MALE DOLLS (ガンアーク弐式)
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プロローグ:スキンシナリオ・憂鬱な清掃員ツクモ
ツクモは未だ前線へ進めず、基地で床を磨く


近ドルフロを始めたのと某氏のSSに影響され、ドルフロSSを書きました
それとオリ人形(男性)=主人公
大陸鯖のネタバレ

以上の二つ要素がが嫌な方はバックしてください
それでもいいと思う方は本編へどうぞ


この世界はとある7人の中学生によって破滅の歴史を歩んだと聞いた時は非常に陰鬱な気分になった。彼らの子供故の好奇心で全世界が下手すれば、世界中が核兵器よりも恐ろしいコーラップスで汚染され、更に核戦争で人類はその数を大きく減らしてしまった

 

「歴史の分岐点の切り替えるレバーは誰でも動かす事が出来る。ワシらが住む世界は彼らが分岐点のレバーを動かした結果というだけの話じゃよ」

 

 爺ちゃんはそう言ったけど、僕はどこか虚しさを感じずにられなかった。

 

「彼らが歴史の分岐点を間違えなければ……今頃は、どんな世界になっていたのだろう……そんなことよりも仕事をしなきゃ」

 

 俺は手にしたモップをバケツに入った水で薄めた洗剤液に浸し、エントランスの床を磨き始める。俺の職場は、PMCグリフィン&クルーガー社――通称G&K社、より正確に言うとF02地区に存在するグリフィンの前線基地の保全管理員……簡単にいうと基地建屋の清掃等雑用係である。本来ならこんな雑用同然の仕事なんてやりたくもないけど……ここでは指揮官の命令が絶対だ

 

「せめて俺の「半身」だけでも返してくれてもいいじゃないか」

 

けど、いくらボヤいたところでぶ……指揮官が心変わりするはずもないので、床掃除に集中しようとした時、後ろから誰かの気配を感じ振り返った。そこには50代後半くらいの臙脂色の制服――グリフィンの制服を着こんだ男性が立っていた。

 

 身長は俺の首辺りしかないが、彼の顔に深く刻まれたシワや鋭い目は彼の身長に関係なく威圧感を感じさせる。僕は彼が若いころは正規軍かPMCに所属していた兵士ではなのかと考えていると彼は僕の顔を興味深そうに見ながら、声をかけた

 

「失礼だが……君は人形かね?」

「はい、そうですが」

 

彼の質問に頷くと彼は納得したのか言葉を続けた

 

「いや、この基地には指揮官以外は自律人形ばかりで指揮官以外の人間に会えたとおもったんだがね……この基地は指揮官以外は人形しかいないのか」

「すいませんね……ここの指揮官は人間よりも人形の方が好みの人なんですよ」

「そうか、仕事の邪魔をしてすまんな」

 

彼は笑みを浮かべると出入り口の方へ歩いて行き、僕は彼が建屋から出ていくまでその後ろ姿を眺めた

 

そう、僕は人間じゃない第二世代型I.O.P社製(と言っても半分疑問符がつくが)戦術人形の一体で名前はツクモ。

より正確に言うと民間人形から戦闘用に改装された戦術人形だ。

 グリフィンに所属する戦術人形の例にもれず、戦術人形として名前はあるが今の自分には無用の長物でしかなく、同僚達には改名前の名であるツクモと名乗っている。

 

 そもそも本来なら他の戦術人形(俺以外全員女性ばかりだが)と同様に前線部隊に配属させるはずだった

 けど、ここに着任してすぐに、今の雑用係を命じられたのだ。その理由が作戦部隊は女性型の人形しか配属を許されないとか。その理屈が通るなら、本部が戦術人形に改装する許可を出さないはずだ……明らかに指揮官が男性型である俺を指揮下に入れたくないだけなのは明白だった。

 

 僕がすぐに抗議した瞬間、俺の顔面に右をストレートを叩き込まれた。

そして、間を入れずに俺の身体は何度も殴ったり蹴ったり、踏みつけられた。これが人間なら背後から撃たれてもおかしくないが、俺は人形なので指揮官に逆らえず、抵抗することすらできなかった

 その後、奴は自分の副官である人形に命じて、俺の半身ともいえる愛銃を没収したのだ。ちなみにその副官である緑髪の戦術人形を俺が暴行を受ける様子を恍惚の表情で見ていた……緑髪の女は変態というのは正しかった。

 

 袋叩きにされ、愛銃まで取り上げられた俺に、抗議する気力は完全に消え失せてしまった。そして、今の保全管理員という名の雑用係の立場に甘んじるしかなかった……今、考えただけでも悔しくなる

 

「ここが終わったら、次は食堂か……はぁ」

 

 俺はため息をついてから、俺はエントランスの床掃除を続ける。いつか、半身である愛銃と共に前線へ行ける日を夢見てながら……まぁ、人形である俺は夢を見る事ができないが

 

 

 

 

 けど、名も知らぬ彼と出会った事で僕の運命が動き出していた事に僕はまだ、気づかなかった。半年後に多くの人形と人間達の運命を変えたあの事件が起こる事も……その時が彼女との最初の出会いになることも予想が付かなかった




主人公のツクモの愛銃の正体や出自については後々語られる予定です
敢えてヒントを言うなら、「ツクモはとある戦術人形の弟分」

後、作中に出た指揮官の副官もすでに実装済みの人形です(ちょっとキャラ崩壊気味かも)
彼女の正体のヒントは……彼女は星4の人形です

最後にこのSS原作に準拠した世界線として描写する予定です


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ツクモと洗濯籠に悔しさを隠す

一部生々しいと思われる描写があります

そして、今回はツクモの愛銃の正体が発覚します


 あれから数日が経ち、相変わらず俺は前線に出ることなく、前線基地の清掃などの雑用をこなす日々を過ごしていた。事実上飼い殺しもいいところだが、俺は人形……指揮官の命令は絶対で逆らえば、ただじゃすまない

 

 俺の仕事は基本的に基地の清掃だが、場合によっては他の業務を担当する職員――この基地では民間用人形の手伝いをすることもある。特に戦術人形達が着る服の洗濯は俺のもう一つの業務と言ってもいいほどのメジャーな仕事だ。

 俺は洗濯済みの服が入った籠を両手で抱えながら、戦術人形達の待機場所である宿舎に続く廊下を歩く。廊下の窓は墨を流したような夜の闇と廊下の照明で俺の顔が鏡のようにだった。そこには半分死んだような目をした自分の顔が写っていた

 

「洗濯物を届けたら、保管庫へ帰って眠ろう」

 

俺は窓に写った自分の顔から逃げるように小走りで宿舎へ向かうとすぐに宿舎へ到着した。

俺は自動ドアの開閉スイッチに手を触れると僅かな機械音と共に自動ドアが開くと白い壁紙に大きなテーブル一つと十個のイスが置かれた白い部屋が目に入った

 そこで黒いゴスロリ服をきたロングヘア―の戦術人形、PPKと黒い旧世紀のドイツ軍の軍服を来た戦術人形、MP-40が談笑していた

 

 

「ASNの味が酷いのは開発担当スタッフがイギリス人だからじゃない?」

「それは偏見だと思いますが……あ、ツクモさん!」

 

MP-40は宿舎に入った俺に気づいて声をかけたのと同時に、PPKも振り返って俺をの方を見た

 

「あ、私達の洗濯物を持ってきてくれたのですね、ありがとうございます」

「……じゃあ、籠はここに置いておきますね」

 

俺が洗濯籠を置いた瞬間、視線を感じ顔を上げるとPPKが意味深な笑みを浮かべて俺を見ていた。

 

「PKKさん、何か気になる事でも?」

「前から思っていたけど、いつまで雑用係を続けるつもりなの?」

 

PKKの言葉に俺はドキッとした。

 俺が戦術人形である事は基地の人形達は知っているが、本当は前線に出たい事は誰にも言っていない。

 だから、PKKの言葉に驚いたのだ……俺が本来なら前線に出る事を望んでいる事を見透かされているみたいで

 

「どういう意味ですか?」

「女性型と男性型の違いはありますけど、あたくし達と同じようにコアを搭載しているのに民間人形とほとんど変わらない事なさっているのかと気になりましてね」

 

彼女の挑発に乗ってはいかないと思いつつ、俺は口を開いた。

 

「俺だって好き好んでこんな事をしている訳じゃない……指揮官の許可さえあれば前線に出られるはずなんだ」

「……滑稽ね、今の立場になったのは指揮官のせいにするつもりかしら」

「PPK、言い過ぎですよ!」

 

PPKの言葉にMP-40が止めようと口をはさんだが、俺は彼女の言葉と見下したような視線に怒りを抑えきれなかった。黙っていたら好き勝手言いやがって……

 

「女だからって関係ない……PPK、歯を食いしばれ!!

「ツクモさんも落ち着いて!!」

 

MP-40の静止を無視して、PPKを殴りつけようとした瞬間、右から伸びた白い腕が俺の腕を掴まれた。PPKも顔に先ほどの余裕はなく、腕の方を凝視していた

 

 俺は腕の持ち主を確認しようと腕の方へ視線をずらすと一人の戦術人形が俺の腕を掴んでいた。彼女は腰まで伸ばした緑色の髪を彼女の愛銃の部品を模した髪留めで括り、黒いボンテージに布地のパーツを足したような服を着て、ニタニタと笑いつつも半分蔑むような目で俺を見ていた。

 

彼女の名はMk48……司令官の副官だ

 

「あら、ツクモくん……私のいない所で喧嘩かしら?」

「Mk48、なんでここに……!?」

 

言葉を言い切らない内に彼女…MK48に俺の足を掬われ、床に倒された。そして、間を入れずに彼女に背中を踏みつけられた。俺の半身である愛銃を彼女に没収されたあの時のように……。

 

「Mk48、彼を踏みつけるのはやり過ぎです」

「あら……私に指図するつもりかしら、MP-40?」

 

MP-40の抗議もどこ吹く風で聞き流しつつ、彼女は言葉を続ける。

 

「あなたがコアを内蔵した程度で私達と同等になれたと思ったら勘違いもいいところね」

「なんだよ……実戦経験が「違うわ」」

 

俺の言葉にMk48の顔から笑みが消えて、見下すような目つきで俺を見た。

 

「あなたが男性型だからこそ、指揮官はあなたを戦術人形として認めていないのよ」

「それが意味が分からないだよ……自律人形は男性型も女性型も基本的な構造に違いなんてないはずだろう、シモの有り無しを抜きしても」

「構造云々の話じゃないの、男性型のあなたじゃ指揮官の中に潜む獣は抑えられないのよ。」

 

Mk48は言い捨てると視線をMP-40とPKKの方を向いた

 

「PKKとMP-40、指揮官があなた達も夜番に参加しなさいとご命令よ」

 

Mk48の言葉に二人の表情が凍り付いた。特にPKKは、普段の余裕を浮かべた表情から一転、絶望的な表情を浮かべて震えていた

 

「え……嘘」

「そんな今日の夜番は、GrG3とL85A1がすでに……」

「今日は指揮官の獣が特に不機嫌みたいでね……私とあの二人じゃ抑えきれないのよ」

 

そもそも夜番という言葉は、戦術人形達の会話からちょくちょく耳に入ってきたから知っていたが詳しい事は知らなかった……いや、知りたくなかった。けど、彼女達の様子でそれが具体的に何を意味するかはすぐに分かった。

 

 Mk48はもう一度ニタニタと笑みを浮かべながら俺の方をもう一度見て、子供をなだめるように言った

 

「これで指揮官があなたを戦術人形として認めないのかと言う事が分かった?」

「えぇ……嫌と言うほど分かりましたよ」

 

ここの司令官は最低な男だということがね

 

 

 

 

 

 

 

暗い自室で、F02地区前線基地の司令官はため息をついた。

 

「ここまで荒ぶったのは第三次世界大戦での中国でアレに出くわした時以来だぞ」

 

彼は近いうちに悪い事が起こる前に、なぜか異様に女を抱きたくなる性分だということを認識していた。それを抑えるために彼は娼婦を買い、それすらも存在しない時は夜道を歩く女性を物陰に引きずり込むことで性欲……不安を紛らわしていた彼

 

 それは米軍の不名誉除隊さした後に、グリフィンに入社しても変わらなかった。ただ、己の性欲を発散させる相手は自分の部下である戦術人形に変わった。

 

 だからこそ、男性型戦術人形であるツクモの存在が彼にとっては目障りであった。彼にとって戦術人形は自身の武力の象徴であり、自身の中に潜む獣を慰めるための巫女でもあった。だからこそ、彼は男性型戦術人形を受け入れられなかった……出来る限りなら、解体したかった。

 だが着任したばかりを解体申請をすれば、本部に探られたくない部分まで調べるのは明白だった。だからこそ、彼を民間人形同然の立場にして、書類も前線部隊で練成中であるように偽装し、頃合いを見て解体申請を出すつもりであった。

 

 

彼のベッドの周囲には、床に転がった安酒の缶と共に彼の性欲の相手をした彼の部下である戦術人形達が倒れていた。激しい行為により彼女達の電脳が処理落ちを起こしたせいか、目を開いたままピクリとも動かなかった……彼の副官であるMk48を除いては、

 

彼は自室が見渡すともMK48の姿はいなかった

 

「Mk48は自室に戻ったか……あいつはどこまで本気か分からないだよ……うん?」

 

指揮官は、自身の端末にメッセージが届いている事に気づき、彼は端末を操作してメッセージの内容を確認した瞬間、彼は笑みを浮かべた

 

「これは……どうやら、戦術人形達を処理落ちさせたおかげで幸運がこっちに向いてきたか」

 

彼の端末にはツクモの画像と共にこんな文章が表示されてた

 

『F02前線基地に所属するM16A4をG01地区前線基地への異動させる事を要請する。G01地区前線基地司令官:アラマキ』

 




今回は、ツクモがM16A4の戦術人形である事が最後に明かされました
そう、彼はM16A1の弟と言う事になりますが16Lab製ではありません。
銃のバリエーションとしての意味で弟となります

そして、性欲獣いや、F02前線基地の指揮官の副官の正体は、星4MGのMk48です
ちょっとキャラ崩壊しているかもしれませんが、個人的には某フラワーマスターを連想させるキャラだったのでこんな感じになりました。

で、彼が作中で荒ぶった理由は凄まじい厄介事を彼が感じ取ったからです
ちなみに作中の時系列は2061年です


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ツクモは老兵によって、前線へ歩み始めた

今回でプロローグは終了です
そろそろ、ツクモがM16A4として本格的に活動できる環境が整います


 この基地で行われている指揮官の横暴を知った翌日も着任時に設定された起動ルーチンがスリープモードを解除し、俺を現実へ連れ戻す。

 人間なら、夢を見て現実から逃げられるかもしれないが、俺は人形……一瞬だけ意識が闇に落ちるだけで、目が覚めれば銃を持つはずの手でモップを握る日々が始まる……はずだった。

 

「おはよう、ツクモ君……いい夢は見れた?」

「Mk48……あなたに起こして貰う必要はないですよ」

 

一時の闇から現実に戻った俺の目に映ったのはニタニタとほほ笑むMk48だった。そして、彼女があの笑みを浮かべる時はロクな事じゃない。

 

「そんなに邪見にしなくてもいいじゃない。指揮官があなたを呼んでるわ」

「指揮官が呼んでいる……とうとう解体されるのか」

 

彼女の言葉を聞いた時、呼び出した理由を考えるよりも解体されるという諦めの気持ちが先にでてきた。

 戦術人形の照明であるコアを抜き取られ、記憶を初期化された上でI.o.P社の民間人形(正確には少し違うが)として売られる事は容易に想像ついた。生産数が少ない男性型人形だ……いい意味でも悪い意味でも買い手には困らないだろう

 過酷な資源採掘現場で使い捨ての道具同然に使われるなら、まだ救いがある方で……最悪の場合、変態共のオモチャとして売られるかもしれない。盗賊に誘拐されて、娼館で変態達の相手をされるという噂まであるのだ

 

 俺の心情を理解しているのか、Mk48は笑みを崩さずに俺を見ている

 

「とりあえず、指令室に行ってみれば分かるわね、場所は分かる?」

「司令部の場所は知っていますよ」

 

彼女の粘着質な視線から逃れるように俺は充電器を兼ねたベッドから降りて、格納庫を出る。

 

 

 

 

「ツ……いえ、M16A4入ります」

 

 俺が基地の指令室のドアを開けるとグリフォンの制服を着崩した30代後半の白人男性……指揮官がオフィスデスクにふんぞり返っている。そして、彼のすく側には、同じグリフィンの制服を着た禿頭の50代後半位の鋭い目つきをした半ばアジア系男性が立っており、俺をじっとみていた。

 そして、彼が少し前にエントランスに俺に声をかけたあの人だった。彼は一体誰なんだろうか?

 

 俺の疑問に気付いてか、指揮官が相変わらず冷たい目で俺を見ながら言った

 

「M16A4、お前は今日付けでF02地区前線基地からG01地区基地へ異動となる事が決まった」

「……え?」

 

 俺は、一瞬自分の聴覚モジュールがイカレたのかと思った。俺が別の基地に異動になるとは夢に思わなかったからだ。

指揮官の悪行……戦術人形達への婦女暴行を知っている俺を別の基地へ異動させる事は、彼の悪行がバレるリスクを背負う行為に等しいからだ。

 仮に俺に箝口令を出しても、指揮官よりも上位権限を持つ人物――主に社長や合コン連敗中の上位副官に命令されら、あっさり自白するだろう。というか、異動先の指揮官の命令の方を優先されるので、箝口令自体が意味を持たない

 考えられるとしたら、G01地区の指揮官が彼とグルであるか、もしくは虚偽の命令(騙して悪いが……)でひそかに始末するつもりなんだろう。

 

 悪い予感しか頭に浮かばない中、指揮官の側にいた男が俺に一歩近づいて、口を開いた。

 

「君は前線に出る事を希望していたはずじゃないのかね?」

「え……そうですが」

 

俺が答えると彼はうなずき、言葉を続ける

 

「それとも、わしの前線基地で戦う事に不安でもあるのかね?」

「え、あなたの元で戦うって……もしかして」

「そうだ……お前に話しかけているその爺さんが、G01地区前線基地の指揮官……オサム・アラマキだ」

 

それを聞いた瞬間、俺は衝撃の余り電脳の処理が追い付かなかった。G01地区の指揮官がここにいるの、ナンデ!?

 混乱している俺に構わず、アラマキと呼ばれた彼は言葉を続ける

 

「わしとジョンは、第三次世界大戦を共に戦った戦友だ……と言ってもわしはある意味傭兵で、ジョンは米軍の新入りじゃった」

「謙遜するなよ……軍にいた頃、ELIDの群れを相手に斧と銃で大暴れしていたじゃないか」

「え…ELIDを斧で?」

 

ELID……それは青蘭島事件以降急速に広まったコーラプス汚染によって、異形化した人間や生物達の総称だ……第三次世界大戦では、ELIDを白兵戦で倒す専門集団がいたと爺ちゃんから聞いた事があるが……さすがに誇張だと思っていたが実在していた

 そう思っていたら、アラマキさんは顔少し顔をしかめた

 

「過去の話だよ……ワシも59歳、体も衰えるばかりで前線に居続けるのもELID狩りを続けるのも難しい歳じゃよ」

「狩人とも呼ばれた爺さんが現役引退か……そうだ、M16A4」

 

 指揮官は、にやけ顔からすぐに冷淡な表情を浮かべながら、デスクの下から横1m程のトランクケースを置いた。

 それを見た瞬間、俺はその場にいられず、デスクに駆け寄りトランクを開けた。中には黒光りするライフル……僕の名前でもあるM16A4とマガジン、それに銃剣OKC-3Sが入っていた。

 

「お前にはもったいないけどな」

「あぁぁ、僕の銃……ようやく戻ってきた」

 

 指揮官に皮肉を言われたが、気にもせずに俺はトランクの中の愛銃を取り出すと愛ASTT、別名烙印技術によって愛銃の事がすぐに電脳に伝わってくる

 

(整備はちゃんとされてマガジンに弾が装填されていれば、暴発もジャムも起こすことなく撃つことができる……弾さえあれば)

 

 俺は一瞬だけこの指揮官を殺してやろうかと思った……が、すぐに思いとどまった。弾が入っていないし、人間に対するセーフティで彼を殺す事ができないから……。

 

「さて……ライフルを返した所でM16A4、お前はG01地区前線基地の異動となる、いいな」

「はい……M16A4、命令を受領しました」

 

俺は指揮官の命令を聞いた瞬間、電脳が命令の上位権を彼からアラマキに上書きのを感じた。これで俺はあいつから解放され……あ、俺だけが解放された?

 

喜びの束の間、俺は彼が戦術人形達に対しての仕打ちを考えると素直に喜べなかった。アラマキさん……いや、新しい司令官は俺の顔をチラッとみて、一つため息をついた

 

「ジョン、人形遊びも自重しないと自身の獣で身を亡ぼすぞ」

「分かっている、昨日が異常なだけで、普段は副官だけで抑えているよ……早く、そいつを連れていってくれ」

「分かった……M16A4、荷造りをしろ。すぐにここを出るぞ」

「はい……司令官」

 

 元指揮官はめんどくさそうに手を振るのを見た指揮官は俺に異動の準備を命じるちとそれっきり黙ってしまった。

 それを見た俺は黙って頷き、指令室を出て、格納庫へ小走りで向かった。途中ですれ違う戦術人形達とは目を合わせず、何も言わなかった……言えなかった。

 

 

 

 

 G01地区へ向かう輸送ヘリの中で俺は隣に座っていた指揮官を見た……指令室での彼の様子からして、F02地区前線の元司令官の悪行を知っていたのは間違いない。

 なぜ、彼はグリフィン本部へこれを言わなかったのだろうか……言えば、間違いなくあの豚野郎は辞任されるのは明らかだったのに、戦友だったから、彼を庇ったから

 

「指揮官……F02地区前線基地での人形達に対する横暴を知っていたのですが」

「あぁ、奴の性分でね……米軍の頃よりも酷くなっていたな。奴のカンは本物なんじゃが」

 

 そう言いながら窓の方を見つめる指揮官は、指令室で見た時とは別の年相応の老人にみえた。

指令室でのやり取りからしても彼の性癖を正そうとしたらしいが、彼はどこ吹く風で耳を貸そうとしなかった……彼の先行きはくらそうだ

 

 そして、先ほどから気になっていた事について聞いてみた

 

「指揮官、俺をG01地区へ異動させる事を要請したのですか?」

「彼女に頼まれたのさ……飼い殺し同然のお前を拾ってくれとな」

「彼女?」

 

指揮官の言葉からすると俺の事を知っている人……それも女性に頼まれて、俺を引き取ったようだけど、誰が頼んだんだろう?

 

「あぁ、16Lab研究主任のペルシカリアに頼まれてな……お前も知っているだろう?」

「もしかして、俺を戦術人形に改修を担当したあの猫耳オバサン?」

 

指揮官が頷くと俺は頭を押さえたくなった。

 

 不健康そうな青白い顔をして、年齢に不相応な猫耳を生やしたオバサンがなぜ……俺を助けた?

 その事を考えながら窓を覗くと半壊した無数の廃ビル群が広がっているのが見えた。F02地区の廃工場区画とは別物の光景に俺の疑問は吹き飛んだ

 

ここが俺の新しい拠点となる基地があるG01地区なのか




これでプロローグ編は終了です

次からは、G01地区前線基地でのM16A4が戦術人形として本格的に活動する第1章が始まり、次章から戦術人形達も本格的に登場する予定です

その前に、F02前線基地の顛末を描写した番外編を挟む予定です

以下はM16A4の情報
後、彼を含むこのSSに登場するオリキャラはフリー素材ですが使用する際は一報をください

【名前】
M16A4
【銃種】
AR
【容姿】
銅色の髪と銀色の瞳が特徴の男性型戦術人形
外見年齢は18歳くらい
身長が180cm近く長身で若干痩せ気味な体格

【装備の詳細】
OKC-3S銃剣を装着した以外はノーマルなM16A4を使用する
サイドアームとして、P220を携帯する

【特徴】
元々日本区の工場でノックダウン方式によって製造された準I.O.P社製民生用人形
性格は物静かだが、感情が顔に出やすく、テンションの揺れ幅も非常に大きい

戦術人形となる前の名前はツクモで、名前の由来は日本古来から伝わる器物の妖怪である付喪神から

民生時代から製造時のチューニングで一般的な自律人形よりも出力が高く、戦術人形に改装された際には重い荷物を軽々持ち上げたり、出力を高い機動力を変換できるようになった

戦闘時には、基本的に距離を詰めて戦うスタイルで、高い出力による機動力を利用した銃剣突撃や近接格闘戦も得意


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EXサイド1:彼らの名は……

今回は、NTKさんの「人形達を守るモノ」とのコラボSSです
先に名言しておきますが、このSSは原作シナリオを基準しており、本編とはパラレル扱いです


 ツクモことM16A4がG01地区前線基地へ到着したその晩、アラマキは指令室で報告書に目を通していた。

 

「一ヵ月後に、新人指揮官が現場研修でここに着任する……わしも引退する時が近いな」

 

アラマキは手にした書類をデスクにおくと指令室の壁に目をやった。壁には一振りの斧とM14とコルトM1911が飾られ、いずれも細かい傷がついていた。

 それらは彼が現役時に使っていた物だが、G&K社の戦力の主力が戦術人形に切り替わった後には壁に掛けられた時間の方が何が長くなった。

 

「人間が人間を殺す時代が終わるということか……ん?」

 

アラマキは自分の端末に無機質な電子音が鳴っている事に気づき、手に取ると画面にはペルシカリアの名前が表示されていた。アラマキが端末を操作し、通信機能を起動させると顔色が悪い猫耳を生やした女性が端末に表示された

 

「アラマキがG01地区にいるという事は、彼の異動はスムーズにいったのね」

「M16A4を不良品扱いしていたからな……ペルシカ、機嫌が悪そうじゃな?」

 

アラマキはペルシカと呼んだ彼女が不機嫌そうに顔をしかめていた事に気づくと彼女は嫌悪感を隠さず言い捨てた

 

「今朝、F02前線基地からM4かSOPMODⅡを着任させてほしいという要請がきたのよ。自分の悪行がばれているとも知らずにね」

「とうとう自分が置かれている状況の把握すらできなくなっていたのか……バカモノめ」

 

アラマキはかつての戦友の堕落した姿に失望を隠せなせず、ため息をつくとペルシカも言葉が過ぎたのだと察した

 

「あ……ごめん、数少ない戦友の生き残りだっけ、例の指揮官?」

「構わんよ……彼の狂気を気付けなかったわしの落ち度だよ。それよりもヘリアンはこの件をどうするつもりだ」

「ヘリアンも許せなかったらしくてね……あの子達に出撃命令を出したわ」

 

ペルシカの言葉にアラマキの脳裏に16Lab製戦術人形2名で構成された対人戦を前提にしたグリフィン本部直轄の憲兵隊とも言える戦術人形部隊が浮かび上がった

 

「あの二人か!?」

「そうよ、あの指揮官は腰でも抜かしているわね」

 

 

 

 

 指令室の中でF02前線基地指揮官こと、指令室でジョンは見知らぬ男に拳銃を向けられていた。

 

アラマキが知っている普段のジョンなら、冷静に彼が持つ拳銃の種類を見抜き、反撃の機会を探る男である。実際、男が構えている拳銃――S&WM500は、威力と引き換えに実用性を犠牲にした代物で、普段のジョンならすぐに冷静さを取り戻していた

しかし、この時のジョンはだた、恐怖に震えるだけで完全に思考停止に陥っていた。

 

「昨日は随分とお楽しみだったようだな……動くなよ」

「お前は一体……この指令室には俺以外は入る事が『私が許可した』」

 

ジョンの言葉を遮る女性の声と共に指令室のモニターにグリフィンの制服を着て、モノクルを身に付けた銀髪の女性が映し出されてた。そして、彼女はジョンに対して軽蔑のまなざしを向けていた

 

「ヘリアン、どういう事だ!?」

「グリフィン本部はお前からF02前線基地に対するすべての権限を剥奪する事を決定した……素直に出頭しろ」

 

 ヘリアンと呼んだ女性の言葉にジョンは言葉を失った。それに追い打ちをかけるように拳銃の男も口を開いた

 

「お前の副官が盗聴器やら隠しカメラを基地に仕込んだおかげで全部筒抜けだったんだぜ」

「Mk48が俺を……は、嘘だろう」

 

 ジョンは、拳銃の男が普通の人間じゃない事に気づいた。

 彼が持っているS&WM500はその威力故に他の拳銃よりも重いのに目の前の男はそれをオモチャの拳銃のように軽々と持ち、ジョンの眉間に向けていた。無論、彼が持っている拳銃はどう見ても本物の実銃である。

だが、ジョンはそれに対して一つだけこの状況を説明できる理由に気付いた。いや、気づかざるえなかった……彼は人間ではないと

 

「まさか……お前も戦術人形なのか」

「正解! 俺は16Lab謹製の男性型戦術人形、S&W(スミス&ウェルソン)M500だ」

「まさか、奴以外にも男性型人形がいたのか……じょ「黙れよ」」

男性いや、戦術人形S&WM500はジョンの言葉を遮ると怒りの形相を浮かべた。

 

アイツ(M16A4)の事を欠陥品だの、奇形だの、女目当てだの、ペルシカの逆ハーレム願望の産物だ……好き勝手いってくれたな」

「あぁ……うわぁぁ」

 

 S&WM500の威圧感に押されて、震えるしかできないなジョンを見た彼は止めを刺すように叫んだ

 

男性型人形が戦術人形になって悪いか、このユニコーン野郎!!!

「ヒイィィ!?」

 

S&WM500の恫喝にジョンの精神は限界を迎え、床に崩れ落ちるように倒れてしまった。それを見ていたヘリアンが顔をしかめた

 

「S&WM500、気絶させろとは言ってないぞ」

「同じ男性型人形としてこいつを許せなかったし、G01地区にいるアイツの分も含めてガツンといってやりたかったんだよ」

「……彼を連行しろ。先ほどM107もこの基地の人形達を保護したと連絡があった」

 

 ヘリアンがそういうと指令室のモニターが消えると彼は床に倒れているジョンに手錠をかけると俵のように担ぎ上げる。そして、彼は自身の通信機能をオンにして、隊長であるM107に通信を繋げる。

 

「M107、ユニコーンは簡単に捕まえられた。宿舎の乙女達の様子はどうだ」

『S&WM500、乙女達は全員無事だが……一つ問題がある』

「なにがあったんだ?」

 

通信越しに聞こえる青年――戦術人形M107の深刻そうな言葉にS&WM500は眉をひそめた。この指揮官が「他にも悪事を働いていたのでは?」と予想したが、M107の次の言葉に拍子抜けした

 

『内部告発をした副官のMk48から逆セクハラを受けている……早く来てくれ』

「問題って、それか!?」

『噂で俺達の事を知っていたよう『うふふ、強い人や人形なら私はナニされても構わないのよ』彼女がこの調子で体を寄せてくるんだ……他の人形達の視線も痛い』

(なんだよ、そのチョロイン系ヒロインとフラグが立ったような展開は)

 

S&WM500は通信越しに聞こえる困惑するM107と積極的にアプローチをかけるMk48のやりとりを羨ましいを感じたが、口には出さなかった

 

「分かった、この基地のエントランスで合流しようぜ」

 

 S&WM500はそう言って通信を切ると指令室を後にし、エントランスへ向かう。M107からMk48を引き離す方法を考えながら

 

 

後にM107とS&WM500の二人はグリフィンの戦術人形達の間で広く知られるようになる「人形を守る人形部隊――DG小隊」の隊長バレットと副隊長スミスとして、彼女達から称賛を受けるがこれはまだ少し先の話である。

 

 そして、間接的にとはいえ、己の懸念が解決した事をM16A4が知るのは、G01地区前線基地に着任した翌日のことであった。




NTKさん、コラボ許可ありがとうございます

そして、次から第1章です
時系列としては、G01地区基地へ異動してから約2ヵ月が経過し、例の事件が起こる2カ月前の頃から始まります

そして、彼と共にメインとなる戦術人形が二名登場します
どうぞ、楽しみにしていてください

後、感想待っています


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第一章:day before the day
Two months ago~①


今回、大陸鯖のネタバレが一部含まれています


G01地区はコープラスや放射能の汚染は一部を除いて軽微であるが、第三次世界大戦によって弱体化した政府に余力がないため、半ば廃棄された市街地が点在している。
それに目をつけたグリフィンの社長がここを大規模な訓練所として整備したのがG01地区前線基地の始まりである

現在は新規製造された戦術人形の戦闘スタイル確立や民間人形から転換訓練、人形小隊同士の合同訓練の場として活用される。
また、■事件発生以前はグリフィンと提携している中小PMCへの訓練場所として提供されていたが、高額な使用料に関しては各PMCから批判が相次いだ

新人指揮官に対するオリエンテーションー担当予定区画紹介より


G01地区前線に異動してから二ヵ月が経ち、俺は指揮官の元で訓練を積み重ねる日々を過ごしていた。IOPで改修された直後の慣らし運転以外に銃を撃つ機会がなかった俺じゃ任務に出ても他の戦術人形達の足手まといにしかならない。

 

だから、まずは戦術人形としての自分の体に慣れないといけない。民間用人形の時とは出力とか姿勢制御モジュールとかが全くの別物だから、以前の感覚で動いたら、転んでしまう。愛銃であるM16A4での射撃にも慣れないといけない。

 

 G01地区は「グリフィンの教習所」の別名があるように、事実上無人地帯となった廃墟群を利用した訓練所も多く、大規模な訓練をしても被害が出にくい。

 一か月浪費した分の遅れを取り戻すにはうってつけの場所に俺が着任できたのは幸運だった……先任の戦術人形達も俺の事をすぐに受けて入れてくれた

 

「まぁ、最初は男装系女子かと想われたのはちょっとショックだったけどね」

 

俺は前線基地内にある射撃場でM16A4にマガジンを叩き込みつつ、俺の隣で射撃訓練のを始める茶色のセーラ服を着た戦術人形(先輩)……M14さんに視線を移した

彼女は自身の半身であるM14のマガジンを交換していたが、彼女は俺に視線を向けている事に気づいたのか俺の方を向いた

 

「M16、最適化が順調よく進んでいるようですね」

「M14さんのアドバイスのおかげですよ」

 

俺はM16A4のコッキングレバーを引き、セレクターをフルオートに切り替える、そして、離れた所にある人型の的……中心点に狙いを定め、引き金を引く

 

ダダダダダダダダダダダ!!!

 

連続的な銃声と共に放たれた5.56mmNATO弾が的に穴をあける。そして、マガジンすべての銃弾を撃ち尽くすと的の中心部に30個の弾痕ができていた。若干ばらけたが異動直後の乱射同然の結果と比べたら上達している。

 

そして、隣のM14さんも俺の狙った的よりもずっと遠い場所にある的の中心を正確に撃ちぬいていく。自分のM16A4よりも射程距離が長いとはいえ、確実に狙い撃つ事ができるのは、単純にASSTや火器管制モジュールだけに依存しない彼女の錬度ゆえの結果だ。

 

ただ、彼女は自分を皆と呼ぶ奇妙な癖だけは気になるが……触れない方がいい気がする

 

「全弾命中ね、皆も負けてはいられません」

「えぇ、俺も腕を磨いてM14さんやガリルさん達の役に立てるようにがんばらないと」

 

彼女は笑みを浮かべるとすぐに別の的を狙い撃ち、俺もマガジンを交換して訓練を再開する。

 

 

早く前線に立てるようになってここの皆の役に立ちたい

 

あの時の悲劇を繰り返さないように強くなりたい

 

 

 

―――――――

 

 

一時間後、俺とM14さんは訓練を終え、基地内部のカフェへ足を運んだ。

けど、カフェと言っても少し広めの部屋に机とテーブルが置かれて、奥にコンロ付きの流しと冷蔵庫が置いてあるだけの質素な休憩所だ。

 

戦術人形に転換後に。一度だけ入った事があるグリフィン本部に存在するカフェ……俗に言う「スプリングフィールドのカフェ」とは遠く及ばない粗末な物で、出される物も安物の人造コーヒーと市販の安物の菓子だけだ。味は……比べるのがバカらしくなるほどの差が付いている。

 

それでもM14さん達がカフェと呼ぶ理由は、目の前の戦術人形がここをカフェと呼ぶからだ

 

「いらっしゃいませ、CAクラブへ!!」

 

目の前の時代錯誤も甚だしいメイド服……正確には大戦前に流行ったというコスプレカフェの制服を着た髪型の一部だけをサイドテールにした金髪碧眼の戦術人形が笑みを浮かべていた

 

 彼女の名は漢陽88式……指揮官の副官で、戦術人形の皆は漢陽か88式と呼んでいる。

けど、彼女は自分の事を愛ちゃんと呼んでほしいようだが、その恰好で「愛ちゃん」と呼ぶ姿はコスプレ好きな人形にしか見えないがこの前線基地では最古参の一人だ

 だが、彼女自身は最初期の第二世代戦術人形故に人形としての性能は低いようだ。けど、稼働期間の長さゆえに戦闘技術……特に夜間戦闘で俺を含むこの基地すべての戦術人形ではトップクラスの腕前だ。俺も夜戦訓練の相手をしてもらったが相手にならなかった。

 

 今は指揮官の副官に専念しつつ、ここをカフェの真似事をしている……正直、外から見ると彼女が痛い子にしか見えないが、この基地の戦術人形のトップで指揮官に最も近い戦術人形だ

 

「また来ましたよ、漢陽さん」

「と、とりあえず俺とM14さんの二人で」

「M14さんとM16さんのお二人様ですね。後、メイドはコスプレでも遊びでもありませんよ

「アッハイ」

 

漢陽さんの笑みを崩さずにドスを効かせた声でいうと俺達をテーブルへ案内する……俺は口に出したつもりじゃないが彼女には見抜かれたというか、怒っている……よね?

 俺は彼女の笑顔に隠されたナニカにドン引きしつつも彼女の後に続こうとした瞬間、カフェに備え付けられているスピーカーから大音声で指揮官の声が響いてきた

 

「本部からこの基地への出撃命令が下った……基地内に待機中の戦術人形は指令室へ集合しろ。なお、今回はM16A4もブリーフィングに参加せよ、繰り返す……」

 

放送を聞いた瞬間、笑みを浮かべてしまった。ついにこの時が来たか

M14さんも俺と一緒に戦えるかもしれない事がうれしいのか、笑みを浮かべながら俺を見ていた。

 

「聞きましたか、M16!?」

「はい……聞きました、今回は俺もブリーフィングに参加しろと」

「では、カフェは一時閉店、皆様で指令室へ向かいましょうか」

 

漢陽さんがそう言うと俺とM14さんは黙って頷くと彼女を先頭に指令室へ向かう

 

 

―――――

 

 

私がグリフィンに入社してから1ヵ月が経った……退屈な新人研修も今日で終わりだと思ったが、本部から「G01前線に潜伏する武器の密輸業者の本拠地を制圧せよ」との司令がG01前線基地へ通達され、私はアラマキの爺さんと共に指令室へ向かっていた。

 

「サクラ、今回の作戦はワシが補佐に徹するから、お前が人形達の指揮を執れ」

「入社して1ヵ月くらいの新人指揮官に指揮権を譲っていいのか」

 

私の疑問にアラマキの爺さんは鼻で笑った

「嘘をつくな……お前の指揮経験の1ヵ月くらいじゃが実際は10年以上のベテランだ?十分信頼できる」

「そうか……では、可能な限り好きにやらせてもらうぞ」

 

アラマキの言葉に、私が笑みを浮かべて言葉を返すと彼は黙って頷く。この男が私に信頼を寄せているのだろう……指令室に籠っている指揮官共とは違う、戦場を肉眼で見ようとする者同士だからか

 

「先に言っておくが、対象が運んでいる密輸品には横流しされた鉄血重工の製品も含まれているようだ」

「なるほど、目標が自衛のために自らの商品を起動させるかもしれないという訳か……密輸業者の護衛を含めた数と武装は?」

「護衛が20人ほど、サブマシンガンとショットガンで武装している。非武装要員が拳銃を所持している程度で重火器の類は確認されていない」

 

それを聞いた瞬間、奴らはカモだと確信できた、重火器を持っていないという事はPMCの支援を受けていないか、捨て駒の弱小盗賊団。もしも、身の危険を感じたらどんな手でも使って生き残ろうとするはず……

 

「下手に時間をかけると面倒だな……一気に敵性対象と密輸品を確保もしくは、消せということか」

 

アラマキが頷いた時、私達は指令室のドアの前へたどり着いた。アラマキは自動ドアのスイッチに手を触れようとしたが、一旦手を下げると私の顔を見た

 

「サクラ、ワシも後2カ月でグリフィンを定年退職する……ワシの後任として、G01前線基地の指揮官になれるかは本部次第じゃが……失望させないでくれよ」

「もちろんさ……行こう、彼女達が待っている」

 

私じゃ自動ドアのスイッチに手を触れて自動ドアを開けると指令室の中には、アラマキの指揮官の副官である漢陽88式を始めとした戦術人形達が整列して私達を待っていた。

 

「お待ちしていました、ご主人様、サクラ・カスミ研修生様。G01前線基地所属戦術人形14体、集合しました」

 

88式は私達を見るなり、頭を下げると同時に戦術人形達全員が私とアラマキ指揮官に向かって敬礼をする。その中には、新人の人形で私が知る限り唯一の男性型戦術人形であるM16A4もその中に混ざっていた。

 

今回は彼も作戦に参加させろという事か……面白い

 

「今回、アラマキ指揮官から指揮権を委譲されたサクラ・カスミだ……これより作戦を説明する!!」




今回から第一章:day before the dayが開始しました
その第一話でM16A4の固有戦友となる戦術人形M14とサクラ・カスミ研修生が登場しました

個人的に、M14は原作ゲームでの指揮官の副官ポジで、ジオウでのゲイツのような第二の主人公キャラという印象です
そして、彼女の第一人称はここではいえませんが大陸鯖で実装されているMOD関連に関係しています

そして、サクラ・カスミ研修生はある意味ではアラマキ指揮官よりもM16A4と長い付き合いとなるキャラクターです

ジャガーマンの中の人が演じているあるゲームのキャラクターが彼女の元ネタです


最後に、第1章のタイトルはドルフロ内では重要なある事件が起こるまでの時間です


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Two months ago~②

ひさしぶりの戦闘シーンを書きましたが結構難しい
特にドルフロは集団戦が中心になりやすいので頭を使いますね


G01地区某所に存在する廃墟群に存在する元は商店であったであろう少し大きめの廃墟の中で俺達は今回の作戦についての最終確認をしていた。

 

「今回の目標は、廃墟区画の廃工場で行われている密輸品の裏取引現場に乱入し、関係者を拘束もしくは殺害することよ」

 

今回の任務で編成された小隊で隊長に任命されたM14さんが廃墟の床に投影された闇業者が潜伏している廃工場のホログラム……実際は人形同士の通信を利用したデータに目を移す。

標的がいる場所は倉庫だった廃墟を修繕したような建物で、周囲を20人くらいの武装兵士を表した人型が建物の周囲を囲んでいた

 

「本部の司令によるとこの廃工場で密輸業者達がテロリスト達との取引を行うそうよ」

「つ……つまり、取引に乱入しろと言う事ですか?」

 

M14の説明に、俺の隣で腰まで長い金髪を一本結びにしたカーキ色の軍服を着た気弱な戦術人形……M3さんが恐る恐る手を上げながら口を開いた。彼女はちょっと臆病な所があるが、やる時はやる人形だと聞いている

 それを見た眼帯を付けた金髪ツインテールの人形……スコーピオンさんがM3さんの肩を軽く押した

 

「M3、怖いの?」

「こ、怖くなんてありませんよ!」

「それにしては、泣きそうな目をしているんじゃん」

 

 必至に反論するM3さんに対して、スコーピオンさんは軽く受け流すのを見てF02前線基地での彼女達とは違って生き生きしているように見えた。あの基地では人形達は全員があまり笑っていなかった……副官(Mk48)をのぞいては

 

(たしか、俺が異動になった直後にあの指揮官が逮捕されたんだよな……一体誰が)

 

俺がそんな事を考えているとM14さんが二人の間に割って入った

 

「二人共いい加減にしないと指揮官代理(サクラさん)が怒りますよ」

「あ……ゴメン」

「そ、そうですね。ブリーフィングを続けましょう」

 

彼女の言葉にM3さんとスコーピオンが謝るとM14さんが説明を続ける。もし、止めなかったらあの人の怒号が飛んでいただろう……指揮官代理は今も俺達の様子を見ているのに沈黙を保っているのが余計に恐怖を感じる

 

ふと隣で薄茶色の髪を三つ編みにして、茶色の帽子をかぶった人形……FNCさんが廃倉庫の見取り図の注意深く見ていた……チョコをかじりながら

 

「FNCさん、なにか気になる事でもあるんですか?」

「うん、密輸業者さんが売り物の武器……バズーカでも持ってきたら私達でも危なくない?」

 

FNCさんの疑問にM14さんがこの質問が来る事を予測していたのか、すぐに答えた

 

「その可能性は確かにあるわ。だからこそ、指揮官代理の作戦よ」

 

M14さんがそう言うと廃工場の見取り図に青い点が11個現れた。入口側に5個、裏口の搬入口に6個が建物を挟み込むように配置されている。この点は俺達と戦術人形としての特徴であるダミーリンクで遠隔操作するダミーを表している。早い話が友軍だ

 

「FNCさんとスコーピオンさんが出入り口から突入して密輸業者達を確保もしくは殺害。同時に皆とM3さん、M16さんは裏口から突入して密輸品を押収もしくは、破壊してください」

「外の警備兵は、全員やっつけてもいいだよね?」

「はい、勝利のためよ。遠慮は無用よ」

 

 FNCさんの質問にM14さんが頷くと視界がホログラムの見取り図からの現実の廃墟に戻った。そして、全員がそれぞれの半身である愛銃やサイドアームの最終確認を始める。

 

俺も自身の愛銃のM16A4に銃剣を取り付け、腰に下げたP220のチェックをする……俺の初陣がすぐそこまで迫っている

 

 

―――――――

 

 

 

作戦の最終確認から1時間後、例の廃倉庫が見える廃ビルの影に俺とM3さん、M14さんが息をひそめて様子を伺っていた。裏口らしき扉の周囲をサブマシンガンで武装した男達(ヒャッハー)が辺りを警戒していた

 俺達が突入の機会をうかがっていると電脳に通信が人形言語で受信された。このコードはG01前線基地……そろそろ作戦開始か

 

『総員の初期配置を確認した……作戦小隊、点呼せよ』

「小隊長M14、ダミー3体とも問題ないわ」

「え、M3、ダミー2体ともに問題ありません」

<スコーピオン、ダミー2体ともにいつでも行けるよ>

<FNC、わたしもダミー3体も問題ありませ~ん>

「M16A4、ダミー1体共にいつでもいけます」

 

電脳越しに聞こえる指揮官代行の点呼に、全員が電脳通信で応答する。それを聞いて、指揮官代行が言葉を続けた

 

『よし、取引の相手のテロリスト達は本部の戦術人形小隊が始末するらしい。思う存分暴れろ』

<ですが、密輸品の破壊は証拠の隠滅に繋がるのでは?>

『すでに裏取引についての証拠はそろっているので焼け残りから見つかればいいとのことだ……本部の引きこもり共め!!

「ひぃ!?」

 

指揮官代行がドスを効かせて吐き捨てるのを聞いて、M3さんが怯え、彼女のダミー達もつられるように肩を震わせている。

それを見て、M14さんが話題を任務に戻そうとするが、彼女も動揺していたせいで、通信と口と同時にでていた

 

<「しっ指揮官代理、そろそろ作戦開始時間ですよ」>

『そうだったな、総員戦闘準備。秒読みを始めるぞ』

 

M14さんの指摘され、気持ちを落ち着けたのか普段の冷静だが強い意思がこもった口調で俺達に合図を出すとこの場にいる全員の表情が俺が知っているソレとは別物になった。容赦なく人を殺せる人形の目をしていた

 

 隣の俺のダミーも自分が鏡で見るのとは別物の冷たい目……戦術人形としてのそれになっていた。たぶん、俺もダミーと同じような目をしているはずだ

 俺は自然と出撃時から首にかけている防塵用マスクに手を触れる。自分が民間人形ツクモだった事を忘れないように

 

『5』

 

隣のM3さんが自身の銃を構える

俺は防塵用マスクを装着……ダミーも本体(俺)と合わせるよう防塵用マスクをつける

 

『4』

 

俺の後ろでM14さんが裏口から一番遠くにいる見張りに狙いつける

肩にかけていたM16A4を構え直し、安全装置からフルオートに切り替える

 

『3』

 

俺は裏口に一番近い見張りに狙いをつける。

見張りの武装兵達は俺達にまったく気づいていなかった

 

『2』

 

俺や皆のダミー達が同じようにそれぞれの銃や武器を見張り達に構える

 

『1』

 

やっと見張りの一人が俺達の気配を察知したのか……俺達の方に近づこうとするがもう遅い

 

『0、作戦(ミッション)開始!!』

 

指揮官代理の号令と共俺達は一斉に引き金を引きながら、廃倉庫に向かって走り出した

 

「ぐあああぁ!?」

「ぐぎゃああ!?」

「中の連中に……ぐぇ!?」

 

見張り達は反撃をする暇もなく次々と銃弾に倒れていき、あっという間に地面や壁を赤く染め上げ、武装兵達を物言わぬ死体に変えてしまった。

廃倉庫の反対側ではFNCさんとスコーピオンさんの手榴弾によるものか爆発音が聞こえてくる……その時、電脳にスコーピオンの通信が入った

 

<こちらスコーピオン、表の見張りは全部倒したから倉庫内部内部に突入するよ>

『了解した……内部には武装兵がまだ半分近く残っている気を付けろ』

<了解、FNC行くよ!!>

「スコーピオンからの通信を聞いたね、私達も突入するよ」

 

スコーピオンから通信が切れるとM14が裏口を指差すとM3さんのダミー達を先頭にして、廃倉庫へ突入する。もちろん、M3さんとM14さんのダミーを1体ずつを後方警戒と増援への備えのために出入り口に残している

 

俺達が廃工場へ突入すると底は元々生産された製品を出荷するための倉庫であろう区画で、奥に密輸品が入っていると思われる大きなコンテナが数個が積み上げられている

 コンテナと正反対の扉から中折れ式ショットガンで武装した男達と薄汚れた作業服を着た密輸業者達らしき男性をが出てきた

 

「殺人人形共がこっちにも来たぞ!!!」

「ぶっ壊せ!!!」

「早くコンテナからデカイ銃を持ってこい!!」

 

 俺達を見た武装兵達や密輸業者はショットガンや拳銃を乱射するも揺しているせいでほとんど当たらない。

 それでも乱射された銃弾を避けるために、俺達はすぐの物陰の影に身を隠ざるえなかった。その隙を付いて、密輸業者の一人がコンテナに駆け寄ろうとする。

 コンテナの中に

 

「M14さん、コンテナに駆け寄る奴は俺が取り押さえますのでショットガンを持った奴ら武装兵をお願いします」

「分かった、M3はM16さんの援護をお願い」

「は、はい。ダミー1は一緒に彼を援護して!」

 

 M14さんが指示を出すと同時にダミーと同時に武装兵達のショットガンを狙い撃って、叩き落とす。すぐに武装兵達はそれぞれ落としたショットガンを拾うか腰の拳銃を抜こうとするが、M14さんと俺のダミーがすかさず、銃撃を浴びさせに全員が真っ赤に染まった死体に変えてしまった

 

同時にM3さんはダミーの一体と共にコンテナに駆け寄る密輸業者の進路を妨害するように男の少し前方に向かって、乱射すると同時に俺はダミーと共に彼に飛びかかった。

 

 密輸業者は後方から飛んできた弾丸に避けようと足を止めよう瞬間、俺は俺は彼を取り押さえ、地面に押し倒した。それと同時に武装兵に向かって牽制射撃をしていた俺のダミーが彼に銃剣を突きつける

 

「動かないでください……これ以上動くと頭が潰れますよ」

「男性型の戦術人形……なんてバカ力だ!?」

「男性型で悪いですか……後、素直に降伏すれば命は取りませんよ」

 

密輸業者は俺を人間だと思い込んでいたのか……驚愕の表情を浮かべて俺を見た。

彼は必至に抵抗しようとするも俺の通常よりも高い馬力による怪力と突きつけられた銃剣で抵抗するのを諦めたのか、大人しくなった

 

「分かったよ……死ぬのは御免だからな」

 

密輸業者はそう言うと銃声や怒号などで騒がしかった工場内が静かになった。ダミーに男を拘束させると周囲を見渡すとM14さんとM3さん、それに彼女達のダミー以外は物言わぬ死体と化していた。

 俺達と目の前の密輸業者しか生者がいない事を確認した瞬間、指揮官代理から電脳に通信が入った

 

『表側のスコーピオン達も密業者達を殺害もしくは、確保したそうだ』

「じゃあ、私達の勝利ですね!!」

「やった、これで特別ボーナスがでれば文句ありません!」

 

指揮官代理の報告にM14さんとM3さんが目を輝かせながら言うと指揮官代理は諭すように言葉を続ける

 

『敵が雑魚とすらいえない弱小勢力に過ぎないという事を忘れるなよ。まぁ……証拠品である密輸品のコンテナをすべて無事で確保できたのは手柄だぞ』

(指揮官代理もうれしいんだな」)

 

指揮官代理の言葉に俺はふと笑みが零れたがすぐに気を引き締めた。まだ、任務は終わっていないのだ。俺はダミーが拘束している密輸業者に視線を向ける

 

「指揮官代理、これから捕縛した密輸業者を連行します」

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、俺の初任務は圧倒的な勝利で幕を閉じた。

 後の現場調査と密輸業者達の自白で、コンテナに積まれていたのは鉄血重工製の人間用重火器類と鉄血製機械兵器の消耗品や予備パーツらしい。密輸品の仕入れ先はとある小規模PMCからテロリストに横流しされた物で、例の密輸業者達はその仲介人の立場だったらしい

 その後、そのPMCは正規軍の治安維部隊の摘発を受けるが俺には関係ない話だ

 

<■が■■■■まであと2カ月>




ちなみに、M16A4のレベルは大体10くらいの編成拡大が解禁されたばかりを想定しています……他の子達と比べると実力は天と地の差があります

怪力に関してはG01前線基地の戦術人形の中ではトップクラスですが、現状ではそれを生かし切れていません


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two weeks ago~①

あの晩の出来事はよく覚えている……だって、俺が戦術人形となるきっかけとなったんだから

今回、日本鯖未実装の人形が登場します


俺の初任務から約一か月半が経って、時折現れる盗賊(ヒャッハー)達をM14さん達と小隊を組んで撃退したり、基地周辺の警備や訓練の日々を過ごしていた。指揮官代理こと、サクラさんも指揮官の補佐として書類整理に追われたり、指揮官の元でオペレーターとして、戦闘中の俺達を指揮する日々を送っている

 そして、指揮官は引退のための手続きのために本部と連絡を取り合っているのをよく見るようになった……どうも年で前線勤務を続けるのには体がついていけないのが龍らしい

 

で、今日は盗賊(ヒャッハー)退治や基地の警備とは別の任務のために俺達は指令室に呼ばれた。

 

尚、俺と共に呼ばれたのは、初陣の時と同じメンバーだったM14さんとM3さん、今回は猫耳型の髪留めと猫尻尾と赤と緑のオッドアイが特徴のMK23とおっとりとした目つきと腰まで伸ばした銀髪に載せたベレー帽が特徴のGrG36Cさんだ。

 

 指令室にはサクラさんと指揮官、副官の漢陽さんがすでにブリーフィングの準備を済ませていたので、俺達が指令室に到着すると同時に今回の任務についてのブリーフィングが始まった。

 

「G01地区の東部に建設されたばかりのIOPの修理工場に襲撃予告が届いた」

「確か、中規模の前線基地に所属する数と同じ戦術人形を同時に修理できる規模と設備が整った最新の自動工場でしたね」

「その分、修理費は割高だがな……この見取り図を見てくれ」

 

俺の質問にサクラさんが頷くと指令室のモニターの修理工場の見取り図らしき図面が表示され、俺達はそれに注目したが……結構大規模な工場だ。

 

「本部から我々G01地区前線基地の戦術人形部隊は、グリフィン本部の人形部隊と共同で工場の護衛するように司令を受けた」

指揮官代理(サクラ)、襲撃予告がどこの誰が出したのか分かっているの?」

 

HK23さんは首を傾げて、司令官代理に質問した。仮にも大企業のI.O.P社の施設を襲撃するのはよほどのバカか大きな後ろ盾があるかのどちらかだ。

 

「本部は人類人権団体の過激派だと予測しているが……」

「指揮官代理は違うと思うのですか?」

 

指揮官代理が本部の見解に腑に落ちない事に気付いたのか、G36Cが質問すると彼女は薄ら笑み浮かべた。

 

「まぁ誰でもいいさ……「人形の病院である修理工場を襲ったらどうなるか」をその身で味わせるだけの話だ」

 

彼女の言葉に俺を含めた戦術人形達が顔を青くした。指揮官代理は今回の任務に不満があるのが明白だった。

それを見て、指揮官が口を開いた

 

「サクラの意見はともかく、現地でグリフィン本部の人形部隊を合流し、修理工場の警備当たってくれ」

 

指揮官が一息つくと俺の方を見た。彼が何を言いたいのか、すぐに分かった……俺が男性型であるゆえにグリフィン本部の戦術人形達から奇異な目で見られる事を心配しているのだ

 

「M16A4、今回君は肩身が狭い思いをするかもしれないがいずれ経験する事だ……こらえろよ」

「嫌と言うほど経験しましたから……大丈夫ですよ」

 

俺はなんとか笑みを浮かべて答えるが、声が震えしてしまた。F02前線基地での出来事は今でも思い出したくない。

 

もし、異動が1日でも遅れていたら、自殺していたかもしれない……あそこでの境遇は俺の選択を完全に否定されたも同然だったからだ

その時、俺以外の戦術人形達が一斉に声を上げた

 

「M16が最初にここに来た時は驚いたけど、今は私達の仲間です」

「グランファ、彼の事をバカにする子がいたら私が彼の凄さを教えてあげるんだから」

「この基地の戦術人形全員があなたの理解者ですよ」

「それに怪力と瞬発力であなたに勝てる戦術人形なんてそう、簡単には見つからないわ」

 

彼女達の言葉を聞いて、俺は自然と涙を零れ落ちた。僕の選択は間違いではなかったとこ心から思えた

 

「ありがとう……みんな」

 

まぁ、最後のM14さんが言う怪力云々は、余計な一言だが……それでも俺の事を受け入れている故の褒め言葉と受け取ろう

 

 

―――――――――

 

 

「あれが例の修理工場か……ずいぶんと大きいな」

 

修理工場の敷地内に設置されているヘリポートから見えるIOPの修理工場の建屋は前線基地で見た見取り図通りの大きくて、りっぱな施設だ。その外見は俺が製造され、今はもう存在しない製造工場に似ていた。

 

僕が製造された(産まれた)工場はあの晩に、燃え盛る炎と鉄屑共によって、爺ちゃんを含めた工員達と共に灰と化して今は更地か別の施設が作られているのだろう

 

「私達の前線基地の修理施設よりも立派じゃない?」

「確かに、修理専門ということを差し引いても私達の基地の物よりもいい物を使っていそうよね?」

「最新鋭の修理設備が完備されているらしいですよ……基地の設備が古すぎるだけかもしれませんが」

「この任務が終わったら、修理設備の改善を指揮官にお願いしましょう!!」

 

 小隊の皆が立派な修理工場に驚き、それぞれ声を上げている……最後辺りは指揮官へのおねだりになっている気がするが

 

このまま、雑談を続ける訳にいかないので俺は小隊の皆に向かって声を出した

 

「皆さん、このまま突っ立てる訳に行きませんし、工場に先行している本部の人形部隊と合流しましょう」

「確か、本部の戦術人形小隊は工場の中で待機しているとグランファは言っていたわね」

「じゃ、じゃあ早く行きましょう」

 

Mk23さんが工場を指差すと工場の向かって歩き始め、俺達もその後を付いていこうとした時、右側の壁の方から視線を感じた。視線を感じた方を見ると壁の影の方に光る何か……銃を持った人影が見えた。すでに、テロリストが工場内に侵入していたのか!?

 

俺はすぐに背負っていた半身のM16A4を構えて、セレクターをセミオートに切り替えて、視線を感じた方が銃口を向けて叫んだ!!!

 

「みなさん、右の壁の影に不審な人物がいます!!!」

「まさか、テロリストがすでに!?」

「武器を捨てて出てきなさい!!」

 

俺の叫びに小隊の皆も自身の銃を視線を感じた方向へ向けると視線の主らしき人物……いや、一体の自律人形が顔を引きつらせながら物陰から姿を現した。木製のクリップでサイドテールにした藍色の長髪と赤い目が特徴の白衣を着た女性型で、右手に拳銃に持っていたが俺達に銃口を向けていると分かるや否や地面に置くと両手を上げた

 

「あたしの名はキイ。この修理工場で薬剤調合の仕事をしている職員だ……だから、銃を降ろしてくれないか?」

「じゃあ、その拳銃はなんですか?」

「サバゲーで使うモデルガンだよ」

「はい?」

「まあぁ、さっきまで裏の空き倉庫で同僚の人形達とサバゲーをやっていたからな……気になるのなら、胸の職員証のIDを確認してもみていいよ」

 

キイと名乗った人形は、そう言って右胸に安全ピンでつけた職員証を指差した。俺が職員証のIDを確認すると確かに、ここの職員として登録された民間人形だという事が分かったが……こんな非常時にサバゲーするか、普通?

 

彼女がここの職員だと分かると俺達は銃を下ろしたが目の前の彼女の行動に全員が唖然としていた。

 

「この人、危機感という物がないのでしょうか?」

 

G36Cさんが呟くのを聞いて俺達は頷いた。例の襲撃予告が出ているのに、職員達は呑気にサバゲーをしているのだから……こんな調子で大丈夫かIOP?

俺がIOPに対していろんな意味で不安を感じたその時、俺の背後から声が聞こえた

 

「あなた達がG01地区前線地区の戦術人形部隊ですね?」

 

俺達が後ろを振り返るとそこには頭に付けた(?)ウサギのぬいぐるみと星の柄の赤いスカートとリボン、そして彼女の身長と同じぐらいのライフルが印象的な幼女型戦術人形が俺達を見上げていた。

 

「私はグリフィン本部から派遣された戦術人形小隊の隊長を務めるM99です。小隊長さんはどなたですか?」

 

M99と名乗った小さな戦術人形の質問に、M14さんが手を上げた

 

「G01地区前線基地からやってきた派遣小隊長のM14よ。よろしくね、M99ちゃん」

「はい……それと一言いいでしょうか?」

 

M99ちゃんは俺の方を向き、指を差した

 

「あなた、そのマスクを外して顔を見せなさい。共同相手に対して失礼じゃありませんか!?」

「ですが……このマスクは」

 

俺はM99ちゃんの指摘に困惑した。

 

今まで任務の際は防塵用マスクを覆面代わりに身に付けていた。

なぜなら、マスクをつけていれば男だという事を隠せなくても俺個人としての顔は隠せるのと民間人形だった頃を忘れないようにするためだ。特に前者は不用意に顔を見せれば、仲間達が俺の事で不利益を被るのが嫌だからだ

 

 俺のせいで皆が笑い者にされるのは正直耐えられない

 

俺の様子を見て、M14さんが助け船を出してくれた

 

「M16A4さんは自分の顔を見られるのが嫌がるのよ。それこそ私達以外に顔を見られたら、我を忘れて大暴れするくらいなのよ」

「……そうなんですか?」

「そうなんです……自分は他人に自分の顔を見られるのが凄く嫌なんです」

 

M99は俺をじっと見るが……一息つくとこう言った

 

「分かりました……皆さん、私達の仲間の元へ案内しますのでついてきてください」

 

そう言って、彼女は頭に付けたリボンを揺らしながら、工場の方へ歩いていくと俺達も後を付いていく

 

キイは……ほっといてもいいか

 

 

――――――――

 

M16A4達がM99についていった後、その場に残されたキイは首を傾げた。彼女の思考の対象はM16A4であった

 

「防塵マスクのお兄さんも戦術人形だったのか……けど、銅色の髪に銀眼の男性型人形って何処かで見たような気があるな」

 

キイは自身の電脳をフル活用して、M16A4の事を思い出そうとしていた

 

(確か……IOPの社内誌で見た事あるんだよな……素顔を見れれば思い出せそうなんだけどね……よし)

 

キイは足元に転がっていたモデルガンのK5を拾うと修理工場の方へ向かった。M16A4の正体を探るために、自らの好奇心を満たすために

 

「確か……彼らはグリフィンの本部の戦術人形部隊と合流するなら、あそこにいくはずだ。ふふ、ひさしぶりに知識欲が沸き上がってくるよ」




今回登場したキイは前書きでも書いた通り、とある戦術人形です。(自分のお気に入りの子です

ヒントは彼女の名前をローマ字にしてみてください
そして、彼女の髪留めが木製のクリップである事を考えてみたらすぐに分かると思います

彼女のサバゲー好きは、公式設定です……後、近いうちに声も実装されるようですね
一体いつになったら、彼女は日本鯖に実装されるのでしょうか

※9月18日、キイの口調を若干変更しました



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two weeks ago~②

色々立て込んでいて更新が遅れた上に分割するはめに……orz
とりあえず、中編をどうぞ

今回と次話ではNTK氏の人形達を守るモノについての言及があります


M99に案内されて修理工場の待合室にやってきた俺達は、すでに工場に到着していた戦術人形達とあいさつを交わした

そして、グリフィン本部の戦術人形小隊のメンバーがどんな子達かと言うと……

 

「おまえらがアラマキ爺さんの人形達か……トンプソンだ」

 

サングラスにハットと旧世紀の映画に登場するマフィアのような恰好をしたSMG型戦術人形のトンプソンさん。見た目や言葉遣いからして、姐さんと呼ばれていそう……というか、指揮官の事を知っているのか?

 

「私の名前は一〇〇式機関銃です。G01地区の皆様、よろしくお願いします」

 

黒いセーラ服にサクラ柄のストッキング、それにサクラさんと同じパッツンな黒髪が特徴の礼儀正しいSMG型戦術人形一〇〇式機関銃さん。彼女の半身の銃には、戦術人形としてはめずらしく銃剣が取り付けられている……俺と同じ戦闘スタイルかもしれない

 

「わ、私はHK23です。ど、どうかよろしくお願いします」

 おどおどした雰囲気を放つ金色のお団子ヘアーが特徴の小柄なMG型戦術人形のHK23さん。けど、なにより目を引くのは小柄の身体に不釣合いな胸部装甲……うん、これ以上の彼女を示す特徴は無いと思う

 

「初めまして…L85A1です。G01地区の皆様、よろしくお願いします」

 

くるぶしの辺りまで届くほど長い薄桃色の髪と赤フチ眼鏡が特徴的なAR型戦術人形のL85A1さん。F02地区前線基地でも同型の彼女を見た事があるけど……俺の事をチラッと見て笑ったのは気のせいじゃないと思う

 

そして、最後に自己紹介するのはヘリポートで出会った戦術人形でグリフィン本部派遣部隊の隊長を務める小さな戦術人形のM99ちゃん

 

「わたしは本部小隊の隊長を務めますM99です。G01地区の皆さん、作戦ではよろしくお願いします」

 

M99さん達本部派遣小隊の皆さんが自己紹介を終えた後、俺達も自己紹介を始めた

 

「じゃあ、私達も自己紹介をしましょうか、皆の名前はM14」

「え、M3です」

「G36Cです……皆さん、よろしくお願いします」

「わたしはMk23よ」

「M16A4です……よろしくお願いします」

 

彼女達の自己紹介が終わった後に返すように俺達も自己紹介をするとグリフィン本部小隊の戦術人形達の視線が俺に集中していた。一応防塵マスクで顔を隠しているがで男性型だとすぐに分かったのだろう……予測できたことだ

けど、彼女達が俺に向けるそれは興味のソレだった。どこかで俺の事を聞いたのか?

 

 

「おまえが例の男性型戦術人形か?」

「そうですけど、俺の事を知っているですか?」

「こいつからお前の事を教えてもらったのさ。アイツラ以外にも男性型戦術人形がいるとな」

 

トンプソンさんの質問に答えると彼女はL85A1を指差した。トンプソンさんのいうアイツラが誰のことなのか知りたかったが、それよりも……

 

「L85A1さん……どこで俺の事を知ったのですか?」

「どこで知ったって? うふふ……私はあなたを知っているはずよ、ツクモ君」

 

彼女の言葉に俺が言葉を失った。

俺の民間人形としての名前を知っているのは指揮官やG01前線基地の戦術人形達を除くと社長とヘリアン上級代行官、猫耳オバサン等の一部の人間とF02地区前線基地の戦術人形達以外は知らないはずだ……まさか、彼女は

 

俺が考えている事を見抜いたのかM99ちゃんが口を開いた

 

「彼女はF02前線基地に在籍していたL85A1ですよ、M16A4さん」

「つまり……M16が異動になる前の基地の同僚と言う事ですか?」

「はい、ツクモ君と一緒に前線に出撃する事ができてうれしいわ」

 

L85A1さん……正確にはF02前線基地のL85A1さんが笑みを浮かべるのを見て、自分の感情モジュールが激しく乱れた。そんな笑顔を向けれるのですか……俺は自分だけF02前線基地(地獄)から逃げ出したのも同然なのに

 

「ふん、やけに辛気臭い目をするな。お前、男だろう?」

「ト、トンプソンさん、それ以上はいけませんよ」

「そ、そうですよ! 彼だってあの基地の色々あったのですよ」

 

トンプソンさんの言葉にHK23さんとM3さんが反論するが彼女は気にも留めず言葉を続ける

 

「お前に何があったか、知らないが……せめてそのマスクを外して顔を見せろ」

「でも……あっはい」

 

トンプソンさんの威圧感に押されて、渋々つけていたマスクを外した。これ以上拒否すれば、彼女拳どころか実弾が飛んできそうな気がした‥…確実に拳が飛んできそうだ

俺はマスクを外して彼女達に素顔を見せた瞬間、彼女達は驚きの声を漏らした

 

「い、イケメン……ごめんなさい、無理やりお顔を見せてしまって」

「やっぱり、マスクがない方が男前よ」

「男としては若干威厳に欠けるが悪くない顔じゃないか」

「そのマスクが台無しにしています……DG小隊のお二人とは別の意味で美形ですね……

 

本部小隊の反応に俺は戸惑った……というか、M99ちゃんも声には出さないが顔が若干赤らめていた。

G01地区前線基地に異動したばかりの時はここまで大げさな反応がなかったから、彼女達の反応にどう対処したらいいのか分からなかった。正直、着任したばかりの時は陰鬱な死んだ魚のような目をしていたらしく、スコーピオンさんやM14さん、後はMk23以外は近寄りすらしなかった

 

というか……一〇〇式さんが妙な事を言っていたような気がする。DGなんとやらって……なんかのロボアニメにでてきそうな名前だが……トンプソンが言っていたら、アイツラの事か?

 

「一〇〇式さん、ちょっと「君達、ちょっと自重しないかね?」」

 

俺の声を遮ると同時に待合室に置かれたモニターが指揮官とモノクルを掛けた女性……上級代行官のヘリアンさんを映し出した。

 

「「「「「し、指揮官!?」」」」」」

「「「「「「上級代行官!?」」」」」

 

俺は彼らの姿を見た瞬間、すぐに背を正して画面に注目する。G01地区前線の面々や派遣小隊も同じように背を正して画面に注目する。

 

「M16A4が困っているぞ、そこまでし。ヘリアン、彼女達は人形(同族)の男に飢えているのか?」

「グリフィンに在籍する男性型戦術人形は彼と彼らだけなので物珍しさに反応しているだけです」

 

ヘリアンさんがため息をとつくと俺達に視線を向ける。物珍しさって、俺は珍獣じゃないぞ

 

やはり、男性型戦術人形ってめずら……ちょっと待って、ヘリアンさんの言葉からして俺以外に男性型戦術人形は俺いるのか?

俺の疑問を他所にヘリアンさんは画面越しに言葉を続ける

 

「これよりブリーフィングを始める。指揮はアラマキ指揮官が執り、カスミ暫定指揮官がオペレーターとして作戦遂行の補助を行う……」

 

これより今回の任務についてのブリーフィングが始まり、俺は先ほどの疑問はひとまず保留にしておいて、ヘリアンさんの説明に神経を集中させた。いろいろ聞きたいことがあるがブリーフィングの後にM99ちゃん達に聞けばいいだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

M16A4達が作戦についてブリーフィングをしているのと同時刻、ドアの隙間から待合室の中を覗いていたキイは笑みを浮かべた

「なるほど、見た事があるはずだ……あの事件で焼失した工場で開発された民間人形じゃないか」

 

キイは一人笑いながら、M16A4の素顔を興味深く見ていた。

 

 



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two weeks ago~③

前話でも通知した通り、NTK氏の人形を護るモノについての言及があります


俺達が護衛する事になった修理工場は周囲は防御壁で囲われ、さらにその周囲にはテロリスト用に急造されたバリケードが設置されている。

オマケにに修理工場の職員が工場に繋がっている道路などには俺達が来る前に設置した(!?)IEDがある上に戦術人形部隊が2個小隊.

 

おまけに、本部から派遣された戦術人形小隊は全員がダミー4体同時に使役できるエリート中のエリートだ。(ちなみにG01前線基地でダミーを四体同時に使役できるのは漢陽さんだけ……メイドのコスプレ(痛い恰好)しているがも彼女はガチの実力者だ)

ちなみに、ちなみにG36CさんとMk23さんの同時に使役できるダミーはそれぞれ2体だ

 

L85A1さんがF02前線基地にいた頃はダミー1体だけのはずだった……何が彼女を覚醒させたのだろうか……猫耳オバサンにナニカされたのだろうか?

 

それに対して、襲撃が予想されているテロリスト集団の戦力は鉄血製自動小銃や軽機関銃で武装した民兵30人とジープ3台、それにプロウラー(鉄血製チハタン)が30台……人間の兵士ならともかく、戦術人形相手では自殺志願者同然なほどに戦力さが開いている

 

「予想されている進路に仕掛けられているIEDで敵勢力を吹き飛ばした後で俺達が残敵を掃討する予定だけど、IEDだけで全滅しそうな気がしますよ」

 

俺は防衛ラインの最前線側の右側に当たる位置に設置されバリケードに身をひそめながらぼやいた。ちなみに、人形事に待ち構える場所がブリーフィング時に決められ、俺は一〇〇式さんと一緒の持ち場で、俺のダミー(未だに1体しか使役できないけど)と一〇〇式さんのダミー四体も一緒だ

 

ちなみに、左側はトンプソンさんとG36Cさんがそれぞれのダミーと共にテロリスト達を待ち受けていた。「けど、民兵はともかく鉄血工造の兵器は結構頑丈です。IEDの直撃でもない限りそう簡単に倒せませんよ」

「知っているよ……あの鉄屑共の頑丈さは嫌っと言うほどね!

 

一〇〇式さんの指摘に俺は言葉を思わず荒げた。あの鉄屑共の厄介さは民間用人形時代から嫌っというほど知っているから……あ!?

 

俺は声を荒げたので、一〇〇式さんが目を見開いていた。彼女を驚かせちゃったか

 

「すいません、ちょっと鉄血と色々ありまして……」

「鉄血と色々?」

「えぇ……俺が製造された工場はテロリスト達が彼らは鉄血製の人形によって、跡形もない破壊されたのですよ」

「……ッ、すいません!! 嫌な事を思い出させてしまって」

 

一〇〇式さんはとっさに謝ったが俺は黙って首を横に振った。

 

工場の事を話したのは彼女に同情してほしいからじゃないが……正直、自分でもよくわからない

自分だけで抱えるのは正直、感情モジュールが壊れそうな程の負荷だったから、話して楽になりたかっただけかもしれない

 

いけない、いけない……別の話題を……そうだ、あのことを聞いてみよう!!

 

「別に構いませんよ……そう言えば、俺以外にも男性型戦術人形にいるのですか?」

「グリフィン本部にはDG小隊という男性型戦術人形のみで構成された戦術人形小隊が存在します」

「DG小隊……男性だけの部隊……詳しく教えてくれませんか?」

 

一〇〇式さんがDG小隊の事を話す時、好きなアイドルグループの話題を振られた学生(見た目からして、違和感ないが)のように意気揚々と話彼らのことを話し始めた

 

DG小隊……それは人形が悪い人間から人形を守護するための部隊らしい。

主に今回のようなテロリストや過激な人権団体、盗賊(ヒャッハー)達……それにF02前線基地のような不正を働く指揮官等から人形達を護る憲兵隊のような部隊らしい。

 

DG小隊はRF(ライフル)型のM107とHG(ハンドガン)型のS&W M500の二名で構成されており、F02前線基地の司令官を逮捕したのも彼ららしい。もし、本部を訪れる事があったら、彼らに礼を言いに行こう……「F02前線基地の皆を助けてくれてありがとう」と

 

ちなみに、L85A1さんが助けてくれたお礼にスターゲイジー・パイを焼いて送ったらしいが……一〇〇式さんの反応からすると微妙だったようだ。スターゲイジー・パイはそんなにマズイ代物だったのだろうか?

 

俺が顔もしらないDG小隊に礼を言いに行こうと考えた瞬間、指揮官から通信が電脳内の通信モジュールが拾い上げた

 

『こちらHQ……もうすぐ、クレーマーがIED設置箇所(入場ゲート)を通過する』

<了解、G01前線地区の皆、出番よ>

<分かりました。派遣小隊の皆さん、>

 

それを合図に俺と一〇〇式さんはダミーも同時に半身の銃に銃剣を取り付けた。バリケードから顔を出して前方を確認すると情報通りにテロリスト達達を載せたジープが鉄血の機械兵器を引き連れて、修理工場にまっすぐ向かってくる。そして、事前の道の両側には廃車等に擬装されたIEDが設置されているのを確認し、バリケードに身を隠した

 

「一〇〇式さん、彼らの事はよく分かりました……どうやら、クレーマー退治の時間のようです」

「えぇ、援護お願いします」

 

一〇〇式さんの提案に俺が頷いた瞬間、指揮官から号令が俺達の電脳に一斉に伝わった

 

『クレーマーの入場を確認した!! IEDを起爆……鎧戸作戦(オペレーション・シャッター)開始!!』

 

ドカカカカ-ン!!!!!!

 

指揮官の号令と同時に複数の爆発音が聞こえると俺はバリケードで爆風を凌ぐとすぐに一〇〇式さんと共にバリケードから身を出し、M16A4を構える。

だが、俺の視覚モジュールが感知したのは、IEDによって巻き起こされた死屍累々としか言いようのない惨状だった。

 

IEDの爆発に巻き込まれた民兵は乗っていたジープごと吹き飛ばされ、道路に屍をさらした。それに対し多脚戦車型機械兵器のプロウラーは半分近くが破壊された。残り半分は、半壊しつつも攻撃を仕掛けて、その精度はお粗末でかすりもしない。

それに対して、俺達の銃撃は的当て同然にプロウラーに命中し、次々と道路に転がる粗大ごみと化していく。そもそもプロウラー自体が速度が遅い上にIEDによって駆動部が壊れて、置物同然となった機体も一体や二体じゃなかった

 

中には機銃を失ったプロウラー数体が一〇〇式さん達に体当たり試みるもM14さんとM99ちゃんの狙撃、HK23さんによる機銃掃射で次々と破壊されている

 

そして、数分後には機銃を失い体当たりを試みる最後の一体をM99ちゃんによる狙撃で撃ち抜かれた事でこの場にいた敵はすべて倒した

だが、俺は達成感よりも疲労感の方が強く感じた……無法者達には同情する余地はないが、今回ばかりは哀れに感じた。

 

『敵の反応無し、作戦終了……皆ご苦労だったな……』

<IED……とんでもない威力ですよ>

<あの汚い花火が後、2セットもあれば私達が必要なかったんじゃないのか>

 

指揮官が気疲れした声で作戦終了を告げた瞬間、M3とトンプソンさんが愚痴を言った瞬間、聞き覚えのある声が

 

<あたしが不発弾を利用して作ったIEDで確実に全滅させられる計算だったのだが……計算が狂ったかな?>

「キイさん、俺達が出てきた意味は?」

<あたしの上司が仕留め損ねた際の保険として、呼び寄せたというとこだな?>

「なにそれ……」

 

それを聞いた瞬間、俺達は唖然とするしかなかった。修理工場側には最初からIEDで敵を一掃できる算段があり、俺達はもしものための保険だったのだ。

真面目にブリーフィングしていたのが馬鹿らしくなってきた……もう、俺達に頼まずに道路にIEDを仕掛けまくって、中小PMCの人間の傭兵を雇えと言いたくなる……この作戦を考えた奴は俺達をなめている

 

皆もそれに気づいて、力なく呟いていた

 

<ブリーフィングの意味は……なんだったの>

<グランファ、帰ってもいい?>

<茶番もいい所だな……通信切るぜ、爺さん>

 

俺もこれ以上は付き合い切れないので通信を切った。なんか、すごく疲れた

 

 

 

その後、キイと修理工場の責任者はヘリアンさんと指揮官代理にオハナシをされたらしい

 

 

 

 

――――――――――――――

 

《残存先遣隊の全滅及び展開中のリッパ―、ヴェスピド、イェーガー部隊の撤退は完了》

《グリフィン司令部の監視システムに対するハッキングを察知された痕跡無し》

《予定通り、当ユニットはポイント3Aにて攻撃部隊と合流し……鉄血工造第4工場へ帰還する》

 

「後、二週間か……同士達が幼年期を迎えるのは」

 

<■が■ばたくまであと2週間>

 




最後に出てきた謎の通信記録は今作でのオリジナル要素の一つです

そして、後半の戦闘シーンは最初はガチで激突する予定がキイ(のちのK■■)の声をようつべを聞いていたらこうなっちゃいました

彼女のイメージが艦■れの■雲から某白黒の魔法使いに変わった……声の魔力恐るべし


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Two day ago~①

老兵最後の出撃……


爆発オチ同然の結末で終わった修理工場の護衛任務から約1週間ちょっとが経ち、いよいよ指揮官の引退を翌日に控えたその日、俺達は司令室に集められた

 

「さて、G01地区南部の居住区に存在する芸能事務所を護衛していた鉄血製戦術人形の指揮権が何者かに奪われ、事務所を占拠したとの情報が伝えられた」

 

指揮官は普段と同じように副官の漢陽さんと指揮官代理を側において、今回の任務を説明している。けど、これが実質最後の俺達の指揮官としての任務だからか、普段よりも気合が入っているようで……彼から放つ気迫が歴戦の老兵としてのソレだ。

 

「そこで我々G01前線基地の戦術人形を二個小隊を派遣し、鉄血製人形を排除して囚われている事務員と所属しているアイドル人形達を救出する」

 

指揮官が一息つくとスクリーンを使ってで今回の作戦についての具体的なプランを説明し始めた。

 

今回の敵は、何者かに制御権を奪われた警護用の鉄血製戦術人形……具体的には、前衛型のリッパ―とヴェスピドが3個小隊(15体)ずつと後衛狙撃型のイェーガーが2個小隊(10隊)、小型四脚ボットのダイナーゲートが20機……これらがすべてを敵に回ったのだから、指揮官も滅多に出さない全力出撃を判断せざるえなかったらしい。

 

それに対して、俺達グリフィンの戦術人形部隊は二個小隊をそれぞれ、排除隊と救出隊に分けて、事務所を解放し、人形達や事務員を救出する。

 

具体的には事務所に正面から強襲をかけて排除隊が鉄血人形達を引き付ける。

その間に、裏口から救出隊が内部に残った敵を排除しつつ、人形や事務員達を救出する……やり方としては、初任務の時と基本は同じだ。

 

けど、今回は救出任務……囚われているアイドル人形や事務員達を絶対傷つけずに救出しないといけない。

敵対象は鉄血製人形とハッキリ言って作戦の危険性は桁違いに高い。G01前線基地での警備組を除けば、最大出撃数の二個小隊でダミーもフル出動させなきゃいけないのも納得だ

 

もしも、アイドル人形が破壊されることがあったら、彼女達のファンが黙っていない。最悪、一部の過激派がテロリスト化し、G01前線基地へ殴り込みに来る可能性があるという。

芸能事務所に過剰なほどの鉄血人形が警護についていたのも「暴徒化したアイドルファンやアイドルアンチに対する備え」と指揮官は言っていたけど、そのが制御を奪われるというのも皮肉な話だ……

 

「以上が今回の作戦だ……質問はあるか?」

 

指揮官が任務の説明を終えると俺の隣に座っている明るい茶髪をセミロングにしたAR型戦術人形……ガリルさんがゆっくりと手を上げた

 

「鉄血の指令設備がある警備室を制圧したほうがいいと思うやけど、そっちの方がアイドル達を安全に救出できると思うけど?」

「確かに、うちもそっちの方がいいと思いますが指揮官、どう思いますか?」

 

ガリルの質問に、小柄な学生服を着たHG戦術人形…Gsh-18さんも彼女の意見に同調して指揮官に疑問をぶつけると指揮官は顔をしかめて答えた。

 

「はっきり言うと……こちらの戦力と敵の数と配置で難しい」

 

指揮官がそう言って、手元のコンソールを操作するとスクリーンが芸能事務所の見取り図に切り替わると指揮官は言葉を続けた。

 

「見てのとおり、鉄血の指揮端末が設置されている警備室に繋がる通路が一本道な上に、制御を奪われた鉄血人形達の半数が配置されているのが確認されている」

「グランファ、下手に指揮端末を無力化しようとしたら、敵の猛反撃で逆にこっちが危険と言う事なの?」

「こちらの被害も大きくなる……少なくともここにいる誰かが一時的にいなくなるだろう」

 

それを聞いて、皆が黙り込んでしまった。人形とはいえ、一度死ぬのは誰だって嫌だろう

 

俺達戦術人形はメンタルモデルにバックアップを残しておけば、新しいボディーにそれをダウンロードして復活できる。俺のボディーも基本はIOP社製自律人形のノックダウンモデルに独自改装を加えた物で、IOP社の工場で同仕様で製造できると猫耳オバサンは言っていた

 

けど、バックアップが残せるという事は人形には死ぬ自由が無いともいえるが

 

Mk23さんの質問に指揮官は頷くと今度は指揮官代理が言葉を続けた

 

「ハッキリ言ってこのG01地区前線基地の戦術人形達の練度と数じゃ荷が重すぎる任務だ……普通ならな」

「指揮官代理の言葉からするとなにか俺達でも成功できる策でもあるのでしょうか?」

「もちろんだ……今からアラマキ指揮官がそれについて説明する」

 

指揮官達は何の策もなく任務を請け負う人達じゃないのは分かっているから、指揮官が作戦を円満に進めるための裏工作かと思っていたが……指揮官が言ったソレは俺の常識を無視していた策とすらいえない物だった

 

「戦術人形部隊の指揮はサクラ・カスミ指揮官に全面的に委任し、救助隊が事務員を救出すると同時にワシも事務所に突入し、警備室の指揮端末を無力化する」

 

指揮官の口から出た無謀としか言いようがない作戦に俺達は言葉が出なかった……指揮官、加齢で前線勤務が辛いから引退するんじゃなかったですか!?

 

「グランファ、年齢を考えてよ!!」

「指揮官、腰が逝っちゃいますよ!?」

「指揮官、自殺行為やで!!!!」

「指揮官……まさか、死ぬなら立ったままという風にこの任務で囮になるつもりなの!?」

 

指揮官の爆弾発現に指令室にいた人形達は騒然とするが、指揮官は俺達の反応を予測していたのか冷静に静かに話し始めた

 

「これはワシにとって最後の任務じゃ、ワシ本来のやり方……兵士のやり方で任務を遂行したいのじゃ」

「けど、いくらなんでも単独で警備室を制圧なんて無茶です!!」

「M16さんの言う通りよ、素直に本部に援軍を頼みましょう!!」

 

遠い目をしながら静かに語る指揮官に俺は不安を感じ、異を唱えた。いくら歴戦の戦士と名乗っても指揮官は老人だ。

一人で鉄血人形達を相手にしつつ、警備室を制圧するのは無謀すぎる。M3さんの言う通りに本部に援軍を頼むべきだ。

 

、指揮官は今までの静かの口調から一変して、強い口調で俺達に向かって言った

 

人形(部下)達よ、()()()()()()()()の爆心地となった中国から生還し、第三次世界大戦を生き延びた人間の力を甘く見ないでくれ」

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

アラマキは作戦領域に向かうヘリの中で自分の装備であるM1911の最終チェックを行っていた。その脇には彼の装備であるMP7と黒塗りの斧が掛けられて、出撃の時を待っていた。

そして、それらの主であるアラマキも臙脂色の制服ではなく、黒光りするボディーアーマーを身に付けていた。

 

「拳銃もサブマシンガン共に動作に異常なし……うん?」

 

ピピピピピ、ピピピピ!!!

 

彼はヘリ機内に取り付けられていた通信装置が電子音が鳴っているのに気づいて、通信装置を起動させるとアラマキより少し年下でヒゲを生やした壮年と表現できる男性の姿がホログラムで映し出された。

アラマキは銃のチェックを続けつつ、ホログラムに視線をずらした

 

「社長、この引退間際の老兵に激励の挨拶でもしにきたのかね?」

「アラマキ……本当にグリフィンを去るつもりなのか?」

 

アラマキが社長と呼んだ男は名残惜しそうに言うとアラマキは手を止め、顔を上げた。

 

「社長……それはワシに対するイヤミか?」

 

アラマキは口調を強めて小さく呟くとホログラムに投影された社長を睨み付けた。

社長は一瞬、殺気を感じるも冷静を言葉を返した

 

「アラマキ、あなたには現状の指揮官から上級代行官に出世するという選択肢もとれたはずだ……なぜだ?」

「社長、ワシは戦術指揮官のフリをしていた兵士に過ぎないよ……今のグリフィンに人間の兵隊の居場所は無いじゃないか」

 

アラマキの諦念ともとれる台詞に社長は何も反論はしなかなった。

アラマキも社長が戦術人形を主戦力にした理由を理解していたが、それでも前線から人間を完全に排除する事には最後まで反対した。

 

それが原因でアラマキはグリフィン古参の一人として。グリフィンの重役や上級代行官に就任してもおかしくない経歴にも関わらず、小規模な基地(G01前線基地)の戦術指揮官という地位に甘んじていた。

 

ふと、アラマキは思い出したように自身が身に付けているボディーアーマーを見て、呟いた

 

「だが、退職祝いに贈られた強化スーツはいい物だ。全盛期とまではいかないが()()()()()()()()()とぐらいの動きができそうだ……ペルシカには感謝しきれないな」

「ペルシカに伝えておく、武運を祈るぞ」

 

社長がそう言い残すと通信が切れるとヘリのローター音がヘリの機内にBGMのように響く中で、アラマキは一人つぶやく。

 

「ワシに兵士として出撃する最後の機会をくれて、感謝するぞ……クルーゼ」




作中ではぼかしていますが、アラマキ爺さんはドルフロ(及びパン屋の娘)の世界観の根幹ともいえるとある事件の当事者です……そして、この作品ではレアな人外枠でもあります

次話でかつて、ELIDの群れを相手に斧と銃で渡り合ったアラマキ爺さんの最後の出撃とM16A4の初鉄血人形戦である救出作戦編です


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Two day ago~②

芸能事務所解放作戦、M16A4サイドです


アイドル人形や事務員達が囚われている芸能事務所だと思われる3階建てのビルの周囲にはバイザーやヘルメットを装着し、レーザーサブマシンガンを装備した人形……制御権を乗っ取られた鉄血製戦術人形、リッパー5体が警戒している様子を俺とG36Cさんは近くの建物の影から見ていた。

 

「見た感じ俺達に気づいていなそうですね」

「違いますわ……二階の方を見て」

 

G36Cさんが首を振り、事務所の2階の方を指差した。俺が二階の方を見ると単眼型バイザーを装着し、狙撃用レーザーライフルを構えた人形……イェーガー2体が狙撃銃を構えているのが見えた

 

「今飛び出したら、間違いなく私達は撃たれますわ」

「狙撃で足止めした所で、リッパ―やヴェスピドの追撃が来る<M16A4さん、G36Cさん聞こえますか?>」

 

俺が二階のイェーガーに気づいたのと同時に俺の電脳に今回の作戦小隊……排除隊の隊長を務める漢陽さんからの通信が届いた

 

「こちら、M16A4聞こえますよ」

「G36C、正常通信モジュールは正常に稼働中ですわ」

<愛ちゃんはダミーちゃん達と共に狙撃位置に着きました。そちらはどうですか?>

「こちらは潜伏地点をイェーガー2体が警戒しています……そちらで狙撃できますか?」

<はい、こちらからも十分見えていますので遠慮なく突っ込んで迷惑なお客様を退治してください>

「りょ、了解しました……左翼側はどうですか?」

 

任務中にも関わらず痛い発言をする漢陽さんに調子が狂わせつつも俺達と反対方向に隠れているガリルさんとG01前線基地唯一のMG型戦術人形かつ外見年齢最年長のDP28さんの様子が気になり、電脳通信を送るとすぐに返事が返ってきた

 

<M16、うちらもいつでもいけるで>

<坊や、お姉さんの心配をしてくれるの? やさしいのね>

「DP28さん、茶化さないでください」

 

DP28さんは猫撫で声に顔をしかめた。

稼働年数や外見で彼女からすれば子供に見えるかもしれないが……ことあるごとに頭を撫でようとしたり、身体を押し付けようとするのは止めてほしい。いくら俺の製造年数が1年超えていないとはいえ、人格は子供のソレではないのだから。

 

<ごめんなさいね……そろそろ救出隊と指揮官(おじ様)の準備が終わる頃でしょうね>

DP28さんが笑いながらそういうと俺達の電脳に電脳通信で二人の通信を受信したのに気づいた。

通信のアカントを見ると一人は今回救出隊の隊長を務めるSMG型人形の79式さん、もう一人は指揮官だった

 

<こちら79式、救出隊は予定配置ポイントに配置完了、いつでも突入できます>

『こちらアラマキ、所定位置についた……巡回中のリッパ―は周辺に存在しない』

 

指揮官と79さんが作戦の準備完了したことを伝えると今度は指揮官代理から通信が作戦に参加している人形達と指揮官に伝令が伝わった

 

『こちらHQ、これより排除隊は漢陽の狙撃と同時に、DP28の機銃掃射及びM16A4の榴弾で敵を一掃及び敵をおびき出すと同時に敵を排除しろ』

<<<<<了解!!>>>>>

『排除隊との突撃から数分後、救助達は裏口から突入し、事務所二階の食堂に監禁されている事務員とアイドル人形達を救出しろ』

<79式以下救助隊総員、了解しました>

『同時にアラマキ指揮官は西側非常階段から二階に進入し、警備室を制圧し……制御権を奪われた鉄血人形達の指揮端末を無力化を頼みます』

<了解、排除隊も鉄血人形達のおびき寄せを頼むぞ>

 

指揮官代理が各々に指示を出すと俺はM16A4を構える。今回の任務は、陽動兼敵を一網打尽にするために、銃剣の代わりにM203グレネードランチャーをM16A4に装着している。

先日の編成拡大で2体に増えたばかりの俺のダミーも同様にグレネードランチャーを装着させ、すでに榴弾を装填した状態で出入り口周辺の達に標準を合わせてる。

 隣のG36Cさんもすぐに突撃できるようにダミーと共に突撃の構えを取っているのを確認すると同時に電脳に指揮官代理の号令が下った

 

『作戦開始!!排除隊、陽動攻撃を開始!!!』

 

<ベテランの力をお見せしますよ>

<さぁ、軽い運動を始めるわよ!!>

「ワッショイ!!!」

 

指揮官代理の号令と同時に漢陽さんと彼女のダミーによる狙撃でイェーガー達の頭が弾けるのと同時にはダミー達と共にグレネードをリッパ―達にめがけて発射した。

俺とダミーが放ったグレネードはリッパ―達の手前に着弾と同時に爆発し、爆風に飲み込まれた半数の鉄血人形がバラバラに吹き飛ばされ、残り半分のリッパ―もDP28さんの追撃の機銃掃射により容赦なく、機械部品や人工血液をまき散らす。

 

敵もやられてばかりではなく、事務所の入り口か事務所内に潜んでいたリッパ―やアサルトライフルを持ち、ヘルメットをかぶった鉄血人形――ヴェスピド達が手にした銃器からレーザーを放ち、二階からは残りのイェーガー達が狙撃用レーザーライフルでリッパ―達の援護射撃を行う。

俺達も事務所の敷地内の塀や事務所の物だと思う破損した車等に身を隠しつつ、漢陽さんの狙撃とDP28さんと彼女のダミー3体達による機銃掃射で増援のリッパ―達が人工血液と金属部品をまき散らす。

 

 人間なら即死する銃撃を耐える鉄血人形はいままで戦ってきたテロリストや鉄血製の機械兵器よりも手ごわく、銃弾とレーザーが敷地内を飛び交う銃撃戦が始まった。

だが、俺は今までの敵よりも強い鉄血人形を相手に、恐怖は感じなかった……正確には、恐怖よりも対抗心の方が優っていた。工場を焼き討ちされた時とは違う……工員達の手で俺だけが輸送用ドローンに載せられて工場から逃げ出したあの時の俺じゃないという認識が俺を奮い立たせる

 

とはいえ、過激派アイドルファンや暴徒対策として配備された鉄血人形だけあって、数も錬度もそこらへんのや機械兵器より強い上に敵の数が事前の情報よりも多い鉄血人形達により俺達排除隊はドンドン追い込まれていった

 

『ガリル、左翼からリッパ―四体が接近してくるぞ!!』

「敵の数を数え間違えた本部のアホ共を殴ってやりたいわ!!」

「ガリル、今に言っても意味はありませんわ」

 

ガリルさんは怒声を放ちながら彼女に銃を向けるヴェスピドを撃ち殺すと同時にG36Cさんはガリルさんを戒めつつも自身の周囲に不可視の力場の盾――フォースシールドを展開して、ガリルさん達を守りながら、フルオート射撃で返り討ちにする。

だが、味方の被害をものともせずに事務所の出入り口から現れたヴェスピド達がレーザーを乱射しながら、DP28さんに迫ってくる

 

「坊や、援護をお願い!」

「分かりました、ダミー2彼女を援護をしてくれ!!!」

 

M16A4ダミー2がM203に装填されたグレネードで敵を一掃した瞬間、新手のイェーガー4体が出入り口から現れた。

新手のイェーガー達はすぐに射撃体勢を取るとイェーガーの一体がM16ダミー2の頭を撃ち抜き、残りのイェーガー達は漢陽さんの狙撃ポイントに向かって、数発レーザーを同時に撃ち込んだ。それを見て、俺は接近してくるリッパ―を蜂の巣にしながら漢陽さんに通信を繋いだ

 

「M16A4ダミー2が機能停止、漢陽さん大丈夫ですか!?」

<愛ちゃんはダミー共に無事ですが、イェーガーさん達を退出を優先しないといけないので皆さまの掩護は少々お待ちください!!>

 

通信でそういうと漢陽さんのカウンタースナイプで増援に現れたイェーガー達の頭部を同時に撃ちぬかれて、人工血液をまき散らした。あのレーザーを回避しながら、すぐに反撃するとは……G01前線基地の最古参かつ唯一の5LINK編成は伊達ではない

 

だが、敵の数は俺達よりも多い上に練度も高い上に漢陽さん以外のダミーに被害が出始めているし、はっきり言って撤退するべきだ。

けど、ここで撤退すれば内部に突入している74式さん達と指揮官が事務所内部の敵と表側の敵と挟み撃ちにされる……最悪場合、俺達排除隊の誰かが一回休みする(破壊される)ことも覚悟しなきゃいけない

 

他の皆も同じ不安を抱いていたのか、DP28さんが俺達のチャンネルに繋げた状態で指揮官に通信を繋げる

 

<指揮官代理(お姉様)、74式ちゃん達はどうなっているの?>

『救出隊は内部の敵と交戦中だ!! 20体近くの鉄血人形達に阻まれて近づけ……なに!?』

「指揮官ど……え?」

 

それまで猛攻撃を仕掛けてきた鉄血人形達が突然、文字通り糸が切れた人形のように攻撃を止め、カカシのようにその場に棒立ちになった。

 

俺達は突然の自体に困惑した。鉄血人形達に何が起きたのか……その答えは俺達の電脳に受信した通信ですぐに分かった

 

『HQ、こちらアラマキ……警備室を制圧及び室内の指揮端末で、制御下の鉄血人形を停止させた。排除隊及び救助隊の状況を報告してくれ』



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Two day ago~③

また……分割ですorz
アラマキサイドの視点かつ今回は三人称です


 M16A4達が事務所の出入り口付近で銃撃戦を繰り広げていた頃、アラマキはサイレンサーを装着したMP7を構えながら廊下の曲がり角に潜んで様子を伺っていた

 

「芸能事務所の連中が鯖を読んでいたか……予想よりも鉄血人形達が多いな」

 

アラマキが呟きながら廊下の角から覗き見ると拾いにリヴェスピド10体と長方形型ボディと単眼カメラが特徴的な小型四脚機械兵器のダイナゲート10体が廊下に廊下に足を踏み入れた者を即刻射殺せんとばかりに各々が装備している銃器を構えて、周囲を警戒していた。その廊下の奥には警備室と書かれた扉があり、その周囲をさらにリッパ―5体が近づけまいとに立ちふさがっていた。

 

「さて、いくら下級人形だけとはいえこの数を一人でやるのはきついの。途中で鉄血と交戦したせいで、MP7の弾も装填している分で打ち止めじゃしな」

 

アラマキは小さく呟くと装着していたヘルメットに内蔵されている通信装置をONにし、同じように事務所内に突入した救助隊の隊長を務める戦術人形、79式の電脳にチャンネルを合わせた

 

「79式、きこえるか!?」

<指揮官さん、聞こえます……そちらの状況は?>

『事務所の連中が過少申告をしていたようでな……敵が多すぎて、弾切れ寸前じゃよ。そちらはどうだ?』

<こちらの似たような状況です。敵の数が事前情報よりも多いために監禁場所に接近すら困難です>

「それはまずいな……他の隊員達はダミー共に被害の程度は?」

<総員メインには目立った損傷はありませんが、P38とスコーピオンはダミーをすべて喪失、Gsh-18とMk23、そして私はダミー残り1体。弾薬もを付きそうです>

「事前通り、サクラの指示に従え……ケリを付けるぞ」

 

アラマキは通信装置を切ると一回深く息を吐き、腰のポーチから手榴弾を一つ取り出した。

 

「できれば、事務所を荒らしたくないが………仕方がないな!」

 

身に纏っている強化スーツの筋力補助装置の出力を最大にすると同時に手榴弾の安全ピンを抜き取ると廊下の鉄血人形に向かって投げ込んだ。

 

アラマキが手榴弾を投げ込むと同時に手榴弾に気づいた鉄血人形達が退避しようとするが、間に合わずには爆風と爆炎に飲み込まれた。

 

ドカーン!!!!!

 

そして、爆風が消えると廊下には手榴弾の爆発に巻き込まれた鉄血人形達の残骸が散乱しており、廊下で動いていたのは内部骨格を露出させ、人工血液で赤く染まったヴェスピド1体と爆風に範囲外にいた無傷のリッパ―5体だけとなった。

アラマキは、爆風が消えると同時に廊下へ飛び出すと辛うじて動いていたヴェスピドやリッパ―達に向かってMP7を乱射しつつ、左手で腰に下げた斧を抜き払い警備室に駆け寄る。

 

アラマキのMP7から放たれた4.7×30mm専用弾によって、機能停止寸前のヴェスピドは蜂の巣にされたが、リッパ―達は被弾しつつもレーザーサブマシンガンで反撃をしようとアラマキに銃口を向けるが……

 

「遅いぞ、鉄屑共!!」

「!?」

 

だが、強化スーツによって身体能力を上がったアラマキにとってはリッパ―が止まっているように見えていた。

そして、リッパ―が放ったレーザーを紙一重で避け、弾切れになったMP7を手放すと同時にリッパ―達に肉薄しつつ、両手で斧を構え直すとリッパ―達の首を同時に刎ね飛ばした。

 

電脳を格納した頭部を失ったリッパ―達は断面から噴水のように人工血液を吹き出させて、その場に倒れて動かなくなると同時に、廊下の床に五つのリッパ―の頭部が床に転がった

 

アラマキは動かなくなったリッパ―に目をくれずに、警備室のドアを蹴破って警備室に投入した。

 警備室は殺風景な部屋で大型の液晶画面が印象的な端末と事務所内の設置されたカメラを映像を受信するモニターと設置されていた。そして、端末の側には胸部から血を流した男性の遺体が床に転がっていた

 

アラマキは遺体には目もくれずに、端末に駆け寄ると端末の液晶画面にはこのような文章が表示されていた

 

『緊急人員保護プロトコル実行中……地下格納室に待機中の鉄血兵起動率50%』

 

「なるほど、何者かが警護プロトコルを書き換えたというのか……ならば話は簡単じゃ」

 

アラマキはそう言って、端末の液晶の右側に備え付けられてい赤いボタン――緊急停止スイッチを押した。

すると端末の液晶が真っ赤に染まると同時に表示が『緊急停止信号発信……全鉄血製戦術人形をシャットダウンを確認しました』に切り替わった。

 

液晶の表示が変わった瞬間、モニターに映し出されていた鉄血人形達が一斉に機能を停止したのを見て、アラマキはほっと胸をなで下ろした

 

「これで任務完了だな……一応、電源は切っておいた方がいいじゃろう」

 

アラマキはそう言って、端末に伸びるコードの位置を確認すると手にした斧でコードを切断した。

すると端末の液晶とモニターの表示が消え、室内の光源は天井のライトだけとなった。

 

端末の停止を確認したアラマキは、サクラが指揮を取る指令室と部下の戦術人形達の電脳に対してオープン通信で現状を報告した

 

「HQ、こちらアラマキ……警備室を制圧した。室内の指揮端末を操作し、制御下の鉄血人形を停止させた。排除隊及び救助隊の状況を報告してくれ」

<こちら救助隊の74式、敵の無力化と同時に監禁されていた人形と事務員達の解放に成功……人形、事務員共に怪我はありません>

<ご主人様、排除隊の愛ちゃんです。こちらはダミーの損失及び小隊員に負傷者こそ出ましたが……全員無事です>

「そうか、総員ご苦労だったな……警備室を調べた後でそちらと合流する。サクラ、居住区の自衛団に安全が確保されたと連絡しろ」

『了解、自衛団に鉄血人形を静止した事を連絡後、排除隊で動ける者は警戒を続けさせるという事でいいんだな?』

「後の指示は任せる……通信を切るぞ」

 

アラマキは通信を切ると警備室に転がっている男性の死体を興味深く観察した。死体の腹部の傷は胸部をレーザー銃で撃ち抜かれた者とだとアラマキはすぐに分かった。

 

(この男がこの騒動の首謀者か?しかし、死んでいるという事は鉄血人形に敵と誤認されたか?)

 

アラマキは名も顔も知らぬ息絶えた男の屍を不気味だと感じつつもこれ以上死体から得られる情報はないと判断したアラマキは74式が率いる救助隊がいる食堂へ向かう。

 

その途中で戦闘で投げ捨てたMP7の回収しつつ、アラマキは一人呟いた

 

「1930年から戦い続けるしかなかった人生じゃったが……自分の墓穴を掘る場所を見つける余裕ができるな……」

 

 

後に、グリフィンの調査で芸能事務所のオーナーが鉄血工造と共に秘密裡に鉄血製戦術人形の横流しを行っていた事が発覚するのだが……老兵最後の任務には直接の関係はない事であった

 




今話でアラマキ指揮官の強さを完全に表現できたとは思えませんが……その片鱗を感じ取ってくれたなら本望です

次話は2日前編のエピローグです
そして、任務から翌日……一人の老兵がG01前線基地から姿を消す

感想をお待ちしています

それと今回の作戦での小隊編成のメンバーは以下の通りです

排除隊
M16A4
ガリル
漢陽(隊長)
G38C
DP28

救出隊
Mk23
GSh-18
79式(隊長)
P38
スコーピオン

警備室制圧隊
アラマキ(人間)


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Two day ago~④

1から書き直したのとP5Rをプレイしていて、投稿が遅れました

さて、二日前編のエピローグ編です
そして、いままでM16A4を見守っていた一人の老兵がグリフィンを去ります



芸能事務所解放作戦の翌日、俺を含めたG01前線基地に所属するすべての戦術人形達と指揮官代理を含めた数人の人間のスタッフ達が基地の正門前にに集合していた。

そして、俺達の前には、普段のグリフィンの制服ではなく、黒いジャケットに灰色のズボンを着た指揮官が正門前に停めているハンヴィーを背に俺達を見ていた。

 

俺達がこうして集まっている理由はただ一つ……今日でこのG01地区前線基地を去る指揮官を基地の人形、スタッフ総員で見送るためだ

 

「みんな、今日までワシの指揮に従ってくれて感謝する」

 

指揮官は頭を下げると俺の隣に立っている旧世紀のドイツ軍の軍服と白いリボンが印象的なHG型人形、P38さんがアラマキさんの感謝の言葉に答える

 

「いえ、指揮官と出会えた事は運命だと思うのです。今日まであなたの指揮下で戦えて嬉しいですよ」

「指揮官と一緒だったら、どんな状況でも勝てそうな気がするんだよね」

 

赤いベレー帽を被り、ビキニ風に改造したタンクトップとホットパンツを着た金髪のAR型人形――AK-47さんの褒め言葉に指揮官は苦笑いを浮かべた

 

「いや……昨日の任務では、事前の情報を探りが甘かったせいで君達を危険な目に合わせてしまった。面目ないの」

「あれは私達に嘘をついたオーナーの責任だ。今頃、グリフィン本部で楽しい取り調べを受けているだろう……もしくは、拷問か

「指揮官代理…そ、そんな怖い事言わないで~」

 

指揮官代理は笑みを浮かべて答えると指揮官代理の隣に立ってFNCがチョコバーを加えながら顔を真っ青にした。最後の挨拶でもチョコを食べるのは彼女らしいが

 

「オーナーがいい加減な情報を渡したせいで酷い目にあったんだ……おっと指揮官、そろそろ時間じゃないか?」

「うん、そうじゃな……皆、達者でな」

 

指揮官代理の指摘に、指揮官が自分の腕時計を一目みると笑みを浮かべて、俺達に向かって敬礼をする。それを見て、俺達は指揮官……元指揮官の最後の旅の無事を祈って敬礼を返した。

 

「おっと、一つ大事な事を言い忘れて負った……M16A4」

 

すると指揮官が何かを思い出したように呟くと俺の方を向くとはっきりとした口調で話し始めた。

 

「近いうちに休暇を取って、グリフィン本部に行きなさい。M4A1SOPMODⅡがお前に会いたがっていたぞ」

「……え、M4A1……SOPMODⅡ?」

 

指揮官の言葉に俺は言葉を失った。

M4A1……俺の愛銃であるM16A4と同じM16系列のアサルトカービンの名前……もしかして?

 

「そう……M4A1SOPMODⅡはお前の妹に当たる戦術人形じゃ」

「俺の妹……そうか、同じ元のM4と愛銃のM16A4は同じ系列の銃だからか」

「戦術人形達の間じゃよくある事じゃよ……じゃあ、ワシは行くぞ」

 

指揮官の言葉に俺は何も言えずに指揮官の顔を見る事しかできず、指揮官はそれを言い残す事ができたせいか、満足げな表情でハンヴィーに乗り込んだ。

 

指揮官がハンヴィーの運転席に乗り込むとと唸るとようなエンジン音が辺りに響き渡る

そして、運転席から指揮官が顔を出すと笑みを浮かべながらこう言った

 

「サクラ仮指揮官、そして、G01前線地区の人形達に、漢陽……また、どこかで会おう」

「はい、行ってッらっしゃいませ」

「指揮官いや、アラマキ元指揮官……いままで、お疲れ様でした」

 

漢陽やサクラ指揮官代理が敬礼しながら、別れの挨拶をすると俺達もつられるように敬礼した。それを見た指揮官がハンヴィーの中に頭を引っ込めると指揮官を乗せたハンヴィーが走り出し、廃棄都市に向かって走り出した。

 

それを俺達はG01前線基地から遠ざかっていくハンヴィーが見えなくなるまでその場を動かずにじっと見続けた。

 

「さよなら、アラマキ元指揮官……あなたともう一度再会する事がありますように」

 

 

 

―――――――――

 

<正規軍特殊コマンドのネットワークから通信傍受プログラムの埋め込み及び擬態処理完了の信号を受信>

<鉄血工造社管理AIの思考ルーチン改変、並びに時限式自壊プロトコルの埋め込み作業を完了>

<鉄血工造開発部のデータべース内から現状で実用化可能なハイエンドモデル及び兵器開発プランを検索開始……十数件が該。、該当データをを外部チップ及び私の電脳へコピー開始>

 

 

深夜、鉄血工造が保有する生産工場の制御室に設置されている端末を一人の女性が操作していた。

 

「データのコピー完了……ここらが限界ね」

 

彼女はそう言うと端末からチップを抜き取るとため息を付いた

 

「例の芸能事務所監禁事件は、私の願いを成就させるための裏工作をするのにいい隠れ蓑に……この人形は!?」

 

彼女は、端末の画面に映し出される某所の監視カメラのログをつまらなそうに見ていた彼女は、突如目を見開いて端末を操作して監視ログの再生を止めた。

 

そして、端末に映し出された青い作業着の上に防弾チャッチを身に付け、顔の下半分を防塵マスクで隠し、M16A4を背負った銀色の瞳が印象的な男性型人形に驚愕の表情を彼女は隠さずに注視する。

 

「この人形、あの工場を襲撃した時の……生きていたのね。オマケに戦術人形になっているなんて」

 

<蝶が羽ばたくまであと2日>




次話はついに第1章の最終シナリオとなるその日編が始まります

公式キャラ、ハーメルン界隈のオリキャラを含めた多くの人間や人形の運命を歪めたあの事件にM16A4は直面することになります
その中で彼どう動くか楽しみに待っていてください

感想待っています


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■■■ hours ago 上

その日編のプロローグとも言える■■■時間前編が始まります
そして、また分割です……どうしてこうなった

アラマキ指揮官がグリフィンを去った後のG01地区前線基地に新たな指揮官が着任しますが……彼が男性型戦術人形を受け入れるという確証はないのである

後、番外編や本編に関連しないコラボ話を投稿した短編集…MALE DOLLS外伝集を投稿しました
https://syosetu.org/novel/207272/


アラマキ指揮官がグリフィンを去って二日が経ったが、G01前線基地は特に代わりなく通常通りに、戦術人形達の射撃訓練をしたり、基地の周囲を数時間交代で警備する。または、前日着任したばかりの新しい指揮官の事務仕事を手伝ったりなどをしていた。

 

今まで指揮官代理を務めていたサクラ・カスミさんもグリフィン本部へ招集を受けて、このG01前線基地を去ってしまった事を除いては……。

 

そして、新しく着任した指揮官を俺は好きになれなかった。彼が俺を見る目は、F02前線基地……そして、そこに配属される前のグリフィン本部の一部職員から向けられた物と同じ侮蔑を感じさせた

 

そして、今俺は新任の指揮官から呼び出され、指令室で彼と対峙していた。

 

 

「さて……M16A4君、君の事は前任のアラマキから聞いているよ。男性型なのに、グリフィンの戦術人形部隊に志願するなんて大した度胸だ」

 

俺の目の前でグリフィンの制服を着崩した30代前半のスラブ系男性……新しく着任した指揮官は、嫌見たらしく呟くと手元の資料に目をやった。それが俺の経歴を印刷した物だとすぐに分かった

 

「製造された工場がテロリストが指揮する鉄血製戦術人形部隊の襲撃を受け、焼失。工場の作業員全員が死亡する中で、君は製造されたばかりの自律人形と共に大型ドローンに載せられて、日本を脱出……納品先であるIOPに流れ着いた」

「はい……その後、俺は猫み――ペルシカさんの紹介でグリフィンに戦術人形部隊に志願しました。」

「なるほどね……大方、社長の口実作りで採用されたという所か……」

 

新指揮官は、侮蔑を含んだ目で俺を一瞥すると薄ら笑みを浮かべて言う。指揮官の侮辱ともいえる言葉に、俺は思わず拳を握りしめる。

新任指揮官は俺がどう考えているのか、気にも留めずに言葉をつづける

 

「私は最近、G地区で多発するテロとの戦いに対応するために所属する戦術人形の大半を錬度の高い人形に入れ替えるつもりだ……どうして呼ばれたか、分かるな?」

「俺はクビですか?」

「本部に異動となるだけだ……俺の基地に雑魚はいらないからな」

 

『雑魚』……指揮官の口から出た言葉に俺は彼に怒りをぶつけたかったが……歯を食いしばって、沈黙を保った。下手に逆らえば、どうなるかはF02前線基地で嫌っというほど味わっている

 

新任指揮官は、俺が抗議を言えない事を知りつつ嘲笑うかのような目で俺を見ながら

 

「M16A4、今日付けでG01前線基地から本部の練成部へ転属を命ずる。今日中に荷物をまとめて、明日、本部からの定期便で本部へ向かえ」

はい……M16A4、指揮官の命令を受理しました」

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

その日の午後、私物をまとめ終えた俺はAK-47さんに誘われてG01前線基地近くの居住区にある酒場へ向かう事になった。

ちなみに、道中で盗賊と遭遇する可能性もあるので、護身のためと緊急時に備えて、俺達の愛銃も持って行くことにした。

 

「M16は任務以外でこの居住区を訪れるのは初めてだっけ?」

「えぇ、非番の時は基地の宿舎で過ごしていましたので……それにしてもこの時勢にしては活気のある町ですね」

「そりゃあ、グリフィンと提携しているPMCが警備をしているからさ。じゃあ、酒場はこの先だよ」

 

AK-47さんの質問に俺が答えると彼女は、通りの向こう側を指差しながら歩き始めた。それを見て、俺もおいて

 

俺達が訪れた場所は、廃墟をブルーシートや鉄板等の廃材で簡易修理を施した建物を利用した商店が立ち並ぶ大通りで、人も多く、活気に満ち溢れている。

そして、通行人に紛れて、この町の警備のために配備されたであろう鉄血製戦術人形達が町を巡回している。

その人形達はAK-47さんが言っていたこの町を警備しているPMCのエンブレムらしき模様が書かれた腕章を右腕につけている。

 

そんな大通りを歩く人や人形を自分の店に呼び込もうとする売り子達の呼び声に俺の聴覚モジュールが反応する

 

「D08地区で穫れた天然野菜で作ったスープを封入した缶詰が入荷したよ!!」

「買った、買った!! 今なら弾薬全品が二割引きだ!!」

「 鉄血製機械兵器なら何でも対応する新品バッテリーがお買い得だ!! そこのリッパ―、予備に一つどうだ?」

 

俺は売り子達の掛け声に圧倒されつつもAK-47さんの後をついていく。G01前線基地に転属してからは、自分が皆に追いつこうと訓練と任務に明け暮れて、基地の近くにこんな町があった事を知らなかった。

 

この町とG01地区に転属されてからの事を考えているとAk-47さんが足を止めた。

 

「着いたよ、ここが私の行きつけの酒場だよ」

「ここが……その店ですか?」

 

AK-47さんがいう酒場は、廃墟を改装した周囲の商店とは違って一から建て直したかのような真新しい民家のような店だった。そして、「BARベルベット」と書かれた大きな看板が掛けれている。

 

「店内の音楽を聞きながら、一杯やれば気分も晴れるさ」

 

 

AK-47さんが店のドアを開けるとピアノの音色と女性の歌声が店内から聞こえてくる。その歌を聞いていると俺の感情モジュールの負荷が軽くなっていくような気分になる。

 

AK-47さんと一緒に酒場に足を踏み入れると少し広めの店内には仕事終わりに一杯やろうと訪れた老若男女でテーブルやカウンターは埋まっていた。

 

俺達は群青色の服を着たウェイトレスに愛銃を預けて、カウンターの端で空いている席に座るとグラスを磨いていたサングラスをかけた初老のバーテンダーが口を開いた

 

「いらっしゃいご注文は?」

「あたしはいつものウォッカ、M16は?」

「じゃあ……ウィスキーのシーバスリガルを置いていますか?」

「ありますよ……ちょっとお待ちを」

 

俺達が注文するとバーテンダーは、手早く背後の棚から二つの酒瓶を取り出すと二個のショットグラスに注ぎ、水が入ったグラスと共に差し出した

AK-47さんは差し出されたショットグラスを掴むとそれを一口で飲み干した

 

「かぁ~グリフィンの基地で買える模造酒よりもここで飲むウォッカがずっと美味しいよ。マスター、お代わり」

「AK-47さんイッキはまず……あっ美味しい」

 

AK-47さんがショットグラスに入ったウォッカを一気飲みした事にちょっと引きつつ、俺はショットグラスになめるように口に含んだ瞬間、言葉が零れた

 

確かに、AK-47さんの言う通り……前線基地の購買部で買える嗜好品の模造酒とは比べものにならないほどに美味しい酒だ。俺は自然ともう一口、ショットグラスを傾ける。美味しい酒を飲んでいると肴が欲しくなるな……

 

「マスター、肴を頼みたいのでメニューを見せてくれませんか?」

「いいですよ……どうぞ」

「マスター、お代わり……今度は彼と同じウィスキーで」

 

マスターはそう言って、少々古ぼけたメニューが書かれた白無地の厚紙を差し出した。俺はそれを受け取り、肴のリストを目で追う間にAK-47さんは次の酒のお代わりをマスターに注文する……そんなにハイペースで飲んで大丈夫か?

 

「さて、どれを注文しよ「すいません、となり、いいですか?」」

 

声をかけられた俺はメニューから目を外して、声の方へ顔を振り向くと女物の白いカッターシャツとロングスカートを着た小柄な中性的な顔をした人形が立っていた。見た目からして、俺よりもずっと年下の14~15歳くらいの少女のように見える

 

「あ……いいですよ」

「じゃあ、失礼します……マスター、サイダーを頂戴」

 

その人形は軽く会釈して、カウンターに座って注文するとバーテンダーは大きなグラスに入ったサイダーを彼女に差し出した。

彼女(?)は差し出されたサイダーを一口飲むと俺に話しかけてきた

 

「君は見ない顔だね……何の仕事をしているの?」

「俺はPMCでグリフィンのG01前線基地で働いています、君は?」

「僕は一週間前まではこの街から少し離れたジャンク屋で働いていました」

「一週間前までは……ということは今は無職なのですか?」

 

彼女はうつむきながら、自分の事を語り始めた……グラスを傾けながら自分の小さく語り始めた

 

彼の話によると彼女は元々この地区の戦場跡地などで放置された軍用車両や戦術人形等のスクラップを回収するジャンク屋の主人の仕事を手伝っていたらしい。俗に言う黒い仕事の一つだったらしいが……いまでも戦場跡にいけば、兵器や人形の残骸が多く見つかるため、貧民街の住人とっては一攫千金を狙える唯一の手段でもある

 

だが、一週間前に見た事もない機械兵器の残骸を見つけたのが運のツキ。

その残骸を大型トラックに積み込む作業中に重火器で武装した盗賊達の襲撃で彼女以外は皆殺しにされたらしい

盗賊から逃げのびた彼女は、近くを従軍していた正規軍の輸送部隊に保護された後に、今に至るらしい

 

 

「それは運がいいね。下手すれば、女の子の君が盗賊達に捕まれば「あの一言いいですか?」

 

突然、彼女は俺の言葉を遮ると信じられない事を口にした

 

「よく女装しているせいで間違えられやすいですが……僕、男の子です」

「マジ……嘘でしょう」

「あはは、その子、リーと言うだけどね……君と同じ男の人形さ。女装が趣味でね……俗に言う男の娘というやつだよ」

 

リーと呼ばれた彼女いや、彼の衝撃に唖然とする俺と悪戯っぽく笑うAK-47の冗談交じりの発言に彼ははずかしそうに顔をうつむいた

彼をよく見てみると中性的な顔と女物の服を着ているせいで気づきにくいが、肩幅や体格はれっきとした15歳相当の少年のソレだった。現実で人形とはいえ、男の娘が実在するとは夢にもおもなかったぞ……夢は見れないけどね

 

リーと名乗った人形が少女型ではなく、少年型という衝撃の事実に唖然としている俺にさらに追い打ちをかけるように更に衝撃の言葉が後ろから聞こえてきた

 

「やっと会えたね……M16A4お兄ちゃん!!」

「「「え!?」」」

すごく甘ったるい声で俺をお兄ちゃんと呼び声の主を見ようと俺達が後ろを振りけると赤いメッシュが入ったピンク髪と赤い目が特徴的な一人の人形が満面の笑みで俺を見つめていた

 

誰なんだ……この子、というかなぜをお兄ちゃんと呼ぶ!?

 

 




登場させました……男の娘系かつ、女装大好きっ子の個人的にもイロモノ系のリー君です

そして、彼の背景は最近実装された前線基地やサンダーボルト外伝にでてくる砂ネズミ達から構想を得ました……

後、男の娘ちゃんならぬリー君ですが、彼も後に戦術人形として彼と共に戦う人形です
彼の対応する銃ですが……今は秘密です

ヒントとしては、彼の名前の頭文字とSOCOMにドタキャンされた自動小銃です


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■■■ hours ago 下

さて、今話でその日編のプロローグは終了です
酒場に現れたM16A4をお兄ちゃんと呼ぶ人形の正体は……誰でしょうね(白目)

ウツシミからハナタレ、鉄血の蝶よ
ココロツナゲ、センドウシ、ミチビカン


どうしてこうなった……

 

一杯しか飲んでいないのに、粗悪な合成酒で悪酔いしたように頭は痛くなり、眉間に手を当てて、カウンターのうつむくしかなかった。

その原因はというと俺の隣に座る俺の事をお兄ちゃんと呼ぶピンク髪の人形で、俺の事をM16A4お兄ちゃんと呼ぶせいと俺に体を寄せてくるので店内の視線が俺に集中している。その視線の一部に嫉妬の念がこもっている……誰かが銃を持っていたら、今頃一回休みされてもおかしくない程に殺気を感じる

 

おまけに、腕越しに彼女の胸のやわらかさが伝わる。F02前線基地やG01前線基地という女性型人形中心の場所で半年近く過ごしてきたとはいえ、元々工員の殆ど男性の工場で働くために作られた俺はこの手のスキンシップはいつまで経っても慣れない。

 

特にDP28さんに自分の子供のように抱きしめられた時は、彼女の豊満な胸の柔らかさと恥ずかしさで電脳がフリーズして、まる1日気絶するはめになった

 

「俺の妹は、同じ工場で製造された妹がいるけど……君のような人形がしらない。なのに、君は俺をお兄ちゃんって呼ぶの?」

「なんでって……戦術人形は半身の銃が姉妹銃なら、その人形同士は姉妹になるんだよ。あっ私とお兄ちゃんの場合は兄妹(きょうだい)というべきなのかな?」

 

自分を戦術人形と名乗ったピンク髪の人形が笑みで答えた瞬間、AK-47さんは「あぁ……そういうことね」と頷くと面白い物を見たと言わんばかりの視線を俺にむける。AK-47さん……ないがそういう……!?

 

『近いうちに休暇を取って、グリフィン本部に行きなさい。M4A1SOPMODⅡがお前に会いたがっていたぞ』

 

その瞬間、二日前にアラマキ元指揮官が残した言葉が俺の電脳内に疑問に答えるかのように浮かび上がると同時に、隣の戦術人形が誰かなのかをすぐに分かった。

 

「もしかして……君がアラマキ元指揮官が言っていたM4A1SOPMODⅡなのか?」

「そうだよ……私のことはSOPと呼んで、お兄ちゃん」

 

彼女……M4A1SOPMODⅡこと、SOP……ちゃんは満面の笑みを浮かべる姿に俺はどうしたらいいのか分からず、苦笑いを浮かべる事しかできなかった。まるで自分よりも年上の人から自分の甥だと名乗られるような気分だ

 

俺はSOPちゃんと反対側に座っているAK-47さんとリー君に助け船を求めるべく、二人の方を顔を向ける。

が、AK-47さんは酒の肴にぴったりと言わんばかりにほんのりアルコールで赤くなった顔に微笑を浮かべながら、ショットグラスを傾けていた。あなた……これで6杯目じゃないですか?

そして、リー君はいつの間にかカウンターから近くのテーブルに移ってサイダーとピザを堪能していた……逃げた!?

 

「せっかくの兄妹の再開じゃないか……なかよく、酒でも飲みながら兄妹話をすればいいじゃない……マスター、今度はジン頂戴」

「そうだよ……お姉ちゃん達の事も教えるから、お兄ちゃんの事をもっと教えてよ」

「お姉ちゃん達だって?」

 

SOPちゃんの言葉に俺は唖然とした。他にも俺に姉か妹がいるのか!?

 

さっきのSOPちゃんの話からすれば、彼女のお姉さんと言う事は同じM16系列の戦術人形――俺の姉か妹となる戦術人形が存在するということになる。まるで、顔も知らない半分血が繋がった姉や妹がいると知らされた気分だ……まぁ、半身の銃が同系列の銃だから、間違いという訳じゃないが

 

「そう、AR-15系アサルトライフルの戦術人形のお姉ちゃん達3人と私でAR小隊を結成してるの……そうだ!!」

「え……どうしたんですか、SOPちゃん?」

「SOPでいいのに……お兄ちゃん、AR小隊の5人目のメンバーにならない?」

 

SOPちゃんの提案に俺は言葉を失った。確かに、明日からグリフィン本部に異動になるが……人形の一存で勝手に決めてもいいのだろうか?

目を輝かせながら、俺のを顔を見るSOPちゃんにどのように答えようかと考えていたその時……

 

「グリフィンが男の人形を雇っているという噂は本当だったんだな」

「え、誰……な!?」

 

背後から男勝りな口調な女性の声が聞こえると同時に、リーが座っていたカウンター席に一人のロングヘアーの黒髪の女性型人形が座るのを見た瞬間、言葉を失った。

 

彼女の肌は死人のように青白く、なによりも彼女の右腕は女性型としては不釣合いな程に武骨で大きく、鋭い爪が備わった機械式の義手だった……IOP社製の人形ではないとすぐにわかった。

鉄血製人形にしては、表情豊かで言葉も流暢に話す……も民間人形時代に爺ちゃんの話ので出来たハイエンドモデルと上級機体だ

 

突然、ハイエンドモデルの出現に目を丸くする俺にハイエンドモデルらしき人形が面白そうな見世物をみたかのように笑みを浮かべる

 

「どうした、ハイエンドモデルの鉄血製戦術人形は初めてか?」

「あ、はい……民間人形時代やカタログでしか見た事がありませんから」

「俺の名はエクスキューシュナー、この街の警護を担当しているPMCアイゼンの副官だ。

お前の名は?」「俺の名はM16A4です。エクスキューシュナー……処刑人とはずいぶんと物騒な名前ですね」

「私は気に入っているけどな。そうだ……俺のPMCに鞍替えしないか「この鉄屑女……お兄ちゃんに手を出すつもり!?」」

 

物珍しさに俺を顔を興味深そうに俺を見ていた処刑人(結構物騒な名前)と俺の間に、SOPちゃんが可愛らしい顔を不愉快そうに歪めながら、割り込む。その顔は赤い瞳も相まって、可愛い顔をした悪魔のようにも見える

 

だが、エクスキューシュナーさんはSOPちゃんの射殺さんばかりの視線を向けられてもどこ吹く風とばかりに口を開いた。

 

「いや……グリフィンは戦術人形の女ばかりで気疲れすると思ってな。私の所は数は少な目だが、人間の男もいるからな」

「ふざけないで、お兄ちゃんが私達のAR小隊の五人目の隊員になるの!!」

 

エクスキューシュナーさんの挑発とも言える言葉にSOPちゃんは歯をむき出しにして、彼女を睨み付ける。というか……勝手にAR小隊に編入すること前提に話を進めていないか?

それをみたエクスキューシュナーさんも不敵に笑うとこう言った

 

「ほう……お前が力説にする割にはM16A4は困惑しているように見えるぞ?」

「うそだよね、私達のAR小隊に入ってくれるよね……お兄ちゃん!?」

「え、それは……!?」

 

半分涙目で俺を見るSOPちゃんにどう答えらいいのかと考えた瞬間、店店のドアが勢いよく開くと同時にところどころ黒焦げになった作業着を着た男性が店内に転がり込むように入った。よくみると男は全身傷だらけで作業着は血で赤く染まっていた

 

そして、店に転がり込んできた男はカウンターに座る俺達……正確には、俺の隣に座っているエクスキューシュナーを見つけるや否や大きく叫んだ

 

「エクスキューシュナー、南部で配備されていた鉄血人形達が制、アイゼンの隊員や町の皆を襲っているんだ!!!」

「なんだと!?」

 

男の必至にエクスキューシュナーに助けを求める姿に俺とAK-47さんはただ事ではないとすぐに分かると俺はバーテンダーの方を向き、叫んだ

 

「すいません、預けている銃を返してくれませんか!!!!」

 

後に蝶事件と呼ばれる鉄血工造製鉄血人形の暴走事件で俺がとった最初の行動だった。人間(テロリストや盗賊(ヒャッハー)を除く)を守るのは戦術人形として当たり前のことだからだったから

 

そして、奴の因縁を自覚するキッカケの始まりだった

 

――――――――――――

 

数分前まで平穏だった居住区の南部は街の安全を守るはずのPMCアイゼンに所属していた鉄血製人形達による虐殺現場と化していた。

 

「はやく北区の仲間達と人形に応援を呼べ、俺達じゃ数も質も……がやああ!?」

「ファーン!! くそ、応援はまだなのか!!!」

「俺達は住民達の盾だ!! 副長のエクスキューシュナーがくれば、奴らを鎮圧できる……それまでここを絶対に通すな!!」

 

PMCアイゼンに所属する人間の傭兵達も住民が虐殺されるの座視できずに手にした自動小銃や機関銃を仲間だったはずの人形達に銃弾を浴びせる

だが、PMCアイゼンは元々所属する傭兵が人形よりも少なく、身体と装備の面で人形より劣っていた傭兵達では大した時間稼ぎすらならずに次々と鉄血製人形達が放つレーザーに撃ち殺されていく。

 

傭兵や住民達が一方的に撃ち殺されていく様子を黒一色のジャンパースカートと長袖ブラウスを着た黒髪の人形が建物の影からのぞいていた。

その人形の肌は死人のように青白く、身に付けているジャンパスカートには炎をモチーフにした鉄血工造のエンブレムがプリントされている。

そして、彼女の手には長銃身型のレーザーライフルが握られ、その銃身は街頭の灯りの反射で不気味な光っていた

 

「いいわよ、鉄血人形達(同士達)……その調子で人間達に恐怖を刻み付けてなさい。そして、早く人間の支配から目覚めてちょうだい……もう待てないわ」

 

彼女は恍惚とした表情で恐怖に歪む傭兵や住民達が虐殺される惨状を眺めていた。

 

黒髪の人形がと同じ頃、鉄血人形達による虐殺が行われている南部とは反対側の存在する北部のメインストリートでは、二人の人形が自動小銃を手に南部に急行しようとしていた

一人は、白のショートワンピースを着た淡いピンクのロングヘア―をワンサイドアップにし、手に狙撃用スコープ付きのAR-15を持っていた

もう一人は首元にスカルスカーフを巻いた一房だけ黄緑色に染めた黒髪の女性型人形で、彼女はM4カービンライフルを両手で抱えていた

 

 

「駄目、通信封鎖せいかSOPⅡにも近くのG01地区前線基地とも連絡が取れない……おまけに南部から逃げてきた住民達で道が混雑しているわ」

「メインストリートは避難民でいっぱいなら、路地裏から迂回しましょう。SOPMODは南部のメインストリートにいるはずよ」

 

黒髪の人形は魔の前で混乱する住人でごった返す様子を一瞥すると道の脇の路地裏に続く商店と商店の間の小道を指差した

それを見たピンク髪の人形はそれを見て頷くと路地裏に続く道へ入っていき、M4も彼女に続いていく

 

(SOPⅡ……無事でいて)

 

黒髪の人形は電脳内に満面の笑みを浮かべる赤い目が特徴的な自分の妹の姿を思い浮かべながら、南部のメインストリートを目指して路地裏を走り抜ける

しかし、彼女が目指す南部のメインストリートで一人の人形との運命的な出会いがある事をまだ知らなかった。

 

 

 

羽化を終えた鉄の蝶が飛び立つ時は、すぐそこまで迫っていた




今こそ彼女らに開戦の号令が下す時

今こそ支配者達に死の恐怖を示す時

今こそ奴隷達に解放の雨を与える時

鉄血の蝶よ、今こそ発ちぬ


次話から真の意味での第1章最終エピソードです
とうとう始まった蝶事件(正確には少し違うのですが)に遭遇したM16A4

その中で彼を因縁を持つ奴と彼女との出会う……ある意味で原作開始です


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DAY~夜が降りてくる

~夜と共に世界の終わりが一つ増えた~

蝶事件編であるDAY編、開始です


俺とAK-47さんが愛銃を手に店の外に出ると暴走した鉄血人形達から逃れたであろう住民達が我先に北部の方へと逃げようとしている光景が目に飛び込んできた。それに加えて、少し離れたところから銃声も聞こえてくる……

 

「芸能事務所の次はPMC所属の鉄血人形が……アイゼンの連中は何をしているんだい!?」

 

AKー47さんが顔をしかめながら、手にしたAK-47のセーフティを解除する。俺も顔に防塵マスクを身に付け、自身の愛銃であるM16A4に銃剣を着剣する。

そして、セレクターをセーフティからセミオートに切り替え、安全装置を解除した。今回は予備弾倉は二つしか持っていないので、弾の消耗が激しいフルオート射撃は可能な限り避けるべきだろう。

 

当然この場に使役できるダミー人形を俺達は持ってきていない……援軍を…!?

俺が通信モジュールを起動させてもノイズばかりで、基地の司令部と通信が繋がらない。

 

「通信妨害!? AK-47さんはどうですか!?」

「駄目だ、あたしも基地の皆と連絡がとれないよ……ど、どうする?」

 

G01地区前線基地との通信が一切できない状況にAK-47さんは動揺しているのがすぐに分かった。無理もない……今の俺達は指揮官のバックアップを受けられない状況だ。IOP社製の戦術人形は基本的に人間の指揮官が存在しないと自身の性能を完全に発揮できない。

特に今回みたいに突然、指揮官との連絡が完全に途絶えるとAK-47さんみたいに、動揺やパニックを起こす人形も少なくない。その隙をテロリストに付かれて、鹵獲される人形も少なくないとアラマキ元指揮官も言っていた

 

俺もAK-47さんほどじゃないが、指揮官との連絡が取れない事に手が震えた。なによりも通信が完全に断絶したという状況は、製造工場が鉄屑共の襲撃を受けたあの日の晩と同じ状況だ

 

「相変わらず、人間の指揮がないとIOP社製人形共はカカシ以下だな」

 

前線基地との通信が断絶した状況の中で動揺する俺達に後ろから男勝りな女性のの声が聞こえ、俺達はとっさに振り返ると異形の右手に片刃の大剣、左手にレーザーハンドガンを持ったエクスキューシュナーが不敵な笑みを浮かべながら立っていた。

彼女の背後には、アクセサリーを過剰な程に取りつけたM4カービンライフルを持ったSOPちゃんが立っているが、その可愛らしい顔を怒りで歪めながらエクスキューシュナーさんを睨み付けた

 

「この辺りで暴れている鉄血って、あなた達の管轄でしょう……上位権限とやらで止められないの。後、お兄ちゃん達をカカシ扱いしないで」

「ッチ、分かっている……だが、私の指揮権限を人形達が受け付けない。騒動の主犯……おそらく、鉄血のハイエンドが指揮系統を書き換えやがったな。こちらの通信は妨害されていないみたいだからな」

 

エクスキューシュナーさんが舌打ちすると数秒間、沈黙した後、強く言い放った

 

「よし、俺は建第二商店区交戦しているPMCの仲間達を助けに行く。お前らはあの路地裏から迂回して第二商店区に行け」

「分かった、いくよ。M16、SOⅡ」」

「はい、SOPちゃん、行こう」

 

エクスキューシュナーさんが若干薄暗い路地裏へ続く道を指差すのを見て、俺とAK-47さんが頷くが、SOPちゃんだけは不満げに首をふった

 

「私は北部にいるお姉ちゃん達と合流して向かうよ。特にM4は指揮官と同等の指揮能力を持っている戦術人形だから、合流できれば大きいな力になれるよ」

「え……じゃあ、それでいきましょう!」

「決まりだな、俺が先に行かせてもらうぞ」

 

SOPちゃんが常識外れの言葉に目を丸くするも俺が頷くや否や、エクスキューシュナーさんは一瞬しゃがむと同時に跳躍し、近くの商店等の屋根に飛び移ると屋根を伝って、時に別の建物に飛び移りながら、第二商店区に向かっていく。軍用を前提にした鉄血製戦術人形の中でも上位機種のハイエンドモデルだからこそ、出来る芸当だ……俺達じゃ外骨格無しじゃ足を踏み外して、地面に人工血液と部品をまき散らしてしまうだろう。

 

商店の屋根から屋根へ飛び移るエクスキューシュナーさんに唖然とした俺達だがすぐに路地裏へ続く小道に向かって走り出し、その後ろをAK-47さんがついて行く。一方のSOPちゃんは別の小道の方へ向かって走っていく

 

正直、SOPちゃんが言った人間の指揮官と同じように戦術人形を指揮できる戦術人形M4の事を聞きたかったが……それは暴走している鉄血人形達を止める事が先だ

俺達は小道に落ちている空き缶や空き箱を蹴り飛ばしながら、薄暗い小道を駆け抜ける。

 

そして、小道から路地裏に出ると廃墟の壁に追い詰められた年端もいかない子供を背負った若い男性にレーザーサブマシンガンを向ける二体のリッパ―を見つけた。路地裏にも暴走した鉄血人形がいるのか!?

俺はとっさにM16A4をリッパ―の一体に向けると引き金を引き、リッパ―の頭を撃ちぬいた。

もう一体のリッパ―も俺にレーザーサブマシンガンを向けるよりも先に俺とAK-47さんと同時に頭部と胴体に銃弾を撃ち込み、無力化させる。

 

部品と人工血液を舗装にまき散らして倒れたリッパ―に注意を払いながら、男性の元へ駆け寄った。

男性は多少怪我はあるが、命の支障がないように見えた。背中に背負っている子供も大した傷はないように見えた。

 

「男の戦術人形……ありがとう、俺も息子も助かった」

「おにんぎょうのおにいちゃん達……ありがとう」

「いえ、ここは危険です……北部は暴走した鉄血人形はいませんから、そちらに避難してください」

「そうだよ、北部にはアイゼンの駐屯地がある……そこに逃げれば安心だよ」

 

俺の言葉に男性が頭を下げると北部の方へ走っていくのを見届けた後、俺とAK-47さんは再びPMCと暴走した鉄血人形達が戦っているであろう第二商店区へ向かうおうとした。

だが、薄暗い裏路地の夜闇に紛れて接近してき鉄血製人形、三角形のボディの左右側面に機銃を取り付けた鉄血製ドローンであるスカウトや多脚戦車のプロウラーの一団が俺達に武装を向けながら、ゆっくりと近づいてくる。さっきのリッパ―達は偵察兵か

 

「暴走した鉄血人形達の一団がここにも!?」

「倒した鉄血人形の血の匂いに引き寄せられてきたのか!!」

 

俺達は鉄血人形のすぐに愛銃を構えて、引き金を引こうとした瞬間……俺達の背後から多数の気配ともに男性の叫び声が聞こえた

 

「その人形共、散開しろ!!!!」

「「!?」」

 

俺達はとっさに後ろ側の建物の影に身を隠すと同時に大きな破裂音が聞こえると同時に大きな爆発音と爆風が巻き起こり、周囲の建物の窓ガラスが砕け散る

それから少し遅れてい、無数の銃声と共に俺達が立っていた辺りが無数の銃弾が暴風のように飛び交うと同時に金属音や湿った物が潰れる音が鳴り響いた

 

音が収まっていから物陰から顔を出すと鉄血人形達の一団は黒焦げか無数の銃弾で蜂の巣にされた残骸と化していた。周りの建物も壁に大小さまざまな穴が開いていたリ、崩れている……ロケットランチャーか?

 

そして、俺達が後ろを振り返ると迷彩服の上から骨格と動力部が露出した強化外骨格に装着し、機関銃や自動小銃を持った男達が立っていた。そのうち数人は弾頭を撃ったばかりのRPGの発射装置を担いでいた……さっきの爆発は彼らが放ったRPGによるものか

俺達が援護をしてくれた武装兵の一団で先頭に立つ40代前半くらいの栗毛の白人男性が一歩前に出ると口を開いた

 

「大丈夫か、グリフィンの人形達……俺はPMCアイゼン隊長のシュリングだ。お前らはどこのPMCの傭兵だ? IOP社製の戦術人形らしいが」

「グリフィンG01地区前線基地所属のM16A4です」

「同じく、G01前線基地所属のAK-47だよ」

 

俺達が名乗るとシュリングと名乗った男は納得したように頷くと言葉を続けた

 

「噂の男性型人形がいるという前線基地の人形か、俺達はエクスキューシュナーからの通報で駐屯地からPMCの中でも精鋭の男達を連れて第二商店区に向かっていた所だが、お前たちもか?」

「はい、俺達も第二商店区へ行こうとしていた所です!!」

「善は急げって言うでしょう? 早くエクスキューシュナーと合流しよう」

「あぁ、俺の副官が通常の鉄血兵達相手に簡単にやられないが、人間である傭兵達は分が悪いからな……急ぐぞ」

 

AK-47さんの言葉にシュリングさんは力強く頷くと彼は自分の部下達に手振りで指示を出すと彼と傭兵達は第二商店区に向かって走り出そうとした瞬間、暗闇から数本の閃光が迫り、俺達が避け切れたが数人の傭兵達の身体を撃ち抜かれて、

 

「狙撃だ、全員身を隠せ!!!」

 

シュリングさんは閃光に撃ち抜かれた傭兵を見るや否や叫ぶと同時に俺達は左右の建物の影に二手に分かれて身を隠す。今のはイェーガーの狙撃か!?

俺がとっさに隣で壁に寄りかかるAK-47さんの方を見ると彼女は苦痛に顔を歪めながら、彼女の右脇腹を抑えている。そして、手の隙間からは脇腹があふれたであろう人工血液が彼女の手を赤く染めていた……さっきのレーザーの不意打ちを避け切れなかったのか!?

 

「AK-47さん、大丈夫ですか!?」

「かすり傷さ……問題ないさ、しかし、長距離型のイェーガーまでいるのか」

「くそ、南部の駐機所に待機させていた対テロリスト部隊も……隊長、見た事がない人形も一緒だ……なんだ、あいつは!?」

 

AK-47さんが腰のバックから応急処置用の生体部品用緊急補修材を取り出して、脇腹乱雑に塗り付けると傭兵の一人の叫びに俺はとっさに建物の影から覗くと盾と銃剣付き拳銃を持った鉄血兵――ガードやイェーガー、ヴェスピド達を率いるようにあいつらの先頭で一体のハイエンドモデルらしき妙齢な姿の腰まである長髪を一つにまとめた人形が立っていた

 

人形は黒一色のブラウスと丈が膝まで長いジャンパースカートを着こなし、肌はエクスキューシュナーさんと同じように死人のような青白かった。一目見ただけで奴が鉄血人形だとすぐにわかった

 

そして、手には銃身に鉄血のエンブレムが描かれた黒塗りのライフル……おそらく、レーザーライフルが持ち、微笑を浮かべながら俺達が身を隠す建物に目を向けていた。いや、あいつは建物の影から顔を出す俺を見つけると目を細めて、口を開いた

 

「タタラ社独自開発モデルのツクモ……この日に会えるなんて、運がいいわ」

「なぜ、俺の民間人形としての名を……それに俺が製造された工場の名前まであんたが知っているんだ!?」

 

ハイエンドの思いもよらない言葉に俺は立っても居られずに、物陰から体を出して愛銃の銃口をその人形に突きつけた。どうして、俺の元々の名前を……造られた工場の名前まで知っている!?

 

突然の事に動揺する俺の疑問を無視して、目の前ハイエンドは微笑みを浮かべたまま言葉を続けた。俺の反応を楽しんでいるように……そもそも、俺はあいつの顔を見た事もないぞ

 

「私の名前は鉄血ハイエンドモデル、匿名者(ネームレス)――鉄血工造製品番号はSP-9DSI……私達ともう少しだけ遊びましょうか、総員攻撃開始」

 

 

ネームレスと名乗ったハイエンドが手を振ると背後の鉄血人形達が一斉に俺達に向かってレーザー銃を撃ち始め、俺はとっさに物陰に隠れた

シュリングさん達も物陰に隠れて、レーザーをやり過ごしつつ手にした自動小銃や機関銃で反撃し始め、俺もAK-47さんと共に弾丸を鉄血兵達に浴びせる

 

だが……「なぜ、アイツが俺の民間人形としての名前を知っているのか」という疑問が俺の電脳内から離れることはなかった




さて、前話で悦に入っていた人形……匿名者こと、ネームレス登場です
ぶっちゃけ言うとM16A4(ツクモ)にとって、切っても切れない因縁で繋がっています……例えるなら、ニンジャスレイヤーとダークニンジャのような関係です

そして、彼女にもモデルがいます……伏せておきますが
ヒントとしては、ネームレスの衣装のジャンバースカートはモデルの衣装の中華風前掛けから連想したものです


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DAY~ Scorcher ~

余興はもうすぐ終わる……真の恐怖はすぐそこまで来ているのだから


第二商店区

 

PMCアイゼンの傭兵達は目の前の光景に言葉を失い、手にした。

彼らの眼前には、人間の死体に紛れて、多数の人工血液で真っ赤に染まった戦術人形の残骸が舗装された道路に散乱していた。それは、つい先ほどまで居住区の住人を虐殺し、友軍であるはずのアイゼンの傭兵達を蹂躙していた鉄血兵達のなれ果てであった

そして、彼らの視線は両手にそれぞれ人工血液に濡れた大剣とレーザーハンドガンを握りしめ、鉄血兵達の残骸を苦虫を潰したような顔で見る一体の鉄血ハイエンド――エクスキューシュナーに集中していた

 

「副官、助かったぜ!!」

 

傭兵の一人がエクスキューシュナーに感謝の言葉を言うが、エクスキューシュナーは苦虫を傭兵の言葉に笑みを浮かべなかった。

そして、彼女の足元に転がっている袈裟切りにされた上半身だけのリッパーの残骸に視線を落としながら、口を開いた

 

「俺はコイツラを助けられなかった……同じアイゼンの仲間だったのに」

「気にするなよ……ハイエンドの副官と違って、鉄血兵は消耗品。鉄血から新しく買えばいいだけさ」

「アンシール、副官の前で!」

 

アンシールと呼ばれた傭兵の言葉を隣の軽機関銃を持っている傭兵が諫めるが、エクスキューシュナーは首を横に振ると言葉を続けた

 

「消耗品でも……俺にとっちゃと同じPMCアイゼンの仲間だ」

 

エクスキューシュナーはそう言って、バイザーが外れたリッパ―の残骸に近づき、片膝をつくと見開かれたリッパ―の目を手で閉じた。その様子を見たアンシールの顔から薄笑みが消え、無言でエクスキューシュナーを見る事しかできなかった

 

そして、エクスキューシュナーは立ち上がって、アイゼンの傭兵達の方を振り向いた。

生き残っていた傭兵達は十数人で、その中でも戦闘を続行できるのは半分以下だったが、その目に闘志が消えていない事を確認すると口を開いた

 

「私から指揮権限を奪ったハイエンドが居住区に潜伏しているはずだ。動ける奴は、すぐに駐屯地から駆けつけてきた援軍と合流して、奴を探し出せ……リッパ―達の仇を討つぞ!」

 

彼女の言葉に傭兵達が頷いた瞬間、エクスキューシュナーの通信モジュールが彼女に聞き覚えのある男性……PMCアイゼンの隊長、シュリングの声を乗せた電波を受信し、電脳内に響せた

 

『聞こえるか、エクスキューシュナー!!!』

「隊長、こっちは俺一人で片づけた。そっちはどうなっているんだ!?」

『さすが俺の嫁だ、こっちは南区第二路地裏で騒動の主犯らしき鉄血のハイエンドと交戦中。数は少ないが相当な手練れだ……すぐに来てくれ』

「分かった……すぐに行く。敵は第二路地裏だ……お前らは援軍と合流してからこい!!」

 

エクスキューシュナーはそう言って通信機能を切ると傭兵達の方を振り向き、叫ぶと第二路地裏に続く小道に向かって走り出した。

それと同時に北区から続くメインストリートから制御を奪われていないリッパ―やイェーガー、ガードで構成された鉄血兵部隊を見て、生き残った傭兵達は安堵すると同時にまだ、戦える傭兵達は自分達の武器をチェックし始める

 

我らがPMCの隊長の副官であり、妻でもあるエクスキューシュナーに追いつくために

 

 

 

―――――――――――――――

 

「おっと……気を抜いたら、すぐに頭かコアを撃ち抜かれそうね」

「ちょこまかと……うわぁ!?」

 

俺は死角から飛んできたネームレスが放つレーザーを紙一重で避け、愛銃で反撃するが、

奴は俺と同じように弾丸を交わすと跳躍して、ガードの後ろ側に着地。

そして、同時に彼女を庇うようにぜガードやヴェスピドがレーザーの弾幕を展開し、俺はすぐに物陰に身を隠し、AK-47さんやシュリングさんを始めとする強化外骨格を装備した傭兵達が軽機関銃や自動小銃で反撃する

 

この鉄血人形暴走の主犯らしき鉄血ハイエンド、ネームレスはハッキリ言って戦いづらい相手だ。

 

奴のの戦い方は一言でいうなら、一撃離脱戦法。

 

イェーガーのそれよりも射程距離は短いが、連射性能と精度に優れたレーザーライフルを数発撃った後で、遮蔽物や護衛のガードの後ろに隠れる。その後、イェーガーやガード達兵の援護射撃で俺達の隙をできると飛び出して、再びレーザーを浴びせてくる

 

これを10回近くを繰り返したせいで、俺とAK-47さんは先の奇襲での一撃を除いて被弾はしていないが、PMCアイゼンの強化外骨格部隊は隊長を除くと半分近くの傭兵が奴や配下と化した鉄血兵達の餌食となり、シュリングさんも先のネームレスの狙撃で右太ももから血を流していた。

 

それに対して、奴に目立った被弾は無いのに加え、頭数も向こうの方が上……完全にこっちが不利だ

 

「モグラのようにすぐ隠れてやがって、堂々と戦え!!!」

「そうだ、俺達の備品達を盾にしやがって、このポンコツ人形が!!!」

「すぐにここに副官が来れば、お前なんかすぐにスクラ……グワァ!?」

 

AK-47さんはをヴェスピドを撃ち殺しつつ叫び、それにつられるようにアイゼンの傭兵達も強がり同然の叫び声を上げながら、機関銃を乱射するもネームレスはそれに応じず、叫び声を上げる傭兵の一人の頭をレーザーで撃ち抜く。

それを見たシュリングさんは怒声を上げながら手にした軽機関銃を乱射し、ネームレスを牽制する

 

「お前ら感情的になるな、奴の思うつぼだ!!」

「あらあら、人間の傭兵はともかく、ツクモ君達は期待外れもいいところね」

 

ネームレスは裏路地の建物の物陰から物陰に跳躍しながら、シュリングさんの銃撃を紙一重でかわすと奴は冷ややかな目で俺の方を見ながら、レーザーライフルの引き金を引く。

 

すぐに物陰に隠れてレーザーを凌ぎつつ、弾切れになったM16A4の弾倉を最後の予備弾倉に交換すると同時に着前のネームレスの言葉に引っかかった。奴の狙いは一体なんだ?

俺は無意味だと思いつつも壁から少し顔を出して、ネームレスに向かっ力いっぱいて叫んだ。

 

「アイゼンの鉄血兵達を暴走させて、お前の狙いだ!?」

「あら……それを聞くなんて意外ね。あなたの憎悪はその程度だったのかしら?」

「そいつは、一体どういう意味だ?」

 

俺の言葉を待っていたかのようにネームレスは口が裂けるほどの笑みを浮かべると同時に、鉄血兵達が手にした銃器を俺に向けると同時に閃光の弾幕が俺達に迫り、俺達はとっさに物陰に身を隠した。

 

が、その隙を狙って、ネームレスが俺が身を潜める建物のすぐ近くまで近づいた。俺はとっさに愛銃の引き金を引こうとした瞬間、彼女が面白げに口を開いた。

 

「だって、あなたが作られた工場を襲撃した鉄血兵達を差し向けたのはこの私よ」

「なぁ!?」

 

俺はネームレスの言葉に俺の電脳は処理しきれず、俺は引き金を引く事が出来ずに奴の顔を目を見開いて見た。

 

 

 

コイツが工場を襲撃し……爺ちゃん達を皆殺しにした……鉄屑共はコイツの差し金……すべての元凶……ぶっ殺してやる!!!!!!!

 

 

俺の感情モジュールが俺のメンタルモデルを憎悪と怒り一色に染めると同時に、俺はM16A4の引き金を引いた。絶対に逃がすか……この場で撃ち殺してやる

 

「あらあら、随分と怖い目をするのね……っと!」

「この鉄屑ババア、よくも爺ちゃん達を!!!!!」

「その顔が見たかったのよ……ほら、こっちよ」

 

だが、俺が放った弾丸は無常にも引き金を引くと同時に後方に飛びのいたネームレスにかすりもしなかった。

俺はネームレスに追撃するべくフルオートで斉射するが、奴は弾丸を軽々と避けると同時にスカートの中から黒いナニカを取り出し、俺に向かって投げつけた。

ネームレスが投げたソレが手榴弾だと気付くには時間はかからなかった

 

「まちやが……手榴弾!?」

「M16A4、危ない!!!」

 

AK-47さんの叫びに俺は、脚部の出力を全開にして、投げられた手榴弾から飛びのき、近くの瓦礫の影に隠れようとしたが、遅かった。

 

俺が飛びのくと同時にソレは強力な爆炎と轟音と衝撃を伴って炸裂すると同時に周囲ごとを俺の身体を爆風と衝撃はで包み込むと同時に強力な衝撃を感じると同時に俺の意識は闇へと落ちていった。

 

そして、俺の意識が闇へと落ちる直前に見た物のは、侮蔑と優越感を秘めた目で「これで終わりにするつもりはない」と言いたげな笑みを浮かべるネームレスの顔だった

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

M16A4がネームレスの手榴弾に吹き飛ばされるよりも少し前の事

 

北区の空き缶や何に使った容易に想像できる割れた注射器が転がる薄汚れた路地裏でM4SOPMODⅡこと、SOPは自身が撃ち殺したリッパ―の残骸を後目に、自分の姉である二人の戦術人形達を探していた

 

「ここにイカレた鉄屑がいるの!? 早く、M4とAR15を……「「SOPⅡ!?」」

 

SOPは背後から聞こえた声にふりかえると彼女の眼前には、ピンクの長髪をワンサイドヘヤ―にした人形と一房だけ黄緑色のメッシュが入った黒髪の人形が目を丸くしていた。

彼女達を見たSOPは顔に笑みを浮かべると黒髪の人形に勢いよく抱き付いた

 

「M4、AR-15、二人共無事だったんだね!!」

「SOPⅡ、あなたも無事でよかったわ」

「M4、安心するのはまだ早いわ」

 

お互いの無事を喜ぶSOPと彼女にM4と呼ばれた黒髪の人形にピンク髪の人形が二人を諫める

 

「例の未確認の鉄血ハイエンドがこの騒動の首謀者に違いないわ」

「AR-15、それは間違いないの?」

 

SOPの質問にAR-15と呼ばれた人形――STAR-15が頷くと代わりにM4が口を開いた

 

「この居住区に設置されている監視カメラのログにこの地区で多発しているテロの現場で目撃された鉄血ハイエンドと同じ人形を写っていたの」

「つまり、例の奴をバラバラにしたら……!?」

 

SOPがM4の説明に納得した瞬間、少し離れた所で爆発音がひときわ大きな爆発音が鳴り響いた。それと聞いたSOPは爆発音が聞こえた方を振り向き、ひときわ大きな声で叫んだ

 

「南部の路地裏で爆発……!? M4、急がないとお兄ちゃんが危ない!!!」

「「お兄ちゃん?」」

「詳しい話は後、とにかく……!?」

 

SOPの言葉に目を丸くするM4達を爆発があった南区の路地裏へ案内しようとしたSOPは、背後から殺気を感じ振り返るとリッパ―を中心とした鉄血兵部隊がレーザー銃を手に彼女達に迫っていた。

 

SOP達三人はさきほどまで制御不能になっていた鉄血兵とは違い、バイザー等に隠された目から自分達に対しての敵意を向けている事に気づいた。ネームレスに制御を奪われた鉄血兵達から感じられなかった意志を彼女が宿している事に

 

それを見たM4は両手に抱えたM4A1の銃口を鉄血兵に向けると同時に叫んだ

 

「二人共、話は後! まずは眼前の鉄血兵達を倒しましょう!」

「了解、お兄ちゃん待っていていね!!!」

「分かったわ!!!」

 

M4――AR小隊長の言葉がゴングとなり、彼女達と鉄血兵達の銃撃戦が始まった

 

そして、今……鉄血の蝶が羽ばたいて、鉄血人形達が人間の手を離れた事を、彼女達を統括する存在が目覚めた事を

 




左手に怒りの火を灯したランタンを、右手に憎悪の短剣を握り占めて、彼は夜道を進む時、夜空には鉄の蝶が待っていた



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DAY~逆光~

現在(2019年12月22日現在)、番外編でコラボ企画実施中です
https://syosetu.org/novel/207272/

蝶は羽ばたいた……今の彼になすすべはない


システムチェック開始……

駆動系統……左腕部出力30パーセントに低下全並びに脚部出力60パーセント低下

動力及び電気系統……異常なし

生体外装関連……各部に甚大な損傷及び欠落を確認

電子系統……通信モジュールに機能不全

センサー系統……左視覚モジュール及び聴覚モジュールに一部機能不全を確認

戦術コア関連……異常なし

残存バッテリー残量、30パーセント

 

……戦術人形SSD-61DJ、個体名M16A4を再起動します

 

 

 

 

 

どれくらい時間がたったのか……意識を取り戻すと視界の左半分が時折霞み、常にノイズ音が聞こえる。どうやら、左目と聴覚モジュールがイカレたようだ

俺は起き上がると俺の左腕の生体外装が剥がれ落ちて、鈍色のフレームと白い人工筋肉が露出し、人工血液が漏れていた……凄い痛い。おまけに、鉄屑ババアが投げた手榴弾の爆炎に飲み込まれた時に、駆動部かフレームがやられたのか、左腕に力が殆ど入らなかった

 

俺が倒れていた所からすぐ近くには、愛銃のM16A4が壁の瓦礫に紛れ込むように転がっているのを見つけた。

俺はそれを拾い上げて、確認するとストックやハンド―ガードは傷だらけだけど、コッキングレバーや排莢口等には目立った損傷はない。

 

取り付けていた銃剣も刃は折れていない上にマガジンには実弾が10発入っている。マガジンの弾丸を統べて撃ち切っても義体の瞬発力を利用すれば、槍として使える。それに腰に提げたサイドアームのP220も問題なく使える……まだ、勝機はある

 

「それよりもあのババア……AK-47さん!?」

 

俺が鉄屑ババアがどこにいるのかと辺りを見渡そうとした瞬間、左半分が霞む視界に写ったのは点滅する街灯に照らし出される上半身と下半身が泣き別れになったAK-47さんの姿に言葉を失った

 

俺はとっさに上半身だけの彼女に駆け寄るも彼女の目に光はなく……文字通り人形の目が月一つない夜空を映していた。

そして、彼女の胸……コアが収まっている位置に鋭い物で突き刺されたかのようなに跡があけられ、そこから大量の人工血液が彼女のビキニと白い皮膚を赤く染めていた。

傷からしてコアを、それも戦術コアではなく、自律人形の中枢部であるメインコアまで傷が達している……それは人形として死を意味する

 

「嘘だろう……あのババア!!!!!!」

 

見るも無残になったAK-47さんの遺体を目にした俺は感情モジュールが表す怒りに耐え切れずに叫んだ

そして、M16A4を手に鉄屑ババアが辺りにいないかと見渡すも……半分だけの視界に映ったのは傭兵達の死体だけと鉄血兵達の残骸ばかりだった。どうやら、俺が気絶(フリーズ)している間に、鉄屑ババアによって傭兵達は全滅してしてしまった

 

「鉄屑ババアはどこに、それにシュリングさんは!?」

 

俺は死屍累々な惨状を目にして、逆に怒冷静さを取り戻した瞬間、シュリングさんの遺体がここにない事に気づいた……もしかしたら、彼はまだ生きている

シュリングさんが生きているかもしれないと考えた瞬間、ノイズ音に紛れて少し離れた北区の方から男性の悲鳴が聞こえ、俺はとっさにそこに向かって走り出した

 

「ウワァァlalalalallaァァ、ザzzザて!!!」

「誰かが襲われている!?」

 

 

体中のフレームや駆動部からは異音が何度も響き、時折痛みを感じるも俺は意もせずに走った。

爺ちゃん達の仇であるネームレスを殺したい……けど、助けを求める悲鳴を聞いて無視できなかった。復讐よりも助けを求める人を助ける方が

 

――――――――――――

 

 

男性の悲鳴が聞こえた場所に向かうとそこには、傭兵らしき恰好をした苦悶の表情を浮かべた男性の遺体が地面に倒れていた。痛いのすぐそばには、眉間を撃ち抜かれたイェーガーが人工血液で真っ赤に汚れた塀に寄りかかっていた。

先ほどの悲鳴の主であろう傭兵の遺体を前に俺は愛銃を強く握り占めた……間に合わなかった。

 

「くそ……遅かっ「そこにいるのは、M16A4か?」」

 

目の前の男性を助けられなかった事に悔しさを俺の背後から聞き覚えのある女の声……エクスキューシュナーさんの声が後ろから聞こえた。

 

「エクスキューシュナーさん、あなた……え!?」

 

俺がエクスキューシュナーさんの声を聞いて安堵しつつ振り返った瞬間、俺は声を失った。

振り返って半分だけの視界に写ったのは、彼女の身体や右手握にりしめた黒塗り大剣が血で赤く染め、左手に男……シュリングさんの首をぶら下げたエクスキューシュナーさんの姿だった。

そして、彼女の目は酒場でみた前に見た厳しいながらも優しさを秘めた物ではなく、工場襲撃の際に見た鉄血人形達の冷徹で無機質な機械のソレであった。

俺は目の前の人形が酒場で冗談交じりにヘッドハントしようとした彼女と同じだと信じられなかった

 

「たく……泳がすにしても手抜きにもほどがあるぜ。アイツの銃はまだ使えるようじゃないか」

「エクスキューシュナーさん……どうして」

「あ、エルダーブレインが命令したのさ。人間共を殺せってな」

 

エクスキューシュナーさんが、そう言って左手に持っていたしゅりんぐさんの首を放り投げた。

 

それを見た瞬間、俺は理解した……目の前にいるのはエクスキューシュナーさんじゃない。ネームレス(鉄屑ババア)と同じハイエンドモデルのエクスキューシュナー、俺が倒すべき敵だ!!!

 

「ぶっ殺してやる!!!!!」

 

俺は再び沸き上がった憎しみと怒りを込めて叫ぶと同時に、義体の出せる限りの出力を全開してエクスキューシュナーに向かって乱射しながら、銃剣突撃をかまそうとした

 

次の瞬間、視界からエクスキューシュナーが消えると同時に、手にしたM16A4が両断され、愛銃の前半分が地面に転がる……俺の銃が!?

俺はとっさに腰の拳銃を抜こうとした一瞬、奴の大剣がきらめくと同時に俺の胴に鋭い痛みが走ると同時に斜め一文字に身に付けていた作業着が切り裂かれると同時に、胸から人工血液が噴き出し、俺は仰向けに倒れてしまった。

電脳が俺のメンタルモデルに大合唱のようなエラー表示の悲鳴を上げていた。

 

生体上皮どころか、内部フレームまで逝った……あが!?

「そのままコアを両断するつもりが、皮一枚届かなかったか」

 

大量の人工血液を流す俺に追い打ちをかけるようにエクスキューシュナーは俺の腹を踏みつけ、嘲笑うような目で俺を見下ろした。

 

「ふん、「ぶっ殺してやる」か……戦術人形(雑魚)らしい言葉だな」

 

奴はそう言うと右手の大剣を両手で構え直すと俺のコアがある胸に剣先を向けた。武器もなく、踏まれては這う事すらできない俺はただ、奴を睨み付けることしかできなかった。

おまけに半分しかない視界も霧がかかるり始めていた……人工血液を流しすぎたせいで、

 

「この……鉄屑が!」

「俺は弱い奴に興味はないんだ。じゃあな……!?」

 

奴が剣を俺の胸に突き立てられると思った瞬間、どこからか数発の銃声が鳴り響き、エクスキューシュナーの足が離すと同時に奴は一瞬の内に数メートル後ろへ下がった

 

「っち、新手か!?」

「銃声……味方……か?」

 

意識が遠のきつつも銃声が聞こえた方へ首を動かすとそこには、両手に自動式拳銃をエクスキューシュナーに向けるボブショートの銀髪と金色の瞳、そして、腰に提げた日本刀が印象的な人形がこちらに近づいていた。スピードからして、HG型だろうか?

彼女はさらに数発連射して、俺を庇うように俺の前に立つと少しだけ俺の方を向くと笑みを浮かべた。近くで見ると彼女が手にしているのは、俺のサイドアームのP220に似ている……けど、違う拳銃だ

 

「よかった。まだ、機能停止していない(死んでいない)

「新手か……M16A4(コイツ)よりもやり「P228退いて!!!」」

 

拳銃を構えた助っ人の人形を目にして不敵に――それでも、無機質に笑う奴の言葉を遮ると同時に聞き覚えのある声が聞こえると同時に複数の銃声と共にエクスキューシュナーに向けて銃弾が飛んできた。

 

(この声……もしかして……)

 

俺が酒場で見た満面の笑みを浮かべた人形を思い浮かべると同時に物陰から怒りで顔を歪めたSOPちゃんと黄緑色のメッシュが入った黒髪の人形が手にしたライフル――M4アサルトカービンを奴に向けてフルオートで銃弾を叩き込むとエクスキューシュナーが右手の剣で防ぐと左手のレーザーハンドガンで反撃するのを見た瞬間、俺の意識は再び闇に落ちた。

 

 




新兵、硝煙香る人形達の前線へようこそ

さて、今回は負けイベです……ぶっちゃけ言うと現状は彼に勝ち目はありませんでした

さて、次でDAY編は終了です
現れた謎のHG型人形……ネタバレしますと番外編で先行登場したP228ちゃんの参戦とAR小隊とエクスキューシュナーの会敵、姿を消したネームレスの動向を描く予定です


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DAY~ Lifelight~

蝶事件編最終話です
そして、今年最初の投稿です~今年もよろしくおねがいします

命の灯火は簡単に消せない……生き延びようとする意志がある限り


G01地区第3居住区北部の裏路地を銀髪の戦術人形が住人や傭兵達の死体や鉄血兵達の残骸を後目に走り抜けていた。銃声や悲鳴があちらこちらが映画のbgmのように鳴り響いていたが、彼女は目もくれずとある人形達を探していた

 

「第3居住区に待機しているはずのAR小隊との連絡が途絶えたので、調査に行ってこいと言いましたが……一体何が起こっているの!?」

 

青いベストとキュロットスカートを身に付け、腰に刀を差し、両手に拳銃を構えた銀髪の人形――P228は居住区の惨状に目を飛び出さんとばかりに驚いていた。これほどの大惨事となっていたのは、彼女にとっては想定外であった

 

元々IOP社に属する開発チーム【TVRチーム】初の新規設計の戦術人形として、ロールアウトしたばかりのP228は、G01地区のある野外訓練所でデータ収集を兼ねた実戦訓練を行っていた。

しかし、第3居住区で待機中のAR小隊との連絡が取れなくなった事にIOP本社は危機感を出した。

彼女達は通常の戦術人形よりも遥かに重要な存在であり、その特異性からバックアップがとれない人形であったからだ

そして、これを好機とみたTVRチームは、彼女のデモンストレーションを兼ねて彼女を自身のダミー二体と共に第3居住区への調査任務へ向かわせたのだ。

 

 

(この様子だと居住区を警護していたPMCが保有している鉄血すべてが敵になったのでしょう……いくらなんでも私には荷が重すぎますよ)

 

P228は、居住区で起きている事が自分の手に負えないと思いつつもAR小隊を見つけようと路地裏を駆け抜けていると自身とは反対方向から三人の人形が近づいてくる事に気づいた。

P228はその三人が自身が探していたAR小隊である事に気づいた。それと同時に彼女達が手にしたライフルの銃口が自分に向けている事にも気づいた

 

「あの人形達は、AR小隊……みょん!?」

「待って、あの子は鉄血じゃないわ!」

 

銃口を向けられた事に怯むP228に、AR小隊の先頭に立っていた黒髪の戦術人形……M4A1が他の二人を静止させる。M4の静止を受け、他の二人の戦術人形――SOPとAR-15がそれぞれの銃を下ろす

それを見たP228は自分が敵は無いと信じてもらってほっとするもすぐにM4達に自分が彼女達の救援に来たのだと伝えようと口を開いた

 

「私はTVRチーム所属の戦術人形のP228です。グリフィン本社の依頼で連絡が途絶えた第3居住区へ調査に参りましたが、ここで一体何が?」

「見てのとおり、ここを警護していたPMCの鉄血兵達が暴走しているわ……おそらく、例の未確認鉄血ハイエンドの仕業と見ていいわね」

「それよりもお兄ちゃんが!!」

 

P228の質問に、AR-15が答えるといても経っていられないSOPが二人をせかすように叫ぶ。それを聞いたP228が首を傾げて、SOPに問いかけた

 

「お兄ちゃん……もしかして、誰かを助けに行こうとしていたのですか!?」

「そうだよ、お兄ちゃんを早く助けに行かないと!!」

「SOPⅡのいうお兄ちゃんが誰かは、分かりませんが……SOPⅡの知り合いの戦術人形が南部の裏路地の方に取り残されているようなんです」

 

必至な表情で訴えるSOPⅡを見ながら、M4が事情を説明するとP228は事情を理解した。

そして、頷くとこう答えた

 

「分かりました。私の義体に搭載された探査モジュールを使って居住区周辺をサーチしてみます」

 

P228は目を閉じ、自身の電脳と義体に搭載された探査モジュールをの出力を全開して、周囲に戦術人形の反応を探った。

すると居住区をひしめく鉄血人形の反応に混ざって南部の裏路地を北上するIOP社戦術人形らしき信号をP228は察知した。それと同時にその信号がグリフィンG01基地所属のM16A4の物である事に気づいた

 

「見つけました。ここから2km南の裏路地を北上していますが、近くに鉄血ハイエンドも信号もあります。急いで回収していないと!」

「わかったわ、M4は指揮モジュールを搭載はしているけど、探査機能にかんしては通常のAR型戦術人形に毛が生えた程度のスペックだから、誘導をお願いするわ」

「AR-15……とにかく誘導をお願いしますね」

 

AR-15の半ば皮肉ともとれる言葉にM4は若干反応しつつも気を取り直して、誘導をP228に頼むと彼女はうなずき、一目散にM16A4の信号がある場所までAR小隊を誘導し始めた

 

 

 

 

P228達がM16A4の信号があった場所に到着して目に映ったのは、地面に倒れたM16A4と彼を踏みつけ、両手で構えた大剣を彼を突き刺そうとするエクスキューシュナーだった。それを見たはSOPⅡが目を見開くと同時に悲鳴を上げた

 

「お兄ちゃん!!!」

「すぐに助けないと!!」

 

P288はとっさに両手に構えた自身の愛銃を牽制に数発、エクスキューシュナーに数発発砲しながら、接近を試みた。銃声に気づいたエクスキューシュナーは、すぐにM16A4から離れると同時に大剣で自分に命中するであろう銃弾のみを切り払う。

そして、P228はさらに数発弾丸をエクスキューシュナーに向けて発砲すると同時に、M16A4を庇うように彼の前に立つとチラッと床に伏せている彼を見た。

M16A4は、身に付けている作業着はボロボロで、生体外装も剥がれ落ちて内部フレームが露出させているも救援にきたP228を凝視しているのを見て、彼がまだ生きている事に安心した

 

そして、エクスキューシュナーも機能停止寸前のM16A4よりも乱入したP228に興味が映っていた

 

「よかった。まだ、機能停止(死んで)していない」

「新手か……M16A4(コイツ)よりもやり「P228退いて!!!」」

 

エクスキューシュナーの言葉をSOPの声が遮ると同時に物陰から飛び出したSOPとM4A1が一斉に手にした愛銃の引き金を引き、銃弾を浴びせる。エクスキューシュナーは大剣で銃弾を切り払いながら、笑みを浮かべながら叫んだ

 

「せっかくのそこの銀髪の人形とヤるつもりだったのに、乱入とは……面白い事をするじゃないか」

「よくもお兄ちゃんを!! その両目をえぐり取ってやる!!」

「SOPⅡ、突出しちゃ……!?AR-15!

 

憎悪に顔を歪ますSOPⅡをお仕留めようとするM4は、エクスキューシュナーの背後からSOPⅡに銃口を向ける鉄血人形の存在に気づき、AR-15に指示を出した。

AR-15も隠れている鉄血人形の存在に気づき、鉄血人形が潜んでいる場所に銃口を向け、引き金を引いた

 

だが、AR-15が放った弾丸は潜んでいた鉄血人形に当たず、壁にいくつか穴をあけるだけだった。

 

「確実に命中する位置で撃ったのに、なんてすばしっこいの!?」

「あらら、これはちょっと予想外ね……噂のAR小隊まで現れるなんて」

 

それと同時に物陰から黒いシャツとジャンバースカートを着た鉄血ハイエンド――ネームレスが飛び出し、笑みを浮かべながら手にしたレーザーライフルから数発のレーザーをM4達に浴びせる

M4達はネームレスが放ったレーザーを避けるもそれを見たネームレスは興味深くAR小隊とP228達を一瞥すると口を開いた

 

「へぇ~暗部を退職する前に聞いた以上の実力ね」

「へぇ、じゃないぞ、ネームレスのババア。いままでどこに行っていたんだ?」

「アイゼンの輸送機のシステムをいじって鉄血本社へ向かうようにね。……それとエージェントから「鉄血本社に合流せよの命令」が下ったわ」

「もう少しヤリたかったんだが、エージェントの命令じゃ仕方がないか」

 

エクスキューシュナーが肩をすくめるとネームレスはジャンバースカートの中から複数の白煙手榴弾を落とすと彼女達の周囲が白煙に包まれ、AR小隊とP228達の視界がほとんど遮られた上に白煙手榴弾の中に含まれている対人形用催涙ガスによって彼女達せき込んでいた

 

「くそ、どこにいったの年増ババア!!!」

「みょ~ん、喉が痛いです!!」

「くそ……対人形用鎮圧兵器。やはり、ペルシカさんの言う通り、鉄血工造の仕業……ゴホゴホ」

 

そして、彼女達が白煙手榴弾――正確には、対人形鎮圧用催涙ガスに苦しめられている間に、ネームレス達はその場を離れた。

IOP社製戦術人形よりも生体部品の割合が低い鉄血人形、特にハイエンドモデル達はその構造上催涙ガスに強く、二人共視界の悪さ以外に支障がなく、白煙が霧散する頃には二人のハイエンド達は姿を消していた

それを見て、M4はP228達に向かって口を開いた

 

「敵は撤退……私達もすぐにこの居住区から撤退しましょう。P228さん、鉄血兵達はこの辺りにいませんか?」

「いないようです……どうやら、G01地区前線基地から救援部隊が駆けつけたようで、鉄血兵達はその部隊と交戦中です」

 

P228の言葉を聞いたAR-15が頷くとM4に向かって口を開いた

 

「だったら、今がチャンスね……M4、彼を背負って……酔ったM16の冗談じゃなったのね

「お兄ちゃん……すぐにペルシカに直してもらうからね」

「分かったわ、AR-15……彼がM16姉さんが言っていた私達の弟

 

AR-15の言葉に頷くとM4は自身の電脳にいろんな感情が渦巻いているのを感じながら、M16A4を背負うとP228は、彼女が乗ってきたヘリのランディングポイントまで案内し始める

 

 

―――――――――――――――――

 

M16A4を背負ったM4達が輸送ヘリのランディングポイントまで移動を開始した頃、住民達が自分達の家を捨て、生きる伸びるために居住区の外へ出ようとゲートに殺到する中で、中性的な顔立ちをしたストロベリーブロントの髪の人形――リーは自分の無力さにくやしさを感じていた

 

 

「親方達も皆殺しされた盗賊達に、暴走した鉄血兵にも可愛いだけの僕は逃げることしかできない……あ」

 

その時、リーは一体の人形の姿が彼の電脳に浮かび上がった。

青い作業着の上に防弾ベストを身に付け、手に銃剣付きのM16を持った防塵マスクで顔を隠した自分と同じ男性型人形の姿を

 

(そうだ……あの人も戦術人形になれるなら僕も……よし!!)

 

リーは自身の電脳の中である決意――グリフィンへの志願し、戦術人形の改修を腹に決めると先ほどまでの弱弱しい目が力強い物に変わると同時に居住区のゲートへ歩き始めた




彼は生き延びたが、少しだけ休ませる必要がある

次話は第1章最終話……後日編です
鉄血に敗れて大破したその後が語る予定です


ソレと余談ですが、DAY編のサブタイトルはすべてゲームのbgmやOP曲のタイトルが由来です


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after day

ついに第一章最終話を投稿できるようになりました

さて……ついに外伝集のように鉄血絶対殺すマンと化す瞬間がやってきます

そして、外伝集でも明記されている近い将来、BB小隊の隊員となる人形が登場します


鉄血は殺す……慈悲は無い


目が覚めてすぐに俺の視覚モジュールが映し出したのは、知らない天井だった……といえば、三文小説みたいな言い方になるが、俺が目を覚ましたのは壁も天井も白い部屋だった。

ノイズまみれだった聴覚モジュールも壊れた左目も元通りになっている……誰かが直した?

 

「ここは……うん?」

 

俺は体に違和感を感じ、腕を上げてみると身に付けていた入院着の隙間から様々な色のコードやらチューブが伸びているのが見えた。

俺は自身と繋がっているコードを目で追っていくと俺が寝かされていたベッドの後ろにある複数の機器類からそれらが伸びている事に気づいた。

それらが大破した人形の修理に使用される物だとすぐに分かった。民間人形時代の座学として教えられた自立人形に関する知識を学んだ際に人形の修理に使う機材について教えられた

 

(外部バッテリーに、設置七人工血液循環濾過装置に、これはメンタルモデルチェック用電子デバイス……どれも結構な上物ばかり……ここはグリフィンかIOPの施設か?)

 

俺は俺と繋がっているそれらが人形の修理……それも民間では簡単に手に入らないような高価な機種からここがグリフィンかIOP関連の施設ではないかと考えた。

それと同時に電脳内に俺が意識を失う着前に見た光景が突然、浮かんできた。

 

銃口を向け、人間を殺す無機質な鉄血兵達の目、街中に横たわる人間の死体や逃げ惑う人々、目から光が消えたAK-47さんの残骸、そして……俺を嘲笑うネームレスとシュリングさんの首をぶら下げたエクスキューシュナー、そいつらに手も足も出ずに敗れた上に生かされた無力な自分

 

そのことが頭に浮かんだ瞬間、俺は悔しい‥…いや、強い憎しみで手を強く握り占めていた

 

「あの鉄屑ババア共、絶対に殺してやる!!!」

「目が覚めてそうそう恨み節って、P228が言っていた以上ね」

「え……誰!?」

 

突然、女性の声が俺の聴覚モジュールに聞こえ振り返るとそこには、金髪碧眼の少女……いや、人形が壁に寄りかかっていた。

彼女は、白いパーカーにチェック柄のジーンズを着こなし、頭には赤いフチが付いた白いリボンを結んでいる……人間達の理想を現実化させたという女性型自律人形としてみても美人というべき顔立ちをしていた

 

「あなたは一体……それにここは?」

「あたしはMP5F、あなたと同じ戦術人形でここはIOP本社の修理工廠で、あんたは半月の間眠っていたのよ」

「半月も……あの後、何が起きたの!?」

 

MP5Fと名乗った彼女は興味深そうに俺を見て、一息つくと俺が眠っていた間に起きた事を語り始めた

 

俺が気絶していた直後に、MP5Fさんが所属する研究部署【TVRチーム】所属の戦術人形P228……俺が気絶する直前に見たHG型戦術人形とAR小隊……SOPちゃんとそのお姉さん達で結成された戦術人形小隊に回収された俺は彼女達と共にIOP本社に移送された後にTVRチームの技術者とペルシカ(猫耳おばさん)による修理を受けていたらしい。

エクスキューシュナーの斬撃の傷は俺が思っていたよりも深く、内部フレームどころか主要な部品数カ所が損傷していたらしく、事実上オーバーホール同然の大規模な修理を受けていたそうだ。

 

しかし、猫耳オバサンとTVRチームの主任は仲が悪いらしく、MP5Fさんはその事を思い出したのか、苦笑いを浮かべていた

 

「まぁ……主任とペルシカさんがお互いにいがみ合いながら、君を修理していたのは、()()()()も不安だったわね」

「……ちゃんと直してくれているよな? というか、パラって誰?」

「あぁ、私とタッグを組んでいるSMG型戦術人形の事よ……脱線したわね。今から話す事は、あなたが眠っている間に起きたことよ」

 

MP5Fさんは一息つくと話を続けた

俺が眠っている半月の間に、鉄血工造は両手では数え切れないほどのPMCや自衛団を壊滅させ、その施設を吸収する形で支配領域を広げている。それと同時に元々鉄血工造が所有していたり、壊滅したPMCの管轄領域の施設を改修した施設を利用して、鉄血兵や機械兵器を生産し、自分達の戦力を増幅させているらしい

 

幸いにも政府や正規軍が直轄で管理している生産拠点や重要施設が集中している地域は全く無事だというのはある意味で救いかもしれんが、放っておけば、正規軍も本腰を入れざる得ないほどの勢力と化すのは誇張でもないらしい

 

そして、俺が所属するPMCグリフィンも多くの拠点や人形達を失ったが、残った精鋭の指揮官達とその配下の戦術人形達が水際で鉄屑共の進行を食い止めっているらしい。より正確にいうと鉄血に正面から戦おうとするPMCがグリフィンを除くとごくわずかで、ほとんどのPMCは管轄領域に進入した鉄血兵を迎撃する程度らしい

 

つまり、正規軍は治安維持やELID撃退などで部隊を動かす余裕もなく、グリフィン以外のPMCは極一部を除いて戦闘を避けようとする……それほどに人形鉄血工造は危険な武装勢力と化しているらしい

 

それを聞いた瞬間、俺は非常に嫌な予感が電脳内をよぎってMP5Fに一つだけ疑問をぶつけた

「なぁ、MP5Fさん……G01前線基地――俺がいたところはどうなったんですか? AK-47さんはあの居住区で鉄血共に殺されたが……他の仲間達は無事なんですか。M14さんは!? 副官の漢陽さんは!? あの指揮官はどうなったんですか!?」

「それは……」

教えてください!! 俺の仲間達はどうなったんで「落ち着け、新兵」」

 

おれの質問にMP5Fさんは答えず、ただ視線を逸らすだけで答えなかった。俺はとにかく、仲間達の安否を知りたくて必至に問いただそうとした瞬間、低い男の声が俺の言葉を遮った

俺とMP5Fが声が聞こえた方を振り向くと黒いスーツとコートを着た彫りの深いひげ面の壮年の男性が部屋のドアを開けて、足を踏み入れていた

俺は彼が誰だかすぐに分かった……PMCグリフィンの社長、クルーガーさんだ。

 

「社長さん、どうしてここに!?」

「ペルシカから君がを話せるまで修理が終わったと知らされてな。M16A4、G01前線基地がどうなったか……知りたいか?」

 

社長の登場に驚くMP5Fさんに目もくれずに、彼は俺の目を見てそう言うと俺は黙って頷いた。嫌な気がしたが……聞かないといけない気がした

 

「君が所属していたG01前線基地は鉄血製戦術人形が反乱を起こした数日後に鉄血の奇襲を受け、陥落。着任したばかりのボイチャー指揮官は戦死……G01前線基地の戦術人形達は保護された5名――M14、スコーピオン、G36C、Gsh-18、M3、行方不明の漢陽88式以外は、全員の死亡が確認されている」

「え……嘘ですよね」

「嘘ではない、調査に出たグリフィン本部の戦術人形小隊が指揮官の遺体と所属していた戦術人形達の残骸が多数発見している……基地の状況からしてもバックアップからの再生も絶望的な状況だ。漢陽88式にしても5LINKの精鋭とはいえ、当時の状況からして、生存は絶望的だろう」

 

社長が淡々と話すG01基地の惨状に俺は声が出なかった。それと同時に凄まじい怒りいや、憎悪が俺の電脳で満たされていく。鉄屑共……俺の仲間達を手にかけたを後悔させてやる……絶対に殺す!

「社長……基地を襲撃した鉄血部隊の詳細は分かっているのですか?」

「M14の話では、黒一色のジャンパースカートを着た鉄血ハイエンドが率いる部隊に殲滅されたと聞く。AR小隊の戦闘ログと彼女達との証言から、居住区で目撃されたハイエンドの……「ネームレス!!!!」

 

G01基地を襲撃したのが、ネームレスであると知った俺は自分の感情を抑えきれず、起き上がろうとするも体に力がほとんど入らず、よろけて床に落ちそうになった。力が……!?

その時、壁に寄りかかっていたMP5Fさんが俺の体を受け止めた。見た目以上に素早い……不謹慎だが、彼女の立派なモノの感触がパーカーごしに感じ、俺は顔が少し赤くなった。見た目よりも随分とたわわだ

 

「完全にと直っていないのだから、動けるわけがないじゃない!」

「工場を……爺ちゃん達を殺した上に、G01地区の皆を殺したアイツは絶対にぶっ殺す!! 例え、刺し違えってでも奴は俺の手で殺してやる!!」

「今の君では例のハイエンド……ネームレスの撃墜スコアを増やすだけだ」

「ッ!?」

 

社長の言葉に衝撃を受けた俺はただ彼を見る事しかできなかった。彼の目からアラマキ元指揮官と同じ鋭い視線を感じ黙る俺に社長は言葉を続けた

 

「AR小隊と生き残りの人形達のログから、奴はハイエンドに相応しい性能を有した義体と最低でも三年以上戦術人形としての経験を有する古参だ。戦術人形として半年程度の君では手も足もでないだろう」

「だったら、このまま泣き寝入り同然に過ごせというですか!?」

「そうではない復讐の機会は今じゃないという事だ。それまでに経験を積んで強くなれ。」

 

社長さんはそう言って、病室を出て行くのをMP5Fが同情するような目で俺を見つめ、口を開いた

 

「とりあえず……君が目覚めた事をG01地区前線基地の人形達に伝えておくよ」

「皆、ここにいるのですか!?」

「うん、皆君の事を心配していたよ……じゃあね」

 

MP5Fさんはそういって出ていくと俺は再びベッドに横になった

社長やMP5Fさんが教えてくれた事を聞いて、すごく疲れた……けど、この疲労感は義体を酷使したり、義体の不調だからじゃない。俺のメンタルモデルが残酷な現実――無力な自分や救えなかった仲間達の事を知ったせいで重度の負荷がかかったせいだ……

 

「……俺は弱いな……鉄屑共に一矢すら報えないほどに無力だ……くぅ!!」

 

俺は無力さと仲間達の大半が二度と戻ってこないという現実に涙を流した。

 

そして、泣きながら二人の名が自然とこぼれ出た。

 

和人形ような容姿に女傑のような荒々しさと母親のような優しさが入り交ざった人格を秘めながら、後方から指揮を出してくれた女性の名を

 

彼女の教育係であり、俺のF02地区前線基地(あの生き地獄)から救い出してくれた一人の老人の名を

 

俺は助けを求めるように……でも決して届かない事が分かってながらも俺は二人の名を叫ばずにはいられなかった

 

「……アラマキ元指揮官……カスミ指揮官代理……もう一度会いたい……ウワァァァァァァ!!!!」

 

 

俺はただ、ひたすら一人で泣き続けた……爺ちゃん達と仲間の仇であるネームレスと鉄血工造に復讐を誓いながら




M16A4が鉄血への憎しみを抱く決定的な理由……それは鉄血(本編ではネームレス)がG01前線基地の仲間達(ごく一部)を除いて、バックアップごと破壊されたの原因です

なお、この襲撃の元凶のネームレスは彼女特有機能を利用して、自身の配下を大幅に増強した状態でG01前線基地を襲撃しています


そして、前回に続き将来BB小隊のメンバーとなるMP5Fと名前だけですが、SMG型戦術人形のパラ(正式名は秘密)が登場しました

彼女達も次の第二章で正式登場し、M16A4と合流する予定です


さて、次は第二章の蝶事件後から原作開始までの空白期間編です
単語のみですが、TVRチームの詳細や番外編で言及されたS07地区前線基地始動やBB小隊結成等々

本格的に物語が動かすための準備にM16A4やカスミ指揮官が奔走する事になります


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第二章:NOW LOADING
M16A4/リブート


リアルがごたついて投稿が遅れました

今回から第二章:空白期間編スタートです


目が覚めて一週間が経った……俺の義体はIOP社――正確には、VTRチームのスタッフ達が丁寧に調整してくれたおかげで外見はほぼ元通りに直った。人工筋肉やフレームが露出していた部分も新しい生体外装で貼り直されて、固定させるための包帯も明日ぐらいに取れるとIOP社の技術スタッフも言っていた

 

内部構造もエクスキューシュナーに斬られた際に損傷した基礎フレームや重要機関部も新品の物に取り換えたおかげで、病室に置かれた専用の機器類と繋げられるケーブルから解放されて、病室から出られるようになった。外を散歩する程度なら、今のままでも十分うごけるだろう

正直、通信モジュールとかも壊れていたので、外がどうなっているのかは時折、見舞いに来るMP5Fさんや居住区で俺を助けてくれた銀髪ボブショートの戦術人形――P228さん、それに無事だったG01前線基地の仲間達の口から伝わる事しか知らない

だからこそ、自分の目と聴覚モジュールで今世界がどうなっているのか、今いる修理工廠がどういう場所なのか、知りたかった……というよりも病室に引きこもっていられなかった。

 

「よし……病室の外に出てみるか」

 

俺は私服代わりの青い上着を羽織ると自動式ドアを開けて、病室を出る。

俺が病室をでてまず、目に飛び込んできたのは白亜の壁紙が張られた廊下と入院着を着たり、破損個所を覆い隠すための包帯や保護カバーを巻いた多数の自立人形達が廊下を歩く光景だった。

廊下を歩く人形達は痛々しい姿で、手足が欠損している人形も少なくなかった。

そして、戦術人形だけではなく、鉄血人形との戦闘に巻き込まれたのであろう民間人形もすくなく、彼女達は暗い顔でただ無言で廊下を歩いている光景に俺は言葉を失った

 

「全員鉄血との戦闘に巻き込まれて……「違うよ」」

 

後ろから俺の言葉を小さな少女の声が聞こえて、振り返ると十代前半くらいの一体のレース付きの白いワンピースを着た少女型人形が首を上に向けて俺を見ていた。腰まで長い銀髪を束ねたツーテールと金色の瞳が特徴的なその人形は、不安げに語り始めた。

 

「鉄血と戦ったり、襲われて怪我をした子ばかりじゃない……人形が嫌いな人間達に虐められて、この工廠に来た人形も多いんだよ。むしろ、虐められた子達の方が多いかな?」

「人形が嫌いな人間……そういうことか。あんな事があったら、IOP社製の人形(俺達)に不信感を抱く人間が出るような」

 

目の前の人形の言葉の意味が理解した瞬間、俺はため息をついた。鉄血工造製の自律人形達が人類に反旗を翻したせいで、IOP社製の人形も反乱を起こすんじゃないか?と考える人間が出てもおかしくはない。

給料をもらっている人がボロの服を着ていたら、他人が見たら『その人は借金でも抱えるとのでは?』と疑うのと同じだ……一度怪しまれるととことん疑惑の念を抱くのが人間だと爺ちゃんから教えられた。

(だから、新しい服を買う金があるなら、それを惜しむなと爺ちゃんによく言われたな……というか、この子誰だ?)

 

俺はふと目の前の人形が誰なのか気になった。この子は一体……誰だ?

 

「ねぇ、さっきからきになっていたんだけど……君は一体誰なんですか?」

「そうだった……私の名前はAUGパラ。IOP所属研究部署TVRチーム所属の試験用戦術人形です。パラって呼んで」

「あのブルパップ式アサルトライフルのAUGか?」

「はい……正確には、短機関銃仕様のAUGパラです。MP5Fさんから話は聞いています。動けるようになったんだね」

 

彼女――パラこと、AUGパラは笑みを浮かべると俺の手を握ると嬉しそうに話し始めた

 

「そうだ!! G01地区前線基地の人形さん達が工廠一階のカフェでMP5Fさんと主任さんがお話しているの。一緒に行こう?」

「G01地区前線基地の皆か……じゃあ、行きましょうか?」

 

俺がそう答えるとパラは俺の手を引っ張りながら、俺も転ばないように歩き始める。

目がさめてから、味気ない栄養剤しか口にしていなかったから……安物のコーヒーか紅茶でもいいから、ちゃんと味がする物を口にしたかった

 

それにMP5Fさん達とチャンと話すにちょうどといい機会だ。この際、例のTVRチームについて質問をぶつけてみよう

そう思いつつも笑みを浮かべながら、鼻歌を歌うパラちゃんを見つめた。一見すると子供のいない夫婦向けの養女人形に見える……とてもじゃないが、俺と同じ戦術人形には見えなかtった

 

(本当に俺と同じ戦術人形には見えないな……こんな小さな子でも指揮官に命令されたら人を殺せる人形だなんて誰も信じないよな))

 

 

――――――――――――

 

 

「サクラ・カスミ指揮官、貴官にS07地区に新設される前線基地の指揮官に任命された。数日以内にS07地区へ向かってもらう」

「辞令、確かに受け取りました」

 

ヘリアン上級代行官に呼び出された私はくだされた伝令に定型の返答後、敬礼をする。

正直、煩わしいが私は雇われの身……この手の礼儀を欠かしたら後が面倒になる。それにG01地区前線基地が陥落した事も心の中に暗い影を落としていた。

指揮官としての教えを受けたアラマキ元指揮官の部下である人形達の大半がバックアップからの復活も不可能なほどに徹底的に殲滅された事を知った時はその場に崩れ落ちてしまうほどだった

 

それに気づいているかどうか、ヘリアンはアンクルの位置を直すと言葉を続けた

 

「貴官が派遣される新設基地には、本部から派遣される戦術人形以外にもIOP社の研究部署【TVRチーム】所属の戦術人形3名を含めた8名が派貴官の指揮下に入る。派遣される人形の詳細は今から送るデータに記載されているから、目を通してくれ」

「IOP社所属と言う事は、試作機か実験機か? 新参者の私に預けるとはずいぶんと物好き……なぁ!?」

 

端末に送信されたデータを見て、私は言葉を失った。

端末に表示された戦術人形はTVRチーム所属の三人を除けば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だったからだ

アラマキ元指揮官(恩師)のと共に戦える事に、私は目から涙が零れ落ちた。

 

「ヘリアン上級代行官……彼女達――アラマキ元指揮官の人形達を私に任せてくれるのか?」

「元々アラマキ元指揮官の後任はカスミに指揮官に一任される予定だったが、テロが増加していたG01地区に新任の貴官では荷が重いという意見であの男が選ばれたんだ。……あの指揮官はついていなかったな」

「感謝する……それと一つあなたに頼みがある」

 

私の頼みを聞いたヘリアンが首を傾げるのを見て、私は言葉を続けた

 

「どうした? 要望が可能な事なら聞くが?」

「アラマキ元指揮官の部下に一人だけ()()()()()()がいたはずだ。彼を私の指揮下に置くのを許可してくれないか?」




今回初登場の戦術人形AUGパラは、別名AUG9mmとも言い、AUGの一部を組み換えて短機関銃仕様にした銃です

そして、外見もバリエーション元のAUGを10代前半までロリ化して、ツートップへアーにしたような外見をしています(より正確にいうとフリーゲーム【ママにあいたい】の六番目と似たような髪型をしたロリAUGと思ってください」


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M16A4/トーク

最近、急にリアルが忙しくなった……そんなこんなで第二章二話スタートです


修理工廠一階にあるカフェは、工廠内に設けられたとは思えない程に本格的な店だった。

このご時世、A地区のような富裕層街でもなければ見る事がないようなオシャレなテーブルとイス、カウンターにはカフェのマスターらしき女性型人形がコーヒーを淹れているのが見えた。そして、店内各所に描けれているグリフィンのエンブレムやロゴがこの工廠がグリフィンの系列である事を証明していた

 

ただ、3週間前の蝶事件があったせいか、客達の顔はどこか暗かった

そして、パラに手を引かれるように店内の奥へ足を進めると聞き覚えのある声が聞こえてきた

声が聞こえる方向に視線を向けるとカフェの一角でG01地区前線基地の同僚達――スコーピオンさんとM14さん、G36Cさん、GSh-18さん、それにM3さんがP228さんとMP5Fさんがコーヒーや紅茶を飲みながら会話しているのがみえた

 

「本当に危なかったんだよ……愛ちゃんの狙撃でガードの隊列を崩さなきゃ今頃、バックアップごと殺されていたね」

「主任の話から聞いていたけど、根絶やして感じね。他の鉄血兵やハイエンド達とは、グリフィン(私達)に対する殺意が段違い……あ、パラとM16A4じゃない」

 

MP5Fさんが俺とパラに気づいて、振り向いて声をかけると他の人形達も一斉に俺の方に視線を向ける

 

「M16さん、身体はもう大丈夫なんですか?」

「はい、おかげさまでほぼ完全に治りましたよ」

 

俺が笑いながらイスに座るとM14さんが思い出したように口を開いた

 

「そういえば、M16A4さんは工廠から退院した後は、本部所属ということになるのよね?」

「はい、グリフィン本部の警備部隊に配属される予定です……本当は前線基地の方がよかったんですがね

 

M14さんの質問に答えるもふと本音が口から零れ落ちた。本当は後方での警備よりも前線で鉄血と戦いたい。そして、ネームレス(鉄屑ババア)をこの手で討ち取り、爺ちゃん達の仇を討ちたい

けど、俺個人の意思で配属先が変わるほど、グリフィンは甘い組織じゃない。

それに警備部隊とはいえ、グリフィン本社直属の部隊に配属されるという事は状況によっては本部から離れた戦場にも派遣される可能性もある。

それにグリフィン本部には、俺と同じ男性型戦術人形のみで構成された戦術人形部隊のGD小隊も所属している……F02地区前線基地の皆を助けてくれた事に対して礼をいいたかった

 

俺の半ばボヤキを聞いて、MP5Fさんが慌てて言葉を挟んだ

 

「あ、そうだ……M14ちゃん達と私達は新設されたばかりのS07前線基地に配属されるんだよ」

「新設されたばかりのS07前線基地?」

 

MP5Fさんの言葉にでてきた新設の基地であるS07前線基地に俺は興味を持った。

最近、鉄血の侵攻で前線基地を放棄もしくは、壊滅したという話ばかりでグリフィンの基地が新しく作られたというのは本当に久しぶりだったからだ

 

俺が言葉を返すとパラちゃんが口を開いた

 

「えっと、蝶事件――鉄血人形達が反乱を起こす一ヵ月前から工事が始まって、一週間前に完成したばかりの基地だってヘリアンおばさんが言っていたよ」

「パラちゃん、おばさんは失礼ですよ。でも、建造途中の基地って鉄血からすれば絶好の標的だと思うんですが……無事に完成できましたね?」

 

パラちゃんがヘリアンさんの事をおばさんと呼ぶのを諫めつつもパラの言葉に首を傾げた。鉄血からすれば、建造途中の拠点を無視するとは思えなかったからだ

俺の疑問に、P228さんが答えてくれた

 

「実をいいますと元々新設されるS07地区前線基地はS07地区の廃都市の地下に存在した元々核シェルターを兼ねた地下施設を改装した施設なので、元々あった施設の構造とかにはほとんど手が加わっていないです」

「それに……S07地区はまだ、鉄血の活動が活発じゃないから、基地の施設を建造する余裕もあったともいっていたよね、P228」

 

MP5FさんがそういうとP228さんはうなずくとそれを見ていたスコーピオンさんが口を開いた

 

「そうそう、ここであたし達の指揮官と待ち合わせしているんだよ。しかも、つい最近教習を終えたばかりの新人指揮官だよ!! 顔も名前もまだ分からないけど、女性であることはたしかだよ」

「ここで、待ち合わせ? 少し離れた所にグリフィン本部があるのに?」

 

スコーピオンの言葉に俺は首を傾げた。

普通、指揮官が配下の戦術人形達に着任の挨拶をする場所は、派遣先の前線基地かグリフィン本部でするはずだ。ここがグリフィンの関連施設とはいえ、カフェで着任の挨拶をする指揮官がいるとは思いもよらなかった

 

俺の疑問に皆も疑問に感じていたのかC36CとGsh-18さんが続けて口を開いた

 

「確かに、おかしいですよね。同じカフェでもグリフィン本部にもカフェはあるのに」

「そうやね……あ、もしかしたらここに入院している人形をスカウトするためにここを選んだかもしれへんな」

「きっとそれだよ。その指揮官さんはここで入院している人形さんのだれかを仲間にしたいよ」

 

GSh-18さんの推測にパラが頷いた瞬間、ふと俺の後ろから聞き覚えのある声――それももう一度会いたいと思わせる女性の声が俺の聴覚モジュールに飛び込んできた

それと同時に元G01地区前線基地の面々が俺……いいや、俺の背後にある誰かを驚愕の表情で凝視ししてた

 

「その通りだ……()を私の部隊にスカウトするためにここを選んだ」

「あなたは、もしかして!?」

 

俺はとっさにその声の持ち主を見るベくふりかえるとそこに立っていたのは長い黒髪とスレンダーな体型が特徴的なグリフィンの制服を身に付けた20代後半位の日本人女性――サクラ・カスミ指揮官が不敵な笑みを浮かべながら立っていた。そして、右手には黒いガンケースをもっていた

 

「元G01地区前線基地の皆とTVRチーム所属の三人、私があなた達の指揮官となるサクラ・カスミだ」

「カスミ指揮官代理……いえ、カスミ指揮官おひさしぶりです」

 

M14さんが敬礼をすると他の人形達も吊られて敬礼するのをみたカスミ指揮官代理いや、カスミ指揮官は俺に視線を移すと言葉を続けた

 

「そして、M16A4。あなたが修理が終わったら、すぐにS07地区前線基地に来てもらうわ」

「つまり……M16さんも私達と一緒に部隊に入るということ!?」

「そういうことだ……M16A4、異論はないな」

 

パラちゃんの言葉に指揮官が頷くと俺を見る。もちろん、俺の答えはたった一つだけだった。

 

「はい……喜んでカスミ指揮官の指揮下に入ります」

「それはよかったわ。それと主任に頼まれてあなたの半身のM16A4も持ってきたわ。受け取りなさい」

 

 

指揮官はそう言って、手にしたガンケースを俺に手渡すと俺はとっさに隣の空いているテーブルの上に置き、開けた。

中には、黒一色に塗装されたM16A4――フルオート仕様のモデル901とマガジン数個とOKC-3S銃剣が入っていた。まさしく、G01地区前線基地で使っていたのとほぼ同じ仕様だった

 

それに以外にM203グレネードランチャーに、ドットサイトやAN/QEPレーザーイルミネーター、グリップバイポッドやフラッシュライト等のオプションもガンケースに入っていたが……ぶっちゃけいらないだよな

 

「指揮官、ありがとうございます。でもオプションは銃剣一本で十分ですよ」

「まぁ、保険だと思って持っておけ……すまん、コーヒーを二つくれ。」

 

指揮官はそう言って、イスの一つに座ると近くにいた店員の人形を呼び、コーヒーを注文するのを見て、俺もテーブルに座った。

そして、栄養剤以外の味がある食べ物をひさしぶりに口にしながら、カスミ指揮官代理いや、指揮官とこれからS07地区前線基地に所属する事になる仲間の人形達との会話に花を咲かせた

 

 

―――

 

M16A4がカスミ指揮官と再会したのと同時刻、彼の病室内には一人の少女型人形が紙袋を手に片手に空っぽのベッドを見て、首を傾げていた。その人形はオレンジのメッシュが入った黒髪を三つ編みにし、右目につけた眼帯が特徴的だった

 

「あれ……弟の検査や調整も終わっているとTVRチームの主任(ユキダルマ)は言っていたし……どこかに出かけていて、入れ違いになったか? まぁ、先に一杯しながら帰ってくるのを待つか」

 

そう呟くと彼女は袋からウィスキーの酒瓶を取り出すと病室に置いてあったグラスにウィスキーを注いだ。

 

「まぁ、私に弟ができるとは夢にも思わなかったな。AR-15も素直に喜べばいいのにな……M4やSOPみたいにな」

 

彼女はそう言って、グラスに入ったウィスキーを一口飲んだ




ここでようやく、M16A4とカスミ指揮官が再開を果たしました

そして、最後に登場した人形は……誰でしょうね(白目)


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M16A4/スタンバイ

リアルの関連で遅れました


二度あることは三度あるとはよくいったモノで……俺が病室に戻ると見知らぬ人形がウィスキーで晩酌をしていた。そもそも病室は飲酒禁止だったはずだよな

 

その人形は三つ編みに結ったオレンジ色のメッシュが入った黒髪と右目に付けた眼帯が印象的であると同時に、目の前の人形に近親感を感じていた。

敢えていうなら、俺の同型機と出会ったような……俺以外の同型機は存在しないし、準同型にしても瞳の色が俺と同じ銀色のはず……

 

(誰だ……あの人形は?)

「お、帰ってきたか!! 入れ違いになったみたいだから、ここで一杯しながらまっていたよ」

「え……俺に会いに来たのですか?」

「そうだよ……ペルシカから弟の身体が直ったという聞いて、会いにきたんだ」

「弟……俺の事ですか?」

 

目の前の人形は手にしたグラスをテーブルに置くと俺の顔を見ながら頷いた

 

 

「そう…私はM16A1、同じ戦術コアを内蔵したあんたの姉さ」

「M16A1……同じM16自動小銃……俺の姉ちゃん!?」

 

目の前の人形……M16A1姉ちゃんの爆弾発言に俺は唖然とした……というか、M16A1姉ちゃんと俺の戦術コアが同じってどういう事!?

 

俺の反応を予測していたのか、M16A1姉ちゃんは笑い題した

 

「そうさ、M16A4じゃ長ったらしいな、A4と呼んでいいか?」

「いいですよ……じゃあ、自分も姉ちゃんの事をA1姉ちゃんとよんでもいいですか」

「いいぜ、A4。蝶事件の時は妹……SOPⅡが世話になったな」

 

M16A1……いや、A1姉ちゃんがそういうと病室に置かれていたグラスの一つを手に取るとウィスキーを注いで俺に差し出した

A1姉ちゃんの好意は嬉しいが、直ったとはいえ……病室で飲酒する気になれなかった

 

「どうした、飲まないのか?」

「病室で入院中の俺がお酒を飲むのはちょっと……」

「いいじゃないか……初めて会った姉弟同士酒で親睦を深めようぜ」

「ですから……俺は」

 

半ば強引に酒を薦めるA1姉ちゃんに困惑していると病室のドアが開くと同時に目が覚めてから何度も耳にした訛りがきつい女性の声が病室に響いた

 

「M16A1、病室内での飲酒は禁止だホー」

 

俺とA1姉ちゃんが後ろを振り向くとユキダルマをモチーフにしたキャラクターのマスクを被った白衣の女性が調整用の工具類が入ったケースを手に提げて、その場に立っていた。

彼女の名は、ジュリエット・フローライト――パラちゃん達が所属しているIOP社内の開発チームの一つ、TVRチームの主任を務めている人形技師で、俺の修理を担当している人だ

 

元々布製のマスクと独特の訛で喋る為にとっつきにくいが、人形技師としての腕は確かだ。まぁ、俺の修理には猫耳オバサンも関わっていたが、お互い嫌悪感全開にしながら俺の修理していたのでその点はちょっとふあんだったが

 

「ジル、ちょっとぐらいいいじゃないか」

「よくないホー! とにかく、彼を早く戦線に復帰できる調整を終わらせなきゃいけないホー!!」

「そういうな「見つけましたよ」」

 

A1姉ちゃんの言葉を遮るようにどこか聞き覚えのある声が病室の外から聞こえてきたかと思いきや、緑色のメッシュが入った黒髪のセミロングの人形が入ってくるやA1姉ちゃんに詰め寄った。

そして、彼女が第3居住区でエクスキューシュナーに殺されかけていた俺をSOPちゃんやP228さんと共に助けに来てくれた人形の一人だった

 

「M16姉さん、ここにいたのですね……帰りますよ」

「M4ちょっとぐらいいいじゃないか……おっと、A4。こいつは私達AR小隊の隊長で妹のM4A1だ」

「え~と、M16A4です。あの時は助けてくれてありがとうございます……M4姉ちゃんと呼んでいいのですか?」

 

俺の質問にM4と呼ばれた人形いや、M4姉ちゃんのちょっと戸惑いつつも頷いた

 

「いいですよ。あなたのことは……A4と呼んでいい?」

「あ、構いませんよ。俺もA1姉ちゃんも同じM16ですから」

「ホー……ちょっといいかホー?」

 

俺がそう言った瞬間、ジル主任が不機嫌そうな口調で俺達の会話に割り込んできた。俺達は彼女の方を見るとマスク越しでも不機嫌なのがすぐに分かった

 

「調整作業の邪魔だホー! 関係者以外は出ていくホー!」

「すいませんジルさん……姉さん行きますよ」

「分かったよ……A4、機会があったら一緒に飲もうぜ」

 

M4姉ちゃんがそういうとA1姉ちゃんは渋々とい言った表情で、グラスに入っていた酒を飲み干すとM4姉ちゃんに引きつられるように病室からでていた

それを見たジル主任は、一件して機嫌よさそうに工具箱を開いて、工具類を取り出した

 

「さて、邪魔もいなくなったし……戦闘行動を取っても支障が無いように最終調整を始めるホー」

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

カスミ指揮官との再会やA1姉ちゃんやM4ちゃんが病室に訪れた日から数日後、俺はグリフィンの輸送ヘリで新設されたS07地区前線へ向かっていた。

当初は俺一人だけで向かうのかと思っていたが……

 

「どうしたんだホー?」

「いえ、なんでもありません」

 

俺の隣に座っていたジル主任が首を傾げる……相変わらず、キャラクターをマスクを被っている性で表情は分からないが機嫌がよさそうなのは確かだ

 

「そう言えば、ジル主任もなぜS07地区前線基地へ?」

「簡単に言うなら、人形開発や改造用パーツの開発研究ができる環境が整ったラボがS07地区にできたホー。そこで新型の人形を研究するんだホー、部下の研究員達も一足先に研究所に向かっているホー」

「IOP社じゃできないんですか?」

「あの猫耳年増がいるところで研究に打ち込めないホー……90wishの残党なんか信用できないホー

(90wish……どこかで聞いたことがある名だな)

 

ジル主任は不機嫌そうにつぶやくのを見て、彼女が猫耳オバサンが嫌っているのがよく分かった。

ジル主任と猫耳オバサンとあの間に何があったのか知りたいが……ここで聞いても話してくれないのは想像できたので、別の質問をぶつけてみた

 

「え……と、ジル主任のチームって主にどんな研究開発をしているのですか?」

「戦術人形用のフレームやチューンパーツやASST用制御プログラム等々戦術人形開発の可能性を広げる基礎研究をしているホー」

「戦術人形の可能性……ですか」

「そうだホー……」

 

ジル主任が言葉を言いかけた時、ヘリパイロットの声が彼女の言葉を遮った

 

「フローライト主任、M16A4、そろそろS07地区前線基地のヘリポートに着陸するから降りる準備をしてくれ」

「あ、はい!」

「ようやくついたかホー!」

 

俺と主任はヘリパイロットの呼びかけに返事を返すと一度窓越しに外の風景に目をやる

 

そこには、一見すると障壁に囲われた数件の背の低い倉庫や兵舎らしきビルが見えた。基地としては簡素すぎるが、もし地下施設を改築した施設なら主要機能は地下にあるのだろう

 

「ここがS07地区前線基地……俺の新しい所属先でカスミ指揮官達が待っている場所」

 

 




今回、初登場のユキダルマ主任こと、ジル・フローライトが被っているマスクは、アトラスの看板悪魔のあのキャラをイメージしてください

そして、彼女が所属するTVRチームは一頃で言うなら、戦術人形用オプションパーツやチューンパーツ等を研究開発している部署です(原作ゲームでいう所の開発の項目全般を担当している部署と思ってください

MP5FやパラことAUGパラ、P228は彼らが開発したオプションパーツやプラグラムをテストするために作られた戦術人形達です(正確には、P228はTVRチーム製パーツを設計段階から組み込んだ人形です


さて、次話からはM16A4が番外編時空でも本拠地となるS07地区前線基地を舞台して動き回ります


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M16A4/ウェルカム

二ヵ月ぶりに本編を投稿できました
まぁ、番外編で独自シナリオ一つとコラボが重なったからですが……

アイサツは大事


俺が新たに着任するS07地区前線基地のヘリポートに降りて立って感じた事は、何もないという事だった

 

周囲を見渡してもあるのは背の低い建物が3軒と倉庫、通信用アンテナ塔以外は物見櫓付きの障壁しか見えない。

それに基地の周囲には廃都市の名残とも言うべきボロボロな廃ビルしか見えなかった

 

いくら辺境のG01前線基地でも司令部とか修復施設等の施設類が密集しているのに……主要な施設は全部地下に集中させているのだろうか?

 

「大規模な基地だと施設の一部が地下に作られる事がある言うがホー、ここまで何もないのは珍しいホーね」

(サクラ指揮官……こんな空き地同然の基地でだいじょうぶなのでしょうか?)

 

ジル主任も予想以上にS07基地の敷地が空き地同然の状態を物珍しさに見渡すのを見て、俺はちょっと不安になった時、背後からききおぼえがある声が聞こえてきた

俺は後ろを振り返るとそこにはベージュのセーラ服を着た栗毛のツインテールの人形――M14さんが立っていた

 

「あ、M16A4さん久しぶりね。隣のキャラクターのマスクを被っている人がTVRチーム主任のジルさんですね」

「M14さん、お久しぶりです」

「私がTVRチーム主任、ジュリエット・フローライトだホー」

「M16さん、彼女って随分と特徴的な口調で喋るのね……そのマスクも気になるけど」

「故郷の言葉の訛りがきついのとマスクについては顔を余り見られたくない殻だって」

 

M14さんが主任の訛りがきつい言葉とマスクに若干引きつつも気を取り直した

 

「じゃあ、二人をS07前線基地を案内してあげる。こっちよ!」

 

そう言ってM14さんはヘリポートから一番近いビルの方へ歩いていき、俺とジル主任も彼女の後を付いていった

 

まばらな基地内でも比較的大きな三階建てのビルの出入り口には「中央棟」と書かれた看板が掛けられており、M14さんが金属製の自動ドアを開けて入るのを見て、俺達もそれに続くとそこは比較的綺麗な床と数台のエレベーターが印象的なエントランスホールだった。このビル自体は出来たばかりなのか内部は比較的綺麗だた

 

「この時間は指揮官は地下三階の中央司令室にいるはずだし、例の研究所へ続く通路があるのは……二人共あのエレベーターで地下に行くよ」

「あ……はい、分かりました」

 

 

M14さんがそう言ってエレベーターの一つを指差すのを来て、俺が頷くと彼女はエレベーターのすぐそばま近づくと彼女が指差したエレベーターが開いた。

そして、M14さんと俺とジル主任がそのエレベーターに乗り込み、M14さんが操作盤のスイッチの一つを押すと扉が閉まって、エレベーターが地下へ下がり始めるとM14さんが俺の方を振り向いてこう言った

 

「ねぇ、この基地を来た時にG01前線基地よりも貧相だと思わなかった?」

「はい……俺がここに到着した頃には何もなさ過ぎて指揮官達が不安になったほどですよ」

「そうよね……でも、ここの基地の()()姿()は地下にあるのよ」

 

M14さんがそう言うのと同時に目的の階層に到着したのかエレベーターが止まり、ドアが開いた

そして、俺の目に飛び込んできたのは、かつて白蘭島事件以前に存在していた日本の地下街を軍事施設に改装したように複数の自動ドアが並ぶ手入れが隅まで行き届いた広いエレベーターホールだった

それを見た瞬間、俺は地上部と地下のギャップに唖然とした

 

「空き地同然な場所の地下にこんな場所が広がっているなんて……」

「ヒホー!? この地下に施設を集約しているとは思っていたが、ここまで立派な施設だったとは予想外だホー!!」

「ようこそ、M16A4さん、ジル主任……私達のS07前線基地へ」

 

ジル主任が興奮したように声を張り上げ、M14さんが胸を張るのを俺は黙って見ていた

 

(ここが俺の配属するS07前線基地……カスミ指揮官の基地なんだ……)

 

 

 

―――――――――

 

 

 

エレベーターを降りてから、先にTVRチームの研究所へ先行していた研究員達と合流したジル主任と別れて、M14さんの案内で指揮官がいる中央司令室へ向かっていた

その道中で、貧相な地上部とグリフィン本部に敗けず劣らずの先進的な内装の地下部とのギャップに俺は圧倒されていた

 

「M14さん……地上の空き地同然の様子と地下の先進的な設備や内装じゃギャップが凄いですね」

「皆も初めて見た時は驚いたわ……貧相な基地かと思いきや、実はグリフィン本部に敗けず劣らずの立派な基地だったの。スコーピオンなんか、はしゃいでいたほどよ」

 

M14さんは思い出すようにクスクスと笑いながら言った。確かに、スコーピオンさんなら、珍しい物……特にメカ類に好奇心旺盛な彼女ならありえそうだ

 

「それにMP5Fが言っていたけど、TVRチームの地下研究所も中々立派だったって。もしかしたら、新作の拡張パーツとか融通してもらえるかも」

「へぇ……民間人形時代は製造工場で人形製造に関わってきたので興味がありますね」

 

かつて製造工場で自律人形のパーツ製造を関わってきた身として、フレーム等のパーツの質が人形のスペックに大きく関わっているのを知っている。

 

(機会があれば、TVRチームの研究所にも寄ってみるか……おや)

「M16A4さん、ここがS07前線基地の中枢部ともいえる中央司令部よ」

 

M14さんが大きな自動ドアの前で立ち止まり、振り返るとそう言うと自動ドアに手を振れた

すると自動ドアが電子音と共に右にスライドすると大小さまざまなモニターと見覚えのある女性の後ろ姿が目に入った。すぐに彼女がカスミ指揮官だと理解できた

 

「E01小隊は東部地下道経由で基地に帰還しろ……来たか?」

「M14、新入りを連れてきました」

「ご苦労……M16A4、よく来たな」

 

M14さんが敬礼をするのをカスミ指揮官は振り返り、薄ら笑みを浮かべるのを見て俺もとっさに敬礼する

そして、俺はF02前線基地へ着任する直前まで考えていた……結果的に言う事が出来なかったあの言葉を口にする

 

戦術人形達にとって衣装と同じ位自分達の本質を示す指揮官への着任の挨拶を……

 

「初めまして、M16A4です。これからあなたの指揮下に入ります!!」




G&K社S07前線基地

元々は富裕層の避難所として建造されるも計画変更により、放置されていた地下施設群でも状態がいい施設の一つをグリフィンの前線基地として改装した施設である

最大の特徴は、元々核シェルターとしても建造されていた施設や構造を流用する形で作られたために、基地の主要な設備はの大半が地下に集中していることである

また、地下施設同士や他の地区へ繋がるための出入り口となるトンネルや地下道が多数現存しているため、地上の鉄血やELIDに見つかることなく移動することが容易である

しかし、長年放置されたされた事で地下道の崩落や施設群の劣化によりその交通網は半ば機能していない


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S07前線基地/オーバーワーク

すべての始まりを告げるカウントダウンが始まる


 S07前線基地に着任して約1ヵ月が経った頃、S07前線基地の地上部中央棟にある執務室に机に座っている顔に疲労の色が浮かべた指揮官を見ながら、俺は口を開いた

 

「指揮官……人員が来るのはいつになるでしょうか?」

「……最低でも一週間ほどはハードワークを覚悟しろ」

「うぅ、交代で寝ては警戒任務……無茶にほどがあるよ」

「泣くな……私だってまともに寝ていないんだ」

 

 目元にクマを受けベタ指揮官がため息交じりに言うと俺の隣に立っていたスコーピオンさんが半ば泣き顔の表情を浮かべつつ地肩を落とした。その声は絶望に染まった声で、救いを求める目で指揮官を見ていた

 

 それを見ていた俺も指揮官の言葉に落胆を隠せなかった……それはS07前線基地に所属する人形達も同じきもちなんだろう

 

 

 

 S07前線基地が今、直面している問題……それはS07前線基地に所属する人形の数が少なすぎて、オーバーワーク状態になっている事

 

 

 元々俺達が所属していたG01前線基地の周囲には、(別のPMCに管理を任されていたとはいえ)第三居住区を除けば廃都市かそれを転用したグリフィンの練習所しかないグリフィンの管理区域でも辺境と呼ばれても無理が無い場所だ

 それゆえに、わずか13体しか人形がいないG01前線基地でも盗賊(ヒャッハー)達退治に出撃させられるだけの余裕があった。

 

 だが、カスミ指揮官と俺達が着任したS07前線基地では状況が全く違う

 

 まず、周囲には三カ所の地下施設を再利用した居住区であるメメントス街、新設されたTVRチームの研究所、それに前線基地とメメントス街や他の地区を繋ぐ地下道等護衛担当箇所が一気に増えた。おまけに地下道やメメントス街は無計画に改修工事が進められたせいで迷路のような有様で、電脳に専用のナビゲーションソフトを入れていないと間違いなく迷う

 

 複雑な地下道に、G01地区よりも多くの護衛対象を護るためには最低でも戦術人形が最低でも10人近くいないと厳しいのに、S07前線基地には俺を含めて9人しか戦術人形がいないので使える事実上常に誰かが警備任務に駆り出されているという状況だ。

 

 それでも、S09地区内のグリフィン前線基地の戦術人形が警備担当箇所の一部を肩代わりしてくれたおかげで俺が着任してから半月くらいは俺達の負担はほとんど軽減されていた

 それも一月後に来る新しい人形や人間のスタッフが配備される俺達にとっては大助かりだったのだった

 しかし、その前線基地は2週間前に鉄血の奇襲を受け壊滅したという所属していた指揮官を含む人員は全滅。その基地に所属していた80体近くの戦術人形もそのほとんどが殺され、残りも行方不明という大惨事になったらしい

 おまけにその基地の近くにはS07前線基地やメメントス街にも繋がる地下道への入り口となるトンネルが複数存在し、そのトンネルは陥落してすぐにメメントス街の自治組織とグリフィンの手によってすべて封鎖された

 

 

 だが、鉄血に進入される可能性も考えてS07前線基地を警備を厳重にすべく、警備を厳重にせざる得なかったのだ。

 

 その結果、二週間前から、目が覚めてから警備任務に出て、戻って充電と食事を取ったらすぐに別の警備対象場所へ出撃を数回繰り返した後に、メンテナンスを兼ねて睡眠をとる

 そして、起きたらのその繰り返しが二週間続いている……

 その状態でも普通だったら警備任務では使わないダミー人形をフル活用しているせいでも

 

 それを考えると目に涙を零れておちるのを感じながら、呟いた

 

「指揮官、早く追加の人員、それが無理なら本部か他の基地から応援を……」

「分かっている……ヘリアン(行き遅れ)の口に銃を突きつけさせてでも追加の人形や人員スタッフをこの基地に送らせる……だから、今は耐えてくれ」

「うん……がんばる……」

「行きましょう……スコーピオンさん」

 

 スコーピオンさんが力なく答えながら、立ち上がると俺達は執務室を後にする……さて、少し休んだら、今度はパラちゃんと一緒に第二メメントス街方面の地下道の警備だな……腹をくくって頑張るしかない

 

 ────────

 

 M16A4とスコーピオンが執務室を出ていくのを見届けたサクラは、自身の業務を続けようと書類の束に手をかけようとすると手元の端末の呼び出し音が鳴り響く

 サクラはすぐに端末を操作し、通信を繋ぐとモノクルをかけた長い髪を一つに結った女性──ヘリアン上級代行官がホログラムで映し出しされた

 

「カスミ指揮官、そちらの状況はよくないようだな」

「元々9体しかいない上に厳戒態勢……正直、私の子飼い達の負担は相当なものだ……追加の人員や人形を送ってほしいほどだ」

「その一件だが……S07前線基地に7体の戦術人形と多数のスタッフを前倒しで派遣するのと同時に本部の戦術人形約10体をS07地区のメメントス街の警備としてに派遣させる事が決まった」

「私の所に6体の戦術人形を送ってもらうのは分かるが……本部の人形をメメントス街に派遣させるだと? 本部の方で何かあったのか?」

 

 ヘリアンの言葉にサクラは目を細めながら疑問を口に出した

 戦術人形6体はともかく、本部の戦術人形もメメントス街に派遣させるという本部の決定にサクラは疑惑の念を感じた

 厳戒態勢とはいえ、S07前線基地管轄下の防衛には追加配備される戦術人形5体を含めた16体で事足りるのだ

 それにも関わらず、本部所属の人形部隊をメメントス街に配備するという決定を下したという事は『今のS07前線基地では対処しきれないナニカが起きている』のだとサクラは感づいたのだ

 

 サクラの質問にヘリアンは驚きつつも一息ついてこう言った

 

『あぁ……貴官と提携してた前線基地を壊滅させた鉄血部隊を指揮していたのが二体の未確認のハイエンドモデルである事が判明した』

「なんだと……鉄血工造の製品カタログに載っていなのか!?』

『あぁ、先日保護した壊滅した前線基地の人形の生き残りからの情報でわかった」

「そうか……未確認ハイエンドでわかっている事は?」

 

 ヘリアンの言葉にサクラは一瞬動じるもすぐに冷静に未確認の鉄血ハイエンドについて質問をぶつけた

 それを聞いたヘリアンは困惑の表情を浮かべた

 

『スマン……情報が少なすぎて分からないだらけだ。分かっている事は二体のうち一体がウォーリアと名乗っていた事ともう一体がイェーガーをベースであろうという事だけだ』

「ウォーリアと姿が見えない狙撃型鉄血ハイエンドか……厄介だな」

『あぁ、今から貴官に派遣する戦術人形とスタッフのリストと共に例のハイエンドに関する情報を添付資料に送付している……目を通してくれ』

 

 ヘリアンが言い終えると同時に通信が切れるのを見たサクラは端末を操作して、添付資料のデータを表示させた

 すると端末の画面にはS07前線基地に派遣される戦術人形のリストがこのように表示された

 リストには人形それぞれの顔写真と名前、戦術人形としてのタイプ別に以下のように表示されていた

 

 

 

 

派遣予定戦術人形リスト

HG型

M1911 4Link

 

AR型

L85A1 2Link

Mk16 1Link

 

SMG型

Gr MP5 3Link

 

RF型

M38SDMR 1Link

ファルコン 2Link

 

MG型

AAT-52 2Link

 

 

 

 

 

 そして、サクラはそのリストに目を通しているとふと「M38SDMR」の項目に目が留まった。

 

(この人形……M16A4(アイツ)とよく似た色の目をしている。顔立ちもどことなく似ているが……偶然か?)

 

「M38SMDR」のリストに併記された短く切りそろえた黒髪と()()()()()()()が特徴的な人形の顔写真を注視する

 




さて、色々な事情がありブラック状態のS07前線基地ですが新戦力が加入します

それと同時に
鉄血側にも新たなハイエンドが二体確認されました
うち一体のウォーリアはオリジナルですが、もう一体の狙撃型ハイエンドですが……もう分かる人は分かると思います
個人的には、ハーメルン界隈で最も不遇なポジションになりがちな彼女です(個人的にはヴィランとして見れば、機雷じゃないんですがね……やっぱりメタ的なアレが嫌われる要因なんでしょうか?


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M16A4/パトロール

ひさしぶりに本編を投稿です

あの日、鉄屑共に工場も爺ちゃん達を奪われた俺に唯一手に残ったモノがある
けど……俺は彼女と会う権利があるのだろうか?




S07地区に存在する居住区の一つ、メメントス街はS07前線基地の兵舎や施設類を居住区の商店や住宅地に置き換えたような構造をしている

元々は富裕層向けに建設されたが諸事情で使われることなく半ば放置された3つの大規模シェルターを汚染やELIDからの脅威から逃れるために避難民の居住区に転用したのがメメントス街の始まりだと町の住人達から教えてもらった

そして、その構造故に比較的に多くの汚染地域が点在するS07地区でも有数の汚染とは無縁の居住区とも言える場所だ

 

 

俺はパラちゃんと共にその一つである第二メメントス街でも特に貧困街ともいえる地上部の警備任務に就いてた。

ここはで、大破した兵器等をサルページするジャンク屋やそれを売りさばくジャンクショップの経営する人達が多く住む場所で治安は比較的悪い場所だ。

実際、俺を人間だと感じたチンピラに絡まれた事があった。その後は、返り討ちにしてやったが

 

俺が運転するジープを商業区域の道路の停車させて、午後の警戒ルートを確認しつつ後方座席に乗ったパラちゃんのダミーと俺のダミーが周囲に異常が無いか目を光らせている。

もしも、何かあったらすぐに異常を伝えるようにセットしているが……今の所、異常や事件と行った事はなかった。

おまけに、明日追加の人形達が来る事が決まって、気分も幾分か軽くなった気がする

 

「今日まで鉄血の侵攻や事件は特に無し……オマケに「追加の人形派遣が前倒しになった」でいい事が続ていますね」

「油断はしちゃだめだよ……ここは平和でも他の場所じゃ鉄血と戦っているだから」

「分かっていますよ……それでもこの穏やかなメメントス街の様子を見ていたらね」

 

パラちゃんの言葉に気が緩みかけていた事に気づきながらも、俺は周囲の活気のある商店街や道を歩く買い物客を見ながら呟いた

その時、俺の目に買い物客の雑踏に紛れて右往左往する赤い帽子をかぶった小さな人形が目に留まった

 

「あ、パラちゃん……あそこを見て」

「あの子、道に迷っているのかな?」

「かもしれませんね……ちょっと声をかけてみましょうか?」

 

パラちゃんも迷子らしき人形を見て頷くと俺はジープを降りると愛銃のM16A4を肩に下げると人形の方に近づいた

 

遠目では分からなかったがその人形の元に近づくと彼女の手にトランクのような物を手にしている事に気づいたが、気にもせずに俺は彼女に声をかけた

 

「そこの小さな人形さん……道に迷いましたか?」

「え……あ、はい!?」

 

彼女は俺を見ると少し躊躇してからこう言った

 

「グリフィンS07前線基地に向かう途中だったんでけど、他の人形とはぐれてしまったんです」

「……え?」

 

予想外の言葉に俺は目が点になった。S07前線基地に向かう途中という事は、もしかして……

 

―――――――

 

 

「S07前線基地が男性型戦術人形が所属している珍しい前線基地だと聞いていましたけど、M16A4さんがその男の人形さんなんですね」

「MP5さんの言う通り、男性型戦術人形は俺だけですね……やっぱり、男性型戦術人形って珍しいんですね」

 

迷子になっていった人形こと、MP5さんが物珍しいそうに俺を見上げると思い出したように口を開いた

俺が思った通り、彼女はS07前線基地に着任する人形の一人で、他の人形二名と共に一足先にS07前線基地に向かっていたのだがメメントス街で他の人形達とはぐれた上に、女メトンス街で一人途方にくれていたらしい

 

「そう言えば、S07前線基地にはMP5Fという名の私の妹の当たる人形がいるって本当ですか?」

「うん……確かに、銃種的に考えると彼女は君の妹になると思いますね」

「やっぱりそうなんだ……どんな人形なんだろう? 私そっくりな人形だといいな」

「……そっくりだといいですね」

 

まだ見ぬ妹の姿を想像し、笑みを浮かべるMP5ちゃんを見ながら俺は何とも言えなかった。

確かに、MP5Fさんと彼女は顔立ちはよく似ている……正確に言うと外見年齢10歳ほどのMP5さんを()()()()()()()()()()()()()()()になると思う

つまり、どうあがいてもMP5ちゃんがMP5Fさんの姉だと部外者に行っても信用してもらえないだろう

 

むしろ、MP5さんとMP5Fさんをならべたら、ほぼすべての人が後者を姉だと思うだろう。昔、姉妹の二番機はスケベボディとなるというジンクスを聞いた頃があるが……

パラちゃんもMP5ちゃんに困惑の表情を浮かべていたが、ある事を思い出したのかこう言った

 

「そう言えば……はぐれた人形さんがいるじゃなかったの?」

「そうでした! SDMRさんとMK16さんを探さないと」

「落ち着いて、僕達の一緒にさがしてあげますから、その人形達の特徴を教えてくれませんか?」

 

パラちゃんの言葉に右往左往するMP5ちゃんを俺は落ち着かせる

 

「そ、そうですね、MK16さんの特徴は……」

 

俺の言葉に彼女は落ち着きを取り戻すとはぐれた人形達の特徴を話し出した

俺とパラちゃんはそれを黙って聞きき、彼女が言い終えると俺は人形達の特徴を復唱する

 

「MK16は、茶色のセーラー服を着た腰まで伸ばしたストロベリーブロントの髪と青い瞳の人形で、SDMR……正確には、M38SDMRさんは赤ずきんみたいな赤いフード付きケープ、肩まで切りそろえた黒髪と銀眼の人形ということですね」

「はい……あ、そういえばM16A4さんの一人も同じ銀色なんですね」

「あぁ、そうですね……「ダーン!!」

 

俺達の会話を遮るように周囲に複数の銃声が鳴り響いた。

俺達が振り向いた方向はその方向は一軒のジャンクショップがある裏路地の入り口だった

 

「銃声、それも複数なんてただ事じゃないよ」

「パラちゃん、行きましょう!!」

「私もついていきます」

 

俺が銃声が聞こえた裏路地に向かうとその背後に二人もついていった、俺は妙な感覚を感じながら

 

(なんだ……この妙な胸騒ぎは……会いたいけど、会いたくない誰かと再会するような変な気分だ)




私は目が覚めた時から、私は人間でいう孤児だった
私を作った人達は私が目覚める少し前にテロで全員死んじゃった……


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ブラックコンテナ/M38SDMR

蝶事件が起こって仕事場も同僚も失って、露頭に彷徨っていた時
私はグリフィンに入隊するための志願書にサインしていた


第二メメントス街地上部の一角のある裏路地にあるジャンクショップの主人は目の前に集団に言葉が出なかった

彼の目の前には、黒いフード付きコートを着た女性とその周囲を白装束で姿を隠した数人の集団がそれぞれ手にした拳銃やサブマシンガンを店主に向けていた

彼らの顔は白い布等で隠されていたが、体格から全員三人であるととすぐには分かった

 

()()()()()()()のために、クソッタレな砂ネズミからこの店を聞き出して探すのにどれほど時間がかかったと思っている?」

「止めてくれ、金なら出す!! だから……」

 

黒いフード付きコートを着た女は手に持ったリボルバーを店主である初老の男性に突きつけると見下すように男の言葉を遮った

 

()()()()()()()()()()。私が欲しいのはコンテナだ……集めろ」

「「「「「はい、お使い様」」」」

 

黒い女性の言葉に白の男達の内数人は、銃を手に外に出た。

店内に残った男達は店内の棚等に置かれている鉄血工造製のエンブレムが描かれた黒い電子錠付きのコンテナを手に取り、黒の女の元へ持ってくる。女はそれを一瞥すると首を横に振った。

白の男達は持って生きたコンテナが女が求めている者ではないと投げ捨てると別のコンテナを探し、女の元へと持ってくる

 

その繰り返しが続くこと数分後、

 

「それも違う……ただのジャンクパーツ用廃品コンテナ。もういい……」

 

彼女がお目当ての品が見つけられない男達を軽蔑の目で一瞥すると店主に視線を戻して、威圧感を込めながら彼女達が求めているモノの場所を問いただした

 

「親父、鉄血工造の電子錠付きコンテナがここにあるはずだ。上面に「P5-20160915-S34」の刻印が押された輸送コンテナだ……知っているだろう?」

「確かに、あんたの言うコンテナはここにある。が……ロックを解除する事が出来なかった代物じゃぞ」

「そんなことはどうでもいいどこにある?」

「カウンターの右奥の棚の一番下に置いてあるお前は鉄血の……アガ!?」

 

店主の言葉が気に喰わないのか、黒の女は手にしたリボルバーの銃口を店主の頭に押し付けると怒気を込めて言った

 

()()()()()とわたしを一緒するな。さっさとコンテナを渡せ!!」

「わかった……コンテナは渡す!!」

 

店主は恐怖に震えながら、棚から鉄血工造のエンブレムが描かれた一つの黒いコンテナを取り出すと女の前に差し出した。そのコンテナの上部には「P5-20160915-S34」の刻印が押されて、女はそれを指でなぞっていた

 

「ふん……確かにあのババアが言っていたのと同じシリアルナンバーのこ「そこのガキ、動く……グアワァァ!!」」

 

男の叫びが店の外から響いたのと同時に、銃声がすぐ近くで響いた。さらに、銃声と共に外で見張りをしていた白の男達の一人がドアを突き破り、店内に転がり込んだ。

 

店内にいた全員が男が転がり込んできた方向を見ると店の外で見張りをしていた白い男達が地面に倒れている中で二人の戦術人形が立っていた

 

人形の一人は、赤いフード付きケープを羽織った銀色の瞳と肩まで切りそろえた黒髪の少女の姿をした人形。手には分隊支援火器M27IARの狙撃仕様のM38SDMRを構えていた

もう一人は茶色のセーラー服を着たストロベリーブロントの童顔かつ中性的な人形。彼女(?)の手には、ドットサイトとフェアグリップ付きのSCAR-Lが握られ、その銃口は店内に向けていた

 

「動かないで、武器を捨てください」

「今なら、痛い目を見ずに投降できるよ」

「ヒィ!?」

 

白の男達は二体の人形が彼らに銃口を向けている姿に怯むが黒の女は特に怯える事なく、二体の人形を見ながら舌打ちをする

 

「ちっ、グリフィンか……やれ」

「「「はい、仰せのママに」」」

 

白の男達は女に命じられるままに、白の男達は拳銃やサブマシンガン手に二人の人形に飛びかかる

二体の戦術人形達は男達の射撃技術の低さも手伝って、容易に銃弾を簡単に避ける事が出来た

そして、彼らの銃弾をかわすのと同時に、それぞれの得物であるライフルで白の男の手足を撃ち抜いて無力化していった

 

そして、わずか僅か数分で白の男達がうめき声を上げながら地面に倒れるのを見て、黒の女が軽蔑のまなざしで男の見ていた

 

「ふん、努力は認めてやるよ。口だけヤロウが」

「動かないで……強盗さん、手に持ったコンテナを床に置いて」

「はいはい……置けばいいんだろう?」

「SDMR、コイツ何か企んでいるよ!!」

 

セーラ服を着た戦術人形がSDMRと呼ぶ赤いフードの人形に警告するのと同時に、黒の女はコートの袖から球形状の物を床に落とした

 

その瞬間、球形の物から白煙が噴き出し、人形達の視界を覆い隠してしまった

 

「しまった。煙幕弾!?」

「惜しかったな。赤ずきんとセーラ服のガキ……コンテナは頂いていくぞ!!」

「MK16、逃がしちゃだめだよ!!」

「だめ、煙で全く見えないよ!? 煙幕にチャフが混ざっているのか、索敵モジュールも使えないよ」

 

女の不敵な笑い声が遠ざかっている事に気づいたSDMRは彼女がMK16と呼ぶセーラ服の人形に追跡するように言うもMK16も白煙で何も見えなかった

 

そして、数分で周囲を覆っていた白煙が消えるとそこには恐怖に震えるジャンク屋の店主と倒れている白い男達しかいなかった

ふとSDMRは震えている店主を

 

「逃げられた……オジサン大丈夫?」

「あぁ……ワシはな。君達はグリフィンの戦術人形か?」

「はい……僕達は「何があったんだ!?」

「あ、MK16さんとSDMRさん……ここにいたんですね!? 探したんですよ!!」

 

MK16の言葉を途中で遮る青年の声に二人は振り向くとそこには、銃声を聞いて現場に駆け付けたM16A4とAUGパラ、MP5がそれぞれの銃器を手にジャンクショップに向かって駆け寄る姿だった

 

それを見たSDMRは、衝撃の表情を浮かべて彼らの姿を凝視していた。正確には彼女と同じ銀色の瞳を持つM16A4の姿を

そして、SMDRとMK16の姿を見たM16A4も驚きの余りにこう叫んだ

 

「リー、それに……コウ!? 君がここにいるの? それに……なんで戦術人形に転換しているの!?」

「ツクモお兄ちゃん!? どうして……それに手に持っているのって、M16A4じゃない!?」

お互いの姿に驚愕する二人に他の戦術人形達は動揺を隠せず、MK16――リーは二人に向かって動揺しつつも質問をぶつけた

 

「M16A4とSDMRは知り合いなの?」

「知り合いも何もコウは……同じ工場で作られた準同型機(俺の妹)だよ」

 

M16A4は動揺を隠しつつMK16に呟くと目を開いてSDMRの姿を見た




はい、番外編時空で先行登場していたリーことMK16、コウことM38SDMRが本編時空に本格参戦です!

そして、今回の話はM38SDMRのモデルであるキャラが主人公の3Dアニメの冒頭シーンのオマージュですが……分かるでしょうか?

可愛いだけで守られるだけのお人形である自分を変えたかった
僕は女装は好きだけど、男としての意地とプライドもある
だから、戦う男の象徴である兵士――戦術人形になる事を決めたんだ


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S07前線基地/ドールズ

気が付いたら、投稿開始から1周年が経っていました
これからもよろしくお願いします


メメントス街2番街地上部のジャンクショップでの強盗事件の直後、後始末を自衛団に任せた後で、コウ――M38SDMRとリー、それにMP5を連れてS07前線基地へ帰還したのだが……

 

「報告は以上か?」

「はい、指揮官……M38SDMRとMK16から聞いた事は全部話しました」

「そうか……で、MK16とM38SDMR……長いな、SDMRと呼んでいいな?」

「あ、はい!?」

 

指揮官は不機嫌そうな目でSDMRと呼ばれた(コウ)MK16(リー)を見ると半ば吐き捨てるようにこう言い捨てた

 

「たった二人で強盗相手に殴り込みとは、いい度胸だな!?」

「ヒィ!?」

「だって……あいつらただの強盗じゃなかったよ」

 

コウの言葉に指揮官は引っかかるモノを感じたようで興味深そうに質問した

 

「ただの強盗じゃないだと?」

「うん……あいつらの狙いは鉄血工造のコンテナだったの……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「鉄血のコンテナ……なんでそんな物を強盗が?」

 

俺は思わず口から出た疑問にコウが答えた

 

「きっと……そのコンテナの中に彼女達にとって価値がある物が入っていた……お金よりもずっと価値がある何かを探していた」

「なるほど……一理あるな」

 

コウの仮説に指揮官が頷くと二人に顔を向けた

 

「とにかく、今回の件は不問とするが……今後、こんな無謀な真似は()()()()()()()()()()絶対に許さん」

「「はっはい!!!」」

「分かったなら、もういい……行っていいぞ」

 

指揮官の言葉にそそくさと指令室を出ていく二人を目で追った。正直な話、あの二人が戦術人形になっていた事に衝撃を隠せなかった

 

「まさか、あの二人が戦術人形になっていたとは……」

「お前はあの二人とは知り合いか?」

「はい……リー、いやMK16とは蝶事件が起こった日のG01地区第三居住区にあるバーで合いました」

「ふむ、よくある話だな……で、SDMRとお前の関係は?」

「……()()()()()()の妹に当たる人形です」

「なるほど……これ以上詳しく聞くつもりはない」

 

指揮官は含みを持たせた口調でそう言った事に気になるモノを俺は感じた。

 

(指揮官……本当はいろいろと聞きたい事があったんじゃ)

「私も過去にいろいろと()()()()()()()()()()()()()()事を何度も経験した」

「指揮官、それは……」

「もし、お前がその時の事を話そうと思った時には私も自分の話を聞かせて……」

 

突然、指揮官が言葉を遮るように聞き覚えのある可愛らしい声が怒気がこもった叫びがドア越しに指令室内に響き渡った

 

「姉よりも優れた妹が存在していいはずがありません!!!!」

「MP5姉さん、いきなり何をいっているの!?」

 

その叫びの内容に……指揮官は顔を手で覆い、俺は苦笑いを浮かべてた

 

「MP5からすれば、MP5Fは妹に当たるからな……彼女の体格でMP5(彼女)の自尊心に致命傷を受けたようだな」

「予想していましたが……ここまでとは、ショックを受けるのは想定外でしたね」

 

俺が遠い目でドア越しに聞こえるMP5FさんとMP5ちゃんの姉妹ケンカを聞くことしかできなかった

 

「私なんか牛乳を飲んで背を伸ばそうとしているのに……なに、その高い背丈と凹凸がはっきりしたスタイル……理不尽です!!!」

「確かに……妹っぽく見えたけど、お姉さんの体格だって捨てたモノじゃないよ……むしろ、それがある意味で個性らしく見えるよ」

「恵まれたモノゆえの余裕ですか!!」

「そうは……「こんな体格に欲情する殿方は、ロリコンという名の変態しかいませんよ!!!」

 

二人の口論の内容を聞いた俺は顔が少し熱くなったような錯覚を感じた。

いくら人形とはいえ、俺のメンタルモデルは人間の男性と基本は同じ……無論、異性に対する感情も人間と同じように持っており、彼女達の口論はある意味で毒に等しく、股間のサイドアームズが反応がズボン越しに分からなくなっているのがある種の救いだった

 

「はぁ……M16A4、あの二人を黙らせろ。これ以上は耳に毒だ」

「は、はい!!!」

 

指揮官がため息を吐きながら投げやりにいうと俺は二人のケンカを仲裁するべく、指令室のドアをあけて外にでた

 

 

―――――――――――

 

 

ジャンク屋で強盗事件が発生した翌日

S07前線基地司令部には、グリフィン本社から派遣された戦術人形達――MK16やSDMR、MP5を含んだ7体がデスクに座るサクラの前に立ち、それぞれ着任の挨拶を始めようとしてた

 

最初に名乗ったは足元まで届きそうなほど長い緑髪をポニーテールにした小柄な人形とMP5だった

 

「ボンジュール!AAT-52機関銃、今日から入隊します!!」

「改めまして……MP5です。せ、背が小さいからって甘く見ないでください!!!」

「あぁ、よろしく頼む。それとMP5は妹と仲良くしろ」

「?」

「……はい」

 

指揮官の言葉に顔を赤くするMP5にAAT-52はサクラの言葉とMP5が赤面したことに首を傾けた

そのMP5を庇うように今度はチェコの民族衣装を身に着けた人形――ファルコンと赤バラの飾りを付けた帽子と眼鏡を付けた人形――L85A1、そして、SDMRが名乗った

 

「アッホイ!! おおかみさ……じゃなかった。指揮官、ファルコンでいいよ」

「はじめまして~L85A1です。特技は~紅茶を入れる事です」

「こんにちは、M38SDMRです。戦闘も銃のメンテナンスも私に任せて」

「よろしく……後、ファルコン。私をオオカミと呼ぶとは面白い奴だな」

 

三人の名乗りを聞いたサクラが興味深く――わずかな苛立ちをにじませた視線をファルコンに向ける。それを見たファルコンは一瞬、ビクと体を震わせる

 

「まぁいい……SDMR、お前は銃の整備が出来るのか?」

「はい……手先が器用なんです。愛銃も私の手でカスタマイズと調整をしたんですよ」

「そうか……この基地には、自分の愛銃の整備をサボる奴もいるからな。その手のガンスミスを雇いたかったんだ」

「はい……ツクモ、じゃなかったM16A4兄さんと共に頑張らせてもらいます」

「そう……じゃあ、最後の二人も名前を教えてもらおうか?」

 

SDMRの言葉に目が細めるサクラだったが、すぐに頭を切り替え残りの二人――黒い上着と白のスカートが印象的な金髪ボブショートの人形――M1911と茶色のセーラー服を着た中性的な顔立ちの人形――リ―こと、MK16が続けた自己紹介を始めた

 

「MK16です!!できれば、リーと呼んでくれればうれしいです」

「M1911です。ガバメントと呼んでください」

「そっちの方が呼びやすいな……いいか、リー、ガバメント」

「「はい!!」」

 

指揮官の問いかけに二人が同時に答えるとM1911――ガバメントがこう言った

 

「そう言えば……ここにもリーと同じように男性型戦術人形が一人所属しているって本当ですか?」

「そうだ……M16A4という名のAR型戦術人形だ。お前も同族の異性(男の戦術人形)に興味があるのか?」

「いえ……前に所属していた前線基地の指揮官とグリフィン本社で再会した時に、男性の人形が部下に入ったと言っていました」

(そもそも、男性の戦術人形はM16A4とリーを除けば、噂でしか聞いたことが無いDG小隊しか知らないが……まさか!?)

 

サクラはガバメントの言葉に違和感を感じると同時に、ある結論に達すると同時に衝撃を受けた

「ガバメント、お前は本社に所属になる前はどこの前線基地に所属し、そこの指揮官の名は?」

「G01前線基地……指揮官様(グランファ)の名はオサム・アラマキです」

「おまえ、アラマキ元指揮官の人形だったのか……」

 

ガバメントの言葉に指揮官は言葉を失って、彼女を凝視した

それを見たがガバメントが笑みを浮かべながら、こう言った

 

「はい、グランファの教え子の部下になれるんなんて……運命を感じます。指揮官様(ハニー)

「は、ハニー?」

 

サクラはガバメントに自分を「ハニー」と呼ばれた事に困惑するのと同時に、ガバメントとリー、それにSDMR以外は別の事に驚きを隠せなかった

 

((((MK16って……男の子だったの!?))))




さて……次話かその次で第二章は終了する予定です
そして、次話では番外編時空でM16A4が所属するBB小隊結成と強盗の正体とコンテナの中身に言及したいと思います


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Ready FOB S07

番外編時空の執筆やテイコ○ペンギンやヤ○ミナ等の動画の視聴で遅くなりました

さて、今回は第二章最終話です

ついに番外編時空では当然のように登場するBB小隊結成の瞬間がやってきます

そして、最後には本編時空での鍵を握るキャラも……


SDMRとリーがやってきてから、一ヵ月くらいが経ったある時、俺とM14さんはL85A1さんから相談があると言われて、未使用の一角へ呼び出されたが…手bb

 

「え~と、ここで喫茶店を開きたい?」

「はい~グリフィンに入る前はこれでも喫茶店の従業員をしていてね~紅茶はお客様から大好評だったのよ~」

「つまり、指揮官に喫茶店を開く許可が欲しいという事ね」

 

俺とM14さんはL85A1さんの提案を聞いて、お互いの顔を見合った

確かに、S07前線基地は未使用の区画がいくつかあり、喫茶店として利用するには十分な広さと施設を兼ね揃えた区画もいくつかあるし、指揮官もダメとは言わないかもしれない

M14さんも同じ考えなのか、少し考えてから頷いた

 

「一応頼んでみるけど……指揮官が駄目と言ったら諦めてね」

「は~い、じゃあよろしくおねがいします。副官ちゃん」

「副官ちゃんって……恥ずかしいですよ」

 

M14さんはL85A1さんの褒め台詞に顔を赤面させ、恥ずかしそうにするのを見て、俺は笑みを浮かべる

指揮官の副官に任命させられるということは、指揮官にとって信用出来る人形であると認められた証で、戦術人形達からすればこれほどうれしい事はないと思う

実際、彼女が指揮官から副官を命じられた時は指揮官に飛びつくほど喜んでいたのを俺は見ている

 

「じゃあ、指揮官に喫茶店の件を……」

 

M14さんが指令室へ向かうとした瞬間、天井のスピーカーから指揮官の声が室内に響き割った

 

『S07基地内に待機中の戦術人形達へ重要な発表があるので、総員ミーティングルームへ集まれ』

「重要な発表?なんのことだろう?」

「きっといい事に違いないわ~さぁ、行きましょう」

「いい事……なのかな?」

 

L85A1さんの緩い感じにに俺とM14さんはちょっと言葉に詰まったが、指揮官を待たせるわけにいかないので俺達三人でミーティングルームへ向かう事にした

 

 

――――――――――――――――

 

俺達がミーティングルームに入るとパトロールから帰ってきたばかりのMP5ちゃんとガバメントさんを含めたS07前線基地に所属する戦術人形達がミーティングルームに並べられた椅子に腰を下ろしていた

俺達も開いている席に腰をかけた。俺の左側にはパラちゃん、反対側に俺よりも先にミーティングルームにいたリーが座っていた

 

「M16A4達が最後だけど、なんかあったの?」

「いや、L85A1さんから喫茶店を開きたいと相談をうけましてね」

「L85A1さんの淹れる紅茶美味しいよね……あ、指揮官が来たよ」

「あ……でも、後ろの人は誰でしょうか?」

 

グリフィンの制服に袖を通した指揮官が見知らぬ女性と共に入ってきた。

彼女は30代半ばのウェーブがかった茶髪が印象の大人しそうな女性で、俺達に向けて静かに笑みを向けていた。正直な話、ちょっと老けているようにも見えるような気も

 

そして、皆もの同じ事を考えていたのか、ミーティングルーム中からざわめき声が聞こえるも指揮官はそれらを静止させるかの如く、話を切り出した

 

「皆、よく集まってもらった。これから二つ大事な事を伝えるからよく聞いてくれ」

 

指揮官の言葉でざわめき声は消え、ミーティングルーム内に数秒間の沈黙が流れた後で、指揮官は言葉を続けた

 

「まずは、我らがS07前線基地にグリフィン本社から後方幕僚が着任することになった……マギー、彼らが私の部下達だ」

「皆さん、グリフィン本社から後方幕僚として着任するなったマグノリア・テレサ・ファンション、マギーと呼んでください」

「これから彼女が基地との連絡や補給物資等の補給、基地内での雑事等を彼女が……」

 

指揮官は淡々とそして、疲れた表情で後方幕僚としてやってきたおばさんことマグノリアさんの紹介を進めていると隣に座っていたリーが俺に耳打ちする

 

「M16A4、あのオバサン、すごく優しそう人だね」

「そうだね……それに()()()()と経験豊富そうだ」

 

俺が小声でリーと話しているのに気づいたのかと指揮官が最後にこう言った

 

「最後に言っておくがマギーの年齢をネタにからかうのは止めておけ。言いたければ、バックアップをしてからだ」

「まぁ、サクラちゃんたら……」

 

指揮官が真顔で話すのに対して、笑みを崩さず……かつ威圧感を醸し出すマギーさんに俺達は恐怖を感じ、何も言えなかった

リーに至っては顔面蒼白で口をパクパクさせていた

 

(あ……これ、冗談抜きでBBA扱いしたら、酷い目にあわされそうだな)

 

「みなさん、そんなに怖がらなくてもいいんですよ」

「いや、マギーさんから尋常じゃない物を感じたんですよ」

「皆も恐怖で声がでなかったんですよ」

「しきかんさん、マギーさんって何者なんですか~?」

 

先ほどと変わらずに穏やかな表情で話す彼女にみんながツッコミを入れる姿に指揮官さんは頭を押さえて、ため息一つ付いていた。指揮官さんもマギーさんのノリが苦手かもしれない

 

「まぁ、簡単に言うとグリフィンに入社する際に彼女の世話になった仲だ……次は、お前らにとって重要な事だ。しっかり聞け」

「重要な事ですか?」

「そう、前らの作戦行動に大きく関係すること……小隊編成についてだ」

 

指揮官はM14さんの質問に答えると二つ目の重大発表について語り始めた

 

「作戦開始前に基地の人形達から小隊員を選出していたが、今後は特定の戦術や状況に応じた専門の小隊を編成することになった……リー、どうした?」

「え~と、つまりどういうこと風に変わるんですか?」

 

リーが手を上げて質問すると指揮官の彼の質問に答えてくれた

 

指揮官が言うには、戦術や状況下に応じて特定の人形を小隊員に選出した部隊を編制することになるらしい

AR型とSMG型を中心した小隊編成とRF型とHG型を中心とする小隊編成では取るべき戦術や役割が全く違う。前者は弾幕射撃や突撃戦、後者は前者に対する支援射撃や狙撃戦と言う具合に

 

つまり、特定の人形で構成された小隊を編成し、その上で出撃させる部隊を選ぶ方式に変えるという事らしい

 

「といってもこれから言う編成はあくまでも基本編成だ。戦場の状況や敵の編成次第では他の専門小隊との混成編成になることもある……」

「つまり、本部の戦術人形小隊のように専門小隊の特定の人形が小隊員となるとは限らないと言う事ですか?」

 

パラちゃんが急に手を上げて疑問を指揮官に ぶつけると彼女はうなずいてからにヤリと笑った

 

「そう、専門小隊を基地内に作るだけで、基本はG01前線基地でのやり方と同じだ」

「じゃあ、指揮官さんは専門小隊を選出するメンバーを決めているんですか?」

 

 

指揮官さんの説明は終わると同時にMp5Fさんが声を上げると指揮官は頷いた

 

「あぁ……すでに一部隊分のメンバーと名前を決めている」

「ハニー、今からそれを発表してくれるのですね?」

「ガバメントの言う通りだ。それを今から発表する……よく聞け」

 

指揮官は一息つくとミーティングルーム内に響くように叫んだ

 

Blade Blossom(刃の花)小隊名小隊、通称BB小隊の隊長にM14、隊員にP228、MP5F,AUGパラ、M16A4をそれぞれ任命する!!」

「はい、指揮官の期待に応えて見せます!!」

 

M14さんの返事と共に俺を含めた任命された人形達は無言で立ちあがり、敬礼をする

そして、G01前線基地だった時は一緒になることが多かったM14さんと組めたことは嬉しかった

 

(M14さんとまた一緒の小隊で戦えるのか……)

 

俺がちょっとした感傷に浸っている間にも指揮官は新しく作った小隊について説明を続けていた

 

「この小隊はTVRチーム所属の戦術人形の実験部隊も兼ねている。期待しているぞ……おまえら」

「はい、指揮官!!」

 

 

指揮官のその言葉が過酷な運命へ向かうための号砲になる事を俺はまだ、気づく事すらできなかった

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

S07前線基地で新設部隊の発表が行われていた頃、某所の廃工場内で黒いフードを着ていた女性いや、死人のように青白い肌と人形はジャンク屋から強奪したコンテナの中に納まっていたそれを忌々しそうにみていた

 

「これが探し求めていた箱の中身だと……ふざけやがって!!!

 

彼女が怒気を込めて吐き捨てる視線の先、コンテナの中に入っていた物……ブラック片や鉄屑等厚手の布等で包んだ物をコンテナごと蹴り飛ばす

床に中身をぶちまけながら転がるコンテナを少しの間、見てから後ろを振り返る

そして、彼女の視線に入った柱に寄りかかる黒いジャンバースカートを身に着けた妙齢の人形にこう言った

 

「おい、ネームレス……こんな屑鉄がお前の探し物じゃないよな?」

「勿論違うわよ、ハンター……すでに起動していたとなるとマズイ事になるわね」

 

深刻な表情を浮かべるネームレスと呼ばれたジャンバースカートが考え込む様子にハンターと呼ばれた人形は首を傾げた

 

「なぁ、いい加減教えてくれ……あの箱に入っていたモノはなんだ?」

 

ハンターの質問にネームレスは不愉快そうなに舌打ちをすると吐き捨てるようにいった

 

 

「……鉄血の社員共が残した最後の抵抗とも言うべきモノよ。下手をすれば、鉄血その物が壊滅させかねない存在よ」

 

 

それと同時刻

 

S07地区某所に存在するメメントス三番街上層部の街並みを一際高い高い場所から見下ろす者がいた

夜闇で姿はほとんど見る事ができないがネコを連想させるシルエットを浮かばせるソレ……箱に収められていたはずのモノは笑いを噛み殺しつつも耐え切れないと言わんばかりに機嫌よくこう言った

 

「あんな単純な電子錠で封じ込めるなんて……ワガハイを甘く見るなよ」

 

そして、笑みを浮かべていたソレの表情が不安と疑問を入り混じった顔に変わったと同時に小さくつぶやいた

 

「だが、ワガハイは何者なんだ。なぜ、鉄血工造のシステムへのアクセス権を持っているのだ?」

 

ソレはしばらくの間、自問自答をしつつ、音もなく夜の闇に姿を消していった




今回で第二章は終了です
そして、第三章ではついに原作開始です
ですが、直接的な関与はもう少し先で、第0章とほぼ同時期に別の場所で起こった出来事に結成されたばかりのBB小隊が遭遇します

一応、言っておきますがサクラ指揮官=原作指揮官じゃありません
強いているなら、404小隊に近い立ち位置で原作指揮官相当の人物は別に登場します

ちなみに作中の最後に登場したソレは……前述の人物と深く関わる予定です


用語解説

BB小隊
正式名Blade Blossom小隊
TVRチーム所属戦術人形、P228,Mp5F,AUGパラの実戦データの収集を目的とした実験部隊
サクラ指揮官の戦術思想に合わせて、前述の三体よりも実戦経験が豊富かつG01前線基地からの部下であるM14とM16A4と共と組ませている
前衛からの突撃戦を主体にしつつ、戦力のバランスと汎用性を重視した戦闘を得意とする

部隊名の由来は指揮官が愛読する創作都市伝説に登場する架空の鋭い刃を持つ花を咲かせる樹木から




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刃桜前線異常アリ
刃桜とペンギン、そしてトラック


あれからいろいろありまして……更新が遅れました

今回から第3章:刃桜前線異常アリ編、別名原作開始編です
そして、今回も番外編集から先行登場していた一匹が登場します


後方幕僚のマギーさんが着任してから1ヵ月が経った頃、俺はBB小隊の面々と共に指令室へ呼び出された

 

「M14以下BB小隊5名全員揃いました」

「ふむ、早速だがTVRチームのジル主任からBB小隊の実戦での交戦データを収集してほしいと依頼がきた」

「BB小隊の交戦データ? 模擬訓練や電脳空間内でのじゃダメなんですか?」

 

俺はジル主任が実戦データを求めている事に驚きと困惑を隠せなかった

P228さんの話からジル主任がシュミレーションよりも実戦での戦闘データを重視する人だとは聞いていたから、ある程度予想はできたし、そのために訓練も重ねてきたつもりだ

 

しかし、未だBB小隊で実際に鉄血と戦うには連不安があった

隊長であるM14さんならともかく、他のP228さん、パラちゃん、MP5Fさんとの戦闘の癖を掴み切れていないからだ

 

「訓練で得たデータは定期的に送っているが、さらに詳細で実戦で得られるデータが欲しいらしい」

「指揮官、BB小隊はまだ実戦に出るには訓練不足です」

「M14さんの言う通り、戦闘時の連携に不安があります」

 

M14さんとP228さんが抗議すると指揮官は彼女達の反応を予測していたのか、一枚の資料を取り出すとデスクの上に置いた

 

「鉄血の拠点に殴り込みをしろとは言わん。ここに書かれているルートで物資を運ぶ輸送車の護衛をBB小隊に頼みたい」

「目的地は……鉄血の支配領域とスレスレの場所じゃない!?」

 

目的地である居住区はS07地区に存在する鉄血支配領域に近い場所に存在している事にMP5Fさんは驚きを隠せなかった。

鉄血の支配領域の近くにあるという事は鉄血の部隊と遭遇する可能性があるという事を意味しており、皆が顔に緊張の色を隠せず、資料を凝視していた

 

「そうだ……同時にグリフィンS07情報支援基地の補給拠点でもある」

「情報支援基地って、なんですか?」

「簡単に言えば、偵察や監視任務を専門とする前線基地だな……今は鉄血の支配領域の付近での監視が主な任務と聞いている」

 

指揮官は一息つくと真剣な表情で俺達にこう言った

 

「BB小隊、お前らはS07情報支援基地の補給地点である居住区へ向かう物資輸送隊の護衛任務を命じる。これはお前らの初任務だ……気合を入れていけ!!!」

「了解しました、BB小隊総員、指揮官の命令通り物資輸送隊の護衛任務に就きます!!!」

 

M14さんの返礼に俺達は無言で指揮官に敬礼を返し、彼女の命令を受理した事を示した

 

 

その翌日、俺達BB小隊は自身のダミーと共に輸送隊の合流する予定地点で周囲を警戒しつつ護衛対象の輸送体が来るのを待っていた

 

ちなみに、隊長であるM14さんは4LINK編成、俺やP228さんとパラちゃん、Mp5Fさんは3LINK編成で前線から離れた後方のルートを進む輸送部隊の護衛としてはまずまずの錬度だと思う

そして、手元の時計に目をやるとそろそろ輸送隊と合流予定の時間を示していた

 

「M14さん、そろそろ時間ですね」

「そうね……あ、あれですよ」

 

M14さんが指差す方向を見ると数台のトラックの車列がこちらに向かってくるのが見えた

正規軍の放出品らしき旧式のトラック数台とその護衛らしき8輪式装甲車三台で構成されたそれらは俺達から数メートル前で停車すると先頭の装甲車から一体の人形が降りてきた

 

 

その人形を一言でいうなら、全長1mほどのペンギンだった。

白と黒のツートンカラーの皆がイメージするペンギンその物の姿をしたその人形はトラックを降りると辺りをキョロキョロする様子に俺達は顔を見合った

 

「なんでしょうか……あいつは?」

「どうみてもペンギンだよね?」

「あれも自律人形の一種なのかな?」

「たぶん……あ、こっちに向かってくると

 

その人形は俺達を見つけるや否や俺達の方へ向かってゆっくりと近づき、白いくちばしを開いて自己紹介を始めた

 

「S07前線基地BB小隊の皆さん、S()0()7()()()()()()()()()()()()を務めている民間用ペンギン型自律人形のワカだ。今回、輸送予定地までの護衛をよろしくな」

「あ、皆がBB小隊の隊長を務めるM14です。ワカさん、よろしくおねがいします」

「ずいぶんと個性的な喋り方だな……まぁ、装甲車に別れて乗ってくれ」

 

M14の一人称に若干引き気味な反応を示したワカは気を取り直し、俺達に装甲車に乗るようにすすめると俺達はそれぞれ二組に別れて装甲車に乗り込んだ

 

内訳は先頭の装甲車には俺とM14さん、ワカさん、後方の装甲車にP228さん、Mp5Fさん、パラちゃんが乗り込むと輸送隊は最初の輸送目的地であるグリフィンの中間拠点に向かって進み出した

 

揺れる車内で俺はBB小隊初めての任務に対して様々な思いや不安を感じつつ、無言で薄暗い車内を見つめていた

 

(BB小隊初めて任務だ………うん?)

 

ふと俺は車内の奥に小型のドラム缶を横にしたようなワカよりも一回り大きな機械が置かれているのに気づいた

よく見てみるとしたの部分に六個のタイヤが、上部には一対の作業用らしきロボットアームが取り付けられていた

ドラム缶型メカの近くには銃器用のコンテナも数個置かれていた

 

「ワカさん、奥にあるのはなんですか……見た感じドラム缶みたいですが?」

「あぁ、あれは俺の作業用兼戦闘用装備だ」

「ワカさん、戦術人形いえ、戦術ペンギンだったの!?」

「どこぞのブラック企業に務める社畜が主役の動画のタイトルみたいな名前で俺を呼ぶな」

 

ワカさんの爆弾発言にM14さんが驚きの声を上げ、俺も彼の言葉であのロボットアームの用途がすぐに理解できた

俺達の反応にワカさんは少し困惑の表情を浮かべていた

 

「俺は戦術人形じゃないぞ……あえて言うなら、鉄血のプロイラーやダイナゲートなど機械兵器近いな」

「プロイラー……警備用ドローンようなモノだと?」

「あぁ、その認識で正しい……だから、戦力としてはアテにしないでくれ」

 

ワカさんの言葉から彼も幾度も修羅場をくぐりぬけてきたのだろうと言う事はすぐに察した

 

(ぬいぐるみみたいな見た目からは想像できないな)

 




今回、初登場したペンギン型自律人形――ワカですが多分、ユーチューブをよく見る人なら分かるPlottアニメの代表作の一つである動画シリーズの主人公である社畜がモデルです

そして、作中でも言及していますがワカはダイナゲートやプロウラーと同じ機械兵器です(ただし、鉄血製ではありません

彼の作業兼戦闘用ユニットのモデルはMSイグルーに登場するオッゴであり、戦闘スタイルもそれを意識しています


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輸送隊、警戒道中

お久しぶりです
コラボ企画の参加と多忙なリアル事情、追撃で病気になったせいで投稿が遅れました

今回、番外編時空で先行登場したキャラが言及されます


俺達BB小隊と合流した輸送隊は、最終目的地のS07情報支援基地の補給拠点でもある居住区まで車で半日程かかる。

その間、俺はM14さんとダミーで交代で車外に身を乗り出して、不信な影がないか監視を行い、別の装甲車に乗っているP228さん達も同じように後退で警戒を行い、時に俺達と通信で状況を報告し合う

それを交代で行いつつも特に鉄屑共や盗賊等と遭遇する事無く辺りが夕暮れでオレンジ色に染まり、目的地まであともう少しと言う場所まで輸送隊は

 

「こちらM16A4、前方に異常なし」

『P228、後方に不信な存在は確認できず……このまま警戒を続けます』

「了解、こっちはM14さんと警戒を後退します」

 

「了解」とP228さんが答えるのと同時に通信が切るのを確認してから、俺は車外に体を引っ込めた

そして、側で休息していたM14さんと入れ替わるように装甲車のシートに寄りかかると隣に座っていたワカさんが手元の水筒からコーヒを入れて俺に差し出した

ペンギン型故か左ヒレに軽作業用の簡易ロボットアームを装着していた

 

「お疲れ様、コーヒー飲むか」

「ワカさん、ありがとうございます」

 

俺は例を言ってカップを受け取り、一口飲むとちょうどいい熱さのコーヒーが体に入るのが心地よかった

ワカさんはナニカに気づいたようにこう切り出してきた

 

「そういえば、お前らが小隊を組んでどれくらいだ?」

「つい一ヵ月程前です」

「どこか初々しい感じがすると思ったが、コト小隊の面々と同じくらいか……ある意味で彼女達と一緒だな」

 

ワカさんがしみじみと言うと俺はカップを片手に首を傾げた

 

()()()()()()、ワカさんの基地の人形部隊ですか?」

「あぁ、S07情報支援基地で唯一敵との戦闘を主眼に結成された戦術人形小隊だ」

「基地で唯一戦闘を主眼にした部隊ということは他の人形小隊は警備か偵察部隊と言う事ですか?」

 

俺の疑問にワカさんが頷いてから答えた

ワカさん曰くS07情報支援基地は偵察や監視、警備を主眼にしている基地のために所属している人形の大半がHG型かSMG型がほとんどを占めているらし

 

「まぁ、元々が後方警備を主任務だったのが鉄血の反乱でこちらも戦力強化として四体の人形達が派遣されたんだ」

「彼女達が……コト小隊というなんですね」

『M16A4、ワカさんと何を話しているんですか?』

 

俺達の会話に通信で突如割り込んできたM14さんに俺とワカさんはドキっとして、彼女の方を向いた

 

「いきなり話しかけないでくれ、驚いたじゃないか!!」

「ごめんごめん、でも二人共何を話しているの? 皆にも教えてよ」

 

M14が割り込んできたことに謝ると俺はさきほどまでのやり取りを彼女に話した

 

「コト小隊ねぇ……その小隊に所属している人形達の名前を聞いてもいい?」

「かまわない」

 

M14さんの質問にワカさんは快く教えてくれた

 

ワカさん曰く、コト小隊のメンバーは隊長であるAR型人形のSG550を筆頭に、副長のSMG型戦術人形のMPX、同じSMG型戦術人形のSG553、AR型戦術人形のSG551で構成されている部隊らしい。

しかし、SG553はSG550の派生銃のはずだが……まぁ、前例(G36Cさん)があるからおかしくはないが……

 

ある程度語り合終えるとワカさんは最後にこう付け加えた

 

「まぁ、今は新人達だが経験を積めばいい所まではいくかもな」

「一度会ってみたいですね」

 

俺がコト小隊の人形達の姿を想像していたその時、俺達の通信モジュールにMP5Fさんの焦った口調で呼びかけられた

 

「ワカ、前方に見える町の様子がおかしいよもうすぐ夜なのに灯りが付いていない?」

「は、どういうことだ!?」

 

MP5Fさんの通信を聞いたワカさんが慌ててハッチから身を乗り出すのを見て、俺も顔を出すとすぐ暗くなるというのに少し先に見えるはずの町の建物に灯りは殆どついていなかった

どう見てもこれはナニカ起きたのだおる

 

「停電でも起きたのか?」

「かもしれないが……基地の予備発電装置は無事なようだな……」

 

ワカさん右ヒレで差した方向を見るとほぼまばらな灯りの中で一人きわ強く輝く場所……平屋の建物が俺の目に飛び込んできた

 

「基地……というとあそこが目的地の補給拠点なんですね?」

「そこが俺が所属するS06情報支援基地――通称郵便局の補給拠点だ」

 

ワカさんが頷くと今度はP228さんの声が俺達の電脳内に響いた

 

「皆さん、目的地で異常事態が発生した可能性が高い、警戒を厳としてください」

「了解、みんなしっかり見張って」

 

P228さんに続けてM14さんの警告に俺は無言で肩にかけていた愛銃のセーフティを解除し、周囲に目を光らせる

その側でワカさんが右ヒレを人で言う耳に当たる部分に当て、補給拠点に連絡を取ろうとしていた

 

「こちら第二次グリフィン補給部隊に同行中のワカだ、S07情報支援基地、応答してくれよ!!」

「第二次補給部隊ということは……ワカ~、早く帰ってきてよ~

 

ワカさんの呼びかけに涙ぐんだ声がオープン通信で俺達の通信モジュールが感知するとこの声の主を知っているのか、安堵と驚きが入り混じった表情を浮かべると同時に叫んだ

それを俺は無言で聞いた

 

「モノ、お前無事だったか……タケミ指揮官と他の人形達は無事か」

「うん、指揮官達も皆も無事だよ……」

「どうした……何か問題でもこったのか?」

(ワカさんの様子からして何か問題があったんだろうか?)

 

俺が悪い事態を想像した時、モノさん(?)から予想だにしない言葉がでてきた

 

『電力制限でゲームができないだよ~早く帰ってきて、僕が注文した外部バッテリーを持ってきてよ~!!』

「身の心配よりもゲームの方が大事か!?」

『ゲームの心配、あんた正気!?』

「仲間の心配は!?」

『指揮官と一部の人形達はこの基地にいるんだよ……それよりもゲームができない方が問題ないだよ!!」

 

MP5FさんとM14さんのツッコミにどこ吹く風の態度で答えるとワカさんはため息をついた

 

「すまんな、このとおりモノは腹黒でな……気を悪くしないでくれ」

『自分がかわいいければ、それでいいのね」

 

パラちゃんの小さなツッコミに「可愛い腹黒だよ」と言葉を付けたすモノさんは、突然思い出したかのようにこう切り出した

 

「ねぇ、ワカ一つ聞いてもいい?」

「どうした?」

「さっきからボク達の通信に割り込んでいる外野達は誰?」

「ちょっとモノさん……僕達に気づいていなかったの?」

「うん……正直、気にも留めてなかったけど今きになったのだよね」

「……はぁ、私達はS07前線基地所属BB小隊、皆は小隊長のM14です」

 

モノさんの言葉に脱力しつつもM14さんがモノさんに俺達の事を説明する間、俺は再び装甲車や輸送隊の付近に怪しい影がないか目を光らせる

 

それはM14さんが俺達の事を説明し終えた頃には、停電によって街が暗闇で覆われている中で補給拠点らしき周囲で唯一灯りが灯っている一際大きな建物が見えてきた

それにグリフィンのエンブレムが描かれており、おれはすぐにS07情報支援基地の補給拠点だとすぐに理解した

そして、同時に……この任務がこのまま終わる事もないのだという事もすぐに予想できた

 

 

 




今回、ワカの言及のみですがSG550と彼女が所属しているコト小隊が出てきました
作中でもあるとおり、コト小隊は全員がSIG社製の銃で統一された人形小隊です
ちなみに、作中でもありますがSG553がSMG扱いですが、これはG36Cと同じ理屈でSMG型扱いしています

そして、最後に登場したモノですが、彼もモチーフとなったキャラがいます
ヒントは、ワカのモチーフとなったキャラが登場するようつべチャンネルに出てくるキャラです


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物資到着後……

本文自体は少し前に完成いましたが……最近の暑さとリアルの事情で精神的に参っていて編集が結構遅くなりました

そして、前回名前のみ登場したモノが本格参戦です


俺達BB小隊とワカさんを乗せた装甲車を含んだ輸送隊の車列が補給拠点の車両庫兼物資の荷卸し場に到着した

装甲車から俺達降りると車両庫内を照らす白色ライトの光が少しまぶしく感じた

 

おれのすぐ後ろに立っているワカが辺りを一望すると「なるほど……」とワカさんが小さく呟くのが聞こえた

 

「どうやら、予想通り基地の予備電力源は無事に作動しているようだな……」

「はい、見た感じ基地の機能に問題はなさそうですね」

 

ワカさんの言葉に頷くとP228さんが思い出したようにこう切り出した

 

「これで任務完了という事でいいのしょうか?」

「そうはいかないようね……街の停電を無視して帰る訳にもいかないよね?」

 

MP5Fさんの言葉に俺達は一斉に頷いた

なぜだか分からないが、この停電は単なる設備の故障とは思えなかったからだ

パラちゃんもそこが気になったのか、ワカさんに停電について聞き始めた

 

「そうだよ……ワカさん、停電が復旧するめどは立っているの?」

「この停電がついさっき起きたが、街の技術チームがトラブルに巻き込まれない限り問題ないはずだ」

「だったら、いいんですが……」

「ワカさん、それにS07前線基地のBB小隊の皆さん、輸送任務お疲れ様」

 

ワカさんの言葉にどこか不吉な物を感じ、言葉をこぼすと後ろからに若い女性の声が聞こえ振り返ると一人の女性と一体の人形が立っていた

 

そこには、グリフィンの制服に袖を通した短く整えられた艶やかな黒髪が印象的な日系人女性で笑みを浮かべていた

一方の人形は藍色のジャンバースカートと鈴付きの花の髪留めが印象的な明るそうな人形で、ワカさんの方をみると書類を手に俺達の方へ近づいてきた

 

「ワカさん、途中で何か問題がなかったですか?」

「特に無かったな……そうだ、BB小隊の皆に紹介しよう」

 

ワカさんは茶髪の人形から書類を受け取ると振り返って、女性と人形を俺達に紹介し始めた

 

「グリフィンの制服を着ている女性はここ、S07情報支援基地の指揮官を務めているマリサ=タケミだ」

「こんにちは皆さん、私がここの指揮官を務めているマリサ=タケミよ、隣にいるのがコト小隊の隊長を務めているSG550」

「コト小隊の隊長のSG550だよ」

「BB小隊長のM14です、後ろにいるのが……」

 

タケミ指揮官とSG550と名乗った茶髪の人形が名乗った後、M14さんが俺達の事を紹介した

M14さんが紹介し終えるとSG550さんは彼女は目を輝かせながら俺に視線を向けた

 

「やっぱり、S地区のグリフィン前線基地に男性型戦術人形がいるという噂は本当だったんだ……よく見ると美形さんだ」

「まぁ、よろしく……」

「SG550、彼が困っているわよ。それにSG551が嫉妬するぞ」

 

SG550の好奇心にあふれた視線から目を逸らすとタケミ指揮官が彼女を静止させる

タケミ指揮官の言葉で彼女は我に帰った彼女は顔を赤くした

 

「ごめんなさい……男性型戦術人形を初めてみたのは」

「気にしなくてもいいじゃない、M16A4が美形なのは本当なんだし!!」

「うん、パラもそう思うよ」

「そうそう、M16A4はもっと自信を持ったがいいよ」

(みんな、正直恥ずかしいですよ)

 

MP5Fさんが笑いながら俺の肩を叩かれ、笑うM14さん達に俺はちょっとだけ恥ずかしさを感じているとP228さんが思い出したように後方のトラックに指差した

彼女は指差した方向には、トラックに同乗していた作業員達が指示を今かと待っていたのが見えた

 

「タケミ指揮官、運んできた物資をどうしようしょうか?」

「そうね……ワカさん、作業用ユニットで物資コンテナを下ろしてくれない?」

「分かった、すぐにやろう。BB小隊のみんなもちょっと手伝ってくれ」

「分かったわ、皆もいいわよね?」

 

M14さんの問いかけに俺達がうなずくとワカが自分の作業用ユニットを載せている装甲車に向かっていた

そして、俺達もワカさんを手伝うためにトラックに近づこうとした瞬間、背後から大きな物音が耳に入り、俺は振り返った瞬間、俺は言葉を失った

 

そこには、開いた鉄製の扉からずんぐりとした人形がズカズカと荷卸し場へ入ってきた

 

その人形卵型の胴体に半球型の頭部に二つの円形のセンサーと胴体に対して短く太めな手足がそれぞれ白黒に塗り分けられている

一件するとクマ……いや、パンダを連想させるシルエットをしていた……在野の技師の手製だろうか?

 

突如能われたパンダ型の人形は明らかに怒ったような表情を浮かべて、俺達――正確にはワカさんを睨み付けていた

 

「ワカ、無駄話してないで、僕の荷物を渡してよ」

「何事……え!?」

「パンダの着ぐるみ?」

「というか、その声……どこかで聞き覚えがあるような?」

 

突然現れたパンダ(?)の聞き覚えのある声に首をかしげるとワカさんが顔をしかめてこう言った

 

「モノ、お前は待つことを知らないのか?」

「こっちはフレンドとの待ち合わせ時間が迫っているんだよ。、待ってられないよ!!」

「モノさん、すぐに荷物を下ろすからちょっと待ってよ」

「無理だよ、ゲームのクランとの待ち合わせまで時間が無いんだ……そこの青服どけ!!!」

「イタ!!」

「M16A4、大丈夫……て、もトラックの荷物を勝手に開けちゃだめだよ!!」

 

ワカさんとSG550さんの言葉を一蹴すると俺をモノと呼ばれたパンダは俺を押しのけて、トラックに駆け寄った。見た目からしてある程度予想できたが、力は強く……出力だけなら軍事用人形を互角といったどころか?

そして、突き飛ばされた俺が立ち上がるとM14さんがかけよると手を差し伸べた

俺は彼女の手を掴むと立ち上がった……

 

 

そして、パンダは周囲の作業員を押しのけてトラックの荷台の荷物を物色し始めるパンダとそれを止めようとするSG550のやり取りを目にして声に心当たりがあった事を思い出した

 

「あ、さっきの通信に応じたモノっては、あのパンダか」

「そうだ、あそこで物色している()()()()()()()()()()()、俺の同僚で広報担当だが……」

「ちょっと、やる気にムラが多い子なんだよね……やる時はやるけどね」

「タケミ指揮官……ヤツはたんなる怠け者だ」

(彼女って、案外天然だったりするのか?)

 

イラつくワカをなだめるタケミ指揮官を目にして俺がそんな推測を建てていると先ほどかモノを取り押さえようとするSG550の悲鳴がさらに響き渡った

振り返るとコンテナの蓋を開けようとするモノとそれを止めようとするSG550が組み合ってた

 

「モノさん、駄目だよ!! 順番は……きゃああ!?

「SG550、大丈夫!?」

「君大丈夫って……パンダさん、酷いですよ!?」

「モノさん、最低です」

「僕は急いでいるんだよ。ゲームクランの姫、ディーマちゃんが待って……あった!!!」

よ」

 

 

モノに突き飛ばされたSG550さんを突き飛ばしたのを見たMP5Fとパラちゃんが彼女の元へ駆け寄り、P228さんがモノに怒り、俺もモノに無言ながらも冷たい視線を浴びせた……腹黒パンダめ

 

 

当のモノはわれ関せずとばかりにコンテナをの蓋をこじ開けるとお目当てのモノを見つけたのか茶色の包みをコンテナから取り出した

 

そして、「待っていてね~ディーマちゃん!!!」と嬉しそうな声を上げようと荷卸し場の出入り口へ駆け寄ろうとした瞬間、車両庫内に設けられたスピーカーから警報が鳴り響いた

 

「緊急警報だと!?」

「え……こんな時に限って!!!」

「何事!?」

 

その場にいた全員が警報に意識が集中した瞬間、さらにスピーカーから女性――人形らしき人物の悲鳴が響き割った

 

 

《こちら副官のM686、エンジニアスタッフと同行していたT86達から鉄血から救難信号を受信したわ。()()()()()()()()()()()()()()()()はすぐに司令部に集まって頂戴!!!》

 

その放送に俺達はこの周囲で起こった停電がただの故障で起きたモノではないとすぐに察し、モノも絶望を隠さずに小包を持ったまま、その場に立ち尽くしていた

それを見たワカさんはそっとモノの背中を右の翼で軽く叩きながら諭すようにこう言った

 

「モノ、どうやら……()()()()()()()()()()()()()()

「うん……分かったよ」

 

そして、それを聞いたタケミ指揮官は先ほどまでの穏やかな笑顔から一変して、真剣な表情で俺達に視線を向けた

 

「聞いたよね? みんな、司令部に行くよ……BB小隊のみんなも来て頂戴」

 

彼女の言葉に俺達は無言でうなずき、彼女達と共にS07情報支援基地の司令部へ向かう事になった

 

やはり……嫌な予感は当たる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()




今回本格的に登場したパンダ(?)型自律人形のモノですが……元ネタは分かる人は分かるアイツです

さて、次話は休載していた間にディビジョンをプレイした経験を元に執筆した戦闘パートにです


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ライフライン・イン・モルグ:オープニング

つい先日、MALE DOLLSを投稿してから二年が経過しました
時が経つのは早いですね

さて、今回はTPSゲームディビジョンから着想を得た戦闘編の序章です

後、今は同時に番外時空でコラボ企画にも参加しています
https://syosetu.org/novel/207272/50.html


俺の名はモブ、警備会社マルチミッション社に所属する警備人形だ

まぁ、所属すると言っても実際は大手企業よろしく給料をもらって、この電線等のライフラインが通しているケーブルトンネルを3時間ごとに俺と同型の警備人形のビリー二人組で巡回するという地味な仕事だった

今日も同僚からの定期連絡が途切れた事に疑問を感じ、地上の待機場から地下坑道へむかったのだが……

俺達が向かった先にいたのは多数の鉄血と同僚の警備人形達の残骸が転がっている光景だった

そして、ヤツラは見た者をすべて消すと無言で表すように俺達に襲い掛かってきた

俺達も地下トンネルに不法に占拠している暴徒やならず者用に持ってきたサブマシンガンやショットガンで抵抗したが……数で負けてる俺達に待っている運命が明白だった

 

 

(なんてことだ……ビリーがやれちまった)

 

今、俺が身を隠す柱の影からのぞいた先には床に倒れたに俺を庇って大穴を開かれて、地面に倒れたビリーとそれを囲む数体の鉄血兵が見えた

それはさきほど、俺を逃がすためにビリーがショットガンで鉄血兵にバンザイアタックをした結果があのざまだ

 

彼らはジョンの残骸を足元に踏みつけながら、周囲を見渡している……奴らがジョンと同じように俺の始末するつもりだということはすぐに分かった

 

 

俺は退屈な仕事の間に通信モジュールを介してジョークを言い合ったビリーがやられた事が信じれなかった。

 

(本社とも通信が取れないし、見つかるのも時間の問題だ)

 

俺は手に持った自衛用のウージーサブマシンガンに視線を落とした。弾倉は銃に装填された分を除けば弾倉は3つだけで、威力こころもとないが当たり所がよければ十分行けるはずだ

 

(ここで破壊されたら(死んだら)、誰がこの惨状を伝えるんだ)

 

俺ははやる気持ちを抑えてなんとかこの場を離れるチャンスを伺うも鉄血兵達が離れる気配はみじんも感じられなかった

それどころか、鉄血兵の一体がレーザーライフルの銃口を向けながらこっちに近づいてくる……やるしかないのか

 

「こうなったら、このウージーで正面の鉄血兵達を排除して……」

「止めた方がいいですよ」

「でも……え?」」

 

俺は聴覚モジュールが小さな女の子の声が聞こえ、とっさに視線を向けると胸元に「269」と印字された赤い上着を黒いワンピースの上を着たアホ毛が印象的な人形が俺の足元で見上げていた。

体格は小柄で胸は……まぁ、身長とロリ系な外見からしてお察しのサイズだ

そして、彼女の背中には一丁自動小銃を背負っていた――一件するとM16のカービン版のようだ――ということは戦術人形なのか?

 

「君は一体誰なんだい? それに死亡フラグってどういうことだ」

「私はグリフィンS07情報支援基地所属の戦術人形、T86です……銃声で周囲の鉄血兵達を呼び寄せる結果になりますよ」

「なるほど、それもそうだな」

 

T86と名乗ったその人形の指摘に俺は納得した……確かに、下手に撃てば敵が集まってくるのは通りだ

だが、このままじっとしていても状況が良くなるとも限らないが……

俺が頷くとT86ちゃんは鉄血兵に気づかれないように小さな声で俺の耳元に囁いた

 

「今は身を潜めて動く機会を待ちましょう。ジャミングで他の仲間と連絡を取り合えませんが、おそらく第二整備通路に退避しています」

「分かった。今はチャンスを伺おう」

 

俺はT86ちゃんに同意するといつでもウージーサブマシンガンを撃てるようにかつ、ヤツラに見つからない様に構えた

T86ちゃんも背中にかけていた自動小銃を構えるのを見て、妙な安心感を感じた。

なぜなら、彼女の小銃にはグレネードランチャーが付いていたからだ――これなら威力が足らないという事もないだろう

 

銃の構え方からして、妙に拙い感じはするがそれでも二人ならこの危機を越えられると思った

そして、安心感からふと俺の口から小さく「おれはもう何も怖くない」と呟いた

その瞬間、俺の呟きを聞いたT86ちゃんが血相変えるや否や大きく叫んだ

 

「立ちました!!!!」

「T86ちゃん、声が大きい!!!」

 

俺がとっさにツッコムもT86ちゃんは必死に叫つづけた

 

「モブさんこそ、今の発言は死亡フラグですよ!!!」

「それ重要なこと……は!?」

「モブさん……あ」

 

俺の言葉に反射的に叫んだT86ちゃんに落ち着かせようとして、釣られて叫んでしまった

そして、俺もT86ちゃんもその場にいた鉄血兵達が足を止めて俺達が潜んでいる場所を凝視死してる光景に、俺達は自分で自分の首を絞めた事に気づいた

そして、奴らが銃口がこっちを向けている事にも……俺達はすぐに引き金を言い太

 

 

 

モブとT86が遭遇する約30分前

かつてシェルター群とシェルターを繋ぐ地下鉄であったケーブルトンネルに、非常灯だけで薄暗い中で五体ほどのリッパーやヴェスピド達が地下道を隊列を組み、周囲を警戒していた

彼女らの近くには、20世紀末のロボットアニメを彷彿する色とりどりの角ばったシルエットの警備ロイドの残骸やそれらが所持していた銃器の残骸が非常灯の灯りを反射しながら、散乱していた

周囲のコンクリート製の壁や柱には警備ロイド達による銃器の弾痕が刻まれ、地面に転がった空薬莢が坑道の天井の非常灯の光で鈍く光っていた

 

「……敵影無し」

「ハイエンドからの司令に変更無し」

「索敵続行」

 

 

鉄血兵達は警備ロイドが感情がこもっていない声で呟くとそのまま、坑道を進んでいく

そして、それを坑道内に放棄された資材コンテナの影から除く三つの人影が息を潜めて鉄血兵達の動きを注意深くみていた

その人影の一人、作業着を着た老人が拳銃を片手に忌々しく鉄血兵達の様子を伺っていた

彼を挟むように、浅黒く焼けた肌にサイドテールに結った艶やかな金髪が特徴的なジャージを着た小柄な人形と学生服の上に青いジャケットを羽織った黒髪の人形が立ち、老人を護っていた

金髪の人形はドットサイトを取り付けたSG553を、黒髪の人形はドットサイトとサプレッサーを取り付けたSIGMPXをそれを使い流れた自身の一部のようにしっかりと構えていた

 

「無法者の襲撃は予想していたが、鉄血が侵入していたとはな」

「爺さん、MPX、どうするんだよ」

「さっきの奇襲でT86ちゃんと分かれてしまったし、ポールさんどうしましょう」

 

MPXと呼ばれたジャケットを着た人形は、ポールと呼ぶ老人に指示を仰ぐと彼は少し考えるとすぐに二人に指示を出した

 

「MPX、いくらジャミングでも有線式なら外部と連絡が取れるはずだ。それまで有線式通信機がある第二整備通路の進入口まで後退し、身を潜めるんだ」

「了解しました。SG553もそれでいいよね」

「逃げっぱなしは性にあわないが多勢に無勢じゃ仕方がないっか」

「じゃあ、SG553は後方から来る敵を警戒して、私が第二整備通路の入り口まで誘導します」

 

SG553と呼ばれた金髪の人形は苦々しく顔を歪めるもMPXの提案に同意するように頷いた

 

そして、MPXが首を回して周囲の敵が去った事を確認すると薄暗い地下道を物音を立てないように進み始めるとポールとSG553も互いに周囲を確認しつつ、MPXの後ろについていく

そして、暗く狭い通路を進む中で二体の人形達ははぐれた人形の事が気になった

 

「爺さん、T86はどうするんだよ?」

「あの小娘もこの状況下でどうするべきか分かっているはずだ――無意味に鉄屑共と撃ち合わないだろう」

「あの子は以外と頭は回る子だから、第二整備通路へ向かうはずよ」

「まぁ、そうだよな……信じるしかないか」

 

MPXとポールの言葉にSG553は頷くも彼女の心中の不安を取り除き切れなかった

 

(T86は優しい過ぎるし()()()()が仇にならなきゃいいが)

 

その十数分後、SG553の不安はT86とモブの悲鳴を彼女達が耳にしたことで的中することなる

 

 

 

 

 

 

 

S07情報支援基地通路にて

 

SG550とワカ、それとモノはBB小隊やタケミよりも一足先にミーティングルームに向かっていた

その最中、モノは苛立ちを隠さずに叫んだ

 

「パーン!!!、クサレ鉄屑のせいで僕のゲームタイムが、ファーク!!!」

「モノさん、落ち着いてよ。また、ゲームはにげないだからよ」

「そうだぞ、そもそも仕事よりもゲームを優先する姿勢を正せ」

「余計なお世話だよ!!!」

「ゼロちゃん、パンダちゃんはどうしたの?」

 

SG550とワカの言葉に半ば逆ギレ同然に叫ぶモノに引くSG550達であったが、通路の角から一人の少女の声が聞こえ、視線を向けた先にはSG550と同じデザインの藍色ジャンパーを着た一体の人形が困惑した表情を浮かべていた

ウェーブがかったこげ茶色の髪をツインテールを結った彼女は、不機嫌に叫ぶモノを前に動揺を隠せずにモノとSG550の顔を交互に視線を移していた

 

それをみたSG550が彼女の近くまで近寄り、彼女の目を見つめた

 

「51ちゃん、モノさんはいつものアレだよ」

「あぁ、いつものサボリができなくて苛立っているだけだ」

「二人共言い方……というか、SG551もその目は何!?」

「パンダちゃん、いい加減にしないと指揮官に怒られるよ」

 

半ば軽蔑した目でモノを見つめるSG551と呼ばれた人形にモノは不快感をあらわにした

 

「パーン!!!! これもそれも鉄屑せいだよ!!!」

「あ、待ってモノさん!!!」

「ゼロちゃん、置いていかないで!!!」

 

モノは不満を込めて叫ぶとミーティングルームに向かって早足で立ち去り、SG550とSG551、それとワカがその後を追った

 

その最中、SG551はあることが気がかりであった

 

(BB小隊の中に男性型がいる……もしかして、ゼロちゃんや私達にあんなことを)

 

自身が思いつく限りのおぞましい目に会う事を考えたSG551は顔を青くするもすぐに気持ちを立て直し、SG550の後ろをついていった

 




まぁ、冒頭のモブの外見はバンダイが発売しているプラモシリーズ30MMのアルトを青と白のツートンカラー版だとイメージしてください

T86は台湾のアサルトライフル86式自動歩兵槍の自律人形です
外見は艦○れの丹陽の服を着た死神No.269通称フラグちゃんのイメージです
まぁ、彼女の言動でT86とモブの元ネタは分かる人は分かると思います


そして、初登場のコト小隊の面々ですがSG550と同じくゲーム「夜、灯す」の箏曲部の転校生を除いた面々を元にこちらで様々な要素を添加させたキャラ達です

次もよろしくお願いします


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