張ってくる。明らかに怪異に対する警戒だけではないだろう。突然現れた超技術を持つ未知の国家への警戒心もあるのだろう。

なぜなら、自分たちのもつ通常兵器では撃墜が難しい敵を簡単に撃墜してしまったのだから。話が通じるとはいえ警戒するのは無理はない。

 

「明らかにこっちを警戒してるな。警戒しなくても攻撃なぞせんと言うに・・・・」

 

埴見はそういうと豪快に笑った。五十木も苦笑いを浮かべて、埴見の言葉に同意する。

 

「資源が少なく、海外からの輸入が途絶えた日本が戦争なんて仕掛けても、限りある寿命を縮めるだけですからね」

「今回の交渉で国交開設にこぎつけ、食料品や資源を確保できるようにせねばなりません」

 

屋中は真剣な顔をしてそういった。すると五十木が心配するようにこう言った。

 

「交渉は明後日でしたよね。どうなるか予想がつきませんね」

「相手の性格も、国力も正確には未知数ですから・・・・・」

 

五十木の言葉に屋中はそう返した。すると五十木の横で埴見がこうつぶやいた。

 

「しかし、未知というものほど恐ろしいものはないな・・・・」

「えっ・・・・・・・・」

 

横で五十木と主席参謀がわざとらしく驚いたように見せた。

 

「ん?どうかしたか?」

 

埴見がきょとんとした顔でそういった。すると五十木がこう答えた。

 

「あ、いえ・・・・・。ただ日中紛争で対艦ミサイルの雨あられから艦隊を守り抜いた埴見司令でも恐ろしいものがあるのかと。驚きまして・・・・・・」

「やかましい」

 

埴見が五十木と主席参謀にそういうと、真剣な雰囲気が漂っていた会議室内にどっと笑い声が広がるのだった。

――――――

翌日

 

「舷梯の収容作業終わりました!もやい綱も外しました」

 

艦橋に先任曹長が入ってくると、五十木にそう報告をする。五十木はその報告にコクリと頷くと、通信士の方を向く。

 

「了解した・・・・・各艦の状況はどうだ?」

「はっ!各艦、出航準備作業完了とのことです!」

 

五十木の問いに、通信士はそう答えた。

 

「司令、全艦出航準備整いました」

「了解。全艦に通達。マルキューマルマルを持って、予定通り出航を開始する」

 

埴見が落ち着いた声でそう言った。通信士はその内容を各艦に無線で伝えた。

第4空母護衛艦隊の各艦の甲板では、航海科の隊員が舟と埠頭とをつなげておくためのもやい綱を外し、錨を上げた。

そして午前9時、出港予定時刻になったと同時に先頭艦の「ゆきかぜ」がタグボートの力を借りて桟橋を離れ、佐世保湾からでていく。それに続き、「はたかぜ」「さかい」「みわ」「きりしま」が順番に桟橋を離れて「ゆきかぜ」と同じように、漁船などの他の船に衝突しないように佐世保湾を出て行った。

 

「・・・・・『きりしま』、出航完了!」

「了解。本艦も出航する」

 

艦橋横で双眼鏡で出航の様子を監視していた、航海科の隊員がそういうと五十木は出航を指示した。

すぐさま「ふそう」にタグボートが向かってきて、ゆっくりと桟橋から引き離してゆく。そして十分桟橋から引き離されるとタグボートとつながっていたロープを外し、15ノットでゆっくりと、佐世保湾から出ていく。

 

「よし、このまま佐世保湾から出るぞ。各員、漁船やタンカーなどの民間船に十分注意し、衝突事故防止に努めよ!」

 

佐世保湾は西を俵ケ浦半島で南を針尾島で挟まれており入り組んだリアス式海岸である。その佐世保湾を出るには約800mの幅しかない海峡を通らなければならない。佐世保湾は国際旅客船のターミナル港である佐世保港があり、フェリーやタンカー、貨物船や漁船など様々な船が行き来するため細心の注意が必要なのだ。

 

「後続艦『まきぐも』『こうつ』『おおみね』、最後尾艦『さわかぜ』も出航しました!本艦後方500mを航行中」

「了解」

 

どうやら最後の艦である『さわかぜ』も出航したようであった。

 

「よし、佐世保湾をでたら輪形陣を組む。各艦にもそう伝えてくれ」

「はっ!」

 

艦橋では航海科の隊員が絶えず双眼鏡で近づく船などを監視している。

 

「右2度、距離15!漁船1。本艦にまっすぐ近づく」

「了解、取り舵10度。漁船を避ける」

 

五十木がそう指示すると操舵手は取り舵を取って、漁船の針路から避ける。海外からの輸出入が途絶え、タンカーや貨物船の航行が無くなったとはいえ、漁船やフェリーは普通に航行している。衝突すればどちらかが沈没する可能性も全然あるのだ。

こう言った場所では気を抜かず、衝突しないようにどちらも回避行動をとるか、とる準備をして相手の行動を注視に無くてはならないのだ。航路を航行している場合、他の船は航路を邪魔しないように航行する必要があるのだが、航路をちゃんと航行していたとしても衝突事故は起きうる。その例が、海上自衛隊が唯一、艦砲射撃等によって撃沈した舟を出した、第十雄洋丸事件である*3

暫くすると、佐世保湾の出入口たる俵ケ浦半島先端の高後崎と寄船鼻の間が見えてきた。

「ふそう」はそのまま、間を突っ切って佐世保湾を出た。この時、第4空母護衛艦隊は『ゆきかぜ』を先頭とした単縦陣であった。

 

「『さわかぜ』の様子はどうだ?」

「はっ!『さわかぜ』は変わらず本艦後方0。距離5を航行中。間もなく佐世保湾を抜けます!」

 

艦長の問いに監視員はそう答えた。レーダーが発達した現代でもこう言った海峡を抜ける際に頼りになるのは人の目である。

そして、最後尾にいた「さわかぜ」が海峡を抜けた。

 

「『さわかぜ』、海峡通過!」

「『ゆきかぜ』予定通り、針路310度に向け回頭」

 

先頭にいた「ゆきかぜ」は事前の打ち合わせ通りに面舵を切った。それに続くように後続艦の「はたかぜ」「さかい」「みわ」「きりしま」も面舵を切って「ゆきかぜ」につづく。

 

「よし、面舵20ヨ―ソロー」

「面舵20、ヨーソロー」

 

操舵手は五十木の指示を復唱しながら、面舵を切った。回頭を終えると、舵を中央に戻す。

 

「両舷前進強速!赤黒なし!」

「後続『かさとり』も回頭完了!艦隊針路310度に回頭完了!」

 

第4空母護衛艦隊の10隻の艦艇は単縦陣を組んだまま、針路を変え終えた。

 

「このまま尾上島南西部50地点まで行くぞ。そこで針路0度に回頭し、陣形を単縦陣より輪形陣に変更する」

 

今まで黙っていた埴見がそう指示を出した。

 

「わかりました」

 

通信士は各艦に埴見の指示を知らせる。

しばらくすると右側に島が見えてきた。監視員はすぐさま、航海長と艦長に報告を入れた。

 

「尾上島です!変針地点にきました」

「気づいていると思うが、全艦に変針を通達」

 

埴見は、監視員の報告した方角を双眼鏡で見た後、そう指示を出す。すぐさま先頭を航行する「ゆきかぜ」に内容が伝わり、艦隊は針路を0度に取った。

 

「艦隊回頭完了!尾上島より距離100地点に到達!」

「陣形を変更する!各艦に輪形陣に変更するように指示を出せ」

 

埴見の指示通り、第4空母護衛艦隊の6隻はすぐさま陣形を単縦陣から「ふそう」を中心とする輪形陣に変更するべく、動き出した。

「ゆきかぜ」はそのまま、速度を各艦に合わせるようにおとしたが先頭を航行し続ける。その「ゆきかぜ」の後方1kmに「さかい」が、さらにその後方1kmに「ふそう」が付く。そして「ふそう」の右1kmに「まきぐも」その前方に右1㎞に「みわ」が、左側1kmには「はたかぜ」、その前方に「きりしま」がついた。そして「ふそう」の後方1kmに「さわかぜ」が付き、その右1㎞に「こうつ」、左1㎞に「おおみね」が付き、輪形陣を形成した。

 

「陣形変更完了!」

「了解。よしよし、錬度はあまり落ちていないな」

 

埴見はそう言ってにやりと笑う。実は陣形変更というのはそこそこ難しい。各艦の息を合わせなければ、最悪衝突事故を引き起こしかねないのだ。

それをすばやくやってのけた艦隊の錬度は落ちていないと埴見は満足げだった。

 

「よし!このまま、あちらさんとの合流地点まで向かう」

 

埴見は艦橋で、艦隊にそう指示を出した。

*1
だが潜水艦隊の潜水艦はほとんど停泊していないし、第3地方艦隊や第3艦隊の艦艇の半分は哨戒任務などでいないため、実際普段、停泊しているのは4分の3程度である

*2
今回の特別使節団派遣にともない特別全権大使に一時的に任命

*3
1974年に東京湾でタンカーと貨物船が衝突した海難事故。当時、タンカーの船長はタンカーが航路を航行していたことで、海上交通安全法における航路優先の原則が、貨物船の船長は航路外を航行していたため、海上衝突予防法のスターボート艇優先の原則が適用されると思い、衝突寸前まで双方回避運動を取らなかった




ご意見ご感想お気に入り登録、よろしくお願いします。
次話なのですが、今後のストーリーに必要な資料が集まっていないのでまた暫く投稿できなさそうです。火曜日の18時投稿は変わらないので、資料が手に入り次第、投稿すると思います。
他シリーズは投稿する予定ですので応援よろしくお願いします。
ではまた次回。さようならぁ!

次回 第9話 到着

お楽しみに!


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第9話 到着

皆さま、こちらのストーリーでは大変お久しぶりです。SM-2です。
資料がなかったりなんだリでずっと投稿できていませんでした。
では久しぶりの本編どうぞ


「E-2より報告。前方100マイル、計22隻の艦艇を確認。同艦隊上空には直掩機と思われる航空機12機が飛行中。以上」

 

埴見と五十木の姿は「ふそう」のCICの中にあった。

CICのレーダー画面には上空を飛んでいる早期警戒機から送られてきたレーダー情報が映し出されていた。

確かに、第4空母護衛艦隊の前方に22隻の艦艇と思われる反応があった。

 

「ふむ、事前に連絡のあったお迎えらしいな。この艦隊に合流する。それと、ネウロイとかいうわけのわからん存在に気をつけろ。対空見張りを厳となせ!」

「はい!」

 

そう、この第4空母護衛艦隊が使節団を運ぶ理由となったのは、特定危険飛行生物――ネウロイが原因なのだ。そうでなければ、客船や旅客機のみでもいい。海賊対策に護衛をつけるにしても、海上保安庁の巡視船をつければよかったのだ。

 

「直掩機の状況は・・・・?」

「はい。現在ブレジン隊の4機が空対空ミサイルを搭載の上、即時発艦待機中です」

「そうか。ネウロイが出現した際には即時発艦せよ」

「了解」

 

埴見はドカッと椅子に座ると、レーダー画面をじっと見つめた。

――――――

扶桑皇国海軍特別使節団護衛艦隊

 

「しかし、ここら辺は怪異の出現が少ないとはいえ、たったの6隻で来るとは・・・・・」

 

この特別使節団護衛艦隊の旗艦「金剛」の艦橋で、艦隊司令の幸野はそうつぶやいた。

この艦隊は、2週間前に突如として現れた「日本」という国からやってくる使節団を護衛する目的で編成されたのだ。

 

「まだ、日本側の艦隊は来ていないんだな?」

「はい、電探*1には反応ありません」

 

この艦に搭載されているのは扶桑皇国が試作開発した艦艇搭載型レーダーであり、探知距離は200kmほどであった。ただ、艦艇など大型なものは簡単に探知できるが小型の航空機などは140kmほどまで接近しないと探知できないという欠点があった。

 

「おかしいな・・・・。予定時刻までに来るのなら、既に150kmくらいまで接近していないとおかしいのだが・・・・・」

「まさか、怪異に攻撃されたとか・・・・?」

 

「金剛」の艦長が幸野の呟きにそう答えた。だが幸野は首を横に振る。

 

「いや、ネウロイに攻撃された場合はすぐに通信が来るはずだ・・・・。機関の故障か・・・?」

 

幸野は現れる気配のない、日本側の艦艇に頭を悩ませた。

だが第4空母護衛艦隊はきちんと特別使節団護衛艦隊の前方140km地点まで接近していた。なぜ、扶桑皇国海軍が探知できなかったかというと、単純にレーダー性能の違いであった。

現代のレーダーならいざ知らず、WW2の頃のレーダーで、ある程度ステルス性が考慮された現代艦艇を探知することなど不可能なのだ。

――――――

数時間後

 

「合流地点だ。各艦水上見張りを厳となせ!」

 

幸野はそう指示をする。各艦の見張り員は双眼鏡を片手に目を皿にして日本の艦隊を探す。すると見張り員の一人が水平線上に何かを発見する。

双眼鏡を使って、何かのいる方角を注意深く見つめるとそこには船のようなものが6隻いた。

 

「右30度、距離110!艦艇を視認!数10隻!おそらく日本艦隊です!」

 

艦橋にいた全員が見張り員の報告したほうを一斉に見た。確かにそこには海上を進む6隻の船がいた。

すると、通信士が艦橋に入ってくると、居並ぶ幕僚たちに報告を始めた。

 

「当該艦隊より入電!”ワレ、日本国国防海軍第4空母護衛艦隊。貴艦隊トノ合流ノ許可ヲ求ム”以上です!」

 

通信士の報告を聞くと幸野は満足げに頷く。

 

「うむ、合流を許可すると伝えろ!」

「はっ!」

 

通信士はすぐさま、返答を打電すべく通信室に大急ぎで戻った。

それから10分ほどして、第4空母護衛艦隊は特別使節団護衛艦隊と合流した。

幸野や艦隊の幕僚は艦橋で第4空母護衛艦隊の様子を眺めている。全てが薄灰色の塗装で、角ばった印象を持つその艦隊に幕僚たちは口々に意見を述べる。

 

「全体的に角ばっているな・・・・・。あの艦橋についている板は一体・・・・・・?」

「巡洋艦並みにでかいな・・・・。でも小口径砲が一門に、機銃が8丁。しかも時代遅れのガトリング砲が2つに単装の25mmかな?25mm機関砲が2門、小型の重機関銃が艦橋と甲板に2丁づつか・・・・・。あれは魚雷発射管か?えらく貧弱な武装だな・・・・」

「甲板に変な物があるな・・・・あれは何に使うんだ?」

「後部甲板が開けているな。武装もないし、水上機用の発艦スペースか?だがカタパルトが見当たらないな・・・」

 

VLSどころか、ミサイルの存在を知らない扶桑皇国海軍の兵は、その大きさの割に貧弱な船だと思った。

 

「しかし、煙が出ていないな・・・・。機関を停止してる訳でもないのにどういうことだ?」

 

日本の軍用艦艇は全て、重油を燃やして推力を得る蒸気タービンではなく、燃費は悪いが加速性能等が優れているガスタービンエンジンを搭載しているため、煙が出ることはまずない。

 

「中央の空母、甲板が跳ね上がってますね。発艦の時にプロペラが当たらないのでしょうか?」

 

作戦参謀が幸田にそう言った。確かに、「ふそう」のスキージャンプ台のような甲板は、機首にプロペラが付いている航空機ならば甲板にプロペラがこすれてしまう。だが、「つくば」が搭載しているのはジェット戦闘機であるため、その心配はないのだ。

 

「戦闘機の姿が見えませんね・・・・。攻撃機は甲板上に出ているようですが・・・・・」

 

作戦参謀はF-35JBが、自軍の航空機と比べるとあまりにも大きいため、戦闘機ではなく爆弾や魚雷を搭載して敵を攻撃する攻撃機だと認識した*2

扶桑皇国海軍は自分たちの常識で測れない艦隊を前に困惑していた。

―――――――

「すっげぇ!戦艦だ!」

「でっけぇなぁ!!」

「みろよ!2連装砲だぜ!口径は・・・・356mmってとこか?」

 

一方、日本艦隊でも扶桑皇国の艦隊を見て興奮している隊員がちらほらいた。戦艦は時代の流れによって消えてしまったが、それでもかっこいいのに変わりない。

 

「金剛にそっくりだな・・・・・」

 

艦橋内では艦隊司令の植見が扶桑艦隊の様子をみてそういった。そのほかの艦も旧日本海軍が保有していた艦艇にそっくりであった。

 

「上空を飛んでいる戦闘機も96式艦戦そっくりだ・・・・・・。初期型のレーダーもある・・・・」

 

埴見は双眼鏡から目を離すと、艦隊司令用の座席にドカッとすわる。

 

「了解。ではこのまま、扶桑まで向かうぞ」

 

扶桑艦隊と日本艦隊は、20ノットの速度で扶桑皇国の横須賀に向かうのだった。

――――――――

「2時の方向に灯台です。おそらく、洲崎灯台かと思われます」

 

扶桑艦隊と合流してすでに4時間がたっていた。ようやく、扶桑皇国の東京湾に近づいてきた。

埴見はその報告を聞くと、ほぅとため息をついて制帽をかぶりなおす。

 

「何事もなくつけたな・・・・・」

「前方、扶桑艦隊より発光信号!”陣形ヲ変更シ、ワレ二続ケ”以上です」

 

艦橋にいた見張り員が、前方を先導するように航行する扶桑艦隊旗艦「金剛」よりの発光信号を報告した。

 

「返答しろ。それと各艦に輪形陣を解き、単縦陣に変更するよう伝達。東京湾に入るぞ」

「はっ」

 

通信士はすぐさま第4空母護衛艦隊の全艦に通達する。するとすぐさま「つくば」を中心に組んでいた輪形陣を崩して、佐世保を出港した時と同じような単縦陣に変更する。

その様子を海中からじっと見つめる目が合った。

 

「第4空母護衛艦隊、単縦陣に陣形を変更。東京湾に入っていきます」

 

第4空母護衛艦隊をひそかに守っていた同艦隊所属「せとしお」であった。ソナーマンが艦長に向かってそう報告する。

 

「了解。1番潜望鏡上げ」

「一番潜望鏡上げます」

 

発令所の中央に設置された柱のようなものが動くと、艦長は潜望鏡のとってを展開し、潜望鏡についたスコープを覗く。数秒にも満たない極めて短い時間、スコープを覗くとすぐさま取っ手をしまう。

 

「1番潜望鏡下げ」

「は、1番潜望鏡下げます」

 

再び潜望鏡が収容されると、艦長はふぅとため息とついた。

 

「何事もなかったな・・・・。一応4空(第4空母護衛艦隊)が報告すると思うが、こっちからも報告しておけ」

「了解です」

 

「あきしお」は通信アンテナをあげて、日本本国に報告をすると、再び通信アンテナを収容し深海に潜っていくのだった。

――――——

さて、それから1時間ほどして第4空母護衛艦隊の10隻は、扶桑皇国海軍横須賀鎮守府についた。

タグボートの力を借りてゆっくりと接岸をすると10隻は碇を下ろし、甲板上にいた隊員はロープを桟橋にいる扶桑皇国の兵士に向かって投げる。兵士はそれを受け取るとロープをすぐさまビットに結び付けて船が動かないようにする。

 

「係留作業完了しました」

 

航海長は船を港に泊める一連の作業が完了したことを確認すると、艦長にそう報告した。

 

「わかった。舷梯を下ろせ!それと使節団の方々に知らせろ」

「了解しました」

 

航海長はすぐさま横にいた部下に使節団一行に扶桑皇国についたことを伝えるように指示する。航海長からの命令を受けて、部下は艦橋から出ていき、使節団一行の部屋に向かう。

その間に、艦内無線で舷梯を下ろすように待機していた隊員に命じる。指示を受け、隊員たちはすぐさまシャッターを開けて、左舷の艦内収納式の舷梯を下ろし始める。

ほんの10分ほどで作業は完了し、舷梯を収容していたスペースには使節団一行と埴見、五十木などの幕僚たちが集まっていた。

 

「埴見司令、ココまでありがとうございます」

「いえ。交渉の成功と使節団の方々の安全を祈らせていただきます」

 

屋中は埴見の返答を聞いて、にこやかにコクリと頷く。そして埴見と握手をすると、使節団をひきつれて船を下りてゆく。

幕僚たちは使節団の無事と交渉の成功を祈りながら、敬礼してそれを見送る。

使節団が船を降りると、そこには教科書に出てきそうな、昭和レトロな黒塗りの乗用車が待機していた。黒塗りの乗用車の車列の前にはまるで道を造るかのように左右に複数の軍人がこれまた教科書に出てきそうなほど古そうな、単発のボルトアクションライフルをもち、捧げ銃をしていた。道の先には、スーツをきた男が二人ほど、出迎えるように立っている。

屋中たち使節団は、初めてみる扶桑皇国の様子を一瞬見渡した後、迷うことなく二人の男の元へ向かう。屋中が二人の男の前に立つと、二人の内一人が自己紹介をする。

 

「扶桑皇国外務省外務副大臣の磯部と申します」

「日本国外務省外務副大臣の屋中と申します。特別全権大使として、今回のことを一任されています。よろしくお願いします」

 

磯部と名乗った人物に対し、使節団の代表である屋中はにこやかに返す。二人は握手をする。数十秒ほど固い握手を交わした後、磯部は自分の後ろにある車列に案内するようにこういった。

 

「使節団の方々のために車を用意してあります。あの車で、宿泊先の都内のホテルまで向かいます。どうぞこちらへ」

 

磯部の案内に従い、使節団はそれぞれ用意された黒塗りの車に乗り込む。使節団の全員が乗り込むと車列は動き始め、都内に向かうのだった。

*1
この世界では、飛行型怪異が存在していて尚且つ、人類同士の近代戦が勃発していないため、レーダー機器の普及が早いという設定

*2
F-35は対地対艦も行える、統合打撃戦闘機なので攻撃機という見方もあながち間違いではない




いかがでしたでしょうか?
下のアンケートは1週間後の2020年4月14日まで募集させていただきます。どしどしご回答ください。
ご意見ご指摘ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回、さようなら。

次回 第10話 会談

2週間後を予定しています。お楽しみに


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第10話 会談

皆さまどうもSM-2です。
皆さまにここでお知らせがございます。一応、毎週火曜日18時投稿とさせていただいておりました本シリーズですが。作者が無計画にシリーズを増やしたので執筆活動が追い付かないという事態が発生しております。
なので、投稿を不定期と代えさせて頂きます。ですが火曜日18時に投稿は変えるつもりはございません。
楽しみにしてくださっている読者の皆様にはお詫び申し上げますm(_ _)m
では本編どうぞ


―扶桑皇国首都東京―

4月のあたたかな陽気に包まれ、ところどころで桜が咲いている扶桑皇国首都東京。そのど真ん中を黒塗りのレトロな高級車の車列が進んでいた。沿道には多数の住人が並んでおり白地に赤丸(恐らく日本国旗を真似して作ってる)の小さな旗や扶桑皇国の国旗を持っている人間も大勢いた。

高級車の中にいるのは日本国から派遣されてきた特命全権使節団だ。彼らは扶桑皇国の国家元首である帝に謁見した後、両国代表者会談が開かれる高級ホテルに向かっていた。

 

「しかし・・・・・みれば見るほど戦前の日本そっくりだ・・・・・」

 

屋中は車窓から見える景色を見ながらそう呟いた。確かに、和装の女性や浴衣姿の男性もいれば洋服に身を包んだ人物もいる。車両は見えないが路面電車の線路が道の真ん中に通り、人力車がところどころで止まっている。よく古い映像で見る戦前の日本の姿がそこにはあった。

 

「軍艦や皇居で見た戦車も旧軍のに近かったですね・・・・・」

「ふー・・・・・まるで日本のコピーみたいじゃないか・・・・・」

 

同乗していた総合外務政策局新興国外交推進室の参議官でこの特命全権使節団の副使節である野口(のぐち)

 快人(かいと)の言葉に屋中は溜息をつきながらそう言った。

 

「戦前日本みたいに軍部の力が強いなんてないだろうな・・・・・・」

 

屋中は少し不安を覚えるのだった。

―――――――

会談場所についた一行は3時間ほど打ち合わせを行い、その後ホテル内に設置された会談場所に向かった。

扶桑皇国側は外務省条約局第1課と通商局第1課と第6課、商工省貿易局第1部企画課からそれぞれ4人づつの担当者が、日本国側からは外務省総合外務政策局新興国外交推進室と国際法局条約課と経済条約課からそれぞれ4名、経済局政策課、経済産業省通商政策局国際経済課からそれぞれ2名ずつの担当者とそれぞれ両国の代表者が2名ずつの合計36名による実務者協議だった。

 

「日本国外務省外務副大臣の屋中です。本日はよろしくお願いします」

「扶桑皇国外務省外務副大臣の磯部です。こちらこそよろしくお願いします」

 

まずはお互いの自己紹介であった。屋中は相手側の出席者に軍人もしくは軍関係者らしき人間がいないことを見て「戦前日本のように軍部が政権を握っているということはなさそうだ」と安心する。

簡単に自己紹介を終えるといよいよ本題の実務者協議に入る。

既に会談前にお互いが用意した資料を両者とも読み込んでいる。扶桑側は「扶桑皇国概要説明資料」「扶桑皇国ノ要求内容」「扶桑皇国及ビ日本国間ノ各種条約案」の3種類が日本側からも同じように「日本国概要資料」「日本国政府の公式要求内容」「各種条約案」の資料が渡されていた。

 

「資料は読ませていただきました。貴国と我が国は類似点が多くあることに驚きました」

 

磯部は居並ぶ日本側外交官にそう言った。すると屋中がそれに柔和な笑みを浮かべて答える。

 

「ええ、私も同じです。貴国と我が国はお互いを理解し合い、必ずや良い関係が築けると確信しました」

「私もです・・・・。条約の内容もおおむね合意できそうです」

 

磯部の答えを聞いても外交官たちは安心できていなかった。なぜなら扶桑側から配布された資料にはデリケートに扱わざる得ない内容が含まれていたからだ。

 

「ですが、我が国の要求も飲んでいただきたい。()()()()()()()()()です」

「・・・・・」

 

資料の「日扶安全保障条約案」には有事の際に日本が扶桑の味方となって参戦することやその際に扶桑が日本国国防軍に最大限の協力をすることなどが盛り込まれていた。おそらく先日の戦闘をみて、日本の軍事力に魅力を感じたからだろう。

この世界よりも圧倒的に技術の進んだ前世界において日本は世界第4位、NATO諸国のなかでは2位の軍事力を誇っていた。アメリカやロシア、宿敵中国がいないこの世界において日本は軍事力世界1位だろう。

 

「貴国と安全保障条約を締結をしたとして我が国に一体どれほどのメリットがあるのでしょう?」

 

骨折り損のくたびれ儲けだけはしたくない。この安全保障条約で活動することになるのは国民の血税で養われている国防軍なのだ。国防軍の行動が日本に何らかの利益をもたらさないことは国民への裏切りと同じなのだ。

 

「貴国は鉱物資源や食糧を要求してきましたね・・・・。これらを格安で貴国に輸出するのはいかがでしょう?」

 

魅力がないわけではない。だが足りない。国防軍が関係ない戦争に巻き込まれて出る損失と得られる利益がまるで吊り合っていないと日本側の外交官は感じた。

そもそも日本の基幹産業はサービス業と加工貿易だ。とくに加工貿易は外貨獲得などで大きな収入源である。ならば要求する内容は一つに絞られてくる。

 

「ふむ・・・・足りませんね。では我が国から輸出される工業製品の関税の大幅な引き下げ、それとこの関税を固定化し変更は両国の同意が必要とさせていただきたい」

 

簡単にいえば、日米通商修好条約のような内容だ。関税は本来その国の産業を安い外国製品から守るために存在する。その関税を引き下げるということは外国製品の流入で国内の産業が衰退するという危険性があるのだ。特に日本製品は前世界に於いても品質が良いことで有名だった。その製品が格安で入ってしまえば扶桑の産業はあっという間に駆逐されるだろう。

 

「・・・・・検討しましょう・・・・」

 

磯部は暫く考えた後、そう苦々しく言った。屋中も安全保障条約程度でそこまで譲歩するということはかなりこの国が危機的状況である可能性が高いと判断した。

 

「なぜ・・・・貴国は我が国との安全保障条約をそこまで熱望するのですかな?」

 

屋中はそう尋ねた。それは日本の外交官全員が思っていたことだ。いくら日本の軍事力がトップクラスといえ、それなりの事情がなければ国内の産業を犠牲にしてまで安全保障条約を結ぼうとはしないだろう。

磯部は暫く黙っていた。だがゆっくりと話し始めた。

 

「・・・・我が国は怪異との戦争の真っ最中なのです」

 

怪異。この世界に転移してきた当初に国防空軍・海軍が交戦した未知の物体。ビームのような物を装備しており、コアと呼ばれる熱源を破壊しない限り再生するという報告書を彼らは読んでいた。

 

「怪異は1914年に突如発生し、ビームや銃弾、爆弾などで人類を無差別に攻撃し、周囲に”瘴気”と呼ばれる有害な物質を発する人類共通の敵なのです」

「・・・・・ふむ」

 

瘴気というものが一体何なのかはわからないが、人体に有害であるのであれば調査する必要があるなと屋中は考えた。一応、国防軍の航空機、車両、艦船はNBC兵器に対応できるようになっているがそれでも歩兵は生身だ。現在研究中の遠隔操作式2足歩行無人兵器が実戦配備されない限り、戦闘にはどうしても歩兵が必要になる。だがその兵器はいまだ研究段階で設計にも入っておらず、実戦配備には少なくとも6年はかかるだろうと聞いていた。である限り、瘴気というものがどういった物質で、人体にどう影響するのかを調査してから防護装備を作らなければならない。

すると横にいた野口がちょっとした疑問を口にした。

 

「失礼ですが、それだけ聞けば貴国の軍隊でも対処可能なのではないでしょうか?なぜ我が国の助けを求めるのですか?」

「怪異は予想できない進化を成し遂げるのです・・・・・」

 

磯部は一旦そこで区切ると、より一層悲痛な顔をして話を再開した。

1年2ヶ月前。こちらの年号では1937年7月に当時、扶桑皇国が保有していた大陸領が突如発生したネウロイに侵攻を受けた。扶桑皇国軍の必死の抵抗もむなしく敗退が重なり、ついには扶桑皇国は大陸領の放棄を決定した。

その後、怪異侵攻軍の中心と思われる超大型怪異。通称”山”が確認される。

2か月前、扶桑皇国陸軍は”山”を中心とした大規模な怪異群が、大陸領と扶桑皇国本土との間にある扶桑海を超えて本土に侵攻を開始するという予想を立てた。そのため扶桑海沖合で陸海軍共同で迎撃することを主張するも、扶桑皇国海軍が「怪異は水を越えられない」という今までの観測結果からの推測を根拠として作戦を拒否。

だが”山”が侵攻を開始したことが観測され、鶴の一声もあったことから海軍は渋々作戦を承諾。ウィッチ部隊の必死の攻撃により”山”並びにその子機である怪異群は甚大な被害を負った。しかしウィッチ部隊と海軍部隊の連絡不足により、撃退には成功するも一番の目標であった”山”は取り逃がしてしまい、甚大な被害を負って作戦は失敗してしまった*1。その後”山”は活動を休止しているものの、”山”の子機と思われる中型もしくは小型のネウロイが定期的に扶桑皇国に対し空襲を行っており、扶桑皇国は危機に立たされていることが磯部の口から語られた。

 

「ふむ・・・・・・・」

 

屋中は話をすべて聞き終えた後、顎に手を当てて思考する。

磯部たちの言うことが真実とは限らない。だが彼らの様子を見ていると、とても嘘だとは思えなかった。もちろん外交官は役者であることも求められるから、全てうその可能性もある。だが仮に、これらの話が真実であるとすれば日本は大事な外交窓口、そして貿易相手の候補を失う可能性はある。

 

――ここで扶桑皇国に貸しを作れば我が国の外交カードは増える・・・・・・

 

一国の存亡がかかわった問題だが屋中はそれでも冷徹に、そして貪欲に日本の国益を考えていた。外交官にとっては長期的に国の利益になるか、それだけが問題なのだから。

屋中はにっこりと笑うと口を開いた。

 

「わかりました・・・・。貴国以外の第3国にも確認を取らせていただきます。他国と国交を結び、貴国の話が本当であるという確証を得てから安全保障条約の締結を検討させていただきます。それでどうでしょうか?」

 

かなり悠長だが、あせってかかわらなくてもいい戦争にかかわることは避けたい。ならばこの方法が最も良いのだ。

だが磯部たちはかなりうれしそうな顔をしていた。

 

「あ、ありがとうございます。その方針で参りましょう」

「ええ。ではほかの条約についても話を煮詰めていきましょう」

 

屋中は話を進めるよう促すが心中では「気持ちが外見に現れるなんて・・・外交官に向いてないじゃないか?」と思っていた。

―――――

2週間後。扶桑―日本は日扶友好条約(にちふゆうこうじょうやく)並びに貿易協定、経済協力協定、社会保障条約をはじめとした10以上となる各種条約・協定を締結。正式に国交を樹立した。

世界各国では、彼らにとって謎多き新興国である「日本」と、末席ながらも列強に名を連ねる「扶桑皇国」が国交を結んだことに注目が集まることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
公式見解ではそうなっているが、真相は海軍軍令部の一部高級将校がウィッチ部隊を疎ましく思っており、手柄を独り占めしたいがために意図的に必要な情報の連絡を怠り、部隊を勝手に動かし攻撃を開始したことが原因




いかがでしたでしょうか?
最近、切実に文才が欲しいと願う。ストーリーや台詞はまぁまぁいいんだけど・・・・いかんせん他の部分がねぇ・・・・。文才のある人に嫉妬してしまう。しばらくいろんな本読み漁ろうかなぁ・・・・。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
そしていつも、感想や誤字報告などありがとうございます。
今後も応援よろしくお願いします。

次回 第11話 派遣決定

お楽しみに。


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第11話 派遣決定

皆様どうもSM-2です。
皆様はちゃんとステイホームしてますか?私はもともとの性格が引きこもりなのでしっかりとステイホームしております。皆さん頑張ってこの危機を乗り越えていきましょう。
お子様がいる家庭も庭があるなら庭でなければ、なるべく少人数で人の少ない公園もしくは非常に広い場所で遊びましょう。
では、本編どうぞ。


扶桑皇国との国交樹立後。日本は扶桑皇国の仲介によって、この世界の主要各国に積極的にアプローチを仕掛けた。通常兵器のみでコアを持つ中型怪異と大型怪異を多数撃墜したということに興味があったことと、列強国の1つである扶桑皇国が仲介したことで、世界各国からはスムーズに使節団が派遣された。

そして、彼らはそこで列強と呼ばれる彼らを優に超えて発展した国の姿を見ることとなった。200mを優に超える超高層ビルが乱立し、道は自動車が埋め尽くす。鉄道網が全国に張り巡らされ、ちょっとした戦闘機並みの速度で鉄道が走っていた*1

各国の使節団の心には、これだけ発展している国家への一種の恐怖心が植え付けられた。彼らの本国は、これらの報告を多少脚色されているだろうと考えたが、圧倒的国力と科学技術を持つ国家に変わりはないと捉えていた。

発展した科学技術が欲しいという下心とその国力への恐怖心から日本との国交樹立はスムーズに進んだ*2。日本側の対応も非常に紳士的であったため、各国は日本に好印象を抱いた。

そして日本は各国から「怪異は人類共通の敵」という確証を得られたことで、次の対応に出ようとしていた。

――――――

日本国の首都東京。その一等地にある首相官邸の会議室では閣僚たちが集められ、閣議を行っていた。部屋の中心に置かれた円卓を囲むように大臣たちが並び、部屋の隅では書記官が会議の議事録を作成していた。

その場にいる大臣全員が1つの報告書を読んでいた。

 

「・・・・つまり怪異は本当に人類共通の敵なんだな?」

 

この閣議の議長である石田は手に持った報告書から、この報告書を持ってきた外務大臣に視線をずらす。

問いかけられた外務大臣はこくりと頷いた。

 

「はい。どうやら扶桑側の言い分は正しかったようです。国交を結んだすべての国から、”怪異は人類共通の敵”という回答を得られましたので・・・・」

「ふむ・・・・なるほど」

 

石田は報告書を雑にテーブルに置くと背もたれに寄りかかる。

数秒の思考の末、石田は防衛大臣に話しかけた。

 

「最上君。対ネウロイ戦に参戦すべきかと思うか?」

「・・・・・はい。参戦、不参戦。どちらもメリットデメリットはありますが、参戦したほうが良いかと」

 

防衛大臣はさらにつづけた。

 

「まず不参戦の場合。日本は短期的には平和を謳歌できます。人命的なもののみならず、予算の問題でも出血しないで済むでしょうな。ですが怪異が扶桑への侵攻を本格化させ扶桑全土を占領した場合。我が国は窮地に立たされます」

「具体的には?」

「まず軍事的な面から。怪異が扶桑皇国を基地として我が国に侵攻してくることが考えられます。その場合扶桑全土を奪還し維持する戦争を始めなければなりません。それは扶桑を防衛する作戦よりも大きな出血を強いられるでしょう。外交的面からみれば、怪異は人類共通の敵ということですので、それと戦わないことで各国から不興を買うでしょうな。そうなれば貿易、経済で悪影響が出てきます。ほかにも扶桑からの資源輸入が無くなることで各種資源を割高で買うことになります。我が国と一番近いのは扶桑皇国ですから、そこから各種資源を買えば輸送費などを抑えられ、格安で資源を手に入れられます」

 

防衛大臣は多角的に不参戦の場合のメリットデメリットを述べる。つまり短期的には平和を謳歌できるが長期的にみると日本の疲弊につながるということだ。

 

「逆に参戦の場合はすべて反対になります。軍事的な面では扶桑が我が国の防波堤となり、すぐに我が国に侵攻が来ることはなくなります。外交面では日本の軍事力を見せつけることで外交カードが増えるだけでなく、各国に恩を売れます。経済でも扶桑から格安で資源を得られることで経済再生の糸口になるでしょう。まぁ、定期的な投資(日本によるネウロイとの戦争)が必要ですが、それによって利益は長期的に得られます」

 

こうしてみると参戦の方が日本が得られるメリットが多い。となれば日本の発展のためには怪異との戦争という投資が必要なことが明白であった。

石田は「ふぅ」と深呼吸をする。

 

「では、怪異は我が国を攻撃してきた正体不明武装勢力もしくは国民に危害を加える可能性がある害獣と認定し、応戦もしくは扶桑からの害獣駆除要請に応じるという形で国防軍を派遣する・・・・これでいいな?」

 

居並ぶ閣僚たちは石田の確認にこくりと頷いた。

その後、臨時国会が召集され閣議で決定した対怪異戦への参戦を説明。その後、野党議員からの質問などもあったが相手が人類共通の敵ということもあり大きな抵抗はなく対怪異戦への参戦が、その日のうちに承認された。

その日の午後。日本は対怪異戦へ参戦することを総理の緊急記者会見で発表された。

世界各国は日本の軍事力を計るいい機会ととらえ、観戦武官の派遣を決定。1週間後には扶桑に各国の記者、観戦武官が集結した。

さらにその1週間後。国防陸軍3個旅団、国防海軍5個艦隊、1個任務群、海兵隊第81海兵戦闘航空団の派遣を決定。作戦参加人数は延べ約30000名、参加艦艇は空母2隻を含む計60隻。参加航空機は優に100機を超える一大作戦であった。

ついに日本がこの世界で真の実力を見せるときがやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

*1
オーランチオキトリウムの実用化が成功し、この藻からとれる藻類石油が普及していたため、ガソリンや電気の使用制限などは行われなかった。ただ食料は大規模無人食糧プラントという作物を全自動で育てる施設の研究が完了していたが、建設中であり。1号機すら稼働していなかったため、しばらくの間配給制となった

*2
国交樹立と同時に例外なく結んだ科学技術保護条約と日本で制定された技術保護法によって科学技術を得ることは出来なかった




いかがでしたでしょうか?
こないだ大阪府知事がテレビに出ていました。家族一同で「隈がすごいね」と思いましたね。必死にコロナ対策をやっていることがうかがえました。
医療現場の方々、そして感染対策に奔走している行政の方々に心から感謝させていただきます。

次回 第12話 ウィッチの派遣


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第12話 ウィッチの派遣

皆様どうもSM-2です。
まずは投稿がここまで空いてしまったことをお詫びいたします。コロナ休校が終わり学校が再開したため、そちらで忙しく小説を投稿できませんでした(-_-;)
えっ?それだけじゃないだろうって?
そ、ソンナコトナイヨ( ̄▽ ̄;)!(codモバイルやってたなんて言えない・・・・・)
で、では本編どうぞ!!


まず最初に扶桑皇国に派遣された第1陣は国防陸軍第1工兵旅団と第2独立機械化旅団、第2高射砲兵連隊、1個兵站旅団と国防海軍第1空母打撃艦隊、第2空母打撃艦隊、第1海上補給任務群であった。

彼らの任務は防空体制の構築であった。まず第2独立機械化歩兵旅団と第2高射砲兵連隊は移動式対空レーダーを保有していたため扶桑皇国の各地に展開し早急な監視体制を築き、対空ミサイルにより怪異の侵攻を抑える簡易監視体制を構築する。彼らが時間を稼ぐ間、海軍の2個空母打撃艦隊は扶桑海に展開。艦載航空隊による防空網の構築を行った。

 

――――――

 

扶桑皇国では国防軍の受け入れ態勢を整えるとともに、日本側からのある要請を実行しようとしていた。

それはアドバイザーの派遣であった。

日本は怪異への知識が皆無であった。扶桑から怪異の一覧表を渡されたとしても、人間が確認するには時間がかかる。コンピューターにデータを入力することも考えたが、実際に現場で戦った人間のアドバイスの方が臨機応変に対応できると考えたのだ。

そして何より日本の軍事力を正しく知ってもらおうという意図もあったのだ。今後、もしかしたら対怪異作戦で協力するかもしれない。その時にお互いを知らなければ被害が大きくなってしまう。ここで日本の軍事力、戦い方をしっかりと知ってほしかったのだ。

扶桑皇国側は退役したウィッチなど含め、怪異との戦闘経験豊富な人間を何人かをアドバイザーとして派遣することにした。

 

――――――

 

「わたしが、ですか・・・・?」

 

扶桑皇国海軍第12航空隊の隊長である北郷(きたごう) 章香(ふみか)海軍中佐もその一人であった。

彼女は1年前の扶桑海事変勃発当初より従軍していたウィッチの一人であった。その活躍は目覚ましいものであり、軍神と呼ばれていた。だが20を超えたので*1何処かの航空予備学校*2に配属されるかと思っていた矢先だった。

そんな彼女は海軍航空隊の管理を行う海軍省海軍航空本部からの呼び出しを受け、用意された九六式陸上攻撃機に乗って東京まで来ていたのだ。

 

「そうだ。君には怪異に関する助言者として日本艦隊に同行してもらう」

 

彼女の目の前で座っている、中将の階級章をつけた男―扶桑皇国海軍航空本部長はコクリと頷くとそう言った。

すると北郷がいぶかしげな顔をする。

 

「なぜ私たちウィッチが必要なのでしょう?日本は強力な軍事力を保有していると聞いています。わざわざ扶桑のウィッチを派遣しなくともいいのでは?」

「それなのだがな・・・・日本には対怪異戦の経験はおろかウィッチすらもいないらしい」

「なっ・・・・」

 

北郷は絶句した。

横須賀で日本の軍隊が怪異の侵攻軍を撃破したことは知っていた。だがウィッチがいないとなると、日本は通常兵器のみで大規模な怪異群を退けたこととなる。とても信じられるものではなかった。

航空本部長は思い出したように続けた。

 

「いや・・・・正確にはこちらの世界にやって来てからはウィッチとして発現*3する人間が出てきたらしいのだが、諸事情により実戦には出せないとのことだ」

 

日本がウィッチを派遣しないのはいくつか原因があった。1つ目がウィッチとして発現した人間は民間人が多いのだが、国防軍が徴兵ではなく志願制であるため無理やり投入することもできず、数が少ないこと。2つ目がストライカーユニットがないこと。そして3つ目が最も大きな要因でウィッチの運用経験がなく訓練施設などもないため、実戦に出しようがないことであった。

ちなみに一般的にウィッチは10代で最も魔法力が強くなり、20を過ぎると魔法力が弱まっていく。だが日本で発現したウィッチは、どういうわけか10~30くらいの年代に多い。しかも10代20代で魔法力の強さに遜色がないらしい。

 

「つまり日本軍はウィッチなしでネウロイと戦える能力を有していると?」

「そういうことだ・・・・・」

 

航空本部長はすっと立ち上がって、彼の左にある大きな窓に歩み寄る。

そこから見える景色を眺めながら、彼は静かに語り始めた。

 

「これからは世界が大きく変わる。日本が中心となるような世界に・・・・・。我が国が存続し、発展するには日本をよく知り、技術や知識を我がものとできるだけの人材が必要だ。財界や政界、学界だけではない。軍事の面でもだ」

 

そこまで言うと、彼はゆっくりと北郷の方に顔を向ける。

 

「日本中心の世界では怪異との戦争でも、日本が先頭となり、音頭を取っていくだろう。だが、それについていくには我々軍人が日本についてよく知らなければ話にならん」

 

北郷は航空本部長の言葉を聞いて、彼が北郷に言わんとしていることを察した。

 

「この派遣での君の任務は日本に助言するだけではない。日本について多くを学び、この戦役が終結した後に扶桑皇国軍を、この国の未来を担うであろう若いウィッチ達に日本について教え、優秀な人材を育てることも任務だと心得てくれ」

 

航空本部長は執務机に戻ると、引き出しから一枚の書類を取り出した。

北郷に日本部隊への派遣を命ずる命令書だった。

 

「頼んだよ。北郷中佐」

「はっ!謹んでお受けいたします」

 

彼女は頭を下げて、45度の敬礼をすると命令書を受け取った。

彼女はくるりと反転しドアの方に向かうと、再び航空本部長にお辞儀をして退出していった。

 

――――――

 

北郷以外にも9名のウィッチがアドバイザーとして派遣されることが決定した。

陸海軍から呼ばれた彼女ら10名に共通することは1年前の戦役開始当初より活躍していた歴戦のウィッチ達ということだった。

*1
20を超えるとウィッチは魔法力が弱まっていき、シールドを使えなくなる

*2
ウィッチの育成を行う海軍の機関

*3
ウィッチとしての能力が現れること




いかがでしたでしょうか!
ご意見ご感想お気に入り登録ご指摘などお待ちしております!
ではまた次回!さようなら!

次回 第13話 ウィッチたちの衝撃Ⅰ

お楽しみに!


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第13話 ウィッチたちの衝撃Ⅰ

皆様、お久しぶりです。SM−2です。
投稿を開けてしまい申し訳ありません。言い訳をさせていただきますと、少々、勉学のほうがよろしくなかったので、この夏休み中勉強に励んでおり、活動報告はちょくちょく上げていましたが、小説を執筆するほどの時間は捻出できませんでした。
勉強の方はある程度落ち着きましたが、こちらが原因で投稿が滞ってしまう事が増えると思います。ご了承ください。
では本編、どうぞ。


扶桑皇国の軍港の一つである佐世保には日本国国防海軍扶桑皇国派遣艦隊の26隻が入港した。

特に2隻の原子力航空母艦は扶桑の保有する戦艦よりも巨大であり、日本の艦艇を一目見ようと港には多数の人だかりが出来た。

他国の港に入港するということで、乗員は全員が冬制服を着用している。港湾設備が原子力航空母艦などの超大型船舶に対応していないため、艦隊は接岸することはなく。沖合5kmほどに投錨した。

その佐世保鎮守府。本部庁舎から南南東に5.5kmほどいった場所に、佐世保海軍航空隊の基地がある。

水上航空機を運用する同部隊の基地には97式飛行艇や94式水上偵察機が羽を休めていた。

連絡機用の滑走路があるものの、今は陸上機は1機も見当たらなかった。そんな佐世保航空基地に10名のウィッチが集まっていた。

 

――――――――――――――――――――

 

「なんでここに呼ばれたんだ?10人もの人数で沖合の船に行くなら港から内火艇で運んだほうが早いだろう?」

 

ウィッチの一人である若本(わかもと) 徹子(てつこ)海軍少尉は純粋な疑問を口にした。

たしかに()()()()()()では空母の艦載機では1度に運べる人数はどんなに頑張っても二人が限界である。1度に何機もの艦載機を飛ばして空母に連れてくるなどしても、荷物などもあることを考えると内火艇で運んだほうがはるかに効率的である。

にもかかわらず、港から離れたこの航空基地を指定してきた日本の意図が分からなかった。

 

「まぁまぁ、もしかしたら私たちからは想像できない方法でやってくるのかもしれないわよ?」

 

そうやっていさめるのは江藤(えとう) 敏子(としこ)陸軍大佐であった。

挺身作戦のさなか、海軍上層部の差金で海軍艦隊がウィッチごとネウロイを攻撃しようとしたことで嫌気がさし、一度は除隊しようと考えていた。だが未だにネウロイの脅威が消えていないことから、この戦役が終結するまでは軍隊にいようと考えている。

 

「でも本当にどうやってやってくるんだろう?荷物もあるのに・・・・」

 

そう不安げにいうのは坂本(さかもと) 美緒(みお)海軍少尉。後の物語にも深くかかわってくるのだがそれは今はいいだろう。

彼女の視線の先にはトランクがあった。長期間の航海になることを考え、服類や嗜好品、手帳などなど、様々な物を持ってきた結果大きなトランクにパンパンになるまで荷物が入ってる。他の4名も同じような状況だ。

人間を合わせて、これらを一度に航空機で運搬できるなど信じられなかった。

 

「佐世保の港から見えた彼らの船。とっても大きかったわよ?艦載機も大きいんじゃない?」

 

穴拭(あなぶき) 智子(ともこ)陸軍中尉が坂本の質問に、さも簡単そうにそう答えた。

 

「でもこの滑走路だと双発機が止まるには短いと思うのだけれど・・・・」

 

江藤はそう言って連絡機用の滑走路を見渡した。元々単発の小型連絡機の運用を想定している滑走路は750mほどの長さしかない。海軍や陸軍が運用する双発爆撃機、輸送機がギリギリ離陸できるだけの距離だ。

滑走路の長さは安全に離着陸が出来るようにも双発機ならば1200m以上が望ましいのだ。双発機が離着陸できないこともないが、安全を期すならばやはり内火艇の方が確実であった。

 

「まぁ、楽しみに待っていようじゃないか」

 

北郷はにこにこしながらそう言った。

この5人とは別に5人のウィッチがいる。なぜ2つの組に分かれているのかというと、単純に乗る船が違うからだ。江藤ら5名は「あかぎ」に乗艦し、その他5名は「あまぎ」に向かうのだ。

すると遠くからプロペラ機特有の音が聞こえてくる。どうやら迎えが来たらしいと空を見上げ、音の発生源を探す。ようやく探し当てた音の発生源は、彼女らには奇怪に思える形をしていた。

エンジンが二つ付いているのは双発機などで見慣れている。だがその機体のプロペラは異様に大きく、着陸時に地面に当たってしまうのではないかと思えてしまう。エンジンの付いている位置も主翼の真ん中ではなく両端というおかしな位置だ。

 

「な・・・・。あんな形の飛行機みたことないわ」

「やけにプロペラの直径が大きいわね。着陸時に地面に当たらないのかしら・・・・」

 

別の集団のウィッチもその異形の航空機達にくぎ付けとなっていた。

それら飛行機は一度滑走路の上を旋回すると、滑走路にアプローチを仕掛ける。2機の進入高度が高く、この短い滑走路ではオーバーランするのではないかと不安になる。だが2機の飛行機は彼女らでは予想もできない着陸方法を見せた。

着陸に備えて速度を落とし始め、時速180kmほどで進入を始める。だが高度を落とす気配がなく、何が起ころうとしているのか分からない。滑走路の1/3ほどまで来たところで変化が起きた。

 

「「「「「え!?」」」」」

 

それはその場にいた全員が驚きの声を上げてしまうものだった。

主翼の両端につけられたエンジンが突然上を向いたのだ。飛行機はそのまま空中で静止すると、ゆっくりと彼女らの目の前に降り立った。窓ガラスから見える操縦士は、バッタを思わせるような鉄帽のような物をかぶっているのが分かる。

強烈なダウンウォッシュで辺りの土が巻き上げられて砂埃がたつ。

理解を超える出来事を前に彼女らが呆けていると、2機のうち前の飛行機の機体側面の扉がガシャっと開いた。そこから黒っぽい制服をきた女性が下りてくる。

 

「はじめまして!日本国国防海軍第1空母打撃艦隊旗艦”あかぎ”広報担当士官をしています。海軍大尉の小笠原(おがさわら)です!扶桑皇国から派遣予定のネウロイ対策アドバイザーの方々ですね!」

 

小笠原はビシッとした敬礼をする。後ろのオスプレイの発する騒音に負けないよう声を張り上げて自己紹介をした。

暫く呆けていたウィッチ5名も小笠原の登場で正気に戻る。この中で一番階級の高い江藤が前に出た。

 

「扶桑皇国陸軍大佐の江藤敏子、以下9名。よろしくおねがいします」

 

小笠原が後ろのウィッチ達のことを見て、事前に渡された顔写真と見比べ本人であることを確認する。

 

「全員揃っていらっしゃるようですね。”あかぎ”に乗艦予定の方はこの飛行機へ。”あまぎ”乗艦予定のかたはあちらの航空機へお乗りください」

 

小笠原の指さした後ろの飛行機から、緑色の服を着た男性が下りてきた。

 

「海兵長!そちらの5人の方々を案内して!」

「はっ!」

 

海兵長は自身の担当する5人のウィッチをオスプレイの中に案内する。

小笠原はその様子を見ると踵を返し、5人をオスプレイの中に案内する。

5人は持っていた荷物を持って中に入ると、ダウンウォッシュの影響を受けなくなる。

貨物室の中は広々としており、両脇に設置されたシートはふかふかだった。振動も扶桑皇国の航空機ほどではなく。騒音を除けば快適そのものだった。

すると操縦席から操縦士がひょっこり顔をだす。バッタを思わせるようなヘルメットをかぶっているが、その黒い部分の奥に見えるまなざしは優しそうだった。

 

「今から離陸します!」

 

その声とともに、ストライカーとはまた違った浮遊感が彼女たちを襲った。機体の側面から見える景色は、この機体が垂直に上昇していることを示していた。

 

「すごいわね。エンジンの向きを変えて垂直に離着陸するなんて・・・・」

 

江藤は外の様子を眺めながらそう呟いた。

限られた狭い場所でも離着陸が可能な航空機。夢のような機体をみて江藤は「作戦の幅が広がるだろうな」と考えた。現状の扶桑皇国軍では航空基地を造るには、広い平地のある場所などが必要だ。だがこのオスプレイのような機体があればちょっとひらけた場所があれば、物資や兵員を迅速に展開できる。貨物室も広いので多くの物資も運べるだろう。

数が揃えば部隊の機動性は格段に上がる。それを容易にできる日本に感心していた。

オスプレイはある程度まで上昇すると、エンジンの向きを再び変えて水平飛行に変えた。

 

「この飛行機。何て言う飛行機なのかしら?」

「MV-22オスプレイという輸送機ですね。日本の転移前の世界で我が国の同盟国であったアメリカ合衆国という国が開発した輸送機です。今は我が国の川崎重工業などでもライセンス生産されています」

 

広報担当士官という肩書だけあって、国防海軍の採用している艦載機のことなどはおぼえているらしい。

時速500km以上という、扶桑の最新鋭戦闘機を上回る速度を出せることは5人のウィッチに衝撃を与えた。

 

「これって、本当に輸送機なんだよな・・・」

 

若本には、この機体が双発の重戦闘機なんではないかと思えてしまった。

そんな輸送機にとって3kmという距離は非常に短く、すぐに艦隊上空にたどり着いてしまった。

 

「あかぎコントロール。ディスイズ1CAW,CV-3(第1空母航空団輸送航空隊3番機)10マイルサウスアット3280フィート(貴艦より南に10マイル上空1000mを飛行中)リクエストランディングウィズ”あかぎ”(「あかぎ」への着艦許可をもとむ)

 

操縦士は機体を操作し「あかぎ」上空を旋回飛行しつつ、「あかぎ」の航空管制室に着艦許可を求めていた。暫くすると着艦許可が下りたらしく、オスプレイは速度を下げて徐々に高度を下げ始めた。「あかぎ」の船尾に近づくにつれてエンジンを上に向けて着艦体制になる。完全に回転翼機モードになると、ゆったりと船尾からアプローチを仕掛けて飛行甲板から10mほど浮いた状態で静止する。そこから誘導員の指示に従いながらゆっくりと機体を下げていき、着艦する。

着艦したオスプレイはエンジンを止める。それと同時に機体には整備員が群がり、機体の点検や格納庫への移動の準備を始めた。

 

「皆さま着きました。降りてください」

 

小笠原はオスプレイのサイドドアを開けると、そこから降りるように促す。5人のウィッチは自分の横に置いてあった荷物を持って、オスプレイから降りた。

 

「すごい広い!」

 

扶桑の空母でも見たことのないような広大な甲板をみて、5人は目を丸くした。

彼女らを乗せたオスプレイは飛行甲板の真ん中あたりに着艦している。そこから船首の方に視線を向けると、見たことのない大型の飛行機のような物が4つ止まっていた。

 

「小笠原大尉。あれは?」

 

北郷はそれらを指差して、小笠原に尋ねた。

 

「ああ、あれは我が軍の主力戦闘機であるF-35JCです。現在は待機中の直掩機になります」

「あれが・・・・」

 

北郷は日本の戦闘機に興味をいだいた。航空機に必要なはずのプロペラが見当たらないのだ。

その機体の特徴は欧州武官時代に聞いた、カールスラントが研究中のジェット機のようだった。

他にも双発機の上に平べったい板を乗せたような航空機や、機体の上にプロペラがある機体など見覚えのないような航空機が沢山並んでいた。

北郷や江藤は、それらから何処か超技術の匂いを感じていた。

 

――――――――――――――――――――

 

彼女らがまず最初に通されたのは、艦隊司令や艦長などのこの艦隊の首脳陣のところではなく。更衣室であった。なぜこんなところに通されたのか分からない彼女らに小笠原と二人の女性軍人は、国防海軍の女性用冬制服を渡した。

 

「えっと・・・・これは?」

「我が海軍の女性用冬制服になります。まずはこちらにお着替えください」

 

少し苦笑いをしながら小笠原はそう言った。

 

「えっと・・・・なんでかしら?」

 

穴拭の疑問はもっともであった。軍服とは指揮命令系統の象徴でもあり、他国軍の軍服を着用することは到底受け入れられることではない。

だがそれでも、国防海軍側にはこの制服に着替えて貰う必要性があったのだ。

 

「艦内の風紀管理上の理由とお考えください。こういっては失礼ですが、貴女方の服装は我が国では破廉恥と思われかねませんので・・・・」

 

そう服装の問題であった。彼女らの常識ではズボンはきちんと穿いている。だが小笠原達日本人から見れば、彼女らの服装は上はきちんと軍服を着ているが、下は下着姿にしか思えないのである。

女性軍人も増えたとはいえ、やはり軍隊は男性が多い。この「あかぎ」も8割が男性軍人なのだ。そんな場所に下着姿(彼女らからすれば正装)の少女がいれば、風紀が乱れる心配をするのも無理はなかった。

 

「な、なんでよ!服はちゃんと来ているし、ズボンだって穿いてるのよ!」

「その・・・こちらの世界における女性用ズボンがそれであることは分かっているのですが、我が国の常識ではそれは下着になるのです。申し訳ありませんがこちらにお着替えください」

 

穴拭は服装をバカにされている気がして(完全な被害妄想)少し不機嫌になるが、北郷と江藤の年長組二人は差し出された女性用冬制服を手に取った。

 

「わかったわ。着ればいいのね」

「郷に入っては、郷に従えというじゃないか。さぁ若も、坂本も。ほら。案外似合うかもしれないよ?」

「ありがとうございます。何かありましたら私か近くにいる女性隊員に声をおかけください」

 

北郷に促されて若本と坂本も女性用制服を着始めた。自分以外の4人が着始めたことで、穴拭も制服を手に取り着替え始めた。

 

――――――――――――――――――――

 

着替えは5分ほどで終わった。徽章、勲章は付いていないが下士官・士官用制服の袖には階級章は縫い付けてある。階級章はきちんと彼女らの階級と同じものを用意していた。まだまだ体の小さな若本と坂本には制服が大きかったらしくぶかぶかしている。

彼女らは小笠原の案内で、艦隊司令らが待っている士官食堂に移動。簡単な自己紹介と、艦内での規則や立入禁止区画などの説明を受けた。

その後荷物を持って割り振られた部屋に移動し、荷物を整理すると5人は消灯時間まで日本について感じたことを話し合った。

 

――――――――――――――――――――

 

トゥウェンティーファーストカード作戦―日本語に訳すと「21番目のカード」作戦。作戦立案を行った当時の海軍軍令部長がタロット好きだったことから、正位置で「成就、完遂、グッドエンディング」を意味するカードの番号が付けられていた。

この作戦は大きく分けて任務が4つ設定されていた。1つ目が扶桑に進行してくる怪異の迎撃。2つ目が怪異発生源付近状況を航空偵察によって把握すること。3つ目に怪異侵攻軍の中心と考えられている”山”と呼ばれている超大型怪異を攻撃・破壊すること。4つ目に怪異周辺と空気や戦闘後の機体を調査し、瘴気と呼ばれる有毒物質の特定。他にも民間人が大陸側に取り残されていた場合は救出することなども命令されていた。

この作戦では前に書かれた国防陸海軍の部隊のほかにも必要とあらば要請に基づいて部隊の追加派遣を行うことも決定していた。

ただネウロイに関する事前情報が少ないなか策定されたため、想定外な事態が多発すると考えられた。そのため細かな作戦は現場指揮官裁量とさていた。

 

「―以上が我が軍の作成した怪異迎撃作戦案です。ご質問はありますか?」

「質問・・・・といわれても作戦案が大雑把で質問することがないわね・・・・・」

 

江藤は苦笑いしていた。艦隊参謀長のほかにもこの場にいる艦隊司令や「あかぎ」艦長、テレビ電話で会議に参加している各艦の艦長に艦隊司令、参謀長らもそれに同意するように苦笑いした。

するとテレビ電話で会議に参加している艦長、艦隊司令・参謀長以外の人間—日本本国にいる防衛大臣、統合国防参謀司令長官、陸海空軍海兵隊などの司令長官は、艦隊の幹部たちとは違う。申し訳なさそうな苦笑いを浮かべていた。何を隠そう、この作戦を立案したのは彼らなのだから。

 

『申し訳ないねぇ。事前情報が何分少ない中でガチガチに作戦を決めても、そちらが動きにくいだろうと思ったんだが・・・・そちらは無責任と感じたかな?』

 

作戦立案に深く関わった軍令部長は、一層申し訳なさそうな顔を浮かべていた。

 

「あ、いえ!そういうわけでは・・・・」

 

江藤らは扶桑皇国軍のトップらとは違う、国防軍のトップらの親しみやすさに好感を抱くとともに若干のやりにくさを感じた。やりにくさの原因はそれだけでなく、遠く離れた人間とまるでそこにいるかのように話せるテレビ電話の存在もあった。扶桑ではいちいち電話交換手を入れなければならないし、何より電話は有線なので洋上にある現場司令部と後方がリアルタイムでつながることはあり得ないからだ。

この会議室に入ってきてモニターを見たときに「あまぎ」に乗ったはずのウィッチたちが、そこに映っていた時は彼女らは開いた口がふさがらなかった。

 

「まぁ、どちらにせよ現場の君らの方が効果的な作戦を立てられるだろう。特に私なぞは政治家であって軍人ではないからね。その都度その都度で後方からの客観的意見を助言させてもらうが、君らの立てた作戦の責任は我々がとる。好きにやり給え」

「ありがとうございます。思う存分やらせていただきます」

 

これぞあるべきトップの姿。下の行動は上が責任を持つ。これこそ健全な組織といえよう。

そんな日本のトップらの姿勢に扶桑から派遣された5人は「彼らが扶桑皇国軍の首脳陣として挺身作戦を指揮してくれれば・・・」という、うらやましさを感じていた。

 

「ではまず、ネウロイとの戦闘について、我々よりも経験を積んでいらっしゃいます江藤大佐らの意見をお聞きしたいのですが・・・・よろしいですか?」

「わかりました。まずネウロイに関してですが―――」

 

会議は3時間以上に達し、日本国国防軍首脳陣はウィッチからもたらされたネウロイに関する詳しい情報を元に、彼女らとともにいくつかの作戦を立案した。この時の国防軍側の対応は、陸海軍上層部での対立や上層部のくだらない権力争いに疲れていたウィッチたちの心を一気につかんだ。

また迅速な対応にはまずウィッチたちが乗員との交流を深めなければならないということで、1ACF司令官とあかぎ艦長がウィッチの歓迎会を格納庫で行った*1

この時の江藤の日記には「日本軍上層部には、扶桑皇国大本営のように組織が違うことでの対立がほとんど見えなかった。ネウロイに打ち勝ち、人を救おうという気持ちで統一されていた。彼らが挺身作戦の時に指揮を執っていれば結果は違ったかもしれない」と記されていた*2

翌日。扶桑皇国派遣艦隊司令部は作戦会議の議事録を市ヶ谷(防衛省)に送ると、補給艦隊を残して出港していった。

*1
このとき日本艦隊は佐世保に停泊中であり作戦行動中ではないために格納庫で食事をふるまうなどできた。万が一に備え、直掩航空隊は甲板上のカタパルトにセットされていたが、飲み物もお茶やジュースであったため全員が参加していた

*2
なお。ここまで評価の高い国防軍上層部だが、平時においては予算の取り合いで会議場は罵詈雑言の嵐となることがしばしばある。特に空軍や海軍は航空機やミサイル、艦船など費用が掛かるものを運用しているので陸軍にネチネチとものすごい愚痴を言われ続けるらしい。それに言い返すもんだからしまいには取っ組み合い寸前にまでヒートアップする。だが戦争の時までそんな確執を持ち込むことは愚の骨頂。一番の任務は国を守るということを弁えているか、いないかが扶桑皇国大本営との違いだろう。そして何より、トップらは個人レベルではお互いに家族ぐるみで付き合いがあるほど仲がいい。扶桑の大本営の人間と違い。喧嘩をするのは会議場だけである(私的な場で喧嘩を起こすとお互いの奥さんが恐ろしいらしい)




いかがでしたでしょうか。
そういえば、学生の方々は夏休みの課題。終わらせましたか?もう夏休みが終わっているところも多いとは思いますが、課題はきちんとやりましょう。
そして勉強はこまめにしといたほうがいいですよ?私はこの夏にそれを実感させられました。
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ではまた次回!さようならぁ

次回 第14話 ウィッチたちの衝撃Ⅱ

お楽しみに!



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第14話 ウィッチたちの衝撃Ⅱ

皆様どうも、SM−2です。
熱くなったり、涼しくなったりと異常気象が続きますねぇ。お体の方大丈夫でしょうか?私はちょっとコロナで体力がなくなっているのでキツイです。みなさまもお体にお気をつけください。
では本編どうぞ。


日本初の原子力航空母艦である「あかぎ」「あまぎ」の2隻を中核とする空母機動部隊は佐世保から北東に155kmの扶桑海に浮かぶ島、対馬近海に向かっていた。

事前の計画ではそこで第1空母打撃艦隊と第2空母打撃艦隊は分離する。第2空母打撃艦隊は対馬近海で半島や黄海方面の警備を行い、第1空母打撃艦隊はさらに北東の扶桑海に進出。扶桑海沿岸部の警備を行うこととなっていた。艦隊間の距離は相互援護が可能な300km~500kmであり、いざとなれば一方の空母から大量の航空機を派遣する予定であった。

 

――――――――――――――――――――

 

佐世保を出港してから1時間ほど。江藤ら5人のウィッチはCDCに案内された。CDCとは空母の戦闘指揮所のことであり、普段は乗組員ですら立ち入りを制限されるほどの機密情報の塊である。

ではなぜ、他国の軍人である江藤らがこのCDCに案内されたのか。その理由は二つあった。1つは戦闘時のスムーズな情報共有。CDCには戦闘機のガンカメラや早期警戒機のレーダー情報をリアルタイムで確認できる大型モニターが多数配置されている。またCDC内には艦載機の作戦を指揮する航空作戦管制所があり、そこから早期警戒機を通じて戦闘機に指示を出すことも可能なのだ。だがそれだけでは機密の塊に近づくことは許されない、2つ目の理由が大きかった。こちらは単純である。まず第1に江藤らは電子機器を操作できないので機密データの取り出しが不可能であり、出入りにもCDCに普段は入れる人間がいなければならない*1ので下手なことができないだろうという考えであった。

そうした経緯から彼女らは特別にCDCに入ることが許されていた。

 

「ここで作戦指揮をするのかしら?」

 

江藤らはCDCの中をぐるりと見渡す。

機密保護の観点から窓は一切なく、そこらかしこに設置されたモニターに多数の兵士が向き合っている。だが非常灯ではない扶桑の白熱電球よりも数段明るい電灯が至る所にあるためCDCの中は案外明るかった。

 

「私は海軍の船に乗ったことがあまりないからわからないけど、戦闘指揮って普通は艦橋の高いところでやるんじゃないの?」

「確かに、普通は艦橋の高くてより遠くまで見られる場所にある。窓もたくさんあるから視界が良いんだけど、日本の艦艇の戦闘指揮所は窓がないね」

 

江藤の疑問に北郷はそう答えた。

 

「外が見えないから指揮がとりにくそうだな・・・・」

「昨日あったテレビがたくさんあるね」

「どうやって戦闘指揮とかするんだろ。私は陸軍だから余計わかんないわね・・・」

 

若本、坂本、穴拭の3人がそれぞれ思い思いに感想を述べていると、後ろのドアからピッピッという電子音がして野崎司令が入ってきた。

 

「おやおや・・・・。もういらっしゃっていたようですね」

 

人懐っこそうな笑顔を浮かべ、物腰柔らかな口調からまるで近所の気のいいおじさんのように思えてくる。

だが彼は他国軍の将官である。尉官、佐官の彼女らからすれば雲の上の人物である。彼女らはびしっと敬礼をする。

 

「野崎司令殿!お世話になります」

 

軍人としては模範的な態度で返答した北郷に対して野崎は謙遜する。

 

「いえいえ。お世話になるのはこちらです。怪異との戦闘では貴官らの方が先輩です。よろしく頼みますよ」

「わかりました。全力を尽くします」

 

野崎は彼女らの間を通ってCDCの中に入っていく。すでに50代前半のおじさんで物腰も柔らかだが、日中紛争を生き残った彼の眼はとても鋭く若々しく、足取りもしっかりしている。乗員たちの態度から、そんな彼が頼りにされているのはすぐにわかる。

その時、スピーカーから声がしてきた

 

『航空管制室よりCDC。早期警戒機4機の発艦準備が完了』

 

報告を受け取った艦長が野崎の方を見る。

 

「・・・・発艦させます」

「了解」

 

艦長の問いに野崎はうなずいて短く返事すると、艦長は近くの無線機を手に取って航空管制室に指示を出す。

 

「こちらCDC。了解。発艦させろ」

『航空管制室。了解です』

 

しばらくすると連続で2回。2分ほど間をおいてもう連続で2回、ゴォオッという振動が聞こえてくる。

音と同時に正面にあるメインモニターの中央から丸いアイコンが音の数だけ出てくる。4つのアイコンはまるで扇のように展開する。

 

「E-2のレーダーシステムとデータリンク始めます」

 

CDCにいる乗組員たちの動きは少しだけあわただしくなる。

だがレーダーはあってもC4Iシステムやコンピューターを知らないウィッチ5名は乗員が何をしているのかわからなかった。

 

「何をしてるんですか?」

 

坂本はちょうど近くにいた砲雷長に話しかけて、今何をしているのかを話しかけた。

 

「ああ。あれは発艦した早期警戒機と情報を共有しているんだ」

「早期警戒機・・・・?なんだ、それ?」

 

早期警戒機どころか地上のレーダーサイトと連動した地上要撃管制も知らない彼女らからすれば、そういわれても何なのかわからない。

 

「早期警戒機というのは大型のレーダー・・・・電探を搭載した航空機のことでね、空中から敵部隊の動きを監視する偵察機の役割を果たす飛行機だ。そして情報共有というのはその早期警戒機の電探からの情報をリアルタイムでこの船で確認できるんだ」

「つまり。その早期警戒機の電探で探知したネウロイはこの船でもどこにいるか確認できるということか・・・・」

 

北郷は砲雷長の説明から何を言っているのか理解したようだった。横にいる江藤も同じく砲雷長の言っていることを正しく理解し、そして同時に2人は国防軍の戦い方は1歩2歩どころか10も20も先を進んでいることも理解できた。

だがこの日、哨戒にでたE-2のレーダーがネウロイを探知することはなかった。

*1
CDCの扉には何重ものセキュリティーがあり、IDパス、顔認証、指紋認証、虹彩認証、静脈認証をクリアしなければならないのだ




いかがでしたでしょうか。
これからなのですが、私事で再び投稿期間が空いてしまうことがあると思います。流石に1ヶ月もあけることはないようにしますが次回は気長にお待ちくださると幸いです。
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ではまた次回。さようならぁ!

次回 第15話 初の迎撃戦(前編)

お楽しみに!


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第15話 初の迎撃戦(前編)

皆様どうもSM−2です。
また前回の投稿から時間が空いてしまいまして、申し訳ありません。
今回はサボっていたわけではなく、単純に話の詳細を書くのに苦労していました。
では本編どうぞ。


第1空母打撃艦隊は目的地に到着するとそこら一帯をグルグルと航行しながら、早期警戒機を飛ばして襲撃してくるであろうネウロイを警戒し始めた。

そして目的地に到着してから2日後。ついに実戦の時がやってきた。

 

――――――――――――――――――――

 

第1空母打撃艦隊から北に50km。浦塩という前世界におけるウラジオストク(こちらでは浦塩)から南南西に100kmほどのところを飛行していた。国防海軍第1空母航空団第131早期警戒隊所属のE-2F5号機のレーダーが浦塩から飛び立つ16もの飛行物体を探知したのだ。

この情報はC4Iシステムによって「あかぎ」にも伝達されており、情報を受け取った「あかぎ」は艦隊に対空戦闘用意の号令を発し、スクランブル機の緊急発進を命令した。

 

「石川*1君。現在の状況は?」

 

シュゥという音とともにCDCのスライド式扉が開く。すると若干厳しい面持ちの野崎がCDCに入ってきた。

自身の名前を呼ばれた副長は軽く敬礼をする。

 

「野崎司令!お疲れ様です」

 

CDC中央に設置された海図台付近まで野崎が来ると、石川は説明を始めた。

 

「今から・・・・えー、7分前ですね。17:02時に浦塩北方50kmを哨戒中のE-2F5号機のレーダーが浦塩から発進する16の飛行物体を探知。その約2分後の17:04に私が対空戦闘用意を発令。スクランブル機を緊急発進させました」

「スクランブル機の武装は?」

 

すると空母航空団を指揮する田辺が報告を始めた。

 

「20㎜機関砲弾が900発とサイドワインダー4発とAAM-7(31式短距離空対空誘導弾)を6発装備しています。発進部隊は当直部隊の11FS(第11空母戦闘飛行隊)第4小隊の4機が向かっています。コールサインはウェリテス」

 

国防軍において戦時下における戦闘機のスクランブル待機時の武装は機関砲弾、短距離空対空誘導弾0~6発、中距離空対空誘導弾4、5発*2であるが、怪異に機上レーダーはなくレシプロ機のように小回りが利く怪異に対しては短距離空対空ミサイルのほうが適任*3であるということや今回はネウロイの種類をガンカメラなどを使用し確認するために至近距離での戦闘になるであろうことが予想されたため短距離空対空ミサイルのみを搭載していた。

 

「あとどれくらいで会敵する?」

「あと45秒後に現場空域に到着予定!」

 

空母航空作戦管制室*4所属の要撃管制官が野崎の問いに答えた。

日本においては旧式とはいえ、超音速で巡航飛行するF-35は150km先にいる目標を探知してから10分もかからずに接敵することができる。

余りの速さで推移する戦闘の様子に、CDC内でアドバイザーとして待機していた北郷は目を回しそうであった。それでも彼女が何とか状況を理解できているのは豊富な経験と知識に他ならなかった。おそらく経験の浅い坂本や若本であったならば、すでに目を回していたかもしれない。

そんなことを考えていると、不意に野崎が振り返る。

 

「北郷中佐。よろしくお願いしますよ」

「はっ!」

 

北郷は野崎の言葉を聞くと、威勢のいい返事とともに頭を切り替えて自身の任務にあたろうと決意した。そしてF-35から送られてくるガンカメラ映像が映し出されたモニターをじっと見つめていた。

 

――――――――――――――――――――

 

迎撃にでたF-35JC4機は早期警戒機の指示に従いながら敵を迎撃すべく飛んでいた。

「あかぎ」を発艦したときから166kmの探知範囲を誇るAN/APG-81 AESAレーダーは目標を探知していた。本来、ステルス性が売りなステルス戦闘機は自機の位置を暴露してしまう機上レーダーは極力使わない。だが今回怪異には逆探知機はおろかレーダーすらないため戦闘機部隊はレーダーを存分に使っていた。

 

『ウェリテス4th。30セカンドアンティルユーシーザアンノウン(所属不明機が目視可能圏内に入るまで30秒)プリペアフォアザアプ(アンノウンと)ローチウィズアンノウン(の接触に備えよ)

 

怪異の針路と速度、F-35編隊の針路と速度そして両者間の距離から高性能コンピューターがたたき出した会敵までの時間を要撃管制官が伝えてくる。

大型ディスプレイに映し出されるレーダー画面には自機を表すアイコンのそばに3機の友軍機を表す青いアイコンが、その4つのアイコンが向かう先には16ものアンノウンのアイコンが編隊をなして飛んでいる。

編隊長は事前ブリーフィングの資料でみた怪異という異形の敵を思い浮かべた。日中紛争で中国軍戦闘機との空戦経験のある彼は、相手が人間でないことを知ってこの世界の軍隊が少しうらやましくなってしまった。もちろん彼らは国が滅ぼされるかどうかの命がけの戦いであることは百も承知であり、不謹慎な考えであることはわかっていた。だが人間相手の空戦を繰り広げパイロットの命を奪ったこともある編隊長は、人を殺すという感覚を知らないでいられることはとても幸せなことだと思ったのだ。

編隊長はぶんぶんと頭を振って、目の前の敵に集中した。

 

「ウェリテス4th!10セカンドアンティルユーシーザアンノウン(所属不明機が目視可能圏内に入るまで10秒)!!目を凝らせ!見逃すなよ!」

『『『ラジャー』』』

 

4機のパイロットはレーダーの反応を頼りに敵のいるであろう方向に目を凝らす。太陽の光が照り付け、どこまでも広がる青い空に怪異の漆黒の機体はひどく目立った。青い絵の具で塗りつぶされたキャンパスの上に墨を垂らしたように見えるそれは、超人的視力を持つ戦闘機パイロットにはいともたやすく見つけることができた。

 

エネミーインサイト(敵機視認)!!』

 

3番機のパイロットが声を上げるとほぼ同時にほか3機のパイロットもそれを見つけた。

まるで無人機のようなキャノピーのない機体に漆黒のカラーリング、機体に走る幾何学的な模様はまさしく事前ブリーフィングで教えられた怪異の見た目そのものであった。

 

「ディスイズウェリテス15!当該機の確認を行う!16(2番機)は通常カメラを使用し当該機を撮影、17、18はバックアップ!」

『ディスイズウェリテス16。コピー』

『17、18。バックアップ入ります』

 

僚機たちから返答があると、編隊長機はEOTSの赤外線捜索追尾システムを起動してその映像を「あかぎ」に送りつつ、EO-DASによって得られた情報を3次元的に表示するビジュアルモードを選択して怪異のコアの有無を確認する。2番機は胴体下部と機首につけられているカメラを起動しその映像を「あかぎ」に送る。

2機は機体を素早く怪異の方に向けると、ネウロイの撮影を開始した。2番機は2か所にしかついていないガンカメラの照準をネウロイにロックする。こうすることでどんなに激しい機動をしても、ガンカメラが自動的に目標にピントを合わせて、ぶれることもほとんどなく映像を撮ってくれる。

爆撃機のような見た目をした怪異はまさしくWW2前後に活躍した爆撃機のように防護機銃を発砲しF-35を近づけまいとするが、超音速でひらりひらりとかわすF-35に掠ることもなく、撃たれた機銃弾はむなしく大空に飲み込まれていく。

 

――――――――――――――――――――

 

『ディスイズウェリテス15!ヒートソースディタクション(熱源探知)!』

 

「あかぎ」CDCでは野崎をはじめとする幹部たちが、F-35から送られてくる2種類の映像を大型モニターを使ってみながら、F-35の無線を聞いていた。

 

「ふむ・・・・。熱源探知ということはコアを持つタイプの怪異でしょうね。・・・後続編隊にはサイドワインダーのみを装備させて発艦させます」

 

田辺は編隊長機からの報告を聞くと艦内無線を使って、甲板上で待機しているF-35にミサイルを積むように整備員に指示を出した。

その横で野崎は北郷に怪異について確認を取る。

 

「北郷中佐。この怪異は?」

「扶桑軍では”アホウドリ”という名称で呼ばれている爆撃機型怪異です。速度、防御性能、爆撃性能これらが高水準でまとまっており、それに加えコアによる再生能力を兼ね備えた難敵で、この怪異のせいでいくつもの基地が破壊され戦線が後退していきました」

 

よほど苦い思いでしかないのであろう。北郷の顔は苦渋に満ちた表情に変わっていた。

表情から北郷の気持ちを察した野崎は、彼にしては珍しい挑戦的な表情を浮かべる。

 

「なるほど・・・・。では貴官の無念は我々が晴らしましょう」

*1
「あかぎ」副長のこと

*2
F—35はステルス機であるためステルス性を重視する状況下ではハードポイントを使用せずにウェポンベイに中距離空対空誘導弾を4発装備するだけということもある

*3
ジェット機というのはレシプロ機に比べて重いため、運動性が悪く小回りが利きにくい。特にステルス機は空力的洗練度を犠牲にしているため機動性が低く、ドッグファイトなどではF-35がF-15や機動性の高い小型練習機に負けることもある。中距離空対空ミサイルは射程を伸ばす代わりに運動性が悪く、そういったジェット機などの鈍重な航空機にもチャフを使われれば比較的容易に回避されてしまう。逆に短距離空対空ミサイルは射程が短い代わりに運動性が高く尚且つ軽量であるためドッグファイト向きなのだ

*4
航空母艦の艦載機の作戦行動の計画や航空管制・要撃管制を行う。日本では空母のCDCに設置されている




いかがでしたでしょうか?
次回はお待ちかねの空戦シーンです。でもやっぱり空戦って難しい。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようなら。

次回 第16話 初の迎撃戦(後編)

お楽しみに


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第16話 初の迎撃戦(後編)

みなさまどうもSM−2です!
今回は空戦回です。やっぱり難しいンゴ。
そして!今回は本編終了後にお知らせです。
では、本編どうぞ!


F-35JC編隊は早期警戒機の要撃管制官から、この怪異がコアを保有するタイプであることを改めて知らされる。

 

『これから攻撃目標の割り振りを行う。1機あたり2機だ。どちらを先に攻撃してもかまわない』

 

要撃管制官の声とともにレーダー画面の光点に攻撃目標を示す印が付いた。パイロットがコンバットボックスを組んで飛行する怪異の方を見ると、同じような印が映し出される。第5世代戦闘機からはレーダー画面だけでなくHMDを利用して、目視している目標の横に、目標との距離や攻撃目標を示す印が映し出されるようになっている。

 

ターゲットコンフィメイション(目標確認)エンゲージ(攻撃開始)

 

編隊長の掛け声とともに4機のF-35は一斉に散開する。

各機のパイロットは怪異の防護機銃をひらりひらりとかわしつつ、AIM-9Yを選択する。

一世代前のAIM-9Xから中間慣性誘導を導入し、完全なLOAL(発射後ロックオン)機能と、オフボアサイト発射機能を獲得したサイドワインダーシリーズは、いまや真横を飛行する目標でさえJHMCS*1によって撃墜可能なのだ。

編隊長は僚機が攻撃を開始したことを確認しつつ、自身に割り振られた目標であることを示す印が付いた敵にHMDに映し出されるロックオン照準をあわせる。

ピピピピという電子音が編隊長の耳朶をうつ。

 

「FOX-2!」

 

赤外線誘導ミサイルの発射を示す符丁を叫ぶと、編隊長は操縦桿のミサイル発射ボタンを押し込んだ。その瞬間、翼下の武装ステーションに吊るされていたAIM-9YのMk.37固体燃料ロケット*2に火がともる。

サイドワインダーの由来ともなった、特徴的な軌跡を描きながら怪異に向かって飛んでいく。

編隊長機はすぐさま二発目をロックオンすると同じ目標に向かって発射した。これは怪異のコアが機体の奥深くにあるためであった。9.6㎏の高性能軍用指向性爆薬といえども、VT信管搭載の空対空ミサイルは近くで爆発するだけなので怪異の装甲板ははがせてもコアまで破壊するには若干の威力不足であった。そのため事前ブリーフィングで彼ら戦闘機隊には、コアを持つ怪異の場合は1機に対して2発のミサイルを発射するように指示を受けていた。1発目が装甲をはがし、2発目でコアを破壊せしめるためだ。

戦闘機隊はこの指示を忠実に守ったのだ。

 

「よぉし。敵機の撃墜を確認してから次にいけ!」

 

僚機も次々とミサイルを発射したようで、レーダー画面には新たに友軍ミサイルのアイコンが8つも現れた。それぞれ2発ずつが1機の怪異に徐々に近づく。

ふと編隊長がキャノピーの外に広がる景色を見ると、怪異がミサイルを迎撃しようと先ほどよりも盛んに防護機銃をうっている様子が見えた。

第2次大戦時の戦闘機にすらなかなか当たることのない防護機銃がそれより高速かつ小型のミサイルに当たるわけがない。せいぜいまぐれ当たりを願って撃つ程度だ。これが有人機相手ならばパイロットに心理的負担をかけてミスを誘ったり、近づくのをためらわせたりできるが、相手はプログラムによって飛翔するメカである。恐怖という感情があるわけない。

 

「·····」

 

編隊長が見つめる中、ミサイルは怯むことなく怪異に突っ込む。

怪異のコアが放つ熱をサイドワインダーのシーカーはしっかりと捉えていた。

サイドワインダーシリーズはAIM−9Xの頃から誘導方式が赤外線画像誘導に変わっており、フレアをただばら撒くだけでは回避ができなくなっていた。更に進化したAIM−9Yは着弾ギリギリを見極め、フレアを発射しつつ適切な回避行動を取らなければ、その命中率は98%になる。しかも一度避けても、ミサイルに燃料がある状態で発射母機のセンサーが敵を捉えていれば、ミサイルは反転し再び敵機に飛翔する。日中紛争後にあった韓国と北朝鮮の小規模軍事衝突では24発放たれたサイドワインダーのうちの20発が命中した*3ほどである。

フレアも吐かず、亜音速にすら届かない速度で、愚直にまっすぐ進む怪異にミサイルは面白いほど簡単に当たるだろう。

怪異のコアのある機体前部にミサイルが近づくとVT信管が作動し、9.6kgの高性能指向性爆薬に火が付き爆発を起こす。

 

ドォンドォンドォンドォン

 

立て続けに起こる4つの爆発。各機の放った1発目のミサイルの爆風によって4機の怪異の装甲が剥がれ、その中に鎮座する赤いコアが姿を表した。

怪異は防護機銃を弱めエネルギーを剥がれた装甲の回復にあてるが、それは無駄な努力であった。

すぐに2発目のミサイルが到達し、コアの至近距離で爆発する。爆風にのって、ミサイルの破片や仕込まれていたワイヤーなどがコアを無慈悲に貫く。

 

キシャアアアア

 

耳障りな不協和音を響かせ、4機の漆黒のネウロイが白い破片に変わる。

 

ターゲットキル(目標撃墜)

 

レーダーでも目視でも怪異の撃墜を確認すると、彼らは次のターゲットに向かう。

先程と同じ様に機械的な動きで怪異をロックオンし、翼下のサイドワインダーを放つ。

万が一、サイドワインダーが防護機銃のまぐれ当たりで落とされてもいいように4機は機銃のロックを解除して怪異の動きに注視する。

だが怪異の防護機銃がミサイルに当たることはなく、吸い込まれるようにネウロイに当たる。

これで合計8機の怪異を撃墜したが、ここでスクランブル隊のサイドワインダーが切れてしまった。アクティブレーダーホーミングのミサイルならあるものの、コア保有タイプの怪異はコアを破壊しなければ撃墜できず、また装甲もあるためにアクティブレーダーホーミングミサイルでは撃墜は難しい。損傷を与え一時的に速度を削るくらいが限界であった。

今、後続の部隊が赤外線画像誘導のサイドワインダーの搭載作業をしているものの、すべての作業を終えて発艦するまでに10分以上かかる。怪異が今のままの速度で進めば、迎撃は扶桑の沿岸部上空になるであろう。撃墜した怪異の破片が民間人に当たったらたまったものではない。

そのためにもう少し足止めをしなければならないのだ。

 

「2手に分かれるぞ!16は俺についてこい!17、18は敵機の針路に先回りし、前から機銃の雨を降らせてやれ!!」

『16、ラジャー』

『17、コピー』

『18、ラジャー』

 

編隊長の指示でF-35は2手に分かれる。3番機と4番機の2機はアフターバーナーを焚いて最高速度まで加速すると、上昇しつつ怪異を追い越す。逆に編隊長機と2番機は速度を時速900kmほどまで落とすと上昇して、3番機と4番機の準備が完了するまでその場で旋回する。

 

「17は俺がミサイル撃った奴を叩き落せ!18は16の奴を落とせ!いいな?!」

『17、18!スタンバイ(準備完了)!いつでもどうぞ!』

「では行くぞ!」

 

その瞬間、3番機と4番機は横旋回を行って180度反転する。編隊長機と2番機はアフターバーナーを使いつつ、降下して先ほど稼いだ位置エネルギーを運動エネルギーに変換する。

こうすることでただアフターバーナーを使うよりも素早く加速できるのだ。

あっという間に音速を超えた2機は前方を逃げるように飛ぶ怪異をロックオンする。

 

『「FOX-1!!」』

 

その瞬間、2機の両翼につるされていた31式短距離空対空誘導弾が発射される。2発づつ合計4発のミサイルはあっという間に怪異に追いつき2機の怪異を爆炎で包む。ミサイルを発射した2機は、その爆炎を突っ切るように怪異編隊を追い抜いた。

ミサイルが命中した怪異は翼のような部分がもがれていたり、機体後部が削れていたりしたが、コアが無事であったため速度を落としつつ、機体を修復し始めた。

だがその瞬間、前方上空から2機の猛禽が襲い掛かった。修復のために速度を落とした2機に対して、3番機と4番機は狙いを定めてM61バルカン20㎜機関砲の引き金を引いた。

 

ブォオオオオオ

 

猛獣の唸り声のような発砲音とともに、怪異の防護機銃とは比べ物にならない機関砲弾の雨あられが怪異に降り注ぐ。赤外線センサーを使って怪異のコアの位置をつかんでいた2機は、コアのある機体前方部に機銃を集中させた。

ミサイルによって広範囲に及んだ破損と今までの相手より高密度な弾幕によって、再生能力の高いこの怪異も機体の再生が追い付かずに、あっという間に装甲をはがされコアをハチの巣にされる。

3番機と4番機はそのまま降下して、1撃離脱の要領でそのまま怪異編隊と距離を取る。

 

「グッジョブ!次行くぞ!」

 

怪異が白い破片となるのを確認した編隊長は再び反転する。今度は先ほどとは違い、3番機、4番機が後ろからミサイルをうち、編隊長機、2番機が機銃でネウロイを撃墜する。

連携の取れたその動きからは、国防軍パイロットの練度の高さがうかがえる。

3度目の攻撃を仕掛けるころには、怪異もさすがに学んでいるらしくコアを破壊されないように前方部に防護機銃を集中させてF-35を迎撃しようとするが、機銃弾はF-35の通った後の空にむなしく吸い込まれるだけで、一向に当たる気配がない。弾幕を張ろうにもたかが4機では有効な弾幕など張れるはずもなく、20㎜機関砲弾を叩き込まれて落ちていく。

4度目の攻撃で最後の怪異を叩き落すと空を飛んでいるのはF-35のみとなった。

編隊長が残弾を確認すると、すでに機関砲は弾が尽き、ミサイルも胴体内のウェポンベイに2発ずつのみであった。僚機に残弾も確認するがすべて同じような内容であった。1回でも機関砲を外していれば怪異を取り逃がしていたと思うと編隊長は「機関砲を外さなくてよかった」と思うのだった。

 

――――――――――――――――――――

 

「・・・・・・」

 

CDCでF-35の戦闘をリアルタイムで見ていた北郷は衝撃につつまれていた。連携の取れた編隊による攻撃。レーダーや高度な通信技術によって目標が被らないように攻撃する技術。そして怪異の攻撃が当たらない超音速で飛行する戦闘機とミサイル。何もかもが異次元であった。

扶桑軍はおろか世界一の技術力を誇るであろうカールスラント軍、強大な軍事力を誇るリベリオン軍ですらこのレベルの戦闘ができるまで何十年、下手をすると何百年とかかるかもしれない。

その間も日本は進化を続けるだろうから、もしかしたら永遠に日本には追い付けないかもしれないという思考が彼女の頭をよぎった。

 

「すごい・・・・・」

 

彼女はその一言しか発することが出来なかった。

この後、この日本の戦い方などから世界では高速戦闘機万能論*4が流行るのだかそれはまた別の話。

 

*1
HMDによってロックオンするシステム

*2
AIM-9Xに搭載されていたMk.36の改良型。軽量化と燃費の向上で射程が伸びた

*3
1発はミサイルシーカーの故障で命中せず。もう1発はmig-29に発射されたものの2回回避され、燃料が切れて命中しなかった。このMig-29はその後、2発のサイドワインダーが発射されたが1度は回避。しかしそこでフレアが底をつき、回避ができずに撃墜された。

*4
ミサイル万能論とは少し違う。運動性は二の次で、怪異の攻撃を速度をもってかわし、敵の至近距離に近づいて撃墜するという理論。ミサイル万能論は戦闘機に大量のミサイルを積み、遠距離から一方的に攻撃するからミサイルいっぱい詰めて速度の速い戦闘機が最強という理論




いかがでしたでしょうか?
そしてお知らせです。みなさま。明日からストライクウィッチーズ第3期が放送されますね?そのため、アニメ放送開始記念ということで明日から来週水曜日まで、毎日投稿を行います。毎日投稿を行うのはこのシリーズのみですが、楽しみにお待ちください。
ではまた次回!さようならぁ!

次回 第17話 作戦会議

お楽しみに!


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第17話 作戦会議

ストライクウィッチーズ第3期放送記念第1弾。
どうぞ




日本国防軍が扶桑海での作戦を開始してから一か月が経過した。扶桑海に展開した国防海軍と沿岸部に展開した国防陸軍は怪異による空襲を完璧に防いでいた。

扶桑皇国内では連日のように国防陸・海軍の活躍が報道され、国防陸軍の駐留地には扶桑皇国のマスコミや民間人が押し寄せ、第1、第2空母打撃艦隊への燃料、食料、武器弾薬類の補給を終えた後、補給艦隊の食糧補充のために佐世保に寄港した際には、佐世保は大盛況となった。

活動開始2週間目には国防海軍を掩護するべく、国防海軍第4艦隊、第1揚陸艦隊の支援の下、F-35JBを装備した海兵隊第82海兵戦闘航空団が追加派遣され、大いに歓迎された。

しかしこの状況に地団駄を踏んだ者たちがいた。日本国国防軍の主力4軍の中で唯一この作戦の戦闘に参加できていない国防空軍である。怪異との戦いは空での戦闘である。空での戦闘を専門とするにもかかわらず、扶桑皇国内にジェット戦闘機の運用可能な滑走路がないという理由で戦闘に参加できなかった国防空軍の悔しさは、相当なものであった。

なればこそ国防空軍は、空軍のみが保有する各種偵察機を使用し、扶桑を脅かす怪異の原因と思われる超大型怪異”山”の調査。そしてその情報を元に戦略爆撃機をはじめとする各種航空機による攻撃作戦を行い、この紛争を終わらせたという名誉を欲した。

 

――――――――――――――――――――

 

そして作戦開始から1ヶ月経ったある日。国防空軍はR-3A戦略偵察機2機、RQ-5A無人偵察機2機による偵察作戦を行った。

偵察作戦ではRF-3Aに操作されたRQ-5Aが旧扶桑皇国領浦塩に突入し、通常カメラとサーモグラフィーカメラの2種類のカメラによる撮影と集塵ポッドによる現場周辺の物質の収集を行った。

作戦の結果は半分成功という形となった。無人偵察機2機は”山”によるビーム攻撃を受け、1機は爆発四散し、2機目は左翼端と燃料パイプを損傷したため扶桑皇国内の飛行場に不時着しようとするも、帰還途中で燃料が切れてしまい扶桑海上に墜落した。

国防軍司令部は機密情報流出の可能性などから、近くにいた国防海軍第1揚陸艦隊*1に回収を命じた。しかしヘリによる捜索の結果。機体は回収できたもののもう一つの目的である集塵ポッドは、墜落の衝撃で固定していた部品が損傷してしまい、集塵ポッドは深い扶桑海の底に没してしまった。

一方、偵察映像はR-3Aに送信されており、防衛省本省にも送信されていたため無事だった。これによりり、国防軍は”山”の攻撃に必要な情報を得ることができた。

 

――――――――――――――――――――

 

その1週間後、防衛省内にて作戦会議が開かれた。

 

「これから会議を始めます」

 

司会進行役の統合国防参謀司令本部の職員の言葉で作戦会議が始まった。

会議には防衛大臣と統合国防参謀司令本部長官他、国防陸海空軍海兵隊の最高司令官、特別作戦軍、国防宇宙軍、サイバー軍の司令官までもが参加し、彼らの部下たる各軍参謀や職員も同席していた。

先日の偵察作戦を行った国防空軍の最高司令官である空軍司令本部長官が口を開いた。

 

「まずは先日の偵察作戦によって得られた情報を説明させていただきます」

 

空軍司令長官はそういうと、後ろにいた部下に合図する。すると後ろにいた参謀がスッと立ち上がった。

 

「国防空軍司令本部第4部(情報司令本部)情報分析参謀の椎名中佐です。これより超大型ネウロイ”山”及びその周辺に関する情報を説明させていただきます」

 

椎名はお辞儀をすると、彼の部下がモニターに映像を映し出す。

 

「まず、”山”は浦塩市街地の中心部に鎮座しています。近くの旧扶桑皇国軍飛行場には中型怪異20機が駐機していることがわかりました」

 

次の瞬間、パソコンを操作してモニターの映像を変える。

モニターには鮮明な解像度の高いカラー映像と白黒の赤外線サーモグラフィーの映像が映し出される。

椎名はそれを確認するとレーザーポインターをもってモニターの横に歩いて行った。

 

「また、先日の作戦の結果”山”の詳細な情報が得られました」

 

椎名はサーモグラフィーの映像のうち、一際白くなっている部分をレーザーポインターで指し示した。

 

「この映像でわかりますように”山”はコアを保有するタイプの大型怪異であることがわかっています。コアはほかの怪異と同じように装甲板によって保護されています」

 

すると映像が止まる。

 

「分析の結果、装甲の厚さはこれまでの中・大型怪異よりも厚いことが分かっております。推察される装甲の厚さは1mほどです。また定期観測の結果、小型怪異は、この”山”の一部が分裂して発生していると判明しました」

「攻撃手段は?光学系と聞いたが?」

 

国防陸軍の参謀から質問が飛ぶ。

 

「はい。この大型怪異は一般的なネウロイと違いビームを使用するタイプであると判明しております」

 

椎名の答えを各軍参謀は、配布された資料の裏にメモす

る。

 

「装甲の硬さは?」

「今までの戦闘で厚さ30センチほどの装甲に対して近接信管の対空ミサイルで有効だったらしいので、AGM-210エクスカリバー巡航ミサイルのC型*2をが2,3発で撃破可能かと思われます」

 

空軍情報司令本部が分析した答えを椎名は述べた。すると防衛大臣はフムと顎を撫でて口を開いた。

 

「ならばエクスカリバー巡航ミサイルの攻撃を行ってネウロイの撃破をはかる方針でよいのでは?」

「はい。空軍でもエクスカリバー巡航ミサイルを搭載したB-3A爆撃機による空爆を検討しています」

 

空軍司令長官はすでに空軍司令本部が”山”の攻撃作戦を立案していることを述べた。統合国防参謀司令本部長官(以下元帥)が口を開く。

 

「ならばその方針で行こう。早速作戦を詰めてくれたまえ・・・・・。よいですね大臣」

「うむ。軍事は君らの方が詳しかろう。好きにやりたまえ」

 

基本的な作戦が決まったことでこの日の会議は終了した。

その後、空軍司令本部は作戦の詳細を決定し、政府に提出。作戦は認可された。

翌日には三沢基地からB-3A爆撃機とAGM-2101Cエクスカリバー巡航ミサイル34発が浜松基地から小松基地*3に進出した。

扶桑皇国に派遣されていた部隊にも、国防空軍が立案した”山”攻撃作戦――ジャッジメント作戦(審判作戦)と名付けられたそれの内容は知らされていた。正位置であれば再生の意味合いを持つタロットカード、「ジャッジメント」にちなんで名付けられたこの作戦は、成功すれば大陸にはびこるネウロイを一掃できると考えられていた。

 

――――――――――――――――――――

 

この日、扶桑皇国の皇都東京にある外務省庁舎には扶桑皇国陸海軍や政府の高官、扶桑皇国から国防軍扶桑派遣艦隊に送られているアドバイザーらの代表者3名、扶桑皇国に派遣されている国防陸海軍海兵隊の各部隊の指揮官、そして日本国統合国防参謀司令本部(JDCF)の連絡将校らが集まっていた。

 

「――以上がジャッジメント作戦の全容であります」

 

JDCFから来た中佐は、作戦の詳細を説明すると椅子に座る。

作戦は非常に簡単であった。まず第1空母打撃艦隊から発艦したF/A-3Bが誘導爆弾によって地上に駐機してある中型怪異を破壊する。続いて制空戦闘機部隊が浦塩上空の制空権を確保する。その後も制空戦闘機隊は、レーザー照射部隊及び巡航ミサイルの驚異となりうる小型怪異を適宜撃墜する。次にエクスカリバー巡航ミサイル6発を搭載したB-3A爆撃機が小松基地より発進し、扶桑皇国新潟上空で巡航ミサイルを発射する。発射された巡航ミサイルは慣性誘導によって浦塩近辺に到達。その後、第1空母打撃艦隊所属のE-2Fが電波指令誘導で浦塩に正確に誘導し、ミサイルのシーカーがコアの熱を探知し、”山”に突入しコアを破壊するというものだった。

GPSが使えない以上、誘導は巡航ミサイルの慣性航法装置に頼る他なかった。扶桑皇国と大陸の緯度経度が、前世界ほぼ変わらなかったのは幸運と言えた。しかし正確に誘導することは困難であるため、浦塩近辺に向けて発射し、E-2Fの誘導電波で浦塩まで誘導する。という作戦になったのだ

この作戦は扶桑皇国の協力も必要であるため、こうして扶桑皇国外務省に集まったのだ。

 

「この巡航みさいるというのは何なのだ?」

 

扶桑皇国陸軍参謀本部より会議に出席していた一人の参謀から質問が上がった。

 

「はい。非常に長射程を誇る誘導噴進弾です。今回の作戦で使用しますAGM-131Gエクスカリバー巡航ミサイルは、大型爆撃機から発射されるもので、射程2,500km、最高速度は時速12,400kmで目標に到達する巡航ミサイルです」

 

何ともなさそうに説明されたスペックに、扶桑皇国側の人間の顔が青くなる。射程2,500kmは、現時点で、扶桑が配備している爆撃機の航続距離に匹敵すものだった。速度だって、彼らの保有する最新鋭戦闘機の30倍近い速度だ。

そんな兵器を簡単に配備している日本の軍事力に恐怖したのだ。

 

「ばかな・・・・そんな兵器があるわけ・・・・」

「いやしかし・・・・あんな戦闘機を保有するくらいだ・・・・」

 

扶桑皇国の人間から思い思いの感想がでる。

 

「中佐。作戦が失敗した場合はどうするんだ?」

 

第2空母打撃艦隊司令からこんな質問が飛んできた。

作戦はすべてがうまくいくわけではない。うまくいく方が稀なのだ。であればこそ、現場指揮官は失敗した時を考えなければならないのだ。

 

「はい。作戦中は随時、RF-3が浦塩上空での観測を行います。作戦失敗時は観測結果から原因を追究し、対応策を練る予定です」

「なるほど。つまり何も考えとらんわけだな?」

 

第2空母打撃艦隊司令の言葉に、国防軍側の参加者らから笑いが起こる。

 

「はい。そういうことです」

 

中佐も苦笑いしながらそう答えた。

すると野崎が笑うのをやめ、真剣な顔で口を開いた。

 

「とはいえ、その作戦が現時点では最も成功率が高そうだね。失敗したとしてもリスクは少なかろう」

 

戦闘機隊やレーザー照射機に被害が出る可能性はあるものの、失敗したからといって扶桑が亡国になるわけではないのだ。やってみる価値はあった。

野崎はテーブルの向かいに座る、扶桑皇国の高官らをじっと見た。

扶桑皇国軍の将校らが苦々しい顔持ちをしているのがわかる。大方、日本に手柄を独占されるのが気に食わないのだろう。

 

「どうでしょう?私はやってみる価値はあると思いますが・・・・」

 

扶桑の高官らを少しにらめつけるようにして、野崎は意見を述べる。日中紛争を生き抜いた猛者の眼光に、扶桑皇国の高官らは耐えられなかった。

 

「わ、私もやってみる価値はあると思う」

「日本がやってくれるのだ。損はなかろう」

 

扶桑皇国の高官らからそんな意見が次々に上がる。先程苦々しい表情を浮かべていた将校らも賛成を表明する。

中佐はそんな彼らの様子を見ると、にっこりとする。

 

「ご理解ありがとうございます」

 

この日の会談の結果は、すぐさま日本国政府に伝わる。これによってジャッジメント作戦を行うことが決定した。

 

――――――――――――――――――――

 

「野崎教官!」

 

会議室から出たところ、先ほどの中佐が声をかけてきた。実は野崎は、中佐の士官候補生時代に、教官として江田島にいたことがあったのだ。つまり教え子なのだ。

野崎はかぶろうとしていた軍帽を再び脱ぐと、懐かしそうな目で中佐を見た。

 

「もう教官はよしてくれたまえ。あと5年もすれば退官だからね」

「いえ、教官ならば上級大将(海軍軍令部長官)にだってなれるかと。そうすれば退官は5年延びますでしょう?」

 

中佐の言葉に野崎は、大げさに嘆いて見せた。

 

「おいおい。こんなおいぼれにあと10年も働かせるつもりかね?」

 

野崎の言葉に2人は笑いあった。

しばらく笑い合うと中佐は野崎にささやくように聞いた。

 

「ところで教官。先ほどの扶桑皇国軍の参謀らの目・・・・どう思いました?」

 

中佐の問いに野崎も真剣な顔をした。そして顎に手を当てる仕草をする。

 

「あれは嫉妬だろうねぇ・・・・。挺身作戦時の話も聞かせてはもらったけど、自分の駒にすら嫉妬する連中だ。よそ者が庭先で好き勝手されてちやほやされていたら、我慢ならんだろうねぇ」

 

野崎の言葉に中佐は同意した。

 

「ええ。私もそのように思いました。奴ら何か隠しているように思えます。こちらでも探りは入れてみますが・・・・教官もお気を付けください」

「忠告痛み入るよ・・・・」

 

野崎は再び軍帽をかぶりなおすと、副官を連れて去っていった。

*1
海兵隊航空隊の母艦として扶桑海に進出していた

*2
対艦攻撃用の巡航ミサイル

*3
中国ロシアを牽制するために小松基地は大型機が使用可能なように改修した




今夜からストライクウィッチーズ第3期が始まりますね。皆様は録画の準備は済ませましたか?
明日もお楽しみに

次回 第18話 敗北

お楽しみに!


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第18話 敗北

第3期放送記念第2弾!


作戦決定の翌日。防空任務を海兵隊第82海兵戦闘航空団に委任した第1第2空母打撃艦隊は、扶桑皇国佐世保、舞鶴の2つの港で作戦に向けて、日本から派遣された補給艦隊から弾薬、食料、燃料などの補給を受けた。

それと同時に作戦の現場総指揮官を野崎とすることも決定した。

そして、日本国国防軍を扶桑に派遣してから1か月と3週間後、ジャッジメント作戦決定から1週間後の1939年2月5日。ついにジャッジメント作戦が決行された。

第1空母打撃艦隊は、自身の担当する区域の防空任務を第2空母打撃艦隊と第82海兵戦闘航空団に移譲すると、浦塩周辺の怪異空爆のために浦塩より南東500kmに進出した。

 

――――――――――――――――――――

 

まだ日の上らぬ早朝。「あかぎ」の飛行甲板にはミサイルと爆弾、機関砲弾と燃料を詰め込んだ戦闘機たちがひしめき合っていた。

甲板上を独特の作業服を着こんだ整備員が行ったり来たりしている。艦首側の2つと、左舷側の2つのカタパルトには両翼下に合計6発のMk.84を搭載し、両翼端とウェポンベイには6発のAAM-7と2発AIM-9Yサイドワインダーが取り付けられたF/A-3Bがセットされている。

後ろで待機しているF-35JCには両翼下、ウェポンベイには10発の31式短距離空対空誘導弾を装備してあった。

 

「・・・・いよいよだな・・・・」

 

艦橋から甲板を見下ろしつつ、野崎はそうつぶやいた。野崎は何とも言えない不安に襲われていた。根拠などなく、すべて勘であった。

しかし、その不安を外に出すわけにはいかない。艦隊司令というのは作戦が始まったらどっしり構えて、部下たちを安心させなければならない。自分自身が不安を見せてはいかないのだ。

発艦前の点検が終わったのであろう。カタパルトにセットされているF/A-3Bの周りから機付き整備員が離れていく。エンジンから出る炎が強くなるのを確認すると、野崎は軍帽を深くかぶりなおし、艦橋から出ていこうとする。その時、ゴォオオという轟音とともにF/A-3Bが大空に飛び出した。

野崎はそれをちらりと見ると、艦橋のドアを開けて出て行った。

野崎はそのままCDCに向かう。各種セキュリティーをクリアして中に入ると、すでに中ではアドバイザーのウィッチたち全員が集まっていた。今回はアドバイスではなく観戦をすることが目的であった。

野崎は彼女らに軽くお辞儀をすると、司令席に座った。

 

「・・・・いよいよですね。司令」

 

先ほど艦橋で自身がつぶやいたことと同じことを言う艦長に野崎は「そうだな」と短く返すにとどまった。普段に比べて口数が少なくなっているのは、不安が原因である。

同じように何も言えぬ不安を感じていた艦長は、野崎の心中を察すると特段何も言うことなくモニターを見た。

すでに戦闘機隊のF-35JCもすべて飛び立ち、編隊を組んで浦塩に向っていた。

 

――――――――――――――――――――

 

「全機、目標地点到達まで20分もない。気を引き締めていけ」

 

制空戦闘機隊の隊長としてF-35JC16機、F/A-3B4機を束ねる中佐は気を引き締める。戦闘機隊は高度9000mを飛行し、F/A-3Bは中型怪異への空爆を行うためにF-35JC隊より100kmほど先行している。

隊長はレーダーを確認する。E-2Fから提供されたレーダー情報とF-35自身のレーダーを統合した情報がモニターに映し出されている。見ているところ浦塩上空には怪異などの飛行物体の反応はなく、F/A-3Bは安全に空爆を行えるだろう。

 

BM(空爆部隊)ミッションスタート(作戦開始)ミッションスタート(作戦開始)ボーミングスタート(空爆を開始せよ)

 

ついにF/A-3Bが浦塩上空に到達したようだ。早期警戒機のミッションコマンダーが作戦開始を宣言する。

 

「ディスイズBMリーダー。コピー(了解)スタートボーミング(空爆を開始する)

 

F/A-3B編隊はウェポンセーフティーを解除し、爆撃針路をとる。各機のガンナーは機体に内蔵されている爆撃誘導装置を使って、地上に駐機する中型怪異たちにレーザーを照射する。

 

ボーミングスタンバイ(爆撃準備よし)

ドロップレディ(投下用意)・・・・・ナウッ(投下今)!!」

 

F/A-3Bからは各機6発、合計24発の2000lb誘導爆弾が投下された。20発は中型怪異のコアに向かって、4発は滑走路に向かって落ちていく。レーザーによって誘導された爆弾は、特に不具合を起こすことなく正確に命中した。

ドォオオンという轟音が、日の上りきらぬ早朝の浦塩に響き渡った。

 

チェックザリザウ(戦果を確認する)

 

上空15000mを待機していたRF-3偵察機のパイロットがそういうと、機体に装備された高性能カメラが起動し、高精度の映像が国防軍の各部隊の司令部や市ヶ谷に送られる。

煙が徐々に晴れてくると、中型怪異がいた場所には白い破片が散らばっているのがわかる。サーモグラフィーにも中型怪異のコアらしき熱源はなく、中型ネウロイの撃破が確認された。

 

ターゲットキル(目標撃破)

 

RF-3のパイロットからの報告を受けて、ミッションコマンダーが新しい指示を出す。

 

『BM。ミッションコンプリート(任務成功)。RTB』

「BMリード。コピー」

 

4機のF/A-3Bは旋回すると「あかぎ」に帰還する。

 

AAT(制空戦闘機隊)ラッシュエリア(目標空域に突入せよ)

 

ミッションコマンダーの指示を聞いて、F-35JC16機はアフターバーナーを使って浦塩上空に突入した。しかし、ここで変化が起きる。

 

「何故だ・・・・?小型怪異が出てこない・・・・」

 

この奇襲作戦に驚いて、”山”から分裂して迎撃に出てくると思われた小型怪異が一切出てこないのだ。レーダーだけでなく、目視でも確認するが小型怪異が出てくる様子は見られない。

 

「ディスイズAATリーダー(制空戦闘機隊隊長)。小型怪異が出てこない。繰り返す小型ネウロイが出てこない」

 

不要になったAAM-7を抱えた制空戦闘機隊は、浦塩南東40kmでむなしく旋回を繰り返していた。

 

――――――――――――――――――――

 

「小型怪異が出てこない・・・・・か」

 

野崎は顎を撫でながら考える。すると後ろから江藤が声をかけてきた。

 

「野崎司令。これは好都合なのでは?作戦は私も知っていますが、小型怪異が出てこなければ巡航みさいるが迎撃される可能性が下がりますし・・・・」

 

確かにそうだ。一見すれば好都合に思える。しかし、日中紛争を生き残った猛者の勘は警鐘を鳴らしていた。だが、直感で作戦を中止することは出来ない。

 

「作戦はこのまま続行だ。B-3には爆撃を開始するように指示を出せ」

 

野崎は最終的に作戦の続行を決定した。

 

――――――――――――――――――――

 

『アヴェンジャー03。ミッションスタート』

 

作戦続行が決定すると、小松基地で待機していたB-3A戦略爆撃機が離陸した。

最新鋭のエンジンとアビオニクスを装備したステルス戦略爆撃機で、F-35のエンジンを4つにして大きくしたような見た目をしている。巡航速度はM1で、上昇力と加速性能も非常に優秀な爆撃機であった。

この日、ウェポンベイには6発のAGM-210Cサジタリウス巡航ミサイルが搭載されていた。

その1機の爆撃機は、小松基地を発進すると巡航ミサイルの発射地点である扶桑皇国新潟に向かって飛んで行った。

この戦いが、日本の誇るB-3Aの初陣であった。

 

「ついにこいつも活躍できるな・・・・」

 

B-3Aの機長が、感慨深げにつぶやく。それに副操縦士も苦笑いで応じた。

 

「前世界じゃ、コストが高すぎて地域紛争にも参加しませんでしたからね」

「怪異とかいうやつも、サジタリウスでいちころでしょうね」

 

乗組員で最も若い爆撃手が自信ありげにそういう。機長は時間と現在の場所を計器で確認する。B-3AはF-35のような大型ディスプレイがあるだけのコックピットだが、万が一の電子障害の時にも飛行できるようにアナログ計器も設置されている。

 

「あと35分で目標地点だ。装備の確認しておけ」

 

機長の言葉に乗組員はおしゃべりをやめて、マニュアルを読みながら機体の点検を行う。

機長は点検を副操縦士に任せて、早期警戒機に無線を入れる。

 

「ディスイズアヴェンジャー03。目標地点まで35分!」

『アヴェンジャー03。ラジャー(了解)

 

B-3Aからの報告を受けた早期警戒機は、その情報を作戦中の全部隊に通達した。

 

――――――――――――――――――――

 

浦塩上空で巡航ミサイルによる攻撃を支援するために待機していた制空戦闘機隊は、いまだに変化のない”山”の監視を継続していた。

 

「小型怪異の出現の兆しはいまだナシか・・・・」

 

予想されていた戦闘が起こらず、F-35のパイロットたちは肩透かしを食らった気分であった。行き場をなくした31式短距離空対空誘導弾を抱えて、飛び回るのは退屈極まりないことであった。

平和なのはいいことであるが、パイロットたちは戦果に飢えていたのだ。

 

『B-3Aが目標地点に到達するまであと10分』

 

早期警戒機から通信が入った。爆撃機がいつ巡航ミサイルを発射しようと、小型怪異が出てこないようではF-35の仕事はないのだ。パイロットたちはいかにも退屈そうにその通信を聞いていた。

 

「このまま何事もなく、作戦が成功すればいいのだが・・・・・」

 

制空戦闘機隊の隊長は、ここまで何もないならば最後まで何もなく終わってほしいと思った。しかし30分後、その願いは裏切られることになる。

 

――――――――――――――――――――

 

5分後。ついに目標地点にB-3Aがたどり着いた。

 

「ディスイズアヴェンジャー03。ポジションアライバル(目標地点に到達)

 

B-3Aの機長が、目標地点に到達したことを早期警戒機に告げる。

 

「ラジャー。アタックスタート(攻撃を開始せよ)

 

ミッションコマンダーは事前の作戦通りに攻撃開始を命令した。B-3Aの爆弾倉がゆっくりと開き、AGM-210Cサジタリウス巡航ミサイルが顔をのぞかせる。

 

「発射用意・・・・発射!!」

 

爆撃手が投下ボタンを押し、爆弾倉から次々とミサイルが放り出される。その数秒後にラムジェットエンジンに火がともり、M10の速度で飛んでいく。

 

「ミサイルが誘導開始ラインに到達。誘導開始」

 

サジタリウス巡航ミサイルが浦塩まで300kmまで近づくと、E-2Fからの誘導が始まった。GPSがないことでずれていた針路が修正され、浦塩にまっすぐ飛んでいく。

そしてついに巡航ミサイルが浦塩上空にたどり着いた。そこで誘導電波がカットされ、サジタリウスの赤外線画像シーカーが起動する。

事前にインプットされていたデータを元に、シーカーが怪異のコアを探知する。そして6発のミサイルはネウロイのコアに突入する。

 

ドォォォンドォォォンドォォォンドォォォンドォォォンドォォォン

 

36発のミサイルが次々に着弾し、四角推型の”山”のてっぺんが爆炎につつまれる。高性能爆薬の爆発はR-3Aがしっかりと観測していた。その映像は各部隊司令部に送られる。

 

「よし!!」

 

各部隊司令部や防衛省では、作戦の成功を確信して歓声が上がる。

しかし、「あかぎ」CDCでは違和感を覚えた人間がいた。

 

「おかしい・・・・」

「コアが破壊されたなら、なぜ破片にならないんだ?」

 

第1空母打撃艦隊司令の野崎とアドバイザーのウィッチらであった。作戦がうまくいっていたならば、今頃”山”は白い破片となってしかるべきであった。しかし、映像では”山”は破片になっておらず、崩れ落ちる様子も見られなかった。

じっと映像を見つめていると、コア周辺を包んでいた煙が徐々に晴れていく。それと同時に、歓喜の声が徐々に収まっていった。

 

「う、嘘だろ・・・・」

「極超音速巡航ミサイル6発が着弾したんだぞ!そんな馬鹿な・・・・」

 

巡航ミサイルの着弾前と同じように鎮座する超大型ネウロイの姿が、そこにあった。

パイロットたちやその映像を見ていた全員が、言葉を失い、”山”を凝視していると天辺が赤く光り始めた。

 

「ッ!!よけろ!!」

 

それはビーム攻撃の予兆であった。無人偵察機が撃墜されたときの映像を見たことのあった野崎は、届くはずもない声を上げる。

その瞬間、赤いビームが空にはしる。

パイロットたちもビーム攻撃については、事前のブリーフィングで教えられていたため、回避行動を取る。幸い、ビームは当たらずに済んだものの、海面に当たった太い光線が水蒸気爆発を起こさせ、数メートルの高さの水柱が上がる光景にパイロットたちは恐怖した。

何はともあれ、作戦の要であるエクスカリバー巡航ミサイルでの攻撃が失敗した以上、作戦は中断せざる負えない。

 

オールフレンドリー(全友軍機へ)ミッションキャンセル(作戦中止)ミッションキャンセル(作戦中止)リターントゥベース(帰還せよ)

 

早期警戒機のミッションコマンダーが作戦中止を告げた。

この作戦は日本がこの世界に来て初めて体験した”敗北”となった。




いやぁ。ついに3期が始まりましたね!私も見ましたよ!このあとどうなってくるのか・・・・非常に楽しみです!

次回 第19話 作戦後


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第19話 作戦後

失敬。投稿時間を間違えていました。
ストパン放送記念第3弾


”日本が敗北した”

この知らせは、扶桑皇国内を駆け巡った。今まで怪異に対し、無敵とも思える強さを誇っていた日本国防軍の敗北は、扶桑皇国民に絶望を与えた。

それは、国防軍上層部も同じであった。自身の誇る最新鋭の超音速ステルス巡航ミサイルが全く効かないという事実は、国防軍にに衝撃を与えたのだ。今回の作戦失敗を受けて防衛省では作戦評価会議が開かれていた。

出席者は全員、前の作戦会議時と同じ人間であった。

 

「まず、椎名中佐。説明を」

「はい」

 

椎名は立ち上がると、R-3Aが撮影した作戦記録をモニターに映し出した。

 

「まずは作戦時の記録をご覧ください」

 

1時間以上にわたるビデオの内容は、作戦当日にもリアルタイムで見ていたものだった。しかし、参謀らがビデオを見る目は真剣そのものであった。

ビデオを見終わったあと、椎名が説明を始めた。

 

「作戦の全容はご覧のとおりであります」

 

ビデオから切り取った画像が映し出された。

 

「まず作戦の第1段階である中型怪異の地上撃破は成功いたしました。これにより、大陸の中型怪異は一掃することができたと思われます」

「ああ、完全な奇襲が成功していた。完璧だった」

 

空軍司令長官は、うんうんと頷き同意を示す。ほかの参加者も同じような反応であった。

 

「第2段階の制空権の確保ですが、小型怪異が出現しなかったためにあっさりと制空権を確保できました。問題は第3段階の巡航ミサイル攻撃でした」

 

すると再び映像が映し出される。それは”山”に巡航ミサイルが命中する瞬間であった。6回の爆発が立て続けに起こり、”山”の頂上が爆炎につつまれる。作戦時にリアルタイムで彼らが見ていた映像であった。

 

「このように巡航ミサイルの発射、命中までは成功でした。しかし・・・・・」

 

命中した後の映像が映し出され、巡航ミサイルの着弾点付近が拡大される。そこには6発もの巡航ミサイルが命中しつつも、傷一つつかない”山”の表面装甲が映し出されていた。

 

「”山”は巡航ミサイル6発の命中を完全に防ぎきりました」

 

空軍司令長官は苦々しい顔持ちをする。

 

「今までの怪異の装甲の強度から推定していたが・・・・どうやらこいつの装甲強度は格段に高いということか・・・・」

「その通りです。威力偵察の一つも行わなかった我々のおごりの結果としか言えません」

 

椎名も悔しそうな顔を浮かべる。”山”の情報収集・情報分析は彼らの仕事であった。ろくな偵察も行わず、推定だけで作戦立案にかかわってしまった自分を悔いているのだ。

 

「装甲の強度は?」

「へこみもひび割れも見えないですから、厚さ20センチのVH鋼板以上の強度があるかと・・・・」

 

海軍軍令部司令長官は腕を組み、非常に厳しい表情をした。

 

「それだけの装甲に有効な兵器など、我が国には5つしかない。地中貫通爆弾、レールガン、APHE弾頭の空対地ミサイル、極超音速滑空体・・・・そして・・・・」

 

海軍司令長官は、次の言葉を言うのをためらった。そして厳しい表情を、一層深くさせると口を開いた。

 

「核兵器か・・・・・だ」

 

なんとなく察してはいたものの、実際に言葉にされると会議室の空気が凍り付いた。唯一の被爆国が、違う世界で初の核兵器使用国になる。何という皮肉であろうか。

陸軍の参謀が首を横に振りながら反論する。

 

「しかし、浦塩で核兵器を使えば放射能汚染物質が扶桑に流れ着く可能性があります。核兵器の使用は控えるべきです」

「いや。原爆症への治療は、ある程度できる。いま”山”を撃滅せねば、扶桑は滅亡する。うまくいけば少量の被爆で済むだろう。ここは核兵器を使用するべきだ」

 

違う陸軍参謀が核兵器の使用を検討すべきという意見を述べた。海軍司令長官はさらにつづける。

 

「そもそもレールガンもどこまで有効かわからない・・・・ならば日本の保有する()()()()を使用すべきだ・・・・」

「「「「ッ!!!!」」」」

 

会議室にいた全員が海軍司令長官の方を向く。「日本が保有する最大火力を使用する」とはつまり、遠回しに水素爆弾の使用を検討すべきだということだった。陸軍参謀本部司令長官は、声を震わせながら恐る恐る聞いた。

 

「それは・・・・水爆を使用する・・・・ということか?」

 

陸軍司令長官の問いに、海軍司令長官は多く語らずこくりと頷くにとどまった。これには反発の声が強まった。

 

「水爆を使うなんて・・・・どれほどの悪影響があるか、海軍司令長官は認識しているのか!?」

「そうだ!戦術核ですら危険なのに・・・・戦略核なんて・・・・絶対に反対だ」

 

しかし、海軍司令長官の言葉にも一理あるため、賛成の意見も上がった。

 

「いや。司令長官のおっしゃる通りだ!水爆を使用し、”山”を撃滅すべきだ!!」

「どれだけの強度があるかわからんのだ!最初から全力でかからなければならないだろう!」

 

この日の作戦評価会議は、次の”山”を攻撃に関する作戦を話し合う会議に変わり核兵器使用派と核兵器不使用派の2派閥にわかれて議論が行われたが、結論が出ることはなく、次なる”山”攻撃作戦の会議に結論は持ち越されることとなった。

 

――――――――――――――――――――

 

一方、日本国防軍と扶桑皇国民が暗い雰囲気でいる中。作戦の失敗に笑う者たちもいた。

 

「日本は無様にも”山”に敗退したようですな」

 

扶桑皇国赤坂にある政府高官行きつけの料亭では、扶桑皇国海軍の高級将校らが集まっていた。

中将の階級章を付けた男が、日本の作戦失敗を笑う。するとこないだの日本との打ち合わせに参加していた参謀将校が、アルコールによって赤く染めた顔をにやつかせる。

 

「あれだけの大口をたたいておきながら・・・・いやはや、挺身作戦時のウィッチといい、まったく無様ですな。堀井大将」

 

堀井と呼ばれた着物姿の男は、酒を飲みながらニヤリと笑う。

 

「ああ、まったくだ。なんでも日本は高級将校にも女を入れてるそうじゃないか。女に軍事を任せているからそういうことになるのだ」

 

堀井は、挺身作戦時に海軍軍令部総長であった男で、ウィッチ部隊が提唱した作戦に最後まで反対し、勝手な命令まで出して作戦失敗の原因を作った人物であった。その後、作戦失敗の責任を取らされて、表向きは体調不良という理由で予備役になったのだ。しかし、彼のシンパはいまだに海軍内に多くおり、彼自身もいまだに復活を狙っていた。

その時、女性の声が聞こえてくる。

 

「お料理をお持ちしました」

 

どうやら仲居らしい。堀井は仲居に中に入るように言う。すると何人かの仲居がご馳走をもって入ってきた。手際よくご馳走が並べられていく中、幾人かの仲居の顔に見覚えがないことに堀井が気付いた。

顔なじみの仲居に声をかける。

 

「おい!見覚えのない仲居がいるようだが?」

「はい。一か月前より新しく何人か仲居が入りまして。研修も一通り終わりましたので、こちらに・・・・」

 

顔なじみの仲居がそういうと堀井は納得したようで、特段気にすることはなくなった。

 

「しかし、()()()()のことを日本に伝えてもよかったのでは?」

 

アルコールが回って口が軽くなっているらしい。仲居がいまだにいるのにもかかわらず、ある参謀は少し大きな声を出す。

 

「いや。念には念を入れたほうがよかろう。結果的に日本は無様をさらしたんだからよかろう」

「それもそうだな」

 

ガハハと彼らは上機嫌で笑う。堀井も笑い声こそ出していないもののニヤリといやらしい笑みを浮かべる。

 

「どちらにせよ。現在建造中の46センチ砲戦艦ができ上れば、”山”など簡単に叩き潰せるだろう」

「紀伊型の41センチ砲でも、日本とは違って傷を負わせることは出来たんだ!46センチ砲があれば怖いものなんてない!」

 

いよいよ大きな声を出し始めた彼らを、堀井はたしなめた。

 

「そこらへんにしておけ・・・・。だれが盗み聞きしてるかわからんぞ?」

 

そういう堀井自身も盗み聞きされているとは考えていないようであった。そのうち一通り配膳し終えた仲居達が、部屋を退出していく。

彼らの笑い声が響き渡る。この日の彼らの会合は深夜まで続き、お開きとなった。

 

――――――――――――――――――――

 

作戦会議と堀井たちの会談の翌日。在扶日本大使館に派遣されている陸軍駐在武官が大使館の休館日を利用して東京を散歩していた。

レトロな街並みを堪能した駐在武官は、ある公園のベンチに座って休憩していた。すると公園の入り口に一台の黒塗りの自動車が止まった。駐在武官は特に気にしないでいると、車から降りてきた黒スーツ姿の男が彼の前にやってくる。

 

「日本の駐在武官の方ですね?」

「そうですが・・・・なにか?」

 

駐在武官は、少し怪しがりながらも質問に答える。

 

「少々お付き合いいただけますか?」

 

黒スーツの男の表情をうかがおうとするが、黒メガネをかけていてよくわからない。怪しいことこの上ないが、駐在武官は黒スーツの男についていくことにした。何か信用に足る根拠があるわけではないが、自分の直感を信じることにした。

 

「いいでしょう」

 

駐在武官は立ち上がると黒スーツの男に従って自動車に乗った。2人を乗せた自動車は郊外に向かって走り始めた。

扶桑の東京は、中心部こそビルが立ち並んで栄えているものの、郊外に出れば木造の住宅や小さな商店など下町らしい町並みが広がっていた。

駐在武官が変わりゆく街並みを眺めていると目的地についたようだった。車が止まり、助手席に座っていた黒スーツの男が振り返る。

 

「着きました」

 

駐在武官は扉を開けて外に出る。日本の自動車よりサスペンションの性能が悪いため、駐在武官は尻が痛くなっていた。

駐在武官の目の前には、庭付き二階建ての立派な豪邸がたっていた。

 

「はぁ・・・・立派なお宅ですね・・・・」

「こちらへ・・・・」

 

黒スーツの男の案内で敷地に足を踏み入れる。そのまま家に上がると応接室らしき部屋に通される。高価そうな調度品が並んでいた。それを鑑賞していると、ギィイという音がしてドアが開いた。

ハッとして駐在武官はドアの方を向いた。

そこには車いすに座った老紳士風の男性がいた。車いすが押されて老紳士風の男性が中に入ってくる。

男性は着物姿ではあったが、彼の目と態度を見て自分と同族であると確信した。彼はピシッと背筋を伸ばす。

 

「お初にお目にかかります。竹井というものです。このような姿で申し訳ない」

「いえ、お構いなく。・・・・ところで竹井さんは退役軍人でいらっしゃいますか?」

 

どうやらあたっていたようだ。竹井は一瞬驚いたように目を見開き、フッと微笑んだ。

 

「よくわかりましたね。その通りです」

「軍人というのは独特の気風があるものですから・・・・ところで、なぜ私は呼ばれたのでしょう?」

 

ここに呼ばれてから、駐在武官が最も気になっていたことを質問をした。竹井は一瞬厳しい顔を浮かべると、ソファーの方をさした。

 

「まぁ、ともかくそちらへ・・・・」

 

竹井の勧めで、駐在武官がソファーに座る。竹井も車椅子を駐在武官の反対側に持ってくる。

 

「今日、ここに来ていただいたのはほかでもありません。あることをお伝えするためです・・・・」

「あること・・・・?」

 

駐在武官は思わずそう聞き返した。竹井は重々しく頷くと口を開いた。

 

「先日、日本が”山”への攻撃作戦を行ったと伺いました」

「はい。結果も当然?」

 

再び竹井はうなずく。扶桑の新聞でも、今回の作戦失敗は大々的に報道されていた。

作戦の実施については、日本国内でも報道されていなかったので、扶桑の各新聞社がどこから情報を得ているのか日本政府は不思議であった。おそらく扶桑政府のどこからからだろうが、それがどこなのかは日本の情報機関を持ってしても把握できていなかった。

しかし、今回の作戦失敗と自分が呼び出された理由の関係性が駐在武官には理解できなかった。

 

「ですが、それとここに私が呼ばれたことにどんな関わりが?」

「実は”山”への攻撃作戦が行われたのは、これで3度目なのです」

 

1度目は挺身作戦ということはすぐにわかった。しかし、2度目は彼も聞いたことがなかった。それどころか日本政府の誰もが知らないだろう。

 

「3度目・・・・ですか?」

「はい・・・・挺身作戦から一か月たった時でした――」

 

竹井の口から聞かされたことに駐在武官は目を丸くした。

彼は大使館に帰ると、その日に聞いたことをすぐにレポートにまとめ、そのレポートを日本政府に送った。

このレポートがこの戦争の行方を左右することとなった。




申し訳ありません。投稿時間を間違えていました。どうかご容赦を。


次回 第20話 第一歩


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第20話 第一歩

ストパン第3期放送記念第4弾


「このレポートは・・・・本当なのか?」

 

この日、在扶日本大使館から送られてきたレポートは日本政府に衝撃と怒りをもたらした。

国家安全保障会議が開かれ、出席者全員がレポートを読んでいた。そのレポートには驚くべきことが書かれていた。

 

「この”山”攻撃作戦が()()()2()()()()()()()()というのは事実なのか・・・・?」

 

石田の声は震えており、かなり怒っていることがわかる。基本、温厚な石田が声を震わせていることで、彼がどれほど怒っているのか分かる。

石田の言葉に国家戦略情報庁長官が頷いた。

 

「はい。扶桑に潜伏中の諜報員からも、この作戦を肯定するような報告が上がっています」

 

転移してから、国家戦略情報庁は遊んでいたわけではなかった。

転移から1週間後、海外にいた邦人や諜報員が日本各地に現る、ということがあった。彼らが現れたことに国家戦略情報庁は驚き、戸惑った。しかし、優秀な諜報員が戻ってきたことは幸運に違いなかった。諜報員は再配置され、扶桑には多くの諜報員が送り込まれたのである。

政府高官の御用達料亭である、あの赤坂の料亭にも日本の諜報員は紛れ込んでいた。地方の農村の貧しい農家の娘で、金に困って売られたというストーリーのもとでだ。

他にも様々なストーリーのもとで諜報員が扶桑皇国に送り込まれていた。

 

「我が国もなめられたものだ・・・・・」

 

官房長官も怒り心頭といった感じでレポートをテーブルの上に放り出す。このレポートが書かれた理由は、会議から2日前にさかのぼる。

 

――――――――――――――――――――

 

「挺身作戦から一か月後。海軍は独自に紀伊型戦艦4隻を基軸とする艦隊をもって”山”を撃破する作戦を立案・実行しました」

 

すると駐在武官は信じられなさそうに首を横に振る。

 

「そんな話・・・・聞いたことも・・・・」

 

竹井は、そんな駐在武官の反応に「無理もない」という表情をした。

 

「ええ。海軍が勝手にやったことですから・・・・挙句に失敗したとなれば、誰にも言わんでしょう」

「なるほど・・・・」

 

竹井は車いすを窓際まで移動させると、外に広がる美しい庭園を眺めながら語り始めた。

 

「当時の軍令部総長であった堀井は挺身作戦時の失態を取り返そうと躍起でした」

 

――――――――――――――――――――

 

1938年9月29日。この日、扶桑皇国海軍舞鶴鎮守府と佐世保鎮守府から扶桑皇国の誇る最新鋭戦艦「紀伊」「尾張」「駿河」「近江」の4隻を中核とする、駆逐艦16隻、軽巡洋艦8隻、重巡洋艦4隻の大艦隊が出港した。

彼らの目的は浦塩にこもる”山”の撃破であった。合計32隻もの大艦隊が浦塩から10kmまで接近。紀伊型戦艦4隻の砲撃をもって、怪異のコアを破壊・撃破せしめんとする作戦であった。

空を飛んでいれば砲撃を当てることは容易ではないが、地上で鎮座する目標に対して砲撃を当てることは比較的容易であった。

彼らは浦塩南600kmで合流すると、浦塩に向かった。

 

「化け物め!この41センチ砲に勝てると思うなよ・・・・」

 

この艦隊を指揮する中将は、まだ見ぬ敵に対して闘志を燃やしていた。「紀伊」艦長はそんな中将を尻目に、電探室に艦内電話をかける。

 

「電探室。何か異常はないか?」

『ありません。本艦隊に接近する目標は確認できません』

「そうか・・・・引き続き頼む・・・・」

 

艦長は艦内電話機から手を離すと、首からかけた双眼鏡を使って外を見る。大海原には彼ら以外におらず、波も非常に穏やかであった。

 

「あと4時間もすれば浦塩か・・・・」

 

双眼鏡から目を離し、艦長は腕時計を見ながらそう言った。

艦長はこの作戦には反対であった。何せウィッチの援護が必要最低限なのだ。おそらくウィッチ隊への対抗心だろうが、怪異との戦いにおいてウィッチ隊が少ないということは致命的であった。

 

「うまくいくといいが・・・・」

 

艦隊は波を切り裂きながら、ゆっくりとそして確実に浦塩に近づいていた。4時間後、徐々に浦塩が見えてきた。戦前は大陸の窓口として栄えた浦塩市街地は確実に破壊され、その上には”山”がわがもの顔で鎮座している。

 

「なめよって・・・・。艦隊単縦陣!奴を確実に仕留める!」

 

艦隊司令は双眼鏡を使って”山”を確認するとすぐさま指示を出した。彼の指示は発光信号や電信を使って、全艦に送信された。すぐさま単縦陣に移行するための行動に移った。鮮やかに陣形をくみ上げていく彼らの動きは芸術的ですらあった。ここに扶桑皇国海軍の練度の高さがうかがえれるであろう。

そして艦隊が浦塩まで10kmという至近距離まで近づく。

 

「艦隊90点回頭!敵に腹を見せる!」

 

各艦の操舵手が舵を切る。きれいな単縦陣を組んだまま、見事回頭に成功する。司令は電探室に確認を入れる。

 

「電探室!敵の反応は!?」

『ありません!』

 

事前の作戦では、小型怪異や中型怪異が出てきて迎撃にやってくると思われていたが、目視確認でもレーダーでの確認でも小型怪異や中型怪異が飛んでいないのが確認されていた。迎撃戦闘を想定していた彼らは肩透かしを食らった気分であった。

 

「好都合だ!主砲、全門を怪異に向けろ!」

 

艦隊司令の指示を受けて、紀伊、尾張、駿河、近江の合計20基、40門の41センチ砲が怪異の方に指向する。

砲術長は砲の仰角、方位を計算しそれを伝える。各砲の砲手が指示された通りに砲を動かす。

 

「仰角、方位よし!!」

「主砲発砲準備!!」

 

砲術長からの報告を受けて艦長は主砲発砲準備の警報を出す。ビーという警報音がして、乗組員たちは主砲発砲を悟る。発砲音に鼓膜がやられないように、耳をふさぎ、口を開ける。

 

「てぇえええ!!」

 

ドォオオン

 

41センチ砲のあまりにも大きな発砲音と衝撃波は海面を揺らす。放たれた41センチ徹甲榴弾は”山”に向かって飛んでいく。

結果。”山”への直撃弾は20発。うちコア近辺に着弾したのは2発であった。ほか20発は”山”を外れて浦塩市街地に着弾する。

 

「どうだ!?」

 

徐々に煙が晴れていく。

 

「ッ!」

 

着弾点の装甲は大きくえぐれてはいるものの。コアに届くことはなかった。しかしこれは好機であった。再び同じ地点に命中させれば、”山”のコアを確実に破壊できる。

 

「第2射よぉーい!」

 

すでに次弾は装填され、諸元も修正されている。先ほどよりは命中率が良いはずだ。

艦長が双眼鏡を使って”山”を見るが、すでに再生が始まっており、穴は徐々に閉じていく。時間がないと判断した艦長はすぐさま第2射の指示を出した。

 

「てぇええ!」

 

再び海面が揺れ、41センチ砲弾が放たれる。

しかし、どれもが外れるか、先程の着弾点の近くに当たっただけで、致命傷とはならなかった。

第3射の用意をしているうちに、怪異の再生は完全に終わった。その代わりに天辺が赤く光り始めた。

 

「なんだ・・・・?」

 

彼らは突如起こった”山”の異変に釘付けとなった。次の瞬間。赤い光線が放たれ、重巡洋艦が水柱に包まれる。

 

「な、何という威力だ・・・・」

「重巡が一発で大破とは・・・・」

 

ボロボロになった重巡洋艦を見て、彼らは悔しげな顔をする。

 

「仇を取るぞ!第3射・・・・うてぇえええ!!!」

 

3度目の砲撃が行なわれる。しかし、4隻の戦艦が発砲炎で包まれると、怪異は見当違いの方向にビームを放つ。

 

「なんだ?」

 

全く意図がわからない中、”山”が再び爆炎につつまれる。今度はコアの周辺でも沢山の爆発が起こった。

しかし、煙が晴れると、今度は傷一つない”山”の姿がそこにあった。

 

「ば・・・・馬鹿な!!命中弾は多数出ていたはずだ!!」

「なぜ、先ほどは有効打を与えられたのに今回は傷一つないんだ」

 

艦橋が驚愕につつまれる中、”山”のビームが「紀伊」前方を航行していた駆逐艦に当たる。攻撃された駆逐艦は赤い火柱をあげると、船体の中ほどが折れて轟沈する。お返しといわんばかりに重巡洋艦が砲撃する。

しかし、再び怪異がビームを放つ。すると、”山”のだいぶ前で、放たれた砲弾がビームに当たり爆発する。

 

「まさか!?核に近づくであろう砲弾を光線で破壊しているのか!?」

「そうか。核への命中針路上に光線を放ち、砲弾が命中しないようにしているのか・・・・」

 

艦橋にいた面々が考察を述べる。そうこうしているうちに、また1隻の駆逐艦が沈められた。

 

「くそっ!攻撃を続けろ!!とにかく手数で押し切るぞ!」

 

艦隊司令は悪態をつきつつもそういった。

それ以外の解決手段は見つからない以上、艦隊司令の言うことに従う以外なかった。

その後も、扶桑皇国艦隊は”山”への攻撃を続けるも、一向に有効打を与えることはできなかった。逆に扶桑艦隊は駆逐艦3隻、重巡洋艦1隻が轟沈。重巡洋艦1隻、軽巡洋艦2隻が大破、軽巡洋艦3隻、駆逐艦5隻「尾張」「駿河」が中破。駆逐艦1隻、重巡洋艦2隻、「紀伊」が小破という大損害を被り、”山”攻撃作戦は扶桑海軍の敗北という形で終わった。

――――――――――――――――――――

 

「そんなことが・・・・」

 

駐在武官は初めて聞く話に驚いた。

 

「その後、作戦を立案した堀井は、これらの作戦で出た損害を近海哨戒中にネウロイに襲撃されたものだとして隠蔽しました。作戦に参加した全員には箝口令が敷かれ、徹底的に隠蔽したのです」

 

竹井は恥じ入るように、体を震わせながら語った。

 

「タダでさえ挺身作戦の責任があったのです。この作戦が表に出れば堀井の軍法会議は免れなかったでしょう」

 

竹井はここで言葉をいったん区切る。

 

「私もこの作戦のことは風のうわさで聞きました。海軍内にいる昔の部下に調べさせて、ようやく噂が真実であると確認できました」

「何故・・・なぜあなたは私にこのことを・・・・?」

 

駐在武官はずっと気になっていたことを竹井に尋ねる。駐在武官の問いに竹井はキョトンとする。そして優しく微笑んだ。

 

「我が国を救おうとしてくださっているのです。協力するのは当たり前でしょう?」

 

駐在武官はじっと竹井を見るが、その言葉に裏はなさそうであった。

 

「情報提供感謝いたします。早速、本国に伝えましょう」

「・・・・駐在武官殿!」

 

駐在武官がお辞儀をして部屋を出ようとすると、竹井がそれを呼び止めた。くるりと駐在武官は振り返る。

 

「なんでしょうか?」

「どうか・・・・どうかこの国を、救ってくだされ」

 

駐在武官はこくりと頷く。

 

「微力ですが・・・・善処いたします。それでは」

 

駐在武官は見事なお辞儀をすると、今度こそ部屋から出て行った。

その日の夜。大使館に戻った駐在武官はレポートを書き上げると、それを本国に送った。

 

――――――――――――――――――――

 

「このレポート通りなら、扶桑海軍は重大な情報を隠匿し我々に不利益を被らせたことになる」

 

防衛大臣も不機嫌そうにレポートを放り投げる。外務大臣は石田の方を向くと、興奮したようにこういった。

 

「すぐにでも扶桑皇国に抗議すべきです」

「いや、おおっぴらに抗議したら情報提供をしてくれた竹井という退役軍人の立場が悪くなる・・・・」

 

官房長官が外務大臣をたしなめた。

外国に情報を流すという事は、非常に危険なことだ。下手をすれば逮捕されるし、下手をしなくとも信用をなくすことは間違いない。

恩を仇で返すような真似をしたくはない、というのが彼らの気持ちであった。

国益となるのであれば、彼らは恩を仇で返すこともする。しかし、国益にもならないのにそれを行うことは、信用を失い長期的な利益を損なうことを日本政府上層部は知っていたのだ。

 

「いまは秘匿し、この戦いが終わったあとにどうするか考えるべきだ」

「そうですね」

 

外務大臣も幾分か冷静になったようであった。

石田も気持ちを落ち着かせると、防衛大臣の後ろに控えていた国防軍の制服組トップであるJDCF司令長官*1の方を向く。

 

「統合司令長官。こないだの会議の内容は知っている。核兵器の使用という意見も出たそうだね」

「はい。結論は出ませんでしたが」

 

統合司令長官は石田の言葉に、短く肯定を示す。そんな統合司令長官に石田はレポートを指し示した。

 

「このレポートを国防軍でも検証してくれ。次の作戦に活かせるかもしれない」

「分かりました。至急、統合参謀部*2に持ち帰って検証します」

 

統合司令長官は早速、後ろの副官に言ってレポートをかばんに入れる。

 

「次の作戦においては、閣僚諸君は見物人にはなるな。国防軍をできる限り助けろ。人事を尽くせ、そして天命を待とう。いいな?」

 

石田の言葉に閣僚たちは頷いた。

ついに、この戦争を終わらせる第一歩が踏み出された。

*1
統合司令長官とも言われる

*2
統合国防参謀司令本部の略称




次回 第21話 光


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第21話 光

ストパン放送記念第5弾!!


国家安全保障会議が開かれた5日後。防衛省では作戦会議が開かれていた。

国家安全保障会議で議題に上がったレポートについて検証し、次なる作戦を立てるために会議が開かれたのだ。

 

「・・・・はぁ。恩を仇で返すとはこのことですな・・・・」

 

陸軍司令長官がため息をついてレポートをテーブルに放り出す。もはや怒りを通り過ぎて呆れの感情をあらわにしていた。ほかの出席者たちも同じような反応をしていた。

もともと助けを求めてきたのは彼らの方であった。それなのに助けるのに必要な情報を隠していたのだ。呆れるほかないだろう。

 

「まったくだ。助けてほしいと泣きついてきたのはあちらだろうに」

 

海兵隊のトップである海兵隊司令長官も不機嫌そうにしながら、陸軍司令長官の言葉に賛同した。彼らからすれば、己のメンツばかり気にするような連中のために部下の命を危険にさらすことは、非常に馬鹿らしいことこの上ないのだ。

 

「まぁ・・・・しかし、こんな大ごとを見抜けない扶桑政府も不甲斐ないな」

「今までの努力と戦費を返してほしい。わが軍の兵器は金がかかるというのに・・・・」

 

会議室は「扶桑を助けることが馬鹿らしい」という雰囲気になっていた。すると統合司令長官が彼らをたしなめる。

 

「まぁまぁ。扶桑皇国に住む民間人らに罪はないんだ。奴さんらにはあとで何かするとしても、今は”山”をどうするかを考えよう」

「そうですな・・・・」

 

彼らはいつまでも駄々をこねる子供ではないのだ。気持ちを切り替えて”山”をどうするかの作戦を練り始めた。

 

「まずは、このレポートを分析した結果を聞こうか?」

「はい」

 

統合司令長官がそういうと、JDCFの統合情報総監部*1の参謀が立ち上がる。彼はモニターの前まで行くと説明を始める。

 

「統合情報総監部の川西であります。では本レポートの検証の結果、判明したことをご報告させていただきます」

 

海軍大佐の階級章を付けた川西は、短く自己紹介をすると説明を始めた。

 

「まず、”山”の装甲の強度であります。これまでの作戦の結果、装甲の強度の、推定される下限は判明しておりましたが上限は未知数でありました」

 

ここで言った言葉を区切ると、レポートを手に取る。

 

「しかし、このレポートを検証した結果、レールガンでも十分に貫通可能であることが判明しました」

 

核兵器を使わなくても対抗可能であるというのは、彼らにとってうれしい知らせだった。心なしか海軍上級大将の顔もうれしそうに見える。彼も本心では核兵器など使いたくはないのだ。

 

「それを踏まえた、ここからの作戦方針ですが作戦部の宮古中佐に引き継がせていただきます」

 

そう言って川西はお辞儀をすると、代わりに国防陸軍の軍服を身にまとった女性が出てきた。

 

「これからの作戦方針を説明させていただきます。宮古です」

 

宮古がそう言うとモニターに、国防海軍の誇るイージス巡洋艦「あがの」型の写真とその主砲の写真が映し出された。

 

「まず、今回の作戦には「あがの」型ミサイル巡洋艦の搭載する8インチ電磁速射砲を使用します」

「地中貫通爆弾や貫徹弾頭の空対地ミサイルではだめなのか・・・・?」

 

防衛大臣は宮古に質問する。その質問は予想できていたらしく、慌てることなくモニターの動画を、”山”偵察時の写真に変えて説明を続ける。

 

「確かに水平面があるなら地中貫通爆弾でも対処可能でしょう。しかし、”山”は約45度の角度がついた四角錐の形状をしているので水平面はなく、周りは分厚い装甲に囲まれております」

 

またもやモニターの映像が代わる。今度はどうやらシミュレーション映像のようであった。斜めに傾いた分厚い板のようなものと、爆弾のようなものが写っている。

 

「これは?」

「現在、推定される装甲強度をコンピューターに入力し、BLU-109が命中した状況をシミュレーションした映像になります」

 

そう言うと宮古は動画を再生する。すると動画内のBLU-109と思わしき爆弾が落下を始める。

スローモーションらしく爆弾の落下はとても遅い。それでも確実に板に落ちていく爆弾。ついに板とあたり、そのまま板にめり込むと思いきや、そうはならなかった。

爆弾は滑るように方向が変わり、そのまま板の上を滑る。

そこで動画は終わった。

 

「やはり、そうなるか」

 

ある程度、予想はできていた空軍司令長官はそうつぶやく。ほかの参謀らも予想できていたらしい、みんな空軍司令長官と同じような反応だ。

 

「このシミュレーションでもわかりますように、地中貫通爆弾の場合は傾斜した装甲に刺さらずに滑ってしまいます。空対地ミサイルも同様です。ですので、傾斜装甲も無効化できるレールガンを使用するしかないと考えました」

「なるほど・・・・」

 

映像を交えて説明したことで、防衛大臣もレールガンを使用する理由が理解できたらしい。

 

「では具体的な作戦は?立ててあるのか?」

「はい。すでに統合作戦総監部では、海軍作戦部、空軍作戦司令本部、海兵隊作戦本部とともに次なる”山”攻撃作戦を立案しております」

 

宮古は防衛大臣の問いに自信ありげに答えた。

 

「では作戦の説明を頼む」

「はい」

 

宮古は持っていたレーザーポインターの電源を入れると、説明を始めた。

 

「まず、本作戦に参加する部隊は海軍第1空母打撃艦隊及び第2艦隊です」

 

空母2隻、イージス艦9隻、汎用巡洋艦1隻、汎用駆逐艦8隻、潜水艦4隻の合計24隻の艦艇とヘリ61機、戦闘機54機などを含む航空機115機。総兵力約8,000名の部隊である。

 

「なかなかの大兵力じゃないか・・・・」

「後方支援としては第2空母打撃艦隊、第1揚陸艦隊、海兵隊第82海兵戦闘航空団、陸軍第1高射砲兵連隊が扶桑皇国上空の防空任務を担当します」

 

それに空母1隻、イージス艦5隻、汎用駆逐艦4隻、潜水艦2隻、強襲揚陸艦2隻、ドッグ型揚陸艦4隻の計18隻とヘリ52機、戦闘機126機、その他航空機21機が加わり、最終的に作戦参加戦力は艦船42隻、航空機314機、総兵力は約25,000名となるのだ。

彼らの予想を大幅に超える大戦力に、参謀らは驚きを通り越して苦笑する。

 

「これだけの大戦力を投入してどのように戦うのだ?」

「はい。まず、レールガンについてですが、わが軍が運用する8インチ電磁速射砲の最大射程は360km。対地有効射程180kmです。しかし、”山”のコアを正確に射撃するためにはコアの赤外線を探知し、誤差10センチ以内で目標に命中させねばなりません。そのためには目標の15km圏内に接近せねばなりません」

 

15kmは現代戦ではありえない至近距離であり、何よりネウロイのビームが十分に届く距離であった。あまりにも近すぎる距離であった。なにより戦闘機よりも鈍重な水上艦艇ではビームが当たってしまう可能性が十二分にあった。

 

「近すぎる・・・・」

「危険だ」

 

反対意見は当然のように上がる。国防海軍軍令部との会議でもこの距離は問題となった。しかし、現状ではどうしようもないのだ。

 

「わかっていますが、これ以外に方法がありません。一応、対策は考えてあります」

「どうするというのかね?」

 

モニターの映像は浦塩周辺の地図に変わる。浦塩には赤い点が、それから離れた海上には青い大きな点が描かれている。

 

「まず、浦塩南方600kmに位置した第1空母打撃艦隊と第2艦隊からなる連合艦隊よりイージス巡洋艦”なか”と護衛のイージス駆逐艦”あたご””なす”の3隻が離脱し、浦塩に向かいます」

 

大きな青い点から小さい点が分裂すると浦塩に近づく。これがイージス艦3隻からなる攻撃部隊なのだろう。

 

「その後、攻撃艦隊が目標地点南方100kmまで接近するのを待って、”あかぎ”よりF/A-3B2機からなる第1次空爆部隊が発進します」

「この空爆部隊の任務は何なのだ?」

 

海兵隊司令長官が質問する。たしかに、すでに中型怪異は撃破しているし、”山”にはレールガンか核兵器ぐらいしか効かないのはわかっている。ならば何に空爆を行うのか。まったく見当がつかなかった。

 

「陽動です。早い段階から空爆を行うことで敵の目をなるべく空に向けます」

「これが・・・・貴官の言っていた対策かね・・・・」

「はい・・・・」

 

海兵隊司令長官の問いに、宮古は悔しそうに答えた。これは対策というより運の要素が強く、やらないよりはまし、という程度の対策であった。宮古もそれは十分に承知していたが、これが今できる精いっぱいの対策であった。

 

「うーむ・・・・。この件はあとで考えよう。話を続けてくれ」

「はい。その後は30分ごとに空爆部隊を飛ばし、計3回空爆を行います。その後、攻撃艦隊が目標地点まで25kmに接近するとF-3516機からなる制空戦闘機部隊とF/A-3B8機による攻撃隊が発進。攻撃艦隊の突入と同時に空爆を開始します」

 

地図が拡大されて、浦塩周辺の地図が映し出された。三角の青いアイコンが2つと五角形の青いアイコン1つ、が描かれている。

 

「空爆完了と同時に”やはぎ”が砲撃を開始し、目標を破壊します」

 

宮古はそう言うと、説明を終えた。作戦を初めて聞いた参謀たちは難しい表情をし、事前に知っていた参謀らもなんとも言えない表情をする。

 

「運の要素が強いんじゃないか?」

「ああ、”やはぎ”が砲撃地点まで無事でいられる保証はない」

 

作戦の成功を懸念する声が上がる。彼らの心配は最もで、健全と言えた。参謀の仕事は自身の立てた作戦を成功させて誇ることではない。彼らの仕事は作戦を立てて、欠点を議論し、少しでも現場の人間の損耗を減らすことである。

 

「だが、これが今できる精いっぱいだな・・・・。これ以上は核兵器を使うしかない・・・・」

 

陸軍司令長官がそうつぶやく。

 

「うーん・・・・どうにかできないかなぁ・・・・」

 

それでも参謀らはどうにか対策ができないかどうか悩んだ。会議室内にいる全員が頭を悩ませる。

 

「ん?そういえば・・・・」

 

一人の空軍参謀が何かを思い出したように持っている資料をあさる。突然のことに、彼が何をしているのか、周りの人間は気になって覗き込む。

 

「どうしたんだ・・・・?」

 

そんな問いにも答えずに彼は資料をあさり続ける。

 

「たしか・・・・この辺に・・・・あった!!」

 

ようやく目的の資料を見つけたらしく、彼は一つの紙の束をつかんで、歓喜の声を上げた。その資料には「機械化航空歩兵及び機械化陸戦歩兵に関する資料」と題がうってあった。

 

「それは・・・・?」

「これは扶桑皇国から渡されたウィッチに関する資料です。これによると・・・・」

 

ペラペラと資料をめくる。しばらくすると目的の項目を発見したらしく、それを指さしながら会議室にいる全員に見せる。

 

「ウィッチはシールドと言うものが使えるようです。これは怪異による攻撃を防ぐことが可能らしく、これを使えないでしょうか?」

 

思わぬ発見に会議室が色めき立つ。もしかしたら被害をほぼ出さずに”山”を破壊できるかもしれない。

 

「な、なるほど・・・・。そのシールドとやらを使って”やはぎ”を砲撃地点まで護衛するのか」

「いけるかもしれん・・・・」

 

すると彼の報告を受けて、同じ資料を確認していた海軍の参謀が何やら見つけたようだ。

 

「・・・・待ってください。シールドを効率的に使用するにはストライカーユニットというものが必要なようです」

「ストライカーユニット?」

「はい。ウィッチが装着する装備のようです。ストライカー本体と発進装置とやらが必要らしいです」

 

資料内に添付された白黒写真を見る。ふむ、と統合司令長官が顎に手を当てて考えると海軍司令長官の方を見た。

 

「なるほど・・・・そういえば”あかぎ”にはアドバイザーのウィッチが乗船していたな?」

「はい。そうですが・・・・」

 

海軍司令長官はこくりと頷く。

 

「ならば”あかぎ”にストライカーユニットを持ち込んで運用してもよかろう」

「つまり”あかぎ”からウィッチ隊を発艦させて攻撃艦隊の護衛をしていただくわけですね?」

 

シールドの正確な強度はわからないが、挺身作戦時にはウィッチ隊からの死者はなかったとのことだからネウロイの攻撃を防げるだろう。先ほどの作戦に比べて成功率は格段に上がった。

統合司令長官はひじ掛けを拳でトンと軽くたたく。

 

「よし。この方針で行こう。至急、作戦概要をまとめてくれ・・・・」

「了解しました」

 

作戦会議はここで終わった。

その日のうちに国防軍より政府に”山”攻撃作戦――インドミタブル作戦の作戦概要書が提出され、国家安全保障会議が開かれた。国家安全保障会議で作戦が認可された。あとは扶桑皇国の協力を取り付けるだけとなったのだ。

ついにこの戦争を終わらせる光明が見えてきた。

*1
統合情報総監部は軍事衛星や通信施設を使用した情報収集を行い、それらから得た情報や陸海空軍海兵隊などの各軍及び同盟国からの情報を分析・評価する部署である




北朝鮮の軍事パレード。多数新型兵器が出てきたんだとか。ニュースでやってるICBMなど以外にも新型戦車や装甲車、地対空ミサイルなどなど色々出てきたようで。今の自衛隊の装備で十分日本を守れるんですかねぇ。日本が核の傘に入っているとはいえ、非常に不安です。
ロシアも極超音速ミサイルの開発に成功したようですし、中東あたりのどっかでは戦争が始まったし  
非常にきな臭い。自衛隊は、特に陸自は実戦に耐えれるだけの装備を配備してくれ。せめて装甲車にエアコンを、普通科に米軍並みの衛生装備を!
常日頃より私の思っていることです。

次回 第22話 作戦前


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第22話 作戦前

ストパン放送記念第6弾


ジャッジメント作戦失敗の1週間後。扶桑皇国外務省では再び作戦の打ち合わせが開かれていた。前回の打ち合わせにもいた中佐が作戦の説明を終えると、居並ぶ扶桑皇国高官らを見る。

 

「――以上がインドミタブル作戦の概要であります。説明からお分かりいただけるように、本作戦は扶桑皇国の協力がなくては不可能な作戦であります」

 

しかし、彼らの反応はあまり芳しくない。ジャッジメント作戦の失敗が響いているのだろう。

 

「・・・・こう言っては何だが、本当にうまくいくのか?前回の作戦はうまくいかなかったようだが・・・・」

「そうだ・・・・うまくいくかわからん作戦にウィッチを出せるものか!」

 

その中には皇国軍の参謀もいた。一見して自軍の人間が傷つくことを嫌っているようにも思えるが、野崎ら歴戦の軍人は彼らの本心を見抜くことができた。彼らの心にあるのは嫉妬だ。特に海軍の参謀らからは焦りも見える。彼らはこの作戦に成功する可能性が十分にあることがわかっているのだ。

レールガンの概要も説明されていた。破壊力は41センチ砲ほどではないものの、貫通力は現在開発中の46センチ砲ですらしのぐレールガンを使用する今回の作戦は、彼らのメンツにかかわる可能性が十二分にあった。

 

「この作戦は十分に成功する可能性があります。失敗したとしてもウィッチの方々には一切被害を出さないと約束いたします。どうか協力を・・・・」

 

中佐は深々と頭を下げて、協力を要請する。しかし、彼らの心は動かなかった。

 

「無理だ!前回の作戦だって、成功するといいながら失敗したではないか!信用できるか!」

 

海軍の参謀はそう怒鳴る。しかし、彼らの眼は優越に浸っていた。

その時、会議室の扉がと開く。その場にいた全員がハッとして扉の方に視線を向ける。そこには10代前半くらいの軍服姿の少女がいた。日本側の出席者は「なぜ少女がここに?」と不思議がるが、扶桑側の人間は違う意味で驚愕していた。

 

「で、殿下!?何故ここに・・・・」

「殿下?」

 

日本側の人間も、この少女の正体がようやく理解できた。おそらく扶桑皇国の皇族――内親王だ。

余りの大物の登場に、その場にいた全員が言葉を発せずにいた。すると内親王はつかつかと海軍参謀の方によって行く。そして、彼の目の前まで来ると思いっきり殴り飛ばした。

いくら相手が少女とはいえ、予想だにしていない一撃に海軍参謀は思わず倒れこむ。

 

「で、殿下!いったい何を・・・・」

 

彼らも予想してなかった、彼女の行動に驚愕する。しかし、内親王はそんな自軍の参謀を侮蔑の目で見た。

 

「わらわが何も知らぬと思ったか」

 

その言葉に陸軍の参謀らはキョトンとするが、海軍の参謀らは少し焦る。

 

「な、なんの事でありましょうか?」

「とぼけるつもりか。”山”に独断専行で攻撃を仕掛け、失敗したことはわらわも知っておるぞ」

 

とぼけようとしていたが、核心を突かれた彼らの顔から血の気が引く。内親王はそばにいた護衛から紙の束を受け取ると、それを倒れこんだ海軍参謀に向かって投げつけた。

 

「独断専行の作戦に、隠蔽。しかも、自身らの名誉欲のために同盟国に対し必要な情報を隠匿した。我が国の品位を貶めるにとどまらず、存続をも危うくする行為だ。軍法会議を楽しみにしておれ」

 

海軍参謀らはぐったりとうなだれた。

内親王は国防軍側の出席者らの方を向く。彼らはいまだに目の前で起きたことを飲み込めずに、唖然としていた。

 

「日本の方々お見苦しいものをお見せした」

「い、いえ・・・・」

 

一国を代表する人間が他国の人間に謝罪する。これは外交上とても珍しいことである。謝罪するということは国の非を認めるということだからだ。内親王はテーブルの上に置いてあった、インドミタブル作戦の概要書を手に取る。

 

「貴国らが提案してくれた作戦。協力させていただく」

「で、殿下!?」

 

そんな声を上げた皇国軍の参謀らを、内親王は鋭い目でにらみつける。にらみつけられた参謀らは何も言えなくなる。

 

「わらわが父上の名代であることを忘れるでない。これは父上の意思でもあるのだぞ」

 

父上――つまり扶桑皇国の帝ということだ。皇国陸海軍の統帥権を持つ人間の言葉を出されては彼らも何も反論できない。

内親王は再び国防軍の出席者の方を向く。

 

「どうかこの国を救っていただきたい。よろしく頼む」

 

自国のためにはプライドを捨ててでも助けを求める。そんな彼女の姿勢を見て国防軍の出席者らはこくりと頷いた。

野崎は一歩前に出て敬礼する。

 

「わかりました。日本国国防軍の誇りにかけて、次の作戦は必ずや成功させます」

 

いろいろあったものの打ち合わせは成功した。扶桑皇国軍はインドミタブル作戦に対する協力を約束し、江藤ら陸海軍ウィッチ6名とストライカーユニット6脚、整備兵20名を派遣することとなった。

 

――――――――――――――――――――

 

インドミタブル作戦の実施が決定すると、第1空母打撃艦隊は防空任務を海兵隊第82海兵戦闘航空団に移譲し、扶桑皇国佐世保鎮守府に寄港した。そこで最後の物資補給やストライカーユニットの運搬、整備兵の乗船を行うためだ。

MV-22を使用して、新型の12試艦上戦闘脚2脚を含む6脚のストライカーユニットと整備兵20名を”あかぎ”に積み込んだ。

その日のうちにストライカーユニットの点検が行われ、特に損傷のないことが確認された。また。第1空母打撃艦隊各艦もたっぷり2日かけて、各種ミサイルや砲弾、航空燃料などの補給を行なった。

そして1939年2月15日。日本国国防海軍第1空母打撃艦隊は佐世保を出港する。佐世保沖合50kmで国防海軍第2艦隊と合流すると、彼らは一度、東シナ海に針路をとった。

この理由は訓練のためであった。ウィッチの運用経験・連携経験がない国防海軍は、訓練もせぬまま作戦に挑むことは無謀だとして2週間の訓練期間を設けたのだ。

 

――――――――――――――――――――

 

野崎は艦橋から、甲板にセットされたストライカーユニットを見ていた。

主な訓練は、空母からの発着艦訓練と艦隊の防護訓練であった。江藤らウィッチ隊は発艦した後に、艦隊から分離した”やはぎ”ら攻撃艦隊上空に展開。攻撃艦隊と行動を合わせつつ、攻撃役のヘリのドアガンから放たれたゴム弾が攻撃艦隊に着弾しないように防護するという訓練であった。

時々、MV-22に曳航された布をうつという射撃訓練も行われている。

 

「訓練は順調なようだね」

 

野崎がぽつりとつぶやくと艦長がそれに頷いた。

 

「ええ。日本の空母は扶桑のより甲板が広く長いから着艦も発艦もしやすいそうですよ」

「それはよかったね。連携も非常にうまくいっているそうじゃないか」

 

彼女らは日本製の最新無線機を使って、国防軍の各部隊との連絡が円滑にできるようにしていた。それによって連携は非常にうまくいっており、攻撃艦隊の防護も十分に行えていた。

攻撃艦隊の護衛艦による対空射撃時の連携も非常にうまくいっていた。

 

「このままいけば、今回の作戦は必ずや成功する・・・・いや、成功させる」

 

野崎は訓練しているウィッチ隊を眺めながら決意を新たにした。

 

――――――――――――――――――――

 

「この無線機はすごいわね。扶桑も導入してくれないかなぁ」

 

訓練を終えて無線機を返していた穴吹がぽつりとそんなことをつぶやく。無線機はイヤホンのような形をしているが、性能は彼女らの知る従来の無線機を圧倒するものだった。

 

「確かにそうね。横のボタンを押せば、無線通信だけでなく地図やレーダーの情報も確認できるなんて・・・・」

「確かにこれが導入できれば、便利だろうな」

 

江藤と北郷も無線機を返し終えたあとに穴吹の言葉に同意する。

江藤の言葉にあったように、この無線機はAR(拡張現実)無線機と呼ばれるものであった。どこぞのアニメに出てきた機器のような性能を持つこれは、上空の偵察機の映像や偵察隊の情報、レーダー情報などを確認できるもので、今までより簡単に前線の部隊と後方司令部との情報共有が可能になっていた。この無線機は主に陸軍や海兵隊の地上部隊に配備されているが、海軍にも立検隊向けに配備されていた。

軍用無線機であるため、高度に暗号化された電波によって通信傍受を困難にしている。また、いくつかの専用電波周波数帯を使うことでジャミングにも対抗できるようになっている。

 

「ほんとにどうやってるんだ?」

 

若本も無線機を返す前にあっちこっちを観察するも、何がどうなっているのか全く分からなかった。若本に続いて、坂本も無線機を眺めながらつぶやく。

 

「なんども思うけど、日本ってすごいよね」

「これが軍隊だけじゃなくて普通に使われてるんだよね」

 

竹井も彼女らの言葉に同意する。

無線機を返し終えて、雑談をしながら自室に戻る。その途中で、野崎とすれ違った。

 

「野崎司令!」

「江藤大佐ですか。訓練ご苦労様です」

 

野崎もいつもの人懐っこそうな笑みで返す。

 

「訓練は順調ですか?」

「はい。貸与していただいた無線機のおかげで連携が非常に取りやすいです」

「それは何よりです。今回は貴官らが作戦のかなめです。よろしくお願いします」

 

変におごることはなく、それでいていざというときは頼りになる野崎の人柄に、ウィッチ隊の面々もすでに魅了されていた。扶桑の下手な上官よりも尊敬できる野崎の言葉に江藤らは敬礼をして見せる。

 

「はい。ご期待にそえる様に努力します」

「期待していますよ」

 

そういうと野崎は軽く礼をしてどこかに行ってしまった。野崎の後ろ姿を見送ると、ウィッチらも自室に戻った。

 

――――――――――――――――――――

 

”あかぎ”の格納庫ではすでに明かりが落とされていた。航空機の整備やストライカーの整備はすでに終わっており、だれもいないはずの格納庫に何やら動く影があった。

 

「よし・・・・これで・・・・」

 

ひそひそと動く影が額の汗をぬぐう。その瞬間だった。

 

「・・・・おやおや。何をしているんですか?」

 

黒い影がバッと後ろを向くと同時に格納庫の明かりがつく。声の主の正体は野崎であった。周りにはテーザーガンを持った立検隊員がいる。

黒い影の正体は扶桑海軍より派遣されたストライカー整備兵であった。彼は一瞬、焦ったような表情をするとすぐに取り繕う。

 

「なにって、ストライカーの整備ですよ」

「ほう。たった一人で、明かりもつけずにですか?ご苦労ですねぇ」

 

チッという舌打ちをすると、整備兵は逃げ出そうとした。しかし、そばにいた立検隊員らがテーザーガンをうち、整備兵に電気ショックを与える。

 

「ぎゃぁああああ!」

 

なれない電気ショックに彼はその場に倒れこんだ。ほかの隊員が整備兵を抑え込むと、テーザーガンの電源を切る。野崎は抑え込まれた整備兵に近づくと、彼の顔を覗き込む。

 

「誰の指示なのか。あとで聞かせていただきますよ?」

 

いよいよ整備兵は苦々しい顔をする。野崎は立ち上がると立検隊員らのほうを見渡す。

 

「船室に拘束しておけ」

 

整備兵は立検隊員らに連れられて行った。この作戦の裏側であった、このゴタゴタは扶桑政府と日本政府間で秘密裏に処理され、これを指示した海軍の参謀は別件で軍法会議にかけられ極刑となった。 どうやら、やけっぱちになって指示したようであった。

 

――――――――――――――――――――

 

そんなゴタゴタが起きている一方。日本国東京、赤坂にあるアメリカ大使館には外務副大臣の屋中の姿があった。

 

「ミスターヤナカ。突然呼び出して申し訳ありません」

 

屋中の向かい側に座った在日アメリカ大使がそういった。屋中はそんなアメリカ大使に外交官的笑みを浮かべて、首を横に振る。

 

「いえいえ。転移前も転移後も、アメリカは我が国の大切な同盟国ですから。それで・・・・今回はどのようなご用件で?」

「はい。今度、日本は大陸の怪異を攻撃するそうですね?」

 

怪異への情報流出の概念がないことから、日本は作戦実行日などの一部情報を除き作戦の詳細を公表していた。

 

「はい。そうですが・・・・なにか?」

「その後の大陸領の奪還作戦には地上戦力を投入するようですな?」

 

実は飛行型怪異は大半を撃破したものの、大陸には地上型怪異が大量にいる。そのため”山”を撃破した後に日本国国防陸軍と海兵隊などの地上戦力を投入して、大陸の怪異を一掃する計画であった。そのための海兵師団や陸軍師団はすでに舞鶴、佐世保、横須賀などの各海軍基地近くの駐屯地に集結していた。

 

「ええ・・・・発表した通りですが?」

「その作戦に在日米軍を参加させていただきたい」

 

屋中はキョトンとしてしまった。

 

「何がお望みですか?」

「大陸の奪還した領土に新たなアメリカ合衆国を建国していただきたい」

 

現在、日本国内にいる外国人は1000万人弱だ。日本政府はこれらの対応に非常に苦慮していた。故郷もなくし、仕事もなくなった彼らが暴動を起こすこともあったからだ。

在日米軍はその中でも最も警戒されていた。彼らが暴動を起こせば、日本は甚大な被害を出す。しかし、新たなアメリカ合衆国が作られ、そこに在日アメリカ兵やアメリカ人らを移住させれば、その心配はなくなる。

 

「ふむ・・・・。政府に戻って検討させていただきます。1週間以内に正式な回答を出しましょう」

 

屋中はそういうとスッと立ち上がった。

 

「頼みますよ」

 

アメリカ大使は屋中にそういうと頭を下げた。

日本政府ではアメリカ大使からの提案が検討された。その結果、扶桑皇国政府には関税自主権の復活を約束する代わりに大陸の皇国領の割譲を提案。アメリカには在日米軍の有する軍事・技術機密の情報開示と大陸での戦闘協力を条件として、アメリカ合衆国建国に協力することとした。

アメリカ大使はこの提案を了承。しかし、扶桑皇国政府は難色を示したが、浦塩などの一部港湾都市をアメリカ合衆国領としつつも特別行政区として、地区内ではアメリカ合衆国と扶桑皇国の定めた条約による法律が適応されることや元来の住人の所有していた土地の所有権を認めること、港湾設備など一部設備を共同使用すること、また、今戦争で破壊された町の復興に日本が無償で協力すること、そして日本政府は国防軍への妨害工作を追求しないことで条件に合意した。

戦争が一段落したあとに締結されることとなるこの条約は、「扶日米協力協定」と呼ばれ、もともと大陸にすんでいた住民からの反発があった。しかし、扶桑政府は港湾都市などでは今までとほとんど変わらない生活ができることなどを説明し、最終的には受け入れることとなった。

ついに新たな国家の誕生が、ここに決まったのであった。




次回の題名がまだ決まっていない・・・・・。今日中に決めますが楽しみに待っていてください。

次回 第23話


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第23話 団結

ストパン放送記念第7弾


1939年2月22日。

ジャッジメント作戦が失敗した後も国防空軍はRF-3戦術偵察機とE-1早期警戒管制機*1による”山”の監視任務を続行していた。

この日の午前6時、扶桑皇国上空で監視任務についてたE-1早期警戒管制機のレーダーに何かが探知された。これを受けて国防空軍は至急、RF-3偵察機を浦塩に急行させた。

 

「一体何だというんだ・・・・」

 

RF-3の機長はE-1からのレーダー情報を確認しつつ、この反応の正体がわからずに首を傾げた。しばらくすると、徐々に水平線の先に浦塩が見えてくる。

そこには四角推の影が見えてくる。高度をさらに上げて、カメラを起動させて、影の正体を探る。

 

「な、なんだと・・・・」

「あ、あれは・・・・」

 

その正体は”山”であった。四角推のネウロイは土埃をあげて、徐々に高度を上げていく。

 

「司令部に報告しろ!急げ!!」

 

この知らせはすぐさま日本本国に伝えられ、扶桑皇国派遣部隊総司令部にも伝えられた。それは無論、東シナ海で訓練を行っていた第1空母打撃艦隊と第2艦隊の連合艦隊にも知らされた。

 

――――――――――――――――――――

 

”山”が行動を開始したという知らせに連合艦隊は訓練を切り上げて、浦塩に急行した。その間、連合艦隊ではテレビ会議が行われた。

 

「まさか、こんなに早く動き始めるとは・・・・」

 

インドミタブル作戦の要である”なか”の艦長がそうつぶやいた。”山”が動き出す可能性は作戦会議でも出ていたものの、いつ動き始めるのかはまったくもって予想ができていなかった。野崎は司令部からの情報を確認する。

 

「”山”は浦塩上空500mに上昇した後、停止していそるそうだ。しかし、いつ動き出すかはわからん」

「つまり急ぐほかないということだ・・・・」

 

第2艦隊の司令はため息をつきながらそういう。”山”がどれだけ上昇するかはわからないが、挺身作戦時には高度4000mまで上昇したらしい。それだけの高度を取られると、その形状の関係から距離を取らざるを得なくなる。しかし、それではコアを正確に狙うことは難しくなる。彼らは”山”がこれ以上の高度を取る前に攻撃を仕掛けにいかねばならないのだ。

 

「艦隊の速度を第4戦速にあげて浦塩に向かう。これしかあるまい」

 

その日のうちに連合艦隊は27ノットに増速し、事前の作戦で定められていた目標地点に向かった。到達予定時間は20時間後とされ、到着予定時刻は翌日3時。さらに作戦開始には、さらに10時間かかるとされ作戦開始予定時刻は13時となった。

 

―――――――――――――――――――

 

翌日午後3時。連合艦隊は特に問題もなく目標地点に到達した。”やはぎ”を始めとする攻撃艦隊はここで分離し、さらに10時間かけて浦塩に向かった。

 

「あと10時間・・・・か」

 

野崎は艦橋から、分離していく攻撃艦隊を確認した後に腕時計を確認してそうつぶやく。赤い警戒灯の光が艦橋内にいる幾人かの当直乗員の顔を照らす。

野崎は仮眠をとるべく、艦橋から出て行った。この戦争を終わらせるための作戦はまもなく始まろうとしていた。

 

――――――――――――――――――――

 

1939年2月23日午後1時。ついに”なか”ら攻撃艦隊が浦塩南方100kmに到達した。攻撃艦隊は本隊に到達を連絡した。一旦、空爆部隊との歩調を合わせるべく南方100kmで待機した。

 

「攻撃艦隊が目標ラインに到達した!第1次攻撃隊発艦開始!」

 

AGM-179を搭載した2機のF/A-3Bが発艦した。彼らは巡航速度のM1で30分かけて浦塩に向かう。攻撃地点に達したF/A-3Bは”山”のコアに向けて各機12発、計24発のJAGM空対地ミサイルを発射。JAGMの赤外線画像シーカーは怪異のコアを探知すると飛んでいく。

ミサイルは正確に命中するも”山”の装甲を貫通するには至らず、逆にビーム攻撃を受けた。しかし、ビーム攻撃はあらかじめ予想されていたため、F/A-3Bはひらりとかわすと母艦に帰っていった。

同時刻に第2次攻撃隊が発進した。第2次攻撃隊も第1次攻撃隊と同じように”山”に攻撃を行い帰還する。

この間も小松基地から飛んできたRF-3偵察機が監視を続けていた。

そして第3次攻撃隊が発艦すると、ついにウィッチ隊が”あかぎ”を飛び立った。彼女らはAR無線機に表示されるレーダー情報を頼りに攻撃艦隊のもとに向かう。

そして第3次攻撃隊の攻撃が成功すると”山”がついに動き出した。

 

「”山”が再び動き出したぞ!詳細を司令部に伝えるんだ!」

 

RF-3偵察機からの報告はすぐさま全部隊に通達された。レーダーを確認したところ”山”は高度を維持したまま、時速10kmという超低速で西に向かって動き始めていた。増速する可能性もあることから攻撃艦隊は速度を上げた。

 

――――――――――――――――――――

 

午後3時。作戦開始から2時間が経過したころ、ついに攻撃艦隊がウィッチ隊と合流した。

 

「こちらウィッチ隊!指揮官の江藤だ!攻撃艦隊に合流する」

「こちら”なか”艦長の君島だ。援護感謝する」

 

無線を通じて、お互いを確認した後にウィッチ隊は攻撃艦隊の上空に展開する。合流した彼らは全速力で”山”に向かう。

もしかしたら出てくるかもしれない小型怪異をレーダーを使って警戒しながら進んでいく。

そして合流から30分後。ついに水平線上に”山”の姿が見えてきた。

 

「いたぞ!」

 

その瞬間、彼女らの頭上をゴォオオという轟音とともに何機もの戦闘機が通っていく。8機のF/A-3Bと16機のF-35JCからなる攻撃部隊であった。

 

「奴さんの目を上に向けてやるぞ!」

 

空爆隊の隊長の掛け声とともに、8機のF/A-3Bはアフターバーナーを使って”山”に突入する。

流石に3度も行われた空爆で学んだのか、突入してくるF/A-3Bにビームを放つ。しかし、相手は熟練のパイロット。ひらりひらりとビームを躱して”山”に各機2発づつミサイルを放つ。

一度反転して距離を取ると、再びミサイルを放つ。なんとか注意をひこうと攻撃を繰り返すが、攻撃艦隊が17kmほどまで近づいたとことでビーム攻撃が止んだ。

 

「攻撃が止んだ?」

 

戦闘機隊の隊長は”山”の様子をうかがう。確かに、ビーム攻撃はやんでいるが、ビーム攻撃の予兆である赤い光は灯ったままだ。

 

「ま、まさか!?」

 

その瞬間、ビームが海面に向かって走った。

そのままビームは”なか”に命中すると思われたが、ビーム攻撃と同時に”なか”の上空に青く光る半透明の盾のようなものが現れる。

”山”のビームはこれによって防がれ”なか”への着弾は防ぐことができた。

 

「ふぅ・・・・あれがシールドか」

 

戦闘機隊の隊長は一安心すると、再び”山”への攻撃を再開した。

 

――――――――――――――――――――

 

「今のは肝が冷えたな・・・・」

 

君島は帽子を脱いで、額の汗を拭きつつそういった。

 

「航海長!速度を上げるぞ!上空のウィッチ隊にも連絡を入れろ!」

 

少しでも早く撃破して、このビーム攻撃をもう受けないようにしたいという思いから、君島は速度を上げさせた。しかし、それは”山”からの攻撃を増させることとなった。

大した攻撃をしてこない航空機部隊よりも高速で近づいてくる艦隊を脅威としてみたのだろうか、ビーム攻撃は艦隊に集中した。

 

「くっ・・・・なんて攻撃!」

 

シールドを張って、艦隊をまもっている江藤らウィッチ隊は苦しい戦いを強いられていた。あまりに苦しい攻撃に彼女は竹井に護衛を任せて、後ろに下がる。しかし、ビーム攻撃の勢いは増す一方であった。何とか耐え忍んでいたものの、ついにシールドに当たってそれたビームが”くま”の近くに着弾した。

 

「うぉおお!」

 

水蒸気爆発によって船が大きく揺さぶられる。CIC内で衝撃に襲われた君島艦長は、すぐさま立ち上がると艦内無線を使ってダメージコントロールルームに連絡を取る。

 

「ダメコン!異常はないか!?」

『航行に異常はないものの船内複数個所で断線!!レールガンへの電力供給配線に異常あり!』

 

最悪の報告であった。作戦の要であるレールガン。それを使用するにあたり必要不可欠な電力供給を行う配線が異常をきたした。それはすなわち、レールガンの使用不能を意味していた。

 

「ダメコン班をレールガンの電力供給配線の修復にあてろ!サブ配線は使えそうか!?」

 

”やはぎ”は実戦を想定して建造された軍艦である。メインの電力供給配線に異常があってもレールガンの発射ができるように2つのサブ配線を持っていた。しかし、ダメージコントロールルームからの報告は最悪の一言に尽きた。

 

『だめです!第1サブ配線は断線!第2サブ配線は配電盤に異常あり!レールガンへの電力供給不能!!』

「くそっ!!最悪だ!!」

 

どちらのサブ配線も何らかの理由で使用不能となっていたのだ。よほどの不運が重なったとしか言いようがない。

君島は自身の運のなさを呪い、彼の前にあった海図台をたたく。

 

「メイン配線の損傷位置はわかっているか?」

『はい!すでにダメコン班の無線にデータ送信済みです!』

「よろしい!メイン配線の修復を急がせろ!」

 

君島はダメージコントロールの指示を出すと、回線を僚艦とウィッチ隊につなげる。

 

「こちら”なか”!!先ほどの攻撃でレールガンの電力供給配線に異常あり!現在修復中!」

 

この知らせは作戦にかかわっていたすべての人間を絶望させた。しかし、この知らせを聞いた中で絶望から立ち上がり、行動を起こした人間もいた。

攻撃艦隊の護衛艦であった”あたご”の艦長だ。

 

「”なか”が修復を行う時間を稼ぐ!ウィッチ隊にも連絡を入れろ!」

「は、はい!!」

 

指示を受けた副艦長が、すぐさまウィッチ隊への連絡を行う。それを確認すると艦長はすぐさま操艦を始める。

 

「取舵一杯!!右舷、砲戦よぉい!!目標、敵大型ネウロイ!」

「とぉぉりかぁじ」

「艦橋よりCIC!右舷砲戦用意!目標、敵大型ネウロイ!」

 

航海長が艦長の指示を復唱し、操舵手が舵を切る。その間にウィッチ隊への連絡を終えた副艦長がCICに砲戦を指示した。

 

『右舷砲戦!了解!』

 

すると艦首に搭載されているMk.45 5インチ単装砲が”山”を向く。砲安定装置によってピタリと狙いが付けられる。

 

「撃ち方はじめぇ!!」

 

艦長の号令とともに127㎜砲弾が放たれた。最大発射速度、20発/分を誇る艦砲は砲身を冷却水で冷やしながらも3秒に1発のペースで撃ち続ける。

突然攻撃してきた”あたご”のほうを脅威としたのであろう。”山”の光線の向きが変わった。

 

「攻撃来るぞ!衝撃に備え!!」

 

しかし、あとちょっとで着弾するというときに横から割り込んできたウィッチのシールドによって守られる。双眼鏡を使ってよく見ると、それは坂本であった。

 

『援護します!』

「坂本少尉!援護感謝する!」

 

”あたご”は砲撃で注意をそらす一方、もう1隻の護衛艦である”なす”は”山”と”なか”の間に割り込むような位置を取る。最悪、”なか”の盾になるつもりなのだ。

ウィッチ隊も2手に分かれて2人は”あたご”を残る4人で”なか””なす”の2隻をまもっていた。そんな味方の姿に君島は胸が熱くなった。

 

「ダメコン!修復具合を知らせろ!」

『現在、断線個所の修復を開始しました!安全に連射ができるようになるまで1時間!どんなに急いでも30分です!』

「おそい!一発撃てればそれでいい!あとはこっちで何とかする!10分で仕上げろ!」

『了解!!』

 

君島はダメコン班にハッパをかける。

その間も”あたご”は砲撃を続けていた。しかし、いくら発射速度がおそいとはいえ連射をすれば砲身が加熱し、安全な射撃が不可能となる。

 

「くそ!主砲オーバーヒート!これ以上の射撃は不能!!」

 

”あたご”CICでは若い砲術士が悔しそうに報告を行った。砲雷長は艦長の意思を組んで、すぐに次なる命令を出す。

 

「CIWS!!マニュアル射撃を開始!少しでも気を引け!!」

「了解!全CIWS起動!マニュアル射撃に移行し攻撃を行う!」

 

担当の乗員がCIWSをマニュアル射撃に設定して、狙いを”山”に定める。

 

「撃ち方はじめ!」

 

ヴォオオオといううなるような音とともに、20㎜ファランクスが火を噴く。曳光弾を交えた20㎜砲弾は”山”に命中するもむなしくはじかれる。

 

「すごい連射速度・・・・」

 

シールドを張りながら”あたご”を掩護する坂本は、思わずつぶやいた。しかし、その連射速度ゆえの欠点があった。

 

「ファランクス、弾切れです!!」

 

そう、弾切れの速さである。CIWSには1000発以上の弾が装填されているが、そのあまりにも早い連射速度のせいで数秒足らずで撃ち尽くしてしまうのだ。

もう攻撃可能な武装はミサイルぐらいしかないが、この至近距離では発射することは危険であった。実質、攻撃可能な武装がないかと思われたその時、”山”が爆炎につつまれ光の線のような曳光弾の群れが”山”に着弾した。

 

「ッ!!!」

 

その直後、超音速で”山”の上空をフライパスするF-35とF/A-3の群れ。

 

「攻撃艦隊の援護を行なえ!使えるものは何でも使うんだ!」

 

戦闘機隊の隊長の指示とともに、F-35に搭載されていた31式短距離空対空誘導弾が放たれる。本来、対空用なので”山”には効果がないが、気をそらすには十分だった。

それ以外にも機関砲を使ったり、中にはかなり接近してチャフやフレアをばらまく機体もあった。

この場にいる全員が”山”を破壊するという目的で一致していた。

 

『艦長!修復完了です!』

 

そんな彼らの様子を見ていた君島のもとにダメコン班から報告が届いた。君島は待ってましたと言わんばかりに砲雷長の方を向く。

 

「正面砲戦用意!目標、敵怪異コア!」

 

砲術士は赤外線カメラを使って照準を合わせる。

 

「一発しか撃てんから、よぉくねらえ!」

 

君島の指示に、砲術士は慎重に狙いを定める。

 

「照準よろし!」

「電力充填70%完了!」

 

急いで直したために電力の供給速度が遅く、発射に必要な電力のチャージに時間がかかる。

その間に”なか”の砲が、自身のコアに向いていることに気が付いたらしく、ビームを”なか”に向けて発射する。

 

「くっ!」

 

”なか”と”山”の間に竹井が滑り込み、シールドを展開する。シールドに当たったビームはいくつかに分裂してしまう。しかし、そのビームも江藤の展開したシールドで完全に防いだ。

その間に上昇した穴吹と北郷の2名が、”山”に向かって銃撃を仕掛ける。魔法力が込められた大口径ライフル弾が”山”を襲う。さすがのネウロイも自身の弱点である魔法力が込められた銃弾は危険と判断し、攻撃を2人に向けてしまう。

 

「・・・・90・・・・充填完了!」

 

しかし、それが”なか”にレールガン発射の時間を与えてしまった。

 

「撃てぇええええええ!!」

 

ありったけの声で出された号令とともに、砲術士は主砲の引き金を引いた。その瞬間、レールガンの砲身に電流が流れ、タングステン合金でできた重さ15㎏の砲弾が放たれた。

M27という超高速で放たれたタングステン合金の砲弾は、”山”の装甲を容易く貫通してコアを貫いた。

 

「・・・・・」

 

全員が言葉を失ってみている中、コアを失った”山”は徐々に白い破片となって崩れていく。その様子を生で、映像で見ていた全員が一斉に歓喜につつまれた。

あるものは隣の同僚と抱き合い、あるものは握手し、あるものは飛び上がって喜んだ。

扶桑海事変が始まって1年以上、扶桑皇国を脅かしていた怪異の脅威が取り払われた瞬間であった。

”あかぎ”に帰還してくる戦闘機隊、そしてウィッチ隊を連合艦隊の乗員は敬礼をして出迎える。

ウィッチ隊はストライカーユニットを収納して、艦内に入ろうとすると野崎が彼女らを出迎えた。

 

「野崎司令!扶桑を救っていただき、ありがとうございました!!」

 

江藤がそういって頭を下げるとウィッチ隊の全員が野崎に頭を下げた。

 

「江藤大佐。私が扶桑を救ったわけではありません。攻撃艦隊の乗員全員や航空機部隊の隊員ら、作戦を立案した参謀、そして何より攻撃艦隊を命がけで守り抜いた貴官らが扶桑をまもったのです。私にお礼を言うのは間違っていますよ」

 

野崎はそう返すと、見事な敬礼をして見せた。

 

「こちらこそ”なか”以下攻撃艦隊3隻をまもっていただきありがとうございました」

 

作戦開始からすでに4時間。冬の短い1日が終わろうとしていた。

西の空から広がる美しい冬夕焼けが、戦いに勝利した彼らを祝福していた。

*1
P-1対潜哨戒機をベースに2030年に開発された早期警戒管制機




またもや投稿時間をミス。やってしまった。今回は戦闘が一段落しました。深夜テンションで書き上げたので、後で恥ずかしくなるかも

次回 第24話 その後


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第24話 その後

ストパン放送記念最終弾!
今回はストパン第2話と時間を合わせて投稿しました。


―浦塩に長らく居座っていた”山”が通常兵器によって撃破された。

この知らせは世界に衝撃をもたらした。ウィッチも使わずに超大型の怪異を撃破したというニュースに驚かなかったものはいなかっただろう。各国政府は情報収集を強化した。

 

――――――――――――――――――――

 

”山”の撃破から10日後の3月5日。日本国国防陸軍、海兵隊、在日米軍海兵隊は日本国国防海軍、米第7艦隊の援護のもと、浦塩に上陸した。空軍の偵察機が集塵ポッドを使用した調査や先行上陸した化学部隊の調査で瘴気と呼ばれる有害な物質が検出されなかったため、上陸作戦が敢行された。

特に妨害を受けることなく上陸した米海兵隊第4海兵連隊と国防軍海兵隊第4海兵師団第12海兵連隊戦闘団*1からなる7000名ほどの部隊は浦塩を難なく解放し、橋頭堡とした。

その後、国防陸軍の工兵部隊が浦塩の港湾設備を修復して補給が円滑にできるようになると、海兵隊3個師団と国防陸軍2個師団と陸軍第1航空団の一部部隊。中部方面軍第4兵站旅団と東北方面軍第6兵站旅団から抽出された部隊など合計10万名を超える部隊が上陸した。

補給は厳しかったが、砲弾や銃弾、医薬品や食料などの物資の輸送を扶桑皇国に依頼し、日本はミサイルや車両・航空機の部品、燃料などの運搬にのみ注力した結果、何とか持ちこたえることができた。

国防軍の実に5分の1の兵力が投入されたが、主力上陸後の最初の1週間は特に戦闘がおこることもなく、前線を浦塩から半径100kmまで進めることとなった。

しかし、上陸作戦決行から15日ほどした3月20日。ついに浦塩西北西120kmで地上型ネウロイとの戦闘が発生した。

怪異側の戦力は小型怪異10台、コア保有の中型怪異5台であり、国防軍側の戦力は歩兵一個中隊200名と31式戦車1両、10式戦車改4両、32式歩兵戦闘車4両*2、24式歩兵戦闘車12台*3の増強中隊規模の部隊であった。

戦闘はほぼ一方的なものとなり、中型怪異は戦車のサーマルサイトによってコアがあぶり出され、そこに戦車砲を叩き込まれたことで撃破。小型ネウロイは歩兵戦闘車の機関砲で5台が撃破。その間に展開した歩兵中隊に対戦車ロケットや無反動砲を叩き込まれて壊滅した。1台の小型ネウロイが逃亡に成功するも、連絡を受けて駆けつけたAH-64JGアパッチ・フォートレス2機に撃破された。

その後も各地で戦闘がおこるが、すべて国防軍の勝利であった。国防軍の誇る正面打撃力とそれを支える補給能力はすさまじいものであった。

戦闘開始から2週間後には浦塩を中心に半径1500kmまで進出していたが、そこで前進を一時中断して伸び切った補給線の再構築を行った。

1週間かけて補給線を再構築すると、前進を再開。ついには大モンゴル帝国とオラーシャ帝国の国境に挟まれた地点で包囲に成功。

国防軍は追い詰められた地上怪異に対し、長距離ロケット砲とB-3戦略爆撃機による大規模爆撃を敢行、中型以上の地上怪異の数が少なくなるのを待って戦車隊を突入させて、これを完全に撃滅した。

これをもって、1年以上続いた扶桑海事変は終結した。

 

――――――――――――――――――――

 

「ようやく一息付けるな・・・・」

 

石田は国防軍から提出された報告書を読むと、ふぅとため息をついた。

日本が突然この世界に転移してから3ヶ月。たった3ヶ月であったが、明治維新以降最も濃厚な3ヶ月であったことは間違いないだろう。

開放した大陸領には、先日アメリカ合衆国の建国が宣言され、扶桑政府と日本政府はすぐさま国家として承認した。在日米軍には地上戦力が少ないため、ロシア機甲師団の脅威が消え去り、お役御免となった国防陸軍第7師団が駐留することとなった。

他にも新アメリカの土地では多数の民間企業参加のもとで、ジャンボジェット機が運用可能な空港の建設や石油施設の建設のための調査が始まっている。空港建設は多くの企業の参加と最新の工法の使用によって、従来よりも早く完成すると思われている。石油施設建設のための調査は前世界での大慶油田あたりを重点的に調査しており、間もなく調査が完了すると思われている。オーランチオキトリウムによる人造石油が実用化されている日本には需要がないが、日本の高い工業力によって生成された高品質の石油はこの世界の至る国に人気があると考えられており、新アメリカの貴重な収入源となることが期待されていた。

また、この工事には転移騒動ででた失業者を雇う公共事業的な役割もあったのだ。

 

「在留外国人問題は解決したが・・・・」

 

石田はもう一つの報告書を手に取る。新アメリカが建国されてからの各国大使館の動きが記された報告書である。

各国ともに、大陸領に新たな祖国を建国することを望んでいるようであった。しかし、日本政府はこうなることをすでに予想していた。日本政府では10万人以上の国民が日本国内に在留している場合は、新たな祖国を建国することを約束していた。5000人以上、10万人未満の場合は前世界における地域区分で作られた連邦国家の州*4として新たな故郷を得ることとなり、さらに在留している国民が5000人未満の場合は新たに作られる連邦国家の特別行政区にまとめられ、新たな故郷とすることとなった。

その結果、新アメリカのほかにも新イギリスや新中国など5つの共和国と4つの連邦国家が大陸に建国された。すでに大陸の利権を放棄していた扶桑皇国は、これらの国を国家として即日承認することとなった。

これら10の新国家と日本は地球協力機構(ECA)を結成し、日本政府がこれらの国の安全保障を担うこととなった。

この世界の各国も中国大陸には特に利権がないことやこれら10の新国家を保護している日本の存在もあり、新国家の誕生を容認した。

 

「こっちが、先日の閣議で決まった方針か・・・・」

 

持っていた報告書を置くと、もう一つの資料を手に取った。それは先日行われた閣議において決まった基本政策をまとめたものであった。転移後、国内の方針についても大幅な方向転換が迫られた。

現在、日本政府は転移後に大量に出た失業者を救済する給付金を行っている。しかし、これでは本格的な経済救済措置にはならない。そこで、すでに閉山した国内の炭鉱を再開させ、失業者に十分な賃金と手当てを支払った上で働いてもらうことにした。ここで産出された石炭は、この世界の各国に輸出する。安全対策はきちんと講じるし、掘削には重機などを使用するために昔に比べたら危険度は下がっている。そのため失業者の新しい雇用として期待されていた。

他にも重工業を推進し、自然分解されるプラスチックの製品や鉄鋼、合金の輸出などを行うつもりだ。日本の基幹産業は自動車や電化製品なのだが、重工業を推進するのにも理由はある。自動車や電化製品の輸出もできるが、おそらく各国はこれらに対して高い関税をかけることは容易に想像できたからであった。そのためこれらの輸出は金持ちや公的機関を相手とした小規模の輸出になってしまうため、大した利益にはならないであろうと試算されていたのだ。

経済以外でも変革はもたらされた。

科学分野では現在、補助金を出している研究を見直し、必要性の少ないものの補助金を減額し、宇宙開発にその予算が回されることに決まった。これにはきちんと理由があった。転移で失われた各種衛星やGPS衛星による経済的損失はすさまじいものであったからだ。幸い、この星の大きさや日本の緯度はほぼ変わっていないことから、既存の設計を流用すれば宇宙開発は3,4年ほどで終わるであろうと考えられていた。そのために国内ではH-Ⅱロケットの後継であるH-Ⅲロケットと各種衛星が多数製造中である。

また、魔法の研究にも多数の予算が投じられることとなった。この世界において魔法は現実のものとなった。日本においても魔法の能力が認められた人間が多数いることから魔法の研究は急務であった。

同時に軍事も大きな変革を求められた。1世紀後の現代での戦闘を想定している国防軍の装備は、この世界ではコストパフォーマンスが悪いものが多くある。その代表格が日本の主力航空戦力であるステルス戦闘機であった。現在の国防軍の主力戦闘機はF-35ステルス戦闘機であり、転移前には後継機にF-37ステルス戦闘機*5が導入され始めていた。すでに40機以上が納入されおり、今後はF-35に変わって国防軍の主力戦闘機になることが期待されていた。しかし、ステルス戦闘機は空力特性が悪く、格闘戦では第4世代戦闘機に負けることもある。また、ステルス性を維持するための整備費も非常に高い。

レーダー技術がいまだに発達していないこの世界においては、そこまで膨大な費用をかけてステルス機を維持するメリットがないのだ。そこで、国防軍では現在導入中の31式戦車の1年あたりの導入量やF-37の導入機数を削り、新型第4世代ジェット戦闘機の開発を行うことを決めていた。この新型戦闘機は機体構造をF-15をベースとし、アビオニクスやエンジン、コックピット周りはF-37と共通化を図るなど、既存の物を最大限使用することで開発費や調達費・維持費用を安く抑えられ、F-15よりも高性能な戦闘機となるとされていた。すでに再編された予算案が計上されており、再編前と比べて3000億円ほど防衛予算が増加した。

 

「こちらも各国に働きかけねばなるまい」

 

それは港湾設備の整備に関する計画書であった。

扶桑皇国には既存の港湾設備を改良し、水深の増加やガントリークレーンの設置などを提案しており、すでに横須賀や神戸などの各港では改良工事が始まっている。こちらはガントリークレーンなどを設置し、水深を深くするなどの改良を行い、通常のコンテナ船が使えるようになるまで8年という試算が出ていた。

この提案を扶桑以外の各国にも提案しようという計画であった。これは雇用の算出だけでなく、輸出時の運送を日本の水運会社が行うことで、大量輸送によるコストカットと経済活性化が期待されていた。

 

「我が国がやることは多いな・・・・」

 

石田は目の前に置かれた報告書や資料の束をみてため息をついた。

日本はアメリカの同盟国という立場から、世界1の大国になったことから彼の仕事は急増したのであった。

 

――――――――――――――――――――

 

扶桑海事変の終結に貢献したウィッチらはその功績がたたえられ、全員に勲章が渡された。

北郷はウィッチとしての寿命をすでに超えていたため、終結後は実戦部隊を退いて佐世保航空学校の教官に着任した。江藤は日本に興味を持ったらしく在日扶桑大使館の駐在武官に強く志願した結果、着任することとなった。穴吹、若本、坂本、竹井らは原隊に復帰することとなった。

その後、日本とウィッチ隊の活躍は「扶桑海の奇跡」として映画化され扶桑皇国で放映されることとなった。

日本では5月に陸海空軍海兵隊による公開演習を行った。各国から観戦武官を呼んで行われた演習ではジェット戦闘機や戦闘ヘリ、主力戦車、アサルトライフル、個人携帯対戦車兵器、装甲化された各種兵器や陸海空が連携した三次元的な戦術が披露され、日本の軍事力を誇示することができた。各国は日本を脅威として認識すると同時に、回転翼機やジェット戦闘機、アサルトライフルの開発を進めることとなった。

*1
中国地方に駐留。転移前は有事の際、占領された地点の奪還と米軍とと協力して大陸部に侵攻する役割があった第4海兵師団より海兵連隊、戦車中隊、砲兵中隊などを抽出して編成された戦闘団

*2
2027年に正式採用された純国産3代目の装甲戦闘車。コスト、整備性の面から31式戦車と同じ車体シャーシを使用しており、また部品共通率も高い。また歩兵戦闘車にしては重装甲であり、機甲師団の主力として使用されている

*3
6式、22式に次ぐ、三菱MAVシリーズの1つとして開発された装輪装甲車で、ファミリー化がなされている。主砲には日本製鋼所が新規開発したテレスコープ弾を使用する23式90口径30㎜機関砲を採用しており、対戦車火力として24式対舟艇対戦車誘導弾を4発搭載可能である。また主砲同軸にM240Bを搭載していたものの、2037年度生産品からは36式8.58㎜汎用機関銃を搭載している。

*4
例えば、この時転移に巻き込まれたオーストラリア人50000人は、オセアニア・アジア連邦のオーストラリア州という形で新たな故郷を得た

*5
F-35の後継機としてアメリカ、ロッキード社が開発した5・5世代ジェット戦闘機。F-22を上回る機動性と速度を誇り、ステルス性能も優れている戦闘機。STOL機のC型はF-35Bのリフトファンを改良した連装式リフトファンを装備している。転移前、日本はこの航空機のライセンス生産権を獲得している




これにてストライクウィッチーズ零編は終結です。次回からは欧州に移りますが、ストライクウィッチーズのメンバーが出てくるには時間がかかる見込みです。
それとストパン3期放送中には金曜日18時にも投稿します。ですが、今週と来週はリアルの都合で投稿する予定はありません。

次回 第25話 打ち破られた平和


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第25話 打ち破られた平和(再)

皆様どうもSM-2です。
申し訳ございません。最新話のみ話の再構成を行わせていただきました。細かい部分がかなり変わっています。
ではどうぞ。


1939年8月。

扶桑海事変から実に5ヶ月が経過したある日。黒海に怪異の巣が出現した。黒海に接するオラーシャ帝国海軍の艦船が攻撃された。

この知らせは日本政府にも届いたが、経済的余裕が皆無であったために必要な物資の格安での輸出などにとどめて静観する事を決定した。オラーシャ帝国軍とダキア軍が対応してくれることを期待していたのだ。

しかし、これは希望的観測であることは日本政府も承知であったので、国防軍に欧州への部隊の派遣を検討させた。

そして9月1日。ついに怪異がダキアに上陸した。ここにきてダキアは各国に救援要請を出すも時すでに遅し、同月中にダキアは陥落しモエシア、オストマルクが飲み込まれた。この怪異は扶桑海事変時に確認された「ネウロイ」と名付けられた。ネウロイは扶桑海事変において現れた怪異と同一と断定された。

対ネウロイ戦の最前線となったカールスラントはオストマルクとの国境線に部隊を集結させ、防衛線を築いた。それと同時に各国に援軍要請が出された。とくに扶桑海事変で活躍した日本には期待が集まっていた。

 

――――――――――――――――――――

 

カールスラントからの救援要請を受けて、日本政府では転移後何度目かの閣議が開かれた。

 

「さて、本日集まってもらったのはほかでもない。カールスラントからの救援要請についてだ」

 

議長である石田の言葉で閣議は始まった。

すでに会議に出席している全員が会議前に配られた書類を熟読いたので、救援要請について把握していた。

 

「まず岩峯統合司令長官から説明を頼む」

 

石田の声に反応して立ち上がったのは一人の40~50代の女性であった。

彼女は岩峯(いわみね) (さくら)。先日、統合国防参謀司令本部司令長官に就任した人物で、その前は国防宇宙軍作戦総監部司令長官(宇宙軍上級大将)というポストについていた。

日本初の女性統合司令長官としてマスコミにも大々的に報道された。能力的にも優秀で、優れた戦略眼を持っていたことから統合司令長官に抜擢されたのだ。

 

「はい。まず統合参謀司令部としては1個師団15,000名までの地上部隊であれば今年中の派遣も可能であると判断しました」

 

岩峯ははっきりとそういった。

 

「ふむ・・・・それ以上の部隊を派遣できない理由は?」

「補給路の問題です」

 

モニターが切り替わり、扶桑、日本、オラーシャ周辺の地図が映し出される。岩峯はレーザーポインターを取り出すと、扶桑海事変で奪還したばかりの浦塩周辺を指し示す。

 

「まず、国防軍が想定している派遣計画です。まず我が国の函館、大湊に派遣部隊を集結させます。その後、海軍第1揚陸艦隊と第3揚陸艦隊が地上部隊を浦塩まで輸送。シベリア鉄道を使用して欧州まで部隊を移動させます。補給にも同様のルートを使用する予定です」

「では輸送に使える船がないのか?」

 

岩峯が詳しい理由を述べる前に官房長官が自身の予想を述べる。しかし、その予想は外れていたらしく、岩峯は首を横に振った。

 

「いえ。浦塩でも運用可能な船舶は、民間を合わせればセミコンテナ船、RO-RO船など合わせて300隻ほどあります。現在、輸送に使われていない船をすべて補給路に回せば4個師団分の補給が可能です」

 

現在、日本国内の主要港間の運送はこの世界では使えないフルコンテナ船などを使用しており、扶桑との貿易には70隻ほどのばら積み船とその20隻ほどのRO-RO船、セミコンテナ船が運航しているだけであった。

すると、何かを察したらしい国交大臣が口を開いた。

 

「なるほど、シベリア鉄道が問題ですか・・・・」

「はい。シベリア鉄道が現在運用している汽車の性能、数的に1個師団分の物資を運ぶのが精一杯です。また、コンテナ貨車がないので食料、部品類は中身を取り出して乗せるなどの工夫が必要になります」

 

岩峯の言葉にみんな納得したようであった。すると総務大臣がこんな提案をしてきた。

 

「欧州の港まで直接船で運ぶのはどうだ?」

「欧州の港まで直接輸送するにしても欧州まで輸送できる船が少ないので結局変わりません」

 

先ほどは船が十分にあるといいながら、今度はないという。一見、矛盾した主張に一同は首を傾げた。しかし、環境大臣と国交大臣は理由が分かった。

 

「大半の船舶が電気推進だからな。向こうまで行けるのは数の少ない旧式の船かEFV(環境配慮船舶)くらいしか欧州に行けないのか・・・・」

 

岩峯はうなづくことで、環境大臣の考察を肯定した。

2020年代、世界各国では環境対策が進んでいた。それは船舶にとっても例外ではない。電子化によって電力消費量が多い軍用艦艇には、有害ガスを排煙から除去する装置を付けたうえでガスタービンエンジンが搭載されていたが、民間船舶にはバッテリー搭載の電気推進方式が採用されていた。

当然ながら日本から欧州まで行って帰ってくることを無補給で行うことは不可能である。途中や目的地でエネルギーを補給する必要がある。転移前の前世界では、それらへ電力を供給する設備が各港にあった。しかし、この世界ではいまだに船舶は重油を使ったエンジンを使っているし、民間船舶の中にはいまだに石炭を使っているものすらあるのだ。

つまり欧州まで行くには、いまだに重油を使っている旧式船舶を使うか、排煙から硫黄化合物を取り除く装置を付けた船を使うしかない。しかし、有毒ガス除去装置を付けた民間船舶は大型のフルコンテナ船や大型豪華客船などが多く、欧州の港で運用可能なRO-RO船やセミコンテナ船の新型はほとんど電気推進方式を採用している。つまり、欧州まで物資を運べる船舶は非常に少ないということになる。

 

「なるほどな・・・・。では西欧諸国に対しては物資の供与に限るとしよう」

「それと同時に各地の港湾設備の整備と化石燃料機関の輸送船舶の建造を依頼しましょうか」

 

石田と官房長官は口々にそういった。

実をいうと、扶桑皇国が自動車や家電製品を大量に輸入してくれている*1おかげで経済は徐々に回復してきている。

 

「では、岩峯君。その方針で話を進めるとしよう」

 

結局、この日の会議で海兵隊第2海兵師団を欧州に派遣することが決定。民間海運会社に補給物資の運搬を委託し、オラーシャ帝国に対して協力を要請することとなった。また、国内の造船所には新型の戦時急造型のセミコンテナ船の建造を依頼した。ほかにもインド、スエズ、パナマ及び西欧諸国の港の整備を進めることとなった。

また、シベリア鉄道でも使用できる貨物列車の計画を鉄道会社に要請することとなった。もし、日本製の貨物列車がシベリア鉄道で使用できるようになれば、大幅な補給能力向上が見込めるからだ。

西欧諸国に対しては医療品、12.7㎜弾薬などの物資の無償提供や車両などの有償提供を行うこととなった。

しかし、日本国外務省がこれらの提案を行うと、オラーシャ帝国は日本の提案に難色を示した。

それもそうだ、自国領内を他国の軍隊やその補給物資が通ることにいい顔をする国はそうそうないだろう。だが、11月になってからカールスラント、ミュンヘンがネウロイの襲撃を受け、自国にもネウロイの脅威が迫っていると実感すると態度が一変。日本側の提案を素直に受け入れた。

すでに派遣準備が整っていた海兵隊第3海兵師団22,000名と物資を乗せた海軍艦隊は、11月26日に函館、大湊を出港。1週間ほどかけて浦塩に到着。そのころにはスオムスがネウロイの侵攻を受け始めており

オラーシャ帝国は対ネウロイ戦の最前線になっていた。

当初、国防軍は部隊を薄く展開させ現地軍と協力し、持久戦を行なおうと考えていたが、ネウロイがすでに欧州を東西に分断するように陣取ったことで想定していた戦略は崩れ去った。

一方、ブリタニアやリベリオンに対して行った各地の港湾設備の整備の提案はすんなりと受け入れられた。日本政府はODAを使い、余っている貨物船舶を使用し、変電設備や電力補給装置を輸送。日本の建設会社に建設工事を委託し、最新の工法を使用して、港湾の整備がすすめられることとなった。

変電設備、電気補給装置の設置工事、既存の燃料補給設備の改良工事だけなので、工事は2.3年ほどで終了するとされていた。

 

――――――――――――――――――――

 

その後の欧州の戦局は、お世辞にも良いとは言えなかった。

12月にスオムスで超大型ネウロイを撃破するも、ネウロイの攻勢はとどまることを知らずに内陸部へと進んでいった。

1940年次国防大綱が、25日に国家安全保障会議で決定。同時に1940年度中期防衛力整備計画が発表される。それにより、新たな空母航空団の整備と空母打撃艦隊の新設。1個揚陸艦隊の整備と揚陸任務群の揚陸艦帯への整備。1個海兵戦闘航空団と1個海兵師団の整備が盛り込まれる。

 

1940年

1月:スオムスのスラッセン、オラーシャ帝国のペテルブルクが陥落、スオムスとオラーシャ帝国は分断されてしまったのだ。

2月:スオムス軍が大規模攻勢を仕掛け、多大な犠牲を払いつつもスラッセンを奪還。

同時期に国防軍海兵隊第3海兵師団はオラーシャ帝国のドニエプル川を防衛ラインと定めオラーシャ軍と共同で機動防御作戦を展開、更なる増援が来るまで持久戦を開始。

6月:カールスラントが陥落。

電撃的にガリアに侵攻されパリが陥落する。この時期には欧州大陸からブリタニアへの避難が行われていた。

9月:エジプトが陥落し、スエズ運河が使用不能となった。これにより、日本の西欧への部隊派遣はさらに遅れることとなり、事前に予定していた補給路もパナマ運河を使用する航路へと変更を余儀なくされた。

10月:ペテルブルクが占拠されオラーシャと西欧との連絡路は完全に遮断された。

ドニエプル川で防衛戦を展開していた第3海兵師団とオラーシャ軍は包囲されることを嫌い、撤退戦を開始。殿は第3海兵師団が引き受けることとなった。

海兵隊UH-71汎用ヘリコプターが、地上部隊の撤退支援中にオストマルクより撤退していたウィッチ部隊を発見・回収。消耗が激しかったウィッチ隊は国防軍が次の防衛地点と定めたツァリーツィンまで大型ヘリで空輸された。

12月:日本で軍事偵察衛星と弾道ミサイル照準用の衛星が打ち上げられる。それからは毎月のように気象衛星やGPS衛星などの各種衛星が打ち上げられた。

 

1941年

1月:第3海兵師団がツァリーツィンに到着。ここで本国からの増援部隊が来るまで持久戦を開始した。戦局は非常に苦しかったが、第3海兵師団はヘリや各種装甲車両などの機動戦力とミサイルなどのハイテク兵器を最大限使い、防衛に成功。

日本本国では転移後にウィッチ適性が発現した人間のうち、志願者が集められ、ウィッチになるための訓練を開始。

また、扶桑海事変中から官民合同で研究されていたストライカーユニットの技術実証機であるXW-1が初飛行。6ヶ月間の実験に回される。

4月:すでに日本国内で引退していたディーゼル機関車の設計を流用した機関車がシベリア鉄道で運航を開始。*2同時にコンテナ貨車の運用も開始されたことで補給問題がかなり解決された。

それを受けて国防軍は陸軍第1機甲師団と第2独立機械化歩兵旅団、第3独立機甲旅団の合計32,000名の派遣を決定。

同時に撤退戦で消耗した第2海兵師団の帰国と再編成が決定。陸軍と入れ替わる形で撤退。

6月:日本・オラーシャ軍は共同でネウロイへの反抗作戦を決定。バルバロッサ作戦とタイフーン作戦を開始した。日本本国より派遣された短距離弾道ミサイル部隊がペテルブルク周辺にいる大規模なネウロイ群とヴォルガ川対岸のネウロイ群に対してATACMS短距離弾道ミサイルによる攻撃を連日のように行い、1週間の爆撃が完了するとペテルブルク方面には陸軍2個旅団が、ヴォルガ川では第1機甲師団が、オラーシャ軍と協力し侵攻を開始。これらの部隊にはジェット戦闘機などの強力な航空戦力はいなかったものの、移動式対空レーダーと日本製個人無線機によって行われた要撃管制は、ウィッチ隊の戦闘能力を底上げした。飛行ネウロイには要撃管制されたウィッチ隊が、地上ネウロイには耐熱装甲板を取り付けた戦闘ヘリや装甲車両が対処し、陸空の連携の取れた作戦は成功した。結果、ペテルブルクの奪還に成功。しかし、徐々にネウロイの巣が近づくにつれてネウロイの量が増えていき、国防軍も息切れを起こし始める。結局、ドニエプル川にたどり着く前に冬が到来したことで、国防軍は再び撤退を開始。結局、ネウロイの巣が破壊できるようになるまでヴォルガ川で持久戦を行うこととなった。

7月:日本本国で新型ジェット戦闘機、X-5の初飛行に成功。

11月:南アフリカに電気推進船用の補給設備が完成。オストマン方面にも補給設備は作られていたが、スエズ運河の占領を受けて工事は無期限の休止。ただ、アフリカ方面への部隊配備は検討され、補給路確保のためにスエズ運河の奪還が計画される。

 

 

1942年

2月:ブリタニアにも補給設備が完成し、日本から西欧への補給路が確保された。この時期にはディーゼル機関を使用するセミコンテナ船が多数、就航していたため約400隻以上の貨物船が日本―西欧間を行き来することとなる。

日本政府は国防軍の更なる派遣を決定。陸軍2個師団、3個旅団、海兵隊2個師団*3を追加派遣した。

また、ブリタニア、ヒスパニア、ロマーニャ、オラーシャ、スオムスにジェット機の運用可能な飛行場の整備を開始。

各国からウィッチを集めた統合戦闘飛行隊がアフリカで発足。日本は国防軍から地上部隊の一部を派遣することとなった。

9月:ブリタニアで第501統合戦闘航空団が発足した。日本政府は戦闘機部隊の配備が可能になり次第、戦闘機隊を派遣することを約束した。

11月:他国からストライカーユニット技師を招聘していた、三菱重工業と防衛省防衛装備庁の共同開発チームがF-86ストライカーユニットの試作機を製作。扶桑皇国よりウィッチが呼ばれて、試作ストライカーユニットの初飛行が行われた。

12月:防衛省は新型ジェット戦闘機をF-5ファントムハンターとして制式採用。

 

1943年

この年、各地で統合戦闘航空団の編成が進んだ。

5月:国防軍の更なる派遣が進み、陸軍から3個師団、2個旅団と海兵隊1個師団、1個旅団*4が抽出されて欧州に派遣された。本土の防衛は手薄になるものの、現在はネウロイとの戦争の真っ最中であるため、本土が攻撃を仕掛けられることはほぼないというのが国防軍上層部の判断であった。

7月:国防空軍が新型ジェットストライカーをWF-86セイバーとして制式採用。

8月:74式戦車のストライカーユニットの試作機が完成。実用化に向けた試験が行われた。

12月:ブリタニアの燃料補給設備の改良工事が完了し、ブリタニアでも5つの飛行場でジェット戦闘機の運用が可能な滑走路が完成した。これらの飛行場には国防空軍や海兵隊航空群から基地業務隊が派遣され、航空部隊の受け入れの準備が進められた。

 

 

1944年

1月:WF-86セイバーの量産型がウィッチ訓練航空隊に配備。今まで訓練で使用されていた、カールスラント製のBf-109と置き換えられる。

日本政府は国防海軍第1空母打撃艦隊、第1揚陸艦隊、国防空軍2個早期警戒航空隊、2個戦術輸送航空団、海兵隊1個海兵戦闘航空団からなる大規模航空部隊と陸軍第1砲兵旅団の派遣を決定。アメリカ合衆国も海兵隊の戦闘機部隊を派遣することを発表。ついに欧州の情勢は変わろうとしていた。

*1
また日本製兵器にほれ込んだ扶桑皇国軍が日本製の89式小銃を分隊支援火器として輸入したり、軍用トラックや高機動車を輸入している

*2
環境に配慮し、有害ガス除去装置の設置や車輪をシベリア鉄道のレール幅に合わせるなどの改良がおこなわれた

*3
【派遣部隊内訳】

《陸軍》

第7師団(機甲師団)    :約14,000名

第2独立空挺旅団(軽歩兵旅団) :約4,500名

第10師団(自動車化師団)  :約15,500名

第11独立機械化旅団(機械化旅団)  :約6,800名

第1工兵旅団      :約4,600名

《海兵隊》

第1海兵師団《機甲師団》 :約22,000名

第2海兵師団(歩兵師団)  :約19,000名

*4
【派遣部隊内訳】

《陸軍》

第1空挺師団(軽歩兵師団) :約15,000名

第9師団(自動車化旅団)  :約15,500名

第8師団(自動車化師団)  :約15,500名

第1輜重旅団       :約8,000名

第1防空砲兵旅団     :約4,000名

《海兵隊》

第4海兵師団(歩兵師団)  :約19,000名

第6海兵旅団(歩兵旅団)  :約6,200名




今日中に第26話も投稿したかったですが、間に合いませんでした。申し訳ありません。26話は火曜日に投稿します。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
では、また次回。さようならぁ!

次回 第26話 欧州へ

お楽しみに


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第2章 ストライクウィッチーズ
第26話 欧州へ


すいませんでした。
火曜日に投稿すると言いつつ、金曜日になってしまいました!
今回から、ストパンのメンバーが徐々に出てくるので許してください。


欧州でネウロイとの戦争が始まってから5年がたとうとしていた。

 

 

欧州の戦局は膠着しており、難民が多数出ていた。日本政府は難民への援助も開始していた。

 

 

ネウロイとの戦争の影響で日本製の自動車(トラック)や医療品、船などの需要が高まり、日本は戦争特需に沸いていた。金融業もある程度は復活し、日本経済は徐々に回復していた。

転移で失われた各種衛星の打ち上げも順調に行われており、日本は準天頂衛星システムの経験もあったことからGPS衛星の打ち上げも順調であった。1945年末には各種衛星が完全に復活すると見込まれていた。

 

 

欧州には10万以上の国防軍が派遣され、各戦線で大活躍をしていた。

日本では、ウィッチとしての能力が発現した女性たちへ、国防軍が積極的な勧誘を行っていた。意外にもウィッチへの応募者は多かった*1。結果として第1次募集には100人を超える応募があった。うち3割は途中で除隊するも、7割近い人間が実戦部隊に配備できると見込まれていた。

また、日本国国防軍は各国からストライカーユニットの技術者を招いて日本独自のストライカーユニットの開発を進めていた。すでにWF-86セイバーのストライカーユニットの量産が始まっており、扶桑からウィッチが招かれて、WF-86航空戦闘脚を使ったウィッチの育成も行われていた。

陸戦ストライカーユニットでも、74式戦車のストライカーユニットが試験を終えており、正式採用されていた。74式装甲戦闘脚と名付けられたそれは、1944年4月から量産が始まる予定であった。これを操る陸戦ウィッチの訓練も、現在使用しているリベリオンから輸入したM4シャーマン戦闘脚を入れ替えて行う予定であった。半年から1年ほどの訓練を終えたら欧州戦線に投入される予定であった。

またWF-86航空戦闘脚の後継機として、超音速ストライカーユニット計画XW-4の開発も進んでおり、1944年中には試験飛行が開始できるとされていた。

 

 

そして1944年2月2日。日本国国防海軍の第1空母打撃艦隊、第2揚陸艦隊、第3艦隊と海兵隊第81海兵戦闘航空団。アメリカ海軍第11揚陸隊と米海兵隊第12海兵航空群からなる日米合同遣欧航空部隊が横須賀から出向した。

 

――――――――――――――――――――

 

強力な航空機部隊派遣の知らせは、瞬く間に欧州中に広がった。

ここ第501統合戦闘航空団(501JFW)も例外ではなかった。

 

 

司令執務室には、部屋の主であるミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐と501JFW戦闘隊長の坂本美緒少佐、司令代理兼戦闘隊長代理のゲルトルート・バルクホルン大尉の3人が集まっていた。

執務机に座っていたミーナは、2人に書類を2つずつ手渡す。

 

「日本軍が航空機部隊の派遣を決定したそうよ」

 

ミーナは開口一番にそう告げる。

今まで、日本国国防軍はジェット機の運用できる滑走路がないことを理由に固定翼機の派遣を行っていなかったのは、欧州の誰もが知る事実であった。

扶桑海事変以降、強力と囁かれつつも、その姿を一切見せることのなかった国防軍の航空機部隊の派遣は欧州中の興味を引いていた。

 

「今朝、司令部に行っていたのはそういうことか・・・・」

「ええ。今朝、日本海兵隊の連絡将校からその書類が・・・・。この501にも戦闘機6機と、そのパイロット、整備兵、管制官が派遣されるらしいわ」

 

坂本の言葉に、ミーナはこくりと頷く。

手渡された書類は、501基地に派遣されるすべての人員の写真付きの経歴書60枚と装備品の書類、その他備考などが記載されており、ちょっとした本並に分厚いファイルに挟まれていた。

 

「派遣部隊全体だと・・・・大部隊だな・・・・」

 

もう一つの書類、派遣部隊全体に関する軽い説明資料を読んでいたバルクホルンは、そうつぶやいた。

 

「大型空母1隻に小型空母3隻、輸送艦4隻に巡洋艦2隻、駆逐艦16隻、潜水艦4隻ですものね」

「大型空母・・・・?」

 

坂本は、バルクホルンが読んでいるものと同じ資料を開く。

すると、坂本はその資料に載っている名前の中に懐かしい名前を見つけたらしい。

 

「ほう・・・・。”あかぎ”が来るのか」

「そういえば美緒は”あかぎ”に乗った経験があったわね?」

 

ミーナの言葉に、坂本はうなずいた。

 

「扶桑海事変の時に、アドバイザーの一人として呼ばれたんだ。とてもでかい艦だった」

「一度乗ってみたいわね」

 

坂本の口調と顔で、よほど良い船だったのだろうと予想できたミーナは、そんな言葉を漏らす。

すると、坂本が何かに気付く。

 

「そういえば。ここに来る部隊の指揮官も扶桑海事変に参加していたんだな」

「ええ。今浦(いまうら) 和樹(かずき)少佐。扶桑海事変では小型ネウロイ4機、中型ネウロイ1機を撃墜したそうよ」

 

ミーナは手元の書類を再び手に取り、日本からの派遣部隊の指揮官の書類を読み上げた。

その経歴に、バルクホルンはつぶやいた。

 

「エースパイロットか・・・・」

「他の隊員たちも優秀なパイロットが集められたみたいよ」

 

ミーナは、他の派遣隊員たちの経歴書もペラペラと読む。

書類に記載されているどの隊員も、模擬戦闘訓練での成績が良かったり、対ネウロイ戦において戦果を挙げたパイロットばかりである。

 

「5日後には、日本の基地業務隊*2が来るそうよ。戦闘機隊の到着は1週間後になるらしいから、準備しておいて。いいわね?」

 

すでに基地には航空管制用の設備が整っていたので、あとはそれらを運用する人員さえ派遣されれば航空機部隊の運用はすぐにでも可能であった。

ミーナの声に、2人はこくりと頷いた。

 

 

5日後、整備兵や管制隊など60名の後方支援要員が基地にやってきた。一緒に運ばれてきた戦闘機の部品などに一部のウィッチが興味津々であった。

 

――――――――――――――――――――

 

ブリタニア、クライド海軍基地。

欧州本土が陥落してから、ネウロイの襲撃の可能性は薄いと考えられ、大西洋方面の人類連合軍の海軍補給基地として使用されていた。

他にも、ブリタニアには2つの海軍基地があるのだが、どちらもドーバー海峡に接しているために使用頻度は少なかった。一応、ガリア解放後は主要港として使用することを見込んで、日本政府が港湾設備の改修工事をしていたが、他の港と比べて優先順位は低かった。

さて、そんなクライド海軍基地だが、停泊している艦艇は意外に少ない。この港を主要補給港としている船は軍艦くらいしかおらず、その大半は大西洋上での哨戒任務にあたっているからである。

しかし、先日この港に日本の大艦隊が入港した。潜水艦などすべて合わせて計16隻の大艦隊は、補給のためにいまだ停泊していた。軍人が見ても空母のように見える船が4隻もいる。これだけで日本が、欧州戦線に本腰を入れてきていることがよくわかる。

 

 

その中の一隻、空母のように見える船―いず型強襲揚陸艦6番艦”つるみ”に、501JFWに派遣される日本のパイロットたちが乗っていた。

 

「――すでに後方支援要員と機材は、第5独立海兵連隊と陸軍が運んでくれている。質問は?」

 

501JFW派遣航空隊の隊長を務める今浦は、彼の目の前に整列している3人のパイロットにそう告げた。

すると、少し童顔気味の若い男性パイロットが手を挙げる。

 

「私物類はどうするのでしょう?」

「俺らが着いた後に、オスプレイが運び込んでくれるそうだ」

 

今浦は、質問に短く答える。すると、すぐさまもう一人の男性パイロットが手を挙げた。

外国人の血が混じっているのだろうか、その男性パイロットは青い瞳に、少し明るい髪の色をいていた。

 

「米海兵隊も派遣されるそうですが、合流はどこで?」

「カーディフ上空で合流したら、そのまま501JFWに向かう」

 

またもや質問に短く答えると、彼はほかに質問はないかと見まわす。質問はもうないのか、手が上がることはなかった。今浦は腕時計を確認する。

 

「質問はないようだな・・・・。30分後に出発する。用意しろ」

 

彼らが解散すると、今浦も自機に向かおうとする。すると、一人の女性が彼の前に立った。

絹糸のような黒髪を、国防軍の規則に沿ってショートヘアにしている。凛とした瞳は、虹彩がわからないほど黒い。顔のパーツは整っており、和装がたいへん似合いそうな美人であった。

そんな彼女を見ると、今浦は立ち止まって敬礼した。もちろん、彼女が美人であるからというわけではない。その理由は、彼女の軍服の肩には、海軍准将を示す階級章が、胸元には艦隊司令を表す徽章がついていたことで、察しがつくだろう。

 

「河合司令。お世話になりました」

 

彼らの乗っていた”つるみ”が所属する第2揚陸艦隊の司令であったのだ。

 

「いえ。任務ですので」

 

河合は、素っ気なく答える。今浦は、初めてあったときから、彼女のその態度が苦手であった。

 

―悪い人ではないんだがなぁ・・・・

 

彼女の態度に、今浦は心の中でぼやく。

なるべく苦手な人間と関わりたくない性格の今浦は、短い別れを済ませると戦闘機に向かう。

 

 

甲板上には、国防軍の最新鋭ステルス戦闘機F-37C*3が4機、待機しており、その周りにはたくさんの整備士がいた。

彼の部下たちは、すでに戦闘機に乗り込んでおり、整備士と何やら確認していた。彼も、自機の隣で機体を確認している整備班長に軽く敬礼すると、コックピットにかけられたはしごを使って、スルスルとコックピットに入っていく。

すでに補助電源が付いているらしく、コックピットに設置された1枚の大型ディスプレイには機体情報が事細かに記載されている。

 

「少佐、これを・・・・」

 

整備士が機体に駆け寄ってきて、何やら差し出す。何か気の利いたプレゼント、というわけではなく、ただの整備確認に関する書類であった。

 

「武装は自衛用の31式短距離空対空誘導弾2発・・・・機関砲弾、燃料・・・・大丈夫だな」

 

今浦は、ディスプレイに映し出される情報と確認書類の内容を確認する。機体に搭載されている自己診断プログラムも問題なさそうであった。

確認したことを示すサインを簡単に書くと、書類を整備士に返す。書類を手渡された整備士は、敬礼すると機体から離れていった。

他の整備士はミサイルの安全ピンを抜いて、それを今浦に見せる。ピンの数を数えて、ミサイルが使用可能なことを確認すると、今浦は親指を立てて合図する。

そこまですると、いよいよ機体の周りの整備士が離れていく。すでにコックピットにかけられていたはしごは外されている。今浦はキャノピーを閉じて、パイロットヘルメットをかぶり電源を入れる。

HMDにも、さまざまな情報が映し出される。今浦はそれを一つ一つ丁寧に確認して、機体に異常がないことを確認していった。

 

「よし・・・・」

 

いよいよ飛行前の最終確認を終えた今浦は、無線の電源を入れた。

 

「”つるみ”コントロール(航空管制室)ディスイズメイジ15(第104海兵戦闘飛行隊第4小隊長機)レディテイクオフ(離陸準備完了)

『メイジ15。ラジャー。ウィンドエイトエイトアットスリー(風向き88度、3ノット)クリアドテイクオフ(発艦に支障なし)アプロウブドテイクオフ(発艦を許可します)

 

少し遅れて、”つるみ”の航空管制室から発艦許可がでる。

今浦は、座席に座りなおすと、スロットルレバーに手をかける。

 

「メイジ15・・・・テイクオフ(発艦します)

 

スロットルレバーをめいっぱい引くと、ボタンを引いてアフターバーナーを使用する。

エンジンからでる炎が一層強くなると、機体はゴッ、という音ともに発艦する。編隊長機である今浦機の発艦が完了すると、それに続いて編隊機も”つるみ”から発進した。

 

 

彼らは上空で編隊を組むと、カーディフ上空の合流地点にまっすぐ向かった。

そこで米海軍第11揚陸隊の強襲揚陸艦から発進した、米海兵隊F-37C2機と合流すると、ドーバー海峡に接する海岸線にある501JFWの基地に向かった。

*1
志願理由は「やりたいことがなかったから」「仕事がなかったから」などの消極的理由や「かっこよさそうだから」「面白そうだから」などの興味本位、「人の役に立ちたいから」「国防軍に興味があったから」などなど様々であった

*2
管制官、整備兵、気象隊などを合わせた、航空基地運用のための後方支援部隊のこと

*3
アメリカ軍と日本国国防軍が次期統合打撃戦闘機計画として、F-35の後継機として、ロッキード社・三菱重工業が開発した5.5世代ジェット戦闘機。

新素材を多用することで、かのF-22を上回る運動性能と速度を持ち、ステルス性能もF-35並みの戦闘機。STOL機のC型はF-35Bのリフトファンを改良した連装式リフトファンを装備している。

国防空軍、海軍、海兵隊でF-35との入れ替えが行われていたが、転移の影響で計画が見直されることとなった。この世界ではステルス機よりも第4世代ジェット戦闘機が必要とされ、本機の優秀なアビオニクスとエンジン、そしてF-15の機体構造を参考にしたF-5スーパーイーグルが正式採用され、併用されることとなった




いかがでしたでしょう?
日本もウィッチを採用し始めました。使えそうなら使う当たり前だよな?
初期案では日本に徴兵法を制定させるつもりでしたが、志願制を維持することにしました。憲法とか予算とか大変そうだからね。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回!

次回 第27話 第501統合戦闘航空団

お楽しみに!


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第27話 第501統合戦闘航空団

また金曜日投稿になってしまい、申し訳ありません。リアルでいろいろと忙しくて投稿が遅れました。
では、本編どうぞ。


2月というと日本もまだ冬の季節である。転移前は、地球温暖化の影響で暖冬が多く、たとえ東北地方や日本海側であっても雪が降ることは少なかったが、転移後は現代と比べてCO2の量は少なく、地球温暖化の影響もそこまでないことから7年連続で各地で豪雪が記録された。

501JFWの基地があるブリタニアは、そんな日本よりも緯度が高い。つまり、寒いのである。特にこの年は、寒さがひどく、普段めったに雪が降らないブリタニアにも、雪が降り積もっていた。

 

 

それは501JFW基地も例外ではなく、建物の屋根や庭には雪が降り積もっていた。

それでも滑走路は、日本製の小型除雪機や凍結防止剤、融雪剤などによって、コンクリートで舗装された滑走路が見えている。

ミーナ、坂本、バルクホルンの3人は、そんな滑走路の脇にいた。

すると、彼女らの後ろから声がしてきた。

 

「おーい!中佐!」

 

3人が振り返ると、薄茶色の軍服に身を包んだ少女と白い軍服に身を包んだ少女が、3人の方へ走ってきていた。

だいぶ全力で走ってきたらしく、二人の息は荒い。

 

「シャーリーとルッキーニか。今日は非番だろう。なんでここにいるんだ?」

 

息を整えている二人に、坂本がそういった。

息をある程度、整えると、大きな胸が特徴の薄茶色の軍服の少女が答えた。

 

「今日は日本の戦闘機が来るんだろ?超音速で飛ぶ戦闘機を見てみたいんだ」

「私も興味あるー!」

 

ツインテールの白い軍服姿の少女も、追従した。

ツインテールの少女は、その身長と態度から、まだ小学生のように見える。対して、薄茶色の軍服の少女は、まるでツインテールの少女の保護者のようであった。

坂本は呆れたように、ため息をはいた。

 

「お前ら、遊びじゃないんだぞ・・・・」

「頼むよ、中佐!」

「お願い!」

 

二人の必死の懇願に、ミーナは苦笑いする。

 

「わかったわ。迷惑をかけないなら、許可します」

「やったー!」

 

ミーナの言葉に、二人は大喜びする。

すると、遠くからゴォォという音がする。聞き慣れない音に、その場の大勢の人間は、困惑していた。

しかし、国防軍の整備兵たちと坂本には、聞き覚えのある音であった。

 

「来たみたいだな」

 

坂本がつぶやいた瞬間、ものすごい風と轟音を撒き散らして2機の飛行機が、上空を低空飛行で飛んでいった。

 

「なんだ!?」

 

バルクホルンが目を細めてみると、低空飛行をしていた飛行機には灰色の星マークがついている。

形は、全体的に角ばっており、濃い灰色の塗装がしてあった。機体後部からは、赤い炎が顔をのぞかせていた。

 

「シャーリー!上!」

 

ツインテールの少女に促されて、薄茶色の軍服の少女―シャーリーが上を見上げる。

そこには、はるか上空を白い雲を纏いながら飛ぶ4機の飛行機があった。

 

「べイパーコーンだ!」

 

その白い雲の正体が、音速時に出ると言われている雲だと察したシャーリーは、目を輝かせて上を見上げていた。

しばらくすると、先ほど低空飛行していた飛行機が戻ってきたのだろう。2機の飛行機が滑走路に進入してきた。

 

「着陸するのか?」

「高度がやけに高い・・・・素人が操縦しているのか?」

 

シャーリーとバルクホルンは、着陸する態勢ができていないように見える2機の飛行機を見て、困惑していた。ミーナも彼女らと同じように困惑しているようだ。しかし、扶桑海事変の時にオスプレイを見ていた坂本は、これから何が起こるのかわかっていた。

しばらく、ジッと2機を見ていると滑走路の上空で、後部についた2つのエンジンが下を向き、機体は静止した。本当は、エンジンが下を向いたわけではなく、F-35Bと同じように連装式リフトファンがジェットエンジンの排気を下に向けているだけだが、彼女らにとってそんなことは関係ない。

時々見るヘリやオスプレイは見たことがあった。これらも大変驚いたが、カールスラントではヘリの研究が進んでいたこともあり、理解が出来た。

しかし、超音速飛行すら行うジェット戦闘機が、空中で静止し、垂直に降りてくるなど予想外すぎる。

ぽかん、とする彼女らの前に2機の戦闘機は静かに降り立った。

走ってきた誘導員の指示に従いながら、機体をゆっくりと駐機場に進める。

その後ろでは、灰色のマルが描かれた4機の戦闘機が、次々と同じように着陸して見せる。4機も、先の2機と同じように誘導員の指示に従って、機体を駐機場に進める。

 

「す、すごいわね・・・・」

 

ミーナは思わず、そうつぶやいた。

駐機場に止まった戦闘機のエンジンが止まり、騒音が止む。戦闘機のキャノピーが開くと、待機していた整備兵たちが機体に駆け寄っていく。コックピット左側面から、整備兵が梯子を伸ばす。乗っていたパイロットはヘルメットを取り、コックピットに置くと、はしごを使って器用に降りてきた。

始めてみるそれらの光景に、坂本を除く全員が驚愕していた。シャーリーなんかは、初めて見る超音速戦闘機に心を奪われていた。

すると、戦闘機から降りてきたパイロットのうち、2人が彼女らのもとにやってきた。

 

「501統合戦闘航空団の方ですね?」

「ええ。第501統合戦闘航空団司令のミーナ・ディートリンデ・ヴェルケ中佐です」

 

ミーナは平常心を取り戻すと、敬礼してそう答えた。

すると、星マークの書かれた戦闘機から降りてきた、金髪に青い瞳が特徴的なパイロットが敬礼した。

 

「アメリカ海兵隊第12海兵航空群から派遣されてきた、チャック・アッカーマン大尉です」

 

すると、その横にいた黒髪の男―今浦もミーナに敬礼する。

 

「日本国海兵隊第81海兵戦闘航空団から501統合戦闘航空団に派遣された、今浦和樹少佐です」

 

ミーナは、そう言って今浦から差し出された右手を握り返す。

 

「よろしくね。アッカーマン大尉、今浦少佐」

「よろしくお願いします。ヴェルケ中佐」

「こちらも、よろしくお願いします」

 

あとから、右手を差し出してきたチャックとも握手をする。

ついに人類の反抗が始まろうとしていた。

 

――――――――――――――――――――

 

彼らが到着してから1時間後、会議室にはストライクウィッチーズのメンバー7人が集められていた。

9人は、それぞれ雑談をしたり、本を読んだり、寝ていたりと思い思いのことをしながら時間を過ごしていると、会議室の前の扉が開き、ミーナと坂本が入ってきた。

 

「みんないるわね。今日はお知らせがあります。知っている人もいるかもしれないけど、今日からストライクウィッチーズに戦闘機隊が配備されることとなりました。・・・・今浦少佐」

 

再びガチャリとドアが開き、緑色のフライトスーツに身を包んだ男5人と女性1人が入ってきた。彼らが横一列に並ぶと、先頭にいた今浦が敬礼して、自己紹介を始める。

 

「本日より第501統合戦闘航空団に配属された、日本国海兵隊派遣航空隊指揮官の今浦和樹です。階級は少佐。よろしくお願いします」

 

今浦は一歩下がると、その横にいた20代後半くらいの女性が前に出る。紺色のショートヘアで、アホ毛が特徴的。とても珍しい紫目の彼女は、顔のパーツが整っており、控えめに言っても美人である。

 

「今浦少佐の編隊で2番機をしています。緑川(みどりかわ) (あき)。大尉です。同じ女性同士、よろしくお願いします」

 

彼女が自己紹介を終えると、出発前の”つるみ”で今浦に質問していた青い瞳の男が自己紹介を始める。

 

「3番機パイロットの川野(かわの) 大翔(はると)。階級は少尉。よろしくお願いします」

 

川野は、短く簡潔に自己紹介を終える。そして、”つるみ”で質問をしていたもう一人、童顔気味のパイロットが自己紹介をする。

 

「同じく4番機パイロットをしています。桜田(さくらだ) 青空(そら)、階級は川野さんと同じ少尉です。以後、よろしくお願いします」

 

先ほどの川野の自己紹介とは打って変わって、明るそうに自己紹介をする。

ここで日本からの部隊の自己紹介は終わった。次はその横にいるチャックが自己紹介を始めた。

 

「アメリカ海兵隊第12海兵航空群から派遣されてきたチャック・アッカーマン大尉だ。よろしく」

 

ミーナと握手した時とは違い、桜田と同じような底抜けに明るそうな笑顔でそういった。

次に自己紹介をしたのは、チャックの横にいたアフリカ系であろう大柄の男である。服の上からでもわかるほどの筋肉で、スキンヘッドのマッチョである。

 

「チャック大尉の2番機でマイケル・ベリー。階級は中尉。よろしく頼む」

 

日米から派遣されたパイロットたちが一通り自己紹介を終える。

すると、ミーナが再び前に出て、話し始める。

 

「それと・・・・今日は、新しいウィッチも配属になりました・・・・リーネさん」

 

先ほどと同じように、ガチャリとドアが開き、気の弱そうな少女が、中に入ってきた。彼女は、今浦らの前に出ると、彼らと同じように自己紹介をする。

 

「ロンドン航空学校から来た、リネット・ビショップ軍曹です。よろしくお願いします」

 

とてもか細い声であった。

しかし、その自己紹介に気になることがあったのか、バルクホルンがバッと立ち上がる。

 

「航空学校だと?ミーナ、どういうことだ!ここはブリタニア防衛の最前線だぞ!なぜ、実戦経験もない新人が送られてくるんだ!」

「わからないわ。ですが、それが上層部の決定です。・・・・リーネさんは、しばらく訓練してもらいます」

 

ミーナは、バルクホルンの言葉にそう返した。彼女よりも上位の存在からの決定といわれれば、バルクホルンは黙るしかない。

 

「ペリーヌさんは、部屋の案内と基地の紹介をしてください」

 

すると、薄茶色の軍服の少女―シャーリーが手を上げた。

 

「なぁなぁ中佐!案内は私じゃだめか?」

 

ミーナは、少し考える素振りを見せた。

 

「いいでしょう。では、シャーリーさん。案内よろしくね」

 

そこまで言うとミーナは、今浦達の方に視線をうつす。

 

「今浦少佐、アッカーマン大尉。今後の戦闘計画についての会議を行います。会議室に行きましょう」

 

そういうとミーナは、今浦とアッカーマンを連れて部屋を出ていく。戦闘隊長と司令代理である坂本とバルクホルンも会議室に向かった。

全く手持ち無沙汰となった4人のパイロットと一人のウィッチは、どうしたら良いのか分からずに立っていた。すると、突然リーネが悲鳴をあげた。

 

「きゃぁ!」

「「「「!?」」」」

 

何事かと思い、4人がリーネの方を見ると、彼女の胸を鷲掴みする少女の手が見えた。

 

「んー!シャーリーの次くらいにおっきい!」

 

リーネの背中から、ピョコっと顔を出した少女は、満面の笑みであった。

それを見ていた緑川は、ススっと窓際に移動すると窓を背にして、胸のあたりで手を組んで、リネットの二の舞にならない様にする。

どうやら、緑川の心配は当たっていたようで、先程の少女は、リーネの胸を堪能すると視線を緑川の方に向けてきた。しかし、緑川が完全防御姿勢をとっているのをみて、残念そうな顔をする。

 

「だ、大丈夫?」

 

桜田が、倒れ込んでいるリーネに手を差し出す。リーネは、差し出された手を取ると立ち上がる。

 

「あ、ありがとうございます・・・・」

 

桜田が、胸をもんだ少女の方を見ると、まだ緑川とにらめっこを続けている。

桜田が呆れて何かを言おうとすると、シャーリーが口を開いた。

 

「ルッキーニ、そこらへんにしておけ」

「ウー・・・・」

 

少し不満そうな顔をしながら、胸をもんでいた少女―ルッキーニはシャーリーの方に向かう。

それを見て、緑川はホッとして、防御体制を解く。

 

「ルッキーニがごめんな。私はシャーロット・イェーガー。リベリオン陸軍大尉。こっちが・・・・」

「フランチェスカ・ルッキーニ。ロマーニャ空軍少尉」

 

ルッキーニは、少しすねたように自己紹介をする。すると、緑川はルッキーニに近寄ると、屈んで彼女と目線を合わせる。

 

「初対面の人の胸を触るのは、レディのすることじゃないわ。今度から気をつけなさい」

 

小さい子供を諭すような声で、優しく注意する。

 

「・・・・分かった」

 

ルッキーニはコクリと頷いた。すると、自己紹介を終えてから黙っていた川野が、口を開く。

 

「そちらのあなた方は?」

 

そういった川野の視線の先には4人の少女がいた。

そのうちの一人、黒い軍服に金髪の少女が川野の言葉に反応した。

 

「エーリカ・ハルトマン。よろしく~」

 

それに続いて、彼女の後ろの方にいた銀髪ショートヘアの少女が自己紹介をした。

 

「アレクサンドラ・ウラジミーロヴナ・リトヴャクです。サーニャで構いません。よろしくお願いします」

「エイラ・イルマタル・ユーティライネン。スオムス空軍少尉ダ!よろしくナ」

 

なぜか、サーニャをかばうかのように抱きしめて自己紹介をする姿に、5人は首をかしげる。

最後に自己紹介をしたのは、青い軍服に金髪、眼鏡をかけた少女であった。

 

「自由ガリア空軍のペリーヌ・クロステルマンですわ。よろしくお願いいたします」

 

口調や態度から、どこかのお嬢様のように見える。

川野は、自己紹介をした彼女らの顔を一人一人見て、名前と顔を一致させる。

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

自己紹介が終わったところで、シャーリーが緑川の方を向いた。

 

「じゃ、基地を案内するからついてきてくれ」

 

すると、その後ろにいたルッキーニも手を挙げて、ぴょんぴょん跳ねる。

 

「はいはい!わたしも!」

「わかったよ。じゃぁ、一緒にいこうか」

 

5人は、シャーリーとルッキーニの後ろについて、ミーティングルームを出て行った。




いかがでしたでしょうか。
ようやく、ストパンのキャラ全員出せた・・・・。
ところで緑川君にはモデルの人がいます。まぁ、察しのいい人はわかりますよね?最初は容姿もまったく別にする予定でしたが、あるセリフが思い浮かんだので容姿も、モデルの人と同じにしました。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回、さようならぁ

次回 第28話 基地案内

お楽しみに


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第28話 基地案内

お久しぶりです、SM-2です。
先週は申し訳ありませんでした。今週は、金曜日も投稿できると思うのでお許しください。


さて、ミーティングルームを出た4人のパイロットと1人のウィッチは、シャーリーとルッキーニの案内のもと、これらから彼らが生活する居住区画に向かった。本来、男性は別の居住区画があるのだが、ウィッチ隊の居住区画は駐機場などが近く、便利であるため、戦闘機パイロットたちは例外的にウィッチ隊と同じ建物に暮らすこととなったのだ。もちろん、戦闘機パイロットたちは女性とは、部屋の階層を変えている。

 

「ここが部屋だよ。えっと、中佐から渡された資料だと・・・・そこが今浦少佐の部屋で、横が川野、桜田、チャック、マイケルと続くみたいだな」

「私の部屋はどこかしら・・・・」

 

緑川は、自室がどこなのか気になっているようだ。シャーリーは資料をめくって、緑川の部屋を確認する。

 

「緑川の部屋は、この上・・・・私の部屋の隣みたいだな。リーネは緑川の隣ってなってる」

「ま、自室の大まかな場所はわかった。ほかの場所にも案内してくれ」

 

マイケルがせかすようにそう言った。どうやら、この巨漢は意外にもせっかちな性格らしい。

 

「そうだな。じゃぁ、食堂に行こうか」

「いこいこ~!」

 

案内についていくといいながらも、何一つ案内をしていないルッキーニもそういったことで、一同は食堂に向かうこととなった。

 

 

その道中、彼らは自身のことについて雑談していた。

 

「へぇ・・・・イェーガー大尉はもともとバイク乗りだったんですか」

「ああ、ボンネビル・フラッツっていうところでバイクの世界記録をたたき出したんだ」

 

誇らしげに自身のもつ記録を自慢するシャーリー。するとマイケルが顎に手を当てて、語りだす。

 

「これは俺自身じゃなくて、俺の兄なんだが・・・・実は宇宙飛行士だったんだ」

「ほう・・・・。そうなんですか」

 

実はマイケルには4つ上の兄がいた。その兄はNASAに所属する宇宙飛行士で、月探査計画にも何回か参加している人物であった。転移の影響でもう会うことは出来ないであろうが、それでもマイケルは、今はなき故郷にいる兄が自慢であった。自分の兄の誇らしい経歴を語ると、シャーリーとルッキーニ、リーネはキョトンとしていた。

 

「なぁ、その宇宙飛行士って何なんだ?」

 

シャーリーが思わず尋ねた。

月どころか、宇宙にすら人間が到達できていない世界なのだ、宇宙飛行士やら月探査計画やら話したところで理解できないのも無理はなかった。

 

「宇宙飛行士っていうのは、空のはるか上、宇宙空間で科学実験などを行う人たちのことよ」

 

シャーリーの疑問に緑川が答えた。

 

「そんな事が出来るのか!日本ってすごい国なんだなぁ」

 

シャーリー、ルッキーニ、リーネの3人は当然のことながら驚いた。

本当はマイケルの兄が所属していたのは、アメリカのNASAであるが、日本にも宇宙飛行士や宇宙開発機構があるので、あえて訂正はしなかった。

 

「他にはないの?」

「私は特にないわね。まぁ、防衛大を次席卒業っていうのは自慢ではあるけど」

 

ルッキーニの問に、さらっと凄いこと言う緑川。確かに、世間一般で有名人になれるような自慢ではないが、防衛大学校次席というのは相当頭がいいことを示している。

 

「大尉って、頭いいとは思っていましたけど・・・・」

 

川野はどうやら知っていたような顔をするが、全く知らなかった桜田は驚いていた。

他人の話への反応ばかりの桜田に、マイケルが質問する。

 

「桜田は何かないのか」

「自分はこれと言って・・・・」

「川野は?」

 

ルッキーニの言葉で今度は、何も話そうとしない川野に注目が集まる。

 

「別に・・・・人に語れるような話はないもので」

 

そっけない態度を取る川野だが、その顔はどこか悲しそうな顔であった。そんな彼の姿に、川野と小さいころから幼馴染でもあった桜田は、何かを察したように黙った。

突然、二人から放たれる重苦しい雰囲気に、一同は困惑してしまうも、そうこうしているうちに食堂についた。

 

「ここが食堂だ。ときどき、郷土料理を作ったりするんだ」

 

5人は、食堂の中を見渡す。

奥にあるキッチンを見ると、この世界では珍しいガスコンロがあった。IHになれた日本人からすると、なんともレトロに思えた。

 

 

食堂を一通り見終えると、彼らは格納庫に向かった。広い格納庫内にはストライカーユニットとその発進装置が並べられており、それの整備部品も至るところに置かれていた。

 

「これが・・・・」

 

緑川は、ストライカーユニットに近づいて、なでながらそう言った。

 

「ストライカーユニットを見るのは初めてかい?」

「いえ。前、松島基地で・・・・。そのときにはWF-86ストライカーユニットの配備が始まっていたので、レシプロストライカーを見るのは初めてだけれど」

 

シャーリーは緑川の言葉を聞くと、目を輝かせる。

 

「噂に聞く高速ジェットストライカーかぁ・・・・使ってみたいなぁ」

 

日本が開発したジェットストライカーの噂は、すでに欧州にまで及んでいるようだ。

音速は超えられずとも、亜音速で飛行することのできる新型機だ。注目が集まって当然であろう。

 

「そういえば、日本の戦闘機は超音速飛行が出来るって聞きましたけど、本当なんですか?」

 

リーネが恐る恐るといった感じでそう聞く。

 

「なら、あっちに行きましょうか」

 

そう言って緑川が指を指したのは、戦闘機が駐機してある格納庫の方であった。

シャッターはしまっておらず、整備兵たちが6機の戦闘機に群がって、機体の点検や整備をしているようだ。

その中の1機、緑川の機体に7人は近づいた。

 

「おや?緑川大尉。どうしたんですか?」

 

緑川の機体の整備をしていた兵士のうち、一番年齢が高そうな曹長の階級をつけた女性が、作業をやめて緑川に近づく。

 

「機付き長、ご苦労さまです。ちょっと彼女たちに、機体の説明をしてもいいかしら?」

 

緑川は、後ろにいた3人のウィッチを指しながら機付き長に尋ねる。

3人を見たあとに緑川の機体を見て、機付き長はコクリと頷いた。

 

「ええ。なんならEPUを入れるくらいなら問題ないですよ」

「そう?ありがとね」

 

まさか、そこまで許可をくれるとは思わなかった緑川は、機付き長の厚意にお礼を言う。当の機付き長は、作業を始めようとしていた整備兵たちに休憩を言い渡すと、彼らを連れてどこかに行ってしまった。

緑川は、自身の機体の前に立って、説明を始めた。

 

「じゃぁ、まずこの機体について説明するわね。これはF-37Cストライクホーク。国防海、空軍、海兵隊が運用する最新鋭ステルス戦闘機よ」

 

最後に聞こえてきた聞き慣れない用語に、首を傾げる3人ウィッチ。それを察した緑川は、

補足を入れる。

 

「ステルスっていうのは、レーダーに探知されにくくする技術よ。この機体は、この機体形状とステルス塗料で高度なステルス性を確保しているわ」

「でも飛行性能とか良さそうには見えないな」

 

シャーリーは機体をまじまじと見ながらそう言うと、緑川は肩をすくめた。

 

「実際、高性能コンピューターがなければ、まっすぐ飛ぶのも難しいわ。けれど、この機体はエンジンノズルや素材を工夫することで、ステルス戦闘機としては破格の格闘性能を持つの」

 

よほど戦闘機が好きなのだろう。緑川は、いつにも増して饒舌になっている。

 

「超音速巡航飛行も可能で、転移前は世界最強の戦闘機と言われていたわ」

 

音速、この単語が聞こえるとシャーリーは緑川に飛びついた。

 

「なぁ!この戦闘機に乗せてくれ!」

 

急に飛びつかれた緑川は、一瞬驚いたような素振りを見せたが、その表情は、すぐに苦笑に変わった。

 

「この戦闘機は単座だから、貴女を乗せて飛ぶことはできないけど、コックピットに座るくらいなら構わないわ」

「やった!」

 

緑川は、喜ぶシャーリーを連れてコックピット横に向かう。シャーリーは、緑川の助けを借りながら機体側面から伸びた梯子を使って、コックピットに乗り込む。

 

「へぇ。これがコックピットかぁ!でも計器がなくないか?」

 

シャーリーの知る戦闘機のコックピットは、もっとアナログな円形の計器がところ狭しと並んでいるものである。しかし、このF-37Cのコックピットは大型のモニター1枚とスイッチやボタンがあるだけであった。操縦桿も中央ではなく脇においてあり、彼女の知るそれとは全く違っていた。

まさかモニターに飛行情報が表示されるとは思っていないシャーリーは、緑川にそういったのである。

 

「ふふ。少しこのヘルメットをかぶっていて」

 

緑川は、コックピット内に置かれた飛行ヘルメットをシャーリーにかぶせると、脇に置かれた赤いボタンを押す。

すると、主エンジンほどではないがキィインという騒音が起こり、モニターが付く。

 

「おお!」

 

モニターには、高度、速度、残燃料、レーダー情報などの飛行に必要な情報すべてが映し出されており、機体の現在の状況が非常にわかりやすいようになっている。

すると、緑川は黙って飛行ヘルメットのバイザーを下ろす。

 

「す、すごい!」

 

突然キョロキョロしだすシャーリーの様子に、残りの二人は何が起こっているのか気になった。

 

「ねぇねぇ、シャーリー!どうしたの!」

 

ルッキーニがピョンピョン跳ねながら聞くと、シャーリーは飛行ヘルメットを外して、ルッキーニの方を見る。

 

「降りるから、自分で見てみな」

 

シャーリーが緑川の助けを借りてコックピットを降りると、ルッキーニが軽い身のこなしでコックピットに乗り込んだ。

 

「おぉ!かっちょいい!」

 

近未来的なスッキリとしているコックピットを見渡しただけで、ルッキーニは大興奮している様子であった。

緑川は、先程と同じようにルッキーニに飛行ヘルメットを被せてバイザーをおろしてやる。

 

「おお!」

 

バイザーには視界と重なるように、機体の各所に設置されたセンサーから送られる映像が投影されており、360度、機外の様子を知ることが可能であった。

 

「すごい!すごい!」

 

ここまで来るとルッキーニは大はしゃぎであった。

リーネも緑川の機体の横にあった桜田機で、未来の戦闘機のコックピットを体験していた。

 

「この戦闘機には、高度な電子装備が搭載されているのよ。そのおかげでパイロットはとても戦いやすいの」

「すごいなぁ!」

 

しばらくすると、ルッキーニがコックピットから降りてきた。

 

「どうだった?面白かった?」

「うん!すっごいかっこよかった!」

 

緑川の言葉に年相応の笑顔で答えるルッキーニ。どうやら未来の戦闘機を見れて、満足したようだ。

桜田機に乗っていた、リーネも降りてきたようだ。

 

「いいなぁ!あんな戦闘機に私も乗りたいなぁ」

 

シャーリーは心底羨ましそうにつぶやく。

しかし、国防軍に入隊するには、親が日本国籍を持ち自身は日本国内で出生したことが条件となる。これほどの戦闘機を、日本がこの世界の国に輸出する可能性はないだろうから、シャーリーの夢は到底叶わないものであった。

そんなことを思って、4人が、苦笑いしていると、どこからか空気を叩くような音が聞こえてきた。

 

 

気になって滑走路横に出てみると、オスプレイがこちらに向かってきていた。どうやら、6人のパイロットの荷物を運んできた機体のようであった。

オスプレイはエンジンの向きを変えて、滑走路にフワリと着陸する。

エンジンの騒音が徐々に消え、プロペラの回転が止まり始める。機体後部が開き、乗員と思われる兵士が出てきた。

 

「501派遣航空隊パイロットに荷物と供与物資です」

「ご苦労さまです」

 

いつの間にか会議を終えたようで、今浦が乗員に挨拶をした。乗員も今浦に挨拶し返すと、思い出したように脇に挟んでいたクリップボードを差出す。

 

「あ、この補給書類にサインをいただきたいのですが」

「この基地の司令は私ですが」

 

今浦の横にいたミーナは、乗員から受け取った補給書類にサインをする。

日本ではペーパーレス化が進んでいるが、この世界ではタブレットどころかパソコン、ワープロすらも開発されていない。そのため他国軍との種類は、すべて古めかしい紙の書類であった。

その間にオスプレイからは、ダンボールに入った6人の私物と、木箱がいくつか運び出されていく。

今浦とチャックは、4人のパイロットを集める。

 

「よし、私物を部屋に持っていけ!俺の部屋も誰か教えろよ」

 

4人のパイロットは、今浦の言葉にコクリと頷いた。すると、今度はチャックが口を開いた。

 

「明日、編隊分けとローテーションなんかを説明する。10:00からミーティングルームに集合」

「質問は?」

 

今浦は、一応そう聞くが特に質問はないようであった。

 

「では解散」

 

今浦がそう言うと4人は敬礼して、この日は解散した。

明日から、本格的な活動が始まることとなる。パイロットたちは私物を自室に運び込み、最低限の荷解きだけ済ませると、眠りについた。




いかがでしたでしょうか?
実は、学業の関係で来週から2週間ほど投稿できなくなるかもしれません。なるべく投稿できるように善処しますが、あらかじめご了承ください。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
では、また次回。さようなら

次回 第29話 日本の動向

お楽しみに


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第29話 日本の動向

皆様どうもSM-2です。
今回は、色んな話の詰め合わせみたいになっています。
では、本編どうぞ


6人のパイロットは、朝食を終えるとミーティングルームに集まった。今後の活動などについて説明を行うためだ。

 

「まず航空隊を2機3個編隊に分けることにした」

 

ミーティングは今浦の言葉で始まった。今浦は、昨日の会議の結果が書かれた資料を、タブレット端末で確認しながら話す。

 

「編隊長は、俺、緑川、アッカーマン大尉が務める」

 

説明を聞いて、パイロットたちは順当なところだろうと思った。気になるのは、それら編隊の2番機がそれぞれ誰になるのかであった。

 

「メンバーは、俺の2番機には桜田。緑川の2番機には川野。アッカーマン大尉の2番機にはベリー中尉が付く。異論はないな」

 

今浦は彼らを見渡すが、異論などはないようであった。

 

「コールサインはストライカー。新しいコールサイン、覚えておけよ」

 

パイロットたちは自分のコールサインをメモしている。

 

「ネウロイの出現予想日以外は――」

 

パイロットたちのミーティングは、お昼まで続き、今後の活動計画などについて説明されていた。

 

――――――――――――――――――――

 

さて、パイロットたちがミーティングをしているころ、ミーナ、坂本、バルクホルンの3人は倉庫にいた。彼女らは、オスプレイが運んできた木箱の前に集まっていた。

 

「これが・・・・日本の・・・・」

 

バルクホルンが、そうつぶやきながら見る木箱の中には、大きな機関銃が入っていた。

 

「ええ、正確には日本が輸入していたものを改良した物らしいわ」

 

彼女らの目の前にあったのは、FN MAG汎用機関銃を日本の銃器メーカー豊和工業が改良したMAG-Hと呼ばれるものだった。

 

「っ!軽いな」

 

1つを手にとった坂本は、驚きの声を上げた。

このMAG-Hに施された改良はストックの改良や軽量化で、合成樹脂やアルミ合金を多用することで2kgもの軽量化に成功している。機関部や銃身などの構造には、手が加えられていないため、MAG本来の信頼性の高さはそのままであった。

坂本は、今度はストックの部分をいじり、再び驚く。

 

「すごいな。銃床の長さや高さも変えられるのか」

 

バルクホルンは、試しに構えてみる。グリップも握りやすく、セレクターレバーの位置も非常に扱いやすそうだ。

バルクホルンは、銃をおろしてからしばらく見つめると、ミーナの方に振り返る。

 

「ミーナ。この銃は何丁あるんだ?」

「2丁だけみたいね。それと、予備部品と・・・・光学照準器?」

「狙撃眼鏡みたいなものか?」

 

坂本は、首を傾げながらそう言う。

この世界では、狙撃用のスコープはあるものの光像式の照準器は一部の最新戦闘機についているくらいであった。

 

「その木箱の中にあるみたい。照準器だけでかなりの種類ね」

「これか?」

 

坂本は、ミーナが指さした木箱を開ける。中にはいくつかの段ボール箱が入っている。それらの中の一つを取り出し、ガムテープをはがして中身を取り出した。

 

「これは?」

 

狙撃用のスコープではない坂本の持っているものを見て、バルクホルンは首を傾げた。

ミーナは、手元にある資料に添付されている写真から、坂本の持っているものを調べる。

 

「これかしら?ホログラフィックサイト・・・・・光学照準器の一種みたいね」

 

バルクホルンは、しばらく坂本の手の上にあるホログラフィックサイトを見つめる。

ふと、ホログラフィックサイトが入っていた箱から説明書らしき紙の束を取り出し、そこにかかれた説明通りにホログラフィックサイトを銃に取り付けてみる。イラストを交えて説明してあるため、初めてサイト類を扱うバルクホルンも、スムーズにサイトの取り付け作業を行うことができた。

サイトを取り付けたMAG-Hを試しに構えてみると、アイアンサイトに比べて非常に狙いやすそうであった。

 

「いい銃だな」

 

どうやらバルクホルンはこの銃を気に入ったらしい。長らく、ともに戦ってきた2人にはバルクホルンの声が弾んでいるように思えたのだ。

坂本は持っていた銃を箱の中に戻すと、顎に手を当ててつぶやいた。

 

「しかし、なんで日本は急にこんな武器を供与してきたんだ?いままではどんなに要請しても医薬品類がせいぜいだったのに・・・・・」

「いくつか考えられるけど・・・・武器の処分じゃないかしら?」

 

ミーナの言葉の意味を、一瞬、理解できなかった坂本は、思わず聞き返す。

 

「武器の処分?」

「ええ、実は日本本国ではこの機関銃よりも強力で扱いやすい機関銃の配備が進んでいるらしいの」

 

ミーナがそこまで言うと、坂本にも彼女が言わんとすることが分かった。

 

「なるほど、それで旧式化し、余剰になった機関銃を格安で有償で供与するわけか・・・・」

「ええ、日本からしたら旧式化した武器だから壊れても問題ないし、有償だから少なくてもお金が入ってくる」

 

実際、ミーナの推察は正しかった。

転移前のNATO軍では、7.62㎜×51㎜NATO弾の後継大口径ライフル弾として、より長射程かつ高貫通力とストッピングパワーを持つ338ノルマ・マグナム弾を改良した8.58㎜×63㎜NATO弾を採用していた。日本も8.58㎜NATO弾に合わせた機関銃の開発が行われた。その結果、豊和工業が開発した36式8.58㎜汎用機関銃が採用され、7.62㎜弾を使用する銃は徐々に退役することとなった。

しかし、ここで問題となるのは退役した銃や7.62㎜弾の行方である。転移前、世界各国は8.58㎜弾の使用を開始しており、退役した銃や弾を買うとなると紛争地帯くらいしかなかった。だが、政府は紛争地に武器を提供し、さらに悪化させることなどできなかったのだ。そのため、長らく予備兵器として倉庫の奥で眠ることとなる。

この状況は転移によって好転することとなる。世界各国はネウロイとの戦争で少しでも武器が欲しいのだ。武器を少しでも処分したい日本にとっては渡りに船であった。しかし、日本にはある危惧があった。それは、ネウロイとの戦争後に人類同士の戦争が起きた際に日本が供与した武器が使われるのではないかという心配だった。これは日本国内でも慎重に協議されることとなった。

最終的には、国会が設置した第3者委員会から「現時点での世界の技術水準と、戦争状況からネウロイとの戦争が終結し、人類間戦争が起こる時期には、供与予定品と同水準の物を各国は自力で開発できるようになっていると考えられる」というレポートが提出されたことで、予備武器として眠っていた大量の武器が供与されることとなったのだ

 

「日本の思惑などどうでもいい。ベルリンさえ奪還できれば・・・・それで・・・・」

 

バルクホルンは、ミーナと坂本の推察をやめさせる。

 

「ミーナ、この銃は私が使ってもいいか?」

「ええ、構わなけれど」

「なら、早速使えるように訓練してくる」

 

バルクホルンは、MAG-Hを1丁と200発弾帯を2本ほど、予備の銃身1つをもって訓練場に向かった。

ミーナは、そんなバルクホルンの後ろ姿をじっと見ていた。

 

――――――――――――――――――――

 

さて、ところ変わって欧州から遠く離れた日本の首都、東京。その総理官邸では一人の男――第103代内閣総理大臣 大泉(おおいずみ) 幸次郎(こうじろう)が執務をしていた。

すると、扉をノックする音が聞こえてきた。

 

「入っていいぞ」

「失礼します」

 

部屋の主である男は、報告書から一切目を離さずに入室の許可を出すと一人の女性が入ってきた。狐目が特徴的なキャリアウーマン風の女性は、部屋の中ほどまで進む。

男は一旦、パソコンで送られてきた書類を読むのをやめて女性の方を向く。

 

黒木(くろぎ)情報大臣・・・・どうしたんだね?」

 

情報大臣とは、日本の国家機密情報の保全から外国の国家機密の収集などを行う国家戦略情報省をまとめ上げる人物である。

転移後、国家戦略情報庁と公安情報調査庁の2つの情報機関が合わさり、情報戦を統括的に行える国家戦略情報省が立ち上げられたのだ。ほかにも国家戦略情報省の役割は、国防軍や外務省、警察などが独自に持つ情報網を統括・管理及び情報共有も仕事である。

 

「実は、ブリタニアに派遣している諜報員から妙な報告がございまして・・・・」

「妙な報告・・・・?」

 

大泉は、黒木の言葉に目を細めると頬杖をつく。

 

「はい。ブリタニア軍がネウロイ戦争を有利に進められる極秘兵器を開発しているらしいのです」

「新兵器開発か・・・・どういう兵器かはわかっているのか?」

「いえ・・・・。今までの戦闘を変えるような画期的な兵器だとしか・・・・」

 

大泉は視線をずらすと、左手で顎を掻く。彼が熟考しているときの癖であった。

 

「とりあえず調査を続けろ。どんな兵器なのか、どこで作っているのか、だれが作っているのかも詳細にだ。いいな?」

「はい」

 

黒木は大泉からの指示を受けると、執務室を後にした。

大泉は、先ほどの黒木からの報告について考えていた。

 

――今までの戦闘を変える画期的な兵器か・・・・。まさか・・・・

 

大泉はそばにあった電話の受話器を手に取る。

 

「もしもし。防衛大臣と外務大臣、参謀司令長官*1を呼んでくれ。大至急だ」

 

――――――――――――――――――――

 

1時間後。防衛大臣と統合参謀司令長官の岩峯は同じ黒塗りの公用車に乗って、防衛省のある市ヶ谷から総理官邸がある永田町に向かっていた。

 

「総理が呼び出しとは何事だろうか・・・・」

 

防衛大臣は足を組み、窓の外の景色を眺めながらぽつりとつぶやいた。防衛大臣の視線の先には赤坂御用地があった。

 

「わかりませんが。私も呼ばれるということはただ事ではなさそうです」

 

防衛大臣の横に座る岩峯は、持っていたタブレットで書類を確認しながら、防衛大臣のつぶやきに返した。

 

 

市ヶ谷から永田町は意外と近く、車で8分ほどで着く。防衛大臣らを乗せた公用車が、総理官邸の玄関前に止まると、後ろから同じような公用車がやってきた。

防衛大臣と岩峯が公用車から降りると、後ろの公用車からも誰かが降りてきた。

 

「那須さん。あなたも呼ばれたんですか?」

 

後ろの公用車から降りてきたのは外務大臣であった。

 

「君も呼ばれたのか」

 

彼らはSPを連れて、総理官邸の中に入っていく。

総理の執務室に向かうまでの間、2人の大臣は、呼ばれた理由について話していた。しかし、どちらも突然、呼び出されたため、理由は全く分からなかった。

そのうち、一行は総理執務室についた。SPを外で待機させると、2人の大臣と岩峯は、中に入っていく。

 

「来たか・・・・。3人とも座りたまえ」

 

大泉は3人の姿を認識すると、ソファに座るように指示する。そして、横にいた秘書官に合図して、外に出て行かせた。

 

「さて、本題に入ろうか。今日、黒木君から報告があった」

 

情報省からは、毎日のように総理に報告が上がっているが、総理がわざわざ自分で大臣に話すということは、いつもの報告とは何かが違うらしい。

 

「どのような報告が?」

「ああ、ブリタニア軍がどうやら極秘兵器の開発を進めているらしい。なんでもこれまでの戦闘を変えてしまうような画期的な兵器らしい」

 

兵器開発ということであれば、気にするほどのことではない。だが「これまでの戦闘を変えるような画期的兵器」という文言が引っかかった。

そんな兵器というといくつか思い当たるが、その中でも彼らの脳裏に強く浮かぶものがあった。

 

「まさか・・・・核兵器?」

「そこまではわからん・・・・黒木君には更なる調査を命じておいた」

 

防衛大臣のつぶやきに、大泉はそう返した。

 

「では総理。われわれはどうすれば?」

「うん。まず那須君は在ブリタニア大使にいつでも動けるように指示しておいてくれ。兵器の正体がわかったら対応を伝えるが、万が一、核兵器だった場合はこちらも核をちらつかせて開発を止めさせる」

 

大泉の指示に、外務大臣はこくりと頷く。まずは戦争にならないように外交で解決することがベストなのだ。

 

「岩峯君に聞きたいが、ブリタニアに展開しているのはどの部隊だ?」

「海兵隊第5独立海兵連隊ですが・・・・」

「では特別強襲偵察隊(SART)を派遣しておいてくれ。それと場合によっては特別作戦軍の出動も許可する」

 

この指示はつまり、場合によっては非合法作戦などで開発をやめさせることもいとわないということである。特に特別作戦軍の出動をみとめるということは、開発に従事する科学者・関係者の()()も許可されるということである。

いつになく険しい顔をした大泉の顔を見て、岩峯はこくりと頷いた。

 

「わかりました。今月中にサート1個中隊を欧州に派遣します。特別工作部隊*2は本国で派遣待機させておきます」

「それでいい。早速、取り掛かってくれ」

 

大泉は重々しく頷く。

3人は立ち上がると、大泉にお辞儀して部屋から出ていった。

 

 

一週間後。国防空軍入間基地からC-2*3中型輸送機4機が発進した。

彼らの任務は、補充要員や損耗した物資の輸送であるとされていたが、実際には特別強襲偵察隊(SART)一個中隊の人員と物資を輸送することが任務であった。

国家戦略情報省もブリタニア担当の諜報員を増やすなど情報収集を強化することとなった。

 

*1
正式な役職名は統合国防参謀司令本部司令長官。長いので様々な略称がある

*2
国防全軍の特殊部隊や特殊作戦を統括する特別作戦軍。その最高司令部である作戦本部直下の部隊。所属隊員は明かされておらず、どこで活動しているのかも明らかになっていない。要人暗殺や秘密工作などが任務である

*3
日中紛争後に追加発注された後期型は、空中給油機能が追加され航続距離が伸びている




いかがでしたでしょうか。
やっぱり、特殊部隊を書きたいというのが私の願望なのです。察しの良い方は、わかると思いますが特殊部隊の登場場所はすでに決めてあります。楽しみにしていてください。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
では、また次回。さようなら

次回 第30話 失敗

お楽しみに


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第30話 失敗

投稿遅れまして申し訳ございません。
リアルが忙しく、投稿できませんでした。今回の話は、作者のオリジナルになります。なので話の展開にいろいろと悩んだというのも遅れた原因です。
では、本編どうぞ


戦闘機隊が、501基地に配備されてから5日ほどたった。

この日のブリタニア東部は、厚い雲に覆われていた。雨は降っていないものの、厚い雲は日光を遮り、昼間だというのに電灯が必要なほど薄暗かった。

そんな中でも、国防軍が設置した高性能レーダーは、周囲数百キロ圏の航空機や艦船を探知していた。

それを操作する要撃管制官は、事前に提出された飛行計画書とレーダーに探知された反応を照らし合わせて、その反応の所属や飛行目的を確認する。

前世界であれば、たとえ民間の小型航空機であろうともIFFやATCトランスポンダが付いているので、そんな必要性はなかった。

しかし、この世界の航空機では日本製の航空機や一部の最新鋭軍用機以外に、そんなものはついていないのである*1

さて、話を戻そう。それに気が付いたのは、国防空軍から派遣されている若い空曹であった。彼は、ガリア方面から現れた飛行物体に気が付いた。すぐさま飛行計画書と照合するも、その航路を飛行する計画書は一切なかった。

そこで彼は、当直の上官であった中尉を読んだ。

 

「中尉!ちょっとこっちに・・・・」

 

管制室の中心でモニターを見ていた中尉は、空曹のもとに走っていく。

 

「どうした?」

「このアンノウンなんですが、飛行計画書に該当機はありません」

「・・・・・スクランブルをかけろ!」

 

中尉がスクランブル発進命令を出すと、管制室は、にわかに騒がしくなった。

スクランブルを知らせるベルのスイッチが入れられ、ジリリリリという音が基地中に鳴り響く。中尉は、マイクのスイッチを入れた。

 

「スクランブル!!ブレスト南方50kmよりアンノウン探知!!速度200ノット!高度6000m!なお北上中!」

 

中尉の指示は、スピーカーを通して基地中に伝わった。

スクランブル発進命令に、ウィッチたちと当直のパイロットである今浦と桜田の行動は早かった。食事を切り上げるとハンガーに急いだ。

ウィッチ隊は、坂本を迎撃隊の指揮官として、バルクホルン、ペリーヌ、リーネの4人が発進することとなった。リーネに関しては、訓練での成績は良いことから実戦に出しても問題ないという坂本とミーナの判断であった。彼女らは、ストライカーを装着すると武器を持って空へ上がっていった。

今浦達も急いで戦闘機に乗り込むが、即応性ではウィッチに劣る。5分で離陸できるというのは、この時代の戦闘機からすれば格別の速さであるが、ウィッチに比べれば劣る。

今浦達が滑走路にでて、発進したときには、ウィッチ隊は目標まで5分ほどで接敵できるほどまで先行していた。しかし、彼らには速度がある。戦闘には十分加われるだろう。2機のF-37戦闘機は巡航速度で現場まで向かった。

 

――――――――――――――――――――

 

雨こそ降っていないが、雲は厚く僚機どころか自機の位置すらも確認できなくなる可能性があることから、ウィッチ隊は雲の下を飛行していた。

 

『管制よりウィッチーズへ。接敵まで30秒。目標の速度、針路、高度に変化なし』

「こちら坂本。了解した」

 

管制官からの通信が終わると、坂本は真上に広がる雲を見上げた。

 

「敵は雲の上か」

 

試しに左目の眼帯を外し、魔眼を発動してネウロイを探してみるが、雲が邪魔で敵の位置がいまいちわからない。

 

「バルクホルンとペリーヌは、雲に突入。ネウロイを探し出せ。リーネは私とここで援護だ」

 

訓練で優秀な成績を収めているとはいえ、初の実戦でリーネに雲中飛行は難易度が高いと判断したためであった。

 

『こちらストライカー01。現場空域に到着。現在の速度720ノット、高度15000m』

 

どうやら戦闘機隊が到着したらしい。日本の戦闘機の実力を始めてみることとなるバルクホルンやペリーヌ、リーネ達は、あまりの速度と短時間で高度15000mまで上昇し、なおかつ飛行できる驚異的な能力に驚愕した。

扶桑海事変に従軍し、彼らの持つ戦闘機のデタラメな性能をみた坂本は、特に驚きもせずに指示を出した。

 

「こちら坂本。了解した。ネウロイは、雲中にいる模様。下に追い込んでくれ」

『了解。誤射防止のために、ウィッチ隊は雲中に入らないでくれ』

 

この要請に、バルクホルンは少しムッとした表情をするが坂本は了承した。

 

「わかった。よろしく頼む」

 

――――――――――――――――――――

 

F-37に搭載されているレーダーは、雲中に隠れたネウロイをしっかりと探知していた。

 

クラウン(桜田)。お前、下に降下してサイドワインダーで敵を下に追いやれ。俺は上から31式で援護する」

「ラジャー」

 

ウィッチ隊と違い、日本の戦闘機であればIFFが付いていることから、よほど運が悪くない限りミサイルに当たるということはない。

今浦は31式短距離空対空誘導弾の照準をネウロイに合わせる。

 

「ストライカー01。FOX-3」

 

今浦が、符丁とともにミサイル発射ボタンを押し込むとウェポンベイから2発のミサイルが放り出される。2発のミサイルは、すぐさまロケットエンジンに火をつけると、シーカーを起動させてネウロイに向かって突っ込んでいった。

それと同時に、桜田は機体を降下させる。すでに翼下に搭載してあるサイドワインダーのシーカーは、ネウロイのコアを探知していた。

 

「ストライカー02。FOX-2」

 

今浦の放ったミサイルが着弾すると、桜田もミサイルを放った。ハードポイントから放たれる2発のサイドワインダーは、ネウロイのコアに正確に着弾した。

しかし、これは有効打とはならなかった。扶桑海事変時とは、ネウロイの装甲の硬さが変わっており、近接信管とミサイルの外殻と仕込まれていた金属片によって目標を破壊する弾頭では有効打とならなかったのだ。

桜田は、そのままネウロイと衝突しないように回避すると、そのまま下に降下する。ものすごい速度で雲を突き破り、ウィッチ隊にその姿を見せる。

 

「すごい・・・・」

 

異次元の性能にペリーヌは、思わずつぶやいた。

扶桑海事変の時の自分と同じような反応をしたことで、坂本は苦笑いをする。しかし、すぐに顔を険しくした。

 

「来るぞ・・・・」

 

その瞬間、雲中に隠れていたネウロイが、その巨体を彼女らの前に表した。

 

「バルクホルン!突入しろ!リーネは援護だ!今浦少佐たちも突入してくれ」

「「「了解」」」

「了解」

 

バルクホルンとペリーヌは、ネウロイに向かって飛んでいく。リーネは、ボーイズ対戦車ライフルを構えるとネウロイに照準を合わせる。

坂本は、眼帯を外してネウロイのコアを探し始める。

 

「撃て!」

 

ダンという8.58㎜や7.7㎜とは比べ物にならないほど重厚な発砲音とともに、ボーイズ対戦車ライフルが火を噴く。しかし、その弾は全く当たらない。あまりの命中率の悪さに、坂本は顔をしかめた。

 

「おい、リーネ!どこを狙っている!」

「す、すいません」

 

リーネは、さらに射撃を続けるが弾はかするか外れるかで、有効打は一向に与えられない。

そうこうしているうちに戦闘機の援護射撃が始まったらしく、ミサイルのものによる爆発がネウロイを覆った。

しかし、ここで事故が起きた。ミサイルを放ち、ネウロイの横を離脱しようとした桜田機に、リーネが外した13.9㎜弾が当たってしまったのだ。

 

「うわっ!」

 

桜田は、すぐさま戦闘軌道をやめて水平飛行に戻す。モニターに映し出される自己診断プログラムの結果によると、どうやら左翼が破損してしまった。今のところ飛行には支障はないだろうが、万が一がある。桜田は、今浦に退避許可を求めた。

 

「こちらストライカー02。左翼破損。退避します」

「了解」

 

桜田機は、アフターバーナーを焚いて、戦闘空域から退避した。

一方、リーネは自分の放った弾が友軍機に当たってしまったことでパニックになっていた。背負いひものおかげで銃を海に落としてしまうことはなかったが、パニックになって銃のグリップから手を放してしまった。

そして、そのすきをネウロイは見逃さなかった。突然放たれた赤いビームがリーネを襲った。パニックになっていたことで対応が一歩遅れてしまった。

赤いビームは、リーネの体を飲み込むと思われたその時、彼女とネウロイとの間に白い影が割り込んだ。

 

「くっ・・・・」

 

坂本であった。坂本は、リーネとネウロイの間に割り込み、シールドをはってリーネを守った。

 

「大丈夫か?」

「ああ・・・・」

 

パニック状態から、いまだに抜け出せていなかったリーネは、坂本の言葉に答えられなかった。

 

「しっかりしろ!ペリーヌ!リーネを伴って後退しろ!」

「わかりましたわ」

 

坂本は、リーネは使い物にならないと判断し、ペリーヌに後退するように命令した。

坂本を深く尊敬するペリーヌは、すぐさま戦闘をやめて指示に従う。リーネが後退すると、坂本はバルクホルンのもとに向かった。

 

「バルクホルン。コアはあそこだ」

 

バルクホルンのそばまで近寄った坂本は、ネウロイの上面のある一点を指し示す。

 

「私についてこい」

「了解」

 

坂本の指示にバルクホルンはうなずく。

機関銃を握りなおし、坂本がネウロイに突入すると、バルクホルンはその後ろにつく。歴戦のエースウィッチである2人は、見事な戦闘軌道を描く。

 

『援護する』

 

ネウロイがビームを放とうとすると、今浦がミサイルと機関銃で攻撃して、ネウロイのすれすれを飛行して見せる。今浦の挑発に乗ったネウロイは、今浦の乗るF-37を撃墜しようと躍起になるが、今浦もベテランのパイロット、そのパイロットが操る100年先の技術で作られた戦闘機を撃墜できるわけがなかった。

ひらりひらりとビームをかわす。その間に坂本とバルクホルンは、ネウロイの懐まで接近していた。

ネウロイが2人に気がつき、攻撃しようとした時には遅かった。2丁の機関銃から放たれた銃弾は、ネウロイの装甲を貫き、コアを正確に破壊した。

コアが破壊されたことで、ネウロイは不協和音を放ちながら白い破片となった。

 

「ふぅ」

 

坂本は、ため息をつくと無線機のボタンを押して通信を入れる。

 

「こちら坂本。ネウロイの撃墜を確認」

『こちら管制。こちらでも確認した。全機、帰投せよ』

 

管制からの指示を聞くと、坂本はふと気になったことを管制官に尋ねる。

 

「リーネと桜田はどうなった?」

『桜田機は無事帰投した。ビショップ軍曹とクロステルマン少尉は、現在帰投中。異常は確認できていない』

 

その答えを聞いた坂本は、ホッと胸をなでおろした。

 

「了解。基地に帰投する」

 

2人のウィッチと1機の戦闘機は、基地への帰路についた。

 

 

 

 

 

 

*1
日本政府からの強い要望があったことで1942年以降に製造された軍用航空機には日本製のIFFが付いている




いかがでしたでしょうか?
アニメ本編に早めに行きたいですが、細かい話をどうするかいろいろと悩んでいます。
そこらへんは、お楽しみに。
ではまた次回。さようなら

次回 第31話 未定

お楽しみに


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第31話 前進

皆様どうもSM-2です。
今日、自衛隊のサラリーマン川柳が公開されたとか。この中で特に作者が好きだなと思ったものを紹介させていただきます。

「父よりも 匍匐がうまい わが娘」

思わずクスッとなってしまいました。
では本編どうぞ。


リーネによる誤射が起きた事件から1週間がたった。

桜田機は、整備工場での修理が必要とされ、分解されると日本に輸送された。一応、予備機として10機近いF-37が送られていたことから、任務に支障はなかった。

この1週間の間に、西部方面軍司令部から派遣されてきた将校による聞き取り調査があったものの、特に問題なしとして報告されていた。

 

――――――――――――――――――――

 

基地に司令室には、ミーナと坂本、今浦3人がいた。3人は、聞き取り調査に来た将校を見送った後に真っすぐここに来たのだ。

 

「やっぱり、リーネさんを実戦に参加させたのは早かったかしら・・・・」

 

ミーナは、執務机に座ると目の前に立つ坂本と今浦にそうつぶやいた。

自分を責めるようなミーナの言葉に、坂本は自嘲を交えた苦笑いをしながら答えた。

 

「ああ。しかし、それに関しては私も同意したことだ。ミーナだけが悪いわけじゃないさ」

「そもそも、雲中の戦闘なのに不用意に突入を命令した自分にも責任はありますから」

 

今浦も坂本の言葉にうなずく。

 

「だけど、あれ以来リーネはずっとふさぎ込んでる。訓練にも身が入っていないようだし」

 

坂本は、顎に手を当てる。今浦も坂本の横で頷いていた。彼もリーネの様子は気にかけていたのだ。

 

「あれでは、戦闘中にどんな事故が起こるかわかりません。実戦に出すのは控えたほうがいいかと」

「そうね。精神面で余裕がない人間を実戦に出せば、その人だけではなく周りの友軍も危険にさらすわ」

 

ミーナは、そういうと立ち上がる。そして二人の少佐に告げた。

 

「リネット・ビショップ軍曹に関しては、当面は実戦参加を禁止します。飛行訓練に関しても本人の精神状態を見て判断します」

「「了解」」

「それと、今浦少佐」

 

突如名前を呼ばれた今浦は、キョトンとした。

 

「なんでしょう?」

「頼みがあります」

 

今浦は首を傾げた。

 

――――――――――――――――――――

 

それから2日後。

リーネは自室にこもっていた。あの誤射以来、訓練中に誤射の時のことを思い出してしまい、まともに飛ぶこともままならなくなっていた。

また、桜田と顔を合わせづらくなってしまい、食事や風呂以外では自室から出にくくなってしまったのだ。

そのせいで彼に謝ることもできていなかった。謝ろうと思っても、いざ顔を合わせると気まずくなって逃げてしまうのだ。F-37の強度と運に助けられただけで、桜田は死んでいたかもしれないのだ。謝っても許してもらえないのではないかという恐怖が彼女の心にブレーキをかけていた。許してくれないという現実を突きつけられてしまうことを彼女は恐れたのである。

 

――私・・・・どんなにダメな人間なんだろう・・・・

 

初の実戦で誤射事故を起こし、その上謝りにすらいけない。訓練でもまともに飛ぶことすらできないリーネは、自分をダメ人間だと思い、すっかりふさぎ込んでしまった。

それは、時々様子を見に来る坂本やミーナにもよくわかっていた。そこで2人は、()()()()にリーネをどうにかするように頼み込んだ。

 

コンコン

 

「誰ですか?」

 

突然、部屋のドアがノックされる。リーネは、坂本かミーナだろうと思っていた。しかし、その誰何に応じたのは意外な人物であった。

 

「ビショップさん。少しいいかな?」

「さ、桜田少尉!?」

 

そう、誤射された当人である桜田であった。

彼が、すでにリーネを許しているということを伝えれば、リーネの気持ちも軽くなるだろうという考えであった。

リーネは、慌てて部屋のカギを開けると、ドアを勢い良く開けた。そこには、紺色の作業着に身を包んだ桜田がたっていた。

 

「あ、あの・・・・」

「ん?」

 

謝ろうと、一歩踏み出すがすんでのところで恐怖が勝ってしまい、謝ることは出来なかった。

 

「なんでも・・・・ないです。今日は、何のご用ですか?」

「いやね。ビショップさんがふさぎ込んでるってヴェルケ中佐から聞いてね。心配になってきてみたんだ」

 

笑顔で、そういって見せる桜田。しかし、リーネは混乱した。

一歩間違えれば死んでいたかもしれないのだ。その原因を作った相手に、笑顔を見せ、心配してくれる桜田の気持ちを理解しかねたのだ。

 

「とりあえず、中にどうぞ・・・・」

 

部屋の前で立たせておくのも失礼だと思い、リーネは桜田を招き入れた。桜田も一瞬躊躇したが、少し考えてリーネの招きに応じた。

リーネの部屋の中はきれいであった。家具や小物はきれいに整頓され、ベッド横のキャビネットには家族写真と思しき白黒写真が飾られていた。部屋の真ん中には、丸テーブルと椅子が2脚置いてあった。

しかし、女性の部屋をまじまじと見るのは失礼だと思うと、桜田は、すぐに部屋を見渡すことをやめた。

リーネが、椅子に座るように促したので、桜田はかぶっていた作業帽を脱いでテーブルに置くと椅子に座る。リーネも向かいに座るが、気まずいのか顔を合わせようとしない。

 

「ビショップさん」

 

桜田は、先ほどよりも少し強い口調になる。リーネは、桜田が怒っていると思い、ビクッとした。

しかし、それは違っていた。

 

「誤射のこと、僕は別に怒ってないよ」

「え・・・・」

 

リーネが恐る恐る桜田の顔を覗き込むと、そこには先ほどと変わらない笑顔があった。

 

「確かに君のミスで、僕は死んでいたかもしれない。でも、現に僕は生きてる。ミスをしても気にしないのも問題だけれども、気にしすぎて前に進めないようになってしまうのもいけない。大切なのは、ミスから何を学ぶかだよ」

 

そういうと、桜田は「航空学生時代の教官の受け売りだけど」と付け足す。

 

「桜田さんもミスをしたことがあるんですか?」

「うーん。まぁね」

 

そこまで言うと、桜田は深くは語ろうとしなかった。

初の実戦であそこまでの戦闘ができる、自分なんかよりもずっと優秀だと思っていた桜田でもミスをしたことがあったということに、リーネは衝撃を隠せなかった。

 

「さて、僕の用事は終わりだ。お暇するよ」

 

桜田は、スッと立ち上がると作業帽をしっかりと被りなおす。

 

「ビショップさん。人間だけじゃなく、生き物というのは失敗から学んで進化するんだよ。君が進化する糧になることを願っているよ」

 

それだけ言うと、桜田は部屋から出て行った。

リーネは、桜田の背中を見送りながら、言われた言葉を何度も何度も反芻していた。

 

 

 

「ふぅ・・・・」

 

桜田は、リーネの部屋から出るとため息をついた。その瞬間、横から突然声がした。

 

「ひよっこがよく言うじゃないか」

「おわっ!?」

 

桜田が驚いて声のした方を向くと、そこには壁にもたれかかるチャックがいた。彼はニヤニヤしながら、桜田を見る。

 

「アッカーマン大尉。女性の部屋を盗み聞きとは悪趣味ですよ」

 

呆れた声でいう桜田に、アッカーマンは首を横に振る。

 

「盗み聞きなんて人聞きの悪いこと言うなよ。たまたま、リーネ君の部屋に入っていく君を見かけたから、君が過ちを犯さないように見張っていただけさ」

「はぁ・・・・」

 

桜田は、呆れすぎて物も言えなくなってしまった。これでもアメリカ海兵隊航空部隊の中でもエース中のエースなのだが、地上にいると全くそんな気はしない。

桜田は、アッカーマンのことは気にせずに自室に戻ろうと歩み始める。

 

「”人間だけじゃなく、生き物というのは失敗から学んで進化するんだよ。君が進化する糧になることを願っているよ”っか。青二才のくせに」

 

先ほどの桜田の言葉を真似してみせるアッカーマン。その顔は、完全に新しいおもちゃを手に入れたような顔だった。

桜田は、またもやため息をつくと、疲れたような声を出す。

 

「そこまで聞いてたんですか。忘れてくださいよ」

「やなこった。この耳にしっかりと焼き付けてあるからな」

 

ちなみに、このあと今浦たちにもこの話は伝わり、「お前もまだまだ新人のくせに」と大笑いされたそうだ。

 

――――――――――――――――――――

 

次の日、リーネは訓練飛行に出ていた。リーネの様子から訓練飛行は控えていたのだが、今日はリーネ自身から訓練飛行に参加すると申し出たのだ。

 

「リーネ、無理はするなよ」

 

坂本は、時折リーネに声をかける。

 

「は、はい」

 

こないだとは違う、強い意志が感じられる声だった。坂本は幾分か安心する。

 

「いくぞ!」

 

坂本は、掛け声とともに降下を開始する。それに続いて、リーネもついていく。ループ、エルロン・ロール、シャンデルなど、空中戦闘機動を行う。誤射後、リーネは簡単なものにすら遅れてしまったり、編隊を崩してしまっていたが、今日はしっかりと坂本のあとに続く。

一通りの動作を行うと、坂本は次の訓練に移る。

 

「よし、射撃訓練を始めるぞ。私に続け!」

 

そういうと坂本は標的用の気球に向かって飛んでいく。リーネはそのあとに続いた。

坂本は持っていた13㎜機銃を構えると、2つあるうちの1つの気球に狙いを定めてトリガーを引く。ダダダダという重厚な射撃音とともに13㎜機銃が放たれ、気球を貫いた。可燃性の水素ガスに引火し、爆発をする気球の横をすり抜けていく。

リーネもそれに倣って、ボーイズ対戦車ライフルを構えると残りの気球に狙いを定めた。少し呼吸が荒くなる。

 

「ッ!」

 

ドンという音とともにボーイズが火を噴く。しかし、緊張していたためかガク引きしてしまい、弾は当たることはなかった。

すぐさまボルトを引いて、弾をチャンバーに装填すると再び発砲する。結局、その弾も当たることはなく、マガジン1つを使い切ってようやく気球が爆ぜた。

 

「うーん。マガジン1本でようやくか・・・・実戦には早いな」

 

坂本は、苦笑いしながらつぶやいた。リーネは坂本のつぶやきを聞いて、軽い自己嫌悪に陥ってしまった。

 

――わたし、やっぱり駄目なのかな・・・・

 

「だが、戦闘機動は前よりもずっと良くなった。成長したな」

 

坂本の誉め言葉に、リーネは顔を上げる。

 

「この調子で精進することだ。いいな」

「はい!」

 

基地に来てから褒められることが少なかったリーネは、坂本の言葉にうれしそうに返事した。




いかがでしたでしょうか?
次回はどうしようかまだ決まっておりません。どうしようかなぁ・・・・。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようならぁ

次回 第32話 未定

お楽しみに


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第32話 国防軍の苦悩

皆様どうもSM-2です。
今回は、かなり短い話となっています。
それではどうぞ。


対ネウロイ戦争で欧州が戦火に焼かれる中、日本は空前の経済成長を見せていた。

戦争特需による自動車や医療品、食品の有償供与のほか、主にリベリオン向けの家電製品の輸出によるものであった。唯一、IT産業だけはいまだに復活していないが、重工業や化学工業などを中心に日本経済は復活していたのだ。

これにより、日本は75兆円近い国防予算を支えることができていた*1

予算というものに悩まされなくなった国防軍であったが、別のものの不足に喘いでいた。人員不足である。国防軍の大半が、対ネウロイ戦に派遣されているのが原因であった*2

一定数の失業した人間が、国防軍に志願するようになり頭数だけは揃えられているが、よく訓練された兵士は、一朝一夕でできるものではない。それらを指揮する将校は、もっとである。今は、新規部隊の整備も行われているが、実戦投入できるのは1945年からである*3

しかも、最近は景気が向上していることもあって、志願数自体も減ってきている。金はあるが人がいない、国防軍はそんな状況に陥っていた。

 

 

さて、そんな中で聞かされた()()()()に統合司令長官は、額に青筋をうかべていた。岩峰の後任として着任したばかりの彼は、非常に温厚な性格で知られていたが故に、彼の表情は見る人間に恐怖を与えた。

 

「どうだね?」

 

大泉の言葉に、統合司令長官は一切表情を変えずに、短くそしてはっきりと答えた

 

「無理です」

「ふむ、予算の心配はないはずだが?」

「ええ、確かにそうですが、人が足りません。現段階でさらなる地上部隊派遣を行えば日本本土の防衛は不可能になります」

 

統合司令長官は、厳しい口調でそう断じた。

 

「1個海兵機甲師団の編成及び訓練が完了次第、欧州に派遣することは可能ですが、来年まで待っていただきます」

「ふむ・・・・しかし、連合軍からは更なる部隊派遣要請が来ている。何とか抽出できないか?」

「不可能です。これらを説明しても、まだ地上部隊の派遣を要請する国は、おそらく我が国に対しての戦争を計画していると断言します。ついでにその国への反抗作戦を立案しましょうか?対ネウロイ戦に投入している海兵隊全部隊を投入すれば可能ですよ」

 

いらいらしてか、過激なことを言い始めた統合司令長官の様子を見て、大泉は「もう大丈夫だ。部隊派遣は来年としよう」と約束した。

しかし、統合司令長官も政治はある程度理解している。このままでは日本のメンツは丸つぶれであろう。そこで代替案を出した。

 

「第5空母護衛艦隊と第2空母打撃艦隊などの海軍艦隊を派遣することは可能です」

「わかった。連合軍司令部には代替案として海軍航空部隊の派遣を提案してみよう」

「では、失礼します」

 

統合司令長官は、話が終わったと見るや、きれいなお辞儀をして部屋から出て行った。

 

――――――――――――――――――――

 

1週間後。リベリオン合衆国のニューヨークで、連合軍大臣級連絡会議が開かれた。不定期に開催されるそこでは、今後の連合軍の全体的な戦略や連合軍参加各国への要請・連絡などが行われるのである。

参加者は、各国の軍事にかかわる大臣と軍の制服組のトップである。

無論、日本からも防衛大臣と統合司令長官が出席していた。

 

「なに?地上部隊の更なる派遣を断るとはどういう意図か!?」

 

そして、日本から出席している面々は、罵声を浴びせられていた。

 

「そうだ!我らは100万の単位で兵士と武器弾薬を対ネウロイ戦に投入しているのに!」

 

防衛大臣は、表情を崩さずに淡々と答えた。

 

「ですから、何度も申し上げます通り。これ以上の部隊派遣は本土防衛に支障が出ますので、派遣要請は拒否させていただきます」

「ならば徴兵制でも採用すればいい。貴国の人口から見て、多くの部隊を編成できるであろう」

 

自分たちはそうしているといわんばかりに、リベリオンの大臣がそう言い放つ。

 

「ええ、可能ならばそうしたいですが、現段階で徴兵制を採用した場合、我が国の経済が崩壊し、戦費を支えることも難しくなります。それとも75兆円の国防予算を貴国らが負担してくださるのですか?」

 

75兆円、日本を除けば世界最大の経済規模を誇るリベリオン合衆国の年間国家予算ですら遠く及ばない額である。自身の国家予算ですら軽く超える金額を負担できるはずもなく、各国の代表は黙ってしまった。

 

「ただ、海軍空母機動部隊を追加派遣することは可能です」

「なに?だが人が足りないと」

「ええ、それは地上部隊に限ってです。もともと海軍には余裕がありますし、予算にもある程度の余裕がありますので、地上部隊の派遣でなければ可能です」

 

防衛大臣は、事前のブリーフィングで統合司令長官から言われたことを、そのまま説明した。

するとブリタニアの大臣が質問してくる。

 

「どれほどの部隊を派遣できるのかね?」

「大型正規空母1隻を含む1個空母打撃艦隊、軽空母1隻を含む1個空母護衛艦隊。それと2個通常艦隊です。艦艇数にすれば40隻でしょうか」

 

もともと世界第6位のEEZを保有し、四方八方を海に囲まれていたのだ。前世界でも海軍艦艇保有数は、米中に続いて第3位の海軍国家であったのだ。追加で40隻の艦艇を派遣しても、日本近海の防衛は可能であった。

 

「わかった。オラーシャとしては、それでもかまわない」

「スオムスとしても異存はない。地上部隊の派遣は残念だがね」

 

日本の航空戦力による援護が、西部戦線と比べて少ない東部戦線を抱えるオラーシャ帝国とスオムスには、正規空母を有する空母艦隊の派遣はよほど魅力的だったのだろう。

それに続いて、各国の代表も渋々といった様子であるが了承し始める。

最終的に、東部戦線を抱えるオラーシャとスオムスに、第2空母打撃艦隊と第5空母護衛艦隊が派遣されることとなり、地中海にも第3空母護衛艦隊が派遣されることで各国は合意。さらに、ガリア開放後の復興を日本が最大限協力することを約束した。

*1
1944年の日本の一般会計予算は、転移前年とほぼ同じの300兆円であり、一般会計予算からは15兆円の予算が、戦時特別補正予算として60兆円の予算が出ていた

*2
ある国防軍将官は「アメリカ本国と全米軍が一緒なら」と呟いていた

*3
1940年に定められた中期防衛力整備計画で整備されることとなった1個海兵機甲師団のこと。兵員や装備自体はある程度揃っているものの、士官の教育が終了していないのだ




いかがでしたでしょうか?
ここで皆様にお知らせです。12月31日から1月6日までの1週間は年明けキャンペーンということで毎日投稿させていただきます。頑張りますので応援よろしくお願いします。
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ではまた次回さようなら

次回 第33話 新人

お楽しみに


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第33話 新人

どうも皆さまSM-2です。
今年も残すところわずかとなりました。
今年最後の小説。本編どうぞ


1944年9月。

大西洋上を1つの艦隊が進んでいた。日本国国防海軍第3空母護衛艦隊、15機の戦闘機を搭載する軽空母を旗艦とする8隻の艦隊である。

彼らは、第3次欧州派遣艦隊として地中海に向かう最中であった。

 

「艦長、現在の状況は?」

 

旗艦である「やましろ」の艦橋に、艦隊司令の蕪木(かぶらぎ) (かおる)少将が入っていきた。

艦長席で、双眼鏡を片手に海を見ていた艦長は、蕪木が入ってくるとスッと立ち上がって敬礼をする。

 

「司令。おはようございます。現在の状況ですが、ヒスパニア西方200kmを航行中です。今のところ異常なし」

「そうか」

 

彼らの航路であるが、日本を出た後インドを経由し、一度そこで補給すると南アフリカに寄港。2度目の補給をすますとヒスパニアのカナリア諸島で3度目の補給を、ジブラルタルで4度目の補給を行なってから、最終目的地であるロマーニャに向かう予定であった。

現在、第3空母護衛艦隊はカナリア諸島での補給を終えた後、ジブラルタルに向かっている最中であった。

 

「それと、先ほど司令部から連絡が入りまして、今朝方、ブリタニアに進出している空軍のE-2が重大事故を起こしたようです」

「事故?内容は?」

「飛行中に右エンジンが停止。機長の判断と操縦で、何とか左エンジンだけで着陸に成功したようです」

 

思った以上に重大な事故に、蕪木は顔をしかめる。

 

「原因は?」

「今、事故機を調査しているそうですが、事故機所属部隊以外の部隊の任務はそのままのようです」

「そうか・・・・。それ以外には何かあるか?」

 

蕪木は、ブリタニアに進出している早期警戒飛行隊が飛行禁止になってしまったことで、ここら一体で活動する早期警戒機が、第1空母打撃艦隊所属の早期警戒機1機しかいなくなってしまう。それについて心配していると、その時スピーカーから声がした。

 

『CDCから艦橋。ガリア西方100kmを航行中の遣欧艦隊から緊急入電!』

 

蕪木は、スピーカー横についている艦内無線のマイクを手に取る。

 

「内容は?」

『ガリア西方100km付近に大型ネウロイが出現。当艦隊は攻撃を受けつつあり。とのことです』

 

蕪木は、顔を険しくすると艦長をみる。

 

「艦長。私はCDCに向かう」

「私もいきます」

 

蕪木は、拒否することなく艦長の言葉にうなずくと、先に艦橋を出て行く。艦長は、その場にいた副長を見る。

 

「副長。ここは任せる。それとスクランブルを上げろ!」

「わかりました」

 

一通りの指示を終えると、艦長も艦橋の扉を開けて駆け足でCDCに向かった。

 

 

艦長がCDCの中に入ると、すでに蕪木が中にいた。その横には、艦の武装関係のトップである砲雷長がいた。

砲雷長は、艦長の姿をみとめると近づいてくる。

 

「艦長。先ほど指示があった通りスクランブル機を出しました。コールサインは、トレロワン。F-37JB4機です」

「ご苦労。スクランブル隊には、扶桑艦隊の援護に向かうように伝えろ・・・・それでよろしいですね。蕪木司令」

 

艦長は、蕪木に確認を取った。蕪木は、その言葉にこくりと頷く。

 

「それでいい。頼んだ。それと新たなネウロイの出現に備えて対空戦闘用意」

「了解しました」

 

艦長は、CDC内にいる通信士に合図を送る。通信士は、すぐさまヘッドセットのマイクをオンにして、スイッチとツマミをいじると、艦隊に指示を出した。

 

「旗艦より全艦へ!対空戦闘用意!繰り返す対空戦闘用意!」

 

この指示で、艦隊は一気に騒がしくなった。すべての乗組員がヘルメットとチョッキを着て持ち場に走り、水密扉が閉じられる。

その間も艦隊の中心であるCDCでは、着々と事態が進んでいた。

 

「敵ネウロイの位置は?」

「本艦隊より北北東に150km地点です。すでに扶桑艦隊のウィッチ1名が戦闘中」

 

護衛イージス艦らのレーダー情報が、艦隊全体に一瞬で共有される。それらの情報は、艦に搭載されている高性能コンピューターによって処理され、一つの画面に表示される。

CDCに設置されているメインモニターに移されたレーダー情報を見て、蕪木は渋い顔をする。

 

「艦対空ミサイルの射程圏外か・・・・。スクランブル隊の到着予定時刻は?」

「扶桑艦隊到着まで、残り5分。それとブリタニアの501基地からウィッチ隊4名と海兵隊戦闘機2機が緊急発進した模様」

 

砲雷長の報告で、ひとまずネウロイは片付きそうだと安心する。

 

 

501基地では、けたたましいサイレンの音が鳴り響いていた。この日のスクランブル当番は、チャックとマイケルのアメリカ軍組であった。彼らは、夜に備えて仮眠中であったが、サイレンの音が鳴り響くとベットから飛び起きて格納庫に向かう。

彼らが格納庫に着いて、戦闘機のコックピットに収まるころには、ウィッチ隊はすでに発進していた。

それを見ても2人は慌てずに、しっかりとヘルメットをかぶり戦闘機の状況を確認する。すべてを確認し終えると、滑走路に機体を進める。

 

「行くぞマイケル!」

「了解」

 

2機は、アフターバーナーを使い、滑走路のコンクリートを焦がしながら飛び立っていった。高度5000mまで一分とかからずに上昇して、水平飛行に戻すと501基地の管制隊から通信が入る。

 

『こちら501基地より501全部隊へ。日本国防海軍第3空母護衛艦隊よりスクランブル機4機が発進。コールサインはトレロ。トレロと協力し、ネウロイを撃破せよ』

「ディスイズストライカー01。ラジャー(了解)

 

ウィッチ隊とチャックたち戦闘機は、扶桑艦隊に急いだ。

 

――――――――――――――――――――

 

援軍が急いでいる中、扶桑艦隊上空では2人のウィッチが奮戦していた。

 

「大丈夫か?」

 

一人は501で戦闘隊長を務める坂本であったが、もう一人は誰も知らない無名のウィッチであった。どうやら初の実戦らしく、体力的にも限界が来ているようであった。

坂本は、それがわかっていたので時々、彼女のことを気遣う。

 

「大丈夫です。まだ飛べます」

 

無名のウィッチは、強い意志を感じる瞳でそう答えた。

 

「わかった。行くぞ」

 

坂本は、降下するとネウロイの気を引くためにネウロイの表面すれすれを飛ぶ。無名の彼女も、それに習ってネウロイの表面すれすれを飛ぶと持っている機関銃を発砲する。ドドドという重厚な発砲音とともに、ネウロイの表面装甲が削られる。

しかし、肉体的・精神的疲労が大きかったようだ。

 

――うう・・・・だめ・・・・もう・・・・

 

ネウロイは、無名のウィッチに向かってビームを放とうとした。

その瞬間、ネウロイで8つの爆発が起こった。無名のウィッチは、あたりをきょろきょろと見まわすと、灰色のやけに角ばった何かが、こちらに向かって飛んできていた。初の実戦である彼女は、思わずネウロイかと思い持っていた機関銃を構える。

 

「まて、宮藤」

 

坂本は、それを見て無名のウィッチ―宮藤に近寄る。

 

「あれは味方だ。日本の戦闘機隊だ」

「日本の・・・・?」

「ああ、だから安心しろ」

 

坂本は、宮藤を安心させるように言い聞かせる。そして、インカムで戦闘機隊に通信をいれる。

 

「こちら扶桑海軍の坂本だ。援軍感謝する」

「こちら国防海軍第3空母護衛艦隊所属第1編隊。援軍に参りました」

「援軍感謝する。敵はコア保有タイプの中型だ。コアの位置は敵上面中央」

 

坂本からの報告を聞いて、編隊長は赤外線カメラを起動するとネウロイのコアを探す。案の定、坂本が言った通りの場所にコアが放つ熱が探知できた。

 

「こちらも探知した。攻撃に入る」

 

どうやらこの間にネウロイは装甲を回復させたらしい。彼らが攻撃を加える前と全く同じ姿になっていたが、分が悪いと見たのか逃げ出そうとする。

編隊長は、ネウロイのその様子を見て鼻で笑った。

 

「ハッ、超音速戦闘機から逃げられるとでも思っているのか?」

「その通り!」

 

突然割り込んできた声とともに、ネウロイの上面にサイドワインダーが着弾し、降り注いだ金属ロットがコア周辺の装甲を削る。

 

「こちら501戦闘機隊、ストライカース02。戦闘に入る」

「アッカーマン大尉か」

 

501に所属している坂本には、聞き覚えのある声であった。

 

「そうですよ。ところで少佐。隣を飛んでいる子は?」

 

チャックは、坂本の隣にいる見慣れないウィッチに気が付いたようだ。もともと艦隊上空での迎撃に当たっていたのは1人と聞いていたので、疑問に思ったのである。

 

「ああ、扶桑から私が連れてきた」

「ほほう。カワイ子ちゃんの前で無様な姿は見せられませんね・・・・。おいマイケル。気合い入れていくぞ」

「了解です」

 

マイケルの声は、少し苦笑交じりであった。すると、ネウロイと交戦していた第3空母護衛艦隊の戦闘機隊隊長から通信が入る。彼らは、赤外線ホーミングミサイルを搭載していなかったため、時間稼ぎ程度の戦闘しかできなかったのだ。

 

「こちらトレロ05。われわれは、扶桑艦隊の撤退支援に移行する。ストライカースリーにこのネウロイの攻撃を任してもいいか?」

「構わない・・・・。少佐は、彼女を連れて後ろに。手柄の独り占めはずるいですよ」

「わかった。下がるぞ宮藤」

 

2人のウィッチは、戦場から離脱する。

それを見届けると、チャックは舌なめずりをする。今までのおちゃらけたお調子者の目は、獲物を狩る狩人の目に変わっていた。

 

「さて、マイケル!ロックンロールだ!」

「了解!」

 

2機は、めいっぱい加速すると急上昇する。ネウロイから2000m上空まで上昇すると、ネウロイのコアの熱源をロックオンする。

 

「FOX-2!」

 

2機のF-37の翼端から、計4発のサイドワインダーが放たれた。サイドワインダーは、降下による速度も合わさって、実にマッハ7*1で飛んでいく。

ミサイルのシーカーは、実に正確にネウロイのコアが放つ熱を探知していた。無論、ネウロイもミサイルを寄せ付けまいとビームをうつ。運がよかったらしく1発のサイドワインダーが、ビームによって迎撃されてしまう。しかし、残りの3発にビームが当たることはなかった。

 

ドォオオン

 

レーザー近接信管が作動すると、爆発とともにネウロイに金属ロットが降り注いだ。先ほどと同じように、金属ロットがネウロイの装甲を削ると赤く光るコアがあらわになる。

その瞬間、降下してきたチャック機が25㎜機関砲を放つ。

 

ガンズガンズ(機関砲発砲)!」

 

猛獣の唸り声のような発砲音とともに、25㎜機関砲弾がコアに殺到する。

無数の砲弾に貫かれたコアは砕け散った。コアが破壊されたことで、ネウロイは無数の白い破片となって海に落ちていった。

 

「ストライカー01。ターゲットキル(敵機撃墜)

 

チャックはネウロイの撃墜を報告すると、やっと着いたウィッチ隊もそれを確認したようだ。

 

「こちらバルクホルン。こちらでも確認した。ネウロイ撃墜、戦闘を終了する」

 

扶桑艦隊には、いくらかの被害が出たものの坂本や宮藤、戦闘機隊の活躍もあって、全滅は免れた。

 

「ストライカースリー。RTB(基地に帰投する)

「トレロは、ブリタニアから戦闘機隊が到着するまで護衛任務に就くぞ」

 

4機の戦闘機を残し、2機の戦闘機と4人のウィッチは基地に帰っていた。その姿を、先に空母に戻っていた宮藤は、見上げていた。

 

――――――――――――――――――――

 

数日後、第501統合戦闘航空団に宮藤(みやふじ) 芳佳(よしか)が着任することとなった。

*1
サイドワインダーの最新バージョンであるY型は高度次第では水平飛行で、マッハ8という極超音速での飛行が可能である。これは2020年代に開発が進んだ極超音速ミサイルへの対応によるものである




いかがでしたでしょうか?
1年間、大きな病にかかることもなく小説投稿を続けてこられたのも皆様の応援のおかげでございます。皆様、1年間ありがとうございました。また来年もよろしくお願いします。

次回 第34話 新人2

お楽しみに


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第34話 新人Ⅱ

皆様、あけましておめでとうございます。SM-2です。
私もより一層精進してまいりますので、今年も応援よろしくお願いします。
では、本編どうぞ


ミーナと今浦は、連合軍西部方面統合軍司令部に出頭していた。

呼び出された会議室には、各国軍から西部方面統合軍に派遣されている部隊の指揮官が居並んでいた。

 

「無事、扶桑からの補給物資が届いたようだな」

 

会議室の上座に座る人物―ブリタニア首相のチャーチルは、ミーナに向かってそういった。

 

「はい。坂本少佐及び補充員1名、宮藤芳佳が着任しました。通常通り軍曹待遇としてあります」

「戦闘機隊も大活躍をしているそうだね?」

 

チャーチルは、視線を今浦に移した。

 

「もったいないお言葉です」

「しかし、女性ばかりのウィッチ隊に男性士官がいることを危惧する声もあるが?」

 

チャーチルの横にいるブリタニア軍将官―トレヴァー・マロニー大将が嫌味な声で今浦にそう言ってきた。

ウィッチというのは、特別な力があるといっても年端も行かない少女である。男社会である軍隊内では、性的暴行などを受ける可能性がある。そのため、ウィッチは軍曹として入隊させるなど、男性兵士よりもウィッチが上官となるようにして、そうした被害を受けないようにしている*1

しかし、国防軍のパイロットは全員少尉以上の士官である。上官特権を盾にして、不適切な行為を強要しようとする懸念はあった。

自分たちがそこまで理性のない人間だと思われていることに、今浦は不快感を覚える。

 

「御心配には及びません。501派遣部隊には、事前調査で人間性に問題なしと判断された人間のみが参加していますし、派遣隊には女性憲兵も配備されていますが、その手の報告はございません」

 

今浦は不機嫌さを隠しながら、マロニーの言葉に返した。しかし、それでも不機嫌さが隠し切れていなかったらしく、マロニーは顔をしかめる。

チャーチルは、少し慌ててフォローに入る。この場には国防軍の将官もいる。現状世界1位の国力と軍事力をもつ日本との関係を壊したくはないのだ。

 

「まぁ、戦力の強化はうれしいことだ。問題がないのであれば、それでよい」

「はっ」

 

今浦も、無駄な喧嘩を売るタイプではない。マロニーの態度に、いまだにイライラしていたものの気持ちをぐっとこらえて見事な敬礼をして見せてた。

マロニーは、これ以上日本のことは口撃できないのかと思ったらしく、標的をウィッチ隊に変える。

 

「そういえば、最近のネウロイの出現ペースが不定期になっているようだが?」

「はい。これまでの週1回のペースから徐々に狭くなっています」

 

マロニーの言葉に、ミーナは頷いて見せた。

 

「今までのようにはいかんだろ?」

 

その瞬間、ミーナの声はこわばった。

 

「以前のプランの時に、現場を無視した空論はお断りしたはずですが?」

 

毅然とした態度で言うミーナに、マロニーは再び機嫌を悪くする。チャーチルは、軽く咳払いしてマロニーをにらみつけると、優しい声でミーナに語り掛けた。

 

「結果を出せればいいのだよ」

「はい」

 

――――――――――――――――――――

 

2人は会議が終わると、部屋から出て行った。2人とも、いけ好かない上官との言い争いで精神的に疲労していた。

すると、後ろから突如声をかけられた。

 

「今浦君」

 

今浦とミーナが後ろを見ると、今浦の着ているものと同じカーキ色の軍服に身を包んだ眼鏡の男が話しかけてきた。

肩についている階級章は、少将を示している。

今浦とミーナは、彼に敬礼をする。敬礼をされた少将も軽く敬礼を返すと笑顔を見せた。

 

「まぁまぁ。そう硬くなるんじゃない。今浦君と僕の仲じゃないか」

「田部さんもお元気そうで」

 

目の前の田部少将と今浦の仲が良さそうなのをみて、ミーナは困惑する。

 

「あの、お二人はどういう関係で?」

「ああ、同郷でね。実家が近所なんだ」

 

田部は軍帽を取ると、頭を軽くなでる。再び軍帽をかぶりなおすと、田部はミーナを見る。

 

「貴官の活躍は聞いているよ。若いのによくやっているね」

 

マロニーの言葉とは違い、悪意が感じられない声であった。ミーナは、田部が差し出してきた右手を手に取り握手する。

 

「ありがとうございます。田部少将」

「これからも期待しているよ。ところで今浦君を借りてもよろしいかな?」

「?ええ、構いませんが」

 

ミーナの回答に、満足したように田部は笑みを深くした。

 

――――――――――――――――――――

 

今浦は、ミーナと別れて西部方面統合軍司令部をでると、田部に促されて、止まっていたパジェロに乗り込む。

2人が乗ると、パジェロは走り出した。

 

「さて、ここなら盗聴の心配はない。話が終われば、501基地に送らせよう」

 

そう言って、田部は運転手をちらりと見る。迷彩服姿の運転手は、「了解しました」というと軽くお辞儀をする。

 

「それで、要件は何でしょう?」

 

職務の話だからか、今浦の口調は幾分か堅苦しいものへと変わる。

 

「うん。なんでもブリタニア軍が今までの戦闘を変えるような新兵器を開発しているらしい。官邸は、核兵器の類なんじゃないかと気にしているようだ」

「それは・・・・」

「万が一に備えて、サートが送られてきた」

 

特殊部隊の派遣、というのは今浦に少くない衝撃を与えた。いまだにネウロイとの戦争の終結が見えない中、すでに水面下での人類間戦争が始まっているということだからだ。

ちなみに特別作戦軍特殊工作部隊の派遣に関しては、最重要機密とされ知る人間は少なかった。

 

「それで、その兵器開発の中心にいるのはトレヴァー・マロニーだそうだよ」

 

先ほどの会議にいた嫌な将官を思い出すと、今浦は顔をしかめる。

 

「彼は他国でも有名なタカ派だ。ウィッチと我々ばかりが活躍するのがよほど気に食わないのだろう。それはさっきの会議でもわかっただろう?」

 

苦笑気味に言う彼の様子を見るに、マロニーはいつもあんな感じなのだろうかと思う。

 

「いつもあんな感じなのですか?」

「うん。ことあるごとに僕に突っかかってくるから疲れるよ」

 

ハハハと笑う彼の声には、どこか疲れを感じさせる。

そうこうしているうちに海兵隊第1海兵師団の司令部が置いてある建物についた。車が止まると、田部は車を降りる。そして、車の窓から顔をのぞかせる。

 

「まぁ、過激な彼のことだから、何をするかわからない。君らは特に標的になりやすいだろう。注意しなさい」

「ご忠告感謝します」

 

田部は、運転手をみて合図すると駆け足で司令部に入っていった。

 

――――――――――――――――――――

 

今浦は501基地につくと、ミーティングルームに急いで向かう。ドアを開けて中に入ると、すでにウィッチーズのメンバー全員が集まっていた。

 

「すまない。遅れた」

 

そう言って席に座ると、近くにいたシャーリーが話しかけてくる。

 

「どうしたんだ?」

「ああ、第1海兵師団の田部少将と少し野暮用にね」

 

先ほどの話をシャーリーには伝えず、ごまかした。シャーリーも「ふーん」といって、それ以上の詮索はしなかった。

その時、部屋の扉がガチャリと開き、ミーナと宮藤が入ってきた。

 

「はい、皆さん注目」

 

学校の先生を思わせるような態度であった。その場の全員の視線が、ミーナと宮藤に集まる。

 

「坂本少佐が扶桑皇国から連れてきてくれた宮藤芳佳さんです」

「宮藤芳佳です。よろしくお願いします」

 

宮藤は、お辞儀をする。

 

「宮藤さんは軍曹ですから、同じ階級のリーネさんが面倒を見てください」

 

リーネは、ミーナの言葉に小さく頷く。どこか落ち込んでいるように思えて、隣にいた桜田は心配そうに彼女を見る。

 

「必要な書類、衣類一式、階級章なんかは入っているから」

 

ミーナはそう言って、机の上にある箱を指す。しかし、箱の上に置いてあるVP9*2をみて、宮藤の顔は険しいものに変わる。

 

「あの、これいりません」

 

ミーナは、宮藤の申し出に困った声になる。

 

「何かの時のために持っておいた方が・・・・」

「使いませんから」

 

断固として拳銃の携行を拒否する宮藤の様子を見て、もともと宮藤が坂本に気をかけられていることを気に食わなかったペリーヌは、その態度が癪に障り、後ろにいたルッキーニに声をかける。

 

「きれいごと言って・・・・。ねぇ、どう思う?」

「んぁ?」

 

しかし、いつものごときマイペースっぷりを発揮して、この場でも呑気に寝ていたルッキーニには、宮藤の態度もペリーヌの声も届いていていなかった。

 

「何よ何よ!」

 

ペリーヌは、ルッキーニの態度でさらに不機嫌になり、部屋から出て行ってしまった。

今浦や緑川は、その様子を苦笑いしながら見ていた。ミーナも呆れたような顔をする。

 

「あらあら、仕方ないわね。では、個別の紹介はまたあとにしましょう。では解散」

 

そういうとミーナと坂本は、部屋から出て行った。

宮藤がボーっとしていると、後ろから忍び寄ったルッキーニが、彼女の胸を揉みしだく。突然のことに、宮藤は悲鳴を上げた。

 

「どうだ?」

 

シャーリーは、ルッキーニに尋ねた。尋ねられたルッキーニには、少し不満げな顔をしている。

 

「うーん。残念賞」

 

エイラは、ニヤニヤしながらリーネの方を向く。

 

「リーネはおっきかった」

「////」

 

リーネは、顔を赤くしてうつむいてしまった。その様子を見ながら緑川が、ルッキーニに近づいた。彼女は呆れたような様子であった。

 

「ルッキーニちゃん。前にそういうことは、しないようにって言ったわよね」

「まぁまぁ、いいじゃないか」

 

シャーリーは緑川をなだめると、宮藤の方を向いて右手を差し出す。

 

「私はシャーロット・E・イェーガー。リベリオン出身の中尉。シャーリーって呼んで」

「あ、よろしくお願いします」

 

宮藤は、そういって握手する。

 

「私はエイラ・イルマタル・ユーティライネン。スオムス空軍少尉。こっちはサーニャ・リトヴャク。オラーシャ陸軍中尉」

 

日本製レーダーの導入で必要性は、幾分か減ってはいたものの夜間哨戒は相変わらず続けられており、サーニャは、それから帰ってきたばかりでエイラに支えられながら寝ている。

先ほど宮藤の胸を揉みしだいたルッキーニも自己紹介をする。

 

「私は、フランチェスカ・ルッキーニ!ロマーニャ空軍少尉!」

 

元気いっぱいで年相応の笑顔で自己紹介をする。ウィッチの中では、ペリーヌを除いて自己紹介を唯一終えていないリーネは、おずおずと自己紹介した。

 

「リ、リネット・ビショップです。よろしくお願いします・・・・」

 

ウィッチたちの自己紹介が終われば、あとはパイロット組であった。一番最初に自己紹介をしたのは、リーネの横にいた桜田であった。

 

「僕は桜田青空。国防軍海兵隊少尉だ。501では戦闘機隊第1編隊で2番機をしている」

「俺は第1編隊編隊長兼戦闘機隊長をしている今浦和樹。海兵隊少佐」

 

桜田の横にいた今浦も自己紹介をした。続いて自己紹介をしたのは、戦闘機隊の紅一点である緑川だった。

 

「緑川暁よ。国防軍海兵隊大尉。第2編隊長をしているわ。同じ女性同士よろしくね?」

「緑川大尉の2番機を務めている、川野大翔。階級は少尉」

 

最後は、アメリカ海兵隊組であった。

 

「チャック・アッカーマンだ。アメリカ海兵隊大尉。先日はどうも」

「あ!この間の!」

 

チャックの一言で、宮藤も先日の戦闘に参加していた戦闘機パイロットだと気が付いたようだ。慌てて、チャックにお辞儀をする。

 

「この間はありがとうございました」

「いいよいいよ。初めてであれだけ飛べたんだ。すごいじゃないか」

 

アッカーマンの言葉を聞いて、リーネの顔が少し曇ったように思えたが、その変化に気が付けたのは、そばにいた桜田以外皆無であった。

 

「マイケル・ベリー。チャック大尉の2番機で海兵隊中尉。よろしくな」

 

マイケルは笑顔で右手を差し出したが、自身より40センチは背が高い、スキンヘッドのマッチョの威圧感は強かったらしい。宮藤はびくびくしていた。なにより初めて見るアフリカ系の人間だというのも、拍車をかけているのだろう。

 

「おいマイケル。お嬢さんが怖がってるぜ?少しは愛想を覚えたらどうだ?」

「私は十分愛想がいいですよ」

 

チャックのからかうような言葉に、大真面目な顔をしてマイケルは答えた。その回答にチャックは、軽く笑う。マイケルは、そんなチャックを横目に宮藤と握手をした。

 

「まぁ、よろしく」

「よ、よろしくお願いします」

 

マイケルも悪い人間ではないと分かった宮藤は、その場にいる全員に向かってお辞儀をした。

*1
またウィッチ所属部隊の隊長はウィッチ隊の指揮官として、所属部隊にはウィッチ隊長よりも上官となる男性を配属させないようにしている

*2
国防軍では、ミネベアミツミがライセンス生産しているファイブセブン拳銃が採用されている。これは、5.7㎜NATO弾を使用するMP7A3がライセンス生産されており、国防軍主力サブマシンガン(PDW)がMP7A3になることから弾薬の共通化を図ったものである。その結果、VP9は徐々に退役しており、退役したものは連合軍に有償で供与されている




いかがでしたでしょうか。
さて私は新年早々、前から欲しかったCODのBOCWを買ってまいりました。ようやくモバイルじゃないのができる。
今年がいい年になりますように。

次回 第35話 新人Ⅲ

お楽しみに


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第35話 新人Ⅲ

この日は非番である桜田は、食堂でAR端末を使いながら新聞を読んでいた。コーヒーを片手に、他人から見れば何もない空間をタッチしたり、スライドさせたりするのは、何も知らない人からするとシュールであろう。

芸能人の不倫、日本で起きた殺人事件。そんな記事が紙面を飾っていた。桜田がコーヒーを飲もうとすると、食堂の扉が開いた。驚いて桜田が扉の方を見ると、リーネと宮藤がいた。

 

「二人ともどうしたの」

「桜田少尉・・・・でしたっけ」

 

いまだに名前と顔を完全に覚えきれていない宮藤は、桜田の名前を何とか思い出す。桜田は、AR端末の電源を切ると、椅子から立ち上がる。

 

「少尉は付けなくていいよ。僕はそこらへん厳しいわけじゃないし」

「わかりました」

 

年端も行かない少女が、軍隊の階級を付けて人を呼ぶことに、桜田はどうしても違和感があったのである。宮藤も、ついこの間まで民間人だったからか、すぐに了承する。

返事をしたときに、宮藤はあるものに気が付いた。

 

「あの、ところでそれは?」

 

宮藤が指をさしたのは、桜田の右耳についているAR端末であった。

 

「これかい?これはAR端末といってね・・・・」

 

桜田は、AR端末を外すと宮藤の耳につける。桜田が端末についている電源ボタンを押すと、宮藤の前には、先ほどまで桜田が見ていた新聞記事が映し出される。

 

「おお、すごい!」

 

初めて見るARに、宮藤ははしゃいでいる。

 

「すごいでしょ?それ一つで調べ物もできるし、電話もできるし、書類づくりもできるんだ」

「へぇ!すごいんですね」

 

宮藤は、ARを一通り堪能すると、端末を外して桜田に返した。桜田は、それを受け取ると右胸のポケットに入れた。

 

「ところで、どうしてここに?」

「あ!宮藤さんに食堂の案内をしてたんです。宮藤さんが大きな鍋が欲しいといっていたので」

 

リーネは、ここに来た理由を説明する。リーネから聞いた宮藤の要望に、桜田は首を傾げた。

 

「大きな鍋?どうしてまた?」

「私、みんなに料理を食べてもらうのが好きなんです」

「それならキッチンにあるよ。ついておいで」

 

桜田は、食堂横にあるキッチンに宮藤を案内する。

 

「調理班がいるんだけどね。時々、郷土料理をふるまったりするんだ。川野の卵焼きとか絶品だよ」

「え!川野さんって男の人ですよね。男の人が料理するんですか!?」

 

この時代は、男尊女卑が激しい時代である。男は仕事を、料理を含む家事は女性がやるものだという考え方が広く浸透している。特に扶桑ではその傾向が強い。宮藤にとっては男性が料理をするというのは、衝撃的であった。

 

「日本だと当たり前の話だよ。というか家事全般できないと生活できないし、結婚もできないよ」

「そうなんですか!?」

「日本だと共働きとかが普通だし、奥さんが働いて、旦那さんが家事をすることもあるからね。性別役割分業なんて、時代遅れになってるんだ」

 

これは国防軍でも戦闘機パイロット3割が女性であることからもわかるだろう。2040年代に入っていた日本では、性別よりも能力と本人の意思が尊重される国であった。

 

「僕もお菓子作りが趣味でね。時々ふるまうんだよ」

「へぇ・・・・」

 

宮藤は、桜田が作ったお菓子を食べてみたいを思った。

 

「そうだ。この後、他のところも回るでしょう?僕もついていっていいかい?」

「別にいいですけど、桜田さんは用事はないんですか?」

 

リーネはキョトンとしながら、そう聞いた。

 

「うん。今日は非番だし、特にやりたいこともないからね」

 

こうして3人で基地を回ることとなった。

射撃訓練場や格納庫、浴場*1を回り、管制塔への道中で、報道陣に囲まれるハルトマンの姿があった。

 

「あの人は?」

「ああ、エーリカ・ハルトマン中尉だよ。先日の出撃で200機撃墜になったから、マスコミが来てるみたいだね」

 

物凄い数の撃墜数に、宮藤は驚愕した。

 

「200!今まで、そんなに多くのネウロイと戦ってきたんだ」

「隣にいるゲルトルート・バルクホルン大尉は250機撃墜だよ?彼女らがいなかったら、僕たちが欧州に派遣される前にブリタニアも落とされていただろうね」

「他の人たちも、すごい固有魔法を持っていたりして・・・・ほんとにすごいんですよ」

 

リーネは、暗い顔をしながらそう言った。

 

「すごいな。私、治療しかできないよ」

「それでもすごいですよ。私なんか、みんなに迷惑をかけてばかりの足手まといですから・・・・」

 

一層暗い顔をするリーネを見て、桜田は前に起きた誤射事故のことを思い出しているのだろうと思った。こないだの件は吹っ切れたと思っていたが、どうやら何らかが原因で再発してしまったらしい。桜田は、どうしたものかと考える。

 

「次に行きましょう」

 

そう言ってリーネが管制塔に向かおうとすると、柱にぶつかってしまった。リーネは、人にぶつかったと勘違いして、柱に謝っている。

 

「ビショップさん。それ、人じゃないよ」

「え・・・・」

 

リーネも柱に謝っていたと気が付き、顔を赤くした。

 

 

その後、3人は管制塔に上がった。管制塔の中では、各地から送られてきたレーダー情報やこの基地に設置されているレーダーの情報が日本製のモニターに映し出され、要撃管制官や航空管制官がそれらとにらめっこしている。

この日の当直指揮官である初老の国防空軍少尉の姿をみとめると、桜田は彼に近づいた。

 

「嘉田少尉。失礼しますよ」

「桜田さん。邪魔しないのであれば、どうぞどうぞ」

 

中央の当直指揮官席で腕を組んでモニターを眺めていた少尉は、柔和な笑顔で返事した。

3人は管制室を突っ切ると、ベランダに出た。基地で一番高いそこは、基地全体だけでなくドーバー海峡をも眺めることができる。

 

「うわぁ!すごいきれい!」

「基地で一番高いですからね」

「あれが欧州大陸だね。大半がネウロイの支配下に入っちゃっているけど」

 

桜田の言葉を聞いた宮藤の顔は、少しだけ曇った。

 

――――――――――――――――――――

 

午後からは、彼女らは訓練であった。

最初は、簡単な走り込みと筋トレであった。暇な桜田は、筋トレ後に2人に清涼飲料水を差し入れようと食堂に戻っていた。

スポーツドリンクを2本持って彼女たちのもとに向かうと、ちょうど休憩時間だったらしく。地べたに倒れこんでいた。

 

「お疲れ様。差し入れをもってきたよ。熱中症にならないように飲むといいよ」

 

そう言って冷えたスポーツドリンクを彼女たちの前に置いた。2人は、飲料水を手に取るが、前に日本製のペットボトルを扱ったことがあるリーネと違い、宮藤はどうやって開けるのかわからなかった。

 

「貸してみ?」

 

桜田はそう言って、宮藤からペットボトルを受け取ると彼女の前でキャップを開けて、渡してやる。

2人の体は、運動の後で水分と塩分を失っており、スポーツドリンクを勢いよく飲む。

 

「甘い。それにおいしい」

「運動後で、水分と塩分を失った後だからね」

 

ものの2分で500mlペットボトルを空にしてしまった2人を見て、桜田は苦笑を禁じえなかった。すると、坂本が2人に近づいてきた。

 

「よし、休憩終了!射撃訓練に移る。2人とも銃を持ってこい」

「じゃぁ、2人とも頑張ってね」

 

そういうと、桜田は自室に戻った。銃なんて、1年に1度撃つか撃たないかの自分では、大したアドバイスもできないだろうから邪魔になることがわかっていたからであった。

 

――――――――――――――――――――

 

翌日。桜田は訓練飛行に出るまでの間、滑走路横で上空で飛行訓練をしている宮藤とリーネを見ていた。その横には、同じように訓練飛行の間、暇な今浦もいた。

ベテランパイロットである今浦は、2人の飛行をみてポツリとつぶやいた。

 

「うーん。宮藤さんは、そのうち空中衝突でも起こして墜落しそうだな」

 

その声は少し苦笑交じりであった。

 

「ビショップさんは、初実戦の時に比べれば大分上達したように思える。技術が大丈夫なら、あとはメンタルだけなんだがなぁ」

 

リーネの実戦投入に関しては、ここ最近、ミーナと坂本と今浦の3人の話し合いが行われていた。技術面は問題ないのだが、メンタル面が弱く、実戦に参加したときにパニックになって墜落したり、誤射をしてしまったりするのではないか、として実戦投入は避けられていた。

特に宮藤が基地にやってきてからは、前よりもコンプレックスを抱いているようであった。

今浦の言葉を聞いて、リーネがどうすればメンタル面の問題を克服できるか、桜田は真剣に考えていた。

 

「どうすればいいんですかね・・・・」

「わからん。なんかのきっかけがあればいいんだが・・・・」

 

精神カウンセラーでもない彼らには、どうすればいいかなどわかるはずもなかった。

 

「そろそろ行くぞ」

「了解です」

 

2人は、飛行訓練に向かうために格納庫に向かった。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

訓練後、桜田は今浦に呼び出された。

 

「さっきのは何だ?」

 

今浦の言葉には、怒りが混じっていた。

原因は、さっきの訓練が原因である。心ここにあらずという様子の桜田は、簡単に今浦に後ろを取られ撃墜判定を取られてしまったのだ。編隊飛行訓練でも、桜田は少し遅れ気味であった。

このままでは実戦に出たときに、命にかかわると思った今浦は、桜田を呼び出したのだ。

 

「すいません」

「何考えていた?」

 

謝る桜田に、今浦は問いかけた。桜田は、少しためらった後に口を開いた。

 

「ビショップ軍曹のことを・・・・」

「どうしたらメンタル面を克服できるか、か?」

「はい」

 

桜田は、申し訳なさそうに頷く。今浦は、少し考えるそぶりを見せると1つのことを聞いた。

 

「ビショップ君に好意を抱いているのか?」

「・・・・そうなのかもしれません」

 

桜田の答えに、「やっぱりか」という顔をする今浦。そして厳しい顔をして桜田をみる。

 

「桜田。お前がビショップ君に好意を抱こうとかまわん。お前は犯罪を犯すような人間じゃないからだ。だが、それで訓練中にも集中力が切れるのであれば、明日のスクランブル当番にも参加させるわけにはいかない。わかるな?」

「はい」

「うん。なら、まずはビショップ君の前に目の前に集中しろ。そうでなければ仲間の命も、ビショップ君の命をも危険にさらす。それができないなら、明日は自室待機とする。できるか?」

 

桜田は、強い意志を感じさせるひとみで返事をした。

 

「できます」

「ならいい。俺は、信じているからな。ただ、危険だと思ったらすぐに後退させる。いいな」

「はい」

 

桜田の返事に満足すると、今浦は厳しい表情を解いた。

 

「よし。下がっていいぞ」

「失礼します」

 

桜田が部屋から出て行くと、今浦は背もたれに寄りかかって大きなため息をついた。

*1
もちろんだが、桜田は外で待たされた




いかがでしたでしょうか。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようならぁ!

第36話 初戦果

お楽しみに


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第36話 初戦果(前編)

今浦に、こってり絞られた桜田は夜風に当たるべく滑走路に向かっていた。

 

「はぁ・・・・」

 

リーネに好意を抱いている―桜田は今浦に指摘されてようやくわかった。彼女のけなげに頑張る姿に自分は惹かれていたのだ。

実際、自分でもかなり驚いていた。桜田は高校時代に交際していた同級生の女子とひどい別れ方をしてから、誰かに恋愛感情を抱くということがなかった。一種の女性不信に陥っていたのだ。もちろん仲間としては、緑川のことを信用しているし、ミーナや坂本のことも一人の上官として尊敬している。

それでも異性としてみることはできなかったのである。だからこそ、リーネに抱いていた気持ちが何なのか、すぐに気づけなかったのであろう。

 

「おわっ!」

 

考え事をしていたからか、角から人が飛び指してきたときに反応できず、そのまましりもちをついてしまった。

 

「いたた・・・・。あれ、ビショップさん?」

 

痛そうにお尻をさすりながらぶつかってきた相手は大丈夫かと見てみると、そこにはリーネがいた。彼女の目には涙が浮かんでおり、桜田はどこかけがをしたのかと慌てた。

 

「あ!大丈夫かい?どこかけがを・・・・」

 

しかし、リーネは差し出された桜田の手を振り払うと走ってどこかに行ってしまった。

桜田は、何があったのか探るために彼女が来た道―滑走路の方を覗き込んだ。両目ともに2.0以上の視力を持つ桜田は、明かりのない暗い滑走路に誰か立っているのが見えた。

少し近づくとそれが誰なのかすぐにわかった。

 

「宮藤さん?」

 

宮藤もこちらに気が付いたようだ。

 

「桜田さん・・・・」

「さっきビショップさんとすれ違ったんだけど、何かあったのかい?」

 

桜田は、後ろを指さしながら尋ねると、宮藤は静かにうなずいた。

 

「良ければ聞かせてもらえる?」

「それが―――」

 

――――――――――――――――――――

 

時はさかのぼり、5分ほど前。

宮藤が一人、滑走路の端でドーバー海峡と星空を眺めていると、後ろから声をかけられた。宮藤がびっくりして後ろを見ると、そこにはリーネがたっていた。

彼女は、宮藤の了承を取って隣に座る。

 

「ここ、私のお気に入りの場所なんだ」

「へぇ。きれいだもんね」

 

宮藤は、星空を眺めながら今日の訓練のことを思い出す。

 

「今日もいっぱい怒られちゃった。もっと頑張らないと」

「宮藤さんがうらやましいな・・・・」

「え?なんで」

 

射撃も飛行も自分よりも何倍も上手なリーネが、なぜ自分のことをうらやましがるのか、宮藤には理解できなかった。

 

「諦めないで頑張れるところ」

「それ、通知表にも書いてあった」

 

そう言って笑う宮藤とは対照的にリーネの顔は暗くなる。

 

「私なんて、何も取り柄がなくて・・・・私なんかがここにいていいのかな?」

「ええ!射撃も飛行もあんなに上手なのに」

「そんなことないわ。実戦に出るとダメダメで、飛ぶのがやっとなの」

 

彼女の実戦を見たことのない宮藤は、びっくりする。あんなに上手に飛ぶことのできるリーネが、実戦ではダメダメというのが想像できなかったのだ。

 

「訓練でできれば実戦でも・・・・」

「訓練もなしに飛べた宮藤さんとは違うの!」

 

普段の姿からは考えられない、大声を出したリーネに宮藤はびっくりしてしまった。当のリーネも、ばつの悪そうな顔をすると、立ち上がってどこかに行ってしまった。

 

――――――――――――――――――――

 

宮藤から事の顛末を聞いて、桜田は考えるそぶりを見せる。

 

「なるほど・・・・そういうことか・・・・」

「何がそういうことかなんですか?」

 

桜田の言葉の意味が分からずに、聞き返す宮藤に、桜田は少しためらった後に誤射事故のことを話した

 

「そんなことが・・・・」

「うん。初陣なんだから、緊張でミスをしてしまうことはある。実戦じゃなくても誤射事故なんて起こる時は起こるからね。でも、ビショップさんは必要以上に自分を責めて、しばらくは訓練でもまともに飛べなかったんだ」

「そうだったんですか」

「うん。でも最近は、精神面でも安定してきて技術面でも上達していたから、ヴェルケ中佐たちは実戦に投入できるかなと思っていたみたいなんだけど・・・・」

 

そこまで言うと桜田は、宮藤を指さした。

 

「そこに君が来た」

「私ですか?」

 

何を言いたいのかわからずに、宮藤はキョトンとした。自分のことを指をさして、首をかしげる宮藤に桜田は頷いて見せた。

 

「うん。初めての実戦で、君は見事に戦闘をこなして見せた。それがビショップさんの心に重くのしかかったんだと思う。自分より後に来た新人が、自分より活躍しているというのは彼女にとってプレッシャーだったんだと思う」

「そんな・・・・私のせいで・・・・」

 

桜田の話を聞いて自分を責めるような態度を見せる宮藤の両肩を、桜田はぐっとつかんだ。

 

「君は自分のできることをしただけだ。自分を責めるんじゃない。自分を責めて、前進できなくなることは最も恐ろしいことだから」

「わかりました」

 

宮藤の瞳を見て、心配なさそうだと桜田は安心すると両肩から手を放す。

 

「さて、僕はそろそろ戻るよ」

 

そういうと桜田は、建物の中に入っていった。

 

 

彼が向かったのは自室ではなく、リーネの部屋であった。彼女の部屋の前に立つと、扉をノックする。いつもならばリーネの声が聞こえてくるが、この時帰ってきたのは沈黙であった。

それでも桜田は構わなかった。扉に向かって語りかける。

 

「宮藤さんから話は聞いた。まだ誤射のことを引きずっているんだね」

「・・・・」

 

部屋の中から返事は聞こえなかった。それでも、桜田は部屋の中にリーネがいると確信していた。

 

「前に、僕が航空学生時代にミスをしたことがあるって言ったよね。本当にパイロットになれるかわからないようなミスをしてしまったんだ」

 

桜田は、恥ずかしそうにポリポリと鼻を掻く。

 

「飛行準備課程が終わって、初めて操縦訓練をした時だ。空間識失調になってしまってね、山に激突しそうになったんだ。ギリギリのところで教官が操縦してくれたから助かったけど、もしかしたら死んでたかもしれない」

 

空間識失調とは、飛行機パイロットなどが一時的に平衡感覚を失ってしまうことである。主に濃霧や夜間での飛行だったり、戦闘機動中に起こりやすいが気象条件や本人の体調などによっても引き起こされることがあるのだ。

この事故は、桜田を初等訓練課程から外すかどうかという議論まで発展した。しかし、桜田の戦闘機パイロットとしての素質があると判断した複数の教官が連名で嘆願書を提出したことで、桜田は初等訓練課程を続けることができた。

 

「訓練は続けられることになったけど、空を飛ぶことが怖くなってしまった。まさしく誤射事故を起こした直後のビショップさんのようにね。空を飛ぶとエアショックでまともに飛べなかった。その時に教官が親身になって話を聞いてくれた。とても気持ちが軽くなった。そして、前に言ったを教官に言われたんだ。あの人がいなかったら、僕はここにはいない」

 

本当にぎりぎりだったのだ。その状態が続けば、今頃桜田は別の人生を歩んでいたことであろう。

 

「誰だってミスすることはある。その時、何もかもを抱え込むんじゃなくて信頼できる誰かに何もかも、しゃべってみるといい。そうすれば、少しは気持ちが軽くなるんじゃないかな?仲間っていうのは、そうやってお互いを支えあって、欠点を補いあうためにいると思うから」

「・・・・」

 

最後の最後まで返事は聞こえなかった。

 

「僕は君を信じてる。君はきっと、いざというときに大事な人をまもれる人間だって」

 

桜田は、そういうと自室に戻った。

 

――――――――――――――――――――

 

翌日。基地では朝からサイレンが鳴っていた。

基地に設置されたレーダーにネウロイが探知されたからだ。この日、スクランブル当番であった桜田は待機所から走って、格納庫に向かう。

戦闘機に乗ろうと梯子に手をかけた瞬間、リーネと目があった。リーネは、気まずそうにうつむいて顔をそらす。

しばらくリーネの方を心配そうに見ていると、今浦の怒声が聞こえた。

 

「桜田!集中できないなら出撃するな!」

「いえ。やれます!」

 

そういうと桜田は集中した顔になり、戦闘機に乗り込んだ。ヘルメットをかぶり、計器を素早く確認する

と今浦の後に続いて滑走路に出て行った。

 

「ストライカー1-2th。テイクオフ(離陸する)

 

2機の戦闘機は、アフターバーナーを点火して急上昇していった。

 

 

それをリーネと宮藤は格納庫横にでてみていた。

 

「行っちゃったね。私たちにできることってなにかな?」

「役立たずの私にできることなんて・・・・」

 

リーネは、そういうと昨日と同じように自室に戻ってしまった。すると横からミーナが声をかけてきた。

 

「宮藤さん」

「はい?」

 

ミーナは、リーネが行ってしまった方を見ながらしゃべり始めた。

 

「リーネさんは、ブリタニアが故郷なの。欧州最後の砦、そして故郷であるブリタニアをまもるというプレッシャーから、初めての実戦で誤射事故を起こしてしまったの」

「それは、昨日桜田さんから聞きました。しばらく空を飛ぶのも無理だったって」

「ええ。今でも実戦に出るとそのことを思い出してダメになっちゃうの」

 

それも宮藤は桜田から聞いていた。昨日のことを思い出し、自分のせいなのではないかと思って宮藤の顔は暗くなる。

 

「ところで宮藤さんは何でウィッチーズに入ろうと思ったの?」

「それは、みんなを守れたらって」

「リーネさんも、ウィッチとして入隊したばかりのころは同じ気持ちだったと思うわ。その思いを忘れちゃだめよ。そうすれば、あなたはきっとみんなの力になれる」

 

ミーナの言葉を聞いて、宮藤は暗い顔をやめた。そして強い意志を感じる瞳で答えた。

 

「はい!」

 

――――――――――――――――――――

 

「ストライカー01。エネミーインサイト(目標視認)ブレイク(散開)!」

 

今浦がネウロイを見つけた。戦闘に入る前、桜田は少しばかり嫌な予感がして、基地で待機しているリーネが心配になる。しかし、すぐに思考を切り替えると操縦桿を引いて急上昇した。

ネウロイの上方1000mほどに陣取ると、ウェポンベイの31式短距離空対空ミサイルを発射した。

 

「FOX-1!」

 

発射されたミサイルは、まっすぐネウロイに飛んでいく。ネウロイに着弾すると、金属片を降らせて装甲を削った。

しかし、今浦と桜田は、ここで異変に気が付いた。

 

「何故だ?コアが見えない・・・・」

 

上空から赤外線カメラでネウロイのコアを探していた今浦はぽつりとつぶやいた。

扶桑海事変の時から戦っている今浦は、これがコアを持たないタイプのネウロイではないかと疑うが、それにしては大きいし何より攻撃箇所が再生している。

コアを保有しないタイプのネウロイは、攻撃があたりある程度の損害が与えられれば撃破できるのだ。

 

「まさか・・・・こいつは子機?」

 

桜田のつぶやきは、同じくコアを探していた坂本の耳にも届いた。そして坂本は、気が付いた。

 

「だとしたら基地が危ない!!」

 

その瞬間、基地から通信が届いた。

 

『こちら管制隊!新たな目標探知!詳細を送る!』

 

画面に映し出されたレーダー情報を見た今浦は、舌打ちをした。新たに出現したネウロイが本体であろうが、子機への攻撃を弱めて本体の攻撃に集中した場合、子機が基地に到達する前に本体を撃墜できればいいが、間に合わなかった場合は子機によって基地には甚大な被害が出ることは間違いなかった。

頼りになる戦力は基地にいる、ミーナとエイラそれくらいであった。

 

「くそっ!」

 

桜田は悪態をついた。

 

――――――――――――――――――――

 

「リネットさん」

 

少しばかり時を戻して、ミーナにアドバイスをもらった後、宮藤はリーネの部屋に向かった。そして、桜田と同じように返事の聞こえない部屋に向かって話しかけていた。

 

「私、魔法はへたっぴだし、上手に飛べないし、銃は満足に扱えないし、怒られてばっかりだし、ネウロイともほんとは戦いたくない。それでも私はウィッチーズにいたい。私の魔法でも役に立つなら、誰かの役に立ちたいの」

 

案の定、部屋の中でリーネは宮藤の話を聞いていた。そして、次に宮藤から放たれた言葉がリーネをハッとさせた。

 

「それでみんなをまもれたらって・・・・」

 

それはウィッチ養成学校から501に配属されるときに、自分の心に確かにあった思いであった。

その瞬間、基地内にサイレンが鳴り響いた。新たなネウロイの出現を知らせるものである。

 

「ネウロイ!?」

 

宮藤はサイレンを聞くや否やどこかに走って行ってしまった。慌てて、リーネが扉を開けると宮藤の後ろ姿が見えた。その時、昨日の夜に桜田に言われたことを思い出した。

 

――僕は君を信じてる。君はきっと、いざというときに大事な人をまもれる人間だって

 

リーネは、桜田の信頼を裏切るまいと誰かをまもろうと決意した。

 




申し訳ありません。本来なら前後編に分けるつもりはなかったのですが、話が思ったよりも長くなってしまいました。次回でリーネ編終了です。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようならぁ

次回 第37話 初戦果(後編)

お楽しみに


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第37話 初戦果(後編)

今回は恋愛要素多いです。でも苦いものが欲しいか言われると、私の文才が絶望的にないのでいらないかもしれません。
やっぱり恋愛は難しいなぁ。
では本編どうぞ


「出られるのは私とエイラさんだけ?サーニャさんは?」

 

ネウロイを迎撃するために集まったのはエイラとミーナだけであった。もう一人、基地にいるはずのサーニャの状態をエイラに尋ねる。

 

「夜間哨戒で魔力を使い果たしてる。ムリダナ」

「川野さんたちは?」

 

つぎにミーナは、パイロットスーツだけ着ている川野にそう尋ねた。

 

「アッカーマン大尉たちの機体は、整備中でエンジンを外しています。自分と緑川編隊長の機体も、飛行は出来ますが、訓練中の誤射をなくすために弾薬を積んでいません。即時出撃は不可能です。今、ミサイルを積んでいますが30分はかかります」

「なら、私たちだけで出ましょう」

 

そう言って格納庫に向かおうとすると、宮藤がやってきた。

 

「私も出撃させてください」

「訓練を完了していないのに実戦に出すわけにはいかないわ」

「足手まといにならないように頑張ります」

 

言っても聞かなそうな宮藤の様子を見て、ミーナは困ったような顔になる。

 

「あなたは銃を撃つのにためらいがあるの」

「撃てます!守るためなら!」

 

その言葉を、宮藤を追いかけてきたリーネは聞いていた。

 

「あなたは半人前なの。その状態で戦闘は無理よ」

「でも・・・・」

 

するとリーネが部屋の中に飛び込んできた。

 

「私も行きます。半人前でも2人合わせれば1人分くらいにはなります!」

 

2人の断固とした姿勢に、ついにミーナが折れた。

 

「90秒で支度しなさい」

「「はい」」

 

早速、リーネと宮藤の2人を含めた4人は格納庫に急いだ。ストライカーを履いて、銃を持つと4人は緊急発進する。

 

「私とエイラさんで先行するわ。あなたたちは後方でバックアップをお願い」

「「了解」」

「頼んだわよ」

 

そういうとミーナとエイラは、増速してネウロイに向かっていった。

 

――――――――――――――――――――

 

『こちら501管制隊。基地からウィッチ4人がスクランブルに上がった』

 

その報告に全員が困惑した。戦闘に参加できるのは、エイラとミーナの2人だと思っていたからだ。残りの2人は誰なのか見当がつかなかったのだ。

 

「2人じゃないのか?メンバーは?」

『ヴェルケ中佐、ユーティライネン少尉、ビショップ軍曹、宮藤軍曹の4人です』

 

今浦の問いに対して帰ってきた答えに、全員が驚愕した。とても戦闘は出来そうにない2人が混じっていたからだ。

桜田も動揺するが、何とか平常心を取り戻して戦闘を継続する。

今浦は、戦闘を続ける桜田機をちらりと見ると指示を出した。

 

クラウン(桜田)!お前、ヴェルケ中佐と合流しろ!」

「え・・・・」

 

普通は戦闘機は2機編隊で動く。しかし、今浦の指示はそれを崩すというものであった。編隊での戦闘を徹底される戦闘機パイロットにとってはあり得ない指示であった。

 

「こっちはお前がいなくても大丈夫だ!だから行ってこい!()()()()()()!」

「・・・・ッ!コピー(了解)

 

桜田は、指示を受け取ると今浦に感謝した。桜田は、操縦桿を倒して90度左旋回をして見せると、戦闘巡航速度で本体に向かった。

今浦は、桜田機を見送ると坂本に詫びを入れる。

 

「すいません。坂本少佐」

「いや、構わないが。どうしたんだ?」

「あいつをここに置いといても役に立ちません。本体の攻撃に行かせた方がよっぽどいい働きをしますよ」

「?」

 

坂本は、ニヤリとしながらいう今浦の言葉の意味を理解できずに首を傾げた。

 

――――――――――――――――――――

 

「速いわね・・・・」

 

ミーナは、海面すれすれを直進してくるネウロイに銃撃を加えながら、ぽつりとつぶやいた。ネウロイは時速600kmという速度で飛行していた。これはミーナとエイラが履くBf109G型の最高速度に近い。

一撃離脱をして旋回するころには引き離されているだろうと判断したミーナは、すぐさま指示を出す。

 

「一撃離脱じゃ無理ね。速度を合わせて」

「了解」

 

2人は、急降下をするとネウロイの後ろにつく。ネウロイが速いせいでなかなか距離は縮まらないが、MG42の有効射程圏内に収めることに成功する。

分間1500発という連射速度を持つMG42は、一瞬トリガーを引くだけで25発もの弾丸が放たれる。銃身が加熱しないように、短く何度も引き金を引く。

 

 

2人が戦闘を繰り広げるさまは、遠く離れた所からバックアップを命じられた宮藤とリーネにも見えていた。

 

「こっちに来てる!」

 

宮藤はネウロイを指さしてそういった。リーネも慌てて持っていた銃を構えた。

 

 

暫くミーナとエイラが銃撃を加えていると、ネウロイに変化が起きた。突然後部を切り離して増速したのである。時速700km以上はあろうか、Bf109の速度では追いつくことなど不可能であった。

 

「速すぎる・・・・!」

 

 

リーネも、向かってくるネウロイに対して何度も何度も射撃するが当たる気配は一向になかった。

 

「だめ、当たらない」

 

そう嘆くリーネに宮藤は応援する。

 

「大丈夫だよ!訓練であんなに上手だったんだから」

「私、飛ぶのに精いっぱいで射撃をコントロールできないんです」

「なら、私が支えてあげる」

 

そういうと宮藤はリーネを肩車する。

 

「どう?これで安定するでしょ?」

「は、はい」

 

リーネも一瞬戸惑ってはいたが、すぐに銃を構える。

しかし、前よりも安定して命中させやすくなったとはいえ、リーネには敵に弾を当てられる自信がなかった。

 

――そうだ!敵が銃弾をよけた未来予想位置に撃てば・・・・

 

比較的命中率は上がるはずだと考えると、すぐさま宮藤にお願いする。

 

「宮藤さん、私と一緒に撃って」

「わかった」

 

息を止めて、狙いを定める。しかし、それでも時速700km以上の速度で突っ込んでくる敵の未来予想位置を算出するのは至難の業であった。せめてもう少し遅ければと、リーネが思った時であった。

 

「ストライカー02。FOX-1!」

 

レーダーホーミングミサイルの発射を知らせる符丁が、インカムから聞こえてきた。次の瞬間、ネウロイの正面からミサイルが突っ込んでいき爆発した。

ミサイルと正面衝突したネウロイは、金属片を降らされ爆発の衝撃で速度を落としてしまう。

その瞬間、リーネは合図した。

 

「今です!」

 

宮藤は99式13㎜機銃をネウロイに向けて放ち、リーネも続けて4発を撃った。

銃弾はまっすぐ飛んでいき、ネウロイは宮藤の放った弾丸を避けようと上昇する。しかし、そこにはリーネの放った13㎜対戦車徹甲弾が殺到していた。

ネウロイは3発の弾丸で、大きく速度を落として無防備になったところに最後の一発が飛来、ネウロイのコアを貫いた。

白い破片となって落ちていくネウロイを見て、ミサイルを発射した本人である桜田は基地に報告を入れた。

 

「ストライカー02。ネウロイの撃破を確認した」

 

報告を終えると、桜田は機体を旋回させてネウロイを撃墜したばかりのリーネの様子を見る。

すると、リーネが宮藤に抱き着き海に真っ逆さまに落ちていくではないか。桜田は、風防ガラスに張り付て、心配そうに海面を見る。

 

「あっ・・・・!はぁ・・・・」

 

すぐに浮き上がってきて海面で笑いあう2人の様子を見て心配なさそうだとみると安堵のため息をついた。

 

「ストライカー02。RTB」

 

桜田は、一足先に基地に戻った。

 

――――――――――――――――――――

 

戦闘が終わった後も、今浦と桜田は万が一に備えてスクランブル待機室にいた。桜田は2人分のコーヒーを淹れて、一方を今浦に渡す。

 

「お、サンキュー」

 

今浦は読んでいた本から目を離して、コーヒーを飲む。すると、桜田が突然頭を下げた。

 

「今日はありがとうございました」

「ん?なんのこと?」

「戦闘の時です。自分の気持ちを理解して、ビショップさんのところに援護に向かわせてくれましたよね」

「ああ、いいよいいよ。お礼なんていらん」

 

今浦は、本に視線を戻した。しかし、ふと何かを考えるように腕を組む。何を考えているのか、気になりながら桜田もコーヒーを飲む。

 

「あー。ところでビショップさんに想いは伝えたんかい?」

「ん!ゴホッゴホッ!・・・・い、いきなり何を!?」

 

思わぬ質問に、桜田はびっくりして気管にコーヒーが入ってむせ返る。

 

「いやね。忘れているかもしれないけど、ここは戦場なわけだろ?」

「はい」

「お前、川野と幼馴染なら知ってるだろ?戦場ならなおさら、いつ死んでもないわけだ」

 

ここまで聞いて、桜田は今浦の言おうとしていることが分かった。

桜田は仮眠用のベッドに座ってコーヒーカップを両手で持つと、右手の人差し指で側面を叩くたびに揺れるコーヒーを眺める。

 

「つまり・・・・悔いの残らないようにしておけ。そういうことですか?」

「うん。そういうことだけど、もう一つは・・・・」

 

ここで言葉を途切ると、ズイッとニヤけ顔を桜田の顔に近づける。あまりの近さに、桜田は顎を引いて顔を離す。

 

「こうでも言わんと、お前さんウジウジして告白なんてしようとしないだろう?」

「はぁ・・・・余計なお世話ですよ」

 

桜田は、どんなかっこいい事を言ってくるのかと思いきや、本音はそこかと思い大きなため息を漏らす。今浦は「ごめんごめん」と軽く謝ると、真剣な顔に変わる。

 

「でも、戦場に身を置くなら言いたいことは言っといたほうがいい。そのうちネウロイとの戦争が激化して、太平洋戦争時のラバウルみたいになるかもしれん」

「夕食の時が一番つらいってやつですか?」

 

桜田は、かの有名なゼロ戦に乗る天才パイロットを主人公にした戦争小説の一節を思い出す。今浦は、頷いて見せた。

 

「ああ。全部失った後で後悔しても遅い。”好きだ”って簡単な3文字を言うか言わないかで、あとで後悔するかもしれないんだぞ?」

「・・・・」

 

桜田は返事することなく、揺れるコーヒーを眺めながら今浦の言葉を反芻していた。

 

――――――――――――――――――――

 

夜中、時計の針は20時を指していた。あと7時間ほどでスクランブル当番も後退となる。ここまで仮眠をとって夜間の出撃に備えていたが、それでも2人で1日中スクランブル待機というのはきつい。本来なら2個編隊でかわるがわる2時間おきぐらいに交替するのだが、部隊人数的にそれは不可能なことであった。

 

「ふぅ・・・・」

 

桜田は仮眠から目覚めて、目覚まし代わりのコーヒーを淹れていると扉がノックされた。

 

「あ、自分が出ます」

 

扉を開けると、そこには夜食らしきものを持ったリーネがたっていた。リーネは、桜田の顔を見るとそわそわした態度をとる。

 

「あれ?ビショップさん、どうしたんですか?」

「あのお疲れだろうと思って夜食を作ってきたんです。よければどうぞ」

 

そう言って差し出されたお盆を、桜田は受け取る。部屋の中にいた今浦は、本を読むのをやめてリーネの方を覗き込んだ。

 

「ありがとう。有難くいただきます」

「それと、桜田さんにお話があるんです」

「僕にですか?」

 

桜田は自分を呼び指して首をかしげる。

 

「あの、昨日と昼間のお礼を言えていなかったので。それに・・・・」

「?」

 

桜田は、妙にそわそわしているリーネに怪訝な顔をする。

 

「と、とにかくついてきていただけませんか?」

「あー・・・・」

 

スクランブル待機中に待機室を離れるのは良いものかどうか、桜田は今浦をちらりと見る。今浦も桜田の視線に気が付くと、「いっていいぞ」と手で合図した。

 

「わかりました」

 

今浦の許可を得たことで、桜田は笑顔で頷いた。待機室を出ると、リーネの後を追って滑走路に向かう。誰もいないところに連れて行こうとしているので、何か秘密の話でもあるのだろうかと桜田は不思議に思った。

しばらく歩いて、滑走路横の砂浜につくとリーネは立ち止まった。

 

「あの、桜田さん」

「はい?なんですか?」

「その・・・・昼間もお礼に伺ったんですが・・・・」

 

リーネは頬を赤く染める。その様子を見て、桜田は固まる。先ほどから妙にそわそわした態度といい、今の言葉といい、昼間の今浦との会話を聞かれたとしか思えないからだ。

 

「その・・・・私のことが好きだって///」

「あー///」

 

リーネは熟れたトマトのように顔を真っ赤にしている。桜田も恥ずかしさのあまり、色白な顔を赤く染めて頬をポリポリと掻きながら、リーネから視線をそらしていた。

 

「その、私の勘違いなら・・・・ごめんなさい」

「あ、いや・・・・」

 

頭を下げて謝るリーネに、とっさに「勘違いじゃないです」と言おうとしたところで桜田は、恥ずかしさのあまり言葉を詰まらせる。

しかし、昼間の今浦の言葉が脳裏によみがえった。

 

――男なら、告白ぐらいやって見せろ

 

自分にそう言い聞かせると、すぅと大きく息を吸った。そうやって自分の気持ちを落ち着かせると、リーネにやさしく語りかけた。

 

「勘違いじゃないですよ」

「え?」

「リネット・ビショップさん。僕は貴女が好きです」

 

その言葉に、リーネはさらに赤くなった。すると桜田は、笑顔を浮かべたまま気恥ずかしそうに鼻を掻く。

 

「もちろん迷惑なら振ってくれて大丈夫ですよ」

「迷惑なんかじゃありません」

 

リーネは桜田の言葉に、首を横に振る。

 

「桜田さんは私を励まして、信じてくれました。前を向けるように勇気をくれました。私も桜田さんが大好きです」

 

リーネは、そういうや否や桜田に抱き着いてくる。普段の彼女からは想像できない大胆な行動に、桜田は目を丸くする。彼女自身も相当恥ずかしいのだろう、耳まで赤くなっていた。

桜田は、フッと微笑む。

 

「汗臭いと思いますよ」

「大丈夫です」

「そうですか・・・・」

 

そういうとリーネを、そっと抱きしめた。

 

――――――――――――――――――――

 

余談

 

「うーん。腹減ったし、ビショップさんの差し入れ食うか」

 

今浦は読んでいた本にしおりを挟んで、仮眠用ベッドに置くとテーブルの上に置いてある夜食のもとに向かった。

さらにかぶせてある金属製のドーム状の蓋を取って、夜食を食べようとした。

 

「これは・・・・」

 

中に入っていたのは、イギリスもといブリタニア名物のフィッシュ&チップスであった。

試しに一口食べてみると、ギットギットの油が口中に広がっていった。

今浦は、食べるのをあきらめてそっと蓋をかぶせた。そして、再び読書を始めたのであった。




いかがでしたでしょうか。
苦いものが必要になったのでしたら幸いです。恋愛表現ばっかりはどうしようもない。
そして、桜田と今浦の会話の内容ですが、次回から重要になってきたりします。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようならぁ

次回 第38話 トラウマ

お楽しみに


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第38話 トラウマ

皆様どうもSM-2です。
もうすぐ冬休みが終わってしまう時期ではないでしょうか?学生のみなさまは冬休みの課題は終わりましたか?
私は終わったので、エスコン7をプレイしております。お正月セールで安くなってたので買いました。
では本編どうぞ

※1/25 大幅なストーリー修正


ゲルトルート・バルクホルンは、ストライカーユニットを履いて空を飛んでいた。

眼下に広がるのは、彼女が生まれ育った故郷である。しかし、それは炎に包まれていた。それは上空を飛んでいるネウロイが原因であった。今もネウロイは、町に向かってビームを放ち、そのたびに爆発が起こる。

バルクホルンには、思い出の詰まった大切な故郷が破壊されることに怒りを感じた。

 

「うああああああああああ」

 

タタタタタタタタタ

 

軽快な発砲音とともにMG42から弾が放たれ、ネウロイの装甲を削る。しばらくネウロイに向かって銃撃を続けると、赤く輝くコアが顔をのぞかせる。バルクホルンは、攻撃をコアに集中させる。無数の弾丸によってコアを貫かれ、破壊されたネウロイは白い破片に変わって町に落ちていく。

しかし、その先には彼女の妹がたっていた。手を伸ばしても届かない、泣き叫ぶ彼女に白い破片は覆いかぶさっていく。

 

「クリス!」

 

バルクホルンは飛び起きた。そこは空の上ではなく自身の寝室であった。どうやら夢を見ていたようだった。

 

「なんで、今頃あんな夢を・・・・」

 

――――――――――――――――――――

 

阿鼻叫喚―目の前に広がる光景には、その表現がぴったりであろう。

普段なら、仕事に行く人間や遠くに出かける家族、カップルなんかが行き来する駅前広場だが、みんな悲鳴を挙げて逃げまどっている。

車両の侵入を防止するための金属製のポールに路線バスが衝突していた。バスの周囲には血を流して倒れる何人もの人がいる。

ただの事故かと思えば、それは違う。一人の男が血に濡れた包丁を持って、人を刺して回っていたのだ。

情けなくうずくまる()の前には、血濡れた包丁を振りかざす男がいる。

ニタニタした気持ち悪い笑みを浮かべた男は、()に包丁を振りかざしてくる。

 

「――!」

 

それを見ていた()は、この後訪れるであろう痛みを想像しながら、現実から目を背けるように咄嗟に目をつむる。

しかし、何時まで経っても痛みは訪れず、()はうっすらと目を開ける。

そこには、自分の代わりに血を流すブレザー制服の女子高生がいた。その胸には、深々と包丁が刺さっている。

 

「えっ・・・・」

 

その瞬間、包丁が引き抜かれ、少女の体は糸の切れた操り人形のように()に倒れこんでくる。

咄嗟に少女を受け止めて、何度かゆすってみる。しかし、少女はぐったりとしていて、体から血の気が引いていた。

 

「――!」

 

()は声にならない悲鳴を上げる。男は、悲鳴に反応してこちらにグルッと振り返った。逃げようとしてもうまく動けない。

男は、相変わらず気持ち悪いニタニタした笑みのまま、包丁を振りかぶって、自分に振り下ろした。

 

「やめろぉ!!!」

 

そこで()は飛び起きた。

()―川野大翔は、寝ていたにも関わらず、びっしょりと汗をかき肩で息をしていた。

 

「はぁはぁ・・・・」

 

横に置いてある時計を見ると午前8時を示している。昨日スクランブル当番だった彼は、10時くらいまでぐっすり眠るつもりだったが、悪夢のせいで予定よりも2時間早く起きてしまった。

ベットから這い出て、カーテンを開けるとすでに太陽が出ていた。ちゅんちゅんという小鳥のさえずりが、川野の鼓膜を揺らす。

川野は部屋に備え付けてある洗面台で顔を軽く洗う。そして、寝汗をシャワーで流す前に、日課のトレーニングをしてしまおうと思い、着替えとタオルだけ持って部屋を出て行った。

 

――――――――――――――――――――

 

キッチンでは、宮藤とリーネが朝食を作っていた。

 

「ねぇ、芳佳ちゃん聞いた?カウハバ基地が迷子の子供のために出動したんだって」

 

リーネは食事の用意をしながら、今朝聞いた話を宮藤に話す。

 

「へぇ、そんなこともするんだ!すごいね」

「うん。たった一人のためにね」

「でも、そうやって一人一人助けて行かないと、みんなを助けるなんて無理だもんね」

 

2人がたわいもない雑談をしていると、食事をとりにやってきたバルクホルンがポツリとつぶやいた。

 

「みんなを助ける・・・・そんなのは夢物語だ」

「え?」

「何でもない。独り言だ」

 

そういうとバルクホルンは、宮藤を避けるようにそそくさとテーブルに向かった。

しばらくするとウィッチ隊の面々が次々とおきてくる。それぞれが朝食の入った皿をトレーに入れてテーブルに向かう。

しかし、バルクホルンはテーブルに座ってからしばらく経っていながら、食事にはほとんど手が付けられていなかった。彼女の両脇に座ったミーナとハルトマンは、バルクホルンの様子がおかしいことに気が付く。

 

「どうしたのトゥルーデ?浮かない顔で」

「食欲もなさそう」

 

バルクホルンは、すぐさま否定の声を上げる。

 

「そんなことない」

「食事だけはしっかり取るトゥルーデが手もつけないなんて」

 

ハルトマンがそういうと、バルクホルンはスプーンを手に取って食事を口に運ぶ。口の中に運んだものをいくらか咀嚼して飲み込むと、キッチンで皿を洗う宮藤をちらりと見た。

 

「え?」

「どうしたの?」

 

突然、後ろを見る宮藤にリーネは首を傾げた。

 

「いま。誰かから見られてた気がするんだけど・・・・」

「だれか?」

 

宮藤の言う誰かが気になってリーネも食堂を覗き込むが、みんなこちらを見ている様子はない。

 

「気のせいかな?」

 

宮藤は、自分の気のせいだと思って皿洗いを再開する。

しばらくするとパイロットスーツ姿の今浦と桜田が入ってきた。日課のトレーニングを終えてシャワーを浴びてから来たので、体からは湯気が出ている。

2人ともカウンターの食事をとっていくと、テーブルに座った。ちょうど2人が朝食を食べ始めると、先に食べていたルッキーニが元気な声でおかわりを求める。

 

「おかわり!」

「あ、はーい」

 

宮藤はおかわりの入ったボウルをもってルッキーニのもとに行く。ちょうどその時、シャワーを浴びて出てきた川野が食堂の中に入ってきた。

 

「あ、川野さん。おはようございます」

「ああ、おはよう」

 

川野は軽く挨拶すると、食事をもって桜田の隣に座った。

おかわりを用意しようと宮藤がルッキーニの隣に行く。ふとバルクホルンの方を見ると、ほとんど食事に手が付けられていなかった。もしかして食事がバルクホルンの口に合わなかったのではないかと心配になる。

 

「あの、お口に合いませんでしたか?」

 

しかし、バルクホルンはその問いには答えることなく、ほとんど手が付けられていない食事をカウンターに戻して食堂から出て行った。

宮藤がその様子をじっと見ていると、横からルッキーニが皿を差し出してくる。

 

「おかわり早く!」

「あ、はいはい。ちょっと待っててね」

 

するとペリーヌが呆れたような声を出しながら納豆を手に取る。

 

「バルクホルン大尉じゃなくても、この腐った豆なんてとてもとても食べられませんわ」

「納豆は体にもいいし、坂本さんも好きだって」

 

2人の様子を見ていて、これ以上は言い争いになりそうだと思った今浦が2人の間に割って入る。

 

「はい、そこまで。クロステルマン君。これは腐ってるんじゃなくて発酵しているんだよ。これを腐っているというなら、君がよく食べるチーズやパンだって腐ったものを固めたり焼いたりしたものと同じになるんだよ?ブルーチーズなんて加えてカビまで生えているじゃないか」

「う・・・・」

 

そう言われてしまうとぐうの音も出ないのかペリーヌは黙ってしまった。すると、2回もおかわりの催促を無視されたルッキーニが涙目で宮藤に皿を差し出す。

 

「おかわり!」

 

川野は口の中の物を飲み込んだ後に、水を飲みながらバルクホルンが出て行ったドアをじっと見ていた。

 

――――――――――――――――――――

 

バルクホルンは食事を終えると飛行訓練に出ていた。今浦達も戦闘訓練に出ているが、訓練空域を離しているので事故が起こる可能性は少ない。

バルクホルンは、ハルトマンとともに超低空をフライパスした後に戦闘機動を行う。どうにもベテランウィッチにしては、バルクホルンの動きが鈍く遅れがちに見える。

 

「・・・・」

 

今日は非番である川野は、自室からその様子を眺めていた。そして、今日見たあの夢のことを思い出していた。

あの夢に出てきた女子高生は、各部のパーツや雰囲気がバルクホルンとどことなく似ていた。

ふと、川野はAR通信機を取り出してある写真を見る。そこには、()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()()()、そして高校生時代の桜田が並んでいる写真が写っていた。

 

「・・・・楓」

 

川野は、軽く下唇を噛みこぶしを握る。その眼には涙が浮かんでいた。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

今浦は訓練を終えると、書類整理をしてしまおうと自分に割り当てられた執務室で仕事をしていた。

リーネが初戦果を挙げたときの報告書を、パソコンを使って製作していると扉がノックされる。

 

「誰だ?」

 

今浦はパソコンから視線を離すことなく、誰何する。

 

「川野です」

「入っていいぞ」

 

入室する許可を出すと、川野が部屋の中に入ってきた。彼はビシッとしたきれいなお辞儀をすると、今浦の前まで歩み寄る。

 

「なんだ?」

「バルクホルン大尉についてです」

「気になることでもあるのか?」

 

今浦は、ちょうど報告書を作り終えるとパソコンを閉じて、ブルーライトカット加工が施された眼鏡をはずす*1。そうして頬杖をついた。

 

「はい。最近、バルクホルン大尉の様子がおかしいと思いまして」

 

川野の言葉に、今浦は何故彼がバルクホルンのことを気にするのか不思議に思ったが、とりあえず話を聞いてみることにした。

 

「ふぅん?具体的にどう?」

「今日の飛行を見ていましたが、どうにも遅れがちに見えました」

 

今浦は、ふむと考えるそぶりを見せる。どうやら何か思い当たることがあるようだ。

 

「ヴェルケ中佐も同じようなことを言っていた。それで・・・・?」

「はい。次の出撃なのですが、大尉を外すように今浦少佐から中佐に掛け合っていただけませんか?」

 

その言葉に今浦は、けげんな顔をした。

 

「なんでまた?」

「コンディションが万全でないものを出したところで足手まといになるだけだからです」

「うーん。なら、自分から言えばいい」

 

今浦は自分から言うのを嫌がった。その言葉に川野は素直に下がる。

 

「わかりました。自分から中佐に掛け合います。お時間を取らせました」

「まて」

 

川野が今浦に頭を下げて部屋を出て行こうとすると、それを今浦が止めた。その声に川野は歩みを止めて、再び今浦と向き合う。

 

「なんでしょうか?」

「前に、宮藤君とビショップ君が出撃を願い出たときに君もいたそうだね?なんでその時は止めなかったんだ?」

「・・・・」

 

川野は何も言おうとしない。すると、今浦は一つの新聞記事のスクラップを机に投げ出す。

 

()()が関係しているんじゃないかい?」

「・・・・ッ!」

 

川野の表情が明らかに変わった。そして、絞り出すような声をだした。

 

「ご存じだったのですか・・・・?」

「うん。回ってきた君の人事書類を見てね。少し気になったから自分で調べて、こっちに来る前に桜田にも確認を入れた」

 

2人の間に沈黙が続く。川野の体は震えで、目は明らかに動揺していた。しばらくして川野は言葉を絞り出す。

 

「・・・・たとえ()()が関係していたとしても、自分の進言は正しいものだと思います。失礼します」

 

川野は逃げるように部屋を出て行った。

今浦は新聞のスクラップを手に取ると、その見出しを読む。『K市駅前通り魔事件。白昼に起きた悲劇』という見出しとともに、川野の夢に出てきた駅前の光景によく似たカラー写真が載っていた。

今浦は引き出しの中から人事書類のファイルを取り出すと、川野の書類のところにいれて、それを引き出しにそっとしまった。

 

――――――――――――――――――――

 

川野は、今浦の部屋を出ると近くのトイレに駆け込んだ。

あの記事を目にしてから吐き気がすさまじかった。適当に駆け込んだ個室の鍵を閉めて、便器の蓋を開けると胃の中の物をすべてなくす勢いで吐いた。

 

「はぁはぁ・・・・ふぅ」

 

吐き気がある程度収まると、個室を仕切る板にもたれかかって呼吸を整える。呼吸が整うと、スッと立ち上がって便器の蓋を閉じて水を流す。

鍵を開けて洗面台に向かうと、水をおわん型にした両手に溜めて何度も何度も自分の顔にたたきつけるようにした。20回以上、自分の顔に水をたたきつけると目の前に置かれた鏡を見た。

ひどい顔だった。ある程度整えられていた髪型は崩れ、目には疲れがみえる。

 

「フッ・・・・」

 

しかし、川野には今の姿が一番自分にあっていると思った。

ポケットからハンカチを取り出して、手と顔を拭くと水を止めてトイレから出て行った。

 

*1
国防軍のパイロット全員に支給されている。ブルーライトで視力が落ちることを防ぐためなので度は入っていない




いかがでしたでしょうか?
今回はなかなか・・・・満足いくものができたぞ。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回、さようなら

次回 第39話 心に傷を負う者

お楽しみに


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第39話 心に傷を負う者

今浦と話した翌日。川野はミーナの部屋を訪れていた。

 

「トゥルーデ*1を出撃から外してほしい?」

「はい」

 

内容は前日に今浦に話したことと同じであった。

 

「大尉の様子はおかしいです。実戦下でパニックでも起こされてしまったら、たまったものではありません」

 

昨日の川野の様子を知る今浦が、今の言葉を聞いたら「自分のことを棚に上げている」と非難するであろうが、この部屋にはあいにくミーナと川野の二人しかいなかった。

 

「中佐も心当たりがあるのでは?」

「ええ・・・・」

 

ミーナの返答に、川野は自分の進言が通ると思った。

 

「出撃については本人に確認を取ってからとします」

「ですが!」

「これは命令です」

 

命令といわれてしまえば、階級が4つも違う川野に言えることはない。渋々といった様子で、引き下がった。

 

「そもそもバルクホルン大尉の過去に何があったのですか?」

 

この問いにミーナは目を丸くする。バルクホルンの過去を知るのは、ミーナとハルトマンだけであり、それ以外の人間が現在のバルクホルンの様子に気が付いても、それを過去と結びつけて考える人間はいないと思っていたからだ。

 

「なんで・・・・今のトゥルーデの様子が過去とかかわっていると思ったのかしら?」

「・・・・自分にも似たような時期がありましたから。何もかも失ってやけっぱちになった、そういう時期が」

 

2人の間に沈黙が流れる。目を合わせながら、一言も発しようとしない。

 

「・・・・いいわ。話しましょう」

 

ミーナはゆっくりと語り始めた。

 

「トゥルーデの故郷はカールスラント東部のカイザーベルクよ」

「確か、そこら一帯は小ビフレスト作戦時に避難命令が出されていましたよね?」

「ええ、そのあと大ビフレスト作戦が開始されると同時に、私たちはガリアに撤退したわ」

 

小ビフレスト作戦の時、彼は19歳であり航空学生であった。日本でも欧州の戦局は盛んに報道されており、彼にも多少の知識はあったのだ。

 

「しかし、ガリアもネウロイの侵攻を受けた」

「そうよ。私たちが避難していた町に、ネウロイが侵攻してきたの。私とトゥルーデ、フラウ*2の3人で迎撃に当たった」

 

ここまで聞くとバルクホルンの今の様子に直結する内容はないように思える。

 

「何とかネウロイの撃墜に成功したのだけれど、ネウロイの攻撃でトゥルーデの妹さんが意識不明のけがを負ってしまったの」

「妹さん、ですか・・・・」

 

川野の脳裏に、あの女子高生の姿がちらつく。

 

「妹さんはどうなったのでしょう?」

「今も意識不明でロンドンの病院に入院してるわ」

「バルクホルン大尉はお見舞いなどには・・・・?」

 

ミーナは首を横に振った。

 

「行ってないわ。それどころか、この3年間お見舞いにすら行ってないわ」

 

川野の顔が怒りに染まっていくように見えた。

 

「川野少尉?」

「あ、失礼しました。お時間感謝します」

 

ミーナが川野に呼びかけると、川野の顔は普段の無表情に戻った。

 

――――――――――――――――――――

 

この日は給料日であった。ストライクウィッチーズのメンバー全員に半年分の給料が払われるのである。

しかし、国防軍組やアメリカ軍組は、毎月専用の銀行口座に基本給の15万円~20万円*3と危険任務手当として10万、戦闘従事手当として1回の戦闘あたり2万円の各種手当が振り込まれるので、他のウィッチーズメンバーのように給料袋を受け取る、というのはなかった。

 

「トゥルーデはどうする?」

 

ミーナは、バルクホルン分の給料袋を手にしてそう聞いた。

 

「いつものように頼む」

「でも、少しは手元に残しておいた方が」

 

ミーナは、困ったような顔をする。

 

「衣食住すべて出るのにか?」

 

ちょうどその時、川野が食後のお茶を飲み終えて食堂から出て行った。バルクホルンも続いて出て行くと、ミーナは何かを考えこむようなそぶりを見せる。

 

「どうしたんですか?中佐」

 

ミーナの様子に気が付いた今浦が声をかけてくる。

 

「今朝、川野さんが私の部屋に来て、トゥルーデを出撃から外すように進言してきたの」

「!」

 

今浦は、びっくりしたような表情を浮かべる。

 

「今浦少佐は何か知らないですか?」

 

今浦は難しそうな顔をして、ちらりと桜田の方を見た。

 

「自分よりも、桜田の方が詳しいと思いますよ」

「「?」」

 

今浦の言葉の意味を理解できないミーナと坂本は、首を傾げた。今浦は桜田の方を向くと声をかけた。

 

「桜田!ちょっとこい」

「はい?」

 

リーネ達と雑談をしていた桜田は、首をかしげた。今浦に手招きされると、3人の前にやってくる。

 

「なんでしょうか?」

「お前、川野と幼馴染だよな?」

「はい。そうですが」

 

それがどうしたのだろうと、桜田は戸惑っていた。すると、ミーナが説明を始めた。

 

「実は、川野さんがトゥルーデを出撃から外すように進言してきたの」

「ええ?大翔がですか?」

 

桜田の表情は心底驚いた様子であった。

 

「ええ、それで貴方が何か知っていないかと思って」

 

桜田は腕を組んで、うーんと考える。

 

「もしかして・・・・楓さんかな・・・・?」

「かえでさん?」

 

初めて聞く名前にミーナは思わず聞き返した。桜田は「はい」と頷くと、たまたま持ってきていたAR端末を取り出す。そして、ある写真を表示するとミーナにAR端末を渡した。

ミーナは端末を付けて、写真を見る。ミーナは知らなかったが、その写真は川野が見ていたものと同じであった。

 

「右端の女性が楓さんです」

「この人が・・・・」

 

ミーナは、楓という女性の写真を見るとバルクホルンにどことなく似ていると思った。そっくりというわけではないが、顔のパーツや雰囲気はバルクホルンに似ていた。

左端には高校時代の桜田が映っている。川野の持っていた写真では、中央に立つ男子の顔は黒塗りにされていたが、この写真では何の加工もされていなかった。そこに笑顔で映っていたのは、高校時代の川野であった。

 

――――――――――――――――――――

 

その日の深夜、ウィッチ隊の待機室にバルクホルンがいた。明かりもつけずに、誘導灯だけがともる滑走路を眺めていた。

 

「どうしたの?明かりもつけないで」

 

バルクホルンはその問いに答えない。

 

「最近、様子がおかしいわ。もしかして妹さんのこと?」

「っ!」

 

バルクホルンの態度が明らかに変わる。

 

「あれは貴女のせいじゃないわ」

「私がもっと早くネウロイを攻撃していればクリスが巻き込まれることはなかった」

 

かたくなに自分を責め続けるバルクホルンを見て、ミーナは苦しそうな顔をした。

 

「今日、川野さんが貴女を実戦に出さないでくれって言ってきたわ」

「なんだと?」

「貴女の様子がおかしいから戦場に出すのは不安だって」

 

ミーナがそういうと、これ以上何も言わせる気がないかのように声をかぶせてきた。

 

「心配ない。次の出撃も出してくれ」

 

バルクホルンはそれだけ言うと、待機室から出て行った。

 

――――――――――――――――――――

 

川野は、自室のベットで寝っ転がっていた。明日はスクランブル当番である彼は、3時に交替するのでそれに備えて寝ておいた方がよいのだが、なかなか寝付けずにいた。

すると、扉が乱暴にノックされる。川野が扉に駆け寄って開けた途端、胸ぐらをつかまれた。

 

「どういうつもりだ?」

 

そこにいたのはバルクホルンであった。彼女は声を低くして、川野に詰め寄った。

 

「私を出撃から外すように進言したそうだな?何のつもりだ?」

「・・・・ここ3年休暇を取っていないそうですね。妹さんのお見舞いにもいっていないとか」

 

その言葉に、バルクホルンは一瞬目を見開いて、さらに声を低くする。

 

「誰に聞いた?」

「ヴェルケ中佐殿です」

「ミーナが?」

 

驚きの人物の名前が出たことで、バルクホルンは手を離してしまう。その間に川野は乱れてしまったパイロットスーツを整える。

 

「この仕事はいつ死んでもおかしくない。会えるうちにあっておいた方がいい。自分の意識がない間に、唯一の家族が会いに来ることもなく死んだと知ったらどう思いますかね?」

「・・・・・だまれ」

 

川野はさらにつづける。

 

「死んだ人間が自分をどう思っていたか、生きてる人間は故人の生前を思い出して想像するしかないんです。一回もお見舞いに行かないまま死んでしまったら、妹さんはどう思いますか?それとも、あなたは死んだ後に妹さんの前に化けて出て生前どう思っていたかを伝えるとでも?」

「黙れ!!」

 

ついにバルクホルンは怒声を上げた。宮藤やリーネが聞いていたら、思わず後ずさりしていただろう。

 

「私の何がわかる!家族を、祖国を失った私の何がわかる!!」

「・・・・」

 

バルクホルンは、そのまま川野の部屋から出ていった。川野はバルクホルンの後ろ姿を見ながら、ぽつりとつぶやいた。

 

「・・・・なら、あんたはたった一人残された人間の気持ちがわかるのかよ」

 

川野は、こぶしを握り締めて歯を食いしばった。

*1
バルクホルンのこと

*2
ハルトマンのこと

*3
既婚者は25万~50万円となる




いかがでしたでしょうか?
次回あたりに、川野の過去の詳細が明らかになります。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
お楽しみに。

次回 第40話 過去

お楽しみに


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第40話 過去(前編)

皆様どうもSM-2です。
今回から8時投稿にします。急なことですがご了承ください。
では本編どうぞ。


基地中にネウロイ出現を知らせるサイレンが鳴り響いた。

スクランブル待機室で朝食をとっていた川野と緑川は、箸をおいて口の中の物を飲み込むと格納庫に走った。

彼らが格納庫について戦闘機に乗ろうとすると、ちょうどウィッチ隊の面々も発進しようとしていた。

その中には、昨日口論したバルクホルンの姿もある。

戦闘機に乗り込んで、ヘルメットを被ろうとしていた川野は、ふと視線を感じる。ウィッチ隊の方に視線をずらすと、バルクホルンが射殺せんばかりの目でこちらを睨めつけていた。こちらの視線を感じたらしく、バルクホルンは目をそらす。

その様子をじっと見ていると、緑川が声をかけてきた。

 

「川野少尉。どうかしたの?」

「いいえ。なんでもありません」

 

川野は、ヘルメットと酸素マスクを手早くつけると、離陸準備を進めた。

その様子を見て、緑川も大丈夫そうだと判断して離陸準備を進めた。

 

――――――――――――――――――――

 

「最近、奴らの出現サイクルがやけにぶれるな」

 

基地の要撃管制官からの指示に従ってネウロイの迎撃に向かう最中、坂本はそうつぶやいた。今まで、ネウロイの出現は、定期的なものであり週1のペースで出現していたが、最近は週2で出現するときもあるなどサイクルがぶれていた。

 

「カールスラント領で動きがあったらしいけれど、くわしくは・・・・」

 

これは1942年から運用が開始された日本国国防宇宙軍による偵察衛星システムが確認したネウロイの活発化のことであった。

1944年に入ってから、ベルリン上空に居座るネウロイの巣の活動が活発となり、盛んにネウロイが出現していることを偵察衛星が確認しているのだ。

この情報は、戦略偵察機による高高度侵入偵察によるものとされ連合軍にも提供されていた。

この情報が限定的ながらミーナにも伝わってきたのであった。

 

「カールスラント!」

 

突然、祖国の名前が出たことでバルクホルンは、驚きの声を上げてしまった。昨日、川野と口論していたから動揺は2倍となっていた。

 

「どうしたんだ?」

「いや・・・・なんでもない」

 

坂本の問いにバルクホルンがそう答えた。坂本は、それ以上詮索することはせずにウィッチ隊に指示を出した。

 

「よし、隊列変更だ。ペリーヌはバルクホルンの2番機に、宮藤は私の所に入れ」

 

坂本の指示を聞くと、ペリーヌが宮藤をにらみつけた。

指示を出し終えた坂本は、魔眼を発動して前方をじっと見る。彼女の眼には、こちらに向かって真っすぐ飛んでくるネウロイが映っていた。

 

「敵発見」

「バルクホルン隊突入」

 

坂本の報告と共にバルクホルンとペリーヌがネウロイに向かって突っ込んでいく。

 

「少佐、援護に」

「了解。宮藤ついてこい」

「はい」

 

ちょうどその時、戦闘機隊も到着した。轟音を轟かせ、衝撃波をまき散らしながら、上空を挑発するように飛び回る2機のF-37にネウロイはビームを乱射する。

しかし、距離が離れていることや戦闘機の速度が音速を超えていることで、ビームは戦闘機の通った後の空を切り裂くのみであった。

 

 

バルクホルンは、戦闘機隊をちらりと見る。昨日、口論した川野が飛んでいると思うと、無性にイライラして仕方なかった。

バルクホルンは、ペリーヌのことなど忘れて速度を上げてネウロイに突っ込んでいく。

 

「え?」

 

突然、速度を上げたバルクホルンについていけず、ペリーヌは一瞬置いていかれる。しかし、彼女も歴戦のウィッチである。何とか速度を上げてバルクホルンについていく。それでもペリーヌは、わずかに遅れてしまう。

ペリーヌはバルクホルンの様子が気になったが、坂本にぴったりとくっついてネウロイに攻撃を加える宮藤を見て、そんなことも気にならなくなってしまった。

 

「あの豆狸!坂本少佐と一緒に」

 

戦場において感情的になってしまうのは、冷静な判断を下せなくなってしまうので非常に危ないのだが、ペリーヌはそんな基本的なことも頭から抜けていた。

バルクホルンの様子はミーナにもわかっていた。

 

「やっぱりおかしいわ」

「え?」

 

横で援護射撃をしていたリーネが、ミーナのつぶやきに首をかしげる。

 

「バルクホルンよ!あの子いつも視界に2番機を入れているの、なのに今日は一人で突っ込みすぎる!」

 

ミーナは、バルクホルンの様子を見ながら川野の進言を思い出していた。

 

 

この2人の様子は、戦闘機隊にもわかっていた。

2機の戦闘機には、赤外線カメラによってネウロイのコアの位置がわかっていた。レーダー波を照射して、ネウロイのコアをロックオンすることもできていたのだが、2人があまりにも近すぎてミサイルを発射できずにいた。

 

――クロステルマン中尉が遅れている?・・・・いや、バルクホルン大尉が速いのか・・・・

 

川野は、バルクホルンの様子を見てチッと舌打ちする。そして、バルクホルンに苦情を入れる。

 

「バルクホルン大尉!突っ込みすぎです。ミサイルを発射できません!」

 

その声には、少なくない憤怒が混ざっていた。普段、感情を表に出すことが少ない川野の、珍しい憤怒の声に緑川は目を丸くした。

しかし、無視しているのか聞こえていないのかバルクホルンは無茶な飛行をやめようとしない。

 

「あそこを狙って!」

 

ミーナは、バルクホルンとペリーヌが集中的に銃撃している一点を指さして、リーネに攻撃を加えるように指示を出す。

 

「はい」

 

バルクホルンとペリーヌが下がった瞬間を狙って、リーネはボーイズ対戦車ライフルを放つ。放たれた13㎜対戦車徹甲弾がネウロイの装甲を削ると、ネウロイは一際大きな不協和音を放ち、四方八方にビームを乱れ撃つ。

 

「近づきすぎだ!バルクホルン!」

 

坂本はバルクホルンに向かって叫ぶが、先ほどの川野の言葉と同じようにバルクホルンの耳には届かなかった。

その瞬間、一際強力なビームがバルクホルンとペリーヌに襲い掛かる。バルクホルンは、咄嗟に急上昇をしてビームをよけるが、ペリーヌは反応しきれずにシールドを張って防ごうとした。

しかし、あまりにも近すぎたことでビームの威力は非常に高く、ペリーヌは後ろに吹き飛ばされてしまう。その先には、ビームをよけきったばかりのバルクホルンがいた。

結果として、ペリーヌとバルクホルンは衝突してしまい、体勢を崩したバルクホルンにビーム攻撃が殺到する。すぐさまシールドを張ってビームの集中攻撃を防ごうとするが、持っていたMAG-Hの200発ベルトマガジンをビームがかすめる。中に入っている7.62㎜弾が加熱されて暴発する。本来、銃身のライフリングがなければ殺傷力がない銃弾であるが、暴発した弾の数が多く薬莢に使われている真鍮の破片がバルクホルンの体に刺さる。

 

「ぐあっ・・・・」

 

バルクホルンは下に広がる森に落ちて行ってしまう。

 

 

その様子を見ていた川野の脳裏に、あの光景がよみがえった。

広がる血の海、倒れこむ沢山の人、血に濡れた包丁を持った男、そして地面に倒れこみこちらに怨嗟の声をかけてくる楓・・・・。

川野は、倒れこむ楓の姿と落ちていくバルクホルンを重ね合わせてしまった。吐き気が襲ってくる。

 

「うっ・・・・」

バイソン(川野)。大丈夫?」

 

川野の様子の変化に気が付いた緑川が、気づかいの声をかけてきた。

川野は戦闘軌道をやめて、水平飛行に戻すと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

 

「ふぅ・・・・大丈夫です。心配ありません。それよりもバルクホルン大尉が負傷したようです。援護に入ります」

「わかったわ」

 

川野の言葉を聞いて、幾分か安心した緑川は戦闘を再開した。




いかがでしたでしょうか?
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようならぁ

次回 第41話 過去(後編)

お楽しみに!


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第41話 過去(中編)

皆様どうもSM-2です。
今回も次回予告詐欺です。申し訳ありません。何分、リアルが忙しく・・・・。
では本編どうぞ。


落ちていくバルクホルンを何とか空中でキャッチしたペリーヌと宮藤は、バルクホルンをそっと地面に下ろす。

宮藤がボタンをはずして軍服を脱がすと、バルクホルンの胸元は血で赤く染まっていた。

 

「私のせいだ!どうしよう・・・・」

 

ペリーヌは、悲痛な声を上げた。宮藤は、傷を冷静に見て判断を下す。

 

「出血が・・・・!動かせない。ここで治療しなきゃ」

 

その声は、無線を通じて川野の耳にも伝わっていた。川野はすぐさま宮藤に無線を入れる。

 

「宮藤軍曹。援護します!治療にはどれくらいかかりますか?」

「・・・・5分、5分ください!」

 

宮藤は少し考えた後に、そう答えた。

 

「了解」

 

川野は、ネウロイの注意を地上に向けさせないように盛んに挑発を繰り返す。その結果、川野に攻撃が集中するが、川野はひらりひらりとかわしていく。

地上では、宮藤が自身の固有魔法である治癒魔法でバルクホルンの治療を始めた。青い光がバルクホルンを包み、傷が徐々にふさがっていく。

 

「すごい。こんな力が・・・・」

 

今まで敵対的な態度をとっていたペリーヌも宮藤の魔法力の高さに驚きの声を上げる。

しかし、その光がネウロイの注意を地上に引き寄せてしまった。ネウロイのビームが地上に向けて放たれる。

 

「くそっ!」

 

今まで、必死に注意を引き寄せていた川野は悪態をついた。

ペリーヌのおかげで、ビームは何とか防げているがそれも時間の問題であろう。川野は、再び注意をこちらに向けようと、攻撃を始めた。

ビームの着弾によって、今まで気を失っていたバルクホルンが目を覚ました。そして、宮藤に語り掛けた。

 

「私に張り付いていては、お前たちも危険だ。離れろ。私なんかに構わず、その力を敵に使え・・・・」

「いやです。必ず助けます。仲間じゃないですか!」

 

バルクホルンの言葉にもかかわらず、宮藤は治療を続ける。

2人の会話や様子は、無線を通じて上空の戦闘機隊やウィッチ隊にも伝わっているので、宮藤が治療する時間を稼ごうと必死に戦っていた。その指示や符丁が、無線機を通じてバルクホルンたちにも伝わってくる。

バルクホルンは、味方にこんなに迷惑をかけている自分の存在がどうでもよくなってしまった。

 

「敵を倒せ。私の命など捨て駒でいいんだ・・・・」

 

その言葉は、上空で必死に注意を引き付けようとしている川野をカチンとさせた。

そして、普段淡々としゃべる川野は、珍しく怒鳴った。5()()()()()()から感情を表に出すことが少なくなった川野は、久しぶりに声を荒らげたのだ。

 

「ふざけんなよ。あんたが死ぬのは勝手だが、残された人間の気持ちを考えたことがあんのかよ!独りぼっちになった人間の気持ちを考えたことがあんのかよ!!あんたの妹さんの気持ちを考えたことがあんのかよ!」

 

川野らしくない、乱暴な口調であった。しかし、それほどまでに川野は怒っていたのだ。

 

「そのたった一人の妹すら守れない私に、生きている価値なんか・・・・」

 

バルクホルンの言葉に川野が再び声を荒らげる前に、宮藤が否定する声を上げた。

 

「生きていればきっと、いいことだってあります。それに、バルクホルンさんが生きていれば私なんかよりもっとたくさんの人を守れます!だから、死んじゃ駄目です!」

 

その時、先ほどから攻撃を必死に防いでいるペリーヌが苦しそうな声を上げた。

 

「早く、もう余り持ちそうにないの・・・・・」

 

先ほどからたった一人で攻撃を防いでいるのだ。限界が近づくのも無理はなかった。

それはミーナや緑川たちもわかっていたから、赤外線ホーミングミサイルで攻撃したり機銃で攻撃して注意をそらそうとしているのだが、ネウロイのコア周辺の装甲が意外に厚く、有効打を与えられていない。

そして、ついにペリーヌのシールドが限界を迎えた。

 

「きゃぁ!」

 

ペリーヌは大きく吹き飛ばされ、宮藤と衝突して2人とも気を失ってしまう。しかし、それはちょうど治療が終わったタイミングであった。

 

――クリス・・・・・!

 

バルクホルンの脳裏に妹の元気な姿がうかんだ。それと同時に、川野の叱咤の言葉と宮藤の言葉を思い出す。

 

――私の力、一人でも多くを・・・・今度こそ守って見せる!

 

バルクホルンは、そう決意した。そして無事だったMAG-Hと宮藤の99式13㎜機関銃を手に取ってストライカーユニットを装着する。

 

「バルク、ホルンさん・・・・・」

 

ちょうどその時、宮藤が目を覚ました。

バルクホルンは宮藤の声に微笑みで返すとネウロイに向かって飛んで行った。

川野は、バルクホルンの復帰にホッと一安心する。しかしそれは、戦場では見せてはいけない隙であった。

 

バイソン(川野)!上よ!」

 

緑川の言葉にハッとして、上を見る。そこにはこちらにビームを発射しようとするネウロイの姿があった。

注意を引くために攻撃の合間を縫って異常接近をしていたため、川野の機はビームが放たれればよけることは難しい距離にいた。

 

「しまっ・・・・!」

 

ネウロイのビームが放たれそうになったその瞬間、バルクホルンの放った銃弾がネウロイに降りそそいだ。

 

「うぉおおお!」

 

13.2㎜弾と7.62mm弾によってネウロイの装甲はみるみる削られていく、そこに緑川が放ったサイドワンダーが着弾しネウロイのコアが顔をのぞかせた。

バルクホルンは、コアに狙いを定めて銃撃を加える。多数の銃弾を食らったネウロイのコアは砕け、ネウロイは白い破片となって落ちて行った。

ミーナは、ネウロイの消滅を確認するとバルクホルンの元に飛んでいく。バルクホルンはその気配を感じ振り向いた。

 

「ミーナ・・・・っ!」

 

バルクホルンがミーナの名前を呼んだ瞬間、バチンという乾いた音とともにバルクホルンの頬に痛みが走る。

ミーナにたたかれた、と認識してからバルクホルンはしばらく呆然としてしまった。

ミーナは涙目になりながら、バルクホルンに言った。

 

「なにをやっているの!あなたまで失ったら、私たちはどうしたらいいの?!故郷も何もかも失ったけれど私たちはチーム、いえ家族でしょう?この部隊の皆がそうなのよ!」

 

ミーナはバルクホルンを抱きしめてさらにつづけた。

 

「あなたの妹のクリスも、きっと元気になるわ!だから、妹のためにも新しい仲間のためにも死にいそいじゃだめ!皆を守れるのは、私たちウィッチーズだけなんだから・・・・」

「すまない。私たちは家族だったな」

 

バルクホルンは、今までの自分がどれだけ周りに心配をかけてきたか、どれだけ大切に思われているのかようやく理解することができたのであった。

 

――――――――――――――――――――

 

その日の夜。川野は、夜風に当たるためにスクランブル待機室から出てきた。冷たい缶コーヒーを片手に、夜空を見ながら物思いに耽っていた。日本よりも明かりが少ないからか、星がきれいに見える。

ふと、懐からスマートフォンを取り出して、待ち受け画面の例の写真を見ている。

 

「楓・・・・」

 

その時、ふと誰かが近づいてくる気配がした。川野はスマホの電源を切って、懐にしまうと気配の方を向いた。

 

「バルクホルン大尉・・・・」

 

そこにいたのはバルクホルンであった。

 

「緑川に聞いてきたんだ。昨日のことと、昼の戦闘のことで謝りたくてな」

「あ、いえ。自分こそ失礼な態度をとってしまって申し訳ありませんでした」

 

バルクホルンが謝罪の言葉を述べるより先に、川野は頭を下げた。バルクホルンは、首を横に振る。

 

「いや、いいんだ。あれで目が覚めた・・・・。むしろ礼を言いたい」

「お礼されることなど、なにも・・・・」

 

川野は、少し苦笑いしている。

2人の間に、少しの間沈黙が訪れる。それを破ったのは、バルクホルンであった。

 

「その、少し聞きたいことがあったんだ」

「なんでしょう?」

「川野は、なんでそこまで私に気をかけてくれたんだ?」

 

それまでバルクホルンと目を合わせていた川野は、目を伏せる。そして少し自嘲交じりの声でしゃべり始めた。

 

「罪滅ぼし、なのかもしれません。妹への罪滅ぼし・・・・」

「妹さん?」

「ええ、自分の2個下で、名前は楓。元気で性格も頭もよくて。よくできた妹でした。最ももう会えませんが」

 

バルクホルンは、最後の言葉に引っかかるものを感じた。まるでもう死んでいるかのような態度であったからだ。

 

「妹は、自分が19の夏。航空学生2年目の時に()()()()()

「え・・・・」

 

バルクホルンは、思わず驚きの声を上げる。しかし、川野はそれを気にせず、ゆっくりと語り始めた。

 

「自分の父は、航空自衛隊の戦闘機パイロットでしてね。自分が3歳の時に、日中紛争で戦死しました。そこから6歳まで、女手一つで母が育ててくれたんですけど、無理がたたって、ある日突然・・・・」

 

川野はそこでいったん区切ると、缶コーヒーを一口飲む。

 

「親戚もいなかったので、自分と妹は施設に預けられました。妹は唯一血のつながった家族でした。自分が戦闘機乗りになろうと思ったのも、父の見ていた景色を見たかったのと桜田と妹の勧めがあったからなんです」

「桜田?」

 

予想だにしていなかった名前がでてきたことで、バルクホルンは思わず聞き返した。

 

「ええ、あいつの実家と施設が近くて、昔っから時々遊んでたんです。自分とあいつと妹の3人で・・・・。人生で一番幸せでした。確かに母も父もいないけれど、仲のいい妹がいて親友がいて・・・・それだけで十分だった」

 

その瞬間、川野の顔が曇った。

 

「だけど・・・・5年前の夏。妹は、死にました・・・・」

 

川野は、ゆっくりと5年前の出来事を語り始めた。




いかがでしたでしょうか?
次回から、川野君の体験した5年前の出来事を詳しく書いていきます。
それと、現在放送中の「ワールドウィッチーズ発進します!」の放送期間中は、金曜日にも可能であれば投稿します。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようならぁ

次回 第42話 過去(後編) 

お楽しみに


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第42話 過去(後編)

皆様お久しぶりです。SM-2です。
いやぁ、今回の話の最後の方が・・・・。何度も書いて消して書いて消してを繰り返してました。
そのくせして、個人的には出来が微妙・・・・。うーん、あらすじメモなくしたのつらい(´;ω;`)
では本編どうぞ。


日本が転移してからもうすぐ1年が経とうとしていた。経済的混乱は、未だに続いているが、世界各国との貿易が始まったことで徐々に収まると期待されていた。

転移直後にあった食料品の配給や買い占めといった光景はすでになく。街には転移前の光景が戻りつつあった。

 

 

川野は、約半年ぶりに故郷に帰ってきた。前に帰ってきたときは、未だに配給制が敷かれていて街は閑散としていた。

しかし、半年たった今は転移前と同じような人の往来が戻っていた。時刻は夕方、真っ赤な夕日が西の空に浮かんでいた。会社帰りと思わしきスーツ姿の人々、下校途中なのだろう高校生たち、バス停に並ぶ人々、どれも転移前の普通の光景であった。

ようやく戻った光景に、川野はホッとしたものを感じた。

 

「あ、お兄ちゃん」

 

聞き覚えのある声に呼びかけられて、川野は声のした方に振り返る。そこには、彼の最愛にして唯一の家族である妹の楓がいた。かわいらしいストラップが付いたリュックサックを背負い、ブレザー制服を着こんでいる。

 

「楓か。学校帰りか?」

「うん。明日から夏休みだし」

 

そういいながら楓は兄に向かってにっこりと笑った。唯一の家族である2人は、幼いころから支えあって生きてきたからか、同級生たちがうらやましがるほどのとても仲がいい兄妹であった。

最近の学校の話、部活の話、友人の話、なんてことはない雑談をしながら2人は、バスを待っていた。

しかし、到着時刻になってもバスがやってこない。ちょうど帰宅時間帯ということもあり、バス停にはそこそこの列ができていた。

どこかで渋滞にでも引っかかっているのだろうと、相変わらず雑談をしながら待っていると、20分遅れでバスがやってきた。だが、妙にフラフラとしているように見える。バスロータリーに入ってきても、スピードを落とす気配は全くなかった。

 

「なんだ?」

 

川野がポツリとつぶやいた瞬間だった。バスが急に加速したかと思うと、バス停に並ぶ列をかすってバス停横に等間隔で設置されている金属製のポールに激突した。

 

「なんだ?」

「居眠り運転か?」

「ちょっと誰か交番に行ってきなよ」

 

その場にいた全員が立ち止まり、事故を起こしたバスの方を向く。中にはスマートフォンを取り出して、動画を撮影している人間もいた。

すると、バスの前部ドアが開いて中から血まみれのコート姿の男が、ふらふらとした足取りで降りてきた。事故でけがでもしたのだろうかと、駅前交番から到着した2人の警察官が男に近づく。

 

「君!大丈夫?」

 

40代くらいの女性警察官がそう尋ねた。若い男性警察官も心配そうにしている。

 

「どこけがしたんだ?」

 

しかし、その返答は言葉ではなかった。突然、男がコートの下から血濡れた包丁を取り出すと男性警察官の首を切り裂き、流れるように女性警察官の首元に包丁を突き立てる。咄嗟のことで警察官も対応できず、二人は血しぶきを上げながらその場に倒れこんだ。

 

「きゃああああああ!」

 

突然起きた凶行に、だれかが悲鳴を上げた。その声を皮切りに、男は周りにいた人間に無差別に刃を突き立てる。

バスの周りに集まっていた野次馬はパニックになり、我先にと逃げだした。足がもつれたり、誰かの足に引っかかったり、押されたりして何人かの人が転んでしまう。そのうちの半分近い人は男の凶行の犠牲者となった。

川野も楓を連れて逃げようとしたが、倒れこむ女性の傍で泣き叫ぶ幼い女の子の姿が彼と楓を引き留めた。男の姿は、離れたところにあるからすぐに襲われる心配はないだろう。

川野と楓は、女の子のもとに駆け寄った。

 

「大丈夫?けがはない?」

 

川野の問いかけにも、女の子は泣き叫ぶばかりで返答はない。時々、しゃくりあげるような声で「ママ、ママ」とつぶやいている。

 

「わかった。お母さんは、あとで僕と一緒に君のところに行く。だから先に逃げよう」

 

そういうと川野は楓をちらりと見た。楓も川野の言おうとしていることを察して、女の子を抱きかかえて逃げ出した。

川野は、横で倒れこんでいる女性を揺さぶった。

 

「大丈夫ですか!しっかりしてください!」

 

しかし、女性から応答はなく血だまりだけが広がっていく。脈も呼吸もなく、川野は「死んでる」そう判断した。そして川野も逃げようとしたとき、ふと後ろから気配を感じた。

 

「?・・・・・グフッ!」

 

後ろを振り返った瞬間、わき腹に強烈な痛みが走る。呼吸ができず、痛みと苦しさでその場にうずくまってしまった。

 

「ゴホッゴホッ」

 

わき腹を抑えてうずくまったまま後ろを上を見上げるとニタニタした笑みを浮かべる血まみれの男の姿があった。いまだに痛みが引かず、逃げることができない。

そんな川野に、隣で倒れる女性と同じ運命をたどらせようと男は包丁を振りかざした。川野は現実から目を背けたくて、思わず目をつむる。

しかし、いくら待っても痛みは訪れない。恐る恐るといった感じで、川野はうっすらと目を開けると男の方を見上げた。

 

「ッ!」

 

しかし、男と自分の間に見慣れたブレザー制服の少女が割って入っていた。

楓の胸には深々と包丁が刺さっている。男は相変わらず気持ち悪い笑みを浮かべたまま、包丁をゆっくりと引き抜いた。

ドサリという湿った音ともに、少女は糸の切れた操り人形がごとく倒れこむ。茶色っぽいブレザーの胸元に黒っぽいしみが広がっていく。

 

「楓!楓!」

 

妹の名前を叫びながら、川野は彼女の体を必死で揺さぶる。楓はぐったりとしたままで、その肌からは急速に血の気が引いていっている。

 

「あ、あああ」

 

川野は、この悲劇を引き起こした張本人をゆっくりと見上げる。男は今度こそ、川野の命を奪い去ろうと包丁を高く振り上げている。

その高々と掲げられた血塗れの包丁が振り下ろされようとしたとき、紺色の影が横から男にタックルをかました。

注意が川野に向いていたので、男は避けることができずにその場に倒れ込んだ。包丁も男の手から離れて、カランという音とともに石畳の地面に落ちた。

紺色の影は地面に落ちた包丁を軽く蹴飛ばして、男の手の届かないところにやると、男に馬乗りになって押さえつける。

 

「おとなしくしろ!暴れるな!」

 

川野が紺色の影を見ると、警察官であった。近くには、あの警察官が乗っていたであろう白い自転車が倒れていた。

 

「17時23分。殺人未遂で現行犯逮捕する」

 

男はうつぶせにされて、後ろ手に手錠をかけられる。警察官が男に馬乗りになって押さえつけていると、どこからかウーウーというサイレンが聞こえてきた。川野がゆっくりと音のなるほうを見ると、そこにはパトカーがあった。二人の警察官が出てくると、押さえつけられている男の方に走っていく。

その後も続々と警察官が集まってくる。救急車や消防車も集まり、負傷者の救護が始まった。野次馬や報道ヘリが集まる。

凶行を起こした男は、複数の警察官に囲まれながらボディチェックを受けた後にパトカーに押し込められた。

 

――――――――――――――――――――

 

「そのあと、病院で妹が死んだことを聞きました。妹は、自分のせいで死んだんです」

「どういうことだ?」

「あの時、女の子の母親が助からないことは、一目でわかってた。女の子に恨まれてでも、母親を見捨てて3人で逃げるべきだった。そうしなかったのは、自分の判断ミスです。ある意味、自分が妹を殺したといっても間違いじゃない・・・・」

 

川野の話は、ここで終わった。

すべてを聞き終えたバルクホルンは絶句していた。数々の戦場を渡り歩き、人の死というものをいくつも見てきたバルクホルンであるが、人が人を殺すという狂気に触れたことはなかった。

 

「その・・・・そのあと、どうなったんだ?」

 

聞いてはならないことだと思いつつも、バルクホルンは聞いた。そのあと川野がどう生きたか、そして事件がどうなったのか、疑問であった。

川野は、憤慨することもなくバルクホルンの疑問に答えた。

 

「男は裁判の結果、無罪になりました」

「え・・・・」

 

バルクホルンは川野の話が理解できなかった。これまでの話から、男が死刑に値するだけの罪を犯したことは間違いなかった。それなのに、なぜ死刑どころか有罪にすらならないのかわからなかった。

バルクホルンが、そのことについて聞く前に、川野が理由を話した。

 

「心神喪失といって、被告に犯行時に責任能力がなかったと認められれば無罪になるんですよ」

 

男の事件は、世間を震撼させた重大事件ということもあり1審は裁判員裁判が行われた。被告は心神喪失を主張したものの、認められずに死刑判決が下った。これを不服として東京高等裁判所に控訴した。東京高裁は、請求を受理し第2審が開かれた。最終的に東京高裁は、心神喪失をみとめて無罪判決を言い渡した。検察側は最高裁判所に上告するも、最高裁判所は高裁の判決を全面的に支持し、上告を棄却した。

これによって男の無罪は確定したのである。

 

「司法が裁かないのであれば自分で裁いてやろう、そう思いました」

 

バルクホルンは、川野の言葉の意味を正しく理解した。「殺そうと思った」彼はそう言ったのである。

 

「でも、結局できませんでした。違う遺族が、裁判所から出てきたばかりの奴を刺し殺したんです」

 

男を殺したのは、一人娘を殺された男性だった。殺された一人娘は妊娠しており、初孫と娘の2人を奪われたのである。また遺族の男性の妻は事件後自殺しており、遺族の男性も、男を殺した後に刺し殺すのに使ったカッターナイフで首を切って自殺した。

バルクホルンは川野をちらりと見ると、彼は下唇を強く噛み、拳をこれでもかというほどまで握りしめ、その顔には激しい怒りが浮かんでいた。

 

「妹を死なせたうえに、復讐することもロクにできない。こんな自分は幸せに生きる資格なんかないんです。妹の、楓の兄である資格は、ない」

 

川野は、そう自分を断罪する。バルクホルンは、先ほどから川野からにじみ出ている怒りは、彼自身にも向けられているのだと理解する。

川野は、バルクホルンの方を向いた。

 

「でもバルクホルン大尉、あなたは違う。大切な家族が、人が今も生きてる。あなたが死ねば、その人たちみんなが悲しみ、苦しむ。その人たちのために、あなたは何が何でも生き残らなければならないんです」

 

そこまで言うと、川野は持っていた缶コーヒーをあおる。そうして自分の気持ちを落ち着かせると、さらにつづけた。

 

「すいません。湿っぽい話をしましたね・・・・。自分はあと数時間待機しなければならないので、失礼します」

 

川野はバルクホルンに一礼すると、握りつぶした空のアルミ缶をもって待機室へと立ち去って行った。




いかがでしたでしょうか。
川野君はまだ救いませんよ。そのうち救いますけど、まだ救いません。ちゃんと一期中に救うので大丈夫大丈夫。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。

次回 第43話 未定

お楽しみに


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第43話 音速を目指す

皆様どうもSM-2です。
今回は長めの話です。久しぶりにこんなに長い話書いたかも・・・・。
では、本編どうぞ


日本の転移事件以降、この世界において最も強大な軍事力を保有するのは、日本国防軍であった。では、2番目は、どこなのか。それは転移に巻き込まれた在日米軍であった。日中紛争後に、中国や年々力を増すロシア、北朝鮮への対策として強化されていた在日米軍は、正面打撃力だけで言えば、国防軍と対等に渡り合える力を保有していた*1

 

――――――――――――――――――――

 

さて、そんな在日米軍は、もちろん欧州方面の戦闘にも参加していた。日本の転移に巻き込まれた観光客などを中心に、新たにこの世界に建国されたほかの国とは違い、最初から強大な軍事力を有するアメリカは、航空戦力と海上戦力を中心に、欧州に部隊を展開させていた。

それは501統合戦闘航空団に関しても、例外ではない。ここにもアメリカ海兵隊の戦闘機2機が派遣されていた。

 

米軍から派遣された戦闘機隊は、この日は訓練飛行の日であった。マイケル・ベリー中尉とチャック・アッカーマン大尉は、1時間半ほどの戦闘飛行訓練を終えて基地に戻ってきた。慣れた様子で戦闘機を着陸させた後、チャックは帰還報告に、マイケルは特にすることがなかったので格納庫でくつろいでいた。

缶コーヒーを片手に、スマートフォンで新聞を確認する。見ている新聞は、CC通信(連合報道通信社)*2が出している英語版新聞である。

その一面のあるニュースに、マイケルは目がいった。しかし、記事の内容を読む前に格納庫に響き渡った爆音が、彼の興味をかっさらっていく。

 

「はぁ・・・・」

 

彼はスッと立ち上がると爆音のした方へ向かう。どうやらエンジン音のようだが、それにしてもうるさい。しかし、彼には心当たりがあった。マイケルは、エンジンを轟かせている人物を見つけると、それが誰なのかも確認せずに口を開く。

 

「シャーリー。うるさいぞ」

 

マイケルの視線の先には、ストライカーユニットを装着しているシャーリーの姿があった。シャーリーもマイケルに気がついて、エンジンを止める。

 

「マイケルか!ごめんごめん」

 

シャーリーはそう言って謝る。年齢はマイケルの方が圧倒的に上であるが、2人はそんなことを気にせずにフレンドリーに接する。

マイケルとシャーリーは、同階級ということや祖国が似たような文化を持っており、どちらも年功序列の感覚が薄いことやシャーリーが人種を気にするような人間でないことが仲がいい理由であろう。

非常に悲しいことに、2040年代になっても、アメリカには白人至上主義を掲げた人間は少なくなかった。アイルランド系アメリカ人の父とアフリカ系アメリカ人の母を持つマイケルも、何度かその手の人間に差別的な扱いを受けたことがある。

それでもまだかわいい方で、転移後のこの世界は、黒人差別が国をあげて大々的に行われていた。人種差別をしない人間の方が圧倒的に少ない。しかし、そんな中でもシャーリーは人種を気にせずフレンドリーに接してくれることから、マイケルはシャーリーに好感を抱いていた。

 

「またエンジンいじりかい?」

「ああ、今日こそ新記録達成だ!」

 

呆れたように言うマイケルに、シャーリーは自身のストライカーユニットを愛おしそうに見ながら言った。

その時、宮藤とリーネが格納庫に走りこんできた。マイケルは2人に気が付くと、声をかける。

 

「2人ともどうしたんだ?」

「あの、さっきの音は?」

 

リーネは、宮藤とともにシャーリーとマイケルのもとに近寄りながら聞いてきた。

 

「おっ、これのことか?ふふ、これはなぁ・・・・」

 

シャーリーは、さもうれしそうな顔をして自身のストライカーユニットに視線を落とした。そして怪しげな笑みを浮かべたかと思うと、ストライカーユニットのエンジンに魔法力を送り込んで、始動させる。

マイケルは、この後起こることを予想して、あらかじめ手で耳をふさぐ。

魔導エンジンの回転数が上がるにつれて、あたりに風と爆音が起こる。リーネと宮藤は、たまらずに耳をふさいだ。

宮藤は、エンジンを止めるように必死に呼びかけるが、爆音にかき消されてしまい、シャーリーの耳には届かない。

 

「うん、イイ感じだ。もう少しシールドとの傾斜配分を考えて・・・・」

「あの!シャーリーさん!」

 

宮藤の身振り手振りの必死の呼びかけで、シャーリーも宮藤が何か言ってることに気が付く。必死に宮藤の言葉を聞き取ろうとするが、エンジン音にかき消される。

 

「で?何を言っているんだ?」

「とっととエンジンを切れ!」

 

横からマイケルが言ったことで、ようやくシャーリーはエンジンを止める。

 

「静かにしてください!!」

 

エンジン音に負けまいと叫んだ宮藤の声が格納庫内に響き渡る。シャーリーは思わず耳をふさぎ、エンジン音が止まったことで耳から手を離していたマイケルも、シャーリーと全く同じような行動をとった。

 

「声が大きい」

 

シャーリーの言葉に、マイケルは内心「お前には言われたくない」と思った。キーンと若干の耳鳴りがする中、マイケルはあきれ顔でシャーリーに言う。

 

「さっき言ったばかりなのに、なんでまたエンジンテストするんだ」

「いやぁ、ほんとにごめん!今度から気を付けるよ」

 

言葉とは裏腹に、まったく反省してなさそうなシャーリーの顔を見て「絶対、またやるな」とマイケルは確信する。

すると、彼らの頭上から声がした。

 

「ふぁぁぁ、うるさいなぁ、いい気もちで寝てたのに、芳佳の大声で起きちゃったじゃない・・・・」

 

その場にいた全員の視線が頭上に集まる。格納庫の屋根を支える鉄骨の上に、ルッキーニがタオルケットが敷いて横たわっていた。彼女の言動と状況から察するに、どうやら鉄骨の上で寝ていたらしい。少しでも寝返りをうてば落ちてしまいそうなところでよくぞ安眠できたとマイケルは感心半分、呆れ半分でルッキーニをみた。

ルッキーニが降りてくると、リーネは呆気にとられた表情で彼女に尋ねる。

 

「ルッキー二ちゃん。あの音平気だったの?」

「うん、だっていつものことだし」

 

彼女は年相応の、満面の笑みで元気よく頷いた。ルッキーニの言葉の意味が分からず、宮藤は思わず聞き返した。

 

「いつも・・・・?」

「改造だよ。エンジンの改造」

 

マイケルは、宮藤の疑問に答えるようにそう言った。それでも宮藤には思わずぴんと来てないらしい。

 

「エンジンの改造?」

「おいで、見せてあげる」

 

百聞は一見に如かずといわんばかりに、シャーリーはストライカーユニットを履いたまま滑走路に向かった。

 

――――――――――――――――――――

 

マイケル、リーネ、ルッキーニ、宮藤の4人も、シャーリーの後を追って滑走路に出る。

 

「あの、改造って・・・・」

 

いまだに状況を理解できない宮藤に、シャーリーは優しく答えた。

 

「魔導エンジンの割り振りをいじったんだよ」

「割り振りって、攻撃や防御に使う分のエネルギーの配分を変えているんですか?」

 

ウィッチ養成学校を出たため、宮藤よりもストライカーユニットに関して知識があるリーネがそういうと、シャーリーは「そういうこと」と頷いた。

 

「何を強化したんですか?」

「たぶん、速度ですよ」

 

後ろから第3者の声が聞こえてくる。ルッキーニを除く4人がバッと振り返り、声の主を確認すると、騒ぎを聞きつけてやってきた非番の桜田であった。

シャーリーがスピード狂であるという話は、基地で知らないものは少ない。国防軍戦闘機隊が派遣されたばかりのころ、超音速戦闘機と聞いて「乗せてくれ」と懇願したことは記憶に新しかった。

 

「そうだよ」

 

ちょうどその時、速度測定器の準備をしていたルッキーニが「シャーリー」と名前を呼んで、準備ができたことを知らせる。シャーリーも「おう」という威勢のいい声を上げて、滑走路の先を見据える。

 

「GO!」

 

ルッキーニの合図とともに、シャーリーは一気に加速する。アフターバーナーを付けたF-37に若干劣るくらいの加速性能だ*3

 

「すごい・・・・」

 

ドンドンと加速していくシャーリーの姿を見て、宮藤は思わずつぶやいた。シャーリーも十分加速すると、一気に上昇していく。

今のままでも十分すぎるほど早いのだが、シャーリーの加速はまだまだ止まらない。ルッキーニの手元にある速度測定器のメーターは、どんどんと上がっていった。

 

「時速770km・・・・780・・・・785・・・・790!」

 

単発レシプロ機として驚異的なスピードに、その場にいた全員が驚いている。

 

「800km!記録更新だよ!シャーリー!」

 

シャーリーはその速度のまま、5人の前を通過する。ソニックブームほどではないにしても、高速で飛行する物体が目の前を通過したことで、5人は物凄い風に襲われる。

しかし、シャーリーは満足せずにさらに加速しようとするが、これ以上加速することはなかった。

 

「時速800kmか。単発レシプロでここまでとは・・・・」

 

桜田とマイケルの二人は、上空を飛ぶシャーリーを見上げながら驚きの声を漏らす。

暫くすると、シャーリーは降下してきて速度を落とす、宮藤、リーネ、ルッキーニの3人はシャーリーを追いかけるように走る。

ふと、シャーリーがバランスを崩して落ちてしまい、3人はシャーリーの下敷きとなってしまう。

 

「おいおい、大丈夫か」

「立てる?」

 

マイケル達2人が心配そうに駆け寄るが、帰ってきたのは、

 

「ああ!おなかへったぁ!」

 

というシャーリーののんきな声と満面の笑みであった。

 

――――――――――――――――――――

 

格納庫に戻った6人は、シャーリーのストライカーユニットの周りに集まっていた。特に桜田とマイケルの二人は、興味深そうにストライカーユニットをまじまじと見ている。

 

「すげぇなぁ。単発のレシプロでここまで出せるとは驚きだ・・・・」

「ええ、全くです」

 

プロペラ機での世界最速はTu-95の950kmであるが、あれはレシプロエンジンを使う機体ではなく、より高出力なジェットエンジンの1種であるターボプロップエンジンを4発使用した爆撃機だ。土俵が違う。

 

「シャーリーさんはどれくらいの速さを出したいんですか?」

 

宮藤の問いかけに、シャーリーはハンバーガーをかじりながら答える。

 

「いつかは音速を超えることさ」

「音速?」

 

するとマイケルが音速について説明する。

 

「音の伝わる速度、秒速340mちょいくらい」

「そんな速度出せるんですか!?」

 

余りの速さに、宮藤は驚きの声を上げる。するとマイケルはプッと吹き出しながら答えた。

 

「俺らの乗ってる戦闘機は超音速で飛行してるじゃないか」

「あれって音と同じくらいの速さなんですか!?」

 

速いことは知っていたが、F-37が超音速で飛行していると知らなかった宮藤は、再び驚きの声を上げる。

 

「でも、プロペラ機だと超音速を出すのは不可能だといわれているんだ。実際、僕らがもともといた世界にあった世界最速のプロペラ機は音速には達せていないんだ」

「へぇ・・・・」

 

桜田の言葉に、宮藤はそう返した。

 

「こいつで無理だったとしても、日本が開発したジェットストライカーなら・・・・」

 

自分が超音速で飛行する姿を想像しているのか、シャーリーはよだれを垂らして変な顔になっていた。すると、マイケルが何かを思い出したようなそぶりを見せる。

 

「残念ながらシャーリー。お前さんの夢は、かなり先にかなうことになりそうだぜ?」

「え・・・・?」

 

困惑するシャーリーに、マイケルは自身のスマートフォンに映し出された新聞記事を見せる。

記事の見出しは「日本製ストライカーユニットに重大な欠陥か?」であった。

 

「なんですか?」

 

英文が読めない宮藤は、英語版の新聞を出されてもいまいちよくわからない。

 

「さっき言ってたジェットストライカーユニットに欠陥があるっていう記事だ。ええと”先月27日、国防空軍松島基地所属のWF-86ストライカーユニットのエンジンが停止する事故が発生したことが防衛省への取材で分かった。僚機のウィッチが同隊員を回収し、着陸した。翌日、防衛省は重大インシデントと断定し、事故調査委員会を設置、事故の原因追及を行っている。事故調査委員会に参加している扶桑皇国のストライカーユニット技術者によると、事故の原因は、当該ストライカーユニットが搭載しているMJ47-2-M魔導ターボジェットエンジンの欠陥が原因ではないかとのこと。このMJ47-2-Mは、扶桑宮菱重工業と国防軍、三菱重工業、川崎重工業が共同開発したMJ47-Cエンジンを三菱重工業が独自に改良した、世界初の実用ジェットエンジンである。事故調査委員会は、今月末にも報告書を運輸安全委員会に提出する予定である。”だと」

 

MJ47-2-Mは、MJ47-Cの性能及び信頼性を強化したエンジンであった。

日本にはストライカーユニットに関するノウハウがほとんどなく、転移後、扶桑皇国から96式艦上戦闘脚を2機輸入してリバースエンジニアリングをするなど、ストライカーユニットの技術吸収に努めていた。

それでも経験不足であることから、わざわざ扶桑のストライカーユニットメーカーと共同で開発したエンジンだが、ジェットエンジンというのは扶桑のメーカーにしてみても、まったくノウハウのないもので、実験機に搭載されていたMJ47-Cは、当初から問題が多発していた。

MJ47-2-Mは、それらの問題を改良したものであったはずであるが、それでもノウハウ不足はいかんともしがたく、問題が起きてしまったのだ。

これにより、防衛省は半年ほどWF-86の飛行停止処分を決定し、実戦配備は1年以上遅れてしまうこととなるのだ。

 

「というわけだ。まぁ、航空機用ジェットエンジンの開発経験はあってもストライカーユニット用魔導エンジンの開発経験はないから、仕方がないな」

 

このWF-86は、実戦配備が進めば各国軍に貸与されるという話もあり、シャーリーもその話を聞いていたから楽しみにしていたのだが、肝心の貸与の条件である実戦配備が遅れてしまうということは、このジェットストライカーがシャーリーのもとに届くのも遅れてしまうということであった。

 

「そんなぁ」

 

シャーリーは、がっくりとうなだれてしまった。そんなシャーリーの肩に、マイケルは手を置いて慰める。

暫くそうしていると、ふとした疑問がマイケルの中に沸いた。

 

「ところで、君ら二人は何で来たんだ?」

「「あ~~!!」」

 

宮藤とリーネの二人は、顔を見合わせて大きな声を上げた。

何事かと思って、マイケルとシャーリーは首をかしげていると、2人は明日、海で訓練があることを伝える。

 

「海で訓練?俺は明日スクランブル待機だぞ?」

「はい。ですから、明日は午前と午後でスクランブル当番を分けるそうです。午前中は桜田さんたちが、午後からはマイケルさんたちが待機するそうです」

 

リーネは、マイケルの疑問にそう答えた。つまり午後になればマイケル達は、海に行けるということだ。

 

「なるほど、OK」

「わかった」

 

シャーリーも立ち上がり、付けていたゴーグルをストライカーユニットの翼に引っ掛けると、5人は格納庫から出ていく。

5人は、ルッキーニがユニットの上で寝ていたことなど、すっかり忘れていた。そして翌日、ルッキーニが起こしたある出来事が原因で、とんでもないことが起こるのだが、彼らは知る由もなかった。

*1
軍隊というのは、補給がなければ戦えない。この世界に転移した影響で、強大な生産能力を有したアメリカ本国からの補給がない以上、在日米軍の補給は日本に頼らざる得なくなっていた。それでも新たに大陸に建国されたアメリカ合衆国には、日本政府の出資によって多数の日本資本の工場などが建てられていおり、旧在日米軍は徐々に自給自足の体制を築き上げようとしていた

*2
転移に巻き込まれた外国人記者たちが立ち上げた報道機関。地球協力機構加盟国では一般的になりつつある報道機関で、新聞やテレビ事業を手掛けている。未来の技術を使った素早く正確な情報収集能力と取材能力により、日本やこの世界の国家にも進出している。

*3
一般的にジェット機よりもレシプロ機の方が加速性能はいいといわれている。現代の戦闘機はアフターバーナーを付けることで、加速性能を補っているのだ




いかがでしたでしょうか。
日本は、ストライカーユニットのノウハウないですから、これくらいの問題は起こって当然かなと。
また、途中の黒人差別問題に関しては、あくまで物語の話であり、特定の団体、個人を差別するものではないことをご了承ください。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようならぁ

次回 第44話 超音速飛行

お楽しみに


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第44話 超音速飛行

皆様どうもSM-2です。
またもや長いです。書くの大変だったけど、バルクホルン編ほどじゃなかった。
では本編どうぞ。


翌日。

ウィッチ隊とマイケル、チャックの13名は基地近くの海岸に来ていた。残りの4人のうち、今浦と桜田は、午前中はスクランブル待機、緑川と川野は、昨日はスクランブル当番だったため、自室で寝ていた。残りの4人は、午後になったらマイケルたちと交替する形でやってくる。

 

13人の過ごし方はそれぞれであった。シャーリーとルッキーニは、岩場から海に勢いよく飛び込み、その先にはバルクホルンがクロールで、ハルトマンが犬かきで泳いでいる。雪国出身のエイラとサーニャは、故郷とか比べ物にならない日差しが堪えたのか、チャックが用意したパラソルで休んでいる。

チャックとマイケルは、ミーナ、坂本、リーネ、宮藤の4人とともに岩場にいた。リーネと宮藤の足には、ストライカーユニットを模したものが付いている。

 

「あの、これは・・・・」

 

なぜ、このようなものを付けて海に入らねばならないのかわからず、宮藤はそう聞いた。

 

「海上に落ちた時に備えた訓練だ!」

「他の人は皆やったのよ、後はあなたたちだけ」

 

リーネと宮藤は、彼女らにそう言った。

しかし、2人はどうしてもこの状態で海に入りたくはないらしく、横に立つマイケル達を指さして反論した。

 

「でも、マイケルさんたちはやってないじゃないですか」

 

すると、マイケルの横に立っていたチャックが、にこっとしながら親指を立てた。

 

「俺らは、救命胴衣あるから最悪浮かんでられればいいし。まぁ、グッドラック!」

 

戦闘機パイロットというのは救命胴衣が付いている。それにベイルアウト時には、ゴムボートやサバイバルキッドなどが射出座席についているから、そこそこ泳げる技能があれば、あとは救難ヘリがやってくるのをゴムボートの上で待っていられればいいのだ。

一向に入ろうとしない2人の態度に、業を煮やした坂本が怒鳴る。

 

「つべこべ言わずにさっさと飛び込め!」

「「は、はい!!」」

 

坂本の気迫に押されて、2人は海に飛び込んだ。しかし、ストライカーの重さがあるからか、2人は沈んでいく。マイケルは、しばらく海を覗き込んでいたが、2人は一向に海面から顔を出す様子はない。

 

「浮かんでこねぇな」

「やっぱり、飛ぶようにはいかんか」

 

マイケルは、支給されている防水時計を一瞥すると、心配そうに海を覗き込んだ。

 

「大丈夫ですかね・・・・」

 

その時、2人が海面から顔を出した。再び沈まないように必死にもがいている。どう見てもおぼれている。しかし、坂本は呆れたような顔で2人を見る。

 

「いつまで犬かきやっとるか。ペリーヌを見習わんか」

 

ちょうどペリーヌが、後ろにやってきた。優雅に泳ぐ彼女は、もがいている2人を呆れたように見ると、坂本の言葉に同調した。

 

「まったくですわ」

 

それだけ言うと、ペリーヌはさっさとどこかに行ってしまう。

2人は、しばらくもがいていたが、疲れてきたらしく再び海に沈んで行ってしまう。

 

「まずいな・・・・」

 

チャックは、それだけ言うとマイケルとともに海に飛び込んだ。2人は、海に沈んでいくリーネと宮藤を見つけると、チャックはリーネを、マイケルは宮藤を抱えて海面に向かった。

泳ぎが得意な2人だが、数十キロはあるストライカーと、10代とは言え、人間一人を背負って浮かんできた2人は、すごいと言わざるを得ない。

 

「2人とも落ち着け!もがくな」

 

マイケルは、若干のパニック状態にある2人を落ち着かせる。マイケルたちのおかげで、呼吸がきちんとできるようになったからか、宮藤達は落ち着きを取り戻していく。

 

「よし、いい子だ。いいか、海に落ちたとき、もがこうとして頭より上に腕を持っていくな」

 

そう言ってマイケルは、2人にレクチャーを始める。

 

「いいか?人間というのは、全体の何%かは、水面の上に出るようにできてる」

 

おぼれると人間はもがく。しかし、それは悪手なのだ。人間というのは、必ず体の何%かは水面の上に出るようにできている。しかし、もがこうとすると腕が頭の上に行ってしまう。そうすると、腕が水面上に出る分を占めてしまい、頭は水面下に沈んでしまう。そうすると、人間は呼吸ができなくなって溺死してしまうのだ。

 

「だから、腕が頭の上に行かないようにしろ。とりあえず、最初は呼吸できるようにすること。いいな?」

 

宮藤たちは、マイケルの言うとおりにしてみる。ある程度、宮藤たちが慣れてくると、マイケル達は離れる。

すると、チャックが離れる前に思い出したかのように言った。

 

「あ、二人とも眠気とか咳があったり、意識が朦朧としたら言ってくれ」

「なんでですか?」

 

キョトンとするリーネに、チャックは答えた。

 

「二次溺水っていうのがあるから、2人とも数時間はお互いの様子を見てろよ?少しでも異常があったら言ってくれ」

「「わかりました」」 

 

チャックは、2人の答えに満足すると離れて行った。

 

 

その後も宮藤達の訓練は続いた。マイケル達から、ある程度レクチャーを受けたからか、そこそこ泳げるようになっていた。それでもつらいことには、ちがいなかった。

正午あたりになって、ようやく坂本から休憩の号令がかかる。2人は、ユニットを引きずりながら上がってくる。肩で息をして、相当疲れていることが一目でわかった。そのままある程度、砂浜を進むと2人はその場に倒れこんだ。

 

「2人とも大丈夫?」

 

リーネは、声のした方をバッとみる。そこにはスクランブル待機から解放され、海パン姿になった桜田がいた。桜田は、苦笑いしながらミーナの方を見る。

 

「その様子を見ると、だいぶきつかったみたいですね」

「あの、桜田さん」

 

恥じらうような声を出すリーネ。桜田は、首をかしげながら彼女の方を見ると、リーネは顔を真っ赤にしてもじもじしていた。

 

「あの、にあってますか?」

 

そういうとリーネは、手を水着の方にやる。その瞬間、桜田も意識してしまい顔を赤くする。頭の後ろに手をやって、ポリポリと掻き流ながらちらりとリーネの方を見る。

 

「その、とても似合ってますよ」

 

改めて言われるととても恥ずかしいらしく、リーネはさらにもじもじとする。

すると、桜田のさらに後ろから声がかけられる。

 

「桜田少尉、法律はきちんと守れよ?」

 

桜田が後ろを見ると、そこにはニヤニヤとからかうような表情をしたフライトスーツ姿のチャックがいた。

 

「わかってますよ」

「どうだかねぇ・・・・」

 

いまだにチャックは、ニヤニヤとした表情をやめようとしない。

すると、リーネの横で倒れこんでいる宮藤は、拗ねたように言った。

 

「遊べるって言ったのに、ミーナ中佐の嘘つき」

「なぁに、そのうちなれるさ」

「コーラいるか?」

 

またもや割り込んできた声に、4人は声のする方を見るとビキニ姿のシャーリーとフライトスーツ姿のマイケルであった。

宮藤とリーネは、マイケルからコーラを受け取ると、一口飲む。シャーリーは、宮藤達の方に進むと、2人の間に割って入って大の字になって寝転がる。

 

「それに、こうやって寝ているだけだって悪くない・・・・」

 

宮藤とリーネもシャーリーを見習って寝転がってみる。日差しがぽかぽかと暖かく、このまま寝てしまいそうになる。桜田、チャック、マイケルの3人は、そんなシャーリーたちの様子を見下ろしながら、のんきなもんだと苦笑いする。

 

「気持ちよさそうだな・・・・」

「気持ちいいぞ。マイケルもどう?」

 

マイケルのつぶやきに、シャーリーは誘ってみるが、マイケルは首を横に振って「フライトスーツに砂が付くと厄介だからやめておくよ」と断った。

その時、シャーリーの横で横たわって日向ぼっこを楽しんでいた宮藤は、太陽の前を何かが横切った気がして、思わず声を出した。

 

「ん?」

 

宮藤の声に気が付いたのか、その場の全員の視線が宮藤に集まる。

 

「どうしたんだ?宮藤」

「今、太陽の前を何かが横切ったような・・・・」

 

マイケルの質問への宮藤の答えに、全員の視線は宮藤から上空へ移る。全員が、太陽のまぶしさに思わず目を細めて、手で影を作る。しかし、しばらく上をじっと見ていたマイケルとチャック、桜田は、何かに気が付いて、はじかれたかのように走り出した。

1歩遅れて、シャーリーも3人の後を追う。訳が分からぬまま、宮藤とリーネは4人を追う。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

宮藤は、厳しい顔をして走る4人に聞いた。

 

「ネウロイです!」

 

桜田がそういうと、チャックがすぐさま指示を出した。

 

「桜田。お前は中佐たちのところに行け!シャーリー達は俺らについて、出撃しろ!」

「了解しました」

 

桜田は、格納庫に向かって走る5人と別れてミーナたちのところに向かった。

 

――――――――――――――――――――

 

桜田がミーナたちのもとに向かっている最中、基地から敵襲を告げるサイレンが鳴り響く。基地を横目にミーナたちのもとに到着すると、支給品のスマートフォンでどこかと通話している今浦とミーナたちがいた。

 

「くそっ!」

 

今浦は悪態をつくと、通話を切る。

 

「今浦中佐。状況は」

「敵のネウロイがレーダー網を潜り抜けたらしい」

 

苛立たし気に頭を掻きながら、今浦はそういった。

 

「E-2は?」

「前の事故以来、派遣されてるE-2は全部検査のために飛行停止中だ」

 

今浦が言った事故は、E-2早期警戒機の2つのエンジンのうち、片方が停止してしまった事故のことである。欧州に派遣された空軍所属のE-2は、分解されて船で欧州まで輸送。その後、組み立てられて使用されているが、エンジン部品の一つが運搬中に破損してしまったことが事故の原因であった。

それによって国防軍は、事故再発防止のために欧州に分解輸送された航空機の、飛行停止処分と全機点検を命じた。代わりに陸軍、海兵隊に配備されている移動式対空レーダーで穴を埋めているが、それでも絶対数が少ないことや、性能などからE-2の穴を完全に埋めるには至らず、ブリタニア軍のレーダー網を使用することで、何とか補っている状態であった。しかし、ブリタニア軍のレーダーは信頼性が低く、この日の朝に海岸線に設置されていたレーダーサイトが1つ故障していた。

この襲来はその隙を完全につかれた形であった。

 

「警戒航行してた"はぐろ"*1が見つけて通報したらしい」

「まんまと隙をつかれたということですか・・・・」

 

その時、ちょうど滑走路から轟音が聞こえてくる。滑走路を見ると、シャーリーたちウィッチ隊が発進しようとしていた。

 

――――――――――――――――――――

 

「急げ急げ!」

 

チャックたちは、そう言いながらF-37に駆け寄ると、コックピットに横から飛びてた足場を器用に上っていく。

 

「さすがに、ウィッチは早いな」

 

目の前を発進していくウィッチを見て、ヘルメットをかぶりながらマイケルはつぶやいた。

そうしている間も、着々と発進準備が進められていく。電源が入れられ、自己診断プログラムが戦闘機に異常がないことを知らせる。それだけでなくコントロールスティックやラダーを操作して、きちんと動作しているかを確認する。

整備兵は、コックピット横の足場を格納し、ミサイルの安全ピンを引き抜いて、マイケル達に見せる。

発進の準備が整い、管制塔から発進許可が下りると、2機は滑走路に進む。

 

「ストライカー01。テイクオフ」

 

長機であるチャックが、先にアフターバーナーを焚いて急発進する。それにマイケルもすぐに続いた。

レシプロ機では到底まねできないような角度で急上昇していく2機は、あっという間に大空に消えていった。

 

――――――――――――――――――――

 

急いで管制塔の防空指令所に戻ったミーナたちは、無線機を使って発進したシャーリー達と連絡を取っていた。

 

「シャーリーさん聞こえる?」

 

暫くするとシャーリーから返事が返ってくる。ミーナは、横で地図とにらめっこしていた今浦に無線機を渡す。

 

「敵はすでに内陸部に進入!位置は当基地より295度、距離20マイル!速度は500ノットで超高速型と思われる!針路は295度!このままいくと・・・・」

 

今浦と地図をはさんで反対側にいた要撃管制官が、地図に定規で線を入れる。その線が、ネウロイが直線飛行をした際に通る進路である。ちょうど線は、ロンドンと重なったことでその場にいた全員の目の色が変わる。

坂本は、今浦から無線機をひったくる。

 

「ロンドンだ!今、チャックたちが向かう!協力して敵を撃破するんだ!シャーリー、お前のスピードを見せてやれ!」

『了解!』

 

ちょうどその時、ものすごい轟音とともに、後部から2つの炎を吐き出し、機体内部と翼下にはいくつものミサイルを抱えた2匹の鋼鉄の猛禽は、大空に飛び立っていった。

 

 

防空指令所の下、格納庫の横では、桜田と緑川、川野たちが飛び立っていく2機を眺めていた。パイロットスーツを着ていないことや、彼らの戦闘機は、整備中であるため出撃することは出来ないため、こうして眺めることしかできない。

そんな3人の横を、ルッキーニが慌てた様子で走っていった。3人は、ただならぬ様子のルッキーニが気になる。

 

「あぁ、シャーリー行っちゃった・・・・」

 

ルッキーニの言葉の意味が分からず、3人は首をかしげるが、ルッキーニはそれに気が付かず、さらに気にかかることを言う。

 

「まさか、あのままなのかなぁ?」

「あのままとは?」

 

ルッキーニの言葉の意味が分からずに、川野は問いかけた。その問いかけに、ルッキーニは言葉を滑らせた。

 

「あのね、昨日ね・・・・。私、シャーリーのストライカーをね・・・・」

 

しかし、その瞬間自分が口を滑らせたことに気が付いたルッキーニは口をつぐむ。そして、油の切れたブリキのおもちゃのように、ギギギと後ろを向く。

 

「ふーん。ストライカーを?その先は?」

 

そこには、笑顔であるものの目が一切笑っていない緑川がいた。完全に怒っている彼女を見て、ルッキーニは咄嗟にごまかそうとした。

 

「あの、何でもないです・・・・」

「そう?ヴェルケ中佐のところに一緒に行きましょうか」

 

緑川は、一切笑顔を崩さずにルッキーニの軍服の襟をつかむと、冷や汗をかく彼女を引きずっていった。

 

――――――――――――――――――――

 

「はぁ!?シャーリーのストライカーが!?」

 

ある程度上昇した後、ネウロイのもとに急行していたチャックたちに、今浦から通信が入った。何事かと思っていると、とても信じられない内容が今浦の口から伝えられた。

 

「ああ、昨日の夜に馬鹿がぶっ壊していたらしい」

 

今浦の声からは、怒りがにじみ出ていた。

通話口の先の今浦は、ちらりと後ろを見ると大きなたんこぶを作ったルッキーニと、宮藤たちに連絡を取っている坂本とミーナがいた。

 

「とにかく先行してシャーリーを止めろ!」

「了解!」

 

マイケルは、シャーリーがいるであろう前方を厳しい顔でにらみつけると、スロットを押し込んで速度を上げた。

 

――――――――――――――――――――

 

当のシャーリーは、そんなことはつゆ知らず、敵がいるであろう方向に飛んでいた。

 

――いつもと違う・・・・

 

シャーリーの感覚は、ルッキーニがストライカーの修理を適当にしたからなのだが、そんなことは気づきもしなかった。むしろ、そちらに気を取られすぎたせいで、インカムから流れる坂本の声に気が付かなかった。

 

『・・・・大尉、シャーリー大尉帰還せよ!シャーリー大尉!』

 

そのはるか後ろを宮藤とリーネが、ミーナたちから連絡を受けて全力でシャーリーを追いかけていた。しかし、シャーリーのストライカーの速度にかなわずどんどんと引き離されていく。

そんな2人の上空を、超音速で飛行する2機の戦闘機が追いぬかしていった。非常に離れていたが、超音速飛行によって生み出された衝撃波は、ものすごい轟音となって2人の鼓膜を叩いた。

 

 

2機を操縦するマイケル達には、前方を飛ぶシャーリーの姿が見えた。早いといってもF-37ほどではないため、2機は速度を落として無線をシャーリーのインカムにつなげる準備をする。

 

――なんだ?加速が全然止まらない。今日はエンジンの調子がいいのか?

 

しかし、シャーリーには2機が見えないらしく、加速し続けていた。

 

――この感じ、似てる。あの時と・・・・

 

シャーリーの脳裏に、バイクで世界新記録を出した時の記憶がよみがえる。

後ろからは、速度を遷音速まで落とした2機が近づいている。もうすぐシャーリーに追いつきそうだが、ここにきてもシャーリーは、目立つベイパーコーンを身にまという2機に気が付かない。

 

「いっけぇええええ!」

 

シャーリーは、固有魔法の「加速」を起動して、一気に速度を上げた。シャーリーは、一瞬ベイパーコーンを身にまとうと、音速の壁を突破した。

衝撃波が後ろを飛んでいた宮藤達とマイケル達を襲う。もともとF-37はスーパークルーズ機能を持つ戦闘機であるから問題はなかったが、宮藤達たちは衝撃波をもろに食らい体勢を崩してしまう。

 

「めちゃくちゃだ!」

 

速度計を確認した後、離れていくシャーリーを見てマイケルは、そういった。レシプロ機で音速を超えるなど考えられない。

 

「とっとと速度を上げて追いつくぞ!」

 

チャックの指示とともに、マイケルはスロットを押し込んで速度を上げると超音速でシャーリーを追った。

 

 

当のシャーリーは、目まぐるしく変わる空と音がなくなったことで、自分が音速の壁を越えたことを理解した。

 

「これが、超音速の世界。やった!あたしやったんだ!」

 

そう言ってはしゃぐシャーリーの両脇に、チャックたちが並んだ。超音速飛行を普段からしている2機と並走できていることに、シャーリーのテンションはさらに上がった。

しかし、対するマイケル達は慌てていた。

 

「シャーリー!曲がるなり上がるなりしろ!とっととするんだ!」

「マイケル!見たか!私はやったんだ!音速を越えたんだ!」

 

緊迫したチャックの声は、夢が実現して喜ぶシャーリーには届かなかったらしい。マイケルは怒鳴った。

 

「奴とキスしたくないならとっとと曲がれ!!」

 

すでに音速の世界を知るマイケル達は、すでに減速しても前方にいるネウロイとの衝突は避けられないと判断して、上昇か旋回でよけるように言う。

それと同時に、自分たちが衝突しないようにマイケル達は機体を急上昇させた。

シャーリーは、そこまできてようやくマイケル達の緊迫した様子に気が付いて前を見る。

 

「え・・・・」

 

すると前方に見えた小さな点がどんどんと大きくなっていく。

 

「ええ、え~~~~!!」

 

シャーリーは、その黒い点がネウロイだと認識すると、2機のように回避行動をとるのではなく、シールドを張って急ブレーキをかけて止まろうとした。しかし、車ですら急には止まれない。抵抗が少ない空中であれば、ほとんど減速することなく拳銃弾と同じだけの速度でネウロイに突っ込んだ。ネウロイのコアは、とてつもない速度で突っ込んできたシャーリーによって破壊された。

その様子を、上空で見ていたマイケルは、基地に通信を入れる。

 

「シャーリーがネウロイに突っ込んだ。敵の撃墜を確認」

『シャーリーさんは?』

 

ミーナの言葉に、マイケルはシャーリーを探す。すると、ネウロイを撃破したことでできた雲の中から、シャーリーが飛び出てきた。

 

「無事だ。元気に飛んでやがる」

 

マイケルがそう報告したとたん、シャーリーの水着が破け、ストライカーが足からはずれる。一糸まとわぬ姿のシャーリーは、ストライカーが外れてしまったことで落ちっていった。

 

「あ、やばい・・・・」

 

そのまま海面に激突するかと思われたが、急降下してきた宮藤とリーネが間一髪でシャーリーをキャッチする。

しかし、宮藤の手は、シャーリーの豊満な胸をつかんでしまっていた。宮藤はそのままシャーリーの胸をもみ始める。

 

『どうした』

 

その様子を茫然と眺めていたマイケルは、坂本のその声で正気に戻る。

 

「あぁ・・・・シャーリーは確保した。でも・・・・」

『でもなんだ!?』

 

様子が分からずに坂本は、そう聞いてきた。この状況をどう説明すべきかとマイケルが考えていると、宮藤のつぶやきが無線機を通じて聞こえてきた。

 

「おっきい・・・・」

「きゃぁ!芳佳ちゃんやってるの!?」

 

 

防空指令所では、無線から聞こえてくる声から状況を想像した桜田が顔を真っ赤にしてうつむいて、川野は指令所にかけられているカレンダーに視線をずらし、緑川は呆れたような顔でため息を吐き、ミーナは顔を赤らめて恥ずかしそうな顔をし、日本に妻子がいる今浦は唖然としていた。

全員の反応は、さまざまだが想像している光景は同じであり、何もわからないのは坂本だけであった。

 

「状況を正確に説明しろ!」

「説明できるか!」

 

マイケルの悲痛な叫びが、夜空に響き渡った。

 

――――――――――――――――――――

 

その日の夜中、マイケルとシャーリーは廊下でばったり会った。

 

「シャーリー。大丈夫なのか?」

「ああ、おかげさまでね」

 

シールドを張っていたとはいえ、ネウロイと音速で衝突したのだ。普通なら骨折の一つや二つがあってもおかしくないが、シャーリーはかすり傷くらいで軽症であった。

 

「ああ」

「その、なんだ。超音速飛行おめでとう」

 

一瞬、不可抗力とはいえ、裸を見てしまったことを謝ろうと思ったが、それに触れるのはよくないと思って、咄嗟にお祝いの言葉を述べてごまかす。それと同時に、どこかで飲もうと思っていたコーラをプレゼント代わりにシャーリーに手渡した。

 

「サンキュー、マイケル」

 

シャーリーは、マイケルから手渡されたペットボトルを受け取ると、早速ふたを開けてゴクゴクと飲む。マイケルは、窓の外に見える滑走路を眺めながら、さらにシャーリーを褒める。

 

「まさか、レシプロ機で音速を越えられるなんて思わなかった。すごいな」

「まぁな・・・・。ところでさ、マイケル」

 

改めて名前を呼べれ他ことで、マイケルは視線をシャーリーに戻す。シャーリーは、ニヤニヤとした意地悪そうな笑みを浮かべると、自分の胸を指さした。

 

「昼間、見たんでしょ。()()

 

自分から言うことは避けていたものの、当の本人から言及されたことでマイケルは観念する。

 

「不可抗力だったんだが、すまなかった」

 

すると彼女は、いつも通りのフレンドリーな笑顔に変わる。

 

「別にいいさ。減るもんじゃないし」

 

ここで許せるのが、彼女の懐の深さだろう。しかし、生真面目なマイケルはさらに謝った。

 

「いや、本当にすまなかった」

「いいって、いいって・・・・それにマイケルなら別に

「なんだって?」

 

シャーリーの声が小声だったことで、マイケルは聞き取れずに思わず聞き返した。

 

「いや、なんでもない。じゃ!また明日な!」

 

そういって嵐のように去っていくシャーリーの後ろ姿を見て、マイケルは一言ぽつりとつぶやいた。

 

What was it(何だったんだ)?」

 

兎の心のうちに気付くことのできない、マイケルであった。

*1
国防海軍第3艦隊に所属するイージス駆逐艦。まや型の2番艦である。当時、第3艦隊のヘリ母艦「ひゅうが」汎用巡洋艦「いちの」イージス駆逐艦「あさま」潜水艦「あかしお」「いなさ」と分裂してドーバー海峡付近で単独警戒航行をしていた




いかがでしたでしょうか。
そういえば、最近FFMの一番艦が進水しましたね。「もがみ」型FFM、小説にもちょくちょく出すつもりなので、他の艦がどんな名前になるのか注目です。
プラスして、NATOも最近P90の5.7㎜弾とMP7の4.7㎜弾を標準規格としたんだとか、6.8㎜弾と8.58㎜弾が正式採用されるのは何時かなぁ。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようなら

次回 第45話 未定

お楽しみに


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第45話 日本の影響

皆様どうもSM-2です。
感想欄を読み返していたら、設定集を書かなければと最近思っております(-_-;)。もうしばらくお待ちを・・・・
では、本編どうぞ
※4/1一部設定修正
※12/03 一部設定修正


対ネウロイ戦争において、日本の存在感は無視できないものであった。先進的な兵器と戦術によって、通常兵器であっても、強力なネウロイに十分対抗可能な日本は、世界のイニシアティブを確実に握りつつあった。

世界各国も、そんな日本をまねた戦車や航空機、小火器の開発を進めていたが、100年の技術格差はすさまじく、開発が頓挫してしまうことも珍しくなかった。何より、開発がうまくいっても、単価が高くなってしまい、部隊運用が可能なほどの数をそろえることができないこともあった。

そして、そんな日本の存在をよく思わない人間もいた。

 

――――――――――――――――――――

 

ブリタニア空軍所属、トレヴァー・マロニー大将もその一人であった。

 

「くそっ!日本め!」

 

マロニーは、西部方面統合軍総司令部であった定例会議から戻ってくると、自身の執務机を思いっきりたたいた。

彼の怒りの理由は、この日の定例会議で国防軍が提案した「ガリアにおける敵大型拠点の威力偵察作戦」にあった。

 

 

国防軍がこの作戦を立案したのは、ブリタニアに建設されていた大型ジェット機が利用可能な飛行場が、今年12月に完成することと、今年中には1個海兵機甲師団の編成が完了することが理由であった。

国防軍では、この作戦で得た情報を元に、進出してきたB-3爆撃機の巡航ミサイルか地中貫通爆弾を使用してネウロイの巣を破壊。そして国防軍海兵隊がガリアに上陸し、橋頭保を確保したのちに、他国軍からなる本隊が上陸し、ガリアを解放する計画であった。

大詰めとなる上陸作戦には、もともと西部方面統合軍に派遣されている第6海兵旅団の他に、地中海方面統合軍に派遣されている第1、第2海兵師団*1と北部方面統合軍に派遣されていた第4海兵旅団。そして新規編成される1個海兵師団の3個海兵師団2個海兵旅団、計60,000名を投入し、国防軍が開発したばかりの新兵器である自律型無人駆逐戦車―A-UTD-44Aも200機投入する予定であった。

 

 

この計画の一番のネックは、ネウロイの巣の破壊であるが、それさえ成功してしまえば、ガリアにおけるネウロイの出現は大幅に減少すると思われ、後は残ったネウロイの残党を駆逐するだけだ。日本は、すでにブリタニアや地中海での防空戦闘において大活躍しており、アフリカ戦線でも海兵隊が地上戦において地上型ネウロイを圧倒している。残党ネウロイの駆逐など造作もなくやってのけるだろう。そうなれば、日本はガリア開放の立役者として、連合軍内での影響力は、さらに大きなものとなるだろう。

しかし、マロニーにとっては、日本が影響力を握るのは非常に面白くないことであった。

 

「イエローモンキーどもが!」

 

マロニーは、これでもかというほど日本をののしる。

彼は、ブリタニアにおける反ウィッチ派、そして反日派の筆頭であった。

 

 

対ネウロイ戦において、ウィッチが大活躍していることから反ウィッチ派というのは、あまり支持を受けられず大きな勢力というわけではない。しかし、反日派というのは、世界各国の財界、政界、軍部に数多く存在し、各国で無視できない大きな勢力となることが多かった。

反日派が大きな勢力となる理由は、主要国の、特に40代以上の人間に根強い白人至上主義的な考えと日本との技術格差が関係していた。

白人が人類の中で最も優れた人種であり、支配されるべき黄色人種である日本人が優れた技術を独占し、白人を見下すことは許せない。なにより、日本が有する技術には、未来の白人たちが発見・開発した技術もあり、それらを独占するのはまるで泥棒のようである。というのが反日派の意見であった。若干の被害妄想と無茶苦茶な理論が交えられた意見であり、日本からしたら下手な技術移転や流出は、世界に無秩序を生み出すのは目に見えているから技術の公開を禁止しているのだ。

また、安価で高品質な日本製品の台頭は各国の産業衰退を促しており、各国政府も関税を高くするなどの対策を取っているものの、富裕層や大企業を中心に、日本製品はどんどん広がっていた。特に影響が大きかったのが、自動車産業や飛行機製造業、造船業であった。これらは、軍事利用が可能とされ、日本政府としても特に厳しく輸出を制限していた*2。しかし、それでも頑丈で整備がしやすい日本製品は、各国の運輸業などに多く取り入れられていた。軍隊でも輸送機や偵察機として航空機が、輸送船としてセミコンテナ船が導入されるなど、もともとあったメーカーは、隅に追いやられる結果となった。

こういった経緯から、財界を中心に反日派が増えているのである。

しかしながら、同じように親日派も各国の政財界、軍部で大きな勢力を持っていた。

これは、一部の現地企業が日本企業と協力関係を築いたり、生き残りをかけて子会社となるなどしたためであった。これらの企業には、日本からしたら旧式ながらも優れた技術とノウハウが移転*3され、頑丈で壊れにくい安価な製品を製造するなどして、シェアを伸ばしていた。

輸出入業者も親日派が多かった。日本は1億人以上を有する巨大な市場であり、自給率が低いことから、食料や原材料、資源を輸出すればするだけ買ってくれる金の生る木であり、また優れた日本製品を輸入して売りさばくことで莫大な利益を上げていた。

投資家からしても、これらの企業や業者は投資すればするだけ金の生る木であった。

財界の親日派の意見としては、日本との関係をよくすることで日本の技術やノウハウを吸収し、技術を発展することにつながり、また巨大な市場を確保することができる。というものであった。

軍部としても、日本製の輸出用セミオートライフルやサブマシンガンは壊れにくく使い勝手がいいことから導入したいという人間が多く、また日本と戦っても勝ち目がないとしてならば日本との関係をよくして、自国軍を強化したほうがよいという親日派が多くいた。

 

 

さて、良くも悪くも各国に影響を与えている日本が、これ以上連合軍内での影響力を持つことは彼には絶対に許せないのである。

 

「少佐。()()()()の開発はどうなってる」

 

幾分か落ち着いたマロニーは、突然横にいた副官にそう聞いた。マロニーに使えて久しい副官は、マロニーの言う()()()()が何を指しているのか、すぐに理解することができた。

 

「はい、機体の開発は終わりましたが制御システムの開発が終わっていません」

「開発を急がせろ!日本がガリアを解放する前に、()()を完成させて、我々の手でガリアを解放せねばならん!」

「はい」

 

副官は、こくりと頷くとマロニーの執務室から出て行った。マロニーは、自身の執務室に飾ってある世界地図を忌々し気に見ると

 

「貴様の好きなようにはさせんぞ。日本!」

 

とぽつりとつぶやいた。

そんなマロニーの部屋の電灯の付け根には、何やら怪しい黒い物体が付けてあった。

 

――――――――――――――――――――

 

一方、良くも悪くも世界に影響を与えている日本の総理官邸には、防衛大臣と統合参謀司令長官、官房長官、外務大臣、情報大臣が集まっていた。

総理執務室には、応接用に大きな檜の机とそれを囲むように置かれた7つのソファが置いてあり、先の5人と大泉はそれらに座っていた。

 

「それで黒木君。報告というのは?」

「はい。先日お話ししたブリタニア軍の新兵器に関してですが、核兵器では無いようです」

 

黒木はそういうと、手に持っていたタブレット端末を大泉に手渡した。

 

「トレヴァー・マロニーの周辺を調査したところ、開発が行われているのはレイクンヒース空軍基地と思われます。同基地を衛星で観察しましたが、核兵器開発を行っているような形跡は見当たりませんでした。しかしながら、一定数の人員の出入りと資材の搬入状況から、同基地が新兵器開発の現場で間違いないと考えられています。無論、核濃縮を他で行い、組み立てだけをしているならば別ですが、そのような動きは一切見られませんでした」

 

核兵器開発には、ウランの核濃縮が必要不可欠である。これがなければ核爆弾など作れない。しかし、レイクンヒース空軍基地に、核濃縮を行なえるような施設は確認できないし、そういう施設から資材を搬入している様子もないことから、国家戦略情報省では核兵器開発は行われていないと判断したのだ。

すると官房長官が、ハッと鼻で笑う。

 

「じゃぁ、何を作っているんだ?パンジャンドラムでも作っているのか?」

「それはまだ。引き続き調査を行います」

 

すると、うーむと何かを考えていた大泉が、統合参謀司令長官の方を見た。

 

「統合司令長官。こないだ新型電子戦機が配備されたと思うが・・・・」

「EM-1のことですか?あれならすでに実戦配備も可能です」

 

EM-1というのは、転移前から国防海軍と空軍が開発・配備を進めている新型電子戦機である。種別としては統合電子戦機という新しい機種に分類される本機は、電子データの収集とジャミングを1機で行うことができる双発ターボプロップ機で、最新式のアビオニクスとミサイル警報装置、高出力マイクロ波ミサイル迎撃システム、チャフ・フレア自動散布装置が搭載されていた。陸上機バージョンと艦上機バージョンがあり、本来なら転移した年の翌年から導入開始であったが、転移の影響で配備が延長され1944年に、陸上機型のA型が5機、ようやく実戦配備された新型機であった。

 

「あれを欧州に送ってくれ。情報省の小型機材では、傍受するのにも限度がある。EM-1ならその穴を埋められるだろう?」

「わかりました。リベリオンとファラウェイランドの飛行場を使用すれば1週間ほどで派遣可能ですが、どういう名目で派遣しますか?電子偵察も可能な機体ですから、他国を刺激する可能性もありますが」

「偵察機という名目でいいだろう。こないだ、威力偵察作戦について提案したからな。その準備とでも思わせておけ」

「わかりました」

 

EM-1の派遣は、この会議から1週間後に行われた。

このEM-1が、欧州戦線で大きく活躍するとはだれも気が付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
スエズ運河を奪還し、補給路を確保するために、地中海方面統合軍には海兵隊の全主力部隊である3個海兵師団が派遣されていた

*2
船であれば排水量は5000トン以下のセミコンテナ船に限定。飛行機であれば、レシプロエンジンを使う時速400km以下、航続距離2000km以下の双発機に限定、自動車は、マニュアル車とし、樹脂やカーボンの使用を禁止するなど、性能を著しく制限することとした

*3
日本政府は、無秩序な技術移転による混乱と、産業保護の観点から1940年には特定技術移転規制法が制定されていた。この法律では1960年以降に開発された技術、製品の構造を外国に移転することは禁止され、外国人による技術関連書籍の閲覧、購入が禁止。日本人がこれらの書籍を外国人に譲渡することも禁止とされた。技術関連書籍はすべてビニールやひもで封印され、購入には身分証の提示が必要となった。これらを破った場合は、10年以上15年以下の懲役刑という類を見ない重い処罰が下され。外国人には、無期限入国禁止処分が下されることとなったのだ。

例外として転移に巻き込まれた外国人には、購入等は許可されたが、転移後の世界の人間に開示・譲渡することは禁止され、購入者は、半年に一度役所の検査を受けなければならないほどであった。

企業が外国の子会社への技術移転や外国で工場建設を行う際には、新たに内閣府に設置された技術保護局への申請・認可が必要となった。違反した場合は、責任者・経営者は懲役5年以上10年以下もしくは1000万円以下の罰金またはその両方が科せられ、企業には無期限営業停止処分が下されるというこれまた厳しいものであった。

原子力技術に関しては一切の技術移転を禁止していた。




いかがでしたでしょうか?
今回もかなり長い話となりました。特定技術転移規制法、かなり厳しい内容となっています。でもこれくらい必要ですよね?
それと部隊配置についてですが、以前、感想欄で答えさせていただいたものとかなり違うものとなっていると思います。申し訳ございません。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようならぁ

次回 第46話 真夜中のスクランブル

お楽しみに


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第46話 真夜中のスクランブル

今日は投稿が遅れてしまい申し訳ありません。
本当は9時投稿をしたかったのですが、私事により10時になってしまいました。
では本編どうぞ。


この日のブリタニアは雨であった。その雨雲の上をV-22オスプレイが飛ぶ。

この機体は、国防軍が連絡機兼輸送機として一機だけ501基地に派遣しているものであった。月明かりに照らされる灰色の機体の側面には、日本機であることを表す赤い国籍マークとストライクウィッチーズの部隊章が塗装されていた。

その機内では、坂本が不機嫌そうな顔をして座っていた。その向かい側に座る今浦は、珍しく第1種夏服をまとって、苦笑いしていた。

 

「不機嫌さが顔に出てるわよ?」

 

今浦の隣に座るミーナは、読んでいた本から視線をずらすと、坂本に向かって言った。しかし、坂本は不機嫌な表情を直そうとせず、むしろ一層不機嫌さを強くして答えた。

 

「わざわざ呼び出されて何かと思えば、予算の削減と聞かされたんだ。顔にも出るさ・・・・」

 

統合戦闘航空団というのは、各国から優秀なウィッチを集められている。ウィッチたちが使うストライカーの機材や武器、それらの部品なども各国から供与されたものである。一応、その統合戦闘航空団のある方面統合軍総司令部の所属ということになっているが、生活必需品や基地の備品、予算や人員は、その統合戦闘航空団の基地が存在する国だよりになることが多いため、実質的には統合戦闘航空団の基地がある国にウィッチや兵器、備品を貸し出して運用しているといったほうが正しい。

そのため。ストライクウィッチーズは、書類上は西部方面統合軍総司令部の直轄ということになっているが、実際にはブリタニア軍に各国がウィッチ、備品を貸し出して、ブリタニア軍によって運用されている。501の運営予算も、ブリタニアの軍事予算から出ている*1

 

 

しかし、今回、ブリタニア軍が第501統合戦闘航空団への予算を削減することにしたのだ。これには兵器開発と失われた兵器の補充、軍備拡張が関係していた。

ネウロイとの戦争がはじまり、日本という存在がいる中で、日本の持つ兵器の有用性に気が付いた各国はそれを真似しようとしていた。それはブリタニアも一緒だったのだ。しかし、現代兵器というのは、どうしても金がかかる。精密機器やレアメタルが使われることが多いからだ。ましてや、新機軸が多い兵器の開発は、開発費の高騰を招いたのだ。

また、ブリタニア軍は欧州大陸から撤退するときに装備のほとんどを失っており、これらを補充する必要もある。また、戦争が進むことで戦線が拡大し、軍は規模を拡張する必要が出てきた。しかし、兵士を訓練するのにも兵士に持たせる武器を調達するにも金がかかる。

戦時国債を発行することで、何とかしのいでいたものの、これも返済する必要が出てくる。そのしわ寄せが、ブリタニア軍の部隊ではない、多国籍部隊であるストライクウィッチーズに来たのである。

しかし、ウィッチーズの実績を見る限り、この決定にはブリタニア軍上層部で大きな勢力を誇る反ウィッチ派が大きくかかわっていることは明らかであった*2

 

「彼らもあせっているのよ。私たちばかりに戦果を挙げられてね」

 

ミーナが言う彼らというのは、反ウィッチ派のことであった。

ウィッチーズの有用性は、世界各国が知るところであり、各地で設置されているほどだ。むしろ予算を拡張して、優秀なウィッチの育成やウィッチーズの規模拡張を行うべきである。

 

「連中が見てるのは、自分の足元だけだ」

「戦争屋とか政治屋ってのは、そんなもんだ」

 

今浦は、いまだに不機嫌な坂本にそう言った。

 

「もしネウロイがいなかったら、日本がもともとあった世界みたいに、人類同士で戦争しているかもね」

「世界大戦か。まったく笑えない」

 

第2次世界大戦がどんなものだったのがを習い、日中紛争という人間同士の戦争を体験したことがある今浦は、世界大戦というのがどれほど壮絶で悲惨になるか容易に想像がついた。

お互いが憎しみ合い、その遺恨は何十年も残る。それが人類同士の戦争というものだ。紛争と世界大戦が違うところなど、その憎しみ合い傷つく人間が多くなるか少なくなるかの違いでしかない。本質は何も変わらないのだ。

 

「すまんな、宮藤。せっかくだからブリタニアの町を見せてやろうと思ったんだが・・・・」

 

坂本は、隣で窓の外を眺めていた宮藤に謝った。朝、司令部から呼び出しを受けた坂本は、宮藤を「外国の町を見てみるなんて機会はそうそうないぞ?」といって連れてきたのだが、結局、司令部との会議で宮藤に町を見せることは出来なかった。

 

「いえ、私は軍にもいろんな人がいるんだなって・・・・」

 

その時、どこからか歌声のような物が聞こえてきた。宮藤は、何事だろうと隣にいる坂本に聞いた。

 

「なにか聞こえませんか?」

 

坂本は、少しばかり耳を澄ませてみる。しばらくすると「ああ」と何かに気が付いたようであった。

 

「ああ、これはサーニャの唄だ。基地に近づいたな」

「私たちを迎えに来てくれたのよ」

 

ミーナがそういうと、宮藤はオスプレイに並行して飛ぶサーシャに、窓から手を振った。

 

「ありがとう」

 

すると、それが恥ずかしかったのか、サーニャは雲の中に隠れてしまった。

 

「サーニャちゃんって、照れ屋さんですよね」

「うふふ、でもとってもいい子よ」

 

ミーナがそう返した時、コックピットの方が騒がしくなる。どうにも機長と副操縦士が、無線で管制塔とやり取りをしているようだ。しかし、どうにもその様子がおかしいので、今浦はコックピットに向かう。

 

「どうした?」

「少佐!いえ、本機左後方より高速で接近する所属不明機を確認。現在、基地管制に問い合わせているところです」

 

機長の大尉が今浦にそう返した。今浦は、レーダー画面に映る反応をしばらく見ると、無線機を手に取る。

 

「リトヴャク中尉。左後方から高速で接近する所属不明機を確認した。速度から言って、たぶんネウロイだ」

 

いつの間にかサーニャの唄も止まっていた。

 

『こちらでも確認しています』

 

コックピットでの会話を聞いていた坂本は、魔眼でネウロイを探すが、見つけることができない。

 

「私には何も見えないが」

『雲の中です。肉眼では見えません』

「ど、どうすればいいんですか」

 

ネウロイの襲来と知って、宮藤は慌てる。しかし、今浦も坂本もあきらめたような苦笑いを浮かべる。

 

「どうしようもできない。ストライカーはないし、戦闘機もない。俺らにできるのは、とんずらすることだけさ。こいつにはドアガンもついてないしな」

「そんなぁ」

「っ!まさかそれを狙って?」

 

ミーナが険しい顔をして、そういうと坂本は首を横に振って否定した。

 

「ネウロイはそんな回りくどいことはしないさ」

「それに、そこまで考えられる頭が奴らにあるなら、とっくにブリタニアは落ちてるよ」

 

そもそもネウロイには知性がないというのが定説であり、日本がネウロイに対する戦争を行なえるのも「ネウロイは知性がない。つまり対話できる存在ではなく、人間に対して危害を加える害獣と同じ」という認識があるからだ。

 

『目標は依然、高速で接近してきます』

 

今浦はミーナに「どうします?」という指示を仰ぐような顔をした。

 

「援護が来るまで時間を稼げればいいわ。交戦は出来るだけ避けて」

 

今浦は、レーダー画面を見ながらサーニャに指示を出す。すでに基地のある方向には、友軍機を示すアイコンが映し出されていた。

 

「リトヴャク中尉。聞いた通りだ。すでに基地からはスクランブルが出てる。戦闘機隊は2分もすれば合流するだろう。それまで持ちこたえてくれ」

『はい』

 

サーニャは、返事をするとフリーガーハマーの安全装置を解除する。彼女は、ネウロイの方に向かって言った。

 

――――――――――――――――――――

 

『こちら501管制からストライカーツーへ。すでにリトヴャク中尉が交戦中。誤射に注意しつつ敵を排除してください』

 

雲の上を2機の戦闘機が超音速で飛んでいた。この日のスクランブル当番は、緑川と川野であった。編隊長である緑川は、管制から来た指示に返事をした。

 

「こちらストライカーツー。コピー」

 

すでにレーダーにはネウロイとサーニャ、そして輸送機が映っている。緑川は、無線をサーニャの使っているインカムに合わせる。

 

「リトヴャク中尉。緑川です。援護に入ります」

『了解しました』

 

暫くするとレーダー画面に映る2つのアイコンが離れる。サーニャがネウロイと距離を取ったのだ。

 

「ストライカーツー。FOX-2」

 

ネウロイとの距離は30km。すでにサイドワインダーの射程圏内だ。

緑川は、ネウロイをロックオンすると符丁をコールして発射ボタンを押し込んだ。川野も、緑川と同タイミングでサイドワインダーを放つ。

2発のサイドワインダーは、いつものように極超音速でネウロイに向かう。ネウロイのコアが放つ赤外線を探知すると、それに向かって突っ込んだ。

2つの爆発が長け続けに起きて、雲が押しのけられる。

 

「反撃がない?」

 

緑川は、ネウロイが一発のビームも放っていないことに違和感を抱いた。

その瞬間、レーダー画面が真っ白に染まった。

 

「っ!ジャミング!?」

 

それは現代戦でも行われる電子攻撃、いわゆるジャミングを受けたときと酷似していた。この状態で、赤外線ミサイルをうてば、サーニャに当たってしまうかもしれない。下手な攻撃ができない。

幸い、F-37はジャミングを受けたときには、レーダーや無線の周波数を自動で変えることができる。30秒もすれば、レーダーも無線も回復するはずだ。

暫くすると緑川の予想通り、レーダーと無線が回復した。

 

「AAM-7で対処するわ。サイドワインダーの使用は禁止」

「了解」

 

AAM-7、31式短距離空対空誘導弾にはホーンオンジャム機能という、ジャミング源に突入する機能がある。正しい判断と言えた。弱点は、赤外線ホーミングではないのでネウロイのコアを破壊することが、非常に難しいことである。

 

「FOX-1!」

 

緑川は、ウェポンベイに搭載されているAAM-7すべてを発射する。まぐれ当たりでネウロイが落ちてくれることを期待したのだ。数秒ほどおいて、川野も同じようにAAM-7を放つ。

発射されたAAM-7は、いまだに妨害電波を放ち続けるネウロイに命中した。しかしながら、コア付近には一発たりとも命中することはなかった。

 

「また!?」

 

再びレーダーが真っ白になる。この状態でサイドワインダーを撃っても、誤射の可能性があるから撃つことができない。

またしばらくしてレーダーが回復したとき、ネウロイはガリア方面に向かって逃げかえっていた。

 

「くっ!逃がした・・・・!」

 

緑川は悔しそうな声を出す。その時、基地管制から再び無線が入った。

 

「ストライカーツー。基地へ帰投せよ。繰り返す基地へ帰投せよ」

「ストライカーツー。ラジャー」

 

2機のF-37は、180度反転すると基地に戻っていった。

 

――――――――――――――――――――

 

日本。市ヶ谷

 

執務机の上に設置された固定電話が鳴る。パソコンで書類を確認していた(あずま)統合参謀司令長官は、受話器を手に取った。

 

「もしもし、東だが?」

『東長官。海兵隊の吉川上級大将からお電話です』

 

秘書官の声であった。どうやら海兵隊のトップから何か要件があるらしい。妙な胸騒ぎを覚えつつも電話をつなげるように言う。

 

「わかった。つなげてくれ」

『はい』

 

秘書官の返事の後、プーという電子音がした。それが終わるやいなや、男のだみ声が聞こえてくる。

 

『もしもし』

「もしもし。吉川君か。どうしたんだ?」

 

どうにも慌てた様子の吉川の声に、東は疑問を持つ。

 

『先ほど第81海兵戦闘航空団から報告がありました。501JFWに派遣している戦闘機2機が、ネウロイの電子攻撃を受けたようです』

「なに!?」

 

ガタッと勢いよく立ち上がる。今までのネウロイとの戦争で聞いたことがない報告であった。

 

「それで?」

『幸い、戦闘機はどちらも無事でした。当該ネウロイはガリア方面に逃亡したとのことです』

 

とりあえず戦闘機が無事ということで、東は安堵して、椅子に座りなおす。そしてしばらく考えると口を開いた。

 

「とりあえず特別対策部隊を作ってくれ。部隊編成は現地指揮官に任せる。特別対策部隊には、しばらく501JFWと共同で任務にあたるように指示してくれ。それと君は今わかっている情報をまとめて、こちらに送ってくれ。明日までで頼む」

『了解しました』

 

そういうと受話器を持ったまま、ボタンを押して電話を切る。そして電話番号を手早く入力した。

プルルルという電子音がしばらくした後に、電話がつながる。

 

『はい。防衛大臣室』

「統合参謀司令長官の東です。大臣につないでいただきたい」

『かしこまりました。少々お待ちください』

 

クラシックらしき音楽が、保留音として流れてくる。しばらくするとガチャリという音ともに防衛大臣の声が聞こえてきた。

 

『もしもし。私だ。どうしたんだ?』

「はい。先ほど海兵隊から報告がありまして、欧州方面でネウロイに電子攻撃を受けたと」

『それは本当か!?』

 

防衛大臣も驚いているらしい。

 

「はい。吉川上級大将には素早い情報収集と特別対策部隊の編成を指示しました。明日には詳細な報告がくると思います」

『うん。わかった』

 

幾分か落ち着きを取り戻した防衛大臣は、そう返した。

 

「それと、先日派遣したEM-1を特別対策部隊に加えることを許可していただきたいのですが」

『それは構わない。総理には、私から言っておく。とりあえず詳細が上がってきたら連絡してくれ』

「わかりました。では・・・・」

 

東は、そういうと受話器を置いて電話を切った。背もたれに寄りかかると、壁に飾られた日の丸を見る。

 

「ネウロイが電子攻撃か・・・・」

 

東のつぶやきは、だれもいない静かな執務室に響き渡った。

*1
ただ、戦闘機隊や日本製の航空管制システムの運用費に関しては、例外的に日本が出している。これは、ブリタニアが予算を出していることを盾に、戦闘機やシステムの接収をしたり、運用に口を出さないようにするためである

*2
現にブリタニア軍のウィッチ隊は、予算を減らされたところが多かった




いかがでしたでしょうか?
原作だと、この時期にジャミングはないのですが、さすがにそれだと戦闘機隊にネウロイがあっさり狩られてお話にならないので。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようなら

次回 第47話 特別対策部隊

お楽しみに


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第47話 特別対策部隊(前編)

皆様どうもSM-2です。
最近は何とか週2日投稿ができてる。バルクホルン編どんだけきつかったんや・・・・
では、本編どうぞ


ネウロイとの戦闘の後、ストライクウィッチーズの面々は談話室に集まっていた。

戦闘こそ参加していないものの、雨の中スクランブル出動したウィッチ隊は、風邪をひかないように帰ってきた後シャワーを浴びたから、全員が私服姿である。

 

「じゃあ、今回のネウロイはサーニャ以外誰も見ていないのか?」

 

バルクホルンは、タオルを肩にかけながらそう言った。ソファでグデッとしているハルトマンは訝し気な顔をする。

 

「なにも反撃してこなかったって言うけど、そんなことあるのかな?」

 

すると戦闘に参加していた緑川が、ハルトマンの言葉を否定した。

 

「いえ、反撃はあったわ」

「はい、ネウロイにサイドワインダーが命中した後、ジャミングを受けました。あれじゃ、サイドワインダーを撃つのは危険すぎます」

 

川野の口からジャミングを行われたことを、初めて知らされる。

今浦もオスプレイのレーダーや通信システムが一時的に使用不能になっていたから、ネウロイが電子攻撃を行ったことは知っていたが、他の戦闘機隊員たちは初めて知らされた事実に驚く。

 

「すでに司令部には報告してある。どうやら上の方まで上げるらしい。具体的な指示はまだだ」

 

今浦は、そういった。西部方面統合軍に派遣されている国防軍司令部も、電子攻撃を行うという特殊な能力を有するネウロイの出現に混乱していたのだ。

すると、リーネが桜田に声をかける。

 

「あの、桜田さん。ジャミングって何ですか?」

「え?」

 

そこで戦闘機隊のパイロットたちは、ウィッチ隊の面々がポカンとしているのに気が付く。桜田は、苦笑いしながら質問に答えた。

 

「ジャミングっていうのは、相手のレーダーとか通信機器を妨害する攻撃のことだよ。電子攻撃を受けると、レーダーとか通信機器がノイズだらけになって使い物にならなくなるんだ」

「ジャミング下では、レーダーが使い物にならないから敵と味方の区別が難しくなる」

 

チャックが桜田の説明に捕捉を加える。

サイドワインダーは、敵の発する熱を探知して飛んでいく。しかし、それは終末誘導段階だけの話である。サイドワインダーの本来の誘導方式は、慣性誘導で敵のいるであろう方向に飛んでいくか発射母機が敵の居る方向に誘導して、ミサイルがある程度敵に接近すると、ミサイルのシーカーが敵の熱源を探知して突入する。というものである。この時、熱源が敵か味方かは、敵味方識別装置か発射母機からの情報で判断される。

しかし、これらには電波が使われている。つまり、ジャミングを受けていると敵味方の判断ができなくなるのだ。そうすると、近くにある熱源に勝手に突入してしまい、結局味方を攻撃していました。ということが起こる。

 

「つまり、誤射の可能性が増える」

 

チャックの言葉に、パイロットたちは暗い表情をする。

今まで、戦闘機でありながらネウロイを圧倒することができていたのは、サイドワインダーによる敵のコアへの正確な攻撃と圧倒的長射程によるものだった。しかしながら、そのサイドワインダーを封じられてしまった以上、ネウロイを今まで通りに圧倒することは難しくなる。

 

「じゃぁ、今まで通りネウロイを攻撃できないんですか?」

 

宮藤が不安そうな顔でそう聞いてきた。すると、今浦は首を横に振る。

 

「いや、攻撃は出来るんだ。AAM-7なんかのレーダーを使った誘導方式を採用しているミサイルには、ホーンオンジャム機能がついてる」

「ほーんおんじゃむ・・・・?」

 

またもや聞きなれない単語に、宮藤は首を傾げた。

 

「ああ、さっき言ったジャミングをしている源を特定して飛んでいくんだ。そうすると敵がジャミングをしている限り飛んでいくし、ジャミングを解除しても味方に誤射することなく飛んでいく。ただ・・・・」

 

今浦のもったいぶった言い方に、ウィッチ隊の面々は再び首を傾げた。

 

「ただ、ネウロイのコアの熱源を探知して飛んでいくわけじゃないから、中型以上のネウロイの撃破は困難になる」

 

ネウロイの装甲板には、電波は反射するが熱は透過するという性質がある。そのため、レーダー波を使用するアクティブレーダーホーミング、セミアクティブレーダーホーミング方式のミサイルは、コアが探知できずにただネウロイの一部を破損させるだけしかできない。

小型ネウロイ相手であれば、回復はしないからそれでも撃墜できるのだが、中型以上のコアを持つタイプとなると話は違う。普通の飛行機では致命傷のような損傷でも、ものの数十秒もあれば回復してしまうのだ。

 

「つまり、今浦少佐たちの持つアドバンテージが使えないということか」

 

バルクホルンは、苦々し気につぶやく。

ここまで来ると、察しのいい坂本、ミーナ、バルクホルンの3人は、現在置かれた状況を理解できた。今までは、今浦達が速度を生かして先行。敵のコアを攻撃して撃墜するなり、弱らせて足止めするなりという戦術だったが、それが使えなくなるということなのだ。

 

「なら、ウィッチ隊から夜間戦闘を想定したシフトを組んだ方がよさそうね。今浦少佐たちには、支援攻撃任務に就いてもらいましょう」

「そうだな。それがいい」

 

坂本は、そう言って頷いた。今浦も口には出していないが、同じ気持ちのようだ。

 

「というわけで、サーニャさん」

「はい・・・・」

 

弱弱しいながらも返事をしたことで、ミーナは視線をサーニャから宮藤に移す。

 

「宮藤さん」

「は、はい!」

 

突然名前を呼ばれて慌てて返事をする宮藤。そんな彼女に思いもよらない任務が言い渡される。

 

「あなたたちを当面、夜間専従班に任命します」

「え、私もですか?!」

 

夜間戦闘の経験すらもない自分が夜間専従班に任命されたことに、宮藤は驚いた。すると坂本が宮藤をちらりと見る。

 

「一応、今回の戦闘の経験者だからな」

「経験者って。私はただ見てただけ・・・・うわっ!」

 

宮藤の反論は、エイラが彼女の頭を押さえつけて後ろから乗り出してきたために遮られてしまった。

 

「はいはいはいはい!私もやる!」

「わかったわ。じゃぁエイラさんを含めて3人ね」

 

ミーナも、夜間戦闘経験がサーニャと並んで多いエイラが志願したことで、あっさりと申し出をみとめる。

すると、横にいたサーニャが申し訳なさそうな顔をして、口を開いた。

 

「すみません。私がネウロイを取り逃がしたから・・・・」

 

その言葉を聞いた今浦は、一瞬キョトンとするが、すぐに優しい微笑みを浮かべて父親のようにサーニャに話しかけた。

 

「君は単機で護衛任務を全うした。それは誰にでもできることじゃない。もっと自分を誇りなさい」

 

しかし、サーニャは相変わらず申し訳なさそうな顔をしたままうつむいていた。

 

――――――――――――――――――――

 

翌日。

朝食後に、全員の分のコーヒーを淹れようと、桜田がキッチンにやってきた。すると、冷蔵庫の前でリーネがうずくまって何かを取り出している。

 

「どうしたの?」

 

振り返ったリーネは、紫色の小さな果実が山盛りになったざるを持っていた。一瞬、果実の正体がわからなかった桜田は、しばらくするとそれが何なのかが分かった。

 

「ブルーベリー?」

「はい。私の実家から送られてきたんです。ブルーベリーは目にいいんですよ」

 

桜田は、しばらくブルーベリーをまじまじと見ていたが。きれいな紫色の果実はとてもおいしそうで、桜田は思わずリーネのざるから一つのブルーベリーを手に取って食べてみる。

 

「このブルーベリー、おいしいですね」

「食後のデザートに出そうと思って」

 

そういうとリーネは、17人分の食器を取り出すと手際よくブルーベリーを盛り付けていく。

 

「あ、手伝いますよ」

 

途中から桜田も手伝ったことで、盛り付けは早く終わる。

桜田とリーネは、ブルーベリーが盛り付けられた皿を置いていく。甘いもの好きのハルトマンは、皿が来るなりスプーンを手に取ってものすごい勢いて口に入れる。

その横では、バルクホルンがブルーベリーを見ながらつぶやく。

 

「ブリタニアでは、夜間飛行のパイロットがよく食べると聞くな」

「ああ、アントシアニンでしたっけ?」

 

川野は、咀嚼したブルーベリーを飲み込むと、バルクホルンのつぶやきに反応する。

その川野の真横では、ルッキーニが何やらしていた。

 

「芳佳!シャーリー!べーしてベー!」

 

2人は、ルッキーニの言うとおりに舌を出してみる。それを見るとルッキーニも自身の舌をベーと出した。3人の舌は、ブルーベリーの色素で面白いほど紫色に染まっていた。何が面白いのか、3人はお互いを見あって大笑いを始める。

遠巻きにそれを見ていたペリーヌは、口を拭きながら呆れたように言う。

 

「まったく。ありがちなことを・・・・」

「お前はどうなんだ?」

 

どこからか現れたエイラが、後ろから無理やりペリーヌの口を開かせる。その歯は、まるでお歯黒のように紫に染まっている。

ちょうどそこに、彼女が敬愛する坂本が通りかかる。坂本は、ペリーヌを一瞥すると短く言うにとどまった。

 

「何事もほどほどにな」

 

自分の恥ずかしい姿を敬愛する人間に見られた恥辱に耐えられず、ペリーヌは涙目になっていた。ペリーヌは、エイラの拘束から解放されると、顔を真っ赤にして怒り出す。

 

「なんてことなさいまして!エイラさん!」

「なんてことないって」

 

一方のエイラは、ペリーヌの怒りなどどこ吹く風で、悪戯が成功した子供のように悪い笑みを浮かべていた。

すると、ちょうどその時だった。食堂に何やら命令書のような紙をもった今浦が入ってきた。今浦は、宮藤、サーニャ、エイラの夜間専従班の3人を見ると手招きした。

 

「夜間専従班に伝えたいことがある。ちょっと来てくれ」

 

何事かと思い3人は、今浦のところに集まった。

 

「どうしたんですか?」

 

サーニャがそう聞くと、今浦は話始めた。

 

「うん。さっき国防軍西部方面派遣軍司令部からの通達が届いたんだ。第81海兵戦闘航空団から1個4機戦闘機編隊とEM-1電子戦機2機からなる特別対策部隊を編成するんだそうだ」

「特別対策部隊?」

 

エイラは訝し気にそう言った。

 

「ああ、今回のネウロイの出現を上は重く見ているらしい。そのための部隊だ。今日の夜間哨戒で合流した後、501基地に来るそうだ。ヴェルケ中佐には、もう伝えてある」

 

そういうと今浦は、サーニャに特別対策部隊の行動計画が書かれた書類を手渡す。

 

「これ班全体で確認しておいてくれ。それじゃ、君らは夜に備えて寝なさい」

 

今浦は、そういうと食堂から出て行った。

宮藤達も今浦の指示に従って、夜間哨戒に備えて寝るためにサーニャの部屋に向かった。




いかがでしたでしょうか?
今回は専門用語の説明やらなんやらが多かったですね。次回、特別対策部隊がようやく出てきます。
でも事前に顔合わせとかしてないのは結構危険な気がしなくもないですが、まぁ大丈夫でしょう。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようならぁ

次回 第48話 特別対策部隊(後編)

お楽しみに


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第48話 特別対策部隊(後編)

皆様どうもSM-2です。
今回の話は、かなり短いです。私も深夜テンションで書いたのでいろいろやばい気がする。
では本編どうぞ。


日本海兵隊において、戦闘機を有する戦闘航空団は2つしかない。主な任務は上陸部隊の接近航空支援、制空権確保、海空軍戦闘機隊の補助など多岐にわたる。

その片割れである第81海兵戦闘航空団は、ブリタニア、ヒスパニア、ロマーニャに駐留し主に西部戦線の防空任務にあたっていた。戦線の広さに対して数は不足しているものの、欧州方面に派遣されている海軍空母部隊が穴を埋めることで、数の少なさを補っていた。

 

 

第101海兵戦闘飛行隊は、第81海兵戦闘航空団に所属する4つ飛行隊の一つで、4個の4機戦闘機編隊、計16機の戦闘機を有する部隊だ。現在の任務は、ブリタニアの防衛で、ロンドン郊外のクロイドン飛行場に駐留していた。

電子攻撃を行う特殊なネウロイの出現によって編成されることとなる特別対策部隊の戦闘機部隊は、この第101海兵戦闘飛行隊第4編隊であった。

 

「全員注目」

 

女性の声がブリーフィングルームに響く。ブリーフィングルームには、4人の戦闘機パイロットと2機のEM-1の乗員18名、2人の参謀が集まっていた。

先ほどの声の主は、第101海兵戦闘飛行隊第4編隊編隊長の峰岸(みねぎし) (こころ)少佐であった。

 

「こちらは西部方面派遣軍司令部の難波(なんば)海軍中佐よ」

 

峰岸は、彼女の横にいる青色のデジタル迷彩服を着たがっちりした体系の男性参謀を紹介する。

 

「難波だ。今回、君らには新たな命令が出された」

 

難波は、それだけ言うとブリーフィングルームのスクリーンに、ある資料を映し出した。

 

「昨日、501JFWに派遣中の104MCS(第104海兵戦闘飛行隊)第1編隊が電子攻撃を受けた」

 

その言葉に、その場にいたパイロットたちは驚きの表情を浮かべた。唯一、先に知らされていた峰岸だけは、落ち着いた様子である。

難波はつづけた。

 

「攻撃を受けた戦闘機2機は、無事だったが上はこの事実を大きく受け止めている」

「上、というと?」

 

第4編隊3番機を務める男性中尉が、難波にそう質問した。

 

「市ヶ谷よりも上。と言えばわかるかな?」

 

再び隊員はざわめく。市ヶ谷、すなわち防衛省より上というと思いつくのは官邸、国家安全保障会議くらいしかない。つまり事態はそこまで重大だということだ。

 

「君らには、この電子攻撃を行う特殊なネウロイに対する特別対策部隊に参加してもらう」

「特別対策部隊?」

 

EM-1の機長である男性大尉は、思わずそう聞き返した。

 

「そうだ。君らには、501JFWと協力して特殊なネウロイの調査及び撃破を行ってもらう」

 

ここで難波は話を区切ると、スクリーンに映し出される資料を切り替える。

 

「501の担当部隊と情報を共有してもらうためにも、特別対策部隊は501の基地を拠点として行動してもらう」

「部隊の移動はいつなのでしょう?」

 

第4編隊4番機の女性少尉が、難波に質問した。

 

「非常に急なことではあるが今日だ。今晩、夜間哨戒に参加してもらい、その足で501基地に言ってもらう。空軍電子戦部隊に関しても同じだ」

 

あまりにも急すぎる、とパイロットたちは思った。その気持ちは、難波も重々承知らしい。

 

「急なことであることは理解している。しかし、状況が状況だ。どうか理解してほしい」

 

難波は、そういうと横にいた峰岸の方を向く。

 

「では峰岸少佐。あとは貴官に任せます」

「了解しました」

 

そう言って2人は敬礼すると、難波の方はもう一人の参謀を伴ってブリーフィングルームを出て行った。

峰岸の方は、居並ぶ特別対策部隊の面々を見渡す。

 

「では、これから各員の行動予定について説明するわ。質問があれば受け付けるけれど、詳しいことは501の担当部隊と合流してから聞いた方がいいと思うわ」

 

そういうと峰岸は、スクリーンに特別対策部隊の行動予定を映し、隊員たちに説明するのであった。

 

――――――――――――――――――――

 

その日の夜。宮藤は、初めての夜間哨戒に出ていた。

最初、まるで何もかも飲み込んでしまいそうなほど暗い空に、おびえていたものの、夜間哨戒になれているサーニャとエイラに先導されて雲の上までやってきた。

人工的な光が何もないから、きれいな星がよく見える。初めて見る世界に宮藤は、大はしゃぎしていた。

 

「すごいなぁ!私一人じゃ絶対こんなところまで来られなかったよ!ありがとう!サーニャちゃん!エイラさん!」

 

改めてお礼を言われて、うれしいのか照れるのか、2人は真っ白な頬を赤く染めた。

 

「いいえ、任務だから・・・・」

 

サーニャは、小声で照れたような様子で宮藤にそう言った。

ちょうどその時、エイラは3人の前方を横切るように飛ぶ1機の双発機と、その前を先導するように飛ぶ2機のF-37を見つけた。

 

「あれ、何ダ?」

 

エイラが指をさした方を、残る2人も見る。サーニャは、その3機を見ると今浦が今朝言った特別対策部隊のことを思い出した。

 

「今浦少佐がおっしゃっていた特別対策部隊じゃないかしら・・・・」

「ああ・・・・」

 

エイラも納得したような声を出すと、双発機を先導していた戦闘機2機が旋回して宮藤達の真横にやってくる。3人が戦闘機の方を見ると、先頭の機体のキャノピーからパイロットが宮藤達を見ていた。

すると、インカムから女性の声が聞こえてくる。

 

「こちら第101海兵戦闘飛行隊第4編隊。貴隊の所属を教えてください」

 

すると3人の中で一番階級の高いサーニャが無線に答えた。

 

「第501統合戦闘航空団のアレクサンドラ・ウラジミーロヴナ・リトヴャクです」

「ということは、あなたたちが夜間専従班ね?私は特別対策部隊の峰岸よ。よろしく」

 

3人はやっぱり、と思った。峰岸は、さらにつづけた。

 

「これからしばらくあなたたちと夜間哨戒をすることになるわ。詳しいことはまたあとで」

「はい」

 

口調といい、声といい、とてもやさしそうなので3人は安心した。

 

 

この後、2機の戦闘機と1機の電子戦機は、ウィッチ隊と合流してしばらく夜間哨戒を行うと、あとからやってきた部隊と交替して501基地に向かった。

こうして電子攻撃を行う特殊なネウロイに対する作戦が始まった。




いかがでしたでしょうか?
そういえば、短編小説で「ストライクウィッチーズの世界に日本が転移!?」の地上戦バージョンを投稿させていただきました。ぜひ読んでください。
短編小説のリンク:https://syosetu.org/novel/253363/
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようならぁ

次回 第49話 題未定

お楽しみに


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第49話 誕生日

皆様どうもSM-2です。
投稿遅れまして申し訳ございません(平身低頭
いや、いろいろと事情があったんですよ。あの、許してくださいお願いします。何でもしますから(;^_^A
で、では本編どうぞ。


翌日。峰岸たち特別対策部隊は、割り当てられたブリーフィングルームにいた。

宮藤達との顔合わせは、夜間哨戒が終わった時点で済ませており、今集まっているのは今夜の哨戒計画について説明するためである。

 

「・・・・今日の予定は以上よ。何か質問は?」

 

峰岸が説明を終えて、居並ぶメンバーを見渡す。どうやら質問はないようだ。

峰岸が解散を言い渡そうとしたとき、ブリーフィングルームの扉がトントンとたたかれる。その場の全員の視線が、扉に集まった。

 

「どうぞ」

 

峰岸が入室を許可すると、恐る恐るといった様子で「失礼します」と言いながら宮藤が入ってきた。両手は、ブリキ缶でふさがっており、宮藤は扉を押しのけるように入ってきた。それを見て扉の近くにいた男性中尉が咄嗟に扉を抑える。

 

「あ、ありがとうございます」

「どういたしまして」

 

男性中尉は、にこやかに言った。峰岸は宮藤に近づくと、宮藤が持っていたブリキ缶を指さす。

 

「宮藤さんでしたね。それは?」

「肝油です。ビタミンたっぷりで目にいいからって坂本さんが」

 

そう言って宮藤は、肝油が入ったブリキ缶を峰岸に差し出してくる。峰岸は、一瞬どうしようかと思ったが、悪意のない笑みでブリキ缶を差し出してくる宮藤を見ると、断るのもなんだか悪い気がしてきた。

 

「ありがとう。みんなで飲むわね」

 

峰岸は、にこやかにそういうとブリキ缶を受け取る。

 

「はい。今日の夜もよろしくお願いします」

 

宮藤は、相変わらず悪意が一切感じられない笑顔でそういうと、軽くお辞儀をして部屋から出て行った。

ブリキ缶を受け取った峰岸は、宮藤を見送ると近くの机にブリキ缶を置いた。

 

「せっかくだし、みんなでいただきましょうか。藤松空曹、紙コップを取って頂戴」

 

特別対策部隊の中で最も階級が低い、EM-1の機上電子整備員が全員に紙コップを配る。峰岸は、ブリキ缶から紙コップに肝油を注ぐ。

肝油を受け取った隊員は、受け取った順に肝油を飲んでみる。隊員のほとんどは肝油というものを味わったことがなかった。肝油を味わったことがある隊員も、全員が甘い肝油ドロップしか食べたことがないことから、何の心構えもなく肝油を飲んだ。

そして、次々と顔をしかめた。

 

「くそまじぃ・・・・」

「うぇ・・・・」

「なんだ。こりゃ」

「俺の知ってる肝油じゃねぇ」

 

隊員たちは口々にそういった。隊長の峰岸も、隊員たちの様子を見てチビッとなめた後、静かに紙コップを机に置いたのだった。

 

 

ちなみに、ちょうど同じころにストライクウィッチーズのメンバーにも肝油がふるまわれ、バルクホルンは轟沈し、エイラとサーニャは一口飲んだだけで飲むことを拒否し、ペリーヌは青くなり、「エンジンオイルに似ている」といったシャーリーのつぶやきにマイケルが「どこのソ連人だよ」と突っ込み、おかわりを求めるミーナが全員に引かれたとか。

 

――――――――――――――――――――

 

その日の夜。峰岸たちは、夜間専従班との連携を高めるために哨戒を兼ねて夜間飛行訓練をしていた。

峰岸と4番機のパイロットは、夜間専従班の1000mほど上空を飛ぶEM-1の横を飛んでいた。

 

レッドアイ4、ディスイズピクシー13(ピクシー13よりレッドアイ4へ)ハウアバウトコンタクト(反応はあるか)?」

 

峰岸がEM-1の電子戦システム管制官*1に無線で確認する。しばらくすると無線から短い返事が返ってきた。

 

ネガティブコンタクト(反応はない)

 

すると峰岸は無線を切って、ぽつりとつぶやく。

 

「静かね・・・・」

 

すると無線機から宮藤の声が聞こえてきた。

 

『ねぇ。今日はね。私の誕生日なんだ』

 

どうやら同じ夜間専従班のサーニャとエイラに言っているようだ。任務中に私語とはいかがなものか、と思ったが初めて聞く話で興味があったので、峰岸は特に注意することはなかった。

 

『どうして言わなかったんダヨ』

『私の誕生日は、お父さんの命日でもあるの。なんだかややこしくて言いそびれちゃった』

 

無線を聞いていた特別対策部隊の隊員たちは、初めて聞く宮藤の過去に驚く。

これ以上は、聞かないほうがいいと思い、隊員たちは意識を任務に戻す。しかし、しばらくすると無線機からラジオのような声が聞こえてくる。

 

「おや?」

 

EM-1の電子測定員*2が、少しばかり計器をいじって調べてみると、どうやらサーニャが自身の固有魔法を使って遠く離れた地域の短波放送を受信しているのだと気づく。

 

「すごいな・・・・」

 

電子測定員は、素直に感心したような声を漏らす。隊員たちはそのラジオ放送を聞いていた。やはり、何もない状態で飛ぶよりもさみしさを減らせる。

しかし、しばらくしてラジオ放送ではない、何か声のような物が聞こえてきた。

 

「・・・・ん?」

 

それと同時に、レーダーにノイズが走る。

峰岸が、何事かと思った瞬間、レーダー画面に何かの反応が現れ、次の瞬間には真っ白になっていた。

 

EA(電子攻撃)探知!前方16マイル!クソッ、どこから現れやがった」

 

EM-1の電子戦システム管制官が、電子攻撃の直前にレーダー画面に表れていた情報をすぐさま報告する。すると電子戦指揮官*3は、すぐさま乗組員に指示を出した。

 

ECCM(対抗電子戦)開始。レーダーと無線の復旧に努めろ」

 

戦闘機隊もこの事態に気が付いたらしい。横を飛んでいた戦闘機が、散開してEM-1から離れていく。EM-1は、探知したジャミング電波を解析すると、そのデータをジャミングされていない電波周波数帯で護衛の戦闘機隊に送信する。同時にミサイル迎撃にも使用できる指向性高出力マイクロ波照射装置を使って、ネウロイに向けて高出力マイクロ波を放つ。通常の電子戦機であれば、高出力マイクロ波を充てられると電子システムに異常をきたし、ジャミング電波を飛ばすことはおろか、レーダーや無線、飛行システムにも異常をきたすため、対抗電子戦として現代では一般的な方法だった*4

そうすることで通常よりも早くレーダーが復旧し、再度電子攻撃をされてもEM-1がある限り電子攻撃をほぼ無効化できるのだ。

レーダーと無線が復活した瞬間、下を飛んでいたサーニャが急上昇をしたと同時に、雲の中からビームが飛んできた。赤いビームは、サーニャの左足をかするとストライカーユニットの片方を完全に破壊する。

 

「何やってるの!リトヴャク中尉!」

 

峰岸は、つい感情的になって、復活したばかりの無線でサーニャを責めるような声でそう言った。すると、エイラもやってきて、ストライカーユニットが破壊されたことで安定飛行が困難なサーニャを支える。

 

「バカ!1人でどうする気つもりダヨ」

 

しかし、サーニャは2人の責めるような声に臆することなく言った。

 

「峰岸少佐、エイラ。敵の狙いは私。私から離れて。じゃないと・・・・」

「何言ってるの。それじゃ、なんで私たちは飛んでるの?それに貴女1人に敵を押し付けて、生き残ったんじゃ、大人として恥ずかしいわ」

「そうダ。サーニャを一人にできるわけないダロ!」

 

峰岸とエイラは、口々にそういった。

 

「宮藤さん、リトヴャク中尉を護衛して撤退して。私たちとユーティライネン少尉で足止めするわ」

「なんでですか!」

 

サーニャは、抗議の声を上げる。珍しく声を荒げたサーニャに、峰岸は冷静に答えた。

 

「何より今の貴女の心理状態で戦闘は無理よ。それにストライカーの片方が破損している状態だし」

「そうダナ」

 

エイラは、峰岸の提案に乗るとサーニャの持っていたフリーガーハマーを取った。不安そうにエイラを見るサーニャを安心させるように、エイラは余裕たっぷりに振る舞う。

 

「大丈夫。私は敵の動きを先読みできるから、簡単にやられたりしないよ」

「決まりね。ユーティライネン少尉、私たちがミサイルをうつわ。着弾点にネウロイがいるから撃ってちょうだい」

「了解」

 

エイラが了承の返事をすると、2機の戦闘機は加速してネウロイに向かっていく。その後ろを、フリーガーハマーとMG42を持ったエイラがついていく。

いまだに不安げにエイラを見るサーニャに、宮藤が声をかけた。

 

「サーニャちゃん、行こう」

「うん・・・・」

 

宮藤に言われて、ようやくサーニャは撤退を始めた。

 

――――――――――――――――――――

 

「FOX-1!」

 

峰岸は、攻撃してきたネウロイをロックオンするとミサイル発射ボタンを押し込んだ。両翼下から2発のAAM-7が発射され、いまだにジャミングを続けるネウロイに飛んで行った。

ネウロイは未だに雲の中に隠れているが、高性能なレーダーにはバッチリ映っている。

峰岸の僚機からも放たれた、合計4発のAAM-7はまっすぐ飛ぶネウロイにたけ続けに当たった。

 

「敵ネウロイは、最後の着弾点から針路変わらず。距離3500、時速450km」

「ここくらいカ?当たれよ・・・・」

 

エイラは、祈るような声を出すとフリーガーハマーの引き金を引いた。無誘導ロケットが連続して発射され、まっすぐ飛んで行く。

それと同時に、ネウロイから赤いビームが飛んでくるが、エイラもF-37も難なくかわす。

ロケット弾は、F-37のレーダーにも映っている。ロケット弾を示すアイコンがネウロイを示すアイコンに近づき、重なった瞬間、爆発が起こる。

しかし、ネウロイは消滅することなく、そのままF-37とエイラの下を通過する。

 

「外した!」

「いえ、ロケットは確かに命中していたわ。大丈夫」

 

峰岸は、縦旋回をしてネウロイを追う。エイラに衝撃波がいかないように大分上に上昇した。

 

「敵のジャミング電波が変わった。注意しろ」

 

はるか上空でネウロイのジャミングを観測していたEM-1から無線が入った。同時に、ほんの数秒ほどのあいだレーダーが真っ白になる。

しかし、EM-1からジャミング電波のデータが届くとレーダーはすぐに回復した。

 

「っ!戻ってくる!」

 

レーダーを確認すると、ネウロイは旋回してエイラの方に向かっていた。符丁をコールするのも忘れて、峰岸はネウロイをロックオンすると、素早くミサイルを発射した。

2発のミサイルがネウロイに着弾すると、ようやくネウロイがその姿を現した。

 

「見えた!」

 

その瞬間、ネウロイはエイラに向かって突進していく。空になったフリーガーハマーを放り投げて、MG42を撃つ。7.92㎜モーゼル弾が、ネウロイの装甲を破壊していく。

そこに4発のミサイルが飛んできて、ネウロイの後部を削る。

ネウロイの装甲は、かなり厚いらしくコアは見えない。エイラがMG42を撃っていると、突如ネウロイがビームを飛ばしてくる。

 

「あ・・・・」

 

反応が一瞬遅れて、エイラは逃げ遅れてしまう。赤いビームがエイラを飲み込むかと思われたとき、エイラとネウロイの間に誰かが飛び込んでくる。青いシールドが張られ、ビームは四方八方に飛び散った。

エイラはシールドを張った本人を見て、驚きの声を上げた。

 

「宮藤!」

 

サーニャとともに撤退したはずの宮藤であった。エイラだけでなく、その通信を聞いていた峰岸たちもポカンとしていた。

 

「エイラ、大丈夫?」

 

そう声をかけてきたのはサーニャであった。

 

「な、なんで戻ってきたんダヨ?」

「ごめんなさい。でも、エイラたちを残しては逃げられないわ」

 

口調ほど変わらないが、何時ものおどおどした態度ではなく、どこか力強い覚悟を感じさせる態度であった。

すると、先ほど撤退を提案した峰岸が会話に入ってきた。

 

「リトヴャク中尉、覚悟はできたのね?」

「はい」

「ストライカーの片方が損傷しているけど大丈夫?」

「大丈夫です」

 

やはり口調や声の大きさはいつも通り小さく弱弱しい。しかし、どこか「友達を見捨てない」という覚悟がにじみ出ている。

 

「ならいいわ。頼んだわよ」

 

サーニャから確かな覚悟を受け取った峰岸は、それ以上何も言わなかった。

サーニャは、宮藤が持っていた99式13㎜機関銃を手に取る。どうやら宮藤は、その魔法力を生かしてシールドを張ることに専念するようだ。

 

「FOX-1!」

 

再び2発づつミサイルを放つ。ウェポンベイから放り出されたAAM-7は、固形燃料に点火してM12という超高速で飛んでいく。アクティブレーダーホーミング方式のミサイルは、ジャミングをし続けるネウロイに確実に命中するが、その弱点たるコアに損傷を与えるには至らない。

しかし、そこに7.92㎜モーゼル弾と13㎜弾が殺到する。魔法力が込められた銃弾は、ネウロイの装甲を削り、再生を阻害する。

ネウロイは不協和音を響かせると、エイラたちに向かって突進する。ビームを放つが、絶大な魔法力を誇る宮藤が展開したシールドに阻まれてしまう。シールドの後ろから、エイラとサーニャが真っすぐ突進してくるネウロイに機銃を撃ち続ける。

 

「芸がないわよ!」

 

峰岸と4番機も、エンジン出力を絞り、エアブレーキとフラップを使って減速すると、ネウロイの後ろにつく。

 

「FOX-3」

 

ブォオオオという轟音とともに、戦車の天板装甲を貫通することもできる25㎜機関砲弾が放たれる。7.92、13㎜、25㎜の3種類の銃砲弾がネウロイの装甲板を見る見るうちに削っていく。そのうち赤いコアが露出すると、装甲という阻むものがなくなった銃砲弾はそれを貫いた。

コアが砕け散ると、ネウロイも真っ黒な体を真っ白な破片に変えて飛び散った。

 

ターゲットスプラッシュ(敵機撃墜)・・・・」

『ジャミング電波も消滅しました』

 

戦闘が終わり、峰岸はふぅとため息をついた。その時、無線機から音楽のような物が聞こえてきた。

 

「これは・・・・?」

「どうして。ネウロイは倒したのに」

 

宮藤の意味深な言葉に峰岸が反応する。

 

「どういうこと?」

「さっき、ネウロイと戦ってるときに歌が聞こえてたんダ」

 

宮藤の代わりにエイラが説明してきた。エンジン音やヘルメットのせいでネウロイの唄が聞こえなかったらしい。

すると、サーニャが首を横に振った。

 

「でもこれはお父様のピアノ」

「ふむ、どうやら短波放送の電波を受信したみたいですね」

「この空のどこからか届いているんだ!すごい!奇跡だよ!」

 

EM-1の電子測定員の言葉を聞いて、宮藤が感動したような声を上げる。たまたまサーニャの父親が出ている短波放送の電波をサーニャが受信したのだ。その確率は、とても低いものだろう。

しかし、それをエイラが否定した。

 

「いや、奇跡じゃないかも」

「どういうこと?」

 

奇跡といっても過言ではない状況なのだが、それを否定するエイラに峰岸は、その言葉の意味を聞かずにはいられなかった。

 

「今日はサーニャの誕生日なんダ。正確には昨日カナ?」

 

またもや初めて聞く情報に、エイラとサーニャ以外の全員が驚いた。

 

「へぇ。じゃぁ、宮藤軍曹と同じなのね」

「え、どうしてそれを・・・・」

 

宮藤は、自分の誕生日を峰岸が知っていることに驚いた。

 

「無線で聞こえてたわよ。全部ね」

「あ・・・・」

 

ここでようやく無線を切っていなかったことを思い出して、宮藤は耳のインカムに手をやった。

 

「サーニャのことが大切な人なら、誕生日を祝うなんて当たり前ダロ?世界のどこかにそんな人がいれば、こんなことだって起こるんダ。奇跡なんかじゃない」

 

いつものエイラから想像できないことを言うエイラに、峰岸たちは感心した。それは宮藤も同じだったようだ。

 

「へぇ、エイラさんって・・・・」

「ずいぶんと優しいのね」

 

エイラは恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 

「そんなんじゃねぇヨ。バカ・・・・」

「バカって・・・・」

 

そんな会話をする宮藤とエイラの隣にいたサーニャは、会えなくても世界のどこかで自分のことを思ってくれている両親を思って涙目にな。

 

「お父様、お母様・・・・。サーニャはここにいます。ここにいます」

 

すると宮藤が声をかけた。

 

「サーニャちゃん。誕生日おめでとう!」

「それは貴女もでしょ。宮藤さん」

「えっ!」

 

宮藤は思わずキョトンとしてしまった。

 

「誕生日おめでとう。宮藤さん」

「おめでとナ」

「2人ともおめでとう。あとでプレゼントを用意しなきゃね」

 

エイラと峰岸に続いて、EM-1の乗員たちも口々にお祝いの言葉を述べる。父親が死んでから、一度も誕生日を楽しむことができなかった宮藤だが、多くの仲間に祝われたことでうれしくて涙目になる。

 

「ありがとう・・・・」

 

涙目になりながら宮藤は、心底うれしそうな笑顔でそう言った。

 

――――――――――――――――――――

 

数日後。501基地に段ボールに入った郵便物が送られてきた。

 

「宮藤さんとリトヴャク中尉あてに、なんか届いてますよ?」

 

食堂に段ボール箱を持ってきた桜田がそう言った。食堂でコーヒーを飲んでゆっくりしていた今浦が、興味深そうに段ボールを見る。

 

「誰からだ?これ」

「ええっと、101海兵戦闘飛行隊からです」

「峰岸のところか。でもなんで?」

 

ちょうどその時、宮藤とサーニャが食堂に入ってきた。珍しくサーニャも起きていることから、桜田はちょうどいいと思い段ボールを見せる。

 

「宮藤さんとリトヴャク中尉宛に荷物ですよ」

「え、私たちに?」

 

宮藤は早速段ボールに駆け寄る。桜田は、段ボールに張られているガムテープを器用に取ってやる。そうして開封した段ボールの中には2つのぬいぐるみが入っていた。どちらもネズミな国のぬいぐるみである。

 

「ミッ〇ー?」

 

桜田はぬいぐるみのキャラクターの名前を言いながら、宮藤とサーニャに渡してやる。サーニャは、渡されたぬいぐるみを見ると一言つぶやいた。

 

「かわいい・・・・」

 

どうやらそれは宮藤も同じようで、うれしそうな顔になっている。そんな表情を微笑ましく思いながら、今浦が段ボールの中を除くと1通の手紙を見つけた。

 

「あ、手紙が同封されてるな」

 

今浦はコーヒーカップを机に置くと、段ボール箱から手紙を取って開いた。

 

「えっと、なになに”宮藤さん、リトヴャクさん。遅れましたが誕生日プレゼントです。何がいいのかわからなかったので、22名全員で話し合った結果、日本にあるテーマパークのキャラクターのぬいぐるみにさせていただきました。喜んでいただけると幸いです。改めて誕生日おめでとうございます。私たち22名は、2人の未来が明るいものになることを心よりお祈り申し上げます”だと・・・・」

 

今浦が手紙を読み終えて宮藤達の方を見ると、どうやらぬいぐるみを気に入ったようで大事そうに抱えていた。

普段は戦場に身を置く彼女らだが、こうした年相応なふるまいを見て微笑む今浦と桜田であった。

*1
EM-1の電子戦装備の管理を行う

*2
目標の電子情報の収集を行う乗員

*3
EM-1の電子戦闘の指揮・統括を行う

*4
そのためEM-1のシステムは高出力マイクロ波に対する防御力を挙げており、システム本体を電波を通さない特殊な素材で防護したり、敵の高出力マイクロ波でシステムがダウンしてもすぐに再起動が可能なようになっている




いかがでしたでしょうか。
この話書いてるときに「ちょっと切なくて、時々かなしい作業用BGM」というYouTubeの動画を聞きながら書いてました。結構、筆が進んだ(出来はわからん)
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようならぁ

次回 第50話 未定

お楽しみに


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第50話 ズボン事件

皆様。遅れまして申し訳ございません。
今回は金曜の9時に投稿する予定だったんですが、できませんでした。本当に申し訳ございません。
今回は、かなり長いお話となっておりますので、そのせいで投稿が遅れました。
では、本編どうぞ


早朝。基地は寝静まっている。スクランブル当番で待機している人間や夜間当直で管制塔や無線室なんかに詰めている人間以外は、ほとんど熟睡している。

そんな静かな基地の中を国防軍組の4人は、タンクトップ姿で走っていた。戦闘機隊の人間は、スクランブル当番じゃない限り基地の外周を走り、その後筋トレをするのが日課であった。なぜなら戦闘機パイロットというのはトップアスリート並みの運動を強いられる仕事だからだ。体の何倍もの重さがかかる中、パイロットは体を動かさなくてはならない。日々、鍛えていなければ冗談ではなく命に係わる。

別にスピードを合わせているわけではないが、4人とも似たような鍛え方をしているからか、固まって走っている。

しばらく走っていると、4人の前の方に坂本が見えてきた。どうやら坂本もトレーニング中のようだ。

 

「おはようございます。坂本少佐」

 

一番先頭を走っている桜田が、坂本に挨拶をした。

 

「ああ、4人ともおはよう」

 

もはやこれも見慣れた光景だ。坂本も朝早くからトレーニングをするから戦闘機隊と鉢合わせすることが多い。

坂本を加えて5人がしばらく走っていると、緑川が腕時計を見る。

 

「今浦少佐、桜田少尉。そろそろ時間ですよ」

 

今浦も腕にしてある支給品の時計を見る。

 

「あ、ほんとだ。ではお先に」

 

そういうと今浦と桜田は、集団から離れて行った。その日のスクランブル当番は、任務に支障が出ないように軽いランニングをするだけにとどめる。今日は今浦と桜田がそうであった。

そのうち坂本も別のトレーニングをするために集団から離れ行き、最終的に緑川と川野の2人だけとなる。

 

 

ランニングをはじめて1時間ほどたった時、起床ラッパの音が基地内に鳴り響いた。残っていた2人も、ランニングをやめて首にかけていたタオルで汗を拭く。

 

「ふぅ。じゃぁ、少し休憩した後ジムに行きましょうか」

 

そういうと緑川はそばに置いてあったスポーツドリンクを飲む。川野も同じように汗を拭きながらスポーツドリンクを飲む。近くにあった作業帽をかぶって2人はジムに向かった。

 

―――――――――――――――――――――

 

川野はジムでのトレーニングが終わった後、緑川と別れてシャワーを浴びた。身も心もさっぱりとした後、珍しく訓練飛行の予定のない川野はデジタル迷彩服と作業帽を着て食堂に向かった。

その途中、どうしてもウィッチ隊の居室の近くを通るのだが、今日はどこからかバルクホルンの怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「・・・・?」

 

どうしようかと少し悩んだが、何が起きているのか気になって声のする方へ行ってみる。

すると少し開いたドアの向こう側からバルクホルンの声が聞こえてくる。部屋の中を覗いてみると、五味屋敷のように散らかっていて、足の踏み場はほとんどない。

 

「バルクホルン大尉?どうしたんですか?」

 

薄暗い部屋の中で誰かに向かって怒鳴っているバルクホルンの後ろから、川野は声をかけた。

 

「ああ、川野か。いや、ハルトマンが起きなくてな。手伝ってくれないか」

「んん・・・・あと1時間」

 

バルクホルンの足元に視線をずらすと、確かに床でハルトマンが丸まっている。川野は、少し苦笑いしてハルトマンの部屋に入っていく。

川野はハルトマンの傍までいって中腰になると、ハルトマンに向かって話しかける。

 

「ハルトマン中尉。朝ですよ。起きてください」

「あと2時間」

 

さっきよりも1時間も要求が伸びている。ハルトマンは起こすとさらに寝ようとするのか、と思いながら川野は窓の方へ行ってカーテンを開ける。

 

「中尉。朝日を浴びて、シャワーでも浴びればすっきりしますよ」

「んん、あと1時間」

 

川野は、一向に起きようとしないハルトマンをどうするべきかと思案する。そうやってドアの方まで向かっていると、右足の半長靴の裏から何か硬いものを踏んだ感触が伝わってくる。

 

「ん?・・・・あ」

 

踏んだものの正体を確かめるべく、右足をどかすと川野は固まった。

 

「どうしたんだ」

 

バルクホルンは、気になって川野の足元を見ると、そこには半長靴の足跡がうっすらとついた柏葉付き騎士鉄十字章が落ちていた。

柏葉付き騎士鉄十字章は、世界中を探しても受賞者は991人しかいない。この2つ下の一級鉄十字章の受賞者が30万人ほどといわれるから、どれほど貴重なものかわかるだろう。川野は、そんな貴重な勲章を踏んでしまったのだ。

 

「床に柏葉付き騎士鉄十字章が!?」

 

軍規に厳しいバルクホルンなんか悲鳴じみた声を上げて勲章を拾い上げる。川野の半長靴の足跡がうっすらとついてしまった勲章をしばらく見た後、怒り心頭といった様子でハルトマンに近づいた。

 

「さっさとおきんか!?ッ!」

 

ハルトマンの上にあるタオルケットや軍服の上着なんかをバルクホルンがはぎ取っていくと、なんとハルトマンは半裸姿で寝ていたのだ。ハルトマンもそれに気が付いたらしく、目を開けてバルクホルンにとbがめるような視線を送る。

バルクホルンは顔を赤くしながら、この部屋に唯一いる男性の存在を思い出して、川野の方を向く。

 

「川野!」

「・・・・」

 

川野は、彼から見て右上に視線をずらしていた。一言も発することなく、この場において唯一の正解というべき対応を取っていた。

ひとまず彼の様子に一安心したバルクホルンは、ハルトマンの方を向く。

 

「とにかく何か着んか!穿かんか!」

 

バルクホルンはそう言って手に持っていた衣類や近くにあった本を投げつけるが、さすがエースウィッチというべきか、ハルトマンは少ない動きでそれらをよける。

まさに暖簾に腕押しという言葉がぴったりであった。バルクホルンは、いよいよハルトマンを起こすことをあきらめた。

部屋の隅でいまだに上に視線をずらして固まっている川野を部屋の外に連れて行くと、去り際にハルトマンの方を見た。

 

「とにかく、とっとと着替えて食堂に来い!」

「ん・・・・」

 

わかったのかわからないのかハッキリしない返事に呆れつつも、バルクホルンは部屋の扉を閉めて川野とともに食堂に向かった。

この後、この小さなウィッチが大事件を起こすなど誰にも予想できなかった。

 

――――――――――――――――――――

 

バルクホルンと川野が食堂につくと、緑川とシャーリーが食堂でふかしたジャガイモを食べていた。

緑川は、少し挙動不審気味な川野を見ると、芋を食べる手を止める。

 

「川野少尉。何かあったの?」

「え。い、いえ・・・・何もありません」

 

川野は少し慌てながらもそう返した。今朝あったことは、墓場まで持っていこうと誓ったのである。緑川も少し不審がりながらも、それ以上詮索することはなかった。

すると、今まで芋を一心不乱に食べていたシャーリーが食堂を見渡してからポツリとつぶやく。

 

「しかし、だれも起きてこないな」

「まったく。どいつもこいつもたるんでる!」

 

バルクホルンはジャガイモを食べながら、心底憤慨したような様子でそう言った。

 

「まぁ、しばらくネウロイも現れないみたいだしいいんじゃない?」

「甘いなリベリアン。備えよ常に、だ」

 

するとその時、食堂の外の廊下をマイケル達が通りかかった。どうやら今浦達とのスクランブル当番の引継ぎを終えたらしい。

 

「あ、マイケル!おはよう」

「あ?ああ、おはよう」

 

マイケルは、あくびをしながらシャーリーに返した。すでに彼は耐Gスーツを脱いでパイロットスーツだけの姿になっている。

 

「マイケル、朝食食べるか?」

「いや、いい。このまま寝るからな」

 

それだけ言うと、マイケルは自室に行ってしまった。シャーリーは、そっけないマイケルの様子に何やらふてくされたような態度になる。

 

「なんだ・・・・。あ、その大きいのは私のだろ!」

 

どうやらシャーリーが食べようとしていた芋をバルクホルンが食べてしまったようだ。勝ち誇ったような表情になるバルクホルンをシャーリーがにらみつけた。

その横でコーヒーを淹れてから席に座った川野が二人をいさめた。

 

「まぁまぁ。芋は、これだけあるんですから」

 

そう言って山盛りになった芋を指さすと、シャーリーとバルクホルンは川野の方を向いて息ぴったりに言う。

 

「「それとこれとは話が違う」」

 

余りの迫力に川野は小さく頷いて「わかりました」というと静かにコーヒーを飲み始めた。

 

――――――――――――――――――――

 

事件は、それからしばらくたってから起きた。

スクール水着型の扶桑のズボンを持った坂本と何やらしおらしい宮藤とペリーヌが部屋に入ってきたのだ。

食堂には、食事を終えてゆったりしていた緑川、川野、シャーリー、バルクホルンの4人と遅れてやってきて食事をとっているルッキーニとハルトマンがいた。

何やら様子のおかしい宮藤とペリーヌを見て、くつろいでいた4人が首をかしげていると坂本が4人を呼び寄せて事情を話した。

 

「つまり?お風呂を出たらクロステルマン少尉のズボンが消えていた。そういうこと?」

「はい・・・・」

 

緑川の言葉に、ペリーヌはそう言った。

 

「で、代わりに宮藤軍曹のズボンを穿こうとしたと?」

「はい・・・・」

 

川野の確認に、宮藤は顔を真っ赤にしながら答えた。その宮藤のズボンは、畳んでテーブルの上に置いてある。

 

「あの、そろそろ服を・・・・」

 

どうにも恥ずかしいらしく宮藤はそういうが、バルクホルンが首を横に振った。

 

「いや、これは証拠物件だ」

「そんなぁ・・・・」

 

そんな宮藤の様子を見かねた緑川のは、スッと立ち上がると宮藤のところに行く。

 

「宮藤さん。ちょっと来て。服、貸してあげるから」

「あ、ありがとうございます!」

 

そういうと緑川と宮藤は食堂から出て行った。2人を見送るとバルクホルンが仕切り始めた。

 

「さて、では事件を整理しよう。まず、なぜペリーヌのズボンがなくなったかだ」

「もともと穿いてなかったとか?」

 

ニヤニヤしながらからかうように言うシャーリーに、ペリーヌは声を荒らげて反論した。

 

「そんなわけありませんわ!」

「ということは、誰かが盗んだ可能性が高いというわけだ」

 

バルクホルンは顎に手を当ててそういった。すると、川野は、芋を食べる手が止まり、いやに挙動不審なルッキーニの様子が気になる。

 

「ルッキー二少尉?どうかしたんですか?」

 

すると、ペリーヌも自分の前に風呂を出たのはルッキーニであったことを思い出す。

 

「そういえば、私の前に脱衣所にいたのも・・・・」

 

その言葉で、その場にいた全員の視線がルッキーニに集まる。ルッキーニは冷や汗を垂らし、がたがたと震えている。

 

「まさか・・・・」

 

バルクホルンのその言葉で、耐え切れなくなったのかルッキーニは持っていたフォークを放り出して逃げ出した。逃げ出した際に、ルッキーニの軍服の上着がめくれて、ペリーヌの純白のズボンが見える。

 

「あ!私のズボン!」

 

その瞬間、ルッキーニの容疑は確定した。その場にいたペリーヌ、バルクホルン、川野、シャーリー、坂本の5人は、ルッキーニを追いかけ始めた。

 

「まて!!」

 

ルッキーニはテーブルの周りを一周回るように逃げると、宮藤のズボンの前で躓いてしまう。その時、咄嗟に宮藤のズボンを手に取ってしまった。

 

「あ、宮藤さんのズボン」

 

川野がそういうと、ルッキーニは慌ててそれをもって食堂から出て行ってしまう。5人もそれを追って外に出ると、ちょうど着替え終わって第1種女性用夏服を着た宮藤と緑川がやってきた。

 

「どうしたの?」

「あ、いえ。ルッキーニ少尉がズボンを盗んだ犯人だったようで。現在、宮藤さんのズボンももって逃走中です」

 

緑川に呼び止められた川野は、手短に現在の状況を答える。

 

「え、私のズボン!」

「とにかく追うわよ」

 

状況を理解した2人は、川野とともに4人の後についていった。

 

 

ルッキーニを追って、7人は屋外に出た。しかし、逃げ足の速いルッキーニを見失ってしまう。

 

「どっちに行った?」

「さぁ?」

 

バルクホルンとシャーリーは、あたりを見回してルッキーニを探すが、その姿はどこにもない。

 

「とにかく行こう!」

 

とりあえず7人は、4組に分かれてルッキーニを探すことにした。しかし、身軽でこの基地の構造を完全に把握できるルッキーニをなかなか見つけられない。

緑川と川野も手当たり次第にあたりを探して回るが、見つけることができない。しかし、どこからか宮藤の悲鳴が聞こえてくる。

 

「今のは?」

「あっちに行きましょう!」

 

どうやらバルクホルンたちも宮藤の声を聴いてやってきたようだ。合流して4人で声のした方に行くと、宮藤のズボンを持ったルッキーニがいた。

 

「いたぞ!」

 

バルクホルンの声に反応してか、ルッキーニは4人の方をチラリと見た後に再び逃げ出した。ほかにも騒ぎを聞きつけたペリーヌも合流してルッキーニを追って、再び庁舎の中に入っていった。

 

 

しかし、宮藤達6人は再びルッキーニを見失ってしまう。そこで3組に分けてルッキーニを探すことにした。しかし、部屋が多く外以上に隠れるところが豊富な室内では、捜索は難航した。

2階を探している緑川と川野のもとに、バルクホルンとシャーリー、そしてエイラを加えた3人がやってきた。

 

「ルッキーニは下に逃げたらしい」

「わかったわ」

 

シャーリーが緑川に短く情報を伝える。5人はルッキーニを追って下に行く。ちょうど1階に降りたとき、ルッキーニを見つけた。反対側からは宮藤とペリーヌがやってきた。

 

「まて!」

「ルッキーニちゃん!ズボン返して!」

「返しなさい!この泥棒猫!」

 

左右をはさまれたルッキーニは、後ろの通路に逃げ込んだ。8人が通路にたどり着いたとき、ルッキー二の姿は再び消えてしまう。

 

「どこに行った?」

 

バルクホルンがあたりを見回すが、ルッキーニの姿は認められない。とりあえずそのまま通路を通って外に逃げたとにらんで8人は外に向かった。

8人が外を探し始めたその時だった。突然ネウロイ襲来を告げる警報が鳴り始めた。

 

「敵襲ですの!?」

「く!出撃準備だ!」

 

バルクホルンが指示を出すと、出撃準備ができていない緑川と川野以外の6人は格納庫に走った。

 

――――――――――――――――――――

 

一方、スクランブル当番で待機していた今浦と桜田は、困惑していた。なぜなら待機室にあるディスプレイにはネウロイ出現の情報は表示されておらず、戦闘機に乗り込んで管制塔に確認しても管制塔でもネウロイ出現を確認していないからだ。

 

「どうなってるんだ?」

『ともかく、詳細が判明するまで出撃は許可しない』

 

ふと今浦がウィッチ隊の格納庫の方を見ると、あちらも何やら混乱しているようであった。

 

「くそっ!何がどうなってるんだ!」

 

今浦は大型ディスプレイのふちをドンとたたいた。

 

――――――――――――――――――――

 

緑川と川野は、ルッキーニを探していた。ネウロイの出現は緊急事態ではあるが、今日はスクランブル当番機以外の機体はすべて整備中であり、出撃できないからだ。

川野が屋外を探していると、出てきた通路の方からガチャリという音が聞こえる。

 

「?」

 

川野が音のした方に向かうと、そこにはルッキーニとハルトマンがいた。

 

「ハルトマン中尉!ルッキーニ少尉!」

 

先ほどまで自分を追いかけていた川野が現れたことにびっくりしたのか、ルッキーニはビクッとする。しかし、どうにもそれにしては怯えすぎているように見える。

 

「どうしたんですか?」

「えっとね。そのね・・・・」

 

もごもごとなるルッキーニに代わって、隣にいたハルトマンがしゃべった。

 

「さっきの警報。ルッキーニが間違って押しちゃったんだって」

「え!みんな、出ていきましたが・・・・?」

 

そう言って川野は、まじまじとルッキーニをみる。ルッキーニは申し訳なさそうにうつむて何も言わない。

 

「とにかく格納庫に行って知らせに行きましょう。ルッキーニ少尉、ズボンの件と合わせて自分で謝ってくださいね」

「うじゅ・・・・」

 

そういってルッキーニは小さく頷いた。

 

 

3人が格納庫に向かう途中、警報を聞いて急いで帰ってきたミーナとリーネと出会う。川野はちょうどいいといわんばかりにミーナに事情を話すことにした。

 

「ヴェルケ中佐!」

「あら?川野さん。どうかしたのかしら?」

「先ほどの警報なんですが、どうやらルッキーニ少尉が謝ってスイッチを押してしまったみたいで。ハルトマン中尉が見つけたんです」

「つまり誤報ってこと?」

 

そういってミーナは、川野の後ろにいたルッキーニをみる。申し訳なさそうにうつむいている様子から、本当らしいとミーナは判断した。途端に厳しい顔になる。

 

「とにかく格納庫に行きましょう。たぶんみんな発進しようとしているわ」

「あ、それと。実はルッキーニ少尉がみんなのズボンを盗んで回っていまして」

「本当?」

 

ミーナがルッキーニをにらみつけると、そのあまりの圧にルッキーニは怯えて萎縮してしまう。

 

「わかったわ。ともかくみんなから盗んだズボンは私から返却します。あとで警報の件と合わせて覚悟しておきなさい」

「ひぃいいいい」

 

黒いオーラを放つミーナを前に、言われたルッキーニだけでなく川野も若干ビビってしまった。大の男を委縮させるだけの何かが、今のミーナにはあった。

川野とルッキーニ、ハルトマンは、ともに格納庫の方に向かった。

 

――――――――――――――――――――――

 

格納庫は、混乱のただなかにあった。

ズボンを穿いていないペリーヌは、出撃をすることをためらい。サーニャは、ズボンを盗まれたエイラが穿いた自分のズボンを取り返そうとする。今浦達は、一向に次の情報が来ないために苛立っていた。

 

「何をやっとるんだ。全機、我に続け」

 

混乱を極める彼女らを見て、バルクホルンはあきれ果てて自分だけで発進しようとした。その時、それを止める声が響き渡った。

 

「みんな待って!」

 

この緊急事態に、なぜ止めようとするのかわからずバルクホルンは困惑する。

 

「中佐。敵が!」

 

バルクホルンが状況を話そうとした時だった。

 

「ネウロイはいません。警報は誤報です」

「「「ええ!!」」」

 

先ほどまでの騒ぎは何だったのかとその場にいた全員が驚いた。

 

「出てきなさい」

 

ミーナが厳しい口調でそういうと、物陰からハルトマンと川野に連れられたルッキーニが出てきた。川野は呆れたような声で状況を説明し始めた。

 

「先ほどの警報は、ルッキーニ少尉が誤って警報装置のスイッチを入れてしまったことによる誤報です」

「「「「ええ!」」」」

「なるほどな。それで管制も把握してなかったわけか」

 

ミーナたちの後ろから戦闘機から降りてきた今浦が不機嫌そうな声でそう言った。今浦は、ずいぶんと不機嫌そうな声でルッキーニの方を見ると、普段と全く違う口調でルッキーニに言った。

 

「ルッキーニ少尉。あとでお話がある。覚悟しておきたまえ」

「うじゅ・・・・」

「うじゅ、じゃなくて?」

「はい・・・・」

 

普段の優しい雰囲気とは全く違う今浦の様子に、ルッキーニもすっかり怯えてしまった。

 

「それと、これも没収しました」

 

そういうミーナの手元には、今までルッキーニが盗んだズボンがあった。盗まれた本人である宮藤とペリーヌ、エイラはミーナのもとに駆け寄った。

坂本は腕を組んで感心している。

 

「さすがだな。ミーナ」

「いいえ。今回はハルトマン中尉の御手柄です。この混乱の中、素晴らしい冷静さでした」

「どうもどうも」

 

ミーナの言葉で、全員の視線がハルトマンに集まる。全員が追いかけても捉えられなかったルッキーニを捕まえ、盗まれたズボンを取り返したハルトマンを、全員が口々にほめたたえる。

 

「さぁ、今から表彰を始めましょう。ハルトマン中尉、準備はいい?」

 

実は今日はハルトマンに柏葉付き騎士鉄十字章の一つ上の勲章である柏葉剣付き騎士鉄十字章が叙勲される日だったのだ。ミーナとリーネは、朝から出かけて勲章を取りに行っていたのだ。

ハルトマンは、ミーナの問いかけに元気よく答えた。

 

「了解」

 

叙勲のことと今回の事件のことで皆からほめたたえられるハルトマンの後ろでは、ルッキーニが何か言いたげな顔をして立っていた。

 

――――――――――――――――――――

 

30分ほどして、全員の着替えが終わり、ルッキーニはバツとして水が入ったバケツを持って立立たされていた。

滑走路横で叙勲式を行うからということで、スクランブル当番である今浦と桜田も参加していた。

主役であるハルトマンは、軍服をきちっと着て軍帽をかぶっている。

 

「エーリカ・ハルトマン中尉。壇上へ」

「はい」

 

坂本の進行で、ハルトマンは特別に設置された壇の上に上る。本日の英雄となったハルトマンの受勲を、全員が祝福していた。みんなが拍手をする中、両手に水バケツを持ったルッキーニはつらそうな顔をしていた。

それを見たリーネが横にいた桜田に話しかけた。

 

「ルッキーニちゃん、ちょっとかわいそうですよね」

「うーん。そういえば、なんでルッキーニ少尉はズボンを盗んだんですか?」

 

桜田はルッキーニの方を向いてそう聞く。

 

「もともと、私のズボンがなくなったからペリーヌのを借りたんだよ」

 

ここにきて初めて明らかになった事実であった。ペリーヌも驚いた様子だ。しかしながら、ルッキーニの信用はすでにゼロであり、その証言を信じる人間はいない。

 

「じゃぁ、他に持って言った人間がいるってことかい?」

「でもそんな人いるんですか?」

「いるわけありませんわ」

 

そんな会話をしている5人をよそに、受勲式は粛々と進められていく。ミーナが口上とともに勲章をハルトマンの首に掛けてやると全員が拍手でそれを祝福した。

しかし、その瞬間。風が吹いてハルトマンの軍服がめくれ上がった。それを見て、その場にいた全員が固まった。

佐官として壇上で叙勲式を見守っていた今浦は、全員の様子がおかしいことに気が付く。

 

「どうしたんだ?」

 

そうつぶやくと、全員の視線が集まるほうを見る。そして今浦も固まった。

 

「あ・・・・」

 

そんな彼らの異変をよそにミーナがのんきなことを言う。

 

「みんな祝福してくれているわ」

 

その時、今浦が後ろからハルトマンに声をかけた。

 

「ハルトマン中尉?」

「はい」

 

どうにも様子がおかしい今浦にミーナと坂本は首を傾げた。しかし、今浦は構わず話を進める。

 

「少し聞きたいんだけどさ」

「?」

「てめぇ、そのズボンは誰のだ?」

 

今浦の言葉を受けて、坂本とミーナもハルトマンのズボンを見た。そこには白と青の縞々模様のルッキーニのズボンがあった。

あまりに衝撃的な出来事でミーナと坂本も言葉を失ってしまう。その横で、先ほどまでハルトマンを褒めたたえ、祝福していた今浦は、怒りに震えていた。

 

「つまり、てめぇで原因を作っておきながら、何食わぬ顔で解決してルッキーニ少尉に全部押し付けて、自分は英雄になってたわけか?」

 

今浦はカツカツとハルトマンに近づく。ハルトマンも今浦の尋常ならざる様子に気が付いたのか身構えた。

 

「厚顔無恥も、ほどほどにしろ!!!!」

 

普段、まったく手を出さない今浦は、珍しくハルトマンの頭にげんこつをくらわした。

その後、叙勲式は取りやめになり頭に大きなたんこぶを作ったハルトマンは、正座させられミーナと今浦の2人から1時間ほどの説教を食らうことになった。

 

 

ちなみに、ハルトマンがルッキーニのズボンを盗んだ理由は、自分のズボンを紛失してしまったことであり、原因はごみ屋敷のようになっている散らかった部屋だと断定された。

数日後にバルクホルンと川野の監視のもと、ハルトマンは自室を片付けさせられ、その際にズボンは無事発見された。




いかがでしたでしょうか?
今回の話、かなり長いせいか最後の方雑になってしまった感が否めない。ご容赦くださいませ。
それと金曜日に投稿する、週2日投稿キャンペーンですが「ワールドウィッチーズ発進しますっ!」の放送終了に伴いまして、火曜日の週1投稿に戻らせていただきます。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようなら

次回 第51話 未定

お楽しみに


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第51話 日本の動向Ⅱ

皆様どうもSM-2です。
今回はかなり短めの話になります。久しぶりに短い話な気がする・・・・。
では、本編どうぞ。


日本の首都である東京。そこには中央省庁や大企業の本社などが立ち並び、転移前でも世界第3位。転移後は世界第1位の都市となっていた。

そんな東京の市ヶ谷には、防衛省の庁舎など国防にかかわる組織の庁舎が集まっている。防衛省の部署はもとより統合国防参謀司令本部や陸海空軍、海兵隊、宇宙軍、サイバー軍、特別作戦軍の総司令部の庁舎も設置されている。

その市ヶ谷にある庁舎のうちA棟には統合国防参謀司令本部が置かれていた。何百人という参謀と職員が、国防軍全体を動かすために働いているのだ。

 

 

そのA棟の1室、統合作戦参謀本部*1の脇にある統合作戦参謀長室の扉がたたかれた。

 

「どうぞ」

 

中にいた中将の階級章を付けた男―統合作戦参謀本部付*2藤木(ふじき) 大洋(たいよう)海兵隊中将が入室を許可する。ガチャリと扉が開き、中に人が入ってくると藤木は、パソコンから視線をずらして入ってきた女性の中佐をちらりと見て言った。

 

宮崎大将(統合作戦参謀長)なら、出てるぞ」

「いえ。藤木中将に用が・・・・」

 

中佐の言葉に藤木がいぶかし気な顔をする。

 

「俺に・・・・?」

「はい。長官がお呼びであります」

 

長官というと、この場では一人しかいない。国防軍制服組のトップである統合国防参謀司令長官ただ一人だ。

 

「長官が?わかった、今行く」

 

そういうと藤木はパソコンを閉じて、部屋を出ていく。中佐の案内に従っていくと参謀司令長官室に通される。長官室の扉は開かれており、中を覗いてみると統合国防参謀司令長官をはじめとした、統合国防参謀司令本部を運営する中将以上の人間が集まっていた。

日本の国防軍を運営するトップたちが居並ぶ中に入っていくのをためらう。しかし、意を決して、すでに開いている扉を軽くノックする。

 

「失礼します」

「藤木君、君は去年まで欧州西部方面派遣軍の参謀長をしてたよね」

 

すると、突然、統合国防参謀司令長官がそんなことを聞いてきた。

 

「はい・・・・。ですが、それは?」

 

去年までの経歴がどういう風にかかわるのか、藤木はわからずに首を傾げた。長官は、少し考えるようなそぶりを見せると傍にいた宮崎大将の方を向いた。

 

「宮崎君、現場は混乱するかな?」

「いえ、昨年まで欧州西部方面派遣軍にいたんです。作戦立案にも彼が深くかかわっていますし、統合参謀司令本部付ですから構わんでしょう」

 

宮崎の言葉を聞いて、長官は何かを決めたらしく藤木の方を向いた。

 

「藤木中将」

「はい?」

「近日中に君を、欧州西部方面派遣軍司令官に任命する辞令を出す」

「私が、ですか?」

 

予想だにしなかったことに藤木は驚きの声を上げた。

 

「そうだ君だ」

「ですが、オーヴァーロード作戦は現地ウィッチ隊との綿密な連携が不可欠です。残念ながら自分は適任とは思えません」

 

実は藤木はそうやって首を横に振った。すると藤木の直属の上司である宮崎が話しかけてきた。

 

「501派遣時の件かね?」

「ええ。あれは私も間違ったことを言ったとは思っていませんが、現地指揮官であるヴェルケ中佐は私のことをよく思っていないと思います」

 

すると統合国防参謀司令長官も何かを思い出したのか「ああ」と言った。

 

「あれは君が正しいと思う。普段から共同作戦行動をとるうえで普段からの綿密なコミュニケーションは重要という君の意見には、同意見だからね」

 

実は藤木は、欧州西部方面派遣軍統括参謀長時代に派遣戦闘機隊の扱いについてミーナと対立したことがあった。

その経緯から、自分ではオーヴァーロード作戦に必要不可欠なウィッチ隊との綿密な協力関係を築くことは出来ないのではないかと考えていた。

 

「ですが・・・・」

「これは命令だ、藤木君。君も軍人ならば腹をくくり給え」

 

統合国防参謀司令長官は厳しい口調でそう言った。実は藤木が司令官拝命を固辞するのは、ミーナに苦手意識を抱いているというのも理由の一つであった。長官は、そんな藤木の心を見抜いていたのである。

それは藤木にもわかっているらしく、観念する。

 

「わ、わかりました。謹んで拝命いたします」

「うん。よろしく頼んだよ」

 

藤木の言葉に長官は満足そうな顔をして頷いた。すると脇にいた陸軍参謀総長が統合国防参謀司令長官に話しかけた。

 

「では、前任の西田中将はどうしましょう?」

「そういえば、北部方面軍司令は来年4月に退官だったな。4月になるまでは、統合作戦参謀本部付をやってもらおう」

 

統合国防参謀司令長官は陸軍参謀総長と、藤木の前任の人間の人事をどうするかを話し合う。

 

――――――――――――――――――――

 

3日後。

藤木大洋、海兵隊中将を欧州西部方面派遣軍司令官に任命する辞令が発表された。その7日後には、C-2輸送機を乗り継ぎ、藤木はブリタニアに向かうことになる。

 

 

*1
国防軍の統合運用指揮を担当する

*2

中将あるいは大将の将官がなり、統合参謀司令本部及び防衛大臣の直轄にあり、国防軍の他軍種間における統合運用に関する所掌業務を統括整理し、有事においては他軍種統合運用部隊の指揮を行う




いかがでしたでしょうか。
今回の話は、あさま山荘事件を元にした2002年の映画の1シーンを元にして書かせていただきました。
次回は1話でアニメ原作の1話分進められるかな(語彙力皆無)
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようなら

次回 第52話 未定

お楽しみに


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第52話 不思議な規則

みなさま、どうもSM-2です。
最近は、忙しくて執筆時間が・・・・。休日に一気に書く方針で行くかなと考えております。
では、本編どうぞ


2週間後。

訓練飛行を終えた桜田は、シャワーを浴びた後、基地の外周をウロウロしていた。すると中庭で雑談をしている宮藤とリーネをみつけた。

すると、リーネも桜田を見つけたようだ。

 

「桜田さん!」

「2人ともどうしたんだい?」

 

宮藤が何やら憤慨していた様子だったので、桜田は2人が話していた内容が気になる。

 

「あ、桜田さんも聞いてください。実はさっき整備員の人におはぎを持っていったんですけど、ミーナ中佐がウィッチ隊との必要以上の接触を禁止してるからって受け取ってくれなかったんです・・・・」

「へぇ・・・・」

「なんでミーナ中佐はそんな規則を作ったのか、桜田さんは知りませんか?」

 

宮藤の問いに桜田は首を横に振った。

 

「さぁ。知らないですね。でもその規則でいざこざがあったっていう話を聞いたことはあります」

「いざこざ?」

 

桜田は「はい」というと立っているのに疲れたのか、リーネの横に座る。

 

「実は、先日、国防軍欧州西部方面派遣軍司令官に就任した藤木中将という方がいるのですが、その藤木中将とヴェルケ中佐が対立したことがあるそうです」

「ええ!なんでですか?」

 

初めて聞く話に、リーネは驚きの声を上げる。その横にいる宮藤も同じだ。

 

「実は我々戦闘機隊が501に派遣されるときに、ヴェルケ中佐は戦闘機隊とウィッチ隊との必要以上の接触を禁止しようとしたらしいんです」

「初めて聞いた。リーネちゃんは知ってた?」

「ううん。私も初めて知ったよ」

 

どうやらウィッチ隊ではあまり知られていない話らしい。桜田自身も、派遣時も西部方面派遣軍司令部に所属している大学の先輩にたまたま聞いただけなのだが。

 

「藤木中将は、ヴェルケ中佐のその方針に真っ向から反対したんですよ。戦闘機隊はウィッチ隊との綿密な連携が必要であるから、普段からの綿密なコミュニケーションをとることは重要だ、って・・・・。最終的には藤木中将の意見が通って、戦闘機隊パイロットは例外とされたようですけど」

 

派遣当時から対ネウロイ戦争で大活躍していた日本の意見は、各国において無視できるものではなく。また第2位の影響力をもつリベリオン軍も国防軍の根回しにより、藤木の意見に賛成を表明したため、藤木の意見が通ることとなったのだ。

 

「だから、藤木中将は今回の西部方面派遣軍司令官の就任をためらったっていう話もあるんですよ」

 

ちょうどその時であった。桜田の後ろからシャーリーとルッキーニが現れる。

 

「芳佳!」

「ミーナ中佐が呼んでたぞ~!ブリーフィングルームに来いって!」

「は~い」

 

シャーリーとルッキーニの言葉に返事をしたものの、なぜ呼ばれたのか分からず、宮藤は隣にいたリーネと顔を見合わせた。

 

「どうしたんだろう?」

 

―――――――――――――――――――

 

宮藤は、シャーリーとルッキーニに言われた通りブリーフィングルームにやってきた。扉を軽くノックすると、恐る恐る扉を開いて中に入る。

 

「失礼します・・・・」

 

中にはミーナと坂本、そして扶桑海軍の軍服に身を包んだ初老の男と青いデジタル迷彩服に身を包んだ男女2名がいた。

宮藤は慎重に扉を開いたつもりであったが、重厚なドアは相当大きな音を立ててしまう。その音に反応して、部屋の中にいた5人の視線が一斉に宮藤に集まる。

初老の男は、宮藤に気が付くと脇に置いてあった紫色の風呂敷包みを片手に宮藤に近づいた。

 

「宮藤さん。お会いしたかった」

 

するとまるで初老の男が宮藤に近づくことを防ぐように、ミーナが2人の間に割って入った。

 

「こちらは赤城の艦長の杉田大佐よ」

 

杉田は、ミーナの態度に少し驚いたような表情をする。

 

「杉田です。本日は赤城の乗員を代表してお礼に伺いました」

「お礼?」

 

お礼される身に覚えなどない宮藤は、首をかしげて何のことなのだろうと考える。

 

「はい。宮藤さんのおかげで遣欧艦隊は大切な船を失わずに済みましたし、何より多くの人命が助かりました。本当に感謝しています」

「いえ。あの時は坂本さんやほかの人たちが・・・・それには私は何も」

 

宮藤は頬を赤くして、照れくさそうな顔をする。すると、坂本が首を横に振った。

 

「いや。あの時、お前がいなければ全滅していたかもしれん。それは誇りに思ってもいいぞ。宮藤」

「そうかな。えへへへ・・・・」

 

宮藤が手を頭の後ろにやって照れ笑いをしていると、杉田が先ほどから持っていた大きな紫色の風呂敷包みを宮藤に差し出す。

 

「これをあなたにと」

「あらあら、よかったわね」

 

脇にいたミーナは、その光景を見て柔らかい笑みを浮かべるとそういった。坂本も宮藤のそれを受け取るように促した。

 

「ありがたく受け取っておけ。宮藤」

「ありがとうございます」

 

宮藤が風呂敷包みを受け取ると、杉田の顔は人懐っこそうなおじさんのそれから、険しい軍人の表情に変わる。杉田はミーナの方を向くと口を開いた。

 

「我々も反抗作戦の前哨として出撃することが決まりました」

「杉田大佐。厳しい戦いでしょうが、よろしく頼みます」

 

今まで黙っていた青色のデジタル迷彩服を着た男が立ち上がって、杉田にそう言った。宮藤は、青色の迷彩服を着た男の正体が気になる。

 

「あの、誰ですか?」

「ああ、言っていなかったね。国防軍欧州西部方面派遣軍司令官の藤木だ。宮藤君だったね。君の活躍は聞いているよ。非常に優秀なウィッチだと、日本でも有名だ」

 

宮藤は目の前の人物が、桜田が言っていたミーナと対立した人物だと知って驚いた。

藤木は握手をしようと右手を差し出そうとするが、何かを思い出したようにミーナの方をチラリと見て右手をひっこめる。

宮藤がけげんな顔をする前に藤木は厳しい顔をして杉田の方を見た。

 

「杉田大佐。この威力偵察作戦に今後のガリア開放作戦のすべてがかかっています。よろしく頼みますよ」

「威力偵察作戦?」

 

宮藤がそう聞き返すと藤木の後ろにいた副官らしき女性軍人が口を開く。

 

「ええ、先月ブリタニアの飛行場の改修工事が完了したので、ガリア上空のネウロイの巣へ対する威力偵察作戦を決定しました。杉田大佐たちにはその作戦に参加してもらいます」

 

女性の言葉に杉田はうなずいた。

 

「今日はその途中でよらせていただいたのです。明日には出港ですので、ぜひ赤城にいらしてください。皆が喜びます」

「え、はい!」

 

予想していなかった言葉に、宮藤は思わず了承の返事をしてしまう。しかし、その横で話を聞いていたミーナが険しい顔をする。

 

「せっかくの申し出ですが、明日には出撃予定がありますので・・・・」

「あ・・・・」

 

宮藤もそのことを思い出したらしく、残念そうな声を出す。杉田も心底残念そうな表情をしている。

 

「そうですか。残念です」

 

残念そうな顔をする宮藤に、坂本は声をかける。

 

「宮藤、もう下がってもいいぞ」

「あ、わかりました!」

 

そういうと宮藤は、杉田からもらった紫色の風呂敷包みを片手に部屋から出て行った。

 

 

宮藤が部屋を出ていくと、ミーナはいまだ席に座る藤木の方に体を向けた。坂本も同様だ。

 

「藤木閣下。今日はどのようなご用件でしょうか?」

「申し訳ないね、ヴェルケ中佐。急に押しかけてしまって」

 

藤木の回答は、質問の答えにはなっていなかった。

 

「いえ、それは構いませんが・・・・」

 

ミーナはそう言ったが、内心は物凄い迷惑であった。将官を迎えるのならば、それなりの用意が必要だ。警備、出迎え、スケジュール調整など準備しておかなければならないものはたくさんある。それらは一日二日でどうにかできるものではない。

しかし、藤木はこの日急に訪れたのだ。警備は必要最小限の人員だけ、ミーナたちは何も用意することができなかった。

藤木はそんなミーナの心情などお構いなしにしゃべり始めた。

 

「今日訪れたのは、501の視察と反抗作戦についてだ」

 

ようやく、藤木はミーナの質問に答えた。

 

「先ほど、杉田大佐が言っていたように、間もなくガリア開放作戦が始まる。遅くても今年中にはな・・・・。その際、501にはガリアへの上陸作戦に協力してもらうつもりだ。上陸作戦を指揮する立場として、現在の501の状況を把握しておきたい」

「なるほど。ところで、上陸作戦とおっしゃいましたが、ガリア上空の巣をどうするおつもりでしょう」

「まずは威力偵察作戦で巣の強度をはかる。その情報を元に、適切な兵器使用をもってネウロイの巣を破壊する。現在のところASM-4*1を改造した徹甲対艦誘導弾による飽和攻撃で破壊する予定だが」

 

藤木はさらにつづけた。

 

「いざとなれば、日本はなりふり構わず巣を破壊する。それこそ、()()()を使ってね。ネウロイの巣が破壊できれば、我々はガリアに上陸する」

 

藤木は「全火力」という単語を不自然なまでに強調していった。

ミーナも心当たりがあった。日本が保有しているという最強の兵器のうわさは、各国の軍隊で有名な話であった。絶大な破壊力を誇り、今まで一度も実戦で使われたことのない兵器、扶桑海事変の時に使用が検討されたものの、なぜか使用されなかったという話である。

外国人がそれらの書籍を閲覧したり、インターネットで検索することを制限*2されているため、噂の真相を確かめることは出来なかった。

 

「ガリアの巣を破壊できなかった場合は?」

「もうどうしようもない。その場合は、人類はネウロイの恐怖におびえながら暮らしていくしかないだろう」

 

藤木は、口調こそおふざけ気味に言っていたが、目は真剣そのものだった。ミーナも口には出さないものの藤木と同意見であった。巣を破壊しなければ、ネウロイは無尽蔵に生み出されてくる。巣が破壊できないとなれば、まっているのは人類の滅亡だろう。

 

「君らには上陸支援を行ってもらう予定だ。上陸地点にいるであろう敵ネウロイの撃破と上陸部隊の上空直掩任務だ。詳細は、上陸作戦の日程が決まってから話そう」

 

藤木はスッと立ち上がるとミーナと坂本の方に体を向ける。

 

「すまないが、基地内を案内してくれないか?先ほども言った通り、501の詳しい現状を把握しておきたい」

「了解しました」

 

藤木たちは、ブリーフィングルームを出て行った。

 

――――――――――――――――――――

 

ブリーフィングルームを出ていた宮藤は、部屋の近くで宮藤を待っていたリーネと合流する。桜田は仕事があるからと先にどこかへ行っていしまっていた。

先ほどのことを宮藤はうれしそうにリーネに話した。

 

「艦長さんって大佐だから、ミーナ中佐よりもえらいんだよ。軍司令官さんは中将だから艦長さんよりももっと」

「へぇ、そんなに偉い人たちだったんだ」

 

軍隊の正式な訓練というのを受けたことがない宮藤は、どうやら艦長や軍司令官がどれほどの階級なのか知らなかったらしい。

 

「えらい人たちから褒められるなんて、芳佳ちゃん凄いね!」

「そうかな?えへへ」

 

リーネの言葉に、宮藤は照れくさそうな顔をする。

ウィッチと言えど、宮藤は一介の軍曹だ。大佐や将官クラスの人間に褒められるというのは非常に珍しいことであった。

 

「宮藤さん!」

「ふぇっ!」

 

2人が会話していると、目の前に扶桑海軍の軍服を着た少年が現れた。おそらく杉田の従兵なのだろう。彼は大きな声で宮藤の名前を呼びながら白い封筒を差し出してくる。

 

「先の戦いでの宮藤さんの勇戦敢闘ぶり、大変敬服しました!(ふね)を守っていただき、大変感謝しています!」

「ああ、はい。どういたしまして」

 

だたお礼を言うにしては、いささか様子のおかしい少年兵に宮藤は困惑していた。

 

「あの。そ、そのですね。これ、受け取ってください!」

「あの、その・・・・」

 

どうするべきかわからず、答えに詰まる宮藤に、察しのいいリーネがぼそりと囁く。

 

「ラブレターじゃない?」

「ラブレター?」

「受け取ってあげたら?」

 

そういうとリーネは、宮藤の両手をふさいでいた紫色の風呂敷包みを、半ば強制的に預かる。リーネに背中を押される形で、宮藤は少年兵からラブレターを受け取ろうする。

ちょうどその時だった。

 

「あなたたち、何をしているの?」

 

ミーナの厳しい声がその場に響く。2人は驚いて手紙から手を放してしまう。ちょうど突風が吹いて手紙が舞う、宮藤と少年兵がその手紙を追おうとすると、ちょうどその先にいたミーナが手紙をキャッチした。

ミーナの後ろには、先ほどブリーフィングルームにいた藤木がいるから、藤木を案内する途中だったのだろう。

ミーナは少し手紙を見た後、厳しい表情になる。

 

「このようなことは厳禁と伝えたはずですが」

「申し訳ありません。ぜひとも一言、お礼を言いたくて・・・・」

「そうです。悪いことは何も・・・・」

 

宮藤は少年兵を擁護しようとした。しかし、ミーナは厳しい表情のまま少年兵に歩み寄る。

 

「ウィッチーズとの必要以上の接触は厳禁です。したがって、これはお返しします」

「申し訳ありませんでした」

 

ミーナから返された手紙を残念そうな顔で受け取ると、少年兵は一言謝罪を述べてから足早に立ち去ってしまった。

一部始終を眺めていた藤木は、ミーナを厳しい表情で見つめていた。

*1
国防軍が開発した純国産極超音速ステルス空対艦ミサイル。ステルス性を意識した形状とステルス素材の多用とM8という高速さをもって敵による迎撃を困難にする。その速度を生かして、ミサイルの外殻の強度を強化することで徹甲榴弾としての使用も可能である

*2
パソコン、スマートフォンなどの購入には身分証明が必要となり、外国人に販売することは出来ず、ネットカフェなどを使おうにも身分証明が義務とされたからである




いかがでしたでしょうか。
藤木さん、だいぶ口調代わりましたけど、上官と接するときと上官として部下に接するときじゃ口調変えないと。
そして、次回は藤木さんの驚きの過去が公開される予定です。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようなら

次回 第53話 乗り越えるべき過去

お楽しみに


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第53話 乗り越えるべき過去

皆様どうも。SM-2です。
最近、同居家族がPCR検査を受けました。幸い結果は陰性でしたが、結果が出るまで私も自宅待機となりました。
コロナを改めて実感させられました。こんな状況ですが、みんなで頑張って乗り切りましょう。
では、本編どうぞ



管制室や戦闘機、ウィッチ隊の備品などの視察を終えた藤木は、ミーナとともに基地の正面にある駐車場に向かった。

来るときに乗っていたパジェロⅡ*1のもとに向かった。

 

「有意義な視察だった。また上陸作戦の詳細が決まり次第、うかがうだろう。その時はよろしく」

「はい」

 

ミーナは藤木に敬礼して見送る。藤木もミーナに返礼してパジェロⅡに乗り込もうとするが、その途中何かを思い出したようなそぶりを見せる。そして、助手席の窓から中を覗き込むようにすると女性副官に何やらいう。

 

「少し待っていてくれ」

「わかりました」

 

女性副官がそう言って、車のエンジンを切ると藤木はミーナの方を向いた。突然何事かと思い、ミーナはけげんな表情をしている。

 

「ヴェルケ中佐、少し話をしよう」

「はい、なんでしょう?」

「まだ、あの規則はあるのかな?」

 

藤木の言うあの規則というのが何なのか、ミーナにはすぐにわかった。ウィッチ隊との必要以上の接触を禁止する規則のことだ。表向きはウィッチ隊への性的暴行などを防ぐためとされているが、実際にはミーナの過去が関係していた。

 

「はい」

「たしか・・・・フラッハフェルト君、だったかな?」

「ッ!」

 

ミーナの表情が明らかに変わった。なぜその名前を藤木が知っているのか、ミーナははなはだ疑問であった。なぜなら、その名前はミーナが失った恋人の名前なのだから。

 

「なぜ知っているのか・・・・そういう顔だね?」

「・・・・」

 

ミーナは動揺して何も言えなかった。

 

「ウィッチ隊との必要以上の接触を禁止する。その規則を設けた理由を聞いたとき、君はウィッチが性的

暴行に合うのを防ぐため・・・・そういったね。しかし、私はそれを疑問に思ったんだ」

「疑問・・・・?」

「そうだ。ほかにもウィッチ隊はあまたあるが、そのような規則はここくらいしか聞かない。何より、接触を禁止したところで、そういうクズは性暴力を振るおうとするものだ。意味がないことくらい、聡明な君のことだからわからんはずがないと思った。だから、君の過去に理由があるのではないかと調べさせてもらったんだ。幸い、私はいろいろなところにパイプがあるからね」

 

藤木のいうパイプというのが、カールスラント軍内の人間のことなのかそれとも日本の優秀な情報機関の人間のことなのか、ミーナにはわからなかった。

 

「必要以上の接触を禁止するのは、君と同じような苦しみを味合わせたくないというエゴからくるものかね?」

「・・・・」

 

ミーナは、何も答えなかった。

 

「沈黙は、時に言葉よりも雄弁だ。ここから先は、人生の先輩として、人の親としての言葉だ。別に聞き流してくれて構わない。今、君の目の前にいるのは、君の上官の中将ではなく、君より数十年も長く生きた人生の先輩だ」

 

ミーナからなにも返事はないが、藤木はゆっくりとしゃべり始めた。

 

「人生というのは、出会いと別れの繰り返しだ。別れはいつか必ず来る。所詮、早いか遅いかの違いでしかない。君がどんなことをしようとも、理不尽な別れというのは、来るときは来るものだ。それがこの戦争によってなのか、はたまた平時に人の手によってなのかはわからんがね」

「・・・・」

「本来、君らの年齢は、いろんな人とふれあって、話して、時には恋をして人との接し方を学ぶ、自分の心を育てる時期だ。だけど、君の作った規則はその成長を阻害する要因になっていると、私は思う。部隊の円滑運用だとかそれ以外でも、人生を、人を育てるのにも悪影響であるとおもう」

 

藤木は、きっぱりと言った。

 

「君は、理不尽な別れによってくる悲しみを、苦しみをほかの人に味わってほしくない。そして、その苦しむ様子を見るのが、自分の過去と重なってつらいから、その悲劇を起こさないためにウィッチ隊との必要以上の接触を禁止する規則を作ったんだろう?」

 

藤木の言葉にミーナは何も返さないが、その言葉は的を射ていた。

確かにウィッチーズの隊員に、大切な人を理不尽に失う苦しみを味わってほしくないという気持ちもある。だが、それ以上に、理不尽な別れに苦しむ人間の姿が、過去の自分と重なってしまうのが怖い、という気持ちの方が強かった。

 

「この世は修行だ。苦しみも悲しみも乗り越えなければならない。乗り越えて一歩前に進まなければならないんだ。それは君も一緒だ。君は、ダイナモ作戦の時から一歩も前に踏み出せていない。ずっと立ち止まったままだ」

 

藤木の声には、何か感じるものがあった。過去に理不尽な別れを経験したことでないものでないと発することは出来ない何かが、藤木の言葉には感じられた。

何も言わないミーナを、藤木はしばらく見るとポツリと口を開いた。

 

「ここに川野というパイロットがいるだろう?彼の妹さんがあった事件のことは知っているかい?」

「はい。ある程度は・・・・」

 

なぜそのようなことを聞くのか、ミーナは疑問に思った。

 

「実は、その事件には私の息子の妻、つまりは義理の娘もあったんだ。いや、正確には義理の娘と孫がね」

「え・・・・?」

 

ミーナが藤木の顔を見ると、彼の顔は若干曇っているように見えた。

 

「私には、当時24の、圭介(けいすけ)という息子がいてね。私の後追って、国防陸軍に入隊して少尉になっていた。嫁は、圭介の高校時代の後輩だった。高校のころから付き合っていて、7年の交際だった。授かり婚というやつだったが、長い交際だったからそのころにはお互いの家のこともよく知っていたし、結婚はすんなり決まった」

 

懐かしそうに藤木は話す。

 

「息子は結婚して、孫が生まれる。本当に幸せだった。だけど、あの事件がすべてを狂わせた。たまたま出かけていた嫁が事件にあったんだ。孫の出産日の一か月ほど前だった」

 

藤木は当時、少将として海兵隊参謀司令本部で働いていた。事件の一報を受けた藤木は、仕事を切り上げるとすぐさま帰宅した。病院につくと、霊安室に通され、そこで冷たくなった息子の妻とそのそばで泣き叫ぶ息子、彼女の両親と合流した。

しかし、藤木にとってそのあとも悲劇は続いた。

 

「犯人は心神喪失で無罪。嫁のお母さんは自殺して、お父さんは犯人を殺して自殺した。息子も精神を病んで自殺した」

「ッ!」

 

藤木に何を言ったらいいかわからず、ミーナは黙ってしまった。

 

「人生というのは、何が起こるか分からん。その都度、前に進むことをやめていたら、いくら時間があっても足りん。君が前進できるように祈っているよ。では、また今度」

 

そういうと藤木はパジェロⅡに乗り込んでいってしまった。

 

――――――――――――――――――――

 

その日の夜。ミーナは自身の執務室で一人、昔のことを考えていた。クルト・フラッハフェルト、ミーナの幼馴染にして恋人を失った時のことだ。

すると、後ろからガチャリという音がする。ちらりと見てみると、坂本がいた。

 

「聞いたぞ。手紙を突き返したそうだな」

「ええ、そういう決まりよ」

 

ミーナは冷たく言うが、その声はどこか迷っているようにも聞こえた。坂本がミーナの隣に行くと、ミーナがぽつりとつぶやいた。

 

「ねぇ、美緒。私は、間違っているかしら・・・・」

 

坂本がミーナの方をハッとして向くと、彼女はとても苦しそうな顔をしていた。坂本はそんなミーナに掛けてやる言葉が見つからず、ただ黙っていることしかできなかった。

*1
73式小型トラックの後継として2030年に採用された。愛称はパジェロⅡである




いかがでしたでしょうか?
藤木さん、かなりの過去を持っていましたね。藤木さんが優秀だったのと、犯人を殺したのが自分の子供の配偶者の親ということで、3等親いないではなかったので国防軍をやめさせられることはなかったという設定です。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回、さようならぁ

次回 第54話 前へ

お楽しみに


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第54話 前へ

いやぁ、だいぶ遅れてしまいました。どうもSM-2です。
いろいろとリアルが忙しくって、遅れてしまいました。ゴールデンウイーク中に書こうと思ったんですが、思ったように筆が進まず・・・・。
では、本編どうぞ


翌日。基地中にサイレンの音が鳴り響いていた。

 

「急げ急げ!!」

 

この日のスクランブル隊は今浦と桜田であった。待機室から飛び出ると、2人はハンガーにあるF-37に飛び乗る。

エンジンを始動し、飛行前の点検を軽く済ませる。整備士によってミサイルの安全ピンは抜かれており、いつでも発射可能であった。

 

「今日は珍しく予測が当たりましたね」

「そうだな」

 

滑走路に機体を進ませていた今浦達の前を、ウィッチ隊が発進していく。

 

「俺たちも急ぐぞ」

「了解」

 

2機の戦闘機は、ウィッチ隊の後に続くように飛び立つ。アフターバーナーを焚いて加速しながら、管制塔からネウロイの情報と飛行指示が届く。

すでにF-37のフェーズドアレイレーダーはガリアから501基地に真っすぐ飛んでくるネウロイの姿をとらえていた。

 

「ウィッチ隊へ。ストライカー01、02。先行し、敵ネウロイと交戦を開始する」

「ウィッチ隊、了解しました」

 

あとから発進した戦闘機は、超音速でウィッチ隊を追いぬかしていく。

今浦と桜田は、前方に目を凝らしてネウロイを見逃さないようにする。超音速という超高速で飛んでいるため、いち早く敵を発見しなければならないからだ。

しばらくすると、今浦と桜田の超人的な視力は、青い空に垂らされた墨のような小さな黒い点のような物を見つける。

 

「ストライカー01。エネミーインサイト(敵を確認)エンゲージ(交戦する)

 

編隊長である今浦の言葉と同時に、2機の戦闘機は一気に急上昇してネウロイの上空を抑える。今も昔も上空を取った方が有利であることに変わりはないのだ。

 

「ストライカー01、FOX-1」

「02、FOX-1」

 

符丁のコールとともに、2機の戦闘機のウェポンベイからAAM-7が放り出されるように発射される。すぐさま4発のミサイルは、ネウロイをレーダーでとらえるとその予想針路上に飛んでいく。M7という極超音速で飛んでくる小型の空対空ミサイルをネウロイはとらえることができず、爆発によって飛んできた金属ロットをもろに食らう。

その瞬間、ネウロイは不協和音を放ち、いくつもの個体に分裂した。

 

「なっ!」

 

FLIRでコアの位置を確認しようとしていた今浦は、突然分裂し突っ込んできたネウロイの対応に遅れる。それは桜田も同じようであった。

レーダーを確認しても、小型のネウロイが密集しているため、一つの大きな点のようになってしまっている。

 

「ストライカー02。いったん退避だ。速度で振り切るぞ!」

「ラジャー」

 

2機は再びアフターバーナーを使って急加速すると、小型ネウロイの群れを引き離す。

ちょうどその時、ミーナたちウィッチ隊も遅れて到着した。ミーナは状況を素早く理解すると、自身の固有魔法である空間把握を使ってネウロイの数と位置を確認する。

 

「右下方80、中央100、左30。総勢210機よ」

「勲章の大盤振る舞いだな」

 

坂本は軽口をたたいて見せた。

 

「バルクホルン隊中央、ペリーヌ隊右を迎撃」

「「了解」」

 

早速、指示を受けたバルクホルン、ハルトマン、ペリーヌ、リーネの4人が割り振られた小型ネウロイの集団に突撃する。

 

「坂本少佐と戦闘機隊はコアを捜索して、宮藤さんは坂本少佐の直掩に入りなさい」

「わかった」

「コピー」

「了解しました」

 

指示を受けた戦闘機隊と坂本も上空に展開してネウロイのコアを探し始める。戦闘機隊の特性的に、多くの小型ネウロイの相手をすることは不可能だからだ。

ミーナは直掩任務を割り振った宮藤の方を向く。

 

「いい?貴女の任務は、坂本少佐がコアを見つけるまで敵を寄せ付けないこと」

 

その指示を聞いていた桜田が今浦に軽口をたたいた。

 

「こっちに直掩はないんですかね?」

「速度で振り切れってことだろ。無駄口叩いてる暇があったらコアを探してとっとと破壊しろ」

「ラジャー」

 

ミーナは宮藤に指示を出した後、自分も小型ネウロイの集団に突撃していった。さすがは人類有数のエースウィッチで、圧倒的な数的不利などものともせず、ネウロイを白い破片に変えていく。

バルクホルンとハルトマンもスコア稼ぎとばかりにネウロイを流れるように撃破し、ペリーヌは自身の固有魔法でネウロイを一気に破壊する。少し離れた位置に展開していたリーネも最初のころとは比べ物にならないくらいの正確無比な射撃でネウロイを次々と葬り去る。

コアを探す坂本のもとにもいくつかの小型ネウロイが突っ込んでくるが、そばにいた宮藤がそれらをすべて撃破する。

 

「その調子で頼むぞ!」

「了解」

 

F-37を狙ってくるネウロイも圧倒的速度に翻弄され、25㎜機関砲で葬り去られる。

撃ち落しても減らないネウロイに、バルクホルンと合流したハルトマンはぼやいた。

 

「きりがないよ」

「いったいコアはどこにあるんだ」

 

いつまでたってもコア発見の報告がないことから、ミーナは心配して坂本の傍に行く。

 

「コアは見つかった?」

「だめだ」

「こちらでも見つかっていない。クソッ!どこに隠れやがった」

 

坂本と今浦の報告に、ミーナはハッとする。

 

「まさか、また陽動?」

 

しかし、坂本はミーナの推測に首を横に振る。

 

「違うだろう。気配はあるんだ。だがどうもあの群れの中にはいない」

「じゃぁ、どこに・・・・」

 

その言葉を聞いて今浦はレーダー画面を注意深く見始める。

ミーナは戦闘を眺めながらぽつりとつぶやいた。

 

「戦場は移動しつつあるわね」

「ああ、どんどん大陸に近づいている」

 

ちょうどその時だった。今浦は小型ネウロイの群れからは少し離れたところを飛んでいるアンノウンを発見する。ちょうど、坂本たちの真上であった。

 

「坂本少佐!敵機上方!注意せよ」

 

今浦は素早く坂本たちに注意喚起すると、桜田とともに発見したネウロイの集団に向かう。

坂本も今浦からの注意を受けて視線を上に向ける。確かに、太陽を背にネウロイの集団が突っ込んでくるところだった。それを魔眼で見ようとするが、太陽光線を直視することは難しかった。

 

「くっ!見えない・・・・」

「行きます」

 

直掩についていた宮藤がネウロイを迎撃氏に向かう。シールドを使ってネウロイのビーム攻撃を避けつつ、持っていた機関銃でネウロイを撃墜する。ちょうどそばにいたミーナも、坂本の傍で宮藤の援護をする。

坂本が、太陽を見ないように注意深くネウロイを見ると。集団の中の1機の中に赤く光るコアを確認した。

 

「見えた!」

 

コアを持つネウロイは、坂本たちの右を急降下で逃げていく。

 

「あれなのね」

「ああ」

 

ミーナはインカムのスイッチを押して新たな指示を出した。

 

「全機へ。敵コアを発見。私たちと戦闘機隊でたたくから、他を近づかせないで」

「「「「了解」」」」

 

そういうとミーナたち3人と、2機の戦闘機隊はコアを追った。

 

「ストライカー01。FOX-2」

 

FLIRでコアの熱を探知した今浦はサイドワインダーを2発放つ。しかし、どうやら1発は不良品だったようだ。ネウロイに最初のミサイルがあたり、装甲が削れてコアが露出するが、回避行動をとるネウロイに対して、2発目のミサイルは針路を変えることなく海面に突っ込んでしまう。

 

「クッ!こんな時に不良品か!」

 

すでに2機の戦闘機は、ネウロイを追い越してしまいすぐに攻撃することは出来ない。そんな戦闘機隊の様子を見た坂本は、そばにいた宮藤にすぐに指示を出した。

 

「宮藤!逃がすな!」

「はい!」

 

宮藤は加速すると、回避行動をとるネウロイに向けて機関銃を放つ。曳光弾を交えた機銃弾が、ネウロイに殺到し、露出していたコアを完全に破壊した。

コアが破壊されたことでネウロイは白い破片に代わる。降り注ぐそれが直撃しないよう、戦闘機隊は加速でミーナたちウィッチ隊はシールドを張る。

だが、本来なら容易に防げるはずのそれを、坂本のシールドは防ぐことができなかった。白い破片はシールドを貫通して坂本の頭部をかする。

 

「あっ!美緒・・・・」

 

ミーナはそれを見て心配そうな顔をする。しかし、どうやらミーナ以外そのことに気が付いていないようだ。

皆、ネウロイを撃墜した宮藤のもとに集まって褒めている。

 

「ふん!まぐれですわよ!」

 

ペリーヌが相変わらずひねくれたことを言うが、バルクホルンは彼女の言葉を否定した。

 

「いや。不規則挙動中の敵機に命中させるのは、なかなか難しいんだ」

 

歴戦のバルクホルンに言われてしまうと何も言い返せないのか、ペリーヌは黙り込む。

 

「宮藤、やるじゃん」

「えへへへ。そうかな?」

 

ハルトマンにまで褒められると、宮藤は照れくさそうに笑う。

そんな彼女らの眼下の廃墟となった町に白いネウロイの破片が降り注ぐ。その光景は幻想的で非常に美しかった。

 

「きれい・・・・」

「こうなってしまえばな」

 

宮藤のつぶやきに坂本が応じた。

 

「きれいな花にはとげが、って言いますわね・・・・」

「自分のことか~?」

 

茶化すハルトマンに、ペリーヌはいつも通りかみついた。

 

「失礼ですわね!まぁ、きれいってところは認めて差し上げてもよろしくてよ」

「棘だらけってか?」

 

言い争う二人を背に、何かを見つけたミーナが町の方に降りて行ってしまう。すでに誰もおらず、ネウロイの影響でボロボロになっている町になんのようなのか、ミーナの様子に気が付いた今浦にはわからなかった。

 

「ヴェルケ中佐?」

 

今浦のそのつぶやきに反応して、ハルトマンはミーナを追おうとした。しかし、何かを察した坂本がそれを止める。

 

「まて。しばらく一人にさせてやろう」

 

最初は何故だかわからなかったバルクホルンも何かに気付き、少し悲しそうな眼で、降りていくミーナを見ながらつぶやく。

 

「そうか、ここはパ・ド・カレーか・・・・」

 

 

地上に降り立ったミーナは、そのまままっすぐ1台の車に近づいた。その車は、今は亡き彼女の恋人であるクルトの車であった。

ミーナはそのまま助手席側の扉を開けて中を覗き込むと、運転席に何か紙包みが置いてあることに気が付く。

 

―なにかしら・・・・

 

そう思いながらミーナはそっと紙包みを縛っていた麻糸をほどく。すると中からは、赤いステージ衣装と手紙が出てきた。

その二つを見て、彼女の脳裏にクルトとの思い出がよみがえった。

 

―――――――――――――――――――――

 

クルト・フラッハフェルトは、ミーナの幼馴染にして恋人であった。ともに音楽家を目指し、同居していた時期もある。

しかし、ネウロイの出現、そしてミーナがウィッチとしての素質を持っていたことからすべてが変わった。

対ネウロイ戦において大きな戦力となるウィッチ、しかも稀有な航空ウィッチとしての素質を持っているミーナを軍が見逃すはずもなく、彼女は徴兵された。

当時、通常兵器であっても中型ネウロイに対抗可能である日本国防軍は、補給問題の観点から対ネウロイ戦に本格的に参加していなかったため、ことさらウィッチの最前線配属が望まれ、彼女は最前線への配属が決まった。

そして、クルトもミーナの後を追うように軍に入隊すると最前線に志願。同じ部隊に配属され、ともに対ネウロイ戦の最前線で戦うことになった。

 

 

その後の戦局は悪化の一途であった。彼女らの祖国であるカールスラントは陥落し、ミーナの部隊はガリアに撤退した。

配属されたばかりのウィッチが撃墜されてしまうような厳しい戦いが続いたが、ミーナもクルトも何とか生き延びることができていた。

しかし、戦局が厳しいことには変わらず、ついにはガリアもネウロイの手におちようとしていた。そこでガリアからの全面撤退をするダイナモ作戦が発動。ミーナたちの部隊も民間人撤退のための遅滞戦闘に駆り出された。

ミーナたちウィッチ隊は無事に撤退できたものの、支援要員たちは撤退が遅れ全滅してしまった。当然、ミーナの恋人であるクルトも命を落としたのである。

 

―――――――――――――――――――――

 

クルトとの別れ際、彼はミーナに渡したいものがあるといっていた。このステージ衣装と手紙がその渡したいものであることは、すぐにわかった。

もともと彼女は自分のステージ衣装を持っていたのだが、ウィッチになる時に音楽家への未練を断ち切るために焼き捨ててしまった。しかし、それでも音楽家への道をあきらめきれない気持ちを、クルトは察していたのだろう。

ミーナはステージ衣装から手紙に視線を移すと、震える手でそれを手に取るとゆっくりと開く。そこには懐かしいクルトの文字があった。それを読み進めていくにつれて、彼女はぽろぽろと涙をこぼす。それは手紙に落ちて、文字がにじんでしまう。

 

―クルト・・・・

 

彼女は手紙を大切そうに抱きしめる。そして、普段の大人びた彼女からは想像できない、18歳の少女らしく声を出して泣き始めた。

 

 

他の隊員たちを返し、ミーナを待っていた坂本は静かに彼女が泣き止むまで近くで待っていたのだった。

 

―――――――――――――――――――――

 

その日の夕方、ガリア上空のネウロイの巣への威力偵察任務に向かうため、国防海軍第2艦隊から派遣されたイージス駆逐艦2隻―DDG-111「なす」、DDG-105「あたご」を加えた扶桑海軍遣欧艦隊は、501JFW基地近くを航行していた。

 

「ったく。司令部は何考えているんだ。これくらいの戦力で威力偵察とは・・・・」

 

「あたご」艦長の男性中佐は、艦橋の艦長席に座りながら、そばにいる航海長にしかわからない声でそう漏らした。

しかし、気持ち的には艦の乗員全員が同じ気持ちであった。12隻いる艦隊のうち9隻は第2次大戦時の駆逐艦や巡洋艦で、1隻も大して役に立たないレシプロ機を有する大戦時の空母である。戦力になりうると思われるイージス駆逐艦も1隻は就役から40年以上たつ老齢艦。もう1隻もレールガンを有さないタイプのもので、就役から20年近くたつ船である。一応、「なす」は対空レーザー砲を積んではいるが、ミサイルも大半は古いSM-2やESSMで、最新のSM-7*1やフェイルノート*2などのミサイルは、「なす」にそれぞれ十発程度しか積んでいない。ネウロイの巣というのは、要塞でありネウロイの生産工場だ。非常に硬く強固であり、威力偵察と言えど、空母1隻を含む多数の現代艦艇からなる艦隊と数十機のジェット戦闘機、多数の最新ミサイルが必要となる。

正直、これくらいの戦力ではおとり程度にしかならない。ハッキリ言って死ねといわれているようなものであった*3

 

「はぁ・・・・これにブリタニアとリベリオンの艦隊もつくのか。4隻でどう守れってんだ」

 

艦長のボヤキに横で操艦を指揮していた航海長が、双眼鏡から目を話して苦笑いしながら答えた。

 

「仕方ないですよ。彼らにも面目があるんですし・・・・」

「それで作戦失敗じゃ世話がないぞ。しかも、そのあとに我々が単独で作戦に成功したら、奴らのメンツは余計につぶれるってのに・・・・」

 

ちょうどその時であった。艦橋の横を何かが高速で通り過ぎていく。何かはすぐに上昇してしまったようで艦長席からはあっという間に見えなくなってしまう。仕方なく、艦長は艦橋横にいる見張り員に声をかけた。

 

「おい!今のなんだ?」

「ウィッチです。ケッテ編隊*4でデルタ型*5に組んで飛んでいます。現在、赤城に接近中」

「なんだ。味方か・・・・」

 

とりあえず害をなす存在ではないとわかって艦長は一安心する。ネウロイであったら、ここまで接近する前にビームを撃ってくるだろうし、接近してきた時点でCICから報告が上がるであろうが、絶対はないのだ。

艦長は、艦長席から立ち上がると操舵室を出て、見張り員のもとに向かう。たしかに、そこにはケッテを組んだウィッチがいた。

ここらは聞こえないが、赤城の方に手を振って何か言っているようだ。

その時、艦内無線で通信室から報告が上がる。

 

『艦長。501基地からの通信を傍受しました』

「501基地から?内容は?」

『それが、電報ではなく音声無線で・・・・とにかく流します』

 

通信士官がそういうと、しばらくして艦内無線から歌声のようなのもが聞こえてきた。多少、音楽に造詣が深い艦長は、その歌が何なのかすぐに気が付いた。

 

「ほぉ・・・・リリー・マルレーンか」

 

優しく繊細な歌声に、理不尽な命令ですさんでいた彼の心は幾分か落ち着いたようだった。すると、艦長は通信士官に尋ねる。

 

「これ、扶桑艦隊でも傍受してるかな?」

『おそらく。してると思います』

「そうか・・・・。スピーカーにして艦内全部に流してやれ」

 

艦長はそれだけ言うと、艦長席に座って目を閉じると美しい歌声に耳を澄ませた。

 

――――――――――――――――――――――

 

同時刻。501基地の談話室には、赤城のもとに向かった3人―坂本、宮藤、リーネを除くストライクウィッチーズの隊員全員と、基地運用要員などが集まっていた。

談話室の中心には、赤髪のウィッチ―ミーナがいた。クルトが送ってくれた、彼女の髪と同じ赤いドレスに身を包み、目を閉じてまるで祈るように胸の前で手を合わせている。

サーニャの奏でるピアノの音に合わせて、美しい歌声で歌う。

傍では、普段は管制塔にいる通信兵と機械に詳しいシャーリーがパソコンと通信機をいじって、威力偵察艦隊のもとに音声をリアルタイムで送り届けている。その横ではバルクホルンが、川野の助けを借りながらこれまた日本製のビデオカメラでミーナを撮っている。

ちょうどそこに、戦闘報告書を書き終えた今浦がやってきた。彼は桜田の隣に行くと、ミーナを見ながらぽつりとつぶやく

 

「すごいな・・・・」

 

すると、今浦が来たことに気が付いたルッキーニが小声で話しかけてくる。

 

「今来たの?」

「ああ、戦闘報告書を書いてから来たからな」

「後回しにすればいいのに」

「後回しにしてると忘れるからな。早めにしておかないと」

 

それだけ言うとルッキーニも「ふーん」といって、視線をミーナの方に戻す。ちょうど威力偵察艦隊の見送りに言っていた宮藤達も戻ってきたようであった。

 

「戦争が終わったら、日本で歌手として食っていけるな」

 

黒っぽいTシャツに下はデジタル迷彩服という格好をしたチャックが、いつものふざけた口調でそう言ったが、その点に関してはみんな同意であった。

整った顔立ちに美しい歌声、この二つが合わさっているのだ。今日本で主流となっている音楽には合わないだろうが、それでも人気の歌手になれることは間違いないだろう。

しかし、「戦争が終わったら」なんていうベタな死亡フラグのようなことをいう彼をマイケルが小突く。

 

「そんなフラグみたいなこと言わないでくださいよ」

 

そうこうしているうちに唄が終わったようだ。ピアノの演奏が止まり、ミーナが優雅に一礼すると全員から拍手が送られる。

宮藤がミーナに近づき感想を述べる。

 

「とっても素敵な歌でした」

「ふふ、ありがとう」

 

宮藤の偽らざる本音の感想にミーナは柔和な笑みでそう返した。

すると、宮藤の後ろから忍び寄ったエイラが、宮藤の頬を引っ張る。突然のことに宮藤はびっくりしてしまう。

 

「にゃ、にゃにふるんへふか」

 

エイラに頬を引っ張られていることで発音がしっかりできていないが、「なにするんですか」と言っていることはわかった。

 

「サーニャのピアノはどうした?サーニャの!」

ふぉっへもふへひへひ(とっても素敵でした)

 

その感想を聞いて、サーニャは少し照れたようなそぶりを見せる。

 

「ええい、もっと褒めろ」

ほへへまふっへば(褒めてますってば)

 

その光景に、笑い声が起こる。今浦やチャックらも、とても戦争中とは思えない平和な光景に笑みをこぼす。

先ほどの戦闘まで、とても思いつめた雰囲気を出していたミーナもとても楽しそうに笑っていた。

*1
・RIM-191 スタンダードミサイル7 

種類:艦隊防空用艦対空ミサイル

配備部隊:国防海軍

発射方式:水上艦艇搭載VLS

誘導方式:慣性航法誘導/アクティブレーダー誘導・セミアクティブレーダー誘導・赤外線画像誘導

全長/直径/全幅:6.55m/53㎝/1.5m

発射重量:1.3t

エンジン:スクラムジェットエンジン+固形燃料ロケットエンジン

最大速度:M10

射程距離/最大射高:450㎞/35,000m

弾頭:レーザー近接信管付き指向性爆発破砕弾頭

概要:極超音速ミサイルに対応可能なよう、SM-6の速度強化版として開発された艦隊防空用艦対空ミサイル。

その速度性能から短距離弾道ミサイルへの限定的な対応能力も有しており、本ミサイルの改良型であるRIM-240 スタンダードミサイル8が弾道弾迎撃ミサイルとして開発されている。

現在、SM-2やSM-6との交替が進んでおり、前述ミサイルを搭載していた艦艇もシステムアップデートによりSM-7の搭載が可能となっている。

*2
・RIM-212 フェイルノート 

種類:個艦防御用艦対空ミサイル

配備部隊:国防海軍

発射方式:艦艇搭載VLS

誘導方式:慣性航法・指令誘導/セミアクティブ・アクティブレーダーホーミング複合誘導・赤外線画像誘導

全長/直径/全幅:3.8m/0.25m/63㎝

発射重量:270㎏

エンジン:ダクテッドロケット方式スクラムジェットエンジン

最大速度:M11

射程距離/最大射高:50㎞/30,000m

弾頭:レーザー近接信管付き指向性爆発破砕弾頭

概要:極超音速ミサイルに対応するべく、ESSMの後継として採用された個艦防御用艦対空ミサイル。

ダクテッドロケット方式スクラムジェットエンジンを搭載しており、運動性と極超音速の飛翔性能を獲得している。VLS1セルあたり4発が搭載可能で、国防海軍の駆逐艦すべてに搭載されている優秀なミサイル。

*3
実際、国防軍は欧州に派遣した軽空母1隻を含む空母護衛艦隊とブリタニアの海兵隊航空部隊を使って単独で威力偵察を行う予定であった。しかし、連合国各国が日本にガリア開放の実績をすべて奪われることを嫌ったのである。そのため、日本も渋々連合国が威力偵察作戦を行うことを認め、護衛(お守り)として第2艦隊からイージス艦2隻と汎用駆逐艦2隻をつけて行うことにしたのである

*4
第2次世界大戦前から前半にかけて主流だった戦闘機の編隊。3機で1編隊を組む。現代では2機1組のロッテ編隊や4機1編隊のシュバルム編隊が主流

*5
三角形に編隊を組むこと




いかがでしたでしょうか?
最近、他作者様のストパン物の小説読んでいるんですがね。いやぁ、文才がある方ばかりで嫉妬してしまう・・・・。もっといろんな本を読んでいかねばならないと決意しているところでございます。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。
ではまた次回。さようならぁ

次回 第55話 未定

お楽しみに


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第55話 オペレーション・オヴァ―ロード

皆様、お久しぶりです。
そして、新年あけましておめでとうございます。
新年早々の投稿でございます。
では、本編どうぞ


さて、欧州戦線から遠く離れた日本の永田町では、対ネウロイ戦争が始まってから何度目ともわからない国家安全保障会議が開かれていた。

主題は、ガリア解放作戦―作戦名、オーヴァーロードについてであった。

居並ぶ閣僚らの目の前には作戦概要が書かれた書類がおかれ、モニターの横には国防軍制服組のトップである東 統合参謀司令本部長官が座って、作戦の説明をしていた。

 

「つまり、ガリアのネウロイの巣が破壊でき次第、海兵隊4個師団からなる上陸部隊はコタンタン半島に上陸。その後、第2陣のリベリオン軍3個師団、ブリタニア軍2個師団の上陸を待って、コタンタン半島内陸部に侵攻し、隊を二つに分け、海兵隊1個師団、リベリオン軍1個師団からなる計4万名の部隊はシェルブールに向かい、残る海兵隊3個師団、リベリオン軍2個師団、ブリタニア軍2個師団の計12万はクータンス、サン=ロー、バイユーを解放、このラインで警戒線を引きネウロイのコタンタン半島侵入を阻止します」

 

東の説明に合わせて、モニターに映し出されたコタンタン半島の地図に友軍部隊を表す青い凸型のアイコンが現れ、シェルブールとクータンス―サンロー―バイユーに向かう。クータンス―バイユー間にラインが引かれ、そこからコタンタン半島側がすべて青く塗られた。

 

「ここまでが作戦の第1段階です。第1段階が終了次第、リベリオン軍47個師団、カールスラント軍30個師団、ガリア軍12個師団、ブリタニア軍10個師団の上陸を待ち、3つの軍集団を編成します。編成が完了次第、セーヌ川を最終到達ラインとして侵攻を開始するのが第2段階です」

「3つの軍集団の内訳と任務の内容は?」

 

外務大臣からの質問に、東は答えた。

 

「まず、ブリタニア軍10個師団より編成される第21軍集団の任務は、北部ガリアよりブリタニア海峡沿いに侵攻、ルーアンより北を担当します。次にリベリオン軍20個師団、ガリア軍12個師団、カールスラント軍10個師団、我々の3個師団2個旅団からなる第12軍集団はルーアンからトロアを経由してディジョンまでの地域を担当します。リベリオン軍30個師団からなる第6軍集団はディジョンからニースまでの地域を担当し、ロマーニャおよびヒスパニア方面から進軍してくるロマーニャ軍およびヒスパニア軍と共同で南部ガリアのネウロイを一掃します」

「つまり、セーヌ川に連合軍が到達し、それより南部にいるネウロイの一掃が第2段階ということか?」

 

官房長官の言葉に東はコクリと頷いた。

 

「その通りです。第2段階が完了したら、我々は軍集団を再編成します。まず、ブリタニア軍10個師団に加え、新たにファラウェイランド軍5個師団を加えた第21軍集団はベルギカ、ネーデルラント方面の開放を行います。次にリベリオン軍35個師団、カールスラント軍10個師団、ガリア軍12個師団、我々の4個師団からなる第12軍集団はライン川までの地域を解放します。リベリオン軍15個師団からなる第6軍集団はアルザス地方を担当します。軍集団の再編成が完了次第、セーヌ川を攻勢発起点とし、ライン川を目標ラインとする第3段階を発動。ガリア、ベルギカ、ネーデルラントを完全に開放します」

 

モニターの地図は、セーヌ川から南側が青く塗られており、北側が赤く塗られていた。しかし、東の説明と同時に青い部分が北上し、ライン川まで到達する。

 

「以上が、オーヴァーロード作戦の大まかな説明となります」

 

東がそういうと、官房長官が彼に質問する。

 

「ライン川よりカールスラント側への侵攻をしないのか?」

「ライン川よりカールスラント側は、ベルリンのネウロイの巣の勢力圏ですから、これをどうにかしないことには何とも・・・・」

「そうか。いや、わかった。説明ありがとう」

 

官房長官は東の説明に納得したようであった。すると大泉が口を開く。

 

「我が国の投入兵力は各国と比べて少ないようだが、もう少し増員することは、やっぱり無理かね?」

 

大泉も、これほどの陸上戦力の数では、カールスラント軍やリベリオン軍などの部隊の掩護や機動性を生かした火消しに回らざるえないことはわかっていた。

しかし、それでは日本が戦後のイニシアティブを握るのは難しいと考えていたのだ。圧倒的空軍、海軍戦力を持っていても、どうやっても陸をカバーできるだけの陸上戦力がなければ軍事的イニシアティブを握るには一歩足りない。

ランドパワー国家を黙らせるには、海軍だけでは足りないのだ。そこで日本も圧倒的質とそこそこの量を持つ陸上戦力があることを見せつけたいと思うのは当然であった。

 

「不可能です。これ以上の動員となりますと、ほか戦線より部隊をさらに引き抜くほかありません。しかし、ほか戦線でもわが軍は浸透してくるネウロイへの機動防御任務がありますから、これらがなくなるとほか戦線の余裕がなくなり、崩れる可能性があります」

 

東はきっぱりと答えた。

 

「う~む。本土から部隊を引き抜くのも不可能なんだね?」

「はい。すでに本土の部隊は予備役を総動員しています。すでに現役の隊員にも、国防法にのっとり戦時下ということで依願退役などを禁止しておりますし*1、採用定員を増やしていますが、新規入隊者が戦力になるまで時間がかかります。この状態で本土から部隊をさらに派遣すれば、本土の防衛や災害時に対応できません」

 

このネウロイとの戦争がはじまり日本が介入して以来、国防軍もただ「人が足りない」などと言っているだけではなく、きちんと増員に動いていた。

日本がこの世界に転移してきた直後、1939年の国防軍の採用人数は全部合わせて約16,000名であった。しかし、ネウロイとの戦争がはじまり、新たな国防大綱と中期防衛力整備計画が発表された1940年は約23,000名、その後も増えていき1942年には応募者約60,000名の半数近くとなる約30,000名が採用された。これは1940年に発表された中期防衛力整備計画*2と1943年の中期防衛力整備計画*3のための増員であった。

しかしながら、それらを実戦配備することはできないのだ。軍隊というのは一般人から人を集めて銃と弾を渡したから戦えるというわけではない。きちんと戦えるように体力と技術を身に着けるために訓練を行い、それらを指揮する下士官や士官を教育し、指揮命令系統をきちんと作らなければ戦えないのだ。そのため、書類上では国防軍はかなりの拡張されてはいたものの、実際にそれらがきちんと戦力として機能するのはまだ先のことであった*4

 

「そうか。いや、すまない。無理を言ったな」

 

軍事のプロに無理といわれたものは、逆立ちしようが無理である。大泉はすぐに引き下がった。すると、代わりに国土交通大臣が口を開く。

 

「この作戦の統括指揮は誰がとるんだ?」

「階級的な問題から、総指揮官をリベリオン陸軍のドナルド・D・アイゼンハワー大将が努めます。藤木中将は、作戦統括参謀長として上陸作戦の実質的な指揮を執ってもらいます」

「わかった。いや、ありがとう」

 

すると今度は国家安全保障局長が質問をする。

 

「上陸時のエアカバーはどこがやるんだ?まさか、エアカバーなしで上陸するわけではないだろう?」

「はい。エアカバーにはブリタニアに駐留中の第101海兵戦闘飛行隊と第1空母打撃艦隊、米海兵隊第12海兵航空群、それとブリタニア駐留の各国ウィッチ隊などです」

「ブリタニア軍やリベリオン軍の戦闘機隊は参加しないのか?」

「はい。そもそもネウロイに対する攻撃能力がウィッチ隊や我々の戦闘機隊よりも乏しいうえに、IFF(敵味方識別装置)を搭載していませんから、むしろ現地部隊の足かせとなります」

 

参謀はきっぱりとそう言ってのけた。確かにIFFの搭載を考えていない戦闘機に、いちいちIFFとバッテリーを搭載するには時間も予算もかかる。それに十分なエアカバーがすでにあるのだ、なら参加してもらわない方がいっそいい。

最後に質問したのは防衛大臣であった。

 

「肝心の巣の破壊の方はどうなっているんだ?」

「現在、威力偵察作戦が進行中です。作戦の結果次第ですが、現在のところは徹甲空対艦誘導弾による飽和攻撃を予定しています。三菱に増産を要請しており、11月までに50発が納品される予定です」

 

ここで言っている徹甲空対艦誘導弾とは、転移前の2027年に国防空軍及び海軍で正式採用された27式空対艦誘導弾―ASM-4の改良型であるASM-4B*5の外殻などを装甲素材などで分厚くするなどのさらなる改良を加えたものであった。

 

「もし、それで破壊不可能であった場合は?」

「その際には、()()()()()()()()事態となる可能性もあります」

 

東の言葉の意味が分からない無能など、この部屋には一人としていなかった。国防軍が無制限の武力行使を認められる防衛出動が発動されている状態で、総理自身が決断をしなければならない事態など、そう多くはないからだ。

この会議の長でもある大泉に、視線が集まった。大泉は、重々しく頷くと東に告げた。

 

「わかった。万が一がないと信じたいが、そういうことになったときのために横須賀の潜水隊を派遣しておいてくれ」

「わかりました」

 

横須賀の潜水隊―横須賀にいる原子力潜水艦部隊である第1戦略攻撃潜水艦隊配下の戦略潜水隊のことだ*6。つまり、核弾頭搭載型を含む、潜水艦発射型弾道ミサイルや巡航ミサイルを搭載した原潜を欧州に派遣するということだ。

転移前の日本は、水素爆弾5発、原子爆弾を20発配備していたが、転移後にネウロイの脅威にさらされてから、ひそかに量産を行っていた。

 

「我々はあらゆる手段を使ってでもネウロイをこの地上から撃滅しなければならない。そうしなければ、待っているのは人類の滅亡だ。そのことを重々心に刻んで、作戦に臨んでほしい」

「はっ」

 

この日の会議はこれにて終わり、ネウロイへの反抗となるガリア解放作戦の内容が決定された。

 

―――――――――――――――

 

会議が終わり、自身も市ヶ谷に戻ろうとしていた東のもとに、黒木国家戦略情報大臣がやってくる。

 

「黒木大臣。いかがしました?」

「ええ、例の電波妨害型ネウロイと、それに付随するネウロイの電波情報についての話でね」

 

東は、黒木の言葉を聞いて「ああ、あのことか」と思う。

 

「あれが、どうかしたんですか?」

「あとでそちらにも通達が行くと思うけど、あれに付随する情報はすべて機密扱いということになったわ」

 

情報の機密指定などについては、内閣府に新たに設置された公文書管理局が行っている。とはいえ、機密指定の決定には国家戦略情報大臣もある程度関わっているということであったから、黒木は正式に伝達が来る前にそのことを知っていたのであろう。

 

「なるほど。ちなみに、なぜですか?」

「1に、我が国の電子戦技術を他国に悟らせないこと。これからは、通信、レーダーなど電子戦が非常にカギになることはわかっているでしょう?他国に電子戦技術の情報を悟らせるのは、あらゆる面で得策ではないわ」

「では2つ目は?」

 

1に、と黒木が言ったということは、少なくとも理由は2つあるということだ。東は、2つ目の理由を尋ねた。

 

「2つ目は、分析の結果、ネウロイの電子技術が非常に高いことが判明したからよ」

「つまり?」

「分析の結果、ネウロイは2020年代の我が国と同じ電子技術を有している可能性がある。そんな情報が各国に知れ渡ったら、パニックと士気の低下は免れないわ。もしかしたら、それ以外の攻撃面でも人類のはるか先を言っているかもしれないのだから」

「たしかに、そうですね。わかりました。情報提供ありがとうございます」

 

そういうと東は黒木に頭を下げて、会議室を去っていった。

 

――――――――――

 

その1週間後、日本政府は連合軍連絡会議にてひそかに、潜水艦4隻及び中央放射能除染団から1,000名余りの兵員とその装備を欧州に派遣することを告げた。

対ネウロイ戦において役に立たないといわれる潜水艦の新規派遣に、各国は不審がったものの、日本政府はドーバー海峡沿いに配備することでレーダーに映りにくいネウロイの侵入などを、早期探知するためであると説明した。

*1
日中紛争後に自衛隊法より改正された国防法では、外国からの武力行使による有事下の場合の国防軍職員の依願退職などを禁止していた。また任期制兵士に至っても、任期は有事下が解除されるまでとされ、例外は病気や定年とされた

*2

・1940年度中期防衛力整備計画

【概要】

1940年国防大綱に基づき、海上戦力や陸上戦力の拡充を行うものとした。これらの計画を達成するため、1年あたり7兆円の国防予算の増額が行われた。

【主な内容】

海上戦力:1個揚陸艦隊、1個揚陸支援任務群、1個補給艦隊の整備

(強襲揚陸艦2隻、ドッグ型揚陸艦4隻、ミサイル巡洋艦1隻、ミサイル駆逐艦2隻、高速戦闘支援艦3隻)

陸上戦力:1個20000名級海兵機甲師団の整備。

     1945年中期防衛力整備計画に盛り込まれる部隊の人員教育

航空戦力:2個戦闘航空団及び1個早期警戒飛行隊の整備

*3

・1943年中期防衛力整備計画

【概要】

本来であれば1945年からの中期防衛力整備計画に盛り込まれる予定の内容であったが、ネウロイとの戦争がはじまり、企業の兵器増産体制が整い、入隊者数なども順調であることから、1940年の中期防衛力整備計画の内容を合わせて、本来の開始年を繰り上げて発表された。

1940年の中期防衛力整備計画に引き続き、1940年国防大綱に基づき、さらなる陸上・海上戦力の拡充を行うものとされた。

【主な追加内容】

海上戦力:1個空母打撃艦隊、1個戦略潜水艦隊、1個揚陸支援任務群、1個補給艦隊の整備

(原子力航空母艦1隻、ミサイル巡洋艦2隻、ミサイル駆逐艦5隻、汎用駆逐艦3隻、原子力ミサイル潜水艦2隻、原子力潜水艦6隻、高速戦闘支援艦3隻、潜水救難母艦1隻)

陸上戦力:1個20,000名級海兵機甲師団および、1個15,000名級機甲師団、1個15,000名級自動車化歩兵師団、1個10,000名級空挺師団の整備。

航空戦力:2個戦闘航空団及び1個早期警戒飛行隊、3個無人攻撃偵察飛行隊の整備。

*4
1944年時点で、1940年および1943年中期防衛力整備計画の達成状況は以下の通り。

【1940年中期防衛力整備計画での達成状況】

<海上戦力>

・1個揚陸艦隊(艤装中:強襲揚陸艦1隻、ドッグ型揚陸艦2隻/建造中:強襲揚陸艦1隻、ドッグ型揚陸艦2隻)

・1個揚陸支援任務群(艤装中:ミサイル駆逐艦1隻/建造中:ミサイル巡洋艦1隻、ミサイル駆逐艦1隻)

・1個補給艦隊(艤装中:高速戦闘支援艦2隻/建造中:高速戦闘支援艦1隻)

<陸上戦力>

・1個20,000名級海兵機甲師団(装備・人員共に充足。現在、部隊連携訓練などを行っており、本来であれば1945年中の実戦配備を予定していたが、編成が順調に進んだため1944年には実戦配備できる予定)

<航空戦力>

・2個戦闘航空団(装備は充足。現在、パイロットの育成中)

・1個早期警戒飛行隊(装備は充足。現在、パイロット育成中)

 

【1943年中期防衛力整備計画での達成状況】

<海上戦力>

・1個空母打撃艦隊(建造中:原子力航空母艦1隻、ミサイル巡洋艦1隻、ミサイル駆逐艦2隻、汎用駆逐艦3隻、原子力潜水艦1隻/発注済み:ミサイル駆逐艦1隻、原子力潜水艦1隻)

・1個戦略潜水艦隊(建造中:潜水救難母艦1隻、原子力弾道ミサイル潜水艦1隻、原子力潜水艦1隻/発注済み、原子力弾道ミサイル潜水艦1隻、原子力潜水艦3隻)

・1個揚陸支援任務群(発注済み:ミサイル巡洋艦1隻、ミサイル駆逐艦2隻)

・1個補給艦隊(発注済み:高速戦闘支援艦3隻)

<陸上戦力>

・1個20,000名級海兵機甲師団(部隊の7割が編成完了)

・1個15,000名級機甲師団(装備・人員の9割が編成完了。1944年中に実戦配備へ向けた訓練に移れると思われる)

・1個15,000名級自動車化歩兵師団(装備・人員共に編成完了。現在実戦配備に向けた訓練中。1945年初頭に訓練は修了する予定

・1個10,000名級空挺師団(装備・人員の5割が編成完了)

<航空戦力>

・2個戦闘航空団(装備は調達段階。パイロットも育成中)

・1個早期警戒飛行隊(書類のみの存在)

・2個無人攻撃偵察飛行隊(編成完了。現在、実戦配備に向けた訓練中)

*5
M6で飛翔するASM-4の改良型で、主な改良点としてP-1哨戒機への搭載を可能にしたことや、飛翔時に複雑な軌道を描き、迎撃を受けにくくするようにしたことなどがあげられる

*6
第1戦略攻撃潜水艦隊には2つの潜水隊が組み込まれており、1個戦略潜水隊には原子力戦略ミサイル潜水艦1隻と原子力攻撃潜水艦2隻が配備されている。




いかがでしたでしょうか?
新年一番に投稿するような内容ではない気もしますが、ご容赦くださいませ。
では今年もよろしくお願いいたします。

次回 第56話 少しづつ

お楽しみに


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第56話 少しずつ

いやぁ、ほんとこちらではお久しぶりです。SM-2です。
西側諸国召喚の方に集中してしまった結果、こちらの更新が遅れておりました。
お待たせして大変申し訳ございません。では、本編どうぞ。




今浦と坂本、宮藤の3人は、西部方面派遣軍経由で送られてきた書類をもってミーナの部屋に向かっていた。3人がミーナの部屋の前につくと、坂本かコンコンと軽くノックしてドアを開ける。

 

「ちょっといいか?この間のネウロイのデータだ」

 

そういうと持ってきた書類の束をミーナの執務机の上におく。坂本に倣って宮藤と今浦も同じように書類の束をミーナの机の上に置いた。

坂本は、その中からいくつか探してミーナの前に広げる。

 

「8月16日と18日に襲来したネウロイだが、奴が出現したときに各地で謎の電波が傍受されている」

 

坂本がそういうと、今浦は一つの書類に記されたデータを指さす。

 

「どれも周波数帯は違うそうですが、全部同時刻に観測されています。無関係だとは思えません」

「ええ・・・・」

 

どうにも心ここにあらずといった様子のミーナに、今浦は違和感を抱いた。しかし、無用な詮索はするまいとすぐに注意をデータの方に移す。

すると坂本が思い出したかのように今浦の方を向く。

 

「そういえば、頼んでいた電波の詳細な資料は?」

 

坂本は謎の電波に関する資料を今浦に頼んでいたのだ。この世界において、もっとも電子技術が進んでいるのは間違いなく日本であり、欧州にも多数の電子戦機が派遣されている。各地にもレーダーサイトと併設して電波監視所が設けられており、この謎の電波に関するデータを日本が持っていると考えたからであった。

期待する坂本に今浦は首を横に振った。

 

「西部派遣軍司令部経由で市ヶ谷に問い合わせましたがそれらに関する情報は秘指定を受けてて、公開できないとのことでした」

 

日中紛争後に日本の情報管理体制はかなり厳格なものとなり、公文書を管理するための部署である公文書管理局が設けられ、その中に機密情報の指定などを行う国家安全情報監査室が設けられた。

ここで機密情報の指定を受けた情報は一切の公開が禁止され、公開されるには一定年数がたち監査室の監査が必要となるなどアメリカの機密情報の取扱いに倣ったものとなったのである。

 

「そうか・・・・。なら自分たちで調べないとな。しばらくは忙しくなるぞ。バルクホルンやハルトマンにも伝えておきたいな・・・・」

 

少し残念そうにしながらも、文句を言うわけにもいかず。坂本はパッと頭を切り替えることにした。

すると、そばにいた宮藤が口を開いた。

 

「あの。バルクホルンさんならハルトマンさんと川野さんと一緒に今朝早く出ていきましたけど・・・・」

「え?なんで」

 

何も聞いていない今浦は、坂本と顔を合わせるとキョトンとした表情で、宮藤にそう言った。

 

「実は昨日、ロンドンの病院から妹さんが目を覚ましたって電話が。慌ててストライカーで飛んでいこうとするバルクホルンさんをみんなで抑えて、川野さんが”もう夜ですから明日にしましょう”って説得したんですよ」

「無理もないわ。バルクホルンにとって、妹は戦う理由そのものだもの。誰だって、自分にとって大切な、守りたいものがあるから戦える。そうじゃないかしら」

 

静かに諭すミーナの言葉に、先ほどまで面白そうにしていた宮藤は「はい」としか言えなかった。

 

――――――――――――――――――――

 

ロンドンにある公立病院―ネヴィル・チェンバース記念病院にバルクホルンの妹は入院していた。前ブリタニア首相の名前が冠されたこの病院は、日本とブリタニアが国交を結んだ際、友好の証として建てられたものであり、この世界としては未来の医療機器*1をそろえていた。医療水準も極めて高く、ブリタニア一の病院であった

その病院の一室の扉が荒々しく開かれる。突然のことに中にいた看護婦が「きゃっ」と短い悲鳴を上げた。

 

「ここは病室ですよ。お静かに」

 

咎める看護婦に荒々しく扉を開いた本人―バルクホルンは「すいません。急いでいたもので」と軽く謝る。するとベットの方からクスクスと笑う少女の声がした。

バルクホルンが声のする方に振り返ると、そこには彼女の最愛の妹であるクリスが身体を起こした状態で笑っていた。どうやらバルクホルンの様子を見て笑っていたようだ。

 

「クリス・・・・」

 

バルクホルンは久しぶりに妹の笑顔を見て気が抜けたようにふらふらとした様子でクリスに近づく。そしてクリスが両手を広げると、2人は抱き合う。

バルクホルンの後について入ってきたハルトマンと川野、そして看護婦はその様子を微笑ましく見守る。

するとクリスは、見慣れない男性の姿に気が付いたらしい。バルクホルンを放すと、視線を川野の方に向ける。

 

「あの、そちらの方は?」

 

カールスラントにいたころからバルクホルンと同じ部隊で戦っていたハルトマンとは、何度か顔を合わせたことがあるものの、川野に関しては完全な初対面であった。

川野が自己紹介を始める前に、バルクホルンが口を開く。

 

「ああ、私と同じ部隊で戦っている川野大翔少尉だ」

「初めまして。川野です」

 

川野はかぶっていた第81海兵戦闘航空団の識別帽を脱ぐと、軽く頭を下げた。

 

「え?でもお姉ちゃんの部隊ってウィッチ隊だよね?なんで男の人が?」

 

クリスの疑問は至極まっとうなものであった。ウィッチ隊で男性というと整備兵や後方支援要員が考えられるが、バルクホルンは「同じ部隊で戦っている」と言っていた。つまり後方支援要員ではないというのはクリスにもすぐわかった。

男性は魔法を使えない。であるならば、同じ部隊で戦っているとはどういうことなのか、クリスは首をかしげる。

 

「ああ、自分は日本国海兵隊から戦闘機パイロットとして、お姉さんと同じ501統合戦闘航空団で任務に就いています」

「501統合戦闘航空団?」

 

クリスは、501統合戦闘航空団が結成される前に意識を失っているため、いまいちぴんと来ていないらしい。するといつの間にかクリスの横にいたハルトマンが説明する。

 

「うん。世界中のウィッチが集められてできたんだ。トゥルーデと私以外にもミーナも参加しているんだ」

「日本には実戦投入可能なウィッチがいないので、戦闘機隊が派遣されているんです」

 

ハルトマンの説明に川野は補足を入れる。

初めて聞く話にクリスは驚いた。

 

「へぇ!お姉ちゃん。そんなすごい部隊に所属してるんだ!」

「ふふふ。まぁな」

 

どうやら妹に尊敬のまなざしを向けられて、鼻高々といった様子だ。ハルトマンは、腰に手を当てて胸を張り、自慢げにしているバルクホルンの姿を幻視する。

川野は、そのバルクホルンの自慢げな顔が生前の楓の様子と重なる。県の美術展で、楓の作品が入賞したときの妹の表情そのものであった。

川野は、ふと目頭が熱くなるのを感じる。

 

「あ・・・・」

「どうしたの?」

 

つい出てしまった小さな声を、横にいたハルトマンは聞き逃さなかった。川野の顔を覗き込むように見てくる。

ハルトマンのその声で、バルクホルンもクリスの注意も川野に集まる。

 

―大丈夫だ。まだ、泣いてはいない・・・・

 

頬を掻くふりをして、まだ涙が出ていないことを確認した川野は、自分がこの感動の空気を壊してしまう前に、この部屋から立ち去ることにした。

 

「いえ。少しトイレに行きたくて・・・・。あ、自分はそのまま車に戻ってますから、大尉らはごゆっくりしていてください。」

 

川野はそれだけ言うと、まるで逃げるかのように足早に部屋から出て行った。

 

ルクホルンだけでなくハルトマンも川野の様子に首をかしげた。

ふと、バルクホルンがクリスのほうに視線を戻すと、クリスはとても真剣そうな顔で川野が出て行った扉を見ていた。

 

「クリス?どうしたんだ?」

「あのお兄ちゃん。とっても苦しそうな顔してた・・・・」

 

クリスにそう言われると、確かに川野がとても苦しそうな顔をしていたことにバルクホルンらも気がつく。

そしてバルクホルンにはその理由がなんとなく予想がついてた。

 

―妹のことを思い出していたのか・・・・

 

じっと川野の様子について考えていたバルクホルンであったが、クリスのことを思い出してベットの上に座る愛しの妹のほうを向く。

すると今度はクリスはバルクホルンをじっと見ていた。

 

「どうした?私の顔に何かついてるか?」

 

しばらくじっと見つめてたクリスだが、しばらくしてフフッと笑う。

 

「お姉ちゃん。今日はもういいよ」

「え?」

「私は大丈夫だし、それにまた都合が合うときに会いに来て」

 

なぜ妹がそんなことを言い出すのかわからず、バルクホルンは困惑した。もしや妹に嫌われたのかもしれないと、本気で焦る。

 

「どうしたんだ?その・・・・うれしくなかったか?」

「ううん。そんなことないけど、あのお兄ちゃんのこと心配そうにしてたから」

「ッ!」

 

どうやら目の前のいとおしく賢い妹はバルクホルンの心境などお見通しのようだった。

 

「今度また来て。その時に面白い話いっぱい聞かせて」

 

バルクホルンは複雑そうな顔をして、腕を組んで考える。しかし、しばらくするとクリスの頭をやさしくなでてほほ笑んだ。

 

「・・・・わかった。すまないな、クリス」

「ううん」

 

そういうとバルクホルンはハルトマンを連れて病室から出て行った。

 

――――――――――――――――――――

 

一方、川野は中庭にいた。

中庭の真ん中にある大きな木の木陰にある白いベンチにドカッと腰を下ろすと背もたれに完全に体をゆだね、空を仰ぐ。ときどき吹くそよ風が心地よい。地球にいたころの日本と違って、ここは高緯度のブリタニア、なにより地球温暖化がそこまで進んでいないこともあって夏でも過ごしやすい気温だ。

 

「・・・・俺は、どうしたらいいんだろうなぁ・・・・」

 

自分自身に向けたものか、はたまた天国にいる妹に向けたものか、だれに向けたのかわからない問いが自然と口から出てきた。

バルクホルンとの一件以来、こうして自問自答することが時々あった。

もともと川野は、兄として妹を守れなかった責任を感じていた。そうして自分を責めて、苦しめて、自分には幸せになる資格はないと心に言い聞かせてきた。

しかし、バルクホルンとの一件以来、自分のこの生き方にも、疑問を持つようになっていたのだ。

今思えば、バルクホルンにあれだけ怒りをあらわにしたのも、同族嫌悪の一種だったのかもしれない。

 

 

そうして、どれくらいの時間がたったであろうか。ふと自分に近づく気配を感じる。川野は顔を上げて、気配の方を見ると、そこにはバルクホルンがたっていた。

川野は、すぐに立ち上がるとビシッとした表情に変わる。ここの気持ちの切り替えは、さすがは軍人というべきだろうか。

 

「もうよろしいのですか?」

「ああ」

「わかりました。では、帰りましょう」

 

そう言って川野は歩き始めるが、バルクホルンはその場に立ったままであった。その様子を不自然に感じて、川野は首をかしげる。

 

「どうしました?」

「・・・・妹さんのことを、考えていたのか?」

「ッ!」

 

バルクホルンの言葉に、川野は目を見開いて驚いたような表情を一瞬だけ見せるも、すぐに恥ずかしさと申し訳なさとが混ざったような表情に変わる。

 

「わかりましたか?」

「ああ。というよりクリスが、お前が苦しそうな表情をしていたというからな」

 

その言葉に、川野は一層申し訳なさそうにする。

 

「それは・・・・。申し訳ありませんね。変な気を使わせてしまいましたか?」

「いや、そんなことはない。大丈夫だ」

 

二人の間に沈黙が舞い降りる。

その沈黙を破ったのは、川野であった。彼は突然、くるりと体の向きを変えると、先ほどまでいた木の方に歩いていく。そして、木のそばに立つと幹に手を当てて、上の方を見る。

そして、静かにしゃべり始めた。

 

「最近、わからなくなるんです。こんな生き方でいいのか、って・・・・」

「どういうことだ?」

 

川野は、またくるりと体の向きを変えて、バルクホルンの方を向く。

 

「前に、大尉に偉そうなこと言いましたけど、本来、自分が言っていい言葉じゃないんです。あの事件以来、自分のことをせめて、自分は幸せになる資格はないと言い聞かせてきた自分には・・・・。すごい矛盾ですよね。自分はそういう生き方してるくせに、他人にはするなっていう。今思えば、大尉の生き方をあれだけ嫌ったのは、鏡で見ている自分みたいだったからなのかもしれません」

「・・・・」

 

川野の言葉に、バルクホルンは何も言わない。それでも川野は続けた。

 

「大尉にああいった自分が、こんな生き方をしているべきじゃないのも、死んだ楓が望んだ生き方がこれだないのも、わかってるんです。でも気持ちの整理がつかないんです。今も、自分の腕の中でぐったりする楓が思い出されて、兄として何もしてやれなかった悔しさが思い出されて、どうしても出来ないんです」

「・・・・・」

 

ここまで来ても、バルクホルンは何も言わなかった。川野はくだらない話をしてしまったと、反省する。

 

「いや。今の話は忘れてください。じゃぁ、戻りましょうか」

「なんで、すぐに変えようとしているんだ?」

 

そう言って川野が歩き始めたところで、バルクホルンはようやく口を開く。

 

「すぐに変えなくてもいいじゃないか。少しずつ、少しずつ、一歩一歩乗り越えて、前に進んで行くことはできないのか?時間をかけて、乗り越えていけないのか?」

「少しずつ・・・・ですか?」

「そうだ。すぐに変えるのは難しくても、少しずつならできるはずだ。その過程では、苦しいこともあるかもしれない。でも、そういう時は私たちを頼ってくれていい」

 

バルクホルンは、いったんそこで区切ると、懐かしむような顔で続けた。

 

「前に、ミーナに言われたんだ。私たちは家族だと。ならお前も私の家族だと思う。家族っていうのは、苦しいときに頼ったり頼られたり、支えあって生きていくものじゃないのか?」

 

バルクホルンはグイッと顔を川野に近づける。

 

「お前は私を助けてくれた、なら今度は私がお前を助ける番だと思う。お前が、前に進めるまで私がそばにいてやる。だから、苦しいときは頼ってくれないか?可能な限り助けるから」

 

川野は、バルクホルンの言葉にぽかんという表情を浮かべていた。

そして同時に、バルクホルン自身も、自分の言葉が別の意味に聞こえることに気が付いた。顔が熱くなるのを感じて、バルクホルンは必死に訂正しようとする。

 

「あ、その。今のは違くてだな・・・・」

 

そんなバルクホルンの様子をみて、川野はフフッと笑い声を漏らす。

 

「失礼。ありがとうございます、大尉。苦しいときは、遠慮なく頼らせていただきますね」

 

何か一つ吹っ切れた様子の川野の表情に、バルクホルンはほっと一安心する。

 

「ああ、わかった」

「では、そろそろ帰りましょう。中尉も待ってるでしょうし」

「そうだな」

 

バルクホルンは川野に促され、車の方に歩いていく。川野もそれを追って車に向かおうとしたとき、ふと背後の木から葉っぱが飛んできて、川野の肩に乗っかる。

 

「これは・・・・・」

 

その葉っぱを手に取ってみると、楓の葉であった。

川野は、妹が「がんばれ」と自分を励ましているように思えた。

 

「そうだな。頑張らないとな・・・・」

 

そう言って、楓の葉っぱを少し見つめた後、手を放す。風に乗ってふわりと浮き上がるのを見ると、彼は再び歩き始めた。

*1
日本の病院から寄付された中古品




いかがでしたでしょうか?
ようやく川野君救えたよ・・・・( ;∀;)。とはいえ、やっぱり私はそういう描写を書くのがどうにも苦手らしい。納得がいまだに言ってない・・・・。
ああいうのすらすら書いてる人すげぇなぁ。
ご意見ご感想お気に入り登録お待ちしております。ではまた次回。さようならぁ・・・・

次回 第57話 パ・ド・カレーのゴースト

お楽しみに


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