政略結婚をして、お家復興を目指す悪魔 (あさまえいじ)
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主人公の眷属一覧

ゲーティア・バルバトス

出典作品:テイルズオブデスティニー2

駒:キング

テイルズシリーズの中ボス兼裏ボスを担当した、キャラ

CV:若本規夫さん

貴族の嫡男として生まれ、8歳の時、両親が死んだことで、公爵位を継ぐことになった。

前世の記憶を持っているため、成熟した精神を持っている。

戦闘中は「ブルァァァァァァァァ!」の掛け声とともに突撃していくパワータイプ。

原作テイルズシリーズにて猛威を振るった『アイテムなんそ使ってんじゃね』や

必殺技『ジェノサイドブレイバァァァァァァァァ』を使う。

他にも防御するとキレ、後ろに下がるとキレ、とにかくキレる。

常識的な行動と家を第一という考えを持っている。

レイヴェル・フェニックスと婚約している。

 

強さは、原作ハイスクールD×Dの初登場時のサイラオーグよりは強い設定。

セバスには歯が立たない。

 

 

秋野 楓

出典作品:オリジナル

駒:クイーン

神器:『空想世界の武器(テイルズオブウエポン)

テイルズシリーズの武器を呼び出す。

時の魔剣や意志を持つ剣など特殊な武器も原作設定どおりの力を持っている。

そのため、いくつかの魔法や技術はこの能力に由来している。

人物設定:神様転生の際、転生特典をテイルズシリーズの武器が見たいという願いを叶えてもらい、神器を得た。

前世はOLをしていて、残業時間100時間以上でコミケ作品を作成したが、コミケ当日に休日出勤になり、その怒りで、脳の血管がキレて死んでしまった。

12歳の誕生日にはぐれ悪魔に両親を殺され、それを助けたゲーティアに力の使い方を教えてもらうことを理由に眷属に転生した。

性格は真面目、セバスの教育により、メイドとしても優秀になった。

文芸部に入って前世の趣味と同じく腐女子として目覚めた。

 

 

ラオウ

出典作品:北斗の拳

駒:ルーク

 

 

戸愚呂

出典作品:幽遊白書

駒:ルーク

 

 

殺生丸

出典作品:犬夜叉

駒:ナイト

 

 

藍染 惣右介

出典作品:BLEACH

駒:ナイト

 

 

ゼレフ

出典作品:FAIRY TAIL

駒:ビショップ

 

 

ゼオン・ベル

出典作品:金色のガッシュ

駒:ビショップ

 

 

ケンシロウ

出典作品:北斗の拳

駒:ポーン

 

 

浦飯 幽助

出典作品:幽遊白書

駒:ポーン

 

 

犬夜叉

出典作品:犬夜叉

駒:ポーン

 

 

黒崎 一護

出典作品:BLEACH

駒:ポーン

 

 

ナツ・ドラグニル

出典作品:FAIRY TAIL

駒:ポーン

 

 

デュフォー

出典作品:金色のガッシュ

駒:ポーン

 

 

ガッシュ・ベル

出典作品:金色のガッシュ

駒:ポーン

 

 

高嶺清麿

出典作品:金色のガッシュ

駒:ポーン



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第1話 ゲーティア・バルバトス

ハーメルン初心者です。
よろしくお願いします。


私の名はゲーティア・バルバトス。

種族は悪魔、バルバトス家現当主だ。

バルバトス家は序列8位の公爵家だ。

歳は・・・・・・8歳

 

8歳の私が当主なのかというと先代、つまり私の父親が死んだ結果、他に候補がいないから、私が成ることになった。

だから、私が現当主だ。

 

親が死んだにしては冷静だ。

だがそれも仕方がない。

私にはどうやら前世の記憶があるようだ。

所謂転生と言うやつだ。

記憶と言っても、私の自我を奪ってしまうような意志を持っているわけではない。

ただの外付けハードディスクの様に記録がある、という感じだ。

 

生前の私は普通に生きて、77歳で死んだようだ。

商社でサラリーマンとして働き、定年まで勤めあげたようだ。

それなりの経験をいろいろ積んで、それなりの人生だったようだ。

だが私はあることを経験したことがない。

結婚だ。

私は未婚のまま、前世を終えた。

だから、今回は結婚というものを経験してみたい。

 

貴族というなら、政略結婚というものがあるそうなので、それでいいからしてみたいと思っていた。

 

「なに、婚約者はいない。」

「はい、ゲーティア様の婚約者はおりません。」

「何故いない。」

「誠に申し上げにくいことですが、当家と縁を結ぶ利点が乏しいからです。」

「利点?」

「はい。旦那様、奥様が亡くなり当家の先行きは不透明となりました。何か産業があればよかったのですが、特になく、また当家は武門の家柄でありましたが、それも先の大戦で多くを失い、いまだ回復しておりません。ですので、当家との縁など不要と他家に思われております。」

 

答えているのは執事のセバスだ。

父の父、私の祖父の代から仕えてくれて、先の大戦にも軍団を率いて戦った歴戦の戦士だ。

その彼は私に厳しい。いや、唯一厳しく教えてくれる存在だ。

前世を経て、今に至り厳しく指導してくれる存在のありがたみを晩年は痛感した。

しかし、我が家の情勢は非常に切迫しているようだ。

何とかしないといけないが、よくわからない。ここはやはりセバスに聞くしかないな。

 

「セバス、どうすれば我が家を立て直せる。俺にはよくわからない。何でもいい。教えてくれ。」

「ゲーティア様・・・このセバスにお任せください。」

 

俺が頼むとセバスが教えてくれるようだ。

やはりセバスは頼りになる。

前世を経験して分かったことの一つは、『分からないことは聞く』だ。

一度も経験したことがないことをやろうとしてもうまくいくわけがない。

だから、年長者に聞くのが一番だな。

 

「ゲーティア様、早速ですが、やっていただきたいことがあります。」

「分かった。何をすればいい、セバス。」

「まず・・・勉強です。」

「そうだな。勉強が必要だな。よし、頼む。」

「は!」

 

side セバス

バルバトス家の執事セバスでございます。

私は先々代の当主様にお仕えして、大戦を経験致しました。

先々代様を大戦で亡くし、先代様が跡を継がれました。

ですが、先代様も先日、事故にてお亡くなりになりました。

残されたのは8歳のゲーティア様だけです。

これで、バルバトス家も終わりだと思いました。

ですが、ゲーティア様は聡明なお方でした。

バルバトス家を立て直すことを真剣にお考えになり、自分にできることを懸命になさろうとしております。

この御方に付いて行こう、心底そう思いました。

まるで、先々代様を見ているようです。

このセバス、身を粉にしてバルバトス家の発展の礎になってみせます。

私が支える間に是非ともゲーティア様にはたくさんのことを知っていただきます。

そのためにはまず勉強です。

領地のことも、社会情勢も全て学んでいただきます。

全てお任せください、ゲーティア様。

 

side out

 

 

~5年後~

 

あの日から5年経った。

私が今何をしているかと言うと、

 

「ブルァァァァァァァァ!」

 

戦っている。

 

「ゲーティア様、遅いですよ。」

 

セバスと。

 

勉強をし続けた私はある程度の悪魔界の常識と知識を得た。

だがバルバトス家は武門の家系だ。

当然当主である私が弱いなど許されない。

毎日セバスと戦いを繰り返している。

だが、今だセバスにまともに攻撃を当てることもできない。

これではダメだ。当主として執事に負けるような当主など飾り物にも劣るわ!

 

「ブルアアアアア!!」

「はっはっは、愚鈍、あまりに愚鈍。ゲーティア様その様では折角の魔戦斧ディアボロスが泣きますぞ。」

「黙れ!ブルアアアアアアア!!」

「はい。それまで。」

 

俺の首元にセバスの手刀が当てられている。

今日も完敗だ。

まだまだ、体が出来ていないからか、ディアボロスに振り回される。

もっと鍛えなくては、俺は当主だ。

弱音を吐く暇などない。

 

「ゲーティア様、お疲れのところ申し訳ございません。ゲーティア様は上級悪魔でございます。もうそろそろ眷属をお探しになられた方がよろしいかと思います。」

「眷属か。今の弱い私に誰かなってくれるであろうか。」

「眷属とは王を守護するものでございます。ですので、王が眷属より強くならねばならない理由はございません。」

「だが、それでは私のプライドが許されない。」

「でしたらこうお考え下さい。眷属とは最も近くで競い合う仲間、だと。」

「そうだな。私より強い者を迎え、共に競い、最後に私が眷属を超えればいい、そう言いたいのだな、セバス。」

「はい。その通りでございます。」

「分かった、ならば眷属を探してくる。留守は任せた。」

「はい。お任せください。」

 

セバスに言われて今まで眷属の一人もいなかったことを思い出し、急ぎ探してみることにした。

だが、どういうのを眷属にすべきか。

ドラゴンや悪魔を眷属にしても何か違う気がする。

私は強者を求めている。

ドラゴンは強者だが決して学べる強者ではない。ドラゴンは体が強者だ。

ドラゴンの体を得れるわけではないので学べない

悪魔は鍛えることをしない。学ぶことはなく生まれで強さが決まるため、これも学べない。

そうだ、人間だ。

前世が人間であったというのに忘れていた。

人間であったとき、体を鍛えていたことがあった。

空手を、柔道を、剣道を、様々な格闘技を学び強くなる実感を得ていた。

人間ならば貪欲に強さを求める、いや貪欲に何かを学び成長する存在であれば是非とも眷属として招きたい。

よし、人間界に行こう。

 

~人間界~

 

ここが人間界か。

現世で初めてきたというのに懐かしい。

私の魂が覚えているのだろう。まさに魂の故郷だ。

さて、感動に打ち震えている暇はない。

眷属になってくれる者を探そう。

最初の眷属だ。これは大事だ。

誰よりも強大で俺を圧倒してくれる存在、それを私は最初の眷属にしたい。

ん?ディアボロスが反応している。

こっちか。

まさかディアボロスに強者を感じ取る力があるとは、やはり武門の家柄の当主が持つ武器だ。

戦場で最も強い者と戦えるような機能を持っていても不思議ではない。

ん?ここか。

普通の家だ。だが、血の匂いがする。

 

side 楓

私は秋野楓。転生者です。

前世ではOLをしていました。

死因は心不全でした。残業が100時間越えていたにもかかわらず、コミケの作品を作っていたのが原因でしょうか、それともコミケ当日に休日出勤になった怒りで血管プッツンしたんでしょうか。

前世の歳は言いたくありません。結構痛い年なので。

死んだ後に神様に出会いまして、転生させてもらいました。

転生させるけど、すぐに死なれたら困るから力をくれると言いました。

私は後先考えず大好きなゲームの武器を希望しました。

神様が武器だけでいいの、力とかはいいの、て聞いてくれました。

親切な神様でしたけど、実物を見てみたいだけなので、力はいらないと答えました。

無事に転生し、今まで普通に暮らしていました。

転生特典の武器のちゃんと使えました。

初めて使った時はビックリしましたけど、かっこよかったです。

このために転生したと言って過言はなかったです。

そんな私も今日12歳になりました。誕生日です。

ケーキとプレゼントをもらって上機嫌な私に終わりが訪れました。

平穏の終わりです。

家のチャイムが鳴り、お母さんが出ると悲鳴が上がりました。

私とお父さんがその声を聞き、玄関に行くと化け物がいました。

お母さんの足が化け物の口から出ていて、化け物がゴックンとすると見えなくなりました。

私はこれは誕生日のドッキリだと思いました。笑えないよ。

そう思っていると、お父さんも食べられました。

アレ、お父さんもドッキリ。だってお父さんのクビが転がっているんだもの。

今度は私も食べるのかな。でも痛くなければいいな。

 

「ブルアアアアアアア!!」

 

また家に誰か来ました。

今度は私と歳が変わらなそうな男の子でした。

筋骨隆々でデカイ斧を片手で振り回しています。

化け物を真っ二つにしているその姿と雄たけびに何故だか見覚えがありました。

化け物は消え、私と男の子の二人だけになりました。

 

「貴様、何故力を使わない。」

「え、ちから?」

「とぼけるな。それほどの力を持ちながら戦わぬとは、腰抜けが。」

「私の力、使えば、あの化け物、倒せた?」

「当然だろう。私ですら倒せそうな力がありながら、それを聞くか。」

 

ああ、やっぱり。

男の子が言う力は私が神様にもらった力だ。

あの武器ならきっと勝てた、いやお父さんとお母さんを助けられた。

でも、私は見ることしか興味がなかった。

使うなんて発想、そもそもなかった。

神様に警告されたのに、危ないことも知っていたのに、なんで私は・・・

 

「ああああああああああああああああああああ!!!!!お父さん、お母さん。ごめんなさい。

私は助ける力を持っていたのに、この世界が危険だって聞いていたのに、力の使い方を知ろうとしなかった。

知っていれば、助けれたのに・・・・」

「・・・力の使い方が知りたいか?」

「ーー!」

「知りたいか?」

「し、知りたい!教えてください!」

 

私は力一杯、彼の腕を掴み、彼に迫った。

彼は私の腕を歯牙にもかけず、ポケットからチェスの駒を取り出し、私に見せた。

 

「お前に力の使い方を教えてやる。代わりに私の眷属になってもらう。これは契約だ。受け入れれば、お前は人間をやめ、悪魔になる。お前の願いは人間を辞めてでも成す必要があるのか。」

「・・・私には何もない。お父さんとお母さんだけ。それ以外は・・・どうでもいい。今はただこの力の使い方を知りたい。」

「後悔しても知らんぞ。」

「どうせこの世界は危険なんだから力がないと結局死んじゃう。もう死ぬのはイヤ。」

「よかろう。ここに契約を結ぼう。我が名はゲーティア・バルバトス、我は汝に力の使い方を教える。対価は其方が我が眷属となること、相違ないか。」

「はい。私の名前は秋野楓、力の使い方を教えてもらうこと、対価はゲーティア・バルバトス様の眷属となること。」

「ではここに契約を結ばん。」

 

チェスの駒が輝き、私に入っていく。

 

「これで契約は完了した。どうだ?」

「なんだか、力が溢れてきます。」

「其方に使った駒はクイーンだ。その駒は力を、速さを、魔力を強くする。弱い其方にはちょうどいい駒だ。」

「はい。ありがとうございます。」

「では早速その力を使おう、だがここでは色々まずい。我が領地でなら、存分に使えるであろう。」

「では、早く行きましょう。」

「・・・ここをこのままにしていくのは忍びない。それでもいいのか?」

「・・・申し訳ありません。少しお時間いただけますか?」

「構わん。私も手を貸そう。」

「・・・ありが、とう、ござい、ます。」

 

お父さん、お母さん、私はもう人間ではありません。

今日、新たに悪魔に生まれ変わりました。

私は二人を助けれなかった不出来な娘です。

力があったのに、二人を助けれる力があったのに使えなかった不出来な娘です。

でも、私はこの力の使い方を知ります。

二人を助けれる力を使えるようになります。

もう二人を殺すことはないようにします。

だから、悪魔になったこと、許してください。

最後に、こんな不出来な娘ですけど、産んでくれてありがとう。

大好きです。ずっと永遠に。

 

side out

 

 

全て終わり私と楓は家を後にする。

 

「いいのか、本当に。」

「はい、思い出は胸の中にあります。」

「そうか、では我が眷属楓よ。最初の命令だ。この家を焼き尽くせ。」

「はい、我が王、ゲーティア様」

 

楓は自分で武器を生み出せる。

いや、どちらかと言うと呼び出す、というのが近いらしい。

すでに空想にて作られた武器を呼び出し、その力を使える、という能力だ。

人間には聖書の神が作った神器(セイクリッドギア)というのがあるらしい。

楓の能力もそれのようだ。

 

「起動せよ、我が神器(セイクリッドギア)空想世界の武器(テイルズオブウエポン)』」

 

楓は一振りの剣を呼び出した。

 

「楓、それがお前の力の一端か。」

「はい。私は生前の記憶がありました。この武器はその生前にあったテレビゲームの武器です。他にも色々ありますが、燃やすのであればこの『ソーディアン・ディムロス』で適任です。」

「そうか。では見せてみろ。その力を。」

「はい。晶術発動『ファイアストーム』」

 

楓が起こした炎の竜巻は瞬く間に家を焼き尽くしていく。

楓を見ると、涙をこらえて見送っている。

仕方がない。

 

「ここには主である私しかいない。泣きたければ泣け。」

「・・・でも・・・」

「なら、命令だ。『泣け!』」

「・・・はい・・・う、う、うえええええええええええええええん」

 

私の命令で泣く楓が倒れないよう、支えてやった。

やれやれ、最初の眷属がこれでは先が思いやられるな。

そう思っていると炎が収まっていく。

燃やすものがなくなったんだろう。

 

「もういいか。」

「・・・グス・・・はい、ありがとうございました。ゲーティア様」

「では我が領地に帰る。楓、私についてこい。」

「はい。ゲーティア様。・・・・・・・行ってきます、お父さん、お母さん。」

 

私と楓は一度、領地に帰ることにした。

最初の眷属だ。

教育もしなければな、セバスに頼もう。

さて、それが終われば、また眷属探しだ。

次はどんな奴がいるか、楽しみだ。

 

 




ありがとうございました。


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第2話 初めてのレーティングゲーム

私はゲーティア・バルバトス、歳は15だ。

 

楓を眷属としてから2年経ち、すべての眷属を揃えることが出来た。

眷属を集めるために色々な世界を渡った。

私の武器ディアボロスは楓を見つけた時のように強い者を探す力があった。

だが、次元を超えることまで出来るとは思わなかった。

ただ、時間を超えることは出来なかった。

ディアボロスが反応しているので、強者がいるのは分かっているのに手が出せないのは悔しかった。

そこで楓が思い出した。

自分の武器に時間を超える武器があることを。

そこからは私と楓の二人で時間、空間、次元と様々な壁を越え続け、眷属を集めた。

彼らを時に力で屈服させ、時に願いを叶え、眷属を増やしていった。

 

皆、頼もしい仲間たちだ。日々訓練が楽しくてしょうがない。

これで私も立派な上級悪魔だ。

これなら縁談が来るかもしれん。

もし来ていなくても、それは私の頑張りが足りないだけだ。

もっと頑張ればいい。

一度セバスに聞いてみるか。

 

「セバス、今いいか?」

「はい、何でしょうか?ゲーティア様」

「私の婚約者の件、どうなっている。」

「今だ、他家から縁談の話はございません。」

「そうか。」

「申し訳ありません。私の不徳の致す限りです。」

「いや、セバスは十分にやってくれている。全ての責任は当主である私にある。」

 

まだ、駄目だったか。

お家復興、結婚、この両方を成すために一番政略結婚がいいんだが、やはり我がバルバトス家の復興状況が良くないからなんだろうか?

当主となり7年、新しい産業は今だ出来ないが、バルバトス家自慢の軍団は私の眷属たちのおかげで半分までは揃えられた。

だが、このままではまずい。

何か手を打たねば。

 

「セバス、何か現状を打破する方法はないか。」

「それでしたら、レーティングゲームに参加されてはいかがでしょうか。」

「なに?だがいいのか、武門の家柄であるバルバトス家が参加して、万一、成果が不調であれば挽回が効かんぞ。」

「ゲーティア様、ご自分を御信じください。ゲーティア様とゲーティア様が見込んだ眷属が負けるはずがありません。」

「そうか、そうだな。よし、セバス、そのレーティングゲーム、参加するぞ。」

「はい、ゲーティア様。手続きは私が行います。」

「よろしく頼むぞ。では眷属たちに伝えてこよう。」

「その必要はありません。楓。」

「は、ゲーティア様、レーティングゲームの件、眷属全員に伝え終わりましてございます。」

「そうか。ご苦労。」

「は。」

 

まさかレーティングゲームに未成年の内から参加できるとは思っていなかった。

今の未熟な私でどこまで通用するか分からないが、武門の家柄バルバトス家の当主として恥じない戦いをしなくてはな。

眷属たちもここ最近は仕事を頼むことが多くなっていて申し訳ないと思っていた。

これで、少しでも気晴らしになればいいのだが。

よし、眷属たちを集めて集中トレーニングだ。

今こそみんなで一致団結し、勝利をもぎ取るぞ。

 

「楓。」

「はい、お呼びでしょうか、ゲーティア様」

「眷属たち全員を集めろ。レーティングゲームまで集中トレーニングを行う。」

「は、直ちに招集致します。」

 

楓が転移でみんなを集めに言った。

楓も2年で随分と成長した。

眷属が増えるたび、力関係を示し続けてきた。

楓こそ我が眷属最強だ。

ここまで強くなってくれて私は毎日楽しい。

楓に引っ張られて、他の眷属たちもどんどん強くなっている。

私もうかうかしていられない。

 

「ゲーティア様、我ら眷属一同集結致しました。」

「よし、ではこれより集中トレーニングを行う。楓。」

「は、起動せよ『空想世界の武器(テイルズオブウエポン)』来い『エターナルソード』」

 

楓の神器から刀身が紫の剣が現れた。

この剣、ハッキリ言って、私ではどうしようもない。

楓にこれを使われたら、勝ち目がない。最強の魔剣だ。

 

「時の魔剣よ、時間の影響を受けない場所を創れ。」

 

楓の一振りで次元に穴が開いた。

この中は時の干渉を受けない、私と眷属たちの訓練用の場所だ

私が中に入ると、眷属たちが続々と入ってくる。

この中ならどれほど暴れても影響はない。

さあ、始めようか!

 

「では行くぞ、いつも通り、最後まで立っていた奴の勝利だ。『ブルアアアアアアア!!』」

「次元斬」

「北斗剛掌波」

「喝」

「いでよデリオラ」

『ジガディラス・ウル・ザケルガ』

「爆砕牙」

「破道の九十 黒棺」

「天将奔烈」

「霊丸」

「火竜の咆哮」

『バオウ・ザケルガ』

「爆流破」

「月牙天衝」

 

いいトレーニングだった。

今日は私が最後まで立っていた。時の魔剣は厄介だが大分勝率が上がってきた。

最近は楓と私が最後に戦って決着をつけることになるな。

全体的に底上げをする必要があるな。

こういう時はこの二人に聞くのが一番だ。

 

「清麿、デュフォー、質問だ。眷属全員の実力の底上げをするにはどうすればいい。」

「答えは簡単だ。もっと殴り合えばいい。生命の危機に陥れば、自ずと強くなる。」

「清麿と同意見だ。」

「よし、ではもう一回だ。」

 

切磋琢磨できる仲間がいるというのはいいものだ。

 

 

side レーティングゲーム参加者

「こんなとこ来るんじゃなかった。」

 

私は今回初めてレーティングゲームに参加している。

そして、後悔している。

目の前の惨状に。

 

「お前はもう死んでいる。」

「アベシ」

 

私の眷属がポーンの一人に肉片に変えられた。

 

「爆砕牙」

「ぎゃあああああああああ!」

 

ナイトにまた一人、肉片に変えられた。

 

「30%でいいだろう。」

「グシャ!」

 

ルークにミンチに変えられた。

 

「こい、エクスカリバー」

「!!!!(消滅しました)」

 

クイーンに跡形もなく消された。

 

「一瞬で終わる。耐えぬほうが身のためだ。」

 

そして目の前にキングがいる。

あまりの威圧感に私は後退りした、してしまった。

 

「男に後退の二文字はねえ!『絶望のシリングフォール。』」

「うわああああああ!!」

 

私は打ち上げられた岩に襲われた。

その攻撃を何とか耐えた私は支給された『フェニックスの涙』を使おうとすると、

 

「アイテムなぞ使ってんじゃねえ!『シャドウエッジ』『ブラッディクロス』」

「ぎゃあああああああああ!ぐおおおおおおお!!」

 

地面から魔力でできた槍に貫かれて、追撃として飛んできた魔力弾を受けて十字を描かされた。

十字にされたダメージにも襲われた。

こんなの勝てるわけがない。

俺はリザイン(投了)しようとした。だが、

 

「今死ね、すぐ死ね、骨まで砕けろ『ジェノサイドブレイバァァァァァァァァ』」

 

目の前に迫る紫の魔力を見て、心底思った。

 

「あ、俺死んだ。」

 

私は気づくと、医務室にいた。

あの魔力を食らったのか、食らわずにリザインが間に合ったのか、分からない。知りたくもない。

もし、あれを食らっていて、もし、直されていたとしても、そんなこと知りたくない。

今の医務室にいる私には今回の戦いで学んだ、たった一つのことがある。

それだけあれば他は何も知らなくていい。

 

「一生レーティングゲームに参加しない。明日から農業やろう。自然が厳しくてもあんなのよりはましだろう。ハハハハハ・・・」

 

医務室に私の笑い声が響いた。

何故農業をやるのかって、

答えてくれる眷属はみんな、肉、になっているからさ。

食事はバランスよく、てね!

 

side out

 

今回のレーティングゲームに優勝することが出来た。

これも普段のトレーニングと眷属全員の頑張りのおかげだ。

これで、我がバルバトス家も武門の家柄としてアピールできたことだろう。

これで、他家も政略結婚を考えてくれることだろう。

やったぞ、セバス。

 

「今回の優勝者のゲーティア・バルバトス様、一言お願いいたします。」

 

ああ、マイクパフォーマンスか。

ここで印象を良くしておこう。

今回の戦いは必死だったから、ここは余裕を持った振る舞いをすべきだな。

よし決めた。これでいこう。

 

「今日の俺は紳士的だ。運が良かったな。」

 

決まった。

これだ。

今回の最年少ながら、余裕を持った戦いぶりを見せた。

これは高評価間違いない。

そして、縁談が舞い込んでくること間違いない。

 

 

side 観戦していた上級悪魔

「今日の俺は紳士的だ。運が良かったな。」

 

私はレーティングゲームを観戦していた。

そこに真の悪魔が降臨していた。

相手の眷属を全て再起不能にしていた。

リザインの意志を見せていた相手に一方的に攻撃をした。

確かにレーティングゲームにおいて、眷属が死ぬことも少ないことながらある。

リザインの意志を見せたタイミングが攻撃を放った直後だった、というやむにやまれぬ状況もある。

だが、今回の状況はそんなものでは済まされない。

全ての眷属の再起不能。

戦闘継続が困難な相手に過剰ともいえる攻撃。

挙句の果てに紳士的だと言った。これで、紳士的だと。

まさに悪魔の中の悪魔の所業だ。

私も娘を持つ身、何時か誰かに嫁ぐことになるだろう。

家の力関係や大きさも重要だ。

だが、こんな家には絶対に娘を嫁にやらん。

絶対にだ。

 

 



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第3話 お友達を作ろう

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

レーティングゲームに参加してから、一週間が経ちました。

あれから縁談は・・・・・・一件もありません。

何故だ。

あれほど頑張ったというのに、何故だ。

セバスに聞いてみよう。

 

「セバス、前回レーティングゲームに参加してから、特に状況が好転していない。私は何を間違ったんだ?」

「・・・ゲーティア様、申し訳ございません。私の想定があまりに愚かでございました。」

「どういうことだ?」

「はい、前回のレーティングゲームでゲーティア様の強さを世間に知らしめることが出来ると思っておりましたが、あまりにも規模が小さかったため、貴族がご覧になられておられぬようです。」

「なに、そうだったのか。ではまた違うときに参加してみるか。セバス、次は何時だ。」

「・・・大変申し訳ありませんが、前回ゲーティア様が参加されて以降、ルールが改変され、成人していない悪魔は参加できない、というルールが追加されました。これも偏にゲーティア様が優勝されたことが気に食わない一部の弱小悪魔の仕業にございます。」

「そうか、だがルールであれば仕方がない。私も前回はあまり余裕があったわけではない。些か緊張してな、技の連携にミスがあった。あのような醜態、万一見られていては武門のバルバトス家の名前に傷がつくところだった。」

「・・・ゲーティア様」

「セバス、終わったことはもういい。次だ。他に何か手はないか?」

「・・・それでしたら、他家と交流を深めてみては如何ですか?」

「交流、今までしたことがなかったな。」

「はい、これまでゲーティア様が当主と成られてから他家と交流をしておりませんでした。あれから7年経ちました、一度今のお姿を社交界にお見せになっては如何でしょうか?」

「そうだな、だがいきなり大多数の前に出るのは些か気後れする。」

「でしたら、先代様、先々代様が交流されておられた家とだけ交流してみてはいかがでしょうか?」

「どこの家だ。」

「それは・・・グレモリー家でございます。同い年のご令嬢もおられます。もう既にご婚約はされておりますが、同い年のご友人として、友好的になれればよろしいかもしれません。」

「そうか、セバスがそういうならそれがいいんだろう。分かった、セバス、グレモリー家との交流の件、進めてくれ。」

「は、お任せください。ゲーティア様。」

 

 

side リアス・グレモリー

「そろそろ時間ね。」

 

私の名はリアス・グレモリー

グレモリー公爵家の次期当主よ。

今日はバルバトス家の現当主との交流のため、我が家でパーティが開かれるのよ

今の当主は私と同い年なんですって。お父様がそう言っておられたわ。

お父様も心苦しかったそうね。

先代、先々代の当主とは大戦を共に戦い、何度も命を助けてもらっていたらしいわ。

なのに、8歳の子供を支援することは出来なかった。

何故かと私が聞くと、お父様は口を噤んでしまう。

何か事情があるのかしら。

 

「リアス、お見えになったようよ。」

「そうね、朱乃。」

 

車から降りた彼を見て、大きいと思ったわ。

いとこのサイラオーグも大きいけど、彼も負けず劣らずね。

 

「ようこそ、グレモリー家へ。私、次期当主のリアス・グレモリーですわ。」

「私はバルバトス家、現当主ゲーティア・バルバトスだ、今夜はお招きいただき感謝する。」

 

グレモリー家と同じ公爵家の同い年の現当主ということで、少し身構えてしまっていたけど、話してみると紳士的な印象ね。

どこかの私の婚約者とは大違いだわ。

 

「どうぞ、こちらにお父様がお待ちですわ。」

 

私が彼を先導し、屋敷の中に案内していると彼は私に小さく言ったわ。

 

「グレモリー家はこれほど多くの使用人を抱えているのか、家とは大違いだな。」

「あら、それほどかしら。公爵家ならこれくらいは当然ではないかしら。」

「うちには執事のセバスと私のクイーンの楓くらいだ。」

「それほどの人数で屋敷を維持しているの?」

「維持だけではない。我が領地の管理もしてもらっている。今だ未熟な私を支えてくれている忠臣だ。」

 

彼の誇らしげに語る姿が心に刺さる。

私にはそういう存在はまだいない。

確かに彼は現当主だ。そして私は次期当主。

差は明確だ。

私が次期当主なのはお兄様が魔王になったから、その埋め合わせ。

本当に望まれているのは甥のミリキャスの方だ。

私にそんな心から誇れる眷属を、家臣を得られるかしら。

 

「こちらになります、バルバトス公爵様。」

「ありがとう、リアス殿」

 

考えていると何時の間にか、パーティルームにたどり着き、彼は中に入っていった。

その後ろ姿を見て、ため息をついてしまった。

 

「どうかした、リアス。」

「いえ、何でもないわ、朱乃」

 

彼女に言うことはできないわね。

私が朱乃達を信じれない、というようなものだから。

 

side out

 

side ジオティクス・グレモリー

「お久しぶりです、ジオティクス殿。」

「大きくなられたな、ゲーティア殿。」

 

私はグレモリー家の現当主である、ジオティクス・グレモリーだ。

久方ぶりに見た親友の息子は非常に大きくなっていた。

親友は大きな体で、豪快な性格をしていた。

彼には親友の面影を持ち大きな体ではあるが、豪快な性格、ではなさそうだ。

親友が亡くなってもう7年、一人残されたゲーティア君は苦労した、のかもしれない。私には察することしかできない。

私が親友の訃報を聞き、一人だけ残ったゲーティア君のことが心配だった。

一度は彼を引き取ろうかと思ったが、実現させることはできなかった。

同じ公爵家であったため、グレモリー家の乗っ取りと見られてしまうことが問題だった。

ならば影ながら支援をしたかったが、それも出来なかった。

 

全ての原因は親友の妻が旧魔王派の関係者だったことだ。

旧魔王派の直属家系であることを隠し、親友と一緒になり、ゲーティア君が生まれた。

彼女自身に旧魔王派としてどうこうするつもりもなく、穏やかに親友とゲーティア君と暮らしていくこと望んでいた。

グレイフィアという例もあったので、私は彼女の考えに理解を示していた。

だが、旧魔王派はそんな彼女の平穏を打ち破った。

バルバトス家を隠れ蓑に旧魔王派への資金や物資を流していた。

当然、秘密が漏れないわけがなく、現体制の知ることとなり、その結果、暴走した旧魔王派は彼女を人質にして盛大に暴れた。

親友も共犯とみなされ、投獄されることとなった。

だが親友は彼女を助けるために、単身乗り込み、帰らぬ人となった。

彼女も親友が乗り込んだ時には既に亡くなっていたようだった。

親友も彼女も帰ることはなくなり、ゲーティア君一人残された。

 

結果として、バルバトス家は旧魔王派に支援する反体制側だと判断された。

私も擁護したかったが状況が悪すぎた。

親友は現政権に従わず、逃走したため共犯ではなく主犯だと判断された。

彼女も生まれが旧魔王直属家系のため、同じく主犯だと判断された。

そしてバルバトス家を取り潰すことも考えられたが、それだけは何とか回避させた。

サーゼクスにも色々苦労を掛けた。

だがそれ以上はもう何もできない。私もサーゼクスも。

これ以上支援すれば、こちらが疑われる。

サーゼクスも敵が多い身だ。これ以上手を出せば余計な苦労をまた掛けてしまう。

 

先日セバス殿から交流の件を受け、正直悩んだ。

ここでまた交流を持てばグレモリー家、ひいてはサーゼクスも立場を危なくすることだろう。

だが、どうしても会いたかった。

親友の忘れ形見を直接見たかった。

つい先日レーティングゲームに参加したことを知って、その映像を手に入れた。

映像を見て、昔を思い出した。

大戦の時代、親友と肩を並べ、戦った日のことを、上官であった親友の父の背を思い出した。

 

「ジオティクス殿、これまでご挨拶にも伺えず大変申し訳ありませんでした。」

「何をおっしゃるゲーティア殿、貴殿の元気な姿が見れたこと、心から嬉しく思う。さあ、こちらに、まずは乾杯をしよう。」

「申し訳ありません。ジオティクス殿、まだ未成年ですのでアルコールはご容赦ください。オレンジジュースを頂けますか。」

「ははは、安心したまえ。リアスと同い年だと言うことは覚えているよ。オレンジジュースを彼に。」

 

体が大きくなって親友を思い出したが、もちろん彼がリアスと同い年だと言うことは覚えている。

それに親友も酒ではなくオレンジジュースを好んでいたからな、思わず笑ってしまったのは彼が親友と同じ言い方だったからだ。

頼んでいたオレンジジュースを手渡され、ようやく乾杯が出来る。

 

「では、ゲーティア殿、乾杯。」

「乾杯」

 

side out

 

 

乾杯をしてから、ジオティクス殿は上機嫌になり、父の話を色々された。

私は父のことはよく知らなかったので、色々知ることが出来た。

質問してみると、それは嬉しそうに語ってくれた。

更に祖父のことも語ってくれた。

私も祖父のことは全く知らなかったので、これも質問するとまた上機嫌になり語ってくれた。

生前のサラリーマン時代にも年長者に昔のことを聞くと、上機嫌で語りだす人が多かった。

こういう時は聞き役に徹し、適度な感覚で相づちを打つと更に機嫌が良くなる。

色々話をしてみて、とてもいい悪魔だということが分かった。

だから、今後のことを考えていい印象を与えておきたい。

私がそう考え、上機嫌にしていると

 

「ゲーティア君には婚約者はいないのかね。」

「ええ。おりません。」

「・・・そうか。」

「仕方がありません。今のバルバトス家に政略結婚を考えてくれる家はありません。」

 

私がそう返すと、声が挟まれた。

 

「あら、婚約者がいないだなんていいじゃない。自分で自由に相手を探せばいいじゃない。」

 

リアス・グレモリーだった。

 

「リアス殿は政略結婚には否定的ですか?」

「ええ、政略結婚なんて女性を馬鹿にしているわ。自由に恋愛する権利さえないわ。」

「そうは思いません。貴族に生まれ、その恩恵を受ける以上、家を続けていくことが義務です。満足に義務を果たさないのに権利を主張するのは図々しいと思いませんか。」

「なんですって!」

「リアス殿は婚約者がおられますか?」

「ーー!ええ、不本意ながらね。」

「そうですか。それはうらやましい。」

「うらやましい?」

「ええ、家を続けていくことが出来るではないですか。私には政略結婚の相手はおりません。それは私の代でバルバトス家が終わってしまうことにつながります。私の身に流れる血は父から、祖父から、先祖から受け継いできたものです。もし私が子を成さず死んだとき、バルバトスの血は、家は永遠に失われるのです。・・・私には責任があります。バルバトスの家に生まれた責任があるんです。だからこそ政略結婚が必要です。」

「・・・・別に家が決めた結婚でなくてもいいじゃない。」

「それはリアス殿が私とは違い、余裕がある立場だからです。」

「・・・余裕?」

「ええ、リアス殿には、いやグレモリー家には力があります。奥方殿はバアル家のご出身です。その二つの家を繋いだのがリアス殿と兄上殿のサーゼクス殿だ。お二人はそのグレモリーとバアルの両方から力を借りることが出来ます。ですが私にはバルバトス家にも、母の生家にも力がありません。あなたにはその余裕があるから政略結婚が不要だと言えるんです。」

「・・・・・・」

「権利を主張する前に義務を果たされることを成すべきですよ、リアス殿。」

 

 

「本日は大変お世話になりました。ジオティクス殿」

「ああ、またお会いできるときを楽しみにしているよ。ゲーティア殿」

「ゲーティア殿」

「奥方殿、本日はありがとうございました。」

「いえ、こちらこそ。・・・リアスに言われたこと、大変ありがたく思っています。」

「・・・いえ、少々言い過ぎたと思っており、大変申し訳ありませんでした。」

「あの子にはいい薬です。私たちも、いえ、主人が大変甘やかしましたので、我がままに育ちまして、お恥ずかしい限りです。」

「大変お美しいお嬢様でしたので、ジオティクス殿も甘くなってしまったんでしょう。」

「そうだぞ、ヴェネラナ。」

「あなたは黙っていなさい。」

「はい。」

 

二人のやりとりを見て、亡き父と母もこうだったのだろうか、と思いを馳せた。

 

「では、これで失礼いたします。」

 

私は車に乗り込み、バルバトス家に帰っていく。

疲れたな。初めての交流だったからこれで良かったのか分からない。

帰るときも当主と奥方自らお見送りして頂いた。

悪印象ではないと思いたい。

だが、リアス殿はあれ以来、部屋に戻られてしまった。

 

同い年だと聞いていたから、どんな女性か気になっていた。

実際に会って思った。ものすごい美人だった。

こんな人が貴族の令嬢か、これは是が非でも政略結婚したくなった。

私も男だ。美人は大好きだ。

眷属を美人で構成している悪魔がいると、聞いたことがある。

私もそっち方面の眷属を考えたことはあったが、すぐにその考えは消し飛んだ。

私は武門のバルバトス家の当主だ。

そんな甘い考えで家を存続できるだろうか、否、断じて否である。

別に男女差別をしているわけではない。

現に私のクイーンである楓も女性であるが、彼女が弱者か、否、断じて否である。

眷属に求めたのは純粋な強者だ

だから婚約者には美人がいい。

しかし彼女も婚約者がいるのか、その婚約者がうらやましいな。

 



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第4話 治安維持を頑張りましょう

どうもゲーティア・バルバトスです。

 

グレモリー家との交流から帰ってきて、1週間が経ちました。

他家との交流に興味が出たので、もっと積極的にやろうとしたのですが、他家から色よい返事がもらえません。

色々挨拶回りをするべきかセバスに聞いてみよう。

 

「セバス、他家との交流の件、色よい返事は来ないか?」

「ゲーティア様、申し訳ありません。」

「いや、セバス、謝るな。いつもよくやってくれているセバスを責める謂れはない。」

「ゲーティア様・・・」

「だが、政略結婚を結ぶためにも、家同士の交流をするにしても、こうも門前払いでは、次に結びつかない。一度挨拶回りに直接出向いてみる等をしてみるべきか?」

「ゲーティア様、それは得策ではありません。バルバトス家は公爵家です。いくら何でも当主自ら行うなど品位を落とすことになります。」

「だが・・・」

 

セバスに止められてしまったか。

確かに公爵自ら行くというのはあまり、褒められた行為ではない。

だがこのままでは現状を打破できないだろう。

 

「それでしたら、当主の名代として誰かを行かせてみるというのもいいかもしれません。」

「そうか、なら誰に言ってもらうのがいいか・・・そうだ。惣右介を呼んでくれ。」

「は!」

 

惣右介は私の眷属だ。

駒はナイトを使った。

スピード、体術、剣術、魔法と様々な技能が高水準な万能な戦士だ。

端正な顔立ちと巧みな話術も使えるのでこういう面でも役に立つ。

 

「お呼びでございますか、我が主」

「惣右介、其方を見込んで頼みがある。私の名代として、他家との交流を行ってもらいたい。」

「分かりました。お任せ下さい。どこから交流を深めましょうか。」

「そうだな、私と同年代の令嬢がいる家を中心にしてほしい。最終的には我がバルバトス家のため、政略結婚を結ぶことを考えている。」

「分かりました。」

 

後は惣右介に任せよう。

さて、交流の件は後は待ちだ。

その間も仕事はしないとな。

 

 

side 惣右介

私は惣右介、ただの惣右介だ。

昔は藍染惣右介と名乗っていたが、主ゲーティア様に出会い、ただの惣右介になった。

主と出会ったのは尸魂界で、突然目の前に現れた。

 

 

「貴様、強いな。名は」

 

突然現れた男に名を尋ねられた。

 

「藍染、惣右介」

「惣右介、お前は強いな。」

「ああ、知っている。」

 

私に強いだと、そんなことよく知っている。

天に立とうとしている、私の真の力を知らない不届き者に力の差を教えようと思い、全力の霊圧をぶつけた。

そうすると男は喜んだ。

 

「ああ、実に強い。心地良い強者の力だ。やはり私は貴様が欲しい。我が眷属と成れ、惣右介。」

「なん、だと。」

 

私の全力の霊圧を受けて、そんな口を叩く男は不敵に笑いながら、私が欲しいという。

だが私を下に置くと言うならその力、どれ程のものか見せてもらおう。

 

「私は私より弱い者の下に付くことはない。」

「当然だ。ならば我が力見せてくれる。『ブルアアアアアアアアア!!!』」

 

それから力の限り戦った。

この私がまるで歯が立たない。

剣術も鬼道も意味を成さない。

この男、私よりも強い、圧倒的な程に。

 

「どうだ。惣右介。」

「・・・」

 

私は地に付したまま、天を見上げた。

そこには私を地に叩き落とした男が立っている。

力負け、ここまで完膚なきまでに力負けしたのは初めてだ。

ああ、認めよう。

 

「私よりもあなたの方が強い。喜んであなたの下に付きます。」

「惣右介、お前は強くなる。期待しているぞ。」

 

私はゲーティア・バルバトス様の眷属となった。

私を圧倒するほどの力に憧れた。

 

「いつか、あなたを越えてみせます。」

「いつでも待っている。」

 

眷属となり、死神から悪魔に変わった私は他の眷属に引き合わされた。

そこにいる眷属は、全員が強者と判断できる強さを持っていた。

ゲーティア様に膝を屈したが、それ以外に負けることはないと思っていた私を更に叩きのめした。

 

「あなたが新しい眷属ね。私は秋野楓。ゲーティア・バルバトス様の第一の眷属、あなたも私の指揮下に入ってもらう。」

「私は私より弱い者の下に付くことはない。」

「へえ、言うじゃない。よろしい、ならば、戦争だ。」

 

その言葉通りに私はクイーンと戦争になり、大敗した。

彼女もまた、強かった。

時を止められ、徹底的に斬られ続けた。

時を止められていることに気付かず、気付いた時には大量の焼き鳥の串が私に襲ってきた。

瞬歩で距離をとっても意味がなかった。常に私を背後から斬り続けた。

反撃に移るとすぐに消えた。

なにをやっても意味がなかった。

 

「あ、あなたに、従います。」

「分かればよろしい。」

 

またしても屈した。

仲間たちはそんな私を見て、温かく迎え入れてくれた。

 

「俺達もクイーンに序列を叩き込まれたんだ。あんただけじゃない。」

「そうか。私だけではないんだな。」

 

グラサンの似合う、ムキムキマッチョなルークが慰めてくれた。

ここには友人がいる。それだけで死神の時より、居心地がいい。

 

 

さて、昔の話はこれくらいにして、主の要望を叶えるにはどこから交流をしていくべきか。

主からは政略結婚を結ぶため、同年代の令嬢がいる家を中心にするように言われている。

シトリー家の令嬢は主と同い年だな。だが上の娘が魔王であるため、家を継ぐことが出来ないため、下の令嬢が婿を取らないとシトリー家が絶えることになる。

バルバトス家としては、嫁に来てほしいため、シトリー家では条件を満たせない。

次は、フェニックス家か、ここは主より二つ年下の令嬢がいるな。

フェニックス家には上に3人の兄がいる。

ならば彼女は嫁に出される。

それにまだ、彼女に婚約の話がないようだ。

ここがいいな。

まずは私があちらと交流を深めよう。その上で主と令嬢の政略結婚に結び付けよう。

 

side out

 

領内の報告書を見ているとあることに気付いた。

治安が悪い。

一日に何件、事件が起こっているんだ。

これでは移住もしてこない。

人口が増えなければ、経済は発展しない。

それでは税収が増えないため、領地を発展させることが出来ない。

一度セバスと相談しよう。

 

「セバス、相談がある。」

「はい、如何なさいましたか。」

「バルバトス領の治安が非常に悪い。これをどうにか改善したい。」

「・・・そうですね。ですがそれでも大分改善した方です。あの時に比べれば・・・」

「うーん、だがなセバス、いくら改善したとしても、悪いものは悪いぞ。」

「・・・・そうですね。」

「セバス、一度大掃除をしよう。」

「ーー!それでは領地内の産業にもダメージが!」

「セバス、やるからには徹底的だ。いいな。」

「・・・分かりました、ゲーティア様。バルバトス家の総力を持って大掃除を実行致します。」

 

 

side 旧魔王派工作員

俺は今の魔王の政権を認めない、旧魔王派のシンパだ。

このバルバトス領は今の当主の母親が旧魔王派の直属家系の家の女で、旧魔王派の隠れ蓑に使えていた。

だが、7年前に現体制に見つかり、当主と奥さんが死んだ。俺が殺した。

だが跡を継いだのが今の当主だが、まだガキだったから以前より規模は減ったが、物資と資金を流せていた。

だが、今日遂にバルバトス家が動いた。

 

「これより強制査察を行う。こちらの指示に従ってもらう。」

 

今の当主だ。

確か15だかのガキだ。

そんな奴が俺達の仕事を邪魔しようとしてやがる。

許せねえな。

 

「おい!俺達は昔からここでやってきたんだ。今更辞めれるか。」

「そうか、こちらの指示に従わないか。全員同じか。」

「ああ、全員一緒だ。」

 

ここにいるのは全員、旧魔王派だ、

ここでこいつを痛めつけて俺達に逆らえなくしておけば、また昔みたいに規模を広げられる。

俺達に図体がでかいだけのガキを怖がる理由はない。

 

「では、全員・・・・死んでもらう。」

 

そう告げた。

その後ここは血の海に変わった。

 

「北斗剛掌破」

「グヘーーーー」

 

馬に乗った大男は掌をかざしただけで、仲間がはじけ飛んだ。

 

『ザケル』

「ぬおおおお!!」

 

銀色のガキの手から電撃が出て、仲間が焼けていく

 

「火竜の咆哮」

「ぐわあああああ!!」

 

桜色の髪の男が口から炎を吐き出し、辺りが火の海に変わっていく。

 

「氷結は終焉、せめて刹那にて砕けよ!『インプレイスエンド』」

「・・・・(氷漬けのため声が出ない)」

 

ただ一人いた女が氷漬けにした。

 

「さぁ!見せてもらおうか!貴様らのもがきとやらを!」

「せ、せめて、てめえだけは殺してやる、くらえ!」

 

俺は全力の魔力弾を奴に放ち、直撃した。

 

「や、やった。へ、へへ、ざまあみろ。」

 

全く馬鹿な奴だ。

他の奴に任せて、後ろにいればいいのに、当主のくせに、15のガキのくせに、調子に乗って前線にいるからこうなるんだ。

俺は煙が晴れると、無惨な亡骸が出来上がっていると思っていた。

だが、そこにはまるで効いていない奴の姿があった。

 

「効かんなあ。それで攻撃のつもりかあ。」

「ああ、ああああああ・・・」

 

化け物だ。奴には俺の魔力弾がまるで効かない。

俺は奴の存在に圧倒され、体が縮こまると、奴は怒り攻撃してきた。

 

「縮こまってんじゃねえ!『灼熱のバーンストライク』」

「うわああああああああ!!」

 

俺が放った以上の魔力が、炎の雨となって降ってきた。

 

「鼠のように逃げおうせるか、このまま死ぬか、どちらか選べ。」

 

俺は奴の前に跪く様に、倒れこむと、それすらも許されなかった。

 

「土下座してでも生き延びるのかぁ!裂砕断」

「グハァ!も、もうゆるしてくれ。」

 

俺はもう立つことも出来ず、地面に這いつくばり、命乞いをした。

だがあの悪魔はそれすら、気に入らなかった。

 

「軟弱者は消えうせろ!『断罪のエクセキューション』」

「ああああああああ!!」

「貴様の死に場所はっ!ここだ!ここだぁぁ!!ここだぁぁぁぁ!!!『ルナシェイド』 」

「ぬうおおおおおおおおお!!」

 

奴の攻撃を受け続け、俺は意識を保てなくなり、気を失った。

 

「こ、ここは・・・ヒ、ヒィ」

 

俺は意識を取り戻すと、奴が目の前にいた。

 

「今から貴様には全て吐いてもらう。知っていること全てな。」

「な、なにをする気だ!」

「安心しろ。俺は何もしない、俺はな。ケンシロウ、やれ。」

 

奴が何もしないと聞いて俺は安堵した。

出てきたのは、ケンシロウ、と呼ばれた男だった。

男は俺の体の触れた。

 

「お前の経絡秘孔【新一】をついた。これでお前は自らの意志とは関係なく、相手の質問に答えてしまう。主、質問を。」

「よし、ではまずお前たちはなんだ?」

「お、俺達は、げ、現体制に反対、する者たちだ。」

「ではお前たちはバルバトス領内でなにをしていた?」

「活動、資金や物資を、調、達していた。」

「なぜ、バルバトス領でしていた。」

「ここは以前から使っていた。先代当主の時代に大規模に動けていた。今でも裏では規模が縮小したがそれでも、冥界でも随一の稼ぎがでる。」

「では、なぜ先代当主の時代には大規模に動けていた?」

「・・現当主の母親は俺達の魔王様、クルゼレイ・アスモデウス様の、アスモデウス家の直属家系の出身だ。親を人質にされ、俺達の言うことを聞いていた。だが、その親も殺した。そして前当主とその女も殺した。」

「お前がやったのか?」

「ああ。」

「そうか・・・セバス!こいつを現政権に付き出せ!父上と母上を殺したことを証言した。」

「は!直ちに。」

 

なんでだ!なんで、勝手に口が動く。

まずい、このままでは俺がクルゼレイ様に殺される。

俺は連行されながら、そう考えていた。

 

side out

 

 

そうか、父上と母上はあいつに殺されたか。

俺の手で殺したいと思ったが、ここで殺しても父上と母上の無念は晴れない。

あいつは俺達の魔王、クルゼレイ・アスモデウスと言っていた。

母上の生家もアスモデウス家の直属家系だと・・・

確か今の魔王様に先の大戦で魔王様が亡くなり、力が4人が魔王になったと勉強した。

そして、その中にアスモデウスの名を継いだのはファルビウム・グラシャラボラスが継いで、ファルビウム・アスモデウスとなったはずだ。

奴が言うクルゼレイ・アスモデウスではなかったはずだ。

セバスに聞いてみよう。

 

「セバス。」

「は、ゲーティア様」

「先程の奴が言っていたこと、父上と母上は事故ではなく、奴らに殺された、それで間違いないな。」

「・・・・はい。その通りでございます。」

「そうか。当時8歳の私に言っても、分からないことだったから、言わなかったことには異論はない。」

「ーーッ!・・・申し訳ありませんでした。ゲーティア様」

「だからいいと言っている。聞きたいことは別にある。現在のアスモデウスの名を持つ魔王様はファルビウム・アスモデウス様でクルゼレイ・アスモデウスではないと思っていたが、間違いないか。」

「はい。その通りでございます。」

「では奴が言った、俺達の魔王様、とは何か分かるか。」

「はい。まず、現在の4人の魔王様は先代魔王様の名を継いだ、謂わば名誉職のようなものです。ですが元々は家名でした。ルシファー、レヴィアタン、ベルゼブブ、アスモデウス、この家名を持つ者が魔王でした。ですが先の大戦に4人の先代魔王が亡くなり、4人の魔王の血縁から魔王が生まれました。しかし、先の大戦で疲弊し、戦争の継続が困難であるため、停戦を主張したものが現れました。そして、先代魔王の血族と停戦派で戦いが起こりました。最後は停戦派が勝利し、先代魔王の血族から魔王の称号を取り上げました。停戦派の主力4人に魔王の称号を与え、今の4大魔王になりました。先代魔王の血族を旧魔王派と呼び、僻地に隔離致しました。ですが旧魔王派もあきらめておらず、現体制に戦いを起こします。その代表が先代魔王の血族の者です。クルゼレイ・アスモデウスとは、おそらくアスモデウスの血族の者でしょう。」

「それが、我が母上を苦しめた親玉か・・・」

「旧魔王派のやり方についていけないものも多くいました。先代の奥方様もそうでした。奥方様も結婚なさる前に全てを打ち明けましたが、先代様は特に気にしておりませんでした。奥方様もそんな先代様に惹かれ、ご結婚成され、ゲーティア様が誕生なさいました。ですが、旧魔王派は奥方様を見つけ、旧魔王派に協力を要請しました。奥方様は先代様にお伝えし、事態を抑えようと致しました。ですが、奥方様に魔法が掛けられており、奥方様は人質にされました。先代様は奥方様を助けようと致しましたが、現体制にバルバトス領内に旧魔王派がいること、旧魔王派の温床となっていることが知られました。その結果先代様にも、容疑が掛けられ、取り調べを受けることになりました。ですが、旧魔王派は人質にした奥方様を助けたければ、一人で奴らの本拠に来るよう指示しました。先代様は悩み、単身で向かわれました。ですがそれは現体制からは逃走と判断されました。・・・単身で向かわれた先代様ですが、旧魔王派の本拠で亡くなっていました。奥方様もお亡くなりになっておりました。現体制は旦那様も旧魔王派の支援していたとみなされ、バルバトス家もお取り潰しにまで追い詰められました。」

「その状況でなぜバルバトス家は残った。」

「・・・現魔王様、サーゼクス・ルシファー様がお助けしてくださいました。正確に言えば、サーゼクス様のお父上であるジオティクス殿が、ですが。」

「そうか、ジオティクス殿が・・・」

「これが、私が知る全てです。」

「・・・・そうか、セバスよく教えてくれた。」

「・・・・ゲーティア様。」

「セバス、掃除はまだ終わっていない。終わり次第ゴミ出しにいくぞ。社会のゴミを集めろ。」

「は!お供いたします。」

 

旧魔王派か、そいつらを潰さないと我がバルバトス家の復興はないようだ。

まずは領内から徹底的にホコリを出さないとな。

 

 



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第5話 お上の印象を良くしましょう

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

現在我が領内の掃除を行っている。

いやあ、出るわ出るわ、大量に真っ黒な汚れが出てくる。

ここまで、よくも掃除しなかったものだ。

・・・私がしなかったのだがな。

まあいい、約7年に及ぶ頑固な汚れも優秀な眷属のおかげでみるみる綺麗になっていく。

 

「清麿、こっちから先は任せる。デュフォーはあっちだ。黒い奴から徹底的に探し出せ。」

「分かりました。ゲーティア様」

「了解です。」

 

清麿とデュフォーの二人が的確に見つけ、

 

「経絡秘孔【新一】」

「経絡秘孔【新一】」

 

ケンシロウとラオウの二人が自白させていく。

 

「こいつは黒だ。連れて行け。」

「い、いやだ!」

 

逃げようとする奴も当然いる。だけど、

 

「経絡秘孔【大胸筋】を突いた。筋肉をブヨブヨの脂肪に変え、しばらくすると逆に体は硬直し始め後に動かなくなる秘孔だ。これで動けない。」

 

ケンシロウとラオウなら、秘孔を突くことで逃走さえさせない。

 

side ラオウ

 

かつて俺は、ケンシロウに敗れた。

「見事だ、我が弟よ。」

「兄さん。」

 

あの時ケンシロウとユリアの幸せを願い、この命を天に帰した。

 

「わが生涯に一片の悔いなし」

 

だが、主にその直後、命を貰った。

 

「目覚めよ。強きものよ。」

「俺は天に帰ったはず。」

「私が貴様に命を与えた。強きものよ。」

「なに!」

 

それが主ゲーティアとの出会いだった。

主は俺に語った。

 

「貴様の生は終わった。もはや拳王の支配は終わった。だが、貴様も武人、これからは貴様の拳を更なる高みに至りたくはないか。」

「ーー!」

 

自分のために拳を極める。

ケンシロウに敗れたことに納得はしている。

だが武人としての悔しさはある。

 

「確かに、俺も再びケンシロウと拳を交えたい。」

「ならば・・・」

「だが、このラオウ、己より弱きものの下に付く気はない。」

「それでいい。戦わずに頭を垂れるような弱者であれば、こちらから願い下げだ。」

 

互いに構え、闘気をぶつけあった。

そして拳をぶつけあった。

 

「ハハハハハ・・・実にいい。心地良い殺気だ。闘気だ。貴様の力、実にいい、ラオウ。」

「今や天をめざすおれの拳! とくとみせてやるわ!!」

 

戦い続け、決着がついた。

 

「実にいい闘争だったぞ、ラオウ。」

 

この俺が地に伏し、天を仰ぎ見ることになろうとは、まだ己が見据えし天に届かず。

 

「よかろう、このラオウ、貴様の下に付こう。だが、このラオウの拳はおのれのために使う。」

「いいぞ、それで。貴様は我が眷属となった。其方が強くなることを楽しみにしておこう。」

 

それ以来、主と戦い、決して勝てぬが以前よりも強くなっている実感がある。

ならばこのラオウ、誰よりも高みに至る。主を越えて。

悪魔には万の時がある。

主よ、気を抜けばその首もらい受けるまで。

 

side out

 

「ゲーティア様、これで全員でございます。」

「ご苦労、セバス。」

 

現在、真っ黒なゴミを一か所に集め、引き渡す用意をしている。

これで父上と母上の名誉を回復できるだろう。

そうなれば、我がバルバトス家もようやく許されるだろう。

だが、クルゼレイ・アスモデウスは私の手で決着をつけたい。

引き渡すときにそれだけでも言ってみようかな。

 

「セバス、これから政府に引き渡しに行くぞ。共をせい。」

「は!どこまでついてまいります。」

 

 

side サーゼクス・ルシファー

「申し上げます。バルバトス公爵が旧魔王派の構成員を捕縛したので引き渡したいと申しております。」

「分かった。今向かう。」

 

旧魔王派の構成員の引き渡し、本来なら魔王がする仕事ではない。

だが、私はバルバトス公爵に会ってみたかった。

先日父上と母上から連絡があり、興味を持っていた。

政略結婚の是非に関して、リアスに説教をした、という内容だった。

うちのかわいいリーアたんに説教だと聞いたとき、全力で消してやろうと思ったほどだった。

だが、グレイフィアと母上に説教された。

そして父上ですら、敵に回った。

だが、聞けば確かにその通りだと思った。

彼の言葉には重みがあった。

父と母を亡くし、7年もの間、公爵家の当主を務めた重みがあった。

 

昔、父上に頼まれてバルバトス公爵家の取り潰しを回避した。

72柱の家系を断絶させることは容易ではない。

だがあの状況であれば、取り潰しても誰も文句を言わなかった。

私個人としても、取り潰すか悩んでいた。

最後の決め手が父上からの頼みだったことは否定できない事実だ。

だが、それからも父上は再三バルバトス家を支援したがっていたが、していないことを私は知っている。

バルバトス家は現体制に弓を引いた家と判断されたからだ。

そんな家を支援すれば、グレモリー家も同じ目で見られることは明白だった。

そして、私の立場も悪くすることも。

 

誰の助けもなく7年の時を経て、最悪の状況から立て直し、今日旧魔王派を捕らえて引き渡しに来た。

もし私が彼と同じ立場だったとき、同じことが出来ただろうか。

いや、出来なかっただろう。

私に彼と同じことが出来たなら、今これほど苦労していない。

私は戦う才能があったから魔王になった。

彼も武門のバルバトスの生まれであり、戦いの才能に恵まれたようだ。

以前彼が一度だけ参加したレーティングゲームの映像を見た時、恐怖と歓喜を感じた。

彼の戦いは相手に、見る者に恐怖を与える。

仲間にはこれほどの強者が共に戦う歓喜を与えた。

 

だが、時代がそれを許さなかった。

彼がもしリアスと同い年でなく、私と同い年であれば、きっと友に成れただろう。

本能的に分かった。彼も超越者だ。

私とアジュカと・・・あの男と同じ。

生まれてくるのが遅かった。

もし彼が先の大戦の時代に生まれていれば、魔王となっていただろう。

 

それほどの逸材に会える理由が出来た。

ならば是非ともあってみたい。楽しみだ。

 

「ゲーティア・バルバトスでございます。魔王様。」

「よく来てくれた、バルバトス公爵。」

 

リアスと同い年とは思えない程の迫力だ。

公爵としての日々は彼から子供らしさを奪い、急速に成長させたようだ。

大きな体躯と鍛えられた筋肉、サイラオーグを思い出す。

二人を合わせてみるのもいいかもしれない。

互いに親に恵まれなかった、いや、この言い方は二人に失礼だ。

ミスラ殿はサイラオーグを愛していたし、ゲーティア君のご両親だって彼を愛していたと父上は言っていた。

若くして苦労してきた者同士というのが適切か、そんな二人なら実にいい関係が築けると思う。

 

「この度、引き渡します旧魔王派の構成員が先のバルバトス領内の騒動について知っておりました。」

 

いかんな、少し思考が飛んでいた。

彼の話をしっかり聞かないとな。

 

「先の騒動とは、7年前の・・・」

「はい、7年前、当バルバトス領内で起こりました、旧魔王派の騒動のことです。」

「なにを知っていた。」

「こちらの報告書をご覧ください。」

 

私は彼から渡された報告書を読み、絶句した。

そこに記載されている内容は想像を絶していた。

この報告書が真実なら彼はどうして平然としているのか。

父と母の仇がいた。なのに仇を殺さず引き渡した。

私は思わず彼の顔を見た。

 

「なにか不備がございますか?」

「い、いや・・・この内容は本当かい?」

「構成員が全て吐きました。なんでしたら、直接聞いてみますか?」

「いや、それには及ばない。この内容は信じるに値する。だが・・・」

「何か問題が?」

「バルバトス公爵領の七割の産業に関わる大商会に強制査察からの捕縛というのは・・・」

「大変お恥ずかしい話です。バルバトス領の経済がここまで旧魔王派に関わっていた、ということをご報告しなければならないとは。」

「た、確かに悪い報告だ。だがそれ以上にこれではバルバトス領の経済は成り立たなくなるではないか!」

「ですがこれで魔王様方に二心のない、というまたとない証になります。」

「ーー!君は一体何を望むというのだ!」

「バルバトス家が二心がないことを知っていただくことです。」

 

私は彼の覚悟を計り間違っていた。

彼は両親のことを知り、何故誰も彼を助けないのか理解してしまった。

そのため、彼は我々に二心がないこと示すためここまでやったんだ。

仇を我々に引き渡し、自領の経済を破壊した。

いや、我々がさせた。そこまで追い詰めた。

8歳で公爵となり、バルバトス家を一人で守り続けた、リアスと同い年の子供にそこまで強いた。

 

今回の一件、息子のミリキャスにも同じことになったかもしれない。

妻のグレイフィアはルキフグス家、先代ルシファーに仕えることを第一にする一族の出身だった。

本人も旧魔王派として戦っていた。

だが私の妻となり、ミリキャスが生まれた。

ゲーティア君と同じだ。母親が旧魔王派。

いや、彼の母は旧魔王派の家に生まれただけで、実際に内戦には参加しなかったそうだ。

グレイフィアに聞いたところ、彼女は心優しく争いを好まない性格だったそうだ。

先代アスモデウスに仕えた一族だったから、多少の交流はあったようだ。

グレイフィアは彼女のことを知っていた、だから余計に彼とミリキャスの境遇を思った。

片や両親を失い、周りが全て敵の中、7年耐えてきたゲーティア君。

片や両親が健在で一族に温かく育てられたミリキャス。

何故こうも違う。

一歩間違えば逆になっていたかもしれない。

そう思い至ったとき、寒気がした。

もしミリキャスがそうなったとき、誰も助けてくれなかったら、そして私が死んでいて何もできなかったら、ミリキャスはどうなる。

ミリキャスに乗り越えられるか、いや無理だ。

親の立場から甘い判断を下しても、ミリキャスが乗り越えられると思えない。

例え、私がその立場になったとき、打開できるか。いや無理だ。

何も打開する方法がない状態で、旧魔王派を捕らえ、証拠を集め、7年かけて築き上げていた産業を壊す覚悟が、それだけの力があるか。

そんなことが出来るのはアジュカくらいだ。

私にはできない。

 

ゲーティア・バルバトスは紛れもなく超越者だ。

私とは違う、アジュカと似たタイプの超越者だ。

精神と知性と力の超越者だ。

 

side out

 

「ゲーティア・バルバトス公爵、貴公の忠節、確かに受け取った。」

「ありがたき幸せ」

「バルバトス家から旧魔王派の影響は完全に取り払われた。これを魔王サーゼクス・ルシファーの名の下に宣言する。」

「は」

「7年前の事件の主犯とされた、先代バルバトス公爵並びに先代公爵夫人の名誉を回復することを約束する。」

「ありがとうございます。」

「貴公の忠節に報いるには今だ足りないと思っている。何か希望はないか。」

「勿体無いお言葉です。差し出がましいことですが一つ宜しいでしょうか。」

「ああ、言ってくれ。」

「先程の報告書に記載いたしましたが、現在旧魔王派の拠点が判明しております。討伐に参加する許可を頂戴したく、伏してお願いいたします。」

 

バルバトス公爵領の経済を一度破壊して、膿を出し切った。

その上で、お上にいい顔が出来る一石二鳥の作戦が見事に成功した。

さすがデュフォーだ。

その上、父上と母上の名誉の回復、これで我がバルバトス家は安全だと証明できる。

いいこと尽くめだ。

おまけにこれでも足りないと、思ってくれた。

どうせならもっと、忠実であることをアピールすると共に武門のバルバトスは健在であると証明しよう。

 

「それには及ばない。バルバトス公爵、貴公がご両親の仇を討たず、ここまで引き渡してくれたことは心から感謝する。旧魔王派の掃討も貴公あってのものだ。だが、それは我々の仕事だ。ここは耐えてほしい。」

「いえ、差し出がましいことを申し、大変申し訳ございません。」

「謝ることは何もない。むしろ貴公の折角の申し出を断り、すまないと思っている。」

「そう思っていただけるだけで幸福でございます。」

 

残念ながらこの辺りが潮時だな。

あまりしつこくすると、悪感情を与えかねない。

押すときは押す、引くときは引く。

こういうのはメリハリが大切だ。

今なら本命のお願いが通るかも。

 

「大変申し上げにくいことですが、お願いがあります。」

「ああ、先程の件は希望を聞けなかったので、可能な限り叶えよう。」

「私に他家との縁を頂戴することは出来ませんでしょうか。」

「縁・・・結婚ということかね?」

「はい、お恥ずかしい話ですが今だ婚約者もいない、未熟者です。ですが、バルバトス公爵家を次代に繋ぐため、ご縁を探しております。このようなこと魔王様にお願いするなど不敬の限りですが、伏してお願い致します。」

「そうか・・・すまない。少し時間を貰えるかな。何分その手の話は初めてだったのでね。」

「とんでもございません、このような突拍子もないことを言う未熟者が魔王様に拝謁するなど想定されておりませんので。」

「いや、悪魔界のことを考えても貴公の申し出は有難い。断絶してしまう家が多い中、貴公のように家を存続させようとしてくれる者が当主で非常に嬉しく思う。その願い聞き届けよう。私、サーゼクス・ルシファーの名の下の貴公に良縁を見つけることを約束するよ。」

「よろしくお願いいたします。」

 

よし、通った。

魔王直々の縁談だ。まず間違いなくいい話だ。

これでようやく政略結婚を遂げられる。

後はお願いします、魔王様。

 



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第6話 人妻に抱きしめられました

どうもゲーティア・バルバトスです。

 

魔王様に報告が終わり、今は用意された部屋で休んでいる。

疲れた。緊張したな。

でも、目的のバルバトス公爵領の問題解決、両親の名誉回復、この二つが解決した。

その上、魔王様に縁談の斡旋までお願いできた。

完璧だった。さすがデュフォーの作戦だ。

まあ、うちの眷属の清磨との頭脳2トップだ。今後も頼もう。

だが、この展開はデュフォーの読みになかったな。

 

「バルバトス公爵、いやゲーティア君と呼ばせてもらって構わないかな。」

「はい、魔王様。」

 

まさか、魔王と歓談するなんて。

 

 

side グレイフィア

「グレイフィア、ゲーティア君と話をしてみるんだが、君もどうかな。」

 

さっき、サーゼクスが突然言い出したことに私は驚きよりも先に

 

「参加します。」

 

返答していた。

 

彼には、申し訳なさがあった。

私も彼の母も旧魔王派に所属していた。

なのに私は幸せを、彼女は不幸を享受した。

私の息子ミリキャス・グレモリーと彼女の息子ゲーティア・バルバトス。

二人は似た境遇だ。

でも、今の立ち位置は全く違う。

優しい世界に育ったミリキャス、厳しい世界で育ったゲーティア。

親として比べるべきではないとわかっている。でも、どうしても比べてしまう。

ミリキャスではゲーティアに決して勝てない。

生まれた時には負けていなかったと思う。

でも、育った環境が違い過ぎた。

私はミリキャスを厳しく育てたつもりだ。

でも、ゲーティアのことを見ると、厳しいなどとお世辞にも言えない。

ミリキャスが今いる場所は仮初の平和だと、本当の世界はゲーティアがいる世界だと、そう見えてしまう。

 

ゲーティアが悪いとは決して思っていない。

むしろ・・・あれ、どうしたいんだろう?

謝りたいのかしら?何を?幸せでごめんなさい?

知りたいのかしら?何を?生き方を?

怒りたいのかしら?何を?ミリキャスが勝てないから?

憐れみたいのかしら?何を?苦労しているから?

・・・・・・・・・・・・・

浮かぶことが全て、自分の小ささを、ひいては私の息子の不出来さを感じてしまう。

こんな気持ちなら会うべきではないと、思う。

でも、何故か、何故か会わなければいけないと突き動かされる。

 

 

「急にこのような場を用意してすまないね。ゲーティア君。」

「いえ、光栄です。魔王様。」

「ははは、ここでは公の立場ではなく、()の立場だよ。堅苦しい言葉は無しにしよう。私のこともサーゼクスで頼むよ。」

「分かりました。サーゼクスさん。」

「ああ、それでいい。」

 

サーゼクスとゲーティア君が話をしている。

私は給仕の立場でここにいる。

やはり、彼を見ると何故か突き動かされそうな衝動に駆られる。

いけない、給仕なんだから仕事をしないと。

 

「どうぞ。」

「ありがとう。」

 

サーゼクスにはいつもの紅茶を。

 

「どうぞ。」

「ありがとうございます。」

 

ゲーティア君には、

 

「これ、オレンジですね。おいしいです。」

 

オレンジティーを作ってみた。

彼女が昔作った物を思い出して作った。

 

「喜んで頂けて光栄です。」

 

私は彼が心から喜んで、私のオレンジティーを飲んでいることが嬉しかった。

彼が喜ぶ姿が嬉しいのかもしれない。

 

「ゲーティア君は先日、グレモリー家を訪れたようだね。」

「ええ、ジオティクス殿には大変よくしていただきました。」

「そうか、父も喜んでいたよ。父とゲーティア君の父上が友人だったと聞いたかい?」

「ええ、私は父のことを知りませんでしたので、父のことを教えてもらえて嬉しかったです。」

「そうか、ゲーティア君は母上のことは知りたいと思うかい?」

「・・・サーゼクスさんの前で言うのはどうかと思いますが・・・知りたいと思います。」

「ならば、ゲーティア君の母上を知るべきだ。今日はここにゲーティア君の母上を知る人を呼んである。」

「え?・・・・彼女ですか?」

 

ゲーティア君が私を見て、サーゼクスに尋ねた。

 

「ああ、ゲーティア君の母上と同じ旧魔王派に所属していた、グレイフィアだ。私の妻でもある。」

「そう、ですか。」

「グレイフィアです。ゲーティア君のお母さんとは昔、交流がありました。」

「そうですか。・・・あの母はどういう人でしたか?」

「彼女は旧魔王派に所属していましたが、戦いを好む人ではありませんでした。彼女は料理を作ることが好きでした。実は今日のオレンジティーは昔彼女が作った味を思い出して作ってみました。」

「これが、母の味ですか。」

 

ゲーティア君はオレンジティーを飲み、天を見上げた。

 

「覚えていないことがつらいな。」

 

私はその言葉を聞き、居ても立っても居られなくなって、

 

「失礼します。」

「え!」

 

彼を抱きしめていた。

私は自分が何をしているのか、理解していた。

その上で分かった。

私が彼に言いたかった言葉を。

 

「よく頑張りました。偉いですね。」

 

褒めたかったんだ。

彼女の代わりに、彼女が出来ない代わりに、褒めてあげたかったんだ。

自分の息子と同じ境遇に生まれた、全く違う境遇で育った、自分の息子が辿ったかもしれない彼を褒めたかった。

ただの私の自己満足。それは分かっている。

 

「ごめんなさい。でも、もう少しだけ、このままで、いさせてください。」

「・・・・はい。」

 

私の中の母性が収まるまで、時間をください。

 

 

「ごめんなさい。」

「ああ、いえ、その・・・ありがとうございます。」

 

落ち着いて、すぐに謝った。

恥ずかしい。顔が真っ赤だ。鏡を見なくても分かる。

彼もなんと言っていいか分からず困惑している。

だけど、只一人面白そうに笑っているのがいる。

 

「ククククク・・・」

 

サーゼクスだ。

こう言っては何だけど、自分の妻が他の男に抱き着いているのに止めもせず、笑っているなんて・・・

私が非難の目を向けると、

 

「いや、すまない。グレイフィアが随分思い詰めた顔をしていたのに、彼を抱きしめてから随分と表情が優しくなったから。」

「う!」

 

確かに彼を抱きしめて、張り詰めていた気持ちが落ち着いた。

頭じゃなく、心が理解していた。

彼女がしたかったことをしてあげたかったんだ、それが分かって大分落ち着いた。

 

「ゲーティア君、君のことを教えてほしい。この7年のことを。」

「あ、はい、構いません。」

 

 

「・・・今日に至ります。」

「つかぬことを聞くが、学校に行ったことはないのかい?」

「ええ、ありません。勉強は当家の執事に習いましたので。」

 

私は怒っていた。

彼のこれまでが仕事かトレーニングばかりだったことに。

8歳の頃から7年間、遊ぶということをしていない彼に。

子供らしくあるべき時にひたすらに仕事をする彼に。

隣にいる仕事をしない大人に。

怒っていた。

むしろゲーティア君の中身がサーゼクスと逆だといいのにと思ってしまうほどだ。

だから口を出した。

 

「それはいけません!学校とは勉強のためではなく、交友を深める場所でもあります。」

「ですが、私は公爵家の当主です。私がしなくてはなりません。」

「確かにその通りです。ではもし公爵家の仕事が楽になれば何をしますか?」

「そうですね・・・トレーニングですね。」

「趣味はないんですか?やりたいことは?興味があることは?」

「趣味はトレーニングです。やりたいことはトレーニングです。興味があることは効率の良いトレーニング方法の研究です。」

 

私は絶句した。

トレーニング、トレーニング、トレーニング、・・・

何ですかそのストイックなトレーニング押しは!

貴方悪魔でしょ!もっと自堕落になりなさい!そんなんで立派な悪魔になれませんよ!

しかし、隣の悪魔、あなたはダメだ。

 

「この際学校に通ってみましょう。そうすれば他に色々なことも見えるかもしれませんよ。」

 

私が頑張って説得しないと。

彼を立派な悪魔にするためにも、ここで私が頑張らないと。

彼女の分も私が世話を焼かなくては!

 

「そうですねぇ・・・少し考えさせてください。」

「私は学校に行くというのはいいと思うよ。ちょうどリアスが人間界の学校に行くんだ。ゲーティア君も一緒にどうかね。それに君にお願いされた件も時間がかかるかもしれないし。」

 

そうだ、縁談。

それもありました。

彼はバルバトス公爵家当主だ。

家格のつり合い、経済地盤、影響力、等を総合的に判断する必要があるわね。

それに、バルバトス公爵家が一方的に搾取されるような、彼が苦労する相手はダメね。

後はやっぱり当人同士の相性も大事だし。

歳も出来れば近い方がいいかしらね。悪魔が長命とはいえ歳の差があり過ぎるのは苦労するでしょうし。

こんな大変なこと隣のダメ悪魔じゃ何年かかるかしら。

仕方がない。私が頑張るしかないわね。

そうだわ、お義父様にも手伝ってもらいましょう。

彼のことに心を痛めていたお義父様なら、必ず良縁を見つけてくださるわ。

早速連絡をしなくては、ですがその前に。

 

「一度は体験しておいた方がいいですよ。それに先程の話の中で、ご友人の話がなかったのですが、一人くらいご友人は・・・いますか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いません。」

「学校行きましょう(ニッコリ)」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい。」

 

ふう、問題は一つ解決です。

もう一つは少し待っていてください。

私とお義父様であなたにふさわしい娘を探しますね。

 

side out

 

いや、色々驚いたな。

まさか母と同じ旧魔王派の人がサーゼクス様の奥さんだったなんて。

母の味もこの体が覚えているのか、何か懐かしい感じだった。

でも、記憶になかったからなあ。

そんなことを漏らすと、いきなりグレイフィアさんに抱きしめられて、ドキドキした。

人妻だとは分かっているけど、めっちゃ美人だったし、胸も大きかったし、めちゃくちゃ興奮したけども、・・・何故だか懐かしい感じがした。

8歳の時に今の状態になったから、それ以前は記憶はほぼない。

前世の記憶はあるが、母の記憶は遠い過去だ。

だから、興奮というよりも落ち着いた気分になったほどだ。

それからはグレイフィアさんも遠慮が無くなってきて、ズバズバ言ってきた。

友達がいないことも学校に行ったことがないことも。

不思議といやな気分ではなかった。

前世の母、いや前世の親戚のおばさんを思い出した。

それくらいの遠慮のなさだった。

結局押し負けて学校に行くことになったし。

これから経済の立て直しも大変なんだけどな。

帰ったらセバスに相談だな。

 

 

side サーゼクス・ルシファー

 

「魔王様、失礼いたします。」

「ああ、バルバトス公爵。息災でな。」

「ありがとうございます。」

 

ゲーティア君が帰っていった。

今日の出会いはとても良かった。

彼が実直で誠実だとよくわかった。

さて、彼のお願いに関してどうするか。

 

「お義父様、グレイフィアです。至急ご相談したい案件がございます。」

「どうした。グレイフィア、突然。」

「大変申し訳ありません。ですが一刻を争います。ゲーティア・バルバトス公爵に関わる案件です。」

「詳しく聞こう。」

「はい、単刀直入に申し上げます。ゲーティア君にふさわしい令嬢を探しております。お心当たりはございませんか。私は彼の亡き母に代わり、彼にふさわしい令嬢を選んであげたいと考えております。」

「私もだ、グレイフィア。亡き親友の忘れ形見である彼にふさわしい令嬢を探すことは、私の責務だと考えている。」

「お義父様。」

「グレイフィア。」

 

彼に頼まれたのは私だというのに、グレイフィアと父上が盛り上がっている。

グレイフィアも父上も彼を気に入っている。

いや、気に入ったどころか、我が子と言わんばかりだ。

二人とも亡き友のため、という思いが爆発している。

情愛のグレモリーの父上はともかく、グレイフィアは違うよね。

ヒートアップする二人を宥めるためにも、一言言っておこう。

 

「父上、グレイフィア、ゲーティア君に縁談を頼まれたのは私だ。だから私に任せて・・・」

「なにを言っていますか!普段仕事をしないあなたが、彼の縁談をまとめるだなんてできるわけがありません!」

「そうだぞ、サーゼクス。いつもみたいにテキトーでは済まされないんだぞ。」

「あなたに任せていては何千年かかるかわかりません!ここは私とお義父様で探します。なので、あなたは仕事をしてください!いいですね!」

 

私は二人の迫力に飲まれ、何も言えなかった。

おかしいな魔王なのに、力だけで魔王になったのに。

私は一人蚊帳の外でゲーティア君の将来を案じた。

 

「ちなみにグレイフィア、縁談に関して彼から要望はなかったかね。」

「いえ、ありませんでした。ですが要望を出せなかっただけだと思われます。ここは我々で彼に最良の相手を探すべきだと思います。」

「そうだな。ああ、前回彼が我が家に来た時、【家に力がある】と言うことを重視しているようだった。」

「そうですか。でしたら、【家に力がある】を優先事項の上位に置きましょう。後は私の方で考えた評価点は家格のつり合い、当人の相性、年齢と考えます。」

「そうだね、私もそう思うよ。ではそれでまずピックアップしよう。」

「分かりました。では情報の共有は密に行いましょう。」

「ああ、分かった。」

 

二人の作戦会議は終了したようだ。

頼まれたの私なんだけど。

まあいいか。最終的に伝えるのは私なんだし。

それくらいの役目は回ってくるよね。

 

 



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第7話 課題と説明会

どうもゲーティア・バルバトスです。

 

魔王様に引き渡しが終わり、バルバトス領に戻ってきた。

一度全員に今回の成果について共有する必要があるな。

 

「セバス、今回の成果を共有をする。全員を集めてくれ。」

「かしこまりました。ゲーティア様」

 

 

「ゲーティア様、全員揃いましてございます。」

「よしではまず、今回の成果だ。バルバトス公爵領から旧魔王派の影響は完全に取り払われた。これを魔王様が宣言して頂いた。そして、父上と母上の名誉回復を成し遂げた。」

「やりました、やりましたぞ、ゲーティア様。」

「セバス、苦労を掛けた。」

「いえ、なにをおっしゃいます。これからですぞ。」

「ああ、最後に魔王様に縁談の斡旋をお願いできた。これはデュフォーの作戦以上の成果となった。」

「主、俺の見通しが甘かった。申し訳ありません。」

「なにを言う。其方の作戦が上手くはまったんだ。其方の成果だこれからも頼むぞ。」

「主・・・はい、お任せください。」

「こちらからの報告は以上だ。ではこれからの課題について話し合うことにしよう。」

 

今回の成果はこれで終わりだ。

上々の結果に終わったがまだ問題は多い。

あまり悠長にしていると取り返しがつかなくなることもある。

早急に取り掛かることを決めないと。

 

「ゲーティア様、宜しいでしょうか。」

「なんだ?セバス。」

「私は経済の立て直し、他家との交流、治安維持の3点がこれからも課題になると愚考致します。」

「そうだな、私も同意見だ。まず経済の立て直しから考えてみよう。担当を誰にするか意見があるものはいるか。」

「はい。宜しいでしょうか。」

「楓。なんだ?」

「はい、担当は清磨、デュフォーのどちらかもしくは両方を推薦致します。早急に対応を行うべきと考えます。」

「なるほど。清磨、デュフォーはどう思う?」

「この場合、清磨か私のどちらかが主となり、もう一人はバックアップに回るべきだと意見します。現状、多くの手を打つ資金はありません。どちらか一方に絞り、資金が潤沢になれば、もう一人も参戦するべきと考えます。」

「主、俺もデュフォーの意見に賛成です。俺とデュフォーでは意見のぶつけあいになるかも知れません。ですが、現状は時と資金がありません。頭は一つの方が即対応が可能です。」

「二人の意見は分かった。では担当は・・・・清磨に頼みたい。いいか。」

「分かりました。お任せください。」

「デュフォーには、私の参謀役として領内の問題に取り掛かってもらいたい。」

「は。お任せください。」

 

まず、経済の立て直しについて話がまとまった。

今回少し無理をしたが、その結果、信頼を勝ち取った。

だが、このまま放置すれば信頼は得たが、詰みましたになる。

勝負に勝って試合に負けたになる。

私は勝負にも試合にも勝ちたい。

清麿が経済の立て直しを担当すれば、彼の能力で最良になるだろう。

デュフォーには参謀役として手を貸してもらえないと私が困るし。

 

「では次に他家との交流についてだが、担当は惣右介に頼んでいたが、状況はどうだ、惣右介。」

「は、私の方で検討しておりましたのがフェニックス家との交流です。フェニックス家はレーティングゲームの規模拡大と共に『フェニックスの涙』の販売で財を成しております。また、フェニックス家は子供が4人おり、三男のライザー・フェニックス殿はリアス・グレモリー殿と婚約しております。末の長女レイヴェル・フェニックス殿は主より2つ年下で婚約者はおりません。経済状況の改善と他家に嫁げる背景があります。」

「なるほど、他家に嫁げるだけ兄弟がいるのは稀だ。4人兄弟で兄が3人いるので、彼女が家を継ぐというの可能性はほぼ零だ。また、当家と違い経済面の心配もない。確かに理想的だ。私がもし彼女と結婚すれば、グレモリー家とも縁が出来るというのも魅力的だ。」

「ではこのまま進めてもよろしいでしょうか?」

「・・・・少し、時間を置くことは出来ないか?」

「やはり、そうおっしゃられると思いましたので調査と分析だけ進めておりました。」

「すまない。魔王様に縁談の斡旋を頼んだ以上、何かしら魔王様からアクションが来るまで当家が動くのは得策ではない。お願いした魔王様の顔を潰すことにも成りかねない。」

「では、この話は一時凍結と致しましょう。」

「ああ、だが他家との交流は別の方向からのアプローチに変えよう。特定の家ではなく複数の家に、狭く深くよりも広く浅くの方向でいこう。」

「わかりました。ではそのように行います。期限はいかがいたしますか?」

「フェニックス家に関しては最低3年、間を置こう。他家との交流は即日開始の上、継続的に行う。期限は設けない。」

「分かりました。そのように対応致します。」

 

他家との交流は引き続き惣右介に頼むことになった。

彼にお願いして、すぐに魔王様に縁談をお願いしたので、彼からすると振り回された結果になってしまった。

折角調査してもらったのに悪いことをした。

その上今度は広く浅くと言って、仕事を増やす結果になった。

我が家で唯一の外交官だ。

彼には苦労を掛けるな。

後で何か埋め合わせをしないとな。

 

「よし、では最後に治安維持だ。これに関してはケンシロウとラオウの二人を考えている。みんなの意見はどうだ。」

「ゲーティア様、宜しいでしょうか。」

「なんだ。楓。」

「はい、ケンシロウとラオウの二人以外に私は犬夜叉と殺生丸を推薦致します。」

「ほう、それはどうしてだ。」

「はい、今回の大掃除の結果、経済的には打撃を受けました。ですが、現状残った者たちは完全な白です。これを維持するために領内への出入りに関して気を配るべきと考えます。この場合、正規に出入りする者はケンシロウとラオウが対応し、不正に侵入しようとする者を捕らえるのは犬夜叉と殺生丸が対応するべきと考えます。」

「なるほど。確かに折角掃除したんだ、また大掃除しなくてもいいように維持する必要はあるな。よしではその意見を採用する。」

 

大掃除した後にしばらく放置するとまた大掃除することになる。

部屋を綺麗に保つコツは大掃除をした後にこまめに掃除をすることだ。

意外とこれが大変だからな。

 

課題と対応する担当者に関して議論は十分だろう。

一度整理してみよう。

 

「では意見をまとめよう。経済の立て直しは担当は清麿、即日対応してもらう。他家との交流は担当は惣右介で即日開始で継続的に行う。治安維持はケンシロウ、ラオウ、犬夜叉、殺生丸の4人に対応してもらい、正規の出入りはケンシロウとラオウが、非正規な出入りは犬夜叉と殺生丸が対応する。これを即日開始とすること。以上の内容で問題ないか?」

「は、問題ありません。」

 

これで領内の問題は大丈夫だ。

さて、あの話を切り出すか。

 

「・・・実はもう一つ、問題がある。」

「何でございましょうか?」

「実は魔王様、いや魔王婦人のグレイフィア殿から要請があった。人間界の学校に行け、と。」

「・・・魔王様からのご指示ではないとはいえ、断りにくい方ですね。ここは要請に応えた方が宜しいかと。」

「やはりそう思うか。だが、仕事に支障が出てしまう。何とかしなくては。」

「ゲーティア様、お任せください。これまでに比べれば大した問題ではありません。ですが、人間界でも仕事をしていただく必要がございますが。」

「それぐらいは問題ない。では、人間界の学校に行く件は問題ないな。」

「はい。ですが眷属の内、何人かは一緒に行くべきですね。」

「そうだな。だが、人間界の学校だ。そこまで、大人数で行く必要もないだろう。」

「そうですね。人選としては楓と一護、幽助、戸愚呂で問題ないかと。」

「今回の担当になっていない中で連れて行くと考えると、それがいいだろうな。ナツとゼレフを連れて行くのはまずいし。」

 

これで人間界に行く問題も解決だ。

そういえば、学校に行く件、どうすればいいんだ。

いきなり人間界の学校に転入するわけにもいかないし、その辺り聞いていなかった。

言われなかったし、どうするべきか。

聞きに行くか。

連絡先を交換していたわけでもないし、直接行くしかないか。

そんなことを考えていると、突然転移陣が現れた。

 

「ーー!なんだ!」

「これはグレモリーの紋章です。」

 

そこから現れたのはグレイフィア殿だった。

 

「急な訪問、申し訳ありません、バルバトス公爵。」

「これはグレイフィア殿、いきなりどうされました。」

「大変申し訳ありません。学校の件に関してお伝えしないといけないことがありましたので参りました。」

「ちょうどよかった。私も学校に通うにあたり、どこの学校で何時から通うかについてお聞きしていなかったので、どうすればいいか悩んでおりました。」

 

グレイフィア殿が現れたのは学校の件だった。

いや、どうしようか悩んでいたから良かった。

最悪またルシファードに言って、直接聞くかどうしようか困ったし。

この際だ、色々必要なものとかも聞いておこう。

あと、連絡先とかも聞いておいた方がいいかも。

 

「では、説明会場に案内致します。こちらの転移陣に乗ってください。」

「あ、少々お待ちいただけますか。一緒に通う者たちも連れて行きたいのですが宜しいですか。」

「ええ、構いません。」

「ありがとうございます。楓、一護、二人は私と共に来てくれ。セバス、幽助と戸愚呂に説明しておいてくれ。」

「分かりました。お気をつけて行ってらしてください。」

「お待たせしました。グレイフィア殿」

「はい、では参ります。」

 

私と楓、一護はグレイフィア殿の転移陣に乗り、説明会場に到着した。

 

「どうぞ、こちらです。」

 

私たちを案内するグレイフィア殿に道すがら質問してみた。

 

「人間界の学校に通われるのは私以外にリアス殿だけではないんですか?」

「いえ、もう一人いらっしゃいます。シトリー家のソーナ様です。」

「シトリー家・・・現魔王レヴィアタン様の一族の方ですか?」

「はい。レヴィアタン様の妹になられます。」

 

人間界の学校に魔王ルシファー様とレヴィアタン様の妹が通われるとは驚きだ。

いいのか?冥界の教育が遅れてると言ってるようなものではないのか?

現政権のトップの血族こそ、冥界で教育しなくて、他への影響とか大丈夫なのか?

私がそんなことを考えていると、着いたようだ。

 

「どうぞ、お入りください。」

 

入ってきた私を見て、声を上げた人がいる。

 

「ゲーティア・バルバトス!」

 

リアス殿だ。

一応私は現公爵で彼女は次期当主の間柄なので、呼び捨てはまずいんだが・・・

そう思っていると、一瞬で彼女に近寄った影に口を塞がれた。

 

「お・じょ・う・さ・ま、目上の方になんという口の利き方ですか!」

「~~~~~~~~~~~~」

 

グレイフィア殿だ。

あまりの速さでかろうじてしか見えなかった。

後ろを見ると、楓も一護もかろうじてしか見えなかったようだ。

足運びや立ち居振舞いからも強者だとは思っていたが、これほどとは・・・一度戦ってみたい。

私がそんなことを思っていると、リアス殿の顔色が変わっていく。

そろそろ止めたほうがいいか。

 

「グレイフィア殿、その辺で放してあげてください。」

「ゲーティア殿、大変申し訳ありません。」

「いえ、気にしておりませんので。」

「お恥ずかしいところをお見せしました。どうぞこちらです。」

 

私たちは席に案内された。

リアス殿を放置して。

ここで助けたほうがいいのかも知れないが、グレイフィア殿の興味がリアス殿に向くとまた締められるかも知れない。

ここはリアス殿とグレイフィア殿の間に入り、リアス殿を守った方がいいと判断した。

 

 

side ソーナ・シトリー

 

私の名前はソーナ・シトリー。

シトリー家の次期当主です。

私には夢があります。

階級・身分に関係なく子ども達がレーティング・ゲームを学ぶことが出来る学校を設立し、子ども達を指導することです。

駒王学園に通っているのも、教育において冥界よりはるかに進んでいる日本の教育を参考にするためというのが理由です。

本日はその説明会に私の眷属、女王の椿姫と参加していました。

 

「リアス、ごきげんよう。」

「あらソーナ、ごきげんよう。」

 

友人のリアスに出会った。

彼女もこの説明会に参加するのは知っていた。

 

「もうすぐ日本に行けるのね。ああ楽しみだわ。是非とも京都に一度行ってみたかったのよ。ソーナはどこに行きたいのかしら?」

「私は教育に興味がありましたので、日本の高校に通えるだけで十分です。」

 

彼女はただ、日本に行きたい、観光したいというだけでした。

私が心配することではないですが、そんな甘い考えでこれからの将来は大丈夫でしょうか?

 

「最近、あの一件以来、家に居づらいのよね。早く日本に行きたいわ。」

「あの一件?・・・ああ確か、バルバトス公爵に言い負かされた、と言っていた件ですか。」

「そうよ!そうなのよ!あれからお父様もお母様も事あるごとに、彼を見習え、貴族としての政略結婚に意味ついて考えろ、とか毎日おっしゃるのよ。」

「・・・・そうですか。」

 

リアスが嘆いているが、バルバトス公爵の考えを聞いてみたが、間違っていないと思う。

彼女の価値観と噂のバルバトス公爵の価値観は真逆だ。

片や恋愛を重視し、家のことより当人の気持ちが大事だというリアス。

片や家を重視し、当人の気持ちより家のことが大事だというバルバトス公爵。

一悪魔として、公私の私を取るリアスと一貴族として、公私の公を取るバルバトス公爵。

二人は対極の考えを持っている。

私個人としてはリアスの考えを支持してあげたい、でも貴族としてはバルバトス公爵の考えを支持すべきだと頭では理解する。

 

リアスから話を聞いて、私なりにバルバトス公爵について調べてみた。

バルバトス公爵は私たちと同い年だった。

8歳で公爵位を継ぎ、7年務めている。

同年代では頭一つ抜けた存在だと言える。

だが、彼の生い立ちはあまりに悲惨だと言える。

普通は8歳で跡を継ぐなどありえない。

何故継ぐことになったのか。

彼は家族を亡くしている。父と母を亡くしている。

何故か、調べて驚愕した。

彼の母は旧魔王派に所属していたということ。

彼の父は領内の産業で旧魔王派に援助していたということ。

そして、それが公になり鎮圧された。そのとき彼の父と母は亡くなったそうだ。

私は旧魔王派に所属していたのに、幸せになった人を知っている。

グレイフィアさんだ。

サーゼクス・ルシファー様の伴侶となり、ミリキャス君を産んだ。

彼の両親と変わらない。唯一違う点は魔王かそうでないか、それだけの違いしか私には分からない。

 

確かに旧魔王派は許されない。

現政権に弓を弾き、争乱を産みだす集団だ。

でも、その結果、彼は不幸になったと言えるのではないか。

現政権と旧魔王派の争いに巻き込まれた被害者ではないのか。

その結果が家を第一とする考えに至ったんではないだろうか。

私には推測することしかできないが・・・

 

私はバルバトス公爵に会ったことはない。

調べただけで得た情報から推測しただけです。

だというのに、目の前の彼女は実際にバルバトス公爵と会い、言葉を交えています。

私にはなぜ彼女が、バルバトス公爵を悪く言えるのか理解できません。

貴方の身内に最も彼に近い存在がいるのに、もしかしたら貴方のかわいい甥が辿ったかもしれない境遇にいるというのに、どうしてそういう考えが及ばないのか、私には残念でなりません。

 

「どうぞ、お入りください。」

 

私が思考していると、扉が開き、グレイフィアさんが入ってきた。

一緒にいる大きな人は先程から思考していた人だ。

 

「ゲーティア・バルバトス!」

 

そうだ、あれがゲーティア・バルバトス公爵だ。

後ろに二人いるけど眷属かしら。

私がそんなことを考えていると、グレイフィアさんがリアスの口を塞いだ。

物理的に塞いでいる。

 

「お・じょ・う・さ・ま、目上の方になんという口の利き方ですか!」

「~~~~~~~~~~~~」

 

苦しそうだけど、自業自得だと思う。

私たちと同い年ではあるけど、あちらは立派な公爵、私たちは次期当主。

立場には明確な差がある。

それをいきなり、呼び捨てにするとか、彼女は少し頭が残念なんでしょうか?

 

「グレイフィア殿、その辺で放してあげてください。」

「ゲーティア殿、大変申し訳ありません。」

「いえ、気にしておりませんので。」

「お恥ずかしいところをお見せしました。どうぞこちらです。」

 

彼がグレイフィアさんを宥めて、リアスは救出された。

間近で見ると、大きい体と引き締まった筋肉が分かる。

体つきからして同い年とは思えない。

それに振る舞いも堂に入っている。

同い年だというのにその熟練さに敬服してしまう。

 

まさか現公爵の彼がここに来るとは思っていなかった。

日本の学校に通うということがまた楽しみになったわね。

 

side out

 



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第8話 同級生

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

いま、学校説明会に参加しています。

参加者は私と私の眷属の楓と一護、リアス殿とその眷属の朱乃殿、ソーナ殿とその眷属の椿姫殿だ。

説明はグレイフィア殿が行っている。

しかし、学校か。

生前は確かに通っていたが通算すると80年くらい前になるな。

確かに友達がいたし、楽しかったな。

まさか再び行けるとは、なんだか少し楽しみになってきた。

 

「以上で説明を終わります。」

「ありがとうございました。グレイフィア殿。」

「ゲーティア君、なにか分からないところはなかったかしら。」

「ええ、大丈夫です。それにありがとうございます。このような機会を作っていただいて、グレイフィア殿に背中を押されなければきっと学校とは無縁でした。感謝しています。」

「・・・・いえ、差し出がましいことを申したと思っております。ですが、きっと彼女が生きていれば貴方に学校に行って欲しかったと思いましたので・・・ごめんなさい。」

「本当に感謝しております。母のこと、覚えていませんが、きっとそう言ってくれたと何故だか思います。」

「・・・・私で良ければ母と思ってもらっても構いませんよ。」

「さすがに恐れ多いですよ。」

「・・・・そうですか。」

 

グレイフィア殿と大分打ち解けたと思えた。

まさか、母と思ってもいいとか、母性本能の強い方なんだろうな。

きっと彼女からすれば、友達の息子は私の息子、みたいに思えるんだろうな。

眼鏡をかけた女性たちが近寄ってきた。

グレイフィア殿は言葉遣いを改め、紹介してくれた。

 

「バルバトス公爵、ご紹介いたします。ソーナ・シトリー様です。」

「ソーナ・シトリーと申します。バルバトス公爵。」

「ゲーティア・バルバトスです。ソーナ殿」

 

ソーナ殿は知的な美人だ。

こんな人と3年間学校に通うことになるとは、嬉しくなった。

グレイフィア殿、ありがとうございます。

シトリー家の次期当主であり、現魔王レヴィアタン様の妹でもある。

それに、リアス殿といい、年頃の女の子とどう接すればいいのか分からないし。

 

「バルバトス公爵はこの後ご予定はありますか?」

「予定ですか、少しお待ちを、楓、この後の予定は?」

「はい、特に予定はありません。書類に決裁印を押していただくだけです。」

「はい、予定はございませんが。」

「でしたら、この後、お茶をご一緒しませんか?」

「喜んで。」

 

まさか美人にお茶を誘われるとは、予定が入っていなかったため思わず即答してしまった。

だがこれはいい機会だ。

彼女とはこれから3年間同じ学び舎に通うことになる。

現世では同い年はリアス殿だけで、友好的な関係は築けなかった。

価値観が違うから仕方がないし、彼女もまだ15歳だ。

恋に恋するお年頃という奴だ。

私は前世と通算して90歳以上だ。

最早枯れ切ったと言えるほどだ。

だが、美人にお茶に誘われて断るほど男を辞めたつもりもない。

ソーナ殿とは友好的な関係を築ければ、リアス殿と友好的な関係を築くことは出来るかもしれない。

 

side リアス・グレモリー

私は説明会の後、ソーナに誘われて一緒にお茶をすることになっていた。

でも、ソーナは少し用事があると言って席を外した。

何かしら、用事って。

少ししてソーナが戻ってくると、顔を合わせたくないあの男がそこにいた。

ゲーティア・バルバトスだ。

さっき思わず言ってしまった後、ものすごくグレイフィアに怒られた。

あんなに怒られたのは初めてだったわ。

 

でも、確かに彼には失礼だったとは思っているわ。

それは謝らないといけないわね。

 

「こちらですわ。」

「ありがとうございます。」

「・・・・・・」

 

ちょっと待ってソーナ。

私の隣の席に案内しないでよ。

彼とは気まずいのよ、私。

 

「どうぞ、バルバトス公爵。」

「ありがとうございます。ソーナ殿。それに呼び方ですが、今の私は公爵ではなく、ただの同級生になるゲーティアです。なので名前で呼んでいただけるといいのですが。」

「あら、それは失礼しました、ゲーティア。」

「ええ、それでお願いします。ソーナ殿」

「ソーナで構いません。」

「分かりました。ソーナ。」

 

私を放っておいてソーナは彼と友好な関係を築いている。

何だかはぶられているようで、面白くないわね。

 

「ほら、リアスも。」

 

ソーナ、あなた私たちの間を何とかしようとしているのね。

分かったわ。

 

「先程は失礼いたしました。バルバトス公爵。」

「いえ。気にしておりませんので。私の方こそ先日は失礼いたしました。」

 

ソーナのおかげで謝ることは出来たわね。

でも先日のこと、気にしてたのね。

案外かわいいとこあるじゃない。

 

「これから3年間よろしくお願いね、ゲーティア。」

「ああ、こちらこそよろしく、リアス。」

 

 

ゲーティアに謝ることが出来て、少しホッとしたわ。

これから3年間同じ学校に通うことになるし、少し彼について知っておくべきね。

 

「ゲーティアに質問いいかしら。」

「ああ、なんだいリアス。」

「ゲーティアは眷属はどれくらい集まっているのかしら。」

「ああ、全て駒は埋まっているよ。」

「ええ!全部埋まってる!嘘でしょ。私なんてまだクイーンとルーク1とナイト1とビショップ1よ。」

「本当だよ。2年前から探し始めて、最近全部の駒が埋まったんだよ。」

「へ、へぇー、そうなの。で、でもあれよね。眷属の人数は何人なのかしら?」

「私の眷属はクイーン1人、ルーク2人、ナイト2人、ビショップ2人、ポーン8人、使用駒数は1つだよ。」

「そ、そうなの。でもあれよね、私たちも早くレーティングゲームに参加したいわよね。」

「ああ、私も小さい大会だけど一度参加したことがあるよ。」

「ええ!そうなの、いいわね。」

「リアス、彼が参加したレーティングゲームの映像があるんですが見ますか?」

「ソーナ、なんでそんなの持っているの?」

「先程グレイフィアさんが貸してくれました。私も同級生の戦いを見て、参考にしようかと。」

「いいわね、見ましょうよ。」

 

私はゲーティアの戦いを見て、後悔した。

これがレーティングゲーム? 一方的な虐殺じゃない。

 

「お前はもう死んでいる。」

「アベシ」

 

ポーンが相手に触っただけで体が爆発するようにはじけ飛んでいた。

 

「爆砕牙」

「ぎゃあああああああああ!」

 

ナイトが剣を振るっただけで、相手の体が爆発し続けた。

 

「30%でいいだろう。」

「グシャ!」

 

ルークは突然体の大きさが変わると、ただ殴って相手はぐちゃぐちゃになった。

 

「こい、エクスカリバー」

「!!!!(消滅しました)」

 

クイーンは聖剣を作って、相手を消滅させた。

 

「今死ね、すぐ死ね、骨まで砕けろ『ジェノサイドブレイバァァァァァァァァ』」

 

とてつもない魔力で相手を消し飛ばしたように見えた。

どうやら相手は生きていたようだ。

でも、他の眷属は・・・・

 

これが同級生の戦い。

いいわ、私は誰が相手でも負けないわ。

まだ、眷属を集めきれていないけど、いつかあなたを超えて見せるわ。

 

side out

 

随分時間が経った。

そろそろお茶会も終わりか。

 

「今日はありがとう、ソーナ。」

「いいえ、ゲーティア。これからよろしくお願いしますね。」

「ありがとうソーナ、お茶美味しかったわ。ゲーティアこれからよろしくね。」

「ああ、リアス。これからよろしく。ではまた、会おう。」

 

 

リアスとソーナに別れを告げ、グレイフィア殿の転移陣でバルバトス家に帰ってきた。

はあ~疲れた。

ソーナに誘われて、二人だけのお茶会だと思っていたらリアスが既にいた。

元々は彼女達だけのところをソーナが私に声を掛けてくれた。

その心遣いは嬉しかった、でも私とリアスを並べるのはやめてほしかった。

気まずいんだ、先日のこともそうだし、今日のことも合わせて、すごい気まずかった。

でも、リアスは謝ってくれた。

素直な性格だ、真っ直ぐな人だ。

これから同級生として、仲良くなれればいいなと思う。

 

さてもう一度これから通う学校について確認しておくか。

これから通うのが駒王町にある駒王学園。

駒王町はリアスの領地になるみたいだ。

前任者は10年前に亡くなってからは空白地帯になっているようだ。

これからは領地のことだけでなく、他勢力との関係も気を付けないといけないしな。

 

悪魔、天使、堕天使の3大勢力は緊張関係を保っている。

私たちが行くことで、その関係にヒビでも入ったら、大変だ。

外交問題に発展してしまう。

そんなことになれば我がバルバトス家の政府への忠誠が疑われてしまう。

折角手に入れた信頼が地に落ちる。

信頼は築き上げるのに時間が掛かるのに、失うのは一瞬だ。

慎重に行動しなくては、だけど私だけじゃなく、リアス、ソーナの二人もいる。

二人の後ろには魔王様がいる。

何かあっても助けてくれるだろう。妹たち二人だけは。

私は・・・ダメだな。真っ先に切り捨てられそうだ。

あれ、よく考えると、二人は次期当主であり、公的には親の庇護下にあるけど、私は現公爵だ。

この場合、責任を取るのは私になるんじゃないか?

現場の最高責任者になるんでは・・・・まずい。

今ようやく気付いた、私を強引にでも学校に行くように言っていたのは、私に責任を押し付けるのが理由では。

・・・・どうすればいい。

そうだ、参謀のデュフォーを呼ぼう。

 

「セバス、大至急デュフォーを呼んでくれ。」

「はい。直ちに。」

 

まずいぞ。情報を集めないと。

私が思考しているとデュフォーが来てくれた。

 

「お呼びですか。主様」

「デュフォー、今回の私が学校に行く件、これは何かの陰謀か。」

「いいえ、陰謀により学校に行くわけではない。」

「では、外交問題が発生したとき、私に責任が及ぶか。」

「いいえ、責任の所在は領地の管理者である、リアス・グレモリーにある。」

「そうか。安心した。私には責任はないんだな。」

「はい、責任の所在が主殿に及ぶことはありません。」

 

安心した。責任が及ばないんだったら何が来ても怖くない。

そうだな、たった3年で起こることなんて、たかが知れてるしな。

 

「ありがとう、デュフォー安心した。」

「そうですか。では私は失礼します。」

 

デュフォーが下がっていき、私は天を仰いで息を吐いた。

折角、バルバトス家の風向きが変わってきたのに、余計な事を考え過ぎていたようだな。

さて、もう一つの方も考えておかないとな。

部活動、どうしようかな。

リアスは自分の眷属で部活を創るらしいし、ソーナは生徒会というのに興味があるそうだ。

私はどうするか、運動部、文化部、生徒会、一体何にしようか。

 



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第9話 学生をエンジョイしてます。

今回は後半が酷いです。
ご注意ください。


どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

駒王学園高等部1年です。

真新しい制服に身を包み、春の桜の下を歩くのは前世の遠い過去以来2度目である。

懐かしさと真新しい気持ちになり、学校への道を行く。

前世では真面目に無遅刻無欠席で通っていたのが、今回はどうするべきか。

前世でできなかった、サボタージュというものをやってみたいな。

いいかな、しても・・・いや、いかん。私はバルバトス公爵家の現当主だ。

そのような不真面目な言動許されない。

自分を厳しく律しなくては、貴族たるもの下の者の手本とならねばいかん。

 

私は楓と一護と同じ一軒家に住んで学校に通うことにした。

後で、戸愚呂と幽助が合流することになっている。

食事などは楓が用意してくれている。

楓はセバスに鍛えられているので料理もプロ級だ。

楓の歳は私の一つ下のため、来年ということも考えたが、折角だし一緒に通いたいと言ってくれたので、年齢を誤魔化した。

 

一護は学生を卒業してから、すぐに私の眷属になったため、見かけでは高校生で通るから年齢を誤魔化して連れてきた。他の眷属とは違い、問題を起こす性格ではないので、ちょうどよかった。

 

そういえば、まだ二人がどの部活に入るのか聞いていなかった。

 

「楓、一護、二人は部活は決めたのか?」

「はい、私は文芸部です。」

「俺は剣道部です。」

 

なんと二人はもう既に決めていた。

私はまだ決めていなかったのに。

 

「ゲーティア様はどうされるんですか?」

「まだ、決めかねている。」

「まあ、じっくり決めればいいんじゃないんですかね。」

 

そうだな、一護の言う通りじっくり決めてみるか。

 

 

放課後になり、生徒が部活見学にあちこち行っているようだ。

私も見学に行ってみよう。

最初は一護が行った剣道部を見てみよう。

 

「あ、ゲーティア様。」

「一護、見学に来たが今日は休みなのか?」

「・・・男子剣道部ってないらしいんですよ。」

「ない、ってなんでだ。」

「駒王学園って元々女子校だったんで、女子剣道部はありますが男子剣道部はないらしいんですよ。」

「それだと部員を募って部を作ることから始めないといけないのか。」

「そうですね。まあ同好会でもいいですけどね。」

 

一護のやる気がみるみる落ちていく。

折角部活を頑張ろうとしていたのにこれでは、何か力になれないだろうか。

とりあえず人を増やしてみよう。

 

「一護とりあえず部を作ることからしてみよう。」

「部を作るってどうやってですか。」

「一護、生徒手帳を見ろ。こういう時にどうすればいいか、書いてあるかもしれん。最悪なければ教師に聞いてみれば分かるだろう。」

「ああ、そうですね。ええっと・・・ああ、部活の項目に新規設立って書いてありますね。」

「おお、あったな。何々、部を設立するには5人以上の部員が必要、生徒会に提出。つまり、5人集めて、生徒会に書類を提出する必要があるな。」

「あと、大会とかで優勝して、実績を上げるとかありますね。」

「いやそれは、部の存続に関してだな。でも、大会で優勝したという実績があればプラスにはなるな。だが当面クリアしなければならないのは部員の5人という方だな。」

「5人か、男少ないですしね。」

「眷属入学させて増やすか。幽助と戸愚呂とナツを連れてきて。」

「いや、戸愚呂さんは学生無理でしょう。ナツは口から火吹くの誤魔化さないとだし、幽助はすぐケンカするし、それは無理ですね。」

「あとは地道に勧誘するか。」

「まあ、それしかないですね。」

 

side 織田信長

「なあ君、剣道部に入らないか。」

「入ってくれよ~」

 

僕の名前は織田信長です。

有名なあの戦国武将と同姓同名です。

父が織田信長が好きだったので、その名が付けられました。

ケンカもしたことがない平穏な人生を歩んでいた僕に人生の危機に直面しています。

身長が180㎝以上ある、ムキムキの同級生と髪がオレンジの同級生に目を付けられました。

もしここで断れば命はないでしょう。

僕の中の織田信長の本能が叫んでいます。

 

「ぼ、僕も剣道に興味があったんだ~」

「おお、そうか。それはいい、一護。部員一人確保だ。」

「おお、幸先いいっすね。次行きましょ。」

「そうだ、名前聞いてなかったな。私はゲーティア・バルバトスだ。こっちは黒崎一護だ。よろしくな。」

「ぼ、僕は、お、織田信長、です。」

「おお、戦国武将と同じ名前か。カッコいい名前を付けてもらったな。ではいくぞ、信長。」

「う、うん。」

 

僕は二人に肩を組まれながら廊下を・・・・浮いて移動していた。

僕、身長160㎝くらいしかないから、地に足が付きません。

 

side out

 

一護と共に勧誘して回り、私を含めて5人になりました。

メンバーは私、一護、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の5人だ。

この5人で申請をしてみよう。

申請が通らなければ実績作りのため大会に出てみよう。

 

「失礼します。部活動の申請に来ました。」

「あら、ゲーティア。」

「あ、ソーナ。部活動の申請はここでいいのか。」

「ええ、でも今はちょっと部活の申請が多くてすぐには通らないわ。」

「そうか。実績があれば多少は通りやすくなるか。」

「ええ、なると思うわ。」

「よし、どこかの大会に出よう。そこで優勝して実績を作ろう。」

 

私は大会を調べると5人一組との団体戦の大会があった。

これに出てみよう。

 

「みんな、この大会なんかどうだ。5人一組の団体戦だ。」

「あ、あの僕たち、剣道をやったことがないんだけど。」

「まあ、俺もないし、みんなで覚えようぜ。」

 

信長はしたことがないから不安だというが、私と一護も剣道という競技はやったことがない。

競技のルールから学ぼう、幸い人間界には何でもわかる凄いもの、インターネットというものがある。

これでルールを覚えよう。後は体を鍛えれば何とかなるだろう。

大丈夫だ。筋肉は裏切らない。

 

side 審判員 宮本小次郎

「面!」

「それまで!」

 

私は剣道大会の審判員の宮本小次郎だ。

今回の大会は史上類を見ないハイレベルな戦いをしているチームがある。

駒王学園男子剣道同好会、このチームは5人中3人が先取したチームの勝ちである今大会で、常に3連勝をし続けている。

先鋒織田信長、次鋒豊臣秀吉、中堅徳川家康。

この3人で勝ち上がっている。

先鋒の織田は奇襲を仕掛けたり、堅実な試合運びをしたり、相手にペースを掴ませない戦い方をしている。

次鋒の豊臣は常に奇襲を仕掛け、相手を翻弄する戦いを見せた。

中堅の徳川は常に堅実な試合運びでどっしりした戦いを見せた。

そして決勝もまた圧勝だった。

相手は実業団のチームだったのに3人で圧勝した。

剣道界に3人もの10年に一人の新星が生まれるとは、彼らこそ奇跡の世代という奴なんだろう。

 

side out

 

「三人ともよくやった。これで正式に部になるだろう。」

「「「ありがとうございます、ゲーティア様!」」」

「ではこれより、生徒会に申請に行く、みんな付いてこい。」

「「「了解いたしました、ゲーティア様!」」」

 

彼ら3人を鍛えてみたところ、あっさり大会で優勝できた。

私と一護も戦ってみたかったのだが、残念だ。

でも、3人とも鍛えたところ、若干言動はおかしくなったが、それを補い余りある強さを手に入れた。

中級悪魔くらいなら倒せそうなくらいだ。

集中トレーニングで急激に育てた反動で、顔が更けてしまったがまあいいだろう。

あとは3年みっちり指導すれば上級にも手が届くだろう。

彼らならそれが出来ると信じている。

 

さて、剣道部の申請は後は承認待ちだな。

楓の文芸部はどうなんだろう。

ちょっと覗いてみよう。

 

side 楓

ゲーティア様のクイーンの楓です。

私が文芸部に所属して、一月経ちます。

そんな私が何をしているかというと、

 

「ムフフフフフフフ」

 

読書(意味深)をしています。

文芸部では一般流通している名作から、裏社会に関わるご禁制まで、取り揃えています。

そんな禁書に触れると、前世の私の記憶が蘇ってくる。

2次元よ私は帰ってきた!

おっといけない、禁書に私の鼻から溢れた愛(意味深)がついてしまうわ。

これは重要文化財(意味深)として、大切に保管しないと。

こんな姿、万一ゲーティア様に見られたでもしたら、・・・死にたくなるかも。

 

「楓、いるか。」

「--!!!!!!ゲーティア様!いかがいたしましたか!」

 

何でこんなタイミングで来るんですか。

 

「剣道部が承認待ちでな、まだ楓の文芸部を見たことがなかったので、見に来たんだ。」

「そ、そうですか。ぶ、文芸部なんて見ても面白い物なんてないですよ。」

 

私は早急にお帰り頂こうとした。

でも、ゲーティア様は見つけてしまった。文芸部の禁書を。

 

「なんだ、これ。」

「あわわあっわわわわあああ」

 

もうだめだ。おしまいだ。

前世でも当時付き合っていた彼氏に見られた時、彼がフリーズからフェードアウトして、シャットダウンされた記憶が蘇ってきた。

この世に神はいない。

私は今日確信した。

 

「うーん、実にいい絵だ。魂がこもっている。」

「え!」

 

神は死んでいなかった。

ありがとう神様、イタ!

思わず悪魔なのに祈ってしまった。

 

「だが、この部分はもう少し変えた方がいいな。楓、描く物あるか。」

「あ、はい。こちらに。」

「こういう時は・・・・で、こうすれば・・・・で良くなるんだ。」

「!!!!!!!」

 

そこには神が宿っていた。

あまりにも神々しく、悪魔の私が浄化されてしまうかもしれない程に聖なる光を放っていた

 

「ゲーティア様、この絵、描けますか」

 

side out

 

side 文芸部部長紫清(むらさきせい)

文芸部部長の紫清よ。

今年3年の私は誰を次期部長にするか決めかねていた。

2年にいい人材はいなかった。

このまま私たち3年が卒業してしまえば、文芸部の火が消えてしまう。

偉大な先輩方が築いてきた、歴史を汚してしまうかもしれない。

私はそう不安に思っていた。

だが、彼女が現れた。

 

「ムフフフフフフフ」

 

新入部員の秋野楓さんだ。

一年生でありながら、卓越した才覚を持つ彼女に誰もが一目置いた。

だが私たちはまだ、知らなかった。

彼女は真の力を。

彼女は書に触れて急激に成長していった。

いや違う。あれはまるで何かを取り戻しているようだ。

時間と共にその技巧が洗練されていった。

最早誰もが彼女で決まりだと、次期部長は彼女だと誰もが認め、受け入れた。

 

「楓、いるか。」

 

ゲーティア・バルバトス君だ。

大きな体と服の上からでも分かる筋肉がたまらない男の子だ。

楓さんがお仕えしている外国の貴族様だ。

マジモンの貴族様だ。

そんな彼が禁書を見た時、楓さんはこの世の終わりでもしないような顔をしていた。

だが、彼は言った。

 

「うーん、実にいい絵だ。魂がこもっている。」

 

彼は違いの分かる男だった。

だがその後の彼の言動に我々は怒りを覚えた。

 

「だが、この部分はもう少し変えた方がいいな。楓、描く物あるか。」

 

この小童、愚かにも神に歯向かおうとするなんて、なんと不敬な。

この背教者が。

 

「こういう時は・・・・で、こうすれば・・・・で良くなるんだ。」

「!!!!!!!」

 

そこには神がいた。

さっきのは神ではなく紙だった。

 

その後の彼は数多の神を産みだし続けた。

私たちはその神を奪い合い、醜い争いを繰り広げた。

だがその醜い争いすら、神は収めてくださった。

 

「次、描けたんですけど、いります?」

 

私たちは理解した。

今日、新たな神が生まれたことを。

創造神ゲーティア・バルバトスが誕生したことを。

間違いないわ、次期部長は彼で決まりね。

 

side out

 

いや、疲れたな。

久しぶりに描いたな、絵。

前世の頃以来だからな、定年を迎えた後、風景を描いてたらハマって、それから時間の許す限り描き続けた。

水彩画、油絵ジャンル問わず描いたからな。

まだ、覚えていたな。

また描いてみるかな。

部長さんもいつでも来ていいと言ってくれたし。

うちの学校的に掛け持ちはOKらしいし、やってみるかな。

 



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第10話 進級しました。

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

入学してから、1年が過ぎ、2年生に進級しました。

 

学業は私の前世では習ったことがない分野が多くて、大変ですけど楽しい限りでした。

昔はなかった公式や違う呼び方をされて困惑することはありますが、概ね楽しいです。

友達も多くなり、クラスのみんなも声を掛けてくれるようになりました。

以前は不良だと思われていたみたいですけど、文芸部員や剣道部員と一緒にいるところを見て、大丈夫だと思ってくれたみたいです。

 

部活動も順調で、剣道部が正式に承認された後、多くの大会に出て、優秀な成績を治めました。

私と一護が出場してはさすがにまずいので、代わりになる選手を探し、色々勧誘を行ったところ、5人の新入部員が加入してくれた。

毛利元就、武田晴信、長尾景虎、北条氏康、島津義弘の5人だ。

設立メンバーの信長達の3人と新入部員の元就達の5人の合計8人で熾烈なレギュラー争いが行われました。

彼らは部内で切磋琢磨し続け、より強くなり、全国大会で優勝する快挙を成し遂げた。

創部一年目での快挙に学校中の話題になりました。

その後も男子生徒たちが入部してくれて、今や男子生徒の大多数が所属する学園屈指の規模を誇る部に成長した。

私と一護は指導に当たり、彼らの成長を促した。

今や、一護も私も気を抜けない程に成長してくれた。

一護も私もここまで強くなるとは想像していなかったが、立派な強者に育ち嬉しい誤算だった。

私も剣道界では有名になった。

部を今や全国屈指の強豪校に育て上げた手腕に期待され、私の指導を受けたい中学生が全国から我が駒王学園を受験することになった。

これには学園も嬉しい誤算だったようで、全校生徒の前で表彰されることになった。

 

side 黒崎一護

俺はゲーティア様の眷属の黒崎一護だ。

壇上で俺とゲーティア様が全校生徒の前で表彰されている。

俺とゲーティア様が作った剣道部が全国大会で優勝した。

二人で設立しようとして、部員の勧誘やルールの勉強をしたことを、信長達の指導の日々を思い出していた。

ゲーティア様がやろうと頑張る姿に俺も引っ張られていた。

最初は鈍らない程度に鍛錬しようと剣道部に行った。でもなかったから別にいいか、て思ってたのに、

 

「一護とりあえず部を作ることからしてみよう。」

 

その一言から始まった剣道部だった。

それから信長を勧誘しに行って、秀吉、家康と続々と仲間が増えていった。

部に昇格した後も勧誘を続けた。

元就、晴信、景虎、氏康、義弘の5人が仲間に加わった。

夏の大会直前に合宿をして、徹底的に鍛え上げたこともあった。

設立メンバーの3人は俺の本気とまではいかないが、それなりに楽しめるくらいの強さになった。

後の5人も下級悪魔といい勝負くらいには強くなった。

俺とゲーティア様が出なくても大丈夫だと思った。

これなら全国も夢じゃない、と思えるほどだった。

結果は全国に出場、そして優勝へ一直線だった。

 

その頃からゲーティア様に通り名が付いた。

『駒王の魔王』

全国大会を無敗で優勝したメンバーがひれ伏す存在、それがゲーティア様。

その圧倒的なまでの手腕、カリスマを兼ね備えた姿をそう評した。

 

「ゲーティア様、俺は貴方について行くぜ。どこまでもな。」

 

俺の主はどこまでもついて行きたくなる、そんな男だ。

 

side out

 

もう一つ掛け持ちしている、文芸部も順調だった。

文芸部は非常に暖かく迎えてくれ、私の絵をよく褒めてくれます。

たまに目つきが危ないときがあったが、問題はなかった。

楓も毎日楽しそうに笑っていた。

たまに笑い方がおかしい時があるが、楽しいならいいだろう。

 

去年の夏ごろ、私に絵を描いてほしいと部員全員に頼まれ、引き受けると大変喜んでくれた。

全部員が涙を流して喜んでくれた。

そこまで喜んでもらえると、私も嬉しくなり、張り切って描いた。

出来上がった絵を楓達部員が作った小説と合わせ、本を作っていた。

どうやら販売するようで、夏の時期限定で売り出すようだ。

その時期は剣道部の合宿があるので、参加できないことを謝ると

 

「いえいえいえいえ、とんでもございません。ここまでやっていただいただけで感無量でございます。後のことは私のお任せください。ゲーティア様のクイーンとして見事名代を果たして見せます。」

 

楓が物凄い勢いで私の代わりを務めたいと言ってくれた。

ここは任せよう。

楓のことは信頼している。

 

side 秋野楓

ゲーティア様のクイーン、秋野楓です。

この文芸部での日々は充実していました。

文芸部に所属し、私は昔の自分を取り戻した。

かつて、忌み嫌われたこの力を再び取り戻すことになるなんて。

私は過去の自分と今の自分が融合し、真の力を取り戻した。

以来、過去に培った技術と悪魔の身体能力で圧倒的な生産スピードを手に入れた。

だが、そんなものはどうでもいい。

全ては我が主様の隠された力の前では、無に等しかった。

 

我が主は神を産みだす。

私は紙しか産みだせない。

例え速さが上がったとしても、意味がなかった。

私たちは神を奪い合い戦いを始めた。

だが、お優しいゲーティア様は私たちに新たな神をお与えになった。

私たちは争いをやめ、その神を崇め奉った。

 

だから他の道を模索した。シナリオだ。

部員たちと共にシナリオを作り、ゲーティア様が産み出した神と融合させる。

私たちはそのことをゲーティア様にお願いすると、快く了承してくださった。

 

私たちは困難の果てにようやく完成させられた。

それは夏コミの一週間前に完成した。

奇跡だ。

生前の私にはとてもできなかった。

仲間たちと、偉大なる主、前世では得ることが出来なかった絆を得て、この奇跡が成しえられた。

 

「来週は販売の日だったな。剣道部の合宿と重なってしまって申し訳ないな。」

「いえいえいえいえ、とんでもございません。ここまでやっていただいただけで感無量でございます。後のことは私のお任せください。ゲーティア様のクイーンとして見事名代を果たして見せます。」

 

来週はゲーティア様は合宿に行かれる予定なので、夏コミは私が取り仕切ります。

お任せください、ゲーティア様。

 

夏コミの当日、私は部長と共に部の看板を背負って戦った。

『駒王学園文芸部』

老舗サークルの一員として。

前世の私は個人で活動していたので、このような経験はなかった。

だが恐れはなかった、私たちにはゲーティア様が、神が付いている。

結果として、私たちのサークルは過去最高の売り上げを見せた。

ゲーティア様が作り出した絵を見て、人々は噂した。

『駒王学園文芸部に神がいる。』

 

ああ、転生させてくれた神様。

偉大な主、ゲーティア様がいるこの世界に転生させてくれて、ありがとうございます。

 

私は祈りのダメージがこの身を襲っても、祈ることを止めれなかった。

 

side out

 

 

今日は2年生となって、最初の剣道部活動日。

新入部員は全国から集まってきた。北は北海道、南は沖縄まで。

全国から私の指導を受けるために越境入学までしてきた、気合の入った者たちだ。

最初にビシッ言って、上下関係を教えないとな。

後、リアスの眷属が一人剣道部に入部するので、よろしくと言われていた。

木場というナイトだったな。

だが特別扱いはしない、と言っておいたが、リアスは微笑み、問題ないと言った。

ならば、一部員として扱うまでのこと。

我が剣道部は昨年全国優勝を成し遂げたが、それは過去のことだ。

今年も私たちにその席が用意されているわけではない。

ならば、今年もその場に行けるよう精進しかあるまい。

最初にそのことを言わねばならない。

 

side 木場祐斗

僕はリアス・グレモリー様の眷属、木場祐斗だ。

駒はナイトを頂いた。

今年、駒王学園に入学したので部活に入ることにしたけど、オカルト研究会だけでいいかと思ったけど、剣道部に興味が出た。

リアス部長と同い年のバルバトス公爵が設立した部活だからだ。

バルバトス公爵は上級悪魔、リアス先輩とは違い公爵の位を持つバルバトス家の当主だ。

学園内では最高位の悪魔といえる。

そんなバルバトス公爵は自身の眷属と剣道部を作った。

リアス部長と朱乃さんがオカルト研究部を廃部から再興させたのとは違い勧誘をして人間と共に作った。

 

剣道部は創部一年目で全国大会優勝を成し遂げた。

人間の大会だ。悪魔が出ればそうなって当然だ。

でも違った。

バルバトス公爵は指導を行い、選手としては出ていなかった。

映像を見て、驚愕した。

強かった。僕の目から見ても強かった。

悪魔に転生し、師匠のもとで剣を教わった僕より、強い。

 

僕はリアス部長に頼み込んだ。

 

「リアス部長、お願いがあります。」

「どうしたの、祐斗?」

「僕を剣道部に入部させてください。」

「剣道部・・・ああ、ゲーティアの作った部ね。いいんじゃない。貴方がしたいならそうすればいいわ。ゲーティアには私の方から言っておいてあげるわ。」

「リアス部長、ありがとうございます。」

「ただし、いいこと祐斗。私の眷属である以上、剣道部で一番になりなさい。」

「っ!はい!リアス部長のナイト、木場祐斗、主の命、必ずや成し遂げて見せます。」

 

僕はリアス部長のためにもこの剣道部で一番になると約束してここに来た。

 

男子剣道部は第二剣道場で行われることになっている。

第二剣道場は学校側が急遽新設した、男子剣道部専用の練習場だ。

昨年の剣道部の活躍と匿名からの寄付で建てられたようだ。

 

「すごい人だ。」

 

駒王学園は元々女子高で去年から共学に変わった。

だから男子の数は女子に比べて圧倒的に少ない。

だけどこの剣道場にはその男子が殆どがいるんではないか、と思うほどの人がいる。

これは確かに剣道場を急いで建てる必要があったな、と理解してしまうほどだ。

 

突然、場の空気が引き締まった。

圧倒的な威圧感。

少しずつ近づいてくる、圧力。

周りの新入部員も理解したようだ。

先輩たちは、平然としている。

悪魔である僕が圧倒され、人間である先輩が平然としている。

威圧感の主が姿を現した。

あれがゲーティア・バルバトス公爵

 

「ほう、随分集まったようだな。最初に言っておく。我が剣道部の目標は全国制覇だ。その意思がないものはこの場を去れ!」

 

なんて威圧感だ。思わず逃げたくなった。

でもおかしい。周りにいる新入部員は誰一人逃げていない。

あんな圧力を受けて人間が耐えれるなんて。

 

「ふむ、いい覚悟だ。では諸君の入部を認めよう。我が剣道部は実力主義だ。年齢の別なく、只強い者を求めている。人は平等ではない。生まれつき足の速い者、美しい者、親が貧しい者、病弱な身体を持つ者、生まれも育ちも才能も、人間は皆違っておるのだ。 そう、人は差別されるためにある。だからこそ人は争い、競い合い、そこに進化が生まれる。常に進化を続けておる。我々は前へ、未来へと進んでおるのだ!競い、奪い、獲得し、支配しろ、その果てに未来がある!!」

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

熱狂。

ここにいる部員全員に火をつけた。

バルバトス公爵の演説はこの場にいる部員全てを支配した。

これが『駒王の魔王』

これからこの剣道部内では熾烈な戦いが起こる。

上級生、下級生の区別なく、ただ強いということだけを求めて、全国という目標を目指して戦いが始まる。

 

「だが、今はまだお前たち新入部員は我ら上級生の敵ではない。故に準備期間を設ける。上級生1人の下に4人の下級生を付ける。上級生の指導を受け、来月の部内対抗戦を団体戦として行う。チーム分けはこちらで行ったので、発表する。チーム織田、柴田、丹羽、滝川、明智、次にチーム豊臣、石田、加藤、福島、大谷、次にチーム徳川、酒井、本多、榊原、井伊、・・・・以上だ。」

 

チーム分けが終わり、それぞれの上級生の下に集まっていく。

だけど僕の名前は呼ばれなかった。

 

「あの、僕は誰の下に付けばいいですか。」

「木場祐斗だな。お前は俺に付け。俺は黒崎一護だ。」

「はい。よろしくお願いします。」

 

黒崎一護さん、バルバトス公爵の眷属悪魔だ。

以前、リアス部長に見せてもらったバルバトス公爵のレーティングゲームでは大きな剣を使って戦っていた。

戦い方やスピードでナイトだと思った。でもポーンだった。

そしてレーティングゲームの時にはプロモーションをしていなかった。

素の速さでナイトの僕以上だ、

リアス部長の眷属として、いつかバルバトス公爵とはレーティングゲームで戦うことになるかもしれない。

その時のためにも色々盗ませてもらいます。

 

side out

 

我が剣道部にも多くの新入部員が来てくれた。

それにこの新しくできたこの剣道場だ。

新しい建物は気分が良くなるな。

これも文芸部のOGの人たちのおかげだ。

私の絵を気に入ってくれて、寄付してくれたからだ。

だが、前の剣道場にも思い入れがあった。

女子剣道部がルールや打ち込みの仕方を教えてくれた。

大切な場所だ。

私たちがこちらに移るときには泣いて引き留めてくれた。

彼女たちが困っていたら是が非でも助けたいものだ。

 

「ゲーティア君、助けて!」

 

女子剣道部員が私に助けを求めてきた。

 

「どうした!」

「の、覗きよ!」

 



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第11話 肩書が増えました

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

私には許せないことがある。

それは卑劣な行いである。

 

女子剣道部の斎藤さんが私に助けを求めてきた。

私は彼女達女子剣道部に恩がある。

そんな彼女達が困っているなら助けに行かず何が男だ。

 

「の、覗きよ!」

 

もう一度言おう、私の許せないことは、卑劣な行いである。

覗きは卑劣な行いであるか、イエスだ。

ならば、私はどうするべきか、簡単だ。

 

「場所はどこだ、案内を頼む。一護、あとは任す。」

「う、うん。」

 

斎藤さんに案内されて、駆けていく。

 

side 兵藤一誠

「でへへえへへへへへ」

俺の名前は兵藤一誠。

駒王学園の一年だ。

親しい奴には『イッセー』と呼ばれている。

この学校は最近共学になったばかりで、女の子がスゲー多い。

それにかわいこちゃんもスゲー多い。

馬鹿な俺がこの高偏差値の学校を選んだのは、それが理由だ。

 

「おい、イッセーそろそろ変われ。」

「そうだぞ、お前ばっかズリーぞ。」

 

この二人は松田と元浜だ。

俺とは中学時代からの付き合いで親友だ。

だが、それとこれとは話は別だ。

 

「何言ってんだ。お前らさっきまで覗いてただろ。今は俺の番だ。」

「チッ、早く変われよ。」

「ああ、ここにはスゲー怖い先輩がいるらしいぜ。見つかったらやべーだろ。」

「スゲー怖い先輩?」

「ああ、何でも駒王の魔王って呼ばれているらしいぜ。」

「へぇー・・・--っ!」

 

俺は元浜の話を聞いていたが、覗き穴から見える光景に全ての神経を集中させた。

ちょうど生着替えが、それも巨乳の先輩の生着替えを拝めているのだ。

俺の様子に気付いた二人も見ようと覗き穴に群がってきた。

 

「ああ、邪魔だ。今は俺が見てる番なんだ。」

「いいだろ、イッセー。俺達、親友だろ。」

「そうだぞ、イッセー。親友は分け合うものだろ。」

「調子のいいこと言うな。」

 

俺達がポジション争いに夢中になっていると、俺の肘が立て掛けてあった板に直撃し、大きな音が鳴った。

 

「だ、誰、キャァァァァァァァァァァァ!!!!覗きよ!!!」

「「「--!」」」

 

俺達は急いで逃げた。

必死で、脇目も振らず。

 

「イッセー!お前のせいだぞ!」

「そうだ、イッセー。お前が悪い!」

「はぁー!ふざけんな!お前らが俺の邪魔したからこんなことになったんだぞ!」

 

俺達は互いに責任のなすりつけ合いをしながら、必死で走って逃げた。

 

「ゲーティア君、あいつらよ!捕まえて!」

 

後ろから声が聞こえた。

援軍を呼んだのか。でもこんなに離れていれば隠れるなんて訳ないぜ。

 

「まずい、駒王の魔王だ!」

「え!」

 

元浜がさっき話してたスゲー怖い先輩か。

俺は好奇心に負けて後ろを振り返ってしまった。

そして恐怖した。

 

「ブルアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

鬼がいた。

あまりの迫力に泣きそうになった。

いや漏らしそうだった。

二人も同じだった。

俺達の心は一つだった。

 

「「「捕まれば命はない」」」

 

その思いで必死で逃げて、隠れた。

さっきまでは命がけの鬼ごっこ、ここからは命がけのかくれんぼだ。

俺達は息を殺し、必死で願った。

 

「「「見つけるな!!」」」

 

だが、その願いは神に届かなかった。

 

「貴様らぁ…、こんなところで何をしているぅ?…鼠のように逃げおおせるか、この場で死ぬか、どちらか選べぇぇぇぃ!!!」

 

俺達はあまりの迫力に失神した。

 

side out

 

覗き魔3人は私を見て、気絶した。

こいつらを制裁するのは私ではなく彼女達だ。

いくら卑劣なことをするこいつらといえど、直接殴る蹴るをしていいわけがない。

私は部外者だ。寝ているこいつらを全力でぶん殴りたいと思っていても。

私は怒りを抑え、連行し、彼女達に引き渡すことにした。

坊主頭と眼鏡を右腕に乗せ、左手で茶髪を掴んだとき、妙な気配を感じた。

俺は小規模の結界を張り、ディアボロスを呼び出した。

茶髪に向けると反応した。

 

「こいつ、力を持っている。」

 

昔、楓を見つけたとき、ディアボロスが反応した。

この茶髪からも同じような物を感じる。

神器か。

かなり奥深くに感じる。

強い気配だ。でもまだ目覚めにはまだ遠い。

 

楓は既に神器が目覚めていた。

遠くからでもディアボロスで位置が分かるほどだった。

でもこの茶髪には触れて初めて分かった程だ。

目覚めにはまだ時間が掛かる。

どうするか。

一度リアス、ソーナに伝えておくか。

だが、まずは制裁が先だ。

 

覗き魔3人を女子剣道部に引き渡した。

怒りの声と嘆きの声を上げながら思いの丈をぶつけていく。物理的に。

私は彼女達の鉄拳制裁を黙認した。

その痛みは彼女たちの心の痛みだ。

彼らには自業自得と思って、その痛みを甘んじて受けなければならない。

 

今回悪いのは覗き魔の方だ。

だが、そろそろ止めるべきだな。

やり過ぎれば彼女達の方が罪に問われかねない。

被害者から加害者に変わりかねない。

 

「斎藤さん。彼らを一度、学校側に突き出そう。警察に付き出すより、まず先に学校側から処罰を与えて貰おう。」

「うん、あの、ゲーティア君も一緒に来てくれる?」

「もちろんだ。任せてくれ。」

 

だが、彼らが鉄拳制裁を受けたからと言って、それで許された訳ではない。

社会のルールに従って裁かれなければならない。

ましてや性犯罪者だ。慈悲はない。

 

 

私と斎藤さんは職員室に着き、今回の事情を説明し、覗き魔3人を生徒指導の先生に引き渡す。

 

「バルバトス、今回は色々助かった。ここからは俺の仕事だ。こいつらは俺が徹底的に指導してやる。」

「先生、私は大したことはしてません。それよりも女子剣道部の子たちのケアもお願いできますか。」

「ああ、もちろんだ。」

「あと、覗きが出来たと言うことは、何かしら構造上の欠陥もしくは老朽化があるのかもしれません。女子剣道部の使う更衣室を変えることは出来ませんか?」

「出来ると思うが、代わりの場所はどうする。」

「斎藤さん。第二剣道場の更衣室を使ってくれ。男子剣道部は外でも構わない。」

「ええ、でもいいの?」

「さすがに真冬だと厳しいかもしれないけど、男だから気にしなくていいよ。外から見られないようにブルーシートでも取り付けておけばいい。」

「うんわかった。ごめんね。」

「それにこれは学校施設の問題だから生徒会に掛け合って修復若しくは対策をとって貰うことになる。そうなると修復のために工事が発生するだろう。遅かれ早かれ、代わりの場所を用意する必要がある。」

「そうだな。私からも上に上申するよ。急いで対応するべきだな。」

「でしたら生徒会には私が報告に行きます。先生は上申の用意をお願いします。」

「ああ、分かった。バルバトス、そちらは頼む。」

「ええ、おまかせください。斎藤さん、すまないが生徒会までご一緒願えないか?」

「ええ、もちろん行きます。」

「では、先生失礼いたします。」

「ああ、本当にありがとう。」

 

私と斎藤さんは職員室を出て、生徒会を目指すことにした。

 

 

生徒会にたどり着き、生徒会長に事情を説明した。

 

「なるほど、事情は分かりました。」

「はい、ご対応の程宜しくお願い致します。」

「もちろんです。私も同じ女性として覗きなどという卑劣な輩を許すことは出来ません。それに男子剣道部がそれほど協力してくださているんです。私も自分の職務を全うするだけです。」

「生徒会長、よろしくお願いいたします。」

「ええ、お任せください。ソーナさん、宜しいかしら。」

「はい、何でしょうか生徒会長。」

「急ぎ建物の修復工事を業者へ依頼してください。」

「はい、お任せください。」

「よろしくお願いします。バルバトス君もありがとうございます。しかし・・・」

「どうしました、生徒会長?」

「いえ、・・・男性の前で言うことでは無いのですが・・・駒王学園が共学に成り、男子生徒が増えていくとこういうことが増えていくのでないかと不安に感じています。」

「生徒会長、同じ男として申し訳ありません。」

 

覗き魔のような卑劣な存在は周囲の同種の存在まで価値を落とすことになる。

この場合、彼女達女性陣たちからしてみると男とは覗き魔だ、と同一視されるようなものだ。

女子校から共学に成れば、元々いた生徒からすればそういう偏見も持たれるかもしれない。

前世でも女性専用車両などが作られたとき思ったが、男性全員が痴漢をするわけではない。

一部の卑劣な者のせいで、全体の品位を落とす、それが私には我慢ならない。

 

「いえ!バルバトス君のような方がいることは私は知っています。ですが・・・」

「生徒会長、私に一つ考えがあります。風紀委員の設立は如何でしょうか。」

「風紀委員ですか?」

「はい、これまでは生徒会が学園の風紀を取りしまってきました。ですが、このようなことが起きた以上、その対応に人員を割く必要があります。生徒会役員だけでは手が足りなくなると思います。ですので、私は風紀委員を設立を提案致します。」

「分かりました。議題を提出してみます。もし、風紀委員を設立した際には、バルバトス君にもお手伝いいただきたいのですが・・・」

「ええ、もちろんです。言い出したのは私ですので。」

「はい、よろしくお願いいたします。」

 

私たちは生徒会を出ようとして、もう一つの要件を思い出した。

 

「斎藤さん、先に女子剣道部に伝えてきてくれないか。男子剣道部には私の方から連絡しておくから。」

「うん、分かった。ゲーティア君、本当にありがとう。」

「男子剣道部に協力してくれた恩を少しでも返したかったから、このくらいはさせてほしい。」

「ゲーティア君・・・本当にありがとう。」

 

斎藤さんは女子剣道部に向かったようだ。

これで、もう一つの要件を行おう。

 

「ソーナ、業者に依頼するにあたり、建物の現状を見てもらいたいが、来てもらって構わないかな。」

「ええ、分かりました。生徒会長、行って参ります。」

「ええ、ソーナさん。お願いします。」

 

私とソーナは生徒会室を出て、あるところに向かった。

 

「ソーナ、第一剣道場に向かう前に寄りたいところがある。少しいいだろうか。」

「ゲーティア、分かりました。何かあったんですか。」

「ソーナとリアスに報告しておくことがある。覗き魔の一人について。」

「説明は一度に済ませたほうがいいですね。なら、オカルト研究部で聞きましょう。」

 

私とソーナはオカルト研究部の部室まで足を運んだ。

 

「あら、珍しいわね。ソーナとゲーティアがここに来るなんて。」

 

オカルト研究部の部室にはリアスと朱乃がいた。

 

「実は女子剣道部で覗き事件が起こった。実行犯は3人いた。その内1人に妙な気配を感じた。」

「妙な気配?」

「はっきりとは分からない。だがおそらく、神器を持っている可能性がある。」

「神器!それ、本当なの!」

「まだわからない。力が目覚めていないから正確なところは分からない。」

「そうですか。それは厄介なことになるかもしれませんね。」

 

ソーナの言う通り、厄介なことになるかもしれない。

堕天使の総督、アザゼル殿は神器の研究を行っているらしい。

もし彼が気づけば、手を出してくるかもしれない。

そうなればこの領地の管理者であるリアスにも無関係ではない。

 

「そう、ありがとう。ゲーティア、報告感謝するわ。」

「ああ、ではこれで失礼する。」

「では、リアス、私も行きますね。」

 

私とソーナはオカルト研究部を退出し、当初の目的地である第一剣道場を目指すことになった。

 

 

覗き魔事件から1週間が経過した。

今私は生徒会室に来ている。

 

「ゲーティア・バルバトス君、貴方を風紀委員長に任命致します。」

「謹んでお受け致します。」

 

私は今、生徒会長から風紀委員長の任命を受けている。

生徒会長と生徒指導の先生が積極的に動いた結果、これほど早くに設立された。

学園としても、警察沙汰になるような事態は避けたいようだ。

悪魔が運営しているとは言え、あまり事態が大きくなると収集に苦労するようだ。

風紀委員の設立に関して草案の段階で参加しており、その際にいくつか権限を貰えるように交渉した。

 

・生徒会長は風紀委員長の任命権を持っている。

・風紀委員長は風紀委員の任命権を持っている。

・風紀委員は学園外から任命してもよい。

・風紀委員は生徒会の下部組織ではなく、独立した組織であるため、生徒会が干渉することは出来ない。

・風紀委員長の解任は生徒の三分の一以上の署名が必要である。

 

風紀委員長を生徒会長が任命し、風紀委員を風紀委員長が任命する。

また学園外から任命というのは大人でもいいことを含ませている。

子供では危険があることもあるので大人の協力も出来るようにした。

生徒会長が任命したとはいえ、生徒会のご機嫌伺いをしていては意味がない。

また、風紀委員長が権力を持つ以上、暴走する可能性がある。

その暴走を抑えるのは生徒であるべきだ。

その際、生徒全体の何割にすべきかで揉めた。

私は四分の一でいいと思ったが生徒会長、生徒指導の先生は二分の一という意見が出た。

私は生徒が変えやすくするべきと主張したが、生徒指導の先生としてはあまり変えやすくすると、悪ふざけやノリで変えてしまえ、という意見に飲み込まれかねないという意見だった。

また生徒会長の意見は今は良くても、その内男女比が変わっていった際、生徒会長が信頼した人物が生徒にとって嫌いだから変えてしまえ、という意見が出た時、低すぎる敷居では抑えられないという意見だった。

結局、間を取って三分の一という結果になった。

 

「ではバルバトス君、風紀委員長としてよろしくお願いしますね。」

「はい、全力を尽くします。」

 

さて、まずは風紀委員の任命からだな。

楓、一護は当然として、男子剣道部も組み込もう。

人手は多い方がいい。

木場も組み込んでいいだろうか、後でリアスに聞いておこう。

それに学園外から任命してもいいから、戸愚呂と幽助を入れておこう。

剣道部が夏の合宿や大会のときにはいなくなるので、代わりになる存在は必要だ。

これで、学園の秩序が保てるだろう。

 

 

生徒会長から任命されてから1週間が経った。

私は生徒会に用意された風紀委員室にいる。生徒会と隣の部屋を用意してもらった。

私はこの一週間、風紀委員としての仕事に重きを置いていた。

風紀委員の任命も完了し、ようやく平穏が訪れた。

剣道部の指導をここ最近は一護に全て任せていた。

もうすぐ部内対抗戦が始まる。

それまでには全員に指導を行いたいと考えている。

文芸部の方は楓が取り仕切っている。

だが、新入部員が入ってきているのでぜひ来てほしいと言われた。

昨年の私の絵に感銘を受けた、という子たちが集まったらしい。

一度は顔を出さないとな。

私がそんなことを考えていると電話が鳴った。

 

「風紀委員長、覗き事件です。」

 

あの覗き魔3人組は前回の一件で厳重注意を受けていた。

あれから2週間、鳴りを潜めていた。

だが再び犯行が起こった。ならば容赦しない。

では行こう、風紀委員長の最初の仕事だ。

 

side 兵藤一誠

 

俺は兵藤一誠。

2週間前、覗きがバレて女子剣道部にボコボコにされて、生徒指導の先生にはしこたま怒られた。

だが、俺は諦めない。

そこに女子の着替えがあるなら覗く、それが俺だ。

松田と元浜も同じ気持ちだ。

やっぱり俺達は親友だな。

 

「女子剣道部は覗きが出来なくなったが、バレー部にこんなベストスポットがあったなんて。」

「ああ、よく見つけたな。」

「フフ、感謝しろよ。俺が毎日せっせと探したんだ。」

 

俺達はベストスポットで着替えを覗いていた。

以前みたいなヘマはもうしない。

そして今度は3人一緒に仲良く覗いている。

俺達は親友だ。楽しみは分け合わないとな。

 

「見つけたぞ!」

 

ヤバい!見つかった。

何でバレたんだ。イヤそれよりも逃げないと。

俺が逃げようとして親友二人を見ると、遠くの彼方にいる。

あいつら俺を置いて行きやがった!

 

「おい、待てよ」

「イッセー、すまない。俺達の犠牲になってくれ。」

「イッセー、墓には俺の秘蔵のエロ本を備えてやる、だから成仏してくれ。」

「ふざけんな!あとついでに秘蔵のエロ本はください。」

 

俺達は馬鹿なやりとりをしながら、逃げていた。

後ろから、男子生徒が追いかけてくる。

 

「おい、もしかしてアレ・・・」

「ああ、あの腕章は・・・」

「なんだ、一体」

 

松田と元浜が何か話している、腕章になにかあるのか?

 

「イッセー、お前知らないのか?」

「なにが!」

「あの腕章は風紀委員の証だ。」

「風紀委員!まさかあの・・・」

「ああ、あの時の魔王の手下だ。」

 

俺は思い出した。

2週間前、魔王に追われたことを。あの恐怖を。

だが手下たちだ、魔王じゃない。

なら俺は逃げきってやる!

だけどその希望は潰えた。

目の前に魔王がいる。

いや、()()()がいる。

 

風紀委員長のゲーティア・バルバトス先輩とそれに従う男子剣道部。

うちの男子剣道部は創部一年で全国制覇を成し遂げた。

その部を作ったのがゲーティア・バルバトス先輩だ。

先輩が魔王と呼ばれるのはその剣道部を支配下に置いているからだ。

その先輩が今度は風紀委員長になって男子剣道部を風紀委員にした。

その結果、魔王の軍団、魔王軍が組織された。

 

「おい、魔王だ・・・」

「ああ、それにオレンジの死神に、男子剣道部主力だ。」

「うしろも追いついてきた。」

 

俺達は囲まれた。

逃げ場はない。

最後に見た光景は魔王と魔王に指揮された軍団に蹂躙される仲間たちだった。

 

side out

 



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第12話 ようやくの縁談です

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

風紀委員長の最初の仕事として変態3人組を血祭りに上げ、幸先の良いスタートを切ることが出来た。

これを喜ぶべきか、悲しむべきか悩ましいところだ。

本来ならスタート自体切らないのがいいのだが・・・

だが、あの後女子バレー部のみんなに涙ながら感謝された時には設立に尽力したことは間違いではなかったと思った。

学園でも広く認知され、私たちの活動に協力してくれる生徒たちも増えてきた。

つい先日コンピュータ研究部が風紀員通報用アプリを作成し、生徒からの通報に即時対応できるようになってきた。

また、このアプリは学園内外問わず使用できるため、学園の生徒に対する悪質なナンパや街中での声掛け事案等にも対応が可能であり、実際に学園の生徒を風紀委員が助ける結果に至った。

この功績は警察からも感謝状を贈られ、風紀委員から駒王町の担当警察署へのホットラインを開設でき、警察からは不審者の情報や警戒地域の連絡を、私たち風紀委員からは町内の見回り結果を報告できることになった。

ただ、あくまで私たちは学生のため、緊急時を除いて極力手を出さないよう釘を刺されている。

もちろん私としても、生徒に危害が及ばない様に配慮すると共に、情報の連絡は最優先にした。

また、学園の剣道部の強さは剣道関係者の中で有名なようで、最近では警察署の剣道部と月に1度、稽古を行えるようになった。

風紀委員の大多数を構成する剣道部が夏の合宿及び全国大会に出場した場合、人手が足りなくなることも相談すると、警察からも激励と見送り、そして学園の治安維持に非公開ながら協力してくれることになった。

外部から風紀委員を任命できるようにしたため、警察署長を風紀委員に任命したところ、快く受けてくれた。

また、風紀委員にも将来の職業を警察官を志望するものを出てきた。

これは署長さんも嬉しいようだが、生徒に無理強いをしないよう警察署員全体に発令された。

ただ、署長さんは定期的に警察の仕事に関して講演をしている。

私も講演に頻繁に参加している。

その手法や制度には学ぶところも多く、領地での治安維持にも取り入れることを考えている。

ここ一か月の風紀委員としての仕事は現状はこのような感じだ。

 

ここからは変態3人組はについての対応だ。

変態3人組はあの後、一週間の停学処分になった。

復学後は変態3人組にはマークを付けて行動を監視している。

彼らに敢えて気づかせるようにしているため、最近では大人しくなった。

事件は起こってから対応では、たとえ解決しても被害者は悲しい思いをする。

起こる前に鎮圧した方がいい。

問題児だからといって、監視を付けるのは人権侵害だと言われるかも知れないがこの学園の平和を守るためなら鬼となることも厭わない。

それが被害者に涙を流させた、私の責任だ。

 

 

風紀委員としての仕事はここまでだ。

今の私は学園にいない。

剣道部の部内対抗戦を見届け、文芸部の新入部員との交流が終わり、一度バルバトス家に帰ってきた。

何故帰ることになったか。

それは・・・・・・・・お見合いだ。

 

side サーゼクス・ルシファー

ようやくこの日を迎えた。

ゲーティア君に縁談をお願いされ、一年以上かかってしまった。

だが、許してほしい。

私も彼にお願いされた手前、下手な相手は紹介できない。

彼が私に示してくれた忠誠を失うことは契約を重んじる悪魔として死んでも守るべきものだ。

そして何より、個人的に気に入っている彼を裏切ることは出来ない。

 

だが一年以上かかったのはそれが理由のすべてではない。

全てはこの二人が原因だった。

 

「グレイフィア、ゲーティア君はこちらに向かっているんだね。」

「はい、お義父様。事前に向かわれる前にご連絡を頂けました。なにぶん学生の身としても、公爵としても多忙を極めております。ここに来るまで睡眠をとる、とのことでした。」

「何!それはいかん!今日の見合いを延期してもらおうか?何よりも彼の体が大事だ。先方には私から頭を下げてでも許しを得るぞ。」

「いえ、お義父様。ゲーティア君も今回の縁談に非常に前向きで是非とも、と言われています。少し睡眠をとるのは先方の前で欠伸などの不作法を少しでも無くしたいとのことです。」

「そうか、流石ゲーティア君。惜しいな、リアスが婚約していなかったら是非とも結婚させたかったが・・・」

「ですが、お義父様、その辺りも踏まえての今回の縁談です。」

「そうだったな。ハハハハハ」

「そうですよ。ウフフフフフ」

 

父上とグレイフィアだ。

ゲーティア君に縁談を頼まれた後、父上とグレイフィアは全貴族の情報を集めてきた。

家格、家族構成、経済力などのありとあらゆる情報を集めた。

父上は積極的に交流を行い、相手の印象、令嬢の容姿といった情報を、グレイフィアは私の秘書として得た、他貴族からの情報といった内と外の情報を集めていた。

その情報を一日、朝昼夜の3回情報交換を行い選定を進めていた。

私も当然それに付き合い、貴族の情報を事細かに知り、弱みを握るという副次的な効果があったほどだ。

だが一年以上一日3回の情報交換は1000回を軽く超え、100回毎に総集編と言わんばかりにここまでの情報の洗い直しをし、500回、1000回は一日がかりの超大作になっていた。

だが、その結果二人が認める相手にたどり着いた。

私としてもこの結果に賛成で、ゲーティア君に胸を張って紹介できると確信している。

ただ、先方にお願いに上がったところ、父上が猛烈に押し込んでいた。

父上のこの行動がゲーティア君の悪印象にはならないでほしい、お願いした。

先方も笑って許してくれたことが救いだった。

 

「お待たせ致しました、魔王様。ゲーティア・バルバトス参りました。」

「おお、バルバトス公爵。待っていたよ。」

「バルバトス公爵、車中ではお休みになられましたか?」

 

ゲーティア君が来たことに父上とグレイフィアが盛大に出迎えている。

最近、リアスよりもゲーティア君のことを気にする頻度が圧倒的に多い二人だ。

直接会えて、まるで里帰りした息子のような扱いだ。

二人には悪いが私もそろそろゲーティア君と話をさせてもらおう。

 

「バルバトス公爵、よく来てくれた。会えてうれしいよ。」

「サーゼクス様、本日は私の願いを聞いていただき感謝に堪えません。」

「いやいや、私の方もお願いされておきながら、一年以上掛かってしまい、大変すまないと思っている。」

「とんでもございません。今日を迎えられ大変うれしい限りです。」

「さあ、早速会いに行こう。」

 

私が先導して道を歩く。

出来れば彼と彼女の出会いが最良の出会いであってほしいと願って。

 

 

私たちは用意された部屋にたどり着いた。

先方はもう見えている。

 

「お待たせしました。お互い初めての顔合わせだ。こちら、バルバトス公爵だ。」

「お初にお目にかかります。ゲーティア・バルバトスと申します。」

「そしてこちらが、フェニックス侯爵だ。」

「お初にお目にかかります、バルバトス公爵。こちらは娘の・・・」

「レイヴェル・フェニックスですわ。御逢い出来て光栄ですわ、バルバトス公爵。」

 

side out

 

かわいい。

第一印象はそれだった。

魔王様ありがとうございます。

今ならご命令頂ければ天界にでも他勢力の本拠地にでも、単騎で特攻する次第です。

いかん冷静にならねば。

 

フェニックス家は当初から惣右介が我がバルバトス家に必要だと判断した家だ。

その意見は清麿、デュフォーの二人も同様だった。

フェニックス家はレーティングゲームの普及に伴い、フェニックスの涙で財を成している。

確かに我がバルバトス家に必要な経済力を期待できる家であること、そして彼女は4人兄弟の末の子であり唯一の女の子。

他家に嫁げる子だ。

・・・・・・でも、そんな考えはもうどうでもいい。

 

偉そうに説教したリアスが言っていた好きな相手と結婚したいという願いも理解できる。

私はバルバトス家の当主。

だが私は前世でしたことがなかった結婚というものをしたかった、それだけであった。

相手は誰でも良かった、ただ転生したとき貴族に生まれたから、婚約者くらいいるだろうと思ったらいなかった。

家に利点がなかった。だから立て直した。

全てただ結婚を体験したい、という私の知的好奇心からだ。

だから、結婚を体験するために、家に都合がいい相手であればそれでよかった。

だから、政略結婚を望んでいた。

そこには私の気持ちというものは全くなかった。

政略はただの打算だった。

結婚はただの好奇心だった。

だが不思議だ。

ただ、言いたいことがあると一つだけ

 

「貴方が欲しい!結婚してください!」

 

この思いをぶつけるしかない。

事前に相談しておいたことなど全て消し飛んだ。

ただ思いの丈をぶつけるしかこの衝動は抑えられない。

 

side レイヴェル・フェニックス

私はレイヴェル・フェニックス。

フェニックス家の長女ですわ。

私は今、お見合いに来ております。

来ることになった理由は魔王様とグレモリー公爵様にお願いされたからですわ。

 

 

先日、当家を訪れたグレモリー公爵様、そして・・・魔王ルシファー様。

グレモリー公爵様と魔王ルシファー様は昔からよく存じておりました。

お兄様、ライザー兄様の婚約者のリアス様のご家族の方たちですから。

お二人が当家を訪れたのはお兄様の事だと当初思っておりました。

ですが、お父様に呼ばれたのは・・・私でした。

最初はよく分かっておりませんでした。

何故私が呼ばれたのか。

ですが、すぐに分かりました。

縁談の話でした。

 

「フェニックス侯爵、レイヴェル殿、お久しぶりです。」

「これは魔王ルシファー様、グレモリー公爵、ようこそ当家にいらっしゃいました。本日は如何致しましたか?」

「フェニックス侯爵、あなたとは旧知の仲、私の娘と貴方の三男が婚約しております。本日はそのこととは全く関係ない件でお伺いしました。」

「グレモリー公爵、それは一体?」

「父上、その先は私が。フェニックス侯爵、私は先日ある貴族から頼み事をされた。これは私からその貴族に対して、願いはないか、と聞いた上で言われたことだ。」

「その頼み事とは?」

「縁談だ。」

「縁談?」

「ああ、その貴族は純血悪魔で貴族だ。今や少なくなった純血悪魔を、家を残すために他家との婚姻を結びたいと考えていた。」

「ほう、素晴らしいお考えの貴族ですな。」

「ああ、もちろんそれも素晴らしい考えだが、なによりもこの私に、魔王ルシファーにお願いをしてきた。ならば何よりも悪魔界の将来のためにも良縁を結ばせたいと考えている。それに私も個人的に彼のことを気に入っているんだ。」

「なるほど、先程彼、とおっしゃられたと言うことは、娘のレイヴェルをその貴族の伴侶にとお考えに。」

 

なんと魔王様直々の縁談でした。

ですが一体どこの貴族なんでしょう?

直接魔王様に縁談をお願いするだなんて。

 

「ええ、私も誰でも等とは考えておりません。彼に最もふさわしいのは誰かをこの一年に渡り、探しました。魔王として今後の悪魔界を考えても、その貴族の家を残したいという考えも、理解したうえで、そして何より私自身も彼に最もふさわしいのは貴方の娘さんを置いて他におりません。」

「魔王様・・・。」

 

そこまで言われると、恐れ多いですわ。

魔王様直々のお願いであり、その上一年も探して、私を選ばれるとはお目が高いですわ。

 

「決して強制ではありません。例えフェニックス侯爵が断っても、決して不利益なことはありません。私が契約しても構いません。せめて一度でもお会いして頂きたい。」

「私からもお願いする。フェニックス侯爵、レイヴェル殿、どうか彼と一度会ってほしい。」

「あ、頭をお上げください。グレモリー公爵。レイヴェルお前はどうする。」

 

お父様、聞かないでください。

この状況で断る勇気はありませんわ。

 

「お受けいたします。」

「ああ、良かった。本当に良かったですね。父上。」

「ああ、サーゼクス。良かった。本当に、ううううう・・・」

 

何ですか!この状況!

私まだ会うと言っただけですわ。

でも、この状況で会う、と言った以上どんな方にお会いすることになるのは分かりませんが、・・・おそらく即結婚ということになるでしょうね。

 

「ところでその貴族というのは誰ですか?」

「ああ、肝心なことを言い忘れていた。バルバトス公爵だ。」

「バルバトス公爵!」

 

お父様が驚いていらっしゃいます。

なんなんでしょう?

 

「ああ、昨年の旧魔王派一斉逮捕の功績で今回の縁談をお願いされた。無論先の一斉逮捕の結果、前バルバトス公爵並び前バルバトス夫人の名誉は回復されている。ただ、現公爵は16歳で、昨年までその状況だった。だから他家と婚姻を結ぶことが出来る状況ではなかったんだ。」

「なるほど、そうでしたか。確かに一時騒動になりましたな。あの公爵の婚約者をレイヴェルに、と。」

「ああ、是非ともお願いする、フェニックス侯爵。私はゲーティア君が昨年までの7年、彼が苦労していても見て見ぬふりをしてきた。彼は苦しんだ。もう彼が幸せになってもいいじゃないか。私には・・・親友に報いる為には・・・頭を下げてお願いするしかない。」

「グレモリー公爵、頭をお上げください。レイヴェルも会うと言っております。」

「レイヴェル殿、よろしく頼む。」

「はい、レイヴェル・フェニックス、改めてそのお話、お受けいたします。」

 

ああ、良かった。

最悪、どこかのずっと歳の上の貴族の後妻か、と身構えてしまいましたわ。

でも、実際どのような方かしら。

私より二つ上の現公爵様というのは。

 

 

「貴方が欲しい!結婚してください!」

 

会って早々に告白されましたわ!

確かに縁談の話を聞いたとき、当初は受けると言った時点で即結婚とは考えましたが、一言目がそれですか!

それに私が欲しいと言われましたわ。

貴族の婚姻とは家と家を結びものと思っておりました。

ですが、このようにストレートに言われるとは全く考えておりませんでしたわ。

 

最初に見た印象は体が大きく、筋肉に覆われた方でしたわ。

率直に言って怖いと思いましたわ。

事前に調べていた限りでは昨年の旧魔王派を一斉逮捕を行ったところ、経済状況が一気に悪化しましたわ。

ですがそれは魔王様、現体制に対する裏表のない証でしたわ。

過激なことをやる人だと思いましたわ。

でも、今何をすべきかを分かる人だとは思いましたわ。

それにレーティングゲームの出場経験もあり、出場して即優勝という圧倒的な力を見せた方でしたわ。

私の分析ではこの方は力押しのパワータイプだと思いましたわ。

そして今も・・・

この告白の仕方からして女性との付き合いも乏しいと推測できますわ。

それに外堀も完全に埋まっていてこの場で断る場合、フェニックス家は魔王様を敵に回すことになります。

そして、お兄様の結婚もなくなるかもしれませんわ。

ああ、完全にチェックメイトですわ。

挽回のしようもない程、完璧でしたわ。

ならば、せめて私に出来る、最大限の抵抗をするしかありませんわね。

 

「はい、宜しくお願い致しますわ、ゲーティア様。幾久しく。」

 

この方に気に入ってもらえるようにするしかありませんわね。

 

side out

 




明日から更新が遅くなると思いますが、今後とも宜しくお願いします。


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第13話 家族です

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

私の全力の告白を受け取ってもらえて、レイヴェル・フェニックスさんと婚約致しました。

あの後は全員大爆笑だった。

サーゼクス様もジオティクス殿もグレイフィア殿もフェニックス侯爵殿もみんな大爆笑だった。

私とレイヴェルさんも顔を真っ赤にしてしまった。

だが、悪い気はしない。

その後はジオティクス殿とグレイフィア殿は私を抱きしめ、大泣きしてくれた。

フェニックス侯爵殿は婿殿と呼んでくれた。私も義父上と呼んでいる。

 

私とレイヴェルさんの二人で話していないことに気付いた、サーゼクス様の計らいで、レイヴェルさんと二人きりにしてもらいました。

ありがとうございます、魔王様。

 

「・・・・・」

「・・・・・」

 

何を話せばいいのか分からない。

さっき勢いで言ってしまって、彼女が受けてくれた。

でも、まともに彼女を見れない。

彼女の金髪が、白い肌が、青い瞳が全てがキレイだ。

だから直視できない。

前世でもこんな思いは終ぞなかった。

だが、このままでは彼女が気まずいだろう。

私は男だ。男は度胸だ。つまり私は度胸だ。

 

「レイヴェルさん、初めましてゲーティア・バルバトスです。よろしくお願いします。」

 

私は全力のあいさつと握手の構えを取った。

これしか浮かばなかった。

だが、それを見て彼女は笑ってくれた。

 

「クスクス、ごめんなさい。先程あんな大胆な告白をされたのに・・・でも、そうですわね。ゲーティア様、初めましてレイヴェル・フェニックスと申しますわ。これから宜しくお願い致しますわ。」

 

それから打ち解けるのに時間は掛からなった。

レイヴェルには呼び捨てにしてほしいと言われた。

彼女の趣味がケーキ作りであることや家族のことを聞いた。

レーティングゲームに兄の眷属として参加していることも聞いた。

彼女は私の話も聞きたがった。

人間界の学校に通っていること。

趣味の話、でもそれには苦笑いされた。

レーティングゲームに参加したことも話した、それにもまた苦笑いされた。

家族の話も誤解を与えないように全て包み隠さずに話した。

彼女との話は時間を忘れる程だった。

あまりに戻ってこない私たちを魔王様が呼びに来ていただいた。

でも、少し前から全員で隠れてみていたようで、ジオティクス殿とグレイフィア殿はまた大泣きしていた。

彼女と別れる前に二つ、お願いをされた。

一つは私の領地を見せてほしいと言われた。

私は是非とも来てほしいと言った。

その結果、次の日にやってきた。

中々行動力がある娘だ。

 

side セバス

バルバトス家の執事、セバスでございます。

当家の主、ゲーティア様が昨日、ご婚約致しました。

知らせを聞き、私は立つ力が無くなりました。

もろい体です。

やっと、やっと・・・この日を迎えたというに。

原因は過労でした。

清麿、デュフォーの二人が答えを出した結果です。

間違いありません。

 

私も老いたものです。

先の大戦では先々代様と共に戦場の最前線を駆けた大戦の生き残りです。

大戦が終わり先々代様が亡くなられた後、先代様を支えました。

ですが先代様は旧魔王派によってお亡くなりになりました。

先代様の奥様もお亡くなりになり、ゲーティア様お一人だけ残されました。

バルバトス家はもう終わりだと思いました。

たった8歳の子供に何が出来るというのですか。

無理な期待は身を滅ぼすことになります。

私の望みはせめてゲーティア様が安全に暮らせること、それだけでした。

この絶望的な状況にただ一つの希望がゲーティア様でした。

ゲーティア様は8歳の時、公爵位を継がれました。

 

「セバス、どうすれば我が家を立て直せる。俺にはよくわからない。何でもいい。教えてくれ。」

 

ゲーティア様はこの絶望的な状況をご存じなかった。

当然です。何も教えていなかったのですから。

 

「まず・・・勉強です。」

「そうだな。勉強が必要だな。よし、頼む。」

 

勉強して頂きました。

当家の絶望的な状況を理解していただくために。

ですが、ゲーティア様は天才でした。

圧倒的な理解力でどんどん知識を吸収されていきました。

 

私は希望を抱いてしまいそうになりました。

私が勉強をしていただいたのは絶望的な状況を理解していただくこと、そして・・・一人でも生きていって欲しかったからです。

私はゲーティア様より早く死にたかった。

これ以上、主が死ぬのを見たくなかった。

でも、もっと生きたくなった。

後一日だけ、後一日だけ、この方を見ていたくなった。

惜しくなった。

私は初めて自分を知りました。

主が死んでも生き続けたいと思う不忠者、それが私でした。

それから、力が溢れて必死で働きました。

一日、一日、強く、たくましく、かしこくなっていく主の姿が私に力を与えました。

 

それから7年、眷属を全て揃えたゲーティア様が初めてレーティングゲームに参加したときは心が躍りました。

まるで先々代様が戦っているようでした。

その眷属たちと共に戦う姿に・・・・・嫉妬しました。

あそこで戦うのは私だ。

私はゲーティア様の眷属全員に嫉妬しました。

最初に眷属になった楓は神器を持っていましたが、それだけでした。

物覚えの悪い娘で何度も何度も何度も・・・・教えました。

やっとゲーティア様のクイーンとして、スタートラインに立てた程度です。

他の眷属も一癖も二癖もあるような連中ばかりです。

そんな者たちを集めるなんて・・・・・・先々代様のようではないですか。

私も同じでしたから良く分かります。彼らはいずれもゲーティア様だから眷属となった扱いにくい者達です。

だからこそ、大戦の時代を思い出し、共に戦った仲間を思い出し、主と共に戦う姿に私も共に戦いたかった。

 

そして、領地の大掃除では旧魔王派を一斉捕縛し、魔王様に引き渡しました。

その中には先代様と奥様を殺した者が居りました。

この手で殺したかった。

ですがゲーティア様は引き渡しました。

一番苦しんだのはゲーティア様です。

だというのにその苦しみを現政府への忠誠に変えました。

この一件は先代様と奥様の名誉回復を実現し、魔王様への忠誠を誓われたことで、周囲の状況が一変されました。

それからです。バルバトス家の状況が改善したのは。

犠牲にした産業の代わりに清麿が推し進めた、魔法と人間界の機械技術の融合を実現した、魔科学を作り上げ、当家の財政は先の大掃除以前の数字を大幅に上回りました。

近い将来、冥界の産業革命が起こり、当家に莫大な富を与える、と清麿とデュフォーの二人が答えを出しました。

そして、周辺貴族との関係も大幅に改善されました。

惣右介が中央から地方までありとあらゆる貴族に親交活動を行い、今現在のバルバトス家を知っていただけているようです。

もう、旧魔王派に組みした、という過去から変わったことを理解いただけているようです。

そして、治安に関しても大掃除以降の犯罪率はほぼ0パーセントに近い数字を叩き出しており、領民が皆、笑って暮らせる安全な場所に生まれ変わりました。

 

昨日、遂に、遂にゲーティア様がご婚約成されました。

お相手はかねてより当家の理想とされる御家、フェニックス家のご息女、レイヴェル・フェニックス様。

以前から当家にはない経済力と他家に嫁げる背景がある、当家の理想の政略結婚のお相手でした。

それを魔王様からの斡旋という形でご婚約されました。

これは魔王様が選んでくださったことという栄誉、当家に足りないものを全て満たす理想の相手、という当家の最良の結果となりました。

 

ゲーティア様がどこまでもバルバトス家のために己を殺されてきたのか、私は全て存じております。

恐れ多いことですが、私はゲーティア様のことを息子のように思ってきました。

そのゲーティア様がご婚約成されたことで、もう私の役目は終わったと思いました。

ゲーティア様にもう私は・・・・必要ない。

これからは眷属たちがいます。

主と共に領地を改善させた、主に忠を尽くす、屈強な者たちが居ります。

これで安心して後を追えます。

先々代様、先代様、私も・・・・もう疲れました。

最後に出来るならば、ご婚約者様の御顔を見てから死ねたら本望でございます。

 

なんと、ご婚約者のレイヴェル・フェニックス様が当家にお越しになられました。

昨日ご婚約を成されたばかりで、すぐ来ていただけるなんて、本当にありがたいことでございます。

このようなときに寝てなどいられません。

どうせあと少しで尽きる命、ここで燃やさず、いつ燃やすというのです。

幸い私が過労で倒れたことを知っているのは清麿とデュフォーの二人の二人だけです。

今日だけでいいので黙っていてほしいとお願いし、レイヴェル・フェニックス様をお迎え致しました。

 

「ゲーティア様」

「レイヴェル。ようこそ、バルバトス領へ。」

 

レイヴェル・フェニックス様が当家にお越しになられました。

なんと可愛らしいお嬢様でしょうか。

ゲーティア様がお出迎えになると、笑顔でお応え頂けました。

・・・誠に恐れ多いことですが、私はゲーティア様が笑ってくださるお相手ならばそれで良かったのです。

政略結婚などでなく、ただ自分の御心のままに選ばれるのが良かったのです。

バルバトス家は政略結婚をしてきた家ではありません。

先々代様も先代様も自分の御心のままに選ばれました。

だからゲーティア様だけが無理に政略結婚をすることはなかったのです。

ですが、ゲーティア様が当家のために選ばれた方ならば私には何も言えません。

 

「レイヴェル、当家の執事のセバスだ。」

「セバスと申します。」

「レイヴェル・フェニックスと申します。これから宜しくお願い致しますわ。・・・・・・・つかぬ事をお聞きしますがお疲れではありませんか?」

「ーー!いいえ、そのようなことは・・・」

「こちら、お飲みください。きっとすぐに良くなるはずですわ。」

 

レイヴェル様は小さなビンを取り出され、私にお与えになられました。

これは、フェニックスの涙。

 

「そのような高価な物、恐れ多くて頂けません。」

「何を言うのです。これからは家族になるのですからそのような遠慮無用ですわ。」

「ーー!家族!」

「ゲーティア様が仰っておりました。執事のセバスは家族だと。ならば私ともいずれ家族となるのです。だからお飲みなさい、セバス。」

 

私は歓喜に打ち震えながら、フェニックスの涙を飲みました。

全身から力が漲るようです。

それは決してフェニックスの涙だけではありません。

ゲーティア様に家族と思われていたことの歓喜が私に力をくれました。

 

「セバス、実は昨日レイヴェルに婚約を申し込んだとき、セバスやこのバルバトス家のことも全部、頭になかった。私はただレイヴェルが欲しかった、それだけしか頭になかった。だからすまないな、セバス。お前のことを忘れてしまって。」

「---!」

 

なんと、ゲーティア様がご自身で選ばれたとは。

当家のことも考えずにご自身の御心のままに選ばれた方だとは。

これほど嬉しいことはございません。

どこまでもこの老骨の心を捉えて止まぬお方だ。

 

ただ申し訳ございません、ゲーティア様。

私は不忠者でございます。

主を変えたいと願う不忠者です。

先々代様、先代様の御二方には申し訳ありません。

御二人に捧げた忠誠を取り下げさせていただきます。

ゲーティア様こそが私の唯一、忠誠をささげる主でございます。

そして私はとても欲深い願いを抱いてしまいました。

主よりも生きたいと、主の最後を看取りたいという願いです。

ゲーティア様の成しうる全てを見届けたい、ですので主が死ぬまで私は死ねません。

なんと強欲な願いだ。とても口に出せません。

ですが私も悪魔です。欲望に忠実な悪魔です。

忠誠でもなんでもこの老骨に捧げられるものならば何でも捧げます。

ただこの欲望だけは抱かせてください。

 

side out

 



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第14話 バトル&バトルです

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

レイヴェルが我が領地に到着したので、眷属、いや家族たちを紹介した。

家族たちが彼女を迎え入れて我が家に火が灯ったように明るくなった。

特にセバスは大層な張り切りぶりだった。

近年見たことがない程の張り切りぶりだ。

先程まで枯れる寸前の老木のような雰囲気が、青々とした成木のような力強さに満ちている。

デュフォーはその様子を見て、俺に耳うちをしてきた。

セバスは昨日倒れたということだった。

私はデュフォーに掴みかかり、何故だ、と全く関係のないデュフォーに強く当たってしまった。

ただセバスが倒れたと聞いただけで反応してしまった。

デュフォーは答えを教えてくれた。

過労だと。

 

その答えの原因はすぐに分かった。私だ。

私に代わって今までずっとバルバトス家を支えてくれたセバス、私に勉強を教えてくれたセバス、私に戦い方を教えてくれたセバス、私の眷属に仕事を教えてくれたセバス、何処に行くのも、何をするのもセバスに頼ってきた私のせいだ。

私がレイヴェルに出会えたのも、今日の日を迎えられたのも全てセバスのおかげだ。

 

そんなセバスの体調に私は気付かなかった。

私の人生全てを支えてくれたセバスの異変に気付かなかった。

私は浮かれていた。

人生最大の出会いで人生を支えてくれた家族の存在を忘れてしまった。

そのような私にセバスは歩み寄ってきた。

 

「何を暗い顔をしていますか!折角来てくださったレイヴェル奥様の前でしていい顔ではありません!そのような貴族に育てた覚えはありませんぞ!」

 

恐ろしい程の剣幕で捲し立ててきたセバス。その迫力に私は思った。

何処が過労だ。何が枯れる前の老木だ。

目の前にいるのは我がバルバトス家随一の古強者ではないか。

私は再度デュフォーを見ると、気まずそうに言った。

 

「さっきまでは本当に死にそうだった。あと一週間程の命だった。それは私と清麿が答えを出したから間違いない。」

「ではなぜここまで元気なんだ?」

「さっきフェニックスの涙を飲んだな。あれで体の不調が治った。」

「な!確かにさっきレイヴェルがくれた、あれが!」

「それとさっき主が言った言葉で気持ちが生き返った。」

「さっき?私は何か言ったか?レイヴェルに会った時、セバスのことも家のことも忘れた酷い主だと謝ったことだけだぞ。」

「・・・・それがセバスさんには一番嬉しかったことなんだろうな。」

 

デュフォーの呟きが聞こえなかったので、聞き返そうとすると肩に手を置かれ、振り返らされた。

 

「ゲーティア様、どうやら再教育が必要なようですね。レイヴェル奥様、我が武門の名門バルバトス家のお出迎えの儀、とくとご覧くださいませ!では行きますぞ!ゲーティア様!」

「いいだろうセバス。バルバトス家当主として挑まれた戦いから逃げるわけには行くまい。何よりレイヴェルの前で無様は晒せん。」

 

私とセバスを距離を取り、私はディアボロスを取り出し、セバスは手を手刀の型に変え、互いに一気に距離を詰めた。

 

 

「「ブルアアアアアアアアアアアアアア!!!」」

 

私のディアボロスとセバスの手刀がぶつかり合い物凄い衝撃を生み出した。

 

「キャア・・・あれ」

「主の奥様に怪我をさせるわけにはいかんのでな。」

 

レイヴェルに結界を張って守ったのはゼオンだった。

助かった。いきなりセバスが戦いを挑んできたので、咄嗟に応えてしまった。

しかし、何という力だ。

今までここまでの力はなかったはずだ。私が知る限りでは。

もしかしたらこれがセバスの全力なのではないだろうか。

今まで私のせいで苦労を掛けてきた。

だからそのせいで、全力を出せる程、体を休ませることが出来なかったんではないか。そう思った。

だが、そんな考えをしている暇はない。

今も全力で私に攻撃を仕掛けてくるセバスに私は防戦一方であった。

 

「どうしました、ゲーティア様!折角のレイヴェル奥様の前でその様は!これではバルバトス家の主としてふさわしくありませんぞ!」

 

セバスの言葉に応えることが出来ない。

セバスの攻撃が鋭すぎる。

これまで、このような強者と戦ったことはない。

私の戦い方を熟知している、私以上の力を持った強者。

勝ち目がないな。

だがそれがどうした。

勝ち目がないから逃げるのか。

逃げることは恥ではない。

だが強者との戦いを楽しまず、何故バルバトス家当主が名乗れるか!

 

「ブルアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

ディアボロスの一閃にセバスは思わず距離を取る。

 

「ほほほほほほ。実にいい。ここまで体が動くのは先の大戦以来です。そしてこれほどの強者と相対するは先々代の当主様に戦いを挑んだとき以来です。」

 

初めて見るセバスの顔。

嬉しそうに獰猛に笑う。

嬉しいか、セバス。

私も嬉しいぞ。

 

「今ここでお前を超えよう、セバス。私がお前を倒し、楽隠居させてやるぞ!」

「ゲーティア様・・・・・身の程を知れ!小僧ぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「今死ね!、すぐ死ね!!、骨まで砕けろ!!!、全力全開ジェノサイドブレイバァァァァァァァァァァァ!!!!」

「ほほほほほほ、言ったはずだぞ、小僧。」

 

私の全力のジェノサイドブレイバーが眼前に迫るまでセバスは動かなかった。

私の目の前を埋め尽くす私の魔力光が一閃と共に消え去った。

私の晴れた視界の先にセバスはいない。

 

「まだまだですな、ゲーティア様。」

 

私の首に手刀を当てたセバスが背後にいる。

完敗だ。

 

「さてこれでは私が楽隠居できるのは何時になることでしょうか。」

「・・・・すぐにでも楽隠居させてやる。」

「ほほほほほ、楽しみにしておきましょう。ですが私もまだまだやれそうですな。後で眷属全員を再教育しましょう。久しぶりに血が湧きたっておりますので。」

 

この化け物爺、私より長生きするんじゃないか。

 

 

私とセバスの戦いの後、レイヴェルが帰宅することになった。

元々婚約したので、顔見せに来ただけだったそうだ。

 

「レイヴェル、今日は来てくれたのに色々すまなかった。」

「ゲーティア様、私楽しかったですわ。また遊びに来ますわ。その時は色々なところに連れて行ってください。」

「ああ、もちろんだ。」

「そうですわ、もう一つのお願い、当家にお越しになるのは何時に成されますか。」

「できればすぐにでも、そちらの都合が良ければだが。」

「言いましたわね。ならば一緒に行きましょう。セバス。」

「はい、奥様。」

 

レイヴェルの呼びかけにセバスが対応する。

あれ、何時の間に主、変わった!

私が驚いているうちにセバスに車に押し込まれた。

 

「では行きましょう、ゲーティア様。」

 

レイヴェルの掛け声とともに車が発進する。

後ろを見るとみんなが見送りをしている。

知らなかったのは私だけか。

 

 

私とレイヴェルを乗せた車はレイヴェルの自宅、フェニックス家に到着した。

車の中でもレイヴェルには家族の話をしてもらった。

義父上、義母上、義兄上達が3人、すべて覚えた。

これから家族になるんだ。

失礼は出来ない。

だというのにいきなりお伺いするなど失礼ではないのか?

私がそんなことを考えていると、レイヴェルは察したのか、小さく笑いながら教えてくれた。

 

「ゲーティア様、実はお父様から命令されていたのですわ。ゲーティア様を当家にお連れするようにと。」

「レイヴェル、それを早く言ってくれ。もし私の都合が悪くて、ダメだったらどう謝るべきか。」

「あら、ゲーティア様は私のお願いを聞いてはくださらないのですか?私は悲しいですわ・・・うっうっうっうっうっ・・・ちら」

 

レイヴェルは面白がっている。

私が慌てふためくのが愉快なのだろう。

だが断れない。惚れた弱みという奴だ。

 

「ああ、降参だ。レイヴェルのお願いなら何をしてでも叶えなくてはな。」

「それでこそ、ゲーティア様ですわ。」

 

まだ会って2日目、2度しか見ていないその顔が変わる様を見るのが私は嬉しいのか、楽しいのか分からないが幸せだとわかる。

 

 

レイヴェルの住む、フェニックス家に到着した。

大きな屋敷と出迎える使用人の数はグレモリー家に劣らない。

 

「おかえりなさいませ、レイヴェルお嬢様。」

「いらっしゃいませ、ゲーティア様」

 

盛大な出迎えを受けながら、家の奥から誰か出てきた。

 

「おかえりなさいませ、レイヴェルお嬢様。」

「ええ、ただいま帰りましたわ。そしてこちらが私の婚約者のゲーティア・バルバトス公爵様ですわ。」

「ゲーティア・バルバトスだ。」

「お待ち申し上げておりました。私当家の執事、ジェバンニと申します。今後とも長いお付き合いを宜しくお願い致します。婿様」

 

執事のジェバンニに先導され、屋敷の奥に進む。

大きな扉を開くジェバンニに感謝し、部屋の中に足を踏み入れる。

そこには義父上、義母上、義兄上が3人とフェニックス家のフルメンバーが勢ぞろいしていた。

 

 

 

side ライザー・フェニックス

「おお、待っておりましたぞ。婿殿。」

「義父上、本日はお招きいただきありがとうございます。」

「何を堅いことをいう。私たちは家族だ。その家に招くなどど言ってくれるな。私は悲しいぞ、婿殿」

「ははは、申し訳ありません。義父上。」

 

父上は上機嫌にレイヴェルの婚約者をもてなしている、いや絡んでいる。

昨日、魔王様直々の縁談に行って、帰ってきてからずっとこの調子だ。

随分気に入ったようだ。噂のバルバトス公爵を。

 

バルバトス公爵、この名は今この家の中にいる中で最も高位な名だ。

その経歴は驚愕の一言だ。

8歳で公爵位を継ぎ、15歳で旧魔王派の一斉捕縛から魔王様への引き渡し。

その褒美を魔王様直々に与えたいと言わせたほどだ。

そのあっという間に解決させた手腕は周囲の貴族に衝撃を与えた。

わずか15歳であれほどならば成長すればどうなるか・・・

周囲はその公爵家の事情を調べ、婚約者を送り込もうとした。

まだ15歳、周りの貴族家とは先の事件解決まで交流がなく、婚約者がいなかったので、自分の勢力に取り込めると考えた。

だがその考えも、先んじて潰された。15歳の公爵の一手で。

公爵は魔王様に褒美に縁談を願い出た。

これには周りの貴族も慌てた。手を出せなくなったからだ。

もし無理に進めてそれが露呈したら、魔王様に弓弾く行為に値する失態だ。

そしてこの策は魔王様がその縁談を斡旋した、つまり魔王様公認の婚姻というお墨付きを与えた。

これでは周りはなにもできない。

公爵とその相手の一族を攻撃できない。

ともすれば魔王様、悪魔界に対する重大な裏切りとなる。

そこまでの一手を打った15歳にだれもが驚愕した。

 

つい先日、魔王ルシファー様とグレモリー公爵が当家にお越しになった。

俺の婚約者、リアスの関係者であるので、用があるのは俺だと思った。

だが違った。レイヴェルに用があった。

なんとその公爵との縁談をレイヴェルにお願いに来たというのだ。

後で父上に聞いた限りだと、公爵に最もふさわしいのはレイヴェル以外いない、ということだった。

さすが魔王様だ、当然だ。

レイヴェル以上の相手はいない。例えリアスでも、その考えは変わらない。

だがレイヴェルは縁談を受けた、受けざるを得ない。

魔王様とグレモリー公爵、それに父上の3人に頼まれたら断れるわけがない。

またその時は相手がだれか明かされていなかったらしいので、レイヴェルはどこかの貴族の後妻か、と身構えたそうだ。

当人が笑いながら言っていた。

その相手が分かり次第、レイヴェルは相手の事を調べ出した。

俺も気になったので、調べたらさっきのことが分かった。

レイヴェルは過激なことをやる人ということ、レーティングゲームに参加した映像からパワータイプという印象から、縁談に行ってもすぐに結果が出そうだと判断した。

見事にその通りになったそうだ。

なんと出会って早々プロポーズから入ったらしい。

これにはレイヴェルも唖然としたらしい。

断ることなど決してできない状況を作りだした上で、全力でプロポーズされたら、断る方が無理だったようだ。

そんな状況を作り出すとは妹の頭を上回る知恵者かと俺は聞くとレイヴェルは大笑いして、超が付く正直者でしたわ、レイヴェルの嬉しそうな笑顔でそう言った。

そして今も、嬉しそうに笑っている妹の姿に思わず涙が出そうになった。

そして、俺の義弟になる男にどうしても言いたかった。

 

「ゲーティア・バルバトス公爵。」

「あなたはライザー殿。」

「あなたに一言だけ言う許可を頂きたい、これはレイヴェルの兄、ライザーとして言わせていただきたい。」

「どうぞ、何なりと。」

 

真っ直ぐな目で俺を見る。

ただそれだけで俺を圧倒する。

ただそこにいるだけで、ひれ伏したくなるオーラを感じる。

魔王様と対峙するような圧倒的な威圧感を感じるのは俺が弱いからなのか。

だが、これだけは言わなくてはならない。

不死鳥フェニックスを冠する一族、ライザー・フェニックスの全力、とくと見ろ。

 

「妹を泣かしたら承知しないぞ!その時は俺の炎でお前を焼いてやる!」

「その言葉しかと胸に刻みます、義兄上。」

 

こんなのが妹の旦那になるのか。

レイヴェル、お前、これから苦労するな。

 

俺は自分の義弟に屈しない様に最後まで必死で立ち続けた。

義弟がいなくなると、俺はその場に倒れこもうとした。

だが、兄貴たちが俺を支えてくれた。

 

「ライザー、お前強くなったな。」

「ああ、俺達は圧倒されたぞ。ゲーティア君じゃなくて、お前の迫力にな。」

 

俺は力なく笑い、そのまま兄貴たちに身を預けた。

薄れゆく意識の中で願った。

幸せになれよ、レイヴェル。

 

side out

 

 



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第15話 悩める部員を導くのも部長の仕事です

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

レイヴェルの実家、フェニックス家にお邪魔してから、一週間が経ちました。

レイヴェルとは毎日連絡を取っており、日々の近況を伝えあっている。

連絡を欠かして愛想を尽くされる訳にもいかない。

義兄上である、ライザー殿にも言われたように、レイヴェルを泣かせるつもりは毛頭ない。

そろそろどこかにデートに行きたいところだ。

 

実は私と一護が不在の間、剣道部で少々厄介なことになった。

剣道部の部内対抗戦以降、部内が険悪になってしまったようだ。

原因はとある部員と他の部員との温度差にある。

仕方がない。

私が行くしかない。

 

side 木場祐斗

僕は木場祐斗、剣道部所属の一年だ。

僕は悪魔だ。リアス・グレモリー様のナイトだ。

そんな僕が今、剣道部の中で浮いた存在になっている。

原因は部内対抗戦でのことだ。

 

今から二週間程前に部内対抗戦が行われた。

昨年全国制覇を成し遂げた剣道部、その強さの秘密は常に上を目指していく姿勢にこそある。

そこで行われたのが序列を決めること。

部内対抗戦で序列を決め、その序列は、大会に出場する選手の選考に直結する。

誰もが分かりやすく、納得するシステムだ。

部内で強い者が他の部員全員の思いを継ぎ、戦う。

それが剣道部が常に上に、進化していく秘密だ。

 

現在の僕の序列は・・・・・・・最下位だ。

これはもちろん本気で戦ったからではない。

僕は悪魔だ。

そんな僕が全力で戦うことになれば人間を殺しかねない。

それに僕は大会に出場するつもりはない。

だから、部内対抗戦で敗北し続けた。

結果は全敗だった。

誰もが全力で、誰もが一番を目指し、戦った。

僕以外は。

序列はバルバトス公爵、黒崎先輩を除く二年生が序列の上位を独占した。

一年で唯一の一桁の序列9位となった、柴田君を激励したとき、僕は言われた。

 

「木場、お前に声を掛けて欲しくない。お前は俺達を下に見て本気で戦わないからだ。俺達は必死でお前に向かったのにお前はそんな気が全くなかった。だから木場、俺もこんなことを言うのはどうかと思う。だが言わせてくれ。剣道部を辞めろ。お前がいると、俺達は成長できない。」

「ーー!」

 

僕には言い返せなかった。

彼が言うことは至極真っ当だ。

そして、今なら入部当初の、ゲーティア部長が新入部員に言った、

 

「我が剣道部の目標は全国制覇だ。その意思がないものはこの場を去れ!」

 

僕は逃げそうになった、でも他の誰も動じなかった。

みんなには覚悟があった。

覚悟を持って、ここに来た。

でも、僕にはなかった。

その違いをまざまざと見せられた。

 

それから、僕は剣道部の部活には参加していたが、練習に身が入っていなかった。

黒崎先輩は最近忙しくて部活にこれていない。ゲーティア部長もだ。

だから、その間はある意味助かった。

部内対抗戦以降、顔を合わせていない。

黒崎先輩に合わせる顔がなかった。

指導して頂いて、以前よりも強くなったのは確信できるほどだ。

でも、それを生かそうとしない。

そんな指導、黒崎先輩からしたら、する意味がないだろう。

 

僕はリアス先輩に剣道部で一番強くなると言ってここに来た。

だけど、そんな僕は今や剣道部の最下位。

本気を出せば負けないだろう。

だけど、彼らと違い僕は悪魔だ。

体の強度が違う。

そう考えていると先輩達とゲーティア部長が道場に来られた。

 

「みんな、私の都合で指導を疎かにしてしまった。まずはその事を詫びたい。済まなかった。」

「何を仰いますか、部長。」

「そうです。部長が謝られること等、何もありません。」

「そうか。私は素晴らしい仲間を持った。これからも頼りにさせて貰う。」

「!!!」

 

先輩たちが驚愕している。

ゲーティア部長が先輩たちに礼を言った。

頼りにする、と言った。

先輩達の顔は歓喜の涙で溢れている。

一年の時に剣道部を作り、指導し、全国制覇に導いたゲーティア部長に頼られるというのは先輩達にとって、望外の喜びだったんだろう。

 

「では私の謝罪はこれ迄として、今日の練習に入る。だが、その前に木場祐斗、柴田勝家、両名、前に。」

「え、あ、はい!」

「・・・はい。」

 

僕と柴田君が前に呼ばれた。

柴田君の方を見ることができない。

あれから、特に何かをされることもない。

だけど気まずかった。

 

「柴田勝家、此度の部内対抗戦、新入部員の中で最高の結果を残した。これをまず評する。良くやった。」

「あ、ありがとうございます!」

 

柴田君は喜んでいる。

柴田君は他県からゲーティア部長の指導を受けたくて越境入学してきた。

誰よりも熱心に練習を取り組んでいることは僕もよく知っている。

それは、柴田君と一緒に練習しているのは僕だからだ。

最初に剣道部に馴染めていない僕に声を掛けてくれたのが柴田君だ。

だから彼に部をやめろと言われたことは悲しかった。

 

「だが、柴田・・・・・・何か勘違いしていないか?」

「え?」

「木場に剣道部を辞めろと言ったそうだな。」

「・・・・はい。言いました。」

「柴田、まず言っておく。剣道部の部員は個人の意思で退部を決める。これは何人も犯すことが出来ない我が部の法だ。それは知っているな。」

「はい。存じております。」

「ではなぜ木場に言った。」

「彼の部内対抗戦での戦績は全敗であり、結果は部内最下位です。彼はこの剣道部に不要です。」

「言ったはずだ、柴田。それを決める権利は誰にもない。」

「ですが彼の部内対抗戦での戦いはあまりに礼を欠いていました。対戦相手に全力を出さない、という、相手に最も礼を失するものでした。」

「!!」

 

見抜かれていた。

どうして。

 

「彼とはいつも共に練習してきました。だから、彼の実力は知っているつもりです。」

「だから、全力を出さない木場に柴田は剣道部を辞めろと言った、ということか?」

「はい。その通りです。」

「弛んでおる。木場ではなく柴田がだ。」

「何故ですか!」

「いつから、誰かを気にかけることができるほど、強くなった。」

「そ、それは・・・」

「柴田、お前はいつから、誰かの進退に口出し出来る程、偉くなった。」

「・・・・」

「新入部員の中で、一番強いということで、そのような驕った考えを持つようになったか。」

「・・・・」

「相手が全力を出そうが、出すまいが関係ない。ただ対峙する相手を己が打倒せんとする事以外考えるな。それは弱さだ。何かの邪念を振り払えない弱者の考えだ。現に他の新入部員の中で木場を気にかける者など一人もいない。其方以外は皆序列が二桁だ。誰もが其方を超えようと、必死なのだ。誰かを顧みることなどできぬほどに。」

「・・・・」

 

柴田君は何も言えない。

違う。それを責められるのは僕の方だ。

僕が真実を告げられず、必死で頑張る彼らを見下すように全力を出さず、わざと負けてきた。

だが、そのことを口にすることは僕にはできない。

 

「だが、柴田のいう意見で確かなことは、木場が我が部で最弱だということだ。」

「!!」

「反論の余地はあるか」

「そ、それは!」

「反論できる材料があるなら、木場、お前は驕っている。」

「僕が驕っている?」

「お前は全力を出すことを躊躇っている。何故か、力が強すぎるため、動きが速すぎるため・・・・・などと考えているならそれは負け犬の遠吠えだ。私は最初に言ったぞ。人は平等ではない、と。力があるのになぜ使わん。脚が速いのになぜ走らん。お前は驕っているといったのは本気を出せば勝てるなどという幻想を抱いているからだ。お前は弱い、この部で、最も。出せぬ力を誇り、出せる力で負けたそなたは、ただの弱者だ。」

「そ、それは!」

「嘘だと思うなら戦ってみよ。信長、道具を出せ。私が相手をする。」

「ゲーティア部長・・・」

「全力を出してみよ。私がお前の力、受けて止めてやる。」

 

ゲーティア部長は自分で防具を付けようとするが、周りの部員がやろうと奪い合っている。

ゲーティア部長の周りには人が溢れている。

僕の周りには誰もいない。

ただ1人を除いて。

 

「・・・木場、防具付けるの、手伝う。」

「・・・柴田君・・・」

「・・・ほら、早くやるぞ。」

「あ、ああ。ありがとう。」

 

柴田君は答えない。

僕は彼の信頼すら裏切ってしまった。

だから彼は僕を手伝うことなどする必要がない。

 

「できたぞ。」

「うん。ありがとう。」

「木場・・・お前いつも本気出さなかったな。」

「柴田君、気付いてたのかい?」

「お前が俺が作ったスキに、何時も気づく、その動きも俺が確実にやられる程の速さだ。なのに打つときにいつも躊躇する。意気地がないのか、いや違う。力を抑えるのに必死だと思った。最初は練習だから怪我させないようにしていると思っていた。だけど部内対抗戦ならお前も本気になると、思っていた。でもお前はまた本気を出さなかった。それどころか、何時も俺と練習しているときに見せたスピードも見せず、相手よりわざと弱くしていた。・・・だから俺はお前が許せない。お前が俺達を競い合う相手とみなしていないことに、そして何より・・・お前に全力を出させることが出来ない、不甲斐ない自分に腹が立つ!」

「・・・柴田君」

 

僕は彼にここまで真摯に向き合ってきただろうか。

僕を剣道部に馴染ませてくれた、いつも練習に誘ってくれた彼になんと酷い裏切りをしてきたのか。

僕は一体彼になんと言えばいいんだ。

 

「木場、お前が本気を、全力を出しても、ゲーティア部長に敵うとは思っていない。」

 

確かに僕にはゲーティア部長に勝てる気がしない。

黒崎先輩にもまるで勝てる気がしない。

黒崎先輩もゲーティア部長に勝てないと言っていた。

なら僕が勝てるはずがない。

 

「だから木場、良かったな。」

「え?」

「お前がやっと全力を出せる相手だ。やっと、相手を気にせず、本気で戦えるんだ。お前が強くなりたいなんて、いつも一緒に練習してきた俺が一番よくわかる。だから木場、楽しめ。お前の本気、俺に見せてくれ!」

柴田君は僕に拳を差し出してきた。

僕はその拳を、無意識に自分の拳で合わせていた。

 

「柴田君、ありがとう。行ってきます。」

「ああ、行って来い!」

 

僕は柴田君に背中を押され、ゲーティア部長の前に立つ。

いいものだな、誰かに背中を押されるというのは。

 

「互いに礼」

 

眼前に見えるゲーティア部長。

大きく、強く、そして圧倒的な威圧感を放っている。

柴田君に背中を押されなければ、眼前に相対することも出来なかった。

 

「始め!」

 

審判の開始の合図と共に弾かれるように飛び出した。

 

「胴!!!!」

 

僕は全力の、悪魔としての、ナイトとしての、全力のスピードでゲーティア部長の胴を狙った。

僕とゲーティア部長には大きな身長差がある。

その僕が面を狙えば、確実に狙い撃ちにされる。

小手を狙ってもリーチ差もあるため、容易に引かれて躱される。

突きも論外。

なら、狙いはただ一つ。

全力最速で一気に胴打ち決める。

 

「遅い。」

 

ゲーティア部長は僕の胴打ちを突きで止めた。

そして今も止められている。

 

「な!」

 

驚愕の一言だ。

何故僕の剣がピクリとも動かない!

ゲーティア先輩は僕の竹刀を自身の竹刀の先、一点で支えている。

 

「非力だ。」

 

ゲーティア部長が呟き、押し飛ばされた。

僕は何とか、地面に這いつくばり勢いを殺した。

ただ押されただけで、ここまで飛ばされた。

 

「その程度の力とスピードで全力を出すのを躊躇ったのか。それはあまりに愚かだ。」

 

ゲーティア部長が距離を詰めてくる。

僕はもう一度全力でかけて、胴を狙う。

 

「この程度のスピード、二年なら軽く上回る。」

 

今度は止められもしなかった。

僕はゲーティア部長の姿が目の前で消えたようにしか見えなかった。

なので必死でクビを回し、視界に入れようとした。

でも、いない。

 

「木場ー!後ろ!」

「どこを見ている。私はずっとお前の後ろにいたぞ。」

 

背後から声が聞こえて咄嗟に前に飛んだ。

 

「ようやく私を見つけたな。」

 

速い。

全く見えなかった。

 

「では受けてみよ、木場。胴!」

 

一瞬で距離を詰められ、右手一本で竹刀で振りぬいて僕は壁に叩きつけられた。

 

「ガアッ!!」

 

僕には何も見えなかった、咄嗟に竹刀で防いで直撃を免れた。

でも壁に叩きつけられていた。

防ぐことも満足に出来ていなかった。

 

さすが上級悪魔だ。

僕が勝てないのはゲーティア先輩との単純な力の差だ。

これは恥ではない。

人間が相手だったら負けなかったのに・・・

 

「木場、お前まだ、種族のことを気にしているな。」

「え?」

 

ゲーティア部長は僕にだけ聞こえるように小さい声で話してきた。

 

「お前の気持ちも分かる。私と一護が大会に出ないのはそれが理由だ。」

「ゲーティア部長、やっぱり僕の考えは間違いでは・・・」

「だが、木場。お前、私や一護と自分が同格だと思いあがっているのではないか。」

「ーー!」

「ハッキリと言おう。お前は弱い。これは事実だ。信長達に遠く及ばず、一年の中にもお前より強い奴もいる。」

「そ、そんなわけ・・・」

「ある。」

 

また一振りで壁に叩きつけられた。

そして、ゲーティア部長はまた声を掛けてきた。

 

「今の一撃、二年なら止められた。」

「え!」

 

またも一振りで飛ばされた。

今度もゲーティア部長は話しかけてきた。

 

「今の一撃、二年なら躱したぞ。立て、木場!」

「ーー!」

「構えろ!」

「は、はい!」

「打ち込んで来い!」

「はい!」

 

今度は僕から打ち込みをかけた。

それを受け止め、今度は顔を合わせながら、話してきた。

 

「木場、身体的な有利は悪魔と人間の種族の差だ。それは否定しない。だが、努力した人間が堕落した悪魔に勝てない道理はない。彼らの努力は悪魔をも上回る。人間をなめるな、悪魔。」

 

僕は人間をなめていたのか・・・

元は人間なのに。

悪魔に転生して、人間をなめていた。

僕は人間に復讐を誓ったのに。

 

あの日、僕たちを殺した人間に、復讐を誓った。

なのに、これまでの平穏でそれを忘れていた。

ゲーティア部長、僕は忘れていました。

人間は狡猾で残忍で命を道具のように扱う、悪魔以上の悪魔だ。

なら、人間なんて殺してもいいですよね。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

僕は吠えた。

僕を殺した、僕の仲間を殺した、人間を殺す。

そう決めたなら、練習中に全力を出して殺しても問題ないですよね。

 

「それが全力か?」

「うおおおおおおお!!!」

「・・・・本当に全力か?」

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「・・・・・・・・最後にもう一回聞く、それが本当に全力か?」

「うおおお・・・・・・ハァハァ・・・・はい・・・」

「情けない。」

 

その言葉と共に再度壁に叩きつけられ、気を失った。

 

 

僕は剣道場の壁の近くで目が覚めた。

防具は外されている。

そして、剣道場を見渡すとそこには・・・・・大勢の剣道部員が倒れていた。

 

立っているのはゲーティア部長と先輩たち八人だけだ。

 

「チェストォォォォォォォォォォォ!!」

 

島津先輩がゲーティア部長に突進していく。

その速さは僕の全力以上だ。

 

「ふん!」

 

ゲーティア部長が受け止めた、今度は両腕だ。

 

「やるじゃないか、義弘。お前の力は我が部、最強だな。だが、まだまだ私には及ばない。ブルラアアアア!!」

「グホォ!!あり、がとう、ございます、ゲーティア、部長。」

 

そう言って島津先輩が倒れこむ。

ゲーティア部長はその後も毛利先輩、武田先輩、北条先輩、長尾先輩と次々に倒していく。

全員僕以上の力とスピードでゲーティア部長に食らいつき、皆褒められながら倒されていく。

 

「是非もなし!」

「面白い…その力、我自ら見極めてやろう!」

「絆の力を見せてやる!」

 

織田先輩、豊臣先輩、徳川先輩の三人がゲーティア先輩に向かっていく。

3人とも僕なんて烏滸がましい程の力とスピードで迫る。

 

「おもしろい、楽しませてみろ!」

 

ゲーティア部長は圧倒的な威圧感を放つ。

僕はその威圧感で身を縮める。

だが、三人の先輩はまるで効いていないようだ。

その後の戦いは、僕にはまるで見えず、何が起こっているのか、分からなかった。

そして、最後に立っていたのは、

 

「貴様らはぁ、俺の最高の玩具だったぜぇ!」

 

ゲーティア部長だった。

嬉しそうに倒れた先輩たちを見下ろして、その言葉を発した。

その言葉を聞き、倒れている先輩たちは嬉しそうな顔をしながら、意識を失った。

 

「これが、剣道部。」

 

僕にはこの剣道部に加減が必要ないことを心底理解した。

 

 

それからの僕は必死で稽古に打ち込んだ。

毎日練習に付き合ってくれた柴田君、そして多くの友達が出来た。

でも、序列は・・・・・30位。

全部員が40人なので、10人には勝った。

でも頂点はまだ先だ。

 

リアス部長、ごめんなさい。

僕もう無理かも・・・

 

剣道部で一番になる、と言った過去の自分を全力で阻止したい気分だった。

 

side out

 



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第16話 婚約者と友達

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

剣道部の問題が解決してから二週間が経った。

季節は6月に入った。

先日、二度目の部内対抗戦が行われ、順位の変動が色々あった。

中でも木場は順位を10も上げて30位に上昇した。

どうやら、吹っ切れたようだ。

最近は練習する姿に迷いはなく、遅くまで居残り練習していることを知っている。

特に、柴田と打ち合いをしている姿をよく見る。

これからも頑張ってほしいと思う。

リアスの眷属だからと言って、剣道部の部員である以上、指導に手を抜くことはない。

木場も剣道部員の一員として全国制覇を目指して頑張ってほしい。

来月は夏合宿、そして地区大会が始まる。

そして順当に勝ち抜ければ、再来月には全国大会だ。

気を引き締めなければ。

 

風紀委員の仕事も最近は特に進展もない。

いいことだ。私が忙しくないというのは。

駒王町全体が平和になったことを大変うれしく思う。

変態三人組に関しても、着けている監視からも動きはない、という報告が上がってくる。

これは監視している人員を日替わりで交代しているにも関わらず、同じ意見が上がっているので信用できる。

大人しくなったな。

このまま監視を継続すれば、平和を維持できそうだ。

 

文芸部の方だが、夏が近いので来てほしい、と楓から打診されている。

最近は全く顔を出せていなかったので、近々行くことを約束した。

楓は涙を流し、歓喜してくれた。

そこまで喜んでもらえると、私も嬉しい限りだ。

 

さて、現在の私は駅にいる。

なぜなら、

 

「ゲーティア様~」

「レイヴェル、よく来てくれた。」

 

レイヴェルが人間界に遊びに来たからだ。

冥界から悪魔専用ルートでやって来たため、私が迎えに来ている。

 

「ゲーティア様、お待たせいたしましたわ。」

「ようこそレイヴェル。直接会うのは2週間ぶりだな。」

「ええ、御逢いしたかったですわ。」

 

彼女が人間界に来たのには訳がある。

 

「では、お願い致しますわ。ゲーティア様。」

「ああ、では行こう、レイヴェル。」

 

私はレイヴェルを連れ、駒王学園を目指した。

 

 

「こちらが、ゲーティア様が通われている学園なのですわね。」

「ああ、ようこそ駒王学園へ、レイヴェル。」

 

来年からレイヴェルも人間界の学校に通うため見学に来た。

私に色々案内させるつもりのようだ。

でも、折角来てくれたんだ。

たくさん案内しよう。

 

今日は休日のため、生徒たちは部活に来ている生徒以外はいない。

静かな校舎の中を歩いていると、レイヴェルは物珍しいのかキョロキョロ見回している。

そんなレイヴェルを見ていると。、今日の訪問先一つ目にたどり着いた。

 

side ソーナ・シトリー

私の名前はソーナ・シトリー。

駒王学園の生徒会に所属しています。

私は休日にも関わらず、学校に来ている。

駒王学園の部費の割り当てや風紀委員の増員に伴う予算の調整を行っています。

そして、約束があります。

コンコン、と生徒会室の扉がノックされる。

今日は休日だ。

でも私はその音を待っていた。

 

「どうぞ」

 

私の声が届いたようで、扉が開いた。

 

「失礼する、ソーナ。」

「いえ、お待ちしていました、ゲーティア。それに・・・レイヴェルさん。」

「ご無沙汰しておりますわ。ソーナさん。」

「ええ、どうぞこちらへ。」

 

私は二人に席を進めた。

二人掛けのソファーに二人並んで座った。

私は彼と対面に座った。

椿姫にはお茶の用意をしてもらい、今日の訪問者に対峙する。

 

「今日の訪問の理由はレイヴェルさんの学校見学でしたね。」

「ああ、そして正式にソーナにも紹介しておきたい。ソーナ、私、ゲーティア・バルバトスはこちらのレイヴェル・フェニックスと正式に婚約をした。友人であるソーナには紹介が遅れてすまなかった。」

「フフ、その話は既に伺っています。ですが、お二人揃ってのご挨拶痛み入ります。」

 

彼も律儀な人です。

レイヴェルさんも。

 

私がレイヴェルさんを知っているのは親友のリアスが彼女の兄、ライザー・フェニックスさんと婚約をしているため、紹介されたことがあったからだ。

ただ、あの時とは印象が随分違う。

あの時は高飛車な性格に見受けた。

でも今は落ち着いた、大人の女性のような印象に変わりつつある。

 

ゲーティアとレイヴェルさんの婚約は悪魔界で有名なのだ。

当然だ。魔王ルシファー様がお選びになった、魔王公認のカップルだからだ。

その話は、今、悪魔界の女性の中でブームになっている。

御家を継いだ若い公爵が、困難の果てに魔王様に願い出る。

私の理想の妻を探して下さい、という願いだ。

そして、魔王様は最もふさわしい女性を見つけ、公爵と見合いをさせた。

そこからだ、一気に盛り上がったのは。

一目見た公爵は第一声として、

 

「あなたが欲しい。結婚してください。」

 

いきなりプロポーズだ。

これに貴族の女性陣は大いに感動した。

誰もが家のために結婚すると思っていたのに、あなたが欲しい、という言葉。

この言葉は政略結婚でも運命の出会いがあることを女性陣に教えた。

この彼らの出会いをもとに作られた作品が大ブームなのだ。

当然、私も小説版を持っている。

後に映画化を予定しているらしい。

お姉様がヒロインをするようだ。

何でもプロデューサーに誠心誠意"ONEGAI"したそうで、そのプロデューサーは涙を流しながらOKをくれたようだ。

直後にプロデューサーは入院してしまったが、サーゼクス様が代わりにプロデューサーをする事で更に話題になった。

自身も本人役として出演するそうだ。

権力の無駄遣いである。

 

「お茶が入りました。」

「ありがとう、椿姫。」

「ありがとうございますわ。」

「いえ。」

 

椿姫がお茶を用意してくれました。

お茶、それを見ておもいだした。

 

ゲーティアと出会った、一年以上前を。

最初は同い年の公爵、という何処か近寄りがたい想いを抱いていた。

でも、せっかくなのでお茶に誘って見ると予定を聞いてから、直ぐにOKしてくれた。

次の印象は、真面目な印象を感じた。やるべき事をしっかりやる人だと思いました。

お茶に誘って、その場にリアスがいて、身構えたのを覚えています。

だから、面白そうなので、リアスの隣の席に案内しました。

ただ、居心地が悪そうなので、リアスとの間に入ってあげました。

二人の間の蟠りが解けたのは私のおかげですね。

そのあと彼の話を聞いて、彼のことを知りました。

 

それから同じ学校に通うことになり、彼がまた、やらかしました。

剣道部を作ったんです。それはいいんです。それは。

でもいきなり全国制覇させたんです。

最初は彼が出て、全員倒して優勝したのかと思いました。

でも違いました。

彼は部長として、部員を預かる立場として行動し、指導をし、優勝させました。

部員全員が彼に心服していました。

彼は、指導する才能がある、と思いました。

私の夢はレーティングゲームの学校を作ることです。

経済状況や身分で参加出来ないということを変えたいと思っていました。

だから、彼ならわたしと同じ夢を見てくれるかもしれない、と勝手に思いました。

 

でも、すぐに彼とは意見が合わない、私たちは絶対に相いれない、そう思いました。

あるとき、チェスをしないかと、誘いました。

彼は渋りました。

 

「私はチェスは好かんのだが・・・」

 

それでも彼はやってくれました。

結果は私の勝ちでした。完勝です。

その後、ゲーティアは言いました。

 

「やっぱりチェスは好かんな。」

 

何故好かないのか理由を聞きました。

 

「対等で始まるからだ。」

「対等?なにかおかしいですか?」

 

チェスは対等の条件から如何にして勝利するか知恵を巡らせるゲームだ。

ハンデでもつけろとでもいうのか?

 

「戦いとは始まる前から決まっているものだ。強力な仲間を集め、圧倒的な数を揃え、質と量で勝つ。その準備をし終えてから戦えば勝つ。」

 

ゲーティアの言うことは分かる。確かに戦いに勝利するのに、強力な駒や兵の数は戦いの勝敗を左右する。

だが、それだけで戦いが決まるわけではない。

緻密な作戦が勝利を決める。

私はそんな考えを持っていましたが、ゲーティアは反論しました。

 

「一度の勝利ならばそれで構わない。だが、それで終わりか。次は、どうする。その作戦を実行する兵も少しずつ減れば、最後は数の勝利だ。」

「消耗戦ですか。だからこその作戦です。少ない戦力で効率的に勝利する、これが戦いの醍醐味です。」

 

私も彼も主張を曲げることはなく、何度も話し合い、熱い議論を交わし、一度も結論が出ません。

昨日もそうでした。

きっと彼とは分かり合えない、だから来週も議論をするんだろう。

 

私と彼の間柄は友達です。

この一年、彼の起こす騒動に巻き込まれた。

最近では風紀委員長になった。

それの調整を行ったのは私です。

そんな騒動に文句も言わず助けるのは友達の私くらいです。

決して他の誰でもない。

もし私が生徒会長になって、風紀委員長に指名するのは彼だ。

 

私はシトリー家の次女ですが、お姉様は魔王です。

シトリー家を継ぐのは私です。

だから彼とは縁がない。

そんなことは彼の存在を知ったときから知っていました。

だから、今彼と机を介して向かい合う、この距離間が私と彼の、友達の距離です。

決して、彼と彼女が座る二人掛けのソファーの距離間ではない。

これだけの縁があったんです。

これ以上を望むのは・・・・・

 

「ソーナ」

 

私はゲーティアの声で顔を上げた。

 

「どうかしたか?」

 

彼が私を真正面から机から乗り出し、私の顔を見つめる。

やめてください。

その机を越えないでください。

その机が彼女と私の境界線。

婚約者と友達の境界線。

 

「顔色、悪いぞ。大丈夫か。」

 

彼は私の心の葛藤をよそに腕を伸ばしてきた。

彼は私の顔に手を添え、ジッと私を見つめる。

 

「あ、暑いですから・・・大丈夫ですよ。」

 

私は笑えているだろうか?

ちゃんと友達の顔を出来ているでしょうか?

彼との縁を壊したくない。

 

「だが・・・」

「ゲーティア様、あまり女性の顔に触れるのは感心しませんよ。」

 

ッ!

私に向けられていた視線が、手が、離れていく。

彼女に全て向けられていく。

 

「レイヴェル、だがソーナの調子が・・・」

「だからと言って、女性にみだりに殿方が触れることは宜しくありませんわ。」

「ああ、そうだな。ソーナ、すまなかった。」

「い、いいえ。気にしていません。」

 

私は何故か胸が痛いような錯覚に襲われた。

二人を見ていると、何故か。

 

 

「ソーナ、すまないな。時間を取らせてしまって。」

「いいえ、ゲーティアとレイヴェルさんが折角ご挨拶に来てくださったんですから、これくらいは大したことではありません。」

「ソーナ様、本日はありがとうございました。」

「レイヴェルさん、いえ、こちらこそご挨拶に来ていただき、ありがとうございます。」

「では、また来週。」

「私も近いうちに、またお会いしましょう。」

 

私は二人を生徒会室の外まで見送り、二人が見えなくなると生徒会室に戻ってソファーに座った。

さっきまでレイヴェルが座っていた場所に。

私にはこの場所に座る権利も、縁も、ない。

そう自分に言い聞かせて、天を仰いで息を吐いた。

すると視界が真っ暗になった。

 

「椿姫、暑苦しいですよ。」

 

椿姫が私の顔の上に自分の胸を乗せてきた。

 

「そうですね、暑いですね。」

「ええ、このままだと汗をかいてしまいます。」

「いいですよ、私は気にしません。」

「・・・・・そうですか。後で後悔しても知りませんよ。」

 

私は汗が止まらなかった。

目からこぼれる汗を自分の意志で止めることが出来なかった。

水の魔力を使うのは得意なのに、自分の意志で止めれない。

椿姫は私の上で動かない。

ああ、本当に暑い。

 

一頻り出し尽くしたのか、やっと収まった。

椿姫には悪いことをしました。後で、お礼をしませんとね。

そうだ、手作りのお菓子を作りましょう。

心を込めて作ります。

私の感謝の気持ちです。

受け取ってくださいね。

 

side out

 




人の心情を書くのは難しいです。
おかしければ、ご意見ください。


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第17話 ゲーティアとリアス(上)

二話構成です。
続きは現在作成中です。


どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

生徒会室を出て、またレイヴェルと二人、校舎内を歩いて行く。

これから向かうのは旧校舎、オカルト研究部だ。

次に会いに行くのはリアスだ。

昨日、木場からお願いしてもらって、休日だが部室に来てもらっている。

正直、気が重いがどうしても行かなければならない。

私はリアスに謝るべきことがある。

 

彼女は結婚は自由に恋愛してするべきだと言ったのに対し、私は貴族として政略結婚をするべき、と語った。結果的には政略結婚だが、実際は一目ぼれからの全力プロポーズと言う、彼女の語った自由に恋愛して結婚するという考えが正しいということを証明した。

だから、彼女の考えを否定したことを、どうしても謝罪する必要があった。

婚約してから今日までの約3週間、彼女と会えていない。

オカルト研究部を訪れると、彼女はいない、と朱乃に言われ、時間を、日を改めて訪れても、いつも空振りだ。

彼女も駒王町の管理者として、忙しいことだろう。

でも、どうしても彼女と話をしたい私は、木場に頼んで会う約束を取り付けた。

我ながら卑怯な手段を用いたものだ。

思わず自分の小ささを理解し、卑屈な笑いが出そうだった。

でも、漸く彼女と会う機会を得た。

彼女の考えを否定した私に会いたくはないと思うが、一度謝るべきだ。

彼女の考えは正しかったと、今ならそう思う。

私は隣を歩くレイヴェルを見て、心からそう思った。

 

side リアス・グレモリー

私はリアス・グレモリー。

オカルト研究部部長にして、この駒王町の管理者。

 

私は今、オカルト研究部の部室にいる。

オカルト研究部の部員は私と朱乃と祐斗の三人。

でも今部室にいるのは私と朱乃の二人だけ。

祐斗はいない。彼は剣道部の方に行っている。

 

「もうすぐ、よね」

「ええ、そろそろ時間ですわ」

 

私はソファーに腰かけ、努めて冷静を装っている。

でも、

 

「リアス、もう少しおちついたら」

「・・・・・・私は落ち着いているわ」

「仕方ないですわね」

 

朱乃は私が、何度も時間を確認する仕草を見て、聞き分けのない子供に困ったような表情を浮かべ、それ以上追求しなかった。

 

今日私が部室に来ているのは、何か活動があるから、ではない。

人と会う約束があるから、休日なのに来ているだけだ。

 

「ゲーティア・・・・・・会いたくなかったけど、仕方ないわ。今日決着をつけるわ」

 

私はゲーティアに会いたくなかった。

でもどうしても言いたいことが、伝えたいことがあったので了承した。

 

 

ゲーティアとレイヴェルが婚約した次の日、私にお兄様から通信が入った。

私は最初、いつもの他愛ない話だと思って通信に出ると、開口一番衝撃発言が飛び出した。

 

「ゲーティア君が婚約した。相手はリアスも知っている、レイヴェル・フェニックスだ。」

 

私は驚いていた、でもお兄様は更に話を続けていく。

お兄様はゲーティアの縁談を取り仕切っていた。

当然見合いの席にもいたし、レイヴェルを選んだのもお兄様だそうだ。

そのお兄様はお見合いの話を面白そうに教えてくれた。

 

「第一声がプロポーズだった」

 

私はお兄様が言った意味が全くわからなかった。

 

「どういうこと?」

「この本に全て書いてある。ゆっくり読んで感想を聞かせて欲しい。」

 

私の問いかけに答えず、薄く笑いを浮かべながら、一冊の本を届けてくれた。

 

「この本は?」

「読めばわかるさ。全てその本に書いてある。」

 

その言葉を最後にお兄様は通信を切った。

仕方がないからお兄様から貰った本を読み始めた。

 

その本は若い公爵が政略結婚するまでの話だった。

私はお兄様が私に言いたい事を悟った。

 

「私に政略結婚しろ、そういいたいのね。お兄様は!」

 

私は自由に恋愛をして、自分で決めた相手と一生を添い遂げたいと考えている。

なのにお兄様はそんな私を否定するのね。

私は怒りながらも冒頭部分を読んでいるとある衝動に駆られた。

続きが読みたい、その思いが私の指を、目を走らせていく。

気づくとラストシーンに入っていた。

私は途中で泣いたり笑ったりしながら、ここまで読み進めていた。

一体最後はどうなるの?

私はもう夢中だった。

そして、ラストで私は歓声を上げた。

『あなたが欲しい。結婚してください。』

ドストレート、この一言に尽きた。

 

「はい、宜しくお願い致しますわ。幾久しく」

 

最後には私もヒロインのつもりで返事していた。

私は思わず余韻にひたりながら、作者を確認すると、

 

『作者 サーゼクス・グレモリー』

 

お兄様なにやってるの!

思わず本を叩きつけようとして、気づいた。

 

『編集 グレイフィア・グレモリー』

『取材協力 ジオティクス・グレモリー』

『提供 グレモリー家、バルバトス家、フェニックス家』

 

まさか家族が作っていたなんて、私は思わずため息をついてあることに気づいた。

もしかして、この若い公爵というのはゲーティアなの?

私は本の内容を確認するため、お兄様に連絡をすると、嬉しそうに答えた。

 

「ああ、そうだよ。あの縁談の場で起きたことまで完全ノンフィクションだったよ。で、どうだった?イヤ~もうあの縁談の後に不休で書いたんだよ。あの時の感動、興奮、全てを詰め込もうと。それにレイヴェルを選ぶ過程は父上とグレイフィアの三人でよく会議したんだよ。朝昼夜の一日三回も一年以上してきた苦労があの一言で吹き飛んでね。更にあの一言はフェニックス卿も一気にゲーティア君を気に入ってね、すぐに婿殿呼びになっていってね・・・・・」

「・・・・・そうなの」

「ああ、その本は是非とも出版して、悪魔界全体に広めようと思っているんだ。実は今、出版できる用意を猛スピードで進めていてね、グレモリー領に印刷所も用意しているんだ。グレイフィアが今方々を巡っているんだ」

 

私はお兄様の話にどんどん気が滅入ってくる。

このままでは私はライザーと結婚することは避けられなくなっていく、と感じた。

確かに御家を守るために政略結婚は必要だとは思う。

でも自分の意志で、せめて自分を見てくれる人と一緒になりたい、という思いすら摘み取られる気がした。

 

「・・・・・・ああ、そうなの・・・・」

 

そう感じた私は、適当に相づちを打ちながら、お兄様との会話を打ち切った。

 

 

私はゲーティアに会いたくなかった。

彼は私に語ったように、貴族として、政略結婚をするつもりだ。

婚約までしたのはその表れだ。

私はゲーティアに会えば、私の全てが否定されると思った。

だから、私はゲーティアが訪ねてくると居留守を使った。

朱乃は困った顔をしながらも、従ってくれた。

どうしても今は会えなかった。

時間が欲しかった。

自分を納得させる時間が・・・

 

このままだと私はライザーと結婚することになる。

貴族として生まれた以上、御家のために結婚するのは仕方がない。

でも、せめて私個人を見てくれる人と結婚したかった。

それが私が願った小さな願い。

でも、ゲーティアに言わせれば、ただの戯言なんでしょうね。

私は涙を流した。

この涙は悲しいのか、悔しいのか、何故だかわからないのに止まらなかった。

 

私が必死で時間を稼いで、心を落ち着けせていたのに、ゲーティアは更なる一手を打ってきた。

祐斗を尖兵として送り込んできた。

 

祐斗から何度もお願いされた、ゲーティアと会って欲しい、と。

正直に自分の気持ちを伝えた、イヤ、と。

でも祐斗は何度も、何度も、お願いしてきた。

今まで、祐斗がそれほど必死に何かをお願いしたことはなかった。

自分のことであれほど必死になるなんて、決してなかった。

だけど、祐斗が必死でお願いしてきた、ゲーティアのために・・・

私は自分の眷属が奪われたように感じて、今までの積もり積もった思いもあって、一言文句を言ってやろうと思って、会うことにした。

決意を引き締めると、ふと、私は昨日のことを思い出した。

 

 

祐斗がオカルト研究部に来なくなった。

来なくなったのは二週間前からだ。

祐斗が来なくなる前に私に許可を求めてきた。オカルト研究部の活動を休みたい、と。

私は祐斗に理由を尋ねると、剣道部の部内対抗戦があるので練習に集中したい、と言った。

私は一時的に練習に集中するから、来なくなるだけだと思っていた。

だから許可を出した。

一週間くらいしてから、まだ祐斗が来ないので、いつ来るのか確認したかった。

何時まで来ないのか、部内対抗戦というのが何時頃終わるのか、私は知らなかったので、朱乃に確認しに行ってもらった。

朱乃から状況を聞いて、私は怒った。

部内対抗戦は二日前に終わっていた。

なのに来なかった。

これは裏切りだ。

だから私は祐斗を呼び出し、問い詰めた。

 

「祐斗、どうして来てくれなかったの?」

 

私は極力、冷静に穏やかに祐斗に聞いた。

私は怒っていない。何か事情があるんだ、祐斗が、私の眷属が私を裏切るわけがない、そう自分に言い聞かせて。

 

「僕、剣道部の部内対抗戦があるので練習に集中したいって、言いましたよね?」

 

祐斗は不思議そうな顔をして、私に聞いてきた。

私が知らないと思っている、二日前に部内対抗戦が終わったことを。

だから惚けて乗り切るつもりだと、私はそう考えた。

でも、私は怒っていない、冷静に優しく答えてあげた。

 

「ええ、確かに聞いたわ。でも、二日前に終わったそうね。」

 

ニッコリ、と優しく笑みを浮かべ、祐斗に答えてあげた。

でも、祐斗の答えは私の想像の上をいった。

 

「はい。二日前に終わりました。次は来月の一日にありますので、練習を疎かに出来ません。」

 

祐斗はニッコリ、と笑顔で答えてきた。

あれ、これ、まさか・・・私はイヤな予感がして、再度祐斗に質問した。

 

「来月って、まさか祐斗、来月まで来ないつもりなの!」

 

私は冷静さを捨て、強い口調で祐斗を問いただす。

 

「僕はリアス部長に剣道部で一番になると言って、剣道部に入りました。でも、一番になるには部内対抗戦で優勝しなければ、部員の中で一番強くなくてはいけないんです。だから、僕が剣道部で一番になるまで、オカルト研究部には来ません。」

 

祐斗は真っ直ぐに私を見つめ、答えた。

その瞳には決意と覚悟が見えた。

私はその決意に満ちた瞳に心動かされた。

 

「分かったわ。頑張りなさい、祐斗。」

 

雰囲気に流されて、私はOKした。

でも、何時頃戻ってこれるか、気になった。

 

「ところで、祐斗。剣道部で一番には何時頃なれるのかしら。来月くらいかしら?」

 

私のかわいい眷属の祐斗がゲーティアの剣道部に負けるわけがない。

負けているのは剣道、というルールに不慣れなだけで、きっと来月には帰って来てくれると信じて聞いてみた。

 

「来年までには帰ってきます。」

「来年?!」

 

私は思わず、瞬時に聞き返した。

何故、貴方がそこまで時間が掛かるのか、想像以上の時間に聞かずにいられなかった。

 

「祐斗!貴方、私の眷属でありながら、ゲーティア傘下の剣道部に負けているとは、恥を知りなさい。どうしてそんなに時間が掛かるの!」

「リアス部長、剣道部は、恐ろしいところです。僕では、上級生は愚か、同級生に勝つので精一杯です。でも、僕は負けません。上級生がいるうちに必ず一番になります。見ていてください部長、僕は来年の全国大会に駒王学園剣道部の大将として、全国大会を制します。」

 

祐斗が燃えている。

決意の炎で燃えている。

でも、私は疑問を持った。どうしても気になった。

 

「祐斗、悪魔である貴方が人間を怪我させないように戦っているんでしょう?だったら加減を覚えていけば勝てるんだから、そんなにかからないんじゃないの?それにゲーティアとゲーティアの眷属の一護も全国大会に出ないんでしょ。だったら、貴方も出れないんじゃないの?」

 

祐斗は私の言葉を聞いて、キョトンとした表情を浮かべ、それからみるみる怒りの表情に変わっていった。

 

「リアス部長は僕が剣道部で手を抜いているというんですか!僕は全力です!それでも勝てない、だから必死で練習しているんです。それでも僕が強くなれば、当然その時間で先輩達は、同級生達は強くなっていくんです。だから、僕も負けない、いや勝てるように彼ら以上に練習しているんです。それにゲーティア部長と黒崎先輩の御二人と僕を比べないでください。僕は御二人のような強者ではありません。ただの弱者です。剣道部の底辺です。漸く最底辺を脱したんです。そんな僕が悪魔だからという理由で、御二人と同格など、そんな思い上がりも甚だしいこと抱けるわけがありません。」

「う、うー」

 

私は祐斗のあまりの剣幕に、怯えて縮こまってしまった。

朱乃がその様子に気付いて、とりなしてくれたので助かった。

私は祐斗が剣道部に取られたように感じて、コッソリ剣道部を偵察に行った。

そこには驚愕の光景があった。

 

「面!」

「遅い」

 

祐斗の動きが躱された、いや、それ以上に驚きなのが祐斗の動きが悪魔の力を全開にしていたのに、ナイトの特性であるスピードを最大限まで高めているのに、躱された。

まさか本当に祐斗が勝てない相手がいるなんて、相手は相当な手練れに違いない。

おそらく、達人いや天才がいたんだろう。

私は自分の中で納得のいく理由を探して当てはめた。

 

「祐斗、まだまだ遅いぞ。踏み込みの甘さがスピードが上がらない原因だぞ。」

「分かった、ありがとう柴田君。」

「なに、俺も楽しいぞ。祐斗が全力を出してきてくれて。でも順位が上がってきたが、まだ30位だろ。俺も次こそは先輩達の牙城を切り崩す。」

「でも、その前に9位になった、本多君に勝たないとね。」

「ほう、言うようになったじゃないか。もう一本行くぞ、祐斗。」

「ああ、次は僕が勝つよ、柴田君。」

 

祐斗が全力で挑んでいく。

練習相手の彼、確か、柴田と言ったかしら、彼が祐斗のスピードについて行く、いや上回っていく。

おかしくない!彼、人間よね。

何で、悪魔の、それもナイトのピースで転生した祐斗を上回る速さがあるの!

私は自分の目を疑った。

でも、それ以上に頭に浮かんだのは彼らのやりとりの中にあった『順位』という言葉。

順位が一番になるまで、祐斗は帰ってこないと言った。

では今の話に有った祐斗の順位は・・・『30位』

嘘でしょ!祐斗が30位なんて・・・

私はこの順位が理解できなかった。

だって、祐斗は悪魔よ。

今のやりとりから見て、ここでは祐斗は悪魔の力を全力で使っているようだ。

それで30位!

この真実に私は頭を抱えた。

いや、もしかしたら彼が特別強いんじゃないか、と思い浮かんで、他の部員を見てみた。

私はまた頭を抱えた。

とんでもない光景だった。

 

「毘沙門天の導きのままに」

「チェストォォォl」

「侵略すること火のごとし」

「是非もなし」

 

圧倒的だった。

そこには人間やめているレベルの戦いが繰り広げられていた。

ゲーティアは一体何を育てているの!

オーガ、キメラ、アンドロイド・・・・・・いや、人間ね。

祐斗より強い人間ね。

私の思考は一周回って落ち着いた。

 

私はオカルト研究部に戻ってきた。

衝撃的な光景を見た後だったので、どうやって帰ってきたのか覚えていない。

私はソファーに倒れこみ、嘆いた。

 

「ああ、きっと祐斗はここには帰ってこない。どうしよう~朱乃~」

「ゲーティア君に相談してみてはどうでしょう?」

「イヤよ!なんか負けたみたいで悔しいじゃない」

 

自分が自信を持って送り出した眷属が彼が作った剣道部員に歯が立たない、だから祐斗を返してください、何て言えるわけがない。

私はリアス・グレモリーよ。

グレモリー公爵家の次期当主よ。

いずれはゲーティアとは公爵家当主として同格になる。

だというのに、グレモリー公爵の眷属は、バルバトス公爵の眷属でもない、ただの傘下の人間に勝てない、なんて評判になるじゃない。

絶対に言えないわ!

 

「リアス部長、いらっしゃいますか?」

「祐斗!」

 

祐斗が帰ってきた。

ああ、私は信じていたわ、私の祐斗は必ず帰ってきてくれるって。

私は思わず祐斗に飛びついて、抱きしめた。

そんな私に驚きつつも、優しい笑みを浮かべて祐斗が私に言った。

 

「リアス部長にお願いがあります」

「お願い?」

 

祐斗は真剣な表情で私に願い出た。

唐突ね、でもいいわ。

何でも言いなさい、聞いてあげるわ。

私は祐斗の言葉を待った。

 

「明日、ゲーティア部長が婚約者のレイヴェル・フェニックスさんとご一緒に駒王学園にいらっしゃいます。その際にリアス部長にご面会を求めております。ぜひお会い頂きますようお願い申し上げます」

「イヤよ!」

「なぜですか!お願いします、リアス部長、お願いします」

「ーー!」

 

祐斗が私にしているお願いは、本来ならゲーティアが来てすべきことだ。

決して祐斗がしていいことでは無い。

まるで、ゲーティアの眷属ではないか。

 

「どうして、貴方がそんなことを言いに来るの」

「ゲーティア部長がオカルト研究部を訪れてもリアス部長は御逢いになって頂けない様なので、お世話になっているお礼として、僕が代わりにお約束を取り付けに参りました」

 

祐斗が私を裏切った。

私のかわいい眷属、家族を奪った。

 

おのれ、ゲーティア!

私の願いも夢も家族まで奪おうとしている、あの悪魔め!

いいわ、もういい。

会ってやるわよ!

 

「祐斗、分かったわ。会うわ、ゲーティアと」

「ああ、ありがとうございます、リアス部長。ではゲーティア部長にご報告に参りますので失礼いたします」

 

祐斗が去っていく。

勢いよく、まるで忠犬が飼い主に褒めてもらおうとしているように、剣道部に走っていった。

私はその背を見ていて、ふつふつと怒りが湧いてきた。

 

ゲーティア、私を怒らせたことを後悔させてあげるわ。

 

side out

 

 



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第18話 ゲーティアとリアス(下)

二話構成の二話目です。
よろしくお願いします。


どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

私とレイヴェルはオカルト研究部の部室前に来ています。

これから、リアスに謝罪に行きます。

部屋に入る前に、考えていた謝罪文の確認をしておこう。

 

私は愚かにも、恋愛というものを否定しておりました。

ですが、こちらのレイヴェルと出会い、恋愛というものの尊さを知りました。

ですから、リアスさん貴方の考えは正しかったです。

ごめんなさい。

 

よし、こんな感じでいいだろう。

あまり、堅苦しく言うと、只形式的に謝罪しているように思えてしまう。

だから飾らない、私の言葉で謝るべきだ。

大丈夫だ、私の隣にはレイヴェルがいる。

私とレイヴェルの様子を見れば、きっとリアスの考えが正しいと、彼女の考えを否定した私が証明できる。

 

「行こうか、レイヴェル」

「はい、ゲーティア様」

 

私とレイヴェルは手を繋ぎ、オカルト研究部の扉をノックした。

 

 

私とレイヴェルはオカルト研究部に入ると、とてつもない圧力を感じた。

背筋が凍るような寒気だ。

発しているのは目の前の、リアスだ。

とても冷たい目だ。

今更何をしに来た、そういう目をしている。

だが、私はここに謝罪に来たんだ。

こうなることは分かっていたはずだ。

ああ、甘んじて受けよう。

 

「失礼する、リアス」

「し、失礼いたしますわ」

 

私とレイヴェルは意を決して、足を踏み入れた。

部屋の中にはリアスと朱乃の二人だけだ。

わたしは一人足りないことに気付いて、思わず聞いた。聞いてしまった。

 

「木場はいないのか?」

 

更に圧力が増した。

どうしたんだ、一体。

 

「祐斗は・・・・・・いないわ・・・・・・もういないの」

「そうなのか、昨日約束を取り付けてもらったから、礼を言いたかったんだが。後でメールしておくか。」

 

キッ!

 

「ん?」

 

リアスに睨まれたような気がしたが、気のせいか。

 

「立ち話もなんだから、座って頂戴。朱乃、お茶をお出しして」

「ああ、失礼する」

「ありがとうございますわ」

 

私とレイヴェルは席を進められたので、座らせてもらった。

生徒会室のときと同じく、ソファーに隣同士で座り、私の前にはリアスが座った。

 

・・・・・・会話が出ない。

空気が重い、気がする。

まあ、仕方がない。

私は彼女の考えを否定した、それは間違いない。

ふっ、と隣のレイヴェルを見て、先程言われたことを思い出した。

 

 

「次に行くのはオカルト研究部、というところに行く。そこはリアスが部長を務める部活なんだ」

「まあ、そうですの。私としてもリアス様にご挨拶しなければ、と思っていましたの。お兄様の婚約者ですので、いずれは私の義姉になられる方です。それにゲーティア様にとってもいずれは・・・・・・フフ」

 

レイヴェルは途中で顔を赤くして、私から顔を背けた。

その先は・・・・・・分かっている。

だが、それだけではないこともレイヴェルに話しておくことにした。

 

「実はなレイヴェル、私はこれから、婚約の挨拶と共に謝罪に行くんだ。」

「謝罪?何かありましたの?」

「実はな・・・・・・私は以前まで政略結婚こそ貴族にとってすべき結婚だと思っていた。」

「ええ、私も同じ考えですわ。」

 

レイヴェルは私と同じ考えのようだ。

同じ意見だと言ってもらえて嬉しい。

だからこそ否定されることは悲しいことだ。

 

「だが、リアスは違う考えだった。私はその考えを否定した」

「どういうお考えですの?」

「彼女は自由に恋愛して結婚したい、という考えだった。それを私は否定した」

「ゲーティア様がその考えを否定されたのは何故ですか?」

「私は貴族、バルバトス家当主だ。故に第一に考えるのは御家、血を継がせること、家を残すことを大事だと、思っている。だからこそ、御家同士のつながりを第一におく、政略結婚は大事だと考えている。それに、リアスの考えのように自由な恋愛ということは、私とレイヴェルのような純血悪魔を種として残すことが出来なくなる。だからこそ貴族として、純血悪魔として責任を、純血悪魔を次代に継承していくことが必要だ。」

「ゲーティア様、素晴らしいお考えです。貴族として正しいお考えだと思いますわ。実際にそのように考え、行動されて、婚約を・・・・・・・私と婚約なさいましたわ。リアス様のお考えが間違っておりますので、ゲーティア様が謝罪にされることはないと思われますわ」

「・・・・・・・私はレイヴェルに出会って、一目見て、・・・・・・家の事など全て忘れた。ただ欲しかった。レイヴェルが欲しかったから告白した。だからリアスの言う考えは間違いではないと思った。」

「!?・・・・・・」

 

レイヴェルは頬を染めて、私から顔を隠した。

だが私も気恥ずかしいので、顔を背けた。

 

「で、であれば仕方がありませんわね。リアス様の考えも100点中10点は合っていた、と言ことですものね。確かに貴族の婚姻というものの本質ではありませんが、結婚の本質ではあるかもしれませんわね」

 

レイヴェルは尚も顔を背けたままだが、納得してくれたようだ。

 

「・・・・・・・ですが、ゲーティア様も真面目な方ですわね。そのような事まで気を回されるとは」

「間違いは間違いだ。なら、間違ったことを謝罪し許してもらう。これは対人関係で大切なことだ」

 

レイヴェルの呆れながらの意見も、分かる。

だが私の経験上こういうことはしっかり謝っておくべきだと、理解していた。

 

「私もリアス様の考えは理解できますわ。貴族に生まれた、と言っても私も自分を見てくれる方と一緒になれるということは嬉しいことですわ。だから、ゲーティア様のプロポーズは嬉しかったですわ」

「・・・・・」

 

レイヴェルは私を見上げながら、そんなことを言ってきた。

私はレイヴェルから顔を背けたが、レイヴェルがクスクスと笑っていることは分かった。

 

 

「お茶が入りましたわ」

 

私がレイヴェルとの話を思い出していると、朱乃がお茶を出してくれた。

 

「ありがとう」

「いただきますわ」

 

私とレイヴェルが共に飲み始める、でも目の前にいるリアスの雰囲気が和らぐことはない。

この紅茶を飲んだら仕掛けよう。

 

「おいしいよ、朱乃」

「痛み入りますわ」

 

朱乃は柔らかく微笑みながら、一礼してくれた。

よし、始めよう。

 

「リアス、本日は時間を作ってくれて感謝する。私とこちらのレイヴェルは先日婚約をした。今まで連絡が遅れてすまなかった」

「いいわ、そのことはお兄様から聞いていたし、何よりオカルト研究部に何度も足を運んでくれたのに、会えなかったのは私のせいだし。」

「そうか、サーゼクス様にも私とレイヴェルの事では色々なご苦労をお掛けした。これからは私も全力を捧げて悪魔界に貢献していきたいと思っている。」

「そう、立派な心掛けね」

 

リアスの雰囲気は変わらない。

ここはひとつ、共通の話題で盛り上げよう。

 

「この度私とレイヴェルが婚約したことで、リアスとは将来的には義理の姉弟ということになるな」

「ーー!」

 

あれ、雰囲気が更に悪くなったな。

義兄であるライザー殿とリアスが結婚して、私とレイヴェルが結婚する。

そうなると義理の兄の奥さんと言うことになる。

そうなればリアスが義理の姉になることは間違いではない。

だが、やはり私とは話したくないんだろうな。

ここはストレートに謝罪することにしよう。

 

「リアス、以前私は愚かにも、恋愛というものを否定しておりました。ですが、こちらのレイヴェルと出会い、恋愛というものの尊さを知りました。ですから、リアスの考えは正しかったです。」

 

どうだ、渾身の謝罪だ。

これならリアスの反応は変わるはずだ。

 

「・・・・・・どう答えればいいのかしら?」

「いや私は以前リアスの考えを否定したから・・・・・・」

「でもあなたは政略結婚するんでしょう?だったら貴方は自分の考えを通したんでしょ。私は家の、『グレモリーのリアス』としてでなく、『ただのリアス』として見てくれる人と結婚したいの。でも、貴方は政略結婚目的でレイヴェルに出会って、恋をした。それは本当に恋なの?」

「・・・・・・私は縁談の席でレイヴェルを一目見て、欲しいと思った。彼女自身が欲しいと。だからこれは恋だと私は思う。」

「始めから用意された席にいたから、誰でも良かっただけでしょう。それに政略結婚したかった貴方がついでにレイヴェルが好きになった、なんて褒められこそすれ、怒られはしないことだわ。」

「だが、リアス・・・・・・」

「私とゲーティアの考えは前提が違うのよ。ゲーティアは政略結婚が一番で、恋愛は二番。私は恋愛が一番で、家が二番よ。ほら、私とあなたは違うのよ。だから貴方が私の考えを肯定したとは言えないわ」

 

リアスの意見に悩んでしまった。

私は彼女の言う通り、本当にレイヴェルに恋をしたのか、よくわからなくなった。

 

「リアス様、ご意見宜しいかしら」

 

レイヴェルがリアスに話しかけた。

 

 

 

side レイヴェル・フェニックス

 

「リアス様、ご意見宜しいかしら」

 

私は先程までのやりとりで危機感を持った。

リアス様の考えは非常に危うい。

そしてリアス様と婚約しているお兄様も。

 

「何かしら、レイヴェル」

「では、リアス様は政略結婚を否定されていますが何故ですか?」

 

リアス様はキョトンとした。

 

「さっき言ったでしょ。私は私として見てくれる人と結婚したいの。だから、政略結婚だと自分を見てくれる人に出会えないわ」

「私はゲーティア様に・・・・・・私が欲しい、と言われましたわ」

 

ううー、自分で言っておいてなんですが、思い出しても照れますわ。

私が照れていると、リアス様は

 

「そんなの財産目当てよ。本当の恋じゃないわ」

 

吐き捨てるように、リアス様が言った。

その言葉で私の心に火が付いた。

 

「リアス様、貴族たるもの御家を残すための政略結婚は必要なことです。そこに愛や恋など不要ですわ。ですが、ゲーティア様は私に言ってくださいましたわ。私が欲しいと、それは私の血筋、先祖から続くフェニックスの血の全てを欲してくださったと言うことですわ。私はフェニックスの家に生まれたことを誇りに思っていますわ。だからこそ嬉しいんです」

「・・・・・・私だってグレモリーの家に生まれたことを誇りに思っているわ」

「でしたら、『グレモリーのリアス』ではなく『ただのリアス』として見て欲しいなどと言うことは決して口に出さないでください。もし、そのような、『ただのリアス』として見て欲しいなら覚悟が必要ですわ。」

「覚悟?」

「はぁ~・・・・・・家を捨てる覚悟ですわ」

 

レイヴェルはため息をつき、答えた。

そんなことも分からないのか、という顔で。

 

「どうして家を捨てる必要があるのよ。私はただ、私として見て欲しいだけよ。家の事は関係なく、ね」

「誰も見ませんわ。リアス様をただのリアス、だなんて。『グレモリー家のリアス』であり、『魔王様の妹』としてしか見ませんわ」

 

私は思わず即答してしまいましたわ。

まさかそんな幼稚な答えが来るとは思っていませんでしたわ。

グレモリー家は一体どんな教育をしてきたんですか。

思わず心の中で盛大に罵倒してしまいましたわ。

でも、表情には出さないように最大限頑張りましたわ。

 

「で、でも私はお兄様とグレイフィアのような、盛り上がる恋がしたいのよ!」

 

貴族の、グレモリー家の次期当主がこれでいいんでしょうか。

お兄様、これから苦労しますわ。

私はお兄様のこれからの苦労とあまりに幼稚な理由に頭を痛めました。

 

「そのためなら、家も捨てて構わないわ」

「でしたら、家を出ていくときには裸で出ていくことになりますわね」

「なんで裸なのよ!普通に服着て出ていくわよ!」

 

またため息をつきそうになった。

どうして分からないのかしら。

 

「リアス様、家を捨てるのに、家が与えた物を持って出ていくんですか?それはただの外出では?」

「そ、それは、いずれ返すわ」

 

私はもう何も言えなかった。

 

side out

 

リアスとレイヴェルの話はヒートアップ、いやリアスだけがヒートアップしていく、そしてレイヴェルはクールダウンしていく。

 

ただリアスの言う、自分だけを見て欲しいという言葉は理解が出来る。

でもその言葉を支える力がないと、周りが、後ろがつらい思いをする。

そのことを分かっているのか。

 

「リアス、一つ聞きたい。君が家を捨てた時、誰が拾う?」

「・・・・・・その時は甥のミリキャスね。お兄様とグレイフィアの子、私が次期当主なのはお兄様が家を出たからで、本当なら私は継ぐ予定はなかったわ。それにみんなはミリキャスに継いでほしいのよ。」

 

私が聞いた質問に不服そうに答えた。

でも、後がいるなら話は早い。

 

「リアス、悪いことは言わん。さっさと、次期当主など辞めた方がいい。」

「何ですって!」

「内政干渉になるからこんなことは本来は言えん。だからこれはただの同級生として、話そう。リアスの次期当主でありながら家のために動く覚悟がないならば、いずれは家を潰すことになる。仮に潰さなかったとしても、跡を継がされる者が苦労するようなことになるのはやめてやれ。あれはしんどいぞ。」

 

本当にしんどい。

私も支えてくれたセバスもしんどかった。

つい先日、全てが報われた。

だがセバスが倒れた。

あれを聞いたときは堪えた。

もしレイヴェルがフェニックスの涙をくれなかったら・・・・・・まずい、泣きそうだ。

でも本当にしんどいことだ。

後を継ぐ難しさ、これを覚えるために、次期当主という肩書がある。

彼女は本来継ぐ予定はなかった、そう言った。

だから彼女の覚悟のなさはそれに起因するんだろう。

そんな覚悟で継げば、彼女の好き嫌いで判断するだろう。

上に立つものとして、自分を殺して、例え親の仇でも家のためになるなら、従うべきだ。

それが当主、家の主の責任だ。

 

「私の父上と母上は・・・・・・まあ、色々あった、その結果、二人は亡くなり、私が跡を継ぐことになった。跡を継いだ時は苦労したな。先代の負債を一手に背負った。周りも敵だらけ、味方は無し。セバスがいたから何とかなったがもう一度同じことをしろ、と言われたら絶対に無理だ。我ながらよくもまあうまくいったものだ。」

 

本当にそうだ。

セバスがいなければ、絶対に出来なかった。

そして無理をさせたから、倒れさせた。

こんなこと事前に防げるなら、例え他人でも防いでやりたい。

ましてや、サーゼクス様とグレイフィアさんの息子だ。

そんな子が無駄な苦労背負うべきではない。

 

「リアス、君が当主としてやったことは全てグレモリー家の責任になる。良いことにしろ、悪いことにしろ、だ。そしてその功績は次代が引き継ぎ、それを繰り返す。だから今、リアスがしようとしている、家を考えない行動は必ず次代当主が責任を負うことになる。君にその覚悟があるのか。だが、次期当主を降りればその時は政略結婚だがな。結局、リアスの運命は政略結婚に行きつくんだ。」

「・・・・・・勝手に決めないで頂戴!私には私の人生があるの。だからこれは私が決めるの。」

「そうだな。勝手に決めたことは謝ろう。そもそも私の意見など、本来は口にしてはいけないことだ。後でジオティクス殿に謝罪しておこう。」

「そこは私ではないのね。」

「当然だ。次期当主を決めるのは現当主だ。私の先程の発言はジオティクス殿の決断に異を唱えることだ。立場上同格の私が言うことはただの内政干渉だ。」

 

私の言葉にリアスはムッとした。

だが私と彼女は明確に違う。

当主と次期当主はそれほどに違う。

そして彼女がわがままを言えるのは次期当主だからだ。

次期当主でないレイヴェルには決して言えないことだ。

私は彼女の先行きと今後の付き合い方に不安を覚えた。

 

「最後にこれだけ言わせてくれ。リアスがライザー殿と婚約している以上、私は君を助けよう。レイヴェルの兄であるライザー殿の婚約者である君を。だがもし君がライザー殿と婚約を破棄するのであれば、その時は覚悟した方がいい。我がバルバトス家は君を全力で見捨てる。決して助けないことをここで宣言しておく」

 

ここが分岐点だ。

貴族であるなら付き合う利点がある。

ジオティクス殿やグレイフィアさん、それにサーゼクス様には本当にお世話になった。

だから、今後も良好な付き合いを続けていきたい。

だがそれは、私の個人的な希望だ。

当主の考えではない。

お世話になったからなどという、義理や人情では当主は務まらない。

だから、ここを分岐点にしよう。

彼女と今後も付き合いを続けていくか、それとも・・・・・・

 

 

私とレイヴェルはオカルト研究部を出た後、二人で並んで歩いている。

彼女を送り届けるため、駅に向かっている最中だ。

時間は夕刻、赤い空が広がっていた。

 

「今日はすまないな、レイヴェル」

「いえ、ゲーティア様が謝られることはありませんわ。ですが・・・」

 

レイヴェルが口をつぐんだ。

リアスの事、いやライザー殿の事を案じているんだろう。

 

結局、私とリアスは分かり合えないんだろう。

先程の宣言は最後通告だ。

貴族の、いや悪魔の世界は契約主義だ。

一度言ったことを覆すことは絶対にしてはいけない。

婚約破棄でもしようものなら、周囲からは白い目で見られる。

リアスのあの調子では最悪そうなりかねない。

 

だから宣言した、婚約が続けば助ける。それ以外は手を引く。

バルバトス家とグレモリー家は直接的なつながりはない。

個人的なつながりはある。

だが家同士でのつながりではない。

だが、フェニックス家を介して縁が出来る。

そのフェニックス家とグレモリー家が手を切るなら、バルバトス家はグレモリー家と家同士でのつながりが無くなる。

その時、助ける必要はない。

リアスがこれ以上愚かなことをしない様に願うばかりだ。

 

 

 

side リアス・グレモリー

 

「ゲーティアッ・・・」

 

私はさっきゲーティアが宣言したことを思い出し、怒りを感じていた。

つい最近まで没落寸前だったくせに、グレモリー家にケンカを売ってくるだなんて。

でも、いいわ。買ってあげるわ、そのケンカ。

そのためにも力が必要だわ、アイツを叩き潰せる力を。

何かないかしら?

私は思考の海に沈んでいくとあることを思い出した。

 

神器だ。

以前ゲーティアが見つけた神器持ちがいたわ。

まだ、ゲーティアの傘下に入っていないはず。

 

「朱乃、以前ゲーティアが見つけた神器持ち、あの後どうなったかしら。」

「神器持ち・・・・確か覗き魔3人の内の一人でしたわね。今はゲーティア君の風紀委員に監視されていますわ。」

「朱乃、あの神器持ち、私の眷属にするわ」

 

私の発言に朱乃は眉を潜めた。

 

「ゲーティア君、いえバルバトス公爵と事を構えるのですか?」

「・・・・・・最悪それも想定すべきよ。だけど今は秘密裏に動くわ。まだ神器が目覚めていないようだし。」

 

どういう神器か、まだわからない。

でも、他に宛てがない。

未知の力だ。不安はある。

だけど現状を打破するために必要な事よ。

 

見ていなさい、ゲーティア。

私は自分の理想を追い求める。

 

side out

 




次回から一気に原作時間に飛びます。
宜しくお願いします。


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第19話 変態転生

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

早いもので3年生に進級しました。

今年で学生生活も最後だと思うと少し寂しい思いがある。

だが、私は公爵家の当主だ。

本来ならこのようなところで学生をしていていい身ではない。

だが、今までの学生生活は私の財産だ。

決して回り道だったと思わない。

 

いかん、感傷に浸っている暇はない。

客人を迎える準備を急がないと。

私が風紀委員室の自分用の机に向かって作業をしていると、コンコン、と部屋のドアがノックされた。

 

「どうぞ」

 

私の返答で、ドアが開いた。

そこには一人の女生徒が入ってきた。

 

「失礼いたしますわ、ゲーティア風紀委員長」

 

入ってきたのはレイヴェルだった。

駒王学園に入学早々に風紀委員に私が任命した。

その後は私の秘書的な役割をしてもらっている。

また、彼女の可愛さに見惚れた輩は私の直属部隊である剣道部の勇士たちが始末している。

 

「ゲーティア風紀委員長、お客様がお見えですわ」

「分かった、ありがとうレイヴェル」

 

いかん、レイヴェルに見惚れて仕事を疎かにしては、色ボケしている場合じゃない。

レイヴェルが連れてきたのは3人の大人の人たちだ。

 

「どうも初めまして、私は警視庁捜査一課警部の目暮と申します。」

「同じく高木です」

「佐藤です」

 

入ってきたのは現役の警察、刑事さんだ。

率いているのは目暮さんのようだ。

恰幅のいい男性だ。

少し腹回りに気を付けたほうが良さそうな体型だ。

高木さんはすらっと背が高い若い男性だ。

佐藤さんはきりっとした女性の刑事だ。

 

「ご丁寧な挨拶頂戴致します。私は駒王学園風紀委員長のゲーティア・バルバトスです。本日はよろしくお願いします。」

「いえ、こちらこそ。所轄の署長である屯田さんからのご紹介とは言え、学生の貴方にお手伝いいただくことに警察官として恥じる思いです。」

 

目暮さんが私に頭を下げている。

だがそんなことを気にしてほしくない。

これはどちらかと言えばこちら、悪魔側のせいだ。

 

「目暮警部、頭をお上げください。私達が出来ることは地域の人たちと情報を共有して、危険な場所から退避してもらうことと退避場所を用意することだけです。そちらのお手伝いなど、何もできません。」

「ゲーティアさん、それだけで十分すぎる程です。市民を守るのが警察の役目です。危険な場所からの避難をしていただけるのは非常に助かります。」

「では、早急に話を始めましょう。一刻も早い解決こそ、皆の望みです。」

「分かりました、ゲーティアさん」

 

そもそも何故警察が、刑事が来ているかと言うと、駒王町で殺人事件が起こったからだ。

事の始まりは数日前、とある民家で起こった。

3人家族が一夜にして、亡くなった。

異変に気付いたのは子供の同級生だったそうだ。

通学の際、いつも一緒に行く友達が呼び鈴を押しても返事がなかったそうで、玄関の扉が開いていたので、中に入ってみると、中で友達のお母さんが死んでいた。

子供は悲鳴を上げ、近所の住人がその悲鳴で異常に気付いた。

そして分かったことは一家全員が亡くなってことだ。

これだけ聞けば殺人事件、人間の殺人事件にしか思えない。

だがこれは悪魔側の事件だ。

その理由は、一家の家長である旦那さんの死体だ。

その遺体は磔にされていた。

ただ、磔にされているだけでなく、逆さに、磔にされていた。

更に文字が書かれていた。

それはエクソシストが使う言葉だった。実際に現場を見た私にはそれが『悪いことする人はおしおきよー』というふうに読めた。

どうやら書いた人物はエクソシスト、それも真っ当なエクソシストではない、はぐれだと推測した。

だが、ことが起こった以上、人間の手が入るのは避けられなかった。

 

結果、今回の事に至った。

だが、可能な限りこちらで対応できるように手綱を握る必要があった。

相手がエクソシストであり、今回の殺され方から見て、被害者はおそらく悪魔の契約者だ。

今回の件はエクソシストが犯人である以上、真っ当な捜査では無理がある。

私としては警察に解決できないから、代わりに解決したい訳じゃない。

今回の事件が三大勢力の争いとなるのか、ただの偶発的な事件なのか、見極める必要があった。

 

 

「では目暮警部、今後ともよろしくお願いいたします。」

「こちらこそよろしくお願いします。」

 

今後の対応について話が終わり、目暮警部達と別れることになり、学園の外までお見送りすることにした。

今後はこちらからの情報を出来る限り提供していくことになった。

また、危険が無いよう最大限配慮された場所でのお手伝いという形に成った。

風紀委員通報用アプリの機能を一時的にアップデートし、位置情報を送信する機能を無断で取り付けた。

これは私と目暮警部達の一部しか知らないことだ。

表沙汰になれば、プライバシーの侵害だと騒がれることは確実だ。

だが私はプライバシーより安全を最重要視している。

批判など後で私が全て被ろう、無事に終われば好きに言えばいい。

3人の刑事が車に乗り込み去っていった。

 

さて、駒王学園の風紀委員長としての仕事は終わりだ。

これからは悪魔ゲーティア・バルバトスの時間だ。

私は一度情報交換のため、ソーナのいる生徒会室に行くことにした。

 

 

コンコン、と生徒会室のドアをノックする。

すると、中から声が届いた。

 

「どうぞ」

「失礼する」

 

私が中に入ると生徒会長のソーナと生徒会役員たちがそこにいた。

私はソーナの前まで歩んでいく。

 

「どうしましたか、ゲーティア」

「ソーナ、警察が動いている」

 

私の発言で全てを察したソーナは、ソファーを指さした。

座れと、行っているようだ。

長い話になりそうだ。

 

「ゲーティア、警察の動きはどうでしたか?」

「私の方から情報を流すこと、可能な限り危険なことがないような配慮をすることで合意した。そして私から提案したが、通報用アプリに位置情報を仕込むことを提案した。さすがにやり過ぎだ、と言われたが押し通した。安全には代えられないと言ってな」

「そうですか、予定通りの動きですね」

 

ソーナが悪い顔で言っている。

まさに悪魔の笑顔だ。

私も同じ顔をしているだろう。

だが、私はその顔を止め、ソーナに聞くべきことを聞いた。

 

「ところで、リアスの動きはどうなっている」

 

私がここに来た理由の半分はソーナへの報告、そしてリアスの動きの把握だ。

あの一件以来話していない。

修学旅行などのイベントでもすれ違う程度だ。

そのため、ソーナ経由で情報を仕入れている。

 

実はあの一件の後、駅までレイヴェルを送った後、ソーナにすぐに話した。

ソーナもリアスの考えは危ういことを理解している。

だが、ソーナもリアスの事を言えないことをやらかしている。

婚約破棄、したことがある。

これを聞いてソーナに説教した。

リアスのところで溜まったストレスを延々と吐き出した。

ソーナも負けじと言い合い、最終的には不毛な争いになっていた。

まあ、それは置いといて、ソーナはリアスの良き理解者になるだろう。

故にリアスはソーナには動向を話すだろうし、聞き出すことができる。

なので、ソーナにはリアスの動きを教えてもらっている。

情報の中継役をしてもらっているんだ。

ただ、中継役をお願いしている手前ソーナからは色々頼まれごともしている。

 

その一つが不良生徒の更生だ。

風紀委員が見つけた不良生徒を真っ当な道に戻している。

その更生した生徒を運動部や生徒会で引き取っている。

剣道部で引き取ろうとしたら、何故か不良生徒全員が拒否した。

それからは引き取り先の各部でエース級の活躍をしており、頑張っているようだ。

引き取り先の部長には、また何かやったら教えてくれるように頼んである。

怠けようとした元不良部員に、『更生プログラム行きにするぞ』というと死に物狂いで練習するようだ。

おかしいな、昔剣道部の土台を築いた、織田、豊臣、徳川にしたのと同じ練習メニューなんだが。

 

「会長、教官、お茶が入りました」

 

お茶を持ってきたのは匙という生徒会唯一の男子だ。

そして、私が更生した生徒でもある。

 

「ありがとう、匙」

「いただくよ、匙」

 

匙は姿勢正しく、一礼をして、下がった。

その姿は執事のようだ。

 

「うまくやっているようだな」

「ええ、ゲーティアのおかげです」

 

初めて会ったときはただの不良だった。

だが彼にも事情があった。

真っ当な道に戻った後は弟妹とも楽しそうにしているところ見ている。

 

「それに彼は眷属になってくれました。私の誇る眷属です。ありがとうございます、ゲーティア。匙と出会わせてくれて。」

 

ソーナは嬉しそうに笑い私に礼を言う。

私はクビを振り、返答をした。

 

「引き取ったのはソーナだ。それに私がリアスの件を頼む代わりに受けたことだ。それに匙が決めたことだ。私は彼の生き方を尊重するだけだ」

 

私はただ依頼をこなしただけだ。

気にすることは何もない。

眷属にしたことも匙とソーナの間の話だ。

私が入る理由はない。

私がそう考え、ふと目の前にあるが匙が入れてくれたお茶を一口飲む。

すると、あることに気付いた。

 

「うまくなっている。アイツあれからの頑張ったんだな」

「ええ、今では生徒会で一番お茶を入れるのが上手くなりました」

 

ソーナが誇らしそうに笑った。

 

「ああ、そうでした。リアスの事でしたね」

「そうだったな、匙の話で盛り上がってしまったな」

 

ソーナが顔を赤くし、照れている。

どうやら眷属を自慢したくて、しょうがなかったようだ。

 

「リアスは現在、眷属を探しているようです。」

「それは、今までと同じだろ?ソーナだって眷属を全員集めていないだろ」

「ええ、そうです。ですがどうやら人間、それも神器持ちを考えているようです」

「神器持ち、か。私の眷属だと楓だけだな、神器持ち」

 

人間だけが神器を持つ。

その特異性は身体能力が劣っていても、異形に勝てる程だ。

 

「悪魔にするなら、特殊な能力を持つ者、強い者を眷属にした方が後々役に立つ。そう考えたんだろう、私も同じだったし。だが、リアスが探していると言っても、そう簡単には見つからないだろう」

「・・・・・・一人、見つけています。ゲーティア、貴方が見つけた者がいます。」

「・・・・・・兵藤一誠、か」

 

兵藤一誠は以前、覗きの現行犯で捕まえた変態3人組の一人だったな。

一度更生プログラムを受けさせようかと、提案したところ女性陣は却下した。

理由は強化された覗き魔は始末が悪い、という意見だ。

確かに、思わず納得した。

その結果、更生プログラム行きは無くなったが、以後も監視が続けられている。

 

「あれからもう一年経つが、未だ神器が目覚めた気配はない。だが・・・」

「どうしました?」

 

一年前に感じた気配は目覚めていないにも関わらず、ディアボロスが反応した。

ディアボロスは強者にしか反応しない。

私の眷属は全員、ディアボロスが反応した者たちだ。

つまり、私の眷属クラスの強さを秘めているということ。

実は匙にも反応していた。

この事はソーナに教える前に転生させていた、後で教えても特に気にもしていなかった。

だが、それほどの強者が二人、近くにいる。

いかん、考えていると笑いが込み上げてくる。

たのしそうだ、そう思ってしまう。

私は口角が上がらない様に、努めて冷静に振舞った。

 

「いや、何でもない。だが、あの変態3人組の一人を引き取るのはどうかと思うが・・・」

「何も考えていないようです。朱乃も心配していました。貴方と事を構えることになるんではないかと」

「それは・・・・・・これから次第だ」

 

私にはそれしか言えない。

ゲーティア・『バルバトス』として判断した以上、後はリアス次第だ。

 

 

生徒会室を出て、風紀委員室に戻ってくるとレイヴェルが仕事をしていた。

せっせと、書類を私が処理しやすいように、分類分けしてくれているようだ。

レイヴェルは私が戻ってきたことに気付いて、笑顔で迎えてくれた。

 

「ゲーティア様、お帰りなさいませ」

「ああ、ただいまレイヴェル」

 

ああ、実に良い。

生前にしたことがないやり取りだ。

思わず顔が緩みそうになったが、何とか引き締めた。

そのまま、私は自分の椅子に座った。

その私の様子を見て、レイヴェルはお茶を用意してくれた。

 

「どうぞ、ゲーティア様」

「ありがとう、レイヴェル。」

「はい」

 

レイヴェルは笑顔を浮かべてくれた。

私の顔が赤く、温度が上がるのを感じた。

 

入学して早々、風紀委員になってくれたが、学園での生活はどうだろうか。

彼女はうまく学園に馴染めているだろうか、いやな思いはしていないだろうか、不安になった。

一度聞いてみよう、もし困っているならば力になろう。

幸い私は権力を持っている。

風紀委員長、剣道部部長、文芸部部長、不良更生指導教官長、後は生徒指導教員とのパイプも生徒会長とのパイプに学園の卒業生たちとのパイプもある。

レイヴェルが不快に思う生徒の一人や二人、余裕で消せる。

 

「レイヴェル、少し聞いてもいいかな」

「はい、何ですかゲーティア様」

「学園で困ったことはないか、何かあれば言って欲しい。人間界で慣れないこともあるだろうし、とにかく困ったことを教えて欲しい」

「そうですわね、大体が慣れればどうということはありませんですし。」

「そうか、だが何か困ったことがあれば言って欲しい。私はレイヴェルより長く人間界にいるので、不便だと思うことが少なくなっていった。だが本来はそう言った疑問や不便を解決することで、他にも波及できるはずだ。」

「はい、分かりましたわ。ゲーティア様」

「後は、クラスには馴染めたか?」

「はい・・・・・・大半とは・・・」

「ん?、大半?」

 

大半とは馴染めたが一部とは合わなかったと言うことか。

よかろう、私の力を見せてやろう。

その生徒には悪いが、レイヴェルの笑顔のためだ、悪く思うなよ。

私が権力を使うことに躊躇いを無くした。

 

「その生徒は誰なんだい?」

「その生徒は・・・・・・塔城小猫さんですわ」

 

塔城小猫、その名前は聞き覚えがあった。

 

「確か・・・・・・リアスの眷属のルークか」

「ええ、そうですわ」

 

レイヴェルが気まずそうに言った。

確かに気まずい。

リアスが義兄殿の婚約を気に入っていないことは分かっている。

私もレイヴェルも・・・・・・義兄殿も。

 

去年の話の後に、義兄殿にレイヴェルが伝えたそうだ。

その時帰ってきた言葉は『好きにさせろ』だった。

義兄殿の言葉は貴族としての責務のために自分を殺した言葉だと理解した。

それ以来、私とレイヴェルは口に出せなくなった。

 

「ゲーティア様、小猫さんのことはリアス様とは関係ありません。私が解決致します。」

「レイヴェルがしたいなら、すればいい。困ったときだけ相談してくれ。」

 

レイヴェルが決意に満ちた眼をしている。

私はレイヴェルに思うようにしてほしいと思った。

 

 

警察と打ち合わせをした日から何日か経った、今日は休日。

時刻は夕刻、私は今、とある公園の近くに来ている。

 

最近おかしな気配が近くにあるようだ。

 

「異形、光の気配、天使か・・・・・・いやこれは堕天使か」

 

どうも近くに光の気配があり、落ち着かない。

そこまで強くはない。

精々が中級、と言った程度だ。

私は最近時間があれば探している、堕天使を。

だがうまく見つからない。

私は感知というものが得意ではない。

力が強すぎて、弱い者の感知が不得意だ。

楓と一護にも探してもらっているが、どうもこの中には感知が得意な者がいないので、発見に時間が掛かる。

 

それに、他にも問題が起きた。

はぐれ悪魔だ。

そちらの対応を幽助と戸愚呂に任せている。

だが、この問題は本来ならリアスが担当する案件だ。

彼女の領地だ、私が手を出していいわけではない。

だが、つい先日学園の生徒が被害に遭った。

私は被害に遭った生徒の名前もクラスも何も知らなかった。

・・・・・・でも、その生徒の友達を私は知っていた。

泣いていた。ただひたすらに、泣いていた。

だから、その子のためにも、その子の友達のためにも、はぐれ悪魔を倒してやりたかった。

だがそれは出来ない。

もしそのはぐれ悪魔が見つかったら・・・・・・この町ごと消してしまいそうだ。

ああ、イライラする、この衝動をぶつけたい。

私の中にある怒りが、憎しみが、力が、溢れる寸前だった。

もし、何か衝撃が加われば・・・・・・

そんな私に声を掛けた、掛けてしまった愚か者がいた。

 

「これは数奇なものだ。地方の市街で貴様のような存在に出会うのだものな。」

 

くすんだ光のような感覚、間違いない堕天使だ。

電柱の上に立つ男、堕天使が降りてきた。

私が探していた存在・・・か分からない。でも、何か分かるはずだ。

こいつだけか、それとも他にもいるのか・・・・・・でもいい。

コイツでいいや。

 

「さて、貴様は・・・ッ!あ、あ、あ、あ、あ、あ・・・・」

 

その堕天使は何故か怯えている。

少し力をぶつけただけで、こうなった。

消化不良だ、この怒りどう晴らそうか。

しょうがない、情報を抜き出すことにするか。

 

「お前、グリゴリ所属か。答えろ」

 

私は努めて冷静に聞いた。

 

「あ、あ、あ、あ、あ、あ」

 

壊れたラジオのようだ。

ノイズが酷い。

正気に戻すため、私はコイツの右足を切り落とした。

 

「あああああああああああああああああ!!!!」

「質問に答えろ。お前はグリゴリ所属の堕天使か」

「い、いいいいえ」

「次だ、他に仲間はいるか」

「・・・・・・」

 

仲間は売らない、という表情だ。

個人的には気に入った、でもいい。

私は右腕を引きちぎった。

 

「ぎゃああああああああああああ!!」

「答えろ」

「あ、ああ、あ、あ、な、仲間は、あと、3、人」

「そうか、目的は」

「あああ、あああ、あ」

「そろそろ、落とす場所がなくなるな」

 

私は淡々と左足を切り落とした。

 

「ぎゃああああ、あああ、あああ、あ!」

「目的は」

「あ、ああ、あああ、あ!」

 

どうやら痛みと恐怖で喋れないようだ。

あと落とせそうなのは左腕だけか・・・・・・仕方がない。

 

「おい、目的は」

「あ、あ、あ、あ、・・・・・・」

「喋らない、いや喋れないか、なら喋れるようにしてやる」

 

私はポケットから一つの小瓶を取り出した。

それには以前レイヴェルから貰ったフェニックスの涙が入っており、私はその小瓶の栓を開けた。

そして、それを降り掛けた。

 

「ああ、ああああ」

 

みるみる、と体の欠損が治っていく。

そして私はその堕天使に告げた。

 

「もう一度繰り返すか、喋るか、どちらか選べ」

「あああああ」

 

目的を話したのは、両腕を失った時だった。

 

「目的がアーシア・アルジェントから神器の摘出、か。堕天使にはそんな技術があるのか。だがそうすれば持ち主はどうなる、答えろ」

「も、持ち主、は、死ぬ」

「だろうな」

 

神器は生まれつきのものだ。

失えば深刻なダメージだとは思っていたが、死ぬことになるとは・・・・・・

私はそんな技術を作った者に嫌悪感を抱いた。

 

「・・・ッ!」

 

堕天使の気配だ。

これがさっき言っていた、仲間か。

私が堕天使の気配を感じて、気配の方向を見る、すると今度は光の柱が上がった。

あの光は・・・・・・リアスか!

あちらは任せよう。

なら、こちらはこちらで出来ることをしよう。

 

「おい、お前。死ぬ前に私の憂さ晴らしに付き合ってもらおう」

「わ、私、は、は、、話した」

 

私は左手をその堕天使の顔の前にかざし、右手を引き絞った。

堕天使は何かを察したようだ。

私は足、腰、肩の順で全力で右手を打ち出した。

その後、堕天使がいた場所には何もなかった。

 

 

堕天使を消滅させた次の日、兵藤一誠の気配が違った。

魔力は少ないが、間違いない。

悪魔だ。

 

変態3人組の一人、兵藤一誠が悪魔になっていた。

 



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第20話 上司への報告

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

兵藤一誠が悪魔に転生していた。

休日の前までは人間だった、一体どうして。

私はとにかく事情を知っていそうな人に聞きに行くことにした。

 

「失礼する、ソーナはいるか?」

 

私が登校早々、ソーナを訪ね、生徒会室に来た。

私が入ると生徒会役員が一斉に私を見た。

早朝から来たことはないので、驚いているようだ。

 

「どうしたんですか、ゲーティア」

 

ソーナが奥からやって来た。

ソーナも私が早朝から来たことに驚いているようだ。

 

「ソーナ、兵藤一誠が悪魔に転生した事、知っていたか」

「どういうことですか」

 

私の質問にソーナの顔つきが困惑に変わった。

どうやら、知らないようだ。

 

「今日私が登校していると、悪魔の気配があった。私が知らない気配だ。気になって見に行くと、そこには兵藤一誠がいた。彼は転生悪魔になったようだ。そして、ソーナの今の驚きようからして・・・」

「ええ、私の眷属ではありません。ということはリアスの眷属ですね」

 

なるほど、やはりか。

ソーナから聞いていたが、やはりリアスが悪魔に転生させたか。

だが一体いつだ?

休日の前には人間だった。

休日中に何かあったか。

 

「ソーナ、すまないが一つ頼まれてくれないか」

「いつものリアスへの調査ですね。分かっていますよ」

「ああ、いつもすまない」

「いえ、それに私も気になりますので」

「あ、そうだ、もう一ついいか?」

 

私は昨日の件を報告していない事を思いだした。

リアスの状況を調べるついでに、リアスに伝えてもらうことにしよう。

 

「他になにかありましたか?」

「堕天使達の目的がわかった」

「ーー本当ですか?!」

 

ソーナも堕天使の存在には気がついていた。

だが下手に刺激して、戦争の火種になることは避けたかった。

 

「都合が良いことに、私に仕掛けて来てくれた。まあ、実際は彼方がこっちに声をかけて来ただけで滅したが、まあ死人に口無し、という事で対応しようと思う。それにグリゴリ所属の堕天使ではないようだし。」

「そうですか、なら下級が暴れた程度で済ませましょう。で、目的というのは?」

「あいつら、人間から神器を抜く事を目的にしているそうだ。抜かれる人間の名前はアーシア・アルジェント。元教会の聖女だ」

「堕天使は人間から神器を抜く技術があるんですね」

「・・・・・・ただし、抜かれた人間は死ぬらしい。まあ生まれつき持っているものを抜かれて、異常が無いわけがない」

「・・・・・・なるほど、そうですね。では、そのことも伝えておきますね」

 

私はソーナに調査依頼と報告をした後、風紀委員室に向かった。

 

 

風紀委員室に到着し、私は報告書を探した。

その報告書は先週一週間の兵藤一誠の監視記録だ。

その報告書には学内のことは記載されているが、学外の事は記載されていない。

当然だ。

学内の事は風紀委員の責務で対応可能だが、学外ではさすがにまずい。

でも一つ分かったことがある。

先週、兵藤一誠に彼女が出来たようだ。

そして、その彼女が『天野夕麻』という名のようだ。

後で、報告書を出した物に確認しよう。

 

 

昼休みになって、報告書を書いた男に確認してみた。

すると、その報告書を書いた者は『天野夕麻』と言うのは知らないと言った。

なるほど、そういうことか。

私は勘違いだったと言い、報告書を書いた男を帰らせた。

私は風紀委員室の報告書をもう一度確認してみると、内容が変わっていた。

わたしの予想通りだ。

『天野夕麻』は堕天使だと、理解した。

すると、先日の堕天使の反応は『天野夕麻』かもしくはその仲間か、あの時の男の堕天使もう少し生かしておけばよかったな。

私は少し後悔した。

私は確認が終わったので風紀委員室から出て、教室に戻ろうとして、あることを思い出した。

私がソーナに伝えようとしたが、時間が無いので後回しにすることにした。

 

 

放課後、私は生徒会室にいる。

私はソーナと向き合って話をしている。

 

「リアスが昨日、兵藤君を転生させたようです」

「昨日、そうか。どこで転生させたか聞いたか?」

「公園のようです。この町の」

「ーー!だとすると昨日の堕天使はリアスが倒したのか?」

「いいえ、堕天使を倒したとは聞いていません」

「そうか・・・・・・」

 

私はあることを考えていた。

今回の一件、堕天使がグリゴリ所属ではないとはいえ、堕天使は堕天使。一度上に正式に報告しておくべきではないだろうか?

少なくとも今回の一件が堕天使と悪魔の戦争の火種にならない様にしておく必要があると思っている。

その辺りを魔王様にキチンと報告し、指示を仰ぐべきではないだろうか、そう考えている。

 

「なにか考えていますね」

「分かるか?」

「ええ、分かります」

 

どうやら私が考え事をしていることはソーナには分かるようだ。

もう3年目だ、長い付き合いだ、と言っていいだろう、私の中では。

私は少し、フフ、と笑ってしまった。

ソーナが訝し気に私を見ている。

いかん、顔を引き締めないと。

私は顔に力を入れ、ソーナを見据えて提案した。

 

「ソーナ、今回の一件、正式に魔王様に報告すべきだと思う。その上で指示を仰ぎ、今後の対応を考えるべきだと思う」

「確かにその通りだと思います。ですが、それはリアスがするべきです。・・・ですが、彼女が報告を上げるでしょうか?」

「・・・・・・無理だろうな。彼女の性格上、きっと自分の領地だから自分で解決する、とでも言いそうだ。」

「・・・・・・そうですね。私もそう思います。ただ、そういう状況ではないと思いますけど・・・・・・」

 

私とソーナは揃ってため息を吐き、別の方向から報告をすることを考えた。

 

「今回の一件、直接的に戦闘したのは私とリアスの二人。だから私から報告を上げることが出来る。それにリアスよりも私の方が公爵で位は上だ。上に報告を上げた際、すぐに話が通るはずだ」

「そうですね。ではサーゼクス様に報告を・・・」

「ん?ソーナの姉上のセラフォルー様ではないのか、外交担当だし、姉の方が話しやすいんじゃ・・・」

 

そう言ったとき、ソーナの顔は今まで見たことがない程の渋い表情に変わった。

 

「えええええ、お姉さま、ですか~・・・」

 

凄まじく渋い表情だ。

心底嫌そうだ。

私はまだセラフォルー・レヴィアタン様にお目通りしたことはない。

外交を担当している魔王様、唯一の女性での魔王様だと言うこと、そしてソーナの姉、と言うことしか知らない。

だが今回の一件は外交問題に発展する可能性がある。

早急に対応するべきだと私は考えている。

サーゼクス様に説明してからセラフォルー様に説明して頂くのは時間が掛かるだろう。

であれば、渋い表情をしているソーナを説得して、セラフォルー様に報告した方がいいと私は考えた。

 

「ソーナ、事は一刻を争うかもしれない。その際、個人の感情を押し殺してでも行動するのが上に立つ者の責務だ。姉上と仲が悪く、どうしても顔も見たくない程、憎み合っているのか。そうであれば、流石に止めるが・・・」

「・・・・・・いいえ、そんなことはありません。ただ・・・・・・ひかないでくださいね」

「あ、ああ」

 

ソーナが暗い目で囁くような小さい声で言った。

何故か切実な表情だ。

どういう姉なんだ。

私は気になったが、ソーナに通信をしてもらった。

そして、ソーナの言葉の意味を思い知った。

 

「ああ~ん!ソーナちゃん!お姉ちゃんに連絡してくれてうれしいぞ☆」

 

・・・・・・言葉が出ない。

これが魔王様、セラフォルー・レヴィアタン様。

い、いかん。表情に出すな。

人は外見、格好で判断してはいけない。

もしこれで、無礼な態度を取ればそれは忠を失うことになる。

なんとしても耐えるんだ。

私はバルバトス公爵家の当主。

こんな苦難、耐えて見せる。

 

「お初にお目にかかります、セラフォルー・レヴィアタン様」

「あれ~、君は誰かな☆」

「はっ、私はバルバトス公爵家当主ゲーティア・バルバトスでございます」

「ああー、君がゲーティア君なんだね!私はセラフォルー、セラフォルー・レヴィアタンだよ~。ソーナちゃんのお姉ちゃんでーす☆」

「はい、存じております。ソーナ殿には日ごろ、大変お世話になっております。」

「そうでしょう~ソーナちゃんは自慢の妹なんだから~」

「はい、とても素晴らしい女性です」

「うんうん、ゲーティア君はとっても見どころがあるよ~」

「お褒めに預かり光栄でございます」

 

よし掴みはOKだ。

後はこちらの要望を出して、その後は・・・・・・ソーナに任せよう。

姉の事は妹に任せよう。

ソーナ、君には期待している。

 

「レヴィアタン様、この度はソーナ殿のおられる駒王学園近郊にて、堕天使が現れました」

「えええ!堕天使~、ソーナちゃん怪我してない、大丈夫、今からそっち行こうか~」

「ご安心ください。幸いソーナ殿には怪我はありません」

「そっか~、それは良かった~、もしソーナちゃんが怪我したら堕天使と全面戦争しちゃうぞ☆」

 

アレェェェェェ、人選間違えた?

戦争回避しようとしたのに戦争に突入しそうな人に連絡してしまったか?

私は猛烈に後悔し、頭を抱えそうだった。

 

「お姉さま、その堕天使の事でご相談が有ってご連絡致しました」

 

ソーナが代わりに話してくれた。

助かる、私はもう限界だ。

私はその場に片膝をつき、控えるようにした。

実際はもう立つ力がないので、膝をついただけだが。

 

「・・・・・・お姉さま、以上が報告の内容です。できれば今後の対応に関してご指示いただきたいのですが」

「う~ん、そうだな~・・・・・・だったら、直接堕天使に文句言いに行こうか☆」

「・・・・・・へ?」

 

ソーナがほけぇとしている。

私も同じだ。

ただ顔を伏せているので、気付かれていないだけだ。

だが、いきなり文句と言っても、何処に行くんだ?

私は考えが追いついていない。

 

「じゃあ、堕天使の本部に乗り込むのはソーナちゃん・・・・・は怪我しちゃうかもだから、ゲーティア君にけってーい☆」

「頑張ってください、ゲーティア」

 

セラフォルー様が私を指名し、ソーナは私を売った。

私に味方はいないようだ。

仕方がない、覚悟を決めよう。

 

「かしこまりました。レヴィアタン様」

 

私は精一杯の礼で答えた。

 

 

私とソーナは通信が終わり次第、その場に項垂れた。

 

「ソーナ、レヴィアタン様は・・・その・・・えーと・・・んん・・・個性的な方だな」

「・・・・・・・・・・ひかないでって言ったのに・・・・・・」

 

ソーナは泣いている。

ひたすらに・・・

 

「まあ、その、なんだ、どんまい?」

「慰めは結構です!」

 

ソーナは目尻に涙を溜めながら、キッと私を睨みつけた。

しかし、先程のやりとりを思い出すと、これからの私の方がかわいそうだと思って欲しい。

 

「ソーナは私を裏切ったよな」

「ぐ!で、ですがここは私が残った方が得策です。貴方ではリアスを止めることは出来ません。ですので、貴方が堕天使の本部に行ってください。頑張ってくださいね」

「はぁ~、分かった。私が戻るまで、リアスを止めておいてくれ。・・・・・・あと、はぐれ悪魔の件だが、トドメはリアスたちに譲る代わりに確実に仕留めたことを私の眷属に見せておいてくれ」

「・・・・・・それでいいんですね?」

「・・・・・・私の個人的な感傷だ。ならせめて確実に死んだことを知れればそれで納得する」

「大人ですね、貴方は」

「公爵を10年やれば歳は関係なくなる」

「分かりました。ではリアスにはそのように伝えます。必ず約束させます」

「ああ、よろしく頼む。では私は用意が出来次第、レヴィアタン様の下に向かう」

 

そう言って私は生徒会室を後にした。

 

 

私は風紀委員室に人間界に来ている眷属とレイヴェルを呼び出した。

これからの動きについて説明しておく必要がある。

 

「ゲーティア様、眷属集まりましてございます。」

 

代表して楓が声を上げた。

 

「ご苦労、実はこれからの動きに関して、指示しておくことがある。まず、堕天使の件は一旦引き上げとする。これから私がレヴィアタン様と共に堕天使と交渉に向かう。そして、はぐれ悪魔の件、これは殺さずに捕らえ、リアスに引き取らせる。その上で確実に殺したことを私に代わり見届けろ」

「ゲーティア様、堕天使の事は後で聞きますが、はぐれ悪魔の件はその対応で宜しいのでしょうか?ゲーティア様の手で撃たれることを望んでおられたと思いましただが・・・」

「・・・・・・構わん。私はそのはぐれが死んだことが確認できればそれでいい」

「分かりました。失礼な質問を致しました」

「全員はぐれ悪魔に対応してくれ」

「は、次は堕天使と交渉の件ですが・・・」

「簡潔に話すと、レヴィアタン様に今後の対応を聞いたところ、堕天使の本部に文句を言いに行こうと、いうことになった」

「・・・・・・」

 

眷属は沈黙している。

 

「ハハハハハハハハ・・・」

 

幽助だけが笑い始めた。

好きなだけ笑うがいい。

後で笑えなくしてやるから。

 

「レイヴェル、私に代わり風紀委員の指揮を頼む」

「はい、分かりましたわ。ゲーティア様」

 

これでこっちは大丈夫だろう。

レイヴェルの指揮能力は私とは段違いだ。

必ずうまくいく。

 

 

side リアス・グレモリー

 

「何ですってソーナ、ゲーティアが戻るまで堕天使に手を出すなって、どういうことよ!」

 

私はソーナが告げてきたことに非常に怒っている。

 

「言った通りです。リアス、ゲーティアが堕天使の本部に交渉に向かいます。それが終わるまで、堕天使に手を出すことは禁止です」

「それが認められないのよ、ここは私の領地よ。堕天使たちに好き勝手させてられないわ!」

「戦争の火種を作るつもりですか?そんなことをすればリアス、悪魔全体の問題に発展します。ですのでそうならない様にお姉さまとゲーティアが堕天使たちと交渉します。対応はその後です」

「なんで私がゲーティアの指示に従わなければならないのよ。それに私に勝手に魔王様に報告するなんて、越権行為よ」

「堕天使と直接戦闘したのはリアス以外だとゲーティアだけです。そのゲーティア自身が報告を上げることの何が勝手ですか。ゲーティアは公爵家の当主です。そのゲーティアがリアス、貴方の領地で襲われたんです。それは本来なら貴方の管理不行き届きだと咎めることも出来たんです。だと言うのに、そういう内容ではなく、堕天使との交戦という内容で報告しているんです。貴方の口を出せる事ではありません。・・・それに貴方は堕天使と接触したというのに何の情報の横通しもありませんでした。堕天使の目的も知らないようですし。」

「堕天使の目的?一体なによ?」

「・・・・・・ゲーティアが堕天使から聞き出しました。とある神器を手に入れることが目的の様です」

「ふーん、神器。へぇー」

「リアス、堕天使よりもはぐれ悪魔の件、どうなっているんですか?」

「まだ見つからないわよ。そう簡単に見つかったら苦労しないわ」

「・・・・・・ゲーティアから連絡です。ゲーティア眷属が総出で探してくれます、トドメは譲る、だそうです。」

「何ですって!私の領地よ、勝手なことしないで!」

「だったら、早く対応したらいいじゃないですか。何でしたら私の眷属も探索に駆り出しましょうか」

「結構よ!」

「では、早急な対応をお願いします。決して堕天使に手を出さない様に」

「分かっているわよ!」

 

ソーナが私に告げて部屋を出ていった。

イッセーが私の近くにやって来た

 

「部長、ソーナ生徒会長って、もしかして」

「ソーナも悪魔よ。この学園にいる上級悪魔は私とソーナと・・・・・・ゲーティアの三人よ」

「ゲ、ゲーティア!!あの『駒王の魔王』が悪魔、何だってあんなバケモンまで悪魔なんですか」

「イッセー君、ゲーティア君はバルバトス家の当主ですわ。決して無礼な態度を取ってはいけませんわ。もしそんなことをすれば私たちでは庇えませんわ。」

「もしそんなことをすれば・・・・・・どうなるんですか?」

「殺されても文句言えませんわ」

 

朱乃がイッセーを脅している。

いや事実だ。

この学園では私よりも公爵家当主のゲーティアの方が立場は上だ。

私の領地だと言うのに・・・・

私は内心面白くない感情が渦巻いている。

 

「イッセー、貴方には期待しているわ」

 

私はイッセーの方を見て、小さく呟いた。

私のためにその力、使いなさい。

 

side out

 



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第21話 供養と交渉

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

魔王レヴィアタン様が堕天使の本拠地グリゴリに直接文句を言いに行こうと言い出し、私は急ぎ、出発の準備を整えている。

堕天使の本拠地を行く以上、手土産の一つでも、持っていくのが礼儀というもの。

手土産を包んで準備をしていく私にレイヴェルが心配そうに声を掛けた。

 

「ゲーティア様、お気をつけ下さい。まだ私、未亡人になるつもりはありませんわ」

「ハハハ、まだ結婚もしていないのに、何を言っているんだい」

「・・・・・・心配なんです。堕天使の本拠地に行くだなんて」

「・・・・・・まあ彼方も魔王様がいる前でいきなりはやり合わないだろう」

 

そう言ってもレイヴェルは暗い表情だ。

レイヴェルは意を決したように、私に抱きついた。

 

「・・・・・・絶対、絶対に帰って来て下さい。絶対に」

「・・・・・・ああ、大丈夫だ、レイヴェル。必ず帰ってくるから」

 

私はレイヴェルを抱きしめ、約束した。

そろそろ行かないと不味いな。

私は名残惜しいがレイヴェルを放し、顔を見つめた。

 

「では行ってくる。後は任せた」

「・・・・・・はい、お任せください。ゲーティア様」

 

私は魔王レヴィアタン様の下に転移した。

 

 

「お待たせして申し訳ありません。レヴィアタン様」

 

俺はレヴィアタン様の下に転移をして、直ぐに謝罪の姿勢を取った。

いくら急に言われたと言っても、目上の者に対して、お待たせしたことに違いはない。

ここは謝罪一辺倒が一番だ。

 

「ああ、ゲーティア君、いらっしゃい。待ってたよ~」

 

にこやかに出迎えてくれる我らが魔王様。

先程映像で見た限りだと、キラキラの魔法使いみたいな恰好だったのに、今はフォーマルな恰好になっている。

良かった、悪魔の外交スタイルが魔法使いルックじゃなくて。

 

「大変お持たせして申し訳ありません。堕天使の本拠に向かう以上、手土産が必要だと思いまして、用意しておりました」

「うんうん、そういうのは大事だね。ところで何を持ってきたの?」

「こちらです」

「・・・えっ!・・・本当に手土産だね」

 

私が持ってきたものに驚き、そして呆れていた。

 

「いけませんでしたか?」

「いいよ、うん。面白そう!」

 

私が持ってきたものは魔王様に喜んで頂けたようだ。

これなら堕天使たちも驚くだろう。

私と魔王レヴィアタン様の二人は堕天使の本拠に向かった。

 

 

side 秋野楓

 

「さあ、私たちもはぐれ悪魔の探索を急ぎましょう」

 

私はゲーティア様が魔王様の下に行かれた後、眷属たちを率いて、二手に分かれて、はぐれ悪魔の探索を開始した。

私と幽助、一護と戸愚呂の二手だ。

もう事件が発覚してから、数日経ってしまった。

ここまでに被害に遭った駒王学園の学生はただ一人だけ。

でも、数じゃない。

1人でも出した以上、最悪なんだ。

私もお父さんとお母さんをはぐれ悪魔に殺された。

だから絶対に許さない。

絶対に見つけて報いを受けさせてやる。

私は強い覚悟で、探索を行っていく。

だけど、どうしても見つからない。

私の神器は戦闘に特化しすぎている。

後は時間を操る魔剣もそれほど長い時間を戻すことは出来ない。

時間を超えることは出来るけど、そうすればもうこの時間ではない並行世界が出来る。

そうすればこの世界は崩壊する。

だから犠牲者を時間を超えて連れてくることも、死ぬ前に戻すことは出来ない。

だからせめて・・・・・・

 

「楓さん、気配が違う。何か、いんじゃねーか」

 

幽助が声を掛けてきた。

助かった、少し考え過ぎていて、周囲の探索が疎かになっていた。

でも、確かに周囲の気配が違う。

血生臭い、匂いがする。

私は周囲の音に肉を咀嚼する音がしたので、そちらに向かうと、そこにいた。

 

「どうやら、当たりの様です」

 

私の言葉で幽助も頷いた。

 

「さて、ゲーティア様から言われた通り、リアスさんに引き渡しましょう。ですがその前に・・・・・」

 

私は自分の神器から、武器を取り出した。

私が取り出した武器は・・・・・・ハリセンだ。

 

「幽助、私が相手をします。リアスさん達への連絡、お願いします」

「ええ~、俺がやりてーよ。楓さん、代わってくれよ」

「また、今度です。それとも後で私が相手をしてあげましょうか?」

「・・・・・・・いいえ、いいです。どうぞどうぞ」

 

幽助が素直に譲ってくれた。

助かります。

 

はぐれ悪魔に対して、私は少し思うところはあります。

主を裏切った悪魔、それがはぐれ悪魔だ。

でも、裏切られる主にも問題がある場合もある。

そこには同情しよう、憐れみも持とう、貴方の不幸を悲しもう。

でも、越えてはいけない一線もある。

誰かに迷惑をかけた場合、掛けざるを得ない場合、状況は色々だと思う。

でも、誰かの命を奪った場合は許されるだろうか・・・・・・否、私は許さない。

私は特に自分が正しいとも、正義だとも思わない。

親が殺されたから許せないのか・・・・・・それもある。

だけど、これ以上私の目の前で誰かの命を奪う存在を生かしておく理由はない。

はぐれ悪魔、一つだけ言っておきます。

私は、ゴキブリは全力で始末する女です。

ムシすら容赦なく殺す女です。

だからはぐれ悪魔でも容赦なく殺します。

 

「死ね、はぐれ悪魔。慈悲はない」

 

さあ、狩りの時間だ。生き残ってください、リアスさんに引き渡すまで。

 

side out

 

side リアス・グレモリー

「はぐれ悪魔が見つかったって本当なの、ソーナ」

「ええ、そうです。ゲーティアの眷属が連絡してくれました。この場所の廃工場にいるようです。急いでください。あまり長くは持たないかも、と言っていました」

「ふーん、ゲーティアの眷属も案外だらしないわね。たかがはぐれ悪魔に苦戦しているなんて」

「・・・・・・とりあえず急いでください。・・・・・・たぶん別の意味だと思いますけど」

 

私はソーナから聞いた場所に眷属を連れて向かった。

裕斗も何とか小猫が連れてきた。

裕斗自身は黒崎一護もはぐれ悪魔の探索に行ったので、自分も探しに行こうとしていたらしく、私たちの情報で都合がいいというふうだった。

そういえば、イッセーとは初対面だったわね。

仲良くなって、剣道部から戻ってきてくれるといいのだけど。

でも、無理ね。

イッセーが裕斗を敵視してるし、裕斗もイッセーに興味を持っていない。

はぁ~、私の眷属たち、もう少し仲良くしてくれないかしら。

私は少し憂鬱な気分になった。

でも、ゲーティアの眷属が苦戦しているはぐれ悪魔を私があっさり倒せば、私の評価も上がるわね。

そう考えていたけど、目の前の映った光景に息を呑んだ。

 

「なによ、これ」

 

目の前にはぐれ悪魔、これは間違いない。

その上に立っているのは、秋野楓。

ゲーティアのクイーン。

普段は物静かな気の利く女性の印象だった。

でも今の姿はなに!

 

「ヒャハハハハハハッハ、オラオラオラオラ、ヒャハハハハハ・・・・・」

 

全身に血を浴び、その身を真っ赤に染め、口元には大きな三日月のような笑みを浮かべ、戦いを、蹂躙を楽しんでいる。

その身は真っ赤で両手の武器も血に染まって、真っ赤だ。

ボロボロなはぐれ悪魔を更に痛めつけ、延々と両手の武器で叩いている。

その武器から異様な、スパーンという音が鳴り響いている。

おそらく彼女の武器だと思うけど、両手でそれぞれからスパーンという音が鳴っている武器なんて私は知らない。

裕斗なら何か知っているかしら、私は久しぶりに裕斗と会話が出来ると思い、話しかけた。

 

「裕斗、彼女の武器、何かわかる?」

「ああ、あれですか。あれ、心が折れるんですよ」

「心が折れる?」

 

何かしら?そんな精神にダメージを与える武器なんて私は知らないわ。

 

「裕斗、知っているなら教えて。あの武器は何なの?」

「・・・・・・ハリセンです」

 

ハリセン?・・・・・・確かツッコミとかに使う、あの、ハリセン?

私の動きから理解したようで、裕斗は頷いた。

 

「ハリセン!」

 

今の目の前の状況がハリセンで起こっていることに、私は開いた口が塞がらない。

今彼女ははぐれ悪魔を両手のハリセンで滅多殴りにしている。

所々空中に浮かせながら、彼女自身も飛びあげり連続で斬りつけている。

空中に上げてから、地面に叩きつけ、叩きつけられた反動でバウンドしたら、それを掬い上げ、また空中に押し上げ、連続で斬りつける。

あまりにスキのない連続攻撃と慈悲のなさに全員が言葉を出せない。

 

「それくらいにしておかないと、そのはぐれ悪魔死にますよ。ゲーティアさんの命令に背きますか?」

 

私たちが唖然としている間に二人の男が集まっていた。

ゲーティアの眷属の様ね。

 

「黒崎先輩、戸愚呂さん。お疲れ様です。」

「おう、裕斗。お前も来ていたのか」

「久しいな、木場」

 

裕斗は二人を見つけると、足早に向かっていき、直立不動の体勢から直角にきれいなお辞儀をして二人に挨拶をしている。

 

「ああ、そうでした。少し感情が昂ってしまいまして、まだ生きてますよね?」

「ああ、大丈夫だ。かろうじて息はあるぜ」

「そうですか、ああ、そうでした、はぐれ悪魔、この写真の子に見覚え、ありませんか?嘘を言えば、もう一回ですよ」

「ああ、ああ、あ、ある」

「そうですか、もういいです。リアスさん、コイツ早く滅してください」

 

楓は私に命令してきた。

私はキッと睨むと、彼女の真っ赤な返り血まみれの姿で両手に持つハリセンが血に染まって、アンバランスな印象でありながら狂気に満ちている雰囲気に呑まれてしまった。

 

「え、ええ、分かったわ」

 

私ははぐれ悪魔の前に立った。

 

「貴方がはぐれ悪魔のバイザーね、言い残すことはないかしら」

「こ、殺して、くれ」

 

凄く切実な声で頼まれた。

悪魔よりも悪魔な楓に恐怖を抱き、早く死にたくなったのね。

何だろう、すごく助けたくなった。

でも仕方がないわ。

私がラクにしてあげるからね。

私は今までにないくらい優しい気持ちではぐれ悪魔を滅した。

 

「これで、彼女も救われます。」

 

楓がそんな言葉を発している。

 

「はぐれ悪魔に同情しているの?」

「いいえ、全然。私が言っているのは、殺された駒王学園の生徒の事です。せめてもう少し前にはぐれ悪魔を消せていれば、こんなことにはならなかったんですが・・・・・・無念です」

 

そう言って、楓達ゲーティア眷属は去っていった。

 

side out

 

side 黒崎一護

 

「一護、ここですよね」

「ええ、そうです」

 

俺達ははぐれ悪魔を滅した後にとある場所に来ている。

ここははぐれ悪魔に殺された生徒の最後の場所。

俺達はせめてもの慰めに、彼女の場所に花を供えに来た。

俺と幽助、戸愚呂、楓さん。全員一度は死後の世界に旅立ったことがある。

そんな俺達に言えることがあるとすれば、死後の世界も悪くはない、ということだろう。

そして、もう一つ言えることは、貴方の死を忘れない、と言ことだけだろう。

俺達には力があったのに、助けれなかった。

全部を助けるなんて、傲慢な考えだと言われるかもしれないが、俺達は悪魔だ。

傲慢で何が悪い。

ここには一番来たかったのはゲーティアさんだろう。

誰よりも責任を感じていた。

亡くなった生徒は、女子剣道部の斎藤さんの友達だった。

だから、斎藤さんが泣いていた時、ゲーティアさんも悔しかったんだろう。

俺も悔しかった。

 

「もうこれ以上、犠牲を出したくないな」

 

俺は自分に言い聞かせるように呟き、彼女に手を合わせた。

 

side out

 

俺とセラフォルー様は堕天使の本拠地にたどり着いた。

どうやら、ここがそうらしい。

本拠地というより、研究所のような外見だ。

 

「さあ、行きましょう」

「はい、分かりました」

 

私はセラフォルー様に続いて、中に入っていった。

すると対応役の堕天使が迎えてくれた

 

「ようこそ、セラフォルー・レヴィアタン殿、そしてそちらは・・・・・・・」

「お初にお目にかかります。私、ゲーティア・バルバトスと申します」

「これはご丁寧に・・・・・・え、バルバトス、もしかして、バルバトス公爵家の・・・」

「ええ、バルバトス公爵家の現当主でございます」

「現当主!?、先代は、あの男はどうしたんですか!」

「父は亡くなりました。もう10年近く前になります」

「・・・・・・そうですか、残念です。彼とは大戦の時に戦いあったんですが、得難い好敵手を失いました」

「いえ、父もそのお言葉が聞けて幸せでしょう」

 

私の父が堕天使にも知られていることに少し嬉しかった。

だが、そんな私を見て、堕天使は私に非常に失礼な言葉を言ってきた。

 

「あの、本当にバルバトス公爵家の方ですか?今までの当主ならこんな理性的な対応しなかったはずですが・・・」

「私は歴としたバルバトス公爵家の当主です。一応武門の家柄であることの心構えはセバスから受けております。ですが、ここは外交の場、そのような態度不要でしょう。」

 

私はバルバトス公爵家の当主の正当性を説いた。

すると、堕天使は震え出した。

 

「セ、セバス!!まだ生きてたんですか!あのバケモノ!あわっわわわわわわっわ・・・・・」

 

この堕天使、相当失礼だな。

だけど、セバスがバケモノなのは認めるが。

堕天使が痙攣しておかしくなったようで、どうしようかと悩んでいた。

 

「ああ、下の者が大変失礼しました。ここからは私が対応させていただきます」

 

出てきたのは男の堕天使だ。

気真面目そうな男だ。

 

「お久しぶりです、セラフォルー・レヴィアタン殿。そして初めまして、ゲーティア・バルバトス殿。私はシェムハザ。グリゴリの副総督を務めております」

「お久しぶりです、シェムハザ殿」

「よろしくお願いします。シェムハザ殿」

 

私たちはシェムハザ副総督に連れてられ、応接室に案内された。

 

「どうぞ、おかけください」

「失礼します」

 

シェムハザ副総督に席を促され腰を掛けた。

 

「本日はどのようなご用件でしょうか。火急の事態とは」

「シェムハザ副総督、堕天使が悪魔の領地に無断で侵犯していることはご存知でしょうか?」

 

シェムハザ副総督にセラフォルー様が尋ねた。

シェムハザ副総督は困った顔をしながら、答えた。

 

「残念ながら、私は存じていませんね。お恥ずかしい話ですが、下級の堕天使達の動きまで、こちらでは管理しきれていないのが実情です。ですので、そのような事情も存じていないのです。」

「そうですか、では管理できていない以上は領土侵犯したということはお認めになられるということですね」

「いいえ。そうは言いません、堕天使の管理は出来ておりません。ですが、だからと言って証拠もないのにあらぬ疑いをかけられるというのは、いかがなものかと」

「では堕天使達が領土侵犯したことに明確な証拠があれば、お認めになられると言うことで宜しいですか?」

「ええ、そうです。明確に領土侵犯した証でもなければグリゴリとしては関与を認めかねます」

「そうですか、こちら手土産なんですが、どうぞ」

 

私はこのタイミングで手土産を渡した。

変なタイミングで渡したことにシェムハザ副総督は訝しんだが、とりあえず受け取ってくれた。

 

「はあ、一体なんですか?」

 

包みを開けて、驚いた。

 

「なあ!」

「そちらが攻撃してきた堕天使の手です。そして、その堕天使の最終消滅地点には足が埋まっています。そちらでお調べ頂ければ、何処で亡くなったか、分かると思いますが、如何ですか。これは領土侵犯した証にはなりませんか?」

 

私が出した手土産にシェムハザ殿は驚かれたようだ。

まあ、いきなり手が出てくるとか、前世ならケンカ売っているようなもんだ。

だが、この世界ではこのくらいは常套手段だ。

相手のクビを送るなんてこともある。

この世界、前世で言うDNA鑑定もなく、誰か特定することが出来る。

なので、手から誰かなんていうのも分かる。

だからこの手は誰が襲ってきたかわかっているぞ、ということを示している。

 

「シェムハザ殿、今回の一件、私たちは拡大を求めません。収束を求めています。こちらとしても、ここで終わりにしたいと考えています。如何でしょう、お認めいただけませんか?」

「・・・・・・なると認めましょう」

「寛大な対応感謝致します。ですが宜しいんですか?調査なさらないで、こちらからの情報を一方的に受けていいんですか?」

「わざわざ、堕天使を解体して、こんな手の込んだ捏造はしないでしょう。それにそちらの要求を聞いてから、対処を考えさせていただきます」

 

シェムハザ殿はこちらの要求を聞いてから対応を考えると言った。

交渉のテーブルに着いた、これでこちらの要求が通るかもしれない。

急がないと、リアスが動く前に交渉を終えないと。

セラフォルーを見ると、私に頷いた。

決めておいた内容をそのまま使おう、これは向こうとしても願ったり叶ったりだろう。

 

「こちらから要求は今回の一件、こちらで解決させていただく。堕天使側は今回の首謀者、レイナーレ及び配下の3名はグリゴリとは関係ないという証文を頂きたい。また、賠償も不要です」

「・・・・・・・それでよろしいんですか。」

「ええ、追加事項は盛り込まないと言うこともその証文に書きましょう。悪魔は契約第一ですので」

「分かりました。こちらに異論はありません。すぐに証文を作成します、少々をお待ちください」

 

そう言って、シェムハザ殿はどこかに連絡して、一人の堕天使がやって来た。

そこには契約の用紙を持っている。

シェムハザ殿はそれを受け取り、契約内容を記載していく。

 

「では、こちらで如何でしょうか?」

 

そこには今回の一件を悪魔側に一任する旨が記載されている。

問題ないな。

俺とセラフォルー様が内容に不備がないことを確認し、そこに一文を追加した。

今後この一件に追加事項を盛り込まない、そう追記した。

シェムハザ殿はその一文を確認し、満足したようだ。

 

「では最後に署名を」

 

シェムハザ殿が先に自分の名前を記載し、次にセラフォルー様が記載していく。

 

「ほら、ゲーティア君も」

「え?私もですか?」

「もちろんです。今回の発端は貴方です。今回の件に関して、見届けた証をお願いします」

 

私も促され、署名を行った。

 

「では、これを悪魔側に、写しを我々堕天使が保管致します」

「はい、ではこれで今回の一件は正式に悪魔側での対応と相成りました」

 

最後にシェムハザ殿とセラフォルー様が握手を交わし、今回の一件の決着を見た。

私とセラフォルー様が立ち上がり、退席しようとすると、シェムハザ殿が声を掛けた。

 

「セラフォルー殿、今回の一件は珍しいですね。いつもならこういう対応ではなく、直接堕天使を始末してから、亡骸を持ってきていたと記憶しておりますが」

「今回はこちらのバルバトス公爵、たっての希望です。私も今回の一件、対応するつもりはありませんでした。ですが、兼ねてからの件に支障が出ないようにしておきたかったので、この対応を取りました」

「そうでしたか。バルバトス公爵、今回の一件、私個人として礼を言います」

「シェムハザ殿?」

「先の大戦から3大勢力は回復しておりません。その状況で、小競り合いとはいえ、争いが起これば煽る者も現れ、その結果激化します。今回の一件、先に手を出したのがこちらだとしても、そちらからの歩み寄りは大変助かりました。ですので、私個人として礼を申します」

「シェムハザ殿、感謝します。矛を収めたのはこちらもそちらも同じです。今回の一件で再度の大戦を起こすわけにはいきません。先の大戦で亡くなった多くの命のためにも」

「ありがとうございます。」

 

私とシェムハザ殿は握手を交わし、外に送られ、帰路に就いた。

 

 

 

side シェムハザ

私はレヴィアタン殿、バルバトス公爵殿の両名を見送り、今回の報告を総督に行うため、奥へと足を運んだ。

 

「アザゼル、入りますよ」

「おう、セラフォルーの件、終わったか」

 

前髪が金髪で顎鬚を生やした、いわゆる「チョイ悪オヤジ」的な外見の男が待っていた。

堕天使総督アザゼル、私たち堕天使のリーダーだ。

 

「ええ、全て終わりました。こちらが証文です」

「証文?珍しいな、いつもなら適当に済ませてんのに・・・・・・おい、これがか?」

 

アザゼルが今回の証文を見て、驚きの表情を浮かべている。

私が彼の立場でも同じ顔をしている。

 

「ええ、今回の発端となる、バルバトス公爵が提案し、それに乗りました。問題ないですよね」

「そりゃ、問題ないが・・・・・・この内容こちらに有利過ぎないか?」

「ええ、ですが彼は先の大戦をもう一度起こすことを何より、嫌ったようです。本来、下級の堕天使の始末にグリゴリに来てまで、今回の一件が大戦に発展しないようにするなど、誰が考えますか?ミカエルでもここまでしませんよ。断言できます。」

「だろうな、天使でもこんなことしないだろうな。それを悪魔がやるとか、どんな奴だコイツ?」

「バルバトス公爵、といいましたよ?アザゼル」

「・・・・・・おいおいシェムハザ、バルバトス公爵って、あのバルバトスだろ?あのバルバトスが力押し以外の方法を覚えたとか、俺はサルが飛行機の操縦を覚えたって方が信じられるぜ。」

「その例えはどうかと思いますが、まあ概ね同意します。ですが、先の大戦で暴れた方ではなく、息子の息子です。その二人はもう亡くなっているそうです」

「・・・・・・そうか、親父の方は死んだのは知っていたが、息子の方も死んでいたのか。だが、その息子の息子がいたんだな。どんな奴だった、親父の方に似て、ねじが全部吹っ飛んだ奴だったか、それとも爺の方に似て、ねじが付いてない奴だったか?」

「それが、とんでもない。とても理性的で今回の提案をしてきたような、誠実な悪魔でしたよ」

「悪魔が誠実って、なんだそれ。やっぱりバルバトス家は誰も理解できないわ」

 

アザゼルが面白そうに笑っている。

まあ、あのバルバトスからあんなまともなのが生まれたとか、どんな冗談だと言いたいですね。

実際会った私も驚きましたし。

 

「だが、まあ俺達と同じ考えを持ってくれた奴がいるのはいいことだな。それも若い世代に」

「ええ、本当に。折角、対外調整をしてきたというのに、今回の一件でご破算になるわけにはいきませんでしたし。」

「ああ、もう少しだ。最近はコカビエルの動きも怪しい。可能な限り急いでくれ」

「・・・・・・そう言うんだったら、仕事してください」

 

堕天使の総督の実力もカリスマ性も信じていますが、この性格だけは信用できません。

 

side out




楓が使用した武器ハリセンについて説明を記載します。
出展作品::テイルズオブシンフォニア

二刀の一種。
斬り攻撃力+850、突き攻撃力+750、命中+30、幸運+30。
復興後のルインの武器屋で40000ガルドで買える。

ネタ武器なのにシンフォニア主人公ロイドのシナリオ上最強武器、マテリアルブレードを超える強さを持っている。


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第22話 悪魔界の将来の問題

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

 

堕天使の本拠地からの帰り、堕天使領を越えたあたりで私はようやく安堵したのか、大きく息を吐いた。

その様子が可笑しかったのか、セラフォルー様に笑われてしまった。

 

「アハハハ、疲れちゃった☆でも今回は良く頑張りました☆お姉さんが褒めてあげます☆」

「ありがとうございます。レヴィアタン様」

 

セラフォルー様が私の頭を撫でている。

いいのだろうか、魔王様にこんなことしてもらって。

でも、振りはらうのは不敬だし、このまま気の済むままにしておこう。

私はセラフォルー様が満足するまで、身を任せた。

すると気が済んだのか、手を止めた。

そして私の顔を見て、聞いてきた。

 

「ゲーティア君、今回の件、何時から考えていたの?」

「はい、最初の襲撃の時、尋問として腕と足を切り落としました。その後情報を入手後に始末しましたが、ソーナに顛末を報告していた時、上層部への報告を失念していたことを思い出しました。そのため、犯人を引き渡した方が確実でしたが、私の独断で始末してしまいました。大変申し訳ございません。」

「ああ、そのことは全然問題ないよ~。それに基本的にそういうことで報告を上げてくれないから、こっちもたまに困ったことになっちゃうんだけど、そこはこのレヴィアタン様が何とかしてあげてたんだから。もっとみんな私に感謝してよね。でも、ゲーティア君はそういうところもちゃんと報告してくれたから、お姉さん感心しちゃった。だから思わず一緒に連れてっちゃいました☆」

 

そうだったのか、悪魔界に報・連・相の概念はないのか。

ルールに縛られた悪魔ってイメージが違うような、でも悪魔って契約にうるさいから、ルールにはうるさそうなのに、どっちが多いんだ?

私がそんなどうでもいいことを考えていると、セラフォルー様が尚も質問してきた。

 

「でも、よかったの?堕天使への要求、あんな内容で済ませて。もうちょっと吹っ掛けても問題なかったのに」

「今回の一件は偶発的な遭遇戦でしたし、私に被害はなく、また相手を殺めたのは私ですので、それが原因で、大戦の火種を作るわけにもいきません。それに、早めにケリをつけておく必要があります。交渉が纏まる前に誰かが暴走してしまえば、それこそもっと大きなことになりかねません。あちらが飲みやすく、こちらの条件をクリアしていれば後は素早く纏めたかったので、落としどころはあれで良かったんです。」

「そうなんだね。うんうん、ゲーティア君、今後は一緒に外交に行かない?君が一緒に来てくれるとお姉さん、とっても助かるんだけどな~」

「いえいえ、ご冗談を。私のような若輩者が出しゃばるようなこと、恐れ多いことです。まして、悪魔界の外交を担うほどの知性も教養もございませんよ。」

 

私はセラフォルー様の冗談に明るく返した。

でも、セラフォルー様もあきらめない。

 

「そうなことないよ~。今回もちゃんと出来てたし、お姉さん的には花丸だったよ~。だから一緒に外交頑張らない?」

「学生生活が今年で終わりですが、来年からは領地の運営を本格的にしていく必要がありますので、そのような重責を担うことなど、とてもとても」

「うーん、そうか。ゲーティア君はもう公爵だもんね、現当主だもんね。ごめんね、無理言って。でも、ソーナちゃんと同い年でこんなにキチンと対応できたから、お姉さん手伝って欲しかったんだ」

「レヴィアタン様、私に過分な評価恐れ入ります。魔王様の命であればこのゲーティア・バルバトス、粉骨砕身ご支援させていただきます」

「本当☆、ありがとう。どうしても手が足りなくなったら手伝ってね☆」

 

外交か、私に出来るだろうか?

でも、魔王様にお願いされて、断るわけにはいかないし。

最悪の場合、惣右介を外交に回すか。

でもこういうことばかりしていたら、惣右介がはぐれ悪魔にならないだろうか?

その場合、私に反逆しても仕方がないだろうな。

誰だって、いやな上司の下にいるのはつらいものな。

私が惣右介の将来を心配していると、セラフォルー様が別の質問をしてきた。

 

「そうだ、ゲーティア君は、フェニックス家のレイヴェルちゃんと婚約しているんだよね。今度映画になるんだよ、二人の出会い」

「映画ですか?私とレイヴェルの婚約が映画になるんですか?」

「そうだよ、知らなかったの?サーゼクスちゃんが書いた小説を元に映画が作られるんだよ。そ・し・て、レイヴェルちゃんの役は私なんだよ☆」

「なんと、そうでしたか。私は知らなかったのですが、魔王様が作られたのならば私に否やはありません」

 

どうやら魔王様が作られたとは、知らなかった。

セバスは何か知っていたんだろうか?

 

「そうだ、ゲーティア君が主役をやらない?この世で一番ピッタリだし、外交デビューの次は俳優デビューとかどう?」

「いえいえ、私に俳優などとてもとても、それに自分役をやるなんて、とてもやりにくいです。そういうのはむしろ見るほうが気が楽ですよ」

「もう、ゲーティア君は若いのにチャレンジ精神が足りないぞ☆もっといろんなことをやらないと折角の時間が勿体ないぞ☆」

 

さすがにこういうことはチャレンジ精神と言われるのは違うと思うんだが、流石に言い返すのはまずいので、あいまいに笑ってごまかすことにしよう。

私がそうやって対応していると、セラフォルー様がさらに質問してきた。

 

「そうだ、ゲーティア君、うちのソーナちゃんのこと、どう思う」

「どう、とは?」

「もちろん、かわいいとか結婚したいとか、そういう感じのどうだよ」

「私はレイヴェルと婚約しておりますが?」

「でも、別に悪魔界の場合、一夫多妻制だし、そんなの気にしないとしたらどうかな?」

「私はあまり器用な男ではありません。結婚相手全員を平等に愛するなど、そんな器量も持ち合わせておりません。私は御家の存続を第一に考えております。気の早い話ですが、多妻である場合、後継者問題が起きれば御家の存続も危ぶまれます。そのようなことでは本末転倒です。それに、ソーナはシトリー家の跡取りです。私はバルバトス家の当主です。もし万一にも結婚した場合、どちらかの家がつぶれる事になります。」

 

そう、子供が多くいると御家騒動にもなる。

だが子供が多いに越したことはない。

まあ、今は捕らぬ狸の皮算用だ。

私はそう考えていると、セラフォルー様がソーナを更に売り込んできた。

 

「ゲーティア君、例えばソーナちゃんとゲーティア君の子供がシトリー家を継げばいいし、バルバトス家はレイヴェルちゃんの子供が継げばいいと思うよ。」

「ですが、そのようにうまくはいかないでしょう。悪魔の出生率は極めて低い、純血悪魔が減少したのは先の大戦で多くの命が失われたこともありますが、現在に至るまでに数が回復していないのは、その低い出生率が原因だと思われます」

「じゃあ、ゲーティア君はどうすれば改善すると思う」

「それは出生率ですか、それとも人口数ですか」

「どっちもかな。ゲーティア君の発想で役に立ちそうならすぐにもやるし、そうでなくても意見がもらえる。どっちもありなんだよ。」

「そうですか・・・・・・出生率の改善につながるかは分かりませんが、思いつくことはあります」

「ほうほう、何々。言ってみてよ」

「認識の改善だと考えます。悪魔の場合、寿命の長さが人間とは圧倒的に違い、一生の考え方が違うことにあります。人間は大体20~40歳くらいの間に子供を作ります。またそれ以上の高齢で作ることはありますが、このくらいを基準と考えると、人間の寿命を80歳までと考えます。すると、人間の四分の一~二分の一の間に子供を作ることになります。ですが悪魔の場合、寿命を1000歳と考えると、250~500歳までの間となります。そうなると子供が生まれるまでに最短で250年かかることになります。まして、悪魔の寿命が10000歳だと仮定すれば、250年どころか2500年かかります。ですが、そもそもこの考え方が間違っているんです」

「どういうこと?」

「まず、人間が子供を作れる期間を先程の20~40年くらいと仮定しているのは、この期間にしか作れないのが前提です。ですがそれは種族的な考えです。ですが悪魔は違います。子供を作れるのは人間と同じ20歳からとすることも、人間の寿命の80歳からともすることが出来ます。先程の最短の250年よりもずっと早いのです。だから悪魔の出生率が低いのはただ作らないだけです」

「・・・・・・・認識を変えるにはどうすればいいと思う?」

「・・・・・・・ありきたりですが、教育とか、啓発キャンペーンとか、そういうのでしょうか?」

「ねえ、ゲーティア君、君、私の右腕やらない?」

 

side セラフォルー・レヴィアタン

「ねえ、ゲーティア君、君、私の右腕やらない?」

 

私はゲーティア君をヘッドハンティングしようとしている。

でも仕方がないのよね。

彼のようにどうして悪魔が増えないのか、どうすれば変えられるか、そういう考えが出来る子はとても貴重なの☆

だっておじいちゃん達はその内増えるからって特に気にしていないし、純血悪魔が貴重という考えから純潔悪魔同士での婚姻を積極的に結ぼうとしているのに、子供が増やし易い環境作りをしようともしていない。

それに、他の魔王のみんなも、それぞれがしたいことをしているだけだし、まあ、私もだけどそれはそれ☆

だけどここにいるゲーティア君なら、その辺りちゃんとやってくれそうだと思うの☆

サーゼクスちゃんにゲーティア君のことを聞いていたけど、魔王に忠誠を示すために、領地の経済を破綻寸前にしてでも忠を示してくれたし、信頼できると思うの☆

それに、今回の外交もちゃんと対応してくれたし、報告してくれたし、後を任せやすいと思うの☆

そうなれば、私がシトリー家に戻って、ソーナちゃんをお嫁に出せるし、そうなればゲーティア君のお嫁さんにしてあげられるの☆

あ、でもレヴィアタンは女性悪魔の役職だから・・・・・・グレイフィアに代わってもらおう。サーゼクスちゃんがルシファーをゲーティア君に代わってもらう、というのはどうかな?

帰ったらサーゼクスちゃんと相談してみよう☆

アジュカやファルビーも巻き込んでみよ☆

魔王にしてしまえば、きっとゲーティア君がいろいろ仕事してくれて、私たちも晴れて自由の身かも☆

よーし、みんな任せて☆

みんなの願い、自堕落に好きなことがしたいという悪魔らしい生活を取り戻すために外交担当セラフォルー・レヴィアタンの交渉力を見せてあげるの☆

 

「ゲーティア君、私の右腕をやってくれたら、色々優遇出来ると思うの☆例えば、財政支援とか、他家どころか他勢力との技術交流なんかで他の領地に差をつけやすいと思うし、そうなると誰もがゲーティア君に一目置くと思うの☆これならバルバトス家も安泰だと思うの☆どうかな、私の右腕やってみない☆ああ、ごめんね、今すぐじゃなくていいよ、全然急がないし、やってくれたら嬉しいな、てくらいだから、それに一度やってみるお試し期間を設けても全然いいし、それにさっきも言ったけど、チャレンジ精神を磨くいい機会だと思ってくれていいからね☆」

 

ゲーティア君に全力でメリットを伝えて、でも二の足を踏むことも考えて、お試し期間でも引き受けやすい状況を作って上げたんだし、これならゲーティア君も受けてくれるはず☆

そうすれば、私たちの仕事も減るし、将来の人材を育成できる、一石二鳥なの☆

さあ、受けてゲーティア君、私たちの明るい未来のために君の力を貸して☆

 

「レヴィアタン様、大変ありがたいお話だと思います」

 

よし来た!

いいよ、いいんだよ、受けていいんだよ☆

悪魔だもん、おいしい話にはちゃんと食いつこうね☆

私は次の言葉を待った。

でも、きっと彼なら答えてくれる、私は確信していた。

 

「ですが、それはもう少し先になるかと思います」

 

んんん?

期待した答えとは違うけど、まあいいとしよう☆

あまり、押し過ぎて嫌悪感を持たれるのはダメだから、ここは一度引こう☆

 

「そうか、残念☆でもいつでも言ってね、ゲーティア君ならいつでも待ってるよ☆あ、そうだ何か困ったことがあったらいつでも連絡してね☆将来の人材育成も魔王の立派なお仕事なんだから☆」

 

今回はゲーティア君と仲良くなれたことだけでも十分な収穫☆

個人的な連絡先を交換して、親しみを持ってもらって、困ってる助けて連絡をして、助けに来てもらって、後はお願いね、ここまでの流れの第一段階が完了したの☆

待ってて、ソーナちゃん☆

ソーナちゃんを魔王のお嫁さんにしてあげるからね☆

お姉ちゃんにお任せ☆

 

side out

 

セラフォルー様と連絡先を交換してもらった。

個人的な連絡先だそうだけど、困ってるときは連絡して、と言ってくれた。

本当にありがたい。

権力者でありながら人格者なセラフォルー様に伝手を作ることが出来た。

これだけでも今回来たかいがあった。

それにまさか、私をセラフォルー様の右腕に推薦していただけるとは、恐れ多いことだ。

まだ悪魔として18年の若輩者をそのような要職に着ければいらぬ厄介を招くかもしれないから、受けにくかったが、それでも、最後まで対応を変えず、ましてや将来の人材育成も仕事だと言ってくださった。

いや、何というかさすが魔王様、見えているものが違うな。

私も剣道部や風紀委員を人材育成の一環で育ててきたという自負があるが、一種族の長ともなると、ここまで懐が深いとは・・・・・・私もまだまだだな。

これからも精進せねば。

私が決意を引き締めているとどうやら、首都ルシファードに到着したようだ。

 

 

堕天使グリゴリの本拠地からルシファードまで、人間界で言うと入国手続きなどを含めて延べ一週間程掛かった。

少し疲れたな、でも人間界の様子はどうなっただろうか。

さすがに一週間では、はぐれ悪魔はともかく、堕天使には手を出していないだろう、早く帰るか。

 

「レヴィアタン様、これで私は失礼いたします。堕天使の件はこちらで対応致します。吉報をお待ちください」

「うん☆待ってるよ、頑張ってねゲーティア君☆」

 

セラフォルー様が手を振って見送ってくれた。

私は人間界への直通ルートを通って人間界に飛んだ。

 



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第23話 対決

side イッセー

俺と小猫ちゃんは廃教会に来ている。

堕天使の根城、そこにアーシアがいる。

ここまで来るのに、部長は禁止した。

生徒会長が禁止したからだ。

それに駒王の魔王もだ。

でも、友達のアーシアを助けたいんだ。

だから、誰が言ったって俺は絶対にアーシアを助けるんだ。

 

「でも、小猫ちゃんまでついてこなくても・・・」

「イッセー先輩だけだと確実に死にますから、仕方ありません」

「だけど・・・」

「本当なら裕斗先輩にも来てほしかったですけど、たぶん来てくれません。剣道部の部員である裕斗先輩はゲーティア先輩に逆らいません」

「そうだ、木場。アイツ、部長の眷属なんだろ。俺のポーンと違ってナイト、っていうスピードが上がるタイプの駒の、アイツなんで部長の眷属なのに駒王の魔王の配下なんかしてんだ?」

「‥‥‥私も詳しく知りません。でも、裕斗先輩、剣道部に入ってから明るくなりました。心から笑ってます。私たちといた時は張り付けた笑顔だったのに‥‥‥」

「うーん、俺には理解できねぇ。だって剣道部、しかも男子剣道部なんて、ヤベェ奴らの巣窟だろ。そんなところにいてなんで笑えるんだ。俺なら美人揃いのオカルト研究部の方が断然いいぜ。」

「‥‥‥裕斗先輩もこれくらい単純だといいんですが‥‥‥そんなことよりさっさと行きましょう。えい!」

 

小猫ちゃんが俺の話を打ち切って扉にケリを入れた。

 

「うわあああ、何て力だ。これがルークの駒の特性か」

 

俺が驚きながら中に入ると白い頭の見覚えのある奴がいた。

 

「ご対面!再会だね!感動的だね!」

「お前、確かフリード!」

「はーい、フリードでーす。クソ悪魔に名前を憶えてもらえるなんて、うれしくないねぇ。どうせすぐに死んじまうだがね!」

 

この野郎、だけど悔しいけど俺じゃあの野郎には勝てねぇ。

俺がそんなことを考えていると後ろから足音が聞こえてきた。

 

「裕斗先輩、きてくれたんですね」

 

俺の後ろに木場の野郎が来ていた。

なんでここに?

俺の驚きをよそに、木場のやつは小猫ちゃんと話している。

 

「小猫ちゃん、どうしてここに来たんだい?ここに来ることはソーナ会長、それにゲーティア部長が許可していないはずだよ」

「イッセー先輩が来たいと言ったので、放っておくと勝手に死んでるかもしれないので、付き添いです」

「そう。でも、感心しないな。今ゲーティア部長が堕天使と交渉してくれている、大戦に発展しない様に尽力してくれている。なのに、こんな行動をとればその尽力を無駄にするかのしれない。小猫ちゃん、そのことが分かっているの?」

「--!」

 

木場の奴は小猫ちゃんを説教してやがる。

 

「おい!木場、小猫ちゃんに、なに説教してやがる。」

「君に言っても分からないだろうから、分かる彼女に説教、というより苦言を呈しているんだよ」

「何だと!」

 

俺が木場の襟首を掴もうと手を伸ばすと、アイツはあっさり躱し、俺を投げ飛ばした。

 

「イテッ!」

「では、お邪魔しました」

 

木場は地面に倒れた俺の襟元を掴み、引き摺って教会の外に出した。

 

「木場、離せ!俺はアーシアを助けるんだ」

「‥‥‥」

 

木場はガン無視で俺を外に連れて行く。

クッソー、俺はアーシアを助けれないのか‥‥‥

 

「この魔力は!」

 

木場が驚き、俺を放した。

一体どうして?

俺は疑問に思っていると、突然の目の前に転移してきた大男がいた。

 

「う、うわああああ」

「戸愚呂さん」

 

俺が驚いていると、木場が大男のことを親しそうに呼びかけた。

 

「裕斗、ゲーティアさんから連絡があった。どうやら交渉はまとまった。堕天使達は好きにしていいそうだ」

「そうですか。ゲーティアさんは今何処に?」

「こちらに向かっている。先程クイーンに連絡が来られたので、もうすぐ来られるだろう。」

「そうですか、わざわざありがとうございます。戸愚呂さん」

 

木場が大男に礼を言っている。

だけど、木場の手を離れた。

今なら、アーシアを助けに行ける。

俺は体勢を立て直し、もう一度教会に走って向かう。

待ってろよ、アーシア

絶対に助けるからな

 

side out

 

side 木場裕斗

 

「彼、行っちゃったけどいいの、小猫ちゃん。さっきの話聞いたよね、もう堕天使を倒してもいいよ」

「裕斗先輩はどうするんですか?」

「僕?部活に戻るけど、もうすぐ部内対抗戦だから練習しないと」

「どうしてですか、どうして、助けてくれないんですか!」

 

小猫ちゃんが感情を露わにしている。

珍しいな、この子がここまで感情的になるなんて。

でも、どうでもいいや

 

「小猫ちゃんが助けるんでしょ?僕はいいよ。彼にはいろんな人が迷惑しているから、どうでもいいよ」

「どうでもいい、て、裕斗先輩はリアス部長の眷属なんですよ、彼も同じリアス部長の眷属なんです。だったら・・・」

「だったら何?」

「‥‥‥助けてください。私と一緒に彼を助けてください」

「‥‥‥はぁ~、さっさと終わらして帰ろ。戸愚呂さん、堕天使は僕が責任を持って、処理します。終わり次第、ゲーティア部長にご連絡致します。その旨、楓さん並びに眷属の方にお伝え下さい」

「ああ、分かった。そうだ一つだけ、あのエクソシストは殺すな。警察に引き渡すのでな」

「はい、分かりました」

 

それだけ言って戸愚呂さんが帰っていった。

僕は踵を返し、再び教会に向かう。

その後ろを小猫ちゃんがついてきた。

 

「うわああああああ!!」

 

兵藤君が傷だらけで教会から飛び出してきた。

どうやらエクソシストに斬られたようだ。

所々浄化されて、焼けただれている。

 

「クッソー!」

 

まだ立ち向かうようだ。

左手の赤い籠手がある。

どうやら彼も神器持ちのようだ。

仕方がない、彼ではあのエクソシストに勝てそうにないし、僕がやろう。

 

「どいてなよ、後は僕がやる」

「な、なんだよ、いきなり!さっきは連れ帰ろうとしたくせに!」

「状況は刻一刻と変化していくんだよ、アレの相手している時間、ないでしょう」

「グッ!」

「さっさと行きなよ。あれくらいなら大した時間かからないし」

「すまねぇ、頼んだ!」

 

兵藤君がエクソシストを抜けて奥に進もうとして、エクソシストが邪魔をしようとしている。

 

「ヒャハハ、ここから先は通れませーん!!」

「通してもらうよ」

 

僕がエクソシストの動きより先に兵藤君とエクソシストの間に体を入れて、エクソシストの動きを制した。

 

「クソ悪魔が!邪魔してんじゃないよ!」

「エクソシストの邪魔をするのも悪魔の仕事なんでね」

 

僕は神器魔剣創造から一振りの剣を作り出し、正眼に構えた。

僕が作った剣は竹刀、この一年に渡って最も長く使った、最も距離が測りやすい剣だ。

 

「ヒャハハ!!そんな恰好の剣でボクチンと戦うつもり、もうちょっと強そうなの作れないの?ププププ」

「安心しなよ、君を殺そうとは思ってないよ。そもそも相手にもならないんだ、君くらいなら。だからせめて怪我しないように刃がない武器にしてあげたよ。ほら掛かってきなよ、強者に挑むのは弱者の特権だよ」

「プッツーン!ボクチンのことなめてんじゃねーぞ!クソ悪魔風情が!」

 

エクソシストは一直線に僕に向かってくる。

物凄い形相で光の剣と銃を僕に向けてくる。

久しぶりだ、真剣な殺し合い。

 

「くらえ!クソ悪魔」

 

エクソシストは右手の光の剣で、僕に斬りかかってきた。

僕は竹刀で、それを逸らし、彼の動きを崩した。

彼は倒れながら、僕に銃口を向けて、

 

「甘ーい!」

 

至近距離から放った。

 

「裕斗先輩!」

 

小猫ちゃんが悲鳴を上げた。

でも遅い。

 

「どこが」

 

僕は竹刀でその銃弾を逸らした。

彼は驚き、唖然としている。

 

「面」

 

僕は驚き、隙だらけな彼に、ビシッと、的確な手ごたえの一撃を与えた。

 

「うっそーん」

 

エクソシストの最後の声はそんな情けない声だった。

そんな倒れこんだエクソシストを僕は拘束した。

後でゲーティア部長に引き渡すことになるだろうし、確かこの町で人殺しをしていたのはエクソシストだそうだから、たぶん犯人はこれだろう。

多少手荒でもいいかな。

僕は魔剣創造で針金のように形状を細く、長く、頑丈に、それでいて柔らかく作り、体を拘束していく。

よし、これで簡単には抜け出せないだろう。

僕は拘束した彼を地面に転がし、その上に腰かけた。

ふっと気づくと小猫ちゃんが僕を見て唖然としている。

彼女、兵藤君の付き添いで来たんじゃなかった?

僕が疑問に思っていると、小猫ちゃんが正気に戻ったのか、僕に質問してきた。

 

「ゆ、裕斗先輩!大丈夫ですか?さっき銃弾が飛んできてましたけど・・・」

「あれくらい大したことじゃない、あんな遅い弾丸なんか止まっているようなものだし、竹刀で弾けばいいだけだし。それより、小猫ちゃんここにいていいの?さっきの彼、奥に行っちゃったけど」

「え、ああ、そうでした。裕斗先輩は?」

「僕はここで待ってるよ。これが動くかもしれないし」

「分かりました。‥‥‥裕斗先輩、変わりましたね」

「そう、まあ肩ひじ張らなくてよくなったからかな」

「そうですか。では私は行きます」

「うん、行ってらっしゃい」

 

僕は小猫ちゃんに手を振って見送った。

さて、今日の分の素振りがまだ終わってないな。

彼らが帰ってくるまで時間があるし、やっておこう。

少しの時間でも僕の好敵手達(ともだち)は強くなる。

彼らの成長速度は光のようだ。

そして先輩たちも今年が最後ということで今まで以上の気迫を感じている。

織田先輩は背後にオーラで出来た人型が出てきたし、豊臣先輩はゲーティア部長に憧れて肉体改造した結果、筋肉の鎧を纏ったようになったし、徳川先輩なんて、竹刀が光輝きだしたし、他の先輩達も人間卒業しだしたし、僕も負けていられない。

今頑張らないと先輩達を倒し、剣道部序列一位の僕の夢が終わる。

僕を育ててくれた、黒崎先輩そして僕のあこがれのゲーティア部長の前で成長した姿を見せるという僕の夢が終わる。

それだけは出来ない、他の何を置いてもそれだけは成さないと。

僕は心も頭も冷静に、落ち着いて一心に素振りをし始めた。

一つの動作も雑にならない様に、心を落ち着かせ、一振り一振り丁寧に振る。

最近では素振りの風切り音が遅れてくるようになってきた。

少しずつ振る速度が速くなったようだ。

少し嬉しい、いかんいかん雑念が混じった。

もう一回最初からだ。

一万回を丁寧に連続で振る、これを自分の日課にしたところ、序列が上げるようになっていき、今は序列11位。

上は先輩と柴田、本多の同級生二人だ。

もう少しだ、もう少しで先輩たちに手が届く。

僕は一心に素振りをしていく。

その風圧で、教会の壁が崩れていくが気にしてはいけない。

雑念を捨てたその先に僕の求める一振りがある、そう信じて素振りを続けた。

 

side out

 

私は駒王町の廃教会の近くまでやってきた。

さっき戸愚呂から連絡があったが、リアスの眷属が廃教会に乗り込もうとしていたようだ。

まだ連絡していないのに見切り発車した形で対応しようとしていたようだ。

全く連絡を受けてから動いてほしいものだ。

こういうデリケートなことを大雑把な対応されては折角、骨を折ったというのに無駄になってしまうじゃないか。

こういうことは主がしっかり責任を感じて説教してほしいものだ。

私がそんなことを考えていると、楓達が近づいてきている気配がしてきた。

どうやら、廃教会の前で合流できそうだ。

それから少しして、楓達と合流した。

 

「みんな、一週間ぶりだ。一週間の間の報告は急ぎを除き、後にしてくれ。まずは堕天使の対応をする。いいな」

「はい、ゲーティア様」

 

楓の返事と共に眷属達は頷き、俺と共に廃教会の向かう。

 

 

ここが廃教会か、実際来たのは初めてだな。

中から、ミシミシと音がしているが気にせず中に入る。

 

「ブンブン・・・」

 

中では裕斗が一心に素振りしている。

良い振りだ。

力みのない、鋭い振りだ。

音を置き去りにした、鋭い振りだ。

だが、その振りで実戦にどう生かす。

私は、床の剥がれたタイルを一欠けら掴み、裕斗に投げつけた。

 

「ーー!ハァッ!」

 

裕斗は反応して、私の投げたタイルに反応し、振り返り様に切り伏せた。

だが、その後はどうだ。

 

「ハッ!」

「遅いぞ、裕斗」

 

私は裕斗に気付かれずに背後に迫り、首に手刀を当てた。

 

「ゲ、ゲーティア部長」

「お前の素振りは見事だ。実に良い振りだ。だが、振ることに意識が行き過ぎだ。常在戦場の気構えを持てと常に剣道部員には指導してきたつもりだが‥‥‥」

「も、申し訳ありません!」

 

裕斗はその場に跪き、謝罪の言葉を述べた。

だが、謝罪の言葉など実戦では何も意味がないことも教えたつもりだが。

 

「裕斗、謝罪など不要。必要なことは実戦すること、ただそれだけだ。」

「は、はい!」

「よし、ここで一本、試合といきたいが、だがお客さんのようだな」

 

どうやら地下から、上がってきた者がいるようだ。

この気配は‥‥‥あのときの力の波動を感じる。

いや、これは‥‥‥目覚めようとしている。

 

「待ってろ!もうすぐアーシアは自由なんだ!いつでも遊べるようになるんだぞ!」

 

奥から声が聞こえてきた。

この声、変態三人組の一人、兵藤一誠か。

リアスの眷属になったようだが、その結果、中の奴の覚醒が早まったか。

でも、まだ完全ではないな。

おそらく彼の感情の昂りで目覚めるかもしれない。

それに一緒にいるのはアーシア・アルジェントか。

どうやら、レイナーレの計画通りに事が運んだようだ。

もう少し早く来ていれば結果は違ったかもしれないが‥‥‥

彼女に罪はない。

ならば、助けるとしよう。

私は目の前の消えゆく命を見捨てるような外道に堕ちる気はない。

 

「いくぞ」

 

私の言葉に全員が奥を目指す。

 

side イッセー

 

「・・・ありがとう・・・」

 

アーシアの最後の言葉だった。

何でだ、何でだこの子が死なないといけないんだ。

 

「なあ神様!神様いるんだろう!?悪魔や天使がいるんだ、神様だっているんだよな!?これを見ていたんだろう!?この子を連れて行かないでくれよ!ただ友達が欲しかっただけなんだよ!ずっと俺が友達でいます!だから頼むよ!この子にもっと笑って欲しいんだ!なあ頼むよ!神様!俺が悪魔になったからダメなんすか!?この子の友達が悪魔だからナシなんすか!?」

 

俺が天に届け、とばかりに張り上げた声は、悪魔に届いた。

 

「その者の命、私が、私たちが救おう」

 

入口に近い扉から出てきたのは『駒王の魔王』

俺は無意識に願った。

 

「お願いします!アーシアを助けてください」

 

俺は縋り付いた。

神でも悪魔でもアーシアを助けてくれるなら、誰でもいい。

助けてくれ、俺の叫びは届いた。

 

「いいだろう、楓。時の魔剣を」

「はい、ゲーティア様」

 

綺麗な女の人、確か秋野先輩、て言ったけ、その人が剣を出して、アーシアにかざした。

 

「時間停止」

 

アーシアの体が動かなくなった。

どうしてだ、助けてくれるって言ったのに。

俺が『駒王の魔王』を睨むと、アイツは言った。

 

「この子は神器が抜かれている。このままでは回復させることが出来ない。だから取り返せ、彼女の神器を。今は楓の力で時間を止めている。今ならまだ神器を取り戻して、彼女に帰せれば助けることが出来る。さあ、言え。お前はどうしたい?」

 

俺にどうしたいと聞いてきた。

俺はアーシアを助けたい。

だけど、ここでこの人たちの力を借りて助けたいんじゃねぇ!

俺がアーシアを助けるんだ!

 

「俺がアーシアの神器を取り戻すまで、待ってもらっていいですか」

「私たちが取り戻してもいいが?」

「‥‥‥俺が、友達の俺がアーシアを助けます。俺にやらせてください!」

「フッ、好きにしろ!お前の魂の赴くままに進め!」

 

『駒王の魔王』いやゲーティア先輩が俺に笑いかけ、託してくれた。

アーシアを助ける事を許可してくれた。

待ってろ!アーシア、俺が絶対に助けて見せるから!

 

「アハハハハハ!!アーシア、死んでしまったのね、残念だわ。でも、ありがとう、貴方のおかげで私は治療が出来る堕天使としての地位が保証されたのよ」

「レイナーレ!!てめえをぶっ倒して、アーシアを取り戻す」

『Dragon booster!!』

「アーシアを返せぇぇぇぇぇぇぇ」

 

俺の叫びに呼応して、左手の神器が動きだし、宝玉が輝く。

籠手が変形して、紋様が浮かび、力が高まっていく。

この力、体から湧き上がる力が増幅されていくみたいだ。

今の俺なら、レイナーレをお前をぶっ倒せる!!

 

「ウオオオオオオオオオオ!!!」

 

side out

 

あれはドラゴン、神殺しの一つ、『赤龍帝の籠手』だ。

初めて見たな、確かあれは持ち主の力を十秒毎に倍化していく。

力が小さいうちはまだいい。

だが、あれは持ち主の限界が来るまで、際限なく力を増幅していく。

ああ、いい。

実にいい、力の化身たる龍を宿す神器。

アイツが強くなれば強くなるほど力が強くなっていく。

戦いたい、アイツと戦いたい。

だが、今は違う。

アイツが何百、いや何百億以上に強くなろうとも今のアイツでは私は満足できない。

もっともっともっともっと‥‥‥強くなってくれ。

私の渇きを満たすほどに強くなってくれ。

あの程度では、何百億倍強くなっても、軽く一撃で消し飛ばしてしまう。

それくらいなら織田の方がよほど相手になる。

だから今は我慢しよう。

立派な花を咲かせるその日まで。

 

 

どうやら、レイナーレはここまでだな。

兵藤の一撃で、気絶しているようだ。

では、早くこの子を助けてやろう。

 

「兵藤、立てるか」

 

私は座り込んでいる、兵藤に手を差し出し尋ねた。

 

「は、はい」

「早く彼女を助けてやろう、お前が助けたかった彼女を」

 

私の視線で兵藤は頷いた。

どうやらレイナーレが神器を取り込んだようだが、まだ馴染んでいない。

これならすぐに剥がせるな。

私はレイナーレに近づき、魔力を使い、異物を取り外した。

緑の光が出来上がった。

どうやらこれが神器のようだ。

 

「兵藤、これを」

「はい」

 

私は兵藤に神器を渡した。

兵藤は私から受け取り、アーシアの体に神器を乗せると、吸い込まれるように彼女の体の中に入っていった。

これで大丈夫だろう。

 

「楓、頼む。」

「はい、ゲーティア様。時間回帰、肉体のみ対象」

 

楓がアーシアの体を少し巻き戻す。

死ぬ寸前ではなく、元気な時間まで。

彼女は一度死んでいるので、体の細胞が死んでいる可能性もあるし、何より障害が残るかもしれない。

なら、体だけ元気な状態に戻せば、神器が戻っている今なら全て問題なくなる。

楓もその辺りは分かっているようで、少しづつ時間を戻していく。

 

「ふう、終わりました」

 

楓が時間の回帰を止めた。

するとすぐに、アーシアは目覚めた。

 

「あれ?私、どうして・・・」

「アーシア!!」

 

目覚めたアーシアに抱き着いていく兵藤。

さすがに止めるのはやめてやった。

今回は頑張ったからな、それに純粋な気持ちの発露だ。

邪でなければ、今回は大目に見よう。

 

「良かったな。アーシア、もう大丈夫だ。」

「イッセーさん」

 

さてこっちはこれでいいだろう。

後は‥‥‥

 

 

私たちは廃教会を出た。

アーシアは楓が適当にだした、マントを身に纏っている。

私が居た場所の下にはリアスの眷属が神父と戦っていたから、戸愚呂と幽助に助けに行かせた。

裕斗が捕縛した、エクソシストは後で警察に引き渡そう。

もう逃げれないように、力を奪っておこう。

私以上の力でないと解けないように頑丈に、そして雑に作っておこう。

封印は精密に作るより、適当、いやランダムに作っておくと、解除をするには力尽くでしか無理になる。

 

「よし、これでいい。あとで目暮警部に連絡しておこう」

「クッソ、クソ悪魔、これを解きやがれ!」

「人間よ、人間として裁かれろ。一生かけて罪を償え!」

 

私は威圧を込めて、睨むとエクソシストは気絶した。

まあいい、うるさくなくて都合がいい。

 

さて、後は堕天使たちの処理だ。

ここからは領主様の御仕事だ。

 

side リアス・グレモリー

「遅かったな、リアス」

 

私にそう言ってきたゲーティア。

私は、その言い方にカチンときた。

 

「久しぶりね、ゲーティア。随分と待たせてくれたじゃない、それでどうなったのよ堕天使との交渉は」

「これだ」

 

ゲーティアは私に一枚の書類を渡してきた。

その内容を見て、私は驚愕した。

 

「写しのコピーだが、今回の一件に関して堕天使副総督シェムハザ殿、我らが魔王セラフォルー・レヴィアタン様の間で取り交わされた証文だ。私も調印の見届けとして、サインしている。その書類は先程、堕天使レイナーレに

見せて、彼女は堕天使から見捨てられたことを理解して、この調子だ」

「‥‥‥」

 

反応がない。

当然ね、堕天使の副総督、いや堕天使全体に見捨てられたようなものだ。

彼女はもう堕天使でもない、存在として生きていくことになるだろう。

 

「さて、リアス。私はもうこれ以上、手は出せない。堕天使の一件は証文として残された。後はこの領地の管理者であるリアスの采配次第だ。ただ、魔王レヴィアタン様への報告があるので見届けさせてもらう。さあ、どうする」

「ッ!、分かってるわよ。レイナーレは私の領地を荒らしたのよ、よって死を与えるわ」

 

リアスはそう言い、手に魔力を集め、レイナーレに放った。

 

「‥‥‥」

 

レイナーレは何も言わずに消滅した。

 

「さて、他の堕天使たちも頼んだぞ。では私たちは帰る」

「ええ、さっさと帰りなさい」

 

全く、私の領地で好き勝手してくれて、今に見ていなさい、ゲーティア。

でも、彼女のことは感謝しておくわ。

 

side out

 



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第24話 事後処理

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

この始まりも久しぶりだ。

廃教会の一件から数日が経った。

あの後の事を報告書にまとめて、セラフォルー様に報告したんだが、何故か渋い表情だった。

送った内容は次の通りだ。

 

・関係者全員に連絡したところ、グレモリー眷属の兵藤一誠、塔城小猫の両名が先行して堕天使に向かって行ったことが判明。

・グレモリー眷属を止めたのは同じグレモリー眷属の木場裕斗。

・はぐれエクソシストを撃破、撃破者は木場裕斗。

・堕天使のレイナーレを撃破、撃破者は兵藤一誠。

・アーシア・アルジェントは、神器を抜かれ一度仮死状態に陥る。その後、兵藤一誠のレイナーレ撃破により、神器を取り返す。神器をアーシア・アルジェントに返したことで、息を吹き返す。

・堕天使レイナーレは領地管理者リアス・グレモリーによって消滅。また、他に潜伏していた堕天使カラワーナ、ミッテルトの両名もリアス・グレモリーによって消滅。

・はぐれエクソシストはリアス・グレモリー管理地において悪魔の契約者を殺害。はぐれエクソシストは今回の一件で捕縛後に人間界の警察に引き渡し。またその際に力が使えないように封印を施した。施行者はゲーティア・バルバトス

・アーシア・アルジェントの処遇は領地管理者リアス・グレモリーに一任。後にグレモリー眷属に転生。

 

また本件とは関係ないが、気付き事項を以下に記載

・リアス・グレモリー管理地において、現地の人間がはぐれ悪魔によって死亡。管理者リアス・グレモリーはアガレス大公から連絡がない限りは積極的に動くことはない。また本件は日本で行われたことであるため、日本神話に対して、謝罪及び賠償が発生する可能性があり。

 

この内容で報告したんだが、どうしてだ?

細かすぎて不要な情報まで送ってしまったから読みにくかったのだろうか。

 

side セラフォルー・レヴィアタン

 

「以上が本件並びに駒王町内で起こった事件の報告となります。」

「うーん、そうか~」

 

私はゲーティア君から報告を聞いて、いくつか思ったことがあったけど一つどうしても言いたい。

『リアスちゃん、何やってたの!』

この一言に尽きた。

出てきた登場人物はリアスちゃんの眷属しかいない。

確かに眷属の功績は主の功績というのはある。

実際にファルビーだって、眷属任せだけど最後は一応自分でやる。

最後に消滅させたのがリアスちゃんなだけで、他は眷属が頑張ったことは分かった。

それに、これだけ的確に報告したと言うことはゲーティア君自身が近くにいた、ということなんだよね。

その上で、手柄だけはちゃっかり持っていくし、ゲーティア君が助けた、アーシアって子もリアスちゃんが持っていったし、今回の一件で一番頑張ったのはゲーティア君なのは私が一番よく知ってるのに、なんかムカムカするな~。

でも、ゲーティア君が特に気にしていないし、もうちょっと欲張りになってもいいのに、このままだといいように利用されるだけだよ、お姉さん心配だよ。

後、最後の管理地の人間が死んだことは‥‥‥またゲーティア君と一緒に外交に行かなくちゃ。

もう、リアスちゃんは‥‥‥後でサーゼクスちゃんに言いつけよう。

グレイフィアが代わりにお説教に行くだろうし。

それにしても、リアスちゃんからは何も報告が上がってこないし、サーゼクスちゃんの方に上がっているのかな?

でも、そういうのは共有することにしているから、上がれば私の耳にも入るはずなんだけどな~。

それにもし上がっていないとなると管理者として資質が問われるということ分かっているのかな~、もうリアスちゃんの仕事、全部ゲーティア君に任せたいよ~。

 

「何か報告に不備がありましたでしょうか?」

「ああ、ううん大丈夫。報告自体には不備はないから」

 

報告自体には不備はないけど、リアスちゃんの対応自体には不備があった、なんてゲーティア君に言っても仕方がない。

言いたいけど、言えない、だからゲーティア君に不安な顔を見せれない。

でもこの際、少しぐらいご褒美を上げたほうがいいよね。

そうしたら、他の子ももう少し頑張ってくれるかも、よしゲーティア君が欲しいものを聞いて、後で用意しておこう。

 

「ゲーティア君、お疲れ様。今回の一件、一番の功労者は君だよ。だから後でご褒美を上げようと思うの。ゲーティア君は何か欲しいものはないかな。お姉さんが用意してあげるよ☆」

「いえ、レヴィアタン様。お心遣い大変ありがたく思います。ですが今回の一件は私が堕天使と遭遇し、事を起こしたことが発端です。ですので、そのような恩恵に預かるなど厚顔無恥も甚だしい限りです。」

「ちっがーう!そうじゃないのよ、ゲーティア君!ここはちゃんと受け取ってよ、そうでないと他の子たちが頑張ってもご褒美上げれないでしょう!信賞必罰は将の務め、て聞いたことがあるし、ちゃんとご褒美上げないと、下の子もやる気出さないし、それに、向上心が芽生えないでしょう!だからゲーティア君、今回から頑張った子たちにご褒美を上げる事にしたから、さあ言って。ゲーティア君が今欲しいものは何?」

 

ごめんね、ゲーティア君。

ちょっと、お姉さん、怒っちゃった。

大丈夫かな?ゲーティア君、怒ってないかな。

私がゲーティア君の様子を伺うとちゃんと考えてくれている。

良かった、ご褒美に上乗せするね。

 

「今欲しいものですか?‥‥‥優秀な技術者と人手でしょうか?」

「技術者と人手をバルバトス公爵領に派遣すればいいの?」

「ええ、実はうちの領地で新しい研究をしているんですが、何分技術者不足で手が足りていないのです。頭脳面は問題ないんですが、リソースが足りないので、発展が進まないのが現状です。なので、優秀な技術者たちを集めて発展速度を進めたいと思っていました」

「なるほどね~領地経営してる当主としての目の付け所だね☆よし、任せて。お姉さんが今回のご褒美として、技術者たちを集めてあげる。ちゃんとそういう伝手はあるからね。吉報を待っててねぇ~☆」

 

私はそう言って、通信を終了した。

とりあえず魔王会議を招集して、今回のゲーティア君の功績を伝えよう。

そうすれば、ゲーティア君のご褒美も通りやすい。

後はリアスちゃんのこともサーゼクスちゃんに言っておかないと。

サーゼクスちゃんのお気に入りのゲーティア君が困っている、て言っておけば、リアスちゃんを怒ってくれるだろうし。

サーゼクスちゃんもこれで認めるでしょう、私の妹、ソーナちゃんの方が、サーゼクスちゃんの妹、リアスちゃんより優秀だと証明したよね。

私はウキウキしながら、魔王会議の招集を出した。

あ、そうだ、技術者とか、アジュカちゃんに聞いてみよう。

きっといい人材いるよね。

 

side out

 

セラフォルー様との通信を終えて、息を大きく吐いた。

まさか、ご褒美を上げると言われ、辞退しようとしたら、『信賞必罰は将の務め』というお言葉に思わず感じ入ってしまった。

上の者が下の者を評価し、褒美を与える。

実に分かりやすく、とても難しいことだ。

さすが魔王様だ。

人間ではそう簡単にできないことだ。

ブラック企業の社長とかなら、そんなことは決して言わない、そうだ。

前世の自殺した友人はそう言っていた。

だが、丁度良いタイミング、と言って良いのか分からないが、領地の報告書が手元に有って良かったな。

先々の工程表が目に入り、人材不足が原因で並行作業も、作業加速も、有給休暇の取得も出来ない状況だと分かった。

ならば、人材を募る事は問題ないはずだ。

清麿とデュフォーなら最適な割り振りも可能だろう。

技術者も分野が色々あるから、今回は指定できなかったが、魔界の技術者というのは二人にとっても未知だろう。

だからこそ進化が生まれる、ぶつかり合うからこそ発展する。

そういう信念を持った人が来てくれると良いんだが。

 

「ゲーティア様、お茶が入りました」

 

私が考え事をしていると、レイヴェルがお茶をだしてくれた。

先程の報告で少し喉が渇いていた。

 

「ありがとう、レイヴェル」

 

私は一口お茶を口に含むと、オレンジの爽やかな香りが鼻を抜けた。

私は驚き、レイヴェルを見ると、笑った。

 

「今日はオレンジティーを作ってみました。ゲーティア様がお好きだと聞いておりましたので」

「え、私がこれを好きな事を知っているのなんて・・・・・・グレイフィアさん、か。」

「ええ、堕天使領に向かわれた後にこちらに来られて、教えて下さいました。帰って来たら驚かせてあげるように、と言って。」

「そうか。いや、驚いたな。」

「でも、本当に何事もなくお戻りになられて本当に良かったですわ。」

「ああ、実際どうなるか不安ではあったが、実際は何もなかった。今回の件も、本来ならあのような対応をしなくても問題なかったが、堕天使副総督殿とも面識ができた。今回の危険に対してリターンも十分な程だ」

「そうですか。でも、私は心配で心配で泣きそうでしたわ。」

「そうか、それは困ったな。レイヴェルを泣かせたら、義兄上殿の炎に焼かれてしまうな」

 

私の返しに目を丸くし、その後笑い出した。

だが、義兄上殿に言われたからでなくとも、私はレイヴェルを泣かせるつもりはない。

いつもこのように笑ってくれていれば良いんだがな。

私はもう一度オレンジティーを飲み、レイヴェルを見ながらそう思った。

 

side ライザー・フェニックス

とある峡谷、切り立った断崖にいくつかの横穴が空き、そこから大きな龍たちが姿を現す、周囲を深い山に囲まれた龍の谷。

俺は今ここにいる。

いる理由はただ一つ、己を鍛えるため。

 

「ウオオオオオオ!!ムダムダムダムダムダムダムダムダ、ムダァーーー!!」

 

ドスッーン!、大きな質量が倒れ行く音が周囲に響いた。

立っているのは、ライザー・フェニックス。

倒れたのは、最上級悪魔にして元六大竜王のタンニーン。

今から約一年前から、今日に至るまで己を鍛えるため、この谷で多くの龍と戦いを繰り広げていた。

そして、今日遂に、タンニーン殿を地に落とすことに至った。

 

「今のは効いたぞ、ライザー。だが只の一度俺を地に落としたくらい調子に乗るなよ」

「無論です。私が打倒する義弟殿は今の貴方よりもなお強い、いや今は貴方が強くても、いずれは確実に超えていく。ならば私、ライザー・フェニックスは義弟殿を更に超えていくまで。立ち止まる時間などただの一秒とて無い。」

「何故そこまで、その義弟に勝ちたい」

「我が妹の旦那になる男に突き付けた。我が妹を泣かすならば、我が炎で義弟殿を焼く、そう約束したのだ。私が強くなければ妹を悲しませた男を焼くこともできない。私が認めた男が道を誤ったのならば正すために焼くこともできない。故に私は義弟を超えなければならない。兄より優れた弟などいないんだ。ならば弟より劣る兄など在ってはならない!!」

「心意気は良し、だが力無き言葉などただの戯言。臆せず掛かってこい!!」

「このライザー・フェニックスの炎とくと味わえ!!」

 

俺の炎とタンニーン殿の炎がぶつかり、周囲に強烈な熱線が乱れ飛んだ。

その後は、力の限り挑み、周囲が焦土と化した。

 

「タンニーン殿、ありがとうございました。」

「うむ、強くなったな。ライザーよ。だが、まだまだ成長に余地がある。いつでもこい。相手をしてやろう。」

 

俺とタンニーン殿は互いに再開を誓い、拳を合わせ、私は谷を後にした。

 

 

俺はフェニックス家の屋敷に戻ってきた。

みんなはどうしているだろうか?

すると、帰宅に気付いた俺の眷属達が飛んできた。

 

「お帰りなさいませ。ライザー様」

「ああ、今帰った。みんな、変わりはないか?」

 

俺の問いかけに皆一様に首を振った。

そうか、特に変わりはないか。

俺は安堵した。

 

「あの、ですがいくつかご報告するべきことがございます」

 

ユーベルーナが申し訳なさそうにそう切り出した。

 

「なんだ、何かあったのか?」

「もう既に終わったことですが、ゲーティア様のことで一つご報告しておきたい事項がございます」

 

ユーベルーナが私に一枚の書類を渡してきた、俺はそれを受け取り、目を通していく。

 

「な!」

 

俺はその内容を見て、驚愕した。

 

「堕天使の本拠地にセラフォルー・レヴィアタン様と共に外交交渉に赴いた。その上で証文を取り付けた‥‥‥ハハハハハハハハ、流石義弟殿だ。俺達に出来ないことを平然と遣って退ける。」

 

俺はその内容に驚きと共に義弟殿の対応に笑いが止まらなかった。

悪魔と堕天使、そして天使の三つ巴の大戦が終わっても、悪魔と堕天使が出会えば殺し合いをしてきた。

態々、交渉するようなことは決してなかった。

だが、結果としてその行為は堕天使達との戦争への火種を消したことになった。

だがそれ以上に思ったのは、相変わらず何をするか分からない面白い男だ、ということだった。

 

「で、これだけか。話しておきたいことは」

「いえ、もう一点お話しておきたいことがございます」

 

俺はその声に聞き覚えがあった。

だが、ここで聞くことはないと思っていた。

だから、その姿が見えた時、驚愕した。

 

「グレイフィア殿!なぜここに」

 

魔王サーゼクス様のクイーン、グレイフィア殿だ。

ここに来たと言うことは俺か、レイヴェルに用があるんだろう。

俺がそう辺りを付けると、やはりそうだった。

 

「本日こちらにお邪魔したのは、ライザー殿にお願いがありまして、間借り越しました」

「お願い?」

「はい。ライザー様、リアスお嬢様との婚姻を早めていただくことは出来ませんか?」

「なぜですか?本来ならもう5年程先のはずでしたが‥‥‥」

 

グレイフィア殿にそう言うと、ため息を吐きながら言いにくそうに話し出した。

 

「先程の報告書に目を通して頂けましたよね」

「ええ、義弟殿の行動には驚きと笑いがありましたね」

「‥‥‥ですが本来ならその行動はお嬢様がすべきことでした。それに領地での行動も目に余る、とセラフォルー様が魔王会議で提出されまして、サーゼクス様としてもゲーティア殿にこれ以上迷惑をかけるわけにもいかず、対応策を協議いたしました。その結果‥‥‥」

「俺と婚姻させて、リアスの面倒を俺に見させろ、そういうことですね?」

「‥‥‥その通りです。ライザー殿にとっては不本意だと思いますが、何卒お願い致します。」

 

グレイフィア殿が俺に頭を下げている。

どうせ、結婚するんだ、それが早くなったところで大したことでは無い。

 

「グレイフィア殿、頭をお上げください。その件、了承致しました。」

 

俺がそういうと、グレイフィア殿は頭を上げ、再度礼を言った。

 

「ライザー殿、ありがとうございます。そして、申し訳ございません。身内の恥でこのようなことになりましたこと心よりお詫び申し上げます。」

「はい、謝罪を受けます。ですので、そのくらいで結構です。‥‥‥ところで、その話はリアスは承知の上ですか?」

「‥‥‥いいえ、知りません。ですが、問題ありません。旦那様、奥様、サーゼクス様、そしてもちろん私も、全員一致でこの件に賛同いたしました。ですので、ライザー殿にご迷惑をおかけすることはありません」

 

どうやら、リアス以外が賛成しているそうだ。

だが、この後リアスが必ず不満を言うだろうな、と思っていた。

 

side out

 



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第25話 信頼と実績

いつも多くの感想ありがとうございます。
可能な限り返信させていただきますが、遅れる場合もありますので、ご了承ください。


どうも、ゲーティア・バルバトスです。

早いもので、5月に入りました。

駒王学園もはぐれ悪魔の件と堕天使の件が解決し、平和が戻ってきた。

はぐれエクソシストを警察に引き渡したことで、殺人事件の犯人が逮捕された、ということになり、事件が解決という運びになった。

ただ、犠牲になった人のことを思うと、胸が苦しい。

私も犠牲になった生徒の墓を訪問した。

罵倒が飛んできても受け入れる決意で伺ったのだが、むしろ感謝されてしまった。

「娘のために来てくれてありがとう」と言われることになってしまった。

私がもっとしっかりしていれば防げたことだと、悪いのは私だ、と言いたかった。

でも、言えなかった。

悪魔だから、言えなかった。

いや、ただ自分の保身に走っただけだった。

なんと醜い、なんと浅ましい、なんと愚かなんだと自分を責めた。

彼らは知らないから、私に感謝している。

私は言えないから彼らに感謝されている。

ならば、その感謝を無駄にしない、と嘘も突き通せば真実になる、そう思い、更なる職務に邁進した。

 

先の事件以来、悪魔のことは信頼できる一部には伝えることにした。

これ以上の犠牲を出さないように、注意喚起として伝えた。

だが、伝えた者悉くが私の話を信じ、変わらぬ忠誠を誓ってくれた。

私は、彼らに危険が及ばないよう、これ以上私に関わらないように話したというのに、変わらぬ態度で接してくれた。

嬉しいことだ、本当に得難い友を得た、心からそう思った。

 

 

side 織田信長

我は織田信長、剣道部序列一位にいる者だ。

二年前にゲーティア部長、黒崎副部長に剣道部に誘われた。

あの時の我はひ弱で、剣道に及び腰だった。

だがそんな我をお二人が共に戦おう、とお声を掛けてくださった。

晴れて、剣道部の設立メンバーとして名を連ねることが出来た。

あの時以来、我は設立メンバーとして、また最初に誘われた者として、他者より強く、他者より先へ、他者より上へ、その道を歩んできた。

誰よりも、ゲーティア部長、黒崎副部長に近いと自負している。

だが、あの日ゲーティア部長の言葉は何よりも衝撃的で、何よりも嬉しく、そして何よりも心躍る言葉だった。

 

「私は人間ではない、私は悪魔だ」

 

ゲーティア部長のお言葉に最初は困惑した。

だがすぐに納得した。

ゲーティア部長の強さは人間では、不可能な領域だと思っていた。

私自身が人間の最高位を極めたわけではない。

だが、そんな私でも分かることがある。

『これには勝てない』

私はライオンや熊と向かい会っても、数秒で殺すことが出来る。

武器などなくても、この身で問題なく殺せる。

これは自慢ではなく、只の事実として。

最初はゲーティア部長の強さが分からなかった。

あの日、出会ってから二年の月日で強くなったと思う。

もしあの頃の私がライオンや熊と向かい合ったら、死ぬ。

去年の私なら、苦戦しながら倒せた。

今の私なら、秒殺だ。

では、ゲーティア部長の強さは?

未だ分からない。

強くなればなるほど、分かることがあった。

この方の力は人間の領域ではない、と常々思っていた。

だからこの言葉にようやく打ち明けてくれた、と信頼を得たという嬉しさを感じた。

態々、集めて話す内容ではないでしょう。

何故なら、例え貴方が神でも悪魔でも悪鬼羅刹であってもついて行くまで。

ここに集まる、剣道部古参の8人、貴方と共にあるために2年、共に居たんだ。

最初のきっかけは強引だったかもしれない。

だが今はあの出会いこそが運命だったと心からそう思う。

 

「ゲーティア部長、貴方が何者であっても我々はついて行くまでです。我々はただ付いて行きたい、ただ共に居たい、それだけです」

「悪魔でもか?」

「無論です。私たちは悪魔だから付いてきたのではありません。貴方だから、『ゲーティア』だから付いてきた。ただそれだけです」

「私だから、か」

「ええ、我々は貴方の行動についてきた。貴方が剣道部を作り、貴方が指導し、その指導を受けた我々が勝利を重ねた。その行動と結果に我々はついてきた。今更悪魔だからと言って、態度を変えるような者はここには誰もいますまい」

「そうか、すまないな。今の今まで黙っていて」

「お気持ちは分かります。例えどれ程偉大な者であっても、一人では生きていけません。嫌われることなど誰でも嫌です。ですが我々は、少なくとも私は、最後まで貴方と共に在りたい。」

「織田、貴様だけではないぞ。ゲーティア部長、この豊臣秀吉、貴方に憧れ、この筋肉を得たこと、生涯決して悔いなし。貴方に生涯付いて行きます。たとえ振り払われてもついて行く所存です」

「私もです、ゲーティア部長。貴方の剣が黒く染まるその佇まいに憧れ、私も自己流で光輝くことが出来ました。ですがまだ遠い、貴方に少しでも近づくため付いて行きます。この命果てるまで」

 

我の言葉に続く様に、7人の同級生たちが声を上げた。

誰一人として、ゲーティア部長を見限る者などいない。

 

「我らの心はゲーティア部長と共に在り、オール・ハイル・ゲーティア」

「「「「「「「オール・ハイル・ゲーティア」」」」」」」

 

我の声掛けに皆が応じ、大号令となった。

皆同じ気持ちだ、例え普段は序列を争うライバルであっても、我らは共に有った仲間、好敵手達(ともだち)だ。

 

「静まれぇ」

 

ゲーティア部長の一声で、全員が静まった。

ゲーティア部長は我々に背を向け、我らに一言だけ言った。

 

「好きにしろ!」

 

はい、好きにします。

我らは言葉に出さずとも皆同じ思いだった。

この身果て、魂尽きるまで共に。

 

side out

 

私が悪魔だと打ち明けて以来、剣道部の精鋭がはぐれ悪魔討伐に加わるようになり、このところは被害がない。

風紀委員の中でも対はぐれ悪魔特別編成チームを結成出来た。

表向きは荒事専門の武闘派集団としたが、これが思いの外すんなり通った。

この部隊は戸愚呂を筆頭に剣道部の最上級生が務めている。

だが、そこに一人参加したいと言った男がいた。

私が彼の事が頭に浮かんだところ、その男が現れた。

 

「ゲーティア風紀委員長、本日の報告書をお持ち致しました」

「ああ、ご苦労。兵藤一誠風紀委員」

 

そう、リアスの眷属である兵藤一誠だ。

彼はアーシアを助けたことをえらく感謝していた。

アーシアの件はリアスに任せたが、リアスの眷属としたようだ。

報告をソーナから受けた時、思うところはあった。

私としては神に仕えた彼女が悪魔に、信仰を捨てることは無理だと思った。

だが、私では彼女を支援して生活させてやる、財力はない。

シトリー家やグレモリー家ならともかく、バルバトス家は経済の立て直し中で、あまり金はない。

人間界の拠点も、土地代が安く、家が築80年ほどの家をリフォームして、それなりにしただけで、人一人支援できるほどの財力はない。

彼女は天使陣営から捨てられ、堕天使陣営に利用され、残ったのは悪魔陣営だ。

だが、私では彼女を養う財力が無いので、リアスに任せたところ、リアスの眷属にしたというのだ。

無理矢理であれば、リアスと事を構えることも検討したが、彼女は友達の一誠といることを望んだため、現状に不満はないそうだ。

ならば私が言うことは何もない、そう思っていたところ兵藤一誠とアーシア・アルジェントが現れた。

 

 

「ゲーティア先輩、アーシアの事を助けてくれてありがとうございました」

「あの、ありがとうございました」

 

まず驚きがあった。

風紀委員室に彼らが現れ、私に礼を言いに来た。

次に感心があった。

態々礼を言いに来たことに、彼らの義理堅さに感心した。

最後に申し訳なさがあった。

 

「なに、あれは私の行動が遅かったから君に苦しい思いをさせた。すまなかった」

 

私がもう一日早く終えていれば、彼女に苦しい思いをさせずに済んだことを申し訳なかった。

だが、そんな私を彼女は許してくれた。

 

「そんな、私がああなったのに、今こうしていられるのは、ゲーティアさんのおかげだと思っています。だからあの時助けてくださって、ありがとうございます」

「そうか、そう言ってくれるなら、もう私からは何も言えない。君が無事でよかった」

 

そんなやりとりの後、彼らは何かお礼がしたいと言い出した。

お礼と言われても、何かしてほしいわけではない。

だが、一つ希望があった。

 

「兵藤一誠、お前、もっと強くなりたくはないか」

 

私はもっと強くなった赤龍帝、いや兵藤一誠と戦いたかった。

 

side イッセー

 

俺はオカルト研究部の兵藤一誠。

今は風紀委員の見習いをやっている。

俺が風紀委員の見習いになったのはゲーティア先輩が俺を強くしてやると言ってくれたので、参加している。

俺はあの時アーシアを助けれなかった。

ゲーティア先輩が来てくれなければ、アーシアが死んでいた。

あんなのはごめんだ。

それにゲーティア先輩は剣道部を全国最強に育てた人だ。

先輩の指導を受けたくて全国から集まるほどだ。

そんな先輩から直接指導を受けれれば強くなれる。

だけど俺は過去に覗きをして捕まった、それ以来風紀委員の監視の下、生活してきた。

だから俺が風紀委員になることはゲーティア先輩が許しても生徒たちが許さない、そう思っていた。

 

「兵藤、いくぞ。ついてこい」

 

その言葉に自然とついて行った。

何故かこの人には自然と従いたくなる。

悪魔になる前にはなかった、でも今は同じ悪魔だからか、従ってしまう。

まるで王に従っているような感じだ。

俺がゲーティア先輩について行くと、まず生徒会室に入った、その後の行動に俺は己の過去を恥じた。

 

「兵藤一誠を風紀委員にする。今後の行動は全て私が責任を持つ。だから頼む、認めて欲しい」

 

全く関係がない、ゲーティア部長が俺のために頭を下げてくれた。

それは生徒会室だけでなく、全教室で行った。

職員室でも、だ。

俺もその後を付いて、同じように頭を下げた。

でも俺が下げていることとゲーティア先輩が下げていることはその質が違う。

俺は罪を犯した罪人として謝罪のため、ゲーティア先輩は俺の信用の代わりに頭を下げてくれている。

築いた信用を俺のために使ってくれている。

俺は涙を流した。

過去の己の行動を恥じたこと、現在の己の信用の代わりに下げさせている情けなさに、未来の己がこの信用に応えるなければならない重圧に、涙を流した。

全ての教室を巡り、風紀委員室に戻ったときは日が暮れていた。

ゲーティア先輩は自分の机から腕章を取り出し、俺の前に立った。

 

「では、兵藤一誠、君を風紀委員に任命する。共に学園の風紀を守ろう」

「‥‥‥はい、ゲーティア風紀委員長」

 

俺はその腕章を受け取り、腕に通した。

重い、そう思った。

さっき、ゲーティア風紀委員長に頭を下げさせた重みがあった。

俺達がやってしまったことでこのような委員を作らせてしまった。

本来なら、俺に入る資格などない。

だけど、ここまでさせたんだ。

ここで引くわけにはいかない。

俺は覗き魔だ、嫌われ者だ、そんなの重々承知だ。

開き直り、ああそうだ。

だからこそ、この人だけは裏切れねぇ、裏切ればただの外道だ。

そこまで落ちれねえ、この人と友達だと言って信じてくれたアーシアだけは裏切れねぇ。

ならば、この腕章に誓うだけだ。

アーシアとゲーティア風紀委員長、この二人は絶対に裏切らねぇ、裏切るぐらいなら死んでやる。

心にそう決めた。

 

 

あれから、もう一月近く立つ。

見習いとなって思い知った。

学園の風紀を守ることの大変さを。

俺がしてきたことがどれほど愚かだったか、思い知った。

学園内では問題が起こらない、俺達が起こさなければ、だ。

松田と元浜の監視を俺は買って出た。

二人は監視がないことを理由にまた覗きを行おうとしていた。

 

「俺は風紀委員だ。二人ともやめろ。もし行うのであれば、お前たちを捕まえなければならない、頼む、俺にお前たちを捕まえさせないでくれ」

 

俺は二人に頭を下げて頼んだ。

今までの俺とは違うことを二人は感じとった。

 

「なんでだ、イッセー。お前彼女が出来て付き合い悪くなったんじゃないか!」

「そうだぞ、彼女が出来たからって、俺達を裏切るのかよ!」

 

二人からしたら、そう見えるんだろうな。

彼女が出来たから、覗きをしなくなった、二人にはそう見えたんだろうな。

俺が逆の立場でもそう思う。

だからこそ、俺が止めなきゃいけないと思った。

俺のために頭を下げてくれた人がいる。

俺の代わりに信用を賭けてくれた人がいる。

 

「お前らからしてみれば裏切り者だ。その通りだ、今更善人ぶって、良いことしたからって、過去が消える訳じゃねえ。でも、未来は変わる。俺はあの人に頭を下げさせて思い知った。過去は変わらねえ、今で、未来で塗りつぶすしかない。ならお前たちを全力で止めて、これ以上、悪いようにしたくねえだけだ。塗りつぶす過去が増えるのを止めてやることだけだ。友達だから、裏切り者だから、これしか出来ねぇ」

「‥‥‥」

「‥‥‥」

 

二人はため息をついて、俺に言った。

 

「はぁ~、イッセーの奴、えらく熱血になっちまったな」

「まあ、元から熱血みたいなやつだったし」

「‥‥‥俺さ、最近バイト初めてさ、そこの子、学校が違うから俺が真面目だと思ってるんだ。もう覗きも出来そうにないな」

「‥‥‥俺もさ、後輩からおはようございます、て言われてさ、かわいい子だったな、あの子、俺が覗きをしたこと知らないみたいなんだ。さすがにあの子の事、裏切れねえわ」

 

松田も元浜もこの一年、監視下に置かれていた結果、あれ以上酷い結果にならなかった。

本当にゲーティア風紀委員長には感謝しかない。

 

「俺達、イッセーが風紀委員になったこと知ってたからさ、まあ、あんな大声でイッセーを風紀委員にする、って言って回ったんだ。学校中みんな知ってる。だから、就任祝いに俺達のこと捕まえて手柄を上げればさ、イッセーの事、みんな信じるんじゃないかと思ってさ」

「まあ、俺達にはあんな頭下げてくれる人に出会えなかったからさ、うらやましいぞ、イッセー」

「松田、元浜‥‥‥だったら尚のことだ。もし俺のことをまだ、友達だと思ってくれるなら、俺がいるうちは問題を起こさないでくれ」

「手柄はいらないのか?」

「いらん。ゲーティア風紀委員長が言っていたことだ、平和なのが一番いい、事件なんかない方がいい、って言ってたからな。だから俺が風紀委員になって、事件が起こったら、全部俺のせいだ」

「じゃあ、仕方がない」

「ああ、仕方がない」

 

二人は笑いだした。

その上で、俺の肩を叩いて約束してくれた。

 

「イッセーがいる間は問題起こさねえよ。だから退学すんなよ」

「ああ、イッセーが退学したら覗き魔生活に逆戻りだからな。俺達がちゃんと卒業できるように風紀委員続けろよ」

「なんだよ、自分でちゃんとする気ないのかよ」

「「ない」」

 

そう言って三人で顔を見合わせて笑った。

 

 

強くしてやると言うゲーティア風紀委員長の言葉は、本当だった。

風紀委員としての仕事終わりに秋野先輩と共に風紀委員室で待っていた。

 

「楓、集中トレーニングを私とイッセーで行う。場を用意してくれ」

「はい、ゲーティア様。時の魔剣よ、時間の影響受けない場所を創れ」

 

俺とゲーティア風紀委員長は秋野先輩の力で創った場所で戦った。

結果は大惨敗だった。

ただ向き合うだけで気絶した。

力を使え、と言われて神器を出して、時間をかけて強化し、思いっきり殴ったら、腕が折れた。

ゲーティア風紀委員長が呆れていた。

その視線が最も心にきた。

だが、ゲーティア風紀委員長はそんな俺を見捨てずに指導してくれた。

まず基礎体力をつける事、次に魔力量を増やす事、それからコントロールと技を教えてくれた。

一か月前より、向き合って気絶することはなくなった。

時間をかけて強化して、殴っても、腕が折れなくなった。

魔力量も一か月前に比べて、ミジンコがハエくらいに成長した。

ここまで時間を掛けてもらったのに、これくらいしか成長できなかった。

だが、そんな俺にゲーティア風紀委員長は言ってくれた。

 

「千里の道も一歩からだ。初めから出来る者はいない。少しでも成長しているなら、それでいい。退化しなければそれでいい」

 

その言葉で俺は安心した。

必死でやっている、つもりだった。

ゲーティア風紀委員長に直接指導してもらっているのに、少ししか成長していない。

だけど、そんな俺を、こんな少ししか成長していなくても、褒めてくれた、はげましてくれた。

なら、もう少し頑張ろう、この人の信頼に応えるために。

 

side out

 



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第26話 領主失格と宣戦布告

どうも、ゲーティア・バルバトスです。

5月のとある夕方、いつものように剣道部の指導と文芸部の指導を終え、風紀委員長としての部下から報告を受けていた。

風紀委員室には私とレイヴェル、そして一日の報告に来ていた一誠がいる。

その部屋に突然の訪問者が現れた。

部屋に転移陣が現れ、その紋章はグレモリー家のものだった。

 

「突然の訪問失礼いたします。ゲーティア・バルバトス公爵様」

 

現れたのはグレイフィアさんだった。

 

「グレイフィアさん、ようこそ。先日は態々来ていただいたのに留守で失礼した」

「ご無事でなによりでした。いえ、実を言うと、そう悪くなるとは思っていませんでしたので、心配はしておりませんでした。ここに来たのはレイヴェルさんが不安だろうと思い、参りましたので」

「なんとそうでしたか。これは重ね重ねありがとうございます」

「グレイフィア様、以前はそのような事、仰られなかったではないですか!」

「あら、そうでしたかしら、フフフ」

 

以前来てくれたのはレイヴェルを心配して来てくれたそうだ。

それをからかわれて、レイヴェルは赤い顔をして、猛抗議だ。

その様子がかわいく、愛おしい。

だが、一誠の存在は邪魔だな、消すか。

 

「ヒッ!」

 

私は無意識に殺気を放ち、一誠は気を失った。

この程度で気絶して情けないと思うべきか、空気を読めてエライと褒めるべきか悩ましいところだ。

とりあえず一誠を近くの椅子に座らせ、本日はどうして来られたのか、尋ねることにした。

 

「グレイフィアさん、本日は如何なさいましたか?」

「ああ、そうでした。フェニックス家三男ライザー・フェニックス様とグレモリー家長女リアス・グレモリー様の婚姻の日取りが決まりましたので、ご報告に参りました」

「なんと!」

「まあ!」

 

私とレイヴェルは驚きの声を上げた。

 

「随分と早いですね。どうしたんですか?」

「はぁ~、最近の言動はあまりに目に余りまして‥‥‥その、こう言っては何ですが、ライザー様にお嬢様の後見人をしていただくのがいいだろうと言うことになりまして、こうなりました」

「そうですか。ですが、目に余る言動というのは一体?」

「‥‥‥解決した当人がそれを聞きますか。‥‥‥堕天使の一件の報告書は拝見いたしました。先の対応とその報告には不備がなく、それでいて肝心なところは領地の管理者に委ねたこと。この事は魔王様方も大層評価しておりました。ですが、相対的にお嬢様の対応の杜撰さ、報告の無さ、また領地内での住民の死亡、挙げれば切りがない程の失態の数々が浮き彫りになりました。そのため、リアスお嬢様ではこの領地の運営は不適格だと判断されました。ですが、一度の失態で取り上げることはやり過ぎではないかと、‥‥‥ルシファー様が言いまして、セラフォルー様はそれなら誰か、後見人になって頂くのはどうか、ということになり、旦那様もこの際リアスお嬢様と婚約関係にあるライザー様との婚姻を早め、ライザー様に後見人になって頂く考えに至りました。無論ライザー様がお嫌であれば、このようなこと進められる道理はございません。ですが、伏してお願い致しましたところ、ご承諾を頂き、このような運びと相成りましてございます」

「そうですか、義兄殿は受け入れましたか」

「はい、大変申し訳なく、恥じ入る思いです」

 

グレイフィアさんとしても不本意だったようだ。

リアスの失態を押し付けるようなことになったことに申し訳なさを感じているようだ。

 

「グレイフィアさん、そのことリアスは知っているんですか」

「いえ、これからです」

「‥‥‥揉めますよね」

「‥‥‥はい。確実に」

 

グレイフィアさんがここに来たのは、決意表明の意味もあったようだ。

これから揉めて時間が掛かるから先に簡単な方から連絡に来た、というところだろう。

 

「我々も同行しましょうか」

「いえ、結構です。できれば来ないでください」

 

即答された。

でも仕方がない。

私はリアスに目の仇にされているからな。

 

「では、これから参ります。お二人の御顔を見れて少し元気が出ました」

「グレイフィアさん、頑張って」

 

私とレイヴェルはグレイフィアさんにエールを送った。

グレイフィアさんも笑って、風紀委員室を後にした。

 

 

side グレイフィア・グレモリー

 

どうも、グレイフィアです。

ゲーティア君とレイヴェルさんの顔を見に、立ち寄ったところ、思いの外、気分がラクになりました。

少し思い詰めていたようです。

ここ最近のサーゼクスも相当思い詰めていました。

リアスのことで最近、魔王会議で立つ瀬がないようです。

リアスは領地の運営をバルバトス公爵に頼りきりだ、ソーナ・シトリーとゲーティア・バルバトスからは報告書が来るのに、どうしてリアス・グレモリーからは報告書が来ないのか、どうして領地内の堕天使との交渉をバルバトス公爵が対応する事態になったのか、等々、最近セラフォルーに相当言われているようです。

セラフォルーは最近、ゲーティア君にご執心だ、セラフォルー当人にそのことを聞けば納得するほどの功績だった。

堕天使との交渉も完璧だったこと、これからの悪魔の未来も真剣に考えていること、領地の運営も見据えて人材確保に動いたこと、それら全てを完璧にこなしている、そう言われたらぐうの音も出ない。

私はもとより、ゲーティア君の事を亡くなった彼の母の分も愛そうと思っている、実にかわいい、ミリキャスと同等の存在だ。

そんな彼の行動を嬉しく、頼もしく、誇らしく感じています。

セラフォルーが彼を魔王に推挙していることも只の戯言ではないと思います。

彼は力も知能も精神力も全て備わっています。

指揮能力も長けていて、人心掌握も出来る、正に魔王になるべき存在だ。

ただ残念なことに、彼を魔王にしたい、と言ったセラフォルーの案に魔王全員が乗ってしまったことが残念でありません。

自分が降りるから後は彼に任す、と大人3人で馬鹿な言い争いをしていました。

彼らは年若いゲーティア君に全て押し付けようとするダメな大人です。

セラフォルーも自身の妹を彼との縁組に出すため、魔王を降り、実家に戻るために私をレヴィアタンにしようとしていました。

何とか食い止めましたが、隙あらば同じことをしてきます。

油断なりません。

私は最近の疲れの原因がゲーティア君だとは思いたくはありませんが、彼が何かすると嬉しいようで、頭が痛い思いがします。

そして、これから会うリアスも私の頭を悩ませる原因です。

私はオカルト研究部の扉の前で、意を決して扉をノックした。

 

「失礼いたします。お嬢様、グレイフィアです」

「グレイフィア!!」

 

私の目の前で優雅にお茶を飲んでいる彼女を見て、ため息を吐きそうなのを我慢しました。

先程ゲーティア君のところを訪れた時、彼は仕事をしていました。

ですが、今の彼女はお茶飲んでリラックス中でした。

比較になりませんね。

私は気を引き締め、告げるべきことを告げよう。

そう心に決めた。

 

「お嬢様、本日は旦那様からの名代として参りました。お嬢様にはライザー様と婚姻して頂きます。期日は十日後。準備をこれから行いますので、急ぎグレモリー家にご帰宅ください」

 

私は一息に告げると、リアスは驚き言葉が出ないようだ。

でも、一度呼吸をすると、大音量で反応が返ってきた。

 

「どういうことよ!!私は何も聞いていないわ!!そんなこと認められるわけがないわ!!」

「お嬢様が認める認めないなど最早関係ありません。これは旦那様、奥様、サーゼクス様全員一致のお考えです。ですのでお嬢様一人が反対しても意味を成しません。お分かりになられましたか、では参りましょう」

「分かるわけないじゃない、一体どういうことよ。説明して頂戴!!」

「はぁ~、簡単に説明しますと、お嬢様がこの領地の主としてふさわしくないので、お嬢様を支える後見人を付けることになりました。その際、この領地に常駐して頂く必要がございます。そのため、旦那様方ではいけません、また他のご親族では適格な方はおりません。なので、ライザー・フェニックス様と婚姻して頂き、ライザー様に後見人になって頂くことになりました。お分かりいただけましたか?」

「な、な、な‥‥‥どういうことよ。私がどうして領主としてふさわしくないのよ!」

「ゲーティア様を見て、何も思いませんでしたか?」

「ゲーティアが一体なに!」

「‥‥‥対抗意識を持つこと自体は悪いことではありません。ですがそれで視野を狭めるなど、只の愚か者です。本当に何もわかりませんか?」

「だから何が!」

「ご自分の領地の事、どれだけ知っておりますか?」

「え?」

「この駒王町の事をどれ程ご存知ですか、そう聞いております」

「それとゲーティアがどういう関係があるのよ?」

「先程、ゲーティア様のところに赴いたところ、駒王町の現在の状況について報告を受けておりました。そして最近もはぐれ悪魔との交戦が報告されております。お嬢様は何をしておられましたか?」

「‥‥‥はぐれ悪魔の報告が誰からも来ていないわ。ゲーティアが止めているのね」

「はぁ~、お嬢様は誰かに報告、いえ相談や連絡はしましたか?」

「しないわよ。私はこの町の領主よ。なぜゲーティアにそんなことしないといけないのよ!」

「ゲーティア様ではなくともソーナ様でも宜しいですが、行いましたか?」

「‥‥‥していないわ」

「なぜ?」

「私の領地よ、ソーナの手を借りないわ。」

「そうですか、ならゲーティア様から連絡が上がらないのは仕方がありませんね」

「そんなの私の領地で好き勝手しているのよ。これは明確な協定違反よ、越権行為よ」

「ゲーティア様が何故そのように動いているのか分かりますか?」

「私の邪魔がしたいんでしょ!」

「‥‥‥既にお一人亡くなられているそうですね。セラフォルー様にゲーティア様が報告を上げておりました」

「何よ、そんなこと。私の領地で好き勝手やっていたはぐれ悪魔なら既に始末したわ。今更そんなこと‥‥‥」

「一人でも犠牲者を出した時点で領主として失格だと言っているんです。いえ、その失敗を糧とし、次に生かそうとしていない時点で最早言い逃れが出来ない程、領主失格です。領主にとって、土地に住む人は等しく財産です。その財産を守れない領主を貴方は領主だと認めることが出来ますか?どうなんですか、リアス!!」

「ヒッ!」

 

リアスは怯え、縮こまってしまいました。

ここまでですね。

元々この子に領主なんて無理がありました。

将来への箔をつけるために領主にしたようなものです。

貴族としての考えよりも自分の気分で考えて行動するこの子には無理だったのかもしれません。

私に言えたことではありませんが、領主として向く性格ではありません。

ソーナ様やゲーティア様であれば問題なくできることも、この子は自分の都合を優先する。

ですが、ライザー様の下で学び成長すればきっと立派な領主と成れるはずです。

今回の失敗を次に生かしましょう。

私は彼女が俯いている姿を見たくないので、せめて励ます意味で頭を撫でようと思いました、ですが‥‥‥

 

「私は結婚なんてしないわ!それにするなら自分で相手を決めるわ!これが私の決めたささやかな夢よ!」

 

リアスは勢いよく顔を上げ、私に宣言しました。

懲りない子です、心底そう思いました。

口で言っても分からないなら、仕方ありません。

力尽くしかありません。

私が魔力を込めると、この古い建物が耐えられないかも知れませんね。

少し弱めましょうか。

そう思い少し弱めて力を発揮しようとすると、転移陣が現れた。

この紋章は‥‥‥フェニックス家のもの。

 

「久しぶりだな、リアス」

 

ライザー・フェニックス様が現れた。

どうしてここに、いや今はまずい。

お嬢様が先程と同じ言葉を言えば、こちらからお願いした立場が。

私はお嬢様を止めようとしましたが、遅かった。

 

「なによ!ライザー、私は貴方とは結婚しないわ。結婚相手は私が自分で見つけるわ」

 

終わった。

私の苦労が、旦那様の苦労が、サーゼクスの苦労が、全て終わった。

私は旦那様になんと言えば、私がそう思っているとライザー様が予想外の言葉を口にした。

 

「リアス、俺もそんなことを言われて、はいそうですか、で済ますわけにはいかない。俺もフェニックス家の看板を背負っている。そんな俺に、お前がそう言ったところで最早何も感じない。俺も貴族の責務というものから逃げることなど出来ん。だからこそお前などと結婚することになったとしても、貴族に生まれた以上納得し、受け入れるしかない。だがな、俺が納得して、受けてやったというのに、何だこれは、ここまでコケにされた以上仕方がない。力尽くで納得させてやるしかないな。これは我が妻になるリアスに対する躾だ。リアス、俺と勝負をしろ。リアスの眷属全員と俺一人だ。ちょうどいいハンデだろ。どうせこのままだとお前は廃嫡されるんだ、俺に勝てば、俺から婚約破棄してやる。どうだ、いやもし断ればお前は家を追われるだろうな」

「何ですって、そんなことありえないわ」

「あり得るんだ、これが。元々お前の信用失墜のため、俺がお前の尻ぬぐいのために結婚させられるんだ。もしその話を断ればお前に居場所はない。魔王であるお前の兄、サーゼクス様も、お父上もお前をかばってはくれない。当然だな。お前が俺と結婚すれば、フェニックス家とそしてバルバトス家とつながりが出来る。お前よりも気に入っているゲーティア殿と関係が出来るんだ。おまえはゲーティア殿と関係を作るための駒として、その役目も満足に果たせないんだ。そんな駒、不要だろ。」

「何ですって!」

「だからこそ、優しい俺様がお前にチャンスを与えてやるんだ。俺様一人にリアスと眷属全員で掛かってきて勝てば、俺は潔く身を引こう。その際は俺から婚約破棄するんだ。お前に悪評は立たんだろう。だが、俺が勝てば潔く結婚してもらう。さあ、どうするリアス。受けるか、受けないか」

「受けるわ!」

「よし、では戦いは十日後だ。リアスが勝てば、婚約解消パーティ、俺が勝てば結婚披露宴だ。いいな」

「望むところよ!」

 

お嬢様がライザー様の言葉に乗った。

その後ライザー様は部屋を退席しようして、私を見て尋ねた。

 

「グレイフィア殿、我が妹レイヴェルと義弟殿はどちらにいるかご存じですか?」

「ええ、ライザー様、存じております。ご案内いたします」

 

それだけ言い、私とライザー殿はリアス達の前から去り、ゲーティア君がいた部屋まで向かった。

 

side out

 

風紀委員室にライザー義兄殿とグレイフィアさんが揃って現れた。

リアスの説得に義兄殿自らお越しになったのだろうか?

どうやらそうではないらしい。

 

「ライザー様、大変申し訳ございません。こちらからお願いしておきながらこのようなことになり、お詫びの言葉もございません」

「グレイフィア殿、頭をお上げください。どうせこうなるだろうと思ってここに来ました。もとより、あれくらい言うだろうと想像出来ていたので、この際挑発ついでに言いたいことも言っておいた次第です」

 

御二人は入ってきて早々に、グレイフィアさんが謝罪をし始めた。

それに義兄殿の対応から見て、リアスが拒否したんだろうな。

私は二人の会話からそう察した。

 

「あの~一体どういうことになったんですか?」

 

レイヴェルが二人に聞いてくれた。

私も大体は想像がつくが、聞いてみたい。

 

「端的に申せば、お嬢様が結婚を拒否して、そこにライザー様がお越しになり、お嬢様とライザー様が戦い、その勝敗で結果を出すということになりました」

「なんとも、まあ‥‥‥」

「‥‥‥」

 

私とレイヴェルは絶句した。

リアスの対応はなんだ!貴族であることの責務を放棄しているではないか、義兄殿を馬鹿にするのも大概にしろ!

私は言葉に出さないが、怒りに満ちている。

だが、そんな私以上にレイヴェルの方が怒りに満ちている。

 

「何ですの、何ですの、何なんですの!これがグレモリー家の対応ですか!」

「‥‥‥大変申し訳ございません。」

 

グレイフィアさんが謝罪をしている。

悪いのはグレイフィアさんではないことは分かっている。

だから、グレイフィアさんに当たるべきではない、そう分かっている。

だが、私たちの怒りは収まらない、だが一番怒るべき義兄殿が一番冷静だった。

 

「レイヴェルも義弟殿もそう怒るな。言いたい奴には言わせておけば良い。まあ、俺自身の過去の行いもあるから大きなことも言えんし、リアスが俺との婚姻を嫌がるというのも過去の俺の言動によるものだ」

「過去の言動、ですか」

「ああ、以前の俺はまあ、女を侍らす事にしか眷属の事を考えていなかった。まあ、困っていたところを助けた奴もいたが、まあ、言ってしまえば女にだらしない男だった。これは事実だ。だからリアスが俺との婚姻を嫌がるのも無理からぬところだ」

「ですが、貴族にとって婚姻とは家同士の繋がりを持つことこそ、目的です。個人の好き嫌い等、超越しています」

「そうだな、義弟殿の言うとおりだ。だが、誰もが正しいからと言って、それを選ぶことは出来ない、そういう奴もいるんだ。だからこその戦いだ。リアスに現実を叩きつける、何時までも子供のままではいられないことを思い知らせる、そのための戦いだ」

「そうですか、分かりました。部外者の私はもうなにも聞きません。存分に戦い、勝利なさってください」

「ああ、無論だ」

 

私と義兄殿は分かり合った、だが割り切れない者もいる。

妹のレイヴェルだ。

 

「お兄様!このような婚姻御止めになるべきです。お兄様が不幸になりますわ」

「ハハハ、レイヴェルは何を怒っている。何も怒ることなどないだろう。どうせ勝つのは俺だ。最初の決定通りに事が運ぶ」

「私が怒っているのは、リアス様にですわ!お兄様はどうして、このような態度を取られてどうして結婚されようとするんですか!」

「貴族だからだ。私はフェニックス家の三男として生まれ、その恩恵を享受してきた。ならば俺がフェニックス家のために結婚するのは当然だろう」

「ですが‥‥‥お兄様には幸せになって欲しいのです‥‥‥」

「レイヴェル‥‥‥いいか、俺が公爵家に婿入りすることはフェニックス家のためだけでもない。お前のためでもあるんだ」

「私の?」

「私は、ゲーティア・バルバトスを敵視している。私の妹の夫となるからだ。いいかレイヴェル、もし、ゲーティア・バルバトスに泣かされても、フェニックス家では戦えない、バルバトス家は公爵、フェニックス家は侯爵だ。位が違う、だが、グレモリー家は公爵だ。バルバトス家と戦える。私がグレモリー家、いや公爵家に婿入りすることはバルバトス家と対等でいるためだ。我が妹を守るためだ。妹を泣かしたら焼き入れてやるためだ。そのためなら俺が罵倒されようと、手酷い扱いを受けても構わない。リアスとでも結婚してやる。だからレイヴェル、諦めろ。俺は自分の妹が大事だ。その妹のためならなんだって利用する。それくらいのことはしてもらう必要がある。そうですね、グレイフィア殿」

「はい。致し方ありません」

「そういうことだ。レイヴェル」

「はぁ~、お兄様がシスコンだったなんて‥‥‥」

「お前を誰かに取られたくなくて、ビショップの駒を与え、眷属にしたんだ。シスコンとか今更だ」

「本当にお兄様は‥‥‥仕方ありませんわね。ですが一つだけ訂正しておきますわ、ゲーティア様は私を泣かせなどしませんわ」

「今はどうか分からん、先の事だ。もし来た時の備えだ。俺も義弟殿を信頼はしているが、俺も妹を泣かしたら焼く、といった手前、対等でなければならん。ならばどんな手段でも取る。それだけだ」

 

義兄殿は私を見据え言った。

 

「義兄殿、その備え私が無駄にして見せましょう。わが生涯をかけて」

「ああ、そうしてくれ。義弟殿」

 

ならば私もその決意に全力で答えよう。

義兄の信頼とレイヴェルへの変わらぬ愛を誓おう。

 

 

 

そうだ、先程の話で気になったことがあった。

 

「義兄殿、何故十日後にされたんですか?今すぐでも良かったんではないですか?」

「準備くらいさせてやる。それくらいの余裕が俺にはある」

「そうですか‥‥‥ところで義兄殿、私はリアスの眷属二人を指導しています。もし義兄殿が望むならその二人を戦いから引かせることも可能ですが、如何しますか?」

「義弟殿は俺が負けると思っているのか?」

「私が指導している二人ですよ。義兄殿に勝てますか?」

「当然だ!俺はリアスを、眷属全員を倒す。そのために修行を重ね、遂には元龍王タンニーン殿とも戦ってきたんだ。今更何がこようと負けはしない!」

「分かりました。そう答えてくれると信じておりました。一誠、今の聞いたな」

 

私は寝ている一誠に声を掛けた。

すると一誠は起きて、返事をした。

 

「‥‥‥はい、ゲーティア風紀委員長」

「折角のご厚意だ、義兄殿がお前も木場もまとめて相手してくださる。思う存分戦うがいい」

「はい!ライザー様、リアス・グレモリーの眷属、ポーンの兵藤一誠と申します、盗み聞きしてしまい、すいませんでした」

「別に構わん。義弟殿に遠慮して、全力を出さずに負けてもリアスはあきらめん。これで最後にするためにも眷属全員を俺の力で叩き潰すまでだ」

「はい。私も全力で挑ませてもらいます」

「期待している」

 

義兄殿が手を差し出すと、一誠が応え、握手をした。

義兄殿とリアスと眷属の戦い、か。

貴族として、というよりも純粋に楽しみだ。

十日後が楽しみだ。

 

 

 



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第27話 特訓

義兄殿とリアスの対戦が決まった次の日、私は風紀委員室で一人仕事をしていた。

今日はレイヴェルはいない、実家に顔を出しているからだ。

そんな風紀委員室に来訪者が現れた、アーシアだ。

以前来たのは先月、お礼を言いに来たときだ。

どうしたんだろうか、私が考えていると、アーシアの言葉に私は自分の耳を疑った。

 

「すまない、アーシア。もう一度聞かせてもらっていいか?ちょっと理解できなかった。」

「はい、部長さんは朱乃さんと小猫ちゃんを連れて合宿に行きました。本当は眷属全員で行こうとしてたんですけど、イッセーさんと木場さんはそれぞれ仕事があるので残りました。私はイッセーさんが残るので、残りました」

「ああ、そこまでは理解できた。リアスと朱乃と塔城の三人で合宿に行ったんだな、そこまでは分かった。後はなんだった?」

「はい。なので仕事はお任せする、だそうです」

 

仕事、今までしたことあったか?

私の疑問が晴れなかったが、まあいい。

いつも通りに仕事を遂行しよう。

私は連絡してくれたアーシアにねぎらいとこれからについて尋ねた。

 

「アーシア、態々連絡すまない。しかし、アーシアはどうするんだ?後9日後には義兄、ライザー殿と戦うことになるだろうが」

「はい、でも私は戦えませんから、ついて行っても仕方ありません」

 

確かに彼女は戦いに向く性格をしていない。

なら仕方ないだろう。

義兄殿も向かってくる相手ならば容赦しないだろうが、戦わない相手まで攻撃するようなことはないだろう。

 

「そうか、ならば戦いが始まったと同時にリタイアしろ、無駄に怪我する必要はない。いいな」

「はい、分かりました。ゲーティア先輩」

 

素直な子だ。

尚の事、彼女をこんな世界に引っ張り込んだリアスには一言いいたいところだ。

しかし、彼女をリアスに任せたのは私だ。

ソーナや魔王様にお願いするなど他にも手はあった。

だが選ばなかった、彼女にそこまでする理由がないからだ。

そんな私がアーシア・アルジェントを今更気にかけても、ただの偽善だな。

だから最低限の、学園の先輩、後輩くらいの関係で彼女を助けよう。

 

「アーシアは普段の放課後はどうしている?」

「普段はオカルト研究部で部長さん達とお茶してます」

「‥‥‥そうか」

 

私はどう反応しようか、悩んだ。

彼女がオカルト研究部でお茶していることはまだいい、部長さん達と、言った。

働けリアス!思わず叫ばなかった私を誰か褒めて欲しい。

いかん、落ち着け、私。

アーシアは悪くない。

リアスが悪い、そう思おう。

私は気を取り直し、アーシアに質問した。

 

「アーシアは学園で困ったことはないか?転校してきて日が浅いだろう、それに日本での暮らしに疑問や問題はないか?そう言ったことがあれば私やソーナに言ってくれ。私もソーナも学園の生徒の手助けを行う役職にいるんだ。なんでも言って欲しい」

「はい、ありがとうございます。あの~実は教えて欲しいことがあるんですけどいいですか~」

「ああ、構わない。何でも聞いてくれ」

「あの、イッセーさんの事なんですけど‥‥‥」

「一誠がどうかしたのか?」

「あの、イッセーさん、自分の魔力が少ないことを気にしているみたいなんです。だから何か私で力になれることはないでしょうか?」

「うーん‥‥‥」

 

一誠の魔力が少ないことは私も知っている。

最初はミジンコレベルで最近はハエレベルに成長した。

確かに少ない、私と比べると太陽とハエの差だ。

だが着実に成長している、焦る必要はないんだが、こういうのは周りが言っても、当人が納得しないと仕方がない。

それにこういうのは言い換えれば向上心というんだ。

成長するためには必要な要素だ。

だがそれ以上に必要なのは競い合う相手だ。

一誠を成長させるためには共に競い合ってくれて、何より一誠を見下さない、それでいて同じ出発点の存在が必要だ。

私はそう考えると、真剣に私の答えを待っている、アーシアがいる。

彼女なら、一誠も負けないように頑張るだろうし、彼女は一誠を決して見下さないだろうし、煽るようなことはしない、ならば彼女を育てて、一誠と競い合わせよう。

 

「アーシア、一誠のライバルにならないか?」

「え?」

 

アーシアが戸惑っている。

だが、アーシアを説得するいい言葉がある。

 

「アーシア、魔力の量を鍛えるために必要なことは地道な努力なんだ。魔力は要は体力と同じで、使えば減るし、休めば回復する。そして継続して鍛えることで上限を増やしていけるんだ。ここまではいいな?」

「はい、それは分かります」

「では、継続して鍛えるにはどうすればいいか、それは誰かに見ていてもらうことだ」

「誰かに見ていてもらう、ですか?」

「ああ、地道な努力というのは成果が現れにくい。何日、何か月、何年もかかってようやく成果が分かる。でも、少しでもサボればあまり増えない、頑張っても増えないと思ってしまう。長期的に何かをするのに最も大切なことは自分を信じることだ。でも、自分というのはブレるものだ。自分を疑えば質を、量を、落としていく。そうなると成果が悪くなるんだ。でも、他人が見ている、そう、競い合う相手が見ていれば、手を抜けない。その役目をアーシアが担ってみないか?」

「私に出来るでしょうか?」

「ああ、アーシア、君なら一誠を決して見下さない。それが一番大事なんだ。最初はだれでも出来ない。でもがんばれば出来るかもしれない。だがやる気を失くせば出来る者も出来なくなる。君なら、一誠はやる気を出すし、何より励まし、やる気にもさせられる。それに君自身も魔力の使い方に慣れていないから、一誠と一緒に練習して成長すれば、良き相談相手であり、競い合うライバルであり、良き友となれる、私はそう考えている。アーシア、一誠のために君の力を貸してほしい」

「はい!分かりました、頑張ります!」

 

アーシアがやる気になってくれた。

これで一誠も更に頑張るだろう。

頑張り過ぎて倒れるかもしれないが、まあいいだろう。

悪魔だから頑丈だし、アーシアは回復の神器持ちだ、首から上だけ残っていれば復活出来るだろう。

私は一誠ならやれると信じて、アーシアを鍛えることを決めた。

 

「そうか、では早速練習してみよう」

「はい、頑張ります」

 

アーシアもやる気になってくれた。

一誠に私が教えてやれるのは戦い方くらいだ。

基礎能力を高めるには地道な努力だ、だがそれは一人でやるよりは二人がいいし、仲間、いやライバルがいた方が気合が入るだろう。

肉体の強化は私がサンドバック代わりに叩き続ければ強くなるが、魔力量は使い続けないと鍛えられない。

それに使い続ければ、魔力の使い方も覚えるだろう。

アーシアは性格的に戦いは向かないが、魔力量の向上と操作技術は出来るに越したことはない。

退屈な時にでも遊びで使う感覚で使えば十分だろう。

私はそんなことを考えながら、アーシアに魔力を使った遊びを教えた。

 

side 兵藤一誠

 

「お疲れさまでした、織田さん。」

「兵藤、よくやった。褒めて遣わす」

「ありがとうございます。では俺はゲーティア風紀委員長に報告に向かいます。織田さんはこれから剣道部ですか?」

「ああ、もうすぐ部内対抗戦だ。今年で最後だ、ならば悔いが残らぬようにやるだけよ」

「織田さん、応援しています」

「フ、デアルカ」

 

俺は風紀委員のはぐれ悪魔対策部隊の末席に組みこまれている。

俺はいつも剣道部の人と組むことになるが、よく組むことになるのが織田さんだ。

織田さんは近寄りがたい雰囲気の人だが、気の利くいい先輩だ。

俺のことも認めてくれてからは何かと、面倒を見てくれている。

たまに組手の相手もしてくれて、そのたびに負けている。

剣道部の序列一位は伊達じゃない、その力を思い知らされた。

俺ももっともっと強くならないと、そう思って、リアス部長達の合宿を断ってこっちに残った。

他にも木場とアーシアも残った。

ここに残って改めて、ライザー様との戦いについて考えた。

 

リアス部長の眷属で一番強いのは木場だ。

そして次が俺だ。

リアス部長、朱乃さん、小猫ちゃん、アーシア、たぶん後はこの順番だ。

最近、ゲーティア風紀委員長に鍛えられるようになってから強さが肌で分かるようになってきた。

この学園では間違いなく最強はゲーティア風紀委員長だ。

次は文芸部の部長の秋野先輩、剣道部の副部長の黒崎先輩、後は剣道部の序列通りに続いて、大体20位くらいにソーナ会長のポーン、確か匙だったか、が入ってくる。その後は序列通りで、一年の剣道部の数人に続いてリアス部長とソーナ会長、その後は各眷属が入ってくる。

ライザー様の力はゲーティア風紀委員長に匹敵するほどだろう。

あの時握手をしたとき、圧倒的な差を感じた。

ゲーティア風紀委員長に相対したような、圧倒的な差だ。

まともにやっても勝ち目なんてない、俺は冷静にそう思った。

気合や根性で勝てる程、そんな簡単な差では決してない。

合宿に行くにしても、ゲーティア風紀委員長のような圧倒的な強者のいない合宿に意味などない、そう思って残った。

実際、俺も木場もこの環境の方が合っている。

強い相手と戦い実戦を積む。

リアス部長の合宿で、どれほど強くなれるのかは未知数だ。

でもゲーティア風紀委員長は俺を間違いなく強くしてくれる、そう確信している。

 

だけど、情けないのは俺の方だな。

魔力が低すぎる、こればかりはどうしようもない。

折角のゲーティア風紀委員長との修行も時間よりも先に俺の魔力が尽きて終了する。

どうすれば魔力の量を増やせるだろう、そんなことを考えながら風紀委員室の扉をノックした。

 

「風紀委員長、兵藤です。失礼いたします」

 

俺が中に入ると、アーシアがいた。

 

「あれ、アーシア、風紀委員室にいたのか?」

「あ、イッセーさん。はい、ゲーティア先輩に魔力操作に関して、教えてもらってたんです」

「魔力操作?」

「ああ、先程からアーシアに教えていたんだ。まあ、見ていろ。アーシア、もう一回だ」

「はい。いきます」

 

アーシアが右手人差し指を立てて、魔力を集中していく。

すると、そこに魔力が集まりだしていく。

俺もそのくらいは出来る、だが大きさが全然違う。

アーシアはテニスボールくらいの大きさにして見せた。

 

「よし、良いぞ。そのままゆっくり大きくしていけ」

「はい」

 

テニスボールの大きさが徐々に大きくなっていき、最終的にバスケットボールくらいの大きさになった。

凄い、俺はまだハエくらいの大きさにするのが精いっぱいだったのに‥‥‥俺、才能無いのかな。

俺が落ち込んでいると、更にアーシアが驚きの技を見せてきた。

 

「アーシア、次は左手人差し指だ」

「はい、頑張ります」

 

まさか、もう一個作るのか!

俺の驚きを他所に、左手人差し指で魔力を右手人差し指と同じ大きさにして見せた。

俺は更に落ち込んだ。

アーシアが片手でできる分を全力を使っても全くできないことに悲しくなった。

そして更に驚愕の出来事が起こった。

 

「アーシア、仕上げだ。両方の魔力を一つに合わせろ」

「はい、ゲーティア先輩」

 

返事をしたアーシアは魔力を一つに合わせて、押しとどめた。

魔力がバチバチとうなっているようだ。

そんな魔力をアーシアが作ったというのか。

俺は驚いた声も出なかった。

 

「よし、良いぞ。後はゆっくりと分解して、自分に戻せ」

「はい、‥‥‥ふぅ~、終わりましたー」

「よし、もう大丈夫そうだな。一誠、今日から魔力量の向上はアーシアが指導する」

 

俺はその言葉で見捨てられた、と思い、ゲーティア風紀委員長に慌てて聞いた。

 

「ゲ、ゲーティア風紀委員長、俺が‥‥‥才能がないから、ご指導を止められるんでしょうか?」

「いや、そうではない。私と一誠では魔力量に差があり過ぎる。それに私は生粋の悪魔であるため、魔力が自身にあることが普通なのだ。だが、一誠とアーシアは転生悪魔だ。魔力が無いの存在から、魔力がある存在に変わった。だから教え方が分からないんだ。ならば、教えられる者に教えてもらうことにした。アーシアも元は人間からの転生悪魔だ。確かにポーンとビショップの差はあるが同じく転生悪魔だ。なら、アーシアで出来た方法を一誠も試してみれば、上手くいくんではないかと思ったんだ。それに魔力量が少ないとしても、一誠の神器は倍化の力がある。元を少しでも多くすればそれだけ倍化したときの威力が上がる。最終的には今のアーシアくらいに出来れば、一誠の倍化で私に攻撃が通るようになるかもしれんな」

「ーー!俺の攻撃がゲーティア風紀委員長に通るようになるんですか!」

「一誠、お前の頑張り次第だ。まずはアーシアに教えてもらえ。そして、アーシアを越えて見せろ。その先に私はいるぞ」

「はい!アーシア、俺を鍛えてくれ」

「イッセーさん、はい。一緒に頑張りましょう」

 

俺は恩人であるゲーティア風紀委員長にいつか俺の力を認めて欲しいと常々思っていた。

いつも指導して頂いているというのに、まともに攻撃が通らない。

ゲーティア風紀委員長が防御もしていないというのに、攻撃が効かない。

いくら倍化をしても、限界まで強化しても、まるで効かない。

最近は身体強化の仕方も教えてもらったのに、魔力が足りないから、まともに強化も出来ない。

魔力を鍛えることは何時も欠かさずやって来た、でも、どうしても結果が出なかった。

だけど、アーシアが魔力量を増やしてくれれば、いや、アーシアの指導を参考に俺が魔力量を増やす。

そうすれば、ゲーティア風紀委員長に俺の攻撃が届く、いや届かせて見せる。

 

どうしようもなかった俺を風紀委員にしてくれた、恩人のゲーティア風紀委員長に感謝の言葉を言えていない。

いや、まだそんなことを言えるような立場じゃない。

まだなにもできていない、弱者の俺がそんなことを考えるなど烏滸がましいことだ。

あの人に俺を認めてもらった時、初めて言えることだ。

俺、頑張ります!ゲーティア風紀委員長に強者と認めてもらえるように頑張ります!

俺も男だ、あの人みたいに強くなるんだ!

 

side out

 

さて、一誠の強化はアーシアの指導に任せよう。

出来ないことを他のことで補うのもいい、だが何事も限界がある。

それなら、出来ないことを出来るようにすればいいが、これも限界がある、というよりできれば最初からやっている。

それでも出来ないから他を探して、補おうとして、また結局の堂々巡りだ。

だから結論は、無理矢理にでもやらざるを得ないときはやるしかない、だ。

ここからは気合と根性だ。

まあ、私が教えるよりもかわいい女の子が教えたほうが一誠もやる気が出るだろう。

 

さて、後は裕斗の方だな。

どうやって、強くしようか、義兄殿との戦いに間に合わせるために急ごしらえを教えるわけにはいかん。

それに今の義兄殿にそんな小細工は効かない。

ならば簡単だ。

単純に強くしよう、それが今の裕斗に必要なことだ。

私はそう考え、剣道場に足を運んだ。

 

side 木場 裕斗

「裕斗、少し話がある。ついてこい」

「は、はい!」

 

部活終わりの自主練中にゲーティア部長が現れ、僕を呼んだ。

一体なんだろう?

僕がグレモリー眷属だから、指導をできない、ということだろうか?

いや、ゲーティア部長はそんな器が小さいことを言う人ではない。

ならば、何だろう?

僕は答えが出ないまま、ゲーティア部長の後をついて行き、たどり着いたのは風紀委員室だ。

ゲーティア部長は風紀委員室に入っていったので、僕も続いて入っていった。

そこには、僕と同じグレモリー眷属の兵藤君とアーシアさんがいた。

どうやら、魔力操作を練習しているようだ。

僕が入ってきたのに気づいていないようだ。

それほど集中しているんだろう。

僕は彼らを邪魔しないように静かに距離を取った。

 

「裕斗。今度の義兄殿との戦いで恥ずかしい戦いをされては、私の名に傷がつく。よって対決の日まで私の直接指導を受けてもらう」

「ぼ、僕がゲーティア部長の直接指導を!」

「不服か?」

「いえ!滅相もありません!是非お願いします!!」

「よし、では早速行くぞ」

 

そう言ったゲーティア部長は転移陣を作り、僕を連れて転移した。

 

「到着だ」

 

回りに何もない、ただ広く、明るい空間にたどり着いた。

 

「裕斗、ここは楓に準備してもらっている空間だ。通常とは異なる空間のため、決して壊れず、周りへの影響を考えないでいい場所だ。ここで私と戦ってもらう」

「は、はい!宜しくお願いします。」

 

僕は魔剣創造から竹刀と同等の長さ、重さ、そして切れ味の鋭い剣を作り出し、ゲーティア部長に相対した。

ゲーティア部長は斧を出して構えた。

 

「さあ来い、裕斗。私に力を示してみろ!」

「はい!ウオオオオオオ!」

「ブルァァァァ!!」

 

僕は全力で真正面からゲーティア部長に挑み、思いっきりブッ飛ばされた。

真正面からの衝突だったがあまりの力の差に、僕だけ一方的に飛ばされた。

痛みが有るわけでなく、僕が作った魔剣が折れただけで、意識がはっきりしているけど、落ちることなく飛ばされているため、どこまで飛んでいくんだろうか、この世界に果てはあるんだろうか、そんな考えが浮かびながら飛ばされていった。

そんな僕が突然止まった。

どうしたんだろう、この世界の果てに着いたんだろうか、そんな考えが一瞬浮かんだが、直ぐにやめた。

 

「何で飛んでった僕を受け止めているんですか、ゲーティア部長」

「飛んでった裕斗より速く移動しただけだが」

「ああ、そうですか」

 

僕は考えるのを止めた。

僕はゲーティア部長に地面に下ろされ、第2ラウンドに突入した。

さっきは真正面からの斬り合いを挑んだが、衝突しただけで吹っ飛ばされた。

ここは緩急を使って撹乱しながらヒットアンドアウェイを心掛けよう。

僕は足で小刻みにリズムを刻み、急激な加速とブレーキをかけ、攪乱しながら距離を測り、一気に側面からの攻撃をおこなった。

 

「はあ!」

「遅い!」

 

その攻撃をまるで意に介していないように、無造作に払われ、また弾き飛ばされた。

今度は何とか地に足が付いたため、踏ん張ることが出来た。

 

「さて裕斗、終わりか?」

「まだまだ!」

 

全速力の突進からの急ブレーキ、そして方向転換してから、また側面への攻撃を試みた。

だけど、ゲーティア部長は僕の攻撃を完全に見切り、目で威嚇してきた。

だけど僕はそう来るだろうと思っていた。

そう僕に視線が向いたとき、魔剣創造で剣を下から作り、足を目掛けて剣を生やして突き刺そうとした。

だが、生やした剣がゲーティア部長に触れる前に粉々に砕けた。

 

「今、何かしようとしたのか?」

「!!」

 

気にした様子はない、ただ垂れ流した魔力だけで僕の剣が砕かれた、それが事実だと認めるしかなかった。

ゲーティア部長に小細工は効かない。

だけど僕には小細工以外に手がない。

ただ一太刀、渾身の一太刀以外全部小細工だ。

だから届かせる、そのための道を作るんだ。

 

「では、私から攻めさせてもらうぞ。ブルァァァァァ!!」

「クッ!」

 

ゲーティア部長の突進を何とか躱したが、それで好機は訪れない。

突進が躱されたと見るや、瞬時に反転し、掠るだけで即死しそうな程の力を持つ斧を振り回す。

その攻撃も何とか躱した、だけど反撃をする機会は訪れない、それからもゲーティア部長の攻撃は止むことはなかった。

僕は五感を研ぎ澄ませ、ゲーティア部長の一挙手一投足に細心の注意を払い、攻撃の軌道を読み、最高のタイミングを待て、と自分に言い聞かせ、ゲーティア部長の攻撃を凌ぎ続けた。

一振りで鎌鼬のような鋭い風を産み出す斧、地震のような衝撃を与える踏み込み、一睨みで失神しそうになる眼光、どんな攻撃も通さない強靭な肉体、どこにあろうと感じるであろう威圧感、その全てから全力で耐えた。

僕はゲーティア部長に決して勝てない。

剣道部の部員全員を相手にしても一方的に蹂躙してきたことを僕は知っている。

その強さに憧れ、近づきたいと思ってきた。

だからせめて一太刀だけでも届きたい、いや届かせる。

 

「よくぞ耐えた、だがここまでだ!今死ね、すぐ死ね、骨まで砕けろ、ジェノサイドブレイバー」

「今だ!!」

 

ゲーティア部長の必殺技、ジェノサイドブレイバーは魔力を溜める必要があるため、一瞬無防備になる、そのスキを待っていた。

僕は残りの全体力、全魔力を使い足を、そして剣を抜く腕を強化した。

 

「ウオオオオオ!!」

 

今から使う技は師匠の居合切り、見様見真似だけど、この際何でもいい。

最速の一太刀をゲーティア部長のクビを目掛け一閃した。

 

「な、なにーーーーーー!!」

 

ゲーティア部長もまさかのタイミングだったようだ。

今なら、一太刀、行ける。

届く、僕の一太刀が、ようやく‥‥‥

 

 

 

 

 

 

「なあんちゃって」

 

ゲーティア部長はジェノサイドブレイバーのチャージをしていなかった。

振りだけだった。

そして僕の一太刀を左手の指先で掴み、止められた。

 

「裕斗、覚えておけ。これが駆け引きだ」

「‥‥‥はい」

 

その後は覚えていない、掴み取られた後、引き寄せられ、殴られたのか、投げられたのか全く覚えていなかった。

 

 

 

次に目を覚ましたら、風紀委員室だった。

 

「目を覚ましたか、裕斗」

「‥‥‥ゲーティア部長」

「これを飲め」

 

僕はゲーティア部長に手渡された飲み物を飲んだ。

すると体の痛みや疲れが消えた。

 

「ーー!ゲーティア部長、これ」

「フェニックスの涙を薄めたものだ。そのくらいの疲れや傷くらいなら一気に消える」

「ありがとうございます」

 

僕はゲーティア部長に感謝の言葉を言った。

でもそれ以上に言いたい言葉があった。

 

「あー、一太刀も与えられなかった!!」

 

悔しかった。

ただ、単純に悔しかった。

それが、騙されたことだからなのか、届かなかったからなのか、他の何かだからなのか分からない。

だけど悔しかった。

 

「なんだ、最後の事か。裕斗の場合、私に一太刀を与えることに必死になるだろうと思っていたからな。だからわざとスキを作った。そうすれば裕斗は間違いなく、そのスキをつき、全力の一撃を撃つと思っていた」

「‥‥‥そうですか。読まれていましたか‥‥‥」

 

完全に読まれていた。

完全に掌で遊ばれていただけだ。

悔しさも、何も、ない。

僕が顔を下げ、気を落としていた。

だけど、僕の目の前にゲーティア部長の左手が現れた。

 

「裕斗、完全には読めていなかった。お前の一太刀は私に届いた。一太刀を指で掴める、そう思っていた。だがなお前の一撃は私の想像の上を行った。お前を見誤った私の未熟だ」

 

その左手には小さな傷があった、そこからはわずかに血を流している。

その傷は刃物傷、僕が作った魔剣の傷だ。

 

「‥‥‥そう、ですか。と、届きました、か」

「ああ、私の上を行った、素晴らしい一太刀だった」

 

僕は嬉しかった。

初めて届いた、僕の努力は無駄じゃなかった。

涙がこぼれる、我慢できない程に、嬉しかった。

 

「裕斗、9日後のライザー殿との戦いではこの程度の傷、すぐに回復するぞ。この程度で涙していては勝てんぞ」

「はい!」

 

僕は涙を拭いて向き直った。

でも、疑問があった。

それを聞いてみたくなった。

 

「ゲーティア部長は僕らが、その、グレモリー眷属が勝ってもいいんですか?」

「まあ、貴族的には義兄殿が勝つ方がいい。それにいくら裕斗が強くなっても、義兄殿は不死だ。この手のような傷では到底倒せない。だから、勝つのは義兄殿だ。‥‥‥だがな、私には責任がある。裕斗と一誠を鍛えた責任が、ある。私個人が裕斗と一誠を鍛えていることだが、貴族ゲーティア・バルバトスが鍛えていることでもある。悪魔界のバルバトス家は武門の家柄、その当主が鍛えた者が負けるなど、我がバルバトス家の名に傷がつく。貴族として、家名に傷がつくなど言語道断だ。今度のライザー殿との戦いは、我がバルバトス家の家名も掛かっているんだ。故に裕斗よ、義兄殿を倒し、我が家名と私の名を守れ。‥‥‥頼んだぞ」

「‥‥‥は、い‥‥‥」

 

僕はリアス部長が結婚しようが、そんなものどうでもいい。

ただ強者と戦い、己を高めたかった、そんなこともどうでもいい。

『ゲーティア・バルバトス』の名を守ることに比べれば、全て些事だ。

僕は全力で勝つ、ライザー・フェニックス様、後にゲーティア部長の義兄となられる方でも関係無い。

全力で勝つ、『ゲーティア・バルバトス』様の名を守るために、絶対に負けられない!

 

side out

 



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第28話 特訓2

「ただいま戻りましたわ、ゲーティア様」

「ああ、お帰りレイヴェル。実家の様子はどうだった?」

 

裕斗の直接指導を初めて3日がたった頃、レイヴェルが人間界に戻ってきた。

実家の方で、今度の対決の話をしてきたようだ。

 

「ええ、お兄様が勝つと疑っておりませんでしたわ」

「そうか‥‥‥」

 

もう勝ったつもりなんだろう。

まあ、無理もない。

フェニックス家が戦闘で負けると思えない、一般的にそうだし、ましてや義兄殿は最近は元龍王のタンニーン殿と組手をして実力を高めているのは周知の事実。

ご実家の方々がそう思わないはずがない。

 

「ですが、グレモリー眷属には木場先輩と兵藤先輩がいらっしゃること、そしてそのお二人を鍛えていらっしゃるのがゲーティア様だとご存じではなかったようなので、教えてさし上げますと、上のお兄様方は大慌てしておりましたわ。ですがお父様とお母様は、それくらいの試練も越えられずにグレモリー家に婿入りなど出来ない、という風におっしゃってましたわ」

「そうか、義父上殿達にとっては不義理をしているというのに、大変申し訳ない思いだ」

「何を仰いますか、お兄様がそう望まれたんですわ。ですからゲーティア様も全力で戦いへの準備をしてくださいまし、それにどれだけ頑張っても勝つのはお兄様ですわ」

「ああ、ならば全力でお相手させていただこう。私が用意した最高の戦士たちが義兄殿の最大の試練となるであろう」

 

全く、器が大きいな義兄殿は、義父上殿達は。

裕斗と一誠の指導に手を抜くつもりはなかった。

だが特別に手を加えるつもりもなかった。

だが、気が変わった。

いいだろう、義兄殿のために私が用意できる最高の戦士を用意し、宴の花としよう。

それが結婚披露宴か婚約解消パーティか、どちらにしろ宴になるんだ。

ここまではリアスの眷属ということで加減していたが、この際仕方がない。

死んだ方がマシだと思うほどの特訓を課して、成長させよう。

そうでないと、武門の家柄バルバトス家の看板を背負えないんだ。

私が二人を高みに至らせよう、そう決意した。

 

 

 

side 兵藤一誠

 

俺がゲーティア風紀委員長にいつものように指導を受けるつもりで、風紀委員室に入ると、木場が来ていた。

 

「よう、木場。珍しいな、風紀委員室に来るなんて。今日も剣道部の練習があるんじゃないのか?」

「ああ、兵藤君。うん、剣道部の練習はあるんだけど、今日もゲーティア部長に直接指導してもらえることになっているから、ここに来たんだ。」

「そうか、俺も指導してもらえることになっていたから、ここに来たんだが‥‥‥ゲーティア風紀委員長はいらっしゃらないのか?」

「うん、さっき部屋を出ていかれたよ。後、兵藤君が来たら、少し待っていろ、と伝えるように言付かったよ」

「そうか。待つか‥‥‥なあ、木場に聞きたいんだけど」

「何?」

「今度のライザー様との戦い、勝機はあると思うか」

「リアス部長と僕たちグレモリー眷属全員とライザー・フェニックス様一人、数の上では圧倒的に優位だ。でも質は圧倒的に不利だ。ライザー様は君の教えてくれた情報だけでも元竜王のタンニーン様と戦い合えるということ、そしてフェニックス家の特性である不死だ。例え攻撃が当たっても不死だから無意味だし、あちらの攻撃は炎だ。当たらなくても熱での副次効果で体力を削られる。不利な条件しかないね」

「ああ‥‥‥俺の考えだと百回やって百回負けると思っている」

「足りないよ。百万回やって百万回負けるね‥‥‥兵藤君は勝ちたい?」

「俺か‥‥‥分からないな。勝ち負けよりも全力でぶつかりたい。俺の持てる力全てをライザー様にぶつけたい。ただそれだけだ」

「そう、僕は‥‥‥勝ちたい。なんとしてでも勝ちたい」

「木場‥‥‥」

「‥‥‥僕だけ知っているのはフェアじゃないからね、君にも教えておくよ。僕達はゲーティア部長の家の名を背負っているんだ。僕と兵藤君はゲーティア部長に、『ゲーティア・バルバトス』様に指導され、ここまで力を伸ばした。『ゲーティア・バルバトス』様無くして、僕らの力はここまで向上することはなかった。僕らの師は『ゲーティア・バルバトス』様だと言えるんだ。そんな僕たちが今度の戦いで無様を晒せば、『ゲーティア・バルバトス』の名に傷がつくんだ。指導した師の名前に、家に、弟子である僕らが傷をつけるんだ。そんな不義理、僕には出来ない。‥‥‥だから僕は勝ちたい!」

「木場‥‥‥サンキューな、教えてくれて。ああ、俺も勝ちたいぜ!ゲーティア風紀委員長の名に傷なんてつけられねぇ。一緒に頑張ろうぜ!」

「ああ、兵藤君」

「イッセー、でいいぜ」

「ああ、イッセー君。共にゲーティア部長に勝利を届けよう」

 

俺と木場は互いに拳を打ち合わせた。

なんかいいな、こういうの。

負けれねえ理由が出来た、とても重いものだ。

恩に報いる、口で言うのは簡単だ。

だけど男なら行動で示すんだ。

俺は手を強く握った、すると左腕が熱くなった、気がした。

 

side out

 

 

 

私はアーシアとレイヴェルを連れ、風紀委員室に戻ってきた。

今日は裕斗と一誠に地獄を見てもらう。

だが、アーシアがいれば何度でも回復できる。

何度でも地獄を見せてやれる。

頑張ってくれよ二人とも、簡単に壊れてくれるなよ。

私は湧き上がる衝動を抑えながら、風紀委員室の扉を開けた。

 

「二人とも待たせたな」

「あ、ゲーティア風紀委員長。お疲れ様です。」

「お疲れ様です。」

 

私が風紀委員室に戻ると一誠と裕斗が話し込んでいたみたいだ。

この二人が仲良く話しているところは初めて見たな。

まあ、義兄殿との戦いではこの二人以外にまともな戦力はない。

リアスの消滅の魔力なら、義兄殿を消滅させることもできるが、それはあくまで実力に差がなければ、という条件が付く。

二人の力の差は歴然だ。

不死が追いつく間もない速さで消滅させるか、義兄殿を完全に覆えるだけの大きさの魔力で覆えればに消滅出来るだろうが、そこまでの魔力がないのか出来ない。

後は朱乃と小猫の二人では‥‥‥何ともならんな。

奥の手でもあれば別だが、二人では相手にならん。

やっぱり、一誠と裕斗以外に義兄殿を相手にはできないな。

私は改めてそう思った。

 

「よし、今日は今度の戦いを想定して、二人まとめて指導する。準備はいいな」

「「はい!」」

「では、行くぞ」

 

私は転移陣で私を含めた5人で楓が用意した異空間に飛んだ。

 

「よし、早速始めるぞ。レイヴェル、アーシアは私の後ろにいてくれ。後、二人が怪我をしたらアーシアに渡すから、治療してくれ」

「分かりました」

「よし、では行くぞ。裕斗、一誠」

「「はい!」」

 

一誠と裕斗が私に向かってくる。

私は迎え討つ準備を整え、指導が開始した。

 

 

side 兵藤一誠

指導が開始してどれくらい時間が経っただろう。

今日はゲーティア風紀委員長はいつもの斧を持っていなかった。

何故かと聞くと、簡単に死ぬから、そう言われた。

俺はともかく、木場には、カチンと来たのか、雄たけびを上げながら斬りかかって行った。

でも、あっさりと剣を掴まれ、握りつぶされ、思いっきり殴り飛ばされて見えなくなった。

俺も倍化して殴りかかって行くと、受け止められて、思いっきり殴り飛ばされて、木場のところにたどり着いた。

その後も何度も殴り飛ばされ、何度もぶっ飛ばされ、何度も意識を失った。

目が覚めるとそこには泣きそうなアーシアの顔がいつも映っている。

今日の指導は今までとはレベルが違う。

今までは体の使い方などの練習を主にしてきた。

最近は魔力量を向上させる練習や魔力での身体強化をしていた。

でも、今日のは実戦だ。

それも今まで経験したことがない程、はぐれ悪魔との戦いなんて目じゃない程の強者との実戦だ。

何度も飛ばされたのは俺がただ弱いからだ。

現に木場は数える程しか、アーシアに回復されていない。

俺も負けていられない、その思いで足に力を入れ、立ち上がり、また向かっていく。

 

「うおおおおおおおお!!」

「その心意気は良し。だが‥‥‥ハァッ!」

「グボォッ!!」

 

ゲーティア風紀委員長の放った拳は俺の目に映らない速さで、俺の腹にめり込み、前のめりにへたり込んでしまう。

そんな俺の頭をまるでボールを掴むように、握り持ち上げる。

 

「どうした、一誠、裕斗。まだ戦えるだろう」

 

どうやら木場も俺と同じような持たれ方をしているようだ。

現在は俺が右手、木場が左手で頭を持ちあげられている。

さっきからミシミシ、という音がしていたのに、今はバキバキ、という音がしている。

だというのに、ドンドン痛みが無くなっていく。

そして目の前にはいつも以上に殺気に満ち溢れたゲーティア風紀委員長が鬼が泣きながら逃げ出しそうな形相をしている。

俺と木場は今日死ぬんだ、そうに違いない。

ドンドン意識が遠くなっていく中、そう思った。

 

「チッ!またか、行くぞ!アーシア!」

 

だけど、俺と木場は投げ飛ばされた。

時速160㎞を投げる、剛腕ピッチャーに投げられる野球ボールの気持ちになりながら、アーシアの下に飛んで行った。

 

「イッセーさん!、木場さん!」

「アーシア!!さっさと直せ!!」

「は、はいいいい!!」

 

俺と木場はアーシアの神器で傷を治され、そして立ち上がった。

 

「さあ、どうする。ここでやめてもいいぞ。私はこれ以後お前たちの指導をしなくて済む、その分を他の見込みのある者にその時間が使える。」

「ま、まだまだ、うおおおおおおおお!!」

「木場!くそ!早く溜まれ!」

『Boost!!』

 

俺の神器は10秒ごとに力を倍化させる。

だから発動までに時間が掛かる。

木場はゲーティア風紀委員長に食い下がっている。

俺も早く行きたい、だけど今の俺だとゲーティア風紀委員長に食い下がるには最短で12回、つまり120秒かからないとまともに戦闘も出来ない。

それ未満だと歯牙にもかけてもらえない程だ。

だけどもっとだ、もっと、もっと力が必要だ。

あの人に届かせるにはもっと必要だ。

だけど、自己最高の強化回数は13回、それも使った後で血管がキレて出血して倒れた。

俺の肉体強度が不足していて、限界を超えられない。

倍化するってことは負担も倍だ。

だから俺自身をもっと鍛えないと更なる強化に耐えられない。

魔力で体を強化、更に倍化でもっと強化、だけど届かない。

ゲーティア風紀委員長に届かせるために毎日アーシアの指導の下、魔力量を向上させている。

まだ3日目だと言うのに、以前のハエレベルから、芋虫レベルに成長出来た。

だけど、ゲーティア風紀委員長は太陽レベルだ。

だけど、ハエが4096倍の大きさになるより、芋虫が4096倍になった方がでかい。

そしてデカイ分、更に負担に耐えられる。

今こそ、13回目の強化に挑戦だ!

『Boost!!』

 

「いくぞ、ブーステッド・ギア!」

『Explosion!!』

「グッッ!」

 

ヤベェ!以前みたいに血管がキレたような気がする。

でも、我慢できるだろう、俺!

どうせ一発殴って、アーシアのところにぶっ飛ばされて、回復されて、もう一回やるんだ。

次は14回目に挑戦するんだ。

後が詰まってんだ。

ここで止まるな。

 

「ウオオオオオオオオオ!!」

 

俺の全力を貴方に届かせる。

俺は全力で地を蹴り、一気に距離を詰め、思いっきり殴りかかった。

 

「ゲーティア風紀委員長!俺の一撃、止めれるものなら止めてみろ!」

「面白い!」

 

ゲーティア風紀委員長は木場はアーシアの方に蹴り飛ばすと、俺に相対し、腰を落とし両腕を広げ、待ってくれた。

 

「こい!一誠!」

「ゲーティア風紀委員長!!」

 

俺は思いっきり左の拳をゲーティア風紀委員長に胸板に叩き込んだ。

ゲーティア風紀委員長は両手を広げたまま、微動だにしない。

くそ!俺の一撃じゃ、やっぱり届かないのか‥‥‥

 

「いい一撃だ、この私を微弱だが動かすとは、成長したな一誠」

「え?」

 

少し、本当に少しだけど、後ろに下げられた。

やった!俺の一撃はちゃんと届いた。

 

「だが、この程度では勝敗に影響を与えん。いくぞ一誠!」

「うわあああああああああ!」

 

俺を掴み、またもアーシアのところに投げられた。

俺の落下地点近くにアーシアが駆け寄り、待ってくれているのが見えた。

 

「イッセーさん!」

「ア、アーシア回復、頼む」

 

俺は意識が飛びそうになるのを気合で耐え、さっきの一撃の感触を思い出している。

俺の左手に残るゲーティア風紀委員長の胸板の感触、岩いや山のような感触、衝撃を受けた。

動くことがない、ただあるがままに飲み込む自然のような大きさを感じた。

でも‥‥‥俺が動かした、動かせた。

そのことが涙が出る程、嬉しかった。

だけど、まだだ。

もっと、もっと、もっと力が欲しい。

―――赤い龍帝さんよ、聞こえてるなら答えてくれよ。俺にもっと力をくれ!

俺は左手を握り、語り掛けた。

 

「俺に力を貸しやがれ!ブーステッド・ギアッ!」

『Dragon booster!!』

 

まだだ、もっとだ、もっと輝け、こんな力じゃゲーティア風紀委員長に勝てねぇ。

お前は二天龍なんだろ!神だって殺せるんだろ!だったらこんなもんじゃねえだろ!

 

「まだだ!もっと、もっと、もっと輝けぇぇぇぇぇ!!」

『Dragon booster second liberation!!』

 

聞いたことのない音声が聞こえ、籠手が光輝き、それが終わると形が変わっていた。

新しい形と共に新しい力が備わった。

宝玉が俺にその力の使い方を教えてくれたようで、頭に力の使い方が浮かんでくる。

新しい能力は『譲渡』の力。

俺自身の力を他の者に『譲渡』する能力だ。

俺自身の力を倍化で強化して、他の者に譲渡することで、他者に俺自身の力を上乗せすることが出来る。

 

「これだ!」

 

新しい力、これなら、ゲーティア風紀委員長に勝てる。

後は木場だ。

俺は木場の方を見ると、飛んできた。

ゲーティア風紀委員長に投げ飛ばされている。

おい、木場。

お前は俺よりもゲーティア風紀委員長に食い下がれる。

だけど一撃の力が足りなくて押し負けてやがる。

だったら俺の力も持っていけ。

俺一人でも、お前一人でもゲーティア風紀委員長に勝てねえ。

だけど俺達二人なら、俺の力と木場のスピードならあの人に勝てるかもしれねえ。

行くぞ、木場。

俺達の力を、あの人が育てた力を、その身に叩き込んでやれ。

俺は木場に声を掛ける前にもう一度強化に入った。

『Boost!!』

 

side out

 

ふむ、先程光ったのは一誠の神器か。

神器が禁手に至ったのか?

‥‥‥いや、そうではないようだ。

少し形が変わっただけで禁手ではないようだ。

以前楓が禁手に至ったときはとてつもないもので、その禁手の前に私は敗れた。

楓の神器は特別だとしても一誠の神器も神滅具と呼ばれるほどの物だ。

禁手がこの程度のはずがない。

さて、どうする一誠。

わたしは一誠達の動きに注目していると、一誠が裕斗の下に駆け寄って、何か話をしている。

おそらく新しい力を使う、という内容だろう。

ならば、それがどういうものか見極めさせてもらおう。

私は二人が次の手を打つまで、手を出すことを止めた。

‥‥‥さて、どうやら相談が終わったようだ。

時間にして約2分程か、先程から一誠が倍化に入っていたところを見ると、先程と同じ倍率だろう。

一誠自身の限界がおそらく先程使った13回だろう。

それも無理をしていたのは分かっていたので、躱すことも防御することもせずに受けてやることにしたが、実に良い一撃だった。

鍛錬だからと言って、手を抜くなど微塵も考えていない魂のこもった一撃だった。

まだまだ伸びる、一週間後には何処までいけるか、想像できない。

私の想像を超える成長速度だ。

これからが本当に楽しみだ。

義兄殿、対決の時を楽しみにしていてください。

私の鍛えた者達は紛れもなく強者だ。

 

「行きます!ゲーティア風紀委員長」

「今度こそ、貴方に一撃を!」

 

どうやら2人掛かりのようだ、全然かまわない。

これは実戦だ。

お前たちが二人で力を合わせるもよし、一人で向かうもよし、だ。

 

「さあこい、裕斗、一誠、恐れを捨ててかかってこい!」

 

二人はスピードのある裕斗が前に、一撃の破壊力がある一誠が後ろに控え、突っ込んできている。

裕斗が私の攻撃を捌き、一誠の一撃に繋げようというんだろう。

良い考えだ、即席にしては最適解だと褒めておこう。

だが、そんな作戦、裕斗が力負けをする時点で意味がない。

 

「ハァッ!」

 

裕斗が魔剣を振りかぶり、攻撃の体勢に入っている。

一誠はまだ、裕斗の後ろか。

ならば、裕斗を先に潰すか。

私は今までと同じく、拳で魔剣をへし折りついでに優斗を殴り倒そうとした、だが‥‥‥

 

「ブーステッド・ギア!第二の力!ブーステッド・ギア・ギフト!」

 

一誠が裕斗の背中に左手を当てて、神器の宝玉部分が光った。

すると裕斗に大きな力が流れ込んでいき、私の拳を止めた。

 

「いける!ゲーティア部長!」

「やるな、裕斗」

 

どうやら、一誠の新しい力は他人に力を与える能力のようだ。

裕斗が私と打ち合えるだけの力とは‥‥‥一誠の強化の度合いが影響するようだ。

速さの裕斗、力の一誠、その二人が力を文字通り合わせた結果が私と打ち合えるレベルに達した、ということか。

 

「面白い!いいぞ、裕斗、一誠。足りないなら他から持ってくればいい。簡単だが本来ならば不可能なことだ。それがまさか神器で可能となるとは、実に面白い」

「ゲーティア部長、今日は手の薄皮だけでは済ませませんよ!その腕、もらい受けます」

「いいだろう!ならば‥‥‥もう一段レベルを上げよう。フンッ!」

「え!」

 

私は二人の頑張りに胸を打たれた。

いいぞ、これなら一週間後の対決までに予定していた段階を超えられるだろう。

ならもう少し目標を高く設定しよう、力をもう少し引き上げられるだろう。

だから私は少し力を入れてみることにした。

簡単に壊れてくれるなよ、裕斗。

 

 

その後、力の強化時間を過ぎた裕斗を私は勢い余って飛ばし過ぎた。

裕斗が耐えられる力を超えていたので、アーシアの治療では間に合わず、フェニックスの涙を使用した。

何とか死ななかったが、これ以上の鍛錬は無理だと判断して今日のところは終了した。

風紀委員室に転移で戻ってきてすぐに、裕斗と一誠をそれぞれ別のソファーに寝かせた。

 

「すまんな、裕斗。」

 

私は風紀委員室のソファーで寝ている裕斗に謝っていた。

 

「いえ、むしろ嬉しいくらいです。ゲーティア部長に思わず力を出させることが出来て」

「そうか、まあ私の想定を超えてきたのは間違いない。明日も今日以上で行くからな」

「はい!」

 

力強い目で、返事をしたがその声は大きくはない。

裕斗は疲労困憊の様で、大きな声を出せないようだ。

ゆっくり休むといい。

さて、風紀委員室に戻ってきて、今は9時くらいだろうか。

悪魔なのでこれからが仕事の時間だ。

はぐれ悪魔の出現はないのか、生徒から陳情はないのか、気になっていた。

私は自席の書類を確認しようと裕斗の傍を離れようとしたとき、裕斗から声を掛けてきた。

 

「あの、ゲーティア部長。大変申し訳ありませんが、僕は旧校舎に行かないといけないんですが、一誠君を呼んでくれませんか?」

「どうした、裕斗?今の旧校舎に何か用があるのか?私で出来るなら、その用事、私が解決しようか?」

「いえ、そんな。恐れ多いことです。これはグレモリー眷属がしないといけないんで‥‥‥」

「なにかあるのか?」

「‥‥‥グレモリー眷属のもう一人のビショップに食事を届けないといけないんです」

「リアスにアーシア以外にビショップの眷属がいたのか‥‥‥ああ、学園に入学する前にビショップが一人いると言っていたな」

「ええ、訳あって封印されています。いま旧校舎に封印されていて、夜の間だけ封印が解けます。その時は旧校舎内は移動できるんですけど食事を自分で用意できませんので‥‥‥それにリアス部長達が合宿に行ったのでその間、彼の食事を誰かが用意しないといけないんです」

「そうか、おーい一誠。少しいいか」

「は、はい」

 

私は一誠を呼んだところ、こちらも傷はないが、疲労困憊の様で足がブルブル震えている。

歩くのもやっとのようだ。

アーシアが支えて、一誠を連れてきてくれた。

 

「なんでしょうか、ゲーティア風紀委員長」

「裕斗が話したいことがあるそうなんだが、声が出そうにないんだ。悪いが近くによって聞いてやってくれ」

「はい、木場どうした」

 

先程私に話したのと同じ内容を裕斗が一誠に言っている。

 

「ええ!アーシア以外にビショップの眷属がいたのか!」

「ビックリです」

 

どうやら2人は初耳だったようだ。

リアスはどうして眷属の事を教えてなかったんだ?

私が疑問に思っていたが、まあいい、と気にすることを止めた。

だが、裕斗がしようとしていたことを一誠にお願いしているが、初対面の眷属に合わせるとなると相手も警戒するだろう。

それに今の一誠はアーシアが支えて、漸く歩いているようなものだ。

よし、私が連れて行こう。

 

「裕斗、私が裕斗を運ぶからその眷属のところに行こう。」

「で、ですが‥‥‥」

「この中でその眷属の事をしているのは裕斗だけなんだろう?だったら裕斗が行かないと相手も警戒するだろうし、さっきの話、封印という話だが、何か問題があるんだろう?今の疲労している一誠に頼むのは酷だ」

「ああ、封印の話は彼の能力が強すぎて制御できないからです。彼自身には‥‥‥少しだけ問題がありますが悪い子ではないですよ」

 

裕斗が言い淀んだ、何かまずいんではないだろうか。

やっぱり私が行かないと、何かあったときに大変だ。

裕斗をこんな状態にしたのは私だし、近くまで運ぶくらいはしてやろう。

 

「裕斗、行くぞ」

「へ?う、うわあああ!」

 

私は裕斗を担いで、立ち上がる。

 

「ゲ、ゲーティア部長!」

「すまんな裕斗、だが裕斗をそんな状態にしたのは私のせいだ。とりあえず旧校舎の中までは私が運ぶ。あと、ついでだ。」

「うわぁぁ」

「一誠行くぞ。レイヴェル、アーシアもついてこい」

 

私は歩きにくそうな一誠も担いで、風紀委員室を出た。

 

「裕斗、彼は何を食べるんだ?」

 

まずは近場のコンビニにでも行って、食料を買いこもう。

 



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第29話 封印された下級生

私は一誠と裕斗を担いで、近くのコンビニに買い物に行って、食料を買い込んでから旧校舎にやって来た。

しかし、大量に買ったな。

私は両腕に一誠と裕斗を担いだ状態で、袋を片手に5つずつ持っている。

女性陣に持たせるなど、私の矜持に反するので荷物は全て持っている。

それに当初は旧校舎の彼の分だけにしようとしたんだが、私も鍛錬の後で腹が減っていたし、裕斗も一誠も同じだろうと思い、大量に買い込むことになった。

お金は全て私が出した。

後輩に出させるような恥ずかしい真似は出来ない。

 

「さて、裕斗どこに行けばいいんだ?」

「はい、一階の奥にある『開かずの教室』までお願いします」

 

私は裕斗の指示に従い、目的の場所まで運んだ。

目的地にはすぐにつき、目の前の状況に唖然とした。

『KEEP OUT!!』のテープが貼られていて、呪術的な封印も施されている。

なるほど一目で封印されていることが分かる。

 

「あの中です。ただ封印を壊していけないので、あのテープをくぐります。あのゲーティア部長もうここまでで大丈夫です」

「いや、下ろすのはいいんだが、あのテープをくぐれるほど回復しているのか?」

「‥‥‥あの、大変申し訳ございませんが、いいですか」

「元よりそのつもりだ。気にするな」

 

私は裕斗と一誠を担いだまま、テープを器用に避けて扉に近づいた。

扉の目の前で二人を下ろし、支えて立たせた。

 

「すいません。ゲーティア部長」

「ありがとうございます」

「構わん。気にするな」

 

私が支えながら、裕斗が扉をノックする。

 

「ギャスパー君、食事持ってきたよ。悪いんだけど扉開けてもらえないか?」

「はーい」

 

すると中から甲高い声が聞こえた。

あれ?彼、と裕斗が言っていたので『男』だと思っていたが‥‥‥いや声変わり前なのか?

そんなことを考えていると扉が開き、中から小柄な女の子?が現れた。

その子は私たちを見て、叫んだ。

 

「イヤァァァァァァァァァ!!」

 

大きな甲高い声で叫び、部屋の中に逃げ込んでいく。

私たちは彼?を刺激しないように裕斗に先頭に立って、彼?を落ち着かせてもらうことにした。

 

「ギャスパー君、大丈夫だから落ち着いて。今日の分の食事だよ。ごめんね遅くなって、お腹空いたでしょう」

 

裕斗が柔らかく、ギャスパーに話しかけ落ち着かせようとしている。

 

「で、でで、でも、あ、あ、あ、あ、あの人、とっても怖いですーーーーー」

「大丈夫だよ。怖くないよ、とても強くて優しい人だから、それに僕たちを指導してくれてとても強くしてくれているんだから。大丈夫、信頼できる人だから安心して」

「‥‥‥うううう」

 

こちらを警戒しながら見ている、ひどく怯えているようだ。

仕方がない、ここは事情だけ説明して帰るとするか。

 

「ギャスパー、というのか?」

「!!!来ないでーーー!!」

 

何か力を発したようだが、何も影響がないな。

いや、私以外には影響があるようだ。

 

「ほぉー、動きを止めるのか」

「な、なんで!なんで動けるの!」

「なんで?単純に力が足りないからだろう」

 

私が事もなげに答えると、ギャスパーは驚き、怯え、泣きながら謝罪を繰り返した。

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。‥‥‥」

 

そう言っていると、みんなが動きだした。

裕斗が彼の様子を見て、私に聞いてきた。

 

「ゲーティア部長、彼、力を使いましたよね?」

「ああ、どうやら動きを止める力のようだな」

「ええ、正確に言うと視界に映した物体の時間を一定時間停止させる神器を持っているんです」

「そうか。その力を制御できないから封印されているということか。なぜ制御できない?いや制御できないなら制御出来るようにすればいい。なぜしない?」

「‥‥‥そういった知識を持つ人がいなかったからだと思います。僕も詳しくは知らないんです」

「そうか、まあいい。とりあえずはこれだ」

 

私は両手のコンビニ袋を掲げると、裕斗も納得した。

いい加減に食事にしよう。

私も腹が減ったし、彼も腹が減っただろう。

 

「ギャスパー君、お腹空いたし、食事にしよう。一誠君、机があるから出すの手伝って」

「ああ、分かった」

 

2人が机を並べようとしている。

少し回復したようで、それくらいは出来るようだ。

私はギャスパーの方を見ると、まだ俯き、謝り続けている。

力にトラウマがあるんだろう。

強すぎる力は孤独になる、そうだ。

私には無縁だったのでよくわからないな。

幼き頃からセバスがいて、成長してからは眷属が出来、そしてこの学園で友が出来た。

彼のことを助けること、力を制御できる方法を教えることは難しいことではない。

だが彼が制御しようとするか否か、それ次第だな。

 

「ギャスパー君、用意できたよ」

「‥‥‥ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」

 

まだこの状態だ。

仕方がない、少し驚くかもしれんが許せ。

 

「ギャスパー」

「はいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」

 

目の前に立ち、目線を合わせただけでこの様だ。

驚いて逃げようとしているが、それはさせない。

私はギャスパーの両肩を押さえ、ジッと目を見る。

華奢な体だ。

本当に男なのか?

私はそんなことを考えている間も逃げようとしているし、神器を使っているようだ。

私には効かないので関係ない。

 

「メシだ。行くぞ」

「へ?メシ?」

「今からメシだ。行くぞ」

「で、でも」

「メシだ。行くぞ」

「で‥‥‥」

「メシだ。行くぞ」

「‥‥‥はい」

 

とりあえず腹が減っては何とやらだ。

食うもん食ってから聞いてみよう。

 

「よし、食うぞ。ギャスパー、嫌いなものはあるか?」

「え、え、えと、ニンニクとかダメです」

「ニンニク?」

「ゲーティア部長、ギャスパー君は吸血鬼と人間のハーフなんです。だから吸血鬼の弱点はダメなんです」

「そうか。ではこのペペロンチーノは‥‥‥一誠食うか?」

「あ、はい。いただきます」

「ではギャスパーは‥‥‥このとんかつ弁当はどうだ?」

「あ、はい。頂きます。」

 

すこし落ち着いてくれたな。

良い傾向だ。

 

「よし、皆行き渡ったな。では、いただきます。」

「「「「いただきます」」」」

「え、えーと、い、いただきます」

 

私の号令でみんなが手を合わせて、食べ始めた。

日本に来てから、いただきます、と言うようになった。

前世では当たり前すぎて忘れていたし、晩年は一人だったため、言うこともなかった。

もはや感謝も忘れてしまっていた。

だが大勢で一緒に食べるときに、一緒に号令するのは何かいいものだ。

少なくとも一人ではないと感じていた。

ギャスパーにも、そう思ってくれればいいと思った。

 

side ギャスパー・ヴラディ

僕は旧校舎の一階に封印されている。

外に出れないから、自分で食事を用意できないので、朱乃さんか小猫ちゃんが届けてくれている。

だからご飯も一人で、夜にまとめて用意されていた物を3食に分けて食べていた。

先日からリアス部長達が合宿に行っている間、裕斗さんが僕に食事を運んでくれていた。

僕は食事はいつも一人だったし、これまでもずっとそうだった。

きっとこれからもずっとそうだと、思っていた。

今日はいつもの時間に裕斗さんが来なかった。

忘れられたのかな、お腹空いたな、そう思っていると扉がノックされた。

 

「ギャスパー君、食事持ってきたよ。悪いんだけど扉開けてもらえないか?」

 

僕はその言葉で扉まで足を運んだ。

ちょっと時間がずれただけだ、そう思って扉を開けると、そこにはとんでもなく怖いものがいた。

恐怖というものを形にするとこんな形なのかな、そんなことが一瞬頭を過ったがそれよりも動物的本能が上回った。

『逃げろ!』

僕の中のなにかが、そう呼び掛け悲鳴を上げて部屋の奥に逃げ込んだ。

 

「イヤァァァァァァァァァ!!」

 

こんなに怖い思いをしたのはヴァンパイアハンターに出会った時以来だった。

その後、裕斗さんが僕を落ち着かせようとしていたけど、僕の頭には恐怖しかなかった。

 

「ギャスパー、というのか?」

 

その声を聞いたとき、僕の恐怖心は最高潮に達した。

 

「!!!来ないでーーー!!」

 

僕の神器が暴走した。

でも、この時ほど僕の忌み嫌われた力をこれほど心強く思ったことはない。

裕斗さんと他の人達を止めてしまった。

でも、止めたかった人は止まらなかった。

 

「ほぉー、動きを止めるのか」

 

平然としているその姿に、更に恐怖した。

 

「な、なんで!なんで動けるの!」

「なんで?単純に力が足りないからだろう」

 

力足りない。

初めて言われた、力が足りない、と。

力が強すぎて僕は封印しないと迷惑が掛かる。

忌み嫌われた力だから、吸血鬼達から追い出された。

あの時のヴァンパイアハンターも怖いと思ったけど、今日会ったこの人はおかしい。

あの時のヴァンパイアハンターには神器で時間を止めれた。

でも、この人にはそんなの全く意味を成さない。

だけど、周りの人達の時間を止めてしまった。

もうこんな力、使いたくなんてないのに。

時間が止まったときの顔は見たくないのに。

世界でただ一人、取り残された気持ちになる。

僕だってこんな力を欲しくなかったのに。

ごめんなさい、時間を止めてしまってごめんなさい。

ごめんなさい、生まれてきてごめんなさい。

ごめんなさい、生きててごめんなさい。

僕はひたすらに謝り続けた。

でも、その懺悔を聞いたのは神ではなく、悪魔だった。

 

「ギャスパー」

「はいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」

 

目の前に悪魔が降臨した。

本当に目の前に、僕の両肩を拘束して出現した。

 

「メシだ。行くぞ」

「へ?メシ?」

 

メシ?確か食事のことだよね。

僕を‥‥‥食べるんだ。

この悪魔に食べられるんだ。

逃げたい、拒否したい、命だけはお助けを。

逃げたいけど、両肩を拘束されているから逃げれない。

拒否居たいけど、鋭く有無を言わさない眼光に睨まれ拒否できない。

命だけは助けて欲しいけど、この状況ではそれも無理だ。

 

「‥‥‥はい」

 

さっき懺悔したのに、まだ未練残ってしまう。

ヴァレリー、せめて一目君にもう一度会いたかった。

僕は連行されて、椅子に座らされた。

 

「よし、食うぞ。ギャスパー、嫌いなものはあるか?」

 

え、僕を食べるんじゃないの!

思わずそう言ってしまいそうになったけど、何とか話題に乗ることが出来た。

 

「え、え、えと、ニンニクとかダメです」

「ニンニク?」

「ゲーティア部長、ギャスパー君は吸血鬼と人間のハーフなんです。だから吸血鬼の弱点はダメなんです」

 

いえ、別に吸血鬼のハーフなんで特にニンニクが弱点じゃないです。

ただ匂いがキツイ食べ物が嫌いなだけです。

僕は裕斗さんの勘違いを正すことはなく嫌いなものが目の前からどけてもらえて安堵した。

 

「ではギャスパーは‥‥‥このとんかつ弁当はどうだ?」

「あ、はい。頂きます。」

 

嫌いなものを言ったら代わりの物を出してもらえた。

今まではこんなことなかったな。

何だかこの人、怖いけど、いい人かも、そう思った。

 

「よし、皆行き渡ったな。では、いただきます。」

「「「「いただきます」」」」

「え、えーと、い、いただきます」

 

大きな人が手を合わせて合図をすると、他の人達もそれに合わせて同じ掛け声が続いた。

僕も同じことをしようとして、不格好だけど同じことが出来た。

初めてだな、こんなこと。

誰かと一緒に食べるなんていつ以来だろうな。

暖かいな、これもいつ以来なんだろうな。

そう思いながら黙々とお弁当を食べていた。

 

side out

 

よしメシも食った。

どうやらギャスパーも落ち着いたようだ。

さて、まずは自己紹介だ。

 

「食い終わったか、ギャスパー」

「あ、はいごちそうさまでした」

「もう少し食べた方がいいな。成長期なんだ、もっと食べて体を大きくした方がいいぞ」

「は、はい」

「さて落ち着いたところで、まずは自己紹介だ。私の名はゲーティア・バルバトス。バルバトス公爵家の現当主だ」

「ええええ、バルバトス公爵様ですか!こ、これはご無礼を、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」

「いいから、頭を上げろ。それに今の私は駒王学園3年、風紀委員長であり、剣道部部長であり、文芸部部長であり、不良更生指導教官長だ。気にするな。いいな」

「は、はい」

「では次は一誠だ」

「はい!俺の名は兵藤一誠、駒王学園2年だ。今は風紀委員とオカルト研究部を兼部している。ギャスパーと同じグレモリー眷属だ。よろしくな」

「は、はい。よろしくお願いします、兵藤先輩」

「イッセーでいいぜ」

「はい、イッセー先輩」

「うむ、では次はアーシアだ」

「はい。アーシア・アルジェントです。駒王学園の2年生です。同じくグレモリー眷属のビショップです。よろしくお願いします」

「は、はい。同じビショップなんですね。よろしくお願いします。アーシア先輩」

「はい」

「では、最後にレイヴェル」

「はい、私はレイヴェル・フェニックス。フェニックス家の長女であり、ゲーティア様の婚約者ですわ。本年入学した駒王学園の1年生ですわ。ギャスパー君とは同級生ですわね。よろしくお願いしますわ。」

「はい。よろしくお願いします」

 

うんうん、落ち着いていれば神器は発動しないようだな。

同じメシを食う、というのは思いの外結束が生まれるものだ。

案外一緒に食事をしていけば、落ち着くんじゃないのか。

 

「さて、自己紹介も終わったことだし、少し聞いてみたいがいいか、ギャスパー」

「はい。どうぞ」

「ではまず、ギャスパーは神器のコントロールが出来ない、というのは本当か?」

「‥‥‥はい」

「コントロールできるようになりたいか?」

「‥‥‥もうあきらめてます」

「そうか、ではその話は止めよう」

「え!」

 

ギャスパーが大きな声を上げた。

 

「どうした?ギャスパー」

「いえ、今までは頑張って練習しよう、とか、諦めるな、とか言われていて、無理矢理やってきてずっとダメだったんで‥‥‥」

「まあ、頑張ったって無理なものは無理だ。自然に出来るようになるかもしれんし、出来んかもしれん。私が無理矢理教えても結局は当人次第だ。神器は人の思いで変わるものだ。ならば何よりも気の持ちようが大事だと私は思う」

「気の持ちよう?」

 

ギャスパーはクビを傾げている。

まあ、こればっかりは自分と向き合うことだな。

神器も意志を持っている。

どうするかは自分次第だ。

 

「まあ、他に聞きたいこともあるし、神器の話は終わりだ。次の話をしよう」

「はい」

「ギャスパーは駒王学園の生徒なのか」

「はい、一応籍は置いています」

「そうか。ギャスパーは部活はどうしているんだ。やっぱりオカルト研究部なのか?」

「はい。でも一度も参加したことはありません。ここに封印されているんで」

「でも、ギャスパー君は悪魔の活動もこの部屋でやっているんですよ。あのパソコンを使ってやっているんです」

「ほう、パソコンで契約を取っているのか。ではパソコンの操作には自信があるのか」

「はい。大体の事ならできます」

「では、プログラミング開発なども出来るのか?」

「はい。自信があります」

 

どうやらかなりの熟練者のようだ。

それに今までになく自信に満ち溢れている。

だが、先程の会話で一つ引っかかることがあった。

 

「ん?でも確か、夜の間は旧校舎内を自由に出歩けるんだろ?なのに、一度も参加したことがないのか?」

「え、えええと‥‥‥」

 

ギャスパーがアタフタしている。

何かを取り繕うとしているようだ。

周りを見渡すと、裕斗だけが苦笑いをしている。

何か知っているのか?

 

「裕斗、何かわかるのか?」

「‥‥‥ギャスパー君はただ外に出たくないだけですよ」

「そうなのか?」

「‥‥‥はい」

 

私の視線に負けてギャスパーは観念したように白状した。

 

「そうか。まあ当人がいいならそれでいいだろう。特に困ってはいないんだろう?」

「ええ、まあ」

「ならば、それでいいだろう」

「え!」

 

またもギャスパーは大きな声を上げた。

どうしたんだ、一体?

 

「どうしたギャスパー?」

「いえ、今まで引きこもりはダメだ、外に出ろ、とか言われてきたんで‥‥‥それに、お外に出ると死んじゃったときのことを思い出してしまうんで‥‥‥」

「まあ、やりたくないならそれでもいい。困らなければそれでいいだろう」

「はい‥‥‥ゲーティア先輩は僕のやること認めてくれるんですね」

「私にギャスパーにどうしろ、こうしろと命令する権利も義務もない。ギャスパーはギャスパーだ。自分のスキにすればいい」

「‥‥‥はい」

 

ギャスパーは俯き、返事をした。

 

「では最後だ、他人は怖いか」

「!!」

 

やはりそうか、この部屋を訪れた当初よりは落ち着いたが、それでも手が震えている。

さっき言っていたが、外に出ると死んだときの事を思い出す、と言った。

それはそうだろうな、死んだときの事を覚えていて、もう一度生を得る。

その時どう思うか、当人次第だが、もう一度死にたいとは思わないだろう。

やはりトラウマになるだろうな。

それが外に出るという行為、ギャスパーはその行動が死に繋がった。

なら、この部屋に封印されることはギャスパーの望みであり、ギャスパーが自身を守る唯一の方法だったんではないだろうか。

そう思うとギャスパーが自身から出たいと思わない限り、神器をコントロールしようとはしないし、この部屋から出ようとは思わないだろう。

死ぬことも越えた興味が外になければ、彼はここから出ようとはしないのではないだろうか。

もしそうだとするならば、もし封印が解かれて、外に出た時、彼は生きることができるのだろうか。発狂するんではないだろうか。

もしそうなったとしても、リアスの眷属だからリアスに任せるべきだと思う。

だが、彼も駒王学園の生徒だ。

先輩として彼の指導しよう。

トラウマを消せるわけではないし、過去を変えることは出来てもしない。

そんな私にできることをしよう。

そう決めた。

 

「ギャスパー、もう一つ部活に入らないか?」

 



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第30話 入部

ギャスパーにもう一つの部活を薦めた後、とりあえず明日説明することにして一度解散した。

他のみんなは帰宅した後、私は風紀委員室に戻り、職務を行った。

悪魔なので時間が遅くても問題なく、仕事を終えてから帰宅しようとして、あることを思い出した。

 

「あ、そうだ。忘れるところだった。」

 

私は一度パソコンを起動して、ギャスパーから連絡が来ていることを確認した。

 

「よし、来ているな。ではこれを彼に送ろう」

 

私はパソコンを操作し終えて、電源を切って帰宅した。

 

 

次の日、私はある部室に向かった。

 

「失礼する、部長はいるか」

「ああ、ゲーティアさん。どうなさいましたか」

 

そこに現れたのはヒョロっとした線の細い男だった。

私が会いに来たのがこの竹中部長だ。

 

「竹中部長、そちらに推薦したい新入部員候補が一人いるんだが、少々問題があってな。」

「ほう、どういう問題ですか」

「外に出ることが出来ない、いや外に恐怖心を抱いている。おそらく原因は過去のトラウマ、だと思われる。当人は現在、外に出ることは出来ないので、その症状を確認できない。だが、パソコンの操作には自信があるそうだ」

「なるほど、そういう案件であれば、うち向きの部員だと言えますね」

 

竹中部長は皮肉気な笑いを浮かべている。

 

「では、連絡したものを頼む」

「ええ、準備できていますよ。こちらです」

 

竹中部長が案内した先には、大きなダンボールが一つ置かれていた。

 

「では借りていくぞ。では今夜また連絡する」

「ええ、分かりました」

 

私はダンボールを抱え、とある部室を退出した。

 

 

その日の夜、今日も修行を終えた後に一誠と裕斗を抱えた状態で、大量の食糧を抱え、旧校舎にやって来た。

今日は更に、竹中部長から借りた物を入れたダンボールも持っている。

昨日と同じように器用に封印のテープを避けて、扉にたどり着く。

今日は態々、裕斗にノックしてもらう必要がないので、扉の近くで声を掛けた。

 

「ギャスパー、私だ。ゲーティアだ。扉を開けてくれ」

「はい、少し待ってください」

 

その言葉が扉の中から聞こえ、足音が聞こえてくる、そして足音が止まると、扉が開いた。

 

「お待たせしました。ん?何ですかそれ?」

 

私が持っているダンボールを見て、クビを傾げているギャスパー。

私は彼の疑問に答えた。

 

「新しい部活に使う機材だ。後で使うからな。それよりも今日のメシだ。早く食おう」

 

 

さて、今日の食事を終えた段階でギャスパーは神器を使っていない。

むしろ昨日よりは口数が多く、おかずも昨日より少し多く食べていた。

どうやら少しは打ち解けてきたみたいだ。

良い傾向だ。

さてこれで食事も終了だ。

 

「ご馳走様でした」

「「「「「ご馳走様でした」」」」」

 

今日はギャスパーも遅れずに言えたな。

明日もこの調子でいって欲しいものだ。

さて、今日の本題に取り掛かろう。

私は持ってきたダンボールを開き、中からいくつかの機材を外に出した。

 

「ゲーティア先輩、それってテレビ電話用の機材ですか?」

「ああ、そうだ。コンピュータ研究部から借りてきた物だ。ギャスパー、私が薦めた部活というのはコンピュータ研究部の事だ」

「コンピュータ研究部?」

「ああ、現在の駒王学園で文芸部と一、二を争う売り上げを上げている部活だ。このコンピュータ研究部は創部2年目ながら、文芸部に匹敵する利益を上げている部活なんだ」

 

駒王学園では部活動の一環として、作品を販売しても構わない。

ただその場合は学園の上層部やPTAなど、多くの審査が必要である。

だが、その審査をクリアをしても実際に利益を出せる部活というのは一握りである。

また多くの部活は利益目的で行っていないため、このような審査がされることすら非常に稀である。

文芸部や美術部などの外に出展するようなことを目的にしている部活ならば、優秀な成績を収めて、副賞という形でもらう賞金などがある。

だが純粋に利益を上げることを目的とした、ある意味企業として設立されたのがコンピュータ研究部である。

私もこのコンピュータ研究部設立には関わっていた。

元々は細々とやっていたコンピュータ研究同好会が前身だ。

この同好会は一言で言ってしまえば、オタクの巣窟だった。

だが私は彼らの技術力に目を見張った。

自分たちでゲームを作り改良し続けていた。

それはとてもよくできていて、グラフィックやプログラムなど全て自分たちで作成したものだった。

彼らは自分たちが市販品のゲームでは満足できなかったようで、その思いをひたすらに詰め込んだ。

その結果、シナリオは支離滅裂だったが、やたらと技術力だけは高かった。

シナリオも中世が舞台なのに戦闘機がやたらと出たり、モンスターが機械改造されたりと、ハチャメチャであった。

私は彼らの独自の技術力は大変すばらしいものだが、互いに共存共栄することは出来なかった。

だから私は、やりたいことをやれ、というを助言した。

同じ部活だからと言って、同じことが出来ないといけないわけでなく、それぞれの分野を極める事を薦めた。

その結果、それぞれが好きな分野で技術力を高める結果に至った。

結果として、コンピュータ研究部の中で一番、互いに配慮出来たのが竹中だったので、部長に収まった。

そのため私はコンピュータ研究同好会をコンピュータ研究部に昇格させ、更に資材などのバックアップと審査に通すための根回しなどを行った。

その結果、コンピュータ研究部は無事に設立され、私はある意味株主のような立場に収まり、学園の卒業生達とのパイプ役を行い、寄付を募るなどをして資金を集め、機材を購入する際に便宜を図ってもらえるように交渉を行った。

これでも前世は商社のサラリーマンだったんだ。

商談の交渉は得意だ。

彼らはコンピュータ研究部が発足後、すぐにいくつかのアプリやグラフィックモデルを作成し、売り込む成果を出した。

またその当時、私が風紀委員を設立した際に通報用アプリを作成してくれたりして、学園での知名度も広めた。

その結果、昨年設立していきなり、文芸部が出した利益に匹敵する額を記録した。

学園側としても予想外だったようだ。

私としては当然、という気持ちだったが、学園側はこれだけの利益を出すなら規模拡大を、という考えに至ったがそこは私が抑えた。

あくまで部活動の範囲であること、学生であるためこれ以上の規模拡大は無理であること、それを理路整然と説明し、ご理解いただいた。

それにコンピュータ研究部の部員にはある特徴があったので、これ以上は無理だと私は思っていた。

それは対人恐怖症だ。

彼らは虐めなどを経験して、人に恐怖していた、だから彼らは極力、人に接したくないのだ。

だが彼らもこの一年でだいぶ変わった。

私も最初は恐怖されたし、逃げられた。

だが彼らも剣道部と同じく私に慣れてくれた。

今では気軽に声を掛けてくれるようにもなってきた。

何よりもこれだけの成果を上げたということが何よりの自信になったようだ。

それに体つきも大分変わってきて、線が細いながら、その実しっかりとした筋肉が付いてきたことも伺えた。

今では暴力にも屈しない心と体を得たことが嬉しいようで、筋トレにハマっているようだ。

豊臣と同じく筋肉への憧れがあるようで、部活終わりにジムに行くことが日課だそうだ。

 

「コンピュータ研究部はこのテレビ電話で活動していると言っていい。これならここから外に出ずに部活に参加できるからな」

「で、でも僕、その、他の人とは」

 

ギャスパーは戸惑っている。

いきなり返事も聞かずに用意したから無理もない。

 

「ギャスパーは人が怖いんだろう。彼らもそうだった」

「え?彼ら?」

「コンピュータ研究部の部員だ。彼らは虐められて、人を恐怖した。だが同じ境遇の仲間に出会って、共感した。他人はそれを傷のなめ合い、だと揶揄する者も少なからずいたが、彼らにとってはそれでも良かった。傷のなめ合い、大いに結構。傷のなめ合いが出来る仲間に出会えたことに彼らは感謝した。だがそれだけで彼らは満足できなかった。自分たちの力を社会に知らしめたくなった。その結果、彼らは成果、利益を成した。行く行くは大いなる発展をすることになるが今はまだ仲間が足りない。だから私はギャスパーをこの部に推薦したんだ。彼らと共に戦う仲間に、ギャスパー・ヴラディを推薦したんだ。君が悪魔だとか、吸血鬼と人のハーフだとか関係ない。彼らにはそんな些細なことはどうでもいい。ただ仲間かそうでないかそれだけだ。彼らが欲しているのは激戦を共に潜り抜ける仲間だけだということだ。ギャスパー、まずは話してみろ」

「‥‥‥はい」

 

私は組み立てを終えたテレビ電話のスイッチを点けた。

 

side ギャスパー・ヴラディ

「どうも、初めまして。私はコンピュータ研究部の部長をしています、竹中と申します」

 

画面の向こうに青白い顔の男の人がいた。

顔つきは女顔。

全体的に儚い印象だ。

何となく親近感がわく人だな。

 

「は、初めまして、ぎゃ、ギャスパー・ヴラディ、です」

「ふふ、初めまして。あまり緊張しないでください。ゲーティアさんに出会う前の自分を思い出すので、どうにも鏡を見ているような気持ちになりますので」

「は、はあ」

「まあ、初めましての挨拶だけで終わった方がギャスパー君的にはいいかもしれませんのが、私的にはそれだけではいけないので、少し話をさせてください」

「は、はい!」

「まあ、簡単な話です。ギャスパー君はパソコンは出来ますか?」

「は、はい。出来ます」

「そうですか。では昨日ゲーティアさんから君のメールアドレスを連絡して頂いていたので、少し、この問題を解いてもらえませんか」

「え、えええ!」

「まあ、簡単なプログラムなので、ちょっとやってみてください‥‥‥送れました。見れますか?」

「ちょ、ちょっと待ってください」

 

僕は自分のパソコンを立ち上げてメールを確認すると、『竹中半兵衛』という名前でメールが届いていた。

僕はそのメールを開くと、中には中途半端なプログラムが書いてあった。

 

「見れました。‥‥‥なんですかこの中途半端なプログラムは!」

 

僕はこのプログラムを見て、少し怒った。

途中というより、処理が中途半端でループを起こすし、無駄な処理も多い、非常に腹立たしい物だった。

 

「ええ、少し困っていて、ギャスパー君ならこれをどうしますか?」

「少し待ってください。これなら‥‥‥こうして‥‥‥ここをこうやれば‥‥‥よし。出来ました」

「では、そのプログラムを先程送信したメールに添付して返信してもらえますか?」

「はい。今送りますね‥‥‥送れました」

「分かりました。少しお待ち下さい、確認しますね。‥‥‥ふむふむ‥‥‥ああ、なるほど。流石ですね。ゲーティアさんがご推薦下さっただけのことはあります。では次です。こちらはどうですか」

「なるほど‥‥‥これなら‥‥‥」

 

僕はその後も竹中さんとメールとテレビ電話でやり取りを続けていた。

竹中さんは僕に問題を出しつつ、他の回答も教えてくれた。

今まで独学でやって来た僕にはなかった発想もあって、色々教えてもらえた。

初めてだな、誰かに教えてもらうのは。

ずっと一人だった。

パソコンも人に会わずに悪魔稼業をする方法のために覚えた。

自分一人で覚えた。

僕がそんなことを考えていると、竹中さんが自分の事を話してくれた。

 

「ギャスパー君、少し、私の昔話を聞いてもらえますか」

「あ、はい。僕も聞いてみたいです。竹中さんの話」

「私はこの学園に入学したとき、少し憂鬱でした。中学まで虐めに会っていまして、その結果、中学時代は引きこもりでした。人が怖かったんです。だから高校は地元とは無縁のこの場所に引っ越し、駒王学園に入学しました。そこで仲間に出会いました。同じように過去に虐めにあって、一度は引きこもりを経験している仲間でした。そして、ある人に出会いました。ゲーティアさんに、出会いました。衝撃でした。今まで外に興味がなかったのに、いつの間にか気になる人でした。最初は剣道部を創設したと思えば、瞬く間に全国優勝させた輝かしい実績を残した人でした。引きこもりだった私には縁のない人だと思っていました。ですが、人生とは面白いものでその人に出会う機会が訪れました。私たちコンピュータ研究部の前身である、コンピュータ研究同好会に彼が現れました。なぜ現れたのかはよく分かりません。ですが、彼は私たちが作った拙い作品を褒めてくれました。嬉しいものです、誰かに褒めてもらえることは‥‥‥私たちは彼に聞きました、どうすれば今以上に良くなるか、聞きました。彼は、やりたいことをやればいい、と言いました。私たちはそれぞれに得意分野が違いました。私はプログラミングを得意としていましたが、他の部員にはグラフィックを得意としている者がいましたし、ハードが得意な者もいました。それぞれ出来ることが違いました。だからゲーティアさんは私たちに、得意な事を絶対に誰にも負けない域に昇華させることを押されました。だから私たちはそれぞれの分野をひたすらに知識を経験を積み上げました。そうすると更に欲が出てきました。私はプログラミングを専門としているのに、グラフィックの分野にも興味が出ました。だから、グラフィックを専門にしている部員に教えを請いました。すると彼は不思議そうな顔をしながら、教えてくれました。‥‥‥実を言うとその彼とはあまり話したことがありませんでした。私、人見知りな質であまり誰とも話したことがなかったんです。そうすると不思議なもので、今まで見えなかった景色が見えた気がしたんです。話さなかった彼、黒田と言うんですが、話してみるとお互いに話が合うことが分かったり、他の部員の宇喜多とは好きなアニメが同じだったことが分かったり、他の真田とは、好きなラノベが同じだったりと、色々世界が広がったんです。ゲーティアさんが言った、やりたいこと、というのは本当はこういうことだったんだと後で思いました。好きな分野を伸ばすことは自分たちが、やりたいからしたことだったんです。でも、それも頭打ちだったんです。80点を100点にすることに疲れていたんです。だからその20点を増やすことを止めました。やりたいことではないから、です。だからそれよりやりたいと思ったグラフィックをやったんです。その結果、黒田の事を知りたいと思い、宇喜多の事を知りたいと思い、真田の事を知りたいと思い、その結果仲が良くなりたいと思い、今に至ったんです。仲間が出来たんです、一人と一人と一人と一人が1組の仲間になって、コンピュータ研究部になっていきました。その後に何人か新しい部員が増えて、ゲーティアさんが色々動いてくれて、現在の部になったんです。人の出会いとは面白いものです。一生を変える出会いと何時出会うのかそれは分かりません。私もあの時、ゲーティアさんがコンピュータ研究同好会に来なければ、こうならなかったのかも知れないし、来なくてもこうなったかも知れません。出会いは人を変えるんです。ギャスパー君、貴方も変わったんではないですか?」

「え?」

「突然の出会いが君の運命を変えたんではないですか、思い当たるんではないですか」

 

僕は竹中さんの言葉に、確かに思い当たった。

僕はこの部屋から外に出れない。

‥‥‥出れても出なかった。

だから会うのはグレモリー眷属だけだった。

でも昨日、初めての出会った人たちがいた。

同じグレモリー眷属の兵藤一誠先輩、アーシア・アルジェント先輩。

同級生のレイヴェル・フェニックスさん。

そして、ゲーティア・バルバトス先輩。

この出会いが僕に食事の楽しさを教えてくれた。

最初に出会った時には、失礼にも怯えて、怖がって、逃げて、神器で時を止めようとした。

なのに、その行為のどれにも怒らず、気にせず、挙句の果てには力が足りない、とまで言われた。

メシ、に誘ってくれた。

嫌いなものを言っても、代わりを出してくれた。

ゲーティア先輩は僕に無理を言わない。

神器をコントロールしろ、と言わない。

外に出ろ、とも言わない。

自分のスキにすればいい、そういうことを言う人だ。

そんな人との出会いが今日に続いている。

竹中さんと話しているなんて、昨日の僕には想像出来なかった。

ゲーティア先輩との出会いも、一昨日の僕には想像出来なかった。

この部屋から出れないと言うことは、ずっと前から想像出来ていたのに。

僕は竹中さんの方を見て答えた。

 

「思い当たります。ゲーティア先輩との出会いが僕の運命を変えた、と思います。」

「そうですか、やっぱり彼は面白い方です」

 

竹中さんは面白そうに笑い、一息入れてから、僕を真っ直ぐに見て、こう言った。

 

「ギャスパー・ヴラディ君、私は君の力を欲しています。先程のプログラムは我が部の部員が作った物です。ですが、先程見ていただいた通り、さしてレベルは高くありません。ですが、君の力は私に匹敵する程だと考えています。なので我が部に、コンピュータ研究部に力を貸してはもらえませんか?」

 

僕はその意見に答えた。

 

「はい。僕をコンピュータ研究部に入部させてください」

「ありがとう、ギャスパー君」

 

竹中さんが応えてくれた後、僕の背後に気配があったので振り返ると、そこにはゲーティア先輩が立っていた。

 

「話は終わったか。ギャスパー、竹中」

「ゲーティアさん、ええ、今終わりました。ギャスパー君も我がコンピュータ研究部に入ってくれました」

「そうか、では‥‥‥これに名前とクラスと出席番号を記入してくれ。明日、生徒会に提出に行ってくる」

 

ゲーティアさんが出したのは、入部届け、だった。

初めて見たな、そういえばオカルト研究部の時には書いたことがなかったな。

 

「はい‥‥‥書けました」

 

僕が書いた入部届けをゲーティア先輩が確認していた。

 

「よし、OKだ。竹中、これで問題ないな」

「‥‥‥はい、確認しました。では生徒会提出をお願いします」

「確かに承った。ギャスパー、コンピュータ研究部でもがんばるんだぞ」

「はい!竹中部長、よろしくお願いします」

「ええ、歓迎しますよ。ギャスパー君」

 

僕もコンピュータ研究部の部員として、何時か竹中部長みたいな仲間を見つけるんだ。

なんだか今日はよく寝れそうだな、何となくそんなことを思った。

 

side out

 

 

ギャスパーに入部届けを書いてもらった次の日、私は依頼された通り生徒会に入部届けを提出に来た。

 

「失礼する」

 

私が生徒会室に入ると、ソーナが私に気付き声を掛けてきた。

 

「ゲーティア、どうしたんですか。報告の時間には早いようですが、何か問題ですか?」

「いや、入部届けを提出に来たんだ」

「入部届け?こんな時期に?貴方が提出に?最近転校生も来ていなかったはずですが」

「ああ、この学園の生徒で外に出れないその生徒に代わって、私が提出に来たんだ」

 

私が入部届けをソーナに渡すと、その名前を見て、ソーナが驚いた。

 

「ギャスパー・ヴラディ!旧校舎に封印されている彼がどうして、コンピュータ研究部に入部できるんですか!」

「テレビ電話とパソコンがあればコンピュータ研究部の部活には問題ない。だから、封印されていても問題ない」

「ですが、リアスの眷属です。一応彼女の了解がいるのでは?」

「連絡するなら、ソーナに任せる。当人の了解があるとは言え、保護者の同意が必要だと言うなら、それに従おう。だが、校則にそんな規則はなかったはずだが?」

「‥‥‥確かにその通りです。はぁ~、私は止めましたよ。後でリアスが文句を言っても知りませんよ」

「私が好きでやったことだ、それぐらい受け入れる」

「‥‥‥分かりました。では入部届けを受理します」

 

ギャスパーの入部届けは無事に受理された。

 

さて、もうすぐ対決の日だ。

どれ程、義兄殿に裕斗と一誠が食い下がれるか、楽しみだ。

 

そうだ忘れていた、今日は部内対抗戦の日だったな。

どれ程裕斗の実力が上がったか、序列が語ってくれるな。

楽しみにさせてもらうぞ、裕斗。

 




一部修正します。


旧)「何をやっても、リアスは私に文句を言うんだ、それぐらい聞き流す」

新)「私が好きでやったことだ、それぐらい受け入れる」



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第31話 リアスと眷属

義兄殿とリアス達との対戦の前日にリアス達が帰ってきた。

ソーナが報告に来てくれたので分かった。

全く、仕事は丸投げ、いや、そもそもしていなかったが、眷属とも連絡を取ってもいなかったし、帰ってくるのがいつなのかも言って行かなかった。

私が言うことでは無いが、もう少し何とかならんのか、そう思いため息を吐いた。

まあ、その辺りは今後は義兄殿に任せよう。

まあ義兄殿が負ければ、改善されないが現状での不利は如何ともし難い。

不死であり格上の強さを持つ相手にリアス達が勝てるとは思えない。

もう少し成長すれば対抗策もあるだろうが、今は無理だな。

可能性があるとすれば裕斗と一誠、あとはアーシアの三人がどれほどやれるか、それ次第だな。

それに義兄殿が負けた場合、私はリアスと関係を断つ、と言ってある。

どちらにしろ、このようなことは今日で最後だ。

裕斗や一誠はもう大丈夫だろう、後は経験を積めば強くなるだろう。

さて、帰ってきたならば、報告と引継ぎをしなくてはな。

明後日からの用意もしないといけないし、やることは多いんだ。

 

「レイヴェル、報告書はこれで全部だな」

「はい、ゲーティア様。そちらのファイルに全て保管してある分で全てです」

 

私はリアス達が留守の間の報告書を再度確認し、抜けがないことを確認し終えた。

 

「ありがとうレイヴェル。問題なしだ。では報告と引継ぎに行ってくる。留守は頼んだ」

「はい。お任せください」

 

 

side 姫島朱乃

「久しぶりのオカルト研究部ね。帰ってきたって気がするわ」

「うふふ、そうですわね」

 

私たちは放課後に合宿から帰ってきましたわ。

一週間ぶりのオカルト研究部の部室に懐かしいという気持ちになりながらお茶の用意をしていますわ。

 

「帰ってきたことをソーナに連絡しておかないとね。小猫、ソーナに連絡してきて頂戴」

「わかりました」

 

小猫ちゃんが立ち上がり、部室を出て行った。

 

「ゲーティア君には連絡しなくていいのかしら?」

「いいわよ。どうせソーナが言うでしょう。それよりも朱乃、裕斗、一誠、アーシアの三人を呼んできて」

「あらあら、分かりましたわ」

 

私は一誠君たちを呼びにオカルト研究部を出ましたわ。

 

 

私はリアスに言われた通り、他の眷属の子たちを呼んできましたわ。

そして、今三人がリアスと対面している。

 

「久しぶりね。三人とも」

「お久しぶりです、部長。今日お戻りでしたか。合宿は楽しかったですか?」

「あら、別に遊びに行ったわけではないのよ」

「そうですか‥‥‥その割にはさして変わったとは思えませんが?」

「そんな簡単に強くなれないわよ。だけど着実に強くなったと思うわ。貴方たちはどうかしら、合宿に誘った時には即答で断ったけど、強くなったのかしら?」

「ええ、とても。この一週間で壁を越えた気分です。今の僕と戦えるのはグレモリー眷属では一誠君ぐらいですから」

「!!」

 

裕斗君がリアスに返答すると、リアスがカチンと来たようですわね。

そう言うけど、一週間で劇的に変わるわけがありませんわ。

それに裕斗君とリアスの二人は最近険悪ですわね。

合宿に行く前にも口論していましたけど。

 

「まあいいわ。では早速始めましょうか、裕斗、一誠」

「僕も部活があるし、一誠君も風紀委員の仕事がありますので、手短に終わらせましょう」

「ああ、そうだな木場」

「あらあら、うふふふ」

 

私たちは転移陣を用意して別の場所に飛びました。

 

 

飛んだ先はグレモリー家が所有する練習施設、そこであれば全力を出しても壊れることはありませんわ。

 

「用意はいいわね。裕斗、イッセー」

「ええ、何時でも」

「こい、ブーステッド・ギア」

「ふふふ、楽しみですわ」

 

なぜこんなことをしているかと言うと、話は合宿の前にまで遡ります。

当初リアスはオカルト研究部、いえグレモリー眷属全員で合宿を行い、全体の力の底上げを行うことを考えていましたわ。

ですが、裕斗君と一誠君は残って、ゲーティア君の指導を受けると言って聞きませんでしたわ。

リアスはゲーティア君を毛嫌いしていましたし、何よりゲーティア君自身はレイヴェルさんと婚約しているフェニックス家の縁者ですので、指導してくれるわけがないと言いました。

でも裕斗君も一誠君も折れず、結局は認めることになりました。

リアスも二人が今度の戦いに参加しないと言い出すことだけは避けたかったようですわ。

でもリアスも置いて行って、怠けられると困るので一つの条件を付けました。

その条件は合宿後に私とリアスを裕斗君と一誠君が対戦すること。

ただ対戦したとき、裕斗君と一誠君が負けた場合、ゲーティア君とは縁を切ること、これを条件にしましたわ。

私はそんなことを言えばまた反発するだろうと、思っていましたが意外にあっさりと了承しましたわ。

その結果、今こうして向き合うことになりましたわ。

明日の事もありますので、軽く流す程度で相手をしてあげますわ。

 

side out

 

私は風紀委員室からまず生徒会室に向かった。

私がオカルト研究部に向かう旨をソーナに伝えるためだ。

 

「失礼する。ソーナはいるか?」

「ええ、いますよ」

 

私が生徒会室に入ると、すぐにソーナがいた。

どうやら出かけるようだった。

 

「どこかに行くのか?」

「オカルト研究部に行きます。ゲーティアはどうしました?」

「私もこれから向かうのでな、引継ぎの件とギャスパーの件で話してくる」

「やっぱりですか。そうだろうと思って待っていました。私も行きます」

「別に報告に行くためだから、大した話はないと思うぞ?」

「‥‥‥そうであることを願うまでです」

 

ソーナは覚悟を決めた顔をしている。

ただの報告だけだから、何もないと思うぞ‥‥‥たぶん。

 

 

オカルト研究部の扉の前に立つ私とソーナ。

ソーナが扉をノックすると、中から声が聞こえた。

 

「はーい、今開けます」

 

ん、この声はアーシアか?

扉が開くとそこにはアーシアがいた。

 

「失礼します。アーシアさん、リアスはいませんか?」

「あの、部長さん達は転移してどこかに行きました」

「どこに行ったか分かりますか?」

「私には分かりません、小猫ちゃんは知っていますか?」

「たぶん、グレモリー家が所有する練習施設だと思います。合宿が終わった後に部長と朱乃さん、裕斗さんとイッセー先輩の二組で戦うそうです」

「‥‥‥明日が義兄殿との対戦だというのに、随分と余裕だな。普通なら休養に入り、体調を万全に整えるべきだというのに。それに今の裕斗と一誠の二人を相手にリアスと朱乃程度が勝てる訳ないと言うのに」

「ムッ!リアス部長も朱乃さんも合宿で強くなりました。裕斗さんならともかくイッセー先輩では相手になりません」

「ハァ~‥‥‥腑抜けている。相手との力量差も測れないとは。猫妖怪が気配に愚鈍でどうする!」

「ヒィ!!!!!」

 

一誠と裕斗との鍛錬用の殺気を全方位にぶつけただけでこの様だ。

リアスと朱乃の合宿というのもたかが知れている。

本当に合宿だったのか?

ただの女子会旅行だったんじゃないのか。

怯えて、縮こまっている塔城に対して、ケロッとしているアーシア。

この差が如実に物語っている。

 

「ゲ、ゲーティア!いきなりなんですか。ビックリするじゃないですか!」

「ふむ‥‥‥」

「な、なんですか」

 

私は抗議してきたソーナと塔城、そしてアーシアを見比べて、言い放った。

 

「いや、どうやらこの中では一番アーシアが強そうだな。回復役でなければ確実にそうだったな」

「な、何故そう言い切れるんですか」

「殺気を全方位にぶつけた時の反応だ。殺気、威圧感というのは相手との力量差で反応が違ってくる。これは私の経験談だが、殺気で怯えている奴は戦うに値しない。足がすくむ程度なら見込みあり。そして平然としている奴は非常に優秀だ」

「そうですか、ちなみに一番いい反応は何ですか?」

「ワクワクしている奴らだ」

 

そんな話をしていると、転移陣が現れた。

どうやら帰ってきたようだ。

リアス、朱乃、裕斗、一誠の四人が転移陣から現れた。

四人の内二人はボロボロだ。

 

「ゲーティア部長!お疲れ様です」

「ゲーティア風紀委員長!お疲れ様です」

「ああ、二人ともお疲れ。」

 

裕斗と一誠はとても元気だ。

昨日から休養していて気力、体力共に充実しているようだ。

それに対して、リアスと朱乃は傷だらけだ。

どうやら、先程塔城から聞いていたことを行ったようだ。

その上で完敗したようだ。

聞かずとも分かるほどだ。

しかし、リアスと朱乃を見て思ったことが一つ。

やっぱり合宿したと言うのは信じ難い。

合宿前と後で、差が分かりにくい。

合宿前が100だとすると、合宿後が105くらいだ。

合宿前の力が大きくて、成長したのが5でも劇的な差、というならともかく、合宿前でさえ裕斗には言うに及ばず、一誠にすら神器込みとは言え、負けていたんだ。

その程度の力の5の上昇など、運動部の部活に体験入部した方がまだましだったんではないだろうか?

対して、裕斗の特訓前を200だとすると、現在は350くらいに成長しているし、一誠は110くらいだったのが現在は300くらいにまで上昇している。

2人の力の伸びの差は二人の神器の性質と当人の性質による差だ。

裕斗は魔剣創造は魔剣を創ること、一誠はブーステッド・ギアは強化と譲渡を行う。

裕斗自身の強さに神器は影響がしにくい。

最強の魔剣でも用意すれば、無用の長物となりかねない。

そのため神器は裕斗の戦闘スタイルである、剣を用いて戦う場合、予備を用意する程度の価値しかない。

地面から剣を生やす、空中から剣を落として攻撃するなどは、もう少し威力がないと牽制程度しか使えない。

だから今回の成長は戦闘技術の向上がほとんどだ。

対して一誠の神器は強化と譲渡だ、そのため自身を強化することで強さに直結する神器だ。

それに強化した力を仲間に上乗せすることで、チーム戦での要にもなる。

特訓前は元々の魔力量が少なかったので、伸び悩むかと思っていたが、アーシアとの魔力操作と量の向上を行い、着実に成長していた。

一度、一誠の魔力量を向上させるために神器を使って、魔力の塊を強化して、それを取り込んだところ、体の魔力が流れる血管みたいなものが破裂して、死にかけた。

あの時はフェニックスの涙とアーシアの神器で何とか生き残った。

それ以来、急激な量の増加ではなく、確実に向上させる道を選んだ。

ただ怪我の功名なのか結果として魔力の通りが良くなったのか、平均的な魔力量とは言えないが、下の下の中くらいまでは魔力量が向上した。

それに強化の回数も着実に増えている。

特訓前には13回で潰れていたのに、遂に20回の大台に乗った。

私にも明確にダメージを与える程度の威力になった。

だからこそ一誠と裕斗の差が詰まったのは努力の差ではなく、当人の神器の質だった。

そんな二人の成長を何故感じ取れない?

これほどに分かりやすい程に強くなっているというのに‥‥‥

リアスと朱乃がどうして二人と戦ったのか理由は分からない。

だが、その程度で成長と呼ぶなど烏滸がましいにもほどがある、ただの誤差みたいなもんだ。

まあいい、さっさと要件を済ませよう。

明日が終わると一度領地に戻る必要があるし、面倒事は早く終わらせよう。

 

「疲れているところ悪いが、引継ぎの話だ」

「ハァハァハァハァ‥‥‥なによ。少しは待って頂戴」

「そうしたいのはやまやまだが、今色々と立て込んでいるんでな。それに思いの外、待たされたのでな。明後日には冥界に戻るのでその準備に追われている。そのため今を逃すと、来週まで報告と引継ぎが出来ない。決めてくれ、今すぐ報告と引継ぎを行うか、来週まで待つか、ソーナに代理をしてもらうのでもいい、どうする?」

「ハァハァハァハァ‥‥‥分かったわよ。報告して頂戴」

「そうか、ではこれがリアスがいない間の報告書だ。被害状況はこれで、討伐状況はこれだ。後、私は明日の義兄殿との戦いを見届けた後に冥界に戻る。その間はレイヴェルが私の代理を行う。実行部隊の指揮は織田信長が行う。詳細は一誠も知っている」

「そう、分かったわ。ご苦労様」

 

これで引継ぎの話は終わった。

さて次はギャスパーの件だな。

 

「ギャスパー・ヴラディがコンピュータ研究部に入部した。私が薦めた」

「ハア!ちょっと、どうして貴方がギャスパーの事を知っているのよ!」

「裕斗が夕飯を届けに行くときに同行したのでな。それに一誠とアーシアにも説明していなかったのだろう、自分の眷属同士、顔合わせくらいしておけ。あと最近は6人で食事を共にしていた」

「何ですって!それにそもそもなんであんたがギャスパーに私の断りなく、会っているのよ。それに部活の事も私に断りもなく、勝手にして。私の眷属よ、勝手に手を出さないで!そもそもギャスパーの神器は危険だから封印されていたのよ!」

 

そうだな、部活に入れた件は少し性急に進め過ぎた。

そのことは私が悪かった、反省すべき点だ。

 

「ギャスパーに勝手に会ったこと、部活の事に関しては謝ろう。すまなかった。だが、そもそも何故ギャスパーは封印されている。会ってみても彼は危険でもない。神器そのものは危険だとしても、使うのはギャスパーだ。神器は思いの力で変わるものだ。一誠もアーシアも裕斗も神器を持っていても制御している。だからギャスパーにも出来る。だから危険はない。」

「悪魔界の上層部が危険だと判断したのよ。私が封印したわけではないわ」

「そうか‥‥‥ギャスパーを封印して以降、主であるリアスは何をしていた?」

「な、なによ!封印されたんだから、制御出来るようになるまで外に出せないんだから、放っておくしかないでしょう」

「‥‥‥そうか。眷属が神器持ちで強力な力を持っているならば、放置しておくのか。私は違ったがな」

「何ですって!」

「私のクイーンの楓は私の眷属唯一の神器持ちだ。楓の神器の強力さはギャスパーや一誠の神滅具の比ではない。神を殺すなどではない、世界を変える、それほどの力だ。私が楓を眷属としたときの対価は力の使い方を教える事、だから私は楓に力の使い方を全て教えた。その結果、とんでもないものを呼び出したとしても、その使い方まで教え込んだ。その果てに自分自身がどうなろうと関係ない。リアス、私とお前は違う。だから敢えて聞きたい、リアスにとって眷属とはなんだ。飾っておきたいコレクションか、取られたくない人形か、只の戦力か」

「家族よ。私は眷属と家族になりたいのよ!」

「そうか、言ってることは私と同じなんだな。やっていることは違うが‥‥‥ここ最近、あるはぐれ悪魔に出会って、色々と思うところが出てきた。彼女は元は猫妖怪だった。彼女は主を裏切ったと言われて、殺される事になった。だが、調べてみて分かった。元々悪魔になったのは妹を守るためだったそうだ。彼女には特殊な力を持っていたそうだ。当然妹もその資質を持っていた、だから姉は妹を守るために、その力を使わせないことを条件に眷属になることを了承し、悪魔になった。しかし、主の悪魔は眷属悪魔との約束を破り、妹にも姉と同じ力を使わせようとした、その力を使えば妹の身に危険があるため、姉の眷属悪魔は止めたが、主は止めなかった。そのため姉の眷属悪魔は主を殺すことになり、はぐれ悪魔認定された。だから討伐することになった。事の発端は主が眷属を裏切ったと言うのに、罰を受けるのは眷属だけだ。主にはなんの罰もない。この件、リアスはどう思う?」

「‥‥‥何が言いたいのよ」

「私は意見を聞きたいだけだ。リアスはどう思う?」

「‥‥‥眷属に裏切られた主が悪いと思うわ」

「‥‥‥そうか、私も同じ意見だ。だが正解は違う」

「なによ、正解って」

「主に罰はない。悪いのは眷属、そしてはぐれ悪魔は始末する。例え無実だとしても、始末する。それが正解だ」

「‥‥‥何が言いたいのよ」

「強い眷属、上層部が封印しようとするほどの強い眷属、その眷属が反逆したとき、今のリアスに止めれるのか。止められなければ、ギャスパーははぐれ悪魔認定される。その時は多くの悪魔に狙われることになる。彼がもし今のまま、外に出れば最悪精神崩壊するかもしれない、暴走するだけかもしれない。もしそうなれば、はぐれ悪魔になるんであれば、その時は‥‥‥私が消そう」

「!!そんなことさせないわ!」

「なら、もう少しギャスパーと話すべきだ。彼は外に出たくないんだ。リアスが会いに行け。そうでなければ距離は縮まらない」

「ふん、言いたいことはそれだけ。だったら出て行って!」

「では失礼する。一誠、裕斗、アーシア、今日の夕飯は私とレイヴェルは行けない。ギャスパーに伝えておいてくれ」

「ゲーティア部長!」

「ゲーティア風紀委員長!」

「ゲーティア先輩!」

 

私がそう告げると、三人が驚きの声を上げた。

だが仕方がない。

リアスの許可なく、封印されているギャスパーに会う訳にはいかない。

昨日までとは状況が違うんだ。

 

「では、失礼する。ソーナはどうする?」

「私も戻ります」

 

私とソーナがオカルト研究部を出て、それぞれの居場所に帰ろうとしていると、後ろから声が掛かった。

 

「ま、待ってください!」

 

声を掛けてきたのは‥‥‥塔城だった。

一体どうした?

 



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第32話 はぐれ悪魔と猫

いつも感想と誤字報告ありがとうございます。



side 塔城小猫

 

私はオカルト研究部の部室から出ていく、ゲーティア・バルバトス公爵を追っていた。

私は、バルバトス公爵、ゲーティア先輩のことが怖い。

裕斗先輩達が慕っているのは知っている。

でも私は‥‥‥とても怖い。

強さの次元が違うから、ただ気まぐれで殺されるかもしれない、という恐怖心を抱いてしまう。

だけど、確かめなくちゃ、もしかしたら‥‥‥姉様かも知れないから。

私は恐怖心を抱き、足が震えながら、声を出した。

 

「ま、待ってください!」

 

こちらを見たゲーティア先輩、その眼光、視線だけで私は縮み上がりそうになる。

でも、どうしても確認しなくちゃいけない。

姉様なのか、そうでないのかだけでも‥‥‥

 

「何か用か?」

「あ、あの‥‥‥はぐれ悪魔のこと、何ですが‥‥‥」

 

勇気が出ない、怖いからなのか、知りたくないからなのか、分からない。

だけど、もう一言が、出てこない。

すると、ゲーティア先輩が声を掛けてきた。

 

「すまないが、あまり時間が無い。用がないなら私は行くが?」

「---!」

 

行ってしまう、姉様かも知れない、はぐれ悪魔の事を知る人が行ってしまう。

私は、俯いた顔を上げることが出来ない、だけど、もう少し時間が欲しい‥‥‥

 

「塔城さん、はぐれ悪魔の件でしたら私も報告を受けて知っています。私で良ければ答えますが、どうですか」

 

ソーナ会長が声を掛けてくれた。

私は失礼だとは思うが、ゲーティア先輩よりソーナ会長の方が話しやすい。

だからこの申し出は非常に助かった。

私は恥を忍んで頼んだ。

 

「‥‥‥お願いします」

「分かりました。塔城さん、生徒会室に行きましょう。ゲーティア、塔城さんのことは私が対応します。なので、自分の仕事に戻ってください」

「ああ、分かった。すまんが頼む」

 

そう言ってゲーティア先輩は風紀委員室に向かっていった。

私はその場で呼吸を整えていると、ソーナ会長はその場で待ってくれていた。

大きく深呼吸をして、呼吸を整えた。

そして、ソーナ会長に感謝と謝罪を行った。

 

「ソーナ会長、お待たせして申し訳ありません。‥‥‥はぐれ悪魔の件、よろしくお願いします」

「ええ、それでは行きましょうか?」

「はい」

 

私はソーナ会長の後に続いて、生徒会室に向かっている。

私は呼吸を整えたのは‥‥‥ゲーティア先輩と一緒にいるのがツライからだ。

元々強い威圧感を自然と放っていて、野生の勘とでもいうのか近づけば『死』というものを感じる。

それに先程、ゲーティア先輩の殺気を浴びて、なお一層『死』というものを感じた。

だから、自分を落ち着かせることと一緒に時間をずらした。

ソーナ会長には申し訳ないけど、どうしても‥‥‥怖い。

 

「やっぱりゲーティアは怖いですか?」

「--!」

 

見抜かれていた。

誤魔化してもしょうがないので、正直に答えることにした。

 

「‥‥‥はい。すいません」

「いえ、謝る必要はありませんよ。さっきの部室での出来事もありますし、付き合いが浅い者だとやっぱり怖がりますから。私の眷属もゲーティアに怯える子もいますし‥‥‥では行きましょうか」

「はい」

 

 

生徒会室に到着した、私とソーナ会長。

 

「少々ここで待っていてください。今、報告書を用意します」

「はい、ありがとうございます」

 

私はソーナ会長に頭下げると、会長は笑顔を浮かべ、席を離れた。

すると代わりに一人の男性が現れて、お茶を出してくれた。

 

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

「いえ、失礼いたします」

 

お茶を出してくれたのはソーナ会長のポーン、確か匙先輩、でしたね。

執事のような、動きでお茶を置くときにも音がしなかった。

それに近づかれたときから去り際まで、音がしなかった。

猫魈であり、転生悪魔の私は耳が非常にいい。

なのに、匙先輩からは音が、呼吸音も足音もしなかった。

幽霊、と言われても信じてしまう程、とても小さい音でした。

かろうじて心音が聞こえたから生きていると思えたくらいでした。

‥‥‥もし私が匙先輩と戦えば‥‥‥負けたことに気付けるでしょうか?

たぶん無理です。

それくらいの実力差だと思います。

『相手との力量差も測れないとは。猫妖怪が気配に愚鈍でどうする!』

先程のゲーティア先輩の言葉が頭をよぎった。

裕斗先輩もイッセー先輩も同じ眷属、仲間だから力を計ることはなかった。

裕斗先輩はともかく、イッセー先輩は無意識に下に見ていた。

最初に眷属悪魔になったとき、魔力がとても少なく転移すら出来なかった。

だからいくら成長しても、大したことないと、思っていた。

でも、ゲーティア先輩の言葉で注意深く探ってみるとよくわかった。

強い、私よりもずっと、強い、そう思った。

その強さはリアス部長や朱乃さんを大きく上回っている。

これではリアス部長と朱乃さんでは勝てない。

合宿から帰ってきて、少し強くなったと思っていた。

でも、そんなことはなかった。

残った裕斗先輩とイッセー先輩の方がずっと強くなっていた。

あれくらいで強くなった、なんて思っていて恥ずかしい。

私がそう思っていると、ソーナ会長が手にファイルを持って現れた。

 

「お待たせしました。塔城さん、こちらがはぐれ悪魔の報告書です。‥‥‥これがゲーティアが言っていたはぐれ悪魔です」

「‥‥‥!!」

 

黒い髪の女性型悪魔、猫耳で着物姿、魔力を飛ばす攻撃と青い炎を飛ばす攻撃を使い、転移して攻撃を躱す‥‥‥

目を通して、分かった。

これは‥‥‥姉様です。

 

「発見されたのは昨日の事です。巡回中の風紀委員が気配を感知し、即座に対応することになったそうです。剣道部の徳川君が発見し、今まで対峙したはぐれ悪魔とは力が桁違いと判断したため、ゲーティアが来るまで時間稼ぎに徹したそうです。その記録も徳川君が戦いながら、特徴を調べ、コンビを組んでいた、北条君が報告を送ってくれました。現場にはゲーティアが向かい、送られてきた報告から私が調べました。その過程で分かったことが、SSランクのはぐれ悪魔『黒歌』だと判明しました。現場に向かったゲーティアによると、戦闘中だった徳川君、北条君に大した怪我はなく、黒歌の方にも大したダメージはなかったそうです。その後はゲーティアが戦ったそうです」

「‥‥‥そう、ですか‥‥‥」

 

私には、そう答えるしか出来ませんでした。

黒歌姉様ははぐれ悪魔です。

討伐されることも仕方がありません。

でも、どうして、こんなに、悲しいの‥‥‥

私は涙がこぼれないようにするので精一杯でした。

私は、泣いてはいけない、だって姉様は、力に、溺れて、主を殺した。

そのせいで私は殺されそうになった。

それを助けてくれたのはサーゼクス様とリアス部長、だった。

だから、私は姉様のために、泣いてはいけない。

 

「‥‥‥ですが、ゲーティアでも討伐しきれなかったようです」

「え?」

「ゲーティアが言うには、ギリギリで躱されたと言っていました。敵は黒歌だけだと思っていましたが、悪魔以外にも、雲に乗ったサルのような者がいたそうです。黒歌に放った魔力砲撃を横から来たその者が躱させ、そのまま逃走されたようです。現在は駒王町全域に警戒態勢を敷いている状態です。また、駒王町の外に出ていることも考え、お姉さま、レヴィアタン様にご報告し、日本神話勢の方に連絡を入れてもらっています。また黒歌のことはゲーティアが戦闘中にいくつか会話をしたそうです。その内容は‥‥‥ここに纏めてあります。ただ、ゲーティアが戦闘中に聞いたことなので、全文そのままというわけではなく、要約したものですが」

 

私はその会話の内容に目を通す。

その内容は私の心に突き刺さった。

 

side out

 

side 黒歌

「おーい、生きてるか、黒歌」

「‥‥‥なんとかね」

 

私は昨日から今日まで眠り続けていた。

体が休養を欲していた。

当然だ、昨日は魔力も仙術も妖術も全てを使い、いや、全てを超えて使い続け、かろうじて命を繋いだ。

 

「しかし、何だったんだ?あの化け物は。各地の勢力の奴らが集まったこの中でもあんな奴はそうはいないだろう。この組織の各派閥のリーダーくらいの力はあったな」

「‥‥‥」

 

私はその言葉に答えなかった。

いや、思い出したくもなかった。

昨日の出来事は生涯で最も恐怖を覚えた一日だったから。

 

~~~~~~~~~~

 

「はぁ~漸く仕事も終わったにゃ」

 

私は組織の仕事で駒王町から2か月程離れていた。

私は白音が心配で影ながら様子を伺ってきた。

この駒王町には私の妹がいる。

だけど面と向かって会うことは出来ない。

私ははぐれ悪魔だから、妹に会うこともできない。

私があの時、妹も連れて逃げることが出来ていれば、こんなことにはならなかった。

だけど妹は魔王サーゼクスの妹の眷属になっているから、表立って危害を加えられることはない。

私が近づけば、妹の、白音の立場を悪くすることは分かっている。

だから、これはただの自己満足。

妹を見守っている、という私の自己満足。

本当に妹が大事なら私は捕まって、処分された方がいいのかもしれない。

でも、私は生きることを選んだ。

もし白音があの力を無理矢理使わされて、潰されそうになった時、助けることが出来るように、力を求めた。

そして今、ある組織に所属している。

 

「だけど、猫づかいが荒いにゃ」

 

思わずそんな言葉を呟いてしまう。

だけど、そろそろ警戒しないといけない。

駒王町へそろそろ侵入することになる。

ここには妹の主である、現魔王サーゼクス・ルシファーの妹のほかに現魔王セラフォルー・レヴィアタンの妹がいる。

そして、公爵の位を持つゲーティア・バルバトスがいる。

一番警戒しなくてはいけないのはゲーティア・バルバトスだ。

旧魔王のシンパを一掃した男として、旧魔王達が敵視している男。

危険な男だけど、以前までは侵入しても気づかれなかった。

だから、2か月ぶりくらいに戻ってきたけど、警戒はしているが心配はしていなかった。

 

「いたぞ!!」

 

そんな声が聞こえた時、自分には関係がないと、思っていた。

 

「そちらの悪魔、私はゲーティア・バルバトス様直轄の対はぐれ悪魔特別編成チームに所属する徳川と申します。何用でこちらに来られました。正規ルートでの訪問ではなく、また事前の連絡もありませんでした。手違いであれば、我らが主ゲーティア様に事情を説明して頂きたい」

「!!!!!」

 

まさか私の隠形でバレるなんて‥‥‥

だけどいきなり攻撃してこなかった。

私をどこかの眷属悪魔だと勘違いしている?

だったらこのまま、話を合わせようかしら‥‥‥

 

「徳川!そいつはSS級はぐれ悪魔の黒歌だ。今、確認が取れた。交戦用意!」

「了解」

 

いきなりバレたにゃ!

まだ何もしていなかったのに。

それにもう一人いたにゃ。

もしかして、私の顔を確認するために一人が話しかけてきたのかにゃ?

もう騒ぎを起こしたくなかったけど仕方ないにゃ。

ちょっと寝ててもらうにゃ。

 

「くらいなさい」

 

私は魔力弾を向かってきた男に放った、だけど‥‥‥

 

「ふん!」

 

一刀両断された。

 

「え!」

 

嘘でしょ!

私が手を抜いたとはいえ、それでも並みの相手なら反応も出来ずに圧倒出来る程の威力だ。

それを竹刀で斬るとか、一体どういうこと!

私は驚き、思考が停止していた。

だけど目の前の相手が待ってくれるわけもなく、斬りかかってきた。

 

「ハアッ!」

「--!させないわよ!」

 

魔力で壁を作って、攻撃を受け止めた。

だけど、何で竹刀が壊れないのよ!

あんな竹刀、私の魔力障壁にぶつかれば壊れる、と思っていた。

なのに私の魔力障壁と拮抗している。

それどころかむしろ、押されている。

相手の気で強化されているから?それともこの竹刀に何か付与されているの?

えーい、今は考えても仕方がない。

 

「ハァ!」

「!!」

 

私はとにかく距離を取るために、魔力障壁を爆発させ、それと同時に後ろに飛んだ。

よし、今なら距離が離れた。

こちらの距離よ。

私は魔力だけでなく、妖術と仙術も使い、遠距離からの攻撃を行った。

 

「くらいなさい」

「くっ!」

 

やっぱり、遠距離は私に分があるようね。

ならこのまま、遠距離から攻めさせてもらうわ。

 

「隙あり!」

「!!」

 

私の背後からもう一人が攻撃を仕掛けてきた。

しまった、こっちは囮か!

間に合え。

 

「くっ!」

「ハアッ!!」

 

何とか片手で魔力障壁を作って凌げた。

でも、まずい。

また、窮地に追い込まれた。

この二人、戦い慣れている。

それに本当に人間なの? 

エクソシストにしては神聖な気配はない。

どちらかと言うと魔の気配が近い、だけど悪魔じゃない。

ということは、やっぱり人間。

英雄派の幹部クラスに匹敵するほど強い。

そんなのが二人もいるとか、この町一体どうしたにゃ!

とにかく今は何とか逃げなきゃ!

 

「えーい、吹っ飛べにゃ!」

 

私は魔力を使って爆発させて、また距離を取ろうとした。

だけど‥‥‥

 

「北条!離れろ!」

「おう!」

 

目の前にいた方の剣が光を放っていた。

剣に気が纏っていく。

なにアレ!

私の野生の勘が告げている。

あれはヤバい。

私は転移に全力を使って用意した。

 

「くらえ秘技、東照大権現」

「て、転移!!」

 

光が剣から放出されて、一直線上に伸びていく。

その力はとんでもない光力を誇っている。

何とか転移が間に合って躱せたけど、あれを直接受けたら‥‥‥消滅させられていたかも知れない。

本当に何なの、アレ。

曹操の神器並みに嫌な感じがしたにゃ。

これ以上こんなのと戦っていられないにゃ。

白音のことは心配だけど、今日は逃げるにゃ!

 

「逃がすか!秘技、五色備え」

「今度は何にゃ!」

 

もう一人の方は五つの刃を飛ばして、その刃が私を追ってきた。

一つ目の刃を躱したと思ったら、二つ目が飛んできてそれを魔力障壁で防いだ。

三つ目の刃で魔力障壁にヒビが入り、四つ目の刃魔力障壁が砕けた。

そして五つ目の刃が私に直撃した。

 

「グハァ!!」

 

私は刃の衝撃で飛ばされた、でもそれほどのダメージではなかった。

どうやらさっきの剣から光線を出す奴より威力はないようだ。

それでも悪魔の私にダメージ与えている段階で、結構ヤバい。

五つの刃のうち一つの刃でこれだけのダメージだ。

五つとも食らうのは避けたい。

でも飛ばされたから距離が開いた。

今なら転移の時間が稼げる。

 

「て、転‥‥‥」

「貴様、こんな所で何をしている? 」

 

ゾワァ!!

何この気配!!

圧倒的な気配を発する存在が私の傍にいる。

声を聞いたときから、背筋に嫌な汗が流れた。

私はゆっくり、声の方を見ると、そこにはゆっくりとこちらに歩いてくる存在があった。

大きな体と体から放出される魔力は私を超えている。

これが‥‥‥ゲーティア・バルバトス。

魔王の妹以外での要注意悪魔、いや魔王の妹なんてこれに比べれば危険でも何でもない。

何よこれ!

本当に何よこれ!

こんなの最上級悪魔だと言っても遜色ない程だ。

自然に流れ出る魔力でも、他を圧倒する程の量だ。

逃げなきゃ、こんなのと戦っても無駄にゃ。

私は全力で転移をして逃げようとすると、それする暇もなかった。

 

「どこに行くつもりだ」

「ヒッ!」

 

私の首元に斧が付きつけられている。

これ以上何かをすれば切り捨てる、と言わんばかりだ。

私が反応出来なかった。

だから潔く‥‥‥抵抗することを選んだ。

 

「逃げるつもりよ」

「ほう」

 

瞬時に後ろに飛びながら、魔力と妖術と仙術のミックス技を叩き込んだ。

至近距離から食らえば、いくら何でも‥‥‥ならなかった。

 

「今、何かしたか?」

「!!」

 

効いていなかった。

いや、意に介してもいなかった。

私の全力ではないにしても、仙術を混ぜていたのにまるで効いてない。

コイツ一体何なの!

 

「はぐれ悪魔『黒歌』だな。我が名はゲーティア・バルバトス、現在駒王町のはぐれ悪魔を対応している。代理だがな」

「‥‥‥どうも、バルバトス公爵。ものは相談だけど、見逃してくれないかにゃ」

「生憎だがSSランクのはぐれ悪魔を見逃すわけにはいかないな」

「‥‥‥やっぱり、そう、ね‥‥‥なら、全力で逃げるまでにゃ!」

 

何とか逃げないと、このまま死んだら、白音に真実も告げられない。

妹を守れなくなる。

それだけはイヤ!

命がけで逃げてみせる!

私は全力で魔力と仙術と妖術を駆使して、たくさんの弾丸を形成した。

 

「ほう、なかなかの量だな」

「くっ!」

 

これくらいじゃ脅しにもならない。

それに余裕も崩せない。

これを一気に使って一瞬でもスキを作り、転移して逃げよう。

私は意を決して、戦いに挑んだ。

 

「くらえーーー!」

 

私は全力で複数の力で作った弾丸をゲーティア・バルバトスに放った。

よし、このスキに逃げよう。

そう思っていると雄たけびが聞こえた。

 

「ブルァァァァァァーーーーー!!!」

「!!」

 

大量の弾幕を突破してきた。

当たっている弾丸を防御、いや無視している。

全力で無視している。

あれだけの攻撃を受けているのにまるで効いていない。

防御するまでもないっていうの!

私は理不尽なまでの力の差に憤りを感じた。

そして距離を詰められた。

距離を取ったつもりだったのに、もう眼前に迫っている。

眼前に迫り、右手に持っている斧を構えている。

すでに攻撃体勢に入っている。

魔力障壁を必死で張った。

間に合え!

 

「フン!」

「ぐうううう!」

 

もうだいぶ減ったけど、魔力を使い耐える。

残りを全部使わないとこの攻撃を凌げそうにない。

辛うじて防げた。

 

「セイ!」

「きゃあああ!!」

 

けど、無慈悲な二撃目が飛んできて、障壁は砕かれ、私は吹っ飛ばされた。

 

「わ、わたしは、いき、る、んだ」

 

私は飛ばされても、逃げることをあきらめない。

これくらいで諦めるくらいならもっと前からあきらめている。

 

「悪いがはぐれ悪魔を生かしてやるつもりはない」

 

目の前の怪物はそんな私を許してはくれそうにない。

 

「わ、たしは、間違って、なんて、いない。間違って、いるのは、悪魔の方、よ。アイツが、白音に、仙術なんて、使わせ、無ければ、‥‥‥約束を守って、くれて、れば」

 

私は意識が朦朧としている。

自分でも何を言っているのか分からない。

でも、何かを言っていた。

抱えてきたものを吐き出したかったからなのか、分からなかった。

 

「‥‥‥そうか、悪いが俺も現政権に従う悪魔だからな。お前が何を抱え、不満に思っていても、関係ない。私は私の成すべきことを成そう。次の一撃、生きていれるか、どうか運しだいだ」

 

そう言って、ゲーティアは私に近づいてきた。

そして私を空高くに放り投げられた。

 

「今死ね!すぐ死ね!骨まで砕けろ!ジェノサイドブレイバァァァァァァー!!!!!!」

 

私に向かって、とんでもない魔力砲撃が迫ってきた。

私は意識朦朧としているが、何とか避けようと魔力を使おうとしてけど、無理だった。

もう力がない、魔力が、妖術も仙術も使えない程、力がない。

迫ってくる魔力砲に諦めていた。

 

「黒歌ーーーーー!!」

 

声が聞こえた。

最近まで組んでいた男、美猴の声だ。

美猴は筋斗雲に乗っていて、猛スピードで私に迫ってくる。

私は美猴に手を引かれ、射線上から逃げられた。

そしてそのまま、飛んで逃げた。

どうして美猴がここにいるのか分からなかった、だけど今はどうでもいい。

生き残れた、ただそれだけで良かった。

私はそのまま意識を失った。

 

~~~~~~~~~~

 

「美猴、ありがとう。本当に助かった」

「おいおい、どうしたよ黒歌。お前が素直に礼を言うとは」

「あんなのから逃げられたから、感謝しているわ」

「‥‥‥お前、まだ調子悪いな。もう少し寝とけ」

「ええ、そうするわ」

 

私はそれだけ言って、また意識を失うように寝入った。

 

side out

 

side 塔城小猫

『わたしは間違っていない。間違っているのは悪魔の方。アイツが白音に仙術なんて使わせ無ければ、約束を守ってくれてれば』

 

私にはこの言葉の意味が分かってしまった。

姉様は仙術を私に使わせたくなかったんだ。

仙術はとてもすごい力だけど使い方を誤れば危険だ、と教えてもらっていた。

だから、その力を姉様の主は私に使わせようとした。

約束というのは、私に仙術を使わせないこと、きっとそうだ。

だから姉様は、私のために‥‥‥罪を犯した。

私は涙が出そうになった。

だけど泣いてはいけない。

今の私に泣く資格なんてない。

姉様が守ってくれた命なのに、今まで姉様を恨んできた私が涙を流せない。

流すなら、姉様に謝って、お礼を言ってからじゃないと泣くことは出来ない。

 

「私が知っていることは以上です」

「はい。ありがとうございました」

 

私はお礼を言って、生徒会室を出た。

私は生徒会室の隣にある風紀委員室の扉を見た。

この中にはもっと詳細を知っている人がいる。

怖い、とても怖い人がいる。

そして、姉様を傷つけた人がいる。

だけど、私が知らない姉様に秘密を暴いてくれた人がいる。

正直私は今何を言えばいいのか、分からない。

嫌えばいいのか、怒ればいいのか、感謝すればいいのか分からない。

怖いから、嫌い。

姉様を傷つけたから、怒っている。

秘密を暴いてくれたから、感謝をしている。

直接会うには、怖い、それに怒って、ゲーティア先輩の機嫌を損なうのはまずい。

だから、扉の前でお辞儀をすることにした。

直接会いたくないから、差し引き、扉の前で感謝を示すことにした。

 

「ありがとうございました。」

 

それだけ言って、オカルト研究部の部室に向かった。

心持ち、気分が軽くなったような気がする。

 

side out

 

 




次回からライザー戦に入ります。

使用武器の説明
・竹刀(指導棒)攻撃力700
出展作品:テイルズオブヴェスペリア

作品内では上の中クラスの攻撃力です。
ちなみに作品内でサブイベントや宝箱を除く手に入るストーリー上の武器の
最強攻撃力は720(明星弐号)です。

楓の神器から出した風紀委員の標準装備です。


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第33話 獅子との出会い

いつも多くのご感想と誤字報告を頂き、ありがとうございます。



 今日は遂に義兄殿、ライザー・フェニックスとリアス・グレモリーの対決の日になった。

 昨日は明日以降の領地への帰還の間、私が不在でも困らないように仕事を片付けていた。これで明日から私がいなくても問題ないだろう。私は大きく伸びをして、体をほぐした。

 私と楓は明日から、人間界を一週間の程離れることになっている。理由はバルバトス領である集団の出迎えをするためだ。以前セラフォルー様にお願いした件がようやく実現する、技術者の派遣のお願いだ。

 今回の相手はセラフォルー様のご推薦で来ていただく技術者たちだ、粗相をするわけにはいかない。だから私と楓の二人は技術者受け入れのために一度戻ることにした。

 そのため、私と楓がいなくても仕事が滞らないようにしておく必要があった。なので昨日一日を使い、一週間分の巡回スケジュールや問題対処マニュアルの制定に追われていた。

 それに駒王町に危険、いや強力なはぐれ悪魔がまた来ないとも限らない。

 2日前にはぐれ悪魔『黒歌』がこの駒王町に侵入するという事件があった。

 徳川や北条の二人一組が対応して、情報の入手と時間稼ぎを行ってくれた。その結果、はぐれ悪魔『黒歌』だと判明した。やはり二人一組の体制が効率が良さそうだ。

 この体制の利点は一人が戦闘を行い、もう一人がフォローに回ることで、情報の入手と送信、死角からの防御に、単騎であれば牽制などで数的優位に立てる。

 だが私が不在の間は巡回範囲が狭くなるが四人一組にすることにした。普段は二人一組の体制で4組に分けて巡回している。だが、黒歌程のはぐれ悪魔だと、二人だけでは足止めが精いっぱいだ。四人に成れば対応できることが増えるし、危険も減るだろう。

 私は風紀委員を統率する者として、彼らを無事に帰還させる義務がある。不在のときでもそれは変わらない。私は彼らを信じ、留守を任せることにした。

 

 さて時刻は23時、真夜中に差し掛かっている。私が居るのは風紀委員室。今日から当分の間、ここを離れる。最後に一度ここに来た。

だが、そろそろ時間のようだ。

 

「ゲーティア様、そろそろ参りましょう」

「‥‥‥ああ、そうだな」

 

 楓の声に私は答え、転移陣を展開する。向かう先はグレモリー家主催の会場だ。ここで、義兄殿とリアス達が戦うことになる。私達は来賓として、その戦いを見届けることになる。私は転移陣に乗り、転移を行った。

 

 

 転移が行われ、私と楓は会場に到着した。大きな城のような建物だ。

 まだバルバトス家の財力ではこれほどの贅を凝らした建物を建てる余裕はない。

 貴族として他者に威光を知らしめる為にも必要だとは思うが、我が領地では質実剛健を旨とするかの如く、武骨で機能性を重視している。

 それにセバスに以前聞いたが、どうやら当家に貯蓄という概念はないようであればあるだけ使うし、戦費に消えていたようだ。武門の家柄であることは財力とは無縁なんだろうか?私はバルバトス家の将来のためにも財力と貯蓄という概念を残すためにこれからも奮起しなければならない、と決意を新たにした。

 この会場には事前に連絡されていた通り、義兄殿、いやフェニックス家の関係者とグレモリー家の関係者がここに集まっている。そして皆が煌びやかな貴族らしい服装をしている。私も公爵家の当主として恥ずかしくない恰好をしてここに来ている。ここにいる貴族たちにご挨拶をするべきだが、生憎名前が分かる者がいない。楓も外交は担当していなかったので、顔と名前は一致しないようだ。しまったな、惣右介を連れてくれば良かったな。

 

「失礼、そちらの御方。バルバトス公爵様とお見受け致します」

 

 私は突然声を掛けられた。そこに立っていたのは、私と変わらない体躯であり、正装をしているというのに隠しきれない程に発達した筋肉を持つ、屈強な男が立っていた。自信に満ち溢れた真っ直ぐな眼差しはこの男の誠実さと清々しさを表しているようだ。

 

「確かに、私はゲーティア・バルバトスですが、貴殿は」

「これは申し遅れました。お初にお目にかかります、私はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主の者です」

 

 サイラオーグ・バアル。この名には聞き覚えがあった。私と同い年で大王家であるバアル家の次期当主。そして落ちこぼれと呼ばれていたことを知っていた。だが、眼前に現れた男のどこが落ちこぼれだと言うのか。これほどまでに己を鍛え上げることが出来る者が何故落ちこぼれなのか、心底疑問に思った。

 だが挨拶されて名乗りを返さなくては貴族として恥である。ならば堂々と名乗るべきであろう。

 

「おお、そうでしたか。サイラオーグ殿、ご丁寧な挨拶痛み入ります。改めまして、私はゲーティア・バルバトス、バルバトス家の現当主です」

「おお、バルバトス公爵様に以前からお目にかかりたいと思っておりました。バルバトス公爵様はフェニックス家のご令嬢とご婚約されているとお聞きしておりました。ですので、今日はお会いできるのではと、思っておりました」

「こちらこそ、光栄だ。かのバアル大王家の次期当主殿とお会いできるとは‥‥‥確かサイラオーグ殿はリアスとは従兄妹ということでしたね」

「ええ、バルバトス公爵様。従兄妹のリアスがもう結婚とは、私も婚約者を早く探さなければなりませんよ」

 

 実に礼儀正しく、それでいて自信に溢れた対応だ。同い年、同姓の悪魔だ。そこまで謙られたいとは思わない。彼と私は現当主と次期当主であり、私が目上に当たる。だから彼の対応は正しいものだ。だが彼の対応は私にとっては心苦しいものだ。いずれ彼が大王位を受け継げば、私と彼の立場は逆転する。そうなったときのための先行投資を行うことを考えた。

 

「サイラオーグ殿、そのように畏まられては困ります。今は私は家督を受け継いでいるため、公爵位を賜っていますが、いずれはサイラオーグ殿が大王位を賜ります。そうなったとき今日のことを話題に出されてはたまりません。なので後々のために、我々の間でだけは畏まることを止めませんか?」

「‥‥‥公爵様にそのように言われては、私に否やはありません。ここからは同い年と言うことでご容赦頂ければ幸いです」

「元よりそのつもりです。()()()()()()

「分かりました。()()()()()

 

 ほぼ同時に手を差し出し、自然と握手していた。

 

「「・・・・・・フハハハハハハハハハハ」」

 

 どちらともなく笑いが起きた。

 この男とは何故か仲良くなれそうだ。出会ってすぐに分かった。だからこそ、我々の間に敬語など不要だと、思った。

 

side サイラオーグ・バアル

 今日は従兄妹であるリアスとライザー・フェニックス殿の戦いの日だ。

 俺は今日のリアスの戦いに興味はなかった。ライザー殿の噂は最近よく耳に入ってくる。以前までは女にだらしないなどと言われていたが、ここ一年程は全く違う噂を聞く。最近のレーティングゲームでの戦績が著しい、という噂。元竜王のタンニーン殿とトレーニングを行っている、という噂。様々な噂はライザー殿の強さを讃えたものがほとんどだ。

 この戦い、リアスに勝ち目などないと思っている。周りにいる他の貴族たちも皆同じだろう。だから初めから勝敗が見えているリアスの戦いには興味がない。

 

 俺が興味があるのはゲーティア・バルバトス公爵だ。俺と同じ歳でバルバトス公爵家の現当主である、俺の先を行く男、その男に会えるかもと思いここに来た。

 俺は彼を心底尊敬している。彼が八歳の時にご両親を亡くし、頼れる身内も彼を助けなかった。弟、マグダランのクイーン、セクトーズもその親たちも彼を助けることはなかった。彼の両親、いや母が旧魔王派に組みしたとされていたので、もし彼を助けることをすれば、自分たちも旧魔王派だと思われる。そうなることを避けるため、彼を見捨てた。そんな周り全てが敵の状況を彼は7年で立て直して見せた。そして、旧魔王派を自身の手で捕らえ、現魔王であるサーゼクス様に差し出し、ご両親の名誉を取り戻した。そして、功績として魔王様直々の縁談を受けることになった。それも彼自身が願い出たという話だ。なんという発想だと思った。その婚姻は相手側の家を味方につけるだけではなく、魔王様をも味方につけることになる。俺にはそんな発想はない、だからそれほどの手腕を見せる彼に憧れた。

 だが、本当に憧れたのはそんな政治的な手腕ではなく、力にこそ憧れた。彼が唯一出場したレーティングゲームの映像を探し、それを見た時、何とも爽快だった。彼はとても強かった。圧倒的な力で相手は押しつぶし、心をへし折った。彼が卑怯な手など使わない。戦略など力で覆す。相手は確かに強いわけではない。ランキング上位者ではない。だが、弱いかと問われればそれは違うと思う。相手は小さい大会に出場しているにしては強い方だと思う。ましてや成人悪魔が相手だ。それなのに彼は真っ向から叩き潰した。本当に私の理想を体現しているようだ。

 

 俺はバアルの滅びの魔力をいや、本来悪魔が持つ魔力さえもかけらも持っていない。だから次期当主に相応しくないとされ、廃嫡された。そして母と共にバアル領内の辺境に追いやられた。それに対抗するために、母から『魔力が足りないなら、それ以外の力を身につけて補いなさい』という言葉を信じて基礎的な体力を鍛え続けた。

 そして次期当主であるマグダランを倒し、次期当主となった。だが、俺はその姿を最も見て欲しかった人に見せることが出来ていない。我が母は眠り病のため、今だ目覚めない。だがそんなことで俺は歩みを止めない。俺の歩む先を行く男がいる。その男は親を亡くし、家族もおらず、周りも全て敵だった。そこから這い上がり、遂には魔王様からの信頼を得るところに至った。

 俺の夢は魔王になり、力と意志さえあればだれもが望む場所につける実力主義の世界を作ることだ。そんな世界、本来なら一笑に付されることだ。だが現実はそうではなかった。現実にした男がいた。その男がゲーティア・バルバトスだ。俺が目指す夢さえも先んじて成しえてしまう男だ。何処までも俺の先を行く男だ。だが、だからこそ追いかける価値がある。それを自覚したとき、俺は更なる精進を心に誓った。

 

「失礼、そちらの御方。バルバトス公爵様とお見受け致します」

 

 俺は遂に出会った。その男は他の貴族たちとは存在感が違っていた。誰も彼に声を掛けることが出来ない。当然だ、格が違う。貴族の中でも高位である公爵位を持つ序列8位の大貴族だ。ここにそれを超える貴族はいない。だが、そんな肩書が違うから声を掛けることが出来ないのではない。怖いのだ、ただの貴族として生きてきた悪魔に彼の存在感は毒なんだ。圧倒的なその存在感はただあるだけで、周囲の存在を威圧する。だが俺は思わず声を掛けずにいられなかった。

 俺はずっと会いたかった、俺の最も尊敬する男に。その男は他者を寄せ付けない、圧倒的な存在感を持っていた。

 

「確かに、私はゲーティア・バルバトスですが、貴殿は」

 

 彼を前にして少々舞い上がっていたようだ。だが、ここは俺の正念場だ。彼に俺を見てもらいたい。俺は彼を追いかける、いずれは超える男だと、彼に知ってもらうために、俺は名乗った。

 

「これは申し遅れました。お初にお目にかかります、私はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主の者です」

「おお、そうでしたか。サイラオーグ殿、ご丁寧な挨拶痛み入ります。改めまして、私はゲーティア・バルバトス、バルバトス家の現当主です」

 

 それからは威圧感が落ち着いたようだ。俺が彼に慣れたではない、彼が俺を認めてくれた、そう思ってしまった。

 彼は実に紳士的だった。やはり彼は一味も二味も違う。ついには名で呼ぶことさえ許された。俺は彼に認められた、そう思った。だがここで満足するわけにはいかない。いつか彼を、ゲーティアを超える。俺は今日の出会いに感謝をし、心に誓った。

 

side out

 



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第34話 親と子

いつも多くのご感想を頂き、ありがとうございます。


 私とサイラオーグは移動しながら話をしている。

 

「サイラオーグは今日の戦いをどう見ている?」

「俺は‥‥‥やはりライザー殿が勝つと思っている。ここにいる貴族たちも同じことを思っているだろう」

 

 やはり、リアス側不利という見方がされているようだ。まあ、私も同意見だ。勝率は0だと思っている。だが、それが0.1%でもあるとすれば裕斗と一誠の二人しかいないだろう。

 

「サイラオーグはリアスの眷属について、何処まで知っている?」

「リアスの眷属か‥‥‥知っているのは雷の巫女と呼ばれる、雷使いがいることだけだな」

「ほう、朱乃は有名なのか。それは知らなかったな」

「ゲーティアは何か知っているのか?」

「サイラオーグ、私はリアスと同じく人間界の学校に通っている。だからリアスの眷属は全員知っている。その中に二人、私が戦いの手ほどきをした者がいる。今回の戦いのカギを握るのはその二人だ」

「なに!そうなのか。一体誰なんだ!」

 

 サイラオーグが興奮気味に聞いてくる。随分と気にかかるようだ。

 

「落ち着け、リアスのナイトの木場裕斗とポーンの兵藤一誠だ。その二人はこの10日前から先日まで指導をしていた。」

「なんと実にうらやましい。ゲーティア程の男から指導を受けられるとは。俺も一度指導を賜りたいものだ」

「ハハハ、冗談はよせ。サイラオーグ程の男にあれくらいの指導は必要ないさ。ただの打ち合いだ。それに最後は私が打倒して終わりの、な」

「だが、うらやましいぞ。うーむ俺も人間界の学校に通えばよかったな」

 

 私とサイラオーグはそんな話をしながら通路を歩いて行く。その後ろを楓が付いてくる。すると通路の突きあたりに行きつき、私達は大きな扉の前に到着した。扉の前にはドアマンが立っており、私達の到着に合わせ、扉が開けられた。私達は中に入ることになった。

 

「これはゲーティア・バルバトス公爵様、サイラオーグ・バアル様。ようこそお越しくださいました」

 

 中で出迎えてくれたのはグレイフィアさんだった。今日はグレモリー家の一員として歓待役を担っているようだ。

 

「グレイフィア殿、10日ぶりです」

「ええ、バルバトス公爵様、その節はお世話になりました。皆様方をお席までご案内いたします。どうぞこちらへ」

 

 私達はグレイフィアさんにそれぞれ席まで案内された。

 

「ではゲーティア、試合の後にまた話がしたいものだ」

「そうだなサイラオーグ、では試合の後で」

 

 どうやら各家の陣営で分かれているようだ。私と楓はフェニックス家側の席に案内され、サイラオーグはグレモリー家側の席に案内された。なので、試合の後に会う約束をして別れた。

 

「婿殿、よく来てくれた」

「義弟殿、お久しぶりです」

「義父上殿、義兄殿、本日はお招きいただきありがとうございます」

 

 フェニックス家の当主である義父上殿と次期当主である長兄ルヴァル殿が私を出迎えてくれた。

 

「いやいや、それよりも会いたかったぞ。最近の活躍ぶりはレイヴェルからも聞いているよ。はぐれ悪魔の討伐や堕天使との交渉など幅広い活躍だとな。しかし、堕天使との交渉と聞いたときは肝を冷やしたぞ。魔王レヴィアタン様と共に、堕天使の本拠地に乗り込んでいくなど、愕然としたものだ」

「その節はご心配をおかけしました」

「ハハハハハ、だが流石は婿殿だ!見事交渉を纏め上げて、堕天使との戦争を回避させた。婿殿の行動が悪魔界の未来を救ったんだよ」

 

 随分と上機嫌な義父上殿に抱き着かれるなどして、ひどく大喜びだ。いくら何でも、そんなに喜ばなくても、と思うがここまでお褒めいただくと悪い気はしないな。父上との記憶がないでもないが、懐かしい思いだ。もう少しこのままにしておくのものいいかな。

 

「お父様、そのくらいにしてください。ゲーティア様もお困りですわよ」

 

 現れたのはレイヴェルだった。今日は一緒に会場には来なかった。新郎の妹としてめかし込むために先行して会場に向かっていた。

 いつも一緒に居るというのに今日は一段と美しい。思わず見とれる程だ。だからこの気持ちを伝えることにした。

 

「レイヴェル、今日は一段と美しいな。また見惚れてしまったな」

「まあ、ゲーティア様にそのように言って頂けるなんて‥‥‥ですが()()()ですか。今日もではないのですか!」

 

 どうやら言葉を選び間違えたようだ。だが、今日も、と言ってしまうと、特別感がないと思って、この言葉を選んだと言うんだが‥‥‥そう思っていると、義父上殿に手招きされ、近寄ると耳打ちされた。

 

「婿殿、こういう時、どういう言葉を選んだとしても女性には怒られるものだ。私も経験がある。みんなこういう道を辿っていくんだ。諦めたまえ」

「まあ、義弟殿もこういうことは勉強だと思って、妹を宥めてくれ」

 

 ありがたい言葉と共に肩をポンポン、と叩かれ、ルヴァル義兄殿からは指令を与えられた。

 

 

 

 レイヴェルと合流出来たことだし、他の貴族にご挨拶をしなければな。こういう場合は一番最初に挨拶をすべきはグレモリー公爵だ。私は周囲を見渡すと、ある一か所に集団が出来ている。どうやらあそこにグレモリー公爵がいらっしゃるようだ。出来ればグレモリー公爵にご挨拶をしたいところだが、それは今は避けた方がいいか。しかし、グレモリー公爵を差し置いて他の貴族にご挨拶をするというのも、グレモリー公爵に失礼だ。さてどうするべきか、悩んでいると扉が開き、そこから歩かれてくる方に皆が跪き、出迎えた。

 

 「魔王ルシファー様、レヴィアタン様、ベルゼブブ様、アスモデウス様、ご入来」

 

 魔王様方がお見えになった。4人全員がお揃いだ。まさか、全員が来られるとは思っていなかった。サーゼクス様は確実だとしても、他はどなたかお一人くらいだと思っていた。まあ、全員が来られても当然と言えば当然か。義兄殿とリアスという、悪魔界でも数少ない72柱の家同士の婚姻だ。悪魔界全体で考えても非常に意義のある婚姻だ。それを悪魔界のTOPが婚姻の見届けとして来られてもおかしくはない。

 ならばご挨拶に伺わねば、私は使命感に駆られ、魔王様方の下に向かった。

 

「魔王様方、ご機嫌麗しゅうございます。バルバトス公爵家当主、ゲーティアにございます」

 

 私は魔王様方の前に跪き、ご挨拶申し上げた。

 

「ああ、ゲーティア君、久しぶりだ。最近の働き、実に素晴らしいものだ。‥‥‥本当に助かるよ」

 

 何故かサーゼクス様は疲れた表情を見せている。やはり魔王様ともなると相当な激務何だろう。だが、魔王様の中でも元気な方が私に抱き着いてきた。

 

「ゲーティア君、ここのところの働き、お姉さんとっても嬉しいよ☆また何かご褒美用意するからね。また考えておいてね☆」

「はい。その折には宜しくお願い致します」

「うんうん、良い傾向だよ。頑張ったんだもの、ちゃんと受け取るんだよ☆」

「はい。ありがとうございます」

「あ、そうだ。明日は選んだ技術者達がゲーティア君の領地に行くから、よろしくね☆」

「はい、本当にありがとうございます。セラフォルー様」

「ううん、ゲーティア君が頑張ったんだから、当然のことだよ☆」

 

 非常に上機嫌なセラフォルー様が私から離れると、今だ御顔を拝見していなかった、お二人の魔王様が私の前に立った。

 

「ほう、貴公が現バルバトス公爵、ゲーティアか。アジュカ・ベルゼブブ、初めましてだな。サーゼクスとセラフォルーが良く噂をしている。一度会って見たかったところだ。‥‥‥なるほどな。サーゼクスの言うことも分かる。どうやら私やサーゼクスと同じ側のようだ。実に喜ばしい。いずれはじっくりと話してみたいものだ。」

「はい、いずれが来ることを心待ちにしております」

「なに、意外と早いかも知れんよ」

 

 そう言って、アジュカ・ベルゼブブ様は私の前から去っていった。

 

「ゲーティア・バルバトス公爵、初めまして。ファルビウム・アスモデウス。君にとっては嫌いな名前だと思うけど、よろしく」

「いえ、滅相もございません。私が魔王様の御名を嫌うなど‥‥‥」

()()()()()()、だよ」

「‥‥‥関係ありません。私が敵と見ているのはクルゼレイ・()()()()()()です。断じて、ファルビウム・()()()()()()様ではありません」

「そう。まあ君がそういうならいいけど、あんまり溜め過ぎたらダメだよ。君見てると、周りも働かなきゃ、と思っちゃうから。もう少し怠けてよ。そうじゃないとサボれないよ。僕仕事したくないし」

「は、はあ~」

「そういうことだから、もう少し手を抜いてね。あ、あと魔王になりたくなったら言ってね。すぐ代わるから」

 

 そう言って、ファルビウム・アスモデウス様は先に行かれた。何とも反応に困る方だ。

 だが‥‥‥アスモデウス、か。父上と母上の事もあるが、特に気にしていたつもりはなかった。だが、どういう終わりを俺は望んでいるんだろう。‥‥‥父上と母上は私に何を望むのだろう。私には両親の望む答えは分からない。ならば私が望む答えを出そう。いつかクルゼレイを俺の手で殺そう。それで両親と私の因縁を終わらせよう。

 

 

 

 魔王様にご挨拶を終え、次はグレモリー公爵にご挨拶に参ることにした。どうやらあちらも気づいたようで、こちらに歩み寄ってきてくれた。

 

「グレモリー公爵、お久しぶりです」

「バルバトス公爵、ご健勝で何よりだ。‥‥‥このような場で貴殿にこのようなことを言うのは申し訳ないとは思うが‥‥‥我が娘の不始末、並びに数々のご無礼、大変申し訳ない」

 

 いきなり頭を下げられた。このような場で行うべきことではない。ましてや周りの眼もある。私は何とか、頭を上げていただくことをお願いした。

 

「!!こ、公爵!いきなりどうなさいました。頭をお上げください!」

「‥‥‥重ね重ねすまない。だが、我が娘の不始末、親として頭を下げることしかできない。なんとお詫びをしていいか‥‥‥」

「グレモリー公爵、今日はおめでたい日です。そのようなことは抜きにしましょう」

 

 私が何とか、グレモリー公爵を宥めた。遠くからもう一人、歩み寄ってきた。歩み寄ってきたのはグレモリー公爵夫人だった。

 

「バルバトス公爵、この度はお越しくださり、ありがとうございます。そして、娘の不始末、大変申し訳ございませんでした」

 

 どうやらこちらも同じようだ。新婦のご両親に頭を下げさせている私は周囲からはどう見られているんだろう。悪評が広まるんではないだろうか、不安になってきた。

 

「グレモリー公爵夫人もそのようなことは御止め頂きたい。お二人にそのようなことをされては、私の立つ瀬がございません。今日の良き日に免じて、これくらいでご容赦ください」

「いえ、主人共々お恥ずかしいところをお見せいたしました。‥‥‥娘の仕事ぶりはグレイフィアやサーゼクスから聞いておりました。親として何もしてこなかったのは何時か、成長してくれると信じておりました。‥‥‥ですが、自分の仕事も満足に出来ず、あまつさえご支援頂いた目上の方に大変失礼な事を申したとあっては‥‥‥最悪、廃嫡と言うことも考えました」

「‥‥‥リアスをあれほどワガママに育ててきたのは親である私達です。幼い頃から好きな物、欲しい物、何でも与えてきました。サーゼクスには‥‥‥何も出来なかったので、せめてリアスには、と甘やかしてきました。‥‥‥その結果が今に至ります。バルバトス公爵にはどれ程‥‥‥忍耐強く娘に向き合って頂き、親として感謝に堪えません。またこのような申し出を受けて頂いたライザー殿にも感謝に堪えません。‥‥‥私は今回、万が一にでもリアスが勝利した場合‥‥‥リアスを廃嫡致します」

「!!ですがそれでは」

「‥‥‥リアスが勝っても負けても、どちらにしろ、これ以上自由にはさせません。それに今回、このような場を与えられたこと自体が異例です。本来なら頭を下げてでも招き入れるべきライザー殿をこのような場に出すこと自体、礼を失していることです。私はグレイフィアからその知らせを聞いて、リアスを廃嫡しようと致しました。‥‥‥ですがそれを止めたのがライザー殿だ。ライザー殿は此度の一件は好きにさせてやってくれ、と言われた。一番迷惑をかけているライザー殿がそのように言うのであれば、もう私には何も言えない。‥‥‥娘のワガママに付き合って頂くゲーティア殿にもライザー殿にも大変申し訳ない。このお詫びは私、ジオティクスに出来る事なら何でもさせていただく」

「‥‥‥グレモリー公爵」

「‥‥‥子の責任は親が取らねばならない。それが親の責任です」

 

 グレモリー公爵は私に再度頭を下げた。私はその姿をしっかりと心に刻んだ。

 

 

 

 私はグレモリー公爵にご挨拶に伺った後に、用意された席に戻ってきた。考えるのは先程のグレモリー公爵の事だ。グレモリー公爵に非はない。だが、それでもグレモリー公爵は自分を責めるのだろう、容易に想像がついた。確かに子供の責任は親の責任、というのは分かる。私には前世でも今生でも子供はいない。だから分からない。何時まで、親は子供の責任を取り続けなければいけないのか、まるで分からない。

 

「‥‥‥婿殿、どうされた」

「義父上殿、先程グレモリー公爵に言われたことが分からないもので」

「ほう、一体何を言われたんだね?」

「『子の責任は親が取らねばならない。それが親の責任です』、何時まで親の責任を果たさなければいけないのか、それが分かりません」

「ハハハハハ、簡単な話ですぞ、婿殿。答えは『死ぬまで』ですぞ、婿殿」

「『死ぬまで』ですか‥‥‥」

「ええ、親になる以上、子供の人生には責任が伴います。ましてや未成年者であれば尚更だ。だから、今回の一件はリアス殿の責任であり、グレモリー公爵の責任でもあるのだ。それが親、と言う者ですぞ、婿殿」

「つらくはありませんか?」

「ハハハハ、子を愛しているから、つらくはありませんぞ。それに一番かわいい娘が立派な婿を捕まえてきましたので、これから先も楽しみですぞ」

 

 なるほど、私に分かるはずもないな。義父上殿の笑う横顔を見て、親にしか分からないことだな、と納得した。

 

 

 

 さて、そろそろ始まるかな。私とレイヴェルは隣に座り、私の隣に義父上殿が座られた。

 私は公爵で父上は侯爵だ。位では私が上になる。

 だが今日は新郎の父である父上が最も最上位にくる。私は新郎の妹の婚約者だ。本来ならもう少し中央から離れた席になるが、公爵を端に置くわけにもいかず、義父上殿の隣という席になった。

 アナウンスが流れだした。どうやら始まるようだ。

 

『皆様、このたびグレモリー家、フェニックス家の「レーティングゲーム」の審判役を担う、グレモリー家の使用人グレイフィアでございます。我が主、サーゼクス・ルシファーの名の下にご両家の戦いを見守らせていただきます。よろしくお願いいたします。早速ですが今回のバトルフィールドは異空間に作ったリングの上で行います。勝敗はどちらかの陣営が全員戦闘不能になるか、王が投了するか、どちらかです。制限時間はございませんので、引き分けはございません。また、ポーンはプロモーションは戦闘開始後すぐに可能です。以上で説明を終わります』

 

 義兄殿一人とリアスと眷属五人の計六人で戦う、それに一誠は即プロモーションが可能か。だがそれでも、義兄殿の優位に変わりはない。義兄殿は手を抜く気もないようだし、一誠と裕斗も気合が入っている。どうなるだろう、楽しみだ。

 

『開始の時間になりました。それでは‥‥‥ゲーム開始!』

 

 



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第35話 グレモリー眷属VSライザー・フェニックス(上)

いつも多くの感想ありがとうございます。


side リアス・グレモリー

 

 時間は開始5分前、私達は最後の打ち合わせをしている。

 ライザーの特性を踏まえると、私の滅びの魔力しか有効打がない。だから全員で私を守り、私が魔力を溜める時間を稼ぐこと、それが勝利できる最善の方法だ。私がそのことを説明しているが、周りの反応は悪い。

 

「部長ではどれだけ溜めてもライザー様に有効打を与えることは出来ません。あまり無理をするのは止めた方がいいですよ。」

「裕斗!いくら貴方が強くなった言っても、ライザーには通用しないわ!私の命令に従いなさい!」

「‥‥‥部長、止めた方がいいですよ。木場の言う通りです、部長が溜めた程度の魔力でライザー様には通用しません。力の違いが分かりませんか?」

「イッセーも!何よ!みんなして、今この局面で一致団結しなければならないのよ!主である私の言うことが聞けないの!」

「‥‥‥ハッキリ言うと、従えません」

「裕斗!」

「僕にも目的が有ってここにいます。そのため、その目的を果たせないまま、無様を晒すことだけは出来ません」

「俺も木場と同意見です。‥‥‥本来ならこのようなことになる前に諫めて、止める事こそ本来の忠臣としての在り方です。‥‥‥ですが俺も木場も忠臣ではありません。ここには俺達の目的のために来ました。なので部長の命令は聞けません」

「い、イッセー!」

 

 裕斗とイッセーがこの場で反旗を翻した。私はリアス・グレモリーよ。貴方たちの命を救ってあげた大恩があるのよ。だと言うのに、この場での裏切りだなんてとても許せないわ。

 

「裕斗、イッセー、貴方たちは私の下僕よ。主である私に従いなさい」

「‥‥‥はぁ~、分かりました。では僕がライザー様に斬りかかります。その後もライザー様の近くで戦い続けます。それで後方へ攻撃させるスキを与えません。それでいいですね」

「なら、俺も前衛に回ります。基本は木場が牽制をして、スキが出来れば俺が強化した一撃を叩き込みます。それならいいですよね?」

「‥‥‥ええ、それでいいわ」

 

 全く、言うこと聞かない眷属達で苦労するわ。

 あ、そうだわ。今ならちょうどいいわね。

 

「イッセー、貴方に施した封印を解くわ。そこに横になりなさい」

「封印?もしかして俺の力を段階的に引き上げていく、アレですか?」

「イッセー!貴方気づいていたの」

「アレはゲーティア風紀委員長との鍛錬中に弾け飛びました。ゲーティア風紀委員長曰く、強化しすぎて封印が想定していた力を超えたことが原因だと言っていました」

「またゲーティア!全く私の邪魔ばかりして!」

「‥‥‥別に、ゲーティア風紀委員長は何もしてませんよ。そもそも俺にそんなものしていたことを教えてくれていなかったので、封印が解けた理由からゲーティア風紀委員長が検討してくれただけです。そういう目的だろうって。でもそのおかげで、めちゃめちゃ時間を無駄にしたんですよ。魔力量の向上訓練にも支障出てたし、身体強化の倍化数に影響でてたし、最初から言っておいてくださいよ、そういうのは」

「仕方ないじゃない。貴方は八個分のポーンの駒を使ったのよ。ただの人間から転生したばかりの貴方では八個分のポーンの駒の力に耐えれなかったから」

「‥‥‥まあ、当初は仕方ないにしても、今この場で言わないでください。いきなり力を解放して、はい戦え、なんて、せめて慣らし運転くらいさせてくださいよ」

「もう、分かったわよ。じゃあこの話は終わりでいいわ」

 

 イッセーは怪訝な表情をして、裕斗の方に歩いて行ったわ。アーシアもイッセーの傍に行ってしまった。

 もう、イッセーも随分反抗的になったわ。これも全部ゲーティアのせいね。人の眷属にちょっかいかけて、私がどれだけ迷惑しているか、分かっているのかしら。この戦いが終わったら一言文句言ってあげるわ!

 私が内心で怒りを溜め込んでいると、アナウンスが流れてきた。グレイフィアの声ね。

 

『皆様、このたびグレモリー家、フェニックス家の「レーティングゲーム」の審判役を担う、グレモリー家の使用人グレイフィアでございます。我が主、サーゼクス・ルシファーの名の下にご両家の戦いを見守らせていただきます。よろしくお願いいたします。早速ですが今回のバトルフィールドは異空間に作ったリングの上で行います。勝敗はどちらかの陣営が全員戦闘不能になるか、王が投了するか、どちらかです。制限時間はございませんので、引き分けはございません。また、ポーンのプロモーションは戦闘開始後すぐに可能です。以上で説明を終わります』

 

 やったわ!いきなりイッセーがプロモーションできるわ。これなら眷属がいないライザーは断然不利ね。状況は全て私に有利に動いているわ。私は思わず口元に笑みが浮かんだ。

 

『開始の時間になりました。それでは‥‥‥ゲーム開始!』

 

行くわよ!ライザー!

 

side out

 試合が始まった。先陣を切ったのは‥‥‥朱乃だった。

 

「行きますわよ!雷よ!」

 

 カッ!

 一瞬の閃光。刹那の後に――――

 ドッゴオオオオオン!!!

 義兄殿を狙って雷が降り注いだ。その雷は確実に義兄殿を捉えている。

 

「うふふふふ」

 

 朱乃は上機嫌だ。だけどそんなもので義兄殿が倒せると思っているのか?

 煙が晴れたその場所に登場当時から微動だにしていない義兄の姿が見える。まるで意に介していない、当然だな。あれくらいの雷で倒されるものなど、この観覧席にもいない。‥‥‥それに今ので何か仕掛けをしたな。魔力が減っている。

 サイラオーグが言っていたが、朱乃は『雷の巫女』と呼ばれているらしいが‥‥‥あれならこの間戦った、はぐれ悪魔『黒歌』の方がよほど強い。それにバルバトス領の領民でもあれくらいの雷なら余裕で耐えれる。それに視界を塞ぐような攻撃では、相手の仕掛けに気付かない。開幕の景気付けにはいいだろうが、相手が一人しかいないときにやるべきではないな。

 ‥‥‥しかし、気になるのは裕斗と一誠だ。あの二人が何かしているようだ。裕斗の魔剣に何かしているようだ。どうやら二人は気づいていないようだ。これは減点だな。

 

「行くよ。イッセー君」

「おう、木場。プロモーション・クイーン」

「二人ともお気をつけて」

 

 裕斗と一誠が並走して義兄殿に向かっていく。一誠はクイーンの能力で全能力が上がっているので、裕斗の速度に付いていけている。裕斗が剣を持って斬りかかって行く。

 

「はあ!」

「ム!」

 

 裕斗の魔剣に対し、義兄殿は手に炎を集め、棒状に構成している。ん?義兄殿の表情に若干焦っているようだ。裕斗の魔剣は‥‥‥氷の属性を持っているようだ。だがそれくらいで何故焦っているのか?

 

「その魔剣から何かイヤな気配がするな。何をした!」

「少し、聖水を混ぜています。いいんですか、受け止めても。この剣が溶けると、聖水が出ますよ。それに温度を上げ過ぎると沸騰して気化しますよ。そうなると効力を無くすのか、それとも空気中に霧散した成分で悪魔に影響を及ぼすのか、どちらだと思いますか?」

「クッ!」

 

 ほう、考えたな。先程の細工は魔剣に聖水を掛けて表面をコーティングしていたのか。確かにこれでは義兄殿も余裕ではいられなかったか。流石に強くなったと言っても種族的な弱点まで無くなったわけではない。悪魔の弱点である聖水自体には義兄殿も脅威を感じたか。不死であると言っても嫌なものはイヤだろう。しかし、あの聖水を用意したのはアーシアか。10日程前には開始と同時にリタイアしろと言っておいたと言うのに、今だリタイアする気配はない。最後まで戦うつもりか、特訓中と違い、義兄殿がアーシアを脅威と見ると攻撃もしてくるぞ。‥‥‥いや、彼女も戦う者の眼をしている。ならばこれ以上の心配は無粋だな。

 しかし、ここまで派手な動きがないのは、リアス、小猫、一誠の三人だ。リアスは開始から魔力を溜めている。それを小猫が護衛のような形で傍にいる。だが、一誠は裕斗の後ろに張り付いている。義兄殿からは見えないようだ。おそらく力を一気に開放して、奇襲を仕掛けるつもりなんだろう。だが、本当にそれくらいの手だろうか?いや、予想するのはここまでにしよう。折角の戦いだ、これからどうなるか、お前達の成長を見せてもらうぞ裕斗、一誠。

 

side 兵藤一誠

 

「はあ!」

「ム!」

 

 木場の一太刀を受けられたか。朱乃さんの雷をまともに受けたから、こっちの攻撃をとりあえず受けてくれるかも、というこっちの目論見は外れたな。まあ仕方がないか、さっき聖水を魔剣に掛けていた時から嫌な感じがしていたし、不死であることは鈍感ではあるけれど、不感ではないんだろう。だから聖水のイヤな気配を感じ取って防御の姿勢を取ったんだ。だけど‥‥‥受け止めた。今だ!

 

「ブーステッド・ギア・ギフト!木場!」

「うおおおおおおおおおお!!!」

 

 木場に俺の力を譲渡だ。

 

「なに!ぐおおおおおおお!!!」

 

 木場がライザー様の力を一瞬だけ上回り、一太刀が届いた。木場の力を一気に強化したことで、ライザー様の意表をつけたようだ。一撃がライザー様に通り、倒れ込んで動かなくなった。

 よっしゃー!上手くいった。

 当初から二通りの方法を考えていた。一つが聖水コーティングした魔剣を受けた場合、これは今みたいに一気に強化して一瞬だけ剣速と力を上げること。これはゲーティア風紀委員長との特訓で得た駆け引き、緩急を使った方法だ。そしてもう一つは魔剣を躱された場合、魔剣を解除して聖水を吐き出して、それを俺が強化する方法だ。‥‥‥でもこれ、たぶんあんまり意味がなかっただろうな。さっきのライザー様の熱を考えると、結構蒸発して効果が落ちただろうな。まあいいか、これで俺達、ゲーティア風紀委員長の名誉を守れたな。俺は安心していた。だけど木場は訝しんでいる。どうしたんだ?

 

「木場、どうしたんだ?俺達、勝ったんだぞ」

「‥‥‥おかしいんだ。レーティングゲームの場合、退場者を知らせるアナウンスがあるんだ。‥‥‥でも今は‥‥‥!!」

「そうだな、今のは驚いたぞ」

 

 倒れ込んだライザー様が炎に代わり、消えた。一体どうして‥‥‥

 

「「甘いな」」

 

俺と木場は何かに蹴り飛ばされたような衝撃を受けた。

 

「くっ!一体、何、が」

「つっ!‥‥‥はぁ?」

 

 俺達が見たのは‥‥‥()()のライザー様だった。どうして、さっきまでは一人しかいなかったのに‥‥‥

 

「どうやら混乱しているようだな。まあいい種明かしだ。俺はさっきの雷で視界が塞がれたときに体を分離したんだ。体を分離と言っても、フェニックスの不死の特性を使い、魔力で体を構成させたんだが、それを俺は『分離』と呼んでいる。だから、さっきお前たちが攻撃したのは俺が用意した偵察用の分離体だ。‥‥‥義弟殿が鍛えたお前達を俺は過小評価しない。事前に集めていた情報を基にしても鵜呑みにはしない。あの宣戦布告から十日あったんだ。少しは成長していてもおかしくない。だから俺はお前たちの力を計ることにした。戦力分析、威力偵察は重要だからな。俺が学んだ兵法書にはこう書かれていた、『彼を知り己を知れば百戦殆からず』という言葉があった。勝負の原則が、『敵を知ること』とともに、『味方の内容をよく認識すること』であると言うことらしいな。実に深い言葉だ。‥‥‥さて、これが俺が俺が複数いる理由だ。この分離体は複数に魔力を分けているから全体的には脆さがあるし、力を一時的に分けているから再び統合しないと全力は出せない。まあ、魔力が回復すれば問題ないがな。それにこの分離体も維持できる時間も15分くらいだ。俺に代わって戦わせるとなると、精々5分くらいだ。」

「‥‥‥何故そのように技の秘密を教えていただけるんですか?」

「お前たちが俺の脅威に成り得ないからだ」

「!!」

 

 二人に分かれていたライザー様が一つに戻った瞬間、圧倒的な力に変わった。

 確かに、今の俺達では脅威に成り得ない訳だ。ここまでの力の差ではそれも仕方がない。

 

「はははは‥‥‥悔しいけど‥‥‥奇策以外に勝てる方法はないからね。‥‥‥これまでか」

「‥‥‥木場」

 

 悔しいけど木場の言う通りだ。もっと近づけていると思っていた。‥‥‥だけど今の力の差は‥‥‥あまりにも遠い‥‥‥せっかく、ゲーティア風紀委員長に鍛えてもらったのに‥‥‥これには勝てない、圧倒的な力の差だ。‥‥‥諦めるか‥‥‥

 俺の脳裏にそんな考えが浮かんだ。だけど‥‥‥

 

「イッテッ!!」

 

 俺が諦め様としていると、俺は何かに殴られたような衝撃を受けた。衝撃を受けた方向を見ると、その先にはアーシアがいた。腕を俺の方に向けて、魔力を込めている。

 俺を撃ったのは‥‥‥アーシアだ。

 

「アーシア、一体どうして」

「イッセーさんが諦めようとしているからです」

「!!だけど、これ以上の手はなかった。俺も木場も今以上の手はない。だから今のライザー様に俺達では勝てない。だから‥‥‥」

「諦めてどうするんですか!そもそも戦わずに諦めるくらいなら最初から、この戦いに参加しなければ良かったじゃないですか!それでもこの戦いに参加したのは何故ですか!」

「!!」

 

 俺はどこかで見ているであろう、ゲーティア風紀委員長を探してしまった。‥‥‥だけど、こちらからは見えないけど、あっちからは見えるんだろうな。

 ‥‥‥情けない。この十日の間、俺と木場を鍛えてくれていたゲーティア風紀委員長になにも返せていない。今回の戦い、俺達は参加しない方が良かった。ゲーティア風紀委員長の考えは政略結婚を重視し、純血悪魔と家を残すことを第一に考えている。この戦いで万一にも勝ってしまった場合、ゲーティア風紀委員長の考えと異なることになる。それに俺達を指導していた以上、俺達の結果次第でゲーティア風紀委員長の家の名にも傷がつきかねない。それでも俺達を出してくれた。戦う場をくれた。俺達は戦いたいから、参加した。ゲーティア風紀委員長に俺の成長した姿を見せたかったから‥‥‥。

 決めただろ、アーシアとゲーティア風紀委員長、この二人は絶対に裏切らねぇ、裏切るぐらいなら死んでやるって、心にそう決めたじゃねぇか。なのにゲーティア風紀委員長のこれまでの苦労と俺のために使ってくれた信頼を、名誉を裏切るのか。アーシアの信頼も裏切るのか。だったら死ぬんじゃねぇのか、俺!‥‥‥なのに口先ばっかだ俺は‥‥‥ここでやらなきゃ男が廃る。命もかけずに死ぬなんて軽々しく口にすんじゃねえよ、俺!実際一回死んでるんだ。だったら‥‥‥賭けよう、全てを!なあ赤龍帝、起きてるか赤龍帝、起きてたら、聞こえていたら聞いてくれ。俺に‥‥‥信頼に応えるだけの力をくれよ。俺に出せるもんだったらなんだってくれてやる。だから俺に力をくれーーーーーーー!俺は自分の左手のブーステッド・ギアに願った。すると声が聞こえた。

 

『よかろう。力を貸そう、我が宿主よ』

 

 ―――!!俺の声に赤龍帝が反応した。俺は現実世界での意識を失った。

 

 

「‥‥‥ここはどこだ」

 

 俺は意識が遠くなっていくのを感じた。すると突然、全く知らない場所に俺はいた。一体どうしてここに‥‥‥

 

『起きたか、宿主』

「ーー!」

 

 俺が振り向くとそこには‥‥‥龍がいた。赤い、大きな、龍がいた。

 

『直接会うのは初めてだな。お前の左手にあるブーステッド・ギアに封印されている、赤い龍の帝王、ドライグだ。よろしくな宿主』

「‥‥‥ああ、よろしく。お前が俺の中に居たんだな」

『ああ、そうだ。何か言いたいことがあるのか?』

「ああ、ある!」

『なんだ?』

「‥‥‥俺に力をくれ!」

『ほう、どれほどの力が欲しい』

「俺が欲しいのは信頼に応える力、恩に報いる力だ。俺はゲーティア風紀委員長に恩を受けた、信頼を俺に使ってくれた。‥‥‥なのに今‥‥‥俺達が不甲斐ないばかりにあの人の名前に泥を塗っている。‥‥‥そんなの、我慢できるか!」

『ほう、面白い。だが、それには対価が必要だ。お前は何を俺に差し出す。』

「‥‥‥なにが欲しい。何でもくれてやる」

『‥‥‥何故それほどまでにその男を信用できる。お前は何故その男のために全てを賭けることが出来る?』

「俺のために頭を下げてくれた。俺のために信頼を、時間を、自分が築いてきたもん、使ってくれた。俺は恩も返せない外道に成り下がるつもりはない。だったらせめて俺に出来る、精一杯であの人に返したい。‥‥‥これは俺の意地だ。」

『そうか‥‥‥今の宿主では【至る】には少し足りない。もう少し時間があれば自分の力だけで【至る】。今すぐに【至る】のであれば、その分の対価が必要だ。それでもいいのか?』

「ああ。何でも好きなの持っていけ」

『‥‥‥いいだろう。対価としてその左腕を貰うぞ』

 

 俺の左手が龍の腕に変わっていく。赤く、鱗に覆われた腕に変わった。

 ごめんな、父さん、母さん。二人から貰った体、変わっちまった。だけど、魂だけは決して変わらない。恩も返せない、情けない男に成り下がるつもりはないから‥‥‥でも、ごめん。

 俺は悲しいと思っていないのに、何故だか涙が出ていた。

 

『いいか宿主。お前に禁手を発動していられるのは時間にして約15分だ。初めてにしては及第点だな。これもあの男の鍛錬のおかげだな。ただ、力を最大まで高めると、使用時間が5分減る。最高で3回、実際は2回までしか使えない。それまでにフェニックスを倒せなければ終わりだ。延長は出来ん』

「ああ、分かった。俺にも分かるさ。今までにない程の力を感じる。‥‥‥なあ、ドライグ」

『なんだ、宿主』

「俺がもっと強くなれば、お前の力をもっと使えるようになるのか?」

『ああ、そうだ。宿主よ、お前はいずれ俺の宿敵と戦うことになる。そのときまでにもっと強くなれ。そうでなければ俺の宿敵、白いのに負けるぞ』

「ああ、俺はゲーティア風紀委員長に指導してもらっているんだ。俺の敗北はゲーティア風紀委員長の名に傷がつく。そんなの出来るか!」

『期待しているぞ、宿主‥‥‥いや相棒、兵藤一誠』

 

 世界が崩れていく、俺の体が消えていく。だけど、分かる。これは俺の意識が覚醒していくんだ。

 

 

 俺が目覚めると、俺に手を向けて魔力を溜めている、アーシア。俺の横には木場がいる。そして、俺の後ろにはライザー様がいる。

 どうやら、戻ってきたみたいだ。ただ、どれくらい時間が経ったんだ。

 

『現実世界と精神世界では時間の進みが違う。こちらの世界では時間はほぼ経っていない』

 

 ーー!頭の中に声が聞こえる、ドライグか。

 

『ああその通りだ、相棒』

 

 そうか。悪いが相手を待たせるわけにはいかないんだ。早速で悪いが、力を使わせてもらうぞ。

 

『ああ、行くぞ』

「行くぞ、ブーステッド・ギア!‥‥‥アーシア、俺、目が覚めたよ」

「イッセーさん」

「俺達が戦う理由はゲーティア風紀委員長の指導に、期待に応えることだ。だから、俺達の力を見せるんだ。その果てに何が有ろうと、俺達を鍛えたゲーティア風紀委員長の眼に、指導に、間違いはなかった。それを見せつけるんだ」

「‥‥‥はい。そうですね」

「木場、俺達が這いつくばっていいのはゲーティア風紀委員長との指導の時だけだ。立て!」

「‥‥‥ああ、そうだね」

 

 アーシアも木場も俺と同じゲーティア風紀委員長に鍛えられた仲間だ。これだけで言いたいことも伝わるんだ。

 俺達が再び闘志を取り戻し、ライザー様を見据えた。

 

「お待たせしました。ライザー様」

「さして待っていない。それにお前達が何をするのか興味がある。何か奥の手でも用意しているのか?」

 

 奥の手‥‥‥用意はしていなかった。だけど‥‥‥

 

「‥‥‥奥の手ならさっき出来ました。行くぜドライグ、バランスブレイク!!」

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!』

 

 籠手の宝玉が光、周囲を赤い光が覆い、俺の体をオーラが覆う。周囲の光が収まると俺は赤い鎧を身に纏っていた。

 これが‥‥‥赤龍帝の力。‥‥‥すごい、今まで感じたことがない程の力だ。

 

「赤龍帝の籠手、禁手『ブーステッド・ギア・スケイルメイル』。これが俺の奥の手です、ライザー様」

「‥‥‥ククククク、ハハハハハ‥‥‥まさか、神滅具の禁手が見れるとは‥‥‥実に面白い」

「申し訳ありませんが時間がありません。ゆっくりとご挨拶する暇はありません」

「良いぞ、来い!」

 

 ライザー様は俺に向き合い、構えを取った。

 凄い力を感じる。圧倒的な闘気、魔力、様々な力の圧力を感じる。少しでも気を抜けばこの場にへたり込みそうだ。‥‥‥だけど、何故か分からないけど‥‥‥笑みが浮かんでしまう。

 これほどの力を前にして、今の俺ではまだ超えれない程の力を前にして、笑みが浮かんでしまう。これが強者との戦いを楽しむ、ということか。

 確かに俺では‥‥‥今はまだ届かない。だけど、それでいい。届かぬからこそ挑むんだ。俺はまだまだ強くなれるんだ。

 

「行くぞ!ブルアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「来い!兵藤一誠!!!」

 

俺の拳とライザー様の拳が激突し、衝撃がリング全体に響いた!

 

side out

 



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第36話 グレモリー眷属VSライザー・フェニックス(下)

前回の続きです。
よろしくお願いします。

いつも多くの感想ありがとうございます。



 ドゴオオオオオン!!!

 二人の拳が生み出した衝撃は見ているこっちが驚くほどの大音量になった。

 まさか、一誠がこの場で禁手に至るとは‥‥‥いや、それ以上に驚きなのが、アーシアがあんなことを言うとは‥‥‥彼女に強い芯があるのは分かっていた。だが、それが一誠を立ち直らせる程とは思っていなかった。それに彼女は義兄殿の力に動じなかった。もう、一誠に守られるだけの存在ではないと言うことか‥‥‥見誤っていたな。私は彼女を戦う者ではないと、決めつけていた。認識を改めよう、彼女も立派な戦士だと認めよう。

 それに裕斗も一誠と協力して義兄殿を奇襲で倒して見せた。

 二人は正攻法では義兄殿に勝てないと踏んで、その策を取った。それ自体は見事だ。

 ‥‥‥だがそれ自体が義兄殿の策だった。倒したのは偵察用の分離体で情報を入手することを目的にしていた。だから裕斗と一誠の手札は尽きていた。

 力の差は如何ともしがたい。弱者が勝つには、勝てる状況を作る必要がある。そのためには手札を効果的に切る必要がある。二人が使った手は十分に効果的だった。‥‥‥だが、義兄殿はその上を行った。

 二人が間違えたとは思っていない。あの場面で使わなければ、結局は分離体に負けていたし、仮に倒せていても余計な消耗を強いていただろう。‥‥‥意外と義兄殿も驚いたのかも知れないし。

 だが、その後が良くない。気を抜いてしまった。だからあっさりと背後を取られた。実際の戦闘ならあの時で終わりになっている。‥‥‥今残っているのは義兄殿の恩情だな。その上、種明かしまでされた。あれは義兄殿なりの敬意の表れだろうな。分離体を倒した者に対する敬意、というものだろうな。

 だが二人は、義兄殿の力に恐れをなしてしまった。分離体を統合したことで分けていた力が元に戻った、その力が当初に感じていた力のおよそ四倍~五倍程だろう。どうやら、やられた分離体にはそれほど力を使っていなかったようだ。だから一つに戻ったときに圧倒的な力に思えたんだろう。

 だが、そんな心が折れた一誠を立ち直らせたアーシア、同じく心が折れた裕斗を立ち直らせた一誠、一人では折れてしまう状況を仲間だから踏み越えた。

 お前達は私が考えていた以上に強くなった。彼らの成長に関わった者として、思わず嬉しく感じてしまうな。

 

「まさか、神滅具の禁手とは‥‥‥婿殿は知っていたのか?」

「いいえ、彼は私との鍛錬では発動したことはありませんでした。なので、これは彼が戦いの中で成長したんです。この戦いの中で常に成長を続けている証です」

「なるほど、婿殿が目を掛けているだけの事はありますな。‥‥‥ですが、それでもまだライザーの方が上の様ですな」

「そうでしょうね。いくら神滅具とはいえ、まだ力が目覚めて一月程の若輩者です。それに悪魔となってもまた一月、それまでは戦いとは無縁の生活を行っていた者です。いくら才が、いえ潜在能力があったとしても、今はまだ、咲く前の花と同じです。実力というのは、才能と努力とやる気と根性と時間で出来上がるものだと私は思っています。今の一誠には努力とやる気と根性はあります。ですがそれだけです。彼には武術の才能も魔術の才能もありません。彼はこの一か月、いやそれ以下の時間しか掛けていません。だから今の一誠の実力はそれまでです。‥‥‥反対に義兄殿は才能と時間がありました。そして今はそこに努力とやる気と根性が上乗せされているようですね」

「‥‥‥婿殿のおかげです。ライザーの才は私から見ても長男のルヴァルに劣るものではありません。ですが‥‥‥才があったが故に驕り、慢心により努力と言うものをしてきませんでした。親としてはその有り様が歯痒かった。先程の婿殿のいうように才能と時間はありました。ですが、ただ有っただけです。努力とやる気と‥‥‥根性でしたか、それがない時間などただの浪費です。ライザーはただ無為に時を過ごしてきただけです。それがこの一年で変わった。変わってくれた。婿殿、貴方のおかげだ。ライザーが必死で努力しなければならない程の高みにいて、最愛の妹の婚約者である、年下の者。それはライザーが決して膝を屈したくない者でした。婿殿が初めて我が家に来てくれた時、ライザーは婿殿に言ったな。『妹を泣かしたら承知しないぞ!その時は俺の炎でお前を焼いてやる!』あの時は失礼ながら、親としては嬉しかった。今まで、やる気も根性も見せなかったライザーがこの一年、龍王タンニーン殿の下に修行に赴いた。そして長男であるルヴァルに負けぬ程の力を得た。いや勝ち取ったのです。だから、我が息子ライザーは決して負けませんぞ!」

 

 義父上殿は誇らしそうに義兄殿を見ている。実に嬉しそうだ。なるほど、親としての喜びか。私には分からないものだな。

 

 

 

side 兵藤一誠

「ブルアアアアアアアアアアアアアア!!!」

「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 俺の最大強化の一撃が相殺された。これであと一発、無駄撃ちは出来ない。

 

「いいぞ!今の一撃はまさにドラゴンの一撃だ!」

「クッ!ありがとうございます」

「だが!ハァッ!」

「ヤバッ!」

 

ライザー様が左手に発生させた炎を投げつけてきた。とんでもない威力だ。俺は全力で回避した。だけど、

 

「甘い!」

「グハァ!」

 

 俺が避けた方向に先回りされて、待ち構えていたライザー様に俺は蹴り飛ばされた。

 くそ、いくら力が上がっても戦闘技術まで向上したわけじゃない。俺よりもライザー様の方が戦い慣れている。だから俺の動きを先読みして対処してきている。それに今だ余裕があるようだ。

 俺は無い知恵を絞り、考えようとしている。だけど、相手は待ってはくれない。

 

「戦闘中に考え事か?」

「!!!」

 

 一瞬で距離を詰められ、目の前にライザー様が現れて咄嗟に顔への攻撃を防御しようとした。

 

「ボディがお留守だぜ!」

「グ!」

 

 だけど、防御するのが早すぎて、がら空きのボディに強烈にボディブローが叩き込まれた。

 鎧のおかげで、直接は受けてはいない。だけど、ものすごく響いたし、すげえ熱い。炎を纏った一撃のせいで、鎧を通して熱が俺の腹を焼いている。

 まずい、このままだと一撃を放つ前に体がもたない。なんとかしないと‥‥‥

 

「どうした、さっきまでの威勢はどこにいった?まさかそれくらいで終わりではないだろう」

「く!」

「期待外れだったな。義弟殿が鍛えたわりに、存外だらしない」

「なに!」

「そうですか、なら期待外れの一撃でも食らってもらえますか」

「ハッ!?」

 

 ライザー様の背後に木場がいた。そして、木場の一振りはライザー様を捉えた。

 だが、ライザー様は背後からの攻撃に掠りはしていたが、有効打とは言えなかった。

 

「今のはヒヤッと、いや、ゾクッとしたぞ」

「そうですか‥‥‥残念です」

「その剣、またさっきと同じ様に聖水をコーティングしてあるな」

「ええ、僕がダメージを与えられるとすると、これしかありませんから」

「だが、それでも俺には効かんぞ」

「それでも構いません。僕ではあなたに勝てません。‥‥‥だけど、仲間が、貴方を倒します。僕は捨て駒で結構です」

 

 木場が一瞬でライザー様に接近して、斬りかかった。

 くそ、あそこまで言われて、ここでやらなきゃ男が廃るぜ!

 

「イッセーさん!」

「アーシア!」

「今直します!」

「ああ、頼む」

 

 アーシアの神器で俺の怪我を直していく。腹の熱が収まっていく。よし、これならいける。

 

「助かった、アーシア」

「はい、ゲーティア先輩にお世話になったんです。私の分も恩返し、して来てください」

 

 アーシアはそう言って、俺の背中を叩いた。

 ああ、任せとけ!アーシアの分も俺が返してくるさ。

 

side out

 

 義兄殿と一誠の戦いはやはり、義兄殿に軍配が上がるか。やはり一年と一か月の差は大きいな。一誠は戦いの才能はない。この一か月は悪魔としての基礎能力の向上と神器についてしか教えていない。だから戦闘で役に立つのがスペック頼りのゴリ押しだけだ。格下ならともかく、格上いや同格にすら勝てないだろう。‥‥‥だけど義兄殿、裕斗は強いですよ。

 

「クッ!ちょこまかと」

「ハッ!セイ!ヤァッ!」

 

 裕斗は小刻みにリズムを取りながら、回避しながら攻撃、攻撃しながら回避をしている。

 義兄殿が一年の努力というなら裕斗も一年の努力だ。私が戦い方を教えて一年、剣道部で格上と戦い続けて一年だ。その一年は決して義兄殿に劣る一年ではないと私が保証する。

 それに、ここで義兄殿と裕斗の戦い方に差が出てきている。

 

「ク!なぜだ!なぜ当たらん!」

「ハアッ!」

 

 裕斗は的確に攻撃を与え、義兄殿の攻撃を躱し、また攻撃を与え続けた。

 裕斗の戦い方と義兄殿の戦い方の違い、それは規模感の違いだ。裕斗は対人型に特化していて、義兄殿は対大型、おそらくはドラゴンに特化した戦い方なんだろう。だから、義兄殿の攻撃は大振りが目立つんだ。一撃一撃の威力は確かにすごい。ドラゴンを倒せる程の威力を持っている。ドラゴンも回避はするだろうが、どちらかと言えば防御に比重を置いた戦い方なんだろう。だから、攻撃は相手の防御を貫くような威力を持たせる必要がある。だから自然と大振りになっているんだろう。だが、裕斗は相手の初動に合わせる戦い方、カウンター主体の戦い方をしている。大振りに攻撃のスキを突き、的確に攻撃を仕掛けていく。本来なら、相手が剣で戦う、いや攻撃に意味がある相手ならが倒せている。だが、相手は義兄殿、フェニックスだ。故に、どれだけ的確に攻撃してもダメージはない。だが‥‥‥イライラはしているようだ。

 

「クッ!何故だ!」

「先程のお礼にお教えします。ライザー様はドラゴン、龍王タンニーン殿と戦ってきたのでしたね。僕は剣道部の先輩、そしてゲーティア部長と戦ってきました。大きさに差があるんですよ。ライザー様は目をつぶっても当たる程の大きな相手とばかり戦ってきた。確かにそれは力は付きそうですか、その反面、正確性が雑になるんじゃないですか」

「‥‥‥チッ」

「僕が相手にしてきたのは、動きも素早く、簡単には触れる事すらできない相手。‥‥‥だから、僕は貴方に攻撃を当てられ、貴方は僕に攻撃が当てられない。それが理由です」

「‥‥‥なるほど。確かにそうだな。俺自身、強くなることは強い相手を倒すことだと思っていた。強い相手、すなわちドラゴンを倒せるようになれば強くなれると思っていた。だが、確かにお前が言う通りだ。俺はデカイ相手と戦ってきた。だから、お前のように動きの素早い相手とは戦ってこなかった。‥‥‥だが、それがどうした。お前攻撃は俺には効かず、俺の攻撃が当たればお前は一撃だ。どちらが先に限界が来るか、根競べだ。行くぞ!」

「お受けします。ハアッ!」

 

義兄殿は開き直ったようだ。一撃に賭けるようだな。まあ、この場合は正解だろうな。今更、戦い方を急に変えなければならない程、義兄殿が追い込まれているわけではない。フェニックスの再生能力は魔力量に比例するそうだ。だから、その再生能力を上回る攻撃をするか、精神を破壊するかのどちらかしかない。そして義兄殿は精神は折れない。裕斗に再生能力を上回る攻撃は‥‥‥おそらく無理だ。裕斗は何処まで食い下がれるだろうか。

その後、約3分の間、裕斗は一方的に攻撃を当て続け、反対に義兄殿の攻撃は掠りもしなかった。だが、追い込まれているのは裕斗の方だ。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、‥‥‥」

「どうした、息が上がっているぞ」

 

 裕斗の体力が一方的に削られていく。義兄殿の熱は体力を奪い、強烈な一撃は気力を奪っていく。当たること、いや掠ることすら許されない極限状態はあっという間に裕斗を疲弊させていった。

 

「大したものだ。俺が技量で完全に負けている。認めよう、木場裕斗。お前は紛れもなく強者だ。‥‥‥だが、相手が悪かったな。聖水が効きにくい俺でなければ、いや剣が通用する相手であれば確実に勝っていた。俺がお前に勝ったのはただ俺がフェニックスだからだ。生まれによるものだ。故に俺自身がお前に勝ったとは思わない。‥‥‥悔しいが認めざるを得ない」

「ハァ、ハァ、ハァ、‥‥‥そうですか。僕程度でそう言われるとは、存外大したことありませんね」

「ほう、随分と自分を過小評価しているな。俺が認めたんだ。少しは喜べ」

「僕は剣道部序列()()、僕より強い相手なんて、駒王学園には腐るほどいますよ」

「‥‥‥ハハハハハ、そうか、それほどいるか。‥‥‥ならば、俺も全力でその技量に応えよう。俺に出来るのは技量など関係がない一撃、決して避けれない一撃だ。その一撃を持って、お前を倒そう!ハアアアアアアアアッ!!」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥‥

 

 リングが揺れている。義兄殿の魔力が高まり、その衝撃は大地を揺らしている。その魔力は力の高まりと共に、漏れ出した魔力は炎となり、大地を焼いている。

 

「クッ!」

 

 裕斗は魔力を高める義兄殿に近づけない。高めた魔力の圧力、漏れ出す炎の熱は誰一人近寄せない。

 裕斗は義兄殿にデカイ相手としか戦ってこなかったから戦い方が雑だと指摘した。確かにそうなのだろう。その戦い方は雑だと言えるだろう。‥‥‥だがな裕斗、それは違うぞ。

 相手の攻撃を躱して攻撃を当てることが丁寧、だから勝てると言うわけではない。雑が悪く、丁寧が良い訳ではない。義兄殿の雑な戦い方も悪くはない。結局のところ、戦いとは強い者が勝つんだ。

 この場合の強い、とは何を持って決めるか、それは時と場合による。

 ただ、今の戦いにおいて決め手になるのは、絶対的な魔力量だ。

 

「ハァァァァァァァァァァァ!!!!」

「ハァハァハァ‥‥‥クッ!」

「木場さん!こっちへ!!」

「アーシアさん!!うん!!」

 

 裕斗がアーシアの方に駆けていき、

 

「魔剣創造!!」

 

 氷の剣を作りバリケードを作り出した。どうやら、一時的に炎を凌ぐことを選んだようだ。いくら氷の魔剣でも今の義兄殿の炎の前では大して役に立たないだろう。

 

「スキだらけよ。喰らいなさい、ライザー!!」

「雷よ!!」

 

 リアスと朱乃が遠距離から義兄殿に攻撃を仕掛けた。

 すっかり忘れてた。リアスが開始頃から魔力を集中していたな。

 確かにリアスの滅びの魔力は破壊力が高い。その力であれば義兄殿、いやフェニックスに対してダメージを与えることが出来る。‥‥‥力が近ければ、な。

 

「どうして!!」

 

 リアスの魔力弾も朱乃の雷も義兄殿は気にもしていない。ひたすらに魔力を高めていく。

 だろうな、力の差は元から圧倒的だったし、今は魔力を高めている最中だ。

 魔力を集中させることに意識が集中していから、周囲に意識が向けれていない。スキだらけ、確かにそうだ。だが、まともにダメージも与えられない攻撃ではスキを突いたとは言えないな。

 折角の才能が有っても、努力もやる気も根性も時間も掛けなければ、実力は付かない。一か月の一誠にも、一年の裕斗にも、ましてや義兄殿にも届かない。

 だからリアスの攻撃が届かないのも無理ないな。

 

「ハァッ!!」

 

 義兄殿は己が持つ全力の魔力を炎に変換して、一気に放出した。

 その魔力は、炎は、大きな津波となり、リングを飲み込んだ。

 

side 兵藤一誠

 

 ドーーーーーーーン!!!

 ライザー様を中心に魔力を含んだ強烈な炎が、津波のように周囲を襲った。

 なんて力だ!木場が作った氷の魔剣が次々と溶けて、消滅していく。俺一人だったら確実にやられていた。今は木場が耐えてくれているけど‥‥‥持たない。

 そうだ、俺の譲渡なら‥‥‥

 

「ダメだよ。一誠君‥‥‥ここは僕が防ぐから、君は、力を残して」

「だけど!!」

「今の、僕では、もう戦う力が残っていない。いくらアーシアさんの力でも、失った体力までは回復できないからね。今、最後の希望があるとすれば一誠君だけだ。だから、頼んだよ」

「木場!!」

 

 俺は木場の意志も無視して、自分の意志で譲渡しようと駆け寄ろうとすると、アーシアに止められた。

 

「アーシア、なんで!」

「木場さんも覚悟を決めました。折角木場さんが作ってくれたチャンスをフイにするつもりですか!」

「!!!」

 

 木場が必死で魔剣を作り、炎を止めようとしている。だけど、もう無理だ。

 

「大丈夫です!」

 

 だけど、それを止めたのは‥‥‥アーシアだ。

 アーシアは魔力操作で、壁を作り、木場の氷の魔剣と共に並び立った。

 

「私でも、簡単な壁くらいなら作れます」

「アーシアさん‥‥‥君も頑固だね」

「フフフ、そうですね。でも周りのみんなも頑固ですから、自然とこうなってました」

 

 そう言ってアーシアも俺のために壁を作ってくれた。

 皆、俺に期待してくれてるんだな。木場もアーシアも、こんな俺に‥‥‥

 

「なあ、ドライグ」

『なんだ、相棒』

「力の延長は出来ないんだな」

『‥‥‥ああ、残念ながら、な』

「そうか、わかった。なら、力の3つに、20%、30%、50%に分けることは出来るか」

 

 俺はドライグに力の使い方について相談した。

 

『‥‥‥相棒、禁手状態なら、それくらいはできる。だが‥‥‥何をする気だ?』

「最後まで足掻くため、さ。どっちみちこのままだと勝てない。なら少しでも可能性がある方法を取る。いや、俺に出来る全てを賭けるだけだ」

『いいだろう。力のコントロールは俺に任せろ』

 

ドライグの協力は取り付けた。なら、もう一人、大変だろうけど、最後に一つ頼むことにする。

 

「木場!最後に一つ頼みがある」

 

今一番しんどいのは分かっている。だが俺一人だと勝てない。だから最後にもう一押し頼むぞ。木場。

俺は最後の頼みを告げると、木場を笑って答えた。

 

「ああ、任せてくれ」

「木場さん、少しなら私が持たせます。だから準備を」

 

 アーシアも最後まで協力してくれるようみたいだ。一番しんどい、木場をサポートしてくれるようだ。ありがとう、アーシア。最後に一撃決めてやるぜ。

 もうこれで今、俺に出来ることは何もない。ただ目の前の炎が収まるのを待つしか出来ない。

 木場とアーシアが俺のために道を残してくれる。なら俺がするのはただ一つ、二人が作った道を真っ直ぐに進むのみだ。この炎が収まったときこそ、俺の出番だ。

 

side out

 

side ライザー・フェニックス

 

 俺が魔力を一気に解放し、魔力は炎となり、一気に燃え広がり、リング上を焼き尽くした。

 リング上には煙が上がっている。木場裕斗の魔剣が蒸発したときに発生した水蒸気か、氷の魔剣が溶けて水に変化して、水蒸気になったんだろう。

 視界が悪いな、まあいい。これで終わったんだ。

 

「リアス・グレモリー様、及び『クイーン』一名、『ルーク』一名、‥‥‥」

 

 アナウンスが聞こえてくる、リアスはリタイヤか。先程攻撃してきたが、まるで力がなかった。一年前の俺でも大して効かなかっただろう。十日前に会ったときからまるで成長していなかった。俺もおそらく義弟殿に出会わなかったら、ここまで強くなろうとはしなかっただろう。もし今日ここにいるのが一年前の俺だったら、木場にも、兵藤にも‥‥‥決して勝てなかっただろう。それ程に二人は強かった。俺は大きく息を吐いた。だいぶ魔力を消耗したな。まあ、広範囲に広げたことで、余計に魔力を使ってしまった。まあいい。終わりよければなんとやらだ。

 だがこれで俺も次期公爵か、義弟殿に追いつくにはもう少し時間が掛かる。だが、必ずや追いついて見せる。

 

「ハッ!?」

 

グサッ!!

俺は気付いたときには背後から右肩を突き刺されていた。

この剣は木場の剣。何故今ここに‥‥‥

 

「ブーステッド・ギア・ギフト!!」

「何故、まだお前がいる。兵藤一誠!!」

 

 俺の意識は困惑していた。

 何故、何故、何故、何故、何故、何故、兵藤がまだいる?先程の俺の攻撃で倒したのではないのか?俺の頭の中にはそれしか意識が行かなかった。

 

「『ナイト』一名、『ビショップ』一名、リタイヤ」

「!!」

 

 油断した。まさかまだ残っていたとは‥‥‥それに木場の剣が右肩に刺さったままだ。

 俺はその剣を焼き尽くすべく熱を上げようとして‥‥‥出来なかった。

 先程、魔力を使い過ぎて、この程度の剣すら焼けないようだ。

 引き抜こうとしたが、俺の腕が届くのは刃側だ。このまま押せば抜け落ちるだろうが、もう一方の腕も使い物にならなくなるだろう。いまは魔力も少ない、回復するまで消費は避けたい。

 まあいい、この程度の障害、左腕一本で乗り越えるまでだ!

 

「ブルアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 兵藤が突っ込んでくる、俺はそれを躱そうとしたが、右肩の剣のせいで動きが鈍い。いや、()()()。まさか‥‥‥

 

「さっきの譲渡は、この剣の聖水の効力を高めたのか!!」

「ええ、木場の魔剣に残った聖水に力に俺が譲渡したんです。今までとは違って良く効きますか?決め技の直後、油断したところを狙われる。俺達にやったのと同じですね。そしてここからが俺の全力だ!!俺の師の技、受けてください!!」

「ーー!」

 

『Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!‥‥‥』

「行くぜ!!ドライグ!!」

『おう!相棒!!』

 

 兵藤が俺の方に迫ってきた。今更回避は出来ない。ならば受けるしかない。

 俺が両足を踏みしめ、防御の構えを取ると、兵藤は魔力を左腕に集中させている。俺に残りの力、全てを賭けた一撃だろう。ならば受けて立つまでだ!

 

「今死ね!」

「すぐ死ね!!」

「骨まで砕けろ!!!」

「ジェノサイドブレイバーァァァァァァァァ!!!!!」

 

 兵藤の左腕が俺の方に突き出され、魔力が打ち出された。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!」

 

 兵藤の魔力砲は凄まじい威力だ。奴自身の魔力はさして多くない。いや少ないほどだ。だが、それを奴の神器が増幅している。流石は神滅具、赤龍帝の籠手といったところか。

 そして、師の技、といったか。これは義弟殿の技か。‥‥‥ならば耐えねばならないな。この技で倒れる訳にはいかないな。俺はライザー・フェニックスだ。レイヴェルの兄だ。ゲーティア・バルバトスの義兄だ。義弟と妹の前で膝を屈する訳にはいかんのだ!

 

side out

 

「ジェノサイドブレイバーァァァァァァァァ!!!!!」

 

 一誠が私の技を使っている。まさか、あの技を使うとは‥‥‥まあいい。

 私としては技を使われたことよりも、最後に至るまでの試合運びが実に見事だったと思う。

 

「どうして兵藤さんがまだ残っていますの?!」

 

 レイヴェルは困惑している。見れば義父上殿も困惑している。説明しておくか。

 

「一誠が残ったのは木場とアーシアの二人のおかげだ。こちらからの映像では、義兄殿の攻撃で見えなかったが、おそらく裕斗の氷の魔剣で壁を作り、その中でアーシアが魔力操作で壁を更に作った、というところだろう。それで義兄殿の攻撃を二人が凌ぎ、一誠を残したんだろう」

「だ、だが、いくら残ったとしても、ライザーが何故あれほどの状況に追い込まれているんだ?!」

「アレは義兄殿のミスです。それにつけこまれたんです」

「ミス?」

「ああ、レイヴェル。このゲームの一番最初に朱乃が同じことをした。何だったか覚えているか?」

「一番最初?‥‥‥雷の攻撃で視界が悪くなったことでしょうか?」

「その通りだ。義兄殿の広範囲攻撃はミスだった。裕斗に指摘され、裕斗を倒すことに意識が向きすぎて、裕斗に攻撃を当てるために、リング全体に影響を及ぼす炎を捻出した。もし残っていたのが裕斗だけであれば良かった。だが、全員残っていた。裕斗はアーシアと一誠の3人で固まり、防御に務めた。その結果、裕斗とアーシアが命がけで一誠を守った。このゲーム唯一、義兄殿に通用する攻撃が使える者を残す結果になった。そして義兄殿は広範囲に魔力を全力で放出したために、魔力切れに陥った。だから今、追い詰められている」

「そうですか。‥‥‥ゲーティア様、兵藤さんは一体何をしたんですか?」

「まず、あの水蒸気だ。あれは裕斗が最後に氷の魔剣、いやおそらく水の魔剣だ。その水の魔剣と氷の魔剣で水を蒸発させて水蒸気を作り、一誠を隠したんだ。一誠は水蒸気で身を隠し、義兄殿がスキを作るのを待った。そして、気を抜いた瞬間に自身を強化し、裕斗の剣を投げたんだ。そしてその後すぐに再度、強化を開始し、裕斗の剣を譲渡で聖水の効力を強化した。ここまでが一誠が行ったことだ。そして、義兄殿のミスは今も尾を引いている。先程の一撃は魔力を使い過ぎた。おそらく、そのせいで自身の回復力が落ちているんだろう。だから、腕を切り落としてでも、あの剣を抜くべきだがそれが出来ていない。現に今も聖水の効力を強化された剣が刺さったままだから継続的にダメージを受けているし、動きも制限されている。我々悪魔にとって聖水と十字架は種族としての弱点を思っている。義兄殿も聖水が弱点だが、それを炎と再生力でカバーしてきた。だが今、魔力が足りないから、それが出来ない」

「そ、そんな‥‥‥このままではお兄様が‥‥‥」

 

 レイヴェルは不安げにリングに目を向けている。

 私もリングに目を向ける。一誠のジェノサイドブレイバーが義兄殿の防御を打ち破れるだけの力がまだ残っているか、それとも義兄殿の意地が勝利するのか、勝負は最後まで分からなくなった。

 一誠の禁手の鎧が維持できていない。そして、一誠の魔力放出が終わり、その場に膝をついた。

 義兄殿はリタイヤはしていない。どうやら防ぎ切ったようだ。だが、まだ戦う力が残っているのか‥‥‥

 

「‥‥‥凄まじい一撃だったぞ。‥‥‥兵藤一誠」

「‥‥‥これでも、ダメ、ですか‥‥‥」

 

 どちらも限界のようだ。一誠はブーステッド・ギアで強化が出来ない程、弱っている。

 義兄殿は左腕がボロボロだ。ただ、右腕に刺さっていた剣が一誠の攻撃で砕けてしまったようだ。これで義兄殿は継続的なダメージを受けることはない。だが、それが必要ない程、ダメージを受けている。

 どちらも、ボロボロだ。体力的にも、魔力的にも、もう残っていないな。

 だが、最後に力を残していたのは‥‥‥義兄殿の方だ。

 

「‥‥‥兵藤一誠、最後に使った技、アレは‥‥‥義弟殿の技、だな」

「‥‥‥ええ、そうです」

「そうか、最後に選択を間違えたな」

「え!?」

 

 義兄殿は左手に炎を集めている。まだ力が残っているのか。

 

「俺が、義弟殿の技で負ける訳にはいかんのだ。俺はライザー・フェニックス。レイヴェル・フェニックスの兄、いずれはゲーティア・バルバトスの義理の兄になる男だ。俺は兄だ。だからこそ妹や義弟の前で膝を屈する訳にはいかんのだ。兄より優れた弟はいない。これは兄としての俺の意地だ」

「クッ!‥‥‥まだ、それだけの力が残ってましたか」

「ああ、だが、これが本当に最後だ。‥‥‥ライザー・フェニックスの正真正銘、最後の炎だ。行くぞ!!」

 

 義兄殿が放ったの最後の炎は一誠を飲み込んだ。もはや声を上げる事すら出来なかった。

 

『リアス・グレモリー様の「ポーン」一名リタイヤ。以上を持ちまして、ライザー・フェニックス様の勝利といたします』

 

 義兄殿は勝利を勝ち取った。

 




あと、一、二話でフェニックス編を終了します。


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第37話 戦い終えて

遅くなりました。
上手くまとまらなかったので、何度か書き直しました。
よろしくお願いします。


 義兄殿とリアス達の戦いは義兄殿の勝利で幕を閉じた。私は大きく息を吐き、天を仰いだ。

 パァン、パァン、パァン、パァン、パァン、‥‥‥

 突如大きな、銃声のような響く音が聞こえた。その音の方を見てみると‥‥‥

 

「ウオオオォォォォォォッ!!凄かったぞーーーーっっ!!」

 

 サイラオーグだった。物凄いテンションだ。

 見れば周りの貴族たちもサイラオーグ程ではないが、戦いに熱狂し、拍手を送っている。どうやら今回の戦いはこの場の貴族たちに受け入れられたようだ。

 そうだな、私もまずは彼らの健闘を讃えよう。私も立ち上がり拍手を送った。

 パチパチパチパチ‥‥‥

 だが、両隣からは拍手の音がしなかった。おかしいな、隣の義父上殿とレイヴェルなら拍手を送るはずなのに、ましてや義兄殿が勝利したというのに、拍手の音がない。私は訝しんで、両隣を見てみると‥‥‥泣いていた。

 

「お兄様、うっ、うっ、うっ、うっ」

「ライザー~~~~~~~~~~~」

 

 どうやら義兄殿の戦いに感じ入ってしまったようだ。確かに、義兄殿の最後の戦いは胸に来るものがあった。私ですらそうなのだ。家族である、二人にとってはなお一層の感動だったんだろう。このままにしておこう。代わりに私がその分の健闘を讃えよう。

 

 

 

side サイラオーグ・バアル

 俺は戦いの終了の合図と共に思わず立ち上がっていた。そして、力一杯自分の手を叩いていた。貴族として、次期大王家当主として、落ち着いた振る舞いをするべきだとわかっている、だというのに‥‥‥そんなことは出来ない。我ながら、実に汚い拍手だ。とても拍手などと呼べるシロモノではない。だが、止まらなかった。俺の魂が熱く燃えていた。滾っていた。この衝動をぶつけたかった。

 

「ウオオオォォォォォォッ!!凄かったぞーーーーっっ!!」

 

 思わず声を上げていた。俺もあんな戦いがしたい。そんな思いが俺の胸を駆け巡った。こんな戦いを目の前で魅せられて、俺には抑える術がなかった。だから只管に叩き続けた。彼らの健闘を讃えると共に俺のこの衝動が少しでも収まるように叩き続けた。

 周囲の貴族たちもどうやら同じ様だった。熱狂、その一言に尽きた。強大な相手に挑むリアスの眷属のその姿に、倒れても倒れても仲間と共に立ち上がり戦う姿に、皆が手に汗握った。そして、遂に逆転か、と思った。だが、ライザー殿も意地を見せ、最後はライザー殿の勝利となった。勝ったライザー殿も、負けたリアス眷属も、どちらも素晴らしかった。

 当初、俺はどちらも応援する気はなかった。従兄妹とは言え、これだけの騒動を起こしたリアスを身内びいきで応援するほど、俺は貴族の世界を軽んじるつもりはなかった。

 貴族の世界はただ一度の過ちすら、許されない魔窟だ。俺自身も何か失態を演じれば、この地位を追われることは確実だ。だから言動には細心の注意を計るべきだし、そう心掛けてきた。

 だが、俺は気づけばリアス眷属を応援していた。

 下馬評では圧倒的にライザー殿の優位だった。だが、ふたを開けてみれば僅差の勝利だった。この結果はライザー殿の強さに懐疑的になるかもしれない。だが、この場にいる誰もが言うだろう。それでライザー殿の評価が下がる、そんなわけがない、と。あれほどの力は紛れもなく上級悪魔、いや、最上級悪魔にさえ迫る力だった。

 ならば、今回の戦い讃えられるのは誰だろうか。リアスの眷属、『ナイト』の『木場裕斗』、『ビショップ』の『アーシア・アルジェント』、そして『ポーン』の『兵藤一誠』、この三人こそ讃えられ、評価されるべきだろう。その三人が圧倒的な劣勢を覆し、あのライザー殿にあと一歩にまで迫った。残念ながら他の眷属に見るべきところはなく、リアス自身も評価に値しなかったが、あの三人はまず間違いなく、評価されるだろう。だがそれ以上に俺には注目するべきことがある。

 それは、ゲーティアの指導を受けた、ということだ。ゲーティアは試合前に木場裕斗と兵藤一誠の二人を指導していたと言っていた。それに最後に兵藤が使った技、アレはゲーティアが唯一出場したレーティングゲームで使用していた。つまり、兵藤の師とはゲーティアであると言うことだ。ゲーティアは一体どういう指導をしたのか、その指導を出来れば俺も受けてみたい、体験してみたい等、そのような思いが溢れて仕方がなかった。出来ればこの熱が冷める前にゲーティアに色々聞いてみたいところだ。

 私はふとゲーティアの方を見るとフェニックス家の当主と自身の婚約者が泣いている中、立ち上がり拍手を送っていた。よし、後で聞いてみよう。何か俺が強くなるヒントがもらえるかもしれない。俺ももっと強くなりたい。いずれは彼らと戦うだろうし、それに何より、何時かはゲーティアと戦いたい。先程のような素晴らしい試合をしたい、心の底からそう思った。

 

side out

 

 周囲に拍手の音が響いているとグレイフィアさんがアナウンスを行った。

 

「皆さま方、今回の試合の結果、ライザー・フェニックス様とリアス・グレモリー様の婚姻と相成りました。これより2時間の休憩を挟みまして、結婚披露宴を執り行います。今しばらく、お待ちください」

 

 まあ、さっきまで戦っていたんだ。式典の準備も必要になるだろう。これから主役の義兄殿やリアス達の準備も行われるんだろうな。だが二時間か、後で義兄殿にご挨拶に向かうとして、今なら時間があるし、裕斗達を励まして来よう。さっきの戦いの反省もあるが、まずは彼らの健闘を褒めなくてはな。

 

「レイヴェル、私は裕斗達の様子を見てくる。レイヴェルはどうする?」

「ぐす、私は、お兄様の方に行って参りますわ」

「そうか、私も後で義兄殿の下に向かうので、伝えておいてくれ」

「ええ、分かりましたわ」

「義父上殿、私は少し席を外します」

「あ、あ、分かったぞ。婿殿~」

 

 私は涙ぐんでいたレイヴェルと義父上殿に断ってから、席を立った。

 

「楓、行くぞ」

「はい。ゲーティア様」

 

 私は楓を伴って、観客席を後にしようとすると、

 

「バルバトス公爵、お待ちを!」

 

 私が振り返ると、サイラオーグが駆け寄ってきた。

 

「どうなさった。サイラオーグ殿」

「これからどちらに向かわれるんですか?できれば先程の戦いについて意見を交わしたいのですが‥‥‥」

「私はこれから、木場達に会いに行くんですが‥‥‥」

 

 そう言うと、サイラオーグは俺の両肩を掴み、

 

「是非とも、お供させていただきたい!」

 

 サイラオーグが私に頼み込んできた。

 私の両肩が非常に熱い。サイラオーグの手が熱を帯びている。先程の拍手で相当強く手を叩いたんだろう。手が腫れているのかも知れない。それほどまでに力一杯拍手を送ってくれたんだろう。ただの社交辞令であれば、これほどまでに、手が腫れる程に手を叩く必要などない。それほどまでに彼は拍手を送ってくれた、私を師と慕う者達のために拍手を送ってくれた。

 彼は先程の戦いの終了直後に盛大に歓声を上げてくれた。そのおかげで、周りの貴族たちも取り繕うこともなく心情を明かしてくれたと私は思っている。言い方は悪いがサクラになってくれたようなものだ。ならばせめて彼に対する感謝として、それくらいは買って出るべきなんだろうな。

 

「ああ、サイラオーグ殿。共に参りましょう」

「感謝致します。バルバトス公爵」

 

 そう言って、私達は彼らが転移した先、医務室に向かうことにした。

 

 

 医務室に向かう道中、サイラオーグの口が止まらなかった。

 義兄殿の分離について、から始まり、聖水の魔剣や義兄殿の全体攻撃についての是非について、様々な話を交わした。話しているのは8割がサイラオーグ、2割が私だった。概ね聞き役で意見を求められたときに話すようにした。それでもサイラオーグは止まらず、気付けば医務室に着いていた。途中何度か道を間違えそうになるたび、楓に手を引かれて軌道修正して、だが。

 

「ああ、もう着いたか。思いの外、近かったな」

「‥‥‥ああ、そうだな」

 

 同意はしたが、この道中で30分程掛かっていたことを私は知っている。楓が安堵のため息を吐くのを気にしないようにした。

 裕斗達は中にいるようで声が聞こえてきた。どうやら元気なようだな。

 コンコンコン、扉をノックした。

 

「失礼、ゲーティア・バルバトスだが、入っても構わないか?」

 

 すると中から声が聞こえてきた。

 

「ゲ、ゲーティア部長!!」

 

 中から、足音が近づいてきて、扉が開いた。

 

「「申し訳ありませんでした!!」」

「ごめんなさい!」

 

 裕斗と一誠、そしてアーシアが地に頭が付かんばかりに平身低頭の姿勢を取っていた。一体どうしたんだ?

 

「どうした。三人とも、その様に頭を下げて‥‥‥」

「‥‥‥今回の戦いにおいて、僕らはゲーティア部長に指導を賜りながら、勝利を報告出来ませんでした。この度の不始末、何とお詫びすればいいか‥‥‥」

「わ、私も今回の戦いで、ゲーティア先輩には開始同時にリタイヤしろ、と言われていたのに、言いつけを守りませんでした」

「お、俺は無断でゲーティア風紀委員長の技を使ったにもかかわらず、ライザー様に勝利することが出来ませんでした。ゲーティア風紀委員長の技を辱める結果となり、大変申し訳ありませんでした!!」

 

 どうやら三人は今回の戦いの結果が振るわなかったことを私に詫びている。確かに結果は残念だった。私も残念に思った。だが、私は彼らを攻める気持ちなど微塵もなかった。

 

「頭を上げろ、裕斗、一誠、アーシア。」

「で、ですが‥‥‥」

「先程の戦い、全て見ていた。アーシアは精神で義兄殿に負けなかった。裕斗は技量で義兄殿を負けなかった。そして一誠は力で義兄殿に負けなかった。三人は一人一人では確かに義兄殿に勝てなかった。だけど、支え合い仲間としてなら、決して負けなかった。ただ最後に勝てなかったのは意地、ただそれだけだった。義兄殿は妹、レイヴェルのために、意地を見せた。私に、意地を見せた。だから、最後に倒れなかった。今回の戦いは意地の差が勝敗を分けたが、それだけがすべてではない。学ぶべきことも、多くある。反省すべきことも、多くある。だが、今だけは、結果よりも内容にこそ、誇ってもらいたい」

「ゲ、ゲーティア部長」

「裕斗」

「は、はい!」

「一誠」

「はい!!」

「アーシア」

「は、はい」

「よくやった」

「「「は、はい!!」」」

 

 三人は泣き出した。泣く必要など、何もないと言うのに‥‥‥

 だが、すまないがお客を待たせるわけにはいかない。それに、褒めるべきところは褒めるが、これくらいで泣いていては先が思いやられる。

 

「しっかりせい!!」

「「「は、はいーー!!」」」

 

 よし、しっかりしたな。では早速紹介しよう。

 

「三人とも、こちらの方を紹介しよう。こちら、バアル家次期当主、サイラオーグ殿だ」

「サイラオーグ・バアルだ。よろしく、木場裕斗、アーシア・アルジェント、兵藤一誠」

 

 そう言って、サイラオーグは一人一人と握手をしていた。三人ともあまりの圧に、圧倒されていた。 

 

「ど、どうして、僕らの名など‥‥‥」

「何を言う。今日の戦いを見た者は皆、君たちの名前を覚えただろう」

 

 三人ともが信じられない、と言う様な表情でお互い顔を見合わせていた。

 

「そ、そうですか‥‥‥」

「まあ、とりあえず、何時までも入り口にいるのもなんだ。中に入れてもらってもいいか?」

「!!は、はい。どうぞこちらへ」

 

そういえば、入り口で騒いでしまったが、他には誰もいないのか?

 

「裕斗、中にはリアス達は居ないのか?」

「リアス部長は式のために、お母様に連れて行かれました。朱乃さんも同じです。中には僕ら三人以外は‥‥‥」

「‥‥‥先日ぶりです。ゲーティア先輩」

「小猫ちゃんがいます」

 

 



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第38話 先輩の解決方法

いつも多くの感想ありがとうございます。


side 木場裕斗

 ゲーティア部長と楓さん、そしてサイラオーグ・バアル様の三人が医務室に来られて、一時間くらいが経った。

 

「‥‥‥なるほど。普段はゲーティアの通う人間界の学校で鍛錬を積んできたんだな」

「ええ、僕はゲーティア部長が創設された剣道部に入部していて、毎日僕より強い、もしくは対等な相手と戦っています。先日の部内での対抗戦で漸く八人いる先輩の内、一人に勝利することが出来ました」

「なるほど、ライザー殿に言っていた、駒王学園には木場よりも強い相手は腐るほどいる、という発言はそういう意味だったんだな。うむ、是非とも俺も行ってみたい。ゲーティア、駄目だろうか?」

「私に許可を求めないでくれ。バアル家の事情にクビを突っ込むことなど出来る訳がない。君自身でどうにか出来るなら、私に否やはないが‥‥‥」

「そうか‥‥‥残念だが、今は無理か。あーーー、実に残念だ!!」

 

 色々質問されたな。初めは一誠君で、次はアーシアさん、そして最後に僕。順番に今回の戦いについて、アレは良かった。これはもう少しこうすればいいのでは?などの色々な意見とお褒めの言葉を頂いた。そして、今日に至るまでの訓練の内容にまで質問された。変わった方だな、僕はそう思って、サイラオーグ様を見ていた。

 サイラオーグ・バアル、僕はこの方の噂を聞いたことがあった。リアス部長と同世代の悪魔で、ゲーティア部長に次ぐ、世代二位の悪魔である。リアス部長の従兄妹で‥‥‥バアル家の落ちこぼれ。そう言われていることを知っていた。

 バアル家はリアス部長のお母さまのご実家で、家特有の力、滅びの魔力の源流の家だ。だが、サイラオーグ様は滅びの魔力、それどころか、通常の悪魔が持つ魔力そのものを持たない、非常に稀有な悪魔だ。だから、ご嫡男でありながら、次期当主の座を追われたそうだ。だけど、そのバアル家の次期当主の座を自身の肉体で勝ち取った、ということも聞いたことがあった。

 今日会うまではどの様な存在か、まるで知らなかった。だけど初めて会ったときから、嫌みなところなど一切なく、ひたすらに力を求め、高みを目指す、その姿勢に尊敬と共感の念を抱いてしまった。裏表がない真っ直ぐな目をしている方だった。そして、何故か憧れの存在に似ているようにも感じていた。

 

「サイラオーグ、満足したか?」

「うーむ、もう後、四、五時間程、話がしたいんだが‥‥‥」

「‥‥‥結婚披露宴まで、後30分程だ。またの機会にしてやってくれ」

「そうか‥‥‥残念だ。では結婚披露宴が終わった後にでも、ゲーティアも交えて話の続きがしたいが‥‥‥」

「残念だが、私も結婚披露宴の後には自領に戻る必要がある。だからその申し出には応えられない」

「そうか、残念だ。だが何時かは腰を落ち着かせて、話がしたいものだ!」

 

 何と言うか、とても前向きな方だ。大らかという雰囲気で、引くべきところは弁える方だ。

 

「では、俺はこの辺りで失礼するぞ。どうやら話込み過ぎて、あちらを待たせ過ぎたようだ」

 

 サイラオーグ様はそう言って、去っていった。本当に真っ直ぐな方だな。

 あれほどの力を持ちながら、偉ぶらない、驕らない、だけでなく、ひたむきで向上心の塊の様な方だった。いつか、あの方とも戦うことになるのか‥‥‥楽しみだ。

 式が終わったら、一誠君と今日の反省会と共に稽古に励まないと、もっともっと強くならないと、まだまだ先は長いな。

 

「塔城、話とはなんだ?」

 

 サイラオーグ様が来られた時、小猫ちゃんがゲーティア部長に話があると言っていた。サイラオーグ様は先を譲ってくれていたけど、小猫ちゃんが遠慮した。それに僕らにも聞いてほしい、と言っていた。

 だけど、一体なんだろうか?

 

「ゲーティア先輩、ありがとうございます。姉様の秘密を聞き出してくださって‥‥‥」

 

 姉様!確か小猫ちゃんの姉とは、SSランクはぐれ悪魔『黒歌』。確か、数日前にゲーティア部長が撃退したはず‥‥‥

 

「塔城、何か勘違いしているぞ。私は私の職務を全うしただけだ。リアスの代理で駒王町のはぐれ悪魔を撃退しただけだ。塔城からしたら、実の姉の命を狙った男だ。そんな私に礼を言う必要などない」

「ですが、姉様の秘密を聞き出してくれました」

「勝手に話し出したからだ。私は聞き出そう、などとしていない。報告書に戦闘時の情報を事細かに記載するのは当然の事だ。それくらいは私の職務の範疇だ。‥‥‥私は撃退は出来たが、捕獲も、討伐も出来ていない、事実はただそれだけだ。だから礼を言われるのは、むしろ私の無能を晒すようなものだ。取り下げてもらえると助かる」

「‥‥‥分かりました。ではお礼は言いません。‥‥‥実は、皆さんに聞いてもらいたいことがあります」

 

 小猫ちゃんが僕らを見て、そう言ってきた。真剣な表情だ。

 すると、ゲーティア部長と楓さんが席を離れようとしている。二人は聞くべきではないと、判断したようだ。

 

「あの、出来れば聞いてもらえませんか?」

「私はこれ以上、リアスの眷属の事に口出しを出来ない」

 

 先日のギャスパー君の一件があるからか、ゲーティア部長はこれ以上は関わるのは避けたいようだ。

 

「お願いします」

 

 小猫ちゃんは頭を下げて頼み込んだ。ゲーティア部長にどうしても聞いてもらいたいみたいだ。だけど‥‥‥

 

「すまないが、私はこれ以上関われない」

「そう、ですか‥‥‥いえ、ご無理を言ってすいません」

「いや、私はこれ以上、関われない。‥‥‥だから、楓。後は頼む」

「はい、お任せください。ゲーティア様」

 

 楓さんが残ってくれた。少し、変なところがあるけど、その力はゲーティア部長の眷属で最強、らしい。そして、その能力の多様性は‥‥‥どれ程のことが可能なのか、見当がつかない程だ。

 僕と一誠君がゲーティア部長に指導してもらっていた場所を創り出したのも、楓さんだ。

 何度か、黒崎先輩と手合わせしているところを見たけど、その力は‥‥‥よく分からない。消えたり、現れたり、魔法を使ったり、ハリセンで叩かれたり、色々だった。僕も手合わせしてもらったけど、ハリセンならまだましで、ひどいときはデッキブラシだった。ちゃんと未使用だったけど、その剣技?は多彩で流動的だった。一つの技から次の技に連携していき、地面に叩きつけられては拾い上げられて、また落とされる。その繰り返しが続いた。確か、『1000ヒットしたから終わり』、という感じで遊ばれた。

 ‥‥‥あまり思い出したくないことまで思い出したけど、とにかく、色々な力を持っている方だから、相談してみると、アッサリ解決するかも知れない。

 

「塔城小猫さんね。話すのは初めてね。私は秋野楓。ゲーティア・バルバトス様のクイーンをしているの。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします」

 

 楓さんは普段は面倒見のいい先輩という感じなので、小猫ちゃんも特に警戒していなかった。

 でも僕は知っている。この人のこの顔は三つの内の一つでしかないことに。後の二つは‥‥‥口に出すのも憚られる。知らない方が身のためだ。

 

「私が皆さんに聞いてほしいのは‥‥‥私の姉と私の正体についてです。‥‥‥私の姉はSS級はぐれ悪魔『黒歌』です。私と姉は親も亡くし、途方にくれていた時、姉はとある上級悪魔の眷属に誘いを受けました。姉はビショップの駒二つを消費して転生しました。姉は多彩な術を扱うことが出来ました。しかしある日、ある術を使用しすぎて、暴走して‥‥‥主を殺しました。姉様は主を殺した罪でSSランクの「はぐれ悪魔」となりました。私はその姉のせいで処分されそうになりました」

「処分?」

「‥‥‥殺されるところでした」

「!!」

 

 アーシアさんが驚きのあまり、口を覆った。‥‥‥僕も初めて聞いた。

 

「私は、リアス部長の兄、サーゼクス・ルシファー様に保護され、処分を免れました。それから、リアス部長に預けられて‥‥‥『小猫』という名を貰いました。元の名は‥‥‥捨てることになりました」

「‥‥‥」

 

 何も言えなかった。僕もかつては処分されることになって、逃げだして、今に至った。小猫ちゃんまで、そうだったなんて‥‥‥

 

「私はつい最近まで、姉様を恨んでいました。私が処分されそうになったのは姉様が主を殺したからです。姉様が殺さなければ、そう思っていました。‥‥‥昨日までは」

「昨日?」

「はい、ソーナ会長に風紀委員の報告書を見せてもらいました。‥‥‥昨日、ゲーティア先輩がオカルト研究部にやって来た時、主を殺したはぐれ悪魔の話をされていました。覚えていますか?」

「ああ、覚えているよ」

「ゲーティア先輩が話していた内容が、姉様の事だと、何故だかそう思いました。だから追いかけて、聞こうとしましたが、ゲーティア先輩からは聞く勇気がありませんでした。‥‥‥ソーナ会長が助け船を出してくれて、それで、はぐれ悪魔の事を知りました。結果は‥‥‥やっぱり姉様でした。知りたかったのは、生死、だけ、だったと思います。生きているのか、死んだのか、知りたかったんだと思います。私にもあの時、何を知りたかったのか、分かりません。でも‥‥‥生きていて、良かったと思いました。それに、私が知らないことも知ることが出来ました」

「知らないこと、ですか?」

「はい。姉様がどうして、主を殺したのか、私の中の疑問が解けたんです。原因は‥‥‥私だったんです。姉様が使っていた術を、私にも使わせようとして、それを使わせないようにするために、姉様は主を殺したんだと思います。確信があるわけではありません。ただ、優しかった姉様が、力に呑まれて、殺しただなんて、私には‥‥‥信じたくないだけですが。」

「‥‥‥小猫ちゃんに使わせようとした術というのは?」

「『仙術』という術です。私と姉様は猫魈という、猫の妖怪の一種、その生き残りです」

 

 そう答えた小猫ちゃんの頭に猫の耳、そして尻尾が生えていた。

 

「これが、私が聞いてほしかった話です」

 

 僕らは小猫ちゃんの話を聞いて、何も言えなかった。あまり話をしたがる子じゃない。だけど、悪い子ではないのは、付き合いが長い僕にはよくわかる。だけど、気になることが一つある。

 

「小猫ちゃん。どうして今、そんな話をしたんだい?」

「‥‥‥今日の戦い、私には何もできませんでした。昨日、ゲーティア先輩がオカルト研究部に来た時、猫妖怪が気配に愚鈍でどうする、そう言われてから、気配を注意深く探るようにしました。すると、世界が違う、とそう思いました。一誠先輩が私よりもずっと強いと、漸く分かりました。一誠先輩は悪魔になってから日が浅く、廃教会にアーシア先輩を助けに行ったときも、弱かったんで、ずっと弱いと思ってました。それに駒王学園には私よりも強い人が大勢いました。ゲーティア先輩の眷属は言うに及ばず、剣道部もまた、私より圧倒的に強い人が大勢いました。そして今日、ライザー・フェニックス様に相対して、思いました。勝てないな、と。‥‥‥なのに、裕斗さんも、一誠先輩も、アーシア先輩も、戦っていました。私にはできないことを、やっていました。私がリタイアした後、一誠先輩がライザー様をあと一歩まで追い詰めました。先程、サイラオーグ様がお見えになって、三人の名を呼ばれていました。三人は前に進んでいるんだ、と思うと、私も前に進みたい、と思いました。だから、これは決意表明みたいなものです」

 

 そうか‥‥‥小猫ちゃんは過去に向き合い、未来を目指すことを選んだのか。

 僕は‥‥‥どうだろうな。たぶん聖剣を見ると、自分を抑えられないだろうな。僕の仲間を殺した、教会を許すことなんかできない。僕には、恨む理由がある。この復讐は正当な報復だ。でも、ゲーティア部長が知れば‥‥‥僕を止めるのかな。そうなったら僕はこの復讐を止めるのかな。

 僕は揺らいでいる。そんな僕に小猫ちゃんは前に進んでいる、と言った。進んでいる?とんでもない、むしろ今も止まっている。いつか、僕も胸を張って進んだと言えるんだろうか。僕は自問自答していた。

 

「私も聞いてもいいですか?」

「秋野先輩、なんですか?」

「楓でいいですよ。私が聞きたいのは、どうしてゲーティア様に事情を聞いて欲しかったのか、ということです」

「私も強くなりたいんです。だから、ゲーティア先輩の指導を受けたいと思いまして、お願いするために、引き止めました」

「なるほど、強くなりたい、ですか。‥‥‥何故ですか?」

「何故?」

「何故強くなりたいのですか。その理由は何ですか?」

「‥‥‥姉様の口から、真実を聞きたいんです。今の私では姉様から真実を聞くことが出来ません。私が強くなって姉様に対等に向き合わないと、真実を聞けないと思います」

 

 小猫ちゃんは真っ直ぐに楓さんの目を見て答えた。

 

「そうですか。姉の口から聞きたい、それだけが目的ですか?」

「はい」

「答えを知りたい、ではないのですね」

「‥‥‥私には事実なんてどうでもいいんです。私は事実より、姉様の語る真実を知りたいんです」

「‥‥‥私なら、過去に何があったか、知ることが出来ます。ゲーティア様の眷属なら、貴方の姉から、無理矢理真実を吐かせることが出来ます。それでも、自分の力で成し遂げたいですか?」

「はい!」

「‥‥‥そうですか」

 

 楓さんは目をつぶり、何か考えている。そして、考えがまとまったのか、目をゆっくり開いた。

 

「塔城さん。残念ながら、貴方の希望は通りません。貴方はリアスさんの眷属です。これまで、ゲーティア様が裕斗君と一誠君、アーシアさんを鍛えることが出来たのは、裕斗君は剣道部、一誠君は風紀委員、アーシアさんは‥‥‥まあ、旅行の留守番中だったので、その間にちょっと魔力の使い方を教えた程度です。ああ、あとギャスパー君、という子がいましたね。彼は夕飯を一緒に食べる程度でした。

 ただ、アーシアさんとギャスパー君に関しては、これ以上はゲーティア様も手を出すつもりはないでしょう。あくまで主不在の時だったので、教えたり、構ったりしたので、これ以上手を出せば、要らぬ軋轢を生みます。ゲーティア様はリアスさんには、どう思われても構いませんが、グレモリー公爵様、そして魔王サーゼクス様には気を遣われます。ですので、アーシアさんとギャスパー君への接触はこれ以降は控えることになります」

「そ、そんな~~~~」

 

 アーシアさんが酷く落ち込んでいる。確かに、ゲーティア部長の立場を考えると、アーシアさんとギャスパー君にこれ以後に接触するのは、引き抜きだと思われかねない。僕と一誠君は正式に複数の部活、委員会に所属しているから、所属の長であるゲーティア部長に指導を請うのは間違っていない。だけど、それなら風紀委員に所属させてしまえばいいんじゃないだろうか?

 

「あの、楓さん。風紀委員にアーシアさんとギャスパー君を所属させればいいじゃないんですか」

 

 一誠君が楓さんに提案している。だけど、

 

「それも考えました。ただ今回の戦いで名が売れたアーシアさん、強力な神器故に上層部から封印されているギャスパー君、この両名を風紀委員、いえ、ゲーティア様傘下にこのタイミングで置くとなると、他の貴族に知られた場合、もっと厄介なことになります。なので、バルバトス眷属としてはその方法を取っては欲しくないんです」

「いえ、ですが、人間界の駒王学園に探りを入れるでしょうか?」

「はぁ~、貴方が言いますか。裕斗!」

「え?僕ですか?」

 

 楓さんが僕を冷たい目で見ている。まずい、あの目は戦闘モードの目だ。僕は背筋がゾッとした。

 だけど、どうして僕が探りを入れる原因になるんだ?

 

「今回の戦いで、裕斗が駒王学園には強い相手が腐る程いる、なんて宣伝してくれたおかげですよ」

「あ」

「だから、眷属を探しに来るかもしれないんですよ。ただでさえ、明日、いえ、今日から私とゲーティア様が冥界に帰り、不在になります。その間に手を出さないとも限りません。一護、幽助、戸愚呂の三人は残しますが、力ずくではなく、政治的な圧力を掛けて来られたら、三人ではどうしようもありません。

 ゲーティア様自身は剣道部の部員には卒業するまでは人間として過ごしてもらいたいと思っているんです。だと言うのに、ゲーティア様が不在の折に上級悪魔が手を出すかもしれないんです。彼らがそう簡単に膝を屈するとは思いませんが、万一があります。そうなったとき、転生した彼らはまず間違いなく、自分を転生させた主を確実に殺すでしょう。彼らの忠誠はゲーティア様にこそ、捧げられています。違う誰かに従うとは思えません。

 ですが、そうなったら彼らは『はぐれ』認定されます。そうなれば彼らをゲーティア様が討たなければなりません。今の悪魔界のルールではそうなっていますから、それを覆さないといけません。

 確かにゲーティア様は強いです。私達眷属も強いです。ですが、悪魔という種族全てを敵に回しては、勝ちきれません。

 バルバトス家は武門の家柄であり、公爵位を持つ、由緒正しい名門貴族です。ですが、取り潰し間際から漸く上向きに転じたところなんです。貴族というのは、色々なところとつながりを持っています。しかし、今のバルバトス家はフェニックス家としか、つながりがありません。現政権の覚えめでたいとは自負していますが、味方が少ないのが現状です。

 ‥‥‥こういう言い方は、厳しいとわかっています。ですが、あえて言います。ゲーティア様を慕う者に優先順位を付けるべきではありません。ですが、貴方たちはリアスさんの眷属であり、ゲーティア様の眷属ではありません。だから私は、剣道部や風紀委員、文芸部、コンピュータ研究部の部員たちを優先します。ゲーティア様が築いてきた、大切な仲間たちです。そちらを優先します。なので裕斗と一誠君もゲーティア様の御立場が悪くなりそうであれば、最悪自ら退く覚悟もしてください」

 

 楓さんが状況を説明しつつ、アーシアさんとギャスパー君を風紀委員に所属させることを拒否した。そして、僕の不用意な発言が、ゲーティア部長の立場を、そして、剣道部のみんなを危険な目に合わせる、ということを理解させられた。

 

「ですが‥‥‥」

「え?」

「それは先程の戦いの決着がつく前の話です。今はまた状況が変わっています」

「‥‥‥どういう状況なんですか?」

「先程の戦いでグレモリー眷属が負けたため、リアスさんがライザー様と後20分くらいで結婚することになりました。そうすれば、グレモリー家も味方になります。そして、グレモリー家が味方に付けば、魔王サーゼクス様に後ろ盾になって頂くようなものです。そうなれば、魔王様の威光に逆らえるような悪魔はそう多くはありません。よって、ちょっかいを掛けてきた上級悪魔でも、当主以外なら、力尽くで叩きのめせます♪」

 

 楓さんは喜んでいる。僕らからすれば、ちょっと悔しいけど、貴族としては正しい結果、なんだろうな。

 

「いやあ、グレモリー眷属が負けてよかったです、安心しました。実は少し不安だったんですよ。ライザー様が途中で、無意味な全体攻撃をしたので、勝つ気がないんじゃないかと思ったくらいでした。最後に兵藤君が残ったときは焦りましたけど、結果的には問題なしでした。当初の見込み通り、でした」

「‥‥‥楓さんは僕らが勝つとは思っていなかったんですか?」

「はい。全く」

「‥‥‥そ、そうですか」

「「「‥‥‥」」」

 

 全く、期待はされていなかった、か。

 

「実は、貴方たちが勝っていた場合、もっと大変なことになっていたんです。だからこれでいいんです」

「もっと大変な事?」

「私も今日、知ったんですが‥‥‥リアスさんが結婚を拒否した場合、廃嫡、ということになっていたそうです。これはグレモリー眷属が勝利していた場合でも、廃嫡、だったんです」

「!!そんな、じゃあ、最初から勝ってはいけなかった、ということですか」

「そうです。これはグレモリー公爵がお決めになったこと、グレモリー家のお家の都合、ということです。‥‥‥面倒ですよね、悪魔、というより貴族って。もう少し、簡単だったらいいんですが‥‥‥」

「楓先輩、お聞きしたいことがあります」

「なんですか、塔城さん」

「私の指導が出来ないことは分かりました。ですが、私も強くなりたいんです。今回の件で良く分かりました、独力では無理だと。強くなるには、優秀な指導者に学ぶべきだと理解しました。だからこそ、実績のある指導者にご指導を仰ぎたいんです。何卒、お願いします」

 

 小猫ちゃんは楓さんに頭を下げて頼み込んだ。

 僕や一誠君もゲーティア部長に指導されずにこれほどの強さを得られたとは思えない。剣道部も同じだ。

 僕も小猫ちゃんと逆の立場なら、一誠君と小猫ちゃんがゲーティア部長の指導を受けていて、強くなったのに、僕だけ受けれないと言われたら、納得は出来ないだろう。

 

「先程も言いましたが、塔城さんはグレモリー眷属です。そして、ゲーティア様の傘下に入れていませんので指導は出来ません」

「でしたら‥‥‥グレモリー眷属を抜けます」

「そうすれば『はぐれ』ですね。消されて終わりです」

「だったら‥‥‥ゲーティア先輩の眷属にしてください」

「うちはルーク全部埋まってます。それにルークは今の塔城さんより圧倒的に強いです。なので無理です」

「‥‥‥だったら‥‥‥どうすればいいんですか‥‥‥今の私ではこれ以上強くなれないなんて、わかっています。‥‥‥お願いします」

「‥‥‥手がないわけではありません。ですが、それにはここにいる全員の協力が必要ですよ。それでも出来ますか?」

 

 楓さんの言葉に全員が顔を合わせて、頷いた。それを見て小猫ちゃんは楓さんに返事をした。

 

「はい」

「分かりました。では、今の状況を説明しましたが、ゲーティア様の指導を受けるには、バルバトス家とグレモリー家の関係が良好になる必要があります。それは分かりますね」

「はい、分かります」

「では、この両家の関係を良くするにはどうすればいいでしょうか?一誠君、どうすればいいでしょうか?」

「うーん、ゲーティア風紀委員長とリアス部長が仲良くなればいいんですか?」

「いいえ、必要なのは家と家です。ゲーティア様のバルバトス家とグレモリー家が仲良くなればいい、が正しい表現です」

「だとすると、ゲーティア風紀委員長とグレモリー家の誰かが仲良くなればいいですか?」

「‥‥‥実を言うとゲーティア様と仲が悪いグレモリー家の方、というのはリアスさんだけです。他は全員がゲーティア様と関係は良好です。とりわけ、現当主様とグレイフィア様は非常に良好な関係です。そして、今回新しくグレモリー家に加わられるライザー様も同じく良好な関係です。ですので、私としてはリアスさんからゲーティア様と良好な関係の方に窓口が変われば、ゲーティア様が指導しても問題ないと思います」

「なるほど。つまり、リアス部長とライザー様が結婚して、次期当主をリアス部長からライザー様に代わって頂き、更に駒王の管理もライザー様にやってもらう。そうすれば、駒王の管理者であるライザー様からゲーティア部長にグレモリー眷属の指導を斡旋する、ということになるんですね。そうなれば、上同士で話がついているので、問題なし、となるわけですか」

「そうです。リアスさんが裕斗を剣道部に入れた時もそうですが、上同士で話がついていたので、剣道部に入部できたんです。覚えていますね?」

「はい、よく覚えています」

「これが私が考える、塔城さんがゲーティア様から指導を受けても問題ない方法です。如何ですか、皆さん?」

 

 僕は今の関係性が続くのであれば問題ない。一誠君も今まで通りだ。アーシアさんもこれなら今まで通りに色々教えてもらえるだろうし、小猫ちゃんも指導を受けられる。

 

「あの、お聞きしたいことがあるんですけど‥‥‥」

「何ですか、アーシアさん?」

「先程言ってた、協力、というのは、何をすればいいんですか?」

「はい、皆さんの協力というのは‥‥‥祝福をしてください。リアスさんとライザー様の結婚を眷属全員で祝福してあげてください」

「それは祝福しますけど、それだけですか?」

「はい、それだけです。簡単ですよね。一応説明しておくと、グレモリー家に連なる者が今回の結婚に不満を抱いていない、ということを示す必要があります。なぜなら、これはグレモリー家とフェニックス家のつながりとなり、そのつながりはフェニックス家のレイヴェル様と婚約している、ゲーティア様、バルバトス家のつながりになります。そして、グレモリー家は大王家のバアル家とつながりがあります。ゲーティア様が欲していた、家同士のつながりを増やすことになるのです。であれば、ここにいるみんなの協力はゲーティア様の御役に立ちます。そうなれば、見返りがあっても当然ですね」

 

 僕たちグレモリー眷属は顔を見合わせて、頷いた。

 

「分かりました。リアス部長の結婚を心から祝福します」

「俺もです」

「はい、私もです」

「はい」

 

 全員の返事を聞いて、楓さんが頷き、

 

「分かりました。では後は私に任せてください。塔城さんの事も、アーシアさんの事も私がゲーティア様にお願いしておきます。ただ、今日からゲーティア様は領地に戻られますので、一、二週間は人間界に来られません。ですので、それまではお待ちください」

「はい、よろしくお願いします」

「さ、では行きましょう。もう時間が差し迫っています。式の前には眷属全員で『おめでとう』を言いましょう。バルバトス眷属も主の婚約を大変喜びました。グレモリー眷属は婚約ではなく、結婚なんです。だからこそ、大いに祝福しましょう」

「「「「はい」」」」

 

side out

 

 

side 秋野楓

 私はグレモリー眷属を率いて、医務室を出て、リアスさんがいるであろう、控室に向かっている。

 歩きながら私はあることを思い出していた。グレイフィア様から依頼をされていました。依頼内容は『グレモリー眷属をリアスさんの結婚に賛成させること』でした。

 グレイフィア様、いえ、グレモリー家の総意として、この結婚に賛成している、ライザー様を迎え入れることに不満はない、ただ一人を除いては。

 グレモリー家は不安に思っている、万一この場でまた騒ぎを起こそうものなら、例えリアスさんをこの場で廃嫡したとしても、家の信用はガタ落ちだ。折角の決着すら白紙にされては、悪魔でありながら約束を守らない、と言われかねない。

 それを心配して、眷属もこの結婚を望んでいる、という風に説得しておくことにしたようだ。本来であれば、グレイフィア様が説得に動くべき話で、私にその話が来ることはない。

 だけど私がその役を買って出た。元々グレイフィア様とはクイーンの先達として指導を受けていた。謂わば師弟のような関係です。現在の準備に追われた状況では、説得に動けないので、代わりに私が動くことにした。

 ただし、代わりに一つお願いをしておいた。そのお願いが、『駒王学園へグレモリー家、シトリー家、バルバトス家の3家の許可なしに悪魔が来ないようにしてほしい』というお願いだ。魔王様の権力ならそれくらいは問題ないようで、快諾された。ゲーティア様がセラフォルー様からの恩賞を使うことも考えていたけど、折角なので取っておくことにした。

 なので、さっき裕斗に説明したことは当初から懸念されていたことだったから、対応は随分前から考えていた。裕斗を威嚇したのは演技だった。そしてその流れから、全員を説得することを考えていた。その上、塔城さんの話は渡りに船だった。なので、塔城さんの希望を叶えつつ、アーシアさんの希望にも応え、一誠君と裕斗は現状を維持する唯一の方法であるように、仰々しく説明した。

 その結果、全員を上手く説得することが出来た。元々からライザー様を嫌悪しているのはリアスさんだけで、眷属達からすると接点が少なく、判断材料はなかった。なので、利点があることを理解すると、全員がすんなりと頷いた。

 これで、依頼は達成できました。グレイフィア様にもいい報告が出来ます。そして、予てからの懸念事項も解決できますし、いいこと尽くめです。

 

side out

 

 



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