イナズマイレブン『黒山羊の意思』 (mr.?)
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脅威の侵略者:re
だいいちわ


社畜、そんな言葉が俺には似合うだろう。

 

会社に行って、定時になっても帰れずサービス残業して、帰ったら録画したアニメ見て飯食って風呂入って寝て、をただ繰り返す毎日。

 

久し振りの給料は先月より少なくて、上司に聞いたら、経費削減とのことで。

 

気づいたら俺は、目の前が真っ暗になってた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「治(おさむ)!タツヤがそっち行ったぞ!!」

 

「任せろリュウジ、この私に止められぬシュートなぞない!!」

 

永世学園の運動場では、幼い子供たちが和気藹々とサッカーにのめり込んでいた。

赤髪の少年がボールを蹴りながら駆ける、ゴールの前には黒い長髪の少年が仁王立ちで立ちはだかった。

 

「いくよ治!」

 

「いいぞ!こい!タツヤ!!」

 

タツヤと呼ばれた赤髪の少年の足が鮮やかな軌跡を描きながらボールへと吸い込まれる、その蹴りの威力を十二分に得たボールは真っ直ぐにゴールへと突き進む。

治という名の黒髪の少年がそれを難なく押さえ込んだ、ゴールネットを揺らさなかったことに憤りを感じるものの、それはすぐに相手への賞賛へと昇華した。

 

「次こそは決めるからな治!」

 

「ふふ、何度でも打ち込んでこい!その度に私が立ちはだかろう!!」

 

ボールは跳ね、転がり、弾み、飛ぶ。

 

そんな光景は『俺』は反対側のゴールから見つめていた。

 

「へへっ!今日こそお前からゴールを奪ってやるからな秀子(しゅうこ)!!」

 

緑髪の少年……リュウジがドリブルしながら駆けてくる。

 

ドリブルの勢いを殺さぬように走りながら、勢いよくボールを蹴り出す、なかなかの勢いだ、『私』じゃなきゃ、焦っちゃうかもね。

 

「プロキオン・ネット!!!」

 

私が両手を広げると正三角形を象ったエネルギーが目の前に展開、そしてボールを絡めとる、勢いの死んでしまったボールを私は受け取るだけだ。

 

「ああっ!くっそぉー!必殺技使わせちまったぁー……」

 

「ふふっ、なかなか速いシュートだったよ、治だったら少しテンパるんじゃないかな?」

 

悔しそうにたたらを踏むリュウジにそう声を掛けると遠くから否定の声が聞こえてくるが私は無視する。

 

「よーし!石平(いしだいら)!玲名(れいな)がフリーだからねー!!」

 

「今言ったら意味なくないか?!秀子!!」

 

 

 

前世の『俺』は死んだ、多分過労死とかかな……そして目が覚めたらこの『イナズマイレブン』の世界でお日さま園っていう施設に預けられてた、どうやら両親が死んだ上に親戚が片っ端から受け取り拒否したらしい……。

 

この世界では黒山羊秀子(くろやぎしゅうこ)という名前で黒髪ロングのスタイル抜群な美少女として生まれてしまった、そう、男子サッカー大会がメインである世界に女の子として生まれたのだ……ぐぎぎ。

だが、エイリア学園編では女子も表立ってサッカーしていたので、エイリア学園の女戦士として戦う運命を得たのは不幸中の幸いなのかもしれない。

 

前世の記憶持ちということもあり、他の子達より先にサッカーの特訓に励んでいたおかげで、プロキオン・ネットやワームホール等、エイリア学園のキーパー技は大抵覚えられたのもポイントが高いはずだ、最近は治(デザーム)や根室(ネロ)たちに技を教えている。

 

キーパーなのにはわけがある、たしかに円堂守や立向居勇気の存在が確かに大きい、だが、それは男子サッカーの話だ。

イナズマイレブンの数少ない女プレーヤーたちの中でゴールキーパーはやはり数が極端に少ない。

それに、今でこそタツヤやリュウジたちと一緒にプレイしてるものの、フィールドプレーヤーではいずれ遠くない未来で男子に体力面で劣ってしまう……だからこそ、私はゴールキーパーを選んだ。

 

私は今年タツヤや晴矢(はるや)、風介(ふうすけ)と同じ中学1年生、そして治は2年生だ。

つまり来年ジェネシス計画の第1段階、エイリア学園が発足する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吉良 星二郎(きら せいじろう)、私たちのいた施設であるお日さま園や永世学園のスポンサーにして、多くの仲間達が『父さん』と慕う彼の細い瞳は疲れを表していた。

 

「父さん、話ってなんですか?」

 

タツヤから会話を切り出した、父さんの願いにより、永世学園に通う中でも特にお日さま園出身の私たちが一同に会した、私を含めれば56人もいる。

 

「おお、皆、よく集まってくれました」

 

私たち一人一人の顔を見て、穏やかに笑う父さん、そして穏やかな表情のまま語りだした。

 

「君たちにやってもらいたい事があるんです」

 

 

 

 

 

 

『ジェネシス計画』

 

突如、富士山脈に不時着した隕石より摘出された謎の鉱石である『エイリア石』には人体を活性化させる効果があった。

エイリア石を用いて強化人間を作り出し……更に、その強化人間を踏み石としてただの人間から戦士を育成するシステム『ハイソルジャー計画』

私たち56人は、そのハイソルジャー計画の第1歩として、適正テストを受けてほしい。

とのことだった。

 

ここまでは原作通りだ、私はいかにしてハイソルジャー計画の候補に入るかを思案する、ただ単純にサッカーでの侵略を考えているならば、この中でも1番のキーパーの自負があるので、ハイソルジャー計画には入れるハズだ。

しかし、問題は、適正がない場合。

その場合は問答無用で、ファーストランクかセカンドランク送りだろう。

ファースト、セカンドで私がもしエイリアののパワーで無双するようなことがあった場合、雷門たちはジェミニストームかイプシロンとの戦いで勝てず、ジェネシス計画は成就してしまうだろう……ジェネシスになった場合?ジ・アースとウルフレジェンドくらいならわざと通してもいいけども……。

 

「タツヤ、風介、晴矢、治、リュウジ、秀子……来なさい」

 

おっと、考え事してたら呼び出しだ……なんとなく想像つくけど……。

私たち6人は別室へと連れていかれた、ちなみに言うと、私以外の5人は原作ではそれぞれのチームのキャプテンをしていた。

 

リュウジのジェミニストーム

治のイプシロン

晴矢のプロミネンス

風介のダイアモンドダスト

タツヤのガイア

 

5人だけならまだ分かるのだが、私が一緒なのはあれか?11人チーム×5で55人なのに1人余るから私だけ除け者か?

 

「秀子以外の5人には、それぞれチームを率いてもらいます、名前等は自分たちで考えなさい」

 

『はい!』

 

父さんの言葉に5人は嬉しそうに応え、そしてそのまま5人の視線はこちらへと向く、それはたしかに疑念の視線だった。

自分たちが選ばれたのに、何故秀子もここにいる?と、物語っている気がした。

父さんは私に向き直り、穏やかな表情のまま、口を開く。

 

「秀子、瞳子から聞きました、お前はここにいるメンバーの中で1番優れていると」

 

ん?なんか流れが……変わってない?この5人がすげーって話じゃないの?てか瞳子(ひとみこ)姉さん、チクったな!

 

「先程も話したジェネシス計画、5人にはそのジェネシスの座を争ってもらいます……そして」

 

嫌な予感しかしないぞ父さん、やめろ晴矢、殺意を向けるんじゃない。

 

タツヤはそんなワクワクした視線をこっちにむけないで!変な事だったらどーするのさ!!

 

「ジェネシスのゴールキーパーをお前に任せます」

 

やっぱりかー!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

適正テストとは名ばかりで、要するに5人それぞれが率いるチームで総当たり戦を行い、上位3チームはマスターランク、4位はファーストランク、5位はセカンドランクに割り振る、との話。

私はシード枠で、最初からジェネシスのゴールキーパーとして配置、マスターランク3チームの中で最も優れているチームに改めて加入されるとの事だ。

 

「でも父さん、治もゴールキーパーだよ?秀子が入ったら治キーパーできなくなっちゃうけど……」

 

リュウジの疑問も尤もだ、だけど。

 

「リュウジ、気にするな……私は普段お日さま園のみんなでサッカーをする際に不足しがちだという理由でキーパーをやっているに過ぎない、本職はフォワードだ」

 

その通りである、原作では力を抑えるためーとか言ってたけど、実際は治が言った通り、お日さま園ではゴールキーパーは人気がないのだ……治は最年長だからという理由でキーパーを務めてくれていたのだ。

 

「だが、ゴールキーパーとして秀子に劣っているなど微塵も思っていないがな」

 

なんだとこの野郎。

 

「待ってくれよ父さん!納得がいかねぇぜ、たしかに秀子はすげえキーパーだけどよ、サッカーってのはポジションごとに別れるもんだ、最も優れている選手が秀子ってのは少し違うんじゃねーか?」

 

最もらしいことを言った晴矢が好戦的な目でこっちを見る。

 

たしかにね、ゴールキーパーである私とフォワードやミッドフィルダーの君たちじゃドリブルテクとかは明らかに私が不利だもんね。

 

「父さんの決定に逆らうのか?晴矢」

 

タツヤが私を庇うように移動した、そんなことされたらおじさんちょっとドキッとしちゃう。

でも、基本父さんが絶対!って感じになってる私たちお日さま園メンバーだとしても、譲れないプライドってものがあるんだと思う、実際、私は生まれ変わりの利点を活かしただけだし……同じ練習メニューとかを消化していくようになったら、きっと私はそのうち置いていかれることになるんだろうな……。

 

「私も不本意だが晴矢に賛成だ、秀子だけ特別扱いというのは気に入らないな」

 

風介もか、でも私が特別ってわけじゃないと思うんだよね……。

単純に能力差だと思うな(慢心)

 

そんな私たちを見かねたのか、父さんが1歩踏み出した、そうです父さん、私の決定は絶対だとかそんな感じに場を収めて……私は喧嘩は苦手です。

 

「なら、確かめてみましょうか」

 

ゑ?今なんて?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わってグラウンド、サッカーゴールの前に私は不本意ながら立たされている、全員ジャージに着替えて、さらに私は髪をお団子みたいに結っていつでも準備OKだ……。

今回の勝負は必殺技ありのPK戦、キャプテン候補5人のシュートを私が止める、というものだ。

えー、最低でも5回もシュートを受け止めなきゃならないのは面倒だな……まぁ、でも。

 

「5人がどれくらい成長したか確かめてあげないとなー」

 

私がグローブをしっかり填めてる間に順番が決まったらしい。

まずはリュウジ、彼の本職はミッドフィルダーだけども、シュート力はお日さま園でもトップクラスだ。

普段は温厚な彼も、今ばかりは眉間に皺がより、本気で私を越えようとする熱意が伝わってくる。

 

「アストロ……!!」

 

リュウジが利き足でボールに回転をかけた、その回転は徐々に早まり、周りの空間を歪ませ、破壊力を目に見えて増していく、その威力が頂点に達し、リュウジはその足を振り抜いた。

 

「ブレイクっ!!!」

 

原作の侵略者編……未来のリュウジ自身には及ばずとも、もし……永世学園としてフットボールフロンティアに出場できていれば、きっとリュウジは多くの選手から畏怖や尊敬の念を持って接されていたと思う。

それ程までの威力、この前道場破りならぬ学校破りで木戸川清修の3つ子のトライアングルZを体験してきたから間違いない……。

私はそのシュートを。

 

「そらぁっ!!!」

 

技も何も無く、ただ普通に蹴り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

リュウジのアストロブレイクは、俺の流星ブレードにも負けないシュートを身につけてやるってリュウジが意気込んで習得した技だった。

威力は十二分にある、少しタメに時間がかかるのが玉に瑕だけど、今回はPK戦だ、タメに時間をかけても問題ない。

その威力は今まで見た中でも最高のデキだったんだと思う、いつにもまして覇気のこもった必殺技をリュウジは繰り出した。

でも、秀子はそれを、ただの蹴りで跳ね返してしまったんだ。

治のガニメデプロトンも、軽くキャッチされてしまっていた。

次は風介の番だった、いつもの皆で楽しむサッカーとは違う緊張感、今はただ俺たちにとって秀子は、いつも一緒にサッカーを楽しむ友達ではなく。

 

「おいで風介、全力でね!!」

 

あの頼もしい姿は、僕達にとって脅威だった。

 

「ふん、私のシュートを止められるか?!秀子!!」

 

気温が下がった、そう思うほどのエネルギーが風介から発されている、南極や北極にでも来てしまったかのような錯覚を俺たちは受ける。

 

「ノーザンインパクト!!!」

 

消えたかと思うほどの素早いソバットで風介はボールを蹴り飛ばした、ボールの周りには氷のようなオーラがまとわりつき、一直線にゴールへと進む。

秀子の先程までの余裕綽々といった表情が曇る、あのシュートは2人には悪いが、リュウジと治のシュートより速く、鋭い。

秀子が両手を広げると、正三角形のオーラが現れた、あれはいつも秀子が使ってる技、根室が最近なんとか形になってきたって喜んでいた必殺技。

 

「プロキオン・ネット!」

 

ボールの周りのオーラは正三角形のオーラに触れた瞬間、まるで溶かされてしまったかのように消え失せ、勢いが弱まってしまった。

オーラが収束し、消えた時にはボールは秀子の手の中だった。

 

「いいシュートだったよ!でも風介ならもっとこの技を強くできるはずだよ!!」

 

風介は勿論、俺と晴也もこの時ゾッとしたんだ。

秀子の笑顔はいつもと違って、とてもつまらなそうで、目が、笑ってなかったんだ。

 

「はっ!面白ぇ!」

 

晴矢の眼孔が秀子を捉える、俺にもわかるがあれは強がりだ、どこか焦りを晴也に感じる。

そんなことを知ってか知らずか秀子はいつでもいいよ、とボールを晴矢へと軽く転がした。

 

風介が冷たい吹雪のようなスピード特化のストライカーなのに対して、晴矢は燃え盛る炎のようなパワー特化のストライカーだ。

風介のノーザンインパクトを寸分の狂いもなく的確なタイミングで捉えた秀子に対して、技術を使わせる隙もなく、ただ秀子の技をぶち破るだけだ。と晴矢は吠えた。

 

「俺自身が証明してやるよ!お日さま園で最強なのは俺だってなぁっ!!」

 

軽く空中へとボールを蹴り出す、晴矢はその脚に炎を纏わせオーバーヘッドキックの体制へと移行した。

 

「アトミックフレア!!」

 

炎の軌跡が鮮やかな弧を描いて、ボールへと莫大なパワーを秘めた脚が吸い込まれる。

ひと目でわかる、パワーだけなら、俺の流星ブレードよりも強い。

ボールへと込められた炎が周囲の空間を焦がしながらゴールへ突き進む、秀子は焦る様子もなくそれをしっかりと目に捉え、両手を広げた。

 

「プロキオン・ネット」

 

再度展開される正三角形のオーラは全てを焼き焦がさんとする炎を優しく包み、先程と同じようにボールの勢いを殺した。

苦もなく両手に収められたボール、晴矢は嘘だろと弱々しく呟いた。

 

「うんうん、晴矢らしいシュートだよね、でもね、私だって負けないんだから」

 

そういって俺へと視線を向けた秀子と目が合う。

 

「おいでタツヤ、本気の流星ブレードを見せてよ」

 

その目には絶対に止めるという自信が満ちていた、いや、あれは確信だろう。

俺のシュートも止めるっている確信だ……でも、俺だって。

 

「その余裕そうな表情、絶対に崩してみせるよ」

 

負けるわけにはいかない、いや、負けてたまるもんか。

秀子がボールを転がした、それを脚で受け止め秀子へと向き直る。

 

さっきまで、俺は横から見てるだけだった、実際に秀子と1対1の状況になって、秀子から伝わる気迫に気圧されそうになる。

秀子は既に準備万端、身体はすぐにボールに反応できるように適度に力が抜かれつつもその眼孔が、真っ直ぐに俺とボールを捉えている。

ピリピリとしたこの感じは、嫌いじゃない、いつもの楽しむサッカーもかけがえのない時間だけど、この真剣勝負の緊張感はそれに引けを取らない程に楽しいんだ。

 

「流星……」

 

軽く宙へとボールを蹴りあげる、それに追従するように俺自身も宙へと跳び、捻りを加え、威力を少しでも高めるために力の限りに脚を振り抜く!!

 

「ブレード!!!」

 

脚とボールが触れるこの瞬間、俺の時間は限りなく遅くなる、一般的にゾーンと呼ばれる、この集中力が極限まで高められたこの瞬間が俺のフルパワーの証明だ。

脚からボールへと力を注ぎ込むとボールが俺の蹴りに合わせて形が歪む、少しずつ時の流れが元に戻る感覚、俺の脚とボールには晴矢のアトミックフレアにだって引けを取らないパワー、風介のノーザンインパクトにも負けない鋭さだってある。

脚を振り抜いた、俺がボールへと注ぎ込んだパワーが一気に解放されて、ゴールへと真っ直ぐに突き進む。

 

その瞬間、俺に見えた秀子の表情に俺はまた、悪寒を感じることになった。

獲物を喰らう瞬間の獣のような獰猛さと、彼女本来の端麗な素顔が混じって、これは昔……そう、なにかの本で読んだ一文。

 

妖艶な瞳、そう表すんだと不意に思った。

 

「ザ・プレデター!!!」

 

秀子は右手を振り抜く、すると手の凪いだ軌跡を辿って鉤爪のようなオーラが秀子の前に展開されボールに喰らいつく、ボールと鉤爪型のオーラが拮抗し、秀子の身体は右手を振り抜いた勢いのまま回転しその両脚をボールへと複数回叩き込んだ……と思う。

目にも止まらぬとはこのことだろう、秀子はあの技で連続回し蹴りをボールへと叩き込んだはずだが、俺にはそれを目で捉えられず、音でやっとわかったんだ。

重い銃撃のような複数の打撃音。

俺の繰り出した流星ブレードは呆気なく崩壊し、秀子の必殺技の勢いでボールはグラウンドの反対側のゴールへと突き刺さった。

 

驚愕、畏怖、そんな感情が俺たちを支配する。

リュウジや治なんて特にだ、必殺技すら使わせることができなかった。

晴矢と風介も自分たちのシュートを止めた技が秀子の本気の必殺技かと思いきや更に上があったし……俺の流星ブレードだって、止めるだけでは飽き足らず、逆に反対側のゴールまで決められた……。

これが、俺たちの知らない、黒山羊秀子の実力の一端だったのか……。

そんな俺たちの表情を見て、秀子の表情に影が刺した。

先程までのつまらなそうな表情から、獲物を狩るような目……そして今は申し訳なさそうな顔をする秀子、俺たちは悔しそうな表情を崩せずにいる。

 

「そこまでです、秀子、お疲れ様です……それにしても予想を上回ってくれて何より、まさかここまでとは思っていませんでした」

 

少し離れたところから見ていた父さんがゆっくりと歩いてくる、先程までの活気は俺達には既になかった。

 

「これで納得出来たでしょう、秀子が君たちの適正テストに加わってしまったら、1点も失うこと無く秀子のいるチームがジェネシス確定でしたからね」

 

皆、言葉を失っていた、特に反対意見を出していた晴矢と風介は先程までの自分自身の過剰な自信のせいで今の結果に苛立ちすら覚えているように見える。

 

「では、後でチームを発表します、テストは1週間後、それまで練習に励んでください」

 

俺たちは頷くことしかできなかった。

 

 

 

 



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だいにわ

あれから、2週間が経った。

 

原作の通りガイア、ダイアモンドダスト、プロミネンスが上位3位、つまりマスターランクとなった。

 

ガイア、3勝1引き分け

 

タツヤ(グラン)と玲名(ウルビダ)の冷静なゲームメイク、私の一番弟子の根室(ネロ)のプロキオンネット、伊豆野(ウィーズ)の豪快なシュート等で優秀な戦績を誇った。

上記メンバーだけではなく、チーム全体のポテンシャルの高さで他のチームの追随を許さず、

最終戦では、ダイアモンドダストの風介(ガゼル)の速攻で1点を許してしまい、エースストライカーの伊豆野、キャプテンのタツヤが徹底的にマークされるも、玲名がシュートを決め同点で決着、総戦績では堂々の1位となった。

 

ダイアモンドダスト、2勝1引き分け1敗

 

司令塔であるDFの修児(アイキュー)がゲームメイクをして相手のFWやMFの動きを制限しカウンターで風介が決めるスタンスでジェミニストームやイプシロンを順調に打破する。

3戦目のプロミネンス戦では晴也(バーン)、夏彦(ネッパー)、茂人(ヒート)の連携に終始苦しめられ咄嗟の判断力の差で敗北。

チーム全体の士気の低下を感じた風介は格上であるガイア戦にて独断の速攻を行う、不意をついた速攻が転じてチーム全体士気を高め、格上であったはずのガイアに同点という戦績をおさめた。

 

プロミネンス、2勝1引き分け1敗

 

晴也の性格上、晴也のワンマンチームとなるかと思われたが、そんな事はなく晴也と仲のいい男子や意思主張をハッキリとする女子がメンバーとなったためか連携が一番いいチームとなった。

司令塔は存在しないものの、咄嗟の判断力や連携で他のチームを圧倒する。

しかしながらイプシロン戦にて、油断があったかFWに出てきた治(デザーム)に点を取られ同点を許してしまう。

ダイアモンドダスト戦では司令塔に頼りきりであったDF陣を圧倒した。

 

イプシロン、1勝1引き分け2敗

 

良くも悪くも治のワンマンチームであった。

逆境であればある程燃える治の士気の高さにより、格上のチームも多い中最後まで足掻き続けた。

その最たる例は最後のプロミネンス戦だろう、他のメンバーが次々と諦める中、治は最後まで諦めず、ポジションをFWに変更し守りを捨てての反撃を行い、同点という成績をおさめた。

 

ジェミニストーム、4敗

 

酷い有様、というのが正しいのかもしれない。

元々、今回のメンバーに選ばれた面々は大多数がサッカーをやっていたが、その中でもリュウジはまだ経験の浅い選手だ。

そんなリュウジがキャプテン候補に選ばれたものの、他の経験あるメンバーは全て仲のいい者同士でこれまた仲のいいキャプテンのチームの元に行ってしまう。

まだ経験の浅いリュウジの元にはあまり人が集まらず、大多数のサッカー経験者ではない、残りのほぼ初心者が集まってしまったのだ。

リュウジはそれでも自分が最前線に立ち、他のチームには負けないと、リーダーであろうと前に進むが、他のメンバーがついていけるはずも無く気づけば全敗。

だけど、この先はもっと酷かったんだ。

 

 

 

 

父さんだって分かってたはずだ、リュウジは確かに実力はある、キャプテンにだってなれる器だ。

でも、まだ早い。

チーム分けを中立の立場である私や瞳子姉さんに任せていればまだ、いい勝負になったはずだ。

逆に1つのチームを最強にしたいなら、格ポジション毎にオールスターチームでも組めばいい、けどそれを父さんはしなかった。

 

何故か。

 

1つでも2つでもいい、とにかく何処かのチームを大敗させたかったんだ、とにかく酷く。

そのチームはジェネシスを作るためにエイリア石でドーピングを行った上で、ジェネシス候補のマスターランクに『指導』という名目の『暴力』を振るえるのだ、だからこそ、チーム間の溝は深ければ深いほどいい。

そう、本当に地獄が始まったのはここからだった。

 

ジェミニストームとイプシロンの一部が暴走したのだ。

 

 

切っ掛けはなんだったか、たしかハイソルジャー育成の為の練習試合。

 

初戦のプロミネンス対ジェミニストーム(エイリア石アリ)の試合中だったと思う。

エイリア石を使った義郎(コラル)がパスのために蹴ったボールがパスカットをしようとした晴也を『吹っ飛ばして』からだったかもしれない。

そう、そこから始まったんだ。

圧倒的なスピードとパワーで圧倒するだけではなく、そんな圧倒的な暴力を伴ったラフプレーがマスターランクチームを襲った。

 

プロミネンス対ジェミニストーム

適正テストでは6/0だったスコアが今日は0/22

プロミネンス側の負傷者多数。

 

ダイアモンドダスト対イプシロン

3/1から0/35

ダイアモンドダスト負傷者多数。

 

ガイア対ジェミニストーム

7/0から0/17

ガイア負傷者多数。

 

イプシロン対『私』

シュート回数測定不能

セーブ率約2割

必殺技を使う時間すらない。

 

プロミネンス対イプシロン

1/1から0/21

プロミネンス負傷者更に増加

 

ダイアモンドダスト対ジェミニストーム

6/0から0/19

ダイアモンドダスト負傷者増加

 

ガイア対イプシロン

6/0から0/25

ガイア負傷者増加

 

ジェミニストーム対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割

通常のシュートすら止められない現状に対し、ジェミニストームは必殺技を使用、『父さん』から軽いお叱りを受けたもののその後も手加減のないシュートが続く。

まだ必殺技すら出せる余裕なし。

 

 

 

 

その後も続く終わりの見えない上に怪我の耐えないハードな練習にマスターランクチーム全体の士気は下がる一方だった。

瞳子姉さんが途中父さんに一声かけなければ、もしかしたら潰れるメンバーが出ていたかもしれない。

 

しかし、父さんだって馬鹿じゃない、今の増長したジェミニストームとイプシロンとの身勝手な練習試合って方法だけでハイソルジャーが育成できるはずもないことは百も承知。

あえて、適正テストでストレスを与えた2チームにエイリア石でパワーアップさせ、完膚無きまでにマスターランクチームを痛めつけさせる。

その中で得られた運動量等のデータを元にしてエイリア修練場が作られた。

その後は増長した2チームとマスターランクチームを隔離し、マスターランクチームを修練場にて練習させることにしたのだ。

そう、潜在能力の高いマスターランクチームにわざとストレスと超えるべき壁を用意した。

負けん気の強いプロミネンスやプライドの高いダイアモンドダスト、真面目で父さんに忠実なガイアに自ら力を蓄えるように仕向けたのだ。

 

私は3チームが修練場で鍛えている間も、2チーム相手に練習を続けた。

瞳子姉さんが止める、タツヤが修練場に来いと言う、だけど私は止まらなかった。

いや、止まれなかったのかもしれない。

 

ジェミニストーム対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

イプシロン対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

ジェミニストーム対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

イプシロン対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

ジェミニストーム対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

イプシロン対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

ジェミニストーム対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

ジェミニストーム対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

イプシロン対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

ジェミニストーム対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

イプシロン対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

ジェミニストーム対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

イプシロン対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

ジェミニストーム対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

ジェミニストーム対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

イプシロン対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

ジェミニストーム対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

イプシロン対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

ジェミニストーム対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

イプシロン対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

ジェミニストーム対私

シュート回数測定不能

セーブ率1割未満

 

私はもうボロボロだった。

主人公の円堂は数回の試合でジェミニストームのシュートを見切っていたが、私には才能がないのか全然だ。

ある日鏡を覗いたら、黒髪の中に白髪を複数本見つけた、ストレスかもしれない。

その日はイプシロンとの練習だったが、私はついに倒れた。

隆一郎(ゼル)のガニメデプロトンに対しキャッチしようと試みて直撃、私は無様にも腹の中の物をぶちまけて気絶した。

 

私の自暴自棄な練習を見てジェミニストームやイプシロンのメンバーは我に返ったのか私やマスターランクチームに謝罪をしたらしい。

そして、私は1週間の練習禁止を言い渡された。

 

 

 

1週間後。

 

私は再び、グラウンドに戻ってきた。

1週間の休みが効いたのか、あれから白髪が増えることは無く、私はスッキリとリラックスした状態でゴールに立つ。

今日はジェミニストームのメンバーとの練習。

 

心配そうな目で、リュウジ……いや、セカンドランクチーム:ジェミニストームキャプテン、レーゼが立った。

 

「本当に大丈夫なのか秀子、怪我の具合とか……体調とか」

 

他のメンバーも気乗りしないような表情で私を見ている。

 

「『レーゼ』、私を誰だと思ってるの?」

 

あえて本名ではなくコードネームで私は呼んだ。

レーゼが目を見張る中、私は精一杯の見栄を張って、両手を構えた。

 

「私はジェネシス唯一の正規メンバー『ニグラス』だよ?」

 

いつも通り、相手の目、身体の軸、脚、ボールへと最大限の意識を向ける。

身体にエイリア石でパワーアップした皆の動きは叩き込んだ、休んだことで精神も安定させた。

もう、恐れることは無い。

 

「手加減なんかいらない、必要が無い」

 

身体中に力がみなぎる気がした。

 

「本気で来なさい!!」

 

「なら……いくよ!!」

 

レーゼの蹴ったボールが圧倒的なスピードとパワーで私に向かって飛んでくる、この前父さんの前でやらされたPK戦の時とは比べ物にならない程の『力』が私に襲いかかる。

だけど、もう大丈夫、私は間違ったりしない。

 

 

 

 

ジェミニストーム対私

シュート回数測定不能

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セーブ率10割

 

 

 




次回からは脅威の侵略者の本編に行けると思います。


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だいさんわ

イナイレアニメ再視聴中……そして書きだめていた分をほぼ出し切る計画性のなさ

1部誤字があったため修正しました……


その部屋は暗く、何も無い場所だった。

正確にいえば何も無いは間違いだろう。

柱が4本だけ存在し、あとは明かりだけだった。

 

1つの目の柱を紅い照明が照らす、灼熱の太陽のように燃ゆる瞳の少年。

 

「どう思うよ、雷門中と世宇子中の決勝戦」

 

2つ目の柱を蒼い照明が照らす、氷のような冷やかな蒼い瞳の少年。

 

「やはり全国の頂点を決める戦いだけある、前の私たちだったら勝つ事は容易いが、圧倒的……とはいえなかったかもしれないな」

 

3つ目の柱を白い照明が照らす、生い茂る木々のような翠の瞳の少年。

 

「うん、そうだね……でも今の俺たちにとっては取るに足らない……『あの程度』の実力じゃジェミニストームで充分だね」

 

4つ目の柱を紫の照明が照らす、滴る鮮血のような紅い瞳の少女。

 

「まぁ、いいんじゃないかなぁ……それと見せしめは何校かやっといた方がいいと思うから……全国のFF(フットボールフロンティア)出場校から他にもやっとこうか」

 

気だるげに、やる気無さげに少女は続けた。

 

「じゃあ、イプシロンは木戸川清修

ダイアモンドダストは戦国伊賀島

プロミネンスは千羽山

ジェミニストームは雷門中スタメン不在の雷門中って感じでどうかな?」

 

紅い瞳の少女の言葉に黄色い瞳の少年が不満を漏らす。

 

「おいニグラス……なんでガイアがいねぇんだよ?ぁあん?父さんのお気に入りのタツヤといい、お前といいよォ……あの頃とは違って今の俺ならお前からだって簡単に点を取れるぜ?命令すんじゃねぇ」

 

黄色い瞳の少年の言葉に、蒼い瞳の少年が同調する。

 

「たしかに君は唯一のジェネシス正規メンバーだ……だけどいずれ私がキャプテンになるんだ、命令を聞く義務は私にはないぞニグラス」

 

てめぇ!と黄色い瞳の少年が声を荒らげ、えぇ……と紅い瞳の少女……ニグラスがぼやく、すると翠の瞳の少年が最後に。

 

「やめろバーン、ガゼル……父さんの決めたことでもあるんだ……父さんの命令に逆らうのか?」

 

その言葉に舌打ちする黄色い瞳のバーンと目をしかめる蒼い瞳のガゼル。

 

「ありがとねグラン、さて……短期決戦だ、やるよ、皆」

 

ハッ!と柱の下方の床から声が響く、そこには緑の髪の少年と黒髪の少年が座していた。

それから数時間後、日本各地でニュースが流れることになる。

 

 

 

 

 

『全国で一斉に襲撃事件発生、犯人は宇宙人か?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここを何処で俺たちを誰だと思ってるし?宇宙人だかなんだか知らないけど、ここを天下の木戸川清修だとわかっててかな?」

 

グラスをかけ、特徴的なモヒカンチックな髪型の少年、そして似た特徴の少年が更に2人現れた。

どうやら3つ子のようだ。

 

「貴様らなど我らエイリア学園ファーストランクチーム、イプシロンの敵ではないわ……3分だ……3分で貴様らは自らの非力さを嘆くことになる」

 

黒い髪の少年が目を見開く、その目は暗く、黒く染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我らが戦国伊賀島だと知っての狼藉か侵入者め……!!怪しい術を使うようだが、我らが忍法に貴様らは……」

 

薄紫色の浮雲のような髪の少年の言葉を遮るように、黒と蒼のサッカーボールが少年の足元に沈んだ。

蒼い瞳の少年、ガゼルがボールを蹴ったままの体勢で冷たく続ける。

 

「さっさとしたまえ、エイリア学園マスターランクダイアモンドダスト……君らには凍てつく闇の冷たさを教えてあげるよ」

 

北風のような冷たさが周囲を包む、それはきっとこれから起こる惨劇を予期するものだったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめぇらなんだあ?!最近の都会もんはそんなファッションが流行ってるんかぁ?!」

 

ガヤガヤと古ぼけた服の少年たちが騒ぎ出す中、紅い髪の少年バーンが吠えた。

 

「っだぁっ!!うるせぇなぁ!!!いいからテメェらは俺らエイリア学園マスターランクプロミネンスにやられときゃァいいんだよ!!」

 

太陽が照りつける、まるでバーンの怒りに呼応するかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ……お前ら、今雷門中のサッカー部は決勝戦のためここにはいないし、生徒達も応援のためにいないぞ」

 

紫色のユニフォームを着た壮年の男性たちの言葉に緑の髪の少年はフンと鼻で笑う、不敵な笑みを浮かべたまま。

 

「我らは星の使徒、惑星エイリアより来た……この星の秩序に基づき……貴様らに戦いを挑む……」

 

その足下に突如、黒いサッカーボールが現れた。

 

「サッカー……この星で勝者を決めるもの……なんだろう?」

 

何故か……先程まで晴れ渡っていた空は……暗雲に覆われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我々がこの国、ジャパンとの親善試合に招待されているのを知っているのはこの国のサッカー委員会だけだと思っていたが……とんだ邪魔が入ったな……ファンやマスコミの類ならお断りだ……まさか日本のスパイか?今は練習に集中したいのだがな」

 

大柄な男性……いや、この子今の『私』と同い年だっけ、何食ったらこんなに大きくなるんだろうなぁ……国籍の違いかなぁ。

てか、生まれ変わって何回かしか着てないんだけどこの『身体』でスーツなんて着るもんじゃないなぁ……前世と違って胸とお尻がちょいキツイ……。

 

「えぇーと、確認なんですけど、バルセロナ・オーブのクラリオさん……ですよねあなた」

 

「たしかにそうだ……で、あなたは?」

 

「私は……サッカー委員会から命じられてあなた方が日本代表とまともに戦える程の力を本当に持っているか確認の為に参りました」

 

勿論、嘘だ。

 

エイリア学園が……父さんの『ジェネシス計画』がある程度の実験データを取るためにはこの国にハイソルジャーと戦える程の実力を兼ね備えている可能性のある彼らには消えてもらわないといけない、じゃなければエイリア学園問題は実際の脅威の侵略者編ほどの時間をかけずに早期解決していただろうし……。

 

「クラリオさん、あなたとPKで勝負致します、必殺技は使ってくださって構いません

もし……あなたのシュートが日本代表ではない私に止められることがあった場合……残念ながら今回の親善試合のお話はなかったことになります」

 

「……ほう」

 

クラリオの目ぇ怖っ!!え?まって?!怖?!

ていうか見ただけでもわかるけど、やば……映像で見た雷門中メンバーと筋肉の付き方が根本から違うわぁ……こりゃ負けるよリローデッド……。

 

「負けるのが怖いなら勝負自体を蹴って下さっても構いませんよ……私のような女子に負けるのが怖いなら……ね?」

 

「ふふ……はっはははははははははははは!」

 

私の言葉に笑うクラリオ、顔付きのせいか笑ってても顔が怖い。

 

「面白い、受けて立とう」

 

その言葉に悪役らしく不敵な笑みを浮かべたつもりだけど、引きつってないといいな。

 

 

 

 

 

 

 

謎の少女……サッカー委員会からの刺客を名乗る彼女は信用出来ないが、あそこまで挑発されて……なにもしないのは私のサッカー選手としてのプライドに関わること、さっさと終わらせて練習に戻ろう。

私とチームメンバーに連れられグラウンドに移動した彼女はジャケットだけ脱ぐと、シャツとパンツのままグローブを嵌めてゴールの前に立った。

 

「一本勝負、お互いまったなしですよ、なので……全力で来ることをオススメします」

 

「ほう……私のシュートであなたが怪我をしてしまうかもしれないが構わないか?」

 

国際問題にするわけにはいかない、なので言質を取らせて頂いた……証人には私のチームメンバーと監督がなってくれることだろう。

 

「ええ、構いませんよ、あなたのシュートで怪我をする心配なんて……私にはありませんし」

 

少女の言葉に少しプライドがほんの少しだけ傷ついた、まるで私のシュートを受けるだけの自信があるかのような一言だ。

 

「ほう、ならば手加減はいらないようだ……本気で行かせてもらおう」

 

私の足元にボールが転がってくる、チームメイトの目は『見せてやれ』と私に伝えてくる。わかっているさ、当てないようにゴール端に渾身のダイヤモンドレイを叩き込むさ。

少女はどうぞ、とでも言わんばかりに片手をこちらに向け手招きした。

私は行くぞ……と軽く声をかけボールを目の前に軽く浮かせ……。

ボールに私のエネルギーを叩き込み……鍛え上げる、洗練させる……!!

エネルギーが硬質化し、磨きあげられ、まるでダイヤモンドのように輝く。

これが……!!

 

「ダイヤモンド……レイ!!」

 

私のシュートはゴールの右下、寸分の狂いもなく叩き込ま……。

 

「ザ・プレデター」

 

鉤爪のようなエネルギーと複数の打撃音……気付いた時には。

 

「あらあら、この程度でしたか」

 

ボールが私の足元に突き刺さっていた。

 

「可愛くて綺麗な……シュートでしたね」

 

目の前の黒髪の少女はニコリと笑うとグローブを外しジャケットを拾う、何も無かったかのようにスタスタと出口に向かって歩き始めた。

 

「待て!いや、待ってくれ……あなたは一体何者だ!!」

 

「私は……今は名乗れませんが……ですがいずれ世界でお会いできることをお祈りだけしておりますね」

 

少女は1度立ち止まるものの、振り返ること無く歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再度、暗い部屋にて……面々は集まった。

 

「うんうん、みんなお疲れ様」

 

紫の光を浴びながら、ニグラスは笑顔で地図を指さす。

 

「次のターゲットは奈良……式典に参加予定の財前総理を誘拐するよ」

 

ガゼル、バーン、グランは他の柱の上で何も発さないまま静観する。

 

「マスターランク、ファーストランクは暫く待機だね、雷門中はやっぱりジェミニストーム相手に手も足も出なかったみたいだし、下手したらマスターランクに出番があるかどうかすら危ういねぇ……」

 

ニグラスはけたけたと笑った後、緑の髪の少年……エイリア学園セカンドランクチームジェミニストームキャプテンのレーゼに向かって指を指す。

 

「レーゼたちなら大丈夫だよね、君たちに任せたよ」

 

柱の下方に控えていたレーゼに光が当たる。

 

「了解しました……ニグラス様」

 

「それと、気になることがあるんだけどいいかな皆」

 

レーゼに当たっていた光が消え、グランに当たっていた光が光量を上げた。

バーンとガゼルは不機嫌そうに顔を向け、ニグラスはなぁに?と軽い調子で顔を向けた。

 

「豪炎寺修也……彼の存在が雷門中の中では1番邪魔だ、ジェミニストームにシュートをことごとく止められたっていうのに彼の目からは闘志が消えてなかったからね」

 

ただ1人本部に残り、雷門中の試合のデータを閲覧していたグランならではの発言は的を得ていた。

豪炎寺ならどうにかしてくれる、豪炎寺ならきっとエイリア学園のゴールだって奪える……この頃の雷門はそんなことばかり考えていたのだから。

 

「……へぇ」

 

ニグラスが目を細めた、くだらないと言わんばかりにガゼルは目を閉じ、興味が無いとバーンは欠伸をする。

続けてグランはこう告げた。

 

「精神的支柱は……早めに排除しないとね」

 

「じゃあ、いっその事エイリア学園にスカウトでもしてみる?」

 

続けて発せられたニグラスの一言に興味なさげだった筈の2人が目を開く。

 

「ああん?なんでだよニグラス?」

 

「だって……そんなチームの中心的なメンバーが相手チームに引き抜かれたって知ったらさ……自らの非力さと仲間への疑心感で……雷門は闘う前から戦意喪失……もっと面白いことになるんじゃないかな?」

 

けたけたと笑う声がする。

少女の紅い瞳が……まるで遠くに行ってしまったかのようで……グランはその瞳を自分の発言への後悔で歪ませるのであった。

けらけらと、子供のような笑い声が部屋に響く、それを止められる者は……いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、瞳子姉さん」

 

永世学園の中等部、その廊下にて少女は一人の大量の荷物を持つ女性、瞳子へと声をかけた。

振り向いた彼女の顔には表情があまり感じられないが、それが彼女の基本だと知っている少女……秀子はそのまま続けた。

 

「教えて欲しいことと……やって欲しいことがあるの」

 

「……用件なら手短に……それと、私に何か出来るとしても出来ないかもしれないけれど」

 

「わかってる、ここを離れるんだよね」

 

秀子の言葉に目を見開く瞳子、その反応に秀子は口元をニヤリと歪めた。

 

「大量の荷物、PCまで持ち運んで……どこに移動したかバレないようにしたんでしょ?」

 

黙りこくる瞳子の様子に更に秀子は続ける。

 

「エイリア学園……つまり未来のジェネシスに勝てる見込みがあるとしたら現在暫定日本最強の雷門中……まだまだ弱いけど何人かは才能あると思うよ、キャプテンの円堂守とかFWの豪炎寺修也、元帝国学園の司令塔である鬼道有人あたりはねぇ……

もしくは西の最強漫遊寺……は実力なら現在時点でもジェミニストームくらいありそうだけど閉鎖的で頭カッチコチ集団じゃ瞳子姉さんの意見を柔軟に取り入れられると思えないから却下

大穴で熊殺しのアツヤと雪原のプリンスの士郎率いる白恋……はその他のメンバーが弱すぎるから主要メンバーの2人を引き抜いて雷門中に加入させる……ってとこかな?」

 

「……そこまで、調べていたとは驚きね」

 

「まぁまぁ……続きを聞いてよ瞳子姉さん、頼みたい事って言うのはね、雷門中の強化、それとジェネシス計画の打破……」

 

「……へぇ」

 

「お日さま園の皆は、今後の事業拡大のためって言われて信じちゃってジェネシス計画に協力的だけど……もし、もしだよ」

 

そこまで言葉を紡ぐが、秀子は苦虫を噛み潰したように表情を歪めた。

続く言葉に躊躇いが見える。

それを飲み込み、彼女は続けた。

 

「ジェネシス計画が成就した先は戦争だよね?」

 

瞳子の表情が驚愕に歪み、指先が震えている。

 

「だから……」

 

 

 

 

 



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だいよんわ

UAというのがよくわからないですが500を突破していました。

お気に入り登録が22件……プレッシャーが凄いぜ……!!

皆さんに見限られないように頑張ります。


消毒液や薬品特有の匂いが支配する病院の中でも比較的、豪炎寺夕香の病室は風通しがいいおかげか……それとも兄である豪炎寺修也が定期的に花の交換や病室の整理をしているおかげか空気はそこまで悲惨なものではなかった。

 

「……」

 

手馴れた手つきで花を交換し、部屋の整理をする兄の姿がそこにはあった。

全国大会であるフットボールフロンティアの優勝報告の為に訪れるはずだった……だが実際は宇宙人の襲来と自分たちの敗北、そんな事実だけが今、豪炎寺修也を蝕んでいた。

勝利という絶頂からの転落、傷ついた仲間たち、破壊された校舎、そして……ただただ無力な自分自身。

 

「夕香……お兄ちゃんは……どうしたらいいんだろうな……」

 

そんな彼の耳に聞こえる足音、仲間たちのものかと後ろを振り返るとそこに立っていたのは、彼の知らない一人の黒髪の少女だった。

 

「炎のストライカー、雷門のエースストライカー……どっちで呼べばいいかな?豪炎寺修也くん」

 

ニコリと笑ったソレは、スーツを着ていて大人びて見えるものの、どこか雷門中のマネージャーやクラスメイトの女子などと似たような子供らしさも見て取れる。

 

「私はエイリア学園のニグラス」

 

エイリア学園、現在日本を……いや地球へと侵略してきたその名に思わず身体から脳へと警戒の信号が発せられ、全身が強ばる。

その様子を見たソレはニコリと笑い、落ち着いて、と続けて言葉を紡いだ。

豪炎寺にとって予想外のその言葉を。

 

「妹さんの命が惜しければ、エイリア学園に力を貸してくれないかしら?」

 

歯車が狂い始める音がする、ボタンをかけ違えたかのような違和感がする、まるで覗き込んだ暗い穴から。

 

じっと何かが見つめ返している気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レーゼ、雷門たちはどうやら奈良に来てるみたいだよ」

 

緑川リュウジとその仲間であるジェミニストームの面々は目の前の少女の言葉を聞き、はっ!と兵士のように揃えて返した。

場所は自分たち……正確にいえば吉良財閥が占拠した奈良しかテレビの屋上。

自分たちに与えられた指名は、ここで地球人への宣戦布告……もとい、吉良財閥のスポンサーやジェネシス計画の賛同者たちへの広告である。

自分たちに与えられた装備は万が一吉良財閥の警告を無視して警官隊や自衛隊などが独断専行での突入などしてきた際への対策で造られた防弾などの機能が着いたユニフォーム、人体を極限まで強化する謎の鉱石であるエイリア石、そして吉良財閥の科学の結晶であるスクリーンや催眠音波、催眠光線、電波阻害などの機能を搭載した『黒いサッカーボール』のみ。

いや、装備だけならそれだけだが、もう1つ、兵器があったのをリュウジは思い出す。

 

「とりあえず、私のことは無視して雷門中イレブンが来た時は連中に応戦してあげて……まぁ、まだ彼らじゃ戦いにすらならないだろうけどね」

 

目の前の少女、黒山羊秀子。

吉良財閥の研究成果、ハイソルジャーの中でも最強の1人。

ここにいるジェミニストームのメンバーが総出でかかってもものの数分で鎮圧できるであろう彼女がいれば、恐らくは並程度の戦力では話にならないのかもしれない。

 

「了解しました、ニグラス様、では電波をジャックし……放送を開始します」

 

「うんうん、早く始めないと放送中に邪魔が入るかもしれないよー」

 

目の前のサッカーボールに意識を向ける、奈良しかテレビ……民間の企業とはいえ電波を完全に乗っ取り、芝居とはいえ自らが矢面に立ち宣戦布告をする。

重圧だ、額から滴る雫はどうやらまやかしではないらしい。

失敗すれば、自分たちを助け、今まで育ててくれた『父さん』への迷惑になってしまう。

そんな、中学生にはとても重い抱えきれないほどの圧力が、エイリア石で興奮状態になっているはずの今の自分を、昔の、何も出来ない少年へと一時的に戻しているのを感じていた。

だが、時は待ってはくれない。

動き出した時計の針は、自分では手の届かない場所にあって、そんな今でも非力な自分では。

 

戻すことすらできないのだから。

 

「我々はエイリア学園、この星を……侵略する者である」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実際の時間は、そんなに経っていないだろうが。

リュウジは何時間も喋り続けていたかのように疲労していた。

だが、そんな時間に突如として終わりが告げられた。

 

「待て!エイリア学園!!」

 

やはり彼らだ、ああ……やっぱり勝機もないというのに、自分たちしか止められないと言わんばかりに……ノコノコとやってきた。

そう、リュウジは呆れ半分、残り半分はその蛮勇ともいえる豪胆さに嫉妬していたのかもしれない。

 

「またお前達か……降伏のための話にでも来たのか?」

 

「いいや!お前達を倒すために……戦いに来たんだ!!」

 

円堂守……自分たちが憧れていた中学生サッカーの日本一を決めるための大会、フットボールフロンティアで優勝を勝ち取った日本一のキャプテン。

嫉妬の感情が強くなる、自分をも燃やしてしまうほどの炎が自分の中で滾っている。

 

「……貴様らとは戦わん」

 

「っ!!なんでだ!!」

 

「言ったはずだ、我々は貴様らの星の秩序に従い……戦うとな、貴様らは10人しかいない、11人のメンバーも揃っていない貴様らに戦う資格などない」

 

諦めてくれ、いっそ俺たちに戦いなんて与えないでくれ、そんな意思もあったのかもしれない。

だが、そんな祈りも届くことは無く。

 

「いいや!これで11人だ!!」

 

スーツを着た赤い髪の少女が雷門中イレブンの前に立ち、そのジャケットを脱ぎ捨てる。

 

雷門のユニフォームを身にまとった少女を見て、リュウジは内心で落胆し、そして同時に高揚するのだ。

 

また戦わなきゃいけないのか。

また叩きのめすことができる。

 

そんな相反した感情、エイリア石による感情の昂りを、彼も、彼の仲間たちも抑えられずにいる。

 

「面白い……ならばまた叩きのめすまでだ」

 

もはや彼ら自身には止められない、『止める』という意思も、『父さん』と……この石の前では無意味だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷門中のメンバーの士気は思ったより低くない、黒山羊秀子はその事実に少し高揚する。

生前はテレビの前で、アニメとして見ていた世界が、やはり『今』では実在するのだと、再確認できたのだ。

 

「みんな!前回はあいつらのスピードに面食らって思うように試合ができなかったけど、今回はもう違う!俺達のサッカーを見せつけてやろうぜ!」

 

一人の少年の言葉に、チームメンバー全員が応!と力強く答えた。

円堂守、この世界の主人公、イレギュラーである自分とは違う本物。

そして同時に落胆する。

 

この前、自分が一方的にプライドをへし折ったクラリオという海外の選手の方が強いという事実。

 

世界線が違うから、だからリローデッドという作品の中では円堂守たちは負けたのではないかという僅かな希望が、実際に円堂守や雷門中のメンバーを見たことで間違いだということに彼女は気付いた。

 

「こんな弱い雷門中に瞳子姉さんはどんな指揮をするんだっけなぁ……」

 

この世界でもう既に『秀子』として10年程過ごした彼女の中に前世の記憶は……もうほとんど残っていない。

自分自身の妄想の類ではないのか?そんな考えが過ぎるほどの年月が経ったのだ。

 

「っ?!」

 

雷門中のメンバーを見て遠い記憶の中の自分のデータと参照するように秀子が眺めていると。

ふと、豪炎寺修也と目が合った。

 

ニコリと笑う秀子に対して狼狽した豪炎寺は即座に目を逸らし、それに気づいたのは一人の男。

 

「あれは誰だ……年代は俺たちと同じくらいか……?」

 

特徴的なドレッドヘアにゴーグル、そしてユニフォームにマントを纏った個性の塊のような外見をした少年……鬼道有人。

 

「ホントっすねえ〜、誰っすかねぇ、あの女の子」

 

巨大な図体に盛り上がった腹の少年、壁山が鬼道の呟きと目線の動きから秀子の存在を見つけ、それに同調する。

 

完全に存在がバレた。

元々隠す気もないが、まぁ見つかったのなら自己紹介くらいはしておこうと、雷門中のメンバーが出てきた扉とはジェミニストームたちを挟んで反対側の壁からニコリと笑みを貼り付けて秀子は告げた。

 

「私はエイリア学園のニグラス……まぁ今回はこのジェミニストームのマネージャーってとこかな、以後よろしくね、地球人の代表さん」

 

そういって再度笑みを浮かべるとチラホラと頬を染めて目をそらすのが何人か……地球を侵略しにきた憎き宇宙人!!と頭の中で警戒しているはずなのに逆らえないのは男のサガか……今は黒髪ロングで色白の肌、ナイスバディな美少女と脳内で自画自賛するような彼女も元は同じ性別だった好としてそれを気にしないことにした。

 

だが、同時に別の視線を秀子はひしひしと感じていた。

 

何人かは警戒の視線を……そして特に感じるのはお日さま園の皆が崇拝する父さんの長子である吉良瞳子と自らがプレッシャーを与えた雷門のエースストライカー豪炎寺修也。

 

何故あなたがいるの?と言わんばかりの瞳子からの視線も気にしない、今はまだ秀子自身が手を出さないことは彼女も知っているはずだから。

 

一方で豪炎寺は気が気じゃないだろう、脅迫してきた宇宙人がこの試合を見に来ているのだから。

 

「フフ……」

 

自身が自然に笑みを浮かべたことを彼女はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてついに、試合開始を告げるホイッスルが屋上に響いた。

 

「行くぞ豪炎寺!」

 

コワモテな顔の少年、染岡がドリブルで駆け上がり、豪炎寺が染岡にいつでもフォローできるような位置で続いた。

だが守備側であるジェミニストームは様子見と言わんばかりに動かない、それを好機と中盤の要である鬼道有人へとショートパスを繋げた染岡と即座に鬼道からのパスコースを繋げやすくなるようにとディフェンスの隙を模索する豪炎寺。

 

染岡からのパスを受けた鬼道は自らに求められている能力が決定力ではないことを知っている、そして事前の打ち合わせ通りチームのエースである豪炎寺へとショートパスを繋げようとボールを素早く蹴り出した。

 

「豪炎寺!!」

 

だが、ジェミニストームは……いやエイリア石で強化された『捨て石』たちはその程度の温い動きを見逃さない、否、自分たちが崇拝する偉大な『父さん』の計画の成就の為にも決して見逃すことは出来ない。

たしかに豪炎寺自身、秀子の存在を……そして病院に残してきた妹を意識するあまり集中していなかったこともある。

しかしながら、決して豪炎寺が万全だったとしても所詮その程度のパスでは決して通らないのだ。

 

「っ?!」

 

団子のように髪を結った少女、MFのパンドラがショートパスをカットする。

その速さは雷門中のメンバーに比べると数段上のものだ。

 

パンドラから同じくMFの仮面を被った少年イオへとボールは渡り、流れるようにFWの少年ディアムへと繋がった。

 

身体的に速さで劣り、動体視力等でも劣る雷門中のメンバーたちの何人がその動きを目で捉えられただろうか、いや、捉えられた者はほんの僅かだった。

 

攻防の起きている最前線から離れた位置にあるゴールで全体を遠くから見渡せる円堂守、そして動体視力や全体の視野が優れた鬼道……たった2人であった。

もしも、万全であれば豪炎寺も捉えられたかもしれないが、彼は自身がパスカットされたことでも酷く動揺しており惜しくも捉えることはできなかった。

ディアムは素早い動きでDFを一瞬でくぐり抜けゴール前へと乗り出した。

 

円堂に緊張が走る。

しかし、そこからはさらに一瞬の出来事であった。

ディアムの蹴り出したボールは文字通り円堂の視界から『消えた』のだ。

 

「え?」

 

円堂は優れたGKであり、シュートから目を離すなんてことはしない……そしてこのゴールという最終防衛ラインを守る上では命取りになるような瞬きですらしていなかったはずなのに。

相手の目線、脚の角度からボールの飛んでくる位置を直感で理解し見極めた上で確実にその両腕で止める。

そんな動きもしっかりと身体に染み付いている。

 

だが、エイリア石で強化されている圧倒的な速さの前ではそれも無意味だった。

 

他のメンバーがゴールに振り返った時には、既に円堂の体ごとボールはゴールラインを通り過ぎ、ゴールに突き刺さっていたのだ。

嘘だろ……と誰かが呟いた。

円堂が地面に倒れ伏した瞬間、無機質なホイッスルの響きが非情にも雷門にエイリア学園の得点を報せる。

 

1-0

 

これは試合開始から僅か30秒程度の先制点であった。




やっと試合の描写までたどり着いた……。

まだ一人称視点だったり、三人称視点だったりと描写が纏まらない……早く慣れねばならない……。


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だいごわ

試合の描写ってむつかしいなぁ……。


黒山羊秀子は目の前の惨状を見て、もう過去であるはずの自分たちマスターランクとエイリア石を使用したジェミニストームとの戦いを思い返していた。

ジェミニストームはやはりエイリア石で強化しているとはいえ初心者の集まりである。

既にエイリア石で強化されたレーゼを筆頭としたジェミニストームの動きはハイソルジャーとしての特訓過程を終え、なおかつハイソルジャーの中でも屈指の実力を持つ彼女にとっては取るに足らない、尚更単調な動きが目に見えてしまう。

一方の雷門中に対しては、荒いところも確かに多いがジェミニストームに比べたら技術の面では圧倒している。

だが、圧倒的な力の前で技術が無意味と化している今、よく心が折れないものだと関心までしてしまう。

でも時間の問題かもな……と落胆しかけたその時、天才ゲームメイカーとして名を馳せたMF鬼道有人の動きが突如変わった。

ライン際、仮面のMFイオが青い髪をポニーテールにした一見少女にも見える少年……普段はDFだが人数不足を補うためと一時的にMFを務める風丸のボールをカットした直後。

 

「見えた……!!」

 

イオは大柄な少年である後続のDFガニメデにパスを回しライン際からボールを押し出されるのを避けた、そしてガニメデが中盤への繋としてマークされていないMFパンドラへとショートパスを蹴り出した瞬間。

 

「そこだ!」

 

そのパスを完全に見切っていたと言わんばかりのタイミングで突如現れた鬼道有人がそのボールをカットしてみせた。

 

「……へぇ、やるじゃん」

 

マスターランクで自分の友人たちでもある小柄で素早い動きが特徴のクィール、司令塔からの指示を元に洗練された動きで確実に動きを封じるアイシー、バーンやヒートなども1目置くほどのセンスを持ったレアン等のMFでもパスカットには強化後のエージェントたちと3試合を要した。

 

僅か1試合と前半……マスターランクの面々の要した時間の約半分で鬼道有人はその圧倒的な速さに順応しつつあるのか、否、これは違う。

 

「パス回しの単調さを見極められたなぁこれは」

 

そう、何度も言うがエイリア学園セカンドランクチーム、ジェミニストームはサッカーにおいては『初心者』たちである。

肉体こそ強化したもののサッカーの練習をした期間でいえば半年にも満たないものばかりである。

経験者である緑川リュウジことレーゼやその友人であるディアムはそこで複雑な指揮やドリブルを教えるのではなく、とにかく近くにいるフリーな選手を見つけてその選手へとパスを繋げる、という特訓ばかりをチームメンバーに積ませてきていた。

 

その指示は間違っていない、そのおかげで見るも無惨だった連携すらできない初心者集団は『最短』のパスルートを見つけることができるようになっており、強化された身体能力からの最短のパス回しはある程度ファーストランクであるイプシロンにも通用したし、身体能力において格下である雷門やFF出場校のチームたちにとっては厄介極まりない。

 

だが、鬼道有人はそこに『穴』があることに気がついた。

 

必ずも、人と人とが試合を行うサッカーを初めとしたスポーツにおいて、最短のパス回しが最優のパス回しとは限らないのだ。

最短のフリーな選手を見つけることだけに特化したジェミニストームのパス回しでは、ルートを読まれやすい、そんな弱点を孕んでいた。

 

「豪炎寺!!」

 

ジェミニストームたちは実戦経験が浅くパスカットの動揺からか咄嗟の判断が追いつかず、鬼道からのボールは豪炎寺へと繋がった。

そう、雷門の司令塔として戦術面を任されるほどの知識と頭のキレ、そしてなにより相手の配置などを完全に把握した上での正確なパスは今度こそ、エースストライカーである豪炎寺修也へと繋がったのだ。

 

「ファイア……!」

 

フリーな状態からDFの追従を必死の思いでゴール前まで駆け抜け、逃げ切った豪炎寺がボールを高く蹴りあげ、自らも回転しながら空中へと舞い上がる。

足に火炎が灯り、その脚がボールへと吸い込まれ、まさに爆発的な火力を伴ったその必殺技。

 

「トルネード!!」

 

しかし、鬼道も読めていない選手の裏、そう豪炎寺自身の雑念がそれを邪魔する。豪炎寺の脳裏に過ぎるのは壁にもたれかかった黒髪の少女、そして病院に残してきた妹……夕香。

 

「……くっ!」

 

黒山羊秀子にとっての『前世』にはない『今世』のサッカー特有の必殺技。

それには莫大な練習となにより集中力が求められる。

一瞬過った雑念のせいか、渾身の一撃であるファイアトルネードはゴールポストに直撃し、ゴールラインを跨ぐことはなかった。

既に点差は10/0で前半も残り僅か……。

痛恨のミスであった。

 

雷門イレブンに動揺が走る、自分たちのエースである豪炎寺がゴールから外すなんて、と。

たしかに豪炎寺のシュートでもエイリア学園相手に確実に入るなんてそんな風には思ってはいない、だがしかし、外したのはこれまでの雷門の試合の中でも初めてのことだった。

 

それを見逃さないのが約2名。

 

「プレッシャーが効いてるねぇ……」

 

彼に脅迫したスーツ姿の少女、ニグラスこと黒山羊秀子。

 

「……」

 

侵略してきた宇宙人を倒すための『地上最強のチーム』を目指す雷門イレブンの現監督であり、元々は永世学園でコーチや監督を務めていた吉良瞳子の2名である。

 

「精神的支柱は既に折れてるよ、雷門イレブン……君たちの心構えがいかに見苦しいものか……わかっていたのかな?」

 

再度、試合が動き出した。

 

ジェミニストームのDFである長髪にギラついた目が特徴的なカロンから何故か試合中にも関わらず宇宙飛行士を彷彿とさせるヘルメットを被った小柄な少年MFであるグリンゴへのパスを鬼道有人がカットしたのだ。

再度走る動揺、素早さやパワーで圧倒的に勝っているはずなのに1度だけではなく2度も何故?とジェミニストームの動きが鈍る。

そして一方、雷門中は数々の格上との試合をくぐり抜けてきた猛者たちである。

試合中の好機を見逃すことなく、MFの風丸とFWの豪炎寺が一気に前線へと駆け出した。

 

対応に遅れたものの、エイリア石で強化された強靭な肉体を持つジェミニストームのMFやDFが一斉に鬼道へと迫るが、一足遅かった。

 

「決めろ!豪炎寺!風丸!」

 

ジェミニストームの面々を掻い潜った渾身のパスが、ゴール前に迫った2人へと繋がった。

 

「行くぞ豪炎寺!」

 

素早さに長けた風丸と

 

「……ああっ!」

 

決定力に長けた豪炎寺の協力必殺技。

 

2人が同時にボールを高く蹴りあげる、ボールは先程のファイアトルネードより高く……そしてなにより速く空中へと炎を纏いながら空へ。

 

風丸が空中のボールへと追いつき、それに追従するように豪炎寺がオーバーヘッドキックの体勢へと切り替わる。

 

2人の脚がまたも同時にボールへと叩き込まれ、その勢いから炎の翼のように推進力が高まる。

 

『炎の風見鶏!!』

 

だが、またも豪炎寺に雑念が走る。

 

視線の先、ニグラスがニヤリと笑った気がした……しかしながらそれは極度の緊張と妹が無事かどうかわからない豪炎寺が作り出した幻視であり、実際はニグラスは真剣に試合を観戦していただけである。

爆発的な推進力を持ったボールはほんの僅かに軌道をズラし、ゴールを外して……元凶であるニグラスへと迫る。

同じ孤児院の仲間として育ち今現在彼女の部下に当たるジェミニストームの面々は勿論、雷門中のメンバーやマネージャーたち、そして瞳子もそれに気付いた。

危ない、と誰かが声を上げようとしたその時。

 

ボールは止まった、否、止められた。

 

「なっ」

 

その驚愕の声は誰から上がったのか……わからない。

だがしかし、そんな声も当然かもしれない。

スーツを着た黒髪の少女、ニグラスは片手で軽く炎の風見鶏を受け止めたのだ。

 

「……危ないなぁ」

 

一同の視線をその身に浴びる少女は苛立ちを伴ったまま、そのボールをニグラスの意識の中では軽く投げ返した。

そのボールが先程の炎の風見鶏に負けない勢いで豪炎寺へと突き刺さったことが更なる驚愕を生む。

 

「ぐっ……?!」

 

豪炎寺がボールの勢いに負け、軽く吹き飛んだ。

ワンテンポ遅れてジェミニストームたちがニグラスへと大丈夫ですか?と声をかけながら集まり、逆に豪炎寺の元に雷門中のメンバーが集まった。

 

「大丈夫だよ皆、試合に戻ってねー……でもパスカットされることが多くなってるから、君たちのスピードを活かしたドリブル主体に切り替えるように」

 

はい!とジェミニストームたちが元のポジションへと戻り始めた、しかしながら雷門中の面々は豪炎寺の元に集まったままポジションには戻ってはいない。

 

「大丈夫か豪炎寺!」

 

チームの生命線であるゴールを守るGKでありキャプテンである円堂が声をかけると豪炎寺は問題ないと小さな声で返すが、明らかにダメージが大きいのは雷門中の面々から見て明らかだった。

 

「なんだあいつ……俺と豪炎寺の炎の風見鶏を片手で受け止めたぞ……それにあのパワー……」

 

風丸が困惑しながら、ニグラスへと視線を向ける。

それに続いて鬼道や円堂もニグラスへと視線を向けたが彼女は何食わぬ顔でサッカーコートを見つめるのみ。

 

「あぁ、エイリア学園のマネージャーとか言っていたが、ああも簡単にボールを受け止めるとはな……」

 

「アイツ自身もすげー選手なのかもな」

 

鬼道の疑問に円堂が答えた、たしかに彼ら雷門中は自分たちの最強の必殺技であるイナズマブレイクをジェミニストームのGKであるゴルレオという大柄な少年に同じく片手で止められている。

 

だがそれは自分の元にシュートが向かってくるという確信や警戒あってのものだった。

視線の先にいる少女、ニグラスは豪炎寺と風丸の必殺技がゴールから逸れて自分の元に飛んでくるという明らかに不意をつかれた形だったのにも関わらず、動きにくいであろうスーツで咄嗟にキャッチしたのだ。

 

「……やっぱり僕の思った通りかもしれません!」

 

そこで眼鏡をかけた少年、目金が突如大きく声を上げた。

 

「エイリア学園の母星、惑星エイリアはきっと地球の何倍もの重力がある星なんですよ!!だからあんな細身の女の子でも僕達地球人の何倍ものパワーを出せるんです!!」

 

その声に雷門の何人かがなるほど、と声を上げた。

だがしかし、鬼道と円堂はそれだけでは納得できないと言わんばかりに顔を曇らせる。

だが、ここで雷門中の面々が話を膨らませても謎の多いエイリア学園の力の謎を解明できることもなく、レーゼからの降参か?という一言に円堂がそんなわけあるか!と声を大きく上げ、再度それぞれのポジションへと戻った。

 

そしてまた試合が始まるが、先程のニグラスの助言からか、ジェミニストームの戦法はパス主体ではなくドリブル主体の個人技での特攻へと形を変えた。

 

パスカットを狙ってのカウンターという戦法もできず、13/0という絶望的な点差で前半終了を告げるホイッスルが響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後半からの作戦を伝えます」

 

圧倒的な身体能力をもって言葉通りの蹂躙を行うジェミニストームの前に疲弊困憊といった状態の雷門イレブンは瞳子の言葉に集まった。

彼らはジェミニストームの前に実は試合を行っていた、それは雷門イレブンの追加メンバーである赤い髪の少女、財前塔子の率いていたSPフィクサーズという彼女以外は財前総理のSPで構成された成人チームだ。

その時は1人足りない10人での試合を余儀なくされ、1人足りないことから染岡、風丸、壁山の3名がオーバーワークにより力が発揮できなくなってしまった。

そこであえて、瞳子はその3人を外すという強気の策に出た、本調子の出せないメンバーを下げることで残りの体力が比較的余っていたメンバーでの連携を主体とし、油断した相手を前線に引きずり出すことで相手の守備を手薄にし、鬼道が人数差を補い手薄になった守備を翻弄するゲームメイクをすることでなんとか1点をもぎ取り勝利することができたのだ。

そんな彼女なら、またも奇策を用いてエイリア学園に一泡吹かせられるのではないか、そんな期待が一同に過ぎった。

 

「DF全員を前線まで押し上げます、全員で攻めなさい」

 

その指示はあまりにも無謀だった。

 

「そんなフォーメーションじゃ、1人抜かれたらおしまいでヤンス!」

 

栗のような髪型が特徴的な小柄な少年、栗松が声を上げた。

鬼道や風丸と言った残りの面々もそれに賛同するかのように講義の声をあげるも。

 

「これは勝つ為の策です、試合に戻りなさい」

 

瞳子はそれすら我関さずと、ベンチへと歩いて行ってしまう。

 

「皆!ゴールは俺に任せろ!」

 

意気消沈といった雷門イレブンに円堂は逆境にも関わらず明るい声で続ける。

 

「たしかにアイツらのシュートは早い……でもこれ以上点なんてやらない!!」

 

円堂の頼りになる声、雷門イレブンはいつも助けられてきたその声に再度士気が高まった。

 

応!

 

そうして後半が始まる。

 

DFも含めたフィールドプレーヤー10人が全て前線へと上がる布陣に、ジェミニストームは勿論、秀子も困惑する。

 

「なんだあのフォーメーションは……」

 

ジェミニストームのFWディアムが声を漏らす、あまり戦術面に詳しくはないとはいえ自分でもわかる、アレは間違った策だ……と。

 

「ふん、いくら奴らが策を凝らそうと無駄なこと、我々は構わず潰すだけだ」

 

レーゼは下らないと一蹴。

 

だが1人、この布陣に……いやゴール前にいるのがGK1人だけというこの状態に見覚えがある者がいた。

 

「……へぇ、そういう事か」

 

ニグラスはそういえばそうだった、と確信を得たように瞳子へと視線を向けた。

 

「今回は捨てるってわけね……まぁここからの逆転なんて奇跡が起きても無理だけど……」

 

そんな小さな呟きを上書きするかのように、ホイッスルが響いた。

 

染岡から風丸、風丸から鬼道、そして鬼道から栗松と、全員が前に突っ込むことでパスルートが多彩な故にショートパスを連続することで少しずつ前に進んでゆく……が。

 

「甘いっ!」

 

DFの栗松から一瞬にしてボールを奪うディアム、いくらパスルートが多彩でどこに行くかわからないボールも圧倒的な身体能力の前では無意味だった。

そして全員が前に出ているということは、1人抜けばそこでもう彼らのシュートを邪魔するものはないということだ。

ボールを奪ったディアムは即座にシュートを繰り出す、ゴールまでは距離があるものの、円堂はまだジェミニストームのシュートを目で捉えることすらできないのだから当然。

 

「ぐわっ!!」

 

円堂はまたも気づけば肺の中の空気を無理矢理吐き出させるかのような勢いでボールに激突し、そのままゴールラインを跨がれる。

 

何度も……何度も。

 

そして後半直後は14/0にだった点差も遂に……。

 

30/0という悲惨な点差になっていた。

 

「アイツらにこれ以上シュートを打たせるな……円堂が病院送りにされちまう!!」

 

誰かの焦る声、そして焦りはミスを生む。

 

今度は染岡がボールを奪われ、再度ディアムがシュートの体勢へと移行する。

 

「今度こそ……!!」

 

30/0もう既に30回のシュートを許してしまった円堂はそれでも何度でも今度こそと自分を鼓舞する。

ディアムのシュートが再度繰り出され、軌道からボールが消え……否、軌跡が見える。

 

「これは!!」

 

咄嗟に円堂はキャッチのために手を伸ばす、しかしその両手はボールを捕らえることはなく、ボールの勢いに負け、再度円堂ごとゴールネットを揺らす。

だが、円堂は内心歓喜していた。

見えた、と。

 

「うっそ……もう見えたの?」

 

それを見ていたのはニグラスである、彼女自身何度も…何百何千というシュートを受け、やっと目で捉えられるようになり、そして止められるまでに何日もそれからシュートを受け続けた。

そんな彼女の内心に驚愕と畏怖が込められていた。

だがしかし、驚異的な成長にはもう1つ彼女も気づかなかった理由があった。

それは今現在、円堂が試合の真っ只中という事だ。

練習でも集中しなければ怪我もするし成果も得られない、だが試合となれば集中力は練習よりいっそう増す。

それこそ瞳子の策であったのだ、と確信は更に深まる。

 

だが、ついに限界に来たものがいた。

 

「……地球にはこんな言葉がある『井の中の蛙大海を知らず』とな……」

 

それはジェミニストームキャプテンのレーゼであった、圧倒的な力の差に屈しない円堂たちへの苛立ち。

そう、ガイアと試合した時の自分たちは開始数分で力の差を思い知ったのに。

イプシロンにも負け、ダイアモンドダストに敗れ、プロミネンスにも手も足も出ず……諦め切ったジェミニストームのメンバーの顔を彼は忘れはしない。

 

「己の無力を知るがいい……!」

 

それは過去の自分への言葉なのかもしれない。

レーゼは足元のボールへと全力で回転を加えた。

そう、エイリア石で強化された身体能力の全力を持って。

地面すら抉りとる程のパワーが込められ、周囲にボールを中心とした風が荒れ狂う。

 

「なんだこりゃ?!」

 

「すごいエネルギーだ……!!」

 

染岡や風丸といった雷門中の面々に更なる驚愕が襲いかかった。

だが、円堂の瞳に悲観の色はなく。

 

「面白い、来るなら来い!!」

 

「アストロブレイク!!」

 

圧倒的な圧力を伴ったそれはFWのディアムやリーム程のシュートのスピードではないが……真っ直ぐに地面を抉りながら突き進む。

 

「今度こそ……!」

 

それに対し、円堂は自らのエネルギーを心臓に一気に溜め……右手を心臓に掲げながら身を捻る。

金色のエネルギーが正に魔神のような風貌で円堂の背後に現れた。

 

「マジン・ザ・ハンド!!」

 

金色の魔神の巨大な掌が圧倒的なエネルギーのアストロブレイクを防がんと振るわれる、雷門中の面々はマジン・ザ・ハンドなら……!!とわずかな希望に縋った瞬間。

 

「なっ?!」

 

拮抗する間もなく、アストロブレイクの力の奔流が魔神をまるで紙屑かなにかのように一瞬で突き破り、円堂を吹き飛ばし……ゴールネットをも突き破って……ボールは威力に耐えきれず破裂した。

更なる驚愕が雷門イレブンを包んだ、円堂のマジン・ザ・ハンドすら破られた……と。

そして、その得点により32/0

 

最後のホイッスルがフィールドに響いた。

 

試合終了である。

 

 

その音を聴いた、直後雷門中の面々は一斉に円堂の元へと集まる、円堂はダメージこそ大きいようで気を失ってはいたが、離脱してしまったメンバーほど大きな怪我自体はしていないようだった。

そんなこともお構い無しにレーゼは黒いサッカーボールを起動し、周囲の空間がまるで捻れたかのように黒く歪む。

ジェミニストームの面々が集まり、最後にニグラスがおめでとーと言いながらジェミニストームの元へと歩み寄る。

 

彼らのシルエットが薄くなっていき……空間の歪みが消えた頃には、そこにジェミニストームとニグラスの姿はなかった。

実際は催眠により一時的に雷門イレブンや周囲の人間を放心状態にさせ、その間に移動しただけではあるのだが、彼らはそれを脳内補正によって、突如消えたかのように錯覚するのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合直後のことである。

夕暮れが辺りを包み、あんな試合の後でなければとても美しい景色だと思えたはずだ。

ふと、瞳子は自らの新しい携帯に1件のメッセージが届いていることに気がついた。

差出人の名は『黒山羊秀子』

 

「……」

 

瞳子は携帯を操作し、メッセージには。

 

『豪炎寺くんにエイリア側から接触を測っています、彼の妹を吉良財閥の手の届かない場所に移動してください。

彼の父親と母親は医師会でもそれなりの力を持つ人物、吉良財閥も簡単には手を出せないとは思いますが、まだ幼く意識も戻っていないせいで自衛のできない夕香ちゃんは危ない。

やり方は瞳子姉さんに任せます

まだ、ジェネシス計画はマスターランク同士の牽制のせいか停滞してます、でも、急いで』

 

「……まったく、あの子は……」

 

大人びた思考能力を持つとはいえまだ中学生の秀子がこんなに尽くしてくれている、その事実に大人の自分が少し情けなくなる。

そして、瞳子はこれから悪役を演じなければならない、彼が雷門イレブンの精神的支柱を担っていることなどSPフィクサーズと今回のジェミニストームとの試合でとっくにわかりきっている。

だが、このまま集中力が欠けたままの彼を試合に出し続ければストレスやプレッシャーで彼自身が潰れかねない。

まずは豪炎寺くん無しでも、『全員』がそれぞれの強い意志で前に進まなければ勝利が掴めないということを教えなければならない。

 

瞳子はゆっくりと移動式の拠点であるイナズマキャラバンへと歩を進めた。

 

そこでは意識の戻った円堂や他の面々が何故か今回の試合を勝てせてあげれなかった瞳子を称えていたが、瞳子は鬼道や円堂が今回の試合の意図に気づいたのだろうと納得する。

 

「豪炎寺くん」

 

1人、意気消沈したままの豪炎寺の姿が目に映る、家族を人質にとられ……よく試合に出れたものだと彼への評価を高める。

だが、告げなければならない。

 

「あなたにはチームを離れてもらいます」

 

雷門イレブンの面々が自身の耳を疑った。

そして1部から、どうして?等と声が上がる。

だが、そんな中、豪炎寺は気づいた。

 

今回の不調の原因をこの女性は知っている。と

 

だが豪炎寺本人が納得したとしても、彼は納得しない。

 

「どうしてなんですか監督……?」

 

円堂の声が珍しくも暗くなる。

思わず、彼自身も意識せずに瞳子へと1歩踏み出した。

 

「豪炎寺に出ていけ、だなんて……」

 

「そうですよ監督、豪炎寺は雷門のエースストライカー、豪炎寺がいなきゃアイツらには勝てない」

 

同調した風丸、彼は比較的DFでありながらも前に出て点を勝ち取ろうという強い意志を感じるいい選手だ、だが、そんな彼にすら『豪炎寺に頼り切ってしまう』意志が微かにある。

 

「もしかしてミスったからか?」

 

背の高くスラッとした体格の色黒な選手、土門が声を上げ、円堂がそうなんですか……?と力なく再度瞳子に尋ねる。

 

「説明してください監督!」

 

瞳子だって本当ならこの場で説明したい、豪炎寺には力を出し切れない理由があるのだと。

だがしかし、それは同時に雷門を……いや豪炎寺を監視しているかもしれない吉良財閥の諜報員に聞かれる可能性がある。

僅かな可能性かもしれない、だがそのほんの少しの気の緩みが、豪炎寺修也という人間とその妹の人生に関わるのだから。

『今は』言えないのだ。

 

「……私の使命は『地上最強のチーム』を作ること、そのチームに豪炎寺くんは必要ない、それだけです」

 

握る手に力が籠る、本当なら彼ほどのメンタルを持ち、技術や肉体面などでも優秀な選手を手放すのはかなり手痛い……だが、まだ致命的ではない。

 

そう、この円堂守を中心としたこの雷門イレブンならまだ希望はある。

 

「でも、それじゃ説明に……」

 

なってない……そう続けようとした円堂、だが豪炎寺は歩みを進めた、そう、チームからの『一時』離脱の道へと。

 

「豪炎寺!」

 

円堂が豪炎寺を追いかける、皆の意識がそちらに向いた時、瞳子は踵を返しイナズマキャラバンから離れた。

 

彼らならまだ、勝機はある。

修正すべきは約2点、豪炎寺というエースストライカーがれ抜けたことによる攻撃力の欠如。

そしてDFを補欠選手でほぼほぼ経験のない目金が務めており、もしも対等な試合となった時にそここそ致命的な隙となってしまう。

この2点は次の目的地である白恋中学で解決出来る見込みがある。

そしてさらに今回の奈良遠征で得たものも大きい。

予想外ではあったが、財前塔子という優秀なディフェンス能力を保持しているMFも増えた。

そしてなにより、ジェミニストームとの試合による経験値は必ず彼らの血肉となる。

特に円堂守は最後のシュートを確実に目で捉えていた。

彼らならきっと、吉良財閥の暴走を止めるための力となる。

 

ふと、握っていた掌を開くと、薄く血が滲んでいた。

あぁ、私にもまだ。

人にかける情はまだあったのかと、ひとり瞳子は安堵する。

だがそんな暇はないとすぐに切り替えるのも彼女の長所である。

次の試合や、そしてジェネシスへの抵抗のために彼女は今できることをやるだけなのだ。

そう、彼らになんと思われようとも。




試合描写を書き終え、再度雷門対ジェミニストームのアニメを見た一言。

「実況のことすっかり忘れてた」

さようなら角馬!君のことは忘れない!!((


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だいろくわ

Q.主人公の新必殺技はありますか?
A.まだ主人公が試合に出ていないので必殺技自体使う機会がありません、なのでいつ技が増えるかは僕自身にも現在わかりません(´^p^`)

予定では今後主人公以外のオリジナルキャラクターも出てきたり、本来の脅威の侵略者編の時間軸では出てこなかった人物も出てくるかもしれません。
それに、オリジナルの必殺技も秀子ちゃんの『ザ・プレデター』以外にも出す予定ではあるのでそこら辺で原作との違いを出して行ければなぁと思います。


「はーい、ではジェミニストームの皆さん」

 

とある山の麓にエイリア学園の本拠地はあった。

黒山羊秀子ことニグラスとジェミニストームの11人はその内部のグラウンドにて向かい合っていた。

ジェミニストームの面々の表情はどこか固く、今から何をされるのかと怯えているようにも見える。

彼女は髪を1つの三つ編みで纏めそれを更に団子のように結っている、更には軍事用のガスマスクのようなものを装着しており、彼女本来な端正な顔は鼻から上の目元付近しか露出していない。

そして、珍しくザ・ジェネシスのキーパー用ユニフォームである紫のピッタリとした素材のそれを着ている彼女は彼女本来のスタイルも相まって男ならば少しばかり劣情を抱いてもおかしくないような服装になっていた。

しかしながら、昔ながらの付き合いであるお日さま園の仲間の彼らはそんな彼女が普段からだらしのなく隙だらけな服装をしているため、慣れていた。

閑話休題

とにかく、彼女はザ・ジェネシスのユニフォームに身を包み動きやすいようにと髪まで結って準備万端と言った様子。

彼女がそんな服装をするのはマスターランクの定例会議の時以外だとジェネシス計画初期でのハイソルジャー育成訓練の時以来である。

 

「前回、奈良での試合は散々だったね!単調な動きが読まれてたせいで鬼道有人からしたらカモネギ状態だったよ!」

 

その言葉に身をさらに固くするフィールドプレーヤーたち、唯一関係ないと言わんばかりに油断しているゴルレオに向かってニグラスは言葉を続ける。

 

「はいそこ、次回は恐らく今回よりもシュートの精度を上げてくると思うから油断しない」

 

その言葉にゴルレオも背筋を張った。

全員に緊張が走る中、ニグラスはそれぞれの選手へのアドバイスを始める。

 

「ディアム、たしかに君のシュートはスピードとパワーなら豪炎寺修也より強いよ、でもキレがないんだよねぇ……多分だけど次も同じようなシュート撃ってたら止められるから研鑽するように」

 

その言葉に茶色い髪のFWである少年、ディアムがはいっ!と答える。

 

「リームはもっとボールを積極的に拾いに行くこと、シュートの約7割をディアムが決めてたよね、君の方が体の関節は柔らかいんだから、練習すればディアムより柔軟な動きでゴールを狙える」

 

続いて桃色の髪の少し色黒な少女がはいと答え、ディアムと自分を見比べている。

 

「イオはリームとは対極的にボールばっかり見すぎててフィールドを見てなさすぎ、立ち位置をもう少し周りを見て決めること、じゃないとまた鬼道有人にボール取られるよ」

 

仮面を被ったMFのイオは思うところがあったのか頭を抱えて項垂れつつ、はいと力なく答えた。

 

「グリンゴは体格を活かしてもっと撹乱するような素早いドリブルを磨くこと、パス自体は早くて正確、しっかりできるから次は個人技を重点的に育てて、とりあえずはカロンやレーゼと一緒に必殺技の特訓だね」

 

宇宙飛行士のようなヘルメットを被った小柄なMFのグリンゴはコクリと頷きレーゼとカロンへと向き直った。

 

「パンドラは良くも悪くもバランス型だね、たしかにイオは君より個人技が上手いし、グリンゴ君は君より素早くパスが出せる、でも君はどちらも及第点に達してるしメンタルが問題かな……次は急にパスカットされても動揺せずに奪い返していこう」

 

お団子頭の少女、MFパンドラは次は油断しませんとはっきり答えた。

 

「カロンは相手の動きを見てから行動に移すまでが遅い、でもプレッシャーをかけてくのは上手いし君ならイプシロン相手でもきっとボールを奪えるよ、自分に自信を持って行動すればもう少し早く動けるはず」

 

青髪のワカメのような長髪のDFカロンは頷くと俺でもイプシロンに……と自分の両手を見やる。

 

「コラルは普段から必殺技に頼りがちだね、必殺技は強力だけど隙も多いから必殺技抜きの技量も上げていこう、リームと特訓してみてよ、二人ともいい経験になるはずだからさ」

 

青い短髪に平坦な顔立ちのDFコラルは頷くとリームよろしくと小さく呟いた。

 

「ガニメデはパスが少し苦手だね、動いてる相手に向かって蹴るのが苦手なんでしょ?イオが連携が苦手だし2人で特訓してみて」

 

緑の髪を短髪にして触覚のように生やしている大柄なDFのガニメデはわかったと答えて、イオに頼むと声をかけた。

 

「ギグはパワーはたしかにあるから相手のFWも近寄りにくいだろうけど、そこで待ってちゃダメだよ、自分から奪いに行かなきゃ、だから豪炎寺に2回もシュートチャンスを与えちゃったんだね、次は君が相手にシュートを撃たせる前に止めるくらいの気持ちでいってみて」

 

赤っぽい皮膚の太ったDFギグははいと答えると少し項垂れて奪う……奪うとブツブツと呟き始めた。

 

「ゴルレオは特に出番がなかったとはいえ、ゴール前の全体を俯瞰できる場所に常にいるんだから敵の動きをDFに伝えること、たしかにゴールを守るのが君の仕事だけど、それはGKである君がDFと協力すればもっと効率よく守れるはずだよ」

 

青い髪の大柄なGKゴルレオはわかったと大きな声で答える、それに対してニグラスはとりあえずはこれを見て勉強。と何枚かのディスクを取り出して渡した。自分だけ体を動かす特訓でないことに項垂れた。

 

「最後にレーゼは、パスもいいしボールのキープ力も断トツだねいいよ、でも集中力!キレてたでしょあの試合……まぁ何に怒ってたかは聞かないでおくから試合中は無駄なこと考えないでチーム全体のことを考えるように……司令塔はキャプテンの君なんだから、皆の行動の指標にならなきゃ」

 

レーゼは力なくはいと答えるとグリンゴとカロンにやるぞと声をかけた。

 

「はい!じゃあ各自練習開始!」

 

はい!とジェミニストームの面々が散り散りになり、ゴルレオは溜息を着きながらグラウンドから資料が確認出来るエイリア学園の本拠地内部へと歩き始めた。

そんな彼らを送り出したニグラスの元に勢いよくボールが飛んできたが、彼女はそれを見もせずに片手で受け止めた。

 

「バーン……?またきみ……ってグランじゃん、どうしたの?」

 

呆れた様子で振り返るとそこにはバーンと同じ紅い髪ではあるが翠の瞳を持った基山タツヤ……否グランが立っていた。

 

「ふふ……なんだか君のそれを見たらまたサッカーしたくなってね」

 

静かな笑みを浮かべながら歩を進めるグラン、だがしかしその目は笑っているとは言いがたかった。

その様子を見てニグラスはめんどくさーと漏らすと、なになに、どうしたのさ。とボールを片手で回す。

 

「父さんの部下が見張っていた豪炎寺夕香が消えた、恐らくは豪炎寺修也がなにかしたか……もしくは姉さんがなにかしたのかもしれない」

 

「ふーん、対策が早いねぇ……豪炎寺くんに連絡先渡したのに連絡ないし、もしかしなくてもスカウト失敗だねぇ」

 

「それと、実際彼らを見てどうだった……ニグラス」

 

その言葉にニグラスはうーんと1度言葉を詰まらせた後、めんどくさそうに答えた。

 

「サイヤ人かよってくらい成長が早いねあいつら、キャプテンの円堂守は早くもディアムのシュートを目で捉えられるようになったみたいだから、ジェミニストームのシュートを止められるようになるのも時間の問題かなぁ

あとは鬼道有人もジェミニストームの弱点だった単調な動きをすぐ見抜いたし、あとはある程度ポテンシャルの差を埋めれたら多分ジェミニストームじゃ勝てなくなるかもよー」

 

グランはサイヤ人……?と少し困惑しつつも、そうか、と答え流石は日本一のチームだねと続けた。

 

「でも、今のままなら十分ジェミニストームが有利だね、まずスピードが足りない、あの程度の速さだったらゴルレオのブラックホールが出が遅いのが弱点だとしても余程のことがない限りシュートは止まるだろうし、守備もお粗末だから防戦一方になるんじゃないかなぁ」

 

最後にボールをポンとグランに投げて返すと、まぁ結局はただの予想なんだけどねーとニグラスは続けて全身を反らすように伸びをする。

投げられたボールをリフティングの要領で受け取るとグランは君の予想は大体当たるし、大丈夫だよと告げるとグラウンドから踵を返して何処かへと歩き始めてしまった。

 

「サッカーやりたくなったんじゃないんかーい!っとー

さーてと、みんな頑張ってるかなー?」

 

グラウンドを見やれば、ジェミニストームの面々が各自、それぞれに課された特訓をこなそうとしており、それだけを見ていれば何処にでもいるサッカー少年やサッカー少女のようだ。

その景色に満足したのかニグラスはうんうん、と1人頷くとボールを拾い壁当てをし始めた。

 

「今頃は北かな?姉さん」

 

機嫌がいいのか口笛を吹く彼女だが、装着していたガスマスクのせいでひゅーひゅーと呼吸がおかしい人のようになってるのはご愛嬌である。

定期的にとても重い打撃音のような音が響く。

その音に驚いたジェミニストームの面々が音の元凶に目を向ける、そこには軽く50mはあろう距離にも関わらずボールをバウンドさせずに壁当てを続けるニグラスの姿があった。

吉良財閥の開発したハイソルジャーの特訓スペース用に作られたこのグラウンドの内壁はガイアのストライカーであるウィーズの必殺技のガニメデプロトンをまともに食らっても壊れない頑丈さだ。

だがしかし、何度も叩きつけられたボールの形にヒビ割れめり込んだ跡ができていた。

恐らくは壁へと蹴り出したボールはガイアのFWであるウィーズのシュートより早く壁とニグラスの間を往復してるのだと、ジェミニストームの面々は恐怖した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、遥か北の大地……北海道では。

雪が辺りを白く染めあげていつつ、しっかりと雪を排雪してあるおかげで土が見えるグラウンド。

その中には豪炎寺の不在によりまた10人となってしまった雷門イレブンとそのグラウンドの持ち主である白恋イレブンとの試合が既に始まっており前半が終了していた。

得点は0/0のお互い得点なし。

そう、日本一となったはずの雷門中がいくら攻めの要だった豪炎寺が不在だとしても得点0で抑えられているのである。

 

「なんだあの優男……ジェミニストーム並に早い上に……プレッシャーの掛け方とかボールを奪うまでの動きが半端なく上手い……そしてなにより」

 

「あぁ、アイスグランドとかいったか……あの必殺技……吹雪士郎、あの男のディフェンスを破るのは一筋縄では行かないぞ」

 

ぼやく染岡に鬼道が同意する。

2人の目線の先には雪のような白い髪の端正な顔立ちの少年、吹雪士郎。

そんな彼らを見て、士郎の後ろから鼻で笑う者がいた。

 

「なにが、エイリア学園を倒すために最強のチームを作るだ……あんなチーム俺と兄貴の2人で充分じゃねぇか」

 

「コラ、ダメだよアツヤ……彼らは何人か足りないようだけど日本一になった雷門中サッカー部だ……油断してたら勝てる勝負も勝てなくなる」

 

「んな事言ったってよォ俺と兄貴がたまたま同時に病気にかかっちまったせいで出れなかった大会の優勝者なんか、意味ねぇだろ」

 

夕焼けのような薄い橙色の髪をした少年は吹雪士郎と瓜二つだった、そう吹雪士郎を兄貴と呼ぶその少年は。

 

「この白恋のエースストライカー、吹雪アツヤとキャプテンの兄貴、俺ら2人が、最強だ!」

 

黒山羊秀子が知っている歴史の中では既に亡くなっているはずの吹雪アツヤであった。

 

そして、後半が始まる。

 

前半は雷門中ボールだったため、白恋中ボールで後半戦開始。

白恋は吹雪アツヤを含むFW3人という攻撃的な布陣、たしかに1人足りない雷門中は守備がその分手薄になるため、間違った判断ではない。

青い髪にゴーグルを額にかけた少年氷上がアツヤにボールを渡す、その瞬間。

 

「行くぜ行くぜ行くぜぇえ!!!」

 

アツヤが吠えた。

 

圧倒される雷門中へと単身乗り込むアツヤ、鬼道と茶色い髪の爽やかなイケメン一之瀬が一気にボールを奪いにかかるものの、兄の吹雪士郎と同じく最高速度はジェミニストームにも匹敵するのではないかというスピードで2人を一気に突破した。

 

「吹雪アツヤ……兄同様コイツも早いぞ……!」

 

「すまない、抜かれた!」

 

しかしながら、全体を指揮する能力や全体を俯瞰する能力に長けているのはなにも鬼道有人だけではない。

ポテンシャルで自分より優れた成人チームを纏めキャプテンを務めていたのはなにも親の七光りではないのだ。

そう、塔子がアツヤの前に立ちはだかった。

 

「行かせないよ!」

 

アツヤが再度加速するよりも早く、塔子を押し上げるかのように地面から巨大な塔が現れる、その頂点から雷をアツヤに向かって落とすのが塔子の自慢の必殺技。

 

「ザ・タワー!!」

 

「クソがっ?!」

 

アツヤの独壇場になりかけていた場の雰囲気を一気に取り返すザ・タワー、塔子は1度体勢を立て直そうと逆サイドの風丸へとパスを繋げた。

風丸は難なくそれを受け取り、敵陣へと攻め込む。

 

「くそっ!俺だって速さなら負けない!」

 

ジェミニストームや吹雪兄弟といった、自分よりスピードの優れる選手をココ最近だけで何人も見た風丸は少し焦りつつ確実に前に進む。

MFの青い髪で片目を隠し耳当てをしている少年空野と同じくMFで藁の帽子を被った小柄な少女荒谷を先程のアツヤのような強行突破ではなく、緩急をつけた素早い動きで翻弄しくぐり抜けた。

 

「凄いぞ風丸!!」

 

円堂が声援を送る、そして風丸は本来焦る必要はないのだ。

たしかにジェミニストームやアツヤのようなプレイスタイルは素早く華があり周りに強く印象が残るかもしれない、だが彼らにないものを風丸は既に身につけている。

緩急をつけることにより、本来の最高速度よりも早く魅せるテクニックを彼は自然とマスターしていたのだ。

だが、最高速度は……たしかにアツヤの方が数段上である。

そして、アツヤほどの選手が何故得点出来なかったのか、それは兄からの司令で他のポジションの人間を邪魔するような動きをするなと試合前に釘を刺されたためである。

しかしながら、お互い無得点のこの状況に……何時までも黙っている、彼では無かった。

 

「あァ!!かったりぃ!!俺がボールを奪ってやンよォ!!」

 

「なにっ?!」

 

いつの間にか追いついてきたアツヤに動揺するも、すぐ様対応し奪われないようにキープする風丸。

パスをしようにも、直近の鬼道や染岡には既に士郎の指示でマークがついている。

 

「くそっ……ここまでの実力があるなんて……!」

 

「オラオラどうしたよォ日本一の雷門さんよォ!!この程度かよォ!!」

 

徐々にライン際へと追い込まれ、ついに奪われるかと思われたその時、ニヤリと風丸が笑った。

突如、彼の背中を押すように風が吹く。

 

「疾風ダッシュ!」

 

追い詰めたかと思った風丸に不意をつかれ突破を許してしまったアツヤ。

くそ、と言いながらも急いで振り返るが既に風丸は先まで行ってしまった。

 

「速ぇじゃねぇか……!!」

 

風丸は一気に上がるが、DFのロシア帽を被った少女、真都路が現れ。

 

「アイス……!」

 

「まずい!」

 

真都路のつぶやく声に咄嗟に近くにいた鬼道へとパスを回す風丸、しかし、そのパスは士郎にカットされてしまった。

しまったと言う風丸の後ろで真都路がグッとガッツポーズを取ったのを見たものはいない。

 

「ふふ、甘いね!」

 

パスカットをした士郎がそのまま前線へとボールを運ぶ、カットされた鬼道が追うものの士郎のスピードに追い付けず士郎からボールはFWの氷上へと渡った。

直近の壁山がザ・ウォールをする前に壁山を迂回し、氷上は必殺技の体制に移る。

氷上の直線上の床が凍り、渾身の一撃をもってボールを蹴り出した。

 

「フリーズショット!」

 

しかしながら、雷門のゴールを守るは日本一の守護神円堂である。

両手に力を込め、連続で拳をボールへと叩き込む。

 

「爆裂パンチ!!」

 

複数の打撃音の後、ボールは目金の元へと吹っ飛んだ。

目金がそれを受け取ろうとした時、不意にあの男が牙を剥いた。

 

「そのボール貰ったァ!!」

 

パスカットのようにボールを奪ったアツヤはそのままゴール前へと駆け込み、ボールへと複数の回転をかける。

 

「吹き荒れろ……!」

 

氷を纏った風が辺りに撒き散らされる。

そう、吹雪がボールを中心に吹き乱れた。

 

「エターナル……!」

 

自身が作り出した吹雪を乗りこなすかのように流麗にその身を翻し回転を加え。

勢いをのせた脚を吹雪の影響で凍りついたボールへと叩き込んだ。

 

「ブリザードッ!!」

 

爆裂パンチという必殺技を繰り出した直後の不意をついたシュートにマジン・ザ・ハンドでは間に合わないと円堂は普段から使い慣れた必殺技を繰り出した。

 

「ゴッド・ハンド!!」

 

円堂の黄金のエネルギーで作り出された掌がアツヤのエターナルブリザードを抑え込まんと拮抗する。

しかし、アツヤがニヤリと笑うと徐々にゴッド・ハンドは凍り始め、ついに砕け散りゴールネットを揺らした。

 

0/1

 

その名を示すかのように吹雪のように突然に現れ、吹雪のように荒れ狂い先制点を先取したのは白恋中であった。

 

そして

 

「そこまで!練習試合は終わりよ」

 

突然、瞳子は大きな声で皆に練習試合を終えるようにと告げた。

雷門中の面々が何故と声を上げる中、1番納得が行かないと反抗したのは意外にも。

 

「あァ?納得いかねぇ!まだ物足りねぇんだよ!!」

 

「!!アツヤ!待て!」

 

兄の士郎が静止するも、そのアツヤの声に同じく同調する者がいた。

 

「あぁ!全くその通りだ……!いくらすげぇシュートが撃てたって……!豪炎寺の代わりはアイツなんかに務まるはずねぇんだからな!!」

 

染岡が独断でボールを持ってアツヤへと攻め込む、アツヤはニヤリと笑うとおもしれぇ!と声を荒らげながら染岡へと襲いかかる。

染岡の蹴りとアツヤの蹴りが同時にボールへと吸い込まれる、純粋なパワーの対決だ。

 

『うおおぉおぉ……!!』

 

2人の足に力が籠り、拮抗したかに思えたが。

勝ったのはアツヤだった、弱ぇ!と声を荒らげると、ほぼセンターラインの近くの中央ですぐさまエターナルブリザードの体勢へと移行する。

再度吹き荒れるブリザード、凍りついたボールに回転をかけながらアツヤは脚を振り抜いた。

 

「エターナルブリザード……!!」

 

ゴール前まで攻め込むという工程を無視した一撃。

だが、それを見逃すほど雷門中のディフェンスラインは甘くない。

シュートの前に立ちはだかったは塔子と壁山の2人。

塔子の足元から塔が出現し、壁山の背後に山が現れた。

 

「ザ・タワー!」

「ザ・ウォール!!うおぉー!!」

 

エターナルブリザードの力の前に砕け散る巨塔と山、しかし。

円堂は今度こそはマジン・ザ・ハンドのタメに十分な時間をかけれるのだ。

 

「マジン・ザ・ハンド!!」

 

金色のエネルギーが魔神を作り出し、その腕が吹雪を纏ったボールへと振るわれたが……ボールは軌道を変えゴールポストの上を素通りしてしまう。

 

エターナルブリザードを正面から受け切ろうと覚悟を決め、むしろ正面対決を心待ちにしていた円堂としては少し納得がいかないが、鬼道と円堂は今のエターナルブリザードの変化に思わずハッとなる。

 

「くっそー、なんてシュートだよ……二人がかりでもコースを逸らすのが精一杯だなんて……!」

 

「これだよ!」

 

「あぁ……これならいくら強力なシュートが来ても」

 

「あぁ、大丈夫だ!!」

 

2人は気づいた、いくら強力なシュートだとしても、なにもGKが1人で止めなければいけないわけではない、DFの必殺技で威力を軽減すればいいのだと。

あのレーゼの使っていたアストロブレイクがいくら強力な技とはいっても、これならばと。

 

エイリア学園との戦いに活路を見出した瞬間であった。




Q.秀子の私服は?
A.センスがない上に選ぶ気すらろくにないので見かねたプロミネンス女子たちに見繕ってもらってる。(アイシーとウルビダ、クィールも一緒に選んでもらってると嬉しい)

Q.アツヤなのに熊殺し斬じゃなくてエターナルブリザードなのは何故?
A.個人的に熊殺し斬は強化委員の染岡とアツヤで一緒に作った技だと思ってるのでこの世界線ではまだ覚えられないと思います。

投稿してから気づきました、UAの欄が1100を突破していて、お気に入りが40を突破していました。
ありがとうございます。

8/2
志ノ乃さん、士郎とアツヤを間違えるという重大なミスを報告していただき、ありがとうございます。
piyuさん、文法の怪しい点を報告していただき、ありがとうございます


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だいななわ

UAってユニークアクセスの略称だったんですね、ユニークアクセスというと……閲覧数っていうことなのでしょうか?わからないですが、約2200人の方に読んで頂けたかと思うと嬉しい限りです。
あと、お気に入りが97人ともうそろそろ100人に届きそうです、こちらもありがたい話です。


「秀子はさ、なんでキーパーをしようと思ったの?」

 

幼い頃、まだ私が小学生の低学年の頃の話だ。

そんな疑問を誰かに尋ねられた。

私はその子にたしか、こう返したんだ。

 

「ゴールの前ってね……皆がフィールドで走って、ボールを蹴ってるところがよく見えるからだよ」

 

その子は、ニコリと笑うと。

 

「そっか、秀子は……」

 

その先は覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?スキー?」

 

ジェミニストームとの特訓を終えた次の日の朝、私が雷門中の監視のために派遣してもらっているエージェントの林さんからの報告を電話で聞いていると、突如別のスポーツの名前が出てきた。

ベッドの中で私は正直困惑している。

 

「は、はい……何故か日中はほぼスキーやスノーボードなどをしております」

 

北海道へと雷門中の面々が渡ったのはもうほぼほぼ忘れてしまった原作知識で既に知っていた、恐らくはエースストライカーである豪炎寺の脱退による攻撃力の欠如や補欠である……いや、正直に言うと運動センスが皆無な目金を採用していることでのディフェンスラインの穴を埋めるために白恋中の吹雪兄弟をスカウトしに行ったのだろう。

その2点は実際に雷門を指揮してるわけじゃないが、ジェミニストームとの戦いを見ればすぐわかる事だ。

それよりも、脅威の侵略者編の世界線では本来死亡しているはずの弟でFWの吹雪アツヤも今回の世界線では生存しているようで、DFの吹雪士郎とFWの吹雪アツヤ、その2人が同時に加わる事ができる。

正規の世界線ですら、たしかDFとFWをこなせた吹雪士郎たった1人が加入しただけでジェミニストームは敗北した。

吹雪兄弟の加入で雷門は正規の世界線よりも更に強化されるはず、でも。

 

「まさか遊んでたとは……ええと林さん、引き続き監視は続けられそうですか?北海道なんて遠い場所に出張をお願いしてしまってすいません」

 

「いえ、我々は会長のために行動するだけです……

っ!

雷門の染岡竜吾と吹雪アツヤに動きがありました、すぐに監視に戻ります」

 

「わかりました、吹雪兄弟や鬼道有人には気をつけて……吹雪兄弟は土地勘がありますし、鬼道はカンがいいですから」

 

「了解です」

 

通信が切れ、私はベッドから起き上がる。

扉が開く音がする、顔を向けると青い髪に白いメッシュの女の子、八神玲名(やがみれいな)が立っていた。

珍しく黒いシャツに白い薄手のロングカーディガンを着てショーパンから覗く太ももが素晴らしい私服を着た玲名は私の姿を見ると溜め息をついてから、さっさと着替えなさいと簡潔に告げた。

 

「あいあい、どうしたのー?いっつも制服とかジャージ姿でおめかしなんてしないのにさー……あ、もしかしてタツヤとデートぉ?」

 

「何言ってるのよ、ルルと布美子(ふみこ)たちがついに痺れを切らしたから少し出かけようって話になったじゃない」

 

「……そうだっけ?」

 

「はぁ……そんなことだと思ったわ、この前の夕ご飯の時話したじゃない……まぁ秀子は雷門とジェミニストームの試合データを見返してたみたいだけど」

 

完全に覚えがない、冗談などを言わない玲名が呆れた顔をしていることから恐らくは事実だろう……ルルと布美子はガイアでそれぞれMFとDFを務める女子メンバーだ……『俺』だった頃はクィールとキーブ、コードネームでしか覚えてなかったけれども。

あの2人が出かけたいということは恐らくは大阪のナニワランド辺りかな?

あの辺りはエイリア学園……もとい吉良財閥の息のかかった場所だからまだメディアに顔を晒していない3人と唯一雷門とジェミニストームの試合でマネージャーとしてジェミニストーム側にいた私が歩いていて万が一何かあったとしても吉良財閥が揉み消してくれるとは思うが。

 

「華(はな)とか愛(あい)は?誘わないの?」

 

私の発言に、少し玲名は顔を曇らせた。

私も失言だと、声に出してからやっと気がついた。

華と愛、それぞれプロミネンスのDFであるバーラとダイアモンドダストのMFであるアイシー、違うチームのメンバーでありマスターランク同士で父さんの計画の核であるチーム、ザ・ジェネシスの座を賭けて争っている最中だというのに。

 

「あー……今のなし、ていうか私が行って大丈夫なの?ジェネシス正規メンバーの私に媚び売ってるーとか晴也あたり言い出しそうだけど……」

 

そう、私は皆が必死に争っている中で唯一その争いを免除されているシード枠、彼女たちに恨まれていたりしても……仕方がない存在なのに。

 

「ッ!!それは……」

 

玲名の顔に焦りや後悔といった表情が見える、きっと彼女たちなりに唯一のジェネシス正規メンバーという形で『孤立』してしまっている私に配慮した結果なのだろう。

たしかに、ジェネシス計画が始まってからというもの……前までは仲の良かった私たちはチーム間で少し壁ができてしまっていた。

前までは、ジェネシス計画の適正テストの件までは違うチームのメンバーとも仲良くしていたのだから。

例えば、プロミネンスのバーラとボニトナ、それとガイアのキーブ。

3人ともよく服や小物などの趣味が合うということで休日はよく一緒に出かけているのを見たものだ。

だが、今はどうだ?

キーブこと布美子は2人のチームのキャプテンである晴也が目の敵にしているガイアのDFである、なんてくだらない理由で疎遠になってしまっている。

こんなことを続けていたら、お日さま園の皆の絆はきっと崩壊してしまう。

 

「……私、やっぱりやめとくよ」

 

私はベッドから降りると玲名の横を素通りして部屋に備え付けられたタンスへと歩を進めた、すれ違う途中、玲名は何か言いたげだったが、わかったと小さく呟くと部屋から出ていってしまった。

今はまだ、遊んでいる余裕などない。

一刻も早く、私はこのふざけた計画を終わらせなければならない。

そのためにも、まだやらなきゃいけないことや調べなきゃいけないことが山積みだ。

私はお日さま園で頂いたダボダボなパジャマを脱ぎ捨てて最近やたら着る回数の増えたスーツに身を包む。

ベッドの上に放置していた携帯に1件の報せが届いた、見てみれば林さんからのようだ。

 

「さってと、次は北海道か……ジェミニストームのユニフォームの防寒機能の強化……さすがに終わってると良いんだけどなー」

 

終わらせるんだ、この戦いを……そのためには一刻も早くあの人を見つけ出さないといけない。

そして、原作とは違うこの世界の流れを見極めるんだ。

まずは吹雪兄弟の……弟のアツヤのせいできっと歪みが生まれる。

その次、その更に次は?

 

「てか、このスーツまたキツくなってきたな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

北海道、白恋中の近くでニグラスとジェミニストームのメンバーたち……そしてジェミニストームのメンバーは知らないが、もしもに備えてイプシロンのメンバーが待機していた。

レーゼの顔に少しばかりの焦りが見える、彼が先日白恋中への宣戦布告をしたために白恋中の周りにはマスコミが大量に押し寄せていた。

吉良財閥はジェネシス計画成就のためにも広告塔が必要なため、今回は情報規制などを揉み消さずマスコミを見逃していた。

 

「レーゼ、大丈夫だよ」

 

「……ニグラス、いや……秀子……大丈夫かな、俺……できるかな……」

 

「リュウジ、大丈夫だ」

 

「え」

 

「リュウジが影で努力してたのは知ってる、密かにディアムと技の特訓してたでしょ」

 

ニグラスは微笑むとその手をレーゼの頭の上に乗せた。

驚くレーゼに彼女は大丈夫、と言い聞かせるように優しく呟いた。

吉良財閥の気象学の研究成果である『なんか雰囲気のいい暗雲発生装置(秀子命名)』により、空は暗い雲に包まれている。

 

「さぁ、出番だよ皆」

 

その言葉にジェミニストームは立ち上がった。

この先に、どんな結果が待っているか、彼らはまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、白恋中の上空を暗雲が包んだ。

雷門の面々はこの空に見覚えがあった、いつもあいつらが……いやエイリア学園が来る時、決まってこんな風な天気だったのだから。

突如、紫色の光が白恋中のグラウンドを見渡せる高台に現れたかと思うと、そこにはいつの間にかエイリア学園のジェミニストームとニグラスが姿を現した。

ニグラスは写真などのデータではない、本物の吹雪兄弟を目視で確認した事で警戒度を高めた。

やはり、完全には自分の知っているイナズマイレブンの世界ではないのだと。

円堂や鬼道を初めとした雷門イレブンもエイリア学園へと向き直ると。

 

「円堂……!」

 

「とうとう来たな……!」

 

睨み合う円堂とレーゼ、円堂は持っていたボールをレーゼへと蹴り出す。

 

「待ってたぜエイリア学園……勝負だ!!」

 

レーゼは飛んできたボールを片手で難なく受け止める。

 

「これ以上サッカーを破壊の道具にはさせない!!」

 

こうして、雷門とエイリア学園3度目の死闘が幕をあげる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷門は新規メンバーのアツヤと士郎を即戦力として導入し、FWは染岡とアツヤの2トップ、DFは目金に代わって士郎が入り、攻守万全であった。

ニグラスは事前に、ジェミニストームの面々に対して吹雪兄弟の情報を少しばかり話していた。

曰く、FFに参加出来ないようにと元帝国学園総帥であり世宇子中の総統だった影山が北海道にいる彼ら兄弟に薬を盛っていたこと。

そして技量やスピード、アツヤに至ってはパワーまでもジェミニストームに劣らない。

それ程の実力者が雷門に手を貸していることから決して油断しないように、と。

 

試合は雷門ボールで始まった。

染岡がアツヤへとボールを託すと、アツヤは咆哮をあげながらジェミニストームの陣地へと単独で切り込んでいく。

ディフェンスの練習をあまりしていないリームは勿論、グリンゴやパンドラも軽くいなしてアツヤは止まらない。

 

「はっ!宇宙人ってのはこんなもんなのかよォ!!」

 

だが、カロンがそれに立ちはだかる、彼はその場で高速回転し、彼自身の身体から光が溢れ出す。

 

カロンは個人技ならイプシロン相手にも引けを取らないんだから、あとは自信を持って。

 

「フォトンフラッシュ!!」

 

あまりの光量にアツヤは目を背けてしまう、すると気づけばボールは彼の足元には既になく。

カロンがアツヤから奪ったボールをイオへと繋げた。

そのまま今度はジェミニストームの攻めが始まる。

イオはまたもライン側ギリギリに陣取っていたため、鬼道はパンドラへのパスを予期し即座にパスカットの体制をとった。

それを鬼道とのアイコンタクトだけで確認した風丸がイオへボールを奪いにかかる。

そう、パターン通りならライン際でボールを狙われた時、イオはパンドラへとパスを回すはずと。

風丸が迫る中、イオは鬼道へと仮面の中で視線を向けた。

やはり、そこに来たか、と。

確かに前回の試合、彼はライン側ギリギリを常に陣取り、ボールを貰うことによってライン側に敵をおびきよせたところを中央を攻めるパンドラにパスをする。

そんなプレイを彼自身心掛けていた。

だが。

 

イオはちゃんとフィールドを見てプレイすること、個人技は充分だから後は連携をしっかりね。

 

彼は走りながら掌を前に掲げる、空間が裂けると穴のような何かが現れた。

風丸がボールを奪うより早く、彼自身とボールを穴へと飛び込んだ。

 

「ワープドライブ……!」

 

風丸の死角となる背後に再度穴が出現し、そこから飛び出すイオ。

そのままイオは雷門陣地へと突き進む。

 

「なにっ?!」

 

鬼道は前と違う行動パターンに困惑するも即座に切り替えるとそのままパンドラへとマークについた。

彼は視線をジェミニストーム側のベンチに座っていたニグラスや今まさに自陣の中央へと走るレーゼへと向ける。

 

「……前回のようにはいかないか!!」

 

イオへと迫る土門、即座にイオはパスコースを模索するがディアムは壁山と塔子にマークされており、パスを繋げることは困難と判断した。

そして、レーゼには試合前にニグラスから告げられた警戒の対象である吹雪士郎がマークについている。

イオは若干距離の遠いもの、フリーな状態のリームへとパスを出さんと足を振り抜くものの。

 

「キラースライド!!」

 

咄嗟の判断が遅れたか、まるで足が何本もあるかのような程の速度で行われたスライディングにボールの軌道を変えられてしまった。

土門はボールを奪うのに間に合わなかったかと焦り、イオも正確なパスには間に合わなかったと自らの判断の遅さを後悔する。

ボールはリームを飛び越えるような軌道を描く、このままの軌道ではリームでも間に合わずラインを越えるかと思われたが……彼女は諦めていなかった。

 

リームはディアムより柔軟な動きができるんだから、もっと積極的にゴールを狙いに行こうか。

 

リームは即座に身を捻り、オーバーヘッドキックの体勢へと移行した。

彼女の頭上を通り過ぎんとしたボールへと高く飛び上がり、その脚が叩き込まれた。

 

「いけっ……!」

 

円堂の守るゴールへと、鋭いシュートが襲う。

だが、円堂は前回の試合や北海道での『自らの最高速度より速い動きの中で周囲のものを識別する』スキーの動体視力強化特訓の成果により、ボールをその目に捉えていた。

 

「止めてみせる……!」

 

前回の試合の最後、目でやっと追えるようになったものの止められなかったディアムのシュート。

あんな風にはもうならない!

円堂の両手がボールへと伸ばされる。

 

少しの摩擦音の後、円堂の両手にボールは収められていた。

 

「やった……!止めたぞ……!!」

 

円堂は勿論、雷門イレブンの士気が上がる。

円堂がシュートを止めたことは勿論、今のところ通常のサッカーの試合として『成り立っている』のだから。

 

「ここから反撃だ!皆!!」

 

円堂がボールを投げる、その先にはいつの間にかレーゼへのマークから外れていた吹雪士郎は自身がフリーになるように駆けつけていた。

ジェミニストームの面々はリームのシュートが止められたことに動揺し、咄嗟に士郎への対応が遅れた。

1番近くにいたレーゼが士郎へボールを奪おうと駆けるものの、レーゼの予想を超えて、士郎が一瞬でレーゼを抜き去った。

更なる驚愕がジェミニストームを襲った、レーゼはこのチームで1番のサッカー経験者であり、エイリア石の力も相まってジェミニストーム最高のプレイヤーだ。

その彼が一瞬で抜かれた。

即ち、ジェミニストームの選手では彼を止めるためには複数人がかりでかからねばならないという事だ。

 

「風になろうよ……!」

 

士郎はある程度前線近くまで駆けると、風丸へとパスを繋げた。

手強い士郎から、今まで何回も止めることのできた元々いる雷門の選手である風丸にボールが渡ったことでパンドラとグリンゴは一斉にボールを奪いにかかる。

 

パンドラはメンタル面が弱点かな、動揺が隠しきれてないよ。

 

グリンゴは仲間との連携はバッチリだね。

 

一斉にボールを奪いにかかる2人に対し、風丸は撹乱させんと加速と急停止を使いこなし緩急をつけ翻弄する。

緩急を作り出すことで特訓によりジェミニストームに勝るとも劣らないスピードを身につけた風丸は更にその速度を速く魅せることができるのだ。

 

「疾風ダッシュ!!」

 

2人を瞬く間に抜き去ると即座にエイリア陣営の奥にてフリーとなっている染岡へとパスを回した。

ジェミニストームのDFたちは先程の士郎の動きを見たせいか、アツヤを警戒するあまり染岡への対処が遅れた。

そんな隙を、雷門のストライカーとして日々豪炎寺と鎬を削ってきた染岡が見逃すはずもなく。

だが、

 

キーパーはフィールドをいつでも見渡せる位置にいるんだから、DFへの声掛けを忘れないこと。

 

「もう1人のFWがフリーになってるぞ!!」

 

ゴルレオが声を上げた、その際他のメンバーに比べまだ染岡の近くにいたギグの巨体が染岡へと襲いかかった。

 

ギグは相手を待ち構えるだけじゃなくて、自分からボールを奪いにいこうか。

 

染岡とギグの身体がぶつかり合う、たしかにギグはワンテンポ遅れたかもしれないが、その巨体から繰り出されるパワーが染岡をはじき飛ばした。

呻き声をあげる染岡を尻目に、ギグがパンドラへとパスを回そうとするが。

 

「貰ったぞ……!」

 

鬼道がそのパスを阻んだ、彼は先程までパンドラへのマークを一時的に解いていた。

個人への徹底したマークより、フィールド全体を観る司令塔としての視点で周囲を警戒していた。

ジェミニストームのパス回しやプレイングが前回の試合に比べ変化している今、彼ももう一度分析をやり直すハメになっていたからだ。

その過程で染岡が作り出した隙を見逃すはずもなく。

鬼道は完全にフリーとなっており、そのまま単身陣地の奥へと駆け出した。

さすがに見逃せないとカロンが迫るが……つまりそれはある男へのマークが1人減ったことを意味する。

 

「アツヤ!!」

 

鬼道が蹴り出した先、エイリア学園のマークが1人減ったことで振り切れたアツヤが待ち構えていた。

ガニメデとコラルがアツヤを急いで追うものの、その瞬間のアツヤは誰よりも速かった。

 

「ドンピシャだァ!!行くぜ……!!」

 

アツヤとボールを中心に吹雪が荒れ狂う。

目にも止まらぬ速さで身を翻し、回転をかけた蹴りがボールへと叩き込まれる。

 

「エターナルブリザード……!!」

 

ゴルレオが自らの必殺技のブラックホールを繰り出さん右腕に力を込め、ボールへと手を振り抜いた瞬間には。

 

彼はゴールごと凍りついていた。

 

「こんなもんよォ!!」

 

1/0

 

3戦目にしてようやく雷門が先制点にして、初得点を得た瞬間であった。

 




なにげに今回の玲名さんがエイリア組初私服描写だった……。

Q.吹雪兄弟は双子?
A.双子です。


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だいはちわ

ジェミニストーム戦、最終章

ユニークアクセスが2900を突破、そろそろ3000です……!
そしてお気に入りが100件を超えました、皆さんに読んでいただけて嬉しい反面プレッシャーが……。




レーゼを初めとした、ジェミニストームの面々は今の状況が上手く呑み込めなかった。

自分たちはたしかに初心者ではあったがエイリア石により、圧倒的なパワーとスピードを手に入れた。

サッカー経験者で、圧倒的な力を持っていたマスターランクのチームにだって最初は圧倒していた程のパワーだ。

そして何より、そんな彼らにとって敗北とは。

自分たちを助けてくれた『父さん』への恩返しの機会を奪われることを指し、そんなことは決して。

 

「決してこんなことは許されない……!!」

 

1/0

 

ジェミニストームボールでの開始である。

リームがディアムへとボールを渡し、ディアムとリーム、そしてレーゼが一気に駆け上がる。

染岡とアツヤを3人がかりでパスを回しながら一気にすり抜ける。

 

「クソがっ!」

 

「わかってはいたが、やっぱり速ぇな……!!」

 

続く鬼道と塔子をスピードを重点に置いたパス回しや立ち回りで翻弄し必殺技や連携の隙を与えず、MF2人を一気に抜き去った。

鬼道と塔子を突破した隙を狙って一之瀬がリームへとスライディングを仕掛け、リームのキープしていたボールを弾いた。

だが、弾かれたボールの先には連携をとっていたレーゼが待機していた。

レーゼはボールを掠め取り、まだセンターラインからそこまで離れていない現在の地点にて足下のボールに強烈な回転をかけた。

 

「あんな位置から狙うでヤンスか?!」

 

「クソっまたあのシュートかよ……!」

 

土門と栗松が思わず大声をあげる、周囲から風を巻き込むように地面を抉るほどの高エネルギーがボールへと込められた。

レーゼはゴールを睨みつけ、思い切りその脚を振り切る。

 

「アストロブレイク!!」

 

エネルギーにより地面を抉りながらゴールへと向かうアストロブレイクの前に一人の男が立ちはだかる、その巨体をまるで動物の威嚇のように両腕を広げ身体中に力を込めるその男は叫んだ。

 

「ザ・ウォール!うぉおおお!!」

 

壁山渾身のザ・ウォールがアストロブレイクと暫しの間拮抗するものの、遂には突破された。

そして壁山によって威力の多少削がれたアストロブレイクがゴールで待つ円堂の元へとたどり着く。

それに対し円堂は懇親のエネルギーを右手に込め、金色の巨大な右手が現れる。

 

「ゴッドハンド!!」

 

壁山のザ・ウォールにより、幾分かエネルギーが減ったとはいえジェミニストーム最強であるレーゼが撃ったアストロブレイクに少しずつゴッドハンドにヒビが入り、円堂が押さえ込もうとするものの。

 

「その程度の技で……止められてたまるかぁっ!!」

 

レーゼの激昴、そしてヒビが一際大きくなるとゴッドハンドが砕け散り、円堂ごとゴールネットへと突き刺さった。

1/1

 

これで、同点となった。

 

これまでの試合を見て、ニグラスは一人思考する。

やはり、正規ルートに存在する吹雪アツヤの人格を内包した二重人格の吹雪士郎1人が加わる事よりも、吹雪兄弟として2人加入した今の雷門は強い。

1人で2人分こなすとしてもフィールドにおける影響力は凡そ1.5倍やその程度だろう。

だが2人ならば攻守常に試合に影響を与える事ができ、下手に攻め込めば士郎にカットしアツヤへ繋ぐといった黄金パターンへ移行してしまう。

本人たちも意識してか否かはわからないが、士郎のパスコースはやはりアツヤへと繋ぐ前提で前線へと送られたように見える。

それにまだ試合では見せていないがアイスグランドという強力なディフェンス技を持ち、ジェミニストームに匹敵する……いや技術面も考えるとジェミニストームを圧倒するスピードでプレッシャーをかけることができる士郎の存在がジェミニストームの攻めを阻害してる事は明らか。

なにより、スキーしかしていないはずの雷門イレブン全体のパフォーマンスがかなりレベルアップしているのも雷門を後押ししている。

 

「こりゃまずいなぁ……」

 

続いて前半残り僅かとはいえ雷門ボールでのスタート。

染岡は1度司令塔である鬼道へとバックパス、一之瀬と風丸もジェミニストーム陣営へと切り込む。

グリンゴが単身、鬼道へとボールを奪いにかかるものの鬼道はボールへと特殊な回転をかけ、ボールが意思を持ったかのように鬼道の周りを衛星のように回りグリンゴを混乱させた。

 

「イリュージョンボール……!」

 

困惑するグリンゴを尻目に一之瀬へとパスが繋がった、一之瀬は更に風丸、染岡、そして先程先制点をもぎ取ったアツヤへと繋ぐことができる立ち位置だ。

ジェミニストームの守備陣営がそれぞれの選手へとマークに付き、コラルが一之瀬へとボールを奪いにかかった。

 

コラルは必殺技が強力だけど、それに頼らない個人技も鍛えようか。

 

コラルが一之瀬のボールを奪わんとプレッシャーをかけるものの、彼はフィールドの魔術師と呼ばれるほどの技術を持ち、初心者に毛が生えた程度のプレッシャーではものともしない。

だがコラル自身、それはわかり切っていた。

今回の雷門との試合は、既に格下ではなく同格……いや技術面では負けている分自分たちジェミニストームが不利だということに。

一之瀬は更に敵陣地奥へと迫る鬼道へとパスを繋げようとするが、そこに僅かな隙が生まれた。

 

「グラビティション!」

 

蹴り上げたボールごと一之瀬の身体に圧がかかり動きが止まる。

まるで重力を何倍にも引き上げられたかのようなソレによって一之瀬のパスは失敗した。

更にコラルは一之瀬からボールを奪うとイオへとパスを繋げた。

 

「しまった!」

 

鬼道が声を上げる、何故なら鬼道を初めとしたMFの大半は攻めの構えで前線へと上がっており、ディフェンスラインはDFと塔子のみ。

イオはある程度雷門のディフェンスラインへと切り込むと、更に前線。

ゴール前のディアムへとボールを繋げた。

 

ディアムのシュートはキレがない、そんなシュートじゃ次は止められちゃうよ。

 

1人で止められるというのなら、2人で越えれば良いだけだ。

ディアムが切り込み、そこへレーゼが追走する。

2人同時にボールを蹴り上げ、空中へと上がるボールを追い越しまたも2人同時に踏み付けるように蹴りつけた。

 

『ユニバースブラスト!!』

 

蹴り付けられたボールは黒と緑のオーラを纏い、軌跡を残しながらゴールへと突き進む。

強大なエネルギーは先程レーゼが放ったアストロブレイクよりも更に増していた。

そしてそのシュートの前に塔子と壁山が立ち塞がる。

 

「ザ・ウォール!うぉおおお!」

 

「ザ・タワー!!」

 

突如現れる塔と壁はユニバースブラストと拮抗したものの、数秒の後には崩れ去った。

巨大なエネルギーの濁流に吹き飛ばされる塔子と壁山、だがしかし、円堂は既に心臓へと溜めたエネルギーを右手に収束させていた。

 

「マジン・ザ・ハンド!!」

 

金色のエネルギーが魔神を形取り、宇宙を彷彿とさせるエネルギーのシュートを抑え込まんと右手を振るう。

拮抗する2つのエネルギー、円堂の足が少しずつゴールラインへと押されていく。

 

「……ぐぐ」

 

「いっけぇえ!!」

 

レーゼが叫ぶ、円堂が耐える。

しかし円堂は目を見開き渾身の力を再度魔神へと注ぎ込む。

 

「絶対に……止めるんだぁあっ!!」

 

言霊というものがある、言葉自体に力があり、声に出すことでそのエネルギーを発揮するというそれが正に円堂に起きたかのように。

その手にはしっかりとボールが収められていた。

 

ここで前半終了のホイッスルが鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後半はジェミニストームボールで開始となった。

リームがレーゼへとバックパスを出すが、レーゼはなんとそのボールを確保し損ねた。

 

『?!!』

 

ジェミニストームだけではなく、雷門にも動揺が走る。

レーゼを通り過ぎたボールをガニメデが確保し、DFである彼へとアツヤが怒涛のスピードで襲いかかる。

 

「そのボール、貰ったァ!!」

 

ガニメデは動いてる相手へのパスが苦手だね、だったらイオと練習してみようか、2人とも連携が苦手みたいだし。

 

ガニメデはライン側ギリギリを陣取るイオへと渾身の力を込めボールを蹴り出した。

そのパスはまるでシュートのように真っ直ぐ飛んでいく。

鬼道や一之瀬はその軌道を読むと、あのパスは失敗だと、一瞬気が緩む。

だが。

 

「お前は……やっぱりパスが下手だな蟹目(がにめ)……!!」

 

だが、イオはギリギリで間に合った。

鬼道と一之瀬の対応が遅れたため、イオは雷門陣営へと一気に駆け上がる。

風丸が咄嗟にカバーに当たったものの、またもや空間に穴を開け風丸の背後へと一瞬で移動する。

 

「ワープドライブ……!!希望(のぞみ)!!」

 

イオがワープドライブで風丸を抜き去ると、再度鋭いパスが今度はパンドラへと繋がった。

パンドラへと迫る一之瀬と土門、パンドラはリームへと渾身のパスを送った。

 

「取られて……たまるもんですか……!!理夢(りむ)!!」

 

マークに付いていた栗松をくぐり抜け、既のところギリギリでボールへと喰らいつくリーム。

そんな彼女の元へ、颯爽と現れた士郎。

士郎は空中でスピンし、片脚で地面へと降り立つとそこから氷が地面を這いリームへと迫る。

 

「アイスグランド……!」

 

凍りつくリームからボールを奪った士郎は栗松へボールを繋ぎ、栗松が前線の一之瀬へと更にボールを繋いだ。

 

「なんだこいつら……キャプテンのレーゼが動かなくて様子がおかしくなってから……何故か逆にプレイに力がこもってるぞ……!!」

 

一之瀬が発した通り、まだレーゼは最初のポジションから動いておらずブツブツとなにか呟いている。

なぜ……なぜ……と。

普通ならキャプテンが戦意喪失したチームは他のものにもそれが伝染し、試合が続行不可能になってもおかしくない。

だが、逆にジェミニストームの選手達の動きが何故か活発になっているのだ。

ドリブルでジェミニストーム陣営へと切り込む一之瀬へとカロンが迫る、最初にアツヤをも止めた必殺技を披露したカロン相手に分が悪いと、一之瀬は鬼道へとボールを回した。

 

「……たしかにレーゼの様子はおかしい、だがこれは地球の命運をかけた試合……ここで一気に行かせてもらうぞ!!」

 

鬼道へと迫るジェミニストームのMFたちを鬼道は必殺技を使わず持ち前のテクニックで翻弄し突破する。

突破した鬼道は即座にアツヤへとボールを送ると、ガニメデとコラルが一気に襲いかかった。

 

「珊瑚(さんご)なんとしても止めるぞ……!」

 

「わかっているさ……!」

 

コラルが両手を広げ、ガニメデが両手を上から下へと振り下ろす。

2人の必殺技が放たれる瞬間、アツヤはニヤリと笑うと逆サイドにいた染岡へとボールを蹴り出した。

 

「決めろ染岡ァ!!」

 

「っ?!」

 

染岡自身、まさかアツヤがここで自分へとパスを繋げるとは思っていなかった。

そして、アツヤのパスを受け取った瞬間、雷門から離れてしまった彼の姿がアツヤに被る。

 

「ったく……ナイスだぜアツヤ……!!」

 

染岡は強烈な縦回転を加えたボールを空へと打ち上げる、するとまるで巨大な翼を携えた飛龍のようなオーラがボールに追従し空へと上がり。

ボールへとかけられた回転が再びボール自身を染岡の元へと辿り着かせた。

 

「これが俺の……!!」

 

染岡の渾身の蹴りがボールへと吸い込まれ、ドラゴンを越えたワイバーンがジェミニストームのゴールへと襲いかかる。

 

「ワイバーンクラッシュ!!」

 

ゴルレオは意識を右手に集中させる、今の自分にできることはただ一つ。

仲間の託してくれた最後の守りとして、雷門のシュートを防ぐのみ。

 

「ブラックホール!!」

 

ゴルレオの右手に黒い球体が現れ、ワイバーンのエネルギーを吸い込まんと空気が揺れる。

ゴルレオの右手がボールを押さえ込もうと力がこめられる、徐々に後ろへと下がっていくゴルレオ。

ジェミニストームの面々は玲於(れお)と彼の名を叫ぶ。

少しずつワイバーンの余波によって後退させられる身体、ワイバーンの力によって軋む右腕。

けれど彼は、止まらない。

 

「レーゼ……いや、リュウジよォ……諦めんなよ……!」

 

ゴールラインへと押し出されそうな体を必死に抑え込むゴルレオの悲痛な叫びに、レーゼの身体がピクリと動いた。

彼の顔が自陣のゴールへと向く、ゴルレオとレーゼの目が合う。

 

「お前は……俺たちの……キャプテンだろうが!!」

 

だが、遂にゴルレオの身体がワイバーンの余波によって押しのけられた。

ゴールラインを優に超え、ネットを揺らすボール。

 

2/1

 

再度雷門の得点を許し、ジェミニストームは窮地へと追い込まれた。

後半も、残り時間僅か。

 

再度、ジェミニストームボールで試合が再開する。

リームとディアムがお互いに目を配り、頷き合う。

一気に行くぞと2人の身体から覇気が発せられ、雷門のディフェンス陣にピリピリとした空気が漂った。

 

「行くぞ……雷門中……!!」

 

リームからグリンゴへとボールが渡る、グリンゴはちょこまかと素早い動きで染岡を突破し、パンドラへとパスが繋がる。

パンドラへのパスを見切っていた一之瀬が一気にパンドラへと接近、そして両手を地面につけ身体を捻り回転を加えると、炎が舞う。

 

「フレイムダンス!!」

 

舞い踊る炎がパンドラからボールを掠め取り、一之瀬がそのボールを奪い取るのに成功すると。

今度はイオが一之瀬へとプレッシャーをかけにかかった。

だが、今度は一之瀬の周りをボールが衛星のように回り、イオを困惑させる。

 

「イリュージョンボール!」

 

一之瀬の快進撃、一気にディフェンスラインへと攻め込む一之瀬の背後。

彼は遂に動いた。

 

「玲於、菊間(きくま)、蟹目、聡里(さとり)、珊瑚、近畿(きんき)、宇宙(そら)、伊尾(いお)、七風(ななかぜ)、大夢(ひろむ)……待たせて済まない……!!」

 

キャプテンなんだから、試合中は無駄なこと考えないでチーム全体の事考えること。

 

必殺技を繰り出した直後の隙をつき、レーゼが一瞬で一之瀬からボールを奪い去り。

今までで最高のスピードで雷門へと突き進む。

鬼道をすり抜け、土門をかわし、栗松を欺く。

 

「行くぞ……!!」

 

ゴール前へと辿り着いた直後、ドリブルからスムーズな流れでボールへと回転をかけ、一気にボールへと蹴り込んだ。

 

「アストロブレイク……!!」

 

そして、その進行ルートには塔子と壁山が待ち構えるが……それより先にアストロブレイクへと干渉する者達がいた。

リームとディアムが同時にアストロブレイクを蹴り上げた。

 

『?!!』

 

雷門たちに走る衝撃、これはまさかと円堂の脳裏にレーゼとディアムの2人が使った2つ目のシュート技が思い起こされる。

アストロブレイクのエネルギーの周りに更に緑と黒を基調とした宇宙を彷彿とさせるオーラが纏われた。

 

『ユニバースブラスト……!!』

 

空中へと蹴り上げられたエネルギーの塊を同時に蹴り落とし。

あまりのエネルギーにリームとディアムたち自身が吹き飛ばされる。

 

だが、そのエネルギー自体はしっかりと融合していた。

圧倒的なエネルギーに技術が追いついておらず、未完成で歪んでいるかもしれないが……それは確かにこれまでで最高の一撃、パワーもスピードも最高潮。

再度展開される壁と塔を一気に破壊したそれは真っ直ぐにゴールへと迫る。

円堂は心臓へとエネルギーを溜め、それを右手へと収束させる。

身体を捻り一気に解放されたエネルギーはまるで魔神のように円堂の背後へと現れた。

 

「マジン・ザ・ハンドォオ!!」

 

先程のユニバースブラスト単体とは比べ物にならないエネルギーが円堂の右手へと襲いかかる。

足が地面へとめり込みながらも押しのけられそうになり、右手だけではない全身が軋みをあげる。

 

『いっけぇえ!!!』

 

リーム、ディアム、そしてレーゼの3人が叫び、ユニバースブラストとアストロブレイクの融合したエネルギーはまだ尚円堂を押しのけんと前へ、前へと侵略する。

円堂の身体がついに押しのけられた。

 

その瞬間、レーゼたちの顔が曇った。

ザ・ウォールとザ・タワー……そしてマジン・ザ・ハンドによってコースを斜め上へと変えられてしまったボールはゴールポストへと直撃、無残にもフィールドへと跳ね返った。

 

直後鳴り響くホイッスル。

こうして、ジェミニストームは雷門中に敗北した。

 

「お疲れ様……リュウジ……勝たせてあげれなくて……ごめん」

 

彼女の紅い瞳からは一筋の雫が流れ落ちていた。




ジェミニストーム戦終幕

次回の話……正直筆が進まない……。


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だいきゅうわ

ユニークアクセスが4400を突破しました!
それとお気に入りが約170と益々作者へのプレッシャーが高まる……!!




歓喜で包まれる雷門の面々、中には電話までしてエイリア学園を倒したと報告するもの達までいる。

誰かが、これで終わった等とまるで見当違いなことを呟いた時、レーゼは項垂れながら告げる。

 

「お前らは……まだ本当のエイリア学園の恐怖を知らないんだ……!!」

 

円堂と鬼道がレーゼへと顔を向ける。

レーゼを初めとしたジェミニストームの面々の顔に映る恐怖に、嘘がないことを彼らは薄々気づいたのだろう。

そして、鬼道はその言葉に過去にあった事件を思い出した。

エイリア学園による襲撃はジェミニストームだけではない。

 

「我々は所詮セカンドランク……イプシロンの前にお前らはまた自らの無力さを嘆くこととなるのだから……!」

 

突如、ジェミニストームとは別に紫色の歪みが発生した。

驚きに歪む雷門、そしてそこから現れたのは別の11人の影。

 

「ふん……ニグラス様の助言がありながらなんという失態だレーゼ……!!」

 

黒い髪をまるでマフラーのように首に巻いた長身の少年が目を開くと、その目は白目が黒く染っており、なにより暗く光を感じられない。

その顔を見たレーゼが震え始める。

 

「デザーム様……!!」

 

デザームはジェミニストームも使っていた黒いサッカーボールを蹴り出すと、それは真っ直ぐにジェミニストームへと向かい、そして闇が生まれジェミニストームを飲み込んだ。

 

「地球人如きに負けた貴様らにもう居場所など無い……」

 

デザームの言葉に、ニグラスは立ち上がった。

 

「さーてと、雷門の皆さん」

 

彼女の口が弧を描く、その瞳の紅さはまるで血のようで、その髪の黒さはまるで闇のようだ。

 

「いつからジェミニストームが我々エイリア学園の最高戦力だと思い込んでたんですか?」

 

その言葉に先程まで歓喜の表情を浮かべていた雷門やマスコミまでもが驚愕に包まれる。

何人かが、そういえばと口を開いた。

エイリア学園による襲撃はジェミニストームのみならず、イプシロン、ダイアモンドダスト、プロミネンスも行っていた。

しかしながら、初回の襲撃以降姿を見せなかったチームがたった今現れた者達以外にもまだ2つある。

 

「彼らはイプシロン、エイリア学園のファーストランク……はっきり言いましょうか?

ジェミニストームより数段上の実力者たちです」

 

イプシロンと、それに歩み寄るニグラスの周りが再度歪み始めた。

 

「それではまた、面白い戦いを期待していますよ?」

 

歪みと共にイプシロンとニグラスの姿が消える。

まだ、エイリア学園による侵略は終わっていない。

そんな事実が白恋中のグラウンド周辺の空気をまた重く沈めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白恋中から少し離れた雪原にレーゼたちジェミニストームとデザーム、そしてニグラスは項垂れていた。

 

「すまないなリュウジ……父さんのシナリオ通り、お前たちは暫くの間吉良財閥の施設で待機してもらう」

 

「……あぁ」

 

エイリア学園……否、吉良財閥におけるお日さま園のメンバーにとっての敗北とは。

吉良財閥の用意した施設での強制的な軟禁を意味する。

ジェネシス計画において、ジェミニストームやイプシロンは最高のチームであるザ・ジェネシスを作るための捨て石であり、彼らはその捨て石の座ですら追われることになった。

そして、エイリア学園として顔の割れてしまった彼らを自由に行動させる事は、お日さま園、ひいては吉良財閥への足掛かりとなってしまうため、それも許されない。

 

「それと、秀子」

 

デザームこと治は秀子へと向き直ると一通の手紙を差し出した。

 

「父さんから私にお前へと渡してくれとの話だ、受け取れ」

 

秀子がその手紙を開くと、中身を簡潔を見た秀子の顔が少し曇る。

 

「……ガイアが正式にザ・ジェネシスを襲名、ザ・ジェネシスのキーパーとしてグランに従え……ねぇ」

 

イプシロンが雷門へと波紋をうみ、そして秀子自身も渦中へと投げ出された。

 

歯車が、かけるような、音が、すル。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い部屋にて、再度彼らは集まった。

紅い光を浴びるバーン、蒼い光にはガゼル、白い光にグラン。

そして紫は光らず、グランの影からニグラスは現れた。

 

「待たせちゃったねグラン、あとガゼルとバーン」

 

悪びれる様子もなく、ニグラスはグランの後ろで大きく欠伸を1つした。

その様子を見てガゼルとバーンの顔が曇り、舌打ちをしたバーンがグランへと苛立ち混じりに声をかける。

 

「なんで……ニグラスがてめぇの後ろにいるんだよ……グラン」

 

「まだ父さんから聞いてなかったのかい?」

 

呆れた様子のグランを見て顔を歪めるガゼル、そして彼はまさかと呟くと強く拳を握りしめさらに続けた。

 

「まさか……ガイアがザ・ジェネシスに選ばれたとでも言うのか?」

 

「ガゼルは察しが良くて助かるよ」

 

わなわなと震えながら拳を握りしめるガゼルに対し、グランはやれやれと言いながら手を左右でヒラヒラと揺らす、その態度が気に触ったバーンがテメェ!と声を荒らげるとニグラスが2人を睨みつけた。

 

「君らが大好きな父さんの決めたことだよ、諦めなよバーン、ガゼル」

 

「ニグラス……!」

 

バーンから視線を外し、ニグラスは柱から飛び降りた。

彼女はそれ以上何も言わず、部屋から去ろうとする。

 

「ニグラス!おい!逃げんのかよ?!」

 

バーンの言葉にニグラスが立ち止まる、バーンへと1度振り向くと彼女にしては珍しく冷淡な声が部屋に静かに響いた。

 

「黙りなよバーン、私は今気が立ってるんだ……これ以上無意味な会話に付き合ってるほど時間に余裕はないし、それに私が聞かなくても『キャプテン』のグランが通達してくれるし、私がここにいる必要なんてない」

 

じゃあね、と手を振りながら彼女は退室した。

静まり返る部屋、グランは呆れた顔のまま。

 

「まぁ今回は僕たちがザ・ジェネシスに至ったって話しをする必要があったから、彼女がいた方が説得力があるだろうって僕が呼んだだけだよガゼル、バーン」

 

じゃあ、とグランが続ける。

 

「マスターランクチーム、ダイアモンドダストとプロミネンスはイプシロンが敗れた時のために再度調整期間に入ること……そしてイプシロン」

 

柱の遥か下にスポットライトが当たると、そこにはデザームが膝まづいていた。

 

「はっ……」

 

「君たちにはジェミニストームに代わって計画のために動いてもらう、次のターゲットは漫遊寺中、FFには未出場とのことだが……実力はニグラスたちのリサーチによるとジェミニストームと同等といったところらしいが……」

 

「ジェミニストームと同等とか雑魚じゃねぇかよ、んなチームも今まで通りサクッと潰してこい」

 

グランの言葉を遮るバーン、グランはバーンを睨み付けてから続きを喋る。

 

「他者との関わりを極力持たない漫遊寺は恐らく君たちとの試合を放棄するだろう、だから1度引いてくれ」

 

「おいおい、何故見逃す必要があるんだいグラン……そんなことでは漫遊寺なんて弱小のチームにエイリア学園が舐められるだろう?」

 

今度はガゼルの言葉に遮られ、グランは最後まで話させてくれよ、と言ってから再度デザームへと向き直る。

 

「雷門中は襲撃予告をすれば漫遊寺に絶対に現れる、そこを2チームまとめて潰せばいいのさ」

 

「はっ、わかりました……イプシロンの力を持って雷門と漫遊寺中、どちらも潰してみせましょう」

 

グランが最後に頼んだよ、と告げると部屋の光は消え、闇へと包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とある病院に彼女の姿はあった。

黒髪に紅い瞳、珍しくスーツではなく軍服のような趣向を凝らしたワンピースにブーツを履いた彼女は生命維持装置に繋がれたその人をじっと見ていた。

 

「こんにちわ」

 

だが、勿論それは返事をする事は無い。

 

「あなたを、助けに来ました」

 

歯車は狂ったままでも回り続ける、軋みながら、傷つきながら。

 




今回はかなり短めな上にジェミニストームの退場とかそういった所が少し書きにくかったです。

Q.世界編はやりますか?
A.侵略者編の後は世界編も予定していますが、主人公は女の子なので全く違ったものになってしまうと思います。

皆さんの感想とても励みになります。

追記、設定上ありえない矛盾が出来ていたため修正しました。
それと本作品への質問などありましたら、感想などで書いていただけると上記のように後書きや前書きで書くネタになるのでドンドンして欲しいというのが作者の本音ですが、それよりも本編を書けって話ですよね……頑張ります。


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だいじゅうわ

UAが5300突破……。
お気に入りも190を突破してそろそろ200と作者はもしかしたら幻覚をみているかもしれません。


無機質な場所、マスターランクのキャプテン達が集う部屋とはまた違った意向の部屋に数人の人影が集っていた。

黒い髪に紅い瞳をもったスーツの少女、ニグラス。

彼女はエイリア学園マスターランクチームザ・ジェネシスのGKであり、そして先日までは唯一の正規メンバーであった。

 

「えーと、影山さんに……あなたは?」

 

細身に長身のサングラスをかけた男、影山の背後から出てきたのはモヒカン頭の少年。

 

「不動明王(ふどうあきお)だよ、このオッサンにスカウトされて真帝国学園のキャプテンやってる」

 

ニグラスの脳裏に浮かぶは不動の過去、この本来の脅威の侵略者編とは違う世界線でも彼は母親の言葉に支配されているのかと少し顔を曇らせると。

不動はニグラスへと顔を寄せ、影山に聞こえないようにと小さな声で話す。

 

「おいおい勘違いしないでくれよ、誰が好き好んで不正大好きなオジサンに力を貸すってんだよ……俺の父親がアイツに借金つくらされてな……嫌々と従ってんの……良かったらアンタらのとこで雇ってくんねー?」

 

不動の発言に面食らうニグラス、本来の世界線でも影山の元についた理由はエイリア学園で力を得るためだけに影山を利用したかったとかそんな理由だったが、ここまで明るくはなかったはずだ。

 

「不動……その方はエイリア皇帝閣下のお気に入りの1人だ、馴れ馴れしいぞ」

 

「オジサンにはわからない若者同士の会話ってやつですよー、ピリピリしなさんな総帥」

 

両手をヒラヒラとさせる不動にクスリとニグラスが笑みを浮かべる。

そんな中、数人の影の最後の一人が声を上げた。

 

「ところで影山、本当に真帝国学園は我々の力となれるほどのチームなのだろうな……なんのために貴様程度の男を皇帝閣下がお助けになったか……わかっているだろうな?」

 

顔色の悪そうな細身の男、吉良財閥にて吉良星二郎の秘書をつとめる研崎。

彼はニグラスに顎で指示を出す、こちらも嫌々といった様子でニグラスはアタッシェケースを取り出すと、その中身を影山と不動に見えるようにと中身を晒してみせた。

 

「エイリア石の破片だ、貴様らにわざわざこれを分け与えてくださった閣下に精々感謝する事だな」

 

「ありがとうございますよー、研崎サン」

 

研崎に対して軽い調子で応える不動、影山はそれを窘めない様子に研崎が眉間に皺を寄せる。

それを見た不動が軽口が過ぎました、と軽く頭を下げた。

 

「研崎さん、私は少し真帝国学園を見てから本部に帰還します、よろしいでしょうか?」

 

ニグラスが声をかけると研崎はわかった、というと部屋から退室する。

開いた扉の先には吉良財閥の黒服が数人待機していたため、ニグラスは改めて不動へと向き直る。

退室した際に女狐め、等と小さくニグラスにしか聞えないように言っていた気がしたがニグラスは それを無視した。

 

「さてと、エスコートして下さるかしら……真帝国学園のキャプテンさん」

 

ニグラスはわざとらしくスカートでもないのにカーテシーをしてみせた、不動は一瞬呆けるが、その後にニィと口を歪めて。

 

「喜んで致しますよ、お嬢さん」

 

2人も部屋を後にした。

 

影山は一人、部屋の中で呟いた。

 

「……鬼道」

 

先程まで部屋の中にいた面々、そのそれぞれが全く違う意図で動いていた。

だが、お互いの足を引っ張ることにならなければと、今は誰も動きを見せない。

 

そして、不動に連れられ、ニグラスはグラウンドへと歩を進めた。

 

「これが真帝国学園のメンバーだよ、お嬢さん」

 

一見すると、不動を含めても9人しか姿が見えず。

ニグラスの視線に気づいた不動がおっとと言ってから彼女へと慌てて補足した。

 

「ちょいとFWの佐久間とGKの源田が今席を外しててね……あの2人は影山サンが前に監督やってた帝国学園のメンバーだったわけなんだけどよ、なんでか世宇子中ってとこと試合して療養中だったはずのアイツらを影山サンがどっかから連れて来たんだよな……」

 

本来の世界線でも神のアクアを使用していた世宇子中に敗北していた帝国学園の2人は脅威の侵略者編で真帝国学園として鬼道への復讐だと雷門の前に立ち塞がる。

そして、佐久間は封印されていた技である皇帝ペンギン1号、源田はビーストファングという技を用いて自らの身体を傷つけながらも雷門と戦うのだ。

 

「なるほど……わかりました、私はエイリア皇帝閣下からの指令通り、あなた方がエイリア学園の力として十分かどうか見定めさせてもらいます」

 

その言葉に固まる8人、不動はへぇ……と呟いた後にメンバーへとビビってんなよ、と不器用なりに鼓舞する。

 

「とはいっても私があなた方と戦うだとか、イプシロンと戦ってもらう……だなんて話じゃありませんよ

ただ、イプシロンと雷門中はきっと数日中に戦うことになって、雷門中が負けると思います、それも散々な負け方でしょうね」

 

笑いながら話すニグラスの言葉に真帝国学園の誰かが唾を飲んだ、ニグラスは笑顔のまま。

 

「あなた方にはイプシロンの後にでも雷門中と戦ってみてください、そこでの戦果次第ではエイリア皇帝閣下に話を繋いでもいいですよ?」

 

その言葉を聞いて密かに滾る真帝国学園の面々、そしてニグラスは頑張って下さいね、とだけ告げてグラウンドを後にした。

不動がふと、ユニフォームのポケットに手を突っ込むと、そこには小さな紙片が入っていた。

書いてある内容としては11文字の数字の羅列、恐らくは携帯の番号であるそれを見て不動は少し呆けた後にニヤリと笑った。

自分もまだまだ終わってないな、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わって京都、漫遊寺。

学校そのものが巨大な寺と化しており、何棟にも渡るその広大な敷地の1箇所、グラウンドを見渡せる校舎の隅に2人の人影があった。

1人は赤い髪をいつものように逆立てていない黄色い上着姿の少年、グラン。

もう1人は軍服のような趣向のワンピースを着た長い黒髪の少女、ニグラス。

2人は人気のない場所からひっそりとグラウンドを見下ろしていた。

 

「グランも来るなんて思わなかったなぁ、珍しいじゃん、なに?雷門が気になったの?」

 

「そうだね、どっちかと言うと……雷門を見てる時の君の様子が気になってね」

 

グランの言葉にニグラスが少し呆けた、その様子を見てグランが少し笑う。

 

「やっぱり気づいてなかったんだね、ニグラスは雷門の試合を見てる時いつも楽しそうだったよ」

 

ニグラスが言葉に詰まりつつも、なにか返そうとした時。

グランが、もう始まるよと言うとニグラスもグラウンドへと目線を向けた。

しかしながら、イプシロンの相手は雷門ではなく漫遊寺のようだ。

 

漫遊寺ボールでのキックオフ、漫遊寺側のFWの仮面を付けた2人組を執拗にマークするイプシロンの選手たち、漫遊寺が攻めあぐねている間にも1人、また1人と少しずつイプシロンの選手によって倒されていく。

いくらグラウンド全体を見渡せるからと言っても流石に遠すぎて詳細はわからないが、漫遊寺では全くイプシロンに通用していないようで。

漫遊寺の生徒が必殺技を使っても、イプシロンの選手はただのパワーとスピードでそれを無理矢理突破してなぎ倒して行った。

そして、僅か6分の後、漫遊寺の選手は皆倒れており、0/15でイプシロンの圧勝。

 

これで終わりかと思いきや、内容が聞こえてこないのが残念だが……雷門の面々が何やら叫んでいる。

叫んでいるのが円堂なあたり、俺達が相手だ!とか言っているのだろうとニグラスは適当に想像する。

そして目線の先、どうやら栗松と目金が大柄な壁山にもたれかかっているところを見ると2人ほど負傷?しているのかなにか揉めている。

 

「おや、どうやら漫遊寺の生徒が1人、雷門に加わるみたいだね」

 

グランの言う通り、漫遊寺の制服……というより運動着を着た小柄な少年が雷門のユニフォームに着替えていた。

そして、とうとうキックオフという段階で、デザームがなにか長々と喋り始めた。

 

「……デザーム、指を3本立ててるね……あれ絶対いつもの悪い癖だよ」

 

「3分で片をつける……ってやつだね、さっきの漫遊寺の時も6分で終わらせたみたいだし」

 

そしてやっとキックオフ、染岡から風丸、そしてMFたちでパス回しをしながら前線へとあがる雷門。

雷門のFWであるアツヤと染岡へとイプシロンの選手たちが漫遊寺へと行ったように執拗なマークで動きを牽制する。

染岡には金髪の女性MFクリプトと細く長い身体が特徴のMFファドラ、アツヤには小柄で全体的に長い緑の髪のせいで目線の読めないMFスオームと中肉中背の青い髪のMFメトロンがそれぞれマークについており、思うように動けないようだ。

 

これがイプシロンの基本戦術、FWへの執拗なマークで敵の攻撃のペースを崩すのが目的で、いつもGKをしているデザームがFWの色黒の少年ゼルといつでもポジションを代わってもいいように、GKに極力頼らない布陣と戦略。

 

ボールを持った風丸へと数人のプレッシャーが迫るものの、風丸はそれを巧みに避けると塔子、さらに流れるように鬼道へとパスが繋がった。

 

「あのチームが、最初はジェミニストームに圧倒的な大敗をしてたって思うと……なんだか思い出さないグラン?」

 

ニグラスの言葉を聞いてグランの脳裏に過ぎるのはマスターランクチームの行ってきた練習の日々、最初は手も足も出なかった自分たちも修練場や吉良財閥によって徹底的に管理された練習メニューによって現在の力を手に入れた。

自分たちの高みに、彼らも登ってくるのかもしれない。

そんな予感が、グランの頬を少し緩ませた。

 

そして一方、グラウンドでは鬼道が土門へと繋ぎ、土門は一之瀬へとボールを繋げた。

一之瀬がボールを受け取りながら回転、周囲の風を巻き込む程の勢いでボールを蹴り出した。

恐らくは一之瀬の必殺技であろうそれをデザーム、ではなく。

DF、角のような逆三角形の形が特徴のガスマスクをつけた少女モールと大柄で黒いベレー帽を被ったケイソンがそれを同時に蹴り返した。

 

それはただのシュートカットではない、と雷門陣営が気付くのが少し遅れた。

一気にボールはセンターラインを超えて凄まじいスピードでゴール前へと迫る。

それが相手DF2人によるカウンターシュートだと気づいた雷門の壁山と塔子の2人が必殺技を使用、巨大な壁と塔が地面から現れると、そのシュートを何とか弾いた。

弾いたボールを士郎が確保し、それを見た瞬間、アツヤが一気に加速してスオームとメトロンを半ば無理矢理追い抜いた。

 

士郎がアツヤへとイプシロンにカットされないようにと強烈なパスを繋げた、アツヤはそのパスに合わせるように回転し、吹雪が周囲に荒れ狂う。

エターナルブリザード、ジェミニストームを圧倒した吹雪アツヤの必殺シュートがイプシロンのゴールで仁王立ちするデザームへと迫る。

しかしながら、弾かれたカウンターシュートを無理矢理前線へと繋いだせいかゴールまでまだ距離があったため、エターナルブリザードの威力は少し削がれていた。

そのボールをデザームは片手で受け止めた。

 

ニグラスとグラン、そしてデザームに少しばかりの驚き。

まさか、ジェミニストームに勝てたばかりのチームのシュートがあそこまで強力だとは……と。

 

そしてシュートを受けたデザーム自身、少しなにか気にかかる。

 

なんだコレは……この燃えるような感覚……どこか、懐かしい。

 

そして驚愕に包まれる雷門へと、今度はイプシロンの反撃が始まった。

ボールを持った選手へプレッシャーをかけようとする雷門の選手へと逆にイプシロンの選手がその動きを阻害、そうしている間にもボールは素早いパス回しと翻弄するような奇っ怪なドリブルによってゴール前のゼルへと繋がった。

ゼルはボールを軽く浮かせると、両手に力を込め、そのエネルギーを両手を介してボールへと注ぎ込んだ。

一見すると反則でハンドのようにも見えるが、よく見れば手は一切ボールには触れていない。

ガニメデプロトン、イプシロンのメンバーやザ・ジェネシスのFWウィーズのよく使うシュート技だ。

繰り返すが一見するとハンドに見えるがハンドではないシュートだ。

ガニメデプロトンの圧倒的エネルギーとスピードに円堂は咄嗟に対応しきれず、マジン・ザ・ハンドやゴッドハンドを出す間もなくパンチ技で防ごうとするが、それではガニメデプロトンを止めること叶わず。

円堂の身体ごとボールがゴールネットを揺らす。

 

1/0

 

ここまでで1分、イプシロンの先制点である。

 

そして、イプシロンによる蹂躙が雷門を襲う。

ボールを奪いに来た選手へわざとシュートを放ったり、反則ギリギリのラフプレーで突き飛ばす……いや最早吹き飛ばしたりで雷門の選手も先程の漫遊寺の選手のように次々と倒れる中、1人だけ全く被害を受けていない選手がいた。

漫遊寺の助っ人らしき小柄な少年だ。

 

「……」

 

薄れているとはいえ前世の記憶により、そのような選手がいた、というのだけ覚えていたニグラスも少し驚いていた。

無傷ということは、動きを見切っている。という事だと。

約束の3分まで残り数秒、そんな時ふとデザームの目線がコチラへと向く。

どうやら、グランとニグラスに気づいたようで彼は大声でなにか叫んだ後、最後にボールを勢いよく蹴りつけると先程のガニメデプロトンよりも強く早いソレが雷門ゴールへと突き進む。

まだ余力があったらしいアツヤと士郎の2人がボールを止めようと迫るものの2人ともシュートの勢いに負けてしまい、弾かれる。

そしてシュートはついにゴール前へと迫る中で、シュートの目の前で小柄な少年がボールから逃げようともがいている中、不意にこけた。

 

「え?」

 

ニグラスがそう呆ける中、こけた少年を中心に竜巻のように風が巻き起こり、シュートは勢いを殺されその場にポトリと落ちた。

 

「行くよニグラス」

 

グランの声にハッと我に返るニグラス、気付けば試合が終わっていた、本当に3分丁度経ったためにイプシロンはいつの間にか消えていた。

そしてニグラスとグランも、その姿を漫遊寺からくらました。

最後に瞳子が、ニグラスとグラン、2人の方を向いていたのに彼らは気づくことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漫遊寺、夜。

一人ゴールの前に佇む円堂に1人の少年が声をかけた。

 

「君たち、凄いな……宇宙人とサッカーしてるなんてさ」

 

「見てたんだ、漫遊寺の生徒?」

 

赤い髪の少年、グランへと円堂は笑いながら向き直った。

 

「違うよ、違うけど見てた」

 

「そうか、もしかして……俺たちのこと応援してくれてたのかな」

 

「まあね、俺……基山(きやま)」

 

一瞬詰まるグラン、ニコリと笑うと彼は最後に続けた。

 

「基山ヒロトっていうんだ」

 

本来の世界線の、その名を名乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また場所は変わり、吉良財閥会長、吉良星二郎の私室である茶室。

ドタバタと大きな足音を立てて、1人の少女がその茶室の襖を勢いよく開け、中へと飛び込んできた。

 

「父さん……!!」

 

吉良星二郎は穏やかな顔のまま、突然入ってきた少女……秀子へと向き直る。

 

「どうかしましたか?秀子、あなたには色々頼んであるハズですが……?」

 

「どうもこうもないよ……!!」

 

穏やかな雰囲気の吉良星二郎とは相対的に秀子は息を荒くしながら、彼へと詰め寄る。

 

「タツヤの名前を改名させるって本当なの父さん?!」

 

「あぁ、その話ですか」

 

依然表情の変わらない『父さん』に苛立ちから更に声を荒らげる秀子。

 

「アンタの息子のヒロトはまだ生きてんだろうが!!なのになんで……なんで……!!よりによってヒロトの親友のタツヤにヒロトの名を継がせようとしてんだアンタはっ?!!」

 

そう、本来の世界線ではタツヤはヒロトと名乗っていた。

それは吉良星二郎の息子であり吉良瞳子の兄であった吉良ヒロトは留学した際に少年犯罪に巻き込まれ死亡したが、その事件に政府要人の息子が関わっていた為に隠蔽され、吉良ヒロトは事故で死んだことになっていた。

そして、この世界線で吉良ヒロトは瞳子の弟であり、彼は海外へサッカーのプロリーグの試合観戦の為に旅行として出かけた際に同じく少年犯罪に巻き込まれた。

だが、この世界線のヒロトはなんとか一命を取り留めており、今も尚病院にて眠りについている。

この世界のヒロトが事件に巻き込まれたのが去年のことであり、約1年の間、ヒロトは眠り続けている。

 

「ヒロトの怪我は最早助かる見込みはなく、彼もヒロトの代わりとして私の養子となることを望んだ……それで充分ではないですか」

 

「充分なもんか!!タツヤにヒロトの代用品をさせようってのか?!アァ?!」

 

ついに吉良星二郎の胸倉へと掴みかかろうというその時、何処からか現れたバーンとガゼルが秀子を無理矢理押さえつける。

 

「落ち着けって秀子!!」

 

「そんなに怒るなんて君らしくもない……!」

 

マスターランクのキャプテン2人に掴まれながらも少しずつ吉良星二郎への歩みを止めない秀子、勿論押さえ付けてる2人は本気だが、それでも秀子は止まらない。

だが、最終的に秀子は分が悪いと判断したか歩をとめ、指だけは吉良へと向けたまま低い声で続けた。

 

「もしも……もしも!ヒロトが起きたらって、最後まで諦めないのが親じゃないのかよ?!ヒロトの代用品としてタツヤを扱うのなら、そうやってタツヤを悲しませたら私は……!!一生アンタを許さないからな!!」

 

キャプテン2人に引き摺られ、半ば強制的に秀子は茶室を後にする。

 

「……安心して2人とも……ちゃんとあの人に貰った恩は返すよ、ここまで生きてこれたのは吉良のお陰だからね……計画にはわたしの全身全霊を尽くすよ……でも、ジェネシス計画が成功するなり失敗するなりして終わったら私は……あのままのあの人だったら私はここを出てく……」

 

秀子の静かな言葉にバーンがそうかよ、とだけ返す。

暫くすると嗚咽のような声が2人の間から聞こえる、誰のものだかは安易に想像出来る。

だが、ガゼルもバーンも何も言わずその声が止むまで、隣で待ち続けた。

こんな夜だというのに、月は知らぬ顔でその姿を空で輝かせるのであった。

 

 




本来の世界線の吉良ヒロトはタツヤと本当に瓜二つなんですけど、アレス時空だとヒロトとタツヤ全然似てないんですよね……。

ここでの吉良星二郎は、吉良ヒロトの1番の親友であるタツヤに養子縁組の話を持ちかけました。
そして、吉良ヒロトの巻き込まれたのがこの小説での1話、お日さま園の皆がわいわいサッカーやってた直後ですね。

吉良財閥が謎の鉱石見つける→吉良ヒロトが事故に遭う→謎の鉱石にドーピング機能があることが判明→植物状態の吉良ヒロトへの使用にはリスクが高すぎるため断念→ジェネシス計画始動

と言った流れです。


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だいじゅういちわ

ユニークアクセスがとうとう7000に……!!
お気に入りは約260……!!

それと感想で知りましたが当作品がランキング入りしたそうです、これも皆様のおかげです、ありがとうございます……!


黒髪に紅い瞳の少女、ニグラスはいつものスーツ姿でとある場所へと足を運んでいた。

真帝国学園、巨大な戦艦のような外観の潜水艦がその母船である。

真帝国学園は影山零治が表の世界から姿を隠しつつ、自らの目的である『必ず勝つ最高のチーム』を作り上げる為の施設である。

イプシロンに敗れた雷門中と真帝国学園を戦わせ、もしも真帝国学園が勝てばエイリア皇帝閣下……即ち『父さん』こと吉良星二郎からの支援を彼らは全面的に受ける事ができる。

といっても、ニグラスとニグラスの選んだエージェント達によって既に影山には他にもパトロンがおり、海外へと逃げる手筈を済ませている影山とその管轄下にある真帝国学園のことを吉良財閥の人間は1人を除いて見捨てているのだが、それはお互い様ということだろう。

今日この日、真帝国学園の元へと雷門がその情報を嗅ぎつけて試合までの流れを不動がセッティングした。ということでニグラスがその試合を見届けに来たのだが……。

 

「で、佐久間(さくま)と源田(げんだ)って2人の調整は間に合ったの?不動くん」

 

「いやー、無事に全員アンタらから頂いた力に対応出来たんスけどね……ちょいとあの2人には問題があるんスよニグラスさん」

 

薄暗い通路を歩きながら携帯やその他の通信などで聞けなかったことを質疑応答している2人、前回の視察の際には見られなかったFWの佐久間とGKの源田に何か問題があるということで彼女の眉間に皺がよる。

彼女は知っている、本来の世界線ではその2人は禁じられた技を無理矢理使って雷門と試合し、その上で敗北することを。

そして、力に執着する不動がその2人をわざと煽り立て、技を使わせていたことを。

だが、この世界線の不動は影山に逆らえないせいで嫌々従っているという、少し本来とは違った世界線だ。

ならば佐久間と源田、この2人への負担を減らす事は可能だと少しニグラスは安堵する。

 

「……影山の考案した技、皇帝ペンギン1号とビーストファングね……」

 

ニグラスの口からその言葉が出るとは思っていなかった不動が一瞬呆ける物の、流石ニグラスさんだねぇと言って2人は歩をとめない。

 

「だったら、2人にはなるべくその技を使わせないで、折角エイリア皇帝閣下の力を借りれるチャンスだと言うのに、2人も欠員を出すんじゃ意味が無いじゃない」

 

「アンタがそこまで言うってことはそんなにヤバい技なのか……へいへい、了解しましたよ」

 

通路の先に光が見える、それは通路の終わりを示し、2人は光へと踏み出した。

雷門と真帝国学園、本来とは違う世界線で両者の戦いが幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

雷門の面々は真帝国学園のキャプテンを名乗っていた少年に埠頭へと呼び出され、そこで巨大な戦艦のような潜水艦、真帝国学園の校舎へと乗り込んだ。

かつて鬼道有人の在籍していた帝国学園、その総帥として君臨していた影山との戦いに終止符を打つため、雷門の面々は真帝国学園との戦いを余儀なくされた。

 

彼らが真帝国学園へと乗り込み、グラウンドへと足を運ぶと、そこにはかつて鬼道と共に戦っていた帝国学園のメンバーである佐久間と源田の姿があった。

影山が帝国を見捨て、新たに作り上げた世宇子中に無惨に敗れた帝国学園。

鬼道を除いた他のメンバーは世宇子中によって病院送りにされ、2人も病院にて療養中のハズだった。

 

しかし、2人は影山のもたらした新しい力を受け取る事で再びピッチへと帰ってきたのだ。

自分たちを見捨て、雷門でただ1人『勝利』を掴み取った鬼道への復讐のために。

 

そして、彼らは真帝国学園の面々へと視線を向けた時、ベンチに座っている1人の少女を見て、更なる驚愕に包まれた。

 

「アイツは……たしかエイリア学園のマネージャーじゃなかったか?」

 

染岡の言葉に何人かが同意するように疑問の声をあげた。

視線が集中することを鬱陶しく思ったか、秀子はベンチで腕を組んだまま雷門の面々を睨みつけた。

彼女自身、最近の出来事に余裕が無くなってきていたのもあり彼女からは彼女自身も無意識な内に殺気が放たれていた。

気圧される雷門と真帝国学園、雷門の面々も突如彼女から発せられた殺気に戸惑い、そしてニグラスによって現在進行形で視察されている形である真帝国学園も彼女に起きた突然の変化に驚きを隠せない。

 

「佐久間くんと源田くん……来なさい」

 

ニグラスの冷淡な声、そしてキャプテンの不動からも行けよと、声がかかったため2人は渋々といった様子でニグラスへと歩み寄る。

 

「源田くんはDFと連携してなるべくビーストファングを温存、佐久間君も不動くんや比得(ひえ)くんとの連携を中心にすること……いい?」

 

ニグラスの指示に2人が異議を申し立てた、だがそれはもはや理屈も何もない台詞ともいえない半ばただの癇癪のようであった。

その様子の2人を見て、一切表情を変えないニグラス。

溜め息を1つついた後、なら、と続ける。

 

「それぞれ1回だけ使うことを許します、2発目以降を使用したのならエイリア学園は一切の責任をおうことなくあなた方を見捨てます……良いですね?」

 

その妥協とも言える発言にさえ抗議をやめない2人、雷門の面々は仲間割れか?とこちらの様子を伺う様子がみてとれる。

 

「……これ以上騒げば勘のいい鬼道くんならあなた方2人の安易な策に気づきそうですけど……まだ続けますか?」

 

鬼道、その言葉を聞いた2人は黙りこくった後、それで勝てるなら従うさ、と2人して同じような事を言うとポジションへと走っていく。

今度は不動を呼び出すニグラス。

 

「聞いてたとは思いますが、あの2人に1回ずつだけと条件付きで許可を出しました、その1回のチャンスで雷門を切り崩しなさい」

 

「了解しましたよ、ニグラスさん」

 

最後に不動がポジションにつく。

雷門はどうやら前回のイプシロン戦と同じように栗松の代わりに漫遊寺から加わった追加メンバーである小暮(こぐれ)をDFへと採用しているようだ。

そして、真帝国学園ボールで試合が始まった。

 

佐久間から緑の髪をオールバックにして顔を白塗りにしているFW比得へとボールを渡し、比得が染岡へと突き進む。

染岡がスライディングでボールを奪おうとするものの、比得はそれを読んでいたのか流れるように不動へとバックパス。

 

「なっ?!」

 

「キヒヒッ、遅いな!」

 

ボールを受け取った不動へと迫るアツヤ、そこにアツヤが来ることを読んでいたかのように更に流れるように桃色の髪を巻いてサイドポニーにしている少女、MFの小鳥遊(たかなし)へとボールを渡してアツヤからボールを奪われるのを回避した。

 

「ヒュー!聞いてた通り速いねェ!熊殺しのアツヤクン!」

 

「そいつはどうも!」

 

小鳥遊が素早い動きで雷門の陣地へと切り込むと、風丸と一之瀬の2人がかりでボールを奪いにかかるに対し。

 

「仲良く2人でってか……ホモかよ……!」

 

暴言を吐くと、小鳥遊は思い切り息を吸い込み、吐き出した。

小鳥遊が吐き出した息は明らかな毒々しい紫色をしており、風丸と一之瀬の2人はそれに包まれ、小鳥遊を見失う。

 

「毒霧の術……!」

 

必殺技で突破した小鳥遊がMF2人を引き寄せていた内に前線へと進んでいた比得と佐久間、小鳥遊は比得よりも早くゴール前へと走り抜けた佐久間へとパスを飛ばした。

ボールを受け取った佐久間はニヤリと笑うと、そっと指を口元へ添える。

それを見た鬼道の顔が青ざめ、狼狽えながらも佐久間へと叫んだ。

 

「やめろ佐久間!!」

 

不動は内心でもう使うのかと思いつつ、これで牽制になれば雷門も動きずらくなるはずとそれを見送る。

彼がまだ、禁断の技の実態を知らないが故の失態であった。

ニグラスはただ黙って目を閉じた。

 

「それは……禁断の技だぁっ!!」

 

佐久間が指笛を鳴らすと、彼の足元から5匹の赤いペンギンが宙へと飛び出した。

佐久間が振りかぶった足へと食らいつくペンギンたち、痛みに耐えるように呻きながらも佐久間は足を振り抜いた。

 

「これが……皇帝ペンギン……1号だぁあ!!!」

 

鋭いシュートとそれに追従するペンギンたちが一斉にゴールへと襲い掛かる、円堂は身体を捻りながら心臓に右手を添え、パワーを右手へと収束させる。

 

「マジン・ザ・ハンドォオ!!」

 

金色の魔神が吠え、その右腕をペンギンたちへと振るう。

だが、見た目に反してペンギンたちは力強く、円堂の呼び出した魔神を一瞬で引き裂いた。

 

円堂の右手がボールを受け止めようとするものの、一瞬で身体ごとゴールへと押し込まれる。

肺の中の空気を吐き出させるような重い一撃、円堂もたまらず呻き声をあげてしまう。

そして、何故かシュートを撃った佐久間が悲鳴をあげた。

悲痛な叫びがフィールドに響き、雷門の面々は勿論ながら真帝国学園のメンバーも少し動揺する。

シュートを受けた円堂も身体の痛みで少し動きが鈍く、壁山や士郎が駆け寄り心配した等と声をかけると、彼自身問題ない大丈夫だ!と声を張るものの、どこか動きはぎこちない。

 

0/1

 

真帝国学園の先制点だが、そんな事はお構い無しにと佐久間へと急いで駆け寄る鬼道。

佐久間は自らの身体を抑えながら痛みに耐えるように震えて蹲っていた。

 

「皇帝ペンギン1号は禁断の技だ……2度と使うな……!使えばお前の体は……」

 

「怖いのか?」

 

鬼道の言葉に、先程まで痛みで苦しんでいた佐久間が引き攣った笑みを浮かべて鬼道へと顔を向けた。

その目に映っているのはもはや鬼道本人ではなく、彼自身が作り出した鬼道の虚像。

その目に、もはや理性など宿っておらず、ただ自らの力を振るわんと唸る獣のような目だった。

 

「俺如きに追い抜かされるのが怖いんだお前は……!!お前をずっと後ろから追いかけるだけだった俺だって……この技があれば……この技さえあれば……!!」

 

佐久間は心配する鬼道の身体を押しのけ、元のポジションへと戻る。

そして、鬼道は1度ポジションへと戻る前に円堂を含めた雷門の全員で話し始めた。

 

「あの技……皇帝ペンギン1号は影山が考案した技でな……あまりのパワーに使用者が耐えられず、3回も使えば2度とサッカーができない身体になってしまう……!!」

 

鬼道の言葉に驚く一同、そしてなによりそれを躊躇わず使った佐久間への恐怖やそれを看過する真帝国学園のやり方に怒りを隠せない。

実際は影山とニグラス以外はその技の実態を知らなかっただけなのを彼らはまだ知らない。

 

「今回の作戦が決まった……絶対に佐久間にボールを渡すな……!!」

 

その声にDFのメンバーを中心に佐久間のためにと頷く。

鬼道はスピードに優れたDFの士郎とテクニックに優れたMFの一之瀬に佐久間のマークを任せた。

 

「佐久間くんのために、僕も全力を尽くすよ……!」

 

「そうだ、サッカーで傷つく人なんてこれ以上見たくないからね……!」

 

無茶をするアツヤをいつも見てきた士郎と怪我によって1度はサッカーができない身体になってしまった一之瀬。

そんな2人の言葉にありがとう、と感謝する鬼道。

そして、アツヤと染岡がお互いに目配せをすると鬼道へと力強く声をかける。

 

「兄貴たちには負けてらんねェ……俺達も全力で攻めるぜ……!」

 

「あぁ、攻撃は最大の防御だ、こっちが攻めてればアイツらは防御するしかねぇんだからな……!!」

 

「お前らの言う通りだな、ありがとう皆」

 

鬼道がメンバーへと頭を下げる、そして鬼道は円堂へと顔を向けるとゴーグル越しでもわかる心配した顔で話した。

 

「円堂、お前も皇帝ペンギン1号はもう受け無い方がいい、あの技を受け続ければお前の身体も無事では済まないぞ」

 

鬼道のその言葉に、円堂は自らの未だに痺れの取れない右手を凝視する。

円堂自身もわかっていた、エイリア学園のシュートもたしかに凄いパワーであったが、皇帝ペンギン1号はそれらとはわけが違う。

あれは、人為的に人を壊すためにと設計された技だ。そう円堂も無意識のうちに理解していた。

 

「よし、みんな!佐久間の為にもこの試合、絶対に佐久間にあの技を打たせずに勝つぞ……!」

 

応!

雷門のメンバーが声を合わせ、そしてそれぞれのポジションへと散った。

 

そして、雷門ボールで試合が再開される。

 

染岡から風丸へのパス、そして風丸はその素早い動きで真帝国学園のMFたちを撹乱し、中央へと走り抜けた鬼道へボールを渡すことに成功する。

鬼道がボールを受け取り、後続から一気に走り出した土門と染岡がそれに続いた。

佐久間の皇帝ペンギン1号のように源田のビーストファングもそれ相応のリスクを背負った技なのではないか、と判断した不動が咄嗟にDFへと指示を飛ばすものの、それを鬼道たちは完璧に回避してゴール前へと躍り出た。

 

「思い出せ佐久間……これが本当の皇帝ペンギンだ……!!」

 

あまりのパワーにシュートする者の身体が悲鳴をあげる禁断の技、皇帝ペンギン1号。

その技の負担を3人で行うことで分散、威力自体は低下するものの、抜群の安定力を誇るその技。

 

鬼道が指笛を吹き、背後から土門と染岡が一気に上がる。

鬼道の足元からは先程の佐久間とは違い通常の色合いのペンギンが5匹現れ、鬼道がボールを蹴り出すとそれに追従し、そのボールを染岡と土門が同時に蹴り出すことで更に威力を高める。

 

「皇帝ペンギン……!!」

 

『2号!!』

 

3人の協力技が真帝国学園のゴールへと迫る、源田はその技を見るとニヤリと笑い両手を構えた。

その構えを見た鬼道に再び衝撃が走る、そして源田の両手を突き出すような独特な構えから一気に獣のようなオーラが発せられる。

 

「まさか……!!」

 

「ビーストファング……!!」

 

獣の牙のように両手をシュートへと突き立てる源田、その技によってペンギンもろともシュートの勢いは圧倒的なパワーの前に一瞬で崩壊した。

 

「ビーストファングまでだと……?!」

 

ボールを受け止めた源田が苦しみ出す、それを見た雷門の面々へと再度衝撃が走り、真帝国学園のメンバーたちも佐久間と源田へ少し悲しげな視線を送る。

 

「鬼道……まさか」

 

土門が鬼道へと声をかける、鬼道は深刻そうな表情で頷く。

 

「ビーストファング、皇帝ペンギン1号と同様、封印したはずの禁断の技だ……!!」

 

「クソっ……あの技も身体を壊しかねねーのか……!!」

 

染岡が拳を握るとわなわなと震える、雷門の士気は下がる一方である。

 

「源田にもあんな危険な技を使わせる訳にはいかない……」

 

「シュートもダメってか……!!クソっ手詰まりじゃねぇかよ!!」

 

苦しんでいた源田も鬼道の苦渋に歪む顔を見てニヤリと笑うと大柄なDF郷院へとボールを投げ渡す、再度始まる試合。

そしてシュートを打ってはならない、シュートを打たせてはならない。

そんな縛りを抱えてしまった雷門の動きは先程までと違い防戦一方となってしまう。

だが、それは真帝国学園もそうであった。

 

本来の世界線での真帝国学園は勝利の為ならなにもいとわない不動の性格と一致した非情なチームだった、だが、この世界線の不動はたしかにラフプレーや人を煽ったりするところもあるがそれは十分人道的で作戦の一種として受け入れられる範疇のことであり、そんな不動に集められた真帝国学園のメンバーたちも本来の世界線より幾分も温厚な性分であった。

 

膠着する試合展開、お互い攻めあぐねてしまったまま前半が終わりを告げた。

 

真帝国学園のメンバーがニグラスの元へ集まり、佐久間が1歩踏み出した。

 

「どうしたんだお前ら……!!勝つ気があるのか……?」

 

苛立ち混じりの言葉に他のメンバーは俯くことしか出来ない。

それを見た佐久間がニグラスへと更に1歩踏み出した。

 

「後半も皇帝ペンギン1号を打たせろ……!雷門に確実に勝つためだ……!!」

 

その言葉にニグラスは冷たい目で佐久間を睨みながら告げた。

 

「そんな技に頼らなきゃ勝てないような選手はエイリアには必要ないんだよね、さっきも言った通り1回だけだよ、そして君はもうその1回を使ったんだ、次はないよ」

 

佐久間が舌打ちをした後、ポジションへと戻る。

他のメンバーも渋々といった様子で戻る中、不動がニグラスへと歩み寄る。

 

「アイツが打たないように努力はしますよニグラスさん、でも……もし次にあの技を打った時はアイツを下げます……勿論イイっすよね?」

 

「……ええ、勿論」

 

そして、雷門ボールでの後半が始まった。

染岡から鬼道へボールが渡り、鬼道が駆け上がろうとした所へ不動がボールを奪いに一気に接近する。

鬼道がフェイントを仕掛けるものの、不動はそれを見透かしたかのように前へと進ませない。

両者の実力はほぼ互角、必殺技に頼らないボール捌きと体の身のこなしでの戦いが繰り広げられる。

鬼道は自分1人で抜く事を諦め、染岡へとボールを返すと残りの雷門のメンバーも一気に前線へと駆け出した。

 

染岡が真帝国学園のMFを突破し、更にDFが迫るものの、染岡のフォローのために前線へと上がってきていた塔子へとパスを渡し、染岡がDFを抜いたのを見測って塔子が再度染岡へとボールを繋げるワンツー。

染岡がゴール前へと迫るシュートチャンス、だが染岡自身、シュートを打とうとした時には既に源田はビーストファングの構えへと移行していた。

 

「……っ!!」

 

焦る染岡、だが彼の目にある男が映った。

逆サイドを走る、吹雪アツヤ。

 

染岡が意を決し空へとボールを蹴り出す、飛龍のようなオーラがそれに追従し、回転のかかったボールは染岡の元へと舞い降りる。

 

「ワイバーン……!!」

 

それを見た雷門の面々と真帝国学園、そしてニグラスに緊張が走る。

そんな事お構い無しと染岡はボールへとその足を叩き込んだ。

 

「クラッシュ!!」

 

ボールは物凄い勢いでゴールから逸れた。

 

生半可な覚悟で、ぬるい優しさなんて不要なものを持ったまま試合に臨んだせいで、こんな単純なミスを……と源田が少し気を緩ませたその時。

アツヤの口が弧を描く。

本当の覚悟を持った2人の連携に気づかなかったのは源田だったのだ。

染岡渾身のワイバーンクラッシュはゴールを逸れてアツヤの元へと迫っていた。

そして、アツヤはその身を翻し、一気に吹雪が吹き荒れた。

 

「ナイスだ染岡ァっ!!」

 

アツヤの回転で勢いをつけた蹴りがワイバーンクラッシュへと叩き込まれた、それはアツヤの必殺技であるエターナルブリザードと染岡のワイバーンクラッシュが融合し氷と竜、2つのエネルギーが一気にゴールへと突き進む。

気の緩みからビーストファングを出す暇もなく源田の両腕がボールを捕らえることならず、ボールがゴールネットを揺らした。

 

1/1

 

染岡の咄嗟の機転により同点へと追いついたことで一気に雷門の士気が上がる。

ベンチに座していた目金はワイバーンブリザード……!!と技を勝手に命名していた程である。

 

そして雷門の得点により、真帝国学園ボールでの試合再開。

そして、誰より焦る佐久間が強引に同じチームである比得からボールを奪うと一気に雷門の陣地へと駆け上がった。

鬼道が迫るものの、どちらかというと技術で敵を翻弄するタイプであるはずの佐久間は無理矢理鬼道を弾き飛ばしながら更に前線へと切り込む。

 

「認めない……!認めてたまるものか……!!」

 

更に一之瀬と小暮を抜き去り、塔子と壁山が必殺技を使う前に無理矢理突破する佐久間はゴール前へと辿り着くとその口を再度ニヤリと歪めた。

 

「これで俺は……鬼道に勝てるんだ……!!」

 

指笛を吹く佐久間、彼の足元から5匹のペンギンが現れ宙を舞う、そして振りかぶられた足へとペンギンが食らいつき、佐久間はその足をボールへと……。

 

「使うなって……言ったのになぁ……」

 

彼女の呟きを聞くものはおらず、そして佐久間の足がボールへと叩き込まれた。

 

「皇帝ペンギン1号!!」

 

その技を受け続ければ、お前の身体も無事では済まない。

その言葉が彼の頭の中に何回も響いていた。

ずっと同じ雷門中のメンバーとして自分たちが道を半ば諦めた時も俺たちを見捨てずにずっと手を差し伸べてくれたアイツを守れるのは俺たちしかいないじゃないか。

彼はその足を思い切りボールへと叩き込む。

その名に恥じぬ竜のようなオーラを纏わせて。

 

「ドラゴンクラッシュ……!!」

 

本来ならドラゴンクラッシュはエネルギーを溜めて打つ技であり、ボールを蹴り返したり、咄嗟に味方のシュートに合わせるのにはてんで不向きだ。

だが彼は、一気に攻め込んできた佐久間の皇帝ペンギン1号で円堂が傷つかぬようにと、彼は吠える。

 

「円堂も壊されてたまるものかよぉっ……!!」

 

傷ついた仲間達の姿が彼の脳裏に過ぎる、負けるものかと、彼は奮起する。

だが、それでも数秒の拮抗だった。

あまりのパワーに吹き飛ばされ、投げ出される染岡。

そしてボールはコースを逸らしてゴールポストに直撃、円堂が呆ける中ラインを越えて試合が止まる。

 

「染岡……!!」

 

慌てて声を震わせながら円堂が駆け寄り、雷門の他のメンバーも倒れ伏している染岡の元へと集う。

染岡の脚は腫れ上がっており、脚の内部に損傷があることは明らか、そして彼自身の意識が途切れていることからもう試合に戻ることは叶わないだろう。

 

「あっ……あぁぁ……!!」

 

そして、その光景を見た佐久間の脳裏にとある光景がフラッシュバックする。

世宇子中と帝国学園の試合、次々と倒れる仲間達、そして世宇子中の必殺シュートであるゴッドノウズを止めようとして足を負傷した自分の姿が染岡に重なると。

 

 

「うぁあああああぁぁぁぁぁぁあ!!」

 

佐久間は一気に現実へと呼び戻された、怪我や圧倒的な敗北による精神の不安定化、そして影山に煽られたことによる鬼道へ抱いた理不尽な嫉妬と怒り。

それら全てをやっと理解した佐久間は叫んだ後に放心した、もはや身体の痛みなんて、なにも感じなかった。

 

「試合は中止だよ」

 

グラウンドへと歩を進めるニグラス、その手には黒いサッカーボールを抱え、そして雷門へとペコリと頭を下げた。

 

「すまない雷門、そしてなにより鬼道有人、私が影山を放置し過ぎていたのが原因だ……」

 

突如頭を下げたニグラスに困惑する雷門、だが彼女が黒いサッカーボールを起動すると周囲に黒いモヤがかかる。

 

「……真帝国学園のことを頼むよ、彼らはエイリア学園に取り入ろうとしていた影山に利用されていたに過ぎない」

 

黒いモヤが彼女の輪郭さえも隠す、そしてモヤが晴れた時にはその姿も消えていた。

 

消えたモヤの後ろで倒れ伏している佐久間を抱え起こす不動、そしてそんな彼に近づく鬼道の目に映ったのは意識を失いその閉じられた瞳から涙を流す佐久間。

自らの宿命のようなその名を鬼道は叫んだ。

 

「影山ァァァァアアア!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンドを見下ろせる真帝国学園の司令室とも呼べる暗い部屋で、男は詰まらなそうに息を吐く。

今回も無駄だった、せめてあのニグラスというやつから不動や佐久間たちが情報を聞き出したりしていればまだ違ったのだろうが……と、次回の作戦へと向けて彼は自らの脳内で自問自答を繰り返す。

この後の動きも既に考えてある、あとはこの真帝国学園という隠れ蓑を破壊し行方を眩ませるのみ。

そう、円堂大介を葬ったあの頃から何も変わらない。

長い沈黙の中、爆発音が遠くから聞こえる。

思考の海に沈み、自らが理想とするチームを思い浮かべると、いつもそこにあるのはある少年の姿。

彼の口が無意識に歪む。

 

そして更に続く爆発音の中、司令室の天井が開き、影山の身体が外へと露出する。

空中で彼を捕まえんと駆けつけた警察の鬼瓦がヘリの中からなにか叫んでいるが、彼はそんなもの気にも止めない。

だがそこに彼の名を叫ぶ1人の少年が現れた。

鬼道有人、彼自身の理想としたサッカーを体現する少年が彼を睨みつける。

彼の意識は少年のみへと注がれる。

 

「佐久間と源田をあんな目に遭わせて満足か……?影山っ!!」

 

その眼差しを受けて、再度彼は思わず笑みを浮かべる。

 

「満足?出来るわけなかろう!常に勝利する最高のチーム、それを作りあげるまではな……!!」

 

彼の欲望、そして目線の先には鬼道ただ1人。

 

「これまで私が作り上げた中でも最高の作品を教えてやろう……!!」

 

船が爆発で更に揺れるも彼の眼差しは変わらない。

 

「それは鬼道……!お前だ……!!」

 

驚愕する鬼道を鬼瓦が捕まえるように保護しヘリへと誘導する。

戦艦が爆発とともに沈み、彼の姿は海へと消えた。

 

「影山ァァァァアアア!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真帝国学園の騒動から数日後。

不動明王を含む、真帝国学園のメンバー9人の元にニグラスは現れた。

 

「……俺たちを放っておいて、今更何の用ですか?ニグラスさん」

 

「まずは、ごめんなさい……あなた方を連れ帰ることは出来なかった私を許してほしい」

 

頭を下げるニグラスに、真帝国学園のメンバーが少しどよめく。

 

「そして、エイリア学園とはもうなにも関係なくなったあなた達に手伝って欲しいことがある」

 

ニグラス……いや、秀子は真帝国学園のメンバー一人一人の顔を見た後、続けた。

 

「私の名前は黒山羊秀子、あなた達がもし手伝ってくれるのなら私に着いてきて」

 

深い決意を称えた瞳が真帝国学園のメンバーへと向けられた。

 

「私の家族を助けるためにあなた達の力を貸して欲しい」

 




この世界の不動はやはりアレスの不動に近いものがあるのでただのツンデレ君です。
そして影山は自分が書くとただのヤンデレおじさんと化してしまいましたね……。


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だいじゅうにわ

真帝国学園のメンバーはアニメだと不遇だから扱いに困る……佐久間と源田、不動以外ほとんど出番がなかったから実際のキャラが掴みにくい……作者自身小鳥遊しか使っていなかったせいもあるのですが……。

中々筆が進まなかった……これも全て執筆の参考にと見始めたら止まらないほど面白い原作が悪いんだ……!!(?)

8/11 piyuさんまたも誤字報告ありがとうございます、一部修正しました。
ししとーさん、誤字報告ありがとうございます、一部修正しました。


とある病院の一室に、黒い軍服の趣向をあしらったワンピースに身を包んだ少女、秀子の姿はあった。

その背後には真帝国学園でキャプテンをつとめたモヒカンの少年不動を連れ添い、対面するは白髪混じりの青い髪をオールバックにして髭を蓄えた白衣の男の姿。

 

「……先生、検査の結果は?」

 

「まさか、驚いたよ……君の骨髄液なら親族ではないとしても型が偶然一致した、彼に移植しても問題ない……唯一の手段であったはずの彼の肉親からの移植という手段が潰えた時は……もう手遅れかと思ったが……」

 

その言葉に安堵する秀子、だが白衣の男はその鋭い目をまるで品定めするかのように彼女へと向けると語り始めた。

 

「だが、まさか君が来るとは思わなかったよ……白昼堂々と、うちの息子と娘、2人を人質と脅しをかけてきた君がね」

 

「……あの時は大変ご迷惑をお掛けしました、息子さんと娘さんの2人は、今は吉良財閥とは関係の無い私の知り合いや友人達が護衛としてついています、ご安心ください」

 

「……なるほど、だがこの手術はかなりの難易度だ、ドナーの君はともかく患者自身意識不明となってから約10ヶ月が経過している、体力の低下は著しく、そんな彼にもかなり長時間の手術を強要することになるからね、事前の準備がなにより大事になってくる、時間を少し頂けないかな?」

 

彼女はコクリと頷く、その意思は固いようで白衣の男は溜め息をひとつ着くと連絡先を秀子へと手渡した。

 

「私直通の連絡先だ……手術ができるようになった際にはすぐに連絡しよう、くれぐれも唯一のドナー候補である君が吉良財閥に消されました、なんて下らないことにならないようにな」

 

「……ありがとうございます」

 

頭を下げる秀子、そしてその白衣の男へと向き直り1枚の紙を差し出す。

 

「これでいつでも吉良財閥に勘ぐられずに彼とお話ができますよ豪炎寺先生」

 

白衣の男、雷門のエースストライカー豪炎寺修也の父である医師、豪炎寺勝也はフンと鼻を鳴らすとその紙を破り捨てた。

その突然の行動に呆ける秀子と不動。

 

「アイツの下らない玉遊びに付き合う時間は私にはない、それに今は日本のトップ企業でもある吉良財閥の関わっているこの大きい騒動の最中にあるアイツをわざわざ私が掻き回すことも無いだろう」

 

興味が無いと言わんばかりに豪炎寺勝也は病院の内線電話へと手をやると看護婦や薬剤師などへ指示を出しているようだ。

2人はありがとうございます、と声をかけると彼の邪魔にならないようにと部屋からそそくさと退室した。

 

「……で、どーするよ秀子サン、一緒に沖縄に行くのか?」

 

「勿論だよ、豪炎寺君の新必殺技もそろそろ完成の目処が立ってるし、そしてなにより君たちはまだまだ弱いからね」

 

「やれやれ、厳しいこった」

 

苦笑する不動に秀子はクスリと笑うと電話へと手を伸ばす。

 

「瞳子姉さん、久しぶり……私も動くよ」

 

その目にはやはり固い決意となにより強い意思が感じ取れる。

 

「沖縄で炎のストライカーと雷門の練習相手になれるチームを育ててるから……大阪でイプシロンとの対戦に備えてて」

 

狂った歯車の代わりに新しいパーツが当てはめられた。

彼女たちの行く先にどうか幸あれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、場面は沖縄へと進む。

地面に簡単なラインを引いただけのお世辞にもグラウンドとは到底言えないようなグラウンド擬きでは少し汗をかいている豪炎寺修也、そして不動を除く真帝国学園のメンバーが地面に倒れふしていた。

どうやら環境の違いにまだ慣れていないためか熱中症になりかけていたようで、豪炎寺への協力者である大柄な少年……?少年である土方(ひじかた)がだらしねぇなと豪快に笑いながら全員に水を差し出した。

 

そこに合流する秀子と不動はクスクスと笑いながらも豪炎寺へと声をかける。

 

「さてと豪炎寺くん、雷門に敗れたとはいえ影山に選ばれた真帝国学園のメンバーはどうだったかな?」

 

「パス回しやテクニックは順当なラインだ、筋は悪くない、だが基礎体力不足だな」

 

パス回しやテクニック、それらはエイリア石によって強化された肉体に動体視力などが慣れていたため雷門の面々が北海道にて行っていたスキーの特訓のような効果を成していた。

そして基礎体力不足はその代償でもある、エイリア石のブーストに慣れてしまった肉体と精神のバランスが取れなくなってしまったことでペース配分や体力の低下を感じてしまっていることによる。

 

「手厳しいこった、で俺たちとも特訓できるよな?豪炎寺クン?」

 

不動の挑戦的な目が豪炎寺へと注がれると、彼はフッと笑って勿論だ、とボールを不動へ軽く蹴って渡した。

真帝国学園のメンバーと練習した直後だと言うのに豪炎寺が不動と対等に渡り合う、そんな2人がボールを奪い合う姿を見て、秀子はまた微笑む。

だが、時間はない。

イプシロンと雷門の試合は今日の予定のはずだ、そして雷門との試合の後、イプシロンはこの沖縄へと特訓をしにくる。

その前に一定の実力まで至らねばならない。

 

「さてと、なんで寝てるのかな?」

 

秀子は意地の悪い笑顔を浮かべて倒れ伏している面々へと声をかける、何人かが引き攣った笑みを浮かべている中、秀子は更に満面の笑みで続けるのであった。

 

「強くなりたいって言ってたのは君たちだよねぇ」

 

豪炎寺と不動の2人は巻き込まれなくて良かったと、内心で安堵しながらそそくさとグラウンドの端へ秀子にバレないように少しずつ移動するも。

 

「2人も……だよ?」

 

いつの間にかボールが消え、2人の目線の先にはボールを足元でキープしている秀子の姿。

秀子は意地の悪い笑みを浮かべながら告げる。

 

「私からボールを奪えるまで、雷門とイプシロンの試合、見れると思わないでね」

 

ニィと秀子の口が弧を描く、不動が悪魔みてぇだとぼやき、豪炎寺も無言でそれに内心同意する。

 

彼らがそこから解放されたのは、約2時間のハードな訓練のあとだと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして苦しい訓練から開放された後、豪炎寺や真帝国学園の面々そして土方家族と秀子は大所帯に対して狭苦しい土方の家の居間にて秀子が持ってきた大型液晶テレビの前に鎮座する。

今か今かと試合を待つ彼らを見ると、テレビを前にした一般的な中学生と何も変わらなく、現在日本全土を揺るがす大事件に巻き込まれているのが夢のようにも見える。

普通のニュースを映していた画面が急に切り替わり、急にアップとなるデザーム。

それを見た不動は秀子へと話しかける。

 

「てかよ、エイリア学園に属してるアンタがこんなとこにいて良いのかよ、俺らとジェミニストームの時はマネージャーとか言ってベンチに居座ってた癖に」

 

「ジェミニストームが初心者集団だったからね、私はマネージャー兼監督って感じだったんだよねぇ

あとエイリア学園側には消えた雷門中のエースストライカー、豪炎寺修也の捜索にあたってるって言ってあるから大丈夫だよ……ていうか豪炎寺君もよく信じてくれたよね、私は君を脅迫したって言うのに」

 

「……瞳子監督から沖縄へ来る直前に話を聞いていてな、詳しい事はまだ教えてもらえてないが、お前はエイリア学園に潜り込んでいる瞳子監督のスパイだとな」

 

「まぁ、近からず遠からずってとこかな、私は実際エイリア学園の人間だしねー」

 

豪炎寺の言葉に軽い調子で応える秀子、そして不動は不敵そうに笑いながら秀子へと尋ねる。

 

「じゃあ明らかな日本人の名前な黒山羊秀子ってのは偽名かよ?」

 

「いんや、本名だよ、エイリア学園は皆2つ名前を持ってるって思ってくれればいいかなー、デザームの本名なんて砂木沼治(さぎぬまおさむ)だしねー」

 

驚愕の事実である、まさか画面の先にデザームも本人の個人情報がまさか遠い地の沖縄で流出してるとは露とも知らず雷門へと熱く語り掛けている。

貴様たちがどこまで強くなったか、見せてもらおうか!!

なんて台詞を聞いた小鳥遊が暑苦し……とボヤいたのを他の面々は苦笑する。

 

そして画面の先で、雷門とイプシロンの試合が幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷門とイプシロンの試合は雷門ボールでのキックオフ。

何故かまだ経験が浅く必殺技も不安定な小暮を起用しDFとしての経験が豊富な栗松はベンチへと下げられた、FWには真帝国学園との戦いで負傷した染岡に代わり、今回から追加メンバーとして浦部リカが参入。

 

画面越しでも彼女が一之瀬に猛アタックしてる姿がよく見える。

そんな浦部が鬼道へとボールを渡して試合開始、FWへのマークが厚いイプシロン相手には中盤の鬼道や一之瀬といったボールのキープ力が高い選手でボールを繋ぎ、頃合いを見てFWへとボールを繋ごうとするものの、イプシロンのMFやDFがそれを許さない。

 

「イプシロンはキャプテンのデザームの指示で動くチームだよ、実際戦況を1番離れたところから戦場を見れるから合理的っちゃ合理的だね

でも雷門みたいに前線で指示を出す人がいないから攻めは基本FWのゼルたちへの簡単な指示だけなのが玉に瑕かなぁー」

 

ニグラスの言葉通り、イプシロンの防御は後方のデザームからの的確な指示により攻めの要であるアツヤと浦部を完全に封じている。

そして決定力に欠ける一之瀬や鬼道では連携シュートなどを持ってしても、デザーム相手に必殺技すら使わせることが出来ない。

そしてデザームがシュートを止めるとイプシロンは前線へとボールを運ぶもののそこからは単調な動きが目立ち、MFのメトロンやマキュアが単独で切り込んでは円堂や雷門のDFたちに阻まれる。

そんな膠着した試合展開が続いた。

 

「お互い点を決められないみたいだな」

 

「雷門のMFでは決定力に欠けるし、イプシロンのFWのシュートも雷門のキャプテンが普通に止めれてんな」

 

豪炎寺と不動の言葉通り、前回のイプシロン戦では壁山と塔子の2人がかりでシュートの威力を軽減させてようやくゼルのガニメデプロトンを止めていた円堂も、今回の試合ではFWのゼルへとボールが渡って必殺技を放たれたとしてもマジン・ザ・ハンドで安定して受け止められている。

 

しかし、円堂がDFの士郎へとボールを繋いだ時試合が動いた、またもアツヤが強引にイプシロンのマークを振り切ったのだ。

士郎から鬼道へ、鬼道から一之瀬、そして最前線のアツヤへと流れるようにボールが渡り、ついに雷門のFWがゴール前へと躍り出た。

 

「雷門の今のエースストライカーがやっと動くみたいだな豪炎寺クン」

 

「……」

 

アツヤがその身を翻し、吹雪とともに回転で勢いをつけた蹴りがボールへと叩き込まれる。

その挙動を見逃さまいと豪炎寺は画面を凝視し、それを見た不動は少し笑った。

 

『雷門のエースストライカーは俺だ』って嫉妬してんの丸わかりだぜ……。

 

だがしかし、そんな不動も鬼道のプレイを凝視しているあたり、お互い様という言葉が秀子や真帝国学園の面々の脳裏に浮かんだのは仕方ないことなのである。

 

アツヤのエターナルブリザードがイプシロンのゴールへと迫る。

そして、ついにデザームが必殺技を使った。

両手で円を描き、デザームの目の前の空間が歪む。

空間に穴があき、吹雪を纏ったボールが吸い込まれ、気づけばデザームの斜め前辺りにもう1つ穴が下を向いて出現、そこへと転送されたエターナルブリザードは地面へと無理矢理軌道をズラされる。

地面へとめり込んだボールをデザームは悠々とキープするのみ。

 

「あれがデザームの必殺技、ワームホールだよ、目の前からのシュートの軌道を無理矢理ねじ曲げる技で、技が成功すれば安定してボールをキープできるのが強みだねー」

 

「あんなの使われたらシュートなんて入らねぇだろ」

 

秀子の説明にボヤく不動、だが豪炎寺は画面から目を離さずに口を開いた。

 

「だが、黒山羊は『成功すれば』と言っているんだ、転送限界があるんだろう?」

 

「勿論、シュートのパワーがワームホールを凌駕すれば転送できない、それかワームホールに転送されるより早くゴールにうち込めれば良いんだよー」

 

「……簡単に言ってくれるな、ファイアトルネードでもギリギリ届かないかもしれない」

 

「早く技を完成させないとね、豪炎寺くん」

 

そんな会話の合間にもデザームがボールを前線へと投げる、その勢いは凄まじくペナルティエリアから一気にセンターラインを跨いでMFのマキュアへとボールが渡った。

そして、マキュアの両サイドにはゼルとメトロンが追従。

士郎がアイスグランドでボールを奪いにかかるが、3人のパス回しに翻弄され不発に終わる。

そして、3人はゴール前へと躍り出ると一気にエネルギーを解放し地面がヒビ割れ地面から溢れ出たエネルギーがボールへと収束、そして3人が一斉にボールへと蹴りかかる。

ガイアブレイク、イプシロンのFWのゼルとマキュア、メトロンの3人による連携技である。

 

そこへ小暮が走り出すと何故かその場で逆立ちをする、そのせいでボールが小暮の無防備な背中へと命中、小暮ごと突っ込んできたボールに対応できなかった円堂はゴールを許してしまう。

 

「あちゃー、前回のイプシロン戦の時に出した小暮くんの技に期待してたんだろうけど、不発かー」

 

秀子の言葉通り、前回の試合ではゼルのガニメデプロトンよりも威力の高かったデザームのロングシュートを小暮が謎の技を用いて単身で止めてみせたのだ。

そこが雷門の強みであると同時に弱みでもある。

試合中に進化を続け、格上相手であろうと追い抜く事が可能なチームであると同時に逆に成長途上であるが故の脆さを常に抱えている。

技が安定しないのである。

たしかに雷門は試合中に技を完成させることで道を切り開いて来たが、それは目隠ししたまま綱渡りをするようなとても危うい行為である。

リスクを背負ったまま試合に臨む雷門中のどこか狂気じみた強さの反面、今回のような事故も起こり得るのをハラハラとしながら観戦する秀子たちであった。

 

0/1

 

無情にもイプシロンの先制点である。

 

そして前半終了が告げられ、一時的に画面が元のニュース番組へと切り替わった。

そこでその場にいた全員がフッと息を吐いた。

誰も意図していない偶然の一致に自然と小さな笑いが起きる、それ程までに試合観戦の時に全員自然と力が入っていたのだろう。

土方が麦茶の差し入れを持ってくると次々に手が伸び、土方家の約2日分の麦茶が一瞬で消えた。

呆然とする土方の弟や妹たち、そして豪快に笑う土方。

 

そんな優しい日常、それを崩してしまった自分達に少し苛立ち、自責の念に駆られる秀子。

そんな彼女を嘲笑うように後半が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視点は雷門へと。

 

吹雪アツヤは焦っていた、イプシロン戦に備えて、彼は練習を重ねてきたのに彼自慢の必殺技であるエターナルブリザードはデザームのワームホールによっていとも容易く止められてしまったのだから。

そして兄である士郎もそれを感じとっていたが、そのせいで思うように実力が出し切れていない部分もある。

アツヤの焦りを感じ過ぎてしまうのだ、2人は今まで2人揃えば完璧だと信じてサッカーを続けてきた。

 

 

 

 

 

突然の吹雪で試合が中止になった日、家の中で父と自分たち兄弟の3人で交わした会話。

 

「兄ちゃんこの前ミスしたんだぜー!」

 

「あれはアツヤが急に守備の方まできて邪魔したせいだろー!」

 

「まぁまぁ」

 

喧嘩をした時、父は優しく宥めてくれた,

でも幼い頃の自分たちはいつもそんな父の前で喧嘩をしていたっけ。

 

「守備なんてつまんねーし、俺がシュートを決めれば勝てるだろー!」

 

「ダメだよアツヤ、どんなに点を取れても、守備がちゃんとしてなきゃ負けちゃうんだよー?」

 

そんな2人の言い合いに顔を輝かせて笑う父、そして2人に優しく語りかける。

 

「なら2人揃えば完璧じゃないか、アツヤが点を取って、士郎が守る、2人が揃えば勝てるさ!」

 

父の言葉に顔を見合わせる2人。

 

「俺が点を取って……」

 

「僕が守る……」

 

2人の表情が自然と笑顔になる、そんな様子を見て両親も微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

士郎が守り、アツヤが決める。

 

そのプレイができれば自分たちは完璧なのだと、そう信じてきたのに、エイリア学園に対しては通じない時があった。

このイプシロンである。

この雷門のメンバーは自分たちと同等と言っても過言ではない程の実力を持っているチームで、今までの白恋のメンバーより正直にいえばやりやすい環境のサッカーにも関わらず、敗北してきた。

士郎の守備を突破し、アツヤのシュートを止めるチーム。

2人はそれぞれ壁にぶち当たり、そしてアツヤは士郎が、士郎はアツヤが壁にぶつかっている事に不安を感じ、それぞれ実力が発揮できなくなっていたのである。

父の言葉通りやってきたはずなのに。

 

「僕が敵からボールを奪わなきゃいけないのに……!」

 

「俺がシュートを決めなきゃいけねェのに……!!」

 

2人の不調をピッチの鬼道、そしてベンチからは瞳子、2人はそれを敏感に感じ取っていた。

 

それでもデザームからゴールを奪えるのは恐らくアツヤだけであり、イプシロンの連携を切り崩してボールを確保出来るのは士郎が適役。

2人の不調の原因を探り、それを排除しようと思いつつもそれは吹雪兄弟2人の内面の問題であり、外的要因だと思っている2人は原因に気づくまでに至らない。

 

「アツヤ……!」

 

士郎から前線にてイプシロンのマークを無理矢理突破したアツヤへのロングパス、アツヤは再度エターナルブリザードの体勢へと移る。

氷と風が荒れ狂い、ボールが吹雪を纏ってゴールへと突き進む。

 

「エターナルブリザード……!!」

 

決まれ!そう吹雪兄弟の2人が心の中で念じるもデザームのワームホールがそれを吸い込み、地面へと軌道を無理矢理変えてみせる。

地面にめり込み、それを悠々と回収するデザーム。

先ほどよりも威力が上がっているのか、地面に更に深く沈んでいた。

 

「いいぞ……!!もっと強く……!!もっと激しく打ち込んでこい……!!」

 

 

「……次こそ決めてやるから覚悟しやがれ……!!」

 

「アツヤのシュートを何回も止めるなんて……!!」

 

デザームからDFのケイソンへとボールが渡り、前線にて一之瀬のマークから突破したクリプトへとボールが繋がる。

クリプトに迫る土門だが、必殺技を使おうと一瞬のタメに入った隙を突かれMFのマキュアへのパスを許してしまう。

MFのマキュアがゴールへと迫る、士郎がボールを奪わんと駆け寄るがマキュアは空へと跳び、技の名を叫ぶ。

 

「メテオシャワー!!」

 

ボールをオーバーヘッドの体勢で下方向へと蹴り込むとボールとそれに追従する隕石のオーラが吹雪を襲い、吹雪がそれを回避している内にマキュアは悠々と突破する。

 

「くっ……!!僕が止めなきゃいけないのに……!」

 

「くっそ!!兄貴でも止められねェなんて……!!」

 

マキュアがドリブルで駆け上がりながら無駄のない動きでボールをゴールへと打ち込む、しかしながら円堂もそれを難なくキャッチし壁山へと投げ渡した。

壁山は自分のキープ力に自信が無いため、それを士郎へと託す。

士郎がボールを受け取ると、アツヤが強引にマークを振り切ってフリーな状態になるが、マキュアとメトロンが士郎へと迫る。

士郎が無理矢理パスを通そうとするのを見て、鬼道が叫んだ。

 

「士郎!!自分で運ぶんだ!!アツヤにばかり負担をかけるな!!」

 

その言葉にパスを止める士郎、その間にもイプシロンのMF2人が迫るが、士郎は鬼道の言葉に衝撃を受けていた。

 

自分のパスが負担になっていた?

 

たしかに、士郎がボールを奪ってすぐさま前線のアツヤへとパスを送るカウンターのような戦術は相手の不意をつく形になるのでかなり有用な作戦であることは間違いない。

だが、そのために毎回わざわざマーク突破するのではアツヤの肉体的な負担は計り知れないだろう。

 

ならばどうするか?

 

機を待つ、士郎自身がボールを運び、アツヤへのマークが緩む瞬間を待つ。

基本的かもしれないが、フィールドプレーヤーとして優れた才能を持ち、今までの速攻で充分通じていた2人にとってはそのプレイングとは自分たちより劣った弱者がするものであり、そんなことをしていてもなんの意味があるのか?

くらいにしか思っていなかったのである。

士郎もアツヤも、周囲との協調性より自分たちが思った通りに自分たちのやりたいプレイングをすることが勝利に繋がると信じてここまできた。

 

アツヤが決めて、士郎が守る。その言葉が何度と先程の鬼道の言葉が何度もリフレインする。

 

士郎から奪われるボール、マキュアとメトロン、そしてFWのゼルがゴールへと迫る。

そんな中、放心する士郎を眺めることしかできないアツヤと鬼道の言葉を脳内で何度も噛み砕く士郎。

そしてマキュア、メトロン、ゼルによる連携シュートが再度放たれた。

 

『ガイアブレイク!!』

 

地面から噴き出したエネルギーを纏ったボールがゴールへと迫る、壁山と塔子がそのシュートの前に立ちはだかり、巨大な塔と壁が出現、シュートの威力を削ぐものの破壊され2人は吹き飛ばされる。

円堂は、左腕を顔の前へと構え、右腕を腰に溜める。

心臓から解放されたエネルギーが円堂の身体の周りを衛星のように舞い、右腕へと収束される。

円堂の背後に出現する魔神が吼え、円堂と魔神がその右腕をボールへと振るう。

 

「マジン・ザ・ハンドォオ!!」

 

今までとは違う構えから繰り出されたその技は今までよりも強い出力でガイアブレイクを難なく止めてみせた。

エイリア修練所での特訓の最中、円堂が自分自身で見つけた最も力の込めやすい、踏ん張りやすい足腰の使い方。

それによって円堂自身は勿論、必殺技のマジン・ザ・ハンドまでもが強力になったのだ。

 

「士郎!!」

 

そんな円堂から士郎へとボールが渡る、士郎は先ほどイプシロンのMFからボールを奪われた自分が、何故?と円堂へと目を向けると、そこには士郎を信じている。と声を聞かずとも円堂の顔が、態度がそう伝えていた。

再度士郎へと迫るマキュアとメトロン、だがしかし、士郎はそれを簡単にすり抜け、前線へと走り出した。

 

「兄貴……!!コッチだ!!」

 

強引に突破しようとするアツヤ、しかし、士郎はアツヤへと叫んだ。

 

「まだだ……!!焦らなくていい!!」

 

士郎へと今度はMFのスオームとクリプトがスライディングでボールを奪いにかかるも、それを跳び上がって回避、そしてアツヤ……ではなく逆サイドの鬼道へとパスを回し、鬼道は更に浦部へと流れるようにパスを繋いだ。

今回の試合での不調、そしてアツヤとその周囲のメンバーにしかパスを回さない、という士郎の弱点がほぼ同時に改善されたことに鬼道は思わずニヤリと笑う。

アツヤに重点的にマークがついていたため、士郎を止めるためにと浦部についていたマークが一時的に離れた隙をついたプレイング、士郎はもう気づいていた。

 

自分たち2人では倒せないとしても、フィールドには他に9人も仲間がいるのだから。

そして、他の9人と力を合わせることで自分たちは力を温存でき、更に自分たちの実力を今よりもっと発揮できる。

 

浦部がゴールへと躍り出ると腰を捻り、身体を軽く回転させる、靱やかな身体の捻りから繰り出されたシュートはまるで赤い薔薇とその棘のように美しかった。

 

「ローズスプラッシュ!!」

 

だがしかし、デザームのワームホールによってそのシュートは難なく止められてしまった。

 

「おっしいなぁー!!腹立つわぁー!!」

 

苛立ちを隠すことなく全面へと出して跳ねる浦部、それを見た一之瀬や風丸は苦笑し、デザームは物足りん!!と叫ぶ、そんな中、アツヤは士郎へと目線で訴えかける。

 

なんで俺にパスを出さなかった?と。

 

士郎の判断は間違ってはいないだろう、無理にマークされているアツヤに回すよりマークの薄い浦部の方がシュート成功率が高くなるのは初心者でもわかる事だ。

だが、逆にアツヤと今までの士郎はそれに気づかなかったからこそ、今の不調を招いていたのだから。

士郎はアツヤの無言の訴えに何も返すことなくポジションへと戻る。

デザームが逆三角形型の赤いガスマスクをつけた少女、DFのモールへとボールを投げ渡すと、モールに向かってアツヤがボールを奪うため一気に速度を上げて迫る。

モールが他のDFやMFにパスを繋げるより早くアツヤがそれを奪い、再度、氷と風が周囲を舞う。

これにはイプシロンのメンバーだけではなく雷門の面々も驚きを隠せない。

 

「エターナル……ブリザード!!」

 

「ワームホール」

 

だがしかし、吹雪を纏ったボールはまたも、デザームのワームホールによってゴールラインを跨ぐこと叶わず。

シュートの軌道は無理矢理地面へと修正された。

 

しかし、デザームに衝撃走る。

 

先程より更に深くめり込んだボール、つまりはシュートの威力がまたも増している。

 

わなわなと震え、デザームはまたも歓喜を込めて叫ぶ。

 

「もっとだ!もっと激しく打ってこい……!!」

 

デザームのパスがDFのケイソンへと渡り、ケイソンはスオームへとパスを繋げた、そして攻撃の最中であるイプシロンは誰もアツヤにマークがついていない。

フィールドの魔術師こと一之瀬一哉がそんな隙を見逃すハズなく。

一之瀬がブレイクダンスのように身体を捻らせ回転すると炎が舞い、ケイソンを吹き飛ばし、ボールを絡めとる。

 

「フレイムダンス!!」

 

カウンターを仕掛けるつもりが雷門にカウンターを返されるイプシロン、急いで守備に戻ろうとするものの既に遅く、一之瀬からアツヤへとボールが渡るとアツヤは身体を捻りボールを中心にブリザードが巻き起こる。

 

「こいつでも喰らいやがれ……!!エターナルブリザードォオ!!」

 

これまでで最高の威力とスピード、キレ、そしてなによりアツヤ自身の覇気が凄まじいシュートであった。

デザームがワームホールを展開し、ボールが吸い込まれるかと思ったその瞬間、アツヤのエターナルブリザードの纏う吹雪がワームホールのエネルギーと拮抗し始めたではないか。

吸い込もうとするワームホールをそれ以上のパワーとスピードで押し退けるエターナルブリザード、ワームホールによって吸い込まれるかと思われたその技は空間に風穴を開け、ワームホールを突破。

驚くデザームの顔の横を通り過ぎ、ゴールネットを揺らした。

 

1/1

 

ついに雷門が鉄壁の守りかと思われたデザームから1点を奪い取った瞬間である。

 

「……よォっしゃァアア!!」

 

アツヤが歓喜の叫びをあげる、そして士気の上がる雷門、円堂もこの勢いでイプシロンに勝つぞ!と声を上げると雷門のメンバーが応!とそれに応える。

アツヤは得点板を見て、ニヤリと笑う。

 

兄貴、やっぱりそうだ。

俺が得点を取るのが1番速えーし、1番確実だ。

 

2人の間に、2人自身も気付かぬ間にできた溝に、気づくものはなく。

 

そのまま試合は続く。

 

イプシロンボールで試合再開、ゼルからマキュアへボールが渡りマキュアが必殺技のメテオシャワーによって塔子を吹き飛ばしながら前線へと突き進む。

一之瀬と風丸が両サイドから挟み込むように迫るものの、隙のできたライン際に走り込んでいたメトロンへとパスを回すことでそれを回避する。

メトロンへとボールを奪いに迫る土門だが、メトロンはそれを壁山のマークを振り切って走り抜けていた最前線のゼルへとパスを回して回避。

ゼルはその両手からエネルギーをボールへと込め、そのエネルギーをもってボールを射出する。

手は触れていないのでハンドではない。

 

「ガニメデプロトン……!!」

 

何度でも言う、手は触れていないのでハンドではない。

エネルギーを纏ったボールへと立ちはだかるは小さな影、漫遊寺からの追加メンバーである小暮。

彼はボールをしっかりと正面から見据え、その目には力がこもっていた。

既に恐怖はなく、宇宙人と戦うだけの覚悟は決まっていた。

逆立ちの体勢をとると、カポエラのように手を軸に身体を回転させる、否、これは太極拳の亜種と言った方がいいのかもしれない。

ボールを正面から弾くのではなく、足の回転に合わせて方向をズラし、それを回転の中に閉じ込め勢いを殺す。

 

「今度こそ……!!これが俺の旋風陣!!」

 

その名に恥じぬ、旋風が巻き起こるとボールの勢いは完全に小暮のものとなり、旋風が止んだ頃には小暮の足元に転がるボール。

壁山のザ・ウォールと塔子のザ・タワーが強固なエネルギーをもって敵の勢いを削ぐ剛の技ならば、小暮の旋風陣は風のように敵の勢いを意のままに操る柔の技。

DFに止められるとは思わず呆けるゼルをお構い無しに小暮から士郎へとボールが渡る。

士郎がボールを確保したのを確認すると、またもアツヤはマークを無理矢理突破してフリーな状態でゴール前へと躍り出る。

士郎から鬼道へとボールが渡り、アツヤへと迫るDF陣を見た鬼道は浦部へとボールを回すが。

それを見たアツヤは激昴、無理矢理イプシロンのDFを置き去りにするほどのトップスピードのまま浦部からボールを奪い取った。

 

「アツヤ……?!」

 

「危なっ?!なにすんねん!!」

 

アツヤの独断による浦部からのボール奪取に驚く士郎を含む雷門イレブン、そしてボールを仲間であるアツヤに奪われたもののなんとか転ばずに体勢を整えた浦部を尻目に彼は再度、必殺技の体勢をとる。

 

「俺が決めんのが1番手っ取り早いじゃねェか……!!」

 

吹き荒れるブリザード、その中を舞うアツヤの回転の勢いがボールへと叩き込まれる。

吹雪を伴ったシュートが再度イプシロンのゴールへと迫る。

 

「エターナルブリザード!!」

 

デザームがニヤリと笑う。

 

「この私のワームホールを破ったのは貴様が初めてだ……敬意を表し私も本気で貴様のその技を打ち破ろう……!」

 

その右腕を天に掲げると右腕から放出されたエネルギーが巨大なドリルを形取り、その右腕をデザームはボールへと振るう。

 

「ドリルスマッシャー!!」

 

エターナルブリザードのエネルギーを削り取るドリル、勢いもなにもかも削がれたボールは回転するドリルスマッシャーのエネルギーによって空へと弾かれ、そのまま落ちてきたボールをデザームは軽くキャッチする。

 

「あいつ、あんなすげー技をまだ持ってたのか……!」

 

デザームのドリルスマッシャーに驚く円堂、そして雷門イレブン。

なによりその技に衝撃を受けたのはアツヤだった。

自分が必死になって打ち破ったデザームはまだ本気ではなかったという事実。

アツヤがそんな事実に打ちのめされている中、デザームはボールをラインの外へと放り投げ。

 

「引き分けだ、今回の勝負はここまでにしよう」

 

その言葉に驚く雷門、ベンチにいるマネージャーの雷門夏未が時計を確認すればたしかに試合の時間ももう残り僅か、とはいえワンプレイならできるかもしれない、という微かな希望もまだある時間が残っていた。

デザームの言葉にイプシロンのメンバーが集まり、黒いサッカーボールから発せられる歪みがイプシロンのメンバーを包む。

それを見て最も納得がいかない彼は叫ぶ。

 

「ふざけんなァ!!まだ勝負はついてねェぞ!!」

 

歪みへと突撃せんと走るアツヤを士郎と鬼道が止めるが、アツヤは尚も叫ぶ。

 

 

「我らは再び、真の力をもって貴様らの前に立ちはだかろう……では、さらばだ……雷門中……!!」

 

「逃げんなァっ!!」

 

睨むアツヤの目の前でイプシロンは姿を消し、グラウンドには雷門の面々だけが残された。

そしてその中で、アツヤの叫びだけがグラウンドに響くのだった。

 

「畜生ォォオオオオ!!!!!」

 

 

 




間が空いてしまいました……。

皆様の感想が励みになります。
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じゅうさんわ

ユニークアクセス9600突破と1万という数字がそろそろ見えそうです……!
お気に入りも約280人、ありがたい話です。



8/11ハチミツりんごさんより誤字報告いただきました、ありがとうございます。


沖縄にて真帝国学園の9人と雷門のエースストライカー豪炎寺修也はグラウンドを駆ける。

目標はたった1人の少女、真帝国学園のフィールドプレーヤー用のユニフォームを着用しているのはエイリア学園マスターランクチームザ・ジェネシスのGKのニグラスこと黒山羊秀子。

 

秀子へと一つ目のゴーグルと青いスカーフで顔を隠したMFの目座(めざ)と青いマスクで顔を隠した同じくMFの日柄(ひがら)がスライディングでボールを奪いにかかるも、ボールを少し蹴り上げると軽く跳ねてそれを回避。

 

「目座くんは相手の動きを見切ろうとする反面、相手への対処にワンテンポ遅れてるよ!日柄くんはスライディングのキレは良いけど動きが単調だよ!」

 

空中に跳んだところを顔を白塗りしたFWの比得と桃色の髪をした紅一点MFの小鳥遊が空中戦を仕掛ければ秀子は空中で身体を捻るとボールを地面へと叩きつけ空中で奪取される事を回避、小鳥遊が舌打ちをした時に比得が少しビクついていたのは内緒である。

 

「比得くんは空中戦を仕掛けるならもう少し練習後の柔軟に力入れてね!それと小鳥遊ちゃんは身体柔らかいからあとは筋力だよ!それと舌打ちしない!」

 

秀子が地面へと叩きつけたボールがバウンドする際にそのボールを片足で踏み付けることでバウンドを阻止、そこへ大柄なDFの郷院と灰色の髪にバンダナを巻いた同じくDFの弥谷(いやたに)がボールを奪おうとタックルを仕掛けるのを秀子はすり抜けるようにして回避、2人はお互い衝突してしまう。

 

「郷院くんはパワーあるんだから相手の動きをよく見て!弥谷くんはスタミナだけじゃなくて瞬発力も鍛えようか!」

 

猫背で分厚い唇が特徴のDF帯屋(たいや)と面長で左右の髪が跳ねている同じくDFの竺和(じくわ)はお互いに目配せをするとまず竺和がスライディングを仕掛け、それを難なく右ステップで避ける秀子へと回避直後の隙をつくように帯屋がタックルを仕掛けたが秀子はニヤリと笑うと右足を軸にしてボールごと回転、帯屋の脇をすり抜けた。

 

「竺和くんは瞬発力よりスタミナを活かしてスライディングよりタックルが向いてるよ!あと帯屋くんは重心はしっかりとしてるから相手の動きをよく見て!」

 

8人を軽く回避してみせた秀子に対し、残る不動と豪炎寺は冷や汗をかくも先に不動が仕掛けた。

足先を伸ばしてボールを弾こうとするが秀子もボールをコントロールして巧みに不動の足をボールに触れさせない。

痺れを切らした不動がタックルを仕掛けるも逆に秀子が不動を押し退けた。

 

「不動くん……いやあっ君wは身体細いし軽すぎ!タックルは不意を突かないと成功しないんだから焦らない焦らない」

 

「あっ君言うな!」

 

「あっく〜んw」

 

「うぜェ!」

 

そんな会話をしている隙に豪炎寺がボールを奪わんと一気に秀子に接近、流石のスピードに秀子も目を丸くするも先程帯屋に対して行った右足を軸にした回転でそれを回避、だが豪炎寺も即座にターンしそれに食らいつく。

 

「おっ、豪炎寺くんはさすがに基礎体力の差か速いねー、でも」

 

秀子はボールを軽く蹴ると豪炎寺の股下を通り抜け、その脇をすり抜けた秀子に突破を許してしまう。

だが、秀子はそこで一時停止、全員へと目を配ると一言。

 

「うん!全員ざっこいね!」

 

『うるせぇ!!』

 

これが最近の練習メニューといつものパターンである。

練習メニュー第1:秀子ちゃんにボールを奪われるな!奪われたら筋トレ増量だゾ!

練習メニュー第2:秀子ちゃんからボールを奪え!奪えなかったら走り込み増量だゾ!

練習メニュー第3:筋トレと走り込み!時間内に終わらなかったら朝食後に秀子ちゃん特製某漫画再現乾汁完飲だゾ!

豪炎寺くん比得くん不動くん用特別メニュー:秀子ちゃんからゴールを奪え!他の皆はわざと秀子ちゃんが遠くへと投げ返すボールを拾ってきてネ!!

 

 

既に第1も全滅しており第2も失敗と全員の士気は落ちる一方である。

地獄の筋トレと走り込みが始まり、私の乾汁を飲むのが怖くて仕方ないんだろうと秀子は思い込んでいるが。

実は秀子特製乾汁擬き……もとい秀子汁は……実はとても美味しいのである。

試飲した不動があまりの美味さに絶句したのを秀子は不味くて黙り込んでしまったと勘違いしてご満悦で筋トレと走り込みが遅くなった際のお仕置きとして用意したものの実は彼らのお楽しみになっていることを知らない。

だが、何故彼らの士気が低下しているか、それは単純に筋トレと走り込みの量がおかしいのである。

秀子は練習メニューをジェネシス計画から一部引用して今回彼らへの特訓に用いているが、それはエイリア修練所で基礎体力や体幹などを一定まで鍛えた後のメニューであり、イプシロンと戦った後の雷門の面々なら着いて来れていたかもしれないがエイリア石でブーストしていた真帝国学園のメンバーには少し……いやかなりオーバーな特訓になっていた。

辛うじて着いてこれているのは先に沖縄にて単身特訓に励んでいた豪炎寺のみであの不動でさえ筋トレと走り込みに対して馬鹿じゃねぇの?!と叫んだ程である。

なお、既にハイソルジャーとして完成の域まで達している秀子は走り込みしている真帝国学園のメンバーに対して某灼熱の男シューゾー・マツオカ並の野次を飛ばす余裕がある程である。

 

そして数時間後、全員が秀子汁を完飲して黙り込んでいる(不動が下手に不味くされたらたまったもんじゃないと皆に告げ口している)のを見て秀子が満足そうに頷く中、比得と不動、そして豪炎寺の3人は秀子へと向き直る。

シュート特訓の時間である。

 

比得がボールを蹴り上げると空中へと飛び上がり、ボールへと何発……約100発も連続して蹴りを叩き込み、そのパワーを注がれたボールがゴールへと迫る。

 

「百裂ショット!」

 

秀子はそのシュートを見据え、両手を軽く広げると正三角形のエネルギーが展開する。

 

「プロキオンネットー」

 

比得のその名の通り強烈なシュートは秀子の間延びした声とともに展開されたプロキオンネットに触れると勢いが緩まってしまい簡単にキャッチされてしまう。

それを見た比得は思わず舌打ちしそうになるが下手に舌打ちなんてしようものなら秀子ちゃん特別メニュー!とか変な事を言い出すに違いないといつも弧を描いている口をギュッと結んだ。

 

「ぶふっ!!」

 

白塗りのピエロのような様相の比得が急にそんな風に顔を変容させたことでツボに入ってしまったのか秀子が噴き出してむせているのもお構い無しに不動はボールを軽く蹴り上げるとボールが空中で分裂、そのボールが円を描くように宙を舞い、それらを連続で蹴り出すとボールは合体しエネルギーを纏ったそれがゴールへと突き進む。

 

「マキシマムサーカス!」

 

「ゴホッ!ゴホッゴホッ!!」

 

むせる秀子へと迫るシュート、流石にやり過ぎたかと不動が後悔するも、それは甘い見通しだった。

秀子は片腕を振り上げると勢いをつけてボールを裏拳で弾き返した、必殺技も無しにだ。

一瞬のことに呆ける不動と比得、やっと笑いが収まり、呼吸の安定した秀子が比得の放ったシュートのボールを遠くへと投げると。

 

「あー、笑った……球拾い班はボール拾ってきてねー!あとあっ君は後で苦手な筋トレ追加で」

 

「ぐっ……仕方ねぇ……」

 

秀子の声に日柄と帯屋が遥か遠くへと飛ばされたボール達を追い掛け、不動は肩を落としながら豪炎寺に順番を譲る。

豪炎寺は一言行くぞ、と声をかけるとボールを蹴り上げ、回転しながら空中へと舞い上がる。

炎を纏って回転の勢いをつけた脚をボールへと叩きつける。

 

「ファイアトルネード!!」

 

爆炎を纏いながらゴールへと突き進むボールを秀子は再度正三角形のエネルギーを展開してそれを防ぎ、またも簡単にキャッチしてみせた。

 

「プロキオンネットっと、次は郷院くんだね……いってこーい!!」

 

投げられたボールはまたも緩やかな軌跡を描いて飛んでゆく、郷院はそそくさとボール目掛けて走り出すのであった。

 

「さてと……とりあえず1人100本くらいやってみようか」

 

結果から先に言っておくと、ゴールネットは微塵も揺れ動くことは無かったそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日は突然訪れた。

毎日の練習メニューをこなす真帝国学園と豪炎寺、秀子にボールを奪われるな!をしていた時にそれは起こった。

グラウンドに突如響く携帯の着信音、ベンチで秀子の持っていた端末からのようだ。

 

「……」

 

画面を見ればそこには基山タツヤの文字、秀子は真帝国学園の面々へと向き直ると口元に指を1本押し当て、静かに、とハンドサインを送ると電話に応答する。

 

「どうしたのグラン?」

 

電話の先からやぁ、とグランの軽い声がする。

秀子、いや、ニグラスは要件を早く伝えてと急かすとグランはそのまま軽い調子で続けた。

 

「明日の12時にザ・ジェネシスとして雷門に試合をしようと思ってね、試合になるようなら君にも声をかけなきゃと思ってね……場所は福岡の……」

 

「福岡……?!」

 

真帝国学園の面々と豪炎寺は黙ってその光景を見つめるが、秀子は電話先の相手と揉めているようにしか見えない。

しばらくの会話の後、通話を切った秀子が溜め息をついて口を開いた。

 

「ごめん、私が皆に特訓をつけてあげられるのはここまで……エイリア学園の任務で福岡に向かうから皆は各自特訓を続けて、特に豪炎寺くんは対エイリア学園のあの技の完成を急いでね」

 

秀子はそれだけ伝えるとじゃあね、とその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして夜の陽花戸中のグラウンドに木に吊り下げたタイヤを殴りつけるというやや特殊な特訓をする人影の姿があった。

円堂守、雷門のキャプテンにしてGKである彼は彼の祖父が遺した究極奥義の1つ、正義の鉄拳を取得するためとパンチングの特訓の為ひたすらタイヤを殴りつけていた、さらに身体への負荷のためかタイヤを紐で身体にリュックサックのように背負っている状態で……本当に特殊である。

 

そんな彼の近くに更に1つの影が近づいてきた。

 

「やぁ、円堂くん」

 

その声に円堂が顔を上げるとそこには赤髪の少年、基山ヒロトがサッカーボールを抱えて立っていた。

 

「雷門中の試合、見せてもらったよ」

 

「あれ、お前……どうしてここに?」

 

円堂は前回、京都の漫遊寺にて出会ったはずのヒロトが何故か福岡にいることを疑問に思い問い掛けるが、ヒロトは円堂の質問には答えないまま話を続ける。

 

「ねぇ、俺のチームと試合しない?」

 

「え?チーム……?」

 

前回の対話の際、ヒロトは軽くパスされたボールに反応すること無くいつの間にか消えていた。

そんな彼の口から試合の申し込みがあるとは微塵も思っていなかった円堂は少し面食らう。

 

「うん、俺のチームと」

 

ヒロトの問い掛けに円堂は困惑したまま、思わず思った事を口にする。

 

「え?ヒロト、サッカーできたのか?」

 

ヒロトから突然の軽く投げ渡されるボール、それを咄嗟とはいえ軽くキャッチした円堂へとヒロトは続けて口にする。

 

「時間は……明日の12時、場所はー……ここのグラウンドでどうかな?」

 

「そりゃあ、いいけど……」

 

円堂が困惑したまま話は進み、彼自身陽花戸中の生徒や教師に確認もとらずに返事した事を意識しないまま。

 

「でもなんで?この前サッカーできるなんて一言も言わなかったじゃないか?」

 

「明日……約束だよ?」

 

そう言うと円堂に背を向けて歩き出すヒロト、円堂はヒロト、と声をかけるものの彼はそのまま呆然とする円堂を残して立ち去ってしまう。

 

そして、ヒロトが歩を進めた先の校舎の裏にワンピース姿の黒髪の少女が1人彼を待っていた。

 

「……試合も確定ってわけじゃないのに急に呼びつけるなんて、酷くないタツヤ?」

 

秀子の言葉に少し反応し立ち止まるヒロト、彼は秀子へと向き直ると。

 

「俺はヒロトだよ秀子」

 

「何言ってんの?ヒロトはまだ寝てるだけじゃん、まだアンタの親友は死んでない、それなのにアンタは諦めるの?」

 

秀子を睨むヒロト、そしてそれを正面から睨み返す秀子。

そこへさらにもう1人青髪に白のメッシュの少女が駆け寄る。

 

「2人とも……早くここから離れて、恐らくエイリア学園のことをずっとしつこく調べてる鬼瓦って刑事の部下がこの辺りで見回りをしているみたい……」

 

その言葉を聞くと、2人は視線を切ってもう1人の少女、ザ・ジェネシスのウルビダこと八神玲名に続いて陽花戸中を脱出するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、陽花戸中グラウンドは生憎の曇り、暗雲が空を覆っていた。

円堂を始めとする雷門の面々が準備をする中、鬼道有人の妹である音無春奈が腕時計を確認し、丁度12時になったことを告げる。

すると、グラウンドを這うように黒い煙のようなものが流れ出した。

動揺する雷門のメンバーや見学のため駆け付けた陽花戸中の面々。

 

「これって……イプシロン?!」

 

壁山の言葉に更に動揺する陽花戸中の面々、そして鬼道が煙の先に人影を見つけると。

 

「……来た!」

 

煙の出処と思わしき地点が突如白い光を放つ。

人影はより鮮明にシルエットとして映り、そしてついに白い近未来的なデザインのユニフォームを纏った10人と、その背後に隠れている紫色のGK用ユニフォームを纏ったニグラスはガスマスクをつけている。

 

そしてニグラスを含めた11人の矢面に立つ1人の少年が口を開いた。

 

「やぁ……円堂くん」

 

その声と姿に動揺する瞳子、そして円堂が数秒の沈黙の後、目の前の少年の顔と声に1人の人物の名が思い当たる。

 

「まさか……ヒロト?」

 

「なんやコイツら……この前のヤツらとちゃうやんか」

 

浦部がボヤき、目の前に現れた11人の姿にある想像をした風丸の表情が段々と暗くなる。

 

「エイリア学園にまだチームがあったことはわかっていたが……ファーストランク、より上があったのか……?」

 

そんな他のメンバーに微塵の興味も持たないヒロトは他の10人へと軽く手を向けて。

 

「これが俺のチーム、エイリア学園……ザ・ジェネシスって言うんだ、よろしく」

 

その言葉に呆然としたまま言葉を紡ぐ円堂。

 

「ジェネシス……お前、宇宙人だったのか?」

 

呆然とする円堂、そして目の前に現れた円堂と約束をした本人であろうエイリア学園のザ・ジェネシスのキャプテン、動揺でまだ点と点が繋がらない鬼道。

 

「……どういう事だ、円堂?」

 

鬼道が円堂を見やると円堂は悲しげな表情のまま、目の前のザ・ジェネシス、そしてそのキャプテンであろうヒロトへと顔を向けてヒロト……とか細い声で呟いた。

 

「さぁ……円堂くん、サッカーやろうよ」

 

ヒロトの声がまるで蛇のように、静かにゆっくりと響いた。

 

「どういう事なんだ……?どうして円堂の友達がエイリア学園に……?」

 

「円堂さん……」

 

土門と陽花戸中の生徒立向居が円堂へと心配から自然と言葉が漏れる。

 

「まんまと騙されたみたいですね……」

 

そんな中、目金が口を開いた。

 

その一言に音無が騙された?と思わず聞き返すと、彼は一度頷くとさらに自信満々に続けた。

 

「ヤツらの目的は友達になったフリをして円堂くんを動揺させる事……」

 

「そういう事だったんですね……!!」

 

立向居が感心しているとさらに調子づいて続ける目金。

 

「宇宙人の考えそうなことですよ……」

 

ザ・ジェネシスの全員が思った。

お前宇宙人の何を知ってるんだよ……しかも俺ら宇宙人じゃねぇし……と。

 

「それは違うよ、俺はただ……君たちとサッカーがしたいだけ」

 

その言葉に固まる雷門の面々、そして、ヒロトの背後のザ・ジェネシスのメンバーもやる事がない為暇になったのか雑談し始める始末である。

 

「おいおい……許可もなくこんな奴らと勝手に試合して大丈夫か……?」

 

「グランがやるって言うんだ、仕方ないだろ?」

 

大柄でやや肥満気味な体型のハウザーと細身で長身の蛇を彷彿とさせるゲイルの会話に円堂は思わず声を上げた。

 

「グラン……?」

 

そして、ヒロト……いや、グランを睨んで円堂は続ける。

 

「それが本当の名前なのか……?」

 

拳を握りしめる円堂、その目は更に強くグランを睨みつけた。

 

「お前とは……もっと楽しいサッカーが出来ると思ってた……でも!お前がエイリア学園とわかった以上、容赦はしないぜ!!」

 

人差し指を突きつける円堂に対してグランは薄く笑う。

 

「勿論だよ……」

 

そして両者ポジションについたことで隠れていたニグラスの姿を見た数人が首を傾げる。

 

「ザ・ジェネシスのGK……どっかで見たことあるような……」

 

1番最初にそんな風に言っていたのは一之瀬であった。

その言葉に内心焦りつつ、顔もガスマスクで隠してるし髪型も違うからバレるわけないとニグラスは平静を装う。

 

「一之瀬……?何言ってんだ?ジェミニストームと真帝国学園のマネージャーしてた子だろ?」

 

円堂の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。

 

そして円堂が言い当てたことで、他のメンバーたちも納得がいったのか次々にそうだそうだと言う中で。

 

「たしかに……あのスーツの女の子とスタイルが一緒だもんね、キャプテン」

 

士郎の言葉に慌てて身体を隠して身を屈めるニグラス、正直彼女もこの格好は身体のラインが出てしまうから苦手なのだ。

何故なら彼女がキーパーとしての特訓を施している時も、ゴルレオ、ゼル、ネロ、ベルガ、グレントの5名はたまに鼻の下を伸ばしていたのを彼女は忘れない。

デザーム?彼は既にある程度自分でGKとしての技術を独学で勉強していたので一緒に練習はしてもニグラスが直接教えることはなかったそうな。

 

黒山羊秀子は元男とはいえ……というより元男だからこそ、男からの性的な視線にめっぽう弱いのである。

だからこそイケメンとはいえ吹雪士郎にスタイルで覚えられていたことや雷門の面々に凝視されるのは彼女自身とっても恥ずかしいのである。

そしてなにより円堂も顔とかではなく身体で覚えてたなんて……と少し円堂を見損なう彼女だが。

 

「何言ってるんだ士郎」

 

彼の言葉に全員が驚愕する事になる。

 

「スタイル?あぁ体格のことな!ていうか、筋肉の付き具合でわかるだろ!」

 

円堂守、まさかの筋肉で覚えていた問題が発生。

というのも無理はない、円堂は一度ニグラスのキャッチングを目撃している。

奈良しかテレビ屋上での焔の風見鶏を片手で受け止め、投げ返したあの身のこなし等でニグラスが強いキーパーだということに気づいた円堂はそれで覚えていた、という方が正しいのである。

 

閑話休題、ニグラスを凝視していたメンバーに浦部や音無がサイテー!等の台詞を吐いたことで急に大人しくなる雷門。

適度に緊張感の解れたことに感謝するべきか否か……。

 

とにかく、雷門ボールで試合は始まる。

 

アツヤから浦部へとボールが渡り、浦部がジェネシス陣営へと駆けるが、一瞬でFWの筋肉質かつ大柄なウィーズが肉薄、そして浦部からボールを奪取する。

一瞬の出来事に対応できない雷門、急いで鬼道の指示でディフェンスラインを固めるものの、ジェネシスのメンバーが一気に前線へと駆け上がり、なんとかウィーズに接近しても気づけばボールは別の選手に渡っている。

ウィーズからウルビダ、ウルビダからアーク、アークからクィール、クィールから一気にゴール前へと既に移動していたグランへと、ほんの僅かな時間でシュートチャンスを与えてしまう雷門。

 

「行くよ……円堂くん!」

 

「来るなら来い……!!」

 

グランがその足をボールへと叩き込む、ボールは勢いよく、そして素早くゴールへと突き進む。

円堂は左手を顔の前へそして右手を腰に溜め、エネルギーを右手へと収束、一気に解放すると円堂の背後から魔神が現れる。

 

「マジン・ザ・ハンド!」

 

魔神がシュートに触れた瞬間、円堂へと襲い掛かるのは重さ。

威力、スピードそのどれもがこの前のイプシロンとの試合で受けたどれよりも強かった。

 

魔神があまりの威力に掻き消え、円堂を押し退けてボールはゴールへと吸い込まれた。

 

0/1

 

僅か10数秒でのザ・ジェネシス先制点である。

 

「……あれ?」

 

グランの小さく呟いた声を聞いたものはいない。

 




先日、我が家で女子会が行われていました、若さって凄いな……と思いました。


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じゅうよんわ

最近、ペースが落ちていますが……今後は2~3日に1回と今のこのペースになりそうです。




開始10数秒での失点にもめげずに、果敢に攻めようとする雷門。

浦部や風丸、鬼道や一之瀬が懸命にジェネシスの守備を突破しようとするものの、ジェネシスメンバーのあまりの速さに文字通り一瞬、瞬きの合間にはボールを奪われてしまう。

ニグラスの目線から見ても単純なステータスの差によるもので技量が最早意味を成していない。

そんな調子だと自分たちには出番が無さそうだと、ジェネシスのDF4人、巻き髪の少女キーブ、蛇のような男ゲイル、ふくよかで特殊な肌色のハウザー、大柄な金髪のオールバックのゾーハン。

そして誰よりも自分が出番が無さそうだと思ってしまう黒髪ロングの少女ニグラス。

 

雷門陣営のボールはセンターラインを超えた直後には奪われ、円堂の守る雷門ゴールへと一瞬で運ばれてしまう。

小暮や士郎といった雷門の優秀なディフェンスラインをものともせず、結局はグランへとボールは渡り、グランの放つノーマルシュートが円堂のマジン・ザ・ハンドを軽々と突破する。

点差が10/0となった時、ついに雷門の必死のパス回しで前線へと躍り出たアツヤへとボールが渡る。

DFの4人がやっと出番かと動き出す、アツヤへと迫るゾーハン、アツヤは持ち前のスピードで突破しようと試みるものの、ゾーハンの仕掛けたスライディングで簡単にボールは弾かれ、キーブ、ゲイル、ハウザーを含めたDF4人は出番が無くてボールに触れなかった腹いせにアツヤを翻弄するようにその場でパスを回し始めた。

アツヤが猛スピードで迫るものの、ジェネシスのメンバーにとってはそんなもの大した脅威にならず、悠々とパスは続く。

飽きた、と誰かが呟くとボールは再度ジェネシスの前線へと繋がり、そのボールは最終的には雷門ゴールへと吸い込まれた。

ニグラスの目から見て、既に心が折れているのがベンチの栗松、フィールドでは風丸と意外にもアツヤも折れかけていた。

風丸がジェネシスとの戦いで戦意喪失してしまうのを先程の彼の表情を見てニグラスは思い出した。

何度も特訓してやっとエイリア学園のイプシロンと同点へと漕ぎ着けた彼ら、そんな彼らの努力を嘲笑うかのように出現したエイリア学園マスターランクチーム、ザ・ジェネシス。

風丸と栗松の2人は完全に意気消沈、風丸は自らの長所であるスピードがエイリア学園には通用せず、しかも更には雷門に途中から参加した吹雪兄弟にも及ばない彼はもう自分に自信が持てず。

栗松は雷門の選手としてここまで残り続けたというのに、塔子、士郎、浦部、そして誰よりも小暮にレギュラーの座を奪われ、そんな彼らすらジェネシスにはまったく歯が立たないという事実。

 

「……あーあ、見たくないなー」

 

そんなニグラスの呟きは雷門陣営から響く悲鳴や轟音によってかき消されるのであった。

 

そして鬼道がやっとの思いで、ウィーズからボールを奪取、浦部がボールを奪われるのすら計算に入れ、ウィーズがボールを奪った直後の隙を突き、前線へと上がる。

反面、ジェネシス陣営もウィーズがボールを奪うのを計算に入れていた故にMFもほぼ前線へと上がっていたせいで守備はDF4人だけとなっていた。

先程のアツヤのプレイを見て、雷門陣営の風丸や栗松とは真逆な意味で完全にやる気を無くしているDF4人はアツヤへのパスをわざと見逃し、シュートチャンスを作る。

アツヤ程度のシュートはニグラスなら簡単に止めれる、事実とはいえ完全に舐め切っている。

 

「……いいぜ!!やってやんよォ!!」

 

そして、ジェネシスのDFのスピードを直に体験したアツヤ自身、わざと道を譲ったDFの4人の意図は完全に気づいていた。

あのキーパーからゴールを奪って、その余裕を無くしてやる。

そんな意思が感じ取れる。

 

「吹き荒れろ……!」

 

ボールを中心に荒れ狂うブリザード、アツヤはその身を翻し、回転で勢いをつけた蹴りをボールへと叩き込む。

 

「エターナルブリザード……!!」

 

圧倒的な氷と風の猛威がゴールへと迫る中、ニグラスは溜め息を1つ着くと、そのボールを。

 

「グラーン、パス!」

 

いとも容易く蹴り返した。

 

呆ける彼を置き去りにして、雷門とジェネシス両方のメンバーの隙間を縫ってボールは一直線に反対側、ゴール前に立つグランの足元へとボールが渡り、彼自身困惑したような表情のままシュートを放つ。

 

「マジン・ザ・ハンドォ!!」

 

ジェネシスの猛攻に備えて、いつシュートが来てもおかしくないと構えていた円堂の背後から現れる魔神、そしてボールは魔神をかき消して円堂ごとゴールへと突き刺さる。

驚愕に包まれる雷門と『ジェネシス』

ジェネシスのメンバーですら、ここまでとは思っていなかった。

吹雪アツヤの必殺技をただの蹴りでゴール前まで弾き返したニグラスに対し、フィールド、いやフィールドのみならず周囲の人間は困惑し、そして畏怖した。

そして誰よりも。

 

「っ!!……ァァァ!!!!!」

 

アツヤの心が正に今完全に折られた。

シュートを止められることはあった、デザームに何回も止められた。

だがそれは、キーパーとして、キャッチングして止められたのだ。

ワームホールやドリルスマッシャーといった技に止められるのはまだわかる、自分も鍛えたとはいえあのデザームはかなり優れたGKだ。

だが目の前の少女はどうだ?

自身が渾身の力で蹴り出したボールをいとも容易く同じ土俵である脚力、シュートの要領で蹴り返したのだから。

 

自分のシュートがあのキーパーには完全に通用しなかったばかりか、シュートのパワーも負けた。

 

だが、そんな彼の想いなんて知らないと言わんばかりに試合は無情にも続く。

またも一瞬でゴール前へと迫るグラン、彼を止めようと風丸が迫るが、グランはそんな心の折れている彼に対して感じていた不満、そう覚悟もなにもなくフィールドに立つその態度に苛立ち、無意識に少しの殺意を抱いてしまう。

そんな気迫が、風丸の足を完全に止め。

 

「……来い!」

 

「好きだよ円堂くん……君のその目……!!」

 

グランはボールを宙へと軽く蹴り出す。

ボールへと追従し、捻りを加えた蹴りがボールへと叩き込まれ、強大なエネルギーと共にボールがゴールへと迫る。

 

「流星ブレード!!」

 

圧倒的なエネルギー、それを見て彼は反射的に駆け出した。

自身が渾身の力で放ったシュートよりも優れたパワー、それを彼自身2度も認めるわけにはいかなかった。

 

「クソがァァァ!!」

 

前線からアツヤが流星ブレードの前に立ちはだからんと駆ける、それを見た士郎が彼を守ろうと駆け出した。

 

「っ!!アツヤ危ない!!」

 

流星ブレードの正面へと躍り出てしまう吹雪兄弟、そして圧倒的なエネルギーの前に2人は弾かれ投げ出される。

なんとかして流星ブレードの軌道もゴールから逸れたものの、アツヤと士郎、2人は完全に気を失っていた。

 

心配そうに彼らに駆け寄る雷門の面々とそれを見るグラン、1人蚊帳の外といった感じの風丸。

グランは流石に自身のシュートをもろに食らった吹雪兄弟へと哀れみの視線を向ける。

 

「大丈夫かな……」

 

「行こうぜグラン、こんな奴らとやってもウォーミングアップにもなりゃしない」

 

その言葉を聞いてしまった風丸の目が再度驚愕に包まれる。

グランを除くジェネシスのメンバーが歩く姿に恐ろしい幻覚すら見えてしまう程に彼は打ちのめされていた。

最後にグランは。

 

「円堂くん……」

 

ふと、彼らを見つめる瞳子へと一瞬目を向けると、気にせずにまたね、とだけ言うとジェネシスのメンバーの元へと歩く。

グランがジェネシスのメンバーの元へ辿り着いた瞬間、黒い渦のようなものが現れ、彼らの姿を一瞬にして消してみせた。

そんな彼らを睨むように見送る瞳子。

 

1箇所が治ったとしても、歯車は欠けてしまえば別の場所に負荷がかかり、そこが更に欠け、更なる崩壊を生む。

歪む、歪む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいニグラス……てめぇ、なんだあれは」

 

不機嫌そうに彼女へと声をかけるジェネシスの大柄なFWウィーズ。

そんな彼の声音に不可解と言わんばかりの表情でニグラスは振り返るとなに?と首を傾げた。

 

「なにじゃねぇよ、てめぇ……キーパーの癖になんだあの脚力、俺やグラン並、下手すりゃそれ以上じゃねえか」

 

「……で?なんでそんなことを聞くの?」

 

睨み合う両者を窘めんとMFの細目の少年コーマと特殊なグラスをかけた少年アークの2人が駆け寄るもウィーズは構わずに吠える。

 

「あれは俺たちへの当てつけかって聞いてるんだよニグラス!!1人だけ最初からジェネシスの正規メンバーだもんなぁ!!ネロを押し退けてまでGKに居座って楽しいか?あ?!」

 

「……!」

 

ウィーズの一言に周囲のメンバーと誰よりもニグラスの目に動揺が走る。

ジェネシスの前身ともいえる、グラン率いるマスターランクチーム、ガイア。

そのキーパーをつとめていた小柄な少年ネロはジェネシスのレギュラーメンバーとしての参加を認められなかった。

必死の思いでバーン率いる圧倒的な攻撃力のチームであるプロミネンスとガゼル率いる攻守の切り替えの俊敏なチームのダイアモンドダストからジェネシスの座を手に入れた彼ら。

そんな彼らに告げられた『父さん』からの言葉は彼らを驚かせた。

 

『これからはキーパーは秀子に任せます、君之(きみゆき)はジェネシスの補欠選手としてこれまで通り特訓に励んでください』

 

君之……ネロのあの時の表情をジェネシスの面々は忘れないだろう。

そして、ニグラス自身も。

 

「……言いたいことはそれだけ?」

 

「ァア?!」

 

ニグラスはウィーズに背を向け、何処かへと歩き出す。

 

「どこに逃げる気だテメェ!」

 

「父さんからの指令だよ、私は引き続き豪炎寺修也を探すんだよ……大丈夫、ザ・ジェネシスの出番には間に合わせるから」

 

「逃げるなって意味だ!」

 

歩くニグラスの肩に手を伸ばしその歩を止めるウィーズ、振り返ったニグラスの目は酷く濁っていた。

 

「っ!!」

 

「邪魔だよ由宇(ゆう)」

 

肩にかけられた手を無理矢理に剥がすニグラス、ウィーズは思わず彼女から距離をとる。

 

「わりぃ……秀子……気が立ってたみてぇだ」

 

「あっそ」

 

それ以上彼女の歩を止める者は……否、止められる者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い部屋にて、再度彼らは集う。

 

「面白かったかよ、グラン」

 

「なんのことだい?」

 

3本の柱、そしてその座に居座るは3人の影。

蒼い光を浴びるガゼル、紅い光を浴びるバーン、そして白い光を浴びるグラン。

 

「とぼけちゃってよぉ……」

 

「雷門とやりあったみたいだね、ザ・ジェネシスの名の元に」

 

「あれはただのお遊びさ」

 

「ほぉ……?」

 

どこか苛立ちのようなものを感じさせる2人に対し、グランは飄々とした態度で続ける。

 

「興味深いと思わないか?雷門イレブンは……特に円堂守、彼は面白い」

 

「軽く捻り潰した相手がか?」

 

バーンの言葉に軽く笑って再度グランは言葉を紡ぐ。

 

「君も戦えばわかるさ」

 

グランの言葉なんて興味ないと言わんばかりにガゼルから。

 

「たしかに今は……君たちガイアがザ・ジェネシスの地位についているが油断をしない方がいい」

 

「忠告として聞いておこう」

 

「ふん、すぐに俺たちプロミネンスがその座を奪ってやるさ」

 

「それはどうかな?我々ダイアモンドダストも引き下がるつもりは無いよ」

 

言葉の隅に棘を混ぜ、視線で静かに火花を散らす3人。

そんな中バーンは静かに笑うと小さな声で呟いた。

 

「……円堂守」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてと、今の君たちには雷門の練習相手になるだけの充分な実力がついたわけだけど」

 

福岡から、ついに舞台は沖縄に。

 

秀子は影山の支配から脱した彼ら真・帝国学園のメンバーに力を貸してほしいと2つのことを頼んでいた。

1つは豪炎寺を隠すための隠れ蓑。

元々、鬼瓦という刑事の指示で沖縄にある土方の家に隠れていた豪炎寺だが、思いの外すぐに吉良財閥の手が沖縄へと迫った。

秀子が土方の家の付近へと調査に当たるなどしてなんとか誤魔化してはいたがついに限界が訪れた際に秀子は瞳子を通して真・帝国学園のメンバーを影山から保護するという名目の元、彼らを土方の家へと派遣、元々真・帝国学園にあまり興味のなかった彼らは秀子がいない沖縄での調査の際、真・帝国学園のメンバーが1人増えていることに気づかなかった。

 

「源田くんもありがとうね、治療の直後なわけだけど……大丈夫?」

 

「……最初聞いた時は耳を疑った、まさか雷門の監督がエイリア学園と密かに通じ、君は君でスパイとして活動していたとは……だが実際に雷門の監督から説明された以上、協力しよう」

 

そしてもう1つ。

帝国学園のGK、源田が更にメンバーとして追加、さらに土方雷電、彼の力を借りる事で雷門イレブンの強化のために真・帝国学園は再度集まる形となったのだ。

 

「だが、本当に驚きだ……ビーストファングの改良までしてくれるとはな……」

 

その言葉に不動が不敵に笑う。

 

「そりゃあんなギャーギャー泣き叫ぶような危険な技を使われちゃあ雷門のヤツらだって気が気じゃないだろうよ」

 

「ぐっ……!!」

 

その言葉に思うところがある彼は言い返せずにいる。

そんな彼に対し、秀子は不動を窘めた後に軽い調子で声をかける。

 

「威力は本来のビーストファングの70%ってとこまで落ちるけどね、君ならそのハイビーストファングを使いこなせるよ」

 

ビーストファングが高密度のエネルギーを両手で生み出しそれを直にボールへと叩きつける技なのに対し、源田が元々使っていたパワーシールドやフルパワーシールドはそれを1度地面を緩衝材として使う事で威力が分散するものの身体への負担を最小限に留めた技と言える。

秀子はビーストファングの出力と負担を本来のビーストファングの約30%程度まで下げつつ、源田の動きから彼のより力を込めやすい体位や角度を計算し効率化させることで威力をカバーしたハイビーストファングを彼に授けたのである。

 

「いくら身体への負担を軽減したとはいっても限度はあるから3回かな、3回使ったらフルパワーシールドとかに切り替えるようにね」

 

「わかってるさ」

 

「……じゃあ、後は任せたよ」

 

秀子はそれだけ言うと沖縄に置いてある自分の荷物を片付け始める。

 

「……本当に戻んのか」

 

不動の言葉に1度は手が止まるものの、秀子は片付けを再開する。

 

「……うん、イプシロンが倒されれば次はマスターランクチームの出番、私はエイリア学園として彼らと戦わなきゃいけないから君たちにもう特訓はしてあげれないなぁ」

 

「ありがとよ」

 

不動の言葉に顔を見上げると、不動と源田含む真・帝国学園のメンバーが頭を下げていた。

 

「影山のせいで元いた学校にも戻れなくなりそうだった俺らを助けてくれたのはお前だ」

 

「佐久間と俺に忠告してくれたにも関わらず、それを無視した俺に……あの技を託してくれてありがとう」

 

2人の言葉に涙腺が緩むが、それをなんとか食いしばって涙を流すのを堪える秀子。

雷門との試合やザ・ジェネシスのメンバーとのやり取りでどこか精神的に追い詰められていた彼女は少し彼らを助けられたことに安堵し、そして彼らに助けられたと少し救われた気待ちになる。

 

「……また、一緒にサッカーするぞ」

 

最後に彼女の肩を叩いた小鳥遊の言葉に涙腺が崩壊するも、涙を見せまいと彼女は後ろを振り返らずに歩き出した。

 

「後は任せたよ……!」

 




活動報告にて、好きなイナイレキャラを募集します。
脅威の侵略者編が終わった後に読者イチオシメンバーイレブンと主人公の黒山羊秀子率いる作者の中で『ある基準』に基づいたイレブンとの試合を書きたいと思っています。
キャラの名前、所属中学、ポジション、好きな点を書いて下さると助かります。
尚、海外勢やgoのメンバーは残念ながら対象外とし、そしてアレス時空のメンバーは時間軸的に1年前となることを考慮した上でご応募下さい。
例:灰崎はアレス時空で中一なので今の時間軸では小6と虎丸と同級生となります。
よろしければご応募下さるとありがたいです。
尚、応募して頂いたキャラが秀子のチームにいる可能性もあるのでその点もご注意ください。

以下追記
yypkmn様、重要な情報を教えてくださりありがとうございます。
感想でのアンケートが禁止されているということでしたので、活動報告へと変更致しました。
無知からの行動とはいえ禁止されている行為に手を染めてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけしたこと、大変申し訳ございません。


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じゅうごわ

UA1.4万件突破!
お気に入りも400を突破しました。
降り掛かるプレッシャーに負けず、作者は筆をとりま……とりま……!!

頑張ります(震え声)


沖縄へとやってきた雷門の一同、彼らは沖縄にて目撃された『炎のストライカー』を見つけるためにこの地まで来た。

福岡にて、雷門出身の風丸と栗松の2人が自らの無力を嘆き、イナズマキャラバンを辞退してしまう。

失意の中僅かな希望を求めて沖縄の各地で聞き込みを開始することとなる。

 

猛暑の中、吹雪兄弟と土門の3人。

 

「あっちぃなぁ……」

 

「豪炎寺君だといいね」

 

「……俺がいりゃ十分だ」

 

「ハハ、そうかもな!……でも俺も久しぶりに会いたいぜ」

 

納得のいかない顔のアツヤに心配そうな顔の士郎、土門が爽やかながらどこか寂しげな表情を浮かべるのを見て少し罪悪感が湧くアツヤ。

そんな空気を変えようと士郎は。

 

「そういえば染岡君も豪炎寺が好きだったみたいだよね」

 

「アイツが認める程のストライカーだ、並大抵のやつじゃねェんだろうが……まぁ、俺には敵わないだろうがな……!」

 

「そうだな」

 

強がるアツヤに空気が読める男、土門。

そんな中突如響く口笛の音に3人は音の方向へと顔を向けるとそこには黒いシャツを着た紅い髪の少年がサッカーボール片手に立っていた。

 

「そのジャージ、雷門中だろ?」

 

「おう」

 

「なるほどねぇ……カッコイイじゃねぇか……俺の事探してたのって雷門中だったのか」

 

紅い髪の少年の言葉に疑問符が頭に浮かぶ3人、少年は少しずつ3人の元へと歩を進めて続ける。

 

「それって……宇宙人と戦うってことだろ?」

 

「……何を言ってるんだ?」

 

「君は?」

 

「俺は南雲晴矢(なぐもはるや)アンタらが探してる『炎のストライカー』って多分俺」

 

少年、晴也の言葉に衝撃を受ける3人、そして晴也は自信満々に告げるのだ。

 

「見せてやるよ、俺のシュート!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして場面は変わり、他の雷門メンバーは沖縄にて出会った凄腕のDFである土方のスカウトを行うものの。

彼は共働きの両親や弟と妹たちのためにと家を長くは離れられないと断られてしまう。

残念がる円堂たちに士郎の雷門の面々を呼ぶ声が届く。

 

「炎のストライカー、見つけたぜ!」

 

続く土門の言葉に雷門の面々は一瞬豪炎寺かと思い、視線を向けるものの3人の後ろから現れた紅い髪の少年を見て何人かが落胆の声を漏らす。

 

「ちゃうんか?」

 

「……まぁね」

 

まだ豪炎寺の存在を詳しくは知らない浦部の言葉に返す一之瀬の表情も何処か少し悲しげだ。

さらに土門も雷門の面々に混ざって一緒にいる割烹着を着た大柄な少年、土方を見て疑問の声をあげる。

 

「そいつは?」

 

「コイツは土方、この近くに住んでるらしくて色々と話を聞こうと思ってさ」

 

「どうも」

 

「どーもー」

 

「でもその必要は無さそうだよ、『炎のストライカー』はこの南雲くんだって!」

 

軽い挨拶を交わす土方と土門、そして士郎が晴也を指さして告げた言葉に驚愕する円堂と鬼道。

 

「つーわけで、俺は南雲晴矢……キャプテンの円堂守だろ?よろしくな」

 

「……あぁ、よろしく」

 

豪炎寺に会えると、本当に僅かな希望に賭けてこの地までやってきた雷門、その中でも1番期待していた円堂は少し悲しげだ。

 

「コイツ、俺達があちこち聞き回ってるの聞きつけて、自分から売り込んできたんだぜ!」

 

「あんた、この辺に住んでるの?」

 

「……まぁね」

 

土門の嬉しそうな声に対し、塔子はどこか怪しげだと簡単な質問を晴也にするが、晴也はどこかふてぶてしく答えた。

 

「ホントかぁ?」

 

晴也を覗き込むように見つめる土方、その表情はどこか怪しんでいるように見える。

急に土方の巨体とその顔が接近してきた晴也は驚きから思わず軽く仰け反ってしまう。

 

「この辺じゃ見ねぇ顔だなぁ……」

 

「俺もアンタを見たこと無ぇなぁ……?」

 

互いに睨み合う2人、それを見て小暮はどこか苦虫を噛み潰したような顔をしている。

それをみた音無が小暮に尋ねる。

 

「どうしたの?」

 

「匂う……やな感じの奴の匂い……」

 

「え?」

 

小暮の視線の先、そんな怪しむ視線をものともせず、晴也はボールを足先でリフティングのようにキープしている。

 

「見せてやれよさっきの!」

 

「強力なシュートだったよね!」

 

「……俺程じゃねェけどな……」

 

「……ただ見せるだけじゃ詰まらねぇよなぁ」

 

晴也を褒める2人と少し気に入らないが認めざるを得ない1人の声、晴也が呟いた言葉に鬼道が「と、いうと?」と疑問の声をあげる。

晴也はボールを蹴り上げるとそれをキャッチして、円堂へと再び視線を向ける。

 

「俺をテストしてくんねぇか?アンタらのチームに相応しいかどうか見定めてくれると嬉しいねぇ……!」

 

自信満々、といった表情で円堂を指差す晴也。

 

「雷門イレブンVS俺!どうよ?俺がアンタらから1点取れば俺の勝ち、テストに合格だ」

 

晴也の既に勝ち誇ったかのような表情に思わず苦笑いする雷門のマネージャーの秋(あき)と呆れた表情の塔子。

 

「テストしてくれって言う割に随分仕切るねぇ……」

 

「大した自信ね」

 

「自信があるから言ってんだ」

 

瞳子と晴也の間に火花が散っているのを知る者はおらず、瞳子監督が実は晴也の存在を知っている……更にはエイリア学園の生徒だと知っている事など露知らず。

 

「よしやろう、テスト」

 

「おー!なんか緊張するっス……!」

 

円堂の言葉に喜ばしいと声を上げる壁山。

そして円堂は立向居へと顔を向けると。

 

「立向居!」

 

「はい!」

 

「キーパー、やってみるか?」

 

「良いんですか……?!」

 

円堂の言葉にまずは驚く立向居だが、憧れの円堂からの言葉にすぐに歓喜の表情へと変わる。

 

「おっと、そりゃ無しだ」

 

突如挟まれた晴也の言葉に周りの面々の顔が渋くなる。

周りの視線が一気に晴也に集まる中、彼は気にせず言葉を紡ぐ。

 

「俺は宇宙人をやっつけた奴らとやりてぇんだ」

 

その言葉に流石に怪訝な表情になる円堂、たしかに晴也は円堂でも感じる程にやり過ぎな部分が多い。

 

「マジで頼むぜ……?」

 

彼の表情から、これが円堂への挑戦も兼ねている事を彼から察する円堂。

2人が真剣な表情で睨み合う。

円堂はまだ見ぬ彼の実力を見定めんと。

晴也は自分の実力を思い知らせんと。

 

場面は近所のグラウンドへと移る。

雷門イレブンはユニフォームへと着替えて晴也の希望通り立向居ではなく円堂をGKに目金をMFとして採用。

残念ながら立向居はベンチで待機。

それに対するは晴也1人のみ。

 

「準備はいいかねー?」

 

イナズマキャラバンの運転手を務め、更にはエイリア学園やその他の学校との試合では審判を務める壮年、古株(ふるかぶ)が声をかけると晴也は自信満々といった表情だ。

 

「んなもんとっくにできてるよ!」

 

彼の視線は既にゴールの円堂へと向いている。

 

「円堂……覚悟しな……!!」

 

晴也が軽くボールを蹴り出してテスト開始、雷門イレブンが一気に駆け出すと晴也は更にボールを宙へと蹴り出してそのボールに追従するように高く跳び上がる。

その姿に驚いた様子の面々、フィールドの目金が飛びましたよぉ?!!とオーバーリアクションするが、ここまで来るとオーバーとも言いにくくなってくる。

 

「こんなのさっきは見せなかったぜ……?!」

 

「っ!!」

 

土門が驚愕といった声音で叫び、アツヤも予想外の方法で抜かれた事に思わず舌打ちする。ベンチの面々も驚いたといった表情で彼のプレイを見守る。

 

「すげぇな」

 

「空中戦が得意なんでしょうか?」

 

先程まで怪訝な表情だった土方も素直に賞賛し、立向居は冷静にベンチから彼のプレイを少しでも見ようと表情は真剣そのもの。

そんな視線の先、空中からゴールの方向へと勢いよくボールを蹴り出す晴也、そのボールは必殺技でもないのにどこか炎のようなオーラを纏っていることからかなりの威力をもっているのだろう。

だが、そんなロングシュートを見逃す程雷門のディフェンスラインは甘くない……若干2名程は咄嗟に動けず狼狽していたが。

塔子はシュートコースへと割り込むと両手を軽く広げ、足元から巨大な塔が出現する。

 

「ザ・タワー!」

 

ザ・タワーにシュートがぶつかると思われた時、既に着地していた晴也が再度跳び上がると自らが放ったシュートに更に一撃を加えてセルフでの簡易ツインブースト、ザ・タワーを無理矢理打ち破る。

ザ・タワーを打ち破った直後のボールを目掛けて士郎が脚を踏み込めばその場から地面を這うように氷の道が現れボールへと迫る。

 

「アイスグランド……?!」

 

しかしボールは氷を避けるように上空へと軌道を変えた、恐らくは晴也が回転をかけていたのだろう。

一瞬の隙を見せてはしまったが士郎がボールを追って跳ぶ。

しかし、その一瞬が命取りとなり晴也が先に空中のボールをキープ、そのままゴールへと迫る。

ワンテンポ遅れた小暮と壁山が彼へと迫るが、晴也は再度空中へと跳び上がる。

彼のプレイを見たベンチから驚嘆の声が上がる。

 

「地面に足がついているより、跳んでる時間の方が長いかも……」

 

「ボールのコントロールも絶妙ですよ……!」

 

DF最後の2人を抜かした晴也はニヤリと笑うと。

 

「紅蓮の炎で焼き尽くしてやる……!」

 

またも空中へと高くボールを蹴り上げ、それに追従するかのように自身も高く跳ぶ。

オーバーヘッドキックの体勢へと移行するとまるで太陽のようなオーラが溢れ彼の脚からは炎が噴き出す。

 

「アトミックフレア……!」

 

紅蓮の炎……太陽の如きエネルギーを纏ったボールがゴールへと迫る。

円堂は来い!と叫ぶとエネルギーが円堂の周りを舞い、背後から黄金の魔神が現れる。

 

「マジン・ザ・ハンド!」

 

魔神の右腕がアトミックフレアへと振るわれるがあまりのエネルギーに耐えきれず魔神は掻き消え円堂を押し退けてゴールネットへと突き刺さる。

 

「……すげぇな南雲!」

 

自身の技を打ち破った晴也に対し円堂は悔しさや妬み等の感情より真っ先に賞賛が上がる、むしろ彼には妬みといった感情が湧くことはほぼないのだろう。

そんな彼の賞賛に当たり前だ!と勝ち誇った表情で晴也は更に続ける。

 

「俺が入れば宇宙人なんてイチコロなんだよ」

 

その圧倒的なパワーを伴ったシュートを見てベンチからも賞賛の声が上がる。

 

「まさに炎のパワー!」

 

「炎のシュートか……!」

 

「監督……!」

 

「豪炎寺くんじゃなかったけど、彼なら強力な戦力になりますね!」

 

雷門のマネージャーにして雷門中理事長の娘である夏未(なつみ)と同じくマネージャーの秋からの声に怪訝な表情のまま答えない瞳子。

彼女自身、晴也への対応に困っているようだ。

 

「テストは合格か?」

 

「勿論!うちのチームで一緒に戦おうぜ!よろしくな、南雲!」

 

円堂が笑顔で手を差し伸べるとそれに晴也が応じ、固く握手をする2人。

 

「マジン・ザ・ハンド……悪くねぇ……」

 

晴也が呟いた言葉に少し首を傾げる円堂、しかし晴也の心境を察する事も出来るわけなく。

 

「じゃあこれからはウチとアツヤを含めた3トップ?」

 

『FWは俺がいれば十分だ……アァッ?!』

 

浦部が漏らした言葉に同時に反応するアツヤと晴也、2人が睨み合う中感じ悪ーと目を細める浦部を尻目に円堂は瞳子の方へと歩を進める。

 

「監督!南雲をチームに入れます、良いですよね?」

 

「……」

 

その言葉に立ち上がる瞳子、その瞳は真っ直ぐに円堂の向こう、晴也へと向けられている。

 

「大きな戦力になる事は認めましょう、ただその前にいくつか質問があるわ……」

 

瞳子の言葉にいいぜ、と軽く返事をする晴也だが、その瞳は少し訝しむように瞳子へと向けられている。

 

「これから一緒に戦っていく以上、私にはあなたの身柄を預かる責任がある」

 

グラウンドへと歩を進め、晴也の近くへ。

 

「まずあなたはどこの学校の生徒なの?」

 

「……」

 

瞳子の質問に答えない晴也、その表情は苦虫を噛み潰したようで周囲に少し暗い空気が漂う。

瞳子自身、彼が永世学園と答えてくれればエイリア学園から離反なりなんなりスパイをしてくれている黒山羊秀子から事実確認を行うつもりではあった。

だがしかし、晴也自身が答える前にグラウンドに声が響く。

 

「エイリア学園だよ」

 

その声の方を見れば、グラウンドの照明の上にヒロト……否、グランが黄色い上着の私服姿でそこに立っていた。

 

「ヒロト……!!」

 

その声と姿に思わず駆け寄ろうとする円堂を引き留める鬼道、更に雷門イレブンの怪訝な視線が晴也へと向けられる。

 

「エイリア学園ってどういうことだよ?」

 

晴也の背後、塔子からかけられた声に対し晴也は舌打ちする。

瞳子も目の前の少年がエイリア学園からスパイとして送り込まれる所だったかもしれないと少し後ずさる。

 

「どういうつもりだ、ヒロト!!」

 

グランの視線が晴也へと突き刺さる、痺れを切らした彼はクソっと悪態をついてからグランへと向き直る。

 

「あーあー……ったく!邪魔すんなよグラン!」

 

「雷門イレブンに入り込んで、何をするつもりだったんだ?」

 

「俺はグランのお気に入りがどんな奴か見に来ただけだよ」

 

互いに睨み合う2人。

 

「騙されちゃ駄目だよ、円堂くん」

 

グランは照明の上から黒いサッカーボールを起動して晴也へと蹴り込む、晴也へと迫るボールに対して円堂は彼を庇うようにマジン・ザ・ハンドの構えをとる、が。

晴也はその円堂を飛び越えて黒いサッカーボールを空中へと蹴り返す、あまりの衝撃に風が舞い、渦が周囲を包む。

渦が消えた先、いつの間にか近未来的な……エイリア学園のような意向の紅いユニフォームに身を包んだ晴也がボールを空中にてキープ。

 

「あれは……!」

 

「エイリア学園!!」

 

そのまま空中でキープしたボールをグランへと蹴り返す晴也、そのボールには炎が纏われており、彼のシュートの威力を物語る。

だが、そのシュートを難なく蹴り返すグラン。

再度向かってきたボールを片脚で踏み潰すかのようにして抑え、その勢いのまま着地する晴也。

 

「南雲……お前」

 

「俺か……?」

 

土門の震えるような声に首を鳴らしてどこか苛立ち混じりに言葉を吐く晴也……否。

 

「こっちが本当の俺、バーンってんだ……覚えておきな」

 

「……バーン?」

 

円堂の呟きに対しバーンはニヤリと笑い、彼らしい自信満々といった表情のまま告げる。

 

「エイリア学園プロミネンスのキャプテンだ」

 

その言葉に小さな声でオウム返しのようにプロミネンスと呟く瞳子。

瞳子自身、彼女はジェネシス計画に関われる期間がほとんど無かったがために詳しいチーム関連の話は秀子からのメールのみであり、晴也がバーンとして活動してるのを見るのは初めてであった。

タツヤと風介(ふうすけ)の2人と競い合う間柄だった彼が2人への対抗心からエイリア学園を離反するという微かな希望が打ち砕かれた瞬間だった。

 

「グランよぉ……コイツらはジェミニストームを倒した、イプシロンとも引き分けた、お前らとやった後……まだまだ強くなるかもしれねぇ……だからどれだけ面白い奴らか近くで見てやろうと思った」

 

バーンは自らを親指で指しながら、グランへと挑発的な視線で言葉を続ける。

 

「俺は俺のやりたいようにやる……もし俺らの邪魔になるようなら……」

 

円堂へと視線の向きを変え、指差すバーン。

 

「潰すぜ……?お前より先になァ!」

 

その言葉に再度睨み合う2人、グランは照明の上からバーンに向かって飛び込み、一気に加速してバーンへと迫る。

彼の近くへと着地、その衝撃で砂埃が巻き上がり一瞬周囲を包むが更に衝撃波のように砂埃を吹き飛ばす。

 

「潰すと言ったな……それは得策じゃない、強いヤツは俺たちの仲間にしてもいい……違うか?」

 

「仲間……?こんな奴らをか?」

 

グラウンドにて再度睨み合う2人の会話に思わず、小さな声で仲間?と呟く円堂。

喋り過ぎたかとグランが視線を軽く円堂へと流すがそれを見たバーンはニヤリと笑うと大きく声を上げる。

 

「教えてやろうか?豪炎寺って野郎もなぁっ!」

 

「お喋りが過ぎるぞ……!!」

 

バーンの言葉に眉間に皺を寄せ更に強く睨むグラン、その表情に面白くないと言わんばかりに更に表情が険しくなるバーン。

 

「お前に言われたくねぇなぁ……?」

 

その瞬間ぶつかり合うマスターランクキャプテンの2人、黒いサッカーボールから発せられた強い光のせいで雷門の面々は思わず目を逸らしてしまう。

光が止んだその頃には、2人の姿は消えていた。

 

「……ジェネシスが最後じゃなかったのか……」

 

「……最初の襲撃事件で目撃されたエイリア学園のチームは4つ、更に今の話の内容から察するにジェネシスと同等のチームのようだが……」

 

「……あぁ、エイリア学園にはどれだけのチームがあるのか……」

 

「まだまだ戦っていかなきゃいけないんスねぇ……」

 

「……風丸さん、さっさと撤退して良かったかもね……」

 

悲壮感に包まれる雷門、最後の小暮の言葉に音無が小暮くん!と強めに窘める。

 

「炎のストライカーは奴じゃなかった……さぁ、また1から出直しだ!」

 

鬼道はこの重い空気を変えようと仕切るものの、急には変えられない……。

そんな彼らを見つめる人影が、近くの木陰に1つ。

フードを被ったその影は、どこか寂しげな表情を浮かべていた。

 




引き続き、作者の活動報告にて好きなイナイレキャラを募集しております。
期限は今のところ厳密には決めていませんが、この作品内でジェネシスとの試合が再度行われる時までには期限をちゃんと設けたいと思います。

再度、1度は禁止されている感想でのアンケート募集という行為をしてしまったこと謝罪致します。
これからもこの作品を読んでくださると、ありがたいです。


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じゅうろくわ

難産です

それもこれも最近面白いゲームやらなんやらが多いのが悪いんです

8/25誤字報告をボス山様とみなてぃー様よりいただきました。

なるべく誤字を少なくしたいとは思いますが自分の見つけられなかった範囲を皆様に教えて頂けると少し嬉しかったりする矛盾した気持ちの私をお許しください。


沖縄のとあるグラウンドにて、そこにはイプシロンのメンバー11人がたった1人の少女の前に倒れ伏していた。

苦しげに呻く彼らを見下ろすのは黒髪の少女、ニグラス。

彼女もやり過ぎたかと訓練の終わりを告げようとするが、1人の男が棒のようになった足を必死に奮い立たせ、朧気な眼差しのままニグラスを睨む。

それは1番の身体能力を誇るキャプテンのデザームでもなく、大柄で体力面に優れたDFのタイタンでもない。

デザームの副官にしてFWと緊急時にはGKも務める男、ゼルであった。

既に体力は限界、ニグラスとの圧倒的な実力差によって擦り切れそうな彼の闘争心を再び燃え滾らえたのはあの連中と自らが信じる男。

1度は圧倒的大敗をして尚、再び自分たちの前に立ちはだかったアイツらの強さは自分たちには無いものだと思っていた。

でも、あの時のデザームも……砂木沼(さぎぬま)も諦めていなかったのだから。

デザームはマスターランクチームとしても通じる程の実力を持っている、FWとしてならダイアモンドダストやプロミネンスにも負けない程だ。

ガイアやその他のマスターランクチームとの試合の時も彼は諦めず最後まで足掻き続けた。

そして彼は彼を慕うこのメンバーを信じて、自分たちの為にGKとして残ってくれた。

 

「俺は……負けたくねぇ……限界なんてもんに……なにより、アイツらに!!」

 

ゼルのその言葉に再び闘志を燃やすイプシロンの面々。

 

「ゼル……!!お前にだけ格好付けさせるわけにはいかねぇよなぁ……!!」

 

メトロンは片膝を着きながらも吠える。

 

「マキュアはアイツらなんかと同レベルじゃないし……!!」

 

苦痛に歪むマキュアの眼孔には未だに力が残っている。

 

「キシシ……俺は、まだやれる……」

 

スオームは疲れから引き攣りながらも不敵に笑い。

 

「私だって……ここで、終わってたまるもんですか……!!」

 

クリプトは息も絶え絶えにニグラスを睨んでみせる。

 

「アイツらを潰すのは俺たちだ……!」

 

ファドラも決意と共に立ち上がる。

 

「俺はディフェンスの要だ、まだ戦える」

 

タイタンもその巨体を無理矢理起こし。

 

「……ディフェンスの要?笑わせるな」

 

モールも負けじと足に力を込める。

 

「ハハ……コイツらがやってんのに俺だけ寝てるわけにも行かねーなァ……!」

 

ケンビルは腕を使って上体を起こす。

 

「デザーム様、ご命令を」

 

そして、最初に立ち上がったゼルは彼へとその手を伸ばす。

他のメンバーの視線も注がれ、彼はフッと笑った後。

 

「まったく……!!貴様らは……!」

 

デザームはゼルの手を握り、ゼルの力を借りながら立ち上がるとニグラスへとその目を向ける。

 

「皆聞け!我らは雷門イレブンに勝つ為にも、ニグラス様の特訓を乗り越えなければならない!!続きをやるぞ!!」

 

彼女が無言のまま無表情で見返すと彼の口が弧を描く、そしてニグラスは一言デザームへと声をかける。

 

「なんで立ち上がれるの?」

 

デザームはそれに対し、大声で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沖縄、大海原中のグラウンドにて雷門の面々……主に円堂がひたすらシュートを受け続けていた。

 

アツヤのエターナルブリザード、鬼道と一之瀬のツインブースト、大海原中の生徒である綱海のツナミブースト。

円堂は足を勢いよく高く上げた後に勢いよく地面を踏みしめ、捻りを加えた拳を突き出す。

回転する拳のオーラがシュートを跳ね返す。

彼の祖父である円堂大介が遺した究極奥義であるその技の名は。

 

「正義の鉄拳……!!」

 

歓喜する雷門の面々、沖縄でひたすら練習を積んだものの、中々形にならなかったそれは。

綱海とのサーフィンによるバランス感覚強化の特訓によってついに形となったのだ。

ただ1人、円堂に憧れている少年立向居だけがどこか浮かばない顔をしているが、円堂も他のメンバーもそれに気づくことはなかった。

 

「鬼道、雷門イレブン……!」

 

そんな彼らへと声をかける者たちがいた。

そのどこか聞き覚えのある声を聞いた鬼道が真っ先に振り返ると、そこにはかつての仲間であり、真・帝国学園として愛媛の地で自分たちの前に立ちふさがった少年、源田。

だが、その背後にいる面々の顔を見て鬼道の眉間に皺がよる。

壁山や土門が大きな声を上げる。

本来の時間軸なら、この時点でイプシロン……もといイプシロン改が攻めてくるはずだった。

だがしかし、彼らの前に現れたのは真・帝国学園の面々と更にそれにしれっと混ざっている土方。

 

「サッカーをしよう……!!」

 

「何を言っているんだ源田……!そいつらと何故……!!?」

 

「この地で俺とこの真・帝国学園のメンバーは改めて特訓を積んだ、お前らと改めて試合がしたい」

 

鬼道の困惑した声に毅然とした態度で話す源田。

だが壁山や目金といった他の面々がまた卑怯な手を使うに違いありません!だとか色々叫ぶ。

だが、鬼道は彼らの目に、たしかに戦士のような『誇り』を感じた。

視線だけで源田に問いかける、それはお前自身の意思なんだな?と。

源田が軽く頷く。

 

「やるぞ皆……」

 

鬼道の声に驚きの声をあげる雷門の面々、だが円堂はニカリと太陽のように笑うと。

 

「ああ、皆……!!サッカーやろうぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真・帝国学園ボールでの試合開始寸前、佐久間が抜けて土方が一時的に参入している分、かつてとフォーメーションが少し違っている。

MFであったはずの少女、小鳥遊が比得と並びツートップとして前線に立っているのと。

MFが減った分、DFは土方を含めて5人という守備に多めに割り振った陣形となっている。

比得が小鳥遊へと軽くボールを蹴り出して試合開始。

アツヤが勢いよく駆け出して小鳥遊からボールを奪わんと迫る中、小鳥遊は紙一重で後ろの不動へとパスを回してそれを回避。

 

「なっ?!」

 

「トロいんだよ……!!」

 

「へっ、ナイスパスだ小鳥遊!」

 

不動がアツヤを大幅に避ける形で進む、その先には一之瀬が待ち受ける。

一之瀬がブレイクダンスの要領でその場で回転、炎が噴き出して不動を襲う。

 

「フレイムダンス!!」

 

炎に撒かれ、ボールの奪取を許してしまう不動とそのままの勢いで前線へと駆け出す一之瀬。

一之瀬の前に立ちはだかるはMFの目座、一之瀬は巧みなボール捌きで翻弄しようとするが。

 

「……っ?!」

 

一之瀬がフェイントで右に曲がれば同じく右に、左へと切り返しても即座に対応される。

まるで動きを読まれているかのように一之瀬は先に進めずにいた。

 

相手の動きを真似られるほど観察眼に優れてるんだ、君なら先を読むのだって余裕じゃない?

 

目座の徹底したマークに思わずボールを他のメンバーへと送ろうとするがそこに割り込んだのは同じくMFの日柄、彼はボールを奪うと猛ダッシュで雷門陣営へと駆け出す。

その勢いに唖然とする一同、まだ試合開始から間もない序盤、そんな最初から飛ばしてはスタミナ切れを起こすに決まっている。

だが、そんな事構わないと言わんばかりに彼は鬼道や今回はMFとして参加している立向居を置き去りに前線へと駆け込んだ。

 

そのスタミナ、ここならもっと伸ばせる。走れ!少年!

 

「行かせないよ……!」

 

士郎がそんな日柄から素早くボールを奪う、日柄自身最高速で駆けるために咄嗟の判断が遅れてしまったため反応できなかったようだ。

そんな士郎が全線へとボール回そうとするものの、さらにボールを奪い返す者がいた。

 

「おいおい隙だらけだぜ、白恋のプリンスさんよぉ……?」

 

不動はボールを奪うとそのまま高く蹴りあげる、その先には比得が既に高く飛び上がっていた。

比得が両足を機関銃のように高速で踏みつけるように叩き込むと鋭いシュートがゴールへと迫る。

士郎がボールを奪われるとは微塵も思っていなかった雷門のDFたちは咄嗟に対応できない。

 

比得くんは敵の裏をかくの好きだよね、なら……とことん相手の意表をついてかき乱せ。

 

「百裂ショット!!」

 

円堂の周りをエネルギーが舞い、右手へと収束。

その背後からは黄金の魔神が現れ、その右腕を振るう。

 

「マジン・ザ・ハンド!!」

 

魔神の右腕によってシュートは威力を削がれ、難なくボールを捉えてみせた円堂。

比得は先ほど見た円堂の新技である正義の鉄拳を使わせる事が叶わなかったことに少し苛立つものの、即座に守備に戻る。

円堂がボールを小暮へと回し、小暮から立向居、立向居から浦部へと次々にパスが繋がっていく。

浦部がゴール前へと走り出すが、その前にはDFの竺和が立ちはだかる。

浦部がフェイントを仕掛け、竺和を突破した。

 

「ほな、行かせてもらうでぇー!」

 

 

「……っ!!」

 

が、竺和は即座に切り返すと浦部へと再度ボールを奪いにかかる。

 

竺和、相手が1番油断するタイミングは突破した直後だ。君なら追いつける、わざと抜かれろ。

 

突破した事によって生じる達成感からの油断、浦部は元々調子にのりやすいタイプだったのもあり、竺和からボールを奪われてしまう。

 

「なっ?!」

 

「甘いんだよっ……!」

 

しかしながら、ボールを奪った事により隙が生まれたのも竺和。

無理な切り返しからボールを奪ったものの、そこには既にアツヤが迫っていた。

 

「貰ったァっ!!」

 

アツヤは竺和からボールを奪取するとゴール前へと躍り出る。

アツヤの周囲には吹雪が荒れ狂う、彼はその身を翻して回転の勢いをのせた蹴りをボールへと叩き込む。

 

「エターナルブリザード!!」

 

源田が心臓へと右手をかざすとドクンっ!と鼓動が響く。

その目には野獣のような獰猛さが宿り、背後に現れた暗い緑色をしたジャガーのようなオーラが吠えた。

 

「なんだあの技は……!!?」

 

鬼道は一瞬、パワーシールドの構えではない源田を見てビーストファングかと警戒した。

だが、試合前の源田の目にそんな物には頼らない覚悟を感じた彼は止めずに見ていたが。

あの技はビーストファングの派生のようだが、あの影山の負の遺産のような禍々しさを感じない。

 

「ハイビーストファング……!!」

 

シュートに向かって飛びかかる源田はその両手をまるで野獣の牙のようにボールへと叩きつける。

エターナルブリザードの氷と風が野獣のオーラを凍らせようとするものの、その牙によって砕かれた。

 

「なっ?!」

 

「反撃だ!!」

 

唖然とするアツヤを置き去りに、即座にボールを郷院へと投げ渡す源田。

先程の雷門の動きを真似たかのように郷院から弥谷、弥谷から不動へとボールが渡る。

 

不動は再度高くボールを蹴りあげると既に再度空中へと飛び上がっている比得の姿、今度はシュートを許さないと壁山や塔子が彼のシュートコースを塞ぐ。

が、それを彼は読んでいた。

 

「不意を突くなら、なにも俺じゃなくていいんだぜ!」

 

比得はヘディングでそのボールを反対側から走り込んでいた小鳥遊へと回した。

小鳥遊はボールを受け取ると即座に彼女へとマークしていた小暮を突破。

彼女が右手を凪ぐと、女性型の毒々しいオーラの紫色の魔神が出現した。

 

「なっ!!?」

 

「あれは円堂のような魔神?!」

 

小鳥遊がボールを蹴りあげると魔神がそれに追従し空からボールを地面へと殴りつけると毒々しいオーラをボールが纏う、勿論殴りつけた方向にはボールを蹴り上げた小鳥遊自身がそこにいる。

 

「ヴェノムドライブ!!」

 

その身を翻し、落下してきたボールへとボレーシュートを叩き込む小鳥遊。

彼女の放った紫色の毒々しいオーラを纏ったシュートが円堂へと迫る、円堂はその足を高く上げ、地面へと勢いよく踏み出すと捻りを加えた拳をボールへと突き出す。

 

「正義の鉄拳!」

 

毒々しいオーラを弾き飛ばさんと回転する拳型のエネルギーがボールへと叩き込まれる。

円堂はシュートの威力に少し顔を歪ませるものの、右手を押し込みそれを吹き飛ばした。

ボールはライン外まで飛んでいき、シュートを防がれた小鳥遊は軽く舌打ちするものの。

円堂はニカリと笑った。

 

「すげぇシュートだな!!」

 

「……どうも」

 

対戦相手である円堂からの突然の賞賛に毒気を抜かれてしまう小鳥遊、だが内心穏やかではない。

まさか雷門イレブンも強くなっているとはいえ、自分の新技を難なく止められるとは思っていなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は練習終わり!各自ストレッチとか入念にねー!」

 

沖縄での練習が終わる頃、彼女が皆に指示を出す中、小鳥遊は彼女へと声をかける。

 

「ねぇ、練習まだしたいから付き合って」

 

振り返った彼女の紅い瞳が真っ直ぐに小鳥遊を見つめ、二つ返事でいいよ!と花のように彼女は笑ってみせた。

 

ボールを蹴る2人、小鳥遊がドリブルをして彼女がそれを奪わんと素早い動きでコースを塞ぐ。

小鳥遊は巧みなボール捌きでなんとかそれを回避するものの、ポテンシャルで負けている小鳥遊の前に再度彼女は立ちはだかる。

そんな突破した相手が一瞬で立ちはだかる一進一退とも違ったよくわからない練習ではあったが小鳥遊は無心になれるという理由でこの練習が好きだった。

 

「……なぁ黒山羊」

 

「どしたの忍(しのぶ)ちゃん?」

 

他のメンバーが全員男子なのもあってか小鳥遊を下の名前で呼ぶのは彼女だけだ、小鳥遊は少し照れくささから一瞬言い淀んでしまうが、ボソッと口にした。

 

「私もシュート打ちたい」

 

「……」

 

「真・帝国学園のFWは比得と佐久間だった、不動も最近シュート練習してるけど、アイツの仕事は司令塔だ……なら、私が代わりにシュートを打つ」

 

「そっか、忍はアッキー……いや、不動くんとチームのみんなの為に頑張りたいんだねぇ」

 

彼女の言葉に更に恥ずかしくなって、思わず違う!と顔を上げるとニヤニヤと笑う彼女は一気に加速して小鳥遊からボールを奪った。

 

「ふっふっふ……集中力が足りないなぁ」

 

「誰のせいだ……!!」

 

彼女は豪炎寺や比得との特訓の後に小鳥遊との個人的な特訓を追加した。

豪炎寺がとある技を完成させた後は豪炎寺も加わり、比得と小鳥遊にFWの目線からアドバイスするなどして今の彼らがある。

彼ら自身、ただ雷門イレブンの練習相手で終わるつもりではない、地上最強イレブンに入れ替わる勢いで彼らは臨むのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は違うが、2つの意思が重なった。

 

「雷門イレブンを……!!」

 

小鳥遊が吠える。

 

「アイツらを……!!」

 

デザームが吠える。

 

『倒すのは私たちだ……!!!』




引き続きアンケートを作者の活動報告にて募集しています。



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じゅうななわ

お久しぶりです、まだまだ暑さの治まらない9月もよろしくお願いします。

1度書いたデータが消えた時はふて寝しました。


9/5みなてぃー様誤字報告ありがとうございます
同じく9/5サッカーの知識不足によるルールミスがあったため修正


「なんだあの技は……」

 

鬼道は困惑していた、真・帝国学園は影山が発足したチームであり前回の試合などでも使っていた技は帝国学園のものに通ずるものがあった。

だが、今彼女が使った技は帝国学園には全くないものだ。

つまりは彼女のオリジナル、だが前回彼女がMFをつとめていたこともあり完全にノーマークだった。

更には源田の新技もビーストファングの調整など技の考案者である影山と源田とは繋がりが無いはずなのに技を改良できている。

まだパワーシールドの強化版などなら話は分かる、あの技もビーストファングの派生だからだ。

だがアレは今源田の使った技とは真逆の方向性だ。

ビーストファングの効率化、影山も源田も着手したものの到達できていなかった領域にも関わらず短時間で成功している。

真・帝国学園の背後に何者かいるかもしれない、鬼道はそう思うものの、その存在が誰かまでは辿り着けない。

まさか、エイリア学園のザ・ジェネシスのメンバーだなんて想像もつかないだろう。

 

目座のスローインで再び試合が始まる、受け取った比得は即座にパスを繋げようとするものの士郎がそれをカットした。

士郎から鬼道へとボールが繋がり、鬼道は前線へと攻め込む。

鬼道の目前にはモヒカンの少年、真・帝国学園のキャプテンである不動明王。

鬼道がフェイントを仕掛けるも不動はそれに騙されない、鬼道が突破しようと加速するのを立ちはだかって阻害する。

不動がボールを奪おうとすれば鬼道はそれを回避する、不動がボールを弾こうとするがそれすらも鬼道は許さない。

2人の実力はほぼ互角。

 

不動程の選手がFFに出場していれば話題になっていたはずなのに。

瞳子監督や入院中の佐久間から聞いた話によれば。

鬼道程ではないが不動は実力者としてその地域では有名な選手だったらしい。

鬼道と違う点は……簡潔に言えば財力である。

鬼道は鬼道財閥に引き取られたことで金銭的には余裕があるどころか余るほどであると言えるだろう。

だが不動はその才を伸ばすのより、母親の力になる事を選んだ。

金銭的に余裕が無い中、自分のサッカーに母の努力して稼いだお金を使わせるわけにはいかない。

それが彼の選択だった。

他の真・帝国学園の選手たちもそのような家庭環境らしい。

そして、そこを影山に狙われたとのこと。

彼らの親を人質に彼らを無理矢理従わせていたとの事、前回の試合も源田と佐久間の暴走を止めようとしていたらしい。

 

エイリア学園との試合とは違う、正々堂々な上に実力はほぼ互角な展開に無意識に口角が上がる。

鬼道はボールを踏み付けるとまるでボールが増えたような錯覚を起こし、さらに鬼道の周りを舞ってみせたではないか。

 

「イリュージョンボール……!!」

 

鬼道有人の十八番ともいえる技、イリュージョンボール。

不動は自らを抜いてみせた鬼道に対し軽く舌打ちする、鬼道はそのまま前線へと突き進む。

鬼道に追従するかのように前線へとあがる一之瀬、2人は息のあったコンビネーションで真・帝国学園のDFたちを軽々突破していく。

そしてゴール前へと躍り出た2人、一之瀬が飛び上がり鬼道が真上へとボールを蹴り上げると一之瀬がヘディングで鬼道の元へボールを弾き返す、そのボールへと渾身の蹴りを繰り出す鬼道。

2人の連携によりパワーが込められたボールは勢いよくゴールへと迫る。

 

「ツインブースト!!」

 

そんなボールの前に立ちはだかる男、土方は軽く手を広げ脚を大きく上げる。

すると宙に巨大な足の形をしたオーラが現れる、そして勢いよく迫るシュートに対しソレは土方の動きに連携するかのように叩きつけられた。

 

「スーパーしこふみ!」

 

圧倒的な圧力によりシュートは止められ、土方がそれをキープするとアツヤが待っていたと言わんばかりにボールを奪いに走るが。

土方はアツヤが辿り着くより早く、それを思い切り蹴り飛ばした。

高く放物線を描いて飛ぶボールの先、待ち構えるは不動と比得の2人。

2人はボールに合わせて飛び上がり、二人同時に比得の打った百列ショットの構えをとると同時に連続でボールへと蹴り込む。

単純計算で先程の倍の蹴りがボールへと叩き込まれ、勢いよくボールはゴールへと突き進む。

 

『二百烈ショット!!』

 

壁山がボールの前に立ちはだかり、その背後に巨大な壁が現れた。

 

「ザ・ウォール!うぉおお!!」

 

巨大な壁が少しシュートの勢いを削るものの壁はシュートの勢いに負けてしまい砕かれた。

円堂は脚を高く上げてから強く地面を踏み締め捻りを加えた拳を突き出した。

 

「正義の鉄拳……!!」

 

回転する拳型のエネルギーがシュートにぶつかり、少し拮抗した後、シュートを弾き返した。

 

だが、その先に待っていた小暮がボールを確保するより早く、小鳥遊がそれを抑えた。

 

「なあっ!?」

 

「今度こそ決めてやる……!!」

 

小鳥遊が右手を凪ぐと、女性のような風貌の紫色の魔人が現れ彼女がボールを蹴り上げるとそれに魔人は追従する。

高く上がったボールを魔人は地面に向けて殴りつけ、下方で待ち構えていた小鳥遊はソレを強く蹴りつける。

 

「ヴェノムドライブ……!!」

 

紫色の毒々しいオーラを纏ったボールが間髪入れずにゴールへと向かう。

だが、円堂は再度脚を高く上げて地面を踏み締める。

捻りを加えた拳を突き出す……がエネルギーが現れるより早く、小鳥遊のヴェノムドライブが円堂の拳へとぶち当たり、勢いが増す前に円堂を拳ごと弾き飛ばしてゴールへと突き刺さった。

 

「……」

 

小鳥遊の表情が心なしか少し明るくなって彼女自身声を上げようとした時だ。

 

『よっしゃあっ!!!』

 

きょとんとする小鳥遊、今の声は?と後ろを振り向けば。

 

「やったな小鳥遊!あの円堂からゴールを奪うなんて!!」

 

「雷門相手に先制点……!!行けるぜ!!」

 

小鳥遊が決めた先制点により0-1で真・帝国学園リード、そう背後にいたメンバーたちはまるで自分が決めたと言わんばかりの歓喜の表情を浮かべ、小鳥遊を祝福する。

 

「テメェら!まだ前半なんだ、気ぃ抜いたら逆転されっかもしれねぇだろ!!落ち着け!!」

 

そんな風に窘める不動も心なしか口角が少し上がっている。

そんな彼らの姿を見て更に燃えるのが雷門イレブン。

 

「俺達も負けてられないぞ!」

 

「よし!ここから逆転だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒髪が跳ねる、デザームはドリブルでゴールに向かって走り、突如その姿が沈んだ。

 

よく見ればデザームがいた場所にはワームホールのような穴が生まれており、その奥には渾身の力でボールを蹴り出すデザームの姿。

 

「グングニル……!」

 

空中に現れる穴から一筋の槍のようなエネルギーを纏ったボールが現れ、一直線にゴールへと迫る。

ゴール前に立つのは1人の黒髪の少女。

 

「ザ・プレデター」

 

腕を凪ぐと爪のようなエネルギーが現れ、槍と爪が拮抗する。

拮抗したソレに向かって彼女が回転すると複数回の打撃音の後、ボールは真っ直ぐに反対側のゴールへと突き進む。

 

「ワームホール!!」

 

ゴール前に立ちはだかるゼルが両手を広げると緑の穴が現れソレを吸収せんとするがその穴は引き裂かれ、ゼルの身体を弾き飛ばしてゴールへと吸い込まれた。

 

「……覚えた?」

 

黒髪の少女……ニグラスが尋ねると悔しそうな顔をしているふたりが同時にもう一度……!と吠えた。

再度グングニルを放つデザーム、ニグラスはザ・プレデターでソレを難なく跳ね返し、ザ・プレデターを止めれず弾き飛ばされるゼル。

この光景はもう何度目だろうか。

 

「ザ・プレデターは私の考案した中でも中々高威力な技だからね、マスターランクのキーパーの皆にだって教えてないんだよ?」

 

ニグラスのその言葉に真剣な表情を向ける2人、ニグラスは笑顔で続ける。

 

「この技の前提条件は脚力に優れてることだからねー、FWとGKの両方を務められる君らじゃないと覚えられないかもしれないんだー……だって」

 

彼女の口が一際ニィと弧を描く、その様はまるでいたずらに成功した子供のようでありながらどこか妖しさも伴っている。

 

「ザ・プレデターはシュート技だからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「円堂、真・帝国学園は佐久間と源田、それとキャプテンの不動を警戒すればいいだけの前回とはまるで違う……あのディフェンスを無理に突破しようとすればカウンターで追加点を取られるかもしれない」

 

鬼道の言葉に雷門イレブンは顔を暗くする。

既に前半が終了しており未だに点数は0/1のまま、FWの2人とキャプテン不動の不意をつくような連携に防戦一方となっていた。

ディフェンスの厚いチームではあるが、その3人の連携は1+1+1は3よりもっと大きいものとなっていたのだ。

今の雷門にかけているもの、吹雪のエターナルブリザードは確かに強力な技ではあるが威力よりスピードを重視したあの技では突破できないのだ。

強力なシュート技が求められていた。

 

「アツヤ……」

 

「んだよ兄貴……」

 

そんな中、士郎はアツヤへと声をかけた。

アツヤの目線は兄の士郎ではなく、真・帝国学園の源田と土方へと向けられていた。

アツヤは内心焦っている、それは士郎もわかっていた。

 

「いいかいアツヤ、アツヤのエターナルブリザードはたしかに凄い技だ……僕には真似できてもアツヤほどの威力は絶対に出ない、でもエターナルブリザード小学生の時にアツヤが考えた技だ……これから先更に厳しくなっていく戦いでは通用しないのかもしれない」

 

その言葉を否定しろと鬼のような形相で士郎を睨むアツヤ、士郎はそれでも続ける。

 

「僕達が諦めてた技を今こそ試そうよアツヤ、ウルフレジェンドはまだできないかもしれないけど……もう1つのホワイトダブルインパクトならきっと源田くんのあの技も突破できるはずだよ、僕とアツヤ、1人では壊せない壁でも2人なら……!!」

 

「……俺一人じゃ不足だってか?」

 

「違うよ、僕だけじゃボールを奪えても勝負には勝てない、君だけじゃディフェンスを守ることはできない……1人で完璧な人なんていないんだよアツヤ……2人でやれば僕達はもっと強くなれるんだ」

 

その言葉にニヤリと笑ってみせたアツヤ、その顔を見た士郎も同じく笑う。

 

「わかったよ……行くぜ、兄貴」

 

「うん、頑張ろうアツヤ」

 

アツヤが拳を突き出せば、士郎もそれに応える。

 

歪んだ歯車は時間をかけることができれば修復できるのだ。

 

「キャプテン、僕達に秘策があるんだ」

 

士郎が声を掛ければ円堂とその隣にいた鬼道が振り返った。

 

「僕とアツヤ2人の必殺技で源田くんのあの技を突破してみせるよ」

 

「わかった!任せたぜ2人とも!!」

 

「……たしかに、俺たちの中で1番突破力が高いのはアツヤだ……任せるしかないか」

 

満面の笑みで答える円堂とは対称的に少し不安げな表情なのが鬼道だ。

たしかにアツヤは凄いシュートを打てるのだが連携に難があるためか、序盤の1回以外、ゴール前まで辿り着けていない。

 

「大丈夫だ」

 

そんな鬼道に向かってアツヤは不敵に笑う。

 

「俺達が決めてやる……!」

 

 

後半は雷門ボールでの試合開始、浦部が蹴り出しアツヤが走り出すがアツヤの前に立ちはだかる不動。

アツヤは確かにフィジカルに優れた選手だが、そういう選手を翻弄するのが得意なのが不動……それはアツヤ自身もなんとなく察知していた。

だから。

 

「ほらっ!!鬼道サン!」

 

不動が迫る中、アツヤはノールックでのバックパス。

これは真・帝国学園だけではなく、雷門も少し困惑していた。

だが、そのパスを受け取った鬼道はニヤリと笑った。

やっと、連携を取るようになったかアツヤ!と内心歓喜していた。

今までは手綱を握るようなゲームメイクだったが、アツヤが協力してくれるのなら、それはより効率的なゲームメイクが可能になるのだから。

 

鬼道、一之瀬が中心となって真・帝国学園のディフェンスを少しずつ、だが確実に掻い潜って進む。

そして、2人が前線に上がることでできたディフェンスの隙をつくように士郎が前線へと上がった。

そして士郎へとボールが渡り、アツヤが士郎の元へと駆けるが。

アツヤよりも早く士郎の前に立ちはだかる土方。

 

「行かせねぇぞ!スーパーしこふ……」

 

彼が片足を高く上げるのに対し、士郎はボールと共に高く跳んだ。

土方が作り出した巨大な足の形のエネルギーを飛び越え、更にその背後からは幻想的なオーロラが顔を覗かせる。

 

「オーロラドリブル……!」

 

土方は幻想的なオーロラに目を奪われ、気づけば士郎はもう既に彼を抜き去っていた。

しまった!と彼が叫ぶ中、吹雪兄弟がゴール前へと躍り出たのだ。

 

「合わせろアツヤ!」

 

「無理に合わせなくたって俺たちならいけるに決まってんだろ兄貴!!」

 

士郎がボールを蹴り上げ、それに回転をかけるアツヤ。

それと共にエターナルブリザードの時よりも強い吹雪が辺りを包み……まるで雪原へと迷い込んでしまったかのような錯覚を起こす程だ。

吹雪の中心に舞うボールへと両サイドから同時に回転しながら跳ぶ吹雪兄弟、そして2人は回転の勢いと捻りを加えた蹴りをボールへと叩き込んだ。

 

『ホワイトダブルインパクトォオ!!』

 

圧倒的な質量の氷と風が一気にゴールへと迫る中、源田は心臓へと手を掲げると鼓動と共に彼の背後へと現れる獣のようなオーラ。

そして巨大な吹雪へと彼は飛びかかった。

 

「ハイビーストファング!!」

 

源田の両手がまるで牙のようにボールへと食らいつく、巨大な吹雪へと立ち向かう獣。

そして拮抗する両者だが、長くは持たなかった。

凍りついていく牙、獣は少しずつ消耗しても尚吹雪はその勢いを止めない。

源田が必死に抗うが、そのパワーは源田の許容範囲を超えていたらしい。

 

「ぐっ、がぁっ?!」

 

苦悶の声をあげる源田は吹き飛ばされ、ゴールネットへとボールが突き刺さった。

 

「協力したからこそ、あの技を決められた……やったねアツヤ!」

 

「ああ!俺たち2人のゴールだ!!」

 

アツヤの言葉に思わず声をかけようとする士郎だが、その声は自陣からの歓喜の声に掻き消された。

賞賛の声が吹雪兄弟へと向けられる。

浦部なんて悔しいと言いながら賞賛する矛盾じみた行動に一之瀬も困惑しながら抱きつかれている。

 

「次はアタシたち2人のラブラブバタフライドリームやね、ダーリン!」

 

「えぇ?!」

 

次第に笑い声へと変わっていく最中、士郎は言えずにいた。

士郎はアツヤが本当にわかっているのか不安だ。

今のシュートを打てたのは他の皆も協力してくれた故なのだから。

だが、そんな彼の思案も他所に試合は続く。

 

その後も試合は暫く一進一退の白熱したものとなった。

小鳥遊が再度ゴール前へと迫る、それに応対するは塔子と壁山。

巨大な塔と壁が現れると、身軽故に体の軽い小鳥遊を弾き飛ばした。

 

「ぐっ!!」

 

「ボールは貰ったっスー!……ってあれぇー?!」

 

だが、弾き飛ばした小鳥遊はボールを持っていない。

 

「ヒャッハァ!!」

 

気づけば宙に舞い上がる比得、そしてボールを持っていたのは不動。

 

「マキシマムサーカス!!」

 

不動の掛け声と共にボールが5つに別れ、不動はそのボールを連続で宙へと蹴り上げた。

空中で1つへとまとまるボールには不動渾身の5発分のエネルギーが込められており、それを比得は踏みつけるかのように何度も何度も蹴りつけた。

 

「百列ショットォッ!」

 

2人の……否、囮となった小鳥遊も含めて3人の連携で高威力のシュートが再び円堂を襲う。

だが、円堂の元に辿り着く前に小暮が立ちはだかった。

逆立ちの体勢をとると、脚を高速で回転させる小暮。

 

「旋風陣!!」

 

その名の通り旋風がシュートの軌道をずらそうとするものの、不動がニヤリと笑った。

 

「その程度で防げるかよぉっ!!」

 

旋風をすり抜けシュートは小暮をスルー、勢いは止まらず円堂の元へと迫る。

脚を大きく上げる円堂、強く踏み締め、捻りを加えた拳がシュートへと向けられる。

 

「正義の……!!」

 

その時、立向居は震えた。

彼は円堂の習得した正義の鉄拳という技に少し違和感を覚えていた。

ゴッドハンドやマジン・ザ・ハンドは1度目にしただけで圧倒され歓喜で身が震えた。

だが、正義の鉄拳にはそれを感じなかったのだ。

たしかに正義の鉄拳は円堂の持つ2つの必殺技より高い威力を秘めている、それは彼も感じていた。

だが、必殺技を1匹の獣に例えるならゴッドハンドやマジン・ザ・ハンド、そしてデザームの使ったドリルスマッシャーや源田のビーストファングはライオンや虎、ジャガーを見ているかのような覇気を纏っていた。

だが、正義の鉄拳はライオンはライオンでも子供のライオンを見ているようでどこか危なげだった。

その正義の鉄拳が前よりも覇気が強まっているかのような、そう、子供のライオンが成長しているかのような錯覚を覚えたのだ。

 

「鉄拳!!」

 

回転する拳のエネルギーは前よりも密度を増しており、回転の勢いも強い。

マキシマムサーカスと百列ショットの連携技に対して少しの拮抗の後、軽々と跳ね返した。

 

『なっ?!』

 

驚愕する2人をおいてけぼりにしてボールは士郎の元へと渡った。

士郎へと迫る真・帝国学園のMF目座と日柄、だが士郎は持ち前のスピードで簡単に2人を突破してみせた。

呆気に取られる2人を後目にボールは一之瀬へと渡る。

一之瀬と鬼道、そして浦部とアツヤの4人が同時に上がることで真・帝国学園のDFたちは対応に追われるが、得点源は吹雪兄弟だということを察知したDFたちは咄嗟に皆アツヤに重点を置いたマークとなるが一之瀬は軽く笑うとパスをせずそのまま駆け出した。

その動きに反応していた土門と円堂の2人がその背後に控えていた。

既に一之瀬へとボールが渡っていた時には動き出していたのだ。

 

郷員や竺和が咄嗟に駆け出すが、3人はボールを中心に交差し炎とともにボールが舞い上がる。

炎を纏ったボールへと追従し、3人はそれを踏みつけるかのように蹴り出した。

 

『ザ・フェニックス!!』

 

蹴り出した瞬間、ボールの周りを舞っていた炎が巨大な不死鳥の如き形を描き、ボールと共にゴールへと迫る。

源田は心臓へと手を掲げ、大きな鼓動と共にその目が獣のように輝く。

背後に現れる獣のようなオーラ、そしてボールへと飛びかかった。

 

「ハイビーストファング!!」

 

野獣が不死鳥を狩らんと牙を剥き、不死鳥の身体……パワーを削る。

少しずつ圧倒していくハイビーストファングのエネルギーにザ・フェニックスがもう消えかけた……そう思われた時。

 

再度灯る炎、消えかけた炎は先程より威力を増して獣を焼く。

 

「ぐっ!!おっ……おおおお!!」

 

源田が思わず苦悶の声をあげる、真・帝国学園のメンバーが見守る中彼は渾身の力を振るうが。

彼の身体が少しずつゴールラインへと押し込まれ。

 

『いっけぇええ!!』

 

源田はボールをなんとか押さえ込んだ、あまりの威力に弾き飛ばされそうになったが彼は踏みとどまった。

だが、その身体はボールごとゴールラインを超えてしまっていた。

 

2/1

 

雷門イレブンの勝利である。



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じゅうはちわ

約8ヶ月、かなりの間を空けました……すいません。

理由はまた今度、活動報告にでも今度書きますが、あまり読んで気持ちのいい理由でもないです。


雷門中と真・帝国学園の練習試合を終えた夜、鬼道は1人真・帝国学園のメンバーが泊まっている土方の家へと赴いていた。

東京とは違った満天の星空の下、どこか鬼道の足取りは軽かった。

それも無理はない、再起不能になりかけていた帝国時代の仲間である源田は雷門との練習試合ができるほどに回復していたのだから。

彼の視線の先、源田は軽く手を上げた。

軽く笑い、手を合わせると軽い音が鳴る。

こうしてまた、ちゃんと話せるのがとても嬉しかった。

 

土方家の縁側にて、語り合う2人。

 

「佐久間は、もう少し時間がかかるな……流石に皇帝ペンギン1号を2発も打ったアイツの脚への負担は計り知れない……」

 

「……そうか」

 

「なーに、佐久間クンも他の帝国学園のメンバーもリハビリは順調だ、あと数週間もすればサッカーできるレベルにまで回復するさ」

 

鬼道と源田がどこか寂しげな表情を浮かべる中、腕を組んでいる不動は鬼道の背後をとるような位置で空を見上げていた。

 

「そういえば源田、ハイビーストファングだったな、あの技は凄かったな……お前が実践レベルまで昇華させたのか」

 

「いや、あの技を改良したのは俺じゃない」

 

「ならば誰が……?」

 

源田の言葉に疑問符を浮かべる鬼道、源田は1拍遅れて顔を顰め、不動は鬼道から見えない位置で呆れた顔をしている。

鬼道の脳裏に浮かぶ人物は雷門をフットボールフロンティア優勝まで導いた響監督、もしくは現在行方不明の佐久間や源田、真・帝国学園を嵌めた影山。

 

「あー……とりあえず、改良の手伝いをしてくれた黒山羊は俺たちの敵じゃない……」

 

どこか気まずそうな顔をしながら源田は話題を逸らすように佐久間を初めとした帝国学園のメンバーの現在について鬼道が聞いていないにも関わらず話し始めた。

鬼道は源田が誤魔化していることには気付きつつも源田が言っていた『黒山羊』という人物に思いを馳せていた。

試合中は縄張り争いをするライオンのように荒々しくなる彼だが普段は温厚かつ礼儀正しい性分からして恐らく年上に対しては敬称をつけるはずだ……その点を考えれば『黒山羊』なる人物は同世代、しかも下手をすれば年下の可能性すらある。

だが、白恋で吹雪兄弟をスカウトした後、鬼道はフットボールフロンティアに参加していた強豪校のデータを網羅し次なるスカウトの対象を探していたりもしている中様々な人物のデータを収集していたが『黒山羊』なんて苗字、もしくは名前の選手はいなかった。

しかしながら、黒山羊秀子の出身校である永世学園は今回の作戦の為にサッカー部は一時的に活動停止している上、黒山羊秀子は女子なので男子サッカー大会に彼女のデータがないため彼の記憶に思い当たる節がないのは当たり前ではある。

少し考えて、鬼道は1度思考を放棄した。

そんなことより、今は、今だけは、仲間や友との時間を大切にしよう。

エイリア学園との戦いはまだ続く、なら、帰るべき場所があってこそ、守るべきものがあってこその力が必要な場面もある。

それは、帝国を離れ、雷門に加入した今だからこそわかったことだ、いや、本当は帝国の仲間たちと育んできていたものが雷門で開花しただけなのかもしれないが……。

ならば、それに気づけた今は、この時間を精一杯噛み締めよう。

鬼道と源田、そして不動を含めた3人の談笑を静かに星空は見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、次の日、ソレは訪れた。

宙から堕ちるは漆黒のサッカーボール、日本各地で破壊をもたらしたソレが大海原のグラウンドへと無慈悲にも届けられた。

暗雲が空を包み、光と共に現れたのは11人の影。

 

「さぁ、出てこい雷門……」

 

筆頭に立つは背の高い黒髪の少年、デザーム。

その双眸が開かれ、紅い眼が周囲を睨む。

そこに居るのは目的の雷門ではなく彼らにとっては取るに足らないであろう大海原のメンバー、だが、彼らにとってはそれでも構わない。

どうせ、彼らと試合でもしていれば、勝手に雷門は来るのだから。

 

「我らは星の使徒エイリア学園ファーストランクチーム、イプシロン……いや、イプシロン改……!!」

 

大海原のメンバーたちへと、告げられる。

 

「6分だ、6分で終わらせる」

 

悪魔の数字、終わりへの時間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷門のメンバーとその練習に付き合っていた綱海は報せを聞いてすぐに駆けつけた。

面々の視界に広がる凄惨な光景、大海原中の選手たちが倒れており彼らを見下ろすようにしてイプシロンたちがグラウンドに立ちはだかっていた。

 

「……遅かったな、雷門中よ」

 

黒髪の青年、エイリア学園ファーストランクチームイプシロン改のキャプテンのデザームが仁王立ち、正面から雷門の面々を睨む。

 

それに負けず、雷門中のキャプテンである円堂も、いや雷門中の面々は誰1人怯むことなく立ち塞がるのだ。

円堂は力強く叫んだ。

 

「行くぞ……デザーム、今度こそ決着をつけてやる!!」

 

「かかってこい雷門中……!!イプシロンを超え、我々はイプシロン改(更なる高み)へと至った……今までの私たちと思っていたら大間違いだ!!」

 

そんな彼らを見つめる影があった。

 

フードを深く被った少年、そして不動と土方。

そんな彼らは大海原中の校庭に何本か生えているヤシの木に身を潜めている。

 

「エースストライカー君、今のアイツらなら勝てると思うか?」

 

「円堂たちなら……と言いたいが、少し気になるところがある」

 

「あの吹雪ってヤツなら、すげぇ技をこの前完成させたみたいだぜ!ホワイトダブルインパクト……すげぇ威力だった!なぁ不動!!」

 

「暑苦しぃんだよ……」

 

土方が笑う中、1人思案を止めないフードの少年、豪炎寺。

そんな彼の姿を見て、不動も思考の海へと浸かろうとするが肩を組んでくる土方が鬱陶しいのか苛立ちが隠せない。

 

「あの吹雪というストライカーとしての実力は確かだ、だがエースストライカーとしての力が足りていない」

 

「……」

 

誰かが息を飲んだ、不動?土方?もしかしたら2人ともかもしれない。

 

豪炎寺の言葉を聞いて、2人は納得してしまったのだ。

そう、吹雪アツヤはストライカー足り得ても、エースストライカーにはまだなれない。

エースに必要なピースを、彼はまだ持ち合わせていないのだ。

そんな彼らの想いを置いていくかのように試合は始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷門とイプシロン改の試合が始まる。

 

イプシロン改は今まで通りイプシロンのメンバーで変わりはない。

GKのデザーム

DFのケンビル モール ケイソン タイタン

MFのファドラ クリプト スオーム マキュア メトロン

FWのゼル

 

中盤特化の盤面を支配するチーム。

 

そして雷門

GKの円堂

DFには綱海 壁山 小暮 土門

MFには一之瀬 塔子 鬼道 士郎

FWのアツヤ 浦部

 

前回の試合のホワイトダブルインパクトを活かすためにも鬼道はスピードの優れている士郎を中盤に配置した。

そして、本人の強い要望によりチームに加わったのは綱海だ、まだ経験も浅く技術も拙いとはいえ彼のサーフィンで鍛えてきた体幹や彼の必殺技、ツナミブーストはきっとイプシロン改との戦いで強い切り札になる。

睨み合うアツヤとゼル、位置は遠くとも円堂とデザームも視線が交差し火花が散る。

 

そして試合はイプシロン改ボールから始まり、マキュアがゼルからボールを受け取り駆け出した。

そんな試合開始の僅かな挙動などで鬼道たちは感じ取っていた、イプシロン改の動きが前より早い、だが、それは自分たちも負けてはいないと。

 

俊敏に駆けるマキュアへと一之瀬が肉薄、前線の方からやってまえダーリン!となにやら大声が聞こえるが一之瀬はそれを軽く無視した。

マキュアが空高く飛び上がったからだ、メテオシャワー、マキュアの使うドリブル技に少し警戒する。

 

「メテオシャワー!!」

 

高く飛び上がったマキュアが空中から隕石を落とし一之瀬を撹乱する、そこで一之瀬は違和感を感じ取った。

この技は隕石をぶつける技だったはず、だと。

だが、気づいた時にはもう遅い。

「メトロン!」

マキュアは隕石にボールを紛らわせ逆サイドのメトロンへとパスを繋げた。

 

雷門のMFを必殺技を用いたフェイントで欺き突破したイプシロン改、綱海が行かせるかよぉっ!と怒号を上げながら迫るが。

 

「綱海待て!」

 

鬼道が叫ぶも、もう遅い。

 

「ゼル!決めろ!!」

 

メトロンは短くボールへと足を出し、弧を描くようにボールは綱海を超えゼルへとボールが渡った。

 

「なっ?!」

 

ゼルが両手を構え、ボールに触れないギリギリに突き出した。

 

「ガニメデプロトン!!」

 

両手から衝撃波とエネルギーを発し、ボールが射出される。

審判が笛を吹こうとして止めている。

 

勢いよく飛んできたボールを円堂は慌てず正面から見据え、片足を高く上げる。

勢いよく地面を踏みしめ、身体全体で回転をかけた拳がエネルギーを伴ってボールへと叩き込まれる。

 

「正義の鉄拳G2!!」

 

イプシロン改のゼルとデザームが目を見開いた、どこか違和感がある。

かつて立向居が感じたソレを彼らも感じ取ったのだ。

 

ガニメデプロトンのエネルギーを打ち消し、拳は振り抜かれ、ボールは宙を舞った。

それを捉えたのは土門、円堂なら止めてくれると信じていた彼は正義の鉄拳が放たれた段階で先に動いていた。

 

「待ってたぜ円堂!」

 

土門はそのまま塔子へとボールを繋ぎ、塔子と鬼道が2人で駆け出した。

軽いアイコンタクトが鬼道から士郎へと送られる。

士郎は軽く頷くと前線へと単独で駆け出した。

 

「カウンターだ!仕掛けるぞ!!」

 

正義の鉄拳はパンチ技だ、それ故にボールをキーパーである円堂自身がキープする時間は皆無と言っていい、それにDFの土門はアメリカでの長い実戦経験でキーパーのパンチ技でボールがどこに跳ぶのかを判断するのに長けていた。

鬼道が一之瀬と土門の所属していたアメリカチームでの動きをビデオで確認していた時にこの高速カウンターを作戦に組み込む事を考えついたのだ。

 

「クリプト!ファドラ!」

 

イプシロン改のゴールからデザームが叫ぶ、素早い動きで2人がボールを抑えにかかるも塔子は鬼道への短いパス、そして鬼道はボールを駆け出したまま踏みつける。

 

「イリュージョンボール!」

 

ボールが増えたかのような不規則な動きで撹乱し、鬼道は楽々とMF2人を抜き去った。

視線の先、アツヤはDFのタイタンとモールに完全にマークされている、ならばここは。

 

「浦部!」

 

FWの浦部へとボールが渡るがそれをケイソンが突破を許さない、浦部は必死にキープするもこのままでは奪われるのも時間の問題……だが、彼が追い付いた。

 

「浦部さん!」

 

士郎が声をかけた瞬間、浦部は彼へとボールを回す、ケイソンのしまった!という声を置き去りに士郎はゴール前へと迫る。

それを見逃さないのがアツヤだ。

 

「待ってたぜ兄貴!!」

 

士郎はボールを蹴りあげる、アツヤがそれに回転を加える事で強力な吹雪が巻き起こる。

ケンビルがそれを止めに入ろうとするも思うように近づけない。

 

「ケンビル!打たせろ!私が止める!!」

 

体力の消費を抑えるため、否、この強力なシュートと戦うため、デザームは声を上げ、正面から2人を睨む。

 

「さぁ来い、雷門よ……私を楽しませてみろ!!」

 

ボールの両サイドへと回転しながら跳ぶ2人は同時に勢いをつけた蹴りを叩き込む。

 

『ホワイトダブルインパクトォ!』

 

エターナルブリザードをも超える吹雪を纏ったボールがゴールへと迫る、それをデザームは大きく笑いながら片手を掲げる。

 

「面白い!受けて立つぞ!!ドリルスマッシャー!!!」

 

重厚な鉄の塊、巨大なドリルが掲げた右手から出現し吹雪とドリル、2つの強大なエネルギーがぶつかり合う。

白い回転エネルギーと鉛色の回転エネルギー、2つは互いを消さんとばかりに唸り、更に昂る。

 

それは本当なら一瞬の出来事だ、だがそのエネルギーのぶつかり合いは本当に永く感じられた。

鉛にヒビが入る、吹雪に乱れが見える。

 

そして、デザームのドリルスマッシャーは砕け散った。

 

「やっ……!!?」

 

士郎が歓喜の声を上げようとした、が。

 

ボールはゴールポストへ直撃、得点には至らなかった。

2人の協力技が防がれた、その事実に士郎がそんな……と少し呻いた。

だが、それよりも。

 

「嘘だ……俺と兄貴の2人がかりだぞ、俺だけじゃねぇ、俺たちの……」

 

ゴールポストから跳ね返ったボールをケンビルが捉えた、近くにいるのは士郎とアツヤ。

士郎が急いで駆ける、だが、アツヤは動けない。

士郎や鬼道がプレイしながらもアツヤを呼ぶが動かない。

 

それを見て、デザームは目を閉じた。

 

「カウンターだ!」

 

まさかの、カウンターからのカウンター、攻守入り交じる接戦である。

 

士郎が追いつくより早くケンビルからマキュアへとボールが渡る、だが、中盤の要であるMFたちは前線へと走っていたため、容易に雷門ディフェンスラインまでイプシロン改のメンバーたちが迫る。

 

サッカー実戦経験の少ない小暮、綱海は咄嗟に対応出来ず抜かれた。

壁山がザ・ウォールで止めに入るも弱点であるサイドをパスで通すことで抜かれた。

ゼル、メトロン、マキュアの3人がボールを中心に一気に力を解き放つ、地面からも溢れるエネルギーを纏わせ3人同時にボールへと蹴りを叩き込んだ。

 

『ガイアブレイク!!』

 

円堂は片足を高く上げ、大きく踏み込み、全身を使って回転をかけた拳を叩き込む。

 

「正義の鉄拳G2!!!」

 

拮抗する大地の力と拳をこの戦いを制したのは……。

 

ゴール!と実況が叫んだ、ゴールネットからボールが転がっている。

先制点はイプシロン改、これは雷門にとってとても痛い1点だった。

 

項垂れる雷門イレブン、それを観客席から見ていた3人の内、1人が腰を上げた。

フードの少年、豪炎寺が彼を見上げる。

 

「……すまない」

 

「良いってことよ……鬼道クンもなってないねぇ……カウンターは確かに強力だけどよ……カウンターの弱点もやっぱりカウンターに弱い……簡単な事だってのにねぇ……」

 

彼がフィールドへと歩みを進めた。

 

「鬼道クーン、力、貸してやろうか?」

 

別の世界で、力に縋った彼は、いない。

ここにいるのは、正しき事のためにその力を正しく、効率よく振るうジョーカー。

 

「不動……お前」

 

「なぁに、俺もエイリア学園には借りがあるからなぁ」

 

不動が雷門ユニフォームに袖を通す、そして。

「守備を任せていいか不動」

 

「良いのかい?俺は一応、影山の傘下にいた人間だぜ?」

 

「お前の実力はわかってるさ」

 

「ありがたいこった、なら攻撃の指揮は任せるぜ鬼道クン」

 

雷門はポジション変更、小暮を下げてDFに士郎を、MFに不動。

2人の指揮官が戦場に立つ。

 

「不動!よろしくな!!」

 

円堂が片手を差し出す、それを不動ははいはいと軽く言いながら握ると円堂は力いっぱい振りながら握手をするものだから不動は軽く揺さぶられた。

 

「アツヤ、さっきは惜しかったけど、次こそは決めよう!」

 

そう士郎がアツヤに話しかけるもアツヤは軽く相槌を返すとポジションへと戻っていってしまう。

士郎が心配そうに見つめる中、彼はフラフラとした足取りだ。

そんな彼にもう一度話しかけようとするも、試合再開もあり不動から守備の確認と声をかけられ士郎はフィールドへと駆け出す。

 

そして、試合はまた動き始める。

 

雷門ボールからの試合再開、浦部はアツヤへとボールを渡すと。

 

「……ってやる」

 

即座にアツヤが駆け出した。

 

「やってやんよォ!!!」

 

ゼルとマキュアを半ば無理矢理、ファウル寸前の乱暴なプレイで抜き去った。

そんな彼を見て鬼道と一之瀬、士郎がアツヤの名を呼ぶが彼は止まらない。

 

「兄貴と俺の2人なら勝てんだよ!俺が点をとる!兄貴が止める!それが最強だ!!!」

 

イプシロン改のメンバーがアツヤへと駆け出すがデザームが叫んだ。

 

「いい!打たせろ!!」

 

その目は先程とは違い、戦いに飢えた目ではない、なにかを見定めんとする冷めた目だった。

アツヤのフォローのために浦部、鬼道、一之瀬も駆けるが最高速へと達した彼に追いつけない。

 

「アツヤ!待て!」

 

「アツヤくん!待つんだ!」

 

アツヤはゴール前へと迫り、そのままシュートの体制へと入った。

 

「吹き荒れろぉっ!!」

 

彼を中心に荒々しく風と雪が舞う、回転をかけた蹴りがボールへと吸い込まれる。

 

「エターナルブリザードォ!」

 

吹雪を伴ったボールがゴールへと迫るものの、デザームは呆れたかのような表情のまま淡々と流れ作業のように両手を広げる。

 

「ワームホール」

 

エターナルブリザードはいとも容易くデザームの前に空いた穴へと吸い込まれ、気づけば止められた。

そんなボールを彼は差し出すかのようにアツヤへと転がして返した。

 

「そんなものか?」

 

「……!!」

 

沸点へと達した彼の思考は最早正常ではなかった。

 

「エターナルブリザードォ!」

 

再度展開される吹雪、そして蹴りを叩き込む。

また、デザームが両手を掲げるとワームホールが出現し、全く同じように止められた。

 

「……つまらん」

 

デザームはケンビルへとボールを投げた、そんな中、アツヤが崩れ落ちる。

 

「……あ、くっ……あっ……」

 

声にならない呻き声、そしてボールが自陣へと運ばれていく間も彼は動けなくなってしまった。

 

「クソがぁぁぁぁ!!!」

 

叫びも、まさしく負け犬の遠吠え……悲しくフィールドに響いただけだ。

 

そんな彼を知らぬとばかりにイプシロン改のケンビルからタイタン、タイタンからファドラへとボールが渡った。

そしてファドラが次のメンバーへとボールを回そうとするが、マキュアには不動、メトロンには吹雪がピッタリとマークについている。

 

不動の作戦としては容易い、先程円堂の技を破ったガイアブレイクは3人の協力技、ならばゼル以外の2人を抑えてしまえばいい。

そして。

 

「ゼル!」

 

攻めの要であるゼルのシュートは円堂ならば止められる。

ゼルへと渡るボール、ゼルは単独前線へと駆け上がる。

そう、ゼルは唯一のFW、彼一人だとしても、得点をとろうとするならば彼は攻め込まねばならないのだ。

それが罠だとわかっていても。

 

「ガニメデプロトン!!」

 

両手から衝撃波を放ち、ボールを射出する。

だが、それを円堂は完全に捉えている。

 

「正義の鉄拳G2!!」

 

回転をかけた拳のエネルギーがガニメデプロトンを弾き返し、ボールはまたも土門が抑えた。

ここから反撃を狙う……それが鬼道と不動、2人のたてた基本戦術だった。

だが、雷門の攻めの要であるアツヤは動けない。

 

「クッソ……こっからどーすんだ……!!」

 

土門から一之瀬へとボールが渡り、一之瀬と塔子は前線へと駆け出した。

 

「どうする一之瀬……ここはアツヤ抜きでもやるしかないよ?」

 

「わかってる、俺たちだけでも突破口を開くんだ!」

 

一之瀬と塔子のパス回しでスオーム、クリプトの2人を抜き去った。

塔子は守備の方が得意とはいえ成人も所属するチームのキャプテンを勤めていた程のMF、その技術力は鬼道や一之瀬には及ばないものの優れているといって間違いない。

 

「リカ!」

 

一之瀬から浦部へとボールが渡り、彼女に追従するかのように塔子は更にスピードを上げた。

2人は軽いアイコンタクトから同時に飛び上がる。

 

『バタフライドリーム!』

 

2人の放った協力技はゆらゆらと不規則な軌道で左右に揺れ、まるで空を舞う蝶のようにゴールへと迫るが。

 

「ワームホール!」

 

デザームのワームホールにより、容易く止められてしまう。

 

そしてデザームはその確保したボールをわざとフィールドの外へと投げた。

 

「交代だゼル……解禁する」

 

「了解」

 

11人のチームであるイプシロンから選手交代の申請、それにより鬼道や不動、そして円堂は疑問を抱かざるを得ない。

 

「交代って……誰と誰が……?」

 

その疑問に答えるかのように、デザームとゼルがユニフォームの胸に当たる部分にある装置に触れる、するとデザームとゼルのユニフォームのデザインが入れ替わった。

ゼルはキーパー用の黒いものへ、デザームのユニフォームがフィールドプレーヤー用の赤いものへと。

 

「なっ、デザームお前」

 

「ふん、私は普段ゴールキーパーとして戦ってはいるが、それは己の強すぎる力をセーブするためよ、私はフィールドプレーヤーとして、貴様に挑戦しよう……円堂!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合は再び幕を上げた。

一之瀬が投げたボールは浦部へと渡り、浦部がゴール前の密集地帯へと駆けるも突破もパスも難しい、本来ならこういう場面でアツヤの突破力が発揮されるのだが。

視線の先の彼は項垂れた様子で誰から見ても覇気がない、そんな彼に頼るのは自殺行為だ。

少しずつ逃げ場を無くされる中、自陣から颯爽と現れる者がいた。

 

「浦部さん!」

 

浦部は彼へとボールを託した。

 

「頼んだで!士郎!!」

 

士郎は密集地帯の外から一気にゴール前へと接近、そしてシュート体制へと入った。

ボールへと両足を上手く使い、回転をかける、すると強烈な風と雪が舞い散る。

その動きに見覚えがある。

 

「行くよっ!」

 

強烈な吹雪をボールに纏わせ、士郎の蹴りがボールへと吸い込まれる。

 

「エターナルブリザード!!」

 

それは、アツヤの技だった。

双子である士郎はよく見れば見分けがつくものの、技の最中というのもあり、アツヤに被る、そう、動きでさえもアツヤと遜色ないのだ。

アツヤに劣らない程の威力のエターナルブリザードを士郎はやってのけた。

 

だが、それを見てゼルは不敵に笑う。

 

「貴様らも隠し球を持っていたか……行くぞ雷門中、我らイプシロン改の本当の力を見せてやる!!」

 

ゼルが片手を振るう、すると爪や牙のような鋭いエネルギーが展開されエターナルブリザードと衝突、せめぎあう。

 

「ザ・プレデター!!」

 

3度、銃撃音と聞き紛うばかりの打撃音が響きエターナルブリザードは跳ね返された、そのままの勢いでボールは中盤のマキュアへと渡った。

あまりの速さに、鬼道や不動も対応が遅れた。

士郎の放ったエターナルブリザード、それだけでも驚いていたのに、それを容易く跳ね返し、それどころかそのボールは自陣へと一瞬で渡った。

この流れに鬼道は既視感を覚えている。

マスターランクチーム、ザ・ジェネシス。

ゴールキーパーのニグラスといったか?あの選手のやってのけたプレーに似ている。

 

「デザーム様!」

 

そんな思案すら、試合中には許されない。

そう、今は雷門中にとってのピンチ真っ只中なのだから。

マキュアのパスはデザームへと渡り、デザームはゴール前へと駆け出すかと思いきや、その場で停止した。

これを好機とボールを奪いにかかる土門と綱海、だがそんな2人の視線の先、デザームの姿が消えた。

早すぎて見失った?跳んだ?どちらも違う。

 

デザームは沈んだのだ、自らの足場にワームホールを作り出して。

 

「雷門中よ、これが我らイプシロン改の本当の実力だ!!」

 

ワームホールの先、異空間でデザームは渾身の蹴りをボールへと浴びせた、すると翠の槍を象ったエネルギーを形成、ボールは異空間から飛び出し一気にゴールへと迫る。

 

「グングニル!!!」

 

突如異空間から現れたボールに面食らいながらも、円堂は片足を高く上げ力強く踏み込み、全身を使った捻りを加え拳を叩き込む。

 

「正義の鉄拳G2!!!」

 

だが、わずかな均衡の後、槍は拳を貫いた。

揺れるゴールネット。

デザームは円堂を睨んだ。

 

「こんなものではないだろう雷門中!私たちが全力で倒そうとしている貴様らはまだこんなものでは無いはずだ!!」

 

絶望に打ちひしがれる雷門中のメンバー、そしてそんな彼らを見る事しかできない豪炎寺。

 

そんな彼の元に1人の男が近づいてきた。

 

「豪炎寺君」

 

土方と豪炎寺が振り向いた。

 




久しぶりの執筆て上手く書けたか不安すぎる……皆様大変お待たせいたしました。


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じゅうきゅうわ

おかえりとか待ってたって言葉、本当に身に染みる。
感想への評価が24時間に5回しか付けれないのが悔しい……全部評価させて……。




「できた……」

 

そう呟いた声はか細かった。

イプシロンの控えキーパーである白髪で褐色肌の少年、ゼルは嬉しそうに顔を上げた。

 

「ゼル、すっご!この技できたの私以外だと君が初めてだよ!ネロは諦めて新技に取り掛かってくらいなのに!」

 

黒髪の少女、ニグラスが嬉々とした表情を浮かべる一方、同じく黒髪で黒い瞳を持つ背の高い少年……?デザームは確かに感じ取っていた。

 

「……言い訳にしか聞こえないかもしれないが、この技は私向きではないな」

 

その言葉に顔をしかめるゼル、彼を差し置いて自分が出来てしまったことにどこか罪悪感があるのかもしれない。

だが、それを聞いたニグラスは納得していた。

ザ・プレデター、この技は一見するとパワータイプの技に見えるが、実はスピード特化の技なのである。

利き手で宙を薙ぎ鉤爪のようなエネルギーを放出した後、利き足、逆足、更に利き足での3連撃をボールにぶつける事によって一気に力を解き放つこの技は。

いずれパワーでは男子たちに追い抜かれる事を前提として技術で勝つための技なのである。

だが、彼女自身この世界に生まれ落ちてからまだこの世界の男子たちに引けを取らない……むしろトップクラスの脚力を持っているがためにこの技は半ば凶器のようになってしまっている。

 

そして、デザームはスピードよりパワー重視の選手だ、そんな彼にこの技は不向きであった。

尚、ネロがこの技を諦めたのは彼自身小柄なのもあって蹴り技が不向きかつ、彼はこのフォワード並の脚力を持つというなんとも奇っ怪なこのキーパー3人とは違い純粋なキーパーなので当たり前とも言える。

 

 

「まぁオサームにはグングニルとドリルスマッシャーがあるしね、充分でしょ」

 

逆にニグラスはずっとデザームと共に修行していたゼルが何故かグングニルとドリルスマッシャーを習得していなかったことの方が気になってはいたが……。

ゼルもまたどちらかというと技術派の人間だったということだろう、ニグラスはそう思うことにした。

デザームとゼルがオサームという新しい固有名詞に面食らいながらも、再び練習へと戻ろうと踵を返す。

そんな彼らにニグラスも支度をしながらも声をかけた。

 

「これで私からの支援は終わり、まぁ2人……いや、皆ならこれで大丈夫でしょ?」

 

「無論だ、もともと最初から我らだけの力で雷門中を倒すはずだったのだからな、だが感謝する」

 

ニグラスは知っている、この後彼らは雷門との再戦し、パワーアップした豪炎寺の復帰によってイプシロン改は負けてしまうことを。

そして更に、そのただでさえパワーアップする豪炎寺をニグラス自身が育てたことによってもしかしたら元々の豪炎寺より強化されている可能性だってある。

 

「……うん、わかってるよ、まぁ頑張ってね!もしイプシロンが負けても私たちが雷門中なんて倒しちゃうからさ」

 

罪悪感、先程ゼルが感じたものよりも大きいそれがニグラスを襲う。

自分は、彼らを欺いている。

育ての親の助けになろうと必死に……懸命に戦っている彼らを騙している事に。

 

「……行けニグラス、どうせ貴様はジェネシスの訓練をサボってここにいるのだろう」

 

「バレちゃった?でも父さんとか研崎には豪炎寺修也の捜索って体で言い訳してあるから大丈夫だよ」

 

まったく、と呆れたかのような表情を浮かべるデザームを後目に彼女はイプシロンたちの訓練施設を後にする。

彼女は見届けなければ……いや、確認しなければならない。

豪炎寺修也、豪炎寺夕香両名への吉良財閥からの圧力が解かれる瞬間を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼瓦さん」

 

フードを深く被った豪炎寺修也と大柄な土方に近づいてきた男、それは少し白髪の目立つ壮年の刑事でありフットボールフロンティアの時や今回の沖縄での秘密裏な行動を起こす際に何度もお世話になった鬼瓦だった。

彼は周囲に目線をやると静かに声をかけた。

 

「エイリア学園からの刺客の確保に君たちの力を借りたい……大事な試合中ではあるが良いか?」

 

豪炎寺が軽く頷く、そして豪炎寺と土方、そして鬼瓦の3人は静かに客席を後にする。

鬼瓦はとっくに気づいているが、客席の影から数人の人影が3人を追う。

急に走り出した鬼瓦の呼び掛けにより豪炎寺と土方が鬼瓦に追従するように沖縄の都市部へと駆け出す、それを見た彼らも追跡を開始したものの土地勘のある土方のナビと敏腕刑事である鬼瓦の手腕によって撒かれてしまった。

このままでは会長……いや、秘書の研崎の手によって自分自身の身が危ないかもしれない、という恐怖から彼らは捜索を再開すると、裏路地から駆けるフードの少年の姿を再確認する。

彼らはアイコンタクトと無線で別の位置に待機していた仲間たちへと連絡を取り、森へと走っていく対象を追いかけた。

 

そして森の中へと進む追跡対象へと近づく彼ら、無線での連絡のおかげで簡単に挟み撃ちにできそうだ。

対象を2班に別れた彼らは狩人のように追い詰める。

 

「豪炎寺修也、大人しく我々に着いてきてもらおうか」

 

そう声をかければ、対象はフードを脱いだ。

 

「誰が豪炎寺だって?悪いが俺は別人だ」

 

それは愛媛の地で雷門と戦い、そして再起してこの地へとやってきていた彼。

真・帝国学園のゴールキーパーである源田だった。

 

「なにっ?!」

 

突然のアクシデントに困惑する彼らを置き去りに大きな声が森に響いた。

 

「全員その場で動くな!警察だ!!」

 

鬼瓦を筆頭に吉良財閥からの刺客たちの凡そ倍以上はいる私服警官たちによって次々に彼らは取り押さえられていく。

中には俺たちに手を出して、どうなるのかわかってるのか!等と声を上げる者達もいるが、誘拐や人質といった手段を平気で行うような連中ならどうせ下っ端は切り捨てられる。

警察たちはそんな切り捨てられるであろう蜥蜴のしっぽからも情報を得るためにも見逃がすことなど絶対にない。

そんな警察と吉良財閥のエージェントたちによる警察ドラマさながらの逮捕劇を遠くから確認する1つの影、黒髪の少女、黒山羊秀子はその手に吉良財閥専用の衛星電話を持っている。

 

「研崎さん、豪炎寺修也の確保に動いたんですが私以外のエージェントの方々が警察に捕まりました……えぇ、すいません、私の発案した意見とはいえこの事態は予想外でした、まさか雷門の連中にここまでコチラの動きを読まれるなんて……無線などが傍受されていた可能性があります、さすがに直接の痛手にならないように上層部へと働きかけて揉み消したとしてもこれ以上はさすがに危険です……すいません。えぇ、豪炎寺修也からは手を引きましょう」

 

その後に数度のやり取りをした後、秀子は電話を切り、ため息をついた。

 

「研崎さんは嫌味ったらしいなぁホントに……ってわけで豪炎寺くんの監視体制は解かれましたよ、鬼瓦さん」

 

片手に衛星電話、そしてもう片方の手には無線を持っていた秀子は無線の先にいる刑事へと声をかけた。

 

「助かるよ、君が無線の周波数をリークしてくれたお陰でスムーズに確保できた、ええと瞳子監督の妹さんだったか」

 

「はい、アナタが吉良財閥に目をつけているのはわかっていたのでこれまでは書面やメールのみでのやり取りでしたが……アナタが優秀かつ行動が迅速で助かりました、これで吉良財閥も雷門の生徒や関係者に圧力をかける……といった動きはできなくなるでしょう」

 

「……なぁ、いい加減君は誰なんだ、吉良瞳子に弟のヒロトという中学生の男の子はいても妹はいない事なんて私はとっくに気づいている、君は一体」

 

「私は瞳子姉さんの妹ですよ、ではこれで私とアナタの契約は終わりになった訳ですが、これからもなにかありましたらご協力……よろしくお願いしますね?鬼瓦さん」

 

 

「待て、せめてその研崎という男の情報だけでも……」

 

鬼瓦が会話を続けようとするものの一方的に通話を切る秀子、彼女はそのままの足で空港へと歩を進めた。

彼女の知っている今ではもうほんの微かな知識ではもう雷門中が彼女たちへと迫るのも近かったはずだ。

 

「さーってと、次は東京に行かなきゃなぁ……でも、もうあと少し……あと少しだ……」

 

秀子は軽く鼻歌を歌いながら電話で瞳子へとメッセージを送る。

炎のストライカーはもう大丈夫、あとは姉さんの力次第だよ。

最後に一言打ち込もうとして止めた。たった五文字、打ち込んで消した。

ありがとう。そんな一言が添えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何でだ?俺と兄貴がいれば最強なんだ、完璧なはずなんだ。

 

「本当にそうか?」と心の中で俺自身が問いかけてくる。

 

なのに、なんでコイツらを倒せない?

 

「弱いからだろ?」もう1人の俺が嘲笑う。

 

兄貴はさっきからコイツらを止めれてる、なのに俺は1点もとれちゃあいねぇ。

 

「兄貴は強いからなぁ、お前だって兄貴からボールを守りきれることほとんど無いだろ?」そんなの俺がいちばんわかってる……。

 

それに、さっきのエターナルブリザード、あれは俺の技だった。

 

「あぁ、だけどもう俺だけの技じゃなくなったなぁ」うるさい、黙ってくれ。

 

でも、兄貴のエターナルブリザードは俺のに負けてねぇ、俺が点をとるはずなのに、兄貴だけでも大丈夫じゃねぇか。

 

「俺にはアイスグランドなんて使えない、兄貴は俺の代わりになれても俺は兄貴の代わりにはなれねぇなぁ」やめろ!

 

いつからだ、いつから俺たちは完璧じゃない。

 

「俺たちだって?笑わせるなよ」それ以上言うな!

 

俺たちじゃなくて。

 

「やっと気づいたか?」本当はわかりたくなんてない。

 

俺が

 

「そうだ、俺だけが」違う!違うはずなんだ!!

 

俺だけが弱いんだ

 

「お前だけが!」でも、そうだよな。

 

俺が兄貴の足を引っ張ってるんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

防戦一方、FWのアツヤを下げてイプシロン改のように浦部のワントップ、代わりにDFには小暮を追加して5人体制でなんとかデザームへのパスを防いではいるがこのままでは時間の問題なのを鬼道と不動だけではなく雷門中のメンバーたちは感じ取っていた。

 

「どーすんよ鬼道クン……もうもたねぇぞ」

 

「わかってる、だが突破口が無いのも事実だ」

 

士気も低下している今、思うようにゲームメイクができない現実だけがフィールドに存在している。

そんな彼らを嘲笑うかのように、マキュアからデザームへとボールが渡ってしまう。

まだ前半、そう、内容のとても濃い前半だ。

攻守入り交じるカウンター合戦やデザームの猛攻、雷門の面々の運動量は計り知れない。

集中力の欠如、敵チーム以外の敵、疲れが雷門中を襲う

 

「これで終わりだ、雷門!」

 

ゴール前へと迫り来るデザームが声を上げる。

デザームが必殺技を繰り出そうとボールを踏みつけた瞬間、士郎の刃が彼の喉元へと届いたのだ。

 

「させないよ!」

 

士郎が氷でつくられた回廊をスケート選手のように流麗に滑り、デザームへと素早く肉薄する。

空中で数度回転し、着地と同時に足元から氷が履いデザームを襲う。

 

「アイスグランド!」

 

自身の必殺技によって氷漬けになったデザームからボールを奪った士郎は内心、アツヤの分も戦うんだ……そう決意しアツヤがベンチに下げられた後も士気の低下した他の面々すらカバーせんとする勢いで奮闘していた。

そんな彼がデザームからボールを奪った直後そのままイプシロン改の陣地へと単独で切り込んだ。

 

「させねぇよ!」

 

1番運動量が多く、疲れが大きかったのは恐らく士郎だった。

小柄なスオームの接近に気づくのが疲れで一瞬遅れた、試合中の一瞬、その刹那の油断は致命的だ。

スオームのスライディングによりボールを奪われる士郎、そして急な出来事によって体勢を崩してしまった士郎は勢いよく倒れ込んでしまった。

 

「ぐっ……!!」

 

脚部を襲う激痛に顔を歪める士郎。

それと同時に前半終了のホイッスルが鳴り響いた。

0-2

雷門はとうとう得点出来ないまま前半が終わったしまった。

 

ベンチへと戻る雷門の面々に覇気はなく、暗い表情が目立つ。

無理もない、今回のイプシロンとの戦いにおいて切り札であったはずのアツヤと士郎の協力技であるホワイトダブルインパクトは得点になる前に早々に破られてしまった。

 

「……士郎君、足を見せなさい」

 

そんな彼らの耳に監督である瞳子の声が届いた、どうやら士郎に話しかけているようだ。

ソックスの下、足首が赤く腫れていた。

前半最後の転倒、それしか考えられない。

 

「僕はまだ戦えます、後半も参加させてください!」

 

士郎の訴えに対し瞳子は顔をしかめる。

確かに現状、士郎抜きでイプシロン改の猛攻を止める術はない。

だが、彼女は心を鬼にして、そう、ジェネシスとの戦いを見据えた上で淡々と告げる。

 

「そう、なら好きにしなさい……このまま後半も出るというなら今後、サッカーはできなくなったとしても責任はとれません、そしてこのチームからも抜けてもらいます」

 

その言葉に、士郎は表情を暗くさせ黙ったまま頷く事しかできない。

そして、雷門中の面々も同じくショックを受けていた。

彼らだって士郎抜きでイプシロン改の相手ができるなんて……とても思えなかったからだ。

 

「はっ、だらしねぇなぁ……」

 

そんな中、1人の声に全員が顔を上げた。

不動が呆れたと言わんばかりの顔で続ける。

 

「こんな事で折れちまうような奴らに俺らは負けたってのかよ、あー、やだやだ、今からでも真・帝国学園が代わりに戦ってやろうか?」

 

不動の声に綱海や浦部、土門たちがなんだと!と吠えるものの。

 

「相手が強すぎる、そんなのは最初からわかってたことだろうが……俺たちはそれでも今持ってるカードで戦い切らなきゃいけない、それも最初からわかってたことだろ?いや、サッカーってのはそういうもんだろうが」

 

その言葉に、誰も言い返せない。

 

「士郎クンが抜けたなら、その分俺がカバーしてやるよ、鬼道クンに守備の指揮を頼まれちまったからなぁ」

 

その言葉に再度顔を上げる面々、壁山や土門といったDFのメンバーたちは俺達もやってやる!などと再び闘志に火がついたようだ。

前向きになってきた面々、だが彼らは次の問題につまづく。

 

「で、問題の攻撃だが……」

 

そんな中、誰かの携帯が鳴る。

どうやら瞳子のもののようで、彼女は携帯の画面を見ると顔を上げ観客席の方へと目を向けなにか探し始めた。

だが、最初にそれに……いや、彼に気づいたのは瞳子ではなく、円堂だった。

瞳子監督がキョロキョロと視線を観客席に向けてからほんの数分後、観客席の影から深くフードを被った誰かがこちらへと歩いてくる。

何かの間違い?見間違え?いや、こんな時に、雷門中が帝国学園に絶体絶命まで追い詰められたあの時みたいにあいつは遅れてやってくるんだ。そう、円堂の心が震える。

思わず笑ってしまった、こんなピンチなのに、いや、こんなピンチだからこそ。

 

「ははは……いつもお前は遅いんだよ!」

 

円堂の声に気づき、雷門の面々は次々に円堂の視線の先にいる深くフードを被った少年へと目を向ける。

数人が未だ脳内に疑問符を浮かべる中、視線の先で少年はフードを脱いだ。

 

「待たせたな、円堂!」

 

雷門中の面々が歓喜の声を上げ豪炎寺へと駆け寄る、途中参加メンバーたちはその対応に面食らいながらも豪炎寺を彼らと同じく歓迎せんと後に続いた。

 

「行けるわね、豪炎寺くん」

 

「はい、遅くなってしまってすいません瞳子監督」

 

瞳子からの心配するような視線を受け、頭を下げる豪炎寺。

彼女もたった今、内通者である秀子から連絡を受けたばかり、前半が終わり士気が低下していた面々の士気が再び上がっていたこの瞬間の通知、タイミングの良さに少し疑心暗鬼にもなるが豪炎寺の表情から察することが出来た。

豪炎寺修也、炎のストライカーが雷門の闘志に更なる炎をもたらす。

 

そんな彼らを見つめるのはイプシロン改の面々。

 

「アイツは豪炎寺修也……?」

 

「まさかニグラス様の身になにか?」

 

目を疑うゼルとデザーム、心配から少し眉に皺が寄るゼルに対しデザームは余裕綽々といった様子で続ける。

 

「……思慮深い奴の事だ、奴だけでも逃げ延びているだろう。

それよりも今は試合に集中せよ!雷門は再び我らと戦うだけの覚悟を決めた!ならば我らはそれを打ち砕くのみだ!!」

 

『はっ!!』

 

デザームの号令にゼルを筆頭としたイプシロン改のメンバーが勢いよく返事を返す。

 

いよいよ、後半が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後半、雷門は負傷した士郎を下げて改めてDF4人、FWは豪炎寺と浦部の2トップで挑む。

雷門ボールで試合は始まった。

豪炎寺がボールを軽く蹴って浦部に渡す。

 

「試合は客席から見ていた、油断せず行くぞ」

 

「お、おう、わかっとる!」

 

浦部へと即座に肉薄するデザームに対し、浦部は鬼道へとバックパス。

鬼道は塔子へとボールを渡そうとするものの、誰よりも早く駆けていたメトロンが塔子へと肉薄し、それを奪い去った。

 

「よくやったメトロン!行くぞお前たち!!」

 

メトロンとマキュア、そしてデザームが前半と打って変わって短いパスを繋ぎながらそのまま雷門ディフェンスをまたも軽々と抜いていく。

元々デザームはゴールキーパーという事もあり前線の指揮をあまりとれずにいた、だが、ここに来てフォワードとなった彼の指揮がついに前線へと振るわれる。

そして、ついにデザームがボールを持ったままゴール前へと辿り着いた。

 

「さぁ、私を楽しませて見せろ!円堂守!!!」

 

デザームの姿が消える、自身の足元にワームホールを展開し異空間へと姿を消すと渾身の力を込めた蹴りがボールへと吸い込まれ翠の槍が形成、異空間を飛び出した。

 

「グングニル!!」

 

それを正面から見据える円堂、先程と同じ展開。

だが、今は少し違う。

前線でボールを待っている、豪炎寺がいる。

今度こそ、先程のように負けたりしない。

 

「行くぞ!デザーム!!」

 

片足を高く上げ力強く踏み込み、そして全身を使って捻りを加えた渾身の拳を、そのエネルギーを余すこと無くボールへと叩き込む。

 

「正義の……!!」

 

拳のエネルギーは前よりも大きく、そして回転は更に強く。

 

「鉄拳!!!」

 

少しの均衡、翠の槍が拳に砕かれ、デザームの目が驚愕に、否、歓喜に染まる。

血湧き肉躍る、こんな戦いを彼は求めていたのだから。

ベンチで立向居が思わずスタンディングオベーション、また強くなった!と彼もまた目を輝かせて円堂と正義の鉄拳をしっかりとその両目に焼き付けた。

 

「反撃開始だぁ!!!」

 

前半のように待ち構えていた土門の予想を越えて跳ね返ったボールを追うのはイプシロン改のMFファドラ、彼がボールを奪取した瞬間だった。

 

「すまねぇな、このボールは頂くぜ!」

 

不動がファドラの死角から一気に奪い去る。

士郎の穴を埋める、そう言っていた彼はたしかにその仕事を成してみせた。

そのまま不動が前線へと駆けるが、イプシロン改のMFたちがそれを許すはずもなく、クリプトとスオームが不動へと襲いかかる。

だが、そんな彼らの妨害に真・帝国学園のキャプテンとしてかつて雷門立ちはだかり、黒山羊秀子の地獄のような特訓に耐え抜いた不動が簡単に屈するはずもない。

 

「一之瀬!」

 

素早い動き2人を撹乱し隙をついて一之瀬へとボールを繋いだ、そこへマキュアが迫るものの一之瀬はボールを踏みつける。

ボールは意志を持ったかのように弧を描きマキュアを幻惑する。

 

「イリュージョンボール!」

 

必殺技でマキュアを抜き去った一之瀬は更にイプシロン改のディフェンスラインへと迫り、DFの意識が一之瀬自身へと向いた瞬間を狙い逆サイドの鬼道へ鋭いパス。

イプシロン改の何人かがしてやられたと舌打ちするもそんな事はお構い無しに鬼道が再び駆け上がる。

そして重戦車のような威圧感を纏って大柄なタイタンが迫るものの、前半の意趣返しと言わんばかりに鬼道はボールをわざと短く蹴りループシュートの要領でタイタンの頭上へとボールを通し、自身も素早い動きでタイタンを抜き去った。

 

「なにぃっ?!」

 

そしてタイタンと同じくDFのケンビルが鬼道からボールを奪わんと駆けるが、気づけばボールはそこにはなかった。

ボールはどこに?

 

「やはり、お前との連携はやりやすいな」

 

そう、鬼道が呟く。

その光景を後方から見ていた不動が賞賛するかのように口笛を吹いた。

 

「やるねぇ鬼道クン、それにコイツら目に見えてやる気出してやがる」

 

今ならわかる、豪炎寺の言っていたストライカーとエースストライカーの違い。

それは、そこにいるだけでチーム全体の士気を高め、決して折れない精神力、そしてなにより仲間に頼るのではなく信じるという強い覚悟。

鬼道の足元からいつの間にか消えていたボールはとっくに豪炎寺へと渡っていた。

 

「行くぞ」

 

踵でボールを蹴り上げる豪炎寺、ボールは空高く舞い、それに追従するかのように豪炎寺は足に業火を纏わせ回転しながら空へと跳ぶ。

今こそ再びもう一度、炎のストライカーはここにありと叫ぶかのように豪炎寺はその技の名を叫ぶ。

 

「ファイアトルネード!!」

 

回転の勢いによって豪炎寺の鋭い蹴りと纏っていた業火がボールをもの凄い勢いでゴールへと走らせる。

ゼルがその右手で宙を薙ぎ鍵爪のようなエネルギーを展開しようとするも、間に合わない。

中途半端な鍵爪は砕け散り、ボールはゴールネットに叩き込まれた。

1-2

雷門、後半にして初得点、だがこの得点はなによりも重要な1点だ。

 

 

 

「すみませんデザーム様、ゴールを割られてしまいました……」

 

「貴様が謝る必要などないゼル、私もゴールを決めること叶わなかった……まさかこんなにも早く我がグングニルを打ち砕くとは……やはり雷門との戦いは面白い」

 

デザームの言葉に……いや、その表情に皆が少し笑った。

キョトンとした表情でデザームがなにがおかしいと聞けば、隣に立っていたタイタンが代表して答えてみせた。

 

「デザーム……いや、治(おさむ)笑ってたぜ、おひさま園の時みてぇにな」

 

「うん……ホントに……あの頃に戻ったみたいよ……フフ……」

 

タイタンとモールのその言葉に再度笑ってみせたデザーム……いや、砂木沼(さぎぬま)治。

 

「ああ、その通りだな……行くぞお前たち!」

 

デザームがユニフォームに手を添える、そうするとユニフォームが再度黒く染った。

そして、年相応の少年らしい穏やかな笑顔で言う。

 

「もう今の我らはイプシロンでもイプシロン改でもない、あの頃の……本当に心から楽しかったサッカーをするぞ!」

 

その言葉にイプシロン改の面々は今までのような個を殺し郡体で動く兵隊じみた返事ではなくそれぞれ不揃いながらも皆それぞれに了承してみせた。

 

「マキュア……ああもうコードネームとか面倒くさいなぁ!マキもう限界!アイツらさっさと倒していつもみたいにサッカーしよ!ね!風子(ふうこ)!」

 

「ちょっと、大声で本名叫ばないの!」

 

マキュア……否、皇(すめらぎ)マキが喚くように言うとクリプト、ではなく九里(くり)風子が彼女を窘める。

 

「はっ、皇の奴怒られてやがるぜ圭介(けいすけ)」

 

「今となっては懐かしい光景だな……だが、この方がずっといい」

 

それを見て笑う大柄な2人、タイタンとケイソン……否、丹波太二(たんばたいじ)と村田(むらた)圭介

 

「さっきは惜しかったな……虎彦(とらひこ)……」

 

「ああ、次こそはボールを奪ってみせるぜぇ」

 

「そうだ!次こそ目に物見せてやろうぜ2人とも!」

 

少し落ち込んだ様子のファドラに声をかけるスオーム、そんな身長差のある2人の肩を器用に抱くメトロン、違う、端東(はとう)虎彦と牟礼田蜂郎(むれたはちろう)、武藤論(むとうさとし)

 

「アイツらにシュートなんて打たせねぇ……俺たちが勝つんだ……」

 

「絶対負けない……私たちは……勝てる……」

 

ケンビルが静かに決意を固める中、並ぶようにして同じように呟くモール……いや違う、比留間健一(ひるまけんいち)と森野留美(もりのるみ)。

 

「皆……お前が思ってるより覚悟は決まってるようだぜ、行こう、砂木沼」

 

「ああ、行くぞ隆一郎(りゅういちろう)」

 

治と同じように再度胸に手を掲げてユニフォームをフィールドプレーヤー仕様に変える瀬方(せかた)隆一郎。

皆の目が先程までの獰猛な生物のようなものから本来の年相応の瞳へと戻る。

悔しがりながらも、相手への賞賛も、自身への叱咤も、様々な表情が入り交じる子供らしい彼ら。

 

イプシロン改からの再びの選手交代の申請、治はキーパーに隆一郎がフォワードにそれぞれ試合開始時と同じフォーメーションへと戻った。

だが、彼らの変化に気づいた者もいた。

彼らを見て思わず涙ぐんでしまう瞳子やサッカー馬鹿こと主人公の円堂。

そして、瞳子の様子に気づいたマネージャーたちがてんやわんやしてたりもしている。

円堂が大きく声を上げた。

 

「来い!イプシロン!!」

 

「行くぞ雷門中!!」

 

試合再開

 

今度はイプシロン改ボールで始まった。

隆一郎が武藤へとボールを回した瞬間、一気に武藤が加速した。

今までに無い程の加速、豪炎寺と浦部は呆気に取られてしまい反応が遅れた。

 

「なっ!」

 

「嘘やろ?!」

 

今までにないパターンでの戦法に鬼道と不動は顔をしかめる、前半の終盤から先程までのイプシロン改の行動パターンは良くも悪くもキャプテンであるデザームの指示に従って咄嗟の行動を変えてきた。

だが司令塔のデザームは遥か後方、ゴールにいるというのに。

 

「不動!」

 

「わかってんよ!!」

 

武藤へと迫る一之瀬に対し、武藤はニィと口角を上げると即座に踵を用いてのバックパス。

一之瀬からは死角となってしまっている武藤の後方にて密かに追従していた楓子が受け取って更に流れるように皇へとパスを回す。

その滑らかな連携に一之瀬はイプシロンへの賞賛を表情に隠せない。

ノールックでのバックパスという高等テクニック、そんな行動はお互いを本当に信頼してなければできない。

それを咄嗟にやってのけたイプシロンたちにも自分たちのようなチームワークがあったのかと、今までは彼らの事を試合等の結果にしか興味のない悲しい者たちと思っていた一之瀬にとってそれは嬉しい誤算だった。

 

「君、中々やるな!」

 

「はっ!お前らがつえーのはわかってるからな!!」

 

皇が駆け上がると、前方に立ちはだかるのは雷門きっての大柄な体格を誇るDF壁山。

小柄な少女とでは体格に差がありすぎる。

だがしかし、皇は止まらない。

 

「メテオシャワー!」

 

「ザ・ウォール!うぉおお!!!」

 

ボールを伴って空へと跳ぶ皇とそれを止めようと大地の力を借りてまるで巨大な壁のようなエネルギーで迎え撃つ壁山。

皇の落とした隕石が1つ、また1つと壁へぶつかるが壁山は怯まない。

そして最後の隕石がぶつかった瞬間、壁が崩落するものの、皇の隙を突いて不動がボールを奪取。

 

「うぐっ……!中々やるっスねぇ!不動さん!ありがとうございますっスー!!」

 

「うっそー!マキ信じらんなーい!!」

 

「はっ!こんなもんかよ!!」

 

不動が駆け出すが、その前に立ちはだかるのは蜂郎と虎彦。

 

「そんなわけ……ない!!」

 

「俺たちを舐めんじゃねぇ!!」

 

虎彦のタックルを不動は咄嗟にドリブル捌きで避けるものの、そこに蜂郎がスライディングを仕掛けてボールを弾いた。

してやられたと舌打ちをする不動に対し、蜂郎と虎彦は2人して同時にニヤリと笑っていた。

そしてボールは雷門陣営でフリーとなってしまう。

始まるボール争奪戦、先程までキープしていた不動やその不動に奪われた皇を初めとして互いのMFや雷門のDFたちがボールへと駆け出した。

そんな争奪戦を制したのは綱海だった。

持ち前の優れた体幹とこの地で生まれ育った彼のスタミナが活きたのだ。

 

「もう我慢できねぇ!行くぜ!!ツナミブーストぉ!!!」

 

奪った直後にロングシュートの体勢をとる綱海、皇や武藤、蜂郎などイプシロン改のMFたちが懸命に阻止しようとするものの不動や鬼道の尽力もあり彼らは辿り着けない。

フィールドを海に見立ててボールを踏み付けまるでサーフボードのように乗りこなす綱海、その勢いのままボールを蹴り出した。

 

「ひゃっはぁっ!!ノリに乗ってるぜ!!」

 

その勢いはまさに災害クラス、まっすぐにセンターラインを軽々と突破してイプシロン陣営へと迫る。

それに立ち塞がるのは丹波と健一、2人はお互い僅かに目配せをして同時に必殺技の体勢をとる。

 

「アステロイドベルト!!」

 

「グラビティション!!」

 

健一が両手を掲げると小さな隕石が大量に現れツナミブーストの勢いを削ぎ、丹波を中心にして広がった重力波がそれを抑えつけて地面へと叩き付けた。

 

「おぉっ!お前らも熱いプレーするじゃねぇか!!」

 

自らのシュートが止められたというのに大声で賞賛する綱海に対しベンチから目金がなにエイリアの選手たちと友達みたいに話してるんですか!とボヤいてはいる。

そんな言葉を聞いて綱海は呆気に取られた後に口角を上げて笑う。

 

「そんな海に比べたら小さいこと気にしてられっか!」

 

その言葉にたしかにな、と呟いて軽く笑いながらも丹波は即座に気持ちを切り替えて自身の渾身の力を振り絞ってのロングパス。

 

「うぉおおおおお!受け取れぇぇぇえ!!」

 

彼からのパスを受け取ったのは蜂郎だった、彼は素早い身のこなしで迫り来る塔子をなんとか避けて即座に最前線の隆一郎へと鋭いパスを出した。

 

「決めろ瀬方!」

 

「蜂郎……あぁ、わかってるさ!!」

 

パスを受け取った隆一郎は右手を宙に薙ぐ、鉤爪のようなエネルギーが展開されボールを捉える。

それを見た雷門の選手たちがどよめく、あの技はキーパーの技だったはずだと、だが円堂と鬼道、そして豪炎寺はわかっている。

ガニメデプロトンという技と同じくザ・プレデターという技はたしかにボールに手は触れていない、あれはキーパーの必殺技だが強力なシュート技だ。

 

「ザ・プレデター!!」

 

隆一郎がその場で身を翻して回し蹴り、逆回し蹴り、そしてトドメと言わんばかりにもう一度回し蹴り。

3発の連続蹴りがボールへと叩き込まれ、まっすぐに円堂の立ちはだかるゴールへと突き進む。

その勢いはデザームのグングニルをも越えている、そう円堂は確信する。

 

「ははっ、やっぱりお前ら強いなぁ!でも……!!!」

 

負けられない!そんな言葉を飲み込んで、円堂が片足を高く高く上げる。

その勢いのまま、大地を力強く踏み締める。

全身で捻りを加えた渾身の拳がエネルギーと共にボールへと叩き込まれる。

 

「正義の鉄拳G4!!!」

 

砂木沼のグングニルを止めた時よりも強大な拳と全てを喰らい尽くさんとばかりの勢いのシュートと拮抗する。

円堂の表情が苦痛に歪む。

拳に痛いほど伝わってくる、今のイプシロンは全力で楽しんでサッカーをしていると、そしてその想いは自分たちにも負けていないと。

だが、負けられない。

サッカーをこれ以上、破壊の道具にさせない。そう彼はかつて宣言した通りそれを実現させるためにも。

そしてなにより彼らとの真剣勝負、一切手を抜く事なんて許されないと。

 

「ま……ける……かぁあああああああ!!!」

 

拳が完全に振り抜かれ、ボールはゴールネットへと届く事無かった。

跳ね返ったボールを今度こそと土門がキープ。

そのまま不動、不動から一之瀬、一之瀬から浦部と流れるようなパスが連続で繋がった。

イプシロンは隆一郎が絶対に決めると、そして雷門は円堂なら絶対に止めれるとそれぞれが信頼してたからこその咄嗟の判断の遅れだった。

 

「行くで!豪炎寺!!」

 

浦部から遂に豪炎寺へとパスが繋がる。

睨み合う豪炎寺と砂木沼。

豪炎寺は全身に力を込める、すると背後から爆炎と共に炎の魔人が姿を表した。

 

「豪炎寺!?」

 

「まさか、新必殺技か!!」

 

その姿に歓喜する円堂と鬼道、それに少し遅れて周りの観客も含めて周りからざわめきが起こる。

先程、イプシロン改からゴールを決めてみせた彼の本来もつファイアトルネードより上位の技がある、それだけで期待が膨らむのを抑えられない。

それは砂木沼もだ。

 

「いいぞ!来い!豪炎寺修也!!私を心の底から楽しませてみせろ!!!」

 

「爆熱……!!」

 

炎の魔人が右の拳をアッパーカットのように豪炎寺とボール目掛けて叩き込む、その勢いに任せて空へと急上昇する豪炎寺とボール。

そのままの勢いで右足を高く振り下ろすかのように叩き込むと魔人もその右腕を再度ボールへと叩き付けた。

 

「ストーム!!!」

 

大気すら焦げ、全てを焼き尽くしてしまうかのような爆炎を纏いボールはまっすぐにゴールへと進む。

だが、それをデザームは真正面から睨み右腕を掲げる。

 

「ドリルスマッシャー!!!」

 

鉛色の鋼鉄の塊、巨大なドリルが爆炎など気にせんと言わんばかりに叩き込まれる。

暫しの拮抗、だが、豪炎寺は踵を返す。

砂木沼自身もわかっていた、このシュートは爆熱ストームというらしいこの炎のシュートが自らのドリルスマッシャーよりも強い事を。

だが、それでも。

退けない。

負けられない。

勝たねばならない。

吉良財閥のため?いいや違う、私自身のプライド?いいや違う!今この瞬間は、こんな見栄張りの自分を信じてここまで共に戦ってくれた友の……仲間のため。

 

「くっ……そぉおおおおおお!!!」

 

だがしかし、爆炎によってドリルは融解し崩れ落ちた。

ならば爆炎を纏うソレを止める物はもうない。

ゴールネットが揺れ、ホイッスルが鳴る。

2-2

同点だ。

 

「行くぞお前たち!追いつかれはしたがまだ同点、再度突き放すのみだ!!」

 

『ああ!!』

 

「こっちも負けていられないぞ!!この勝負、勝つぞ皆!!」

 

『応!!』

 

再びイプシロンボールで再開、隆一郎から今度は皇へとボールは渡り。

駆け出す皇に瞬時に対応して肉薄する不動。

皇は必殺技のメテオシャワーを放つために脚に力を込めるが、不動はニヤリと笑う。

 

「その技は見飽きたんだよぉ!!」

 

跳び上がるために力を込めた瞬間、ボールのキープ力が低下する。

その瞬間を不動は見逃さなかった。

しまった、と顔を歪める皇を後目に駆け出す不動、武藤や隆一郎が彼女のフォローのために一気に肉薄するも不動は視線を全く動かさずに逆サイドへと蹴り込んだ。

苦し紛れの抵抗か?と2人が思案するももう遅い、逆サイドでは鬼道がそのボールを見事に確保している。

 

「ナイスだ不動!!」

 

鬼道の元へと虎彦が駆け寄るも間に合わず鬼道からの更なるパスを許してしまう。

鬼道からボールは塔子へ、塔子もドリブルて前線へと駆けようとするものの今度は蜂郎がそれに立ち塞がる。

 

「流石に早いね!」

 

「行かせないぜ……!」

 

すばしっこいディフェンス、塔子がリカ!と叫び蜂郎はパスは通さないと咄嗟に塔子が目線を向けた先に跳ねるが。

 

「引っかかったね!」

 

パスはせず即座に切り返して蜂郎を突破した。

悔しさで蜂郎が呻く、塔子はそのまま今度こそ本当にリカへとパスを繋げた。

 

「よっしゃ、ナイスや塔子!!行くでダーリン、2人のラブラブバタフライドリームや!!」

 

「いや俺はその技使えないから……」

 

イプシロンのディフェンスラインへと切り込む一之瀬と浦部、だがそれを森野が一気に肉薄すると回転しながら宙を舞う。

 

「フォトンフラッシュ!!」

 

発光した彼女をもろに見てしまった2人は咄嗟に目を抑える。

2人が苦しんでいる内にボールを奪った森野、だがそこに豪炎寺がスライディングを仕掛けた。

森野はワープドライブという必殺技で避けようとするものの、間に合わずボールを弾かれてしまう。

だが、村田が蹴り出されてしまったボールを抑えた。

 

「なにっ?!」

 

「何とか間に合った……!!今度こそ、決めてくれ隆一郎……!!」

 

村田渾身の蹴りがボールに叩き込まれ、本人は隆一郎にパスを出すつもりだったが後半戦も終盤、イプシロンたちにも疲れが出てきている。

その軌道は僅かに逸れてしまう、ロングパスでそれは致命的だ。

 

「圭介……お前のパスは絶対に!!」

 

空中へと跳ぶ九里、逸れてしまったロングパスを無理矢理ボレーシュートの要領で軌道を変えた。

 

「隆一郎に、届け……!!」

 

逸れたロングパスに対応しようと不動と綱海が駆け出していたため、急に変わった軌道に追いつけない。

 

「クソっ!」

 

「アイツもやるなぁっ!!」

 

逸れた先、隆一郎はそのボールをキープした。

 

「圭介、九里……お前らだけじゃねぇ、皆がくれたチャンスを無駄にしてたまるもんかよぉ!!」

 

隆一郎が右手を薙ぐ、すると鉤爪のようなエネルギーがボールを捉え、そこに渾身の3連撃を叩き込む。

 

「今度こそ決めるぞ、ザ・プレデターァァァ!!!」

 

先程よりも勢いを増したそれは赤黒いオーラを纏いながらゴールへと突き進む、だが円堂より先に2人の影が立ちはだかる。

 

「へっ、俺達も負けてらんねぇな小暮!」

 

「キシシっ当たり前だっての!!」

 

土門が右足を払うとその軌道に沿って地面から炎が吹き出し、小暮がカポエラのように逆立ちになって回転、旋風と炎がシュートの行先を塞ぐ。

 

「ボルケイノカット!!」

 

「旋風陣!!」

 

燃ゆる火炎と鋭い風が遮るものの、赤黒いエネルギーを纏ったそれは止めきれなかった。

 

「決まれぇぇぇぇえ!!!」

 

最後の砦、円堂はまたも片足を高く上げて力強く大地を踏みしめる。

全身を使って捻りを加えた拳と強大なエネルギーがボールへと叩き込まれる。

 

「正義の鉄拳G4!!!」

 

先程よりも重いシュート円堂は歯を食いしばって耐える。

強い、本当に強い。

 

「俺たちは負けない!このシュートだって絶対に止めてみせる!!」

 

少しずつ拳が前へと進む。

赤黒いオーラは少しずつ消え、正義の鉄拳が完全に隆一郎のザ・プレデターを弾き返した。

 

「行っけぇぇええええ!!!」

 

ボールはまっすぐ……まっすぐに跳ぶ。

そしてそのボールを鬼道がキープした。

 

「信じていたぞ……円堂!!」

 

たった今シュートを放った隆一郎も含めて前線に上がっていたイプシロンのメンバーたちが必死の思いで自陣へと走る、だが相手は遥か先だ。

 

「頼む……止めてくれ……砂木沼ァァァ!!!」

 

隆一郎の叫びに砂木沼は静かに目を見開いた。

 

「無論わかっているさ、隆一郎!!」

 

鬼道がボールを上空へと蹴り出した、その先には豪炎寺が既にファイアトルネードの要領で炎を纏いながらシュートの体勢に移行していた。

 

『ツインブースト……!!!』

 

蹴り込まれるファイアトルネードに対し、砂木沼は少し落胆する。

先程放ったあの凄まじい威力の爆熱ストームではなく、ファイアトルネードを使ってきた事に少し憤りを感じたのだ……だが、彼はもう慢心しない。

 

「そのシュート、我が全霊をもって止めさせてもらうぞ、雷門!!!」

 

砂木沼が右手を掲げ、巨大な鉄塊、強大な鋼鉄のドリルが出現する。

 

「ドリルスマッシャー!!!」

 

だが、ファイアトルネードはゴールへと来ない。

その手前、鬼道の目前へと舞い降りる。

 

「F!!!」

 

ツインブーストにファイアトルネードを組み合わせた2人の連携シュート、ツインブーストF

ファイアトルネードの軌道を変えるだけではなく、判断力、分析力を含めた様々な能力の高い鬼道がアシストする事により更なる相乗効果を産む。

それは砂木沼のタイミングをずらし、微かにドリルスマッシャーの有効範囲から逸れていた。

たしかに砂木沼も優れた、一流のゴールキーパーだ。

だが、ドリルスマッシャーはパンチ技、少しのタイミングのズレが致命的になるのだ。

 

「くそぉおおおお!!!!」

 

2人の協力技、ツインブーストFは砂木沼に万全の力を出させずドリルスマッシャーを打ち砕きゴールへと突き刺さった。

それと同時に鳴り響く長い笛の音、試合終了のホイッスルだ。

 

3-2

 

雷門は見事後半戦にて3得点という大逆転劇をやってみせた。




1日に2話投稿は今回調子に乗ってしまった……本来ならそんなに投稿ペース早くないのに……。
イプシロン改戦の終わりまでキリがいいようにしたかったというのもありますが……。

因みに裏設定として爆熱ストームは既にG2並に砂木沼のドリルスマッシャーとグングニルもそれぞれ1段階くらい進化している設定です。

ザ・プレデターはV進化想定の技です。

ザ・プレデター 火
シュート技 シュートブロック



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にじゅーわ

久々の更新。


黒山羊秀子、永世学園中等部2年。身長160cm体重47kg、サッカー部所属。

出生地、東京周辺……なお、東京周辺の病院に聞き込みを行ったが、病院での出生記録はないため、恐らくは助産婦を呼んでの自宅出産だったと思われる。

出生から生後数ヶ月までは両親と共に東京都××区にて生活を共にしていたようだが、両親が恐らくは生活苦を理由に自殺(なお、遺書などは見つかっておらず。正確な理由は不明。)

生後数ヶ月の幼い彼女を親戚一同は引き取り手を譲り合っていた模様、しかしながら最終的には引き取り手は現れず次は養護施設を転々とする。

最終的に吉良財閥が支援するおひさま園と呼ばれる施設へと送られた、その時には彼女はもう既に2歳になっていた。

永世学園小等部では学問とスポーツどちらの分野において優秀な成績を残し、当時の担任からは真面目だが、教師陣には素を見せず友人たちとは親しげに話していたが、教師が近づくと急に態度を変える。という点からあまり大人には評判が良くなかった模様。

中等部では吉良瞳子(吉良財閥の会長である吉良星二朗の娘)が顧問を務めるサッカー部に入部、キーパーを務めていたがフィールドプレーヤーとしても男子顔負けのスコアを誇っていた。

が、この国におけるサッカーの大きな大会は男子のみの場合が多く知名度などは高くない。

現在、永世学園のサッカー部は活動停止中。

しかも、サッカー部が何故か揃いも揃って病欠でもう何ヶ月も休んでいるとの事らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……わかったのはこれだけか」

 

消毒液などの匂いが鼻を突く衛生的な部屋の一角にて、白髪混じりの男性……豪炎寺医師は手元の資料を軽く捲ってはいるが、如何せん枚数が少ないため彼はすぐにそれを机へと投げやりに放った。

豪炎寺医師は自身の雇った探偵へと顔を向けるものの、探偵の反応は薄く。

 

「コチラでも調査の方は真面目にやらせてはいただきましたけどね……ただの中学生にそんなめぼしいものがある方が稀ですよ」

 

彼の意見は最もだ、だが、豪炎寺医師は知っている。

彼女は今日本を騒がしているエイリア学園事件において、少なくとも彼女は渦中に……いや、事件を起こしている黒幕側の人間に近しい存在だということを彼は知っている。

 

「ただですねぇ……」

 

「……ただ?」

 

「彼女の今の足取りが掴めない……と言いますかね、彼女の痕跡を追おうとしても消されているんですよ」

 

「……そうか」

 

吉良財閥のバックアップ、それは私立の探偵にまで影響を及ぼしていた。

彼女は移動手段として、吉良財閥のプライベートジェットや各地で息のかかった人間を利用しているため公共の交通機関やそれを使用した流れを探る捜査では限界がある。

豪炎寺医師はもう用はないと彼を見送り、付き合いの長いベテラン看護婦の入れてくれたのだろう珈琲を片手に一息ついた。

 

「ふーん、酷いですねー……こーんな幼気な少女を疑うなんて」

 

その声にギョッとする。

振り向いてみれば長い黒髪の大人びた少女、黒山羊秀子。

彼女はなにやらマッキーペンで……体重の欄を入念に消しているようだった。

 

「ふん、幼気な少女と自称するならせめて部屋の主に断りを許可を得てから入室して欲しいものだな」

 

「ノックはしましたよ?」

 

「怪しいものだな」

 

本当にこの子は自分の息子と同い年なのだろうか、まるで別の派閥の医師とでも話しているかのような息苦しさすら感じる。

彼女は一息ついて、先程まで私立探偵の座っていた対面席へと座った。

 

「オペの準備なんてとっくにできたんですよね?準備期間なんて建前、私の調査の時間が欲しかったんですよね?早くお願いしますよ先生」

 

目の前の少女はニィと口角を上げてみせた、その姿を見て改めて思う。

この子は本当に息子と同い年か?これでは前、私にゴシップを起こすためにと派遣されたハニートラップを仕掛けてきた女と話しているかのようだ。

 

「私には時間が無いんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷門の勝利に観客達やマスコミが歓声を上げる。

テロリストの一味、その一端がまた潰えたのだと。

その歓声すら気にならぬ両者。

充足感、彼らは満ち足りた。

 

「やった!イプシロンに勝てたんだ!!」

 

雷門の面々は皆一様に喜び、笑い合い、そして互いを称え合う。

それを呆然と見るは負けてしまった者たち、だが彼らも。

 

「嗚呼……もう充分だ、何故だろうな。もう、なにもいらない」

 

砂木沼がポツリと呟いた。

1部のメンバー……皇や丹波は悔し涙を流している、だが、イプシロン改のメンバーたちからはテロリストのような殺伐とした空気などは感じられない。

まるで……そう、雷門がかつて戦ったフットボールフロンティアにて敗れ去ったあの強敵たち、正々堂々と鎬を削ってきたあのチームたちとなんら変わらない。

一般的な普通の少年少女たちと変わらないごく普通の反応だった。

後悔、賞賛、様々な感情が彼らの胸中にて渦巻いているのだろう、そういった気持ちが痛いほど伝わってきた。

 

「ヤツら……ホントに強くなったよな砂木沼」

 

「少し前までジェミニストーム……いや、リュウジたちに苦戦してたとは思えん成長ぶりだ」

 

 

 

隆一郎と砂木沼、2人は自分たちを破った雷門のメンバーを1人ずつ、全員を見つめ軽く笑い合う。

今の彼らの脳裏に巡るのはかつての雷門、エイリア石にて強化された捨て石である自分たちによって鍛えられたマスターランクのメンバーたちだ。

今は圧倒的な力を持つ彼らでさえ今の雷門のレベルに及ぶのに長い期間を要してきたというのに。

雷門は恐ろしい程のスピードで自分たちを越え……いや、きっといずれマスターランクの者たちにだっていずれその刃を届かせるのだろう。

そんな彼らの視線の先、1人の少年が駆けてくる。

 

「デザームー!!」

 

両手を振りながら満面の笑みを浮かべるのは、今となっては自分たちを超える程までに強いゴールキーパーであり、雷門のキャプテン……円堂守。

砂木沼にとっても、隆一郎にとっても好敵手といえる相手となった彼。

 

「お前たち……すっげぇ熱いプレーだったじゃないか!!お前たちとの試合、すっげー楽しかったぜ!」

 

そんな彼は笑顔のまま砂木沼へと手を差し伸べる。

そんな彼へと握手を返そうとして、ふと砂木沼は我に返る。

自分たちは雷門中も、それ以外、全国の数ある様々な中学校を潰して、回ったエイリア学園、今や国家を脅かすテロリストだという事を思い出してしまった。

だが、彼は、円堂守はそんな我々にまでそんな笑顔を向けてくれるというのか。

 

「何故だ」

 

そんな今の彼だからこそ抱ける、当然の疑問だった。

もしかしたら試合中の雷門たちの様々な優れたプレーよりも驚いているのかもしれない、そんな自分の顔は呆けているのだろうな、と思いながら彼はたずねた。

だが、円堂は自分の発言を聞いて逆に驚いたような表情を浮かべた後、それに気づいたのだろう。

 

「地球では、1度戦った相手は戦友だ、お前たちとの試合、楽しかったぜ!デザーム!!」

 

その言葉を聞いて完全に毒気が抜かれてしまった、砂木沼は軽く笑うと改めて握手を返す。

黒山羊秀子ですらもう覚えていない本来の歴史、その手と手は握られること叶わなかった。

だが、たしかに、今度こそ円堂の手は彼らに届いた。

 

「また戦おうぜデザーム!」

 

「ああ、その時こそお前を倒すと誓おう……」

 

デザームとしてではない、砂木沼治としての彼は精一杯の了承の意を告げた。

自然と砂木沼の頬が緩む、緩んでしまう。

そんな中。

 

眩く光る白い極光がグラウンドを一瞬で包みこんだ。

 

固く握られていた手は離れ、円堂たち雷門の面々だけではなく、砂木沼とイプシロン改の面々も光の発生源へと目を向けた。

 

黒と鮮やかな青のサッカーボール、発生源は恐らくそれだろう。

それを足蹴にして1人の少年が立っていた。

北風を思わせるような涼し気な……いや、冷たい風貌の少年、その目は冷たく氷のようだった。

 

「残念だよデザーム、エイリア学園のファーストランクチームである君たちまで敗れるなんて」

 

その声にイプシロン改の面々は背筋が凍る。

かつてジェミニストームの面々が感じ取ったそれと同じ、自分たちが告げた。

『お父様』の期待に応えられなくなる。その事実。

 

「ガゼル様……!!」

 

「お前は……!!?」

 

「次は我々エイリア学園マスターランクチーム、ダイアモンドダストが相手になるよ……だけど、君たちじゃまだ力不足だ……力を蓄えておきたまえ、今はその弱者たちを迎えに来ただけさ」

 

少年、ガゼルの氷のような冷たい言葉に動揺が隠せぬイプシロン改、そしてそれに1人の男は黙っていない。

今の今まで激闘を繰り広げてきた相手を侮辱された怒りでわなわなと拳を震わわせた円堂が力強く叫んだ。

 

「デザームたちが弱いだって?!コイツらはすっげぇ熱いサッカーをするすげぇ奴らだ!バカにするんじゃない!!」

 

その言葉に心が、魂が震える砂木沼、そして面食らうガゼル。

その後、ガゼルからの冷めきった 視線に砂木沼は後ろへ数歩下がる。

自分たちの、イプシロン改の退場の時間だ。

 

「さらばだ、円堂」

 

円堂の視線の先、砂木沼は微かに笑ったように見えた。

だが、その真偽を円堂は確かめる間もなく。

ガゼルが足元のボールを蹴ると真っ直ぐに円堂とイプシロン改の間の空間へと突き進み。

再び白い極光が辺りを包む。

円堂が、雷門の面々が、観客たちが。

再び目を開けた時にはエイリア学園はガゼルもイプシロン改の面々も……誰1人としてその場にはいなかった、まるで最初からそこにはいなかったかのように。

いや、ガゼルの立っていた場所。

そこに残っていた跡、地面に空いたボールの形をした破壊痕だけが、唯一の証拠だった。

 

「エイリア学園マスターランクチーム、ダイアモンドダスト……か」

 

鬼道の脳裏に浮かぶのはグラン率いるザ・ジェネシス、そしてそれに匹敵するであろうバーンの存在。

少なくとも3チーム、まだ強敵がいる。

だがしかし、これまでのパターンを考えれば。

 

「一体、あと何チームいるんだ……?」

 

鬼道の呟きに応える者はおらず、1人思案に耽る。

だが、円堂がサッカーボールを拾い上げ鬼道も含めた雷門イレブンすら通り越すようにボールを投げた。

その先にいたのは、最後尾にいたのは。

豪炎寺だった。

 

「……円堂」

 

「おかえり!豪炎寺!!」

 

「……あぁ!」

 

2人の視線が交わる、本当に色々な事があった。

ろくに部員すらいないサッカー部に豪炎寺という仲間が加わってから、本当に。

日本一を決める大会であるフットボールフロンティア、ジェミニストームの来襲。

豪炎寺の脱退、イプシロン改との激闘。

ジェネシスの脅威、そして新たに現れたダイアモンドダスト。

だが、この瞬間。

このかけがえのない時間を守るための戦い。

 

「よーし、サッカーやろうぜ!!」

 

円堂の一言によって練習が始まった。

豪炎寺から鬼道へとパスが繋がれ、更に鬼道から一之瀬へと即座にパスが繋がった。

本来の地上最強チームを作る前の雷門ではいつも行われていた練習だ。

懐かしさからかお互いなんの変哲もない練習なのに自然と笑みが浮かぶ。

ボールを持って駆け上がる一之瀬へと止めに入る土門、この2人の付き合いは雷門に入る前からあったためお互いのプレースタイルは完全に熟知しているために一之瀬と土門は互いに熱が入る。

 

「貰いっ!」

 

「やるな土門!」

 

一之瀬の隙を突いて土門がボールを奪取、グラウンドを駆ければ目の前には綱海が立ちはだかるか。

 

「悪いなっ」

 

「っお!!」

 

簡単に綱海を抜き去る土門、そして土門は弧を描くようにUターン。

これはドリブルや守備の練習、ボールを奪われるまでフィールドを駆け巡り続けるなのだからそれもわかる。

綱海の視線の先、自分を悠々と抜いた土門が少し口角を上げて嬉しそうに豪炎寺へと挑んでいる。

 

「ちょっとは俺の時も楽しそーにしろよなー!!」

 

豪炎寺との久しぶりの練習に熱が入る、更には綱海はスタミナや基礎運動能力、体幹に優れた選手ではあるがまだ初心者。

体格やパワーで勝負する選手相手なら綱海もいい勝負になるのだが、土門は技術で戦う選手、相性が悪かった……いや、土門から言わせれば余裕で抜けるのだ。

だが、綱海も空気が読める男、本当に楽しんでいる土門や一之瀬といった雷門のメンバーを見たらそれ以上は言わぬが花と練習に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

吉良財閥の誇る大型プライベートジェット、その内部にてイプシロン改の面々とガゼルは何も話せず、ただ無言の時間が過ぎ去るのみ。

そんな中、ふと砂木沼が口を開いた。

 

「すまないな風介(ふうすけ)、つらい役目を押し付けた」

 

「気にするな砂木沼……お父様のためだ、君たちと一緒だよ」

 

「そうだな、お父様のためだ」

 

再びの沈黙、それを破るのは砂木沼の言葉だった。

言うか言わまいか、砂木沼は少し躊躇してから辛うじての言葉を吐く。

 

「……お父様のため、本当にそうなのか?」

 

「……どういう事だ砂木沼、何が言いたいんだい?」

 

「お父様の事業のためとだけ聞いていたが、ハイソルジャー……お前たちに課せられたあの強化訓練、その技術をお父様は『誰』に『何処』に売るんだ?」

 

「……さぁな、お父様の……吉良財閥の考えていることは僕たちにはまだ知るには早過ぎる、僕たちはまだまだ無力だよ」

 

「そうか……そうだな、辛い事を聞いた……すまない」

 

そこから2人の会話は続きはしない、ただこの場に少しの種を撒いただけだった。

疑問、不安、そんな種がその2人の脳裏に撒かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷門によってイプシロン改が倒されてから数日が経過した。

雷門は沖縄の地にてムードメーカーにして高い身体能力と体幹を持つ綱海、元真・帝国学園のキャプテンにして鬼道に引けを取らない実力者である不動という2人の新メンバーを加え、さらに一時脱退した時よりもパワーアップした雷門の炎のエースストライカー豪炎寺が帰ってきた。

それにより戦力は大幅に上昇したと言えるだろう。

エイリア学園ファーストランクチームであるイプシロン改を倒し、ジェネシスと同じマスターランク更なる強敵であるダイアモンドダストとの戦いに向けて彼らは東京の地にて修行に励んでいる。

 

「って感じなんだろーねぇ」

 

「アンタは誰に話しかけてんだよ、秀子サン」

 

東京のとある病院の病室に黒山羊秀子の姿はあった。

彼女の利き腕である右腕には点滴が取り付けられており、絶賛入院中の身なのである。

そんな彼女の携帯がけたたましく鳴る。

不動が訪ねて来てからもう3度目のそれに不動は呆れたようにため息を着いた。

 

「ここ個室とはいえ病院だぜ秀子サン、いい加減マナーモードにでもするか、電話に出ないなら電源切った方が良くね?」

 

「いやいやアッキー、この着信音はエイリア学園からなんだよねー、今私が入院してるのはあの人たちにバレちゃいけないんだよねぇ……あはは」

 

「……アンタの計画ってやつか?エイリア学園とは別口のヤツ」

 

暫しの沈黙、口角を少し上げて笑う彼女の目は笑ってはいない。

そんな彼女の冷めたような笑いを見るのはもう何度目だろうか、そう彼が再度ため息を着いた。

 

「俺とか豪炎寺クンには『周りを信じて行動しろ』とか言ってたアンタは俺らのこと信用してないわけ?」

 

そんな彼の言葉の終わり際、秀子がなにか答えようとした瞬間である。

扉が開く音がした。

咄嗟に扉の方に目を向ける2人、そこには白髪混じりの男性……この病院の医師である豪炎寺医師が看護師の女性を連れて歩いてきた。

 

「隣の部屋から着信音がうるさいと苦情が出ている、あまり他の患者に迷惑をかけるようなら追い出すぞ、黒山羊くん」

 

「はーい、でももうそろそろ出ていく予定なので……多目に見てくださいよ、豪炎寺先生」

 

看護師が居心地悪そうに点滴を交換する中、秀子の濁った目と豪炎寺医師の鋭い眼光が火花を散らす。

だが、諦めたのか豪炎寺医師は不動と同じく呆れたような息を着いて告げる。

 

「わかっているとは思うが、手術は成功した。あの患者も時期に目を覚ますだろうが……本当に吉良財閥の関係者には伝えなくていいのか」

 

「えぇ、あの人は私にとって吉良財閥との交渉において……とっーても重要な一手、いわば切り札です

瞳子姉さんにだって話してないんですよー?」

 

「……まぁ、私としても吉良財閥の影響で患者が増えるのは不本意だ、早期解決の為なら協力は辞さないさ」

 

「助かりますよ……先生……あ、看護師さん私次のご飯いらないんで用意しなくて大丈夫ですよー」

 

濁った目から反転、にこやかな笑みで秀子は看護師に声をかける。

看護師は目を丸くして豪炎寺医師へと向き直ると、まだ早いのでは?ほぼ一日がかりの大手術だったのに。と彼へと声をかける。

 

「あれ程の手術の後だというのにもう動けるのか?」

 

「まぁ、本調子じゃないですけどねぇーサッカーとかは無理かなぁ……でも、この前も言いましたよね?」

 

秀子はまたも濁ったような目で笑みを浮かべながら言う。

その目に不動も看護師も、豪炎寺医師ですら一瞬背筋に氷を入れられたかのような錯覚を覚える。

 

「私には時間が無いんです、邪魔をするなら容赦はできませんよ?」

 

そんな中、再度扉が開く音がした。

桃色の髪をした少女、小鳥遊と獅子を思わせる風貌の少年、源田。

ともに真・帝国学園であり秀子の修行に耐えた2人だ。

そんな2人の姿を見つけた秀子は目を輝かせて大きな声を上げた。

 

「うそっ、2人ったらいつの間にそんな関係になったの?!私びっくりなんだけど!!」

 

『静かにしろバカ』

 

不動をも含めた3人が同時に窘めると、秀子は口を尖らせる。

その挙動に安堵する不動、そして不動とは逆に驚いたのは豪炎寺医師。

どちらが本当の彼女なのか?先程までの表情も今の表情もきっと偽りのない彼女の本性だろう。

豪炎寺医師はお見舞いもいいが、他の患者に迷惑をかけないように。とだけ言い残すと看護師を連れて病室を後にした。

 

「先生……彼女なのですが……」

 

「なんだね……あまり彼女を詮索しない方がいい、下手をすれば私も守りきれん。職を失いかねんぞ」

 

「いえ、その事ではなく……」

 

病室の外、看護師は少し言い貯めてから意を決したように呟いた。

 

「あんな大きな手術の後なのに、バイタルがとても安定していたんです。

手術後から今まで、若干の気だるさ等は感じているようですが……とても大きな手術をした後には思えないほど……」

 

その言葉に少し眉をしかめる。

だが、豪炎寺医師はそのまま歩みを止めない。

 

「構わん、気にするな……恐らくは我々には関係のないことだ」

 

そう言って2人は次の患者の元へと歩いていく。

 

 

そして病室。

秀子は小鳥遊ととりとめもないような雑談に花を咲かせていた。

新必殺技はどうだった?とか他の皆は?とか、本当にとりとめもない普通の会話。

そんな2人を見て安堵する不動、更にそれを見て不思議そうな顔をする源田。

 

「なぁ不動、雷門側ではなにかあったのか?練習には出なくて大丈夫なのか、お前は鬼道たち……いや、雷門イレブンとして連携などを強化する期間が必要なはずだ」

 

「今日はお休みだよ源田クン、久しぶりに雷門中のヤツらは東京に戻ってきたわけだからな、今日丸一日は休憩ってわけ」

 

「そうか、ならいいんだが……鬼道の足を引っ張るんじゃないぞ?」

 

その言葉に振り向く不動、その額には少し筋が浮かび眉をしかめている。

 

「誰が足を引っ張るって……?」

 

だが、その口角は少し上がっていた。

 

「ふん、雷門との試合でお前は鬼道に抜かれていただろう。

鬼道相手なら仕方ないかもしれないが、それで黒山羊と同郷であるエイリアに太刀打ちできるのか不安でな」

 

「よーし、頭きた。お前、河川敷のグラウンドに来い、てめぇからゴール奪ってやる」

 

「上等だ」

 

口調こそ乱暴だが、2人は実に仲良さげに病室を後にする。

だが、源田は病室の手前で急に押しかけてすまなかった。と律儀に秀子へと声をかけ不動はそのまま振り返らず片手を少し上げて別れの挨拶のつもりなのだろう、早足で歩いていった。

2人のそんな様子を見てクスクスと笑う2人。

 

「アイツらって、本当馬鹿だね」

 

「いいんじゃない?青春は今しかないんだよー?」

 

「……秀子さ、たまにおばさんみたいなこと言うよね」

 

「失礼な!」

 

秀子の携帯から先程までとは違う着信音。

秀子が画面を見れば、不動からのメールだった。

騒がしくした、悪い。

あんまり無理すんなよ。

そのメールを見てキョトンとする秀子はそれを小鳥遊へと差し出す。

それを見てまた少し控えめに笑う小鳥遊。

 

「ほんと、男って馬鹿ばっかりだね」

 

「ねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜、本来ならまだ黒山羊秀子が寝ててもおかしくはないベッドの上には。

 

失礼しました、それとありがとうございます。

 

と書かれたメモだけが残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が部屋を包む。

 

「おいグラン、ニグラスの奴と連絡が取れねぇってのは本当か?」

 

炎のような紅い髪と太陽な瞳を持つ少年、バーンが腕を組みながら正面を睨む。

 

「そうみたいだ、どうやら研崎さんの部下の人達が警察相手にヘマしたらしくてね、もしかしたら警察から逃げているのかもしれない」

 

バーンとは違う滑らかな色合いの赤い髪と宝石のような翠色の瞳を持つ少年、グランは心配そうな目で項垂れる。

 

「彼女の事だ、そこまで心配することはないとは思うが……まぁ、私たちは今まで通り雷門と戦い、お父様のジェネシス計画を進めるだけだ」

 

汚れ一つない雪原のような白い髪と氷のような瞳を持つ少年、ガゼルがそう言い放つと。

そういえば、とグランが切り出した。

 

「次は君たちダイアモンドダストが出るのかい?」

 

「はっ、ジェミニとイプシロンみてぇに返り討ちに合わなきゃ良いけどな」

 

興味深そうに声をかけるグランと煽るように高圧的な態度のバーンに対しガゼルは軽く笑う。

 

「なに、円堂守と雷門イレブンに少し興味が湧いてね」

 

下らねぇと一蹴するバーンに対し、グランは思案する。

普段から冷静なガゼル……いや、風介がここまで熱くなるなんて、と。

そして更に彼は少し笑う。

円堂守、彼はやはり面白い。彼の熱が徐々にエイリア学園に伝播して、いずれはバーンのプロミネンスや自身のジェネシスまで熱くさせるのではないか……と。

 

「本当なら今日の内に仕掛けたかったが、ニグラスの事があったからね……明日、仕掛けるさ」

 

 




私事(わたくしごと)で何度か手術されましたが、1番驚いたのは摘出した骨を「持って帰りたいですか?」と聞かれたことです。


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にじゅーいちわ

最後の手術も終わり、利き手から全ての枷がやっと外れた……


雷門中の面々は修繕中の母校に代わって河川敷での練習に励んでいた。

攻めの起点である鬼道含むMFの面々、守りの要であるDFたちと不動は互いに牽制し合いながらせめぎ合う。

 

「一之瀬の挙動だけに惑わされんな!鬼道はお前らが一之瀬に集中してる間に他のメンバーに指示出ししてんぞ!」

 

「はいっス!!」

 

「俺からの指示を待つだけではなく各自咄嗟の判断を大事にしろ!不動の指示は的確だ!後手に回っては攻めきれないぞ!!」

 

「わかったよ鬼道!!」

 

雷門中の司令塔が鬼道だけだった時はこんな風な練習ができなかったが、司令塔が2人いる今、攻守ともに万全とも言える練習ができている。

鬼道だけではやはり、1度の練習では攻守どちらかに偏るため効率は1.5~2倍とも言えるだろう。

 

そんな中、円堂は河川敷を見回す。

吹雪兄弟の弟、アツヤは練習に参加していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、吹雪アツヤは雷門病院に来ていた。

屋上にいるのはアツヤ、そして愛媛の地にて地上最強イレブンから怪我によっての脱退を余儀なくされてしまい松葉杖をついている染岡だった。

 

「どうした、お前らしくもねぇ……いつもの自信満々なお前はどこいっちまったんだ?」

 

「……染岡、アンタは豪炎寺っていうライバルがいる中、どうしてあそこまでやれたんだ」

 

いつもの自信に溢れ好戦的な表情とは打って変わって、アツヤの表情には曇りがあった。

デザームとの戦い、士郎のエターナルブリザード、豪炎寺の復帰。

それらはアツヤの自尊心を粉々に砕いたのだ。

 

「……まったく」

 

暗い表情のアツヤの頭にそっと手を伸ばす染岡、その手は頭上で拳になりアツヤの脳天へと振り下ろされた。

 

「いでっ?!!」

 

「くだらねぇ事で悩んでんじゃねえよ……豪炎寺はすげぇストライカーだ、お前より長くアイツの横を一緒に走ってた俺はお前よりアイツの凄さを知ってる」

 

「……俺が勝てなかったデザームにアイツは簡単に勝ったんだ、ゴールを奪えなかった俺、奪えたアイツ……俺が雷門イレブンでできる事なんて……!!」

 

「馬鹿野郎!!」

 

染岡の怒声が屋上に響いた、アツヤよりも染岡本人の方が何故自分が怒鳴ってしまったのか……と数瞬考えたあと、ぽつりぽつりと語る。

 

「お前は前の俺だ、豪炎寺に勝とうと意地張ってた前の俺だ」

 

染岡の言葉をアツヤは黙って聞いていた、頭ではなくその心で。

 

「けどな、サッカーってのは1人でやるもんじゃねぇ……豪炎寺にだって奪えねぇゴールはある。そこを決めてチームにプレイで言うしかねぇんだよ

 

雷門のストライカーは1人じゃねぇってな

 

そして、それを認めさせるには努力しなきゃいけねぇんだよ、豪炎寺に負けねぇくらいにな……あぁっ!!俺はこんな風に言うのは苦手なんだ!自分で言ってて背中痒くなってきやがった!!」

 

心が震えた、自分は自尊心……プライドばかり高くて努力を怠っていた、俺なら勝てる。勝手にそう思っていた。

サッカーはチームでやるもの、どこで忘れてしまったのか。

自分はずっと兄と2人で玉蹴りをして遊んでいただけだ。

気づけば、体が動いていた。

 

「ありがとな染岡!!」

 

頭を下げ、即座に切り返して出口へと走る。

迷いは……まだあるのかもしれない。

だけど、思い出せた。

 

サッカーは皆でやるから楽しいし、勝てない相手に勝つために練習するのもまた、楽しかったんだと。

 

アツヤの背を黙って見つめる染岡はため息をひとつついた。

 

「……柄でもないことしちまったなぁ……」

 

「良いんじゃない?青春だよ青春」

 

その声にハッとして振り向く染岡。

そこには闇よりも深い黒色の髪、血よりも濃い紅い瞳、スーツ姿の少女が立っていた。

 

「……お前か」

 

「うん、迎えに来たよー染岡くん」

 

少女は片手を差し出した、その中に握られていたのは薄紫色の結晶。

 

「私の計画に付き合ってくれてありがとね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、空からソレは落ちてきた。

 

雷門イレブンが練習している河川敷、その地面にめり込んだそれを彼らは囲った。

青と黒、沖縄の地にてイプシロン改を打ち倒した彼らの前に現れたマスターランクチーム『ダイアモンドダスト』のボール、そしてそこから音声が流れ始めた。

 

「雷門イレブンの諸君、我々ダイアモンドダストはフットボールフロンティアスタジアムにて待っている。

来なければ……黒いボールを無作為にこの東京に打ち込む」

 

「なんだって?!」

 

「無作為にだと……?!」

 

驚く円堂と鬼道の後ろで壁山と目金が無作為って……?デタラメにって事ですよ!などと頭の悪い会話もしているが、そんな事知らずと黒いサッカーボールは役目を終えたと言わんばかりに崩れ去った。

 

「……仕方ないわ、ただちにスタジアムに向かいます」

 

『はい!!』

 

雷門イレブンはすぐに移動型拠点でもあるイナズマキャラバンに乗り込み、フットボールフロンティアスタジアムへと足を運んだ。

その最中、士郎は車内にて練習に来ていなかったアツヤへとメッセージを送っている。

フットボールフロンティアスタジアムの住所と、エイリア学園マスターランクチームダイアモンドダストとの試合が始まる事を。

 

アツヤが合流できぬまま、フットボールフロンティアスタジアムのベンチへと着替え等の準備を済ませ雷門イレブンは作戦会議を行っていた。

 

「相手はどんなチームかわからないわ、どのような攻撃をしてくるかもわからない

豪炎寺くん、早速だけどフォワードを任せるわ」

 

瞳子としてはダイアモンドダスト、ガゼルこと風介のチームは守備に長けたチームであり攻めは風介任せであった事までは知っている。

だが、素人同然であったジェミニストームはパス回しに長けた速攻型チームへと進化していたり、デザームこと治のワンマンチームだったイプシロンも雷門との闘いの中でチームワークがかなり強化されていた。

どのような強化があるかわからない、そんな状況で守備に長けている……なんて情報を渡せるはずもなく。

更にはダイアモンドダストの試合の情報は未だ初回の複数地点同時侵略の1戦のみ、彼女自身その情報を持っている。というのが歳の割に聡い鬼道たちにバレればチーム全体が乱れてしまう可能性があったため伝えられずにいた。

 

「はい」

 

「豪炎寺くんは間違いなくマークされる、彼にボールを回すのも大事だけど……チャンスがあればゴールを狙いなさい」

 

『はい!』

 

ミーティングの最中、壁山が相手ベンチをチラリと覗き見る。

そこにはまだダイアモンドダストの姿はなく。

 

「来いって言っておきながら奴らは来てないじゃないっすか……」

 

「この僕に恐れをなしたんでしょう……」

 

目金が調子に乗ってフラグを立て、壁山が苦笑した瞬間。

青白い極光がスタジアムを包んだ。

突然の光に目が眩む雷門イレブン、ベンチの方にはいつの間にかダイアモンドダストの面々が姿を現していた。

ダイアモンドダストの面々の視線の鋭さに少しの寒気すら感じる。

先程まで調子に乗っていた目金と大柄だが相手に呑まれやすい壁山は震え上がっている。

そんな中、キャプテンのガゼルが口を開いた。

 

「エイリア学園マスターランクチーム、ダイアモンドダストだ」

 

「マスターランク……」

 

やっとの思いで倒したイプシロンよりも上のチーム、その存在に思わず武者震いする円堂。

ガゼルは雷門イレブン……いや、円堂へと更に続けた。

 

「円堂、君たちに凍てつく闇の冷たさを教えてあげるよ」

 

「冷たいとか熱いだなんてどうでもいい!サッカーで街や学校を壊そうなんて奴ら……俺は絶対許さない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合が始まる。

 

アツヤ不在のため、フォワードはリカと豪炎寺のツートップで始まった。

リカが豪炎寺へとボールを蹴り出した瞬間、ダイアモンドダストの面々が一気に両サイドへと退いた。

ゴールまで一切の守備がいない。

明らかな誘いに憤る豪炎寺、そしてそんな戦略に驚かざるを得ない鬼道と円堂。

 

豪炎寺は無理矢理センターラインから強烈なシュートをダイアモンドダストのゴール、そしてゴールを守護する唯一のメンバーであるベルガへと叩き込む。

そのボールは強烈な回転によりゴール前で曲がりゴールポストギリギリの所へと吸い込まれる。

 

「やったで!!」

 

リカが声をあげた、が。

ベルガはそれに追いついた、片足飛びでボールを見事キープし。

そのままゴール前から投擲、ダイアモンドダストのメンバーを越え、センターライン、雷門イレブンのメンバーすら置き去りにして円堂の元へとボールは届いた。

 

「ゴールからゴールに投げてくるなんて……なんて奴だ……!!」

 

円堂の視線の先、ベルガは余裕といった表情でゴールにただずんでいる。

円堂が仕切り直しのため味方へとボールを投げようとした時には、既にダイアモンドダストのメンバーは自陣へと潜り込んでいた。

円堂が土門へとボールを投げ、その土門が一之瀬へとパスをするが。

仮面を被った少女、リオーネがそれを難なくカット。

MFという事もあり比較的センターラインに近かったとはいえかなりのスピードだ。

カットしたボールはそのままキャプテンのガゼルへと渡り、ガゼルが強烈なボレーシュートを放つ。

円堂はそれを何とか受け止めるが、威力はかなりの物だ。

 

「ビリビリくるぜ……!!」

 

連携、そしてシュートの威力……かなりの練度であることを感じた円堂が思わず笑みを浮かべ、それを見たガゼルも不敵に笑う。

 

 

 

フットボールフロンティアスタジアム、その観客席にて赤髪の少年たちがダイアモンドダストと雷門イレブンの試合を見ていた。

 

「つまらん試合だ」

 

「まぁ見ててよ、君も円堂の熱さがわかるからさ」

 

ザ・ジェネシスの冷静なキャプテンのグランことタツヤ、そしてプロミネンスの熱いキャプテンのバーンこと晴矢。

 

「で、俺にこんな試合を見せるためだけにこんな所に呼び出したのかよお前は」

 

「ニグラスはなんとか沖縄を脱出して、この東京に潜伏してるらしいからね……僕たちが彼女のフォローをしないと」

 

 

 

 

 

再び攻める雷門、だがしかしいくらパスを繋ごうとしてもダイアモンドダストのメンバーがカットしガゼルへとボールが渡ってしまう。

そしてガゼルの必殺技ではない普通のシュートすら壁山や塔子といったDFの必殺技や円堂の隙をついた一撃のため守備での体力消費がかなりの量だ。

 

そんな中、鬼道がなんとか前線のリカへとボールを繋いだ。

リカがダイアモンドダスト陣へと切り込むがDFのゴッカがリカへと迫るくる。

 

「フローズンスティール!!」

 

氷を纏ったスライディングがリカを襲う、リカが余りの威力に弾かれ……リカは痛みに蹲ってしまう。

リカのキープしていたボールはスライディングによって観客席にまで飛んでいってしまった。

 

雷門イレブンの面々がリカへと駆け寄る中、飛んでいってしまったはずのボールがフィールドの中へと転がってきた。

これには雷門イレブンだけではなく、ダイアモンドダストの面々も目を丸くしていた。

そこへと降り立つ1人の少年。

色素の薄い長髪をたなびかせ、少年はボールを軽く蹴り上げると玩ぶかのように指先に乗せて回転させている。

 

「お前は……!!」

 

円堂を初めとした雷門イレブンの視線の先、少年は不敵に笑う。

円堂が彼の名を、かつての強敵の名を。

 

「アフロディ……!!」

 

円堂は無言のまま歩みを進め、センターライン付近に降り立ったアフロディの眼前へ。

アフロディは笑みを浮かべたまま。

 

「また会えたね、円堂くん」

 

珍しく神妙な表情を浮かべている円堂、少し重い空気に耐えきれずにかリカがなんやねんアイツ……とぼやいた。

そんな彼女に肩を貸していた一之瀬が円堂と同じく神妙な表情で説明するように思い返すように口を開いた。

 

「フットボールフロンティア決勝で戦った、世宇子中のキャプテンだ」

 

一之瀬だけではなく、雷門中として戦った面々の記憶に残る彼らの姿。

暴力とも言えるような圧倒的な力、神のアクアと呼ばれるモノによって得た力を振るい。

円堂を苦しめ、サッカーを穢した者たちの姿を。

 

「何しに来たんだ」

 

円堂が真剣な表情で問い掛ける、アフロディの意志を見極めんと。

 

「戦うために来たのさ、君たちと」

 

その言葉に、またも影山からの妨害かと円堂がうんざりだと言わんばかりに前のめりになるが。

アフロディの目に熱い意思が宿る、その目はかつての物ではなく。

 

「君たちと共に奴らを倒す」

 

その目と言葉に驚く円堂。

彼は続ける。

 

「僕は君たちの力になるために……彼女に呼ばれてここに来た。

雷門とエイリア学園の戦いは見ていたよ。

そして、激戦を続ける君たちの姿を見て湧き上がる闘志を抑えられなくなったんだ。

僕を雷門の一員に加えて欲しい」

 

その言葉に目を閉じて考える円堂、だがかつてのアフロディを知る雷門の一員のうち、一之瀬と土門は反対だと声を荒らげ、他のメンバーも半信半疑と言った様子だ。

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

「いきなり何言ってんだ、わけわかんねぇよ!」

 

「あの世宇子中の選手が仲間になるなんて……」

 

鬼道は彼女という言葉に疑問を抱く、だが今はダイアモンドダストとの戦い。そして眼前のアフロディに集中しなければと優先順位で切り替える。

 

「君たちが疑うのもわかる……でも信じて欲しい。

僕は神のアクアに頼るような愚かなことはもう二度としない」

 

アフロディの目は真剣なまま、決意は既に固まっていると表情で伝え、続ける。

 

「僕は君たちに敗れて学んだんだ、再び立ち上がる事の大切さを。

人は倒れる度に強くなれる」

 

その言葉を聞いて彼を信じる事を決意できた豪炎寺と鬼道。

豪炎寺が名前を呼ぶ事で円堂へと声をかけた、信じても良いんじゃないか?と。

 

「本気なんだな」

 

「ああ」

 

疑いもあった真剣な表情は解れ、アフロディを認めた円堂を口角が上がる。

 

「わかった、その目に嘘はない」

 

円堂がアフロディへと握手を求めて手を伸ばす、その手にアフロディも応えて2つの手が固く結ばれた。

 

「ありがとう、円堂くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

リカに代わり、アフロディがFWとしてフィールドへと降り立った。

そんな彼の姿を見てガゼルは不敵に笑う。

 

「世宇子中の敗北者か、人間に敗れた神になにができる」

 

更に外部、観客席からはバーンがそんなのありかよ……とぼやき、グランは軽く笑うと面白くなってきたね……と呟いた。

 

雷門ベンチでもリカやマネージャーたちが怪訝そうな表情でアフロディで見つめる。

瞳子はアフロディが臨時とはいえ地上最強イレブンのFWを任せられる実力を持っているかどうかも見極めるためにと盤面ではなくアフロディを見つめる。

 

「あんな奴に任せていいんか?」

 

「試す価値はあるわ……」

 

「監督の言う通り、決定力の不足を補うならこれもありね」

 

「大丈夫よ、円堂くんが認めたんだもの」

 

木野は円堂を信じていると言い、肯定的なようだが。

実は瞳子も少しだけ彼の事を信じていた。

円堂ではなく、アフロディが言っていた彼女が黒山羊秀子なら。

アフロディを信じてもいいと少しばかり思っていた。

 

ゴール前から円堂が叫ぶ。

 

「頼んだぞ!アフロディ!!」

 

アフロディが円堂の言葉に頷いた直後、リオーネのスローインから試合が再開した。

ダイアモンドダストのMFである鼻から下をマスクで隠した少年バレンが受け取り前線へと駆ける。

が、即座に反応した土門が必殺技で彼を迎え撃った。

 

「ヴォルケイノカット!」

 

土門が脚を薙ぐように払うと噴き出す炎がバレンの道を遮り土門がボールを奪った。

土門の前方、絶好のパスコース先にアフロディは待っていた、走りながら土門のパスを待つが。

土門はアフロディへの疑念が晴れておらず、躊躇した。

その隙をダイアモンドダスト、エイリア学園のマスターランクチームは見逃さない。

FW、茶髪の少年ブロウが土門から容易と言わんばかりにすれ違いざまに奪ってみせた。

 

円堂と豪炎寺、瞳子はやはりか……と思ってしまう。

アフロディというかつての悪に対し、雷門中に在籍していた面々がもつ苦手意識が抜けるまでに時間がかかることは考慮していた。

だが、FWを任せられる人物が他にいない今、彼に頼るしか無かったのだ。

 

ブロウの前に立ちはだかった壁山は得意のザ・ウォールで道を塞ぎ、ボールを奪取。

鬼道がアフロディがフリーだ!と叫ぶが壁山もその苦手意識から逃れられず。

躊躇したところを今度は不動に急かされたのもあり、壁山が蹴ったボールはアフロディの遥か前を通り過ぎてしまった。

 

再びダイアモンドダストの攻撃を今度は一之瀬が止める、ダイアモンドダストのメンバーが迫る中。

彼の視線の先、2人がかりでマークされパスコースを防がれている豪炎寺とフリーなアフロディ。

一之瀬は普段ならするはずのないミスをした。

豪炎寺へとパスを回したのだ。

 

「ッ?!!」

 

咄嗟に豪炎寺もなんとかパスを受け取るものの、ダイアモンドダストのDFである大柄なゴッカとMF長髪の少女アイシーにボールを奪われてしまう。

そのままボールはキャプテンのガゼルへと渡り、カウンターで雷門陣営に切り込む。

綱海が咄嗟に対応するが、綱海は身体能力に優れてはいるが初心者。

その隙を突かれフェイントで容易に突破されてしまう。

ガゼルが放ったコーナーギリギリのシュートに飛びかかって止める円堂。

 

「やるじゃないか。

だが……チームは噛み合ってないようだ、崩すのは容易いな」

 

その言葉を否定できない円堂、そして豪炎寺とアフロディ。

そして再度攻め上がろうとするが、調子が狂っている雷門ではダイアモンドダストの守備を突破できずカウンターによってダイアモンドダストの猛攻が続く。

氷でできた彫像のようなFWフロストが攻め上がり、小暮が旋風陣で迎え撃つ。

だが、小暮はダイアモンドダストのFWを止めたことで調子に乗った隙を突かれガゼルが急接近、見当違いの方向へとボールを蹴り出してしまう。

 

「おい!遠いぞ!」

 

「パスが乱れたぞ!奪え!」

 

ボールになんとか追いついた綱海。

だが、綱海がボールをキープした頃にはバレンとブロウがボールを奪わんと迫っていた。

 

「へっ、丁度いいぜ!!」

 

だが、綱海の視線の先。

彼は追っ手を振り切って、フリーだった。

 

「アフロディ!!」

 

綱海からの鋭いパスが、雷門イレブンから初めて彼へとボールが渡った。

 

「……行くよ」

 

アフロディは急加速、物凄い勢いでダイアモンドダスト陣営へと駆け込む。

 

「……お手並み拝見だな!」

 

ガゼルが呟く視線の先、アフロディへと迫る鼻から上を隠す仮面をつけたMFであるドロルとアイシー。

アフロディは片手を挙げ、指を鳴らす。

 

「ヘブンズ……タイム!」

 

体勢、そして音による催眠。

それらによって感覚を鈍らせ、その間にアフロディは彼らの合間を歩むように通り抜けた。

直後、爆風が彼らを襲う。

 

ヘブンズタイムは既にニグラスこと黒山羊秀子から聞いていたガゼルは目を閉じてヘブンズタイムを回避、アフロディの前へと躍り出た。

 

「堕落したものだ、君を神の座から引きずり下ろした雷門に味方するとは」

 

「引きずり下ろした?

違う、彼らが……円堂くんの強さが僕を悪夢から目覚めさせてくれた……

新たな力をくれたんだ!」

 

「君は神のアクアが無ければ、なにもできない!!」

 

アフロディへと迫るガゼル、だが。

 

「そんなもの必要ない」

 

アフロディは軽くボールを横へと蹴った。

 

驚くガゼルの視線の先、既にそこには豪炎寺がいたため。

ガゼルは2人の即興連携プレーによって抜き去られた。

 

豪炎寺からアフロディへとボールが戻る。

 

「見せよう、生まれ変わった僕の力を……!!」

 

アフロディの背中から黄金に輝く翼がはためいた。

 

天へと舞い上がり、エネルギーを込めたボールをかかと落としの要領でアフロディは蹴り落とした。

 

「ゴッドブレイク!!」

 

かつての技とは違う、その輝き、パワーに円堂と鬼道が驚きを隠せない。

 

「これは……!!」

 

「前よりも遥かにパワーアップしている……!!」

 

黄金の輝きを放つボールがゴールへと迫り、GKのベルガは正面から迎え撃つ。

 

「グレイシャル……」

 

吹雪を纏わせ両拳をボールへと振り下ろし、叩き付けた。

 

「フィストォォオ!!!」

 

神の一撃は、吹雪を纏った両拳に止められた。

 

本来の世界線とは違う点がいくつかあった。

そう、アフロディは黒山羊秀子と既に出会っており彼女に導かれた際に彼自身も鍛錬を積んだのだ。

だが、エイリア学園マスターランクチームのGK3人は。

 

その黒山羊秀子、直属の弟子でもあるのだ。

 

「なっ?!!」

 

アフロディ、そして豪炎寺の表情が曇る。

ベルガはそんな彼らを置いてけぼりにボールを投げた、その気になれば雷門ゴールにまで届くその腕力でガゼルへと繋いだ。

 

「この程度じゃないだろう……?!」

 

カウンターに続くカウンター、何度もあった場面ではあるが、それはダイアモンドダスト自体もカウンターに特化したチームであり、それを1番体現しているのがキャプテンのガゼルだ。

 

「行かせねぇよ!!」

 

「君のような影山の失敗作になにができる!!」

 

守備を纏める不動が咄嗟に駆け付けるが、その余りの素早さに追い付けない。

雷門のゴール前へと正に電光石火、鋭い動きで辿り着いたガゼル。

 

「凍てつくがいい!!」

 

「こいっ!」

 

円堂が両足を軽く開き、万全の体制でガゼルのシュートを止めんと立ちはだかる。

 

「ノーザン……インパクト!!」

 

一瞬、氷の世界に迷い込んだのではないか?とも思える程の冷気が周囲を包んだ瞬間、ガゼルの姿が消え。

ボールへと鋭いソバットが叩きつけられると冷気を纏い、恐ろしい速度と切れ味のボールが雷門ゴールへと迫る。

円堂は片足を高く上げ、大地を踏み締める。

全身で捻りを加え、回転を込めた拳からエネルギーが放たれる。

 

「正義の鉄拳!!」

 

回転、パワー共にイプシロンと戦った時よりも大きい拳が叩き込まれる。

数瞬の拮抗の後、それをノーザンインパクトは貫いた。

 

0-1

 

ダイアモンドダストの先制点と共に前半終了を告げるホイッスルが鳴った。

 

だが、先制点を決めたはずのガゼルの表情は少し曇っていた。

まさか、自分が抜かれ……ベルガから秀子直伝のあの技まで引き出させるなんて……。

 

「やるじゃないか……これが雷門と、円堂守と戦って得た力だと言うのか……叩き潰してやるよ……!!」

 

 

 

 

 

観客席から見守るバーンも少し焦っていた。

あの場面、防御に優れたダイアモンドダストはなんとか防げていたが、自分たちならどうだったか?そんな風に考えてしまった自身を欺くように鼓舞するように言葉を吐く。

 

「なんだよ、ギリギリじゃねぇか」

 

「でも、ガゼルは感じ取ったみたいだよ……」

 

「なにをだよ……?」

 

「雷門の……円堂守の力をさ」

 

「はァ?」

 

「言っただろう、戦えばわかるって」

 

「なんだよ!アンタはいつも勿体ぶり過ぎだぜ……」

 

グランの視線の先、そこにはまだ諦めるな!と皆を鼓舞する円堂の姿があった。

その姿は先制点をとられたまま前半を終了したとは思えない程、楽しそうに笑っていた。

強敵と戦えて嬉しい、そんな姿が少し……羨ましかった。

 

 

 

 

「くっそぉ!物凄いシュートだったぜ……!」

 

「円堂さん……」

 

ガゼルのシュートで少し痺れた右拳を左手で軽くはたく円堂、心配そうな目で見る立向居に対し、心配すんな!と彼は笑う。

 

「究極奥義に完成無しだ!次は止める!!そして勝つんだ!!!」

 

だが、周囲の目は沈んでいた。

豪炎寺に匹敵するアフロディのシュートを止めたダイアモンドダスト、そして円堂が止められなかったガゼルのシュート。

勝てるか不安だ、と皆態度で語っていた。

だが。

 

「なーにしょぼくれてんだテメェら!!」

 

雷門のメンバー達が振り向くと、そこには息を荒くした彼が立っていた。

 

「ったくよォ!こちとら東京なんぞ初めてで土地勘皆無だぜ?少しはいたわってほしいもんだ!」

 

「アツヤ!!」

 

士郎が駆け寄る、そこには円堂にも負けないくらい豪快な笑みを浮かべる彼の弟、地上最強イレブンのもう1人のストライカーが立っていた。

 

「俺を出してくれキャプテン!俺がゴールを奪ってやるよ!!」

 

吹雪アツヤが、もう1つの極寒の風がフィールドへと吹き荒れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さーてと、行こうか皆」

 

少女が笑った、その背後には10人の黒いローブを被った面々を連れて。

 

「まずは、肩慣らしだよ……かるーく捻り潰そうか」

 

「簡単に言うなよ……」

 

「まったくね」

 

「いやいや、君たちにはもっともっと強い人たちに勝ってもらわなきゃ困るからねぇ……」

 

黒いローブが風に揺れる、樹海の影から姿の無い視線が彼らを刺す。

 

「出ておいでよ、森の番人たち……私たちの糧になってもらおうか」

 

「なんだぁ?おめぇら?!!オデダチの邪魔すんなら容赦しねぇぞ!!」

 

迷彩服とガスマスクによって姿を隠している彼らを少女は正面から睨む。

 

「君たちがやっている事はただの不法侵入だ、排除させてもらうよ!!」

 

 

 

 




雷門やその周りを強化するなら……勿論ね?


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にじゅーにわ

右手が疼く……(本気)


「ガゼル様、すいません……あと打てて1.2発かと」

 

「あぁ、わかってるさ……」

 

前半が終わり、ダイアモンドダスト陣営ではガゼルを中心に会議が進む。

ダイアモンドダストのGKのベルガは本来の世界線よりもかなり強くなった。それは間違いないだろう、だが。

彼自身、本来の世界線ではアイスブロックという片手でボールを殴りつけシュートの威力を殺す技を生み出していたが。

黒山羊秀子が師としてついた際に言った一言。

 

『え、片手で止めらんないなら両手使おうよ』

 

それにより生まれたのがグレイシャルフィスト、両腕をボールへと直接振り下ろし地面へと叩きつけることでボールを確実に止める技。

だがベルガ自身、自身の生み出した技に振り回されていた。

 

「その技は強力だがお前の集中力、体力がもたない……アイキュー、DFは前半よりもより一層固めておけ」

 

「わかってるよガゼル、あの時とは違う……僕達のディフェンスはガイアだって突破できないさ」

 

ハイソルジャー適性検査という名目の試合で、ダイアモンドダストはプロミネンスとガイアとの戦いにおいて守備を注視したがそれでも適わなかった。

彼らはハイソルジャー計画の中で守備と攻撃に転ずる速さ、その2つに特化してきた。

 

「後半はアフロディにもマークにつけ……なぁに、豪炎寺修也とアフロディ以外のシュートなんてたかがしれてる」

 

ガゼルがダイアモンドダストのメンバーを見やり、不敵に笑ってみせた。

 

「私たちこそがザ・ジェネシスに相応しかった……あの方に認めさせるぞ」

 

『はい!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「アツヤ、お前どこに行ってたんだ!心配したぞ!!」

 

円堂が駆け付けたアツヤの肩を叩く、痛てぇ!と声を上げたアツヤに一言謝るとアツヤが急に頭を下げた。

 

「わりぃ、少し気になる事があってな……でもおかげで頭が冷めた……俺も攻めに加わる……俺にボールを回せなんざァ言わねぇよ……だから俺にも戦わせてくれ!」

 

以前までの彼とは違う何かを感じ取った円堂、豪炎寺、鬼道。

彼らは互いに目配せをすると口々に了承の意を伝え、円堂はまた背中をバンバン叩くものだからアツヤは再び痛てぇ!と叫ぶ。

そんな彼の元に士郎は真剣な表情で語りかけた。

 

「アツヤ、わかってくれたんだね」

 

「わかったのは俺じゃねぇよ兄貴……教えてもらったんだ、俺と豪炎寺の野郎は違ェ……」

 

その言葉に安堵する士郎、アツヤはアフロディの姿を見ると知らねェ奴がいんじゃねーか!と騒ぎつつも急いでユニフォームへと着替え始めた。

 

「よぉし!!後半、取り返すぞ!!」

 

『応!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

DFの小暮を下げてFWは豪炎寺、アフロディ、アツヤの3人となり攻撃的なフォーメーションの雷門。

ガゼルはアツヤを見ても特になにも思わない。

以前と同じならベルガのアイスブロックで充分だろう……その程度だ。

 

ダイアモンドダスト、FWのフロストがガゼルにボールを渡しガゼルが一気に加速した。

アツヤはそんな彼を、無視した。

 

その行動に驚いたのは鬼道と不動、そして誰よりも士郎だった。

以前だったらガゼルに突っ込んでいってたはずだ、そして士郎の目線の先アツヤと目が合った。

 

待ってるぞ。

 

そうアツヤの目は言っていた気がする。

 

士郎は鬼道や一之瀬を瞬く間に突破し、雷門ゴールへと駆けるガゼルへ襲いかかった。

そう、士郎はそんな荒々しいプレイを本来しないはずだ。

だけど、今の彼は歓喜していた。

アツヤが待ってる。

 

僕を信じて、前線で待ってる。

 

ガゼルが士郎の接近に気づきボールを他のメンバーへと渡そうとするが、士郎は今までの試合の中でも1番に速かった。

 

「アイスグランド……!」

 

氷を滑るかのように近づきボールを奪取する士郎、ガゼルは舌打ちして踵を返すも士郎は風のように速かった。

高揚感、兄として弟の成長が嬉しい。

チームメンバーとして頼られた事が嬉しい。

そして、今。

 

「僕達は風になるんだ!!」

 

アイシーとリオーネ、2人のMFがすぐさま士郎へと肉薄するものの、士郎はアイコンタクト1つ送ると不動へとボールを回した。

 

「不動くん!」

 

「わかってるよ!」

 

ボールを手放して身軽になった士郎がまさしく一瞬で2人を突破、呆気にとられた2人を置いてけぼりに不動からボールは士郎へと返り、DF吹雪士郎はダイアモンドダスト陣営へと駆ける。

 

「士郎!前に出すぎるな!!」

 

「行け士郎!」

 

「ッ?!!不動?!」

 

鬼道がこれ以上防御が手薄になるのはまずいと声をかけるが不動がそれを否定した。

今の士郎は1部の優秀な選手のみが至れる状態であるゾーンに入っている。

ただでさえ優秀なフィールドプレーヤーの士郎がゾーンに至った今、それを邪魔しないべきというのが彼の考えだった。

 

「今、ディフェンスは任せとけ!」

 

「うん!!」

 

「まったく、世話のかかる兄弟だ!」

 

そういう風に言う鬼道も口角が上がっていた。

個性の強い者たちが集まってより強大な力を発揮する雷門、吹雪兄弟もようやくそれぞれがピースとなって雷門というパズルにはまりだしたのだ。

 

「1点!取り戻すぞ!!」

 

身体が軽い、凍てつくような視線も凍りつくような相手のプレッシャーも故郷の雪原に帰ってきたようでどこか懐かしさすら感じる。

士郎の元へとDFの眼鏡をかけた少年アイキューが迫る、だが。

士郎はアイコンタクトも無しにボールを蹴った。

止められるとわかって咄嗟にボールを外に出したか?とアイキューが一瞬遅れてボールを視線で追う。

その先には。

 

「待ってたぜ兄貴……!!」

 

吹雪アツヤが待ち構えていた。

ダイアモンドダストのDFたちは豪炎寺とアフロディ、その両名にマークが厚かった。

だが、アツヤは軽視されていた。

本来ならアツヤも満遍なくマークしていたであろう。

だが、彼らは軽視し過ぎていた。

 

「行くぜ行くぜ行くぜェェ!!!」

 

アツヤが駆ける、もう障害はない。

 

「吹き荒れろ!!」

 

アツヤがボールへと回転をかける。

それは氷を纏った暴風を産み、それを乗りこなすかのようにアツヤ自身もその名の通り吹雪のように荒れ狂いながらボールを蹴りつける。

 

「エターナルブリザード!!」

 

正面、ベルガは一瞬悩んだ。

豪炎寺とアフロディ以外のシュートはアイスブロックで事足りる、そのはずだった。

だが、目の前から迫るソレは明らかにアイスブロックでは足りない。

 

「グレイシャルフィスト!!!」

 

目前から迫る吹雪へと自らの両腕を叩きつける。

一瞬の均衡、吹雪と吹雪は互いを飲み込もうと荒れ狂い暴風と暴風、凍てつくような戦いを経てボールは地面へと叩きつけられた。

だが、勝利したはずのベルガの顔に余裕はなくすぐ様それを前線へと送り返す。

ベルガの視線の先、アツヤが笑っていた。

 

次は決める。

 

殺意にも似たそれは以前感じたことがある。

プロミネンスのバーン?イプシロンのデザーム?ガイアのグランやウィーズ?

 

違う、ニグラスだ。

 

まだジェミニストームやイプシロンの圧倒的なパワーに押し潰されていた彼女の射殺すかのような視線を彼は覚えている。

 

ボールはMFのドロルへと渡り、ドロルが単身駆ける。

彼の元へ塔子が肉薄し互いの必殺技かぶつかる。

 

「ザ・タワー!!」

 

「ウォーターベール!!」

 

塔子の足元から顕現する巨大な塔、だがドロルが両足で飛び上がりそのままボールへと着地?すると間欠泉のように水が噴き出し塔を打ち砕いた。

ガゼルはどこだ、視線で彼を探す。

攻めの要、キャプテンのガゼルならもう一度雷門からゴールを奪うはずだと。

彼は自身の周囲には誰もいないと、油断した。

 

「おっと、隙だらけだぜ」

 

不意に背後から声が聞こえた、気づけばボールはなく。

急いで踵を返すも、自身からボールを奪い去った不動は既にダイアモンドダスト陣営へと駆け出していた。

 

「士郎、受け取りやがれ!!」

 

不動から士郎へとボールが渡る。

士郎はありがとう!と返事をすると再び前線へと駆け出した。

そんな彼の元へ鬼道が一言かける。

 

「中々やるじゃないか」

 

「はっ、守備は俺の管轄だ……もう一点なんてとられたらチームから離脱させられちまう」

 

「お前の判断、正しかったみたいだな……助かった」

 

「……だけどよ、明らかに士郎は良くも悪くも調子に乗っちまってる……油断すんなよ鬼道クン?」

 

「わかっている」

 

鬼道は前線へ、不動は自陣へそれぞれ駆ける。

彼らもまた、充足感があった。

同じチームでありながらライバル、豪炎寺や吹雪がストライカー同士で競うように彼らもまた司令塔として競い合う今の状況が少し楽しかった。

 

「吹雪!突っ込みすぎるなよ!!」

 

「わかってるよ鬼道くん!!」

 

士郎の元へまたダイアモンドダストのMFたちが襲いかかる、だが士郎はバックパスして後ろで控えていた鬼道へとボールを渡した。

アイシーとリオーネは即座にアイコンタクトでアイシーは士郎のマーク、リオーネは鬼道へと迫るも。

 

「一之瀬!!」

 

士郎によって掻き回されたダイアモンドダストの守備を潜り抜け、一之瀬が更に攻め上がる。

 

「調子に乗るな!!」

 

ガゼルがアイキューへとアイコンタクトを送ると崩れかかっていた守備が纏まり始めアツヤ、豪炎寺、アフロディへのマークはそのまま。

DF青いショートカットの少女クララが一之瀬へと迫る。

一之瀬は迷う。

 

「アツヤに回せ!」

 

鬼道が叫んだ。

一之瀬は戸惑った。

アツヤはマークされている、それなのに何故?

一之瀬がボールをキープするために身体ごと回転させボールとクララの間に自身の身体を差し込んでボールを守った。

そして、再び前を向けば。

 

「ぐっ!!」

 

「コッチだァ!!」

 

DFのゴッカを置き去りにアツヤがフリーになっていた。

 

「まったく、凄いやつだよ!」

 

一之瀬が思いっきり前へとボールを蹴り出した。

そのボールはアツヤへと渡り、アツヤがゴール前へと躍り出る。

だが、アツヤは絶好のシュートチャンス、1度立ち止まった。

その隙に近づくゴッカ。

 

「待ってたぜ」

 

ゴッカがボールを奪おうと肉薄するよりも早く、彼が辿り着いた。

 

「兄貴」

 

アツヤは飛び上がる。

士郎がボールを蹴りあげ、アツヤがそれに回転をかけた。

吹き荒れる嵐にゴッカはボールへと辿り着けない。

 

「ホワイトォ!」

 

「ダブル……!!」

 

2人がそれぞれ逆の回転をかけながらボールを挟み込むように蹴り込む。

暴風によって2人の姿はボヤけ、双子とはいえ同じフィールドにいても2人を見分ける事は難しい程だ。

だが、円堂にはわかっていた。

2人は笑っている。

それだけわかれば彼にとっては充分だ。

 

「行け!2人とも!!!」

 

『インパクト!!!』

 

ベルガは躊躇せず、残り僅かな体力を振り絞った。

 

「グレイシャルフィスト!!!」

 

重い、アフロディの放ったゴッドブレイクよりも……自身の練習相手になってくれたガゼルのシュートよりも重い。

だが、負けられない。

ザ・ジェネシスへと至り、自分たちがお父様の役に立つ。

それはエイリア学園の皆が思っている想い。

だからこそ、自分が折れる訳にはいかない。

だが、目の前の2人の表情を見て。

折れてしまった。

笑っている。

楽しんでいる。

そうだ、サッカーは。

 

自身の身体が耐えられずボールはゴールネットへと突き刺さった。

悔しい、負けてしまった。折れてしまった。

技ではない。

心が、折れてしまった。

 

1-1

 

雷門同点。

 

後半も残り僅か、どちらかが点をとればそれで試合が決するだろう。

ガゼルとアイキューが駆けてきた、ベルガはすまないと頭を下げる。

顔向けができない。

楽しそうにサッカーをやっているあの兄弟を見て。

お父様にやらせれている計画を放り出して、お日さま園の皆で楽しかったサッカーがしたいだなんて考えてしまった自分が恥ずかしい……。

その想いは皆思い出さないようにしてるはずなのに。

 

「ベルガ、グレイシャルフィストは使うな」

 

ガゼルからの声は普段の彼と変わらない。

頭を下げたままのベルガでは彼の表情を伺えないが、失望させてしまったかと少し項垂れる。

 

「いや……使わせないさ、僕が奴らから点をとれば良いだけだ」

 

ベルガが頭を上げる、ガゼルの表情は凍りついていた。

 

「なんとしても叩き潰すさ……奴らは僕の手で……!!」

 

変わってしまった、ガゼルはクールな性格ではあったが。

それ故にこんな風に執着し憎悪を向けることは無かった。

グランやバーンとはよくストライカーの座を争っていざこざを起こしてはいたが、こんな風ではなかった。

 

「……すまない」

 

その言葉は果たして、誰に向けての物だったのだろう。

ベルガ自身もわからなかった。

 

 

 

雷門陣営ではアツヤと士郎が点をとった事で盛り上がっていた。

 

「凄いね……2人の協力シュート……凄まじい威力だ」

 

アフロディに称えられ、そうだろ?!!と調子に乗るアツヤ。

そんな彼に士郎は調子に乗らない。と注意するが言葉に覇気がない。

 

『士郎、下がっておけ(下がっとけ)』

 

鬼道と不動の声が被った。

2人は顔を見合わせると微妙な表情でお互いを見やる。

そんな光景に少し笑いが零れる。

 

「そうね、2人の言う通りよ……士郎くんはオーバーワーク……体力の使い過ぎよ」

 

鬼道と不動、そして瞳子の考え通り士郎は調子が良すぎたのだ。

ゾーンという集中力が高まった状態はたしかにパフォーマンスを向上させ試合を有利に運ぶかもしれないが。

士郎は100%以上の力を発揮し過ぎた。

試合の合間、気の抜けた瞬間に疲れが押し寄せたのだ。

 

「……すいません、たしかに少し休んだ方がいいかもしれないです」

 

士郎がベンチへと下がると代わりに小暮がDFへと入る。

アツヤが俺に任せとけ!と声を張り上げ、雷門の指揮は下がっていないどころか士郎の分も頑張るぞ!と円堂が声を上げると皆逆に燃えている。

 

「アフロディさんもアツヤさんも士郎さんも頑張ってくれてたんス……やるっス!!」

 

「ニシシ……だーれも壁山には求めてないけどねー」

 

「小暮くん!!」

 

そんなやり取りの中、鬼道と不動は焦っていた。

時間が無い。

次決めた方がこの試合に勝つ。

 

ダイアモンドダストの守備は突破しずらいが……。

攻めるしかない。

 

そして、後半再開。

 

ダイアモンドダストは吹雪士郎が抜けたとはいえベルガがグレイシャルフィストという強力な技を使えなくなってしまった事で守備に重きを置いたせいでいつ予想外の行動をしてくるかわからない雷門を攻めきれず、また雷門も士郎抜きでは先程よりも堅牢となったダイアモンドダストの守備前線へとボールを繋ぎきれず均衡していた。

その様子を観客席から見ていたバーンは詰まらねぇ試合になっちまったなぁ。等とボヤいている。

だが、均衡を破るものがいた。MF同士のパスコースの奪い合いにガゼルが割り込んだのだ。

 

「貰った!!」

 

一之瀬からボールを瞬く間に奪い取りガゼルが駆ける、雷門のFWやMFを置き去りに雷門陣営へと単独切り込んでいた。

壁山と小暮が同時に必殺技でガゼルを止めようと迫る。

 

「ザ・ウォール!うおおお!!」

 

「旋風陣!」

 

「遅いんだよ!」

 

ガゼルがバックパス、背後にいたフロストへとボールが渡りガゼルは更に切り込む。

フロストから右サイドのブロウへとボールが渡ると思われたが。

 

「へっ!行かせねぇよ!」

 

綱海がそれをカット、そしてすぐさまシュート体勢へと移行した。

 

「氷の海だって、乗りこなしてやるよ!!ツナミブースト!!」

 

雷門のカウンター、ツナミブーストは一直線にダイアモンドダストのゴールへと迫る。

中盤での静かな戦いから一気に互いがシュートチャンスを奪い合う熱戦へと切り替わった。

 

「アイスブロック!」

 

ベルガが右拳をツナミブーストへと叩き込むと距離のせいで威力がある程度軽減されたシュートはいとも容易く凍りつきベルガがキープ、DFのクララへとボールが渡る。

ここで、鬼道と不動は直感した。

先程よりも技の威力が衰えている上にセンターライン際まで軽々とボールを投げていたGKの体力が尽きかけている。

 

「今がチャンスだ……!」

 

クララからリオーネへとボールが渡ろうとしたが、鬼道がそれをカット。

 

「攻めるなら今だ!一之瀬!!」

 

マークの厳しいFWではなく、一之瀬へとボールが渡った理由。

それを円堂と土門はすぐさま感じとった。

円堂と土門が守備を放棄して前線へと上がる。

綱海と不動から何やってんだ!と声が上がるが2人は止まらない。

 

「ザ・フェニッ……?!!」

 

一之瀬とボールを中央に円堂と土門が駆けるが。

 

「フローズンスティール!」

 

ゴッカの必殺技がそれを遮り、ゴッカの弾いたボールをアイシーは前線へと蹴り出した。

アイシーが蹴り出したボールを不動が咄嗟にエリア外へと弾き試合を中断させ難を逃れた。

 

「鬼道クンよぉ……流石に強硬手段が過ぎねぇか?」

 

「僕もその考えに賛同するよ不動くん」

 

「たしかに2人の言う通りかもしれない……だが、時間が無いんだ……!!」

 

 

一之瀬にも疲れが見え始め、FW陣へのマークが厚い。

だが疲れからかリオーネからボールを奪った鬼道は即座にイナズマブレイクのハンドサインを送ってしまった。

それを見た円堂が駆ける。

鬼道がイナズマブレイクのためにボールを蹴り上げるもアイシーがそれをカットし前線のドロルの方向へとボールを弾いた。

それを見たアフロディは即座に前線から自陣へと走る。

ドロルはなんとかボールをキープし、更に駆け上がる。

不動が舌打ちをしながらも咄嗟に駆けつけるが。

 

「ウォーターベール!」

 

ドロルが必殺技で不動をはじき飛ばしたが、必殺技を放った彼に向かって綱海が勢いよく駆けてくる。

咄嗟に逆サイドのガゼルへとボールが渡るもアフロディが彼に追いついた。

 

「円堂くん!早く戻るんだ!!」

 

「地に落ちた神に……僕が止められるとでも……?!」

 

円堂がゴールへと駆ける、だがそれよりも先にガゼルがアフロディを抜き去った。

壁山と小暮が必殺技を仕掛けようとするも必殺技が発動するよりも先にガゼルが2人を抜き去った。

 

「思い知れ!凍てつく闇の恐怖を……!!!」

 

ガゼルの周囲を圧倒的な冷気が包む。

ガゼルが消えたかと思うと恐ろしいほどの鋭さと速さでボールをソバットの要領で蹴り出した。

 

「ノーザンインパクト!!」

 

「正義の……!!」

 

円堂がシュートとゴールの間に割り込んだ、だが。

 

「ダメだ!ペナルティエリア外だぞ!!ハンドになる!!」

 

「ッ?!!……くっそぉおお!!」

 

片足を上げ、全身で捻りを加えたが拳を突き出せない。

円堂は拳を止め……額でボールへと正面からぶち当たった。

暫しの拮抗、そう。

拮抗している。

円堂の額から正義の鉄拳にも似た拳のようなエネルギーが現れノーザンインパクトと拮抗している。

 

「なっ?!」

 

誰が呟いたかもわからない。

だが、ノーザンインパクトという強力なシュートを円堂は弾いた。

円堂自身も少し仰け反ったが、確かに弾いたのだ。

その結果に円堂は呆然、鬼道と不動、そして瞳子は驚愕した。

そして、試合終了のホイッスルが鳴った。

1-1の引き分けで同点となった。

 

「そんな馬鹿な……!!?」

 

ガゼルが円堂を睨む、だがその背後からそこまでだよと鋭い声が響いた。

そこにいたのはタツヤ……そうグランである。

 

「見せてもらったよ円堂くん……短い間によくここまでつよくなったね」

 

「エイリア学園を倒すためなら、俺たちはどこまでだって強くなってみせる」

 

「いいね、俺も見てみたいなぁ……地上最強のチームを」

 

「……本当に思っているのか?」

 

円堂の言葉に険しい表情となるグラン、だが口角をあげ少し笑うとまたね……とダイアモンドダストとグラン、そしておまけにバーンたちが極光に包まれる。

 

「円堂守……次は君たちを必ず倒す……!!」

 

そう言ったガゼルの目には憎悪に近しい何かが宿っていた。

 

 

 

 

 

 

樹海にて少女は呟いた。

 

「ふむふむ、やっぱりすっごいねぇこの石」

 

黒山羊秀子と彼女の周りにいる黒いローブを被った10人のメンバーの近く、ガスマスクを被っていた連中は息絶え絶えといった様子で伸びていた。

秀子は薄紫色の石を片手で弄び、ローブのメンバー達へと声をかけた。

 

「で、使ってみた感想はどう?皆」

 

「……まさかここまで効果があるなんて思わなかった」

 

黒いローブから覗いた日焼けした肌の少年が口角を上げる。

 

「でしょー、皆が苦戦したジェミニストームとかイプシロンはそれ使ってたんだよねぇ……君たちもこれで雷門の皆と戦えるんじゃない……?」

 

秀子はニタニタと笑う、彼女の携帯に連絡が入った。

 

「もしもし、研崎さん?いい感じですよー、ダークエンペラーズ……こっちの方が手っ取り早くていいですねー

それに、お日さま園の皆が手を汚さなくて済むってところが更に気に入りましたよー」

 

彼女は数回電話越しに会話しながら会釈する。

 

「で、協力者さんたちの賛同はどうですか?順調ですか?それは良いですねー!」

 

数分の会話の後、秀子はドス黒い笑みを浮かべて言った。

 

「さぁて、皆ァ……あともう少し付き合ってね?」

 

黒いローブを着た面々の何人かが唾を飲んだ。

それまでにおぞましい表情。

 

「conclusion one(たった一つの結末)それだけのために私は私を殺してきたんだ……」

 

「秀子」

 

黒いローブからフードだけ脱いで小鳥遊が声をかける。

 

「あぁごめんね?うーん、この石凄いけどやっぱキッついなぁ……」

 

「次、私たちは何をしたらいい?」

 

「練習だねぇ、君たちまだ使いこなせて無いでしょ?今雷門たちも警察もエイリア学園も大阪の修練場には目が向いてない……あそこで潜伏しててよ」

 

「……わかった、なにかあったら言いなよ?」

 

「うん、わかってる」




ダークエンペラーズ……全身タイツ……うっ頭が……


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にじゅーさんわ

ベルガが凄い人気だ……。
リハビリの待ち時間に書いてたぶんを吐き出しきってしまったけど悔いはない……。


ダイアモンドダストとの戦いの後、試合で活躍したアツヤと仲間として新たに加わったアフロディによって雷門の面々の士気は上がっていた。

 

「一緒に戦ってくれるんだな!」

 

「ああ、よろしく!」

 

「歓迎するわ」

 

「感謝します監督……失礼ですが、外から見ていた者として前回のイプシロン戦までの感想としては今は改善されつつありますが雷門は決定力不足でしたから」

 

「ふっ、言ってくれるじゃないか」

 

「言うねェ、アフロディさァん?」

 

アフロディが挑発するように言うと豪炎寺とアツヤは挑発にわざと乗って笑顔で返す。

その反応を見てアフロディ自身も笑顔で返す。

 

「君たちの強さはこんな物じゃ無いはずだよ?僕は君たちを勝利に導く力になりたいと思ってる」

 

「ニシシ……さっきは勝てなかったけどね」

 

「こら!!」

 

小暮もアフロディのことを心強い味方と認識したのか軽口を叩き、リカも燃えているが一之瀬にやんわりとまずは怪我を治さないとねと言われてイチャついていたり。

活気に満ちていた。

 

「ようし!エイリア学園を完全にやっつけるまで頑張るぞ!!」

 

『おう!!』

 

そんな中、瞳子が円堂に声をかけた。

瞳子の真剣な表情に面食らう円堂、暫しの沈黙の後。

 

「円堂くん、あなたにはゴールキーパーを辞めてもらうわ」

 

「……え?」

 

その言葉に皆凍りついた。

ダイアモンドダストとの戦いよりも冷たいものが背筋を襲った者もいる。

それ程までの衝撃だ。

だが、その言葉に納得している者たちもまたいた。

だが、円堂自身まだ言葉を呑み込めてすらいなかった。

 

「監督、今なんて?」

 

「キーパーを辞めてもらう、と言ったのよ」

 

「そんな……急にそんな事言われても……」

 

瞳子は何人かに視線を送る、その面々は頷いた。

だが、反発の方が大きい。

塔子や綱海といった途中参加メンバーや最初から雷門のメンバーだったもの達の反発はそれよりも大きい。

だが、瞳子は全員の意見を聞き遂げた上で更に言葉を重ねた。

 

「勝つために、キーパーを辞めて欲しいの」

 

「……勝つため?」

 

円堂がその言葉の真意を理解する前に、鬼道が声を上げた。

 

「俺は監督に賛成だ」

 

その言葉に裏切られたかのような表情になる円堂だが。

鬼道はその表情を見て少し心が痛むが、まだ誤解しているとわかり言葉を続けた。

 

「俺たちは地上最強のサッカーチームにならなければならない……お前が必殺シュートのために前に出る事で敵に得点のチャンスを与えてしまうならそれは大きな弱点だ」

 

「鬼道クンの言う通りだ、ゴールキーパーのキャプテンがフラフラしてたら守備の連中も縮こまっちまうんだよ……なんせ後ろに控えてるはずのゴールキーパーがいねぇんだもんなぁ」

 

2人の言葉に試合中に連続で起きたダイアモンドダストの得点チャンスを思い出す面々、たしかにあの時はプレッシャーに強い綱海や不動はまだしも壁山や小暮は思うように力を発揮できていなかったように思える。

 

「そして、今回の試合での士郎クンのプレイを思い出してみろよDFが1人前線に出たくらいだったら俺たちはカバーできる……そうだろ鬼道クン?」

 

「……その通りだ不動、だからこそ円堂お前には代わってもらうんだよ。

お前はリベロになるんだ」

 

リベロ、イタリア語で自由という意味を持ちサッカーにおいて前線にも攻めるが基本はディフェンダーを務めるポジションの名を聞いて円堂はハッとするが……綱海や小暮……あとは元々サッカー部だが壁山といった知識が浅いものたちはピンと来ないようで目金が説明している。

 

「2人も同じ事を思っていたようね」

 

「ええ、エイリア学園に勝つために俺たちはもっと大胆に変わるべきなんじゃないかと……その鍵になるのが円堂じゃないかと」

 

鬼道のその言葉にダイアモンドダストとの戦いの最後、円堂が出したあの名前すらまだない正義の鉄拳に似たあの技を円堂自身思い出した。

 

「ペナルティエリア外のあのプレイか……?」

 

「あの技をマスターすれば、お前は攻守に優れたリベロになれる」

 

不動はその後ろで士郎にも同じような事を言っている。

 

「リベロの案件はお前もだぜ士郎クン、アイスグランドにホワイトダブルインパクト……アツヤとの連携もバッチリ……キャプテンと士郎クンどちらかが攻撃に加わる事で攻撃に変化を加えて敵を揺さぶるってのは中々良いとは思う……だが、それだけ俺たち司令塔との連携も重要になってくる

士郎クンはリベロを務めるにはちょいとばかりスタミナが足りねぇからなぁ」

 

 

「うん、僕も頑張るよ」

 

その会話の裏、円堂はついに決意を固めたようで。

 

「わかった、やるよ

勝つために強くなるために変わる……リベロになる!」

 

決意を込めた言葉に燃えてきた雷門のメンバー、豪炎寺は軽く笑うと。

 

「リベロ円堂か……面白いじゃないか……!!」

 

そして会話は進み円堂が不在のゴールを誰が守るか……だが、円堂は既に決めていた。

円堂は笑顔で1人の少年を指名した。

 

「立向居がいる」

 

「俺が……ですか?」

 

動揺する立向居、そしてそんな彼の姿を見て不安がるメンバーたちを説得するように、立向居を鼓舞するように円堂は続ける。

 

「大丈夫だ、俺さ……上手く言えないけど、立向居からは可能性を感じるんだ

なんか物凄いやつになる気がするんだよな、コイツに任せておけば大丈夫な気がしてくるんだ」

 

「……でも、俺……俺が……雷門のゴールを守るんですか……?」

 

その言葉に感動しながらも、自分の敬愛する円堂の代わりが務まるのか?そんな不安が消えない。

 

「私からもお願いするわ」

 

「ゴッドハンドもマジン・ザ・ハンドも覚える事ができたお前だ、円堂の後継者には最も相応しいと言えるだろう」

 

「てか、他にいんのかよ?キャプテンと立向居クン以外に俺たちのゴールを任せていいってやつ?」

 

監督の瞳子、司令塔の鬼道と不動の賛同を得られた事に満足し頷く円堂。

円堂は笑顔で立向居へと再び向き直る。

 

「なっ?俺たちのゴールを守ってくれ!」

 

「……はい!やります!!」

 

敬愛する円堂を含めて皆が自分を認めてくれている、その言葉の感動して少し返事に詰まってしまいはしたが立向居は勢いよく応えた。

立向居の事を鼓舞するように周りのメンバーも次々に立向居へと声をかける。

 

「ありがとうございます監督!ありがとうございます円堂さん!!

俺、頑張ります!よ、よろしくお願いします!!」

 

緊張のし過ぎで先程から固くなってしまっている立向居の緊張を解すように周りが笑顔で立向居へと声をかける。

そして、ドヤ顔で目金も語り始める。

 

「これは……雷門イレブンにとって革命です……!!円堂くんのリベロ!アフロディくんのフォワード!立向居くんのキーパー!

まさに超攻撃型雷門イレブンの誕生です!!」

 

言っている事は先程までの会話の纏めだが、改めて言葉にした事によって士気が再度上がる。

攻めあぐねて得点のチャンスを逃した事は今までの試合で何度かあった……だが、それはこの革命によって改善され雷門イレブンはもっと強くなる、強くなれる。

その思いは皆に更なる活力を与えた。

 

その後、イナズマキャラバンで移動中アツヤが病院の前で声を上げた。

 

「おっと!おっさん!!ここで1回降ろしてくれ!!」

 

「どうしたんだアツヤ?」

 

「なにかあったのかいアツヤ?!」

 

アツヤの言葉に驚く円堂と士郎、アツヤはちょっとな!と声をかける。

イナズマキャラバンの運転手も務めている雷門中の用務員、古株がイナズマキャラバンを病院の近くで停車させる。

 

「試合の前に染岡にデッケェ借りができちまったからな!礼の1つも言わなきゃ男じゃねェしな!!」

 

「気をつけるんだぞアツヤ!俺の家の場所わかるか?!」

 

「キャプテン、僕に住所を送ってくれれば夜には辿り着くから安心して!

アツヤ、僕も行くよ!!」

 

吹雪兄弟はイナズマキャラバンから下車し、病院へと足を運んだ。

他のメンバーも行きたい気持ちはあったが、大人数でいきなり行くのは失礼よ?とマネージャーの雷門夏未からのお言葉もあり自重したようだ。

 

吹雪兄弟が受付に声をかけるが。

 

「ええと……染岡竜吾さんでしたら本日退院なさってますね、ご友人でしたらお家の方に訪ねてみてはいかがでしょうか?」

 

「え?」「は?」

 

イナズマキャラバンはもう既に姿がなく、兄弟は2人で並んで東京の地を歩く。

 

「染岡のやつ……今日退院ならちゃんと言っとけって話だよな」

 

「アツヤの事だから話も聞かずにこっちに来たんじゃないの?」

 

「アァ?!有り得るな……」

 

「今日の試合、勝てなかったけど楽しかったねアツヤ」

 

「そうだな……でも次は俺一人でも決めてやるよ」

 

「アツヤ、またそんなこと……!!」

 

士郎がアツヤの方を振り向けばニヤニヤとアツヤが笑っており、わざと前の協力できなかった自分を演じて言っていた事がわかった。

 

「……アツヤ?」

 

「ちょっ!兄貴こえーって!顔が超こえーって!!落ち着けよ兄貴!ちょっ!!」

 

走るアツヤと士郎、2人の表情はとても穏やかで笑顔で。

2人とも思った。

こんな風に戻れて良かった、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い部屋にて3人はまたも集まった。

紅蓮の炎のような少年バーンが嘲笑うかのように告げる。

 

「まったく……情けねぇ野郎だ……自分から喧嘩売っといて引き分けとはなぁ?

同点は敗北と同じ……だっけ?という事は今のお前は」

 

「私は負けた訳では無い」

 

視線の先極北のような冷たさを纏った少年ガゼルが睨み返し、言葉を遮った。

 

「雷門イレブンのスペックは十分に把握出来た、勝利は確実だ」

 

「生憎、そのデータは無駄となった」

 

逆立った赤髪、青い大地のような静かな瞳をもつ少年グランが更に遮り冷たい視線をガゼルへと送った。

 

「なにっ?!」

 

「ダイアモンドダストに次はないって事だ、終わりなんだよ」

 

「……あのお方がそう言ったのか?」

 

「そうだ」

 

バーンとグランの言葉に目の前が真っ暗になるガゼル、バーンとグランの続く言葉は彼の耳へと届く事すらない。

2人が自分には関係の無い話を続けている、その事実が彼の薄暗い気持ちを更に際立たせる。

 

「あのお方は……選択を誤った……!!」

 

焦点の合わない瞳で彼は虚空を睨み付けながら呟くように闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

雷門イレブンはまだ改装中の雷門中のグラウンドにて特訓を行っていた。

大きな目標は2つ、円堂のあの正義の鉄拳に似たヘディング技の習得。

そして立向居は円堂守の祖父、円堂大輔の残した究極奥義の1つムゲン・ザ・ハンドを習得する事だ。

 

円堂は長年のキーパーとしての熟達した経験がそれを妨げており、豪炎寺や鬼道たちがシュートをしそれを打ち返そうとするものの。

 

「どりゃあああああ!!」

 

「違う!!」

 

いつも通り右拳で打ち返してしまっていた。

 

「リベロって難しい……」

 

そんな彼の様子を見て、ならばと鬼道が成した策は。

円堂の両腕をタイヤなどで無理やり身体に固定するという拷問のような方法だった。

 

「これで額に力を集中しやすくなったな」

 

「こんな方法あるか?!!!」

 

円堂が叫びながら奮闘する中、一方の立向居は悩んでいた、

円堂大輔の文字は歪で円堂守しか解読できない究極奥義のノート、それによればムゲン・ザ・ハンドとは『全てのシュートを見切る技なり。その極意シュタタタタタン、ドバババババァーン!これあらば上下左右、前から後ろからどんなシュートも防御する事ができる』

目と耳、円堂と立向居は全身の感覚でシュートを見切り受け止める技と認識し立向居は目を閉じたままシュートを受け止めるという特訓をしてはいるが……。

まだキーパー自体の経験は少ない立向居ではシュートの音で大体の方向まではわかるのだが、いやわかる時点でも凄いのだがタイミングが掴めずシュートに触れもしていない。

 

「もっとお願いします!!」

 

「へっ!よく言ったぜ立向居!!」

 

「よっしゃァ……俺たちのシュートを身体に叩き込んでやるぜ立向居よォ……!!」

 

逆境に燃えるという円堂の心意気を継承している立向居、そしてノリノリな綱海とアツヤによってこちらも見ようによっては拷問に近い。

 

 

 

 

 

そんな中、不動とアフロディは体力作りにランニングしてくる。そう言って河川敷付近を走っていた。

 

「アフロディクンよ……アイツに会ったみてぇだな」

 

「あぁ、黒山羊さんだね?彼女は凄いね、実は僕がこの付近で練習しているのを見つけて焚き付けてくれたのさ……僕の戦意にね」

 

「……あいつの事は鬼道クンたちには言うな」

 

「どうしてだい?彼女は雷門のサポーターじゃないのかい?」

 

「アイツはエイリア学園に潜入してる瞳子監督のスパイだ、今後俺たちの敵として現れるだろうが……アイツの実力も考えも底が見えねぇ」

 

「……」

 

「アイツの実力はあのバンダナ野郎(ベルガ)とは比べ物にならねぇだろうな、更に頭の回転なんざ俺や鬼道クンよりも良いかもしれねぇ……」

 

「ふふっ」

 

「あぁ?なんだよ?」

 

「いや、君も影山の被害者と聞いていてね……あの人がいつも害をなす相手は総じてプライドが高い……僕もそうだった

そんな君がそこまで買うだなんて、そうとう楽しい試合になるんだろうね」

 

「雷門と世宇子の試合は俺もテレビで見てたけど、相当アンタも性格変わったんだな」

 

「まぁね」

 

2人は軽く笑いながらもランニングを続けた。

2人は出会ってから間もない筈なのに、どこか似たところがあるからか旧知の友と言われても信じられる程仲良く見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

エイリア学園本拠地にて、黒髪の少女ニグラスはバーンと対面していた。

 

「バーン、ごめんね?」

 

「なんて言ったお前……俺たちプロミネンスを……!!」

 

「そう、計画の邪魔だから待機しててって言ったの」

 

彼女の血のように紅く冷たい瞳に気圧されるバーン、だがバーンは吼えた。

 

「ダイアモンドダストはまだわかる!!雷門の連中に引き分けやがったんだ!!なのになんで俺らプロミネンスまで!!」

 

「だーかーら、私から1点も奪えないチームじゃ意味無いんだよねぇ」

 

「……!!テメェ、今なんつった?アァッ?!」

 

「まったく……おいてよ、バーン……現実、見せてあげるから」

 

2人はエイリア学園本拠地のグラウンドへと降り立った。

その光景は正しく適性検査前の焼き写しのようだった。

バーンはボールを足蹴にしてニグラスを睨みつける。

だが、とんでもない迫力が目の前の彼女から発せられている事にバーンは一瞬たじろいでしまった。

ニグラスもジェネシスのユニフォームを纏って挑発するように指を振った。

来なよ?その動作に脳は危険信号を送ってはいるが……心が、プライドが我慢の限界を迎えたバーンはボールを蹴りあげた。

 

「アトミックフレア!!」

 

オーバーヘッドキック、技術としてはそう呼ばれる物だ。

その足に炎を纏わせ蹴りの挙動に合わせて豪炎が舞う。

炎と蹴りが同時にボールへと叩き付けられると灼熱の太陽の権化とも言える程の力を纏ったボールがゴールへと迫る。

 

「ザ・プレデター……!!」

 

ニグラスが腕を凪いだ、鉤爪のようなオーラが展開しアトミックフレアを太陽の権化を受け止める。

ニグラスがその場で回転したかと思うと銃撃音のような重い音が3回、連続して鳴り響いた瞬間である。

 

「ガッ?!!」

 

気づけばバーンの腹部にボールが突き刺さっていた、叩き付けられていた。

ボールごと吹き飛び、バーンは地面へと叩き付けられた。

 

「ねぇ、わかった?」

 

うつ伏せの体勢のまま動けないバーンの耳元で声が聞こえた。

その声はとても美しく、艶やかだがバーンはまるで背中に氷を押し付けられたかのように震えている。

 

「これが、私とバーンの実力差だよ?で、私を正キーパーとして任命できるのはグランのガイア……じゃなかったね、ザ・ジェネシスだけ……わかるよね?頭のいいバーンなら」

 

頭が痛む、目の前が真っ赤に染まる。

お前は弱い、ハッキリとは言わないがそう言われている。

 

「じゃあね、バーン……ダイアモンドダストもプロミネンスもいい線まで行ってたとは思うよ」

 

グラウンドからプレッシャーの元が消えたことに安堵してしまっている自分がいる。

 

「クソが……クソがァァァァァァァァ!!!!!」

 

「悔しいだろうバーン!!だが、私たちはまだ負けていないさ!!!」

 

咆哮を遮るように鋭い声がグラウンドに響いた。

バーンが向いた先、そこには瞳に冷たい闇を宿したガゼルが立っていた。

 

「あのお方は私たちを見限った、だが……それは間違いだと私たちで証明すればいい!!」

 

「ガゼル……!!」

 

「ネオジェネシス計画だ、私たちはザ・ジェネシスも雷門も……そしてニグラスも越えた高みへと至る」

 

その言葉にバーンがニタァと口角を酷く歪に上げた、彼の視線の先ガゼルの視点の焦点は合っていない。そしてバーンの目も暗く歪んでいた。

 

「あぁ、俺たちで証明してやろう」

 

「待ってくれ!!」

 

プロミネンス、ダイアモンドダスト。

2つのマスターランクのキャプテンの会話を遮ったのはベルガやアイキューといったダイアモンドダストの面々だった。

そして、よく見ればその背後にはプロミネンスたちもいる。

同時に振り向いた2人の暗い瞳に気圧されるベルガはそれでも続けた。

 

「俺たちは正しい事をしているのか?!!たしかにお父様の力に俺たちもなりたい……!!だが!……だが!!俺たちの敬愛するお父様が本当にこんな残酷な事を俺たちに強いるとは思えない!!考え直そう!まだ俺たちはあの頃に……楽しいサッカーをしていたあの頃に戻れるはずだ!!」

 

「俺たちに着いてこれる奴はこっちに来い」

 

「……雷門に感化されるだなんて、甘すぎる」

 

ベルガの決死の想いを込めた叫びをバーンとガゼルは無視した。

耳ではなく、心に届いていない。

そんな絶望がベルガを襲う。

 

「俺は行くぜ、負けっぱなしは趣味じゃねぇからな」

 

「俺もだ……!!」

 

「私も……!」

 

「お前ら!!何でだ!!」

 

ダイアモンドダスト、プロミネンスから何人かがキャプテンたちの元へと行ってしまう。

 

ダイアモンドダストからはクララ、ゴッカ、ドロル、リオーネ。

プロミネンスからはグレント、ボンバ、ボニトナ、ネッパー、サイデン。

 

「晴矢!夏彦(なつひこ)!!やめろ!今なら間に合うかもしれないんだぞ!!」

 

「そうよ晴矢!皆!考え直して!!」

 

プロミネンスの白髪の少年ヒートと赤髪の少女レアンが仲間たちに……お日さま園の皆へとかけるが。

 

「……晴矢が馬鹿にされて悔しくねぇのかよ?!俺は悔しいね、雷門もガイアも……秀子も!!俺にとっちゃもう敵だ!」

 

「そんな……!!」

 

バンダナを巻いたプロミネンスのフォワードであるネッパーこと夏彦の言葉も分からない訳では無い、だけども。

 

「でも、友達が間違っているのなら……間違いだって止めるのも友達だろう……!!」

 

「私たちは道具じゃない!私たちでちゃんと考えて……私たちの言葉でお父様と1度話さないと!!」

 

パチパチパチ……とグラウンドに何故か拍手が響いた。

 

「素晴らしい、君たちの英断も会長を思うからこその思案も……大変素晴らしいですよ」

 

その場の全員が目を向ければ、そこに立っていたのはお父様の秘書を勤める不健康そうな男、研崎が立っていた。

 

「だが、私は両者の気持ちがわかってしまう……あぁ、どちらも会長を思ってこその行動だ……」

 

演技くさい動きで彼は続ける。

 

「ならば試合で決めてみては?丁度ここには選手が22人、紅白戦ですね……勝った方が正しく!勝った方こそが正義なのだと!!それは歴史も証明している事です」

 

その言葉にヒートやベルガが反対する前にバーンがおもしれぇ!!と吼えた。

 

「やろうじゃねぇか!俺たちは前に進むぜ?前に進む事を諦めたお前たちを否定してやるよ!!」

 

「ふふ、面白い……即席チームでは連携に難があるからね、ここで1度牙を研いでおけばより確実に奴らを報復できる」

 

研崎はバーンとガゼルにえぇ、えぇとにこやかに頷くと赤と青を基調としたユニフォームを手渡した。

 

「これはあなた方へのプレゼントですよ、是非とも受け取ってください」

 

アイキューがいつの間に用意したんだか……と呟く。

そしてレアンやベルガたちも俺たちで止めるぞ!と燃えているためヒートとアイキューの2人しか練習試合を止める者はおらず試合をする流れとなってしまっている。

 

チームカオス

ゴールキーパーのグレント

ディフェンダー、ボンバ、クララ、ゴッカ

ミッドフィールダー、ドロル、リオーネ、ボニトナ、サイデン、ネッパー

フォワード、バーン、ガゼル

 

FWを務めていた物が多いため攻撃的なチームとなった。

 

プロミネンスダイアモンドダスト連合

ゴールキーパーのベルガ

ディフェンダー、アイキュー、バーラ、バクレー、サトス

ミッドフィールダー、アイシー、バレン、ヒート、レアン、ブロウ

フォワード、フロスト

 

逆に中盤やディフェンダーを務めていた物が集まったため防御に厚いチームとはなったが……。

 

そして、試合が……始まってしまう。

 

 

連合チームはフロストこと御氷 雫(みこおり れい)と一時的にアイシーこと凍地 愛(とうち あい)、そしてヒートこと厚石 茂人(あついし しげと)が3人で攻めようと擬似的なスリートップを務めていた。

 

「ごめんね雫、フォワードのフォローは僕と愛(あい)ちゃんで精一杯務めるから雫は蔵人(くらんど)からゴールを奪ってくれ……そうすればあとは耐えれば済むはずだ……!」

 

「……あぁ、いつも冷静な涼野(すずの)があそこまで荒れているのにはなにか裏がある筈だ……俺たちでいつものアイツらを取り返すぞ厚石……!!」

 

「ああ!」

 

茂人が雫にボールを渡して3人は一気に攻め上がる。

背後からは愛の兄、アイキューこと凍地 秀児(とうち しゅうじ)の油断せずに行くぞ!という声が聞こえた。

キャプテンの2人はあちら側で厳しいかもしれない……だけど負けれない。

その想いが茂人を突き動かしていた。

だが。

 

「その程度かよヒート」

 

気づけば、バーンが……いや、晴矢が既に目の前に迫っていた。

早い、いや早すぎる。

晴矢とは何度も一緒にサッカーをやってきたがここまで早かったか?そんな風に疑問に思った時にはボールは奪われていた。

 

「ッ?!!すまない秀児!抜かれた!!」

 

「あぁ、わかっている!!薔薇園(ばらぞの)幸太郎(こうたろう)数男(かずお)止めるぞ!!」

 

彼の掛け声に薔薇園 華(ばらぞの はな)葉隠 幸太郎(はがくれ こうたろう)佐藤 数男(さとう かずお)それぞれバーラ、バクレー、サトスが一気に畳み掛けるが。

 

「遅せぇんだよ!!」

 

バーンは3人が辿り着く前にシュートした、単純なノーマルシュートだ。

これならばベルガ……いや白井 一角(しらい いっかく)、一角が止めてくれる。

秀児は咄嗟にそう判断したが、彼の背後から声が聞こえた。

 

「アイキュー、君は確かに司令塔として優秀だった……だが君自身は二流だったみたいだね!」

 

背後から聞こえた声はガゼル……涼野の声だった。

バーンのシュートだと思っていたそれはただのパスだった。

馬鹿な、いくら涼野とはいえ……バーンの独断専行にこんな速さで対応出来るはずがない。

秀児の計算は追い付かず、そして既に遅かった。

 

「ノーザンインパクト!!!」

 

世界が凍りついたかのような冷気に包まれ、ガゼルは一瞬姿を消し鋭いソバットをボールへと叩き付けた。

ベルガはそれに咄嗟に対応したが雷門との激闘の疲れは抜けきっておらず、片手を握り締め冷気を纏ったボールへと自身の拳を叩き付ける。

 

「アイスブロック!!……っぐ!!!?」

 

重い、今まで受けたどの一撃よりも重い。

もう1つの技ならば対応できたか?と考えるも自身の身体の、経験の出した答えはノーだった。

そんな一撃を受け止めきれるはずもなく。

一角ごとボールがゴールへと突き刺さった。

1-0

開始数分の……いや数十秒の先制点だった。

 

秀児や他のDFたちが駆けてくる、ガゼルとバーンは冷たい視線でチラリとは見たが興味を失くしたかのように踵を返して自陣へと戻ってしまった。

 

「一角!大丈夫か?!!」

 

「すまない秀児……油断……いや、正直に言おう……今の俺じゃあ恐らく風介のシュートは止められない……すまない……くそっ!!」

 

地面に拳を叩き付ける一角の姿を見て焦るDFたち、だがそんな事をしても時は戻らないし時計の針は止まらない。

もう一度連合チームからの開始だった。

 

「雫、晴矢と風介の動きが早すぎる……なんとかあの2人を避けて進むぞ……!!」

 

「わかっている、愛行けるか?」

 

「……正直不安、でもやるしかないからやるよ……!」

 

茂人からレアンこと蓮池 杏(はすいけ あん)へのバックパス、そして杏がパスコースを探すが。

前方に走っていった茂人、愛、雫の3人には既にネッパー、リオーネ、サイデンがそれぞれマークについておりパスは厳しい。

ならば自身で前へと進む。

そう蹴り出すが。

 

「おいおいレアン、随分と甘っちょろい動きしてんじゃねぇかよ?」

 

すぐそこにバーンが迫っていた。

 

「晴矢?!!このっ!!」

 

咄嗟にバーンを回避するためにライン際にいたブロウこと旋風野 冬司(つむじの とうじ)へとボールを回すが。

 

「はっ!やはり君たちは甘い!!」

 

ガゼルがそれをカットした。

ガゼルを止めるために薔薇園、葉隠が必殺技で迫る。

 

「イグナイトスティール!」

 

「グラビティション!!」

 

小柄なツインテールの少女薔薇園が炎を纏いスライディングを仕掛け、避けた隙をサングラスをかけた少年葉隠が重力波で封じる。

それが2人の咄嗟に立てた連携だったが。

 

「邪魔だ!!」

 

薔薇園を弾き、弾いた先にいた葉隠は反射で技を解除してしまう。

そして、それが隙となり。

 

「バーン!!」

 

バーンの方にも秀児と数男が控えてはいたが、その2人を容易く突破してガゼルからの乱暴なパスは無理矢理バーンへと繋がった。

 

「はっ!その程度のマークで取りこぼしていたら笑ってやろうと思っていたのに、残念だ!!」

 

「うるせぇガゼル!俺がこの程度で止められるわけねぇだろうが!」

 

バーンがボールを蹴りあげ宙に舞う、炎が弧を描きオーバーヘッドキックがボールへと叩き付けられる。

先程の秀子との戦いの時よりも力が高まるのをバーンは感じていた。

もう今の俺は誰にも止められない、そんな力の昂りを抑えられない。

 

「アトミックフレア!!」

 

「グレイシャル……!!!」

 

一角は両腕を振り上げ吹雪を纏わせながらボールへと振り降ろした。

 

「フィストォオオ!!」

 

先程のノーザンインパクトにも引けを取らない重さで腕が悲鳴を上げる。

痛い、痛い、痛い。

ただ痛い。

 

「くっそぉおおお!!!」

 

ボールはなんとか弾かれた、それを見て一角は安堵する。

止められた、今度は止めたのだ。

だが、彼の視線の先、跳ね返ったボールの先。

 

バーンと目が合った。

 

「お疲れさん」

 

技を打った直後、無防備な顔面へとボールが突き刺さった。

 

 




カオスのメンバーとかおぼえてなかったけども中々近いメンバーとなっていた……。
クララ→恐らくは負けず嫌いだから加入するだろうなぁ。
アイキュー、アイシー→理性的だからお父様のハイソルジャー計画に元々微妙な反応だったんじゃないかと。
リオーネ→多分二次創作の影響だけどもガゼルには賛同しそう。
ゴッカ、ドロル→ダイアモンドダストの中でも少ない肉体派だと思う、それ故にプライドが邪魔をしそう。
プロミネンスの面々→負けず嫌い多過ぎぃっ!!
ヒート、レアン→バーンの様子がおかしいから止めたい。

みたいな感じです。


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にじゅーよんわ

エイリア学園の二次創作の方が個人的に書きやすい、雷門の話は基本アニメの流れに沿って書くだけだからなぁ……。


雷門の地下通信室、そこでは理事長である雷門氏と瞳子監督がモニターに映った財前総理とその護衛たちとお話していた。

 

「最近、エイリア学園による校舎破壊がピタリと止んでいる……これも雷門中のおかげだな」

 

「ありがとうございます」

 

「だが、これはエイリア学園が雷門中の撃破に集中しているだけとも考えられる」

 

「……なるほど、1番の障害である雷門の排除を優先……考えられますな」

 

「……だが、気になる事もある

基山ヒロトと南雲晴矢という少年たちのことだ」

 

「実力のある者をエイリア学園が拐った……そういう事ですね」

 

「……瞳子監督はなにかありますか?」

 

「いえ、今のところは何とも……」

 

財前総理と雷門氏の会話にヒヤヒヤしながらも表情をなんとか変えずに済んではいるが……瞳子としては財前総理と雷門氏がどこまで知っているかが掴めない。

裏に吉良財閥が絡んでいる事がわかれば、恐らくは瞳子自身が疑われることとなる。その場合、地上最強チームの監督の座も恐らくは降ろされてしまうだろう。

瞳子が思案する中、一瞬躊躇して財前総理が切り出した。

 

「瞳子監督、それともう1人……シューコという人物に心当たりはないか?」

 

「……ッ?!」

 

一瞬、表情が出てしまった。

何故、財前総理がその名を……?もう既にお日さま園や吉良財閥にまで調べが及んでいるのだろうか……?

 

「……心当たりがあるようだな」

 

「えぇ、私の知り合いに同じ名前がいるのですが……関係があるかは私にもわかりません」

 

「……」

 

財前総理がなにかハンドサインを送ると護衛たちがモニターに映らない場所へと移動し、暫くしたあとにドアの開閉音が聞こえた。

想像できるのは護衛が財前総理のいる部屋から出ていった可能性だ。

 

「雷門氏、少し瞳子監督と2人で話させて欲しい」

 

「私は良いのですが……瞳子監督はよろしいですかな?」

 

「私も構いません」

 

その言葉の後、雷門氏も退室した。

瞳子は本当に護衛たちが退室したかも確認できないので、黙り込んでいたが。

不意に画面の向こう、モニター越しの財前総理がため息をついたかと思うとネクタイを緩めて椅子の背もたれに体重を預けた。

 

「瞳子監督、塔子は頑張っていますか?」

 

「……えぇ、ミッドフィールダーとして中盤での活躍はたのもしい限りです」

 

「そうですか、吉良財閥の用意したエージェントたち相手にそこまで……」

 

「……」

 

財前総理の言葉に表情を変えないようにと拳を痛い程握り締める。

財前総理は恐らくは瞳子からなにか聞き出そうとしている。

彼の言葉を聴き逃してはいけない、彼の言葉から真意を……瞳子からなにを聞き出そうとしているのか。

それを計らねばいけない。

 

「シューコさんは……君の妹と名乗るあの子はね、私に取引を持ち掛けてきたよ」

 

「……」

 

「いや、あれは脅迫に近かったかな……こんなだらしのない男ではあるが一応はこの国を任せられている私に……物凄い胆力だ

『戦争したくなかったら吉良財閥の野望を止めてください、鬼瓦という刑事と雷門の監督である姉さんなら信用できるはずです。総理の判断にはお任せしますが、くれぐれも2人の邪魔をしないでください』だったかな……まぁ他にも色々頼まれはしたが」

 

「……あの子は聡い子ですから」

 

「吉良シューコなんて人物はいないはずだがね」

 

「あの子は私を姉と言って慕ってくれているんです、血の繋がりはありませんが」

 

「だが、私と話している時のシューコさんの表情は今の君の表情と瓜二つだ、血の繋がりはなくとも……君たちは姉妹なんだろうね

瞳子監督、貴女が抱えている問題を私は全て理解している訳では無いが……塔子を……娘をよろしくお願いします」

 

そう言って頭を下げる財前総理の表情はただ娘を心配する父親の顔だった。

瞳子は暫し悩んだ後。

 

「私も全力でエイリア学園の撃破に努めます……親子喧嘩は早く終わりにしたいので」

 

「信じてますよ瞳子監督」

 

そして瞳子は通信を切った、ある程度のことは知られてはいるようだが……まだ猶予は貰えているらしい。

ダイアモンドダスト、風介のチームは恐らくそう遠くない未来に彼らならきっと倒せるだろう。

そしてまだ戦えていないプロミネンスと圧倒的な差で実力差を示してきたガイア……プロミネンスは瞳子の持つ知識の範囲ではダイアモンドダストとチームのプレイスタイルこそ違えど実力差はほとんど無いはず、だがザ・ジェネシスを名乗っていたガイアは2つのチームよりも確実に強い……だが、今の彼らなら勝機がまったく無い訳では無い。

瞳子は思案する、もしもハイソルジャーとしてただでさえ強かった秀子がより強大になっていたなら……豪炎寺くんやアツヤ、アフロディで突破できるのか……そこだけが懸念材料だった。

 

そして総理官邸、財前は再度深く息を吐いた。

思い返すのは自らの娘、塔子の姿。

 

「娘と父親の喧嘩なんて、父親の意見が折れる以外の決着を私は知らないな……」

 

そう言って財前総理は情けなさそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイリア学園本拠地、グラウンドには選手たちが倒れ伏していた。

そこへ現れたのは黒髪の少女、少女は携帯を片手に一人一人に声をかけているようだった。

 

「ええ、脈は安定していますが意識がない人が多いです……ですが肉体的、精神的に疲労とダメージが溜まっています……すぐに医療班を呼んでください、カオスの調整に人数を割いている?空いているスタッフが1人もいないとは言わせませんよ」

 

「……その声……秀子か?」

 

先程まで意識を失っていた一角が意識を取り戻したようで、とてもか細い声を絞り出している。

彼の様子を見て秀子はすぐさま駆け付けた。

 

「一角!大丈夫?!今医療班を呼んでるからしっかりして、君は何回も強力なシュートを受けてるんだ。今は休んでおいて、」

 

「……なぁ秀子、なんで晴矢を焚き付けたんだ」

 

「ッ!!」

 

「お前がお父様の意志を伝えたんだとしても、あんな風に実力ではっきりさせるなんてお前らしくもない……なにがあった?」

 

「……今はなにも考えないで」

 

「お前は!!」

 

一角の手が秀子の腕を掴んだ、意識もまだ朦朧としているせいかその力は弱々しい。

秀子はその手を握り返す。

 

「皆の味方だよ、お日さま園の皆のために……私は頑張ってるつもり……待ってて、あの時のお日さま園を私が……私が……!!」

 

「お前は昔からそうだったな……なんでも1人で抱えて、アイツがいない今……お前が本音を出せる相手は少ないだろうけどな……俺たちを頼れ……頼ってくれ……」

 

「一角……」

 

秀子の目には薄らと涙が浮かぶ、一角は少し笑うとまた意識を失った。

秀子は医療班の到着を見届けると医療班に指示だけ出してまた歩き出した。

 

「ネオジェネシス計画、ザ・カオス……いよいよマスターランク戦本番だよ姉さん……私も……そろそろ準備を終わらせないと」

 

彼女の紅い瞳が細められる、その先には不健康そうな男がニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべながら医療班……いや、倒れ伏した選手たちを見ていた。

研崎とのすれ違いざま2人は言葉を交わす。

 

「研崎さん、ザ・カオスの試合ではあなたのネオジェネシス計画がどこまでの成果を出せるか私も同席させていただきます」

 

「えぇ、構いませんよ……これで会長もより良い選択をなさってくださるでしょう」

 

2人の距離が離れ、黒髪が闇へと消える。

研崎は舌打ちすると吐き捨てるように。

 

「はっ、たかがガキ1人になにができる……」

 

そして闇の中、秀子も呟く。

 

「アイツだけは……潰す」

 

2人の声は誰にも届かずただ闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷門のメンバーたちはとある事情で、帝国学園まで来ていた。

円堂が正義の鉄拳の亜種としてヘディング技であるメガトンヘッド(目金命名)を習得した際に、鬼道が更なる必殺技を手に入れるため彼の母校である帝国学園を練習場所として提示したためだ。

鬼道、土門、円堂は3人でボールを囲うようにして並びその場で回転、鬼道の掛け声に合わせて停止を繰り返していた。

3人ともボールの方向を向いていれば成功という話だったが……中々に成功しない。

その必殺技の名前はデスゾーン、帝国学園の必殺技で鬼道曰く3人の息を合わせる事が重要な3人がかりの連携シュートなのだが、本来のデスゾーンは鬼道が実際にデスゾーンを放つ3人への指示を出す事で連携を高める必要があるほどの技だったらしく苦戦していた。

元帝国の2人、鬼道は自身で掛け声をかけているのもありすぐできた、土門も協調性が高いためかある程度順応している。

だが、円堂は苦戦していた。

本人のリーダーシップや他者の力を引き出す事に優れている円堂だが今までゴールキーパーとして他者との連携よりも個人技が優先されていたためか1人だけてんでタイミングが合わない。

最初はボールに背を向けてしまっていたほどに。

それでも諦めず円堂たちは回転をし続けている。

 

一方立向居もムゲン・ザ・ハンドの習得にかなりの苦戦を強いられていた。

まず、円堂大介の遺したノートの説明が抽象的過ぎるのだ。

更にそこから得たヒントも全身の感覚でシュートの軌道を見切ると言ったものだったが、立向居自身キーパーとして試合に参加していた経験が少ないためか方向までは見極められても角度や回転といった様々な要素で変わるシュートの軌道に視覚なしでは追いつけない。

一体どうしたら……という焦りで練習は至難を極めていた。

 

「立向居クンよ少し気分転換した方がいいぜ……そのままじゃ集中力が切れてて話にならねぇ」

 

そこへ声をかけてきたのは不動だった。

そんな言い方無いだろ!と綱海が怒っているが不動は続ける。

 

「ただでさえ視力に頼らずシュートを見切るなんていうすげぇ集中力が試される技なんだ、そんな状態で続けてても怪我するだけだ、ランニングでも行ってこい」

 

「そうかもしんねぇけどよ!!」

 

「待ってください綱海さん!確かに不動さんの言う通りです……俺、少し頭冷やしてきます!」

 

「それだったら俺も付き合おう」

 

立向居が駆け出そうとした時、豪炎寺も一緒に走ることを提案してきた。

 

「この辺りの土地勘がないだろう、迷わないように俺も走る。

というより、な」

 

豪炎寺が後ろを指さすと。

 

「豪炎寺さんよォ?!俺との決着はまだついてねェぞ……!!?」

 

「アツヤ!僕との練習だって言ってるだろ!!」

 

必死にアツヤを引き止める士郎の姿があった。

前回の試合の際には連携を理解し、やっと目覚めたアツヤではあったのだが……それはそれこれはこれといったことなのだろうか。

今日の練習、豪炎寺と同じ練習メニューをしていた際にアツヤは燃え上がってしまっていたのだ。

そこからアツヤとの1vs1の練習をずっとやらされていた豪炎寺の少し疲れている表情を見て立向居は少し同情からほほを引き攣らせながら笑った。

 

「よろしくお願いします豪炎寺さん!」

 

気持ちを切り替え走り出した2人、帝国学園のスタジアムも敷地も越え、付近の道を走っていた。

 

「焦るのは俺もわかる、技の完成が見えないのに無理やたらと練習していても意味は無い……少しは別の事を考えて切り替えるのも大事だぞ」

 

「ありがとうございます豪炎寺さん!……でもいつも凄いプレーをしている豪炎寺さんでも悩む事なんてあるんですね」

 

「勿論だ、悩まない奴なんていないさ……円堂だって何回も悩んでいた、お前が習得したマジン・ザ・ハンドの時、円堂は今のお前のように悩んでいた」

 

「円堂さんもですか?!」

 

「あぁ、だが円堂は答えを試合の中で導き出した……お前もいずれ見つけ出すさ、お前自身の答えをな」

 

豪炎寺の言葉に感動したのか少し立ち止まってしまう立向居、豪炎寺が心配して振り返ると感極まった。といった表情の立向居は再び走り出した。

 

「俺、頑張ります!ムゲン・ザ・ハンド!絶対に覚えます!!」

 

「あぁ、俺も円堂も皆信じているさ、焦る必要はない」

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

 

立向居と豪炎寺がランニングを終えて帝国学園のグラウンドに戻ると円堂が雄叫びを上げていた。

たった今帰ってきた2人も含めスタジアムにいたメンバーたちが円堂たちの方向を見るとどうやら鬼道、土門、円堂の練習に一区切りついたらしい。

立向居の姿を見つけると鬼道が声を掛けてくる。

 

「すまない立向居、ランニングの帰りなのはわかっているのだが俺たちの技の練習に付き合ってもらえないか?」

 

「大丈夫です鬼道さん!」

 

笑顔で答える立向居、豪炎寺が彼の肩を叩いて気楽に行けと声を掛け、鬼道は他の2人に声をかけている。

立向居は急いでグローブを嵌めるとゴールへと駆け出した。

立向居がゴール前に立ち、鬼道たち3人が駆け出し鬼道本人はボールを宙へと蹴りあげた。

 

「デスゾーン開始!!」

 

鬼道の掛け声に合わせて回転しながら飛び上がる3人、3人はボールを囲うとボールへと同時にエネルギーを込める。

 

『デスゾーン!!』

 

3人の蹴りが同時にボールへと叩きつけられ闇のようなエネルギーを纏ったそれがゴールへと迫る。

立向居は目を閉じ、全身の感覚でボールを見極めんとする。

風、音、全ての振動を感覚で捉えボールの動きを見極める。

 

「ムゲン……」

 

立向居の感覚の先、ボールから感じるエネルギーが霧散した。

 

「ザ・バンド!」

 

少し困惑しながらも立向居は両腕でボールを掴むがそれはノーマルシュート程の威力しかなく、難なくキャッチに成功した。

綱海がムゲン・ザ・ハンド完成だ!と喜んでいるが立向居はそれを否定した。

今のはただ目を閉じて両腕をボールに向かって向けただけだと。

そして鬼道たちも困惑していた、タイミングは確かに合っていたのにと。

そんな中、多数の足音が聞こえる。

 

「やってるな、鬼道!!」

 

その声の方向へと向く鬼道、視線の先には帝国学園のメンバーが欠けることなく全員、ユニフォームを纏って立っていた。

その中には佐久間の姿もある。

 

「来てくれたか佐久間、源田、皆!!」

 

帝国学園の面々の元へと進む鬼道と円堂、帝国学園のメンバーもそして鬼道もともに笑っている。

かつての仲間たちとの再会はそれほどまでに嬉しかった。

 

「お前たち!鬼道、皆を呼んでたのか?」

 

「あぁ、久しぶりだな」

 

そう言って笑う佐久間の足にはサポーターが巻かれている。

それを見て真・帝国学園のことを思い出してしまう鬼道は無意識に笑顔が消えるものの。

 

「あぁ、気にするな……順調に快復しててな今はまだ試合には出れないがそろそろ許可が降りそうなんだ」

 

「雷門の監督ととあるツテでな、最新の治療を受けられてる……俺がこの前快復してたのもそのお陰だ」

 

「瞳子監督が?良かったな鬼道!」

 

「……あぁ!」

 

喜ぶ鬼道と円堂たち、そして佐久間は雷門のメンバーたちの中にアフロディがいるのを見つけると。

 

「世宇子中のアフロディ……話は鬼道から聞いた。

お前も俺たちと同じように影山に利用されていただけだと……鬼道や円堂たちを頼む」

 

「……うん」

 

そして、源田と不動は2人でなにやら話している。

 

「どうだ不動、鬼道の足を引っ張っていないだろうな?」

 

「当たり前だろうが!」

 

そう言い合う2人は悪友のように笑顔だった。

 

「さぁ鬼道、始めようか……練習試合」

 

「練習試合……?」

 

佐久間の言葉にキョトンとする円堂、鬼道が語るには。

 

「あそこまでできているなら、後は実践あるのみだ」

 

そうして円堂、鬼道、土門の3人は帝国のユニフォームを着て、雷門と帝国、かつてのライバルチーム同士の少し変わった練習試合が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エイリア学園本部の自室にて黒山羊秀子はとある書類を見つめながら電話していた。

その顔には意地の悪そうな笑顔が浮かんでいた。

 

「……やるねぇ林さん、ここまでまとめてくれてると助かります」

 

「いえ、これも吉良財閥のためですから」

 

電話の先、秀子の目となり足となり度々雷門の情報を伝えてくれていた吉良財閥のエージェントでもある妻子持ち、今年で娘さんが4歳になるらしい彼はとある書類を秀子へと送っていた。

 

「うんうん、ありがとね林さん輝羅(きあら)ちゃんへのプレゼントは何がいいですか?」

 

「……娘は最近こずみっくぷりてぃれいな?というのにはまっていると妻から聞いてます」

 

「最新の玩具が出たら確保しときますね……でも輝羅ちゃんのためにも林さんは無理しないでくださいね?たった1人のお父さんなんですから」

 

「……肝に銘じます、ニグラスさんもお気をつけて」

 

通信が切れる、秀子は少し窮屈なジェネシスのユニフォームを脱ぎ捨てて普段着である軍服風のワンピースへと着替える。

その時、秀子の身体が少しぐらついた。

 

「……そろそろ限界かな?」

 

秀子は資料を持って部屋を出る、その視線の先には秀子と同じように私服へと着替えたグラン……タツヤが一見爽やかに見える笑顔を貼り付けて立っていた。

 

「さてと、僕に見せたいものってなにかな?」

 

「どうやら晴矢と風介が結託したらしくてねー、今から雷門に仕掛けるらしいから一緒に見に行こうよ」

 

秀子の言葉を聞いて笑顔のまま目を笑わせないタツヤ。

 

「それは面白そうだ……で凍地に聞いたけど、君が関わってるっていうのは本当かい?」

 

その目に映っていたのは疑念、秀子の行動がおかしいとさすがにタツヤも警戒しているのが見て取れる。

それを見て少し心が痛む秀子、だが彼女も無理矢理の笑顔に……愛想笑いに切り替える。

 

「なーんだタツヤも知ってたんだ、でも私は晴矢に足でまといだから諦めろって言っただけだよ?だって、ザ・ジェネシスじゃないともう雷門は止められそうに無かったからね」

 

互いの目線が交差してビリビリと空気が震える、タツヤが諦めたようにため息を吐くと通路を歩き始めた。

 

「で、今2人は……いや、カオスはどこにいるんだい?」

 

「ん?今は研崎さんたちと一緒に調整に入ってるはずだよ……たしか今雷門は東京の帝国学園にいるらしいから一緒に先回りでもしとく?」

 

「いいね、じゃあ……行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

そして、帝国学園。

吉良財閥の科学力によって作られたサッカーボール型の装置がスタジアムへと投下された。

大量の煙、そして人には聞こえない音などで催眠をかけ、その隙をついてカオスのメンバーたちは帝国学園のグラウンドへと降り立った。

標的の雷門以外にも影山の被害者の集まりである帝国学園もいるようだが、関係ない。

ガゼルとバーンは無意識に笑った。

こいつらをここで倒して、俺たちが最強だと証明する。そしてお父様やグラン、そしてニグラスを見返すんだ。

そんな身勝手な思いが彼らの意識を狭める、目の前の標的を倒せと心が悲鳴をあげる。

 

『我らはカオス!』

 

「猛き炎プロミネンス」

 

心が熱い、燃えるようだ、今ならなんでもできる気がする。

 

「深淵なる冷気ダイアモンドダストが融合した、最強のチーム」

 

思考が冷えていくのを感じる、氷のようだ、今ならなんでも見通せる気がする。

 

「我らカオスの挑戦を受けろ!!」

 

「宇宙最強が誰なのか……証明しよう!!」

 

そう言って宣戦布告するカオス、円堂たち雷門は動揺を隠せない。

 

そんな彼らの様子を見て、観客席から降りてきたのは1つの影。

 

「おっと、ガゼルとバーン……少し待った」

 

軍服風のワンピースに身を包んだ彼女がスカートをたなびかせながらも降り立った。

その姿を見て舌打ちするガゼルとバーン、そして彼女の姿を見て困惑しているのは雷門も同じようだ。

 

「雷門の皆さんは練習試合の後でつかれてるみたいだよ?そんな相手に勝って……君たちは満足できちゃうんだ?」

 

明らかな挑発、雷門からしたら嬉しい展開ではあるがそれを敵であるエイリアから提案されるとは彼ら自身も驚いていた。

 

「ていうわけで雷門の皆さん、試合は2日後としましょう2日後にこの帝国学園のスタジアムで彼らカオスと戦ってもらいます」

 

「ニグラスてめぇ!?何勝手に仕切ってやがる?!!」

 

「君に指図される筋合いはないね!」

 

「……エイリア皇帝閣下の指示を待たずして勝手に来たのは君たちだ、今は私に従って貰うよ?」

 

そう言って2人の方を見るニグラス、その目は暗くいつもの2人なら少し恐怖していたのかもしれない。

だが、2人はどちらかと言うとエイリア皇帝閣下という言葉……お父様を意味するその言葉に反応して舌打ちすると装置が反応し彼らは姿を消した。

取り残される雷門と帝国学園。

彼らに向かってニグラスはそのまま続けた。

 

「今日はそちらの監督さんもいないみたいですし、ちゃんと伝えてくださいね?」

 

「受けて立つ!!」

 

円堂のその言葉に笑うニグラス、彼女もまた黒いサッカーボール型の装置を取り出すとそれを起動させた。

 

そしてそれから数時間後、雷門のマネージャーである3人は瞳子へとカオスとの試合について報告していた。

 

「ダイアモンドダストとプロミネンスの混成チーム……」

 

その報告を聞いて、瞳子はチャンスだと自分に言い聞かせる。

ダイアモンドダストは雷門のメンバーたちの頑張り次第では倒せるチームだった。

プロミネンスとダイアモンドダストが合わさればさらに強いチームになるのかもしれない、だが雷門の強みは試合中だろうと発揮されるその成長の速さにある。

そんな彼らとの戦いはきっと雷門の糧となる。

 




コズミックプリティレイナは魔法少女ものなのか果たしてプリキュア的なサムシングなのか……?


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にじゅーごわ

包帯の利点は周りの方々が一目で怪我人だと分かってくださることですね。
逆にダメな点としては蒸れることです、ひたすら蒸れる。


そして、約束の日。

帝国学園のグラウンドにて雷門イレブンは入念なストレッチをしていた。

ダイアモンドダストは確かに1度引き分けたチームではある、だがかつて雷門イレブン全員の力を持ってしても止められなかった炎のストライカー南雲晴矢ことバーンやその仲間の加入によるチームの攻撃力の増加や、鬼道や不動が試合の中で見つけた敵のデータは役に立たないかもしれない。

決して油断ならない相手だ。

更に言うならば、攻撃力の高いと思われるカオスとの試合までに立向居のムゲン・ザ・ハンド習得は間に合わなかった。

1人暗い面持ちでいる立向居の肩を綱海が叩いた。

 

「なーに緊張してんだ!」

 

「ムゲン・ザ・ハンドが完成してない俺で円堂さんの代わりがつとまるとは思えなくて……」

 

「そんな重く考えるな!俺たちがいるんだ、気楽に行け!」

 

「……」

 

練習の時から弱気な立向居を導く立場として兄貴肌の綱海との相性は良かった、だが試合直前という空気に呑まれている立向居の表情から暗さは抜けずにいた。

そこへ、1人の少年が更に肩を叩く。

 

「馬鹿野郎立向居、キャプテンの代わりなんかじゃねェよお前は」

 

「アツヤさん……?」

 

「俺も豪炎寺の代わりなんかじゃねェ……俺もお前もこの雷門ってチームじゃ新参者だけどよォ……俺たちにしかできねェ仕事がある筈だ……!

俺は豪炎寺に勝つ!お前もキャプテンに勝っちまえ!!……ッァア!!俺もこういうの苦手だ!!染岡のせいだ!!」

 

自分から声を掛けておきながら1人羞恥心からか顔を染めてうずくまるアツヤ、その姿を見て立向居は少し、ほんの少しだけかもしれないが。

 

自分にしかできないこと。自分は代わりじゃない。その言葉が胸に刺さった。

 

「アツヤさん……俺、やってみます!!」

 

「アツヤ!お前もいい事言うじゃねぇか!!」

 

「痛てェ?!痛てェだろやめろ!!」

 

感激する立向居、アツヤの肩を力強く叩く綱海。

そんな光景を見て秀子は観客席でクスリと笑った。

かつてのお日さま園でも似たような事があったなぁ。と1人思い出に耽ってしまっていた。

 

「どうしたんだいニグラス……やけにご機嫌だね」

 

「んー?雷門は唯一ガゼルのシュートを止めれそうな円堂君がゴールキーパーじゃないのにやけにやる気満々だなぁって」

 

「この前の試合ではゴールキーパーというポジションが枷になっていたからね、今回はその試験も兼ねているとは思うけど……確かに楽しみだ」

 

そして、グラウンドへと黒いサッカーボール型の装置が落下する。

 

「さてと、始まるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

煙がグラウンドを包み、その先から人影が現れた。

ガゼルとバーンを中心に11人、エイリア学園マスターランクチーム。

ダイアモンドダストとプロミネンスの混成チーム……カオス。

 

「おめでたい奴らだな!!」

 

「負けるとわかっていながら、ノコノコ現れるとは……

円堂守!!宇宙最強のチームの挑戦を受けた事、後悔させてやる!!」

 

ガゼルの発言に顔をしかめる円堂、戦うまで勝つか負けるかはわからない。それを否定する言葉に腹が立ったのだろう。

円堂、そして雷門イレブンの士気は少しも下がっていない。

 

「負けるもんか!俺にはこの、地上最強の仲間がいるんだ!!」

 

「勝負だ!!!」

 

バーンの咆哮、そして試合は始まる。

 

雷門イレブン

GK

立向居

DF

士郎 壁山 円堂 塔子

MF

鬼道 一之瀬 土門

FW

豪炎寺 アフロディ アツヤ

 

雷門は攻撃力の高いチームに対して守備の司令塔である不動を温存、敵のデータを収集に動きながらも土門を臨時のMFとして配置する事で雷門の新技によるカウンターを積極的に狙うスタンスに出る。

 

カオス

GK

グレント

DF

ボンバ クララ ゴッカ ボニトナ

MF

ドロル リオーネ サイデン ネッパー

FW

バーン ガゼル

 

秀子が原作と呼ぶ世界よりも攻撃的なチームとなっているカオス、気性の荒いメンバーが多いためかその攻撃力は計り知れない。

 

やっぱり面白くなりそうだ、と不謹慎にも秀子はまたもクスリと笑う。

そして、笑みを浮かべた所で秀子は少し身震いした。

この騒動は、やはり早めに終わらせなければならない。

私が、私でなくなる前に。

 

そして、雷門ボールにて試合は始まった。

アフロディのキックオフ、アツヤへとボールが渡され一気に前線へと駆けるアツヤ。

そのアツヤをバーンとガゼルは無視した。

ディフェンスに相当の自信があるのかと武者震いするアツヤ、おもしれェ!と吼えると一気に駆け上がった。

 

「フローズンスティール!」

 

アツヤの正面、ダイアモンドダストのMFであったドロルが必殺技にてアツヤへと迫る。

アツヤはそれを咄嗟に回避しようとする、軌道、速度、僅差ではあるが避けれる。そう思ったのだが、ドロルの技はアツヤを捉えた。

 

「なッ?!」

 

このプレーに驚いている雷門メンバー、確実に前よりも動きが早い。

そしてそれは雷門達だけではなかった。

 

「……ドロル、短期間でだいぶ仕上げたんだね」

 

「……そうだね」

 

観客席から見守るタツヤも少し目を疑った、前にガイアとダイアモンドダストで合同の練習を行った時よりも早い。

 

ドロルがアツヤからボールを奪うとそのまま一気に加速、センターラインを越えて雷門陣営へと切り込んだ。

土門が必殺技を構え、ドロルへと迫る。

 

「ヴォルケイノ……!!」

 

「ウォーターベール!!」

 

先に構えていた土門よりも先にドロルのウォーターベールが放たれた、地面から放たれるはずの炎を掻き消して水流が土門を吹き飛ばした。

中盤を怒涛の勢いで突破したドロルの元へと円堂が駆け付けるも、いつの間にかその裏に控えていたガゼルへとボールが渡ってしまう。

 

「甘いな!!」

 

「なっ?!……立向居!!」

 

円堂もフィールドプレーヤーとしてはまだまだ経験は浅いものの、ボールや選手の動きを見切るその目は一流だ。

それを即座に突破した連携に鬼道の疑念は確信へと変わった。

ダイアモンドダストのメンバーのスピードが上がっている。

周囲が冷気に包まれる、ガゼルの姿は一瞬にして消えボールへと鋭いソバットが叩き込まれた。

 

「ノーザンインパクト!!」

 

鋭い冷気を纏ったボールがゴールへと迫る。

そんな中、立向居は一瞬躊躇した。

まだ完成していないムゲン・ザ・ハンドよりも確実な技を。

立向居が腰を据え、心の臓へと力を込める。

そのエネルギーは右手へと収束し、立向居の背後からは青い魔人が現れる。

 

「マジン・ザ・ハンドォオ!」

 

魔人がその強大な右腕を振るう、が鋭い冷気はそれを容易く貫いた、

ボールごと立向居の身体がゴールへと突き刺さった。

吹き飛んだ立向居の元へと雷門イレブンが駆ける、そしてその風景を冷たい目で見下ろすガゼル。

0-1

それは余りにも早い先制点だった。

 

「すいません……止められませんでした……!!」

 

立向居の両手に力がこもる、相手が強いのはわかっていた。だが、円堂に託してもらったゴールを突破されてしまった事の罪悪感が立向居を襲う。

そんな彼の姿を見て円堂は彼の肩に手を乗せ正面から言葉を紡ぐ。

 

「気にするな!次は止める、それでいいんだ!」

 

再び、雷門ボールから試合が始まった。

アフロディから後ろの鬼道へとボールが渡り、FWの3人はそれぞれカオス陣営へと切り込む。

一気にボールを持った鬼道へと迫るバーンとガゼル、鬼道は塔子へとボールを託し前線へと駆ける。

 

「1点、取り返すぞ!!」

 

応!と雷門メンバーの雄叫び、塔子が前線へと駆ける中彼女へとプロミネンスの大柄な元FWてありカオスのMFサイデンが迫る。

サイデンの動きはカオスの中でも俊敏ではない、塔子が彼をフェイントで突破するが。

その隙をプロミネンスのネッパーが塔子からボールを奪った。

 

「なにっ?!やっぱりコイツら……強い!!」

 

「お前らが弱いんだよ!!」

 

ネッパーからサイデンへとボールが渡ると2人が雷門陣営へと駆ける、壁山が必殺技のザ・ウォールで妨害しようとするがサイデンはその場でシュートの構えをとる。

右足に力を込め、一気に解放したそれはジェミニストームとの戦いで見たあの技だった。

 

「アストロブレイク!!」

 

ザ・ウォールを力づくで打ち破ったサイデンのシュートはそのままゴールへと向かうと思われたが士郎はそれを力でなく技、足でボールの力の流れを変えキープしてみせた。

その動きに立向居は目を奪われた。

あんな凄いシュートを簡単に止めてみせるなんて、と。

 

「壁山くん!ナイスファイトだよ!!」

 

士郎がボールを持って駆けようとするが、ボールが消えた。

否、バーンが一瞬にして奪ってみせたのだ。

 

「なっ?!」

 

「油断してんじゃねぇ!!」

 

バーンが飛び上がる、その右足には炎が宿り軌道を描きながらオーバーヘッドキックがボールへと叩き込まれた。

 

「アトミックフレア!!」

 

灼熱の太陽の如きエネルギーがゴールへと迫る、それを立向居は青い魔人にて迎え撃つ。

だが、その脳内には先程の士郎のプレーが染み付いて離れない。

雑念を払うように豪快にその右腕を立向居はボールへと振るった。

 

「マジン・ザ・ハンドォオ!!」

 

だが、魔人ではそれを止めること叶わず、ボールが立向居の身体へと叩きつけられそのままゴールへと突き刺さった。

0-2

 

無情にも追加点が決まった。

士郎と円堂が立向居の元へと駆ける、それをバーンは下らねぇと一蹴し自陣へと返っていく。

 

「ごめん立向居くん……僕が油断してしまったせいだ」

 

「士郎さんは悪くないです……俺が止められなかったから……!!」

 

「2人とも!!しっかりしろ!まだ試合は始まったばかりじゃないか!!ここから取り返すぞ!!」

 

再びそれぞれの配置へと戻ろうとする雷門イレブン、だが瞳子は選手交代!と叫んだ。

 

「もう俺の出番ですか監督?」

 

「……そうね、カオスの攻撃力を侮っていたわ……」

 

塔子に代わって不動がフィールドへと駆ける、瞳子へと塔子が抗議の声を上げた。

 

「私まだ戦えます!」

 

「……あの攻撃力、あなたのディフェンス能力が必要になる場面がまた来るわ……今は体力を温存しておいて」

 

「……でも!!」

 

「今の立向居くんではカオスの必殺技を止められない……DFの体力の消費が激しくなるわ、お願い」

 

「……わかりました」

 

瞳子の言葉も尤もであることに気づいた塔子がベンチへと腰掛ける、リカが大丈夫や!と励ましの言葉をかける。

今は休息を、とドリンクを飲む塔子。

小暮に塔子という優秀なディフェンス技を持った2人と驚異的な身体能力を持つ綱海を待機させる程には苛烈な攻撃であったことを塔子自身もわかっていたため次の出番までになにか掴まねばと塔子の視線はカオスへと向けられる。

 

そんな中、雷門の攻撃が始まる。

アフロディから不動へとボールが渡り、その不動へとバーンが一気に迫った。

 

「貰うぜ!そのボール!!」

 

「単調過ぎんだよ!!」

 

不動はフェイントでバーンを突破した、未だにわかり切ってはいないがバーンはやはり速度こそガゼルに迫るものはあるが動きが単調なためわかりやすい。

不動の元へと迫るネッパーに対し不動は鬼道へとボールを渡した。

鬼道がカオス陣営へと迫る、ダイアモンドダストであったリオーネが彼の元へと迫るが鬼道はボールを踏み付けるとボールが増えたかのような錯覚を覚えるほどのボール捌きでリオーネを突破する。

 

「イリュージョンボール!」

 

鬼道はここで来るはずだ、不動へとボールを即座に返した。

その直後、鬼道の近くで舌打ちが聞こえた。

ドロルがすぐそこまで迫っていたが既にボールは不動へと渡った、奪えなかったことへの苛立ちからだろう。

鬼道と不動がお互いを見合うと頷き合う。

不動から今度は豪炎寺へとボールが渡った、そこへプロミネンスのMFをつとめていたボニトナが迫るものの今度は逆サイドから一気にカオスのゴール前へと迫っていたアツヤへとパスを繋ぐ豪炎寺。

パスを受け取ったアツヤも困惑する。

身体能力はたしかに高い、だが。

動きが単調過ぎる。

だが、そんな事は知らないとアツヤはボールへと回転をかけた。

吹雪が荒れ狂い、ボールへと全身で捻りを加えた蹴りを叩き付けた。

 

「吹き荒れろ!!エターナル……ブリザード!!」

 

吹雪が迫る中、プロミネンスのGKをつとめていたグレントはその両腕に炎を宿しそのまま叩き付けた。

 

「バーンアウト!!」

 

吹雪が溶かされ、ボールの回転も完全に抑え込んだ。

思わず舌打ちするアツヤを越すようにグレントが投げたボールがプロミネンスのDFだったボンバへと渡り、ボンバからネッパーへとボールが即座に回される。

一気に雷門陣営へと戻されるボール、アツヤは叫んだ。

 

「立向居!!テメェならやれる!!諦めんな!!」

 

ネッパーが鬼道を容易く突破し、ネッパーからゴール前まて迫っていたバーンへとボールが渡ってしまう。

だが、不思議と立向居の緊張は解れていた。

逆境、未だ得点はない。

このシュートを止められなければ雷門の逆転も危ういかもしれない。

でも、そんな些細な事は立向居の頭にはなかった。

 

すげぇよな海って……小さい波でも何度も押し寄せるウチに岩を砕いちまうんだ!

キャプテンの、円堂の代わりじゃない。自分たちにしかできないことがある。

 

少し、思いついた事がある。でもこれはきっと円堂さんならしない事だろう、これは……と。躊躇する。

尊敬する円堂の技はどれも豪快で、相手の技を正面から受け切っていた。

それは円堂さんの強みだ、ならば自分は……綱海さんやアツヤさんの信じてくれた俺は、俺の思いついたこの答えを信じる。

 

バーンは宙へと跳んだ、炎を纏った足がボールへと叩き込まれると灼熱の太陽の如きエネルギーが放たれる。

 

「アトミックフレア!!」

 

立向居の視線の先、それは見えた。

ボールの動きが、読める。

かなりのエネルギーが込められている、これは自分の魔人では恐らく適わないだろう……だけど、そんな俺の力でも。

 

「ムゲン……」

 

何度も何度も叩きつければ。

 

立向居が両腕を広げる、魔人の姿はなくただ両腕を広げる時の軌跡をなぞるように幾本もの腕が、腕のようなエネルギーが背後からボールへと迫る。

 

「ザ……!!」

 

どんなパワーだって。

 

エネルギーを削ぎ落とすように幾本もの手がボールへと掴みかかる、最初のうちは炎によって溶かされてしまう、けれど1本、2本と手はボールに確実に届いている。

 

「ハンド!!!」

 

届かなければ意味が無い!!

 

それは一瞬だった。

バーンの視線の先、自分の放った技は明らかに目の前の未熟なGKでは止められないはずだ。

そのエネルギーが幾本もの腕によって瞬く間に掻き消された。

そして、ボールは立向居の両腕の中に収まっていた。

目の前が歪む、何故だ?今の俺のシュートは秀子にだって止められない、あの時は負けたが、今の俺ならアイツからだって奪えるはずだ。

 

「頼みます……士郎さん!!」

 

バーンの背後、士郎は呟いた。

 

「君も油断したね、僕達は負けないよ」

 

振り向くが、もうそこには士郎の姿はない。

風のように彼は自分を突き放している。

 

「有り得ねぇ!!?」

 

士郎が戦場を駆ける。

ネッパーとサイデンの2人が迫るが士郎はそれを容易く突破した。

士郎も違和感を感じる。

だが、そんな事を気にしている場合ではない。

 

「行くよ!アツヤ!!」

 

「わかってるさ、兄貴!!」

 

士郎からアツヤへとボールが渡り、リオーネが迫るが今度はアツヤから士郎へとボールが戻り、届かない。

士郎とアツヤの兄弟ならではの息のあった連携にカオスの守備は着々と突破されてしまう。

 

 

「わかってんな兄貴?」

 

「勿論だよ、アツヤ」

 

士郎がボールを蹴り上げる、宙へと上がったボールへとアツヤが回転をかけ強烈な吹雪が周囲を包む。

2人はボールへとそれぞれ逆の回転をかけた蹴りを同時に叩き付けた。

 

『ホワイトダブルインパクト!!』

 

グレントの足下から4本の柱となってマグマが吹き出す、それは龍の形を象ると一斉に吹雪を纏ったボールへと迫る。

 

 

「ヴォルケニック……!!」

 

マグマでできた龍たちの表面が冷気で固まってしまい岩となる、だが。

その岩を突き破って龍たちはボールへと噛み付いた。

 

「ドラグーン!!」

 

マグマでできた龍たちが吹雪を食い破ったものの、強烈な風がグレントの手先のコントロールを少し乱した。

本来ならソレを捉えられたはずだが、グレントはボールを取りこぼしゴールポストに直撃したボールはフィールドへと戻ってしまった。

なんとか失点は逃れた、そう安堵したのも束の間。

そのボールをいつの間にか前線に上がっていた円堂が宙へと蹴り上げた。

 

「ナイスだ士郎!アツヤ!行くぞ!!デスゾーン2だ!!」

 

円堂の掛け声に合わせて鬼道と土門が跳び上がる、円堂もボールを蹴りあげた次の瞬間には宙に跳び上がっていた。

3人は回転をしながらボールを囲い、3人の回転が合わさって強烈なエネルギーがボールへと注がれる。

3人を点とした三角形を象ったエネルギーがボールに注ぎ込まれ、3人はボールを更なる足場として同時に跳んだ。

ボールからエネルギーが放たれる、かなりのものだ。

だが、これなら止められる。

そう、グレントが油断したが。

3人はボールを再度蹴りつけた。

 

「帝国のデスゾーンが3人の息を合わせる技ならば、雷門のデスゾーン2は個性と個性のぶつかり合い……!!」

 

「あっちが足し算なら、こっちは掛け算ってな!!」

 

『デスゾーン2!!!』

 

圧倒的なエネルギーが迫る中、ヴォルケニックドラグーン……彼の最強の技では間に合わない。

一か八か賭けにはなるが、放つしかないとグレントは両腕に炎を灯す。

 

「バーンアウト!!」

 

だが、拮抗する隙も与えずデスゾーン2はグレントのバーンアウトを突破しボールはゴールへと突き刺さった。

 

1-2

 

雷門は1点を取り返した、まだカオスにリードこそ許しているが雷門の士気は再度高まった。

歓喜の声をあげる雷門。

その姿を見て、バーンはその身体を震わせる。

 

「有り得ねぇ……!!プライドまで捨てて、ダイアモンドダストと……ガゼルと手まで組んだってのによぉ……!!」

 

更にはガゼルやダイアモンドダストのメンバーたちはバーンやグレントといったメンバーたちを冷ややかな目で見ていた。

 

「ガゼル様、やはりプロミネンスの連中では力不足です……ここは我々ダイアモンドダストが主力として戦い、プロミネンスをフォローに回すべきでは?」

 

リオーネの言葉にガゼルが頷いた。

そして、ガゼルがバーンへと歩みを進め冷酷な目で言い放つ。

 

「バーン、それを渡せ……貴様らは足でまといだ」

 

「アァっ?!」

 

バーンの腕に巻かれたキャプテンマークを指さすガゼル、バーンは嫌だね!と子供の癇癪のようにそれを否定した。

 

「テメェらこそなにちんたらやってんだ?!プロミネンスがヤツらを抑えている時、何の役にも立ってねぇじゃねぇか?!!」

 

「君たちプロミネンスが勝手にやっていたことの尻拭いを僕達にしろと言うのかい?それこそ君たちの力不足故だ!!」

 

子供の喧嘩のように今の失点の罪を擦り付け合うカオスの2人を見てため息をつくのは観客席から見ているタツヤ、そして何やらノートパソコンを打ちながらそれを黙って観察している秀子。

 

「やれやれ、ダイアモンドダストとプロミネンスが組んだと言うから期待していたのに……まさかここまで酷いとは……」

 

「ほんとにねー、時計が止まってるとはいえ喧嘩し始めたよ」

 

「全く、本来なら止めるとこだけど……君や研崎さんが許可するなんて意外だったよ」

 

「ん?強くなろうと努力してるならそれを邪魔したりはしないよ、まぁ今回は努力じゃなくて思考放棄だったみたいだけどねー。

ダイアモンドダストとプロミネンスが合わされば最強!だってさ、チームのバランスもガッタガタだよ」

 

そして、雷門ベンチでは立向居を中心に盛り上がっていた。

 

「やったな立向居!ついにムゲン・ザ・ハンドを完成させたんだな!!」

 

綱海の言葉に立向居は嬉しそうにはい!というと言葉を続ける。

 

「綱海さんとアツヤさんの言葉……そして士郎さんの見せてくれたプレーのお陰です!

本当にありがとうございます!!」

 

そう言って立向居がアツヤの方を向けば、アツヤは頭を掻き毟りながら唸っていた。

 

「ど、どうしたんですかアツヤさん?!」

 

「だー!!どーもこーもねェよ!!アイツら手ェ抜いてシュートチャンス作ってくるから俺と兄貴であのキーパーから隙作ったけどよォ!!ムカつくぜ!!ホントによォ!!」

 

「手を抜いてる……?どういう事だ?」

 

土門が疑問の声を上げた、壁山や目金たちもどういう事です?と頭の上に疑問符を浮かべている。

その姿を見て鬼道が1歩前に出た。

 

「それには俺が答えよう。

まずアツヤのいう手を抜いている、という事だがそれは違う。

ヤツらは個々人のスピードこそ確かにこの前のダイアモンドダスト戦に比べると明らかに上昇している……だが、プレーの繊細さが欠けているんだ。

単調な動き、そして連携も単純に近くにいるメンバーにパスを回しているだけに近い……それも恐らくは元々同じチームだったメンバーにだけだ」

 

「油断、慢心って奴だな……ハッ!だらしねぇ連中だ。

それこそ、ただパワーとスピードのある初心者を相手にしてんのと変わらないって話だ」

 

不動の付け足した言葉にハッとするのは綱海、立向居にリカや小暮といった新規加入者たちを除く雷門のメンバーたち。

ただパワーとスピードのある初心者。

その言葉にジェミニストームとの試合が思い返される。

そのパワーとスピードに圧倒されていた時こそ危なげだったが、追いついてしまえば試合はスムーズに進んでいた。

 

「そうか!いくらスピードとパワーがあっても動きが単調じゃそれをいなすのは簡単って事か!!」

 

土門がスッキリしたーと言わんばかりに納得した表情を浮かべる。

そして、鬼道は瞳子の元へと近づくと声をかけた。

 

「監督、選手交代を」

 

「ええ、わかっているわ……それにしてもあなたの言う通り、私も最初こそカオスというチームのパワーに目を向けてしまっていたけれど……酷いわね」

 

「はい……この前のダイアモンドダストとの戦いの方が恐らくは苦戦したかと……ですが、油断はしません」

 

雷門、選手交代

GK

立向居

DF

円堂 小暮 不動 土門

MF

一之瀬 塔子 鬼道

FW

豪炎寺 アフロディ リカ

 

強力な必殺技より連携や技量をメインとした陣形へと変えた雷門、リカはそれこそアツヤや豪炎寺といったストライカーたちに比べると見劣りしがちだが、彼女のプレースタイルは柔軟な身体を活かした翻弄するようなプレーだ、それがカオスに刺さると鬼道、そして瞳子の判断だった。

そして先程活躍したアツヤと士郎の両名による連携はやはり士郎の運動量が多くなってしまうという不動の言葉で一時的にベンチへと戻り温存する流れとなった。

 

カオスからの攻撃、ガゼルは隣にいるバーンではなく、背後のリオーネへとボールを託した。

リオーネが駆ける、リオーネの元へと鬼道が迫るがリオーネは必殺技にてそれを突破する。

 

「ウォーターベール!!」

 

勢いのある流水が鬼道を押し流す、やはりパワーがある分こういったゴリ押しは強いな。と鬼道は突破こそ許してしまうが。

間髪入れず突破した隙をついた塔子がリオーネへと迫る。

 

必殺技を打った直後という事もあり、避けられないと判断したリオーネはフリーなサイデン、ではなく少し離れた位置にいたドロルへとボールを渡す。

サイデンとそれを見ていたネッパーが舌打ちをする、そしてボールを受け取ったドロルの元には既に一之瀬が控えていた。

 

「フレイムダンス!!」

 

一之瀬の踊るかのような動きに合わせ舞う炎がドロルを襲い、ドロルの隙をついてボールを一之瀬が奪取した。

やはり、読み易い鬼道と一之瀬は頷きあう。

鬼道が上がれ!と声をあげると一之瀬は一気に前線へと駆け上がる。

 

「なにっ?!」

 

一気に前線へと駆け出していたガゼルとバーンの表情が曇る、だがいくら素早くても油断のせいか今からでは間に合わない。

一之瀬が駆けるとそこへプロミネンスの大柄なDFであるボンバが迫る。

 

「イグナイトスティール!!」

 

炎を纏ったスライディングが一之瀬を襲い吹き飛ばされてしまうが、吹き飛ばされた先で一之瀬は読んでいたかのように受身をとっている。

ボールを奪ったボンバの背後、彼女はいつの間にか接近していた。

 

「よくもダーリン吹き飛ばしてくれたなアンタ!!」

 

するりという音が聞こえるのではないかという程に軽やかにボンバからボール奪うリカ、彼女の元へとプロミネンスのMFをつとめていた眼鏡をかけた少女ボニトナが迫るものの、豪炎寺へと即座にパスを回すとリカはボニトナを回避。

そして豪炎寺からボールがリカの元へと戻ると、彼女はカオスのゴール前へと辿り着いた。

 

「ローズスプラッシュ!」

 

軽やかに舞う彼女の動きから繰り出されたシュートはバラのような鋭さを伴ってゴールへと迫るものの。

グレントが両腕に炎を灯しそのシュートを正面から受け止めてみせる。

 

「バーンアウト!!」

 

バラの茨は簡単に焼き焦げてしまい、ボールはグレントの手の中だ。

グレントはそのボールを完全にフリーなクララやゴッカではなく、プロミネンスのボニトナに渡すが。

 

「貰ったよ!!」

 

アフロディがそれを即座に奪い取った、そしてそのままグレントのいる反対側のコーナーへと蹴り込んだ。

グレントが跳ぶ、だが間に合わない。

ボールは意図も簡単にゴールへと吸い込まれた。

 

2-2

 

ホイッスルが鳴る、前半は終わってしまったもののついに同点となった。

リカがウチのアシスト中々やろ?!とピョンピョン飛び跳ねながら声を上げるのに対しアフロディは苦笑しながらあぁと応えた。

 

「ダーリンも流石やでぇ!あそこまで来てくれたからウチも動き易かったわぁ!!」

 

「あ、あはは……」

 

一之瀬へと抱き着くリカ、一之瀬は魂が抜けているかのように朧気な声で笑い声のようなものを上げることしかできていない。

その姿を見てアフロディは更に苦笑するしかなかった。

 

そして、和気あいあいとしている雷門の元にも聞こえる程の怒声が響いた。

 

「なにをやっているんだプロミネンスは!!あんなヤツらも止められないのか?!!」

 

「それを言うならダイアモンドダストの連中だって簡単にボールを奪われやがって!!だらしねぇ!!!」

 

見るにも耐えない、鬼道は哀れだな。と呟いている。

これなら余裕かもな、軽口を叩く不動に油断するなと鬼道が制す。

そして、カオス側のベンチに1人の少女が降り立った。

 

「見てらんないねぇ……君たちやる気あんの?」

 

漆黒のような黒髪をたなびかせて、血のように紅い瞳がカオスの面々を射抜く。

その表情は明らかな怒気を孕んでいた。

 

「……ニグラス、何しに来た?」

 

「そうだ!これは俺たちの試合だ!!邪魔すんじゃねぇ!!」

 

「君たちのあまりにも情けない姿に私も我慢の限界だよ、わかんないの?なんで今こんなに押されてるのか?」

 

ガゼルとバーンも彼女の迫力に一瞬だけ呑まれてしまう、ガゼルは頭を少し掻くとニグラスを睨む。

 

「なにかあると言うのか?」

 

「簡単だよ、アンタらはカオスってチームなんでしょ?プロミネンスとダイアモンドダストっていう雑魚チームそれぞれで馴れ合ってても勝てるわけないじゃん」

 

「んだとテメェ!!?」

 

「はぁ?ならなんで自称宇宙最強チームがこんなに押されてんのさ?他に理由があんの?個人技では勝ってんのに、なんで簡単に追いつかれてんの?」

 

その言葉に黙ってしまうカオスの面々、ニグラスは口角を歪ませて笑った。

だが、そこに呆れた様子のグランも降り立った。

 

「そこまでだよニグラス、君も意地が悪い……彼らには彼らのやり方があるのさ……まぁ、それが合っているかは結果を見れば明らかだけどね」

 

明らかなグランの挑発に唇を噛むことしかできないバーン、そしてカオスの面々は顔を青ざめさせてキャプテンたちの判断を待っている。

 

「じゃ、私は観客席に戻るけどさぁ……次こんな醜態さらしたらどうなるかわかってんでしょうね?」

 

「……チッ!!」

 

ニグラスとグランはゆっくりと歩きながら観客席へと戻っていく、その姿を見送る彼らは同じチームであるカオスのメンバーから見ても情けない。

だが、それは自分たちもそうなのだと、全員が悔しさからか俯く。

 

「こっからだ!こっから俺たちの実力でアイツらを捻り潰す!!」

 

バーンが吼えた、そしてバーンは嫌々といった表情でガゼルの方をむく。

 

「ガゼル!アレやんぞ!」

 

「……気に食わないが良いだろう、私だって負けっぱなしは趣味じゃない。

行くぞお前たち、我々カオスこそが最強だと知らしめる……今度こそだ……!!」

 

『はい!!』

 

その姿を見て瞳子は鬼道と不動、そして円堂を呼びつける。

 

「……ここからが本番よ、わかってるわね?」

 

「はい!俺たちは負けません!!」

 

瞳子がこまめな選手交代をしていた理由、それがここにある。

カオスのポテンシャルは確実に雷門を超えている、それを埋めているのはチームワーク、鬼道や不動といった司令塔たちの存在やそしてここまでの個々人の努力や経験。

だが、些細な切っ掛けで……今回ならば秀子の言葉で敵がしっかりとした連携をしてくるのならばそれは確実に雷門を追い詰める。それを少しでも食い止めるためにオフェンスよりもディフェンスの体力温存を優先してきた。

 

雷門、選手交代

GK

立向居

DF

塔子 円堂 壁山 綱海

MF

土門 不動 鬼道

FW

アフロディ リカ 豪炎寺

 

後半が始まる。

 

 

 

 




筆者はゲーム版においてはGKを常にグレントにしていましたが、アニメ版のグレントの扱いも中々酷かったと思う……。

グレイシャルフィスト
山/キャッチ技
イメージとしてはgoの化身DF技であるストロングタワーが近いかも……あれを直接ボールに叩き付けているイメージ。

ヴォルケニックドラグーン
火/キャッチ技
イメージとしてはプロミネンス版ムゲン・ザ・ハンド、ムゲン・ザ・ハンドよりも手数はかなり落ちるけどその分1発1発の威力が高いイメージ。


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にじゅーろくわ

握力がやっと2桁になった。

 


2-2での同点。

カオス、ガゼルのキックオフから試合は再開する。

ガゼルからネッパーへとボールが渡る、ボールを受け取ったネッパーに……いや、プロミネンスのメンバーたちに対してガゼルが叫ぶ。

 

「プロミネンス!コイツらに勝つにはお前たちの力が必要だ!力を貸せ!!」

 

『!!!』

 

ガゼルは再び前を向く、バーンも口角を上げると悪くねぇと呟いた。

ガゼルとバーンが雷門陣営の深くまで切り込む、前半から共通していたプレーだ。

そこには彼らなりの激励が含まれている、お前らならここまでボールを繋げられるだろう?2人とも口には出さずプレーで語ることしかできない不器用なヤツらなんだと、ネッパーは夏彦(なつひこ)は笑った。

そんな彼の元へと土門が迫る、ネッパーならば彼を回避するのは容易い。

だが、サイデンへのマークには鬼道、そして目の前の土門のフォロー役には不動と雷門の中でも比較的彼らにとっても強いと思える選手たちが控えている今。

 

「バーン様の足を引っ張ったら許さないからなダイアモンドダストめ!!」

 

そう言いながらもネッパーはボールを蹴り出した、その先にいたのはダイアモンドダストのドロル。

ドロルとネッパー、2人とも目の辺りまでそれぞれ仮面やバンダナで隠れてはいるが確かに目と目で語り合う。

頼んだ 任せろ。

簡単なアイコンタクトだが、それでも、それは彼らにとっては大きな1歩だった。

MFの3人を突破したカオスではあるが、ボールを持ったドロルの元へと綱海が駆け出してくる。

今までベンチにて待機していたためか、その勢いは荒ぶる波のようだ。

 

「行かせねぇぜ!!」

 

「ウォーターベール!!!」

 

水流が綱海を押し流す、そこへ中盤から走ってきた土門がなんとか駆けつける。

ドロルの視線の先、リオーネには不動のマークがある。

先程まではネッパーの隙を伺っていたのに早いやつだ、敵ながらあっぱれと感心するが彼は笑う。

ドロル……いや、徹(とおる)の視線の先にいる彼と目が合った。

 

「ネッパー!簡単に奪われてくれるなよ?!」

 

ネッパーは不動と土門が自分から離れたのを見極めてから一気に前線へと駆けていた、ドロルからのパスを受け取ると思わず笑みがこぼれる。

ガゼルとバーン、あの2人ならきっとやってくれる。

そう信じて、宙へとボールを蹴り上げる。

 

「バーン様!ガゼル様!お願いします!!」

 

ネッパーからボールを奪おうと走ってきた円堂、そしてガゼルとバーンへのパスコースを塞いでいた壁山の頭上を越えていくボール、そして2人は高く跳び上がった。

 

「ハッ!ダイアモンドダストの奴らもやるじゃねぇか!!まぁ、俺達ほどじゃあ無いけどな!!」

 

「何を言う、我らダイアモンドダストがいたからこそのシュートチャンスだ、貴様こそ足を引っ張るなよ?!」

 

悪口を言いながらも2人はボールを正面に捉えた、ガゼルからは冷気がバーンから熱気がそれぞれ放たれる。

2人は無意識にだが、笑っていた。

そして、2人同時に跳んだ姿を見てカオスのメンバーたちはプロミネンスとダイアモンドダストの垣根を越えて互いに目配せする。

全力であの2人に勝利を。

 

「行くぜガゼル!」

 

「わかっている!」

 

『ファイアブリザード!!!』

 

炎と氷が交わった、反対の属性同士の融合なんて本来ならできるはずもない。

だが、今まで何年も争ったライバル同士だ。

互いの実力はわかってる、相手に合わせる必要などない。

自分が本気を出せば、こいつも本気を出す。

2人は全力で自分の利き足をボールへと叩き込む、そこに一切の容赦はない。

身を焦がす程の灼熱と心までも凍らせる冷気が歪にも交わったそれがゴールへと迫る。

立向居は再度目を閉じる、かなりのパワーだ。

魔人では到底届かない、けれど。

 

「ムゲン・ザ・ハンド……!!」

 

幾本もの手が灼熱と冷気を削ぎ落とす、1本、また1本と手が破壊される中でも立向居は技を止めない。

確かに凄いパワーのシュートだ、でもこれならなんとか間に合う。

そう思った瞬間だ、ボールの回転が少し緩んだ時、均衡を保っていた冷気と灼熱のバランスが崩れ少し乱れた。

冷やされた空気が一気に上昇し、それは弾けた。

凝縮されていたエネルギーが爆発のようにムゲン・ザ・ハンドの手を一気に砕ききり、ボールがネットに叩き込まれる。

 

2-3

カオスが1歩抜きん出た。

 

「ハッ!テメェらが俺に合わせるのが遅いせいだぜ?」

 

「何を言う、君たちこそスロースターターなんて言い訳は聞くと思うなよ?」

 

口喧嘩し合いながら陣地へと戻る2人、その光景を見て不動は思わず舌打ちした。

ベンチでどんな会話があったかは半分も聞き取れなかったが、秀子がなにか吹き込んだのは間違いない。

様子を伺うためにと前半と同じような対策で指示を出したが、間違いだったようだと思考を進める。

 

「気にするな不動、奴らの動きが前半よりも洗練されている……ここまでとは思っていなかったからな、俺でも同じ指示を出しただろう……」

 

「アイツらがやっていたのはそれでも単純なパス回しだ、次は止める」

 

鬼道と不動がポジションに戻りながら2人思案する中、立向居の元へと円堂が駆け出す。

 

「大丈夫か立向居!」

 

「はい、ですがすいません……またゴールを守れませんでした……!!」

 

暗い表情をする立向居の肩を叩く円堂、その顔は笑っていた。

 

「究極奥義に完成無し!だ!次は止めれるさ!!」

 

「はい!!」

 

雷門ボールでのキックオフ、アフロディから豪炎寺へとボールが渡る。

豪炎寺が駆け出す中、またもガゼルとバーンはそれを無視して雷門陣地へと切り出す。

それが前半のようなプレーではないことを豪炎寺も理解している、豪炎寺へと迫るサイデンを警戒し豪炎寺はアフロディへとボールを返した。

ボールを受け取ったアフロディの元へと迫るのはネッパー、アフロディは片手を掲げ指を鳴らす。

 

「ヘブンズタイム」

 

時が止まる、いや、特殊な音で感覚を麻痺させその間に前に進むその技はネッパーを周囲の動きを止めた。

彼が前へと進む中、止まっていたはずのネッパーが動き出した。

 

「貰った!」

 

「なにっ?!」

 

世宇子中キャプテンをつとめていたアフロディの実力は雷門イレブンがわかっている。

かつては神のアクアという薬物の力を頼っていた彼だが、今ではそんなもの無しでかつてよりも強大な力を備えてこのチームに力を貸してくれている彼のヘブンズタイムがまさか1発で敗れるだなんて、そんな驚愕が雷門の隙となる。

 

観客席にて秀子はニタニタと笑う、エイリア学園が君臨するのにあたって障害として挙げられたのは日本に来ていたバルセロナオーブ、日本一となった雷門、裏の一位として祭り上げられていた漫遊寺。

そして、影山が世宇子中の力にて反逆してくる場合を想定していたマスターランクのプロミネンスは世宇子対策としてヘブンズタイムを既に攻略していた。

まぁそれは秀子が持ってきた情報をただ聞いていただけなのだが。

 

ヘブンズタイムはわざと注目を浴び、その隙に指の音と挙動で感覚を麻痺させる催眠に近い技。

自己暗示、いや、自己催眠によってそれを回避したのだ。

この世界には、催眠で敵の動きを止めるすべがいくつもあった。

ならば逆にそれを解く方法もあったのだ。

 

ネッパーはアフロディからボールを奪うと雷門陣営へと迫る、だがそれを不動がスライディングでボールを外に押し出すことでなんとか防いだ。

ネッパーに周囲にいたリオーネやサイデンが声をかける、流石に自己催眠の方法はこの場では伝授できないが任せておけ!と少し得意気だ。

 

「ふん、プロミネンスも中々やるじゃないか」

 

「ったり前だろ」

 

そして雷門イレブンも少し困惑する、今の攻め方は鬼道と不動、そしてアフロディが考えていたものだった。

アフロディがヘブンズタイムにて中央を強引に突破することで他のFWのシュートチャンスを無理矢理に作り出す、そうして士気が上がりつつある敵の戦意を削ぐ作戦だったのだが。

3人の視線の先、ネッパーを中心に士気をさらに上げている敵の姿を見て作戦の失敗を悟った鬼道は少し俯く。

だが、そんな彼に対して不動は肩を叩いた。

 

「しょぼくれてる暇なんてねぇぞ……鬼道クンよ……後は頼むぞ」

 

「何をする気だ不動?」

 

「ちょっとばかり、この流れを変えてやるさ……!!」

 

ネッパーのスローイン、大柄なサイデンと綱海の身体がぶつかり合う。

サイデンが綱海を押し破り、ボールを獲得すると近くにいたリオーネへとパスを回そうとするが。

 

「おっと、貰ってくぜ」

 

不動がそれをカット、司令塔である不動にボールが回った事でカオスのメンバーたちはパスコースを塞ごうと周囲の雷門メンバーに対して即座にマークするが。

 

「舐められてんねぇ……!!」

 

不動はそのままボールを持ち込む、勿論そこへ大柄なDFであるゴッカが迫るものの不動は即座にボールを蹴り出す体勢をとる。

 

「おっと、ナイスだ豪炎寺クン!」

 

「なぬっ?!」

 

ゴッカがパスを通さんと一瞬体を強ばらせる、だが不動の蹴り出したボールはゴッカ頭上を通り過ぎるだけ、ボールを手放して身軽になった不動は即座にゴッカ抜き去るとゴール前へと躍り出る。

 

「マキシマムサーカス!!」

 

ボールが5つに分身する、それらのボールを全て順々に蹴りつけると5つのボールは元の1つへと戻り、5発分のエネルギーが込められたボールがゴールポストギリギリの所へと迫るが。

 

「この程度!!」

 

グレントはそれを必殺技なしで掴み取ってみせた、そして不動のいない反対側。

DFのボンバの方へボールを投げると大柄なボンバの背後には彼女がいた。

 

「チャーンス!!」

 

ボンバがボールをキープするものの、それを即座に奪い取るリカ。

リカはそのままシュート体勢をとる。

軽やかに舞い、その鋭い蹴りはバラのようだ。

 

「ローズスプラッシュ!」

 

「バーンアウト!!」

 

炎を両腕に灯しバラの茨を焼き切ってボールを掴み取るグレント、そしてボールを今度はクララへと託す。

だが今度はクララに不動が迫っていた。

 

「なっ?!」

 

「あぁん?なにぼさっとしてんだ!!」

 

不動がクララからボールを奪い取る、そして5つにボールがわかれる。

 

「そんな技……!!」

 

「今度こそ決めてやるよ!!」

 

4つのボールを蹴りつける不動、そのボールは1つへと戻りゴールへと迫る。

またもゴールポストぎりぎりの一撃、グレントはそれを必殺技なしとはいえ跳びついてまたも対応してみせる。

 

だが、ギリギリ掴み取ってみせたそれは夢幻のように掻き消えた。

 

「なっ?!」

 

グレントの視線の先、黄金に輝く羽根が舞っていた。

視界の更に奥、それは黄金の翼をはためかせボールへと踵を叩き込んでいる。

 

「ゴッドブレイク……!!」

 

黄金の輝きが迫る、体勢を崩されてしまったせいで必殺技が間に合わない。

だがグレントは負けじと両腕に炎を灯した。

 

「バーンアウト……!!」

 

腕が触れる、だが体勢を整える時間も足りず掴み取ってみせたそれの勢いに押されてグレントの腕は弾かれた。

ゴールへとボールが叩き込まれる。

 

3-3

 

またも同点。

 

ゴール前にてアフロディが不動の姿を見つけ駆け寄る、だが不動は肩で息をしていた。

思わずアフロディが大丈夫かい?と声をかけるものの、思ってみればそうだ。

最初こそベンチにいたが、終始カオスの猛攻を不動が起点となって防いできていた。

それでさえ試合時間めいいっぱいやっていたとしたら体力も底をつくだろう。

その上不動は、強引にボールを奪い取ってからフィールドを横断し、ブラフを含め必殺シュートを2発連続で放っている。

 

「アフロディクン、良いシュートだ……!!次もよろしく頼むぜ?」

 

「君は無理をしない方がいい!」

 

「いんや、まだダメだ……まだやる事が残ってるからよぉ……!」

 

そしてグレントが地面を叩く、油断した。

油断故にガゼルとバーン、そして他のメンバーたちが得たリードを無効にしてしまったと。

そこへ、1人の少女が声をかける。

 

「なーに落ち込んじゃってんのよ蔵人(くらんど)」

 

「……穂花(ほのか)か、すまない……!」

 

そこにいたのは眼鏡をかけたプロミネンスのMFを務めていた少女、ボニトナだった。

意気消沈し、地面を睨む彼の頭をボニトナは叩いた。

 

「っ?!なにをする!!」

 

「ほら、あっち見て見なさいよ」

 

突如頭に発生した衝撃の原因であるボニトナが指さした先。

そこではガゼルとバーンが言い争っていた。

 

「まったく、これで僕たちがもう一点取らなければいけなくなったじゃないか?!プロミネンスは何をしている?!」

 

「あぁ?!グレントは俺たちの活躍が見てぇって行動で示してんだよ?俺たちなら余裕だろうが?!」

 

「はっ、当たり前だ!それにそんな風にされなくても私たちなら簡単に点を取れるがね!!」

 

やっている事は前半とあまり変わらない、だが2人とも笑っていた。

その光景にポカンとするグレント、そしてボニトナは彼らの方を向きながら呟いた。

 

「……アンタが裏でいつも敵選手のパスとか足の速さでシュートの威力とかを計算してんのはわかってる、次は私たちがあんなプレーさせないから」

 

そのまま歩き去る彼女、グレントは思わず溜息をつく。

心配を掛けさせてしまったようだな。

マスクを取る、邪魔だ。

 

マグマのように赤く熱い双眸にて雷門を睨む。

そして、味方たちへと吠える。

 

「ゴッカ!ボンバ!クララ!ボニトナ!!すまないが力を貸せ!!俺は不器用でな!!俺は正直!あーいったチョコマカとした動きに弱い!!」

 

一瞬ポカンとした顔で見てくる4人、そしてボンバとゴッカが笑った。

 

「そんなの知ってるさ!あんなもやし野郎もう通さないから安心してくれ!」

 

「当たり前だ!!」

 

そして、その背後にてクララはニタニタと笑っている。

 

「あれ?ボニトナ顔赤いよ?何してきたの?」

 

「うっさいわね、プレーに集中するわよ!任せときなさいグレント!」

 

グレントの方に振り向かないままポジションにつこうとするボニトナを指さしてクスクス笑うクララ、そして彼女もグレントの方に振り向くと了承の意を込めて手を振った。

 

グレントの口角が上がる。

 

「俺を抜けると思うなよ?雷門……!!」

 

その視線の先、ポジションへと戻りつつある不動が一瞬震えた。

振り返ってみればマスクを外したグレントが紅い双眸で睨んでいる。

 

「あーこわこわ、ったくよぉ……これだから馬鹿は扱い易いぜ」

 

軽口を言いながらも同じ手は通用しないだろうな、と警戒する不動。

そんな彼の元へと鬼道が駆け寄る。

 

「いいプレーだった、お前のことだ、何かまだ策があるんだろう?次はどうするつもりだ」

 

「……もう一点、無理矢理とってきてやる……だから後は頼むぞ」

 

「お前はもう既に警戒されている、その状態でどうするつもりだ?」

 

「あ?そんなの教えっかよ、お前は俺の代わりに守備頼んだぞ」

 

そして、カオスボールで試合再開。

ガゼルからバーンへとボールが渡り、2人同時で駆け込む。

2人がかりの速攻、一瞬でFWの3人を抜き去るとそのまま不動たちの元へ迫るが。

今度は不動がそれを無視した。

駆け出す不動に対し、鬼道は少し呆れたように笑う。

俺もアフロディも変わったが、お前も変わっているようだな。その信頼、無駄にはしない。

 

鬼道が即座に指示を出す、それは円堂に下がれというハンドサインだ。

円堂はその指示を理解したのかゴール手前まで下がる。

そして鬼道が2人へと駆け出すが。

 

「遅い!」「遅せぇ!」

 

2人の連携は疾い、その一言に尽きた。

鬼道がボールを持ったバーンへと走り出した時にはバーンからガゼルへとボールが渡ったのだ。

鬼道が振り向いた先では壁山のザ・ウォールが容易く今度はバーンがそれを跳び超えるという方法で突破していた。

そして跳び上がったバーンの元へとガゼルが追いつく。

 

「お前も遅いんだよ!」

 

「君のバッタのような動きが気持ち悪いからだ!」

 

「んだと?!」

 

口喧嘩しながらも、その動きはほぼ同時、それぞれが利き足を出し、冷気と熱気がそれぞれフィールドの半分を支配し合う。

2人はそのエネルギーと脚をボールへと叩き込む。

 

『ファイアブリザード!!』

 

ファイアブリザードの正面、円堂は額へと力を込める。

 

「メガトンヘッドォ!!」

 

正義の鉄拳にも似たそれがファイアブリザードへと叩きつけられるがそれはミシミシと音を立てると少し威力を削りはしたが突破を許してしまう。

その先にて立向居は既に両腕を広げ幾本ものエネルギーでできた手を携えて待ち受ける。

 

「ムゲン・ザ・ハンド……!!」

 

先程よりも数を増やしたそれはファイアブリザードを削る、ファイアブリザードの熱と冷気が拮抗を崩し弾ける。

だがそれをムゲン・ザ・ハンドの手数は押し潰す、爆発も何もかも抑え込む。

1本、また1本とボールへと腕が届き今度こそファイアブリザードを立向居は抑え込む。

 

「綱海さん!」

 

立向居がボールを綱海へと渡す、そして綱海は雷門陣営ゴール前……シュートの構えをとった。

大海のようなフィールドをボールで乗りこなしそのままの勢いでボールを蹴りつける、その勢いは技の名の通り。

 

「ツナミブースト!!」

 

怒涛の勢いでカオスの陣営へと迫るボール、ネッパーとサイデンが同時に跳んだ。

 

「任せたぞ!リオーネ!ドロル!!」

 

「バーン様たちに繋げぇ!!」

 

ツナミブーストの勢いに吹き飛ぶ2人とボール、それを拾わんと土門や鬼道が迫る。

リオーネが渡さまいとなんとか先にそれをキープする、そしてキープする勢いのまま彼女はそれを踏みつけた。

 

「ウォーターベール!!」

 

「なっ!」「なにっ?!」

 

水流が2人を押し流す、リオーネはそのままガゼルとバーンへとボールを渡そうとするが2人にはマークがついていた。

2人なら突破できるかもしれない、だがこれはプロミネンスの奴らが無理矢理作ってくれたチャンスだ、無駄にはしない。

リオーネはそのままボールを持って駆ける、視界の隅から塔子が駆け寄るもそのお陰で1人空いた。

 

「ドロル!」

 

前半、そして前回のダイアモンドダスト戦において中盤で活躍の多かったドロルには優秀な必殺技をもつ塔子がマークしていた、だがそれを解く瞬間を彼女は待っていた。

仮面で声が届かないかもしれない、それでも彼女は叫んだ。

それに呼応するかのようにドロルは渾身の力を込めてボールを蹴り上げる。

 

「頼みますバーン様、ガゼル様!!」

 

「今度こそ!!」

 

ドロルから高いパスが上がる、シュートのように鋭く早いそれをバーンが空中でキープ、そしてまだ地上にいるガゼルに向かってニタリと笑った。

 

「決めんぞ!ガゼル!!」

 

「仕方の無いやつだ……!!」

 

バーンは足に炎を纏わせ、オーバーヘッドキックをボールを叩き込んだ。

炎は軌跡を描き、ボールへと吸い込まれる。

灼熱の太陽の如きエネルギーが立向居へと迫る。

 

「アトミックフレア!!」

 

「ムゲン・ザ・ハンド……!!!」

 

太陽のような炎を手数で持って鎮圧する幾本もの腕、その勢いは削がれボールは立向居の両腕に収まるのを待つのみ。

だが、世界が凍った。

気づけば、止めたはずのボールへと1本の足が叩き込まれている。

ムゲン・ザ・ハンドのエネルギーで止めたボールへと強烈な冷気が吹き込まれる。

 

「ノーザンインパクト……!!!」

 

ファイアブリザードを、威力を削がれたとはいえ2人の最強技を防ぎきったムゲン・ザ・ハンドを攻略するのに、彼らは咄嗟にやってのけた。

ムゲン・ザ・ハンドをアトミックフレアで削り、ノーザンインパクトで貫く。

 

立向居のムゲン・ザ・ハンドを破り、ボールはゴールへと迫る。

だが、立向居の後ろ、2人のの男たちが立っていた。

 

「へへっ、こんなに楽しいと燃えてくるよなぁ!!壁山!!」

 

「はいっス!キャプテン!!立向居くんも凄いっす!後は任せるっス!!」

 

壁山がザ・ウォールを展開する、だがその壁はいつもより大きい。

そして円堂は両手でゴッドハンドをつくると、それでザ・ウォールを固定する。

 

『ロックウォールダム!!』

 

極北の如き冷気を受け止め、巨大な障壁はそれを打ち返した。

ガゼルとバーンの視線の先、ボールは理不尽にも戻っていく。

塔子がそれをキープ、そして塔子から土門、土門から鬼道とボールは遥か彼方へ消えていく。

 

鬼道の視線の先、不動とアフロディには2人がかりで豪炎寺にも1人とそれぞれパスの先にはマークがついている。

空いていると思えるリカのすぐ近くにも前線から戻ってきたリオーネが隙を伺っている。

土門は近くにいるが、円堂は遥か後方……せっかくのデスゾーン2もこのままでは放てない。

そうして彼が躊躇する中。

 

「よこせ!!」

 

マークを振り切った不動が叫んだ、鬼道はその言葉を信じてボールを蹴り出す。

そして不動は今度はボールを2つへと別れさせた。

 

「今度は油断せんぞ!!」

 

「そうかよ!!」

 

そして、それらのボールを黄金の輝きが包んだ。

アフロディは黄金の翼をはためかせ、マークの2人を空へ舞うことで避けた。

グレントの視線の先、更に動きがあった。

目まぐるしく変わる戦況、グレントは口角を上げながら足元からマグマを噴出させボールを睨む。

 

「行くぜアフロディクン……ぶっつけ本番だ……!」

 

「ああ、行くよ不動くん!!」

 

アフロディがかかとおとしで不動はオーバーヘッドキックでそれぞれのボールを叩きつけた。

2つのボールが迫る中グレントの周りにはマグマで出来た龍が4匹、それぞれがボールへと迫る。

黄金に輝くボールが2つ、4匹の龍の前で交わって更なる輝きを生む。

そして4匹の龍が噛み付こうと牙を向いた瞬間。

 

「よっと」

 

不動が指を下へ向けた、それに合わせるかのようにボールは突如軌道を変え4匹の龍を避ける。

グレントの股下をくぐり抜けるようにボールはゴールへと吸い込まれた。

 

「なっ?!」

 

「おいおい、なにも必殺シュートってのは威力だけじゃねぇよなぁ?」

 

4-3

不動が笑う、精一杯の見栄を張って。

不動は既に体力の限界だった。

特に後半、飛ばし過ぎた。

だが、バレる訳にはいかない。

観客席、あそこから見ている目。

黒山羊秀子にバレれば、ザ・ジェネシスとの試合の際に自分がきっかけで崩されかねない。

エイリア石による身体と精神のズレによる体力不足、不動の問題は未だ解決していなかった。

そして、ポジションへと戻る中、不動は不意に躓いてしまう。

何も無かった、ただ足がもつれたのだ。

それをアフロディは肩を掴んで受け止める。

 

「流石だよ不動くん!君のおかげでまた得点出来た!!」

 

彼らしくもない大きな声をあげる。

アフロディ自身も気づいていた、不動は体力の限界だ。だがそれをひたすら隠している。鬼道にさえ告げずにひたすら。

ポジションへと戻る中、アフロディは鬼道へとアイコンタクトを送った。

不動が限界だ、と。

アイコンタクト、そして試合中の不動の言葉から瞳子の元へと駆ける鬼道。

彼は静かに言う。

 

「監督、不動が限界です……選手交代を……」

 

「ええ、わかっているわ……そろそろアツヤくんを抑えておくのも限界だったのよ」

 

「お願いします」

 

雷門、選手交代

GK

立向居

DF

小暮 円堂 塔子 綱海

MF

土門 一之瀬 鬼道 士郎

FW

アツヤ 豪炎寺

 

そして、瞳子の視線の先。

鬼道、円堂もそろそろ限界だという事に瞳子は気づいていた。

鬼道も攻撃の起点としてつとめ、さらには後半からは守備も頑張っているためその疲労は大きいだろう。

更には円堂も新技デスゾーン2やメガトンヘッド、そして壁山との連携技ロックウォールダムと何度も土壇場で活躍してみせた。

だが、鬼道は戦術面。そして円堂はメンバーたちの精神的支柱として外す訳にはいかない。

選手交代の際、士郎とアツヤへと瞳子が声をかける。

 

「他の皆も限界が近いわ、アツヤくんも守備として士郎くんや他のメンバーをサポートしてみてちょうだい」

 

「え?でも俺はディフェンスとか苦手っすよ?」

 

「……あなたはずっと士郎くんのプレーを見てきたはずよ、そしてあなたはストライカー……守備にされたら嫌な事をあなたが相手の選手にやり返せばいいのよ」

 

「……なるほど、わかりました監督」

 

「アツヤ、大丈夫かい?」

 

「なるほどな、兄貴も俺の真似してエターナルブリザード打ってたしな、俺も俺なりにやってみっかァ!!」

 

ガゼルのキックオフからの試合再開、またもガゼルとバーンによる速攻。

残り時間僅か、この攻撃を耐え凌げば雷門は逃げ切れる可能性が高い。

リードを許してしまったカオスは攻めるしかなかった。

 

「決めるぞバーン!!」

 

「お前に言われなくてもわかってんだよ!!」

 

即座に2人は雷門のFWもMFも突破する、あまりの速さに士郎ですら驚いている。

ガゼルがボールを地上で運び蹴り上げ、空中に跳んだバーンがそれを更に繋ぐ。

高低差を使ったワンツー、綱海が何度かバーンのいる空へと迫るがバーンはそれ以上の速度をもって空を征した。

 

「行くぜガゼル……今度こそ決めんぞ!!」

 

「ああわかっている、小細工はなしだ……正面から破るぞ……!!」

 

円堂さえも抜かれた、円堂のメガトンヘッドを警戒したのだ。

そして2人同時に跳び上がり冷気と熱気がフィールドを支配する。

 

『ファイアブリザード!!』

 

今までの試合の中でも最高峰の威力を持ったそれが迫り来る、立向居が目を閉じボールを見切る中、彼とボールの間に立ちはだかる影がいた。

彼はニィと笑うとボールへと襲いかかる。

 

「行くぜ行くぜ行くぜェ!!!これが俺なりの兄貴の物真似だ畜生!!」

 

エターナルブリザードの要領かアツヤがファイアブリザードへと足を払い回転をかける、それはボールを縛り付け威力を回転を削ぎ落とす。

 

「俺の必殺技!特に名前はまだ無ェェ!!」

 

紅い風のようなものがファイアブリザードの回転を緩めていく、だがそれを立向居は油断せず幾本もの手で制圧する。

 

「ムゲン・ザ・ハンド!!」

 

風と手が意図も容易く抑え込み、立向居は目の前にいたアツヤへとボールを託した。

 

「行ってくんぜ立向居!お前にしかできねぇ技、最高だ!!」

 

「アツヤさんも凄かったですよ!!」

 

立向居が声をかける中、ガゼルとバーンを抜き去るようにアツヤが駆ける。

ガゼルもバーンも追い掛けようとするが、身体が動かない。

ガゼルは肩で息をしているし、バーンもまた足取りが重い。

 

「待ちやがれ……!」

 

「負ける訳にはいかない……!!」

 

「悪ィな……こっちも負けらんねェんだ……!!」

 

アツヤ、独走。

そんな彼を止めようとネッパー、サイデンが駆けるもアツヤはそれを士郎へとパスして回避、その士郎のもとへ今度はリオーネとドロルが駆ける。

いや、よく見ればDFたちも前線へと上がってきていた。

 

「なんとしてもお2人に繋げ……!!」

 

「もう時間が無い……間に合ってよ……!!」

 

ゴッカが必殺技をしかけ士郎からボールを弾くとボニトナが蹴り上げた。

その先にいたリオーネが受け取ってそのままの勢いでボレーシュートのようにガゼルへとボールを繋いだ、バーンが跳びガゼルがボールを蹴り上げようとした瞬間。

ホイッスルが鳴った。

4-3

雷門の勝利である。

 

雷門のメンバーはその場で跳ね回ったりハイタッチをして喜びを分かちあっている。

その光景を見て、ガゼルもバーンもわかってしまった。

自分たちが間違っていた。

制止するかつての仲間たちを無理矢理蹴散らして勝負を挑んだものの、これは間違いだった。

自分たちの部下にも涙を流す者がいた。

ガゼルとバーンがそれぞれ声をかけようとした時。

彼が舞い降りた。

 

「さてと、ガゼルにバーン……言い残す事はあるかい?」

 

グランはその手にサッカーボール型の装置を持ってカオスへと近づく。

その背後にいつの間にかいたニグラスはどこか寂しげな表情を浮かべていた。

ずっと勘違いしていた、バーンのガゼルの視線の先で彼女はいつもニタニタと笑っていたが。

彼女はずっとその表情を隠すためにそんなふうに笑っていたんだ。

 

「いや、ねぇよ……」

 

「ああ、僕達の完敗だ……」

 

極光が周囲を包む、円堂が待て!と叫ぶがそう言われて待つわけもない。

光の中、円堂の姿が見えなくなる前に。とガゼルとバーンは叫んだ。

 

「楽しかったよ雷門イレブン!」

 

「てめぇら、中々やるじゃねぇか!!」

 

雷門イレブンが再び目を開ければ、そこにはグラン、ニグラス……そしてカオスの姿は既に無かった。

だが、円堂は笑っていた。

ジェミニストームも、イプシロンも……そしてカオスもアイツらはサッカーの楽しさをわかってくれた。

それならきっとアイツらだって。

グランとニグラス、それにザ・ジェネシスの奴らを思い浮かべて円堂は笑った。

 

「よし、次はザ・ジェネシスだ!!俺たちならアイツらにだって勝てるはずだ!!」

 

『応!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、試合終了後にミーティングを終え瞳子は雷門中の校庭で1人佇んでいた。

そこへ少年と少女が歩いてきた。

 

「今日は見苦しい試合でごめんね?」

 

「ホントにねぇ……」

 

「あなたたち、何しに来たの……?」

 

瞳子の視線の先、そこにいたのは私服姿のタツヤと秀子だった。

 

「最後は……僕たちジェネシスが相手するよ、姉さん」

 

「うん、必要なデータは集まったしね。

……雷門は徹底的に捻り潰すからよろしくね?」

 

2人はそれだけ言うと去っていく、そしてそのやり取りを見ている3人の影があった。

 

「姉さん……?」

 

「どういう事なの……?」

 

それは雷門のマネージャーたち。

そして、彼女らの存在に気づいていた秀子はニタリと笑った。

 

「じゃ、私たち行くね?待ってるよ姉さん」

 

振り向きざま、マネージャーたちと秀子の紅い目が交差する。

捕食者のようなその瞳に気圧される3人は暫くその場を動けずにいた。

 

 




カオス戦しゅーりょー。


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にじゅーななわ

グランとニグラスは笑う、2人は東京のとあるカフェで珈琲を飲んでいた。

 

「秀子も中々いい演技だったよ、雷門のマネージャーが萎縮してる様は中々面白かったね」

 

「えー、タツヤもノリノリだったじゃん……ていうかグランも私に負けず劣らず盤外戦好きだよねぇ」

 

「……まったく、君も本当に色々動いてくれたよね。

イプシロンやジェミニストームだけじゃない……まさかカオスまで強くするのは意外だったけどね」

 

「……だってあの程度に勝てないようなヤツらと戦っても面白くないしね」

 

2人の視線が冷たく交差する、2人に珈琲のおかわりを聞きに来た店員は場の空気に呑まれてしまい涙目だ。

それに気づいた2人は苦笑しておかわりを頼んでいた。

 

「……ところで、どうなると思う?」

 

「んー?瞳子姉さんの事をザ・ジェネシスのキャプテンとゴールキーパーが身内だって言ってたら多少は動じるんじゃない?」

 

「多少、か……彼らを信じているんだね?」

 

「いーや、鬼道、不動、アフロディの影山被害者の会は『判断材料が足りないから実際にこの目で把握するまでは迂闊に判断できない』とか言うんじゃない?」

 

秀子が鬼道の真似をするとタツヤは少し笑った。

だが、その後すぐに秀子の表情がつまらないといったものに変わる。

 

「で、円堂守は瞳子姉さんの味方するんじゃない?

結局は頭いい連中と円堂守に依存してる連中の多数決で雷門イレブンは来るだろうね、富士山」

 

「……へぇ」

 

「ま、でも今の雷門のシュート程度なら君之(きみゆき)で余裕でしょ!サボっていい?」

 

「それはダメだよ……俺たちは圧倒的な実力差で雷門に勝つ……それを示すなら君の力が手っ取り早い」

 

「えー、か弱い女の子だぜ私」

 

「ははっ、君でか弱い女の子なら俺のシュートを抑えられない子達はどうなるのさ?」

 

「……プランクトン?」

 

「困ったな、人の総数が今ので約半分減ったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、帝国学園スタジアムに轟音が響く。

そこでは不動とアフロディ、そして豪炎寺はいくつもボールをダメにして練習していた。

そして、不動は力尽きたかのように仰向けに倒れた。

 

「……なんとか形にはなったな不動」

 

「これなら彼女からゴールを奪えるかもしれないね」

 

「……豪炎寺クンとアフロディクンは余裕そうだねぇ……」

 

肩で息をする不動、不動はそんな中ポツリと呟いた。

 

「でも、これが成功すんのは1度っきりだ……アイツの……秀子サンは確実に2回も同じシュートを通すわけねぇ……」

 

「わかってるさ、エイリア学園最強のゴールキーパー……油断はしない」

 

「ああ」

 

「どうやらお前たちはあのゴールキーパーについて詳しいらしいな」

 

『ッ?!!』

 

そこへ現れたのは鬼道だった、ゴーグルの向こうから赤い瞳で3人を見る。

 

「……話してくれ、今日の瞳子監督の件とも……関係があるんだろう?」

 

雷門中のグラウンドで瞳子の事を姉さんと親しげに呼んだグランとニグラス……その事で雷門は今割れていた。

瞳子がその事を言及された際に富士山脈……そこで全てを話すとだけ言ってまた姿を消したのだ。

時々練習の度に姿を消す瞳子監督に疑念を持つ選手もいた、一之瀬や土門は瞳子監督を信頼できないと言って出ていってしまった。

そして鬼道は判断材料が足りないと現状維持を支持、キャプテンである円堂は彼女を信じるべきだと。

そうして意見が割れる中、一言も話さなかったのがこの3人ということで鬼道は密かに目星をつけていたのだ。

 

「わかったよ、でも俺達も全部知ってるわけじゃねぇ……知ってる事だけ話すぜ?」

 

不動の口から語られたことに鬼道は驚きを隠せなかった。

エイリア学園は宇宙人ではなく、吉良財閥が発見したエイリア石という未知の物質で強化されただけの人間であり。真・帝国学園もその力を使っていたという。

だが、佐久間や源田は鬼道への復讐に毒されていたせいかその事を聞いていなかったため知ったのはつい最近だと。

そして、その情報を持たらした人物の名は黒山羊秀子(くろやぎしゅうこ)。

アフロディや豪炎寺、そして真・帝国学園を鍛え上げた雷門のサポーター。

源田にハイビーストファングを伝授し佐久間や源田たちの先進治療を手配した者。

エイリア学園で1人スパイとして活動している瞳子監督の妹分であり、エイリア学園最強チームザ・ジェネシスの正ゴールキーパー、ニグラス。

聞けば豪炎寺をエイリア学園に引き込もうとしたエイリア学園の過激派と言った者たちを警察が確保できるように手配したのも彼女だという。

 

「……驚いた、そこまで俺たちの事を裏から助けてくれていたのか」

 

「あぁ、だがアイツも言ってたけどよ……ザ・ジェネシスとして戦う時は、徹底的に捻り潰す気で行くから覚悟しろ……だってさ」

 

「なるほどな、それでお前たちは密かに練習していたのか……だがあの技はなんだ?とても限定的な技のように見えるが」

 

「ああ、だからこそザ・ジェネシスのゴールキーパー……ニグラスからゴールを奪える」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、雷門イレブンが富士山脈へと向かう当日。

雷門中のグラウンドへと集合時間よりもだいぶ早く来た円堂の前に2つの人影が立っていた。

 

「やぁ、円堂くん」

 

「ヒロト……!」

 

「ヒロトじゃない!!」

 

円堂の言葉に叫ぶようにして否定の声を上げたのはニグラス、そしてニグラスは気まずそうに彼はグランだよ……と呟いた。

 

「まぁ、そういう事だよ……僕達のホームグラウンドに来なよ」

 

「……富士山か?」

 

「正解!そこで待ってるよ、雷門の最後の相手……ザ・ジェネシスとしてね」

 

「お前たちは何を企んでる!!」

 

「来たらわかるよ」

 

交差するタツヤと円堂の視線、グランは円堂の隣を通り過ぎるように歩き始めた。

そんな彼を追うようにニグラスも歩き出した。

 

「ザ・ジェネシスはエイリア学園最強のチーム、君たち地上最強チームと戦えること、楽しみにしてるよ円堂くん」

 

「私たちザ・ジェネシスは強いよ、精々抗ってみせてね……雷門」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グランとニグラスはすぐに吉良財閥の所有する小型飛行機に乗り込んで、彼ら自身のホームグラウンドである富士山脈へと向かっていた。

顔色の悪いニグラスに、薄ら笑みを浮かべるグラン。

 

「ニグラス、君があそこまで感情を露わにするなんてね……珍しいこともあるものだね」

 

「アンタはヒロトじゃない……アイツの……代わりじゃない」

 

「……俺はヒロトになるよ、それで父さんが救われるなら……ね」

 

それ以降、2人に会話はなく。暫くした後富士山脈へと辿り着いた。

2人が降りると、そこにはザ・ジェネシスのユニフォームを着たウルビダが待機していた。

 

「2人は目立ちすぎる、ザ・ジェネシスのキャプテンと切り札の自覚はあるのか?」

 

「なに、ザ・ジェネシスのキャプテンとして彼らを揺さぶってきただけさ」

 

「……別にデートしてた訳じゃないから安心してよ玲名(れいな)」

 

「ッ!!知らん!!」

 

怒って何処かへと歩いていってしまうウルビダ、そしてグランとニグラスもザ・ジェネシスのユニフォームに着替えるためにとそれぞれ割り振られた自室へと向かう。

そうしてニグラスが歩く中、ふと通路にバーンとガゼルの姿があった。

 

「秀子、段取りはOKだ……実行のタイミングはいつだい?」

 

「……ホントにやれんのか?」

 

「晴矢(はるや)風介(ふうすけ)……ありがと、大丈夫……ごめんね2人にも監視の目が多かったから、ハイソルジャー計画が最終段階になるまで話せなかったの」

 

「はっ!水くせぇなぁ!……俺らこそすまねぇな、色々迷惑かけた」

 

「ホントだよ、2人とも一角(いっかく)たちにも謝りなよ……?」

 

『ぐっ!!』

 

秀子の言葉にたじろぐ2人、秀子は少し笑うと2人を置いていくようにまた歩き出した。

その姿はたしかに未だ自分たちと同じ年頃の少女のものだが、彼らにはその姿がこれ以上なく頼もしく見える。

 

「……ふん、晴矢は本当に秀子から貰った資料の内容がわかっているのかい?君がなにかしでかさないか心配でしょうがないよ」

 

「んだとゴラ?!……一通り目は通したさ!!」

 

「……返事になっていないのがさらに心配だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吉良財閥兵器開発所、総帥室という名の茶室。

その空間には3人の人間がいた、吉良財閥会長……お父様こと吉良星二郎(きら せいじろう)とその秘書研崎(けんざき)そしてハイソルジャー代表として黒山羊秀子。

どうやら秀子がお茶を点てているようで、彼女は2人へとそれぞれ茶碗を差し出した。

吉良はそれを1口唆ると頷いた、結構なお点前で……その声に秀子は頭を下げる。

研崎も同じように唆ると少し体が震えた、彼は秀子を睨むようにして吉良と同じように結構なお点前でと呟く。

秀子がわざと不味く点てたのをわかっているのだろう、だが会長の手前で粗相は起こせない。

今の吉良は計画の成就間近でご機嫌ではあるが、とある事情で精神が不安定なのだから。

 

「秀子、最初は君之にキーパーを任せると……」

 

「はい、タツヤが言っていた通り私が最初から出ても良いのですが……それでは花が無いかと」

 

「ほほう……」

 

「君之というキーパーをやっと乗り越えた……そんな場面で更なる脅威に晒されれば彼らの心も折れ、宣伝としての演出になるかと」

 

というのは建前で、自分がキーパーをする前に雷門には数点だけでもリードしててほしいという彼女の不安から来ているものである。

ザ・ジェネシスは負けなければならない、だが。

手を抜いて負けるのは嫌だ、という複雑な心境でもある。

今はもう転生してからだいぶ時間が経った彼女ではあるが今の精神は確実に今の身体に引っ張られている。

じゃなきゃアニメキャラクターたちに混ざってあんな風に振る舞えない。

そんな風に会話していると、アナウンスが鳴った。

侵入者発見、という機械音によるアナウンス。

吉良が呟いた、来ましたか……と。

 

「雷門の連中のようです」

 

研崎が電話を片手に告げる、どうやら部下から連絡が来たらしい。

秀子は臆病者なコイツらしいなと思いながらも頭を下げた。

 

「吉良さん、私たち……ザ・ジェネシス、準備します」

 

「頼みましたよ秀子……おっと、君の言っていた作戦ですが……良いでしょう折角君之もガイアとして頑張っていたのです……少しくらい許しましょう」

 

秀子は頭を再度下げると茶室を後にした。

その瞳に闇を宿しながら、ザ・ジェネシスの準備室へと足を踏み入れた。

 

「みんな、準備して……君之もね」

 

その言葉に小柄な少年、ネロこと根室君之(ねむろ きみゆき)が立ち上がる。

 

「良いのか秀子」

 

「うん、君之なら大丈夫でしょ……なんたって私の一番弟子なんだよ?」

 

「フッ……秀子の出番は来ないぜ?」

 

「お、サボれてラッキー」

 

君之と秀子が笑う、その姿を見てジェネシスの大柄なフォワードであるウィーズが近付いてくる。

その表情は少し申しなさげだ、いつも堂々としている彼らしくもない。

 

「どうしたの由宇(ゆう)?告白なら後にしてね?」

 

「ちげぇ!!」

 

秀子の軽口に大きな声を出した彼はすまねぇ、と小声で続けた。

 

「この間はすまなかった、だが……お前がこの場にいる誰よりもこの計画に尽力してきたのは知ってるつもりだ……勝つぜ俺たちは」

 

「うんうん、私から1点でも奪えてたらもっと心強かったなぁ」

 

「なんでそう茶化すんだてめぇは!」

 

「そうそう、由宇も含めて皆やる気満々ってわけ!頑張っちゃうよ!!」

 

そう言ってMFの少年の2人、いつも目を閉じているのではないかという程の細目のコーマとその後ろに紅いサングラスをかけたアークが声をかけてきた。

 

「俺たちはエイリア学園最強の座を背負ってる……負けていい理由がないからな」

 

「京馬(きょうま)聖(きよし)……」

 

「やーね、皆やる気になっちゃって……私たちはいつも通りやればいいだけよ」

 

「そうだっポー!いつも通り捻り潰すだけっポ!」

 

DFの紫の巻き髪の少女キーブとその近くで跳ね回るMF大きなお団子を2つ結った紫髪の小柄な少女クィール。

 

「布美子(ふみこ)ルル……」

 

「殺ってやるっポー!!」

 

「相変わらずクィールは口が悪いな……」

 

「キシシ……まぁ、君之の出番すら無いかもな!」

 

「お前らもだが、試合中はコードネームで呼べよ……?」

 

跳びはねるクィールの頭を撫でるのは大柄で少し異質な肌色のDFハウザー、笑いながら近付いてきたのは蛇のような風貌の少年ゲイル、そして彼らを見て呆れた表情をしているのはマスクをつけた大柄な少年ゾーハン、いずれも優秀なDFたちだ。

 

「剛太(ごうた)隆則(たかのり)半蔵(はんぞう)」

 

「行くぞお前たち、全てはお父様のためだ……失敗は絶対許されない」

 

「勿論だよウルビダ。改めて言うけど……行くよ皆」

 

そして青い髪の少女、司令塔のウルビダと赤髪の少年……キャプテンのグランが手を出した。

それを見て少し間が空く、クィールだけはすぐ手を出そうとして周りを見渡してしまっている。

その光景を見てグランは少し笑った。

 

「円陣ってやつ……やってみたかったんだよね。

父さんのためにも俺たちは負けない、負けられない!」

 

1人ずつ手が重ねられていく、秀子は手を出せなかった。

ウィーズが言っていた通り確かに秀子は数々の事を行ってきた。だがそれは彼の思いに反していた。

雷門を育てるために。お父様への裏切り行為でもあった。

 

「ニグラス」

 

グランの目がニグラスへと向いた、彼ら11人の手の上へとニグラスはゆっくりと最後に手を乗せた。

 

「これは侵略だ。

俺たちの父さんのために……俺たちは今の社会を作り替えるための侵略者になるんだ」

 

全員の目がグランへと集まる、その中には恐れといった表情で見る者もいた。

だが、グランの目を見て迷いを掻き消した。

誰よりも強い意志で彼は立っている。

 

「ザ・ジェネシス、出陣だ!!」

 

『応!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お父様こと吉良星二郎による日本の首脳陣へのプレゼンが終わり、彼らザ・ジェネシスはグラウンドへと降り立つ。

秀子は黒髪を団子のように結って無骨なガスマスクでその顔を隠す。

 

「脅威の侵略者……ね」

 

彼らの眼前にいるのはかつてライバルでもあったプロミネンスとダイアモンドダストの混成チームカオスすら打ち破った地上最強チーム、自分も関わってきた最強の敵。

その事実に秀子は一瞬身震いした、やっと、やっと全力を出せるかもしれない。

その瞳は闇へと沈み、ガスマスクの奥で口角が歪に上がる。

 

「かかっておいでイナズマイレブン」

 

そして、地上最強チームの背後にいる泣きそうな表情の女性へと目が向いた。

姉と慕った女性、こんな不気味な子供でも妹として扱ってくれて……何度も助けてくれた瞳子。

 

「姉さん……!!」

 

最後の戦いが始まる。




雷門視点のお話は是非原作で、次回以降の秀子ちゃんの活躍をお楽しみに(なお、スターティングメンバーではない)


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にじゅーはちわ

私はきっと俺を忘れられないだろう、けれどけれども。
君たちの前ではただ、私は私でありたい。


GK

立向居

DF

円堂 士郎 土門 壁山

MF

鬼道 一之瀬 塔子

FW

豪炎寺 アツヤ リカ

 

雷門のスタメンにはアッキー……不動君がいなかった。

恐らくはエイリア石を使ってたからスタミナ管理が覚束無いんだろう、治たちイプシロンとの戦いでは司令塔としての活躍がメインだったからフルで出場できてたけど晴矢と風介……圧倒的な攻撃力を誇るカオスとの戦いでは守備でもエンジン全開、体力の消費は凄かったからね。

鬼道君やアフロディ君、それに姉さんならそんな事ぐらいすぐに気がつくだろうし。

あとアフロディ君が控えている理由はわからないけれど、カオスとの戦いでは単独での決定力としては正直微妙だったけど、終盤での連携は見事だったから不動君とコンビでの運用を考えているのかもしれない。

吹雪兄弟は2人とも守備と攻撃に優れているから安定なんだろう、ホワイトダブルインパクトにアツヤ君が前回使っていたあのよくわからない技。

ファイアブリザードを絡めとっていたあの赤い風、俺の記憶ではそんな技は知らない。アツヤ君が生きていた時点で俺の知っている記憶には頼れない。

それに壁山君と円堂君の連携技、あれも強力だった。

ゴッドハンドの派生系、亜種と言えばいいのかよくわからないけれども。

ヘディング技であるメガトンヘッドは円堂君が使った直後に隙だらけになるし、前回の試合ではたまたま近くに跳ね返ってきた選手が拾うような動きをしていたし、狙った場所に向かって跳ね返すのも苦手そうだ。

 

雷門の観察と復習をしている内に試合は幕を開ける、豪炎寺君から鬼道君へのバックパス。

鬼道君が「みんな上がれ!」と指示出しをしている。

なるほど相手のペースになる前に得点してしまおうという算段かな?実力のわからないチームとはいえ同じマスターランクチームであるダイアモンドダストと引き分けた上、そしてその混成チームであるザ・カオスを打ち破っている今、勢いを大事にしたみたいだね。

雷門のFWとMFが散り散りになる中、タツヤも由宇も、それにMFの皆もそれを黙って見送ってる。

どうやら1回雷門の動きを見てからゲームメイクをしようって魂胆だね、この動きなら鬼道君のキープしているボールがジェネシス陣営の中盤に来た頃に奪うか、それとも1回シュートを打たせるのかもしれない。

鬼道君がボールを蹴り上げた、円堂君や一之瀬君たちが近くにいないから恐らくは連携技じゃなくてストライカーである豪炎寺へのパスだ。

ザ・ジェネシスのDFの皆は動かない、1回打たせるらしいね。

その動きを見て歯を食いしばったのは豪炎寺君とアツヤ君、明らかな挑発に乗っちゃうのはあの2人の良くないとこかな……豪炎寺君が背後に灼熱の魔人を呼び、その豪腕に弾かれるかのように跳んだ。

 

「爆熱ストーム!!」

 

豪炎寺君が怒号のように技の名前を叫びながら炎を纏った脚がボールに叩きつける、沖縄で練習を見てた時よりも威力が高まってるのを見て思わず気分が高揚する、期待で胸が膨らむ。

あれはプロキオンネットじゃ止めれるか微妙だなぁ、私の心配を他所に君之が片手を掲げた。

あれなら止めれる、俺の記憶にもあった君之の必殺技。

 

「時空の壁!!」

 

君之の周りの時が歪む、爆熱ストームの勢いが緩やかになって君之の目の前にやっとの思いで辿り着くけれど。

それを裏拳で君之は軽々と吹き飛ばした。

流石私の弟子!と叫びたくなる、これは親バカに近いのかな?

さてと、雷門……私の仲間たちを舐めてるとタダじゃ済まないからね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豪炎寺は自身の技を軽々と吹き飛ばしたGKの余裕そうな笑みに思わず眉間に皺が寄る。

今はまだベンチでニコニコと笑っている黒髪の少女、ニグラス……黒山羊秀子。

正キーパーである彼女が出てこなかった理由は雷門への油断かそれでも勝てるという自信か、それを確かめるためにも最初は攻めようと鬼道が提案していた雷門はそれが後者であったことに緊張が走る。

だが、そんな事お構い無しと跳ね返ったボールはザ・ジェネシスのMFであるメットを被り赤いサングラスをかけた少年、アークこと阿久津 聖(あくつ きよし)へと渡った。

元々素早いから間に合ったのか、それともGKであるネロこと根室 君之(ねむろ きみゆき)の狙いが正確だったのか。

それは鬼道を含めたフィールドプレーヤーたちやベンチから見ている者たちでも見極められなかった。

アークが駆ける、博多での戦いのように目にも止まらぬ速さというわけではない。

対応できる、その事実に少なからず安堵する鬼道たち。

今までいくつもの試練を乗り越えてきた成果がここで現れていると彼らの自信へと繋がった。

駆けるアークへとなんとか一之瀬が追いつくも彼は逆サイド、同じくMFである紫髪のおかっぱで2つのお団子に結った髪が特徴的である小柄な少女、クィールこと久井 ルル(くい るる)へとボールを託した。

クィールの素早さに目の前でパスを許してしまった塔子が思わず唇を噛む、その先には壁山がいるものの速度で圧倒するクィールに壁山は技の展開が間に合わず、突破を許してしまう。

クィールがゴール前で待機するタツヤ……グランの付近へとボールを思い切り蹴り上げた、士郎と円堂がパスを阻害しようと跳ぶもののそれよりも高い位置でグランはシュート体勢へと移行した。

跳び上がり腰を捻って勢いをつけた蹴りを叩き込むグラン、その足とボールが触れた瞬間エネルギーが黒い光となってボールへと注がれる。

 

「流星ブレード!!」

 

黒き光がゴールへと迫る中、立向居はその両手を広げ頂点へと至ると体の前で1拍。

手の後をなぞるように幾本ものエネルギーで構成された腕が現れボールへと迫る。

 

「ムゲン・ザ・ハンド!!」

 

1本、また1本とボールへと腕が叩きつけられるが均衡を破り、勢いは止まることを知らず無数の腕たちは軋むような音をたてながら亀裂が入ったかと思うと数泊の後に砕け散った。

そのまま立向居の身体ごとゴールへと突き刺さるボール、立向居はあまりの衝撃に肺から空気を漏らし嗚咽が溢れる。

0-1

ザ・ジェネシスの先制点である。

 

バーンやガゼルのシュートだって防いでみせた立向居のムゲン・ザ・ハンドを容易くとは言わないがグランの流星ブレードは切り裂いてみせたのだ。

 

無情な先制点、だが鬼道や瞳子の目にはまだ希望が残っていた。

前回の試合、円堂のマジン・ザ・ハンドは紙切れのように容易く破られたが立向居のムゲン・ザ・ハンドは流星ブレードと拮抗した上に試合中だろうと成長を続ける究極奥義ならば次回以降は止められる可能性は充分。

それに今回こそジェネシス、グランに隙をつかれてしまったが雷門のDF陣だって負けてはいない次こそは止めると燃えている。

 

円堂の事を考えれば少し複雑ではあるが、立向居がGKとなったことはやはり正解だったのだと瞳子は考える。

 

雷門ボールで試合は再開する。

 

豪炎寺からアツヤへと託されるボール、アツヤは目を輝かせながら突っ込んだ。

 

「行くぜオラァ!!!!」

 

前回とは違い、大柄なFWのウィーズや俊敏なMFのコーマが止めにかかるのをアツヤは咄嗟にバックパス。

背後にいたリカが受け取ると逆サイドから攻めていた一之瀬へとボールを蹴り出す。

 

一之瀬へのパスに咄嗟に反応したのは青い髪の女性MFウルビダ、ザ・ジェネシスの司令塔を勤めていた彼女はアツヤの荒々しいプレイが良い意味でなりを潜めつつあるのに気づいている。

今の雷門にワンマンプレイをするような者はおらず、鬼道の指示やチームプレイを重視する。

いわばお利口さんの集団だ。

鬼道の普段の指示出しを見ていれば充分反応は可能。

 

ウルビダは一之瀬からボールを奪い、前へと駆け出そうとして。

 

目を見開いた。

 

目の前には既に円堂が迫ってきていた。

 

「なっ?!!」

 

「どりゃああああああ!!!」

 

円堂のスライディングでボールは弾かれ、鬼道がそれを抑えてみせた。

 

ウルビダの読みは確かにあっていた。

最近の雷門は鬼道や不動という司令塔が常に指示を出し規律的なプレイが多くなってきていた。

だが、鬼道も不動も円堂にとある指示を出していた。

 

「円堂は……」「キャプテンは……」

 

『好きにやれ』

 

全員が規律的なプレイを心掛けているチームはたしかに強い、だが規律に抑えられているプレイでは得られないモノもある。

時に規律的な動きよりアドリブが効果的なのは司令塔2人だってわかっている。

だからこそ、円堂と吹雪を同時投入し。

彼らには自由にやれと投げやりに笑ってみせたのだ。

 

鬼道から豪炎寺、豪炎寺からアツヤ、流れるようなパスで3人はザ・ジェネシス陣へと切り込んでいく。

アツヤが敵の隙を獣のような直感力ですり抜け、歴戦のストライカーである豪炎寺は経験に基づいたプレイでそれを援護しゴール前へと辿り着く。

士郎と円堂は自陣にいるため強力な連携技であるホワイトダブルインパクトやデスゾーン2、今の雷門のトップクラスの威力を秘めた技は使えないとウルビダとネロは少し油断した。

二グラスが彼らに鋭い眼光を向けて観察しているのに2人を含めたフィールドプレーヤーたちは気づかない。

 

「行くぜ豪炎寺!!……さん!!」

 

「今はプレイに集中しろアツヤ!!」

 

灼熱の炎を纏った豪炎寺と極寒の吹雪を纏ったアツヤが駆け出し同時にボールへと回転をかけてのツインシュートを放った。

カオス戦で幾度も見たファイアブリザード、それをあの二人は密かに練習していたのだ。

 

『クロスファイア!!!』

 

炎と氷が混じり合い強大なエネルギーとなって突き進む、ジェネシスのメンバーからの驚愕交じりの視線を置き去りにボールはゴールへと迫る。

ネロがまたも片手を掲げると空間が歪みボールがエネルギーが緩やかになる。

 

「時空の壁……!!」

 

カオス戦のデータをジェネシスの面々もたしかに目を通していた、だがそれは勝者の雷門のデータであり敗北し自分たちよりも弱い者と見限ったカオスのデータを彼らは軽視していたのだ。

緩やかになる時の中で炎と氷が辛うじて維持していた均衡が崩れ膨大なエネルギーが周りの空間すら喰らい尽くすように溢れ出た。

それはファイアブリザードの特徴である相手のエネルギーによる拮抗すら利用した爆発的エネルギーの融合。

 

周りの時間すら置き去りにしてエネルギーが弾けたそれをネロは抑えきれず彼の軽い体すら押し退けてボールはゴールへと叩きつけられた。

 

1-1

 

雷門の同点である。

雷門のシュートを抑えられなかったネロへと鋭い視線を向けるお父様が口を開こうとした時。

 

「ネロ!」

 

ベンチからの鋭い声、ネロは声を上げた張本人である二グラスへと視線を向ける。

それは穏やかな目だった、まだ行けるよね?と確認するような目を見てネロはいつものような穏やかな闘争心を灯した目で答える。

まだ行ける、まだ上がある。

 

「次はないからね?」

 

表情とは裏腹に冷たい声をかける二グラス、自分たちは最強の戦士を演じなければいけないため声こそは冷たいがそれはネロを鼓舞するためのものだった。

 

「わかってるさ!!お前の出番はない!!」

 

立ち上がるネロは心配そうな目で見るDFたちに次は通さないと声を掛ける。

DFたちも彼ら2人の連携シュートや攻撃フォーメーションに対し油断はしないと一層顔を引き締める。

 

ジェネシスからの攻撃、ウルビダが隣にいるグランにボールを渡しグランは即座に駆け出したジェネシスの最高戦力と思われるグランに対しアツヤと鬼道の2人は必死に食らいつく。

鬼道の類稀なる洞察力とアツヤの獣じみた直感力をしても食らいつくのが必死でボールを奪えない、グランも攻めあぐねていたが気付けばボールは無かった。

ボールを探す2人を他所にクィールがクポポーと謎の掛け声を上げながら雷門陣営へとボールを持って切り込んでいた。

2人の視線を自分に釘付けにした上での彼のシュート力を活かした素早いパスはもはや芸術の域に達していた。

難点としては彼と長い時フィールドを共にしていたMFやFWの面々でしか咄嗟に対応できないがそんなのは今の試合中には関係の無いことだ。

 

雷門も強くはなったがジェネシスの実力はあまりに強大だった、カオス並のフィジカル、そして淀みのない鮮やかな連携に少しずつ押されていく。

助かっているのは確実に攻め込む将棋などのようなボードゲームに近い堅実な攻めのため即座に切り込んでこないことだろう。

だがそれもグランやウルビダ、ウィーズといった1人で攻め込めるメンバーをなんとかして抑えていての現状のため雷門のDF陣は確実に体力を削られている。

 

アークへとボールが渡り、それを抑えようと一之瀬が向かうがそれをアークは紫電を纏い目にも止まらぬ速度で抜き去った。

 

「ライトニングアクセル……!」

 

アークが抜き去る事を確信していたウィーズとグランが駆ける、ボードゲームのような堅実な攻めではパターンを見切られてしまうかもしれないがそんな芸当ができるであろう鬼道は遥か後ろにいる。

アークがボールを蹴り出そうとするもそれは空を切る、目を見張る彼を背に塔子がボールを奪い取ってみせた。

 

「へへっ、油断したね?!」

 

塔子は普段の言動やプレイスタイルから円堂やアツヤのような直感で動くプレイヤーに思われやすいが彼女自身経験や知略を使って戦うプレイヤーなのだ。

父親譲りの地頭の良さを秘め、周りが大人であるSPフィクサーズでは実際彼女が司令塔だったのだから。

塔子はアークが自らのスピードに自信を持っているプレイヤーなのを見抜いていたのだ、それ故に抜いた後に隙ができやすいことも。

 

「リカ!」

 

ボールは雷門陣営からジェネシス陣営へと跳ねる、リカが受け取るもジェネシスのDFたちに油断はなく即座に先回りされてしまう。

鬼道や豪炎寺、アツヤといった面々にもプレッシャーがかけられており単独での特攻を強いられている。

だが、リカにはそんな事関係なかった。

 

最初から彼女は、自分が劣っているなど微塵も感じてないのだから。

サウザーが迫るもそれを緩急を加えた走りで翻弄する、彼女にとってフィールドは自分が輝ける舞台のように思っていた。

たしかにキャプテンは円堂、司令塔は鬼道や不動に譲っている。

だが、攻めの要は自分だと彼女は良くも悪くも自信を持っている。

そんなプレイヤーは強いのだ。

 

彼女のプレイに目を見張るジェネシスの面々、彼女単体での活躍は正直いってほぼ無いに等しい。

だが、それは決して彼女が劣っているのではなく単純な相性の問題なのだから。

今までの相手は直感やセンスで押し切る才能特化型の選手が多かった。

それが彼女の相手を翻弄するプレイと相性が悪かっただけなのだ、今回の相手であるジェネシスは理論に基づいた堅実なプレイが多い。

故に彼女の型ハズレな翻弄するプレイは相性が良い。

 

サウザーが抜かれた事でゲイルやキーブといったDFたちがボールを奪おうと彼女に迫る。

だが、それも彼女からしたら自分が目立っている証拠、プレッシャーが逆に彼女を強くした。

 

ゲイルやキーブが迫る中、彼女に追い付こうと後ろから迫るサウザーが気づく。

 

「罠だ!もどれ2人とも!!」

 

「今更気づいても遅いで?」

 

彼女の視線や翻弄するプレイに集中していた2人は反応が遅れた、それは奇しくも先程グランが見せたボールを隠しながらパスをする連携と被っていた。

 

気付けばボールはそこになく、アツヤへとボールは渡っていた。

 

「中々やンじゃねェか……!!!」

 

ゾーハン1人ではアツヤと豪炎寺を抑える事も適わずフリーとなっていたアツヤへとボールが渡る。

だが、アツヤ単体ならば攻撃力は大したことないと油断していたネロ、そしてベンチから見ていた二グラスは一瞬油断した。

だがそれは間違いである。

たしかにアツヤが最近点をとった際は連携シュートが多かった、だが彼は元々1人で点をとってくるを体現するタイプの孤高の獣だ。

そんな彼が牙を研がないわけがないのだから。

 

「油断すンじゃねェぞジェネシスのキーパー!!!本気で来やがれ!!!」

 

彼が吠える、ビリビリとしたプレッシャーが放たれネロは意識を切り替えた。

 

「必殺熊殺し……斬!!」

 

アツヤが腕を振るうと赤黒いエネルギーが爪のように形を変える、そのエネルギーを込めるかのように2度ボールを回転しながら左右の脚で切り裂いた。

2度切りつけたはずにも関わらず、あまりの速さに斬撃のような余波は重なりボールへと叩き込まれる。

 

ネロは片手を掲げ、いや両腕を左右へと掲げた。

それはまるで獰猛なワニのように牙を剥く。

 

「舐めるな雷門、僕たちが負けるわけないだろう?!!」

 

その構えに見覚えがある雷門の面々、そして鬼道は思い出す。

ビーストファングの改良案を短い期間で練り上げた黒山羊秀子、それを託したメンバーが源田だけとは限らない可能性を。

 

「プライマルファング……!!!」

 

黄金に輝く獰猛な顎がボールへと食らいつき、ミシミシと音を上げた。

エネルギーの拮抗、そしてネロはそのボールへと自らの膝を叩きつける。

ボールは上空へと上がり、重力のままにネロの手元へと落ちた。

 

「てめェもやるな……こうじゃなきゃつまらねェ!!!」

 

「僕らは負けられないのさ、覚悟が違う」

 

 

 

 




久々の投稿、精神的に荒れに荒れてたのでエタる?という状態になってました。


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