ДаとСпасибоとХорошоとДо свиданияしか話せません。しかも性別も前世と違います。俺はこの先、どうすれば?? (B・R)
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俺=転生ガルパンおじさん系JK

性懲りも無く触りだけ投げておきます。
プラウダ戦記見ながら書いてるので、プラウダ戦記が新刊出るまで更新が途絶えることもあるのでご了承ください。


「⋯⋯」

 

揺れる。お尻が痛い。ああ、それにしても寒い。

文句しか浮かんでこないなあ、全く。

 

「ラウラさんは、寒くねえべが?」

Да(ダー)

 

同じ車両(BT-7)に搭乗する少女からかけられた心配の声に、大丈夫だよ、と答えようとすれば口から出てきたのはロシア語。

ダーはイエスとか、なんか肯定系の意味だから間違いじゃないけど⋯⋯。でも、日本語の質問の返答にダーは、ロシア語は無いだろ。

 

「ラウラさん、日本語の練習は上手く言ってるんだべか?」

 

上手くいくも何も、中身は日本人だから話せない方がおかしいんだけどな。この身体は難儀なものだから⋯⋯。取り敢えず、何か言った方が良いか。

あ、あー⋯⋯出るかなあ。

 

「⋯⋯」

「その様子だと、駄目っぽいなぁ」

 

狭い、日本語でそう言おうとして、俺の口は何も音を発さなかった。口の形も曖昧で伝わるべくもないだろう。拒絶反応ではないが、言葉にしようとすると霧散してしまう。

というより、声帯が日本語に対応していないのだろう、ちくしょう。

 

「まあ、そのうち話せるようになるべ。頑張ってな」

Спасибо(スパシーバ)、ミラーナ」

 

どうにも俺は日本語を話すことが出来ないらしい。中では、こんなにも流暢な日本語を話せているというのに、だ。

とはいえ、原作にはいないキャラクター(・・・・・・・・・・・・・)ではあるが、この世界に生きる少女でもあるミラーナに礼を述べることは出来たので御の字。関係の悪化はどんな世界でもよろしくない。

ちなみに、スパシーバは、ありがとうみたいなそういう意味合いとして使ってる。

 

『私が教えてはいるのですが⋯⋯』

「ノ、ノンナ副隊長!? 聞いていらしたんだべか!?」

『ごめんなさい、無線が繋がっていたもので』

 

無線から聞こえた冷静な雰囲気の声に、ミラーナが驚く。俺も驚いた。まさか無線を切り忘れていたとは。私語ばかりしていると隊長に怒られてしまう。

 

「ノンナ」

『いえ、ラウラ。落ち込む必要はありません。誰にだって得手不得手はあります』

「Да」

 

総合的な年齢で言えば三十歳近く年の離れた女の子に慰められるなんて⋯⋯情けない。

とはいえ、上坂すみれボイスの滑らかな声質で慰められるというのはなかなか。ああ、でも、やたらと俺をぬいぐるみ抱きしようとするのはやめてほしい。精神的にも、CP的にも。

 

『アンタ達! 何を遊んでいるの! 練習試合とはいえ、相手は聖グロリアーナなのよ!』

「ひい! ご、ごめんなさいカチューシャ隊長!」

『ラウラも返事!』

「Да」

 

よく張った金元寿子の声に叱咤されれば、自然と背筋も伸びるというものだ。まあ、口からはロシア語しか出てこないけど。まあ、返事出来るだけましかなぁ。

⋯⋯おっと、そろそろ時間か。

 

「ファイーナ」

「あ、ラウラさん、そろそろ変わる?」

「Да」

 

狭い中、操縦手を担当していた小柄な少女ファイーナは、軽業じみた器用な動きで操縦席から抜け出す。俺はそれに合わせ、無駄のない動き、極力時間をロスしないようにするりと動いて誰もいない操縦席に座るとハンドルを握った。

元々、俺は車長なんて柄じゃない。たまたま、ファイーナと適性が被り、俺が辞退したのだ。BT-7はその狭さの都合上乗員は三人。車長は通信手と兼任、砲手は装填手と兼任する形になる。だが、車長はともかく通信手は俺が極一部のロシア語しか話せない時点で無理だし、装填手は筋肉さえあればできるから良いとしても、砲手には適性がなかった。結果として、ミラーナには負担をかけてしまうが、彼女は通信手兼砲手、俺は車長兼装填手になったのだ。基本イエスマンみたいなもので、しかも、この車の皆は何だかんだで有能だから作戦遂行能力も高いわで、俺が車長でもあまり問題は無かったし。

 

「にしても、私じゃなくって、ラウラさんが操縦手になれば良かったのになぁ」

「⋯⋯」

 

いや、俺自身、少女達の役を自分の都合で奪うだなんて嫌だったしなあ。まあ、結局はカチューシャ隊長に見抜かれて、それでも俺が意固地に車長をやることを貫いた結果の、『作戦によっては運転手になる』という今に至るのだが。

 

『さあ、ラウラ、ノンナ! 任せたわよ!』

 

おっと、ご指名だ。

やるからにはやる、それが転生ガルパンおじさん系JK(・・・・・・・・・・・・・)こと、ラウラさんの信条なのさ。

 

 

この、亰柱峠最速の力、ブリティッシュ共に見せてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

前世の男の俺の事細かな話なんてどうでも良いだろう。

今世での俺の名前はラウラ。ロシア生まれロシア育ちの十八歳、三年程前から日本のプラウダ高校へと留学し、戦車道に打ち込む現役女子高生だ。

 

 

―――そう、プラウダ高校(・・・・・・)である。あの戦車道(・・・)である。

 

 

俺はガルパンが好きな三十手前の社会人であった。

なんで死んだのかは覚えがなかったが、事故か何かだろう。神様にも会っていない。だから、特典なんかももらっていないのだろうことは何となくわかった。特典をもらって云々の転生モノ小説を読んだことはあるが、俺自身がそうなるなんて思いもしなかった。いや、少しなりたいとは思ったけど、別にこれと言った欲しい特典があったわけでもないし⋯⋯。

 

それに、俺には高校生の頃から、徳島の奥地、亰柱峠を駆け抜けたドラテクがあった。転生先が普通の現代なら、俺はこれを生活の種にして生きていく算段を付けていたに違いない。

 

しかし、そんなことは無かった。

 

俺が転生したのは、年がら年中寒いことくらいしか知らないロシア。しかも、性別は女。大いに戸惑ってるし、今も自分の身体を直視しようとすると少しの間固まるくらいだ。身長は140cm弱の小柄ではあるが、脚はスラリと長く全体的にこの身長にしては発育も良いし、顔立ちなんて前世じゃ見た事もない程に整っている。前世男の俺としてははっきり言ってそんなに嬉しくない。

それに、今世の俺はロシア人だ。

生まれた時、周りがやたらと変な言語を話していたのだから、びっくりしたものだ。しかもなんかいろいろと拗れてて複雑な家系で、虐待を受けた幼少期とかいうはっきり言ってガルパン世界には重過ぎる過去を持つ。はっきり言って、人生二周目じゃなければ自殺してたレベルだ。だからかは知らないが、俺の身体は最低限以下のДа(了解)Спасибо(ありがとう)Хорошо(凄い)До свидания(さようなら)しか話せない。しかも、声帯が日本語に対応していない始末。だから日本語だって話せない。後、表情も動かない。

 

 

あれ?軽く詰んでない?

 

 

⋯⋯ま、まあ、ともかくだ。

その後の俺の人生は、怒涛であったと言って過言ではない。中学一年生の時、父親がなんかの病気で死んだ。そして、それを契機にさらに荒れ始めた元軍人であった母、それを見かねた母の同僚の現役女軍人さんに引き取られた俺。

いやあ、大変だった。ロシア語は、まあ、何となく分かる。⋯⋯ような、わからないような。虐待を受けてきた経験からか、悪意のある言葉は分かるのだが普通の会話はてんでダメだった。

そんな意思疎通も一苦労の俺をここまで育ててくれた義母さんには、今でも感謝の念に堪えない。

 

そして、この世界がガールズ&パンツァーであると分からせてくれた、戦車道と巡り合わせてくれたのも、義母さんだ。

将来的に出世して義母さんに恩返しをするために俺が勉強に明け暮れていた時、義母さんが唐突に出した話題。あの時のことは今でも思い出せる。

 

『お前、戦車道、興味あるか?』

 

軽い触り程度だったのだろう。うちでは、絵を使って意思疎通を図るのだが、ホワイトボードに書き込まれたデフォルメされた戦車同士が戦う絵と戦車に乗り込む人の絵を見て、そして何より、戦車についていた旗と撃破された戦車から上がる白旗を見て、俺は理解を示した。

自分の身体にも、自分を平然と女として扱ってくる周りにも慣れておらず、そんな理由を知る由もない周りからは無口で挙動不審気味な不思議ちゃんであった俺が、珍しく身体を固め、何やら反応を示したのだ。義母さんも少しばかり驚いた顔をしていた。

 

そこからはトントン拍子。毎日のように軍の基地か何かに連れて行かれた俺は戦車に触るところから始めさせられ、一ヶ月後には戦車に乗り始めた。義母さんが、軍人でありながらロシア戦車道選手育成の監督役であるということを知ったのもその時だ。

 

そして、その時に出会ったのがBT-7。この快速戦車である。

 

いやあ、天命だと思ったね。正しく。俺の培ってきたドラテクが唸りに唸ったよ。

いきなりBT-7を軍人顔負けで操縦し始めた俺に、周囲がどういうわけか『Хорошо(ハラショー)!』だの『Молодец(読みは知らない)!』だの何やら沸き立った感じで騒ぎ立てていたのは、昔、ドラテクを披露して称えられていた頃に戻ったみたいで正直言って悪くなかった。

それからだろう。俺は戦車を操縦して生きていこうと思ったのだ。例え、この世界がガルパンだとしても、態々原作に関わる必要は無い。関わる気もない。と言うより、俺は原作を変えたくなかった。俺が変に介入して、西住みほ達大洗女子学園の皆が引き裂かれるなんて冗談じゃない。俺は、そんな非情なこと出来ないし、責任なんて取れない。

 

だから、俺はこのドラテクを役立てつつ、義母さんに恩返し出来ればそれで良い。

 

⋯⋯そう思っていたのだが⋯⋯。そう、本当にそう思っていたのだが。

 

 

中学三年生の終わり頃、義母さんは唐突に切り出した。

 

 

 

『プラウダ高校に、留学、しないか?』

 

 

 

はえ?

 

義母さんが取り出したのは赤い校章の学校のパンフレット。そして、ホワイトボードにはロシアの国旗から矢印を引かれた日本の国旗。

なんでも、プラウダ高校の現状を憂う声がどっかで上がったらしく、戦車道も万年二番手で甘んじている現状を義母さん自身も如何なものかと思ったらしい。だから、俺が行ってきてプラウダ高校を革新してこいとかなんとか。

 

 

―――なんで?⋯⋯え、なんで?

 

なんでロシア語も十分に話せない上に、日本語とか全く話せる気がしない俺に革新の使命を背負わせようとするの??

 

だが、表情筋がピクリとも動かない俺にそんなことを伝えられるはずもなく。更には、義母さんの強引さが発動して、俺はとうとうプラウダ高校に送られることとなった。

 

 

 

そして、俺は気が付いたのだ。

 

 

 

―――あ、世代的にちゃんとカチューシャが居るじゃん。ノンナもいるし、こりゃプラウダも安泰。俺も戦車道全国大会優勝経験者ってことで箔が付くな。義母さんへの恩返しもしやすくなる。

素晴らしい。実に僥倖。後はカチューシャとノンナのいちゃいちゃを見て和んで終わり、だな。うむ。

 

 

 

До свидания(ダスヴィダーニャ)

 

 

 

そうして、受験を終えた俺は空港まで見送りに来た義母さんに手を振って、プラウダ高校へと、その学園艦の寄港地である青森へと旅立ったのであった。

 

 




感想、誤字脱字報告お待ちしてます。


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俺=石蹴り飛ばして助けに入る系JK

主人公にДаって言わせると、中のおっさんの頭の軽さも相まって頭悪い子に思えて仕方がない。


「今日から私もプラウダの生徒だべ」

「もちろん戦車道やるよね!」

「うんうん! プラウダって言ったら戦車道!って感じだよね!」

 

浮き足立った様子でこれからの学校生活に思いを馳せるJK達。

その中に混ざるに混ざれず、あまつさえ、どういう訳か一歩引かれた状態から遠巻きに見られる異物こと俺、ラウラ。

 

「あの人⋯⋯」

「⋯⋯ねえ」

「⋯⋯近寄り難い⋯⋯」

 

 

はい、やって参りましたプラウダ高校入学式。

 

 

一昨日くらいに学園艦に着き、いろいろと準備をして臨んだ今日という日。まあ、案の定、入学式特有の友達作りで、本場ロシアからこの学校に来た俺は目立った。そして、浮いた。

何せ、一言も話せない。名前を聞かれたら、辛うじて『⋯⋯ラウラ⋯⋯』みたいな感じで応答は出来る。しかし、それがJKの友達作りとして及第点であるかは別だ。というか駄目だ。

そして、俺は現状孤立してしまっている。

 

いやあ、ミスったなぁ。対策考えとけば良かった。まあ、今更言っても後の祭り。俺、日本語分かるけど話せないし。

 

「新入生代表挨拶。首席入学者カチューシャ! 前へ!」

 

堂々とした態度で壇上へと進み行くその姿は、正しく未来の暴君、地吹雪のカチューシャ。あんだけ人から噂されてるのに、微動だにしないなんて。こ、これが凡人と偉大な人間との差か⋯⋯!?

それにしても、実際に見られるとは感慨深いものがある。

 

あ、でも、お隣で苛立ちオーラを出してるショートヘアーノンナさんはちょっと⋯⋯。そう言えば、まだこの段階だと心酔してないんだよなぁ。

彼女と仲良くなり過ぎず、でも良好な関係を築かなくてはならない。それは、カチューシャも同じだ。俺は、二年生の全国大会という絶対に勝つ、必勝が約束されている戦いに勝って適当にノンカチュでも眺めて高校を卒業出来れば良いのだから。

 

「以上で新入生代表挨拶を終わります」

 

おっと、挨拶が終わったらしい。

さてさて、俺も自分の教室に向かうとしよう。

 

 

 

 

「⋯⋯」

 

案の定クラスでも浮いた俺は、気分転換と称してとある場所を訪れていた。

決して、ハブられた悲しみに負けたわけではない。それでも、無口で無表情ともなれば気味悪がられるものなのだろう。空気が悪くなるのを元社会人の感覚でいち早く察した俺は、すぐさま教室から退避したのである。流石、できる社会人は違うな。戦いはおつむだ。

 

⋯⋯お、いたいた。

 

「そ、そっちがぶつかってきたんでしょ!?」

「はあ? うるさいよチビ!」

 

原作の場面に遭遇。ノンナがカチューシャに興味を抱くシーンだ。

野次馬などでは決してない。俺としても、彼女、カチューシャがどのようにしてあのチンピラJK三人組を退けたのか、事細かに気になったのだ。断じて野次馬ではないぞ。

遠くから観察しているノンナを見て、彼女にバレないような位置から眺めようと移動する。変な正義感で原作介入してノンナが彼女をただのガリ勉だと思ったままになってしまったら、笑い話にもならない。

 

 

それにしても⋯⋯。

 

 

 

「私はそういう連中をこの学校から消し去るために来たのよ」

 

 

 

ああ、確かに惹かれるな。俺が転生者じゃなかったら、ウラーって叫んでたかもしれない。

圧倒的不利な状況でお前らなんか眼中に無いって自信満々に言える精神と、彼女ならって思わせるカリスマ。これは、プラウダ高校戦車道部員が彼女を慕うわけだ。

 

「ぐあっ!?」

 

お、始まった。

JK達が殴り合うなんて、いったい何処の昭和の漫画だって思わなくもないが、レディース的なあれだろう。いや、なんでもない。

取り敢えず、追いかけよう。

 

「うぁっ!? こいつ!」

「当たらないわよ!」

 

うおー、凄い。獅子奮迅。

あんなに体格差があるのに全く苦にしてない。寧ろ、連携の隙とか積極的に狙いに行ってる。え、てか、普通に強くない?単純な身体能力とか戦闘的な強さじゃない、頭の良い強さ、みたいな。まあ、それもそうか。

 

「このぉ!」

「ぐっ! まだまだ!」

「いっ!?」

 

JK三人衆の一撃が入った。それでもカチューシャは怯みすらせずカウンターを決める。

手に汗握る戦いだ。それに、一箇所に固まらずすぐに動く。多分、止まったら囲まれるからだろう。俺も置いてかれないようについて行かないと。

 

 

「⋯⋯っ!?」

 

 

しかし、どうにも変なところで鈍臭いらしい俺は、それなりに大きな石を蹴り飛ばしてしまった。

 

その石は、物の見事に絡んでいるチンピラ三人のリーダーの腰に直撃した。幸い、怪我とかはしていないようだ。怪我人とか出して退学は義母さんに申し訳が立たない。

⋯⋯てか、え?あれ?

 

「いった!? 誰だ、石を当ててきやがったやつは!?」

「あいつだ!」

 

まずいなぁ、目を付けられてしまった。

ああいうのには関わらないのが一番なのに⋯⋯。どうしよう、説明とか出来ないし、出来てもさせてくれるような感じじゃないよなぁ。

俺のバカぁ⋯⋯。マジで、馬鹿。こんなんなら野次馬しなきゃ良かったよ!

 

「⋯⋯」

「てめえ、何とか言いやがれ!」

「あ、あんた、逃げなさい! このっ!」

「ぐぇっ!?」

 

カチューシャに手を引かれて、俺は訳も分からぬままに駆け出した。

彼女達も追ってきている。

 

「もう、本当に何考えてるのよ!」

「⋯⋯」

「う⋯⋯た、助けようとしてくれたんでしょ? あんまり助かってないけど⋯⋯あ、ありがと」

 

いやいやいや、そんな感謝されるようなことは何もしてないんだけど。首を振って否定しようとするも、彼女はどういう風に受け取ったのか、恥ずかしそうにして礼を言ったきり、俺の手を引っ掴んだまま走りっぱなしだ。

 

「いたぞー!」

「ああ、もう! 仕方ないから、さっさと終わらせてあげるわッ!」

 

そこからは凄かった。

正しく、カチューシャ無双。体躯と人数のハンデをものともしない戦いぶりで彼女たちを撃退してしまった。多少、カチューシャ自身もダメージを受けているとはいえ、あちらと比べれば大戦果だろう。何故か原作よりも少ない被害で相手を原作以上にボコボコにしたが、実はカチューシャはあの時もあまり本気を出してなかったのかもしれない。自らもあえてボコボコになることで彼女達の闘志をおらないようにした、とか?⋯⋯そんなことないか。

 

「思ったよりも手こずっちゃったわね。大丈夫? 怪我はない?」

「Спасибо、カチューシャ」

「す、スパ? あ、あんたってもしかして日本語話せない?」

 

頷く。それでカチューシャも理解してくれたらしい。聡明で助かるよ。さっきのスパシーバについても、礼を伝えているくらいは分かってくれたらしいし。

 

「日本語は理解出来る?」

「Да」

「そ、分かったわ。私の方こそ、あんまり助かってないけど、手助けしてくれてありがとうね」

 

いや、本当に申し訳ない。ただの野次馬のはずが、迷惑をかけてしまった。それに、ノンナとの出会いイベントまで潰してしまうとは⋯⋯。

取り敢えず、それでも彼女が怪我をしているのは事実なので、カチューシャを伴って保健室へと向かう。あれ?保健室って何処だっけ?まあ、歩いていればそのうち地図とかあるだろ。

 

「貴方達⋯⋯無事だったの?」

「あら? あなたは?」

 

そして、ショートカットの長身の少女と鉢合わせた。

彼女、ノンナは驚いてこそいたが、俺とカチューシャを見比べて何か納得したような顔をすると、付いてくるように促した。

 

「保健室はこっちよ、付いてきて」

「ありがと。私はカチューシャ、こっちがラウラ。あなたは?」

「カチューシャとラウラね。私はノンナ。よろしく」

 

握手して笑い合う二人を見て、歴史の修正力というものの恐ろしさを思い知った。

多分、俺が活躍してもしなくても歴史は変わらないんだろう。気が楽だ。

 

「それで? どうやって勝ったの? 相手が三人とは言え、ラウラ一人で三人を相手取ったわけじゃないんでしょ?」

「そうね、1796年8月5日⋯⋯とは言っても、ラウラが囮になってくれたからやりやすかったけど」

「なるほどね⋯⋯って、え? ラウラが囮になったの?」

 

なんでか知らないけど、俺が狙われたのはそれだったのか。いやまあ、立ち回りが下手すぎて、逆に囮っぽく見えたのかな?い、いや、仕方ないだろ。前世でも喧嘩とは無縁だったんだから!

疑念を孕んだ眼で問い掛けてくるノンナに首肯する。すると、彼女は驚きに目を丸くした後、鋭い眼でカチューシャを見つめた。

 

「ま、カチューシャ様にかかればそんなものね」

「Хорошо、カチューシャ」

「ふふん、もっと褒め讃えなさい!」

 

ぱちぱち。拍手するとカチューシャは得意げに胸を逸らした。⋯⋯少しの差だが、そんなカチューシャよりも俺の方が胸があるってどういう⋯⋯男としては嬉しくない。

ノンナに手当てを受けるカチューシャを見ながら、俺は自分の看護スキルの無さに涙した。単純に、中身いい歳こいたおっさんが幼女体系の少女の手当てなんていう烏滸がましいことをするのは気が引けたとも言う。自然体でカチューシャの手当てを始めるノンナと、それを受けるカチューシャの姿からは未来の完璧な主従の姿を思い起こさせた。

 

「そう」

「あなたにも借りが出来たわね」

「こんなの借りでもなんでもないわ」

 

ああ、この後はプラウダ戦記のあれか。

さてと、邪魔者は退散しようかな。俺なんか居ても邪魔なだけだろうし。

 

 

 

 

 

そして翌日、俺達は、否、戦車道新入部員達は驚愕の渦に晒されていた。

 

 

「は、話が違うじゃん!?」

「ガチの全力で来てるよ!?」

 

 

錚々たる戦車群だ。性能的には、新入部員とセンパイの車輌はほとんど同じ戦力とはいえ、練度がまるで違う。カチューシャがダメ出ししていたが、それでも紛いなりにも、全国大会二位の実力はある。

絶望的だなぁ。

 

「ラウラ、余裕そうね」

「⋯⋯」

「ノンナもあんまり悲観的にならない方が良いわ」

「でも、この戦力差よ? 私達のような烏合の衆じゃ、勝ち目なんて万に一つも⋯⋯」

 

そう言って自嘲げに笑うノンナの肩に手を置く。そして、カチューシャを指し示した。これで、カチューシャに頼れば何とかなるって伝わるだろ。

 

「⋯⋯!」

「そう、私達には出来ることがあるわ。その出来ることさえやり遂げれば、先輩達に勝つことだって不可能じゃない」

 

さすカチュ。もう、徹頭徹尾負けることなんて微塵も考えてない。

いやぁ、やるしかないよなぁ。これで簡単に脱落したら、俺見放されちゃうかもしれないし。

 

⋯⋯よし、全力で運転するか。俺が活躍しなくてもどうせ勝てるとかは無しだ。こういう時に誠意を見せないと、どこでしっぺ返しが来るか分かったもんじゃない。

 

「他の奴らに出来なくても、私達でやるのよ、ノンナ、ラウラ」

「Да」

「⋯⋯分かったわ」

 

頷いて、早速俺は同じ戦車に乗る搭乗員を集めることにした。




カチューシャ「あんな戦力差がある中、私を助けようとするなんて見所あるじゃない」
ノンナ「カチューシャに心酔してる? なんで? いや、その理由はこの目で確かめる」
主人公「Да(取り敢えず、カチューシャとノンナの栄光に隠れるいぶし銀の操縦手を目指そう)」


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