けものフレンズ2after☆かばんRestart (土玉満)
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本編
第1話 『ともえ』


登場人物紹介

名前:かばんさん

けものフレンズにおいて主人公を務め、けものフレンズ2では成長した姿で登場したヒトのフレンズ。
黒いジャケットを身にまとい、研究仲間のアフリカオオコノハズクの博士とワシミミズクの助手とサンドスターやセルリウム、ビーストなどについて研究していた。
本作ではその後、活動を続ける海底火山に対処する為活動しているようだが、果たして…。


暗い廃墟の中から響くガチャガチャと何かを弄る音。そこはかつてキュルルが眠っていた謎の施設だった。

(場面を背景にスタッフロールが現れては消えていく)

左腕につけたボスウォッチが懐中電灯のように光っている中、何かの作業をしているのはかばんさんである。

 

「ラッキーさん、これでどうかな?」

「使えるパーツ、沢山アッタネ。コレナラいけるカモ。」

「まだ奥の方に使えそうな部品が残ってそうだから少し見てみようか。」

「沢山アッタ方がイイカラネ。」

 

腕につけたボスウォッチから発せられる機械音声と会話しながらかばんさんは暗い廃墟を単身奥へと歩みを進める。

やがて何かの大きな機械の前にたどり着く。

 

「大きいね。これは何かな?」

「データベースには該当ナイネ。」

 

機械の手がかりを求めて光をあちこち照らしてみるかばんさん。

やがて何か文字のようなものが描かれた場所を見つけるも、かすれていてよく読めない。

手書きで書いたらしい文字はかろうじて読める部分が残っていて、そこには『to Moe』と書かれていた。

 

「と・もえ?」

 

それをかばんさんが読み上げた瞬間に機械がビー!と音を立てて稼働する。

 

『パスコード、オンセイ、ニュウリョクカクニン。ニュウリョクシャ、ザンテイパークガイド〝カバン”。カクセイプロセス、カイシ』(この機械音声はラッキーさんとは別な声でお願いします)

 

大きく飛び退って身構えるかばんさん。緊張が走る。

そして機械がブシュー!と音を立てて開くと、キラキラと光るサンドスターの輝きが漏れてきてその中には一人の女の子がスヤスヤと寝息を立てながら眠っていた。

慎重に近づくかばんさん。どんな危険があるかわからない。何が起きても驚くまい、と心の準備をして慎重に女の子に近づいていく。

すると、女の子の口から…

「むにゃむにゃ……もう食べられないよぉー…」

という寝言が聞こえてきて緊張が抜けて脱力しちゃうかばんさん。

 

そこにボスウォッチが

「かばん。この子モ、ヒトダヨ。」

と語り掛ける。

少しの驚きの表情を浮かべるかばんさん。それもそのはず、このジャパリパークはヒトが去って久しく今は動物達が変化したアニマルガール、フレンズ達が暮らす土地となっていたからだ。

かばん自身も自分以外のヒトと出会うのはこれが二度目の経験だ。

 

「ねえ、キミ、起きられる?」

 

そっと女の子の肩をゆすると、女の子の目がゆっくりと開いて…パチリ、と目が覚めた様子。

んーっ!と大きく伸びをする女の子。

やがて女の子はその様子を見守るかばんさんの存在に気が付く。

 

「あっ、ご、ごめんなさい。人がいるだなんて気づかなくて…おはようございます。」

ときちんと挨拶する。

 

「ううん、こちらこそ急に起こしてごめんね。私の名前はかばん。キミの名前を聞いてもいいかな?」

自身の胸に手をあてて、極力ゆっくりと語り掛けるかばんさん。きちんと膝を折って女の子に視線をあわせて優しく微笑みかける。

 

「名前…えーっと…あれ?あれれ?どうしよう!?アタシ何も思い出せないよ!?」

と、女の子は慌てはじめる。

「大丈夫だよ。落ち着いてね。平気だからね。」

女の子の反応を待ってからゆっくりと語り掛けるかばんさん。

その様子に女の子も段々と落ち着きを取り戻していく。

 

「うん。ええっと、お姉さんはかばんお姉さんって言うんだっけ?かばんってコレの事?」と自分の後ろにあった肩掛けカバンを差し出してみる。

「うん、そうだよ。ほら、私のは背中のかばん。この名前はね。私の大切な友達がつけてくれた名前なんだ。」

「へえー。ステキな名前だね。」

「うん、ありがとう。」

そして二人は微笑みあう。

 

「ねえ?キミのかばんの中には何か入ってるのかな?キミが誰なのかわかる手がかりがあるかもしれないよ?」とたずねるかばんさん。

「あ、ちょっと待ってね。えーっとこれって…フレンズ図鑑…?」

女の子が自身の肩掛け鞄から中身を取り出すとそこにはリングファイル式の古ぼけた図鑑が一冊と筆記用具が入っていた。

「ねえ、その図鑑に書いてあるのキミの名前じゃないかな?」

とカメラがそこに移って表紙の下の方に『と   もえ』と掠れた文字が書かれた部分を映し出す。

 

「ともえちゃん、でいいのかな。」

「うん…。そう…なのかなあ?」

「キミの入っていたこのカプセルみたいなのの外にも、『ともえ』って読める文字が書かれてたから多分そうだと思うよ。」

「そっか。かばんお姉さんが言うんだしそうだよね。」

うん、と頷く女の子。

「じゃあ、アタシはともえ。かばんお姉さんあらためてはじめまして。」

「はい、はじめまして。ともえちゃんの名前もステキだよ。」

「うん!ありがとう!」

そして二人はお互いにふふ、と笑みを漏らす。

 

「じゃあ、一緒に外へ行こうか。ともえちゃん、歩ける?」

「うん、大丈夫!」

「暗いから足元に気を付けてね。」

 

そして二人は手を繋いで外へと向かう。

「この先はちょっと眩しいと思うから気をつけてね?」

と前置きしてから扉を開けるかばんさん。

外の眩しい光が溢れだしてきてホワイトアウト。

それに目が慣れるかのように像を結ぶ大自然の風景。

 

それに合わせて、けものフレンズRのロゴがドーン!

 

カメラはかばんさんとともえちゃんに戻って、かばんさんが言う

「ようこそ、ジャパリパークへ」

 

 

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場面がかわって、パンのロバ屋さんへ。

「なにこれすごくおいひい!」

目に☆を宿らせながらジャパリフードをもしゃもしゃするともえちゃん。

「お口にあったようで何よりです。」

と微笑むのはパンのロバ屋でジャパリまんやジャパリパンなどのジャパリフードを配っているフレンズのロバだ。

 

「実は前は食べ物といったらジャパリまんが殆どだったんですけど、かばんさんが色々作ってくれてボス達が届けてくれるようになって、フレンズ達にも大人気なんですよー」

「もぐもぐゴクン。ふぇえ…やっぱりかばんお姉さんってスゴイんだねー。」

「あはは。私だけが凄いわけじゃないよ。これを作る時も色んなフレンズさん達が協力してくれたんだ。それにラッキーさん達がいなかったらみんなの分も作れなかったろうし。」

とは言いつつも、ともえちゃんが美味しそうに食べる様子をかばんさんは嬉しそうに眺めている。

 

「ところでロバさん。最近この辺りのセルリアンはどう?」

「うーん、相変わらず『イシナシ』の弱めのヤツが多いですけど数は増えてるって聞きますね。」

「そっか…。やっぱり例のセルリウムの影響が内陸部にも少しずつ現れてるのかな…。」

と考えこむかばんさん。

「サーバルちゃんやカラカルちゃんが旅に出たけどセルリアンハンターさん達が見回りに来てくれるんで食べられる子はいないですね。」

「それならまずはいいんだけど、ロバさんも気を付けてね。」

「はい。これでも身体が頑丈なのが取り得ですから。」

 

と言ってる後ろからともえちゃんが目を☆にして両手をわきわきしながら迫ってきてる。

「ところでロバちゃん!撫でさせてもらってもいい!?」

「はい、別にかまわなふわぁあああ!?」

許可が出るか出ないかといったあたりでロバをモフるともえちゃん。思わずロバの口から変な声が漏れる。

 

「お、おおー…これがロバちゃんのモフりごこち…。案外固いけどしっとりとして…」

とモフモフを堪能するともえちゃん。

「あんまりフレンズさん達が嫌がる事はしちゃダメだよ?」

とかばんさんが軽く窘めてみるが

「別にイヤというわけではないのですが何だかくすぐったくてぇ!?」

相変わらずモフられるロバ。そんなともえちゃんとロバの様子に問題はないかと思ったかばんさんは一人思案に暮れる。

 

「ねえ、ラッキーさん。ともえちゃんが安全に暮らせそうな場所ってこの辺りにあるかな?」

と自身の腕に着けたボスウォッチにたずねると

「ケンサクチュウ、ケンサクチュウ」

と明滅した後に

「居住区ハどうカナ?」

と提案してくる。

「居住区か…。うん、取り敢えず暮らす場所にはいいかも。じゃあ、ともえちゃんを居住区に送るから戻るの遅れるって手紙を博士達に送っておかないとね。」

と近くにいた青いラッキービーストにささっと手紙を書いて渡すかばんさん。

手紙を受け取った青いラッキービーストが早速ピョインピョインと跳ねながら手紙を運ぼうとしたところを、ひょい、とともえちゃんが持ち上げちゃう。

 

「ほうほう、これがラッキーちゃんかあ。見た目よりも固い?」

と早速そのラッキービーストをモフってるともえちゃん。

「アワワワワワ。」

そのラッキービーストはされるがままだ。

「ともえちゃん。ラッキーさんのお仕事邪魔しちゃダメだよ。」

「はぁーい。ごめんね?ラッキーちゃん」

そっとモフってたラッキービーストを地面に降ろして解放するともえちゃん。

(一方解放されたロバは後ろの方で上気した顔ではふーってなってるところを小さく描写しといて下さい)

 

「じゃあ、私たちは行くね。ごちそうさま。セルリアンには気をつけてね。」

「またね、ロバちゃん!ごはんありがとー!」

ハッと我に返ったロバが

「あ、はい。かばんさんもともえちゃんもまた来て下さいね。」

とほっぺ染まったままお見送りしてくれてシーン終了。

 

 

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場面はかわってどこかの森の中。かばんさんとともえちゃんの二人は手近な倒木に腰かけている。

「今日はここまでかな。ともえちゃんも沢山歩いて疲れたんじゃない?」

「全然へいきだよ!」

むんっと元気のポーズなともえちゃん。

「あはは、でも夜の移動は危ないからね。今日はここで…」

「キャンプだね!?」

勢いこんで言うともえちゃんの目が☆マークになっている。

 

そして二人はテキパキと野営準備を進める。

二人分の寝床を枯れ草を使ってササっと作り上げる。

意外にもともえちゃんは淀みなく作業を進めてくれて思っていた以上に早く作業が進む。

 

「あとは火かなー?」

ふんふんふーん、と鼻歌まじりのともえちゃん。

枯れ草を寄り合わせて作った紐に弓型にしなった枝をとりつけて…

「すぅー……うおりゃあああああああああああ!」

一度大きく息を吸うともえちゃん。そのまま気合を入れて弓切り式着火をはじめる。

その様子にかばんさんも目を丸くしてる。

やがて火種が出来て、火おこしに成功するとドヤ顔のともえちゃん。

 

「すごいね。こうやって火おこし出来るなんて初めてみたよ。」

「へへー。これはダラダラやらずに一気にやっちゃうのがコツなんだよー?」

「もしかしたら、ともえちゃんはそういうのが得意なのかもしれないね。」

すっかりドヤ顔で得意満面のともえちゃんにかばんさんは微笑みながらも、胸中で「不思議な子だなあ…」と呟くのであった。

 

 

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そしてすっかり日も暮れて夜。二人は焚き火を囲んで談笑する。

「そういえば、かばんお姉さんはアタシのいた場所で何してたの?もしかしてアタシを探しに来てくれたとか?」

「あ、ごめんね?そういうわけじゃないんだ。実はね…」

 

(ここで場面転換して、背景がセピア調の回想シーンへ。)

 

回想シーンはけものフレンズ2のかばんさんラストシーンから開始される。

強がって博士助手に背中を向けたかばんさん。

しばらくの後、振り返る。

 

「それより、博士と助手にはまた手伝って欲しい事があるんだ。」

その顔は何かが吹っ切れたよう。

(博士と助手が一度顔を見合わせてから嬉しそうに笑うところを描写してください。)

 

「まだ色々終わってないからね。海底火山は活動を続けてるしセルリウムだって吹き出し続けてるかもしれない。私たちが何とかしないとね」

博士と助手は顔を見合わせてそれから

「やはりかばんはそういう顔してた方がかばんらしいのです。」

「前のかばんも好きだけど今のかばんも好きなのです。」

と笑みを見せる。

 

「で、キュルル達にはこのことは伝えなくてもいいのですか?」

「うん。せっかくの新しい門出に水を差す事もないよ。それにこれは私たちの仕事だからね。」

「確かに、他のフレンズ達はポンコツばかりで任せられそうにないのです。」

うん、と頷きあう三人。その表情にはそれぞれに決意が見られる。

かばんさん、博士、助手の三人は手を重ね合って

「我々は?」

とかばんさんが尋ねると

「「「かしこいのでー!」」」

と三人の声がそろって三つの拳が空に突き上げられる。

 

 

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「ってわけで、あそこには使えそうな機械の部品を探しにきてたんだ。」

「ふぅん…。ねえ、かばんお姉さん、アタシにも何か手伝える事ってない?」

「うん、それは嬉しいな。」

とニコリと笑うかばんさんであったが、直後、ハッと何かに気づいたように遠くの闇を睨みつけるように視線を走らせる。

 

「かばんお姉さん…?」

とともえちゃんが不安そうに尋ねると同時…。

「危険。危険。かばん。ともえ。セルリアンが、近くニいるヨ。」

とボスウォッチが警告の声を発する。

 

「火に引き寄せられたかな?」

落ち着いて自分の着ていたジャケットを脱いでともえちゃんに頭から被せるかばんさん。

そのまま手近な茂みへ連れていくと茂みの中へ隠す。

(ここでセルリアン戦BGMがかかる感じでお願いします。)

 

「いい?ともえちゃん。ここに隠れて動いちゃダメだよ。」

「かばんお姉さんは?」

その言葉に焚き火から一本松明を取り出して、焚き火を足で砂かけて消した後にかばんさんは答える。

「大丈夫。任せて。」

 

と言ったところでどかーん!と木々を吹き飛ばしながら中型セルリアンが現れる。

 

「大きいね。『石持ち』かな?」

「タブンネ」

 

冷静に現れた中型セルリアンを観察するかばんさん。

松明を振りながら走りともえちゃんから引き離していく。

途中繰り出される攻撃を飛び退ったり転がったりしてかわしながら距離をとっていく。

 

十分引き離したところで、松明を地面に放って囮にしつつキノヴォリで樹上に身を隠すかばんさん。

しばらくの間セルリアンは辺りを見まわしているけれど、ふと何かに気づいたようにともえちゃんの隠れた茂みに視線を向ける。

 

「なんで…。気づくはずないのに…。」

ゆっくりと…だけど確実にともえちゃんの方に真っ直ぐ近づいていくセルリアン。

「そうじゃない!ともえちゃんを守らないと…!」

鞄の中からロープを取り出して枝の間をジャンプで渡るかばんさん。

(ジャンプ時の掛け声は「みゃ!」でお願いします)

セルリアンの進路上直下の枝にロープを結んで再び少し後戻り。

 

「よし。『石』の場所はバッチリ。ラッキーさん。これでいけるかな?」

「イケる。ケド、オススメしないヨ。怪我シチャウ。」

「でもともえちゃんを見捨てられないでしょ?」

「ウン。だから。しくじらナイデ。」

「わかってるよ。」

 

セルリアンがちょうどロープを結んだ真下に来た時に

「うー、みゃみゃみゃみゃー!!」

かばんさんが振り子の要領のターザンロープで勢いをつけてセルリアンに突撃!

コアの『石』に全体重と重力加速を乗せた飛び蹴りをぶちかます!

 

―パッカーン!

 

『石』にヒビが入って、直後かばんさんの飛び蹴りを受けたセルリアンはサンドスターへと還る。

 

地面をごろごろと転がって着地の勢いを落とすかばんさん。

 

「かばんお姉ちゃん大丈夫!?」

慌てて茂みから飛び出すともえちゃん。

「あはは、平気平気。少し無茶しちゃったかな?あたたた…」

と飛び蹴りぶちかました右足を抑えるかばんさん。

そこに…

 

―ガサリ

 

と音がして茂みをかき分けるようにして現れるのは…

「二体目はまずいなあ……」

「アワワワワワ。」

かばんさんの頬を一筋の汗が伝う。その視線の先には二体目の中型セルリアンが姿をあらわしていた…。

痛む右足を引きずりそれでも立ち上がって背中にともえちゃんを庇うかばんさん。

 

「ともえちゃん、逃げて!早く!」

「でもかばんお姉ちゃんが…!?」

 

二体目のセルリアンが二人に向けて脚を振り上げて…………

 

パッカァアアアアアアアアン!

 

と何者かがセルリアンを砕いた。

へ?と呆けた顔で夜の闇に舞うサンドスターの輝きを見やるかばんさんとともえちゃん。

 

ザッ、と着地する一人のフレンズ。

銀色の毛並みに左右で色の違う瞳が闇の中で輝く。

そのフレンズの名はイエイヌちゃん。

ゆっくりと立ち上がったイエイヌちゃんの視線がともえちゃんの視線とあったところで…

 

けものフレンズRのオープニングテーマが流れてスタッフロールが開始される!

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 第1話『ともえ』

―おしまい―




次回予告

夜の闇の中、セルリアンに襲われたかばんさんとともえちゃんを助けたのはイエイヌちゃんであった。
二人は怪我したかばんさんを治療する為にイエイヌの暮らす居住区へと向かうのだった。
次回、けものフレンズ2after☆かばんRestart第2話『イエイヌ』
お楽しみに!




妄想ネタ元紹介
以下の動画などから着想や妄想を広げさせていただきました。

けものフレンズRオープニングテーマ
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34990561

セルリアン戦BGM
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34896967


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第2話『イエイヌ』

登場人物紹介


名前:ともえ

かつてキュルルの眠っていた施設のさらに奥で眠っていた謎の少女。
翠がかった髪にヒスイ色の爪、左右の瞳の瞳孔にそれぞれ違う色の輝きを宿している。
フレンズをモフるのが大好きでスキンシップ過剰な元気印の女の子だ。
通称祝詞兄貴によって発案されたキャラクターである。
http://seiga.nicovideo.jp/seiga/im9099194



アバンは前回二体目の中型セルリアンに追い詰められ大ピンチのかばんさん&ともえちゃんの場面からスタート。

二人に迫る中型セルリアン。

ともえちゃんを背中に庇うかばんさんに向けて大きく脚を振り上げるが…

 

パッカーン!

 

とイエイヌちゃんが割り込み中型セルリアンを一撃で倒してしまう。

中型セルリアンが還ったサンドスターの輝きを背景にイエイヌちゃんがゆっくりと立ち上がりカメラの方へ向き直る。

暗闇の中で左右で色の違うオッドアイが輝いて見える。

(カメラはサンドスターの輝きをバックにしたイエイヌちゃんの顔のアップになって、強キャラ感を演出しちゃって下さい。)

「こんばんわ。わたし、イエイヌです。」

と自己紹介したところでけものフレンズRオープニングテーマ開始。

 

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「ともえちゃん、大丈夫。フレンズさんだよ。」

とかばんさんが振り返るが…。

点線演出でこつぜん、と消えてるともえちゃん。

 

「おおお…このモフみ…。これはいいものだ…!」

「あーっ!?ダメです!?そんなしたらー!?あーっ!?」

再び振り返りなおったかばんさんの目には完璧なモフモフをキメられるイエイヌちゃんの姿がー!

強キャラ感演出終了のお報せである。

 

で、デフォルメ三頭身キャラでともえちゃんが正座させられかばんさんにコラってされてる演出が入って場面が戻る。

 

「えっと、この子はともえちゃん。で、こちらはイエイヌさんね。」

「あ、はじめまして。さっきは急にごめんなさい。あと助けてくれてありがとう。」

とペコリするともえちゃん。

「いえいえ、別にイヤというわけではなくむしろよかったのですが急だったのでビックリしてしまって…」

イエイヌも慌てて両手をぶんぶんして迷惑ではなかった事を伝える。

「という事は急じゃなかったら撫でてもいい!?」

とともえちゃんの目に再び☆マークが宿り。

「はい、少しくらいなら大丈夫ですよ。」

「やったー!」

イエイヌちゃんが言うが早いか再びモフモフ堪能しはじめるともえちゃん。今度は大人しく蕩けてるイエイヌちゃん。

その尻尾が嬉しそうにぶんぶんと揺れている。

その姿にこちらも満足そうに目を細めるかばんさん。

 

「ところで、イエイヌさんはどうしてここに?」

「何だか懐かしいような匂いがした気がして周りの見回りをしてたらお二人がセルリアンに襲われてるのを見かけて。」

「おかげで助かったよ。ありがとう。ともえちゃんもヒトだから、もしかしたらそれで懐かしい感じがしたのかな。」

その言葉にイエイヌはあらためて鼻を鳴らしてクンクン、とともえの匂いを確かめる。

「落ち着くいい匂いだしなんだか懐かしい気持ちにはなるのですが…、この匂いってヒトとほんの少し違うような…。どちらかといえば、かばんさんに近いような…?」

解せぬ、といった様子で何度も小首を傾げるイエイヌちゃん。

「どっちにせよイエイヌちゃんのおかげで助かったよおー!ほんとありがとうねえー!」

イエイヌちゃんに抱き着いたままのともえちゃん。お礼とばかりにイエイヌちゃんをわしゃわしゃと撫でまわす。

「もう、くすぐったいですよ、ともえさん。」

言葉とは裏腹にお礼言われてわしゃられて満足気なイエイヌちゃん。尻尾がぶんぶんと揺れている。

その様子にかばんさんは思いついた事を切り出す。

「イエイヌさん、実はね。ともえちゃんはまだ住む場所も決まってないし昔の事を覚えていないみたいなんだ。良かったらとりあえずイエイヌさんのおうちにお邪魔させてもらえないかな。」

「それは構いませんが…。かばんさんはどうするんですか?」

「私は研究もあるし、ここで一度お別れかなー。」

 

と言うと、ともえちゃんとイエイヌちゃん、二人の動きばピタリ、と止まる。

続けて二人揃って明らかに怒った表情に変わっていく。

 

「あ、あれ?何で二人とも怒ってるの?」

とタジタジのかばんさん。

「ここでお別れってそんなことできるわけないでしょー!その足!怪我してるでしょー!」

とともえちゃんが両手ぶんぶんしながらぷんすか。

「そうですよ、わたしも遠くからですけど見えてましたよ!ヒトは私たちより身体が頑丈じゃないんですから無茶しすぎですよ!」

とイエイヌちゃんも一緒に両手ぶんぶんしながらぷんすか。

思わぬ反応にかばんさんは

「ら、ラッキーさあん」

と助けを求めるけれど

「モット、言ってヤッテ」

って四面楚歌のかばんさん。

 

「まずはかばんお姉ちゃんの手当するからイエイヌちゃんも手伝って。」

「ラジャーです!ともえさん、何したらいいですか!」

と敬礼状態のイエイヌちゃん。

「じゃあ、このくらいの丈夫そうな木の枝を5~6本くらい集めてくれる?」

「わかりました、任せて下さい。」

ともえちゃんはそのままかばんさんのレギンスを膝くらいまでまくりあげて傷の具合を確かめる。

「うわわ…やっぱり腫れちゃってる。膝と足首かなー。」

言いつつ細目のツルを寄り合わせた紐を何本か手早くつくりあげるともえちゃん。

そこに早速イエイヌちゃんも戻ってくる。

「ともえさん、こんな枝で大丈夫ですか?」

「おおー、バッチリだよイエイヌちゃん!ありがとねっ。」

ともえちゃんはご褒美とばかりにイエイヌちゃんの頭を撫でて、再び尻尾がぶんぶんと揺れる。

で、作った紐を使って膝と足首を添え木でガッチリ固定。

「かなり動きづらいけど、大分痛くないよ。」

とかばんさんも二人に笑顔を向ける。

ともえちゃんとイエイヌちゃんの二人は顔を見合わせると、んふー、とドヤ顔をかばんさんに見せる。

そんな二人にかばんさんは手を伸ばして頭を撫でてあげるのだった。

 

そこでアイキャッチ。かばんさんを背負うイエイヌちゃんに後ろからかばんさんを支えてサポートするともえちゃんって感じの一枚絵で移動描写を挟んでイエイヌちゃんちに到着。

 

 

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「ほへー。イエイヌちゃんちって可愛いねー。」

「ありがとうございます。お二人ともゆっくりしてくださいね。」

いったん、イエイヌちゃんがカメラアウトしてかばんさんとともえちゃんの二人に。

イエイヌちゃんのおうちのリビング。備え付けられている椅子とテーブルに座るともえちゃんとかばんさん。

 

「かばんお姉ちゃん、足は痛くない?」

「うん、まだ少し痛むけどかなりいいよ。ともえちゃんとイエイヌさんのおかげだね。ありがとう」

「こちらこそ守ってくれてありがとう、かばんお姉ちゃんカッコよかったよ。」

で、二人でえへへーって微笑みあってるとこに

「お二人とも。お湯に葉っぱ入れたヤツを用意してみたんですが飲みますか?」

ってティーセットを持ったイエイヌちゃんが戻ってくる。

「イエイヌさんはお茶を淹れる事も出来るの?」

「はい、いつかヒトが戻ってきたらおもてなししてあげたくて頑張って覚えたんです。」

二人の前に置いたティーカップにお茶を注ぐイエイヌちゃん。

早速二人ともそれを一口。

「うわぁ、美味しいよ、イエイヌちゃんっ」

「うん、とっても落ち着く。イエイヌさんはお茶を淹れるのすっごい上手だね」

手放しの褒め言葉にイエイヌちゃんは持っていたトレイで思わず顔を隠して真っ赤になってしまう。

それでも尻尾がぶんぶんと激しく揺れているのを見て、かばんさんとともえちゃんは二人で微笑みあう。

 

「そういえば、かばんさんとともえさんはあんなとこで何してたんですか?」

「それはね…」

かいつまんで、けものフレンズ2期本編で海底火山から噴き出したセルリウムが原因で起こった事や海底火山の活動がまだ治まっていない可能性がある事。

それを何とかする為に今は活動している事。

その活動の途中でともえちゃんを見つけてどこか安全なところに預けようとしていたところだった事を説明するかばんさん。

 

「そうだったんですか…。だったらわたしも何かお手伝い…あ…でもここも守らないと…」

イエイヌちゃんは一瞬喜色に顔を輝かせるもすぐにお耳をへにゃーっとさせてしまう。

「だったらさ、ここでかばんお姉ちゃんをお手伝いしたらどうかな?アタシもかばんお姉ちゃんの手伝いしたいし!」

「あ、そうですね!いいですね!」

ともえちゃんの提案に意気消沈したイエイヌちゃんの尻尾が再びぶんぶん、と揺れる。

そんな二人の様子を見ながらかばんさんは軽く考え込むようにして…。

「そうか…。ここは研究所よりも海に近いから機械を組み上げる拠点にするにはいいかも…。」

「はい。使っていない建物もありますからそちらを使えば色々置けると思いますよ」

と、イエイヌちゃんが頷いてみせる。

 

「じゃあ、お世話になろうかな。よろしくね、イエイヌさん」

「はい!こちらこそ!」

「あ、アタシもお手伝い頑張るからね!」

「うん、二人ともありがとう。」

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

そして長い夜が明けて場面転換。

 

「おっはよー!」

とともえちゃんが元気に起き出してくる。

「おはようございます。朝ごはんのジャパリまんとお湯に葉っぱ入れたヤツ準備しますね。」

「あれ?かばんお姉ちゃんは?」

イエイヌちゃんがテーブルにお茶とジャパリまんを用意しているが、まだかばんさんの姿はそこにはなかった。

「かばんさんは昨日の夜遅くまでお手紙書いたり、何か…ええとキカイ?っていうのを弄ったりして忙しそうでしたからまだ眠ってるかもしれません。」

 

そうしていると

 

「ふわぁああ…ふたりともおはや…Zzz…」

起き出してはきたものの髪も寝ぐせだらけで服もズレたりしたダラシない状態のかばんさん。しかも半分眠ってる状態。

そんなダラシない状態のかばんさんを二人は残念なものを見る目で見やる。

 

「かばんお姉ちゃんって時々残念になるんだね…。」

「ヒトはわたし達と一緒で昼行性のはず…なんですけどね…。」

「モット、言ってヤッテ。」

 

気を取り直した二人。

「もー、かばんお姉ちゃんはしょうがないなー」

とか言いつつも服を直してあげて髪の毛とかしてお世話してくれるともえちゃん。言葉とは裏腹にその表情は少し嬉しそうに見える。

「ほう…この癖っ毛も案外モフり心地は悪くないかも…?」

かばんさんの髪の毛をとかした後にてぐしでついでにモフモフしてみるともえちゃん。(こっそりイエイヌちゃんが羨ましそうに見てるとなおよし!)

 

「目が覚めましたか?かばんさん。お湯に葉っぱ入れたヤツとジャパリまんがあるので朝ごはんどうぞ。」

イエイヌちゃんがかばんさんの前にもジャパリまんとお茶を準備する。

「ありがとー…あっ、これいいかも。目が覚めるね。」

「ほんとイエイヌちゃんって何でも出来るね。しかも可愛くてモフり心地も最高だし!」

「もう…!二人ともそんな褒めても何も出ませんよお!」

と言いつつもイエイヌちゃんの尻尾はぶんぶんと嬉しそうに揺れるのだ。

 

「そういえばかばんお姉ちゃん、足は平気なの?」

「今朝はもう痛みもないよ。」

「あ。ほんとだ。腫れも引いてる。」

「怪我の治りは早い方なんだ。」

とすっかり足の怪我も元通りになった様子を確認するともえちゃん。

 

「怪我もよくなったなら、昨日言ってたカイテイカザン?っていうのなんとかしないとですね。」

「そうだ!かばんお姉ちゃん、アタシ達なにしたらいいの?」

「えっとね、もうしばらくしたらバスで荷物を運んでくるから到着したらそれを運ぶのを手伝って欲しいな。」

「「ラジャー!」」

とともえちゃんとイエイヌちゃんが揃って敬礼。

 

「あっ…あのですね」

とイエイヌちゃんがモジモジしはじめて、二人は?マークを浮かべる。

「それまで時間があったら…その…これで遊んでくれませんか?」

とフリスビーを取り出しモジモジ。

 

ともえちゃんとかばんさんは一度顔を見合わせてから

「もちろん!」

「いいよ」

って返事すると顔をパッと輝かせるイエイヌちゃん。

 

おうちの前でかばんさんがフリスビーを投げてともえちゃんとイエイヌちゃんがそれを追っかけてる一枚絵を止めて引きながらEDイントロが開始。

歌い出しと同時にEDへと移行して2話終了。

 

 

Cパートで3頭身デフォルメ絵でともえちゃんがフリスビーをお口キャッチしてどや顔。

かばんさんが

「さすがにそれはお転婆がすぎるんじゃないかなー…」

っておっきな漫画汗出してるけど、ともえちゃんは構わずどや顔してるとこを映して今度こそ2話終了。

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 第2話『イエイヌ』

―おしまい―




次回予告

イエイヌちゃんの暮らす家で一緒に生活する事になったともえちゃんとかばんさん。
海底火山に対処する為の活動を再開するかばんさんとそれを手伝う二人であったが、そこに訪ねてくるお客さんが…?
次回、けものフレンズ2after☆かばんRestart 第3話『3人のお客様』
お楽しみに!


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第3話『3人のお客さん』

けものフレンズ2after☆かばんRestart 第3話『3人のお客さん』

登場人物紹介


名前:イエイヌ

イエイヌのフレンズ。左右で色の違うオッドアイに銀髪が特徴。
ヒトのいなくなったパークでヒトの帰りを待っておうちを守り続けていた。
特技はお茶を淹れる事と家事全般。
特にヒトと心を通わせるのが得意なフレンズでもある。



アバン。

ジャパリバスが到着したイエイヌちゃんのおうち。

ジャパリバスは別な青いラッキービーストが運転してきた模様。

 

「あ、これは落とさないように注意して運んでね。」

「はーい、任せて!イエイヌちゃん、そっち持ってー。」

「わかりました!」

 

早速バスに積まれた何かの機械の部品と思しきものを倉庫に運び込むともえちゃんとイエイヌちゃん。

しばらく作業するかばんさんとともえちゃんとイエイヌちゃんの三人。

 

「かばんお姉ちゃんー、運び終わったよー。」

と、ともえちゃんとイエイヌちゃんがかばんさんに駆け寄る。

「うん、二人ともありがとう。ラッキーさんもね。」

かばんさんがお礼を言うとバスを運転してきた青いラッキービーストはバスを置いたままピョインピョインと跳ねて行ってしまう。

 

「でも残念だなー。コノハちゃん博士とミミちゃん助手も来るんだと思ってた。」

 ともえちゃんは手をわきわきさせながら言う。

「あの…。ともえさん。あまり急にフレンズに抱き着くのは…。気性の荒い子だと噛みつかれたりするかもしれませんので…。」

「大丈夫!アタシ、昼行性だから!」

「いや、大丈夫の根拠になってないような気がします…。」

  親指立てて目をキラキラさせるともえちゃんにイエイヌちゃんは控えめに嘆息するのだった。

そんな二人を見ながらかばんさんは小さく笑いを漏らす。

 

 そうしていると…。

「あっ、イエイヌさんっ」

 って声が居住区の入り口の方から聞こえる。

イエイヌちゃんがそちらを振り返ると三人の人影が見える。

「アタシはともえ。あなた達はだぁれ?」

 ってともえちゃんがその三人に聞くと

「ボクはキュルル」

「サーバルだよっ」

「で、私はカラカル」

 と自己紹介したところでOPテーマ開始。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「あーっ!キュルルさんっ!お久しぶりですっ。遊びにきてくれたんですか?」

イエイヌちゃんが尻尾ぶんぶんしてキュルル達に駆け寄る。

「イエイヌ、アンタも元気そうでよかったわ。」

とカラカルがお姉さんぶってイエイヌに顔を近づける。腰に手をあてて言葉通りに嬉しそうな笑顔を見せる。

「イエイヌが気になるから様子を見にいこうってキュルルちゃんが。ねっ」

今度はサーバルちゃんがキュルルとカラカルを交互に見ながら同意を求めてみせる。

「そうね、キュルルのヤツが言うから仕方なくよ、仕方なく。」

「えー。カラカルもずっと気にしてたじゃない。イエイヌは大丈夫かなーって。」

「そ、そんな事ないわよ!もう!」

 とカラカルが赤くなってそっぽ向くところに

「ボクもイエイヌさんの事は気にしてたんだ。あの時のお礼もちゃんと言えなかったし、助けてくれてありがとう。」

 キュルルがイエイヌちゃんに頭を下げる。

 

「そんな、いいんですよ!わたしだってキュルルさんを無理に連れてきちゃったみたいでごめんなさい。」

「そんな事ないよ!イエイヌさんが謝る事なんて…」

 と不毛なあやまり合戦になりそうなところに…

「それはそれとして!」

 シュバっとともえちゃんが二人の間に割って入る。

一体何を言うのだろう、とキュルルもイエイヌちゃんも少しの緊張をもって次の言葉を待つ。

「サーバルちゃん、カラカルちゃん!撫でさせてもらってもいい!?」

 とキラキラした目をサーバルちゃんとカラカルへ向ける。

「あんた何いって…」

「いいよー!」

「サーバルぅ!?」

 怪訝な顔のまま断ろうとしたカラカルの言葉を遮ってサーバルちゃんがあっさりとそう言ってしまう。

「やったー!」

 許可が出るが早いか早速サーバルちゃんをモフり倒すともえちゃん。

「ほうほう…。イエイヌちゃんよりもややモフんって感じは少ないけど柔らかさはこちらが上?猫科だからかな…?」

「わぁー!?くすぐったいよぉー!」

 とされるがままにモフられまくるサーバルちゃん。

「次はカラカルちゃんの番だねー。」

 目を☆マークに光らせて手をわきわきさせながらカラカルに迫るともえちゃん。

「ちょっとー!私はいいなんて言ってないわよー!」

「サーバルちゃんがいいっていってくれたもーん!」

 

 脱兎の勢いで逃げ出すカラカルを追いかけて走りだすともえちゃん。

 

「すみません…。ああなったともえさんはわたしには止められません。」

「カラカルも本気でイヤがってるわけじゃなさそうだから大丈夫だよ…。うん、多分…。」

 その追いかけっこを眺めるキュルルとイエイヌちゃん。その目はどこか諦観を秘めていた。

そんなどったんばったん大騒ぎしてるとこにかばんさんもやって来る。

 

「こんにちはキュルルちゃん。」

「あっ、かばんさん。そっか、イエイヌさんはかばんさんと一緒だったんだ。じゃあ安心だ。」

 とキュルルはホッとした様子を見せる。

「あ、かばんちゃんっ。また会えたねっ。」

「うん、そうだね。」

 そこにサーバルちゃんもやってきてお互いに微笑んで挨拶を交わす。

遠くの方ではとうとうともえちゃんに捕まったカラカルがモフり倒されていた。

「狩りごっこならわたしもー!」

 挨拶もそこそこに、という様子でサーバルちゃんもともえちゃんとカラカル達の方に乱入してあっちはどったんばったん大騒ぎが続いてる。

(少しの間後ろを向いてギュっと胸のあたりの服を握りしめるかばんさんを描写しておいてください。)

 

「キュルルちゃん達も相変わらず楽しそうで何よりだよ。」

 とキュルルに振り返り直りながらかばんさんが言う。それにキュルルも笑みを見せながら

「うんっ。まだまだ見た事ない物とか会った事ないフレンズさんに会えたり毎日楽しいんだ。」

 と楽しそうな様子を見せて続ける。ふと気づいたように思い付きを続けるキュルル。

「ねえ、かばんさん。まだボク達が見た事ない場所ってどこかないかなあ?」

「そうだなー…。うーん…」

 かばんさんはキュルルの問いに少しの間考える素振りを見せる。と、何かを思いついたように指を一本立てるけれど、一度言葉を引っ込めたようにほんの少しの間が空く。

そうしてから…。

「ゆきやまちほーって行った事ある?」

 とキュルルに問いかける。

(少し後ろの方でカラカルが訝しげに?マークを出してるとこを描写しておいてください。)

 

「ないけど、どんなところ?」

「そうだね。温泉っていうあったかい水が溜まってる池があってね。そこにはキツネの仲間のフレンズさん達が暮らしてて、他にも寒い場所が好きなフレンズさんがいるんだよ。」

「わぁー!行ってみたい!」

「でも、サーバルちゃんとカラカルさんは寒いのが苦手だからちゃんと準備してから行った方がいいよ。そうだ、さっき荷物を運んだ時にいいものを見つけたんだ。」

 とかばんさんが言ったところで場面転換。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「えーっと、これとこれがあったらいいかなー?あとコレ、っと」

 かばんさんが薄暗い倉庫らしき場所でガサゴソと何かを探している。そして次々と服のようなものを保管箱から取り出す。

そこへ入り口に腕組みして背中を預けたカラカルが登場。

 

「ねえ、かばん。あんたさっき何か言いかけたでしょ。」

「あはは…やっぱりカラカルさんは皆の事よく見てるんだね。」

 しばし苦笑したかばんさんは少し間をおいてからポツリ、とこぼす。

 

「……実はね、最初は他の場所をオススメしようかと思ったんだ。」

「ならなんでゆきやまちほーにしたの?」

 

 やはり一瞬だけ答えを迷ってからかばんさんは答える。

 

「海の反対側だから、だよ」

「それって…!」

「そういうこと、だよ」

 

  一瞬気色ばむカラカルにかばんさんは一指し指を口元にあてて内緒ね、のポーズをしてみせる。

セルリウムは海底火山から発生している。その影響は徐々に内陸部にも広がりつつあるのだがそこから反対側に遠ざけるという事は…。

 

「なんでキュルル達に言わないのよ。」

 

 カラカルの声にはほんの少しの怒りが滲んでいる。海底火山のセルリウムとそこから発生したフレンズ型セルリアンの事件はまだまだ記憶に新しいし、原因の一端はキュルルにあるとも言えるのだ。

それはもうカラカルにとっては他人事ではない。

 

「キュルルちゃん達には楽しくパークを冒険して欲しいんだ。ほんとはカラカルさんにも内緒にしておきたかったんだけどね。」

 

 なんとも申し訳なさそうな表情でかばんさんはカラカルに返す。

 

「きっと海底火山の事を知っちゃったらキュルルちゃんは絶対に気に病むでしょ?だから。ね?」

 そう言われてしまえばカラカルには返す言葉はなかった。

 

「これでも大人だもの。海底火山の事は任せておいてよ。」

 と続けるかばんさんに

「私たちだってアンタの事を手伝えるわよ。」

 カラカルは再びかばんさんに喰ってかかる。

「うん、ありがとう。でもね、ゆきやまちほーに行ってもらうのがお手伝いになるんだ。」

 その言葉にカラカルは動きを止めて怪訝な表情を見せる。

「どういうこと?」

「みんなから回収した絵って今はキュルルちゃんが持ってるんでしょ?」

 というかばんさんの確認にカラカルは頷いてみせる。

「ゆきやまちほーには今のところ海底火山のセルリウムは影響ないからね。そこで絵を守ってもらうのがお手伝いになるんだ。」

 

 しばらくかばんさんをじーっと見つめるカラカル。

やがて、ハァ、とため息を一つつく。

 

「わかったわよ。キュルル達には内緒にしておいてあげる。っていうかそうしないと素直にゆきやまちほーには行かなそうだもんね。二人とも。」

 と困ったような笑顔を見せるカラカルにかばんさんも苦笑で応じる。

「ありがとう。なんだか苦労をかけちゃうみたいでごめんね。」

「いいわよ、あの二人に苦労かけさせられるのは今に始まった事じゃないわ。」

 カラカルとかばんさんは顔を見合わせてふふ、と忍び笑いを漏らす。

 

「ところでカラカルさん…。もう一つお手伝いお願いしていい?」

「なによ。」

 再び真剣な表情になるかばんさんにカラカルも気を引き締める。

「荷物、案外多くなっちゃって。運ぶの手伝ってくれる?」

 かばんさんの指さした先には大量の服が山のようになっていた。

「いや…。あの…、サーバルちゃん、じゃなかった…。皆に似合うかなって思って選んでたら色々と…。ね…?」

 どっさり、って書き文字がありそうな荷物を指さしながら漫画汗たらすかばんさん。

カラカルはそんなかばんさんを心底残念そうな表情で見るのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 場面はかわってお庭に戻る。

そこでは…サーバルちゃんとともえちゃんが交錯していた!

 ずしゃしゃー!と土ケムリあげながらスピード落として今度は横向きにダッシュするサーバルちゃん&ともえちゃん。

数回お互いの位置を入れ替えるように飛び掛かりあうが、すんでのところでお互いを捕まえる事は出来ないでいる。

 数度の交錯を経て、お互いに腰を落として油断なく身構えて睨みあう二人。

 

「ともえちゃん、狩りごっこすっごい上手だね!ハァハァしてないし急に方向かえられたりすっごいよ!」

「サーバルちゃんこそスピードすごいしジャンプ力もあるし追いつくだけでも大変だよっ!」

 

 瞬発力、スピード、俊敏さでは圧倒的にサーバルちゃんが上ではあるが、ともえちゃんも小回りの良さを活かして互角の狩りごっこを繰り広げていた。

お互いにニヤリとした笑みを見せてライバルオーラを醸し出す二人。

 

「でもね、ともえちゃんの狩りごっこには弱点があるよ!」

「な、なんだってー!?」

 ビシィ!とともえちゃんを指さすサーバルちゃん。その言葉にともえちゃんも驚愕の表情を見せる。

「それはね!」

 言葉と共にともえちゃんに飛び掛かるサーバルちゃん。大ジャンプからの飛びつきは確かに速く確かに高かった。

だけどかわせない程じゃない。

 しっかりと引き付けて体を捻って飛びつきを受け流し、そのままいなして逆にサーバルちゃんを捕まえてモフモフの体勢に入るともえちゃん!

 

「かかったね!いまだよ!イエイヌ!」

「え?」

 

 と狩りごっこをキュルルと一緒に見守っていたイエイヌちゃんに声をかけるサーバルちゃん。

だが声をかけらた方のイエイヌちゃんは目を白黒させて当惑を浮かべるばかりだ。

 

「あー。なるほどね。一人をギューってしてる間って隙だらけだもんね。そこをイエイヌさんに飛び掛かられたら対処できないって考えかな。」

 とキュルルがサーバルちゃんの作戦を解説してくれる。

「でも、サーバルちゃん。イエイヌちゃんと作戦会議とかしてないよね?」

「え…?」

 ともえちゃんの疑問にサーバルちゃんもしばらく考え込むようにして…。

「しまったあああああああああ!?!?」

 とようやくイエイヌちゃんには全く作戦が伝わってなかった事に気が付いてしまう。

 

「しょうがないなあ。ねえ。イエイヌさん、お願いできないかな?」

 キュルルが苦笑しながらイエイヌに両手を合わせて見せる。しばらくの間、ともえちゃんとキュルルの間を交互に見やるイエイヌちゃん。

「ふっふっふ、アタシはいいよおー。イエイヌちゃん、カモン!」

 ともえちゃんは不敵な笑みを見せている。既にサーバルちゃんを小脇に抱えるようにしてモフってるともえちゃんの動きは大きく制限されている。

この状態でどうやってイエイヌちゃんの相手までするというのか…。

 

「じゃ、じゃあ!ともえさん、ごめんなさい!」

 やはり戸惑いはあるものの、それでもともえちゃんに飛び掛かるイエイヌちゃん。

「飛んで火にいる夏のモフだよっ!」

 抱えているサーバルちゃんを中心にくるり、と身体を入れ替えるようにして飛びつきをかわしてそのまま背後をとるともえちゃん。

ガシリ、と空いてる方の手でイエイヌちゃんを捕まえるとそのまま二人まとめてモフモフの体勢に決めてしまう!

 

「言葉の意味はよくわからなかったけど凄いや。ともえちゃんがサーバルに勝っちゃったよ!」

 おー、と感嘆の声をあげながら小さく拍手を送る観戦者のキュルル。

「モフる為ならどこまでも強くなる。それがアタシだよ。」

 右側にサーバルちゃん。左側にイエイヌちゃんの両手にモフのモフモフハーレムを堪能しつつ返すともえちゃん。物凄いドヤ顔である。

 

「ったく、アンタたち何やってんのよ」

 そこにジト目のカラカルが荷物を抱えて戻ってくる。その後ろには笑いを堪えているのか肩をプルプル震わせたかばんさんが続いている。

「ともえちゃんと狩りごっこしてたの!すっごい楽しかった!」

「イエイヌまで巻き込んでんじゃないわよ。まったく。ほら、アンタ達も荷物運ぶの手伝いなさい。」

「そうだね、それじゃあ皆、ゆきやまちほーに行く準備しておこうか。」

 

 とかばんさんが言ったところで場面転換。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

おうちの中へと移動した一同。

中では防寒着のファッションショーが開催されていた。

 

「なによこれ、なんかすっごい暑いわよ。」

 とカラカルはホットパンツに黒タイツ。ダウンベストに耳を覆うふかふかイヤーマフ。

「これってなになに?にあう?にあう?」

 ってかばんさんに見せてるサーバルちゃん。こっちは黄色のダウンベストにデニール度高めのベージュタイツ。

スカートはそのままに同じく大きなお耳を覆えるイヤーマフ。(かばんさんがサーバルちゃんのお披露目で少しだけデレるとなおよし!)

「ボクはこんな感じでいいよね…。」

 とキュルルは水色のダウンコートにニット帽。中性的な感じなんで二人よりも露出度は低い。

「いやいやいや、せっかくなんだからこっちのスカートとかどう!?あ、こっちのベストもいいんじゃないかなあ。あ。頭にリボンとかつけても可愛いんじゃない!?」

「ボクには似合わないからね!?」

 キュルルに色んな服を押し付けてみてるともえちゃん。目を☆マークにしている。

「おおおお!?こっちには水着まであるじゃない!キュルルちゃん着てみる!?」

「ゆきやまちほーに水着ではいかないよ!?」

 と何やらどったんばったん大騒ぎになっている模様。

 

「うん、三人ともすっごい似合ってるよ。」

 パチパチ、と小さく手を叩いてるかばんさん。対してカラカルはちょっと不満気な様子だ。

「こんなに暑くて動きづらいものを着てないといけないわけ?」

「うん、その方がいいよ。カラカルちゃんもサーバルちゃんもあったかい場所に住むフレンズだから寒い場所では動けなくなっちゃうかも。」

 フレンズ図鑑をペラペラとめくりながら言うともえちゃん。

「もちろん、普段はいつもの格好でいいんだけど、ゆきやまちほーに入ったらこれを着てね。」

 と、かばんさんが補足してくれる。

 

「ともえさん、それってなんですか?」

 めくられる図鑑に興味を示すイエイヌちゃん。

「うん、これはフレンズ図鑑なんだー。」

 と古ぼけた図鑑をイエイヌちゃんに見せるともえちゃん。サーバルやカラカルのページも読めるけれどかなり古くなってて、いろんなページが抜け落ちていたりする様子。

「わたしのページはなんて書いてあるんですか?」

「えっとねー…。」

 とペラペラするけど、イエイヌのページは殆ど読めないくらいになっているものの、下の方に手書きで『たいせつなともだち!』と書かれてる。

「うん、イエイヌちゃんは大切なともだち!って書いてあるよ!」

「嬉しいですっ!」

 と嬉しさのあまりともえちゃんに抱き着くイエイヌちゃん。尻尾がちぎれんばかりに揺れている。

 

「あ、そうだ。ともえちゃん。ともえちゃんにも良さそうなものがあったんだ。」

 とかばんさんが紙の束のようなものを持ってくる。それはルーズリーフだった。

「ともえちゃんの図鑑ってこうやって、ページを追加できるものなんだ。」

 リングファイル式の図鑑を一度開いてみせるかばんさん。そこに持ってきたルーズリーフを一枚挟み込んで白紙のページを一枚追加してみせる。

「あ、これなら新しいページを自分で追加できそうだね。古くなっちゃったページを書き直したり図鑑に載ってないフレンズに会ったら追加できたりするかも。」

 とキュルルもそれを覗き込む。

「そっかー!それいいね!!あ、でも写真のとこはどうしよっかー…」

「それなら自分で絵を描いて作ってもいいんじゃないかなあ。」

 キュルルが手早く新しいルーズリーフに図鑑のページを真似て絵を描いてみせる。

「うわぁ!イエイヌちゃんだ!すっごい!!」

 イエイヌの姿が描かれたルーズリーフにおおはしゃぎのともえちゃん。

「ねえ、キュルルちゃん、アタシにも出来るかな?」

「うん、きっと出来るよ。ちょっとやってみよう?」

 と、二人してお絵描きに興じ始める。

「ともえちゃん、スケッチも上手じゃない?しっかり特徴捉えてるしいい絵だと思うな。」

「ほんと?ありがとー!」

 すっかりお絵描きに夢中の二人。そんな二人を嬉しそうに見守るかばんさんの服をちょいちょい、ってするサーバルちゃん。

 

「うん?どうしたの、サーバルちゃん?」

「あのね、かばんちゃん。私って昔にゆきやまちほーに行った事ってある?」

 一瞬驚いた表情を見せるけど、すぐに元に戻るかばんさん。

「どうしてそう思ったのかな?」

「どうしてだろう…何となく、なんだけど…。すごく大切な事だったような気がして…。」

(お耳へにゃりしてすごく不安そうなサーバルちゃんを描写しておいてください)

 それにかばんさんは優しく微笑み、しかし、しばらくかける言葉が見つからないかのように間が空いて。

「大丈夫。大丈夫だからね。」

 ギュっとサーバルちゃんを抱きしめるかばんさん。

「うんっ」

 って安心したようなサーバルちゃん。

「かばんお姉ちゃんのフレンズたらしー。」

 そんな二人に茶々入れするともえちゃん。キュルルとカラカルとイエイヌちゃんもじーっと二人を見つめていてさすがに赤面してしまうかばんさん。

「いや、ともえちゃんには敵わないからね!?」

 真っ赤な顔で、もー、とでも言いたそうなかばんさん。

「ともえはイエイヌにギューしてもらってなさい。」

 カラカルにひょいっと摘み上げられてイエイヌちゃんへとパスされるともえちゃん。

「わわっ!?もう、カラカルさんっ。」

 突然の事ながらしっかりともえちゃんをキャッチするイエイヌちゃん。

「えっと、サーバルちゃん?」

「もうすこし。」

 とまだ離れないサーバルちゃんというイチャつきシーンでシーン終了。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「かばんさん、イエイヌさん、ともえちゃんも色々ありがとう。また遊びに来るね」

 すっかり旅支度を整えたキュルルが言う。借りた防寒着はそれぞれ風呂敷包みに入れて背負って準備完了のようだ。

「かばんちゃんっ、ともえちゃん、イエイヌっ。また会おうねっ」

 サーバルちゃんもすっかり元気を取り戻しているようだ。

「こちらこそ。三人とも気をつけて行ってきてね。」

「また狩りごっこしようね!」

「戻って来たらゆきやまちほーのお話してくださいね!」

 かばんさん、ともえちゃん、イエイヌちゃんが順番に言う。

 

「ねえ、かばんさん。」

 キュルルがかばんさんに声をかける。膝を折って目線を合わせるかばんさん。続く言葉を笑顔で待つ。

「最近、時々サーバルの元気がないみたいなんだけどまた相談してもいい?」

「うん。しばらくはここか研究所にいると思うからいつでも相談して。」

「サーバルは大切な友達だから何か悩んでるなら絶対力になってあげたいんだ!その時はかばんさんの力も借りると思うからよろしくね!」

「ふふ。キュルルちゃんも優しいんだね。私もサーバルちゃんは大切な友達だからいつでも力になるからね。約束だよ。」

 微笑みと共にキュルルと小指を絡めるかばんさん。

 

 そして、キュルル、サーバル、カラカルの三人が遠くなっていく…。と途中でカラカルが引き返してきて

「そっちも頼んだわね。」

 ってかばんさんにそっと耳打ちしてEDイントロが始まって、遠く離れていくキュルル、カラカル、サーバルちゃんを見送るかばんさん達の一枚絵で止めて引く。

そしてED歌い出しからエンディングへと移行する。

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 第3話『3人のお客さん』

―おしまい―

 




次回予告

海底火山への対処のため、海の調査にやってきたかばんさん達一行。
せっかくの海だもん!遊ばなきゃ!
初めての海で大はしゃぎのともえちゃんとイエイヌちゃん。
そこにやってきたバンドウイルカのイルカちゃんとカリフォルニアアシカのアシカちゃんも加わるけれど、二人には何か困りごとがあるようで…?
次回、けものフレンズ2after☆かばんRestart 第4話『うみでごきげん』
お楽しみに!




妄想元ネタ紹介

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第4話『うみでごきげん』

登場人物紹介

名前:キュルル

けものフレンズ2にて主人公をつとめた人物。おうちを探してサーバルとカラカルと共にパーク内を旅していたがパークがおうちだという結論を得る。
今もサーバル、カラカルの二人と一緒にパーク内を旅して色々なものを見て回っている。
特技はスケッチでスケッチブックに色々な絵を描いてフレンズ達に渡してきた。
そのスケッチした絵にはセルリウムが付着すると絵に描かれたフレンズがフレンズ型セルリアンとして発生してしまうという特徴がある。


名前:サーバル

サーバルキャットのフレンズ。天真爛漫な性格で誰とでも友達になれる明るい子。
ちょっぴりドジだけど、ゼンゼンヨワイー、という事はなく割と頼りにされてた模様。
けものフレンズでは主人公のかばんちゃんのパートナーを務めて、けものフレンズ2ではキュルルと共に旅をしている。
どうやら、けものフレンズでかばんちゃんと旅をした記憶を失っているようで、ぼんやりと記憶の断片のみを覚えている状態らしい。
何が起こったのかは、けものフレンズ2においても語られてはいない為、現時点では全くの不明である。



名前:カラカル

カラカルのフレンズ。
サーバルの親友でキュルルと共に3人で旅をしてきた。
ちょっと口は悪いけど面倒見がいい。警戒心が強く慎重に行動したいと思っているのだが猪突猛進なサーバルに振り回される事もしばしば。
今でもキュルル、サーバルと共にパーク内を旅してまわっている。




けものフレンズ2after☆かばんRestart 第4話『うみでごきげん』

 

 

(さてみなさま。俺ちゃん妄想監督から4話開始前に皆様妄想作画班様方にお願いがあります。こっから1シーン作画解放の時間だ!!)

 

 

「う、み、だあああああああああ!」

 

 と砂浜を蹴って海へと突撃していくともえちゃん。そりゃあもちろん水着ですよ水着!ええ!

ちょっと挑戦して水色のセパレート。トップは三段フリルが翻ってとても可愛らしいです!ちょっと自己主張している膨らみも素晴らしいですね!

ボトムは上部分にフリルがあしらわれていて脇の部分にヒマワリの花を象った飾りがついています。

女の子らしい自己主張を始めたばかりのプロポーションはその筋の人にはたまりませんね!

 

「ま、待ってください、ともえさーん!」

 

 おおっと続いてカメラインはイエイヌちゃんだー!こちらは白い肌がまぶしいけど露出は少な目ワンピースタイプ……?

いや、違う…違うぞこれは…!

 白スク水!白スク水です!

 差し色としてグレーのカッターシャツを羽織っています!そして足元はあざとくニーソックス着用です!不自然でもいいんです!それはそれでそそるから!

素足もいい。だがニーソで隠されるのもそれはそれでとてもよいものだ!隠される事で引き立つものってあるんです!

お尻の尻尾穴がどうなっているのか興味はつきませんがそこは謎です!犬耳!尻尾!白スク!オッドアイ!どんだけ属性過多なんだー!

今日はチョーカーにともえちゃんのとお揃いのちっちゃいヒマワリ型の飾りがついてます!

しかし、こうなってくると心配なのは健全警察の皆さんが動き出さないかという事ですが…。

おおっとやはりここで健全委員会が審議入り!審議入りです!

さあ、健全委員会の審議が終わったようです。

あー!これは!健全!健全判定です!濡れても大丈夫な透けない素材であることが判断の決め手だったようです!

繰り返します!健全です!

 

「二人とも、あんまり遠くに行っちゃダメだよー。」

 

 最後に登場はかばんさん!

 こちらは黒ビキニ!!大人の女性であることをしっかり強調する膨らみを惜しげもなく晒してくれているぞ!

こちらはしっかりと引き絞られたおなかもステキ!そしてボトム側はパレオを巻いているわけですが…片側のみを結んで片足はすっかり出てる感じ!

スリットからはかすかにボトムの黒ビキニが見えてるわけですが水着だからセーフです!なので健全委員会の皆様はお帰り下さい!

ともえちゃんとイエイヌちゃんが変化球で攻めてくる中、ストレート剛速球を投げ込んでくる大人のプロポーションが素晴らしいです!

 

 

 けものフレンズで水着回をやっちゃいけないなんてルールはなかったぜぇ~?

 

 ってわけでアバン終了。やり切ったところでOP開始。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 OP終了後。

 イエイヌちゃんが引き波を追いかけててけてけ、と海に近づき、押し寄せる波に

 

「うひゃあああああ!?」

 

 と逃げ出す。数回それを繰り返し何度めかの寄せてくる波が大波になってザッパーン!

 

「わわわー!?!?」

 

 ととうとう波に巻き込まれるイエイヌちゃん。慌ててぶるぶる、と水を飛ばす。そして波が引いていった後にはさっきの大波に乗っかってもみくちゃにされたともえちゃんが流れ着いていた。

 

「ぺっぺっ、しょっぱーい!」

 

 とすっごい楽しそうなともえちゃん。二人して波に濡れた姿になる。

 

「イエイヌちゃんとお揃いだねー!」

「ともえさんとお揃い…」

 

 ともえちゃんの言葉にイエイヌちゃんがほわーんとした表情を浮かべる。

そんなところにもう一度波がザッパーン!と押し寄せて再び波に濡れた二人。イエイヌちゃんがぶるぶると水を飛ばして、ともえちゃんが楽しそうに笑う。

楽しそうに遊ぶ二人を離れた砂浜で見守るかばんさん。ビーチパラソル立てて折りたたみ椅子に深くもたれて大人のひと時である。

 そのかばんさんの視点に割り込むようにひょい、とアップで顔を覗かせる二人のフレンズ。

 

「かばんさんヤッホー♪」

「お待ちしてましたよ。」

 

 と現れたのはイルカ、アシカの海獣コンビだ。

 

「二人とも来てくれてありがとう。うみのごきげんの方はどうかな?」

「あれ以来落ち着いてはいるけど、いつまたごきげんが悪くなるかわかんない感じ。」

「それと、海には小型の『イシナシ』ですけどセルリアンが増えてます。一撃で倒せる弱いのばっかりだから食べられるフレンズはいませんがちょっと大変ですね。」

 

 イルカちゃんの言葉にクイっと眼鏡をなおしながら出来るお姉さんムーブなアシカさんが補足してくれる。

 

「二人とも助かったよ、ありがとう。まずは、はい、これ。」

 

 と二人にご褒美ジャパリまんを差し出すかばんさん。

 

「うわぁー!ご褒美だあー!」

「ありがとうございますっ」

 

 ご褒美ジャパリまんを受け取って喜色を見せる海獣コンビ。

 

「でねでね、またたくさん褒めてくれる?」

 

 上目遣いでかばんさんを見つめるイルカちゃん。おねだりの仕方がなかなかにあざとい。

 

「もちろんだよ。海の様子は私だけじゃわからないし、二人には本当に感謝してるんだ。たくさん助けてくれてありがとう。」

「うぅー!この感じっ!かなり近いよね!」

「ええ。やはりこうして褒めてもらえるのは今までにない何かを感じます。」

 

 かばんさんに笑顔で褒めてもらうと、それに満足気に頷きあう海獣コンビ。

 

「そうだ!かばんさんっ!このご褒美、食べさせてくれないかな!」

「それです!ぜひお願いしますっ!」

 

 いい事を思いついた。というようにもらったジャパリまんを差し出す海獣コンビ。そのままかばんさんに二人して詰め寄ってみせる。

 

「「あーん」」

 

 とかばんさんにしなだれかかるように身をよせる海獣コンビ。

 

「あはは…さすがにそれは恥ずかしいかなぁ…。でもまあいいのかなあ…はい、どうぞ。」

 

 若干の戸惑いやら気恥ずかしさやらはあるけれど、二人にジャパリまんを食べさせてあげるかばんさん。傍目からはイルカアシカに身を寄せられてなかなかにいかがわしい構図になっているんじゃなかろうか!?

ふと気づけば、いつの間に来ていたのやら、ともえちゃんとイエイヌちゃんがジトーっとした目でそんな傍目にはいかがわしい現場を眺めている。

 

「またかばんお姉ちゃんがフレンズちゃん達を口説いてるー」

「べ、別に羨ましくなんてないです…」

「ご、誤解だからねっ!?」

 

 そんな二人に慌てて手を振るかばんさん、顔がすっかり真っ赤になってしまっている。

 

「あ、こんにちは。二人ははじめましてだよね。」

 

 とイルカが言ってから二人してせーの!で

 

「はじまして!私はバンドウイルカ!」

「私はカリフォルニアアシカです。」

 

 と完璧なスマイルで手をふりふり。

 

「アタシはともえだよ!」

「あ、わたし、イエイヌです。」

 

 と挨拶を返すともえちゃんとイエイヌちゃん。

 

「はい、4人とも上手に挨拶できました。」

 

 かばんさんが小さくパチパチパチと拍手。その表情はとても嬉しそうにニコニコしている。ほほえまー、とでも言いたそうだ。

 

「じゃあ、ともえちゃん、イエイヌさん。イルカさんとアシカさんにご褒美あげてくれるかな?」

 

 って二人にご褒美用ジャパリまんを渡すかばんさん。

 

「うん!そういう決まりだからねっ!」

「そっか!そういう決まりかー!じゃあ、はい、どうぞ。」

 

 ともえちゃんがイルカちゃんにジャパリまんを手渡そうとしたところに…。

 

「そうです。せっかくですからご褒美を食べさせてもらう、をもう一度実践してみましょう。さっきのは相当近かったです!」

 

 と、アシカさんが待ったをかける。それに頷いたともえちゃん。持っていたジャパリまんをイルカちゃんの口元に差し出す。

 

「こんな感じでいい?」

「あーむっ……!!これ、この感じっ!」

「ど、どうですか!?イルカさん…!」

 

 ともえちゃんからジャパリまんを食べさせてもらったイルカちゃん。それを固唾を飲んで見守るアシカさんとイエイヌちゃん。

 

「これ!これだよきっと!そんな感じするよ!」

 

 と大はしゃぎのイルカちゃん。

 

「い、イエイヌさん、わたしにも!わたしにもお願いします!」

「あ、はい。わかりました。」

 

 今度はイエイヌちゃんがご褒美のジャパリまんをアシカさんに食べさせてみる。

 

「ええ!これはついにたどり着いたと言っていいんじゃないでしょうかっ!」

 

 同じく表情をパッと明るくして喜びあう海獣コンビ。その姿をイエイヌちゃんがじーっと眺めている。

その表情は羨ましそうだったり何とも複雑そうなだ。それに気づいたイルカちゃん。

 

「ねえ、イエイヌちゃん。もしかしてジャパリまん欲しい?私たちも持ってるからあげようか?」

「あ、いいえ。そういうわけじゃないんですけど、なんだかとっても羨ましいな、って。わたしもずーっと昔にヒトと遊んでご褒美を貰ってたんじゃないかなって思って…。」

 

 ポツリポツリと胸のうちを話すイエイヌちゃん。するとイルカちゃんとアシカさんがイエイヌちゃんに詰め寄る。

 

「わかる!わかるよ!」

「ええ!何かをしてそれでご褒美を貰ってそして褒められる!これがワンセットになったときに生まれる感情!」

「…ッ!!それ!それですー!!」

 

 海獣コンビと共に意気投合しちゃうイエイヌちゃん。嬉しそうにその尻尾がぶんぶん、と揺れている。

 

「私たち、陸と海で住む場所は違うんだけど似てるんだね。」

「ええ、きっとイエイヌさんとはいい友達になれますよ!」

「はいっ!お友達嬉しいです!」

 

 とすっかり仲良くなったイエイヌちゃんと海獣コンビ。

 

「では新しい友達のイエイヌさんにも是非この気持ちを味わっていただきたいです!ともえさん、お願いします!」

「えっと、具体的にはどうしたらいいかな?」

「私たちの場合は前にキュルルちゃんが作ってくれた遊び道具で芸を見せて、それでご褒美をもらうーって感じだったけど…。」

「それだったらイエイヌちゃんはコレ!フリスビー!イエイヌちゃんはフリスビーとってくるの上手だよ!」

 

 ともえちゃんは海にも持ってきていたフリスビーを取り出してみせると、イエイヌちゃんの目が輝いて尻尾がぶんぶんち千切れんばかりに振られる。

 

「それじゃあ、いくよー!イエイヌちゃんとってきてー!」

 

 言いつつフリスビーを投げるともえちゃん。空高く舞い上がったフリスビーは遠くまで飛んでいく。

 

「はい!任せくださああああああい!」

 

 言うが早いか、放たれた矢のような速度で砂浜を疾走するイエイヌちゃん。砂埃を舞い上げる勢いでフリスビーに追いつき見事に空中で「はぐぅ!」とダイビングお口キャッチ!

そして素早く反転。勢いはそのままにともえちゃんのところに戻ってフリスビーを返す。

 

「さあ、ともえちゃん、イエイヌちゃんを褒めてあげて!」

「そしてご褒美ですよ!ご褒美!」

「あ、うん。わかったよ。」

 

 海獣コンビに促されて目の前で何かを待って尻尾を振り続けるイエイヌちゃんをギュっとしてなでなでワシャワシャするともえちゃん。

 

「よしよーし、さすがイエイヌちゃん。上手だったよー。はい、ご褒美のジャパリまんだよー。」

 

 そうしてジャパリまんをイエイヌちゃんに食べさせてあげるともえちゃん。

 

「どう?イエイヌちゃん。」

「どうですか?」

 

 海獣コンビがイエイヌちゃんの顔を覗き込むようにして反応を待つ。何やら静かなイエイヌちゃん。しばらく時間が止まったように動かないが段々と目に涙が溜まってきてやがてそれがポロポロと零れ落ちる。

 

「ええええ!?い、イヤだった!?ごめんね!?そ、それともどこか痛い!?大丈夫!?」

 

 と大慌てのともえちゃん。海獣コンビもあたふたしはじめる…が…

 

「違うんです…。これ…。これ……。ずっと、ずっと待ってましたあああっ!」

 

 とともえちゃんに抱き着いて嬉し泣きしちゃうイエイヌちゃん。

 

「わかる。」

「わかります。」

 

 とその姿に海獣コンビも目元を抑え、見守っていたかばんさんも後ろ向いて肩を震わせている。

ともえちゃんはそんなイエイヌちゃんを優しく撫で続けるのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「それでね。今日はイルカさんとアシカさんにお願いがあって来たんだ。」

 

イエイヌちゃんが落ち着いた頃にかばんさんが海獣コンビに言う。

 

「二人には出来るだけたくさん私たちに協力してくれる海に住むフレンズさんに集まってもらえるように声をかけて欲しいんだ。」

「いいけど何するの?」

 

と小首をかしげるイルカちゃん。あざとい。

 

「海底火山にフィルターを張って、うみのごきげんが悪くならないようにするんだ」

「そんな事できるんですか!?」

「うん。フィルターを張る為の機械はもう少しで組み上がるから。でも設置には海のフレンズさん達の協力が絶対に必要なんだ。」

 

 かばんさんのその言葉に海獣コンビは嬉しそうに頷きあう。

 

「わかった!そういう事ならたくさん仲間を集めるよ!」

「お安いごようです!」

 

 早速、誰を誘おうか、と話し始めるイルカちゃんとアシカさん。

 

「そういえば最近生まれたあの子も誘ったら来てくれるかなあ。」

「どうでしょう…。群れるのが嫌いなフレンズのようでしたから…」

 

 と二人は表情を曇らせる。

 

「それってどんなフレンズちゃんなの?」

 

 そこにともえちゃんもやって来る。その腕にはまだイエイヌちゃんがひっついて甘えていた。

 

「えっとね、シャチちゃんっていうんだけど、私たちが一緒に遊ぼうって言っても全然ダメなんだー」

「セルリアンが増えていますから、出来れば群れでいた方が安全なのですが…」

「そうだよね…。私たちも友達になりたいんだけどな…。」

 

 言って海獣コンビは気落ちしたようにさらに表情を暗く曇らせてしまう。

 

「でもそれっておかしいよ」

「おかしいって何が?」

 

 ともえちゃんの言葉に海獣コンビが顔をあげてそちらを見る。

 

「えっとね、シャチって動物は群れで暮らすのが好きなはずなんだ。ほら、図鑑にもそう書いてある。」

 

 って古ぼけた図鑑のシャチのページを開いてみせるともえちゃん。かばんさんも考え込む仕草を見せる。

 

「もしかしたら何かあったのかな…。様子を見に行ってみようか。」

 

 その言葉にパッと海獣コンビの顔が明るく輝く。

 

「お願いできるかな。私たちも心配してるんだけど…。」

「私たちが近づいてもすぐに逃げてしまうんです。」

「うん。わかった。じゃあ私たちが様子を見て来るよ」

 

 とかばんさんが言ったところでシーン終了。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「ここにシャチさんがいるのかな?」

 

 かばんさんの視線の先には寂れた港のように見える施設がある。

 

「天然ノ洞窟ヲ利用シタ港湾施設ダネ。周りガ洞窟デ囲まれテルから、天気ガ悪くてモ安心ナンダ。」

 

 とボスウォッチが解説してくれる。

 

「こんな場所があったんだ。私も知らなかったな。」

「データベースに登録された場所じゃナイからネ。」

 

 その施設に入ってみると大きな荷揚げ用クレーンや大型の船を停泊できそうな停泊所が今は錆びついて物言わぬ状態で静まり返っている。

 

「クンクン。キカイの匂いに混じってフレンズの匂いもします。多分いますね。」

 

 とイエイヌちゃんが二人に言う。ともえちゃんがそれに頷いて、

 

「こんにちわー!シャチちゃんいますかー!」

 

 と、呼びかけると物陰からそっと三人の様子を伺うようにして現れる一人のフレンズ。

 

「だ、誰…?」

「こんにちわ。私はかばん。」

「アタシはともえ!」

「イエイヌです。」

 

 おっかなびっくり、といった様子でこちらを伺うそのフレンズにまずは挨拶をしてみる三人。

 

「陸の子たちと…ヒト?」

「そうだよ。キミがシャチちゃんかな?」

「うん、ボクがシャチだよ。」

 

まだ近づいてこようとはしないけれど話はできそうな様子を見せるシャチちゃん。その様子にかばんさんもまずは距離を保ったまま話かけ続ける。

 

「ねえ、シャチさん。キミはここで一人で暮らしてるのかな?何か困ってる事があるんじゃないかと思って様子を見に来たんだ。」

「こ、困ってる事なんてないよっ!」

 

 と明らかに何か動揺した様子のシャチちゃん。

 

「じゃあ、アタシ達と友達になろうよっ!」

 

 目を輝かせてシャチちゃんへと詰め寄るともえちゃん。と、シャチちゃんの顔色が変わる。

 

「ボ、ボクに近づいちゃダメーぇ!」

「危ない!ともえさんっ!」

 

 近づいてくるともえちゃんに思わず、といった様子でシャチちゃんの尻尾がぶん!と振るわれてしまう。

しかし、その一撃はイエイヌちゃんがともえちゃんの腕を引っ張った事でともえちゃんに当たる事はなかった。

かわりに、べちこーん!と近くにあった廃ドラム缶に尻尾が当たって吹っ飛ばされる廃ドラム缶。

 

「うわわー!すっごいパワーだね。」

「ご、ごめんなさい、大丈夫だった!?」

「うん、平気平気、イエイヌちゃんもありがとう。こっちこそ驚かせてごめんね。」

 

 ハッとして慌てるシャチちゃん。その様子にかばんさんは一つ頷き何やら確信を得たようだ。

 

「なるほど…。生まれたてでまだ上手に力を抑える方法がわからないんだね。」

 

 シャチちゃんの前に膝をついて下から見上げるかばんさん。

 

「今まで大変だったね。シャチさん。まずは力を抜いて落ち着いて。ほら、他の子がキミに触っても平気だし…」

 

 とその手をとって、自分のほっぺにあてて

 

「もちろんキミが他の子に触っても平気なんだよ。」

 

 そのまま、シャチちゃんをギュっとハグするかばんさん。

 

「シャチさんは優しいフレンズさんだね。他の子に迷惑かけちゃうから寂しいの我慢してたんだから。」

「あ…。」

 

 シャチちゃんはされるがままに脱力してしまう。そしてシャチちゃんの肩をつかみ目線をあわせて続けるかばんさん。

 

「でもみんなキミと友達になりたがってるよ。ちょっとだけ勇気だしてみようか。」

 

そっと自分の後ろを指し示してみるかばんさん。そこには…。

 

「かばんお姉ちゃんズルい!アタシもシャチちゃんモフりたいっ!」

「はーい、ともえさん、ここはお預けですよー。でもわたしもシャチさんとお友達になりたいです。」

 

 ともえちゃんとイエイヌちゃんが興味津々といった様子でシャチちゃんを見ていて、さらにその後ろの物陰からはひょっこりと海獣コンビが顔を出して様子を伺っている。

 

「あはは、じゃあ皆で少し上手に力を抑える方法を練習してみようか。」

 

 ってビーチボール取り出してウィンクしてみせるかばんさん。そんな場面でシーンが一度切れる。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 そして砂浜でビーチバレーしているシーンが止め絵で展開。かばんさんチームVS海獣トリオチームの3VS3のチーム戦だ。

イルカちゃんのドルフィンキックアタックをかばんさんがレシーブして遠くまで飛んでったボールをイエイヌちゃんが拾ってともえちゃんがアタック!

で、アシカさんがそれをレシーブしてイルカちゃんがトスをあげてー、シャチちゃんが超パワーアタック!

 これはさすがに拾えずに得点を許しちゃうかばんさんチーム。イルカちゃんとアシカさんがイエーイ!って感じでシャチちゃんにタッチを求めてそれにおず、って感じで手をあわせるシャチちゃん。

とても嬉しそうな笑顔でシャチちゃんの「チームプレイ…。イイ…!」って声が入ってシーン終了。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 普段着に戻ったかばんさん、ともえちゃん、イエイヌちゃんの三人。日も傾きはじめて茜色になってきた砂浜で海獣コンビにシャチちゃんを加えた海獣トリオと向き合う。

 

「あの!みんなありがとう!すっごく楽しかった!」

 

 ってシャチちゃんが言って

 

「今度は私たちがお役に立ってみせますからね。」

 

 とアシカちゃんがメガネクイっ。

 

「うん、お願いね。」

 

 ってかばんさんも笑顔で応じる。

 

「シャチさん、これでもう寂しくないですね。お友達増えてよかったです。」

「うん、イエイヌちゃんもありがとう。また遊んでね。」

「へへー。私たちももうお友達だもんねー。」

「はい!わたしもお友達増えて嬉しいです!」

 

 海獣トリオとイエイヌちゃんもすっかり仲良くなったようで尻尾がぶんぶん揺れている。

そしてイルカちゃんがかばんさんの隣に立つ。

 

「みんなのおかげでシャチちゃんともお友達になれたよっ。ありがと♪」

 

 とかばんさんのほっぺにお礼のちゅ。しばらく何が起こったかわかってなかったかばんさん。やがて顔を真っ赤にしてしまう。

 

「あああっ!かばんお姉ちゃんいいなー!」

「ともえちゃんにもしてあげるー!Chu☆」

「あー!羨ましいです!」

「イエイヌちゃんもする?」

「わたしがともえさんとかばんさんにしたいです!」

「その気持ちわかる!」

「わかります!」

「ボクもちょっとわかるかも…。」

 

 とどったんばったん大騒ぎの場面をカメラが引きながら夕暮れの空にうつってEDイントロ開始。

そしてエンディングが開始される。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 Cパート。

 楽しそうに海岸を家路につくかばんさん、ともえちゃん、イエイヌちゃんの三人。

楽しそうな三人の正面からカメラが引いていって三人がこちらに歩いてくる構図に。三人がピンボケするくらいカメラが引いていく。すると…。

 どさり、と音を立てて砂浜に引きちぎれた鎖のついた手枷をハメた手が落ちる。

 

「あれは……」

 

 と三人の足が止まる。

 

「「ビーストぉ!?」」

 

 とかばんさんとイエイヌちゃん二人の声が重なって最後に波打ち際に横たわるボロボロのビーストを写してシーンが切れる。

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 第4話『うみでごきげん』

―おしまい―




次回予告

海で海のフレンズ達から協力を取り付けるついでに楽しく遊んだかばんさん達一行。
その帰り道、傷ついたビーストが倒れているのを発見する。
危険はあるだろうがビーストをイエイヌちゃんのおうちへと連れ帰って治療するかばんさん達。
長い長い一夜が始まる。
次回、けものフレンズ2after☆かばんRestart 第5話『アムールトラ』
お楽しみに!


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第5話『アムールトラ』

登場人物紹介

名前:博士

アフリカオオコノハズクのフレンズ。けものフレンズにおいては図書館にてキョウシュウエリアの長を務めていたがけものフレンズ2ではかばんの助手を務めている。
本作では両方を兼務している。
ちょっと生意気な言動をするがパークの危機には率先して動き、フレンズ達からも長として頼られている。


名前:助手

ワシミミズクのフレンズ。博士と一緒に図書館でキョウシュウエリアの長をしている。
また、かばんさんの研究仲間でもあり、『かばんの助手の博士の助手』というちょっと複雑なポジションにいる。
生意気そうな言動は博士と似ているが、博士のフォローに回る事も多い苦労人なポジションだ。



けものフレンズ2after☆かばんRestart 第5話『アムールトラ』

 

 

 アバンは前回Cパートの続きから始まる。

かばんさん、イエイヌちゃんが驚愕の表情を浮かべて固まってるのをともえちゃんが真ん中できょときょと、と二人を見回す。

ともえちゃんは二人が固まってるのをよそにてってけて、とビーストに駆け寄るとそこにしゃがみ込んで

 

「かばんお姉ちゃん、イエイヌちゃん。このフレンズちゃん怪我は酷いけど生きてるよ。」

 

 と二人に呼びかける。その言葉にはふーって脱力するかばんさんとイエイヌちゃん。お互い顔を見合わせてからカメラは何だか困った顔で笑うイエイヌちゃんの顔をアップで映す。

 

「おうちに運びましょう。」

 

 とイエイヌちゃんが言ったところでOP開始。

(OPイメージは巻末にてご紹介させていただいてます。)

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 OP後、イエイヌちゃんのおうちへと場面は移る。ベットに寝かされるビースト。その身体には包帯があちこち巻かれてる。

カメラは外された手枷が二つ転がっているのを写す。

 

「どうですか?かばんさん、ともえさん。」

 

 水さしや洗面器、タオルを持ったイエイヌちゃんがやってくる。

 

「うん。出来る事は全てやったよ。けれど熱がひどい。」

「お薬もね、飲んでくれたの。」

 

 傷の手当をしていたかばんさんとともえちゃんの顔は暗い。しばらく考えるようにしてからかばんさんは告げる。

 

「あとはこの子の体力がもつかそれとも……。今夜がヤマだよ。」

 

 かばんさんの言葉にコクリ、と頷くイエイヌちゃん。そのままビーストへ近づき苦しそうに乱れた吐息を漏らす彼女を見下ろす。

 

「そうですか。後は朝までわたしが看ています。」

 

 イエイヌちゃんはベットサイドの椅子に腰かけると二人に背を向ける。そして背を向けたまま続けるイエイヌちゃん。

 

「すみませんが、かばんさんとともえさんはこの部屋から出てて下さい。」

 

 その背中にともえちゃんが何か声をかけたそうにしてるけれどその肩をかばんさんがポムっとして首を横に振る。

 

「わかった。何かあったら声かけてね。」

 

 ともえちゃんの肩を抱きながら客室を出るかばんさん。カメラは客室のドアを閉めるかばんさんとともえちゃんを写す。

 

「前にね。私はイエイヌさんと会った事があるんだ。」

 

 かいつまんで、イエイヌちゃんがヒトを待ってお留守番を続けてきたこと、そしてヒトを探すイエイヌちゃんと出会っていた事を説明するかばんさん。

 

「で、ね?この前来てくれたカラカルさんが教えてくれたんだ。イエイヌさんとビーストの間に何があったのか。」

 

(2期本編9話の回想シーンがセピア調でダイジェストで早回しで挿入してください。)

 

「じゃあ、イエイヌちゃんは…あの子の事を…」

「うーん、たぶん怒ったり嫌ったりとかしてるわけじゃないと思うんだ。」

「なら、なんでイエイヌちゃんは一人で残ったのかな。」

 

 そのともえちゃんの疑問にかばんさんは少し考える仕草をしてから言う。

 

「ちょっと気持ちわかるよ。例えビーストが危険だったとしても怪我した子を放っておけないよね。」

「うん。」

「だけどそれで元気になったビーストがともえちゃんを襲ったりしてもイヤだったんだと思うよ」

 

 よいしょ、と客室の扉の横に腰を降ろすかばんさん。

 

「きっとね。みんな一人でもやらなきゃいけない事があるんだと思うんだ。イエイヌさんにとっては今日がそうなんだと思うよ」

「そっかあ…。アタシにはよくわかんないけどちょっとだけわかるような気がする。」

「きっといつかともえちゃんにもわかる日が来るよ。」

 

 そう言って微笑みながらかばんさんは続ける。

 

「ねえ、ともえちゃん。明日の朝は4人分の朝ごはんを一緒に作ろうか。」

 

 その言葉に嬉しそうにともえちゃんは頷いてかばんさんの隣に膝を抱えて座る。

 

「うんっ!そうだね!」

 

 そしてイタズラっぽい笑みを浮かべるともえちゃん。

 

「でも、かばんお姉ちゃん、朝起きれる?」

「うっ……善処します…」

「ふふー。台無しだねー。」

 

 かばんさんの肩に頭をのっけるようにしてイタズラっぽい笑みでかばんさんの顔を覗き込むともえちゃん。

それに微笑みを返して

 

「もう、ほっといてよ」

 

 とかいいつつその肩を抱き寄せてうりうりーってしちゃうかばんさん。

控えめな二人の笑いが漏れる。ってところで一旦シーンが切れる。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 場面はかわって暗くなった客室。イエイヌちゃんがベット脇の椅子に座ったままビーストを見守る。

苦しそうな吐息をもらしてうなされるビースト。寝汗をタオルで拭ってあげるイエイヌちゃん。

 

「まったく。あなたのせいでわたしもなんだか気持ちがぐちゃぐちゃしてます。」

 

(セリフの割にはとっても優し気な声音のイエイヌちゃんを描写してください。)

 

「あなたがキュルルさんを襲った事も許してませんし、ともえさんやかばんさんを襲ったりしたら許せないだろうしここに連れてきたのもなんでなのか全然わかりません。」

 

 イエイヌちゃんの表情には少しの苦笑が見てとれる。けれどその瞳には優し気な色が宿っている。

 

「でもですね?明日の朝、あなたが目を覚ましてくれたらわたしは嬉しいんだと思います。」

 

 もう一度洗面器でタオルを絞ってから寝汗を拭うイエイヌちゃん。

 

「元気になったら、今度キュルルさんが来た時に一緒に謝りましょうね。」

 

 そうしてイエイヌちゃんは一つ頷く。

 

「あなたがまた誰かを傷つけようとするなら…、今度は負けません。だから安心して元気になって下さい。」

 

 そういってイエイヌちゃんがビーストの手をとってフェードアウト。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 そうして朝がやって来る。

 一瞬ウトウトしてたイエイヌちゃんがハッとすると穏やかな寝息をたててるビーストが視界に飛び込んでくる。

 

「か、かばんさんっ、ともえさんっ!」

 

 と慌てて客室からでると、扉の脇に二人でもたれて一枚の毛布にくるまってるかばんさんとともえちゃんを発見するイエイヌちゃん。

その姿に一瞬驚いた表情をするも、すぐに嬉しそうに笑顔を浮かべる。

 

「二人とも、ずっとそばで待っててくれたんですね…」

 

 嬉しそうな表情も一瞬。すぐにハッとして…

 

「かばんさん、ともえさん、起きられますか?」

 

 と、二人をゆさゆさと揺する。

 

「むにゃむにゃ…あと5ふんー……」

「むにゃむにゃ…もう食べられないよー」

 

 そんな寝言を言って寝ぼけてる二人。そこでボスウォッチがブィイイイン、と音を立てて震えてアラーム代わりに。

 

「カバン、トモエ。起キテ。イエイヌが、呼んでるヨ。」

「はっ!?寝ちゃってたっ!?あ、おはようイエイヌちゃん。ラッキーちゃんもありがとね。」

「あー…うー…おはよー」

 

 ぺちぺち自分でほっぺ叩くようにして起き上がるかばんさん。

三人で客間へ移動してビーストの様子を覗き込む。穏やかな寝息を立てるビーストの寝顔には夜のような苦しさは見てとれない。

 

「うん、熱も引いてるし、大丈夫そうだね。」

 

 ビーストの脈や熱を測ったかばんさんがいう。それにともえちゃんはパッと表情を輝かせて

 

「がんばったね!イエイヌちゃん、偉いよっ!」

 

 ってイエイヌちゃんをワシャる。そうして賑やかな様子に反応したのかゆっくりと目を開くビースト。

 

「あ、目を覚ましたみたいだね」

 

 ともえちゃんが言うと同時、イエイヌがサッと前に出て二人を庇うように立つ。が、ビーストの方はキョトンとした表情を浮かべるばかりだ。

それでも一瞬の緊張が走る。が、ビーストのおなかがグウウと空腹を訴えて緊張が緩む。

 

「ちょっとジャパリまん持ってくるよ。」

 

 とかばんさんが席を外す。部屋にはイエイヌちゃんとともえちゃん、そしてビーストが残される。

イエイヌちゃんが二人の間に立っているが、それでもともえちゃんは興味津々といった様子でその肩ごしにビーストを観察している。

 

「ともえさん、あんまり近づいたら危ないかもしれません。」

「そんなことないと思うよ。イエイヌちゃん。なんかこの子、目が優しいし。」

 

 そうやって二人がビーストを覗き込んでいると

 

「もえ?いぬ?」

 

と小首をかしげるようにするビースト。

 

「うん、アタシはともえ。こっちはイエイヌちゃんだよ」

 

その言葉にビーストはじっと二人を見たまま、こくん、と一つ頷き。

 

「もえ。いぬ。」

「うん、そうだよ、よろしくね。」

 

 そんな様子にイエイヌもほっと一息、緊張を緩める。ビーストの方はというと鼻をひくひくさせて扉の方をじっと見ていた。

するとかばんさんがジャパリまんを持って戻ってくる。

 

「ジャパリまん。食べられる?」

 

 持ってきたジャパリまんをビーストの近くにゆっくりと近づけるかばんさん。鼻先に近づけるとしばらくひくひく鼻を動かして匂いを嗅いでみる。やがておそるおそる、といった様子で一口を口に運ぶ。

その様子をじっと見守るかばんさん、ともえちゃん、イエイヌちゃんの三人。

 それで安全だとわかったのか物凄い勢いでジャパリまんを食べ始めるビースト。近くにジャパリまんを置いた食器を置いてあげるとそれにも手を伸ばしてガジガジ、と次々に食らいついていく。

 

「これならもう怪我も平気そうだね。」

 

 かばんさんが頷くとともえちゃんが嬉しそうに笑ってイエイヌちゃんもほっと胸を撫でおろす。

そうしているとジャパリまんを全て食べ切ったビースト。ゆっくりと一人ずつ見渡していき…。

 

「もえ。いぬ。…?」

 

 と、かばんさんを見たときに?マークを浮かべる。誰?とでも言いたそうな表情だ。

 

「かばん、だよ。」

 

 自身の胸に手をあててゆっくりと言うかばんさん。

 

「もえ。いぬ。かばん。ありがと。」

 

 と言った直後、くぁーっ、と大きな欠伸がビーストの口からもれる。

 

「おなかいっぱいになって眠くなったんだね。まだ体力戻ってないからもう少し寝てて大丈夫だよ。」

 

 覗き込むかばんさんに頷きを返してそのまま寝落ちしてしまうビースト。すぐに穏やかな寝息を立て始める。

 

「ふふ。なんかこの子の食べっぷり見てたらお腹空いてきちゃった。」

「じゃあ、わたし達も朝ごはんにしましょう。」

 

 安心したように眠るビーストを見て自然と笑顔になるともえちゃんにイエイヌちゃんも笑顔で返すのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 食後のお茶をビーストの眠る客室で飲んでるかばんさんとともえちゃんにイエイヌちゃん。

 

「ねえ、ラッキーさん。あの子はビーストなのかな?それともフレンズ?」

「ワカラない。コンナノ初めてダヨ」

 

 ボスウォッチに尋ねるかばんさん。その答えに難しい顔をしているが…

 

「ねえねえ、それってどっちかじゃないとダメ?」

 

 ってともえちゃんが聞く。一瞬驚いたような表情を見せるかばんさん。しかし、すぐに嬉しそうな表情にかわって続ける。

 

「全然ダメじゃないよ。ともえちゃんはスゴイ事に気が付くね。」

「でへへー」

 

 って頭の後ろをぽりぽりして照れちゃうともえちゃん。

 

「さて、そうしたらあの子の呼び方を考えないといけないね。二人とも何かいい考えないかな?」

 

 とかばんさんがともえちゃんとイエイヌちゃんにそれぞれ視線を向ける。

 

「うーん。そうだなあ…。」

 

 と、ともえちゃんがフレンズ図鑑をぺらぺらとページをめくっていく。すると、あるページでその手が止まる。

 

「ねえねえ、これ、あの子に似てない?」

 

 その止まったページは古ぼけているせいか、掠れていて文字がよく読めない部分がある。それでも表題と写真部分はわかるので、それが『アムールトラ』のページであるとわかった。

後から書き足したらしい手書き文字で『とても強くてカッコイイ!』と書かれている。

 

「アムールトラさんのページだね。ほんとだ。すごく似てる。もしかしたらあの子は元の動物はアムールトラなのかもしれないね。」

「じゃあ、アムールトラちゃん、かな?」

 

 というところでイエイヌが「あのあのっ」と手をあげる。

 

「あの子、あんまり長い言葉は苦手なんじゃないでしょうか?わたしの事もイエイヌじゃなくていぬ、って呼んでたし、ともえさんの事ももえ、って…」

「そっか、じゃあアムールトラちゃんって呼ぶと長すぎるかあ」

 

 と、腕組んでむーん、と唸るともえちゃん。

 

「最初の方だけとってアムちゃん…とか?」

 

 そんなともえちゃんに控え目に提案してみるイエイヌちゃん。その言葉にともえちゃんの表情がパッと明るくなる。

 

「おおお、イエイヌちゃん!それいいよ!可愛い名前だねっ!」

 

 そうしていると、モゾモゾとベットの中のビーストあらためアムちゃんが起き出してきたようだ。目元をくしくし、と手の甲で拭っている。

そんな彼女にともえちゃんが駆け寄って

 

「アムちゃんっ。おはよう!」

 

 と呼びかける。それが自分の名前だとわかったのか、ベットの上に女の子座りのアムちゃんが嬉しそうにニパリと笑ったところでそれが一枚絵となって止めて引いてエンディングテーマへと移行。

(EDイメージは巻末で紹介させていただいてます。)

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 Cパート。

 アムちゃんがイエイヌちゃんにのっすんとのっかるようにしてイエイヌちゃんが「お、おもいです…」って潰されそうになってたり

ともえちゃんが早速アムちゃんをモフって楽しんだりしてるところに、玄関がコンコンとノックされる。

かばんさんが玄関をあけると、そこには二人のフレンズがいた。

 

「やれやれ。かばんはフレンズ使いが荒いのです。」

「助手使いも荒いのです。」

 

 とやってきたのは博士助手コンビ。

 

「頼まれたものはトラクターに載せてこっちに運んでるのです。ボスが運転してこっちに向かってるのです。」

「でも、これだけは直接渡さないといけないかと思って持ってきてやったのです。」

 

 と二人がかばんさんに手渡した箱の中に入っていたのはラッキービーストのコア達。

 

「うん。ありがとう。これで準備は全部出来たよ」

 

 うん、と力強く頷くかばんさん。

 

「なら後は成し遂げるのです。」

「やってやるのです。」

 

 博士と助手の二人がかばんさんに拳を突き出して見せる。その拳に自身の拳をコツン、とあてながら続けるかばんさん。

 

「我々は?」

 

 の問いの後に

 

「「「かしこいのでー!」」」

 

 と三人の拳が空に突き上げられて5話終了!

 

 と見せかけて3頭身デフォルメ絵にかわって、アムちゃん強調状態でともえちゃん、イエイヌちゃんも含めた三人が追加登場する。

そのアムちゃんを見た博士がシュ!と細くなって

 

「あ、なんかゴメン。」

 

 とかばんさんが謝って今度の今度こそ…

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 第5話『アムールトラ』

―おしまい―

 




次回予告

かつてビーストと呼ばれたアムちゃんは無事に一命を取り留めた。
そんな彼女達のおうちにやって来たのは博士助手の二人であった。
とうとう海底火山への対処も大詰めを迎える。
みんなで力を合わせて海底火山にフィルターを張ろうとするが、そこに忍び寄る大きな影が…
次回、けものフレンズ2after☆かばんRestart 第6話『海底火山』
お楽しみに!



妄想元ネタ紹介

けものフレンズRオープニングテーマ
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34990561

けものフレンズRエンディングテーマ
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34929655


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第6話『海底火山』

登場人物紹介

名前:アムちゃん

 かつてビーストと呼ばれてパーク中で暴れまわっていたが、けものフレンズ2最終話にてキュルルの呼びかけに応じてホテルにあらわれ、フレンズ型セルリアン達を一蹴してみせた。
その後、ホテルの崩壊に巻き込まれて行方不明となっていたが瀕死の重傷を負った状態でともえちゃん達に発見される。
イエイヌちゃん達の献身的な介抱によって一命を取り留めた彼女は何故か以前のような凶暴さは見て取れなかった。
長いおしゃべりは苦手なようで、短い単語で会話し、普通のフレンズよりもどこか動物っぽさが強いように見られる。
 彼女はアムちゃん、と名付けられてイエイヌちゃん達と一緒に暮らす事になった。


けものフレンズ2after☆かばんRestart 第6話『海底火山』

 

 

 アバンは前回のCパートの続きからシーンスタート。

 博士が声にならない声をあげながらシュっと細くなる。

 

「かばん。どうしてここにビーストが?」

 

 その博士を庇うように前にでる助手。

 

「違うよ。この子はアムちゃんだよ。」

 

 ともえちゃんが言うとその肩に甘えるようにのっすんと顎を乗っけてすりすりしてるアムちゃん。その姿には危険そうなものは全く感じられない。ともえちゃんもアムちゃんに手を回して撫でている。

それにほっと安堵の吐息をつく助手。

 

「博士。どうやら危険ではないようですよ。」

「おおお、おどかすなです!」

 

 元に戻った博士。ぷんすこぷんすこと両手をバタつかせてみせるが一同がほっこりとした顔で見てるのに気が付き、コホン、と一度咳払いする。

 

「ふむ。お前がともえですか。」

「かばんから手紙をもらってお前の事も聞いているのです。」

「うん、アタシがともえだよ。二人はもしかして…」

 

 博士助手の問いかけに頷くともえ。それに満足そうに鷹揚な頷きを返してみせる二人。

 

「私はかばんの助手の博士なのです。」

「そしてかばんの助手の博士の助手の助手なのです。」

 

 と自己紹介したところでOP開始

(OPイメージは巻末にて紹介させていただいてます。)

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「コノハちゃん博士とミミちゃん助手!会いたかったよ!」

 

 嬉しそうに博士と助手ににじりよるともえちゃん。その手はワキワキと蠢いて早速モフモフの体勢に入ろうとしていた。

 

「お前の事は把握しているのです。」

「対策はばっちりなのです。」

 

 が、空にすいーっと飛び上がりその手を逃れる博士と助手。この高さでは決して手は届かない。ヒトは空を飛べないのだ。

 

「ああああ…アタシのモフモフがぁ……」

 

 絶望の表情のともえちゃん。より詳しく表すなら(>△<)って顔をしていた。

 

「いや、ともえさんのではないですからねー」

 

 とイエイヌちゃんのツッコミが入る。

 

「はい。博士は主に私のです。」

「助手ぅ!?」

「ご、ごしょうですのでひとモフだけでもぉ~」

 

 空に向かって手をのばすともえちゃん。そんな彼女の姿を見かねてなのかどうなのか、博士と助手は顔を見合わせてから告げる。

 

「そんなに私たちに触りたいのなら美味い料理を作るのです。」

「我々が満足したら少しだけ触らせてやるのです。」

「よしきた!まかせて!イエイヌちゃんとアムちゃんも手伝ってー!!」

 

 落ち込みから一転、ペコちゃん顔でバヒューン!とすっ飛んでいくともえちゃん。

 

「待ってください、ともえさーん」

「もえ。まってー」

 

 そんな彼女を追いかけててってってとついてく二人。(イエイヌちゃんとアムちゃんが手をつないでたりするとなおよし!)

彼女達を見送った博士助手にかばんさんの三人。

 

「それじゃあ、私たちは準備しようか。」

 

 ともイヌアムがカメラアウトしたあとに博士助手に声をかけるかばんさん。

 

「かばんは随分いい顔をするようになったのです。」

「よい時間を過ごしたようなのです。」

 

 そんな二人の言葉に斜め上方向に少し視線をやって考えるかばんさん。

 

「そうかな……。」

 

 ともえちゃん達が入って行って賑やかな声のするおうちを見やってから

 

「そうかも。」

 

 と博士助手に笑顔を向ける。その顔を見て博士助手の二人も一度顔を見合わせてから嬉しそうに笑うのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 シーンはかわって、トラクターも到着して何かの機械がところ狭しと庭に並べられている。それらを博士と助手とかばんさんの三人がテキパキと手際よく組み立てていく。

時々かばんさんと博士が口論したり、それをなだめる助手だったりの絵が挟まったり、今度はボスウォッチで機械の動作確認をして、上手くいくとかばんさんと博士がお互いに手をパチンって合わせたり。

 三人がどったんばったんしながらも次々と組み上がっていく機械達。途中でともえちゃん、イエイヌちゃん、アムちゃんの三人が差し入れカレーを持って来る。

 

「これなのです。」

「やみつきなのです。」

「「おかわりを要求するのです」」

 

 どうやら博士と助手のおメガネにもかなったようである……。ということは…?

ハッとした顔になる博士助手。その時には時すでに遅し。目を怪しく光らせたともえちゃんが背後から手をわきわきさせながら迫っていた。

 

―博士と助手はダブルモフモフされた。

 

 一方でイエイヌちゃんがアムちゃんの汚れた口元をハンカチで拭ってあげて、博士助手とともえちゃんのどったんばったん大騒ぎに平和ですねえ、とでも言いたそうな表情で見守っていた。

 一休みした後は再び作業に戻るかばんさんと博士助手の三人。

 

「かばん…。これとこれとこれを組み合わせたりしたら…」

 

 と関係ないガラクタからプロペラ、モーター、バッテリーを持ってきた博士。

 

「いけるかも!」

 

 かばんさんが乗っかり二人して作り上げたのは扇風機のような何か。で、動作確認してみたら思いのほか強力でおもいっきり助手を吹き飛ばす程の超強力ぶりを発揮してしまった。アーッという声を残して遠くへ吹き飛ばされていく助手。

 

「こ、これはやってしまったかな。」

「やってしまったのです。」

 

 かばんさんと博士は助手の飛ばされていった方角を見ながら漫画汗を浮かべる。

 で、正座させられて助手にめちゃめちゃ怒られる二人。その顔を一言で表すなら(>△<)って感じだった。

 

 そうやってどったんばったんしているうちに空では日も傾いて茜色になってきた。その頃にようやく4つの機械が完成する。

 

「かばんお姉ちゃん。これってなあに?」

「うん、これはフィルター発生装置って言ってね。火山から出るセルリウムを防ぐ機械なんだよ。」

 

 かばんさん達の前には4つの板状のものに台座のようなものが取り付けられた機械が4つ並んでいた。

 

「研究所にあった未完成品を私たちが色んなところから部品をチョイチョイして完成させたのです。」

「これは苦労したのです。」

 

 博士と助手は偉そうに胸を張ってふんぞり返っていた。

 

「ともえちゃんと初めてあった時もこの機械に使う部品を探してた時だったんだ。」

「へぇー。そうだったんだ。」

「あとは最後の仕上げを残すだけ、だね。」

 

 かばんさんは博士と助手がおうちにやって来た時に直接持ってきてくれた箱を開ける。その中にはラッキービーストコアが4つ入っていた。

 

「これってラッキーちゃん?」

「うん、身体が壊れたりして動けなくなったラッキーさん達をいつか直したくて研究所で預かってたんだ。」

 

 ともえちゃんがその箱を覗き込みながら尋ねると頷きながら教えてくれるかばんさん。

 

「実はね。この機械にはこれを制御する為の機構が足りなかったんだ。それをラッキーさん達が補ってくれればこの機械は完成するの。」

 

 そこで解説を一度切るかばんさん。

 

「でも…本当にいいの?いつか元の身体に直せるかもしれないよ?」

 

 と、箱の中のラッキービースト達にもう一度問い掛ける。その言葉にラッキービーストコア達に緑がかった明かりが灯る。

 

「もちろんイイヨ。」

「また役に立てて嬉しいヨ。」

「パークを守るヨ。」

「ありがとう。マカセテ。」

 

 それぞれに返すラッキービーストコア達。そんなラッキービーストコア達をしばらくの間ぎゅっとするかばんさん。

 

「こちらこそありがとう。ラッキーさん達。」

 

 しばらくの間、そうした後に一つずつのラッキービーストコアをそれぞれのフィルター発生装置に組み込んでいく。

するとラッキービーストコアがそれぞれ、赤、青、白、黒の色に輝く。

 

「「「「四神フィルター発生装置動作確認。……各部、異常ナシ。イケルヨ。」」」」

 

 というところでシーンが切れる。いよいよ明日、海底火山へフィルターを張る事になるのだ。

Aパート終了。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

Bパートは海岸に駐車される無人のトラクターとジャパリバスの場面を映してから開始される。

 

「かばんさんっ!みんな沢山集まってくれたよ!」

 

 とイルカちゃんがお出迎え。もちろんシャチちゃんアシカさんの海獣トリオも勢ぞろい。

さらにはその後ろにもたくさんの海フレンズ達が集まってくれていた。

 

「うわわ!ナルカさんにマルカさんにドルカさんにカツオドリさん、それにPPPのみんなも!」

 

 集まってくれたフレンズ達に嬉しそうに駆け寄るかばんさん。

 

「海底火山の事は私たちゴコクエリアのフレンズにも無関係じゃないからねー」

 

 と、イルカちゃんの隣に移動しつつ双子ムーブで遊びはじめるドルカちゃん。その言葉にナルカ、マルカ、カツオドリも頷いてみせて。

 

「パークの危機を救うのもアイドルの仕事よ、ね。みんな。」

 

 PPP達もそんなプリンセスの言葉に頷いてみせる。

 

「それに私たちだけじゃないわよ。」

 

 とプリンセスが続けてさらに後ろの方を示してみせると、そこには沢山の陸フレンズ達も集まっていた。

 

「戦と聞いてはいてもたってもいられん!」

「いやー、今回は海だからウチらの出番ないんじゃないかなー」

 

 仁王立ちしてるヘラジカの横でライオンちゃんがだらけていて

 

「ホテルの仇をとると聞いて駆け付けました!」

「おい、お前たち頼むぞ!」

「いやー…ホテルの仇ではないようなー…」

 

 オオミミギツネ、ハブ、ブタのホテルトリオ。

 

「もしセルリアンが出たら海岸に引きつけなさい。私たちも手伝うわ。」

 

 と笑みを見せるカバに

 

「そしてアライさんもいるのだー!」

「かばんさーん、頼むねー」

 

 アラフェネコンビもやって来てるし

 

「またお前たちに頼る事になるとはな。」

「頑張ってね。」

「オーダーいつでも受けつけてます!」

 

 ヒグマ、キンシコウ、リカオンのセルリアンハンタートリオも集まっていた。その他にも陸海空問わずたくさんのフレンズ達が大集合してくれていたのだった。

陸フレンズ達が船に機械を積んで海へと送り出してくれる。

船に乗るメンバーはかばんさん、ともえちゃん、イエイヌちゃんにアムちゃんに博士助手だ。

船の周りを泳いで進む海フレンズ達。さらに上空からは鳥フレンズ達が空を飛びながら船に並走している。

 

 たくさんのフレンズ達を伴ってついに海底火山近くの予定海域へと到着するのであった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「それじゃあ、ともえちゃん、イエイヌさん、アムちゃん、ポンプの方はお願いね。」

 

 船上に設置された手押し式ポンプ。それは二人でシーソーのように押すポンプなのだが…。

 

「がう。」

 

 ちょい、っとアムちゃんがポンプの片側を下に下げるとそれだけで逆側にともえちゃんとイエイヌちゃんがぶら下がるようになっていた。

で、ともえちゃんとイエイヌちゃんの重みでポンプのレバーが戻ってぷしゅー、と空気管のところから空気が送り出される。そこにホースをつなげて、逆側は潜水用メットへと繋げるかばんさん。

 

「あはは、アムちゃん力持ちだー」

「うんうん、すごいですよアムちゃん。」

「がうー」

 

 って二人に褒められててれてれのアムちゃん。

 

「博士と助手はフィルター発生装置の投下場所の指示、お願いね。」

「任せるのです。」

「かばんも気をつけていってくるのです。」

 

 博士助手に頷きつつ、今度はフィルター発生装置の方へ近づくかばんさん。

 

「ラッキーさん達。通信で私と一緒のラッキーさんと繋がるようにしてあるから調子が悪くなったりしたらすぐに報せてね。必ず直しに来るから。」

「ワカッタよ、カバン。アリガトウ。」

 

 その言葉にかばんさんは柔らかく微笑んでから、ふ、と思い出したようにともえちゃんに振り返る。

 

「そうだ。ともえちゃん。これ預かってて。海の中で失くしたりしたら大変だから。」

 

 そしてかばんさんは自分の被っていた二本羽根の帽子をともえちゃんに預ける。それにともえちゃんも頷きを返す。そこにカツオドリが船縁にとまって

 

「鳥のフレンズ達が空から見張ってるから、安心して行ってきて。」

 

 と見送りの言葉を口にする。空にはアリツさんやトキやカルガモや沢山の鳥フレンズ達が舞って手を振っていた。 

 

「うん、みんなありがとう!行ってくるね!」

 

 ともえちゃんに帽子を預けたかばんさんは潜水用ヘルメットを被ると、海へローリングエントリー。いよいよ海底火山へのフィルター設置作戦が始まろうとしていた。

 

 

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 ダイジェスト形式でPPPが海底火山付近にフィルター発生装置を運んだりシャチちゃん含む海獣トリオとゴコクエリアイルカチームがときどき現れる小型セルリアンを駆除してPPPを守ったりしていく。

海中でかばんさんが指揮する中で順調に進んでいくフィルター設置作戦。

 そして、ついに四つの装置が設置し終わって、かばんさんが手をあげて合図するとフィルター発生装置が起動。

 それぞれに取り付けられたラッキービーストコアが赤、青、白、黒と輝き海底火山にフィルターが張られる。

その様子に満足気にかばんさんが頷いて海フレンズ達に親指を立ててみせると「やったあ!」と喜びお互いに抱き合う海フレンズ達。

 

 そこで場面は海上の鳥フレンズ達へと移る。

カツオドリがハッと何かに気づいた様子で海の向こうの水平線を睨みつける。

 

「博士…。あっちから何か来るよ」

「あれは…」

 

 と波を蹴立てて作戦中の海フレンズの方へ向かっているのは…超巨大船型セルリアン!

(船型セルリアン襲来時BGMイメージを巻末にて紹介させていただいています。 )

 

「まずいのです!」

「かばん!みんな!逃げるのです!」

 

 と博士助手が焦りをにじませた声で叫ぶ。

超巨大船型セルリアンの急襲はすぐに海フレンズ達にも伝わってそれぞれに散り散りに逃げる海フレンズ達。

 

「このお!」

 

 とシャチちゃんが向かってくる超巨大セルリアンに自慢のパワータックルを仕掛けるけれど…

 

「うそ!?きいてない!?」

 

 その一撃を受けてもビクともしない超巨大セルリアン。ギロリ、とシャチちゃんの方に振り返ると…

 

―ヴォォオオオオオッ!!!

 

 と超音波の雄叫びをあげる。

 

「なにこれ!?」

「耳がいたいよ!」

 

 と耳をふさいで動きを止める海フレンズ達。

そこに超巨大セルリアンがぶぅん!と大きなヒレを振るうと強力な海流が発生して、海フレンズ達は吹き飛ばされていく。

そしてその海流にかばんさんも巻き込まれてしまっていた。そのまま揉みくちゃにされながら海面にまで打ち上げられてしまう。

 

「大丈夫!?かばんさん!」

 

 ってイルカちゃんが助けに来てくれてかばんさんを抱える。

 

「うん、大丈夫。ちょっと波に揉まれただけだよ」

 

 と破損した潜水ヘルメットを脱ぎ捨てながら答えるかばんさん。

 

「逃げますよ!」

 

 とアシカさんも加わってかばんさんを二人で抱えて逃げようとしたときに…

 

―ザッパアアアアアアアアアアン!

 

 と海面から姿をあらわす超巨大セルリアン。

 その巨体がかばんさん達を見下ろす。

 あまりの威容に蛇に睨まれたカエル状態で動けないかばんさん達。

 

そこで画面は暗転。その真っ暗な画面でかばんさんの呟きが響く。

 

「こんなの…どうにかできるの…?」

 

 そして暗転した画面からEDへと移行して6話が終了する。

(EDイメージは巻末にて紹介させていただいてます。)

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 第6話『海底火山』

―おしまい―




次回予告

たくさんのフレンズ達が協力してくれて海底火山にフィルターを張る事に成功したかばんさん達。
喜びも束の間、超巨大船型セルリアンが海中からかばんさん達を襲う!
あまりにも巨大、あまりにも強力なセルリアンを相手にかばんさん達はどうなってしまうのか!?
次回、けものフレンズ2after☆かばんRestart 第7話『群れの力』
お楽しみに!




妄想イメージ元ネタ紹介

けものフレンズRオープニングイメージ。明るい雰囲気の歌に乗せた愛情たっぷりの絵柄がステキなオープニングです。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34990561

超巨大船型セルリアン襲来時イメージBGM。まさに重く巨大な何かが迫りくる感じの緊迫感のあるBGMが超かっこいいです!
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34874309

けものフレンズRエンディングイメージ。歌詞もよいのですがともえちゃんとイエイヌちゃん二人で歩いていくエンディングがステキです。後ろに流れるスケッチをかえたりとか色々妄想が捗るエンディングです。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34929655


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第7話『群れの力』

これまでのあらすじ

 海底火山から発生するセルリウムに対処する為の活動中に謎の少女、ともえちゃんと出会ったかばんさん。
 彼女と二人でイエイヌちゃんの家に居候させてもらっていたが紆余曲折あってさらに元ビーストのアムちゃんまで一緒に暮らすようになった。
 研究仲間の博士と助手もやってきてついに海底火山へフィルターを張る作戦がスタートする。
 たくさんのフレンズの協力を得てついに海底火山にフィルターを張る事に成功したかばんさん達であったが海中から超巨大船型セルリアンが彼女達に襲い掛かるのであった。



けものフレンズ2after☆かばんRestart 第7話『群れの力』

 

 アバンは前回出現した船型超巨大セルリアンの場面からスタート。

 超音波の雄叫びでフレンズ達の動きをとめてヒレのひとなぎで吹き飛ばしてしまう。

 そして、海面まで打ち上げられたかばんさん。それを助けに来てくれたイルカちゃん&アシカさん。

 

「逃げますよ!」

 

 アシカさんの声にも焦りの色が滲んでいる。そこに……

 

―ザッパアアアアアアアアアアアアアン!

 

 と海面から姿をあらわす超巨大船型セルリアン!その威容がかばんさん達を見下ろす。

 

「こんなの…どうにかできるの…?」

 

 と言うかばんさん。ギリッと歯を食いしばったところでOP開始。

 (OPイメージは巻末にて紹介させていただいております。)

 

 

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 OP後、再びかばんさん達を見下ろす超巨大セルリアンの場面からスタート。

 その威容にやはり動く事すらできないかばんさん達。しかし…ふと何かに気づいたようにかばんさん達から興味を失うと方向をかえて去っていく超巨大セルリアン。

 

「た、助かったの…?」

 

 とイルカちゃんが去っていく超巨大セルリアンを見ながらまだ動けずにいる。

 しかし、気まぐれであったとしても何の理由もなくセルリアンが目の前のフレンズを見逃すはずがあろうか…。

 

「もしかして…あの方向って…!」

 

 と超巨大セルリアンが向かう先にともえちゃん達が乗ってる船がある事に気づいたかばんさん。

 

「トキさん!博士たちにすぐに陸に逃げるように伝えて!」

 

 と手近にいたトキにお願いする。トキは頷くとすぐに船の方へ飛んで行った。それを見送ってから考えこむかばんさん。

 

「なんで目の前の私たちを無視して船の方に…?」

 

 と疑問を口にするかばんさん。目の前の自分達よりも重要な何かが超巨大セルリアンの向かう先にあるはずだ…。その考えに至ったかばんさんの脳裏にふ、と映像が浮かぶ。

 回想シーンで1話の中型セルリアンが完璧に隠したはずのともえちゃんを見つけたかのような動きをした事を思い出す。

 

「まさか…!」

 

 と思い至ったところでシーンがかわる。

 

 

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 シーンはかわって船上、トキからの伝令を受けた博士助手からも船に向かってやってくる超巨大セルリアンが見えていた。

 波を蹴立ててこちらに向かってくる超巨大セルリアンはまだまだ距離があるにもかかわらず凄まじいプレッシャーを放っている。

 

「すぐに逃げるのです。」

「ともえ。ボスに船を動かすように言うのです。」

 

 博士助手の言葉に頷いたともえちゃん。船に乗った海賊帽子を被った緑色のラッキービーストに向き直る。

 

「わ、分かった。ラッキーちゃんお願い。」

「ワカッタヨ。船ヲ陸ニ向けるネ。」

 

 船は陸地へと進み始める。しかし、超巨大セルリアンとの距離は遠ざかるどころかますます近くなっていっているようだ。

 

「あいつ、スゴイ速さなのです!」

「すごいでかさなのです!」

「「もっと急ぐのです!」」

 

 博士助手も迫ってくる超巨大セルリアンに焦りの色を濃くしていく。

 

「ラッキーちゃん、もっとスピード出ない!?」

「ムリダヨ。」

「ラッキーちゃん頑張ってぇー!」

「ムリダヨ。」

 

 既に船の速度はいっぱい。なのに超巨大セルリアンはどんどん近づいてくるが陸は全然近づいてこない。

 

「このままじゃ、追いつかれます…!博士、ともえさんとアムちゃんを連れて飛んで逃げて下さい!」

 

 とイエイヌちゃんが超巨大セルリアンの方を向いて牙を剥きながら言う。その頃にはかなり近くまで迫ってきている超巨大セルリアン。

 

―ヴォオオオオオオオオオ!

 

 と再び超音波の雄叫びをあげる!

 それにイエイヌちゃんもアムちゃんも博士助手も耳を抑えて動きを止めてしまう。

 

「これは空中に飛んでるときに受けたりしたら…」

「一人ならともかく誰かを抱えていたら立て直せそうにないのです…。」

「って事は空にも逃げられない…?」

 

 博士と助手の言葉に逃げ場が一つ潰された事を悟るともえちゃん。思わず超巨大セルリアンの方へ向き直る。

 その巨大で歪な瞳らしきものが確かにともえちゃんの姿を映しているのを感じていた。何かイヤな感じのする視線を感じるともえちゃん。追いつかれたりしたらどうなるのか、想像するだけでも背筋が凍る。

 

「こうなったら…!」

「一矢報いてやるのです…!」

 

 近づく超巨大セルリアンに対して博士助手の身体からサンドスターの煌めきが立ち上る。そしてその瞳が強く輝きを放ちはじめる。

 野生解放。

 それはフレンズの技の中でもかなり強力なものだ。サンドスターを大量に消費するかわりにケモノとしての力をさらに強化してくれるのだ。

 

「わたしだって…!」

「がう!」

 

 とそれに続こうとするイエイヌちゃんとアムちゃん。しかし、博士助手は二人に背中を向けたままで言う。

 

「二人は野生解放はやめとくのです。」

「イエイヌはヒトと心を通わせるのは得意だけどその分ケモノとしての本能は少ないのです。野生解放なんてしたら身体がもたないのです。」

「それにアムも。元ビーストのお前が野生解放なんてしたらどうなるのか見当もつかないのです。せっかく拾った命なのです。こんなところで使い切る事はないのです。」

 

 その言葉に悔しそうに肩を落とすイエイヌちゃんとアムちゃん。

 野生解放は誰にでもできる技ではない。もともと戦いが得意だったりするフレンズなら生まれながらに使えるかもしれないがそうでなければ何らかの訓練は必要だ。

 それに身体にも大きな負担がかかる。

 まさに切り札ともいうべき技なのだ。

 博士と助手の言う通り、イエイヌちゃんとアムちゃんに野生解放はまだ難しい技であった。

 悔しそうに肩を落とすイエイヌちゃんとアムちゃん。そんな彼女達に博士助手は肩越しに振り返ってみせる。

 

「ここは我々に任せるのです。お前達が陸に戻る時間くらいは稼いでみせるのです。」

「お前たち二人はともえを守ってやるのです。」

 

 肩ごしに振り返っている博士と助手。ふ、とその顔が笑みにかわる。

 

「かばんの事。感謝しているのです。」

「あんなにいい表情のかばんを久しぶりに見たのです。」

 

 言いつつ前へと向き直る博士と助手。

 

「「それに…」」

 

 前へと向き直った博士と助手は迫りくる超巨大セルリアンを睨みつける。

 

「「我々はこの島の長なので…!」」

 

 それは既に覚悟を決めた者の表情であった。

 

「このままじゃ、二人が…ううん…アタシ達も…」

 

 一方でともえちゃんは超巨大セルリアンが確かに自分の方を見て何かの感情のようなものを自分に向けているのを感じていた。

 その感情を向けられて思わず顔を青くするともえちゃん。かばんさんから預かっていた二本の羽根のついた帽子をぎゅっと抱くようにする。

 手の中の二本羽根の帽子に視線を落とすともえちゃん。

 

「かばんお姉ちゃんなら……」

 

 ともえちゃんの脳裏に思い出されるかばんさん。

 いつもの優しい顔で笑うかばんさん。

 早起きは苦手で時々残念なかばんさん。

 そして最後に思い出したのはかばんさんが1話で中型セルリアンを一人でやっつけた姿。

 そう、かばんさんはカッコイイのだ。

 だから

 

「かばんお姉ちゃんなら、どうしたらいいか考えるよね!」

 

 ともえちゃんは辺りを見渡す。

 船に積まれたサーフィンボード。ロープ。

 そして、もう一つあるものがともえちゃんの目に留まった。それはフィルター発生装置積み込みの際に手伝ってくれたとあるフレンズが「これも乗せるのだー」「アライさーん、それはいらな…まあ邪魔じゃなさそうだしいっかぁ。」と間違って積んじゃった機械だった。

 それはかばんさんと博士が昨日途中で脱線して作って助手に怒られてた強力扇風機のような何かだった。それをカメラは順番に映していく。

 ハッと何かを思いついた表情のともえちゃん。うん、と強く頷いて前に抱いてたかばんさんの帽子を首の後ろに回して紐で下げる。

 両手が塞がっていては戦う事は出来ないのだから。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「いいですか、助手。焦らずにキッチリ引き付けるのです」

「ええ。空中でさっきのうるさいヤツを受けたら攻撃できないのです。」

 

 博士助手が慎重に攻撃のタイミングを計っている中、もう超巨大セルリアンはあと一歩、というところまで船に迫っている。

 今まさに博士と助手が飛び立とうとした瞬間!

 

「コノハちゃん博士!ミミちゃん助手!イエイヌちゃんとアムちゃんもごめんね!アタシがあいつを引き付ける!」

 

 と海に飛び出したのは、なんとともえちゃんだった!サーフィンボードにロープで扇風機もどきを括り付けた何かにパドリングの体勢で乗っかり…

 

「うごけえー!」

 

 と扇風機もどきを作動させる…!すると扇風機もどきがスクリューがわりになってバヒューン!と発進するサーフィンボード。しかし…。

 

「逆だったあー!?!?」

 

 と思ってたのと逆方向、つまり超巨大セルリアンの方へ突っ込んでいくサーフィンボード。取り付け方向間違えちゃったのね…。

 

「ともえさーん!?」

「もえー!?」

 

 これにはイエイヌちゃんもアムちゃんも揃ってΣ(〇△〇;)って顔で見送っちゃう。

 だが、その速度はすさまじく超巨大セルリアンが反応する前にその真横を通り抜けるようにして一気に沖へと進む。

 ようやく、それに気が付いた超巨大セルリアン。ともえちゃんを追ってゆっくりと旋回をはじめる。

 

「い、今のは怖かったー…」

 

 と気を取り直して体重移動でサーフィンボードを操るともえちゃん。速度はサーフィンボードの方が上で超巨大セルリアンは追いつけずにいる。

 

「確かにアイツはともえ、お前を狙っているようなのです。」

 

 大きく迂回して空を飛びながらともえちゃんと並走する博士。

 

「それにしてもさっきは焦ったのです。残念なところまでかばんに似なくてもよいのです」

 

 同じく逆側を並走する助手。

 

「あ、あそこまで残念じゃ…なくはなかったかな…あはは。」

 

 とほっぺぽりぽりのともえちゃん。

 

「それよりコノハちゃん博士、ミミちゃん助手。時間はアタシが稼ぐからかばんお姉ちゃんとあのセルリアンを何とかする方法を考えて。」

「分かったのです。」

「我々だけではアイツを倒す方法は皆目見当もつかないですがかばんなら…」

「うん、かばんお姉ちゃんなら必ず何か思いついてくれるよ!」

 

 と三人が頷きあったところでシーンが変わる。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 シーンは変わって今度はイルカアシカコンビに抱えられて海上を進むかばんさんへとカメラが移る。

 そこに博士助手が到着。

 

「かばん、あのでかいセルリアンは今はともえを追っているのです。」

「ともえがアイツを引き付けてくれているのです。」

 

 博士助手の言葉に一瞬心配そうな表情を浮かべるかばんさん。

 

「安心するのです。速度と小回りの両方でともえが作った船的なやつの方が上なのです。」

「だからかばんはさっさとアイツを何とかする方法を思いつくのです。」

 

 かばんさんは頷くと少しの間考え込んでから…。

 

「ねえ、あのセルリアンはともえちゃんを狙ってる、で間違いないよね。」

「そうなのです。」

「あの動きは間違いないのです。」

 

 そのかばんさんの確認に博士も助手も揃って頷いて見せる。

 

「とすると……」

 

 かばんさんの脳裏に浮かぶいくつかの場面。

 サーフィンボードで逃げるともえちゃん。

 海岸で待機中の陸フレンズ達。

 海に散り散りに逃げた海フレンズ達。

 上空から遠巻きに心配そうな視線を向けている鳥フレンズ達。

 そして崩壊したホテル跡。

 

「何とかなるかもしれない。」

 

 ポツリと呟いたかばんさん。期待に満ちた目で彼女を見る博士助手にイルカアシカコンビにも強く頷いてみせてから言う。

 

「作戦を説明するよ!」

 

 かばんさんの説明を聞いた博士と助手にイルカアシカの海獣コンビ。

 助手が伝令に走り、鳥フレンズ達そして待機中の陸フレンズ達にもに次々と情報が伝わっていく。

 一方海フレンズ達もイルカアシカコンビに伝令されて頷きあう。シャチちゃんも今度こそ、とむんっと気合を入れていた。

 獣たちの反攻が始まろうとしていた。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 そして再びシーンがかわってサーフィンボードで逃げるともえちゃん。

 大きく円を描くようにして超巨大セルリアンを単身引き付ける。そこに博士に抱えられたかばんさんが登場。

 かばんさんを見つけると途端に嬉しそうな笑顔を見せるともえちゃん。

 かばんさんもそれに笑顔を返す。

 

 「ともえちゃん。頑張ったね。すごいよ。」

 「でへへー」

 

 かばんさんに褒められて嬉しそうに照れてみせるともえちゃん。

 

「でもちょっと無茶しちゃったね。」

「まったく、誰に似たのかです。」

 

 と苦笑するかばんさんと博士。しかし今はそれどころではない事も理解していた。

 

「で、何か作戦は思いついた?」

 

 とともえちゃんがかばんさんに訊ねる。それに頷きを返しながらかばんさんが続ける。

 

「うん。でも一番危ない役をともえちゃんにお願いしなきゃいけないんd…」

「やるよ!」

 

 と被せ気味に即答するともえちゃん。

 それに決心を見て取ったかばんさん。もう一度頷きを返す。

 

「分かった。ともえちゃん。あっちの方に崩れた海上ホテルがあるからそこにあのセルリアンをおびき出して欲しいんだ。」

「任せて!」

 

 と親指を立てるともえちゃん。ふ、と何かに思い至ったように続ける。

 

「あー、アタシもあれやりたいなー。」

「あれ?」

 

 ?マークを出すかばんさんにともえちゃんが拳を突き出してみせる。

 

「なるほど。」

 

 と博士がともえちゃんの意図に気が付いて拳を突き出してみせる。

 

「ああ。」

 

 と、それでかばんさんも何がしたいのかに思い至ったらしい。

 

「じゃあ助手がいないけど…。」

「大丈夫。アイツを何とかしたら今度は4人でやるんだから。」

「そうだね。なら……。」

 

 かばんさんが頷いてから…

 

「我々は?」

 

 と聞くと。

 

「「「かしこいのでー!」」」

 

 と三人の声が揃う。しかし…不安定な体勢で拳を突き上げようとしたともえちゃん、危うくバランスを崩しかけて博士とかばんさんもあわわ、と言わんがばかりに手を伸ばしかけて、危ないところでバランスを保つ。

 三人で、ふう、と安堵してから顔を見合わせて可笑しそうに笑いあうのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 そしてシーンはかわってともえちゃんが一人サーフィンボードを走らせる。

 

「だんだんコツがわかってきたよ…!」

 

 とスタンディング状態でわざとサーフィンボードを蛇行させてスラローム走行。超巨大セルリアンにつかず離れずの距離を保つ。

 (もう各妄想作画班の皆様に思う存分ともえちゃんのかっちょいいサーフィンシーンを作画しちゃって欲しいです!パイプ状の波をくぐったり波をジャンプしたりとかフリップ決めちゃったりとか色々と!)

 

「あれが、かばんお姉ちゃんが言ってたホテル跡だよね。」

 

 その行く手に崩れたホテル跡が見えてくる。かろうじて原型を留めているのは屋上のヘリポートくらいのものだがそこで一体何をしようというのか。

 とにもかくにもホテル跡に向かってともえちゃんはサーフィンボードを走らせる。

 そして超巨大セルリアンを引き連れたままホテル跡がもう目前まで迫っていた。

 

「あれ?そういえば、これってどうやって止めたらいいんだっけ?」

 

 とともえちゃんが漫画汗をたらしはじめる。この即席の船的なモノにブレーキなんて上等な代物がついているはずがなかった。

 そうこうしてる間にホテルの瓦礫が迫ってきて、後ろには超巨大セルリアン!

 

「うわぁー!?これムリムリムリ!?ムリだってばぁー!?」

 

 思わぬところで大ピンチのともえちゃん!

 

「まったく、詰めが甘いところまで誰かに似ているのです。」

 

 と横からかっさらうようにともえを空へと担ぎあげるのは…

 

「ミミちゃん助手!」

 

 …であった。

 

「でもかしこかったですよ。ともえ。」

「ありがとぉー!もうダメかと思ったー!」

 

 ここぞとばかりに助手をモフるともえちゃん。下の方ではホテル跡に激突したサーフィンボードがパッカーンと盛大に砕け散っていた。

 助手はそのまま飛び上がって屋上ヘリポート跡で待つイエイヌちゃん達にともえちゃんを預ける。

 そこへ博士とかばんさんもやって来ていよいよ全員集合だ。

 眼下に迫る超巨大セルリアンへと向き直り、そして博士と助手が一歩を踏み出す。

 

「さて、後は任せるのです。」

「我々の群れとしての力を見せるのです。」

 

(ここでBGMは『ようこそジャパリパークへ』イントロ開始と同時にホテル跡の瓦礫に身を潜ませた陸フレンズ達の目に次々光が灯って広がっていく。)

 

「チャンスは一度きりです!」

「やってやるのです!」

「「とっとと野生解放するのです!」」

 

 博士の号令でそれぞれに野生解放をはじめる陸フレンズ達。それに気づいた超巨大セルリアンがヴォオオオオオオオオと超音波の雄叫びをあげる、が……。

 

「「「「がぉおおおおおおおおおおおお!!!」」」」

 

 それに負けない獣の咆哮をあげて打ち消す陸フレンズ達!

 超音波攻撃が不発に終わった事に危機感を覚えた超巨大セルリアン。慌てて海中へ身を潜めようとするが……。

 

「「「「せーのぉ!!」」」

 

 と海フレンズ達が海中から一斉に超巨大セルリアンを押し上げる!

 

「これがチームプレイの力だよ!」

 

 と野生解放したシャチちゃんが最後の後押し!超巨大セルリアンの巨体を海上にまで打ち上げる!

 海上に顔を出した超巨大セルリアン。

 

「みんな!今だよ!」

 

 とかばんさんが合図すると一斉にホテル跡の瓦礫から躍り出て攻撃を加えていく陸フレンズ達!

 さらに博士助手をはじめとした鳥フレンズ達が一斉に急降下アタックを仕掛ける。

 フレンズ達の総攻撃を受けた超巨大セルリアン。じょじょにその船体にヒビが入りはじめる。

 

「今なら…アムちゃんのパワーなら…行けます!」

「がう!」

 

 屋上跡のイエイヌちゃんとアムちゃん。二人で頷きあうと手を取り合って屋上跡から海上の超巨大セルリアンへと飛び掛かる!

 

「アムちゃん、いっけええええええ!」

 

 とアムちゃんをぶん投げるイエイヌちゃん。

 

「ぐるああああああああああ!」

 

 と加速したアムちゃんはヒビの入った超巨大セルリアンの船体に拳を叩きつける!

 その一撃でヒビは広がっていき、超巨大セルリアンの船首部分がへし折れるようにして脱落。

 

―ギョオオオオオオオオ!?!?

 

 と悲鳴のような叫びをあげ、のたうつようにして逃げていく超巨大セルリアン。

 

「『石』までは破壊できませんでしたか…」

「でもあの傷ならほっといてもすぐに自壊するのです」

 

 と博士助手が遠くへと逃げていく超巨大セルリアンを見ながらつぶやく。超巨大セルリアンが負った傷は致命傷というに十分なものだ。

 

「「つまり。我々の勝利なのです」」

 

 その宣言に沸き立つフレンズ達。一撃入れたあと海に落ちた陸フレンズ達が最後の一撃を決めたアムちゃんの周りに集まっている。

 口々に「やったな!」とか「すごかったよー」って声をかけられて、しばらく「がう?」って周りをキョトキョトしてるけどやがて嬉しそうにてれてれしはじめてシーン終了。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 シーンはかわって海をバックにともえちゃんがかばんさんに二つの羽根がついた帽子を返す。そして、むふーってドヤ顔で拳を突き出してみせて博士と助手とかばんさんもその拳に自分の拳をコツン、と合せて4つの拳が空へと突き上げられる。

 そして砂浜にみんなで戻ってPPPライブしたりそれに目を☆マークにしちゃうともえちゃん。テンションマックスだ。

 消費したサンドスターを補給する名目のジャパリまんでの宴会やかばんさん&ヒグマ&ともえちゃん制作のカレーが振る舞われたりして勝利の宴は大盛り上がり。

 宴会も終わってゴコクエリアへと帰っていくナルカ、マルカ、ドルカ、カツオドリのみんなを手を振ってお見送りしたり、イエイヌちゃんに膝枕してもらって満足気に眠るアムちゃんとかだったりを描写しながEDイントロが開始される。

 そして歌い出しと同時にED開始。(EDイメージは巻末にて紹介させていただいています。)

(後ろに流れるお便りコーナーがともえちゃんが追加したフレンズ図鑑のページになってて、かばんお姉ちゃん、イエイヌちゃん、アムちゃん、コノハちゃん博士、ミミちゃん助手の順番で流れていく演出を各妄想作画班の皆様にお願いします。)

 

 

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 そしてCパート。

 海中に身を潜めた深手の超巨大セルリアン、ぐぼあー、と海中を漂うセルリウムや小型セルリアンを捕食していく。

 そして、その傷口からボコン、と音をたてて身体の一部が切り離される。

 その切り離された身体の一部が不定形な形のまま陸へと向かっていき第7話終了。

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 第7話『群れの力』

―おしまい―




次回予告

 海底火山にフィルターを張って平和な日常がやってきた。
 しかし、そんな平和になったはずの日常に忍び寄る影があった…。
 思わぬ試練にイエイヌちゃんが下した決断とは…。

 次回、けものフレンズ2after☆かばんRestart 第8話『たからもの』
 お楽しみに!


妄想元ネタ紹介


けものフレンズRオープニングイメージ。明るい雰囲気の歌に乗せた愛情たっぷりの絵柄がステキなオープニングです。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34990561


けものフレンズRエンディングイメージ。
たいせつな友達の別バージョン。お便り紹介が雰囲気があってすごい素晴らしいです!
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34878932



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第8話『たからもの』

これまでのあらすじ

 海底火山から生み出されるセルリウムを何とかする為に活動していたかばんさん。
 その道中で不思議な少女、ともえちゃんと出会う。
 二人でイエイヌちゃんのおうちで居候する事になり、色々あって元ビーストであるアムちゃんまで一緒に暮らす事に。
 研究仲間の博士や助手たちをはじめ沢山のフレンズの協力を得て海底火山にフィルターを張る事に成功したかばんさん達。
 襲い掛かってきた超巨大船型セルリアンもみんなで力を合わせて撃退してついに平和な日常がやって来るのだった。




けものフレンズ2after☆かばんRestart 第8話『たからもの』

 

 

 アバンはともえちゃんのモノローグから入る。

 

 海底火山にフィルターを張ってから、海は平和そのものみたい。

 セルリアンは小型のやつもめっきり減ったみたいだし、陸の方でもセルリアンは今までより減ってるって。

 あの後、コノハちゃん博士とミミちゃん助手は一度図書館に戻ってったの。今度料理を作りに来いって言われたんだー。

 コノハちゃん博士達らしいよね!みんなで遊びにいきたいなー。

 あとね。キュルルちゃんにもお手紙でもう安全な事は報せたみたい。お礼にもらった手紙にはアタシ達の絵が入ってたんだ!

 アタシとかばんお姉ちゃん、イエイヌちゃんにアムちゃんまで描かれてるステキなやつ!

 キュルルちゃんはアムちゃんと会った事ないよねって思ってたら、お手紙で報せてたみたい。

 以前、ビーストって呼ばれてた頃にキュルルちゃんとあってて今はアムちゃんになってる事をすっごい喜んでた。

 かばんお姉ちゃんやフレンズちゃん達が頑張ったおかげでパークは平和になったんだけどアタシには一つだけ不安な事が残ってるんだ。

 

 それは……

 

 

 というところでモノローグが終わってOPが開始する。

 (OPイメージは巻末にて紹介させていただいてます。)

 

 

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 場面はいつものイエイヌちゃんのおうちから開始。

 キュルルから新たに贈られた絵を飾ってそれを嬉しそうに眺めるイエイヌちゃん。

 (いつもの日常BGMがかかる感じでお願いします。BGMイメージは巻末にて紹介させていただいてます。)

 テーブルにはイエイヌちゃん&ともえちゃん作の朝ごはんが並んでて、アムちゃんがよだれダラーってなっててお預け状態だ。

 ともえちゃんとイエイヌちゃんがテーブルに4人分の朝ご飯を並べた頃に…

 

「ふぁああ……おはやぅう…」

 

 と相変わらず朝は残念なかばんさんが起き出してくる。そんなかばんさんに駆け寄るともえちゃん。「もー。」とか言いつつも手早く服だけでも直してくれる。

 そしてみんなで朝ごはん。

 アムちゃんは怒涛の勢いで朝ごはんを食べて口元が汚れてイエイヌちゃんに拭ってもらっている。

 で、かばんさんはイエイヌちゃんに淹れてもらったお茶を飲んでようやく目が冴えてくる。

 そして、その頃には朝ごはんを手早く食べ終わったともえちゃんがかばんさんの髪を梳かしたりしていつもの朝の風景といった感じ。

 でもって、朝ごはんの後は食後のお茶の時間である。

 イエイヌちゃんが毎日ちょっとずつブレンドを変えてくれる茶葉で淹れたお茶をみんなで飲む。

 砂糖の数までバッチリ把握しているイエイヌちゃん。

 かばんさんは砂糖なし。ともえちゃんは砂糖一つ。アムちゃんはちょっと多めで砂糖三つだ。

 丁寧に淹れたお茶にササっと砂糖を淹れてティースプーンでかき混ぜる。

 

「……」

 

 と、アムちゃんだけが自分の分のティーカップを見ている。

 続けて砂糖壺を見つめて、次にイエイヌちゃんの顔を見る。

 で、尻尾をタシンタシン、としながら何度も砂糖壺とイエイヌちゃんを交互に見比べるアムちゃん。

 その場にいる全員が言葉はなくともアムちゃんが何が言いたいのか理解していた。

 

 ねえ、もっとお砂糖いれないの?ねえ?

 

 くっ、と何かに耐えている表情のイエイヌちゃん。ぷるぷる、と震える手で砂糖壺に蓋をする。

 するとアムちゃんの表情が明らかに落胆の表情になる。

 それにイエイヌちゃんはくぅ!?と謎の鳴き声をあげながら電光石火の早業で砂糖壺からもう一つお砂糖を追加した。おまけでもう一つ。合計お砂糖5つである。

 パッと表情を輝かせるアムちゃん。イエイヌちゃんにめっちゃすりすりしていた。

 それをほっこりとした表情で見守るかばんさんとともえちゃん。

 

「ななななんですか。お湯に葉っぱ入れたヤツはそれぞれに美味しくいただければいいんです。うん。そうなんです。」

 

 と真っ赤な表情でぷいっとそっぽ向くイエイヌちゃん。

 それにかばんさんとともえちゃんは顔を見合わせて微笑みあうのだった。

 

 食後のティータイムの後はともえちゃんがかばんさんの髪を梳かして整えてくれる。いつもの日課、いつもの日常といった穏やかな時間が流れる。

 かばんさんの髪を梳かし終わったともえちゃん。ふ、とその表情がふ、と暗く曇る。

 

「うん?最近元気ないときあるよね?何か心配ごと?」

 

 ってかばんさんがたずねると…。すると、ともえちゃんはしばらく口を開くかどうするか迷ってから…。

 

「そうだよね。なんかこういうのはアタシらしくない気がする。」

 

 うん、と頷いてかばんさんの前に回ってじーっとその顔を覗き込むともえちゃん。顔が近い。

 

「ど、どうしたのかな?」

 

 と目の前にともえちゃんの顔があってタジタジのかばんさん。

 

「あのね。かばんお姉ちゃんはこの先どうするのかな?って」

 

 その言葉に場の空気が張り詰めたものに変わる。イエイヌちゃんも気づいたかのように後片付けをしてる手を止めてしまっていた。

 

「そういえばそうだよね。海底火山の件は落ち着いたみたいだし私も自分の研究所に戻るべきなのかなあとは思わなくもないんだけど…」

 

 そう。かばんさんは海底火山から吹き出るセルリウムを何とかする為にイエイヌちゃんの家に居候していたのだ。それが片付いてしまったら……。

 

「で、出来たらここにずっといて欲しいです!」

 

 慌てたようにイエイヌちゃんが割って入って、アムちゃんもかばんさんを逃がさないぞとばかりに後ろからのっすんと顎を肩にのっける。

 

「待って待って、実は次の研究ってとりあえず、ともえちゃんの事にしようかなって思ってたんだ。」

 

 みんなが慌ててるのを見て、かばんさんは手をふりふりしながら続ける。

 

「アタシの?どういうこと?」

 

 とみんなで?マークを浮かべるともイヌアム。それに頷いてから語り掛けるかばんさん。

 

「あのね。ともえちゃんってセルリアンに狙われやすい体質なんじゃないかなって思うんだ。この前の海の時もそうだったし、初めてキャンプした時もそうだったし。」

「そういえばそうだね。なんでなんだろうね」

「原因はわからないけど、今後もセルリアンに狙われやすいようだといくらイエイヌさんとアムちゃんが側にいても大変でしょ。だからそれを何とかできないかなーって考えてたんだ。」

「じゃ、じゃあ…」

 

 と期待に満ちた目でかばんさんを見るイエイヌちゃん。ともえちゃんもアムちゃんも同じように期待を膨らませてかばんさんを見る。

 

「もうしばらくはお世話になってもいいかな?」

 

 その言葉にイエイヌちゃんは満面の笑みで「もちろんですよ!」とかばんさんに飛びつく。その尻尾がちぎれんばかりに振られていた。

 ともえちゃんがセルリアンに狙われやすい体質かもしれない、という事は一大事ではあるが今はかばんさんがどこかに行かない、というのが堪らなく嬉しいのだ。

 

「そっかー。なんか安心しちゃったよ。」

「ほんとは私自身、ともえちゃんやイエイヌさんやアムちゃんと一緒にいたいっていうのもあるんだけどね。」

 

 ホッと胸を撫でおろすともえちゃんにかばんさんはイタズラっぽくてへっと小さく舌を出して見せる。

 

「アタシもかばんお姉ちゃんとイエイヌちゃんとアムちゃんと一緒がいいから嬉しい!」

 

 ってともえちゃんもかばんさんに飛びついてみんなに抱き着かれた状態のかばんさん。ハーレム状態だった。

 しばらくみんなでかばんさんにすりすり甘えてかばんさんも順番に皆を撫でてあげて幸せなひと時が過ぎる。

 ようやく満足したのか身体を離したイエイヌちゃん。ぽむ、と思いついたように手を合わせる。

 

「あの、みんなに私の宝物を見て欲しいんですけど、いいですか?」

「なになに、どんなの?」

 

 と興味津々な様子のともえちゃん。そんなともえちゃんにイエイヌちゃんは金庫を開けて中のお手紙や絵を持って来る。

 

「もしかしてこれってヒトが残したものなのかな…。」

 

 テーブルに広げられた手紙や絵をこちらも興味深そうに眺めるかばんさん。こちらはヒトの遺物として学術的な興味をそそられているようだ。

 アムちゃんはアムちゃんでクンクンと匂いを嗅いで興味を示している。

 

「それにこの絵ってキュルルちゃんが描いたものに似てるね。一緒に描かれているのはこれもヒトかなあ…」

 

 中でもかばんさんが一番興味を惹かれるのは絵であった。それはパークガイドらしき女性や飼育員らしき女性、サーバル、カラカル、イエイヌにヒトの子供たちが描かれた絵であった。

 

「随分昔、パークにまだヒトがいた頃のものだと思うんです。これを見てるときっといつか、このおうちにこのヒト達が戻ってきてくれるってそんな気がするんです。」

 

 とイエイヌちゃんがそっと絵と手紙を撫でる。

 

「うん、ステキな宝物だね。」

「がうがう。」

 

 かばんさんの言葉に頷くアムちゃん。そんな二人にイエイヌちゃんも嬉しそうな笑顔を見せる。

 

「そうだ。この絵、キュルルちゃんから貰ったやつと一緒に飾っておこうよ!」

 

 とともえちゃんが提案して、それにみんなナイスアイデア、とばかりに顔を輝かせる。

 二つの絵が額に入れられて並んで飾られてるシーンが描写されてシーン終了。

 

 

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 シーンが変わってジャパリバスが停車している場面を映す。その停車場所はかつてキュルルとともえちゃんが眠っていた施設だ。

 暗い中でかばんさんの持つボスウォッチが懐中電灯代わりに光を発して辺りを照らしながら進んでいく。

 暗闇の中でイエイヌちゃんのオッドアイが光を反射して光って見える。

 

「そういえば、イエイヌちゃんの目って左右で色が違ってキレイだよね。」

「ともえさんの目も左右でちょっとだけ色が違いますよね。」

「そういえばそうだね。じゃあアタシとイエイヌちゃんお揃いだね。」

 

 そのともえの言葉にほわわーんと蕩けて嬉しそうなイエイヌちゃん。

 

「ともえさんとお揃い…」

 

 と惚けているところに…。

 

「もえ?」

 

 自分は?と言いたげなアムちゃんが自分を指さしてたりしている。

 

「アムちゃんはふかふかの毛並みがイエイヌちゃんとお揃いで大好きだよー!」

 

 そんなアムちゃんも含めて二人まとめてギューしてダブルモフモフのともえちゃん。アムちゃんも「がうー♪」と嬉しそうにモフられるのだった。

 

「みんな、仲良しなのもいいけど暗いから転ばないように気をつけようね。」

「はーいっ!」

 

 かばんさんもそんな賑やかなみんなに合わせてゆっくりと歩いていく。道中は薄暗いけれどなんとも明るい一行だった。

 今日、ここへやってきたのは他でもない、ともえちゃんの為であった。彼女がセルリアンに狙われやすい原因を探る為に再びここを訪れたのだ。

 そしてたどり着いたのはともえちゃんが眠っていた機械の前だ。

 あの日、ともえちゃんが目覚めた時のまま機械は沈黙しており、開いた蓋のようなものの中にはキラキラと光るキューブ状の何かが敷き詰められていた。

 

「これってサンドスター…?ちょっと違う気もするけどサンドスターにそっくり…。」

 

 機械の中に敷き詰められた光っているキューブ状の何かを手にとって調べるかばんさん。

 

「カバン。この機械にハ、ボクじゃアクセスできないヨ。」

 

 そうして思い出すのは初めてともえちゃんと出会った時の事。確かに機械が自分の名前を呼んだのだ。

 〝暫定パークガイド、かばん″と。

 そこから一体何が考えられる?

 しばらくの間真剣な表情で考え込むかばんさん。

 ふ、と気が付くと横にともえちゃんがしゃがみこんでかばんさんの横顔を眺めていた。

 

「ん?どうしたの?」

 

 それに気が付いたかばんさん。ともえちゃんに笑いかける。

 

「ん?かばんお姉ちゃんが何か考えてる時の顔ってかっこよくて好きだなーって」

「あはは、ありがとう。私もともえちゃんの元気なとこ見てるとこっちも元気になれるから大好きだよ。」

 

 言って二人してでへへー、とてれてれし合う。

 

「ちょっと判ったかもしれない事があるし一度戻ろうか。」

 

 ってかばんさんが言ったところでシーンがかわる。

 

 

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 シーンはかわって暗い中、何かの息遣いのようなゴボゴボという音が響く。

 視点はその何かのもの。

 モノクロの世界の中、木々や岩を避けて進んでいく何か。

 モノクロの世界の中で小さく虹色に輝く光点がいくつも見える。

 しかし、その小さな輝きよりも大きな輝きを持った光点が近くに二つ。

 さらに、その大きめの二つの光点に近づいていくひと際大きな輝きをもった桁外れの光点が一つ。

 

 モノクロの視界を持つ何者かは手近にある大きめの二つの光点の方へと向かっていく。

 そして、ざぁっとモノクロの視界が晴れて通常の視点へと戻る演出が入る。

 小さく輝いている光点はフレンズ達。ひと際大きく輝いていたのはジャパリバスで移動中のともえちゃん。

 そして、モノクロの視界を持つ何者かが向かった先にある二つの光点は…イエイヌちゃんのおうちに飾られた二枚の絵であった。

 

 

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 施設での調査を一旦終えたかばんさん達。ジャパリバスで家路へついている。

 ジャパリバスの運転席でかばんさんが口を開いて調査結果の説明を始める。

 

「まだ仮説って段階だけど、ともえちゃんがセルリアンに狙われやすい理由に説明がつけられそうなんだ。」

「へー。アタシにはさっぱりだよ。アタシの事なのに。」

 

 と後部座席から運転席に身を乗り出すようにしているともえちゃん。かばんさんの話に聞き入っている。

 

「まず、ともえちゃんって身体の中に持っているサンドスターが普通のフレンズさんより多いんじゃないかな。」

「どうしてともえさんだけがそうなってるんですか?」

 

 ひょこり、とともえちゃんの上にのっかるようにイエイヌちゃんも運転席側に顔を覗かせる。

 

「うん。さっきの機械の中にはサンドスターによく似た何かがいっぱいだったんだ。その中で長い間眠っていたともえちゃんの身体の中には沢山のサンドスターが貯まったんじゃないかなーって考えたんだ。」

「さんど?すたー?」

 

 ってアムちゃんがイエイヌちゃんの上に乗っかるように顔を出す。

 三人でお団子みたいになっているともイヌアム。かばんさんの解説に聞き入る。

 

「サンドスターっていうのは動物をフレンズさんにしたりフレンズさんが身体を動かすのに必要なんだ。」

「はいはい!じゃあそれが沢山あるとどうしてセルリアンに狙われやすくなるの?」

 

 とともえちゃんが挙手するように訊く。

 

「えっとね、セルリアンに食べられたフレンズさんは元の動物に戻っちゃうんだ。それってセルリアンがフレンズさんの身体の中にあるサンドスターを食べちゃうからだと思うんだけど…。」

「つまり、セルリアンにとってはともえさんは沢山ご飯をもったフレンズに見えてる、って事ですか。」

 

 その解説にイエイヌちゃんは驚きを隠せない声で自分の予想を告げてみる。

 

「うんうん、イエイヌさんよくできました。」

 

 かばんさんも同じ考えなのだろう。イエイヌちゃんの言葉に頷いてみせた。

 

「それにね。フレンズさんにも私たちにもサンドスターって色んな影響を与えるものなんだ。だからアムちゃんが海岸で倒れてた時にサンドスターを殆ど消費しちゃってた状態だったのもビースト状態から今のアムちゃんになった理由の一つとして考えられるかもしれないんだ。」

 

 そんなかばんさんの続く予想に、アムちゃんはよくわからんとばかりに「がうー?」と小首を傾げる。

 

「あはは、その辺りも今度一緒に考えようね。」

 

 ジャパリバスはゆっくりとおうちへの道を進む。そうしてもうすぐおうちに辿り着く、という時。

 イエイヌちゃんがハッとしてバスの進む先に鋭い視線を向ける。続けてアムちゃんがグルルルと唸りはじめて、かばんさんもピクリと反応する。

 ともえちゃんだけが急に雰囲気が変わったみんなに戸惑ってきょときょととみんなを見渡す。

 

「キケン。キケン。近くニ、セルリアンがイルヨ。」

 

 ボスウォッチが危険を報せる声をあげはじめてようやくともえちゃんも気が付いた様子。

 

「でも…。この先っておうちしかないよね?」

 

 それにかばんさんはコクリ、と頷いてかなり手前でバスを停車すると運転席から降りる。

 その先のおうちへ鋭い視線を投げかける。

 すると、おうちの扉が開いて中からゾロゾロと表れるのはフレンズ型セルリアンにヒト型セルリアン!

 その数は十体を下らない。

 そのセルリアンの姿にハッとしたかばんさん。イエイヌちゃんの方をバッと振り返ると…

 

「あ……あ…」

 

 と尻尾が垂れてさっきまでの戦意を失っている様子のイエイヌちゃん。

(イエイヌちゃんの瞳に飼育員さん型セルリアンやミライさん型セルリアンの姿が映っている様子を描写しておいてください)

 かばんさんはイエイヌちゃんに何か声をかけようと手を伸ばし…けれど何か声を掛けられず、唇を引き結び、拳を固く握りしめて背を向けてセルリアン達に向き直る。

 

「ともえちゃんはイエイヌさんと一緒にいて。アムちゃんはともえちゃんとイエイヌさんを守ってあげてね。」(帽子に隠れてかばんさんの瞳が見えないように描写しておいてください。)

 

 かばんさんの声はつとめて冷静であろうとするように平坦だった。

 

「あ……でも…かばんさん…わたし…おうち…守らなきゃ…でもあれ…ヒト…」

 

 オロオロとかばんさんとヒト型セルリアンたちを見比べるイエイヌちゃん。

 

「イエイヌさんは優しい子だからね。偽物とは言ってもヒトの姿をした物と戦わせるわけにはいかないよ。大丈夫だからボクに任せて。」

 

 背中を向けたまま一人歩みを進めるかばんさん。

 

「あれ…?かばんお姉ちゃん…。いま、ボクって言ったよね…。」

 

(ここで対セルリアン戦BGMがかかる感じでお願いします。対セルリアン戦BGMイメージは巻末にて紹介させていただいてます。)

 足取りもいつもと変わらない。背中もいつもと変わらない。だけどその後ろ姿は初めてみるような気がするともえちゃん。

 かばんさんは足取りは変わらぬままに一人、居住区のアーチをくぐって敷地内へと入っていく。

 そんな彼女を嘲笑うかのようにゆっくりとフレンズ型とヒト型セルリアンがかばんさんに迫って来る。

 かばんさん型セルリアンがかばんさんの目の前に歩み出てくる。

 至近距離で睨みあい、対峙する二人。

 セルリアンの手が振り上げられて、かばんさんへと振り下ろされる。見守る三人が惨劇を予想する中…。

 スッっとかばんさんの身体が沈みこんで、セルリアンの懐に入り込みながら流れるようにその腕を巻き込む。

 そのまま投げっぱなし一本背負いをキメちゃうかばんさん!

 地面に叩きつけられてそのままパッカーンするかばんさん型セルリアン。

 

「今のはジュードーっていう技だよ。」

 

 パンパン、とジャケットについた埃を払うように叩きながら体勢を直すかばんさん。

 

 続いて本気で殴りかかりに来たアムちゃん型セルリアンの拳をほっぺ掠めるぐらいの紙一重でかわしながら、自分の掌底をアムちゃん型セルリアンの顔面に叩きこむ。

 

「で。これがクロスカウンター。相手の力も乗るからボクでも簡単にキミ達を倒せる技の一つなんだ。」

 

 パッカーン!と舞い散るサンドスターの中でほっぺに出来た傷を親指で拭ってから自然体の構えに戻るかばんさん。

 ええええ、と遠くで見守るともイヌアムの三人が驚きを見せる。

 

「前に海の外に行った時に見つけた技なんだけどね。フレンズさんと同じ姿をしていないといまいち使い勝手がよくないものが多かったんだよ。」

 

 さらに襲い掛かってくる飼育員さん型セルリアンを横にかわしながらその足をスパァアアン!と音たてて足払いして、体勢崩して転んだところに容赦なく顔を踏み抜き追い打ち。さらにもう一体をサンドスターに還す。

 

「ボクの前でフレンズさん型になったのは失敗だったね。」

 

 かばんさんが一歩を踏み出すと、怖気づいたように一歩後ずさるフレンズ型セルリアン達。

 

「なるほど。そちらから攻撃を仕掛けなかったらカウンターを喰らう心配はないってわけだ。」

 

 言いつつ構う事なくずんずん歩みを進めてヒト型セルリアンとの距離を詰めるかばんさん。

 距離を詰められて我慢しきれなくなったミライさん型セルリアンが拳を振り抜く、が再び紙一重でかわしながらさらにもう一歩を詰めて懐に潜りミライさん型セルリアンの顔をガシ、とつかみ。足払いキメながらそのまま後頭部から地面に叩きつける。

 

「まあ、こうやって追い詰めてカウンターする事もできるし、崩しっていう技もあるから攻撃しなくても無駄だよ。」

 

 ミライさん型セルリアンをパッカーンしたあと、ゆらり、と再び自然体の構えに戻るかばんさん。

 残るフレンズ型とヒト型セルリアンはかばんさんを油断なく取り囲む。

 

―ヴォオオオオオオッ!

 

 怒りの咆哮をあげるセルリアン達。それはまるで『喰ってやるッ!』とでも言っているかのようだ。一斉に四方八方からかばんさんに飛び掛かっていく!

 それに対し黒ジャケットを脱ぎ捨ててこちらも初めて構えらしい構えをとり吠えるかばんさん!

 

「喰えるもんなら喰ってみろッ!」

 

(シーンイメージイラストを巻末にて紹介させていただいてます。)

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「あ、あれ。かばんお姉ちゃん絶対怒ってるよね…」

 

 かばんさんを見守るともえちゃんの言葉にコクコク頷くイエイヌちゃんとアムちゃん。

 

「かばんお姉ちゃんだけは絶対怒らせないようにしようね……」

 

 そのともえちゃんの言葉に何度も何度も頷き続けるイエイヌちゃんとアムちゃん。

 

「でも……なんだかすごく嬉しいんです…。かばんさん、わたしの為に怒ってくれてる…。こんな時なのにすごく嬉しいんです…。」

「それ、なんかすっごいわかる。アタシもなんか嬉しいもん。」

「がう。」

 

 イエイヌちゃんの言葉に今度はともえちゃんとアムちゃんが頷く。

 

「かばんお姉ちゃん頑張ってー!!」

 

 ってともえちゃんが応援をはじめたところで再びシーンが戻る。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 おうちの庭先ではフレンズ型とヒト型セルリアン相手にかばんさんの大立ち回りが続いていた。

 次々に襲い来るフレンズ型セルリアンをかわし、いなし、そしてわずかな隙に的確にカウンターを差し込み一体、また一体とセルリアン達をサンドスターへ還していく。

 もうすでに半数以上を失ったフレンズ型とヒト型セルリアン達。

 前後から挟みこむように襲い来るイエイヌ型セルリアンにサーバル型セルリアン。

 それにイエイヌ型セルリアンに突っ込み対峙のタイミングをずらすかばんさん。

 イエイヌ型セルリアンが繰り出す爪の一撃をまたも紙一重でかわし、お互いの突進の力を利用したカウンターの掌底を顔面に叩きこんでさらに一体!

 そして、背後から繰り出されるサーバル型セルリアンの爪を振り返る事なく頭を下げてかわして、振り返り様に掌底の一撃を……。

 

「!?」

 

 叩きこめなかった。

 ほんの一瞬だけ。

 ほんのわずかな一瞬だけ、偽物とは言ってもサーバルちゃんの姿をしたセルリアンに心が揺らいでしまう。

 だが、そのほんのわずかな一瞬は致命的だった。

 続けて放たれたサーバル型セルリアンの蹴りをモロに受けて吹き飛ぶかばんさん。

 ズササーと地面を転がり2度転がってようやく止まる。

 

 確かにかばんさんは強かった。

 だけれどそれはフレンズのように強靭で頑強な身体を持っているわけではないのだ。

 ギリギリの綱渡りを華麗に続けてきただけだ。

 その綱渡りを支える心に揺らぎがあればいとも簡単にそれは崩れ去るのだ。

 その事に気づいたともえちゃん。

 

「アムちゃん!かばんお姉ちゃんを!」

 

 言うが早いかアムちゃんは雄叫びをあげながら突撃!凄まじい速度で一気にセルリアン達へ迫る。

 

「ダメだよ……。ともえちゃんから離れたら…。」

 

 未だ地面に倒れたまま立ち上がる事が出来ないかばんさんの目にもその光景は映っていたがか細い声はアムちゃんに届く事はなかった。

 そして、サーバル型セルリアンがニヤリといやらしい笑みを浮かべる。

 こちらに突撃してくるアムちゃんをドロリ、と不定形のスライム状に戻ってその脇をすり抜けるようにしてともえちゃんとイエイヌちゃんの方へと一気に迫る。

(セルリアンの身体の中には二枚の絵が取り込まれているのが見えている様子を描写して下さい。)

 イエイヌちゃんが前に出て迎撃態勢を取ろうとしたとき、絵の中の飼育員さんの顔に化ける不定形セルリアン。

 

「あ……」

 

 ビクリと身体を固くして動きを止めるイエイヌちゃん。その目の前でタコが獲物を飲み込むかのように身体を広げてイエイヌちゃんに迫る不定形セルリアン。

 

「イエイヌちゃん、逃げてぇ!」

 

 ともえちゃんが横からドンっとイエイヌちゃんを突き飛ばす。それでイエイヌちゃんは辛うじて難を逃れたが、不定形セルリアンにそのまま取り込まれるともえちゃん。

 セルリアンの一撃を受けて倒れたままのかばんさん。残るフレンズ型セルリアンからかばんさんを守るアムちゃん。最後の一体を倒したけれど距離はあまりにも離れすぎている。

 ともえちゃんを取り込んだ不定形セルリアンはボコリ、と飼育員さんの顔やともえちゃんの顔を作り出してニヤリとイヤらしい笑みを浮かべると逃走に入る。

 あっという間に距離を離す不定形セルリアン。

 

「あ…あ…」

 

 イエイヌちゃんの伸ばした手は空を切る。

 

(ここでイエイヌちゃんが超頑張ってる時に流れるBGMがかかる感じでお願いします。イメージBGMは巻末にて紹介させていただいてます。)

 

 ともえちゃんを取り込んだ不定形セルリアンはどんどんと遠ざかっていく。

 その事態にイエイヌちゃんの脳裏にフラッシュバックされるのは先ほどまで戦ってくれていたかばんさんの背中だった。

 

 そうだ。怒らなきゃいけなかったのは自分なんだ。

 自分にはあるじゃないか。ヒトが与えてくれた使命を守るよりも大切なものが。

 だから、これは…

 

「……そうだ…。これはわたしの戦いなんだ…!」

 

 ギチリ、とイエイヌちゃんの口が引き結ばれる。

 

「本当に守りたいもの…!それはおうちでも宝物でも使命でもなかったんだ…!」

 

 フラッシュバックで思い出されるともえちゃんとの思い出。かばんさんとアムちゃんと過ごした日々。

 バチバチ、と稲光のようにその瞳にそれぞれの色のスパークが散り始める。

 

「返せ…!」

 

 瞳の色と同じ輝く二本の軌跡を残し、イエイヌちゃんは放たれた矢のような速度で不定形セルリアンへ疾走。

 一気に追いすがる!

 

「その子はわたしの大切な友達だ…!」

 

 ずしゃしゃー!と不定形セルリアンの前方に回り込むイエイヌちゃん。

 

「使命よりもお留守番よりもずっとずっと大切なんだ…!」

 

 四つ足の低い体勢から鋭い猟犬の眼光が不定形セルリアンを射抜く。

 慌てたように不定形セルリアンが触手のように腕を伸ばして攻撃してくるが、その攻撃が貫いたのはイエイヌちゃんの残像のみ!

 

「ともえちゃんを……」

 

 凄まじい速度で不定形セルリアンの背後へと回り込んでいたイエイヌちゃん。

 バチバチとその瞳で散っていたスパークがついに炎となって宿る!

 

「ともえちゃんを返せぇえええええええええええええっ!」

 

 咆哮と共に野生解放したイエイヌちゃん。

 不定形セルリアンの作り出す偽物のヒトの顔ごと爪の一閃でセルリアンを四散させる!

 空中に解放されるともえちゃん。それをイエイヌちゃんは素早くキャッチした。

 

「ともえちゃん!ともえちゃん!無事ですか!?返事してください!」

 

 その呼びかけにともえちゃんの瞳が薄っすらと開かれる。

 

「えへへ…イエイヌちゃんにともえちゃんって呼んでもらえるの…なんか嬉しいね…」

 

 弱々しくその声に返事するともえちゃん。だんだんとその瞳が閉じられて…

 

「よかった…ともえちゃん…無事で…」

 

 イエイヌちゃんの瞳からも野生解放の光が消えていって、だんだんとその瞳が閉じられていく。

 

―バタリ。

 

 抱き合うようにして意識を失うともえちゃんとイエイヌちゃん。カメラは倒れた二人をとらえながら引いていき、フェードアウトしていく。

 

 という場面でEDへと移行する。

 (EDイメージは巻末にて紹介させていただいてます。今回EDは二人で歩く後ろで流れる絵が2話でフリスビーで遊んだり3話でモフられたり4話で海で一緒に遊んだり5話でアムちゃんとダブルモフモフしてたりする場面が流れてください)

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 イエイヌちゃんに四散させられた不定形セルリアン。

 その殆どがサンドスターへと還っていく中、小さなたったの一欠けらだけがどす黒いまま海へと逃げていく。

 その中にはともえちゃんの瞳と同じ赤色と碧色の光点が宿っている。

 その小さなセルリアンは海へとたどり着くと……何かを待つようにじっとしてて…

 そしてバクン!!と前触れもなくその小さなセルリアンを食べたのは深手を負った超巨大船型セルリアンであった。

 そのまま海へと姿を消す超巨大セルリアン。

 海は何事もなかったかのように静かにそれを見送った。 ってシーンで今度こそ8話終了!

 

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 第8話『たからもの』

―おしまい―

 

 

 




【次回予告】

 一時的に、とはいえセルリアンに食べられたともえちゃん。
 昏睡状態に陥ってしまうが、そこである夢を見る。
 それはかつての記憶の欠片だった。
 次回、けものフレンズ2after☆かばんRestart 第9話『かなたの記憶』
 お楽しみに!




妄想元ネタ紹介

けものフレンズRオープニングイメージ
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34990561
明るい歌と愛情溢れるイラストが素晴らしいオープニングイメージです。個人的にはこっちも大好き。


いつもの日常イメージBGM
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34855329
日常シーンでは何度でも流れてて欲しい優しい曲調の素晴らしい曲です。めっちゃ好き。


対セルリアン戦BGMイメージ
https://www.nicovideo.jp/watch/sm30941969
アニメ版のセルリアンのテーマをアレンジしたBGMですね。お馴染みの曲がさらに超かっこよくなってます!
カッコいいBGMにあわせてカッコいいかばんさんを妄想するときっと色々捗るかもしれません…。っていうか捗りました!


喰えるもんなら喰ってみろッ!
http://seiga.nicovideo.jp/seiga/im7607078
このかばんさんを見た時から自分の中でのかばんさんのイメージにこれが追加されてしまいました。
元ネタ的には1期1話のパロディだと思いますがあまりにもかっこよすぎてめっちゃ好きです。
今回はガチでこんな顔しててくれたと思っています。
かばんさんはね!カッコイイんだよっ!


イエイヌちゃんが超頑張ってる時に流れるBGMイメージ
https://www.nicovideo.jp/watch/sm35157296
曲名はOVER LIVEだそうです。すごいカッコイイ曲なんで是非。
イエイヌちゃんが野生解放する時には是非流れてて欲しいカッコいい曲です。


けものフレンズRエンディングイメージ
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34929655
エンディングイメージといえばこれ!曲も絵も素晴らしすぎて言葉が見つからないヤツです!


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第9話『かなたの記憶』

 これまでのあらすじ

海底火山にはフィルターを張って平和になった…。はずだった。
ともえちゃんがセルリアンに狙われやすい体質である事に懸念を覚えたかばんさんはその原因の究明に乗り出す。
しかし、その調査の帰り道、ヒト型セルリアンとフレンズ型セルリアンに襲われる。
ヒト型セルリアンに動揺するイエイヌちゃん。
しかし、ともえちゃんのピンチに博士達には止められていた野生解放で彼女を救い出す。
短い時間とはいえセルリアンに取り込まれたともえちゃんと野生解放で身体に負担のかかったイエイヌちゃんの二人は揃って昏睡状態に陥るのだった。


妄想元ネタ紹介

【9話特殊オープニングイメージ】
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34780729
パークに訪れた危機に立ち向かうフレンズ達とヒトのMMD動画です。完成度も高くて涙なしに見れない素晴らしい動画でした。
今回は見て頂きたいので巻末ではなく巻頭でのご紹介をさせていただいてます。




「うーん……はえ?ここどこ?」

 

 と目を覚ましたともえちゃん。

 そこは映画館の客席のような場所だった。

 全く寂れた様子もなくついさっきまで営業していたかのような雰囲気の客席。清掃も行き届いていて埃一つ落ちていない。

 そして隣の席にはイエイヌちゃんが寝ていて、ゆっくりと目を覚ます。

 

「あ、ともえさん。ここは…」

 

 そんな目を覚ましたばかりのイエイヌちゃんに顔を近づけてイタズラっぽい笑みを浮かべるともえちゃん。

 

「あれー?ともえさんって呼び方なのー?」

 

 そんなともえちゃんの顔が間近にあるイエイヌちゃん。しばらく逡巡して顔を真っ赤にして瞳を伏せるようにしてから…。

 

「その…。えっと…。ともえ…ちゃん…。」

 

 と真っ赤な顔のまま消え入りそうな声で絞り出すイエイヌちゃん。

 

「もう!もう!可愛いなあ!大好き!」

 

 そんなイエイヌちゃんを思いっきり抱きしめてモフモフギューしまくるともえちゃん。とても嬉しそうであった。

 そうしていると二人の座っている座席がいつの間にかカップルシートのようになっていた。

 そして…

 

―カシャン

 

 という音とともに二人の両隣の席にスポットライトが当てられる。

 

「おや。招かれざる友人もここにたどり着いたか。」

「二人が繋がった事で本来ここにいるべきでない友人もここに来てしまったという事か。」

 

 そこには真っ黒な二人のフレンズがいた。

 

「私はカタカケフウチョウ。」

「私はカンザシフウチョウ。」

「アタシはともえ。」

「イエイヌです。」

 

 そんな二人の真っ黒なフレンズ達の名乗りに自己紹介を返すともえちゃんとイエイヌちゃん。

 二人の自己紹介を受けたフウチョウコンビは揃って頷きながら続ける。

 

「知っているよ。我々は黒いからね。」

「我々の黒は光をも吸い込む本物の黒だからな。」

 

 そんな物言いのフウチョウコンビ。

 

「本当だ!これは黒い!」

 

 いつの間に近寄ったのか。言いつつともえちゃんのダブルモフモフがフウチョウコンビに決まっていた!

 

「やーめーてー!」

「急にモフらないでー!」

 

 じたばたするフウチョウコンビをモフり続けるともえちゃん。イエイヌちゃんは一つ嘆息すると…

 

「いや、黒さはどうでもいいんじゃないでしょうか…」

 

 とようやく一言ツッコミを入れるのだった。

 

 そうして一つの席にまとめられたフウチョウコンビにともえちゃんとイエイヌちゃん。

 ともえちゃんは両脇にフウチョウコンビを抱えてイエイヌちゃんの脚の間に座り背もたれのようにしちゃうという完璧なモフモフフォーメーションでご満悦だった。

 

「今から見るのはかつてのともえの記憶。」

「ともえがセルリアンに触れた事で見る昔の夢。」

 

 そのフウチョウコンビの言葉に納得顔のともえ。

 

「あ、今はアタシたち夢の中なんだ。」

「そう。現実のあなた達は今は眠っている。」

「時が来れば自ずと目を覚ます。」

 

 そうこうしていると、映画館の上映ブザーがビーッと音を立てる。

 

「「さあ、真実を知ってお前たちはどうする?」」

 

 ともえちゃん達の見るスクリーンに文字が映される。

 

―けものフレンズ2after☆かばんRestart 第9話『かなたの記憶』―

 

(カタカタとキーボードの音がして文字が削りとられ)

 

―けものフレンズ R―

 

(の文字が残る。そして再びキーボードの音がして文字が入れ替えられる)

 

 

―けものフレンズ zeRo-

 

 

 そうしてスクリーンに9話特殊オープニングが映されていく。(特殊OPイメージは巻頭にて紹介させていただいています。)

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 子供達のキャイキャイという歓声が響き渡る遊園地。沢山のフレンズ達が子供達と一緒に遊んでいたり大賑わいだ。

 そこに車椅子に載せられた女の子が一人登場する。黒髪の女の子はともえにそっくりの外見をしていた。

 その後ろをイエイヌのフレンズが押している。ちょっとだけ毛足が長めで身長も少しだけ高く、ほんの少し大人っぽい印象があるイエイヌちゃんだ。

 

「もえさん、寒かったりとか平気ですか?」

「むー。」

 

 イエイヌちゃんの言葉にむくれたようにほっぺを膨らませてみせるもえと呼ばれた車椅子の少女。

 イエイヌちゃんはしょうがないなあ、とでも言うように一つ嘆息するともう一度言い直す。

 

「もえちゃん。寒かったりとか平気ですか?」

「うん。平気だよ、イエイヌちゃん。」

 

 と今度は満面の笑みで返すもえちゃん。

 

「それにしてもせっかく遊園地に来れたのにもえちゃんと乗れる乗り物が少ないんですね。」

「うん、それは元気になった後の楽しみにしておくよ。ジェットコースターとか!イエイヌちゃん一緒に乗ろうね!」

 

 と目を☆マークにしちゃうもえちゃん。

 

「うへぇー。それは多分わたし苦手ですぅー」

 

 対してイエイヌちゃんはお耳をへにゃん、とさせてしまっていた。

 

「じゃあ、こっちがいい?」

 

 もえちゃんが取り出したのはフリスビーだった。

 

「そっちがいいです!」

 

 今度は打って変わって尻尾ぶんぶんさせるイエイヌちゃん。既に目がキラキラと輝いている。

 車椅子を押して周囲にあまり人のいない広場へ移動する二人。

 

「じゃあいくよー。えい。」

 

 もえちゃんの投げたフリスビーはふよふよ、と短い距離を飛んで勢いを失い地面に落ちようとする。

 そこをすかさず飛び出したイエイヌちゃんが地面につく直前に華麗にキャッチ。

 得意気な顔で振り返ってみせて冷静を装った顔に戻ってからもえの元に戻るとフリスビーを返す。

 その尻尾はぶんぶんと勢いよく振られていた。

 

「すごいすごい、イエイヌちゃんさすがだね。じゃあもう一回ねっ。」

 

 再びフリスビーを構えると嬉しそうに目を輝かせるイエイヌちゃん。さらに数回もえの投げたフリスビーをイエイヌがキャッチする展開が続く。

 いずれも地面に落ちる前にキャッチしてみせる。

 無茶苦茶ドヤ顔であった。

 何度かそれを繰り返すと、もえちゃんの息があがってしまう。

 

「あっ、ごめんなさい。楽しくてつい…。」

 

 慌ててもえちゃんに駆け寄るイエイヌちゃん。心配そうに背中をさすってあげる。

 

「ううん。アタシも楽しかったから。」

 

 もえちゃんは笑いながら近づいていたイエイヌちゃんの身体に手を回してギュっと抱き着きなでなでモフモフ。

 それにイエイヌちゃんは尻尾を揺らしてされるがままになっている。

 

「ねえ、イエイヌちゃん。元気になったらまたフリスビーしようね。」

「はい。約束です。」

「ねえ、イエイヌちゃん。アタシね元気になったら沢山のフレンズちゃんと友達になりたい。」

「なれますよ。もえちゃんなら」

「でもってみんな撫でさせてもらうんだ。」

「ええ。わたしがヤキモチ焼かないか心配ですが。」

 

 ふふ、とお互いに顔を見合わせて笑いあう。

 

「それでね、フレンズちゃんと狩りごっこするんだ。アタシだって負けないんだから。」

「はい、元気になったもえちゃんなら勝てそうです。」

「それとね。いつか海で遊んでみたい。」

「はい。一緒に行きましょう。水着も用意しておかないとですね。」

 

 一つ一つに丁寧に応えていくイエイヌちゃん。

 

「でも、しばらくの間イエイヌちゃんと離れ離れなの寂しいな…。」

「大丈夫です。いつまででもお待ちしてますから。約束です。」

 

 言いつつもう一度ギュっと抱きしめあう二人。少しの時間がそのまま過ぎていく。

 と、そうしていると…。

 

「ったく明日がもえの手術だってのに今日くらい仕事休めってんだ。おーい!もえー!いぬー!」

 

 と手をふりふりしながらくたびれた感じのフライトジャケットを羽織ったおじさんを連れてくるのはアムちゃんだった。

 アムちゃんの方は身長がイエイヌちゃんよりも低い。でもって毛足も少し短めで少し子供っぽい印象がある。

 新たに現れた二人の姿を認めたもえちゃんはパッと顔を輝かせる。

 

「あ、お父さん!アムちゃん!」

「もうー!アム副長!わたしはイエイヌですー!」

 

 そんな事を言いつつ二人の元へ移動するイエイヌちゃんとともえちゃん。

 

「悪かったな、もえ。イエイヌ。またセルリアンが出ちまってな。せっかく手術前に遊園地に一緒に行こうって約束してたのにな。」

 

 父親はもえちゃんの前に片膝をつくと申し訳なさそうな苦笑を浮かべてみせる。

 

「いえいえ、お仕事ごくろうさまです。お父さん」

「はい、もえちゃんの事はお任せ下さい。分隊長。」

 

 揃って同じように敬礼してみせるもえちゃんとイエイヌちゃん。イエイヌちゃんの方は随分と様になっていた。

 

「けど、後は明日の夜までは休暇だ。」

 

 と、これまた苦笑の父親。その後ろではアムちゃんがやってやったぜ。と言わんがばかりの得意満面を見せていた。

 

「いいか?分隊長。お前は意地でももえの手術開始まで見守ってやれよ。このワーカーホリックめ。隊の方はアタシに任せておけ。万が一にももえをほったかして戻ってくるような事があったら全員で鉛玉をケツにぶち込むからな。」

 

 ビシィ!と父親に指をつきつけるアムちゃん。そんなアムちゃんをイエイヌちゃんが撫でている。

 

「ええ。偉いですよ、アム副長。」

「いぬー!もっと褒めろー♪」

 

 嬉しそうにイエイヌちゃんに抱き着きすりすりするアムちゃん。

 そうしてから名残惜しそうに身体を離して、今度はもえちゃんに抱き着く。

 

「もえ。アタシは見送ってやれないけど。頑張ってこい。お前ならやれる。」

「うん。ありがとう、アムちゃん。」

 

 嬉しそうな笑顔でアムちゃんのモフモフ堪能中のもえちゃん。

 

「次会う時は元気になったもえだな。どっちのもえも大好きだからな。」

「うん、アタシもアムちゃん大好きだよ」

 

 もう一度ギュっとしてからシーンが切れる。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 シーンはかつての居住区へと移る。

 おうちの中。リビングのテーブルにつくのはもえちゃん。父親。イエイヌちゃん。そしてミライさんにカコ博士。

 家具の配置はともえちゃんが暮らしているイエイヌちゃんのおうちと全く同じだ。

 

「じゃあ最後にもう一度説明する。理解したら同意書にサインを。」

 

 とカコ博士が話はじめる。それにミライさんをのぞく全員が頷いていた。

 

「まずは、とおさかもえ。キミの病気の概要と治療方法から説明する。もえ。キミは先天的に身体の中に持つサンドスター量が多過ぎるんだ。」

 

 全員を見回しながら続けるカコ博士。一度言葉を切ったのは続く言葉が重たいものだからだろう。

 

「その多すぎるサンドスターが内側からキミの身体を壊そうとしている…これが病気の原因でこのままではキミの余命は長くても数年といったところだろう。」

「うん、カコ先生がいつも説明してくれるからそこは大丈夫だよ。」

 

 その過酷な事実にこれから立ち向かう。その真剣な表情でもえは頷きを返した。

 

「で、だ。そこでサンドスターポッドを使って新たに『進化』の特性をもったサンドスターをもえに付与する。そうする事でもえの身体を大量のサンドスターに耐えられる身体に『進化』させるのが治療の方針だ。」

 

 さすがにそれには一度キョトンとした表情を浮かべてしまう。

 

「そっかあ…アタシ、進化しちゃうのかー…なんかピンとこないね。」

 

 それに苦笑を浮かべるカコ博士。少し言葉を探すようにしてから続ける。

 

「大仰に言ってしまったが、こう言えばピンとくるかもしれないな。ヒトのフレンズになる。と」

「そっか!アタシもフレンズちゃんになれるんだ!イエイヌちゃんやアムちゃんとお揃いだね!」

 

 って今度は大喜びのもえちゃん。イエイヌちゃんは「もえちゃんとお揃い…」ってほわわーんとした表情を浮かべていた。

 

「で、その『進化』はゆっくりとした速度で行われるので、もえにはサンドスターポッドの中で長い時間眠りについてもらう事になる…。いつ目覚めるのか…それは確約できない。」

 

 と表情を曇らせるカコ博士。この仲の良さそうな家族を引き離さねばならない。いくら治療の為とはいえ胸の痛む事だった。

 

「うん。そっかあ…イエイヌちゃんは寂しくない?」

「寂しいですがもえちゃんが元気になってくれるならずっと待っています。約束だってしましたからね。」

 

 もえちゃんに微笑むイエイヌちゃん。

 

「いずれにしても目覚めたらしばらくはこのジャパリパークで経過観察になる。これもいいか?」

 

 とカコ博士が続けて

 

「つまりパーク内で遊び放題!?」

 

 それに対してもえちゃんの目が☆マークを宿す。

 

「遊び放題…とはいかんかもしれんが遊ぶ時間くらいはあるさ。」

 

 というカコ博士の言葉にやった!って小さくガッツポーズのもえちゃん。少しの苦笑を浮かべながらカコ博士はさらに説明を続ける。

 

「次に、サンドスター治療の副作用として予想されるのは身体能力の向上だ。実際に足が速くなる程度のものから、オリンピック選手なみの身体能力になるのか、はたまたヒトと呼べないレベルになってしまうのか。それは予想がつかない。」

「そっかー…たくさん走れたりするといいなー。イエイヌちゃんとフリスビー追っかけて競争とかしてみたい」

「そうか。」

 

 ふ、と優しい顔で笑うカコ博士。結構重たい事を言ったつもりだったのだが、この少女は前だけを見ているのだな。と胸中で感嘆するカコ博士である。

 

「そしてこれは大した問題ではないだろうが…外見の変化が予想される。髪色が変化したり瞳の色が変化したりサンドスターの影響が大きいと爪の色も変化するかもしれないな。」

「ほへー…。不良って言われないかな?平気?」

「もえちゃんはいい子ですから大丈夫ですよ。」

 

 そして、そちらの方が大問題、とでも言いたげなもえにすかさずフォローのイエイヌちゃんである。その優しい微笑みにもえちゃんもほっと一安心の様子だ。

 

「あとは…。サンドスターの影響で一時的に記憶に混濁が見られるかもしれない。忘れたまま思い出せない事も出てくるかもしれない。」

「大丈夫。なんでだかよくわかんないけど忘れる出来事があってもアタシはアタシな気がしてる。」

 

 またまた告げられる重たい事態に即座に返すもえ。

 

「頼もしいな。」

 

 今度こそカコ博士の口から感嘆の声が漏れた。それに何故かイエイヌちゃんがドヤ顔になっていた。

 

「もえちゃんはスゴイんです。」

 

 もう得意満面なイエイヌちゃん。尻尾はぶんぶん揺れていた。

 

「ちなみに、思い出を忘れた代わりに、今まで知っていた事を身に着ける、という可能性もあるぞ?例えばだが本で読んだだけの技術を目覚めたら高レベルで再現できたりな。」

「おおー!ミライお姉さんがたくさん本を貸してくれてたから、アタシもしかしてスーパーアタシになっちゃうかも!?」

「そうですね。もえちゃんは本を読むのが好きでしたから目が覚めたらスーパーもえちゃんになってますよ。」

 

 とイエイヌちゃんがふふ、と可笑しそうに笑って。

 

「ねえ。イエイヌちゃん。もし思い出せない事があっても…。」

「はい!絶対に教えますよ!しかも忘れた思い出よりもたくさん新しい思い出も作っちゃいます!」

 

 少し表情を曇らせようとしていたもえちゃんに即座に詰め寄るイエイヌちゃん。なんだか嬉しくなってもえちゃんはイエイヌちゃんを抱き寄せる。

 

「そして最後に…。これは努力目標になるんだが…。目覚めた後は絶対にセルリアンに喰われるな。」

「そりゃあ食べられたくはないけど、なんで?」

「もえに付与されるサンドスターの特性には『進化』というものが含まれると説明したな?もしももえが喰われたら、その喰ったセルリアンが進化してしまう可能性がある。」

 

 ゴクリ、と一同が息を呑む。最近父親が多忙なのはセルリアンが以前にも増して頻繁に出現するようになったからだ。

 何かの異変の前触れではないか、と言われているがそれは今は関係がない。

 

「セルリアンが進化なんてしたらどうなるのか見当もつかない。もしかしたらパークどころか世界の危機に発展するかもしれない。だから絶対に進化の輝きはセルリアンに奪われるな。」

「それを頑張るのは俺たちセルリアンハンターの仕事だ」

 

 と父親が頷く。

 

「ありがとうお父さん。アタシも全力で頑張るよ。」

 

 そうやって頷くもえちゃんの頭を父親がわしわしと撫でてあげる。

 そうしてから続ける父親。軽く挙手する。

 

「一つ気になったんだがいいか?セルリアンがそのサンドスターポッド自体を喰ったらどうなるんだ?やはり進化しちまうのか?」

 

 その父親の疑問に即座にカコ博士は首を横に振る。

 

「いいや。サンドスターポッドはもえ専用に調整してあるからポッド内のサンドスターで『進化』できるのは、もえだけだ。」

 

 少し意地悪そうな笑みを見せてからカコ博士は続ける。

 

「これももえが長い検査ばかりの日々を耐えてくれたおかげだ。キミはもう少し自分の娘を誇りたまえ。」

 

 とのカコ博士の言葉に父親はなんだかむずがゆそうな顔をして頭の後ろをかくのであった。

 

「以上で説明は終わりだ。同意するならサインを。」

 

 とカコ博士が言うと、もえちゃんと父親が医療計画書にサラサラと躊躇いなくサインする。

 満足気にカコ博士が頷くと、入れ替わるようにして今度はミライさんが話はじめる。

 

「まずサンドスター治療を受けてくれてありがとう。この世界初の試みが成功したら同じ病気で苦しむ人を救えるかもしれない。」

「こちらこそ、今日までありがとう。ミライお姉さん。そうだ、ミライお姉さんに借りてた本をお返ししないとね。イエイヌちゃん、お願い出来る?」

「はい。お任せ下さい。」

 

 とイエイヌちゃんが大量の本を持って来る。

 

「どうでした?面白かったですか?」

「うん、とっても。海外の冒険家さんが書いたサバイバル本とかが超好き!あとねキャンプ本とかいろんなスポーツの本も楽しそうでよかったし料理本も美味しそうで面白かったなー」

 

 嬉しそうに本の思い出を語るもえちゃんにミライさんも嬉しそうな笑顔を見せる。

 

「なるほど。もえちゃんの好みはアウトドア系のハウツー物がメインですね。元気になったら一緒に実践しましょう。もしかしたらスーパーもえちゃんになってるから私よりも上手かもしれませんよ。」

 

 とこちらも可笑しそうに笑ってから

 

「で、これは私からのプレゼントです。」

 

 と服を一式差し出すミライさん。それは今ともえちゃんが着ているのと同じデザインのものだ。

 青色のベストに黒の長袖インナーにハーフパンツ。丈夫そうなブーツと一本の羽根飾りがついた帽子も添えられていた。

 

「そして、これとー、これ」

 

 と肩掛けカバンにフレンズ図鑑と筆記用具を追加で出してくるミライさん。

 

「もえちゃん。明日はそれを着て来て下さい。元気になったらすぐ冒険に出られるように。私、もえちゃんをガイド出来る日を楽しみにしてるんですから。」

「うん!ありがとう、ミライお姉さん!ガイド、お願いね。」

「ええ。約束です。」

 

 言いつつ二人は小指を絡ませる。

 

「あのね、ミライお姉さん。一つお願いしてもいい?」

「なんですか?もえちゃん。」

「フレンズ図鑑ね…。こっちの新しいのじゃなくて今まで借りてた方じゃダメ?」

「あれ、私のお下がりですよ?結構古いですし…。」

「うん、だからいいの!ミライお姉さんがフレンズちゃん達の事教えてくれてるみたいで大好きなの…!」

 

 っていうもえちゃんの言葉に何かが直撃した顔のミライさん。

 

「おとうさん、もえちゃんをわたしにください。」

「やらん。」

「あげません。」

「ミライー。帰ってこーい。」

 

 と呆れ顔の父親とイエイヌちゃんとカコ博士。

 と、楽しそうな団らん風景をバックに、カメラはともえちゃんの帽子と服と肩掛けカバンから覗く古ぼけたフレンズ図鑑を映す。

 そこに名前が「とおさか もえ」と書かれている様子を映してシーン終了。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 そこからはダイジェスト形式で父親、イエイヌちゃん、ミライさん、カコ博士に見送られてともえちゃんと同じ服を着たもえちゃんがサンドスターポッドにいれられる。

 フレンズ図鑑のイエイヌちゃんのページに『たいせつなともだち!』と手書きで追加したのをイエイヌちゃんに見せると涙を堪え切れないイエイヌちゃん。

 そして父親にはアムールトラのページを見せて、そこにも手書きで『とても強くてカッコイイ!』と追加されてるのを見せて、父親がもえちゃんの頭をぽんぽんと撫でる。

 そうしてお別れがすんだ頃に皆に見守られながらサンドスターポッドの蓋が閉じる。

 長い長い眠りの時の開始だ。

 

 それからは、何度もサンドスターポッドを訪れるイエイヌちゃん。日々が過ぎていっても毎日通ってる様子。

 サンドスターポッドに背中を預けてもたれてみたり、うろうろしてみたり、ヒマワリを持ってきたり、紅葉を持ってきたり

 途中一度、この医療研究所が慌ただしくなった事があった。

 セルリアンの女王が…。ヒトの子供が襲われた…。無事に助け出された…。何かを残した…。

 そんな断片的な話がイエイヌちゃんの耳にも届いていたがよくはわからなかった。

 ただ一つ。この医療研究所に何かが運び込まれた、という事だけは分かった。

 そんな日々を過ぎても未だ変わらずもえちゃんのサンドスターポッドは開かないままだった。

 

 とある日。

 そんな日々は最悪の形で終わりを告げる。

 ジャパリパーク内の火山が突如活動を活発化。サンドスター・ローを大量に放出しセルリアンが大量発生。

 政府はジャパリパークの閉鎖を決定。全民間人の避難が開始された。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「ダメだ。今、もえのポッドを開いても治療は完了していない。治療を途中で止めた場合、命の保障すらできない。」

「だろうな。」

 

 もえの眠るサンドスターポッドの前で二人揃って苦虫を噛み潰したような表情のもえの父親とカコ博士。

 父親はゴツイ真っ黒なプロテクターに身を包んで、その肩には自動小銃を担いでいる。

 

「ポット自体を動かす事が出来ない以上もえは置いていく他ない…。だが、ただ置いていくわけではない。」

 

 言いながら、カタカタカタ、とキーボードを叩くカコ博士。

 

「サンドスターポッドに設定をしておいた。治療が済んだ後はもえ達は休眠状態になる。サンドスターのおかげで歳をとる事もなく飢える事もなく眠り続ける事になるだろう。」

「つまり、この中でもえはコールドスリープするようなものか…。」

 

 唸るような声で絞り出す父親。それが現状で出来る最善ではあるが納得は出来ないのだろう。

 

「そう。そして休眠状態を解くパスコードは彼女の名前。それを医療関係者のみならずパーク関係者であれば誰でも入力を受け付けるように設定してある。」

 

 と、胸ポケットから禁煙パイポを取り出し、ふぅと落胆してからそれを戻すカコ博士。

 

「ラッキービーストネットワークからは独立しているが、パーク職員リストに接続しているからこの先にパーク関係者になった者でも入力できる。」

 

 コツコツ、と父親の方へ歩み、その目を覗き込むようにしながら続ける。

 

「それこそ、新人のなり立て飼育員や一日体験パークガイドだって大丈夫。音声入力でもかまわんよ。」

 

 カコ博士の言葉の一つ一つが父親にこう言っているのだ。これ以上の手はない。納得しろ、と。

 

「いつかここに人が戻ってもえを目覚めさせる可能性はゼロじゃない。そういう事か」

 

 と父親がサンドスターポッドを見つめて複雑そうな表情を浮かべる。これ以上カコ博士に悪役をさせるのも悪い、と折れた格好でもある。

 

「私に出来るのはこのくらいだ…。すまない。」

 

 ふう、と嘆息すると苦笑とも言える複雑な笑みを作る父親。

 

「いいや。ありがとう。博士は最善を尽くしてくれた。もえもきっとそう言ってくれるさ。」

 

 その言葉にカコ博士は悔しそうに唇を噛みしめて視線を落とす。

 

「博士は行ってくれ。俺には…まだやらなきゃならん事が残ってる」

「ああ。四神がフィルターを張ったとしてもセルリアンは残る。あいつらを駆除しないといつまで経ってもパークは再開できんからな。頼んだ。」

 

 とカコ博士は暗い表情のままで踵を返して去っていく。

 その場に残ったのは、父親とサンドスターポッドの前のイエイヌちゃんの二人のみ。

 サンドスターポッドの前にはイエイヌちゃんが微動だにせず父親に背中を向けている。

 まずは彼女の名を呼ぶ父親。即座に

 

「わたしはここに残ります。」

 

 と返事が返ってくる。きっと何をどう言ったところでその返答を変える気はないのだろう。

 

「そうだよな。お前ならそう言うと思ったよ。だから…。留守番を頼む。もえともえの帰るうちを守ってやってくれ。」

 

 そこでハッとした表情で振り返るイエイヌちゃん。その物言いに父親が含まれていないではないか、と言いたげだ。

 

「実はな。政府のバカどもが核搭載の無人爆撃機をこちらに飛ばしたらしい。核で無理やり異変を鎮めようって算段のようだ。せっかく四神がフィルターを張ってくれてもこれじゃ台無しだ。」

 

 そんな…。と絶望の表情を浮かべるイエイヌちゃんの頭を父親がぽむぽむ、と撫でる。

 

「ってわけで俺はちょっと爆撃機を堕としてくる。」

 

 ちょっとそこまでお散歩に。そのくらいの気楽さで言う父親。

 無茶だ、という言葉を飲み込むイエイヌちゃん。

 

「なあ、イエイヌ。もえの友達でいてくれて、俺たちの家族でいてくれてありがとう。もえの事、頼むな。」

 

 しばらくの間迷うように言葉を探すイエイヌちゃん。

 だが、結局出てきた言葉はたった一言。

 

「はい。お任せ下さい。」

 

 それだけだった。

 イエイヌに満足気な笑みを見せる父親。胸ポケットからマジックペンを取り出すとキュポっと蓋をとりサンドスターポッドに走り書きをしていく。

 

 

『Message to Moe』

もえへ。

沢山友達を作ってくれ。沢山笑ってくれ。沢山美味いもんを食ってくれ。

そうしたら俺は幸せだ。

最後にもえを目覚めさせてくれたヤツへ。出来れば、もえの家族になってやってくれ。

 

 

 と書き残された文字を映してシーン終了。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 四神が張ったフィルター。フレンズ達の奮闘。そしてセーバルのおかげでパークの異変は治まりつつあった。

 そんな中、火山の頂上付近にいる父親とアムちゃん。

 

「しっかし分隊長、ほんとにいいのか?クビじゃすまねーぞ?」

「いいに決まってんだろ。それに除隊してパークガイドになんのが俺の夢だったんだよ。それが早まるなら願ったりかなったりさ」

 

 セルリアンハンターの黒いプロテクターに身を包んだ二人。遠くの空を眺めながら軽口を叩きあう。

 

「分隊長がパークガイドぉ!?にあわねー!」

「いいだろ!?夢くらい見させろ!」

「ガイドは無理でもアタシ専属の飼育員にだったら雇ってやってもいいぞ?」

「お前の我がままに年中付き合わされるとか身体がいくつあっても足りねーよ!?」

 

 と軽口を叩きあう二人。そのおしゃべりがピタリ、と止んで遠くの空に揃ってギラリ、と鋭い視線を投げかける。

 そこにキィイイイイイイと航空機の爆音が響く。

 

「よっしゃ。ほんじゃあアムールトラ副長。ちょっくら頼むわ。」

「ああ、チャンスは爆撃機が高度と速度を落として投下体勢に入る一回しかない。上手く決めてくれよ。」

 

 ガシャガシャ、とプロテクターを外す父親。

 肩に歩兵携行用の地対空ミサイルを抱える。

 やがて爆音を響かせながら火口に核を落とそうと近づいてくるステルス無人爆撃機。

 

「よし!今だ!」

「いくぞ!分隊長!ぐるああああああああああっ!!」

 

 咆哮と共に野生解放したアムちゃん。

 助走をつけて父親を掴み上げるとそのまま空高くへとぶん投げる!

 一気に空高く舞い上がる父親。歩兵携行用地対空ミサイルの狙いを定める。

 

「歩兵がステルス爆撃機を堕としちゃいけないなんてルールはなかったぜ!」

 

 揺れる視界の中でLock on!

 カチリ。と引き金を引き絞る。

 放たれた対空ミサイルは無人爆撃機に直撃。火山の中腹へと墜落していく。

 

(BGMがここで入れ替わって画面には後の報告書らしきものが映される。巻末にてアムちゃんがラストバトルに挑む時に流れてるBGMイメージを紹介させていただいてます。)

 

 後の報告書にはこう書かれている。

 

 核搭載無人爆撃機は墜落。原因不明。爆撃は失敗。

 分隊長は行方不明。MIAとして認定。

 

 アムールトラ副長は核爆弾にサンドスター・ローが取りつきセルリアン化した物と交戦。

 ここで映像が戻って…

 

「おいおい。こんな化け物アタシ一人で倒せってか?ちょっと冗談キツイぜ…」

 

 アムちゃんの目の前には墜落した無人爆撃機からのっそりと姿をあらわす巨大な核爆弾型セルリアンがいた。

 

「だがなぁ!!ここはもえといぬが生きる大地だ!てめぇなんぞが壊していい場所じゃねーんだよ!!」

 

 アムちゃんの瞳に炎が宿って野生解放!!

 

「セルリアンハンターの誇りにかけて…てめぇは今ここでアタシがぶっ壊す!!」

 

 と、咆哮と供に突撃したところで映像が切れて報告書に戻る。

 

 アムールトラ副長は核爆弾型セルリアンを駆除する事に成功するも核物質に汚染されたサンドスターを取り込んでしまい凶暴化。なんとか捕らえて治療を試みるも拘束具を引きちぎって逃走。以後行方不明。

 研究班からの報告によれば核物質の影響でフレンズと動物の中間に位置する生き物になってしまいさらに凶暴化してしまったとの事。この特殊個体をビーストと呼称。

 研究班は核物質に汚染されたサンドスターを使い切れば或いは治療の可能性があるかもしれない、と付け加えている。

 

 そこで報告書は終わっている。

 

 

 そして……。

 

「もえちゃんを守るのがわたしの使命…。ずっと…ずっと待ってますからね!もえちゃん!」

 

 医療研究所に迫る黒い大型セルリアン。

 ただ一人、その大型セルリアンと対峙するイエイヌちゃんの背中を映して…。

 そして9話特殊エンディングへと移行する。

 

(9話特殊エンディングイメージは巻末にて紹介させていただいています。)

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 第9話『かなたの記憶』

―おしまい―

 




次回予告

かつての記憶を夢に見たともえちゃん。
目覚めた彼女達が危惧するのは『進化の輝き』を奪ったセルリアンの事だった。
その調査へと乗り出す事にしたかばんさん達を待ち受けるのは最恐最悪の敵だった。
次回、けものフレンズ2after☆かばんRestart 第10話『迫りくる災厄』
お楽しみに!


妄想元ネタ紹介

【アムちゃんがラストバトルに挑む時に流れているBGMイメージ】
https://www.nicovideo.jp/watch/sm35030933
曲名は『虎独』との事です。切なくも戦いに赴く悲壮感とかがよく現れている曲だと思います。



【9話特殊エンディングイメージ】
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34875495
万能エンディングに影絵をつけたMAD動画になるのかな?影絵だけでもストーリーがわかる素晴らしい動画です。


言い訳の後書き

カコ博士にはちょっとぶっきらぼうな口調が似合うと思っています。
原作的にはもう少し女性らしい口調だと思うのですが、自分の中にあるカコ博士のイメージを優先しました。


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第10話『迫りくる災厄』

これまでのあらすじ

 一時的にセルリアンに取り込まれてしまったともえちゃんはまだヒトが退去する前のジャパリパークの夢を見る。
 そこで自分はとおさかもえ、と呼ばれており病気治療の為にサンドスターポッドへ入れられた事を知る。
 夢で様々な真実を知ったともえちゃん達。
 間もなく目を覚まそうとしていた。




 アバンはセピア調の回想シーンから開始。

 まだかばんちゃんだった頃のかばんさんが海岸にたどり着く。

 そばには船モードのジャパリバス。長い旅を続けてきたのかところどころ破損が目立つ。

 海岸でかばんちゃんと向き合うのは一匹の猫科の動物。サーバルキャットだ。

 サーバルキャットはしばらくの間かばんちゃんをじーっと見ているが、やがてくるりと背を向けてどこかへと駆け去っていく。

 それをオロオロと見守るアライさん。

 その肩をポム、として首を横に振るフェネック。

 かばんちゃんもサーバルキャットの去った方向に手を伸ばすけれども…その手は空を掴む。

 

 そして、少しだけ時が流れて、カバさんと海の外で見つけてきた技の特訓をしたり、図書館に入り浸って色んな本を読み漁ったりして過ごすかばんちゃん。

 博士助手やたくさんのフレンズ達と協力してジャパリパンやジャパリソーダやジャパリチップスなんかの新作ジャパリフードを作ったりするかばんちゃん。

 壊れて動けなくなったラッキービーストを修理したり、その際に各配属ちほーに合わせたバージョンにしたり、修理しきれなかったラッキービーストのコアを保管したりするかばんちゃん。

 

 そうして過ごすうちにかばんさんへと成長していくかばんちゃん。

 

 そんな彼女はある日のジャングルちほーで再びサーバルちゃんに出会う。

 

「サーバルちゃ…!」

 

 夢の中のかばんさんはサーバルちゃんに手を伸ばすけれど、その手は届く事はなくて…

 

「サーバルちゃん!」

 

 って呼んでも振り返る事なく遠くへ歩いていくサーバルちゃん。

 そこで目が覚めるかばんさん。

 目が覚めればそこはいつもの天井。もちろんサーバルちゃんがいるわけはない。

 そして、自分の頬が濡れている事に気づくかばんさん。自分の瞳から涙が流れていた事に気が付く。

 

「おかしいな…。早起きしたからかな…。」

 

 その涙の跡を拭いながら起き上がろうとした瞬間……

 

「いや、おそようだよ?かばんお姉ちゃん。」

「ちなみにもうお昼の時間です。」

「かばんー。ごはんー。」

 

 ひょこり、とアップで顔を覗かせるともイヌアムの三人。

 

「え?あれ?ともえちゃん!イエイヌさん!起きたの!?夢じゃないよね!?」

「うん、心配かけてごめn…」

 

 ともえちゃんの言葉が終わるよりも早くガバリとイエイヌちゃんもまとめて抱きしめるかばんさん。

 

「よかったぁ…ほんとによかったぁ…」

 

 とかばんさんが今度は嬉しさに涙をこぼしたところでOP開始。

(OPイメージは巻末にて紹介させていただいてます。)

 

 

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(絵柄を3頭身デフォルメ絵にかえて描写しておいて下さい。)

 3頭身デフォルメキャラ絵で、かばんさん&アムちゃんが8話後倒れたともえちゃんとイエイヌちゃんをベットに寝かせる。

 →心配そうなアムちゃんをかばんさんがよしよしして慰める→二人ともいつの間にかベットサイドで寝落ち→ともえちゃん&イエイヌちゃん起きる。

 →かばんさん&アムちゃんが側で寝落ちしてるのを見てベットに寝かせる→アムちゃん先に目を覚ましてともえちゃん達に抱き着き大喜びする→ともイヌアムの三人で寝てるかばんさんの寝顔鑑賞会。

 →で、アバンのシーンに繋がる、という流れを見せてから…。

 

「そっか…。ともえちゃんもイエイヌさんも同じ夢を見たんだね。ただの夢というわけでもないんだと思う。」

 

 食後のお茶を飲みながら、ともえちゃんとイエイヌちゃんが見た夢の話を聞いたかばんさん。

 

「わたしもまだ頭の中がぐるぐるしています…。わたしがフレンズになった時はこのおうちの前で、ここを守ってヒトの帰りを待つのが使命なんだってそれだけを覚えてて…」

「うん、そしてイエイヌさんが待ってたヒトってもえちゃん…。つまりともえちゃんだったんだね。」

 

 イエイヌちゃんの言葉に頷くかばんさん。

 

「アタシもね…。アタシがもえだって言われてもなんだか実感が湧かないんだ…。けど、そうなんだなーっていう気はしてるの。」

 

 とうつ向いている状態のともえちゃん。

 

「イエイヌさんもともえちゃんも記憶があるってわけじゃないから、実感がないのも仕方ないかもしれないね。」

 

 夢とはいえそれが関係ないとは思えない。けれどそれを事実として受け止めるのかどうか。きっと胸中は複雑なのだろうとかばんさんは二人を見守る。

 

「でもね………でも……」

 

 まだ俯いたままのともえちゃん。意を決してバッと顔を上げた時、その目はキラキラ☆マークで輝いていた。

 

「イエイヌちゃんすごいよ!頑張ったね!」

 

 その言葉を聞いて見守るかばんさんも、ふふ、と嬉しそうな笑みを漏らす。

 

「うん。そうだよね。すっごい長い間一人でお留守番頑張ってたの、私も知ってるよ。偉かったね。」

「アタシに記憶があるわけじゃないけど、それでも待っててくれたんだー!って思っただけですっごい嬉しいよ!ありがとうイエイヌちゃん!」

 

 とイエイヌちゃんに抱き着くともえちゃん。

 

「はい…はいっ!ともえちゃん、かばんさん!わたし頑張りましたっ…」

 

 イエイヌちゃんも最初驚いていたけれど何を言われたのか、理解していくと涙をにじませていく。

 そして、そこにアムちゃんが嬉しそうに二人の頭の上にのっすんとあごを乗っけるようにする。

 

「もえ、いぬ、よかった。」

 

 と三人でお団子みたいになって抱き合う。

 その姿にかばんさんも思わず目頭が熱くなってしまう。

 

「うん、三人ともよかったね。」

 

(かばんさんの言葉の後に一瞬だけともえちゃんがかばんちゃんに、イエイヌちゃんがサーバルちゃんに、アムちゃんが青ラッキーさんに入れ替わった絵を描写しておいてください。もう一度かばんさんがふふと笑って)

 

「ところで、ともえちゃんの事はこれからはもえちゃん、って呼んだ方がいいかな?」

 

 そのかばんさんの提案にともえちゃんはしばらく考え込む。

 

「うーん、ともえ、がいいかなあ。どっちで呼ばれてもアタシだし、ともえってかばんお姉ちゃんがつけてくれた名前だし。あと何だろう…。うん…、なんかアタシがもえちゃんって呼ばれるのは何か違うような…?上手く言えないんだけどそんな気がする。」

 

 ともえちゃんの言葉にみんなが頷いてみせる。

 

「はい。じゃあこれからも、ともえちゃん、ですね。」

「ともえー。」

 

 とイエイヌちゃんとアムちゃんがともえちゃんの名前を呼ぶ。おや?という表情で一度アムちゃんを見るみんな。

 不思議そうに、どうかした?とばかりに見つめ返してくるアムちゃん。

 

「そっか。アムちゃんはともえちゃんがもえちゃんだったって知ってたんだね。」

 

 かばんさんの言葉にしばらくの間アムちゃんは考え込むようにする。

 

「ともえ、いぬ。ずっと、だいすき。かばんも、だいすき。」

 

 言って何か変?とでも言いたげにもう一度小首を傾げる。

 

「アムちゃんは夢でみたよりずっとおっきくなるくらい長い間一人でずっと待ってたんですね。…アムちゃん偉いですよ!」

 

 って今度はイエイヌちゃんがアムちゃんをギューしちゃう。

 

「あむ。いぬ、ともえ、また、あえた。かばん、あえた。あむ。しあわせ」

 

 とアムちゃんもイエイヌちゃんにすりすり。そんな二人をかばんさんとともえちゃんがほっこりと眺めている。

 

「あとですね。わたし、気になってました。」

 

 と、イエイヌちゃんが挙手。

 

「かばんさんっ!」

 

 ずずいとかばんさんに距離を詰めるイエイヌちゃん。

 どうしたんだろう、と小首を傾げるかばんさん。

 

「わたしだけイエイヌ“さん”なのちょっと寂しいです!」

 

 そんなイエイヌちゃんの指摘に、かばんさんも思わず笑顔がこぼれる。

 

「そういえばそうだね。じゃあ…。イエイヌちゃん、でいいかな?」

「お、おぉう。なんというかこの辺がムズムズする不思議な感じがします。」

 

 いざそう呼ばれてみたら照れ照れのイエイヌちゃん。

 

「わかるよ。アタシもイエイヌちゃんがともえちゃんって呼んでくれた時そんな感じだったし。」

 

 うんうん頷くともえちゃん。

 

「ふふ、ところでイエイヌちゃんは私の事はかばんさん、のままなの?」

 

 と少しいたずらっぽい笑みを浮かべてイエイヌちゃんに顔を近づけるかばんさん。思わぬ反撃だった。

 

「あ…ええ!?そういえばそうですよね!?でも…なんてよんだら…。」

 

 そんな意外な反撃に戸惑うイエイヌちゃん。必死に頭を回転させて何とか答えを導き出そうとしている。

 かばんさんはかばんさんなんでそれ以外の呼び方なんて全く思いつかない。

 

「じゃあ、かばんお姉ちゃんって呼んでみる?アタシとお揃いだしっ!」

「それです!」

 

 ともえちゃんの助け船に一も二もなく飛びつくイエイヌちゃん。

 その姿にかばんさんの笑みは深くなる。

 

「じゃあ呼び方、練習してみようか?」

 

 自分で言った以上逃げ道を塞がれた格好のイエイヌちゃん。

 しばらくもじもじした後、顔を真っ赤にして目を伏せつつ……

 

「はい…。あの……その………。か、かばんお姉ちゃん…!」

 

 と、ようやくそれだけ絞り出すようにして呼んでみる。

 その姿に、ズキュゥウウン!って何やらショックを受けた様子のかばんさん。後ろを向いてプルプル。

 

「わかる!わかるよ!かばんお姉ちゃん!なんていうかイエイヌちゃんの可愛さが留まるところを知らないよね!」

 

 ともえちゃんの言葉に後ろを向いて口元を抑えたままコクコク何度も頷くかばんさん。

 

「もうー!ともえちゃんもかばんお姉ちゃんもなんですかー!」

 

 とぷんすこするイエイヌちゃん。最早自然にかばんお姉ちゃん呼びになっているのだがそこには気づいてない様子だ。

 

「いぬー。かわいいー」

 

 ってアムちゃんがイエイヌちゃんにのっすんと乗っかるようにする。

 

「もうっ!アムちゃんまでー!?」

 

 ってイエイヌちゃんが言ってシーン終了。

 

 

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「それにしてもさっきの話で気になる事があったんだけど…」

「うん。進化の輝きってヤツだよね?」

 

 とかばんさんの言葉に頷くともえちゃん。

 

「あの時、ともえちゃんは短い時間だけどセルリアンに食べられてた…。その後しばらく眠って目を覚まさなかったって事は少しだけどサンドスターを食べられてるかもしれない…」

 

 うーん、と考えこむかばんさん。

 

「それにイエイヌちゃんがあのセルリアンをやっつけてくれたと思ったんだけど、その欠片が逃げてくのを見たんだよ。」

 

 かばんさんのその言葉にともえちゃんも頷き…。

 

「なんていうか、遠くの方からイヤな感じがするの。上手く言えないんだけど…」

「もしかしたら、セルリアンに食べられたともえちゃんのサンドスターがまだともえちゃんと繋がりが残っててそれを感じ取ってる、ってことなのかなあ…」

 

 ともえちゃんの言葉に再び考え込むかばんさん。それにイエイヌちゃんが心配そうに挙手する。

 

「あのあの、かばんお姉ちゃん。それってともえちゃんは大丈夫なんでしょうか?」

「あ、それは平気だよ。食べられたって言っても、ともえちゃん自身にとっては髪とか爪とかそういうところを食べられたようなものだと思う。だから今はもうすっかり元通りになってるよ。ね?ラッキーさん。」

「ともえノ、サンドスター残量。ホボ満タンダヨ。」

「そっかあ。よかったです…」

 

 ほっと胸を撫でおろすイエイヌちゃん。

 

「すぐにイエイヌちゃんが助けてくれたおかげだよ。もっと長い時間食べられてたらもっと大変な事になってたかもしれない。」

「あれって野生解放っていうんだよね?イエイヌちゃんカッコよかったよー。」

 

 あれ、というのは不定形のスライムと対峙した時に見せた瞳に炎を宿した状態の事を言っているのだろう。

 

「うん、偉かったんだけど、やっぱりイエイヌちゃんの身体には負担がかかりすぎるみたいだから出来たらもう使って欲しくないな。やっぱり心配だし。」

 

 そうして心配そうな表情で顔を曇らせるかばんさんを安心させるようにイエイヌちゃんは笑顔で頷いてみせる。

 

「わかりました。なるべく使わないようにしますね。」

「いぬー。」

 

 アムちゃんも心配したよーとばかりにイエイヌちゃんの肩にあご乗っけてのっすん。それを腕を回してイエイヌちゃんがなでなで。

 そんな仲のいい二人の様子に思わずかばんさんにも笑みがこぼれる。しかし、今は他に考えるべき事がある。思考を切り替えるかばんさん。

 

「進化の輝きを食べたセルリアンかあ…。これは調査した方がいいかもしれない。みんな手伝ってくれる?」

 

 みんなに順番に視線を向けるかばんさん。

 

「もちろん!」

「お任せください!」

「がう!」

「マカセテ。」

 

 ともえちゃん、イエイヌちゃん、アムちゃん、そしてボスウォッチからも力強い答えが返って来たところで再びシーンが変わる。

 

 

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 ジャパリバスで再び海岸へとやってきたかばんさん達。

 

「やっぱり、こっちの方からどんどんイヤな感じが強くなってる。」

 

 とともえちゃんが周りを見渡す。海はいつも通り過ぎるくらいにいつも通りだった。

 

「うん…。なんていうか海が静か過ぎる感じがする。」

 

 とかばんさんも周囲を見渡しながら言う。そこにはいつもは感じられる海の生き物たちの息吹が感じられなかったのだ。

 まるで何かから隠れて息を潜めているようにも思える。

 そこでアムちゃんがピクン、と反応する。

 

「あ、かばんさん!」

 

 その方向から現れたのは慌てた様子のイルカちゃんだった。その後ろにはアシカさんに抱えられたシャチちゃんが続く。

 

「かばんさん!みんな!助けて!」

 

 そのままかばんさんに縋りつくイルカちゃん。ただごとではないようだ。

 

「うん、落ち着いて。三人とも平気?」

 

 とイルカちゃんに怪我がないか確認するかばんさん。

 

「かばんお姉ちゃん。シャチちゃんとアシカちゃんも怪我はないみたい。」

 

 同じくシャチちゃんとアシカさんに怪我がないか確認するともえちゃん。どうやら二人にも怪我はないようで一同ほっと一息だ。

 

「それで何があったか教えてくれる?」

 

 海獣トリオが落ち着くのを待ってから訊ねるかばんさん。

 

「あのね、最近は海にセルリアンが出る事もなくなってすっごい平和だったの。」

「小型のセルリアンすらいなくなって暮らしやすくなってたのですが…」

 

 とイルカちゃんとアシカさんがシャチちゃんを振り返る。彼女だけはまだ真っ青になって震えていた。イエイヌちゃんとともえちゃんが背中撫でたりして落ち着けている。

 

「あれは怖いよ……絶対無理。」

 

 とまだ震えてるシャチちゃん。

 

「ついさっき、でっかいセルリアンが私たちの住処の近くに現れてね。シャチちゃんが戦おうとしてくれたんだけど…」

「こうなってしまったので慌てて逃げてきたというわけなんです。」

 

 アシカさんの視線の先ではまだ落ち着かずに震えているシャチちゃんがいた。

 

「シャチちゃんってこの前海に出たすっごいおっきいセルリアンにも立ち向かってたのに…」

 

 シャチちゃんがこんなになってしまった事に驚きを隠せないともえちゃん。それはシャチちゃんが相対したのは前に海に現れた超巨大セルリアン以上の強敵だった可能性が高い。

 心当たりは一つしかなかった。

 

「アイツね。前のヤツよりもおっきくて、何ていうかすっごい怖かった…!アイツは無理だよ。勝てるわけない。」

 

 シャチちゃんは生まれは遅いものの、パワーでは海のフレンズ達の中でも優れているし、セルリアンとの戦いも得意な方だ。

 そのシャチちゃんにここまで言わせる相手というのはどれだけのものなのだろうか。ともえちゃん達に戦慄が走る。

 

「進化の輝きを手に入れたセルリアンが進化しているってことかな…」

 

 と考えこむかばんさん。そこで9話カコ博士の話が回想シーンで挟まる。

 

『セルリアンが進化なんてしたらどうなるのか見当もつかない。もしかしたらパークどころか…』

 

「世界の危機…」

 

 回想のカコ博士の言葉を引き継ぐようにポツリとかばんさんが呟く。

 

「前みたいに皆で力を合わせたら倒せるんじゃないかな。」

 

 ともえちゃんの言葉にイエイヌちゃんとアムちゃんがうんうん、と頷く。

 かばんさんだけはすぐに頷く事が出来ずにいたが他に手がないのも事実だ。

 

「そうだね。博士達にも報せて協力をお願いしよう。」

 

 手近なラッキービーストに手紙を走り書きして手渡す。手紙を持ったラッキービーストはすぐに飛び跳ねて去っていく。

 そうしていると、かばんさんの付けているボスウォッチがピコンピコンと点滅する。

 

「かばん、他のラッキービーストにも通信してるヨ。」

「うん、ありがとう。ラッキーさん。」

 

 すると、ボスウォッチから……。

 

『あれー?今かばんちゃんの声がしたよー?』

 

 とサーバルちゃんの声がする。

 

『このラッキーさんからだね。』

 

 と続いて聞こえるのはキュルルの声だった。

 

「キュルルちゃんと一緒のラッキーさんにも通信してたんだ。」

「ソウダヨ。」

 

 正直今回は今まで経験した中でも最大級の敵になるかもしれない。そう予感していたかばんさん。

 パーク中から集められるだけのフレンズを集めたとしてもそれでも勝てるかどうか…。

 そんなかばんさんの不安をよそに今度はボスウォッチから通信でカラカルの声が響く。

 

『話はだいたいラッキーさんから聞いたわよ。いま、ちょうどそっちに向かってるから。今度は私たちにも手伝わせなさいよね。』

「うん、三人ともありがとう。……ねえ。サーバルちゃん。」

『なになに?どうしたの?かばんちゃん。』

 

(しばらく言葉を探すようにかばんさんの口がパクパクしてから)

 

「………なんでもない。無理しないでね。」

 

 と、ようやくそれだけを絞り出す。

 

『それはこっちのセリフよー!』

『かばんさん、ボク達もすぐに行くから待ってて。』

 

 カラカルの声にそれもそうか、と苦笑が漏れるかばんさん。キュルルの声を最後に通信が切れる。

 

「今度は守るよ。サーバルちゃん…」

 

 ポツリ、と呟き遠くの海へ目をやるかばんさん。

 

「えー。そのくらい言ってあげたらよかったのに。サーバルちゃん喜ぶよ。」

 

 ってともえちゃんがかばんさんの視界に割り込むようにひょこりと顔を出して。

 

「うぇ!?き、聞こえてた!?」

「聞こえてたー」

 

 ってイタズラっぽい笑みのともえちゃん。かばんさんは両手で顔を覆って無事真っ赤になる。

 

「それにわたし達だって一緒ですからね。」

「がうがう。」

 

 とイエイヌちゃんとアムちゃんも顔をだす。

 

「うーん、サーバルちゃんなら、私もかばんちゃんを守るからねーって言いそうかな?」

「あ、言いそうですね」

 

 ってともえちゃんの言葉に頷くイエイヌちゃん。

 

「アタシ達もおんなじ。かばんお姉ちゃんがアタシ達を守ろうとしてくれるならアタシ達がかばんお姉ちゃんを守るんだから」

 

 とどや顔のともえちゃん。イエイヌちゃんとアムちゃんもうんうん頷いてる。

 

「うん、三人ともありがとう。」

 

 とかばんさんが三人まとめてギュっと抱きしめる。

 不安は拭えない。それでもそう言ってくれる事がとても嬉しいかばんさんだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「ともかく、みんなが集まってくれたら作戦を考えよう。イルカさん達はどこか安全なところに隠れてて」

「分かった。とりあえずステージ跡は隠れるところも多いから三人でそこにいるね。かばんさん達も気をつけてね。」

 

 と海獣トリオが去っていったあと、どうにも不安が拭い切れない様子のかばんさん。

 何かを見落としてるんじゃないか。

 その考えが頭から離れない。

 

「…相手が進化するセルリアンだとして相手は次はどうしたいかな…。」

 

 思考を巡らせ続けるかばんさん。その考えに至った時、ハッと気づいた事がある。

 だが、それに気づくのは一歩だけ遅かったかもしれない。

 何故なら、遠くの沖合の海面が不自然に盛り上がり、ザッパアアアン!と異形の超巨大セルリアンが姿を現わしていたからだ。

 

「な、なにあれ…」

 

 とまだ距離があるにも関わらず、その威容にともえちゃんが言葉を失う。

 舳先が折れて半壊したように見える船型セルリアンの上部に巨大な大王イカが巻き付いているような外見の超巨大セルリアンがそこにいた。

 まるで巨大なイカが船を食べているようにも見える。

 かばんさんもイエイヌちゃんもアムちゃんも以前とは比べ物にならない姿になった超巨大船型セルリアンの姿に呆然としてしまう…。

 かつての姿よりもさらに大きく、そして歪な姿に誰もが顔を青ざめさせた。

 しかし、呆けている暇などない。それに気が付いたかばんさんがいち早く我に返る。

 

「みんな、バスに乗って!多分アイツ、またともえちゃんを狙ってる!」

 

 その言葉にようやく我に返るともイヌアムの三人。みんながバスに乗ったのを確認してからアクセルを思いっきりベタ踏みするかばんさん。

 

「マニュアルドライビングモード。リミッター解除。かばん、スピード出せるヨ。」

 

 かばんさん達を乗せたジャパリバスはタイヤを軋ませながら急発進。

 

「なんでアイツはまたアタシを狙ってるの!?」

 

 と後部座席から運転席側に身を乗り出すともえちゃん。

 

「アイツが手に入れた進化の輝きって完全じゃないんだと思う。だったら完全にしたいはずだよね…。つまり」

「またアタシを食べたら今度こそ…」

「うん。だから今は逃げた方がいい。」

 

 ジャパリバスは海岸を離れていくがそれで安心できる相手ではないだろう。

 

「それにね、アイツの怖いところは……あの外見もそうなんだ。」

 

 とかばんさんがジャパリバスを運転しながら言う。

 

「見た目が怖いのがそんなにダメなんですか?」

「がう??」

 

 とイエイヌちゃんとアムちゃんはピンとこないようで揃って?マークを浮かべている。

 

「うん。アイツの外見。まるで大きなイカが船を食べてるように見えるでしょ。あれじゃあどうしたって自分が食べられるって想像しちゃうよ。」

 

 それは生物なら誰でも持つ根源的な恐怖を呼び起こさせる見た目であった。

 今のように距離があるうちならまだいい。けれど……。

 

「たしかに…あれに近づくって思っただけでも怖いです…」

「がう……」

 

 と振り返ってこちらに向かってくるその姿を確認するイエイヌちゃんとアムちゃん。揃って顔を青くしてしまう。

 

「あれじゃあシャチちゃんが怖がっても無理ないよ。ただ戦っても勝てない…。何か作戦を考えないと…」

 

 と、かばんさんが焦りを滲ませて言う。

 きっと進化の輝きで進化したうちの一つがこの見た目の外見なのだろう。

 たくさんのフレンズに追い詰められた経験から得た能力なのかもしれない。

 見ただけで戦意を挫く威容は想像以上に厄介だった。

 あっという間に海岸へとたどり着いた超巨大セルリアン。以前ならば陸に逃げたともえちゃん達の乗るジャパリバスを追う事は出来なかっただろう。

 しかし。

 超巨大セルリアンは船底部分にムカデのような足を生やして上陸してくる。

 そのままシャカシャカとムカデのような足を動かしてジャパリバスを追いかける超巨大セルリアンあらため超進化セルリアン。

 

「アイツ…やっぱり進化してる…!陸を走る事まで出来るなんて!」

 

 ともえちゃんもその姿に焦りを濃くしていく。そしてそれだけではなかった。

 

「かばんお姉ちゃん、アイツ、どんどんスピードを上げています!」

 

 と後ろを確認しているイエイヌちゃんが警告の声をあげる。陸上で活動できるようになっただけでも脅威なのに今まさにジャパリバスに追いつこうとしていた。

 それはそれだけのスピードを出せる能力を持ち合わせているという事だ。

 

「どこかで時間を稼がないといずれ追いつかれる…。ラッキーさん、この近くに何かないかな?」

 

 かばんさんの言葉にボスウォッチが明滅して「ケンサクチュウ、ケンサクチュウ…。」と検索に入る。

 程なくして…。

 

「コノ先ニ以前シャチが住んでタ港湾施設があるヨ。」

 

 ジャパリバスのナビゲート画面に港湾施設のデータを映すラッキーさんとチラリとそれを確認するかばんさん。

 

「水門にシャッターに防潮堤と非常口……ここなら時間を稼げるかも…」

 

 ナビゲート画面に示された内容には、後ろから追いすがる超進化セルリアンを足止めできるだけの設備があるように思えた。

 

「みんな、飛ばすからしっかり掴まっててね!」

 

 みんなが座席にしっかりと掴まったのを確認してから、ジャパリバスのギヤを入れ替えてハンドルを切りタイヤを横滑りさせるかばんさん。

 ジャパリバスを港湾施設跡へと向ける。

 そのジャパリバスへとジリジリと距離を詰めていく超進化セルリアン。

 木々や岩などの障害物を物ともせずに蹴散らし確実にともえちゃんへと迫っていく。

 

「時間を稼いで、みんなが来てくれて…それでアイツを倒せるの…!?」

 

 パークの…、いや世界の危機がかばんさん達に迫る!

 ってシーンでEDイントロ開始。

(エンディングイメージは巻末にて紹介させていただいています。)

(今回のEDで歩くのはかばんちゃんが一人。後ろの背景がカバさんと技の特訓したり、図書館で本読んでて博士助手がかばんちゃんを挟みこむようにしてくっついてたりする絵が流れていく。そして、新作ジャパリフードをみんなで作ったりして少しずつ笑顔を取り戻していく様子が背景に流れていって、かばんちゃんがかばんさんの姿になって画面左側に歩いていく。と後ろからともえちゃん、イエイヌちゃん、アムちゃん、博士、助手と沢山のフレンズ達がくっついて画面左側にあるいていく感じの特殊EDでお願いします)

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 第10話『迫りくる災厄』

―おしまい―




次回予告

超進化セルリアンが迫る。
その威容。その巨体。その能力に立ち向かう術はあるのか。
超進化セルリアンを相手にかばんさんは一つの決断を下す。
けものフレンズ2after☆かばんRestart 第11話『ヒトの叡智』
ご期待下さい!



妄想元ネタ紹介

けものフレンズRオープニングイメージ
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34990561
明るい歌と愛情溢れるイラストが素晴らしいオープニングイメージです。個人的にはこっちも大好き。


けものフレンズRエンディングイメージ
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34929655
エンディングの歌詞も素晴らしいですが背景や絵もいいんですよね。かばんちゃんがかばんさんになるまでの間の話を特殊エンディングでやってみたいなーと思ったりしてます。



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第11話『ヒトの叡智』

【これまでのあらすじ】

 ともえちゃんはかつて病気治療の為に『進化』の輝きをその身に宿していた。
 『進化』の輝きの一部を奪った超巨大船型セルリアンは超進化セルリアンとなってともえちゃん達へと迫る。
 陸上での活動をも可能とした超進化セルリアン。
 はたして最恐最悪の敵を相手にかばんさん達は打つ手があるのか…。


【妄想元ネタ紹介】

 実はこの11話が一番最初に思いついた話でした。
 そんな妄想を膨らませてくれた音楽や動画を制作していただいた皆様に心から感謝申し上げます。
 今回はこの場面をこの音楽聞きながら考えました。
 巻頭にて紹介させていただきますのでよかったらご一緒にお楽しみいただければ幸いです。


OPイメージ
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34990561
明るい雰囲気のOPソングが素晴らしいです。背景の音ハメとかもめっちゃ好きです。


かばんさんがともえちゃん達と話している場面で流れるBGMイメージ
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34900426
この曲を聞いて思い浮かんだのが11話だったりします。素晴らしい曲でオススメです。
曲名は『真実を知るあなたへ』だそうです。
かばんさんなら絶対こうするよなあ、という自分の中のかばんちゃんが成長したかばんさんの物語を出力してきました。
最後までお付き合いいただければ幸いです。


かばんさんがラスボスに挑む時に流れるBGMイメージ
https://www.nicovideo.jp/watch/sm34943667
ケムリクサオープニングのオーケストラアレンジです。
物凄い力作です!ラスボス戦はこの曲をリピートしながら書きました。
曲に文が負けてる気がしないでもないですが物凄くかっこいい曲なんで是非聞いてみていただきたいです!




 アバンは前回超進化セルリアンに追われるジャパリバスの場面からスタート。

 タイヤをきしませ超進化セルリアンから逃げるジャパリバス。背後から迫る脅威にかばんさんの手が震えそうになる。

 

「みんな、このまま港湾施設に突っ込むからしっかり掴まってて!」

 

 後ろではアムちゃんがともえちゃんを守るようにギュっとしつつ、イエイヌちゃんが後方から追いすがってくる超進化セルリアンを睨みつける。

 

「時間を稼いで、みんなが来てくれて…それでアイツを倒せるの…!?」

 

 焦ったようなかばんさんの声が小さく響きつつ、OP開始。

(OPイメージは巻頭にて紹介させていただいています。)

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 OP後、港湾施設跡に突っ込むジャパリバス。

 長い時間岩場が波で削られて出来た天然の洞窟を利用した港湾施設だ。周囲を天然の壁に囲われて悪天候でも安心な施設だ。

 洞窟内には乾ドックにも出来そうな巨大な停泊所や荷揚げ用のクレーンやその他様々な機械が錆びついて沈黙している。

 かつてシャチが一人住んでいた施設跡であるが今は完全に無人だ。

 

「まずはここにアイツをおびき出して閉じ込めちゃおう。」

 

 ジャパリバスを倉庫のような場所へ駐車すると、そこから移動して操作室と書かれた部屋へ移動するかばんさん達。

 何かの操作盤にボスウォッチを近づけるかばんさん。

 明滅しているボスウォッチ。

 

「ケンサクチュウ…ケンサクチュウ…。施設内設備稼働可能。」

 

 ボスウォッチの言葉に頷き続いてモニターに目をやるかばんさん。

 稼働できる設備は水門に防潮堤に非常用シャッターがある。

 これなら港湾施設を閉鎖する分には問題なさそうだ。

 加えて照明やら荷揚げ用のクレーンやら稼働できそうな設備もあるようだ。

 何か思考をくすぐられて、かばんさんはモニターに見入る。

 

「アイツ、警戒してるみたいでゆっくりこっちに入ってきましたね。」

 

 イエイヌちゃんがこそーっと窓から外を伺っている。それで思考から引き戻されるかばんさん。

 

「うん、ありがとう、イエイヌちゃん。ラッキーさん、そっちはどうかな?」

「この施設の機械ト接続できたヨ。」

 

 既に超進化セルリアンも警戒しながらではあるが港湾施設の中に入ってきている。

 いくら警戒しているとはいえ、設備を閉鎖してしまえば巨大な檻がわりになるだろう。

 あとは非常口から脱出すれば巨大な超進化セルリアンだけはここに閉じ込める事が出来る。

 これなら時間稼ぎになるはずだ。

 

「警戒してるってあのセルリアンもしかして前に待ち伏せされた事を覚えてるのかな。」

「そうかもしれない…。だとしたら学習してるって事だよね…。かなり手強いよ。」

 

 ともえちゃんの言葉に頷くかばんさん。同時にこのまま時間を稼ぐだけでいいのだろうか、という疑念が浮かぶ。

 考えを巡らせる時間はない。

 超進化セルリアンがずしずし、と港湾施設の奥へと入ってくる。

 ともえちゃんはセルリアンには目立つ。いくら身を潜めているとはいえ、見つかってしまうのも時間の問題だろう。

 ならば、やはり時間を稼ぐしかない。

 十分に施設奥まで超進化セルリアンが進んだところで……。

 

「よし、ラッキーさん。今だよ。」

「ワカッタ。水門閉鎖、防潮堤起動。非常用シャッター閉鎖。」

 

―ビーッ!ビーッ!

 

 けたたましいサイレン音を響かせながら水門が閉じて防潮堤が高くせり上がる。

 さらに出入口のシャッターが降りて出入口は全て封鎖された。

 

「港湾施設ノ閉鎖、完了ダヨ。」

「よし、私たちは非常口から外に出よう。これでかなり時間を稼げるはず…。この非常口から外に出られるからアイツに見つからないように静かにね。」

 

 かばんさんのその言葉に口元を抑えてこくこく頷くともえちゃんとイエイヌちゃんとアムちゃん。

 そっと抜き足差し足で非常口へと向かう。

 その三人を見守りつつ、もう一度モニターを振り返るかばんさん。

 そこに浮かぶ文字を見つつ考え、何事かに気づいたように大きく目を見開く。

 そして……。何かを決めたかのように唇を引き結び、ともえちゃん達の後を追うかばんさん。

 残されたモニターは火気厳禁マークのついた施設を映し出していた。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 超進化セルリアンが周囲に響き渡る警告音に戸惑いを見せる中、施設の閉鎖は完了して閉じ込められる超進化セルリアン。

 非常口へと走るともイヌアムの三人。外へ続く長い通路を走り続ける。その後ろでしんがりをつとめるかばんさん。

 

 画面は走る4人を横向きにとらえる。明るい外へと向かう4人。

 ふ、とかばんさんだけが足をとめる。そのまま気づかず外へと走っていく3人。

 

 両手を後ろに回してちょっとの間だけ名残惜しそうに三人を見つめるかばんさん。帽子に隠れて瞳は見えないが口元は笑みの形になっている。

 

 かばんさんは背中の鞄を明るい方へ降ろしてその上に自分の帽子を乗せるとくるり、と背を向けて暗い方向へ一人引き返す。

 

 それに気づかず完全にカメラアウトするともえちゃんとイエイヌちゃんとアムちゃん。

 

 かばんさんは壁に取り付けられた非常隔壁作動装置のレバーを引く。

 3人とかばんさんを別つ隔壁。かばんさんはその隔壁に背をもたれさせる。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「かばんお姉ちゃんは…?」

 

 と外へ出たともえちゃんが周囲を見渡してかばんさんがいないのに気が付くと同時、隔壁が降りる音がする。

 振り返った三人が目にした物は、隔壁の前に置かれたかばんさんの鞄とその上に置かれた二本羽根の帽子だった。

 

「かばんお姉ちゃん!?閉じ込められちゃったの!?待っててね!アムちゃん、この扉壊せる!?」

「がう!」

 

 早速、と言った様子で牙を剥き隔壁に対して構えるアムちゃん。

 しかし、隔壁の向こうからかばんさんの声が聞こえる。

 

(ここでかばんさんがともえちゃん達とお話する場面で流れるBGMイメージがかかる演出でお願いします。巻頭にてBGMイメージを紹介させていただいています。)

 

「待って。私は閉じ込められたわけじゃないよ。自分で残ったの。」

 

 声は聞こえても意味は理解できなかった。

 いや、本当はそれだけでかばんさんが何をするつもりなのか伝わっていた。

 けれど、理解も納得もしたくなかった。

 

「どういうこと?なんで?」

 

 ともえちゃんが隔壁に縋りつくようにして聞く。

 

「みんなが集まってくれても今のままじゃあのセルリアンは倒せない。だから……だから…。」

 

 一度言葉が切れて、その後聞こえた声はハッキリと響いた。

 

「だから、あいつはボクとラッキーさんが倒す。」

「なんで…?みんなで戦おうよ。一緒に戦おうよ!」

 

 ともえちゃんの悲痛な叫びが響く。

 

「ごめんね。この作戦はボクとラッキーさんにしか出来ないんだ。」

 

 返って来た言葉はいつも通りに柔らかかったけれど、それでも決して答えを曲げないだけの意思が見てとれた。

 

「前にさ、みんな一人でもやらなきゃいけない事があるって話したの覚えてるかな?ボクには今日、いまそれが来ちゃったみたい。」

「なんで…。わかんないよ…。ねえ、かばんお姉ちゃん…、お寝坊したって怒らないから。お願いだからここを開けて。」

 

 ともえちゃんの声がどんどん涙声になっていく。

 本当は分かっているのだ。何の為に誰の為にこうしているのか。でも何かを言って引き留めないといけない。その想いだけで言葉を続けるともえちゃん。

 

「ごめんね、ともえちゃん。これだけはボクがやらなきゃいけないんだ。だからごめん。」

 

 だから、扉の向こうから返って来た言葉も予想通りだった。

 

「わたし達じゃ頼りないかもしれないけど一緒に戦わせてください!かばんお姉ちゃん!」

「がう!」

 

 イエイヌちゃんとアムちゃんも隔壁に縋りつくようにする。

 

「ありがとう、イエイヌちゃん。アムちゃん。けどね。どうしてもボクが戦わないといけないんだ。でも皆がいてくれるから安心して戦いにいける。だから後の事はお願い。」

「そんな……やめて下さい。かばんお姉ちゃん!」

「かばん!」

 

 とイエイヌちゃんもアムちゃんも必死な様子で隔壁の向こうに言うが、答えは変わらないのは二人にも分かっていた。

 

「この後伝えられるかどうかわかんないから今のうちに言わせてね。ともえちゃん。イエイヌちゃん。アムちゃん。ボクは幸せだった。大好きだよ。」

 

 これではまるでもうかばんさんが戻ってこないつもりのようじゃないか。

 

「ねえ。ちゃんと帰って来る?」

 

 既にともえちゃんの足元にはいくつもの涙がこぼれ落ちていた。けれどそれでも言葉を紡ぐ。

 

「うん。」

 

 短い返答。

 

「なら待ってる。絶対帰って来て。約束。」

 

 そう。彼女は約束を守らなかった事はないのだ。

 

「うん、約束だね。」

 

 その返事にようやく涙を拭って立ち上がるともえちゃん。

 

「ねえ。ともえちゃん。それにイエイヌちゃんもアムちゃんも。」

「なに?」

「会えてよかった。生まれて来てくれてありがとう。じゃあ………。いってきます。」

 

 背中を隔壁から離したかばんさんの声はもう聞こえない。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 シーンはかわってカメラはかばんさんの足元。通路を戻る様子を映している。

 

「悪いね、ラッキーさん。付き合わせて。」

「ボクまで、置いてったラ、許さなカッタヨ。」

「ごめんごめん。それじゃあ…。二人でアイツを倒そうか。」

 

 静かな足取りで通路を戻るかばんさん。

 

「『石持ち』のセルリアンを倒す方法は二つ。一つは『石』を砕く事。もう一つは……『石』いがいの場所に大怪我をさせる事。」

 

 そのうち取れる方法は現在一つしかない。

 超進化セルリアンの『石』の位置はわからない。だからより難しい方しか選ぶ事ができないのだ。

 

「やっぱり怖いや……けど…」

 

 彼女はいつだって怖くないわけじゃなかった。

 ともえちゃんに出会った時も。その日の夜にセルリアンと対峙した時も。ビーストと出会った時も。

 超巨大セルリアンと戦った時もヒト型セルリアン達と戦った時も。

 いつだって彼女は怖かった。

 

「お前の相手はボクだよ。セルリアン。」

 

 それでも恐怖を乗り越えてなお進んできたのだ。

 ヒトだけが備えたその叡智の名をこう呼んだ。

『勇気』と。

 

(ここでかばんさんがラスボスに挑む時に流れるBGMイメージがかかる演出でお願いします。BGMイメージは巻頭にて紹介させていただいています。)

 

 超進化セルリアンが気配を感じたのかその目をかばんさんの方へ向ける。

 その瞬間に近くの瓦礫へと身を潜めて移動を開始するかばんさん。

 目指す場所は先ほど操作室のモニターで確認済みだ。

 超進化セルリアンはかばんさんの方を振り向いた。けれどそこに何も確認できなかったので脱出の為の作業を再開する。

 大王イカの足先をドリル状にかえて岩盤を削りはじめた。

 

「やっぱりアイツ、状況に応じて進化してる。これじゃ大した時間稼ぎにならない…。けど!」

「ここデ倒すカラ関係ないネ。」

 

 そこから先は身を潜められそうなものはない。

 目指す場所まではまだ遠い。ここから先は超進化セルリアンに身を晒さざるを得ない。

 まずはポケット内に入れていた紙で紙飛行機を作って飛ばすかばんさん。

 超進化セルリアンが動くものを感知してそちらに目を向けた瞬間に物陰から飛び出す!

 大王イカの足ですぐに紙飛行機を叩き落とす超進化セルリアン。

 だが、かばんさんへの反応は一瞬遅れる!

 かばんさんへも繰り出される大王イカの足。しかし、転がり、飛び退り、ギリギリでかわしながら走り前へ進むかばんさん。

 業を煮やしたのか、船部分に数本の筒のようなものを生やす超進化セルリアン。

 その筒の先端をかばんさんへと向ける。

 

「それは知ってるよ。」

 

 筒の先端から黒い水のようなものが次々と発射される。

 が、それはかばんさんを捉える事はない。

 

「それが大砲っていうものだっていうのは知ってるよ。筒の先端が向いてる方しか狙えないってことだってね!」

 

 巧みに射線をずらして弾丸の雨をかわすかばんさん。

 が…。

 着弾した黒い水のようなものが今度はモコモコ、とヒト型をとり始めて次々とフレンズ型とヒト型のセルリアン達が立ち上がっていく。

 

「そ、それはちょっと想定外かなあ…。」

 

 思わず冷や汗が流れるかばんさん。急がないと港湾施設がセルリアンだらけになってしまう。

 そうなれば移動すらままならない。

 進路上のフレンズ型セルリアンだけをカウンターで次々倒しながらなお走るかばんさん。

 大きな倉庫のような場所へと辿り着く。

 迷う事なくその中へと飛び込むかばんさん。

 そこは今は物言わぬクレーンや整備車両も備えられた大型の倉庫だった。

 そこかしこにコンテナが転がっているがまだまだ空間のある場所だった。きっとかつては整備場として使われていたのだろう。

 しかし、袋のネズミとはこのことか。かばんさんが入ってきた場所以外に出口となりそうなものは見当たらない。

 かばんさんが飛び込んだ直後、倉庫の入り口を押し広げるようにして超進化セルリアンもまた大型倉庫へと押し入ってくる。

 再び大王イカの足がかばんさんへと放たれる。

 

「ラッキーさん!」

 

 かばんさんが叫ぶと同時、バシン!と音を立てて倉庫内にあった投光器に光が灯る。

 その強力な光が超進化セルリアンの視界を塞いだ。

 眩しさに一瞬目がくらんだ超進化セルリアン。狙いがほんの少しだけずれる。

 かばんさんもその隙を逃さずに身をかわして走る。

 狙いがそれた一撃はかばんさんの背後にあったコンテナ箱を粉々に粉砕して中身をばら撒く。

 もうもうとした煙を立てるのを構わずにかばんさんは側にあった運搬用のフォークリフトに飛び乗る。

 ボスウォッチを近づけると一瞬の間を置いてエンジンの火が灯る。

 充電ケーブルに繋がれたままのフォークリフト。かばんさんがギアを入れてアクセルを踏み込むと同時、充電ケーブルを引きちぎるようにして再び駆け始める!

 既に光の目くらましにも進化で対応しかばんさんを再び視界へと入れる超進化セルリアン。

 その視線に一瞬かばんさんの手が震えそうになる。

 

「くっ!」

 

 バシン!と自らの手を抑え込むようにして震えを打ち消すかばんさん。

 超進化セルリアンがフォークリフトを狙って次々と大王イカの足を繰り出してくる。さらに悪い事に生み出されたフレンズ型セルリアン達もノロノロと大型倉庫の中に入り始めていた。

 

「みゃっ!」

 

 吠えつつギアをバックに入れるかばんさん。

 三輪で小回りの効くフォークリフトは四輪よりも小回りが利く。まるで逃げ回るネズミのようにチョロチョロと超進化セルリアンの攻撃をかわし続けるかばんさん。

 バック機動で超進化セルリアンを翻弄する!

 

「みゃあ!」

 

 さらにギアを前進に入れなおし入り口から入ってくるフレンズ型セルリアンへ突撃!

 

「みゃああああっ!」

 

 直前でハンドルを切りつつサイドブレーキを引き、車体ごと横滑りさせドリフト状態に。フォークリフトのツメでフレンズ型セルリアン達を横なぎに薙ぎ払っていく!

 そのまま手近なコンテナをフォークリフトのツメで拾い上げたかばんさん。

 

「うみゃみゃみゃみゃぁあああああああっ!!」 

 

 雄叫びと共にアクセルをベタ踏みして超進化セルリアンへとコンテナごと突撃!

 グシャリ、と潰れて中身をばら撒くコンテナ。

 衝突の直前にかばんさんはフォークリフトから飛び降りていたので、一人超進化セルリアンだけがフォークリフトとコンテナの突撃を受けた格好だ。

 さらに……。

 

「パッカーーン!」

 

 とボスウォッチから声が響く。

 すると倉庫に設えられたクレーンが抱えたコンテナごとそのフックを超進化セルリアンに叩きこむ!

 コンテナがひしゃげて、その中身が超進化セルリアンの頭上からバラバラと降り注ぐ。

 

「さすがラッキーさん!」

「マカセテ。」

 

 とるに足らないはずのたった一人から手痛い反撃を受けた超進化セルリアン。ヴォオオオオオオオッ!と怒りの咆哮をあげる。

 

「(後は最後の仕上げだ……!)」

 

 ここが最後の正念場だ。

 クレーンが返す一撃で出鱈目に動きまわって何度も何度もそのフックを超進化セルリアンに叩きこむ。

 その間にかばんさんは整備用車両…、そのうちの一台、タンクローリーへと乗り込む。

 それのエンジンがかかるかどうかは賭けだ。フォークリフトと違ってこちらは充電ケーブルが繋がっているものはなかったのだ。

 ボスウォッチがエンジンを始動させようと試みる。

 

―キュルルルル…

 

 というセルモーターが回る音はしている。まだエンジンをスタートさせる事は出来る!

 あとはエンジンがかかればいいだけだ。

 だが、エンジンはかからない。セルを回す音だけが虚しく響く。

 その間にクレーンを大王イカの足で薙ぎ払い破壊する超進化セルリアン。

 

―ヴォォオオオオオ!!

 

 続けて怒りの咆哮をあげながらタンクローリーへと詰め寄る超進化セルリアン。

 まだエンジンはかからない。

 ズシンズシン、とさらに近寄った超進化セルリアンは足を振り上げてタンクローリーへと振り下ろす!

 

「かかった……!」

 

 エンジンが、ではない。

 最後の仕掛けに超進化セルリアンが掛かったのだ。

 横なぎに振るわれた超進化セルリアンの大王イカの足。それはタンクローリーを紙のように容易く切り裂く。

 間一髪、運転席から飛び出すかばんさん。

 それでも横なぎに振るわれた足がかすめる。

 中身の液体をまき散らしながらバラバラに吹き飛ばされるタンクローリー。

 ほんの少しかすめただけの一撃はそれだけでかばんさんを壁際まで吹き飛ばしていた。

 タンクローリーを盾にしていなかったら今の一撃だけでも容易く命を落としていただろう。

 だが、まだ生きている。

 まだ戦える。

 床をかくようにしてもがくかばんさん。

 まだ戦おうと必死に立ち上がろうとしている。

 超進化セルリアンはそんな彼女を嘲笑うかのようにゆっくりと近寄ってくる。

 獲物を弄ぶかの如く余裕を持った動きでかばんさんへ迫る。

 その目前まで迫るとゆっくりと大王イカの足を持ち上げる。

 

「知っているぞ…。」

 

 ようやく立ち上がるかばんさん。左腕がダラリと垂れ下がり持ち上げられずにいる。

 それでも立ち上がりうわ言のように言葉を紡ぐ。

 

「ボクは知っているぞ……」

 

 かばんさんの顔が上がって超進化セルリアンを睨みつける。

 

「ボクは知っているぞ!こんなものよりもっと痛い事があるって!」

 

(回想シーンでかばんちゃんが海岸でサーバルキャットとお別れしたシーンが流れる)

 

「お前なんかよりもっと怖い事があるって!」

 

(夢の中で呼びかけても振り返る事なく去っていったサーバルちゃんのシーンが流れて)

 

「だからお前なんか怖くない!お前なんかに負けるもんか!」

 

 かばんさんの瞳が手負いの獣のようにギラリと光りながら超進化セルリアンを睨みつける。

 

―ギィィ……

 

 ズシン、と一歩。たったの一歩だけど超進化セルリアンが気圧されたように後退る。その下がった一歩がタンクローリーから漏れ出た液体を踏みつける。

 その瞬間、勝利へ繋がるか細い糸は全て繋がった。

 まだ動く右腕にマッチ箱と最後の紙飛行機をとるかばんさん。

 マッチ箱を口に咥えて右手でマッチを擦ってそのまま紙飛行機に着火!

 

「みゃあああああああああっ!」

 

 最後の力を振り絞り火のついた紙飛行機を飛ばすかばんさん。

 その火は超進化セルリアンの足元にバラ撒かれた液体燃料へと引火。超進化セルリアンの身体を炎が包む。

 

―ギィ!?

 

 驚愕の声をあげる超進化セルリアン。だがそれだけでは超進化セルリアンを倒すには至らない。

 

―ゴォン!

 

 が、超進化セルリアンの身体で小さな爆発が起きる。

 その爆発を引き起こしたのは超進化セルリアンの身体に引っかかっていたコンテナの中身だった。

 

「教えてあげるよ。ここがなんだったのか。」

 

 全ての策が成ったかばんさん。

 

「ここは昔、ヒトがキミ達セルリアンと戦う為の準備に使った軍港っていう施設だったんだ。」

 

 それはともえちゃんが見た夢でセルリアンに立ち向かっていたヒト達が使っていた施設だ。

 そこに貯め込まれていた物資は燃料にそして、今爆発している弾薬や砲弾などだった。

 それがコンテナに残されていたのだ。

 この大型倉庫で大暴れした超進化セルリアンはコンテナの中身を至るところにぶち撒けてしまっていた。

 

―ゴォン!ドンッ!ドカァアアアン!

 

 一つの爆発は次の爆発を呼び炎が次々広がっていく。爆発が起きるたびに超進化セルリアンの巨体が揺れてその身体に裂傷が走る。

 

「セルリアン。キミを倒すのはヒトの遺志と…。」

「ヒトの叡智ダヨ。」

 

 かばんさんとボスウォッチが言うと同時、ひと際大きな爆発が起きて超進化セルリアンの身体を飲み込む!

 大型倉庫を吹き飛ばす程の大爆発!

 かばんさんも爆風に巻き込まれてしまう。

 

 運がいい事にまだかばんさんは意識を保っていた。

 立ち上がる事だって出来る。

 だが、そこまでだ。

 この後脱出する算段まではなかったのだ。

 だからこそたった一人で戦いに臨んだのだ。

 

「今度は守れたかな……。」

 

 炎はこの港湾施設の至るところへと燃え広がっていっていた。

 かつて船舶へ燃料を補給していた大型タンクへと引火したならこの施設ごと吹き飛ぶだろう。この炎の勢いならそれは時間の問題だった。

 だが、それならあの超進化セルリアンを確実に葬る事が出来る。

 

「サーバルちゃん…。みんな…。じゃあ。元気で…。」

 

 満足と共にかばんさんは瞳を閉じた。

 だが、その脳裏にともえちゃんとイエイヌちゃんとアムちゃん。三人の姿がよぎる。

 脳裏のともえちゃんが言う。

 

『なら待ってる。絶対帰って来て。約束。』

 

 その言葉にもう一度目を開くかばんさん。

 

「そうだった…。帰らないとね。」

 

 身体を引きずるようにして歩くかばんさん。フラフラと炎の中に歩みを進める。その背中を幻影のようなサーバルちゃんの手が押す。

 そしてシーンが切れる。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 シーンはかわって港湾施設から離れて待機中のともえちゃん、イエイヌちゃん、アムちゃんの三人。ともえちゃんがかばんさんの帽子と鞄を抱きしめるようにして不安そうに港湾施設の方を見つめている。

 そんなシーンから現れては消えていくスタッフロール。

 

―ドッカアアアアアアアアアン!

 

 と響き渡る大きな爆発音、続けて港湾施設から大きな炎が立ち上る。

 

「ともえ!待たせたのです!」

「かばんはどこなのです?」

 

 ともえちゃん達のところに飛んでくる博士助手。

 その問いに未だに大炎上を続ける港湾施設跡を弱々しく指さすともえちゃん。その指さす先では未だ小さな爆発音が響きそのたびに爆炎が吹き上がっていた。

 

「そんな……」

「嘘…なのです…」

 

 と揃って目を丸くする博士助手。

 

「かばん!」

「ダメです博士!あんなところに飛び込むのは危険過ぎます!」

 

 と、港湾施設跡へ飛び込もうとする博士を抑える助手。

 

「でも、かばんが…かばんが…!!」

「コノハちゃん!お願いだから!」

 

 なおも飛ぼうとする博士を助手がしがみついて止める。

 

「そんな…」

 

 ペタン、とその場に崩れ落ちる博士。

 次々と集まってくるフレンズ達もその光景に戸惑うばかりだった。

 

……と

 

―グォオオオオオオオオオオオオオオッ!

 

 と超進化セルリアンの咆哮が響いた。

 続けて爆発で脆くなった壁を破壊して傷ついた巨体を現わす超進化セルリアン!

 

「ともえ!いぬ!あそこ!」

 

 アムちゃんが指さした先は超進化セルリアンの大王イカの頭部分だった。そこに身体を丸めたように取り込まれてるかばんさんの姿があった。

 

「そんな…かばんお姉ちゃん…」

 

 とイエイヌちゃんのかすれた声が続く。

 カメラはともえちゃんの口から下、ぽかんと開けられた口元からその手に抱いた二本の羽根が付いた帽子を映していた。

 エンディングなしで11話は終了!

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 第11話『ヒトの叡智』

―おしまい―

 




【次回予告】

次回、けものフレンズ2after☆かばんRestart 最終話『リスタート』






俺ちゃん妄想監督を信じろ


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第12話『リスタート』(前編)

 いきなりスタッフロールが流れる中、登場するのはキュルル、カラカル、サーバルトリオ。

 やや離れた小高い丘の上から炎に焼かれながらも、身体についた炎を消そうと暴れまわる超進化セルリアンを見つめる。

 

「まさか……あんなのが相手だったなんて…」

 

 と一歩を後退るキュルル。

 

「あ、あんなのに束になってかかったって勝てっこないわよ!」

 

 とカラカルもまた焦りの声をあげる。

 そうしているとサーバルちゃんの耳がピクンと動いてじーっと超進化セルリアンを見る。

 

「キュルルちゃん、カラカルッ!あそこ!!かばんちゃんが食べられてる!」

 

 サーバルちゃんが指さした方向には身体を丸めた状態で超進化セルリアンに取り込まれているかばんさんの姿が見えた。

 

「……まさか…かばんさん、一人で戦ったの…?」

 

 やや遠くに集まっているフレンズ達、炎に巻かれて傷ついている超進化セルリアンの様子からキュルルは状況を察した。

 

「ねえ、キュルルちゃん!カラカル!かばんちゃんを助けようよ!」

「まったく…ほんと世話が焼けるわね!」

「でも二人とも待って。むやみに突っ込んだって勝てる相手じゃない。」

 

 駆けだそうとするサーバルカラカルを止めるキュルル。

 キュルルは鉛筆を立てて両目で鉛筆の向こう側の超進化セルリアンを観察する。その両目のオッドアイにかすかな輝きが灯り…。

 

「ちょっと、こんな時に絵を描いてる場合じゃないわよ、キュルル。」

 

 とカラカルがキュルルと超進化セルリアンを見比べるようにしながら焦っている。

 

「あった……!!」

 

 それにかまわず、猛烈な勢いでスケッチブックに何かを描きはじめるキュルル。

 最後に赤いクレヨンで一部に大きな丸をつける。

 

「サーバル!あそこにともえちゃんや博士達がいるから伝えて。あいつの『石』はここだよって!」

 

 描き上げたスケッチの一枚を破りとりながらサーバルちゃんに渡すキュルル。それには超進化セルリアンが描かれていて、赤いクレヨンで『石』の場所に印がつけられている。

 

「うん!ありがとうキュルルちゃん!待っててね、かばんちゃん!」

 

 スケッチを受け取って駆けだすサーバルちゃん。

 

「カラカルはサーバルを守ってあげて。焦ってるみたいだからフォローしてあげてね。」

「わかったわ。キュルル、あんたはちゃんと隠れてなさいよ。」

 

 とサーバルちゃんを追って走りはじめるカラカル。

 

「二人とも、かばんさんをお願いね!」

 

 とキュルルが言ったところでスタッフロールも終了してシーンが切れる。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 シーンはかわってともえちゃんのシーンに。

 前回口元だけが映されたともえちゃんの唇が笑みの形にかわる。

 

「すごいや…かばんお姉ちゃん…」

「ど、どういうことですか。ともえちゃん?」

「がう?」

 

 その物言いに?マークを浮かべるイエイヌちゃんとアムちゃん。

 

「かばんお姉ちゃんはまだあそこで戦ってるって事だよ。かばんお姉ちゃんこうしてるでしょ?」

 

 言いつつ両手で口元を覆って見せるともえちゃん。確かに超進化セルリアンに取り込まれているかばんさんも同じ体勢をとっているのが見てとれる。

 

「確かに…」

「でもそれが何なのですか?」

 

 博士助手もともえちゃんが何が言いたいのかわからずに同じように疑問の視線を向ける。

 

「あれね。雪崩とかに巻き込まれたときにほんの少しでも呼吸を確保するための技なの。」

「ともえちゃん、ほんとですか!?」

 

 それが本当であればともえちゃんが言う通りだし、まだかばんさんを助け出す事だって出来るかもしれない。

 

「うん。昔のアタシ…ううん、もえちゃんが読んでた本に書いてあった事なの。だからかばんお姉ちゃんは帰ってくる為にわざと食べられたんだと思う。」

「かばんなら…」

「それくらいはやりそうですね。」

 

 と博士助手が頷き徐々に空気が絶望から希望へと変わっていく。

 

「信じてくれたんだ。アタシ達がアイツを倒してくれるって…。」

 

 ポツリと呟くともえちゃん。口元がニヤリと笑みを作ってから続ける。

 

「もー!かばんお姉ちゃんは本当しょうがないなー!」

 

 それにイエイヌちゃんもかすかな笑みを浮かべる。

 

「本当、なんでときどき残念なんでしょうね。」

「でも。かばん。だいすき。たすける。」

 

 とアムちゃんも力強く頷く。

 三人で顔を見合わせてもう一度頷きあってから、ともえちゃんはかばんさんの鞄を降ろすと自分の帽子を脱いでその上に置く。そして代わりに二本羽根のかばんさんの帽子を被ってから…

 

「みんな聞いて!みんなでアイツを倒そう!!」

 

 と集まったフレンズ達に振り返る。

 

「でも…」

「あんな大きな奴に勝てるのか…?」

「あんな怖いヤツ見た事ないよ…」

 

 それに対して反応は鈍い。口々に不安をもらすフレンズ達。

 

「かばんお姉ちゃんは一人でアイツと戦ったよ!」

 

 ともえちゃんの言葉にハッとする一期フレンズ達。

 彼女達は、彼女がどれだけ怖がりなのかを知っていた。

 それなのに、誰もが恐れる巨大なセルリアンにたった一人で戦った。

 かばんさんを知るフレンズ達は歯を食いしばり顔を上げる。

 

「見てよ、アイツ。かなりのダメージを負ってる!かばんお姉ちゃんがあそこまで頑張ったの!だから…あと少し、みんなの力を貸して!」

 

 もう一度集まったフレンズ達を見渡すともえちゃん。

 

「ふふ。いい大口ですわ。」

 

 とカバさんが歩み出て来る。

 

「ウチの子に手ぇ出した以上はタダじゃあすまさん」

 

 とライオンちゃんがやる気全開モードになってて

 

「あの頃から無茶するヤツだとは思ってたが…」

 

 ふ、と笑いながら熊の手棒を担ぎ上げるヒグマ。

 

「友達を助けるのも…」

「「「「アイドルの仕事ー!」」」

 

 とPPPの皆が気勢をあげてその姿にハァハァするマーゲイ。

 そのやる気は他のフレンズ達にも伝播していく。

 そして博士が立ち上がる。

 

「今ならあいつはダメージを負っているのです。ヤツを倒すチャンスは今しかないのです!」

「ここで逃げてもいずれ傷を回復したアイツに喰われるのがオチなのです。」

 

 博士の言葉に助手も頷きを見せる。

 

「よしっ…!やろう!」「かばんさんに続くのだー!」

 

 次々と気勢を上げ始めるフレンズ達。

 そこに、ザンッと空から舞い降りるようにして二人のフレンズが着地する。

 

「サーバルちゃん!カラカルちゃん!」

 

 と、ともえちゃんが新たにやってきた二人の名前を呼ぶ。

 サーバルちゃんが挨拶もなしに持っていた絵をみんなに示して言う。

 

「みんな、これ見て!キュルルちゃんが描いてくれたの!あいつの『へし』はここだよ!」

 

 それを覗き込むともえちゃん。納得の表情で頷いてみせた。

 

「アイツの『石』……これじゃあ分からないはずだよ。」

 

 大王イカの身体と船の付け根部分、船のブリッジにあたる場所にまるで迷彩柄のようになって功名にカモフラージュされた『石』がそこに描かれていた。赤いクレヨンで丸印で印までつけてある。

 

 そうこうしていると…

 身体についた炎を消しながら超進化セルリアンがギロリ、とフレンズ達を睨みつける。

 身体じゅう傷だらけでその傷から血が流れ落ちるかのようにセルリウムが零れている。

 大王イカの足は殆どが千切れ、身体を支えるムカデの足も半分以上が折れたりひしゃげたりして役には立っていない。そしてその身体に生やしていた砲塔は全てが折れてしまっていた。

 だが、その身体は少しずつ傷を再生しているのがわかる。

 かろうじてぶら下がっているだけだった大王イカの足のうち一本が既に持ち上がって動き始めていた。

 だがそのダメージは甚大。今なら超進化セルリアンは身動きすらまともに取れないだろう。

 しかし、それでも身を守る術がなくなったわけではないのだ。

 身体についた傷から流れ出るセルリウムがふわり、と空中に浮かぶとそれが小さな紙飛行機の形をとる。

 それらはどんどん数を増やして超進化セルリアンを守るように周囲を漂いはじめる。

 

「まさか…アイツ、かばんの技を…!?」

 

 と助手が驚愕の表情を浮かべる。

 

「あれじゃあ、鳥のフレンズ達で『石』に攻撃できないのです。まさか…アイツ、かばんの賢さまで奪っているのですか」

 

 ぎりり、と悔しそうな表情の博士。超進化セルリアンがかばんさんの賢さまで奪っているのだとしたら、こちらの作戦を見抜かれてしまうかもしれない。

 

「だったら……だったらかばんお姉ちゃんでも思いつかない事をするまでだよ。」

 

 ともえちゃんの言葉にその場の全員がともえちゃんに視線を向ける。そんな事が出来るのか、という疑念が半分。ともえちゃんならもしかしたら、という期待が半分の視線が集まる。

 そんな中でともえちゃんは瞳を閉じて何事かを考えている様子。その脳裏に超進化セルリアンの『石』、取り込まれたかばんさん、集まってくれたフレンズ達といった光景がよぎっていく。

 やがてともえちゃんは目を開けるとキッパリと言った。

 

「みんな!無茶しよう!一緒に悪い子になろう!」

 

 それに一同、「「「「「え?」」」」とキョトンとした表情になってしまう。

 

「無茶しなきゃかばんお姉ちゃんでも思いつかないような事って出来ないよ。だから…お願い!アタシと一緒に無茶して!とことん無茶する悪い子になって!」

 

 その言葉に一瞬目を丸くした後、誰かが「ぷっ」と吹きだして、そのまま笑いが伝播していく。

 

「もちろんだよ!」

「無茶して、か。気に入った!」

「任せなさい!」

「今日はアライさん、悪い子になっちゃうのだー!」

 

 とそれぞれに頷いていくフレンズ達。

 

「それじゃあ作戦を説明するよ!」

 

 とともえちゃんがかばんさんによく似た強い眼差しでみんなに言ったところで一度シーンが切れる。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 超進化セルリアンが身体についた火をすっかり消して、傷ついた身体をついに港湾施設跡から引っ張りだす。

 満身創痍といった様子の超進化セルリアンであったが、その傷も少しずつ再生が始まっているようだ。

 さらに悪い事には傷ついた傷口から流れ出るセルリウムが紙飛行機型やフレンズ型のセルリアン達を大量に生み出していく。

 まずは取り巻きセルリアンを増やして傷の再生をはかる構えのようだ。

 そして、その大王イカの頭部に取り込まれているかばんさんの表情が苦しそうに歪む。

 残された時間も多くはない。

 

 一方で、ともえちゃん、イエイヌちゃん、アムちゃん、博士助手、サーバルちゃん。カラカルを中心に円陣を組むようにして集まって作戦会議中のフレンズ達。

 

「本気なのですか?ともえ。」

 

 と助手が呆れ半分といった表情を浮かべる。同じく呆れ半分ではあるけれど、博士は面白そうに笑いを零していた。

 

「でも、確かにこれはかばんでも思いつかなそうなのです。」

「それに無茶する、って言ってましたけどほんっとーーーに無茶ですね。」

 

 とイエイヌちゃんも呆れ顔。アムちゃんもそれにうんうん頷いてる。

 

「危険ですから止めて下さい、って言いたいところですが…言っても聞かないのは知ってます。だから…やってやりましょう!」

「ともえ。いぬ。あむ。いっしょ。むちゃ。する。」

 

 と決意に満ちた表情で頷くイエイヌちゃんとアムちゃん。

 それにともえちゃんも満足そうに頷いて一つ、ふんす!と気合を入れる。

 

「ふっふっふー!今日はとことんまで悪い子になっちゃうんだから!」

 

 カメラはともえちゃんを先頭に放射状に広がっているフレンズ達をとらえて引いていく。先頭がともえちゃん。二段目にイエイヌちゃん、アムちゃん。三段目に博士助手にサーバルちゃん&カラカル。そしてその後ろに続くたくさんのフレンズ達。

(ここで“ようこそジャパリパークへ”のBGMイントロが開始する演出をお願いします。)

 

「それじゃあ…悪い子作戦開始だよ!」

 

 ともえちゃんが超進化セルリアンに向かって走り始めると同時、フレンズ達もBGMのうーがおー!に合わせて雄叫びをあげながら突撃を開始する。

 

「プロングホーンちゃん、チーターちゃん、先頭はよろしく!で、ロードランナーちゃんは二人のフォローしてあげてね。」

 

 ともえちゃんの指示で一番槍で飛び出していくプロチーコンビ。

 

「あたしにはプロングホーン様がつけてくれたゴマって呼び名があるんだ。特別にゴマ様って呼んでくれていいんだぜ?」

「うん、ゴマちゃん、お願いね。」

「ゴマちゃ……まあいっか。しっかしお前、よくあたし達の事わかるなあ」

「あー……そっか。」

 

 と何事か考えてるともえちゃん。初めて会ったフレンズの事も知っているのは頭の中に図鑑の知識があったからだが、その知識はどこから来たのか、とそんな考えがよぎる。

 

「おい、どうした?ビビってんのか?やめるんなら今のうちだぜ?」

 

 とゴマちゃんが心配顔を浮かべてともえちゃんを覗き込む。

 

「違うよ。アタシがこうしてみんなと一緒に走れてるのも、みんなが何のフレンズちゃんなのか知ってるのも、もえちゃんがそうしたいって思ってくれてたおかげなんだなーって」

「ふうん?よくわかんないけどまあいいや!プロングホーン様ぁ!待ってくださーい!チーターも後ろ危ないったらー!」

 

 と駆け去っていくゴマちゃん。

 ともえちゃんはしばらくの間、服の胸の辺りを抑えるようにして「ありがとね。もえちゃん。」って呟いてから再び前を見据える。

 

「カラカルちゃん!みんなとちっちゃいセルリアンをお願い!戦いが得意じゃない子がはぐれないようにみんなで力をあわせて戦ってね!」

「わかったわ。任せなさい!サーバル。あんたも焦って飛び出すんじゃないわよ!」

 

 と、カラカル率いるチームがともえちゃん達を追い抜きプロングホーン達の開けた穴を広げるようにフレンズ型セルリアンや紙飛行機型セルリアンを蹴散らしていく。

 さらに…

 

「プレーリーさん、こんな感じで穴を掘って周りを補強するッスよぉ~。」

「こんな感じでありますね!」

 

 とビーバー&プレーリーのこはんコンビが猛烈な勢いで穴を掘り即席運河を作り上げて

 

「海じゃなくたって戦えるんだからぁ!」

「さっきはよくもやってくれましたね!」

「みんなのチームプレイで倍返しなんだから!」

 

 その運河に乗ってやってきたイルカ、アシカ、シャチの海獣トリオも参戦してフレンズ型セルリアン達を次々撃破していく。

 次々と撃破されていくフレンズ型セルリアン達。

 超進化セルリアンまでの道が開けるとともえちゃんは再び指示を出す。

 

「ヘラジカちゃん、ライオンちゃん、ヒグマちゃんにキンシコウちゃんリカオンちゃんは足を攻撃してアイツの動きを止めて。右側がたくさんダメージ受けてるからそっちを狙って!」

 

 集まった中でも戦闘力が高いセルリアントリオにへいげんのリーダー達を投入する!

 

「任せろ!」

「ようやく出番かぁ…待ちくたびれたぞ!!」

「かばんのくれたチャンスだ。無駄にはしない!」

「そっちも頑張ってね。」

「オーダーキツイですけど了解ですー!」

 

飛び出したヘラジカライオンコンビにセルリアンハンタートリオが蹴散らされたフレンズ型セルリアンの間を縫って超進化セルリアンに肉薄、残ったムカデの足を次々破壊していく。

 

―ギョォオオォオオ

 

と悲鳴のような声をあげながらバランスを失って完全に動きを止める超進化セルリアン!

 

「よし!チャンスは今しかない!いくよ、イエイヌちゃん!アムちゃん!コノハちゃん博士!ミミちゃん助手!」

 

 それぞれに力強く頷いて…まずは助手が野生解放!紙飛行機型セルリアンを蹴散らしながら空に道を作る。

 

「博士ッ!」

 

 自分の役割を終えた助手が博士に振り返る。その道を通って所定の場所に移動する博士。

 

「じゃあ……アムちゃん。イエイヌちゃん。いくよ!!」

 

 と、ともえちゃんがイエイヌちゃんにしがみついて、そのイエイヌちゃんはアムちゃんによって抱えあげられる。

 

「がう!やせいっ!かいほう!!」

 

 ドンっと凄まじいオーラを解き放つアムちゃん。本当は博士にも助手にもかばんさんにも禁止されていた野生解放だ。

 それでも…

 

「アム!むちゃする!」

 

 瞳に炎を宿らせてともえちゃんがしがみついたイエイヌちゃんごと抱えあげる!

 

「ぐるぁあああああああああああああああああっ!!」

 

 咆哮とともに空で待機中の博士へ向けてイエイヌちゃん達をぶん投げた!

 凄まじい勢いで飛ぶともえちゃんとイエイヌちゃんは一気に高度を稼いで、超進化セルリアンの巨体よりも高く飛ぶ。

 

「次は任せるのです…!」

 

 と博士が野生解放しつつ飛んできたイエイヌちゃんとともえちゃんをキャッチ。

 勢いに押されながらもその身体をぐるぐると回してイエイヌちゃん達をスイング。再び勢いをつけてから…

 

「かばんを……かばんを頼んだのです!!」

 

 と超進化セルリアンの『石』に向かって二人をぶん投げる!

『石』に向かってすっ飛んで行くイエイヌちゃんとともえちゃん。進路上の紙飛行機型セルリアンを次々撃破してなお勢いは止まらない。

 しかし、それを迎撃しようと超進化セルリアンの残った大王イカの足が二人へ向けて振るわれる。

 

「うん、かばんお姉ちゃんならこのくらいは予想するよね…。でも、やるよ。イエイヌちゃん。」

「ほんとにやるんですね…。でも、ともえちゃんとなら出来る気がします。」

 

 ともえちゃんの瞳にイエイヌちゃんの瞳と同じ色の炎が宿り、イエイヌちゃんの瞳にはともえちゃんの瞳と同じ色の炎がそれぞれ宿って

 

「野生!」

「解放ぉお!!」

 

 4色の輝きを宿した炎が瞳に灯って野生解放したともえちゃんとイエイヌちゃん。

 イエイヌちゃんとともえちゃんが足の裏をお互いあわせて、蹴り出す!

 イエイヌちゃんは反動で後ろ側に、ともえちゃんは『石』に向かって速度をあげて大王イカの足をかわした!

 

 そのまま単身『石』へ突撃するともえちゃん。

 

「ひっさぁああああああああつ!かばんキィイイイイイイイイイック!!」

 

 1話で中型セルリアン相手に見せたかばんさんの飛び蹴りのように超進化セルリアンの『石』に蹴りを叩きこむともえちゃん。

 

―ズドォオオオオオオオン!

 

 と凄まじい音が響く。続いて衝撃の波が周囲の空気を揺らした。

 

―ピシリ

 

 と一瞬遅れて超進化セルリアンの『石』にヒビが入り……

 

―パッカァアアアアアアアアアアアアン!

 

 と超進化セルリアンの身体が凄まじいサンドスターの輝きを放ちながら跡形もなく消し飛んだ!

 本体を失った小型セルリアンやフレンズ型セルリアンもサンドスターへと還る。

 

 そして取り込まれていた、かばんさんも空中へと放り出される。すっかり黒ジャケットも溶かされた状態のかばんさんは頭から地面へと落下しはじめて、その姿にフレンズ達も息を呑む。

 このまま落ちれば間違いなく助からない。

 

 同じく自分も空中を落ちながらともえちゃんは、すっとかばんさんの方を指さして

「サーバルちゃあああああああああああん!」

 あらん限りの声で叫ぶともえちゃん!

 

(ここで1期動物解説BGMがイン。小さく1期1話しんざきおにいさんの解説も流れている。)

 

 ピクン、と動く大きな耳、黄色の炎を宿した瞳。この為だけにずっと待っていたのは…サーバルちゃんだった!

 

「そう…。サーバルちゃんの特徴は…」

 

 ともえちゃんの声がしんざきおにいさんの解説と被って

 

「「ジャンプ力ぅ…」」

 

 その解説をバックにサーバルちゃんが凄まじい勢いで疾る!

 

「かばんお姉ちゃんを助けてくれるくらい……」

 

 再びしんざきおにいさんの解説とともえちゃんの声が被って

 

「「ジャンプしてくれます…!」」

 

 野生解放したサーバルちゃんが得意の大ジャンプで落下するかばんさんをキャッチ!

 (で動物解説BGMが終了)

 カメラはかばんさんをお姫様だっこ状態でキャッチしたサーバルちゃんの雄姿をしばらく映す。

 

 落下するイエイヌちゃんはアムちゃんがキャッチ。

 ともえちゃんは……

 

「おい、カッコよすぎじゃねーか!ずるいぞ!」

 

 とゴマちゃんがキャッチ。それぞれに無事着地する。

 

(ここでBGMが“ボクのフレンド”アレンジBGMに。巻末にてBGMイメージを紹介させていただいています。)

 

 着地したサーバルちゃんとかばんさんの周りに集まるみんな。

 黒ジャケットはすっかり溶かされて髪も短くなってまるでかばんちゃんだった頃の姿に戻ってるかばんさん。

 

「ねえ!かばんちゃん!かばんちゃん!目を開けてよ!」

 

 ってサーバルちゃんが必死にかばんさんに呼びかけるとその目が薄っすらっと開く。

 

「かばんちゃん!わたしの事わかる!?サーバルちゃんって呼んで!」

 

 そこで視点はかばんさん視点に。

 泣きそうな顔で必死に呼びかけるサーバルちゃんの顔が見える。

 

「……!………!……!?……!」

 

 かばんさんからはその声が聞き取れていない。

 

「(前にもこんな事あったっけ…。あの時はサーバルちゃん何て言ってたかなあ…。で、ボク何て答えたんだっけ…)」

 

 ゆっくりとかばんさんの手が伸ばされてサーバルちゃんのほっぺに優しく触れる。

 

「たべないでください…。」

 

 とサーバルちゃんに笑いかけるかばんさん。

 

「たべ……食べるわけないよぉおおおおお!」

 

 って大泣きしてかばんさんに抱き着くサーバルちゃん。

 それを見てカバさんが両手で顔を覆うようにして貰い泣きして、ヘラジカが上を向いてもこぼれる涙を抑えきれず、アライさんがフェネックに抱き着いて大泣きしてて

 他にも思わず貰い泣きしちゃうフレンズ達多数の中。

 

「今のはないよ、かばんお姉ちゃん…ほんと残念なんだから……もお!」

 

 ってともえちゃんが二人に飛びつき

 

「もう!ほんとですよ、かばんお姉ちゃんはどうして最後にそうなんですか…!」

 

 ってイエイヌちゃんも追加で飛びつき。

 

「モット、言ってヤッテ」

 

 ってボスウォッチももちろん健在。

 

「かばん!おかえり!」

 

 とアムちゃんが続いて飛びつくと……

 

「「「「うわわぁ!?」」」」

 

 とその勢いと重みで潰されちゃうサーかばともイヌの4人。

 倒れた状態で見つめあうサーバルちゃんとかばんさん。しばらくお互いに見つめあってから「「ぷっ」」と同時に吹きだす。

 

「「あはははははは」」

 

 とお互いに笑いだしてもう泣いてるやら笑ってるやらよくわかんない状態に。

 それがみんなに広がっていって泣いているのに笑っている、笑っているのに泣いているという不思議な光景に満たされてシーンが終了する。

 

 

 

 

―後編へ続く―

 




【妄想元ネタ紹介】

ぼくのフレンドアレンジBGM
https://www.nicovideo.jp/watch/sm30921940
ぼくのフレンドは名曲ですがこのアレンズも素晴らしいです。ピアノアレンジ、オルゴールアレンジ、さらにようこそジャパリパークへのアレンジもあって盛沢山の動画です。


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第12話『リスタート』(後編)

 

 

 それから……

 

 シーンはかわって居住区、イエイヌちゃんのおうちの庭。

 

「かばんさーん!依頼達成したのだー!アライさんにお任せなのだー!」

「まったく、依頼達成できたのはみんなの力じゃないですか。」

「そうだよー。センちゃんの言う通りだよー。」

「そうなのだ!アライさん達群れの力なのだー!」

 

 賑やかにやって来たアライさんはえっへん、とばかりに胸を張ってから

 

「アライさんとフェネックとセン達とともえ達とそしてかばんさん!無敵の何でも屋さんチームなのだー!」

 

 と高らかに宣言する。それを聞いてセンちゃんとアルマーの二人はやれやれ、と言いたそうにしながらも嬉しそうだ。

 

「アライさんお帰りなさい。フェネックさんもセンさんもアルマーさんもお疲れ様。」

 

 帰って来たアライさんとフェネック、そしてセンとアルマーのダブルスフィアを出迎えるのはかばんさんだった。

 黒ジャケットの丈が少し短くなってて、レギンスはニーソックス状態。そして腕も肌が露出している状態ではあるが髪は元通り。

 まだ超進化セルリアンに取り込まれていた時の影響が残っているけれど順調に回復しているようだ。

 そんなかばんさんは帰って来た4人にいつも通りの優しい笑顔を向ける。

 

「で、かばんさーん。そっちの依頼はどうなのさー?」

「んー…。いやあ。その……なんというか……」

 

 フェネックがかばんさんに訊ねると少しばかり困ったような複雑な表情でほっぺをポリポリしてみせるかばんさん。

 その後ろでは大の字になってともえちゃんとイエイヌちゃんとアムちゃんが転がっていた。

 

「ともえちゃんがセルリアンに食べられないようにするっていう皆の依頼なんだけどね。ともえちゃん自身に技を教えてセルリアンに食べられる事がなくなるようにするって考え方はあってると思うんだけど…」

 

 と、ともえちゃんの手がノロノロと持ち上がり

 

「かばんお姉ちゃんが強すぎて参考にならない件……」

 

 とかばんさんの後の言葉を引き継いでフェネックに答える。

 

「これでまだ回復しきってないってどうなってるんですかぁ……」

「がうー…」

 

 イエイヌちゃんとアムちゃんも揃ってぐったりとした様子を見せている。

 そんな二人にセルリアンハンタートリオの一人、リカオンが…

 

「うんうん。三人ともオーダーキツイですよねー…。わかる。わかりますよ!」

 

 と同情していた。

 どうやら、かばんさんの特訓は思っていたよりもハードだった事が伺いしれる。

 

「あーらら…。」

 

 そんな息も絶え絶えのともえちゃんの横にしゃがみ込んでフェネックが彼女のほっぺをツンツン。

 

「仕方ないのです。ともえがセルリアンに喰われたらまたあんな強力なセルリアンを生む事になるかもしれないのです。」

「その為にカバやヒグマやキンシコウやリカオンにまで協力してもらっているのです。頑張るのです、ともえ。」

 

 と、そんな光景を見守る博士と助手。ちゃっかり敷物を敷いてお茶とクッキーを頬張っていたりする。

 

「いやあ…。あのセルリアンの場合はもともとが凄く強かったから、っていうのもあるとは思うからそうそうあんなに強力にはならないと思うけどね。」

 

 とかばんさんが困ったような笑いで続ける。

 そんな彼女の横にカバがやって来る。

 

「それにしても、ともえの方がかばんよりも力も強いし足も速いのだからすぐにかばんよりも強くなると思いましたのに…。」

 

 そうやってほっぺに手を当てて考える仕草を見せるカバ。

 

「ついでに鍛えて欲しいっていうイエイヌとアムの三人でかかってもまだかばんに狩りごっこで勝てませんのね」

 

 カバは嬉しいやら困ったやら複雑そうな表情で続ける。かばんさんが強く成長していたのが嬉しいのが半分。

 そして残り半分の困った、の感情の裏にはもう一つ、事情がある。

 

「ただ、そろそろ次の依頼人も待たせ過ぎてもいけないのです。」

 

 博士の言う通り、次の依頼人がそろそろ到着する頃だった。

 

「ヒグマ。実際のところどうなのです?」

 

 と助手がたずねる。口ではなんだかんだ言いつつも面倒見のよいヒグマの事だ。きっと訓練の進み具合もきちんと把握しているに違いない。

 

「まずイエイヌとアムの二人はかなり腕を上げた。例の技だって仕上がりは完璧だ。正直セルリアンハンターに欲しいくらいだな。」

 

 そうして博士と助手に頷いてみせるヒグマの顔をキンシコウがニコニコしながら覗き込む。

 

「ヒグマ。ベタ褒めですね。」

「うるさい!」

 

 とプイっとするヒグマ。

 

「ともえさんの方も私と互角以上に渡り合ってますよ。特に勝ったら撫でていい、っていう条件を出した時は100%私から一本とってます。」

 

 と何故か顔を赤らめるキンシコウ。ちなみにともえちゃんの訓練は主にキンシコウもサポートに回っていた。

 

「柔らかさが先にくる感じの非常によいモフり心地だったよ。」

 

 と、ともえちゃんがガバリと身を起こして親指立ててみせる。

 キンシコウをモフるともえちゃんの絵面は残念ながら見せられないよ!な事になりそうだったので内緒にされていた。

 

「じゃあ、そろそろですかしら?」

 

 カバが他の皆を見回して問いかけると、博士、助手、ヒグマ、キンシコウ、リカオンがうん、と頷く。

 

「ともえ、イエイヌ、アム。そろそろ最終試験といきましょう。」

 

 その頷きを受けてカバがあらためるように宣言する。瞬間、ともえちゃん達の空気がかわった。

 ゆらり、とともえちゃんがまず立ち上がり、それにイエイヌちゃん、アムちゃんと続く。

 そして、フレンズ達がその後ろに回ってかばんさんと対峙するような形に。

 一人、かばんさんだけがこの状況の変化についていけてなかった。

 

「かばん。ごめんなさいね。今回はともえ達の応援をさせてもらいますわ。」

 

 とカバがこれまた複雑そうな笑顔で言う。

 

「かばん。次が最後の狩りごっこなのです。」

「これが最終試験なのです。」

 

 博士助手がかばんさんに告げる。

 ともえちゃん達に課せられた試練。

 それは狩りごっこでかばんさんに勝つ事だった。

 そして今日に至るまでにまだ一本すらとれていないともえちゃん達である。

 これからのともえちゃん達の生活にも関わる為、かばんさんとしても手を抜くわけにはいかなかった。

 もちろん怪我をしないように配慮はしていたけれど、わざと負けるような真似は出来ない。

 

「うんうん、何か作戦があるんだね?楽しみにさせてもらうね。」

 

 言いつつ一歩を歩み出て半身で構えをとるかばんさん。

 それに対峙するともえちゃん、イエイヌちゃん、アムちゃんの三人。

 

「かばんお姉ちゃん!」

 

 ビシイ!とともえちゃんがかばんさんを指さす。

 

「アタシ達が勝ったらかばんお姉ちゃんには次の依頼を絶対受けてもらうからね!!」

 

 と続ける。

 

「うん、いいよ。でもそこまで言うってすっごい大変そうだね?どんな依頼なのか怖いなー。」

 

 と苦笑いのかばんさん。その言葉にともえちゃんはじめ、イエイヌちゃんもアムちゃんも、そして後ろで控えるフレンズ達も一様にニヤリとした。

 

「じゃあそういう事で話は決まりましたかしら?」

 

 カバがお互いの中間地点に割って入る形で手を伸ばす。

 

「それでは最終試験を開始しましょう。ともえ。イエイヌ。アム。頑張ってね。」

 

 と言ってから「はじめ!」の合図を出す。

 

「がうっ!!」

 

 すると、まずはアムちゃんがドンッ!と音を立てながら野生解放。

 放たれた圧で空気がビリビリと揺れるようだ。

 さらに、ともえちゃんとイエイヌちゃんが手を繋ぐ。

 そして、お互いの瞳に相手の瞳の色を宿した4色の炎が灯る。

 

「よしよし……。サンドスター制御も完璧…。野生解放を完璧に自分のものにしているな…」

 

 初手を見守るヒグマが嬉しそうに拳を握りしめていた。

 

「ヒグマさん嬉しそうですねー。」

「リカオンの時もそうでしたよ。」

「お前たちうるさい!?」

 

 とリカオンとキンシコウに茶化されて真っ赤になるヒグマ。

 

「ところで、ともえさんとイエイヌさんがやってるのは何ですか?普通の野生解放とは違うように思えますが…。」

 

 ヒグマの照れが怒りに変わる前の絶妙なタイミングで話題を逸らすリカオン。それには助手が答える。

 

「イエイヌはヒトと心を通わせる事が得意なフレンズでともえは『進化』の輝きを宿した特別なヒトのフレンズ…。だからこそ出来る技なのです。」

「あの野生解放はあの二人だけが出来る、あの二人ならではの技なのです。」

 

 と博士が後を続ける。

 それは超進化セルリアン戦の最後の最後に見せた技だった。

 あの時は出来るような気がした、という無茶な理由で編み出した技だったが特訓の成果でついに自在に使えるようになったのだった。

 

「そう…。名付けて!」

 

 と、ともえちゃんが言いつつ見守るフレンズ達も「「「「名付けて…?」」」」と息を呑む。

 

「名付けて!なかよし野生解放!!」

 

 ジャーン!とイエイヌちゃん、アムちゃんと一緒になって決めポーズ!こそっとアライさんとアルマーが混じって決めポーズしてる。

 でフェネックとセンちゃんがそれぞれパートナーを引っ張って元の位置に戻っていった。

 それに他のフレンズ達は揃ってびっみょーーっていう残念そうな表情をして見せていた。

 

「うんうん、ともえちゃん達らしい可愛い名前だね。」

 

 けれど、かばんさんはニコニコしながらパチパチと小さく拍手していた。

 

「ダメなのです…この一家。」

 

 と博士が残念そうな表情。

 

「残念一家なのです」

 

 と助手がはぁーと小さく嘆息。

 それまでずっと黙って成り行きを見守っていたフレンズから思わずツッコミが飛ぶ。

 

「おい!?もうちょいカッコいい名前にしろよ!?」

 

 とツッコミを入れたのはG・ロードランナーのフレンズ、ゴマちゃんだった。

 それに他のフレンズ達がよくいった!という顔をする。

 

「えー?わかりやすくていい名前だと思うんだけどなー。」

 

 ともえちゃんはそんな事を言いつつ…

 

「ゴマちゃんも野生解放できるようになったら一緒にやろうねー!」

 

 とゴマちゃんに向かって手を振っていた。

 

「念の為に言っておきますが、決めポーズもですからね…!」

 

 ほんの少し頬を赤らめたイエイヌちゃんがジトーっとした目をゴマちゃんに向けて言う。

 言外に「逃がさないからね。」とでも言いたげだ。

 

「コノハちゃん博士ー!ミミちゃん助手ー!ゴマちゃんの特訓も頑張ってねー!」

 

 そんなイエイヌちゃんの胸中を知ってか知らずか、ともえちゃんは元気にゴマちゃんに手を振り続けている。

 

「ってなんであたしが特訓中だって知ってんだよ!?あとバラすな!?」

 

 ちなみにゴマちゃんもともえちゃん達が始めようとしていた何でも屋さんチームの一員となるべく内緒で特訓中だった。

 ゴマちゃんの特訓は本人の希望で博士と助手がこっそり見ていたのだが、どうやらバレバレだったようである。

 

「さて、それじゃあ…そろそろ行くよ、かばんお姉ちゃん。」

 

 とかばんさんに向き直るともえちゃん達3人。

 先ほどまでの和気藹々とした空気もどこかへ吹き飛び緊迫した空気が流れる。

 

「うん、こっちも全力で行かせてもらうね。」

 

 ともえちゃん、イエイヌちゃん、アムちゃんの視線を受けて構えをとるかばんさん。

 あらためての仕切り直し。

 

「イエイヌちゃん!アムちゃん!」

「はい!」

「がう!」

 

 ともえちゃんの掛け声とともに三方向に散った三人。

 それぞれ別方向からかばんさんに襲い掛かる。

 

「凄く速くなったね。これがなかよし野生解放の力かな。凄いね。」

 

 まるで目の前からかき消えるようにして凄まじい速度で襲い掛かってくるともえちゃん達。

 しかし、それでも…。

 

「でも、そのくらいの速さなら何とかなるかな?」

 

 かばんさんの想定内だったようだ。

 それぞれにタイミングをずらしてカウンター対策をした上で繰り出された攻撃をいとも簡単にいなしてしまうかばんさん。

 見守るフレンズ達からはするり、とそれぞれが突撃した側から逆側へ抜けるかのように見えている。

 

「まだです!」

「がう!」

 

 今度はイエイヌちゃんが目隠しになって続けて後ろからアムちゃんがイエイヌちゃんごと貫かんばかりの勢いで拳を繰り出す!

 そしてイエイヌちゃんが後ろのアムちゃんの一撃を受ける直前に切り返して一瞬でかばんさんの後ろに回り込む。

 アムちゃんの拳に対処すればイエイヌちゃんに背後をとられる。

 かといってイエイヌちゃんに対処しようとすれば眼前に既に迫っているアムちゃんの拳をモロに受けてしまう。

 

「うん、コンビネーションもすごい上手になってきたね。」

 

 申し分のないタイミングにかばんさんも満足気であった…。

 

「でも、もう一息かな。」

 

 かばんさんはアムちゃんの方に向けて一歩を踏み出す。

 唸りをあげる拳を紙一重でかわして懐へと潜り込みそのままその腕を巻き込んでしまう。

 アムちゃんの攻撃の勢いまでも利用して背中へと担ぎ上げてそのまま流れるように一本背負いでぶん投げるかばんさん!

 ちょうど背後へ回り込もうとしていたイエイヌちゃんへぶつけるようにアムちゃんの巨体を投げ飛ばす!

 

「それに作戦もよく考えてると思う。」

 

 言いつつ、ひょい、とお辞儀するように頭を下げるかばんさん。瞬間、先ほどまでかばんさんの頭があった位置を死角から近づいていたともえちゃんの蹴りが行き過ぎる。

 行き過ぎたともえちゃんの蹴り足をガシリ、と掴むかばんさん。

 そのまま身体を一回転させてジャイアントスイングの要領で先ほど投げたアムちゃんと同じ方向にぶん投げる。

 背後をとろうとしていたイエイヌちゃんは投げ飛ばされたアムちゃん、そしてともえちゃんを順番に辛うじて受け止めていたのでどうにかノーダメージで済んだ。

 しかし、背後をとって攻撃するという作戦もまた失敗してしまっている。

 

 体勢を立て直してあらためてかばんさんと向き直る三人。

 

「やっぱり強いや、かばんお姉ちゃん…。」

「はい。ですが負けるわけにはいかない。ですよね。」

「がう!」

 

 ともえちゃん、イエイヌちゃん、アムちゃんが言いつつニヤリとして見せる。

 先ほどの一連の攻防もどれもが必殺のタイミングで放ったはずの攻撃を全ていなされてしまった。

 野生解放の力で底上げした能力をもってしてもその結果であったのにまだ闘志が失われたようには見えない。

 その姿に対峙するかばんさんも心の中で満足を覚えていた。

 技もチームワークもずっと格段によくなった。

 それによく色々な事を考えている。

 だからこれからも皆でジャパリパークで生きていくのに申し分はない。

 それにまだ諦めていないその目。

 きっと何か作戦があるのだろう。

 どんな事をしてくるのか楽しみにしつつも決して油断だけはしない。

 緊迫した空気が流れる。

 きっと次の攻防で決着がつく。

 見守るフレンズ達も一様に固唾を飲んだ。

 

「かばんお姉ちゃん。次の作戦は割と危ないので怪我はしないで下さいね。」

 

 言いつつイエイヌちゃんが一歩下がってアムちゃんの真後ろに。

 そしてその後ろにともえちゃんを隠して三人一列の状態になる。

 

「うん、何かとっておきの作戦があるんだよね。楽しみにさせてもらうね。」

 

 かばんさんも右手を真っ直ぐ伸ばして上に向けていた手のひらをクイ、と自分に向けて「来い」とばかりに応じてみせる。

 瞬間、三人一列になっていたアムちゃん、イエイヌちゃん、ともえちゃんが同時に駆け出す。

 

「ぐるぁああああああああああああああっ!」

 

 咆哮とともにアムちゃんが途中にあった大岩を持ち上げてイエイヌちゃんへと視線を送る。

 

「いっけぇえええええええええええええ!」

 

 と、アムちゃんが持ち上げた大岩に続けて蹴りを叩きこむイエイヌちゃん!

 砕けた岩の破片が散弾のようにかばんさんを襲う!

 

「これはいいね。カウンターで返しようがない、上手い作戦だよ。」

 

 と言いつつもかばんさんの対処は的確だった。

 後ろに飛び退って放射状に広がる石礫から距離をとり、自分に向かってくるものだけをかわしたりいなしたりしていく。

 結局、このとっておきでもかばんさんにはノーダメージだった。

 しかし……。

 

「……?」

 

 と、かばんさんは疑問の表情を浮かべる。

 何故なら、イエイヌちゃんもアムちゃんも作戦大成功、とでも言いたげな満足気な表情を浮かべていたからだ。

 

「ともえちゃんは…?」

 

 と、かばんさんが疑問の正体に行きつく。周囲を見渡してもともえちゃんの姿はなく、他のフレンズ達が固唾を呑んで成り行きを見守る姿だけしか見えない。

 気配も全く感じられない。

 ともえちゃんだけが忽然と姿を消してしまったかのようだ。

 かばんさんが全周警戒の構えに入る直前…、「かばんお姉ちゃん捕まえた。」と耳元で囁かれる声が背後から聞こえた。

 と同時に背中から手をまわしてともえちゃんが抱き着いていた。

 

「とうとう負けちゃったね。三人とも頑張ったね。すごいよ。」

 

 回された手にそっと手を重ねるかばんさん。負けてしまった事よりもともえちゃん達がとうとう自分を倒してくれた事の方が嬉しかった。

 

「でも、全然気配しなかったけど、最後のあれ、どうやったの?」

 

 と疑問を口にする。

 そのかばんさんの疑問にともえちゃんはしばらく名残惜しそうにその背中にぐりぐりと頭を押し付けるようにしてからぱっと離れてかばんさんの前に回る。

 

「ふふー。あれが最後の秘策だったんだよ。あのね、サンドスターを沢山使って野生解放が出来るならその逆も出来ないかなーって思ったの。」

 

 んふー。とばかりにドヤ顔のともえちゃん。

 

「でー、サンドスターを出来るだけ使わないようにしたら…こんな感じ?」

 

 すぅ、とその場にいるのに物凄く存在感が薄くなってしまうともえちゃん。

 

「わ、目の前にいるからわかるけど、これで姿を隠されたら見つけられないよ。」

 

 ともえちゃんは先ほどアムちゃんが大岩を持ち上げた瞬間に野生解放を一旦解除してこの技を使いこっそりかばんさんの死角へと潜り込んでいたのだった。

 

「名付けて!」

「「「「名付けて…?」」」

 

 ともえちゃんが再びドヤ顔で続けるのに一同何やらイヤな予感がしつつ聞き返す。

 

「逆野生解放!」

「そのまんまじゃねえかあああああああああああ!!」

 

 とゴマちゃんのツッコミが入り、見守るフレンズ達一同、よく言った!という顔になる。

 

「でも、この技はすごいね。ともえちゃんのサンドスター量が多いからセルリアンに狙われやすいって問題も解決できるんじゃないかな。」

 

 かばんさんの言うとおり、ここまで自在にサンドスターをコントロールできるならセルリアンに狙われても身を隠す事だって出来るし普段から出来るようになれば狙われる頻度だってずっと少なくなるはずだ。

 

「どうしても勝ちたかったからね。みんなで作戦考えて頑張ったんだから。」

 

 くるくる周りながらイエイヌちゃん達のところへ戻るともえちゃん。

 と、ともえちゃんもイエイヌちゃんもアムちゃんもどこかその顔が寂しげだった。

 

「アタシ達は大丈夫だから、ね。次の依頼は絶対受けてよ?かばんお姉ちゃん。」

 

 ってともえちゃんが言う。

 

「正直寂しですけど、私はお留守番が得意ですから。それに皆もいてくれるからお留守番してても寂しくないですから。」

 

 とイエイヌちゃんも寂し気に笑って

 

「かばんー…」

 

 とアムちゃんも寂し気にしょんぼりしている。

 かばんさんだけがその表情の意味を理解しかねていた。

 

 

 そうしているとゴマちゃんが「おーい。」とやって来る。

 

「おーい、次の依頼人連れてきてやったぜー。」

 

 ゴマちゃんが連れて来たフレンズ。それは……。

 

「サーバル……ちゃん…」

 

 だった。

 かばんさんの目の前までやってきたサーバルちゃん。

 何かを迷うようにするサーバルちゃんに目を丸くするかばんさん。

 

「あのね!かばんちゃん…!あのね……!」

 

 と何か言おうとしてやっぱりやめてを繰り返すサーバルちゃん。

 そんなサーバルちゃんの肩を後ろからカラカルがやってきて一つ押す。

 

「いいから言いなさい。アンタが何言ったって文句言うヤツは誰もいないわよ。」

「けど……だって、かばんちゃん忙しいのに…私の為だけなんて…」

 

 それでもなお逡巡を見せるサーバルちゃんの頭をバシン!と音を立ててカラカルが引っぱたいた。

 

「もう!じれったいわね!ひっぱたくわよ!?他人なんかどうでもいいからアンタがどうしたいのか言いなさい!サーバル!」

「いたいよカラカル!?叩いてから言わないでよ、もー!?」

 

 と頭の後ろを抑えながら言うサーバルちゃん。

 

「でも、ありがとう。カラカル。」

「ふん。いいからさっさとアンタが言いたい事言ってきなさい。それで文句言うヤツもひっぱたいてあげるから。」

 

 そっぽ向いたカラカルにもう一度礼を言うサーバルちゃん。カラカルはそっぽ向いたままだけど少しだけ頬を赤くしていた。

 

「あのね、かばんちゃん…私やっぱりね…。思い出したいの!だからね…依頼、そう依頼なの!私の思い出を一緒に探して!」

「え?え?」

「やっぱりね。忘れたままなのイヤなの!だからお願い!」

 

 かばんさんは事態についていけずに目を丸くしたままだった。思わず一歩後ずさるがその背中を誰かがとめた。

 

「はい、約束したよね?次の依頼は絶対に受けてもらうって。」

 

 と、それはともえちゃんだった。

 ここに至ってようやくともえちゃん達が仕込んでいた最後の罠に気が付いたかばんさん。

 

「ちなみに、同じ依頼が他多数のフレンズちゃん達からでてまーす。同じ依頼をした人ー?」

 

 と、ともえちゃんが挙手してみせる。

 続けてイエイヌちゃんとアムちゃんが挙手。

 

「こっちは安心して下さい。なんたってかばんお姉ちゃんにだって勝ったんですから。」

「がうがう!」

 

 とイエイヌちゃん、アムちゃんが頷きながら一緒に挙手している。

 博士、助手がさっさとしろと言わんがばかりの顔で挙手して、カバさんがいつもの笑顔で挙手して、セルリアンハンタートリオが同じく挙手。

 フェネックがいつもの調子で挙手してアライさんが両手をあげてピョンピョン挙手してダブルスフィアもそれぞれ挙手して、カラカルがそっぽ向いたまま挙手。でゴマちゃんが周りをキョロキョロ見回してから挙手。

 

「あとねー、トキちゃん達やアルパカちゃん達でしょー。プレーリーちゃんやビーバーちゃん達にアリツカゲラちゃんやイルカちゃん達でしょー。まだまだ沢山のフレンズちゃん達から同じ依頼出てるけど名前、聞く?」

 

 と指折数えるともえちゃん。

 どうあってもこの依頼からは逃げられない。逃がさないというのがジャパリパークの皆の総意のようだ。

 それでも、かばんさんにはどうしても気がかりがあった。

 ここまでお膳立てされても首を縦には振れない理由があった。

 

「ボクも同じ依頼をお願いしたいんだ。かばんさん。」

 

 その声にハッと振り返るかばんさん。そこにいたのはキュルルだった。

 

「だって…そうしたら今度はキュルルちゃんが…。そんなのダメだよ…」

 

 記憶をなくした後のサーバルちゃんはキュルルとのチームだ。

 それを引き裂くような事だけは絶対に出来ない。

 かつてそれを経験してしまったかばんさんだからこそ、それを他人が味わう事だけは絶対に許せない事だった。

 それにキュルルはゆっくりと首を振る。

 

「あのね。かばんさん。ボクわかった事があるんだ。例え離れてても友達は友達だよ。ボクにとって離れたってサーバルが大切な友達なのはかわらないんだ。」

 

 そのまま続けるキュルル。

 

「大切な友達が悩んでたら力になりたい。その悩みを解決できるのはかばんさんしかいないんだ。だからお願い。かばんさん。」

 

 とキュルルはかばんさんに頷いていた。

 

「ついでに言うならサーバルが忘れた思い出で悩んでるとからしくないったらないのよ。さっさと思い出す事思い出していつものドジっこに戻りなさい。」

 

 とキュルルの後ろにカラカルが来ていた。

 サーバルちゃんが「ドジは余計だよっ!」と言っていたがそこは皆でスルーだった。

 

「いいの…?」

 

 全ての障害を取り払われてしまったかばんさん。ようやくそれだけを絞り出す。

 

「約束したよね。かばんさん。サーバルの事、力を貸してくれるって」

 

 と頷くキュルル。

 

「それに!かばんさんだってボクの大好きな友達だよ。だから、力にならせてよ。」

 

 かばんさんの背中を押してサーバルの方へと近づけるキュルル。

 

「さ、ボクは言いたい事全部言ったからね、次はかばんさんの番なんだから。」

「はい、後はかばんお姉ちゃんがどうしたいのかだよ。頑張って」

 

 キュルルの後ろにともえちゃんもやって来て頑張って!とばかりに両手に拳を握る。

 

「かばんお姉ちゃん。記憶はなくたって絆は残りますよ。だから頑張って下さい。」

 

 とイエイヌちゃんが言って

 

「かばん…がんばれ」

 

 とアムちゃんも頷いていた。

 

 かばんさんの目の前にはまだ不安そうなサーバルちゃんだけがいた。

 全員で固唾を飲んで成り行きを見守る。

 

「あのね……サーバルちゃん…」

 

 しばらく言葉を探すようにお互いに見つめあうかばんさんとサーバルちゃん。

 何度も何かを言おうとして、それを引っ込めてを繰り返すかばんさん。

 さらに一歩を歩みだして、サーバルちゃんを抱きしめるかばんさん。

 

「何を言っていいのか頭の中ぐるぐるしちゃって…。でもね。ボクもサーバルちゃんと一緒がいいよ。一緒に思い出を探したい。見つからなかったらもっと大切なものを一緒に作りたい。だから一緒に行こう。サーバルちゃん。」

「うん…うん!かばんちゃんと一緒に行くよ!」

 

 と二人が抱きしめあって…それを見ていたフレンズ達もようやくか、といった表情をそれぞれに浮かべている。

 

「カバン。サーバル。三人デノ旅。楽しみダネ。」

 

 とボスウォッチが言ったところでBGMはオンボーカル版のぼくのフレンズに変更。

 

 

 

 

 そこからはダイジェスト形式で旅立ちとその後の場面が一枚絵で流れる中でスタッフロールが始まる。

 アライさんがえっへんってしながら港湾施設跡からフェネックとダブルスフィアと一緒に掘り起こしてきたジャパリバスをお披露目。

 博士助手が直してやったのです、という顔で同じくえっへん。

 かばんさん、ボスウォッチ、サーバルちゃんがジャパリバスに乗って旅立つ。

 手を振って見送るみんな。

 

 困ってるフレンズにサーバルちゃんが手を伸ばしてて、かばんさんが豆電球ピコンとして、で笑顔になったフレンズに手を振りながらまた冒険を続けるかばんさんとサーバルちゃん。

 何故か転がってくる大岩から二人して必死で逃げるかばんさんとサーバルちゃん。

 小型セルリアンの群れに出くわして背中合わせで戦うかばんさんとサーバルちゃん。

 で、そんな場面にジャパリバイクで突っ込んでくるともえちゃん。

 サイドカーにはイエイヌちゃんとアムちゃんが乗っててタンデムシートにはゴマちゃんが乗っててセルリアンを蹴散らしてみんなで「「「「b」」」」ってしてくれる。

 

 さらにある日、ロッジにやってきたかばんさんとサーバルちゃん。タイリクオオカミ先生が修羅場っててキュルルがアシスタントに駆り出されて二人してぐったり。

 かばんさんも手伝うんだけど、同じくぐったり。

 サーバルちゃんがかばんさんを抱き起して慌て、カラカルがダメだこりゃ、と肩をすくめてやれやれってして。

 で、そんなロッジにともえちゃんもやって来る。

 タイリクオオカミ先生とかばんさんとキュルルとともえちゃんみんな揃ってぐったり。

 そうして尊い犠牲を出しつつもどうにか修羅場を潜り抜けたタイリクオオカミ先生。

 お礼に、とともえちゃんとキュルルに新しいスケッチブックを差し出す。

 早速そのスケッチブックに新しい絵を描いてそれを見せあって笑いあうキュルルとともえちゃん。

 

 で、海で一緒に水着で遊ぶかばんさん&サーバルちゃん。

 防寒着を着て手をつないで雪山を登るかばんさんとサーバルちゃん。

 一緒に温泉に入るかばんさんとサーバルちゃん。

 ジャパリカフェでちょっときゅーけーするかばんさんとサーバルちゃん。

 そんな一枚絵が続いていってそして…。

 

 夕暮れのサバンナで一緒に沈む夕日を眺めるかばんさんとサーバルちゃん。

 

「これからもずっと一緒だよ。サーバルちゃん。」

「うん!かばんちゃん!」

 

 夕日にお互いに寄り添うかばんちゃんとサーバルちゃんのシルエットが溶け込む。

 で、かばんさんとサーバルちゃんがお互いに見つめあって笑ってる絵でボクのフレンズも歌が終わってシーン終了。

 

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart

―おしまい―

 

 

 で、3等身デフォルメ絵でイエイヌちゃんの住んでる居住区を上から見下ろした図が出て来て

 ポンって音でともえちゃん、イエイヌちゃん、アムちゃん、ゴマちゃんの顔が一つのおうちに。

 ポンって音が続いて、かばんさん、サーバルちゃんの顔とボスウォッチが近くの別なおうちに。

 ポンポンって音がもう一つ続いて、キュルル、カラカルの顔が別の近くなおうちに。アライさんフェネックの顔が近くのおうちにそれぞれ配置。

 で、少し画面が引いて、『わすれものセンター』と書かれた建物の絵が出て来てそこにはセンちゃんアルマーの顔がポンっと追加。いがいとちかい。と但し書きが追加。

 さらにカメラが引いて図書館のデフォルメ絵に博士助手の顔が配置されてて、双方向矢印が出て、ちょっと遠いけどご飯食べにいつもくるよ。と但し書きが追加。

 で、デフォルメかばんさんとサーバルちゃんがぴょこんと出て来る。

 

「近くに住んでるしみんな遊びにくるしでよく会うんだけどね。」

 

 ってかばんさん。

 

「みんなで遊びに行ったりもするよねー」

 

 ってサーバルちゃん。

 

 で、背景のフレンズ達の顔アイコンがわちゃわちゃ動き回っていろいろ組み合わせをかえたり、追加のフレンズアイコンが加わったりする様子を見せてから

 二人で「「ねー♪」」ってして……

 

 

 今度の今度こそ

 

 

―おしまい―

 




【あとがき】

以上で私が頭の中で妄想したけものフレンズ2のその後の物語を終了とさせていただきます。
けものフレンズ2最終回を視聴した直後は具合が悪くなるほどのショックを受けていました。
それからしばらくして同じような想いをしている人がたくさんいた事も知りました。
そうしたショックはケムリクサなどを見る事でも癒されていったのですが、やはりそれでも何かモヤモヤとした想いは残っていました。
それはけもフレ2でのかばんさんの扱いや打ち捨てられた伏線らしきものたちに対する想いでした。
それらを何とかしたいなあ、と思った時にふ、と頭の中に浮かんだ場面がありました。
それはかばんRestrt11話の場面でした。
かばんちゃんが成長したかばんさんだったら必ずこうするだろう、と考えた時に妙に納得してしまっていました。
けものフレンズ1期で受け取ったかばんちゃんの魂だとかそういったものはきっと自分の中にもあるのだろう、と思い至りました。
なら、それは何かの形で返したらいいんじゃないだろうか。
と考えてこの妄想を出力してみるに至りました。
誰かの中のかばんちゃんに届いたり、同じようにモヤモヤした想いを抱えた人の心を少しでも晴らせれば幸いです。

この世界では今後もみんな仲良く幸せに暮らしていきます。
その後の物語もおまけで考えてある分があるので年明け後を目途に第12.1話とその後の物語を投稿させていただきたいと考えています。
まずは一旦けものフレンズ2after☆かばんRestartを完結とさせていただきたいと思います。

元々はけものフレンズちゃんねる併設のけものフレンズBBS内の、とにかくポジティブ!誰でも妄想を吐き出していいスレで連載していた物語でしたが改稿版も無事に完結できました。
ともえちゃんをお借りした祝詞兄貴、感想や応援いただいた皆様、評価してくださった皆様、そして最後までお付き合いいただいた皆様、ありがとうございます!
完結したあとですが感想や評価などいただけたら小躍りして喜びます!

それではまたいずれお会いしましょう!


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アフターストーリー
第12.1話『ごー・まい・うぇー』


【前書き】

 本編は完結となりましたが、その後のアフターストーリーがいくつかありますので少しずつ投稿させていただこうと思います。
 こちらもお楽しみいただければ幸いです。
 今回は12.1話という事で本編で描き切れなかった部分に焦点を当てさせていただきました。
 それではお付き合いの程、よろしくお願いします。



 夕暮れのとある岩場。

 

「……ふう。」

 

 とため息をついて手近な岩に腰かけるプロングホーン様。

 

「何よあんた。ゴマのヤツが旅に出て寂しいの?」

 

 とその隣に腰を降ろすのはチーターだった。

 

「そうだな。寂しいぞ。」

「ふうん?てっきりもう少し強がるかと思ったけど案外素直じゃない。」

 

 珍しく素直に自分の軽口を肯定してくるプロングホーン様の姿にチーターは思わずにひひー、とイタズラっぽい笑みを浮かべてしまう。

 しかし、いくら彼女達が軽口を叩き合える間柄とは言っても、追撃をするのはさすがにチーターの良心が許さなかった。

 

「ああ…あのゴマがなあ……。」

「そうねえ……」

 

 寂しいのは二人とも一緒だった。

 今頃この場にいるはずだったもう一人はどうしているだろう、と二人は夕暮れの空を見上げるようにして思い出す。

 

 

の  の  の

 

 

 それは超進化セルリアンとの戦いに勝利した後の宴会での出来事だった。

 その宴会は盛大なものだった。

 主役となっているのはかばんさんであった。

 超進化セルリアンに食べられていた彼女はサンドスターを大量に消費していた為、それを補充する必要があったのだが…。

 

「はい!かばんちゃん!食べて!こっちも!こっちもっ!!」

 

 と、サーバルちゃんがかばんさんの口にジャパリまんを次から次に放り込んでいた。

 

「このおバカっ!?そんなに一辺に詰め込んだら今度こそかばんが死んじゃうでしょっ!?」

 

 カラカルが慌てて止めていたが、時すでに遅し。

 かばんさんの顔色は赤から青へと変わろうとしていた。

 ボスウォッチが「アワワワ…」と流されて、キュルルが慌てて水を持ってきたりして、パーティの主役達の方はどったんばったんの大騒ぎだった。

 そんな場面を少し離れたところで見守るプロングホーン様とチーターであったが、そこに……。

 

「プロングホーン様ぁ!」

 

 と、ゴマちゃんがやって来る。それを出迎える二人の顔も自然と綻んだ。

 

「ゴマ。お前も大活躍だったな。」

「そうね。あんたが背中を守ってくれたたからいっちばん先頭で思う存分暴れられたわ。」

 

 チーターのこの物言いにプロングホーン様がムッと顔を引きつらせる。

 

「おいおい、チーター。いっちばん先頭は私だっただろう?」

「いいえ、私だったわよ。」

 

 素直に認めるならめでたい席で喧嘩をする事もあるまい、と思っていたプロングホーン様であったが負けを認めないチーターに本格的に火花を散らし始める。

 

「前半はチーターの方が前だったかもしれないが後半は私の方が前だっただろう?」

「そんな事ないわよ!私の方がずっと前だったってば!」

「何を言う!その証拠に私の方が多くセルリアンを倒していたぞ!」

「へっへーん。残念だったわね。私の方がアンタよりちょっとばかりセルリアンを倒した数は上だったんだから。」

 

 いよいよ本格的ににらみ合い口喧嘩を始めてしまったプロングホーン様とチーター。

 と、二人は一つ言う度に、チラチラ、とゴマちゃんの方を見る。

 視線どころか、小声で「そろそろいいよー」と言い始めてすらいた。

 プロングホーン様とチーターが口喧嘩をするのはいつもの事なのだが、そんな時は大体ちょうどいい時にゴマちゃんが仲裁するのが常だった。

 だが、今日に限ってはそれがいつまで経ってもこないのだ。

 

「「ゴマ?」」

 

 とうとう口喧嘩をやめて心配そうにゴマちゃんの方を見る二人。

 

「どうした、ゴマ?」

「そうよ、あんたがそんな調子じゃ安心してケンカできないじゃない。」

 

 しかし、そんな二人を前にしてもゴマちゃんは下を向いたまま何かを迷っている様子だった。

 しばらくの間そうしていて、やがて意を決したようにゴマちゃんは顔を上げてプロングホーン様を真っ直ぐに見やる。

 そしてようやく口を開いた。

 

「プロングホーン様……あたし……旅に出ます!」

 

 そんな突然の宣言に固まる二人。先に我に返ったのはチーターの方だった。

 

「ちょ、ちょっと。何いってるのゴマ。あなた何か悪い物でも……」

 

 慌てたように言おうとするチーターの言葉は途中で遮られた。プロングホーン様が手でチーターを制していたからだ。

 腕組みの姿勢になるとプロングホーン様は一度深呼吸してからゴマちゃんを真っ直ぐに見つめ返す。

 

「ゴマ。どういう事だ?」

 

 訊ねるプロングホーン様とゴマちゃんの視線が絡まる。こんな事は初めてのチーターはただオロオロとお互いを見比べるしかなかった。

 そんな中、ポツリ、とゴマちゃんが返す。

 

「あいつ…すっごいカッコよかった…。」

 

(ここで、回想シーンで超進化セルリアンの『石』にかばんキックを叩きこむともえちゃんの場面が入ります。)

 

「ふむ……それは私よりもか?」

 

 何を言っているのかはプロングホーン様にもしっかりとわかっていた。

 だから敢えて訊ねる。

 普段のゴマちゃんだったら絶対に首を横に振るだろう質問を。

 ゴマちゃんはそれにしばらく迷って瞳を泳がせ、それでから唇を引き結びプロングホーン様の目を見つめ返す。

 そして首を縦にコクリ、と一つ頷かせた。

 

「そうか。」

 

 プロングホーン様は瞳を閉じて腕組みを解くと満足そうな笑みを浮かべる。

 そしてから腕組みを解いた両腕をゴマちゃんの肩に置いて…。

 

「ゴマ……。いってこい。」

 

 そう言って柔らかく微笑むプロングホーン様。

 その言葉にゴマちゃんも頷きを返す。

 

「プロングホーン様……あたし…絶対アイツよりカッコよくなってプロングホーン様が自慢できるあたしになります!」

 

 見つめ返しつつ言うゴマちゃんの言葉にプロングホーン様は満足そうに大きく頷く。

 

「ゴマ。お前は今でも私の自慢だが、もっと自慢できそうだな。」

 

 その言葉にうるうると目に涙をためるゴマちゃん。……その涙がこぼれそうになった時、ふと気づいて横を見ると…。

 

「ってうぉあ!?チーター!?!?なんでお前がめっちゃ泣いてんだよ!?!?」

「だって…だってぇえええええ!!」

 

 と、チーターがドン引きするくらい滂沱の涙を流していた。

 

「あー、もう。チーター。別に会えなくなるわけじゃないんだぜ?あたしはともえ達が始める何でも屋の仲間になるんだ。」

 

 その言葉にチーターもまだヒクヒク言いながらもようやく落ち着きを取り戻してきた。

 

「うん……うん…じゃあ、ちゃんと寝るところあるのね?ちゃんとご飯も食べられるのね?」

「当たり前だろ?あたしも雛鳥じゃないんだぜ?」

 

 それに安心したチーターはようやくいつもの調子を取り戻すとゴマちゃんに詰め寄る。

 

「あとあんた、めちゃくちゃいい子なのに口が悪くて誤解されやすいんだから気をつけなさいよ!」

「余計なお世話だ!」

「それからそれからたまにはちゃんと帰ってくるんだからね!」

「あーもう、わかった。わかったから!?」

 

 と、そんな時に遠くの方でともえちゃんがゴマちゃんに手を振っているのが見えた。

 このままではいつまでもチーターに捕まって旅立ちどころではないだろう、とプロングホーン様はチーターの肩に手を置いてともえちゃん達の方を指さしてみせる。

 

「さ、ゴマ。呼んでるようだから行ってこい。」

 

 言いつつチーターを優しくゴマちゃんから引き離すプロングホーン様。

 

「わかりました!プロングホーン様ぁ!チーター!いってきます!」

 

 と駆け出そうとしたゴマちゃんだったが、ふと思い出したかのように振り返る。

 

「そういえば、プロングホーン様。あたしに付けてくれたゴマ、って呼び名。あれどうしてそういう名前にしようと思ったんですか?」

「ああ、それは……」

 

 ゴマちゃんの言葉にプロングホーン様が答えようとした瞬間、少しばかり顔を引きつらせたチーターがその前に立ちはだかって遮った。

 そしてプロングホーン様が何かを言う前に口を開く。

 

「図書館で博士に聞いた言葉なのよ。あんたのGロードランナーのGからとって、ごー・まい・うぇー。わが道を征くって意味なの。でもってそれを縮めてゴマ、なのよ。ね。プロングホーン。」

 

 しばし固まっているプロングホーン様にチーターはギラリ、と眼光鋭く「ね?」ともう一度重ねて同意を求めてきた。

 

「ああ、うん。そうだ。そうだぞ。」

 

 とチーターの剣幕に押されつつ腕組みしたまま何度も頷いてみせるプロングホーン様。

 

「あたしの名前ってそんなカッコいいものだったんですね…!ありがとうございます、プロングホーン様!この名前に恥じないようにあたし、カッコよくなってきます!」

 

 言いつつ二人に手を振りながらゴマちゃんは駆け去っていったのだった。

 

 

の  の  の

 

 

 そして回想は終わって夕暮れの岩場へと戻る。

 

「さすがに言えないわよね…。博士が食べようとしてた胡麻ふりかけの見た目が髪の模様とそっくりだったから、だなんて…」

「う、うむ…そこは面目ない…」

 

 チーターの嘆息にプロングホーン様もこればかりは認めざるを得なかったらしい。

 もしもあの時、そのままの名付け理由を言っていたらあの呼び名を気に入っているゴマちゃんはガッカリしていただろう。

 そうならずに済んだ事には感謝しかない。

 きっと今もどこかでゴマちゃんはその名前を誇りに頑張っている事だろう。

 

「それにしてもゴマのヤツ帰ってこないわね…。」

 

 岩に腰かけたチーターは足をブラブラさせて頬杖を突きながらポツリと呟く。

 それに「そうだな。」と返すかと思ったプロングホーン様であったが、一つ思いついてしまった。

 そしてニヤリとしつつ思いつきを口にする。

 

「なあ。ならいっそ、こちらから会いに行ってみるというのはどうだ?……ジャパリパーク最速コンビがゴマに挑戦状を叩きつけにいく、なんて面白そうじゃないか?」

 

 その言葉に一瞬何を言われたかわからないように目を丸くするチーターだったが段々に不敵な笑みへと表情を変えていく。

 

「それいいわね!アンタもたまにはいい事言うじゃない!それじゃあ早速行きましょうよ!」

「せめて出発は明日の朝な。」

「ええー!?」

 

 一人分寂しくなっていた夕暮れの岩場だったが、今日はいつまでも楽しそうな声が途切れる事はなかった。

 そして後日。

 ジャパリパーク最速コンビとともえちゃん達のレースが開催される事になるのだが、それはまた別のお話である。

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 第12.1話『ごー・まい・うぇー』

―おしまい―

 




【後書き】

 今回は本編で12話にしか出番のなかったゴマちゃんを掘り下げる回とさせていただきました。
 ともえちゃん達のパーティー入りが急に決まっている感じですが、その裏ではこんな事があった、という妄想を思う存分させていただきました。
 ともえちゃん達には圧倒的にツッコミ要員が不足しているので案外常識人枠としてゴマちゃんには頑張っていただきたいものです。
 そして、ゴマちゃんの呼び名の元ネタがとあるネット流行語として1位を獲得したとか…。
 これからも愛を込めてゴマちゃんと呼んでいきたいです。
 まだいくつかアフターストーリーはあるので少しずつ投稿していこうと思います。


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アフターストーリー①『さあばるじかん』

【前書き】

 その後の後日談第1回目の主人公はかばんさんです。
 今回はかばんさんの一人称視点でのお話となります。
 一通りラッキーさんとサーバルちゃんの三人でパークを巡ったかばんさん。
 今はイエイヌちゃんの暮らす居住区の空き家を一つ借りてそこを拠点にしています。
 さて、そんな彼女達はどんな暮らしをしているのか、ちょっとだけ覗いてみましょう。



 

 

 

―チュン、チュン。

 

 窓の外から鳥の声が聞こえてくる。

 その声に誘われるように私は目を覚ました。

 隣ではまだサーバルちゃんが眠っている。

 今日も寝顔可愛いなあ。あ、お耳ピクッって動いた。可愛いなあ。

 もうしばらく見ていたいけれど、そろそろ起きないとね。

 ん…?

 そういえばこうして誰かに起こされずに起きるのって随分久しぶりのような…?

 そうだよね。

 だってまだともえちゃんが起こしに来てないもん。

 つまりこれは……。

 

「ちゃんと自分で早起き出来てる…!」

 

 とサーバルちゃんを起さないように小さくガッツポーズ。

 すっかり夜型の生活に慣れてしまったせいか、朝は苦手でともえちゃん達にもいつも起こしてもらって迷惑をかけてしまった。

 そのせいか、残念なお姉ちゃんという印象をもたれてしまっていたが今日は違う!

 バッチリ早起き出来る立派なお姉ちゃんなところを見せてあげなきゃ!

 

「うみゃぁ~…かばんちゃんおはよぉ~…」

 

 そうしていると、サーバルちゃんも程なくして目を覚ましたみたいだ。

 まだ寝ぼけ半分なのか目元をコシコシしている。

 寝起きのサーバルちゃんも可愛いなあ。

 

「おはよう、サーバルちゃん。髪、梳かすね。」

「うん~、ありがとう、かばんちゃん~…。気持ちい~…。」

 

 まだ寝ぼけ半分のサーバルちゃん。されるがままになっているうちに櫛で髪を手早く整えてあげる。

 続けて自分の分もささっと手早く済ませた。

 軽く姿見も確認してみたけれど、特に変なところはなさそうだ。

 そうこうしているうちにサーバルちゃんもベットで大きくノビをして完全に目を覚ましたみたい。

 

「サーバルちゃん、どこか変なところとかないかな?」

 

 とサーバルちゃんにも身支度を確信してもらおうかと思ったんだけれど…。

 

「ん?かばんちゃんは今日も可愛いよ?」

 

 と返されて思わず顔が熱くなっちゃう。

 で、でもこれで身支度も完璧みたいだし、これなら起こしに来たともえちゃんも驚いてくれるんじゃないかな。

 そうだ、せっかくだからお茶くらい用意して逆にともえちゃんをお出迎えするのはどうかな?

 うん、私の目覚ましにもなるしちょうどいいかも。

 と、早速お湯を沸かし始めたところで扉がコンコン、とノックされる。

 

「かばんお姉ちゃんー、サーバルちゃんー起きてるー?」

 

 扉の外からともえちゃんの声が聞こえる。

 きっと私たち二人を起しに来てくれたのだろう。

 私はもう一度軽く身だしなみを確認して、その後両手を頬にあてていつも通りの表情が出来ているか確認する。

 うん、多分いつも通りの表情が出来てると思う。

 サーバルちゃんもいつも通り可愛いし身支度はバッチリだね。

 最後に深呼吸を一度してから、なるべくいつも通りになるようにして玄関の扉を開けた。

 

「おはよう、ともえちゃん。」

「あ、おはよう、かばんお姉ちゃん。起きてたんだ。サーバルちゃんもおはようー。」

「ともえちゃんおはよー!」

 

 やって来たともえちゃんと挨拶を交わす。

 あれ?でもともえちゃん、早起きしたのに驚いてくれなかったか。

 ちょっと残念。

 まあ、それはともかくとしてせっかくお茶の準備もしてたから誘ってみようかな。

 

「ともえちゃん。今、朝のお茶を淹れるところなんだけど一緒に飲んでいかない?」

 

 と誘ってみたところ、一瞬ともえちゃんが固まった。

 そしてじーっと私の目を見てから、その表情が申し訳なさそうなものに変わっていく。

 ん?

 ちょっと予想外の反応。

 

「あのね…。かばんお姉ちゃん、サーバルちゃん。もうすぐお昼ご飯が出来るから呼びに来たの…。」

「………お昼……なんだね。」

 

 それに気づいた瞬間、たぶん私の顔は耳まで真っ赤になっていただろう。

 思わず両手で顔を覆っちゃう。

 でもってともえちゃんには全部思いっきりバレてる……。

 

「大丈夫。そんなかばんお姉ちゃんもアタシは大好きだからね…。」

 

 し、しかも慰められてるぅー!?

 

「ねえねえ、ともえちゃん。今日の朝ご飯なーに?」

「今日のお昼はコノハちゃん博士達も来てるからカレーにしたよー。」

「やったあ!カレー大好きっ」

 

 サーバルちゃん…今はお昼だけど朝と勘違いしたままだよ…。

 でもサーバルちゃんは元々夜行性だからこっちの方が正しいのかも…。

 

「本当、かばんお姉ちゃんとサーバルちゃんって仲良しだよねえ。生活リズムまでピッタリ。」

 

 てててーっと走って外へ向かおうとしていたサーバルちゃんが振り返って親指を立てながら…

 

「夜行性だからね!」

 

 って言うんだけど…。

 

「ソレ、多分チガウヨ。」

 

 と腕につけたラッキーさんが言う。

 っていうかラッキーさん…?もしかして今が朝じゃなくてお昼なのわざと黙ってなかった?

 

「ナンノコトカナ。」

 

 もうー!

 絶対わざとだー!

 ラッキーさん、色々と台無しだよ!?

 

「かばんお姉ちゃんはほんと可愛いねぇ」

「かばんちゃんだからね!」

 

 そんな私たちをともえちゃんとサーバルちゃんがほっこりとした目で見ていた。

 

「もうー!?二人ともー!?」

 

 そんな何とも残念だけど幸せな朝………じゃなかったお昼でした…。とほほ…。

 

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart その後の後日談① 『さあばるじかん』

―おしまい―



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アフターストーリー②『ともえともえ』

 

 

「フウチョウ」

「コンビの」

「「もしも劇場ー」」

 

 真っ黒な服に身を包んだ二人のフレンズ、カタカケフウチョウとカンザシフウチョウの二人がジャーン!とでも言いたそうに両手を広げて見せる。

 二人がいるのは全く寂れた様子がなく、ついさっきまで営業していました、と言っても差し支えのない映画館の客席だった。

 そこで二人は交互に前に出るようにさらに言葉を紡ぐ。

 

「ここはどこかであってどこでもない不思議な世界。」

「ここは目覚めたら泡のように忘れてしまう夢の世界。」

 

 二人はもう一度それぞれにくるり、と芝居がかった調子で身を躍らせる。

 

「そんな世界だから誰とでも会える。」

「本来なら決して出会うはずのない者でもここなら会える。」

 

 二人は手をとって声を揃えて

 

「「ほら、こんなふうに。」」

 

 と言うと芝居がかった調子はそのままに客席の一つを指し示す。

 そこはカップルシートのような二人掛けの席だった。

 そして、そこには二人の女の子が座っている。

 そのうちの一人は眠っているらしかったが、程なくして目を覚ましたようだ。

 

「うーん……?はっ!?ま、またここに来ちゃってる!?」

 

 周りをキョロキョロしながら目を覚ましたのはともえちゃんであった。

 かつて一度来た事のあるこの不思議な映画館のような場所には見覚えがあった。

 そして、隣でニコニコと自分を見ている黒髪の女の子にも見覚えがあった。

 

「起きた?ともえちゃん。おはよー。はじめまして、でいいのかな?」

 

 やけに既視感があるのはその顔立ちが自分とそっくりだからだとわかったともえちゃん。

 そう、目の前にいるのは……

 

「おおお!?も、もえちゃんだー!?当たり前だけどアタシにそっくりだー!?」

「そりゃあアタシだからね。」

 

 もえちゃんであった。

 

「会えて嬉しいよもえちゃん!なになにフウチョウちゃん達!?今日はもえちゃんとお話してもいいの!?ありがとー!」

 

 目の前のもえちゃんの手を握ってぶんぶん上下に振ったりフウチョウコンビを流れるような動作で捕まえてモフりつつお礼を言ったりと忙しいともえちゃん。

 

「だーかーらー!?」

「モフるのはやーめーてー!」

 

 とフウチョウコンビはともえちゃんのダブルモフモフを受けて手をばたばたさせていた。

 

「あ、いいないいなー。ねえ、ともえちゃん。アタシもフウチョウちゃん達撫でてもいい?」

 

 もえちゃんが言って「もちろん!」とともえちゃんが即答する。

 そしてフウチョウコンビがガビーン!と効果音が入りそうな顔で

 

「「勝手に決めないで!?」」

 

 と絶叫していたが、その意見はスルーされた。

 カタカケフウチョウをともえちゃんがモフモフして、カンザシフウチョウをもえちゃんがモフモフして、しばらく堪能したら無言のままに交換。

 お互いのペアを入れ替えた後も当然モフモフ続行であった。

 

「で、フウチョウちゃん達?今日はどんな夢を見せてくれるの?」

 

 カンザシフウチョウをモフモフしたともえちゃんが二人に訊ねる。

 それにはカタカケフウチョウをモフモフしたもえちゃんが代わりに答えた。

 

「えっとね、今日はアタシとおしゃべりする夢だってカタカケちゃん達言ってたよ。」

 

 ねー、と同意を求めつつ腕の中のカタカケフウチョウをさらにモフモフするもえちゃん。

 

「そっかそっか、会えて嬉しいよ、もえちゃん!アタシね、もえちゃんに会えたらお話したい事たくさんあったんだ!」

「うんうん。アタシもともえちゃんに会えたらお話したい事たくさんあったから一緒だね。」

 

 何から話そうかな、と思案を巡らせるともえちゃん。いざ目の前にもえちゃんがいたら色々話したい事がありすぎて話題が大渋滞。逆に何を話していいかわからなくなってきた。

 だから、一番最初に言いたい事を言う事にした。

 

「あのね、もえちゃん。アタシね、もえちゃんに会えたらお礼を言いたかったんだ。ありがとう。」

 

 一番最初に言われてもえちゃんは小首を傾げる。今まで会ったことはないのにお礼を言われるような事はしたのだろうか。と疑問が生まれる。

 

「きっとね、あの時かばんお姉ちゃんを助けられたのってもえちゃんのおかげでもあるんだよ。だからね、ありがとう。」

 

 二人の前のスクリーンには超進化セルリアンを相手に大激闘を繰り広げるともえちゃん達とフレンズ達の姿が映し出されていた。

 

「あはは、あれ凄かったねえ。アタシもまさか野生解放までしちゃうとは思わなかったよ。」

「なんか出来る気がした!」

 

 ふんす、とドヤ顔のともえちゃん。もえちゃんはそんなともえちゃんの手をとって両手でギュっと握って

 

「さすがともえちゃん!かっこよかったよ!」

 

 とキラキラした目を向けてくる。

 さすがにそんな顔をされると思わずともえちゃんも照れてしまって頬が赤くなってしまう。

 

「それにね。悪い子作戦で無茶しちゃおうとか、アタシじゃあ絶対思いつかなかったよ。」

「でもね、それももえちゃんがこうなりたいって思ってたおかげだよ。」

 

 そして二人してじーっと見つめ合ったあと、同時に「「えへへー」」と照れ笑いを浮かべ合って赤くなる。

 なんだかんだでやはり似た者同士の二人だった。

 

「そうだ。あのね、ともえちゃん。アタシね、お話出来たら聞いてみたい事があったんだ。」

 

 もえちゃんがぽむ、と手を合わせるようにして訊ねてくる。

 それに笑顔のまま小首を傾げるともえちゃん。

 

「ともえちゃんはどのフレンズちゃんが一番好きなの?」

「おおお、これはまた難しい質問が来ちゃったね!?」

 

 ともえちゃんにとってはどのフレンズも大好きだ。

 けれど、一番、となると難しい。どの子もいいところがあって一番と言われると迷ってしまう。

 腕組みの姿勢でうんうん唸って考え込むともえちゃん。

 もえちゃんはそんなともえちゃんの耳元に唇を寄せると、そーっと耳打ちするように言う。

 

「アタシ知ってるよ…。………………だよね?」

 

 その耳打ちに途端にボム、と真っ赤になるともえちゃん。

 

「うぇええええ!?!?な、なんでわかるのー!?」

「へへー。バレバレですー。」

 

 肝心の名前が聞こえたのはともえちゃんだけであったが、その反応からどうやらもえちゃんの予想は正解らしい。

 してやったり、とばかりにドヤ顔のもえちゃん。

 

「アタシだって!アタシだって知ってるもん!もえちゃんの一番好きなフレンズちゃんはー……………だよね?」

 

 お返し、とばかりに今度はともえちゃんがもえちゃんの耳に唇を寄せてこしょこしょ、と告げる。

 それに、ふふ、とやはり笑顔になるもえちゃん。

 

「あはは、やっぱりバレてたかぁー。」

 

 どうやらともえちゃんの予想も大当たりだったらしい。

 もえちゃんもちょっとだけ照れ臭そうにしてみせた。

 

「やっぱり好みは似ているんだねえ…。」

「そうだねえ…。」

 

 と二人してうんうん頷き合う。

 

「「でも…」」

 

 と二人の声が重なって…

 

「「最終的にどの子も捨てがたい!」」

 

 と言いつつガッチリと熱い握手をかわすともえちゃんともえちゃん。

 二人が言った名前はお互いに二人だけの秘密である。

 それはそれとして……。

 

「「いい加減離して欲しいんだけど……。」」

 

 フウチョウコンビは相変わらず二人にそれぞれモフられたままであった。

 もう、しょうがないなー、とそろそろフウチョウコンビを解放する二人。

 フウチョウコンビにヒラヒラと手を振るともえちゃんの横顔をじーっともえちゃんが眺めている。

 

「ねえ、ともえちゃん。顔よく見せてもらっていい?」

「うん?いいよ。」

 

 もえちゃんに向き直るともえちゃん。

 もえちゃんは手を伸ばして両手でそっとともえちゃんのほっぺに優しく触れる。

 そしてしばらくじーっとともえちゃんの両目を覗き込むようにした後…

 

「うん……。やっぱりおしゃれ!」

 

 とさらに顔を近づけちゃうもえちゃん。

 ともえちゃんとしてはそれは意外な感想であった。

 

「髪色かわったりするかもっていうの聞いた時は不良っぽくなるかなーって思ったけど、ともえちゃん見てるとおしゃれ!」

 

 目をキラキラさせるもえちゃんにともえちゃんは苦笑しかできない。

 何せ自分で何かしてるわけではないので、おしゃれかどうかはわからないのだ。

 

「そういえば爪の色とかもこうだけど…。」

 

 と自分の翡翠色の爪を見せるともえちゃん。それにもえちゃんの目はさらにキラキラと輝いた。

 

「おおお!いい!いいよ、ともえちゃん!バッチリ似合ってるよおしゃれだよ!」

 

 さらに勢いを増すもえちゃんに戸惑うともえちゃん。だが褒められて悪い気はしない。その相手が他ならぬもえちゃんなのだから尚更だった。

 

「何かしてるわけじゃないけど、もえちゃんがそう言ってくれるならアタシも嬉しいかな。」

「ふっふっふ、ともえちゃんには色んな服が似合いそうだよ。普段のボーイッシュな感じもいいけどガーリーな感じでも全然イケるよね。あああ、でもでも思い切ってゴシックな感じもいいかも!?」

 

 とどんな服がともえちゃんに似合うか、と想像を膨らませているもえちゃんはやはり二人の違いを浮き彫りにしていた。

 

「やっぱり、アタシともえちゃんは違うんだね。」

 

 ポツリ、と言うともえちゃん。

 それにもえちゃんも先程までの大騒ぎが嘘のようにじーっとともえちゃんの瞳を見る。

 

「そうだね。でも、その方がいいよね。」

 

 その言葉に二人は揃ってうん、と頷き合う。

 お互いが違う人物というのは二人にとっては当たり前の事で悲しむべき事ではなかった。

 

「「だって…。」」

 

 と二人の声が重なり、お互いに続く言葉も一緒なんだろうな、という予感があった。

 そしてそれはその通りであった。

 

「「映画館デートできるもんね!」」

 

 二人の考えが一緒だった事に何だか嬉しくなってお互いにギューと抱きしめ合うともえちゃんともえちゃん。

 

「「これやっぱりアタシだー!」」

 

 同じようで全然違う。違うようでやっぱり同じ。

 そんな不思議な関係の二人だった。

 

 

「二人とも。間もなく夜の闇は終わりを告げて再び光の世界が始まろうとしている。」

「この世界も再び泡沫の夢の如く溶けて消えてしまう。」

 

 とフウチョウコンビが芝居がかった動作でやってくるがともえちゃんともえちゃんは声を揃えてこう言った。

 

「「ごめん!もう少し簡単にお願い!」」

 

 そんな二人のリクエストに心底残念そうな表情をしてからフウチョウコンビは声を揃える。

 

「「もうすぐ朝だから、ともえが目を覚ますよ。」」

 

 それに今度は分かりやすかった、と満足気に頷く二人。

 

「そっか…。もうそんな時間かあ…。もえちゃん、またお話できるかな?」

 

 ともえちゃんは後ろ髪引かれる思いだった。もしかしたらこれで最後なんて事にならないだろうか、と心配でもあった。

 

「うん。夢の中でまた会えるし、アタシもともえちゃんと一緒に色んな楽しい事や嬉しい事を感じてるからね。」

 

 もえちゃんはともえちゃんを安心させるように微笑んで見せた。

 また会える、と分かったともえちゃんはパッと顔を輝かせる。しかももえちゃんが見守っててくれる、というのは何とも嬉しい事だった。

 

「ならずっと一緒だね!」

「うん!」

 

 嬉しそうに手を取り合う二人。

 

「じゃあ、また今度ね!」

 

 言いつつ席を立つともえちゃん。それをもえちゃんとフウチョウコンビが手を振って見送った。

 

 

 

「ふぁあああああ。なんかいい夢みた気がするなー。あ、おはようみんなー!」

 

 こうして、目を覚ましたともえちゃんの一日が始まろうとしていた。

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart アフターストーリー②『ともえともえ』

―おしまい―

 

 




【後書き】

 アフターストーリー第2回目の主人公はともえちゃんとそして、もえちゃんでした。
 かばんRestartを書き終わった時、ともえちゃんの前身ともいうべき“とおさかもえ”ちゃんはこれでいいのか。という想いが残っていました。
 けものフレンズR合同企画に参加した際にはもえちゃんを主役とした番外編を作ってみたりもしたのですが、それだけではちょっともったいないような気もしていました。
 
 結局自分の中ではもえちゃんはともえちゃんの中で一緒に色んな事を体験したりしてるに違いない、と思っています。
 ただ、この二人ってなんだかんだでいいコンビになりそうだよなあ、という想いもありました。
 実際この二人がお話したらどうなるんだろう、という妄想を実現させたアフターストーリーでもあります。
 この二人が所謂ガールズトークというものをしたら、きっとこんな話をするんだろうな。と今回のお話を書きました。
 次回作の『けものフレンズRクロスハート』では、かばんRestartとは別な世界線でとおさかもえちゃんも遠坂萌絵としてともえちゃんのいいお姉ちゃんをしてくれています。
 もしも興味を持っていただけましたら是非ご一読いただければ幸いです。
(けものフレンズRクロスハート https://syosetu.org/novel/198989/)


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アフターストーリー③『ともえとキュルルの企み』

 私の名前はカラカル。

 最近このキョジュークに引っ越してきたの。

 騒がしくてドジで目が離せないけど頼りにならない事もないサーバルと、ちょっと頼りないけどなんか珍しい事が出来るヒトって動物のキュルルと一緒にね。

 元々はイエイヌのナワバリだったところだけど、皆で『何でも屋』を始める時に拠点になったの。

 で、今は私とキュルルがそのキョジュークの建物を一つ借りて暮らしてるってわけ。

 それにしても…。

 キュルルのヤツ。今朝から様子がおかしいのよね…。

 思い出してみたら、アイツ、今朝ともえと話してから何かコソコソしてるけど何を企んでいるのかしら。

 確か、キュルルのヤツ、『何でも屋』の依頼を一つ頼まれてたけど、それの件かしら…。

 そういえば、そんな事を言ってたような気がするわね…。

 今朝、キュルルがともえと話してた時も…

 

「ともえちゃん…。今回の依頼にはキミの力がどうしても必要なんだ……!」

「ほうほう…。キュルルちゃん…。その話詳しく…!!」

 

 なんて言って二人して内緒話してたもの。

 

「「ふっふっふ……!」」

 

 二人して何か企んでるようなあの笑顔を思い出したらすっごいイヤな予感がしてきたわ。

 これはアレね。

 放っておくと絶対ロクな事にならないヤツだわ。

 まったく、最近はサーバルをかばんに押し付けて手間がかからなくなったと思った途端にコレなんだから!

 べ、別に嬉しくなんてないわよ!

 一人でおうちに置いて行かれて寂しいとも思ってないんだから!

 今は出掛けていてキュルルはおうちにいない。

 多分、ともえと一緒に何か企んでるはずだわ。

 それならイエイヌのところに行ってみましょう。

 ともえはアムールトラのアムとロードランナーのゴマと一緒に暮らしてるから、多分そこにお邪魔してるはずね。

 そうと決まれば早速行ってみましょう!

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart アフターストーリー③『ともえとキュルルの企み』

 

 

「なるほど。ともえちゃんとキュルルさんが何やらずーっと熱心に絵を描いているのはそのせいなんですねぇ。」

「ええ、そうなのよ。イエイヌ。あんた何か聞いてない?」

 

 イエイヌの淹れてくれたお茶を傾けながら私は訊ねてみた。

 

「いえ。さっきお茶を持ってった時にもお二人とも熱心に何やら絵を描いてて周りが見えてないくらいの感じでしたよ。」

 

 あー…。あの二人がそんな調子になってるなんて…。

 ますますイヤな予感しかしないわ。

 

「そうなんだー。なんか二人とも大変そうだねえ。」

 

 この場にはもう一人フレンズがいた。

 一緒にテーブルについてのほほんとお茶を傾けているのはヒツジだった。

 モコモコの毛並みで何だかのんびりしたような印象のある子ね。

 ちなみに、今回依頼を持って来た子でもあるわ。

 

「ヒツジ…。あんたキュルルにどんな依頼をしたのよ。」

 

 それが分かればキュルルが何を企んでいるのかも明らかになるかも。

 そう思った私はヒツジに依頼内容を訊ねてみた。

 ヒツジはのんびりともう一口お茶を啜ってから答える。

 

「あのね?私ねえ、髪のセットをするとね。毛が抜け落ちて生え変わるんだけどね?その毛が沢山貯まっちゃって…。」

「ふんふん…。それでその貯まっちゃった毛を掃除して欲しいとかそういう事?」

 

 その言葉の先を読んでみたけれど、どうやらそうではないみたいね。

 ヒツジはゆっくりと横に首を振ってから今度は何か糸で出来たボールのような物を取り出したの。

 これって何かしら?

 疑問に思ってその糸で出来たボールのようなものを受け取ると手の中で回して観察してみたり、テーブルの上で転がしたり、転がしたり、お?これ結構面白いわね…。ていっ!

 ハッ!?

 つい夢中になっちゃったわ。いけないいけない。

 

「で、これ何なのよ。」

「えっとね。それ私の抜けた毛がいつの間にかこうなってたの。博士はサンドスターがどうのこうのって言ってたけどよくわかんない。で、出来たはいいけど使い方がわかんなくて貯まる一方だから何かに使えないか調べて欲しいってお願いしたんだぁ。」

 

 なるほど…。

 これ、転がして遊ぶのは意外と面白いし一個貰ってもいいわね。

 あ、イエイヌもなんかうずうずしてる。

 しょうがないわね。えい。

 

「わはぁ!」

 

 私がこの糸玉を転がしてやったらイエイヌが追いかけて行っちゃった。

 口で咥えて戻って来たわね…。

 

「はい、ありがとうねー。」

「んふふふー♪」

 

 嬉しそうな顔しちゃってまあ。

 とりあえず撫でてあげようかしらね。ほーれわしゃわしゃー。

 

「こうやって遊ぶのに使うだけじゃダメなの?」

「いやあ。もう欲しいフレンズにはあげちゃって、それでも大量に余ってるんだよねぇ。」

 

 なるほど。確かに一個あればそんなにはいらないわね。

 何かに使えそうにも思えるから、そのまま捨てちゃうっていうのももったいない気がするし…。

 

「っていうか…今さらなんだけど、この糸玉って何なの?」

 

 その疑問には私にわしゃられていたイエイヌが答えてくれた。

 

「かばんお姉ちゃんが言うにはヨウモウっていうフクの材料になるものらしいです。」

 

 ヨウモウ?フク?一体何だろう…。

 なんかますますイヤな予感がするわ。

 キュルルとともえがこうしてお茶の時間にすら出てこないで何かしてるだなんて…。

 心配だわ。

 

「まあまあ、カラカルさん。そんなに心配する事ないんじゃないですか?」

 

 私の膝に顎を乗せているイエイヌがそう言って見上げてくるけれど、ちょっと考えが甘いわ。

 

「あのね…。キュルルが暴走した時の被害は主に私が被るし、ともえが暴走した時の被害は主にアンタが被るんだから。」

 

 それがいつものパターンだ。

 

「まあ、そうかもしれませんが、わたしはともえちゃんのお世話するのも楽しいですよ。」

 

 イエイヌには私の焦りは理解してもらえないみたいだ。

 まあ、ともえとイエイヌはこの方がいいような気がしないでもない。

 ともかく、イエイヌを頼れないとなれば次の手を考えないといけないわね。

 

「そうね…。それならかばんに相談してみようかしら。」

 

 かばんなら色んな事を知ってるだろうし、なんだかんだで色々頼りになるし…。

 うん、そうしてみよう。

 

「じゃあイエイヌ、お茶ご馳走様。」

「いえいえ、お粗末様でした。カラカルさん、また来て下さいね。」

 

 私はイエイヌに見送られてかばんの所に向かうのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

「そっかあ…。じゃあキュルルちゃんとともえちゃんが今日は朝からずっとお部屋に籠って何かしてるのってその依頼のせいなんだね。」

 

 かばんはこっちに目線を向ける事なく応えた。

 それも仕方ない。

 だって、かばんは作業中だもの。

 今はジャングルちほーにいたラッキーさんに何かしていた。

 コウグ?だとかいう何かの道具がたくさん周りに散らばっている。

 かばんの所にはこうして調子の悪いラッキーさんが訪ねて来る事があるのよね。で、かばんはそれを治してるみたい。

 しばらくしたら作業も終わったみたいだわ。

 

「うん、これでよし。バッテリーを新しいのに交換したから充電切れにはなりづらいと思う。でも何か調子が悪くなるようならすぐに来てね。」

「オウ。アリガトウ。ジャア仕事ニ戻ルゼ。」

 

 灰色のラッキーさんは飛び跳ねて出て行った。

 そういえば、あのラッキーさんはすぐに寝ちゃってたものね。

 病気が治ったなら何よりだわ。

 せっかくだからかばんと一緒に見えなくなるまで手を振って見送ってあげた。

 お仕事頑張ってね。

 

「お待たせ、カラカルさん。」

「ううん。こっちこそ仕事中にごめんね。」

 

 一仕事を終えてかばんはこっちに向き直ってくれた。

 とりあえず、わたしは事情をかいつまんで説明してみる。

 

「そういえば、昼くらいからラッキーさんがキュルルちゃんとともえちゃんの所に沢山入って行ってたなあ。何か関係あるのかも。」

 

 うーん、と考え込むかばんは少ししてから結論を出したみたい。

 

「私にも二人が何をしているのかちょっとわからないよ。でもカラカルさんが心配ならちょっと様子を見てこようか。」

「悪いわね。お願い出来る?」

「うん、お安いご用だよ。」

 

 かばんは一度笑みを見せてからキュルル達の籠っている部屋に向かう。

 やっぱりこういう時はかばんに頼るのが一番ね。

 これで一件落着って事でいいんじゃないかしら。

 少しばかり待っていると、かばんはすぐに戻って来たわ。

 

「で、どうだった?」

 

 訊ねる私の肩にポムと手を置くかばん。

 空いてる手で親指を立ててものすっごいイイ笑顔でこう言い放ったわ。

 

「うん!大丈夫!なにも心配ないよ!」

 

 うん。これはアレだわ。

 残念な方のかばんだわ。自分がジト目になっているのが自覚できる。

 そんな私にかばんはなおも言い募る。

 

「っていうかぶっちゃけボクも見たい!」

「物凄いいい笑顔で何言ってんのよ!?しかもボクっこモードになる程の事!?」

 

 もう私にはかばんが何を言ってるのかわかんないわ。

 けど、一つだけ理解した。

 かばんまでもが暴走状態になったらしい。

 以前博士が言っていた『ミイラ取りがミイラになる』ってこういう事を言うのね…。

 やたらとキラキラした目をしているかばんを見てるともう文句を言う気力もなくなってくるわ。

 かばんは「そうだ、早速準備しなきゃ!」と何かの機械を用意しはじめた。

 これはもう何を言ってもダメそうだわ。

 

「ちなみに、かばんが暴走した時の被害は主にアンタが被るのよ…。サーバル。」

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 頼みのかばんも役には立たない。

 そう判断した私はもう直接乗り込む事にした。

 キュルルとともえが籠っている部屋のドアの前に立つとそれを一息に開け放った!

 

「キュルル!ともえ!アンタ達一体何やってるのよ!」

 

 ドアを開け放った私の目の前にはなんかよくわからない光景が広がっていたわ。

 いや、これ本当に何がどうなってるのよ…。

 ラッキーさんが何人か集まってヒツジの毛糸玉を平べったい何かにしていた。

 

「おっけー!キュルルちゃん!ラッキーちゃん達が羊毛を布に変えてくれたよー!」

「ありがとう、ともえちゃん!こっちもデザイン画上がったよ!」

 

 で、そんな部屋の中でともえとキュルルが忙しそうにしていた。

 いや、ほんとアンタ達一体何してんのよ…。想像以上にわけわかんない事になってるじゃない…。

 そうして戸惑う私の後ろから声が掛けられた。

 

「あ、カラカルさんも来たんだね。」

 

 それはかばんだった。

 手に何かの機械らしき物を持っている。さっき準備してたのはコレだったのね。

 

「ともえちゃん、キュルルちゃん。ミシン持ってきたよー。」

「ナイス!かばんお姉ちゃん!」

 

 私が戸惑っているうちに持ってきた機械を設置するかばんとともえ。

 

「で、せっかくカラカルが来てくれたんだから、まずはカラカルの分から採寸しちゃおうか。」

 

 いつの間にか私の背後にキュルルが立っていた。

 こ、この私の後ろを取るだなんて!?

 

「はい、カラカル。ちょっとじっとしててね。」

 

 キュルルは私の身体に何か紐のようなものを巻き付けてはすぐに解いて、また別な場所に巻き付けてを繰り返した。

 それは何なのよ!?何か意味があるの!?

 

「よし、採寸出来たよ!かばんさん!」

「OK!そうしたらラッキーさん、採寸データとデザイン画を型紙に起こして!」

「アワワワワ…。」

 

 何をしてるのかわかんないけど、やたらチームワークがいいのだけはわかるわよ!?

 キュルルとともえとかばんの三人が猛烈な勢いで作業を進めて行くのを私はただ見守るしか出来なかった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 それからしばらくして…。

 私とサーバルとイエイヌの三人は毛皮を着替えさせられていた。

 スカートにやたらフリフリしたのが付いてるし、頭の上にもカチューシャだか言うやたらモコモコしたのがついてるし…。

 ウェイトレス風…?って言ってたけど、それがこの毛皮の名前なのかしら。

 

「ふぉおおおおおっ!?やっぱり三人ともいいよ!めっちゃ絵になるよぉー!」

 

 そんな私達にともえがやたらと興奮していた。スケッチブックに物凄い勢いで絵を描きこんでいた。

 

「うんうん。可愛いね!作った甲斐があるよ!」

 

 で、キュルルまでともえと一緒になって自分のスケッチブックに絵を描いてるし…。

 いや…。なんでかわかんないけどすっごい恥ずかしいんだけど…。

 

「ねえねえ、かばんちゃん、似合うー?」

「うん、サーバルちゃん。いつもより可愛いよ。」

 

 サーバルはかばんに着せられた毛皮を見せびらかしてて、かばんはそれを嬉しそうに眺めていた。

 もうあの二人はずーっとそうしてたらいいんだわ。

 

「ねえねえ、イエイヌちゃん!ちょっとポーズとってみよう!そうそう、ティーセットをこんな感じで持って…!ふぉおおお!?いいよ!凄くいい!めっちゃ絵になるよぉー!!」

「あはは…。はい。ありがとうございます。ともえちゃん。」

 

 ともえの方も全力でイエイヌのスケッチに取り掛かっているみたいね。

 イエイヌの方も恥ずかしそうだけど楽しんでいるみたいだから放っておきましょ。

 まあ、どうせ私には似合っていないわ。

 コッチをじーっと見ているキュルルだってそう思っているに違いない。

 

「別に笑ったって構わないわよ。ふん!」

 

 そう言ってそっぽを向いてやったんだけど意外な事が言われてしまった。

 

「いや…。その…。カラカルも可愛いよ。似合ってる。」

 

 !?!?!?

 な、な、なに言ってんのよぉー!?

 もう恥ずかしくて絶対顔が真っ赤になってるわ!

 私だけこんな恥ずかしい目に遭うなんて不公平だわ……!

 よし…こうなったら……!

 

「キュルル!アンタは私の毛皮に着替えなさい!」

「ええー!?な、なんでー!?」

「問答無用よ!」

「おおー。毛皮交換っこ?私もやるー!」

 

 よしよし、サーバルも乗って来たわね。

 さらに巻き込んでやるわよ!

 

「ところで、ともえ。かばんがこの格好になったら可愛いと思わない?」

 

 と、自身の毛皮を軽く引っ張って示してやる。

 効果はてきめんね。ともえのヤツ、「その発想はなかった!」って顔になってるわ。

 よし、もう一押しね。

 

「何なら、耳と尻尾も何とかして再現してくれて構わないのよ?」

「カラカルちゃん……。天才か……!?」

 

 どうやら火が付いたらしいともえは早速毛皮作りを再開していた。

 よしよし、かばん。キュルル。覚悟しなさい。

 アンタ達も同じ目に遭わせてやるんだから!

 

「いやいや、待とうね?カラカルさん…。」

「そ、そうだよ…。ボクには絶対似合わないから…。」

 

 じりじりと後退るかばんとキュルルだが逃がすつもりはない。

 

「うるさーい!似合おうが似合うまいが関係ないわ!私が見たいんだから絶対着せるんだから!サーバル、イエイヌ!アンタ達も手伝いなさい!」

 

 そうしてしばらくの間、かばんとキュルルとついでにともえも着せ替えしてやったわ。

 ふう。

 満足満足。

 ちなみに、これ、昔の人間達はコスプレパーティーって呼んでたらしいけど、何かに使えないかしらね。

 そうしたら、またキュルルの別な毛皮姿が見られるものね。

 今度博士と助手に相談してみようかしらね……。

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart アフターストーリー③『ともえとキュルルの企み』

―おしまい―




【後書き】

けもフレR秋の投稿祭にあわせた第二弾です。
企画詳細はこちら
https://seiga.nicovideo.jp/seiga/im10596761

アフターストーリーの一本をカラカル一人称という視点で描いてみました。
お楽しみいただければ幸いです。


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アフターストーリー番外『はばたけ!黒い翼』
プロローグ


もうすぐ、ともえちゃん生誕1周年、けものフレンズR1周年記念という事で、『けものフレンズR投稿祭」に参加させていただきます。

「けものフレンズR投稿祭」概要は以下のURLです。
https://seiga.nicovideo.jp/seiga/im10192791

本編は3月24日、3月25日のあいだに投稿させていただきますが先行してプロローグのみ投稿させていただきます。


 

 

 ここはジャパリパーク。ヒトがいなくなってフレンズと呼ばれる動物たちが変化したアニマルガールの暮らす楽園です。

 そんなフレンズの一人であるイエイヌちゃんは、かつて居住区と呼ばれたヒトの住んでいた家を守って一人で暮らしていましたが、今はたくさんの仲間達に囲まれています。

 さて、そんなイエイヌちゃんですが、彼女には大切な朝の日課があります。

 朝の見回りです。

 おうちの周りにセルリアンと呼ばれるフレンズ達の天敵がいないかどうかを見回ったり、縄張りに何か異常がないかどうかを見て回ったりする大切な事です。

 そんな朝の日課をこなすイエイヌちゃんでしたが、今日はいつもと違う出来事が待っているようですよ。

 

【イエイヌ】「ともえちゃんは朝ご飯の支度。アムちゃんは寝てますし、ゴマさんは走りに行っちゃいました。」

 

 と、一人、ボソリと呟きます。

 一人でも寂しくはありませんが、お散歩は誰かが一緒だと何故かわからないけど楽しさ倍増なのです。

 なので、イエイヌちゃんは今日は一人で日課の見回りをする事をとても残念に思っていました。

 ですが、イエイヌちゃんがピクリ、と鼻を鳴らして表情を引き締めます。どうやら一人で寂しいなんて言ってる場合ではないようです。

 

【イエイヌ】「……ん?この匂い…。間違いない。セルリアンだ!」

 

 セルリアンとはフレンズ達を捕食し、元の動物に戻してしまう凶悪な怪物です。

 それを放置しては大切な皆と暮らすおうちに危険が及ぶかもしれません。

 イエイヌちゃんはセルリアンの匂いを辿って駆け出します。

 

【イエイヌ】「ちょっと大きいけど“イシナシ”ですね。だったら一人でも余裕です。」

 

 程なくしてセルリアンを見つけたイエイヌちゃん。ちょっと大きめの個体ですが、身体に『石』を形成する前の個体です。

 こうしたセルリアンは全身が弱点のようなもので簡単に倒す事が出来るのです。

 なので……。

 

―パッカアアアアン!

 

 身の丈の倍近い大きさのセルリアンもイエイヌちゃんの爪の一撃であっという間に撃破されてしまいました。

 まさに朝飯前です。

 ところが…。

 

【イエイヌ】「え…?えええええええええ!?!?」

 

 イエイヌちゃんはセルリアンが撃破された後、地面にとんでもない物が落ちているのを見つけてしまいました。

 彼女は全速力でおうちへの道を駆け戻ります。

 両手の掌でその地面に落ちていた小さなある物を大切に包んで。

 イエイヌちゃんはおうちへ辿り着くと体当たりするように扉を開けて叫びます。

 

【イエイヌ】「ととと、ともえちゃん!?大変です!大変なんです!」

 

 おうちの中、台所の方へ呼びかけるとエプロンで手を拭きながら、ともえと呼ばれた女の子がやってきます。

 緑がかった髪色に青い瞳、両目にはそれぞれ別な色の光点が宿った不思議な瞳をした女の子です。

 

【ともえ】「イエイヌちゃん。どうしたの?」

 

 訊ねるともえちゃんにイエイヌちゃんは答える代わりにそっと自分の掌を開いてみせます。

 その中には……。

 鳥のヒナが一羽。ピヨピヨ、と鳴き声をあげているのでした。

 

【ともえ・イエイヌ】「「た、大変だぁああああああああああ!?!?」」

 

 ともえちゃんとイエイヌちゃんの叫びがおうちじゅうに響く中、鳥のヒナはピヨピヨ、と鳴き続けるのでした。

 



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①『食べないよ?』

けものフレンズR1周年記念という事で「けものフレンズR投稿祭」に参加させていただきます。
企画詳細はこちらより
https://seiga.nicovideo.jp/seiga/im10192791

24日、25日の間に集中的に投稿となってしまいますがよろしくお願い致します。


【ともえ】「と、とりあえず落ち着こう。」

【イエイヌ】「はい。」

【ともえ】「イエイヌちゃん。この子どうしたの?」

 

 イエイヌちゃんの手の中では相変わらずピヨピヨと鳥のヒナが鳴き声をあげていました。

 ともえちゃんの質問にイエイヌちゃんはつい先ほどの事を話します。

 見回り中にセルリアンを見つけてやっつけた事。その後地面を見たらこの鳥のヒナが地面に落ちていた事。

 この子の巣らしきものを見つけたものの、この子を戻そうとしたら親鳥に威嚇されて果たせなかった事。

 どうしようか、と途方に暮れていたら、どんどんこの子の元気がなくなっていったので慌てておうちに連れて帰ってきた事。それらを一辺に話します。

 

【ともえ】「ええと、この子は何のヒナかわかる?」

【イエイヌ】「はい。親鳥はカラスでしたからこの子もカラスなんじゃないかと。」

 

 イエイヌちゃんが出会った親鳥はカラスでした。

 おそらくセルリアンのせいで巣にしていた樹が揺らされて、それでヒナが落ちてしまったのでしょう。

 巣にはまだ数羽のヒナがおり、親鳥は巣に近づくイエイヌちゃんを他のヒナを守る為にも威嚇せざるを得なかったのです。

 そうこうしている間にも、ヒナの鳴き声はどんどん元気がなくなっていくようでした。

 

【ともえ】「多分だけど、この子、おなかが空いてるんじゃないかな。」

 

 ともえちゃんは椅子に掛けてあった自分の肩掛け鞄からフレンズ図鑑を取り出してそれをめくっていきます。

 これはフレンズ図鑑ではありますが、元の動物の事も詳しく書いてあるのでカラスがどんなものを食べるのか手がかりがあるかもしれません。

 

【ともえ】「あった。ええと、カラスは何でも食べる雑食性だから、とりあえずジャパリまんをあげてみよう。」

 

 ともえちゃんはテーブルの器に入れて置いたジャパリまんを一つ手にとるとなるべく小さく小さくちぎってお箸で挟んでヒナの口元に近づけます。

 すると、パクリ、とヒナがそのジャパリまんの欠片に食いついて飲み干しました。

 その姿を見たともえちゃんとイエイヌちゃんはパッと表情を輝かせます。

 

【ともえ】「食べた!食べたよ、イエイヌちゃん!」

【イエイヌ】「ええ!食べましたね、ともえちゃん!」

 

 もっともっと、とせがむかのようにピヨピヨと鳴き声をあげるヒナに二人でかわりばんこにジャパリまんを食べさせてあげます。

 やっぱりヒナはお腹を空かせていたのか、ジャパリまんを食べると少しばかり元気を取り戻したように見えます。

 とりあえず、このままヒナが弱ってしまわなくてよかった、と二人ともホッと一安心です。

 しかし、そんな一安心も束の間。新たな脅威がヒナに迫っていました。

 

【アム】「くぁー……。」

 

 欠伸をしながら現れたのはアムールトラのフレンズです。身体はともえやイエイヌよりも大きいですが、一番甘えん坊さんだったりします。

 スクールベストに虎縞模様のミニスカートに同じ柄のニーソックス、それにガーターベルト。

 彼女は通称アムちゃんと呼ばれてともえやイエイヌと一緒に暮らしていました。

 それが何故ヒナの脅威になるのかというと…ヒナを見つけたアムちゃんがシュバ!と姿勢を低くしてお尻をふりふりとし始めたからです。

 それは猫科の動物が獲物に襲い掛かる際の予備動作でした。

 なのでともえちゃんとイエイヌちゃんは同時に叫びました。

 

【ともえ・イエイヌ】「「た、食べちゃだめぇえええええ!?」」

 

 アムちゃんはともえちゃんとイエイヌちゃんの叫びを無視して飛び掛かります。

 もうダメだ!と二人が固く目を瞑ったけれど、いつまでたっても何も起こりません。

 

【??】「うぉおおおい!?アムぅ!?いきなり飛びつくなペロペロすんなああああああっ!」

 

 玄関の方から元気な声が聞こえてきました。

 ともえちゃんとイエイヌちゃんが恐る恐る目を開けると、そこには朝のランニングから帰って来たG・ロードランナーのフレンズであるゴマちゃんがアムちゃんに飛び掛かられてペロペロされている姿が飛び込んできました。

 

【ゴマ】「ったく…。って、どうした?ともえ、イエイヌ。」

 

 アムちゃんをようやく引き剥がしたゴマちゃんはともえちゃんとイエイヌちゃんの様子が変なのに気づきます。二人は寄り添って抱き着くようにしているように見えて、微妙に間が空いています。

 ゴマちゃんとしては抱き着くなら抱き着け、と違和感があってその間を見てみました。すると、イエイヌちゃんの手の中にピヨピヨと鳴き声をあげる鳥のヒナがいるではありませんか。

 

【ゴマ】「って…。それ、どうした?」

 

 ともえちゃんとイエイヌちゃんは先ほど話したばかりの事をもう一度二人がかりでゴマちゃんに説明します。

 

【ゴマ】「大変じゃねーか!?」

【イエイヌ】「そうなんです、大変なんです!」

【ともえ】「大変だよね!?」

 

 一人アムちゃんだけが呑気に「くぁー。」と欠伸をしています。

 

【ゴマ】「いや、大変ばっかり言っててもしょうがないじゃねーか!?」

【イエイヌ】「そうですね、それこそ大変ですよね。」

【ともえ】「だよね!大変だよね!」

【ゴマ】「だから大変だけ言っててもしょうがねーんだったら!」

 

 相変わらず話が前に進まない三人のところにアムちゃんがとてとてと近づいていきます。

 そしてじー、とイエイヌちゃんの手の中を見ています。

 まだ三人でワイワイやってるうちにイエイヌちゃんの手の中のヒナをそっと摘み上げてしまいました。

 あまりに自然な動きで誰もがそれに一瞬気づけませんでした。

 

【ともえ・イエイヌ・ゴマ】「「「だから食べちゃダメー!?」」」

 

 気づいた三人は慌てはじめますが、当のアムちゃんはというと…。

 

【アム】「くぁー…。」

 

 再びアクビを一つ。お気に入りのソファーの上でヒナを抱えたまま丸くなります。

 その姿がまるで子猫を温める母猫のようで三人とも一瞬目を丸くしてしまいました。

 そんな反応をする三人にアムちゃんは

 

【アム】「たべないよ?」

 

 と不思議そうに言うのでした。

 



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②『聞いてみよう、やってみよう、頑張ろう!』

 

 アムちゃんが鳥のヒナを温めるかのようにソファーで眠っています。

 とりあえず心配はなさそうなので、ともえちゃんとイエイヌちゃんとゴマちゃんの三人はこれから先の事を考える事にしました。

 

【ゴマ】「なあ、あのヒナを巣に帰してやる事はできねーのか?」

【イエイヌ】「はい…。わたしもそれがいいと思ったんですが…。」

【ともえ】「巣にはまだ他のヒナもいて、近づこうとすると親鳥に威嚇されちゃうんだって…。」

 

 強行突破できない事もないけれど、そんな事をして親鳥や他のヒナに怪我があったらもっと大変です。

 

【ともえ】「じゃあ…。大きくなるまでアタシ達で育てるっていうのは?」

 

 ともえちゃんの言葉にイエイヌちゃんとゴマちゃんも考え込みます。

 

【イエイヌ】「それはいいと思うんですが…わたし達で出来るでしょうか…?」

【ゴマ】「だな。あたし達って鳥のヒナなんて育てた事ないもんな…。」

 

 二人の不安ももっともな事に思えました。

 なんせ今はアムちゃんに抱えられて一緒に眠るヒナは吹けば飛ぶ程に弱々しく見えるのです。

 ちょっとの間お世話をする事は出来るかもしれませんが、大きくなるまでずっと、というのは非常に難しいように感じられます。

 

【ともえ】「確かに難しいかもしれないけどさ!アタシ達がやらなかったらこの子どうなるの?」

 

 それに先程まで塞ぎ込んでいたイエイヌちゃんとゴマちゃんも顔をあげます。

 

【イエイヌ】「そうですね…。出来るか出来ないかじゃないですもんね。」

【ゴマ】「だな。あたし達が普通の動物を育てちゃいけないなんてルールはなかったもんな。」

 

 ともえちゃんの言葉にイエイヌちゃんもゴマちゃんも覚悟を決めたようです。

 三人に、目の前の小さな命を見捨てるという選択はありません。

 

【アム】「くぁー……。むにゃ。」

 

 とアムちゃんがソファーでもう一度大きな欠伸をしながらヒナを大切そうに抱え直します。

 どうやら三人とも、ではなく四人ともと言うのが正解なようですね。

 

【ともえ】「それにさ。アタシ達にはいるじゃない。こういう時にとっても頼りになる人が。」

 

 ともえの言葉にイエイヌもゴマも「ああ!」と思い至ったようです。

 

【ともえ】「じゃあ、イエイヌちゃんはお茶の準備!いっちばんイイ葉っぱをお願い!」

【イエイヌ】「わかりました!最高のお湯に葉っぱいれたヤツを用意しますね!」

【ともえ】「で、アムちゃんは……、うん。そのままヒナを温めててあげて。」

 

 ともえの言葉に一度片目だけをパチリと開けたアムはその言葉に従うようにもう一度ヒナを抱え直してまた両目を閉じました。

 

【ともえ】「そして、ゴマちゃん。」

 

 ともえはゴマの両肩を力強く叩きます。

 

【ともえ】「ゴマちゃんはかばんお姉ちゃんを呼んできて。」

【ゴマ】「あ、あたしかよ!?」

 

 ともえが言うのは、この居住区に移り住んでいるヒトのフレンズの事です。

 ついこの前までイエイヌちゃんとともえちゃんとアムちゃんと一緒に住んでいましたが、別な空き家に引っ越していました。

 なので殆どお隣さんみたいなものですが、ゴマちゃんが難色を示すのには理由があります。

 

【ともえ】「この時間には間違いなく寝てると思うんだけど…。まあ、頑張って。」

【ゴマ】「だから、あたしが一番大変な役割じゃねーか!?ズルいぞ!?」

 

 かばんさんは残念ながらとてもとても朝に弱いのです。

 

【ともえ】「かばんお姉ちゃんは夜行性だからね…。」

 

 いいえ。ヒトは昼行性です。

 

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 ゴマちゃんはどうにかこうにか頑張って、まだ寝ているかばんさんを起して連れてきました。

 パートナーのサーバルキャットのフレンズであるサーバルちゃんが夜行性の為、最近ますます夜型の生活に磨きがかかってしまいました。

 それでも、かばんさんはともえちゃん達のところへ眠い目をこすりながらやってきました。

 黒いジャケットにくたびれた二本の羽根がついた帽子を被った大人の女性。それがかばんさんです。

 

【かばん】「なるほど。これはカラスのヒナみたいだね。」

 

 アムちゃんに抱えられたままのヒナを一目見るなり、かばんさんはそれを言い当てて見せました。

 

【ともえ】「で、本当はこの子を巣に戻してあげたいんだけど、親鳥に威嚇されちゃってそれが出来ないの。」

 

 なるほど、とかばんさんは頷きます。

 

【かばん】「それでこの子を大きくなるまでお世話する事にしたんだね。」

 

 その言葉にともえちゃんもイエイヌちゃんもゴマちゃんも頷きます。アムちゃんだけが一度パチリ、と目を開けただけでしばらくかばんさんを見た後に再び目を閉じただけでした。

 

【ともえ】「で、かばんお姉ちゃん。どうしたらこの子を育てられるかな?」

 

 かばんさんはしばらく考え込みます。ヒナを育てるのは大変だよ、とかそういう事を言おうかとも思ったけれど、その段階はもうみんなで話し合って決めてしまったのだろうと察しました。

 なので、アムちゃんに抱えられたままのヒナをしばらく観察します。

 

【かばん】「うん。まずね、この子には怪我はないみたいだからその点は安心だね。」

 

 小さな怪我でも小さなヒナにとっては致命傷になっちゃうかもしれません。だからまずはその治療が必要かどうかを見たかばんさんでしたが、その必要はないようでした。

 

【かばん】「あとは保温だね。アムちゃんがしてるようにヒナの体温が下がらないように温めてあげて。」

 

 かばんさんはエライエライ、とアムちゃんの頭を撫でてあげます。アムちゃんも嬉しそうに目を細めています。

 

【かばん】「で、あとはエサだね。」

【ともえ】「ジャパリまんじゃダメなの?」

 

 ともえちゃんの質問にかばんさんは笑顔で「ダメじゃないよ」と返します。

 

【かばん】「ただ、ヒナにも食べられるように小さくして食べさせてあげてね。」

 

 先程の食事の方法で正解だったらしい、とともえちゃんとイエイヌちゃんは顔を見合わせて喜んでみせました。

 

【かばん】「あとはお水かな。お水はもうあげた?」

 

 それにはともえちゃんもイエイヌちゃんもゴマちゃんも揃って首を横に振ります。

 

【かばん】「そっか。それはよかったよ。実はヒナにお水をあげすぎるとすぐにお腹を壊しちゃうからね。」

 

 かばんさんは言いつつ、背負っていた鞄を下ろすと中から細長いガラス製の棒に先端に丸いゴム製の何かがついた器具を取り出します。

 

【かばん】「これはスポイトって言ってね。お水を吸い出したりする道具なんだ。」

 

 かばんさんは取り出したガラス棒をお湯で煮沸消毒してからもう一度先端のゴム製の器具をつけなおします。

 

【かばん】「大体だけど、食事させる度にこのスポイトで一滴くらいでいいからお水を飲ませてあげて。」

【イエイヌ】「そんな少なくていいんですか!?」

【かばん】「うん。あげすぎるとお腹を壊してそれもよくないからね。」

 

 それからともえちゃんとイエイヌちゃんとゴマちゃんはヒナを育てるにあたって色々な事をかばんさんから教えてもらいました。

 食事は一度にたくさんは食べないけれど、回数は多くなってしまう事。

 ヒナが食事に満足したら口を開けなくなる事。

 特に保温は大事でタオルなどでくるんでちょうど人肌くらいの温度で温めてあげるのがいいだろう事などです。

 

【ゴマ】「な、なんかあたし達でも出来そうな気がしてきたな…!」

【イエイヌ】「ええ!頑張ってこの子が大きくなるまでお世話しましょう!」

【ともえ】「だね!かばんお姉ちゃんもありがとう!」

【かばん】「どういたしまして。」

 

 大変そうだけれど、どうにか自分たちでもやっていけそうにも思えたともえちゃん達はキャイキャイと喜び合いました。

 その声に反応したのか、アムちゃんに抱えられたままのヒナがピヨピヨ、と目を覚ましたようです。

 

【アム】「みんな。しー。」

 

 アムちゃんは人差し指を口元にあてて静かにね、と言います。それに口元を両手で抑えて何度もコクコク頷くともえちゃんにイエイヌちゃんにゴマちゃん。

 そんな4人の様子にかばんさんも自然と笑顔になるのでした。

 



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③『子育ては大変』

 イエイヌちゃんがヒナを助けてから数日。

 大変な事の連続でした。

 

【ともえ】「ふぇえ…。またご飯なのぉ?」

 

 夜中でも構わずにエサをねだってきたり。

 

【ゴマ】「水…ほんとにこれだけでいいのか?もう少しやった方が…。」

【イエイヌ】「いえ。あげすぎもよくないって教えてもらったじゃないですか…。」

 

 と不安になったり。

 

【アム】「うへぇ…。」

 

 抱えて温めていたアムちゃんの服の上でウンチしちゃったり。

 ともかく大変だったけれど一生懸命にお世話したおかげでヒナは1週間もしたらすっかり見違えるようになってきました。

 すっかり毛も生えそろってきて鳥らしい外見になってきたように思えます。

 その頃には自分で動いたりもするようになって来ました。

 

【ともえ】「なんか可愛いねえ。」

【イエイヌ】「そうですねえ。」

【ゴマ】「だなあ。」

【アム】「がうがう。」(コクコク)

 

 とそれぞれに甘えてくるヒナの様子にすっかりメロメロの4人でした。

 

【ともえ】「ねえ。この子にも名前、欲しくない?」

【アム】「なまえ…いい。」

【ゴマ】「そうだな。どんなのがいい?」

 

 すっかり懐かれてしまえば情も移るというもの。ともえちゃんの提案ももっともな事に思えました。

 ですがイエイヌちゃんだけは暗い顔になりました。

 

【イエイヌ】「あの…。名前まで付けてしまうとこの子も離れづらくなっちゃうんじゃないでしょうか…?」

 

 そうです。

 もともと、このヒナは仕方なく大きくなるまでの間お世話をする事にしただけなのです。

 いつかは自然に返してあげないといけません。

 

【ともえ】「そっか…。そうだよね。でも…。」

【ゴマ】「ああ…。」

【アム】「なまえ…ほしい。」

 

 決して遠くない未来の事にともえちゃんとゴマちゃんとアムちゃんも一緒に暗い表情になってしまいます。

 いずれ別れるからこそ、思い出が欲しい、という想いもまた理解できました。

 イエイヌちゃんだって別に名前がつけたくないわけじゃないのです。

 

【イエイヌ】「わかりました。名前…つけてあげましょう。」

 

 イエイヌちゃんも頷くと、ともえちゃんが嬉しそうに顔を輝かせて抱き着いてきます。

 ついでにここぞとばかりにモフりまくっていました。

 でもってアムちゃんも嬉しそうにイエイヌちゃんにすりすり顔をこすりつけるようにしています。

 

【ゴマ】「なんだかんだお前が一番コイツの事気に入ってるもんな。」

 

 とゴマちゃんはそんなイエイヌちゃんの背中をべしべし叩くのでした。

 そして、ヒナもまたイエイヌちゃんに甘えるように擦り寄ってくるので、もうイエイヌちゃんは苦笑しかできませんでした。

 

【イエイヌ】「で…どんな名前がいいでしょう?」

【ともえ】「それなんだけどね。ちょっと考えがあるの。」

 

 ともえちゃんは肩掛け鞄からフレンズ図鑑を取り出すとカラスのページを開いてみせました。

 それは古びていて残念ながら写真は色あせてわからなくなっていたものの、文字は読めます。

 

【ともえ】「でね、この子は多分だけどハシボソガラスっていう種類だと思うんだ。これってね英語っていう別な言葉だとクロウって分類になるんだどね…。」

【ゴマ】「ともえ…。アムが煙吹き始めたから手短に頼む。」

 

 ともえちゃんの言葉を一生懸命に考えていたアムちゃんはぐるぐると目を回していました。

 両側から手で仰いで風を送ってあげるゴマちゃんとイエイヌちゃんでした。

 いつの間にかヒナも加わって大きくなりはじめた翼でパタパタと真似っこして風を送っています。

 それを微笑ましく思いながら、ともえちゃんは続きを話します。

 

【ともえ】「だからね、クロウからとってクロちゃん、とかどうかな?」

【イエイヌ】「ええ。ステキな名前だと思います。この子の黒い毛並みともよくあってますし。」

【ゴマ】「おい!いいじゃねえか!」

【アム】「クロ…。いい。」

 

 ともえちゃんの提案にみんな賛成のようです。

 肝心の本人は…

 

【クロ】「くあー。」

 

 大分大人らしい鳴き声で翼を広げてみせました。

 どうやら気に入ったようです。

 こうしてクロちゃんと名付けられたカラスのヒナが仲間に加わったのでした。

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 それからさらに数日が経ち…。

 クロちゃんもかなり大きく育ってきました。

 つい数週間前には掌ですっぽり覆えるくらい小さかったのに、今ではそれでは収まらないくらいです。

 

【ゴマ】「で!やっぱ飛び方を教えるんならこのG・ロードランナーのフレンズ、ゴマ様の出番だなっ!」

 

 すっかり成長して、もうヒナとも呼べなくなってきたクロちゃんに飛び方を教えようという話になりました。

 やはり野生で暮らすにしても今の生活を続けるにしても飛び方はきちんと知っておいた方が絶対にいいはずです。

 そして、その役目は鳥のフレンズであるゴマちゃんには適任なように思えました。

 ただ一つ懸念材料は……。

 

【ともえ】「でもさ?ゴマちゃんは空を飛ぶよりも地面を走る方が得意じゃなかったっけ?」

 

 という事でした。

 ゴマちゃんの元となった動物、G・ロードランナーは空を飛ぶよりも地上を走る方が速いのだ。

 

【ゴマ】「まあ、別に空を飛べないってわけじゃねーんだから何とかなるって。なー。クロー?」

【クロ】「くぁー。」

 

 ゴマちゃんが両手を広げてみせるのに合わせてクロちゃんも同じように真似っこして翼を広げてみせます。

 ゴマちゃんが手を上下させてみるとそれに合わせてクロちゃんも翼を上下させました。

 

【ゴマ】「なっ?クロってかしこいよな。」

 

 それには見守るイエイヌちゃんもともえちゃんもアムちゃんも揃って何度も頷きます。

 みんな揃ってクロちゃんには甘いようです。

 

【イエイヌ】「で、ゴマさん。具体的にはどうやってクロちゃんに飛び方を教えるんですか?」

【ゴマ】「そりゃまあ、習うより慣れろ、だろ?」

 

 ゴマちゃんは頭の翼を広げるとそれをはばたかせて軽く浮いて見せた。

 そのまま数度羽ばたいて軽く10歩分くらいの距離を飛んでみせる。

 

【ゴマ】「よっし、やってみよう……ぜぇ!?」

 

 振り返ったゴマちゃんは素っ頓狂な声をあげました。

 なんせバサバサと翼をはためかせたクロちゃんがゴマちゃんの頭の上にとまったからです。

 

【ともえ】「飛んだね。」

【イエイヌ】「飛びましたね。」

【アム】「がうがう」(コクコク)

 

 三人で顔を見合わせたあと

 

【ともえ・イエイヌ・アム】「「「やったぁああ!」」

 

 と抱き合って喜びました。ところが…。

 

【ゴマ】「いや…あのな…」

 

 ゴマちゃんだけは何だか浮かない顔です。

 それにつられて、ともえちゃんもイエイヌちゃんもアムちゃんも心配顔になってきました。何か問題があったんでしょうか?

 

【ゴマ】「クロのツメが意外と痛いんだよおおおおおっ!?」

 

 どうやら頭の上には乗れない程にはクロちゃんは成長していたようです。

 クロちゃんはごめんね?とばかりに今度はイエイヌちゃんの肩の上に移動しました。

 もう短い距離だったら自由に飛び回れるみたいですね。

 

【ともえ】「やったよ!すごいよクロちゃん!」

【クロ】「くぁー!」

 

 ともえちゃんは大喜びですが、イエイヌちゃんだけはほんの少し苦笑を浮かべていました。

 それは嬉しいけれど寂しい。

 そんな複雑な笑顔でした。



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④『別れの予感』

 それからしばらく。

 もうクロちゃんはすっかり大きくなってパッと見は成鳥と変わりません。

 朝は…。

 

【ともえ】「もうー。クロちゃん朝ご飯もうすぐ出来るからちょっとまっててねー。」

 

 ともえちゃんにまとわりついて朝ご飯のつまみ食いを狙います。

 それが終わったらバサバサと翼をはためかせて玄関へ飛んでいって…。

 

【ゴマ】「ただいまぁー…!ってうぉあ!?クロぉ!?だから頭に止まろうとすんな!?ツメが痛いんだよぉ!?」

 

 ランニングから帰って来たゴマちゃんと遊んで…。

 

【アム】「くぁー…。」

【クロ】「くぁー…。」

 

 朝ご飯が終わったら、お気に入りのソファーで寝転ぶアムちゃんの懐に潜り込んで一緒に欠伸したりして楽しく一緒に暮らしています。

 でも、一番一緒にいる時間が長いのはイエイヌちゃんでした。

 今日はお昼の前にも日課の見回りです。

 

【イエイヌ】「最近は一人でいる時間が本当に少なくなりました。」

 

 こうして見回りをする時は、誰か一緒の事も多いですが、今日みたいに一人の時だってあります。

 ですが、最近は一人で見回りに出かける事はすっかりなくなりました。

 

【クロ】「くぁー?」

【イエイヌ】「はい、クロちゃんのおかげですね。こうして一緒にお散歩…じゃなかった見回りが出来るのはとても楽しいです。」

【クロ】「くぁー♪」

 

 クロちゃんは今はイエイヌちゃんの肩に止まって一緒に見回りです。

 そして、クロちゃんを連れている時にイエイヌちゃんは決まってある場所を訪れます。

 それは…。

 

【イエイヌ】「クロちゃん。ここがあなたと会った場所ですよ。覚えてますか?」

 

 クロちゃんと会った場所でした。

 近くの森では他のカラスが飛んでいるのも見えます。

 

【イエイヌ】「クロちゃんはもう群れに帰ってもちゃんとやっていけるでしょう。」

【クロ】「くぁー?」

【イエイヌ】「ええ。ですがわたしは寂しいです。」

【クロ】「くぁー…」

【イエイヌ】「でも、いつかは選ばないといけません。群れに帰るか、わたし達と一緒に暮らすか。」

【クロ】「くぁー…」

【イエイヌ】「そんな顔をしないで下さい。今すぐ選ばなきゃいけないわけじゃないですから。」

 

 不安そうな顔になったクロちゃんの喉あたりをイエイヌちゃんは指でくすぐるように撫でてあげます。

 それだけでクロちゃんは上機嫌になったようでした。

 

【イエイヌ】「ですが、一人ぼっちは寂しいですから。クロちゃんが一番楽しく暮らせる方法を考えていきましょう。」

 

 ずっと長い間を一人で過ごして来たイエイヌちゃんです。

 それがどれだけ辛い事なのかはよく知っていました。

 クロちゃんが自分たちと一緒に暮らしていても、いつか孤独を感じてしまう日がくるかもしれない。

 イエイヌちゃんが一番心配なのはそういう事でした。

 

【イエイヌ】「ともかく帰りましょうか。そろそろお昼の時間ですし。」

【クロ】「くぁー!」

【イエイヌ】「はい。そうですね、おなかすきましたね。今日はジャパリまん何味にしましょうか?」

【クロ】「くぁー!くぁっくぁー!」

【イエイヌ】「はい、そうですね。じゃあ、今日は今までとは違う味にチャレンジしてみましょうか。」

 

 こうしてクロちゃんとイエイヌちゃんは仲良くおうちへ戻っていきます。

 クロちゃんのご飯はジャパリまんです。

 これはかばんさんから貰ったアドバイスの一つです。

 ヒトやフレンズには美味しくても、野生動物には身体によくない食べ物もあるそうです。

 その点、ジャパリまんなら色々な動物が食べても平気なように調整されているので安心です。

 

【ともえ】「クロちゃん、すっかり大きくなったねえ。」

 

 ついこの前まで小さく小さくちぎったジャパリまんじゃないと食べられなかったクロちゃんですが、今は自分のクチバシでつついてジャパリまんを食べられます。

 お水だって餌箱にお水を注いであげたら自分で飲めるのです。

 

【アム】「クロ、えらい。」

【ゴマ】「これもあたしの教え方がいいおかげだなッ!」

 

 なんと、今日は丸々一個のジャパリまんを一人で完食しちゃったクロちゃんです。

 食べ盛りのクロちゃんはどんどん成長していくのでしょう。

 そうしてご飯が終わったクロちゃんは今日は、イエイヌちゃんの肩に止まって翼をばたつかせて見せます。

 

【ともえ】「クロちゃん、またイエイヌちゃんと一緒にお散歩いきたいんじゃないかな?」

【イエイヌ】「お散歩じゃなくて見回りですっ」

【ゴマ】「どっちも変わんねーじゃねえか…。」

【イエイヌ】「ち、違いますよっ」

【ともえ】「まあまあ。お昼の後片付けはアタシがやっておくから。」

【ゴマ】「それなら、あたしは腹ごなしに軽くひとっ走りしてくるかな!」

【イエイヌ】「ええと…じゃあアムちゃんはどうしますか?」

【アム】「おなかいっぱい。寝る。」

【ゴマ】「おいおい、アム…。喰ってすぐに寝ると牛のフレンズになっちゃうらしいぞ?」

【アム】「牛、違う。アム、トラ。」

 

 言いつつもアムちゃんは早くもお気に入りのソファーで丸くなってしまいました。

 それを見届けたゴマちゃんも食後の運動に走りに行ってしまいます。

 ともえちゃんは食器を洗ったり後片付けをはじめました。

 イエイヌちゃんもともえちゃんのお手伝いをしようとしましたが…。

 

【ともえ】「こっちは大丈夫だからクロちゃんをお散歩に連れてってあげてね。」

 

 というのでお昼の後もお散歩…じゃなかった、見回りに行く事にしました。

 イエイヌちゃんの尻尾もぶんぶんと激しく揺れていますが、これはお散歩ではなく見回りなのです。お仕事なのです。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 もう一度一通り縄張りの見回りを行ったイエイヌちゃんとクロちゃん。

 やっぱり異常はないようです。

 

【イエイヌ】「平和ですねえ…。」

【クロ】「くぁー…。」

 

 開けた原っぱでイエイヌちゃんはゴロンと仰向けに寝転びました。

 クロちゃんはそんなイエイヌちゃんのお腹の上で丸くなります。

 今日もいい天気で吸い込まれそうな青空が広がっていました。

 そんな空を飛んでいく鳥達。

 群れをなして見事な編隊飛行を見せるのは鴈か何かでしょうか。

 

【イエイヌ】「わたし達はいつまで一緒にいられるでしょうか…。」

 

 そんな姿を見るとイエイヌちゃんの頭の中にはクロちゃんのこの先が心配されます。

 クロちゃんはイエイヌちゃんのほっぺにすり寄るようにしてみせました。

 

【イエイヌ】「そうですね、あまり心配しても仕方ないですね。」

 

 イエイヌちゃんは自分の心配性に苦笑いしてしまいました。

 クロちゃんは今はこうして一緒にいるのです。

 こうして先の事を心配してもクロちゃんだって不安に思うだけです。

 

【イエイヌ】「そうだ。これを持ってきたんですよ、フリスビー。クロちゃん、一緒に遊びませんか?」

【クロ】「くぁー♪」

 

 気を取り直したイエイヌちゃんは持ってきたフリスビーを取り出してみせると、クロちゃんも翼を広げて喜びました。

 

【イエイヌ】「それじゃあいきますよー。」

 

 イエイヌちゃんの投げたフリスビーが空高く舞い上がります。

 それを見たクロちゃんは翼をはばたかせてイエイヌちゃんの肩から飛び立ちました。

 

―バシン!

 

 と音を立てて空中でフリスビーを蹴ってみせたクロちゃん。

 フリスビーは地面へと落ちていきました。

 これはクロちゃんの狩りの練習も兼ねている遊びなのです。

 カラスという動物は自分よりも身体の小さな鳥を狩って食べる事もありますし、もっと身体の大きな鳥とだって巣や仲間を守る為に戦う事だってあります。

 こうした遊びはいつかクロちゃんが野生の生活に戻った時にも役に立つでしょう。

 さらに数回、イエイヌちゃんがフリスビーを投げてクロちゃんがそれを撃ち落としてを繰り返します。

 

【イエイヌ】「すっかりこの遊びも上手になりましたね。クロちゃんスゴいです。」

 

 パチパチと拍手してみせるイエイヌちゃんにクロちゃんもなんだか照れたような仕草をしてみせました。

 そうして遊んでいたらいつの間にか空も夕方へと差し掛かっているようでした。

 近くの森にカラスの群れが鳴き声をあげながら戻っていく姿も見えます。

 

【イエイヌ】「私たちも帰りましょうか。」

【クロ】「くぁーっ。」

 

 まさにカラスが鳴くからかーえろ、と二人で仲良く家路へつこうとした時の事でした。

 先程カラスの群れが戻っていった森の方からバサバサバサ、と一斉にカラス達が飛び立つのが見えました。

 これは何事だろう?とイエイヌちゃんもそちらをじーっと見つめます。

 すると、風に乗ってある匂いがイエイヌちゃんの鼻に届きました。

 

【イエイヌ】「セルリアンだ…。」

 

 なるほど、森にセルリアンが現れたのだとしたら、あのカラス達の不自然な動きも納得です。

 イエイヌちゃんの鼻にもセルリアンの匂いが届いている以上間違いはなさそうです。

 

【イエイヌ】「クロちゃんはここにいて下さい!」

 

 言うが早いかイエイヌちゃんは森へ向かって駆け出しました。

 

 



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⑤『つまりはこれからもどうかよろしくね』

 

 

【イエイヌ】「大きい…。」

 

 それは森に現れたセルリアンを見たイエイヌちゃんの感想でした。

 現れたのは蜘蛛のような足で身体を支えた巨大なセルリアンでした。

 セルリアンは大きい個体ほど強大な力を持っている傾向があります。

 そして、いま目の前にいる『石』を身体に持っている個体であれば尚更です。

 こうなってしまったセルリアンは『石』以外の場所は非常に硬くなってしまい攻撃してもなかなか倒せません。

 これをやっつけるには『石』を砕くのが一番です。

 

【イエイヌ】「でも…『石』に手が届きません。」

 

 セルリアンはイエイヌちゃんの背丈の3倍はありました。

 弱点である『石』はその身体の天辺にあるのです。

 これは一人ではとても倒しきれない、と判断したイエイヌちゃんは仲間達を呼びに行く事にしました。

 ですが…。

 

【イエイヌ】「!?」

 

 セルリアンの目の前にカラスの巣がありました。

 中にはまだ上手く飛べない小さなカラスもいます。

 きっと、クロちゃんよりも後に孵ったヒナ達なのでしょう。

 そう思ったらイエイヌちゃんは何故かセルリアンの前に飛び出してしまっていました。

 

【イエイヌ】「さあ、セルリアン!こっちですよ!」

 

 そう叫ぶとセルリアンはギロリ、と一つ目を動かしてイエイヌちゃんを睨みつけます。

 

【イエイヌ】「何とかここから引き離さないと…!」

 

 そのまま自分を囮にしてさっきの原っぱまで一旦逃げる事にしました。

 そうすればカラスの巣からセルリアンを遠ざける事が出来ますし、ついでに開けた場所の方が戦いやすいはずです。

 ですが、戦いやすくなったのはセルリアンも一緒でした。

 蜘蛛のような6本足で身体を支えたセルリアンはイエイヌちゃんに向けて足を一本振るいます。

 後ろへ飛び退ってかわそうとしたイエイヌちゃんでしたが、一つ誤算がありました。

 セルリアンの足がまるで蛇腹のように伸びたのです。

 十分な距離をとっていたはずのイエイヌちゃんにもその足の攻撃は届いてしまいました。

 

―バシィ!

 

 かろうじて両腕でガードしたものの、イエイヌちゃんの身体は弾き飛ばされてしまいました。

 

【イエイヌ】「くぅ…。」

 

 なんとか立ち上がるイエイヌちゃんですが、セルリアンはとどめを刺そうともう一度足を振り上げていました。

 絶対絶命のピンチです!

 そんな時……。

 

【クロ】「くぁー!」

 

 クロちゃんが鋭い鳴き声をあげながらセルリアンの目の前を横切りました。

 そちらに気をとられたセルリアンはクロちゃんに向けて足を振るおうとします。

 

【イエイヌ】「クロちゃんに手は出させませんよ!」

 

 今度はクロちゃんのおかげで難を逃れたイエイヌちゃんがセルリアンの足に攻撃を仕掛けました。

 自身の掌にサンドスターを集めて、まるで犬が噛みつくかのようにセルリアンの足の一本を握り潰してしまいました。

 しかし、そこでイエイヌちゃんの動きがほんの少し止まってしまいました。

 セルリアンはその隙を逃さずに今度は別の足を蛇腹のように伸ばしてグルリとイエイヌちゃんを取り囲みます。

 ちょうどロープのようになったセルリアンの足はそのまま縮んでイエイヌちゃんを縛り上げて捕まえてしまったのです。

 

【クロ】「くぁー!?」

 

 こうなってしまうと、クロちゃんではイエイヌちゃんを助けられません。

 

【イエイヌ】「く、クロちゃん…、わたしは大丈夫ですから…、おうちに戻ってともえちゃん達を…」

 

 セルリアンの足で締め上げられたイエイヌちゃんはクロちゃんだけでも逃がそうとしました。

 もしかしたらともえちゃん達を呼んで来てくれれば、という期待もしていました。賢いクロちゃんの事です、きっとそれを果たしてくれる事でしょう。

 ですが……。

 クロちゃんはいつまでも飛び去ろうとはしませんでした。

 それどころか、どういうわけかクロちゃんの身体が輝いているように見えます。

 その輝きはサンドスターの輝きでした。

 

【イエイヌ】「な、なんで…?」

 

 セルリアンに締め上げられながらも、イエイヌちゃんはその光景を見守ります。

 やがて、サンドスターの輝きが治まった時にはそこには小さな一人のフレンズがいました。

 黒いセーターに同じく黒のミニスカート。ニーソックスまで黒です。

 そして黒髪、黒目と頭に生えた翼も黒で黒づくめです。

 

【イエイヌ】「クロちゃん…ですよね?」

 

 イエイヌちゃんも、そしてセルリアンまでもがポカーンとその光景を見守っていました。

 あまりの事に一瞬疑問の生まれたイエイヌちゃんでしたが、すぐにそのフレンズがクロちゃんであると確信しました。

 クロちゃんは一度大きく息を吸い込むと…

 

【クロ】「すぅー……みんなあああ!手伝ってええええええ!」

 

 と叫びました。

 するとどういうわけかセルリアンへ向けてカラスの群れが一斉に襲い掛かったではありませんか!

 カラスは巣を荒らす外敵には群れで立ち向かう習性があります。

 クロちゃんの号令でカラスの群れ達はついにセルリアンへ一斉攻撃を始めたのです。

 カラス達を振り払うためにセルリアンはイエイヌちゃんを手放しました。

 解放されて落ちるイエイヌちゃんを受け止めたのは……。

 

【ともえ】「おっと。」

 

 ともえちゃんでした。

 

【イエイヌ】「ともえちゃん…どうしてここに?」

【ともえ】「いやあ。さっきクロちゃんがおうちの窓を叩いて大騒ぎした後にこっちの方に飛んでったから何かあったのかなーって。」

 

 どうやらクロちゃんは、イエイヌちゃんが森に様子を見に行っているウチにともえちゃん達を呼んでいたようです。

 ということは…。

 

【ゴマ】「いよう。遅くなって悪かったな。」

【アム】「おまたせ。」

 

 ゴマちゃんとアムちゃんがセルリアンとイエイヌちゃん達の間に割って入りました。

 

【ゴマ】「うちの可愛い妹分と…。」

【アム】「イヌ…いじめた…。許さない…。」

 

 瞳に強い輝きを宿した二人がセルリアンに一歩を踏み出します。

 その迫力たるや、セルリアンも思わずたじろいで後ずさりを始めてしまう程でした。

 ハッキリ言ってセルリアン終了のお報せです。

 

 

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【ともえ】「アタシの!アタシの出番はー!?」

 

 結局、『石』持ちの大型セルリアンといえど、ゴマちゃんとアムちゃん二人の連携の前には一たまりもありませんでした。

 アムちゃんが自慢のパワーでセルリアンの足を折って足止めしている間に、ゴマちゃんが得意のスピードで回り込んで『石』を砕いたのです。

 ともえちゃんはイエイヌちゃんとクロちゃんの二人に万が一にも被害が及ばないように目を光らせていたわけですが、結局出番がありませんでした。

 

【ともえ】「うぅー…。アタシもクロちゃんにいいトコ見せたかったよー。」

 

 と言いつつ、ともえちゃんはちゃっかりフレンズ化したクロちゃんに抱き着きモフモフしていました。

 

【イエイヌ】「あ、あれ?でもみんな、よくこの子がクロちゃんだってわかりましたね。」

 

 目の前でフレンズ化するクロちゃんを見ていたイエイヌちゃんですら一瞬戸惑ったのに、ともえちゃんもアムちゃんもゴマちゃんも何でか自然にフレンズ化したクロちゃんを受け入れていました。

 

【ともえ】「あー。まあ、なんでだろ。見たらクロちゃんだってわかったっていうか…。」

【ゴマ】「だよな。見たらわかった、としか言いようがないよな…。」

【アム】「クロはクロ。」

 

 うんうん、と三人して頷きあっています。なまじ目の前でフレンズ化されたイエイヌちゃんよりも素直に今の事態を受け入れてしまっているともえちゃん達でした。

 

【イエイヌ】「それにしても、なんでクロちゃんは急にフレンズになったんでしょう?噴火とかも起こっていないのに。」

 

 フレンズはサンドスターの吹き出す火山が噴火した時に生まれます。ですがクロちゃんがフレンズになった時は間違いなく噴火なんか起きていませんでした。

 

【ともえ】「多分だけどね。クロちゃんのご飯ってジャパリまんだったじゃない?」

 

 ともえちゃんの言葉に全員が揃って頷きます。

 

【ともえ】「ジャパリまんを食べると、使ったサンドスターも補給してくれるじゃない?」

【ゴマ】「ま、まさか…。」

【イエイヌ】「ジャパリまんに含まれてたサンドスターが身体の中に貯まってクロちゃんがフレンズ化した、って事ですか!?」

 

 ともえちゃんの言わんとしている事がわかってゴマちゃんもイエイヌちゃんも驚きました。

 ですが、当のクロちゃん本人は今はアムちゃんに抱き着かれていました。

 

【アム】「クロはクロ。これからも一緒。」

【クロ】「うん。アム姉ちゃんとこれからも一緒。アム姉ちゃんは暖かい。」

 

 そうです。フレンズ化した今なら、これからも一緒に暮らしていっても何の問題もなくなったのです。

 

【アム】「アム…。お姉さん。」

 

 そしてそれよりもアムちゃんとしてはお姉さんと呼ばれた事が嬉しいようでした。すっごいドヤ顔です。

 

【ゴマ】「クロぉー!あたしは!?」

【クロ】「ゴマ姉ちゃんは走るの速い。飛ぶの上手。」

 

 と褒められるとゴマちゃんもデレっと相好崩しました。

 

【ともえ】「じゃあ、アタシは!?」

【クロ】「ともえ姉ちゃん。ご飯美味しい。」

 

 ともえちゃんもクロちゃんにお姉ちゃんと呼ばれて嬉しそうにしています。

 そんな中でイエイヌちゃんだけはその輪に入れずにいました。

 イエイヌちゃんとしてはクロちゃんがフレンズ化してくれた事は嬉しく思いました。

 ですが、イエイヌちゃんはクロちゃんが野生の生活も選べるように敢えて厳しく接してきたつもりです。

 そんな自分がクロちゃんにお姉ちゃんと呼ばれる資格はあるのだろうか、と思い悩んでいました。

 そんな思いを知ってか知らずか、クロちゃんがてけてけ、とイエイヌちゃんに駆け寄ります。

 そして、手を差し伸ばすとこう言いました。

 

【クロ】「おうち帰ろう。イエイヌ母さん。」

 

 そう呼ばれたイエイヌちゃんの笑顔はそれはそれは嬉しそうでした。

 こうして、ともえちゃん達の暮らすおうちに一人の家族が増えました。

 おうちに飾られるともえちゃんの描いた絵にも、まずはとってもステキな笑顔のイエイヌちゃんとクロちゃんの絵が追加されました。

 きっとこれからも増えていく事でしょう。

 

 

 けものフレンズ2after☆かばんRestartアフターストーリー番外編『はばたけ!黒い翼』

―おしまい―




これにてアフターストーリー番外編『はばたけ!黒い翼』は終了とさせていただきます。
かばんRestartの完全新作はすごく久しぶりでしたが書いてて楽しかったです。

それと、けものフレンズR1周年おめでとうございます!
けものフレンズR投稿祭の企画ありがとうございました。
この機会に併せて色々考える事が出来て非常に楽しかったです。

今後も何か思いつけば、かばんRestartの方も更新したいなと思っていますのでその際には是非よろしくお願いします。


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かばんResart前日譚
①『おさなので』


こちらの章は、けものフレンズからけものフレンズ2までの間の物語となっています。
かばんちゃんがかばんさんになるまでの間にどんな事があったのかを自分なりに描いてみました。

海の外への冒険からサーバルちゃんを失って戻って来たかばんちゃんがどうやって過ごしてかばんさんになっていったのか。

よろしければお付き合い下さい。


 ここはジャパリパークの居住区。

 かつてイエイヌのフレンズが一人で住んでいた場所であるが、今はパークの何でも屋となった皆が暮らす賑やかな場所となっていた。

 今日は庭に設えた新しい屋外テーブルで食後のお茶の時間だ。

 もちろんお茶の給仕はイエイヌである。

 用意したお茶をティーポットからカップに注いで皆へと配る。

 

「はい、どうぞ。かばんお姉ちゃん。サーバルさん。」

「ありがとうイエイヌちゃん。」

「ありがとー!」

 

 テーブルにつくかばんさんの右隣はサーバルの指定席だ。

 では左隣はというと…。そこは実は激戦区なのだ。

 果たして今日は誰がそこに座るのか。

 

「はい!じゃあ、かばんお姉ちゃんの隣に座りたい人っ!」

 

 ともえの号令に一斉に手をあげるフレンズ達。

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 手を挙げたのはイエイヌ、アム、アライさん、それにともえの4人だ。

 

「あ…。じゃあボクもたまには。」

 

 とキュルルまで参戦する始末。

 さて、どうやってかばんさんの隣の席を決めるか…。やはりここは公平にジャンケンにでもすべきか。

 そんな思案を巡らせて全員が白熱のジャンケン勝負を始めようとした刹那。

 

―トコトコトコ。

 

 やって来たコノハ博士があっさりとかばんの隣の席に座った。

 

「あ、あぁああああああっ!?ちょ、コノハちゃん博士ぇー!?ズルくない!?」

 

 それに気づいたともえが猛抗議をするが博士はどこ吹く風だ。

 さらに空いてるコノハ博士の隣にミミ助手が座って鉄壁の構えになってしまった。

 

「何を言うのです、ともえ。我々はこの島の長なので、どこにいようが誰にも文句など言わせないのです。」

「そうなのです。我々はこの島の長なので。長の特権というものなのです。」

 

 そうして涼しい顔の博士と助手である。

 そんな二人の様子をかばんさんはクスクスと忍び笑いを漏らして見ていた。

 

「ふふ。なんだかそう言われると昔の事を思い出しちゃうな。」

 

 ともえはなおも抗議しようかと思ったけれど、かばんさんがそうしているのを見ると、まあいいか、という気分になってきた。

 それよりも昔の事、とは一体何の事だろう?

 

「あー…。いやあ…。なんか昔の話って結構恥ずかしいなあ…。」

 

 気になっているともえ達にかばんさんはなおも話を渋る。

 

「よいではないですか。かばん。話してやるのです。」

「何なら我々が話してやってもよいのですよ。」

「もうー!?博士も助手もー!?」

 

 だが、黙っていてもどうやら昔の話をされてしまうらしい。

 それなら自分でした方がまだマシか。とかばんさんも覚悟を決める。

 

「そうだね…。これは私が海の外への旅から帰って来たばっかりの頃のお話だよ。」

 

 そうして話がはじまると、ともえもキュルルもイエイヌもアムも大人しく適当な席につく。

 ついでに見守っていた他のフレンズ達、フェネックやカラカル、アルマーやセンちゃん達も席に座って聞く体勢に入った。

 

「ちょうどね。その時にも今日と同じ事を博士が言ってたんだ。」

 

 こんな具合にね、とかばんさんは昔話を始めた。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 数年前のサバンナ。

 

「かばん。本当に行ってしまいますの?」

「はい。カバさん。お世話になりました。」

 

 幾人ものフレンズが集まる人気の水飲み場、その主であるカバは心配そうに目の前のヒトの女の子を見る。

 かつてここにサーバルと一緒に来た赤い毛皮と柔らかい甲羅のような何かを背負った女の子で、彼女の名前はかばんという。

 初めてこの場を訪れた時、彼女は頼りなく、何も出来ないと思っていた。

 けれど、彼女は巨大セルリアンからパークを守り、そして海の外へヒトを探す旅に出たのだ。

 その時の事をカバは昨日の事のように思い出せる。

 あの日、海の外へ旅立ったかばんはきっとどこに行っても自分の力で生きていけるだろうと確信できる程にたくましく成長していた。

 だから誰もが快く送り出したのだ。

 それがまさかあんな結末になるとは。

 かばんの旅にはサーバルキャットのフレンズで彼女のパートナーとも言うべきサーバルと、アライさん、フェネックの3人も同行していた。

 けれど、戻ってきた中にサーバルはいなかった。

 あまりの事態に、誰もが何が起こったのかを問い質す事が出来なかった。

 海の外から戻ったかばんはしばらくの間、このサバンナでカバと一緒にいた。

 

「カバさん。ボクを鍛えてくれてありがとうございました。」

「いいえ。貴女は元から強かったですよ。それに、海の外で見つけてきたという技もすっかり身に着けたようですし。」

 

 二人の様子を見ていたフレンズ達は狩りごっこみたいな何かをしていた、と噂していた。

 その狩りごっこはサバンナの実力者であるカバをして互角と言われる程だったらしい。

 なんでも、かばんは海の外で見つけた技であるジュードーだとかカラテだとかを使っていたという。

 

「かばん、貴女は強くなりました。今なら一人でも生きて行けるでしょう。ですが、ここで私や他のフレンズと助け合って暮らしたっていいのですよ。」

 

 それはカバの願いであった。

 かばんは強くなった。

 それは間違いない。

 けれども、何というか今にも消えてしまいそうな印象があるのだ。

 だから、出来れば側にいて欲しい。

 そんなカバの願いにかばんは首を横に振った。

 

「お気持ちだけで十分ですよ。」

 

 かばんは次は図書館に向かうらしい。

 そこで色々と調べたい事がある、と。

 

「じゃあ、ボク行きますね。」

 

 一人で行くという彼女の意思は固い。

 だからカバは引き留める事をしなかった。

 

「必ずまた来るんですのよ!約束ですからね!」

 

 代わりにそう言って見送るのが精一杯だった。

 振り返って手を振り返すかばんの顔には笑顔が見られた。

 けれどもその笑顔は却ってカバの胸を締め付ける。

 

「あの子にとって、誰もサーバルの代わりにはなれませんわね。」

 

 彼女の隣にサーバルがいない。

 それだけでこんなにも不安になるものなのか…。

 

「かばん。貴女の隣に誰かがいてくれるように祈っていますわ。」

 

 その願いと共にカバは彼女が見えなくなるまで見送った。

 

 これは、かばんちゃんがかばんさんになるまでの、そんなお話。

 

 

けものフレンズ2after かばんRestart 前日譚①『おさなので』

 

 

「で?かばんは来るなりすっかり本の虫なのですが相変わらずですか?」

 

 ジャパリ図書館の主にしてこの島の長でもあるアフリカオオコノハズクのフレンズ、博士が訊ねる。

 

「ええ。別に本を読むのは構わないのですが、一体いつ寝ているのやら。」

 

 答えるのは博士のパートナーでありもう一人の長であるワシミミズクのフレンズ、助手である。

 かばんはといえば、図書館の一角に根っこでも生えたかのように陣取ってずーっと本を読んでいた。

 時折本のページをめくったり、本を取りにいったりする以外は何にも動いてる様子もない。

 

「気持ちはわからなくもないのです。」

 

 それを見守る博士もかばん達が帰って来た時の事は聞き及んでいたし、その時の状況から何があったのかを察してもいた。

 だから今彼女がこうして無茶とも言える行動をとっている事だって無理もない事だとは思っていた。

 

「け、れ、ど!」

 

 博士は言いながら怒りの表情を露わにした。

 

「かばんはここに来てから<りょーり>を作っていないのですよ!帰って来たなら来たで島の長であるこの私に<りょーり>の一つも振る舞うのが道理というものなのです!」

 

 それを聞いていた助手は何とも博士らしい、と感想を抱いた。

 

「うぅー…!もう我慢ならないのです!」

 

 どうやら博士はとうとう業を煮やしたらしい。

 ずんずんとかばんが陣取るテーブルへと進んでいく。

 

「ちょ!?博士、何をするつもりなのですか!?」

 

 助手が制止の手を伸ばすも博士はどうやら行動をやめるつもりはないらしい。

 何をするのかと助手がハラハラと見守る中、博士はかばんの座っていた椅子の隙間に自分のお尻を割り込ませた。

 そうして、じーっとかばんの方を見る。

 

「……?博士さん?もしかして、ここ、お邪魔だったりしました?」

 

 この攻撃にはさすがにかばんだって反応せざるを得ない。

 少しばかり怒ったようなむくれた表情で見上げてくる博士にかばんは困惑した。

 

「ふん、別に邪魔ではないのです。私はここにいたい。だからいるのです。」

 

 邪魔ではない、という事はここにいてもいいという事なのだろう。

 かばんはホッとしたけれども…。

 

「でも、ちょっと本が読みづらいといいますか…。」

 

 いくら博士が小さくても一つの椅子に二人腰掛けるのは中々大変だ。

 集中して読書なんて出来るはずもない。

 

「文句は言わせないのです。私はこの島の長なので。どこにいようと誰にも文句など言わせないのです。」

 

 博士はどうやらどくつもりはないようだった。

 だいたいにして他に空いている椅子だってあるというのに。

 もしかしてこの椅子がお気に入りとか?

 そう思ったかばんは自分がどいて空いている椅子に座り直した。

 しかし、そうしても博士はピッタリとその後をついてかばんと同じ椅子に座ったではないか。

 

「あ、あの…。博士さん?」

 

 ますます困惑するかばんに博士はやはり怒ったままの表情で言う。

 

「だから私はいたい場所にいるだけなのです。」

 

 なんとも困ったかばんは助手に助けを求めて視線をやる。

 しょうがない、とでもいうように助手もこちらにやって来た。

 助けが来たか、とホッとするかばんの期待とは裏腹に、なんと助手は博士とは反対側にお尻を乗せてかばんをサンドイッチにしてしまった。

 

「かばん、お前の負けなのです。博士はこうなると頑固なのです。」

 

 両側から挟まれて窮屈な思いのかばんは相変わらず話が見えない。

 窮屈ではあるけれども、二人の体温までも感じ取れる。

 この暖かさは随分と久しぶりだな、なんて心のどこかで感じていた。

 

「まったく、かばん。ヒトはかしこい生き物のはずです。なのにわかりませんか?」

 

 ふう、やれやれ、と肩をすくめてみせた博士は続ける。

 

「我々はお前の隣にいる。そう決めたのです。何か文句でもあるのですか?」

 

 逆側を見やれば助手がニヤリとしていた。

 

「文句があっても受け付けないのです。」

 

 そして二人の声が揃った。

 

「「我々はこの島の長なので。」」

 

 かばんは二人を交互に見ていたがじっと見つめ返してくるばかりだ。

 何をどう反対したって聞かないぞ、と顔に書いてあった。

 なので苦笑と共にかばんは観念した。

 

「いえ、はい。文句ないです。お二人はこの島の長なので。」

 

 その答えにようやく博士も満足したようだ。

 

「わかればいいのです。」

 

 満足気に頷く博士の腹がぐぅー、と音を立てた。

 それを見た助手が苦笑と共に言う。

 

「かばん、我々はお腹が空いたのです。今日はカレーがいいのです。」

「え、ええと…今からですか?」

「かばん、お前もどうせ腹を空かせているはずなのです。図書館に来てからロクに食事をしていないのは知っているのですよ。」

 

 助手に言われてかばんも気が付いた。

 ずっと集中して本を読んでいたせいで殆ど食事をしていなかった事に。

 博士はそれを聞くと再び頬っぺたを膨らませて見せた。

 

「それはいけないのです。いいですか?かばん。美味しいものを食べてこその人生なのですよ?」

「さぁ、かばん。わかったなら<りょーり>を作るのです。我々はおかわりも待っているのですよ?」

 

 二人に迫られては抵抗なんて出来るはずもない。

 仕方ない、と調理場へ向かうかばんであった。

 

「もう、わかりました!お二人ともわかりましたから!そんなにくっついたら料理しづらいですったらー!」

 

 二人に(火を使う時以外)くっつかれたまま作ったカレーは随分と美味しかったかばんだったとさ。

 

 

 

けものフレンズ2after かばんRestart 前日譚①『おさなので』

―おしまい―

 



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②『ジャパリパン』

 ここはジャパリ図書館。

 今日もアフリカオオコノハズクの博士とワシミミズクの助手、そしてかばんの3人は一緒だった。

 

「ふむ。今日は新しい料理を試してみる、と?」

「それはいいのです。かばん、一体何を作るのですか?」

 

 何やら準備を始めたかばんの周りに博士と助手がまとわりつく。

 そんな二人にかばんは振り返る。

 

「はい、海の外で見つけた料理の仕方なんですが帰ったら皆にも食べて欲しいなって思ってたんです。」

「なっ!? つ、つまり新しい味!新しい<りょーり>という事なのですね!?」

 

 これには博士も大興奮だ。

 

「ならば材料は任せるのです。ひとっ飛びしてチョイしてくるのです! 何が必要なのですか!」

 

 ふんすふんす、と鼻息荒くかばんに詰め寄る博士。

 

「チョイチョイ、なのです。」

 

 どうやら助手も止める気は毛頭ないどころか一緒になって材料集めをしそうな勢いだ。

 けれどもその必要はない。

 

「ふふ、材料はラッキーさんにお願いしてもう配達してもらっているから大丈夫ですよ。」

 

 かばんが腕につけたレンズのようなものが緑色の光を放って「マカセテ」と言っていた。

 

「という事は……!」

「新しい<りょーり>が食べられるのですね!」

 

 博士も助手ももうわくわくが抑えきれない。

 キラキラした目でかばんを見上げた。

 

「はい! じゃあ皆で作ってみましょう!」

 

 それに笑顔で返すかばんだった。その表情は以前よりも元気な気がするのだった。

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 前日譚②『ジャパリパン』

 

 

 さて、調理場に移動した3人。

 かばんは何やら真っ白な粉をボウルの中に開けていた。

 

「まずはこの小麦という植物の実を曳いて粉にしたものに、イースト菌というものを混ぜて……そして水を加えながら練ります。」

 

 博士と助手がキラキラした目でかばんの手元を見守る。

 最初はサラサラしていた白い粉はベチョベチョになったと思ったらだんだんとお団子のようになってきた。

 

「かばん、これはもう食べられるのですか?」

「いえいえ、まだまだですよ。この後少し待ちます。」

「なっ!?何故待つのですか!?さっさと作るのですよ待ちきれないのですよ!」

 

 もうワクワクが止められない博士はジュルリ、と舌なめずりしながら水で溶いたお団子状の生地を見つめる。

 

「待たないと美味しくならないからですよ。博士さん、落ち着いて下さい。」

 

 どうどう、とかばんは博士を落ち着かせる。

 まだぷんすかしながらも博士は納得してくれたようだ。

 

「ふむ。こねるのは中々楽しそうなのです。我々にもやらせるのですよ。」

 

 作業を見守っていた助手が提案する。

 確かに一人で作業するより皆で作った方が楽しそうだ。

 

「はい! 手伝ってもらえたら助かります。じゃあ博士さんはこっちのを。助手さんはこっちのをお願いします。」

 

 かばんは手早く二人の分も材料をボウルに開ける。

 そうして三人でしばらく小麦粉をこねこね。

 途中でお砂糖、お塩、バターを少々混ぜながら根気よくさらにこねこねこねこね。

 すると生地にも変化が出てきた。

 

「おお…。なんだかベタベタしてたのがツルンとしてきたのです…。」

 

 その変化に博士も感心しきりだ。

 なんとも興味深い変化だ。

 

「美味しそうに見えなくもないのですが、これはまだ食べられないのですね?」

「はい、まだ食べないで下さい。ここから少し置いて寝かさないと美味しくならないんです。」

 

 どのくらい待たねばならないのだろう。待ち遠しい博士はそわそわしっぱなしだ。

 このままお預け状態もよくないか、と助手もとっておきを出す事にした。

 

「ならば、待つ間に休憩するのです。実は、水出し、という方法でお茶を作る方法をかばんから教わったのでお茶の時間にしましょう。」

 

 助手がティーセットを持ってきた。

 既にティーポットの中には程よく色づいたお茶が出来ているようだ。

 火を使わなくても作れるからこれなら誰でも作れる。

 それを見た博士は目を丸くした直後かばんに詰め寄った。

 

「かばんっ! 私にも、私にも教えるのです! 助手にばかりズルいのですよっ!」

 

 わちゃわちゃと博士がかばんに纏わりついている間に助手はすっかりお茶の準備を終えていた。

 

「はい。今度3人で一緒に作りましょうか。」

 

 その答えに満足した博士は「やった。」と小さくガッツポーズの後に自分の席につく。

 既に給仕されたお茶を一口飲んでみて満足の表情を浮かべた。

 

「さすが助手。博士の次に優秀なのです。」

「ありがとうございます、博士。本当は助手の方がほんのちょっぴり優秀なのですがそういう事にしておくのです。」

 

 言って二人してしばらく睨みあう博士と助手。

 かばんがハラハラしていると、二人とも同時にニヤリと不敵な笑みに変わる。

 そして直後にじゃれ合う姿を見ると、かばんもホッと胸を撫でおろした。

 やっぱり二人はとっても仲良しなのだなあ、と微笑ましく思う。

 そんなこんなのティータイム後。

 

「お、おお……。さっきよりも大きくなっているのです。」

「待てば大きくなるだなんて、不思議な食べ物なのです。」

 

 大きく膨らんだパン生地を覗き込む博士と助手。

 

「なるほど! 大きくしたところを食べるわけですね!」

 

 博士は期待と共にかばんを振り返るが、やはり首を横に振られてしまう。

 それに博士は我慢も限界を迎えたのか両手をぶんぶん振り回してみせた。

 

「一体いつになったら食べられるというのですか!? もう待ちきれないのですよっ!」

 

 そうしてジタバタとダダをこねる博士の両肩にぽむ、と手を置くかばん。

 そのままくるり、とパン生地に向き直らせて続ける。

 

「それじゃあ博士さん。その気持ちを生地にぶつけちゃいましょうか。こんな感じで。」

 

 かばんは自分が捏ね上げた生地を高く持ち上げると……。

 

―バァン!

 

 と大きな音を立てて台に叩きつけた。

 意外な大きな音に博士助手もビックリだ。

 

「そ、そんな事をしていいのですか!?」

 

 助手が目を丸くしたままかばんに訊ねる。

 

「はい。生地の中に入った空気を一度抜く為にこうやって叩いていくんですよ。」

 

 なるほど、そうとわかれば博士は同じように生地を叩きつけて楽しんでいた。

 

「この! この! こ、これは意外と楽しいのです……!」

 

 そうやって楽しそうに生地をベチベチと叩いている博士を見て助手も微笑む。

 

「まあ、博士が楽しそうなのでよしとするのです。」

 

 そうして叩いた生地を思い思いの形に整形していって……。

 

「そして最後は焼きます。」

 

 かばんが調理場にあるカマドに火を入れる。

 それを博士と助手はかなーーーり距離を取って見守っていた。

 

「うう……やはり何でかわからないけど火は怖いのです。かばん。焼くのは任せたのです。」

「はい、任せて下さい。」

 

 そうして、待つ事しばらく。

 みんなで作ったジャパリパンが焼き上がった。

 

「これは…焼く前よりもさらに膨らんでいるのです。」

「それに香ばしいいい匂いなのです。かばん、これはもう食べても平気なのですか?」

 

 焼き上がったジャパリパンを興味深く眺める博士と助手にかばんも頷いた。

 

「はい。焼きたても美味しいですから熱いのに気を付けて食べてみてください。」

 

 博士は焼きたてのジャパリパンを手に取って口に運ぶ。

 

「~~~~~~~!?」

 

 博士は言葉にならずに両手をぶんぶんしていた。

 

「博士……。そんなにですか。」

「助手も! 助手も食べてみるのです!」

 

 言われて助手も一口パクリ。

 

「これは!? ザクリとした表面の中はモチモチ食感……。口の中に広がる香ばしさ。新しいのです。」

 

 どうやら助手のお眼鏡にも叶ったようでかばんも満足気に微笑む。

 

「モチモチでアツアツでフワフワなのです。これはいくらでも食べられそうなのです!」

 

 早速二つ目に手を伸ばしている博士だったが助手の方は怪訝な顔になった。

 なにか問題かな、とかばんが視線を向ける。

 

「その……。これはこれで美味しいのですが、普段食べているジャパリまんの方が味がハッキリしているな、と……。」

 

 どうやら助手の方はもう少し濃い目の味付けがお好みらしい。

 

「そうですね。パンそのものは味があんまりしないんです。ですがだからこそ色んな料理と合うんですよ。」

 

 二つ目に手を伸ばしていた博士をちょっと待ってね、と止めるかばん。

 瓶に入れた何かドロっとしたものを取り出す。

 それの中身をスプーンでひと掬い。博士のパンに塗ってあげる。

 

「これは、木苺を使ったジャムなんです。これをつけて食べても美味しいですよ。」

 

 あらためてそれを口に運んだ博士は……。

 

「んん~~~~!?!?」

 

 とその味に両手をばたばたさせて喜んでいた。

 

「博士……。そんなにですか。」

「助手も! 助手も食べてみるのです!」

 

 またも同じやり取りをしている間にかばんは助手の分のパンにも木苺のジャムを塗ってあげた。

 あらためてそれを口に運ぶ助手は驚きに目を丸くした。

 

「こ、これは!? さっきよりも何倍も美味しいのです!?」

 

 その反応にかばんも嬉しくなってしまう。

 やはり美味しいと喜んで貰えるのはとても嬉しい。

 

「パンは色んな料理に合いますから、色んな味を楽しめる面白い料理だと思うんです。」

 

 その解説に博士と助手は戦慄する。

 

「ま、まさか……。<りょーり>を楽しむ為の<りょーり>……。そんなものがあるだなんて……!」

「このパンは始まりに過ぎない……そういう事ですか……!?」

 

 そんな大げさなものではないのだけれど、気に入ってもらえたのなら何よりだ。

 そうして驚いている二人の姿を見てかばんは一つ思いつく事があった。

 

「あ。そうだ。じゃあ今日の夕飯はシチューにしましょうか。これもパンとよく合う料理なんですよ。」

 

 その提案に博士と助手はかばんに飛びつくと二人同時に叫んだ。

 

「「早く! 早く作るのです!!」」

 

 今日のジャパリ図書館からはとても美味しそうな匂いがしていたのでしたとさ。

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 前日譚②『ジャパリパン』

―おしまい―



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③『かくべつないっぱい』

「博士博士。かばんがまた何か準備をはじめたのです」

「ええ、かばんがまた何か準備をはじめたのですよ、助手」

 

 ここはジャパリ図書館。

 その主であるアフリカオオコノハズクの博士とワシミミズクの助手が何かを準備しているかばんの様子を見守っていた。

 最近二人は覚えた事がある。

 かばんがこうして何かを準備している時は『美味しい』にありつける時だ、と。

 

「次はどんな《りょーり》でしょうね、博士。じゅるり」

「次はどんな《りょーり》なのでしょうね、助手。じゅるり」

 

 はたして今日はどんな新しい味に出会えるのか。

 今からワクワクが止まらない二人であった。

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 前日譚③『かくべつないっぱい』

 

 

 一通りの準備を終えたかばんは、博士と助手に振り返る。

 

「ちょうどよかった。博士さん、助手さん、ちょっとお手伝いをお願いしてもいいですか?」

 

 ついに出番の来た博士と助手は待たせ過ぎだ!とばかりにかばんに飛びつく。

 

「次はどんな《りょーり》なのです!?」

「我々は何をすればいいのです!?」

 

 二人にわちゃわちゃと纏わりつかれたかばんだったが、最近ではその対処も慣れたものだった。

 博士も助手もこうなったら時は少し撫でてあげると落ち着いてくれる。

 頭の翼に触れないように手の平よりも指の腹で優しく撫でるのがコツだ。

 二人が落ち着いたのを見計らってかばんは言う。

 

「はい、お二人にはゆきやまちほーで雪を集めて欲しいのですが、お願いできますか?」

 

 そのお願いに博士と助手は一度顔を見合わせる。

 そうしてからおずおずと助手が挙手した。

 

「それはもちろん構わないのですが、ゆきやまちほーからここまで戻るまでに溶けてなくなってしまうですよ」

 

 雪は当然だが暖かければ溶けてしまう。

 いくら速く飛んだとしてもゆきやまちほーからジャパリ図書館に戻るまでに雪は溶けてしまうだろう。

 

「そこで、この箱を使って下さい。発泡スチロールって言うんですけど、ラッキーさんに用意してもらいました」

「マカセテ」

 

 かばんの左腕に巻かれたレンズのようなものが緑色の光を放っていた。

 どうやらこれもヒトの遺物なのだろうか。用意された発泡スチロール箱を興味深く観察する博士と助手。

 助手が発泡スチロール箱を持ち上げて上下に振ってみた。

 

「ふぅむ。随分と軽いのです」

「これに入れて持ってくれば、雪をここまで運ぶ事が出来るのですか?」

 

 博士の疑問にかばんは頷いた。

 

「はい。これは箱を作る壁に気泡が沢山入っていて、外の熱を箱の中に伝えづらくなっているんです」

 

 その説明には博士も助手も?マークを浮かべる。

 

「ええとですね。空気って意外と熱を通しづらいんですよ。それをいくつもの層に分けてやることで……」

 

 地面に棒でガリガリと絵を書きながら説明するかばん。

 ほうほう、と何度も頷きながら博士と助手はそれを見ていた。

 期せずしてなんだか授業のようになってしまった。

 

「ふむ……。にわかには信じがたいですが、それを確かめる為にもゆきやまちほーに向かうとしましょう。博士」

「任せるのです。ヒョイっと行ってきてチョイっと雪を集めてくるのです」

 

 早速飛び立とうとした博士だったが、そこで助手の待ったがかかった。

 

「博士、せっかくですからゆきやまちほーの見回りもしましょう。」

「えぇー!?早く帰ってかばんの《りょーり》を引っ掛けるのです!」

 

 口をとがらせて抗議する博士に助手はなおも諭す。

 

「最近ゆきやまちほーの方はあまり見回り出来ていないので軽くでもやりましょう。また温泉が止まってしまっては困る者も出るでしょうから」

 

 理屈では助手の言う通りなのだけれど、博士は「けどぉ……。」とまだ納得していない様子だった。

 やはり早く戻ってかばんの料理を食べてみたい。

 それが今まで味わった事のない物であれば尚更だ。

 助手としても気持ちは一緒なのだけれど、この島の長としての務めもキチンとこなさないといけない。

 そんな二人にかばんは目線を合わせるとこう言った。

 

「安心して下さい。料理は逃げたりしませんから。それにですね……」

 

 何を言うのだろう、と博士も助手も固唾を飲んで続く言葉を待つ。

 

「今日の料理はお仕事が終わった後がいっちばん美味しいんですから」

「「なっ!?」」

 

 それには博士も助手も驚きだ。

 そんな不思議な料理があるというのか。

 だが、せっかくだ。

 一番美味しい状態で味わうのも一興というものだろう。

 

「そうと決まればバッチリ長の務めを果たしてくるのです!行くのですよ、助手ッ!」

 

 あらためて気合を入れ直した博士が発泡スチロールの箱を持って飛び立つ。

 

「では、かばん。留守番を頼むのです」

 

 すっかり張り切った博士が飛び立ったのを見送った助手はその後を追いかけて翼をはためかせた。

 

「はい。準備して待ってますのでお二人ともお気をつけて」

 

 かばんは二人の姿が見えなくなるまで手を振って見送ってくれた。

 

「見送られるというのも、どうして中々悪くないかもしれませんね、博士」

「それに帰ったら《りょーり》が待っているのも悪くないのですよ、助手」

 

 帰ったら待ってるのが料理だけじゃない事も二人は嬉しく思うのだったが、それを口にするのは何だか照れ臭いのであった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 さて、時刻は夕暮れ。

 ジャパリ図書館のテーブルで博士は突っ伏していた。

 

「つかれたのですー……」

「ええ。やはり予想通りまた温泉のパイプに湯の花が詰まりかけていましたね。今日行っておいてよかったのです」

 

 結局二人が一仕事を終えて帰ってこれたのはこの時間になってしまった。

 どうやらただの見回りだけでは終わらなかった二人は随分と疲れているように見える。

 

「お疲れ様でした。それじゃあ、お疲れの博士さんと助手さんにちょうどいいのを作りますね」

 

 かばんが用意していた材料を見ると今日のは随分と種類が少ないように思える。

 その材料は瓶に入った水と何かの粉末がいくつかだけであった。

 たったこれだけの材料で一体何を作れるというのか……。

 

「かばんー……。随分と自信たっぷりなようですが、今の我々は生半可な《りょーり》では満足できないくらい疲れているのですよ」

 

 テーブルに顎を乗せたまま言う博士であったが、それでもかばんの自信は揺るがない。

 

「はい。じゃあボクも頑張っちゃいます。では、まずはお二人が採ってきてくれた雪でお水を冷やします」

 

 かばんは発泡スチロールに詰められた雪に水の入った瓶を横向きに半分程埋める。

 そして、顔を出している瓶の部分をくるくると雪の中で回転させた。

 

「それでそれで!? 今は一体何をしているのですか!?」

 

 疲れているのも忘れて博士と助手はかばんの手元を覗き込む。

 

「はい。これは水を早く冷やす為にしているんですよ。瓶の空気に触れた部分が空気中に熱を逃がしてくれるので普通に雪の中に埋めるよりもずっと早く水が冷えるんです」

 

 論より証拠、とかばんはその作業を5分程続ける。

 そうしてから雪の中から取り出した瓶を博士と助手のほっぺにあてて見せた。

 

「「ひゃんっ!?」」

 

 その瓶が想像以上に冷たくて博士と助手は思わず変な声が出てしまった。

 

「こ、これは不思議なのです……。こんな短時間で水を冷やす事が出来るだなんて。これもヒトの知恵というものなのですね」

 

 さて、冷たい水を作ったかばんは、今度はその水を半分ずつ二つの容器に移し替えた。

 そして、二つに分けた容器に入れた水の分量を確かめると、そこにそれぞれ別な粉末を加えてかき混ぜる。

 

「ふぅむ。この粉を水に溶かしているように見えるのですが、かばん。その粉は一体?」

 

 訊ねる博士にかばんは答える。

 

「はい。こっちの粉がクエン酸っていう粉でこっちは重曹っていうんです。どっちもラッキーさんにお願いして配達してもらいました」

「マカセテ」

 

 そう説明されても、この粉がどういう風に料理に変るのか全くわからない。

 ただ、いつもの料理風景と違う事だけは博士と助手にも理解できた。

 

「なんだか今日はいつもの《りょーり》の仕方と違うのです。切ったり焼いたりはしないのですか?」

「はい。今日の料理は火を使わなくても出来るから、フレンズさん達でも気兼ねなく作ってもらえるんじゃないかと思って」

「なるほど。博士が気に入るようでしたら私でも作れるわけですね」

「ええ、後で作り方をおさらいしましょう」

 

 自分でも作れる料理、というのに助手はワクワクが止められない。

 ますます興味津々でかばんの手元を覗き込んでいた。

 

「そして、次はこのお砂糖を溶かしちゃいます。ちょっと多いかなー? って思うくらいの方が美味しくなりますよ」

 

 再び白い粉末を瓶の中に投入するかばん。それは砂糖らしい。

 それをかき混ぜて溶かすと、少しだけ白く濁ったような水が出来上がる。

 

「さて。それでは最後の仕上げです」

 

 かばんは二つの瓶に入った粉末を溶かした水の中身を、最初のガラス瓶の中に戻して混ぜ合わせた。

 すると……。

 

「なっ!?見るのですっ!?助手っ!?色が透明になったのです!?」

「ええ、博士。しかも泡がたくさん出ていてシュワシュワ言っているのです」

 

 一つに混ぜ合わされた瓶はシュワシュワと音を立てて細かな泡を後から後から生み出す。

 

「はい、これでソーダの完成です。コップに注ぎますので飲んでみて下さい」

 

 それはコップに注がれても泡を生み出し続けていた。

 その様子に博士も助手も一度ゴクリ、と固唾を飲み込む。

 しかし、今日の料理はいつもと違ってコップ一杯で見た目はシュワシュワ言っている以外ただの水だ。

 

「確かに不思議な《りょーり》なのは認めるのです。けれどもこんなお手軽《りょーり》で我々が満足するとでも……?」

 

 博士はそれをパシリ、と掴むとグイッと中身を呷った。

 

「んんん!? なななな~!?!?」

 

 結果、手をバタバタさせる博士。

 どうやらまたも言葉にならなかったらしい。

 

「博士、そんなにですか」

「助手も!助手も飲んでみるのです!」

 

 博士に促されて助手も一口飲んでみる。

 途端にその目が驚きで丸くなった。

 

「ななな!? こ、これは……!? これはなんなのですか!? 口の中がシュワシュワして、しかもとっても甘いのです!?」

 

 そうして驚く二人をかばんは笑顔で見守っていた。

 どうやら気に入ってもらえたようだ、と。

 

「ふふ、お二人とも元気になったようでよかったです」

 

 なるほど、言われてみたらさっきまでの疲れもシュワシュワと共にぶっ飛んだような気がする博士と助手であった。

 

「これが……。これが仕事の後の一杯というヤツなのですね……! これは格別なのです!」

「この為に生きていると言っていい美味しさなのです!」

 

 博士も助手もいたくソーダを気に入ってくれたようでコップの中身を一気に飲み干してしまった。

 そして二人同時に

 

「「かばん!おかわり!」」

 

 と空いたコップを差し出してきた。

 

「はい。今日はお二人とも頑張りましたから二杯目もいっちゃいましょう。あ、でも二杯目は少しゆっくり飲んで下さいね。じゃないと……。」

 

 説明しながらかばんは二人のコップにおかわりを注ぐ。

 ゆっくり飲まないとどうなるのだろう? という助手の疑問の答えが出る前に、博士は一気にその中身を飲み干してしまった。

 

「んっんっんっ……ぷはーーっ! これはたまらないのです! 病みつきなのです!」

 

 満足気に口元を拭う博士であったが、かばんはそれを見て心配そうな顔つきになった。

 その心配は的中したようで、博士の顔は段々と曇っていき、お腹を抱えてテーブルに突っ伏した。

 

「は、博士!? ど、どうしました!?」

 

 助手が慌てて博士の顔を覗き込むも返事する余裕もないらしかった。

 その様子に助手は一つ思い当たる節があった。

 

「ま、まさか、これは毒なのですか!?」

 

 その疑問にかばんは首を横に振ると博士の背をさすりながら言う。

 

「いいえ、毒ではないのですが、ソーダは飲んだ後もお腹の中でシュワシュワ言って気体を発生させているので、一気に飲むとお腹が膨れて苦しくなっちゃうんです」

「か、かばん! コノハちゃんは大丈夫なのですか!?」

「ええ。安心してください。こういう風になっても、すぐに……。」

 

 かばんが背中をさすり続けていると、博士はやがて「げふー」とゲップを一つ。

 すぐにケロリと元の表情に戻った。

 

「あ、あれ? お腹が苦しいのが治ったのです」

「よ、よかったぁ……。」

 

 それに助手もようやく安堵の溜め息をついた。

 さっき博士の事をコノハちゃん呼びになっていたのは敢えて聞かなかった事にするかばんであった。

 

「博士さんと助手さんはお二人とも身体が小さいので一度に飲み過ぎないように気を付けた方がいいですね」

 

 さすがにさっき苦しい思いをした博士もかばんの言葉に頷いた。

 

「そうですね。いくら美味しくても食べ過ぎ飲み過ぎはよくないのです。身を以て学んでしまったのです」

 

 神妙な面持ちの博士であったがすぐに表情を輝かせて続ける。

 

「ですが、これは癖になりそうなのですよ!!」

 

 ちょっとくらい痛い目にあっても美味しいものの為ならへこたれない博士であった。

 

「材料さえあれば作るのは簡単ですから、またお仕事の終わりに作りますよ」

 

 かばんの提案に二人とも目を輝かせた。

 やはり仕事の後の一杯は格別だ。

 となれば……。

 

「助手っ!次の見回りはいつなのです!?」

 

 博士は勢いこんで次の仕事の予定を訊ねる。

 

「はい、最近見回りに行ってない場所は多いので明日も仕事の後の一杯を楽しめそうですよ」

 

 その答えに小さくガッツポーズの博士であった。

 そんな様子をかばんと助手は一度顔を見合わせると小さく微笑み合った。

 これでしばらくの間、博士も仕事に行くのを面倒くさがったりしないだろう、と。

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 前日譚③『かくべつないっぱい』

―おしまい―



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④『ジャパリチップスは罪の味』

 ここはジャパリ図書館。

 今日は珍しく何かを言い争う声が聞こえている。

 ジャパリ図書館の主であるアフリカオオコノハズクの博士とワシミミズクの助手は何事だろう、と声のする方をそっと覗き込む。

 そこでは、最近このジャパリ図書館に滞在するようになったヒトのフレンズであるかばんが何かを言い争っているようだ。

 

「ラッキーさん、お願いします! ちゃんとしますから、ね?」

「ダメダヨ。カバン、ソレはダメダヨ」

 

 言い争っている相手はどうやら彼女が腕に着けているラッキービーストのようだった。

 言い争いというよりも、かばんが何かをラッキービーストに頼みこんでいたようにも見える。

 

「一体何の騒ぎなのです?」

「珍しいですね。お前たちがそうしているだなんて」

 

 けれども、そんな場面は珍しくて、博士と助手は思わず二人に声を掛けていた。

 その瞬間、ゆらり、とかばんが振り返る。

 何か今日はいつもと雰囲気が違うような?

 そう悟った時には遅かった。

 かばんが地の底からでも響くような声で二人に問い掛ける。

 

「博士さん……。助手さん……」

「「は、はい!」」

 

 雰囲気に呑まれてしまった博士と助手は思わず直立不動の姿勢で返事を返す。

 

「美味しいものを食べてこその人生。その言葉に二言はないですね?」

 

 何か迫力すら感じさせるかばんの様子に、博士と助手はカクカクと何度も頷いて見せた。

 

「も、もちろんなのです!」

 

 それに満足そうに頷くと、かばんはもう一度腕に着けたラッキービーストのコアに向けて言う。

 

「お願いします。ラッキーさん」

「しょうがないネ。程々にするんダヨ」

 

 どうやらラッキービーストもとうとう折れてかばんの願いを聞き入れる事にしたらしい。

 一体何が始まるというのか。

 博士と助手は疑問の眼差しをかばんへと向ける。

 そんな二人にかばんは指を一本ピッと立てるとこう言った。

 

「美味しいけれど悪い事、です」

 

 何やらイタズラっこがイタズラを思いついたような笑みに二人は顔を見合わせるばかりであった。

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 前日譚④『ジャパリチップスは罪の味』

 

 

 さて、三人で調理場に集まるのも恒例になってきた。

 またまた材料はラッキービーストに頼んで配達してもらった。

 その食材を示しながらかばんは言う。

 

「というわけで、今日使う食材はこちらです」

 

 それはジャガイモだった。

 程よく育ったジャガイモがザル一つ分ある。

 これを使って料理をするというのはわかった。

 けれど、問題が一つ。

 

「あの……。かばん……。」

「なんでこんな時間に《りょーり》を始めるのです?」

 

 それは時間がどっぷりと日も暮れてすっかり夜になっている事だった。

 夕食も終わって、後は眠るだけだというのにこんな時間から何かを始めるつもりなのだろうか。

 か細い明かりが照らす調理場でかばんは自信たっぷりに答えた。

 

「はい、それはこの料理が一番美味しくなる時間だからです。お二人にもお手伝いをお願いしてもいいですか?」

 

 かばんが指示した作業はジャガイモの皮むきだった。

 博士と助手の猛禽類の鋭い爪ならば朝飯前の作業である。

 もう夜だけど。

 三人でしばらくの間黙々と作業だ。

 皮を剥き終わったジャガイモを今度はかばんが包丁で薄くスライスしていく。

 

「そして、この薄切りにしたジャガイモはお水に漬けておきます。お水が白く濁ってきたら新しいのに変えた方がいいですね」

 

 先日のソーダと違って今度はかなり複雑な工程が必要なようだ。

 

「博士博士。今日の《りょーり》は随分と手間暇がかかりますね」

「ええ。今日の《りょーり》は随分と時間もかかるようなのです」

 

 何度目かの水をの交換をすると、あまり水も濁らなくなってきた。

 その様子にかばんは満足そうに一つ頷くと自信たっぷりにこう言った。

 

「ええ、その分美味しいですから期待してて下さいね」

 

 こんなにも自信を覗かせるかばんなんて初めてで、博士と助手は顔を見合わせる。

 けれども、かばんが作ってくれた料理はどれもが美味しかった。

 今さら何を疑うというのか。

 

「わかったのです。かばん。最高に期待しているのです」

「また我々に美味しいと言わせてみせるのです」

 

 そうして期待の眼差しを向けてくれる博士と助手にかばんは頷いて見せる。

 

「さて、お水に漬けたジャガイモが白く濁らなくなってきたら、水気を切ります」

 

 かばんは薄切りにしたジャガイモを一度ザルに開けて水気を切った後に、用意したキッチンペーパーへと並べてさらに水気を切っていく。

 

「この作業は念入りにしないと後で大変な事になっちゃうので、気をつけて下さいね」

 

 手伝いの博士と助手もキッチンペーパーで丁寧に水気をとっていった。

 一枚ジャガイモの薄切りをつまみ上げてその様子を確認したかばんは満足気に頷いた。

 これで取り敢えずの下ごしらえは終わりらしい。

 

「さて、それじゃあこのジャガイモを油で揚げていきます」

「ふむ……。《あげる》と《やく》は違うのですか?」

 

 この調理方法は初めて見るような気がして、気になった助手が訊ねた。

 

「はい。フライパンや直火で直接食材に熱を通すのが『焼く』なんですが、『揚げる』は高温の油で熱を通していくんです」

「《りょーり》の仕方も色々とあるのですね。やはり味も変わってくるのですか?」

 

 今度は博士の疑問にやはりかばんは頷いて見せる。

 

「ええ。料理の仕方一つで味が変わっちゃう食材も多いです。だから料理方法一つで全然別な出来上がりになったりもします」

 

 つまり、無限の組み合わせがあるのか……!

 そう思えば博士と助手の目は期待に輝いた。

 そうこうしているうちに油の準備も出来たようだ。

 

「では揚げていきますので、お二人は少し離れていた方がいいです」

 

 かばんが薄切りにしたジャガイモを油の中へと投入していく。

 すると、ジュワァアアアア!といういい音がした。

 けれど、突然大きな音が鳴った博士と助手はビックリだ。

 

「ひぃっ!? な、なんかパチパチ凄い音がするのです!?」

「ジュワジュワ凄い音もしているのです!?」

 

 博士と助手はお互いに抱き合ってさらに油から離れる。

 

「はい、これは慣れないとちょっと大変かもしれません。それに、さっき博士さんと助手さんがちゃんと水気を切ってくれたから大丈夫なんですが、アレをサボると……」

 

 かばんは少しだけ水気の残ったジャガイモの薄切りを一枚油に投入する。

 すると……。

 

―パチパチパチ!

 

 途端に油面が跳ねた。

 

「「ひぃっ!?」」

 

 二人とも短い悲鳴をあげるとさらに油から離れた。

 

「助手。や、やっぱり火を使うのはかばんに任せるのがいいと思うのです」

「ええ、それがいいですね、博士。」

 

 そんな二人にかばんは苦笑してしまう。

 でも頼られるのは悪い気持ちではない。

 

「はい、任せて下さい。そしてジャガイモから泡が出なくなったら油から上げてキッチンペーパーの上に敷いて油を切っていきます」

 

 そうすると、香ばしい匂いが離れて見守っている博士と助手のところにも届く。

 美味しそうな匂いに博士と助手も少しずつ近づいて訊ねる。

 

「ふむ……。いい匂いなのです。これで完成なのですか?」

 

 訊ねる博士にかばんは被りを振ると、最後の仕上げに入る。

 

「いえ、後は熱いうちに味付けしちゃいます。こっちのは塩コショウで。こっちのは博士さんと助手さんも好きなカレー風味にしてみようと思います」

 

 かばんは手早く、塩をパラパラ。

 そしてコショウをゴリゴリ。粗びきにして揚げたジャガイモの薄切りに味付けしていく。

 

「そしてこっちのはカレー粉をまぶして、お皿に盛り付けたらポテトチップの完成です」

 

 お皿には黒い粗びきコショウがまぶされたポテトチップとカレー粉で茶色に染まった二種類が盛られていた。

 かばんが、「さあ、どうぞ」と勧めるので博士は早速一枚を手に取ると口の中に放り込む。

 果たしてかばんがあそこまで自信を見せた料理の味は如何ほどのものか。

 

―パリッ

 

 と軽い音が響くと博士は目を見開き、言葉にならない美味しさを表現するためか両手をパタパタさせた。

 

「博士……。そんなにですか」

「助手も! 助手も食べてみるのです!」

 

 もうすっかり定番になってしまったやり取りをしてから助手もポテトチップに手を伸ばす。

 

「これは……。アツアツのジャガイモが驚く程軽い食感になっていて、しかも味が後を引くのです。ついつい次の一枚に手を伸ばしたくなるのです」

「凄いのです……!これは止まらないのです……!」

 

 猛烈な勢いでポテトチップが減っていくが、ふと博士と助手の手が止まった。

 その理由は……。

 

「確かに美味しくて病みつきなのですが、すぐに喉が渇いてしまうですね」

 

 というものだった。

 水をとってこようか、と助手が席を立とうとしたところで……。

 

「それには及びません。ここで登場するのは先日作ったソーダです。もう作って冷やしておいたのでどうぞ」

 

 と、準備が良い事にかばんが博士と助手の前に炭酸の泡を立てるソーダの入ったコップを置く。

 ポテトチップで喉が渇いていた博士は軽く一口ソーダで喉を潤してからもう一枚追加のポテトチップを口に放り込む。

 

「~~~~~~!?!?」

 

 声にならない声で両手をパタパタさせる博士。どうやら感想は言葉にならなかったようだ。

 

「博士……。そんなにですか」

「助手も! 助手もやってみるのです!」

 

 博士に促されて助手もソーダを一口。喉の渇きが治まったのでポテトチップを一枚。

 

「な!?!? これは甘いの後にしょっぱいが来てなんとも味わい深いのです!? それにこっちのカレー風味のやつと組み合わせるとしょっぱい、甘い、辛い、しょっぱいと無限ループなのです!?」

「もう、もう手が止まらないのです! この組み合わせは何だかとてもイケないもののような気がするのに手が止まらないのです!?」

 

 再び猛烈な勢いで減っていくポテトチップ。

 そして、ふと気が付く。

 先日のソーダ作りも今日という日の為の布石だったのではないか、と。

 だとしたら……

 

「博士……我々はかばんの手中で躍らされていたというわけですね……」

「それでもかまわないのです……こんなに美味しいのですから……」

 

 博士と助手はもうすっかりこのポテチ&ソーダの組み合わせに骨抜きにされていた。

 

「ちなみに、ソーダとポテトチップの組み合わせはあんまり身体によくないって言われてます。だから食べ過ぎはよくないですね」

「ソウダヨ。食べ過ぎは、ダメダヨ」

 

 かばんの言葉をラッキービーストが肯定していた。

 しかも……。

 

「特に、これを夜に食べるのはますます身体によくないと言われています。ですが……」

 

 その言葉の続きは博士にも何となくわかった。

 

「よくないからこそ美味しいというわけですね……。これはまさに罪の味というものなのです」

 

 よくないと分かっていても、やめられない。

 これを愚かと笑わば笑え。

 美味しいものを食べてこその人生なのだ、と博士は何度も頷いていた。

 

「ところで、気になっているのですが……」

 

 助手がおずおずと口を開いた。

 どうしても気になっている事があったのだ。

 

「何故材料がまだ余っているのですか?」

 

 そう。

 さっき揚げたものの他にもまだ薄切りにしたジャガイモが残っているのだ。

 その理由は、まあ、推して知るべしなのだがかばんは敢えて二人に訊ねた。

 

「博士さん……助手さん。足りますか?」

 

 これは悪魔の誘惑というものだ。

 しきりにかばんが腕に着けているラッキービーストが「ダメダヨ。ダメダヨ」と警告を発している。

 だが……。

 

「ダメと言われても抗い難いのです……!」

「その挑戦……受けて立つのです。我々はおかわりを待っているのです……!」

 

 毒を食らわば皿までというものだ。

 その答えに満足気にかばんは残る材料を再度揚げ始めた。

 再びポテトチップを山盛りにしたお皿を持ってきたかばんに博士はニヤリとする。

 

「かばん……。お主もワルよのぉ……です」

「まさか博士!? これが、かつてヒトが食べたという『ヤマブキイロノオカシ』というものですか…!?」

 

 こうして夜中のポテチパーティーは遅くまで続くのだった。

 翌朝、三人揃って仲良く胃もたれした事を付け加えておく。

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 前日譚④『ジャパリチップスは罪の味』

―おしまい―



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⑤『いげんがほしい』

 ここはジャパリ図書館。

 今日はテーブルで資料を広げてかばんが難しい顔をしていた。

 

「博士博士、今日のかばんは何をしているのでしょう?」

「どうも今日は≪りょーり≫を作るって雰囲気でもなさそうなのです」

 

 それを見守るのはいつものアフリカオオコノハズクの博士とワシミミズクの助手である。

 今日はずっと長い時間をこうしているかばんである。

 前のように脇目もふらず、というわけではないものの、さすがに博士も助手も心配になってきた。

 かばんは一体何をしているのか。

 二人はテーブルに近づくと、そこに広げられた資料とかばんが書きつけていたメモを見てみる。

 何かの計算をしているようだが、これはどういう事なんだろうか。

 

「あの……。かばん?」

 

 遠慮がちに声をかける博士に、かばんも顔をあげる。

 そしてゆっくりと身体ごと二人に向き直った。

 

「博士さん、助手さん」

「「は、はい!」」

 

 いつかのように鬼気迫るわけでもない。

 かと言って無視できる様子でもない。

 かばんは不思議な圧をまとったままにこう続けた。

 

「パークの危機です」

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 前日譚④『いげんがほしい』

 

 

 聞き捨てならない言葉に博士も助手も目を丸くする。

 かばんの事だ。いくらなんでもアライさんのように大げさに騒ぎ立てているわけでもあるまい。

 ならばパークの危機とはどういう事か。

 博士と助手は説明を求めてかばんを見る。

 

「まず、これを見て下さい」

 

 それは折れ線グラフだった。

 ゆるやかな曲線を描きながら下降の一途を辿っている。

 

「これはですね。ラッキーさん達が管理している農園の収穫量を示しています」

 

 それにギクリ、とする博士と助手。

 その農園からはよく作物をチョイさせてもらっている二人だ。

 それを咎められでもするのだろうか。

 しかし、かばんは真剣な表情を崩さないままに首を横に振った。

 

「この収穫量の減少は別にチョイチョイした事が原因ではないです」

 

 では原因は……。

 

「それは、畑のお世話をしてくれているラッキーさんの数が減っているからです」

 

 世話が十分でなくなれば、その収穫量が減るのは当然。

 だが、どうしてラッキービーストの数が減っているのか……。

 

「ラッキーさん達もずっと動いていると故障……病気のようなものになるそうですが、そうなったら勝手には治らないんです」

 

 かばんの解説に博士も助手もようやく合点がいった。

 

「つまり、動けるボス達の数自体が減っているという事ですか……!」

 

 このジャパリパークはフレンズがボスと呼ぶラッキービーストによって維持されている。

 その数が減ればどんな支障が出るか……。

 博士と助手もお互い顎に手を当てて考え込む。

 

「まず農園の野菜はジャパリまんの材料になっているのです……。このグラフにあるように、この先どんどん収穫量が減ったら……」

「ジャパリまんが作れなくなりますね」

「おそらくそれだけでは済みません……、ボス達の数が減ればジャパリまんがいままでのように配れなくなるかも……。そうなったら……」

 

 博士と助手も事の深刻さを理解した。

 これは確かに正真正銘パークの危機だ。

 

「おそらくですが、数日でどうこうなるような問題ではないです。ですから、選択肢は二つです」

 

 かばんは指をピッと二本立てる。

 

「放置するか、対処するか」

 

 かばんの言葉に、博士と助手は考える。

 ラッキービーストの減少なんて問題にフレンズである自分達が対処出来るのか。

 本来であればそれはヒトでなくては出来ないはずの事だ。

 それに、このパークの危機が実際に脅威をもたらすのはまだまだ先の話だ。

 もしかしたら放置したとしたって、自分達が生きている間は何も起こらないのではないか。

 けれども……。

 

「無論、対処するのです」

「ええ、我々は島の長なので。パークの危機を放置するなど出来ないのです」

 

 それに、かばんは満足して頷く。

 やはり二人は島の長なのだ、と。

 

「しかし、対処と言っても具体的にどうしたらいいでしょうね」

 

 助手に言われて早速三人して頭を突き合わせる。

 

「それなんですが……、海の外に行った時にちょっとしたアテが……。」

 

 かばんの言葉にふむ、と博士と助手は考え込む。

 ここはヒトのフレンズであるかばんの知恵に頼るのが最も確実であろう、と。

 それを確認しあってから博士と助手はお互い頷きあった。

 博士はバッと手をかばんに伸ばして告げる。

 

「ならば、かばん。島の長としてお前に命じるのです。このパークの危機はお前がリーダーとなって解決するのです。」

「え?」

 

 最初何を言われたのかわからないかばんであった。

 リーダー?

 自分が?

 と疑問符が浮かんだ直後……

 

「むむむ、無理ですよぉおおおお!?」

 

 先程までの勢いもなくなって慌てて首を横にぶるぶると振る。

 リーダー。先頭に立って皆を引っ張るなんてとても自分には務まらない。そう思ったのだ。

 

「いや、無理ではないのです。それどころか、ヒトのフレンズであるかばんにしか出来ない事なのです」

「そうなのです。かばん、お前がやらなければどうなるか分かっているのでしょう?」

 

 かばんは博士と助手に言われてハッとする。

 そうとも。

 もしもこの問題を放置したのなら、その先に待つのは緩やかな食糧危機だ。

 ならば覚悟を決めるしかない。

 

「わかりました」

 

 ぐっ、と唇を引き締めるかばんの顔を見て博士も助手ももう一度顔を見合わせて微笑み合う。

 そういう顔をしていてこそのかばんだ、と。

 

「なあに、安心するのです。何もかばん一人でやらせようというわけではないのです。このジャパリパークで一番の知恵者である博士がかばんの助手になってやるのです」

 

 えっへん、と言いたげに博士は胸を張って見せる。

 

「なら、実は博士よりもほんのちょっぴりかしこい私はかばんの助手である博士の助手をしましょう」

 

 かばんの助手の博士の助手の助手。なんとも頭がこんがらがりそうだ。

 けれど、頼もしい。

 

「他のフレンズはやれ文字が読めないだの、面倒臭いだの言いそうですが我々は違うのです」

「ええ。我々はかしこいので」

 

 二人揃って握り拳をかばんの方へ突き出す。

 

「そうですね……お二人はかしこいですから」

 

 かばんの答えにそれでは不合格だと言わんがばかりに、博士と助手は両側からかばんの肩を乱暴に抱き寄せる。

 

「我々とは、かばん、お前も合わせて我々なのです」

「いっちょ、かしこいところを見せつけて他のフレンズ達からせんぼーの眼差しを向けられてやるとするのです。」

 

 かばんが両方をキョロキョロと見れば、博士と助手の笑顔がすぐ近くにある。

 もう一度、握り拳をかばんの近くに差し出す博士と助手。

 

「はい! ボク達はかしこいですから!」

 

 そこにコツン、と拳をあてるかばん。

 これから、とても大変なパークの危機に立ち向かわなくてはならない。

 けれど、不安はなかった。

 頼りになる仲間が一緒なのだから。

 

「さて、そうと決まれば、かばん。お前には足りないものがあります」

 

 かばんの肩を離して、腕を後ろに組んでテーブルの周りをぐるぐると歩きながら博士が言う。

 はて?

 それは?

 と助手もかばんも続く言葉を待った。

 

「それは……《いげん》です!」

 

 ビシィ!と指を突きつける博士。

 

「確かに……。一時的にとはいえ、島の長である博士が助手になってその博士の助手に私がなるのです。だったらかばんもそれなりに偉そうになってもらわないと」

 

 助手まで同意しはじめたのだから大変だ。

 

「むむむ、無理ですよぉー!?」

 

 今度こそ、かばんは両手をぶんぶんと振って否定した。

 

「まあまあ、私にいい考えがあるのです。ヒトの言葉にこんなのがあるのです。『まずは形から入れ』と」

 

 博士はニヤニヤしていた。何かを思いついたようである。

 言うが早いか、図書館の倉庫へと入って行った。

 そこの保管箱の中をガシャガシャと音を立てて漁る。

 

「あったあった。とりあえずコレなのです」

 

 博士は保管箱から取り出した何かをペタリ、とかばんの顔に貼り付けた。

 それは付け髭だった。

 くりん、と軽くカールした髭がかばんの口元にくっ付いていた。

 

「古今東西、偉そうなヒトはそんな感じのヒゲを生やしていたのです」

 

 わかるようなわからないような助手とかばんである。

 

「あの……、ど、どうでしょう?《いげん》……出ましたか?」

 

 自分がどんな事になっているのかわからないので、かばんは二人に訊ねるしかない。

 

「あの……。これは単にヒゲのついたかばんであって、むしろ可愛い感じしかしないですね」

「ですね……。助手の言う通りでした」

 

 そんな彼女の様子を見た博士と助手は作戦の第一段階が失敗した事を悟った。

 かばんに《いげん》を出させるのは中々難しいらしい。

 

「そうだ。博士。ならばこういうのはどうでしょう? 口調を少し偉そうにするのです」

「ほうほう。確かに。いつまでも博士さん、助手さんと呼んでいてはぷろじぇくとリーダーっぽくないのです」

「え、えぇー……」

 

 それでもまだ作戦は継続だ。

 博士と助手は二人してかばんに迫る。

 

「さあ、まずは呼んでみるのです、ハカセ、と呼び捨てで! さあ!」

「私の事はジョシュ、と呼び捨てですよ、さあ! 話し方ももっと普通な感じで!」

 

 そこから呼び方特訓が始まった。

 

「博士!」

「博士!……さん」

「助手!」

「助手!……さん」

「違うのです! 博士、と呼び捨てなのです!」

「そうです、かばん! 私も助手、と呼び捨てですよ! あと話し方ももっと普通に!」

「そうは言っても……!?博士さん、助手さんー!?」

「「呼び捨てなのです!」」

「えぇー……」

 

 激しい特訓が続いて三人ともハァハァと肩で息をするハメになった。

 なのに中々進展しない。

 

「ならば、こういうのはどうでしょう?」

 

 博士はピッと指を一本立てると提案をしようと口を開きかけた。

 けれど、一度思い直してから、周りをキョロキョロとよく確認する。

 他に誰かがいたら出来ないような提案なのだろうか。

 

「我々三人だけの時は、私の事はコノハちゃんと呼んでいいのです」

 

 その提案に助手も、ほほう、とニヤリとした。

 

「ならば私の事はミミちゃん、と呼んでいいのです」

 

 言って二人して、ピッタリとかばんの脇にくっつく。

 

「い、言っておきますが、他の者がいる場ではダメなのです。長のいげんというものがあるのですから」

 

 そうしてふん、と鼻を鳴らす博士。顔が真っ赤になっているところを見ると恥ずかしいという想いもあるのだろう。

 そういえば、この前、慌てていた助手が博士の事をコノハちゃん呼びになっていた。

 きっと、それは二人だけの秘密だったのだろう。

 その秘密にかばんも仲間に入れてくれるというのだ。

 それが分かったとき、かばんの胸は何だか熱くくすぐったくなった。

 思わず、両脇の二人を抱き寄せてしまう。

 そこから先は言葉にならない。

 今何かを言おうとすれば、きっとかばんの目からは涙が零れてしまうだろうから。

 

「かばん。今日のところは《いげん》は諦めておくのです。きっとそこは追い追いついてくるでしょうから」

「けれども、我々は聞きたいのです。お前が経験した楽しい事も辛い事も。かばんが話したいと思えるまでいつまででも待っているし、いつでも聞くのです」

 

 耳元に囁かれた言葉に、とうとうダムは決壊したらしい。

 博士と助手はそんなかばんの頭をいつまでも撫で続ける。

 この日、《いげん》よりも大切なものが三人の間に確かに生まれたのだった。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 翌朝。

 

「では、留守を任せるのです。 司書官鳥と呼ばれたお前ならば図書館の管理を任せられるのです」

 

 博士と助手の前にはヘビクイワシのフレンズがいた。

 ヘビクイワシは銀色のフレームがついたメガネをクイ、とあげると二人に頷いてみせる。

 

「ええ。任されました。 どうかお二人とも、いえ。お三方ともお気をつけて」

 

 ヘビクイワシはこう聞かされていた。

 博士と助手はパークの危機を救う為、しばらくの間、ヒトのフレンズであるかばんと旅に出る、と。

 その留守を任されたのがヘビクイワシである。

 博士と助手にはまだまだ教えて貰いたい事があるし、かばんにだって訊きたい事が沢山あった。

 だから無事に戻って欲しい。そう思う。

 

「では、そろそろ行くのですよ、かばん」

「準備はいいですか?かばん」

 

 博士と助手は図書館の入り口に声を掛ける。

 そこには黒いジャケットを纏ったかばんがいた。

 昨夜、保管箱の中から見つけたものだ。

 まだ着られている感じが否めないけれど、付け髭をつけるよりもよっぽど《いげん》は出ている。

 かばんはバサリ、と黒いジャケットの裾を翻すと二人に頷いた。

 

「うん、じゃあ行こうか。博士。助手」

 

 その口調、その表情。

 両方に博士と助手は大いに満足するのだった。

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 前日譚④『いげんがほしい』

―おしまい―



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⑥『いつかまたどこかで』

 居住区跡地。

 そこでは、昔話を語る博士と助手とかばんに皆が聞き入っていた。

 

「えぇー!? じゃあコノハちゃん博士とミミちゃん助手とかばんお姉ちゃん三人で旅したの!? いいなー!?」

「まったく、何を言うのです。大変な事が沢山あったのですよ」

「ええ。かしこい我々だからこそ成し遂げられたのです」

 

 羨ましがるともえのオデコをツンツンする博士。

 今日のお茶会はかばんと博士と助手が語る昔の思い出話で盛り上がっていた。

 

「で、で!? その先ってどうなったの!? パークの危機って解決したの!?」

 

 一人大騒ぎのともえである。

 なんたって、もしも解決していないのだとしたら大問題だ。こうしてのんびりお茶している場合ではない。

 けれど、当のかばんはのんびりとティーカップを傾けてから言った。

 

「もちろん解決したよ。今は少しずつだけどパークのライフラインも修繕されているんだ」

 

 その言葉に、話を聞いていた全員が「「「おぉー……」」」と感嘆の声を漏らす。

 

「でも、どうやって?」

 

 やはり気になるのはそこである。

 

「キュルルちゃんは研究所の事を知ってるよね。あそこにパークの危機を解決する鍵があったんだ」

 

 そこにあった鍵とは一体……。

 

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 前日譚⑥『またいつかどこかで』

 

 

 再び時は昔に遡る。

 紆余曲折の大冒険を経て、かばんと博士と助手の三人は目的地の研究所へとやって来た。

 ジャパリバスが使えると言っても、決して楽な道のりではなかった。

 

「連日のキャンプ飯というのもなかなか乙なものでしたね、博士」

「ええ。屋外だからこそ出来る《りょーり》というのも悪くなかったのです、助手」

「作ってたのいつも私だったんだけどね」

 

 ほんの少し髪も伸びたかばんは博士と助手の言葉に苦笑する。

 黒いジャケットも大分身の丈にあっていたし、自分の事を呼ぶ時も『ボク』から『私』に変わっている。

 道中ではジャパリまんで食事を済ませる事だってないではなかったけれど、博士と助手はやはり事あるごとに料理をねだった。

 二人はいつでも美味しそうに食べてくれるので作り甲斐はあるのだが、旅の空では献立を考えるのだって一苦労のかばんであった。

 なんだかんだで、道中一番苦労したのは食事の事だったんじゃないだろうか、なんて思ってしまう。

 それはともかくとして、とうとう目的地の『けんきゅうじょ』へ辿り着いた。

 三人の前には巨大な門扉が固く閉ざされていてこのままジャパリバスで中へ進むのは難しそうだ。

 

「どうするです? かばんを抱えてひとっ飛びすれば、この門を飛び越すのだってわけないとは思うのです」

 

 確かに博士の言う通り、門扉は高いけれど、空を飛べるフレンズからすれば有って無きが如しである。

 ジャパリバスを置いて中に進めば、もしかしたらこの門扉を開ける方法もわかるかもしれない。

 一旦バスから降りて空から中へ入ろうかと思っていたけれど、そこでかばんが腕に着けているボスウォッチが声をあげた。

 

「カバン。ボクならこの扉を開ける事がデキルヨ」

「本当!? ラッキーさん!」

「マカセテ」

 

 ボスウォッチが何度か明滅した後、扉が軋んだ音を立てて開いていく。

 

「ふむ。やはり、この危機にはかばんが必要なのです」

「ええ。ヒトでないと反応しない機械なんかがあるかもしれないのです」

 

 それを見て博士と助手はお互いに頷き合う。

 やはりかばんを“ぷろじぇくとりーだー”に選んだのは間違いではない、と。

 

「もう、ラッキーさんだって頑張ったんだから。ね、ラッキーさん」

「マカセテ」

「ではそういう事にしておくのです」

「我々の言葉には反応しないですが聞こえてはいるはずなのです。ボス、助かったのです」

 

 そうしてお礼を言われれば、かばんには心なしかラッキービーストが照れているように思えた。

 そのままジャパリバスで開いた門の先へと進む。

 大きな門扉を潜り抜けた先には大きな建物があった。

 それこそが、目指していた『けんきゅうじょ』なのだろう。

 

「かばん。この先にパークの危機を救う重要な鍵があるのですね」

「はい」

 

 博士の確認にかばんは頷いて見せる。

 現在訪れようとしているパークの危機とは、ジャパリパークの各種施設を維持していたロボット、ラッキービーストの減少が原因だ。

 ラッキービーストの数が少なくなれば、フレンズ達の生命線ともいうべきジャパリまんの生産、配布だっていずれはままならなくなるかもしれない。

 機械は手入れをしなければ衰える一方で、その未来は必ず訪れる。

 

「けど、ジャパリパークのスタッフは、その備えもしていたんだ。」

 

 かばんが旅した海の外にはヒトが遺したであろう遺物や資料がそこかしこに残っていた。

 そのどれもがジャパリパークの存続を願っていた。

 

「ヒトはジャパリパークから去った。でも、いつか戻るまでフレンズさんが暮らして行けるようにラッキーさんや農園やジャパリまんの生産施設を残したんです」

 

 そして、かばんは旅の中でもう一つ、ヒトが遺していたあるものの存在を知っていた。

 

「それは……。ラッキーさん達の為の病院ともいうべき施設と、もう一つ……。」

 

 かばんが『けんきゅうじょ』の扉に左腕に着けたラッキービーストのコアを近づける。

 すると『けんきゅうじょ』の扉が開き、暗く沈黙していた廊下に明りが灯る。

 長い廊下は奥へと三人と一機を誘っているようだ。

 

「じゃあ、博士、助手……。一緒に行ってくれる?」

 

 未知の領域への不安にかばんの顔が曇った。

 

「まったく、かばん。“ぷろくじぇくとりーだー”がそんな顔をするものではないのです。そ・れ・に。私を誰だと思っているのです? かばんの助手の博士なのですよ?」

「そして、私はかばんの助手の博士の助手なのです。なので、かばん。ここはやり直しを要求するのです」

 

 かばんにも二人が何が言いたいのか分かった。

 

「うん! 行こう、博士、助手!」

 

 力強い言葉に博士も助手も満足そうに頷く。

 長い廊下には埃が積もっていて、長い時間手入れされていなかった事が伺える。

 そして、ある一室に辿り着く。

 

「これがラッキーさんにとっての病院。自動メンテナンス装置です」

 

 そこには大きな箱型の機械が鎮座していたが、どう見ても稼働しているようには見えない。

 それに自動メンテナンス装置に続くベルトコンベアの上には何人ものラッキービーストが物言わぬ状態で座っている。

 きっと、稼働するのに支障が出た為にメンテナンスを受けに来て、自動メンテナンス装置が動いていなくて、そのまま待機モードに入ったままなのだろう。

 そこに並んでいるだけのラッキービーストが本来の仕事をこなせていないのならば、ジャパリパークの機能維持にだって不具合が出て当然だ。

 

「かばん。この機械を修理する、というわけですか?」

 

 博士が言うように、そうすれば徐々にラッキービーストの数だって元に戻って行くだろう。

 しかし、かばんは被りを振って否定した。

 

「ううん。こういった施設はここだけじゃなくて色んなところにあるらしいんだ。だからここだけを修理してもダメなんだよ」

 

 つまり、ここの復旧は焼け石に水という事なのだろう。

 だとしたら、苦労して辿り着いた目的は一体何だと言うのか。

 かばんは自動メンテナンス装置のある部屋を抜けてさらに奥へと進む。

 

「このラッキーさんがパークの危機を救う鍵を握っているんだ」

 

 そこには明らかに他のラッキービーストとは違う雰囲気を纏った一機がコネクターに繋がれたまま眠っていた。

 赤いカラーリングに、目元は黒いサングラスのようなもので覆われている。

 そして何より尻尾が異質だった。

 その尻尾部分は動物を模したものではなくクレーンを小さくしたような指のついたアーム状になっていた。

 

「ラッキービーストRepair&Maintennance Model Prototype。記録によると呼び名は『ラモリ』っていうみたい。これがヒトが残したもう一つの備えだよ」

 

 かばんの解説によると、どうもこういう事らしい。

 ラッキービースト達はジャパリパークの農園やジャパリまんの生産や配布、設備の補修や保全などを行って機能維持に努めて来た。

 そのラッキービースト達を修理するのが各地に点在する自動メンテナンス装置だ。

 そして『ラモリ』と呼ばれるラッキービーストは、その自動メンテナンス装置の修理や補修や保全を行う為のラッキービーストなのだ。

 

「つまり、このラモリさんを起こせば、ラッキーさん達の病院も再開するし、そうなったら元気になったラッキーさん達がパークの危機を解決してくれるってわけ」

 

 そう結んだかばんに博士と助手は「「おぉー」」と思わず拍手してしまう。

 それが本当であれば既にパークの危機は解決したも同然だ。

 あとは、この『ラモリ』というラッキービーストを起こせるのかどうかだ。

 

「ラッキーさん、どう?」

 

 やはりこういう時に頼るのは腕に着けたもう一人の相棒だ。

 かばんの腕に着けられたラッキービーストコアはしばらく明滅を繰り返した後に言う。

 

「ダイジョウブ。マカセテ」

 

 すると、すぐに『ラモリ』が安置されていた台座に光が灯る。

 

『ザンテイパークガイド、カバンによる、起動申請ヲ受諾。ラッキービーストRepair&Maintennance Model Prototype、起動シマス』

 

 最初に機械音声がそう告げると、『ラモリ』の目に青い光が宿った。

 もっとも、サングラス越しなので、すぐにその光は見えなくなったが。

 俯き加減だったのが、今は真っ直ぐにかばんと博士と助手を見ている。

 ちょこちょことした足取りでかばん達の方へ近づくと、固唾を飲んで見守る彼女達の前で第一声を発した。

 

「アー。とりあえず、はじめまして、でいいのカ? 俺はラモリ。気楽にラモリさんと呼んで敬ってくれていいゾ」

 

 それに、思わずジト目になってしまう博士と助手だ。

 

「なんかこのボスは偉そうなのです」

「島の長である我々に対しても偉そうなのです」

 

 そうやって文句を言っていたら、ラモリさんは博士と助手に向き直った。

 

「お前達は、アフリカオオコノハズクとワシミミズクのフレンズだナ? 古くは知恵や知識の象徴と見られる事もあってフレンズになってモその傾向は強く好奇心と知識欲に……」

 

 ペラペラと喋り続けるラモリさんに博士も助手も驚いて目を見開いていた。

 

「ぼ、ボスが……」

「ボスが我々と喋っているのです……」

 

 ラッキービーストはフレンズに過度の干渉が禁じられている。

 その為、いくつかの例外以外ではフレンズとおしゃべりする事すら難しいのだ。

 

「アー。俺の場合ハ、パーク内の設備の不具合とかヲ聞き取りする必要があるからナ。フレンズとの会話もある程度認められているんダ」

 

 言って、えっへんとばかりに胸を張ってみせるラモリさん。そうなるとまるで上を見上げているようになる。

 何とも偉そうだ。

 

「それにしてモ、コイツは一体全体どうしたっていうんダ? パーク内の設備稼働率が危険水準ギリギリじゃネーカ」

「ええと、それには色々と説明しなきゃいけない事が沢山あるんです。聞いてもらえますか?」

 

 かばんはラモリさんの前に膝を折って座ると、話はじめた。

 このジャパリパークに今はヒトがいない事。

 ここでフレンズ達が暮らしている事。

 そして、ヒトがいなくなったせいで設備維持も出来ていない事を。

 

「なるほどナ。それデ試作機のこの俺の出番というわけダ」

 

 どうやらラモリさんは自分の役割を理解したらしい。

 

「そうだナ。とりあえズここの自動メンテナンス装置の修理からダナ」

 

 言うと、ピョインピョインと跳ねて自動メンテナンス装置がある部屋へ移動。

 換装されたアーム状の尻尾の先端を器用に使ってメンテナンスハッチを開け始めた。

 

「あー、こりゃあヒドいナ。駆動油が古くなってコビりついてやがル……。だがまぁ洗浄すれバどうとでもなるナ」

 

 言いつつ、ラモリさんは自動メンテナンス装置を分解していく。

 

「ねえ、ラモリさん。私達も何か手伝える事はある?」

「そうだナ。猫の手だって借りたいくらいだから助かるゼ。そうだナ。暫定パークガイドのお嬢さんにハ、外したパーツの洗浄手伝いを頼むゼ」

「ふむ。それくらいなら我々でも何とかなりそうですね」

「そうですね。皆でやればその分早く仕事も終わるでしょう」

 

 そうして、皆で汚れたギアやパイプなどの掃除だ。

 油汚れに塗れながらも作業を進めていく。

 再び洗浄の終わったパーツを組み直していくラモリさん。

 かなりの大仕事になったが夜にはどうにか仕事を終える事が出来た。

 

「サテ。これで動くト思うんだがナ」

 

 ラモリさんが言いつつ起動手順を試すと、自動メンテナンス装置はガタガタと音を立てて動き始めた。

 思わず手が油まみれになっている事も忘れて全員で手を打ち合わせる。

 非常にゆっくりとしたスピードではあるものの、稼働に支障のあるラッキービースト達の修理が始まった。

 

「こうした施設は他にモあるからナ。俺はこれからそいつラの修理に向かうゼ。そうすりゃあパークの設備稼働率も改善されるだろうヨ」

 

 言ってラモリさんはアーム状の尻尾で力こぶでも作ってみせるかのようなポーズをしてみせる。

 

「それだったら、私達もそれを手伝うよ。一人じゃ移動だって大変でしょ? 私達が手伝えばジャパリバスだって使えるし、博士と助手がいてくれるから空だって飛べるし」

 

 かばんの提案にラモリさんは意外そうな顔を見せた。

 パークスタッフらしいかばんというヒトはともかく、フレンズまでもが手伝ってくれるとは予想外だったからだ。

 

「このままじゃ、フレンズさん達が今までのように生活できなくなるかもしれないんでしょ? だったら私も出来る事をしたいんだ」

「こうなったラ、かばんハ、頑固だからネ」

 

 かばんが腕に着けたラッキービーストコアまでもが加勢してくる。

 これは渡りに船だ。仕事を手伝ってもらう事にしよう。

 

「わかっタ。確かにその方が効率もイイ。それに移動中にセルリアンに出くわしたらフレンズの協力があった方が心強いしナ」

「うん、博士と助手は島の長だから、セルリアンとの戦いだってすごく上手なんだよ」

 

 そうしてかばんに褒められたら博士と助手は胸を張ってえっへんとでも言いたげにしていた。

 実際ここまでの道中だって、何度となくセルリアンにも出くわしたが博士と助手のおかげで事なきを得て来たのだ。

 少しばかり自慢したってバチはあたらない。

 

「その代わり、仕事が早く終わったら一つお願いしたい事があるんだ」

 

 かばんの言葉にラモリさんは小首を傾げる。

 一体何を頼みたいのだろうか、と。

 

「ラモリさんって設備の改造も出来るよね? だから……」

 

…………

……

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 さばんなちほー。

 そこでは今日もロバのフレンズがかつて移動販売車であった車の残骸を縄張りに、他のフレンズ達にジャパリまんを配っていた。

 そこは『パンのロバ屋』と呼ばれていてジャパリまんをラッキービースト達が運んで来てくれる。そこからフレンズ達がそれぞれ貰っていくのだ。

 けれど、今日は少しばかり様子が違った。

 いつも色とりどりのジャパリまんが並ぶ『パンのロバ屋』に、今日は細長いジャパリパンや袋に入ったジャパリチップスや瓶に入ったジャパリソーダなども並んでいた。

 ジャパリまんを貰いに来たカバも見た事のない食べ物に目を丸くする。

 

「ロバ? これはどうしたのかしら?」

「ああ、カバさん。実はですね。なんでもヒトのフレンズが考えたものをボス達が作って運んで来てくれたそうなんですよ」

「あらまぁ。じゃあ私も今日はそちらを頂いてもいいかしら?」

「ええ! もちろんです! それにまだまだ新しい食べ物も追加されるらしいですよ。ジャパリコロネやジャパリスティックとか……」

 

 それを聞いてカバはまたも、あらまぁ、と口元に手を当てた。

 これをしたというヒトのフレンズというのは一人しか心当たりがない。

 

「かばん。元気でやっているようですわね」

 

 食べ物が増えた事よりも何よりも、かばんが元気に過ごしているらしい事がわかって嬉しく思うカバである。

 そして……

 

「かばん。あなたはしっかり約束を守ったのですわね」

 

 かつて海の外へ冒険に行く時、かばんはこう言った。

 

『美味しいものや楽しい事を持って帰って来ます』

 

 と。

 無事に帰って来てさえくれればそれでよかったのだが、こうして美味しいものが皆に届くようにしてくれるだなんて。

 そうやって感慨深げにしていたカバであったが、その傍らをヒョウ柄のカラーリングに塗られたラッキービーストが歩いていくのを見て、またも驚愕に目を見開く。

 そんなラッキービーストは今まで見た事はなかった。

 だが、このサバンナの風景に馴染んでいるような気がする。

 きっとこれも、かばんの仕業なのだろうな、なんて思えばカバの口元には自然に笑みがこぼれた。

 と。

 カバは気が付いた。

 まだフレンズになりたての気配を感じさせる二人に。

 茂みからこちらを伺っているようだ。

 

「そこのお嬢さん達。こちらにいらっしゃいな。美味しいものがありますから一緒に食べましょう」

「そういえば、先日噴火がありましたから、その時に生まれた子かもしれませんね」

 

 茂みに向かって声を掛けると、ロバもそれを察したのか、ジャパリまんやジャパリパン、ジャパリソーダの入ったバスケットを茂みの近くに置いてくれた。

 すると、茂みの奥で声がする。

 

「ねえねえ、カラカル。ご飯くれるって! 行こうよ! アレ、絶対美味しいヤツだよ!」

「わ、わかるもんですか! ちゃんと気をつけて充分警戒しながら行かないと……ってちょっと待ちなさいよサーバル!?」

 

 そんな事を言いながら出て来たのは二人の猫科のフレンズであった。

 その姿を見てカバは思う。

 一度失ってしまえば取り返しのつかない事はある。けれども、また新しい絆を紡ぐ事だって出来るのだ、と。

 

「はじめまして。私はカバのフレンズですわ。あなた達は何の動物ですかしら?」

 

 もしかしたら、いつかどこかで出会いを果たして再び絆を育む日が来るかもしれない。

 猫科二人の自己紹介を聞きながら、カバはそう思って遠くの空を仰いだ。

 

 

の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の  の

 

 

 再び時は現在に戻る。

 

「ってわけで、色んな場所でラッキーさん達の病院を直して回るついでに、ジャパリまんの製造工場を改造して、ジャパリパンとかジャパリチップスとか他の食べ物も作れるようにしたんだ」

「ソレカラ、ラッキービーストを各ちほーに合わせたカスタム仕様にできるようにしたんダヨ」

 

 かばんの後をボスウォッチが続けてとうとう話が終わる。

 

「ねえねえ、気になってるんだけど、その『ラモリさん』ってラッキーちゃんは今どこにいるの?」

 

 はいはい、とともえが挙手しながら訊ねた事は全員が気になっていた。

 

「多分だけど、今はジャパリライナーの修理をしてるんじゃないかな。あれは線路も大分傷んでたから大仕事になるって言ってたし」

 

 かばんの答えに納得の表情を見せる一同。

 確かに、ジャパリライナーは経年劣化やセルリアンの仕業などで線路が途切れてしまっている箇所が多かった。

 それを直すとなれば、かなりの時間がかかるだろう。

 

「そっかー。ラモリさんかぁー。会ってみたかったなあ」

 

 ポツリと呟くともえの後ろから声がした。

 

「呼んだかカ?」

 

 と。

 慌てて後ろを振り返ってみると、そこにはサングラスをかけた赤色のラッキービーストがいた。

 先の話の通り、尻尾が動物を模したものではなく、機械式のアーム状になっている。

 間違いない。

 

「ラモリさんだ……」

「オウ、そうだゾ。」

 

 先程の話に出て来たラモリさんが事もなさげに応える。

 

「お久しぶり。ラモリさん。ジャパリライナーの修理は終わったの?」

「アア。つい先日ようやく線路の補修が終わったところダ。ったくあちこち崩落してたからエライ時間と手間がかかったゼ」

 

 ちなみに、これもラモリさん一人の仕事ではない。

 自動メンテナンス装置が稼働したおかげで再び働けるようになったラッキービースト達も手伝っての大仕事であった。

 

「その甲斐あって、ジャパリライナーで各ちほーを周遊できるようになったゼ」

 

 そう言って胸を張ってみせるラモリさん。

 

「はいはーい! アタシ、乗りたい! そのジャパリライナーっていうの乗ってみたい!」

 

 ともえの提案に誰もが頷いていた。

 

「なら、テストがてら周遊してみるカ」

 

 ラモリさんの返事に歓声が沸いた。

 失われるばかりではない。

 このフレンズ達の楽園となったジャパリパークはみんなの努力によってこれからも平和に続いていくのだろう。

 

「みんなー! 早く早く!」

 

 ともえが皆を急かす。

 とりあえず、今は復旧したジャパリライナーをみんなで楽しもう。

 

 

けものフレンズ2after☆かばんRestart 前日譚

―おしまい―




 けもフレR秋の投稿祭用に書き直したお話も今回で一区切りとなります。
 かばんちゃんがかばんさんになるまでの間のお話を書かせていただきました。
 以前書きかけで終わらせていたネタを書き切る事が出来て楽しかったです。
 皆様にもお楽しみいただければ幸いです。
 お付き合いいただきありがとうございました。


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