ほむら「美樹さやーー「私がガンダムだ」はぁ?」 (わんたんめん)
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第1話 いつもと違う

ほぼほぼ思いつき、美樹さやか→剣、イメージカラー青→刹那・F・セイエイ


「ーーーー繰り返す。私は何度でも繰り返す。」

 

黒髪の少女は進む。進む。進み続ける。

されど少女の周囲の空間は彼女だけを残し、まるでビデオの巻き戻しをしているかのような不自然な動きを見せる。

 

それはまるで時間を遡行しているようにも垣間見える。

本来であれば人類が手を伸ばすことすら許されない時間という概念。

彼女はそれを魔法という『奇跡』を用いて可能にした。

 

少女は進み続ける。例え自身に剣が、槍が、銃弾が、様々な害意が降りかかろうとも少女は止まらない。

 

『ねぇ、ーーーちゃん、キュゥべえに騙される前の馬鹿なわたしを助けてーー』

 

何が少女を禁忌であろう時間操作の魔法を手にしてまで駆り立てるのか。

それは幾たびも出会い、そして別れた大事な、自分自身の命より大事な少女の願い。

その願いが彼女をそこまで駆り立てる希望(呪い)となって少女をさらなる時間軸へと進ませる。

 

少女の願いは『ーーーとの出会いをやり直すこと』

 

(ーーー、貴方を助けるためだったら、なんだってやるわ。)

 

時間遡行の終わりが見え始めたのか、少女はその瞳にその心の奥底に秘めた決意を宿らせた。

いざ少女が次なる舞台に足を踏み入れようとした時ーーー

 

 

ピシッ…………

 

 

ガラスが割れるような小さな音が響く。少女は咄嗟に周囲を警戒すると、視界の端にわずかに空間に亀裂が走っていた。

いつもと違う現象に少女は首をかしげるような仕草を見せるが、それもわずかな時間だけのもので少女はその亀裂から視線を外し、その場から離れていった。

 

 

少女が立ち去ったのち、亀裂はわずかにだがその亀裂を広げる。そしてその隙間からはクリアグリーンに輝く緑色の粒子が漏れ出ていた。

 

 

「・・・・・あの少女、戦っているのか。」

 

虚空からかけられた声に少女が振り向くことはなかった。

 

 

 

 

「はっ、はっ、はっ」

 

人混みの中を特徴的なピンク色の髪を赤いリボンでツインテールに結んだ少女が走る。

手提げにかけられたカバンとベージュ色の制服から察するに彼女は学生、それも中学生ほどの年齢だろう。

そんな彼女が同じような制服を着ている集団の中を疾走しているのは別段何者かに追われているわけではない。

ただただ、探している人物がいる。それだけのものだ。

 

「あ、いたっ!!さやかちゃん!!」

 

その探している人物がいたのか、少女は先を行く()()()()()()()()()()()()人物の背中を視界に捉えると表情を明るいものに変えながらその少女の名前を呼ぶ。その時、少女の視界がテレビの電波が悪くなったようにブレる。

 

一瞬見えた目の前の少女は、先ほどまでの肩まで下ろしていたはずの水色の髪をショートカットにしていた。

 

(あ、あれ………?なんだろう、違う………?)

「………まどかか。おはよう。今日もいつも通りで何よりだ。」

 

『遅いぞ〜。まどか。』

 

いつも通り声をかけられたはず。にもかかわらず少女、まどかの頭の中では目の前の人物と同じ声、それでいて違う雰囲気を持つ声が響いていた。

 

おかしい。何かがおかしい

 

そう思ったのもつかの間、まどかに声をかけられた水色の髪の少女、さやかは柔らかな笑みを浮かべながらまどかに振り向いた。

 

「…………いや、どうやら違うようだな。リボンを替えたのか。」

「え、あ、ああ、うん。」

「…………どうした?」

 

いつもは茶色のような色合いのリボンから華やかな印象を受ける赤色のリボンに替えたことを指摘されたにもかかわらず、どこか上の空のようなまどかの反応にさやかは訝しげな視線とともに様子を尋ねる。

 

「な、なんでもないよ?」

「そうか。そうであれば、先へ行こう。仁美を待たせているだろう。」

「あ、う、うん!!」

 

鞄の紐を担ぎ直すとさやかは再びまどかに背を向け歩き始める。まどかはその背中を慌てた様子で追いかける。

少し歩いていると僅かに暗い薄緑色の髪にウェーブをかけた肩まで下ろした少女が視界に入った。

 

「仁美。」

「さやかさん、まどかさん、おはようございます。」

 

さやかに仁美と呼ばれた少女は二人を視界に収めると朗らかな笑顔と共に上品な口ぶりで挨拶をする。

仁美を一員に加えた二人は他愛もない話をしながら学校へ向かっていく。日常的な会話をしているうちにまどかの中にあったズレているような感覚はなくなっていった。

 

「ねぇねぇさやかちゃん!!アレやってよ、アレ!!」

 

瞳をキラキラと輝かせながらさやかに詰め寄ったまどか。対するさやかは凄く嫌そうな表情を浮かべながら若干足を引いていた。

しばらくまどかの目線を行ったり来たりしていたさやかだったが、やがて意を決した、それでいて諦観したかのような表情と瞳をしながら、指をピースサインに形を替えた左手を人差し指と中指の間に挟むように左目に置く。

 

「チョッリース☆さやかでーぇす♪よろしチョリース☆」

「アッハハハハハハッ!!!!」

「…………ハァ。」

 

およそ彼女から放たれたとは思えないチャラけた声にまどかは腹を抱えて大笑いし、仁美は呆れたような目線をさやかに向ける。

その仁美の視線が堪えたのかどこか恥ずかしげな表情をしながら、顔につけていた腕を下ろした。

 

「なぁ、まどか。もうこれをねだるのはやめてくれないか?面白くないだろう。もはや仁美ですら笑ってくれないのだが………。」

「私も同じ意見ですわ。最初は驚きがありましたけど、何度も見せられてはもはや呆れが先に来ますわ。まぁ、いつもまどかさんの要求に答えてくれるさやかさんには軽い賞賛を覚えますけど。」

「そ、そんなことないよ!!絶対わたしの他にも笑ってくれる人がいるもん!!」

「その人物が出てくるとは到底思えないのだが…………。どう思う?」

「同じく、ですわ。」

 

遠い目を浮かべるさやかと仁美だったが、学校に登校しているあいだまどかは必死にさやかの一発ギャグの良さをあの手この手で伝えようとするが、二人は微妙な顔を浮かべるだけであった。

 

 

「皆さん!!いいですかっ!?女子は目玉焼きで半熟か固めにこだわるような男性とは付き合わない!!男子はそもそもとしてそんなことにこだわらないっ!!いいですね!!」

 

学校の席に着いたさやか達。HRの時間を知らせる鐘が鳴ったと同時に教室に入ってきた三人を含めたクラスメートの担任である早乙女和子から開口一番に伝えられたのはそんなことだった。

途中、最前列にいた中沢とかいう男子生徒が何やら怒っている様子の彼女から目玉焼きの半熟と固め、どちらが好きかというニュアンスの質問をぶつけられていた。

 

「……………どうやらあの様子では破局してしまったようだな。」

「そ、そう見たいだね。アハハ…………。」

 

なぜ早乙女和子があそこまで怒っているのか、その理由をなんとなくさやか、というよりその教室のクラスメートは察していた。

噂、というには既に公然となっているのだが、さやかの担任である早乙女和子には付き合っている男性がいる。

彼女の様子から察するにその目玉焼きの件で揉めに揉めまくり破局してしまったのだろう。

担任に気づかれないように僅かにため息をつきながらさやかは自身の一つ後ろの席にいるまどかに視線を向けると乾いた笑みを浮かべるまどかであった。

 

「ふぅ…………はい、それでは今日は皆さんに転校生を紹介したいと思います。」

(…………そっちが後回しか。それでいいのか教員。)

 

先ほどまで怒り心頭といった雰囲気から一転して転校生を紹介するという展開にさやかは内心呆れ顔をしていた。

そんなこともつゆ知らず、担任は件の転校生を招き入れる。

現れたのは艶やかな黒髪を真っ直ぐストレートに腰回りまで下ろしたミステリアスな印象を覚える少女であった。

 

「はい、それじゃあ自己紹介をお願いします。」

「…………暁美ほむらです。よろしくお願いします。」

 

担任から自己紹介するように言われた転校生は自身の名前を言ったのち軽く礼をする。

あまりにも年相応とは思えない淡白な自己紹介に思わずクラスメートも何も反応を示すことが出来ず、担任も途中まで彼女の名前をホワイトボードに書いていた腕を止めてしまう。

 

(なんだ?彼女の態度から妙な違和感を覚える。)

 

さやかは暁美ほむらの態度からそのような違和感を感じた。どこか彼女の対応が機械的なのだ。

緊張している、と言われればそれまでだがーーー

 

「…………!?」

 

そこまで考えたところにさやかとほむらの視線がかちあった。

その瞬間、ほむらの目が僅かに揺れ動き、見開いたように見えたのをさやかは見逃さなかった。

 

(…………あれは、驚いているのか?しかし彼女とは初対面の筈だ。)

 

ほむらの反応にさやかは訝しげな表情を禁じ得なかった。さやかはほむらとどこかであったかどうか記憶を振り絞るが覚えている限りの記憶ではそのようなことは一回もなかったはずだ。

そのことが余計にさやかの訝しげな表情を深める一因となっていた。

 

しかし、考えても考えても答えが出てくることはなく、HRの時間は過ぎ去っていった。

HRの時間が終わるや否や、ほむらの周囲はクラスメート、主に女子が集まり、彼女に質問責めにあっていた。やれどこの学校から来たのか、部活は何をやっていたのか、使っているシャンプーはどこの製品だなど、転校生という突然現れた真新しい人物には定番と言えるようなものばかりだった。

 

「なんだか、不思議な方ですね。暁美さん。」

「………そうだな。」

「……………。」

 

仁美とほむらについての第一印象を述べるさやか。二人とも同じ印象を抱いたからか多くは語らず静かにほむらの様子を見守っていた。

そんな中、まどかはどこか戸惑っているような顔を浮かべながらほむらの様子を見ていた。

 

「…………ごめんなさい。なんだか緊張しすぎたみたいで、気分が………。」

 

そう言ってクラスメートからの質問を切り上げ、立ち上がるほむらに周囲のクラスメートは心配そうに声をかけるが、彼女は係の人に頼むと言って断り、このクラスの保健係であるまどかの元へ一直線に向かってくる。

まるで前々から彼女が保健係であることを知っているかのように。

 

「・・・・・。」

 

ほむらは迷うことなくまどか達の元へやってくるが、まどかに声をかけるより先にさやかに鋭い視線を向ける。

それだけで警戒されているのはさやかには丸わかりだった。

 

「・・・・・気分が悪くなったのであれば、まどかに連れて行ってもらうといい。彼女はクラスの保健係だからな。」

「ええ、そうさせてもらうわ。それと一ついいかしら?」

「・・・・なんだ?」

「・・・・あなたは美樹さやかさんよね?」

「そうだが。それがどうかしたのか?」

「特に何もないわ。それだけのことよ。」

 

確認とも取れるような口ぶりにさやかは僅かに眉を潜めたがほむらはさやかから視線を外し、まどかにその目を向ける。

 

「鹿目まどかさん、連れてってもらえる?保健室まで。」

「え、あ、う、うん。」

 

ほむらから頼みにまどかはただただしく頷き、二人とも教室から出て行った。

 

「・・・・・・まどかさん、大丈夫かしら?なんだか様子が変だったような・・・・。」

「私はまどかよりもほむらのまどかに対する威圧的な態度が気になる。初対面の筈だ、あの二人は。」

 

さやかは教室から出て行く二人の背中、特に暁美ほむらの姿を注視していた。

 

(…………暁美ほむら、お前はなぜまどかに威圧的な態度を取る。)

 

 

心の中で呟いた言葉に誰も答えるものはいなかった。




自分、一応この作品含めて三作近く掛け持ちしているため、更新頻度は遅いです。
まどマギアニメ本編もまだちゃんと見てませんし、ポータブルなどゲームもからっきしです。
動画とか出ていればなるべく見て行くつもりですが、それでも様々な齟齬は生じるのはどうしようもないこと。そこら辺はあったかい目で見てほしいですm(._.)m


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第2話 底知れぬ悪意

まどマギ本編見なきゃ………(まだDVD一巻しか見てない)


全面がガラスのようなもので外観が建てられている学校の渡り廊下を歩くまどかとほむら。

時間的に授業中なのも相まって周囲には人は彼女ら以外に一人もおらず、静謐な空間が形成される。

聞こえる音は二人が鳴らす足音のみ、しかしまどかはほむらから感じる張り詰めた雰囲気に気まずさを隠しきれないでいた。

 

(…………あの美樹さやか、今までの時間軸とは全然違う。佇まいや雰囲気、何もかもが違う。さながら美樹さやかという器に何か全く別のものが入ってしまったような、そんな感覚ね。)

 

(………イレギュラーなのは確実。まどかの障害になりそうだったら早めに処理することも考えるべきね。)

 

 

ほむらの脳内ではさやかに対しての対応を考えていた。彼女がこれまで渡り歩いていた時間軸において、美樹さやかという人間は明るく、正義感が強く、いつも前を向いていた活発な少女であった。

しかし、その正義感ゆえに思い込みも激しく、あまり多くを語らないほむら自身とは幾度となくすれ違い、衝突を繰り広げてきた。

 

だが、対して今回のさやかは明らかに異常だ。若干いつもより髪を長く伸ばしているのはさておき、顔つきや言葉遣いなど、何もかもがこれまでの美樹さやかとは一線を画していた。

そのことがどうしようもなくほむらに不安の影を落とす。性格が違うということはこれまでの美樹さやかがとってきた行動とは全く別の行動をするということだ。

つまり今のさやかはほむらにとっては不確定要素に他ならない危険な存在と化していた。

 

(………でも、いくらか確かめておく必要はありそうね。彼女自身、自分は美樹さやかと言っていたけど、それが本当なのかどうかを。)

 

「ねぇ、鹿目さん、少し聞いてもいいかしら?」

「うぇっ!?い、いい、けど?」

 

ほむらに突然振り向かれたと同時に声をかけられたことにまどかは驚きをあらわにしながらとりあえず頷いた。

 

「美樹さやかさんのことなのだけど。彼女、昔からあんな感じだったの?」

「え………?そ、そうだけど………。で、でも、面白いところもあるんだよ?とっても面白い一発芸とかも持っているし、みんなはなんでかそんなに笑ってくれないけど。何より優しい上にカッコいいんだよ、さやかちゃんは。」

「………別にそこまでは聞くつもりはなかったのだけど。」

「あ………ご、ごめんなさい。」

 

ほむらの言葉にまどかは彼女の気を悪くしたと思ったのか、申し訳なさげに表情を俯かせる。

そんなまどかにほむらは今まで背を向けていた状態から、まどかの方に顔を向け、彼女と向き合う形で対面する。

そのほむらの表情はどことなく決意に満ち溢れたような、それでいて感じるものがいればどこか危うさも含め合わせていた。

 

「鹿目まどか。貴女は自分の人生が尊いと思う?自分の家族や友達を大切にしてる?」

「え………?」

「どうなの?」

 

突然のほむらの自身の家族、そして友達を大事にしているかという質問。まどかはそれに困惑した様子を見せる。

まず、少なくともまどか自身の中ではほむらとは初対面の筈だ。しかし、彼女には別の光景が脳裏に先ほどからよぎっていた。

 

それは少女が巨大なナニかとたった一人で戦っている夢。何もないはずの虚空からはさながら魔法のように炎が現れ、少女を焼払わんと意思を有しているが如く、少女に襲い掛かる。

少女がそれを空中に身を晒している状態でありながらその炎から逃げ果せると今度はビルが超自然的な力により上下に引き裂かれ、その上部が少女がちょうど降り立った建物に叩きつけられる。何も知らないまどかでもわかる無謀な戦いであった。

 

 

その夢で見た少女が今、目の前にいることがまどかにさらなる混乱を引き起こす。夢でみたはずの少女がこうして自身の目の前にいるのだ。大なり小なりの混乱は必然であろう。

 

「………もちろん。大切だと思ってるよ?家族や友達もみんな大好きだから。」

「………本当に?」

「本当だよ!」

 

ほむらの確認とも取れる発言にまどかは先ほどまでの戸惑っていた様子から一転して笑顔を浮かべながら答える。それだけ家族と友達を大事にしているという彼女の優しい心の現れであろう。

 

「そう。もしそれが本当なら、今とは違う自分になろうだなんて思わないことね。さもなければ全てを失うことになる。」

「え………?」

 

ほむらの言葉にまどかは再度困惑気味な表情を浮かべ、彼女の言葉があまり理解できていない様子を見せる。

 

「貴女は鹿目まどかのままでいればいい。今まで通りこれからも。」

 

それだけいうとほむらは困惑しているまどかを置いて歩を進める。思わずまどかがほむらの名前を呼ぶが、彼女がその声に振り向くことはなく、そのまま歩き去って行った。

 

残されたまどかはほむらの後ろ姿をただ見つめるしかできなかった。

 

 

 

「ーーーってことがあったんだけど、二人はどう思う?」

 

ほむらとの会話が終わったのち、特に何事もなく時間は過ぎ去り、放課後の時間となった。

まどかはさやかと仁美を連れてショッピングモールのフードコートにて自身が見た夢の中の少女がほむらに似ていたことを二人に相談した。

およそ現実離れした内容に仁美は冗談と思ったのか口元を隠すように静かに笑い、さやかはどこか難しい表情をしながら無言で手元のドリンクに口をつけていた。

 

「仁美ちゃんっ!?酷いよ、笑うなんて!!」

「ふふふっ、ごめんなさい。」

 

まどかはクスクスと笑う仁美にショックを受けた顔をしながら見つめる。

 

(夢で見た少女によく似た人物か……………。)

 

さやかはまどかの仁美の喧騒を見つめながらまどかの言う夢でみた少女、暁美ほむらのことを考える。

正直言って笑い話で済ませても差し支えはないことであった。

夢で見た少女と似ている?そんなのはただの見間違いだ。

普通の人間であれば、仁美のように笑い飛ばしてしまうのがせいぜいだ。

 

(だが、暁美ほむらが教室に入ってきた時、彼女の視線はまどかに向かっていた。たまたま目に付いたと言ってしまえばそれまでだが………)

 

ドリンクを飲みながらさやかの脳裏に目があった時にわずかに見せたほむらの驚いたような表情のブレがさやかに嫌でも色濃く残っていた。

 

(あの後私を見たときの表情はなんだ?一瞬だったが、あれはまるで想定外のことが起きたかのような驚き方に見えたが………。)

「美樹さん?聞いているんですの?」

 

そこまで思案に耽っていたところに仁美から声がかけられる。突然のことに一瞬だけ目を見開き、顔を上げるとカバンを肩に掛け、帰ろうとしている彼女の姿が映り込んだ。

 

「すまない。少し考えごとをしていた。」

「…………もしかして美樹さんも暁美さんとよく似た女性を夢で見たんですの?」

「少なくとも、見てはいないはずだ。私は彼女にどこか既視感を抱いてるみたいではないらしいからな。」

「そうですの?まぁ、それはさておき私はこれから茶道の稽古がありますのでお先に失礼しますわ。」

 

先に失礼するという仁美にさやかは軽く手を振り、彼女を送り出す。仁美もさやかに答えるように手を振り返すと席を後にして立ち去って行った。

さやかはこれからどうするかと考えているとふと、あることを思い出した。

 

(…………そういえば、アイツへの見舞いの品を買っていなかったな。せっかくショッピングモールに来ているのだからついでに仕入れておくか。)

 

さやかのいう『アイツ』というのは彼女の幼なじみであり、弱冠中学生ながらバイオリニストである上条 恭介(かみじょう きょうすけ)のことである。

しかし、今現在の彼は見滝原市内の病院のベッドの上で療養中の身になっている。

不慮の事故により腕に大怪我を負ってしまったのだ。

曲がりなりにもその恭介と親交があったさやかは毎日とは言わないが頻繁に彼への見舞いに行っていた。

 

「まどか。これから私は恭介への見舞いの品を買おうと思っているんだが、どうする?」

「上条君の?うん!!わたしも付き合うよ!!」

「わかった。なら行こうか。」

 

まどかの笑顔につられるように表情を緩ませるさやかは彼女を伴ってショッピングモールの中を歩き始める。

モールの中は様々な物品や洋服、食べ物の店で彩られており、既に何度か足を運んでいるさやかでも来るたびに心が躍っているのがわかるほどの品揃えであった。

 

「そういえば、さやかちゃんは上条君へのお見舞いはいつもどんなのを持っていてあげてるの?」

「………食べ物類が中心だな。別段、恭介の身体になんらかの異常があるわけではないからな。」

「へぇー、そうなんだ。でも、上条君ってバイオリニストなんだよね?CDとか買ってあげないの?ちょうどそこにCDショップがあるけど………。」

 

まどかが指をさした先にさやかが視線を向けると、確かにCDショップがあった。

しかし、さやかはその店を一瞥しただけで入っていくような様子は微塵も見せずに通り過ぎていった。

 

「まどか。確かに恭介はバイオリニストであり音楽家だ。だからアイツ自身の音楽に対する情熱や音楽が好きであるという気持ちは相当なものだろう。」

「だったらーー「だが」え?」

 

まどかがCDを買ってあげた方がいいのではないか、と言う前に遮るようにさやかが言葉を紡ぐ。

突然、発言を遮られたことにまどかは怪訝な表情を浮かべるが、さやかは気にとめることすらせずに言葉を紡ぎ続ける。

 

「好きだからと言って、それを与えることが恭介自身にとって慰めや安らぎになるとは限らない。」

「そう、なの?」

「…………あくまで持論だがな。まどかは好きなものが目の前にあるのにどうやってもそれを手にすることができない時、どう思う?」

「えっと、ちょっと、もどかしく感じるかな…………。」

「何故だ?」

「だって、目の前にあるのに手にすることができないなんて、なんだか、悔しいって言うか…………あ。」

「つまりはそう言うことだ。今の恭介に音楽関係の見舞いを送ることはむしろアイツ自身を貶すことに近いものだ。」

 

まどかが納得した様子を見せるとさやかは再び見舞いの品を探すために歩き始める。さやかが再び歩き始めたことにまどかはハッとした表情を浮かべるとパタパタと小走りをしながらさやかの隣に並び立った。

 

「あ、あの、ごめんね。上条君の気持ち、考えてなくて………。」

「まどかが謝ることはないと思うが………。独り善がりの思いほど他者とのすれ違いを起こす。自分では良かれと思ったことでもそれがその者にとっての最悪を引き起こすこともある。それだけだな、私が言いたいのは。」

「う、うん。わかった。」

 

さやかの言葉にまどかは気を張り詰めたような表情を浮かべ、重々しく頷いた。

そのことにさやかはそこまで気を張ることはないとまどかに声をかけながらも苦笑いをするしかなかった。

 

(…………やはりレパートリーがなくなってきた。このショッピングモールにも底が見えてきたか………!!ここは一度隣町の風見野市に赴くのも一つのプランか………!!)

 

中々恭介への見舞いの品を買いあぐねているさやか。難しい表情をしながら商品棚とにらめっこを繰り広げているとーーー

 

「………!?」

 

突然、さやかの身におぞましいほどの寒気が走った。一瞬風邪をひいたかと思ったが、直感的にそれは違うと脳内で否定する。

言うなれば底知れぬドス黒い、一寸先さえ見ることの叶わない闇に見つめられたような鳥肌が立つほどの悪寒。

思わずさやかは青い顔をしながら、抱きしめるように両腕を抱え、カタカタと震える身体を押さえつける。

しかし、身体の震えは治まる気配がなく、さやかの頭は困惑の一色に染め上げられていた。

 

(なん……だ………この寒気は………!!?)

 

さやかは震える身体を抑えながらも視線だけを動かしながら周囲に異常がないかを探す。

その明らかな異質なものはなかったが、異質な動きをとっているものがいた。

特徴的なピンク色のツインテールを揺らしながら、何かを探しているかのような様子を見せると突然、どこかへ走り去っていった。

 

(なっ………!!まどか、待てッ!!)

 

そう心の中で叫ぶが、震える身体のせいでうまく声として出すことができず、まどかはそのまま一般人立ち入り禁止の場所へと向かってしまう。

 

「クッ…………まどか………待てッ…………!!!」

 

明らかにまどかの様子がおかしいと判断したさやかは震える身体を無理やり抑えつけながらまどかの後を追って、自身も立ち入り禁止の扉を開け放った。

 

 




感想とかくれると純粋に嬉しいです^_^


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第3話 魔法少女

やっぱり新作出すとそれとなりにモチベーションが他のより高くなる………。


「まどか………!!待てッ………そっちは、()()だ………!!」

 

さやかは悪寒に震える身体に鞭打ちながら先を行くまどかを見失わんと必死に彼女の後ろ姿を追いかける。

本来人が立ち入ることを想定していないのか、工事用の鉄骨などが無造作に置かれている空間は電気が通っている様子が見えないことを示しているように照明一つすらなく、薄暗かった。

それでもまどかを見失わないように脂汗が滲んでいる額を拭いながら追いかけているとーーー

 

ガシャンッ!!!

 

唐突に進行方向から何かが落ちてきたような音が鳴り響いた。その甲高い音にさやかは鉄板のようなものが落下物の正体だと直感する。

 

「ッ………!!まどか!!」

 

彼女の安否が不安になり、思わずさやかはまどかの名前を呼びながら若干覚束ない足取りながらも走るスピードを上げる。

少しするとまどかの特徴的なピンク色のツインテールが視認できるようになり、さやかは一瞬安堵の表情を浮かべるもそれはすぐさま驚きの表情へと変わる。

 

「なぜだ………なぜお前がここにいる………!?」

 

さやかは目を見開き、ワナワナとした様子でまどかの後ろ姿ーー正確に言えばまどかが立っている場所より奥の方を見やる。

非常灯からのわずかな光源に照らされ、艶やかな印象を受ける長い黒髪。

そして、相対するものに威圧感を感じさせるような鋭い目つきをした可憐な少女。

 

「暁美ほむら…………!!!」

 

まさかの人間の登場にさやかは物陰に隠れて状況の様子見をせざるを得なくなる。

 

(クッ………一体何者なんだ、彼女はっ!?いささかファンシーな服装のコスプレかと見間違うが、奴の纏っている雰囲気、尋常ではない………!!この立ち入り禁止のエリアに入り込んでいるという状況も相まって暁美ほむらの異常の度合いが格段に上がっている……!!)

 

さやかは物陰から顔を覗かせながら状況の打開を図る。さやかがいるポジションからはほむらとまどか両名の様子を確認できたのが不幸中の幸いだった。

ほむらの目の前にはまどかが座り込んでおり、わずかにだがまどかの腕に抱かれている白いナマモノのような生物が抱えられているのを確認する。

 

「ほむらちゃん………!?」

「ソイツから離れて。」

 

まどか自身もほむらが現れたことに心底から驚いているらしく、若干震えた声で彼女の名前を呼ぶ。その声質にはなぜここにいる、というような意味合いも含まれているような声だった。

しかし、ほむらはそのまどかの声に端的に、それでいて突き放すように答える。

 

「ッ…………ダメだよ。この子、ケガしているもんッ………!!ひどいこと、しないでッ………!!」

「貴女には関係ないわ。」

 

まどかの嘆願にほむらは意に介す様子すら見せずにまどかに近づく。おそらく、彼女が抱えている白いナマモノ的ななにかが目的なのだろう。

 

(ダメだ………!!奴の目的があの白いナマモノなのは確認できたが………!!)

 

さやかは一度まどか達から視線を外すと再度、両腕を自身の身体に回し、震える自らの身を抑え込もうとする。しかし、その震えも先ほどより酷くなり、もはや両腕でも押さえつけるのができないほどまでなっていた。

 

(一体………この震えはなんなんだ………!!何に対する恐怖なんだ……!?わからない………わからない………わからない………!!!)

 

さやかはカタカタと震える身体をなんとか落ち着かせようとしながら頭の中でいくら考えても原因不明という恐怖を振り払うようにしきりに頭を振った。

しかし、そんな状況でも直感的にわかることがあった。

 

(少なくとも、ここに長く居座ってはいけない!!)

 

さやかはそう結論づけると現状からの打開を図るために震える身体に鞭打ちながら隠れていた遮蔽物から身を乗り出す。

 

(まずは暁美ほむらからまどかを引き離す!!そのためには………!!)

 

さやかは視界に入った消火器を手にすると素早い手つきで黄色い安全ピンを抜き取り、ホースを掴みとるとレバーを握りしめ、ほむらに向けて中身を発射する。

消火剤を当てられたほむらはその勢いに当てられ、思わず口元を腕で覆い、視界は消火剤の白い煙で覆い潰される。

 

「まどかッ!!こっちだ!!!」

「ッ!!さやかちゃんッ!!!」

 

さやかが来てくれたことにまどかは嬉しそうな声を上げながらさやかのそばに駆け寄る。

まどかが来たことを確認したさやかは消火器の中身を使い切るまで噴射を続け、出し切り、中身がなくなった消火器を投げ捨てる。

 

「暁美ほむら!!ここは危険だ!!ここには………何か良くないものがいる!!」

 

まだ煙幕の中にいるであろうほむらにさやかはそれだけ伝えると、まどかを連れて走り去っていった。

さやかとまどかが走り去ったのち、立ち込めていた煙は突然起こったほむらを中心とした突風に吹き飛ばされる。

空に掲げていた盾のような円盤がついた左腕を下ろすとほむらはどこか困惑したような表情を浮かべていた。

 

(美樹さやかが言っていた良くないものって、一体………?そんなのあのインキュベーター以外にはーーー)

 

ほむらがそこまで考えたところで、急にほむら自身の空間が歪み始める。

 

「っ!?まさかっ!?」

 

ほむらが一瞬表情を強張らせ、自身の周囲を見回すと、先ほどまで薄暗かった空間は徐々に姿を変えていき、より暗く、それでいてファンシー。そして満ち溢れる狂気が支配しているかのような空間へと変貌していく。

さながらその世界は、一見和やかに見えて中身は凄惨な童話の世界に迷い込んだようだった。

 

(魔女の結界………。こんな時に………。まさかとは思うけど、美樹さやかの言っていた『良くないもの』って魔女のこと?)

 

(おかしい。魔女の反応は魔法少女でなければ感知できないはず。少なくとも現段階で美樹さやかは契約はしてない。)

 

(なぜ、あの美樹さやかはインキュベーターと契約していないにもかかわらず、魔女を感知できるのッ!?)

 

考えれば考えるほど、この時間軸のさやかに対するほむらの疑惑の目が強まっていく。

前々から性格や立ち振る舞いなど何かが違うとは思っていた。しかし、魔法少女でもないのに魔女の存在を感知できるなど、もはや別人レベルの所業だ。

 

(あの美樹さやかはもう彼女であって彼女でないようなものね………!!)

 

ほむらはどこから取り出したのか右手にいつのまにか握られていたハンドガンを構えると熟れた様子で近場にいた毛玉が集まったコットンのような見た目で蠢いているナニかに向け、さながら苛立ちを隠すかのように発砲した。

 

 

 

「…………銃声………?」

 

ほむらが起こした、弾丸が発射される時に生ずる乾いた破裂音。それは、まだ正常な空間にいたさやかの耳に反響した状態で行き届く。思わず顔だけを向けるが、暗闇の中に入ってしまったほむらの姿など伺えるはずもなく、すぐさま正面に顔を戻す。

 

「ほ、ほむらちゃん、大丈夫かな………。ねぇ、さやかちゃん。さやかちゃんが言っていた良くないものって何………!?」

「…………わからない。だが、今はここから離れることが最優先だ。」

 

 

不安気に表情を歪めるまどかの問いかけにさやかは顔を横に振りながらも同じように不安気な表情から戻せないでいた。

彼女の中で悪寒が続いている以上、気を張らずにはいられなかったからだ。やがて視界に鉄製の扉が見えて来る。さやかとまどかはそのことにわずかに表情を緩ませるがーー

 

「ッ…………来るッ!?まどか!!」

 

突然増大する悪寒にさやかは咄嗟にまどかの名前を叫び、離ればなれにならないように彼女の手を掴みとる。

その直後、さやか達の周囲でも空間の歪みが起こり始める。

 

「な、なに!?一体なにが起こっているの………!?」

「………まどか。あまり動かない方が賢明かもしれない。」

 

突如として周りの風景がファンタジーじみた空間へと変わっていく現象を目の当たりにしたまどかは周囲をキョロキョロと見回しながら困惑を隠せずにいた。

そんな状況でさやかは冷や汗のようなものを流しながらもなんとか平静を保つように声を絞り出す。

 

「扉が消えた………。それに、ここはショッピングモールだったはずだが、明らかにさっきまでとは構造がまるで違う………!!」

「そ、そんな………!!じゃあ、どうしたら………!!」

「現在位置の把握ができない以上、下手に動けば余計な危険に出くわす可能性が高い………。」

「で、でも、ここに居続けるのもなんか、気持ち悪いし、何も変わらないよっ!?何か変なのまで近づいてきているし………!!」

 

まどかの言う通り二人の周囲にはヒゲをつけたコットンが主体となっているナマモノが取り囲んでおり、何か歌のようなものを喚き散らしながらじわじわと二人を取り囲んでいる円を縮小させていっていた。

 

「コイツら………一体どこから湧いて出てきた………!!それにこの歌のような鳴き声………長く聴いていると精神がおかしくなりそうだ………!!」

 

極めて危険な状況にさやかは険しい表情を見ながら周囲にくまなく顔を動かし続けることで警戒を強める。

しかしそれで状況が好転するわけではなく、さやか達はジリジリとバケモノに追い詰められていく。

 

「さ、さやかちゃん……!!」

 

さやかのすぐそばでまどかが不安で震えた声を上げる。さやかがまどかの方に視線を移すと目の前の絶体絶命の状況からの恐怖で今にも泣きそうになっているまどかの表情があった。

 

「…………まどか。足、動かせるか?」

「え………?う、うん。腰が抜けたとか、そう言うのはないから、大丈夫。」

「わかった。もうすこし引きつけたら、奴らの頭上を飛び越える。幸い奴らもそこまでの大きさを持っている訳ではないし、時間稼ぎにはなる筈だ。」

「だ、大丈夫なの………?」

「………助けたいのではないのか?ソイツを。」

 

さやかはまどかの腕に抱えられている白いナマモノを指差した。パッと見ても犬や猫といった小動物には見えない白い、つるっとした外見を有したソイツは傷ついた体が痛むのか先ほどから浅い息ばかりをしていた。

おそらくほむらに付けられたものと判断しても差し支えはないだろう。

 

「そ、そうだった!!早くこの子の手当てをしないと………!!」

「なら、答えは一つだ。いち早くこの包囲を突破し、脱出口を探す。もっともそれが存在する確証はどこにもないが………。」

「きゅ、急に怖いこと言うのは止めてよっ!?」

 

さやかの言葉にまどかが今にも泣きそうな表情を浮かべながら、さやかに詰め寄るが、それを気にかける様子を見せずにさやかはまどかの手を握っていた力をさらに強める。

 

「っ………さやかちゃん………。」

「………こんな悪趣味な空間からは手早く出て行くに限る。こんな場所に普通の人間の私達が居続けていいはずがない。」

 

そう言いながらさやかはまどかに柔らかな笑みを向け、微笑んだ。そのさやかの笑顔にまどかは自身の手を握っているさやかの手を強く握り返しながら大きく頷いた。

 

花から生えたような毛玉がじわじわとさやか達に距離を詰めるなか、二人は脱出のタイミングを今か今かと伺っていた。その表情に恐れはなく、先ほどまでさやかの体を苛ませていた悪寒もいつのまにか消え去っていた。

そして、その毛玉との距離が1メートルを切った瞬間、さやかは足を前へ踏み出そうとしたがーーー

 

「そこの二人!!勇んでいるところ悪いけど、そこでじっとしてて!!」

「なっ!?」

「ええっ!?」

 

突然の第三者の声に出鼻を挫かれた二人は心底から驚いた表情をしながらその声がした方角である上を見上げる。

そして二人が上を見上げた瞬間、ジャラジャラと鉄と鉄が触れ合うような音を響かせながら鎖が二人の周囲に散りばめられる。

その鎖はどこか円を描いているかのような法則性を持ちながら二人と毛玉達の間に落とされる。

そして落とされた鎖が円を描き切った瞬間、その鎖の円から暖かなオレンジ色に輝く光が現れ、時折、花が咲き乱れるその光がさやか達を包みこむと同時に毛玉達が消失した。

 

「こ、この光は、一体………暖かい、それでいてどこか安心感を覚える………!!」

「危なかったわね、でももう大丈夫よ。」

 

さやかが自身達を包み込んでいる光に暖かさを感じていると、どこか落ち着いた印象を受ける女性の声が響く。

さやかとまどかがその声のした背後を振り向くとそこにはさやか達と同じ見滝原中学の制服に身に纏った女子生徒が気品を感じさせる歩き方でさやか達に近づいてきていた。

その女子生徒の左手にはさやか達を包み込んでいる光と同じものが出ているオレンジ色の宝石に金属製の意匠が施されたアクセサリーのようなものが握られていた。

 

「あ、貴女は一体………!?」

「私?そうね、私はーーーー」

 

さやかがその女子生徒に名前を尋ねると彼女は左手の宝石に手をかける。その瞬間、宝石が視界を覆い尽くすほどの爆発的な光が生み出され、二人の視界が一時的に塞がれる。

その光は少し時間が経つと光自体が弱まっていき、数秒しないうちに目を開けられるほどまで弱まった。

さやかとまどかが目を開けると、先ほどまで見滝原中学の制服を着ていた少女の姿はベレー帽を頭に被り、華やかな印象を覚えるブラウスにスカートを身に包んだ姿へと変わっていた。

 

「私の名前は(ともえ) マミ。キュゥべえと契約した魔法少女よ」

「魔法…………少女………!?」

 

ついぞ生きている間であればおおよそテレビでしか聞くことがないであろう単語にさやかは目を見開き、その単語をおうむ返しをするように呟くしかなかった。

 

 

 




刹那要素が出るまで結構先が長いかもしれないです…………(白目)


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第4話 ソウルジェムと願い、その対価はーー

刹那っぽさが中々出せないお…………(白目)


「……………つまるところ、この趣味の悪い空間は魔女と呼ばれる人に仇をなす存在が展開する結界と呼ばれる異空間の中で貴方はその魔女を打倒する魔法少女、ということか?」

「ええ、大まかな認識はそれで構わないわ。それで私はその魔女を倒しに行くところなのだけどーーーー」

 

窮地に陥ったさやかとまどかの目の前に突如として現れた少女、ベレー帽を被り、金色の髪をリボンでロール状にまとめた巴 マミと名乗った人物は暖かな光を感じさせる光を展開した後、中々目を疑うような攻撃方法でさやか達を取り囲んでいた化け物ーーーマミ曰く魔女の手下を撃退した。どこからともなくマスケット銃が出現したのだ。それもその数は一丁だけでなく、およそ三十はくだらないほどの量であった。その数の暴力から放たれる圧倒的な火力に魔女の手下は蜘蛛の子を散らすように逃げたり、マミの放った銃弾に撃ち抜かれたりし、ほどなくすると魔女の手下達はいなくなっていた。

その後、彼女の戦いぶりに呆気にとられているさやかとまどかに二人が今いる奇妙な空間についての説明を行った。

およそ、魔女だか魔法少女と言った超常的な存在がいるという現実に二人の思考は軽く固まっていた。

ちょうどその魔女などに関する説明が終わったタイミングで結界と呼ばれる異空間が揺らぎ始めると徐々に先ほどまでさやか達がいたショッピングモールの立ち入り禁止の場所に戻っていった。

 

「け、結界が…………!?」

「…………崩れたのか?」

「いいえ、これは魔女が移動しただけね。」

 

結界が晴れたことにさやかとまどかはひとまずの安堵感を露わにするが、マミが魔女が未だ健在であることを示し、二人の表情は再度険しいものに変わる。

 

「…………とりあえず、襲ってくることはないみたいだからキュゥべえの治療でもしましょうか。」

「キュゥべえ…………?確か貴方が契約するときにいた奴のことか?一体どこに…………?」

「えっと、鹿目さんだったわよね?貴方が抱いているその白い子がキュゥべえよ。」

「こ、この子がですかっ!?」

 

自身が抱きかかえている生き物が件のキュゥべえであることは露にも思っていなかったのか、思わず上ずった声で驚くまどか。

そんなまどかの様子をマミは微笑みながらまどかに抱えられているキュゥべえに手をかざす。

そして、彼女の掌が発光したかと思うとさっきまで傷だらけーーおそらく暁美ほむらに付けられたものだろう。その傷がみるみると塞がっていった。

 

「………まるで魔法だな、というのは野暮な言葉か。」

「ふふっ、そうね。実際使っているものね。」

 

マミがキュゥべえの傷を癒し終えたタイミングで誰かが降り立ったような、そんな音を三人は耳にする。さやかがその音のした方角に目を向けるとそこには積み重ねられた荷物の山が置かれておりそのまま荷物の山の頂上を見上げると、そこには暁美ほむらが立っていた。

 

「暁美ほむら…………!!」

「…………………。」

 

再度姿を表したほむらにさやかは警戒している表情を向けるが、対するほむらは自己紹介の時に見せていた涼しい顔でさやかと、そしてまどかを見下ろしていた。

そんなほむらとさやか達の間に割り込むようにマミが立ちふさがる。

 

「魔女は逃げたわ。仕留めたいなら今すぐに追いかけなさい。今回は貴方に譲ってあげる。」

「私が用があるのはーーー」

「呑み込みが悪いわね、見逃してあげるって言っているの。」

 

魔女の討伐を譲るというマミに対し、ほむらは視線をまどかに抱えられているキュゥべえに向ける。動機は全くをもって不明だが、彼女がキュゥべえとなんらかの因縁を持っているのは確かなようだ。

しかし、そんな彼女にマミは隠していた本音のようなものを前面に出して、ほむらを威圧する。

殺気のようなものが混ざっていると感じ取ったさやかは一触即発の雰囲気に思わず表情を強張らせ、冷や汗を流す。

 

「ッ……………。」

「お互い、余計なトラブルとは無縁でいたいと思わない?」

 

マミの挑発するような声質の言葉にほむらは変わらずのクールな印象を思わせる顔で対峙していたが、しばらくすると三人に背中を向け、去っていった。

 

(…………今、僅かにだが奴の表情が悔しげなものに歪んだような………プライドの高い人間なのか?)

 

僅かに見せたほむらの悔しげな、歯噛みをするかのような表情。さやかは今いる場所が暗い空間ながらも感じ取ったその表情の理由に当たりをつけることは到底無理な話なため、思うだけで口に出すようなことはしなかった。

 

「はあ…………。」

「…………あまり、彼女を挑発するのはやめてほしい。こちらの肝が冷える。」

 

ほむらが立ち去ったことにまどかは緊張の糸が切れたのか大きく息を吐き、さやかは一度思考を打ち止め、挑発するような態度をとったマミに苦い顔を向ける。

 

「ごめんなさいね、ああでもしないと貴方達まで巻き込みそうだったから………。」

「…………そうか、すまない。私達を思っての行動だったか。」

「謝ることはないわ。私も誤解されるのは覚悟の上だったし、それに本音半分でああいう態度を取ったから。」

「その本音、というのはキュゥべえ、という白いナマモノが襲われたことからか?」

「ナマモノじゃなくて私の友達よ。」

 

そういったマミにさやかは思わずまどかの腕に抱かれているキュゥべえと彼女の顔の間を視線で行ったり来たりする。その表情にはどこか困惑気味なものが含まれており、マミはともかくまどかも疑問気に首をかしげる。

 

「…………友人と呼べる人間がいないのか?もしくはいい精神科でも勧めようか?」

「貴方見た目によらず結構失礼ねっ!!!?私は別に喋れる仲のクラスメートがいないわけじゃないし、精神を病んでるわけじゃないから!!」

「す、すまない。そ、そうであれば別にいいのだが………。」

(さやかちゃん、天然なんだな〜…………)

 

さやかの失礼な発言に思わずマミは言葉を荒げ、まどかもその様子に苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「ふぅー・・・・助けてくれてありがとう、マミ。」

『ッ!?』

 

突如として響いた今までとは全く異なる第三者の声にさやかとまどかは驚いた表情を浮かべる。

 

「まさかソイツ………喋れる、のか?」

 

さやかは驚きから目を見開き、震えるような声で指をさした先にはまどかが抱えているキュゥべえと呼ばれた生命体。

そのキュゥべえはそんなさやかの様子に目がくれることもなく、傷が塞がったから動けるようになったのか、まどかの腕の中で蠢くように体を揺らす。

 

「んーまぁ僕にとってはさほど重要なものではないんだけど、マミと話すにあたって言語は便利だからね。」

「……………ねぇ、あなたがわたしを呼んだの?」

「…………まどか?呼ばれたとは、コイツになのか?」

「う、うん。お見舞いの品を探している時に急に、頭の中に声が響いて………。」

「いわゆる、テレパシーとかいう奴か。それで、お前がまどかを呼んだのか?」

 

まどかの言葉にさやかは一瞬だけ彼女に視線を向けると僅かに眉をひそめながらキュウべぇに視線を戻し、問いかける。

 

「そうだよ。鹿目まどか。そして、美樹さやか。」

「何故呼んだ?そのせいで彼女は危うく危険な目に遭わされるところだった。」

「彼女には素質があるんだよ。それは君にも当てはまることだけど。」

「素質?一体何のーーーー」

「魔法少女だよ。僕はそのために君たちを呼んだんだ。だからーー」

 

キュウべぇはそういうとまどかの顔を見上げながらその紅い瞳を閉じながら、さながら人間でいう笑みのようなものを浮かべながら彼女に言葉を投げかける。

 

「僕と契約して、魔法少女になってほしいんだ。」

 

「私達が…………。」

「魔法少女に…………!?」

 

突然振って降りてきたような魔法少女への催促にさやかとまどかは困惑と驚きが入り混じったような顔を上げることしかできなかった。

 

「…………いきなりそんなこと言われても分からないわよね?」

「何であれ、話が唐突すぎる。ただでさえ魔女という存在ですら自分の中でうまく飲み込めていない上に私達に魔法少女への適性があるだと?そんなことを言われてもすぐに答えを出せる訳がない。」

 

マミの言葉にさやかは腰に手を当てながら肩を竦め、驚きを通り越して呆れているような態度をとる。

 

「あの、わたし達、魔法少女になれるんですか?」

「キュゥべえに選ばれた以上、その資格はあるわ。」

 

まどかがその魔法少女の資格に関する話に興味があるような口調でマミに尋ねる。

その言葉にマミは頷きながらキュゥべえに選ばれたということは魔法少女になることができると説明した。

つまり、今まで小説やテレビの中でしか存在しないはずだったファンタジーの魔法そのものが使えると言うことだ。

まどかはそのマミの言葉に憧れていたことがついにできるのか、という感動しているように晴れやかな顔を浮かべる。

 

「よかったら、二人ともウチによっていかない?色々と話したいこともあるし………。」

「…………いいのか?友人であればともかく私達はまだ出会ってすぐだが。」

「ええ、もちろん。さっきも言ったけどいろいろと話したいことがあるから、ね。」

「は、はい………だったら、お言葉に甘えて…………。さやかちゃんも行くよね?」

「…………わかった。私も甘えさせてもらおう。」

 

マミの誘いに二人は頷く姿勢を示す。その様子が嬉しかったのか、マミはどこか軽やかな足取りで二人を引き連れて自宅へと先導するのだった。

 

 

時刻は既に夕暮れに近くなり太陽がオレンジ色に輝いている中、ショッピングモールから離れてしばらくするととある一角のマンションに辿り着く。

そのマンションのエレベーターに乗り、それなりに高い階層で降りると廊下を進んでいく。

そしてマミがとある部屋の扉で足を止める。おそらく、そこが彼女の自室なのだろう。

その証拠に彼女は学校のカバンから鍵を取り出し、部屋の鍵を開ける音を辺りに響かせる。

 

「どうぞ。」

「お、お邪魔しまーす…………。」

「邪魔をする…………。ん?」

 

マミに促されるように部屋へと入ったまどかとさやか。まどかはマミが見滝原中学の三年、つまるところ先輩の家に上り込むことに緊張しているのか、少しばかり震えた声で落ち着かない様子で部屋へと上がる。

対するさやかはさほど緊張はしていなかったが、ふとあることが目に付いた。

それは部屋に入ってすぐのところ、さやか達が立っている玄関だ。

部屋に入るにはまず靴を脱ぐ。そのため靴を脱ごうとしたのだが、そこでさやかは違和感を感じとる。

 

(靴の数が少なすぎる…………。)

 

さやかが見下ろした玄関の床には先に部屋に上がったまどかが脱いだローファー以外には靴が()()もなかったのだ。少なからず父親や母親の靴が普通はあるはずだが、マミの家にはそれらしきものが一つたりとも見当たらない。

 

「美樹さん?どうかしたかしら?」

「……………いや、なんでもない。」

 

マミに不思議そうな顔をしながら声をかけられたさやかはひとまず考えるのを打ち止めにし、先行くまどかの後を追うために同じように靴を脱ぎ、まどかの後をついていく。

フローリングの短い廊下を歩くと壁の一面がガラスででき、マンションの外の風景を一望できる豪華な内装の部屋がさやか達を出迎える。

 

「…………素敵なお部屋…………。」

 

マミの部屋の内装、そしてそこから望める景色の雄大さに圧倒されているのか、まどかは感嘆といった声を上げる。しかし、さやかはそこでも違和感を感じとる。

 

(…………人の気配がしない。両親は共働きでもしているのか?)

 

感じた違和感、それは人の気配がないこと。明らかにマミ一人で過ごすには広すぎるその空間にさやかは彼女の両親が共働きをしているという推察を立てる。

 

「一人暮らしだから、遠慮しないで。ろくにおもてなしの準備もできないのだけど…………。」

「一人暮らし………なのか?」

「え、ええ。そうだけど…………?」

 

一人暮らしという単語に反応したのか、さやかはマミに驚いた表情と目を見開きながら彼女を見つめる。

そのことに少しびっくりしたのか、マミは僅かに声を詰まらせながら頷いた。

 

(…………あまりいい予感はしないな…………)

 

両親がいない一人暮らし、そしてその割には広すぎる部屋。さやかの中でピースがはまりはじめる。しかし、それは嫌な予感のパズルであり、決してさやかにとっては完成して欲しくないジグソーパズルであった。

 

「今、お茶とケーキを用意するからそこに座って待っていてね。」

 

おもてなしをするために一度キッチンに向かった彼女の言葉に従い、さやかとまどかは言われたとおりに三角形の形をしたテーブルの側に腰を下ろした。

しばらくするとトレーの上にカップとケーキを乗せたマミがキッチンから戻り、二人の前のテーブルそのカップとケーキを置いた。カップから紅茶が湯気を上げ、ケーキは一目見ただけでその美味しさがわかりそうなほど色合いが綺麗な一品であった。

さやかがフォークを片手にそのケーキを切り分け、それをフォークで刺して、口に運ぶ。

たちまち口の中でケーキの甘さがほのかに広がっていき、さやかの舌鼓を打った。

 

「ん………うまい。」

「そう?口にあったのなら良かったわ。」

 

さやかが感想を述べるとマミは嬉しそうに表情を綻ばせる。しかし、それの表情も長くは続かず、さやかがケーキを咀嚼し、飲み込んだのを見計らい、話し始める。その顔付きはどこか険しいものであった。ちょうどマミの後ろに夕暮れの陽があり、彼女の顔に影が差し込んだのが余計にその様子を顕著に際立たせる。

 

「まずはどこから話そうかしら………まず一番大切なこととして、キュゥべえに選ばれた以上あなたたちにとって、それは他人事じゃないの。」

「………あんな趣味の悪いものを見せられて他人事でいられる方が難しいと思うのだが………。」

「う、うん。あんなの忘れたくても忘れられないよ………。」

 

遠い目をしながらのさやかの言葉にまどかはうんうんと頷きながら同意の意を示した。

その様子にマミは苦い笑いを禁じ得ず、僅かにフフッと声を漏らした。

 

「順を追って説明するわね。改めまして、私の名前は巴 マミ。あなたたちと同じ見滝原中学の生徒で三年生。そしてキュゥべえと契約した魔法少女よ。」

「美樹さやかだ。見滝原中学の二年生。言いそびれていたが、助けてくれてありがとう。あのままでは魔女の手下に何をされるかわからなかった。」

「お、同じく二年の鹿目まどかです。あの、ありがとうございました。」

「いいのよ、魔女の結界に何も知らない人が巻き込まれるのはなにも珍しいことじゃないから………。」

 

さやかとまどかの礼にマミは気にしなくていいというように手を自身の顔の前で横に振る。

その後マミは制服のポケットから何かを取り出すと、さやか達からはその手の中身が見えないように逆の手で覆いながらテーブルの上に置く。

 

「話を戻すわね。これはソウルジェムっていうものなんだけどーー」

 

そう言いながらマミは覆っていた手をどかすと金色の装飾が施された黄色に近いオレンジ色の宝石がその身を表す。

その宝石が彼女が変身する直前に持っていた宝石そのものだった。

 

「わぁ………綺麗…………。」

 

そのソウルジェムの輝きにまどかは珍しいものを見ているかのような目線でソウルジェムを見つめる。

 

「これが、いわゆる変身アイテムというものか?」

「ええ、そのような解釈でいいわ。このソウルジェムはキュゥべえに選ばれた女の子が契約によって生み出す宝石よ。魔力の源でもあるし、何より、魔法少女としての証でもあるの。」

「そうか………そういえば、先ほどから契約という言葉を使っているが、契約と銘を打つ以上、貴方とキュゥべえの間でなんらかの取引が行われているという認識でいいのか?」

「僕は君たちの願い事をなんでも一つ叶えてあげる。それこそなんだって構わない。奇跡だって起こしてあげるよ。」

「ね、願い事を、なんでも………!?」

「奇跡、か。それこそ某こすったランプから現れる魔人の童話のようなものなのか?」

「君が想像しているのがなんなのかは知らないけど、仮にそれが願いを叶えるのであればその認識でもいいと思うよ。」

 

契約してくれれば願い事をなんでも一つ叶えてくれる。その夢のような取引にまどかは驚き、さやかはパッと思いついた類似する物語を例に挙げる。

 

「そうか。願い事に関してのイメージは掴んだ。そうなるとその願い事を叶えるという契約の代価として産み出されるのがソウルジェムなのか?」

「そうだよ。でも、ソウルジェムを手にした者は魔女と戦う運命を課せられるんだ。」

 

魔女と戦う運命を課されるということにまどかは暗い表情を浮かべ、顔を俯かせる。変わらない日常を過ごしていたはずが、突然魔女と呼ばれる超常的な存在と戦えと言われてはい、そうですかと二つ返事で動けるほど人間はできていない。

さやかはそんなまどかの様子を視界に収めながら話を進めるためにマミとキュウべぇに視線を向ける。

 

「魔女、か。マミ先輩から魔女とは人類に仇をなす者という大まかな概要しか聞いていないから詳しい説明が欲しいところだな。そもそも魔女とは一体なんだ?なぜ人を襲う?」

「そうだね。まずはそこから話しておこうか。魔法少女が願いから産まれるとすれば魔女とは呪いから産まれる存在なんだ。」

「呪い、か。概念が具現化した存在、ということか?」

「ある意味はそうかもしれないね。魔法少女が希望を振りまくなら魔女は絶望を撒き散らす。しかも普通の人の目には見えないからなおさらタチが悪い。」

(………つまり、向こう側からは襲い放題というわけか。確かにタチが悪いな。)

 

キュウべぇの言葉にさやかが納得といった顔を浮かべている話は次の段階に移行する。

 

「魔女は人間の不安や猜疑心、過剰な怒りや憎しみ、そういった(わざわい)の種を世界中にもたらしているんだ。」

「理由のはっきりしない自殺や殺人事件はかなりの確率で魔女の呪いが原因なのよ。形のない悪意となって、人々の心を蝕んでいくの。」

「結界の内部も趣味が悪ければその手法も趣味が悪いな。」

 

自身はそのきっかけを与えるだけであとはその呪いをかけられた人間が勝手に自らを死に追いやっていく。その手法のいやらしさにさやかは表情を歪め、嫌悪感を露わにする。

 

「マミさんは、そんな危険なものと戦っているんですか?」

「……………ええ、そうね。文字通り命がけよ。だから貴方達も、慎重に選んだ方がいい。」

「…………当たり前だな、その時の気分でその後の人生まで決定づけられるほど、楽天家でいるつもりはない。その契約は余程のことを、それこそ奇跡と呼ばれるほどの願いでなければ、釣り合わない。」

「…………それってマミさんも、どうしても叶えたい願いが、あったってことですよね?」

 

さやかが険しい表情を浮かべながら言った言葉で気づいたのか、まどかはマミに彼女が魔法少女になった時の願いを尋ねた。それこそ、彼女にとってはあくまで参考のようなものになればいい。それくらいのもので尋ねたのだろうがーーー

 

「…………ええ、あったわ。」

 

マミはその質問に辛そうな表情を浮かべながら願いがあったことだけを伝え、内容まで口にすることはなかった。その顔はその願い事に関して彼女があまり口にしたくないことをさやかは如実に感じ取っていた。

 

「…………まどか。願いというのは誰しも大々的に言えるものではない。それこそ、他人から見ればどうということはないにしても本人からすれば叶えたいがあまり他人には言いふらしたくない願いだってある。ましてや、願いなど、ひょんなことに応じて変わるものだ。まどかだってなにか食べたいものがあったとしよう。それも願いに該当すると思うが、食べたいものなどその時の気分や状況によって変わる。つまり、不変性などどこにもないんだ。」

「あう…………ご、ごめんなさい!!わたし、マミさんの気を悪くするために言ったわけじゃないんです!!」

「………ううん、大丈夫よ。鹿目さんがそんなつもりで言ったわけじゃないのはわかっていたから。でも、少なくとも私の願いを参考にするのはやめておいた方がいいわ。」

「…………そう、ですか。」

 

マミの言葉にまどかはどこか反省しているように背中を縮こませながら顔を俯かせる。さやかはそのまどかの背中を優しくさすると、別の話題を切り出す。

 

「別の質問をしたいのだが、暁美ほむら………ショッピングモールで貴方が退かせた人物のことなのだが、彼女も魔法少女なのか?」

 

ソウルジェムや契約に関しての質問からさやかは先ほどショッピングモールでまどか、というよりキュゥべえを襲ってきたクラスメート、暁美ほむらについて尋ねることにした。

 




感想とかくれると嬉しいです………


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第5話 暁美ほむらという少女

キュウべぇの口調全然分からん…………

あ、それはそれとして今回結構ギリギリを攻めている気がします。
それとこのふたりはどうしてもくっついてほしかった(泣)
そんな感じの欲望が詰まった第5話、楽しんでください。


「暁美ほむら………それが彼女の名前なのね?」

「ああ。どういう訳なのかは分からないが、私がまどかのところに駆けつけた時、彼女はキュゥべえを標的としているようだった。貴方の方で何か理由みたいなのを推察できないか?」

 

さやかの言うキュゥべえを襲った暁美ほむら、彼女に関して質問されたマミは少し考えるような仕草を見せる。

 

「質問に一つずつ答えると、まず彼女は間違いなく魔法少女ね。それもかなり強い力を持っているみたい。」

「…………となると、一応彼女も同じ魔女を相手にしている、仲間のようなものではないのか?貴方がショッピングモールで彼女を挑発するような言動をとった理由、そして私達まで巻き込みかねないという発言の真意も不透明になってくる。あれはまるで二人がこれから戦う可能性を暗示していたみたいだ。」

「た、確かに………ほむらちゃんも魔法少女だとすれば………あんなに二人が険悪な雰囲気を出す必要もないし………。」

「えーと、これは二つ目の質問にも関わってくるのだけど、キュゥべえを狙ったのは十中八九、魔法少女をこれ以上産み出させないことだと思うわ。」

 

マミの言葉にさやかは眉をひそめ、怪訝な表情を浮かべる。キュゥべえによる魔女の説明の中に『禍の種を世界中に撒いている』という趣旨の言葉があった。つまりこれは世界中に魔女が点在しているということと同義であり、対応するためにはどうやってもかなりの数の魔法少女がいないと現実的にも厳しいからだ。

それにもかかわらず魔法少女の数を増やさせない理由………。

何か別ベクトルからの理由があるのは明白だろう。しかし、魔女に関しての知識が足りない以上、さやかが推察をするのはこれ以上は無理だろう。

そう考えたさやかはおとなしくマミの言葉を待つことにした。

 

「実は、魔女を倒せばそれなりの見返りがあるの。だから時と場合によっては手柄の取り合いになってぶつかり合ってしまうこともあるの。」

「そ、そんな…………。どうしてそんなことになるんですか………!?みんなで分け合ったらーーーー」

「………分け合うなどという綺麗事で済むのであれば戦いなんか起こらないさ。大方、その見返りそのものが少ないか、あるいは前提条件として分け合うこと自体できない代物、その程度のものなのだろう。」

「………そうね、ある意味その程度のものなのかもしれないわね。」

 

さやかが難しい顔を浮かべながら発した言葉にマミが同調するような声を上げる。

まどかは魔法少女のマミ、そして友人であるさやかから否定的な意見が挙げられてしまったことに口を閉ざし、俯くように視線を落とした。

 

「…………ん?そういえば、魔法少女の素質というのは、キュゥべえにしか判別ができないのか?」

「………え、ええ………そうだけど………?まぁ、キュゥべえが見えているようなら私でも察せられるけど………それ以外だとちょっと………。」

 

さやかの唐突な質問にマミは疑問気に、そして口調がしどろもどろになりながらも答えた。

その答えにさやかは考え込むような仕草を見せると程なくしてマミに視線を戻した。

 

「…………わかった。ありがとう。」

 

そのさやかの様子にマミは首をかしげるだけでその意図まで察することはできなかった。

 

「そう?ならいいのだけど…………ひとまず、こっちからの説明は大体終わったのだけど、何か他に質問はあるかしら?」

「ない、というより貴方の説明自体も理解はできたのだが、魔女そのものが常識の範疇の存在ではないから、質問が思い浮かばないのが正直なところだ。」

「なるほどね………。それなら提案なんだけど。二人とも、しばらく私の魔女退治に付き合ってみない?」

「ええッ!?」

 

マミの提案にまどかは目を見開いて驚き、さやかは眉を潜め、無言のまま難しい表情をマミを向ける。

 

「もちろん、無理にとは言わないわ。ただ実際魔女との戦いがどういうものか、その目で確かめてみるといいわ。その上で危険を冒してまで叶えたい願いがあるのかどうか、考えてみるべきだと思うわ。」

「…………確かに百聞は一見にしかずなどということわざもある。実際見たほうが結論も早く出るだろう。まどかはどうする?彼女の言う通り、無理はしない方がいいが………。」

「……………ううん、わたしもマミさんの魔女退治に付き合いたい。さやかちゃんの言う通り、まずは見てみることも大事だと思うから。」

 

まどかのその表情は険しいものながらも自分自身の意志で決めたことを感じさせる。さやかはそのまどかの表情に僅かに顔を緩めながらもすぐに引き締め、マミに再び視線を合わせる。

 

「そう言うわけで、よろしく頼む。だが、絶対に約束してほしいことがある。」

「ええ、もちろんわかっているわ。二人の安全は私が確実に保証するわ。もっとも口約束だから貴方からすれば安心はできないと思うけど…………。」

「…………わかってくれているのなら私から特に言うことはない。」

 

マミの申し訳なさげな表情にさやかは笑みを浮かべることで彼女を信頼していることを表す。

そこで話は打ち切りとなり、さやかとまどかはマミの住むマンションを後にした。

 

「…………なんだか、今日は大変だったね。」

「ああ。今日だけで世界が広がった気分だ。魔女の存在にそれに対抗するための魔法少女。そして、キュゥべえとか言う正体がよくわからない生き物。」

「た、確かにキュゥべえはよくわからないけど………。そんなに悪いようには見えなかったけど………。」

 

マミの住むマンションから各々の自宅の帰路についている途中、今日のことを振り返りながら、さやかが未だにキュゥべえのことをよくわからない生き物と評していることに苦笑いを浮かべるまどか。

 

「…………これがあまり冗談抜きの話なんだ。正直なところ、私個人としてはキュゥべえを信頼していない。」

「え………!?どうして………!?」

「…………すまない。こればかりは勘に近いものだ。本能的なものと言っても過言ではない。」

 

キュゥべえを信頼できない。このさやかの言葉にまどかは意外と思っている目線をさやかに向ける。少なくともキュゥべえの印象が悪くなるようなことはなかった筈だ。

それにもかかわらず、悩ましげに髪を掻き分けながら、まるで自分でも理由が分からずにキュゥべえを信頼していないと言っているようなさやかに、まどかは困惑の表情を浮かべることしかできなかった。

 

「あ、もしかしてマミさんへの質問の訳を言わなかったのもキュゥべえを信頼してなかったから?」

「まぁ、そうなるな。そもそも推察の域を出ないと言うのもあったが。少なくとも下手に情報を与えたくなかった。」

「…………その理由、わたしだったら大丈夫だよね?言っても。」

「もちろんだ。何しろ君のことでもあるのだからな。」

 

まどかの言葉、そして真剣味な表情にさやかは前から言われずともまどかに伝えるつもりだったのだが頷きを示さざるを得なかった。

 

「まず、マミ先輩から聞いたことを簡単に言えば、魔法少女の素質は方法はないわけではないが基本的にはキュゥべえにしか測れないそうだ。」

「うんうん。」

 

歩きながらまどかが頷いている様子を視界の端に収めながらさやかは話しを続ける。

 

「そして、まどかは今回キュウべぇとはショッピングモールで初めて邂逅した。だが、ほむらはそれより前には既にまどかに目をかけていた。多分、教室でまずはじめにまどかのことを見ていたことから鑑みてそう判断していいだろう。さらにはこの前まどかが言っていたほむらの会話との内容。『今までと違う自分になるのはやめろ。』仮にこの言葉が魔法少女になることを暗示しているのであれば、彼女はまどかに適性があるのを前々から知っていたことになる。」

 

「ならば一体彼女はどこでまどかに魔法少女の適性があることを知った?」

 

「え、あ………ホントだ。キュゥべえから聞かされたのならともかく、ほむらちゃんと初めて会ったのはキュゥべえに会うより前だし………。」

「ただでさえ謎の多い彼女なのに、さらに謎が深まってしまったな………なにやら私にも因縁?みたいなものがあるみたいだしな………。」

「え?そうなの?」

 

悩ましげに唸るさやかが何気なく呟いた言葉にまどかが驚いたような表情をあげる。

 

「ああ。自己紹介の時、私を見たとき僅かにだが驚いたような表情を浮かべた。もっともその表情自体も一瞬だった上に見間違いの線も否めないがな。」

「でも…………さやかちゃんは完全に初対面だよね?わたしみたいに夢であったなんてこともないし。」

「そのはずなのだが…………。」

「…………うーん、考えれば考えるほどほむらちゃんが一体何者なのか不思議になってくる………。」

 

暁美ほむらという少女に考察を考えれば考えるほど彼女に対しての不思議の度合いが高まってしまい、さやかとまどかは少々困惑気味な声を上げてしまう。

 

「…………まぁ、答えは彼女が持っているのは事実だ。明日学校で頃合いを見て聞いてみるのもいいだろう。もっとも彼女がすんなり口を開いてくれるとは思えないが。」

「あはは………ほむらちゃんに睨まれそう…………。」

 

ほむらのその様子が想像に難くなかったのか、乾いた笑いを浮かべるまどかにつられしまうようにさやかも軽く口角を上げてしまう。

そこから先はお互い他愛もない話をしながら帰路を歩く。ほどなくして二人の帰る道が分かれる交差点に差し掛かる。

 

「私はこっちだ。帰り道、気をつけるんだぞ。まどか。」

「うん!さやかちゃんも気をつけて!」

 

そう言いながら手を大きくあげるまどかにさやかは軽く手を挙げることで返すと、信号が青を示している間に横断歩道を渡っていく。

 

「さて、帰るか。」

 

さやかは鞄を担ぎ直すと自宅に向かって歩き始める。いつもより帰りが遅くなったせいか道路の道沿いでは街灯が点きはじめていた。

 

「………少し走るか。母さんは別段怒りはしないと思うが、急いだ体を装うとするか。」

 

そういうとさやかは意気込むように再度鞄を担ぎ直し、走り始めた。現在地点から家までそれなりの距離があったが、さやかは別段息を切らすことなく家へとたどり着いた。

 

(………別段、肉体改造をしたわけではないが、自分が思っている以上に体力があることには些か驚いたな…………)

 

そう思いながら、さやかは家の玄関の扉を開けはなつ。

 

「母さん、ただいま。」

「おー、帰ったかー。意外と遅かったな。」

 

家にいるはずの母親から返ってくると思って発した挨拶は全く違う男性の声で返された。そのことにさやかは驚きの表情を浮かべながら靴を脱ぐために下ろしていた視線を声のした方向に向ける。

 

「な、なんだ…………帰ってきていたのなら言ってくれないか、()()()。母さんには連絡していたのか?」

「おいおい、お前はサプライズってもんを知らねーのか?久しぶりに帰ってきた父さんに飛びついてきたりしないもんかねー。ちなみにあらかじめ母さんには伝えてあるからそこら辺は問題ねぇーよ。」

「そうか。ならいいのだが、私はもう中学生だ。もう子供ではない。流石に父親に飛びつくのは勘弁させてほしいのだが。」

「んなこと言っても俺からすればいくつになってもお前は俺の娘であり、子供だよ。」

 

そういいながらおどけたような、ニヒルな笑みを浮かべるさやかの父親である美樹 眞一郎(みき しんいちろう)にさやかは呆れたようなため息をつく。

ちなみに彼はクレー射撃の名手であり、基本は世界中を飛び回っている中々名が売れている人間だ。

つまるところ、某五色に彩られた五つの輪っかがパーソナルマークの大会にも普通に出れるレベルのプレーヤーだ。

 

「それで、競技の方はどうなんだ?まだシーズンオフにしては早かったような気がするが………。」

「ま、それはそれよ。たまには休んでおかねぇと疲れちまうもんさ。」

「要するにサボりか。」

「おまッ!?少しは言葉を選びやがれ!休むのも練習のうちなんだよ!!」

 

白い目を向けられながらさやかに言われた言葉に眞一郎は声を荒げながら彼女を鋭い目つきで見つめる。

 

「ほーら、貴方ももうそこまでにしなさい。お夕飯が冷めちゃうわよー。さやかもせっかくお父さんが帰ってきたんだから、そこまでいじめないであげて。」

「………それもそうだな。」

「い、いじめ…………俺は自分の子供にいじめられるタマなのかよ………。」

 

そんな二人の間に声を入れたのはさやかの母親である美樹 理多奈(みき りたな)だ。

優しげな声色で静止の声をかけられた二人はひとまず会話を打ち止め、彼女の作った手料理にありつこうとする。

 

「お前ホントに中学生かよ………まぁ、手のかからねえことに越したことはないんだけどさ…………。」

「他人より少しばかり大人びているのは自覚はしている。」

「………そうか。だがな、無理とかはすんなよ。お前が傷ついて悲しむのは母さんだけじゃないんだからな。」

「わかっているさ。そこまで親不孝者には堕ちないつもりだ。」

 

自身の父親が心配しているということにさやかは先ほどまで向けていた白い目から柔らかなものに変えながらそう返した。

 

「…………ま、その様子なら大丈夫そうだな。でも何かあったら絶対言えよ。」

「私も父さんもいつでも貴方の味方だから、ね?」

「…………ああ。」

 

両親からの心配と同時に感じる確かな愛情にさやかは自然と表情を綻ばせるのだった。

 

 

 

(さて、と。今日は放課後に恭介の見舞いにでも行くとしよう。)

 

 

次の日の朝、家を出たさやかは放課後に恭介のお見舞いに行くことを決めながら学校への通学路を歩く。しばらくは一人で歩いていたが、桜並木がまだ花を咲かせ、小川のせせらぎが聞こえる公園のような場所を歩いていると視線の先で仁美が待っているのが見えた。

 

「仁美、おはよう。」

「ええ、おはようございます。美樹さん。」

 

お互い手を挙げて挨拶をするとさやかは彼女の隣に立ち、まだやってこないまどかを待つ。程なくしてまどかが急いでいる様子でやってくるのが見えた。

さやかはその彼女に手を振ろうとしてーーーその手を途中で固まらせた。

なぜなら彼女の肩にキュゥべえが乗っかっていたからだ。

 

「は?」

「二人とも、おはよう!!」

「鹿目さん、おはようございます。」

 

仁美とまどかは和やかな様子で挨拶を交わすが、さやかはこの場にキュウべぇがいることに困惑を隠せずに素っ頓狂な声を上げる。

 

「美樹さん?どうかなさいましたか?」

「……………い、いや、なんでも、ない…………。」

 

そのさやかの様子が不思議に思ったのか仁美が僅かに首をかしげるが、さやかはなんとか平静を保つことを意識しながら苦い顔をする。

明らかにさやかの様子はおかしかったが、彼女が大丈夫というのであれば、大丈夫なのだろうと判断し、仁美はそれ以上彼女に追及の声をあげなかった。

 

(あ、危なかった………仁美の様子からどうやらキュゥべえの姿は見えていないようだが………流石に突然目の前に現れるのは肝が冷える…………)

『あ、あはは………ごめんねさやかちゃん。朝起きたらキュゥべえが窓際にいてね………。』

「っ〜〜〜!?」

 

キュウべぇがいることにさやかはなんとか気持ちを落ち着かせようとするが、突如として頭の中に響いたまどかの声に思わず体を強張らせる。

 

「…………大丈夫なんですか?」

「ん………んんっ!!だ、大丈夫だ。本当に。ああ、大丈夫だ。」

「そ、そうでしたら、よろしいのですけど………。」

 

見過ごせないレベルのさやかの様子のおかしさに仁美は再度彼女に訝しげな目線を強めた状態で軽く問い詰めるも、咳払いと共に視線を晒され、さやかから静止の手が伸び、彼女の面前でストップの意味を示す。

 

『…………もうそんな魔法に片足を突っ込んだようなことができるのか?』

『う、うん。そうみたい…………』

『いやいや、今はまだ僕が間で中継しているだけだよ。でも内緒話をするには便利でしょ?』

『…………まぁ、否定はしない………。』

 

キュウべぇの言葉にひとまず納得したさやかは若干疲れたような目と苦い顔をまどかに向ける。

 

「あのー………先ほどからおふたりともしきりに目配せをしてますけど………?美樹さんの様子もなんだか変ですし………」

 

そう疑問気な声を上げる仁美にひとまずなんでもないと言おうとしたさやかだったが、それより先に仁美が何か閃いたような表情を浮かべる。

 

(…………いい予感がしない。)

 

その表情に直感的にそう感じるが、さやかの口が動くより先に仁美の頰が艶やかな赤みを帯びる。その様子はさながら他人の情事を覗いてしまったかのようなーーー

 

「ま、まさかお二人とも、既に目と目でわかり合う間柄ですのっ!?」

「待ってくれ仁美。お前は一体何をーーー」

「たった1日で、そこまで急接近だなんて!!昨日はあの後、いったい何がっ!?」

「ひ、仁美ちゃん………確かにいろんなことはあったんだけど…………。」

「でもいけませんわ、二人とも!!そんな、女の子同士でなんて…………!!」

 

さやかとまどかは暴走しかけている仁美をひとまず落ち着かせようと試みるが、彼女は止まる様子はかけらも見えずーーー

 

「禁断の、愛の形ですのよーーーーーッ!!!!」

 

そう言い残し、彼女は走り去ってしまった。残されたのは彼女が驚きのあまり落としていたのだろう、学校の鞄が哀愁漂うように佇んでいるだけだった。

 

「……………完全に誤解された。あの様子ではしばらくは面倒なことになるな。」

「う、うん…………。ど、どうしよう?」

「仁美も悪気があるわけではないのは明白だ。私達がそういう様子を見せなければ(ほとぼ)りもそのうち冷めるだろう」

 

脱兎のごとく走り去っていた仁美を目で追いかけながらさやかは彼女が置いてあった鞄を肩に担ぎ、彼女の後を追うように歩き始める。

そのさやかの後ろ姿をまどかも同じように追うようにその後をついていった。




さてさて、さっさん(刹那の愛称のせっさんとさやかちゃんが混ざった呼び名)が徐々に核心に近づいている中、物語に革新を起こせるのか。



PS 評価のバーに色が付いていてびっくりしました。評価を下さった方々には最大限の感謝を。ありがとうございます!!


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第6話 暁美ほむらは狼狽えない

タイトル見た貴方、もしかしたらこの話を見たらめっちゃ狼狽えているじゃねーかって思うかもしれないです。


『どうだい?二人とも、心の中で会話ができるって結構便利でしょ?』

『朝から散々な目にあったがな。』

『そ、それは置いておいて、まだ少し慣れないかな………。』

 

学校に登校に自分の席で落ち着いているところにキュゥべえから念話の利便性に関してのことを尋ねられるとさやかは白けた視線をまどかの肩に乗っかっているキュゥべえに向ける。

そんなさやかの声にまどかは僅かに苦い表情をしながらまだ念話に慣れていないのか、戸惑いの声をあげる。

 

『そんなのは慣れれば平気だよ。』

『そういうものなのか………?』

『でも、周りの人達から変な目で見られたりしないよね………?』

『たとえば?』

『お前が他の人間の目に見えないのであれば、私達から見ればお前に向けている目線もはたからみれば何も見えない場所を見ながら、相槌を打ったりしているということだ。』

『そういうことも含めてまどかと相談しながら慣れていってくれればと思うよ。』

『結局はこちら任せか。』

『そうなるね。』

 

キュゥべえの言葉にため息を吐いていると、教室にほむらが入ってくるのが視界に映った。

 

「あっ…………!!」

『…………来たか。』

 

現れたほむらにまどかは上ずった声をあげ、さやかは暇を持て余している雰囲気を醸し出しながら視線だけをほむらに向けていた。

教室に入ってきたほむらは最前列にある自身の席に荷物を置くや否や、まどかとさやかに険しい視線を向ける。もっとも正確に視線を追えば、その視線がキュゥべえに向けられていることをさやかは察した。

 

(キュゥべえ…………すっかりまどかに取り入ってしまったようね。やっぱりあの時にトドメを刺しておくべきだった。)

 

ほむらはまどかの周囲にキュゥべえが入り込んでしまったことを歯噛みするような表情を僅かに浮かべる。その悔しさが入り混じったような感情はその険しい表情を一層深めた。

 

『ど、どうしよう………こっちを見てる………。』

『…………そこまで懸念することはないだろう。今は彼女が何かしらの行動を取れば確実に他人の目に入る状況だ。迂闊に彼女が動く可能性は低いだろう。』

『ええ、そうでしょうね。美樹さんの言う通り、あの子が動くことはないと思うわ。』

 

ほむらがこの教室で何か事を起こすことはないと踏んでいると、別の人物の声が入り込む。声の感じにしてマミだろう。

 

『…………テレパシーは三年生の教室からも届くのか。』

『この程度の距離だったらなんてことないよ。』

 

突然響いてきたマミの声に顔には出さずに念話の声だけで驚いている様子を露わにするとキュウべぇがそんなことを言ってくる。

どうやらテレパシーの範囲自体はそれなりの広さがあるようだ。

 

『………まぁ、何か彼女が仕掛けてくるようであれば私が時間稼ぎにまわる。マミ先輩が来るまでの時間ぐらいはどうにかなるだろう。』

『もう、美樹さん。そんなこと言ってはダメよ。彼女だって魔法を使ってくるかもしれないんだから。そしたらあなたに勝ち目はないわ。無謀なことは絶対ダメ。いいわね。』

『そ、そうだよ!!さやかちゃんが怪我しちゃったら………わたし、ほむらちゃんになんて顔すればいいのか、わからなくなっちゃうよ………。』

(…………それもそうか。マミ先輩がマスケット銃を無数に出せるように彼女にもそれに準ずる魔法を持っているということになるのか。)

 

マミの忠告にまどかの消え入るような声にさやかは自身の発言を反省し、マミの言う通り、勝ち目などほとんどないことを察する。

 

『すまない、あまりにも考えなしだった。忘れてくれ。』

 

念話で二人にそう伝えるとちょうど学校のチャイムが鳴り響き、朝のHRの時間になったことが告げられる。程なくして担任の早乙女先生が教室に現れ、朝のHRが始められた。

さやかは少しばかり意識をほむらに向けながら授業を受けていたが、彼女が何かしらのアクションを起こす様子もなく、時間が流れていった。

 

(………結局、昼休みになったが、何事もなかったな。)

 

時刻は12時辺りを指し示し、生徒達が昼食の話題に花を咲かせる時間となった。結論から言えば、午前中にほむらがなんらかの行動を起こすことはなかった。

さやかは徐に立ち上がるとまどかの席に向かう。

 

「まどか、せっかく晴れているのだし、屋上で昼食を食べないか?」

「あ!いいね、それ!!仁美ちゃんも誘って行こうよ!!」

「…………まぁ、それもいいか。」

 

さやかは少しばかり考え込むような表情を浮かべるが、まどかの仁美を誘うという提案に賛同する。

少し考え込んだ理由には主に二つ理由があった。まず一つ目はまどかとさやかの二人でいれば、おそらく、というよりさやかの中では確実にほむらが現れると踏んでいた。

そんな敵か味方かよくわからない人物の前に仁美を同席させるのは少々気がすすまないのが正直なところであった。

しかし、午前中にしかけてこなかったのを鑑みて、まだほむらは良識のある人間であるのだと、さやかの中で推察はできていた。

ならばこそ、何も知らない第三者の仁美がいれば、人目を気にするほむらは何もできなくなるだろう。

そんな算段でさやかも仁美を誘おうとしたのだが……………。

 

「私は、陰からお二人のことを応援させて頂きますわーーーー!!」

 

誘うと声をかけたところで仁美はそんなことを言いながら走り去ってしまった。大方、朝の勘違いを未だに引きずっていたのだろう。さやかはこめかみに手を当てながら悩ましげな表情を浮かべる。

 

「や、やっぱり、まだ誤解されてたね…………。」

「はぁ…………仕方ない。今回は二人で屋上で食べるか。」

『マミ先輩。昼休みのところすまないのだが、屋上が見晴らせる場所からの監視を頼みたい。おそらくだが、暁美ほむらが姿をあらわす可能性が高い。』

『わかったわ。彼女のことは任せてちょうだい。』

 

さやかはため息をつきながらもすぐさま思考を切り替え、マミに援助を要請する念話を送った。彼女から了解の念話を聞き届けると、まどかと共に学校の屋上へと向かった。

 

 

 

「そういえば、唐突なのだがまどかは魔法少女になりたいのか?」

「え!?えーと……………どうだろう、正直、よくわからない、かな。」

 

屋上について、吹き流れる風を涼しげに感じながらさやかがまどかにそう聞いてみる。

さやか自身が言った通り、唐突なその質問にまどかはしどろもどろになりながらも自分の気持ちがよくわかっていないことを彼女に告げる。

 

「私も同じだ。なるにしても願いなどそう簡単に思い浮かばない。」

「うん………私も…………。」

「意外だなぁ。他の子は大抵二つ返事なんだけど。」

「……………確かに願いがなんでも叶うというのは魅力的だ。それこそ到底叶うはずもない願いでも叶えられるのであれば、その人間にとってはまさに天からの贈り物のように思えるだろう。だが、その一瞬の我欲の代償に人生の全てを戦いに費やせと言われれば二の足を踏むのが正直なところだ。」

「やっぱり命懸けってところで足が止まっちゃうよね…………。」

 

キュゥべえの言葉にさやかとまどかはお互いの顔を見合わせると意見の同意を示しているかのように頷きあった。

 

「しかし、なぜ私達なんだ?文字通り命をかけてでも叶えたい願いを持っている奴もいるはずだ。もっともお前にそう聞いてみたところで才能があったから程度の返答しかしないのだろうが。」

「全く持ってその通りだね。でも少し疑問だね。なんで自分でも分かりきっているような質問をしたんだい?」

「?…………お前が別の回答でも持っているという期待で言っただけだが。」

「…………あまり理解しがたいね。自分で結論を持っているにもかかわらずなおも質問を求めることに意味を持てない。」

(………………やはりあまりコイツは信頼できないな。対応から特に何も感じないが………。言いようのない不快感を感じる。)

 

キュゥべえから感じる不快感に何かしらの理由をつけたかったさやかだが、その思考は中断せざるを得ないことが起こる。

視界の端に映っていた屋上の出入り口からほむらが現れたのだった。

 

「あっ…………!!」

 

ほむらが現れたことにまどかは驚きと恐怖が入り混じったような声と表情で彼女に顔を向ける。さやかは予め予測は立てていたし、マミにもしものことを考えて監視を頼んでいたため、さほど動じることなくほむらに視線を向ける。

ただ、ほむらの目的が詳細は不明であるとはいえまどかにあるため、ひとまずまどかとほむらの間に割り込むように立った。

 

「……………昨日の続きか?」

「いいえ、そのつもりはないわ。」

 

険しい顔つきのさやかの質問にほむらはそう答えながら僅かに視線を斜めに右上に向ける。ちょうどその視線の先にはマミがいることがわかっていたさやかは彼女の存在がほむらにとって牽制になっていることを察する。

 

「そいつが鹿目まどかと接触する前にケリをつけたかったのだけど………今更それも手遅れだし。」

「そうか。ならば何の用だ?私達に顔を見られていたにもかかわらず、こうもノコノコと顔を出してくるということは何かあるのではないのか?」

「美樹さやか、貴方にはかけらも用はないわ。あるとすれば鹿目まどか、貴方よ。結局のところ、どうするの?あなたも魔法少女になるつもり?」

「わ、わたしは…………。」

 

ほむらの質問にまだはっきりと気持ちが固まっていないまどかは恐怖心からか不安気な様子で表情を強張らせてしまい、何も答えずじまいになる。

 

「……………魔法少女になるかどうか、決めるのはまどか自身だ。もちろん、その願いの代償を知らないわけではないが、お前にとやかく言われるようなことはないのではないか?」

「…………昨日の話、覚えてる?」

 

さやかの言葉を無視してほむらはまどかに話しかける。もっとも完全に無視できたわけでも無いようで、その言葉の端々にはさやかに対する怒りのようなものが含まれていたが。

 

「う、うん…………。」

「なら、いいわ。忠告が無駄にならないよう祈ってる。」

「っ…………ほむらちゃん!!」

 

まどかの質問に満足したのか、ほむらは踵を返して屋上から立ち去ろうとする。

そんな彼女の後ろ姿にまどかは突然声をあげた。さやかが急にまどかが声をあげたことに驚きを示し、ほむらはそのまどかの声に振り向いた。

 

「あ、あの、ほむらちゃんは、どんな願い事をして、魔法少女に………なったの?」

「……………。」

 

魔法少女にとって、契約の時に叶えた願いとは文字通り、命に代えてでも本人が叶えたいと思っていた、ある種のタブーに等しいものだ。そのタブーをまどかは飛び越えるどころか、本人に直接尋ねるというありえないことをしでかした。

そのことにさやかは表情を強張らせ、思わずほむらの方を見やる。

彼女の些細な挙動すら見逃さない勢いでほむらを見つめていたが、ほむらはこれといって動く様子を見せず、ただ無言でまどかを見つめる。

 

「あ…………。」

 

そのほむらの無言の圧力に気圧されたのか、まどかが一歩後ずさると、ほむらは再度踵を返し、校舎の中に消えていった。ほむらの背中を警戒しながら見つめていたさやかは彼女の後ろ姿が見えなくなったと判断すると緊張から解放されたからなのか、深く息を吐き出した。

 

「…………まどか。お前は地雷原でワルツでも踊るのが趣味なのか?」

「え、ええっ!?何でそんなひどい言い方するのっ!?」

 

そして最悪、ほむらを怒らせかねないまどかの発言と行動にさやかは冷や汗を流しながらそう言うのだった。

そのあと、マミから念話で午後の授業の時間が迫っていることが知らされると二人は焦った様子で昼食の弁当をかきこんで、バタバタと慌ただしい足取りで教室へと戻っていった。

 

(………………とはいえ、まどかのように少しは踏み込む勇気を持たなければ知れることも知らずに過ごしてしまうかもしれないな…………。)

 

教室に戻る道すがら、さやかはまどかが意を決してほむらの願いを直接聞きにいったその行動を見習おうとしていた。

 

 

 

 

 

「………………。」

 

時間が何事もなく進んでいき、時刻は気づけば放課後を指し示していた。ほむらは手早く荷物を整え、教室を後にしていた。

 

「…………暁美ほむら。」

 

そんな彼女の後ろから誰かが声をかける。ほむらはその声に振り向きながらその声をかけてきた人物に冷ややかな視線を向ける。

 

「貴方には用とかはないといったはずよ。美樹さやか。」

「お前には無くとも私にはあるんだな、これが。」

 

彼女に声をかけたのはさやかだった。鞄を肩にかけて空いた両腕を組んで佇んでいるさやかはほむらの言葉に僅かにおどけたような口調と口角を上げた顔でそう伝える。

その様子は僅かに癪に触ったのかほむらは眉を潜める表情を浮かべる。

 

「……………ふざけるのはこれきりにしておこう。これ以上は実弾が飛び出てきそうだ。」

「っ……………。聞こえていたの?」

「まぁ、な。おそらく魔女の結界が張られかけていたから撃てたのだろうが、あいにくとして私達のところはまだ普通の空間だったからな。流石に閉鎖環境で撃ってしまえば音が反響して嫌でも耳につく。そこから先は造作もない消去法だ。」

「…………私を警察にでも突き出す気?」

「硝煙反応がお前の服に残っているのであれば、お前を警察に突き出す証拠としては十分だ。しかし………早合点は良くないのだが、その程度であれば魔法でどうとでもなりそう、というのが正直なところだな。」

(……………この美樹さやか、思ってる以上に賢しいわね………。)

 

組んでいた腕を解き、軽く手のひらを上にしながら腕を上下させることでお手上げを示すさやかに対し、ほむらは目の前のさやかに変わらない異質感を抱いていた。

何もかもこれまでの『美樹さやか』とは違いすぎる。最初、顔を合わせた瞬間から感じ取っていた、その異質感。これまでの美樹さやかとは全く違う行動を取ることだってありえる。実際この状況もほむらにとっては初めてであった。

今までの美樹さやかであれば、ほむらのことをまどかをつけねらっている不審者と思い込み、前向きな感情を抱いていなかった。

故にこんな早い段階でほむらにまどかを連れ添わさせずに一人で対峙しにくることなど一度たりともなかった。

 

「……………それで?貴方は私に何の用なの?」

「応じてくれるのか?」

「気が変わっただけよ。さっさとしなさい。私にだっていつまでも時間があるわけではないもの。」

「そうか。ならお前の気が変わらないうちに質問させてもらおう。ああ、予め言っておくが、キュウべぇには念を押して来るなと言っておいた。お前の逆鱗に触れそうだったからな。」

「そう…………当然ね。もしアレがいたなら、すぐさま貴方をここで撃っていたところよ。」

「まぁ、私個人でも奴のことは信用していないのだが。」

(…………ちょっと待ちなさい。今、美樹さやかはなんていった?)

 

何気なく言ったさやかの言葉だったが、その言葉がこれまでポーカーフェイスを貫いていたほむらの心情を凄まじい勢いでかき乱していく。

幸か不幸か、その困惑度合いが顔には出ていなかったのか、さやかは気づいたような様子を見せずにほむらに質問を仕掛ける。

 

「では本題に入るが、お前はなぜそこまでまどかに契約をさせたくないのだ?何か、お前にとっての不都合なことでもあるのか?」

「え…………あ、う…………ん?」

 

満を持して放たれたさやかの質問だったが、ほむらはどこか上の空になっていたのか、言葉を詰まらせる。

流石のさやかも不審に思ったのか、表情を訝し気なものに変えた。

突然のアッパーカットを食らったような何気ないさやかの呟きに混乱気味のほむらに、その理由がわからずじまいで何かしてしまったのだろうかと首をかしげるさやか。

 

二人の心はものの見事にすれ違っていた。

 

 




ほむほむ「( ゚д゚) ((((;゚Д゚)))))))」
さっさん「(´・ω・`)」


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第7話 魔女の結界

せっさんって、刀剣関係の技術の他にエクバ2やってると蹴り技とか好きそう。


「………えっとだな、どうか、したか?」

 

ほむらにまどかを目にかける理由を問いただしたさやか。しかし、肝心の彼女は困惑気味にしどろもどろに単語を呟くだけでこれといった答えになるようなことは話さなかった。

彼女が明らかに狼狽している様子にさやかは眉を僅かに潜めながらほむらに声をかける。

声をかけられたほむらはさやかの訝し気な顔に気がついたのか、一瞬呆けた表情を浮かべると、すぐさま顔を逸らし、さやかの視線から逃れる。そしてゴホンと一つ咳払いをすると、先ほどまでのクールな顔立ちに戻った彼女が現れる。

苦笑いを禁じ得ないさやかにほむらはその艶がかった黒髪を左手で払うとーーー

 

「……………何かしら?」

「いや、取り繕おうとしても手遅れだろう。」

「……………………。」

 

ほむらはこの場を乗り切ろうとするように先ほどの醜態をなかったことにしようとしたが、さやかが気まずそうな表情を浮かべながら、もうどうしようもないことを指摘する。

その指摘を受けたほむらは一見すると無表情だが、よく見るとプルプルと肩を震わせ、若干恥ずかしがっている様子を見せた。

 

「………………で、なんだったかしら?」

「だからだな…………いや、わかった。私は何も見ていない。これでいいんだな?」

 

一瞬、ほむらをさらに追及しそうになったさやかだが、これ以上言ってもいたちごっこになるだけだと察したさやかは妥協点を瞬時に見出し、何も見なかったことで手を打つことにした。

 

「そう、賢明な判断ね。まだ何か言うようだったら、わりと危なかったわよ。」

(コイツ……………まぁ、いいか。)

 

ほむらの図々しさに頭を悩ませるさやかだったが、ひとまずほむらの醜態は頭の片隅に置いておくことにした。

 

「で、改めて質問なのだが、何故そこまでまどかを魔法少女にさせたくないのだ?何か訳ありなのだろう?」

「…………そうね。美樹さやか、あなたの言う通り、私は鹿目まどかをキュウべぇなんかと契約させるつもりなんてないわ。」

 

そのほむらの言葉は先ほどの醜態とは打って変わって溢れんばかりの感情が篭っているように感じた。それだけ彼女の語尾の節々に力強い意志のようなものをさやかは感じとった。

 

「…………お前が余程まどかを魔法少女にしたくないのはわかった。だが、それは私の質問の答えにはなっていない。答えてくれ。何がお前をそこまで駆り立てる。何かあの契約には私たちが知らない裏があるのか?」

「ッ……………」

 

さやかの真剣な面持ちから放たれる言葉にほむらはわずかに表情を強張らせる。

 

(……………ここで、話すべきなのかしら?この美樹さやかは今までとはまるで違う。こうしてまだ魔法少女にもなっていない状態の彼女と二人っきりで話すこともほとんどなかった。)

 

(ここで全部話してもいいかもしれない。この美樹さやかなら、真実を知ればまどかを魔法少女にさせることもないかもしれない。)

 

(でももし彼女から巴 マミにその真実が伝わったらどうなる?一度その真実を耳にした彼女は自暴自棄になって、心中を図った。何をするか、わからない…………。)

 

(今この時点で巴 マミを失うわけにはいかない。だからここは当たり障りのないことを言いましょう。)

 

 

「…………まどかには類稀な魔法少女の適性があるわ。それをキュゥべえに利用されたくないだけ。」

「あくまで彼女には平凡な日常を過ごしてほしい。そう言うんだな?」

「…………ええ。」

 

ほむらの言葉にさやかは考え込むような仕草をする。正直言ってほむらが何か隠し事をしているのはわかっていた。だが、ここで問い詰めたところで何か事態が良くなるとも限らなかった。最悪、ほむらの機嫌を損ねて、銃でも取り出されればさやかに勝ち目はない。

 

「……………わかった。今はそういうことにしておく。お前が明確な敵ではないことがはっきりしただけでも私としては安心しているからな。だが、いずれは話してほしい。」

「…………それは、約束はできないわ。」

「………そうか。お前にも事情があるのだろう。今は深く追及することはよしておく。」

 

いずれはその秘密を教えてほしいと頼んでみたものの、優れない表情を浮かべるほむらにさやかは残念そうな笑みをしながらも話は済んだというように彼女に背を向ける。

 

「……………最後に一つ、いいかしら?」

「なんだ?」

 

その背中にほむらは再度声を掛け、さやかを引き止める。さやかが振り向くとほむらは視線をそっぽに向けながら独り言を言うかのように呟き始める。

 

「できれば、貴方にも契約して欲しくないわ。貴方が契約すればまどかが悲しむから。」

「…………そうか。肝に銘じておく。ありがとう。」

 

ほむらからの忠告を受け取ったさやかはその場を後にした。残されたほむらはだんだん遠くなるさやかの背中を見つめていた。

 

「肝に銘じておいても貴方には上条恭介がいる以上、魔法少女になるのでしょうけど。」

 

そういったほむらの表情は無表情ながらもどこか悲しげな雰囲気を滲ませていた。

 

 

 

 

「あ、さやかちゃん!!」

 

ほむらとの会話を終えた後、昇降口で待たせていたまどかと共に帰ろうとする。

 

「すまない。少し時間をかけてしまった。」

「ううん。そんなことないよ。」

 

時間をかけてしまい、まどかを待たせてしまったことを謝るさやかに対して、まどかは首を横に振りながら気にしないでほしいことを伝える。

 

「それで君は暁美ほむらと何を話してきたんだい?」

 

その時唐突にまどかの肩に乗っかっていたキュゥべえがほむらの名前を口にする。そのことにまどかは驚いたような表情を浮かべ、さやかは僅かに鋭く細めた目をキュゥべえに向ける。

 

「…………ああ、そうだが?お前には特に来るなと念を押していたはずだが…………。」

「もちろん見てはいないよ。彼女はどうやら僕を目の敵にしているみたいだからね。でも僕は魔力を探知することで君たちの居場所を知ることができる。ちょうど君の近くにいたのが暁美ほむらだったから話しているのが彼女だと言ったんだよ。」

「キュゥべえって、すごいんだね…………。」

 

さやかが訝し気な視線を向けている中、まどかはキュウべぇに対して感嘆しているような声を上げる。

 

「…………ところでさやかちゃんはほむらちゃんとなにを話してきたの?」

「ん…………まぁ、他愛もないことだ。ただ彼女はどうも悪人ではないようだ。」

「そう、なの?」

「ああ。もっとも私からの言葉だけでは信用ができないだろうが、彼女にそう怖い顔をしないでやってくれ。」

「うーん…………さやかちゃんがそういうなら………。」

 

まどかが若干不安気にしながらもほむらに対する感情を改めてみることを言うとさやかは自身が思っていたより彼女からの信頼が高いことに驚いた。

 

「えっと、さやかちゃん?なんで意外そうな表情を浮かべているのかな?」

「…………いや、思っていたよりお前からの信用があるのだなと思って。」

「ひ、酷いよさやかちゃん!!わたしってそんな感じに思われていたの!?」

 

さやかに信用されていないと思われていたことにご立腹なのか、まどかは頰を膨らませながら抗議していることを露わにする。

彼女の機嫌を損ねてしまったことより、さやかはしばらくの間、まどかに謝り続けるのだった。

 

 

 

 

「ふぅ…………参った。まどかに謝り続けていたらこんな時間になってしまった。」

 

自虐的な笑みを浮かべながらさやかはとある病院に足を運んでいた。目的はもちろん、彼女の幼馴染みである上条恭介への見舞いのためだ。

ほむらとの会話とまどかに対する謝罪をしていたのも相まって日が沈みかけているが、予め彼の見舞いに行くとの連絡を母親にはしていたため、余程帰るのが遅くならないうちは大丈夫だろうと考えながらさやかは病室のドアを開ける。

 

 

「恭介、見舞いに来た。調子はどうだ?」

「さやか………いらっしゃい。調子は相変わらず、と言った感じかな。」

 

部屋に入ってきたさやかにベッドの上にいた恭介は笑みを浮かべながら彼女を出迎える。もっとも彼の笑顔はどことなく乾いたもののように感じられたが。

 

「…………そうか。」

 

恭介の様子に僅かに視線を逸らすさやかだったが、すぐさま元に戻すと隣に備え付けられてある椅子に腰かけた。しかし、座ったのはいいもののお互いかける言葉を失ってしまったのか、病室で気まずい空気が広がってしまう。

 

「…………えっとだな、果物を買ってきたんだが。食べるか?」

「え、そうなの?でも、病室に切るものはないよ?どうするの?」

 

恭介の言葉にさやかは手に下げていたビニール袋を弄ると中からリンゴを取り出した。

 

「切るものか?それなら…………。」

 

恭介の疑問に遅れながら答えるとさやかは今度は自身の鞄を弄り始める。ゴソゴソと手探りで漁っていると新聞紙で包まれたものが取り出される。

さやかがそのくるんでいる新聞紙を取り外すとーーーー

 

「包丁を持ってきた。「待って。」…………どうした?」

 

新聞紙を取り払った瞬間飛び出した包丁に思わず恭介は待ったをかける。さやかはその待ったに対し、怪訝な表情を浮かべる。

 

「いやいやいやいや、さやか、危ないから。一回しまおう、ね?」

「安心してほしい。ナイフの扱いには慣れている。」

 

そう言って笑顔を浮かべるさやかに恭介は思わず頭を抱えるような仕草をする。

はっきり言って、恭介は違う、そうじゃないって言いたかった。警察とか、看護師に見つかった時のアレがあるでしょう。

 

「……………ゴミはちゃんと持ち帰るが?」

「ああ、うん。もう、いっか。勿体無いし…………。」

 

首をキョトンと傾げながらそう尋ねると恭介は諦めた様子でさやかがカットしたリンゴを口にした。ちなみにさやかのナイフ捌き自体は特に問題なかった。普通にウサギの形に切ったりしていた。

 

「さて、お邪魔したな。私はそろそろ帰るよ。」

「うん。まぁ、その、ありがとう。」

 

包丁もちゃんと持ってきた時の新聞紙で包み、リンゴの皮もしまったさやかは鞄を担ぎ、病室を後にしようとする。出ようとしたときにさやかははにかむような笑みを浮かべているのに対して、恭介はさやかが入ってきた時とはまた違うベクトルの疲れたような乾いた笑みをしていた。

 

「……………恭介。お前はまだバイオリンを弾きたいと思っているか?」

 

さやかが病室を出ようとしたとき、彼に背を向けたままさやかが不意に話し始める。突然のさやかの言葉に恭介は呆けたような顔を浮かべる。

 

「急な質問だね…………。でも答えるなら、やっぱり弾きたいって思っているさ。でも、いくらリハビリを積んでも中々兆しが見えてこないのが正直なところだよ。」

「そうか、お前の指は確かに治りにくいのかもしれない。だが、それでも諦めないでほしい。お前の完治と再びバイオリンを弾く姿を見たいといつまでも願っている奴がここにいるからな。」

「さやか……………。」

 

恭介は驚いたような表情をさやかに向ける。その彼女は自分で言った言葉を恥ずかしいと感じているのか、僅かに頰をかく仕草を見せると病室から出て行った。

 

「………………らしくないことを言ったか?とはいえ、恭介の演奏をもう一度聴きたいと思っているのは、本心なのだが…………。」

 

病室をあとにしたさやかは微妙に唸るような表情を浮かべながら自宅への帰路についた。

 

 

 

 

 

「これがこの前の魔女が残して行った足跡よ。」

 

次の日、さやかとまどかはマミに連れ添う形で彼女の魔女退治に参加していた。学校が終わった放課後、日が沈み始めた時間帯から行われるそれははっきりいって自身の足で探していく地道なものだった。

その手法こそソウルジェムを使って魔女の痕跡を辿っていくものであるのが、尚更地道である。

 

「……………手がかりがソウルジェムから発せられる光の強弱だけというのは少々骨が折れそうだな。」

「まぁ、ね。基本的には自分の足頼みよ。こうして気配を辿って行って、居場所を突き止めていきましょう。でも、一晩経っているから痕跡自体も薄まってはいるわ。時間がかかるのはしょうがないかも………。」

「やっぱりすぐに追いかけていれば、倒せたんですか?」

「仮にそうだったとしても、貴方達を放っておいてまで優先することじゃなかったから………。」

「目先の利益より、今ある命を優先する、か。まるで貴方は正義の味方だな。」

「ふふ、ありがとう。」

 

 

さやかの言葉にマミが軽い笑みを浮かべながら先を行く。二人はそんなマミについていきながら見滝原の市街を練り歩いていく。

そして、時間にして小一時間が経ったところ、魔女の痕跡を追ってはいるが、未だ魔女が根城としているような場所にはたどり着かない。

 

「そういえば、魔女のいる場所におおよその目星は付けられないのか?それさえできれば、何も市街を隅から隅まで練り歩くようなことはないと思うのだが。」

「そうね………やっぱり魔女の呪いの影響で割と多いのは…………交通事故や傷害事件ね。人の負の感情を増幅させているからそう言ったことには枚挙がないわ。」

 

さやかの質問にマミがそう答えると彼女があとは、と付け加えながらさらに説明を続ける。

 

「あとは、自殺に向いていそうな人気のない場所。それから病院とかも取り憑かれると最悪ね。ただでさえ弱っている人から生命力が吸い上げられるから、目も当てられなくなるわ。」

「病院、か…………。」

「…………もしかして、上条君のこと?」

「…………そうだな。」

 

病院という単語にさやかは少しばかり不安そうに顔を俯かせる。まどかの言う通り、さやかは恭介が気がかりになっていた。仮に恭介のいる病院に魔女が取り憑いてしまったら、彼の身に何が起きるか、わからなかったからだ。

そして、ちょうどそのタイミングでマミのソウルジェムの輝きが一際強くなった。

 

「っ!?光が強くなった!?」

「かなり強い魔力の波動ね………ここから近いかも………。こっちよ!!」

 

マミに続くような形でさやか達も走っていくと一角の廃墟にたどり着く。一見すると何もないように感じるが…………。

 

(っ…………この感覚………ショッピングモールと同じものか…………!!それとこの感覚はなんだ…………悲しみ、無力感…………絶望?)

 

その廃墟に近づけば近づくほどさやかの体が鳥肌を立て始める。一度出くわしたのもあったのか、最初よりはひどくはなかったが、思わず表情を歪めざるを得ない。

 

「美樹さん、大丈夫?無理はしない方がーーーー」

「……………誰か、いるのか?」

「え…………!?」

 

様子のおかしいさやかにマミが心配そうに声をかける中、不意に彼女から呟かれた言葉。誰か、自分たち以外の人間がいるということにマミは一瞬呆けた顔を浮かべるがーーーー

 

「マミさん!!屋上に、人が!!!」

 

直後、悲鳴のようなまどかの声にマミは咄嗟に廃墟の屋上に視線を向ける。そこにはスーツ姿の女性が屋上の淵に立って、今にも飛び降りを図ろうとしている姿があった。

 

「ッ…………間に合わせるわ!!任せて!!」

 

マミはその女性を見るや否や瞬時に駆け出すとソウルジェムを掲げ、魔法少女の姿に変身する。ちょうどそのタイミングで屋上の女性が空中から身を投げ出した。

さやかとまどかが息を飲むような声をあげている中、マミは胸元で結んでいるリボンを解くと、そのリボンを振るう。

振るわれたリボンは光り輝きながら伸び始め、落下する女性の下で網目状に構築されていき、女性の体をクッションのように受け止めた。

落下スピードが完全になくなるとマミは女性を優しく地面に下ろし、横たわらせた。

 

「よし、もう大丈夫よ。」

 

マミが女性の救助を完了させるとさやかとまどかは安堵するように大きく息を吐きだした。

二人がひとまずほっとしている中、マミは女性の状態を確認する。

 

「ん?首筋のこれは…………?」

 

彼女の目には女性の首筋に刻まれたマークが写っていた。そのマークはさながら紋章のように女性の体に印づけられていた。首筋というのも相まって、さながらそれは口づけのような印象を受ける。

 

「『魔女の口づけ』…………やっぱりね。」

「…………それは、一体なんだ?」

「魔女の口づけは魔女に目をつけられると刻まれるマークのようなものよ。このマークがつけられた人は魔女に操られ、最終的には自殺や交通事故に駆り立てられるわ。」

「…………手早く仕留めなければ、また犠牲者が現れるということか。」

「そんな…………!!」

「…………そうね。美樹さんの言う通り、早く魔女を仕留めないと…………。でも、美樹さん、貴方大丈夫なの?」

 

まどかが悲痛な表情を上げている中、マミはさやかに再度心配そうな視線を向ける。さやかの様子は左手を右腕の二の腕に掴むように回し、さながら恐怖を押し殺しているようにも見受けられるからだ。

 

「…………前よりは良好だ。この前は震えが止まらなかったからな。何より、誘われたとはいえ、貴方についていくと言った手前、途中で私だけ安全圏に残っているわけにはいかないからな。」

「……………わかったわ。魔女の結界はこの建物にあるわ。」

 

さやかの覚悟を受け取ったのか、マミは険しい顔つきのまま建物に入っていく。さやか達もそれに続いていくと、階段の踊り場の壁に明らかにそれっぽい紋章があった。

 

「これが、結界への入り口よ。もう一度確認するけど、準備はいいかしら。」

「…………はいっ!!」

「こちらもだ。いつでも行ける。」

 

二人の頷く姿を見たマミは自身のソウルジェムをその紋章に掲げた。次の瞬間、眩い光が三人の視界を包み、その光が収まると、三人は奇天烈な空間のなかにいた。

 

「……………一度見たとはいえ、やはり気味の悪い空間だ。」

「だいたいの魔女の結界なんて、そんなものよ。」

「こんな空間がいくつもあるのか…………。」

「さやかちゃん、危ない!!」

 

魔女の結界についての感想を述べているとまどかの悲鳴が響く。ちょうどさやかにふわふわとした綿のような外見をした使い魔が手に持つ黒光りする剪定用のような鋏を打ち鳴らしながら近づいてきていたからだ。

 

「分かっている。あれだけ音を立てられれば嫌でも耳につく。」

 

まどかの声にさやかがそれだけ答えると、左脚で使い魔の持つ鋏を思い切り踏みつけ、動けなくする。

 

「はぁっ!!」

 

次の瞬間、踏みつけた左脚を軸にして、残った右脚で使い魔をサッカーボールのように思い切り蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた使い魔は数度バウンドしてようやく止まるが、そのタイミングでその綿のような体に何かが突き刺さった。

それは先ほどまで使い魔自身が持っていた鋏だった。鋏を踏みつけられた状態で蹴られたため、思わず落としてしまったのだろう。

そして、鋏が飛んできた先には右腕をまるで何か投げたあとのように不自然に上に上げているさやかがいた。

使い魔がその身を半透明な蝶のように変えて消えていくのを確認したさやかは鋏をぶん投げた腕をようやく下ろした。

 

「…………存外に使い魔自体は呆気ないのだな。」

「………美樹さん、貴方………意外と動けるのね。」

「さやかちゃん凄い……………。」

 

さやかの動きにマミは心底から驚いたような表情を浮かべ、まどかはそんなさやかを目を輝かせながら見つめていた。

 




投稿しない間に評価やお気に入りがめっちゃ増えていてびっくりしました。
他にも作品を三つくらい一緒に書いているため、投稿時間はまばらになると思いますが、よろしくお願いしますm(__)m


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第8話 薔薇園の魔女 ゲルトルート

…………途中までこの魔女退治体験コースにキュウべぇがいることを忘れてたわんたんめんなのでした(白目)


「えっと、あまり、無茶なことはしないでね?」

「ああ、わかっている。あれはたまたま一匹しかいなかったからやっただけだ。集団で来られれば、流石に貴方に任せる。」

「ならいいのだけど………。」

 

前回のさやかがやった使い魔を物理攻撃で吹っ飛ばしたことにマミは微妙な笑みを浮かべながら結界の内部を進んでいく。

もちろん、行手最中にも使い魔がポンポンと姿を現すが、マミが取り出したマスケット銃の前にその身を蝶々のようなエフェクトを散らしながら消滅していくのみであった。

 

「マミさんカッコいい…………!!」

「…………凄いな。あれから一度も外していない。」

「まぁ、ね。伊達に魔法少女を続けていないわ。」

 

まどかやさやかから尊敬の目で見られていることに少々鼻が高くなっているのか、陰湿な空気が漂う結界の中でも和やかな笑みを浮かべるマミ。

彼女のテンションがうなぎ登りになっている間にさやか達一行は魔女の結界を突き進んでいく。

魔女の結界の内部はおよそ、現実とは思えないような、浮いた構造物ばかりで形成されていた。

メンヘルな外見に付け加えられたおぞましささえ感じさせる雰囲気にあてられてしまえば、何も知らない人間は前回のさやかとまどかのように恐怖のあまりまともな行動ができなくなってしまうのが精々だろう。

 

しかし、今回の二人の側にはその空間を広げている元凶である魔女、その専門家であるマミがいる。彼女から感じる安心感は計り知れないだろう。

 

そのマミの先導でこれといった危険はなく、魔女の結界の奥に進んでいく。

その最中、不意にマミが足を止めた。急にマミが歩みを止めたことにさやかとまどかは不思議そうな顔しながらマミの様子を眺める。

 

「…………ここね。」

 

何か当たりをつけたようなマミが一見すると行き止まりのような壁に貼られたポスターのような絵に手を伸ばす。

そのポスターに手が触れると、そのポスターが貼られた壁は扉のように開き、先に道が続いていることを三人を示した。

 

「か、隠し扉か!?」

「魔女の結界というのは魔女が身を隠すために広がる空間なの。だから、身を隠すためにいくらかのギミックが施されてもおかしくはないの。」

 

さやかが驚いた様子でその扉に視線を向けていると、マミが結界についての簡単な説明をしてくれる。その説明に納得しているさやかとまどか。

 

そして、その隠し扉のような壁を三つほど潜り抜けていくと、突然ドームのように開けた空間が現れる。

出た場所がそもそも高い位置だったため、自然と目線を下に下ろすと、緑の丘のような地面には薔薇のような紅い花が咲き乱れていた。その周りにさやかが蹴り飛ばした剪定バサミのようなものを持った使い魔がそれなりの数で蠢いていた。

そして、何より目を見張るのが、その中心にいる()()

 

「あ、あれが、『魔女』…………!?」

 

まどかが無意識にそう言ってしまうのも無理はなかった。その物体は人より何倍もの巨体を有しており、そのピンク色の巨体の脚は無数もの青黒い触手で覆われており、それがウネウネと胎動を続けている。背には蝶々のような羽が生えており、何よりその魔女の頭部と思しき部分は溶けているかのようにドロドロと爛れており、そのドロドロの中から目を表しているのか、紅い薔薇が咲き乱れていた。

 

そのあまりにグロテスクでこの世のものとは思えない存在に、さやかも険しい表情を浮かべながら、冷や汗を流していた。

 

(あれが、『魔女』………なのか?どう見ても化け物か怪物の類に分類される存在ではないのか………!?)

 

さやかは魔女のあまりのインパクトに前提としてあの醜悪な化け物に魔女という呼称自体間違っているのではないかと思ってしまう。少なくとも、あの醜悪な見た目の怪物に女要素は微塵も感じられなかった。

 

(…………今は考えることでもないか、女要素がどこにあるかどうかなど。それよりもマミ先輩があの魔女と闘うのであれば、できる限り彼女の気が散らないようにしなくてはな…………。)

 

さやかがそのように考えていたところ、マミは胸元のリボンを解き、そのリボンに魔力を込めると、リボンは飛び降りを図った女性を救った時のような網目状となっていき、まどかとさやかを魔女のいる領域に立ち入れさせないように入り口を塞ぐ。

そしてマミはその網目状の壁の先に悠然と立っていた。

 

「二人はそこから出ないようにね。さっさと片付けてくるから。」

「マミ先輩、少し待ってほしい。」

 

マミが二人に忠告をし、今まさに飛び降りようとしたところにさやかが声をかける。

出鼻を挫かれたように前につんのめるが、マミがさやかの方を振り向いた。

 

「えっと、何かしら?」

「マスケット銃を一丁渡してほしい。」

「銃を…………?一体どうして………?」

 

さやかの突然の要求に困惑気味な表情を浮かべるマミ。さやかはそんなマミの様子を気にすることなく話を続ける。

 

「貴方が戦っている最中にこちらに魔女の使い魔が来ないとは限らない。だが、貴方のマスケット銃があれば、一発は危険を冒さずに身を守れる上にマスケット銃ほどの銃身が有ればそのまま物理攻撃に移ることもできる。要はこちらも身を守る手段ができるということだ。少なくともこちらを気にかける必要性がなくなり、幾分かは戦いやすくなるはずだ。」

 

さやかの言葉にマミは考え込むような仕草を見せる。しかし、その逡巡もわずかなもので、マミはベレー帽からマスケット銃を一丁取り出すと、結界の隙間からさやかに差し出した。

 

「…………貴方の言う通りかもね。私自身撃ったあとのマスケット銃で物理的な攻撃をしていないわけじゃないから。でも、さっきも言ったけど、無茶はしないこと。いいわね?」

「分かっている。一番はこれを使わずに済んでくれることだがな。」

「それもそうね。ならさっさと決めてくるわ!!」

 

差し出されたマスケット銃を受け取ったさやかにそう笑顔で返したマミは地面に危なげなく降り立った。

降り立ったマミは薔薇に囲まれている魔女を見据えると自身の周囲にマスケット銃を展開させる。

その自身で展開したマスケット銃を両手に一丁ずつ手にすると、即座に照準を合わせ、その引き金を引いた。

ショッピングモールで聞いた拳銃特有の乾いた破裂音とはまた違う、火薬がふんだんに使われているような爆発音が辺りに響く。

その銃口から吐き出された丸い弾丸は魔女を取り巻いていた綿状の使い魔を貫くと、使い魔はその体を蝶々に分裂させながら霧散する。

 

突然の来襲に魔女は驚いているのか、その醜悪な見た目をグネグネと揺らすだけで、反撃のような行動が取れないでいた。その間にマミは魔女の周囲にいる取り巻きをどんどんと撃ち貫いていく。

 

『ーーーーーー!!!!』

 

流石の魔女も取り巻きの使い魔がどんどん倒されていくことが看過できずに怒りに触ったのか、咆哮のような唸り声を挙げると、そばにあった自身の巨体よりさらに大きい椅子を持ち上げると、マミに向けて投げつける。

 

自身に放たれた大質量による攻撃をマミは熟れた様子でその場から離れることで避ける。

投げつけられた椅子は地面にぶつかると破砕音を辺りに響かせながら粉々に割れてしまった。

攻撃を避けたマミは次なる行動に移ろうとしたが、一瞬、目を見開くと自身の足元に視線を向ける。

そこには彼女の気付かない間に蔦のような触手が、彼女の脚と地面を縫い付けていた。

マミがその蔦を切断しようとするより早く、蔦が彼女の脚を吊り上げ、マミは宙吊りの状態になってしまう。

 

「マミさん!?」

「ッ…………!?」

 

吊り上げられたマミは咄嗟にマスケット銃を二つ取り出し、その撃鉄を起こすが、弾丸は魔女を捉えることはなく、魔女付近の地面に小さな穴を作るだけだった。

拘束されてしまったマミにまどかが悲鳴のような声で彼女の名を叫び、さやかは反射的にマミから借り受けたマスケット銃を構え、その照準を見据える。

 

(ね、狙えるのか………!?この距離から、あの細い蔦を………!?)

 

咄嗟に構えたのはいいものの、銃を初めて扱うどころか、マミを縛っている細い蔦をきちんと狙い撃てるかどうかすら怪しかったさやかは思わず脂汗のようなものを流す。

 

そんな最中、さやかの視線の先にはあるものが映り込んでいた。

 

それはマミが不敵な笑みを浮かべている様子だった。まるでさやかを安心させるために浮かべたような笑みに一瞬、困惑気味な顔をしてしまう。

その浮かべた笑みの理由を考える暇もなく、マミはその触手に振り回されると、ドーム状の空間の壁に叩きつけられる。

 

「ああッ…………!!!」

 

マミが壁に叩きつけられる光景を目の当たりにしたまどかは悲痛な表情を浮かべながらマミの安否を願う。対するさやかは険しい表情をしながらも、その目に諦めたような表情は見えなかった。

彼女の笑みを信じているのだ。あの笑みはある種の余裕の様なものから生まれているものだと、ならばあの程度で彼女がやられる心配はないのだ。

 

結論から言えば、壁に叩きつけられる時に出た煙が晴れると痛みに耐えているのか、歯を食いしばっているマミの姿があった。しかし、その体に傷の様なものはなく、四肢が引きちぎれたなどのショッキングで凄惨なことはなかった。

だが、未だその脚に触手が絡んでいるのは事実であり、マミは再度宙吊りの状態にさせられる。

 

「マ、マミさん、大丈夫だよね………!?」

「……………信じよう。彼女を。私達にはそれだけしかできない。」

「そ、そうだよね…………。」

 

さやかの言葉にまどかは何もできない自分が嫌なのか辛そうな表情を浮かべる。

 

「……………何か策がない訳ではないらしいが。」

「え…………?」

 

不意に呟いたさやかにまどかが驚いたような表情を浮かべた瞬間、魔女の挙動が変わった。何か突然身を捩らせるような反応を見せるとその巨体がどこからともなく現れた金糸によって縛られていく。

その発生源を探ると遠目からでははっきりと判別できた訳ではないが、魔女のすぐ近くの地面からその金糸が伸びてきているように見えた。

 

(…………まさか、銃弾からあの糸が伸びているのか?)

 

確証が持てている訳ではないため、口には出さないが、その金糸の出所に当たりをつけるさやか。

何はともあれ、魔女の動きはその金糸によって散漫になっていく。

 

「せっかく後輩が見ているんだもの。カッコ悪い所、見せられないわよね!!」

 

そう言うとマミは胸元のリボンを解いた。解かれたリボンはまるで意志を持ったようにヒラヒラと動き回ると、マミの体を縛り上げていた触手を切断し、マミは自由の身となる。

空中に放り出された身のまま、マミが手元に戻ってきたリボンを掴むと、そのリボンは今度は螺旋を描くように回転を始める。するとリボンは徐々に別のものに変わっていき、さやかが気づいた時には巨大な砲台のような銃となっていた。

その砲台の砲身や施されている意匠がマスケット銃のものと酷く似ていたため、おそらくその砲台はマスケット銃をそのまま巨大化させたようなものだとさやかは直感的に感じとる。

 

「ティロ・フィナーレッ!!!」

 

マミがゲームでいう技名的なものを叫ぶと同時に火蓋が切られた巨大な銃の火力はその見た目以上の威力や勢いを持って、魔女を一撃で粉砕する。

彼女が魔女を撃破したことに安堵感を抱いているのか、二人揃って胸を撫で下ろしていると、地面に着地したマミはどこから取り出したのか、紅茶の入ったティーカップを取り出し、さやか達ににこやかな笑みを向けた。

その瞬間、戦いの終わりを告げるように結界が歪み始め、気づけばさやか達は廃墟の中に戻ってきていた。

 

「……………使わずに済んで何よりだ。」

「とはいえ心配させたのは事実みたいだけどね。ごめんなさいね。」

 

さやかが結局使わなかったマスケット銃をマミに返すと彼女は少しばかりバツが悪そうに謝罪の言葉を述べる。さやかはそのマミの謝罪に無言で首を横に振ることでそんなことはない、という意思を伝える。

マミはそのさやかの表情に笑みを浮かべると、マスケット銃を魔力に戻し、地面から何かを拾い上げた。

マミはその拾い上げたものを持ったまま、さやか達の前に来ると、その手の中にあるものをさやか達にも見せる。

それは、彼女の手のひらの上で不自然にその下部の細い針だけで直立している黒いアクセサリーのような物体であった。

 

「…………明らかに物理法則に則っていない代物のようだが…………。」

「さやかちゃん、魔法なんてものがある時点でその言葉は今更だと思うよ。」

「ん………そうなのか?」

 

さやかの言葉にまどかがツッコミを入れているとマミはその代物についての説明を始める。

 

「これはグリーフシード。一言で言ってしまえば、魔女の卵よ。」

「卵…………ですか?」

「ええ。運が良ければ魔女が持ち歩いていることがあるの。」

「…………魔女の卵、ということはそれから魔女が孵化する可能性もあるということだな?」

「だ、だよね………そういうことになっちゃうよね………。」

 

彼女が手にしたグリーフシードが魔女をいずれ産んでしまう代物だと言うことにさやかは眉を潜め、まどかは怖いものを見るかのような目線でそのグリーフシードを見つめる。

 

「大丈夫だ。その状態では安全だ。むしろ、役に立つ貴重なモノだ。」

 

そこに今まで口を閉ざしていたキュウべぇが急にその口を開いた。開く口がないのは突っ込んではいけない。

 

「……………まさか、それが貴方が以前言っていた見返り、というものなのか?」

 

さやかがマミにそう尋ねると彼女は頷きながらポケットから自身のソウルジェムを取り出した。そのソウルジェムの輝きは、魔女を捜索していた時と比べて、心なしか輝きが落ち、色が濁っているように感じられた。

 

「私のソウルジェム、ゆうべと比べて少し濁っているでしょ?」

「た、確かに…………。」

 

まどかが言われてみれば、というように答えるとマミはソウルジェムをグリーフシードに近づける。その瞬間、ソウルジェムの中にあった黒い汚れのようなモヤモヤはグリーフシードに吸い込まれるように消えていった。

 

「…………ソウルジェムが、綺麗になって、また輝いてる………。」

「これで私が消耗した魔力は元通りよ。」

「…………キュウべぇ、ソウルジェムが保有する魔力には限りがあるのか?」

「そうだね。魔力を使えば使うほどソウルジェムには穢れが溜まっていく。あの黒いのはその目安だと思って構わないよ。」

「となると、定期的にグリーフシードによる除去を行わなければ魔力が使えなくなるということか?」

「そうだよ。」

 

キュウべぇの言葉にさやかは少しばかり考え込むような仕草を浮かべる。

 

(…………そもそも、なぜ魔女から生じるグリーフシードで魔法少女のソウルジェムに干渉ができるんだ?そういうものだと言われてしまえばそれまでだが…………なんだか妙な予感がするな………。)

「美樹さんの言っていた通り、これが前に言ってた魔女退治の見返りがこれ。それとあと一度くらいは使えるはずよ。」

 

マミから話しかけられ、ひとまず思考を中断するさやかだったが、マミはその一度使用したグリーフシードを中が暗くてその先が窺えない廃墟の屋内に投げ入れた。

 

「えっ!?投げ捨てちゃうんですか!?」

「いや、どうやらそういうわけではないようだ。」

「そういうこと、貴方にあげるわ。暁美ほむらさん。」

「え…………ほむら、ちゃん………?」

 

マミが急にほむらの名前を口にするとまどかが彼女がこの場にいることに驚きに満ち溢れた表情を浮かべる。そのまどかの声が聞こえたのか、マミがグリーフシードを投げ入れた闇の中からほむらが姿を現した。

 

「……………。」

「それとも、人と分け合うのは不服かしら?」

 

マミの言葉にほむらは特にこれといって反応を示す訳でもなく、ただただその冷たい表情でマミ達三人を見つめていた。

 

「これは貴方の獲物よ。これは返すわ。貴方だけのものにすればいいわ。」

 

そう言ってほむらはマミにグリーフシードを投げ返した。投げ返されたソレをマミは掴み取ると険しい表情を浮かべながらほむらを睨みつける。

 

「…………そう。それが貴方の答えなのね。」

 

そのマミの言葉にも何か言い返すこともなく、ほむらはなぜか、さやかにとってはやっぱりまどかの方に視線を送ると、その場から立ち去っていった。

 

(……………余程まどかのことが大事なのか。そう考えるとますます彼女に事情を問いただしたい所だが、それで彼女が余計に心を閉ざしてはどうしようもない………。ここは地道に行くのが一番の最短なのかもしれないな。)

「仲良くできればいいのに…………。」

「お互いに、そう思えれば、ね…………」

(全くだな…………。)

 

まどかとマミの言葉に僅かに頭を抱えるような仕草とため息をするさやかなのであった。

 

 




一話が終わり、二話が終わる。ならば次は三話だぁ…………(ねっとり)

みなさんにお菓子より甘い物語をお届けしよう………すなわち、愛と勇気が勝つ物語って奴をなぁ………(ニッコリ)



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第9話  私たちはまだどうしようもなく子供だ

ちょっとしたネタバレというか、最近の作者の願望


早く魔女に前格特格派生叩き込みたい…………


マミの魔女退治の体験コースから1日ほど経った。

薔薇のようなものが生えていた魔女を倒した後にほむらとマミが少々視線がぶつかり合うようなことがあったが、さやかとまどかは学校で変わらずの日々を過ごせていた。

 

 

「…………行くべきか否か………。とは言え前回行ってから然程期間が空いている訳ではない………。」

 

さやかは教室の自身の座席で少々唸るような声を上げながら思案に耽っていた。

それは病院で入院している恭介への見舞いをするかどうかで彼女は悩んでいた。この前のマミとの魔女退治の体験コースにて彼女が口にした魔女が現れやすい場所。その中には主に人気のない場所とのことであったが、その他にも病院と言った生命力の弱った人間が集まりやすい場所にも出没するとのことであった。

そのことがさやかにどうしようもなく、恭介の安否を心配させてしまう。

もし彼が入院している病院に魔女が現れたら、ただでさえ弱っている恭介を含めた病人達の身に何が降りかかるかわかったものではない。

 

「見舞いをしに行かなくても病院を訪れるだけでも………いや、それはどう考えても行動が不審者のソレだ。最悪警察沙汰ではないだろうか?」

 

一瞬思いついた考えも、即座に自問自答の上に否定してしまうため、完全に思考が袋小路に入り込んでいた。

 

「いや………行くか…………。何かあれば、最悪大急ぎでマミ先輩を呼び出せばなんとかなるか………。彼女には申し訳ないが………。」

 

結局さやかは恭介の見舞いに行くことを決意し、その重い腰を上げ、学校から恭介への見舞いの品の調達へと向かった。

 

 

 

 

「………前回は包丁を持ち出して恭介に怒られてしまったからな………無難に花とかにしておくか………。」

 

適当な花屋で見舞い用の花束を調達したさやかは夕暮れに染まった空を見上げながら病院へと向かうため、街中を歩いていた。

そんな最中ーーーー

 

「あら………?美樹さん?これから帰るの?」

 

不意に声をかけられ、自然と視線が声をかけられた方向に向けられる。視線の先にはどこか驚いた様子でさやかを見つめているマミの姿があった。

 

「マミ先輩か…………帰るところではあるが、少し寄り道をしてから、だな。」

「ふふ、そうなのね。」

 

マミの質問にそう答えると彼女は朗らかな笑みを浮かべる。マミの笑顔にさやかも釣られるように笑顔を向ける。

 

「そういえば、貴方もちょうど帰宅していたところなのか?」

「ええ、そうね………今日は少し特別な日だから、魔女退治もお休み。」

 

何気なく聞いてみたさやかだったが、マミが特別、と言った割にはどこか悲しそうな表情を浮かべる。そのことにわずかに眉を潜めるさやか。

 

「えっと、美樹さん?そんな訝しげな顔をして、何か私の顔についている?」

 

そのさやかの表情が目についたのか、先程の悲しげな表情から一転して、少しばかり困惑気味な笑顔を浮かべながらさやかの顔を見つめる。

そのマミの表情にさやかは真剣味に溢れた視線をマミに送り返した。

そして、両者の間で気まずい空間が広げられていると、さやかがわずかに逡巡する仕草を見せる。

 

「……………ご両親の命日か?」

「え…………!?」

 

突然のさやかの言葉にマミは驚くことすら出来ずに呆けたような表情を浮かべる。

 

「ど、どうしてそれを…………!?」

「前回貴方の部屋に招待させてもらった時、玄関には貴方以外のものと見られる靴、特に男性用の靴がなかったこと。さらにあきらかに複数人での同居を前提としているであろう広い部屋にも拘らず、貴方が言った一人暮らしをしているという言葉。これだけの判断材料が有れば、嫌でも両親が亡くなっていることは想像に難くない。」

 

なぜそれを知っているのかと言うかのようなマミにさやかは以前彼女の部屋にお邪魔させてもらったときの違和感をそのまま伝える。包み隠さず伝えられたさやかの言葉にマミは顔を俯かせると気まずそうにさやかに視線を合わせる。

 

「……………今日は、パパとママの月命日なの…………。」

「やはり、そうだったのか………聞き出した私が言えることではないが、すまない。話したくないことを話させた。」

 

両親の死など、普通はそう簡単に話せるものではないだろう。そう判断したさやかはすぐに彼女に謝罪の言葉を述べながら頭を下げた。そのさやかの様子にマミは困惑気味な様子を隠せないでいた。

 

「…………ちなみにだが、ご両親の仏壇とかは自宅か?」

「……………貴方、何をする気なの?」

 

続け様のさやかの質問に流石のマミも目を細め、視線を鋭くせざるを得なかった。怪しい者でも見るかのような警戒度にさやかは頰を軽くかくような仕草を見せるが、持っていた花束を肩に担ぐと、彼女に柔らかな笑みを向ける。

 

「……………気が変わったから墓参りに、だな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………改めてすまない。突然押しかけるような形になってしまって。」

「………最初は何を言い出すのかと思ったけど………。」

 

突然彼女の家に入れてもらったことにお礼を含めた謝罪の言葉を伝える。そのさやかの言葉にマミは気にしていない、とは言えないが表面的にその様子を取り繕っているような雰囲気を出していた。

 

「でも、良かったの?その花束、本当は別の人に向けてのものじゃなかったの?」

「アイツとは、また別の機会、それこそ明日でも、明後日でもいつでも会えるさ。だが、既に亡くなっている人間とはこう言う命日のような概念的な動機がなければ会えないだろう?」

 

さやかのその理由にマミは微妙に首を傾げながら家に入れると、彼女をある一室に招いた。その部屋には小綺麗なテーブルが置かれており、その上に二枚の写真立てが乗せられていた。

その写真立てには二人の男女の写真が入れられてあった。その男女の両方にもどこかマミを彷彿とさせる特徴があった。

さやかはその彼女の両親の写真に買ってきた花束を添えると、その写真に向かって黙祷を捧げた。

 

 

「…………ありがとう。私のわがままを叶えてくれて。」

「………そんなことないわ。私も初めてだったもの。パパとママを他人に会わせるなんて。」

 

彼女の両親にお参りを済ませた後、マミが用意してくれた紅茶を頂くさやか。その最中、自身のわがままを承諾してくれたマミにお礼の言葉を述べる。

そんなさやかにマミは初めての経験だったと、さっきまでの警戒感を無くし、わずかに笑みを浮かべる。

 

 

「…………私の両親は事故で亡くなったの。」

「っ…………!?」

 

突然のマミの両親の死因の吐露にさやかは紅茶を飲んでいた手を止め、驚いたように目を見開いた。そのさやかの反応に少しばかり気に触ったのか、顔をムッとしたものに変え、さやかに細い目を向ける。

 

「………何?まさか、今更そこまでは聞くつもりがなかったとでも言うつもり?」

「い、いや、その、だな………!!貴方がそこまで話してくれるとは、思わなくてだな……!!」

 

マミの言葉が図星だったのか、慌てた様子で首を振るさやか。

そのさやかの様子にマミはテーブルに肘をついて頰を支えながら深いため息をついた。

 

「要はそういうことじゃないの、もう。あんまり他人の家族事情に踏み込んじゃダメよ?私はまだいいけど、人によっては逆鱗に触れるわよ?」

「…………す、すまない…………。」

 

マミの諫めるような言葉にさやかはわずかに冷や汗のようなものを流しながらひとまず頷くことにした。

 

「貴方には鹿目さんより先んじて私の願いの内容、それと一緒にその時の状況を教えてあげるわ♪」

「……………ちなみにだが、その内容を聞かずに紅茶だけ飲んで帰るという選択肢は…………。」

「あら、乙女の秘密を察するだけ察しておいて後は放置だなんて、いい性格をしているのね?」

(……………要するに知った以上、私に退路はない、ということか。)

 

難しい表情を浮かべながらも諦観する様子で残っていた紅茶に口をつけるさやか。

さやかが紅茶を嗜んでいる間にマミは話を戻した。

 

「…………私のパパとママはドライブ中に事故に遭ったの。もちろん、その時は私も一緒の車に乗っていたわ。」

「………………。」

 

マミが魔法少女になるに至ったその経緯。それをさやかは無言で聞届ける。

 

「車は大破して、ぐちゃぐちゃになったわ。それでもその時、私はまだかろうじて意識はあったけど、妙な確信があったわ。このままじゃ絶対に死ぬって。」

 

「だから事故の衝撃で朦朧とした意識の中、私は助けを求めて必死に手を伸ばしたわ。その時だった、キュゥべえが私の前に姿を現したのは。」

 

助けを求めて必死に外に手を伸ばす少女。しかし、その手の先にあったのは、助けにきた人の手ではなく、キュゥべえであった。

その時のマミにもはや選択肢は残されていなかった。

 

「…………そこから先は察しのいい貴方ならもう分かっていると思うのだけど、考えてる余裕すらなかったわ。私はキュゥべえに生きたいって願いを伝えて、魔法少女になったわ。」

「…………今となって、その選択に後悔はないのか?」

「後悔はしていないわ。今の生き方も、あそこで死んじゃうよりは、よほど良かったって思っているわ。」

 

そう言ったマミの目に揺れているようなものは見られず、彼女自身に嘘、つまるところ後悔はしていないことをさやかは感じ取った。だが、さやかは別のことが気になっていた。それこそ、もっと根本的な部分。まどかやさやかのような年頃の少女にはまだ必要とされるべきものであり、マミにはもうない、家族の存在。

 

「……………後悔はなくとも、貴方はその生き方に寂しさとかを感じないのか?」

「えーーー」

 

目を閉じたさやかからの言葉にマミは目を見開いた。そのマミの表情を、いや、さやかは見なくとも察せていたのか、その瞳を閉じたまま言葉を続ける。

 

「…………私だったら、いくら強く外側には取り繕っていても、どこかで、それこそ人の目につかないところで必ず寂しさを感じてしまう気がする。なぜなら、まだ私たちのような子供にはどうやっても親のような無心に甘えられる、待っていてくれる人が必要だからだ。」

 

そう言っている途中でさやかの瞳が開かれるが、その目はどこか悲しそうなものを浮かべられていた。

 

「…………貴方は、どうなんだ?まぁ、人間十人十色、様々な感性の持ち主がいる。私はおそらくダメだが、貴方は大丈夫、そんなこともあるのだろう。」

 

そこまで言ったところで、さやかは部屋の壁一面に広がっている窓の方へ視線を向けた。元々マミと会った時点で夕暮れだった橙色の空はすっかり暗くなり、気づけば後数十分としないうちに空に星が瞬き始めるであろう時間になっていた。

 

「すっかり日が暮れてしまった………。私はそろそろ家に帰りたいと思う。紅茶、感想としては陳腐だが、美味しかった。」

 

紅茶の感想を述べるとさやかはバックを肩にかけ、マミの部屋から立ち去ろうとする。

 

「ーーーーねぇ、美樹さん。」

 

不意にマミの声が後ろからかけられ、さやかは足を止めると視線だけを彼女に向けた。

 

「貴方は、叶えたい願いとかはあるの?」

 

マミからの問いかけ。それは極めて短い文章だったが、魔法少女になってでも、自分の人生を捧げてでも叶えたい願いがあるか、そう言った内容のものであった。

 

「……………。」

 

マミのその質問にさやかは考え込むような仕草を浮かべる。脳裏にチラつくのは事故で指が動かなくなってしまった恭介の姿。確かにキュゥべえに魔法少女となる代わりにその願いを叶えてもらえれば、恭介の指は再び動かせるようになるだろう。

しかしーーーー

 

 

「あるにはある。だが、それを自分の人生を代価に実現してほしいともすれば、二の足を踏むのが正直なところだ。将来的に、そんなことをしなくても人自らの手でその未来を切り開いていけると思っているからな。」

 

「まぁ、言うのであれば、人の…………可能性?いや、敢えてこちらにしよう。私は人の革新を信じている。」

 

さやかは敢えて、その願いを抱えながらもキュゥべえに叶えてもらうことはないと言った。そのことにマミは少々呆気に取られたような顔を浮かべる。

 

 

「……………貴方はどんな願いを叶えてもらえるって言う奇跡も、そんなことで片付けられるのね…………。」

「一応、口ではそんなことと済ませてはいるが、貴方のように事故などに遭って考えられる時間がなければ、私も例外ではない。私だって生き延びられる手段があるのに、そんな時にまでこだわっていられるほど意固地な人間ではないからな。」

 

さやかはマミの言葉にそう答えると、靴を履き、玄関の扉に手をかけた。

 

「…………お邪魔したな。最後にだが、キュゥべえ、奴はあまり信頼しない方がいいかもしれない。何か、隠している気がする。」

「え…………?」

 

さやかの言葉にマミが何か声をかける前に彼女は部屋から出て行ってしまった。

呼び止めかけた手の置き所をなくしてしまったマミは渋々といった様子で腕を下ろした。

 

「行ってしまったわ…………美樹さんが最後に言っていたキュゥべえが何か隠しているって、どういうこと?」

「僕がどうかしたかい?」

 

ちょうどそのタイミングでキュゥべえが姿を現した。いつも神出鬼没なキュゥべえの姿の現し方だったが、マミはもう慣れているのか、さほど驚いている様子を見せずにキュゥべえがいる方に振り向いた。

 

「………………ううん、なんでもないわ。」

 

(…………美樹さんが言っていたこと、私はちょっと信じられないわ………。だって、キュゥべえは私が魔法少女になったばかりの頃から一緒にいたもの。)

 

キュゥべえが自分を呼んだかどうかを尋ねた質問にマミは柔らかい笑みを浮かべながら首を横に振る。そこでマミはふと気になったことを代わりにキュゥべえに尋ねることにした。

 

「そういえば、キュゥべえ。貴方、美樹さんにはあまり魔法少女に誘わないのね?」

「そのことかい?美樹さやかに素質自体はあるけど、そこまでのものじゃないからね。仮に彼女がなりたいと言えばもちろんそれに応じるけど。だけど、鹿目まどか、彼女は素質に満ち溢れている。僕でもその指数が測れないくらいだ。」

「…………そんなに鹿目さんはすごいの?」

「うん、彼女が魔法少女になってくれれば大抵の魔女は倒せるだろう。」

「そう…………それは少し残念ね。」

「…………それはどういうことだい?」

 

マミの言葉にキュゥべえがキョトンと首を傾けながらその言葉の真意を尋ねる。キュゥべえの言葉にハッとなったのか、マミは手を横に振る。

 

「そんな大したことじゃないのよ?美樹さんにも魔法少女の素質が高かったら、心強いって思っているだけだから。」

「…………彼女が側にいても君の足手まといになるだけだと思うけど?」

「そういうものじゃないのよ。もっと、精神的なもの。今までは直視しないようにしてたけど、本当は私、仲間のような人がほしいんだなって、美樹さんと話していてわかったから。」

 

さやかに寂しくないのか、と聞かれた時、マミは何も言い返すことができなかった。それは心の中のどこかで彼女の言葉が真実であったことの証左で他ならなかったからだ。

 

「…………仲間になってほしいなら二人にはやっぱり魔法少女になってもらうしかないかな。彼女たちが人間である以上、魔女には到底傷をつけることすら叶わないからね。」

 

そう言ったキュゥべえの言葉にはどこか含みがあるかのように感じられたが、マミはそれに気づく様子を見せずに時間が流れていってしまった。

 

 






人の強さってそんな素質なんかでわかるものじゃないよなぁ…………。


気軽に感想とかくれると嬉しいです………^_^



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第10話 虚勢?結構、虚勢を張ってこそ、人間よ

途中、原作まんまのところあるけど、書いていてすごく心のうちを書きたくなりました。

なんて対応、してやがる………!!ほむらぁ………!!(団長並感)


「ティロ・フィナーレ!!!」

 

マミの掛け声と共に巨大化したマスケット銃から発射される光線と見間違うような弾丸が眼前の魔女に直撃する。というより、魔女にぶつかっているはずの弾丸はなぜかマスケット銃の銃口と繋がっているので、もはや弾丸ではなく、普通にビームなのだろうが。

ともかくマミの必殺技のティロ・フィナーレが直撃した、外見が金平糖のような不定形の形をした魔女は爆発と共に消滅し、その魔女の結界だった、一面が闇に包まれていたような暗黒の空間は霧が晴れるように霧散していった。

 

「……………今回の魔女の結界。妙に暗かったな。意外と光に弱かったりするのか?」

「うーん………どうなんだろう?確かに暗いなぁとは思っていたけど………。まぁ、変に不気味な風景よりは少しはいいんだけど…………。」

 

今日も今日とて、マミの魔法少女体験コースのために彼女の魔女退治に同行していたさやかとまどか。だいぶ慣れてきたのか、今回倒した魔女に対してそんなことを述べる。

 

「二人ともおつかれ様。」

 

そんな二人に魔法少女としての姿から見滝原中学の制服に格好を戻したマミが声をかける。

 

「魔女と戦っているのは貴方だ。普通であれば、私たちが労いの言葉をかけるべきではないのか?」

「そんなことないわ。魔女と相対するだけでもまだ初めの方は結構勇気がいるんだから。」

「でも、そんな魔女といつも戦っているマミさんはやっぱりすごいと思います。それにとてもカッコいいですし。」

「そ、そうかしら?」

 

まどかの言葉に少々照れ臭そうにするマミ。どうやらあまり褒められることに慣れていないのだろうか?そんなことをさやかは考えながら帰路に着く。

 

「そういえば鹿目さんはもう願い事とか決まった?」

 

帰っている最中マミがまどかにそんなことを尋ねる。突然振られた話題にまどかは少し狼狽るような様子を見せた後に表情に僅かに影を差し込ませる。

 

「……………ごめんなさい。正直言って、まだ…………。」

「まぁ、そういうものよね。いざ考えろって言われたら…………。」

 

まどかの反応も予想していなかったわけではないのか、マミはさほど表情を崩さず、その柔らかな顔つきのまま納得するようにうんうんと頷いていた。

 

「…………さやかちゃんは、どうなの?」

「私か?そもそも大前提として魔法少女になることすら決めていないのだが…………。まどかはやはりなるつもりなのか?」

「私は…………まだ自分の中で決心はついていない。」

「……………そうか。」

 

まどかの言葉にさやかはそれだけ返すと、考え事を始める。内容はもちろんほむらのことだ。

彼女はどういう訳かは未だ話してもらっていないが、まどかを魔法少女にはさせない確固たる意志を感じることだけは確かだ。そして、その理由としてまどかが有する魔法少女として類稀な才能をキュゥべえに利用されたくないとのことであった。

 

(……………そういえば、暁美ほむらはキュゥべえにまどかの才能を利用されたくないとは言っていたが、そもそもキュゥべえは何故魔法少女という存在を作り出したのだ?)

 

物事には必ず何かしらの目的があるのが必然だ。だからキュゥべえが契約と銘打ってその者の願いを叶える代わりに魔法少女としての運命を課す。そのことにも例外でもなく必ず目的があるはずだ。

しかし、その目的をキュゥべえ自身の口から語られたことはない。

 

魔女の全滅が奴の目的?

 

確かに魔女は危険な存在だ。魔法少女を増やす理由としてはこれ以上ないものだが、それであれば、ほむらがわざわざ嫌悪感を出すほどキュゥべえを目の敵にし、まどかを意地でも魔法少女にさせたくない理由には今一歩弱い。

 

もっと、何か大きい理由が必要だ。

 

(…………となればその理由を知るにはキュゥべえに直接聞くのが一番手っ取り早いが………確証を持って言えるわけではないが、いまいち奴は信頼性に欠ける。)

「美樹さん?何かすごく悩ましげな顔をしているけど…………。」

 

キュゥべえから感じる妙なやりづらさに頭を悩ませていると、その様子が顔に出ていたのか、マミに声をかけられてしまう。当たり触らずの返答をしようと彼女に視線を向けるとキュゥべえの真っ赤な瞳がさやかを見つめていた。

 

「……………いや、なんでもない。その叶える願いのことで考えていただけだ。」

「そうなの?一応、この前願い事があるにはあるって言っていたけど、何か聞きたいことがあるのだったら、いつでも相談してね。」

「そうさせてもらう。その時はまたよろしく頼む。」

「ええ、もちろんよ。」

 

あながち事実でもないが、嘘ではないことをマミへの解答にしながら当り障りのないように笑みを浮かべるさやか。そのことにマミは柔らかな笑みを浮かべることで返した。

 

 

 

「さやかちゃん、願い事ってもしかしなくても、上条君のこと?」

 

魔女退治が済んだ後、マミと別れたまどかとさやか。夕暮れに染まっている見滝原市を歩いていると、不意にまどかが真剣な表情でそう尋ねてくる。

 

「……そうだな。どうにも私は我欲があまりない人間らしい。だから自分関連の願いはからきしだが、代わりに思いついたのが、まどかの言う通り、恭介の指を治してもらうことだな。」

「そう…………なんだ………。でも、それってーーーー」

「ああ。他人の願いを代わりに私が叶えることになる。もっともそれが恭介の願いであるという確証は全く持って得られないがな。」

「そ、そうなの………?上条君も指が動かないのなら、普通はその指を治したいって考えると思うけど………。」

「普通はな。だがそれは恭介自身の口から聞かされたものか?」

「え…………聞いては、ないけど…………?」

「ならば、それ以外も十分に考えられる。そしてその可能性を考慮せずに私が勝手に恭介の願いを叶えた気になったところで、以前にも言ったが、それこそ独り善がりの善意だ。アイツ自身の口からそれが聞かれない限りはな。そう言った意味では私の願いはかなり慎重に考えなければならない代物だろう。」

「む、難しい……………。」

「…………そうだな。確かに、難しいな…………。」

 

悩ましげな表情を浮かべるまどか、そのまどかの難しいという言葉に同意するように頷く仕草を見せるさやか。

 

「…………だから、これからも悩んでいくのが、最善で最短の道なのかもしれない。悩み、そのまた悩み、悩み抜いたその上で魔法少女になるかならないかを選択するといい。どういう訳かは知らないが、まどかにはかなり高い魔法の才能があるらしいが、選択する自由は常にまどかにあるからな。」

「………え、そうなの?」

「ああ、暁美ほむらがそういうニュアンスの言葉を口にしていた。もっとも彼女は意地でもまどかを魔法少女にさせたくないらしいから、もし仮になるのであれば彼女を説き伏せるしかないと思うが。」

「あ、あはは…………そ、そうだね………。」

 

ほむらに対して若干の苦手意識を持ってしまっているのか、ほむらの説得となると苦い表情を浮かべるまどか。

彼女は転校してきて以来、妙に他人との接触を拒んでいるかのようなオーラを身に纏っているため、どうにも関わりづらい雰囲気に包まれている。

 

「……………さやかちゃん、人付き合いって難しいね。」

「そうだな、人と人は意見の相違でお互いすれ違うこともあるのかもしれない。むしろ、最初はそれがほとんどだろう。そのすれ違いが、嘘として形に現れ、相手を区別する。」

「それは…………どうして?」

「なまじ知性が些細な誤解を生み出す。それと………これは持論だが、人と人との間であれば、個々人の感情も含まれているのかもしれない。」

 

「もちろん感情がいらないと言っているわけではない。それがなければもはやそれは人間ではなく、ただの機械となんら違いはない。」

 

「だから、感情を有する人間は、いや人間だからこそ、誤解し、衝突し合い、その先に他人とわかり合うことができる。」

「わかり…………合う…………?」

 

さやかの、まるで人が変わったかのような口調から出された言葉にまどかは驚いた表情を浮かべながら、さやかの言葉の中にあったわかり合うという言葉を反芻する。

そのまどかの言葉を肯定するようにさやかは無言で頷いた。

 

「…………できるのかな、ほむらちゃんとだって。」

「できるさ。彼女もまどかを大事に思っている人間の一人だ。まぁ………私のその彼女への印象も色々と生じている疑問点を直視していないのは否めない上に、向こうの態度もかなり考えものという、極めて薄い氷の上に存在しているようなのが正直なところだが…………。」

 

まどかの言葉に彼女を安心させるように笑みを向けるさやかだったが、ほむらのことになるとどうにもまどかと似たような苦笑いを禁じ得ないのが正直なところであった。

 

「う、薄い氷の上って…………だ、大丈夫なの…………?」

「……………もし、割れても足が水の中に沈む前にその場から離れれば大丈夫だろう。」

「ねぇ、それって最終的には穴だらけになるよね?ほむらちゃんへのイメージが穴ボッコボコになるってことだよね!?」

「……………そうとも言うな。」

「さやかちゃん!?お願いだから私の目から顔を逸らさないでーーーー!?」

 

気まずくふいっと視線を逸らしたさやかにまどかは泣きつくように彼女の腕にしがみつくのだった。

 

 

 

 

 

「……………。」

 

まどかとさやかの二人と別れたマミ。魔女を倒したにも関わらず、何故か彼女は帰ろうとせず、一人、わずかに霧ががり、薄暗くなった公園で立ち続けていた。

 

まるで、誰かを待っているかのようにーーーーー

 

「…………来たわね。」

 

その誰かの来訪を察したのか、マミがそう呟くと彼女の後ろから人影が現れる。その人影が徐々に大きくなると周囲にあった街頭にあてられてその姿が明らかになる。

そこにいたのは、彼女の友人ーーーでもなくーーーましてやーーー彼女の彼氏やらなんやらでもなく、憮然とした顔つきを浮かべている暁美ほむらだった。

その憮然とした面持ちにはどこか苛立ちのようなものも感じられた。

 

 

「…………わかってるの?あなたは無関係な一般人を危険に巻き込んでいる。」

 

マミに勘づかれていたにも関わらず、ほむらはその顔に出ている苛立ちを声に乗せているような強い語気で彼女にそう告げる。

ここでいう一般人、というのは十中八九、まどかのことを指しているのだろう。

さやかは…………ちょこっとくらいは含まれているかもしれない。具体的に言えば一割弱。

 

「彼女達はキュゥべえに選ばれたのよ?もう無関係じゃないわ。」

「あなたは二人を魔法少女に誘導している……。」

 

キュゥべえに魔法少女としての才能を見出された以上、魔法少女になるしかないと言うようなマミの発言にほむらは表情をわずかに険しくしながら彼女に噛み付いた。

 

「それが面白くないわけ?」

「ええ、迷惑よ…………。特に、鹿目まどか、彼女だけは契約させるわけにはいかない……。」

 

マミの眉間にシワを寄せながらの言葉に迷惑という言葉を使いながら、まどかにだけは絶対にキュゥべえとの契約を結ばせるわけにはいかないと強い口調でマミにその自分の意思を伝える。

 

「自分より強い相手は邪魔者ってわけ?いじめられっ子の発想ね。」

 

しかし、その彼女の意思もマミには曲解した形で受け取られてしまい、彼女に挑発的な発言をさせてしまう。

 

「…………あなたとは戦いたくないのだけど。」

 

そのマミに対して、特に表情を変えずに戦うつもりはないと言いながらもそういうこともやぶさかではないというような雰囲気を出すほむら。

 

「なら、二度と会うことのないよう努力して。話し合いだけでことが済むのはきっと今夜で最後だろうから……。」

 

告げられた最後通告とも取れるマミの言葉。その言葉は嘘偽りでもなく、もしこの場に居続ければ、彼女のマスケット銃がほむらに向けられるのも時間の問題だろう。

そのマミの最後通告にほむらは本当に戦いたくなかったのか、わずかに歯噛みするような顔を浮かべたのちに彼女に背を向け、去っていった。

 

 

 

 

 

 

次の日、さやかは前回心変わってマミの両親のお参りに行ったため、行けなかった恭介への見舞いに来ていた。見舞いの品は前回と同じような花瓶に飾れるレベルのシンプルなものをチョイスしていた。

 

「恭介、見舞いに来た…………のだが…………。」

 

病室の扉を開けながらベッドで横になっているであろう恭介に挨拶をするさやかだったが、病室の光景が視界に映るとその言葉も続かなくなる。

なぜなら病室にいるはずの恭介の姿がなかったからだ。

 

「……………手近な看護師は………。」

 

病室に恭介の姿が認められないことを察したさやかはすぐさま周囲に看護師がいないか見渡した。ちょうどタイミングよく看護師が廊下を歩いている姿を見つけられたため、さやかはその看護師に恭介の所在を確かめることにした。

 

「すまない。そこの病室に入室している上条恭介について聞きたいのだが………。」

「上条さんのですぅ………?ああ、わかったですぅ!!貴方いつも彼にお見舞いに来ている女の子ですね!?今日も来てくれたんですね!?」

「お、覚えられていたのか…………。」

 

声をかけた看護師に恭介にいつもお見舞いに来てくれている女の子という認識で覚えられていたことにさやかは少々こっぱずかしい思いを抱き、照れているような素振りを見せる。

 

「まぁ、毎日とは言いませんけど、それなりの頻度で来られたら流石に覚えるですぅ。それで上条さんのことです?それでしたら今は彼、リハビリセンターでリハビリ中ですぅ!!よければ案内でもしますですか?」

「……………いや、遠慮させてもらおう。恭介が頑張っているところに水を差すわけにはいかないからな。代わりにこの花束をさしてもらえれば、私としては十分だ。」

 

そう言いながらさやかは看護師に買ってきた花束を渡すとそのままその場を去っていった。

 

 

 

 

 

病院からさっさと出てきたさやか。外にはどこか意外そうな顔を浮かべているまどかがキュゥべえを肩に乗せた状態で待っていた。

 

「あれ?さやかちゃん?もういいの?」

「ああ。どうやらタイミングが合わなかったようだ。長居するわけには行かなかったから病室に花だけ置いてきた。」

「そうなんだ………それじゃあ、どこで暇を潰さないとね。」

「別段、この後の行動に無理して付き合ってもらう必要はないのだが…………。」

 

まどかの言葉に微妙な笑みを浮かべるさやか。その理由としては、彼女の肩に乗っているキュゥべえが原因だった。いくら魔法少女の才能があるものでなければそのキュゥべえの姿は見えないとはいえ、妙に視界に映り込んでくるキュゥべえははっきり言って気が散る存在だった。

そうと思いながらもまどかと談笑を続けるさやか。

 

「ん…………?」

「さやかちゃん………?突然どうしたの?」

 

そんな最中、さやかは突然足を止めると周囲を見回し始めた。キョロキョロと辺りを見回すさやかに気になったまどかは声をかける。

 

「………………魔女と相対した時のような寒気がする………。」

「え…………!?」

 

わずかに青ざめた表情を浮かべているさやかから放たれた言葉にまどかも驚きの声をこぼしながらさやかと同じように周囲を警戒し始める。

 

「っ…………あれだ!!」

 

程なくしてその元凶はさやかによって見つけ出される。まどかがさやかが指を指している方向に視線を向けると、そこには病院の支柱に突き刺さっている魔女の卵、グリーフシードがあった。

 

「グリーフシードだ!!もう孵化しかかっている!!」

「なっ…………!?」

「う、嘘………!?こんなところで………!?」

 

孵化しかかっているという言葉に険しい表情を浮かべるさやかと困惑気味に狼狽する様子を見せるまどか。

 

「まずいよ、早く逃げないと。もうすぐ結界が出来上がる………!!」

「も、もうそんなに時間がないの………!?」

「…………まどか、マミ先輩と連絡先の交換は?」

 

キュゥべえがグリーフシードから離れるように忠告している中、悲痛な声を上げるまどかにさやかが声をかける。その声質に焦っている様子は見られず、むしろこの状況でありながら冷静さを保っていた。そのさやかの姿に触発されたのか、まどかはひとまず落ち着いて彼女の質問に答える。

 

「う、ううん。していないよ………。」

「やはりか………くそ、テレパシーなどに頼っているからこうなる………!!」

 

この状況で一番最善手なのはマミをこの場に呼び寄せることだ。しかし、そのマミと連絡先を二人とも共交換していない現状にさやかは軽く悪態をつく。

 

「辺りにはもうこいつの魔力に浸食され始めている。この場に居続けると結界に巻き込まれるよ?」

「…………キュゥべえ。マミの居場所、お前には判別が付いているのか?」

「……………何をするつもりだい?」

「質問に答えろ。今は、時間が1秒でも惜しい。」

 

さやかの有無も言わせない言葉にキュゥべえは少し時間を置いたのちに告げる。

 

「一応ね。でもそれは大体の目星がいいところだ。正確な位置まではわからない。」

「範囲が絞れているのであれば十分だ。まどか、マミを呼んできてくれ。私はこのままキュゥべえと一緒にグリーフシードを見張っている。」

「正気かい!?中の魔女が出てくるまではまだ時間がかかるけど、結界が閉じれば、君は外に出られなくなる!マミの助けが間に合うかどうか………。」

「だからお前も一緒にいろ。そうすれば居場所をマミに伝えることができるのではないのか?」

「それは不可能じゃない。でも伝えたところで誤差に過ぎない。君は結界の中で死ぬ気なのかい?」

「違う。私は信じているんだ。まどかがマミ先輩を呼んでくれること、そして彼女の助けが間に合うことを。」

 

そう言って表情を綻ばせるさやか。そのことにキュゥべえはまだ何か言いそうだったが、それよりも先にーーー

 

「………わかった。キュゥべえ、場所を教えて。絶対にマミさんを呼んでくるから。」

 

まどかが意を決したように力強い声でそうキュゥべえに詰め寄った。そこでキュゥべえは諦めたのか、呆れたように項垂れた様子を見せると、マミのおおよその居場所を伝える。

 

「さやかちゃん、絶対にマミさんを連れてくるから!!」

 

そういうとまどかは全力疾走をしながら病院から離れていき、マミを呼びに駆け出した。そのまどかの背中にさやかは柔らかな笑みを浮かべながら手を振ることで彼女を送り出す。

 

「…………君はどうしてそんな表情でいられるんだい?」

「…………何がだ?」

 

まどかを送り出した後、キュゥべえから珍しく質問が飛んでくる。そのことに若干の驚きを抱きながらその質問の詳細を尋ねる。

 

「魔女というのはいくら魔法少女によって倒せるとはいえ、普通の人間にとっては脅威に他ならない。そんな存在相手にどうして君は平静でいられるんだい?」

「………そんな平静でいるように見えるか?」

「少なくともボクから見ればそう見えるね。」

 

キュゥべえの質問にさやかは答える前にチラリとグリーフシードに視線を向ける。グリーフシードは妙な胎動を始めており、今にも中に秘められた魔力が溢れ出そうだった。

そして、さやかのその見立ても間違ってなく、グリーフシードから魔力が溢れたのか、白い光を放ち始める。

 

「まぁ、言うのであれば、恐怖心がないわけではない。だが、その恐怖にいつまでも怯えているようでは、人は前へは進めない。時にはそれを押し殺して、虚勢を張らなければならない。それだけだ。」

 

その言葉を最後にグリーフシードからの輝きは視界を覆い潰すほどになり、その光が収まった時には所々にお菓子のような意匠が施された魔女の結界が広がっていた。

 

「…………これではもはやメルヘンの極みに到達したようなものだな。」

 

あとはまどかとマミの到着を願うのみ。さやかはそう結論づけると魔女の結界に閉ざされた空を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 




本編を流し目した作者

あれ?さやかちゃんをまとも(ガンダム)にしても地雷が多くない…………?魔法少女の真実知っちゃったマミさんとか…………あばばばば(白目)

好感度調整しくじったらデッドエンド不可避で強制リセットじゃないですかやだー(RTA走者感)


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第11話  FIGHT

感想欄におけるGN合唱団のご起立を願います^_^

推奨BGM 「FIGHT」 


「………………驚くほど静かだな…………。使い魔の姿も見受けられない。」

「はっきり言うと、君がいる場所は魔女がねぐらにしている空間だからね。でも、それを鑑みたとしても魔女と使い魔が一緒にいないというのは結構珍しい。もしかしたら今回の魔女、結構凶暴なのかもしれないね。」

「……………身から出た錆だ。今更お前から何を言われようが現状を打開する術がない。おとなしくマミ先輩を待つことにするさ。」

 

魔女の結界に取り込まれたさやか。やはりグリーフシードの近辺にいたからか、魔女が現れる場所とさほど離れていない空間にいるようだ。

しかし、何が起こるか分からない以上、さやかは巨大なドーナツの影に身を潜めながら周囲の警戒を怠らないようにしていた。

 

「キュゥべえ。二人の反応は?」

「まだだね。どうやらもう少し時間がかかるみたいだ。」

「…………仕方がないか。いくら範囲が絞れていたとはいえ、彼女とうまく接触できるかどうかとは別問題だ。」

「全くもってその通りだね。」

 

さやかはキュゥべえとそんなことを話しながら体感的に一時間の時を過ごす。不気味なほど静かな空間にも関わらず、何が起こるかわからない状況に一時間も晒されていたさやかはかなり精神的に疲弊してきていた。

 

「さやか、朗報だ。マミの魔力を感知した。」

「…………そうか。最悪二時間コースは覚悟していたのだが………。」

 

キュゥべえからマミが魔女の結界内に入ってきたことを告げられ、さやかはひとまず安堵の息を吐くとともに胸を撫で下ろした。

 

「でも、過度なことはやめさせた方がいいだろうね。マミの魔力に刺激されて卵が孵化してしまうかもしれないからね。」

「ん…………まぁ、私としてはとりあえず辿り着いてもらえれば十分なのだが………。」

 

まだ時間がかかるということにさやかは少し残念そうな表情を浮かべるもマミの到着という明確なゴールが見えているのもあるのか、さほど悲観的には捉えずに、再び息を潜めることに専念することにした。

 

 

『さやかちゃん、大丈夫?』

 

そんな最中、さやかの脳内にまどかの声が響いてきた。キュゥべえを介したテレパシーが送られてきたのだろう。

 

『今のところは、な。ところで今現在、どこにいる?まさか、マミ先輩と一緒にいる訳ではないな?』

『え?マミさんと一緒にいるけど…………?』

 

まどかからのテレパシーに思わずこめかみをひくつかせながら眉間に手を当ててしまうさやか。その理由としては主に二つからくる。

 

『ふう…………。何故危険な魔女の結界に入ってきた。わざわざまどかまで入ってくることはなかった筈だ。』

『で、でも、さやかちゃんが心配だったし………。』

『それでまどかに危険が及んでしまえば元も子もないだろう。いくらマミ先輩が強いとはいえ彼女も人間だ。当然そこには限界がある。彼女の手を煩わせることは余りよした方が賢明だ。』

『ううっ…………ご、ごめんなさい…………。』

『それと学校の鞄、結界の外に放置されていなかったか?結界に取り込まれた直後に私の近くになかったからそのままだと思うのだが………。』

『え、あ………あぁ!!?そういえば外に置いてあった………。』

『…………泥棒などに盗られていなければいいのだが………。』

 

さやかの説教にしょぼくれたような声を上げるまどか。そのまどかの様子にさやかはため息を吐くと再びまどかにテレパシーを送る。

 

『入ってしまった以上マミ先輩の側を離れないことが一番安全だ。彼女からは絶対に離れないことを心に留めながら慎重に来てくれ。』

『う、うん!!わかった!!』

 

さやかがそこまで言ったところでまどかからのテレパシーが脳内に響くことはなくなった。

 

 

 

「さ、さやかちゃんに怒られた…………。」

「ふふ、美樹さんの言う通りね。入ってしまった以上、私の側を離れないようにね?」

「は、はい!!」

 

友人に怒られたからか微妙に沈んだ表情から一転して、引き締まった表情を浮かべながらまどかはマミの言葉に頷き、彼女の後をついていく。

 

 

 

「キュゥべえ、グリーフシードの様子は?」

「…………正直言って孵化するのも時間の問題だね。」

「…………やはりか、寒気もひどくなってきているのもそのためか。」

 

キュゥべえからの報告にさやかは鳥肌が立っている腕をさすりながら身を潜めているドーナツにもたれかかるように背中をつける。

 

「……………君はいわゆる人間でいう霊感が強いのかい?魔女と出会すたびに鳥肌とか不安に苛まれているようだけど。」

「そうなのかもしれない。あまり、そんなつもりはなかったのだがな。」

 

さやかが素っ気なくそう答えるとキュゥべえはそれ以上の質問はせずにグリーフシードの観察に戻った。

そのキュゥべえが視線を戻した瞬間、グリーフシードが妙な胎動を帯び始める。

 

「限界だ………魔女が孵化する………!!」

「っ…………間に合わないか………!!」

 

キュゥべえが張り上げた声にさやかは険しい表情を浮かべながら身構える。これまで見てきた魔女は揃って巨体を有していたため、すぐさま行動に移れるようにするためだ。

そして、グリーフシードの中に込められていた呪いが集約化していくと、そこから出てきたのは、人形とさほど大きさの変わらないメルヘンな魔女であった。

 

「……………あれが、魔女、なのか?」

「そうみたいだね。」

 

キュゥべえの言葉にさやかは思わず拍子抜けしたような表情を浮かべる。なぜなら前例とあまりにも違いすぎるその姿に毒気が抜けかけているのも事実だ。

とはいえキュゥべえ曰くだが、魔女であることは変わりないため、一度途切れかけた警戒心をもう一度張り詰めさせながらその魔女の動向を注意深く見つめる。

しかしーーーー

 

「何も………してこないな。」

「そうだね。現れたところであるあの椅子から一向に動く気配がない。」

 

現れた人形のような魔女は脚が極めて長い椅子に鎮座したまま一向に動く気配が見受けられなかった。だが、さやかは変わらずの警戒心を保ちながら周囲を見渡す。

 

「だが、使い魔がちらほらと見受けられるようにはなった。このままでは囲まれるのも時間の問題か…………。」

 

視界の端にチラチラと映り始める黒い球体に所々に赤い斑点のようなものがついた

使い魔と思しき物体がさやかに危険信号を上げ続ける。中にはナース帽のようなものを被っている個体があるのは結界を広げた場所が病院であることが作用しているのだろうか。

しかし、さやかは直感していた。このままでは確実に囲まれる、と。

 

「さやかちゃぁぁぁぁぁん!!!!!」

「っ…………間に合ったか…………。」

 

その時、響いてきた友人の声、それと同時に響く銃声、その放たれた弾丸はさやかの周囲に蔓延っていた使い魔を貫いた。待ちに待った人の到着にさやかは自然と笑みが溢れる。

 

「お待たせ。ケガとかしてない?大丈夫?」

「ああ、特に行動を起こしたわけではないからな。」

 

降り立ってきたマミとまどかにさやかは待ちわびたと言うような口調で二人に笑みを向ける。

 

「それじゃあ、さっさと片付けてくるわね♪」

「すまない。マミ先輩、またマスケット銃を一丁貸してほしい。」

「ええ、いいわよ。」

 

さやかの申し付けにマミは踊るような笑顔を振りまきながらさやかにマスケット銃を一丁渡すと、文字通り颯爽と飛んでいった。

 

「……………なんか、調子に乗っているように感じるのは気のせいか…………?」

「ま、マミさん、私の願いのこと話したらすごく嬉しそうにしてくれてね………。」

「願い………?魔法少女になるつもりなのか?」

「…………というより、もう魔法少女になるだけで私の願いは叶ったようなものなんだけどね。私、なんの役にも立てられないことって嫌だから………。」

「誰かの役に立ちたい、か…………。何もわざわざそのために魔法少女にならなくても良いように思えるが………。」

「でも、マミさんを一人ぼっちにさせたくはないから………。」

「…………そういうことか。」

 

まどかの言葉にさやかは魔女の討伐に向かったマミの背中を見つめた。その彼女の背中はひどく小さく見えた。

 

「あ、さやかちゃん。一応伝えておこうかなって思っていたんだけど、さっきね、ほむらちゃんと会ったんだ。結界の中で。」

「暁美ほむらが…………?」

「うん。なんだか、この魔女はいつもと一味違うって、なんていうのかな………すごく必死だった。でも、マミさんがリボンで縛り上げちゃって、そのまま置いてきちゃった………。」

「必死だった………?彼女がか?」

 

さやかの確認にまどかは申し訳なさげな顔を浮かべながらもしっかりと頷いた。

 

 

 

「っ…………くっ………!!」

 

時は少し巻き戻し、魔女がいる場所とは離れた場所。ここではほむらが何故か錠がつけられた赤いリボンに縛り上げられ、身動きが取れないでいた。

 

(ダメ………やっぱり切れない………動けば動くほど、締め付けられる………!!)

 

 

振り解こうにも力を入れれば入れるほど余計に締め付けの強さが上がってしまうため、どうしようもできないでいるほむら。

一応、マミ自身からは帰ってくるころにはリボンを解くと言質自体はあったためこのままおとなしくしているのも選択肢のうちにはあった。

 

しかし、彼女にはその選択肢が絶対に取れない理由があった。

 

(早くしないと、巴マミはあの魔女にやられる…………!!)

 

彼女はなぜか知っていた。巴マミが今回の魔女に喰われて、死んでしまうことを。

だからほむらは彼女を止めようと、今回の魔女を自分に任せてほしいと言った。

しかし、マミはほむらに対する不信感のせいでそれを妄言、もしくは戯言と断定し、ほむらを縛り上げてしまった。

それ故に、一刻も早く、このリボンの拘束を破って、マミの援護に向かわなければならない。

だが、マミのリボンは想像以上の耐久性があり、非力なほむらの腕では動くことさえまともに出来ず、悶えるように身を捩らせるのが関の山であった。

 

(……………どうやっても解けない………!!無理なの………?彼女を救うことは…………!!)

 

ほむらは何か手段はないかと思考を張り巡らせる。しかし、現状拘束されてしまっている身ではまずなによりこのリボンを解かない限り行動することは許されない。

だからと言ってマミのリボンを引きちぎろうにもそれをできる手段すらない。ほむらはいわゆる詰みの状態にかけられていた。

 

(……………諦めるしかないみたいね。彼女のことは………。いずれのために彼女の力は借りたかったけど………。せめて、まどかだけでも助けないと………!!)

 

ほむらは頭の中ではそう言っているものの、その俯いた表情は思考の声とは裏腹に悔しさに滲んでいるようだった。

 

 

 

 

「…………暁美ほむら…………?」

「さやかちゃん…………?ほむらちゃんがここにいるの?」

 

不意に視線をマミから外し、訳もなく背後を振り向くさやか。そんな彼女にまどかは不思議そうな顔を向けるが、さやかはハッとした表情をすると、すぐさまマミの方に視線を戻した。

 

「………すまない。無意識だった。」

「そ、そう、なの?」

 

まどかから不思議そうな顔は向けられたままだったが、ひとまずそれ以上の追及は回避し、今はマミの方に意識を集中しようとするさやか。

しかし、彼女の意識にはどうにも妙な感覚が入り込んでいた。

 

(なんだったんだ………今のは?諦観、無力感、だけれどもどこか、誰かの生存を求めているような………?)

 

(これは、暁美ほむらの感情か?なぜ私にそんなものが流れ込んでくる………?)

 

何故か自身に流れ込んでくるほむらの感情に困惑を隠し切れないさやか。そのほむらの願いの矛先はマミに向けられていた。

 

(何故だ?何故マミ先輩の生存を願う?そして、それを諦めている?それではまるで、彼女の死亡する未来が確定しているかのような口ぶりではないか………!!)

 

「違う…………!!」

「さ、さやかちゃん………?」

 

突然さやかの口から出てきた否定の言葉にまどかはびっくりしたような声を上げる。

 

「未来を決めつけるな!!まだ何も、何も終わっていないッ!!!!」

 

「お前だけ知ったような顔をして、勝手に諦めて、絶望をするな!!」

 

さやかはこの場にいないはずのほむらに向かって叫ぶとマスケット銃を構えながら身を潜めていたドーナツから躍り出る。

 

「さやかちゃん!?一体何を………!?」

 

まどかの静止の声も届かず、さやかは全力で駆け出した。その先は魔女と思しき人形にマスケット銃の銃弾を撃ち込み、その銃弾から伸びた糸で人形を宙吊りにしたマミの姿があった。

彼女は走り出しているさやかに気づく様子もなく、とどめの一撃と言わんばかりに巨大な大砲を拘束した魔女に向ける。

 

「ティロ・フィナーレ!!」

 

そして、放たれた砲撃。弾丸は40〜50センチくらいの人形の体に風穴を開けるとそこからリボンが伸び始め、人形の体を絞り上げる。

しかし、そのリボンが絞り上げた瞬間、不自然に人形の頭部が膨らむとそこから大きさが不釣り合いな巨大な蛇のような外見をしたナニカが口から押し出された。

その巨大な蛇の全景が徐々に明らかになるとソレは口に付いている鋭利な牙をギラつかせるとマミに狙いをつけ、急接近を始める。

 

「えーーーー」

 

突然の魔女の攻撃に呆けたような声しかあげられないマミ。そう、ほむらの見立て通り、彼女はここで魔女に喰われて死んでしまう。マミの死はのちにまどかとさやかに強すぎるほどの影響を及ぼし、暗い影を落とす。

 

しかしそれはーーーー

 

「貴様のその身勝手な歪み、そして巴マミが死ぬという運命!!両方とも、この私が断ち切るッ!!!」

 

別の世界線の話だ。

 

 

マミが魔女に喰われる寸前、響いた乾いた音。それはマミにとっては聴き慣れたマスケット銃からの銃声だ。しかし、当の本人の両の手にはそのマスケット銃は握られていない。

そして、その銃声が響いた直後、魔女は痛々しい悲鳴のような絶叫を上げると思わず右にのけぞるようにその進行ルートを変えた。

 

つまるところ、魔女は巴マミのすぐ左脇に墜落して行った。彼女は死の運命から逃れられたのだった。

 

「え…………?」

 

突然に次ぐ突然の状況に理解が追いつかないマミ。しかし、時間は無常にも流れ続ける。

 

「魔女!!貴様の相手はこの私だ!!」

 

耳朶を打つ声に思わず視線を声のした方向に向ける。そこには彼女の知らぬ間にかなりの距離を詰めていたさやかの姿があった。手にはまだ煙が燻っているマスケット銃を握っているため、先ほどの銃声はさやかがマスケット銃を撃ったからだろう。

そしてそのさやかは手を大きく振りながら声を張り上げていた。まるで、自分が囮でも引き受けたかのようにーーーー

 

その直後、マミのすぐそばで地響きと共に黒い巨体が身を持ち上げる。さっきの魔女だ。その正面に見える顔は完全に怒りに歪んでおり、その顔の大半を占めている巨大な瞳は片方が塞がれていた。

 

「まさか、美樹さん………狙ったの?あのタイミングで魔女の目をーーー」

 

マミがその呟いた瞬間、魔女は怪獣のような雄叫びをあげながら突進を始める。

そのことに気づいたマミは咄嗟に魔女をさやかに向かわせないとしてマスケット銃を出すがーーーー

 

「あ、あれーーーー」

 

カクンッと、彼女の膝が崩れ落ちるように力を失い、地面に膝をつけてしまう。よく見れば彼女の足は目の前の死という現実に直面したのもあったのか、生まれたての小鹿のようにプルプルと震え上がっていた。

 

「ダメ………美樹さん…………!!!」

 

マミは届かないと頭では理解しながらも現実を認められないあまり、呆然と手を伸ばす。

 

「まどか!!早く僕と契約を!!」

「さやかちゃぁぁぁぁぁん!!!!!」

 

キュウべぇが現状の打開策としてまどかに契約を迫るが、その声も聞かずに涙を浮かべながら友人に迫る死に、絶叫のような叫び声を上げる。

 

「私は………生きる。生きて、明日を掴む!!」

 

先輩と友人の声が響く中、さやかがそう叫んだ。その瞬間、彼女の両の瞳、その虹彩が澄んだ金色に変貌を遂げる。

次の瞬間、さやかは手に持っていたマスケット銃を突進で突っ込んでくる魔女に向けてバク転を行使して距離を取りながら投擲。

ブレることがなく投げられた銃は突進してくる魔女にまっすぐと飛んでいき、もう片方の傷つけられていない方の目に突き刺さった。

 

片方を銃弾に貫かれ、もう片方も銃が突き刺さったことで視界を失った魔女。しかし、突進すること自体は辞めずにその大きな口を開き始める。

その噛まれたら一巻の終わりであることは確定の大口からさやかは大きく横に飛ぶことで回避する。

 

しかし、その魔女の巨体のあまり喰われることは回避するも、魔女の突進自体から逃れることは叶わず、魔女と接触したさやかは弾き飛ばされてしまう。

さながらバスやトラックといった大型車輌との接触事故を起こしたような状況にまどかとマミは思わず息を飲む。

 

「っ…………くぅ…………。」

 

何回か地面に体を打ち付けられたさやかだったが、苦悶の表情を浮かべるだけで四肢がもがれたというスプラッタなことにはなってはいなかった。

視界をなくした魔女が自身の結界の壁に衝突している間にさやかはすぐさま立ち上がり、再び駆け出した。

その先には足が言うことが聞かずにへたり込んでいるマミがいた。

 

「み、美樹さん………!?貴方、生きてるの………!?」

「ああ、なんとかな。だが、魔女を倒せるのは貴方だけだ。手を貸すが、立てるか?」

 

さやかから差し伸べられた手をマミが手に取るとさやかは引っ張りあげることでマミを立たせる。

 

「…………引き金を引くだけなら何とかなるわ。」

「そうか…………。」

 

そう言うとさやかはその場に座り込んでしまった。魔女と接触するレベルまで落としたが、ダメージ自体は普通の女子中学生に看過できるレベルではなかったようだ。

それを証拠にさやかはぶつけた箇所を押さえながら荒い息を吐き始めていた。

 

(これ以上、時間はかけられない………!!)

 

さやかの様子からそう判断したマミはマスケット銃を出すと、壁に激突した魔女に目線を向ける。

幸い、さやかが傷つけた眼球が回復した様子は見られず、さほど動かないで周囲の様子が見えないことを不思議に思っているのか、キョロキョロと辺りを見回していた。

 

その間にマミはマスケット銃を巨大化させ、先ほどのティロ・フィナーレを放ったものと同じ大きさまで大きくする。

 

「まだ………まだよ、あれを倒すにはもっと大きく…………!!」

 

そう言うとマミは魔力を込め、ただでさえ大きかった大砲をさらに巨大化させる。

魔力が込められた大砲が光に包まれるとその砲身を伸ばし始める。

大砲から光が消えるころにはその大砲はもはやそのようなレベルではなくーーー

 

「れ、列車砲か何かのようだ…………。」

 

さやかがあまりの大きさにその巨体を見上げながら若干引き気味の笑みを浮かべる。そしてマミはその列車砲の砲身の先に足をかけ、未だ辺りを見廻している魔女にその砲口を向ける。

 

「ボンバルダメント!!てぇぇぇぇぇ!!!」

 

マミの号令とともに火を吹いた列車砲は爆撃と聞き間違えるかのような轟音を響かせると、魔女の巨体を覆い尽くすほどの爆発を生み出した。その火力と衝撃が合わさった爆風に思わず手で身構えるさやかだったが、マミの結界が彼女の周囲に張り巡らされており、事なきことを得た。

 

「ま、魔女はどうなったんだ………?」

 

爆風が止むと魔女の確認をするさやか。すると程なくしないうちに視界がユラユラと陽炎のように揺らぎ始め、元の病院の風景に戻っていった。

これはつまり、魔女はしっかりと打倒されたのだ。

 

「倒したか………。よかっt「美樹さん!!」「さ゛や゛か゛ぢゃぁぁぁぁぁぁん!!!」うおああああああ!?」

 

なんとか危険から切り抜けたことにさやかがやり切ったようにしているところに正面から突っ込んでくる人影が二つ。

その影に突進を受けたさやかは座っていた状態から上半身をぶつける形で押し倒される。

 

「な、何故突進なんかをしてくるんだ二人とも………。」

「あ・な・た・ねぇ!!死ぬつもりなの!?魔女に一対一でもかなり危険なのに、よりによって魔法少女じゃない美樹さんが前に出張るって正気なの!?」

「そ、そうでもしなかったら貴方は確実に死んでいた。具体的に言えば、首から上を丸噛りがいいところだっただろう。」

 

もの凄い剣幕で詰め寄ってくるマミにさやかはその剣幕に圧され気味の様子を見せながらそう反論する。

しかし、それが余計に彼女に怒りに油を注いだようでーーー

 

「貴方が変に前に出てきて、それで死んじゃったらどうするのよ…………!!!残された人のこととか………少しは考えなさいよ………魔女の結界の中で死んじゃったら、もう誰にも見つけてもらえないのよ………?ずっと、ずっと行方不明者のまま、家族の人たちは探し続けるのよ………!?」

 

そこまで言ったところで、マミはその瞳から大粒の涙を溢しながら泣き出してしまった。その彼女に申し訳なさげな顔を浮かべていると隣ですでに嗚咽をこぼしながら泣き出しているまどかの姿が目に映る。

 

「…………まどか。君も同じか?」

「ッ……………!!!」

 

さやかがそう尋ねるとまどかは泣いているのを抑え込むように下唇を噛みしめながら風切音がなりそうな勢いで首を縦に振った。

 

「危険なことをしたのは謝る。二人が怒りを露わにするのも当然だ。だが、そんな私の頼みを聞いてくれないか?結構重大なんだ、これが。」

 

さやかが微妙に表情をひくつかせながらの言葉にマミとまどかは彼女の顔に視線を合わせる。

 

「……………医者、呼んでくれないか?魔女と衝突したときのダメージと、今の突進で、もう体が、げんか………い…………。」

 

その言葉を最後にさやかは体から発せられる痛みという名前の危険信号に耐えかねて、意識を闇に落としてしまう。

 

その後、焦りに焦りまくった二人がすぐそばの病院に担ぎ込まれたひと騒動は、病室にいた恭介や放置されてしまったほむらの耳にも届いていた。





マミさん生存ッ!!マミさん生存ッ!!

……………多分、武器借りてたとはいえ生身で魔女にダメージ与えた奴っていんのかな…………。

あ、今回の話は参考にはしないでね?純粋種とのお約束だ!!
これ、ガンダムファイターとかパイロットならまだ許されると思うけどせっさんはどうだろう………。


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第12話  私と友達になってくれますか?

いやー、内容薄いかもー(白目)


「知ってる天井だ…………。」

 

魔女の結界から脱出した後、魔女と衝突した時のダメージ、そしてとどめにマミとまどかの両名から受けた良質的なタックルのせいで気力が限界に達したさやか。

一応結界が発生した場所が恭介が入院している病院の敷地内だっため、担ぎ込まれたのもその病院なのだろう。

 

何よりすごく見知った天井が目の前に広がっているのだから。

自分はしっかりと生きてるし、マミやまどかがあの巨大なお菓子がたくさんあった魔女の結界で死んだということもなかった。

暁美ほむらがなぜか悟っていたマミの運命を乗り越えたのだ。そのことに満足気に笑みを零しているとーーー

 

「なぁにが知ってる天井なんだよ、お前は。」

「んぐっ………!?」

 

凄く聞き覚えのある声とともにさやかの脳天にゴスッと鈍い音ともに鈍痛が襲う。

突然の痛みにさやかは頭を押さえながら脳天にゲンコツをかましてきた相手を涙目で睨む。

そこにいたのは、さやかの両親の慎一郎と理多奈だった。まどかとマミの二人の姿も病室の中にあった。

 

「と、父さんに母さん………!?なぜ病院に………!?」

「なぜってお前が病院に担ぎ込まれたって連絡が入ってきたからに決まってるだろうが!!」

「もう、突然のことだったからすっごく慌てたのよ?それで来てみればまどかちゃんは涙目でその隣にいたマミちゃんっていうそこの金髪の子も不安そうな顔をしていたのだけど、貴方、何があったの?先生は全身打撲とか言っていたけど…………。」

 

母親である彼女からそう尋ねられてさやかは思わず渋い表情を浮かべてしまう。

正直なところ、話したところで真実味がなさすぎるからだ。いきなり魔法少女のことや魔女の結界で魔女と接触事故を起こしたといったところで連れて行かれるのは病院の精神科なのは目に見えていたからだ。

 

「…………何か車のようなものに轢かれたのが一番しっくり来るのだろうな。もっともどんな車種かだったかは微塵も覚えていないし、二人と会ったのも完全に偶然だ。」

「ちっ、やっぱりそうかよ。車かその類の乗り物だったか。」

「……………何も覚えてないの?」

 

理多奈の心配そうな表情を浮かべながらの質問にさやかは首を振ることで否定の意志を示す。

もちろん、さやかはその原因をすべて覚えているし、全身打撲に至るまでの経緯も忘れたわけではない。

ただその原因となった魔女は既にマミが打倒しているし、両親がいくら探したところでそれを見つけることは叶わない。ただそれだけなのだ。

故にさやかは両親に真実を隠すことを選んだ。

そこに多少の良心の痛みはあったが、これが一番手っ取り早い。

 

「覚えていないというよりわからなかった。気づけば、地面に転がされていた。」

「…………………そうかい……とにかくお前さんが無事で良かったよ。」

「ところで、退院はどれくらいでできそうなんだ?」

 

安堵する息をつき、病室の椅子に脱力しながら座った慎一郎にさやかは退院の時期を聞くことにした。

 

「っとだな…………全身打撲とは言ってはいたが、その割には外傷はほとんどないって話だ。そんな時間はかからねぇと思うぞ?」

「………そうか。大事ないようでよかった。」

 

さやかは自身の手足に巻かれている包帯を見つめながら安心したように表情を緩めるのだった。

 

 

 

 

しばらくして、慎一郎や理多奈と会話していたさやかだったが、両親はひとまずさやかが急に入院したから急いできたのか、色々と家でやることをほっぽってきたらしく、早めに帰っていった。

病室にはまどかとマミ、そしてさやかの姿しかなくなっていた。

 

「二人とも、まだ残っていたのか?今日は色々あったのだから、早めに帰ることを薦めるが………。」

「えっと…………そう、だね。今日は色々あったんだしもう帰った方がいいよね…………。」

 

まどかがそうは言うもののどこか気まずそうに、視線を横にいるマミに向けていた。疑問に思ったさやかが彼女の方に顔を向けると先ほどから俯いているマミの姿があった。

 

「…………私、二人を危険な目に遭わせてた………。」

「それは………こちらとてある程度の覚悟はしていた。確かに今回、命の危険こそはあったが、こうしてみんな生きている。それでいいではないのか?」

 

感情を押し殺すような声でさやかとまどかを危険な目に合わせたことを後悔するマミ。そんな彼女にさやかは表情を緩めながら気にしなくていいと伝えるがーーーー

 

「そんなことできるわけないじゃないッ!!!!」

 

病室に響き渡るマミの絶叫。涙混じりのその声にさやかとまどかは息を呑むことしかできなかった。

 

「魔女の中から突然、別の存在が現れるなんて、思いもよらなかった…………!!私は、あの魔女に近づかれた時、何も、出来なかった………!!完全に倒した気になって、油断していた………!!」

 

「私は………魔法少女なのよ……!?本当だったら、貴方達二人を守る責任と義務がある………!!なのに私は、あの時何も出来なかったどころか………!!」

 

マミはその瞳を病室のベッドの上にいるさやかに向ける。その瞳は自責のようなものを孕んでいるように見えた。

 

「美樹さんに………助けられてしまった………!!本当だったら、私がしっかりしなきゃいけないのに………!!それどころか、助けられた後、私は恐怖で足がすくんで、少しの間動けなかった………その間に結果的に美樹さんに囮をさせてしまった上に怪我までさせてしまった………!!」

「マミさん…………。」

「マミ先輩…………貴方は…………。」

 

慟哭ともとれるマミの言葉に何も声をかけることができないまどかとさやか。その間にも無常にも彼女の慟哭は続く。

 

「昔ね………まだ魔法少女に成り立てだったころ、私の力不足で救えなかった子供がいるの………。それだけでも、すごく辛かった………。その時からもう絶対に誰も死なせないってやってきたのに………。」

 

「私は知り合い一人すら、肝心な時に助けられなかった………!!」

 

「情けないわよね………。強くなったって思っていたのに、本当に死ぬ場面に直面すると、どうしようもなく、怖くなっちゃうの………。」

「いや、当然ではないのか?人間だれでも死というものに恐怖を抱かないはずがない。むしろ、それこそ人間たらしめるものではないのか?」

「さやかちゃん…………。」

 

最初こそ、マミの様子に気圧されたのか、呆気に取られた様子のさやかだったが、少ししないうちにいつもの冷静さを取り戻し、一歩対応を間違えればまずい方向に傾きそうなマミに語りかける。

 

「でも、私は魔法少女なのよ?だったらみんなを守れるくらい強くないとーーーー」

「虚勢を張るのは、それ以上やめた方がいい。貴方は魔法少女である以前に人間だ。魔法少女が人を守るためにあるのであれば、何より身近な人間である貴方自身を守らなければ、他人など持っての他だ。」

「虚勢なんて………私は………。」

「そういう人間ほど自分が限界を迎えていることに気づかない。前回、貴方の部屋に邪魔した時に聞いただろう。その生き方で寂しくないのか、と。」

「……………さやかちゃん。」

 

まどかの声にさやかが彼女の方に視線を向ける。彼女の目はどこか意を決したようなものとなっていた。何か、重大なことを話すのだろうか、とさやかの中で予測を立てる。

 

「マミさん、言ってたよ。魔法少女は怖くて、辛い。ひとりぼっちで泣いてばかりだって。」

「……………そうか。」

 

彼女の予測はやはり当たっていた。マミは本当は限界で寂しかったのだ。その感情を今まで押し殺して生きてきた。誰にも相談できずに、そもそもとして相談する相手すらいない、ずっと孤独の状態で。だが、そんなひとりぼっちの彼女にも光が当てられる時が来た。

 

「む………少し痛むがなんとかなるか。」

「さ、さやかちゃん!?大丈夫なの!?」

 

突然さやかがベッドから立ち上がったことにまどかは驚いたように目を白黒させ、マミに至っては声すら上げられずにさやかを見つめていた。

そんなさやかは若干ふらつきながらもマミの目の前まで歩を進ませる。

 

そしてーーーー

 

「あーーーーー」

「まどかがもう言っているとは思うが、敢えて言わせてもらおう。貴方はもうひとりぼっちではない。ここには、魔法少女のことを知っているまどかと私とーーー貴方がいる。であれば、多少の相談事であればいくらでも請け負うさ。」

 

彼女の両肩に腕を回したさやかは自身の方にマミを抱き寄せる。突然のことにマミは呆けたような声を上げるが、そんなのはお構いなしだ。

 

「だから、その抱えているものを思う存分に吐き出すといい。ここには私たち3人しかいないからな。」

「で、でも、私は…………私は…………。」

 

さやかに抱き寄せられたことに困惑するような様子を見せながらも何かを耐えるようにその手をぎゅっと握りしめて、さやかの着ている服にシワを作る。

するとさやかはまどかに視線に向けて目配せをする。最初こそ、まどかは視線を向けられたことに首をかしげるが、さやかが柔らかな笑みを浮かべながら、マミに一瞬だけ自身の顎を向けるような仕草をすると、その意図を察した。

 

「マミさん。マミさんは、すっごくカッコいい人です。いつもみんなのために魔女と戦っていて、あの魔女の結界の中でも言ったように、そんなヒーローみたいなマミさんに憧れてたりしています。」

 

「でも、そんなマミさんだって、カッコいいところばかりじゃないのは、分かっています。いつも無表情で見えても意外とみんなを笑わせようとしてくれたり、みんなのことを誰よりも大事に思ってくれていた。それはさやかちゃんでいっぱい見てきたから。」

 

「だから、マミさんだって少しくらい弱いところを見せても、大丈夫です。そういう一面もマミさんなんですから。」

 

そのまどかの言葉は確かにマミの心に届いただろう。しかし、彼女はさやかに抱き留められていることに対して抵抗をやめただけだった。

だが、あと一押しなのは確かだ。

 

「…………こんな私でも………いいの?私は、先輩なのに、情けないところもあるし…………。」

 

自身の言葉に笑みを浮かべながら、二人揃って頷くことで、その意志を露わにする様子を見せられたマミ。

 

「…………私ね、ずっと欲しかったものがあるの。なかった訳じゃないけど、魔法少女として生きていくうちにどんどん関係が希薄になっていったからもうほとんどないものね。だからーーーー」

 

 

私と友達になってくれる?

 

 

「ああ。もちろんだ。」

「はい!!」

 

そのマミの願いにさやかはにこやかに頷き、まどかは満面の笑みを返すことでその願いを叶える。

その答えにマミは一瞬、呆けると徐々に瞳を潤ませると、さやかの服を握り締めていた手を彼女の背中に回し、力一杯抱きしめるとその胸で声を押し殺したようにすすり泣きはじめる。

 

それでも、そこにはひとりぼっちだった少女はおらず、いるのは友人に囲まれたただの女の子としての巴マミだった。

 

 

 

「それじゃあさやかちゃん、また来るね。」

「ああ、いつでも来るといい。というが、入院する期間は短そうだからすぐに学校にも戻れると思うが。」

 

まどかの言葉にさやかがそう返すと二人は手を振りながら病室を後にしようとする。

 

「…………マミ先輩。」

「美樹さん?どうかした?」

 

そんな時、さやかは突然、マミを呼び止めた。少し怪訝な顔をしながら振り向かれたマミの顔は先ほどまで泣いていたのも相まって、目の周りがわずかに赤く腫れていたが、その顔に憔悴したような雰囲気はなかった。

 

「…………また、紅茶を飲ませてはくれないか?貴方の淹れる紅茶はケーキの甘さとぴったりで気に入っているからな。」

「……………ええ、いつでも待っているわ。」

 

さやかのお願いにマミは晴れやかな笑みを浮かべながらそれを了承すると、二人は病室から出て行った。

二人の姿が見えなくなるまで見送ったさやかはやることがなくなったため、布団を被り直すと、そのまま就寝することにした。

 

(ねぇ、美樹さん?)

 

そんな最中に突然、マミの声がテレパシーとしてさやかの頭の中で響く。今まさに就寝しようとしたところだったため、不意を突かれたような形となったさやかは苦笑いを浮かべながらマミのテレパシーに応える。

 

(…………今まさに寝ようとしたところだったのだが…………)

(あ、あら………?ごめんなさいね………。)

(まぁいい、忘れてくれ。それで、何か要件でもあるのか?)

(……………暁美さんに伝言をお願いしたいのだけど、いいかしら?)

 

マミの要件というのはほむらへの伝言であった。そのことにさやかはわずかに眉を潜めながら思ったことを口にする。

 

(……………直接言ったらどうだ?彼女も学校に通っているのだから、それこそまどかにだって頼めることではないのか?)

(ま、全くもってその通りなのだけど………少し、顔を合わせづらいのよ…………。)

 

マミが気まずそうにしながら何かを察して欲しいという口調でテレパシーが送られる。

そのことにさやかは少し考え込むと、魔女の結界で二人と合流した時にまどかが言っていた言葉を思い出した。

 

(……………そういえば、彼女を縛り上げたらしいな、彼女の警告に全く耳を傾けず。)

 

さやかがそういうテレパシーを送るとマミが声を詰まらせたような息遣いが頭の中で響く。要するに合わせる顔がないのだ。どういう訳かほむらはあの魔女の危険性を知っていた。なぜ知っているのかはこの際棚に上げておき、その危険性を前もって警告しにきたにも関わらず、彼女は耳すら傾けずに拘束、そして放置してしまった。

その時のマミのそばにはまどかがいたはずだが、おそらくその時のマミの様子に気圧されて彼女の後を着いて行ってしまったのだろう。

彼女はやる時はやるが、基本的には気弱な性格だ。まぁ、そんなこともあり得るのだろう。

 

(ふぅ……………分かった。学校に戻ってからになるだろうが、機会があれば彼女に伝える。内容は警告を聞き入れなかったことのへの謝罪か?)

(…………そうね。彼女の言う通り、今回の魔女は一味違った。実際、美樹さん、貴方が助けてくれなかったら、私はここにはいなかったでしょうね。)

 

(…………さっきまで私の中で色々感情が渦巻いていたから言えなかったけど、助けてくれてありがとう。貴方は私の命の恩人よ。)

(………そんなわけない、と言いたいところだが、そう言ったところで、無限ループに陥るだけなのは目に見えているから、素直に受け取っておこう。)

 

さやかがすぐに引き下がったことに意外にと思ったのか、少し間が空いた後にマミはさやかにもう一度ありがとうと告げて、テレパシーを終える。

脳内にマミの声が響かなくなったことを確認したさやかは身構えていた警戒を解くと、布団を被り直し、今度こそ就寝に入った。

 

 

 

 

その夜、一般的な病院の面接時間を過ぎた時刻。照明も消された暗い廊下、そんな建物の中を歩く人影が一つ。

その人影は病院内を見回っている看護師でもなく、はたまた夜勤中の医師でもなかった。

その理由は彼女の着ている服がそのような関係人物が着るようなものではなく、どこかの学校の制服のようなブレザーだったからだ。

その人間はとある病室の一室の前で立ち止まるとそのドアの手すりに手をかけた。

 

次の瞬間、その人影の姿は一瞬で、さながら瞬間移動でもしたように掻き消えてしまった。しかし、わずかにドアが閉まる音が響いたことからその人影は病室の中に入り込んだのだろう。

そんな人影が入り込んでいった病室の標札にはさやかの名前が刻まれていた。

 

 

「………………………。」

 

病室に入り込んだ人影ーーーほむらは視線の先にあるベッドで寝ているさやかに近づいていく。

夜、誰も見ていない病室、シチュエーションは完全に暗殺のソレだ。

 

「こんな夜更に何の用だ、暁美ほむら。既に面会の許可が下りる時刻は過ぎているはずだが。」

 

しかし、さやかは近づいてくるほむらに気付いていたのか、彼女に背を向けたまま言葉を投げかける。

もっともほむらからは見えないがその表情は困惑を孕んだ苦笑いを浮かべていたが。

 

「ええ、こんな夜更だからよ。他の人間が乱入してくる可能性が一番少ないもの。」

 

さやかの言葉にさながらちょうどいいとでも言うような雰囲気で言葉を返すほむら。そのタイミングでさやかが布団の中で身体を回転させ、横に寝転がった状態でほむらと対面する。

 

「……………今私の中でお前には不審者のレッテルを貼っているのだが、百歩ほど譲ってそのことは棚にあげる。で、一体何の用だ。」

 

そうほむらに自身への要件を尋ねるさやか。しかし、その手には何かあった時用にナースコールがしっかりと握り締められていた。

 

「……………巴マミを助けたのは貴方?」

「その質問に答えるのは別に構わない。だが、私からもお前に聞きたいことがある。何故彼女があの魔女との戦いで死ぬことを知っていた?まるでお前は以前に巴マミがあの魔女と相対し、そして死んでいった様子を目の当たりにしたような様子だった。」

 

さやかがその質問をした瞬間、ほむらの表情がまさに驚愕というようなものに変貌し、完全に彼女のポーカーフェイスが崩される。

予想だにしなかった質問、彼女の内面だけで行われた誰も知りようがないはずの言葉。

その言葉をさやかは感じとり、聞き取っていた。

 

「答えてほしい。前回は引き下がったが、今回ばかりはそうもいかない。確かに彼女はあのままでは死んでいた。だが、何故それをお前が知っていた。」

 

さやかの質問にほむらは完全に目を見開き、言い淀むことしかできないでいた。

 

 




ねぇ、知ってる?
ほむほむの中の人って、ダブルオーでルイスの声やってるんだぜー?

さっさん「私がガンダムだ!!」
ほむほむ「パパとママを殺した、あの時のガンダムゥ!!」(なお、本人はガンダム顔に機体に乗っているというくっそ皮肉つき)


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第13話 信じるさ。アンタの言葉に嘘はない。

くっ………ほむほむの心中が複雑すぎてこれでいいのかどうかが全然わからない………。

あ、クロスレイズ発売したんで初投稿です。


「…………貴方、本当に何者?」

 

さやかの問いかけにほむらは疑念をそのまま言葉にすることで返す。

 

「それはこちらのセリフだと言いたいが、私は美樹さやかでしかない。それだけだ。質問に答えてほしい。お前に対する疑念はもはや目を逸らすことができないレベルまで来ている。」

「…………そもそも私が巴マミの生存を願った証拠なんて、どこにもないわ。」

「まどかから、お前がマミ先輩に今回の魔女は任せてほしいと言ったことを聞いた。今回の魔女は一味違うと警告していたこともだ。この言葉はマミ先輩の身を案じていなければ出てこない言葉だろう。事実、彼女は魔女に不意をつかれ、死にかけたんだからな。」

 

さやかは一度そこで言葉を区切るとほむらを鋭い目つきで睨み付ける。

 

「魔女の外見、特徴など、予め推測できるものではない。中に別の存在を抱え込んでいたのであれば尚更だ。だが、その魔女の特性を一味違うとぼかした言い方をしていたが、お前は知っていた。何故、誰も知り得ないようなことをお前は知っている?」

「…………貴方には関係のないことよ。」

「まどかのことに関してもそうだ。お前がまどかを魔法少女にさせたくないのはわかった。その理由がその高い素質をキュゥべえに利用されたくないというのもな。だが、そもそもとして高い素質を持っていることを何故知っている。お前がキュゥべえを追いかけ回していたのは、まどかとキュゥべえが出会う前に既に繰り広げられていた。」

 

ほむらはさやかには関係のないことだと言って、口を噤むが、さやかは矢継ぎ早にほむらに対する疑問を止めることなくぶつける。

 

「お前は、謎が多すぎる。その謎やお前の取る立ち振る舞いが、対する者に不信感を抱かせ、肝心な時に信じてもらえず、今回のマミ先輩のようになる………!!はっきり言って、こうして応対している私自身でさえ、お前に対する不信がないと言えば嘘となる。」

 

「だが、お前が事情を話してくれれば、蟠りはなくなり、私達はわかり合うことができるかもしれない。だからーーーー」

 

「教えてくれ。お前の知っていること、それから辿ってきたその道を。」

「魔法少女でもない貴方がーーー「関係ない。」は?」

 

さやかが手に握っていたナースコールを離すことでこちらの誠実性を前面に出すが、それでも話そうとしないほむら。

その理由は魔法少女でもない。

確かに魔法少女ではない、一般人のさやかが首を突っ込めることではないかもしれない。

 

「魔法少女である以前にアンタも私も人間だ。ここに生きている人間なんだ。私は魔法少女としての暁美ほむらではなく、大事な人を守りたいと願う、一人の人間としての暁美ほむらを知りたいんだ。」

 

だが、そんなのは所詮詭弁でしかない。さやかにとっては魔法少女である以前にほむらも一人の人間なのだ。

 

「……………そう。そこまで知りたいのなら教えてあげるわ。どのみち貴方は上条恭介がいる限り、キュゥべえと契約するのは明白。だったら知らないよりはよっぽどいいでしょうね。魔法少女の真実を。」

 

どうやら話してくれる気にはなってくれたようなほむらは彼女のトレードマークでもあるストレートに下ろした黒髪を荒々しく手で払う。その表情はどこかイラついているようにも見えた。

 

(…………どのみち恭介がいる限り、私は確実に契約する、か。まるで前例があったかのような言い方だな。とはいえ、教えてくれるのは別のもののようだが…………)

 

ほむらの言い草にそんなことを考えたさやかは軽く眉を潜める。それを彼女に問い質してみてもよかったが、話の流れ的に関係のあることでは無さそうだったためさやかは口を噤むことにした。

ほむらは自身の制服のポケットから紫色の宝石が付けられたアクセサリーのようなものを取り出すと、さやかに見せつける。

マミのものとは微妙にデザインに差異が見られるが、それは十中八九、ほむらのソウルジェムなのだろう。

 

「それは、アンタのソウルジェムか。」

「ええ。貴方、これに関してはどこまで?」

「……………魔法を使用すればするほどその内部に穢れという黒いモヤが生じる。それは溜め込みすぎると魔法の使用が出来なくなるため、魔女が落とすグリーフシードによる定期的な浄化が必要なところか。だいたい、アンタも私がそれぐらいの知識しかないことを察してはいるのではないか?ちょうどその説明を聞いていた現場にいたのだからな。」

「否定はしないわ。そして、何か違和感を感じた事はないかしら。なぜ、グリーフシードはソウルジェムから穢れを取り除くことができるのか。」

「…………違和感自体はあった。確証にはなんにも至ってはいないが。」

「そう。それだけでも巴マミよりは上出来ね。」

「そ、そうか…………。」

 

いい反応は得られないと思っていたが、意外にもほむらから歳に似合わない妖艶な笑みを浮かべながらさやかを巴マミよりは上出来と評して褒めた。

そのことに軽く面をくらうさやか。しかし、巴マミはかなりの実力と魔法少女としての実績を重ねている筈だ。そんなベテランな彼女より上出来ということはーーー

 

「マミ先輩さえ知り得ないこと、なのか?アンタがこれから話すことは。」

「そうよ。知っているとすれば、私の他には、あいつしかいない。」

 

ほむらはそういうと表情をまるで汚物でも見るかのような冷ややかなものにする。彼女がそんな表情をする相手といえば、一人、いや一匹しかいない。

 

「キュゥべえか。となるとやはり、奴は何かこちらに言っていないことがあるようだな。余程の、それこそ魔法少女になるのを躊躇うほどのものか。」

「躊躇うどころか、誰もなりはしないでしょうね。余程の大馬鹿者でなければ、ね。」

 

そう言ってほむらはさやかに鋭くした目線を向ける。まるで自身がその大馬鹿者と見ているかのようだ。

 

「……………で、その奴が隠している事とは何だ?」

「グリーフシードはソウルジェムに穢れが溜まり切った、成れの果てのようなものよ。そして、グリーフシードは魔女の卵とも言われている。つまり、貴方達が魔女と呼んでいる存在、その全て、元は魔法少女だったのよ。」

「…………………………そういうことか。ソウルジェムの内部に出る穢れ、それはグリーフシードの撒き散らす呪いと同質のものであり、だからソウルジェムに干渉ができるのか。グリーフシードは。」

「…………大して驚かないのね。」

「…………さっきも言ったが、違和感自体は持っていたからな。」

「やっぱり、貴方は違うのね。」

「…………前々から疑問に思っていたのだが、何故そんなに私のことが気になるのだ?さらにその他の誰かと比べているかのような物言い。荒唐無稽だが、まるで、私とは違う美樹さやかに()(くわ)したことがあるような雰囲気だ。」

 

さやかがそう尋ねるとほむらはわずかに視線を横に逸らし、黒髪を払うような仕草をする。その様子はさながら何か話すべきが悩んでいることをごまかしているようだった。

 

「……………ええ。事実よ。」

 

長い沈黙ののち、ほむらは一言だけ、吐き出すように言い放つ。

 

「どういうことだ?」

 

さやかが怪訝な表情を浮かべながらそう尋ねるとほむらのソウルジェムが一瞬輝いた。

病室の電気が消えており、真っ暗闇だったせいでわずかに目が眩んださやかがほむらの姿を再び視界に収めた時には彼女は魔法少女としての服装に変身していた。

 

「ッ……………!?」

 

突然のほむらの行動に思わず身を強張らせる。その反動で手がナースコールに反射的に伸びる。しかし、その行動を取ることによってほむらに対する誠実性が損なわれてしまうのではないかと思ったさやかはその伸ばした手をなんとか押し留める。

 

「安心しなさい。今の私に貴方に危害を加える気はないわ。」

 

そのことに安堵した雰囲気を出すが、さやかは同時に違和感を覚える。なぜか先ほどまで目の前にいたはずのほむらの姿がなく、その声自体は自身の背後、つまるところ背を向けている病室の窓側から聞こえたのだ。

おそるおそるさやかが背後に顔を向けると、ほむらの姿がそこにあった。

 

「……………魔法を使ったのだろうが、瞬間移動のようなものか?」

「何も知らない貴方からすればそう見えるでしょうね。」

「…………いや、違うな。お前が病室に侵入してくる時、扉を開け閉めする音がしなかった。」

「………それが?」

「お前の反応から、既に瞬間移動の類ではないのはわかったが、確かに瞬間移動であったのなら、扉を開閉する音すらしないのは不自然だ。」

 

ほむらは微妙に眉を潜めるような顔をするが、構わずさやかは自身の推察を言い続ける。

 

「そして、お前が言っていた複数人の美樹さやかと会ってきたという言葉。これは主に考えられる手段は二つだが、どのみち4次元的なものに干渉しなければ不可能だ。空間か時間のどちらか。だが、こちらの認識外での行動が可能とされるのは、時間だ。であるならーーーー」

 

「お前の魔法は時間操作か。」

 

さながら答え合わせをしてくるかのような口調でそうほむらに尋ねるさやか。そのさやかの様子にほむらはため息をつくような仕草をする。

 

「…………本当に今回の貴方は(さか)しいわね。ええ、そうよ。私の魔法は時間操作。時の流れを止めたり、ある一定の期間まで記憶をそのままにして巻き戻すこともできるわ。」

「それも全て、まどかのためか。」

「そうよ。たった一人の、私の友達。彼女を救うためなら、私はなんだってするわ。」

 

その言葉を言った時のほむらの表情はまさに鬼気迫るような感じであった。

 

「そうか…………。」

 

そのほむらの様子にさやかは何か表情を浮かべるだけでなく納得した言葉だけを浮かべる。

 

「ところで、今回の、とはどういうことだ?」

「そのままよ。今回の美樹さやかは違いすぎるのよ。貴方という人間は愚直で変に正義感が強くて、一度こうだと判断したらまどかの言葉でもその意志を変えようとしない人間だったわ。」

「…………そんな猪のような人間だったのか?」

「少なくとも私からはそう見えたわ。その上、魔法少女になった美樹さやかは、毎回自身に絶望して魔女と化していったわ。」

「その、原因は?」

「上条恭介よ。」

 

ほむらの言葉にさやかはどこか呆れたような表情を浮かべる。

 

「また恭介なのか…………。魔法少女になった理由も恭介と、まるで私がアイツに恋心でも抱いているみたいだ。」

「え………………ないの、貴方?」

 

呆れた表情をしながら冗談半分で思ったことを口にするさやか。しかし、ほむらが目を見開いて心底から驚いた顔を浮かべていたことに、思わず彼女に尋ねてしまう。

 

「いや……………そのような顔をされてもないものはないのだが。まさか、他の美樹さやかにはあったのか?」

 

その質問にほむらはどこか呆けたような様子で首を縦に振った。そのほむらの反応にさやかは難しい表情を浮かべる。

 

「…………あるのは精々、アイツのバイオリンをもう一度聴きたい程度のものだ。一応、見舞いに行っているのは腐れ縁のようなものだ。」

「そう、なの?」

「…………もちろん、自分の気持ちを隅から隅まで理解しているとは到底思ってはいない。」

 

だから、そのような可能性もあるにはあるのだろうとさやかは口には出さずともその雰囲気と態度でほむらに伝える。

 

「……………ますます貴方のことがわからなくなったわ。」

「まぁ、お前の言うことが全部真実なのであれば、余程私という人間はこれまでの美樹さやかとは違うイレギュラーのようだな。わからなくて当然だ。他人に対して歩み寄るのではなく、警戒心を出している様では、わかることもわからない。」

 

さやかはそう言うと、ベッドの掛け布団をどかし、上半身を起こす。

 

「ッ……貴方、その包帯は…………。」

 

ほむらはベッドの掛け布団に隠されていて見えなかったさやかの四肢につけられた傷、それを巻いている包帯を見て、息を呑んだ。

 

「ん?ああ、そういえばお前が来た理由もマミ先輩が何故生きているのかについてだったな。すまない、お前のことに関して疑われるのを避けるため、包帯を外すことはできないが…………まぁ、勲章のようなものだ。」

 

そう軽く笑みを浮かべるさやかだったが、ほむらはキッとした表情を浮かべ、さやかを睨みつける。さやかは彼女の反応に少しばかり困惑気味な表情をしてしまう。

 

「そ、そこまで睨まれるいわれは無いと思うのだが…………。時間を操れるお前のことだから魔女の姿形はわかると思うが、奴のあの大きな両目をマミ先輩から借りていたマスケット銃の弾丸と、マスケット銃自体を投げつけることで視界を潰した。だが、結局暴れた魔女に撥ねられてしまった。」

「魔女に…………立ち向かったの!?魔法少女でも無い貴方がッ!?その場にはまどかもいたでしょう………!!貴方、まどかの目の前で死ぬつもりだったの!?」

「………………いや、そのだな、マミ先輩にもその言葉を言ってあげればよかったのでは………?今のような必死さであればもう少し耳を傾けてくれたのではないかと思うのだが………。とりあえず、説教であれば、もう結構だ。見舞いに来た両親からの説教はおろか、マミ先輩、挙句の果てにまどかにまで泣きつかれたからな。」

 

いつもの無表情が完全に崩れ、感情が表に出まくっているほむらにさやかは微妙な表情を浮かべながら彼女をなだめるのだった。

 

 

「ふぅ…………で、貴方はどうするの?」

「…………何がだ?」

「さっき私が話したこと、諸々全て、それを信じるのかどうかよ。」

 

ほむらの確認とも取れる言葉にさやかは不思議そうな表情を浮かべながら、彼女の顔を見る。一見するといつもの無表情なように見える彼女の様子だが、さやかを見つめるその目は不安そうに揺らいでいた。

 

「…………信じるさ。アンタの言葉に嘘は感じられなかったからな。」

「……………ありがとう。貴方は強い人間ね。当事者ではないとはいえ、これを知って平静でいられる人間はいないから。」

「それもそうだな。理解はしているが、なんとも皮肉なものだ。魔女を倒す魔法少女が将来的に同じ存在と化してしまうとは………。まぁ、それは置いておこう。これでも私はアンタを信頼している。こと、まどかに関してだけだがな。」

「…………そうね、鹿目まどか、あの子だけは、絶対に救ってみせる………!!」

 

そう言うとほむらはぎゅっと手を握り締めて、その決意を露わにする。

 

「お前の、まどかへの想いは本物だった。私に対する契約をしないようにとの警告。その根底にあるのも、彼女に対する想いだろう。それだけはお前に対して、絶対に揺らぐことのない、私の信頼だ。」

「……………そう。ならいいのだけど。」

「ところでだが、この真実、まどかやマミ先輩に伝えた方がいいのか?」

「まどかはともかく、巴マミはダメよ。あの人は、真実を知った時、発狂した前科がある。正義の味方を気取って戦ってきたのに、その倒してきた存在が元は同じ人間で、あろうことか自分自身もいずれ同じ存在になると言われれば、目も当てられない惨事を引き起こしたわ。」

「そ、そうなのか…………。」

 

ほむらの言い草からかなり不味いことになったことを感じ取ったさやかはほむらの忠告の通り、少なくとも現状はマミには話さないことを胸に誓うのだった。

 

「だが、いずれは説明した方がいい。多少のリスクは背負うだろうが、こちらの(あずか)り知らぬ場所でキュゥべえに真実を明らかにされて、アンタに向けて銃口を突きつけられるよりはマシだろう。」

「…………ええ、いずれ話すわ。」




クロスレイズをプレイした感想

ああ…………掛け合いとか専用セリフが多すぎて死んじゃう…………。

青枠の傭兵「フッ………変わらないな、ロウ・ギュール」
赤枠のジャンク屋「俺と劾がいりゃあ向こうところ敵無しだぜ!!」

ァ゛(絶命)



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第14話 生きるための、戦いをしろ

前日日間ランキングが4位くらいに上がってびっくりしたわんたんめんです。

全く持って刹那(ガンダム)要素が出せていないのにちょくちょく評価を頂いて嬉しい限りです。

これからもよろしくお願いしますm(__)m


ほむらから魔法少女の真実を聞かされた夜から数日、さやかはベッドの上でボーッとする日々を過ごしていた。

しかし、その四肢についてしまったあざも経過は良好であり、医師から明日には退院ができるとのお達しが来ていた。

 

「医師から明日には退院できると告げられた。」

「本当ッ!?よかったぁ・・・・・・。」

 

さやかからそのことが伝えられたことに見舞いに来ていたまどかは安心しきったように胸を撫で下ろし、同じようにさやかのもとを訪れていたマミもにこやかな笑みを浮かべていた。

 

「…………元々軽症で済んでいるのだからそこまで喜ぶことではないのではないか?」

「そ、それは結果でしかないよ!!さやかちゃん………もしかしたらあそこで死んじゃっていたかもしれないんだよ!?」

「もう過ぎたことだから、あまり気にするな…………と言ったところで気が休めるわけではないのがまどかだからな………。」

 

まどかの様子にさやかは困ったような笑みを浮かべながらも彼女の不安そうな顔を見つめる。

 

「まどか。心配してくれるのはありがたいが、度が過ぎるとそれはただの傲慢だ。」

「ご…………傲慢…………!?わ、私、そんなつもりじゃーーー」

「それは百も承知だ。私もまどかがそんな他人に対して嘲笑的な態度を取れる性格をしていないことはわかっているからな。こういうのは程々にするのが一番最善なのではないのか?」

「ほ、程々……………?」

「……………そう、程々だ。それは決して相手を気にかけない、ということではない。心配こそはしていても、引き止めるのではなく、ただ納得してやる。そういう信頼の形というのもある。だから言い方を極めて悪く言えば、今のお前は私のことを信頼していないのか?」

「そ、そんなことないよ!!」

 

 

まぁ…………ずるいとは思うが、と言いながらさやかは微妙な顔をし、少しばかり頰を指でかく仕草をすることでそれが本意ではないことを伝える。

 

「多少はこちらの言うことも鵜呑みにしてくれ。何も信頼というのは相手を心配するだけではない。信じて待ってやるのも、一つの信頼の形だ。」

「その中には当然、背中を預ける信頼、って言うのもあるのよね?」

「……………マミ先輩、契約していない私を魔法少女の頭数に含めるのはやめてくれないか?」

 

まどかに優しげな笑みを浮かべていたさやかだったが、明らかに自分を魔法少女としての頭数に含んだものを前提としているマミの横槍の言葉には笑みを浮かべたままだが、わずかに引いたようなものを向ける。

 

「あら、残念………貴方がいてくれたら、凄く背中の預け甲斐のある人になってくれそうなのに………。」

「貴方が戦っている状況では今の私は荷物以外の何者でもない。なったところで貴方レベルで戦えるかどうかは甚だ疑問だが。」

「もちろん、それは私が手取り足取り教えてあげるわ。」

 

完全に目をつけられてしまったさやか。そのことにまどかと揃って苦笑いを浮かべるが、さやかには別のことが気がかりになっていた。それは以前、ほむらの口から聞かされた魔法少女の真実。

 

ソウルジェムは魔女の卵、グリーフシードと表裏一体の存在であること。そしてもう一つはーーーー

 

 

 

 

「魔法少女のソウルジェムの正体は、契約した人間自身の魂……………?」

 

時間軸はさやかがほむらから彼女自身の正体を聞いたころに巻き戻る。

ソウルジェムが契約者自身の魂で構成されていることにピンときていないのか、疑問気な口調で繰り返す。

その言葉をもう一度聞かせるようにほむらは無言でうなずいた。

 

「魂………か。しかし、そんなあるかどうかすらわかっていないものを素材にしているのか?」

「ええ、そうよ。事実、このソウルジェムが砕かれた魔法少女はその直前までいくら健康体だったとしても、一瞬で死体に成り果てたわ。」

 

ほむらの言葉にさやかは少しばかり考え込むような様子を浮かべたのちに再びほむらに視線を戻した。

 

「一度お前を信じると言った身だ。二言はない。だが、にわかには信じがたいな。」

「………ごめんなさい。試せる策がないのではないけれど、それをやるにはどうしても人手が足りないわ。」

 

そういうとほむらは申し訳なさそうに顔を俯かせた。そんな彼女の様子を見たさやかは、わずかに納得したような顔をする。

 

「いや、その反応だけでも十分だ。だが、こう考えるとキュゥべえの目的が不明瞭だ。魔女を絶滅させる、とはじめは思っていたが、そうするのであれば奴のやっていることはマッチポンプに他ならない。別の思惑があるのだな?」

「……………それを話すには長い時間がいる。貴方が健康体ならともかく、こんな夜の病院だと、時間に限りがあるわ。」

 

この時の時刻は既に真夜中だ。とっくに病院の定める面会時間は過ぎているため、ほむらは法律上、不法侵入で訴えられてもおかしくない状況に身を置いている。

そんな最中、変に長話でもして巡回する看護師に見つかれば、かなり面倒な状況になりかねない。

最悪警察沙汰となってしまうだろう。

 

「………わかった。それはまた落ち着いた時に、だな。」

 

さやかがそう話を打ち切るとほむらは扉に向かって歩き始める。そしてその扉に手をかけると同時に、顔だけをさやかに向けた。

 

「……………そういえば、貴方はこれまでの美樹さやかとはまるで違う、初めてのタイプだって言ったわよね?」

「………そうだな。」

「………貴方とちゃんと面と向かって話したのも、今回が初めてよ。もし、私がまた時間を巻き戻すことになっても、また貴方と話せるかしら?」

「…………どうだかな。その話を聞く限り、その可能性は極めて低いと思うが。だが、このまま順当にお前が時を過ごすのであれば、話せるさ。この世界に、希望と未来へと続く明日がある限り。」

「希望と、未来へと続く明日、ね。」

「だから私はお前にこう言うさ。」

 

また明日、会おう。

 

そういうさやかだったが当のほむらから心底から微妙な顔をされてしまい、若干肩透かしを喰らった気分になってしまい、残念そうに窓の方に視線を向ける。

そしてほむらはそのまま病室から出て行こうとする。そんな時ーーーー

 

「…………また明日。」

「ん………?」

 

不意にそんな声がほむらの方から聞こえた瞬間、さやかは再び病室の扉に視線を戻すが、時間停止を使ったのか、そこに既にほむらの姿はなく、わずかに扉が閉まった音が響き渡るのみだった。

 

 

 

 

 

(…………そのソウルジェムに関して真実を聞かされた時、ほむらはマミ先輩が発狂した前科があると言っていた。)

 

ほむらの口から語られたが、マミがどのように発狂し、何が理由でそうなってしまったのかは、詳細は聞かされていない。だが、正義の味方を気取っている彼女に自身が倒してきた魔女へと変わり果ててしまう運命を知った時、彼女の精神は正気を保っていられなかったことはほむらの雰囲気から如実に感じられた。

 

(やはり、いずれ話さなければならない。だが、もう少しほむらから色々聞いておきたいな。)

 

 

「美樹さん、何かボーッとしているようだけど、大丈夫?」

「…………考え事をしていた。気にしないでくれ。」

「そう?ならいいのだけど…………。」

 

 

さやかの様子が気になったのか、声をかけるマミ。その彼女の問いかけにさやかは悟られないように、それでいて、嘘は言っていない事実を織り交ぜながらそれ以上話を続けられないようにする。

そのあたりでまどかとマミは元々学校帰りなのもあったのか、病室から退室して行った。

 

やることがなくなったさやかは、ベッドの布団を被り、睡眠を取り始める。もっとも夜に寝られなくなるのは目に見えていたが、本当にやることがなくなれば寝るしかなくなることにさやかは自虐的な笑みを浮かべながら寝るのだった。

 

 

 

「…………目が冴え過ぎて寝られない。」

 

そしてその夜、案の定寝られらなくなった。いくら布団にこもって寝ようとしても眠気など一向に訪れないのだ。おまけに()()()()()()()()()()のもさやかの睡眠を阻害する一因となっていた。

 

(全く………ここまで寒気がするとは………まだ季節は暖かいはずだが…………!?)

 

とそこまで考えて、さやかは布団から飛び起きた。理由はただ一つ、風邪をひいた訳でもないのに、鳥肌が立つほどの寒気、それは彼女が魔女と相対した時の感覚と何ら変わりがないからだ。

 

(そんな………!?魔女がいるのか………!?まだ前回の魔女が出てきてからそう日数が経っていないぞ………!!)

 

魔女は病院など弱った人間が大量にいるところを優先的に出現するとはマミから聞かされていたものの、そう日数が経っていないにも関わらず、新たな魔女が現れたことに険しい表情を禁じ得ない。

 

そして、かすかにだが、さやかの耳がある音を聞き取った。それは、どこかの病室のドアが開いた音だ。

 

(今のは、病室のドアが開いた音か………!?)

 

病室のドアが空いただけなら、患者がトイレなどで出歩いているだけかもしれない。しかし、今この状況ーー特に魔女が近くにいるかもしれないという感覚がさやかをどうしようもなく、不安にさせる。しかも、どういう訳か、その病室のドアが開いてから、焦燥感のようなものがさやかの中で渦巻いていた。まるで自分の知っている人物に危険が訪れていることを警鐘しているかのようにーー

 

「ッ…………恭介……!!」

 

真夜中でこの病院に今いる知り合いなど、恭介以外に他ならない。さやかは悪態を吐きながらベッドから飛び降りると携帯を握り締めながら慌てた様子で病室を飛び出した。

 

病室を飛び出るとすぐに目につく人影が一つ。

 

その人影はすぐさま廊下の角を曲がってしまい、視界から消えてしまうが、その覚束ない、フラフラとした足取りはどう見ても正常な人間とは思えなかった。

さやかがその人影の後を追うと、エレベーターホールで立ちすくんでいる恭介の姿が目に映る。

 

「やはり………恭介か!!」

 

さやかが恭介に向かって声をかけるも、恭介はその声に振り向くことはなく、到着したエレベーターに乗り込もうとする。

 

「恭介、待てッ!!!」

 

さやかはエレベーターに乗り込もうとする恭介に向けて声を荒げながら手を伸ばし、止めようとする。しかし、すんでのところでエレベーターの扉が閉まってしまい、さやかは手を引っ込めざるを得なくなる。

その閉まる扉の直前まで見えていた恭介の表情は死人のように光が見えず、まるで暗い闇の底でも見ているかのように虚なものであった。

 

「クッ……………!!!!」

 

間に合わなかったことへの苛立ちを表すようにエレベーターのタッチパネルに拳を叩きつけながらさやかはエレベーターの状況を確認する。

恭介が乗ったエレベーターはその機能を果たすようにどんどん上の階層へと上昇していく。おそらく向かった先は屋上。そこで飛び降りでも図るつもりなのだろう。しかし、他のエレベーターは今現在さやかがいる階層からことごとく遠く、待っている間にエレベーターは屋上についてしまうのは明白だった。

 

「なら、階段で…………!!!」

 

エレベーターは使えない。そう判断したさやかは非常用の階段を駆け上がりはじめる。肉体的疲労はとんでもないが、まだこちらの方が可能性はあったからだ。

その階段を駆け上る最中、さやかは携帯を通話状態にすると、耳にあてる。

数度のコール音が耳朶を打った後、繋がったことを示しているのか、周囲の環境音がさやかの耳に入る。

 

『美樹さん?突然電話なんて、どうかしたのかしら?』

 

さやかが電話した相手はマミだった。前回のことで念話にも限界があることが明らかになったことでまどかとさやかはマミとの連絡先交換を行ったのだ。

 

「病院に魔女が現れた!!それと病院の屋上に来てくれ!!死人が出る!!」

『ッ…………わかったわ!!美樹さんは無理しちゃダメよ!!絶対よ!?』

 

マミが息を呑むような声をすると、さやかに忠告をしたのちに通話が切れる。

さやかはなおも階段を駆け上がりながら携帯をしまう。

 

「なんとかして恭介を止めなければ…………!!アイツはこんなところで終わっていい人間ではないはずだ!!」

 

マミの忠告を聞こえなかったことにした訳ではないさやかだが、一切階段を駆け上がるスピードを落とさずにどんどん階層を駆け上がっていく。

延々と繰り返される階段の踊り場に否応がなく不安に苛まれるさやか。しかし、その永遠と続くと思われた階段も突然巨大な鉄扉が視界に映ることで終わりを迎える。

 

だが、その前に立ち塞がるように階段を駆け上るさやかを見下ろす、小さく白いナマモノがいた。

 

「美樹さやか、上条恭介を助けたーー「悪いが!!」ギュプィッ!?」

 

 

その真紅の瞳を輝かせるキュウベェはさやかに何か語りかけようとしたが、それより先にさやかが踏みしめた左足を軸にして、いつぞやかの魔女の使い魔を蹴り飛ばしたごとく、キュゥべえの顔面に右足をめり込ませ、吹っ飛ばした。

蹴り飛ばされたキュウベェは屋上へと続く鉄扉にビタンッといい音を立てながら叩きつけられる。

 

「お前の言葉に耳を傾けている暇はない!!」

 

そう言いながらキュゥべえを一瞥したさやかは鉄扉を押し開け、屋上へと駆け込んでいった。

 

「わ…………訳がわからないよ…………。」

 

さやかに物理的に凹まされた顔面をポンっと元に戻すとキュゥべえは突然蹴られたことに不服そうに唸るのだった。

 

「着いたっ!!恭介!!」

 

屋上へ突入したさやかはすぐさま辺りを見廻し、恭介の姿を探す。

 

「いた…………!!」

 

すぐさま恭介の姿を見つけるさやか。しかし、彼の姿はすでに安全用に作られた柵の向こう側にあり、今にも飛び降りを計ろうとしているのは明白だった。

 

「させるものか……………!!!」

 

恭介の姿を確認するや否や、さやかは彼の元に向かって駆け出した。しかし、病院の外縁に立てられたフェンスはさやかの身長を優に越しており、さらに足をかけるスペースもほとんどなく乗り越えることはできないだろう。業者用の通り口はあるにはあるもそこから入って恭介の元へ駆けつけるのは時間的に無理がある。

 

(ならば……………!!)

 

さやかは視界に映った一際高く設立されたヘリポートに進路を変える。そのヘリポートの高さはフェンスよりあるため、病院の外縁に降り立つのは可能だ。

 

「恭介!!自分をしっかり保て!!馬鹿な真似はやめろ!!」

「…………さや…………か……………?」

 

さやかの声がようやく届いたのか、恭介はさやかにその虚な瞳を向ける。その恭介の首には不自然に光る怪しいマークが付いていた。

十中八九、魔女の口付けだろう。

恭介がかろうじて自意識が存在することを確認したさやかはヘリポートへと続く階段を一気に駆け上ると勢いそのままヘリポートから飛び立った。

 

「ッ……………!!!」

 

空に飛んだことによる浮遊感を感じたのも束の間、さやかの体は徐々に重力に従って落下を始める。

完全に目測すら測っていない跳躍、直感で行ったソレはもはや後戻りはできない。

さやかの眼下には夜の闇に沈んだ見滝原市が広がっており、そこから落ちてしまえば命はない。

 

「うおおおおおおッ!!!!」

 

その命の危機に対する恐怖にさやかは声を張り上げることで紛らわす。そして、空を翔んださやかの体がフェンスの上を通過ーーーー

 

 

「ッ………!!」

 

 

した瞬間、さやかはフェンスに手を伸ばし、掴むことで無理やり体を病院の外縁に留まらせる。直感的にフェンスを越えた瞬間、飛距離が余って、落下してしまうと察したからだ。

フェンスがかけられた力により、大きく横に揺れ、ガシャンガシャンとけたたましい騒音を撒き散らすが、さやかは無事に恭介の元にたどり着く。

 

「恭介…………もう一度言う。馬鹿な真似はやめるんだ………!!」

「僕はもう生きるのに疲れたんだ……………。」

 

さやかは恭介に向けて手を差し伸べるが、恭介はそれに応じるようなことはせず、どこか上の空のような様子でさやかにその虚な瞳を向ける。

 

「いくら、いくら動かそうとしてもあの時から指は少したりとも動いてくれない。」

 

恭介はそう言いながら自身の指をさやかに見せつけるように持ってくる。その指は力なく垂れているだけで、たしかにぴくりとも動いているように見えなかった。

 

「昨日、先生に言われたんだ。もう演奏は諦めろ。今の医学じゃ、僕の指を治すのは無理だって。」

 

「絶望したよ。もう二度と………動くことはないんだ。僕の全てだったバイオリン………それを弾くことすら、もう叶うことはないんだ。」

 

「そんな人生………バイオリンが弾けない人生なんか、生きている意味はないんだ。」

「恭介…………お前という人間はーーーー」

「だから、ここから飛び降りることで、この苦しみから解放される。」

 

さやかが何か言おうとするより先に、恭介は病院の外縁から暗い夜の闇へと身を躍らせた。

そのまま恭介の体はさやかがヘリポートから跳躍したときと同じように、重力に従って落下ーーー

 

「お前は…………どこまで世話を焼かせるつもりだ…………!!!!」

 

することはなかった。落下した恭介の手をさやかが両手でガッチリと握っていたからだ。

 

「ッ…………流石に人間一人支えるのは無理があるか…………!!」

 

さやかは腕だけでは到底支えられないと判断し、外縁から上半身を乗り出した状態から片足だけを伸ばすとフェンスの間に引っ掛けることで体を固定し、落下を防止する。

 

「さやか、離してよ…………。」

「離すものか。」

「死なせてよ…………!!もう僕に生きる意味なんて………。」

「そうやってお前は逃げるのか!!医者から、他者から言われた程度で諦められる夢なのか!!お前のバイオリンへの熱意はその程度だったのか!!」

「さ、さやかは僕の気持ちをわからないからそんなことが言えるんだ!!」

「そうだ!!他人の気持ちを隅から隅まで知るのは不可能だ!!自分の気持ちさえ、知り尽くすことはできないのだからな!!戦うんだ!!自分自身の意志と!!」

「た、戦う…………!?」

 

さやかの自分自身の意志と戦うと言う言葉に困惑を隠しきれない恭介。

 

「自分の意志を、貫き通せ!!お前は本当はバイオリンを弾き続けたいのだろう!?」

「弾き続けたいさ!!でも、僕の指はもう動かない!!さっきからそう言っているだろ!?」

「確かに今の医学では不可能かもしれない!!だが、私達にはまだ先の長い未来がある!!その未来に賭けようとは、思わないのか!?」

「み、未来………!?」

「もっと未来へ視線を向けろ!!お前がバイオリンを弾ける未来が完全に潰えているわけではないんだ!!」

 

さやかは恭介を支える腕を震わせながらも、虚勢を張っているのか、引きつった笑みを浮かべる。

 

 

「だから、死ぬな。生きて………生きるための、戦いをしろ。」

 

そう言ったさやかの言葉はどこまでも柔らかく、優しげなものであった。




ふへ、ふへへ………クロスレイズ楽しすぎるんじゃあ…………(脳内麻薬)


ガンダム「行くぞ、ゼロ…………ウイングゼロ!!」
自爆野郎「お前も『ゼロ』ならば、俺を導いてみろ。」

ァ゛(FATAL KO)


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第15話 貴様よりは情はあるつもりだ

今回、キリが良かったのでかなり短目です。五千字ちょいしか行ってないってどゆこと…………?

べ、別にクロスレイズのやりすぎだなんて………思ってないんだからね!!(さーせん)


上条恭介という少年は幼い頃からバイオリンに対して、天性とも取れる才能を発揮していた。

その才能の高さは既に幾度かコンサートのような催し物が開かれる、まさに将来を約束されたような秀才であった。

しかし、その天性の音を奏でる指は不慮の事故によりその輝きを失った。

 

彼はその指の輝きをもう一度復活させるために病院のリハビリに懸命に励んだ。だが、その恭介の頑張りを嘲笑うかのように、その指が再び動くことはなく、ただ時間だけが過ぎていく。

 

そして、医師から告げられた指は二度と動かないという、最終通告。その無慈悲な言葉は秀才とはいえ、まだ中学生である少年の心をへし折るには十分すぎるものであった。

 

バイオリンという自分の人生そのもののようなものを奪われた恭介は自身の人生に意義を見出すことが出来ずに病院の屋上から自殺を図ろうとした。

事実、彼はそこで自分自身の人生を終えることも吝かではなかった。

 

「死ぬな。生きて………生きるための、戦いをしろ。」

 

しかし、その愚か者に救いの手を差し伸べる人間がいた。他でもない、彼の幼馴染みである美樹さやかだ。

彼女は自殺を計った彼の手を両手で掴むことで、なんとか彼を踏みとどまらせていた。

 

そして、彼女の口から出される言葉。未来に目を向けろ、という発破。

 

「僕は…………。」

 

あれほど死なせてほしいと叫び、自殺を計った自分に手を差し伸べてくれるさやかに恭介は何か言葉を返そうとする。

 

だが、次の瞬間、さやかの身体が突然ガクンッとまえのめりになると、引きずられるように落下を始める。さながら、恭介の身体の重さを支えきれなくなったかのようにーーー

 

 

「なっ…………!?」

 

突然の状況にさやかも目を見開く。しかし、瞬時に足にかかっていたはずの力が行き場を失ったように抜けたことを察すると、反射的に引っ掛けていたフェンスの方を振り向く。

そこにはフェンスに引っ掛けていたさやかの足を包み込んだ、気色悪い色合いをした青い泡のような物体があった。

 

(魔女の使い魔か………!?)

 

その気色悪い色合いをした物体の正体にさやかがそう判断するも既に何か手を打つには遅過ぎた。

二人の身体は空へと放り出されてしまう。

 

(しまっ………このままではーーーー)

 

恭介の姿の先に見滝原市の夜景が視界に入ると、さやかの脳裏に死の一文字が浮かび上がる。病院の高さから落下してしまえば、その通り死は避けられないだろう。

さやかは必死にこの状況からの打開策を考えるが、どうあがいても目の前の死から避ける策が浮かぶことはない。万事休すかと思われたその時ーーー

 

「そのまま上条恭介の手を握っていなさい。」

「っ!?」

 

その声が聞こえた瞬間、さやかと恭介の身体は病院の屋上に引き戻されていた。

突然の出来事に呆けたような顔を浮かべるさやかだったが、先ほどの声の持ち主と明らかに認識を超えたーーーそれこそ時間を止めなければ病院といったビルから落下する人間二人を屋上に連れ戻す芸当ができる人物などさやかが思い当たるのは一人しかいなかった。

 

「時間停止………暁美ほむらかっ!?」

「…………ええ、そうよ。」

 

さやかが振り向いた先にはその特徴的な黒髪を左手で払っている暁美ほむらの姿があった。

 

「なぜ、お前がここに………?」

 

「…………また明日って言っていたのはどこの誰だったのよ。」

 

「…………何か言ったか?すまないが、よく聞き取れなかったのだが………。」

「貴方が気にすることじゃないわ。たまたま病院を通りがかったら、貴方と上条恭介が危険な状態になっていたからついでに助けただけよ。」

「………そうか。ところでなのだが、恭介が先ほどから微動だにしていないようだが、何かしたか?」

 

そういうさやかの視線の先には先ほどから動く気配のない恭介の姿があった。

 

「ええ。と言っても、簡単な魔法をかけて寝てもらったわ。この姿を見られる訳にはいかないもの。色々と説明が面倒よ。」

 

ほむらの言うこの姿というのは盾のような円盤を持った魔法少女としての姿のことだろう。確かに彼女の言う通り、恭介に説明しなければならなくなるだろう。

 

「それもそうか。礼が遅れたがありがとう。もう少しで地上に真っ逆さまだった。だが…………」

 

さやかはほむらにそういうと気まずそうに視線を逸らすが、すぐさま自身に言い聞かせるように、いや、大丈夫だろうという言葉を口にしながらほむらの方を向き直る。

 

「…………何かしら?そんな微妙な顔をして。」

「…………実は、少し前にマミ先輩を電話で呼んでしまっているんだ。」

「美樹さん!!」

 

さやかの言葉にほむらが僅かに身体を強張らせたような反応を見せた瞬間、病院の屋上にマミが魔法少女としての姿で現れる。

 

「ッ…………貴方は…………!!」

「…………魔女ならもう逃げたわ。おそらく魔法少女が二人もやってきたからでしょうね。」

「………そう。ところで美樹さんに危害は加えていないのでしょうね?」

 

そう言ってマミはほむらに鋭い視線を向ける。対するほむらは至って表情を表に出すようなことはしないが、目線は彼女とかち合わせていた。

行先によっては、互いの銃火器の撃鉄が下されそうな状況だが、そんな二人の間に立ち塞がるように割り込んだ人影が一つ。

 

他でもないさやかだ。

 

「マミ先輩。私に特段、これといった危害などは加えられていない。むしろ、今回は彼女に助けられた。さっき電話で話していた死人になりかけた奴も、この通り、無事だ。」

 

さやかはそう言って横たわっている恭介に視線を向け、ほむらの身の潔白を証明する。

 

「それにこの前貴方は言っていたはずだ。彼女と、暁美ほむらと出来る限りであれば話をしたいと。」

「………………そうね。確かにそう言ったものね。」

 

さやかの言葉にマミは思い出したのか、警戒した雰囲気を解いた。

 

「…………前回は貴方の忠告に耳を傾けなくて、ごめんなさい。確かに、あの魔女は貴方の言う通り、一味違ったわ。中に別の存在………多分、本体を隠していたなんて、想像もつかなかった。美樹さんが助けてくれなかったら、私は死んでいたでしょうね。」

 

「でも、だからこそ、貴方に対して、どうしようもなく浮かんでくる疑問もあるのよ。率直に聞くわね。どうして貴方は普通の魔法少女じゃ知らないような魔女の詳細を知っているの?」

 

(まぁ…………そう聞いてくるだろうな。)

 

マミの質問をさやかは予想していないわけではなかった。自分ですら思い立った疑問なのだ。魔法少女である彼女ならなおのこと思い浮かんでしまうほむらへの疑念だろう。

 

(だが、どのみちほむらの口から語られなければならない事情である以上、ここで私が口を挟んだところで、何かが変わるわけではない。)

 

さやかがそう思いながらマミに気取られないようにほむらの方に視線を向けると、どこか思い詰めているようなほむらの表情が目についた。

彼女自身、話した方が良いのか、判断がついていないだろう。

何しろ、彼女がやったことがやったことだ。さやかでさえ、ほむらの言うことに信憑性を見つけ出すのに、彼女の話す姿勢という猫をかぶられてしまえばそれまでの不確定要素を使っている。

ほむらと敵対一歩手前まで行っているマミならなおさら不信感を強めてしまうだろう。

 

時間操作の魔法を使用して、何回も同じ時間を繰り返しているなどという、神にも等しい所業をやっているなど、魔法少女であっても鵜呑みにすることは難しいだろう。

 

 

「貴方の疑念ももっともよ、巴マミ。でも…………ごめんなさい。キュゥべぇの近くにいる貴方に話すわけにはいかない。知られる訳にはいかないのよ。」

「……………………。」

 

そういうほむらにマミはしばらく鋭い目線を向けていた。それこそ、すぐさまマスケット銃が引き抜かれ、その撃鉄が撃ちおろされてもおかしくはない佇まいであった。

 

「……………はぁ、貴方も何かキュゥべぇを怪しんでいるの?」

 

しかし、不意にマミはその視線をどこか不安そうなものに変え、右頬に手を当て、頬杖をついた。

さながらその様子は疎外感のようなものを感じているようであった。

 

「言えないのなら、別に私も無理に聞く気はないわ。人間誰しも言えない秘密を一つや二つ抱えてもしょうがないもの。それも女の子なら尚更ね。」

 

「まぁ…………もっともその秘密にヅケヅケと踏み込んでくる失礼な人もいるのだけど。」

 

そう言ってマミはさやかに向けてジトっとした視線を向ける。それが以前、彼女の両親が既に亡くなっていることを推察の上で彼女の真ん前で暴露してしまったことなのだと察したさやかは逃げるように視線を逸らすと、横になっている恭介を肩で担ぎ、屋上を後にしようとする。

 

「…………美樹さん?」

 

そんなさやかの様子を不思議に思ったのか、そのさやかの背中にマミが声をかける。

 

「…………病院には、夜間でもそれなりの看護師と医師が常駐している。それは患者にもしもの時が起こった時に迅速に対応をするためだ。」

「ええ、そうね。患者にもしものことがあったら大変だもの…………あ。」

 

さやかの言葉にマミが納得した様子で頷いていると、突然素っ頓狂な声を上げた。

そのさやかが次に言わんとしていることを察してしまったからだ。ほむらも察したのか、少しばかり張り詰めた表情を浮かべる。

 

「そう、今まさに、もしもの状況が起こっている。病人が夜分に病室を抜け出し、一人で屋上に出てくるなど、否が応にも考えられるシチュエーションは一つ。自殺だろう。」

 

「早くここから離れた方がいい。程なく看護師と医師が押し寄せてくる。その時、一般人の視線から見て、変な格好をしている二人がいれば、いらない嫌疑をかけられる。普通は夜の病院など、関係者以外が立ち入れる空間ではないのだからな。」

 

「ここは私が誤魔化す。魔法は秘匿されてこそ、だろう?だから二人は早く行け。」

 

そう言いながらさやかはわずかに口角を上げて笑みを作る。その瞬間、ほむらは時間停止を用いてこの場を瞬時に離れ、マミもリボンを使って転落防止用のフェンスを悠々と乗り越え、病院から飛び降りることでこの場から離脱していった。

 

その様子をさやかが見届けた直後、屋上への扉を開け放ちながら恭介の担当医師を筆頭とした医師や看護師たちがかなり焦った様子で雪崩れ込んできた。

 

どうやら時間的にもかなりギリギリだったようだ。

 

その後、恭介を医師に預けたさやかは今回のことに関して、看護師からいろいろ尋ねられた後に自身の病室に戻っていった。

 

病室に戻ると、先ほどまでの緊張感から解放された反動なのか、わずかにあくびをしてしまう。

その時に溢れた涙のようなものを拭うと、ベッドの上に鎮座してしている白いナマモノが目についた。

その真紅の瞳をジッとさやかに向けているキュウべぇであった。

 

「…………なんだ?蹴り飛ばしたことなら謝るが…………。」

「それはボクとして気にするに値しないから別に構わないよ。だけど、どうして君は彼の元に一目散に向かったんだい?彼の指は治らない。だけど、君が願えばその苦しみからも本当の意味でも解放された筈だ。どうして君はボクの話に応じなかったんだい?」

「…………まぁ、時間がなかったというのもあるな。」

「じゃあ、今ここで契約するかい?ちなみに伝えておくけど、他人に関連することでも叶えることは不可能ではないよ。」

 

キュウべぇの言葉にさやかはその丸い、真紅の瞳を見つめるが、不意に視線を逸らすと、フルフルと首を横に振った。

 

「遠慮しておく。私は恭介の恩人になりたいわけではないのだからな。すまないが、そこをどいてもらえるか?」

 

さやかがそういうとキュゥべぇはベッドから降りた。空いたベッドにさやかが潜り込むと布団をかぶり、横になる。

 

「ボクとしては君が契約しないことにはとやかくは言わないよ。でも上条恭介の方はどうだろうね。また今回のようなことにならないとは限らないのは君だってわかっているんじゃないのかい?」

「………もちろん、その可能性も考えていないわけではない。だが、そのために医者や看護師が夜分も常駐している。おそらく、アイツの周辺の警備は今回の一件で強化されるだろう。」

 

だから、私のやれることはこれまでだ。

 

そう言ってさやかはキュウべぇを視界から外し、寝を決め込むことにした。

キュウべぇはさやかをしばらく見つめていたがーーーー

 

「君はボクが思っていたより薄情なんだね。」

 

そう言って病室から出て行った。

 

「……………契約するのに不都合な真実をひた隠し、白々しい様子を出している貴様よりは、情はあるつもりだ。」

 

そのキュゥべぇの言葉を聞いていたさやかはムッとした表情を浮かべながらも布団を被りなおすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ダブルオーのステージ10のミッションステージむずい………難しくない?


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第16話 だったら、また来ればいい

いつもより字数が少ねえぞチクショーメ
あと蛇足っぽい描写もあるが、きちんとした理由があるよ!!

あ、それと多分(ここ重要)これが年内最後の投稿かと思われます!!

それでは皆さん、良いお年を!!!


「………………。」

 

魔女の口づけによる恭介の自殺未遂から数日。さやかは病室を抜け出して病院の廊下を歩いていた。目的はもちろん、恭介の容態をこの目で確かめるためだ。

一応、恭介の容態を確かめるために行動自体は何日か起こしていたが、自殺未遂ということをやらかしたのも相まって別の部屋に移送されたのか、これまで彼がいた病室には姿形もなかった。

 

そのため、さやかがこうして看護師の目を盗んで病院内をほっつき歩く日々が続いていたが、ようやく彼が移送された部屋にたどり着いた。

 

「ここか…………。」

 

病室の標札に恭介の名前が書かれていることを確認したさやかはその部屋の扉を開け放つ。

 

「………………さ、さやかっ!?どうしてここに………!?」

 

扉が開く音に恭介は疲れたような目線を向けるが、入ってきた人物がさやかだとわかると目を見開いて彼女が訪れた理由を尋ねてくる。

そのことにさやかは呆れたようなため息を吐くと、目を細め、ジトッとした目線を恭介に送り返す。

 

「どこぞの大馬鹿者がまた妙な気を起こしていないのか、心配になったからな。」

 

そのさやかの言葉と目線に恭介は身体を強張らせると視線を下に下ろし、暗い雰囲気を醸し出す。

さやかはその恭介の様子を目の当たりにしても、特に態度を変えることなく、彼の寝ているベッドの側の椅子に腰掛けた。

 

「…………先日の詳細は医師からもう聞かされたのか?」

 

さやかがそう尋ねると恭介は無言で、それでいて重々しく頷いた。

 

「そうか。で、今のお前の心中ではどうなんだ?」

「…………はっきり言って、どうだろうって言うのが正直。確かに、医者から言われた時は本当に目の前が真っ暗になった気分だった。それは今だって完全に僕の心の中で晴れた訳じゃない。というか、そもそも僕が自殺しようとした時の記憶が霧がかったみたいに朧げなんだ。」

「それはそれでよかったんじゃないのか?自殺しようとした時の記憶など持っていたところで心を病むだけだと思うが。」

「そうかもしれない。でも、そんな朧げな記憶でもはっきりとわかっているものがあるんだ。」

 

恭介の言葉にさやかが首をかしげると、彼は自身にとって、忌々しくも思えるはずの左手を見せる。

 

「…………僕が飛び降りようとした時、君が掴みとって、握り締めてくれたこの手から温かみを感じたんだ。」

「そ、それは本当なのか!?」

 

恭介の言葉に椅子から飛び上がりそうになる勢いで驚きを露わにするさやか。手が他人の温もりを感じたということは彼の手の神経は完全に死んでいないということだ。つまり、まだ希望は、未来は完全に閉ざされてはいないということに他ならない。

 

「うん。どんなに動かそうとしてもピクリともしなかった僕の手だけど、君の手の温かみはしっかりと感じ取ってくれていたんだ。」

 

「それに、君の言っていたことも、その通りだったしね…………。」

「…………どこまで覚えているんだ?」

 

魔女の口づけにより意識が混濁していたはずの恭介が自身の言葉を覚えているという発言に一種の危機感を覚えながらそう尋ねた。もし、彼の記憶の中にほむらかマミの姿があるのであれば、魔法少女のことに関しても話さなければならなくなるからだ。

 

「ほんの少しだよ。君が命を張ってまで僕を助けてくれようとしたことと、僕の悩みはチンケなものだったことくらい。」

 

前者はともかく、後者のことに関して、さやかはあまりピンと来なかったのか、疑問気な様子で首をわずかに傾ける。

 

「…………少し調べてみればわかることだったんだ。かのベートーベンは弱冠20歳で難聴を患ったにも拘らず、音楽家にとってまさに致命傷ともいえる聴覚を失っても、彼は音楽に関わり続けた。関わり続けられたんだ。」

 

「彼に比べたら、僕の、自分の手が動かないことなんて、些細なものなんだなって。そう思えるようになった。」

 

その時に恭介が自身の動かない手を見つめる目は恨みがましいものではなく、希望に、言い換えれば、可能性に満ち溢れたような晴れやかなものだった。

 

「だから、もう少し、君のいう僕自身の未来に賭けてみようと思う。」

 

「さやか。遅くなったけど、助けてくれてありがとう。君が駆けつけてくれなかったら、僕はこんな簡単なことに気付かずに人生を終えるところだった。」

 

恭介の言葉にさやかは少しばかり噛み締めるように笑みを浮かべると、椅子から立ち上がり、病室の扉に向かう。

 

「礼を言える余裕がある、ということはしばらくは馬鹿な真似はしないだろう。私は看護師に見つからない内に病室に戻っている。」

「あ、さやか!!」

 

そう言って病室を出ようとしたさやかを恭介が呼び止める。何事かと思って振り向くさやかに恭介は少しばかり気後れしているような表情を浮かべていた。

 

「…………いつになるかわからないけど、僕の演奏、また聴いてくれるかな?」

「…………ああ、もちろんだ。私はいつまでも待ち続けるさ。」

 

そのさやかの返答に満足が行ったのか、恭介がにこやかな笑みを浮かべるのを見届けたのを最後にさやかは病室を後にした。

 

 

 

 

そこからさらに1日を跨ぎ、表向き……時折病院内をほっつき歩いて恭介の病室に忍び込んでいた時以外、看護師に基本的に従っていたさやかは快方に向かい、医師から退院のお告げが出されるほどになっていた。

 

 

「と、いう訳だ。私はそろそろ退院することになる。」

「まぁ………そうなるよね。さやかは車に轢かれたとはいえ、ほとんど外傷はなかったし。僕より退院が早いのは当然だよね。」

 

自身が退院することを恭介に報告するために彼の病室に足を運んでいたさやか。そのことに恭介はさも当然というように頷きながらさやかの言葉に納得の意志を示す。

 

「自分より先に退院されることは不愉快か?」

「まさか。幼なじみが退院することになって、嬉しいと思わない人がどうかしてる。というか、なんだか嫌味みたいな言い方だね。」

「………冗談だ。気を悪くしたなら、すまない。」

 

恭介に自身の発言が嫌味くさいと指摘されたさやかはわずかに表情を気まずそうなものに変えると顔をそっぽに向ける。

 

「まぁ、指は時間がかかるだろうけど、足はそれなりに動くようになってきた。」

「………吹っ切れたのか?」

「それこそまさかだよ。未だに未練たらたらさ。でも今は退院して、元の生活に戻れることを念頭に置いている。そして退院してからも指が動いてくれるようにリハビリを続けるつもりだ。」

「遠回りになりそうな道を行くのだな。」

「………そうだね。でも、いくら辛くてもこれが僕にできる戦いってものなんだろうね。それにこういうのは経験しておいた方が後々音楽活動にいい味を出すかもしれないからね。」

「…………お前は相変わらず音楽一筋なのだな。」

 

そういいながら温和な笑みを浮かべながらの恭介の言葉にさやかは一瞬だけ目を見開くと、彼の笑みにつられるように柔らかな表情に変えるとーーー

 

「…………そうか。」

 

と一言だけ溢すように呟くのだった。

 

 

 

そして、訪れた退院の日、世話になった看護師や医師に礼を述べながら病院の自動扉を潜ると、予め退院の時期を医師から連絡を受けていたのであろうさやかの両親である慎一郎と理多奈が出迎えをしていた。

 

ーーーーーー何故かまどかとマミと共に。

 

「…………何故二人がいる?」

 

率直に浮かんだ疑問を口に出すとまどかとマミがショックを受けたような表情を浮かべる。そのことに何か対応を間違えてしまったのか、動揺を隠さずオロオロとしてしまうさやか。

 

「おいおい、お前自身のダチにんなこと言う馬鹿がいるかよ。せっかく来てくれたのによぉ。」

「二人とも、学校が終わったばかりなのに来てくれたのよ?」

 

そのさやかの様子に呆れた口ぶりで慎一郎が、注意するような口ぶりで理多奈がそれぞれさやかの反応を咎める。

 

「そ、そうなのか…………。」

「ったくよ、鈍いったらありゃあしねえな。俺だったらこんな美人さんが来てくれたらだいぶ舞い上がるのによぉ。」

「あら、妻が見ている目の前で浮気なんていい度胸をしているのね?」

「…………待ってくれ。俺はんなつもりで言った訳じゃねぇんだよ………!!雰囲気作りだよ、雰囲気。」

 

未だ戸惑いのような顔を浮かべているさやかに慎一郎がまどかとマミの可憐さを褒ると、理多奈の言葉に青ざめた表情を浮かべ、ひたすら平謝りをし始める。

その慎一郎の姿にさやかを含めた三人は苦笑いを向けていた。

 

「…………プ、プレイボーイなんだね、さやかちゃんのお父さん………。」

「まぁ、そうだな。だが、父さんの中では母さんが一番だ。それだけは絶対に言える。それも母さんがわかっているからああいうことを言えるのだろう。」

「………いいご両親なのね。」

 

三人の視線には夫が謝り続ける中、そっぽを向きながら、その様子を面白がっているように僅かに笑みを浮かべている理多奈の顔が写っていた。

 

 

「じゃあ、冗談はさて置いて今日はさやかの退院祝いというわけで、外食でもしましょうか。まどかちゃんとマミちゃんの二人もどうかしら?」

「えっ!?そ、それは流石に…………。」

「お金の面でもお二人にも申し訳ありませんし…………。」

 

突然の理多奈の発案に戸惑いながらも遠慮するような反応をする二人。その返答も予想済みだったのか、理多奈は頭を下げている慎一郎に目線を向ける。

 

「あら、と言っているけど、実際どうなの?」

 

理多奈が慎一郎に目線を向けたままそういうと「冗談とはいえタチ悪いぜ………」とぼやきながら慎一郎が頭を上げるとまどかとマミに目線を向ける。

 

「金なら心配なさんな。これでも伊達にスポーツで稼いじゃいねえからな。」

「そういうこと。遠慮しなくてもいいわよ。まぁ、無理にとは言わないけど………。」

「……………こういう祝い事は人数は多い方が楽しい。私個人の意志としては二人にも来てもらいたい。」

 

そう言葉を濁らせると理多奈はさやかに目線を向け、アイコンタクトを行う。その意図をなんとかなくだが察したさやかは悩んでいる素振りを見せる二人に来て欲しい意志を伝える。

今回の外食はさやかの退院祝いが目的、つまりこの外食の主役はさやかなのだ。その主役からの招待の意向を二人も断る訳にはいかないと思ったのかーーー

 

「うーん………お父さんがいいって言ったら………」

「流石に貴方からのお願いじゃ無碍にはできないものね………。」

 

と首を縦に振り、承諾してくれる意向を示してくれた。この後、まどかが自身の父親に電話し、彼からの了承を得たことを確認すると、さやかの両親の車で外食へ向かおうとする。

 

車に乗り込む直前、さやかは病院に視線を向ける。

 

 

(……………恭介。お前の意志、確かに見届けた。私は契約でお前の指を治すことはやめにする。それは何よりお前の願いを阻害してしまうことだからな。)

 

吹っ切れたような表情を恭介がいるであろう病室に向けるさやか。その後車の中から自身を呼ぶ声が聞こえると、急いで車に乗り込み、まどかとマミを含めた五人で外食へと向かった。

 

 

 

 

 

「いやー食った食った。やっぱ日本のファミレスは安い上にうまい!」

「あら?遠征先で食べたりしないの?」

「うまいとこはうまいんだが、落差が結構あったりする、ってとこだな。」

「あの………いいんですか?送ってもらっても。」

「ん?当たり前さ。それが責任ってもんだからな。」

 

外食先にしたファミレスから出ると前を行く慎一郎と理多奈、そしてまどかの後ろを歩いているとふとどこか思いつめているような表情を浮かべているマミの姿が目についた。

 

「……………どうかしたのか?」

「あ、美樹さん…………。」

 

さやかに声をかけられたマミは一瞬、何か言いかけそうになったが、寸前で口を噤むと、再び思いつめた顔を浮かべる。

 

「…………久しぶりだったか?こういう、家族の団欒というのは。」

「…………そう、ね。」

 

マミの隣に立ち、そういうさやかにマミは一瞬、驚いたような表情を浮かべるとすぐに敵わないと言っているような顔へと変える。

 

「…………ずっと一人だったから。」

「今は私とまどかがいる。」

「…………そうね。私と友達でいてくれるって言ってくれた時は、嬉しかった。でも、私に家族はもういないもの。」

 

そう言って険しい表情を浮かべるマミ。まるで自分はこの家族の温もりを感じてはいけないというように。

 

「…………だったら、また来ればいいさ。」

「え………?」

 

そのマミの様子に軽く笑みを浮かべながら放たれた言葉にマミは呆けたような顔をする。

 

「その温もりはまだ私たちには必要なものだ。以前にも言っただろう?私たちはどうしようもなく子供だと。だから親がいなければ私達は何もできはしない。それにーーー」

 

 

「寂しがり屋のアンタの胸に空いた空白(両親)を私やまどかで埋めることは絶対にできない。」

 

さやかの言葉にマミは動揺を隠せない様子でその揺れた瞳を隠すように俯いた。

 

「だから、また来るといい。別に私は構わないし、両親も別にとやかく言わないだろう。」

「…………貴方、結構滅茶苦茶な人なのね。貴方に助けてもらった時もそうだったけど。」

「…………そうなのか?あまり自覚がないのだが。」

 

キョトンとした表情を浮かべるさやかにマミは呆れたようにため息をつくのだった。

 

 

 





養子縁組…………具体的な血縁関係とは無関係に人為的に親子関係を発生させること。(Wikipediaより抜粋)


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第17話  ありがとう、暁美ほむら

あけましておめでとうございます!!

新年早々、これでいいのか?みたいな感じの話が続きますが、今年もよろしくお願いします!!!


「………………。」

 

学校の屋上で昼下がりの時間に吹く風に心地よさを感じる。

その屋上のベンチに座っているさやかは肩まで伸ばした青い髪をたなびかせていたが、その心地よい風を感じている割には表情がどこか遠いところを見ているようなものを浮かべていた。

決して彼女自身何か思うものがあるからそのような顔をしているわけではない。

ただ、彼女の隣に座っている人間の面持ちからそうせざるを得ないのだ。

 

その隣にいる人物とは暁美ほむらだった。

 

 

 

少し時間を巻き戻し、さやかが退院して学校に通い始めた当日の朝、クラスメートから退院祝いの言葉などが送られ、午前中の授業合間にその対応に追われていた。

その熱りも治り始めた頃合い、ちょうど昼休みになったところで彼女から声がかけられた。

 

たまたま周囲にまどかや仁美がいなかったさやかに彼女からの声がけに答えないはずがなく、二つ返事でこの屋上に向かった。ベンチに座った二人はしばらくお互い無言だったがーーー

 

「…………退院、おめでとう。」

 

不意にほむらがさやかに視線すら向けずに言い放った退院を祝う言葉にさやかは目を丸くする。

 

「暁美ほむら…………!?」

「…………ほむらで構わないわ。それで、人を見るや否や、何かしらその鳩が豆鉄砲でも撃たれたような顔。まさか、私がそこまで社交性のない人間だと思っているのかしら?」

「…………少なくとも初対面の人間に敵意を向けるようでは、な。」

 

さやかが微妙な表情を浮かべながらそういうとほむらはどことなく不機嫌そうな表情をする。

 

「まぁ、お前にはお前の事情があった。彼女を、まどかを護りたいという気持ちはな。それをちゃんと話してくれたから、こうしてお前の隣で気軽に話せる。」

「…………そういえば、まどかは貴方が退院した日、どこにいたのかしら?学校が終わるや否や、巴マミと一緒にどこかへ向かったようだけど。」

「ん………?それならわざわざ私が入院している病院まで来てくれたが?そのあとに彼女らと食事を共にするおまけつきでだ。」

 

ほむらがまどかの所在を聞き出したがそれをさやかは彼女への心配から来ているものと判断すると、何気ない口調で先日、まどか達と夕食を共にしたことを伝える。

 

しかし、その瞬間、今度はほむらが目を見開いた。

 

「…………な、なんだ?そんな顔をして………。」

 

思わずさやかは彼女に質問してしまうが、ほむらはそれに答えるような言葉を口にはせず、かわりに何かボソボソと漏らすように言葉をしていた。

さやかがその言葉を聞くために耳を凝らしてみるとこんな単語が聞こえた。

 

「まどかと食事まどかと食事まどかと食事まどかと食事まどかと食事まどかと食事まどかと食事まどかと食事まど(」

 

 

ほむらのその言葉の羅列を聞いてしまったさやかは遠い目をすると、肩を竦ませ、同時に深いため息をついた。

 

「……………別に、彼女に対して普通に接していれば食事を共にするぐらいは苦ではないと思うのだが…………。」

 

肩を落として明らかに残念がっていると思えるほむらの様子にさやかはそう言い放つとほむらがその黒く淀んだ目をさやかに向ける。まるで、それができたら苦労しないとでも言うように。

 

「……………本来であれば、彼女への初対面を完全に間違えたお前の自業自得だと切り捨てたいところだが、私が間に入って、今度まどかとそのような機会を設けようか?」

「……………………お願い………するわ………!!」

(すごい迫真といった顔つきをしている………。それほどまでまどかのことが大事なのか…………)

 

今にも自身に掴みかかって来そうな勢いで言葉を強めている様子に改めてほむらのまどかに対する思いを再認識するさやかだった。その後昼休みも残りわずかとなったため、ほむらと共に教室に戻る。

 

入ってきた時にさやかが目についたのは、どこか思い悩んでいるような顔をしている仁美の姿だった。

友人が悩んでいるような表情を浮かべていることにいてもたってもいられない性格をしているさやかはほむらを置いて仁美の机の側に駆け寄った。

 

「仁美、何か思い詰めているようだが、何かあったか?」

「あっ…………美樹さん…………。」

 

さやかから声をかけられたことに仁美は彼女へ顔を向けながら表情に明るいものを浮かべるが、一瞬はっとしたような反応を見せると、再び顔を逸らし、複雑そうな表情に変えてしまう。

 

「これは…………その………他人に相談するようなことではないので。」

「…………そうか。仁美がそういうのであれば、私から詮索をするつもりはない。」

 

仁美の言葉にさやかはとやかく詰め寄るようなことはせずにすぐに引き下がり、彼女の席を後にする。

 

「だが、本当にどうしようもなくなったら、私かまどかを頼って欲しい。相談程度ならいくらでも請け負おう。」

「…………わかりました。その時はよろしくお願いしますわ。」

「あまり抱え込まないようにな。」

 

幾分良さげな表情を浮かべた仁美にそれだけ伝えると、さやかは自身の席に戻ろうとする。

その時にほむらとすれ違いになるがーーー

 

「…………ねぇ、貴方には上条恭介に対する思いはないのよね?」

「………腐れ縁がいいところだとだけ言っておく。なぜそれをそこで聞く?」

「そう、ならいいのだけど。」

 

ほむらからの言葉にさやかは疑問気に返したが、その言葉にほむらが答えることはなく、彼女もさやかと同じように席に戻ろうとする。

 

「賢しいところは賢しいのに、変に鈍いところもあるのね、貴方。」

 

その時すれ違った時のほむらの言った言葉に首をかしげるしかないさやかであった。

そのほむらもさやかの様子を見ると呆れたように肩を竦める。

 

「まぁ、いいわ。今日は私と共に下校しなさい。話してあげるわ、キュウべえのこと、奴らの正体を。」

「ッ…………わかった。」

 

ほむらの言葉に張り詰めた表情をしながら重々しく頷くさやか。そしてそのまま時間は流れ、気づけば放課後、空は夕日により既に橙色に染め上げられていた。

 

「まどか。」

「あ、さやかちゃん。どうしたの?」

 

早乙女先生によるホームルームが終わったあと、さやかはまどかの元を訪れていた。

 

「すまないが、今日はほむらと用事がある。いつもの帰りとは方角が違うし、仁美と共に下校してくれ。」

「それは……………魔女と関係があることなの?」

 

ほむらの家に向かうため、いつも共に帰っているまどかにその旨を伝える。すると、彼女はどこかしょんぼりとしたような様子でさやかに問いかける。

 

「いや…………そういう訳ではない。だが、私はまどかに隠し事をしたい訳ではないから、これだけは言っておく。」

 

さやかはまどかの問いかけに首を横に振りながら、硬い意志のこもった瞳でまどかを見据える。

 

「いずれ話す。これはまどかにも全く関わりがないことではないからな。」

「だったら、わたしも付いていった方が………?」

「…………正直に言うと今は仁美のことが気がかりなんだ。だから、できれば彼女についてあげてほしい。何か悩み事を抱えているのは確実なようだからな。」

「…………わかった。さやかちゃんがそういうならわたしも無理についていったりはしない。」

「…………ありがとう。」

 

仁美の相談相手になってほしいというさやかの頼みをまどかは笑みを浮かべながら頷く仕草をする。そのことにお礼の言葉を述べるとさやかは教室から駆け出して行った。

階段を降り、昇降口にて靴を履き替えると、出入り口近くでほむらが待ち構えていた。

 

「まどかは?」

「一応、いずれ彼女にも話すことを条件に仁美と共に帰らせた。」

「そう、ならいいわ。仮に話すことになってもそれでまどかが契約しなくなるのならそれでいいわ。」

 

まどかが来ないことをさやかから確認を取ったほむらは歩き始める。さやかもその彼女の後ろ姿を追い、隣に並んで歩き始める。

しばらくはお互い話すことはないのか、無言の空間が広がっていたが、ふとさやかが気になったことを彼女に聞くことにした。

 

「そういえば、今日私が来ることはお前の親は了承済みなのか?何か土産でも持っていった方がいいのだろうが………。」

 

それはまだ親を頼るような年齢である中学生にとっては何気ない質問であった。突然の訪問はほむらの両親には申し訳ないという気分から聞いたものであったが…………。

 

「気にしなくていいわ。私の家に親はいないから。」

「は………?」

 

ほむらの答えに思わずさやかは呆けたような声をあげる。

 

(……………まさか、彼女もマミ先輩と同じようにすでに両親を………?ならばやたら無闇に聞き出すのは彼女に失礼か………。)

 

さやかの脳内では以前マミの両親が既に他界していることを言い当ててしまった時のことが流れていた。それで一度彼女の機嫌を損ねてしまったことから、さやかは家族関係に過度に踏み込むと余計な不和を産むことを学んだ。

 

「そうか…………すまない。」

(……………どうして謝るのかしら………?)

 

自身の経験からさやかは掘り出すようなことはせずに、彼女に謝罪の言葉を述べるが、別に両親が亡くなっている訳ではなく、ただ別居しているだけのほむらは不思議そうな表情を浮かべたのだった。

 

そんなすれ違いがあったが、ほむらの案内でさやかは彼女が使っているアパートの一室にたどり着く。

そこの表札には彼女の両親と思しき名前はなく、ただ『暁美ほむら』の名前が書かれているだけだった。

 

(やはり………彼女の両親はいないのだな………)

 

すれ違っているのを引きずっているさやかはそのことに一瞬表情を悲しげなものに変えるが、ほむらから部屋へ入るのを促され、すぐさま表情を戻して彼女の自室に入っていった。

そして、部屋に入り込んださやかを無機質で白く、清潔感より平衡感覚を狂わせてくるような壁?と椅子なのか机なのかよくわからないオブジェクト。

そして、天井に吊り下げられている妙な歯車が出迎えた。

 

「……………んー……………?」

 

思っていたのと違く、そしてあまりにも珍妙な、現実離れしているほむらの部屋の内装に思わずさやかは訝しげな唸り声をあげながら首をかしげる。

 

「何しているの?長話になるのだから早く座りなさい。」

 

そう言ってほむらは椅子と見られる薄紫色のかっこの形をしたベンチのようなものに座るようにさやかを促した。

 

「………………ああ。」

 

長い沈黙ののちにさやかは気にしてはいけないのだと自分に言い聞かせながら促されたとおりに椅子と思しき薄紫色のオブジェクトに腰掛けた。ほむらもさやかの対面にある薄紫色のオブジェクトに腰掛けると、外の街の喧騒すら届かない部屋で沈黙の空気が広がる。

 

「ふぅ……………単刀直入に聞こうか。キュウべえとは一体どういう存在だ?」

 

一度息を吐くことでほむらの部屋の奇抜なオブジェクトから意識を外したさやかは本題を最初に聞き出すことにした。

 

「キュウべえって言うのはあくまで親しみ易くするための別称みたいなものよ。奴らの本当の名前はインキュベーター。」

「インキュベーター…………孵卵器か。ところで、お前はキュウべえ………インキュベーターのことを複数詞で呼んでいるが、他にも似たような奴がいるのか?」

「…………そうね。奴らは全にして個、個にして全の奴らだから。」

「?…………どういうことなんだ?」

 

さやかが疑問符を浮かべるとほむらはインキュベーターのことに関して話し始める。

まず始めにそれらは地球固有の生き物という訳ではなく、地球に飛来してきた宇宙人ということだった。

 

「宇宙人………か。あまり聴き慣れない単語だ。だが………それと先ほどの全にして一などというまるで元々集合体のような言い方となんの関係が?」

「…………答えは今貴方の口から出たようなものよ。」

 

ほむらが若干ため息をつきながらの言葉にさやかは先ほどの自身の言葉を反芻する。そして目を見開いた。

 

「まさか、インキュベーターは個体こそあるが、それぞれに個別の自意識のようなものは存在しない、群体という一括りで一つの生命体なのか?」

「そうよ。奴らは集団でありながらもその実態は機械のように一つの目的のために動く感情を持たない合理性の塊よ。奴らはそのためとなれば手段をまるで選ばない。」

「その目的というのは?」

「……………宇宙の延命よ。」

「想像以上にスケールの大きい目的だな。その壮大な目的を持った宇宙人がまだろくに宇宙への進出をしていない地球に何の用だ?」

「その宇宙の延命にはエントロピーが必要なの。」

 

エントロピー………一言で言えば物事がごちゃごちゃであればあるほどその力を増大させる熱のようなものである。

 

「エントロピーなど言われてもよくわからないのだが…………。」

「そうね、言い換えれば奴らは人間の感情エネルギーを利用しているのよ。」

「感情エネルギーか……………感情がない奴らでは取り寄せ様がないエネルギーということなのか。」

「そうよ。それと、奴らが契約を持ちかける人間は総じて第二次性徴期の少女に限られているわ。」

「……………時期的に思春期と呼ばれる年頃の人間ばかりなのか。」

「ええ、一般的に思春期は多感の時期と呼ばれるわ。つまり、その分感情の揺れ幅も大きくなり、奴らの求める感情エネルギーも増大する。」

「となると奴らが合理性を突き詰めた生き物なのであれば、必ずその感情エネルギーがもっとも大きくなった時を狙う筈だ。そういうのはわかっているのか?」

 

さやかの質問にほむらは重々しい表情をし、一度さやかから視線を外したのちに再び視線をさやかに戻すと、その重々しさを如実に表すように頷いた。

 

「それは………ソウルジェムが濁りきり、グリーフシードに変貌するときよ。その瞬間、奴らの言う感情エネルギーは最大限に高まる。」

 

ほむらが言う感情エネルギーの数値がもっとも高まる時、それは魔法少女が魔女へと変わり果ててしまうまさにその瞬間であった。元々ほむらから予めキュウべえのマッチポンプの度合いを聞いていたさやかでさえ、苦い表情を禁じ得なかった。

 

「だが………それであれば魔力を過度に使用しない限り、大丈夫…………と言いたいがその様子だと何かあるようだな。よくよく考えてみれば魔法少女のソウルジェムは魔女ありきのものだ。魔女が絶滅すれば、魔法少女は穢れを取る手段がなくなり、いずれは魔女に成り果てる運命、か。」

 

さやかは魔力を過分に使わなければ、ソウルジェムの穢れは限界には達しないと思ったが、ほむらの苦しげな表情に何か別の要因があることを察する。

 

「…………ソウルジェムは人の感情にも左右されるの。情緒不安定になればなるほど、ソウルジェムの中に穢れは生まれてくる。言い換えてしまえば、人が絶望しきった時、ソウルジェムはグリーフシードに変貌し、魔女は生まれる。」

「…………それが、キュウべえに関することの全てか。要するに奴らの契約、その真意は私達に宇宙のために化け物に成り果てて死ね、ということか。」

 

そこまで言ったところでさやかは不意にほむらから視線を外し、部屋のある一角を鋭い目つきで見据える。ほむらはそのことに怪訝な顔を浮かべるがーーー

 

「お前たちの認識はそういう解釈でいいのか?インキュベーター。」

「ッーーーー!?」

 

インキュベーター、ほむらにとって害敵でしかない存在がこの部屋にいるということに心底から驚いたような表情を浮かべ、さやかが見据える目線の先を追う。

そのタイミングでオブジェクトの陰からキュウベェ、否、インキュベーターが姿を現した。

 

「そういうことになるね。」

「貴方………ッ!!つけてきていたのね!!」

 

自身のパーソナルスペースを侵されたからか、はたまた聞かれたくないことを聞かれたからかはわからないが、ほむらはインキュベーターに向けて嫌悪感をあらわにすると、瞬時に魔法少女の姿となり、その左腕に装着された盾から拳銃を取り出した。

 

そして、その銃口をインキュベーターに向け、トリガーを引こうとするが、それより先にほむらを制すようにさやかが構えた拳銃の銃身に手を添え、首を横に振った。

 

「やめておけ。引き鉄を引いたところで何かが変わるわけじゃない。予測でしかないが、お前の話を鑑みる限り、奴を潰したとしても代わりはいくらでも用意できるだろう。弾丸の無駄にしかならない。」

「ッ……………。」

 

さやかの諭す言葉にほむらは忌々しげな表情をしながらも銃を持つ手を下ろした。

 

「暁美ほむらに対して、君は結構冷静なんだね、美樹さやか?」

「……………その口ぶりだと先ほどまでの会話は聞いていたようだな。その前提で聞かせてもらうが、何故お前たちの目的やソウルジェムの真実を契約する前に言わなかった?」

「聞かれなかったからさ。」

「やり口が悪徳セールスマンのソレだな。魔女に関してもタチが悪いと思っていたが、お前たちも大概だな。」

 

そういうさやかの目にインキュベーターに対する不信感が如実に出ていた。しかし、インキュベーターはさやかのその目線を歯牙にもかけず、その鮮血の瞳をほむらに向けていた。

 

「しかし、暁美ほむら。見ていれば見ているほど君は謎の人間だ。どうしてボクたちの目的やソウルジェムの真実を知っているんだろうね。」

「…………さっさとここから消えなさい。貴方が知る必要はないわ。」

 

インキュベーターの言葉にほむらはその忌々しげな表情を一切変えることなく、侮蔑の視線を向け続ける。

 

「どうやら望まれない客のようだね。まぁ、僕も矢鱈無闇に体をダメにされるのは困るから聞きたいことだけを聞こうか。」

 

人間でいう肩を竦めるような様子を浮かべたインキュベーターは話し始める。

 

「前々から疑問には思っていたんだ。僕自身、君と契約した覚えはないのにどういう訳か君はソウルジェムを有している。」

 

「基本的に契約したかどうかの認識くらいは各個体間で共有されているさ。でもイレギュラーというのは起こり得るものだからね。もしかしたら精神疾患を抱えた個体と契約を結んだ可能性もあるにはあるだろうけど、ここ最近そのような報告は挙げられていない。」

 

なら一番あり得る可能性は、とインキュベーターが話を続ける。その時にさやかは目線だけをほむらに向けると表情こそ変わらないにしても汗のようなものが彼女の顔を伝っているのが見えた。彼女なりに焦っているのだろう。

 

「暁美ほむら、君はもしかすると時間遡行をしているのかい?」

「…………だとすれば何?貴方が真実を話さなかったように、私もそれが真実かどうかを答えるつもりはないわ。」

「君ならそういうだろうね。まぁ、今回はそれに関して追及はしないよ。本題があるからね。」

「…………どういうこと………?」

 

インキュベーターの言葉にほむらは訝しげな表情を向けるもそれに何か反応を示す訳でもなく、インキュベーターは話しを続ける。

 

「君が心底から大事に思っている鹿目まどか。実は彼女の素質は先天的なものじゃないんだ。」

「………どういうことだ?まどかには類稀な魔法少女としての才能があるとお前自身が言っていただろう。」

「それは紛れもない事実だ。」

 

さやかの言葉にインキュベーターはまぶたを下ろしながらうなずくような素振りを見せる。

 

「だけど、そのまどかの類稀な魔法少女としての才能は突発的に現れたものなんだ。時期としてはおおよそ一週間ほど前、ちょうど君が現れ始めた時だよ、暁美ほむら。」

 

インキュベーターの目線はほむらに注がれているが、肝心のほむらは言っていることがわからないのか、細めた目線を送り返すだけだった。

 

「そこで僕はある一つの仮説を立てた。結論から言ってしまえば、鹿目まどかをあそこまでの原石に育てたのは、彼女を護りたいと思っている暁美ほむら、君自身ではないのか、って。」

「どういうこと…………?」

 

ほむらはその言葉に疑問符を浮かべるとインキュベーターに訳がわからないというような目線を向ける。その声はどこか震えているようにもさやかには感じられた。

 

「君が時間遡行していると思っているんだろうけど、実のところ、君がしてきたことは時間を巻き戻してきたんじゃなくて、並行世界を渡っていたということさ。」

「仮にほむらがその並行世界を渡っていたとしてだが、その証明がお前にできるのか?」

「できるとも、もっともその証拠は目の前にいるけどね。」

 

さやかがそう問い詰めるとインキュベーターはさやかに視線を移した。先ほどの言論から鑑みるに、インキュベーターのいう証拠というのがなんのことを言っているのか、いやがおうにも察せられる。

 

「まさか、私か?」

「そう。まさに君だよ、美樹さやか。君の存在そのものが、暁美ほむらが並行世界を渡ってきたことの証明になる。」

「暁美ほむらは君と初めて二人っきりっで話した時、何があっても君は上条恭介を要因にして魔法少女になると言っていた。」

「ッ………聞いていたのね………!!」

「………お前には話が拗れるのは目に見えていたから来るなと言っていたのだがな………。」

「もちろん、僕は来ていないよ。代わりに別の個体を向かわせて小耳を立たせてもらったけど。」

 

呆れた様子で肩を竦めるさやかに対し、ほむらの様子はなんだかおかしかった。表情に覇気はなくなり、打って変わって弱々しい目線でインキュベーターを睨んでいた。

 

「つまり、君はどうであれ、暁美ほむらの経験則、必ずと言っていいほど上条恭介をきっかけとして、魔法少女になるはずだった。だから僕は過度に魔法少女に誘ったりはしなかったんだけど、蓋を開けてみれば君はそれらしい様子は微塵も感じられなかった。この前病院で上条恭介の自殺を引き留めていた時も、全く僕のことを呼ぶ兆しすら見られなかった。」

 

「つまり、君は暁美ほむらの知る美樹さやかとは違う、という訳さ。そしてそれは鹿目まどかにも当てはまることだ。」

 

インキュベーターがまどかの名前を出した瞬間、ほむらは息を呑むような表情をする。まるでその先を言うなとでも思っているように。

 

「君が魔法少女になった世界線の鹿目まどかとこの世界線の鹿目まどかは違うということだ。そして君が世界線を渡ってしまったことにより、本来交わるはずのなかった世界線が重なってしまった結果。この世界の鹿目まどかは僕たちでは計ることができないほどの魔力係数を有する、逸材となってくれた訳だ。」

 

「だから君には感謝を言わなければならない。暁美ほむら、鹿目まどかを育ててくれてありがとう。彼女からエントロピーを得ることができれば僕たちの悲願は達成される。」

「ッ……………歪んでいる………!!そんなもの、礼であるものか………!!」

 

インキュベーターの言葉にさやかは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。その言葉はお礼などではなく、絶望を突きつける現実でしかなかったからだ。

しかし、さやかの言葉にインキュベーターは首を傾げた。まるで理解が及ばないと言うように。

 

「どうしてだい?僕たちにとって有益なことをしてくれた人物には礼を言う。君たち人類だってやっていることじゃないか。」

「それはお礼と呼べるものか!!お前のやっていることは彼女のこれまでを、暁美ほむらという一人の人間の全てを否定する、絶望でしかない!!」

「おかしいな………僕は本当にお礼を言っているだけなんだけどな………。まぁ、聞きたいことは済んだから僕はここら辺で退散させてもらうよ。」

 

そう言ってインキュベーターはほむらの部屋から出て行こうとする。その様子をさやかは険しい表情で睨みつけるが、追うようなことはしなかった。

 

「それじゃあね、もし彼女がグリーフシードを産んだら、また呼ぶといい。僕にしかグリーフシードの処理はできないからね。」

 

それだけ言い残すとインキュベーターはほむらの部屋から出て行った。出て行ったことを確認したさやかは隣で呆然としているほむらに駆け寄った。

顔を俯かせ、陰がかかった表情を目で伺うことはできないが、さやかはなんとなく感じ取っていた。

 

ほむらから滲み出る、黒いモヤのような、言い換えれば絶望を。

 

「嘘よ…………嘘…………私がアイツの手助けをしていた…………!?嘘よ、嘘………私が、私の行動があの子を余計に死に追いやっていた…………!!!?」

 

見るからに憔悴しきっているほむら。さやかの知るまどかはほむら自身の知るまどかではないこと。仇であるインキュベーターの手助けをしていたこと。そして何より自分自身の行動がまどかを死に追いやっていたこと。

 

それらがことごとく絶望となってほむらにのしかかる。そのままにしておけば自責のあまり彼女のソウルジェムは濁りからグリーフシードへと変貌してしまうだろう。

 

(不味い…………今の彼女は自分自身のアイデンティティの支柱が完全に破壊されたも同義だ………!!)

 

苦しげな表情でさやかはほむらを見つめる。力なく床にへたり込み、その瞳は真っ黒に濁っていた。その濁りをあらわすようにポケットからこぼれ落ちたソウルジェムも連動して黒いモヤを生み出し始めていた。

 

「ッ…………求めていない!!お前も、私も!!まどかが犠牲になる世界など求めていない!!そうなんじゃないのか!!」

 




こんなん聞いて魔法少女になる奴おらんやろwwww

でも、原作だとなぁ…………引き篭り魔女がいるんだよなぁ…………


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第18話  結局のところ、お前の心持ち一つだ

いやー………難産だったなぁ…………


「求めてなどいない………!!お前も、私も!!まどかが犠牲になる世界など求めていない!!そうなんじゃないのか!?」

 

インキュベーターが立ち去ったのち、残されたさやかとほむら。さやかはインキュベーターのやり口に嫌悪感を隠しきれないが、今はそれを置いておく。

それよりも隣で意気消沈、顔面蒼白、といった様子のほむらのことが気がかりだった。

 

さやかは力なく座り込んでいるほむらの側にしゃがみ、両手で彼女の肩を揺らすも、彼女は抵抗するような様子を見せず、ただその艶やかな黒髪が無抵抗に揺られるだけであった。

 

「私は………私は…………ただまどかを救いたい………一人だった私に声をかけてくれたあの子を、あの笑顔を守りたかっただけなのに…………。」

 

ほむらは震えている声を上げながら独白とも取れる言葉を溢す。そのほむらの表情は彼女の黒髪がカーテンとなってしまい、さやかの目線から直接伺うことはできないが、彼女の足元に零れ落ちる涙とすすり声で泣いているのは明白であった。

 

「私は、あの子の側にいたいだけなのに………!!どうして………!!」

 

そこにいたのは魔法少女としての暁美ほむらではなく、ただの純粋に親友と共にいたいと願う、か弱い少女であった。

そのことに困惑色を隠せないさやかだったが、その間にもほむらの嘆きは続く。

 

「私が時間を巻き戻せば巻き戻すほど、あの子の因果は高まっていく………!!これじゃあ変わらない………!!あの子はまたインキュベーターに狙われ続ける………!!最終的にはワルプルギスの夜の後………あの子は………!!」

 

ほむらの言葉に悲壮感を感じたさやかは一度、彼女と同じように表情に暗い陰を落とし、俯いた。ワルプルギスの夜という聞き慣れない単語が聞こえたが、それを今ほむらに問うたところで何かが聞ける訳じゃない。それ故に沈黙を保つしかなかった。

 

「未来は、変えられないの………!!?」

「……………違う。」

 

しかし、そのほむらの嘆きに、さやかは沈黙を挟んでいたが、先ほどまでの荒げていた声から一転、抑えた声で彼女の嘆きを否定する。

 

「未来は、切り拓くものだ。他でもない、お前自身の意志で。」

「私自身の、意志で…………?」

 

ほむらの鸚鵡返しのような言葉にさやかは無言で頷く。しかし、その表情はインキュベーターへの怒りのようなものは心のどこかに置いて行ったのか、温和なものであった。

 

「インキュベーターの言っていたことが事実だとすれば、お前の知るまどかと私の知るまどかは限りなく同一人物に近い別人なのかもしれない。だが、それでもお前は『鹿目まどか』という一人の人間を、親友を救うために幾たびもの時間遡行を繰り返してきた。」

 

「常人で有れば、必ずどこかで心が保たなくなってくる。それだけのことをやってのけている。」

「だから、大丈夫だとでも言うの………!?何度やっても………いくら準備を重ねてきたとしても、あの夜を、ワルプルギスの夜を越えられなかった………!!」

 

(またワルプルギスの夜か…………初耳だが、今は流しておいて、好きなように感情を吐露させておくのが最善か。)

 

再び大粒の涙を溢し始めたほむらを視界に収めながらも、またもや彼女の口から飛び出たワルプルギスの夜という単語に眉を潜めながらも最優先事項であろうほむらのメンタルケアに意識を戻す。

今の彼女はまさに薄氷の上に伝っているような状態だ。ほむらがまどかを救うために未来から時間遡行をすることでやってきた存在、いわば鹿目まどかという存在が彼女の精神的支柱を担っているのは自明の理だ。

そのまどかが限りなく同一人物に近い別人と言われ、なおかつ仇敵であるインキュベーターの手伝いをしていたと事実を突きつけられてしまえば、かなり危うい状態になってしまうのは火を見るより明らかだった。

 

(というより、まさか私の存在自体がインキュベーターの言う平行世界の渡航説を立証してしまうというのは、なんとも皮肉なものだ………。)

 

言われてみて、考えてみれば自ずと答えは出た。ほむらが仮に時間を巻き戻しているので有れば、起こる出来事は全て隅から隅まで同じでなくてはならない。何か少しでも差異が生じている時点で、時間を巻き戻しているとは、言えなくなる。

さやかが入院していたころにほむらが言っていた、これまでの美樹さやかと今ここにいる自分はまるで別人のようだと、この時点でほむらは別に時間を巻き戻している訳ではないと気づくべきだった。

 

(…………おそらく彼女も心のどこかではわかっていたのだろう。わかっていたからこそ、いざそれを指摘されると心が保たない。だから無意識のうちに目を逸らしていた。)

 

さやかは悲しそうな表情を浮かべ、彼女の制服のポケットからこぼれ落ちたのか、部屋の床に転げ落ちたソウルジェムに視線を向ける。

その紫色に輝いているアメジストを彷彿とさせたアクセサリーはまるで彼女の今の心情、絶望を表しているように澱んだ黒に浸食されかけていた。

このままでは、以前ほむらがさやかに口にしたソウルジェムのことが真実なのであれば、彼女のソウルジェムはグリーフシードへ変化し、魔女を産み出すだろう。

 

しかし、ソウルジェムが人の感情に左右されるのであればーーー

 

「結局のところお前の心持ち一つだ。」

「えっ…………?」

「インキュベーターはこの世界のまどかとお前が時間遡行を始めた時間軸のまどかは違うと言った。確かに理に適っている。並行世界の人間が厳密に同一人物である確証はない。もっとも今ここにその同一人物ではないという証拠になっている人間がいる訳だが。」

「だから………なんだっていうのよ…………!!」

「そう、それだ。お前のその感情が重要なんだ。」

 

淡々とした様子のさやかに苛立ちを感じたのか、ほむらは涙混じった、震えた声でさやかに言葉を荒げるが、その直後に飛び出た言葉にほむらは困惑した様子で口を詰まらせる。

 

「要は、お前の認識次第だ。例えインキュベーターにまどかはお前が元いた時間軸のまどかとはよく似た別人だと言われても、それはあくまで奴自身の合理性を極めた思考で弾き出された、ただの理屈でしかない。」

 

「そして私達人間は、そんな理屈で物事全てが動くように、できあがってはいない。言うなれば不完全な生き物だ。だから自分の都合のいいように解釈することができる。」

 

「例えインキュベーターから何を言われようが、お前が助けたいと真に願っている、『鹿目まどか』に変わりはない。」

「でも、まどかは…………私のせいで…………!!」

「この際、それは棚に上げた方がいい。知る由もなかった真実に打ちひしがれていても、何かが変わる訳ではない。むしろ、何も変わらない。」

 

ほむらの懺悔のような口ぶりの言葉にさやかは首を横に振りながらそう伝える。

 

「だからお前が持つべき覚悟は一つだ。この時間軸で全てのことにケリをつける。まどかのことも、そして、お前が口々に漏らしている、ワルプルギスの夜とやらのこともな。例えそれが、最終的にどのような結果になったとしてもだ。」

「そ、それは……………!!」

 

さやかの言葉にほむらは苦々しい表情を浮かべる。さやかの言葉はつまるところ、仮にまどかがいなくなる、もしくは死亡する結果となったとしてもそれを受け入れろという内容であった。まどかを救うことを絶対にしていたほむらにとってはそれはなかなか受け入れづらいことであるのは明白だった。

 

「あ、あなたには、あるというの?その覚悟が………!!」

 

ほむらのかろうじて飛び出たような質問にさやかは呆れるように肩を竦める素振りをとった。そしてーーー

 

「あるわけないだろう。そのようなもの。そもそも始めに私はまどかがいなくなる世界など望んでいないと言ったばかりだ。」

 

さも当然というように、自身にそんな覚悟はさらさらないことをぶっちゃけた。

 

「え………ちょ、は?」

 

さやかのカミングアウトに今度は目を白黒させるように見開きながら見つめるほむら。

 

「言うだけ言っておいて、そのような気が自分にはないなど、都合がいいと思うか?」

 

そう聞かれたほむらは俯いた状態からあげた顔を上下に振った。さやか自身がそう言ったように都合がいいと思っているようだ。

 

「…………そうだろうな。だが、始めにも言ったが、まどかを死なせない未来を掴み取るためにお前は時間を巻き戻してまで、これまで戦ってきたのだろう?」

 

さやかの確認とも取れる質問にほむらは弱々しくも再び首を縦に振った。

 

「だったらその未来をこの時間軸で掴み取ればいいだけのことだ。それだけのことをやってきた心意気やこれまでの経験を駆使すれば、できるはずだ。」

「…………そんな簡単に言わないでほしいわ。私一人じゃあ……できていないから、今の私はここにいる………!!」

「お前一人で無理なら、別の人間の力も借りることだ。」

「……………貴方を頼ればいいと言うの?」

「……………私を頭数に入れようとするのはやめてくれないか?そうではなくマミ先輩だ。腕のたつ彼女なら十二分にお前の力になってくれるだろう。そのためにはどうしてもお前の素性と魔法少女の真実を話すことになるだろうが。」

 

ほむらの言葉にさやかは困り果てた表情をしながら、自身ではなくマミのことを頼れと促す。その際にさやかは確認ついでに視界の端でほむらのソウルジェムの様子を確認する。視界に収まったソウルジェムの中の黒い燻りはそれ自体はまだ漂ってはいたが、浸食自体は止まっているように思えた。

 

(…………一応、目先の絶望から視線を逸させることはできたか。)

 

そう思ったのも束の間、突然静謐だった静かな空間を引き裂くように電子音が部屋中に響いた。

 

「ん………誰からだ………?」

 

電子音の音源はさやかの携帯から鳴り響く呼び出し音だった。何気なく携帯を手に取ったさやかは呼び出してきた人物を知るために画面を見る。

 

「まどか?」

 

そこにはまどかの名前が表示されていた。すぐさま携帯を通話状態にし、耳にあたる。

 

「もしもーー」

『さ、さやかちゃん!!?よかった!!マミさんには繋がらなくて………!!』

 

さやかが出るや否や耳をつんざくような勢いのまどかに思わずさやかは反射的に耳を遠ざける。

 

「…………どうしたんだ?」

『ひ、仁美ちゃんが………!!』

 

まどかはどう言うわけか震え、泣きそうな声で仁美の名前をあげる。その瞬間、さやかの脳内に仁美に何かあったのだと直感的に察する。そしてよく耳を凝らして聴いて見ると、何か鉄製の扉のようなものをガンガンと力一杯叩いているような音も聞こえた。

 

「まどか、落ち着け。状況と今いる場所を教えてほしい。」

『ひ、仁美ちゃんに………魔女の口づけが………!!様子のおかしくなった仁美ちゃんを止めようとしたけど、他にもおんなじような人が、街中の廃工場にーーー」

 

その瞬間、ガタンと言う物音と共にまどかの声が一度途切れる。さやかは思わず息を詰まらせ、目を見開く。

 

「まどか!!逃げろ!!」

 

反射的にそう叫ぶ。その声とまどかに危機が迫っていることを察したのか、ほむらがかなり焦ったような表情を浮かべながら、さやかの通話を見守る。

 

『やだ………なにこれ………!!?』

「まどかッ!!!」

『さやかちゃん………!!たすけーーー』

 

その言葉が続くことなく、ブツンと切れた音を最後にまどかとの通話が切れ、一定の間隔で出される無機質な機械音が繰り返し流れるだけとなった。

 

「ほむらッ!!まどかが魔女に襲われて危険だ!!この見滝原で廃工場はどこだ!?」

「…………あるにはあるわ。でも、貴方が行ってどうするの?」

「人手はあったほうがいい。お前もまどかを庇いながら戦うのは厳しい筈だ。」

「……………わかったわ。」

 

さやかの言い分に納得の形を示したのか、ほむらは落としたソウルジェムを手にし、魔法少女の姿へと変身する。まだ黒い燻りは残ってはいたが、それを気にする余裕はさやかにもほむらにもなかった。

 

「手を出しなさい。私の魔法で一気に飛ぶわ。」

 

ほむらはそう言ってさやかに手を差し伸べる。その差し伸べられた手をさやかはなんら戸惑うことなく、それでいてしっかりと握り返した。

 

「頼む。今は、お前の魔法だけが頼りだ。」

「……………ええ。」

 

さやかの言葉に答えるようにほむらが頷くと左腕に装着された盾のようなものを回転させる。その瞬間、世界が白黒の世界に彩られる。

 

「これが、停止した時間というやつか。色まで失われるのか。」

「ボヤッとしている暇はないわ。私の出せる最高の速度で行くから振り落とされないようにね。」

 

さやかが周囲を見回そうとした瞬間、ほむらは停止された時間の中を猛スピードで駆け抜ける。その風圧にさやかは圧倒されるが、ほむらと交わしたその手だけは離さないようにしっかりと握る。

その風圧に晒され続け、思わず目を食いしばっていること数分ーーーほむらが時間をとめているため現実世界では1秒も進んでいないのだが、突然先ほどまで感じていた風圧を感じなくなった。

 

「見滝原で、廃工場と言えば、ここね。」

「…………魔女の気配は?」

「あるわ。まどかに危機が迫っているのなら、さっさとカタをつける………!!」

 

それぞれの掛け替えのない友達(まどかと仁美)を救うべく、二人は廃工場の中に足を踏み入れる。中では虚な表情を浮かべた人々がまるでゾンビのように彷徨っていた。その中には仁美の姿もあった。

 

「仁美………!!」

「………今は魔女を倒すのが最優先よ。そうすれば彼女も正気を取り戻すわ。」

「……………わかった。」

 

居た堪れなくなったさやかが仁美の元へ駆け寄ろうとするが、それを静止する声をほむらがあげ、彼女を引き止める。

そして、妙に人が群がっていた部屋の扉をほむらが時間停止させている間に魔法少女になったことで上がった力で無理やりこじ開けると、そこには魔女の結界へと続く紋章が浮かび上がっていた。

ほむらとさやかがその紋章の前に立つと、ほむらは手に埋め込まれたソウルジェムの宝石を掲げると結界への道が開ける。

 

「………美樹さやか。貴方、引き金を引いたことは?」

 

魔女の結界への入り口が開き、あとは内部に突入するだけとなった時、ほむらが不意にそんなことを聞いてくる。

 

「……ある、と言ったら?」

 

一瞬の沈黙ののち、さやかはそう答える。それを聞いたほむらは自身の右手を盾の中に突っ込むと、次の瞬間、その右手には淡く光に反射する拳銃が握られていた。

 

「貴方の言う通り、まどかを抱えて戦うのは魔法少女の中でも比較的非力な私じゃ、難しい。すぐに勝負を決められなければ、その分、まどかに危険が及ぶことになる。だからーーー」

 

ほむらはそこで一度言葉を区切ると、右手のその拳銃のグリップをさやかの方に向けて突きつける。

 

「貴方にその間、まどかを頼むわ。」

 

さやかに向けて差し出された拳銃。それを彼女はソレとほむらの顔を一往復だけ目線を行き来させると、表情を引き締める。

 

「…………一度引き金を引いたとはいえ、それは友達を護りたい一心でやったことだ。」

 

そういうとさやかはほむらの手から拳銃をもらい受ける。

 

「その心意気は、変わらない。」

「そう。それなら重畳ね。セーフティは外してあるから変なところで撃つのはやめてほしいわね。」

「ふぅ…………ところでこの拳銃、どこで手に入れた?明らかに警察の使っているニューナンブとかではないのだが。」

「……………企業秘密よ。」

 

ほむらのセーフティは外してあるとの言葉にため息をついたさやかは渡された拳銃の出所を尋ねた。ほむらの回答は秘密とのことだったが、明らかに非合法的な入手をしたのはさやかの目には明らかだった。

 

「まぁ、追求はしない。状況が状況だからな。」

 

そのことに渋い表情を浮かべるも拳銃を構えたさやか。

 

「………行くわよ、ちなみに美樹さやか。まどかが傷つくようなことがあったら、承知しないから。」

「……………善処はする。」

 

相変わらずのまどか一筋のほむらにもはや呆れた顔を隠さないさやかだったが、ふと何か思い立ったような表情を浮かべるとほむらに視線を向ける。

 

「私がお前のことをほむらと呼んでいいと言ったようにお前も私のことをさやかと呼んでも構わない。いちいちフルネームで呼ぶのも億劫にならないか?」

「……………そうね、お互い生きていたら、考えておくわ。」

 

ほむらの言い草に少しばかり顔をしかめるさやかだったが、それもそうかと、自身を納得させながら揃った足並みで魔女の結界に突入を始める。

 

 

 




ちなみにですが、現状のほむらちゃん。某無貌の神がいるTRPG的に言えばSAN値が5減って起こした一時的発狂をさやかちゃんが精神分析することでかろうじて正気を保っているような不安定な感じです。
つまり…………まだ不定の狂気があります^_^

そして相手の魔女は…………人のトラウマを刺激してくる相手…………。

あとはお察しかな…………。

それはさておき、今回の話はだいぶグレーな部分があるなぁ…………


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第19話 覚悟は決めた。後で謝罪する勇気も。

時間かかった………申し訳ぬ……………


ソウルジェムを用いて、魔女の結界内に突入したほむらとさやか。視界を覆っていた眩い光が収まると、彼女らの視界には水色の、さながら水のなかにいるような色合いと、その円柱型の空間を示すようにメリーゴーランドの意匠が、輪っかの形となって貼り付けられていた。

よく見てみるとそのメリーゴーランドの木馬はドット状になっていて、ときたま木馬ではなくテレビになっている箇所もあった。

 

「……………落下、している割には浮遊感が凄まじいな………。」

 

さやかが口を溢しながら指摘したのは現状についてだ。

ほむらとさやかは今、魔女の結界内に入ってから落下をしていた。しかし、そのスピードは緩やかでさらには浮遊感を感じさせるほどであった。

二人は徐々にその魔女の結界の奥深くへと落下していく。さながら浅瀬から沖合へ、沖合から深海へと沈んでいくかのようにーー

 

「どんどん奥深くへと落下していく…………ここの魔女はさながら引きこもりのようだな…………。」

「引きこもり…………ね。」

 

さやかの言葉にほむらが頷くような仕草を浮かべている間にも二人の体はどんどん深部へと潜り込んでいく。

 

「そういえば、この魔女との交戦経験はあるのか?」

「…………あるわね。その時は、巴マミや契約してしまった貴方と共に倒したわ。」

「…………そうか。だが、気を付けた方がいい。人数が前回より少ないのであれば、なおのことだ。」

「…………貴方に言われるまでもないわ。」

 

さやかの忠告だったが、それを余計なお節介だと言うようにほむらは結界の奥深くを見据える。さやかも自身の実力を過小評価されているような言い方をされて気を悪くするほむらの心情がわからない訳ではなかったため、それ以上なにも言うことはなかった。

 

「……………魔女の反応も近いわね。構えるなら構えておきなさい。」

「……………わかった。」

 

険しい顔つきのほむらに続く形で、さやかは彼女から借り受けた拳銃を構える。そして、その魔女の結界の奥底と思しき床がさやかの視界にも映り込んでくる。

そこにはパソコンのようなモニターの箱から黒い髪のような色合いをしたナニカがさながら女性のツインテールのように突き出ている魔女の姿、そしてーーー

 

「あれは…………!!」

「まどか!!!!」

 

 

さやかが息を呑むように、ほむらは悲痛なものが入り混じった声を上げる。そこにはまどかの姿があった。あったのだが、その姿は極めて異質なものとなっていた。

体の輪郭線が消え失せ、その彼女の四肢は背中に羽の生えた、いうのであれば天使のような容貌の使い魔に、それぞれ引っ張られ、さながらスライムのように伸びていた。

あのままあの天使のような使い魔にまどかの体が好き勝手されれば、とても五体満足で済むとは思えなかったのは、誰の目にも明らかだった。

 

「先に行くわ!!まどかのことは頼んだわよ!!」

 

そういうとほむらはさやかと繋いでいた手を振り回すとさやかをまどかに向けて投げ飛ばした。

 

「ッ……………本当にまどかのことになると見境がなくなる………!!」

 

投げ飛ばされるというあまりに雑な扱いに、驚いた表情と共にほむらに文句の一つは言いたくなり、目線をほむらの方に向けるさやかだったが、投げ飛ばした彼女の方角には、既にほむらの姿はなく、かわりに拳銃を発砲したような乾いた音と下から響く魔女の絶叫の音がさやかの耳をつんざく。

 

反射的に目線を上から下に移すと、先ほどまで体の輪郭線が無くなっていたまどかの体が元に戻り、彼女の四肢を引きちぎろうとしていた使い魔の姿もなくなっていた。おそらく、先ほどの発砲音はほむらが時間停止している間に使い魔に撃ち込んだ銃弾だったのだろう。

 

「愚痴は心の中にしまっておく………今は…………!!」

 

まどかの身の安全が最優先。そう判断したさやかは緩やかな落下を始めているまどかに向け、手を伸ばす。

拳銃を握っていない方の手でまどかの体を引き寄せると、水中を泳ぐように体を進ませ、魔女の結界の最奥に降り立つ。

 

「まどか…………!!」

 

ひとまず救出したにも関わらず、目を開かないまどかにさやかは一抹の不安を抱くが、脈そのものはしっかりしていたので気絶しているのだと認識する。

 

「意識はしっかりしている………ならあとは目立たないように結界の端でおとなしくしているか。」

 

気絶しているまどかを肩で背負い、結界の端っこまで移動する。ほむらの邪魔にならないように、彼女が自分たちに意識を裂かれないようにするために。

さやか自身、あまり鍛えている方ではないため、人一人を運ぶのも一苦労だったが、足を引きずるような形でなんとか結界の端っこまで移動する。

 

「ほむらはーーーー」

 

背負っていたまどかを優しく下ろし、仰向けに寝かせると、一息つくついでにほむらに目線を送る。

 

直後、爆発音が魔女の結界一帯の空気を強烈に震わした。

 

「くっ…………い、今のは………!?」

 

突然の爆発音と衝撃に思わず顔を背けるさやか。強烈なそれに煽られるがそれも一瞬のもので、すぐに爆発音が飛んできた方角を向けるようになる。

まず目に飛び込んでくるのは結界を漂っている煙の塊。そこから魔女が耳を塞ぎたくなるような甲高い悲鳴をあげ、逃れるように墜落していく。

その魔女の体には所々、炎がこびりついていた。

 

先ほどの爆発音と煙、そして魔女にこびりついた炎。それらが連想させるものはーー

 

「まさか、爆弾か!?そんなものまで持っているのか、彼女は!?」

 

明らかに日本では手に入らなそう、仮に手に入ったとしてもかなり危険なルートから調達しているとしか思えない代物にさやかは驚きを隠せない。

しかし、同時にその非合法的な代物を取り扱っているほむらにより今のところの安全は保たれており、その彼女から自衛のための拳銃を渡されたのも相まって、さやかはそれ以上、ほむらに対して突っかかるようなことはしなかった。

 

(…………ところで、この結界に入ってきた時、まどかの様子はかなりおかしかった。)

 

 

思考は切り替わり、入ってきたまどかの様子のおかしさに焦点を向ける。入ってきた時のまどかは体の輪郭線がなくなり、ゴムのように伸び縮みしてしまうまでのある種の柔らかしさを有していた。

おそらく、人をそのように変化させてしまうのがあの魔女の能力なのだろうか?

 

しかし、今の魔女の現状を見てもそのような、何か仕掛けてきたようには見えなかった。

 

ほむらの猛攻によって人体を柔らかくする特殊能力のようなものを行使する暇がないのか、ただ使っていないだけなのかーーー

 

(多分だが、ほむらはこの魔女の詳細をよくは知らない。相対したことこそあるが、その時はマミ先輩や契約した私自身と、戦力にも余裕があった。それだけの戦力があったのであれば、魔女にほとんどなにもさせずに倒せたのかもしれない。)

 

しかし、今のほむらは一人だ。しかもまどかが危険な目に遭っていたこと、そしてインキュベーターから知らされた、自身の行いがまどかの魔法少女としての才能の高さの要因の一つになっていたこと。

真実を聞かされた時の狼狽は、さやかがひとまず目線を逸らさせたことで一時的に事なきを得た。

 

だが、所詮は一時的なものだ。今のほむらは自分が今までやってきたことの報いに目線を向ける暇がないだけ。もし、ほむらの精神を、その根本から揺るがすようなことがもう一度有れば、二度と立ち直れないかもしれない。

 

「ッ……………!?」

 

そんな今のほむらに対する危うさを感じ取っていたさやかは不意に視界に映り込んだ異物に対して目を見開き、驚きを露わにする。

それはこの魔女の結界に貼り付けられたメリーゴーランドのようなデザインをそのまま縮小させたようなものであった。

視界が水中のようにゆらゆらと蠢き、よく目を凝らさねば見えないほど小さく、そして物理的に距離が遠かったのも相まって、視界の端に映り込み、そしてそれを認識できたのは半ば奇跡に近かった。

 

「あ、あれは…………!?」

 

さやかがその異物に驚いていると、その輪っかは急降下を始める。その挙動に釣られるように目線を下にさげると、その先にはボロボロの魔女にとどめを刺すつもりなのか、拳銃を構えたほむらの姿があった。

 

「ほむら!!避けーーーー」

 

咄嗟にほむらに声を送るが、もともと距離が離れていたのが災いし、声が彼女の耳に届くより先に輪っかがほむらの周りを取り囲んだ。魔女の攻撃は基本的に初見は予想がつかないものがほとんどだ。どういった攻撃を行うのか想像ができないため、思わず息を呑んださやかだったが、ほむらを取り囲んだ縮小されたメリーゴーランドは彼女に別段、遠目からでは何かしているようには見受けられなかった。

 

「何もしてこない…………?」

 

ほむらを取り囲んでいるメリーゴーランドの輪っかが彼女の周囲をくるくると回っているだけにさやかは不可思議なものを見ているような表情を浮かべる。

 

「いや、違う!!!」

 

不思議そうな表情から一転、険しい表情を浮かべ、苦渋な顔をする。その理由は取り囲んでいるメリーゴーランドではなく、ほむら自身にあった。

 

(あのメリーゴーランドのようなものに取り囲まれてから、ほむらは何一つ行動を起こしていない…………!!)

 

そう、あのメリーゴーランドに取り囲まれてからピクリとも動かないのだ。ほむらは時間操作という、半ばチート臭い魔法を保有している。そんな彼女が時間操作すらせずに呆然、というのは何か異常が起こったに違いない。だがーーーー

 

(だが、厳密には何が起きているんだ………?)

 

さやかは苦虫を噛み潰すような表情を浮かべながらも完全に二の足を踏んでしまう。一度、ほむらから渡された拳銃に目線を移すもーーーー

 

(ダメだ…………情報が少なすぎる上にマミ先輩の時とは状況が違いすぎる………!!動いてもいいかもしれないが、あの時はまだ眼球という明白な急所があったからなんとか体が動いた………!!)

 

力なく拳銃を持った腕を下ろすと、視線をボロボロの魔女に向ける。今回の魔女の風貌はパソコンと完全に無機質なものだ。液晶にあたる画面のなかで黒い人形が何やらピコピコと明滅を繰り返しているのはわかる。

だからとてそれが急所である確証はどこにもない。前回のマミを殺しかけた魔女とは文字通り状況が違いすぎるのだ。現状、ほむらの攻撃のせいで動き出す様子が見られないだけが救いか。

 

(どうする………ひとまず彼女の元へ駆け寄るか?)

 

時間的猶予はまだあると認識したさやかは現状からの打開策を練り始める。始めに考えたのはほむらのもとへ駆け寄ること。だが、自分が離れたことで完全に無防備となったまどかに使い魔が送られたら詰みだ。思考で即座に却下された。

 

(ならば拳銃で気を逸らさせるか…………ダメだ、ただの時間稼ぎにしかならない上にその間に彼女が正気を取り戻してくれるとは限らない。そして銃弾が無くなれば、その時点で本当に何もできなくなる。)

 

「クッ……………せめてマミ先輩が来てくれれば…………!!」

「マミはまだ来れないよ。」

「ッ!?」

 

突然の第三者の声に思わずさやかは体を強張らさせ、声のしてきた方角に振り向く。その表情は驚き、というよりあまり見たくないものを見てしまったかのような険しいものであった。

 

「インキュベーター……………!!!」

「やれやれ、すっかり嫌われてしまったようだね。ま、元々君はボクに対してあまりいい顔はしていなかったけど。」

「…………何故マミ先輩が来れないと断言できる?」

「マミは今、他の魔女の討伐に向かっているよ。それが済むまでこっちには来れないと思っていた方がいいだろうね。」

「……………タイミングの悪い………いや、お前の差し金か?」

「ボクはただマミに魔女の出現を伝えただけだ。」

 

その答えにさやかはこの問答に意味はないと断じ、インキュベーターを意識から外した。インキュベーターからほむらに目線を戻した今でも彼女はその場から一歩も動かないでいた。

 

「聞きたいことがある。ほむらは何故動かない?」

「魔女からの干渉を受けているね。彼女を囲っている輪っかが原因だ。具体的に何をされているかはわからないけどね。」

「手の施し様がないということか?」

 

キュゥべえの言葉にさやかがわずかに語尾を強めながら詰め寄る。何か手段はないのか、と暗に聞き出そうとするさやかの言葉であったが、キュゥべえがそれに何かたじろぐ様子はなく、ただ首を横に振るだけだった。

 

「ボクだって魔女のことが詳細にわかっている訳じゃない。しかもそれが初めて見たものだとすれば尚更のことだ。それよりも君は今決断を迫られていることに気づいているかい?」

「何…………!?」

 

キュゥべえの言い草に嫌な予感を感じたさやかは険しい顔つきをしながらその嫌な予感を感じたほむらに目線を向ける。その瞬間、さやかの目は見開かれた。

 

「ッ…………体がゲルのように原型を…………!!あれは、まどかがなっていたのと同じ状態………!!」

 

ほむらの体の輪郭線がなくなり、体が不定形のゲル状になりかけていた。それはこの結界に入った時、まどかが陥っていた窮地と全く同じであった。

 

「あのままでは使い魔に体を…………まさか、決断というのは………!!」

「そうだよ。暁美ほむらを救いたいのであれば、君は選ぶしかない。今そこで気絶している鹿目まどかを起こすことを。彼女ならばこの状況を確実に脱することはできるだろうね。」

「それは、まどかを魔法少女にしろということか………!?」

「それ以外に、何があるんだい?」

 

さやかが驚愕というような表情を挙げていることにキュゥべえは不思議そうに首をかしげる。さながらさやかの反応を疑問に思っているようだ。

 

「どうしてそんな表情をするんだい?鹿目まどかを契約させれば、この魔女を打倒できるどころか、この先現れる魔女にだって危険な目に遭うことはなくなる。そう、鹿目まどかの近くにいればね。」

「ッ……………!!」

 

キュゥべえの言う通り、まどかを魔法少女として契約させれば、この状況から脱するどころか、この先に現れる魔女にだって危害を加えられる可能性は低くなるかもしれない。だが、それは同時にまどかを、友達をいつ死ぬかわからない戦場に放り込んでおいて、自分だけのうのうと比較的安全地帯にいるということに他ならない。

 

「そんな拳銃では魔女に有効打にはならないよ。使い魔程度だったらまだいいかもしれないけど。」

「……………ソウルジェムの真実を知っている私が契約させると思うか?」

 

さやかが手にしている拳銃に対して、魔女への対抗策にならないことを指摘するキュゥべえに対して、さやかは苦い表情をしながらもそう尋ねた。

それを見たキュウべぇはまるで肩を竦めているかのような反応を見せる。どうやら呆れのようなものが含まれているようだ。

 

「まどかを契約をさせるつもりはない。例え彼女の才能がいかに高いものだったとしても、その意志は変わらない。」

「訳がわからないね。強い力があるのなら、それにすがった方が君の安心にも繋がるんじゃないのかい?」

「…………これは私の推測だ。信じる信じないはお前の勝手に任せる。」

 

そういうとさやかは徐に気絶して横になっているまどかの側に着くと、膝をつき、彼女の桃色の髪をそっと撫でた。

 

「何故ほむらがそこまでまどかに契約をさせたくなかったか。その理由は単にロクでもない結果を招いてしまったからなのではないのか、私はそう思っている。」

 

用は済んだのか、さやかは再び立ち上がる。その表情には先ほどまであった苦々しいものはなく、晴れやかな、それでいてどこか覚悟を感じさせる顔つきであった。

立ち上がったさやかはキュウべぇの横を通り過ぎ、魔女がいる方角へと歩き出す。

 

「あとは、まどか自身から頼まれたのではないかと思っている。例えば、お前と契約する前の自分を救ってくれ、だとかな。」

 

その瞬間、さやかは拳銃を構えると即座に引き金を弾いた。乾いた音が何発が結界の空間に響くと、放たれた銃弾は不定形な形になりかけているほむらの周囲を飛んでいた使い魔に命中し、その体を四散させる。

 

「覚悟は決めた。後で謝罪する勇気も。例え泣かれても、私は二人を救う道を取る。」

 

さやかはそういうとあごをあげ、空を見上げたその顔を背を向けているキュウべぇにそのまま倒すように向け、さながら挑発的にしているような様子を見せる。

 

「インキュベーター、私を魔法少女にしてくれ。」

「……………ソウルジェムのことを知っているのに、契約しようとする人間は、君が初めてだよ。」

「そうか。」

 

キュウべぇの言葉にさやかは興味が無さそうに答える。

 

「それじゃあ美樹さやか、その魂を代価にして、君は何を願う?」

 

キュウべぇからかけられる契約の言葉、それをさやかは少しばかり考える素振りを見せるとーーーーー

 

 

「ない」

 

 

そうきっぱりと言い切った。




視点の都合上、まどかがぐにょった経緯までは書けなかったけど、マミさんがちゃんと生存してしまっているので、その想起された記憶も違います。

原作:マミさん死亡のシーン

本作:マミさんが危機に陥った時、動けたさやかと動かなかったまどか自身の姿


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第20話 ここは、私の距離だ!!

ついに、さっさんが魔法少女に…………なっちゃった。


「……………ない?君は叶えたい願いを持っていないというのかい?」

 

さやかの叶えたい願いはないという発言。そのことにキュゥべえは表情こそ動かなかったが、珍しく困惑しているような声色でさやかに確認する。

 

「ないな。辛うじてあったものも、それが余計なお世話であることを察した。だが、今は戦うための力が必要だ。それはお前から渡される魔法少女としての力でどうにかなる。」

「……………君は、奇跡にも等しい機会を棒に振るって言うんだね?」

「…………仮にこの場で何か叶えたところで、それは私の本心からのものじゃない。だったら私はなにも、無理に何かを叶えてもらう必要性はない。」

 

キュゥべえからの言葉にさやかは前とは打って変わり悩むような素振りを見せず、淡々と答える。

 

「だから、私には叶えたい願いはない。それに奇跡をやるにあたっての労力が掛からずに魔法少女を増やせるのだから、お前にとっても別に悪い条件ではないと思うが?」

 

さやかはキュゥべえに条件と言って、急かすような口ぶりを見せる。

 

「…………わかった。君がそこまで言うのだったら、ボクからはこれ以上、何も言わないよ。」

「早くしてくれ。お前だってここでまどかを失う腹積りではあるまい。」

「それもそうだね。まどかの魔法少女としての才能はあらゆる因果が一つに集合していて、ボク達インキュベーターの目線から見てもその計数を計り切れないほどだ。」

「もっとも私とてまどかを契約させるつもりはないが。」

 

キュウべぇの言葉に被せるように自分のまどかを契約させるつもりはない意志を伝える。

 

「……………じゃあ、行くよ。」

 

そういうとキュウべぇが何か念じるような行動を見せる。次の瞬間ーーー

 

「ッ…………!?」

 

さやかの胸に激痛が走る。突然の痛みに思わずさやかは苦悶の表情を浮かべ、激痛の走る胸を抑えた。

 

「うぅ……………ッア……………!!!」

 

想像以上の胸の痛みに声にならない声を溢すさやか。すると彼女の胸から水色の光に輝く球体が引き出される。

 

「アアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

痛みをかき消すかのように叫び声を上げながら、目を見開く。目をかっ開き、自身の胸元で輝く光球を見定めると、その直後、その光球を毟り取るように素手で鷲掴みにする。

 

「応えてくれ…………ソウルジェム!!ここには、ほむらと、まどかと…………」

 

さやかは声を張り上げる。気弱で、それでいて誰にでも優しく、手を差し伸べてやれる友達(まどか)とそのかけがえのないともを救うため、途方もない時間をかけ、同じ刻を繰り返してきた少女(ほむら)、二人の未来を切り開くため。

 

「私がいるッ!!!」

 

そして、さやかの身体は光球と同じ水色の光に包まれ、自身も同じ光の塊へと変貌する。

光球は丸い造形から徐々に引き絞られ、人の造形を取り戻していく。おおよその人としての形を取り戻すと背中からヒラヒラとはためくマントが生み出される。

 

そのヒトガタ、が駆け出すような姿勢を取ると足元に魔法陣が展開される。

その瞬間、その魔法陣を一種のブーストとして活用しているのか、そのヒトガタは爆発的な加速を生み出しながら一瞬で移動する。その最中、ヒトガタを包んでいた水色の光は徐々に剥がれていき、そこから魔法少女としてのさやかが現れる。

 

彼女の姿はいつもの見滝原中学の制服ではなく、白く、純白のマントをはためかせ、青を基調とした肩出しのドレススカートのような衣装となっていた。

肘あたりまでの長さの手袋で包まれ、手首には白い腕輪のようなものがつけられた右手には西洋風のサーベルが握られ、まさに守ることを領分としている騎士のような風貌であった。

 

 

「使い魔を一気に殲滅するッ!!!」

 

手にしたサーベルを握り直すと勢いそのまま、ほむらの周囲に現れていた新たな使い魔の集団をまとめて一閃、真っ二つに切断する。

 

『!?!!!?!??』

 

突然の新手に動揺しているのか、画面の中の黒い人形を忙しなく動かす魔女。その間にさやかは再び魔法陣を展開させ、今度は魔女との距離を詰める。

 

「ハァァァァァァ!!!!」

 

突進とも取れる速度で魔女との距離を詰めたさやかは右手のサーベルと左手にもう一振りのサーベルを新たに展開する。

 

「ここは、私の距離だッ!!!」

 

そして右のサーベルで袈裟斬り、流れた体を戻しつつ、逆袈裟斬りでもう一度魔女に攻撃を加える。さらにさやかは左手のサーベルを魔女に突き刺すとサーベルの柄についていたトリガーを引く。

するとサーベルの刀身と柄が分離し、突き刺さった刀身(一本目)だけが魔女に残される。

それを確認したさやかは足捌きと体を半回転という僅かな体重移動のみで魔女の背後をとり、残った左手のサーベルから再び刀身を復活させる。

 

『!!!!!!!』

 

サーベルの刀身が突き刺さっている痛みからか、魔女は不気味な叫び声をあげながらパソコンのような身の両側面に伸びている二本の黒い触手を反撃と言わんばかりに背後にいるさやかに伸ばす。

 

「私に……………触れるなッ!!!」

 

その伸ばされた黒い触手を両手に握ったサーベルで切断しながら再度距離を詰める。

そして、目の前に迫った魔女の巨体に、さやかは右手のサーベルを突き刺し、同じようにトリガーを起動させ、刀身(二本目)を取り外した。その直後、右手のサーベルの刀身を生成させながら今度は左手のサーベルを魔女に突き刺す。

 

「皆をやらせるわけにはいかない!!!」

 

同じように刀身(三本目)を左手のサーベルの柄から外したさやかは間髪入れずに右手のサーベルを魔女に突き刺し、トリガーを起動、刀身(四本目)を取り外す。そのまま流れるように魔女の正面に躍り出ると、両方のサーベルの刀身を再度生成させる。

四本の刀身が体に残され、身を悶えさせている魔女に向けて、その両方のサーベルを思い切り突き刺した。

 

「すまない…………アンタも元は人間だった………!!だが、だからと言って目の前の友人を見捨てられるほど、私はできた人間ではない!!」

 

深く突き刺した両方のサーベル(五本目、六本目)の柄から手を離すと、もう一度サーベルを展開する。その時のさやかはまるで迷いを振り切ろうとしているようであった。

さやかは展開したサーベルの切っ先を、既に身動ぎすらあまり見えない魔女に向ける。

 

「私にできるのは、アンタを魔女から解放する。それだけだ。」

 

魔女に向けたサーベルの切っ先を大きく振り上げると、そのサーベル(七本目)を振り下ろす。

振り下ろされたサーベル(七本目)は魔女の体に深々と食い込み、その中にいたのであろう本体の球体関節の人形ごと斬り裂いた。

斬り裂いた後、残心のように一瞬間が空くとさやかは倒れた魔女から離れるように後退する。

さやかが離れた直後、魔女に突き刺さった六本の刀身が一瞬、光り輝くと構成された魔力が膨張を起こし、決して小さくない爆発を生み、魔女を包み込む。

その爆発が止んだころには魔女の体はかけらもなく、主が斃されたことにより維持ができなくなったのか、結界も蜃気楼のようにユラユラと揺らめき、崩壊していった。

 

「初陣にしては、万々歳、と言ったところか。」

 

日が沈み、真っ暗となった工場の中で高い窓から見える夜空を見上げながらそうさやかは口を溢すのだった。

 

「さてと、ひとまずこの惨状をどうにかしなければ…………。」

 

やり切った風の表情から一転、悩ましげな表情を浮かべるさやか。その理由は眼下に広がる、まどかとほむらが横たわっている姿。そして、魔女の口づけにやられたのか仁美をはじめとした一般の人々が気絶している光景であった。

 

「どうしたものか…………私一人で全員運ぶには物理的に無理がある…………。」

 

廃工場で倒れている大勢の人に関して、さやかはうまく怪しまれずに穏便に事を済ます手はないだろうかと模索を始める。その途中、いつのまにかインキュベーターが姿を消していることに気付いたさやかはわずかにこめかみに怒りのマークを浮かび上がらせるが、なんとか気持ちを押し留め、今は考えないようにした。

 

「美樹さん…………って、鹿目さんに暁美さん!?」

 

そんな最中、廃工場に現れる新しい人影。魔法少女姿のマミだ。倒れているまどかとほむらに驚いている表情を浮かべるが、頼れる人物の登場にさやかは若干安堵した表情を浮かべる。

 

「マミ先輩…………助かった。すまないがこの状況から穏便に脱するために手を貸してほしい。」

「わ、わかったわ…………でも美樹さん、貴方のその姿…………。」

 

さやかの頼みを承諾したマミは自然と魔法少女の姿をしているさやかに目線が集中する。その視線を察したのか、さやかは若干気まずそうに顔を逸らした。

 

「まぁ…………その、なんだ。一種の心変わりのようなものだ。」

「そう……………でも嬉しいわ。貴方が魔法少女になってくれたのなら、心強いわ。」

 

そう嬉しそうな笑みを浮かべるマミにさやかは彼女から見えないように渋い表情を浮かべる。魔法少女の真実、ましてやソウルジェムの真実を知らないマミだからこそ言えてしまうその言葉にさやかは微妙な表情を挙げざるを得なかった。

 

「美樹さん?どうかしたの?」

「……………いや、少し考え事をしていた。しかし、心強いとはいえ、貴方の方が歴は長いだろう?半人前がいいところの私が心強いとは到底思えないのだが。」

「魔女を倒せたのならもう一人前よ。でも、暁美さんが倒せなかった魔女を一人で倒せたのは本当に凄いと思うわ。」

 

マミが倒れているほむらに目線を向けながらそういうとさやかはほむらに駆け寄り、彼女の腕を自身の腕に回し、肩で担ぐ。

 

「彼女には相性とタイミングがたまたま悪い方向に噛み合っただけだ。いつも通りの彼女なら危なげなく倒せただろう。」

「そう、なの?ともかく鹿目さんと暁美さんは別の部屋に寝かせてあげましょう。他の人たちは私が魔法で誤魔化しておくわ。」

「わかった。警察には連絡した方がいいのか?この人数なら公共機関に任せた方がいいと思うのだが………。」

「うーん…………美樹さんの言う通りかしら。いくら魔法があるとはいえこの人数は骨が折れるものね…………。」

 

マミとさやかはひとまずほむらとまどかを別室で寝かせるとマミを主導として倒れている大人たちにここ一時間近くの記憶を忘れさせる魔法をかけ、後は警察の人間に任せることにした。

 

 

 

「ん………あ、あれ?ここは…………わ、わたしは…………?」

 

人知れず戦場となった廃工場からそれほど離れていない公園。わずかに遠くから警察のパトカーのサイレンが聞こえる中、先に目を覚ましたのはまどかだった。

 

「大事ないか?」

 

目を覚ましたまどかが最初に視界に収めたのは自身を心配そうに見つめているさやかの顔であった。そこでまどかは先ほどまで、自身の身に何が起こっていたのかを思い出した。

 

「そ、そうだ!!ね、ねぇさやかちゃん、仁美ちゃんは………!!」

「まずは落ち着け。まどかが落ち着いてくれなければ、こちらもちゃんと説明することができない。」

「そうよ、鹿目さん。何事も焦っていたら進まないもの。」

「あ………マミさん………ごめんなさい。」

 

狼狽した様子で仁美の安否を問い詰めるまどかに、さやかはマミと共に彼女を諭す。ひとまず彼女の様子から大事はないと判断したさやかは息を一息入れ、胸を撫で下ろした。

 

「結論から言えば、仁美は無事だ。身柄自体は警察の人間に任せたが、彼女にはここ一時間の記憶はないから困惑一色になっていると思うが。」

「そ、そうなんだ………よかったぁ………。」

 

さやかから仁美の無事を告げられたまどかは肩の荷が降りたように深い安堵の息をついた。

 

「じゃあ、マミさんが魔女を倒してくれたんですね…………。ありがとうございます。」

 

そう言ってまどかは魔女を倒してくれたのであろう、マミに対してお礼の言葉を述べる。しかし、その肝心のマミが微妙な表情を浮かべていることにまどかは引っかかりを覚えた。

 

「実は、私はかなり遅れて美樹さんと合流したのよ。それこそ、魔女が倒された後に、ね。」

「え、それじゃあ誰が…………。」

「そこでもう一人横たわっているだろう?」

 

さやかからの言葉に従うままにまどかは振り向いた。そこにはまどかと同じように寝かされているほむらの姿があった。

 

「え…………ほむら、ちゃん…………!?」

「…………ただ気絶しているだけだ。問題はない。」

 

ほむらの存在に驚きのあまり目を白黒させているまどかにさやかが彼女にも大事がないことを伝える。

 

「…………おそらく魔女との相性が致命的に悪かったのだろう。魔女からの干渉を受けて、途中で倒されてしまった。」

「……………まさか…………!!」

 

ほむらが途中で倒れたことを聞かされると、まどかは目を見開きながらさやかを見つめる。さながらそうであって欲しくないと願うように。

 

「………………まぁ、そういうことだ。」

 

まどかから強烈な目線を受けたさやかは観念した様子で懐から青い宝石が埋め込まれたアクセサリーのようなものを取り出した。

それはまさしく、キュゥべえと契約したことを示すソウルジェムであった。

 

「さやかちゃん…………契約、したんだ…………。」

「状況的に、そうしなければみんな死んでいた。マミ先輩はその時に別の魔女の結界に向かっていたらしいからな。」

 

さやかが契約したことにすごく悲しそうな表情を浮かべるまどかにさやかは淡々とした様子でそう現実を突き付けた。

 

「…………やっぱり、叶えた願いは上条君の指を?」

「まぁ……………それはほむらが起きてからでもいいだろう。彼女から詰め寄られるのも読めていることだからな。」

「そう、なの?」

「ああ。こればかりは彼女もいても立ってもいられないだろう。」

 

そう言ってどこか遠い目をしだしたさやかにまどかは不思議そうに首をかしげる。

 

「…………先に言うとすれば………まどか、君に魔法少女としての類稀な才能があったとしても、それを理由にあまり気に病む必要はない。」

「え…………?」

「気にするな。と言うことだ、いくらまどかが魔法少女としての高い才能を持っていたとしても、それを絶対に使わなければならないということはないからな。」

「で、でも私は…………」

 

まどかの言いかけた口をさやかは首を横に振ることでそれ以上言わせないようにする。

 

「無力感に苛まれるのもわからないわけではない。だが、それでは武力を以てまでお前の契約を阻止しているほむらが浮かばれない。少しは彼女の挫折を察してやってほしい。」

「挫折…………?」

「どういうこと…………?」

「…………これ以上は彼女自身の口から聞いてほしい。私から言えることではない。」

 

さやかの言葉にまどかはおろかマミも不思議そうな表情を浮かべるが、さやかがほむらの素性については一切口を開かなかった。

 




今回もかっこいいさっさん、書けたかな……………。


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第21話  御膳立ては済ませた。後はお前の役目だ

お気に入り1000人超えました!!!
三作連続でこれほど登録していただけるとは思いもしませんでした!!
まだまだガンダム要素が出てこない弊作でありますが、首を長くして待っていただけると幸いです!!

これからもよろしくお願いします!!!


『ねぇ、ほむらちゃん。キュゥべえに騙される前のバカな私を、救ってあげてくれないかな…………?』

 

そう彼女に願われたのはいつの時間軸だっただろうか?

 

2回目?3回目?それとも十は超えたころだっただろうか?

 

幾度となく同じ一ヶ月を繰り返してきたから正確な頃はもはや定かではない。

 

それでも覚えている大事な友達からのこの言葉。

 

そのために私はどんなことでもやった。手製の爆弾を作ったり、ヤクザをはじめとした人間、団体から銃火器を拝借するなど考え得ることは悉くやった。

 

全てはあと少しで見滝原にやってくる『ワルプルギスの夜』のために。

 

だけど、今まで渡ってきた時間軸の中でその『夜』を越えられたことは一度もなかった。

 

いや、そういうと語弊がある。倒せた時が決してないわけじゃなかった。

 

それは魔法少女として、類稀な才能を有していたまどかの力があればこそ。しかし、その結果はいずれも彼女の死をもって終わりを迎える。

 

ワルプルギスの夜を倒した後、まどかは崩壊した見滝原の惨状を見て、心を病んでしまう。

 

つまり絶望してしまう。その結果、彼女のソウルジェムは黒く濁っていき、魔女に成り果てる。

 

まどかが変貌した魔女はただただ巨大な山のように大きかった。見方を変えれば黒いドレスを纏った巨大な女、とも取れるが、この際どうでもいいことだ。

 

ただ、そこで鹿目まどかが人間としての生を終えることが私にとって、到底受け入れることのできないことだった。

 

だから何度も時間を巻き戻した。何度も、何度も何度も。

 

でも、招いたのは結局、守りたい人を余計に危険な目に遭わせてしまう羽目になってしまった。

 

私のやってきたことは、結局悪あがきだったの?私がどんなに頑張ったところで、まどかを………あの子の未来を変えることはーーーーー

 

『未来は、切り開くものだ。他でもない、お前自身の意志でーーーー』

 

 

 

 

「ッ……………?」

「目が覚めたか。だいぶ魘されていたようだったが、大丈夫か?」

 

朧げな意識の中、聞き慣れない口調でありながら聞き慣れた人間の声でようやく意識を覚醒させる。呻き声をわずかにこぼしながら寝かされていたのであろう体を持ち上げると、まどかといつのまにか来ていたのであろうマミの姿。

そして、声をかけてきた人間であろうさやかが度合いは違うものの全員が心配そうな目線を向けていた。

 

「ここは……………?」

「結界のあった廃工場から然程離れていない公園だ。」

 

視界に広がるのは日が沈みきった夜空、その夜空からの星の光にわずかに照らされている木々から、明らかに魔女の結界とは違う場所に、今の居場所についてほむらが尋ねると間髪入れずにさやかが答える。

 

「魔女は…………どうなったの?貴方が倒したの?」

 

寝かされていた公園のベンチからまだ意識がはっきりとしていないのか、頭を抑えながら上半身を起こしたほむらはマミに目線を向ける。

そのほむらの質問にマミは首を横に振り、自身が魔女を打ち倒した人物ではないことを示す。

 

「え………じゃあ一体誰が………魔女が見逃した訳ではないでしょうし………。」

 

そのマミの答えに面をくらったような表情を浮かべながら言葉を溢す。

 

「そのことに関して、私はお前に謝らなければならないことがある。」

 

さやかの声に再びほむらの目線はさやかに注がれる。公園のベンチに座っているさやかの様子はどこか神妙な面持ちを出していた。

 

「謝らなければならないこと…………?」

「……………ああ。」

 

不思議そうな表情をしながら首を傾げるほむらにさやかは沈黙の間に一つ、息を吐くような仕草を浮かべると、強く頷く。

 

「……………魔女を倒したのは私だ。他でもない、魔法少女の力を使って。」

「ーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

 

そして、直接口にはしなかったものの、自身がインキュベーターと契約し、魔法少女となったことをほむらに白状した。そのことにほむらは目を見開き、声が出せない様子で、言葉を詰まらせる。さやか自身もわずかに気まずい表情を浮かべてしまうが、契約し魔法少女になったことは、自身が契約することに警戒感を抱いていたほむらには是が非でも話さなければならないことと思いながら、話を続ける。

 

「すまない。お前から、契約しないでほしいと面と向かって忠告されていたにも拘らず………………。」

「ッ…………なんて愚かなことを…………!!!」

 

そう怒りに塗れた表情を浮かべながら、ほむらはベンチから飛び上がり、さやかに近づくと、彼女の襟元を掴みとった。突然の事だったが、さやかは苦悶の表情を浮かべ、何も語れないーーーいや、語らなかった。

ただ成すがままの状態のさやかにほむらは苛立ちを覚え、彼女にさらに詰め寄ろうとする。

 

「暁美さん!!それ以上はやめなさい!!」

「ほ、ほむらちゃん!!やめて!!」

 

しかしマミがほむらの腕を掴み上げるという行為、まどかが静止の声を上げる言葉、それぞれの行動で抑えに入られたことにほむらは一度、さやかを掴んでいた手を離した。

 

「……………ごめんなさい。熱くなったわ。」

「いや………事情を知っていれば自ずとお前が怒るのは目に見えていた。気にしなくていい。」

 

怒りに塗れて、手を上げたことにほむらはわずかに気まずそうに目線を逸らしながら謝るが、さやかはシワができた制服の首元を伸ばしながらも変わらない態度と雰囲気でほむらと向き直る。

彼女自身の表情にも困惑や怒りといったものもなく、本当に彼女がほむらの今の行いに対して悪感情を抱いていないことを察せられる。

 

「美樹さん………事情って、一体なんのこと?」

 

それ故にさやかの平然とした態度に違和感を覚えたマミはさやかが溢した言葉の中にあった事情について尋ねた。

それを聞かれたさやかは一瞬だけマミに視線を向けると即座にほむらにその方角を戻した。

その様子は彼女に何か許可を取ろうとでもしているようだった。

 

「……………………構わないわ。どのみち話すことになるでしょうし、その機会が早いか遅いかだけのことよ。でも、私が話すより、二人から信頼のある貴方が主導で話した方がいいと思う。」

「そうか…………わかった。だが要所要所は頼む。」

 

ほむらから許諾の言葉を受けたさやかはそう付け加えると、まどかに目線を向ける。向けられたまどかは何か身構えるように体を強張らせた。

 

「……………以前、彼女に関して私が疑問を挙げていたのを覚えているか?まだ私たち二人がキュゥべえと出会っていないはずであるにも拘らず、ほむらがまどかの魔法少女としての才能の高さを知っていると見られることを仄かしていたことについてだ。」

「ええっと………うん、覚えてる。」

 

さやかの言葉にまどかが頷く仕草を見せると、話が早くなると思ったのか唸るように首を縦に振りながら話を進める。

 

「その答えが彼女が使用している魔法にあった。ほむらの使っている魔法は時間操作。その魔法を使って彼女は同じ時間を繰り返し続けていた。」

「その期間は一ヶ月。全ては全部…………まどか、貴方を救うためよ。」

「わ…………わたしを………?」

 

さやかとほむらの言葉に困惑気味な声が上がるまどかだが、今は内容が内容なため、構っていられる暇はなかった。

 

「まどかが困惑するのも致し方ないが、事実だ。というか、そうでなければ本来キュゥべえにしか測ることのできない魔法少女の才能の指数を彼女が知っていることに理由がつけられない。」

「そう、なの?あまり私には素直には飲み込めないことはなんだけど………。」

「…………少し前にキュゥべえを問い詰める機会があったのだが、そこで奴はまどかの魔法少女としての才能がここ数週間前に現れた突発的なものであることを明かした。そんな突然性が極めて高いものを彼女が事前に知れる手段はかなり限られる。」

「だから、時間操作…………前の時間軸で知ったことがそのまま繰り返される訳だから、暁美さんは知っていたのね。」

 

マミの懐疑的な表情にさやかはまどかと仁美が巻き込まれた魔女の結界に突入する前にキュゥべえから明かされたことを話し、マミからひとまずの納得を得る。

もっともまどかの高過ぎるほどの適性の高さはほむらがこれまで渡ってきたまどかの因果が束ねられた結果だと言うのだが、それを理解できるほど高度な頭脳をまだ子供であるさやか達が持っている訳ではないため、割愛することを選んだ。

 

「……………ねぇ、一ついいかしら?」

「ん、どうかしたのか?」

「……………貴方、契約するとき、どういう願いを叶えたの?」

 

ほむらから自身の契約の際に叶えたであろう願いについて、さやかに質問が飛んでくる。キュゥべえと契約し、魔法少女となったのであれば自然と願いのことに話は行き着く。

しかし、ここにいる美樹さやかという魔法少女はそのときに願いを叶えなかった。正確に言えば叶えたい願いがなかったから開き直って無理に願いを絞り出すようなことはしなかった。

ただ、それが常識外れであることは目に見えていたため、さやかは隣にいたほむらから顔を逸らして、口元を手で覆い隠した。

 

「言いなさい。」

「いや……………その、だな……………。」

 

歯切れの悪い返事をするさやかにほむらは苛立ちを覚え、細めた視線で彼女を睨みつける。そういったのに機敏なさやかは即座にほむらの抱えている苛立ちを感じ取り、考えるように目線を上に向ける。

 

「……………確実にややこしいことになるから話したくなかったのだが。」

「言いなさい。どうせ上条恭介の指を治してほしいとでも頼んだのでしょう?」

「そうではないのだが……………。」

「じゃあ一体何を願ったのよ?」

 

ほむらからの問い詰めにさやかは心底から不安そうな表情を浮かべる。何回か周囲の様子を見定めるように見回すと、隠していた口元から手をどかす。

 

「………………何も。」

「…………?」

「何も…………願わなかった。」

 

ほむらからの詰問にさやかは自身が契約するときに何も願わなかったことをほむら達に明かした。

そのさやかの真実に頭の理解が追いつかなかったのか、さやかを除いたほむら達三人の間で風が通り過ぎる。

 

「言っておくが、自分の取った行動に後悔はない、とだけは念を押させてほしい。」

 

『そういう問題じゃないでしょ!?!?』

 

付け加えたようなさやかの言葉にほむら達三人の声が公園で響き渡る。びっくりしたさやかは苦い表情を浮かべながら、後退りしてしまう。

 

「だからあまり言いたくなかったんだ………こうなるのは目に見えていたからな………。言わないわけにはいかなかったが。」

「だとしても度し難いにもほどがあるわよ!!貴方は愚か者以前に大馬鹿者よ!!!」

「ご、ごめんなさいね。美樹さん?いきなり大声なんて出して………でも、貴方が今言ったことってつまり、奇跡にも等しい機会を完全に棒に振ったってことなのよね?」

「さ、さやかちゃん、願いも叶えないで魔法少女になっちゃったの!?」

 

ほむら、マミ、まどか、各々の反応にさやかは渋い表情を見せると、逃げるように三人の目線から顔を逸らした。その中でもほむらは強烈な目線をさやかに向けていた。無理もない話だ。さやかはソウルジェムが自身の魂であることを知っているにも拘らず契約した上に、あろうことか願いすらも叶えずに魔法少女になったのだ。

 

「…………あそこで契約していなかったらお前どころか、まどかまで死んでいた。マミ先輩は他の魔女の結界に向かっていたらしく、援護も望めなかった。それしか、手段が残されていなかった。」

「ッ……………!!」

 

その言葉にほむらは目を見開き、俯いた。魔女の攻撃に囚われるという失態を犯した結果、さやかが契約せざるを得ない状況と原因を作ってしまったことにほむらはやるせない表情を浮かべてしまう。

 

「だが、今の私には叶えたい願いなどなかった。恭介の指を治す、というのも吝かではなかったが、それは何より今のアイツが抱いた決意を貶すことに他ならなかったからな。」

「…………美樹さんが求めたのは戦う力、つまりそれは魔法少女としての力。そういうことなのね?」

 

マミの言葉にさやかは頷く。

 

「…………そういうことになる。その願いである求めた力はキュゥべえから渡される以上、願うのは意味がないと思ったが。」

「でも、魔法少女になった貴方は……………!!」

「まぁ…………それはなんとかなるだろう。」

 

不安そうな顔をするほむらに向けて、そう言葉を投げかけるさやかだったが、ほむらの表情はあまり晴れやかなものではなかった。

その理由もほむらのこれまでを聞いたさやかに当たりをつけるのは容易かった。彼女の経験則、キュゥべえと契約した『美樹さやか』という人間は悉くソウルジェムが濁りきり、魔女と化すことでその命を落としている。

 

 

「………ねぇ、ほむらちゃん。さやかちゃんもそうなんだけど、どうしてわたしが契約するのに対して、そんなに嫌そうな表情を浮かべるの?」

「それは………そうよね。美樹さんが契約したのはさておき、鹿目さんが高い才能を持っていたとすれば、それにあやからない筈がないもの。」

 

続けての質問にほむらはどこか思いつめるような表情を浮かべる。彼女とてわかってはいるのだろう。まどかの高い才能に頼ればこの先の戦闘も楽になることを。

 

「それもそうだな。しかし、こればかりはかなり込み入った話になってくるから、話す話さないの判断はほむらに仰ぐことになるが…………。」

 

 

まどかから自身が契約することとさやかが契約することを嫌がる理由が別々に存在することに首を傾げる。さやかはまどかのことに関しては自然とソウルジェムのことも話さなければならなくなってくるが、さやかのことに関してはギリギリソウルジェムのことを語らなくても片付けることができなくもない。そのようにさやかがソウルジェムの真実を話すが否かの判断をほむらに委ねるーーー悪く言えば押し付けたのはさやかがチラリと視線を向けた相手が理由だ。

 

「…………?」

 

他でもないマミだ。ほむらからの話ではソウルジェムの真実を聞かされた彼女は自身の在り方を保てず発狂した前科があるとのことだった。それを聞かされてしまった以上、いくら意識から外そうとしても頭にちらつくのが正直なところだ。

 

さやかから視線を向けられたことに気づいたのか、顔をさやかに向けるマミ。咄嗟に目線をまどかへ逸らすが、マミにその様子を見られてしまったのか不思議そうな表情を浮かべる。

 

《…………どうする?言った通り、話すかどうかの判断は任せるが…………》

《…………いいえ、ここで話すわ。遅かれ早かれ、真実は話さないといけなくなるから。》

《……………わかった。》

《気をつけなさい。巴マミが発狂して、貴方に銃口を向けないとは限らないから。》

 

ほむらに念話でソウルジェムの真実を語るか否かの判断を仰ぐと、話すことを決意した旨の返答が返ってくる。

そのことにさやかは一度深く息をつき、整理する時間を設ける。

 

「ソウルジェムはーーー」

「ッ!?ま、待てッ!!」

 

しかし、単刀直入に本題に入ろうとしていたほむらに思わずさやかは目を見開きながら彼女を止める。

 

「…………何かしら?」

「いきなり話し始める奴がいるものか!!」

 

説明を打ち止めにされたことに異議でも唱えるかのようにほむらはさやかに細めた目線を向ける。だが、それに構っていられる暇はないため、視界に入れながらもさやかはマミに目線を集中させる。

 

「マミ先輩。これからほむらが語ることはキュゥべえが明かさなかった魔法少女の真実だ。だが、真実は時に鋭利な刃となって深く傷つけてしまうこともある。それこそ、自身の在り方の根底を揺るがしてしまうほどに、だ。」

 

さやかの神妙な面持ちの語りに始めは呆気に取られていたマミだったが、さやかの言葉の節々に感じられる重さを察したのか、徐々に引き締まったものになっていく。

 

「特に貴方にはそれが顕著に出てくるだろう。以前、ほむらが別の時間軸でこのことを貴方に伝えた時は、発狂してしまったと言うほどだ。」

「は、発狂……………!?」

 

発狂という二文字にまどかは驚愕という様子を見せながら、マミとさやか、両者の顔を交互に見つめていた。

 

「…………私なりの警告はした。聞くも聞かないも貴方次第だ。もちろん、無理に聞かせるつもりは毛頭ない。」

「………………………………………………いいわ。聞かせてちょうだい。そこまで言われてしまったら、ここで逆に聞かない方が二人に申し訳ないわ。」

 

長い沈黙の後に静かに、それでいて強い口調でその真実に向き合うことを示すマミ。

 

「…………わかった。まどかは、どうする?」

「……………マミさんが向き合うって言ったのに、わたしだけ逃げる訳にはいかないから。」

「…………まどからしい理由だな。」

 

確認ついでにまどかに目線を向けるとこれまたマミと同じような表情を見せている彼女が強く頷いた。

 

「……………御膳立ては済ませた。後はお前の役目だ。」

「ええ、わかったわ。」

 

自身の役目は終わったと言わんばかりの様子でさやかはほむらにバトンを渡す。

そして、ほむらはついに語り始める。キュゥべえが明かさなかった真実、魔法少女と魔女、ソウルジェムとグリーフシード、その相関性をーーーーー

 




明かされる真実、害敵と思っていた敵は未来の己の可能性。

その真実に振り回され、混迷を極める見滝原の魔法少女。

しかし、刻は無常にも進み、新たな出会いがさやか達を待ち受ける。

真紅の槍を手にした少女は、その色のごとき苛烈さを持ってさやかに何を伝える?

次回、魔法少女まどか☆マギカ 第22話 「00 GUNDAM」

革新者の目覚めはすぐそこに迫っている。

※なお、実際に投稿されるものとはタイトルが異なる場合があります。


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第22話  私なんかより、よっぽど正義の味方だわ

うーん、やっぱり話をぶっつけ本番に書くやつに次回予告なんて無理でしたわ!!(タイトル詐欺)


「まず、ソウルジェムとは一体どういうものなのか、説明していきましょう。」

 

ほむらのその語り始めを言うとともに、キュゥべえから聞かされなかったソウルジェムの真実などを明かし始める。

 

魔法少女となるためにキュゥべえと契約をした際に産み出されるソウルジェムは己の魂が原材料とされていること。

 

そのソウルジェムが砕かれたりすれば、たとえどのように健康であったとしても体はただの抜け殻となり死亡すること。

 

魔法を使用するたびにソウルジェムの中に発生する穢れは魔女の生み出す呪いと同意義であり、その穢れに染まった時、ソウルジェムはグリーフシードに変貌する。

 

 

 

「つまるところ、魔女と魔法少女は表裏一体の存在。しかもタチが悪いことに、私が知っている限り、一方通行の不可逆性のものよ。一度、魔女になった魔法少女は死んだも同然、って思ってもらった方がいいでしょうね。」

 

ここまでソウルジェムの真実を語ったほむら。その時点でマミやまどかの表情は顔面蒼白と憔悴しきっている有り様だった。

現実に考えてみれば無理もない。まだ高校生にもなっていない少女達に自身が人ならざるモノに成り果てる可能性がある、など言われてしまえば、冷静を保っていられるのは余程の人間だろう。

 

「…………美樹さんは、この事実を知っていて、契約したの?」

 

不意にマミの目線がさやかに向けられる。今にも泣き出しそうな目で向けられたソレにさやかは一瞬、悩むような素振りを見せる。

 

「…………ああ。その時のキュゥべえからは驚かれているような感想をもらった。」

 

そうさやかが答えるとマミは悲痛な表情………どことなく気まずさを孕んだようなものを浮かべる。

 

「………貴方は、本当に強い人なのね………こんな………ひどいことを聞かされても、友達のために戦うことができるなんて…………。」

「…………それは過言だ。あくまでキュゥべえとの契約は最終手段のつもりだった。だが、あの時はそれしか手段が残されていなかった。」

「それでも、よ。貴方は聞いているでしょ?私が契約した状況…………。」

 

マミの憔悴しきった顔と言葉使いにさやかは言われたように脳裏にマミが契約した状況であろう事故の光景を浮かび上げる。

 

「…………貴方だって、生きるためには、()()しかなかったからではないのか?」

「例え…………家族を見捨てていたとしても?」

「ッ…………それは…………!!」

 

マミの冷えた言葉、そしてわずかにだが見えた彼女の淀んだ目にさやかは思わず表情を強張らせ、言葉を詰まらせる。

 

「貴方は、願いを叶える奇跡を求めたんじゃなくて、他人を守るために、魔法少女の力を求めた。」

「で、でもマミさん……さやかちゃんは………!!」

「鹿目さん、それは分かっているわ…………いえ、分かっているからなのかもしれない。」

 

さやかを擁護するようなことをまどかが言うより先に、その内容を察したマミは、ちゃんと理解している旨を伝える。その直後、儚そうな笑みを浮かべたが、彼女は踵を返すとさやか達に背を向けて歩き始める。

 

「マミ先輩、貴方はーーーー」

「ごめんなさい。どうであれ………少し、時間をちょうだい。私は、貴方みたいに図太くないの。」

 

遠くなるマミの背に向けて、さやかは呼び止める声をかけようとする。しかし、震えた声でそれを拒否する彼女の声に伸ばした腕はおくべき場所を見失ってしまう。

 

「…………貴方のほうが私なんかより、よっぽど正義の味方だわ。」

 

(………………これ以上は無理ね。いえ、巴マミが発狂しなかっただけ、儲け物ね。)

 

どんどん遠くなるマミの背中を見つめるさやかの顔はやるせない思いを表に出しているような表情を浮かべていた。

そんな中、ほむらから念話が送られてくる。

 

(だが…………このままではマミ先輩は抱えた絶望から魔女化してしまう可能性も…………)

(…………彼女には、私がつくわ。せっかく貴方が繋げた彼女の命だけど、仲がこじれた貴方に、今の巴マミは無理よ。)

(…………心底からお前には言われたくないのだが。)

(……………ともかく、今はまどかをお願い。これ以上外にいると、まどかや貴方の両親に怪しまれるわ。)

 

ほむらの言葉にそう返すと、少し間が空いたのちにまどかを頼む旨の念話が飛んでくる。

さやかは一瞬だけ、姿が遠くなったマミの背中をもう一度見つめるとほむらの言う通り、一度帰ることにした。

まどかは困惑し、取り乱している様子を隠せないでいたが、さやかがとりあえず帰るか、と彼女を誘うとおずおずとした様子だが、さやかの後をついてきた。

 

 

(……………気まずい。)

 

日が沈み、ビルなどの建造物がさやか達を照らす中、しばらく徒歩で帰路についていた。しかし、さやかとまどかの二人の間にこれという会話はなかった。さやかの心中ではまどかが聞いてきて、自身がそれに答えるというのがベストな形だと思っていたのだが、肝心のまどかが明かされた真実のことで精一杯なのか、心痛な面持ちで俯いたまま無言を貫いてしまった。

 

僅かにため息を吐き、この居た堪れない空気をどうにかしたいとさやかが頭を悩ませていると、ふと視界に映り込んだ建物に目が向いた。

 

(………あれは、いつも恭介の見舞い用の買い物をしているショッピングモール…………。)

 

「まどか、せっかくだし夕飯でも食べていくか?」

 

思い立ったら即行動。少しでも早くこの気まずい空間から脱出したかったさやかは後ろにいるまどかに目線を向けると、ハンドシグナルでショッピングモールを指差しながらそう催促してみる。

 

「ううん…………今はいい、かな…………。」

 

しかし、まどかは微妙な表情を浮かべながらもさやかの催促を拒否する。無理強いするつもりはサラサラないため、さやかはそうか、と一言入れながらも空気を変えることに失敗したことに2回目の僅かなため息をつく。

 

「ねぇ…………さやかちゃん。」

「ん……………どうした?」

 

またしばらく家への帰り道を歩いていた時、不意にまどかがさやかの名前を呼ぶ。

唐突なまどかの呼びかけだったが、別に思考で脳内を満杯にしていたわけでもなかったさやかは即座にその声に反応する。

 

「…………途中でマミさんが帰っちゃったから聞けず終いだったんだけど、結局ほむらちゃんは、どうしてわたしとさやかちゃんを契約させたくなかったの?」

 

そのことにさやかは思い出したかのような表情を見せるが、すぐにその表情は思案中のものへと切り替わる。

顎に指を乗せ、さながら探偵のように考えるさやかだったが、程なくして意を決した様子でまどかに向き直る。

 

「……………まず、まどかを危険な目に遭わせたくないのが第一なのは、アイツのまどか第一主義は筋金入りのもの故だ。それこそ、魔女に囚われているまどかを見つけた瞬間に私を投げ飛ばすほどな。それはこれまでの私からの説明でわかってくれているか?」

「うん…………。」

 

さやかの言葉にまどかは重苦しい表情ながらも首を縦に振り肯定の意志を示す。

 

「まぁ、本人がいない上に推察の域を超えることができないから、本当の理由ではないことを承知で語るとすれば、大方ろくな結果にならなかったから、というのが妥当なところだろうな。」

「ろくな結果にならなかった…………?」

「ほむらの中で一番の失敗に値するのはまどかの生死だ。おそらく、時間遡行を繰り返してきたほむらは何度か目の当たりにしてしまったのだろう。魔法少女となったまどかが死ぬところを。」

「それは…………もしかしてわたしが魔女になっちゃったってこと、なの?」

「定かではない。別の可能性も存在する。だが、十二分に理由としてはあり得るだろう。」

 

そう言い切ったさやかに、まどかは顔を俯かせ、いかにも落ち込んでいますと言うような様子を見せ始める。

 

「…………まぁ、私にも言えないことではないが。」

 

さやかがそう溢すように言った瞬間、下を向いていたまどかの顔が急に上がり、一転して心底驚いた様子でさやかの顔を見つめ始める。そのさやかを見つめる瞳はどことなく涙を浮かばせているようにも見えた。

 

「ま、待ってよ、それってほむらちゃんが繰り返してきた時間の中でさやかちゃんも魔法少女になったら死んだってことがあったんだよね!?」

「ま、まどか?」

 

急に様子が変わったまどかにさやかが狼狽した様子を見せると、詰め寄り始め、そのさやかの両肩を掴む。

 

「やだ…………やだよぉ…………!!マミさんやほむらちゃん、それにさやかちゃんまでいなくなったら………わたし…………!!!」

 

そう嗚咽を溢し、目から溢れんばかりの涙を流しながらさやかの肩にかけた手に力をかける。

さながら離れて欲しくないと懇願するようなまどかの様子にさやかは最初こそ困惑した様子を見せていたが、程なくして落ち着けの意味合いを込めて、彼女の腕を揺らす。

 

「……………まどか、一旦落ち着いてほしい。」

「で、でもぉ…………!!」

「『美樹さやか』が魔法少女になると死ぬ、というのはあくまでほむらがこれまで渡ってきた時間軸の『美樹さやか』が悉く亡くなってきたからだ。」

 

さやかの言葉にまどかは始めは疑問符を見せる。しかし、言葉の意味を考えてみると、まるで今、目の前にいる美樹さやかはほむらがこれまで見てきた『美樹さやか』とは異なるとでも言うようなものだった。

 

「…………今のさやかちゃんは違うの?」

「そうらしい。ほむら曰く、どうやらこの時間軸の私は今まで彼女が見てきた『美樹さやか』とはだいぶ異なる性格の持ち主、とのことだ。」

 

さやかにそう言われて、まどかはふと思い出した。ある日何気なく学校に登校した時、さやかの姿がノイズがかったようにブレ、目の前のさやかとは似ているようで似ていない風貌を持った人間が見えてしまったことを。

 

(………あれ、見間違いじゃなかったんだ…………。)

 

まどかはそのさやかと被って見えた人物こそ、ほむらが見てきた『美樹さやか』なのだとあたりをつける。では今目の前にいるさやかは一体何が原因で今のような人物になったのか、と必然的に疑問も湧いてくる訳だが…………。 

 

「つまり、魔法少女になったとはいえ、私自身の死が確定した訳でもないし、その逆もまた然り……………要するに先の未来はわからない、と言うことだ。」

 

と、そこでさやかが結論付けたところで、二人の耳が空腹を告げる音を聞き取った。まどかがその音源を辿ろうとするも聞こえてきたのは自身の目の前ーーー自然とさやかに目がいった。

 

「…………流石に夕飯もなしに行動を続けるのは無理があったか…………。」

 

と苦い表情を浮かべながら乾いた笑みを浮かべるさやか。その様子と、先ほどまでの雰囲気のぶち壊しにまどかは思わず吹き出した。

 

「じゃあ行こっか。ショッピングモール。」

「いいのか?一度断っていなかったか?」

「それはわたしの気分の問題だもん。それに、ほむらちゃんが見てきたさやかちゃんが違う性格の持ち主だったとしても、『今の』わたしにとっては今目の前にいる人がさやかちゃんだもん。」

「……………そう言ってもらえると、私個人としても心に余裕が生まれる。ありがとう。」

「そんなことないよ、こればかりはお互い様みたいなものだし、それに友達でしょ?」

 

まどかの言葉にさやかは一瞬目を見開いたかと思うと、柔らかな笑みと目で小さくそうだな、と呟き、まどかと足並みを揃えた足取りでショッピングモールへと向かう。

一応家族に帰るのが遅れる旨を伝えるために携帯にメッセージを打ち込みながらーーー

 

 

 

次の日、さやか達が学校へ登校すると、仁美の姿が目に入った。何か思い出そうとして思い出せないでいるのか、自身の座席で唸り声を上げていた。

 

「仁美、どうかしたか?」

 

大方、昨日の魔女絡みだろうとあたりはつけていた二人だが、このまま声をかけないというのも彼女で後から怪しまれる可能性もなきにしもあらずなため、少々苦い顔を浮かべながら仁美に話しかける。

 

「あぁ………美樹さんに鹿目さん………実は昨日なぜか廃工場の方で寝てしまいまして、警察のお世話になってしまったのですが…………そこに至るまでの経緯をまるで覚えていないのです。」

(まぁ、そうだろうな。)

 

何せ魔法が絡んでいるのだ。人畜無害とはいえ人智を超えている力の干渉であれば、そう簡単に化けの皮が剥がれることはないだろう。

仁美とは軽くやりとりを済ませると、そのタイミングでほむらの姿が教室に現れる。

 

(…………マミ先輩は大丈夫なのか?)

 

彼女に視線を移すや否や、若干気を張り詰めたような香りをしながらほむらに念話を送る。

 

(今のところ、ね。自身のマンションに引きこもって意気消沈はしているけど、魔女化するところまでは来ていないわ。何が彼女の精神的な支柱になっているのかわからない以上、もう少し見ておく必要があるけれど。)

(…………わかった。彼女を頼む。)

(ええ、ここまできて彼女に死なれても、困るもの。)

 

ほむらの言い草にわずかにムッとした表情を浮かべるさやかだったが、繰り返してきた中にマミの死も含まれていた可能性を鑑みるとそういう言い方になるのも致し方ないと結論付け、自身の席に着く。

 

そして、念話を切り上げたほむらもまた、何やら難しい表情を浮かべていた。

 

(…………いつものパターンだと、この時期にそろそろ()()が見滝原を訪れる頃…………でも巴マミも生存している以上、彼女もテリトリーを侵してまで足を運ぶ必要もない。)

 

(だけど彼女も実力のある魔法少女。戦力に組み込んでおきたいところだけど…………ここは私が風見野に赴くしか無さそうね。この時間軸のさやかとなら、不和もそうそう起こりはしないだろうし………。)

 

ほむらが思案に耽っていると朝のHRを告げるチャイムが学校中に響き渡る。そこでほむらの思考は一度中断され、また何気ない時間が過ぎ去っていく。

 

 

 

そして放課後、昇降口の出入り口付近でさやかは悩んでいるような表情を浮かべ、唸り声のようなものを挙げていた。

 

「さ、さやかちゃん…………?」

 

さやかの行動にまどかは怪訝な顔をしながら見守っていた。しかし、さやかは相変わらず唸り声を挙げるばかりで答えようとはしなかった。

 

「……………なにをしているの?」

「あ、ほむらちゃん。なんだがさやかちゃんが突然悩んでいるような顔をし出して………。」

 

そこにたまたまほむらが姿を現した。第三者の出現にまどかはほむらに救世主でも目の当たりにしたかのような表情を見せると簡単な説明をする。

それを受けたほむらはしばらくさやかの様子を見つめているとーーーー

 

「……………まさか、巴マミの代わりに魔女の見回りをする、とかで悩んでいる訳じゃないでしょうね?」

 

不意にほむらがそう尋ねると唸り声を挙げていたさやかはピタッとその出していた唸り声を響かせるのをやめた。

 

「……………なぜわかった?」

「はぁ…………。」

 

口を呆然と開き、心底から驚いたような様子を見せるさやかにほむらは呆れたようなため息を吐いた。

 

「もうあなたが契約したことに関してとやかく言うつもりはないわ。だからと言ってやたら無闇に魔力を浪費するようなことはやめておいた方が無難よ。」

「だが………使い魔程度であればーーーー」

「それこそ魔力の無駄よ。使い魔からグリーフシードが落ちることはない。」

 

ほむらから強い口調で言われてしまい、思わずさやかも口を噤んでしまう。少しの間気難しい顔を浮かべるさやかだったが、自身の中で結論付けたのか、表情は柔らかなものに変わる。

 

「…………わかった。責任感の強いマミ先輩の気を少しでも和らげるつもりだったが…………それこそ本末転倒か。」

「賢明ね。それと一応貴方にも言っておくことがあるのだけど、私はこれから風見野にいる魔法少女に会いにいくわ。その間に変な行動は起こさないことね。」

「…………ワルプルギスの夜のためか?」

「…………やっぱり覚えてはいるのね。」

「あそこまで錯乱に近い状態を見せつけられれば嫌でも残る。それで、その勧誘する魔法少女はどんな奴なんだ?」

「……………そうね、巴マミを理想的な魔法少女とするなら、()()は現実的な魔法少女、ね。」

 

 

 

 

「魔法なのに現実……………ずいぶんと矛盾した単語だ…………。」

 

下校の道すがら、さやかはほむらが言っていた会いにいくという魔法少女の為人について疑問気に呟く。

途中で分かれたため、既に隣にまどかの姿はなく、呟いた言葉も誰の耳に届くこともなく町の喧騒に吸い込まれていく。

最初こそマミのかわりに見滝原の町をパトロールでもするつもりのさやかだったが、魔力の無駄だとほむらに咎められてからは一応素直に帰るつもりであった。

 

しかしーーーー

 

「妙に視界に光が入り込む。一体なんーーーー」

 

ふと視界にチラチラと映り込む光に鬱陶しさを覚えたさやかはその光源を探す。すると自身の指に嵌め込んだ指輪に目線が集中する。白銀のリングに水色の宝石から光を発しているのは、形こそ変われど、さやかのソウルジェムに違いなかった。

 

(ソウルジェムが光っているーーーーーしかもこれは魔女、いや、にしては反応が弱い。なら使い魔と考えるのが妥当なところか。)

 

以前、マミに見せてもらったソウルジェムの魔女探査能力。その時の反応の輝きの時より光量が低いことを見抜いたさやかはその反応が使い魔であると判断する。

 

(ほむらから使い魔を倒すのは魔力を浪費するだけと言われた。しかし、使い魔も人を襲う。もしそこで死人が出れば、その人間の死を悲しむ家族が生まれ、また新たな犠牲者を産み出すことになる。)

 

一度はほむらに止められた使い魔の打倒。確かに魔女という大元を潰さない限り、際限なく生み出される使い魔をいちいち潰していくのは無駄だと言えることだろう。

 

「だが、だからと言って見過ごせるほど、私は……………利口な人間ではない。」

 

そういうとさやかはソウルジェムが示す輝きに従って町を駆け抜ける。それなりに距離が離れていなかったのか、数分ほどでソウルジェムは町の一角の路地にさやかを導いた。

 

「ここか……………」

 

さやかの眼下には路地の左右の壁面がクレヨンのような緑色で塗りつぶされ、所々に子供の落書きのような絵が書かれている空間が広がっていた。

 

『ーーーーーーー!!!!』

 

そして路地の奥から聞こえて来る声。さやかが目と耳を凝らすと、さながら車のおもちゃで遊んでいるような楽しそうな声と共に周りと同じ落書きのようなデザインの人形が複葉機のような飛行機に跨って、その空間を飛び回っている様子が目に映る。

 

「あのような造形でも、人を襲う…………。」

 

そう呟くとさやかは指輪を取り外し、元の形である楕円形のアクセサリーにソウルジェムを戻し、魔法少女としての姿である白いマントをはためかせた騎士甲冑を身に纏う。

 

「……………突入する。」

 

踏み込んだ足に一気に力を込め、結界内に突入するさやか。急な乱入者に使い魔は慌てたように体を震わすと一目散に逃走を図る。

 

「逃すかッ!!」

 

それを見たさやかは足元に魔法陣を展開、それを足場、および加速を得るブースターとして活用し、一気に使い魔との距離を詰め、手にしたサーベルを使い魔に向けて振り下ろす。

 

『ーーーーーー!?!!?』

 

しかし使い魔の咄嗟の動きでサーベルは空を切ってしまう。サイズからしてすばしっこいことは察せていたさやかはさほど慌てたような表情は見せない。

 

(…………まずは足を止める。)

 

地面に降り立ったさやかは手にしていたサーベルとは別の一本を作ると、飛び回る使い魔に向けて右手の一本を、タイミングをずらして左手のもう一本を投擲する。

 

投げられた二本のサーベルは動き回る使い魔に一直線に向かっていく。

 

『ーーーーー!?!!!?』

 

先に投げられた一本は使い魔の進行ルート上に突き刺さり、思わず使い魔も動きが止まる。そして遅れて飛んできた二本目が使い魔に寸分の狂いなく突き立てられ、使い魔の体は壁に縫い付けられる。

あとは突き刺さったサーベルを掴み取って使い魔の体を両断するだけ。そのためにさやかは使い魔に向かって飛びかかる。

 

(ッーーーー!?!)

 

 

サーベルに手を伸ばしている最中、さやかは突然体を貫くように走った感覚に目を見開く。突然のものだったが、さやかにはそれがなんなのかを理解できた。

 

今にも自身に害をなそうとせん、純然な敵意だった。

 

「クッ……………」

 

苦い顔を浮かばせながらも、咄嗟にさやかは魔力で作ったサーベルをその敵意を感じた方向である上空へ投げつける。体を捻りながら放ったサーベルの軌道をさやかは見届けることは出来なかったが、弾いたような金属音と耳に入った舌打ちにひとまずの牽制ができたと判断したさやかは勢いそのまま使い魔に刺さったサーベルの持ち手を掴み、両断した。

 

使い魔を倒したことで結界は崩れ始め、元の光景である路地に戻っていく。しかし、さやかの表情は晴れやかなものではなく、むしろ警戒感に満ち溢れていた。

 

「誰だ!!!」

 

魔女とは違う敵意にさやかは思わず声を荒げる。戦いの終わったはずの路地に緊迫感が張り詰める中ーーーー

 

「ーーーーーーアンタが美樹さやかだな。」

 

不意にさやかの名前を呼ぶ声がする。それはさやかが咄嗟に感じた敵意からサーベルを投擲した上空からだった。

そして路地に降り立った人影が現れる。差し込んでくる夕日に照らされ、ようやくその人影の全貌が明かされる。

そこにいたのは身長以上に丈のある槍を手にし、可動域を広げるためか、前側が大きく開いたノースリーブの真紅のドレスを身に纏ったさやかより若干身長が低い少女であった。

風貌や立ち振る舞いから魔法少女であることは察せられる。

 

「何者だ。何故私の名前を知っている。」

「はん、別にあたしの口から話すまででもないんじゃねぇの?」

「……………キュゥべえか。」

 

相対する少女の言葉でさやかは舌打ちにも近い口調でキュゥべえの名前を出す。

 

「改めて聞くが、何の用だ。」

「ーーーーあのさ、お前卵産む前の鶏の首を絞めてどうすんの?グリーフシードも落とさない使い魔倒してもなんの利益もないじゃねぇかよ。」

「……………知っている。聞きたいことはそれだけか?用が済んだので有ればさっさと家路につきたいのだが。」

 

そう言いながらさやかは目の前の人物に背を向け路地から出て行こうとする。もっとも先ほどの敵意があの少女からのものであれば、何をされるか分かったものではないため背後からの襲撃に気を張り巡らす。

 

「つれないねぇ。アタシの目的はアンタだっていうのにさ。」

「ッ…………!?」

 

少女の言葉にさやかが振り向いた瞬間、地面から赤い鎖のようなものが張り巡らされ、高い壁となってさやかが出て行こうとした路地の出口を塞いだ。

 

「なんの真似だ?」

「言った筈だぜ?アタシはアンタが目的だってなぁ。」

 

表情を険しいものにしながら先ほど横槍を入れようとしたのだろう少女に問い詰めると、彼女はどこか怒りを孕んだような、獰猛な笑みを浮かべる。

 

「私とお前は初対面のはずだ。そのような敵意を向けられる覚えも言われもない。」

「アンタにはなくてもアタシにはあるんだよ。それくらい察しろよ愚図が。」

 

先ほど浮かべていた獰猛な笑みから一転、冷え切ったように無表情と声色をまるで感じられない冷たい声にさやかは困惑の色を隠せないでいた。

 

「それともなんだ?魔女はぶった斬れても人間相手じゃ使えませんってか?」

「…………そのつもりだ。元よりこの力は友人を守るために手にしたものだ。」

 

少女の言葉にさやかは表情を困惑の色にしながらも瞳だけは強い意志を持ち、はっきりとした口調で少女の問いに答える。

 

「ハッ、気に入らないねぇ……………。」

「なに……………?」

 

その言い草にさやかは眉を潜め、その発言の真意を問い質すも、少女は懐からコンビニでも売っているような菓子を取り出す。その箱の中から一本出すとまるで抱えた苛立ちを晴らすが如く乱雑に噛み砕いた。

咀嚼音が響く中、さやかが様子を伺っていると、少女は突然菓子の箱を握りつぶした。

 

「気にいらねぇっつってんだよ!!!!テメェの何もかもなぁッ!!!!」

 

突然周囲の空気がふるえ上がるほどの怒声を出した少女は側にあった槍を掴むとさやかに襲いかかった。そのスピードはかなりのもの、十分あったはずのさやかと少女との間の距離は一瞬で詰められ、振りかぶった槍の威力もまともに食らえば致命傷だろう。

 

「くっ……………!!!」

 

突然の攻撃に苦渋の表情を浮かべるさやかだったが警戒していなかった訳ではないため、体は動いた。咄嗟に背後に聳え立つ鎖で編まれた壁を蹴り上げると、足元に魔法陣を展開し、少女の頭上を飛び越える形で攻撃を回避する。

獲物を見失った少女の攻撃は空を斬る結果となったが、先ほどまでさやかがいた場所の床はその少女の苛烈を際立たせるように粉々に砕け散った。

 

(あの威力に今のスピード…………彼女はベテランの魔法少女か………それもマミ先輩と遜色ないレベルの…………!!初撃を避けれたのは幸運だったか………!!)

 

前転しながら体勢を整えたさやかはひとまずサーベルを構える。どうであれ、ここで逃走を図ったとしても逃げ切れる自信がさやかにはなかった。

ある種の覚悟を決めたさやかは少女と向き直る。

 

「わからない…………一体何が、お前をそこまで駆り立てる………!!」

「いちいち言わねえとわかんねぇみたいだな!!この際だから教えてやるよ!!魔法ってのは徹頭徹尾、自分のためだけに使うもんなんだよ!!やれ他人のためだなんだってテメェみたいにほざく野郎は先輩のあたしが責任もって修正してやんよ!!」

 

瞬間、再び少女とさやかの距離が詰められ、ギラつく槍の刃がさやかに振り下ろされる。さやかはサーベルを構えると互いの獲物がぶつかりあい、薄暗かった路地を火花で照らした。

 

「答えてくれ……………アンタの目的は…………なんなんだ…………!!」

 

衝撃と圧力に苦悶に染まりながら呟かれた言葉は目の前の少女に届くことはなかった。

 




さて、なんで赤い子はこんなにブチギレなんですかね?

一つだけ言っておくと別に戦争狂がインプットされているわけではないです^_^


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第23話 00 GUNDAM

ようやく…………ようやくここまで来れた……………。
なお展開でマミさんを間に合わすかどうかですっごく悩んだ(白目)


「……………妙ね。ここにもいないなんて。」

 

そう呟いたのは訝し気な表情で首をかしげるほむらだった。見滝原の隣に位置する風見野市にある魔法少女に会うために足を運んでいた彼女。しかし、肝心の人物の姿が見当たらないことにほむらは疑問気な表情を禁じ得なかった。

そんな彼女の目前には辛うじて原型は保っているものの、完全に廃墟と化している建物があった。人が住むには些か大きすぎる外観と、建物の上部に残っている十字架から、ほむらの目の前の建物が教会かその類であることが察せられる。

 

(市内のゲームセンターや公園、そしてこの教会の廃墟…………彼女が現れそうな場所はあらかた回ったはずだけど、それでも姿が見えない?どういうことなの…………?彼女が現れそうな場所なんて()()()()()()もう……………!?)

 

そこまで思考が行き着いたところで、ほむらは突然教会の廃墟に背を向けながら駆け出した。その表情には、普段は冷静な彼女らしからぬ焦りが表面に出ていた。

 

(まさかーーーーーまさかーーーーーーーーーー入れ違いになった!?)

 

走りながら思考を続けるほむら。焦りから滴る汗も一切気にかけず、風見野の町を駆け抜ける。

 

(さやかの契約の内容はいつもと違う。さらに巴マミも生きているから彼女が自らの足で見滝原にやってくることはないと思っていたのに…………!!)

 

本来、起きていたことが起きていなかったため、起こることがなかったと思っていた。だが、結果としてほむらが探している人物はこれまで通り、見滝原市を訪れていた。

 

(よくよく考えてみれば、さやかが契約したのは私とまどかを助けるため………上条恭介の時よりも極端な『他人』のため………!!それを知ったとすれば、彼女が黙っているはずはない!!)

 

(彼女の大らかさに甘えた私の失態ね…………!!まだ何事も無ければいいのだけど………!!)

 

苦い表情を見せながら、ほむらは風見野の町を駆け抜け、見滝原への道を一目散に駆け出す。

 

 

 

 

 

「え、美樹さん、まだ帰ってきていないんですか?」

 

ほむらが風見野から見滝原へ踵を返そうとしていた同時刻、さやかの家を訪ねる人物がいた。目立つ金色の髪を左右にロール状にまとめた少女、マミだった。

ただ、その驚いた表情を見せるその顔には若干の隈や涙が流れた跡のような残っていた。まだ、彼女の中でソウルジェムの真実は消化し切れていないのだろう。

それでもさやかの家を訪れたのは、一言でいえば謝りたかった。

 

「悪いね、マミちゃん。ったく、何処をほっつき歩いてんだか…………。」

 

やってきたマミを玄関で出迎えながらも呆れたようにため息を吐き、参ったように後頭部をさすっているのはさやかの父親である慎一郎だった。

 

「それで、さやかに何か用かい?伝言なら俺から言っておくけどよ。」

「あ…………えっと…………だい、じょうぶ…………です。」

「ん、そうかい?せっかく来てくれたところ、申し訳ないねぇ…………。」

 

慎一郎の言葉にマミは若干狼狽たような反応を見せるが、彼の提案を呟くように拒否する。慎一郎も申し訳なさそうに言葉を返す。

 

「……………ところで、マミちゃん。なにかあった?」

「は、はい!?」

 

突然の慎一郎からの指摘にマミは思わず上擦った声を上げる。

 

「俺は曲がりなりにもクレー射撃をやってる身なんでね、それなりに目には自信がある。目蓋の下には隈、そんでもって微妙に腫れ上がっている。さらには髪質、ボロボロになってるぜ?こういうののケアは女性にとって必需品だけどよ、それがままならないほど受け止められないなんかに、確実にぶち当たっている。」

「ッ……………あ…………。」

 

慎一郎からのさらなる指摘にマミは自身の髪に手を触れる。その特徴的な髪は慎一郎の言う通り、決して状態がいいとは呼べるのまではなかった。

 

「……………ま、そういうプライベートなところを一食ともにしただけであんま付き合いが薄い俺が言うのもなんだけどよ。」

 

狼狽るマミを尻目に慎一郎は少々気まずそうに目線を逸らした。

 

「なんかあったら、ウチのさやかでも頼ってくれ。同年代の同性ってだけでも話しやすいだろうし、アイツはどこか大人びている?達観って言った方がいいのか?ともかくそういう性格の持ち主だ。相談にはもってこいの相手だろうよ。だけど、それでも手に負えないようだったら、いつでもウチの玄関の扉を叩いて構わねぇ。俺たち大人がなんとかしてやるからな。」

 

慎一郎は軽く頰をかくと、ニヒルな笑みを見せながらマミに向き直る。

 

「わかり…………ました。その、私なんかのために、ありがとうございます。」

「いいっていいって、気にしなさんな。」

 

マミのお礼に慎一郎は手をヒラヒラを振りながら自身が好きでやっていることだからと念を押す。

その様子にマミは一度お辞儀をすると、さやかの家を後にする。

 

パタンと閉じられたドアを見届けた慎一郎はニヒルな笑みから無表情に戻すと、一度頭の中で整理をつけるようにため息をついた。

 

「…………こりゃあさやかからなんか聞いた方が良さそうだな…………。この前の退院祝いの外食した時にさやかとマミちゃんの二人でなんか話してたんのも引っかかる………。」

 

顎に指を乗せながら探偵のように推理を思い浮かべた慎一郎は、リビングにいる理多奈の元へ向かった。

 

 

 

(…………美樹さんのお父さん、そんなふうに言ってくれたけど、肝心の美樹さんとちょっとすれ違いを起こしているのよね…………。)

 

さやかの家から離れたマミだったが、その表情はイマイチ優れないものを浮かべる。とは言っても重苦しいものではなく、どちらかと言えば残念そうに思っているようなものであった。

 

(…………お父さんのご好意を無駄にしないためにも早く美樹さんとお話ししないと…………!!)

 

いつまでも気まずい関係ではいられないと決意を改めたマミは、日が傾き始め、空がオレンジ色に染まりかけている見滝原の町を歩き始める。

 

(でも美樹さん、一体どこに…………?今日は学校をサボった身ではあるけど、さすがにもう放課後の時間よね?)

 

歩きながらさやかの行動を予測し始めるマミ。まず最初に時間的に学校に居残りをしている可能性は低いことから、学校周辺を除外する。マミの記憶上にも、居残りが必要な行事などはなかったからだ。

 

(参ったわね…………美樹さんと友達になってからそれらしいことを全くしてないから、彼女がいそうなところがこれっぽちもわからないわ…………。)

 

悩まし気な表情を浮かべながら頰に腕を立てるマミ。そんな最中、マミの指につけられている指輪が目についた。キュゥべえと契約し、魔法少女となったその証のソウルジェム。

それが自身の魂が形となったものであり、それが砕かれるとその瞬間死んでしまうということ、そしてソウルジェムの輝きが穢れに染まり切った時、自身は魔女と化してしまうことを聞いたことは眉を潜めざるを得ず、世迷言と断じることも吝かではなかった。

しかし、そのほむらから伝えられた真実を、その時点でまだ魔法少女ではなかったさやかが信じたのだ。

その真実を疑う、ということはそれを信じた友人であるさやかを疑うこと。誰かを失うことに恐怖し、一人ぼっちだったマミはまだ完全に飲み込めないながらも、頭ごなしに否定することだけは避けていた。

 

そんなことでソウルジェムを見るたびに少々考え込んでしまうようになってしまったマミだが、その視界に入り込んだソウルジェムを見て、ある一つの可能性を見出す。

 

(まさか………私の代わりに魔女のパトロールを………?)

 

それが脳裏を過った瞬間、マミは指から指輪を取り外すと、形状を楕円形のアクセサリーに変える。魔力を反応を探って、さやかの場所を特定するためだ。完全に思いつきの発想だったがーーーーー

 

(やっぱり反応があった!!ここら然程離れていない、よかったーーーー)

 

マミのソウルジェムにさやかの魔力の反応があったことにひとまずの安堵の息を吐く。しかし、その反応の隣には長らく見てはいなかったが、見知った魔力の反応もあった。

 

(どうしてあの子がここに…………?)

 

突然戻ってきた知り合いの魔力反応。普通であれば喜ばしいことだが、マミは素直には喜んでいないような顔を見せる。

 

(…………あまりいい予感はしないわね。)

 

険しい顔つきを見せたマミは足早にさやかの魔力反応があった地点へと向かう。

もしかしたら、旧友に銃口を向けざるを得ないやるせない思いを抱きながら…………。

 

 

 

 

路地から響き渡る甲高い音。しかし、その音は鋭く、響き渡るたびに鉄のような何かがぶつかり合っているようにも聞こえる。その音の間隔もどんどんと短くなっていく。

打ち合うスピードが両者ともに加速しているのか、はたまた片方がもう片方を一方的に攻撃しているか。

 

 

「ッ……………グゥ……………!!!」

 

そのどちらかであれ、両手でサーベルを握りしめたさやかは相手の苛烈を極める猛攻にはじき飛ばされ、地面から砂埃を生み出しながら後退させられる。

特徴的な青を基調とした騎士甲冑は所々がえぐられたように破損し、たなびかせていた白いマントもあちこちが汚れ、端が不均等にちぎれているなど、明確な怪我を負っていないだけマシだが、見るからにボロボロの様子であった。

疲労もかなり溜まっているのか、既に荒い息を吐きながら肩で息をしているという有様であった。

 

「おいおいそんなもんかよ、こっちはまだ有り余っているぜぇ?」

 

対する少女はまだ余裕と言った佇まいで汗一つすらかかず、息も全く上がっていなかった。その現実にさやかは苦い表情を禁じ得ず、舌打ちのような悪態しか付くことができなかった。

 

(奴がベテランなのは分かっていたが…………ここまで力量に差があるとは………!!)

 

それでも逃走を図ることが難しいなら、立ち向かう他に方法はない。そのままむざむざと目の前の少女の遊び道具として終わるつもりはさらさらない。

一度大きく息をついたさやかはサーベルを構えなおし、少女の次の攻撃に備える。

 

(…………すぐにぶっ潰せると思っていたが、中々まぁ持ち堪えるじゃねぇか…………。)

 

一方の少女も余裕の表情とは裏腹に内心ではさやかと似たような苦い表情を浮かべていた。

 

(少しずつ削っている感覚はあるが、野郎………決定打だけ確実に避けやがる………!!あの様子だともうそろそろ限界だろうよ。)

 

始めは猛烈な怒りを持ってさやかに襲いかかった少女。その怒りの火も決して収まった訳ではない。しかし、赤子の手をひねるように潰せると思っていた相手は今現実として外観はボロボロながらも目に宿った生気は失わずしっかりと両足で立ち続けていた。

 

(ちったあ手札切るか…………こんな奴に使うのも尺に触るんだけどよ………!!)

 

(こんな大馬鹿野郎を野放しにしておく方がよっぽど頭に来るんだよ!!!!)

 

鬼気迫る表情を浮かべた少女は槍を構え直すとさやかに向かって突進を仕掛ける。

対するさやかは構えた状態からサーベルの剣先を少女に向けるだけで、受けの姿勢を取る。槍と剣ではリーチに決定的な差がある以上、さやかには否が応でも初撃を避けた上で懐に入ることを強制される。それ故に受けの姿勢なのだろうがーーーー

 

「おらぁ!!」

 

少女は槍を振り上げるとさやかに向けて振り下ろす。飛んでくるであろう攻撃に身構えると何気なく違和感を覚える。少女の振り上げた槍と少女自身を見比べるとその違和感にすぐに気づいた。

 

(間合いが遠い?)

 

先ほどまで打ち合っていたのもあってなんとなく間合いを体で覚えたさやかはそのことに眉を潜める。しかし、攻撃が避けやすくなったのであればその後の反撃も容易くなる。さやかはタイミングを見定めてサーベルを構えるがーーー

 

「なっ!?」

 

さやかは驚愕したような表情を浮かべる。振り下ろされた槍の穂先はさやかを捉えずに地面に突き刺さるが、少女はその槍の柄を棒高跳びの要領でしならせると、空高くへと飛び上がる。本来硬いはずの槍の柄がしなやかに、そして伸縮するという想定外にさやかは思わず意識を外され、目線が少女に向く。

 

空高く飛んだ少女は槍の柄を元の長さに戻すと、空中で振り回しながら今度は槍そのものを巨大化させる。

 

「ッ…………!!」

 

目に見える異常に意識を戻したさやかは咄嗟にその場を飛び退いた。直後、巨大化した槍がその膨大な質量を持って、さやかが直前までいた場所の地面を粉々に粉砕する。

 

「この戦いに…………意味はない……………!!!」

「はっ!!まだんなこと言ってんのかよ!!トーシローらしい甘ちゃんっぷりだな!!!」

 

巨大な槍が地面に激突した衝撃波に煽られながら呟いたさやかの言葉だったが、少女には耳ざとく聞かれていたようで、貶すような口調でさやかに暴言を吐く。

 

「この際だから言っておくけどさ!!使い魔なんて言うのは本当は戦うに値しねぇんだよ!!無駄以外の何物でもねぇ!!そんなのはさっさと4、5人食わせて魔女にさせた方がいいんだよ!!」

「……………………正気か?」

 

巨大化した槍を元の大きさに戻しながら少女は槍の穂先をさやかに突き付けながら使い魔についての自論を述べる。その自論にさやかは疑う訳でもなく、だからと言って怒りを露わにするわけでもなく、ただ淡々と少女に問いかける。

 

「それはこっちのセリフなんだよ!!魔法少女にとってグリーフシードを落とす魔女がいなければそのうちやっていけなくなる!!そんな当たり前のこともわかんねぇのかよ!!」

 

向けられた槍のように鋭い剣幕でまくし立てる少女にさやかは顔を背け、悲痛な面持ちを見せる。その様子に少女は一瞬、現実を認識してくれたのだと思ったがーーーー

 

「分かっている。だが、その犠牲になった人間には必ず家族がいる。だが魔女に喰われた人間は死体すら、現実世界に戻ってくることはない。その遺族は探し続けるだろう。ずっと…………遺体すら帰ってこない家族を見つけるために…………。」

 

その静かな語り口のまま、さやかは少女にその悲痛な面持ちを向ける。家族、という単語に少女は苦渋の表情を見せ、顔を俯かせる。

 

「そんなものは、私達が直面するであろう現実より、悲惨なものだ。お前にはそれがわからないのか?お前が死ねば、家族はお前を見つけるためにずっと探し続ける。そんな枷を、お前は家族に押し付けるのか?お前の言っていることはそれと同じことだ。」

「だからお前は使い魔でも潰すってか?」

「……………見かけたら、倒すだけだ。」

 

さやかから俯いた少女の影を伺うことはできない。ただ、この戦いを止めたいと思う気持ちから少々卑怯ながら、家族を折り合いに出した。そのことが少しでも少女の心中に引っかかってくれればいい、そんな思いだった。

 

「ーーーーーーーーーーーーーーあたしには関係ないね。」

 

しかし、その言葉と同時に少女は槍を振るう。明らかにリーチは足りていなかったはずだが、突然、槍の柄が分離し、その間から鎖を覗かせると、遠心力のかかった攻撃がさやかに襲いかかる。

 

「ッ………クッ………!?」

 

不意打ちにも等しい少女の攻撃に思わずさやかは目を見開きながらもその攻撃をサーベルで防ぐ。しかし、勢いまでは殺しきれずに防いだとはいえモロに受けたさやかは吹っ飛ばされ、建物の外壁に体を打ち付ける。

 

「カハ…………!!」

 

壁に体を打ち付けたことにより、肺から息を吐き出され、痛みに思考がぼやける。背中からずり落ちるように地面にへたり込んださやかは痛みに悶えながらも不意打ちを仕掛けてきた少女に目線を向ける。

 

「あたしには家族なんていねぇんだよ。みんな揃って死んじまったからな。」

 

その少女の目は酷く冷たかった。冷え切ったその目には怒気が見え隠れしていた。

 

「ハァ…………ハァ…………。」

 

胸の痛みに表情を歪ませながら、さやかはなんとか立ち上がる。しかし、足元はふらつき、立っているのがやっとだった。もはや勝負はついた。これ以上の戦いはまさに無意味だ。それでも少女はその槍の穂先をさやかに突きつける。

 

「やっぱお前、一回痛い目にあった方がいいな。これ以上、馬鹿な真似なんかしでかさないようにな。」

 

少女の言葉にさやかは鋭い目線で返す。

 

「安心しな、命までは取らねえよ。せいぜい三ヶ月くらいの重傷を受けてもらうだけだ。そんだけの怪我をすりゃあ、ちっとは懲りるだろ。」

 

呟くようにそういうと少女は高々と槍を振り上げる。さやかは少女が向けている目線からその狙いが腕、もしくは足の四肢を狙っていると推測する。

しかし、推測したところで、今のさやかに動く余力は戻っていない。

 

(……………私は…………死ぬのか?)

 

胸の痛みに耐えるので精一杯のさやかに少女の言葉は耳に届かない。しかし、目の前に掲げられた槍の煌めきが、さやかの脳裏に『死』のイメージを強烈に焼き付ける。

 

(ここで私が死ねば、何も変わらない…………ただ死因が違うだけで、何も変わらない…………!!)

 

思い浮かぶのはほむらの姿。ここでさやかが死んでしまえば、彼女にとって魔女化した『美樹さやか』と同じような運命を辿ったようなものだろう。そしてそのまま刻が流れれば、いずれまどかが契約し、またほむらは果てしない時間の旅に旅立ってしまうだろう。

 

(変わらないんだ!!このままでは何も!!だから、()()()()()()()()()()()!!それは私だけのことじゃない!!)

 

自分自身を、友人を、魔法少女を。

 

変わらない今日から明日を、未来へと続く明日を、切り開くためにーーーーーーーーーーーーーー

 

「わ………た………し………は…………!!」

「チッ、まだ喋れんのかよ………いい加減にーーーーー」

 

 

「私達は………………変わるんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

そのさやかの絶叫、叫びが薄暗い路地に響いた瞬間、さやかの体ーーーーーーー具体的に言えばソウルジェムから溢れ出んばかりの光が路地を照らす。

 

「なーーーーーーなん、だよ、この()()()()()()()()()()()()()()()()()の光はーーーーー!!」

 

突然の変化に少女は思わず後ずさる。しかし、その光が特に何か影響を与えているわけではないとわかるとすぐさま体勢を立て直した。

 

「どういうカラクリだか知らねえけどよ、その訳のわかんねぇ光を出すのをやめろぉ!!!」

 

人間、原理がわからないものには恐怖心を抱く。その心情を示すように少女は槍を振り上げると光を生み出している元凶であるさやかに向けて振り下ろす。

しかし、その槍は何か硬いものにぶつかったような音を立て、受け止められる。

 

「なにっ!?」

 

少女が驚愕といった顔を浮かべたと同時に光の奔流が鳴りを潜める。光が収まるとその中から、槍を受け止め、さやかと少女の間に立ち塞がるように突き刺さっている人間の身の丈ほどと大きさをした、白と青の物体が姿を表す。

 

「た………盾かっ!?」

「剣だッ!!!」

 

その巨体に少女は思わずその物体が盾かと叫ぶが、さやかはまるでその物体を心得ているように剣であると叫ぶ。

そしてさやかはその巨大な剣の上部に腕を伸ばすと、取手のような部分を掴み、突き刺さった地面から引っこ抜き、勢いそのまま横一文字に振り回した。

 

「うおッ…………!!?」

 

振り回した剣の風圧に少女の体は思わずのけぞり、さやかと距離を取るために後退する。

 

「ッ…………テメェ…………なんなんだよ、その姿は!!!」

 

一度下がり、さやかの全体像を見た少女は険しい表情を浮かべながらさやかに質問をぶつける。

さやかのその姿は先ほどまでの騎士甲冑姿とは違い、濃い青などの青色を基調とした制服のような姿となり、携えた巨大な剣とは別に、腰に刀身の長さが違う2振りの剣、両膝に備え付けられた刀身の幅が広い武装があった。

 

そして右肩には銃身が長く、その下部にクリアグリーンの部品が付けられた銃が、そして何より目を引くのが、両肩の、先ほど溢れ出た淡い緑色と淡い水色に輝く粒子を出している同じ形をしたコーン型の物体。

 

 

「これが……………私の、魔法少女としての力だッ!!!」

 

 

 

少女は今、変革の刻を迎えたーーーーーーーーーー

 




「刹那、まだ見ているのか?いくら気になる存在があったとはいえ、量子ワープには時間制限がある。これ以上はミッションの進行に障害がーーーー」
「ティエリア、これを見てくれ。」

何かを見ている男の姿とその男に小言をいっている妖精のような半透明の体を持った人。
小言をいう人に、男は唐突に自身が見ている映像を見せる。

そこにはさやかの姿が映し出されていた。そしてーーーー

「こ、これは…………ツインドライヴ………!?それにダブルオーか、この装備は………!?」
「ああ。」
「なぜ彼女がツインドライヴを………それにかなりの小型化を可能にしている!?」
「わからない。それこそ、彼女がいる世界に存在する、魔法と呼ばれるものかもしれない。だが、これだけは言える。」

彼女は、確実にイノベイターだ。


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第24話 その名は佐倉 杏子

某画像サイト漁ってたら『マミさや』にはまってしまった。

しかもなに『蒼髪姫と黄金色の騎士』って。めっちゃかっこいいじゃん。

まぁ、うちだと思いっきり反対になりそうですが…………(白目)


「なんなんだよ……………!!」

 

姿が変わり、身体の至るところに新たな装飾が施されたさやか。その彼女の双肩のコーン型の突起物から発せられている色の薄い緑色と水色が薄暗い路地を照らす中、襲撃者である少女は表情を困惑に染めながら槍を構え直す。

 

「一体なんなんだよ………テメェは!?」

 

少女の怒声は聞く者が聞けば、威圧として震えさせるには十分なほど迫力のあるものだった。しかし、その威圧にさやかは戦闘経験のまるでない一般人であるにも拘らず、臆した雰囲気を微塵も感じさせない鋭い目線をしながら、無言で睨み返す。

 

「……………私はこれ以上の戦闘行為を望まない。頼むから退いてくれないか?」

「は……………?」

 

そんなさやかからかけられたのは撤退を勧告する文言だった。さやかは張り詰めた表情から一転して目線を落とし、本意では無さそうな表情を浮かべる。

さやかの姿が変わり、第二ラウンドが始まろうとしたタイミングでのさやかの戦闘行為の放棄に少女は拍子抜けしたような顔をする。

 

 

「これ以上戦闘を続けたとして、互いに魔力を浪費するだけだ。それこそ、お前のいう無駄ではないのか?私が言えたことではないが。」

「テメェ……………なめてんのか。」

 

そう言いながら目線を正面に向け直したさやかに対して、少女は憤怒に塗れた表情をしながら、威嚇と言わんばかりに犬歯を剥き出しにする。その威嚇にもさやかは全く臆したような素振りを見せることなく、一瞬だけ視線を少女から外し、再び戻した。

そのことに少女の意識は目の前のさやかに対する怒りに染め上がる。

 

「私達が本当に戦わなければならない相手は他にいる。それはーーーーーーーーーーーーーーー」

 

「るっせぇんだよ!!!!」

 

さやかの言葉を突然の罵声で遮りながら、少女は強襲と言わんばかりに足を踏み出し、さやかとの距離を詰める。怒りに塗れた槍はただでさえ凄烈だった勢いをさらに増し、穂先は殺意となってさやかに襲い掛かる。

 

「ッ……………!!」

 

自身を殺さんとする少女の攻撃。話を切られた突然性も否めなかったが、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらも反応したさやかは初撃と同じように手にした大剣の刀身を前面で構え、盾として活用する。

 

「本当に戦うべき敵だぁ!?関係ねぇよ!!」

 

槍と大剣がぶつかり合い、路地を彩る光に火花が追加される。その火花の輝きの如く、さやかの苦しげな表情と少女の苛烈な怒りを露わにした表情を照らす。

 

「アタシはな!!テメェみてえな誰かのためにだとか抜かす、正義の味方面した奴がいっちばん嫌いなんだよ!!」

「他人の…………知り合いのために力を奮うことに、なんの憂いがある!?お前がそうだったからか!?」

 

槍の穂先と大剣の峰がぶつかり合う鍔迫り合いの状況の中、さやかは目の前の少女へ問いかける。

 

「ッ…………!!」

「……………テェァアッ!!」

 

出任せにも等しいような勢いで飛び出たさやかの言葉だったが、それを聞いた少女は目を見開き、わずかながらに槍にかかっていた力を緩ませる。

大剣にかかっていた重圧が緩んだのを見逃さなかったさやかはそのまま大剣を押し出し、少女を無理やり退かせる。

弾き飛ばされた少女は土煙を挙げながら踏みとどまり、敵意で塗り固められた顔をさやかに向け続ける。

それに対しさやかも大剣の切っ先を少女に向けるが、はっきり言ってさやかは少女との戦いには気が進まなかった。切っ先を向けたのも攻撃を仕掛けられた際にある程度の抵抗ができるようにするための不承不承な理由であった。

 

「お前はーーーーーーーーーーーーーーーー」

「美樹さん!!!」

 

切っ先を向けたさやかが少女をさらに問い詰めようとしたとき、第三者の介入に遭う。さやかが驚いた顔をしながら声のした方角を向くと、路地の入り口にマミの姿があるのが目についた。

 

「なっ…………マミ先輩!?」

 

思わず驚いた声を上げる。はたからすれば明らかな、それでいて決定的な隙を晒したことになる。中々絡め手を使ってくる相手なのだから、さやかはすぐさま少女に向き直し、奇襲を警戒する。しかし、マミの来訪に驚いたのはさやかだけではなかったようだ。

 

「チッ………マミの奴…………!!流石に二対一は厳しいよな…………!!」

 

少女は悪態をつくように吐き捨てると地面に突き立てた槍の柄を伸ばし、その勢いを利用しながら壁を蹴り上げ、その場から撤退していった。さやかが少女を呼び止めようとしたが、すでに遅く、呼び止めるために腕を伸ばした時には、少女の身体は壁の向こう側へと消えていっていた。

 

「逃げたか…………これで良かったのか…………それともーーーーーーーー」

 

独白とも取れる言葉をさやかが溢すと、次の瞬間、力尽きたように膝から崩れて落ち、思わず大剣を突き立て、それを支えとする。

 

「美樹さん、大丈夫!?」

 

さやかが倒れかけたことに、マミは悲鳴のような声を挙げながら駆け寄ると、座り込んだ彼女の肩に手を当てる。

 

「なぜ………ここに…………?」

 

緊張から脱したことにより疲れ果てたのか訝しげな表情を浮かべながらマミにそう尋ねる。

 

「美樹さん…………あなた、私の代わりにパトロールをしてくれていたのよね?」

 

マミがそう聞くとさやかは荒い息を吐きながらも小っ恥ずかしそうに目線を逸らしながら頰を掻いた。

 

「……………ほむらから魔力の無駄だからやめておけと念を押されたのだが、見つけてしまった以上、無視は出来なかった。」

「ごめんなさい……………私が暁美さんから語られた真実を呑み込むのに時間がかかってしまったばっかりに…………。」

 

マミはさやかに謝罪の言葉を述べながら目線を暗く下に落とし、額をさやかの背中に乗せるように押し付け、さやかの肩に当てた手に力を入れる。さながら何も出来なかった自分に歯痒い思いを抱き、無力感に苛まれているように。

その肩に感じる力にさやかは軽く鼻を鳴らすと、同じように自身の手を肩に回し、マミの手に重ね、包み込む。

 

「大丈夫。貴方のその反応は至極当然のものだ。ソウルジェムの真実が思い込んでいたものと違うと知ったりすれば、困惑や自身の在り方に不安を持ってしまうだろう。それに命が関わっているのであれば尚更のことだ。もしそれを聞かされて、何も感じない人間がいるとしたら、ただの能天気か異常者だけだろう。」

 

「だが、なってしまったのならどうすることもできない。受け入れるほか、道はないものだが、そうするのは人それぞれだ。だから貴方は貴方なりのスピードで受け入れてほしい。それを考えるだけの時間はいくらでも、とは言わないが必要以上にあるのだからな。」

 

「間違っても変に抱え込んで自殺なんて手法は取らないで欲しい。貴方が死んだら悲しむ人が少し前より、いるのだからな。」

 

 

そう諭しながら背後にいるマミに顔だけ向けると、そういった表情を浮かべることに慣れていないのか、ぎこちない笑顔を見せる。

さやかの言う少し前、というのはマミが魔法少女として一人で戦い、周りに誰もいなかった時期を指し、今、というのは魔法少女として周りにさやか、場合によってはほむら、そしてそうではないが、まどかがいることを指している。

 

そのさやかの言葉にマミは一瞬、面をくらったような顔を浮かべるもすぐに朗らかなものに戻した。

 

(もう……………ホントに強い人なんだから…………。本来だったら、先輩の私がちゃんとしないといけないのに……………)

 

『なんかあったら、ウチのさやかでも頼ってくれ。相談にはもってこいの相手だろうよ。』

 

表情自体に疲れたものが残っているにもかかわらず、自身のことを気遣うさやかの姿勢にマミは慎一郎の言葉を思い出す。なるほど、確かに話し相手としては持ってこいの相手なのかもしれない。基本的に話を最後まで聴いてくれる上に若干の言葉足らずはあるかもしれないが、なんらかの道を指し示してくれる。

マミの目にさやかはそんな風に見えるようになった。

 

(でも、流石に頼りきりは不味いわよね。人としても、先輩としても。)

 

でもーーーーーーーーーーーーーー少しくらいならいいでしょう?

 

「ねぇ、美樹さん。手を握ってくれない?」

「…………どういうことだ?握っているはずだが…………?」

 

マミのお願いにさやかは呆けた顔を浮かべながら首を傾げる。どうやら手と手を重ねている今の状態をさやかは握っていると思っているようだ。

 

「もう、察しの悪い人ね。」

 

そのことにマミは軽く頬を膨らますと、重ねられたさやかの手を握り直し、お互いの指と指が絡み合うように握る。そのマミの取った行為にイマイチ理解が及ばないのか、さやかは再度首を傾げるような仕草を浮かべる。しばらく考えたが結局その手の握り方の訳に辿り着くことはなく、さやかは他に気になったことをマミに尋ねることにした。

 

「…………そういえば、さっきの魔法少女。マミ先輩の知り合いか?何やら貴方を知っていそうな口ぶりと雰囲気だったのだが……………。」

 

さやかは先ほどまで戦っていた魔法少女について尋ねた。マミがこの路地に現れてから、少女の撤退は迅速だった。マミの実力がそれとなりに知れ渡っているのか、少女は襲い掛かることはせずに状況を不利と判断して即座に行動に移した。

そのあまりの引き際の良さと少女の態度に彼女の関係者なのでないかと勘ぐったのだ。

 

そのさやかの質問にマミは気まずそうな表情を浮かべ、さやかと顔が合っている訳でもないにも関わらず顔を横に逸らした。

 

「………………ええ、よく知っているわ。彼女の名前は佐倉 杏子(さくら きょうこ)。見滝原の隣の町、風見野を拠点としている魔法少女。そして私の…………元弟子よ。」

「弟子……………?貴方の?」

 

さやかの確認とも取れる鸚鵡返しにマミは無言のまま静かに首を縦に振る。視界に入っていた訳ではなかったが、服の擦れ具合的に彼女が頷いたのだと判断したさやかはそのまま話を続ける。

 

「正確に言えば、コンビに近かったわ。でもあの子は、昔はあんな過激な子じゃなかったの。もっと、他人に目を向けてやれる人だった。でもーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

そこまで言ったところでマミは表情暗く落とし、視線を下に向ける。明らかに何かあった。彼女に背を向けているさやかもそれを察知し、結んだ手から感じられた強張りからもそれは易々と感じ取ることができた。

 

「……………ある日を境にあの子は変わってしまったわ。」

「その、ある日というのは?」

 

そう尋ねるさやかだったが、脳内では何となく読めていた。事故で両親を亡くしたマミ。理由は聞いていないが両親が既に他界していると思われるほむら(さやかの勘違い)。

心の中ではそうであって欲しくないと思いながらも経験から来る結論が脳内で駆け巡っていた。

 

「彼女の父親が、自殺したの。それも、彼女自身を除いた家族を巻き込んで…………。」

「無理心中か……………しかも佐倉杏子自身を遺して、か。」

 

嫌な予想が当たってしまったとばかりにさやかは舌打ちのような悪態を吐く。

 

「元々、家族間の関係がうまく行っていない家庭だったのか?」

「それはわからないけど…………昔のあの子からはそんな家庭環境にあるとは、見えなかったわ。でも、私の元から去る時、彼女は言っていたわ。」

 

『全部自分の魔法が引き起こしたことだ』って

 

 

「………………自分の魔法、か。」

「あの子の魔法は主だったものは幻惑魔法で自分の分身を生み出してひたすら戦局をかき乱す撹乱戦法だったわ。」

「それが今は、槍一本で敵を徹底的に潰す殲滅戦法か。魔力のような反応が見られなかったのは、彼女がそれを唾棄するものとしているから、使わなかったのか。」

「大方、そうでしょうね。それでも、容赦がなくなったあの子は強かった。私じゃ、あの子を引き止めることは出来なかった。」

「貴方が後れを取らされるほどの実力の持ち主…………そんな奴がなぜ新米の私などにあれほどの怒りに満ち溢れた顔を見せる…………。」

 

さやかは何気なく空を見上げる。思い馳せるのは先ほどまで死闘を繰り広げた佐倉杏子の姿だ。他人のために力を奮いたいと思う自身に対して、対極のように利己的な言葉を語っていたあの姿。

マミの言葉で彼女が昔からそういう人間ではなかったと聞かされた上に、幻惑、家族、そして無理心中。キーワードは並べられたが、それを組み合わせて確信に至れるほど、さやかは佐倉杏子の人となりを熟知している訳ではない。

むしろ変に推論を浮かべ、それありきで行動することこそが、偏見を持ち余計な歪みを産んでしまうように感じられた。

 

「………………マミ先輩。今日のところはもう帰ろう。翌日、ほむらに聞いてみるのも手の一つだ。」

「…………そうね。同じ時間を繰り返している彼女なら、もしかしたら詳細を知っているかもしれないわね。ところで肝心の暁美さんは?」

「彼女ならワルプルギスの夜とやらのために腕のある魔法少女をスカウトしに行くと言っていた。場所はーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

風見野。そう言おうとしたところでさやかはあることに気づいた。ほむらが向かったのは風見野市だ。そして佐倉杏子が拠点としているのも風見野市。さらにはさやかが一体どんな人物だと尋ねた時、ほむらはなんと返した?

 

『彼女は、現実的な魔法少女ね。』

 

ここでほむらが言った『現実的』とは?おそらく魔法少女の力を手にしていても変に舞い上がったりせずに、冷静な判断を下し、()()な行動を起こさないことだろう。

 

『この際だから言っておくけどさ!!使い魔なんて言うのは本当は戦うに値しねぇんだよ!!無駄以外の何物でもねぇ!!』

 

「美樹さん!!!!」

「な、なんだ…………!?」

「なんだ、じゃないわよ!!突然顔を青くしたと思ったら…………!!」

 

どうやら考え事に更け込みすぎてマミが自身の体を揺らしていることに気づかなかったようだ。

 

「ワルプルギスの夜ってどういうことなの!?」

 

さやかが口にしたワルプルギスの夜についてマミはものすごい剣幕で問い詰めてくるが、今のさやかにはそんなことより重大で、それでいて思い詰めなければならないことがあった。さやかはマミに目線を合わせると、無表情でありながら顔色が真っ青という奇妙な顔つきでこう答える。

 

「……………私は、非常に不味いタイミングで彼女と険悪な関係を持ってしまったかもしれない。」

 

マミの詰問にさやかは答えるわけでもなく、淡々と、そして細々とした口調で言葉をこぼした。

求めていた答えとはまるで関係がなさそうな言葉が返ってきたことにマミは怪訝な表情を禁じ得ない。

そしてそのタイミングでーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「……………こんなところにいたのね。それにしても、こんな陰気な路地裏でイチャつくなんて、何様のつもり?」

 

噂をすれば影、とはまさにこのことか。

先ほどまでさやかとマミ以外、誰もいなかった路地裏に唐突にほむらの姿が現れる。現れ方にして、時間停止を使っていたのは明白だろう。

 

「……………貴方、その大剣、何?それにこの薄い緑色と水色の光は?」

 

かなり急いできたのか、わずかに上気した息をしながらさやかにそう尋ねる。その質問にさやかはどう答えたら良いのか最適解を導き出すことができずにしどろもどろな様子を見せる。

 

「まさかとは思うけどーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

「赤い槍を持った魔法少女と戦った。なんてことはないでしょうね?」

 

ほむらの質問は要約すると佐倉杏子と戦ったか否か、だ。

その細められた目線から放たれる眼光に思わずさやかは強張った表情を見せながらたまらず視線を横に逸らした。しかし、これでは答えを言っているのと同義だ。

 

「………………すまない。」

 

元はといえば、彼女の忠告をちゃんと聞かなかった自身が悪い。そう結論付けたさやかは謝罪の言葉を一つだけ述べた。その瞬間、路地裏に沈黙が走った。ほむらの目線から顔を背けてしまったさやかはいつのまにか自分から離れたマミの姿が写っている代わりに彼女の表情を窺えない。しかし、空気が冷えた上に張り詰めているように感じられている時点で、かなりご立腹なのは察せた。

 

ただ一秒でも早く、この空間から抜け出したいのが正直なところだった。だが、その一秒がとんでもなく長く感じられた。

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーーハァ、やっぱりこうなるのね。」

 

ほむらの口から出たのは呆れの入り混じったため息だった。確実に余計なことをして怒られると思っていたさやかは思わず目線をほむらに向ける。

 

「……………何も言わないのか?佐倉杏子と戦ってしまったことを。」

「…………そう。巴マミから聞いたのね。でも勘違いしないで。あくまで貴方と佐倉杏子が衝突するのは前例がないわけじゃなかったから。その大剣のことや、この漂っている光の粒みたいのに関しては説明を要求するわ。」

「……………わかった。だがーーーーーーーーーーーーーーーー」

「ええ、今日はもう遅いわ。それに免じて明日にしてあげる。」

「すまない。これに関しては私にもよくわかっていないのが正直なところだ。」

 

さやかが支えにしている大剣を指差しながら言った言葉にほむらは怪訝な表情を見せる。

 

「自分の力なのに、よくわからないの?」

「あまりおおっぴらに言えることではないが、その通りだ。」

 

気まずい表情をしながらそう弁護を立てるさやかにほむらは眉を潜めるが、程なくしてその眉間に寄ったシワが消え失せる。

 

「わかったわ。イレギュラーの塊みたいなこの時間軸の貴方のことね。時間がいるでしょうから明日の放課後、また一緒に下校しなさい。」

「すまない、恩に着る。」

「ねぇ、暁美さん。それ、私も加わってもいいかしら?少し聞きたいことがあるのだけど………。」

 

時間を作ってくれるほむらに感謝を述べるさやかを尻目にマミがほむらに自身もその説明会に混ざってもいいかと確認する。

 

「…………別に構わないわ。それで、その内容は?」

「ワルプルギスの夜に関して、よ。あの子をスカウトしようとしたのも、そのためなんでしょ?」

「………………貴方なら話をわかってくれると思って後回しにしていたけど、それを話すのもいい機会ね。わかったわ。」

 

こうして翌日にさやかの不可思議な力と、ワルプルギスの夜に関しての話し合いの場が設けられることが確定した。

 




今回の戦闘ではGNバスターソードⅡしか、しかもごく一部の機能しか使えなかった…………。
次話からはもっと機能をふんだんに使えるようにしなきゃ…………早く前格特格派生ぶち込むんだよ!!


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第25話  七本の剣と一本の銃

どんどんさっさんが苦労人になっていく…………(白目)


「………………疲れた。」

 

佐倉杏子との一戦を終え、マミとほむらと別れ、ようやく帰路に着いたさやか。元々使い魔を見つけたのも家からそれほど離れていないのが幸いしたが、それでも戦いの疲れが残っているさやかは家の扉を開け、開口一番にそんなことを溢す。

 

「…………また一段と遅いお帰りだな。母さんが待ってるぜ?」

 

たまたま玄関にいたのか、はたまたさやかの帰りを待っていたのかは定かではないが、慎一郎からそんな声がかけられる。

母親を心配させてしまったことはさすがに申し訳ないと思ったのか、さやかは気まずそうに視線を逸らすとーーーーーーーー

 

「すまない。いろいろと事情が立て込んで帰るのがうんと遅くなってしまった。」

「………………そうかい。ま、俺としちゃあお前さんに何事もなければそれでいいんだけどよ。」

 

魔法少女関連のことを言うわけにはいかないため、かなりはぐらかした言い訳をするさやかに慎一郎は肩を竦める仕草を浮かべるが、それ以上の追求はしてこなかった。

その慎一郎の脇を通り抜けながら、さやかは母親の待つリビングへ向けて歩いて行った。

 

「あんま…………母さんを心配させるようなこと、するんじゃねぇぞ…………。」

 

呟かれた言葉はさやかに届くことはなかった。なお、リビングに入った直後、凄まじいスピードで母親である理多奈に抱きつかれ、思わずのけぞってしまうさやかであった。

 

 

 

「……………あまりの疲れに思わず湯船で寝落ちしそうになってしまった…………。」

 

食事を済ませた後に風呂も手早く済ませたさやかは寝巻き姿でベッドの上で部屋の天井を見上げるように横になった。明日は明日で自分が新たに手にした魔法少女としての力の詳細をほむらたちに話すことになっている。少しでも整理をつけるためにさやかは懐から取り出したソウルジェムをみるがーーーーーーーー

 

(…………ダメだ。疲れでろくに頭が働かない。)

 

思考が働かないことにため息を吐き、手近な棚にソウルジェムを置いて、そのまま寝を決め込もうとする。

そんな時、閉じられた自室の部屋の扉をノックする音が響く。一体何事かと思い、訝しげな表情を浮かべながらも上体を起こす。

 

「おう、悪いな。大方寝るところだったか?」

 

ノックの音が響いた扉が開かれることはなく、代わりに向こう側から慎一郎の声がくぐもったもので飛んでくる。さやかはベッドから降り、扉へ向かうと、取手に手をかける。

 

「いや、そうでもないが…………どうかしたか?」

 

取手を下に下げ、ガチャッと音を鳴らしながらさやかは自室の扉を開けた。開けた先にはどこかニヒルな笑みを浮かべた慎一郎が立っていた。

 

「別段、扉越しでも構わなかったんだが…………まぁ、いいか。ちょっと込み入ったことを聞く。言いたくなけりゃあ、話さなくていい。無理に言わせる気もサラサラないからな。」

 

始め見せたニヒルな笑みから一転して、神妙な面持ちで語られた忠告ともとれる言葉にさやかの表情も自然と締まったものになる。

 

「お前の友達のマミちゃんについてなんだけどよ。あの子、なんか妙な厄ネタ背負ってんのか?」

「…………なぜ彼女に関してのことを?」

「…………あの子がウチを訪ねてきたんだよ。お前がいないかって。」

 

慎一郎の言葉にさやかは首を傾げながら思案を張り巡らせる。一応、マミとは顔を合わせている。しかし、学校ではあらかじめほむらから部屋に引きこもっていることを耳にはしていたため、佐倉杏子と戦っている時にマミが現れたのは本当に驚いた。

何故彼女が外をうろついていたのかはわかりかねていたが、自宅を訪ねていたのなら、家から程よく近かったあの路地に彼女の姿があったのは頷けるようになる。

しかし、内容が内容なため、あまり魔法少女の話を慎一郎にするのは憚られるのが正直なところであった。

 

「そん時のあの子、ひどい顔してたぜ?髪はボサついていたし、何より涙の跡があった。俺があの子の家族だったら、そんな格好で外に出させることはしねぇんだけどよ…………。」

 

そう言って慎一郎は気まずそうな表情を浮かべながら、目線を横に逸らした。あまりヅケヅケと入り込めることではないのはわかっているのだが、どうしても気になる。そんな感じの様子だった。

 

「…………実は、以前、あの人の部屋に上がらせてもらえる機会があった。」

「…………話してくれるのか?」

 

語り始めたさやかに慎一郎は驚いた顔をしながらさやかの顔を見つめる。それにさやかは一度話を切り、首を縦に振ると、話を再度進め始める。

 

「その時に、彼女は自身が一人暮らしであることを話してくれた。だが、彼女の部屋は明らかに一人で暮らすにはあまりにも広すぎた。あの広さは家族で住まうことを前提としている部屋の間取りだった。」

 

さやかはそこで一度慎一郎の顔を見た。彼の表情はあまり予想したくないものが巡っているのか、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

 

「…………その時は私も嫌な予感程度で捉えていた。しかし、私は彼女の口から語らせてしまった。彼女の両親が事故で既に他界していることを。」

「ッ……………おいおい、マジかよ…………!!」

「聞くところによると………即死だったらしい。その事故現場で彼女は一人だけ生き残ってしまった。」

 

慎一郎は嫌な予想が当たったと言わんばかりに髪は乱雑にかき分けた。さらに慎一郎はハッとしたように目を見開き、さやかに向き直るとわずかに彼女に詰め寄った。

 

「お前、あの子が一人暮らしをしているって言っていたよな!?中学生がバイトとかできるはずがねぇ。どうやって収入を立てているんだ!?」

「それは……………わからない。」

 

慎一郎の様子にさやかは困惑した様子を見せながらそう答える。僅かに怖がっているようにも見えたその様子に慎一郎はバツの悪い顔をしながらさやかから離れる。

 

「………悪い。少しカッとなった。まだ子供のお前に予想がつくはずがねぇよな。金を出してる定石は…………親戚かそこいらだが、だったら同居すりゃあいい話だ。それすらもねぇとなると…………そんな関係が近くねぇ遠縁の親戚か。」

 

慎一郎はそうブツブツと言いながら思案にふけり始める。その様子とたださやかは見つめているだけだったがーーーーーーーー

 

「…………マミ先輩はこの先も一人だ。今は私やまどかがいてやれるが、それもいつまで続くかわからない。それに、彼女の空いた空白は私やまどかでは埋めることはできない。」

 

不意にそう呟いた。それを聞いた慎一郎は僅かに考え込む表情をうかべると、少しだけため息をついた。

 

「…………知っちまった身だ。できることはやってやるよ。さぁて、お前さんはもう寝な。明日も学校だろ?」

 

そう疲れた笑みを見せる慎一郎だったが、さやかはそれに頷くと部屋の扉を閉めた。それを見届けた慎一郎はもう一度ため息をつくと、上を見上げーーーーーーーー

 

「自分から突っ込んだとはいえ面倒なことになりそうだぜ……………。」

 

慎一郎は参ったように後頭部の髪をかき乱しながらそう呟くと、一階に降りていった。

 

 

 

 

「…………………………。」

 

ところ変わり翌日。何事もない学校の時間が終わり、時刻は放課後。さやかはほむら達と共に下校し、さやか自身の能力とワルプルギスの夜に関することのためにほむらの家を訪れていた。

しかし、さやかの対面の席に座ったほむらは腕を組みながらその前腕部を指で叩いていた。

どうやら苛立ちが隠せない様子のほむらだが、はっきり言ってその原因を作ったのは隣にいた。

 

ほむらから見て対面に座ったさやか。その左隣にはマミが座り、どこから取り出したのか紅茶の入ったカップを優雅に嗜んでいた。

それはさておき、問題はさやかの右隣。そこには何やら決意の固そうな表情を浮かべた()()()の姿があった。

 

「どうしてここにいるの、まどか?」

「その、だな。彼女がついていきた「私がほむらちゃんがどうして私に契約をさせないのか、その理由が知りたいから。」まどか、頼むから私の話を遮らないでくれ。」

 

経緯を話そうとしたさやかだったが、その言葉をまどかに遮られ、なおかつ自身の目的を真正面からほむらに伝えてしまい、そのことにさやかは頭痛の種を見つけてしまったかのように俯きながら額に手を当てる。額を覆っている手を隠しにしながら目線を上に上げ、ほむらの顔を伺うと、鋭い目線を向けているほむらの顔を見ることができた。

 

「……………こういう目をしたまどかはテコでも動かない。それはお前が一番わかっていることではないのか?」

 

若干疲れを孕んだため息を吐きながらそういうとほむらはムッとした表情をしながら押し黙ってしまう。

 

「ねぇ……………ほむらちゃん。やっぱり、教えてくれないの?」

「ッ……………。」

 

まどかの懇願にほむらは気まずそうに表情を歪ませながら視線を彼女から逸らす。

 

「やっぱり、魔法少女になった私はほむらちゃんの経験則、絶対に死んじゃうの?」

「っ!?」

 

まどかの言葉に今度は目を見開き、驚愕といった様子でほむらはまどかの顔を見つめる。

 

「どうして…………そう思うの?」

「この前さやかちゃんが言っていたの。ほむらちゃんが私に契約させないのは、大方その契約させた結末がろくでもないものだったからじゃないのかって。」

 

それを聞いたほむらは再度さやかに冷ややかな、それでいて極限まで細めた白い目を送った。

 

「…………ホントに賢しいわね、貴方。変に賢しいと嫌われるわよ。」

「褒めているのか、貶しているのかどちらかにしてくれないか。」

 

あんまりな言い草にさやかも苦笑を禁じ得ない。少しは文句の一言を添えたかったが、ほむらがさやかに軽い罵倒を浴びせたのちに強張った表情を浮かべているのを見て、さやかは飛び出かけた文句を引っ込ませる。

 

「……………そこの賢しいさやかの言う通りよ。貴方が契約した時間軸では、結論から言うと、世界が滅んでしまったわ。」

 

世界が滅んだ。予想外の結末にまどかはおろか、マミとさやかでさえ、信じられないといったような表情を浮かべた。

 

「ど、どういうこと…………!?鹿目さんが契約しただけで、どうしてそんな大惨事になるのよ………!!」

「ッ……………どう、して…………!?」

「………………魔女化か。」

 

マミが困惑を隠しきれず、語気を強めながら席から立ち上がり、まどかは自分が世界を滅ぼした前歴がある、というのが呑み込めない様子で目を見開き呆然とする。

そんな最中さやかは表情には険しいものが残っているが、冷静にそれに至った要因を口にする。

 

「…………その通りよ。でも、その始まりを作ったのはワルプルギスの夜に他ならないわ。」

「…………マミ先輩。貴方もワルプルギスの夜の存在を知っているようだが、一体どういう存在なんだ?」

「え…………?わ、私に?私も、そんな詳しいわけではないのだけど………」

 

ほむらが頷きながら以前から単語だけが上がっているワルプルギスの夜についての概要をマミに尋ねた。突然話をふっかけられたマミは困惑した様子から一転してキョトンとした顔をしながらおずおずと席に戻り、ワルプルギスの夜について、自身が知っていることを語り始める。

 

「ワルプルギスの夜は主にベテランの魔法少女に知れ渡っている魔女よ。でも、他の魔女とは一線を画する強さを持っている。それこそ、本来魔女は結界に身を隠すのだけど、そのあまりの強さに結界を持たず、悠々と現実世界に災厄として現れる…………そんなところかしら…………?」

「………………結界を持たない?」

「正確に言えば、結界を張る必要がないほど、強力な魔女ということよ。そんな魔女がおおよそ二週間後にはこの見滝原に現れるわ。」

「それは、お前の経験則か?」

 

さやかがワルプルギスの夜が二週間後に現れるのが、ほむら自身の経験則から来るものかどうかを尋ねるとほむらは首を縦に振った。

 

「ワルプルギスの夜が現れた後の見滝原は酷い、なんていう言葉で片付けられるほどじゃなかった。建物は崩れ落ち、地表は捲り上げられて水道管が破裂したのか辺りは一面湖状態。もう、どうしようもないくらい、めちゃくちゃにされるわ。」

「まさに災厄だな…………そんなのが待ち受けているのか。」

「そ…………そんな強い魔女が見滝原市に出てきちゃうの…………!?」

 

マミとほむらのワルプルギスの夜に関する説明で見滝原市にあと二週間ほどでその災厄と呼ばれる魔女が現れると聞いたまどかは目を見開き、その瞳に恐怖を宿す。

マミもほむらの言葉からワルプルギスの夜の強大な力を想像したのか、険しい顔を浮かべていた。

 

「……………一度話を戻そう。何故、魔法少女となったまどかはワルプルギスの夜が要因で魔女化、もとい絶望をしてしまう?」

「簡単な話よ。彼女は優しすぎる。背負わなくていい責任まで背負ってしまうのよ。」

 

そういうとほむらはまどかに悲痛なものを見せ、表情を歪ませた。苦しげなものにも見えたその表情はまどかの息を飲ませるには十分であった。

 

「街は原型を保っていないほど破壊されて、たくさん人が死んで…………普通の人からの目線では、アレは災害としか見られていない………誰も責めることはしないはずなのに………貴方は、背負えるはずのない、背負う必要のない責任を背負って、絶望して魔女になってしまった………もっと救える命があったと、自分に言い聞かせて…………」

 

「だから私は貴方を契約させたくなかった。してしまったら、貴方は魔女となって、世界を破滅に導いてしまう…………!!」

 

自身の心のうちを吐露しているようにほむらの語気は強まっていった。マミとさやかは難しい表情を浮かべ、まどかはやはり辛そうな顔を浮かべながら俯いていた。

 

「………ごめんなさい。少し感情的になったわ。」

「………いや、気にしないでくれ。それでほむら、そのまどかが魔女に成り果ててしまったのは、お前が時間を繰り返した中で何回あった?」

「…………少なくとも、二回よ。一回目はともかく、二回目はーーーーー」

 

『まどかを、撃ったわ。あの子自身から頼まれたとはいえ、私自身の手で。』

 

ほむらはまどかに視線を向けながら、さやかにだけ二回目の時は魔女化寸前のまどかを撃ったことを明かした。

 

「………………いや、話さなくていい。」

 

その念話をほむらがあまりまどかに自分が彼女を撃ち殺したことを話したくないというメッセージと認識し、表面上はほむらにその先を語らせない配慮をさやかは行った。

 

「ねぇ、暁美さん………ワルプルギスの夜への勝算はあるの?」

「……………そのためにも佐倉杏子の力がいるわ。」

 

マミのワルプルギスの夜に対する勝算の話に佐倉杏子の力が必要だと答える。

 

「あの…………その人は………?」

「見滝原市の隣、風間野にいる魔法少女だ。実力もマミ先輩クラスの有力な実力者だ。ただーーーーーーーーーー」

「ただ?」

 

佐倉杏子を知らないまどかに簡単な説明を施したさやかは微妙な表情を上げながら顔を逸らした。その視線の先にはほむらの顔があった。

 

「…………この前、過去の時間軸では私と佐倉杏子は敵対したことがあるみたいなことを仄かしていたな?」

「ええ、そうね。形としては佐倉杏子に貴方が喧嘩をふっかける形だったけど……………。」

 

さやかからの質問にそう答えるうちにどんどん怪訝な表情へと変えるほむら。ほむらから見てこの時間軸のさやかは賢しいが、それと同時に様々なことをちゃんと考えられる思慮深い人間という評価になっている。そんなこの時間軸のさやかが自分から喧嘩をふっかけにいくとは思えない、というのが彼女の心情であった。

 

「……………むしろ、私が喧嘩をふっかけられたのだが………。しかもかなり鬼気迫る顔つきだったぞ、彼女。」

「……………たぶん、貴方の在り方が影響しているのでしょうね。彼女、他人のためとかそういうのは目の敵のような見方をしているような節があったから。」

「正義の味方面した私が大嫌いだと真正面から言われてしまったからな。全く、そんな大層なものになる気はサラサラないと言うのに………。となると、どうにかして彼女が納得してこちらに加わってくれるように考えなければならないだろうがーーーーーーーーーーあまり期待できないと考えた方が懸命だろう。」

 

ほむらの言葉に当て付けもいいところだと呆れたため息を吐きながらさやかはどうにかして佐倉杏子を引き入れるための算段をつけようとするが、彼女が自身を目の敵にしている以上、それは不可能だという結論に至り、難しい表情を見せる。

 

「でも、ワルプルギスの夜を打倒するためには最低限、彼女の力は借りるべきよ。」

 

そう言って佐倉杏子を引き入れることを諦めないほむらにさやかは困り果ててしまう。佐倉杏子を引き入れたところでさやかに当て付けをしているようでは、ワルプルギスの夜以前の問題になってくるからだ。

 

「……………どうしてみんなで仲良くなれないのかな。そうしたらもっと守れるモノもあるはずなのに………。」

「あの子にも、譲れないものがあるのよ。それをわかっているから、美樹さんは難しい顔をしているのよ。」

 

悲痛な面持ちのまどかにマミが声をかける。

 

「マミさん、その人のことを知っているんですか?」

「知ってるも何も、私と佐倉さん、元々パートナーだったのよ?ある時、佐倉さんの方から解消されちゃったけど。」

「そ、そうだったんですか……………!?」

「でも、本当は佐倉さんも美樹さんと同じように他人のために動ける人だった。美樹さんも佐倉さんが仕掛けてきて、戦闘どころではなくなる可能性があるから渋っているだけで、彼女を受け入れること自体を拒否している訳じゃないの。」

 

 

さやかとほむらの討論を眺めながら、マミから語られたことにまどかは悲痛なものから悩ましげなものに変える。完全に彼女の中で懸念がなくなったわけではないが、幾分かはよくなった証左だろう。

 

「ーーーーーーーーーーやはりそれしかないか。」

「それしかないわ。」

「まとまった?」

 

話がまとまったのか、さやかが渋い顔つきを見せ、ほむらは意の決した顔つきを見せながら互いに妥協点を見出した様子を見せる。

マミが声をかけると、ほむらが振り向きーーーーーーーーーー

 

「やっぱり佐倉杏子をこちら側に引き入れるわ。そのためにはどうしてもさやか一人の力で佐倉杏子を打ち負かしてもらう必要があるわ。そのためにひとまず貴方、変身しなさい。」

「……………人使いの荒い奴だ。」

 

ほむらからの催促にさやかは微妙な顔を見せながらソウルジェムを掲げ、装い新たにした魔法少女としての姿に変身する。

 

「か、カッコいい…………!!」

 

全身に装着された大小様々な剣の数々にまどかは目を輝かせながら食い入るようにさやかの姿を見つめる。双肩のユニットから発せられる薄い緑色と水色の光の粒も相まって、その姿はかなり神々しく見える。

 

「…………見た感じだと、七本の剣に一本の銃よね。武装構成。」

「そのようだな。佐倉杏子と戦った時は、この大剣しか使えなかったが。」

 

マミからの言葉にさやかは左肩の大剣を抜き、両手で構える。

 

「それよりも結局この光の粒みたいなのはわかったの?」

「全くだ。どういう効果があるのかさえわかっていない。」

 

ほむらからの質問には首を横に振りながらそう答える。それを聞いたほむらとマミは互いの顔を見合わせた。

 

「となるとーーーーーーーーーー」

「ええ、少し荒療治だけど、考えていることは同じでしょうね。」

「えっと…………二人ともさやかちゃんに一体何させるつもり?」

 

まどかにそう聞かれた二人は顔を見合わせた状態から一転してさやかに目線を集める。急に振り向かれたことに体を強張らせるさやか。

 

「美樹さん、貴方には魔女の単独での討伐をやってほしいわ。」

「自身に備わった力を把握するにはまたとない機会でしょう?」

 

裁判にて言い渡された判決にも等しいその言葉にさやかは渋い顔をしながらも言う通り、ちょうどいい機会であるというのはわかっていたため、若干の嫌々が入り込んだ承諾を見せた。




次回、ようやくガンダムらしく空中戦を行うつもり。それに準じて相手となる魔女も既に決定済みです^_^


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第26話 ハムはスケート靴を履き、さやかはガンダムになる

……………………なんかみんなが公式変態さんのことについて言及するからつい筆が乗っちゃったじゃないか。


雲一つない青く澄み切った空。太陽が見当たらないにもかかわらず明るさを感じさせるこの空間にさやかは思わずある種の清涼感を感じとる。そしてその青い空を彩るが如く、無数もの紐が空を横切り、はためく小さな布きれはさながらお祭りのような気分に誘われる。

 

「……………景色は悪くない。」

「美樹さん?お願いだから気を引き締めてちょうだい。ここはもうふざけていられる場ではないのよ?」

「風景なんか楽しんでいる暇があるのだったら、さっさと目の前のアレを倒してきなさい。」

「が、頑張ってさやかちゃん!!」

 

周りにいたマミ達にそう言われてしまい、さやかは視界に収めながらもまるで見ていないと言わんばかりに認知していなかった存在に自身の焦点を当てた。

青い空とは対照的な黒いセーラー服を身に纏った人の形をした存在。一見するとただの女子学生だが、首から上がまるで虚空のようになく、本来であればスカートから覗かせている足も、どういうわけか代わりに腕がのぞかせていた。さらには両腕も左右合わせて四本もあるおぞましさ。

何よりその体躯も常人の十倍近くの巨体を誇っていた。

 

ここまでくればお分かりだろうが、今現在、さやか達がいるのは魔女の結界、その最深部である魔女の根城である。

 

「……………ほむら。まどかをここにいさせて大丈夫なのか?何より彼女の身の安全を重んじるお前が連れてくるとは思わなかったのだが。」

「彼女にまどかを連れ回すのはやめてほしいと言ったことはあるけど、それはあくまで私の目の届かないところで、まどかを危険な目に遭わせたくなかったからよ。」

「そこは安心してもらって構わないわ。私、結界魔法にもそれなりの自信があるもの。」

 

マミがそういうと胸元から取り出したリボンをたなびかせるといつぞやかにさやかとまどかを囲ったようにまどかの周囲を橙色に発光するリボンの結界が取り囲む。

 

「基本、私と彼女も貴方を援護するつもりではいるわ。できる限り不干渉を貫くつもりだけど。もっともベテランの佐倉杏子の攻撃を防戦一方だったとはいえ凌ぎ切った貴方ならあまりいらないと思うのだけど。」

「…………高く買われたものだ。」

 

ほむらの言葉にさやかは肩を竦めながら前へと進み出る。

 

「まずは、この銃装備から使うか。」

 

表情を引き締めたさやかは右肩の三角コーンのような形状をしたユニットに懸架されてある銃を右手と前腕部で固定するように構える。そのまま息を潜め、標準をフヨフヨと滞空している魔女に狙いを定める。

 

「………………狙い撃つッ!!」

 

決まり文句のような言葉と共に、銃のトリガーを引くとその長い銃身の先にある銃口からピンク色のビームが迸る。その閃光は銃口から途切れることなく魔女へと一直線に向かっていくと、スカートから飛び出ている腕の一本が切断され、眼下に広がる底の見えない青い澄んだ空へ消えていった。

 

「ビーム…………なのか?」

「そのようね。ほら、魔女が気づいたわよ。」

 

ビームというSFチックな代物に思わず驚愕といった表情を見せるさやかにほむらは急かすように声をかける。

さやかが魔女に目線を戻すと、攻撃されたことに怒っているのか身を悶えさせるような様子を見せていた。

その様子を見たさやかは瞬時に銃を右肩に戻し、腰に吊り下げられてあったそれぞれ刀身の長さが違う剣、長い方を右手に、短い方を左手に持った。

 

「接近して、私が牽制をする。」

「ええ、くれぐれも足場には気をつけるようにね。」

「善処はする!!」

 

さやかはそう意気込みながら、細い紐の上を足場にしながら魔女に向かって駆け出した。狙うは本丸である魔女本体。だが、魔女本体も接近するさやかを近づけさせまいとして動き出す。

魔女が着込んでいるスカートがモゾモゾと蠢き出すと、内側から吐き出すようにさやかに向けてナニカが射出される。

射出された物体はなかなかのスピードが出ていたが、さやかはしっかりとソレの外観を認識することができた。魔女本体を下半身だけ切り取り、それをそのままダウンスケールさせたような下半身だけの、使い魔だったのだ。

その使い魔の足にはスケート靴が付けられており、光を反射し、まともに直撃を受けたらただでは済まないと暗示するように足底のブレードを輝かせていた。

 

「ッ……………!!!」

 

その飛んでくる使い魔をさやかは長剣を持った右手を袈裟斬りの軌道で振った。振るわれたさやかの剣は使い魔がつけていたスケート靴のブレードより強度、切れ味がともに上回っていたのか、ブレードごと使い魔を両断した。

 

しかし射出された使い魔は一体にあらず、次々から次へと魔女の本体から無数に射出される。

 

「ぶ…………物量が………押し切られるッ!?」

 

飛んでくる使い魔を両手の剣で斬り伏せるさやかだったが、しだいに捌き切れなくなり、反射的に足場にしている紐を思い切り弾ませ、別の紐へと跳躍をし、仕切り直す。

 

しかし、その跳躍した先の紐でも、使い魔がその上をスケート靴で滑りながらさやかへと迫りくる。

 

>カンニンブクロノオガキレタ‼︎

>ハジメマシテダナ、マホウショウジョ‼︎

>イマノワタシハアシュラスラリョウガスルソンザイダ‼︎

>ソノタオヤカサ、マサシクプリマドンナ‼︎エスコートサセテモラオウ‼︎

 

「私に…………触れるなッ!!」

 

迫りくる使い魔にさやかは嫌悪感を示すように剣を振り下ろした。

彼女が珍しく嫌悪感を示したのも、迫りくる使い魔がいつもとは違って気持ち悪かったからだ。

 

 

「ねぇ、ほむらちゃん。さやかちゃん、大丈夫だよね…………?」

「今のところ、と言ったところね。もっとも彼女の身に危険が迫っても手助けはするつもりでいるから、安心して。」

 

マミが展開した結界の中で魔女に向かって突貫していくさやかを心配そうな目線を向けるまどか。そのまどかにほむらはさやかを助けるつもりではあることを示すように左腕の円盤形の盾を構える。

 

「ところで、貴方は何をやっているの?そんな訝し気な顔で顎に手を乗せる様子を見せて。」

 

一転してほむらは隣に立っていたマミに声をかけた。その時のマミの様子は呆けたものだったが、ほむらに声をかけられる直前には疑問気に首を傾げながら顎を手に当て、いかにも何か考えていたという素振りを見せていた。

 

「あら…………顔に出てた?」

「そうね。見え見えだったわ。」

 

ほむらの指摘にマミは少し恥ずかしかったのか、顔を背けるもすぐさまほむらに向き直った。

 

「美樹さん、自分の力に関して全く見当がつかないって言っていたから、彼女の戦いぶりを見て、何か助言ができることとかないか探していたのだけど……………」

 

そこまで言ったところでマミは先ほどと同じような疑問気な表情を見せながら目線だけをさやかに向ける。

 

「…………あの子の足にも剣が付けられているでしょう?」

 

マミはさやかの膝付近に付けられている刃の幅が広い武装について言及する。

 

「ダガー状の?」

「あれはカタールって言うのよ。ジャマダハル、なんていう別称もあるけど、それは置いておいて、あの子の持っている武装、ほとんどが手持ちで使用する武器なのよね。それを足につけるって…………何か意味があるのかしら?」

「……………蹴ると同時にあのカタールを突き刺す、なんていうのも考えられるわ。」

「そうね。そういう使い方も想定できるけど、やっぱり目を引くのはあの左肩の大剣ね。」

 

マミがさやかの左肩に背負っている大剣に目を向けているのを見て、ほむらの目線も自然とその大剣に向けられる。

 

「美樹さんの身の丈ほどもある巨大な剣。今は足場が紐だから特に問題なく動けているようだけど………仮にこれが普通の地面だったら、確実に剣先が擦ったりして、動きが阻害されることがあるでしょうね。」

「言われてみれば…………重そうだよね、さやかちゃんが持ってる武器って…………。」

 

紐の上を疾走しながら魔女に向かっているさやかだが、マミの言う通り、左肩に装着されている大剣はその状態でもさやかの身の丈近くに達しており、何かの拍子で先端が紐に触れ、切れてしまってもおかしくはない。細い紐の上に立っている時点でそのように危なっかしいと感じてしまうのだから、普通の地面が存在する空間では大剣が干渉して満足に動けない時もあるだろう。

 

「……………あのね、こればっかりは私の推論なんだけど。もしかしたら、美樹さんって空を自在に飛べるんじゃないかって思ってるんだけど………。」

「そ、空を、ですか?」

 

マミの言葉にまどかは驚いたようにさやかを見つめる。反面ほむらは有り得ないものを見るかのような目でさやかを見つめていた。

 

「あの薄い緑色と水色の光にそんな効果でもあるって言いたいの?」

「そうだったら………いいかなぁって…………ほら、魔法って言ったら、やっぱり誰しも一回は考えない?ほうきとかに跨って、空を自由自在に飛び回るとか?鹿目さんもそう思わない?」

 

ほむらにいたいものを見るかのような目線を向けられたマミはしどろもどろになりながらも同意を求めるかのような口調でまどかの方に目線を逸らした。

 

「ウェッ!?わ、私は…………空を飛べるって言うのは、たしかに夢があるかなぁ………鳥みたいに空を飛べるってやっぱり気持ちが良さそうですし………。」

「…………空を自由自在に飛ぶ、ね。」

 

まどかの微妙な表情からの言葉にほむらは呆れた様子を見せながらも今なお前進を続けるさやかに目線を戻す。

 

(空を飛ぶ……………ある意味魔法少女の本懐ね。)

 

そうは思いながら現実的な思考がそれはないと可能性を断ち切ろうとする。

だが、もし、本当にあのさやかが産み出す緑色と水色の光にそんな力があったとすればーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「クッ、やはり捌き切るには…………!!」

 

使い魔を両手に握った2振りの剣だが、人の身に限界があるように捌き切れる量にも限度が生じる。使い魔を絶え間なく射出し続ける魔女にさやかは思わず悪態をつかざるを得ない。

 

(せめて、右肩のこの武装より使い回しのいい遠距離武装が有れば………!!)

 

歯噛みするような表情を見せながら、右肩の銃を見つめる。威力、射程ともに申し分はない武装だが、なにぶん放出されたビームが途切れるまで数秒かかる。

使い魔が絶え間なく飛んでくるこの状況では、その数秒は命運を分ける、かなり致命的な隙になってしまう。

着々とすすめているだけマシだが、それでも不安と焦りが徐々にさやかの心中を染め上げていく。

 

そんな時だった。さやかの不安と焦りに応えるが如く、手にしていた2振りの剣に変化が起こる。

 

右手の長剣は刀身が半回転し、新たに飛び出たグリップ部分から剣から片手持ちの銃に変形したのを想起させ、左手に持った短剣は先端部分が分離し、その分離した箇所からワイヤーを覗かせる。

 

「これは…………!!!」

 

両手の剣が突然変形したことに驚きを隠せないさやかだったが、すぐさま思考を切り替えると新たに飛び出たグリップに持ち替え、飛んでくる使い魔に向け、トリガーを引いた。

 

「貫くッ!!」

 

瞬間、変形させた銃から縦に大きく広がった三日月状のビームが発射され、飛んでくる使い魔を殲滅する。続け様にさやかは足元の紐を踏み込むと、反動を利用して真上へ大きく飛び上がる。

飛び上がった勢いそのままに、さやかは剣先が刀身から外れた短剣を横薙ぎに振るとワイヤーが伸び、剣先が別の紐に巻き付いた。

 

「ターザンの真似事とまでは言わないが……………!!」

 

うまく引っ掛かったことを確認するより早くさやかはターザンのように移動し、また同じ紐に着地する。立ち上がりながらワイヤーの伸びた短剣を振り抜き、元の長さに戻したさやかは再び魔女へと接近を始める。

 

(接近して、一気に叩く!!)

 

スピードをどんどんあげて魔女に接近するさやか。魔女も接近させまいとして、さらに使い魔を射出する。

しかし、さやかも取り回しのいい射撃武装に変わった右手の長剣でそれらを一気になぎ払う。

 

「この距離なら…………!!」

 

視界に映る魔女が見上げるほどまでの近さまでなると、さやかは2振りの剣を腰に戻し、大剣を取り出す。

 

「上昇する!!」

 

紐を力強く踏みつけることで大きく跳躍し、魔女が使い魔を射出する射角から大きく逃れ、魔女の真上を取った。

魔女を見据える高度まで飛び上がったさやかは手にした大剣を上段に構え、大きく振り上げる。

 

「一刀両断ッ!!」

 

その掛け声と共に振り上げた大剣を振り下ろしながら真下へ降下する。高度から振り下ろした大剣が位置エネルギーの力も加わり、避けることができなかった魔女を大きく弾き飛ばし、その巨体に上から下に伸びる斬撃の切り傷を残す。

しかし、魔女の巨体さ故にさやかの身の丈ほどの大剣すら、致命傷にはならなかったようだ。

その証拠に、魔女は声にならないような声を轟かせながらも再びさやかに向けて使い魔を射出する。

さらには使い魔の他に、学校に置かれている机や椅子も混じって射出されるようになっていた。

 

「机に椅子…………!!」

 

使い魔より質量の高い攻撃にさやかは険しい表情を見せながらも大剣から長剣に持ち替え、同じように三日月状のビームを発射し、障害物を消し飛ばしながら接近を始める。

だが、魔女は今度は上半身の四本の腕を伸ばし、手のひらをさやかに向けると、そこから紐のような糸を射出する。

 

「何ッ………!?」

 

突然の魔女自身からの攻撃に思わず反射的にその場の紐から飛び退き、空中に身を投げ出してしまう。

 

(しまっーー他の紐に移動をーーーーーー)

 

周囲を見渡しても、運悪く手近な距離に別の紐はなく、短剣のワイヤーを伸ばしても物理的に距離がありすぎる。

何か手はないかと逡巡している間にもさやかの体は徐々に重力に従って落下を始める。

 

その姿を見たまどかが息を呑み、マミがリボンを取り出し、ほむらが左腕の円盤に手をかける。誰もがさやかの救出に動こうとしたときーーーーーーさやかの視界に緑色のヒカリが映る。

 

『ガンダムーーーーーー』

(ーーーーーーえ?)

 

突然脳内に響く声。思わず素っ頓狂な声を上げる。

 

『お前が手にした力はガンダムだ。』

(ガン………………ダム…………?)

 

まるで聞き覚えのない単語にさやかの脳内は困惑の一途を辿る。しかし、頭に響く声はどこか優しさを感じる口調でさやかに語りかける。

 

『戦争を………争いを止めるための力、それがガンダムだ。お前は…………ガンダムになったんだ。』

 

『ダブルオーならば、この状況から脱することが可能だ。GN粒子を産み出すGNドライヴがお前を空へと飛び立たせることができる。』

 

『すまない。今の俺にできるのはこれが精一杯だ。傍観者の立場でしかいられない。だが、イノベイターへと変革を始めているお前なら、使いこなせるはずだ。未来を、その手で切り開け。』

 

それだけ言うと頭の中に響いていた声は鳴りを潜めた。まるで意味がわからない会話にさやかは困惑の表情を禁じ得ない。

 

(な、なんなんだ、今の…………!!戦争!?争いを止める力ッ!?イノベイター!?話が突拍子すぎて何もわからなかった!!それでもーーーーーー)

 

それでも、さやかにはわかることがあった。自身が纏っているものが『ガンダム』であり、その力で空へと飛翔することが出来ること。

 

(それがわかれば今は十分だ!!あの男の言葉の意味はまた後で考えればいい!!もし、あの男の言葉が全て真実であるのならばーーーー)

 

 

「私に力を貸せーーーーーー」

 

 

 

ガンダム!!!

 




次回、本格的空中戦(土下座)_○/|_ ゴメンナサイ


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第27話 どうやら、私の力には元があるらしい

魔女にずっとやりたかった前格特格派生をぶちこむことができました^_^


「私に力を貸せ!!!!」

 

咄嗟だった故に後先を考えられなかったさやかの跳躍。居合わせた3人が息を呑んだその時、魔女が根城としている空間に響くのはさやかの気迫に溢れた声。その声に諦観といった絶望は存在せず、あるのは現状を脱し、未来へと進もうとする意志。例えその先が不透明であったとしても踏み出していける勇気であった。

さやかのその声に呼応するが如く、これまで彼女の両肩から薄い緑色と水色の粒子を吐き出ているだけだったコーン型の突起物がスライドするようにさやかの背中に回る。

 

そのコーン型のスラスター…………『GNドライヴ』から放出される『GN粒子』………その粒子量はどんどん増大していき、落下するさやかの体を空中で押しとどめる。だが、粒子の放出はそれだけに留まらずーーーーーー

 

「ガンッダァァァァァァム!!!」

 

雄叫びと共に、さやかの体を重力という鎖から解放したかの如く、天高くへと舞い上げる。その速度はさながらロケットのように早く、緑色と水色、二つの色で彩られた二つの円を青い空に残す。

 

「み、美樹さんがーーーー」

「空をーーーーー」

「飛んだ……………!?」

 

さやかが空を飛ぶというかけ離れた現象にマミたちも思わず助けを出そうとした手をとめながら、大きくさやかが飛び上がった空を見上げる。

彼女の姿はもはや米粒のように小さくなり、二つのGNドライヴから放出される粒子を反射しているのであろう光だけが、その所在を知らしめる。

やがて光は僅かにマミたちから見て右に軌道を逸らすと、再び二色で彩られた『OO(二つの円)』を描き、その光を強める。さながらそれは大気圏での空気抵抗で爆発的な光を発する隕石のような輝きだった。

 

「ダブルオーガンダム………争いを止めるための力…………それがこの力の名前だと言うのなら…………」

 

腰に吊り下げられていた2振りの実体剣、『GNソードⅡロング』と『GNソードⅡショート』を手にしたさやかはさらに落下スピードを速めながら魔女へと肉薄を始める。当然気づいた魔女はそれをさせまいとして遥か上空を飛ぶさやかに向けて、掌から糸のような紐を吐き出す。

 

「……………遅い!!」

 

その糸で編まれた弾幕に対し、さやかは半身を翻しながら、バレルロールをくり返すことでその弾幕をすり抜けながら、さらに加速を重ねる。

 

「ライフルモード…………!!」

 

弾幕を突破したさやかは右手に持っていたGNソードⅡロングの刀身を半回転させ、ライフルモードに移行させると、その銃口を魔女を向けて発射する。広範囲に広がった使い魔を一掃するための三日月型の形状ではなく、シンプルに直線に伸びたそれなりに太いビームは魔女に生えている上半身の右腕の一本を易々ともぎ取っていく。

さらにつづけざまにと言わんばかりにさやかは魔女へ肉薄すると左手に持っていたGNソードⅡショートで一閃。もう一本の右腕を切り落とす。

 

魔女の右腕を切り落としたさやかは魔女の真下まで下降すると、大きく旋回し、スカートの下から背後へと回り込む。

 

(…………そういえば、使い魔は何もしてこないのか?)

 

ふと気になった使い魔の妨害。後ろに回り込むついでに周囲を見渡したさやかはそこでわずかに目を見開くような光景を目にする。全ての使い魔がこちらに見向きもしていないのだ。まるで我関せず、もしくは知っていながら意識を逸らしているかのどちらか。

本来魔女は使い魔にとっては守るべき存在であり、生みの親のようなものだ。その使い魔が魔女が打倒されそうになっているにも関わらず、紐の上をスケート靴で滑走している光景にさやかは微かに顔をしかめる表情を見せる。

 

(………………何というか………寂しいな)

 

哀れみ、というわけではないがさやかは目の前の魔女に目線を向ける。魔女は魔法少女の成れの果て。ソウルジェムが穢れきる前は生きていた人間なのだ。どういう願い、思いを持って魔法少女になったのかはさやかに知る術はない。

 

「……………お節介もいいところなのかもしれないが、私はアンタという魔法少女がいたということは覚えておく。」

 

目を伏せ、魔女の背後で立ち尽くすさやか。その様子はさながら黙祷を捧げているようにも思えた。そこで背後にいるさやかに気がついたのか、魔女は身を翻しながらその残った二本の左腕をさやかに向けて振りかぶる。

 

「アンタのことをいまだ探しているかもしれない家族に伝えることもできない以上………なんの手向にもならないだろうがーーーーー」

 

その迫りくる二本の巨腕に対し、さやかはその二本の腕の間を上体をひねりながら滑り込み、流れるように魔女に接近する。

そして左手に持っていたGNソードⅡショートで魔女の胸元をーーーー具体的に言えば、さやかの右肩に懸架されている大剣、『GNバスターソードⅡ』でつけられた縦一文字の傷痕に向けて、その剣先を深く突き刺した。

 

「ハァッ!!」

 

魔女がリアクションを起こすより早く、さやかはGNソードⅡロングを腰に戻し、フリーになった右手に最初に撃った『GNソードⅡブラスター』を手にすると、左手を引き抜くと同時にブラスターの銃身に取り付けられている半透明の実体剣でなぎ払う。

さらにさやかは薙ぎ払ったブラスターを斬り返し、体を前へ前進させると同時に魔女の胴体を両断し、斬り抜ける。

 

「…………………」

 

斬り抜けた先で残心のように振り抜いたブラスターを持ちながら佇んでいるさやかの背後で両断された魔女が爆発を起こし、その死骸が炎に包まれ、焼失する。その爆発の光が反射したのかは定かではなかったが、魔女を両断した後のさやかの瞳はいつぞやか、マミを助け出した時のような鮮やかな金色に輝いていた。

 

 

 

 

魔女を倒したことで結界が揺らぎ始め、元の現実の風景に戻ると、さやかは落ちていたグリーフシードを拾い上げ、離れたところにいるまどか達のところへ向かう。

 

 

「倒しはした…………のだがーーーー」

 

さやかは魔女を倒したことを報告するもその表情はどこか面倒なものを見ているかのようなものを浮かべていた。

 

「美樹さんあなた………空を翔ぶことができたのね………」

「……………どうやら、私の力には元があるらしい。」

 

マミが驚いた顔を浮かべながらさやかが空を翔んだことを称賛するが、肝心のさやかが微妙な顔をしながら自身の力に元が存在していることを告げる。

 

「元…………ですって?」

 

ほむらが怪訝な顔を見せ、眉を潜めながらの聞き返しに、さやかは静かに頷いた。

 

「ガンダム…………と呼ぶらしい。争いを止める、そのための力。私が判断を見誤り、落下しかけたその瞬間、私の脳内に声を響かせてきた存在がそういっていた。」

「ガンダム………………?」

 

さやかが自身が手にした力がガンダムであるという言葉にマミがガンダムの言葉を反芻し、首をかしげる。他の2人も似たような反応だった。

 

「………………それって信じられることなの?貴方の言い方だと突拍子もなく声をかけてきた不審者のようにも見えるのだけど。」

「それは……………わからない。」

 

ほむらの指摘にさやかは困惑した表情をしながら首を横に振る。その様子にほむらは潜めた眉を一層深くするがーーーー

 

「だが、賭けてみる価値はあった。結果を顧みればこの武装の詳細を知ることができたのだからな。」

 

一転して表情を緩め、まるで感謝するように軽い笑みを見せるさやかにほむらは毒気が抜かれたように呆れた目線をさやかにぶつけた。

 

「……………やっぱり貴方は大馬鹿者ね。そんな突拍子もないことを信じられるなんて。」

「ありがとう。最高の褒め言葉だ。」

 

皮肉のような言葉を送るほむらだったが、それを褒め言葉としてさやかに受け止められたことに少なからず府に落ちなかったのか、ムスッとした表情を見せる。

 

「そういえば美樹さん、ソウルジェムの浄化を忘れずにね?あんな動きを見せていたのだから穢れも相当なものよ?」

「それもそうか…………」

 

マミからそう言われてようやく思い出したのか、さやかは魔法少女の状態を解除し、ソウルジェムを元のアクセサリー状に戻した。

 

「さやかちゃん、空を翔んでいる時の姿、とってもかっこよかったよ!!特に魔女を倒した時の決めポーズ!!」

「…………そうやって面と向かって言われると気恥ずかしいからやめてくれ………成れ果てだったとはいえ、私がやったのは人殺しなんだ。」

「あ……………そ、そうだよね………魔法少女のソウルジェムが濁り切って………出てくるのが魔女だから…………そういう………ことになるよね………ごめん………。」

 

最初こそさやかが魔女を打倒したのを自分のことのように喜ぶまどかだったが、さやかが自身のやったことは人殺しと相違ないというニュアンスの言葉を聞いて、まどかはハッとした表情を浮かべたのちに心痛なものに変え、俯いた。

 

「…………やはりまどかは優しい心の持ち主だ。だがそれ故に魔法少女になるのはやめておいた方がいい。」

「………………そうなの?」

 

納得したような笑みを浮かべるさやかに今度は不思議そうな表情を浮かべるまどか。

 

「私が自身がやっていることを人殺しだと揶揄ったくらいで今にも泣きそうだ。それでは先が保つはずがない。まどかだって、自分が魔女化した所為で見滝原の町を壊したくはないはずだ。」

「それは………そうだけど………」

「才能があることと契約した先、やっていけるだけの適性があることは全くの別問題だ。才能があったとしても自分自身が追いついていかなければ、いずれ潰れる未来が待っている。」

 

そういうとさやかはまどかの額に親指と人差し指で円を作った右手を向ける。一瞬何をするつもりかと思ったまどかだったが、次の瞬間ビシッとさやかがデコピンを放ち、まどかの額からスコーンッといい音を響かせる。

 

「あうっ!?」

 

思わずのけぞったまどかは一歩後ずさるとデコピンされた額を抑え、薄く目尻から涙を浮かばせながらさやかを見つめる。

 

「それに、魔法少女になっている人間は大抵が契約による願いしか、残された手段がなかった、どうしようもなくなってしまった人間がほとんどだ。もちろん、それには私も当てはまる。そんなところにまどかを巻き込みたくないのが、私の正直な思いだ。」

「で、でも……ひ、ひどいよ…………急にデコピンなんて…………」

「……………陰湿な空気にはしたくなかったからな。」

「ええ……………それだけ?」

「それだけだ。」

 

そう言ってさやかは得意気な表情を見せる。そのさやかの様子にまどかは軽く肩を竦めるような仕草を浮かべ、怒った顔つきーーーとはいっても、本当は全く怒りの感情などはないのだろうがーーーで詰め寄った。

 

 

(………………いいえ、貴方はそのどうしようもなくなった人間には当てはまらないわ。美樹さやか。)

 

さやかとまどかのやりとりを一歩引いた位置から見つめるほむら。

ほむら自身が自覚している通り、さやかはいわゆる手段が契約以外、どうしようもなくなってしまった人間には当てはまらない。ある意味、そうさせたのはほむら自身だ。さやかが契約するきっかけとなった魔女については決して初見の相手ではなかった。しかしこれまでの時間軸の中では既に倒されたか、戦力過多気味で秒殺してしまったパターンがほとんどであり、今回ではそれが完全に仇になった。

 

下手を踏み、記憶の中にあるまどかが死ぬ光景を見させられたほむらは視線を釘付けにされ、あろうことか魔女の目の前で固まってしまうという明確な隙を与えてしまった。

 

その状況を察したさやかは動いた。ここで動かなければみんな死ぬ。マミの援護も望めない。残された手段は、誰かが契約して魔女を打破するのみ。

だからさやかは契約した。ほむらのまどかを契約させる訳にはいかないという意志を汲んで、いつもの時間軸のように上条恭介の腕を治すためではなく、友人のため、まどかのためーーーー何よりほむら自身を救うためにーーーー

 

(…………貴方は考えなしよ、美樹さやか。そこは他の時間軸の美樹さやかと変わらない。でも…………)

 

記憶の中でとある時間軸の『美樹さやか』が投影される。大体の時間軸ではほむらに対する『美樹さやか』の第一印象は良くない。元々説明するつもりはなかったのはあったものの、誤解に誤解を重ね、ある日剣を向けてくるほど関係が劣悪になった時もあった。

 

だが、この時間軸のさやかはまるで違う。

 

(それでも、貴方は信じた。他の『美樹さやか』が信じなかったことを、言葉に嘘がなかった。たったそれだけで信じてくれた。)

 

もっとも、この時間軸のさやかはとびきりお人好しかと言われればそういうわけでもない。どういうわけかは知らないがキュウべぇに対して、第六感ともいえる所感でアレから紡がれる都合のいい言葉に対して疑いを持っていた。

 

(やっぱり、今回の美樹さやかはほとほと異常ね。これまでのパターンがまるで通用しないわ。まぁ、それで救われている面がほとんどなのだからとやかくいうつもりはないけど)

 

 

「………………ん?」

 

ふと何かが目についたのか、首を傾げているようなさやかの声にほむらは目線を彼女に向ける。

さやかは手のひらに乗せたソウルジェムを見つめて、首を傾げていた。その周囲には同じように覗き込んでいるまどかとマミの姿もあった。

 

「…………マミ先輩。ソウルジェムの穢れはおおよそ魔法少女として行動することで増大するはずだな?」

「え、ええ…………そうだけど………」

「…………戦闘の割に、ソウルジェムの穢れが少ない気がする。」

「……………見せてもらえるかしら?」

 

マミにそう尋ねるさやかにほむらがそう持ちかけ、さやかはソウルジェムを手渡した。

 

(…………………………何気なく言ったけど、よくもそう易々と渡せるわね。)

 

さやかのお人好しの度合いに軽く頭を悩ますほむらだったが、別に害を成すつもりも微塵もないほむらは手渡されたソウルジェムに視線を集中させる。ソウルジェムの中に産まれる穢れは確かにあるものの、ソウルジェムの輝きそのものを覆い隠すほどはなかった。

 

(確かに戦闘の割には穢れが少ないわね…………あんなに様々なことをしていたのなら、相当溜まっていてもおかしくはないはずなのだけど………)

 

さやかが手にしたガンダムという力、その力はそれなりに戦闘経験を積んでいるほむらから見ても破格そのものだった。高威力の遠距離武器に複数の格闘兵装。何より、空へと飛翔することさえできるのであれば、使われる魔力も相当なものだろう。

考え事をしていたほむらだったが、ソウルジェムの穢れを見つめていると、ふとあることに気づく。

 

(…………穢れの大きさが一回り小さくなった?)

 

さやかのソウルジェムについていた穢れが少し前に見たときより縮小しているように感じられた。

そのほむらの認識は間違いではなく、穢れの大きさは時間と共にどんどんとその面積を小さくしていき、最終的には穢れそのものが元々なかったかのように跡形もなく消滅した。

 

『…………………』

 

グリーフシードを使用したわけでもないのにも関わらず、穢れが消失したという出来事にほむらも含め全員が驚いた顔をしながら顔を見合わせる。

 

(ど…………どういうことッ!?!ソウルジェムから自動的に穢れがなくなるなんて聞いたことないわよっ!?)

「穢れが………消えた?」

「き、消えたわね…………まさか、魔力が回復したの?」

 

明らかに有り得ない状況にほむらの思考も混迷の一途を辿る。さやかとマミもついていけていないのか、ほむらと似たような困惑しているような表情を見せる。

 

「………………おそらく、それであっているでしょうね。ソウルジェムに穢れが産まれるのは大きく分けて二つ。感情の揺れ幅と単純に魔力の浪費」

 

マミがポロっとこぼした言葉に賛同しながら、ほむらはこの現象に対しての考察を述べると、さやかにその驚愕に満ちた目線を向ける。

 

「今この場で、貴方が絶望しているとは思えない。なら、魔力が自動的に回復した、と考えるのが一番妥当なところね。はっきり言うと、かなり異質よ」

「……………ちなみにだが、お前が巡り歩いてきた時間軸の中で、前例は?」

「ないからこそ異質って言ってるのよ?」

 

何を当たり前のことを言ってるんだと言わんばかりにほむらにそう返されたさやかはため息を吐いた。

 

さながら自分はどうやらとんでもない力を授かってしまったと思っているかのような態度であった。

 

 





実は、原作本編終わった後にマギレコの話とかみたいですか?
私わんたんめんはマギレコ未プレイな上にやるにあたっても多少設定とかいじるんですけど……………


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第28話 そんな安っぽいものではない筈だ

アニメのホーリーマミさんつよすぎぃ!!

え………いやなにその弾幕…………ちょっとちびりそうなんですけど(白目)






「……………一度、貴方に関してのことを適当に並べましょうか」

 

魔女を倒し、自身の力についての詳細をある程度は把握したさやか。

しかし、その明かされた詳細が詳細だったために、一度情報の整理が必要と判断したほむらがどこか集まれる場所はないかと提案する。

そこで名乗りを上げたマミが彼女の部屋に移動することになった。もちろん、まどかも一緒にだ。

 

今はマミの部屋に上がり込んで、彼女の出す紅茶を少し嗜んだところで、ほむらが切り出し始めたところだ。

 

さやかの手にした力…………彼女曰くガンダムと呼ぶらしいその力は他の魔法少女とは一線を画すようなものであった。

 

さやかの基本武装は剣だ。もっとも銃剣のようなものがついたGNソードⅡブラスターという遠距離武器があるも、それはマミがリボンからマスケット銃を生成したり、佐倉杏子が槍の持ち手を鎖にして打撃武器としても活用していたため、応用武器の範疇にはギリギリ入るだろうが、脚部のカタール、腰に取り付けられた長さの違う2振りのGNソードⅡ、そして左肩の大剣GNバスターソードⅡ。全て装備した姿は見るものになかなかに殺意が高いように見えてしまうだろう。

 

「…………武装が近距離に寄ってるけど………普通に万能型ね。腰回りの2振りには射撃ができるように形態が変えられる機能がついているのでしょう?」

 

そう感想をつぶやいたのはマミだ。さやかの腰部の2振りの剣は両方とも刀身を半回転させることで覗かせる銃口から射撃ができるライフルモードが搭載されている。

 

「そうなる。しかも長い方にはサブグリップがついていて、ブラスターほどではないが比較的長距離から精密射撃ができる。短剣の方も、剣先を射出することでアンカー代わりにもなる優れものだ。その代わり…………」

 

さやかはそう言って立ち上がるとソウルジェムを掲げ、一瞬だけ青い輝きを発すると魔法少女…………というよりダブルオーガンダムの武装を展開する。

 

「見ての通り、この姿になる前の騎士甲冑への姿へは変身できなくなっている。それに関しては別に構わないのだが、以前は比較的無制限だったサーベルの召喚がそもそもとしてそれ自体ができなくなっている」

「つまり…………別に進化したっていうわけではないのね」

「進化というより…………変革したと言った方がこの際正しいかもしれない」

「変革…………ね。確かにその方が言い得てるかもしれないわね。魔力が自動的に回復するなんて、聞いたこともないし」

 

さやかが自分自身が変革したという言い振りにマミは頷きながらも考え事をする様に頬杖をつく。その目線は展開したダブルオーガンダムの両肩のGNドライヴに向けられていた。いわずもがな、ドライヴから放出されている粒子が気になっているのだろう。

 

「やはり魔力の回復に目がいくのか?」

「…………そうね。空を自在に飛び回ることでさえ異質なのに、その上魔力の回復なんて、異質を通り越して異常よ」

「そ、そうか…………」

「それはそうでしょう、美樹さん。だってグリーフシードのことを全く考えないで行動できるのよ?他の魔法少女が聞いたら眉唾物よ?」

「それも…………そうか…………」

 

ほむらとマミから同じようなことを言われてしまい、さやかは肩身が狭そうな思いを抱く。そこから先ほどもほむらとマミから小言のようなことを言われてしまい、流石のさやかも少しばかり居心地が悪そうに表情を渋いものに変える。

 

「……………その………風見野市にいるっていう杏子ちゃんっていう魔法少女のことはどうするの?」

 

その状況を見かねたのか、まどかが話題転換として佐倉杏子の話題を出した。救いの手が出されたことにさやかが助かったと言わんばかりに表情を朗らかにし、マミとほむらはお互いの顔を見合わせる。

 

「そうね………やっぱり貴方に対応してもらう他はないわね。彼女の実力は私も目をつけている。ワルプルギスの夜との戦闘でも頼りになるはずよ。でも何より…………彼女自身、貴方を今のところ目の仇同然の標的と捉えている以上、その軋轢を取り払ってもらわないとそれ以前の問題になってくるわ」

「それは…………マミ先輩からの目線でもか?」

 

ほむらから佐倉杏子との間に生まれた確執をどうにかしないとワルプルギスの夜どころではないと言われたさやかは彼女のかつてのパートナーだったと仄かしていたマミに詳細を尋ねた。

 

「……………確かにあの子の実力はかなりのものよ。彼女と仲違いした時、私にあの子を傷つける勇気がなかったとはいえ、思い切り負かされたもの」

「マ、マミさんが打ち負かされるほどの実力者……………!!」

 

さやかの言葉にため息を吐き、思い悩むような表情を見せるマミからの返しにまどかは戦慄してしまったような顔を浮かべる。

 

「でも、センスに関してはこの時間軸の貴方は佐倉杏子に劣ってはいないでしょうね。他の時間軸の貴方だったら、まだ生まれたてもいいところで防戦一方だったから」

「防戦一方だったのは変わりなかったはずだが…………」

「いいえ、それは違うわ。貴方は彼女の攻撃を防ぎ切った。でも他の時間軸では佐倉杏子曰く三週間は病床につくほどの重傷を負わせたと言っていたわ」

「それじゃあ…………他の時間軸の美樹さんは、そこから先はベッドで寝込んでいたの?」

「いや、それはない。ほむら曰く他の時間軸の私は悉く魔女化して死んでいるらしい。私であれば、恭介がいる病院で魔女化するつもりはない。アイツに危害を加える可能性が高い。なんらかの手段で復帰したと考えるのが筋だ」

「ハァ……………あまり話に関係はなさそうだけど、別に隠すことでもないから話すわ。他の時間軸の美樹さやかの願いはほとんどが上条恭介の指を治すことだった。そして、魔法少女の使える魔法は願いにもある程度結び付けられるの。」

 

マミの疑問にさやかがその可能性は低いと言うように自分だったら絶対に恭介の入院する病院で魔女に成り果てるつもりはないと言い切る。

その様子にほむらは呆れたため息を吐くと魔法少女の願いと得意とする魔法の相関性を話した。

 

「その理論で予測を立てるならば……………治癒魔法か?」

「ええ、そうね。彼女の傷が治るスピードが段違いになっていたわ。それこそ、全治三ヶ月ほどの重傷をその場で治してしまうほどのね」

「……………そう聞いてしまうとそっちの方が異質ではないのか?いや、魔法なのだからいちいち言及するのは野暮というものなのだろうが…………」

 

ほむらの言葉にさやかは訝しげな表情を見せながら手元の紅茶に口をつける。他の美樹さやかの領分とする魔法が回復なので有ればある程度のこじつけで魔力の回復も可能なのかもしれない。以前、キュウべぇから聞かされたほむらが時間遡行を繰り返す度についてきた因果の束がこの時間軸のさやかにも影響を及ぼし、他の時間軸の美樹さやかの力が使えたなどという話もあながち否定できない路線にもなってくる。

 

「でも……………それだと今回のさやかちゃんの魔法は違うんじゃないかな?そもそもとしてさやかちゃんは願いを叶えていないわけなんだし…………」

「魔法少女としての形はなしているのだし、得意な魔法も何かしらの形になっているんじゃないかしら?」

 

そこでまどかが首を傾げながらほむらの言葉に疑問を呈したが、マミが同じように首を傾げながらもまどかの言葉に少々思い悩みながらも持論を投げかける。

 

「……………ほむら。佐倉杏子が現れる場所などの目星はついているのか?」

「え……………そうね…………ゲームセンターとかそのあたりだったわ」

 

そんな中、さやかは唐突に話を佐倉杏子に関してのことに戻すと、ほむらに彼女が頻繁に現れる場所を尋ねた。そのことにほむらは一瞬呆けた表情を見せるもさやかに佐倉杏子がよくいる場所を伝える。

それを聞いたさやかは立ち上がると帰る支度を始めた。急にさやかが帰る準備をしだしたことに周囲の3人は困惑したように見つめる。

 

「今日は久しく恭介の見舞いに行くつもりだったんだ。突然なのはすまないが、最低限のことは話せたはずだろうから、私は先に帰らせてもらう」

 

そう3人に断ると、さやかは身支度を整えた鞄を担いで玄関へと向かう。

 

「美樹さん!!」

 

そんな彼女を心配そうな顔を浮かべるマミが一度呼び止める。ちょうど靴を履こうとし、指を踵と靴の間に押し込んでいたさやかはその作業と並行しながらマミの方を振り向いた。

 

「佐倉さんのこと…………お願いするわ。本当だったら、私がやるべきことなんでしょうけど…………」

「………………貴方が気にする必要はない。元々向こうから喧嘩を売られたものだ。それにどう応えるかどうかは私の勝手だがーーーー」

 

気まずそうに佐倉杏子のことを頼むマミにさやかは軽く笑みを見せると視線をマミの奥にいるほむらに向けた。

 

「彼女が善人だったのは………マミ先輩、貴方の言葉で認識している。それに、嫌っているということは、どうであれ私の在り方が気がかりになっている証拠だ。無関心でいられるより取りつく島はある」

 

さやかはそこで言葉を区切り、玄関のドアを開け放つ。

 

「それと紅茶、ご馳走になった。また機会があれば、誘ってくれ。」

 

さも平然と、日常を感じさせるような次の機会の約束を取り付ける言葉を最後にさやかは部屋を飛び出ていった。

 

「……………………」

 

そのさやかの後ろ姿をほむらは怪訝な顔をしながら見つめていた。

 

 

 

 

マミの部屋から出ていったさやか。その足取りは恭介が入院している病院に向くことはなく、あてもなく適当に歩き回っていた。しかし、ちょうど人気の無さそうな裏路地を見つけると一瞬だけ周囲を見渡し、まるでそこに誰かを誘い入れるようにさやかは足を踏み入れる。

 

「…………姿を現したらどうだ?お前が見ていたのはお見通しだ」

 

そう言って視線の先に広がる裏路地の空間に声を響かせる。そこは真っ暗闇だったが、少しすると表の光がわずかに差し込んでいる部分に小さな影が入り込む。

 

「やれやれ…………すっかり嫌われたものだね」

「……………自業自得なだけだ。話すべきことを話さなかった、お前の怠慢だ」

 

現れた白い影ーーーキュウべぇにさやかは鋭い視線を向けながら吐き捨てるように言葉をぶつける。

 

「で、今更何の用だ?合理性を突き詰めた生命体で有るお前が意味もなくこちらの様子を伺いに来るはずもないだろう」

「そうだね。でも、その用というのは君自身、本当は察しているんじゃないのかい?」

「……………………」

 

キュウべぇからそう言われたさやかだが全くその通りでキュウべぇが自身を尋ねてきたのは十中八九、ガンダムのことだろう。

 

「魔法少女が魔女に変わる瞬間は何回も見てきたけど、全く別の存在に変化したのは君が初めてだ、美樹さやか」

「残念だが、お前にそう言われても嬉しいという感情は湧かないな。むしろ面倒だ」

 

そう言って白い目を向けるさやかにキュウべぇはその能面の顔を下に向けるとため息のような声を上げ、肩を竦める。

 

「君が新たに手にした力…………確か、ガンダムって言ったのかな?あれを手にしたとき、君は誰ーーーーいや、どんな存在と接触したんだい?」

「接触……………?」

 

キュウべぇの言葉にさやかは眉を潜め訝しげな表情を見せるが、キュウべぇが言っていることがガンダムの力を手にする直前、脳内に響いてきた声の主であることを察する。

 

「まぁ……………ヒトじゃないのか?少なくともお前よりは話が通じる存在だとは思っているが」

「……………本当にかい?」

「なら逆に聞くが、お前はどう思っているんだ?」

「ボクかい?ボクは少なくとも人ではないと思っているよ。ボクと同じような別の惑星の生命体さ。仮に人だとすれば、人間個人に干渉できるほどの正確性を持つ技術なんて、人間にできるとは思えないからね」

「お前は私達地球人をどう思っているんだ…………」

 

呆れたようにため息を吐きながら、まるで人類を下に見ていると思える発言にさやかは苦言を呈す。

 

「有史以前からボク達インキュベーターは人類と関わりを持ってきた。もしボク達がいなかったら人類は今も洞穴の中で生活していたんじゃないのかな?」

 

さも当然というように人類は自分たちが導いてきたという傲慢な言い草にさやかは思わず苦虫を噛み潰すような表情を見せる。

 

まるで自分が創造主であると思っているような口ぶり。何故だかさやかには心を締め付けられるようなもどかしい思いに襲われる。ただ、その理由は自分自身でもわからなかった。

 

「……………お前のそのエゴが、世界を…………未来を………人を、歪ませる…………」

 

独白のようにポツリと呟くと路地の奥にいるキュウべぇから踵を返し、用は済んだと言わんばかりにその場を後にしようとする。

 

「美樹さやか、君は魔法少女の理から外れた人間だ。自力でなのかは定かではないにしろ、魔力が事実上の無制限なんてボク達も聞いたことがないからね」

 

「でもただでさえ魔法少女の時点で人の枠を外れているというのに魔法少女の枠からも外れるなんて、君は本当に人でいることができるのかい?」

 

人でいることができるのか、そのキュウべぇの問いかけにさやかは進めていた足を止め、顔だけキュウべぇに向ける。

 

「人を人たらしめるのは…………そんな安っぽいものではない筈だ」

 

それだけ言い残してさやかは再び歩き出し、光降り注ぐ街中へと戻っていった。

 

「……………とてもボクにはそう思えないな。わけがわからないよ」

 

キュウべぇは顔をわずかに俯かせるとさやかと同じように踵を返し、裏路地の闇に消えていった。

 

 

 

 

「美樹さやか、貴方……………」

「ほむら……………?」

 

路地を後にしたさやかだったが、出た直後に彼女を追いかけてきたのかほむらと鉢合わせてしまい、思わず驚いた表情を見せる。険しい顔つきを見せる彼女にさやかは気まずそうに頰をかく仕草を見せる。

 

「気づいていたの?インキュベーターが盗み聞きをしていたこと」

「まぁ………目線を感じただけだったのだが…………」

 

乾いた笑みを浮かべ、まるでいたずらがバレたときのような反応を見せるさやかにほむらは呆れたため息を吐き、細めた目線をさやかにぶつける。

 

「インキュベーターから言われたこと、貴方気にしてないの?」

「……………気にしているかどうかで言われればそういうわけではないのだが………だが、奴らの介入がなければ人類は今なお原始人同然の生活を送っていたと言われたのは流石に癪に障ったな」

 

インキュベーターの言い草に珍しく怒っているような表情を見せたさやかにほむらはじっとその様子を見つめていた。

 

(…………魔法少女の理から外れた…………それがどういう結末を生むのかは私にもわからない。)

 

(でも、もしかしたら…………この時間軸の美樹さやかなら、成し遂げられるのかもしれない。)

 

 

(見滝原の町も、まどかを含めた魔法少女のみんなを助けられる未来をーーー)

 

 

最初こそ、大事な親友であるまどかだけでも助けたかったほむら。その思想もいつかのように一度は挫折した、全員を助けたいと願う希望に戻っていた。

 

 

 




とある感想から思い至り、さっさんがマギレコに出てきたときのステを考えてみた。

美樹さやか(もう一つの対話の形)

タイプ:アルティメット

EXスキル:ターンの初めに味方全体のマギアゲージ10%アップ

ディスク配分:アクセル×2 ブラスト×2チャージ×1

コネクト:GNフィールド………対象に防御アップにダメージカット付与

マギア:自身に攻撃力アップ〈単体、5ターン〉
     自身に無敵付与〈三回、5ターン〉
     自身に自動回復〈1000、5ターン〉
     敵単体にダメージ〈Ⅴ〉 

ドッペル:味方全体のHP回復(5000)
     自身の攻撃力アップ(Ⅷ)
自身に無敵付与(三回、5ターン)
     味方全体のディスク効果アップ(3ターン)
     味方全体のマギアゲージをリチャージ(25%)
敵全体にダメージ〈Ⅹ〉

……………………盛り過ぎ?未プレイだからなんとも言えませんが………ちなみに参考にしたのはマギレコのアルティメットまどかとfgoのマーリン。


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第29話  それだけは………変えられるものか!!

さやかちゃん+せっさん=愚直なまでに真面目な顔をしながら馬鹿をする人間


沈み込んだ靴の踵を引っ張り出し、身支度を整える。珍しくいつもの見滝原中学の制服ではなく、年頃らしくカジュアルな私服に身に包んでいた。それは今日が学校に登校する必要のない週末だからだ。

普通の学生であれば、週末は友人と共にどこかへ遊びに行くか、家で惰性を貪るか、はたまた勉学に勤しむか。

どうであれ、日頃の疲れを癒すような行動を取るだろう。

だが、さやかはそのどれでもない理由のために家の外へ向かう。

日付はほむらが語ったワルプルギスの夜が現れる四日前、さやかはその最後の週末を迎える。

 

「じゃあ、行ってくる。」

 

玄関に立ったさやかがそういうと少し離れたリビングからそれを送り出す慎一郎と理多奈の声が返ってくる。なんでもない日常だが、それが場合によってはもう二度と見れないかもしれないと頭の片隅でおもいながらさやかは家の扉を開け放った。

 

 

 

(さて、今日で佐倉杏子を引き込めるといいのだが……………)

 

家を出たさやかは難しい表情を浮かべながらひとまず彼女が根城としている風見野市に向かう。見滝原から風見野へ赴くにはバスが一番手っ取り早いため、バス停へと足を運ぶがーーー

 

(まぁ、時刻などろくに調べていなかったからそんな都合がいいことはないか。)

 

バス停についた瞬間にバスがやってくるなどという都合がいいことはなく、バスの到着時間を告げる時刻表代わりの電光掲示板はその時間がまだまだ先であることを示していた。

それに関して、別に思うものはなく、単純に自身の怠慢と判断したさやかはバスが来るまでの間、停留所のベンチに腰を下ろしてバスを待つことにした。

 

今はまだ見滝原の随所で桜のような木々が咲き乱れる中、春先らしい暖かな風が、本来の『美樹さやか』より長く下されたさやかの髪をたなびかせる。

 

その暖かな風にまだ午前中という時間も相まって、わずかに船を漕ぎ出しかけるさやかだったがーーーーー

 

「呑気なものね。こっちは連日対策を講じるので忙しいというのに。」

「ンンッ!?」

 

背後から突然聞こえてきた声にびっくりして体を強張らせると、勢いよく振り向くさやか。そこにはベンチに腰掛けていたさやかを冷えた目線で見下ろしているほむらの姿があった。

 

「……………ほむらか。偶然だな。」

「ええ、ほんとにね。」

 

適当な挨拶をしたさやかにほむらが適当に言葉を返すとさやかの隣に腰掛ける。たまたま鉢合わせたのと、お互い特に話の種などを持ち合わせていなかったのも相まって、2人の間でどうしようもない沈黙が走る。

 

「………………行くのね、風見野に。」

「…………向こうは私を目の敵のように見ている。だが、彼女の力が必要なんだろう?だったら私が尽力をするしかないのは事実だ。話を聞く耳を持ってくれればいいのだが…………何か妙案はないか?何回も同じ時間軸を繰り返したお前なら何か知ってるんじゃないのか?」

 

バス停にいるさやかを見て、ほむらは彼女が風見野に赴くのだと思ったのか、確認するように声をかける。それにさやかはこれ幸いとしてほむらに佐倉杏子のことについて詳細を知らないかと尋ねる。

しかし、ほむらからの返答はなかった。それが気になったさやかは隣のほむらに顔を向けるとどこか思い悩んでいるように暗く影を落とした彼女の表情が目に入った。

 

「……………何か、佐倉杏子に後ろめたいものでもあるのか?」

「いいえ…………彼女にはないわ。」

 

思い悩んでいる様子ながらもさやかの質問に首を横に振るほむら。それにさやかはそうか、と一言だけ言葉をこぼしてベンチの背もたれにもたれかかる。

 

「………………情けないわね。」

 

吐き出すように出たほむらの弱気な言葉にさやかは怪訝な顔を見せながらほむらに視線を送る。

 

「以前までは、おおよそこの見滝原で起こることは記憶していたから、私の行動もいずれ起こるであろう出来事に対してどう対応するのかがほとんどだった。」

 

独白にも等しいソレだったが、さやかは口を挟むことなく、姿勢を軽く動かす程度に抑えて彼女の話を神妙な面持ちで聞いていた。

 

「でも、この時間軸ではこれまでのパターンが通用しない。貴方が私に対して好意的にしてくれるだけで、全く違う展開になっている。辛うじてワルプルギスの夜がやってくる時期に誤差がないのは救いだったけど。」

「…………それは、お前が話すべきことを話してくれたからだ。」

「だからこそよ。」

 

若干食い気味に飛んできたほむらの言葉。その言葉の節々には強いモノが含まれていたことを感じ取ったさやかは疑問を抱きながらもとっさに口を噤んだ。

 

「いつもの時間軸の貴方には勝手に敵対心持たれて、勝手に契約して、勝手に突っ走って、勝手に自己完結して、勝手に魔女へ成り果てて…………散々だったのよ…………!?」

「……………く、苦労していたんだな………」

 

どんどん語尾が強くなっていくほむらの様子に余程フラストレーションが溜まっていたんだと思いながらも自身に限りなく近く、限りなく遠い存在である『美樹さやか』に一体何を履き違えたらそんなにひどくなる、どうしてそうなると苦笑いを浮かべながら思わず自らに問いかけてしまう。

 

「正直言って、美樹さやかの生存はもう諦めかけていたわよ。何度やっても大体はおんなじことの繰り返し。そこにきてあなたよ、あなた。」

「え…………私か?」

 

ほむらの口ぶりにその怒りのような感情の矛先がこちらに向けられることを察したさやかは思わず飛び出た面倒くさそうな表情を隠しきれずにいた。

 

「この際だからはっきり言うけど、ここまで聞き分けの良いあなたに会うなんて、それこそ夢にも思っていなかったわ。まぁ、勝手に行動に移された面が全くない訳ではなかったけど。」

「…………今更言い訳を重ねるつもりはないが、すまなかったな。」

 

ほむらの言う勝手に行動に移されたと言うのが魔法少女の契約をしたことを示していると思ったさやかは謝罪の言葉を口にする。

 

「いいえ………貴方の言う通り、あそこで契約してくれなかったら、私もまどかも死んでいた。貴方は正しい判断をしたのよ。貴方がこの前、私を宥める時に言っていた、この時間軸で終わらせる決断も含めて。」

 

ほむらの言葉に合点がいかなかったのか、不思議そうな表情を見せながら首を傾げるさやかにほむらは細めた目線を向けたのちにため息をついた。

 

「もう…………自信がないのよ。貴方というイレギュラーを知ってしまった以上、もう私は『美樹さやか』という人間を今まで通り見ることはできない。多分、私は貴方と『美樹さやか』を比較し続けるでしょうね。結局のところ貴方、人間できすぎなのよ。」

「ええ………………」

 

そう軽い笑みを見せるほむらだったが、それにたいして遠回しにだが、お前のせいだ、みたいなことを言われたさやかは困惑の表情を一切隠すことをしなかった。その時、いつのまにかバスの定刻になっていたのか、エンジン音を響かせながらバスがやってきた。

 

「…………まぁ、この先やっていける自信がないなら、死に物狂いで足掻くしかないだろう。お前のその果てしない旅が終着駅にたどり着けるよう、私も力添えはさせてもらうが。」

 

それだけ伝えるとさやかはバスのタラップに足をかけて、バスに乗り込んだ。バスの運転手もほむらも乗り込むのかと思い、少しの間扉を開けたままにしていたが、一向に乗ろうとしないほむらを見て、乗るつもりはないことを察したのか、バスの扉を閉め、そのまま走り去っていった。

 

 

 

 

「さて、捜索開始と行くか。とはいえ戦闘が避けられそうにないのは些か億劫な気分になってしまうが……………」

 

バスに揺られること数十分、見滝原と同じように建物が近未来風に感じさせられる街中に降り立ったさやかは伸びをしながら悩まし気な表情を浮かべる。

とはいえ、佐倉杏子を引き込めるのであれば引き込みたいというのが総意ではあったため、そこら辺は割り切って、ほむらが言っていた佐倉杏子がよく足を運ぶとされているゲームセンターへ向かう。しかし街中にゲームセンターはいくつかある訳で、さやかはその一つ一つを根気よく探していくがーーーーー

 

「い、いない……………彼女は根無草なのか…………!?」

 

休日だったのも相まって、ゲームセンターの中ではかなりの人間で賑わっており、それによって思ったより一件見終わるのに時間がかかり、さやかが二件ほど回ったところで時刻が昼を指していた。一度調査を区切ると風見野でうまいと評判のラーメン屋に立ち寄ってから再び捜索を再開するさやか。だが、佐倉杏子の姿が微塵も見当たらないことに気怠そうな表情を隠しきれないでいた。

 

「あとはここだけか…………」

 

髪は乱雑にかき乱しながらさやかが訪れた場所は、調べた限りでは風見野市にある最後のゲームセンターだ。ここにいなければ、さやかは完全に風見野市中を完全制覇しなければならなくなる。それだけはあまり時間的猶予が残されていないさやかには避けたいのが正直なところだ。

 

意を決した表情でゲームセンターの入り口を潜るとハシゴしたのも相まってだいぶ聴き慣れた騒音がさやかを包み込む。その騒音の嵐をさやかは周囲を見渡しながら、あの特徴的な赤いポニーテールの少女がいないか、目を凝らす。

 

(見当たらないな……………やはり、少し欲にかまけて『ガンガル』とかいうオンラインの対戦ゲームで一回だけプレイして10連勝してしまったのがまずかったか?)

 

少しばかり後悔の念を抱きながらもう一度探し始めるさやか。頭を悩まし気にかき乱すさやか。どうしたものかと所在なさげに辺りを見回していると、ふととある筐体が目についた。そのゲームの種類はいわゆる音ゲーの類であり、音楽に合わせて足元のパネルを踏んで、踊るように遊ぶゲームであった。

その筐体で音楽に合わせて踊っている人影が一つ。暗い緑色のパーカーに太ももを露出したホットパンツを身につけ、特徴的な赤いワインレッドのポニーテールを揺らしているその姿は、紛れもなく佐倉杏子だった。

 

(見つけた…………のは良いが、どうしようか……………)

 

ようやく見つけたさやかはひとまずファーストフェイズはクリアできたと胸を撫で下ろしながらも気を引き締め、警戒しながら彼女の様子を物陰から伺っていた。

 

(……………まぁ、ここで事を起こすことはないと思うのだが……………)

 

少し思い悩む仕草を見せるさやかだったが、ゲームセンター内で鉾を交えるようなことはしないだろうと、マミから聞かされていた善性を信じて、さやかは物陰から身を出して、ダンスゲームで遊んでいる佐倉杏子の後ろで待つことにした。

 

「…………………てめえ、いつからそこにいた?」

 

しばらくして、筐体の画面に『GAMEOVER』の文字が表示されて、満足気にパネル台から降りた杏子だったが、自身がゲームをプレイしていた後ろにいたさやかと目線がかち合うと目を丸くするもすぐさま鋭い目つきにし、さやかを睨みつける。

 

「数分前からだが?お前がゲームで遊んでいるところに邪魔する訳にはいかないと後ろから見ていた。」

「………………お前さ、周りから馬鹿って呼ばれてんだろ。」

 

一度本気で矛を交えた相手に気を利かせて待っているなどというさやかの発言に杏子は呆れた物言いで問いかける。

 

「よくわかったな。少なくとも2回は自分でもそう思えることはしている。」

「………………得意気な顔して言えることじゃねぇーだろ、おい。」

 

自分が馬鹿なことをしているという自覚はあるものの全く悪びれる様子を微塵も感じさせないさやかの態度に杏子は肩を竦める。

 

「その馬鹿に免じて一回だけ忠告してやるよ。とっとと失せな。見逃してやるからさ。」

「忠告はありがたく受け取っておく。だがそういうわけにはいかない。」

「はぁ?」

 

忠告を聞き入れておきながらそれを断る旨を明かしたさやかに佐倉杏子は一転して眉を大きく潜める。

 

「前回とは真逆の立場だ。今回、私はお前に用があってきた。佐倉杏子。」

「ハッ、マミにでも聞いたか?いや、それともあのイレギュラーの暁美ほむらか?」

「どちらからだとしても変わらないだろう。お前が前回キュウべぇから私の名前を既に聞いていたのだからおあいこだ。」

 

獰猛な表情を見せ、威圧をかける杏子だが、それにさやかは全く臆すことなく平然と言葉を返す。

 

「アンタがこちらの話を聞いてくれている内に勝手だが話を進ませてもらう。まず初めにだが、ワルプルギスの夜というのは知っているか?」

「…………知ってる。けど、それがアタシになんか関係あるのかよ。」

「その魔女が近いうちに見滝原市にやってくる。ほむら曰く、その魔女が引き起こすのは文字通りの災害。それを倒すためにアンタの力を貸して欲しい。」

「それを言いにわざわざ風見野まできたってわけ?別にアンタじゃなくてもいいような気がするけどね。」

「どういう訳かは知らないが、私はお前に疎ましいと思われているらしいからな。それの理由を聞くという個人的なものもある。」

「それを面と向かっていう奴がいるかよ…………」

「?………隠したとしてもどうしようもないだろう。」

 

自分自身のことをよく思っていないことを認識した上でその理由を面と向かって本人に尋ねてくるというさやかの愚直なまでストレートな行動に杏子はバツの悪い表情をしながら顔を背ける。

 

「…………それで、お前の答えを聞かせてほしい。もちろん、無理強いをするつもりはない。」

 

さやかの答えを催促する声に杏子は表情を俯かせる。ほむらの時とは違った沈黙がその場の空気を支配する中ーーー

 

「……………お前はさ。前言っていたみたいにさ、やれ人助けだの、他人のためーーーアタシ的には馬鹿のやることだと思っていることを信条にしているのか?」

「…………まぁ、他人のためだとは言いはしたが、私はそんなお人好しであるとは思っていない。不可抗力のようなものだったからな。私が契約した状況は。」

「不可抗力…………?アンタは巴マミと似たような状況で契約したのか?」

 

杏子が口にしたのはさやかの信念みたいなものを問い詰めるような返事だった。話が逸れてしまうことになるが、別段話しを性急に急ぐ必要性も感じなかったさやかは、自身が魔法少女になった経緯をかいつまんで語る。その彼女が語った不可抗力という言葉に杏子は首を傾げながら、さやかがマミと同じように事故か何かに巻き込まれた末に契約したのかと問い詰める。

 

「…………友人が魔女の結界に囚われてしまってな。彼女をほむらと共に救出しにいったのだが、魔女の干渉でほむらも動けなくされてしまってな。」

「ちょっと待て、お前普通の人間なのに魔女の結界に行ったのか!?」

「マミ先輩に連れられた回数も含めれば通算3回だ。さらに使い魔も含めればもう少し回数は多いと思うが。」

「何考えてんだよ、あのばか!!普通の人間連れてったら魔女の餌にされんのが関の山だろうが!!」

「………………意外だ。利己的になることを勧めていたお前から他人を慮る言葉が出てくるとはな。」

「ハ、ハァ!?常識を考えれば普通そうなるだろ!!」

 

以前矛を交えた時に言っていた自分こそ良ければ他人など知ったことではないと語っていた杏子の口から他人のことを考えているような言葉が飛び出たことに意外そうな表情を見せていると、杏子が突っかかるように詰め寄る。

 

「…………結論だけ言えば、私は魔法少女になるしかなかった。友人を守るために、私は剣を取った。他に方法がなかったのかと問われれば、決してない訳ではなかったが、それは置いてくれ。その手段を取ることだけは絶対に譲れないことだったからな。」

「…………高尚なもんだね………アタシには到底できやしないね。」

「そうか?マミ先輩の話だとお前も以前は人助けをしていたそうだが、そっちがお前の素ではないのか?」

「ッ……………ぬかせ。アンタがアタシをそんな風に見てんのなら相当な頭お花畑だな!!」

 

疲れた笑みを見せる杏子にさやかは首を傾げながらそういうと杏子は疲れた笑みから一転、険しい表情を見せると怒気を孕んだ視線をさやかにぶつけながら罵倒の声を投げつける。

 

「……………猫を被っていたのか?」

「違うね。アタシはさ、悟ったんだよ。魔法っての徹頭徹尾、自分だけのために使うもんだってな。」

 

杏子の罵声に一歩も引くどころか全く動じる気配すら見せず、目線はわずかに細め、淡々としたさやかの言葉に余計に尺に触ったのか、口調は平坦を装いながらも言葉の節々が強まっていた。

 

「だからお前は正義ヅラした私が目障りなのか?その先に行き着く果てを、知ってしまっているから。」

「ッ……………それもマミから聞いたのかよ。」

「詳細は知らない。だが、お前と話してみて何となくだが確信が持てる。」

 

マミから色々と聞かされているというさやかに杏子は鬱陶しいように舌打ちをしながらさやかに鋭い目線を向ける。

そのさやかは変わらない態度で腕を組み、全く臆していない様子で堂々と立っていた。

 

「お前の目に写っているのは、私じゃない。過去のお前自身だ。」

「ッーーーーー!?」

 

さやかの指摘に杏子は目を見開き、思わずその場で立ち尽くした。

 

「だが、私は過去のお前そのものではない。お前の語る、自分のために魔法を使う。それが正しい魔法少女のあり方だとしても、私は……………友人のためにこの力を求めた。」

 

「それを否定し、自分のためだけに使うことは何よりあの時、友人を護りたいと思った自分自身を、その決意を否定することだ!!それだけは変わらない…………変えられるものか!!」

 

手を握りしめ、目を大きく見開き、声を張り上げながら自身の決意をぶつけるさやか。その目の視線は確かに杏子を捉えていた。しかし、視界に収まる杏子は顔を俯かせ、その表情が伺えなくなっていた。

 

「あん時と同じだ………………誰もあたしの話なんか聞いちゃくれねぇ…………!!希望なんか願っても、その先にあんのはそれ以上の絶望なんだよ…………!!」

 

体を震わせ、目の前の不条理に対し、怒りを覚える杏子。その力の込められた手の中にはソウルジェムが握られており、今にも壊しそうな勢いだった。

 

「それをわかっちゃくれねぇなら、力ずくでも言うこと聞かすしかねぇだろうが!!」

「私が求めたのは希望ではない!!みんな(友達と家族)と共に過ごせる、その未来へと続く明日だ!!」

 

杏子が完全に戦闘態勢に入ることを察したさやかは苦虫を噛み潰した表情をしながらもソウルジェムを手にする。

次の瞬間、ゲームセンター内を眩い光が一瞬だけ照らすと、2人の手には互いの得物である槍と二振りの剣が握られていた。

 

「場所を変えようぜ。ここじゃ人の目につくからよ。」

「…………………そうしてくれ。」

 

獰猛な笑みから出される鋭い眼光に流石のさやかも息を一つ吐きながら杏子の提案に乗ることとした。

 

(まだ諦めるな…………こうなることは元々予見はしていた…………だが、ただ彼女を打ち負かすだけでは……………どうする…………!?)

 

 

 




ふぅ……………むずかしかった…………この話の展開考えるの(白目)
というか、リリカルなのはみたいにぽんぽんあいだあいだの話が出てこない…………


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第30話 私はお前を信じてやれなかった

うーん…………戦闘シーン短いかな……………


「見滝原市に新しい魔法少女が現れた。」

 

最初はキュウべぇからのそんな言葉からだった。見滝原市、決して離れていない訳じゃねぇけど、ぶっちゃけて言えば余程のことがない限り行く機会なんざなかった。

 

それこそ、見滝原を根城にしているマミが死んだとかなら、考えてもやらねぇこともない。まぁ、新しいナワバリとしてだけどな。

 

 

「へぇ…………で、それがあたしになんか関係あんの?」

 

ともかく、あんまどうでもいいことを言ってきたコイツ(キュウべぇ)に向かって、白けた目を向ける。せっかくスーパーでくすねてきたお菓子食ってんだから邪魔しないで欲しいんだけど。

 

「新しい魔法少女はいくらか巴マミから師事を受けているとはいえまだ新米だ。もしかしたらひょんなことからこの風見野にやってきてしまう可能性もありうる。君がナワバリにしている場所から決して離れているわけでもないからね。」

「まぁ、そんなこともあるか…………そん時はテキトーに追っ払っちまえばいいだろー?あたしだってそんな奴のために無駄な魔力使いたくねぇんだけど?」

 

マジで迷惑なんだよなー…………そういう奴がいると迷惑被るやつがいるってのも少しは考えて欲しいもんだぜ。

 

「で、ソイツもやれ正義だとかふざけた理由で契約したんだろ?」

「うーん…………まぁ彼女は契約した内容が内容だからね。いや、そもそもとして契約と呼べるものではないね。」

「……………どういうことだ?」

 

思わず食べようとした手をとめながらキュウべぇに目線を向ける。内容が内容って……………それに契約と呼べる者ではない………?

 

「その新しい魔法少女は、願いを必要としなかったんだ。そんなことがあるなんて、今までにないことだから僕としても驚いた。」

 

願いを必要としなかった?一度きりの奇跡を完全に棒に振った大馬鹿野郎がいんのか?

 

「ちょっと待てよッ!!!!」

 

思わず手にしていた菓子を放り捨てながらキュウべぇに詰め寄る。そんな馬鹿なことがあっていいはずもない。奇跡も何も求めずに魔法少女になったなんて…………どういう頭してんだよソイツは!!

 

「なんで願いを叶えなかった!!その願いの先がどうであれ、一生に一度きりの奇跡を使わない………いや、使わないのはまだいい………それは普通の人生送れている奴だからな………だけど、なんでそんな奴が奇跡も願わずに魔法少女なんかになれるんだよ!!」

「もちろん、彼女に願いが全くないわけではなかったさ。だけど、それは一言で言ってしまえば『力』だ。」

「力?」

「魔女と戦うための力、魔法少女としての力だ。つまり、僕が魔法少女の力を渡せば、それで彼女の願いは叶ってしまう訳だから、願いを叶える必要性がないという寸法さ。」

「なんでそうなる…………なんでそうできんだよ…………!!」

「彼女は他人を守るために契約した。全く、人類っていうのはよくわからない。どうして一個体にあそこまでこだわれるのだろうね?」

「おい、キュウべぇ!!その大馬鹿野郎は一体どこのどいつなんだよ!!」

「……………美樹さやか。それが彼女の名前だ。」

 

キュウべぇの言葉の後半はよく聞き取れなかったが、その大馬鹿野郎の名前が知れたのであればそんなのはどうでもよかった。とにかくあたしはこの胸の中に湧き出る怒りのような感情に身を任せて見滝原に向かっていた。

 

らしくない、とは思っていた。だけど、それ以上にまるで鏡写しのように過去の自分とおんなじことをやろうとしているソイツに対して、どうしようもない苛立ちを覚えていたのは事実だった。まるで、見たくもない過去をほじくりまわされているみたいでいてもたってもいられない。

 

「くそ……………そんな奴、放っておけばいいのに………ぜってぇどっかでつぶれるのに…………」

 

 

そうも悪態をつきながらも逸る足が止まることはなく、魔法少女としてのスペックを全開にしていたら、気づけば見滝原に足を踏み入れていた。そして近くから感じるマミのものではない魔力の反応。自然と進む先がそっちの方向に向かっていくと一角の路地に差し掛かる。

 

そこには結界を展開できるほどに成長しているとはいえ、まだ使い魔に過ぎない魔女のなりかけを全力で追っかけ回している青い騎士のような姿をした魔法少女。

見滝原にいるのが基本的にマミしかいないことを知っているあたしにはソイツが例の美樹さやかだというのがすぐに分かった。

 

「新米のくせに、妙に戦い方が様になってやがるな…………」

 

アイツの戦いぶりを上から見下ろす形になっているところに、余計な魔力を使わないようにしているその戦い方に自然とそんな言葉が飛び出してしまう。だけどな、使い魔を追っている時点で魔力を無駄にしていることに変わりはない。

あたしはそう断じると、構えた槍を魔力で伸ばしてとどめをさそうとしているアイツに対して邪魔を仕掛けた。

完全に意識外からの妨害にてっきり攻撃の手を止めると思っていたがーーーー

 

 

「ッ!?」

 

アイツは妨害に反応するどころか、あろうことか上から見下ろしていたあたしに対してサーベルをぶん投げて反撃してきやがった。絶対に気づかれていないと思っていたのに。それも上からの攻撃に反応なんざ、新米の癖にどういう感覚をしてやがんだよ。

 

「なにっ!?」

 

ともかく反撃されるとは思ってもいなかったあたしは上ずった声を上げながらも投げつけられたサーベルを槍の柄で打ち払うが、その間にアイツは使い魔に突き刺したサーベルを手に取ってそのまま使い魔を両断しやがった。

もったいねえことをする奴だ。あと四、五人食っていたら魔女になれるってのによ。

 

「誰だ!!!!」

 

……………バレてんならしょうがねぇな。くそ…………マジでイライラさせる奴だな……………なんでだよ、どうして他人のために力を振えるんだよ…………そんなことをしたって報われることは絶対ねえってのに…………どうして…………!!

 

 

 

 

 

「ここは……………?」

 

さやかは先をゆく杏子のあとを追う形で出会したゲームセンターから移動していた。しばらく街中の街灯や木々を足場にしながら人目につかないように前を進んでいく杏子についていったさやかだったが、ふとしたタイミングでその歩みが止められ、それに続く形でさやかも足を止める。

 

そこはビル群が聳え立つ風見野市で群生している雑木林の中、それもポツンと開けたちょっとした普通の広場であった。ただ、さやかの視線の先に、焼き崩れたと思われる黒ずんだ建物の残骸が鎮座していることを除けばのことだったがーーーー

 

「おい、テメェに聞きてえことがある。契約する時に願いを叶えなかったってのは本当か?」

「ああ、叶えたい願いがなかったからな。本望でもない願望を叶えたところで、宝の持ち腐れだ。」

 

杏子からの問いかけに訝し気な表情を浮かべ、両腕を胸元で組んだ姿勢でそれに答える。

 

「あくまでお前の言う友人のためってわけかよ…………その様子だと、別にソイツから拒絶されたってわけでもねぇんだろうな。」

「…………………………」

 

叶えたい願いがなかったけどただ友達のために、一度きりの奇跡さえも無理に叶える必要がないからと断じて投げ捨てたさやかのその姿勢に、杏子は表情を俯かせ、その顔に暗い影を落とす。

 

「アタシはな、元はお前と同じみたいに誰かのために契約した。そん時はそれでいいって思っていた。だけど、それは間違っていた。」

 

おそらく、独白とも取れる声色で杏子が語ろうとしているのはマミから話の外縁を聞かされた程度でしか知らない彼女の身に降りかかった悲劇そのものだろう。そう判断したさやかは黙って彼女の真実に耳を傾ける。

 

「ただ人と違うことを話していただけの親父の話をみんなに聞いて欲しかった。たったそれだけの願い。契約した後は親父の話を聞いてくれる人が増えた。そん時は親父が表から世界を救って、アタシは裏から世界を守るんだって息巻いていた。」

 

杏子の語り口の最中、さやかはちらりと目線を嫌に目立っている建物の残骸に向けた。遠目だったから定かではなかったが、辛うじて残っている外壁の向こうには高い場所に置かれた教壇のようなものが見えた。

そしてその奥の窓枠に見えるステンドグラスの破片。おそらく、杏子の父親は宣教師か何かの類、人々に教えを広める人物だったのだろう。

 

(だが……………そんな綺麗ごとは……………)

 

さやかは悲しそうに視線を下ろすと、目を伏せた。教えによって世界を救う。ただ言の葉で人々の心を打つことは極めて難しい。かの奇跡の子と称されるキリストでさえ、奇跡という名の行動によって、初めて世界を突き動かせたのだ。

 

もちろん、杏子の父親が教えに基づく行動をしていなかったとは断じることはできない。だが、彼女の口ぶりを聞く限り、その末路は目も当てられないものだったのは想像するに容易い。それもそれが自分自身の言葉によるものでなく、魔法というある種の詐欺臭い代物によるものだったとすればーーーーー

 

「だけどある日、親父にカラクリがバレちまった。」

 

隠し事が未来永劫、隠したままで過ぎ去ってしまうことなど、余程のことがない限りありえないこと。予想できていたとはいえ、来てしまった結末にさやかはやるせない思いを抱く。

 

「魔法のことを話したら、親父はアタシのことを人の心を拐かす魔女だって言ってきた。皮肉なもんだよな。」

 

そう彼女が言ってしまうのも仕方のないことだ。自分はその人々に絶望をばらまく魔女を倒しているというのに、肝心の自分が魔女と呼ばれてしまっては、皮肉以外の言葉が出てくるはずがない。

 

「そこから親父は狂っちまった。酒に溺れ、頭がイカれて、最終的には家族を巻き込んで一家心中だ。アタシだけを残してな。」

(たしかに皮肉な面は否めない。家族のことを思ったばかりに行き着く先が家族を亡くしてしまった。だが…………何より、彼女と彼女の父親がすれ違いを起こしてしまったことに隠すことのできない悲しさを覚える。)

 

間が悪かった。言ってしまえばその一言で彼女の悲劇は方が付いてしまう。耳を傾けてもらえず、四苦八苦していたところに唐突に自分の話を聞きに来る人間が爆発的に増大する。何か裏がある、とは少なからず勘繰るかもしれないが、それが魔法という認知の上をゆく代物によるものが関わっているのであれば、そこに至ることはまずないだろう。

だからこそ、化けの皮が剥がされてしまい、自分の功績のようなものが全くの見当違いであったことを認識してしまうと、その人間を絶望させるには十二分な効果を発揮するだろう。

 

「そこでアタシは決めたんだ。もう二度と他人のためには魔法を使わない。だけどな、そこに来てテメェが姿を現したんだよ、美樹さやか。」

 

父親の話をしている時は自虐気味な表情を浮かべていた彼女だったが、さやかのことになると血相を変えて、さやかに鋭く、冷えた目線を向ける。さながら彼女の得物である槍の穂先を向けられているような鋭く、鋭利なソレにさやかは表情を強張らせる。

 

「誰かのためにだとか、そんな大層な世迷言をやってんのなら、今すぐに辞めちまえ!!そうじゃねえとーーーーー」

 

声を大にして、瞳孔をかっぴらいた怒りの形相でさやかをまくし立てる杏子。その槍を持つ手は次第に震えていた。

 

()()()()()()アタシがバカみてえに惨めに見えてくんじゃねぇかよ…………!!」

 

 

「テメェは一体……………アタシをどれだけ惨めにしたら気が済むんだよ!!!!!」

 

(ッ……………来るッ!!)

 

 

杏子の慟哭とも取れる絶叫に一瞬気を取られるさやかだったが、その敵意が膨れ上がった瞬間を攻撃の合図だと直感し、身構える。

 

「消えちまえぇぇぇぇぇ!!!!」

 

再び絶叫を上げた杏子は手持ちの槍を担ぎ上げると、片足を大きく踏み出し、野球のボールのように得物である槍をさやかに投げつける。

 

(速いーーーーーー)

 

その投擲された槍の速度は以前よりと比べてかなり速度が上昇しており、避けられないと判断したさやかは咄嗟にGNバスターソードを構え、その幅の広い刀身を盾代わりに活用する。

 

「ッ……………ぐっ……………!!!」

 

杏子の槍の穂先とGNバスターソードの刀身が接触すると、耳を塞ぎたくなるような金属音を撒き散らしながら杏子の槍が上へ弾き飛ばされる。それでも杏子が投げた槍の衝撃は速度も相まって強烈なものへと変わり果てており、さやかも苦しい表情をあげ、地面から土埃を巻き上げながら十数メートルも引きずられてようやくその衝撃を止めることができた。

 

「でえぁぁぁぁ!!!」

 

その上へ弾き飛ばされた槍の柄を杏子は空中で掴み取ると、穂先をさやかに向けて突進を始める。その垂直落下の攻撃をさやかはその場から飛び退きながら回避する。標的を見失った攻撃は空を切るもそのあり余る威力は地面を砕き、煙幕となって2人の姿を呑み込んだ。

 

「大剣では彼女のスピードに対応するのは不利か……………!!」

 

衝撃に吹き飛ばされ、地面を転がるさやかだったが、即座にリカバリーして態勢を立て直すと、手にしていたGNバスターソードを元の左肩に懸架し直すと、両腰のGNソードⅡロングとショートの二振りに持ち変える。

 

(仕掛けるッ!!)

 

2振りの実体剣を構えながら、さやかは前へ足を進めると背中にスライドさせたツインドライヴから緑色の粒子を一瞬だけ放出すると、勢いよく飛び出し、煙幕の中にいるはずの杏子に接近する。

煙幕に紛れて姿形は見えないが、落下地点でもあり発生源でもある杏子が煙幕の中心にいるのは間違いないという算段からの行動。

 

(ッーーーーー!?) 

 

しかしさやかの体は途中で接近しようとしていた足を止め、反射的にバックステップを踏み、後ろへ下がっていた。その時さやかの体に触れた感覚があった。それは決して物体が彼女の体に触れたわけではなく、第六感的な、言うなれば冷たく冷えた鋭利な感覚、それこそ彼女の手にしている槍のようなーーーー

 

次の瞬間、煙幕の中から飛び出すような形で鋭く尖った物体が突き出される。飛び出たのは杏子が手にしていた槍の穂先だ。その槍の穂先は杏子の間合いの外にいるはずのさやかにまるで意志のあるように向かっていく。

 

(これはあの路地裏の……………横薙ぎに反応して伸びるわけではなかったのか!!)

 

心の中で悪態をついている間にも槍の穂先は獲物を見定めた蛇のように蛇行した動きでさやかに迫っていく。

 

「くっ!!」

 

咄嗟にさやかは空中で上体だけ身を翻して、槍から逃れるとツインドライヴの推力で上空へと移動する。だが槍もさやかを追って上空へ柄を伸ばし、奇妙なドックファイトを始める。

 

「………………そこッ!!」

 

一瞬肝を冷やしたさやかだったが、槍の動きはやはり未だ土煙にいる杏子に依存しているのか、落ち着いて対処できる範疇だった。さやかは迫りくる槍を潜り抜けるとGNソードⅡショートをライフルモードにして出力の低いビームを送るが、杏子は持っていた槍を手放し、その場から離れることで回避する。

 

「チッ、空を飛べるとか聞いてねぇぞ。あとなんだ今のビーム。まるで以前と戦い方変わってんじゃねぇか。」

「色々と最近わかったことだからな。」

 

避けた先で槍を取り出しながら杏子がさやかに向かって、犬歯をむき出しにして悪態を放つ。さながら凶犬のような荒々しさを感じさせる表情に、さやかは冷や汗を一滴だけ流しながらも平静を装いながら見下ろす。

 

「ッ………………」

 

ダブルオーのツインドライヴが発する緑色と薄い水色の粒子が辺りを漂い、2人を包み込む中、先に仕掛けたのはさやかだった。地面を滑るように加速しながら杏子に肉薄する。

 

「せぇい!!」

 

振り上げた右手のGNソードⅡロングを袈裟斬りの軌道で振り下ろす。対する杏子は槍の柄でその刃を受け止め、辺りに生じた稲光が2人の顔を照らす。

 

「ハッ!!戦い方が変わったとはいえやっぱ素人か!!」

「百も承知の上だ!!」

 

上空という有意な場所を手にしていたというにも関わらず、射撃戦ではなく近接戦闘を仕掛けてきたことに杏子はあざ笑うかのような笑みを浮かべるが、さやかはそれを知った上だと一蹴し、GNソードⅡロングを持つ腕に力を込めると杏子の槍を両断する。

 

「何ッ!?」

 

驚いた様子の杏子を置いて、さやかはガラ空きとなった胴体に全身を回転させて蹴りを叩き込む。

 

「ガッ………………!!!」

 

モロに蹴りを食らったことにより、杏子の体がくの字に折れ曲がり浮き上がるが、そこにさらにさやかは両脚で連続に蹴りを入れ込むが、脚部にあるGNカタールの刃が杏子の体を傷つけないように細心の注意を払っていた。

 

(彼女のソウルジェムは胸元の赤い宝石…………そこさえ狙わなければ、死にはしない…………我ながらひどい言い方だが。)

 

さやかが杏子に対して遠距離からのビーム攻撃ではなく、敢えて近接で挑んでいるのは平たくいえばソウルジェムの存在であった。もっぱらスケールの大きい魔女が相手なのであれば、あまり考えなくて使用してもいいのだろうが、魔法少女などであれば話は変わってくる。単純に武装一つ一つが強力すぎるのだ。

 

右肩に懸架してあるGNソードⅡブラスターはともかく、GNソードⅡロングの高出力の三日月状のビームでさえ、人1人を真っ二つにするには十分な大きさと出力がある。

 

ともかく勝利するために相手の死は必ずしも必要があるわけではない。そういう思いを抱きながらさやかは杏子を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた杏子は体を地面に打ちつける。

 

「…………………」

 

ソウルジェムは魔法少女の人間としての魂が形となったもの。体が頑丈に作り替えられてしまった魔法少女のその宝石が砕ければ、魔法少女は直前まで、どんなに健康体でも死を迎える。これは逆にいえばソウルジェムが砕かれない限り、ある程度の安全は保証されるということになる。

 

『……………私はお前を信じてやれなかった………』

 

そんなとき不意にさやかの脳内に壮年の男性のような声が響く。咄嗟に辺りを見渡すも、視界に映るのはツインドライヴから放出されている粒子だけだ。

 

「今のはーーーーー」

 

不思議に思ったさやかが言いかけた瞬間、さやかの脇腹を鋭いナニカが突き抜けた。

 

「ッ!?」

 

突然襲ってきた痛みにさやかは苦悶の表情をあげ、痛みの発生源である脇腹に手を当てる。生暖かい感覚が手に当たり思わず離れさせると、自身の手は真っ赤な血に塗れていた。

 

(攻撃された!?一体どこからーーーー)

 

傷口の鋭利な形から攻撃されたと判断したさやかは痛みから脂汗を流しながら地面に倒れ伏している杏子に目線を送る。

 

「くっそっ……………手元が狂っちまったじゃねぇか…………!!」

 

どうやら地面に膝をついていたが、杏子がなんらかの手段でさやかを攻撃してきたようだ。彼女の獲物は槍だが、その両断された槍は彼女の手元に収まっている。しかし、さやかは自身の周りを飛び回っているように聞こえる風切り音に気づいた。

 

「まさか………初めに手放した槍か………!?」

 

風切り音が大きくなった瞬間に体を捩らせると何かが猛スピードでさやかのすぐそばを通り過ぎていく音が聞こえる。その音のした方向に目線を向けると、杏子の槍が猛スピードで空中を疾走している光景が目についた。その槍は微かにだが赤い魔力に覆われており、見るからに杏子の仕業であることを物語っていた。

 

「………………アタシに魔力を使わせたな……………!!」

 

「アタシに魔法を使わせたなぁ!!!!」

 

 

彼女の表情はまさに憤怒以外の言葉では言い表せないほど苛烈なものを浮かべ、その声は火山の噴火の如く怒りそのものであった。

 

その怒りの形相の杏子と、自身の脇腹をえぐったその傷にさやかは苦しげな表情を隠さざるを得なかった。

 

 

 




ゲーセン行きたいんご。Pストでアグニを入れ込み二発キメたいんじゃ…………


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第31話 因果の束は重なっている

なんか文字数増えねえなーって思ってたらキャラ同士の会話文が少なかったことに気づいた。


「クッ………………」

 

苦しい表情を見せながら、さやかは風見野に点在するビルからの光で薄く白くなっている空を駆け回る。緑色に輝く粒子と淡い水色の光がさやかが空を通り過ぎるたびに航跡となって残り続ける。

 

それはとても幻想的な光景……………その輝きの中に真紅の赤が混じっていなければの話だが。

 

「ッ……………!!」

 

迫りくる槍を体ごと回転させながらその軌道から外れる。すれ違いざまに凄まじい風切り音をさやかの耳元で響かせ、肝を冷やし続けている原因であるその槍は赤黒い魔力を帯びながら空中で急停止してグルリと反転すると再びさやかに向けて突進してくる。

 

「チッ…………ホントに魔法というのはなんでもありか…………!!」

 

悪態にも等しい舌打ちをしながら、突っ込んでくる槍の穂先を右手に持っているGNソードⅡロングで袈裟斬りの軌道で振り下ろして、迎え撃つ。

 

瞬間、剣の刃と槍の穂先がぶつかり合って、けたたましく金属音と火花を散らす。その焼けるような光に照らされながらさやかは腕に力を込め、槍の両断を試みる。しかしーーーーー

 

「ッ………強度が上がっている………!?」

 

先ほどまで断ち切ることができていたはずの槍が強度を増してきていることにさやかは目を見開いて驚く。

 

「この帯びている魔力………槍を浮かせている上に防御力を付与させているのか…………流石はマミ先輩がベテランと称すだけのことはある…………!!」

 

槍を空中で自由自在に動かし回すための浮力と剣戟に耐えうるための防御魔法の行使を同時にやってのけている杏子にさやかはその実力に舌を巻く。しかし、そう感嘆といった思いを向けているだけでは、戦局が変わることはない。

 

それに、魔力のオート回復が備わっているさやかならまだしも、ほかの普通の魔法少女であれば、使える魔力には限界がある。何も考慮せずに使ってしまえば、あっという間にソウルジェムが黒く濁りきる。しかも二つの魔法の同時行使など、ソウルジェムの汚染を加速度的に上昇させるだろう。

 

(時間がかかればソウルジェムの真実を知らない佐倉杏子は魔女に変貌してしまう。かと言って手間を惜しんで下手な攻撃をしているだけではやられるのはこっちだ…………!!)

 

ならば、と心のなかで決断したさやかは構えたGNソードⅡロングをわずかに傾ける。さながら槍の穂先に対して刀身を斜めにずらしたように構える。その瞬間、これまで真正面にぶつかり合っていた力が斜めに逸らされ、槍の軌道は傾けられた刀身に沿ってずらされる。

 

しかし、それでも大きく軌道をずらすことは叶わず、さやかの顔面スレスレ、彼女の水色の伸ばした髪をいくらか巻き込み、周囲に散らしながらも明後日の方向に飛んでいく。

 

「この程度……………!!」

 

掠めた頰からツゥーと伝った血を指で拭い取ると、槍が飛んでいった背後に振り向くと同時に右肩に懸架されているGNソードⅡブラスターを引き抜き、抜き打ちの要領で引き金を引く。

 

放たれたピンク色のビームはちょうど方向転換をしようとしていたところにピンポイントで直撃を受け、消滅した。

 

 

「ハァ、ハァ…………ウッ…………!!!」

 

肩を上下させ、荒く息を吐くさやかだが唐突に苦悶の表情を見せると左手で槍による裂傷がつけられた脇腹を抑える。痛みが一行に引く兆しが見えないが、試しに当てた掌を退けてみると、乾燥して赤黒く乾いた血のうえにさらに塗り重ねられる形で鮮やかな血がついていた。

 

(出血が止まらない…………このままで先に私が失血死する未来もあるな…………)

 

べっとりとついた血をまじまじと見つめながらそんなことを口にするさやか。既に血を流しすぎて思考能力が低下しているのか、もしくは自分が現状を理解できていない馬鹿な能天気であるかは定かではないが、ともかくなんらかの方法で回復を試みなければ長くは持たないだろう。

 

(だが…………そんな状態でもわかることがある…………)

 

大きく息を吐き出し、脇腹の激痛から額に脂汗を浮かばせながらさやかは眼下を見下ろす。そこには未だ溢れ出る闘志から目をギラつかせている杏子の姿。それでもさやかと同じように呼吸を荒くし、息も絶え絶えになっていた。おそらくは魔力を大量に浪費したツケが回ってきているのだろう。さほど場所を移動していないことから鑑みてもその可能性は多いにある。

そして、魔力の浪費が激しいということは、その分ソウルジェムの濁りもひどいことになっているだろう。

 

(お互い、そう長く戦闘行為を行うことはできない。)

 

さやかは怪我を負った脇腹に手を当てながら難しい表情を浮かべてしまう。はっきり言って、さやかは現状以上の無茶をすることができない。既に脇腹からの出血は無視できないものとなっており、切り裂かれた箇所である左脇腹の部分は乾いた血で赤黒く変色しており、そこから下のズボンでさえ血みどろになり、足から血が雫となって滴り落ちるレベルであった。

さらには下手に患部を覆おうとして片手を塞いでリスクを挙げるより、敢えて何もせずにこれ以上のダメージを負うことを避けたことにより、さやかが動くたびにさらに傷口が開き、重症化していった。

 

(せめて、傷口が塞がってくれればまだやりようはあるのだがーーーー)

 

魔法少女の得意とする魔法は叶えた時の願いに準ずる。そうほむらから聞かされたことがあった。マミの魔法は少し願いと結びつけづらい側面はあるが、よりわかりやすいのはほむらの時間に干渉する魔法と『本来の美樹さやか』が持ち合わせていた驚異的な回復魔法だ。

ほむらは若干の脚色が含まれているが、おおよそはまどかを救うために時間を巻き戻したいか何かを願ったのだろう。そして『本来の美樹さやか』は言うまでもなく、恭介の指を完治させること。

 

(…………ないものねだりをしたところでどうしようもないか…………らしくもない。)

 

その『本来の美樹さやか』の治癒魔法が欲しい局面であったが、今この場に立っているさやかは全くの別人と称されてもおかしくはないほど性格が異なっている。戦い方や考え方、そして他者との接し方。さらには願いまでとその悉くがほむら曰く今までの美樹さやかとはかけ離れている。もっともこの時間軸のさやかにそれを確かめる術はない以上、空想の範疇を超えることがないのだが。

 

「ふぅ………………」

 

脇腹の痛みを紛らわすためにもう一度深く息を吐き出し、睨み合っている杏子に強襲を仕掛けようとした時、脇腹に当てていた手から魔法陣が発せられる。

 

「魔法陣ッ!?何故…………!?」

 

突然の出来事に目を見開き、そちらに気を取られるさやか。それもそのはず、その魔法陣はさやかが意図して出したものではなかったからだ。狼狽しているさやかを他所に発生した魔法陣は怪我を負ったさやかの脇腹に何かしようとしているのか、その輝きを一層に増す。

思わず脇腹から手を離そうとしたさやかだったが、その魔法陣から流れ込んでくる感覚にその離そうとした手を止める。

 

「これは…………痛みが引いていく………………まさかっ!?」

 

激痛で痩せ我慢を強いられていた脇腹の怪我がみるみるうちに塞がっていく感覚だった。その魔法陣が回復魔法の類のものであるということにたどり着くことに先ほどまで回復魔法について考えていたさやかが気付くのにそう時間はかからなかった。

 

「…………どうやら、私にも因果の束というのが重なっていたようだな。とはいえ……………劣化版のようなのは、否めないようだが………」

 

ひとまず怪我が塞がってくれたことにさやかは安堵の表情を見せるが、直後に襲ってきた貧血のような立ちくらみと倦怠感に頭を抱え始める。どうやらさっきの音符のような記号が含まれた魔法陣は傷を塞いでくれただけで、既に失われた血と精神的なものまで治してくれる都合の良いものではなかったようだ。

 

「それでも……………!!」

 

さやかは目を鋭くさせると、体を大きく逸らし、迫ってきていた槍を躱すと、そのまま両手にGNソードⅡのロングとショートの両方を手にしながら急降下を始める。

 

「同じ手を二度と喰らうものか!!」

 

「そうかよッ!!」

 

急降下してくるさやかに対して杏子はとばしていた槍とは別の槍を手に出すと、魔法陣を足場にして真っ向からさやかを迎え撃つ姿勢を見せると、手にしていた槍の柄をさながら西遊記に出てくる如意棒のように伸ばした。

その飛んでくる槍の穂先をさやかは体をヒラリと回転させ、バレルロールで回避するとGNソードⅡロングで柄を切断して、槍を真っ二つにする。

 

「真っ二つにしたからって、その気になってんじゃねぇよ!!」

 

槍の柄を切断したさやかに対して杏子がそう突っかかると、切断された槍の片方に足を乗せるとその槍の断面が再び伸びると、そこを足場にしていた杏子の体が打ち出され、カタパルトのように射出される。急加速を得た杏子は槍を持つ手を引き絞ると、さやかにむけてその穂先を勢いよく突き出す。

 

「ッ…………!!?」

 

切断した槍の断面から再び伸ばせるなど思いもよらなかったさやかは目を見開くのも束の間、瞬時に手にしていた二本の剣を胸の辺りでクロスさせ、飛んでくる槍の穂先を防御する。

 

 

ガァァン!!!

 

 

槍の穂先の剣の刀身がぶつかり合い、けたたましい金属音を響かせる。さやかはその凄まじい衝撃を受け止め切ることができず、吹っ飛ばされたのちに地面に叩きつけられそうになる。

 

「ッ……………ハァ…………ハァ…………」

 

さやかはなんとか直前でGNドライヴを調整して態勢を立て直し地面に降り立ったが受け止めきれなかった衝撃が胸部に流れていき、歪な呼吸音を出していた。

 

そんな隙を彼女が見逃すはずがなく、息を継ぐ間も与えない勢いでさやかの足元に赤い魔法陣を展開させる。

 

「ッ……………」

 

それに気づいたさやかは小さく舌打ちを打ちながらその場から離れるが、肺から空気を吐き出されたことによる酸欠と血を流しすぎた貧血で行動が遅れてしまう。

その結果、手にしていたGNソードⅡロングとショートの刀身に魔法陣から出された赤い鎖のようなものが巻きつけられ、動きを阻害されてしまう。

 

「しまっーーーー」

 

「オラァっ!!!」

 

「…………くっ!!」

 

険しい表情を見せるが失態を悔いる間もなく、さやかの視界に大きく振り上げた槍を自身に向けて叩きつけようとする杏子の姿が映ると、瞬時に剣を手放し、その場から飛び退いた。

 

「ううッ……………!!」

 

標的を見失った杏子の槍が地面に叩きつけられると込められた力が爆発したかのように地面をえぐり、衝撃波を辺りに撒き散らす。

避けたタイミング自体がギリギリだったのも相まって、吹き飛ばされた細かな土の塊がさやかを襲うがなんとか大怪我を負うことなく切り抜ける。

 

「まだ……………諦めるものか!!」

 

自身の持つ武装も徐々に剥ぎ取られ始め、杏子との年季の差が浮き彫りになり始めたとしても、さやかはその目から生気をかけらも失うことはなく、両脚部に装着されていたGNカタールを取り出すと、それらを連結させて片手で持てる短い槍に姿を変える。

 

「ハァァァァァァ!!!!」

 

その連結させた槍で、さやかは杏子に反撃に出る。片手槍を横薙ぎに払った一撃を杏子は自身の槍の柄で受け止めると、即座にさやかが体を翻しながら今度は逆袈裟の軌道で槍を振い、それを防ぐ。

 

杏子はその打ち合いをパワーと質量でごり押そうとするがさやかは連結させた槍の中心を持って、バトンのように手元でクルクルと持ち替え、両端をうまく活用しながら振るうことでスピードと手数で捌いていく。

 

「……………ッ!!」

 

詰めてくるさやか。それに対して杏子は舌打ちのような息遣いを浮かべる。さやかの持つ片手槍は元々手持ち用の武装を連結させただけの簡易的なものなため、杏子の槍と比べると長さは半分。それどころか持ち手の関係上、見た目以上に短い。

 

だが、それでも近接格闘に置いて重要視されるのは身軽さだ。さやかと杏子両者ともそれは兼ね備えている。杏子は長らく魔法少女をやっていたことによる積み上げられた研鑽。そしてさやかは半ば予知に近い直感と気配察知によって。

 

だが、それはあくまで個人の話。各々が手にしている武装とは別の話だ。

 

杏子の槍は柄の長さを自在に伸ばせるトリッキーな使い方ができるが、ある一定のラインから短くすることができない。逆にさやかは槍を伸ばせもしないが、近寄ってしまえばその短さから生まれる手軽さで翻弄することが可能だ。

 

つまるところ、距離を詰められた以上、杏子が劣勢となるのは自明の理であった。

 

「いつまでもやれぱなしでいられるかよっ!!!」

 

さやかにいいように攻められていることに我慢ならなかったのか、杏子は突きつけられた槍を真上に弾きあげ、さやかをのけざらせる。反動で足がもたついている間に距離を取ると振り絞った腕を全力で前へ突き出し、さやかに突撃を仕掛ける。

 

「ッ……………!!」

 

その攻撃に対して、さやかは歯がみする表情を見せながらも避けられないことを察したのか、片手槍の持ち手を両手で掴むとその全力に応えるようにフルスイングで横薙ぎに振るう。

 

槍の穂先とカタールの刃がぶつかり合う瞬間、火花は散ることはなかった。

 

「なーーーーー」

 

別段、両者の攻撃が外れたわけではない。杏子はさやかに向けて全力で攻撃を仕掛けたし、さやかはその攻撃を防ぐために腕の一本は覚悟して迫りくる槍に向けて腕を振るった。

 

ただーーーーさやかの持つカタールの刃が杏子の槍を穂先から二股に分かれるように食い込んで裂けただけのことだ。

 

柄から真っ二つに切断されるところは目の当たりにされたものの、一番硬い金属でできているはずの穂先のその先端から薪割りをしたように縦に裂けるなど思いもよらない出来事に杏子は驚嘆に満ち満ちた顔を見せる。

 

「ーーーーーもらったぁぁ!!」

 

その隙を見逃さなかったさやかは片手槍を横薙ぎに振るった姿勢のまま強引に前へ向けてGNドライヴの出力を上げると、GNバスターソードⅡが懸架されている左肩でショルダータックルを仕掛ける。

 

「うぐッーーーー」

 

バスターソードⅡの表面積の大きさも相まって、さながら壁に押し出されるようにタックルを食らった杏子は思いっきり吹っ飛ばされ、地面を転がる。

その先にはさやかが拘束された時に手放したGNソードⅡロングが放置されており、さやかが念じるとその剣が光を帯びる。さながらそれは爆発直前、一瞬だけ見える光のようで、それを理解した杏子は息を呑む。

 

だが爆発に巻き込まれると思ったのも束の間、腕に何かが巻きついた感覚を感じた瞬間、今度は杏子の身体は吹き飛ばされた方角とは真逆の方向に引っ張り上げられる。

 

(なんなんだよ、次から次へと………!!)

 

次から次へと目まぐるしく変わる状況に心の中で狼狽する杏子はひとまず巻きついた感覚のある腕に視線を合わせる。そこには何かワイヤーのようなロープが巻き付けられており、そのロープが伸びている先を辿っていく。そのロープの出所はさやかだった。彼女は手にしていたGNソードⅡショートの先端を切り離し、中に収納されていたワイヤーを伸ばして杏子にくくりつけ、彼女をさながら釣り上げた魚のように引っ張り上げていたのだ。

 

一本釣りのように引っ張り上げられた直後背後で起こった爆発の風に体が押し上げられて空中でバランスを崩すも、前もっていた引き上げが功を奏して、大したダメージを負わずに済む。

 

しかし、先ほどまでの苛烈な戦闘にお互い既に限界を迎えていたのか、さやかも調整が精一杯で、杏子は特に受け身も取れずに地面に放り出された。

 

「ハァ……………ハァ……………!!!!」

 

大きく息を吸い込みながら呼吸を整えるさやか。その表情はまさに疲労困憊というに等しく、GNカタールを連結させた片手槍を支えにして立っているのがやっとであった。

 

「………………」

 

それに対し、杏子は地面に放り出され、呆然と仰向けで空を見上げていた。その表情には戦闘中に垣間見えた烈火の如く形相は見えず、ただ疑問に思っているような顔つきであった。

 

(なんで…………アイツはあたしを助けた?)

 

湧き出てくるのはさやかの行動だ。爆発の直前、その爆心地近くにいた杏子は動くことができなかった。そのまま爆発の炎に焼かれれば、よくて重傷、悪くて死ぬこともありえただろう。

 

(それに…………この戦いはあたしがアイツに対しての八つ当たりも同然の理由で仕掛けた奴だ…………正当防衛とかいって殺されてもおかしくはねぇ。それなのにどうして…………)

 

杏子は呆然と空を見つめたまま目線だけを片手槍を支えにしながらも膝をついているさやかに向ける。

 

「おいーーーーー」

 

何故自分を助けたのか、その理由をさやかに問おうとした時ーーーー

 

 

「……………魔女が来る」

 

「え?」

 

視界が歪み、先ほどまで見えていた公園のような風景は消え失せ、代わりに白と黒の色が消え失せた空間が現れる。

 

「くっ…………このタイミングで魔女が来るなど………運のない!!」

 

悪態を吐くような声を上げながら覚束ない足取りでさやかは杏子の元へ駆け寄ってくる。

 

「…………立てるか?」

 

倒れている杏子にさやかは何気なく手を差し伸べる。その行為に杏子の脳内は一層困惑に支配される。何故先ほどまで本気で殺し合っていた相手にこうも出れるのかと。

 

「ッ…………不味い!!」

 

杏子がその伸ばされた手に対して躊躇っている間に周囲を見回していたさやかは顔を顰める。彼女の視線の先には何やらそびえ立っている真紅のオブジェに祈りを捧げている人間のような姿があった。その人間のような魔女は髪に当たる部分を蠢かせると、床から木の枝のように見える触手を出した。

 

「くそッ…………!!」

 

それを見たさやかは杏子に伸ばした手を引っ込めると思いつめているような表情を見せている杏子の前に躍り出る。そして右肩に懸架していたGNバスターソードⅡを取り出すと、その剣先を黒い床に突き刺してその身の丈ほどある刀身を盾として構えた。

 

次の瞬間、触手がとんでもないスピードでさやかに向けて伸ばされ、鈍い音をバスターソードの刀身から響かせた。

 

「ううっ…………!!」

 

正面からの攻撃を防いださやかはその衝撃から苦しげな表情を見せるも、GNバスターソードⅡのパーツを展開させる。

その展開されたパーツの隙間からGNドライヴの光と同じ色のバリアが展開されるとそのバリアはさやかと杏子の周囲をすっぽりと覆い隠した。

 

その直後、先ほど正面から防いだものと同じ触手がそのさやか達を囲むように現れ、そのバリアに向けて集中砲火を始めた。

 

「ちぃ……………!!」

 

「お、おい!!」

 

「何か用かっ!?今は見ての通りかなり厳しいぞ!!」

 

自ら篭城戦を仕掛けてしまったことにさやかはやってしまったと言わんばかりに悪態を吐く。そんなやるせなさが疾ったのか、声をかけてきた杏子にも少しばかり高圧的に当たってしまう。

 

「なんであたしを助けたんだよ!!こうなったのも、全部あたしのせいじゃねぇかよ!!なんであたしを見捨てなかった!!」

 

バリアフィールドの中で杏子の声が虚しく響く。その悲痛とも取れる声をさやかは数瞬呆けた顔を見せるも少しするとさも当然と言っているような顔を見せながら正面を見据える。

 

「なんでって…………人を助けるのに理由なんざ必要か?」

 

 

「だが強いていうなら、私の目的は最初からアンタをこちら側に引き込むことだ。損得感情を抜きにしたとしても、助けて当たり前のことだ。」

 

魔女の触手がバリアにひっきりなしに攻撃を続け、鈍い音が響いている中、さやかは笑みを見せた。

 

「それに……………アンタ、話しを聞いている限り、途中からずっと一人ぼっちだったらしいが…………」

 

さやかは魔女に向けていた目線を杏子に戻しながら、語りかける。

 

「だったらなおさら助けないわけにはいかない。一人ぼっちというのは思いの外寂しいらしいからな。」

 

その瞳は水色の虹彩から神秘的に輝く金色の虹彩に光輝いていた。

 

 

 




戦闘しながらの会話はダブルオーの醍醐味なのに中々やらなかった…………悲しみ


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第32話 Affectionately

いやー…………杏子ちゃんは強敵でしたね…………(執筆難易度的に)

頑張ったけどそれでも杏子ちゃんに対するのがこれでいいのか不安だぜ…………


(なんで…………なんでそんな風に…………誰かの前に平然と立ち塞がれる………!!)

 

杏子は自身の眼前に立ち塞がって、魔女からの攻撃を防いでいるさやかの背中を有り得ないものを見ているかのような目で見つめる。

 

『誰かを助けるのに、理由なんざ必要なのか?』

 

さやかの背中を見つめている杏子の脳裏にその言葉が反芻する。その言葉をさやかはさも当然というようにあっけらかんとした顔で言ってのけた。そのことが余計に杏子を困惑に貶める。

 

(いや、理由は確かにある………あるんだろうけどよ!!)

 

理由は確かにさやかは口にしていた。自分をワルプルギスの夜との戦いに参加させるために助ける理由としては、杏子を生かしておく理由としてはそれで十分だ。それでも彼女にはその理由が無くとも、さやかは自身を守るために前へ出てくるのが目に見えてしまっていた。

 

『アンタの目に写っているのは、私じゃない。昔のお前自身だ。』

 

(確かにそうだ………お前が昔の自分に見えたから無性にイラついてその誰かを助けるために息巻いていた自分を否定するためにお前に喧嘩を売った。)

 

だけど結果は自分の過去の現し身だと思っていたさやかに事実上の敗北、さらには彼女自身に助けられる始末であった。さながら今の自分を否定されているように、お前は間違っていると明確に言われてしまったように。

 

(……………情けねえな。昔のあたしに喧嘩ふっかけて、惨めな思いして、負けて、助けられて、散々な結果に終わっちまったじゃねぇか……………)

 

 

あたしの人生、なんだったんだろうな

 

 

 

 

 

 

「ッ……………!?」

 

背後から感じた嫌な予感に思わずさやかが顔を後ろへ振り向いた。そこには座り込んでいる杏子の姿しかなかったが、さやかの鋭い感覚は今の意気消沈としている彼女が纏っているものに覚えがあると言わんばかりに警鐘を鳴らす。

 

(この感覚…………魔女と相対した時と同じ………!?)

 

目を見開きながら愕然としている杏子の胸元ーーーーソウルジェムを見つめる。その埋め込まれるようにつけられている赤い宝石は徐々に黒い淀みを中に内包し、覆いつくさんとしていた。

 

「気をしっかり持て!!佐倉杏子ッ!!!」

 

声を荒げて杏子にそう投げかけるが、杏子の表情は優れることなく、その抱えた闇が一層深まるようにソウルジェムの穢れが加速度的に増えていく。

 

(こんなところで、彼女を死なせてたまるものか…………!!)

 

さやかは険しい表情を見せながら片手で懐からグリーフシードを取り出すと、杏子のソウルジェムに向けて投げつけた。半分正面を向いた上で片手で投げるというかなり不安定な姿勢でなげたが、うまいこと杏子の胸元のソウルジェムにコツンと音を立てて触れると、ソウルジェムの中に溜まっていた穢れを吸収していく。しかし穢れを吸収されて綺麗になった彼女ソウルジェムはすぐにまた穢れに覆われ始める。

 

「ッ………………くそっ!!」

 

それを目の当たりにしたさやかは一瞬目を見開くと、歯を食いしばりながら悪態を吐く。

 

「そんなに…………そんなに私に打ち負かされたのが悔しいかっ!?」

 

バリアを展開したとはいえ、全包囲から攻撃を仕掛けられ続け、衝撃でグラグラと揺れているバスターソードⅡを両手で押さえつけながら、背後で座り込んでいる杏子に向けて叫ぶ。

 

 

「元々はそちらがイチャモンにも等しい理由でこちらに仕掛けてきたのが原因だ!!それにも関わらずこちらの言い分も全く聞き入れず勝手にお前の過去の姿を重ね合わされて、挙句の果てには勝手に絶望されるなど、正直言えばいい迷惑も甚だしいところだッ!!」

 

魔女からの攻撃に衝撃に揺らされながらもさやかは歯を食いしばることで持ち堪えながら杏子に激昂する。

 

「そういう面では確かにこの状況を生み出したのが、お前に責任があるというのは否定できない側面なのかもしれない!!だがーーーー」

 

二人を包んでいたGNフィールドが魔女による猛烈な攻撃により、徐々にヒビが広がりを続けていく。それでもさやかはその場から一歩も後ずさることなく、杏子を守り続ける。

 

「例えお前が………いくら私に噛み付いてきたとしても…………こうなった以上、私はお前を守り続ける!!目の前で消えていく命を、見過ごすことはできないっ!!それが私の…………魔法少女としての、在り方だからだ!!」

 

「だがそうされるのが嫌だったら、強くなれ!!肉体的にという意味では無く、精神的にッ!!!そしてもし私がお前のように、間違いを犯しそうになったその時、私を止めてくれッ!!」

 

「だから…………生き続けてくれ…………生きる未来をその胸に………その魂に…………持ち続けてくれ………佐倉杏子ッ…………!!」

 

GNフィールドがガラスが割れるような音を響かせ、徐々に崩れていく。比例して隙間を潜り抜けていく触手が増え、さやかの体を掠め、一度治したさやかの体に傷を残していく。盾として構えているバスターソードⅡにも触手が直接ぶつかり、地面に突き刺した剣先がガリガリと削る音を立てながら押し切られそうになるが、さやかはその場から動かず、GNフィールドを再形成しながら構え直す。

 

「ううッ……………!!」

 

体全体につけられた切り傷から呻き声を漏らしながらもさやかはおそらく『本来の美樹さやか』が使っていたであろう音符のような記号が散りばめられた魔法陣を傷の一箇所ずつに展開させ、その傷を癒す。

 

「ダブルオー……………ガンダム……………」

 

しかし、再形成したGNフィールドも苛烈な攻撃の最中、無理やり展開してしまったのが悪い方向に傾いたのか、すぐにヒビが入り始める。その中で、さやかはぽつりと自身が纏っている武装の大元となっているガンダムの名を呟いた。

 

「争いを止めるための力…………そうなのだろう…………?」

 

さやかが身体的に限界を迎え始めているのか、肩で息をするように荒い息を吐き出しながら視線を両肩のGNドライヴに向ける。

 

「争いを止めるというのは…………何も片方が死んで、もう片方が生き残るだけ………その程度のものなのか…………?それで、お前は満足できるのか…………?」

 

下を向いて俯き、悲痛な表情を浮かべながら語りかけるような口調で細々と言葉を溢すさやか。

 

「私は…………嫌だ…………!!そんな未来、誰も…………望んでいない…………!!」

 

脳裏に浮かんだビジョンを振り払いながら、さやかは俯いていた顔を上げ、前を見据える。

 

「お前が…………本当に争いを止める力を持っているのだとしたら…………子供の蟠りぐらい…………乗り越えて見せろぉぉ!!!!」

 

魔女の結界中に響き渡るように、さやかは声がはちきれんばかりの絶叫で叫んだ。しかし、それを聞き届ける者は彼女の側で倒れ尽くしている杏子以外、存在しないはずだ。

 

だが、彼女のソウルジェム………もといダブルオーはそのさやかの声に応えるようにGNドライヴから放出されるGN粒子を爆発的に増やし、さやかと杏子の視界を緑色に光り輝く粒子で覆い尽くした。

 

 

 

 

 

『ッ…………い、今のは…………一体…………!?』

 

GN粒子に覆い潰された視界を再び開いたさやかは目の前の光景に驚愕のあまり、言葉を呑んだ。

そこは先ほどまでいた白と黒の二色で覆われた魔女の結界ではなく、光輝いている白い空間だった。

 

『こ、この場所は…………いや、この()()は、一体…………!!』

 

突然の状況にさやかは困惑気味な表情を見せながら辺りを見回すと、さやかと同じようにこの謎の光輝く空間を漂っている杏子の姿が目についた。

 

『佐倉………杏子…………彼女も、この空間に?』

 

それを見たさやかは驚いた様子を見せると、ひとまず一緒にいた方が都合がいいと思い、地面を蹴り出すように足を動かし、杏子の元は向かおうとする。

 

『あの子のことは私に任せてくれないか?』

 

『ア…………アンタは…………!?』

 

そこにさやかを引き止めるように声をかけた人物が現れた。顎髭を携えた初老の男性、彼はほとんど黒一色の服に首に下ろした十字架のネックレス。一般的に牧師と呼ばれていそうな男性がそこにいた。

 

『何故………佐倉杏子のことを気にかける?』

 

さやかがそう尋ねると、その男性はわずかに笑みをこぼしながら乾いたような笑いを浮かべた。

 

『どうして、かね?親が娘を気にかけるのに、何か問題でも?』

 

男性がそう語ると、さやかは目の前にいる人物が、杏子の父親であることを悟った。死んだはずの人間がこうして目の前にいることにさやかはここが死の世界か何かではないのかと思ってしまう。

 

『……………ここは、そういう空間なのか?』

 

『………すまないが、それに答える解答は私は持ち合わせていない。だが、君が考えているほど悪い空間ではないのは確かだ。』

 

一応だったが、杏子の父親にこの不思議な感覚を抱かせる空間について聞いてみるも首を横に振りながらそう答える彼にさやかは心痛な表情を見せながら、別の質問をする。

 

『……………貴方は、彼女に対して、怒りの感情とかは持っていないのか?』

 

そのさやかの質問に杏子の父親は気まずい表情を見せた。

 

『……………あの悲惨な出来事は、全ては私の不徳が成したことだ。ようやく実を結び始めたと思っていた矢先に信者たちが私の話を聞いてくれていたのが全ては人々が盲信的に私の言葉に従っているだけだったと聞かされてしまえば…………』

 

その表情にどんどんやるせなさが湧き出していることをさやかは察する。

 

『…………あの子が、杏子が見たかったのは酒に溺れ、家内に向けて拳を振るう、そんな姿ではなかっただろうに…………』

 

顔を背けた彼から杏子に対する申し訳なさがこれでもかと言うほど滲み出ていた。

 

『だから私はあの子に伝えなければならない。自分を信じられなくなったあの子に、今再び、あの子が本当に望んでいたことを。』

 

『私は宗教の道に進んだ者として、何より親として最後の責務として、娘に説教を施す。』

 

説教というのは目上の人間から叱責のようなものを受けるネガティブな印象を受ける人間が多い。しかし、本来、説教というのはそのようなネガティブなものではなく、経典や教義をわかりやすく他者に教え、導くための施しだ。

彼の説教が本来の意味の方であることを察したさやかは彼の、父親として最後の務めを見届けることにした。

 

『………………最期に私からの願いを聞いてはくれないか?』

 

『……………何か?』

 

唐突に彼からの願いにさやかは間の抜けた表情をしながらその詳細を尋ねる。

 

『君の知っての通り、杏子は今は荒んだ性格だが本当は他人を慈しめる優しい心の持ち主だ。だから…………これからも共にいてやってほしい。』

 

そう言って彼は和やかな笑みを浮かべる。その表情は神父や牧師としての慈愛の笑みというより、親としての親愛を持った笑みであった。

 

『それは…………彼女次第だ。』

 

『…………それもそうか。なら、私からそれとなく伝えておこう。』

 

それを最期に彼はこの空間を漂っている杏子の元へ向かう。その後ろ姿を静かに見守るさやか。

 

(…………君に感謝を。こうして未練がましい幽霊にも等しかった私に、贖罪の機会を与えてくれてーーーー)

 

心の中でさやかに礼を述べながら、彼は杏子の体に触れる。次の瞬間、今度は眩い光がさやかの視界を覆う。

 

 

 

 

 

眩い光が鳴りを潜め、目が開けられるほどに収まるとそこは再び白と黒の二色だけが彩っている魔女の結界に戻っていた。

 

「夢…………ではないよな?」

 

いつのまにか先ほどまでさやかと杏子の二人を覆っていたGNフィールドに全方位攻撃をしていた触手は戸惑っているように二人から距離をとって様子を伺っていた。

さやかは魔女の動向を警戒して、GNフィールドを維持したまま後ろにいた杏子に振り向いた。先ほどまで滲み出ていた魔女の呪いと似たような感覚は既に消え失せていた。

 

「………………大丈夫か?」

 

そうとしながらもだんまりとなっている杏子に一抹の不安を抱いたのか、さやかはとりあえず彼女に声をかけた。

 

「………………夢みたいな………浮いたような感覚がした場所で、死んだはずの親父に会った。」

 

俯いた状態で表情こそ伺うことはできないが、杏子はどこか、震えているような声色で語る。父である彼の最期の謝罪と贖罪を。

 

「…………理解してやれなくてすまなかった、お前を一人ぼっちにさせて寂しい思いをさせたって。」

 

「悪いのは…………あたしだってのに…………そんな言葉が、聞きたかった訳じゃなかったのに…………!!」

 

俯いた顔を手で覆い、静かに嗚咽を溢す杏子。その感情を押し殺しながらも、それを抑え込むことができず、すすり泣いているような声をさやかは背中で聞いていた。

 

 

「……………今のお前には酷かもしれないが、手を貸してくれ。お互い、今は生き残ることが先決ではないか?」

 

「…………………」

 

さやかの頼みに杏子は無言を貫く。だが、腕で顔についた何かを拭う仕草を見せると、わずかに赤く腫れた顔をしながら立ち上がった。

 

「今は…………今だけは手を貸してやる。」

 

「……………ありがとう。」

 

ぶっきらぼうな口ぶりだが、さやかの後ろで槍を構え、協力を約束してくれた杏子にさやかはお礼を言いながら彼女へ振り向いた。その次の瞬間、杏子は目を見開いて変なものを見てしまったかのような反応を見せる。

 

「お、おまっ!?なんで目が金色に光ってんだよ…………!!」

 

「……………なんのことだ?」

 

さやかの目が金色に輝き、なおかつその虹彩が蠢いていることに杏子は唖然とした様子でさやかに問い詰めるも、当のさやかは小首をかしげるだけで、その現象には気づいていない素振りを見せる。

 

「き、気づいていないのかよ………!!」

 

「………いや、そもそもとしてそんなことを言われたのが初めてなのだが……今は調べようがないだろう。さてっと………この状況、どう切り抜けるべきか…………」

 

杏子の言葉にさやかは不思議そうにしながらも現状では考えることではないと頭の隅っこに追いやって正面を見据える。今現在、二人は展開されたGNフィールドの中にいるが、周囲には二人を取り囲み、警戒しているように見える魔女の触手が至るところに張り巡らされていた。その現状にさやかは後頭部に手を当てて難しい表情を見せる。

 

(おそらくこの魔女の本体はあの木の蔦のような触手を伸ばしていたあの黒い人形だろうな。)

 

さやかは脳内に攻撃される直前に見えていた状況を思い起こしながら対処策を考える。あの高くそびえ立っている赤い巨大オブジェに、ひざまづき、祈りを捧げていた人形が本体なのは明らかだった。さらには床から木の蔦のような触手がいくつも生えてきていたことから、今さやか達が立っている床はその魔女のテリトリーと判断していいだろう。

 

(…………どのみちこの蔦の包囲網を突破しなければならないのは明白。話はそれからか。)

 

しかし、少しでも動きを見せれば即座に対応してくるのが目に見えているため、動くことすらままならない状態なのは事実。GNバスターソードの影で唸っているとーーーー

 

「おい、ひとまずアイツの攻撃を逸させればなんとかなるんだよな?」

 

「そうだが……………。何か手はあるのか?」

 

「………………一つだけ条件がある。コイツのグリーフシードをあたしに寄越せ。やれねぇことはねぇけど、魔力食うんだよ。」

 

「その程度か………問題ない、好きにしてくれ。」

 

杏子は少しばかり申し訳なさそうにすると、条件として目前の魔女のグリーフシードを要求するが、特に魔力云々について事実上の無制限となっているさやかは必要ないため、すんなりとその申し出を受け入れる。

 

「………お前マジで言ってんの?見る限り一度もグリーフシード使ってねぇだろ。」

 

だが、そのことを知らない杏子は呆気に取られた表情をみせながらさやかを問い詰める。それにさやかは困った様子で視線を上に向けた。

 

「あー…………少し特異な性質なんだ、私のは。だから多少無理してもどうとでもなる。」

 

「………………あとで魔力使えなくなったって言われても知らねえからな。」

 

「了解した………………来るッ!!」

 

次の瞬間、今まで静観を保っていた魔女の触手が痺れを切らしたのか再び総攻撃を仕掛ける。さやかは展開し続けていたGNフィールドを構え、その攻撃に備えるが、衝撃が凄まじく、二人がいた一帯は巻き上げられた土煙で見えなくなった。

 

 

 

結界の中で聳え立つ赤いオブジェで祈りを捧げるように座り込む人型の魔女。その彼女の目の前に瞬間移動のように突如として杏子とさやかの姿が現れる。

現れた二人は互いの獲物である大剣と槍を突き出すが、それよりも先に魔女が新たに出した足元からの触手で二人の体を貫いた。

 

だが、その二人は触手に貫かれるや否や、まるで最初からそこにいなかったように霧散して消滅していった。

 

 

「攻撃の意識が逸れた!!反撃に出る!!」

 

その声は先ほど霧散したはずのさやかの声。触手たちの攻撃で巻き上げられた土煙が盛り上がるとそこからGN粒子を放出させて空を駆けるさやかが現れる。

 

『ーーーーーーーー!!!』

 

それを見た魔女は声にならない叫び声のような号令を挙げると、触手たちを一気に空を駆けるさやかに集中させる。その触手攻撃を空という自由を得たさやかは軌道を複雑に変えながら攻撃コースから逃げることで尽くを避ける。

 

「お前の攻撃は見えている。当たりはしない。」

 

切り抜け、自身を見下ろすように佇んでいるさやかに魔女はさらに攻撃を仕掛けようとするがーーーー

 

「おいおい、足元がそんなにお留守でいいのかぁ?」

 

瞬間、先ほどまで触手が生えてきていた地面から真紅の意匠が施された槍が無数に突き出され、針塚のように埋め尽くし、触手を蹴散らす。その勢いは止まらず、やがて魔女の足元から特大の槍が地面を割りながら出現すると、その穂先に捕らえられた魔女は赤いオブジェへ磔台のように押さえつけられる。

 

「断ち切るッ!!!」

 

そしてさやかがGNバスターソードⅡの柄を両手で持ちながら身動きの取れない魔女に接近すると、肩に担ぐように構えたバスターソードⅡを体ごと回転させながら横一文字に振るった。その威力は魔女ごと背後にあった巨大な赤いオブジェを両断し、消え失せる。

その消え失せた魔女のあとを追うように魔女の結界も揺らぎ始め、白と黒のモノクロの空間から緑の生茂る風見野に、二人は戻っていた。

 

 

 

 

 




GNフィールドの中でGN粒子の放出量を増やす→GN粒子が外に出ていかないから中のGN粒子の濃度が上昇→擬似的な脳量子波交信領域を拡大する状況ができた。

大体こんな感じ。

次回からは……………ついにワルプルギス戦に突入するつもり………だってさっさんが魔女化しないからね!!


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第33話  新たなる舞台の開演

メタルビルドでザンライザー出ましたね。

…………なんなんアレ、明らかに剣の本数過多だよね。背中もただでさえザンライザー背負った時点でヤバそうなのにさらに追加しちゃってさァ!!

あんなん刹那でも苦笑いもんだよなぁ!!ぜってぇ扱いこなせねぇって!!







だから気に入った


白に浮かぶ黒、さながら影のようにその全体像が浮かばなかった魔女を、その魔女が祈りを捧げていた真紅のオブジェごと横一文字に両断したさやかは結界が崩れていく中、残心のようにGNバスターソードⅡを振り払うと左肩に懸架し、元に戻した。

 

「ん…………?」

 

結界が崩れ、細かな粒子となって消えてゆき、元の風景が覗き始めている最中、地上に降り立ったさやかは足元へ淡く光を反射している物体を目にする。それは魔女を倒した証であるグリーフシード。

さやかはそれを拾い上げると踵を返し、自身の後ろにいた杏子の元へ向かう。

 

「協力してくれたこと、感謝する。ありがとう。」

 

「………………フン。」

 

微妙に儚げな笑みを浮かべ、礼を述べるさやかに杏子は不機嫌そうな顔を見せるとそのままそっぽを向いてしまう。

 

(ホントにコイツは図太いというかなんというか…………)

 

なし崩しで共闘したとはいえ、少し前まで本気で殺し合っていた相手に気まずい空気を一切感じさせずに笑顔を見せ、お礼を述べるさやかに杏子は一種の戦慄を覚えていた。

 

「………………何故そっぽを向いているんだ?」

 

「うるせぇー!!誰も彼もお前にみてぇに簡単に態度変えられる訳じゃねぇんだよー!!」

 

その杏子の様子に純粋な疑問を持って聞いてきたさやかに思わず彼女は声を荒げ、地団駄を踏むようにをさやかを捲し立てる。

 

「………………」

 

「なに人の顔見て笑ってんだよ、気持ち悪い。」

 

「ん………すまない。思わず嬉しくて笑みを浮かべてしまった。何せ、先ほどまで互いの得物を突き付けあっていたのに、こうも語り合えるのだからな。」

 

その威圧にさやかは噛みつくわけでもなく、満足そうに笑みを浮かべた。それに引き気味な表情を見せる杏子にさやかがその理由を語ると、一層眉を深めて不機嫌そうに顔を背ける。

 

「……………早くグリーフシードを渡せよ、馬鹿。」

 

「ああ。それが条件だったからな。」

 

吐き捨てるような杏子からの催促にさやかは手にしていたグリーフシードを彼女に渡すと、自身の胸元のソウルジェムに接触させ、中に孕んでいた穢れを取り除いた。

 

「…………アンタのソウルジェムはどうなんだよ。」

 

そう尋ねてきた杏子にさやかは懐からソウルジェムを取り出し、杏子に見せつけるように掌に乗せた。その装飾された宝石の輝きは微塵の穢れも感じさせないほどに純粋な光を杏子に向けて照らしていた。

 

「…………アンタは自分が特異な性質と言っていたけどよ、それでも空を飛んだり、見るからに高威力なビームをぶっ放していたのに穢れが一切ねぇってのは解せねぇ。一体なんのカラクリなんだ?それに   

 

杏子はそこで一度言葉を切ると、今は普通の色合いに戻っているさやかの目の虹彩に目線を移す。

 

「アンタが見せていたあの金色に光っていた目だ。ありゃあ普通じゃねえ。それを含めて、一体何者なんだ?」

 

そう言って、杏子は鋭い目線をさやかに向ける。明らかな疑いを持ったその視線にさやかは後頭部に手を当てて、困ったようにそこを摩った。

 

「……………と言われてもな。実際にお前のいう目が金色に輝いているところを確認した訳ではないからな…………今はどうなんだ?」

 

「今は、普通に戻ってる。」

 

(…………まぁ思えばあの謎の空間が形成された理由もわかっていないからな…………つくづく謎が多いな、ガンダムというのは………魔法少女より魔法じみたことをやっていないか?)

 

考え込むように顎に手を当て、仕草を見せるさやかだったが、いくら考えても答えにたどり着く感じがしない上に、以前頭の中に直接声をかけてもらった謎の存在からしかその謎が明かされることはないと判断した。

 

「…………質問を受けていたところ、申し訳ないがお前には先に答えてもらわないといけないことがある。ワルプルギスの夜との戦闘における共闘戦線についてだ。まだ明確な答えをお前から受け取っていない。」

 

「あー……………そういえばお前、そんな理由でアタシんとこ来てたんだっけ。」

 

さやかからの問いかけに思い出したかのような反応を見せる杏子。その様子をさやかは神妙な面持ちで彼女からの答えを待つ。

 

「………………まぁ、先に聞いてきたのはそっちだ。返事を明確にするのはこっちが優先するのは道理、か。」

 

そう言って思案に耽る姿を見て、杏子がさやかに対して少なくとも悪い感情を抱いていないことは察している。あの光輝く謎の空間で、杏子の父親が杏子になにを語りかけたのかをさやかは詳細まで知ることはできない。だが、直後の彼女の反応を見るに、謝罪の言葉を述べたのだろう。それだけしか、わからなかった。

 

「言っておくけど、アタシはお前のやり方をいいとは思っちゃいねぇ。その先にあるのは、どうしようもない行き止まりだからな。」

 

「………………私は   

 

「だけどお前、言ってたよな?もしお前が間違いをやりそうになった時止めてくれってさ。だったら強くなる必要がある。今のアタシじゃ、お前には勝てねえみたいだからな。だから、戦ってやるよ。ワルプルギスの夜とな。」

 

やはり相容れないかと、さやかはそれを覚悟した上で自分の信じる道を言葉にしようとしたとき、ついに杏子から承諾の声が飛び出る。そのことに一瞬目を見開き、驚いた表情を浮かべると、その表情をすぐに朗らかなものに変える。

 

「…………そうか…………これで…………ようやく、未来へ進められる、準備が整えられる、というわけ、か。」

 

突然、さやかはか細い声を出し始めたことに杏子は怪訝な表情を見せながら彼女の顔を見据える。そこでようやく杏子は気づいた。さやかの顔色がまるで生気が感じられないレベルまで真っ青で額から脂汗を滲ませているのを。

 

「いや………我慢してみたが、やるものではない、な。貧血に対しては…………」

 

「お、おいッ!?」

 

その言葉を最後にさやかは体を大きく揺らし、バランスを崩すとそのまま仰向けに倒れ伏した。思わず杏子が声を荒げながら倒れたさやかの側に駆け寄り、安否を確認するが、彼女自身、ポロっと貧血と自白した通り、血の気が真っ青になり、息が荒くなっているだけ、かつ既に傷も塞がっていただけだったため、命に別状はないように見えた。

 

「…………緊張がほつれた上にアドレナリンが切れたらしい…………まぁ、休めば治まると思うが………」

 

「いいから喋んな馬鹿!!」

 

「ええ………………」

 

杏子の突然の罵声にさやかは最近馬鹿って言われすぎではないだろうかと考えながら困り果てたように表情を変えてしまう。

 

「ったく、手のかかる野郎だぜ…………!!」

 

横たわるさやかを他所に、悪態をつくと杏子は肩に腕を回し、さやかの体を担ぎ上げる。

 

「佐倉………杏子?」

 

「……………なんでもいいから飯奢れ。それでチャラにしてやんよ。」

 

「それはまた…………なんとも横暴だな………」

 

杏子の要求に苦笑いだけを見せるさやかだったが、程なくして安心したのか意識を闇に落とす。それに面倒くさそうな表情を見せる杏子は強化された魔法少女としての脚力を持って、悠々と一般的な人間ができる跳躍高度を跳び越し、夕焼けに染まりかけた風見野の空へ駆け出した。

 

日が照らした彼女の表情に鬱屈としたものは見当たらなかった。

 

 

 

 

 

「ちったあ気まずいといえば気まずいけど…………」

 

ビルの屋上からビルに渡り移るように移動し、それなりに見滝原に近づいてきた杏子は口を窄めた表情を見せていた。杏子はさやかをどこに連れてくればいいのか、わからないでいた。おおよそ見滝原にいる見当はついていたのだが、いかんせん杏子は見滝原の土地勘がサラサラない。そのため唯一持っていたパイプを使わざるを得ないでいた。

 

(…………佐倉さん?近くにいるの?)

 

杏子の脳内に念話としてマミの声が響く。かつてマミと共にコンビで魔女を狩っていた杏子。しかし、それも昔の話となってくるため久しぶりの感覚がする杏子は調子が狂うような感情を覚える。

 

(まぁ…………そんなとこだ。突然の連絡ってのは申し訳ねえんだけどよ。アンタの部屋使わせてもらってもいいか?)

 

(……………一体何のために…………?)

 

(お前んところの馬鹿を届けに。それと………例のワルプルギスの夜についてだ。アタシも手を貸してやる。)

 

(ッ…………ええ、ええッ!!今すぐにケーキとお菓子を準備して待っているわね!!)

 

(え………お、おいマミ!?)

 

杏子が参戦してくれるということがよほど嬉しかったのか、上ずった声を上げながらマミは慌てた様子でケーキの準備をし始める。予想以上の反応と出迎えに思わずマミに静止の声を投げかけるが、それに返答が返ってくることはなく、杏子は呆れたようにため息をついた。

 

 

 

 

 

「で………………マミの部屋に来たわけなんだけどさ。」

 

程なくしてマミが住んでいるマンションに足を運んだ杏子は、満面の笑みを浮かべながらドアを開け放つマミの熱烈な出迎えに乾いた笑みを見せる。

担いださやかを安静にソファに横たわらせると開幕一声にそんな言葉を上げた。

 

「誰だオメェら。」

 

「ピェ」

 

「………………」

 

鋭い目つきを見せながら見下ろしている杏子のその姿勢に威圧されたのか小さく悲鳴を上げた涙目と澄ました顔と、正反対の反応を見せる人物がいた。

マミから連絡を受けたのか、さやかの友達であるまどかと魔法少女仲間であるほむらが居座っていた。

 

「暁美ほむら。あなたと同じ魔法少女よ。佐倉杏子。」

 

「えっと…………鹿目まどかって言います。」

 

ほむらとまどかから自己紹介を受けた杏子は二人に訝しげな視線を向け、まるで吟味するように二人のことを交互に見やる。そしてまどかに目線を合わせるとその訝しげな表情を一層深める。

 

「…………アンタ、魔法少女じゃねぇな?」

 

「え………は、はい、そうですけど…………?」

 

「なんでそんな奴がここにいる?この集まりはワルプルギスの夜を倒すためのモンだろ?」

 

「……………その前に一つ聞いてもいいかしら?」

 

「……………ソイツのことか?」

 

矢継ぎ早な質問攻めにまどかの精神が悲鳴を上げ始めたところに、ほむらの質問が飛んでくる。それに杏子は目配せを送ると部屋にいた全員の目線がそこに向かう。ソコにはソファで横たわっているさやかの姿。その表情はソファの寝心地がいいのかは定かではないがわずかに口角が上がっていた。

 

「何か、あなたを変えるだけの出来事があったのは察せるわ。あの子と、さやかとそりが合わなかったのは一番知っているつもりだから…………」

 

「あん…………?お前何言って……………?」

 

ほむらの言葉に眉を一層潜め、怪訝な表情を露わにする杏子。

 

「…………貴方には知ってもらわなければならないことがざっくりとして二つあるわ。ソウルジェムのことと、私自身のことについて。」

 

「アンタ自身のことはともかく………ソウルジェムのことなんて、なんかあんのか?」

 

「それが…………あるのよ。私ですら知らなかった、意図的にキュウベェに聞かされていなかったことが。」

 

「意図的に………だと?アイツ、前からすかした奴だとは思っていたけどさ…………」

 

杏子の疑問に答えたマミの言葉に首をかしげる彼女だったが、マミの陰が入り込んだような曇った表情に目を見開く。

 

「……………聞かせてもらおうじゃねぇか。ソウルジェムの秘密って奴をさ。」

 

テーブルに頬杖を付き、半分疑いを持ったような目を浮かべている杏子に、ほむらとマミは互いの目を見合わせ、意を決した表情をすると、杏子にソウルジェムの秘密を語り始める。

 

インキュベーターと契約を交わした時に産み出されるソウルジェムは契約した魔法少女自身の魂が材料となっていること

 

そのソウルジェムが砕かれたり、一定の距離を所有者から離れさせると、所有者自身の魂が抜けて抜け殻となった身体の機能は諸々停止すること。

 

そして、ソウルジェムの穢れは魔女がばらまく呪いと同質のものであり、その穢れがソウルジェムの輝きを覆い尽くした時、魔法少女は魔女へと変わり果ててしまうこと。

 

 

 

「なんだよ…………それ……………そんな馬鹿みてぇな話、誰が信じるってんだよ…………!!」

 

その話を聞いた杏子は大きく目を見開き、ワナワナと顔を震わせながら事実を認識できていないのか、頭を振り払う。

 

「マミ!!お前こんな話を信じるのかよ!?コイツの話が全部事実だとすれば、これまで倒してきた魔女は全部元は    

 

「ええ、そういうことになるわ。」

 

マミに言いよる杏子だったが、言いたいことを全て語るより先にマミ自身にそれが真実であることが遠回しに含まれた言葉で遮られ、二の句を告げられなくなる。

 

「私だって、始め聞かされた時は真実だって思いたくもなかった。当然でしょう?今まで倒してきた魔女が元は全員が同じ魔法少女だったなんて、普通は正気でいられるはずないもの。」

 

「じゃあなんでそんな平然としていられるんだよ!?ついにトチ狂ったのか!?」

 

マミを指差しながら杏子は捲し立てるが、対するマミは杏子に言い返すことはせず、代わりに視線を別のところに向ける。自然とその視線を追う杏子は彼女の目線がソファで寝ているさやかに行き着いていることに気づく。

 

「…………多分、先輩としての矜恃なんでしょうね…………後輩である美樹さんがしっかりと受け入れて立ち上がっているのに先輩である私がいつまでも下を向いていられないもの。」

 

「またソイツかよ…………一体今度は何やらかしたんだよ……………」

 

「巴マミと変わらないわ。美樹さやかも受け入れただけ。でも、その形は大きく異なるわ。」

 

「なに……………?」

 

「さやかは、貴方に伝えたソウルジェムの真実………主に穢れに染まり切ると魔女に変貌する真実に自力でたどり着いた。その上で彼女は魔法少女になることを選んだ。」

 

「一体何のためにだ…………?」

 

「魔女の結界に取り込まれた私と………その魔女の相手をしていたほむらちゃんを助けるため…………。」

 

嫌悪感か、はたまた怒りからか表情を歪ませている杏子にまどかがさやかが魔法少女になった状況を一言で語ると、杏子はテーブルに拳を叩きつけ、部屋にけたたましい音を響かせた。その音に思わず三人は口を横一文字に噤み、沈黙が支配を始める。

 

「………………悪い、少しカッとなった。もうアイツに負けちまった以上、アタシがとやかく言えることは、もうねぇもんな。」

 

思わず机を叩いてしまったことに杏子は支配した沈黙の空気を切り開きながら、バツが悪そうに謝罪の言葉を口にする。

 

「やっぱり、美樹さんに負かされたのね。」

 

「そうじゃなきゃぁアイツだけ適当に放っておいて帰ってる。」

 

バツが悪そうとはいえ、不機嫌なところは変わっていないのか、言葉の端にトゲがついたような口振りの言葉を返す。

 

「んん…………寝てた…………いや意識を失っていたか…………まぁ、貧血だったのだからしょうがない、か。」

 

「さやかちゃん!!」

 

「グフッ」

 

そんなタイミングでさやかが目を覚ました。しかしムクリと上体を起こし、現状を確認している最中、まどかに飛びつかれたことにより、小さく呻き声を上げながら再びソファに身を沈める羽目になった。

 

「だ、大丈夫………?美樹さん。」

 

「まぁ……………生身で魔女に立ち向かった時よりはさしたる問題はない。貧血程度だったからな。」

 

まどかに悪意がなかったとはいえ、半ば無理やりソファに沈められたさやかに心配そうに声をかけるマミにさやかはまどかを押し除けながら答える。その貧血程度という言葉に杏子は渋い顔を見せていたが、さやかは敢えて触れることではないと判断してスルーすることにした。

 

「それと、ほむら。少し聞きたいことがあるのだが……………」

 

「何かしら?」

 

「…………お前が時間遡行してきたことによる因果の重なりとは、まどかにしか存在していないはずだったよな?」

 

「待って。彼女にはまだそこまで話をしていないわ。」

 

「ん…………そうか。」

 

ほむらの待ったの声にさやかは開いていた口を噤むと、まどかをソファからどかし、今度こそ上体を起こし、杏子と対面する。

 

「で、どこまで話は進めているんだ?」

 

「まだソウルジェムのことを話しているところ。要するに全然よ。」

 

「…………すまないが、まだ寝ていてもいいか?さっきまでは貧血から意識を失っていたから疲れが取れてないんだ。」

 

「貧血になった経緯は知っておきたいところだけど…………必要になったら起きなさいよ?」

 

「ん……………」

 

しょうがないというようなほむらの返答にさやかが返事を返すと、ソファの背もたれに背中を預けて再び意識を闇に落とす。とはいえ、今度は安定した寝息が聞こえてくるため、そこまで心配することはないのだが。

 

「……………トーシローが無茶をするからそうなる…………」

 

「あら?その無茶をする素人に負けてここにいるのはどこの誰かしら?」

 

「うっせ」

 

呆れたようにため息を吐く杏子にマミがいい笑顔でそうツッコミを入れると途端に杏子の表情は不機嫌なものに戻り、悪態を吐き出す。

 

「ホントにノーテンキな野郎だぜ。魂が抜き取られて、ソウルジェムとして形になったのなら、アタシらはいわゆるゾンビじゃねぇか。なのにどうしてよく平然としていられる。」

 

「多分、そうなったとしても、こうして会話ができたり、心を通わせられるのなら人間と変わりはない、なんて言いそうね。美樹さん。」

 

「それに、美樹さやかに至ってはその魔法少女の中でも異質中の異質になるでしょうけど。」

 

「………そういやソイツ、自分は特異な体質だからグリーフシードはいらないって言ってきたんだけどさ、お前らはそれ知ってるのか?」

 

「…………ついさっき、穢れを溜め込みすぎたソウルジェムが魔女化してしまう事実があったでしょう?」

 

ほむらのさやかへ特異中の特異という言葉でさやかがグリーフシードを渡した時に言っていた言葉を思い出したのか、杏子がそのさやかの特異性について尋ねると、マミが先ほど話した魔女化の話を挙げる。

 

「私が暁美さんから聞かされた魔女化に至る条件は主に二つ。魔力の使い過ぎと、人の感情の揺れ幅。前者はともかく後者はあんまり実感が湧かないと思うけど、絶望に対して強い反応を示すそうよ。」

 

「絶望…………………」

 

マミの口から語られた絶望という単語に杏子の脳裏に情景が映り込む。それはさやかとの決闘で敗北した直後に魔女が現れた時の自分自身。その時の杏子はどういうわけか魔女が現れたにも関わらず、自分自身に溢れ出んとする感情を吐露するのに躍起になっていた。

 

それこそ、周囲の状況が記憶としてはっきり残っていないほどにだ。

 

(だから、アイツはあんなにまで必死になっていたのか。アタシを魔女化させないために…………)

 

だが、そんな状態でもなんとなくさやかが自身の眼前に立っていたことは朧げながらにも覚えていた。

 

「…………で、それがその特異性となんの関係があるんだ?」

 

「美樹さんが持つ特異性は魔力の自動回復。つまり、彼女は魔力の使い過ぎによる魔女化の可能性がほぼゼロなの。だからよほどのことがない限り、グリーフシードも必要ないの。」

 

「…………そんなチートじみた奴と戦っていたのかよ、あたし。」

 

「いえ、少なくとも貴方が彼女とイザコザを引き起こすまで、美樹さやかは普通の魔法少女だった。」

 

「普通、ねぇ………………」

 

「…………佐倉さん?」

 

さやかが持つ魔力の自動回復が杏子とのイザコザが起こるまで普通だったという言葉に訝しげな表情を見せる。そのことが気になったマミがそれを指摘するように杏子の名前を呼ぶと、一度目線を外してから再度マミ達と目線を合わせた。

 

「…………アイツ自身自覚がないって言っていたからあんま言うつもりはなかったんだけどよ………もしアイツの目が途中で金色に変わって、虹彩が蠢いていた、なんて言ったら信じるか?」

 

杏子の言葉に三人は互いに目を見合わせて首をかしげる。常識的にも人の目が金色に変わり、なおかつその瞳孔が蠢くなど魔法少女の観点からも有り得ない。

 

だが        

 

 

「ッ……………夢か…………今の…………?」

 

不意に寝ていたはずのさやかが目を覚まし、眠気を振り払うように頭を振る。ちょうど話題の人物が目を覚ましたことで自然とほむら達の目線はさやかに向けられる。

 

「ね、ねぇ、美樹さん、どうしたの…………?」

 

「……………突然、不思議な夢を見たんだ。見慣れない少女、いやあれは魔法少女、なのか?」

 

マミが声をかけるとさやかは顔を片手で覆い、頭を抱えるような仕草で俯いていた。そのさやかから呟かれる譫言のような言葉に揃って首をかしげる四人。

 

「魔法少女が救われる都市、神浜市……………そこに一体何がある…………?」

 

譫言を呟き続けたまま、徐に覆っていた手をどけ、顔をあげるさやか。その瞳は杏子が言ったように金色に輝いていた。

 

 

 




次をワルプルギスの夜編と言ったな?あれは嘘だ。



追記

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第34話  魔法少女が救われる街  神浜市

…………ワンチャンホーリーマミさんのフラグ立たないかも。


「神………浜…………市………?いえ、それよりも、貴方その目は     

 

「さ、さやかちゃんの目が………金色に………!?」

 

「ほら見たことか!!アタシの言ったこと、嘘じゃなかっただろ!?」

 

「美樹さん………貴方は     

 

さやかが表を上げた瞬間、目に飛び込んだ金色に、そしてその虹彩が虹色蠢くその瞳。一種の気味悪さが出てくるソレに一同は杏子を除いで絶句した様子でそれを見つめる。

 

「……………どうしたんだ?そんなびっくりしているかのような顔を揃って     

 

「ッ……………!!」

 

周囲の人間が目を見開いている理由がわかっていないのか、首を傾げているような反応を見せるさやかにマミがいてもたってもいられなくなったのか、急にその場を後にする。

 

部屋の奥に向かった彼女を呆然とした様子で見送るさやか達だったが、程なくしてすぐにマミがまた戻ってくる。ただ、その手には彼女の所有物なのか、手鏡が握られており、さやかの眼前に腰を下ろすとその手にしていた手鏡を押しつけるようにさやかの前に差し出す。

 

「美樹さん、これで貴方の眼を見なさい。」

 

「……………?」

 

「早くッ!!!」

 

突然手鏡を押しつけられたことに怪訝な顔を見せるさやかだったが、マミの有無を言わせない姿勢に困惑気味な様子を隠しきれずに受け取ると、言われた通りに手鏡に自身の眼を映し出し、初めて己の瞳が金色に光っているのを目の当たりにする。

 

「……………本当に金色になっている………しかもこれは虹彩が虹色に…………?」

 

ようやくそこで事態の異常性を認識したのか、さやかは目を見開き、恐る恐るとした様子で手鏡から視線をマミたちに向ける。

 

「…………………それで…………どうしたんだ?」

 

「どうしたはこっちのセリフよ!!何か変になったりとかないの!?」

 

またキョトンと首をかしげるさやかにマミは彼女に詰め寄り、心配そうにさやかに様子を尋ねる。そのことにさやかは考えるように視線を上に向けると、思い当たる節がないのか、フルフルと首を横に振る。

 

「いや、特に……………これといって何か変化があると言うわけでは…………ああ、でも…………」

 

「さっきから、妙な感覚がする。ここから離れた、どこか違う場所…………確実にそこで何かが起こっている。」

 

「…………それが、神浜市なの?」

 

「そう……………だと思う。」

 

まどかの確認に表情に影を落としながら曖昧な返答をするさやか。その様子にほむら達三人は難しい表情を浮かべ、訝しげな様子でさやかを見つめていた。その目は揃ってさやかの金色に輝いている目を視界に収めていたが、しばらくすると、すうっと色が抜け落ちるようにさやかの目は元の水色へと戻っていた。

 

(……………一体、なんなのかしらね。彼女のあの目は。)

 

(……………思えば、前にも不自然なことがあったわ。)

 

気まぐれでほむらへ念話をかけたマミだったが、返ってきた言葉に意外そうな表情を向けると念話でさやかがマミの窮地を救い、病院送りになった直後にほむらがやってきた時の話を始める。

 

(あの時の私は貴方に拘束されていて動けなかった。病院の中の魔女の秘密を知っているのは私だけだったし、貴方の拘束を解くことが出来なかった以上、貴方の生存は諦めるしかなかった。)

 

(それは…………そうよね、それを美樹さんが知っていたからこうして私は生きているのだし…………)

 

(いいえ、あの時点で彼女は知らなかったわ。美樹さやかはその場にいなかった私の諦めを察したことで、貴方に危険が迫っていることを知った。)

 

直前までさやかも自身に危険が迫っていることを知っているわけではなかったと言うことにマミは思わず言葉を失う。なぜならそうでなければ魔女の体の中から別の存在が出てくるというのに、さやかの対応に向かうタイミングが明らかにおかしいからだ。

 

(……………もしかしたら、この時間軸の彼女には魔法少女以外の力もあるのかも…………)

 

(そんなの…………ありえるの…………?)

 

そのマミの呟きを最後にほむらは彼女との念話の回線を閉じ、一人思案に耽る。とはいえその内容は既にわかり切っているようなことであった。

 

(……………もう、私のこれまではあてにならないわね。)

 

繰り返すだけのこれまでが、先の見えないこれからに変わってしまったことにほむらは遠い目をしながら窓の向こうに見える空を見上げる。しかし、その先の見えないこれからは、さらにほむらを混迷の渦に引き寄せる。

 

 

 

 

 

 

四日後、ほむらの()()()()であれば、この日にワルプルギスの夜が見滝原を訪れる。結界を有して身を隠す必要がないというほどの強力な魔女とのことだったが、魔法少女でない人間の目に映ることはなく、10割がた災害として認識されるというのが通例とのことだ。

そのレッテルづけされる災害はスーパーセル…………要するに台風が大半を占めるというのがほむらの言葉。

 

だが、そのワルプルギスの夜がやってくる予定日にいざ出向いてみれば、そこは雲一つない全くの快晴日、一言でいうなら平和であった。

 

 

「どういうことだおい、こねぇじゃねぇか。」

 

「雨雲どころか、白い雲すら一つもないわねぇ………………」

 

ワルプルギスの夜が影一つすらその姿を見せないことに肩透かしを受けたのか、懐からチョコがぬりたくられた棒状の菓子を頬張りながら杏子が文句をあげ、マミは頬に手を当てながら綺麗に晴れた空を見上げている。

 

「………………やっぱり、例の神浜市で何かが起こっているのかしら。」

 

「可能性としては大いにあるかもしれない。現に、みんなも見たのだろう?私が見たモノとほとんど同じ内容の夢を。」

 

訝しげな表情を見せながら神浜市の名前をあげるほむらにさやかがそう言うと三人の表情は揃って困ったような顔を浮かべる。実はというとこの四日間の間、ほむら達三人もさやかと同じ姿形をした魔法少女が夢に出て、なおかつ神浜市というワードを聞いてしまったのだ。

 

『運命を変えたいなら神浜市に来て。この町で魔法少女は救われるから。』

 

これはその夢に出てきた魔法少女が語った内容。それぞれ四人が見た内容を平均化させた言葉ならともかく一字一句違わないことが余計にさやか達を悩ませる要因にもなっていた。

 

「行くにしても、見滝原から神浜へは電車を使わないと厳しい。」

 

「……………マジで行くのか?親父が宗教広めてた身だからアタシが言うのはちょっとアレな気がするけどさ、ぶっちゃけ怪しくねぇか?」

 

「……………確かに…………救われるって言うことは、魔女化の運命から逃れられるということだものね。そんな大きいことどうやって…………でも、魔法少女が救われるって言うのは気にならないかしら?真実がどうであれ。」

 

 

行くという決意がありありと感じられるさやかにストッパー気味に訝しげな表情を見せる杏子に魔法少女が救われるというのに若干の興味があるマミとそれぞれの反応を見せる中、ワルプルギスの夜が来ない以上、これからどうするかを考えるほむら。

 

(やっぱり、神浜市へ向かうのが一番いいのかしら。あの地点に関しての情報なんて何一つとして持ってはいないけど…………)

 

ほむらは自分の目の先で神浜市へ行くか行かないかの議論を続けているさやか達を見つめる。

 

 

(私もこの時間遡行をやり始めたばかりのころはあんな感じに暗中模索の日々だった。)

 

ワルプルギスの夜を打倒するというゴールにようやくそのステージに差し掛かったところでの怒涛の勢いで巻き起こる新たな状況。その状況はまるで振り出しに戻されたスゴロクのようだ。

 

(だけど、今は一人じゃない。巴マミを死の運命から救い出すことができた。佐倉杏子を引き入れることができた。)

 

(何より、信じてくれるとは思わなかったことを信じてくれたこの時間軸の美樹さやか、貴方がいる。)

 

もはやこの時間軸でほむらの目の前で今まで起こってきた出来事が繰り返されることはほとんどない。言い方を変えれば、今まで出来なかったことが出来るかもしれないという希望にも繋がる。

 

 

「…………私は行った方が賢明だと思うわ。今はこれまで起こっていたことが起こらなかった原因を探ることが重要のはずよ。」

 

「おいおいおいお前まで…………これじゃあ3対1じゃねぇかよ。」

 

「貴方が行かないって言っても引きずってでも連れて行くわ。原因がすぐに見つかるとは思えないし、何より私たちには普段の生活がある。それを疎かにしないためにもフットワークの軽い貴方は必要なのよ。」

 

ほむらまで行く側に立ったことに肩を竦める杏子だったが、ほむらから無理矢理にでも連れて行くと言われると観念したようにため息をついた。

 

「ハァ…………わかったわかった。で、今日はどうすんだ?」

 

「決断したのなら行動も早い方がいいでしょう。でもうかつな行動は控えること。単独行動なんては以ての外。私達はいわば新天地へ乗り出す開拓者なんだから。」

 

「だが、情報は出来るだけ手に入れるべきだ。そのくらいの無理は容認した方がいいんじゃないのか?」

 

「まぁ虎穴に入らずんば虎子を得ず、なんてことわざもあることだからね。」

 

ほむらの忠告に指摘を入れるようにさやかが情報を手に入れる努力はした方がいいと言うとそれにマミが同意の声を上げる。それにほむらは難しい顔をしながら肩を竦めるも状況次第と便利な言葉で話を仕切る。

 

 

 

 

「神浜市、ねぇ……………あんまアタシは風見野から出たことなかったから周りのことなんざてんでさらさらだったけどよ、なかなか綺麗な街並みじゃねぇかよ。」

 

「一応携帯でわかるだけ調べたけど、結構交通網とか発展しているのね。」

 

地図上から見て神浜市は見滝原から北西方向。その北西へと線路の上を走っている電車の中でさやか達は神浜市の地理情報を共有していた。杏子が外の風景を見つめ、マミは手にしていた携帯で神浜市のホームページを見ていた。

 

「………………一応確認だけしておくけど、今回はあくまで神浜市に関する情報。主に魔法少女に関するものが一番望ましいわ。」

 

「…………思ったんだけどさ、それキュウべぇの野郎を問い詰めた方が早えんじゃねぇの?どうせ神浜市にいる魔法少女にもアイツ絡んでんだろ?」

 

ほむらの今回の行動目的を共有している最中、ふと杏子が思い出したかのようにインキュベーターの名前を挙げる。確かに魔法少女が絡んでくるのであれば、その元凶であるインキュベーターに聞けばなんらかの手がかりが得られる可能性は高い。

だが、これまでの時間遡行の積み重ねか、インキュベーターを忌々しく思っているほむらは嫌そうな表情を見せる。

 

「まぁ、わざわざ暁美さんが足を運ぶ必要はないのだから、私が聞いておくわ。それとなりに交友は持っているからね。」

 

「……………お願いするわ。」

 

その表情を見たマミが代わりにインキュベーターにあたると名乗りを上げたことにほむらは申し訳なさそうにしながら感謝の言葉を述べる。

 

「…………マミ先輩、奴は質問に聞かれなければ答えを出すことはない。だから包み隠さず聞きたいことを素直に聞いた方が賢明だ。アレはただ言われたことに対してしか答えることができないただの機械の端末でしかない。向こうはコチラを劣等種か何かと下に見ているようだが。」

 

「ハッ、なんじゃそりゃ。」

 

さやかのインキュベーターに対する所感を述べると杏子は鼻で笑いながら電車の窓枠に肘をかけ外の風景を視界に収める。

 

「だけどマミ。さやかの言ってることは合ってると思うぜ。アイツ、こっちが聞けば大体は答えるはずだからな。さやかの名前もそれで知ったからな。」

 

「……………わかったわ。助言、感謝するわ。」

 

一転変わって杏子がさやかと同じような助言を送り、それにマミは朗らかな笑みを見せる。そして四人を乗せた電車は件の神浜市に向かう線路を進んでいく。

 

魔法少女は救われるという、その真実を確かめに行くために。

 

しかし、日がさせば影が映るように、魔法少女あるところには切ってもきれない存在がいる。

 

 

 

 

 

 

「………………これは…………魔女か?それに誰かと戦っている…………?」

 

その異変に気付いたのは例によってさやかであった。以前から魔法少女でもないのに関わらずなんとなく魔女の存在を感知できていたが、今回はそれに連動するように彼女の虹彩が水色から蠢く虹色にすげかわる。

 

「幸先がいいのか悪いのかよくわかんねぇな…………。」

 

やってきて早々   というよりまだ差し掛かっただけなのに早速魔女絡みになったことに悪態をつきながら槍を構える。一般人も乗り合わせる電車の中でそんなことをしていいかと言われれば答えはノーだ。

 

しかし、電車の中の空間は既に異質なものに変わっていた。先ほどまでいたはずの人々の姿は跡形もなく。代わりに魚のような外見をした使い魔が車内を跋扈していた。

 

「全くね。これじゃあ落ち着く暇もないわ。」

 

そう言いながら澄ました顔でマスケット銃複数を取り出したマミが一斉掃射で使い魔の群を殲滅する。車内の状況をクリアーしたさやか達は車輌と車輌を繋ぐ扉の前で突入の準備を行う。

扉に手をかけたさやかが確認のために振り向くとそれに他の三人が頷く仕草を見せる。

そしてさやかは電車の扉を思い切り開けはなつ。眼下に広がる魔女の結界はこれまでのものと比べると比較的明るい空間だったが、辺りを飛び回っている工事用の足場のようなものがどう足掻いても今いる空間がきみの悪いものであることを認識させる。

 

「…………いたわ!!あそこ!!一人、いえ二人で魔女と戦っているわ!!」

 

マミの声にさやか達の視線がその方角に向けられる。そこには生き物でいうサンショウウオのような風貌をしている魔女、そしてケープを被った魔法少女がコンパクトサイズのクロスボウでその魔女と交戦している光景が目につく。

しかし、一人しか戦っていないことに訝しげな表情を見せるさやかだったが、すぐにその近くで負傷したのか横たわっている黒いケープをかぶった魔法少女を見つける。

 

一人は倒れ、もう一人も戦闘慣れしていないのか動きが悪く、明らかな劣勢にさやかが電車から飛び降りようとした瞬間、魔女の動きに変化が現れる。

サンショウウオの外見をした姿形からドロっと粘性のある液体にその身を溶かすと、先ほどまで戦っていた魔法少女と倒れた魔法少女ごと飲み込みどこかへ飛び去っていく。

 

「ッ………さやか、追いなさい!!あとで追いつくから!!」

 

「了解!!」

 

見るからに危険な状況に陥っていたことにほむらが咄嗟にさやかにそう命ずると同時にツインドライヴからGN粒子を放出させ、電車から飛び立つ。クリアに輝いている緑色の粒子を魔女の結界にふりかけながら一気に球体と化した魔女の元へ接近する。

 

「向こうのスピードはこちらの比ではない。これなら!!」

 

スピードに差があり、追いつけると判断したさやかは左肩からGNバスターソードⅡを手にするとツインドライヴの出力を上げ、空に二つの円の軌跡を残しながらさらに魔女に接近する。

 

「でぇやぁ!!」

 

一気に間合いを詰めたさやかはその黒い球体に向けて、上段に構えたGNバスターソードⅡを振り下ろす。しかし、黒い球体自体を切断するには至らなかったのか、鈍器で叩いたような鈍い音が響き、吹っ飛ばされた魔女は二人の魔法少女を取り込んだまま、その巨体を神浜市のビルの一角に向けて突っ込んでいった。

 

「ッ……………!!」

 

思わずやってしまったというような表情を見せたさやかはすぐさま魔女が墜落して行ったビルに向けて針路をとり、その施設の屋内庭園のような場所に降り立つ。

まだ衝撃で舞い上がった土煙が覆う中、さやかは辺りを見渡す。

 

う、うぅん……………

 

「ッ…………いた!!」

 

微かに聞こえた呻き声。耳聡くそれを聞いたさやかはすぐさま声のした方角へ足を向ける。そこにいたのは遠目から見た時にクロスボウで戦っていた赤い線の入った修道女の白いケープをかぶった魔法少女だった。

 

「良かった…………無事のようだな。」

 

魔女を弾き飛ばして建物にぶつけてしまったことで中に取り込まれた二人に怪我はないか心配だったさやかだったが、それが杞憂で済んだことに安堵な表情を見せる。

 

「あ………貴方は…………?」

 

「詳しい話はあとだ。今は、お前の近くで倒れていたもう一人の無事を確認するべきだ。」

 

「は、はい!!」

 

自分のことを尋ねられたさやかだったが、今はそれよりも優先することがあるというようにもう一人の魔法少女のことを話題に挙げると、目の前の少女はハッとしながらその魔法少女を探し始める。幸い、その魔法少女自身も気絶こそしていたが、すぐに見つけることができた。ケープをかぶった魔法少女の言葉を聞くに、どうやら黒江という名前らしい。

 

「そ、その、助けてくれてありがとうございました!!」

 

「ん…………二人が中に取り込まれるのは見ていたのだが…………外の様子が見えたのか?」

 

「い、いえ………そういうわけではないんですけど、突然外から衝撃が起こったので、貴方なのかなと思って…………」

 

突然お礼の言葉を言われたさやかは首を傾げるもその直後の少女の推測に納得の表情を見せる。

 

「正直言って建物にぶつけてしまった時は焦ったのだが、二人が無事ならよかった。」

 

「あの、貴方も魔法少女なんですよね……?お名前聞かせてもらってもいいですか?今度お礼させてもらいたいんです。」

 

「別に気にしなくていいのだが、それではお前の気が許さないようだな。」

 

「す、すみません…………。」

 

さやかが気にしないと言ったところで少女に引く気がないのを悟ったのか、それに言及すると、少女は申し訳なさそうに顔を俯かせる。

 

「美樹さやかだ。見滝原で魔法少女をやっている。」

 

「見滝原…………結構距離がありますけど…………もしかして、美樹さんもあの夢を見たんですか?」

 

「………………その質問に答えるのは後にしよう。」

 

「えっ………………?」

 

さやかの言葉に思わず顔を上げた少女は背を向けたさやかが大剣を構えて戦闘態勢に入っているのを目にする。

 

「魔女が来る。それもさっきのやつと含めて二体だ。だが、これはなんというか……………」

 

さやかの言葉に歯切れの悪さを感じた少女だったが、その直後に広場に二体の魔女が現れる。一体は先ほど戦ったサンショウウオの姿をした魔女。そしてもう一体は砂のような髪をたなびかせ、黒いドレスを纏った女性のような魔女であった。

さらに大きさはサンショウウオの魔女を上回っており、両手でサンショウウオの魔女を掴むと、その体を引きちぎった。

 

「魔女が魔女を…………!?」

 

「……………すまない、今更だが名前を聞いてもいいか?」

 

「え、あ、た、環 いろはです…………」

 

魔女と魔女が争い、なおかつ片方を殺したことに少女が息を呑んでいる中、さやかは少女の名前を尋ねる。その突然のことに少女、環いろはは困惑気味ながらも自分の名前を告げる。

 

「……………いろは、お前の戦闘スタイルを鑑みるに前衛は向いていない。基本的に魔女の目は私が引きつけておく。だからお前は安全なところに身を潜めていろ。」

 

「え、で、でも!!」

 

「問題ない。すぐに私の仲間がやってくるはずだからそこまでの辛抱だ。」

 

それだけ言うといろはからの返答を待たずしてさやかは魔女に肉薄するとGNバスターソードⅡを力任せに振るい、魔女を吹き飛ばす。

 

(それに、別の方角から誰かが向かって来ている。おそらく地元の魔法少女だと思うが………………)

 

ほむら達とは違う方向から向かってきている存在に一抹の不安を抱きながらさやかは魔女に攻撃を仕掛ける。

魔女が魔女を襲い、なおかつ殺してしまうという異常。やはり神浜市には何かがあるのはさやかでなくとも目に見えて明らかであった。

 

 

 




次回、もしかしたらさやかが一段上のチートに足を突っ込むかも。

まぁ、自分の筆の進み具合と展開次第なのですが(白目)

感想お待ちしてます。作者の励みになるので。


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第35話 神浜市のその噂

一応、本作ではアニメ版を基調として話を進めていく予定ですので、どうしても出てこないキャラも多々あると思いますが、ご了承くだされ。

まぁ、個人的に出してみたいキャラは一人いるんですけど…………


「ふぅ………………」

 

GNバスターソードⅡを両手で構えたさやかは目線を自身の前方で蠢いている魔女に向けて集中させる。

 

(三人とも、今しがた新しい魔女と接敵してしまった。間に合うのであれば援護を頼みたい。なんだかこの魔女は妙だ。)

 

(わかったけど………妙ってどういうこと?)

 

(…………最初の見つけた両生類のような魔女、あれが新しく現れた魔女に殺された。)

 

(ハァ…………?)

 

ひとまずほむら達に念話を送り、魔女が魔女を殺すという異常事態を伝えると案の定杏子の声を筆頭に困惑気味な声がさやかの脳裏で響く。

 

(それと追加で、どうやらこの付近に現地の魔法少女が来ているようだ。協力を仰ぐべきか?)

 

(協力を仰ぐのはいいけど、その後の対応には気をつけなさい。本来であれば私達はグリーフシードを狙いにやってきた外からの魔法少女と言われてもおかしくはないから。)

 

(む…………そうか、それもあるか。私は基本グリーフシードがいらなくなってしまったから失念していた。)

 

 

ほむらの言葉に納得した様子を見せたさやかはGNバスターソードⅡを構え直す。砂の髪をたなびかせている人形の魔女は殴りつけられたダメージが残っているのか、フラフラとよろめかせていた。

 

(…………そういえば、答えてなかった質問があったな。いろは、まだ声が届くとこにいるか?)

 

(はい、なんですか?)

 

(一応、私達見滝原組もその夢を見てこの神浜市に来た。神浜市に来れば魔法少女は救われるという内容のだ。そういう意味では私達は同じ志を持った者と言える。といっても私達はその魔法少女が救われるというのに疑いを持って来ているが。)

 

(疑い…………ですか。)

 

(…………すまないが、詳しいことはまた後でだ。今はコイツの対処をしなければならないからな。)

 

いろはとの念話をそれまでにするとさやかはGNバスターソードⅡを振りかぶり、よろけている魔女に向けてもう一度振り下ろす。

 

『!?!!?!!!?』

 

再びバスターソードを食らった魔女は結界のような公園を模した風景を破壊し、声にならないような絶叫を撒き散らしながら後ずさる。

 

(……………この魔女、これまでのものと比べて強いな。)

 

これまで出会した魔女はその攻撃方法に苦心しただけで、おおかた一撃で倒してきたさやかはバスターソードⅡの攻撃を二発受けても普通に活動を続けている魔女に舌を巻く。さらにはバスターソードの形上、切断というより相手を質量で叩き切る構造をしているため、巨体を誇る魔女には少々ダメージを稼ぎづらい面がある。

 

「……………だが、私の剣はこれ一本ではない!!」

 

しかし、さやかの手にしている剣は一本にあらず。バスターソードを左肩に戻すとさやかは腰にぶら下げていたGNソードⅡ、そのショートとロングを手にすると一気に魔女に肉薄。その一対の二振りを魔女に向けて振り下ろす。

 

「セブンソード………コンビネーション…………!!」

 

さやかはGNソードロングで魔女を切り抜けるとすぐさま反転、今度はGNソードショートで魔女の背後から切り抜けるとその二つの剣を真上に放り投げる。

 

「GNカタール…………!!」

 

放り投げた二つの剣が空中で煌きを生み出している中、さやかは瞬時に脚部に取り付けてある二つのカタールを魔女に向けて投擲し、その刃を魔女の体に深々と突き刺した。

 

その痛みに悶えているのか魔女がのたうち回る仕草を見せているとさやかは空へ放り投げたGNソードを再び手に取るとショートの剣先をワイヤーで射出し、魔女の巨体にそれが突き刺さるのを確認すると、自身の体を魔女に引き寄せ、勢いそのままロングの刀身でもう一度切り抜ける。

 

「切り開くッ!!!」

 

さらにさやかはGNバスターソードⅡの刀身の裏の取手を左手で手にし、手持ちの盾のように構えるとそのまま魔女に向けて殴りつけるようにその先端を突き刺す。さらに右手にGNソードⅡブラスターを手にすると、銃身下部のブレードで袈裟斬りに切り裂くと最後にトドメと言わんばかりにさやかはGNバスターソードⅡとブラスターのブレードで魔女の体を挟むように斬る。

 

「これで、終いだッ!!!」

 

刃が食い込み、肉体を切断している二つの刀剣から血が吹き出ているように黒い液体が辺りにぶちまけられるが、さやかはお構いなしに一度食い込んだ刃を反対に向け、今度は魔女の体を無理やり押し広げるように力任せに振り抜く。

 

その結果魔女の体はバラバラに引きちぎれるように切り裂かれ、魔女の髪の部分を形成していた砂のように風に吹かれたように消えて行った。

 

「な、なんとかなった…………」

 

「す…………すごい…………!!」

 

魔女の残骸が黒いモヤとして周囲に漂う中、その中でクリアに煌めく緑色の粒子に包まれながら安堵の表情を見せるさやかの姿にいろはは目を見開いてその姿を見つめる。

 

「…………いろは、これをお前とそこの黒江という子のソウルジェムに。」

 

ビルの中の広場に降り立ったさやかは足元にあったものを拾い上げるとそれをいろはに向けて投げ渡す。それを驚きながら掴みとったいろはは、投げ渡されたものが二つのグリーフシードであることを認識すると再び目を見開きながらさやかを見つめる。

 

 

「え、そ、それじゃあ美樹さんのは…………!?」

 

いろは狼狽ながらの言葉にさやかは答える代わりに自身のソウルジェムをいろはに見せつけるように手にもつ。その青い宝石は若干の緑色の輝きが入り混じっていたものの、輝きそのものに陰りは一切なかった。

 

「この通り、魔力に関してはさほど気にするな。遠慮しないで使ってくれ。」

 

「……………ホントにいいんですか?」

 

遠慮するなというさやかの言葉があったにも関わらず、それでもいろはは申し訳なさそうに不安な表情を見せる。それにさやかは笑みを見せながら無言で頷く。それでようやくいろははおずおずと自分と黒江のソウルジェムにグリーフシードを当て、穢れを取り払った。

 

「その…………改めてご迷惑をおかけしました。」

 

「あ、ありがとうございました…………。」

 

ソウルジェムから穢れを取り払ったタイミングで黒江が目を覚まし、いろはが事の行き先を説明し終わるといろはと一緒に黒江も感謝の言葉を述べながらさやかに頭を下げる。

 

「気にするな。こちらが好きでやったことだ。ところで二人はこれからどうする?このまま神浜市に向かうのか?」

 

お礼の言葉に気遣いは無用という返答をするついでにさやかは二人にこれからの動向を尋ねる。既に外の風景は日が沈み夜になっており、これから行動を起こすのは中学生であるさやか、そして服装的にもいろはと黒江には周囲の目を気にしないといけない時間帯だ。

 

「……………いえ、今日はもう帰ろうと思います。こんな時間ですし、明日も明日で学校ですし…………黒江さんもそれでいいよね?」

 

「……………うん。」

 

「それが賢明だな。魔法少女とはいえ、学校を疎かにしていい理由にはならないからな。となるとこの時間辺りにまた神浜市を訪れるつもりなのか?」

 

「…………そのつもりです。確かめたいこともできましたし…………。」

 

いろはと黒江が今日は素直に帰るという判断に頷きながらまた神浜を訪れることを聞いているといろはが憂に満ちた表情を見せたことにさやかは首を傾げる。

 

さらに魔法少女としての姿はケープで顔が隠されていてよく見えなかったが、こうして見てみるとなんとなく既視感を覚えるさやか。その理由に当たりをつけようと頭を振り絞るがその最中、中断せざるを得ない出来事が起こる。

 

「待ちなさい。」

 

広場に響く第三者の声。いろはと黒江はびっくりした様子で声のした方角を振り向くが、さやかは頭痛の種でも出たのか、困った表情を見せる。その理由は確かにさやかも始めて聞く人間の声だったが、気配自体は魔女と戦っている時から感じてはいたからだ。

 

「今から帰るところだというのに…………神浜市の魔法少女が何か用なのか?」

 

「あら、どうして私が神浜市の魔法少女だってわかるのかしら。」

 

「私は少々気配を感じ取りやすい体質でな。魔女と戦っている時からヒシヒシと感じてはいた。一つは私の仲間である魔法少女達。それともう一つ、神浜市の市街の方角からやってきていた。その気配が今そこにいるアンタだということだ。」

 

さやかの並べられた理論に姿を現さない神浜市の魔法少女は言葉を返さない。返さない代わりにさやかは自分やいろはと黒江を代わる代わる見ているような視線を感じとる。まるで吟味されているかのような視線の動かし方にさやかは少なからず眉を潜める。

 

「…………………………で、一体何用なんだ。私達も暇ではないのだが。」

 

さやかが憮然とした表情でいろはと黒江と同じように声のした方向を見つめていると、不意に広場に差し込んでいる月の光に影が現れ、穂先がトライデントのように三叉に分かれた槍を手にした青い長髪の女性が現れる。

 

「ん…………………?」

 

その現れた上半身を白い甲冑で覆い、着こなしている青いドレスから細い足を伸ばした自身より年上と見られるその女性にさやかは訝しげな表情を見せる。いろはとはまた違ったパターンの既視感を覚えたからだ。それはどちらかと言えば似ているというより本人をどこかで見たことがあるような気がするのだ。

 

「ど、どうかしたんですか?」

 

「いや……………彼女、どこかで……………んん…………?」

 

いろはに不思議そうにしている声が聞こえたのか、さやかに声をかけるもさやかは余計に首を傾げ、頭を悩ませる。

 

「……………なぁ、アンタ。少し聞きたいのだが、一般人の目にも映る、なにか公共のモノに顔でも出していたか?」

 

「ま、まさか…………げ、芸能人!?」

 

さやかの疑問に黒江が驚いた様子で現れた神浜市の魔法少女とさやかに視線を行ったり来たりと右往左往させる。その様子に毒気を抜かれたのか険しい顔つきから呆れたような目線に変えるとため息を溢す。

 

「……………七海やちよよ。」

 

「あぁ………………やっと思い出した。モデルの人か。何かたまたま見た雑誌でアンタの名前を見かけたことがある。」

 

「そう……………。」

 

神浜市の魔法少女    七海やちよが名乗ったことでようやく思い出したのか、大仰に掌の上に握り拳で叩くという仕草を見せる。すると七海やちよは自分が掲載されている雑誌を見たことがあると言われ、髪を撫で払い、どことなく嬉しそうな様子を見せる。だが、ここでさやかはふと、ある定義が脳裏をよぎる。世間一般的に少女というレッテルは中学生辺りまで通説である。それ以上になってしまうとどちらかといえば女性と言われる範疇に侵入してしまう。

 

さて、ここで何も知らないかもしれない読者諸君にヒントだ。七海やちよは確かに魔法少女だが年齢は既に成人一歩手前の19歳である。

 

「………………19歳が魔法少女をやってるのか。そのような人もいるのだな。意外、いや珍しいといえばいいのか?」

 

「……………………」

 

その女性であれば確定で気にしてしまうはずの、本人であれば尚更タブーな事実にさやか(馬鹿)はなんのおくびも見せずに訝しげな顔を浮かべ、純粋に感じたことをぶつけた。その瞬間、七海やちよが固まり、その顔から表情が消え失せる。心なしか槍を握る手がプルプルと震えているのは見間違いではないだろう。

 

「」

 

「」

 

明らかに女性であれば目に見える地雷である年齢のことに、平然と踏み抜いて起爆させ、失礼のチキンレースを止まるどころかぶち抜いたさやかにいろはと黒江も思わず空いた口が塞がらない様子でさやかを呆然と見つめていた。

 

七海やちよが押し黙り、いろはと黒江もうかつに声を出せなくなり、その元凶であるさやかは変な空気になったことは察せるもののその理由がわからないさやかは首をかしげるという絶妙に微妙な空間が広場で形成される。

 

『こッの…………………ド天然ッ!!!』

 

その微妙な空間を切り開いたのは七海やちよ、いろは、黒江、ましてやさやかでもなくようやくやってきたほむら達であった。一部始終を見たり聞いたりしていたのか、どうしようもないくらい真っ直ぐなさやかに三人はその無防備な背中に某大体がベルトで変身するライダーのように飛び蹴りをお見舞いする。

 

「うぐッ…………!?」

 

突然背中への強襲にさやかはなんの対応も取ることが出来ずに体を弓のように逸らすとそのまま前方に向けて、顔面から転がるようにスライディングをかます。少しすると痛みから苦悶と困惑に満ちた表情をしながら顔を挙げる。

 

「い、いきなりなんなんだ…………飛び蹴りをかまされるようなことをした覚えはないはずだが…………しかも結構痛い…………。」

 

「アタシらにはなくともソイツにはあるだろうが!!少しは常識っての考えろ!!テメェも女だろうが!!」

 

杏子の怒声に訳がわからないという様子のさやかだったが、蹴られた背中をさすりながら立ち上がるとちょうど自身の背後に七海やちよが立っている位置まで吹っ飛ばされたことに気づく。彼女と真正面で対峙するさやかだったが、程なくしてその表情がかなり強張っていることに気づく。

 

「…………………なぜそんなに気が立っている?まさか、年齢のこと、それほどに指摘してはいけないことだったのか?」

 

憮然とした様子で無言で佇んでいる七海やちよにプレッシャーのような威圧感を感じるいろはだが、目の前で対峙しているさやかはそれに気圧される様子を微塵も感じさせることなく彼女の気に障ったことが年齢のことであるかを尋ねる。

 

「……………普通、人に年齢のこととやかく言われて何も感じないの?」

 

「気にしたところで、年齢を詐称できるわけではないからな。だが、それを指摘されて気を悪くしたのなら話は別だ。すまなかった。こちらの無神経だった。」

 

「ハァ………………この子、いつもそんな感じなの?」

 

視線を全く逸らさない真っ直ぐな、悪くいえば悪びれる様子が一切ないさやかの謝罪に七海やちよはため息をつくと、視線を蹴り飛ばした張本人であるほむら達に向ける。その視線を向けられた三人は杏子とほむらはため息をつき、呆れたように肩を竦め、マミは微妙な笑顔を浮かべる。

 

 

「………………気にかけてもらえる仲間がいるのは良いことよ。その仲間をハラハラさせるようなことはやめておいた方が賢明よ。ところで、貴方達は一体何が目的で神浜市に来たの?」

 

「……………………神浜市に来た魔法少女は救われるというその噂を確かめに来た。」

 

七海やちよから神浜市に足を踏み入れた理由を聞かれたさやか達。その中で彼女の真正面に立っていたさやかは一回だけ自身の後方にいるほむら達に目配せを行う。

もしかしたら誰か先に言い出すかもしれないというのも頭を過ったが、誰も口を開かない様子を見て、彼女たちが遠回しに説明を押し付けたことを察したさやかは微妙な表情を見せながらその理由を語る。

 

「………………その噂は知っているわ。そして、それで神浜にやってきた魔法少女が何人もいるのも。」

 

「正直言って、そちらにとって迷惑千万なのはわかっている。私達の行為は、いわば他国に対して戦争行為を仕掛けているのと同じようなものだからな。その魔法少女の暗黙の了解であるテリトリーについてもわかってはいるつもりだ。」

 

「…………………なら聞くわ。何故それでも来るのかしら?迷惑だとわかっているのなら、努めてそうしないのが尚更のことでしょう。」

 

さやかの言葉に七海やちよは目線を鋭くし、冷えた視線をさやかに突きつける。その眼光は少し離れたところで見ているいろはと黒江が息を呑むレベルの高圧だったが、さやかはそれに全く怖気ついた素振りすら見せず、真っ向からその目線を迎え撃つ。

 

「………………魔法少女が救われるというのはそんなに()()()()()()()()()ではない。真偽はどうであれ、それを巡って確実に何か巨大な唸りが引き起こされるはずだ。もしかすれば、一般人すらも巻き込むレベルの…………それだけのことが、将来的にこの神浜市で起こる、もしくはもう起こっていると私は考えている。」

 

「……………………………」

 

さやかの語った簡単にしていい意味、というのを七海やちよはその隠された意味を知っているのか定かではないが、それを聞いた彼女はしばらく押し黙り、広場に再び沈黙が走る。

 

 

「……………神浜の魔女は、軒並み強力よ。使い魔でさえ、下手をとると死にかねない。貴方は一人で倒しているのは見ていたけど、後ろの人たちはそれくらいの実力はある?」

 

「まぁ……………私よりは強いさ。」

 

七海やちよの問いかけにさやかは信頼から来る柔らかな笑みを見せるも後ろにいたほむら達は揃って渋い顔を浮かべていた。

 

「…………………正直言って、私はもう来て欲しくないわ。勝手にこっちに足を運んで死なれたらあとが面倒よ。」

 

それを見たかどうかは定かではないが、七海やちよは魔法少女としての衣装を消して、私服姿に戻るとそう語りながら踵を返す。

 

「神浜市の一画に神浜ミレナ座っていう映画館の廃墟があるわ。まだここに足を運ぶだけの愚かさがあるのなら、少なくともそこに通いなさい。そこに行って弱いままで変わらないのなら、本気でここに来るのはやめた方が賢明ね。」

 

「でも、それと同時に警告もしておくわ。これ以上神浜市では魔法少女を増やすつもりはないし、勝手に来るようなら、敵とすることも辞さないって他の魔法少女にも伝えてちょうだい。」

 

その言葉を最後に七海やちよはその場から姿を消した。魔女が突っ込んだことにより破壊された壁から風が吹く中、最初に動きを見せたのはさやかだった。

 

「よし、事も済んだことだし帰るとしよう。」

 

まるで面倒ごとが終わったかのようにさやかは気楽な様子で肩を回すなど体をほぐしながら振り返り、ほむら達の元へとやってくる。

 

「ッたく、お前なに勝手にアタシらのハードル上げてんだよこのバカ。」

 

戻ってきたさやかに杏子は恨めしいものでも見つめるかのように薄く目を開らきながらさやかの肩を軽く小突く。

 

「実際、まだ契約してから二週間くらいなのだから、みんな私より強いだろう?経験や培ってきた技術的な手数を考えると。」

 

その小言にさやかは一切の悪感情なく、純粋な気持ちで言葉を返しながら小首をかしげる。その様子にマミは困ったような笑みを浮かべ、ほむらと杏子は呆れたように肩を竦める。

 

「コイツはホントに…………そういうことを悪びれる様子もなく言いやがる…………でもなぁ、その理論だとお前に負けたアタシはそれ以下っていう煽りになんのか?」

 

「そんなことあるわけないだろう。あの時の杏子は怒りで動きに精細を欠いていただろう。」

 

そんなこんなで見滝原の魔法少女達が話を交わしているとおずおずとした様子でいろはと黒江が近寄ってくる。

 

「あ、あの…………ひとまず私達は帰りますね…………」

 

「ん?おう、アンタらか。ここの馬鹿(さやか)が迷惑とかかけなかったか?」

 

「そんな迷惑なんて………むしろ魔女から一番前で守ってもらって、逆にこっちが迷惑かけてしまったかと…………」

 

それに気づいた杏子がいろは達にさやかがなんかしでかしていないか尋ねるもいろはは困った笑みを見せながらそんなことはなかったとむしろ感謝を表しているようだった。

 

「気にするな。同じことを言うようだが、お前の持っている武器では前線を張るのは難しい。私が前に出て、魔女の気を引きにいくのは当然のことだ。」

 

その言葉にいろはは難しい表情を見せながら俯くようにおじぎをすると黒江と一緒にその場を去っていった。

 

「それじゃあ、私達も帰りましょうか。話し合わなきゃ行けないことはたくさんあるでしょうけど、それは明日にしましょうか。」

 

マミの仕切りで見滝原の魔法少女達も己の帰路に着く。しかし、その中で別のことを考えている人間がいた。

 

「…………どうかしたの?」

 

それに気づいたほむらがその人物に声をかける。声をかけられたさやかはハッとした様子でほむらに向き直ったが、彼女が先ほどまで向いていた方角はいろは達が帰っていった方角だ。

 

「……………………」

 

しばらくさやかは何かと葛藤しているのか、視線を右往左往させながら明らかに変な雰囲気を醸し出していた。そのあからさまな様子にほむらは訝しげな視線を向ける。

 

「……………すまない。少し気になることがあるから別行動をとっても構わないか?」

 

「ハァ……………好きにしなさい。どうせあの二人が何か気がかりなんでしょう?」

 

「ありがとう!!連絡はこまめにしておく!!」

 

「き、気をつけるのよッ!?」

 

 

ほむらの許可を得るや否や脱兎のようなスピードでいろは達のあとを追い始める。その直後マミの心配そうな声がかけられる。それをしっかりと聞いていたかは定かではないが、さやかは振り向くことはせずに手を挙げることで反応を返し、広場から姿を消す。

 

「あーあ、マジで行きやがった。つぅーか、なんかあの二人に引っかかるもんあったか?アタシはサラサラだったんだけど。」

 

「いいえ、全然よ。」

 

「右に同じく。特には違和感を覚えることはなかったわ。」

 

残された三人は不思議そうにしながらもさやかを信じて先に帰路に着くことにした。

 

 

 

 

 

「ハァハァハァ………………!!」

 

日が沈みきり、夜になっことでビルからの明かりが街を照らす。そして会社勤めから帰宅しているのか、スーツ姿の大人達が占めている中、制服姿のさやかがその人混みの中を颯爽と駆け抜ける。

 

中にはそのさやかの行為が気に障ったのか顔をしかめて文句の一つでも言いたそうにするもその人がひしめきあっているせいでその余裕すら失われる。

 

ようやくその人混みの唸りから脱したのもさやかが向かった先である駅に差し掛かったところ。それも改札を通り抜けたタイミングで電車の出発を告げるアナウンスが流れ始め、一層急ぐ足を加速させ、駅のホームへ向けて構内を駆け抜ける。

 

そしてようやく電車の車輌が目前に迫ったところで駆け込み乗車の禁止を警告すると同時に電車のドアが閉じ始めるとさやかはその閉じかけたドアに身を滑り込ませ、文字通り駆け込み乗車をする。

 

 

「ま、間に合った………………!!」

 

電車に辛うじて間に合ったさやかは膝に手を当てて荒い息を吐いていたが、額から流れる汗を腕で拭うと顔をあげ、電車の隅っこに背中を預け、寄りかかるような姿勢をとる。

 

そして、その電車に駆け込み乗車をしてきたさやかに驚いている人間がいないわけではなかったが、その中でも一際目を見開いているのがさやかの視界にいた。

 

「み、美樹さん……………!?」

 

「どうしてここに………!?見滝原はこっちとは逆方向だよ…………!?」

 

「少し…………聞いておきたいことができたからな………環いろは、君にだ。」

 

座席に座っていたいろはと黒江に驚かれた表情を向けられたさやかは得意気に笑みを見せながら荒い息を整えるのだった。

 

 

 

 




七海さんこれでいいのかな…………ぶっちゃけアニメ初期ほむらを投影しているような感じですけど。

ちなみに……………

いろはちゃん  15歳で中学3年

さっさん    14歳で中学2年


つまり…………本来敬称を使わなければいけないのはさっさんの方。

いろは→さっさん  すごいしっかりしてるから年上だと思ってる。

さっさん→いろは  特にこれといって考えていない。


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第36話  当たってしまうらしいな

うーん…………このシナリオブレイカー……………
ホントにイノベイターってメッタメタにするなぁ…………


ガタンゴトンと揺れる電車の中。帰る電車に乗ったいろは達のあとを追ってきたさやかに驚きを隠せない二人。その聞きたいことを聞きにきたさやかはいろはに用があると言ったきり、車輌内ではそれきり黙りこくってしまう。

 

「あの…………もしかして私がいるのは邪魔、なんですか?」

 

しばらくして黒江がおずおずとした様子でそう切り出すとさやかは申し訳なそうな様子を見せながら指で頰を軽くかき、参ったように笑みを浮かべる。

 

「…………すまない。流石にこちらから言い出すのは気が引けるから黙っていたのだが……………気を遣わせてしまったな。」

 

「い、いえ、そんなこと…………でもそんなに大事なことなんですか?」

 

「大事、というより感覚的なもの。つまり私の第六感、悪くいえばただの勘に近い。だから、私なんかの変な勘で君を混乱させたくないというのが正直なところだ。」

 

「……………わかりました。どのみち私といろはは降りる駅が違うので…………」

 

「重ね重ねになってしまうが、すまない。ついさっき会ったばかりの私なんかのために気を遣わせて。」

 

「…………そんなこと言わないでください。貴方は私たちの命の恩人なんですから。」

 

 

その言葉を最後に再び車輌の中が沈黙を支配する。しっかりと人の生活は見られるのだが、どことなく寂れたような建物がいくつも聳え立つ中を電車は滑走していく。

 

しばらくして、何回目かの駅の停車で不意にいろはが立ち上がる。どうやら止まった駅である宝崎第三次駅がいろはが降りる駅のようだ。

 

「降りるのか?」

 

「はい。ここに私の家があるので。」

 

「……………話は道すがらですませた方が良いようだな。」

 

「あ………い、今は両親は海外出張でいないので、別に気にしなくて大丈夫ですよ?」

 

いろはの家という単語を聞いて、さやかは道すがらで話を済ませようとするも彼女から家には両親が不在にしているから気にしなくていいと話す。

 

「だが………」

 

「お礼、させてください。」

 

最初こそ気が引けるため遠慮するもいろはのお礼をさせて欲しいという言葉とその笑顔にどことなくまどかのような変なところで強情になるのを重ねたさやかは渋々ながらにそれを了承した。

 

 

 

「何というか、寂れた印象を受ける街だな。」

 

電車を降り、住宅街を歩いている中、不意にさやかが周りの様子を見ながらそんなことをポツリと呟く。そのことにいろはは返す言葉がないのか、乾いた笑いを浮かべる。

 

「……………すまない。悪くいうつもりはなかったのだが、マンションに木の蔓が張り付いているのがいくつもあるからそのように感じてしまってな。」

 

「別に、そんなことで気にはしませんよ。あ、あそこが私の家です。」

 

そんなこんなで談笑を交わしているといろはの家が見えてきたのかいろはがそんな声を挙げるもさやかは土地勘とかはサラサラないものの彼女の目線でそれとなく場所を把握する。

 

 

「あの、こんなものしか出せませんけど…………」

 

「いや、むしろ押しかけたのはこちらだ。ありがとう。」

 

いろはの家に上がり込んださやかは彼女からのお茶のもてなしに礼を言いながら口に含む。自分と同じくらいの女の子が出したのだから味はそれほどまでに考えるつもりはなかったのだが、口に含んだ瞬間、思っていたより想像の倍をいく渋さがさやかの口内を襲う。どうやらいろはは結構年寄り臭いものが好みのようだ。

 

なんとか顰めた顔が浮かび上がらないように表情筋に力を入れて表に出さないようにしながらさやかはいろはと対面する。

 

「それで…………私に聞きたいことって、なんですか?」

 

「ふぅ……………実はというと、君を見た時になんとなく既視感を覚えていたんだ。」

 

「それは…………あの七海やちよさんと会った時のような感じですか?」

 

「いや、彼女のパターンとは違う。どちらかといえばどこかで似たような人物を見たことがあるかのような感覚だった。しばらくそれについて考え込んでいたのだが、途中で七海やちよが現れたことで思考を中断せざるを得なかった。だが、あそこで帰ろうした直前、もう一度考えてみたんだ。」

 

神妙な面持ちで語り始めるさやかに自然といろはも引っ張られるように緊張した面持ちに変わっていく。そしてさやかは私の勘違いだったらそれで構わないといろはに念を押した上で、座っていた椅子からテーブルにわずかに身を乗り出しながらいろはに問い掛けを行う。

 

「いろはは、神浜市に来れば魔法少女は救われるという夢は見たのだな?」

 

「……………正直にいうと、私は黒江さんから聞かされただけでまだその夢自体を見たわけじゃないんです………ごめんなさい。」

 

「ん…………そうなのか。まぁ、それはさして重要ではないから良いのだが…………これから聞くことが大事なんだ。完全に私の所感、直感、感覚によるものだが。どう思うかは、君の好きにして構わない。」

 

「あの夢に出てくる少女………………君の妹、もしくはそれに類する人物ではないか、と私は感じている。」

 

「ッ!?!!!?」

 

「まぁ、そのような表情をあげるのも無理もない。正直いって流石に    いろは!?どこへ行く!?」

 

いろはが驚嘆に満ち溢れた表情を見せたことにさやかは忘れて欲しいというようにその可能性が低いことを伝えようとするもそれより先に突然立ち上がったいろはが何やら緊迫した様子で駆け出し、さやかは反射的に彼女のあとを追う。

 

(な、なんだって急に…………まさかとは思うが、今回も当たってしまっているのか!?)

 

急にいろはが豹変したように駆け出したことに一抹の不安を抱きながらそのあとを追う。その追いかけっこもすぐに終わりが見え始め、いろはを追っていたさやかは結果的にとある一室に足を踏み入れる。

 

「なっ…………!?」

 

その瞬間、さやかは思わず足を止め、目を見開いてその部屋を凝視してしまう。その部屋は言ってしまえば二つの間取りに分かれていた。片方は机やベッドなど生活の必要なものが取り揃えられており、そこでいろはが何かを手にしながら、空いている手で自分の顔を覆っていた。

さやかはもちろんいろはのことも気がかりだったが、さやかはそれにも関わらず反対側の間取りに視線を移すとそこには何もない空間が広がっていた。

 

いや何もないというより、不自然に、というより元々そこには何かがあったかのように切り取られていた。それほどまで部屋の半分が生活感に満ち溢れて、もう半分がまっさらな空白の状態というのはさやかに否応がなく違和感を感じさせる。

 

「なんなんだこの空間は…………!!」

 

いろはの部屋から感じるおかしいくらいの違和感からさやかは霧がかったようなモヤモヤとしたものが周囲を包み込んでいる感覚に襲われ、不快感を露わにしながらも自身のものと思しき机の前で立ち尽くしているいろはに近寄る。

 

そしていろはが手にしているものに目を向けるとそこには写真が握られていた。いろはだけが写っている写真だが、再びさやかはとんでもない違和感を感じる。

その写真にはいろはしか写っていないのだが、一枚一枚に写っている彼女はその写真の中心にいることはなかった。まるで、主役は本当は別にいるとでも言うように。

 

彼女が写真の中で取っているポーズの一つ一つが明らかに空いたそこに誰かがいたことを如実に感じさせる。

 

「…………まさかとは思うが、いるのか?」

 

「…………なんで、なんで今まで忘れていたんだろう…………うい…………!!」

 

さやかが声をかけるも答えが返ってくることはなく、いろはは代わりに嗚咽をこぼしながら瞳からこぼれ落ちる涙を拭う。そして、彼女の口から語られた『うい』という人物の名前。

 

「……………それが妹の名前か。だが、忘れていたとはどういうことだ?こんな違和感丸出しの部屋でよく生活ができるな。」

 

「なんで、なんでしょうか……………?」

 

いろはの言葉に肩透かしを喰らうさやか。情報としては本当に微々たるもののため、詮索しようにも何から手をつければいいのかよくわからない。

 

「…………とりあえず、どうやら君は結構重要な手がかりを持つ人間なのは確かだ。忘れていたことを思い出したのなら、何か他に思い出したことはないか?」

 

「……………小さいキュウべぇ…………あの子に触った時、頭にういとの記憶が流れ込んできたんです!!」

 

「小さいキュウべぇ?触ったって…………接触したのはいつなんだ?」

 

「美樹さんが魔女と戦っている時です。不意に姿を現して、助けにいって捕まえたら、電流が走るみたいに、記憶が…………」

 

(そんな奴いたか……………?)

 

いろはの小さなキュウべぇがいたというのにさやかは訝しげに首を傾げながら自身の記憶を掘り起こしそれっぽい何かを視界に入れたかどうかを思い返す。しかし、戦闘に集中していたのもあいまって、出てくるのは魔女の顔ばかりだったため、いろはの言葉に嘘を感じなかったのを理由にそういうのが知らず知らずのうちにいたという認識に留めておいた。

 

「……………その、ういに関しての記憶がなくなっていたのが、一体どの時期からなのかはわかるか?」

 

「…………ごめんなさい。今は今までの記憶とこれまでのが入り混じってて、何がなんだか…………」

 

その返しにさやかは記憶が混濁しているのであればまぁ仕方ないかと割り切って無理に聞き出すことはやめておいた。

 

 

「まぁ、後でゆっくりと落ち着いて整理していくといい。だが、どのみち君は行かなければならなくなったな。」

 

「…………はい。美樹さんの言う通り、その夢に出てくるのがういだとしたら、カギは絶対、神浜市にあると思います。」

 

いろはの困惑気味ながらも自分の妹であるういに関する記憶を失った謎に迫る姿勢にさやかは机にあったいろはしか写っていない写真を手に取る。

 

「…………しかし、記憶どころかこうした写真からも消えているとなると、これはいろはといった個々人に干渉したのでなく、存在自体がなくなったと考えるのが一番納得がいく。」

 

「存在自体が、ですか……………」

 

「もしかすると、存在自体がなくなったことで関係がなくなっている可能性もある。例えば、ういの友人とかだ。この先いろはがその人達のことを思い出したとしても向こうはいろはを一切知らないというのも考えられる。」

 

そのことにいろはは目を見開いて無言で驚きを表すもさやかはさも当然というように視線を机の上に置かれた何枚もの写真に落とす。

 

「無理もない話だ。なぜなら、ういという接点が消失しているからだ。接点がなくなれば、その人物と出会ったという事実がなくなり、その人間同士の関係はもはや名前すらも知らないただの赤の他人と変わりはなくなる。」

 

「…………………そういえば、信じているんですね。」

 

「何のことだ?」

 

不意にそんなことを言い出したことにさやかは疑問に思っている表情を向けると、いろはは優しげな目をみせていた。

 

「だって…………こんな、普通の人じゃ信じないようなことをまるで信じているようにお話ししているんですよ?」

 

「……………じゃあ、お前はどうなんだ?」

 

「え……………それは、もちろん信じています。ういの存在が嘘だとは思いません。」

 

「なら、それでいいんじゃないのか?大事なのは、根っこであるお前が信じるかどうかだ。私はあくまで客感的に見て、信じる側に立っているだけだ。」

 

「私が、信じるかどうか……………」

 

さやかの言葉にいろは手にしている不自然な写真を握りながら顔を俯かせる。

 

「例え、どんなことが待ち受けていても、お前のその思い出を信じて、それでもと言い続けろ。」

 

「ッ………………はい!!………………えっ?」

 

その輝きは電気の点いていない部屋ではあまりにも目立つ光だった。さやかの激励のような言葉に顔を上げるいろはだったが、次の瞬間にはその表情が驚愕といったものに変わる。不自然なくらいさやかの目元周りが光っているのだ。

 

それもそのはず。そのさやかの瞳が金色に輝き、その虹彩は虹色に光り、なおかつ蠢いている。

 

魔法とはまた違った、常軌を逸脱した現象にいろはは思わずその光に言葉を失っているのか息を呑むことしかできない。

 

「……………あ、もしかしてまた目が光っているのか?」

 

そのいろはの反応に首をかしげるさやかだったが、しばらくしてその原因を察したのかそう尋ねる。

 

どうすればいいのか、なんと声をかければいいのかわからなかったいろははその指摘に感謝するように勢いよく首を上下させ、アピールする。

 

「むぅ…………またか…………なんなんだろうな、この目は。」

 

「え………だ、大丈夫なんですか!?なんともないんですか!?」

 

手で片目を覆いながら困ったようにしているだけのさやかにいろはは身体的に影響はないのかという別の驚愕を持ちながらさやかに詰め寄る。

 

「一応な。だけど周りに言い広めるのはやめてほしい。さっきの様子でわかっていると思うが、私自身よくわかっていないんだ。」

 

「えあ、は、はい…………わかりました…………」

 

さも平然としながらその金色の瞳で見つめてくるさやかにいろはは困惑の色を隠せないまま気圧されるように頷いた。しばらくするとその金色に輝く瞳も色を失うように元の色合いに戻っていった。

 

「あ、も、戻りました…………」

 

「戻った?もしこのまま帰ったら奇々な目線で見られるのは避けられないからな…………よし、帰るか。聞きたいことも聞いたし、あんまり当たって欲しくない勘は当たってしまったがな。」

 

 

目の色が戻ったことをいろはから聞かされたさやかはそのまま家路に着こうとする。

 

 

「あ、そうだ。いろは、携帯とかは持っているのか?」

 

「持ってますけど…………連絡先の交換ですか?」

 

不意に扉の前で足を止めたさやかが携帯を取り出しながらそう尋ねるといろはが気が引けがちな様子で携帯を取り出した。そのことに不思議そうな顔を見せるさやかだったが、いろはのスマホの操作がどことなく覚束ない。どうやらスマホの扱いがぎこちないらしい。

 

「………………いろはは結構…………年寄り染みた感性を持っているらしいな。この際言ってしまうのだが、出されたお茶も結構渋かった。」

 

「ひ、酷いですっ!!?」

 

さやかに年寄り臭いと言われてしまったいろはは顔を真っ赤にしながら抗議の声を上げるが、その時に思わず飛び出た方向音痴の言葉にさやかはより一層いろはは年寄り臭いという認識を深めてしまうのだった。

 

 

そしてなんとか終電前に見滝原へ帰り着いたさやかだったが、慎一郎と理多奈に心配そうな声をかけられるも、やましいことは一切していないと弁明を謝罪を入れた上でしっかりと行い、就寝をした次の日の朝。何かの音で目が覚めたさやかは若干寝ぼけた目で時計を確認するついでで携帯をとると時刻と一緒にメールが一件届いているのが目についた。

 

上の空のような手つきでそのメールを開くと、そのメールの送り主の欄には『環いろは』の文字が。

 

『私もあの夢を見ました。やっぱり夢に出てきた女の子はういです。私の妹です。』

 

書かれていた文言にやっぱりそうだったのか、と頭を抱えてしまうさやか。しかし、事実はどう見方を変えたところで変わることはない。

 

 

 

「で、なんなの。報告しなきゃいけないことって?」

 

その日の学校でさやかはほむらとマミ、そしてまどかを昼休みの屋上に呼び寄せる。まどかも一緒に呼び寄せたのはいつまでも隠しておくとまどかがいつ変な行動を起こすか、わからなかったからだ。それだったら、ある程度真実を教えて置いて、未知からくる不安を無くしておこうというのがさやかの考えだった。

 

「まどか。お前には知らない話がぽんぽん出てくると思う。だが、あまり言及はしないであくまで知っておく範囲に留めてほしい。知っておくというのが、お前にとって一番安心できると思うからな。」

 

「わ、わかった。」

 

さやかはまどかに語り始める。ワルプルギスの夜がほむらの経験から割り出された日付にこなかったこと。そして魔法少女限定で見られる神浜市に赴けば救われるという内容の夢のことを。

 

「そんなことが……………?」

 

「ああ。私達はこれから神浜市へ頻繁に出入りするつもりだ。もちろん、学校を疎かにするつもりはないが、どうやら神浜市の魔女は今までの魔女より一回り強いらしい。多分、いつもより危険指数は高いだろう。」

 

「…………………じゃあ、私が契約すれば…………なんてことはいうつもりはないけど、やっぱり不安だよ………さやかちゃんやみんなに何かあったら…………」

 

「まぁ、まどかの不安を取り除くことはできない。どんなものにも不確定要素はつきものだ。でも、何も知らないよりは幾分マシだろう?」

 

「………………私は信じて待つことしかできないってことだね?」

 

「要約するとそういうことになる。すまない。」

 

謝るさやかにそれを無言で見つめるまどか。ほむらもマミも口を挟まない静謐な空間が屋上を占める中、最初に声を上げたのはまどかだった。

 

「……………絶対、生きて帰ってきてね。」

 

「ああ……………もちろんだ。」

 

交わした言葉はそれだけだ。だが、その少ないやりとりでも互いに信頼している絆が見えていた。

 

「おう、来たぜ。って、お前までいんのか?」

 

学校の屋上の縁に地上から飛んできたように足をかけながら現れた杏子は開口一番にまどかがいることに驚きの表情を見せる。そのことにまどかは微妙な表情を見せるも、それに言及することはなく、さやかの仕切りで報告会が始まる。

 

「杏子も来たことだし、本命に入ろう。重ね重ねいうがまどかは話の内容を理解できないと思うが、そこは堪えてほしい。」

 

視線を向けられたまどかは無言で頷くとさやかは視線を戻し、話を進め始める。

 

「まず単刀直入に行こうか。昨日私が気になって追いかけた魔法少女、名前を環いろはというのだが、衝撃の事実が明らかになってしまった。彼女は夢に出てきた少女、環ういの姉だということだ。」

 

「はぁ!?姉っ!?マジでっ!?」

 

「まずツッコミたいところは色々あるのだけど…………その根拠は?」

 

いろはが夢に出てくる少女の姉だということに杏子は加えていた棒状の菓子を落とす勢いで驚きを露わにし、マミは顔に手を当てながらその根拠を要求する。

 

「まずはいろは自身がういの姉であることを自覚したこと。これは今日の朝、連絡先を交換したいろはから連絡があった。そしてもう一つはこの写真だ。」

 

そういうとさやかは懐から一枚の写真を取り出す。それはいろはの家から拝借したいろはしか写っていない不自然な写真だ。

 

「この写真、いろはしか写っていないが、明らかにこの空いている空間に誰かいるように見えないか?」

 

「……………確かに言われてみれば彼女のポーズとか鑑みて誰かいることを前提としたものに見えるけど…………」

 

いろはの一人で写真を撮るには不自然に空いた空間に指で円を描きながら注目させるとほむらが難しい表情を見せる。

 

「……………マミ、お前はどう思う?」

 

「わたし?わたしは……………美樹さんの言う通り違和感は覚えるわ。でも   

 

「それがいろはの妹であるうい、と言う確証はない。そうだな?」

 

マミが怪訝な表情を見せながら違和感自体は感じると言ったところでさやかが口を挟む。そのことにマミはなんら言いたかったことと違いはなかったのか無言で頷いた。

 

「だが、同時にそれを否定する材料もない。」

 

「でもさやかちゃん。そのいろはちゃんって子は、その写真に写っていたのが妹さんであることはわかっているんだよね?」

 

「ああ。その通りだ。彼女はこの写真に写っていたのが妹であることを理解している。だが、いつから忘れていたのかは定かではないらしい。パーセンテージだけで言えば6:4の割合で信じるには値するはずだ。」

 

まどかの問いかけにさやかは頷きながらその情報が信じられる情報であることを示す。

 

「それが信用できるかどうかはさておいてさ。そもそもなんでそのいろはって奴は妹のことを忘れていたんだよ。普通あり得ないだろ。」

 

「有り得ないって…………私達がそれを言ってしまうのか?」

 

杏子の難しげな表情をしながらの発言にさやかがそう返すと、杏子の表情を苦いものに変わり悩ませるようなものに変わる。

 

「契約ん時の願いか。忘れてたわけじゃねぇけどさ…………」

 

「…………もっともそうなってくるとどれだけいろはに対して悪意があるんだという話になってくるがな。とてもではないが、いろははそう人からの悪意を買うような人間ではない。」

 

「………………どのみち、神浜市に行くしかないのは変わらないみたいね。ワルプルギスの夜がなんで暁美さんが繰り返してきた時間通りに来なかったのか、原因も考えなくちゃいけないし。」

 

マミの言葉に全員が同じ気持ちなのか、神妙な面持ちで頷く。

 

「なら、これから役割分担で当たろう。マミ先輩は以前言った通り、キュウべぇに神浜市についてのことを聞いてきてほしい。」

 

「ええ、わかったわ。」

 

「ほむらと杏子、それに私は神浜市に赴いて調査だ。しかし、神浜市の魔法少女をうかつに刺激しないように、杏子は先行して東側の地区を。私とほむらは放課後に西側の地域を。」

 

「任せな。単独行動は慣れているからよ。あ、さやか、電車賃くれ。前行った時は奢ってくれただろ?」

 

「………………しょうがない。一度渡したのが運の尽きと思っておくか。」

 

「おい、どういう意味だオメェ。」

 

さやかは呆れ顔で財布から千円札を取り出すと顰め面の杏子に差し出した。渡された後も杏子の不服気な表情は変わらなかったが、さやかはそれを完全無視して話を進める。

 

「とりあえず、当面の目標は表側と裏側どっちでも構わないが、神浜市についての情報収集だ。それで情報の共有についてだが、念話の範囲はボチボチ広いのか?」

 

「さすがに市を跨いだ距離は無理よ。」

 

「なら、マミさんは携帯で連絡してくれ。杏子は神浜市にいる時に余裕があれば。」

 

ほむらからの言葉にさやかがそう提案すると特に異論もなくに各々が行動を開始する。

 

杏子はさやかからもらった電車賃を手に一足先に神浜市へ。残った三人は放課後になるまで学業に集中する。

 

神浜市での物語は始まったばかり。誰も知らない物語の上を少女たちは歩み始める。

 

 

 

 

 




せめて…………せめて調整屋までは書き切りたい……………(もう一つのリリカルな方を一ヶ月ほったらかしにしている阿呆)


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第37話  馬鹿なの!?  根っからの馬鹿よ

マギレコのアニメ二期はいつやるんでしょうか…………結構ゲームとは違う展開で進んでいるっぽいので早くやってほしいんですけどねぇ…………(ゲーム未プレイ勢)


「さてと、まずはキュウべぇを探さないとね……………」

 

放課後、夕日が差し込む教室で一人佇んでいるマミが腕を真上に伸ばして体をほぐすと座っていた席から立ち上がり、教室を後にする。

 

「いるかしら?昔は呼べば大抵いたんだけど…………あれも元が複数個体が集まった集合体だからできるのでしょうね…………」

 

独り言をこぼしながらマミはキュウべぇを探しに学校の外へ出る。既に下校時間だったにも関わらず、しばらく残っていたのもあり、既に周囲には生徒の姿は影も形もない。

 

「やぁ、ボクを呼んだかい?」

 

と思っていた矢先に視界に動物のような尻尾を張っているキュウべぇの姿が映った。

 

「……………よくもまぁ、姿を現せるものね。貴方に騙されていた………いえ、貴方からすればそのつもりはないのでしょうけど、昔の名残りって奴かしら?」

 

「そんなことを言うつもりはないよ。ただ君がボクに用があるように、ボクも君に頼みたいことがあるだけさ。」

 

皮肉気にそういうマミにキュウべぇはその一切感情を感じさせない真紅の瞳をマミに向け、頼みがあると語る。そのことにマミは怪訝な顔を見せながら眉を潜めた。

 

 

 

 

 

「さて、神浜市に着いたらどうする?」

 

「どうするって……………貴方何も考えていなかったの?」

 

ところ変わって神浜市へ向かう電車の中、これからの行動を聞いてくるさやかにほむらは何を言っているのと聞いてくるような顔で見つめてくる。その表情を向けられたさやかは焦った顔で取り繕う。

 

「い、いや。おおかた神浜ミレナ座に赴くのがいいのはわかっているのだが……………」

 

「それがわかっているのならそれでいいでしょ?ところで、あのいろはって子はどうしてるの?情報を集めるならその子と行動を共にした方がいいんじゃないかしら?」

 

 

「それもそうだが……………あの子には黒江という友人の魔法少女がいるのだから別にいいと思った     

 

いろはとの行動を近くに黒江がいることを理由に遠慮している旨を明かしている最中、電車の中でバイブ音が響く。ほむらが怪訝な顔を浮かべてその音源を探すと、彼女の目の前にいるさやかが懐から携帯を取り出した。

 

「いろは…………?すまない、少し席を外す。」

 

どうやらいろはから連絡が来ているらしく、さやかはほむらに一言伝えると周囲の人間に迷惑をかけないように車輌と車輌のつなぎ目の部分に向かう。

しばらくすると通話が終わったのか、さやかが戻ってくるがその表情をどことなく張り詰めたものであった。

 

「何かあったの?」

 

ほむらが戻ってきたさやかに疑問をぶつけるもさやかは優れない表情を浮かべるだけで沈黙を貫く。しかし、席に戻ってから少ししてさやかはその閉じていた口を開いた。

 

「…………さっき話題を上げた黒江という魔法少女についてだが、彼女と連絡が取れなくなったらしい。」

 

「……………どういうこと?」

 

「わからない。だが、いろは曰く、もしかしたら一人で神浜市に向かったのかもしれない。」

 

首を横に振りながらそう語ったさやかにほむらは呆れたようにため息を吐くと座席の背に深くもたれかかった。

 

「で、それでどうしたの?」

 

「いろはも神浜市に向かう予定だったことだから、こちらから行動を共にしないかという提案を投げかけたらすぐに承諾してくれた。現地集合………つまるところこの先の新西中央駅で集合とのことになった。」

 

 

 

 

 

 

「美樹さん!!」

 

親西中央駅に先についたさやかとほむらは駅の一画で待っているとさやかを呼ぶ声が駅を往来する人々の中から聞こえてくる。二人揃って声の聞こえた方角に視線を向けると制服姿のいろはが手を振りながら駆け寄ってくるのが見えた。

 

 

「来たか。迷ってこちらから出迎える羽目になることを予想していたが、杞憂だったようだな。」

 

「案内標識がわかりやすかったのでなんとか…………えっとそちらは美樹さんの仲間の魔法少女、ですよね?」

 

「暁美ほむらよ。見滝原中学の二年生。貴方のことはさやかから聞いているわ。もしかしたら長い付き合いになるかもしれないから、よろしく。」

 

「は、はい。環いろはです。宝崎市の中学なんですけど、今度からは神浜市の中学に通うことになっています。えっと、中学三年生です。」

 

「ちゅ、中学三年生?」

 

ほむらといろはが自己紹介をしている中、さやかが素っ頓狂な声を上げ、二人の視線を集める。

 

「美樹さん?どうかしましたか?」

 

いろはがさやかに声をかけるもさやかは絶句した様子で口を手で覆いながら目を見開いていた。

 

「………………年下か同年代だと思っていた。私もほむらと同年代で中学二年なんだが…………」

 

「え、美樹さん私より年下なんですか!?すごくしっかりしていたのでてっきり高校生くらいかと………」

 

「それは流石に盛りすぎだ……………しかし、そうか…………マミ先輩と同学年だったか……………」

 

「あ、あの!!別に年上だったからって気にしないでください!!むしろ美樹さんみたいな人から先輩って呼ばれるのもこそばゆいので!!」

 

「………………そうか、いろはがそういうのならそうさせてもらおう。いろはも別に私のことを好きに呼んで構わない。」

 

思い詰めた様子のさやかにいろはは慌てた様子で別に呼び方を変えなくていいことを伝えると、さやかは安堵した表情を見せ、肩の力を抜いた。

 

 

「………………それで、これからどうするのかしら?私達は神浜ミレナ座っていう映画館の廃墟を探すつもりなのだけど。」

 

ほむらが咳払い代わりに声を上げながら話を進めると話し込んでしまったさやかといろはは申し訳なさそうな表情を見せ、話に加わる。

 

「私は、ひとまず里見メディカルセンターに行こうと思っています。そこに、私の探している人がいるかもしれないので。」

 

「例の貴方の妹、環ういのことね?いいわ。おおかた病院でしょうけど、病院には入っていられる時間が限られるから、そっちが優先ね。」

 

いろはが自身の行きたい場所を語っていたところにほむらからういの名前を出されたことにいろはは思わず驚いて話を中断させる。

 

「あぁ、すまないいろは。一応見滝原の魔法少女にはお前とういの話は通している。」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

「……………信じているかどうかは別よ。人一人の存在が丸ごと消えてしまうなんて、そうそうありえるような話ではないから。」

 

「まぁ、そんなこんなだが、基本的に見滝原の魔法少女は必要であればお前に助力するつもりだ。個人的にお前についていけば真実にたどり着ける気がするからな。」

 

「そ、そうですか…………」

 

 

妹探しを手伝ってくれることに嬉しいのか申し訳なさが入り混じったような表情を見せるいろはだったが、時間も押しているため、急ぎ足で件の里見メディカルセンター行きのバスに乗り込んだ。

 

しばらくはお互い話す話題もなく、バスの揺れに身を任せて沈黙していた三人だったが、ふといろはが前の座席にいた母親に抱かれた子供の寝顔を見て笑みを浮かべているのをさやかが見つける。

 

「子供、好きなのか?」

 

「え!?み、見てました?」

 

「そうだが……………何か不味いわけでもあるのか?」

 

子供が好きかどうかを聞いてきたさやかにいろはは体を強張らせると若干の挙動不審な様子を見せる。そのことにさやかが不思議そうに首を傾げながらそう尋ねるといろはは軽く顔を赤らめ恥ずかしそうな様子でそんなことはないと首を横に振る。

 

「?」

 

いろはが恥ずかしそうにしている様子に眉を八の字にしながら疑問気な様子を見せ、それを見たほむらがまるで同じ光景を何度も見てきたような雰囲気でため息を吐いていた。

 

「…………………魔女がいる。」

 

そんな気の抜けた様子を見せていたさやかだったが付近に魔女がいるのを感じ取ったのか、険しい目つきを見せながらさっきまで見せていた和やかな雰囲気から切り替える。

 

「………………そのようね。」

 

次いでほむらがソウルジェムを取り出して変身する中、いろははまだ状況を察せていないのか、オロオロとした様子を見せる。

 

「乗客に魔女の口づけが付いている。見えるか?」

 

さやかが指を刺した方向にいろはが目線を向けると乗客の首筋に黒く怪しげに光る紋章のような魔女の口づけがついていた。それを見たいろははようやく付近に魔女がいることを認識して、魔法少女としての姿である修道女のような白いケープを被り、クロスボウを構える。

 

「どうする?」

 

「……………しばらく様子を見るわ。使い魔も姿を見せていないことだし。」

 

バスの中で大人しくじっと様子を伺う三人。大通りを走っていたバスだったが、運転手も魔女の口づけがついていたのか、次第に道を外れ始め、気付くと周りの風景は廃墟が点在しているような薄汚れた雰囲気の区画に入り込んでいた。

 

「止まっ…………た?」

 

「そのようだな。」

 

バスの中で異常がないかを確認する三人だったが、バス自体に異常は見られない。しかし、魔女の口づけがつけられた乗客は突然立ち上がると心そこにあらずといった様子で覚束ないフラフラとした足取りでバスから降り始める。

 

「ついてきなさい。多分魔女の結界に向かうつもりよ。」

 

ほむらの先導でバスの乗客達に続く形でバスを降りる。フラフラとした足取りの乗客の集団に少しついていくと、なんとなく乗客が作っていた列が短くなっていることにさやかが気付く。

それに気づいたさやかが列の先に目を凝らすと、結界の入り口のような紋章に乗客達が吸い込まれるように消えていく様子が目に映る。

 

「急ごう!!このままでは乗客達の身に危険が降りかかる!!」

 

いの一番に駆け出したさやかにほむらが後を追うように続く。いろはは一足遅れる形になるが、どことなく不安な表情を見せていた。

 

「…………早くしなさい。どのみち退路は塞がれているのだから。」

 

そう言い残してほむらはすでに結界に入ったさやかの後を追うもいろははほむらの言葉が気になり、後ろを振り向いて、既に退路が使い魔に塞がれていたことを見たところでようやく結界内に飛び込んだ。

 

飛び込んだ結界は地面が毛糸で編まれたような気色で柔らかそうな大地を有していた。その異色の大地にさやかとほむらはいろはを待っているように立っていた。

 

「来たか。中には既に三人の魔法少女がいるらしい。で、そのうちの一人がここにいる。」

 

いろはがやってきたことを確認したさやかは既に結界内に魔法少女が複数人いることを告げると同時に親指を立てながら自分の背後を指差した。

そこにはオレンジじみた赤い服を着て、オドオドとした少女が立っていた。その手にしている湾曲した杖やトンガリ帽子から魔法少女というより創作上の魔女のような感じだった。

 

「ふ、ふゆぅ〜………突然現れたと思ったら私を追っかけまわしていた使い魔を一瞬で全滅させて……………強いんですね…………あまり見かけない格好の魔法少女だけど、神浜市の外から来たんですか?」

 

「そうだな。それはそれとしてほむら、魔女本体と巻き込まれた人の安全、どちらを取るべきだ?」

 

「巻き込まれた人の方に行ってもその集団を止められる訳じゃないわ。さっさと魔女を倒した方が結果的には死人は少なくなるって考えなさい。」

 

「了解した。ところでそこの君、もう一ついいか?こちらに二人くらいの魔法少女の気配が来ているのだが、君の知り合いか?」

 

「二人なら…………ももこちゃんとレナちゃんだと思う!!」

 

トンガリ帽子をかぶった少女の言葉に三人はひとまず近寄ってくる二人を待つことにした。少しすると、視界に魔女と思われる白いウールに包まれたような丸いデカブツが姿を現すと共にさやか達のそばに二人の魔法少女が駆け寄ってくる。

 

「かえでー!!大丈夫ー!!?」

 

「もう!!かえではホントォにノロマなんだからぁ!!」

 

心配しているような声と怒っているような声。その声色を表しているように駆け寄ってきた二人の表情は眉を八の字に下げ、もう一人は眉を逆八の字にして上げていた。

 

「アンタ達がかえでを助けてくれたのかい?」

 

「結界に入った瞬間に追われている彼女がたまたま目についた。要するに通りすがりだ。」

 

助けた少女、やってきた二人曰くかえでの近くにいたさやか達に気付くと、心配そうな顔を見せていた黄色よりの金髪をポニーテールを背中まで下ろした魔法少女が声をかけた。

それに偶然もあるが、助けたのは自分たちだと答えたさやかにその魔法少女が助かったように笑みを見せる。

 

「……………今は魔女退治に集中しよう。巻き込まれた一般人がいる。」

 

「おっと、そりゃあ話し込んでいる場合じゃないな。レナ、手貸して!!」

 

「はいはい。さっさと仕留なさいよね。」

 

さやかが巻き込まれた人々がいることを告げると金髪ポニーテールの魔法少女が得物としていたナタを大剣レベルまでそのまま巨大化させたような武器を立てかけるともう一人の水色ツインテールの性格がみるからキツそうな魔法少女に声をかける。

 

「援護は必要か?」

 

「このくらいなら大丈夫!!気持ちだけ受け取っておくよ!!」

 

さやかの申し出に金髪ポニーテールの魔法少女がそう答えると水色ツインテールの魔法少女と手を合わせた。次の瞬間、合わせた手のひらから紋章が浮かび上がると、金髪ポニーテールの巨大なナタに液体の水のようなものが付与される。

 

「な、なんだ!?急に剣に水がまとわりついて………!?」

 

「ん?コネクトを知らないってことは三人とも神浜市の魔法少女じゃないのか?まぁ見てなって!!」

 

驚いた声を上げるさやかに声には出さないものの同じように驚いている表情を見せるほむらといろはを差し置いて、その金髪ポニーテールの魔法少女は高く跳び上がり、魔女の頭上を取るとそのまま急降下を行い、魔女に突撃をかます。

 

「どぉりゃぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

そして落下の勢いを含めた一刀を魔女に向けて振り下ろすと剣に纏わせていた水の作用なのか、間欠泉のような水の吹き上げが魔女のいた地点から起こった。

その威力にさやか達三人が舌を巻いていた短い間、その吹き上げた水は雨のように結界内に降り注いでいたが、それが止んだころには魔女の姿は欠片らもなくなっていた。

それと同時に魔女と運命を共にするように使い魔も姿を消滅させていく。しかし     

 

 

 

「一体変な動きしている奴がいる!!」

 

そう声を荒げたのは水色ツインテールの魔法少女だった。彼女が手にしている三叉槍を構えた先に視線に向けると使い魔の一体が消滅せずに巨大な岩石のように丸く変形するとさやか達のいる地点に向けて勢いよく転がってくる。

 

「ッ……………最後の悪あがきか!!」

 

おそらく岩石のように変形した使い魔はこちらに突っ込んでくるのだろう。それを察したさやかは先に見つけた水色ツインテールの魔法少女よりも早く突進してくる使い魔に向かって駆け出した。

 

「ちょ、ちょっとそこのアンタ!?話を聞いている限り、アンタ神浜に来たばかりで調整屋から調整受けてもらってないんでしょ!?少しは身の程を弁えなさいよ!!レナ達がいるのに馬鹿なの!?」

 

「ええ、そうよ。根っからの馬鹿よ。あの子は。」

 

水色ツインテールの魔法少女が使い魔に向けて走り出したさやかに向けてトゲのついた言葉で引き止めるが、それを気にする様子すら見せずにさやかは使い魔に向かって突っ込んでいく。思わず顰めた表情を見せる彼女だったが、ほむらが代わりに呆れた声色で彼女に語りかける。

 

「でも、そこまで気にかける必要もないわ。」

 

「は、はぁ!?レナ、別にあんな考えなしを気にかけた覚えないんですけど!?」

 

「……………まぁ、貴方の本意なんてどちらでも構わないのだけど。ともかくあの美樹さやかっていう魔法少女、貴方が思っている以上に馬鹿よ。」

 

 

 

 

「叩き斬るっ!!!」

 

転がってくる使い魔に対して真っ向から立ち向かっていくさやか。その最中、さやかは右肩からGNバスターソードⅡを引き抜くとタイミングを見計らって前へ踏み込んだ右足を軸にしてその場で体を回転させる。

 

「ハァァァッ!!!」

 

そして回転した勢いを使いながらバスターソードⅡを下から上へ掬い上げるように斬りあげる。振った刃は岩石のように変形した使い魔の体をまるで柔らかいものを切ったかのように易々と食い込むと滑らかな切断面を残して斜めに両断される。

 

二つに両断された使い魔はしばらくはジャイロ効果で回転していたが勢いが衰えていくにつれてバランスが保てなくなり、ようやく倒れ臥したところで他の使い魔と同じように霧散していき、魔女の結界も消滅した。

 

「…………………………」

 

魔女の結界が完全に消失したのを確認したところでさやかは元の制服姿に戻すとほむら達の元へ足を運ぶ。

 

「魔女は倒したが…………どうする?乗客や運転手がすぐに目を覚ますとは限らないが……………」

 

「それもそうね。なら、予定はもう変更して神浜ミレナ座を探しましょうか。環さんもそれでいいかしら?」

 

「確かにすぐに運転手さん達が目を覚ますとは限りませんし…………わかりました。」

 

三人が予定を変更して神浜ミレナ座という映画館の廃墟を探す路線に決定すると、三人とも同じ考えに至ったのか、同じ方向に視線を向ける。それは先ほどまで同じ結界内にいた三人組の魔法少女のグループだった。

その中で最初にあったトンガリ帽子の魔法少女が身を縮み込ませ、その上から捲し立てるように彼女に詰め寄っている水色ツインテールの魔法少女を諫めているところからリーダーと思しき金髪ポニーテールの魔法少女がこちらの視線に気付くと二人を放ってさやか達の方へ寄ってくる。

 

「いやー、ごめんね。変なところ見せちゃって。改めてかえでを助けてくれてありがとね。」

 

「それは別に全くもっていいんだが……………大丈夫なのか?」

 

「まぁ、いつものことだから大丈夫だよ。」

 

「ええ………………」

 

さやかの指摘にリーダー格の金髪ポニーテールがそう答えるといろはが微妙な表情を見せながら乾いた笑みを見せる。

 

「そういえば三人とも、どこか目的地でもあったのか?なんかこれからどこに行くか話していたのが少しだけ聞こえたんだけど……………」

 

「……………神浜ミレナ座って知っているかしら?そこに行きたいのだけど。」

 

「……………………あぁ、調整屋のことか。ほとんど調整屋で呼ぶのを済ませているからその名前を聞いたのは久しぶりだなぁー。そこ行きたいの?」

 

ほむらから神浜ミレナ座の名前を出された金髪ポニーテールの魔法少女は少し間が空いた後、調整屋という名前で通していたから一瞬わからなかったと言う。

 

「知っているかどうかは定かではないが、七海やちよから神浜市で行動をするなら少なくともそこに向かえと言われてな。」

 

さやかが七海やちよの名前を挙げながらそう語ると金髪ポニーテールの魔法少女の表情が呆けたものに変わる。

 

「知ってるも何も、神浜市の魔法少女なら大半の人は知ってると思うよ?やちよさん、西側の顔役みたいな人だよ?」

 

「西側………というのはともかくその調整屋という場所は知っているのか?というか、そもそもどういうところなんだ?」

 

「うーん、それはもう見てもらった方が早いかな。せっかくだから案内しようか?」

 

「……………そうね。私達は神浜市には土地勘はサラサラないから、お願いするわ。」

 

「じゃあ自己紹介でもしようか。私は十咎(とがめ)ももこ。そっちの水色のツインテールの子が水波レナでもう一人が秋野かえで。私達、チームでやっているんだ、よろしくね。」

 

「えっと、環いろはです。よろしくお願いします。」

 

「……………暁美ほむらよ。」

 

「美樹さやかだ。よろしく頼む。」

 

金髪ポニーテールの魔法少女   十咎ももこの促しで互いに自己紹介を済ませた一行はももこの先導で件の調整屋に赴く。

 

しかし、足を運んだ神浜ミレナ座こと、調整屋に赴いたはいいもののタイミングが悪かったのか、家主が不在で徒労となってしまったのはまた別の話。

 

 




ハァ……………ハァ………………次回さっさんがガンダムを超える…………かも!?


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第38話 絶交階段のそのウワサ

重装備は漢のロマンだよ………………


「しかし、来たところで家主である調整屋がいないのなら、どうしようもないな。」

 

「いやーごめんねー。まさかちょうどいないタイミングだとは思わなかったんだよー…………」

 

「そちら側に非はない。どちらかといえばこの勝手に居座っている状況が申し訳ないのだが………」

 

「いいのいいの。その調整屋がそもそもとしてそういうのあんま気にしない人だからさ。」

 

ももこ達の先導で神浜ミレナ座こと調整屋にやってきたさやか達だったが、肝心の調整屋が不在だったことに肩透かしを受け、置かれてあったソファに腰掛けて談笑を交わす。

 

ここに来るまでにももこに道すがら調整屋について聞いたところ、どうやら調整屋というのはソウルジェムに干渉して、その奥底に秘められた潜在能力を解放することができる人物とのことだった。先の魔女結界でももことレナが手を合わせたことにより発せられた効果もその一環であり、『コネクト』と言われるのができるのもその調整を施された者同士が為せる業だったようだ。

しかし、その調整屋がいなければ何もできないと手持ち無沙汰なさやかが背もたれに深くもたれかかっているとももこから手を合わせながら申し訳なさそうに謝罪の言葉が飛んでくる。

 

そのももこに気にするなとさやかは声を返しながら勝手に上がっている状況に微妙な顔を浮かべていた。

 

「そういえば、アンタ達ってなんで神浜に来たのよ。調整屋も知らないんじゃ、アンタ達は外からやってきたんでしょ?神浜市の魔女は他の奴らより強いって知らないの!?」

 

そんなところに水色ツインテールの魔法少女、水波レナが語気を強め、相手を責めているような高圧的な態度で神浜市に来た理由を聞いてくる。

 

「レナちゃん…………この人たちわたしたちより強いかもしれないよ?使い魔だって一瞬で倒していたし…………」

 

「使い魔を倒していても魔女が倒せていなかったら意味ないじゃない!!」

 

「神浜市の魔女、か。確かに見滝原の魔女よりは数段強かったが…………わたし一人でまだなんとかなる範疇だったが?」

 

「見滝原なんだ…………それはともかく君、一人で倒したの?調整も無しに?」

 

さやかがぽろっと見滝原の単語を出したことにももこが頷くような表情を見せながらも、直後にさやかが単独で神浜市の魔女を討ち果たしたことに驚きの顔を見せる。

 

「はじめてこちらに足を運んだ時にだが。多分私の知り合いの先輩魔法少女でも単独撃破は問題ないと思う。」

 

「はへー…………見滝原ってそんなに強い魔法少女がいたんだー…………」

 

「というより、見滝原にいるのはその先輩魔法少女とここにいる二人しかいないのだけど。」

 

さらにさやかの先輩魔法少女(巴マミ)でも単独での撃破はできるだろうという推察にももこは見滝原市の魔法少女の実力に舌を巻く。そこにほむらが見滝原には魔法少女が三人しかいないことを明かすと、今度はその少なさに驚いたのか、ももこやかえでから驚きの声が上がった。

 

「…………話が逸れてしまったが、本題に戻ると私と隣にいるほむらを含めた見滝原の魔法少女は神浜市に来れば魔法少女は救われるという謎の夢、ないしは噂の真実を調べに来ている。」

 

「実のところ、他にも妙な現象は起きているわ。例えば見滝原に現れる魔女の数が減っていること。」

 

「え?そんなことあったのか?」

 

「神浜市に赴く前の四日間、色々と各地へ併走していたのだけど、その間に一体も魔女に出くわさないっておかしいでしょ?」

 

「そういうことがあったのなら前もって共有情報として挙げておいて欲しいのだが。情報が他人に信じられようがないからって語らないのはお前の悪い癖ではないか、それ。」

 

(今しがた思ったのだが、お前のやってること、キュウべぇとどっこいどっこいだぞ?重要なことほど語らないという部分に関しては。)

 

(っ…………………これからは善処するわ……………!!)

 

『ほんれんそう』がまるでできていないほむらにさやかが呆れ顔を見せながらそれを指摘しながら、念話でキュウべぇと似ていると送られてきたほむらは苦々しい表情を見せながら改善を約束する。やはり一番嫌っている存在と似ていると言われるのは結構堪えるらしい。

 

「えっと、話、続けてもいいのかな?」

 

「ん?あぁ、すまない。話を逸らしてしまった。」

 

ももこのおずおずとした表情からの質問にさやかは謝りながら話を進めることを促す。

 

「うーんと、その噂はともかく、数が増えてるのも事実だね。強さも昔はこんなんじゃなかったんだけどなー。」

 

「…………やはりなんらかの異常事態が起こっていると考えた方がいいのか。周辺地域の魔女が減って、この神浜市が増えているということは要するに魔女が神浜市へ集まっているということだろうな。」

 

「なるほど……………ところで、それが二人の目的ならいろはちゃんは?」

 

「わ、わたしは、里見メディカルセンターに行かなきゃならないんです。妹の、ういがいたはずなんです。」

 

「……………はず?」

 

いろはは自身が神浜市を訪れた理由を語るも『はず』という曖昧な言葉にかえでが首を傾げながらその部分を鸚鵡返しすると、いろはが事の詳細の説明を始める。

 

「何よそれ…………!!そんなのを信じろって言うの…………!?」

 

しかし、人の存在が丸々消滅しているということはやはりあり得ないのか、レナは驚きの表情を見せながらまるで元々居なかったのではないかと言いたげに言葉を返した。

 

「……………まぁ、いなくなったのが妹なのかどうかというのはともかく、人の存在が丸々かき消されているというのは事実だと私は思っている。これを見て欲しい。人が一人で写真を撮るときにこんなポーズを取るか?」

 

そういうとさやかはももこ達に一枚の写真を見せる。その写真にはいろはしか写っていないが、写真のなかのいろはは不自然に片腕を上げ、何もない空中に置いていた。その様子はまるで誰かの肩に腕を回しているようなポーズに見える。

 

「その写真、誰かと肩を組んでいる写真に見えないか?たった一人で写真を撮るのであれば、そんなポーズをする必要性はないだろう。」

 

そのように言われたももこ達三人は写真を見つめる。その中でレナだけ難しい表情を見せていたが     

 

「確かに……………うん………なら、まずはその里見メディカルセンターだな。」

 

「ハァッ!?ももこッ!?」

 

「えっ!?い、いいんですか?」

 

ももこが頷きながらいろはの妹の捜索に手を貸すことを宣言するとレナが悲鳴のような声を上げる。いろは彼女が手伝いをしてくれると言ったことに驚いたように目を見開く。

 

「ま、これも何かの縁だしね。それに魔法少女は助け合い、てね?」

 

「ちょっと待ちなさいよ!?それじゃあレナ達の捜査はどうなるのよッ!?」

 

「一週間も探して見つからなかったんだよ?今日はお休みでもいいんじゃないかな?」

 

「……………そちらの行動に支障をきたすのであれば、私達がその捜査に協力するという形で貸し借りを無しにするのはどうだ?ここまで案内してくれた礼もあるからな。」

 

「なるほど、そりゃ妙案だねー。こっちは捜索の足が増えるし、向こうは貸しがなくなってWin-Winってやつか。これならレナも別にいいよね?」

 

「……………まぁ………別にいいわよ…………でも、足手纏いにはならないでよね!!」

 

最初こそ自分たちのやっている捜査に影響が出るかもしれないことからいろはの妹探しに難色を示していたレナだったが、さやかから礼として自分たちの捜査を手伝うと提案されたことに言い返しが思い浮かばなかったのか、渋々といった様子で承諾した。

 

「…………ほむら、お前はどうする?向こうへの協力は私が言い出したことだし、無理に付き合う必要性もないが……………」

 

「…………いえ、私自身、もうギリギリな部分があるからあなたについていくわ。」

 

「ギリギリ…………?お前、まさかとは思うがまだ話していないことがあるのではないだろうな?」

 

突然自分が勝手に協力を申し出たことにほむらがいい顔をしないと思ったさやかは彼女に別に加わる必要はないと忠告するもほむらから意外にも参加する言葉が返ってくる。

しかし、その言葉に妙なのを感じたさやかは眉を潜めながら実はほむらはまだ隠していることがあるのではないかと追及をする。

 

(………………実は、私の時間停止にはおよそ一ヶ月の上限があるの。それがもう底がつきかけている。)

 

(…………ハァ、わかった。それで調整屋に賭けようという訳か。)

 

また大事なことを言っていなかったほむらにさやかは内心ため息を吐くが、ほむらが調整屋のソウルジェムの潜在能力の解放に賭けていることを察したさやかはそれ以上は同じようなことをいうだけだったのも相まって口を噤んだ。

 

「ところでなんだが、そのお前たちが捜査しているのとはなんだ?魔女か?」

 

「えっと、鎖の魔女って聞いたことある?」

 

さやかがももこ達が捜査しているものの詳細を尋ねるとそんな固有名詞が返ってくる。その鎖の魔女という固有名詞は魔女であることは察せていたが、そもそも魔女にその個体を表すような単語をつけたことがないさやかたちは首を横に振るしかなかった。

 

「レナ達、その魔女を追っているの。その子の用事はレナ達の魔女探しより重要なことなの?」

 

「ちょっと手伝うだけだろ…………?」

 

「重要かどうかはさておき、捜査が行き詰まっているのなら、別のことへ手を出してみるのも一つの考え方だと思うが?一度できなかったやり方に固執していても結果は同じで時間の無駄だが、気分転換に行ったことが事態を好転させるなどよくあることだからな。」

 

「ほらレナちゃん、そんな意固地になってないで素直になりなよー。レナちゃんはいつも頭が硬いんだからー。」

 

「う、うるさいわね!!」

 

さやかの言葉にかえでが同調するようにレナに説得を行う。ただその言葉にどことなく天然の煽りのようなものが含まれていることにカチンときたのか、レナが金切り声を上げる。

 

「それで、その鎖の魔女とやらは一体どんな奴なんだ?」

 

「と言ってもね、私たちも実際に出会した訳じゃないんだ。元々が胡散臭い噂だからな。」

 

「噂?」

 

「………………三人はさ、絶交階段の噂って知ってる?」

 

さやかがももこに魔女の詳細な情報を尋ねるも元が胡散臭い噂というのに眉を潜める。ほむらも同じような感想なのか、訝しげな表情を見せながらももこの話に耳を傾ける。

 

その噂とは、要約するとももこ達の通う学校、神浜市立附属大中等部のとある一画の階段に自分と絶交したい相手の名前を書き込むと、それが絶交証明書となって未来永劫関わりを断ち切ることが認められるらしい。

だが、一度その証明が成立した状態で仲直りをしようとすれば、謝った方は鎖の化物が連れ去って行ってしまうという内容の噂であった。

 

「特定状況下において姿を現す指向性を有した魔女か…………どう思う?ほむら。」

 

その噂における鎖の化物はももこ達の追っている鎖の魔女と同一の存在と仮定したさやかだったが、ことさらまだ魔法少女になってから二週間と少ししか経っていないさやかは、正確な回数は不明だが時間遡行を繰り返したことにより魔女に関する知識も自分より高いほむらに意見を求めた。

 

「……………魔女にはある程度居ついた場所の人間に『口づけ』をけしかけたりはするけど、そういう獲物を見定めるような習性は存在しないはずよ。はっきり言ってしまえば、妙な魔女よ。」

 

そのほむらからの意見に顎に手を当て考える仕草を見せるさやか。

 

「……………妙な魔女、それにウワサ、か。」

 

さやかはそれに対して悩ましげに声を漏らすだけで、それ以上は何も語らなかったが、ももこと何かあったら連絡が取れるようにと連絡先を交換した後、そこでお開きとなり、一同はももこ達の案内で神浜新西駅から帰路に着いた。

 

 

 

 

そこから日を改め、さやかとほむらはマミと一度合流し、情報の共有を行うことにした。

 

「調整屋と呼ばれるソウルジェムの干渉ができる魔法少女と特定の条件が揃うと姿を現す魔女、さらにはその魔女のことを指しているようなウワサね…………こっちじゃ全部聞かない話ね。」

 

マミはさやかがももこ達から聞いた鎖の魔女や調整屋の話を聞くと訝しげな顔を見せながら考え込む。

 

「そちらはどうなんだ?キュウべぇ…………インキュベーターから何にか聞き出せたか?」

 

「ええ、そっちの方は。でもあの子、本当に聞かれたら答えるのね。」

 

さやかがマミにそう尋ねると彼女は呆れたような顔を見せながら肩を上下に動かしながらキュウべぇから聞き出したことを語り出す。

 

「神浜市ではキュウべぇが活動することができない?」

 

「そうなのよ。実際神浜市と他の地域との境界に立ち寄ったのだけど、神浜市の領域に入った途端に機能を停止したように動かなくなるのよ。それこそぬいぐるみみたいにね。」

 

「つまり…………神浜市にキュウべぇはいないということ?」

 

「そういうことになるって自分で言っていたわ。それが何を意味するのかは、私には考えつかないのだけど。後は………周辺地域の魔女が神浜市に集まって来ている、ということぐらいかしら。」

 

ほむらの言葉にマミは手にしているカップに入っている紅茶に口をつけながらそう返す。

 

「でも、これで結論ははっきりしたわ。美樹さんの思った通り、神浜市で何かが起きているのは間違いないわ。」

 

「……………わかった。マミ先輩、ありがとう。」

 

「いいのよ、これくらい。貴方に救われた命だもの。それで私はまだキュウべぇから何か聞き出す役割に徹した方がいいのかしら?」

 

さやかがマミに礼をあげると彼女は笑みを向けながら自身のこれからをさやかに尋ねる。しばらくそのことで思案に耽るさやか。

 

「マミ先輩も私達と行動を共にしてもらってもいいのだが、下手に向こうの魔法少女を刺激するのは防ぎたい…………」

 

「それを警戒して佐倉さんを別行動させているものね。」

 

そんなこんなで時間が過ぎて行くとふとしたタイミングでさやかの携帯が辺りに音を撒き散らす。

何事かと思いながら携帯の画面を起こすとそこにはいろはからメールが1通届いていた。

 

「……………病院に入院していた記録が残っていなかったか。やはり環ういの存在自体が消失したのは明白か。ん?続きがある。」

 

メールにはいろはが里見メディカルセンターに赴いたがういが入院していた記録が残っていなかったという内容のメールだった。そのことに納得しているとまだメールに続きがあることに気づいたさやかは画面をスライドさせて続きを読み進める。

 

「水波レナと秋野かえでが喧嘩して絶交を言い出した?それで水波レナが自宅に戻ってきていないって…………何をしているんだ一体…………」

 

そのメールにはレナとかえでが喧嘩してしまった趣旨の内容が続いてあった。思わず呆れたように肩を竦めるさやかだったが、携帯をしまうとすぐに出かける準備を始める。

 

「……………すまないが、ちょっと神浜市に行ってくる。」

 

「……………私はパスするわ。」

 

頭を抱え、悩ましげな表情を見せるさやかに対して、澄まし顔で佇むほむらだ。だが、さすがにこんなことにほむらを同行させるのも気が引けるのもあったため、ほむらから同行を断る申し出がでたことにむしろありがたかったさやかは微妙な笑みを見せる。

そしてまるで同情するかのような苦笑いを浮かべるマミを尻目にさやかは急ぎ足で駅から電車で神浜市へ向かう。

 

 

 

 

「………………………経緯(いきさつ)、聞かせてもらえるな?」

 

以前ももこ達と別れた神浜新西駅にやってきたさやかは改札口付近でたむろっているももこ、かえで、いろはの三人組を見かける。

向こうもさやかのことに気がついたため、足を運んださやかは開口一番、目線を細めたじとっとした視線をしながら、ももことかえでから、なぜ喧嘩するに至った経緯を尋ねる。

 

「いやー、トドメはわたしが指したようなもんなだけどさー。」

 

困り果てたような様子で後ろ髪をかき乱すももこからその経緯が語られる。

 

さやかとほむらと別れた次の日、いろはが一人で里見メディカルセンターを訪れたのだが、妹のういが入院していたという記録はなかった。しかし、いろはがういの見舞いにそのメディカルセンターを訪れた記憶があると言うことで、どうにか勤務している医師か看護師から情報を聞き出したいと考えているところにかえでがレナに白羽の矢を立てた。

 

その理由がレナの魔法が他人に変身する魔法とのことでそれで看護師に変装してメディカルセンターに潜入してもらおうというものだった。

ただ、もしバレた時の自身に対する影響を考えたのか、レナはそれを拒否。少しの間説得にかかるももことかえでだったが、一向に首を縦にふらないレナに痺れを切らしたかえでがレナに突っかかり、それにレナが腹を立てたことで口論に発展。

その口論の最中にレナがかえでの逆鱗に触れた結果、かえでが逆上し、互いに絶交を言い残してその場から立ち去った。

そのことに顔を俯かせていたレナだったが、ももこが下手なフォローをしたことでレナも怒りを露わにしてその場から立ち去ったとのことだった。

 

「で、水波レナは未だに家に帰らず、か。」

 

「そうなんだよ……………ごめん、その、こっちのゴタゴタに付き合わせて……………」

 

「気にしなくていい。それより今は彼女の捜索に時間を割くべきだ。最悪のパターン(魔女と出会した)も考えられる。彼女がよく行く場所、通学路とかを優先的に見て回るべきだ。」

 

「それだったら、ゲームセンターだと思う。レナちゃん、いつもああいう場所にしかいないから。」

 

捜索の場所をゲームセンターに絞ったさやか達は神浜市に点在するゲームセンターのはしごをしての探索を始める。しかし、一件一件虱潰しに回ってみるも彼女の姿はかけらも見当たらない。

時間も無為に過ぎ去っていき、いつのまにか日も暮れ始めていた。

 

「………………………いるな。」

 

そんな時不意にさやかが察したように呟いた言葉に全員の目線がさやかに向けられる。

 

「え、いるの!?どこ!?」

 

「今いるゲームセンターの中に、という曖昧な感覚だが……………」

 

ももこがすがるような目線を受け、さやかは微妙な表情を見せながらそう語る。ももこはそれでもいいというように果敢に視線を周囲に張り巡らす。

 

「ちょっと向こう見てくる!!」

 

とりあえずレナがここにいるということにいてもたってもいられなくなったのか、ももこはさやか達から離れて、もう一度ゲームセンターをくまなく探しに行った。

 

「………………あっ!!」

 

「いろは?」

 

レナを探しにいくももこの背中を目で追っていたさやかだったが、いろはが何か見つけたような声を上げたことに視線をそちらに向けると今度は駆け出して行くいろはの背中が視界に収まると彼女が向かったその先にももこやかえでと同じ制服を身につけた女子生徒が視界に映る。

その女子生徒は灰がかった銀色の髪を後ろから見た限りボブカットのようなショートにしている。明らかにレナとは違う容姿だったが、さやかはなんとなくその女子生徒がレナの変装であることを見抜いていた。

 

「秋野かえで!!見つけた!!他人に変身しているが、わかるかっ!?いろはが追っている!!」

 

すぐさまさやかは隣にいたかえでにそのことを告げ、レナが変身していると思われる女子生徒を指差すことでその行方を知らせる。

 

「……レナちゃん!!」

 

かえではその姿を見るや否や、レナだと断定してその女子生徒に向かって行く。まさか即決で飛びついていくとは思わなかったさやかはそれに面食らった様子で数瞬立ち尽くした後に彼女を追う。

 

「レナちゃん!!レナちゃんだよね!?」

 

「な、なんのこと…………?」

 

さやかが駆けつけた時にはかえでがその女子生徒に化けたレナの手を掴んで逃がさないようにしているが、当の本人はまだバレていないと思っているのかたどたどしい様子で困惑気味にシラをきっている。

 

「……………いくら他人の皮をかぶったところで、お前は他人にはなれないし、他人がお前になることはできない。どう足掻いたところでお前はお前でしかない。水波レナ。」

 

さやかがそう女子生徒に化けたレナに語りかけるように声をかけるとレナは体を強張らせ、惑うことなく自分を見つめてくるさやかに目を見開く。

 

「お前は自分を見ていてくれる大事な友人を捨てるのか?」

 

「ッ…………!!!?」

 

「あ、待てぇー!!!」

 

まるで諭すようなさやかの口ぶり、そして自身に向けられる儚げに心配しているような表情にレナはいたたまれなくなったのか、かえでの手を振り払って逃走を始める。腕を振り払われたかえでだが、めげる様子をかけらも感じさせず、むしろ逃すつもりがないのか気迫のこもった様子で逃げるレナの後を追い始める。

 

「さ、さやかさん!!!」

 

「私は十咎ももこを呼ぶ。先に行ってくれ!!」

 

「わ、わかりました!!」

 

さやかが携帯を出しながらそう伝えるといろはもかえでと同じようにレナの後を追う。

 

『もしもし!?見つかった!?』

 

携帯を操作して電話帳からももこの携帯を呼び出して数コール。ゲームセンターの騒音に紛れて気付かないことも想定に入れていたさやかだったが、そんなことは杞憂でももこがすぐにでてくれる。

 

「なんとかな。だが彼女は逃走を図って、今はいろはと秋野かえでが追っている。」

 

『わかった!!すぐに行くよ!!』

 

ももこがそう答えた後に電話が切れるのを確認したさやかはいろは達と同じようにレナの後を追う。

 

(…………………なにか妙な感覚がする。魔女とはまた違う…………なんなんだ?)

 

まるで近くで自分の噂話をされて、それを近くで聞いてしまったかのような不快感がさやかの感覚を撫でるが、ひとまずレナを追うのが先決と考えないようにして駆け出した。

携帯を仕舞って、いろは達が駆け出した方角を見やるとその後ろ姿が遠目にギリギリ映った。なんとか見失う羽目にはならなそうだと思いながらさやかもレナを追い始めた。

 

ちょうどゲームセンターから出たタイミングでももこがやってきたのが目についたため、ついでに手を振りかざすことで場所を示しながらレナを追う。最初こそ距離が縮まらず、悪態を吐くさやかだったが少し走っているとかえでかいろはのどちらかが追いついたのか、急に遠目だったその姿が大きくなってくる。

どうやらかえでがレナに追いついたようだ。一度離したその手だったが今度は絶対に離さないと言うようにレナの腕を頑なに握りしめていた。

 

「そんなこと思っていない!!!」

 

しかし、突然レナがかえでの手を振り払うと頭を抱えて苦しげな表情を見せ始める。そのレナの様子に呆気にとられていたいろはとかえでだったが    

 

「秋野かえで!!彼女から離れろ!!何か変だ!!」

 

いち早くその異変を察知したさやかがかえでをレナから離れさせるようにGNソードⅡショートのアンカーを腕に巻き付け、思い切り引っ張り、引き寄せる。

 

しかし、実際異変が起こったのは、レナではなくかえでの方だった。

 

突如としてかえでの体を包み込むように鎖のようなモヤが現れるとアンカーに繋がれていたはずのかえでの体は虚空へと消え去っていた。

 

「か、かえでさん…………!?」

 

突然かえでの体が消失したことに驚きのあまり声を失っていた。対してさやかは苦虫を噛み潰すような悔しげな表情でダランと伸びきったアンカーを見つめ    

 

 

「今の鎖状のモヤ………………まさか、鎖の魔女か…………!?と言うことは、書いたのか!?絶交階段に、名前を!!!」

 

さやかの詰問にレナは呆然とした様子で立ち尽くしたまま何も答えない。しかし、例の絶交階段の噂が神浜市立附属大中等部の階段。そこにはその絶交を証明するかのように秋野かえでと水波レナの名前がはっきりと刻まれていた。

 

 

 

 




感想等、気軽にどうぞ☆作者にとって励みになりますので^_^


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第39話 00 XNRAISER

やっと…………ここまで出せた…………!!でも若干手抜きくさいのは許して!!


「……………水波レナ……………お前と言う奴は………………!!」

 

かえでが鎖の魔女と思しき存在に連れ去られたあと、嫌に静かな空間にさやかの震えるような声が響く。その険しい表情を向けた先には未だ呆然とした様子のレナがおり、まだ状況をよく把握できていないようにも思えた。

 

かえでが鎖の魔女に連れ拐われたとわかった時、まさかとは思った。それと同時にその湧き出た推論を否定したかった気持ちもあった。

しかし、状況を整理していくうちにそのまさかは現実味を帯びていく。

さやかが駆けつけた時、レナは錯乱したような状態で見えないナニカと会話しているようだった。実際さやかが魔女と似たような気配を感じ取ったのもまさにその瞬間だった。故に明らかに様子のおかしかったレナから距離を取るためにかえでを無理やり引っ張った。

 

にも関わらず、蓋を開けてみれば引き離そうとしたかえでが連れ去られ、様子のおかしかったレナはあのように無事、とは言い難いが、ともかく何事もなくそこにいた。

 

そしてかえでが連れ去られる寸前に見えた鎖のような黒いモヤにさやかの脳裏に絶交階段の噂が浮かび上がる。

 

絶交階段に名前を刻み、絶交が証明された状態で謝った相手は鎖の化物に連れ去られる、と。

 

直前までのかえでの様子から彼女も自分の身に何が起こっているのか理解できていなかったのだろう。だが、かえではレナに謝ったことで、鎖の魔女に連れ去られた。

 

つまり、絶交階段にかえでの名前を刻んだのは、レナ以外にはあり得ないのだ。

 

「ッ………………!!!」

 

そのことにさやかはどうしようもないほどに怒りを覚え、それを表すように両手を思い切り握りしめ、耐えるように歯を食いしばり、目を力強く瞑る。

少しでも気が抜けたら、おそらくさやかはレナにその怒りをぶちまける可能性もあった。

 

「ハァ、ハァ…………あれ、かえでは?さっきまで姿が見えていた気がするんだけど…………」

 

そのタイミングで遅れたももこがやってくるが、先ほどまで姿の見えていたはずのかえでがいないことに首をかしげる。

 

「ッ!!!」

 

するとさやかは瞑っていた目を見開くとレナに背を向けるように踵を返すと足早にももこの隣を通り過ぎ、その場から立ち去ろうとする。

 

「さ、さやかさん!?一体どうしたんですか!?」

 

だが、そのさやかを呼び止めるようにいろはが悲痛な声色でさやかの名前を呼ぶ。そのいろはの声にさやかは足を止めるも顔は絶対に向けようとはしない。

 

「……………すまない…………私は先に帰らせてもらう……………事情は、そこで立ち尽くしている彼女が、何よりわかっている筈だ………だから……だからこそ………今の私は、彼女に殴りかかるかもしれない…………!!」

 

「えっ     

 

さやかの声から隠しきれないほどの怒りを感じたいろはは言葉を失った様子で立ち尽くす。

 

「十咎ももこ。」

 

「……………なんだい?」

 

震えるような声でさやかはももこの名前を呼ぶ。その声にももこは神妙な面持ちで応える。

 

「気持ちの整理はつけておく………彼女も…………水波レナもこんなことになるとは思わなかったはずだと、彼女を害す気持ちがあるからやったのではないと、そう信じたい。だから、鎖の魔女を倒しに…………秋野かえでを助けに行くときは遠慮せずに連絡をして欲しい。」

 

「………………わかった。それと、何度もごめん。ウチのゴタゴタに巻き込んだ……………」

 

その言葉の節々から漏れ出るものと状況から察したももこの謝罪にさやかは背を向けたまま答えることなく、無言で歩き始め、足早にこの場から立ち去っていった。

 

 

 

 

「…………………」

 

「……………さやか?神浜から戻ってきたと思ったらメールで突然『まずいことになった』って一言だけ送ってきて…………何かあったのかしら。」

 

見滝原中学の校舎の屋上で張り詰めたような表情を見せながらベンチに腰掛けているさやかに突然呼び出されたほむらが質問をぶつける。そこにはマミの姿もあったが、あまり見たことのないさやかの表情にいま一歩気が引けているような表情を向けていた。

 

「この前話した鎖の魔女、そして絶交階段のウワサのことなのだが、アレに秋野かえでが連れ去られた。」

 

「……………どういうこと?美樹さんの話だとその階段に名前を書いたり書かれたりしなければ出てこないって話だったわよね?」

 

「……………つまりはそういうことになる。」

 

「……………あまり詳細は聞かない方がいいみたいね。」

 

ウワサの内容が内容通りに実現したこと、そしてその経緯にマミは疑問気な表情を見せるが、さやかの察して欲しいと言わんばかりの様子に額に手を当て、頭を悩ますように首を振る。

 

「……………私はももこ達から連絡があれば、救出に参加するつもりだ。そのウワサが仮に魔女のような存在なのであれば、できれば二人にも来てもらえるとありがたいのだが……………」

 

「………そうねぇ………これから神浜市に何度も足を運ぶことになるのであれば、そのウワサとの戦闘は必然と多くなってくるでしょうね。だからわたし個人としては力が必要なら手を貸すわ。慣らしも含めてね。」

 

「そうか………ありがとう。」

 

マミが手を貸してくれることにさやかはそれまで浮かべていた険しい表情から、少しばかりその緊張を緩めたように笑みを見せる。

 

「ほむら。お前はどうする?」

 

「……………ウワサであろうと普通の魔女であろうと、どちらにせよ神浜市の魔女は一律にして強力というわ。巴マミの言う通り、慣らしは必要よ。」

 

「えっと…………同行するということでいいんだよな?」

 

いまいちほむらの返答にピンとこなかったさやかは軽く首をかしげながら確認するとほむらは無言でうなづき、同行する意思を示した。そこからほどなくしない次の日、連絡先を交換したももこからメールが届き、さやかたち三人は神浜市へ足を運ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、来た来た。ごめんね、昨日の今日で。」

 

「気にしなくていい。秋野かえでの安否を知ることができないのなら、むしろ救出を実行するのは早ければ早い方がいいからな。」

 

「そうかい………いや、そうだな。君の言うとおりだ。ところで、そこの彼女は………?もう一人は顔合わせこそしてたけどさ………」

 

神浜ミレナ座、もとい調整屋に赴くとももこたちがすでにおり、現れたさやかたちに手を振っていた。その中にはいろはの他にふさぎ込んでいるような顔つきのレナの姿もあったが、さやかは今は触れるべき内容ではないと判断して、ももこと軽く言葉を交わしたあとにマミとほむらの紹介を済ませた。

 

「なるほどなるほど………君が例の先輩魔法少女か………だとすれば心強いよ。ありがとう。」

 

「美樹さんにはとっても大きな借りがあるので…………」

 

ももこの言葉にマミは遠慮しがちに言葉を返すが、ももこは高校一年、マミは中学三年と見滝原では見られない先輩の魔法少女にどこかその応対にぎこちないものを感じさせる。そんな中、ほむらはこの世のものではないものを見てしまったかのような驚嘆といった表情を見せながら、この空間のなかにあるたった一つのものを凝視していた。

 

「ところで、さっきからそこのチーズケーキにケチャップのてんこ盛りに大量のチョコチップ、挙句の果てに梅干しとかいう異色のトッピングをしているのはどこの誰?」

 

「あら~、私のことは二の次でよかったのに~。もしかしてこれに興味を持ってくれたの?よかったらあげるわよ?」

 

「……………何をどうしたらそう受け取れるのよ…………」

 

「……………なるべく目を合わせないようにしていたというのに、お前というやつは………」

 

そのほむらのいう異色のトッピング、悪く言えばトチ狂ったとしかいえないようなゲテモノを制作していた人物はそのほむらの酷評に笑顔を見せるとあろうことかほむらにそのゲテモノを勧めだした。これにはさすがのほむらも表情を顰め、見て見ぬフリをしていたさやかもあきれたようにため息をこぼす。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、仕切り直して自己紹介をしましょうか。私はこの神浜ミレナ座で調整屋として切り盛りしている『八雲みたま』よ。よろしくね。」

 

「美樹さやかだ。アンタが例の『調整屋』か。ソウルジェムに干渉して、その秘められた能力を開放できるとのことだが…………本当にそんなことができるのか?」

 

「ええ、もちろんよ。ちょうどあなたたちが来る前にいろはちゃんの調整も済ませちゃったから。」

 

「そうなのか?」

 

「は、はい。確かに調整を受ける前よりは格段と力が増したような感じがします。」

 

「……………すまない。前々から気になってはいたのだが、ソウルジェムの調整とはどのような方法でしているんだ?」

 

既に調整を受けたいろはからの言葉にさやかは考えこむ様子を見せると少ししてから再びみたまの方に顔を向けなおす。

 

「そうねぇ……方法と言われても、私はソウルジェムに触れて魔力を流し込んだりして、秘められた能力を引き出すだけよ~?まぁ……その人の過去も見えてしまうこともあるのだけど。」

 

さやかに問われたみたまは間延びしたような口調でそう説明する。しかし、最後の言葉に限ってはその限りではなく、しっかりとした彼女の口ぶりからそれがうそではないことをさやかは感じ取る。

 

(とするならば、ほむらを調整してもらうのは少しばかり面倒なことになるな………)

 

過去というのはつまるところその人物の記憶だ。普通の魔法少女であればさしたる問題はないだろうが、時間遡行をしてきた秘密を有しているほむらにとっては不自然に似たような過去を繰り返していることからその秘密がばれかねない。しかし、ここで調整の可能性にかけなければ、この先のほむらが魔法少女としてやっていける未来は限りなく薄いだろう。

 

(ほむら。すまないが、先に私が調整を受けても構わないか?受けている間に調整屋には私が話を通しておこう。)

 

(…………いいえ、余計なお世話よ。自分のことは自分で交渉するわ。あなたも受けるつもりなら順番も好きにしてちょうだい。)

 

善意でそう持ち掛けたが、ほむらから念話で余計なお世話と言われてしまったさやか、しかし本人がそういうならということで、変に話を続けるようなことはしなかった。

 

「おおよそのことはわかった。なら、私とそこのほむらに調整をお願いしたい。マミ先輩はどうする?貴方も一緒にやってもらうか?」

 

「……………八雲さん……でしたっけ。これって、なにか対価とか必要なんですか?」

 

誘われたマミだったが、返答はせずに、かわりにみたまに調整を行ったことに対する報酬の有無を確認する。

 

「ええ、それはもちろんよ~。だってこれは商売だもの。それ相応の金銭か、もしくはグリーフシードをいただくわ。」

 

「……………金銭、だと?それは大体いくらだ?」

 

笑みを浮かべながらきっちりと代金はもらう旨を明らかにしているみたまに対して、さやかは苦々しい表情を見せながらその金額の詳細を尋ねる。

 

「あら?基本的にみんなはグリーフシードで払ってくれるのだけど…………あなた、持ち合わせていないの?」

 

「……………基本、持ち合わせるようなことはしていない。あまり必要としないからな。」

 

「どういうことかしら?」

 

「詳細を話すことはできない。私自身、よくわかっていないことの方が多い。調整をしてもらおうと思ったのも、もしかしたら何か私の持つ力について知ることができるかもと思ったからだ。特異な性質程度だと思っていてくれ。」

 

「……………わかったわ。それがクライアントの要望なのであれば、売り手はそれに従うまでよ。」

 

そのさやかの神妙な様子からの言葉にみたまは少々いぶかし気な様子でさやかを疑念の表情で見つめていたが、やがて棚に上げることにしたのか、商人魂が見え隠れしそうな満面の笑みでさやかを出迎えた。

 

 

「じゃあ、まずはその知りたがっている貴方から始めましょうか。お金の持ち合わせはあるかしら?」

 

「値段によってしまうな。場合によっては借りることも考えられる。」

 

みたまは部屋におかれてあった学校での健康診断などでよくみられる布を鉄製の枠で囲んだ仕切りの向こうへ案内するとさやかも彼女に追うようについていく。

 

「それじゃあ、ソウルジェムを見せてちょうだい。」

 

みたまの声に促されるようにさやかは自身のソウルジェムを取り出した。その手に乗せられたものをみたまはまじまじとした様子で観察する。

 

(ふぅ~ん…………確かに珍しい色合いをしているわね。青っぽい水色と、クリアグリーンっていうのかしら?きれいな緑色が一緒に見られるわね。)

 

さやかのソウルジェムの輝きに二種類の光が散在するのを見て、みたまは納得するようにうなづく仕草を見せる。普通はどのソウルジェムも宝石の色は一つに限られる。それにもかかわらずソウルジェムに二種類の輝きが含まれているということはさやかが自白した通り、何かしらの特異な性質があるのは本当のことかもしれないとみたまは考える。

 

「それじゃあ、ソウルジェムに触れるわよ。」

 

 

そして、みたまの指がさやかのソウルジェムに触れる。その瞬間        

 

 

「ッ!?」

 

何か電流のような痛烈な感覚がさやかの身体を駆け巡り、さやかの意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………い、いまの、は…………?」

 

うだるような感覚が残っている頭を抑えながら、さやかは起き上がる。なにか電流に似た感覚が自分の身体を駆け巡ったことまでは覚えている。ひとまず自分に何が起こったのか確かめるためにさやかは目を開けるが、目の前に広がっていたのは先ほどまでいた調整屋ではなく、白く、それでいて星のように虹色の光が瞬いている空に広がる宇宙を反転させたような空間だった。そしてさやかはその空間に見覚えがあった。

 

「こ、ここは……杏子の時と同じ、あの空間か………!?」

 

この空間について理解がまるで追い付いていない状況で、またこの空間が現れたことにさやかは困惑を隠すことができずに狼狽したように周囲を何度も見渡してしまう。

 

「まさか、お前の方から姿を現すことになるとは………」

 

「だ、誰だッ!?」

 

 

突如として響く男の声にさやかはその声がした方向である自身の背後に視線を送る。男の姿は外観だけみれば20代かそこら辺の年齢のように見える。しかしその男はどういうわけか身体や髪といった人間を構成する部分のそのほとんどが金属化していた。だがその佇まいや声色からはつり合いがとれていないような落ち着いた様子から、さながら老成したような大人びた人物であることをさやかは感じ取る。それでもこの不可解な状況で突然現れたことにさやかは警戒感をぬぐえないでいた。

 

「……………すまない。まさかそこまで警戒感を抱かれるとは思いもよらなかった。一度、声だけとはいえお前と話したことがあるのだが。」

 

男のその言葉にさやかはいぶかし気に表情を顰めていたが、ほどなくしてある出来事を思い出す。それはさやかが手にした新しい力、ダブルオーガンダム。その性能をテストするために赴いた魔女との戦いで危機に瀕した際、魔法少女の間でできる念話のように語りかけてきた存在がいた。

 

「いや、そんなメタルコーディングが施された人物の知り合いは………………まさかアンタは、あの時の………!?」

 

「あの時お前が聞いた声は俺のものだ。そして、俺の名前は刹那・F・セイエイ。お前が使っているダブルオーガンダムのガンダムマイスターだった。」

 

「ダブルオーガンダムのガンダムマイスター………?よくわからないが、この力、元はアンタのモノだったのか?」

 

「持っていたというより搭乗者といった方があっている。ガンダムは元は兵器だったのだからな。」

 

「兵器…………アンタは以前、ガンダムは争いを止めるための力だと言っていた。だとするならば      

 

「お前の想像通りだ。俺はダブルオーを駆り、戦争根絶のために世界を相手どって活動をしていた。」

 

さやかが言い切るより早く、目の前の男、刹那はそう答える。戦争を根絶する。そのあまりにも大きすぎ、壮大なその言葉にさやかは悲痛な表情だけ見せて黙りこくってしまう。

 

「……………イノベイターとはいったいなんなんだ?」

 

戦争について、さやかはとやかく指摘しないかわりにイノベイターのことを刹那に尋ねる。

 

「イノベイターとは、か。俺個人がわかっている範疇でだが、脳量子波を用いて他者との表層意識を共有することができ、反射神経も驚異的なレベルまで上昇するらしい。お前が時折見せている虹彩の色の変化がその証明だ。」

 

「あの光っている状態の目が、か…………?脳量子波とか表層意識とかよくわからないが、他人との意識共有を簡単にするというニュアンスでいいんだよな。」

 

さやかが質問を行い、刹那が答える。そのやりとりを二人は時間が許す限り続ける。今ここにいる空間、GN粒子にその生成機であるGNドライヴ、ダブルオーガンダムのこと、そして       

 

「最後にだが、お前にGNドライヴに秘められた奥の手を教えておく。と言っても俺たちも頻繁に使っていたことだが……………………」

 

「それは奥の手と呼べるものなのだろうか…………………?」

 

 

 

 

 

 

       なた、貴方、大丈夫ッ!?」

 

「ん………………ん?」

 

刹那からその奥の手を教えてもらったさやか。体を揺さぶられる感覚に瞳を開くと、目の前に心配そうな目を向けているみたまの姿があった。

 

「良かった…………気がついてくれた。調整を始めた途端に立ったまま気絶したみたいに反応してくれなくなっちゃったのよ?こんなこと、今まで一度もなかったから、お姉さんびっくりしちゃったわよ?」

 

「す、すまない……………」

 

自分に特にこれといった非はないはずだが、心配させてしまったのは事実なようなため、とりあえず謝罪の言葉を口にするさやか。

 

「もう……………ところで貴方。一応調整の方は済んだはずだけど一回変身して見せてちょうだい。何かあったらウチの沽券に関わってくるんだから。」

 

「わかった。」

 

そうみたまに言われるままにさやかは魔法少女としての姿であるダブルオーガンダムを身に纏う。展開したさやかは少しの間手を握ったり開いたりして感覚を確かめていたが、やがて何か疑問を感じたのか首をかしげる。

 

「………………いろはが言うほどの力の上がり具合は感じないな。個人差があるのだろうか……………なんだ?」

 

しばらく小首を傾げていたさやかだったがふとした拍子に視線に気づくと合わせるように顔をそちらに向ける。そこにはみたまが何か目を見開いてさやかとナニか    視線の矛先的にちょうどさやかの隣にあるものを交互に見つめ、ジェスチャーのようなものを飛ばしていた。

 

「……………私の隣に何かあるのか?」

 

そう言いながらさやかも自分のすぐ隣に視線を落とすとそこには二対のバインダーに刀剣のようなものを何本も搭載した蒼と白の二色が配色された戦闘機のような何かが鎮座していた。さやかがそれの理解に手間取っているとその戦闘機のようなフォルムの物体は淡い緑色の粒子   GN粒子の放出を始めるとフヨフヨとした遅いスピードでさやかの周りを滞空し始める。字面だけ見れば可愛らしいかもしれないが、その戦闘機の大きさは人並みサイズもある巨大さだったため、その巨体に気圧されるように一歩引いたような表情でそれを見つめていた。

 

「お、おう…………………」

 

思わずオットセイのような声をあげてしまうさやかだったが、その戦闘機のような物体の正体に刹那・F・セイエイからダブルオーガンダムのことを教えてもらっていたさやかは当たりをつけていた。

 

その戦闘機の名前はザンライザー。

 

ダブルオーガンダムの支援を目的とした戦闘機だが、その真価は支援ではなく、ダブルオーガンダムとの合体機構にある。

 

ダブルオーザンライザー

 

 

それはダブルオーガンダムの二つのGNドライヴ、通称ツインドライヴを完全なる稼働状態にしたガンダムを超越したガンダム。

 




今日の話しの要約

さやかは  ザンライザーを手に入れた!

さやかは  新しくトランザムを覚えた!←ここ超重要

ちなみにザンライザーの形態でもセブンソード/G装備は使おうと思えば使える



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第40話 守ってよね、レナのこと

なんか終盤『LEVEL5-judgelight』聞きながら書いたらとんでもないことになった………アニメ版とアプリ版がごっちゃになった………


「これは…………また大きい得物を…………」

 

調整を受けたことにより、新たなる力であるザンライザーを手に入れたさやか。そのザンライザーが背負っている二対の大剣、GNバスターソードⅢを手にもつと見比べるように二振りを交互に見つめる。

新たに現れたザンライザーに搭載されているのは、まずその背に乗っかっている左肩に懸架されているGNバスターソードⅡと同じくらいの大きさで二対の大剣、GNバスターソードⅢをはじめ、GNソードロングとショートの長さを均等にしたような手持ち剣であるGNソードⅡが二振り。底部には刀身がGN粒子と同じ淡い緑色に包まれた刃の幅の大きいどことなく脚部のGNカタールと似ているGNソードⅢの計5本がザンライザー一機にまとめて搭載されていた。

 

「多くないかしら?美樹さん一人でこれ全部扱うの?」

 

そういったマミの言葉だが、まだ当人たちは気づいていないザンライザーの両翼のバインダー部に取り付けられているGNシールドも緊急時に実体剣として活用できるレベルの切れ味を持っているため、実質ザンライザーに搭載されている剣は七本であり、さやかのセブンソード/G装備も加わると合計14本もの剣を持っているということになる。

 

「いや、さすがにそこまではないと思うが………これ自体は支援用のものみたいだから、いっそのこと移動用と割り切るのも一つの使い方だろう。こいつ自体はある程度自律して行動するようだし、このように浮遊しているのだからな。」

 

「まぁ、たしかに………空を自在に飛べる魔法少女っていうのもいないからね………これはこれで便利かも………」

 

「いないのか?」

 

「え?まぁ……私が知っている限りはね。というか、普通は飛べないでしょ?どっちかといえば長いジャンプで跳んでいるようなものだし……」

 

ザンライザーをしばらくは移動用の補助ユニットとして扱うことを決めたことにももこがぽろっとこぼした言葉にさやかが反応すると、まさか触れられるとは思っていなかったのかももこが少しばかり驚いたような表情を見せる。

しかし、さやかがそれ以上話を続けるようなことはしなかったため、結局その話は周りの喧騒に消えていった。

 

「そういえば十咎ももこ。鎖の魔女への対抗手段はなにかあるのか?」

 

「ももこでいいよ。前の時もそうだったけど、いつまでもフルネーム呼びじゃ大変でしょ。」

 

「すまない。どうにも性分なようでな。会ったばかりの奴には大抵こうなんだ。」

 

代わりにさやかはももこに鎖の魔女への対応策を尋ねた。確かに今はそれが最優先だが、さやかのフルネーム呼びがこそばゆかったのかももこはさやかに名前呼びでいいことを伝えると、さやかも少し申し訳なさそうな様子でそれを受け入れる。

 

「それで、鎖の魔女への対応だけど、専門家を呼んでる。そろそろ来ると思うんだけどな…………」

 

ももこのいう専門家にさやかが疑問に思っているとフロアの床を女性ものの靴で鳴らす音が響き渡り、何者かの来迎を告げ、全員の目線が音のした方向に注がれる。

 

「……………ももこ、話と違うのだけど。結構人数いるじゃない。」

 

現れたのはさやかたちが神浜市に初めてやってきたときに出くわした魔法少女、七海やちよだった。おそらくももこのいう専門家というのは彼女のことを指しているのだろうが、それなりの人数がすでにいることにうっとおしいと思っているのか険しい表情を見せていた。

 

「専門家………一体何のだ?」

 

「ウワサだよ、ウワサ。やちよさん、こういうのをよく調べているんだ。」

 

「……………はぁ、それで、絶交階段のウワサと出くわしたのね?」

 

人数が多いことになにやら一言申したいものがあった様子だった七海やちよだが、結局言及することはやめたのかため息をひとつだけついて本題に入る。そのやちよの言葉に正面に立って応対しているももこは険しい表情を見せながらうなずく。

 

「ウチのかえでが連れていかれた。なんとか助けたいんだけど、こういうのに対して一番知識があるのはやちよさんだ。だから、手を貸してほしい。頼む。」

 

そういってももこはやちよに対して頭を下げながら協力を要請する。その様子を見ていたやちよは少しの間を空けると一つ、小さく息をついた。

 

「……………私もかえでを助けること自体に異論はないわ。手を貸してあげる。でも       

 

ももこからの頼みを承諾し、力を貸すことを明言するやちよ。しかしその表情は険しいもののままで、不意に視線をももこから外すと、別の方向に顔を向ける。その視線の先にはいろはの姿があった。何か彼女から言われると思ったのか、やちよから向けられた年上の貫禄のある鋭い目つきにいろはは体をこわばらせる。

 

「……………多くは言わないわ。前に言ったけど、弱いまま変わらないのなら、死ぬだけよ。」

 

やちよにきつい口ぶりでそう言われてしまったいろはは暗く表情を落とした。その二人のやりとりを見ていたさやかは自分の隣にいたほむらに目線を合わせる。

 

「……………なに?」

 

その視線に気づいたのかほむらは自分を見つめてくるさやかにいぶかし気な表情を向けるとさやかは「いや………」と一言だけこぼすようにつぶやいて視線をいろはとやちよの二人に戻した。

 

「あの二人、なんだか少し前までのお前とまどかのやりとりをみているように思えてな。七海やちよがあんな風にまるで拒絶しているように突っぱねた言動をしているのに、いろはに対して特にこれといった害意がない点も含めて。」

 

「……………それ、絶対彼女の目の前でいうのはやめなさい。どうなってもしらないから。」

 

「?………わかった。」

 

ほむらの忠告のような言葉にさやかは首を傾けたが、自分の言動でやちよを怒らせたことをちゃんと踏まえているのか、特に理解したわけではないもののうなづく姿勢を見ているとやちよは肩から提げていたかばんから手帳のようなものを取り出すと、それを机の上で広げる。さやかがその開かれた手帳に視線を落とすとそこには雑誌の切り抜きややちよ本人の直筆の文字によって噂と思しき内容の事項がスクラップ本としてそこに集められていた。

 

「これは…………?」

 

「神浜ウワサファイルよ。絶交階段のウワサをはじめ、今の神浜市に流れているウワサをこれにまとめているの。」

 

「絶交階段のウワサの概要はももこから聞いている。確か、神浜市立大付属中等部の階段に自身と相手の名前を刻むことが条件だったな。」

 

「ええ、ひとまずその中等部の階段へ向かいましょう。ただ、その階段へ向かうということは本来部外者である見滝原の貴方たちと私は学校に侵入するということになる。」

 

「あまり大人数で同時に向かうことはできないということか。」

 

「理解が早くて助かるわ。それで申し訳ないのだけど、ももこたちを含めた私たちが絶交階段に向かっている間、見滝原組の三人は学校の屋上で待っていてくれないかしら。」

 

「専門家である貴方の言葉だ。それになにか異論をつけるつもりはない。勝手に話をすすめてしまったがそれでいいか?」

 

さやかが確認ついでにマミとほむらに視線を向けるも二人ともあいまいな返事をしながらワンテンポ遅れてその申し出を受け入れるのだった。その反応が気にならないわけではなかったが問い詰めたところでなにかはっきりするわけでもなさそうだったため、流すことにした。

 

(…………神浜…………ウワサファイル…………)

 

さやかとやちよを除いた全員はそのやちよが集めたウワサに関する手帳の名称に絶句していた。そんな哀愁のようなものが漂う空気だったが、一向はかえで救出、並びに件の絶交階段のウワサ打倒のために神浜市立大付属へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、調整屋に調整を受けてもらってから実際どうなんだ?八雲みたまのいう力の上がり具合は感じられるのか?」

 

ウワサとの関わりが深い神浜市立大付属にやってきた一向。生徒の出入りが少ない時間帯を狙って侵入したが。さすがに人数が人数だったために屋上で別動隊のやちよたちが来るまでの間、さやかは調整を受けたマミとほむらにその具合を尋ねた。ちなみにその調整にかかった費用はマミとほむらは自前のたくわえであったグリーフシードで賄うことができたが、自身のソウルジェムの性質上その蓄えのないさやかは自腹を切った。その値段もなかなか値が張ったが他の二人から借りることということはなく、財布に入っていた分でなんとかなった。しかし、財布の中身が寒くなってしまったので、これまで使い道がなかったということで堅く封が閉じられていたお年玉に手を伸ばさるを得ないことになったのは別の話だ。

 

「そうねぇ…………結構な効果はあるわね。力がみなぎってくるっていえばいいのかしら。」

 

「私も彼女と同意見よ。それに見立てていた通り、涸渇しかけていた時間停止の猶予が復活したわ。」

 

「そうか…………やはり私のパターンが稀有なのか。」

 

「稀有というより異常の方があっているんじゃないかしら…………調整屋の人もひどくびっくりしていた様子だったし…………」

 

「まぁ、これのことだろうな。」

 

二人の調整を受けた感覚を聞いてさやかはかみしめるようにうなづく仕草を見せていたが、直後にマミから微妙な表情で異常といわれてしまうとその表情を苦笑いに変えながらその元凶であるザンライザーを呼び出した。

 

「これも貴方の魔法少女姿のもとになっているガンダムっていうのに関係があるの?」

 

「……………名前はザンライザーというそうだ。ガンダムの支援を目的とした戦闘機らしい。」

 

「美樹さん?なんだか誰かから教えられたみたいな言い方なんだけど………」

 

ほむらにザンライザーの概要を話しているとそれに違和感を持ったマミがそのことを尋ねた。その指摘にさやかはなにやら言いよどんでいる表情を見せるがほどなくしてその表情を引っ込め、決意した表情を見せる。

 

「実はだな………調整を受けている間、私の意識は別の場所へ飛ばされていた。そこでガンダムの………本来の持ち主であるニンゲンに出会った。」

 

 

そこでさやかは二人に調整を受けた際に起きた刹那・F・セイエイとの語りあいについて打ち明ける。自分の力のもととなっているダブルオーガンダムのこと、GNドライヴとGN粒子、そしてイノベイター、刹那・F・セイエイの世界で人類の革新と評されたその能力について。

 

「それが………貴方が争いを止める力と聞いたガンダムというやつの正体なのね。」

 

「魔法少女、というより………人類の叡智の結晶、みたいなものを力にしているのよね、美樹さんは。」

 

「ガンダムもGNドライヴも人の手から生み出されたものだから、魔法とは正反対の性質かもしれないな。だが、意外に冷静なんだな二人とも。正直にいって笑い話かホラ吹きのいう話とかのあたりで済まされるかと思っていたのだが………」

 

さやかが不安そうな表情を見せながら頬を軽くかいているとほむらはあきれた表情を見せながらため息をつき、マミは笑みを見せた。

 

「普通であれば、貴方の言う通りでしょうね。でも私たちはもうそのガンダムの力を目の当たりにしてしまっている。なら、信じる信じない以前に認めるしかないわ。それだけよ。」

 

「私個人としては、美樹さんは良くも悪くも正直だから………そういう不安そうな顔を見せながら嘘をつくような人じゃないからかしら。」

 

「……………意外と変なところで信じてくれているのだな。」

 

『変という点で貴方/美樹さんには言われたくないわ』

 

「なっ………………!?そんなに変人なのか…………私は…………!!」

 

若干感動して涙が流れそうなさやかだったが、直後の二人の言葉に流れかけた涙は即座に引っ込み、代わりにショックで狼狽している様子を見せるさやか。

 

「そういえば、流してしまっていたのだけど、最近の目の色が金色に光る現象が起こるようになってしまったのも、そのイノベイターというものに美樹さんがなってしまったからなのよね?原因とかは話してもらえたの?」

 

「いや、あのタイミングで出会ったのは向こうにとっても想定外だったらしく、そこまで話が及ぶことはなかった。それでも値千金な奥の手を知ることができたから十分だったのだが………」

 

「奥の手………?」

 

「一言でいうなら………一時的に能力を爆発的なレベルまで引き上げるものか。実際使ってみないとわからないのだが、結構強力らしい。」

 

 

さやかの言い方に二人が首をかしげていると屋上の扉が開き、そこから下準備を終えたいろはたちがやってきた。いろはたちが来たことを確認したさやかはザンライザーを消して彼女たちに向きなおる。

 

「大丈夫そうか?」

 

「さぁ………やってみなければわからないって感じだね。一応ウワサ通りにはしているから大丈夫だとは思うんだけどさ………」

 

さやかがそう尋ねるとももこが微妙な表情を見せながら答える。その返答にさやかはそうか、と軽く反応を示しただけで特に話を続けようとはしなかった。その直後にやちよがももこの名前を呼ぶと少し急ぎ足で彼女の元へ向かうと対峙するようにももこはやちよを見据える。

 

「……………」

 

「……………」

 

周囲を取り囲んでいる面々が向かい合っているももことやちよを見守るようにしている中、しばらく沈黙が周辺を取り巻く。

 

「ごめんなさい!!!」

 

その沈黙を破ったのはももこの声だった。それもかなり響くほどの大きさで謝罪の言葉を述べる。というのも、今対峙している二人はさやかたちが屋上で待っている間に絶交階段に名前を書いてきた。そのうえで謝罪を行うとウワサが姿を現してしまうのだが、その習性を利用しておびき出し元凶を叩こうというのが今回の目論見だ。

 

しかし      

 

「現れませんね………」

 

さやかの近くで腰を下ろしていたいろはがポツリとつぶやいた通り屋上にはももこの棒読みの謝罪の声がむなしく響くだけで、周りにいる魔法少女のソウルジェムに反応はおろか、さやかのイノベイターとしての感覚にも引っかかる兆しもない始末であった。そのことにさやかを含めた全員は首をひねって原因を考えていた。

 

「……………心からの言葉じゃないとか………」

 

「心から………つまり本気の、か………なら、はじめから適任は一人しかいなかったということか。」

 

いろはのつぶやきに反応したさやかはその言葉の真意を理解し、自身の言う適任に目線を向ける。その視線の先には足を抱えてしゃがみこんでいるレナの姿があった。

 

「水波レナ。どうやら、お前の心からの謝罪というのが必要らしい。」

 

「ちょ………そんな簡単に言われても………!!」

 

さやかに指名を受けたレナだったが、表情には狼狽しているように視線を右往左往させて落ち着きがみられない様子を見せる。それでもさやかはお前の力が必要だと言わんばかりにじっとレナに目線を当てている。

 

「そ、そもそも!!そんなすぐに仲直りした~いなんて気持ちになれるわけないでしょ!?」

 

「まぁ………そういわれてしまえばそうなのだが………むごい言い方をすると、お前がそうやって燻っている間にも秋野かえでの生存確率が下がっていく。決断は早い方がいい。」

 

「ッ……………ウゥ………!!」

 

口調、表情こそ心配しているようなものではあるが、さやかが言葉で突きつける現実という名の刃はレナの心に深く突き刺さったように彼女の表情を歪に歪めさせる。

 

(ちょちょ………あの子、そんなことをこう微塵も隠さないで言っちゃうの………!?)

 

(仕方ないでしょう………あの子、そこの七海やちよが気にしていたであろうことも少しも包み隠さずに真正面から言及するようなバカ正直者なのよ………)

 

(まぁまぁあの子の言っていることも間違いじゃないのがタチが悪いのよねぇ…………性格は頼りになるの一点張りでもいいくらいそのものなんだけど…………)

 

さやかのそのあまりもの鋭利すぎる言葉の突きつけにももこが焦ったように念話を送るもあきれているような物言いでほむらから返事が帰ってくると唖然とした様子で事態を見つめることしかできなくなるももこ。

そばにいたマミもさやかのストレート真っ直ぐをメジャーリーガーもびっくりの豪速球で貫くような言い草に苦笑いを禁じ得ないでいた。

 

 

「彼女を、助けたいんじゃないのか?お前がここまでついてきた目的は、そこでいじらしく燻っていることではないだろう。」

 

またさやかの無自覚なきつい言葉にレナは体を強張らせ、表情を険しいものにしてせめてもの抵抗のようにさやかを睨みつける。

 

「ステージは既に整えられている。あとは主役(アイドル)であるお前の身の振り方次第だ。お前が一歩踏み出せば、彼女もそれに答えてくれる。」

 

しかし、さやかはその睨みに気圧される様子を微塵も感じさせない様子でそう言うと、さやかは立てたGNソードⅡブラスターの持ち手に両手を添え、杖のようにするとレナの前で仁王立ちの如く立ちつくす。

 

「お前は何も考えずに走れ。かかる火の粉は私たちで総力をもって振り払う。」

 

さながら誰かを守ることが使命である騎士のように立っているさやかにレナは目を伏せ、表情を見えないようにする。その様子に緊迫した雰囲気を見せる周りだったが、さやかは何やら確信しているように穏やかで不適な笑みを見せていた。

 

      守ってよね。レナのこと。」

 

突然レナが駆け出すと目の前に立っていたさやかにすれ違いざまにそんな言葉を耳打ちする。

 

「守る、か。それは違うな。」

 

それにさやかは穏やかな笑みのまますれ違ったレナの後を追うように振り向く。

 

「連れて行く。私達全員で、秋野かえでの元へ!!」

 

そのさやかの言葉が開戦の狼煙であることを察したマミは即座にリボンを振り撒き、己の得物であるマスケット銃を数挺出現させ、同じようにほむらは左腕の盾から取り回しの効くアサルトライフルを取り出した。

 

「ごめ            ん!!!!!」

 

ガシャンッと耳を塞ぎたくなるほどのけたたましい音と共に勢いよく屋上のフェンスに突っ込んだレナは直上に広がる青く澄み渡っている空に向けて絶叫ともとれる謝罪の言葉を叫ぶ。

 

「いつもいつも、無理矢理コンビニに使いっ走りさせてごめん!!レナが好きなフルーツタルトがなかったから怒ってごめん!!!それで気を遣ってほかのスイーツ買ってくれたのに気に入らないことを理由にぶん投げて台無しにしてごめん!!服とか汚したり、ペットの餌代だったのにそのお金返さなくて本当にごめんなさい!!!」

 

一度謝罪の言葉を口にしたことで今までせき止めていた心の壁が決壊したのか、レナは次々とかえでに対するツケを白状していくに比例して周りの人間の目が気まずいものへ変貌していく。理由は簡単、あまりにも理不尽だったから。これにつきてしまうだろう。それくらいレナがかえでにしてきた諸行はひどいのだ。普通であればコンビニ使い走りからの気を遣って買ってあげたものをダメにしたコンボでもう喧嘩はしてもいいだろう。いや、実際喧嘩もあったし、そのうえで絶交もしたのかもしれない。

 

「それとその飼っているペットのことキモイとか言ってごめん!!!でも爬虫類とか昆虫とか正直いってペットとしては絶対ないって今も思っていることもついでにごめん!!かえでの家に行く度にこっそり家庭菜園の果物食べていたのもごめん。なにより…………」

 

それでも………それでも二人が互いの関わりを続けていられたのは        

 

「なにより………レナの出来心で、こんなウワサなんかに巻き込んで………ごめんなさい…………ごめんなさい…………!!!!」

 

二人がうわべ面の関係ではなく、まぎれもなく、真に心の通いあった友達であったからだろう。

 

 

「全部…………全部、後悔してるからぁ…………」

 

 

あふれ出る後悔の念に堪え切れなくなったのか、レナを嗚咽をこぼしながらフェンスに手をかけたまま崩れるようにへたり込む。

 

「その涙、もう少しとっておいた方がいい。うれし涙に変えるためにも。」

 

座り込んだレナのそばにいつのまにかさやかが立っていた。GNバスターソードⅡの大剣を足を前後に開いた態勢で下段に構えている姿は既に一度振り下ろしたようにも見える。

 

「二人とも!!ウワサらしき敵が現れたわ!!一度引きなさい!!」

 

後方から退避を勧めるやちよの声にレナがうつむいていた顔を上げるといつのまにか階段のようなものが間近で出現し、どんどん天高く伸びていく光景が広がっていた。

 

「前回に引き続きお前の足元からウワサが出てきていたから奇襲のつもりで斬ったが大丈夫か?」

 

「……………ひどいくらいの自己嫌悪に陥りそうなところ以外は。」

 

「まぁあれだけの謝罪を超えた、もはや懺悔と言っていいほどのことをしたんだ。精神的にはしょうがないだろう。さて      

 

少しだけレナの容態を確認したさやかは再度未だに空に向かって階段を伸ばし続ける絶交階段のウワサを見据えると、いつの間にか右手にもっていたGNソードⅡショートの先端からワイヤーを伸ばし、レナの手にそのワイヤーを括り付ける。

 

「へっ      

 

「ザンライザー!!!!!」

 

さやかがザンライザーを呼ぶと猛烈なスピードで加速をかけたザンライザーが彼女の背後から接近する。その突進と勘違いするようなスピードで飛んできたザンライザーの機体にさやかが飛び乗った。そしてそのさやかとワイヤーでつながっているレナは当然ザンライザーに引きずられるようにその身を空へと飛びあがらせる。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?!?!?!」

 

突然の絶叫マシンも真っ青なスピードで空を駆け回ることになったレナは機敏に先ほどのとはまるで違う絶叫をしながら絶交階段のウワサが展開した領域の深部へと入り込んでいく。

 

「ダブルオーガンダム セブンソード/G ()()へ向けて飛翔する!!!」

 

『なにやってんのあの人ぉ!!?』

 

「はぁ………後で説教ね、あの子………」

 

「まったくもって同意見よ…………」

 

さやかの凶行とも勘違いされてもおかしくない行いに神浜の魔法少女は驚嘆に満ちた表情と声を上げ、マミとほむらは頭を悩ますようにため息をつくのだった。

 

 




ザンライザーはしばらく乗り物扱い。


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第41話 One Seconds TRANS-AM

すごくひさしぶりに二日連続投稿をした………


「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁl!?!???!!!??」

 

無数に空へと伸ばされた絶交階段のウワサが展開した領域の中に甲高い悲鳴のような絶叫のような声が響く。最初は引きずられるように宙摺りになりかけたが、今はさやかに引き上げられたのかちゃんとザンライザーの機体の上にその両足に下ろしている。だがそれでもザンライザーのスピードは怖いものがあるのだろう。

 

「うるさいから少し黙ってくれないか?」

 

「アンタのせいでこうなっているんでしょうがぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

至極冷静な口調でさやかからそういわれたレナはうがぁーッ!!と噛みつかんばかりの勢いで犬歯をあらわにしながら憤慨する。そのレナの怒りにさやかは後頭部に手を添えると面倒くさそうに髪をかき乱す仕草を見せた。

 

「まぁともかくお前がウワサを呼び寄せてくれたおかげで秋野かえでのおおよその位置はわかった。」

 

「え、な、なんでわかるのよッ!?」

 

「んー………第六感だな。それはともかく、使い魔のような存在がこちらに接近している。」

 

さやかの第六感という言葉にいまいち納得がいかないレナだったが、同時に使い魔という言葉に促されるように前方に視線を向けると黒くさび付いたような南京錠の外見をもった存在が前方の空を覆いかけていた。

 

「なによあの大群!?ももこたちの援護は厳しいだろうし………」

 

「あんなに喚いていたのに意外と冷静なんだな。」

 

「同じこと言うようだけど、ア・ン・タ・の・せ・い・な・ん・だ・か・ら・ね!!!」

 

「わかったわかった…………」

 

何気ないさやかの言葉にレナはワナワナと震えるとさやかを指さすと一文字いうたびにさやかに詰め寄り、強調するように向けていた指の圧を強める。その指から逃げるように両手を挙げながらさやかは苦笑いを浮かべるが、少しすると鋭い目線を使い魔の群勢にむける。

 

「ああまで一枚の壁のように固まられると普通の魔法少女では袋叩きだな。だが      

 

さやかは右肩に懸架しているGNソードⅡブラスターを構えると使い魔の群れにむけてビームを発射する。放たれたビームは使い魔の壁を貫通するだけにとどまるが、さやかはそのままGNソードⅡブラスターを横なぎに振るうと連動してビームも移動し、使い魔の壁を横一文字に切り裂いた。

 

「よし、一定数減らしたな。水波レナ、私に掴まってくれないか?具体的に言うと首回りに。」

 

「レ、レナ猛烈に嫌な予感がするんだけど………」

 

不信がるレナだが、恐る恐るさやかの首にしがみつくように腕をまわすとブラスターをもとに戻したことでフリーになった右腕でレナを抱えるように持ち上げる。

 

「えッ!?ちょ、ちょっとこれって      

 

「ザンライザー!!前方の使い魔を頼む!!」

 

レナが今の態勢になにか一言言いたげだったが、さやかはそれをガン無視してザンライザーに使い魔の迎撃を命ずると片腕でレナを抱えたままザンライザーから飛び降りる。するとザンライザーは放出する粒子量を増大させ、加速をかけると使い魔群へ向けてバインダー部分からミサイルとビームマシンガンを掃射して使い魔の掃討にかかる。

 

「な、なによアレ………」

 

ザンライザーの性能に目をパチクリさせているレナだったが、自由落下中のさやかたちに別方向から使い魔が近寄ってくる。それを見据えたさやかは左肩のGNバスターソードⅡを空いている左手で真ん中あたりの持ち手を保持して前面に持ってくるとバスターソードの装甲を展開し、そこからGNフィールドを展開する。

 

「このまま突破する!!」

 

忠告のようでそうでもなさそうな言葉をさやかが言うとGNドライブから粒子を放出し、フィールドを展開したままシールドバッシュのような形で使い魔にタックルを仕掛ける。使い魔がフィールドと激突するとフィールドの強度に打ち負けたのかその身を粉々にしながら霧散していく。

 

「ア、アレだけじゃなくてアンタ自身も飛べるの!?空を飛べる魔法少女なんて聞いたことないわよッ!?」

 

「魔法少女など、空を飛んでなんぼの存在ではないのか?」

 

「それはあくまで創作上の話でしょ!?」

 

そんなこんなの掛け合いをしながらフィールドに包まれた二人は使い魔をもろともせずに領域内を突き進んでいく。

 

「見えた!!あそこだ!!」

 

領域内を突き進んで少しするとさやかがかえでの姿を見つけたのか声を張り上げる。その声にレナがわずかに驚いた反応を見せながらさやかの顔を見ると、その彼女が向いている視線の方角に自身のそれを向ける。

 

「か、かえで…………!!」

 

レナが視線を向けた階段の一角にはウワサに連れ去られたかえでの姿が五体満足で視界に映っていた。見ている限りにはかえで自身に確たる外傷のようなものは見受けられないし、かえでの方から空を飛ぶさやかとレナの二人を見つけたのかこちらに向けて手を振ったため、丸一日近くウワサの領域内にいたにもかかわらずなんともないように見える。

しかし、かえでを見つけた時のレナの声色はうれしさの反面気まずそうなものが入り混じっているのをさやかは見逃さなかった。とはいえレナとかえでを引き合わせないわけにはいかないため、高度を下げ、かえでのいる階段に降り立つとレナを下ろした。しかし、さやかは何か視線のすぐ先にいるかえでの姿に違和感を覚える。

 

「……………水波レナ。少しまずいことになったかもしれない。」

 

「ど。どういうことよ?」

 

突然のさやかの言葉にレナは不信な表情を隠しきれずにさやかに問い詰めを行う。自分の軽率な行動のせいで危険な目に合わせてしまった友人を目の前にして、さやかがかえでに向けているその表情からまるでその人物自体を疑っているような雰囲気を出していることに困惑を隠しきれないのだろう。

 

「冷静になってみれば自然と気づくことだ。秋野かえでは絶交階段のウワサに連れ去られてからほぼ丸一日が経過している。それにも関わらず彼女が傷一つない状態というのはいささか不自然だ。」

 

そういうとさやかは冷や汗のようなものをにじませながらGNソードⅡのショートとロング、その二振りを構えると臨戦態勢を整える。そのことにレナがその真意を確かめようとさらに追及を重ねようとしたとき     

 

「あっれ~?おっかしいなぁ~?どうしてそんなに警戒しているのかな~?()()()()のところはすっごく居心地がいいところなのに~。」

 

おおよそ一日ぶりに聞くかえでの声。しかしその声質は以前とはまるで別人のように変わり果てていた。その名前のように紅葉したもみじのように鮮やかな赤色の虹彩はその奥底がひどく濁り、歪な、狂気的な笑みが二人を捉える。

 

「やはりそういうことか!!ここまで近づかなければ違和感すら感じ取れなかった!!」

 

「ちょ、ちょっと!!一体なにが起こっているのよ!?」

 

かえでの豹変ともとれる変わりざまにさやかは険しい表情を浮かべながら警戒心を最大限まで引き上げ、レナはまだ現状を理解できていないのか狼狽した様子でさやかに詰め寄る。

 

「おそらく………今の彼女はウワサから洗脳のようなものが施されていると考えられる!!こちらの目的がウワサの破壊だと知られているのならば、彼女は私たちを全力で排除しにやってくる可能性もある!!」

 

「そ、そんなッ!?」

 

「階段さんには近づけさせないよ~。」

 

さやかの矢継ぎ早な説明だったがレナは悲痛な表情を見せると、立ちはだかるかえでに訴えるような視線をぶつけるが、当のかえではそんなレナの訴えをはねのけるように自身の得物である杖を握った右腕を二人に向ける。その場違いなほんわかな口ぶりは彼女からにじみ出る狂気的な雰囲気を肥大化させ、プレッシャーとなって二人に襲い掛かる。

 

「冗談はほどほどにしてほしいところだが…………」

 

歯がみする表情を見せながらさやかは一歩一歩ゆったりとした足取りで階段を降りてくるかえでにさやかは手をこまねいていた。そばにいるレナに目線を向ければ悲痛な、おびえたような表情で階段を降りてくるかえでを見据えていた。彼女も友人であるかえでを傷つけたくないのが丸わかりだ。ここでさやかがどいてしまえば、ろくな抵抗を示すことができずにかえでに攻撃を受けるか、はたまたとらわれてしまうのは目に見えている。

 

(だが同時に、ここまで領域の深部まで踏み込んだことで本体らしき気配も捉えている………だが距離が離れている………!!)

 

さやかはこの絶交階段のウワサが広げた領域の中にいる本体をイノベイターの感覚により、その居場所を察知していた。しかし、それを口や念話によって伝えることはできない以上さやか自身が出向いて叩くしかないが、この状況でレナのそばを離れるのは少々心もとない不安要素が残る。

 

「どうして逃げるのかな?」

 

「ッ……………」

 

かえでが一歩階段を降りれば、さやかたちも後ずさるように階段を降りる。そんないたちごっこのような駆け引きを続ける。ザンライザーをけしかけて彼女のいる足場を崩すことも考えたが、そんな手荒な手段をとるのは最終手段と心にとどめる。

 

 

「水波レナ、少しでいい。数秒間だけでいいから彼女を足止めできないか?」

 

「……………少しでいいの?」

 

苦肉の策のように絞り出した提案。さやかはレナの雰囲気からかえでと矛を交えることへの嫌悪感の一つは出ると思っていたが、思いのほかレナの反応が温厚なものだったことに驚きの意味を含めて彼女に視線を向ける。

 

「いいのか?正直いって罵声の一つや二つは受ける覚悟だったのだが。」

 

「それは、レナだってかえでに攻撃するのはいやよ。でも足止めして、アンタがその間に大元を叩けるっていうのなら、やる。」

 

「……………5秒だ。5秒だけ頼む。その間で確実に仕留める。」

 

さやかは宣言のようにそういうと手持ちの装備をGNソードⅡの二振りから右肩のGNソードⅡブラスターに切りかえる。

 

「たったそれだけ?絶対足りないでしょ。」

 

「いや、それ以上お前の心的負担と秋野かえでへの負担をかけられない。最速で最短の時間で仕留める。」

 

さやかの言葉に腑に落ちないように首をかしげるレナだったが、いったん棚にあげたようで三又の槍を構え、さやかの影で臨戦態勢を整える。

 

(カウントスリーで出る。準備は?)

 

(OKよ。いつだってやってよね。)

 

念話でお互いに確認をとるとそのままスリーカウントを取り始める。1でかえでが階段をさらに降りる音が響き、2でレナの槍を握る手に力が籠められる。

 

(3!!頼んだ!!)

 

「たぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

3が数えられたタイミングでさやかが猛烈な勢いで上空へ飛びあがり、それにつられるようにかえでの視線が追うように上へ向けられる。そのできあがった死角を突くようにレナの持つ三叉の槍の穂先がかえでを捉える。

 

「ッ!?」

 

さすがにレナが攻撃に転じるとは考えていなかったのかかえではその場違いな笑みからようやく表情を崩し、焦った表情を見せ、その迫る槍の穂先を持っていた杖で防ぐ。

 

「ひ、ひどいよレナちゃん………!!」

 

「後で謝ってあげる………後でかえでの好きな毎週20食限定の高級焼きプリンも買ってあげる………だから今はッ!!!」

 

悲痛な表情を浮かべながら心理的にけしかけてくる操り人形のかえでにレナは振り払うように槍を手にする手にさらに力を籠める。

 

 

 

(試し運転なしのぶっつけ本番………正直いってこのシステムを稼働させることによって、私自身の身にどのように変化があるのかわからない。)

 

上空に飛び上がり、GNソードⅡブラスターを本体の気配のいる方角に向けるとそのように考えこむ。その真下ではレナとかえでがお互いの得物をぶつけあっている。友人同士が矛を交えることになることなど、さやかはもちろん誰もみたくない光景だろう。

 

(さらには明確に敵の姿が見えているわけではない状況での狙撃…………実際にやろうとすると成功率は奇跡的な数字だろう。)

 

「だが!!奇跡は数字といったもので語るものではない!!それに法外な状況、距離からの狙撃は…………すでに前例者がいる!!だったら私もそれにあやかるだけだ!!」

 

さやかは自身に言い聞かせるようにそう叫ぶと、構えたGNソードⅡブラスターをスナイパーライフルのように左手を銃身下部に支えるように添える。

 

「トランザムッ!!目標を狙い撃つッ!!」

 

 

トランザム。その単語をさやかが発した瞬間、さやかの身体を一瞬だけ淡い赤色に包まれた姿に変わる。それと同時にさやかがブラスターの引き金を引くとその銃口から巨大な光弾が発射され、猛烈なスピードで領域内を駆け抜ける。その放たれた光弾は離れたところにつり下がっていた金色の鐘  ウワサの本体に寸分の狂いなく貫き、鐘の音色を響かせる暇すら与えず爆散させた。

 

「目標の撃破を確認…………これが、あのニンゲンから教えられたGNドライヴのブラックボックス、トランザムシステム…………今のは1秒間だけのわずかな起動だったが、確かに猛烈な力の流れを感じた…………」

 

さやかが力の加減を確かめるように手を開いたり閉じたりしているときにはすでにあのさやかを包んでいた淡い赤色の光は鳴りを潜めていた。

 

「………………はっ、そうだ。水波レナと秋野かえでの二人は…………!!」

 

ハッした様子でさやかが自身の眼下を見下ろすと、ウワサが撃破されたことで洗脳状態から解放されたのか気絶したようにグッタリとしているかえでを抱き抱えているレナの姿が見える。

 

「大事ないか?」

 

二人のそばに降り立ったさやかはすぐに二人の状態を確認する。見たところレナは不安な表情を見せているだけで大丈夫そうだが、かえでに何かあるのならすぐに対策を講じなければならない。

 

「レナは比較的大丈夫だけど……………かえでのソウルジェムが…………!!」

 

そのレナの不安そうな視線に導かれるようにさやかがその視線を辿って行くとかえでの創作上の魔女がよくかぶっているトンガリ帽子の先端に付けられた橙色の小さなオーブのような宝石に黒いドロっとしたような穢れが生まれていることに気づく。それもその穢れの量は無視できる範囲を超えており、このまま放置したら大変なことになるのが目に見えていた。

 

「ザンライザーをすぐに呼び戻す。二人はそれに乗ってすぐに屋上に戻ろう。ここで領域の崩壊を待っていてはどこに放り出されるかわかったものではない。」

 

そういうとさやかは自分達のいる階段にザンライザーを呼び寄せ、不安定ながらも狭い階段の上に着地させる。するとすぐに主であるウワサが打倒されたことで領域の崩壊が始まったのか地響きのような振動をさやか達の体をゆらすと上と下、両方から階の崩壊が始まり、凄まじい勢いで三人に迫りくる。

 

「早く乗れッ!!」

 

さやかの声に急かされるようにかえでを抱えたレナはザンライザーの機体によじ登るとすぐに崩壊を続ける階段から浮遊し、領域からの離脱を始める。

直後、さやかも階段から飛び上がり、前回の魔女のように本体である魔女が倒された後に使い魔が悪あがきをしてきたことを鑑みて、そういうことがあっても対応できるようにザンライザーの近くで随伴を行う。

 

結論から言えば領域内に残っていたウワサの使い魔は領域の崩壊に合わせるようにその身を朽ち果てさせていただけでイタチの最後っ屁のような悪あがきをしてくることはなかった。

無事何事もなく領域の崩壊に巻き込まれることなく離脱すると、比較的領域の浅いところで撤退をしていたのかマミやほむら、いろは達が既に待ち構えていた。

 

「レナ!!かえで!!」

 

「ももこ、グリーフシードってまだあった!?かえでのソウルジェムが!!」

 

レナは着地したザンライザーから飛び降りるやいなや、近くに来たももこにかえでのソウルジェムが危険な状態に陥っていることを伝える。短い掛け合いながらもかえでの状態を把握したももこはザンライザーの上で横たわっているかえでに駆け寄る。

 

「どうしよう………今は持ち合わせが………さやかちゃん、あいつグリーフシードとかおとさなかった!?」

 

「先ほどまで展開されていた領域の崩壊から脱するのに手いっぱいでろくに調べていない。少し周辺を探し回ってくるができればだれかの持ち合わせを使うのが手っ取り早いと思うが………」

 

「いえ、その必要はないわ。あなたの言う通り探しに出るより、こうした方が時間もかからないのは確かよ。」

 

ももこの言葉にさやかは捜索にでるために屋上から飛び立とうとしたところで、やちよが呼び止めると彼女自身の持ち合わせのグリーフシードをかえでのソウルジェムに当て、中にため込まれていた穢れを取り除く。ひとまず窮地を脱したことに一同は安堵した雰囲気に包まれる。

 

「さやかさん………一体なにがあったんですか?」

 

「いや、水波レナがあのウワサを呼び寄せた時点で秋野かえでのいる座標のようなものもわかったからひとまず彼女たちを引き合わせることを最優先にした。一応秋野かえでも五体満足で傷一つも見受けられなかったから一瞬大丈夫かと思ったのだが………彼女、どうやらウワサに洗脳を施されていたらしくてな………」

 

「多分、かえでは魔力のリミッターを外されていた。じゃないとレナと力比べで張り合えることなんてありえないわよ。その分魔力の消費も激しかったのでしょうね。それが察せていたのかわかっていたかはどっちでもいいけど、ともかくそのウワサの本体を秒殺したってところね。」

 

「えっと、レナとさやかちゃんが?」

 

「レナをほとんど無理矢理に近い形でつれさったそこのバカに決まっているじゃない!!レナは頑張ってかえでの足止めしてただけなんだから!!」

 

いろはが尋ねたことから始まったさやかとレナの説明にびっくりした表情を見せていたところにかけられたももこの言葉にレナは恨みがましい表情でさやかをにらみつける。

 

「……………終わり良ければ総て良し、ということで流してもらえないだろうか………」

 

その鋭い目線にさやかは苦笑いを浮かべながら脂汗をにじませ顔を蒼白にしていた。受け答えに問題なさそうだが、反応がいささかオーバーな気がすることにレナは首をかしげる。

 

「美樹さん?」

 

「……………ダメか?」

 

「そこで正座。」

 

「……………正直いって、結構舞い上がって調子に乗った。すまなかった。」

 

顔を青くしたまま笑みを見せているさやかは彼女の背後から聞こえてくる冷えたトーンの声に渋々といった感じにその声に従うままその場で正座の姿勢をとった。その様子はまるで介錯を待つ罪人のようにも見え、さやかが座ったことで背後に隠れていたマミとほむらの姿が現れる。ほむらは例のごとく呆れてものがいえない感じの表情だったが、マミは反対に満面の笑みを浮かべていた。その雰囲気に似合わないとその場にいた全員が思うのは当然のことだ。なぜなら今のマミの笑顔には決定的に抜けている箇所があったからだ。いわゆる目が笑っていないというやつである。

 

 

「……………自業自得、身から出た錆とはこのことか………」

 

ふとしたところでそんな言葉が脳裏に浮かんださやかは達観したような、ある意味すがすがしいような表情を見せる。そこからしばらくマミによる説教が屋上で無慈悲にも行われるのだった。なおその説教の声に当てられたのか、その最中でかえでが目を覚ましたが、状況が状況だったため、困惑必至だったのは別の話。

 




さて、ひとまず絶交階段のウワサの話はこれまで………あとはどこでさっさんをからませるか、または光堕ちマミさんフラグはへし折れるのか………


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第42話 マギウスの翼

こ、更新スピードがー!!
最近は色々期限に追われててヤベーイ!!!


「あのー……………美樹さん?相談事があるのですが、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

 

始まりはそんなおずおずとした様子の仁美の言葉からだった。ここ最近、神浜市にいることが多かったさやかはいつもと変わらないはずなのに、久方ぶりの学校での生活のような感じがしていて、どことなく心が浮ついていた。

 

「ん…………どうしたんだ、仁美。そんな表情を見せながらの相談とは…………」

 

「……………すみません、やっぱりここでは話せないので放課後にでもよろしいでしょうか……………あっ!!別に何かよほど深刻なことではないので、そんなに張り詰めた表情はしなくて結構ですわ!!」

 

仁美の様子に何かとんでもないことに巻き込まれているのかと勘繰るさやかだったが、それを察した仁美からの言葉にいまいち腑に落ちないさやか。しかし、彼女の言う通りそこでの追求は避け、放課後に彼女と下校を共にするとまどかと一緒に初めて魔女と出会したあのショッピングモールに連れてこられる。

 

「……………で、結局相談とはなんなんだ?」

 

そのショッピングモールのフードコートで買った飲み物をすすりながらさやかがそう切り出すと、仁美は何やらもじもじと恥ずかしそうに身動ぎしながら視線を行ったり来たりしていた。

 

「じ、実は私……………以前からお慕いしている方がいらっしゃいますの。」

 

「………………初耳だな。いつも習い事に追われているお前がそんな色恋沙汰にかまけられる余裕があったとはな。他の男子からラブレターの類をいくつももらっているのにも関わらず浮ついた話も聞かないお前だからそういうのは少なくとも卒業まではないと思っていたのだが。」

 

「み、美樹さんッ!?その言い方は流石に心外ですわッ!?私だってうら若き乙女の一員ですのよッ!?」

 

その仁美の相談事とというのはいわゆる恋の相談であった。その相談に習い事をほぼ毎日という頻度でこなし、前述の通りラブレターをいくつももらっているのにそう言った話を聞かない仁美になんとなく堅物のイメージがあったとさやかは素直に思ったことを口にする。

その堅物のイメージは流石に思うものがあったのか少々語気を荒げた様子で驚きと非難の意を込めて仁美は目を見開く。

 

「すまない。流石に意地の悪い対応だった。ところで何故私なんだ?そういうのが得意そうな人はいくらでもいるだろう。何か理由でもあるのか?」

 

さやかが苦笑いを見せながら謝罪の言葉を伝えると仁美にその恋の相談の相手に自身を選んだ理由を尋ねた。正直言って、さやかにそういう色恋に関するアドバイス的な何かを行える自信と経験がまるでないからだ。

 

「その……………私がお慕いしている人というのが…………上条恭介さんなんです…………」

 

「あー…………………そういうことか。アイツと比較的親しい間柄である私から色々好みなどを聞きたいんだな?」

 

仁美が俯いた状態から絞り出すように出てきた恭介の名前にさやかは納得した表情を見せながらそう聞くと仁美は静かに頷いた。

 

「……………そうか…………中々アイツも隅に置けないことをする…………」

 

「あ、あの!!」

 

「ん?なんだ?」

 

恭介がいつのまにか仁美から好意を抱かれるだけのことをしていたことに唸るように感嘆の声を上げていると仁美から突然声が上がり、自然と意識がそちらに移る。

 

「その………上条君と美樹さんは、幼なじみ、なんですよね。」

 

「…………そうだな。幼いころからの知り合いで、その関係性が続いているのなら、そういうことなんだろうな。」

 

「でしたらその……………ないのですか?幼なじみとして、彼にそう言った恋慕の心とかは      

 

そこまで仁美がさやかに詰め寄るように声が荒くなり始めたところでさやかが後頭部に手を回した。その回した手で後ろ髪をかき乱している様子は、まるで困り果てているようだった。

 

「流石に……………マンガの読み過ぎではないか?男女の幼なじみ同士が恋に落ちるというのはよくある王道のパターンなのは知っているが、現実で必ずしも男女の幼なじみが惹かれ合うというわけではないだろう?」

 

「で、ですが       

 

「というかだな仁美。私はどうにもさっきからお前はまるで私が恭介に対して好意を抱いている前提で話しているように感じるのだが。もしそうだとするなら、悪いがわたしにはそんな気はサラサラなくて腐れ縁程度の認識なのだが。」

 

あくまでマンガの読み過ぎだというさやかに仁美は言い縋ろうとするが、さやかのカップのストローを口に咥えたままの淡々とした様子から放たれる言葉に出しかけた言葉をつまらされる。

 

「だから、私のことなど気にするな。時折変に強情なところを見せるお前なんだから、持ち味を生かしてくれ。それにせっかくの学生生活だ。やらない後悔よりやった後悔で行くべきだ。」

 

笑みを浮かべながらそれだけ伝えるとさやかは飲み干したカップを手にしながら席から立つとその場を後にしようとする。

 

「今のアイツには、お前のような付き添いが必要だ。私ではせいぜい発破をかけて尻に火をつけてやるのが限界だ。だから仁美が恭介の頑張りを受け止めてやってくれ。応援している。」

 

立ち去る直前にさやかは仁美に必要であればその背中を押すという旨を伝えるとカップをゴミ箱に押し込むように放り捨て、フードコートを後にした。

 

 

 

(………………しまった。その場の雰囲気に任せて仁美を置いてきてしまった。)

 

ショッピングモールから出たところでさやかはハッとした表情を見せると、仁美を置いてきてしまったことを反省するように苦笑いを浮かべる。とはいえ今戻ったところでどうにかなるようなことでもないのも確かなため、さやかはそのまま帰路に着こうとする。

 

しかし、さやかは何気なく視線を動かすと驚いたように目を見開き、足を止める。まるでここで出会うとは思いもよらなかった人物と会ったような反応だった。

 

「何故ここに…………いや、そうだったな。お前なら知っていて当然か。」

 

「ええ、そうね。まどかから志筑仁美と一緒に帰ったというのを聞いてここだと思ったわ。聞いたのでしょ、彼女の本心を。」

 

その人物はほむらだった。最初こそ驚きを隠せないさやかだったが、ほむらが時間遡行を繰り返してきた人間であることを思い出すと、過去にもそう言ったことがあったのだろうと思い、腑におちたように納得した顔を見せる。

 

「そうだな。まさか恭介を慕っているとは思いもよらなかったが。」

 

「……………もう一度聞くわ。本当に上条恭介に対する思いはないのよね?」

 

「……………ああ、ないな。やはりお前にとっては、かなりおかしく見えるか?せいぜいもう一度アイツの演奏を聴きたい程度だな。」

 

ほむらから再度恭介に対する思いを尋ねられると、さやかは少しだけ間を開き、笑みを見せながら首を横に振った。

 

「それで、何故お前がここに?仁美との会話が気になってきただけが理由ではないのではないか?」

 

「そうね………………佐倉杏子が一回帰ってきたわ。一度情報を共有しておきたいとのことよ。」

 

「わかった。場所は?」

 

「巴マミの家よ。」

 

 

 

 

 

 

「あ、美樹さんいらっしゃい。」

 

ほむらと共にマミの部屋に出向くとそれに気づいた彼女からそんな声がかかる。部屋の奥に視線を向ければケーキを頬張っている杏子の姿があったため、大方茶会の準備でもしていたのだろう。

 

「よっす。大丈夫しているらしいな。」

 

「色々あったがな。」

 

リビングに差し掛かったところで二人の存在に気付いた杏子は手をひらひらと振るわせながら軽い挨拶をしてくるとさやかも杏子がいない間にあった出来事を簡単なまとめながらテーブルの近くに腰を下ろした。

 

「それで佐倉さん、調査の結果はどうだったの?」

 

「もう本題に入るのかよ?もう少し食べてからでもいいだろー。」

 

揃ったところでマミが杏子に調査の詳細を尋ねるも本人がまだ食べ足りないのか不満そうに頰を膨らませると出鼻を挫かれたように肩を落とした。

 

「まぁ、別にいいだろう。彼女がそういう風に言うということはあまり重要度の高いことまで及んでいないのだろう。」

 

「おうおう、中々言ってくれるじゃねぇか。だったらさっさとマミの言う通りに本題に行くとするか。まずは…………ウワサについてだな。集めた情報によれば神浜市中から出てるらしいから、これはお前らも知ってるんじゃねぇのか?」

 

「知っているどころか、つい最近そのウワサの本体と戦ったわ。」

 

ほむらが既にウワサと戦闘済みといったことに杏子はマジか、と驚きの言葉を溢すが、だったら話が早いと切り替えながら話を進める。

 

「ちょいと胡散臭いウワサを耳に挟んだからそれについて嗅ぎ回っていたら妙なやからが向こうから姿を現しやがった。」

 

杏子の言葉に三人が怪訝な表情を見せるとその経緯を語り始める。

 

 

神浜市の東側を調査していた杏子は妙に人々の会話の中に噂を内容としたものが多いことが気になり、自身もそれに関して調べ回ってみることにした。話の信憑性に欠けるものも多々あったが、その中で妙に話題に上がるものが多い噂があることに気づく。

それはフクロウ幸運水なるウワサであった。何やら東側の工匠区と呼ばれる地域で売られているらしいその水を飲むとたちまち幸運がその飲んだ人間に訪れるという。しかし、その効力が出るのは回数制限があり、その回数はおよそ24回という限定であり、それを越すとそれまで幸運が訪れていたことの反動なのか、不幸が押し寄せ、それを避けるために幸運水を飲み続けるしかないという内容のウワサであった。

 

「と、気になったウワサの概要に関しちゃあこんな感じだ。まぁ当然だよな。奇跡が連続して起こったんなら後にくるのは反動でくる絶望だけだ。ま、それは置いとくとしてさっき話した妙な輩についてなんだが………………」

 

杏子がその幸運水のウワサについて調べ回っていると、ある日突然彼女の目の前に黒いローブのようなものに身を包んだ謎の少女が現れた。それも一人ではなく複数人でだ。

 

「黒いローブで身を包んだ集団?狂信的なカルト宗教の信者か何かか?」

 

「……………お前よくそんなむっずかしい単語がツラツラと…………いや、ぶっちゃけそうかもしんねぇな。」

 

さやかが脳裏に浮かべた人物の服装から思ったことを口にしていると杏子は頬杖をつきながら難しい表情でそう語る。

 

「その黒ローブの集団は全員魔法少女だった。そんでなんとなくアタシの前に姿を晒した時点で察せてはいたんだけど、ちょいと質問をしてみるとそいつらの目的はウワサを守ることだとさ。ソイツらにとってウワサを消されることは不味いらしい。」

 

「…………ウワサは魔法少女だけでなく一般の人たちにも危害を加えるわ。この前倒したウワサも少なかったとはいえ普通の人が巻き込まれていた。それなのになんでそれらを守っているの?」

 

杏子の言葉にマミがムッとした表情を見せるとその表情が物語っている通り、憤りが含まれているのか語気が強まった口調で杏子にその詳細を尋ねる。しかし、杏子はそのマミの問いに答えることはせずに代わりに視線をさやかの方に向ける。その目線を向けられた当人は首をかしげるだけだったが    

 

 

「さやか。お前の感じた通りだった。あの神浜には本気でとんでもねえ何かが潜んでいやがる。アイツら、ウワサを守る理由に魔法少女の救済を引っ提げてきやがった。」

 

魔法少女の救済。この言葉に全員の表情が険しいものに変化する。それが意味するものは真実を知っているのなら、決して想像に難しいものではない。インキュベーターと契約し、魔法少女になった少女にはとある運命が課せられる。その生涯を魔女と戦うことに費すことと己自身が討ち倒すはずの魔女に成り果ててしまう運命だ。

 

「…………複数人と接触したのか?」

 

「アタシの時は四人くらいだ。んで、同時に自分たちをこんな風に呼んでいたぜ   

 

 

 

マギウスの翼ってな。

 

 

 

 

「魔法少女の救済を掲げた集団、マギウスの翼、か。翼は自由の象徴として扱われることもある。つまりは魔法少女全員にかけられた魔女化の宿命からの脱却、ということか。」

 

杏子の口から語れた魔法少女の救済を掲げたマギウスの翼。夢のような形で神浜市に来れば魔法少女は救われるという、文字通り夢物語のような話を半信半疑の状態でやってきたマミとほむらは本当にそんな大それたことをしようとしている集団がいることに困惑を隠しきれないでいた。

 

「インキュベーターは魔法少女が魔女に変貌することをいずれ訪れる未来と言っている。それが本当に避けられるのであれば、確かになんとも魅力的な話だ。しかし、そもそもどうやってその運命から外れる?その手法にウワサが関わってくるのはいまいち理解にまでたどり着くことができない。」

 

「お前ってほんとーに戸惑うより先にまず疑問の解消に取り掛かるよなー……………」

 

「まぁ、現に既に私はインキュベーターから魔法少女の理から外れた存在という判定を受けてしまっているからな。それもあるのかもしれない。」

 

「……………どういうことだ?」

 

「お前と戦っている最中に現れた魔女との戦闘のあと、私は特異な体質だからグリーフシードをそれほど必要としないと言ったのを覚えてくれているか?」

 

「あー…………そういやそんなこと言っていってたな…………で、結局なんなんだ?その特異な体質ってのはよ。」

 

以前、さやかからグリーフシードを手渡された際に彼女の口から特異な体質をもっているということ思い出しながら杏子がそう尋ねると、さやかはダブルオーガンダムを展開する。それにより部屋にGN粒子の光が充満すると、さやかは両肩のGNドライブを指差した。

 

「この私の両肩にあるコーン型の突起物。名前をGNドライブというそうなのだが、この代物どうやら人間が作り上げた事実上の半永久機関らしいんだ。そこから魔力が生み出され、使った分の魔力が補填される形で供給されている。」

 

「………………じーえぬどらいぶ…………はんえーきゅーきかん?」

 

「要するに、私は一度に大量の魔力を消費するようなことがなければ、魔力切れによる魔女化の可能性はほとんどないということだ。」

 

「……………前からチートくせえと思っていたけど…………お前マジでチートだったんだな。」

 

知らない単語が出てきたことで脳がショートを起こしたのか呆け顔の杏子にさやかが要約だけ伝えると、理解が及んだのか頬杖をつきながらそんなふうに項垂れた。

 

「…………前からそう思っていたのであれば、またそれに拍車がかかっただろうな。」

 

その遠い目をしながらのさやかの言葉に冗談だろと言うように杏子が目を見開くとダブルオーガンダムに関することを説明し出す。最初こそ疑い深い目でそれを聞いていた杏子だったが、ザンライザーといった実物を出しながら説明を続けていくうちに疑い深かった彼女の目線は次第に虚な瞳に変わっていく。

 

「お前もう魔法少女じゃねぇよ…………ただのガンダムじゃねぇかよ……………」

 

「ただのガンダム……………流石にパワーワード過ぎないか?」

 

話が大方終わるからにはその話の内容が完全に杏子の理解し切れるキャパシティをオーバーしてしまい、グロッキーな状態で机に突っ伏してしまっていた。その疲れ切った杏子の口から飛び出た言葉にさやかも困惑を隠しきれないでいた。

 

「まぁ、とりあえずだけどよぉ………お前がよっぽどの力を手に入れちまったことだけは理解した。なんつーか、災難だな。お前だけそんなバカにならない力を持っちまってさ。」

 

突っ伏した頭をゆっくりと上げた杏子は疲れたような瞳でさやかを見据える。その視線の奥底には忠告のようなものが含まれていることをさやかは察していた。

 

「…………わかっている。まずは自分の身は大事にする。それあってこそ他者に手を差し伸べることができるのだからな。」

 

「……………わかってんなら別にいいんだけどさ。」

 

その瞳に答えるように頷きながらさやかがいうと杏子は一つ息をついた。

 

「ま、逸れちまった話を戻すか。そのマギウスの翼とか言うやつらのことなんだけどさ。アタシ、ソイツらにいわゆる勧誘を受けちまったんだよ。」

 

「……………大丈夫なの、それ。ちゃんと断ったの?」

 

話を戻した杏子がマギウスの翼からの勧誘を受けたことを明かすと、マミが心配そうに頰に手を当てながらそう尋ねた。

 

「受けたに決まってんじゃん。せっかくの機会なんだから逃すわけないでしょ。」

 

「え、ええっ!?どうしてそういうことをしちゃうの!?そのマギウスの翼がまだどういう組織なのかすらわかっていないのに…………!!」

 

「だからじゃねぇかよ。魔女とはまた違うウワサなんかを守る連中だ。しかも魔法少女の解放を掲げているとくる。少し前なら、まぁ興味半分で行ったかもしんねぇけど、ソウルジェムの真実を知った今となっちゃあ怪しさ満点だ。連中がアタシらを警戒していないうちに仕入れられるもんは仕入れた方がいい。そうだろ、さやか。」

 

「同じ意見だ。魔法少女に課せられた運命は確かに残酷で未来のないものだ。その運命から逃れたい気持ちも十二分にわかっているつもりだ。だが、だからこそ、その手法について私たちは知らなくてはならない。仮に前回のウワサのように何も知らない普通の人間を巻き込むような外道の手法なのであれば、私はそんな手法で生きながらえたいとは思わない。」

 

「はぁー……………やっぱり根っこの正義感の強さは変わらないのね貴方は…………」

 

杏子の言葉に同意するように強く、それでいて静かに頷くさやかに呆れたように顔を伏せながらため息をつくほむら。

 

「……………それで?結局その勧誘を受けた佐倉さんはどうするの?」

 

「意外に切り替えが早いじゃねぇかよ。」

 

「貴方たちが心配なだけよ。放っておいたらどんどん知らない間に先に進みそうだもの。暁美さんも一緒に行く?」

 

「ええ、仮に貴方(さやか)に何かあれば、まどかが悲しむだろうから。」

 

確認を取るマミの言葉に安定のまどか第一主義的な発言で返すほむらに主にさやかとマミの表情が反応に困るものに変わる。

 

(……………なぁ、コイツ(ほむら)ってもしかしなくてもソッチ系の奴なのか?)

 

(筋金入りだとだけは言っておく。まどかが関わると結構思考が狭まるみたいだ。現に私はまだ契約していない生身だったにも関わらず思い切り投げられた経験がある。)

 

(うっわ、ひっでぇ。)

 

杏子から送られてきた念話にさやかが返答に困っているようなムッとした表情を浮かべながらそう返すと視線が残念なものを見るかのようなものに変わる。

 

 

「まぁ話を戻すとな、他の奴らも連れてくるって言ってたらよ、流石にアジトっぽい場所は教えてくんなかったけど、集合する場所と時間帯を向こうから指定してきた。」

 

「中々抜かりがないな。ちなみにお前に接触してきたマギウスの翼の構成員に何かウワサが撃破されたことに対する反応のようなものはなかったか?」

 

「……………多分お前らと比較的同時期に事態が進んでいたからそう言ったのは聞いてねぇな。」

 

「流石に二日経つのなら情報がグループの中で共有されて反応は違ってくると思うけど……………」

 

「実際に赴いて見なければわからないわ。わかっているとは思うけど。」

 

ほむらの締めのような言葉に全員が無言で頷いた。そしてさやかたちは次の日にマギウスの翼の構成員と思われる魔法少女に指定された場所に向かう。

 

 




次回、レッツ殴り込み。話が急に進んでる気がする…………!!


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第43話 あの水を飲んだのか?

アニメ版そのままでいくか別の人出すかですごく迷いました(泣)


「ここが神浜市の東側、か。なんというか不良とかがたむろっていそうな雰囲気だ。」

 

一見すると商店街のような場所を進んでいるさやかたち四人。しかし、そこのシャッターは悉く降りており、椅子や机が乱雑に積み重ねられたところに規制線を示すテープや壁一面に書かれた落書きにどことなく世紀末じみた雰囲気を醸し出していた。

 

「ここらへんは工匠区っていう区域らしいぜ?結構雰囲気は嫌いじゃねぇな。」

 

「とはいえ、西側とはまるで違うわね。とてもじゃないけど同じ市内とは思えないわ。」

 

杏子はそのシャッター街と化した商店街の雰囲気には慣れているのかさほど気にしていない様子で先頭を歩くが、マミはそういう雰囲気には慣れていないためか、周囲を警戒し、辺りを注視しながら進んでいく。

 

「確かに…………同じ市内だというのに西側と東側でここまで街の景観に差があるとへんに視線を張り巡らせてしまうな。」

 

マミの言葉に同調するようにさやかも訝しげに周囲を見渡す。そうしていると      

 

 

「……………ん?何か奥から聞こえてこないか?」

 

首を傾げながらさやかが何か商店街の奥の方から音が聞こえてくると言うと他の三人も奥の方に向けて耳を澄ます。すると微かにだが華やかな印象を受けるBGMのようなものが響いてくるのを聞き取る。

 

「確かになーんか聞こえてくるな……………例えるなら…………公園とかでときたま見かける派手に音楽鳴らして存在感を出してる感じの店だな。」

 

「風船とかを持っているピエロの人がいる、みたいなものかしら?」

 

「そんな感じのだな。」

 

杏子とマミの会話があったが、商店街の通路は狭い上に一本道なため、自然と音の発生源に向かっていく形に歩いていく四人。やはりと言うべきか何というか、音源と思われる場所に近づいているのは確かなようで徐々に聞こえていたサーカス的なBGMも大きくなっていく。

 

「……………警戒しておくべきか。あまりにも場違いすぎる。」

 

「そうね、路頭に迷っている子供がいて、その子たちを個人的に保護している物好きな人間がいるかもしれないわね。」

 

「…………ほむら。それは大抵その人物に拾われた子供はろくな目に合わないのが通例だと思うのだが…………」

 

警戒を促すつもりだったが、ほむらからの言葉にげんなりした様子をさやかが見せているうちに音源と思われる存在がいる場所にたどり着く。そこには確かに祭りなどでよく見る屋台のようなフクロウ印の看板を携えた店があった。周囲にはプラスチック製のような椅子と遊園地にある日除け用の傘が備え付けられてあるテーブルがあり、そこに何人かの大人たちが俯いた表情を見せながら陰湿な空気を醸し出していた。さやかはそのテーブルに今にも自殺に走りそうな様子の大人たちを見ていると彼らは揃って手に紙コップを持っていた。おそらく飲み物であろうが、生憎さやかからの視点ではその中身を見ることは出来なかった。しかし、彼らがその紙コップを仰いでその中身を飲み干すと先ほどまで見せていた憔悴しきった表情から一転してまるで嘘のように落ち着いたような安堵の表情を見せていた。

 

「……………人、よね?」

 

「………………いや、確かに人の形をなしてはいるが、アレらからは人としての生気を感じない。おそらくウワサによって生み出された幻影のような存在だろう。しかし、どのみちクロだな。あの反応を見るに、あの手のものは麻薬の類か。何故人々を依存させようとするのかは皆目わからないが、破壊した方がいいだろう。」

 

「ええ、どうやらそのようね。」

 

「っても多少は情報集めた方がいいんじゃねぇのか?」

 

その彼らの様子から瞬時に危険薬物に分類されるものであると感じたさやかは険しい表情でその麻薬のような飲み物をばら撒いているフクロウ印の店を見つめる。

マミも見ていて同じように感じたのか鋭い目線を向けてはいるが、直後に杏子から情報を集めた方がいいと言われると素直にその表情を引っ込めた。

 

「とはいえ、何を聞いてみるんだ?向こうも真っ当に話し合える存在とは限らない、徒労に終わるのは目にみえている      

 

そんな時、ふと視界に入り込んできたものになぜか目を奪われる。ヒラヒラと花びらのように落ちてくるのは二枚の正方形の形をした紙だった。さやか以外の三人もどういうわけかその落ちてくる紙切れに視線を奪われる。

 

(なんだ…………8と9…………なんの数字だ?)

 

そのヒラヒラと落ちてくる紙は複雑に回転したりしてよく見ることができなかったが、なんらかの数字が書かれているように見えた。ただ周囲が薄暗くてその文字がはっきりと見えなかった。それがあと少しで見えそうとなったところで   

 

「ブッ殺ォォォォォォォォォォす!!!」

 

『えっ?』

 

ちょうど意識をヒラヒラと舞う紙片に割かれていたところに引き裂くような絶叫を発しながら小柄な小学生の高学年ほどの少女が現れたことに完全に気が逸れていたさやか達は素っ頓狂な声を上げる。その現れた少女はゴーグルのついたケープのような薄紫色の帽子に少女の身の丈ほどのあるハンマーを携えていた。何よりさやかの目を引いたのは、その少女の表情。目はフクロウ幸運水のウワサと思しき存在に、まるでそれしか見えていないように真っ直ぐと見ため、口元は何か耐えるように歯を食いしばっていた。その表情はまるで、怨敵でも見つけたかのようなものであった。

 

「ま、待て    

 

「ブッ潰れろォォォォォォォォォォ!!!」

 

少女の中に渦巻く憎悪の感情を感じ取ったさやかはいち早く少女に静止の声をかけるが、初めに呆気にとられてしまったのが響いてしまったのか、さやかの声が少女の耳に届かず、猪突猛進にウワサらしい存在に突っ込むと手にしていたハンマーを大仰に振るい、その大きな槌をフクロウ幸運水の屋台に叩きつける。

その瞬間、猛烈な衝撃波をさやか達を巻き込み、吹き飛ばされないように身を屈むませる。

 

「私達がいるのにお構いなしか……………!!」

 

「ハッハ、アイツぜってぇーやべぇー奴だろ。」

 

吹き荒れる風と近くに自分たちがいるにも関わらずに一目散にウワサに突っ込んでいった少女にさやかが文句を零していると、それに同意するように杏子は乾いた笑いを見せる。

 

「フゥー………………フゥー………………」

 

ようやく風が止み、さやか達が屈ませていた身体を上げた時には少し前までそこで祭囃子のような騒ぎを立てていたウワサの屋台は消滅したのか逃げ去ったのか定かではないが、ともかく跡形なく消え去っていた。

 

「おい!!いきなり出てきたと思ったら危ねえなお前!!」

 

「ああ?誰だよお前ら……………」

 

杏子はウワサを撃退した少女に詰め寄ると先ほどの危険行為について文句をぶつける。だが、杏子に言い寄られた少女は本気でさやか達の存在に気付いていなかったのか、訳がわからないという表情を浮かべたのちに不快感を露わにするような表情へと変える。

 

(なぁ二人とも。彼女、どう見ても魔法少女だよな?)

 

(え、ええ。そうだとおもうわ。)

 

杏子が文句を言いにいっている間にさやかはマミとほむらに念話で少女が魔法少女であるか否かの確認をとる。一応魔法少女の反応はさやかのソウルジェムにはあるのだが、大事をとっての確認だった。それにマミは困惑気な声で応え、ほむらは返答こそしなかったが別段否定的な言葉も挙げなかったため、肯定とさやかは判断する。

 

(直前まで彼女の接近に気付いた人はいるか?私はわからなかったのだが。)

 

(…………私もわからなかったわ。あの紙に気を取られていたのもあったのかもしれないのだけど…………)

 

(私もよ。確かにあの紙に気を取られたのは事実だけど。)

 

(……………ともかく二人の仲裁に行ってくる。)

 

いまいち腑に落ちない部分があるが、杏子と少女をいつまでも放置してはおけないため、さやかは一度思考を中断し、少女から杏子を引き剥がしにかかる。

 

「杏子、一旦冷静になった方がいい。それとそこのお前、かなり豪快にいったようだが、何か反撃とか受けていないか?」

 

「お、おい!?羽交い締めなんて結構手荒じゃねぇかよ…………!!」

 

「ッ……………お、おう!!あんなのにやられるフェリシア様じゃねぇからな!!」

 

とりあえずさやかは杏子の背後から彼女を羽交い締めにして引き剥がしながら矢継ぎ早に少女に怪我の有無を確認する。突然の羽交い締めに杏子は何か言いたげだったが、少女の胸を張るようなポーズと共に自身を誇るような言動に遮られる。

どうやら少女の名前はフェリシアというらしい。

 

「ならお前に少し聞きたいことがある。今の屋台、お前と何か因縁のようなものでもあったのか?」

 

「屋台って……………アイツら魔女だろ?お前らも見えていたなら魔法少女なのか?」

 

さやかの質問にフェリシアは不思議そうな表情をしながら先ほどの屋台を魔女と言い切った。ということはフェリシアはウワサの存在を知らない魔法少女ということとなる。

 

「……………ああ、ここにいる四人は全員魔法少女だ。」

 

「………………いや、マジか。自分から魔法少女だって明かすのか。」

 

「……………なぁ、何か工匠区で魔法少女達の間で交わされているルールとか知っているか?」

 

 

フェリシアの口ぶりに工匠区では、魔法少女達の間でなんらかの密約が交わされていると察したさやかは羽交い締めの状態のままにしている杏子にその是非を尋ねる。しかし、杏子は首を横に振るだけでそこまでは知らないというジェスチャーを示すだけだった。

 

「ん……………?お前ら、もしかして神浜の外から来たのか?」

 

「…………まぁ、見滝原からだな。」

 

「見滝原見滝原………………ヤバイ、全然わからねぇ。」

 

どうやらフェリシアの脳内地理情報はかなり縮尺が小さいようだ。一応神浜市とはギリギリ日帰りで帰れる距離にあるはずなので、名前だけでも知っていてもおかしくはないのだが、そのことに思わず苦笑いを見せるさやか達。

 

「まぁ知らないのならそれで構わない。それで話は戻るのだが、お前はさっきの魔女と何か因縁でもあるのか?何か知っていることがあるのなら教えてほしい。」

 

「……………そんなん聞いてどうすんだよ。」

 

さやかが先ほどのフクロウ幸運水のウワサについてフェリシアに尋ねると途端にフェリシアの雰囲気が剣呑なものに変わり、訝しげな表情で見つめ始める。

 

(………………どうやら何かしらの厄ネタを背負っているらしいな。)

 

そのフェリシアの気配が変わったことを過敏に感じ取ったさやかは以前デリカシーもなく踏み込んでしまったやちよの時の二の舞にならないよう慎重に言葉を選びながら話を進める。

 

「…………いや、お前の様子からあの魔女に対して恨みのようなものを感じたからな。それが気になった。」

 

「……………知らねえよ。今の奴が魔女だった。そんだけだ。」

 

「そうか…………」

 

フェリシアはさやかの問いかけに憮然とした様子で答えるだけで特に何か理由のようなものを語ってはくれなかった。

 

(あのウワサがどういう存在かも知らずに魔女と断定するや否やあれだけの怒りを露わにする、か。魔女という存在自体に余程の恨みがあると思える。)

 

「おいさやか。おめぇはいつまでアタシのこと羽交い締めにしてんだよ。ろくに動けやしねぇじゃねぇか。」

 

フェリシアにそんな印象を抱いていると、ついずっと羽交い締めにしていた杏子から不服気な声があげられる。さやかもいつまでも拘束しているつもりは微塵もなかったため、少し慌てた様子で手を離すとすまないと一言謝った。

 

「というか、お前なら振り解こうと思えば振り解けたのではないのか?」

 

「うっせ。」

 

ふと思った指摘をすると、何故か不機嫌そうに顔をそっぽにむける杏子に理解が及ばず疑問気に首をかしげるさやか。

 

「で、アンタが聞きたいのはそんだけか?」

 

「ああ、呼び止めてすまなかったな。ありがとう。」

 

聞いてきたフェリシアに結局情報を得ることはなかったが、最低限の礼として感謝の言葉を述べるさやか。その途端、フェリシアは先ほどまだ見せていた憮然とした表情から目を丸くして呆けたような顔を見せる。

 

「?……………なにか変なことでもいったか?」

 

「あ…………悪い、オレあんまそういうこと言われたことねぇからよ。びっくりした。」

 

「要するにあまり慣れていないのね、アナタ。」

 

マミがそう言及するとフェリシアはバツが悪そうに視線を逸らすと照れ隠しのように軽く頰を掻いた。

 

「まぁ、そういうのは人それぞれだ。とやかく言うつもりはない。」

 

フェリシアのその様子に軽く笑みを見せるとさやかは踵を返してその場を後にしようとする。するとフェリシアが現れる前にも見かけた紙片がまたヒラヒラとさやかの視界に入り込んでくる。

 

(ん…………さっきの紙片か?)

 

視界に映り込むと、先ほどの紙片と思いながら何気なくその紙片に目を移すさやか。しかし、次の瞬間にはその目を大きく見開く。その紙片にはさっき見た二枚の紙片とはまた違う『7』の数字が記されていた。

 

「回数が、減っている……………!!」

 

「あん?」

 

「美樹さん?」

 

数字が記された紙を手に取って、ワナワナとし始めたさやかに他の三人は不思議そうな表情をさやかにむける。

 

(まさかとは思うが、これは幸運水の効果の残り回数を示しているのか!?だとすればここにいる誰かが既に幸運水に手を染めていると言うことになる!!だが、そんな可能性があるのは…………!?)

 

ぐぅ〜…………

 

「んぉ、思ってたより腹空いてたのか?」

 

さやかが視線を向けたのは突然の空腹を知らせる腹の虫が鳴ったことに首を傾げているフェリシアの姿だった。

 

「………………すまない、さっき質問はないと言った口なんだが。お前、ここであの水を飲んだのか?」

 

『えっ』

 

「んぁ?どした、突然。」

 

さやかに突然どこか心配しているような形相で尋ねられたフェリシアは少しばかり困惑したように応える。

 

「えっと…………飲んでねぇよ。というか、なんか水でも売ってたのか……………?いや、でも昨日街中でなんか配られてたの飲んだな。」

 

「………………」

 

フェリシアの言葉にさやかは空を仰ぐように顔を上に向けるとそのあとすぐに目頭を抑えるように頭を抱え、大きく息を吐いた。

 

 

「……………お前に話しておかなければならないことができた。にわかには信じ難いことだと思うが。だが、それはそれとしてせっかくだし、どこかのファミレスに寄ろうか。」

 

 

 

 

 

 

「ウワサとか、オレ聞いたことねぇぞ…………あ、もちろん嘘とかついてねぇからな。飯奢ってもらってんだからそれぐらいの筋は通す。」

 

フェリシアと出会った閑散としたシャッター街から程近い場所にあったファミレスに入店したさやか達は彼女にウワサのことを話した。

しかし、話していくうちにフェリシアはやはりウワサの存在を全く知らないことがあきらかになった。それは彼女の様子から予想できていたから然程関心はなかった。

ちなみにフェリシアには金の持ち合わせはなかった。その理由を聞いてみれば、基本彼女は杏子のような根無草で、他の魔法少女に傭兵として雇われ、その報酬で日々を生活しているらしい。

ついでに言えば彼女の飯代金を持ったのはさやかである。

 

「で、オレが飲んだ水がそのウワサが作ったやつで、飲んだやつは内容通りだと幸運が続くけど、効果が切れるとぶりっ返しみたいに悪いことが押し寄せてくるってことなんだよな。」

 

「そういうことになる。実際、あの水を飲んでからは妙にお前にとって都合のいいことが続いたのだろう?自覚のある無しはどちらでも構わないが。」

 

「……………幸運かどうかはともかく、あれ飲んでからは確かに都合のいいことは何回かあったような気がする。」

 

さやかの質問にフェリシアは出された料理を頬張りながらそう答える。その返答にさやか達はやはり絶交階段の時の如く、ウワサの内容は実際起こりうることなのであると認識する。

 

「で、アンタらは一体どうするんだ?さっきのその魔女、じゃねぇや。ウワサはオレがぶっ壊したんだけどさ。」

 

「いや、破壊したことに関しては全くもって構わない。私達もそのウワサを破壊するために工匠区にやってきたからな。ただ、さっきのはいわゆる分身みたいなもので本体は別にあると思うのだが。」

 

さやかが先ほどのウワサとは別に本体があるという言葉にフェリシア含めほむら達三人の視線がさやかに向けられるとさやかはテーブルにフェリシアがウワサを倒した後に落ちてきた紙片を見せる。

 

「これは彼女がウワサを破壊した後に落ちてきた紙だ。7と書かれているだろう。彼女が現れる前にも二枚ほど紙が降ってきたのだが、その紙には8と9の数字が書かれていた。」

 

「あー…………あの紙カウントダウンみたいな感じなのか。親切っていうか性格が悪いっていうか…………」

 

ウワサの性質に気付いた杏子は気怠げな様子で頬杖をつきながらジュースのストローをすすって飲み物を口に含む。

 

「それでこの子があのウワサを壊した後もこの紙が降ってきたから間接的にウワサに本体があることを察したのね。」

 

「ど、どういうことなんだ…………おれは確かにアイツを潰した手応えはあったぞ…………!!」

 

「つまりこういうことよ。」

 

フェリシアは倒したはずの存在がまだいることに理解が及ばないのか困惑している様子を露わにしているとほむらがフェリシアに状況の説明を行う。

 

「………………なるほど、オメェら頭いいんだな!!」

 

「あなたがユルユルなだけよ。」

 

感嘆しているように目を輝かせるフェリシアにほむらは呆れ顔で皮肉を放つが、フェリシアはその意味もわからないように首をかしげるとほむらはため息を吐いた。

 

「で、お前はどうすんだよ。このまま放置してっとツケが飛んでくるけど。」

 

「え、そりゃあもちろんぶっ潰しに行くけど?」

 

「なら私達と一緒に来るか?目的は同じならば人数は多い方がいいだろう。」

 

「お、それはオレと組むってことでいいんだよな?なら千円!!」

 

さやかがフェリシアに共闘を持ちかけると彼女の傭兵としての代金である千円を要求してくる。それに対し、さやかは金銭は出さずに代わりにフェリシアが今まで食べていた料理を指さした。

 

「こちらは先にお前の料理代を持っている。それを代金の代わりとして手を打ってはくれないか?」

 

さやかのその申し出にフェリシアは自身が食べた料理とさやかの顔を何回か視線を行ったり来たりさせる。

 

「…………そういえばそうだった!!だったらそれでいいぜ!!」

 

フェリシアの中では納得が行ったのか満面の笑みでさやかの申し出を受け入れるが、マミ達は逆にそれでいいんだと少々呆気にとられていた。

 

(お前、中々金に守銭奴なところがあるんだな。)

 

(そうさせている要因の一つにお前の電車賃が入っていると忠告しておく。)

 

念話でそう言ってきた杏子に警告代わりに肩代わりをした電車賃を払えと忠告をすると、咄嗟に視線を逸らして逃げるのであった。

 

 

 




セブソ(場合によってはザンライザー)+見滝原勢+フェリシアvsドッペル×2 貴方ならどちらに軍配が上がると思いますか?

余談

フェリシアちゃんが出てくる前で二枚紙が落ちてきたのは

四人のソウルジェムの魔力探知に偶然引っかからないこと

さやかのイノベイターとしての感覚に勘付かれないようにすること

に幸運を使ったからです。



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第44話 フクロウ幸運水のウワサ

1万字だー!!


「杏子、ここら辺なのか?向こうからの指定場所というのは。」

 

「一応な。というか、飯とか色々挟んだってのに意外と時間に余裕あるな。」

 

時刻は日が暮れ始め、空の彩が橙色に変わり始めた時刻。中々眩しいと感じる日差しを横から浴びながらさやか達はマギウスの翼との約束の場所に来ていた。

 

「ん?お前らってあのウワサって奴をさがしてんじゃねぇのか?」

 

「もちろんそのつもりだ。だが、あてもなく神浜市中を捜索するのは手数が足らない上に骨が折れる。」

 

「あぁ……………うん。確かに神浜市も広いからな……………」

 

「だから知っている人間にこれから会うんだ。だがフェリシア、これから会う人物達には私達がウワサを破壊する側の人間であることは伏せてほしい。」

 

納得しているフェリシアにさやかがそう伝えると首を傾げて疑問気にするフェリシア。明らかに理由を求める様子にさやかは話を続ける。

 

「これから会う人物達は、いわゆるウワサを守護している魔法少女達だ。だから、こちらがウワサを破壊する意図で近づいていることを悟られるわけにはいかない。」

 

「え、そうなのか?なんでそんな奴らがウワサを守っているんだ?」

 

(…………どこまで話したものか…………)

 

フェリシアからの問いかけにさやかは表面には出さずに難しそうにしながら思案に耽る。魔法少女の救済というマギウスの翼の看板を伝えるのもいいが、そうするとフェリシアからどうしてそんな慈善団体のような集団から敵視されそうな行動をしていることを指摘される可能性がある。まぁ、フェリシアはどうにもおつむが脆弱、もしくは物事を深く考えない性格っぽいので、適当に流してしまう可能性もなきにしもあらずだが。

 

「…………すまない。私達もまだ奴らに関しては調べ始めたばかりだ。詳細はわからない。だが、魔法少女の救済を看板として掲げているらしい。」

 

「魔法少女の救済?…………………なんかよくわかんねぇ奴らだな。」

 

結局フェリシアにはマギウスの翼が魔法少女の救済を掲げている組織であると伝えたが、彼女からの返答はすごく淡白なものだった。おそらくその概念自体をあまり理解することができなかったのだろう。そのまましばらく夕日に照らされながら、杏子が出会ったマギウスの翼の構成員と思われる黒いケープを羽織った魔法少女を待つ。

 

「…………誰か来てるな。二人か?」

 

ふとさやかが振り向きながらそう呟き、四人の目線がさやかと同じ方向に向けられると、ちょうどそのタイミングで杏子が言っていた通り、黒いケープに身を包んだ怪しげな人物が二人現れる。

 

「………………………」

 

その現れた人物の片方は少しの間無言で佇むとさやか達を見定めるように一人一人見つめていく。

 

「…………………?」

 

その人物の見定めの最中、さやかはふと何か引っかかるような感覚を覚えた。顔がケープで隠されてその正体を伺うことはできない。しかしどういう訳なのかは知らないが、さやか達を見定めている最中、その黒いケープを羽織った人物の片方から驚愕といったものと同時に安堵感のようなものを抱いている感覚を感じ取った。少なくともさやか達が今まで出会ってきた神浜市の魔法少女の中でマギウスの翼の構成員と思われる人物はいなかった筈だ。だから確実に初対面の相手だったにも関わらずさやか達を見て安堵のようなものを露わにしたことに首をかしげる。

さらにその安堵感もさやか達に向けたものではなく、どこかこの場にいない人物に向けられたものであることもなんとなく見抜けた。

 

(………………誰かの知り合いか?)

 

そこからさやかは即座に目の前にいる構成員がさやか達の顔を知っている上でやちよやももこといった人物達とも知り合いであると判断した。しかし、表面では表情を繕いながらもそんな人物は中々いない筈だとも考える。

 

(ん?いや待て………………まさかとは思うが………………)

 

所感もあったが、そんな人物にはまるで会ったことがないと思っていたさやかの脳裏に一人の人物が浮かび上がる。そのことにさやかは悟られないぐらいのレベルで緊迫した表情を見せながら、黒いケープで身を隠した先の正体に視線を合わせる。

 

(……………メール、何通も送られてきた筈だ。彼女が心配していた。)

 

突然飛び出たさやかの念話。関連性がまるでない突然の発言のように思えるが、その真意は、もし目の前にいるケープの人物がさやかの想像通りなのであれば、確実になんらかの反応を示すはず、というものであった。

 

「ッ……………!?」

 

そしてその構成員は顔を隠すための黒いケープの下からわずかに覗ける口元を顰めるとたじろいだように一歩下がった。その反応に彼女の隣にいる、同じように黒いケープを目深にかぶり、顔を隠した魔法少女が怪訝な様子で大丈夫?と声をかける。それに慌てた様子で大丈夫と返し、その発言の主であるさやかに慎重に目線を向ける。

 

(……………やはりお前か。黒江。)

 

さやかがかけた鎌にあからさまに反応したその様子に若干の呆れが含まれた安堵の表情を見せるさやか。そこでようやく自身が乗せられたことに気づいたのか、思わずさやかから視線を外すが、すでに確信をもっていたさやかがしばらく見つめていると観念したのか、小さくため息のようなものを吐いた。

 

 

(………私を連れ戻しにきたの?)

 

(いや、私達はただ単純に誘われただけだ。そこの杏子からな。それに少々面倒な事情を抱えてしまってな。ここの彼女、どうやらフクロウ幸運水のウワサとやらの水を飲んでしまったらしくて、調べてみれば24回の幸運を使い切ればぶり返しの災難が降りかかるらしくてな。)

 

視線を移せばほむら達がもう一人の黒いケープで身を隠した構成員と話している。それを確認したさやかは怪しまれないうちに話を続けることにした。

 

(……………それでウワサのことを知っているマギウスの翼を頼ってきたってこと?私は入りたい人がいるって聞いたからたまたまその案内の役目が回ってきただけなんだけど。)

 

(そういうことだ。)

 

念話を続けていくうちに、自身を連れ戻しに来たと勘ぐる黒江にさやかはそれを否定しながら自分たちがマギウスの翼を訪ねてきた理由を語る。それを聞いた黒江は少し考え込むような仕草を見せるがやがて結論がついたのか、悩ましげな表情を見せながらさやか達に向き直る。

 

(貴方には一度命を救ってもらった恩がある。だからその礼も合わせて案内はさせてもらうわ。)

 

(ありがとう、感謝する。)

 

(だけど、それで貴方との恩の貸し借りはゼロ。もし何か変な行動をしようものなら、それなりの覚悟はしておいて。)

 

(…………………わかった。)

 

黒江の忠告にさやかは彼女は自らの意志でマギウスの翼に居場所を置いていることがわかり、なおかつ彼女との間に溝が生じてしまうことも遠くない未来であることも察したため、心を痛めるように儚げな笑みでそう返すのだった。

 

 

 

「なーんかよくわかんねぇとこに来ちまったなー……………なぁ、ほんとにここで合ってんのかよー。」

 

「…………………」

 

「まぁ…………私達は神浜市の地理情報には疎いから、どのみち彼女らについていくしかないのだが。」

 

その移動の最中、フェリシアが怪訝な表情を見せながら先をゆくマギウスの翼の二人に愚痴を零すが、向こうからの反応はなく、ただただ先をゆくだけの事実上の無視にフェリシアは不服気に頬を膨らます。

それでも前を行く二人のあとをついていくしかないとさやかがなだめるようにそういうととりあえず引き下がるフェリシア。

とはいえ、フェリシアが怪訝な表情をするのも無理もないというのがさやかの本音であった。

 

途中までは裏通りじみた少々暗い雰囲気の道を行っていたが、まだ普通の街並みを歩いていた。しかし、やがて人気のない森に囲まれた広場の区画内にある建物に入っていくとそこの一角にあった非常用の階段のようなところを通り、地下水路のような狭くて細い空間にたどり着く。

その連れてこられたにしては陰湿で、雰囲気の悪すぎる場所にさやか達の表情は優れなかった。

 

 

しばらくその下水道のような細い通路を歩いていくと、急に広い空間にたどり着く。支柱のような柱が何本も地上を支えるように聳え立っている様子から、その場所が周辺の川が増水などした際の貯水用の空間なのであろう。ともかく、ようやくあの陰湿な空間から解放されると思ったのも束の間、杏子はその空間の天井を見上げながら苦笑いを浮かべる。

 

「おいおい、なんだこの空間。まーるで魔女の結界みてぇじゃねぇかよ。」

 

そこには天井に一面水で覆われており、その時点でもだいぶ常識としてはおかしいのだが、普通であれば覆われた水から水滴が落ちてくる筈だが、そこには逆に地上から水滴が吸い寄せられるように天井に登っていく光景が広がっていた。

 

「私達が天井に足を付けているみたいだな、まるで。」

 

「こういう暗くて湿っぽい場所とかじゃなくて外だったら水滴が光で反射して結構綺麗な光景になりそうなのに。」

 

「ふぅ……………巴さん?さやかはともかく、貴方にまでボケに回られると色々と困るのだけど。」

 

「大丈夫よ、これでも気を張っているつもりではいるから。」

 

「その前に私がまるでバカみたいな扱いをされていることに文句を言いたいのだが。」

 

「安心しろ、おめぇはバカじゃねぇよ。天然記念物レベルのボケってだけだ。」

 

「……………それは貶しているということなのか?」

 

 

ただ単純に目の前の光景に感想を述べただけなのに、ほむらから散々な扱いを受けたことと、同じように感想を言ったマミが許されていることに困惑していると杏子からの追撃が入り、しょげたような表情を見せる。

 

「ふふ、仲がよろしいのですね。」

 

「でもウチと月夜ちゃんの仲の良さには敵わないよ!!!」

 

そんな漫才(本人たちにそのつもりは一切ない)を繰り広げていると前方から場所のせいか、反響したような二人分の声が聞こえ、目線を下げて声の響いてきた方向に顔を向ける。

その先には黒江たちが来ている黒いケープをそのまま白くしたようなものを羽織っている、顔がほとんど同じと言っても過言ではないほど似ている双子の魔法少女が向かい合って互いの手を繋ぎながら身を寄せ合って、その様子をさやか達に見せつけるようにしていた。

 

『…………なんか面倒なのに目をつけられた。』

 

その様子を見た瞬間、四人の脳裏に全く同じ言葉が思い浮かび、揃って見てはいけないものを見てしまったかのような気まずい表情を浮かべる。

 

「……………あれ?なんだか反応がないね、月夜ちゃん。」

 

「どうしてなのでしょう………………?」

 

さやか達が固まってどう反応すれば困っているところに、その二人は揃って不思議そうに首を傾げながらお互いの顔を見合わせる。

 

(………………よくわからないことで張り合われても困るのだが。)

 

とりあえず、白いケープを羽織った双子がさやか達と張り合っていることだけは察したのか、さやかは心の中で迷惑そうにしながらもそれを声には出さずに二人の世界を構築している様子に静かに白い目を向ける。

 

「…………お前たちが着ているその白い布。黒いのを着ている者たちとは違うのか?」

 

とりあえず話を進めるためにさやかは双子にケープの色の違いを話題に挙げながら話しかける。

 

「ええ、わたくし達は『白羽根』。『黒羽根』の皆さんを、謂わば統括する役割を仰せつかっておるのでございます。黒羽根のお二方、ご苦労様でした。あとはわたくし達にお任せください。」

 

そのさやかの質問に双子の………あまりにも双子の容姿に相違点が見当たらないため、文章上、胸部が豊満な方がおしとやかなお嬢様のような口ぶりでそう応えながら、ここまで連れてきた黒羽根に下がるように命ずる。その命に二人は素直に下がり、地下水路の闇へと消えていった。黒羽根の片方、おそらく黒江と思しき人物がさやか達の方を一度振り返ったが、すぐに向き直り、同じように闇へと消えていった。

 

「わたくしはマギウスの翼、白羽根、天音 月夜(あまね つくよ)

 

「ウチは同じく白羽根、天音 月咲(あまね つかさ)

 

双子の魔法少女、月夜と月咲がさやか達にそう名乗ると、二人はさやか達にそれぞれ半身だけ向け、手のひらを上にしてさやか達を出迎えるように腕を広げる。

 

「深月フェリシア、ならびに佐倉杏子を始めとする見滝原市の魔法少女の皆さん。」

 

「マギウスの翼は魔法少女を救済するためにその翼となる集団。歓迎するよ。」

 

どうやら、彼女たちの中では既にマギウスの翼への参加が確定しているらしい。まぁ、杏子がブラフとはいえ参加すると言って、連れも連れてくると言ったのだから彼女らがそう判断するのもしょうがないだろう。

 

「お、おい!!オレはお前らに参加するって言ってねぇぞ!?たまたま一緒になってついてきただけなんだからな!!」

 

ただフェリシアはどっちかと言えばさやか達についてきたに状況的に合っているため、自分はまだ決めたわけじゃないと声を張り上げる。しかし、そのフェリシアの言葉に月夜は微笑を浮かべる。

 

「貴方にも利益のある話なんですよ?マギウスの翼は『マギウス』の御三方が掲げる魔法少女救済という崇高な思想、それすなわち魔女の消滅と同意義なのですよ?」

 

「ッ!?」

 

月夜の語る魔女の消滅、その単語にフェリシアは目を見開き、はちきれんばかりに月夜を見据える。

 

(魔女の、消滅………………?ってことは、殺せるのかよ、オレからとうちゃんとかぁちゃんを奪った魔女を………………!!)

 

(…………………魔女への憎悪を持っていることはわかっていたが、ここまでのレベルとなってくると相当なものだな。)

 

フェリシアの様子にさやかは彼女の体に纏わり付くような黒いモヤとなっている彼女の恨み辛みが具現化したようなものを見ながら静かに瞳を閉じる。願わくは彼女がその呪縛から逃れられることを願って     

 

「ところで、さっきウチら貴方たちを歓迎するって言ったんだけど。」

 

そんな感傷に浸っているところに双子の胸が薄い方、月咲が声を挙げる。さやか達の視線が向けると、彼女の妙にいい笑顔が目についた。

 

「実はこの間、神浜市の東側のとあるウワサが消されちゃったんだよね。まぁ場所が場所だったし、ウワサとしてはそんなに期待はしてなかったんだけど、そこがつい最近消されたんだよね。」

 

「……………何故それを私達に?あまり関係ないように思えるのだが。」

 

その月咲の言葉にさやかは首を軽く傾げ、無関係を装いながら表面上は無表情を取り繕う。

 

「そのはずなんだけど、一応マギウスの翼は組織といえば組織だし、ウチも黒羽根のみんなの上に立っているから色々と情報が回ってくるんだ〜。そしたら、ウワサを消した人たちの集団に貴方たちの姿を見かけたっていう黒羽根の人がいたんだよ。」

 

「………………どうやら、マギウスの翼はお遊びで徒党を組んでいるわけではないらしいな。」

 

向こうに自分たちがウワサを消して回っているということがバレている以上、もはや隠すことは必要ないと言わんばかりにさやかは吐き捨てるようにマギウスの翼を適当なお集まり程度だと思っていたことを暴露する。

次の瞬間、月夜が白いローブを脱ぎ捨てながら、懐から何か取り出すとそれをさやか達に向けて突きつける。

手にしていたのは正方形の形をした緑色のキューブ。正体はわからなかったが、ともかくそれから魔女特有の嫌な予感がしたさやかはそれを攻撃と判断してバックステップで飛び退き、月夜と月咲から距離を取る。

 

「気を付けてくれ!!あのキューブから魔女の気配がする!!」

 

その声を聞いたほかの三人は驚きを露わにしながらもすぐに魔法少女としての装いを展開し、戦闘態勢を整える。

ちょうどほむら達が得物を構えた瞬間、月夜の手にしていた緑色のキューブが弾けると中に収められていたのか、魔女の結界のような空間が周囲に広がる。

飛び出た結界は瞬く間にさやか達を包み込み、ドーム状のような建物が中心にある空間に閉じ込める。

 

「この空間は……………!?」

 

「おいおいおい、マジイカレてんだろ……………」

 

取り込まれたさやか達は周囲の確認のために辺りを見回すとドーム状の建物の壁には魔女の使い魔が微動だにしない様子で鎮座していた。一定のスペースに何匹もの使い魔が鎮座している様子はさながら飼育されているような印象を覚える。

 

「何よこれ………使い魔を、飼育でもしているの!?」

 

「気味が悪いわね……………魔法少女が使い魔を、いえ、魔女を育てるなんて正気……………!?」

 

そんな目を疑うような光景にマミとほむらも嫌悪感を隠しきれないように表情を顰める。

 

「こんなことをして、魔法少女の救済などよく言えたものだな!!結局はグリーフシードの独占が目当てなのか!?」

 

「グリーフシード?まだそんなものを欲しがっているの?神浜市ではグリーフシードなんて必要ないのに。」

 

さやかがGNバスターソードⅡの剣先を天音姉妹に向けながらマギウスの翼の目的の真意を問い質すと、月咲が怪しげな笑みを見せながら、さやかが考えたグリーフシードの独占をまるで浅い考えと笑うように否定し、グリーフシードを使うこと自体古いというような口ぶりをする。

 

「グリーフシードがいらねぇだぁ?ハッタリかましてんじゃねぇぞ。」

 

その言葉に杏子が疑いを持った目で月咲を睨みつけるが、月咲はそれをスルーして手にしていた和風の横笛を吹き鳴らす。彼女が発した音が結界内に響き渡ると飼われていた魔女もどきの使い魔が一切に動き出し始め、さやか達に体に空いた穴からの砲撃といった各々の手段で攻撃を開始する。

 

「まぁそういう反応をするのは仕方ないか、ごめんね。でも、ウチらの計画が遂行されれば、全ての魔女が消え去るのは本当だよ。」

 

「そんな詭弁、誰が信じるものですか!!ウワサに被害を被った人が何人もいるのよ!?」

 

「魔法少女が囚われたのならただの間抜けで済ませるけど、何も知らない一般人も巻き込まれているなら話は別よ。あの子に被害が回ってきたらどうするつもりなのかしら。」

 

「お前ホントにあいつ一筋だよな…………まぁ、アタシはどっちかといえば誰が巻き込まれようが構いやしねぇけど、それ以前にアンタらの話すことがぼんやりしすぎてまるで信用できねぇ。これならさやかの馬鹿に付き合っていた方がまだマシだぜ。」

 

迫りくる魔女モドキにマミは生成した何挺ものマスケット銃を一斉射し、ほむらは取り出した機関銃で掃射、杏子もさっきまでのヤンキー顔負けの剣幕もどこへやら、半笑いのようなものを見せながら槍を振るう。各々の得物で魔女モドキを蹴散らしていく中      

 

 

 

「うぉああああああああああ!!!!!」

 

直後悲鳴のような絶叫と共に凄まじい轟音と衝撃波が響く。そこにはフェリシアがガムシャラに巨大化したハンマー片手に文字通り暴れまわっている光景が広がっていた。

 

「アイツ…………あんな戦い方、まるで見てらんねぇな。」

 

「それには激しく同意だ。あの戦い方ではいずれ自分の身を滅ぼす。」

 

魔女モドキを斬り捨てながらフェリシアの戦い方に顰めっ面を見せる杏子の隣に並び立つさやか。フェリシアの戦い方はまさに魔女に対して、常に必殺を志す後先を考えないバーサーカーのような戦い方だ。これがただ彼女が戦闘狂でアドレナリンによりテンションが振り切れているならいざ知らず、フェリシアのバーサーカーっぷりは確実に恨み、悲しみといった負の感情から来る狂暴だった。

 

「これ、あの子の攻撃で結界を壊したりしないわよね?もしそうなったら街中だったら使い魔が街へ飛び出る可能性とかもあるのかしら?」

 

「いいえ、その可能性は低い筈よ。おそらくあの使い魔達は双子の薄い方、天音月咲によって制御下に置かれているのでしょうね。じゃなければ使い魔の真ん中で笛を吹き続けている彼女が襲われないわけがないわ。」

 

マミはフェリシアに所構わずの攻撃によって結界が崩壊し、魔女モドキ達が野に放たれるのを危惧していたが、ほむらの言葉通り、目線を月咲に向けて、彼女が集団のど真ん中にいるのにも関わらず、魔女モドキ達から見向きもされないその様子を見て納得の表情を見せる。

 

「おいどうすんだ?このままだとアタシ達まで二次的被害を食らうぜ?」

 

「ともかく少しでも彼女の視野に余裕を持たせるしかない。あのまま放っておくのは危険すぎるし、幸運の残り回数も5回もあるかどうかだろう。無理矢理でも彼女の進撃を中断できないか?」

 

「もしくは、あの子の幸運が尽きる前に、私たちがウワサの本体を破壊するしかないわね。さやか、貴方のことだからウワサの本体の場所は識別できてるのでしょう?」

 

「問題ない。絶交階段のウワサで普通の魔女との区別はつけることができた。ちょうどあの巨大な鏡のようなオブジェの向こう側にいる。」

 

ほむらからの言葉にさやかはドーム状の構造物に隣接している何十メートルもありそうな巨大な鏡を指さした。

 

「なるほどあっちか。それはともかくアレ止めろっていうのかよ……………ったく、無茶を言うぜ…………」

 

「しかもウワサの本体も同時並行で叩かないといけないわ。どうみても時間との勝負ね。」

 

槍を肩で担ぎながら暴れるフェリシアを止めにいくことを面倒くさそうに見据える杏子にマミは近寄ってくる魔女モドキにマスケット銃の銃弾を撃ち込みながら険しい表情を浮かべる。

 

「ほむら、私が穴を開ける。お前なら一番()()をかけずにいけるはずだ。」

 

「……………そういうことね、わかったわ。でも、一応言っておくけど貴方が一番戦力としては有力なのよ?」

 

「…………あの双子が言った神浜市ではグリーフシードは必要ないというのが気になる。何か、グリーフシード以外による穢れの除去…………どうであれ奴らには奥の手のようなものがあると踏んでいいだろう。調整などというお前ですら初見の技術があるんだ。何が飛び出てきてもおかしくはない。」

 

さやかがほむらに結界の外へ出てウワサを破壊してきたほしいという頼みに、ほむらはそれを承諾しながらもさやかが向かった方が時短になると暗に告げる。

だが、さやかのグリーフシードが必要ないという言葉への難しい表情からの警戒を示すと、ほむらも似たような意見を持っていたのか、黒髪を払い除けながら静かに頷いた。

 

「よし、まずは突破口を開く!!」

 

さやかは右肩に懸架されているGNソードⅡブラスターを取り出すと、右手でグリップ部分を握り、左手で銃身の側部に埋め込み式で取り付けられてあるフォアグリップを握り、両手持ちで腰付近で構える。

 

「な、何をなさるつもりでありますの!?」

 

さやかの動向に気づいた月夜が何か妨害に奔るより早く、さやかはブラスターのトリガーを引き、銃口から膨大なエネルギーを持ったビームを発射する。結界中の陰湿な空気を晴さんとばかりにピンク色の光を撒き散らしながら結界の壁に直撃すると、目論見通りに、着弾した部分に外へと続く大穴を生成する。

 

「ほむら!!」

 

それを確認するとすぐさまさやかはほむらに向けて手を伸ばし、ほむらもその伸ばされた手に自身の手を乗せる。そして左腕の盾を回転させた瞬間、世界が白と黒のモノクロに代わり、全ての音が消失する。

 

ほむらと彼女に触れていたさやか以外の全員が時間を止められて動きを止めている中、さやかはほむらを引き寄せると右手を背中に添え、左手で足を抱えるようにしてほむらを持ち上げると風船のようにフワリと優しく上昇して開けた大穴へと向かう。

 

「ねぇ、この担ぎ方以外なかったのかしら?」

 

「……………すまない、肩担ぎは武装が干渉して難しいと思うからこれで我慢してほしい。」

 

「まぁ、開けた大穴から階段が降りてくるなんて都合のいいことなんて起きない限りこの方法が一番時短なのでしょうだけど。」

 

そんな軽いやりとりがあった間にさやかは大穴にたどり着くと彼女を大穴に放り込むように下ろした。

 

(場所がわからなくなりそうだったら念話で呼んでくれ。その都度方角を伝える。)

 

その念話に返答ことはなかったが代わりに白黒のモノクロだった視界が元の色に戻り、同じように戦闘の音も耳に入る。

 

「あ、あのようなとんでもな出力の攻撃ができる御人がおられたとは…………ですがその反面、反動も大きいはず…………しばらくは動けるはずもないですわ……………!!」

 

その中で月夜が自身を落ち着かせるような口ぶりでさやかの開けた大穴の方向に振り向くと、自然とその大穴の前で立ちはだかっているさやかと目が合う。

 

「ピェッ…………い、いつの間に……………で、ありますわ…………」

 

「残念だが、今の攻撃は私が持ち得る攻撃手段の中でも中の上くらいだ。」

 

振り向く直前まで前方にいたはずのさやかが前から後ろへと振り向くわずかな時間の間に回り込まれていることに月夜は小さく悲鳴を挙げ、明らかに戦慄を覚えたように顔を真っ青にする。その月夜の毒気が抜かれるような様子に思わずさやかは苦笑いのような浮かべるが、淡々とGNソードⅡのロングとショートの二振りを両手に構える。

 

「できればここら辺で二人揃って降参してくれるとありがたいのだが。」

 

「そ、それはできないお願い事でございますわ!!私達にも、譲れない部分がありますの!!」

 

「……………どのみちまずはこの魔女モドキ達を全滅させてからなのだが。」

 

月夜の様子に残念そうにしながらも、ある程度反発されることは割り切っていたのか、さやかは静かにため息を吐くと急降下を始め、構えたGNソードⅡを魔女モドキ達に向けて振り下ろし、魔女モドキ達を両断する。

 

 

 




今日の要約


ウワサを消して回っている魔法少女達がいたので勧誘ないしは始末しようとしたら激ヤバ魔法少女がいて余裕で返り討ちに遭いそうです(大汗)

ドッペルは……………次回やな!!(なおそれでさっさんに勝てるとは言ってない。)


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第45話 だから私は、破壊する

自分、もしかしたら5,000字ぐらいがちょうどいいのかしら…………


「ハァッ!!」

 

ほむらを結界の外へ送り届けたさやかはGNソードⅡロング、ショートを手にしながらGNドライヴからの粒子放出量を増大させると天音月夜に向かって、GNソードⅡロングで切りかかる。

 

「ッ……………!?」

 

さやかのスピードに目を丸くしながらも辛うじて反応した月夜は手持ちの笛を口に当て吹き鳴らす。その笛の音色が響くと彼女に音のような波紋で形成されたバリアが展開され、さやかが振り下ろしたロングを阻む。

 

「音の障壁……………!?」

 

攻撃が防がれたことにさやかは目を丸くするが、攻撃を防いだ月夜も脂汗を滲ませ、苦悶の表情を浮かべていた。

 

(な、なんという膂力でございますこと………!!押しとどめるのが精一杯でありますわ…………!!)

 

少しでも気を抜けばバリアごと自分が斬られる。そう直感した月夜は笛を吹き続け、バリアの破られまいと堪える。

 

「これならば…………!!」

 

さやかはバリアに阻まれているロングをそのまま押しつけたままもう片方に手にしていたショートを腰に戻す。当然その行動も月夜の目に入るわけだが、敵の目の前で武器を収めるその行為に怪訝な表情を隠しきれない。

だが、さやかは空いたその手に別の剣を生成する。その剣はロングとショートの刀身のちょうど中間くらいの長さにしたような酷似した剣だった。

 

「ライフルモード…………!!」

 

呟くようなさやかの言葉。それに呼応するように新たに生成したGNソードⅡの刀身が半回転させ、その銃口をバリアに押し付ける。

次の瞬間、ライフルモードに変形させたGNソードⅡの銃口から細かな光の粒が散弾銃のように撒き散らされ、至近距離からバリアの表面をピンク色の光で照らすと、バァンッ!!という爆裂音と共に月夜の身体が跳ね返るように真後ろに弾き飛ばされる。

 

「つ、月夜ちゃん!?」

 

とんでもない爆音と共に吹っ飛んできた自身の姉に思わず吹き鳴らしていた笛の演奏を止めながら彼女に駆け寄り、声をかける。

 

「う、うう…………」

 

幸い月夜に特にこれといった外傷はなかったが、散弾銃を至近距離で受けたような衝撃はやはりとんでもないものだったのか月夜は呻き声を漏らすだけで月咲への返答はない。

 

「バリア全体に衝撃を行き渡らせ、そのままバリアごと押し出すように弾き飛ばした。外傷はないはずだが、威力もそれなりの出力を出したから、しばらくは動けないだろう。」

 

横たわる月夜を抱える月咲にさやかはそれだけ伝えるとGNドライヴで浮遊すると一瞬だけGN粒子の放出量を上げ、跳躍するように上昇し、別の場所へ向かう。

 

「そ、空を飛んでる………………それにこの緑色の光は………?」

 

「……………な、何という衝撃………まだジンジンしますわ…………」

 

さやかが飛び去ったあとに残されるGN粒子の光に月咲は不思議そうにしながらキラキラと降り注ぐそれを見つめるが、月夜が呻き声のような声をあげると慌てた様子で倒れている月夜の上半身を起こす。

 

「だ、大丈夫!?」

 

「…………ええ。あの御人の言う通り、衝撃に弾き飛ばされただけでございますわ。」

 

妹の月咲の声に無事を示すようにわずかな笑みを見せると、降り注ぐ緑色の光に目がついたのか、その光を追っていくと魔女モドキ達と戦闘を行なっているさやか達の姿が目につく。

 

戦闘に復帰したさやかは杏子をフェリシアに向かわせたため、マミと合流し、そのまま彼女と背中合わせで魔女モドキの殲滅にかかる。魔法少女としてのキャリアとしてはマミの方が数年上だが、彼女がマスケット銃を展開して前方に向けて掃射すれば、その後ろをさやかが薙ぎ払うようにGNソードⅡブラスターのビームを撃つことで凄まじい勢いで結界内の魔女モドキ達の数を減らしていく。

 

「ですが、このままではフクロウ幸運水のウワサが消されてしまいます。先ほど結界に大穴を開けられてしまいましたし、一人…………黒髪の魔法少女の姿が見えませんわ。おそらくこの結界から脱出し、ウワサの破壊へ向かったのでしょう。」

 

「じゃあ止めに行かないと…………!!」

 

ウワサが破壊される危機に逸る月咲を月夜は服の裾を掴むことで引き留める。そのことに月咲は困惑してしまう。

 

「いいえ、いいえ。それはダメですわ月夜ちゃん。あの御人がそう易々と向かわせてくれるとは思いませんわ。私達は足止めする立場から足止めされる側へと一瞬で盤面をひっくり返されてしまったのでございます。」

 

「じゃあ……………どうするの?」

 

「今は機を待ちましょう。このソウルジェムに穢れがたまるその時まで。幸いこの飼育場は他にもあるのでございます。」

 

 

 

 

 

 

(……………動かないか。何かしらの妨害に出ると思ったのだが。)

 

身を寄せ合う双子を見張るために視界の端に入れていたさやかだったが、現状二人が動かず事態を静観すると判断すると視線を魔女モドキ達に集中する。

ひとまずマミとツーマンセルを組んで魔女モドキの掃討にかかる。その魔女モドキ達はサイズにそれぞれ大きかったり小さかったりと違いがあったが、神浜市では総じて魔女が強いというのが影響しているのか見滝原で戦ってきた使い魔よりは動きが素早かったりと強くはあった。

だが、それでも幸いまだ対応しきれる範疇ではあったため、マミの生み出す無数のマスケット銃の援護もあり、順調に使い魔の数を減らしていく。

 

「しかし、ウワサどころか魔女を、それも飼育して育てているとは、奴らの掲げる救済とは一体どうやって行うつもりなんだ?」

 

魔女モドキを切り捨てながらさやかはマギウスの翼の掲げる魔法少女の救済について首を傾げる。

 

「それは…………私にもわからないわ。でも、何も知らない無辜の人々を巻き込んおいて、自分たちだけ救済を望むのは間違っていると思うわ。」

 

そのさやかの疑問に後ろで弾切れしたマスケット銃で魔女モドキを殴りつけながらそう応える。表情こそは伺えないが、その口ぶりだけでも彼女が明確に一般人を巻き込んでいるマギウスの翼の行為を否定しているのがわかる。

 

「そうか。貴方がそういう風に明確に反意を示してくれるとありがたい。意外と気負い安い貴方のことだから向こうに同調してしまうかと密かに心配していたのだが。」

 

さやかの中ではマギウスの翼の構成員は総じて魔女化や魂が材料になっていることなど、ソウルジェムの真実を知っているだろうと踏んでいる。

その上で掲げる魔法少女の救済とは、言わずもがな魔法少女に定められたその運命からの脱却ということだろう。

そして、マミはソウルジェムの真実をほむらから告げられた時、一度は心が折れてしまったかのように家に引きこもっている。

今は受け入れているかどうかは別問題として、普通にいられているようだが、いつ人の精神が破綻するのを想像するのは難しい。

だからひょんなことから彼女がマギウスの翼に加担してしまうかもしれないとさやかは不安視していた。

 

「…………でも、私だって、そんな方法があるのならあやかりたいわよ。一応、貴方はそういう心配事は解消されているんでしょ?」

 

「…………まぁ、それもそうか。」

 

先ほどまで明確にマギウスの翼の目論見に反意を示していたマミの一転して不安を押し殺したような声にさやかは納得したように静かに瞳を落とす。ソウルジェムが黒く濁る原因は主に魔力の消費によるものだ。他にも絶望などによる負の感情エネルギーによる濁りもあるが、それはパターン的には比較的少ない方だ。

その主だった穢れの発生の原因をさやかはGNドライヴによる魔力の生成で補っている。

それが意味することは、ある種さやかはマギウスの翼の掲げる、理想の体現者とも取れる。

 

(だから私はマギウスの翼にああまで普通に異を唱えることができるんだろうな。魔女化の可能性が他の皆より低いから。)

 

だが、たとえその条件がなかったとしても私はマギウスの翼の理想を認めることはできない。

 

同時にさやかはそれでも彼女の行いを見過ごすことはできないと確信する。魔法少女の救済。字面だけ聞けば、確かに聞こえはいい。ソウルジェムは自分自身の魂が材料にされていて、ソウルジェムの破壊は自分の死を意味すること。そして何より、その宝石の輝きの中に、黒く暗く秘められた魔女化の運命。

それを半ば意図的に隠されていて、それを知った時には、その知らない間に課せられた運命に不服を立てたくなるとは分かる。

 

だが、それを理由に他者を傷つけていい理由にはならないはずだ。

別段、魔法少女が魔女化の運命から逃れられること自体に異論はない。むしろさやかもそのようなことができるのなら構わない。だが自分たちが救われたいからと他者に危害を加えるようでは、到底救済とは呼べない。そんなのはただの傲慢、エゴ以外の何ものでもない。

 

「…………私は認めない。そんな他人を犠牲にするようなやり方、まだ大人でもない私達には禁忌以外の何ものでもないのに…………一生モノの呪いを引きずって生き続けていくつもりか………!?」

 

「それは…………それを成し遂げたものの咎といえば聞こえはいいけど………拷問ものね。」

 

「だから私は、破壊する。こんな呪いを背負わせようとするマギウスの翼の所業を。いやマギウスの御三方か。確かそう言葉を漏らしていたな、彼女らは。」

 

「ええ、確かにそう言っていたわね。意外と抜けているというかなんというか…………」

 

決意新たにしてGNバスターソードを横薙ぎに振るい、魔女モドキ達をまとめて一刀両断するさやかに対し、マミは苦笑するように困った表情を見せながら、遠目で天音姉妹の方に目線を向けた。

 

「まぁ、あの人たちには後でしっかりとマギウスの翼について吐いてもらうとして………美樹さん、ここは私に任せてちょうだい。手を出してくれる?」

 

(…………調子がいいように見える時の貴方は危なっかしいとまどかも言っていた、というのは余計なことか。)

 

ちょっと危ないセリフに言葉を挟みたくなったさやかだったが、とりあえず結界内ではすぐに援護に向かえない距離ではないので、飛び出た言葉を飲み込む。

 

そして彼女が手を伸ばしてきたのが、調整屋によってソウルジェムに調整を施された者同士でできるコネクトをやろうとしているのだろう。一応調整を施された後にコネクトについては簡単に説明は受けたのだが…………いまいちさやかには要領を得ないというのが正直なところだった。無論、みたまの話自体が理解できなかったわけではない。

 

(…………私がコネクトした場合、一体どういう効力が付与されるんだ?)

 

いろはとほむらと一緒に神浜市を訪れた時のももことレナが結んだコネクトはももこの得物である刀剣レベルまで巨大化させたような鉈にレナの水魔法が付与されるという類のものであった。

そこからみたまの説明も合わさって、コネクトというのは相手に自分の魔法効果をエンチャントし、能力を一時的に向上させるものという認識まではできた。

だが、さやかにはそういう属性魔法みたいなものが特にない。マミだったらリボンによる拘束の補助効果、杏子は幻惑効果による撹乱、ほむらはもしかしたら攻撃時に時間停止の状態異常を相手に押し付けるみたいなことができるのだろうが、さやかにはそういう魔法的なものが本当にない。

一度だけ回復魔法も使ったこともあったが、あれはインキュベーターのいう因果律の重なりが引き起こしたものであり、それがコネクトとして反映される可能性も低い。

 

(…………とりあえず、悪い効果が引き起こされるわけではないと思うが…………)

 

結局のところ、やってみなければわからないという結論に至り、さやかは少々戸惑いながらも差し出されたマミの手に自分の手を重ねる。

その瞬間、さやかの体がほんのりと光に包まれたかと思うと繋がれた手を渡り、橋を渡るようにさやかからマミへ光が流れ込んでいく。

 

「…………なにか変わったか?」

 

前回と比べるとあまり変化の見えないマミの様子にさやかは訝しげに小首を傾げるが、その反面マミはさやかからのコネクトをどういうものなのかと心得たのか、迷いなく載せていた帽子からマスケット銃を取り出すように生成し、自身の前面に横一列に並べる。やはりというべきか、マミの生成したマスケット銃にも明確な変化は見受けられない。

 

Scatto simultaneo(一斉射撃)!!licenziare(放て)!!!」

 

だが、指揮官のようにマミが手を振りかぶり号令を飛ばし、並べられたマスケット銃の銃口が起き上がり、眼前の敵に向けられその撃鉄が下されるとその銃口から発射されるのは鋼鉄の弾丸  ではなく、ピンク色に輝く複数の閃条が魔女モドキ達をまとめて貫いた。ちょうどそれはさやかが使っているGNソード系から放たれるビームと同じだった。

 

「!?」

 

突然目の前で行われた光景に流石のさやかも呆然としながら目を見開くことしかできないでいた。

 

「行きなさい!!」

 

さらにマミが号令を飛ばすように言葉を発するとマスケット銃はまるで意思を持ったようにひとりでに空に浮かび上がるとマミの言葉に従うように魔女モドキ達に接近し、一度ビームを出した銃口から再びピンク色のビームを発射し、魔女モドキ達を破壊していく。

 

「美樹さん……………これすっごくいいわ!!」

 

「え……………そ、そうか。貴方がそういうのなら別にいいのだが。」

 

空を縦横無尽に駆け巡るマスケット銃達にマミは何か彼女の中でくすぐられるものがあったのか目を輝かせながらその力をもたらしたさやかに礼を述べる。

思わず戦闘の手を止め、呆けていたさやかはそのマミの礼で意識を取り戻すと困惑気しながらもその礼を受け取る。

 

「さっきも言ったけど、ここは私に任せて!!数も減っているから、佐倉さんの方をお願い!!」

 

そう言ってマミはマスケット銃の操作に集中するためなのか、さやかから目線を外し、魔女モドキの殲滅にかかる。

その勢いに押され、声をかけることすらできなくなったさやかは、とりあえず杏子の元へ向かうのだった。




マミ  は  ホルスタービット(仮)を手に入れた!!


ただし、この武器はさっさんと事前にコネクトを行う必要があるから注意が必要だぞ!



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第46話 換気の時間だ!!

やっぱり5,000字以上6000字未満くらいがちょうどいいのかもしれん。


「杏子!!」

 

「んおっと!?中々いいタイミングで来やがったな!!」

 

「そちらの状況に確かめに来たのだが…………あまり良くはなさそうだな。」

 

魔女モドキをマミに任せたさやかは言われた通りに杏子の元へ訪れるが、何か察したように難しい表情を見せる。その表情に釣られるように杏子が肩を竦め、困り果てた表情を向けた先には手にしたハンマーで凄まじい轟音を響かせながらガムシャラに魔女モドキを文字通り潰しているフェリシアの姿があった。

 

「見ての通りだ。まーるでこっちの話なんか聞きやしねぇ。」

 

「とはいえ、使い魔を潰してくれるのはいいがこのまま彼女に好き勝手動かれてうっかりこの結界を破壊されてしまうと、もれなく残っている使い魔が一斉に逃げ出す。それは避けたいから最低限全滅させるまでは我慢して欲しいのだが…………」

 

「……………あんなバーサーカーにか?ありゃああたしより筋金入りで魔女を恨んでるぜ?下手に我慢させっとこっちに矛先が向いちまう。こういうのは放っておくのが一番賢いやり方だ。」

 

フェリシアをどうにか止めたいと考えるさやかに杏子は訝しげな表情を向ける。確かに今のフェリシアのような狂戦士を無理に止める必要はどこにもない。杏子の言う通り好きにさせておくのが一番現実的な考えだ。

だが、それでもさやかにはフェリシアを放っておくわけにはいかないと感じる理由があった。

 

「彼女に魔女への恨みが積もりに積もっているのはわかっている。だが、私にはどうにも違和感を感じるんだ。何か危うくて、それでいて漠然とした罪悪感だ。」

 

「危うさってのはあたしにもわかるけどさ…………罪悪感は自分が感じるもんで他人であるさやかには無理だろ?例のイノベイターって奴の感覚か?」

 

「わからない。だが、同時にあまり触れてはいけないものとも直感している。爆弾でも触っている気分だ。」

 

「ハァ…………便利なもんだ、イノベイターってのは。」

 

さやかのイノベイターとしての感覚からでる言葉に杏子はあまり間に受けていないように呆れたような表情を浮かべていた。

 

「ま、あのガキンチョに対する印象はともかく、あたしはあのまま放っておくのはまぁまぁ夢見が悪い。それはさやかも同じだろ?」

 

「ああ。彼女の戦い方は自分自身を孤立させる。指摘して止めようとしたところで火に油を注ぐような逆効果かもしれないが。」

 

「そもそも、別に無理して止める必要はねぇんじゃねえの?」

 

「だが、彼女を放置してこの結界を破壊されてしまえば    

 

「ばーか、お前意外と頭堅てぇな。()()()()()()ぶっ潰しちまえばいいんだよ。」

 

杏子のフェリシアを完全に放置するような発言に少しムッと表情を顰めながら異論をを唱えようとしたさやかだったが、途中で杏子に割り込まれる形で遮られる。おふざけが籠められたおどけたような口ぶりに少しだけ眉の形を逆ハの字にするが、杏子の結界ごと、という言葉がひっかりわずかに沸いた憤りを静めながら思案にふける。

 

「ッ………………そういうことか!!」

 

「わかったならさっさと行きな。あいにくあたしはまだ調整を受けてないからできねぇんだわ。でもお前は遠目から見ていたけどさっきマミにやってただろ?まぁ、あんな感じになるとは全く思ってなかったけどさ。」

 

「ともかくありがとう!!調整の料金は基本グリーフシードで対応してくれるそうだ!!」

 

杏子の発言の真意にたどり着いたさやかは善は急げといわんばかりの行動の早さで、杏子に礼がわりに調整の代金を伝えながら視線の先で大暴れを繰り広げているフェリシアの元へ飛翔する。

 

「しっかし、コネクトって与える側はともかくだけど、結構それを受けとる側にも引っ張られるよな。マミの時は攻撃がビームに変わった上に飛び回るようになっちまったし………………どうなるんだろな。」

 

肩に担いでいた槍を振るい、自分の周囲にいた魔女モドキたちを一閃しながらのつぶやきに答えるものはいなかった。

 

 

 

 

 

 

「深月フェリシア!!」

 

「なん………だよ!!邪魔……すんなぁ!!!」

 

フェリシアの近くまで来たさやかは彼女の名を呼ぶ。それにフェリシアは怒気を含めたようなイラついている口ぶりをしながら、物理学的な観点で見てみれば膨大な質量を有しているであろうほどの大きさのハンマーを軽々しく振るい魔女モドキたちを蹴散らす。その風圧からさやかの程よく肩まで下ろした水色の髪がひどく風に煽られるが、不思議と戦闘の余波が飛んでくることはなかった。

さやかから飯をおごってもらった彼女なりの礼なのかは定かではないがともかく、現状暴走状態のフェリシアにも、まだ周りのことを考えられる理性があることをさやかは察する。

 

「お前の抱えているその魔女への恨み。一体なんのためにその復讐を果たすつもりだ?」

 

「オレの父ちゃんと母ちゃんは魔女に殺された!!優しかった父ちゃんと母ちゃんを奪った魔女がこの中にいるかもしれないんだ!!だから、オレはぁ!!!」

 

さやかの問いは普通であればよほど親しい仲の人間であっても到底話せる内容ではない。しかし、フェリシアは戦闘での精神の高ぶりかはたまた目の前に自分の両親の仇がいるかもしれないという満杯になった器からあふれる水のようにとめどない感情の発露からまだ会ってからそう時間のたっていないさやかにすらその復讐心を吐露する。

しかし、そのフェリシアの復讐心にはいくつかの疑問が湧いて出るのがさやかの正直なところであった。まず大前提、話の口ぶりからしてフェリシアはその仇の魔女の姿を覚えていないようにも思える。そうでなければ、魔女という存在そのものに対して今の彼女のように過剰反応のような怒りを湧きあがらせるのだろうが、ならばなぜその復讐したい相手の特徴を明確に覚えていない?

 

 

魔女の姿形を認識できないほどの短時間で両親を殺害された?

 

ならなぜフェリシアだけ生き残れた?魔女の行動はさながら獣のソレに近い。獲物とされたのなら逃す可能性は低い。

 

フェリシアがその殺害現場に居合わせていなかった?

 

ならなぜ彼女は両親の仇を魔女であると漠然的ながらにも断定している?インキュベーターの告げ口で知ったのだろうか?

 

 

フェリシアの言葉にさやかはつぶしては湧いて出る終わりのない可能性の坩堝にはまりそうな錯覚を覚える。結論として今は考えるべきことではないと無理矢理思考を打ち切るさやか。

 

「お前の戦う理由は理解した。だが、その脇目も振らない戦い方はやめておいた方がいい。人は常に100%の全力を出せるほどうまくできていない。それは魔法少女であろうと、例外ではない。」

 

「なんだよ………なにがいいたいんだよ!!お前は!!」

 

さやかの言葉の言い回しになにか癪に障るものがあったのか、フェリシアは魔女モドキをハンマーの槌で吹き飛ばしながらも鋭い目線と険しい表情を見せつけ、威嚇するようにさやかに向ける。しかし、その獰猛な目線にもさやかは一切気圧されるような様子を見せず、静かに佇む。

 

「両親の復讐のために戦うのは私から特に言うことはないが、まずは自分のことを最優先にしたらどうだ?このような自分自身の命が関わってくる状況まで、お前が復讐鬼である必要はない。」

 

「なんだそれ………………そんなのいったいどうすりゃあいいんだよ!!わかんねぇよ!!」

 

復讐は全くもってするのは構わないが、まずは自分を大事にしろという言葉に戸惑うようにしながらも巨大化させたハンマーを振り回し、魔女モドキと蹴散らすフェリシア。しかしその様子はなんというべきかハンマーに振り回されているようにも思えた。まるで両親を魔女に殺されたことでそれ(復讐)にしか執着することができなくなったことに振り回されているように。

 

「決まっている!!」

 

そうと感じたさやかは粒子量を増大させて浮遊すると、がむしゃらに暴れているフェリシアの元へ無造作に接近する。しかし、今のフェリシアに近づくことは嵐の中に身を投じることと同義である。声の届く少し離れた場所から髪を荒々しく煽ることができるのだからその風圧はすさまじいものとなる。実際、近くまで飛んできたさやかだが、フェリシアの戦闘が生み出す衝撃波といった諸々に不意に体が浮き上がるような感覚がすると、さやかの身体が風にあおられたようにわずかにバランスを崩す。

 

「あ    お、おい!!!」

 

そのさやかの様子にフェリシアはたまらず戦闘を中断し、さやかに向けて手を伸ばす。その時の彼女の表情は先ほどまで見せていた復讐鬼の表情ではなく、純粋に他人を心配しているどこにでもいる少女の表情だった。その彼女の表情をしっかりと見たのか、または元からフェリシアに自ら手を伸ばさせることが目的だったのか、もしくはその両方か。ともかくこれ幸いというように伸ばされたフェリシアの手を掴み取るとフェリシアのハンマーの持ち手に足をつける。

 

「共に行こう、深月フェリシア!!まずは陰気臭いこの空間を吹き飛ばす!!言うならば、換気の時間だ!!」

 

自分の手を握り込み、そう息巻くさやかに目を丸くして茫然とその様子を見つめるフェリシア。しかし、さやかの身体がほのかに輝き、その輝きが繋がれた手を伝ってフェリシアに移ると、ただでさえ大きかったフェリシアのハンマーの槌が脈動するようにさらに巨大化していく。それを見たフェリシアはさやかとコネクトが発生したことを察し、呆けたような目線をさやかに向ける。

その目線にさやかの反応はわずかに口元を上げた笑みを浮かべ、静かにうなずくことだけだった。

 

「………………おっしゃあぁぁぁぁ!!オレに、ま・か・せ・と・けぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

フェリシアが空高く脈動を続けるハンマーを掲げる。そのフェリシアの声にハンマー自身が応えたのか槌の部分をどんどんと巨大化させると、やがて槌が巨大化に耐え切れず枷から外れるように外装が分離していくと、そこから光輝く視覚化されるほどの膨大な紫色のエネルギーで構成された新しい槌を出現する。その紫色の光は不思議と怪しげなものとと感じさせることなく、結界全体を照らす。

 

「………………まーたうるさそうなのが増えそうだな………………こりゃ。」

 

(あら、私は結構騒がしいのは好きよ?見ているだけでこっちも楽しくなるもの。)

 

「あっそ。まぁ、人手が増えること自体にあたしも構いやしないんだけどさ。」

 

その様子に杏子が軽く頭を抱え、面倒くさそうに見ていると、念話でマミの好意的に見ている言葉が送られてくる。それにため息をつく杏子だったが、自身も別に構わないという旨を明かしながらお菓子を口に咥えると、その様子を静観する。

 

 

「全部まとめて………………吹き飛びやがれ      ッ!!!!!!」

 

巨大化に巨大化を重ねたようなサイズまで大きくなった紫色に輝くハンマーをフェリシアは結界の地面に自分の持ちうる全力をもってたたきつける。その瞬間、たたきつけた地点から以前までのとはくらべものにならないレベルで爆発したような膨大な光と猛烈な衝撃波が魔女モドキたちを消滅させる。それどころがハンマーの勢いは止まらず、結界の地面にヒビが生じると全く間に結界全体に広がっていき、その瞬間、ガラス細工が砕けたような甲高い音とともに崩壊し、結界を構成していた部分は白く変色した光にかわり、元の足元に水が張った地下空間に戻っていた。

 

「………………お前たちが操っていた使い魔たちは全滅し、その結界は崩れた。残るはお前たちだけだ。」

 

さやかは視線の先で身を寄せ合っている天音姉妹にGNソードⅡブラスターの銃口を向け、事実上のホールドアップを宣告する。しかし、当の二人は戦闘の疲れからなのか、肩で息をするように呼吸を荒くしているだけで何も言葉を返さない。

 

「投降してくれ。お前たちのソウルジェムも黒く濁っている以上、これ以上の戦闘行為は無意味だ。」

 

何も返答をしない天音姉妹にさやかは警戒心をにじませながらも再度降伏勧告を行う。集まってきた杏子たちも天音姉妹の動向を不信に思い、怪訝な表情を露わにしていた。

 

「ソウルジェムが黒く濁る?それは全くもって好都合でございますわ。」

 

「君たちは今から神浜市で魔法少女が救われる、その奇跡を目撃するんだよ。」

 

姉妹の言葉に何かあると踏んで即座に身構えるさやかたち。次の瞬間、姉妹の身体を包み込むように黒い靄が出現する。その靄を見た瞬間さやかは身の毛がよだつような感覚に襲われる。イノベイターとしての直観が姉妹からでてきたあの黒い靄の正体が使い魔とはわけが違う、魔女のものであると警鐘を鳴らす。そしてそれはマミや杏子、そしてフェリシアも例外でなく、ソウルジェムの探知能力であの黒い靄を魔女であると判別したのか、そろって驚愕といった表情を見せていた。

天音姉妹の姿が黒い靄に包まれて見えなくなると、その二人を包み込んだ二つの黒い靄は宙を浮き、蠢き、胎動を始める。そのおぞましい様子にさやかたちはただただ見つめることしかできないでいた。

やがてその黒い靄が固まっていくように思えたその時、靄が晴れ、そこから五体満足の姉妹が現れる。

 

 

「おいおいおいおい!!一体何なんだよ、あれはッ!?」

 

「魔女を………………身に纏っているのよね、アレ。」

 

「な、なんであいつらから魔女が!?」

 

しかし、その様子は先ほどとはまるで違った。月夜はブランコのように座し、月咲はまるでストリップショーのポールダンサーのように頭を下に向けた状態で棒に体を絡ませていた。問題なのは、その姉妹たちそれぞれの周りを取り囲む球を半分に分割し、その上で金環のような巨大な輪っかが目立つまるでアクセサリーのような魔女だった。

 

「それが………………お前たちの掲げる解放か………………!!」

 

「そうだよ。これこそが魔法少女たちを希望へと導く、解放の証。」

 

「その解放の証をその目でご覧になられたことはとても幸運でございます。」

 

「ッ……………」

 

 

最初に顔を合わせたときのように落ち着いた口ぶりで語る天音姉妹たちの様子からかなりの戦闘力を二人が纏っているような魔女が有していることを察するさやか。このまま撤退するのも一案だが、まだウワサの本体をほむらが潰せていない上、そのほむら自身が戻ってきていない以上、ここでの撤退をできない。つまり、どうであれこの魔女を身に纏ったような前代未聞の存在を相手取る以外に選択肢はないことにさやかは舌打ちするように表情を険しくする。地下水道での攻防戦は最終兵器ともとれる切り札の投入により、終わりが見え始めていた。

 

 




次回、ドッペル VS ダブルオーガンダムセブンソード/G+eta

なるべく早めにだせるように頑張ります。少し前に似たようなのやったけど、天音姉妹のドッペルでどうやったらOO7S/Gに勝てそうかコメントしてくれよな!!
送ってくれたら作者の笑いの種になるので。


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第47話 私は十分に幸運よ

なんか評価バーが赤になったり橙に戻ったりと凄く忙しい。いや、評価していただけることに嬉しいこと変わりはないのですが。


先手を打ったのは天音姉妹たちの方だった。魔女をその身に宿したようなその姿にさやかたちが驚愕しているその間に、暗い色相をぐちゃぐちゃにかき混ぜたような色合いをした泥を弾幕のようにばらまいた。

それで我に返ったさやかたちは瞬時にその場から飛びのき、それぞれバラバラに射線から逃れ、目標を見失った泥のような塊は外れ、着弾した箇所に歪な恐怖心を煽るようなオブジェクトをそこに残す。

 

「あまり、直撃を貰うのは体によくなさそうだな!!」

 

「ええ、そうみたいね!!」

 

その様子に悪態をつくようにさやかがそう言葉を漏らすと、たまたま近くいたマミがその言葉に同意しながらマスケット銃を出現させると天音姉妹に向けて一斉掃射をお返しと言わんばかりの弾幕で反撃を行う。その弾幕も先ほどの天音姉妹の弾幕に負けず劣らずの密度だったが、マスケット銃から放たれた実弾はその間を月夜と月咲はその巨体のわりに素早いスピードにまるで鏡合わせのように互いに互いの動きを反転させたような動きで縫うように潜り抜け、あたりそうな弾はさやかの攻撃を受け止めた音による障壁で弾丸を防いだ。

 

「ハァァァァァァァ!!!」

 

「ウオラぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

そこから続けざまに柱の影から杏子とフェリシアが天音姉妹に肉薄し、強襲を仕掛けるが、それも姉妹が展開する音による障壁にもろとも防がれる。そこから姉妹が吹いた和風の笛(篠笛)の音が鳴り響き、二人は弾かれるように吹っ飛ばされた。おそらく音波によるもので吹き飛ばされた二人だが、うまいこと空中で態勢を整え、足元から水飛沫を挙げながらさやかとマミのところまで飛ばされてくる。ケガこそ二人の身体にはなかったが、その表情は想像以上に障壁の硬度が高かったのか、歯がみするように忌々しげにするものを浮かべていた。

 

「まるで攻撃が通じねぇぞ、どうすんだよ!?」

 

「なにかからくりのようなものはあるのでしょうけど、それをいちいち調べる暇もなさそうだし………………」

 

杏子が悪態を吐き、マミが険しい表情を見せながらなにか手はないかと画策する。しかし、その直後に再び泥の塊のような弾幕による攻撃が展開され、さやかたちは回避を余儀なくされる。

 

「ともかく、このままでは埒が明かない。あの奇妙なレベルまで一緒に行動している二人を引きはがし、それぞれで対応するのはどうだろうか!?」

 

「ちッ、それしかなさそうだな!!頭数の比率は変わんなねぇが、あれを常にまとめて相手すんのも無理がある!!」

 

さやかの提案にいち早く杏子が賛同する声を挙げる。ほかの二人も異論はないのか無言でうなずくことでそれを示した。

 

「それなら………………佐倉さんは美樹さんとペアを組んで、深月さんは私と一緒に行きましょう。あなたは暴れるのが一番性にあっているでしょうから、好きにうごいてちょうだい。私が合わせるから。」

 

「お、おう!!わかった!!」

 

「さやか!!お前は切り込んであいつらの間に溝作っちまえ!!」

 

「言い方に些か難があるように思うが………………了解!!一気に目標に飛翔する!!」

 

杏子の言い方に困惑するように表情を浮かべてやや悩ましげにするも、さやかは状況に一石を投じるために、天音姉妹たちにむけて飛翔する。さやかの両肩にあるGNドライヴから放出されるGN粒子のクリアな緑色の光は暗い地下水路の空間を淡く照らし、その光を水面は反射して幻想的な空間を作り上げる。

 

「好きにはさせないでございますわ!!」

 

「月夜ちゃんには近づけさせないよ!!」

 

その空間を駆け抜けるさやかに月夜と月咲は彼女を好きにさせるとまずいことを悟ったのか、先ほどまでの泥の塊の射線をさやかに集中させる。接近すらも許されないくらいの濃密な弾幕だが、逆に言えば接近することに重点を置かなければ、それはただばらまかれているだけの攻撃でしかない。さやかは無理に接近することはなく、二人の視界にいじらしく映り込むように距離を保ちながら、姉妹がマミたちに視線が行きそうなことを察知すればすぐさま横やりでGNソードⅡロングのライフルモードのビームを姉妹に浴びせる。

 

「うう、攻めるか攻めないのかきっちりしてほしいでございます!!」

 

「………………そうしてほしいのならそうするが。」

 

あまりにちまちまとした攻撃を煩わしく感じたのか、月夜が飛び回るさやかに怒りを露わにする。常に隣にいる月咲も似たような表情をさやかに向ける。それにさやかは特に動じることなく淡々と答えるとさやかはあえて目立つように姉妹の眼前に立つと、左肩のGNバスターソードⅡを手にするとその巨大な刀身を天音姉妹たちに向けて左手を添え、盾にするように構え、そのまま突進を行うように天音姉妹たちに肉薄を開始する。

 

「つ……月夜ちゃん!!」

 

「は、はいですわ!!」

 

真正面に突っ込んでくるさやかに姉妹は顔を見合わせるとさやかに向けて泥の塊の弾幕を形成し、即座に発射する。しかし、さやかの全身を完全に隠してしまうほど巨大なGNバスターソードⅡの刀身に阻まれてさやかには塊の破片ですら届かない。

 

「フォーメーションを崩す!!」

 

そのまま勢いで弾幕を突破したさやかは刀身に姉妹の攻撃で泥がへばりついたままのGNバスターソードⅡをスピードを維持したまま月夜に向かってシールドバッシュを仕掛ける。その狙いが自分だと察した月夜はたまらず月咲から離れてさやかから距離を取ろうとするが、それで生まれた差もさやかが少しスピードを上げるだけで易々となくなり、刀身を月夜に押し付け、行動の主導権を奪ったさやかは地下空間を支える柱に勢いよく突っ込んだ。

 

「つ、月夜ちゃん!?」

 

自身が世の中でもっとも信じている片割れが窮地に陥ったことに月咲はひどく狼狽した様子で月夜の安否を心配する。しかし、その安否を確かめる声にさやかが起こした土煙からの返答はない。月咲はそれでも自身と一心同体といっても過言ではないほど通じ合った月夜を信じる。なぜなら自分たちが今纏っているのはドッペルと呼ばれる魔女の力を人の身でありながら行使を可能とした奇跡。その力をしっかりと人間としての理性を保った状態で十全に扱えるのだ。

余ほどのことがない限り、そのドッペルが敗れることはない。そう、思っていた。

 

「ハァァァァァッ!!!」

 

しかし煙幕から姿を現したのはGNフィールドを展開し、身を守っているさやかの姿だった。そのさやかはGNフィールドを展開したまま茫然としている月咲に接近すると両腕に装着したGNカタールで殴るように切りかかる。月咲に振るわれる横薙ぎ、上段切り、下段からの斬り上げのさまざまなカタールの刃の軌跡。それに月咲は反応し、防御こそするも、やはり視線を未だ晴れない土煙の方に向け、目の前でさやかの攻撃にさらされているにもかかわらず、月夜を心配しているのが丸わかりな様子だ。

 

「心配している余裕がお前にはあるのか?」

 

そのことを何気なく聞いたさやかの言葉に、そのあまりにも淡々とした落ち着いている、冷淡な声に月咲は冷や水を浴びせられたような感覚に襲われる。咄嗟に口に添えている笛を思い切り吹き鳴らすと、音波が衝撃波のように変わり、近くまで接近していたさやかを弾き飛ばす。その反撃にすらさやかは慌てることなく空中で態勢を整える。展開したままだったGNフィールドのおかげで多少の衝撃がさやかの身体を揺さぶっただけで外傷は一切ない。しかし、さやかが月咲を見据えたときには既に次の行動に移っていた。

 

「笛花共鳴!!」

 

その笛の音色に込められた魔力は対象の脳に直接音を響かせ、動きを封じる技。対象が一人に限定されるが、その分効果は絶大でほぼ確定で行動不能に陥れることができる。しかしデメリットとして効果は笛を吹いている間であり、その間にも月咲には集中力が求められる。

 

「………?」

 

だが、今回はその相手が悪すぎた。GNフィールドを展開したままのさやかはわずかに圧力のようなものを感じただけで、月咲が望んだような効果が現れる兆しはまるでなかった。

 

「き、効いていないの!?なんで!?」

 

「何かしてきたようだが…………!!」

 

思わず笛から口を離して驚きを露わにする月咲。一応さやかがGNフィールドを展開している時に音波による攻撃に怪我らしい怪我を負っていなかったことから効果が見込めないことを見抜くことはできたかもしれない。しかし、月夜のことで頭がいっぱいになっていた彼女はそれに気づかなかった。

 

そして       

 

 

「あ、あれ……………!?」

 

突如としてガクンと自身のドッペルがまるで背後から何かに引っ張られるようにバランスを崩す。何事かと思い、反射的に振り向くとそこにはドッペルの背部の金環に括り付けられた、所々に節のような箇所が存在する鎖が目についた。

 

「へっへ…………つっかまえーたぁ!!!!」

 

その鎖を辿っていくと、ギチギチと音を鳴らす鎖をしっかりと手綱のように握りながら無邪気な笑みを浮かべ、捉えたことを喜ぶ杏子の姿があった。

 

「なっ…………いつの間に………!?」

 

「お前が不用心すぎんだよ!!相方やられたくらいで動揺すんなら最初から前に出てくんなよな!!」

 

気を取られている間に背後に回られたことに目を見開き驚いている月咲に杏子は笑みを浮かべた表情から一転、不服気に一言つけながら眉を潜めると、手にしていた鎖を肩に乗せ、一本背負いのような姿勢を取ると、ドッペルごと月咲を投げ飛ばそうとする。

 

「くっ…………ドッペル相手に力業なんて…………!!」

 

「隙だらけだ!!」

 

ドッペル相手に普通の魔法少女が力勝負を仕掛け、あろうことか投げ飛ばそうとする杏子の行動を月咲は無謀と思い、逆に鎖ごと杏子を引っ張り上げようとする。しかし、内心で苛立ち、その脳内の思考を月夜への心配で埋め尽くした月咲の姿は隙でしかない。

即座にさやかがその無防備な姿に正面からショルダータックルをかますと本格的に月咲のドッペルは空中での姿勢を崩し、さやかからみて後ろめりになる。

 

「ッ、あ    

 

「たぁりやぁぁぁぁ!!」

 

そして月咲が態勢を崩したところにタイミングを合わせた杏子は鎖を思い切り引っ張り、腕を振り下ろすと、月咲は悲鳴すらあげる暇すら与えられずに柱にドッペルごと叩きつけられ、轟音と土煙にその身を沈めた。

 

 

 

 

「何か広い空洞に出たわね…………ここがウワサの本体がいる空間かしら。」

 

一方、結界からいち早く脱出し、ウワサの本体の元へ向かっていたほむらは鍾乳洞のような洞窟を潜り抜けていくうちに一際広い空間に出る。

その空間は何か建造物の残骸が点在しているような遺跡じみた空間。その中でご丁寧に祭壇のような形状をした階段の天辺に楽器でいうホルンの口のような形状した煙突から泡のようなものを出し続けているとても現実のものとは思えない気色の悪い絵本からそっくりそのまま出てきたような物体が鎮座していた。

 

「………………どう見てもあれね。ウワサの本体をこの目で見るのは初めてだけど、そう魔女と変わりはなさそうね。」

 

次の瞬間、ほむらは左腕の円盤からオートマチック式のハンドガンを取り出し連射。マガジンを打ち切るまでトリガーを引き続けた。

しかし、放たれた弾丸はフクロウ幸運水のウワサが前面に薄い光の幕のようなバリアを展開したことで弾かれてしまう。

 

「一応防御機能はあるのね」

 

淡々と分析をするほむらにウワサはようやくやってきた人物が自分を害する存在であることを認識したのか、泡の代わりにフクロウのような造形の使い魔の群を吐き出すとバサバサと煩わしい羽ばたき音を響かせながらほむらへ襲いかかる。

 

「邪魔よ」

 

その使い魔の群れにほむらは無骨な重機関銃を取り出し、中腰に構えると重厚な発砲音と共に弾丸を掃射する。放たれた弾丸は使い魔の群れをバラバラに霧散させる。

 

「…………バリアは見ている限り常に展開しているわけではない。なら…………」

 

まだ銃口から煙が出ている機関銃を仕舞うとそのままほむらは円盤を回転させる。その瞬間、周囲の時間が停止し、世界が白く反転する。

その中で唯一色を保っているほむらは悠然と階段を登り、全くの障害なしにウワサの目の前まで足を運ぶ。

そしてほむらは円盤からまた別のものを取り出すとウワサの口に向かって梱包された箱のようなものを複数個投げるように放り込む。

 

「幸運水、ね。私にはもう無用な代物ね。」

 

ウワサに向けてそう呟くとほむらは階段を降りウワサから離れたところで懐からスイッチのついた起爆装置のようなものを取り出すと、時間停止を解除すると同時にそのスイッチを強く押す。

 

「巴さんが生存し、佐倉さんとも協力関係を結べた。何よりまどかが契約しないことを約束してくれた。性格がまるで違うとはいえ、あんなにまで私に噛み付いてきた美樹さやかが、支え、そばにいてくれた。」

 

ウワサの身体は一瞬膨らんで赤熱化したかと思えば、数秒後には風船が破裂したように粉微塵になると同時にC4爆弾の盛大な爆発がウワサを内部から焼き尽くす。

 

「だからわたしは、十分に幸運よ。」

 

爆風に煽られる黒髪を抑えながらウワサの破壊を確認したほむらはその場を後にしながらまだ戦っているであろう仲間たちの元へ戻る。爆発の炎に照らされたその表情は見間違うことなく、清々しいものを浮かべていた。

 

 




さっさんのやった動きの元ネタ

赤枠改の前特殊格闘の突進部分

クロスブーストのセブソ新規格闘モーション

フクロウ幸運水のウワサ、終わり!!閉廷!!

次回は口寄せ神社編へ武力介入!!←え、なんで?時系列的にはこれと同時期にやってた。


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第48話 ドッペル

やっぱりガンダムって強えな!!特にダブルオー系は!!


「…………だぁー…………つっかれたぁ…………」

 

月咲をドッペルごと一本背負いをし、まだその衝撃を物語っている土煙を背景にして杏子は水飛沫を上げながら寝そべっていた。

 

「?…………戦っていた時間こそ少なかったはずだが、そんなだったか?」

 

「ちげぇーよ、精神的にだよ精神的。だって多少育った使い魔ばっかでグリーフシードは落とさねぇわ、魔女みたいな力使ってくる魔法少女と戦う羽目になるわでこっちとしちゃ赤字よ大赤字。」

 

その杏子に不思議そうにさやかが声をかけると寝っ転がったままさやかにムッとした不服そうな表情を見せながら色々と派手な戦闘だったにも関わらず、自分たちに全く利益のようなものがなかったことに文句を垂れる。

完全に魔法少女的には骨折り損になったことにさやかは眉を潜めることもなくそれもそうだと納得し、その杏子の文句に心に波を立てるようなこともしなかった。

 

「……………とりあえず、マミ先輩達と合流しよう。一応引き剥がしはしたが、そこから先は二人に任せっきりになってしまったからな。」

 

「その必要はないわね。こっちはもう終わった…………いえ、それ以前のことだったもの。」

 

ひとまず、さやかがマミ達と合流しようと杏子に提案を投げかけていたところにちょうどマミが二人の近くにやってくる。

 

「んお?」

 

「?」

 

そのマミの言葉に杏子が寝っ転がったまま顔を向け、さやかが無言で首を傾げているとそこに遅れてフェリシアがやってくる。豪快に足元から水を跳ね上げながらどこぞのスーパーヒーローのような着地をした彼女に目を丸くする二人だったが、少しするとフェリシアが小脇に抱えている人物に目線がいく。

深紅の色合いをした和服のような格好をしたその人物は天音月夜に他ならなかった。フェリシアに抱えられているにも関わらず、ぐったりとしている様子から気絶しているのが察せられる。

 

「この人、美樹さんに柱にぶつけられて、相手を請け負った私達が戦おうとした時にはもう意識が朦朧としている状態だったの。」

 

「そんでオレが軽くハンマーでたんこぶできるくらいまでに抑えて叩いたらぶっ倒れた。」

 

「た…確かに私は柱にぶつけはしたが………衝撃か何かで昏倒したのか?外傷は見当たらないようだが………」

 

「まぁいいんじゃねえの?手間が省けたし。」

 

まさか月夜と月咲と引き剥がすために天音月夜の方を柱にぶつけたが、それが原因で月夜がノックアウトするとは微塵も思っていなかったのか気まずい表情を見せるさやかに杏子が手間が省けたと別に気にすることじゃないと言うように気遣う。

 

「そ、そうか。ところでほむらの方はまだなのか?念話か何かで連絡は来ていないか?」

 

「暁美さんは…………そうねぇ…………一応魔力反応は感知できているから大丈夫だとは思うのだけど…………」

 

話題を切り替えるついでにほむらの安否に対して言及すると、どこか心配そうな表情を見せたマミが一応は大丈夫だろうと答えた。

その次の瞬間、今まで天井に張り付くように張っていた水が突然魔法が解けたように地球の重力にしたがって地面に全て地上に落下し、閉鎖空間での音の反響も相まってすごく耳障りな音が響き渡る。

 

「つ、冷たッ!?今度はなんなんだよ!!また敵かっ!?」

 

「いや、どうなんだこれは…………?」

 

突然のことにフェリシアが思わず警戒心を立たせるが、さやかはその現象に判別がつけられず困惑した表情を見せる。

 

「安心しなさい。おそらく私がウワサの本体を倒したからでしょう。」

 

「暁美さん!?いつの間に…………その様子だと特に問題なく倒せたみたいね。」

 

いつまにかほむらが戻ってきたことに皆揃って驚いた表情を浮かべるが、マミから安堵の表情を向けられるとほむらは黒髪を軽くまとめ、それをたなびかせる。おそらく、みんなが揃って気づかなかったことから、ほむらは時間停止を使って帰ってきたのだろう。

 

「ええ、途中でマギウスの翼の構成員と鉢合わせるわけにはいかなかったから、さっさと戻ってきたわ。それとやっばりウワサの本体はグリーフシードは落とさないようね。雰囲気は似ているけど、根本的に魔女とは異なる存在なのでしょうね。」

 

「ということは、とりあえずそこのフェリシアの不運はなんとかなったってことか。で、どうする?コイツら。」

 

ひとまずフェリシアが連続して不幸に見舞われることは回避したことを確認し合うと杏子の視線が完全に伸びている天音姉妹に向かうと、それにつられるように三人の目線も姉妹に向けられる。

 

「アタシはさっさと叩き起こして色々吐かせた方がいいと思うぜ?さっきの魔女を身に纏った状態が一体なんなのかも気になる。」

 

「魔女を身に纏う…………?そんなことができるの?」

 

「実際この二人はやってきた。まぁ、倒せないほど強力ではなかったのが功を奏したのかこの通りだが。」

 

魔女を身に纏うという荒唐無稽な話にその場にいなかったほむらは怪訝な表情で尋ねるが、さやかは実際にその状態で仕掛けてきたのだから事実だと言いながら柱に寄れかかって気絶している月咲を肩に背負う。

その時にたまたま彼女のソウルジェムと思われる胸元の赤い宝石に目を向ける。

 

「……………どうやらあの魔女を身に纏ったような状態を発動させると、これまで溜まっていた穢れが消失するようだ。直前まで見えていたはずの穢れが綺麗さっぱり無くなっている。」

 

そう言われ、さやかが肩で担いでいる月咲の胸元にその状態と戦ったマミ達の目線が向けられると皆揃って納得した声を上げる。

 

「つまり、神浜市で穢れが溜まりきるとあんな風に自動で穢れを浄化するようなシステムみたいなものがあるから解放されるってことなのかしら?」

 

「だったらなんで奴らが魔女とかウワサ使って他人を襲わせる必要があるんだよ。」

 

「私的には神浜市限定でインキュベーターが機能停止してしまう状況も関係ありそうな気がしないでもないのだが。」

 

「……………ともかく、まずはその二人をどこかに寝かせるなりしたらどうかしら?一応ここはマギウスの翼とやらの拠点のようだし、あんまりゆっくりしていると不審に思った連中が来るわよ。」

 

てんやわんやとさやか達が話している時にほむらが鶴の一声をあげるように姉妹をとりあえずどうにかした方がいいと優先事項を伝えると議論を白熱させていた三人は少々恥ずかしそうにすると姉妹を地下空間にあった教会にある巨大なパイプオルガンのような場所の水が敷かれていない床に二人を寝かせた。

 

「なぁなぁ、ちょっと一つ聞きたいことがあるんだけどさ。なんであいつらから魔女が出てきたんだ?」

 

姉妹を床に寝かせるとフェリシアが唐突に魔法少女から魔女が出てきたその理由を尋ねる。その突発的な疑問にさやか達は咄嗟に表情を面に出さないように固く硬らせる。

 

(どうする?)

 

(そうよね、言われてみれば結果的に生きているとはいえ魔法少女の身体から魔女が出てくるっていうかなり不味いところを見られているのよね………すっかり忘れていたわ。)

 

(アタシは隠すに一票。これはそうそう受け入れられるもんじゃねぇよ。といっても時間の問題だとは思うけどよ。)

 

(そうね。私も余程隠せない状況にならない限り、これは話すことではないわ。)

 

「?…………どうして揃って黙ってるんだ?」

 

「……………いや、少しそれどころでは無くなってしまったようだ。」

 

「え…………美樹さん?」

 

最終的にソウルジェムと魔女の関係性を話すことはやめておくことで固まったさやか達。しかし、話をはぐらかそうとしたところに唐突にさやかがそれどころではなくなったと状況の変化を確信した言葉に怪訝な視線がさやかに向けられる。

さやかはその説明を求める視線に答えるより先に背後のパイプオルガンのような地下空間に似つかわしくない荘厳な祭壇の方を振り向くとGNバスターソードⅡを引き抜き、その剣先を向ける。

 

「出てきてほしい。どのみちそちらから出てくるのは折り込み済みなのだろう?」

 

「え、まだなんかいやがんのか?特にそれっぽい反応はねぇんだけど…………」

 

「そうみたいね。だけど、美樹さんの直感というか気配察知能力はかなり信頼できるから何も言わないけど…………」

 

「いまさらね。もう何も言うことはないわ。言ったところで変わるわけないもの。」

 

「なんかタイミングよく話逸らされた気がすんけど…………まぁいいや、おいこら!!さっさと出てきやがれー!!」

 

さやかが戦闘態勢に入ったことに狼狽えながらも杏子達はそれに連なって各々の武器を取り出す。フェリシアも悩ましげな表情を見せていたが、とりあえず話は後にすることにしたようでハンマーを構えた。

 

「…………貴方がたは、ウワサを消して回っている魔法少女ですね?」

 

やがて観念した様子なのか、パイプオルガンのような祭壇の麓から黒羽根を複数人伴った魔法少女が現れる。その魔法少女は黒羽根や白羽根とは違い、ケープで姿を隠しておらず、さやか達より歳が上のように見える落ち着いた雰囲気の女性だった。言うならば七海やちよと同じギリギリ成人していない19歳のような大人びた印象を受ける。服装は白いファーのついた格好に側頭部から一瞬髪かと見間違うほどの長いリボンがつけられていた。

 

「そうだ。そちらで言う黒羽根の魔法少女達がここまで私達のことを知らずに連れてきてくれたからそこまで下の人間まで情報を回してはいなかったようだがな。」

 

先頭の魔法少女の質問に皮肉が入り混じった言葉で平然とそう答えるとさやかは構えたGNバスターソードⅡの剣先を収め、左肩に懸架させて戻すと、落ち着き払った様子で腕を組んで佇む。すると両者の間で張り詰めた雰囲気が支配する中、黒羽根の先頭に立っている魔法少女が少しばかり視線を下におろして心配しているような表情を見せるのにさやかは気づいた。その視線を辿っていけばさやか達の近くで寝かされている天音姉妹の二人に目線が向けられているようだった。

 

「気絶しているだけだ。そこまで不安になる必要はない。彼女らと戦った相手から言われても何も信用はできないと思うが。」

 

「ッ………………そ、そうですか…………その子達が無事なのはワタシとしてもホッとできるのですが…………」

 

それを察したさやかが姉妹の無事を伝えると敵対している相手から気遣われたことが気不味いのか視線を逸らしながらもその礼の言葉を言う。さらにさやかが横たわらせている天音姉妹から距離を取る。さながら天音姉妹の身柄をマギウスの翼に譲っているように見えた。

 

「あの………それは一体どういうつもりですか?」

 

それが気になった白髪の魔法少女は怪訝な表情を見せながらさやかにその行動の真意を問いかける。

 

「どういうつもりと言われてもだな、そこの姉妹はお前たちの仲間なのだろう?それに向こうから情報を話してくれたから少しばかりだがお前たちマギウスの翼に関する情報を手に入れることができた。お前たちの上にはマギウスと呼ばれる三人組、おそらく魔法少女がいることとお前たちが解放の象徴としているドッペルについてだが。」

 

さやかが答えのついでにそう言うと、その魔法少女は頭を悩ますように額に手を当て、ため息をついた。

 

「ん…………んん、まだ背中が痛いでありますわ………………!!」

 

「あ、頭が………………痛い………………」

 

その時、先ほどまで気絶していた天音姉妹が意識を取り戻し、むくりと上体を起こすと黒羽根を率いていた魔法少女と黒羽根たちの目線が姉妹に向けられる。

 

「ピィッ!?み、みふゆ様ッ!?も、申し訳ございま    

 

「今だ!!逃げるぞ!!」

 

状況をとりあえず理解したのか、月夜が黒羽根を率いてやってきた魔法少女を視界に収めると慌てた様子で彼女の名前を口漏らしながらウワサを破壊されたことの謝罪をしようとしたところにさやかが突然声を張り上げたと同時にGNソードⅡブラスターのビームを水面に撃ち込んだ。

ブラスターの熱量で瞬時に温度を跳ね上げられ、一気に気化された水は小規模な水蒸気爆発を引き起こし、発生した水蒸気が辺りを包み込む。

 

「うぐっ………………なんて姑息なことを………………!!」

 

爆風に煽られ、歯を食いしばるみふゆは手に巨大なチャクラムのような円環の刃物を取り出すと、それを振るい水蒸気を霧散させる。そしてさやかたちがどこにいるか目を凝らすが、地下空間からさやかたちの姿は消えていた。すでにさやかたちが目標としていたフクロウ幸運水のウワサは撃破されている以上、さやかたちがいる必要性はない。脱出を最優先にして撤退したのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「どうやらうまいこと撒けたようだな。」

 

「まったく、貴方のスピードには誰もついていけないのだから余計に時間停止を使う羽目になったじゃない。」

 

「び………………びっくりした………お前、あんな速さで動けんのかよ………」

 

地下空間から脱出したさやかたちは地上の建物のエントランスらしき場所へ出てきた。追撃がないことを建物への入り口に視線を向けて確認しているさやかを尻目に、脱出を最優先にしたばかりにさやかにおいていかれそうになり時間停止を駆使して杏子とマミを半ば無理矢理ついてこさせられたことに文句を垂れるほむら。そしてフェリシアはさやかに首根っこを掴まれる形でダブルオーの加速を体感し、その速さに目を丸くして茫然としてた。

そのことは流石にさやかもあまりにも突然に行動を起こしたものだったのかすぐにみんなに対して謝罪し、元々ウワサへの強襲を夕方ごろに行ったためか、日はほとんど沈みかけ、わずかなオレンジ色が夜空を彩っていた。

ようやく帰路につけると思っていたその時      

 

 

「もきゅきゅ       !!!」

 

突然さやかの胸めがけて小動物のような鳴き声をあげながら小さな白いナマモノが飛び込んでくる。咄嗟にさやかが驚きながらもそれを抱きかかえる、その白いナマモノの姿を見つめる。毛がまるでない白くつるっとした体にぴょこんとついた二つの耳。そして澄み渡った真紅の瞳。それはまさしくある意味さやかたちには見慣れたインキュベーターだった。しかし、そんなインキュベーターだったがそれは見てきたものより、一回りサイズを子供っぽく小さくしたようなフォルムで、人語を介さず、抱きかかえたさやかの服の袖を一生懸命に引っ張っていた。まるでその姿は必死にさやかにどこか行ってほしい場所があるかのようだった。

 

「こいつ………キュウべぇだよな?にしてはなんか小さくねぇか?」

 

「そう………ね。それにしゃべらないし………」

 

「オレこんなキュウべぇ見たことねぇぞ。」

 

杏子とマミはそのインキュベーターを不思議そうな表情でまじまじと見つめ、フェリシアも初めてみたような反応を見せ、そしてほむらは明らかに不機嫌な表情を見せ、いまにも拳銃を抜きそうな雰囲気を見せていた。

 

 

「もしかして、お前がいろはの言っていた小さなキュウべぇか?」

 

さやかはその小さなインキュベーターを見つめているうちにいろはが自身の妹であるういの存在を思い出すきっかけとなった小さなキュウべぇのことを思い出す。そして確認ついでにそういうと、その小さなキュウべぇはうなづく反応をすると、またすぐにさやかの袖を咥え引っ張りはじめた。

 

「………………自意識はあるようだが………ッ!?」

 

ちいさなキュウべぇがまるで自分を必要としているように服の袖を引っ張る姿に見当をつけられないでいると、突然さやかの脳内にビジョンのような映像が浮かび上がる。

 

それは木製の和風の橋のようなものが空間中に張り巡らせられた魔女の結界のような空間の中にいろはとやちよ、そしてもう一人、二振りの扇を手にした味方の魔法少女が閉じ込められている場面だった。三人は魔女に追い回され、疲労がたまっているのか険しい表情を見せ、その中でもいろははやちよに担がれて、みるからに衰弱しているようだった。

 

「お前………もしかして三人を助けてほしいのか?」

 

「!!………もきゅもきゅ!!もっきゅ!!!」

 

そのビジョンを見たさやかがいろはたちが危機的状況に陥っているとみると、そのビジョンを観させた小さなキュウべぇに尋ねる。そしてそのキュウべぇからの返答とみられる反応はまさに人間でいう肯定を表すように首を縦に振るものだった。

 

「………………すまない!!先に帰ってくれ!!すぐに救援に行ってくる!!」

 

『ええっ!!??』

 

さやかの申出にマミたちがそろって驚いているうちにさやかはその小さなキュウべぇを抱えたまま神浜市の夜空に飛び立っていった。残されたマミたちはダブルオーのGN粒子のきらめきの行く先を視線で追うだけで茫然とするのだった。

 

「キュウべぇ。お前は小さいとはいえ意思疎通を図ることができるみたいだな!!飛び出したところすぐだがナビゲートを頼む!!」

 

「も、もきゅ!!」

 

さやかの声にこたえるようにその小さなキュウべぇは必死に顔をむけるなどをしてさやかにいろはたちのいる方角を示し続ける。時間にして10分もたたないうち、ちょうどそこに地図があったら水名区と呼ばれる地域に差し掛かったところでさやかは魔女の気配を感じ取る。そのさやかが感じた魔女の気配と小さなキュウべぇが指し示した方角は同じだったらしく、さやかはその魔女の気配を頼りにいろはたちのところへ急ぐ。

 

「あ、あれかッ!?」

 

「もきゅもきゅ!!」

 

どんどん高度を下げていくうちに水名区の神社にやちよとビジョンでみた扇をもった魔法少女の姿が見えてくる。そして肝心のいろはがいないことにさやかは一瞬嫌な予感が脳裏をよぎるが、その予感は悪い意味で外れることとなる。

いろはがシーツのような白い布で目がふさがれ、拘束されていると思ったさやか。しかしその考えはすぐに否定されることとなる。いろはの桃色の髪が不自然に延ばされ、まるでいろはの髪から生まれた鳥のような造形の魔女。

そこでさやかは確信した。あれはいろはを拘束している魔女ではなく、いろはが生み出したドッペルであるということを。

 

「となるとあれは一種の暴走状態か!!」

 

いろはの状態を暴走していると見たさやかは小さなキュウべぇを左腕で小脇に抱えるとGNソードⅡブラスターを手にし、鳥のような顔のついたいろはのドッペルに接近する。ちょうどやちよたちに二人に攻撃をしようとしたドッペルはさやかの急接近に気づいたのか、ターゲットをさやかに変更すると、体を構成しているのであろういろはのケープと同じ色をしたピンク色のマントのしたからシーツのような布を出し、さやかに向けて攻撃する。

 

「その程度!!」

 

「あ、貴方!?どうしてここに!?」

 

さやかがそのシーツをバレルロールや大きく旋回することを駆使しながら回避行動を取ったところでさやかの存在に気づいたやちよが驚きの声を上げ、何故ここに来た理由を尋ねる。

しかし、さやかはそれに答えられる余裕はなかったため、やちよの言葉を無視してシーツの結界を突破し、ドッペルに肉薄する。

 

「ハァァァァァァ!!!!」

 

そしてそのままドッペルといろはを繋げている髪の毛に向けてGNソードⅡブラスターの銃剣を振り下ろし、いろはからドッペルを引き剥がす。

繋がりを断ち切った瞬間、ドッペルは身体を維持できなくなったのか、そのまま幻のように消えていき、いろはが真っ逆さまになったところをさやかが抱きとめた。

 

「間に合った…………のか?」

 

怪我らしい怪我は見当たらないとはいえ、ソウルジェムの真実など知っているさやかは恐る恐るいろはの呼吸を確かめるために、いろはの口に手をかざした。

かざした手のひらにはいろはの吐息が当たる感触があり、意識はなかったが、しっかりと呼吸をしていることにさやかはしっかりといろはが生きていることを認識し、安堵のため息を漏らした。

 

「……………貴方、どうしてここに?」

 

「ん………別のところでウワサの本体を叩いていたのだが、コイツに   

 

駆け寄ってきたやちよにさやかは自分を連れてきた張本人である小さなキュウべぇをやちよに見せようとしたが、何故かその小さなキュウべぇはいつのまにか忽然と姿を消していた。

 

 




ちょっとした報告


正直に言いますと今年の投稿はこれが最後だと思います。もしかしたら年末に書く機会ができるかもしれませんけど、期待はしないでください。
それでは皆様よいお年を!!






来年になった瞬間にコロナ消し飛んでいかねぇかな……………割とマジで


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第49話 元からこんな町よ、神浜市は

皆さま、新年あけましておめでとうございます。

2020年は例のウイルスのせいでコミケをはじめとするイベントが軒並み中止となってしまい、わんたんめん的にはひどく淡泊な年となってしまいました。
今年はいつも通りとまではいかないけど、少しでも元の日常が戻ってくれるといいなぁ………………

ともかく、今年もさっさんの物語も楽しんでいただければと思います。


1/6

後の展開と齟齬が生じるため、一部編集による修正を行いました。


「あ、貴方………どうしてここに………………!?」

 

「七海やちよか………………どうしてと言われてもだな………………」

 

突然現れたさやかにやちよはその驚きから礼をいうより先に疑問をぶつけてしまう。その疑問にさやかは困ったように後頭部の手を回し、髪を触っているしかなかった。自身をここへ導いてきたあの小さなキュウべぇはすでに姿を消し、その場からいなくなっているのだから、説明をするのが少しばかり難しい。

 

「やちよししょー、この人は………………?知り合い?」

 

そんな時二人の間に割って入るようにやちよの隣にいた魔法少女がやちよとさやかの関係性について尋ねた。

 

「………………たまたま魔女がいたところに居合わせただけよ。」

 

「まったくもってその通りだな。それで、聞き返すようだがアンタは?」

 

「わたしは由比鶴乃!!最強の魔法少女だよ!!」

 

さやかに問われた魔法少女は手にしていた二振りの橙色の扇を勢いよく広げるとその扇を構え、決めポーズをするようにしながら、自分を由比鶴乃と名乗った。

 

「………………彼女、()()()こんな感じなのか?」

 

その自己紹介の仕方に思わずさやかは鶴乃の隣に立っているやちよに微妙な表情を向けたまま聞いてみるが、その彼女から返ってきたのは言葉による返答ではなく、呆れたようなため息だった。

 

「………………」

 

「え………………えっと………?」

 

そのやちよの反応を無言の肯定と見たさやかはなぜか神妙な表情でまじまじと鶴乃の顔を見つめる。さすがにじっくりと見定められるように見られるのは慣れていないのか、鶴乃ははりつけたような笑顔を浮かべながら首をかしげる。

 

「ん………すまない。気を悪くさせたな。」

 

「ええっ!?そ、そんなこと、ないよ!?」

 

ふとしたところで鶴乃の表情に気づいたのか、さやかがまじまじと見つめていたことを謝罪してくる。その謝罪に鶴乃は鳩が豆鉄砲を受けたように目を丸くして呆けるとわたわたと慌てる様子を見せる。

 

「自己紹介が遅くなった。私の名前は美樹さやか。見滝原市の魔法少女だ。」

 

「ほえー、見滝原から………どうしてそんな遠いところからわざわざ神浜市まで?」

 

「まぁ………ここに来たのは偶然だが……七海やちよ、アンタと情報を共有しておきたいことができた。」

 

気絶しているいろはを抱えながら立ち上がると、鶴乃の質問にやちよに用があると答えるさやか。その言葉にやちよは表情を引き締め、険しいものに変えるとしばらく考え込むように目線を下に下げる。

 

「………………わかったわ。環さんのこともあるし、ウチに来るといいわ。でもアナタ、家の人はどうするつもり?今時の中学生はそんなに遅くまでは居られないでしょう?」

 

「ちゅ、中学生!?さやかちゃんってわたしより年下なの!?なのにどうしてそんなにお姉さんみたいな雰囲気があるのかなッ!?」

 

「中学二年だ。それと親には適当に連絡はつけておく。」

 

さやかの年下とは思えない雰囲気に鶴乃が不服そうにしながら突っかかってくるが適当にあしらいながらさやかは端的に緊急性を伝えようとする。そのさやかの抱えている緊急性を感じ取ったのか、やちよの表情はより一層険しいものに変わる。

 

「そう。わかったわ。鶴乃、貴方は今日のところはもう帰りなさい。」

 

「ええ   !?そんな   !!それは流石にあんまりだよ、やちよししょー!!まぁ万々歳の仕込みもまだ終わってないからどのみち帰るんだけど!!じゃあね!!もし近くまで来たら万々歳をよろしくね!!待ってるよ!!」

 

やちよから帰るように促された鶴乃だが、自分だけがハブられているような状況に納得が行かなそうだったが、彼女には彼女でやることがあるのか、わめきたてながらも意外とすんなりと帰っていった。自分がやっていると思われる店の宣伝をしながらだったが。

 

「万々歳?彼女は料亭でも営んでいるのか?」

 

「あの子は中華料理屋の娘ね。味は………………普通ね。量は一食にしては多いけど。」

 

やちよの簡単な説明にさやかは納得する頷きを見せると未だ目を覚まさないいろはを背中に背負ってやちよの自宅に向かおうとする。

 

「コイツを使ってくれ。時間も時間だし、その方が早いし、悪目立ちすることもないだろう。」

 

「これは………………なるほどね。」

 

そういってさやかが出したのはザンライザー。要するにその機体に乗ってくれというさやかの促しにやちよが合点のいった表情を見せるとその上に登り、腰を下ろした。それを確認したさやかはいろはを落とさないように担ぎなおすとGNドライヴを稼働させ、暗くなった神浜市の空へ飛翔する。やちよを乗せたザンライザーもさやかの動きに追従するように浮き上がると同じように空へ飛び立った。

 

(そういえば、GNドライヴを装着しているこの肩の装甲、意外と可動域が広いんだよな………………前に持ってきてGN粒子で目くらましとかもできるのか?)

 

GNドライヴを自分の後方に向けながら飛んでいる姿を想起したさやかはふとそんなことを考えるのだった。

 

 

 

 

「すまない。いろいろ乗せられているから乗り心地はあまりよくないと思うが………………」

 

「気にしなくていいわ。その間に話せることは話しておいた方がいいかしら。改めて聞くけど、どうして私たちが戦っていたところに?」

 

「そうだな………………小さいキュウベェというのに聞き覚えみたいなのはあるか?」

 

高度を上げたことで気温は低くなり、春にしては冷たい風が吹く。やちよ曰く先ほどまでいた水名神社とやちよの自宅は陸路ならともかく、直線距離ではそれほど遠くないらしい。そんなわずかな時間でも済ませられる話は済ましておきたいといわれたさやかは出だしに自分をここまで導いた小さなキュウベェについて尋ねる。

 

「ええ、実物を何回か見たことがあるわ。でもそれは環さんになついているところをたまたま見かけただけ。思えば、彼女の前によく姿を現していたわ。」

 

やちよからいろはの前によく小さなキュウべぇが姿を現すと聞いたさやかは自身が背中に背負っているいろはに少しだけ目線を向けると、そうか、と一言だけ呟いてすぐに視線を前へ戻す。

 

「私は、仲間たちと共にこちらの調査で引っかかったウワサの捜索を神浜市の東で行っていた。」

 

「東側で………………西の地域とはまるで雰囲気が違ったでしょ?」

 

「確かに雰囲気は大分違ったな。西側が開発の進んだ都市だとすれば、東側はさながら退廃感のある地域だ。いささかここまで地域で差があるとなにか陰謀めいたものを感じてしまうが………………なにかあるのか?」

 

「………………元からそういう町よ、神浜市は。」

 

 

やちよの言い方に少しばかり訝し気に眉を顰めるさやかだが、今は追究しておく時間ではないとし、自分がいろは達の救援に入るまでのことの顛末を話し始める。ただ、マギウスの翼やドッペルに関することは別途で説明するとして、そこらへんの話は省いて行うことにした。

 

「なるほどね。そのフクロウ幸運水のウワサを倒し、外へ出たところでその小さなキュウべぇが現れたのね。」

 

「ああ。私自身、いろはから聞いただけで実物を目にしたのは初めてだった。だが、いろはが気になるというのも頷ける。あれは、他のキュウべぇとは違うなにかがある。」

 

「………………聞かせてもらってもいいかしら?」

 

さやかの言葉にやちよは彼女の顔を横から見つめ、さやかの言う他のキュウべぇと違うと言ったその理由を尋ねる。

 

「あのキュウべぇからは、意思を感じた。助けてほしいというという明確な意思が。あれは動物かなにかというより………………人のモノに近かった。」

 

「意思はともかく、人の…………?まさかとは思うけど、あの小さなキュウべぇに人が入っているとでもいうつもりかしら。私の方から聞いておいてだけど、でたらめもいいところよ。」

 

「………………でたらめ、か。」

 

あの小さなキュウべぇには人のモノに順じているような意思があるかもしれない。そのことをやちよは与太話だといってあまり聞く耳を持っていない様子だった。別段さやかもその話を信じてもらおうとは露にも思っていなかったため、さやかは悩ましげな表情を見せただけで反論はしなかった。

 

 

 

 

「このあたりね。高度を下げてもらえるかしら。」

 

「わかった。細かいナビゲートは頼んだ。」

 

水名神社を飛び立ってから少しすると、やちよの自宅付近までやってきたのか、やちよから高度を下げてほしいという声がかかる。その声に従って、さやかがザンライザーと共に高度を下げていく。そしてなるべく人の目につかないように注意を払いながら二人が降り立ったのは、「みかづき荘」と立札のついた中々規模の大きい屋敷だった。

 

「民宿を経営しているのか?」

 

「民宿というより、シェアハウスに近いわね。でも今は私が管理者ではあるから、経営しているといわれればそうかもしれないわ。」

 

みかづき荘という名前からさやかはその屋敷が民宿用のものであると思い、やちよに尋ねたが、その質問にシェアハウスと答えながらやちよはみかづき荘の玄関の扉の鍵を開ける。

 

「そういえば………………一人入居希望の書類が来ているのよね………………最近は忙しかったとはいえ、そろそろ何かしらの返答を返さないと………………」

 

そんなつぶやきをこぼしながら扉を開けて中へ入っていくと、そのあとを追ってさやかもみかづき荘の中に入っていく。中は管理主がキチンとした人物であるのが如実に感じられるように清潔感が常にあり、部屋の随所にあるアンティークのおかげもあって一言で言えばきれいな空間であった。

 

「空き部屋は?」

 

「なければ誘っていないわよ………………こっちよ。」

 

やちよの案内でむかった先はみかづき荘の二階にある一室。しかし、その扉には掛札がかかっており、それに気づいたさやかがそれに目線を向けると、その札にはかわいらしいビーズやアクセサリーで装飾が施された『みふゆ』の文字があった。

 

「前の居住者が残していったものか?」

 

「………………ええ、そうね。」

 

それを見たさやかは前の居住者が置いていったものと思い、何気なく聞いてみたやちよの反応は平静を装っているようで、本心ではそうではなさそうな雰囲気をさやかのイノベイターとしての感覚が捉える。わずかに鬱屈とこらえているようなその表情はまさに不本意ながらのようなものであり、何か、このみふゆという人物とひと悶着があったことを如実に表していた。

 

「………………」

 

とはいえ、さやかはおいそれと言及することはやめておくことにした。一度彼女の年齢という地雷を平然を踏み抜いた前科持ちのさやかにからすれば、西側の代表ともいわれているやちよとの関係の劣悪化は避けたいのが本意であった。

さやかはいぶかし気な表情を見せながらも背中に背負っていたいろはを部屋に一つだけ、寂しく鎮座しているベッドに寝かせるとやちよと共に一階のリビングに向かう。

 

 

「すまない。少し親に連絡してくる。」

 

一応、時間が時間だったため、さやかは一度親に連絡してくるとやちよに伝え、離れた場所で電話を始めた。

 

 

 

 

「親御さんには?」

 

「友人とカラオケに行くことになったから遅くなるとだけ。」

 

リビングに戻ってきたさやかにやちよがそう声をかけると、悩ましげな笑みで笑うさやか。先にやちよがテーブルに座っていたため、それにつられるようにさやかもやちよと向かい合うように対面の椅子に座るとちょうどそこには湯飲みにつがれた温かいお茶があった。

 

「これは………………すまない。世話を焼かせたらしいな。」

 

「春とはいえ、まだ夜は冷えるから出しただけよ。」

 

礼をいうさやかだが、それにやちよはそっけない態度でそう返される。そのやり取りにどことなくまだ会ったばかりのころのほむらの様子を思い出し、思わずなつかしい感覚になるさやかだが、なるべくその感覚を表情にださないように頬が緩むのを必死になってこらえた。

 

「それで、本題は何かしら。まさかただのウワサの情報を流しにきたわけではないでしょ?」

 

「………………まぁ、流石にな。」

 

早速本題に取り掛かろうとするやちよにさやかは淹れてもらったお茶を口に含んでから納得する表情を浮かべる。

 

「私たち見滝原の魔法少女はそのウワサ、フクロウ幸運水のウワサを破壊しにいく折にとある集団に出くわした。そいつらは自身をマギウスの翼と自称し、目的に魔法少女たちの救済を掲げる魔法少女だった。」

 

「ッ………………そう」

 

さやかがマギウスの翼なる集団と出くわしたといった瞬間、やちよは一瞬身体をこわばらせるような反応を見せると、そのまま何事もなかったかのようにそっけなく答える。そのことに気づかないさやかではなかったが、今は触れないことにして話を続けることにした。白羽根・黒羽根の構成員の序列、天音姉妹がうっかりというか平然と口を滑らせた、あくまでマギウスの翼は『マギウス』と呼ばれる存在の目的達成を支援するための組織であり、そのマギウスと呼ばれる存在は三人いるということ。そして    

 

「で、これが一番重要なこと………………に入る前に少し聞いておきたいことがある。時間を貰ってもいいか?」

 

「?………………ええ、いいわよ。」

 

「アンタ、魔法少女の真実についてどれくらい知っている?」

 

一番重要なドッペルのことに差し掛かる前にさやかはやちよに対し、どうしても確認しておかなければならないことがあった。それはソウルジェムの真実と魔法少女に知らずの間に課せられた運命。特にネックなのが、魔女化のことである。さやかが話そうとしているドッペルのことは正直に話そうとすれば自然と魔女化のことも話さなければならなくなってくる。フェリシアの時のように深く考えない人物ならば、適当なごまかしでやり過ごせるだろうが、やちよとなってくるとそういかないだろう。そう思ったからこそのさやかの判断だった。

そのさやかの確認にやちよは不意に視線を逸らし、考えるような様子を見せると、再びさやかに向き直る。

 

「もしかして………………あなたが話そうとしているのはドッペルのことなの?」

 

「ッ………………知っているのか?」

 

「ええ………………偶然、ね。本当に偶然だったわ。ドッペルのことはともかく、あの真実はできれば、あんな形では知りたくはなかった………………!!」

 

そのやちよの様子はいつも(といってもさやかが見た回数自体少ないが)とはかけ離れた様子の彼女だった。顔をうつむかせ、手にやりきれなさを表すように握りしめるその姿は悲壮感を余計に際立たせる。おそらく、やちよの言うあんな形というのは、誰かの死で知ってしまったのだろう。それも彼女自身の仲間、もしくは友人だった魔法少女の死によって。

 

「………………すまない。嫌なことを話させた。」

 

ある程度覚悟はしていたつもりだったが、やはり他人の悲壮感というのはさやかにも如実に伝わってしまうもので、その悲しみを紛らわすようにさやかは謝罪の言葉を口にしながら、苦い表情で後ろ髪を手でかき乱すことしかできなかった。しばらくは無言の沈黙を支配し、さやかは伝わってくる悲しさとその場の空気の気まずさの二重苦を味わう羽目になっていた。

 

「………………ごめんなさい。年上としてみっともないところを見せたわね。」

 

「いや、気にしないでほしい上に改めてこちらこそすまなかった。ある程度は覚悟したうえで聞いたのだが、私の配慮が至らなかった。本当はもっとデリケートな箇所であろうにもかかわらず………………」

 

「それこそ気にする必要はないわ。確かにドッペルとこの魔法少女の真実は切っても切れない話だもの。あなたが確認をかけてくるのは当然のことよ。もっともここまでストレートに聞いてくるってことはあなたの中ではもうわたしはその真実を知っているって踏んでいたのでしょう?」

 

「………………ああ。初めて出会った時、私が言った魔法少女の真実というのに貴方だけ反応していたからな。」

 

どうにか調子を元に戻したやちよだったが、さやかは気まずい表情のまま再度謝罪の言葉を口にする。それを気にしなくていいと踏まえたうえでさやかにその真実を知っていそうな人物だと思ったからこの話を持ち出したと尋ねるとさやかはうなずきながら初めて出会った時のことを語る。

 

「あなた、本当に人の感情には敏いわよね………………ところで話は変わるのだけど。」

 

表情をわずかに緩んだものから一転して引き締まったものに変わったやちよを見て、思わずさやかも身が引き締まる思いを感じ、先ほどまで見せていた気まずい表情を消し、緊張感のある険しい表情を見せる。

 

「あなたが伝えてくれたマギウスの翼。実は1年くらい前から行方をくらませている知り合いがそれっぽいことを口にしながらわたしに勧誘をしてきたの。その時は断ったのだけど、それ以降連絡もつかなくなった。その人について何か知っていることはない?たぶんあなたの話を聞いている限り、そのマギウスの翼にいると思うのだけど………………」

 

「しかし………………マギウスの翼は基本素性を隠している。私が顔を見れたのは、天音姉妹ともう一人、最後に見た黒羽根を率いていた魔法少女しかいない。」

 

やちよの口からでてきたのは失踪した知り合いの行方を尋ねるものであった。やちよの見立てではおそらくマギウスの翼にいるかもしれないとのことだったが、マギウスの翼はフードで顔を隠している上に規模もなかなかに巨大。なおかつさやかも顔を伺うことができたのもわずか三人程度と特定の誰かを見つけるのはかなり無謀であった。

 

「その黒羽根を率いていたっていう魔法少女の特徴、覚えてる?」

 

それにも関わらずやちよはその残った最後の一人のことについて聞いてくる。それほどまでに行方を知りたいということは知り合いと関係が希薄そうに装ってはいるが実は親友とかそれくらいの関係性なのではないのかと思うほどであった。

 

「といってもだな………………せいぜいなにかくせっ毛のついた白髪のショートカットで黒い振袖のようなものがついた衣装だったとしか   「ホントッ!?」うおっ!?」

 

さやかが悩まし気な表情で記憶を振り絞りながら最後に見た魔法少女の姿を思い返していると、突然やちよが大きな声を挙げながら身を乗り出してきたことで思わずさやかも驚きからびっくりした声を挙げてしまう。身を乗り出して興奮冷めやまぬ様子のやちよに驚きのあまり椅子に座った状態でのけぞり、目をぱちくりさせているさやか。

 

 

「えっと、せめて写真みたいのはないか?そうでないと判別をつけることができない。」

 

「写真………………どこかあったかしら………………」

 

とりあえず、さやかがなんでもいいからその知り合い(親友)の容姿がわかるものが欲しいと頼むとやちよは乗り出していた身をおずおずと引き下げると無言で棚をはじめとする部屋の収容物をかたっぱしにあさっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 




少しでも皆さまの楽しみとなっていただければ幸いです。


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第50話 その言葉に意味はあった

ダブルオーザンライザー出したい……………


「…………………」

 

さやかは今、手元にある一枚の写真と睨めっこをしていた。その写真に写っている人間は二人。お互い満面の笑みといった様子で仲睦まじそうにカメラに映っていた。

片方はまだ幼さの残る顔つきだったが、長く下ろした濃い蒼の髪からさやかの目の前にいるやちよなのだろうというのはわかる。問題はその隣にいる白髪の少女。写真のやちよと同じような笑みを浮かべているが、はっきり言えばさやかには見覚えがあった。あの時、天音姉妹のドッペルを打倒したあとに姿を見せたあの黒羽根を率いていた魔法少女に他ならなかったからだ。

その少女の名前は『梓みふゆ』。やちよのいう知り合いであり、先ほどいろはを寝かせてきた部屋の人間だった。

 

そのことにさやかは世界はなんとも狭いものだと呆れるようにため息を漏らすと、手にしていた写真を置き、やちよに視線を向ける。

 

「……………この人物で間違いない。あの時見かけた魔法少女は梓みふゆだ。」

 

「ッ……………そう。」

 

さやかの言葉にやちよは安心したような、それでいて残念そうにもしている複雑な表情を浮かべる。

彼女も一年前から失踪状態になっていた知り合いの安否が知ることができた嬉しさと、マギウスの翼という怪しげな宗教法人じみた集団の一員になっているのが心配なのだろう。

 

(気まずいな……………それになんか関係性がドロドロしてきた…………昼ドラのそれよりはマシだが……………見たこともないが)

 

そのやちよの様子の気まずさにさやかは見たことすらない昼ドラの修羅場に出くわしてしまったような錯覚に陥ってしまう。とりあえずやちよにかける言葉も見つからないため難しい表情で黙っている他なかった。

 

「そういえば、貴方を含めた見滝原の魔法少女たちは、揃ってマギウスの翼の掲げる救済には賛同しないのよね?」

 

「んん………………まぁ、そうだな。奴らの言うことが胡散臭いだの、理由はそれぞれだが。アンタもマギウスの翼に対して、一般人を巻き込むのはまずいと思っているから梓みふゆの誘いを断ったのではないのか?」

 

黙っていては埒があかないのはわかっていたため、なんとか会話の糸口を見つけようと心の中で悪戦苦闘を繰り広げるさやかだったが、唐突にやちよの方からマギウスの翼に反抗する理由を問われる。

 

「確かに、貴方の言う通り、私はそれを理由にみふゆの誘いを蹴ったところがあるのは認めるけど………………それができるのは環さんをはじめ、魔女化のことを知っている人物が限られているからよ。」

 

やちよは遠回しに普通の魔法少女であれば魔女化の運命から逃れようとマギウスの翼に傾倒するはずだという。そのことにさやかはお互い自分の行っていることは大衆の考えからは外れているのだと認識しているのだという思考に至る。

 

「………………そうだな。確かにアンタの言う通りだ。私たちのやっていることはいわば世界を敵に回しているような愚行だ。なぜなら理不尽な運命から逃れられる救いが目の前に存在するのにそれを破壊しようというのだからな。」

 

さやかは先ほどまで見せていた悩まし気な表情から一転してニヤリとした笑みを浮かべると椅子の背もたれに深くもたれながら腕を組む。

 

「だがその救済の裏で、私たちのエゴの所為で理不尽を味わう人たちがいるのなら、私個人としてはそれに異を唱える。それが、わずかな可能性でも家族や友人が巻き込まれるのならなおさらのことだ。私は友人を守るために魔法少女となったからな、そこだけは譲れない。譲ってはいけないと自負している。」

 

「貴方………………他人のために願いごとを………………!?」

 

さやかが自分が契約したときの状況を簡単に説明すると、やちよから驚愕といった表情を向けられる。やはり、契約時の願いごとはほとんどの場合が自分のために使用されるのが魔法少女たちの間の暗黙の了解みたいなものであるらしく、さやかのように他人ために願い事をつかうのはなかなか異質らしい。

 

「いや、そもそも契約したときの願いは使っていない。というか、いらなかった。私が契約したときに必要だったのは魔法少女としての力だけだったからな。」

 

「………………う、嘘でしょ!?貴方、正気なの!?」

 

それでもやはり根本として願い事を叶えず、その権利を放棄するというのはやっぱり常軌を逸脱した行動らしい。

 

 

 

 

明くる日の朝、さやかは平日であるその日は制服姿で学校へ登校していた。とはいえ、父親の慎一郎には友人とカラオケにいっているという()()でいたが、流石にここ最近夜帰りも多くなっていたのもあったため、「あまり危なっかしいことはすんなよ」、と咎められた。その表情はどこか難しい表情を見せていたが。

 

(…………ここのところ、ずっと動いていたから少し眠いな。)

 

春の朝の陽気から思わずさやかはあくびをしてしまうほどに温暖な気温であった。意識もなんとなくぼーっとしているような感覚もあり、さやかは眠気を吹き飛ばすように頭を振り、若干無理矢理に意識を覚醒させる。

 

「ん………………?」

 

そんな時さやかは自身の登校用のスクールバックから携帯のバイブ音が振動していることに気づく。誰からの電話だと思いながら携帯を取り出し、画面を見てみれば、そこには『環 いろは』の名前があった。

 

「いろはか?」

 

『あ、さやかさん。おはようございます。』

 

画面をスライドさせて携帯を通話状態にして耳に当てると、電話口からいろはの声が聞こえてくる。その様子から昨日の騒ぎから特にこれといった大事には至っていなかったことに安堵するが、それと同時に平日の朝から電話をしてくるということは何か別件で妙なことに巻き込まれたのかとも思ってしまう。いろはの口ぶりからそのような雰囲気はほとんど感じられないが………………

 

『あの、やちよさんから聞きました。たまたま神浜市内にいたとはいえ、別の場所にいたところから、わざわざ危ないところを助けに駆けつけてくれてウワサを倒してくれたって。本当にありがとうございました。』

 

そう思っていたところにいろはの口から出てきたのはウワサから助けてくれたことに対するお礼の言葉だった。言葉面を聞いている限り、さやかがウワサの本体を倒したことになっているが、大方やちよがドッペルやソウルジェムのことを隠すために建てたカバーストーリーであることをすぐさま察する。それでも許可の一つぐらいは取ってほしいのは山々だったが、それは流すことにした。

 

『さやかさん?』

 

「………………ああ、すまない。少し考え事をしていた。話を戻すが、私としては大したことはしていないさ。ただ駆けつけて、掛かる火の粉を振り払っただけだ。もっともそれができたのもあの小さなキュウべぇのおかげだが………………」

 

そんなことを考えていると、応答がなかったことを不思議に感じたのか、いろはが首をかしげているような声で呼びかけられると、さやかは意識を会話に戻して、なるべくやちよのカバーストーリと齟齬が生じないあいまいな表現をしながらそう答える。

 

『小さなキュウべぇ………………さやかさん、あの子に会ったんですか!?』

 

「どちらかといえば私に会いに来たというのが正しいだろう。実際、あのキュウべぇの様子からただならない状況を察し、そいつの道案内で従ってみれば、向かった先がいろは達のいた水名神社という場所だったのだからな。」

 

『そうですか………………あの子が、小さいキュウべぇがさやかさんを呼びにいってくれたんですね………………』

 

何か感慨深いものを感じたのか、さやかから事の顛末を聞くといろはの声が電話口から聞こえなくなる。さやかも水を刺すような口も挟まなかったため、少しの間沈黙がその空間に漂う。

 

「………………電話をかけてきた要件をそれだけか? ないなら電話を切るが………………」

 

『え、ちょ、ちょっと待ってください!!ただ単にお礼を言いたいだけで電話したわけではないんです。実は私からさやかさんに話しておきたいことがあります。』

 

「そうなのか?」

 

程よく時間が経ったところでさやかが電話を切っていいか確認をとると、いろはから話しておきたいことがあると飛び出る。そのことにさやかは不思議そうにしながら考える素振りを見せる。その時の表情はどことなく険しいものであった。

 

「それは………………なるべく早めに伝えておきたいことか?」

 

『…………はい、できれば。端的に言うとういについてです。結構時間をとってしまうとは思うので、今みたいに電話越しじゃなくて、直に会った方が………………』

 

「分かった。なら今日の放課後にしよう。場所は………………神西中央駅でいいか?」

 

『お願いします。でもごめんなさい。さやかさんにはさやかさんの予定があるのに………………』

 

「気にしなくていい。私もいろはに伝えておかないといけないことがあるからな。それにここまでくればもはや一蓮托生のレベルだ。なら私がやるべきことは自分の全力をもって事にあたることだ。それが、存在していた痕跡すら抹消されたお前の妹を客観的に存在していると言った私の責任だ。」

 

『責任………………ですか………………』

 

さやかの責任という言葉をまるでオウム返しのようにつぶやくいろは。電話越しというのもあってわかりづらいが、なぜかさやかにはいろはが苦笑いのような表情をしている光景を思い起こす。

 

「………………そんなに変だったか?責任という言葉を出したのは………………」

 

『えっ!?い、いいえ!!そんなことありませんよ!?ただ、やっぱりさやかさんは年下とは思えないなぁーって………………ごめんなさい!!』

 

その光景を脳裏に思い描いたさやかは気落ちしたようなしょんぼりとした表情を見せ、また年甲斐もないような言葉を口走ったかと確認するようにいろはに話しかける。話しかけられたいろははさやかの指摘が図星だったのか、上ずった声を挙げてフォローの言葉を並べようとしたが、結局自爆してしまい、謝った。

 

「…………まぁ、それほど気にしていないから、いろはもそんなに気負う必要はない。また連絡する。」

 

少しいじわるなことでもしてしまったかと、さやかは軽い笑みを見せながら後で連絡する旨を伝えると通話状態を切り、携帯を再びバックの中に押し込む。すると今度はさやかははたと疑問が浮かんだのか首をかしげる仕草を見せる。

 

「………………そういえば、まどかは遅いな。時間的には電話に出ている間には来る頃だと思っていたんのだが………………あ」

 

いつもの時間であれば、そろそろ時間的にはまどかの姿が見えてきてもおかしくはない。それを不思議に思ったさやかが周囲を見渡そうとすると、直後にさやかにしては中々挙がることがないような気の抜けた素っ頓狂な声を挙げる。

 

「あはは………………ごめんね、もう来てみたら電話に出ていたから声をかけるのはやめてたんだけど………………」

 

「あー………………すまない。待たせてしまったらしいな。」

 

「ううん、そんなことないよ。とりあえず、学校に行こう。」

 

そこにいたのは苦笑いを浮かべながら自分に向けて手を振るまどかの姿。さらにはその口ぶりから自分がまどかを待っていたはずが、逆に彼女を待たせていたということにさやかは申し訳なさを隠しきれないでいた。

とりあえず促されるままにまどかの元へ向かうと、二人は横に並んで学校へ向けて歩き始める。

 

「さっきの電話、もしかして神浜市の人?」

 

「そうだな。詳しいことはプライバシーにも関わることだから預かり知らないところで話すことはできないが。」

 

「そっかー………………そうだよね。」

 

そんな会話をしながら二人は比較的ゆったりとした足取りで歩く。それに対し、周りにいるほかの生徒は足早と二人の横を通り過ぎていく。さながら二人だけ時間の流れから取り残されたようだった。

 

「まどかは、確か知っているはずだったな?魔法少女の、強いていうのなら、ソウルジェムの真実を。」

 

「………………うん、人それぞれに違いはあるけど、みんな最終的には魔女になっちゃうんでしょ?マミさんや杏子ちゃん、それにほむらちゃんも。」

 

まどかの答えにさやかを神妙な面持ちで静かに、そして重々しく首を縦に振った。

 

「だが、もしその運命から逃れられる救いの手があると言われたら、まどかならどうする?」

 

「私だったら………………?うーん……………やっぱり、とても魅力的だと感じちゃうかな。誰だって死んじゃいたくないはずだもん。」

 

「それが普通だな………………だが、その救いの手が他人に不幸を強要する、犠牲ありきでしか成立しないものだったら、お前はどうする?」

 

「他人に………………?」

 

それは魔法少女でもないまどかにはあまり意味がないように見える問いかけ。それでもさやかはまどかが魔法少女の存在を知っているとはいえ、無関係の人間からの意見が欲しかった。

 

「………………やっぱり、それはダメだと思う。だって誰か一人を不幸にさせたら、その周りの人にとっても、それは不幸だと思う。そんなの、一回やり始めたら収まりがつかないもん。魔法少女でもない私が言っても何の力にもなれないと思うけど………………」

 

まどかの表情こそ重く、難し気なものを浮かべていたが、その声にはか細いながらしっかりとした拒絶の心が入っていた。

 

「いや、そんなことはない。力にはならなくとも十二分に、その言葉には意味はあった。」

 

まどかの心底残念そうな表情からでた言葉だったが、さやかはその言葉に満足したのか笑みを見せる。まどかもそれにつられるようにわずかに笑みを見せたが、やはり上辺だけのものだったのか、すぐに表情を曇らせる。

 

「はぁ………………私も何か手伝えることができたらいいのにな………………やっぱり魔法少女の契約」

 

「それをすれば、もれなく警備員(ほむら)が動くと思うのだが………………」

 

「だよねー………………ほむらちゃんも私を思ってくれて止めているのはわかるんだけど、自分だけ知っているのに何もしないっていうのは、凄くもどかしい………………」

 

そういって不服そうに頬を膨らませるまどかの様子にさやかは気持ちはわかるが、自分ではどうすることもできないというように苦笑いを浮かべているほかなかった。

 

 

 

 

 

まどかとのそんなやり取りのあった朝の登校時間から時を進めて放課後。足早に電車に乗り込むと、さやかは颯爽と新西中央駅に向かう。大分急ぎ足できたためか、ラッシュの時間が来るより早く来ることができたようだった。

電車を降りたさやかは駅の改札口を出て手ごろなベンチを見つけるとそこに座って自身を呼んだいろはを待つことにした。特にやることもないため、何気なく取り出した携帯でいろはに駅の改札口の近くにいるとだけ連絡を入れると、何か目を引く情報はないかと画面をスクロールすること十数分。

 

「あ、さやかさん!!」

 

さやかが座っているベンチを見つけたのか、いろはが駆け寄ってくる姿を視界端に捉えたさやかは携帯をバックの中にしまうと立ち上がっていろはを出迎える。

 

「すみません、お待たせしました!!」

 

「いや、問題ない。だが、どこか落ち着いて話のできる場所がいいだろう。知らないか?」

 

「それでしたら」

 

そういうさやかにいろはが連れてきたのは駅からほど近い場所にある名前を聞けば誰でも知っている超有名なファストフード店。カウンターで定番のセットメニューを買って店内の二階にあがるとテーブルの一つ一つにガラスの仕切りが設けられていた。ここなら悪くないと思ったさやかは座席に座り、いろはと共に適当にポテトを肴に話を始める。

 

「それで、お前の妹の環ういについてで話したいとの事だったが、何か目ぼしい情報が手に入ったのか?」

 

「実は、話自体はメディカルセンターを水波さんに調べてもらった時期のことなんですけど、ういの友達についてです。もう少し私の力で情報を集められたらって思ったんですけど………………」

 

「………………それは悪手だろう。自身の力で進もうという意志はいいと思うが、頼れるものは頼った方がいい。」

 

「うう………………それもそうですよね………………」

 

「とりあえず、その友人について教えてもらえるか?」

 

「はい。その友人というのは、ういと同じ病室で入院していた、里見 灯花(さとみ とうか)(ひいらぎ) ねむっていう子です。」

 

「里見灯花に柊ねむか………………出身校からたどることができれば大分早く接触がかなうが………………」

 

さやかの言うとおり、その重要参考人である二人の出身校を知ることができればういの行方に近づくことができる。しかし、それができない以上、地道に探していく他がない。

 

「ごめんなさい。水波さんもあくまで看護師の人たちから聞いた話というだけで、カルテとか見れたわけではないので、そこまでは………………」

 

「まぁ………………それが限界だろうな。だが、肝心要のお前自身はどう感じている。二人の名前に聞き覚えはあるのか?」

 

 

そのこともいろはもわかっていたのか、申し訳なさそうに頭を下げる。だが、それも仕方のないことだろう。さやかもいろはも刑事や探偵といった専門の人間ではない。それどころかまだ大人にもなれていない子供だ。どうやっても個人情報を取り扱う部署には近づくことさえ許されないだろう。だからこそさやかは尋ねる。あの時、ういとの記憶を思い出したいろはに対して問いかけたように。

 

「………………はい。この二人は、よくういと一緒に遊んでくれていた二人と同じです。私自身にその記憶、思い出があります。」

 

「なら問題はないだろう。だがこの間いろはの自宅で指摘したが、ういという接点が丸ごと消失したせいでその二人との関係性が変わってしまっている可能性も存在する。だから仮に二人に出会って記憶の中の彼女らと違う反応をされても動揺はしないようにな。」

 

いろはの迷いのない言葉に安心すると同時にある程度の覚悟はしておいた方がいいと忠告をしておく。

 

「それと………………これも一応話しておきたいとも思います。さやかさんは水名神社にいたウワサについてはほとんど知りませんでしたよね。」

 

「………………ああ、そうだな。言われてみればあそこにはどういうウワサが潜んでいたんだ?」

 

いろはの言葉にさやかはわずかに間を空けて思考する時間を作ってからいろはの話を合わせるようにそう答える。実際さやかは水名神社にウワサが潜んでいたということをやちよから聞かされてはいるわけではなかった。

だが、大体あの場に魔法少女姿でいたということは魔女かウワサがいたという証左にもなりうるため、それがいろは達の手で討伐された以上、これといって指摘する必要もないと思っていた。

 

「水名神社を潜んでいたウワサは、口寄せ神社のウワサと呼ばれるものです。一言で言うなら、今一番会いたい人の名前を絵馬に書き込むと、その人に会えるというものでした。私はそこでういの名前を書いて、やちよさんと一緒にウワサの領域の中に入りました。」

 

「…………結果を急かすようで悪いのだが、会えたのか?」

 

単刀直入にそうさやかが尋ねると、いろはは重たい表情を見せながら無言で首を振った。それが意味するものはそもそもとして会うことができなかったか、もしくは外面だけで中身が根本的に異なるものだったかのどちらかであろう。

 

「………………やっぱりそこで会える人はウワサが見せる幻でしかないみたいです。そこで会ったういの様子が途中から様子がおかしくなったというのもそれに気づけた要因でもあったんですけど………………」

 

「おかしくなったとは……………どういう風にだ?」

 

どうやら今回は後者のパターンに該当するらしい。しかし、いろはが会ったういが偽物だと気づいたきっかけである『様子がおかしくなった』という言葉にさやかは首をかしげる。

 

「………………まるで壊れていくテレビを見ているみたいでした。譫言みたいに同じ言葉を呟きながら、時折映像みたいに姿がブレる様子を見て、とても不安になりました。死んだ人にすら会えるという謳い文句があったのにあんな結果だったんじゃ、本当にういはいるのかって。もしかしたら、この記憶はやっぱり間違いだったんじゃないかって。」

 

いろはの口からそれ以上語られることはなかったが、さやかはその先に繰り広げられたであろう展開を大まかにだが察することができた。

おそらく、その時点でいろは心的負担がマックスになり、ソウルジェムの穢れが大幅に増幅し、中の穢れが最高潮に達したのだろう。

そして神浜市限定で穢れが限界に達したとき出てくるのは、魔女ではなく、ドッペルと呼ばれる魔女モドキだ。さやかの推測の上でしかないが、いろはの様子を見るに無意識のうちにそのドッペルの力でウワサの本体を破壊したというのが筋だろう。そこから先はさやかが目で見た展開と変わりはないだろう。

 

「………………今も不安か?」

 

少しの間、聞き手に徹していたさやかだったが、話を円滑に進めるために一言だけ添えるように短く聞くと、いろはは首を横に振った。それを見たさやかは安心したようにジュースのストローを口に咥え、のどを潤した。

 

「ならいいのだが。それと、携帯で連絡を取っていた時は言い損ねていたが、実は私からもいろはに伝えておかなければならないことがある。」

 

「私に、ですか………………?」

 

「黒江についてだ。こないだ偶然鉢合わせた。この神浜市内でな。」

 

「く、黒江さんが、ですか!?」

 

神浜市に向かったきり、行方が分からなくなっていた知り合いを見つけたという報告にいろはは目を見開いて驚きを露わにすると、安堵したように胸をなでおろした。

 

「だが、少々面倒な状況になっているのも同時にわかった。最悪………………いや、近い未来、確実に彼女と矛を交えることにもなるだろう。」

 

「まさか、やちよさんから聞いたマギウスの翼にですかっ!?あの、ウワサを守っているっていう………………!!」

 

「そうだ。しかも、彼女からこれ以上邪魔になるなら敵対行為も辞さないという最後通告と一緒にな。」

 

 

黒江との仲は決して親しいというわけではなかった。せいぜいが互いの情報を共有する、いわゆるビジネスパートナーのような間柄だった。それでも友人の少なかったいろはにとって、話せる仲の友人が矛を向けてくるかもしれないという言葉に思い詰めた表情を浮かばずにはいられなかった。

 

 




ホントさっさんメンタルケアしかしてねぇな…………なんだこれ。


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第51話 楽しみにしている

ふと本編では触れることのない叛逆の物語のことを考えていた時にもしさっさんがその場にいたらまどかの行いに文句を垂れ流しながらもほむらを止めにいくめっちゃ第三勢力的な立ち位置になりそう。


「黒江さん………………そんな………………!!」

 

ショックを受けた表情を浮かべ、悲痛な声でいろはが言葉をこぼす。知り合いが名も知らない一般の人々に被害を及ばす集団の一員に加わっていると知らされたのだ。いろはの胸中は困惑と悲しみでぐちゃぐちゃになっているだろう。

それを察したさやかはいたたまれない様子でいろはを見つめていた。

 

「………………マギウスの翼に加わった彼女を擁護するようだが、一つ言わせてほしい。彼女も別に好き好んで入ったわけではない、と思っている。だから、今度会った時にひどい罵声のような、彼女を傷つけるようなことだけは言わないでほしい。」

 

さやかはそんないろはに慰めるような口調ながらも黒江を悪く思わないでやってくれと宥めるような言葉をかける。無論、それは黒江の行動自体、さやかは理解できないものではなかったからだ。推察でしかないが、黒江はどこかで、もしくは神浜市内で自身の定められた運命を知ってしまったのだろう。だから抗おうとした。そんな運命はお断りだと、まだ死にたくはないと。だが、そんな方法などそう簡単に思いつくはずがない。なぜなら自身が手にしている力は理屈すら理解できない未知の生命体(インキュベーター)からもらったものなのだから。

どうしようもない無力感、そして絶望。一時の願望をかなえただけで、自身は醜悪な化け物になり果てるしかないのかと。そんな時出会った、出会ってしまった魔法少女の救済を掲げたマギウスの翼。

もう、それに手を伸ばすほかなかった。死にたくない。理由はそれだけで十分だ。

 

なぜなら()()()()()()()()()()()()

 

だからこそ、さやかはいろはに黒江のことを悪く思わないでほしいと頼んだのだ。

 

「………………わかりました。でも、黒江さんがそこまで他の人たちの迷惑になってまで救済を求めるのは、なんでなんですか?何か、そこまで駆り立てる理由がある。そしてさやかさんはそれをわかっているということですよね。さやかさんの言い方だと、そのようにしか思えません。」

 

だが、さやかにそのつもりがなくとも、マギウスの翼に加入しているものをかばうようなことを言うということはそれだけさやかはマギウスの翼への加入する理由に関して理解しているということである。それを指摘されたさやかは静かに目を伏せ、無言に徹する。

 

「………………ああ。その通りだ。私としては彼女らがこのような事態に及んだ理由を理解しているつもりではいる。そのうえで、彼女らと敵対する行動をとっている。」

 

「それはやっぱり、マギウスの翼が間違っているからですか?」

 

「間違っているというより、その先に望むような未来はないと思っているからだ。」

 

「未来がない………………ですか?」

 

さやかの言葉にいろはは要領を得ないような疑問気な表情を見せる。単純に間違っているならともかく、望んでいる未来がないとはどういうことだろうか。マギウスの翼の理想は魔法少女の救済、それを成し度げることができない、もしくは成し遂げたとしてもその先に幸せが待っているとは限らない。そういうことだろうか?

さやかの言葉に思考を張り巡らせるいろはだったが、ふとしたタイミングで何かに気づいたのか、突然自分のバッグをあさり始めた。さやかがその様子を不思議そうに眺める。

 

「すみません………………ちょっと電話が来ていて………………」

 

いろはの申し訳なさそうにしながら電話がかかってきたことを伝えると、さやかは合点のいった表情を見せると気にしないでくれと一言だけ伝え、いろはは電話をもって席から離れていった。残されたさやかはまだ残っていたドリンクに手を付ける。

 

(……………どうやら伝え損ねたか。とはいえこんな話をしたところで信じてもらえるかどうかは別問題なのだが………………)

 

いろはが離れていったことを確認したさやかは悩まし気な表情を浮かべながら小さくため息を漏らした。魔女化やソウルジェムの真実。結局さやかの中で教えるかどうかを決めかねていたが、タイミング悪くその機会が流れてしまった。

できれば、これは何か不測の事態が発生したことで知るより、他人から教えられるのが一番いい選択肢と思っているが、それをいろはなどをはじめとするそれまで知らなかった魔法少女たちが受け止めきれるかどうかは完全に別問題だった。

 

「むぅ………………」

 

流石のさやかもこれについては難しい表情を浮かべざるを得ないのか頬杖を机について憮然とした様子でドリンクの中身を飲み干した。しかし、ドリンクを飲み干したところでなにか気が晴れるわけでもない。さやかは所在なさげに机を指先で叩いて音を鳴らす。

 

「つくづく、インキュベーターの奴らは陰湿なシステムを作り上げるものだ………………他人に教えることすら憚られるとはな………………」

 

(だが、その陰湿なシステムからの脱却を目指しているのがマギウスの翼。となると必然的に構成員の黒羽根たちにも魔女化やソウルジェムのことが知られているということになるな。そしてそれを率いている『マギウス』と呼ばれる三人の魔法少女………………一体何者だ?)

 

その憮然とした表情をしたままインキュベーターに対する文句を並べながらさやかはマギウスの翼を率いていると思われる三人の魔法少女、『マギウス』について考える。が、それも結局のところ情報不足で結論など出しようがなかったため、別のことに意識を逸らす程度の役割しか果たせなかった。

どうしようもないというようにため息をついて、ちょうどそのタイミングで気晴らしに目線を周囲に向けると、電話が済んだのかいろはが戻ってくる姿が目に映る。その表情はさっきまでのとは違って、どこか驚いたような様子だった。

 

「………………何かあったのか?」

 

「ふぇっ!?そ、そんなに顔に出てましたか?」

 

いろはが席に就いたところで開口一番にさやかはそのことを尋ねる。当然尋ねられたいろはびっくりした様子でそう聞き返した。

 

「まぁ………………先ほどまでと様子が違ったと感じたから尋ねただけだったのだが。」

 

さやかが何気ない顔でそう返すと、いろははその電話の内容をさやかに話し始めた。どうやら他人に話していい内容だったらしい。いろはの話を聞いていたさやかは次第にわずかに目を丸くした様子に変わっていった。

 

「宝崎から神浜に引っ越すのか。それでその引っ越し先がみかづき荘だと。」

 

その内容はいろはが神浜市の学校への転校、それにともなう引っ越しに関することだった。その内容を繰り返すさやかの言葉にいろはは首を縦に振ると、さやかは手を顎の下に乗せ、少し考える様子を見せた。

 

「………………いろはは今一人暮らしの状態だったな。引っ越しの際は業者に頼むのか?」

 

「どうでしょうか………………そんなに荷物も多い訳ではないので………………」

 

そういっていろはは微妙な顔を見せるが、言葉面からして引っ越し業者に頼む様子ではなさそうだ。そう思ったさやかはこれ幸いというように笑みを見せる。

 

「なら、荷造りなどの作業を手伝おうか?さすがに一人で荷造りから運ぶまですべてこなすのは骨が折れるだろう。」

 

「え、ええっ!?そんな悪いですよ!!それほど持っていくわけでもないですし………………!!」

 

「人の好意は素直に受け取った方がいいぞ。後になって後悔してからでは遅いと思うが?」

 

さやかが手伝いを名乗り上げたことにいろはは遠慮がちな表情を見せて、その申し出を断ろうとする。しかし、さやかが自分の好意で名乗り上げたんだと断りづらくなるような文言を並べると途端に断ることに申し訳ないな気持ちがわいてきたのか、いろはが声を詰まらせる。

 

「もう………………そんな言い方されたら受けるしかなくなるじゃないですか………………」

 

「どのみちまた神浜市に赴く事情があるんだ。手伝うと言ったのもあくまでそのついでだ。じゃないとすぐに私の財布の中身が寒くなってしまう。」

 

「なるほど………………確かに見滝原からだとギリギリ日帰りができる距離ですからね………………でもさやかさん、定期券とか買わないんですか?頻繁に来るんでしたらそっちの方が最終的には安く済むと思いますけど。」

 

「定期券か………………」

 

いろはの言葉に目から鱗が落ちるというように呆けた顔を見せるさやかであった。

 

 

 

 

「………………で、なんであたしが駆り出されているんだ?」

 

「なんでって………………調整を受けたいから神浜市へ行くのではないのか?」

 

「そりゃそうだけど、流石にそれとこれじゃあ話が違いすぎる。」

 

次の日、今度はいろはの引っ越し手伝いのために宝崎市にやってきたさやか。その隣で同伴していた杏子はしれっと自分が手伝いに駆り出されていることに不服気に眉をひそめた目線をさやかに向けるが、さやかは別に変わらないだろうというように首をかしげる。

 

「そうか?というより、私個人としては君がいたことに驚いているのだが………………てっきりあのあとそっちの方で別れたものだとばかり………………」

 

むしろさやかは別のことに気が向いていたようだった。少々困惑気に杏子から少し目線を外した先にいるのは、フクロウ幸運水のウワサとの戦闘で共にしたフェリシアがいた。

 

「んん?オレのことか?まぁ、オレもホントはあそこで別れるつもりだったんだけどさ………………」

 

「コイツがあたしとおんなじ根無し草な生き方やってるって言ったら途端にマミの奴がコイツのこと心配しやがってさ………………なぜかあたしごとマミの家で泊まる羽目になった。」

 

「そうか………………まぁ心配する彼女の気持ちも十分にわかるが………………」

 

微妙な表情を浮かべながら後頭部に手を回す杏子の様子にまんざらでもなかったのだろうとはさやかは思ったが、それを口にすることはせずに杏子に同情するような言葉を並べた。

 

「ま、オレは寝れるのならどこでもよかったけどな!!」

 

「……………だそうだ。本人がそう言っているのだから、杏子が気にする必要はないだろう。」

 

「は、ハァ!?あたしがいつコイツのこと気にかけてるって言ったよ!?」

 

「……………違うのか?」

 

杏子がフェリシアのことを気にかけていると思い、それについて言及してみると、途端に杏子は顔を上気させて、さやかを捲し立てるような剣幕でそれを否定してくる。

その反応にさやかは僅かに驚いた表情を見せながら駅の改札口を通る。

ちなみに杏子とフェリシアの切符代はマミ持ちである。流石に毎回さやかが払っていたことを気にかけていたようだ。

 

「さやかさん!」

 

改札口を出たところでいろはの声が聞こえてくる。その声が聞こえてきた方向を三人が振り向くとこちらに向かって駆け寄ってくるいろはの姿が目に映る。そのいろはにさやかは手を振って彼女を出迎える。

 

「おー、いろは、だったけか?確かあたしらが初めて神浜市に来た時以来か。まさか引っ越しの手伝いに駆り出されるとは思いもよらなかったけどな。佐倉杏子だ。」

 

「佐倉さん…………あの時の赤い槍を持っていた魔法少女ですよね?」

 

「そうそう。よく覚えてんな。ほんの少ししか顔合わせしてなかったってのに。」

 

「さ、流石にほむらさん達と三人でさやかさんに後ろから飛び蹴りをしたのは記憶に焼き付きますからね……………」

 

「アッハハハハハ!!なんだそりゃあ!!やっぱさやかはめっちゃ面白い奴だな!!!」

 

杏子が自分のことを覚えていてくれたことに目を丸くして見直したような表情を見せるといろはが気まずい様子でその理由を語った。

そのさやかの自業自得な災難にフェリシアは腹を抱えて大笑いした。

 

「あの…………それでこの子は?」

 

「彼女は深月フェリシア。私達と同じ魔法少女で傭兵稼業をしているらしい。今回はこちらの偶然が色々重なって一緒にいる。」

 

「傭兵稼業……………」

 

さやかの紹介にいろはは思わずフェリシアを珍しいものでも見るかのような目で彼女を見つめる。傭兵という概念そのものがいろはにとっては聞きなれないことなのだろう。幸いフェリシアがツボに入ったのか大笑いをしており、そのいろはの目線が彼女の目につくことはなかったようだ。

 

「まぁ、だいぶ素行が荒いところがあるのは否めないから第一印象はすこぶる悪いと思うが、そこを超えてしまえば根っこのところが善良な子だ。」

 

「そ、そうですか………………私には結構わんぱくっていうか、わがままな子に見えますけど………………」

 

人の珍事を聞かされてそれを茶化すように大笑いを浮かべるフェリシアにさやかの紹介の通り少しばかり悪い印象を覚えるいろは。しかし、当の本人であるさやかがフェリシアの様子に角を立てず、穏やかな様子でいることからなんとか微妙な表情に抑える

 

「それは彼女がただ純粋なだけだろう。ここで言うのもなんだが、彼女は既に両親を魔女に殺されて天涯孤独の身らしい。つまるところ、彼女はそういった心的な教育を受けられなかった子供みたいなものだ。」

 

「そ、それは     

 

さやかからフェリシアの過去を聞かされたいろはは驚愕したように目を見開くと、視線を下に下げて悲しそうな表情を見せる。

 

「………………彼女のこと、知ってみれば少しくらいは印象は変わってこないか?」

 

そのさやかの問いかけにいろはは小さく頷いた。それにさやかは満足したのかわずかな笑みを見せた。

 

「私たちもまだ十分に子供の範疇だがな。」

 

「あ、あははは………………」

 

フェリシアのことを子供といったのに、付け足すように自分たちもまだまだ子供だといって取り繕っているようなさやかの様子にいろははやっぱりこの人は精神年齢が少なくとも齢二十は超えているのではないだろうかと思ってしまういろはだった。

顔合わせをしたあとはいろはの先導で彼女の自宅へと向かう。高層マンションに蔦が生い茂っていたりと、どことなく退廃的な空気が漂っている宝崎の街並みに杏子とフェリシアは体になじむのかそれほどまでに見慣れない場所に訪れたような反応はなかった。

しばらく歩いてようやく彼女の自宅に到着すると、すぐさま作業に取り掛かる。元々いろはの部屋がすっきりと整理整頓されており、無駄なものが少なかったのが幸いしたのか、作業自体はスムーズに進んでいく。

 

「んおーい、いろはー。これはこっちの段ボールに詰めちまっていいのかー?」

 

「えっと………………はい!!そっちの箱で大丈夫!!」

 

フェリシアが荷物のまとめ先を聞いてくる声にいろはがそう返す。一緒に作業をしている間に心の壁のようなものが取り払われたのか、普通の会話程度なら造作もない辺りまで進展していた。

 

「そういや業者には頼まねぇって話だったけど、持ってく手段はどうすんだよ。」

 

「近くのコンビニだ。最近のは軽い荷物程度なら発送の時のやり取りを請け負ってくれる店舗が多いからな。」

 

杏子から荷物の運搬方法を聞かれると、さやかはコンビニと答えながら昨今のコンビニの利便性を語る。情報に疎い杏子とフェリシア、そういったシステム面などに苦手意識のあるいろは、少々事情は違えども三人は同じような関心したような声を挙げる。

 

「とりあえず荷造りが済んだのならさっさと送る準備をするとしよう。送ったときの時間が早ければ最速で明日には届くはずだからな。」

 

 

 

 

「すみません、わざわざ手伝ってくれて………………」

 

「いや、あたしとこいつ(フェリシア)はさやかに巻き込まれただけだから、礼はいらねぇよ。」

 

向かった先のコンビニで荷物を送る手続きを済ませたいろはは店先で引っ越しを手伝ってくれた礼を述べる。それに杏子は巻き込まれたクチだから礼はいらないというように首を横に振る。それに同意するようにフェリシアも頷いた。

 

「そうですか………………そういえば、さやかさんたちは何か神浜市へ用があるっていってましたけど、またウワサ関連ですか?」

 

「いや、今回は杏子のソウルジェムを調整してもらうためだ。」

 

「ほむらとマミは先にやってもらってたけど、あたしはそん時は別行動中だったからな。」

 

「なるほど……………なら、またお会いした時にはお礼、させてくださいね。」

 

「だからお礼なんか別にいいって言ったんだけどさ…………だったら言い出しっぺのさやかにしてくれよな。」

 

「あ、だったらオレは今度何かうまいもんくれるんならいいぜ!!いろはがさやかの知り合いってんなら金も1000円から500円に安くしておくし。」

 

さやかと杏子の言葉にいろはが納得する様子を見せ、お礼をさせて欲しいというと杏子はそのお礼をさやかにだけしてほしいという。

 

「そうですか……………まぁ、フェリシアさんのは素直にありがたいと思っておくとして…………でしたらさやかさんは何かありますか?」

 

「私か…………?いや、特にはないな。されるにしてもそっちの好きにしてくれというのが本音だ。」

 

話を自身に振られたさやかだが、僅かに考える素振りを見せたが、それもすぐに戻すと首を横に振りながら特に要望のようなものはないと答えた。

その返答をされたいろははどことなく難しい表情を見せる。やはり彼女としては何かしら礼をしておかないと気が済まない性分なのだろう。

とはいえさやかの方も何かあれやこれをしてほしいという要望も思いつかなかった。

 

「…………うん、ならこうしましょうか。」

 

うやむやにするのもどうかと思い、互いに着地点を見つけようとしたところにいろはが妙案が思いついたのかそう言った。

 

「さやかさん、とっても強いですよね。魔法少女としても、人としても。」

 

「…………突然どうした?」

 

何か提案が出てくるのかと思えば、突然いろはから賞賛の声が送られ、さやかはむず痒い思いを感じながらそう聞き返した。

 

「だから、私もっと強くなります!!さやかさんの隣に立っても足手纏いにならないように!!強くなって、いつかさやかさんが危ない目に遭いそうになった時に助けられるように!!」

 

「ハハッ、中々どでかいこと言うじゃねぇかよ。」

 

いろはの宣誓のような言葉に杏子は呆れたような物言いながらも表情は感心したように腕を組んで笑みを見せる。

当のさやかは口を丸くして驚いたまま固まっていたが、少ししていろはの言葉を飲み込めたのか度合いこそ僅かなものだが、杏子と同じような、それに期待のこもった笑みを見せる。

 

「……………ああ、楽しみにしている。でもお前の妹のことを最優先にしてやってくれ。」

 

「それはもちろん!!」

 

付け加えるようなさやかの指摘にいろはは両腕でやる気に満ち溢れたガッツポーズを見せるのだった。

 

(……………隠しているようで申し訳ないが、まだ私には他人には見せていない戦うための手段や切り札が残っていると言うのは、流石に彼女のやる気を削ぐようで失礼に値するか。)

 

笑みを浮かべている裏でいつも全力を出しているが、まだまだ使っていない手段()があることにさやかは微妙に申し訳ない気持ちになるのだった。

 

 

 

 




次回からは、神浜市の魔法少女たちとの出来事を書いていくつもり。
でも最近予定が立て込んでいるからいつ書けるかはわからない…………

Oh my gods


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第52話 変わりたいのか?

我の強い奴にはそれ以上の我の強さをもって無理矢理従わせるんだよオラァ!!


「ほーん………………ここにその調整屋ってのがいんのか?」

 

顔を上に向けて見上げている杏子がそんなことを聞いてくる。さやかたち三人はいろはの引っ越し作業を手伝い、別れたあとは本来の目的であった杏子のソウルジェムの調整のためにみたまのいる神浜ミレナ座の跡地に来ていた。

 

「そうだな。だが………………担当の人間といえばいいのだろうが、彼女はいまいち掴みどころがない人物だから彼女のペースに乗せられないようにな。」

 

「?………………わかった。」

 

 

さやかの忠告に杏子は首をかしげながらも頷くと廃墟となった映画館の扉を潜り、調整屋であるみたまの元へ向かう。

 

「八雲みたま、前から連絡していた者なのだが………………」

 

「は~い♪いらっしゃ~い、待っていたわよ~………って、あら?」

 

中に入り、薄暗いながらも整頓された空間でみたまの声が響き、さやかたちを出迎えるが、三人を視界に収めたみたまは少しばかり驚いたように目を見開いた。

 

「………………どうかしたのか?」

 

みたまの様子に気づいたさやかが不思議そうにしながら聞いてみると、みたまは苦笑いのような笑みを見せながらちょいちょいと指で指し示す。その方向に目線を向けてみれば壁の一角に一枚の紙が貼られていた。『Warning』の文字が印刷されたその紙は古臭いながらも指名手配書、もしくは警告文の一種であるのを察せられる。ではどんな人物に注意しろと喚起されているのかと見てみれば、さやかたちの隣にいるフェリシアの顔が映っていた。

 

「………………お前、だいぶやんちゃしているみたいだな。指名手配犯みたいな扱いされるって相当だぞ。」

 

「あー………………ま、オレは別に気にしねぇけどな!!」

 

呆れ顔の杏子にフェリシアは自身がそうなったのに心当たりがあるのか渋い表情を見せるが、すぐに気にしないとあっけらかんとした様子に変わる。

 

「…………その子の性格、一緒にいるってことはわかってるでしょ?」

 

「まぁ、言わんとしていることは。大方魔女を目の前にすると自分の感情がコントロールできなくなることだろうな。」

 

さやかがそう答えるとみたまは正解だと言うように無言で頷くと、困ったように頬に手を添えた。

 

「腕は確かなんだけど、いかんせんその気性の荒さで敬遠されているのよ。」

 

「それは当然だろう。親の仇を目の前にして冷静でいられる奴がどこにいる。」

 

「あら…………聞いたの、彼女から。」

 

さやかがさも当然というようにフェリシアの暴走する要因を語ったことにみたまはまた目を丸くしてさやかを見つめる。

 

「そうだが…………ここで話すことではないだろう。あろうことか、本人の前で。」

 

「…………それもそうね。ごめんなさいね。それじゃあ本題と行こうかしら。こっちに来てくれる?」

 

さやかから不快感を訴えるような鋭い目で見つめられ、みたまは謝罪しながら調整の作業に入るために杏子を呼び寄せ、白い仕切り幕の向こうへ消えていった。

 

「それじゃあ〜まず服を脱いでね♪」

 

「は、はぁっ!?ソウルジェムいじるだけって聞いてんのになんで服を脱ぐ必要があんだよ!!まさかテメェ………ソッチ系の奴か!?」

 

「冗談よ冗談♪それとも、こんな人の目につくとかじゃイヤなのかしら?」

 

「ッ〜〜〜〜〜!!」

 

「…………私の時はあんな風に来られなかったのだが…………」

 

「………………」

 

残されたさやかとフェリシアはお互い備え付けのソファに座るが、さやかの独り言のような呟きがポツポツとあるだけで会話のようなものはなく、お互い無言のまま時間が過ぎていく。

 

「あ、あのさ………………」

 

「?」

 

そんな時、フェリシアが詰まらせた声でさやかに話しかけた。先ほどまでだんまりだったのに突然声をかけられたさやかは僅かに驚いた様子でフェリシアに顔を向ける。

 

「あ、ありがとな。庇ってくれてさ…………」

 

「……………あぁ、さっきのか。」

 

急に言われた礼の言葉に流石のさやかもいきなりの礼の言葉に思考を要したが、すぐにその理由のあたりをつけた。

 

「気にしなくていい。だが後ろ髪を引かれる思いをするようなら、直したいと思うなら、少しでも変わろうとする努力をした方がいい。実際そういうことが以前からあるのだろう?でなければあんな思い詰めるような表情は見せない。」

 

「うぐっ………………バレてた………………!!」

 

ソファの背もたれに深く寄りかかりながらのさやかの指摘にフェリシアは飛び上がるような勢いで目を見開くが、すぐにその表情はシュンとした表情に塗りつぶされる。

 

「だが、傭兵稼業を生業にしている以上、避けることのできない現実だろう。クライアントの要望次第で前の依頼主と敵対する羽目になるのもザラだろうな。神浜市には魔女は多いが、それでも数は限られている。裏切者と後ろ指を指されたのも少なくないはずだ。」

 

 

とりあえず思いつくシチュエーションのようなものをつらつらと並べるとフェリシアの表情は嫌なことを思い出したように鬱屈とした表情で俯いた。どうやらそのシチュエーションに該当する苦い記憶があったようだ。

 

「で、どうするんだ?お前は………………変わりたいのか?」

 

「………………」

 

さやかは言うだけいうが、視線はフェリシアには向けずに自然体で佇む。まるで決めるのはお前自身だとでも言うように、腕を組んだまま静かにフェリシアの答えを待つ。

 

「………………………………オレ自身、どうにかしなきゃダメだってのはわかってる………………でもどうしたらいいかわかんねぇんだよ………………!!」

 

その答えは是。フェリシアは自らの環境の変革を望んだ。なら今さやかのやるべきことはおのずとそれに限られる。少しばかり目線だけを上に向けて考えるような様子を見せると、懐から携帯を取り出す。電話帳の機能を起こして誰かの名前をすぐさまタップすると耳もとに電話口を当てる。

 

      もしもし?』

 

「昨日の今日ですまない、今しがた少し頼りたいことができたのだが       もう向こうに着いている?なら手間が省ける。話は私がつけるから彼女と代わってくれないか?」

 

 

 

 

「…………貴方の言うことももっともだな。ならこちらから出向くから本人の意志諸々はそちらで話す方向で頼むことはできないだろうか?」

 

「はい、これでおしまい♪調子はいかが?」

 

「なんつーかさぁ…………普通にできないわけ、お前。」

 

「そう?堅っ苦しいのよりはマシじゃないかしら?」

 

さやかが電話をしている間に杏子の調整が済んだのか、仕切り幕から疲れた様子の杏子と柔らかな笑みを浮かべるみたまが戻ってくる。

 

「…………了解した。とりあえず話に応じてくれるだけ私としてはありがたい。それじゃあ、また後で頼む。」

 

さやかもちょうどそのタイミングで話がまとまったのか、電話越しの相手に礼を述べると通話状態を切った。

 

「お取り込み中だったかしら?」

 

「いや、大丈夫だ。この後やるべきことが増えただけだ。」

 

「やるべきことが増えたって、なんだそりゃ、まーた変なこと言い出したんじゃねぇだろうな?」

 

 

みたまの言葉にさやかは携帯をバックにしまいながら首を横に振り、杏子が訝しげな様子でそれについて尋ねてくる。

 

「………………ただ話をしに行くだけだ。それ以外に他意はない。」

 

杏子の言い草にさやかは眉尻を下げて、心外だと言うように困った表情を見せると杏子がまるで品定めでもしているかのような鋭い目つきを見せる。

 

「ほーん…………じゃあその話っての内容を話せ。他意はねぇってんなら別にあたしらに話しても別に構わねぇだろ?」

 

「フェリシアの住むところについてだが」

 

杏子からの問い詰めにさやかは困った表情ながらも隠すことはせずにすぐに自分がしようとしていることをしゃべった。

しかしその返答に、まるでさやかの答えの代償と言わんばかりに部屋の空気が氷点下に下がったような沈黙が支配した。

 

「へぇ………………ほーん………………まぁ確かにいつまでもマミの家において置くわけにはいかねぇよな。」

 

杏子の声がまさに疑っていますと言わんばかりの雰囲気と細められた目がさやかに向けられる。

 

「で、どうしてそんな話になっているんだ?」

 

「フェリシアが、変わりたいと言ったからだ。だが、一人でやれることには限界がある。人間は孤独で生き続けることはできない、手を取り合い、助け合ってなんぼの生物だからな。」

 

「だ・か・ら・さぁ!!!そーいうのが変だって言ってんだよ、このバカ!!どーしてお前はそう当たり前みたいに慈善活動に奔るんだよ!!」

 

「………………アナタ、変わり者なのね。いえ、困っている人を見捨てられない、正義の味方っていうモノかしらぁ~?」

 

次に飛んできたのは、杏子の怒声。次いでみたまの動揺したような苦笑いを浮かべ、かろうじていつもの間延びしたような声が飛んでくる。その瞬間、さやかは何か時間の取られる面倒な雰囲気を感じ取る。

 

「正義の味方、か。人をそんな仰々しい存在で呼ぶのはやめてほしいのだが………………自分が変わり者であることは重々認めるが………………いろんな意味で」

 

そういってさやかが見せた苦笑いのような笑みは歳不相応に儚げな雰囲気を感じさせるものだったが、そのことを自分の悪いところだと思ってはいないような晴れやかな印象をみたまは覚えた。

 

 

「ったく、お前ってやつはホントに勝手に話をくみ上げていくよな。」

 

「………………すまないな。主な目的は済んだのだから、なんなら先に帰っていても全く構わないのだが。」

 

「いんや、着いていく。お前を一人で行動させっと一体何に首突っ込むか知れたもんじゃねぇからな。」

 

「信頼されていないな………………」

 

自分が言いだしたことなのだから気にしないでかえっても構わないというと、杏子はまだ怒っているのか憮然とした様子のままさやかについていくと言い出す。その様子にさやかは苦笑いを見せる。

 

「信頼がどうとかというより実績だよ、お前の場合。」

 

「……………なるほど。ならもっとその実績を積んだ方が良さそうだな。」

 

「おう、こら開き直るんじゃねぇ。悪い意味でのだってのくらい察しろや、こら。」

 

勝手に良い方に自己解釈し、得意気に開き直るさやかに杏子は白けた目線をさやかに突きつけると、さやかの小脇を拳でどついた。その拳が結構鋭く入ったのか、小さく呻き声をこぼすとどつかれた小脇を抑え、少しだけ苦悶の表情を見せる。

 

「…………流石にふざけ過ぎた。」

 

「おう、だろうと思ったよ。馬鹿は馬鹿でも察しのいい馬鹿のお前がそんな間抜けな反応するわけねぇからな。」

 

「………………それってつまるところ、その子のことを信頼しているんじゃないかしら~~」

 

そのみたまの言葉に今度は杏子が慌てふためいたように否定の言葉を並べるのだった。

 

 

 

 

「……………ホントに昨日の今日…………それどころかほとんどさっきぶりだよなぁ、いろは。」

 

「あ、あはは…………私もまたすぐに皆さんと顔を合わせることになるなんて思いもよりませんでしたけど……………」

 

みたまに調整の代金としてグリーフシードを払った後、さやかたち三人は再びいろはの元を訪れていた。まさかまたすぐに会うとは思ってもいなかったため、杏子の言葉にいろはも同じ気持ちなのか、愛想笑いのような表情を見せた。

 

「まったく…………環さんから突然貴方から電話で話したいことがあるって言われて出てみれば…………」

 

そしていろはの隣で憮然とした佇まいをしたやちよの姿。さやかたちがやってきたのはみかづき荘だ。そしてその目的は変わりたいと願ったフェリシアのため。

 

「一応、言った通り話は聞いてあげる。でも、周りの人からの貴方に対する印象は貴方自身がよくわかっているでしょう?」

 

しかし、やちよの指摘にフェリシアは嫌なものでも見たかのような表情を見せ、気まずそうに顔を俯かせた。それはわかっていた。自分のやっていることは周りに敵を作る行為に他ならない。最初はそれでもかまわないと思った。両親の仇である魔女を見つけ、それを殺せればよかった。でも、実際に他の魔法少女から影口を叩かれ、腫物のような扱いをされると、苦しかった。心が痛かった。

 

「………………」

 

それゆえに、フェリシアはやちよの言葉にうつむいたままだんまりとしてしまう。

 

「………………大丈夫だ。」

 

隣から聞こえてくるさやかの言葉。フェリシアがびっくりしたように俯かせていた顔をあげると、小さくだが温和な表情で笑みを見せるさやかの姿が目に映る。

 

「お前は、自らの状況を振り返り、現状の維持を望まずそこからの変化を望んだ。それだけで、お前は一番難しい山場を乗り越えている。後はお前の心の内を明かせばいい。」

 

そういってさやかはフェリシアの背中に手を添えると少しだけ力を込め、そのまま前へ押し出してやった。無理矢理押し出されたフェリシアは反動でよろけ、目線で訴えてくるが、さやかのまるで動じていないような保護者づらしている笑みに毒気を抜かれたのか、不服そうに唇をとんがらせたままやちよに向き直る。

 

「……………アンタの言う通り、オレはいわくつきの魔法少女だとは自分でも思ってる。傭兵やって、手伝ったやつから報酬もらってその日しのぎの生き方をする。まぁ、縛られるものはないから気ままに生きていられた。初めはそれでも大丈夫だと思った。」

 

しかし、次第にフェリシアの表情は暗いものに変わり、影を差し込んだ。

 

「でもまぁ………………アンタも知ってるんだろ?オレが魔女を目の当たりにするといろいろと我慢が効かなくなるタチなのはさ。」

 

「ええ、そうね。アナタの噂はかねがね聞いていたし、なんなら少し前に調整屋に行ったときに張り出されていたわ。」

 

「ってことは………………アイツらか………………実際オレだけ勝手に突っ込んでいって迷惑かけたのはマジだから、まぁいっか………………」

 

やちよの言葉にバツが悪そうに頭を抱えるフェリシア。どうやら指名手配犯のような扱いをされる羽目になったのに心当たりがあるようだ。とはいえ、今ここで詮索する内容ではないのか、そのまま話が進んでいく。

 

「結果から言えば、その性で傭兵をやっていくうちに他の魔法少女の奴らからは煙たがれるようになっていった。その時期からだ。魔法少女をやってくのが、つらいって感じるようになっていったのは。」

 

フェリシアの語りにいろはは沈痛というような痛々しい表情を見せるが、やちよは険しい表情でそのフェリシア語りを聞く。

 

「………………変えなきゃいけないってのは、わかってた。でも、今更どうすればいいのかわかんねぇから、そのまま引きずるように傭兵をやり続けた。」

 

「フェリシアさん………………」

 

フェリシアの言葉にやちよの隣で聞いていたいろはが沈痛な表情を見せながら悲しげな目線を向ける。

 

「まぁ、そんな時に出くわしたのが、さやかたちだったんだけどさ。こう、オレのことを心配してくれている奴がいるのをわかるってだけでも、こうも意識が変わるんだなって。オレのことを煙たがった扱いしてくる奴がほとんどだったけど、あそこまでオレのことを心配してくる奴は初めてだったからさ。それに      

 

ついこの間、ほんの数日前のさやかたちとの出会いを語ると、フェリシアの表情はどこか憑き物が取れたような晴れた表情を少しだけ見せる。

 

「気づいたらこんな予定組み立てられていたってのもあるけど、なんていうか、ここまでされてふいにしたら、それこそどうしようねぇ野郎だ。だから、頼む。オレをここに入れさせてくれ!!」

 

そういって、フェリシアはやちよに向けて頭を下げ、頼み込んだ。その様子にやちよは無言でフェリシアを見つめ、そのやちよを見たいろはがまるで行く先を不安に思っているように心配な表情を浮かべ、二人を交互に見つめる。

 

「………………はぁ、それで?条件はどんなものだったかしら後見人さん?もう一度確認してもらえるかしら。」

 

「え………………?」

 

ため息をついてからのやちよの言葉に要領を得ることができないように呆けた表情を見せるフェリシア。そしてそのやちよの向けた視線の先には不敵な笑みを浮かべたさやかの姿があった。

 

「条件は基本的にフェリシアに対する安定した衣食住の提供。その代わりにフェリシアは金銭などの報酬は受け取らず無償での協力を約束、ならびに仮に依頼があったとしてもそれに承諾することを禁じる。要するにみかづき荘の専属のお抱え魔法少女になるということだな。」

 

「えっと………………つまり。フェリシアさんはみかづき荘に入るってことです、よね?」

 

「要点を極端に省くとそういうことだな。」

 

いろはの言葉にさやかがそう返す。するとようやく状況を呑みこんだのか、フェリシアといろはの視線が合うと、お互いに嬉しそうな表情に変化していった。

 

「………………あとはフェリシアが自分からできるバイトとかあると完璧なんだがな。中学生くらいの子供をバイトさせてくれる場所などそうそうないと思うが。」

 

「……………一応候補がない訳じゃないから、あとは私の方でなんとかしておくわ。」

 

独り言のようにつぶやいた言葉だったが、やちよに聞かれていたのか、つぶやきに対する答えが返ってくる。

 

「あるのか。まぁ、そういうことなら貴方に任せるが………………彼女のこと、よろしく頼む。」

 

「ま、せいぜい振り回されるこったな。結構大変だぜ、そいつの手綱握っておくの。」

 

「杏子、あまり他人の印象を下げるような発言は褒められるものではない。それにもうフェリシアがそう易々と鞍替えをするようにはもう見えないがな。」

 

驚きながらも都合がいいと思ったさやか。そしてやることは済んだというようにさやかと杏子はその場から立ち去っていく。別段話すこともなかったため、やちよも遠くなる二人の背中を見送るだけにとどめていたが   

 

「あ!!お、おい、勝手に帰ろうとしてんじゃねぇよ!!」

 

フェリシアに粗雑な口調で呼び止められ、帰ろうとした足を止め振り向くと、照れくさそうにしているフェリシアの様子が目に映る。

 

「その………………あ、ありがとな。特に、さやか。アンタは前から変な奴だとは思っていたけど、余計に変な奴だってわかった。」

 

「………………そんなに変か?ただフェリシアの言葉を聞いてできることをしただけなのだが。」

 

フェリシアの言葉にさやかは冗談だろというように杏子の方に顔を向けるが、その杏子からの返答は無言で「はぁ?お前何言ってんの?」と訴えているような正気を疑っている顔だったのは言うまでもない。

 

 




さっさんとコネクトした場合に限定条件が発生する魔法少女一覧(なお伏せられている〇の数には文字数的に関係あり。)

深月フェリシア→某勇者王

巴 マミ→ ガンダム〇〇〇〇〇

佐倉 杏子→ 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

暁美 ほむら→ 〇〇〇〇〇〇〇〇〇

〇〇〇〇〇→ 〇〇〇〇ハル○○

由比 鶴野→ 〇〇〇〇〇○ ヒント 扇を炎をまとった翼として使う予定

十咎 ももこ→ 〇〇〇〇〇○ ヒント 剣を大きくさせ、いざ雷の速さまで

天音姉妹→ 〇〇〇〇〇〇〇 ヒント 音、声が必殺技で調律のやべぇ方。


たぶんこの先登場キャラが増えてさっさんとの絡みができたうえでいいのがあったら追加、するかも



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第53話 ウォールナッツ

とうとうマギレコ本編中で死人がでたってマジっすか?


「ん〜……………これでフェリシアも無事に安定した生活を送ることができそうで何よりだ。」

 

フェリシアをみかづき荘に任せた後、その帰る道すがら満足気な表情をしながらやり切ったように伸びをするさやか。

 

「ったく…………お前って奴はホントにやることが無茶苦茶なんだよ。」

 

その隣で呆れたような目線を送りながら目線を伏せてため息を吐く杏子。そんな杏子の様子を横目でみたさやかは少し考えるように視線を上へ向けると携帯を取り出して何かを調べ始める。

 

「ふむ…………なるほど……………」

 

「んお……どしたって……………お前まーた変なこと考えているんじゃねぇだろうな。」

 

そう声を漏らしたさやかを杏子が顔を向けるや否や、怪しい人間でも見ているかのような表情にすげ替えていく。

 

「いや、1ブロック移動して腕のいい料理人がやっているらしい料理店に行くか、近場で知り合いの中華料理店に向かうかで悩んでいる。どちらがいいんだ?」

 

「………………どっちって………………そんな急に    

 

「今なら私の全額負担の大サービスつきにするが?」

 

「ッ………………テメェ………………あたしが食いもんに釣られると思って    

 

「どうするんだ?」

 

再三のさやかからの言葉。自分の言葉を途中で遮られる形となったことに杏子は不服そうな目線でさやかに抗議するが、当の本人は微妙にいい笑顔でそれをサラリと受け流す。まるで最初から返答がわかっているといわんばかりに。

 

「………………迷惑料ってことか?」

 

「有体に言えばな。で、結局どうするんだ?」

 

「………………しょぉがねぇなー!!高い方で手打ってやるから、感謝しろよな!!」

 

「………………わかった。」

 

さやかの持ちかけた話が取引であることを杏子はわかっていたが、別にどっちに転んだとしても実害のようなものはないにも等しい児戯のようなことだったのもあって、杏子は完全に自分の利益になる方を選んだ。

 

 

 

そんなこんなもあったが、二人はさやかが調べ当てた腕のいい料理人のいる料理店に向かう。電車を使って二つほど駅をまたいだところで降りた区画は北養区と呼ばれる地域だった。どことなく浮足気味で先を急いでいるような足取りの杏子と地図を片手に彼女を追うさやかがたどり着いたのは、『ウォールナッツ』の看板が掲げられた洋風レストランだった。

 

 

「ここか?お前のいう腕のいい料理人がいる料理店っていうのは。」

 

「ああ、そのはずなんだが………………」

 

杏子の言葉にさやかはうなずく姿勢を見せるがその表情は首をかしげるような疑問気なものだった。理由としては妙に人の気配がないのだ。店内で人の賑わいがあるような雰囲気も感じなければ、店前で行列を成している人々すらない。外からかろうじて見ることができるのはさやかと同年代くらいの赤毛の少女が物憂げな様子でカウンター席で一人寂しく座っているだけだった。

 

「ここのオーナーシェフ、名前を調べてみたら高級ホテルの料理長経験もある人物とのことだったのだが………………」

 

「はぁっ!?高級ホテルの料理長だぁ!?」

 

困ったように後頭部に手を当てるさやかの言葉に杏子はびっくりして大声を上げながらさやかの方を振り向いた。その杏子にさやかは周囲の人の迷惑になると小言を立てていると、何やら騒がしい音が聞こえてくる。具体的には、さやかたちの目の前のウォールナッツの店内の方から。

 

「も、もしかしなくても、お客さんですか!?」

 

バァン!と扉を壊しかねない勢いで店内から出てきたのはさっき外から見えたあの物憂げな顔を見せていた赤毛の少女だった。肩を上下させて息も絶え絶えといった様子、しかしその赤毛と同じ色合いをした瞳からは生き生きをしたものを感じさせる。

 

「あ、ああ…………そうだが………………」

 

「ッ~~~~そうですか…………そうですかそうですかそうですか~~~!!!」

 

その少女の問い詰めに気圧されながらもさやかがうなずくと、その赤毛の少女は感無量といった様子で歓喜の表情を見せると、何度もかみしめるようにうんうんと顔を上下させる。

その少女の様子にさやかたちが呆然としていると、突然その少女の手がさやかの腕を掴んだ。

 

「え      

 

「さぁさぁお好きな席にどうぞ!!見ての通りお店は閑古鳥が鳴いている状態ですが貴方がたは運が良いです!!なぜなら世界一のまなかの料理を食べることができるんですから!!!」

 

まともな反応も取れないまま自分のことをまなかと呼ぶ少女はそのままさやかを店内へと引きずっていく。

 

「う、うおあああああああああッ!?」

 

「さ、さやかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ニコニコとした少女にその少女に引きずられていくさやか。そしてその様子に悲鳴をあげる杏子。北養区のあまり人気のない街並みの一画に少女の声が響いた。

とりあえず杏子は引きずられていくさやかの後を急いで追った。

 

「す、すがすがしいくらい強引な客引きだったな………………」

 

杏子が店内に引き連れこまれたさやかに追いついた時には既にさやかは、状況的には席に座らされていたといった方が正しいと思うが、ともかく席についていた。

 

「お、おい、なんかとんでもねぇ店引き当てたんじゃねぇのお前。」

 

「いや………………どうなのだろうな。正直わかりかねているのが本音だ。」

 

近くにやってきや杏子がさやかに耳打ちするような声量でそういうが、さやかは苦い微妙な笑みを浮かべながら視線をカウンターの向こう側に向ける。気になった杏子がその視線を追ってみると、レストランの厨房の様子を見ることができた。そこではさやかを店内に引きずり込んだ張本人である赤毛の少女、まなかがこなれた様子で手際よく料理を行っている光景があった。

 

「え………………まさかとは思うけど、あいつが高級ホテルの料理長だった奴か?」

 

「いや、私が見た画像の人とは違う。おそらくだが娘かそこら辺の、血縁関係にある人物だろう。」

 

「………………仮にあいつが娘だとして、肝心の料理人はどこいったんだよ。」

 

「お父さんは、最近は出張で出払っています。」

 

杏子とそんなことを話していると、会話の内容を聞いていたのか、まなかからそんな言葉が飛んでくる。

 

「確かにまなかのお父さんはまなかの師匠であり、セレブの人たちの舌をうならせるほどの腕前を持っています。」

 

「………………不躾なことを言うようだが、その割には閑古鳥がないているな。肩書としては十分なものだろう、高級ホテルの元オーナーシェフなど。」

 

さやかが周囲を見回してみても、店内にいる客は客だったとはいえ無理矢理入店させられたさやかと杏子以外の姿はかけらもなかった。

 

「昔はもっといたんです。ですが、土地の情勢がかわっていくうちに今は見ての通り、閑古鳥が鳴いてしまう店になってしまっていって、お父さんが他の家への出張でお店を空けざるを得ない状況が続いているのです。」

 

そういってまなかはさやかたちの方を見てはいなかったが、背中から感じる哀愁漂う様子にその言葉に嘘がなく、真実であることを察する。

 

「…………あ、すみません。初めてお会いした間柄にもかかわらず、こんな身内の話をしてしまって……………」

 

「気にしなくていい。私たちがここの料理人の腕がいいと聞いてやってきた客であることに変わりはないのだからな。」

 

「………………お前よくあんな無茶苦茶なことされてここの料理食う気になるよな………………」

 

さやかの言葉に杏子は気持ち悪いというように表情を引き気味に歪めてさやかを見つめる。その表情にさやかは苦笑いを禁じ得なかったが、それはそれ、これはこれというのでかたづけた。

 

「そういえばよ、さやかは何か注文のようなものでもしたか?」

 

「ああ………………それなら引きずられている間に聞かれたから一番自信のある料理をって頼んだ。」

 

「マジかよ。お前よくあんな状況でオーダーできたな。」

 

そんな会話をしていると二人の鼻腔を芳醇な香りが漂うのを感じ取る。自然と会話が途切れ、視線は料理を行っている少女の方へ注がれる。迷いを一切感じさせない堂々とした立ち振る舞いは素人目のさやかたちから見ても熟練の料理人の気風のようなものを感じさせる。

 

「………………へぇ、コイツは中々期待できそうじゃねぇか。」

 

「彼女も目指しているのかもしれないな。父親のような料理人を。」

 

自然と胸中に湧き出る期待に杏子は感心したような笑みで評価を改め、さやかはその背中から会ったこともないはずのまなかの父親を重ね、その夢を語る。

 

「できあがりです!!ウォールナッツ特製ふわふわオムライスです!!」

 

さやか達が座っていた席に二つのお皿が並べられる。白い皿の上に乗せられた綺麗な楕円形を形作っているオムライスは作り手である少女の腕前を如実に表しているようだった。

 

「はー……………オムライスってこんな綺麗な色にできるもんなんだな…………」

 

「まるで芸術品だな……………冷めたらもったいないから食べるが。」

 

そのオムライスの黄色い輝きに二人揃って目を奪われるが、さやかが冷めたらもったいないという思いで手早くスプーンを手にするとそのオムライスに差し込んだ。

 

「………………柔らかいな。」

 

掬い上げたオムライスを見て、一言感想を述べると、そのスプーンを頬張る。少し口の中で咀嚼すると、一瞬目を見開いたあとに表情を和やかなものにする。

 

「ふっふっふっ、どーですかまなかが作ったオムライスは。」

 

「陳腐な感想でしか出せないが、うまいな。」

 

さやかの端的な感想だったが、まなかにとってはそれでも十分に満足だったらしく、腰に手を当ててふんすと上体を逸らして踏ん反り返っていた。

 

「うんま!!なんだこれうんまー!!」

 

杏子も出されたオムライスにご満悦な様子で目を見開いてそのうまさに驚嘆すると猛烈な勢いでオムライスを無くしていく。

 

「お気に召していただけたようですね。」

 

「そうらしいな。今回ばかりは彼女を引き摺り回してしまったから少しでもこれで償いになればよかったのが………」

 

「ングング…………まったくだぜ、人助けすんのも程々にしやがれってんだングング…………それでお前自身がブッ潰れたらどうしようもねぇだろうが。」

 

「わかっている。だからこうして文句タラタラながらもついてきてくれるのだろう?いつもすまないな。」

 

杏子がムッとした表情を見せながらの小言にさやかは軽く笑みを浮かべた表情でそう返すと杏子はオムライスのお皿を手にしたまま身体をそっぽへ向けるとそのまま黙り込んでしまった。

さやかはその時オムライスに目線がいっていて気付かなかったが、まなかは角度的になんとなく杏子の耳がほんのりと赤みを帯びていることに気づいたが、それを指摘すると、また話がこじれる予感がしたため、口を固くつぐんだ。

 

「………………!?」

 

しかしそんな時、唐突にさやかが食事の手を止め、目を見開くと険しい表情を見せながら両腕を抱き寄せ、自身の身体を縮こませる。その様子はまるで寒さに体がかじかんでいるようだった。

 

「あの………………もしかして寒かったですか?」

 

「………………ある意味な。でもすぐに慣れる。」

 

寒いのかどうかを問われたが、少し的の外れたような返答に首をかしげるまなか。

 

     ったく、メシ食っている時くらいゆっくりさせてくれよなぁ。」

 

一瞬隣から明るい赤の光が輝いたかと思えば、ある程度二人のやり取りを聞いていたのか赤槍を携えた魔法少女姿の杏子が獰猛な笑みを浮かべて立っていた。

 

「ま、魔法少女だったんですか!?」

 

「………………そういうお前も魔法少女なのか。」

 

その姿を見たまなかはその杏子の姿を何かのコスプレだのというより先に魔法少女だといった。それの言葉が出てくるということは、契約していないながらに魔法少女の存在を知っているまどかを除けばその人間自身が魔法少女であるということに他ならない。

それを指摘したさやかの言葉にまなかは逃れらないと思ったのか、素直に肯定の意で首を縦に振った。

 

「なら手間が省けるな。実力はどうであれ、アンタも戦えんだろ?さっさとメシに戻りたいから手伝えよ。」

 

杏子が槍を肩に担ぎながらそう言ったその瞬間、さやかたちのいたウォールナッツの空間が歪にゆがみ始めると色合いだけ見るとショッキングピンクと呼ばれるような目が悪くなりそうな濃い色の空間が広がる。

 

「これは………………!!!」

 

言うまでもなく、その空間は魔女の結界。まなかがびっくりしながら辺りを見渡すと運がいいのか悪いのか、その空間の主と思われる巨大なウサギのぬいぐるみの魔女が離れた場所に立っていた。

 

「………………わかりました。結界によって上書きされたとはいえ、何よりここはウォールナッツの厨房。魔女ごときにまなかの神聖な領域を土足で踏み荒らさせるわけにはいきません!!」

 

そういって懐からソウルジェムを取り出したまなかは魔法少女へと変身する。白い制服に前掛けのような赤い布、そして武器は手にしているフライパン。極めつけに頭にのせられたコック帽。まなかの魔法少女姿は誰がどう見てもコックの衣装だった。

 

「フライパンって………………いろんな意味で大丈夫なのか?」

 

「大丈夫です!!むしろ体調を悪そうにしていた貴方こそ下がって     

 

心配そうなさやかの声にまなかを意気揚々とむしろ体調の悪いさやかこそ下がるべきだというように振り向き、そこにいたさやか(ガンダム)を視界に収める。

 

「………………」

 

まず目に留まるのは左肩に懸架しているバスターソード、ついで右手にもっているGNソードⅡブラスター。その他にも全身に備え付けられた剣の数々、何より地に足を下ろしておらず、空中に浮いている様にまなかは情報量の多さと驚きのあまり言葉を失う。

 

「……………そこのソイツはそういうもんなんだよ。慣れろとはいわねぇけど気にすんな。」

 

「そ、そうですか………………」

 

「これでも少し前はおとなしい方だったのだがな………………来るぞ!!」

 

肩を竦めているのも束の間、巨大なウサギのぬいぐるみはその巨体に似合わない俊敏さで三人に詰め寄ると、その丸い拳を地面にたたきつける。さやかの声で咄嗟に三人が飛び退いたため、その拳が直撃することはなかったが、砕けた地面からわらわらと使い魔が現れる。

 

「使い魔………………!!」

 

虫のように湧き出てくる使い魔に生理的嫌悪感を抱くが、まなかがフライパンを振るい、炎の塊を投げると、魔女が開けた穴から出てきた使い魔は燃えカスまで焼却される。

 

「まさかとは思うけどさ、この地面の下は使い魔の巣になっているのか?」

 

「だとすれば、長期戦は不利だ。すまないが、開いた穴への対応を頼めるか?」

 

「わかりました!!ここはまなかに任せてください!!」

 

結界の地面の下に使い魔の生産プラントのようなものがあるとすれば、さやかの言う通り長期戦は不利になる可能性が高い。炎による広範囲の攻撃ができるまなかに開いた穴の対応を任せると、二人は魔女に向けて肉薄を行う。

 

「叩き切るっ!!」

 

空を飛べる都合、杏子よりスピードのあるさやかは先に魔女を捉えると、振り上げたバスターソードを魔女に向けて思い切り振り下ろす。しかしその攻撃は魔女持ち前の素早い身のこなしでその切っ先をひらりと躱し、逆にカウンターの拳を仕掛ける。

 

「コイツ………………!!」

 

迫りくる拳にさやかは相手の身のこなしの速さに目を見開いて驚くが、冷静に体をよじらせることで拳の軌道から逃れるとバスターソードを体ごと回転させた遠心力で魔女の腕を上腕から切り落とす。片腕を失った魔女は痛みからか後ろにのけぞると、濃いピンクだった体の色を青黒く変化させ、そのかわいらしかった顔をゆがんだものに変化させる。

 

「さやか!!ちょっと手ぇ貸せ!!」

 

背後から杏子の声が響き、後ろを振り向くと自身に向かって跳躍してくる彼女の姿が目に映る。そのまま落下してくる様子で察したさやかはバスターソードを両手で支えるように頭上に掲げる。

 

「へへっ、よくわかってんじゃん!!」

 

そういうと杏子は掲げられたバスターソードに足をつける。ぐっと沈めた足を力点、支えられたバスターソードを足場としてさらに高く跳躍をし、魔女のはるか頭上をとる。魔女は余裕が出たのか落ち着いた様子を見せるが高く跳躍した杏子には気づいていない。

 

「これで、終いだぁ!!」

 

魔力で巨大化させた槍を力任せにぶん投げる。落下する槍はすさまじい衝撃音と共に魔女を頭から串刺しにすると、魔女の身体は真っ二つに両断され、消え去っていた。

 

「すごい………………魔女を秒殺するなんて………………!!」

 

まなかが驚愕していると、主がいなくなったことで結界が維持できなくなり、再び視界が渦を巻くようにゆがむと風景は先ほどまでいたウォールナッツに戻っていた。違うのは店の床に倒したのが魔女の証であるグリーフシードが落ちていることぐらいか。

 

「さってと、メシに戻るか!!」

 

「ああ、冷めてしまってはもったいないからな。」

 

そういってさやかたちは何事もなかったようにまた出されたオムライスを食べ始める。

 

「………………あの、出された料理を冷めないうちに食べようとしてくれるのは料理人冥利につきるのですが、もっとこう………………ないんですか?」

 

その光景になんともいえない微妙な表情を浮かべながらそういうも、当の本人たちはせいぜいさやかから杏子に調整の具合を聞かれる程度で、あとは何気ない会話が続いていくだけだった。

 

 




しばーらくはこんな感じに神浜市の魔法少女との出会いを書いていくつもり………………ハル○○予定のあの子とのエピソードも書かないとあかんしね!!


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第54話 彼女こそが本当の希望

しばらく続くよフェリシアパート


「………………フェリシアから私に頼みたいことがある?」

 

意外そうな声を挙げ、目を見開くさやかは思わず自室の椅子に座りなおし、その話を真面目に聞く姿勢を取り始める。ことの始まりは数分前、夕飯を平らげ、風呂も済ませホクホクとした表情を見せていると自室に携帯の着信を知らせる電子音が鳴り響く。

何事かと思って携帯の画面を見ると、そこには神浜市にやってきてから一番交流が深くなったとも呼べるくらい顔を合わせる機会がトップに躍り出ているいろはの名前が表示される。何気なく通話状態にして彼女の話を聞くと、フェリシアがさやかに頼みたいことがあるとのことだった。

 

『はい。一応フェリシアちゃんにその理由は聞いては見たんですけど、ともかくさやかさんに繋いでほしいってばかりで………………』

 

「………………わかった。だが彼女と代わってもらえるか?私の方で聞いてみる。」

 

困ったように悩まし気な声を挙げてそう話すいろはにさやかは突然の頼みごとに不快感のようなものを一切感じさせないような平然とした顔でそれを承諾すると、代わりにフェリシアを出してほしいといろはに頼む。

 

『わかりました………………すみません、手間をかけさせて………………』

 

気落ちしたような声色のいろはにさやかが思わず苦笑しながら気にしなくていいと声をかけると、いろはの声が遠のき、誰かを呼んだような声が電話口に入り込む。

 

『………………えっと………………もしもし。』

 

電話口から聞こえてくるフェリシアの声。その声はそれなりに聞きなれた快活な印象を覚えるいつもの彼女とは違い、低く、小さいものであった。

 

「………………みかづき荘に移り住んでから三日ほど経ったが、様子はどうだ?」

 

そのフェリシアの様子に思ったより時間がかかることを瞬時に見極めたさやかは少しだけ間を設けて思考の時間を創ると、とりあえず下手に最初から本題に踏み入ろうとはせずにあまり関係のないことで雰囲気を和ませることにした。

 

『あ………………?ま、まぁ………………じゅーじつはしてるっていうか、なんというか………………メシ代考えることもないし、寝るところで苦労することもねぇから、悪くねぇ。』

 

「ハハ、やたら三大欲求に忠実なんだな。」

 

『サンダイヨッキュウ………………なんかの必殺技か?』

 

「人間にとって切っても切れない睡眠欲、食欲………………ともかく生き物を生き物たらしめる基本的な欲求のことだ。」

 

『………………?』

 

さやかの言葉に脳が理解することを諦めたのか、電話越しでも首をかしげているの光景を想像するのが簡単なほどそういう雰囲気を見せるフェリシア。

 

『あ!!でもやちよの奴がひどいんだぜ!!オレのことすっげぇしかりつけてくるんだよ!!やれ皿洗いを手伝えとかさ、服を脱ぎ散らかすなとかさ、少しは勉強しろとか事あるごとに言ってくるんだぜ!?まるで悪魔かよ!!』

 

(それは………………至極当然のことではないのか?彼女の根が善良であることはわかっていたが、ここまでヤンチャな気性の持ち主だったとはな。今度菓子折りでも七海やちよに持っていくか。)

 

やちよの気苦労にさやかは苦笑いを浮かべ、彼女に対して同情の思いを抱きつつ、今度詫びの品でも持っていくかと決心するが、フェリシアにそれを悟られないよう表面上は相槌を打つさやか。

 

「そうだな………………唐突だがフェリシア、『好き』の反対は何なのか知っているか?」

 

『好きの反対………………?ほんとに唐突だな。そりゃあ嫌いなんじゃねぇのか?』

 

「まぁ、あくまでこれは私個人の持論なのだが……………一見好きと嫌いという感情は相反しているように見えるが、その根っこの部分は同じなんだ。良くも悪くも相手に対しての関心があるということ。好きでも嫌いでもその相手に対してはなんらかの感情があるだろう?」

 

『相手に対しての感情………………オレあんま難しいことわかんねえんだけど………………』

 

「そうだな………………例え話をするとだな、お前は好き勝手に生活しているが、やちよはそれに対してなんの小言を立てることはない。お前が何かしでかしても、逆にお前が何か事を成しても、何をしようがお構いなしだ。これに対してお前はどう思う。」

 

『なにそれ、めっちゃいいじゃん!!要はアイツのうるさい説教一生聞かなくて済むんだろ!?』

 

さやかのたとえ話にフェリシアは目を輝かせて食いつき、さながら天国だというようにたとえ話とはいえそれに歓喜しているような反応を見せる。

 

「ならばその対応をいろはや私が同じように家でもしてきたら、お前はどう思う?」

 

『え………………いろはやさやかが?』

 

付け足されたさやかの言葉にフェリシアが呆けたような反応を見せると、しばらくの間電話からうなるような声が続いた。

 

『………………なんつぅかさ、えぇっとその………………』

 

多少フェリシアが何か答えを返そうとしているような声が聞こえては来るものの、それが実際にフェリシアの口から出ることはなく、しばらくフェリシアが何か言おうとしてはそれを断念するようなしどろもどろな様子が続き、時間が過ぎていく。

 

『そ、そうだ!!さやかだったらどうなんだよ!?そういう風に質問してくんなら当然答えもしってるんだろッ!?』

 

どうやらフェリシアはおつむは緩いが頭の回転がいい方らしい。わからないのか答えるのが恥ずかしかったのかは今のところ定かではないが、ともかく質問してきたさやかに先に答えさせようとしている。

 

「私か?私がその立場にさらされているのだったら、まぁ寂しくは感じるな。そんなのはまるで透明人間にでもさせられているようなものだからな。」

 

『だ、だよなぁ!!さやかもそう感じるよな!?』

 

その返しをさやかは無視してもよかったが、それではフェリシアがいつまでも答えを詰まらせたままになると思ったさやかは彼女から答えを引き出すように自分が持っている答えを口に出すと、堰を切ったようにフェリシアがさやかと同じ感覚がすることを明かした。

 

「ならやちよがお前に対して小言を唱えていられる間のうちだ。いいかフェリシア、好きの反対は嫌いではなく無関心だ。それを頭ではなく心に留めておけ。お前の場合、その方が物覚えがよさそうだからな。」

 

『………………わかった。少しくらいは頑張る。オレはやちよは別にいいけど、いろはやお前にそういう反応されるのは、ちょっとやだ………………』

 

「そういう風に考えられるようになっただけでも上出来だ。」

 

フェリシアの言葉にさやかは柔らかな笑みをこぼし、彼女をほめるように言葉を贈る。

 

「本題から話が大分それてしまったな。すまないな。」

 

『いや…………いい。さやかがオレが話しやすくしようとしてくれたんだろ?』

 

「ん………………お節介が過ぎたか?」

 

『まぁな。でもそういうところがさやからしいから別に気にはしねぇよ。』

 

「そうか………………」

 

フェリシアの言葉になんとなくむずかゆくなる思いが芽生えたさやかは気恥ずかしそうに頬を指で軽くかいた。どうであれ話題を逸らしたことは事実だし、フェリシアがそれに感づいている以上、必要ないため、本題に戻ることにした。

 

「それで本題に戻るが、一体何用で電話をかけてきたんだ?」

 

『………………調整屋でさ、オレの顔が張り出されていたよな。』

 

「?………………そうだったな。」

 

あまり要領を得ないような突拍子もない言葉にさやかは若干のラグを作りながらもフェリシアの言う通り彼女の顔が描かれた手配書のようなものが調整屋に張り出されていたことを思い出す。

 

『一応、時期的にあれを張り出したのはアイツだってのもなんとなく察しが付く。アイツいけすかねぇ奴だったし、オレの苦手なタイプの魔法少女だ。』

 

「待ってくれ、話が見えてこない。お前は私に一体何をさせたいんだ?」

 

独り言の領域に踏み入りそうだったフェリシアの調子をさやかは無理矢理話に割り込むような形で一度間を設けさせる。

 

『あーっと、そうだった。ワリィちょっと熱くなった。オレがさやかに頼みたいのは、付き添いなんだ。』

 

「付き添い?」

 

さやかの確認ついでの繰り返しにフェリシアはそうだと返すと、さらに話を続けていく。

 

『その、まぁ……なんだ。オレは魔女を目の前にすると周りが見えなくなるから、傭兵としてやっている時も、迷惑をかけていたと思うんだよ、たぶん。』

 

「たぶん………………ハァ、この際だからはっきりと言うが、魔女との戦いは文字通り命懸けだ。戦闘に至るまでもそれなりにどのように戦うかのプランもあったはずだ。グループで事にあたるのであればなおさらのこと。それを一人の行動でかき乱されてはたまったものではないと思うが?まだ契約してからひと月ほどしか経っていない私が言うのも少しばかりおこがましい部分もあるが。」

 

『うっ………………そ、それはわかってる!!』

 

フェリシアの言葉にさやかは頭を抱えるような仕草をすると、呆れたような物言いで彼女の普段の行動に苦言を呈する。そういわれたフェリシアも一応は自覚をするようにはなったのか、声を詰まらせながらもそう返すと、仕切りなおすように大きく咳払いをした。

 

『話を戻すとな、迷惑かけた奴らに謝ろうと思ってるんだよ。その、オレの悪評のせいでいろはたちにまで迷惑かけるわけにはいかねぇからな。けどオレ一人だと正直何言われっかわかんねぇ上にオレ自身が我慢できるかわかんねぇ。』

 

(つまり、彼女の言う付き添いというのは要はストッパー替わりか。まぁ全くもって構わない上に勝手に行動されてまた面倒ごとになるのはやめてほしいところだから、ここは素直に彼女の成長と考えるか)

 

フェリシアの言葉にさやかは反応を返すことはせずに、顎に指を乗せ、考えるような仕草を見せ、フェリシアの話を聞き入る。

 

『でも、オレがこれまで傭兵として依頼をしてきた奴は山ほどいる。中にはもう顔を覚えてねぇ奴もいる。』

 

「まぁ………………そうなるか。これで顧客リストとか律儀に制作しているのなら謝罪行脚もできなくはないが、そういうの、一切取ってなさそうだしな。現実問題、到底無理だろう。」

 

『だから、とりあえず調整屋にあの張り紙張り出した奴らのところに行こうと思ってる。ソイツらの中に、やたらとオレに構ってくる奴がいたからソイツの名前は覚えてる。』

 

「ちなみにだがその人物の名前は?」

 

『………………かこ。夏目かこって言ってた。』

 

「了解した。だが私にも普段の生活がある。どうやっても今週末の休日からしか動くことはできないが、それでも問題はないか?」

 

『………………わかった。それで頼む。』

 

 

 

さやかの条件をフェリシアが承諾し、学校が休みに入った土曜日の昼時、さやかは恒例となってきた新西中央駅で待っていた。場所はフェリシアが携帯といったすぐに連絡を取れるものを持ち合わせていなかったため、事前の打ち合わせで決めた駅の入り口の真上にある半円型の屋外庭園。その落下防止用の鉄柵に体を預け、さやかはフェリシアを待っていた。

 

(携帯がつかえないとこうも相手が来るかどうかが不確かで不安になってくるな。昔はよくもまぁ口約束で集まれたな………………)

 

なんとなく昔の時代に戦慄のようなものを抱いていること十数分。

 

「………………わりぃ、駅で少し迷って遅くなった。」

 

「ん?フェリシアか。このくらいだったら全然構わない    

 

近くからフェリシアの遅れたことを謝る声が聞こえ、さやかがそのことを気にしなくていいと伝えようとして振り向くと、そこには頭頂部が風船のように膨らみ、ボリューム感の出るキャスケットを目深にかぶり、はずかしそうにしているカジュアルな恰好に身を包んだフェリシアがいた。

 

「………………誰かにコーディネートでもさせてもらったのか?」

 

「………………やちよに無理矢理着せられた………………!!」

 

さやかの質問に悔し気にうめき声を上げながらそう答えるフェリシアに思わず表情が緩みそうになるのを口元を覆い隠して耐えるさやか。フェリシアの服装はフード付きの緑色の服に、その上からオーバーオールを重ね着したものだった。

 

「………………流石は本職だな。他人のコーディネートまでお手の物か。似合ってるから私としてはいいと思うが?」

 

「なんか落ち着かないからヤダ!!」

 

そのやちよのコーディネートにさやかは流石はモデルだと舌を巻いていたが、当の本人はまだおしゃれというのにその気がなかったようだ。ともかくこうして合流したのならあとは動くだけ。さやかはフェリシアを連れ添ってまずは情報収集を始める。

 

 

 

「あら、いらっしゃ~い♪この間ぶりねぇ」

 

そういってほんわかしたような間延びした口ぶりでさやかたちを出迎えたのは調整屋のみたまだ。とりあえずフェリシアの指名手配所もどきが掲示されている場所にいる人物なら何か知っているかもしれないと踏んで足を運んだのだ。

 

「突然押しかけてすまないな。」

 

「いいのよぉ、ここって魔法少女の子が来ない限りヒマなんだから~私とお話しに来たって思って♪」

 

そういって二人が座るソファの対面に座るみたまは以前出会った時と同じようにケーキの上にケチャップをはじめ、およそ人類がだれも試そうと………………試すことすら忌避してしまうようなゲテモノトッピングをしたうえでそれをおいしそうに頬張っていた。

 

「それで、今回はどうしたのかしら?この前みたいな用事ではなさそうだし………………」

 

「そうだな、今回は別に調整をしに来たわけではない。ちょうどアンタの後ろの柱に張り付けられた、指名手配書のようなものに関してだ。」

 

不思議そうな表情を浮かべ、頬に手を当てて首をかしげるみたまにさやかはみたまの後ろを指さし、自分たちがここに来た目的を告げる。

 

「あの紙を張りに来たグループについて、何か知っていることがあれば教えてもらえないか?」

 

「張り紙?………………ああ、なるほどねぇ………………」

 

さやかの言葉にはじめは要領を得ないみたまだったが、さやかが指した指を追うと、そこでようやく理解したのか納得といった声を挙げた。

 

「………………それを知って貴方たちはどうするつもりなの?まさかとは思うけど、復讐なんてのは、ないわよね?」

 

「あ、それは別に心配しなくていい。あくまでフェリシアが謝罪したいだけだからな。」

 

「………………そ、そうなの?」

 

フェリシアの気質から彼女が復讐が目的でその張り紙を張り出したグループのことを知りたがっているのなら、彼女らの安全も鑑みて教えるつもりはなかったが、次点でさやかが復讐とは真反対の謝罪がしたいというのに、思わずみたまは驚きながらそれの真意を尋ねる。

 

「………………なるほどねぇ………………根無し草だった貴方がねぇ………………」

 

事の経緯と詳細を聞いたみたまは感嘆といった様子でうんうんと何度もうなづきながらホロリと涙を零した。そのみたまの様子に顔を引きつらせているしかない二人。理由としては彼女のそばに目薬の容器が丸見えだったからだ。

 

「………すまないが、目薬が丸見えだが?」

 

「………………あらやだ、乙女の秘密はそう明かすものではないのよ?」

 

「そもそもアンタはまだそう呼ばれるような見た目ではないだろう。」

 

さやかの指摘にみたまはおどけた口ぶりで窘めるが、呆れた様子のさやかの返しにみたまは表情を強張らせる。

 

「貴方って色々まっすぐよねぇ………………少しはかわいげのあるところは持っておいた方がいいわよ?」

 

「反応に困るようなことを言わないでほしいのだが………………仕方ないだろう。こればかりは性格なんだから。それで、結局教えてもらえるのか?」

 

みたまのじとっととした目線に困ったような表情でしか返せないさやかだが、本題のあの張り紙に触れるとみたまは姿勢を整えるように座りなおした。

 

「そうねぇ………………まぁ調整屋も魔法少女の紹介とかしないわけじゃないからそういう情報がない訳じゃないけど………………」

 

「………………かこのことも知っているのか?」

 

悩まし気に空を見つめるみたまにフェリシアが唯一名前を知っていること…夏目かこのことを尋ねた。突然のファーストネームの人物名にみたまは少し戸惑ったように視線を右往左往させていたが、少しするとその人物について当たりをつけたのか、思いついたようにわざとらしく手のひらの上を拳で叩いた。

 

「そうねぇ………………その子のことだけ知りたいの?」

 

「いや、手掛かりがそれしかないだけだ。」

 

「そうよねぇ………………あの子たちならそうするわよねぇ………………」

 

さやかの言葉に今度は納得といった表情を見せるみたま。無論その様子に首を傾げないわけではないさやかだったが、それを疑問として口に出すことはせずに沈黙を貫いた。

 

「………………わかったわ。じゃあそのかこちゃんについてだけ教えるわ。その子の調整の時に見たソウルジェムの記憶でよければね。」

 

「十分だ。ありがとう。」

 

情報を得られることにさやかがお礼を述べると、それを聞いたフェリシアが慌てた様子でか細いながらも続いてありがとうと感謝の言葉を述べた。そのことにみたまは目を見開き軽いカルチャーショックのような驚愕を覚える。

 

「………………ところでだが、こういうのはやはり代金のようなものとかは出てしまうのか?」

 

    ッえ、ええ、そうねぇ………………最近はやっぱり情報にも金銭が発生する時代だからねぇ………………」

 

「そうか………………そうか………………」

 

 

 

みたまからそういわれたさやかは腕を組み、難しい表情を見せて悩んでしまう。その様子からみたまは彼女が前と同じようにグリーフシードの持ち合わせがないことを察する。

 

「オレの分で出すか?」

 

「いや、そこまではしなくていい。お前は燃費が悪そうだからな。自分の分は自分で使ってくれ。」

 

「そ、そっか………………っていうかさやかはグリーフシードのあまりとかないのか?」

 

「………………あいにくな。というか基本持ち合わせを持っていない。」

 

「マジで?じゃあどうやってソウルジェムから穢れ取り除いているんだ?」

 

「じゃあ、こうしましょうか。」

 

「?」

 

フェリシアとそんな会話をしているところにみたまが何か別の代替え案でもあるかのような会話を挟み込んできたことに二人の目線がみたまに向く。

 

「貴方、この前調整を受けたときに自分には特異な性質みたいなのがあるって言っていたじゃない?代金はそれについて話してくれることでどうかしら?」

 

「………………」

 

みたまからその条件が提示されたことにさやかは少し考え込むように目線を下に下げる。

 

「………………いや、すまないがこのことを話すにはそちらから提供される情報が少なすぎる。」

 

「………………そこまでのものなの?貴方の抱えているのは。」

 

顔を挙げたさやかから返ってきた答えはNO。それもただのNOではなく、自分の出す情報の価値がみたまから得られる情報に対して割に合わないというものであった。思わぬ返答にみたまの表情は自然と険しいものに変わり、蒼玉の瞳がさやかを射抜くが、それでもかたくなにさやかは首を縦に振り、自身の抱えているものが生半可なものではないことを暗示する。

 

「だが、私たちもその夏目かこという人物の情報を必要としているのは事実だ。私個人の主観が織り交ざってしまうのは否めないが      

 

 

 

 

 

 

「なぁさやか。よかったのか?その特異な体質ってのを話してさ。」

 

「誰にも言っていないわけではないからな。ほぼ身内にしか言ってないが。」

 

「え………良いのか、それ。」

 

「まぁ…………全部話した、ということではないが…………それでもインパクト自体はかなり大きかったはずだ。」

 

目を丸くするフェリシアにさやかは別に問題ないと語るように朗らかな表情で前を見据えると、少しだけ歩くスピードを早め、フェリシアの前に躍り出る。

 

「善は急げ、だ。とりあえず、彼女が教えてくれた場所へ赴くとしよう。」

 

みたまとの取引で得た夏目かこの居場所。その居場所は幸いにも新西区にあるという夏目書房とのことだった。

 

 

 

 

 

「………………………」

 

さやかとフェリシアが去ったあと、調整屋でみたまはいつもの彼女らしくなく、のほほんとした雰囲気を一切感じさせない神妙な面持ちで佇んでいた。

 

「魔力の……………自動回復……………」

 

取引で代金の代わりにさやかが話したのは魔力の自動回復。GNドライヴをはじめとするガンダムのことに関しては一切明かしていないほんのそれだけの言葉だが、みたま…………いや全ての魔法少女がその異常な能力に一度は耳を疑うだろう。

 

(本当にそんなことがあり得るの…………でもあの子、本気でグリーフシードの持ち合わせがなかったみたいだし……………)

 

顔を合わせた回数こそ少ないがそれでもわかることも十分にある。初めて調整をした時にさやかが言っていたグリーフシードの持ち合わせがない、というのは本気のようにも見えた。事前に調整について聞かされていた上での演技にしてはさやかの困った様子が本当にグリーフシードの持ち合わせがないように見えたからだ。

 

(もし、もし本当なら……………余程のことがない限り、魔女化することはないって言うことになる。それはつまり、彼女は魔法少女の呪縛から、半ば抜け出しているということになるの………かしら?)

 

ふと、目線を室内にある丸テーブルに向ける。その上にはあらかじめ連絡のあった魔法少女の来客予定が記されたスケジュール表が鎮座しており、みたまの目線は自然とその中にある人形に一対の翼が生えているようなマークに向いてしまう。そのマークはマギウスの翼の構成員である羽根たちがつけているペンダントと同じ形をしている。

つまりその日付はマギウスの翼の関係者が客として来客することだ。そしてみたまは実際、マギウスの翼に対して調整のために支払われたグリーフシードの横流しをしていた。マギウスの翼に手を貸し、さやかたちをはじめとするその企みを防ごうとする魔法少女たちにもわけへでなく調整を行う様は、まさに中立。

しかし、そしてここにきて明かされた美樹さやかのもつ特異性、魔力の自動回復にみたまはこの上なく揺らいでいた。その仕組みをマギウスの翼の頭目でもあり、聡明な賢者でもある『マギウス』に解明させれば、それだけで魔法少女の救済が大きく前進するのではないのかと。

 

「でもこれ………………調整屋の立場上絶対伝えられないものよね………………」

 

みたまは苦笑いのような笑みを浮かべると、スケジュール表から目を外し、そばにあった冷蔵庫からケーキを取り出すといつものごとくゲテモノトッピングを施した上でそれを口にする。

 

「………………もしかすると、彼女こそが本当の希望………………っていうものかしら?」

 

もっとも本人はそういう大層な称号を嫌う人間だから受け入れられることはないだろうと微笑みながら、みたまは舌鼓を打つのだった。




これななか一派の頭領から見てさやかたちとかみかづき荘ってどういう風に映るんだろうか?
やっぱり大局的に見て魔法少女の理に適うことをぶっ壊そうとしているから敵として映るのかな?


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第55話 やれること、やらなければならないこと

いろはの作る環とさっさんがつなげていく環の二つで00(ダブルオー)………………なんちゃって


「………………ここか?」

 

「まぁ………………看板にもそう書いてあるからな。」

 

幸い、目的地である夏目書房がさやかたちのいる新西区にあるとのことだったのと、みたまから渡された手製の地図のおかげでそう時間をかけずにたどり着くことができた。

瓦造りの屋根に一枚屋根の一戸建ての古風な住宅はその本屋がそれなりの老舗の店であることをそのたたずまいで余日に示す。

 

「さて、そんなに時間をかけていられないだろうし、さっさと入って    

 

暖簾をくぐって店の中に入ろうとしたさやかだったが、ふと立ち止まっているフェリシアを見て、同じように入ろうとした足を止める。

 

「………………どうかしたか?」

 

「いや………………その、改めてオレのやってたこと振り返ってると好き勝手やってたんだなって。」

 

「………………ああ、そういうことか。」

 

フェリシアが気まずそうな表情を見せて俯いている様子を見て、さやかはその理由に当たりをつけたのか、納得したような表情を見せる。要するに今の彼女は自分のこれまでのことを思い返して自己嫌悪のようなものに陥っているのだ。

 

「謝罪をしたところでそれを拒絶されるのが今となって怖いのか?」

 

「うっ………………」

 

さやかの指摘にフェリシアはその指摘が間違っていないことを示したのか、声を詰まらせ、痛いところをつかれたという表情を見せる。

 

「らしくないな、こういう時こそいつものお前のようなスタンスで行くべきだろう。」

 

「ら、らしくないって………………」

 

「まぁ、それだけお前が成長してくれている証左でもあるのだが、今回ばかりはそれが足かせになってしまうのか。」

 

さやかにらしくないといわれ困惑必至になってしまうフェリシアだが、そんな彼女の様子にも一定の理解が及んでいるのかさやかは首をわずかにひねりながら一人勝手に結論を見出す。

 

「何も考えずに走れ。ただ前だけを見据えていろ。結果は後からどのみちついてくるのだからな。」

 

フェリシアにそれだけ伝えると、さやかは颯爽とくぐりかけていた暖簾を潜り、夏目書房の店内に入っていく。そのさやかの後をフェリシアは慌てた様子で続いて店内に入店する。

そんな二人を出迎えたのは、どことなく古ぼけた印象を覚える本たちを収納した本棚の列だった。

 

「なるほど、古本屋か。」

 

吟味するように店内を見渡すさやかはここがただの本屋ではなくいわゆる既に販売停止などをして真新しい市場では見かけることのない本を取り扱っている古本屋であることを認識する。

 

「いらっしゃいませー…………………?」

 

そんなところに店の奥の方から店員と思しき人物の声が聞こえて来るが、その声がだんだんと消え入るように小さくなっていったため、それが気になった二人は揃ってその声のした方へ振り返る。視線を向けた先には店のカウンターとみられる場所で空いた口がふさがらないといった、茫然とした様子でこちらを見つめる淡い緑色の髪に小さな白い花飾りをつけた少女がいた。

 

 

「ふぇ、フェリシアちゃんッ!?」

 

その少女はフェリシアを見かけると、先ほどまでカウンターで呼んでいたと思われる本を置き、慌てた様子でさやかたちの方へ駆け寄ってくる。

 

「かこ………………お、おっす。」

 

その少女にフェリシアは彼女のことを『かこ』と呼びながら気まずそうに挨拶をする。どうやら目の前の彼女こそ、フェリシアを気にかけてくれていた夏目かこらしい。

 

「お前が夏目かこか。すまないが、私たちはお前に用があってきた。」

 

「えっと………………アナタは………………?」

 

「美樹さやかだ。お前と同じ魔法少女で、今回は彼女の付き添いで同行している者だ。」

 

怪しい人物でも見ているかのようなかこの目線にさやかはそれを払拭するように努めて温和な表情で自己紹介をする。

 

「あ、えっと………………夏目かこです……………」

 

自己紹介をしたさやかにかこは礼儀のようなもので咄嗟に自己紹介を返すが、その表情はあまり芳しくはない。まぁ、突然見知らぬ人物、それも魔法少女が突然押しかけてきたのだから、警戒感をぬぐうことはできないだろう。フェリシアがいなかったら通報待ったなしのシチュエーションにさすがのさやかも苦しげな表情を禁じ得ない。

 

「とりあえず、はじめにこちらの目的を伝えると、調整屋に張り出されていたフェリシアへの警戒を促すような張り紙についてなのだが………………」

 

「あ…………それは、その……………」

 

さやかが調整屋に張り出された張り紙のことに触れると途端にかこの表情が申し訳なさそうなものに変わり、おずおずとした視線でフェリシアを見つめる。

 

「悪かった。オレのせいで、お前らを危ない目に合わせてた。だから……………ごめん。」

 

「ほぇ………………!?」

 

フェリシアの謝罪にかこは目を丸くし、茫然とした様子で固まってしまう。その彼女の様子に思わず二人も怪訝な顔を浮かべたまま困惑そうに互いに顔を見合わせていたりした。

 

(え………………オレ、なんかしたか?)

 

(いや………………そんなはずはなかったと思うが………………)

 

そんな会話を念話上でしていると、ようやく再起動がかかったのかかこの顔が動き始める。ただ、その動きはまるで油を指していない機械が無理矢理動かしているような嫌な金属音でも鳴り響きそうなもので、青ざめたような表情のかこの目がさやかを射抜く。

 

「フェ    

 

『フェ?』

 

ワナワナとした様子からこぼれるように出た言葉に二人はそろって首をかしげる。もっともその顔に映る表情は、フェリシアが単純に不思議そうに、さやかが漫然と漂う嫌な予感に引き気味なものだった。

 

「フェリシアちゃんに何したんですか       ッ!!!」

 

「誤解だぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

クワっと瞳孔が丸わかりなほどに目を見開き、金切り越えのような声を挙げると、かこは瞬時に濃い緑色の振袖のついた魔法少女姿に変身すると同時に手にしていた先端に凹型のへこみのある特徴的な金属プレートの槍をさやかに向けて振り下ろす。その凶刃が自分に向けて振るわれたことにさやかは弁明の声を張り上げながら咄嗟にGNソードⅡロングを取り出し、両手で支えるようにその上から振り下ろされる刃を受け止める。

 

「フェリシア!!頼むからコイツを引き止めてくれないだろうかッ!?」

 

「ウェ………………お、おう!!」

 

目の前で突然引き起こされている命のやり取りにフェリシアは機能停止していたが、さやかが切羽詰まった行相で助けを求めるとそこでようやく再起動を果たし、ひとまず背後からかこにつかみかかると少女とは思えない怪力でさやかから引きはがした。

 

 

 

 

「いや………………まさかいきなり武力行使にでられるとは思いもよらなかった。」

 

「す………………すみませんでしたぁ!!!」

 

夏目書房に響くかこの声。フェリシアの焦りに焦りまくったつたない説明ながらも彼女が特にさやかに何かされたわけでもなく、純粋に謝罪に来ただけだということに血の気が引いたような青白い表情を見せたかこは突然の出来事にびっくりしてその場に座り込んでいたさやかに向けて、土下座もかくやという勢いで正座した状態から謝り倒した。

 

「私が魔法少女だったからよかったものの一般人だったらただの傷害事件だったな。」

 

「ひぅ………………!!!」

 

呆れたような表情を浮かべ、ため息を零しながらのさやかの言葉にかこは小さく悲鳴のような声尾を挙げると、背筋を丸め込ませ、体を縮こませる。勘違いがあったとはいえ、自分の仕出かしたことの大きさに体が竦んでいるのだろう。さやかがふいに視線を向ければ、またわずかに悲鳴を挙げ、まるで小動物のようにプルプルと震えあがる。その様子に思わずさやかは困ったように頭を抱える。

 

「………………こちらにその気がなかったとはいえ、そちらを勘違いさせてしまったのが事の発端だ。だから今回のコレに関して私は水に流すし、アンタもそんなに気に病まないでほしい。」

 

「で、でも     

 

「でももなにかもあるものか。私もアンタも事をこれ以上大きくしたくはないのはお互い様だろう。それともなんだ、アンタは私に何か自分に対する弱みを常に握っていてほしい倒錯的な性格の持ち主か?」

 

さやかが今回のことを見逃すというのにかこは何か詫びをいれなければ気が済まないのか、そのさやかの言葉に異論を唱えようとするが、それより先にさやかが変態チックな性格の持ち主かと釘を刺され、たまらず声を詰まらせ、表情を青ざめさせるかこ。

 

「はぁ………………」

 

何かしらの小さなトラブルはフェリシアとかこの入っているグループ間で多少はあるかもしれないと踏んでいたさやかだったが、まさか自分に対してそのトラブルが降り注ぐとは思いもよらなかったさやかはとんだ不運に巻き込まれたとまたため息を零した。

 

 

「それで………………今回私たちがアンタの元を尋ねてきたわけはさっきのフェリシアの説明で理解はしてもらえただろうか?」

 

「は、はい………………その、早とちりしてすみませんでした………………!!」

 

「だからそのことは水に流すと………………いや、それでアンタの気が晴れるならもうそうしてくれ………………」

 

水に流すといったにもかかわらず、うるんだ瞳をにじませながら謝罪を重ねるかこの姿にさやかは口酸っぱく言おうとしたが、それで彼女の気が収まるならと肩を竦ませ、諦めた。

 

「話を戻すが、傭兵という雇われの身のフェリシアの諸々の行いで仲間が危険にさらされたからあのような警告を喚起するのは理解できる。だが彼女も潔く身を固めたんだが、いつまでもあのような張り紙があると、それはもはや注意喚起ではなく他人の評判を貶める悪質なものに成り下がる。」

 

「とりあえず、いろはたち………………えっと、世話になっている奴らにまで迷惑はかけらんねぇからな。だから、アレ取っ払ってくれねぇか?」

 

「………………」

 

さやかの事細やかな説明のあとに、フェリシアが頭を下げながら張り紙の撤去を頼み込む。以前顔を合わせ、魔女と相対したときに見せた獣のような獰猛な表情と比べ、いい意味で見る影がなくなったともいえるフェリシアの様子にかこは呆気にとられ、しばらく無言になってしまう。

 

「えっと………………その、フェリシアちゃんのことはよくわかりました………………」

 

かこの言葉に下げていた頭をバッと挙げるフェリシア。しかし、かこの表情は理解こそはしているもののどこか難しそうな表情を見せていた。

 

「でも、申し訳ありませんが今回の件は私たちのグループのみんなで話し合って決めたことです。だから少しの間時間をいただけますか?」

 

そういって真剣な表情を見せるかこにさやかは少し考えると、目線を隣のフェリシアに向ける。突然目線を向けられたフェリシアは意外そうな表情を浮かべるが、さやかの目線からこれは自分で答えを返すのを察する。

 

「………………わかった。オレは難しい話とかよくわかんねぇからとりあえずはそれでいい。」

 

「だそうだ。だがそうすると、連絡手段が必要だな。フェリシアはそういう文明の利器の持ち合わせはないようだから、すまないが私の連絡先で構わないか?」

 

「わ、わかりました………………」

 

さやかの申出にかこはそれを承諾し、二人の間で連絡先の交換が行われる。それで今回の要件は済んだため、さやかはかこに彼女の居場所を知った経緯とそれを他人に言いふらしたりなどをしないことをかこに口約束でだが、約束したうえで夏目書房から立ち去った。

 

 

そこから少し月日が進んだある日   さやかの携帯がメールの通知を告げる音を鳴らす。その音で反射的に携帯を手に取って画面を目にしたさやかは、そこに夏目かこの名前が表示されているのを見て、メールの内容がフェリシアのことに関する話し合いの結果であるのを察する。

 

『お久しぶりです。まずは先日のことは改めてすみませんでした。』

 

メールの内容の切り出しにそう書かれていたことにさやかは内心もう気にしなくていいのに、と言うのが首元まで出かかったが、なんとかそれを呑み込んでメールの内容の続きを読み始める。

 

『結論から入ると、フェリシアちゃんに対する警告文は取り下げることになりました。そちらからの謝罪があったのであれば、こちらもそこまで固執する必要もない、という形に話がまとまりましたので。』

 

「ふぅ…………そちらが話の通じるグループで本当によかった…………」

 

ひとまず肝心要であったことに関してどうにかなったことに胸を撫で下ろすさやか。しかし、かこからのメールの文章はまだ下に続いている。他に何かあるのだろうかと思ったさやかは画面のスクロールをする。

 

『ですが、条件って言うほどではないのですが、私達のリーダー的な人が何故か美樹さんに対して興味を示してしまって……………一度会ってみたいって言ってるんですけど…………来れますか?もちろん強制ってことは一切なくて、断るなら断ってもらっても全然構いませんですけど…………』

 

かこの微妙な表情が目に浮かぶような言葉ともしそのお願いに応えてくれるのであればと指定された時間と集合場所として挙げられた夏目書房を最後に、メールの文章はそこで終わった。

 

というわけなんだが、できれば付き添いをお願いできないだろうか?」

 

「それ………………大丈夫なの?」

 

かこからのメールが来た後、さやかはマミに頼み込みにいったのだが、そのことにマミは訝しげな表情を浮かべて首をかしげる。

 

「というか、暁美さんには話したの?貴方と同じクラスでしょう?」

 

ふと気になったのか、マミはさやかと同級生のはずのほむらのことを尋ねる。するとさやかは目線を横に逸し、遠い目を浮かべると、ハハッと乾いた笑いをした。

 

「話を持ち掛けた瞬間、ほむらから呆れたような表情とこれ以上面倒ごとを持ってくるなと言っているような無言の重圧のせいで取り付く島すらなかった。後ついでにまどかと一緒に先に帰られた。」

 

「え、ええ………………もう、暁美さんったら、断るにしてももう少しやり方っていうものがあるでしょうに………………」

 

なんとなくその情景が浮かぶのか、困ったような笑みを見せながらも苦言を呈するマミ。

 

「まぁ………………ほむらは弁明の時間すら与えてくれなかったが、この話を受けようとしたのはちゃんとした理由やメリットがあるんだ。」

 

「!………………へぇ………………聞かせてもらえるかしら?」

 

がっくりと肩を落とした落胆した様子ながらも、ちゃんと理由などがあるとさやかが言い切ったことに、マミはその瞳を光らせ、さやかの話を聞く姿勢をとった。

 

「まず、マギウスの翼に対抗するための勢力を集めることだ。経験豊富なマミや杏子、そしてほむら。そして七海やちよをはじめとするみかづき荘の面々だけではどうやってもマギウスの翼に対する反抗勢力ができているとは思えない。」

 

「………………確かにね、私たち個々の実力はともかく、単純な頭数で考えると一割どころか向こうの1%にも達しているかどうかすら怪しいわね。」

 

「正直言って、マギウスの翼がどこまでその羽根を神浜市中に広げているかは不明瞭だ。もしかしたら、これから会う魔法少女たちも既にマギウスの一員かもしれない。だがそれでも………………やれること、やらなければならないことは、どちらにせよ…………やるべきだ。」

 

「そうね………………わかったわ。今回は私が同行するわ。」

 

「すまない。いつも苦労をかける。」

 

「もう慣れっこよ。貴方ははじめて出会った時からそういう度胸を見せる人だもの。」

 

同行を引き受けてくれたことに感謝の気持ちを伝えるさやかにマミは軽い笑みでそう返した。

 

(ただ………………このマギウスの翼に対する反抗勢力を整えるにあたって、どうしても避けられない壁がある。魔女化やそれに連なるソウルジェムの真実だ。)

 

表向きうれし気な表情を浮かべている反面、さやかの胸中は現実を重く考えているような不安そうなものであった。

 

(マギウスの翼はこの呪いのような真実からの解放を看板にして構成員を集めている。何も知らなければ、ただの胡散臭いカルト宗教的な集団と切り捨てることができるが、だからこそ向こうは戦力を増やすのにこの真実を話すことが障害にならない。)

 

だが、たいしてそのマギウスの翼に反抗する自分たちが戦力を整えようとすればどうなる?うかつにその真実を明かすことができない以上、戦力増やしにはかなり慎重にならざるを得ないだろう。しかももしうまく引き込めたとしても、その真実が知られたときに味方側の戦力でいてくれるかも不透明だ。

 

(しかもそれはみかづき荘の面々にも同じことが言える。七海やちよは問題ないが、何も知らないいろはたちが知ってしまえばどう動くかを予測することは不可能だ。最悪   

 

そこまで考えたところでさやかは振り払うように思考を打ち切り、何気なく空を見上げる。見上げた空はぶ厚い雲が覆いつくし、まるで自分たちの進む道を暗示しているかのようだった。

 

(奴らの解放のカギはあのドッペルとやらにあるのは明白だ。だが、ウワサや魔女まで使って魔法少女や一般人に対して危害を及ぼすのには、一体何の必要性がある?解放だけが目的なのであれば、ドッペルの存在やその仕組みを周囲に広めるだけで十分なはずだ。)

 

一応………………自分のもつGNドライブも言わずもがなだが、と心の中で銘打ちながらさやかはマギウスの翼に対する考察を行う。そも、マギウスの翼はあくまで『マギウス』と称される三人組の手足となって活動を行う集団だ。つまり、『翼』である黒羽根白羽根の彼女らの思惑とは別に、頭である『マギウス』の思惑がある可能性も無きにしも非ずなのだ。

 

(こういう一見して関連性が見られない行動指針がある場合によくあるのは、マギウスの翼のなかでそれぞれ別の思惑が混在している。となれば………………『マギウス』には魔法少女の解放とは別に何かしらの目的が存在する?そのためにウワサや魔女を利用しているのは………………別に筋が通らない話ではないと思いたい。)

 

ここまで考えてはみたさやかだったが、所詮は机上の空論にしかすぎず、その考察を確証にできるような証拠も証言もない以上、信憑性を持たせることはできない。

 

(………………できれば、この真実を知っていながらマギウスの翼に与していない人物がいると助かるのだが………………もしくはマギウスの翼内部に危機感を感じているものでも………………)

 

そうは願ってみるものの、到底そんな都合のいい人物が現れてくれるとは微塵も思ってはいなかった。改めて自分たちがやろうとしていることが世界を敵に回すような行為であることを実感し、たまらずため息を零すさやかだった。

 

 



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第56話 理由を知り、理解しようとする

我は感想乞食なり‥‥‥感想がほしくなる感想欠乏症にかかったときに現れる都合のいい妖怪である‥‥‥


かこからの誘いを受けることにしたさやかはマミを連れ添い、集合場所に指定されていた夏目書房まで足を運んでいた。

 

「あら…………中々いい雰囲気のする本屋さんね。」

 

夏目書房の感じさせる老舗感にマミがそんな感想を漏らしながら二人は店の暖簾を潜り、店内に入る。

 

「夏目かこ」

 

「あ…………美樹さん!……………とそちらの方が…………」

 

「返信のメールにあった仲間の魔法少女だ。」

 

「巴マミよ。美樹さんと同じ見滝原の魔法少女。よろしくね。」

 

「よ、よろしく、お願いします……………………!!」

 

軽く挨拶程度のつもりだったが、何やらかこの反応が怯えているような些か過剰な気がしないでもないことに二人はわずかに首を傾げるが、ひとまずそれは置いておくことにした。

 

「それで………メールにあったそっちのグループの面々のような人影が見えないのだが………」

 

とりあえず店の中にかこの仲間の魔法少女のような人物の姿が見えないことに疑問をもったさやかが適当にそれについて尋ねるが、かこからの返答はみんな忙しいから多少は時間にずれがあるかもしれないとあいまいな言葉が返ってくるだけにとどまる。

 

呼び出しておいて遅れてくるのは常識的にどうだろうと内心思いながらも指定された時刻自体にはまだ余裕があったため、二人は微妙に釈善としない表情だが、何かかこに言い寄ったところで意味はないため、そのまま夏目書房の本棚を散策するなどして時間をつぶすことにした。

 

「何か珍しいものとかあったか?」

 

「うーん…………………やっぱりこういうのって知識がいるのかしら………………表紙を見るだけじゃどういう内容の本なのか全然見当もつかないわ。」

 

「まぁ………………………………昔ながらの本は題名だけでどういう本なのかを想像するのは難しいと思います。ミステリーとかお読みになりますか?それででしたら『フォルデルマンハネオモモンガ殺人事件』っていうタイトルなんですけど……………………………私のオススメです。」

 

 

有識者でもありかこの話などを聞きながらさまざまな本を吟味すること十数分、話し合いに興じていた三人だったが、不意にさやかが視線を書房の外に向けた。

 

「……………あら、ようやくご到着かしら。」

 

「誰か来たということだけだがな。」

 

その様子を見たマミが慣れたような雰囲気でそういうと、さやかからそんな返答が返ってくる。まるで熟年夫婦みたいなやりとりを見せられたかこは、?マークを頭の上に浮かばせているのが丸わかりな様子でさやかと店の入り口を右往左往させる。

 

「………………………どうやらお待たせさせてしまったようですね。」

 

暖簾をくぐって店内に入ってきた三人組、その先頭にいた濃い茶色に身を包んだ赤に近い紫髪の少女がさやかたち二人を視界に収めると難しい表情を見せながら遅れてきたことを詫びる。

 

「いや、こちらがただ単に早めに来ただけだ。何ぶん、見滝原からは遠いものなのでな。」

 

「見滝原………………………それじゃあ噂は本当だったんだねッ!?」

 

「……………ウワサ?」

 

先頭の少女の詫びに別段気にしなくていいと返すさやかだったが、その後ろにいたお仲間のように見えるボーイッシュな印象を覚える白髪ショートカットの少女のウワサという単語にさやかは少なからず眉を顰める。少々過剰かもしれないが、さやかたちはここ最近ウワサなる人々に害をなす存在と戦っている。そのウワサという単語に耳ざとくなってしまうのは致し方ないことだろう。

 

「ああいえ……………………この町では奇妙な噂が多く、真偽を見極めるのは難しいのですが、その中に見滝原から最強の魔法少女たちがやってきたという噂がありまして。」

 

「…………確かに神浜市にウワサが多いのは知ってはいるが………………………それにしてもなんだそれは」

 

「しかもその魔法少女たちは調整屋に行ったこともないにも関わらずバケモノたちだと。」

 

「いや、普通に調整屋には赴いたが!?噂に尾ひれがつくのはわかっているが流石に限度というものがあるだろう!?」

 

少女の語る噂の内容に思わずさやかは目を見開きながらその噂に文句を言わないわけにはいかなかった。マミも少なからず同じなのかさやかの隣でうんうんと無言ながらも頷いていた。

 

「最強なのは美樹さんだけよ!!その噂は間違っているわ!!」

 

「そこなのか!?訂正すべきところはそこなのかッ!?というよりどさくさに紛れて逃げないでほしいのだが!?」

 

しかし、そこからマミがビシッと指をさし、決め台詞でも飛び出てきそうな表情で噂のそのものの根絶ではなく、あくまで最強はさやかだけという訂正を求めてきたことにさやかはびっくりしたような顔でツッコミを入れた。

 

「……………なんというか、ユカイな人たちネ。」

 

その様子をジィッと見ていた蒼髪の少女が語尾がなまった独特な口ぶりでそういうのだった。

 

 

 

 

「……………少し見苦しいところを見せた気がするが………………私が美樹さやかだ。こっちは仲間の巴マミ。私の先輩だ。」

 

「巴マミよ。よろしく。」

 

場所を夏目書房の店内から近所の少し広い公園に移したさやかたちは適当な遊具に各々椅子代わりに腰を下ろし、そこで自己紹介を行う。

 

「あ、改めて、夏目かこですッ………………………………」

 

「ボクは志伸あきら!!あ、一応こんな身なりだけど、男子とかじゃないからそこのところよろしくね?」

 

かこに続いて、ボーイッシュな印象をうけていた銀に近い白髪の少女がさわやかな笑みを見せながら名乗る。

 

「ワタシ、純美雨(ちゅんめいゆい)ネ。蒼海幇の一員ネ。」

 

「……………そのなまり方、よく中国人とかがやっているのを見かけるのだが…………………………まさかとは思うがそっちの界隈の人間か?」

 

「昔はネ。でも今は普通に堅気としてやてるネ。」

 

髪をまとめたお団子を二つ作り、その両方からおさげをたらし、中国人みたいななまりにあからさまな組織みたいな名前を出しながら自己紹介をした美雨に冗談半分でそういう裏世界じみた出身かとさやかが尋ねると、彼女から肯定の返しを受けてしまい、思わず目を見開いて驚いた様子を露わにする。マミもまさかいわゆるヤクザの人間が魔法少女をやっているとは毛ほども思っていなかったのかさやかと同じように驚いたように目を見開いていた。

 

 

「そして私が常盤ななかと申します。以後お見知りおきを、美樹さやかさん。巴マミさん。」

 

「あ、ああ…………………それで、今回私に会ってみたいとのことらしいが、一体何用だ?噂になっているらしい私の顔をただ単に拝みに来たわけでは流石にないのだろう?」

 

美雨に続いて見るからに育ちの良さ気な雰囲気を出しながら自己紹介をするななかにさやかは美雨のインパクトを引きずりながらも今回自身を呼び出した理由を尋ねる。

 

「ええ、話が早くて助かります。と、言いたいところなんですが、こちらの本題に入る前に少々さやかさんに聞いておきたいことが。」

 

「……………フェリシアのことか?」

 

「…………ええ、まさにその通りです。以前のことですが、我々が彼女に依頼を行い、共に魔女と戦ったことは知っていると思ってもよろしいでしょうか?」

 

「問題ない。だが、なぜ彼女のことを?一応あの張り紙に関しては私の中では片がついているという認識だったのだが……………………」

 

「いえ、それで間違いはありませんし、私個人としても彼女が反省の色を見せてくれるのでしたら闇雲に引きずるつもりもありません。」

 

ななかからフェリシアのことで尋ねられ、少しばかり警戒色を強めた難しい気な表情を浮かべるが、ななか自身からこれ以上話を引き延ばすつもりはないと首を横に振ったことに安堵感からため息のようなものを零した。

 

「しかし、私たちと共に魔女と戦った時はそれはもうひどいものでした。此方の話を全く耳もせずに魔女を見かけるや否や一心不乱に突撃していく様子はまるで狂戦士……………………そんなことから注意喚起も兼ねてあの張り紙を出させてもらった次第でした。」

 

「まぁ……………………確かにな。」

 

ななかのフェリシアに対する散々な評価に対して否定するような言葉を挙げられないくらいに心当たりがあることにさやかは顔を逸らしながら苦笑いのような表情を見せる。その様子をななかは神妙な面持ちで見つめていた。

 

「ですが、昨日深月フェリシアが尋ねてきたと聞かされ、少しばかり落ち着かない気持ちでかこから話を聞いてみればまるで別人のように変わり、あろうことか自身の非を認めて謝罪の言葉が来たとか。はじめ聞いた時はそのようなことがあるわけがないと思っていましたが、かこがそんな嘘をつける性格の持ち主ではありませんし、とりあえずかこの所在を聞いたという調整屋に赴いてみましたが、彼女からは深月フェリシアが本気だったとの証言が得られてしまったわけです。」

 

そこまで説明すると、鋭くなったななかの目線がさやかを射抜く。まるでその視線は見定められているようだった。

 

「そのきっかけはさやかさん。貴方が要因ですよね?」

 

「………私はできることをしただけだ。彼女がなぜあのような振る舞いを見せるのか。なぜ魔女に対してあそこまで憎悪を煮えたぎらせることができるのか。その理由を知り、理解しようとしただけだ。」

 

ななかの言葉と視線に困ったように後頭部をさすりながらそう答えるさやか。気恥ずかしさも混じっているようなその仕草にななかは無言で見つめていると、不意に視線をマミに移した。

 

「失礼ですが、さやかさんとは長い付き合いなんでしょうか?」

 

突然話を振られたことにマミは目をパチクリとさせるが、すぐに表情をほほえましいものに変えるとゆっくりと首を横に振った。

 

「そうでもないわ。美樹さんとはつい一か月くらい前に知り合った程度の仲よ。でも、そんな短い間でもわかることはあるわね。この子、本気で強いわよ。」

 

「キャリアも経験も貴方の方が格段に上だろうに………」

 

ななかの言葉にさやかの素性のようなものを聞かれていることを察したマミは不敵な笑みを浮かべながら誇らしげにそう語る。その隣でさやかが肩を竦ませてそうぼやくが、マミはどこ吹く風というようにその誇らしげな笑みを崩さなかった。

 

「魔女に生身で立ち向かった、なんてことと比べたら私のなんてそんなものよ。貴方たちもそうは思わないかしら?」

 

『ッ!?』

 

「そ、それは少し語弊がある言い方な気がするのだが‥‥‥‥!?」

 

マミがどうとも思わないというようなあっけらかんとした様子からの言葉にさやかは困り果てた様子でそういうが、その言葉はまるで耳に入っていない様子でななか達四人はそれぞれが目を見開いたり、口をあんぐりと開けたままにしたりと驚愕といった様子を露わにする。

 

「ば、バケモノネ‥‥‥‥‥ウワサ、なにもまちがてないネ」

 

「まさか、それほどの胆力の持ち主だとは‥‥‥‥」

 

「最強の肩書に偽りなし‥‥‥ってことだね‥‥‥‥」

 

「お、おい‥‥すまないが、アレは状況が状況だっただけで       

 

驚愕を浮かべていたななか達の顔がさやかの行いを聞かされると途端そろいもそろって不敵なものに変わっていく。まるで好敵手でも見つけたかのような三人(かこは普通に常識でも疑うような顔をして唖然としていた)その様子にさやかにこれから予測できることが嫌な予感となってまざまざと感じさせる。

 

「さやかさん、そろそろですが本題に移らせてもいいでしょうか?といっても貴方のその顔を見るになんとなく想像はついている様子ですが。」

 

「うっ…‥‥」

 

ななかから本題に移るとの言葉が出るが、さやかの様子を見て、彼女はその表情が自分たちの要件を感づいていることを見抜き、その不敵な笑みをより一層深め、偏に妖しげとでもいうようなものに変える。

 

「我々と戦ってはいただけないでしょうか?」

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

ななか達の要望とは、さやかとの戦いであった。自分が想像していた通りになってしまったのか、さやかは両腕を組んで深くため息を吐くと思い悩むようなうなり声を挙げながら表情をころころと変え始める。もっともその表情は揃いも揃って困り果てているようなものだったが。

 

「…‥‥それは一体、何のためだ?お前たちは何を求めてここにいる?」

 

「ボクは困っている人たちを助けるため!!初めて魔女と出くわしたとき、何もできなかった自分がたまらないほど悔しかった!!」

 

「家族を守るためネ。それ以外は何もないネ。」

 

「わ、私は、みんなの力になれたらなって思ってますッ!!」

 

あきら、美雨、かこが順々に自身が何のために戦うのか、その理由を語る。偏に言ってしまえばそれはすべて力だ。しかし己が矜持、自身が守るべきもの、そして同輩。同時に名の知る、名の知らない他人のためでもあった。

 

「私は…‥‥‥自身の復讐のため、でしょうかね。」

 

その中で、ななかは小さく、まるで他の三人に聞かれたくないような声量で自分が力を求める理由を述べた。誰彼にも聞かせるつもりはなかったのだろうが、さやかは耳敏く聞いてしまったのか、その様子をさっきまでの困り果てた表情から一転、神妙なそれで見つめていた。

 

「…‥‥‥‥わかった。まだ契約をしてから一か月と他の魔法少女から見れば若輩もいいところの私だが、そんな私がお前たちのためになるというのであれば、相手をしよう。」

 

「ホントッ!?ていうか‥‥一か月?私でも一年くらいは経っているのに…‥‥‥?どういうこと?」

 

「どうといわれてもな…‥‥言葉の通りだが。」

 

重い腰を上げたようなさやかの返答にあきらが瞳を輝かせるが、直後の言葉に首をかしげる。首を傾げられたさやかが言葉の通りだといってもあきらたちの表情は疑念を一層深めた様子で訝し気な目線をマミに向ける。その目線を向けられたマミは一瞬きょとんとするが、すぐにその理由を理解したのか口元に手を当てると笑いを押し殺しているような笑みを浮かべる。

 

「ごめんなさい。貴方たちがそういう顔を見せるのはわからないわけではないのだけど‥‥‥でも油断はしない方がいいわよ?この子の武器はかなり初見殺しもいいところだから。」

 

マミがそういうが、そもそもとして魔法という初見殺しなものを扱っている時点でその実感が薄れているあきらたちは互いに互いの顔を見合わせる。

 

「美樹さん、私はどうするべきかしら?個人的には矛を交える前にみんなとお茶会でもどうかしらって思っていたのだけど。」

 

「‥‥‥それもよかったな…‥‥‥‥‥だが、応えてしまった以上それを反故にするのは人としてどうかというところだから、人払い用の結界を張ってくれないだろうか?あともしもの時の救護用員も頼みたい。」

 

「わかったわ。それッ!!」

 

マミの言葉にその手があったというようにハッとなるさやかだったが、既に承諾してしまった以上割り切ったのか頬を軽くかきながらも結界をお願いすると、すぐさま彼女がリボンを一同のいる公園の外周に沿うように展開し、結界を作り上げる。

 

「一応即席だけど‥‥あんまり派手なことをしちゃだめよ?特にここには公共の遊具とかあるのだし‥‥‥‥」

 

「それならご心配に及ぶことはありません。美雨さんは隠すことに関しては右に出る者はいませんから。」

 

「あら、そうなの?ならいいのだけど‥‥‥‥」

 

 

マミが戦闘の余波、特にさやかのビーム系武装で公園の遊具が壊れることを心配するが、詳細はともかく仮に壊しても隠し通せる手段があるというななかの言葉にひとまず胸をなでおろす。そのやり取りの間にさやかは戦う決心がついたのか、腰下ろしていた遊具から飛び降りると、ななかたちと対峙するように向き合った。

 

「条件はホールドアップか行動不能になった人間は脱落扱い。それ以外でどのように戦うかは、お前たちの好きにしてほしい。一人ずつ来るのもいいし、全員でまとめてくるのも構わない。だが、私の兵装は残念ながら加減がまるで効かないものがほとんどだ。こちらで多少の制御は努力するが、できれば死ぬ気で避けてほしい。仮にソウルジェムにでも当たったりなどすれば目も当てられないからな。」

 

「ッ‥‥‥‥!?」

 

さやかは忠告のように伝えると、それぞれGNソードⅡブラスターとGNバスタソードⅡを構え、戦闘態勢をとる。基本魔法少女が持っている得物は一種類であるのが暗黙の了解だが、大剣と大型のライフルというレンジの違う二種類の武装、そして両肩に装着された二つの突起物(GNドライヴ)から噴き出すクリアグリーンに輝く粒子。一目みただけで普通の魔法少女とは一線を画すようなその姿にあきらたちは目を見開き、緊迫感を抱く。

 

 

「ななか‥‥‥‥どうしよっか?向こうは全員でもいいって言ってくれているけど…‥‥」

 

「…‥‥‥‥」

 

あきらが判断をななかに仰ぐために彼女に声をかけるが、当の本人はどこか上の空といった様子で茫然とさやかの方に顔を向けたまま固まっていた。

 

「ななか?」

 

「ななかさん?どうかしましたか?」

 

      えっ、ご、ごめんなさい。少し気が飛んでいました。それで…‥‥どのように戦うかはこちらに合わせてくれるとのことでしたよね?」

 

「…‥‥‥ああ。個々の実力を上げるために一人ずつでも構わないし、互いの動きを確認するために同時に来てもらっても構わない。」

 

ななかの様子に訝し気な表情を禁じ得ないさやかだったが、ここでそれを追及しても話を長引かせるだけだと判断し、特に言及することはしなかった。

 

「…‥‥‥では遠慮なく全員で行きましょうか。彼女の胸を借りさせていただきましょう。最強と噂されるその実力、見極めさせていただきます。」

 

「…‥‥そんなものになった覚えはないのだが‥‥‥まぁ、こちらもいい経験だと思って望ませてもらおう。」

 

ななかの言葉に辟易とした様子ながらも両手の得物を構えなおすさやか。そしてそれに呼応するようにななかたちも魔法少女姿に変身し、それぞれの得物を構える。

 

(‥‥‥‥常盤ななか。彼女が浮かべていたあの表情は一体なんだ?何かダブルオーの武装とは別に驚いていたようだったが‥‥‥)

 

ふと、そんな疑問が頭をよぎるさやかだったが、油断しているとケガをするのはこちらだと戒めるように思考を打ち切ると、表情を引き締め、ななか達を視界に収める。

 

(今は戦いに集中すべきだ。聞くのはこれが済んでからでも十分だ。)

 

 




参った。最近マジで更新スピードが遅いな…‥

余談だけど、マギレコ本編を知らない兄貴たちに教えると、常盤ななか嬢はソウルジェムの真実にある程度たどり着いている稀有なお人だったりする。


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第57話 模擬戦(下手すると本気で死ぬ)

改めて他の魔法少女ものならともかく、まどマギ系列に至ってはガンダムは割とチートになることを思い知った。(こなみかん)


(さて…‥‥向こうはどのように来る‥‥‥?)

 

GNバスターソードⅡの真ん中ぐらいにある持ち手を掴み、盾のように構えてその陰から除くように対峙するななか達の出方を伺うさやか。向こうの得物はななかが一つの鞘の両端に収めた二振りの刀。あきらは左手を腰に沿うように握り拳を作り構えをとっている様子から徒手空拳なのは間違いないだろう。

しかし少々奇妙なのが美雨とかこの二人。前者は一言でいうとかぎ爪だがその爪は日本刀のようにわずかに刀身が反りながらもまっすぐに伸びており、後者は先端部が特異な形をした槍。得物から向こうの間合いを計りづらい形状をしていた。

 

(もっとも…‥‥‥魔法が絡んでくる以上、この推察もあまり役にはたたないだろうが…‥‥‥)

 

内心遠い目を浮かばせながらも、警戒心だけは一瞬たりとも緩めず、じっと四人を見据えるさやか。

 

「じゃあ、行くよッ!!」

 

先に動いたのはやはりというべきか、間合い的に近づかなければならないあきらだった。単純に足に力を込め駆け出し、さやかとの距離を詰めるが、魔法少女としての力が加わったそれは常人のものをはるかに上回る。

 

「…‥‥‥」

 

しかし、その相手もあきらと同じ魔法少女。距離を詰めようとする彼女に対し、さやかは落ち着き払った様子でバックステップ。身体を正面に向けたまま後退する。

 

「重ね重ね言うようだが、死ぬ気で避けてくれ!!」

 

警告のような忠告と共にさやかは後退しながら右手のGNソードⅡブラスターを構え、照準内に突出したあきらを収めるとトリガーを引き、出力を必要最低限まで抑えた(とはいえその場に少しの間滞留するぐらいの出力はある)ビームを発射する。

 

「び、ビーム   うわっ!?」

 

思いもよらない反撃にあきらは驚愕した表情を見せながらも咄嗟に態勢を低くしながら転がるように飛び退くことでビームをやり過ごす。しかし、放たれたビームはあきらの後ろで様子を見ていたななかたちにも襲い掛かり、三人も回避を余儀なくされる。

 

「くっ     ビームなんて本気で      

 

「あきら、前ッ!!」

 

「えッ     

 

背中にわずかに感じた触れたすべてを焼き切らんとするような熱量に文字通りさやかのヤバさを肌身に感じたあきらが悪態を吐きながら崩れた態勢を整えようとしたところにななかから声が発せられ。言われるがままに顔を上げる。

そこには既に攻撃態勢に入ったのか、GNバスターソードⅡを持つ左腕を力強く振り絞ったさやかの姿が目の前にあった。その大剣の先端をあきらに向けていることから、その先端を杭打機のように地面にたたきつけるつもりだろう。

 

(早ッ         

 

さっきまで少し離れたところにいたはずなのに気づいたときには既に目の前にいる。見るからに重そうな大剣とライフルを携えているにも関わらず、およそそれらを持っているとは思えない素早さに舌を巻きながらもあきらは反射的に片手で跳ね上がるように飛び起きるとその勢いをそのままさやかにぶつけるように両足をそろえた状態でドロップキックを放つ。

 

「ッ     !?」

 

まさかその態勢から反撃、それも蹴りが飛んでくるとは思っていなかったのか、表情を強張らせ、わずかに対応が遅れるさやか。しかしさやかも反射的に振り絞っていたGNバスターソードⅡの先端を迫りくる両足に軌道修正し、殴りつけるようにぶつけることでそれを相殺する。その結果、少しとはいえ、体を宙に浮かせていたあきらの身体が弾き飛ばされるように吹っ飛び、ななかたちのいるところまで後退させられる。

 

「ッ~~~~~やっぱ今のは響く~~~!!」

 

地面に転がされながらもその回転を調整して態勢を整え、立ち上がるあきら。言動こそ飄々としているがその表情は脂汗をにじませ、険しいものを浮かべている。

 

「あきら、大丈夫ですか?」

 

「なんとか‥‥‥でも本当に強いね君は。何か格闘技でもやっていたり?」

 

ななかから心配する声をかけられ、それに応えながらその対応の速さからさやかが何か格闘技でもかじっているのかと尋ねるが、さやかからは無言で首を横に振る仕草で応えられ、特にこれといった格闘技は何もしていないことを明かす。

 

「うっそ…‥ボクこれでも空手の黒帯持っているんだけどなぁ…‥‥‥自信無くしちゃうなぁ‥‥‥‥‥」

 

「そちらこそ何かしらの格闘技を学んでいるとは思っていたが、まさか空手‥‥‥しかも黒帯の所有者とはな‥‥‥」

 

あきらからの感心の言葉にさやかはあきらが空手の黒帯というその界隈でもかなりの実力者であることに驚きながらもブラスターを消すとバスターソードの柄を両手で握り、その切っ先をななかたちに向ける。下手に手持ち武装を増やすよりも大剣一本に集中させて対応させた方がいいと踏んだのだろう。

 

(ねぇみんな。あの子が私に近づく瞬間とか見えた?)

 

(見えたけど、まさに一瞬(いしゅん)だったネ。カバーに入る時間すらなかったネ)

 

(あの背中にある突起物はブースターか何かしらの類なのでしょう。移動するときにあの突起物から放出される粒子の量が増大していましたし、おそらくですが)

 

(なんだかななかにしては曖昧な言い方だね。)

 

(‥‥‥‥原理がよくわからないんです。魔力もそれほど使っているわけでもないようですし‥‥‥‥)

 

(え、じゃああれは一体…‥‥?)

 

さやかの素早さに早急に何かしらの対策が必要だと感じたあきらはななかに念話上で手段を請おうとしたが、難しい表情を浮かべている姿とその理由で困惑に包まれる。

 

「来ないのであれば、今度はこちら側から行かせてもらう…‥‥!!」

 

その声と共にさやかは放出する粒子量を上げ、十数メートルは離れていた距離を一瞬で潰し、自身の間合いに入れる。間合いに入ったのは、ななか、あきら、美雨の3人だ。

 

「ここは、私の距離だッ!!!」

 

足を思い切り踏み込み、GNバスターソードⅡを横薙ぎに振り回し、その振るった時の風圧とバスターソードそのものの質量でななかたち3人を押し下げる。

そしてさらにさやかが追撃に出ようと前に出ようとしたが     

 

 

「ッ     

 

そのさやかの前進を押しとどめるように一筋の透明色の強い緑色の光が注がれる。

その光の来襲をさやかは咄嗟にGNバスターソードⅡで防ぐが、その目論見通りに前進を妨害され、足止めを受ける。

 

「あら……………向こうにも美樹さんみたいな人がいるのね。」

 

少し離れたところから戦いを傍観していたマミの目には唇をキッと噛み締め、気迫のこもった目を見せるかこの姿があった。

彼女の手にする槍の先端、その特徴的な凹凸の金属プレートがさやかに向けられていた。

 

「まだです!!」

 

「ッ!?」

 

かこがそう叫ぶと同時にさやかの足元の地面が突然ひび割れ、その隙間から先ほどのビームと同じ光が溢れ出る。

瞬時に自身に迫る危機を察知したさやかはその場から飛び退くと、一瞬遅れてひび割れた地面からビームが飛び出し、花が咲いた。

 

(地中からのビーム攻撃…‥‥やるなッ‥‥‥‥‥!!!というか     

 

地中からの強襲に驚いたさやかだったが、イノベイターとしての感性がその攻撃に宿った敵意に機敏に反応したため、ビームが地盤を砕いて顔をのぞかせるよりも早く行動に移ることができた。

 

(地中でビームを動かしたらもれなくここの地盤がスッカスカになってしまう気がするのは言わぬが花という奴か!!)

 

そんな阿呆な考えを迫真な表情で考えながらも地中からのビーム攻撃を回避するさやか。しかし、避けられているが行動を抑制されていることには変わりない。

 

「ホアッチャァァァァ!!!!」

 

創作上でよくあるような典型的な中国人のような奇声を上げながらさやかの背後から美雨が襲い掛かる。その声に反応してさやかが対応に回ろうとするが、魔法少女の力が加わったその身のこなしの素早さはろくな対応をしたところで意味がないことを如実に感じさせる。さらに今のさやかの装備は大剣一本だ。スピードタイプにパワータイプは相性的に不利というのが昔からの定石だ。

 

「チッ!!」

 

それゆえにさやかはバスターソードを振り回そうにもそれを見切られてしまい、後手に対応を回すことを強いられ、日本刀のように爪の一つ一つが軽い弧を描きながら伸びている美雨のかぎ爪を避けるかバスターソードの刀身で防ぐぐらいしかできなくなる。

 

「お前、さっきの変な飾りのついたライフルどしたネ。」

 

「飾りのついたライフル?ブラスターのことか?」

 

かぎ爪と大剣がぶつかりあい、金属音を響かせながら至近距離での戦闘の中、唐突に美雨からブラスターを一度使ったきり手にすらせず、使う素振りをまるで見せなくなったことを問う。

 

「?…‥名前はともかく、どして使わないのネ」

 

「一度きりならともかく、頻繁に使っていたらそちらのタメにならないだろう。こっちは加減するので精一杯なんだ。」

 

「…‥‥‥ウチらのこと舐めてる?だとしたら生意気ネ。」

 

「そんなつもりはないのだが…‥‥ただ安全上の目線から見てのことなのだが。」

 

一度見せた手を再びもう一度使おうとしない姿勢をさやかが自分たちのことをなめていると思ったのか、眉間にしわを寄せて不服そうにしている美雨にさやかはそんなつもりはサラサラないというように困り気な表情を見せるが、彼女の表情はムスッとしたものから変化はなかった。

 

「そういうのをなめてるっていうのネッ!!!」

 

「でりゃぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

「参ります‥‥‥‥ッ!!!!」

 

 

美雨はさやかのバスターソードの巨大な刀身を蹴って足場代わりにすると、そこに間髪いれずにななかとあきらが自身の得物である日本刀とガントレットを装着した拳で畳みかける。

 

「ウグッ‥‥‥‥」

 

かぎ爪から刀と拳。迫りくる攻撃の種類が変わったことに苦し気に表情を険しくするさやかだが、大剣一本と身一つでそれらを捌いていく。しかし、相手が空手の黒帯というのとななかの振るう日本刀の刃が攻撃の直前まで見えないことにさやかはやりづらさを感じずにはいられなかった。

 

(直前まで刀の刃を見せてこない!!居合という奴か!?おかげで攻撃のタイミングが掴みづらい!!)

 

直前まで攻撃の予兆が見えず、仮に見えても超速で抜刀と同時に気づけば刃が自身の身体の目の前まで来ているという感覚に、さやかは冷や汗を禁じ得ない。

 

(見切られている?いえ、これは‥‥‥‥どちらかといえば反応速度が異様に速いといえばいいのでしょうか?)

 

一方でななかの方も二人がかりで、それも自身とあきらが二人とも武術をそれなりに修めているにも関わらず、それら全てを危なげな様子ながらも避け続けているさやかに関心した表情を見せる。

 

(ここまでの密接な近接戦闘にも関わらず魔法ではなく自身の身体で捌くとは‥‥‥‥)

 

「ですが、それもここまでですッ!!」

 

ななかが宣言するような言葉を張り上げた瞬間、あきらが力強くバスターソードの刀身に向かって蹴りを放つ。たまたま盾のように自身を覆い隠すようにしていたさやかはその蹴りの衝撃をもろに被り、無理矢理弾き飛ばされる。

 

(なんて脚力だ、まともに食らえば文字通りただでは‥‥‥‥‥何ッ!?)

 

あきらのバカ力に驚愕しているさやかに先ほどから間欠泉のようにさやかの足場を崩しまくっていたかこの地中からのビーム攻撃の予兆である光がさやかの足元を照らす。既に地中に入っている亀裂の度合いからビームが頭をのぞかせるのは本当にすぐだろう。

 

(避けられないッ!?)

 

足元からはビーム、周りからはいつの間にか距離を詰めてきているななかたちの姿も見える。後方からは暗殺者のように得物のかぎ爪をギラつかせる美雨。

 

完全に包囲されている。

 

この攻撃を避ける時間がないと判断したさやかは瞬時に、半ば無意識とも言っていいレベルの反射神経で体が動き、GNバスターソードⅡの内部機構であるシールドモードを作動させ、自身を覆うように緑色に輝く半透明のバリアフィールドを発生させる。

 

『バ、バリアッ!?』

 

その展開されたGNフィールドは実体であるななかたちの攻撃と光線であるかこのビーム、さやかに向けられた攻撃すべてを見事に防ぎ、その刃、光ともども一ミリ足らずともその先へは進ませなかった。

 

「これで!!」

 

バリアという奇想天外な代物が飛び出てきたことにななかたちの思考がわずかな時間、展開されたGNフィールドに注がれ、思考が狭められる。その合間を縫うようにさやかはGNソードⅡブラスターを出すと、背後から奇襲を仕掛けようとしていた美雨に向けてすれ違いざまに一閃、銃身下部に取り付けられている銃剣でかぎ爪ごと叩き斬る。

 

「あうっ……‥‥!!」

 

(べ、ベイオネット‥‥‥‥あのライフル、飾りじゃ全然なかったネ…‥‥‥)

 

「峰打ちだ。私にはそんな技量はないからほとんど力任せだが。」

 

切断されたかぎ爪がカランカランと乾いた音を響かせ地面に落下していくと同時に脱力するように倒れ伏す。その場にいる全員が彼女が気絶したと認識するとどこからともなく黄色いリボンが現れ、美雨をぐるぐる巻きにするとズリズリと地面を擦る音を立てながら引きずられていた。

 

「すまない、助かる。」

 

「今回はこれが役目だもの。貴方は気にしないで彼女たちの相手を務めなさい。」

 

引きずられていく先にいるマミに礼を言うと、さやかは対峙しているななか達に向き直る。さやかはにらみを利かせるように鋭い目線をななかたちに向けるが、不動の様子で指先一つすら動かそうとはしない。いわゆる絶好のチャンスではあるものの、ななかたちも先ほどのGNフィールドが脳裏にこびりついているのか、またさやかからとんでも兵装が飛び出るかわからなかったため、手をこまねいていた。

 

「‥‥‥‥‥‥反撃に出るッ!!」

 

GNドライヴからの粒子放出量を増大、さやかの身体はまるで重力から解放されたように空へと飛びあがる。

 

「空を      

 

「飛んだァァァァッ!?」

 

「残念だが、私は負けず嫌いらしい!!模擬戦だがセブンソードでこの勝負、勝たせてもらう!!」

 

空高く上昇したさやかに釣られるように顔を上げるが、途中でさやかの姿が空に浮かぶ月と重なり、GN粒子の淡い緑色の光が、月と重なり黒に染まったさやかの輪郭を朧げに照らし出す。

 

「ここから戦い方を一気に変えさせてもらう!!」

 

そんな的外れな忠告と共にさやかは超スピードで降下してくる。ななかたちは咄嗟に身構えるが、さやかはその途中で方向転換し、進行方向を切り替えた。

 

「ッ…‥‥かこ、そちらに向かいました!!」

 

「え、わ、私ですかッ!?」

 

ななかの言葉にかこは目を見開いて驚くが、現実にさやかはまっすぐに降下し、土煙を大きく巻き上げると、そこからかこに向かって突進とも思えるようなスピードで突っ込んでくる。

 

「うぅ…‥‥ち、近づけさせませんッ!!」

 

「遅いッ!!」

 

肉薄するさやかに対し、かこはビームで応戦するが、さやかはそれら全てをバレルロールを駆使して危なげなく回避する。そんな激しい機動で動いている中でもさやかは脚部に取り付けられてあるGNカタールを連結させるとかこに向けて投げつける。投げつけられたカタールは回転しながらも、針の穴を縫うかのような精確な軌道を描き、かこに迫る。

 

(避けたら次の攻撃に間に合わない…‥‥ならッ!!)

 

投げつけられたカタールとさやかのスピードから避けたら次の攻撃に対応できないと直感したかこはカタールを撃ち落とそうと槍を構えなおし、ビームを放つ。

放たれたビームは回転するカタールに直撃し、撃ち落とされる‥‥‥‥かに思えた。

 

(嘘‥‥‥)

 

思わず目を見開いて目の前の現実を直視する。ビームが直撃したはずのカタールは弾き飛ばされるどころか、ビームを切り裂き、光を霧散させながら今なお、かこに向かって回転を続けている。

 

「ッア!?」

 

目の前までカタールの刃が迫ってきたところでかこは槍で咄嗟に弾くが、連結したカタールがそもそも大きかったことが影響し、かこはのけぞり、大きく態勢を崩した。

 

(しまった    早く持ち直さないと‥‥‥!!)

 

大きくのけぞった態勢をかこは寸でのところで持ち堪え、数歩後ろに後ずさることで尻もちをつくことだけは避けたかこ。すぐに槍を構え、接近してくるさやかを探そうとするが、視界の前方にはあの緑色の粒子を生み出しているさやかの姿はない。

 

「ど、どこ…‥‥ッ!?」

 

目をよく凝らしてみても一目みればすぐにわかるくらい目立つはずのさやかの姿が一向に見当たらない。さながら自分はホラー小説に出てくるような怪奇現象に対して何も抵抗することができない哀れな犠牲者のようだ。

かこは恐怖のあまり身を縮こませるが、そんな彼女の肩が背後から小突くくらいの軽い力で叩かれる。

 

「はぅぅぅッ!?」

 

思わず変な声を挙げながらバッと背後を振り向くかこ。そこに目に入ってくるのは困ったような笑みを浮かべるさやかの姿があった。

 

「まさかここまで驚かせるつもりはなかったのだが…‥‥‥すまない、配慮が足りなかったか?」

 

「ふぇ…‥‥あ    

 

「ホールドアップだ。そこだけは理解してもらえるか?」

 

そこまで言われてようやくかこは自身の状況に気づく。さやかの手にはブラスターが握られており、その銃口がかこに突きつけられるように向けられていた。

それに気づいたかこはカタールに気を取られている間にさやかが背後に回り込んだのだと感じ、悔し気に表情を歪ませる。

 

「とりあえず、安全なところまで下がっていてくれ。いつまでも他の人たちまで待たせるわけにはいかないからな。」

 

それだけ手短に伝えるとさやかは腰に吊り下げられているGNソードⅡロングとショートを手にすると、颯爽と空に浮かび上がり、残っているななかたちの元へ超速で向かっていく。

残されたかこは飛んでいくさやかの背中を少しの間茫然と見つめると思いだしたかのように言われた通りに戦闘の影響のでない離れた場所に移動する。

 

「おつかれさま。ケガとかしていないかしら?」

 

上から聞こえてくる声にハッとして下を向いていた顔を上げると、労っているような笑みを浮かべながら遊具の上から見下すマミの姿があった。

 

「あ‥‥大丈夫です‥‥‥あの、美雨さんは‥‥‥?」

 

「心配しなくても大丈夫よ。私、これでも回復魔法には自信があるんだから。」

 

マミが自分の隣を指さし、促されるように目線を移すと横たわらせている美雨の姿が入る。気絶した状態からはまだ立ち直っていないのか、彼女が目を覚ます雰囲気には見えなかった。

そのことにとりあえず安堵感を抱くかこだったが、行き場所がないのも事実だったため、かこは所なさげにマミの近くに座り込んだ。

 

「美樹さん、強かったでしょ?」

 

「…‥‥はい、はじめに持っていたおっきいライフルや大剣の時点でかなり苦戦でしたけど、まさか空も飛べちゃうなんて‥‥‥魔法を通り越してファンタジーですよ。」

 

「ファンタジーねぇ‥‥‥‥‥」

 

かこの言葉にマミは思わず苦笑する。さやかの持つ力について聞かされている彼女にしてみれば、さやかがファンタジーの世界にいるという評価はまるで正反対、まさに対極に位置しているようなものだ。確かに魔法っぽいのは事実だが、その正体が実は遠い未来の人類の手で作られたものであるのであれば、苦笑いを禁じ得ないのは仕方のないことだろう。

 

「…‥‥‥むぐぐ、悔しいです。そういえば、さやかさんはどうして最初は加減をしてくれたんですか?」

 

かこの質問にマミは少し考えるように顔を上にあげる。

 

「そうねぇ…‥‥多分魔女を想定してやっていたんじゃないかしら?」

 

「魔女を‥‥‥‥ですか?」

 

「少し昔話をしましょうか。といっても、あまり他人には言えないような情けない話ではあるのだけど。」

 

気恥ずかし気に頬を軽くかくマミの仕草に首をかしげながらもかこはその昔話に耳を傾ける。

 

それはまださやかが魔法少女の契約をする前のころ。病院に巣食った魔女を討伐しにいったときの話。さやかが魔女の居場所を伝え続けるために魔女の近くに居続けた時点でかこが目を見開いてその話に聞き入る。

 

そして話はどんどんと進み、状況は佳境に差し掛かる。

 

「その時は完全に魔女を仕留めたつもりでいた。でも、現実はそうじゃなかった。中に別の存在を隠していたの。今に思えばあの魔女にしてはどこかかわいげのあるぬいぐるみみたいなフォルムはブラフだったのかもしれないわね。」

 

「そ、そんな魔女がいたんですか…‥‥大丈夫だったんですか?」

 

「大丈夫じゃなかったら私はここにはいないわよ。」

 

「で、ですよね…‥‥ごめんなさい。」

 

「ふふっ、別に怒っているつもりはないからそんな謝ることはないわよ。でもそんな狡猾な手段を使ってくる魔女もいるかもしれないってこと。私たちが戦っているのは常識の通用しない存在。その相手から無事に生き残るには突然の状況にでも対応できる順応力。」

 

だからさやかははじめから全力を出すことはせずに最初は地上で戦い、途中から空に戦場を移したりと変則的な戦いをしているというように目線の先で戦っている三人の姿を見据える。

状況はやはりというべきか、三次元的な機動をしつつ鳥のように飛び回るさやかの動きにななかとあきらは得物が両者とも近接なのが相まってかなり苦戦しているようだった。

 

「あの様子だとそんなに長くは持たなそうかしら。」

 

三人の様子を見てそんなことを思いながらマミはどこからともなく取り出した紅茶のティーセットを膝の上にのせてティータイムにしゃれ込む。

 

「ともかく、あんまり気に病む必要はないわよ。貴方には長いこと一緒にいる仲間たちがいるんでしょう?みんなに支えられながらも自分もみんなを支える。そんなものでいいと思うわよ。独りぼっちは寂しいものよ?」

 

そう、独りぼっちは寂しいもの。ずっとずっと、本当は気楽に話し合える人が欲しかった。

 

『魔女を倒せるのは貴方だけだ。手を貸すが、立てるか?』

 

瞳を閉じてその裏に呼び起こすのは運命のあの日。油断していた私を文字通り食らおうとする魔女から救ったのは、魔法少女でもなく、友達でもなかった、他でもないあなた。

まるで魔女に微塵も臆していないように澄んだ色を見せる蒼い瞳。だがその差し伸べられた手は私が背負わなければならない傷でひどく腫れあがっていた。その事実に、情けなさに一度は自分に嫌気がさしかけた。

 

それでもあなたはそんな自分に対して、魔法少女ではなく、人間として当然のことだと言った。命の危機に恐怖しない人間はいないとそれこそ当たり前のように言いきった。先輩として情けないところは見せられないが、あなたはその情けなさすら丸っと包み込んでしまった。

 

もちろんその言葉にいつまでも甘えるつもりはない。だけど同時に間違いなくその言葉に救われたのも事実だった。

 

 

今の私を繋ぎとめているのはあなた。

 

 

だから、もしあなたが立ち上がれなくなりそうなときは

 

 

私にあなたの手を掴ませて。

 

 

それが私にできる一番のあなたへのお礼だと思うから。

 

 

 

 

 

 




こそこそ裏話

さっさんの使う武装はときおり妙な現象が起こるゾ!!(要するにエクバ仕様)


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第58話 ただの規格外です

ウマ娘はじめたら想像以上にストーリーがよくって遅れました(うまぴょい!!うまぴょい!!)

あとガルパン最終章第3話を見に行きました。


ちょくちょくそれに関する感想をいただいていたのですが…‥‥なるほど!!

あ、もしこの前書きに言及する感想をお送りするお方がいるのでしたらレイ泉とシャ杏の方でしてください。(すみわけ大事)


「…‥‥私、どうやら貴方のことをかなり勘違いしていたようです。」

 

そういって目を細めて冷ややかな目線をさやかに送るななか。その桜色の和服を着崩したような魔法少女としての恰好は、至るところに土汚れや切り裂かれた痕があったりとひどくボロボロだった。それは隣にいるあきらも例外ではなく、彼女は疲れ切ったようにがっくりと肩を落としていた。

そしてそのななかの冷ややかな視線を受けているさやかはボロボロな彼女らに対し、これといって服装が乱れていない代わりに笑みを浮かべたまま冷や汗を額から流していた。

 

「正直な話、貴方は最強などではありません。ほかの皆さんと比べるのも烏滸がましくなってしまうような‥‥‥‥ただの規格外です。」

 

「‥‥‥‥‥‥自分でもそう思っている。」

 

「あ、自覚はあるんだ………………」

 

ななかの発言に返す言葉もないのか、苦笑いのような引きっつらの表情でただ同意の言葉をあげることしかできないさやか。

そんなさやかにあきらが疲れ切った表情でボソッと呟く。

 

「それで…………結局のところ、私はお前たちの特訓相手になり得るのか?」

 

ところ変わってさやかは真剣な表情と眼差しを浮かべながら自身がななかたちの相手になれるかどうか、その是非を問う。

その問いとさやかの表情にななかも佇まいを直すように表情を真剣なものに変え、思案に耽る。

 

「別段、貴方が強いことに越したことはありません。こちらとしても張り合いのある相手、それこそ美樹さんのように噂されるほどの魔法少女にお声かけをしていますので。」

 

ななかはとりあえずさやかを相手としては申し分ないと答える。

そのことにさやかは安堵した表情で軽くため息を吐くが、その直後にななかから『ですが』とその安堵の雰囲気を一転させる言葉が出てくる。

 

「貴方と戦う時は魔法少女と戦っているのではなく、魔女と戦っているつもりで臨ませていただきます。」

 

「………………あー………そこまでいくか。」

 

「はい、そこまでです。だって美樹さんご自身が言っていたでしょう?加減が効かないから死ぬ気で避けてくれって。」

 

「……………言ったな。うん。」

 

「ですので、またの機会の際には我々もそれくらいの覚悟でいる次第です。」

 

ななかの妙にいい笑顔から出される言葉に渋い表情を禁じ得ないさやかだったが、事実ダブルオーの武装に加減が効かないことは紛れもない事実なため、その言葉を素直に飲み込むことにした。

 

「というか、またやるつもりなのか?」

 

「その機会がいただけるのでしたら私たちとしては願ったりかなったりであることは事実なのですが…‥‥いかんせん魔法少女として活動していくにはいろいろと‥‥‥ことグリーフシードの消耗は考え物ですからね。」

 

「…‥‥またしたいという願望自体は否定しないのか。」

 

ななかがまた手合わせを望んでいるかのような思わせぶりな言葉にさやかは辟易しているかのような表情を見せるが、ななかはグリーフシードの消耗という現実的な問題からもそれほど回数を重ねるつもりはないことをやんわりと伝える。

しかし、また手合わせを望んでいること自体を否定してはいないため、さやかは思わずそのことをボソッと呟いた。

 

「ここまで手の内の全貌が見えないお相手は初めてですので。さまざまな種類の剣、私たちの攻撃を同時に防げるほど強固な防御力のあるバリア、そして空すら駆け巡り、さらにはそれら全てを巧みに使いこなす貴方自身の力…‥‥正直ここまでとは思いすらもしませんでした。」

 

「ずいぶんと手放しに称賛の声をくれるが‥‥‥‥‥まぁいいか…‥‥」

 

さながら好敵手でも見つけたかのような表情と同時にほめたたえるような言葉にさやかは怪訝な表情を見せたが、それが彼女の本心らしいのは顔を見てればなんとなくわかったため、さやかは脱力したように肩を落とすだけで、その日はもう遅かったのもあり、そこで別れることにした。

 

「お茶会はまた今度かしら」

 

「そうなってしまうな。とはいえまた機会がありそうなのは目に見えているからその時にだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ななか、どうだった?今回の美樹さんは。」

 

「‥‥‥‥と言いますと?」

 

さやかたちと別れ、一路帰路についているななかたち。

その最中あきらが不意にななかに今回のさやかとの手合わせのことを尋ねるが、ななかはきょとんとした顔で首をかしげる。

 

「もー!!どうせななかのことだからさっきのさやかさんのことも品定めしてたんでしょ!?」

 

そのななかの反応にあきらは言葉を荒げるが、その言葉の中に刺々しさは全くなかった。

実際あきらが初めてななかと出会った時に手合わせする羽目になったのだが、それは彼女があきら自身の力を見定めるためにななかが仕組んだことだった。

そんな以前の経験から今回も彼女がさやかのことを見定めているのだろうと踏んだ。

そしてその答えは、ななかが不敵な笑みを浮かべてクスクスと笑ったことで示される。

 

「ふふっ、確かにあきらの言う通り、美樹さんのことを見定めてはいただきましたがその結果ははじめに彼女に申し上げた通りですよ?」

 

「規格外、ネ‥‥‥‥‥まさにその通りだったネ。」

 

ななかは平然とした表情で言うが、隣にいた美雨は手に顎を乗せて深刻な表情を見せながら言葉を零す。実際さやかの魔法少女としての力は他の追従を許さないような、さらにそこに他に類を見ないような唯一性が高すぎるものであった。

 

「空を我が物顔のように駆け巡り、私たちの攻撃を同時に受けても傷一つつかない強固なバリア、そしてあのかすっただけも戦闘不能にまでなりそうなほどの攻撃力。ご本人の実力もさることながら正直な話、彼女と敵対関係になるのは得策ではないでしょう。美樹さんは紛れもなく、一騎当千‥‥‥いえ、一騎当軍とでもいえばいいでしょうか。ともかくそれほどの人物であることは確かでしょう。」

 

「しかも美樹さんの言い方ぶりに手加減している上であんな感じだったからね…‥‥」

 

「なめてるとか言っておいて逆に瞬殺されたの恥ずかしいネ…‥‥‥」

 

「美雨からそういわれた時、さやかさんとても困った顔してたからね…‥‥まぁ、ドンマイ。」

 

「‥‥‥‥‥‥‥」

 

 

さやかのことで話題が持ち切りになるななかたちの会話の中でかこは何か物憂いな顔で下を向き続けていた。

 

 

 

 

 

「さてと、今日の分はこんなものか‥‥‥‥しかし早乙女先生とくれば、また合コンで失敗したからといって八つ当たりみたいに宿題を増やさないでほしいのだが‥‥‥‥それで大変な思いするのは私たちなんだが…‥‥‥」

 

 

少し日を改めてから、さやかを疲れたような顔つきをしながら腕を真上に伸し、簡単にストレッチを行う。中々横暴というか職権乱用もいいところなことをしてくる自身の担任に対して、だから男が離れていくんじゃないのかとご本人に聞かれたら卒倒されそうな悪態を吐きながらもしっかりとその分を終わらせたさやかは疲れたようにベッドの上に寝込んだ。

風呂も済ませてはいるし、横になったことで睡魔が襲い始め、そのまま身をゆだねて微睡んだその時、部屋に電話の着信を知らせる電子音が鳴り響く。

 

「…‥‥‥マジか‥‥‥このタイミングでか‥‥‥」

 

部屋に鳴り響く着信音にさやかは一瞬だけそれが幻覚であることを願ったが、その願いがたやすく打ち砕かれ、重たくなった目と身体を半ば無理矢理たたき起こすように机の上に置いてあった携帯電話を着信相手の名前すら視ずに乱雑に掴み取った。

 

「ふぅ‥‥‥‥もしもし?」

 

『あ‥‥‥え、えっと、美樹さん?』

 

電話口から気落ち気味に聞こえてきた声にさやかは咄嗟に電話の画面を確認する。そこには『夏目かこ』の名前があった。彼女の様子から少し怖がらせてしまったことを察したさやかはおずおずと電話の対応に戻る。

 

「すまない、少し気が立っていた。とはいえ学校の担任に宿題を増やされたことをぼやいていただけだから気にしないでくれ。」

 

『あ、ああ…‥‥そうでしたか…‥‥てっきり何かこちらで粗相でもしてしまったのかと…‥‥』

 

「いや、そんなことは全くないから、繰り返しになるが気にしないでくれ。それで話を戻すが突然電話をかけてきてどうかしたのか?」

 

とりあえず怖がらせたことを謝りながらも電話をしてきた理由を尋ねると、かこからの返事がしばらく返ってこなかった。

そのことに小首をかしげながらも静かに彼女が話すのを待つさやか。

 

『美樹さんは、あの子から感じたことがありますか?例えば、危うさとか…‥‥』

 

「‥‥‥‥‥あるにはある。だがそれを聞いてどうす      

 

『フェリシアちゃんは、両親を魔女に殺されている。そうですよね?』

 

自身の言葉を遮りながらのかこの言葉にさやかは思わず表情を驚愕といったものにしたまま言葉を失う。なぜならそのことを知っている人物をさやかはほとんどいないと思っていたからだ。さらには両親が魔女に殺されているなど誰にも話したがらないだろうという前提がさやかの中にあったのがその驚愕に拍車をかけていた。

 

「なぜ‥‥‥それを知っている?本人から直接聞かされたわけではないだろう?キュウべぇか?」

 

たまらず姿勢を整え、眠気で朧げになっていた思考をクリアにする。フェリシア本人にとって特大の地雷ともいえる両親のことをひと悶着があったかこたちが普通に彼女から聞かされたとは思えない。大方そういう本人の裏事情を知っており、なおかつ語りそうなのはキュウべぇぐらいしかいない。

 

『はい。初めて会った時から魔女に対してはすごい苛烈で近寄りがたかったんですけど…‥‥私自身、なんだがあの子のことがほっとけなくてキュウべぇにその理由を聞いたんです。』

 

「………………つまるところ、かこの言う理由とは、真実に他ならないと言うことか?」

 

『……………はい。他ならないキュウべぇから直接聞いたことなので。』

 

「……………わかった。聞かせてくれ。一体彼女の身に何が降りかかったのかを。」

 

 

 

 

 

 

「っ…‥‥‥そんなことが‥‥‥‥‥‥!!!」

 

苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべながら絞り出すように声を漏らすさやか。フェリシアの両親は魔女に殺されたわけではなかった。彼女の両親の命を奪ったのは、他ならないフェリシア自身が両親に構ってもらいたいというほんのちょっとした出来心からのいたずらだったのだ。

そのいたずらのせいで引き起こされた火災で当時彼女が住んでいた部屋はマンションもろとも全焼。普通であらば死は免れられない絶体絶命の状況に姿を現したのがキュウべぇだった。

キュウべぇが現れたのなら、そこからの展開を予想するのは容易だ。大方、契約を結び、願いを叶えたと考えるのが上策だ。

しかし、そこまで考えたところで必然的に疑問が生じる。なぜフェリシアの両親は結局死んだままになっているのか。それと同時にフェリシアはなぜ両親の死因を魔女に殺されたと誤認しているのか。

 

「‥‥‥‥なぜ彼女の両親は亡くなったままになっている?まさか、願いの叶え方を間違えたのか?例えば自分だけ助かってしまうような言い方で願いを言ったとか。」

 

さやかの脳内にあるパターンにマミの判例があった。マミの場合は交通事故で死にかけた際にキュウべぇと出くわした。そして彼女が願ったのは『助けて』という端的なものだった。

その結果、その交通事故ではマミだけが生存し、両親はそのまま死亡するというあんまりな結末となってしまった。

 

『いいえ、キュウべぇから聞いたのは確かに両親の生存を願うものでした。ですけど、その内容は‥‥‥少し、曖昧だったといえばいいんでしょうか…‥‥』

 

「‥‥‥‥曖昧だとなにか問題でもあるのか?」

 

『これは…‥私の推論なんですけど、願いの内容が明確ではないと、修正力、というのが一番わかりやすいと思うんですけど、それが働いて本人が思う通りの結果にならない場合があると思うんです。』

 

「修正力か…‥‥‥」

 

かこの言葉にさやかは顎に手を当てて考え込む。仮にかこの言う通り、願いを叶えようとしたときに修正力とやらが働きかけるのであれば、ありえない話ではなくなってくる。マミが契約をしたときに叶えた願いはあの交通事故から『助けて』ほしいというものだった。普通であれば、状況的に鑑みてその『助けて』のニュアンスに彼女の両親が含まれているであろうことは想像に容易い。

 

(はずなんだが‥‥‥‥‥その願いを聴いていた相手が相手だからな…‥‥‥ともかく今は彼女の話に耳を傾けるか。)

 

一抹の不安を覚えながらもさやかはかこの話の続きを聞くことにした。

 

「フェリシアが契約の時に願った内容はどのようなものなんだ?」

 

『なかったことにしてほしい、だそうです。望んでいた両親の死か、もしくは火災やその諸々の原因であるフェリシアちゃん自身のいたずらといった全部をなかったことにしてほしかったんだと思います…‥‥』

 

「‥‥‥‥‥だが、結局は彼女だけ生き残り、彼女の記憶が魔女に両親を殺されたというものにすげ変わった。そういうことか?」

 

『…‥‥‥はい。しかも公にはフェリシアちゃんの両親は火災のあとには失踪した扱いになって、まるであの子だけが真実を知っているかのような状態になってしまっているんです。』

 

そこまで聞いたさやかは深いため息を零した。フェリシアと出くわし、ほぼ成り行きでウワサの討伐を共にしたときからなんとなく違和感はあった。特に両親を魔女に殺されたという割にはその魔女の姿をかけらも知らず、ともかく魔女を手あたり次第に潰していけばそのうち仇の魔女を殺せるだろうというような言動。

いささか不自然な部分もあったが、まさか魔法少女の契約を交わしたことにより、その記憶自体が歪められ、行き場などどこにも存在しない恨みに成り果てていたとは。

 

(これもインキュベーターによって生み出された歪みか…‥‥!!)

 

思わず舌打ちをし、表情を険しいものに変えるさやか。とはいえ、そうでもしなければ深月フェリシアはその罪の重さに耐え切れるはずがないだろう。

歪みといってももこれは必要悪のようなものだ。それが地球を事実上生贄にしようとしているインキュベーターの手によるものだと言うのが、どうにもさやかにしこりのように残るのだった。

 

 

「…………………そういえば話は変わるのだが、なぜそれを私に話した?こんなのは本人はもちろんだが、他人にすら伝えるのを憚れられるような内容だ。」

 

さやかは話題を逸らすようにそのフェリシアの抱えている本人すら知り得ない秘密を自分に話した理由を聞く。

 

『貴方なら、この残酷な真実を知ってもあの子の側にいてくれると思ったからです。』

 

「……………それは流石に買い被りすぎだ。私にだって嫌悪感を示すものはいくらでもある。」

 

そういって呆れたようにため息を零すさやかだが、対する電話越しに聞こえてくるかこの声には明らかに笑みをこぼしているようなものが入っていた。

 

『あの子のこと、よろしくお願いします。私だとななかさんと一緒にいるからって苦手意識持たれていそうですし…‥‥』

 

「言われてみればそうかもしれないが‥‥‥‥‥根本的なことを指摘してもいいだろうか?」

 

『?…‥‥‥‥‥はい、なんでしょうか?』

 

「彼女は今、みかづき荘という建物で七海やちよを始めとする他の魔法少女と生活を共にしている。なにやら彼女が私と常に共にいるような前提で話しているような気がするが、それは違うとだけは言わせてくれ。」

 

『え、あの子やちよさんのところにいるんですかッ!?もしかしてフェリシアちゃんが言っていたいろはさんたちっていうのは美樹さんの同郷の魔法少女ではなく       

 

「そのみかづき荘に住んでいる、いわば同居人だ。私たち見滝原の魔法少女じゃない。」

 

さやかの指摘に慌てている様子を想像するのが簡単なほどわかりやすく狼狽える声をあげるかこ。そこから独り言のような声が向こうから聞かされる羽目になったが、程なく我に返ったかこが改めてフェリシアのことをお願いすることで雰囲気的に電話が終わろうとしていた。

 

「あ、そうだ。全く関係ないことなのだが少し聞いてもいいか?」

 

『はい?なんでしょうか?』

 

「神浜市のと言っても広いからこの際神西区内だけでいいのだが、品ぞろえのいいフラワーショップとか知らないか?実は入院している知り合いがいるのだがそろそろレパートリーが底をつきそうなんだ。これからは神浜市を訪れる機会も多くなるだろうからせっかくのこと聞いておこうとな。」

 

『お花屋さんですか!?それでしたらちょうど私がお手伝いしているお花屋さんがありますので、よかったら紹介しましょうか?』

 

「それは都合がいいな。すまない、助かる。」

 

最後にかこのいう手伝いをしているお花屋さんに行く約束を交わし、さやかは電話を切った。




ワタシは逃げか先行のウマ娘しか育てられないクソ雑魚トレーナーです…(泣)

遊び半分でルドルフ行ったら勝てなかったときの罪悪感半端なくて一回あきらめました…‥‥ごめんね…‥‥


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第59話 知らなくちゃならないことだと思うから!!

いかん、だいぶ間が空きながら書いちまったから若干の御都合展開がいなめない‥‥‥


「今日は世話になる。すまないな、わざわざ私のために。」

 

「いえいえ、気にしないでください。私こそお世話になっている礼みたいなものですから。」

 

「礼になるほどの回数を重ねたわけではないんだが…‥‥」

 

かこの言う礼がこの前の手合わせのことであることを察したさやかは困った笑みを浮かべ、彼女を連れ添って昨日教えられた花屋へと向かう。

 

「そういえば、これから向かう花屋は君がバイトしているといっていたが、どのような店なんだ?」

 

「え…‥お店の雰囲気とかですか?」

 

「有体に言うとそうだな。」

 

道すがらのさやかからの質問にかこは小首をかしげて考え込む仕草を見せる。

 

「お花屋さんの雰囲気は、大体はどこもおんなじなんじゃないんでしょうか?」

 

「…‥‥‥‥言われてみればそうかもしれないな。」

 

かこからの言葉に言われてみればとでも言うように顎に手を添え、わずかに上を見つめるさやか。

 

「でも、お花を心の底からこよなく愛している魔法少女がいます。知り合いというのもその子なんです。」

 

「改めて思うが、神浜市は本当に魔法少女の人数が多いな。見滝原とは大違いだ。」

 

そんな他愛もない会話をしながらかこの案内で進んでいくと、不意にかこが何か気づいたような声を挙げ指を刺した。

さやかがその指が指す方へ視線を送ると日よけ用のサッシにプリントされた「フラワーショップ・ブロッサム」の店名と、その軒先でせっせと販売用の花に水をやっている高校生くらいの少女の姿が見えてくる。

 

「‥‥‥もしかしてだが、彼女が?」

 

「はい。少し待ってくださいね。このみちゃん!!」

 

さやかの言葉にそう答えながらかこは店先の少女に向かって駆け出した。その彼女の声に気づいたのか、少女がかこの方へ振り向いて笑顔で彼女を出迎えるとそのまま談笑を始めてしまう。

若干置いてけぼりを食らったような気がしてしまうさやかだったが、ついつい会話が弾んでしまった程度だろうと少し離れたところからおとなしくその様子を眺めていることにした。

 

「すみません、おまたせしました!!」

 

ところなさげに携帯をいじりはじめてから数分、ぼーっとしていた画面を見つめていたさやかにかこと話していた少女から声がかけられる。

 

「えっと、お見舞い用の花束をご所望なんですね?何かいれてほしい花とかはありますか?」

 

「いや、あいにくと花に関する知識はない。迷惑かもしれないがそちらに任せる。」

 

携帯をしまいながらさやかがそういうと店員の少女が快活な表情を浮かべながらわかりました!!とパタパタと店の中へ入る。

 

「せっかくですしお店の中でも見ますか?」

 

「‥‥‥‥‥そうだな。時間潰しにはいいかもしれない。」

 

かこの提案に暇つぶしついでに店内に置かれている花を見ることにしたさやか。入口を潜り、陳列されているたくさんの花々を見ていった。

 

「そういえば、彼女とはどういう経緯で知り合ったんだ?」

 

「?‥‥‥このみちゃんとですか?」

 

「まぁ‥‥‥‥なんとなく気になってだな。中々不躾な質問なのはわかっているからそっちが気に食わなければ話さなくてもいいのだが‥‥‥」

 

かこは古本屋の娘、そしてこのみと呼ばれた少女は花屋のアルバイト。なんとなく関連性が見えないことからさやかはかこにそれについて尋ねた。

 

「謙虚なんですね‥‥‥‥‥別に減るものでもありませんから構いませんけど‥‥‥‥実は私とこのみちゃん、それにもう一人お店のお手伝いのかえでちゃんていうんですけど。三人で『チーム・ブロッサム』っていうチームを組んでいたりするんです。」

 

「かえで?もしかして秋野かえでのことか?」

 

「あ、あれ!?かえでちゃんのこと知っているんですか!?」

 

「やはり彼女のことか‥‥‥‥‥神浜市に来たばかりの頃にひと悶着があってだな、それで彼女と知り合ったんだ。」

 

かこの言葉に聞いた覚えのある名前があり、思わず聞いてみるとかこは驚きの表情を上げ、そのさやかの言葉に間違いがないことを示した。

 

「え…‥‥‥君、かえでちゃんと知り合いなの?」

 

そんな声が店の奥の方から聞こえ、そちらに目線を向けると見舞い用の花を見繕ってくれたのかきれいな花束を抱えた少女が立っていた。しかし、その表情は目を見開いて驚きを表しておりとても店員が見せるものではなかった。

 

「名前を互いに知っている程度でいいのであればそうだといえるが…‥‥どうかしたのか?」

 

「‥‥‥‥‥‥」

 

さやかの言葉にこのみは明らかに動揺したような表情を見せながら視線を右往左往に送っていた。どうみても何かあったと言えてしまうようなあからさまな様子に二人の表情もつられるように険しくなる。

 

「このみちゃん、かえでちゃんとの間に何かあったんですか!?」

 

かこに詰め寄られたこのみは思い悩んでいる表情を見せながら彼女から逃げるように顔を逸らした。だが少しすると観念した様子で気まずそうながらも話し始めた。

 

「ここ一週間かえでちゃんと連絡が取れないって‥‥どういうことですか!?」

 

「わ、私も全然わからないの!!珍しく連絡もなしに休むことがあったからはじめはたまたま風邪でも引いたのかなって思っていたけど…‥‥‥‥」

 

このみの口から語られたのは突然のかえでとの連絡が途絶したことだった。始めこそ勢いはよかったこのみの声だが、それもすぐに不安そうな表情を上げると同時にしおらしくなっていき、花で言う枯れたような様子になってしまった。

 

「………………少し確認するが、通話アプリに既読とかはつけられたのか?」

 

さやかの確認にこのみは力なく首を横にふった。それの反応にさやかは険しい表情のまま思案に耽る。

 

「………………一般的に一週間も失踪しているのであれば家族から警察に対して捜索願いが出されるのが通説だ。だがあいにくと私達は魔法少女。多少の周りからの不信感は魔力でどうにかなってしまうだろうな。」

 

「え……………君も魔法少女なの?」

 

このみの呆けた顔を浮かべながらの言葉にさやかはまぁなと軽く返しながら携帯を再び取り出すと電話口に耳を当て、誰かと電話を取り始める。

 

『………………もしもし。』

 

数コールの内に通話状態となった電話から気だるそうに不機嫌な声が聞こえて来る。さやかが連絡を取ったのはかえでと一番交友関係が深いレナだ。

 

「最近秋野かえではどうしている?聞いたところによれば彼女と連絡がついていないらしいのだが。」

 

『………………ハァ…‥‥‥本当にどこから聞き入れてくるんだか‥‥‥‥!!』

 

開口一番にかえでのことを聞かれたレナは頭を抱えながら振り絞るかのようなか細さで小さく悪態を吐いた。

 

『アンタの言う通り、最近のかえではどこか様子が変なのは事実よ。学校に来るには来るけど授業が終わったらそそくさと逃げるみたいにすぐ帰っているわ。』

 

「学校でもか‥‥‥そちらの方で何かしら連絡を取ろうとしたことは?」

 

『なによ、今度は探偵の真似事でもやっているの?』

 

かえでの様子を聞き出そうとしたさやかだったが、レナからの返しの言葉にどうもトゲのようなものを感じてしまい渋い表情を浮かべてしまう。

 

「そのつもりはないのだが‥‥‥‥最近はそうもいっていられない状況になっているのはわかってくれているだろう?」

 

『…‥‥‥‥まぁ、わかってはいる…‥‥』

 

ため息をつきながらレナの突っかかりにそう返すと意外にもあっさりと引き下がったレナにさやかはわずかに面食らった表情を見せながらも切迫した状況になっていることに変わりはないためすぐに表情を引き締めたものに戻した。

 

「で、お前の方からはなにか彼女に対して接触とかは試みたのか?」

 

『家とかはいってないけど…‥‥少なくとも最近は電話にすら出やしないわ。既読すら付きもしないし…‥‥』

 

しょぼくれているのかむくれているのかは電話越しではわからないが、少なくともしおらしい声でそう返すレナにさやかは彼女が見栄を張っている割に意外と小心者であるからなぁと密に仕方ないと納得しながらも顎に手を添える。

 

「だが、物事には必ずそうなるだけの理由や要因、出来事が必要不可欠だ。なにか心当たりはないのか?」

 

『‥‥‥‥‥別に。どうせレナがかえでに何か言ったからでしょ。』

 

そういったレナの言葉だが、さやかはそれが即座に違うことを察した。かえでやレナたちと言葉を重ねた回数は少ないが、かえでは臆病かもしれないが嫌だとか不服に感じたことははっきりと物申すタイプの人物だ。そんな彼女がレナの発言になにかしら不快感を感じ、彼女自身に対してそれを言い返さず、心の内にしまい込んでおくとは考えにくかった。

 

(となると‥‥‥‥問題を抱えたのは秋野かえでの方か?)

 

ここでさやかは目線をレナに問題があったのではなく、かえでの方に何かしらの問題を抱えたという風に切り替えた。何かとてつもない、それこそ他人やレナを始めとする友人にも相談することが憚られてしまう、そんな大きな問題を抱えてしまったのではないのかと。

 

(って‥‥‥‥そんなのは考えられるにソウルジェムの秘められた真実が露呈してしまった以外にありえないのでは?)

 

友人に、それこそ長い付き合いであるレナにすら明かせない秘密に思い当たりがあるのはそれしかなかった。ソウルジェムは魔法少女自身の魂が具現化したもの。もしくはソウルジェムの成れの果てが魔女のもつグリーフシードであり、自身が魔女に変貌してしまう可能性があるということ。

そのどちらを知ってしまったのかはどうであれ、そのことに気づき、他の人たちに言い出せなくなる感覚は感じたことはないにしろ理屈でわかっているつもりだ。

 

(打開策はその知ってしまった秘密を他人と共有しその孤独が自分だけではないことを認識することだ。)

 

だがこれではただ単にかえでに依存先を与えるだけで根本的な解決にはならないとさやかは思っていた。真に解決と呼べるのはその事実を飲み込んで普通に日常生活を送っていける状態になってこそだ。

何かに怯えながらの毎日では、魔法少女に課せられた運命からの解放からは程遠い。

 

(とはいえそれができる人間が限られているのも現実問題としてネックだな…‥‥私たちか七海やちよ、それにマギウスの翼‥‥‥‥か)

 

いや、場合によって常盤ななかも選択肢の一つかもしれない。以前彼女たちのグループと手合わせした際に自身がそれとなく言ったソウルジェムが砕けたら大変なことになるというニュアンスの言葉にななかだけが反応していた。もしかしたら彼女もソウルジェムの真実を知っている稀有な魔法少女の一人かもしれない。

 

(ダメだ。私たちではマギウスの翼の手から引き留められるだけの対抗策がない!!現状で明かしたところで、ただ闇雲に事態を悪化させて混乱を引き起こすだけだ!!)

 

今のさやかたちにはマギウスの翼が掲げる理想、その裏にある必要な犠牲に変わるものがない。

 

「‥‥‥‥わかった。だが一つだけ私から忠告がある。聞いてくれるか?」

 

『…‥‥‥何よ突然。』

 

「もしこの先お前が何か物事に対して不信感を抱く時があったのなら…‥‥‥すぐに動いた方がいい。それは人として、人間が人間として生きていく上でなんら間違いではないはずだ。」

 

『…‥‥‥何を言い出すのかと思えば‥‥‥‥警告のつもり?』

 

「…‥‥‥いや、忠告程度のつもりでいてくれ。」

 

『‥‥‥‥わかったわ。言い方はともかく、アンタの言っていることに間違いがなさそうなのは事実だからそのくらいのつもりで受け取っておくわ。』

 

故にさやかに言えることはそれとなりにマギウスの翼に対しての警告を伝えておくことだけだった。

しかし、さやかからの静かな声色から出る雰囲気をレナも感じ取ったのか素直にその忠告を聞き入れてくれた。そのことに安堵したさやかが電話を切ろうとする。

 

『あ!!ちょ、ちょっと待ちなさい!!アンタたちもいろはと同じようにウワサを倒して回っているんでしょッ!?アンタにも教えておくわ!!』

 

「?…‥‥ああ、その通りだが…‥‥いろはも?」

 

まさに切ろうとした直前にまくしたてるような勢いでレナがさやかを呼び止めたことにさやかは首を傾げ、怪訝そうな表情で電話を持ち直し、レナの話に耳を傾ける。

 

 

 

 

 

「透明人間、それにひとりぼっちの最果てか。」

 

レナから持ち込まれたウワサの情報はその二つ。透明人間はありきたりだがともかくとして、ひとりぼっちの最果てはレナとの通話を切り、すぐに検索サイトでそのワードを打ち込むと検索結果が画面に表示される。

しかし、そのサイトはすでに閉鎖されていたのか『404 not found』の文字を出すだった。これはレナとの電話であらかじめわかっていたことだった。このサイトの内容を知りたいところだったが、レナが調べ始めた時点でサイトは閉鎖していたとのことだったため、それを知ることも叶わない。

 

(情報が乏しいな…‥‥彼女の努力を無碍にはしたくないが、ともかく一度いろはに連絡を取る必要がある‥‥‥‥)

 

さやかは携帯の画面を閉じると少し離れたところで様子を見守っていたかことこのみに向き直る。彼女らの表情はまさに心配そのものといった様子でさやかを見つめていた。

 

「残念だが、彼女の知り合いの電話にも出ない始末らしい。学校には来ている姿を見かけてはいるそうだがな。ところで二人とも学校は神浜市立大の付属なのか?神西区で学校というとそのあたりしか候補がないようなのだが…‥‥」

 

「はい、そうですけど‥‥‥‥‥それとかえでちゃんとの件と関係が?」

 

突然のさやかの確認の言葉にかことこのみは互いの顔を見合わせるときょとんとした様子ながらもうなづく仕草を見せた。

 

「実在しているかは別問題として、二人は最近神浜市中でさまざまなウワサが飛び交っていることを知っているか?例えば、神浜大付属の中等部の校舎、その屋上に続く階段に名前を書き込むと絶交が生涯成立するとかいう絶交階段のウワサが身近な例なのだが‥‥‥」

 

「あ…‥‥東塔の北側にある屋上へ続く階段のことですか!?確かに名前が書かれてはいましたけど‥‥‥‥‥」

 

「私も…‥‥本当にウワサだけなら聞いたことある。でも、あれは所詮ウワサなんじゃ…‥‥‥?」

 

「火のないところに煙は立たない。ウワサとしてそこに存在する以上必ずそこにはなんらかの噂になるだけの理由がある。事実、彼女は一度そのウワサに連れ拐われたことがある。最悪、将来的に彼女がとんでもないことに手を染めてしまう可能性もある。」

 

疑問気な表情でそういう二人の言葉をさやかは切り捨てるような勢いでそう言い切ると、以前起こった絶交階段のウワサのことを二人に話した。

些細な口喧嘩から始まった絶交。そこを発端としたウワサと呼ばれる異形の存在によって引き起こされた事件に二人の表情はこわばったものへと変わっていった。

 

「ウワサの内容が現実になっちゃうなんて…‥‥‥」

 

「た、確かに神浜市ではウワサがたくさん流れているとは思ってはいたけど…‥‥‥!!」

 

「残念ながら事実だ。さらには魔法少女の他に一般の人間にも被害が出てしまっている。これ以上彼女らの好きにさせるわけには     

 

そこまで言いかけたところでさやかは持っていた携帯をまた操作するとまた誰かと電話するつもりなのか、通話口に耳をあてた。

 

「あ、あの‥‥‥‥今度は誰と‥‥‥?」

 

「私はこれからウワサが根城にしている場所に向かうつもりだ。どうやら知り合いの魔法少女が単身でそこに向かったらしいからな。携帯が繋がらないところまで足を踏み込んでいなければいいのだが…‥‥作ってくれと頼んだ手前申し訳ないのだが、受け取りはまた別の日にさせてくれ。」

 

忘れないうちに、というようにこのみに目線だけを向けながらそう伝えたさやか。事実上の注文保留が突然ぶっこまれてきたことにこのみは花束を抱えたまま面食らった表情を見せる。何か言おうとしたこのみだったが、そのタイミングでさやかが電話の相手と会話を始めてしまったため、このみは何も言えなくなってしまった。

 

(ど、どうしよう…‥‥‥‥)

 

心の中でそうこぼすこのみ。

もちろんこのどうしようには突然受け取り保留がぶっこまれたことに対するものもあるが、それよりもかえでのことが大半を支配していた。

ひょんなことからかえでとかこの二人と出会い、チームとして魔法少女の活動をすることも多くなった。その中でかえでとは店の手伝いをしてくれるくらいにまで仲が進展するほどだった。

そんな彼女が突然連絡もなしに店の手伝いをドタキャンした。

最初は何か急用が入り込んでこちらにこれなくなったのだろうと思っていた。しかし、時間が経ってもかえで本人からの返答が返ってくることはなかった。その時間が止まってしまった通話アプリの履歴を見るたびに自分の心の中を言いようができない不安が広がっていった。

そして目の前の客としてやってきた魔法少女から語られた自分の知らなかった出来事。

 

彼女が知らない間に危険な目にあっていたことに友人として、仲間として、あの時彼女らに助けられた人間として情けないと同時に歯がゆい思いがふつふつと湧き出てきた。

 

(私が…‥‥‥私にできることは‥‥‥‥‥!!)

 

 

 

      中央区にある電波塔?」

 

『はい。レナちゃんから聞かされたひとりぼっちの最果てのウワサと、鶴野ちゃんから聞いた電波少女のウワサはつながっているんじゃないかと思って‥‥‥‥‥』

 

「行動力が高いことはいいことだと思うが、たった一人で行くのは褒められたことではないな。魔女と同じようにウワサの本体のいる領域ではなにが待ち受けているかわかったものではないからな。それにマギウスの翼が待ち構えている可能性だってありうる。」

 

『い、一応やちよさん宛てに録音メッセージは送ったので‥‥‥‥』

 

「とりあえず、あまり無謀なことはおすすめしない。都合のよく私は今神浜市内にいるからできるだけ早くそこに向かうつもりではいるが…‥‥‥」

 

『さやかさんが来てくれるのでしたら、百人力ですね。』

 

「そういってくれるのはありがたいものなんだろうが…‥‥あまりおだてないでほしいものだな。」

 

そこまで話したところで聞きたいことや言いたいことは済んだのか電話を懐にしまうさやか。

 

「さっきも言ったが、私はこれからウワサが根城にしている可能性のある場所へ向かう。同じことを言うが‥‥その花束、代金は置いていくが受け取るのはまた後にさせてくれ。」

 

さやかはそういうとレジがおいてあるカウンターに3000円を置くと二人の隣を通り抜けて店をあとにした。さやかはダブルオーで空からいろはのいる中央区の電波塔を目指すつもりだが、流石に人前でそんなことをしてしまえば注目の的になってしまうのは避けられないため、どこか適当な裏路地に入ってから変身するつもりだ。

 

「このみちゃん。」

 

さやかが出ていったブロッサムに残された二人。

ところなさげにさやかに渡すはずだった花束を持つ手に力を込めているこのみにかこが声をかける。わずかに下げていた視線を挙げ、視界に収めたかこの表情は決心づいたものを浮かべていた。

 

「かこちゃん‥‥‥‥‥うんッ!!」

 

お互いに顔を見合わせるとかこのその決意がこのみに移ったように彼女の表情もキッと引き締められたものに変わる。

 

「おばさんごめん!!急用が入っちゃったから私外れるね!!」

 

手にしていた花束を枯れないように水を入れたツボに差し込みながら店主にそれだけ伝えるとかこと一緒にお店を飛び出した。人ごみの中を掻き分けながら走ったその先には適当な裏路地を見つけたのか、ビルの影に消えていくさやかの背中が見えた。

 

「ま、待ってくださいッ!!」

 

このみの声に呼び止められたさやかは驚いた様子もなく駆け寄ってきた二人の方へ振り向く。既にさやかの姿は魔法少女としての装いに切り替わっており、あと少しこのみが声をかけるのが遅かったら飛び去っていたことがうかがえる。

 

「ついてくるのか?」

 

二人の様子を見てなんとなく察したのか、はたまた最初からそのつもりだったのか定かではないがさやかは二人に確認するかのような言葉を投げかける。

 

「かえでちゃんには助けられた借りがある。それに、大切な友達がふさぎ込んでいるのに何もしてやれないなんて、絶対にできない!!」

 

「だからお願い!!貴方たちが戦っているモノを私たちにも教えて!!なんとなくだけど、それは知らなくちゃならないことだと思うから!!」

 

「…‥‥‥‥わかった。だが、お前の言う知らなければならないことにぶつかったとき、どう行動するかはお前たち次第だ。それだけは頭の隅に置いておいてくれ。一応だが夏目かこ。お前も彼女と同じ意見か?」

 

「はい。ウワサは一般人にも被害を与えているのなら。私たちの家族にもいつか被害が来るかもしれない。そのためにも、私も戦います。」

 

このみとかこの言葉にひとまずとでもいうように軽く一息を入れるさやか。その様子はどこか安堵の表情のようにも見えた。

 

「改めて自己紹介をさせてもらおう。私は見滝原の魔法少女、美樹さやかだ。よろしく頼む。」

 

「春名このみです。よろしくお願いしますね。」

 

互いに自己紹介を済ませたところでさやかはこのみに自身が空を飛べることを明かし、それで目的地である中央区の電波塔へ向かうことを告げると、このみはとても驚いた表情を浮かべる。驚くことも無理もない話だが、既に先にそのことを知っていたかこの助言でとりあえずで飲み込んだところで二人を背負ったさやかはGNドライヴを稼働させ、夕暮れに差し掛かった大空に向けて飛翔し、飛行機もかくやというスピードで神浜市の空を駆け抜ける。

 

 




次回からはひとりぼっちの最果て編、かもしれない。

なお本編アニメともどもこのあたりからマギウスとの接触編が始まるから‥‥‥‥

あと感想とかくれると嬉しいです…………


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第60話 賭けって言ったからな

60話だ‥‥‥‥‥早かったような短かったような…‥‥何とも言い難い感覚です‥‥‥


オレンジ色に染まった夕日が輝く空を駆け抜ける一条の光。白緑の粒子を降らしながらその空を進むのは異世界の兵器とも呼べるダブルオーガンダムの力をその身に宿したさやか。

 

「すごーい‥‥‥‥ほんとに空を飛んじゃってる‥‥‥‥」

 

さやかに背負われる形で空を飛び、中々見ることのできない光景にこのみは舌を巻いてその景色に見入っていた。その彼女の後ろにいるかこもさやかが空を飛べるのはわかっていたが、それでも中々お目にかかることのできないであろう景色に同じように目を奪われていた。

 

「見るのは構わないが、変にバランスを崩して落ちることだけは気を付けてくれるか?」

 

「あ、はい…‥‥というか、前々から気になってはいたんですけどこのきれいな緑色?の粒ってなんなんですか?」

 

「‥‥‥流石にそこはそう簡単には言えないな。企業秘密だ。まぁ、我ながらとんでもない代物だとは思っているとだけ。」

 

「は、はぁ…‥‥そうですか‥‥‥」

 

かこがさやかの両肩に装着されたGNドライヴのことを聞いてくるが、もちろんその正体について話せるわけないため、適当にごまかしておく。

 

「ところでだが、電波塔はどっちだ?大方高い鉄塔みたいなものだろうが、私から見える景色にはそれっぽいものが二つある。」

 

さやかからの質問に言われるがままに前方に目線を向ける二人。視線の先には夕日の光でビルの壁面が影となり漆黒の塔のようにそびえたっていた。まだ遠目なのも相まって判別がつきづらいことありゃしないが、それでも形的に見てさやかの言う通りそれっぽいものを二つまでは編別を絞ることができた。

 

「えっと、高い方の建物はセントラルタワーだったはずだから‥‥‥‥電波塔はあっちの少し背の低い方だね。」

 

「分かった。針路をそっちの方へ方向転換する。」

 

このみの言葉に従い、さやかは視界に見える少しだけ高さが低い方の建物へと針路を向ける。距離自体はそれほど離れていなかったため、少しの間でさやかたち三人は電波塔のてっぺんにほど近い工事の人間が立ち入るための金網のような足場に降り立った。

 

「いい景色だったけど…‥‥一歩間違えればスプラッタ間違いなし。」

 

背負われていたさやかから離れるや否や、そんなことを口にするこのみ。大方先ほどまでの空の旅の感想なのだろう。とはいえ、ダブルオーのスピードなら仮に誰かが落ちたとしても結構高度があったぶん、猶予時間もあったため、追いつけるだろうからさほど問題にしてないさやか。

 

「‥‥‥‥いるな、気配の感じからして魔女のようだが…‥‥。」

 

「そう…‥ですね、ソウルジェムも反応してますし‥‥‥」

 

目を細め、警戒感を露わにしているさやかとその隣でかこが自身のソウルジェムを見ながら電波塔の中へと続く扉に目線を注ぐ。

 

「多分あの扉を開けたらもう魔女の領域の中だろう。今のうちに態勢を整えておいたほうがいいかもしれない。」

 

さやかの忠告ともとれる言葉に二人は静かに頷くとソウルジェムを掲げ魔法少女の装いへと変身する。さやかが電波塔の扉に手をかけ、確認するように後の二人に目配せをし、それぞれの得物である両手で持たなければならないほど巨大な剪定鋏と先端が特異な形をした槍(かこ曰くこれは本に挟む栞らしい)を構える。

 

「行くぞ…‥‥‥!!」

 

その掛け声と共にさやかは勢いよく扉を開け放ち電波塔の内部に侵入する。しかし、扉を開けた瞬間に三人の目に飛び込んできたのは壊れた液晶のように赤青緑黄色ピンクと際限なく切り替わる、いわゆる目を悪くしそうな色彩である。

襲い掛かる色彩の暴力に三人の表情はしかめっ面を禁じ得ない。

 

「あ、さやかさん!!向こうのビルを模したような場所で誰か戦っています!!」

 

こんな視覚的にきつい空間の中でも懸命に目を凝らしていたのか、かこが誰かが戦闘を行っていると伝える。その声に促されるままにかこの見ている方向に視線を向けた二人は、彼女の言う通り、ビルの屋上を模したような場所で誰かが魔女と単身で戦っている様子を見つける。

鞭のようにしなる魔女の攻撃を避ける薄いピンク色のケープをはためかせている魔法少女は左手に携えたコンパクトボウで魔女に対して迎撃をしている。

 

「あれは…‥‥いろはか!!無茶なことはするなと言ったのにッ!!」

 

魔女にたった一人で立ち向かっている魔法少女がいろはだと気づいたさやかは心配そうな表情を見せつつ彼女のもとへと向かうべく飛翔する。

 

「すまない、ついてきてくれ!!時間稼ぎは私がやる!!」

 

「わかりました!!」

 

まくしたてる勢いで指示を飛ばすさやかにかこがそう応えるとすぐさまいろはの元へまさに急行といっていい速さで向かう。ここに来るまでのものとは比べ物にならないレベルのスピードに度肝を抜かれるこのみだったが、かこから呼びかけられたところでハッとなって意識を取り戻すと慌てた様子ながらさやかのあとに続く。

 

「いろはッ!!」

 

「さやかさ       きゃあっ!?」

 

近づいてきたところでさやかが声を張り上げ、それに気づいたいろはが安堵の笑みを浮かべ、それに応えるが、ちょうどタイミング悪く魔女を巨大化させ、視覚化できるくらいになったウイルスを連結させたような触手が油断していたいろはの身体に巻き付き、彼女の身体を高々と持ち上げる。

 

「ッ‥‥‥‥‥させるかッ!!」

 

それを見たさやかはスピードを緩めることなくその進む先を魔女に定めた状態で右手にGNソードⅡロング、左手にGNバスターソードⅡを手にすると、ライフルモードにしたロングの銃口から三日月状のビームカッターを発射する。

放たれたビームはいろはに巻き付いていた魔女の触手を何の抵抗も感じさせず溶断し、彼女を囚われの身から解放する。

それを視界の端っこで確認したさやかは両手でGNバスターソードⅡの持ち手を掴みなおすと魔女の巨体に向けてその刀身を薙ぎ払うように振るい、いろはのいるビルから離れた別のビルまで吹っ飛ばす。

吹っ飛ばされた魔女は轟音を響かせながらぶつけられたビルの崩落に巻き込まれ一時的にだが姿が見えなくなる。

 

「大丈夫か?」

 

「す、すみません。助かりました…‥‥」

 

「いや、今のは声をかけて気を散らせた私のミスだ。それよりも立てるか?」

 

差し伸ばされたさやかの手を掴み、いろははしりもちをついていた姿勢から立ち上がる。ざっと見た感じ、いろはにケガらしいものは見当たらない。魔法少女の身体はそれなりに頑丈と聞かされてはいるさやかだったが、ケガがないことに超したことはないためひとまず安堵の表情を浮かべる。

とはいえさやかは手ごたえこそ感じてはいたが、魔女を仕留めたとは思っていなかった。視線を魔女が突っ込んだ建物の方へちらりと見やるとまだ魔女が出てくる雰囲気は感じられなかった。この間に態勢を整えようとしたところでかことこのみの二人が現着する。

 

「え、えっとさやかさん、この二人は…‥‥?」

 

「二人は夏目かこと春名このみ。その、秋野かえでの知り合いといえばなんとなく察してくれるか?」

 

「あ‥‥‥‥」

 

初めて会う魔法少女に困惑気な表情を浮かべるいろはにさやかがそう簡単に紹介すると思わず悲痛な表情に変えてしまう。おそらく、いろはもレナからかえでの現状を聞いているのだろう。

 

「‥‥‥‥その、なんだか最近私たちの知らないところでいろいろ起こっているみたいですね。ウワサ‥‥‥でしたっけ?私たちにも手伝わせてください。いつまでも無関係ではいられないから。」

 

いろはに向けてこのみが決意表明のようにする姿に一瞬面食らった表情を見せるいろは。自然と彼女の目線がこのみの隣にいるかこにズレると、その目線に気づいたかこも大きくうなづきながら引き締まった顔を見せ、気持ちはこのみと同じであることを示す。

 

「どちらかといえば、いろはは別の目的があってウワサと戦っているのだがな。」

 

しかしそこに投げ込まれたさやかの言葉に二人は今度は目を丸くし、きょとんとした様子でいろはの顔を見つめ始める。

 

「あの‥‥妹を探しているんです。もしかしたらウワサに巻き込まれているんじゃないかって思ってるんですけど‥‥‥流石に…‥お二人は知りませんよね?ういっていうんですけど‥‥‥‥」

 

「なるほど、妹さんを…‥‥‥それはそれとして、申し訳ないんですけど、聞き覚えはないかな‥‥‥ごめんなさい。」

 

いろはがウワサと戦う理由に感嘆といった反応を見せつつも、ういという人物については知らないと首を横に振るこのみ。その返答が来ることはわかっていたのかいろはさほど気にしていない様子だったのか、やはり情報がまるで出てこないことを憂いているのか表情に影が差し込む。

気持ちはわからない訳ではなかった。彼女の妹、ういについてはさやかが彼女が写っていたと思われるいろはとの写真を見て、あくまで客観的に彼女がいるだろうと推察しただけで絶対的な根拠であるういとの記憶を有しているのはいろは自身しかいないのだ。

それがわかっていたとしても妹についての情報がまるで出てこないことに気が滅入ってしまいそうになるのは仕方がないといえばそう言えるだろう。

 

「いろは。気落ちするのはわかるが、気持ちを切り替えたほうがいい。まだ魔女が動いているからな。」

 

「さやかさん…‥‥‥そう、ですね。」

 

さやかの言う通り、倒壊した建物から魔女が蠢きながら現れる。それを見たいろはは迷いを振り払うように自分の頬をぺちぺちと叩くとキッとした表情で魔女を見据える。

 

「‥‥‥‥気休めでしかないが、私は信じているぞ。環ういを…‥‥君の妹の存在を。」

 

「さやか、さん…‥‥‥?」

 

自身の前で魔女に立ちはだかるように立つさやかにいろは突然何を言い出すのかと言うように呆けた顔を向ける。

 

「君はこの神浜市に、妹を探すために来た。あの噂に焚きつけられたわけではなく、家族のため、君自身の大切な人を探すためにここへきた。その気概を‥‥私は信じる。その思いが、私を信じさせる。」

 

そう言ってさやかは後ろにいるいろはの方を目線だけ見やるとニカっと朗らかな笑みを浮かべる。

 

「戦えるか?陰気な空気になっていられる状況ではないだろう。」

 

「ッ…‥‥‥はい!!」

 

前に立っていたさやかの隣に並び立ついろは。その表情に先ほどまで見せていた影は見えなくなっていた。このみとかこも自身の得物を復活した魔女へ向け臨戦態勢を整える。

 

           !!』

 

ウイルスのようなとげとげのついた球体を直結させた触手をワナワナと震わせながら奇声とも呼べる甲高い声を咆哮する魔女。そのたなびかせていた触手の数を増やし、四人を囲い込む勢いで伸ばす。

 

「こういう蔦みたいなのを切るのは私の得意分野ですッ!!」

 

「フォローするッ!!!」

 

両手で持たなければならないほど巨大なサイズの剪定鋏を振るい、触手を断ち切るこのみ。無論触手自体の数は多いため、彼女の死角からも触手が鞭のように振るわれるが、そこはさやかが持ち前のスピードでGNソードで触手を切り払う。

 

「射線は開いた!!二人とも、頼んだ!!」

 

さやかの号令で後で控えていたいろはとかこが魔女に向けて遠距離からの攻撃を仕掛ける。しかし魔女は不規則な軌道でフヨフヨとつかみどころがないようにその射線から逃れる。

 

「いやらしい動きをする‥‥‥‥」

 

「どうしましょう?まるで風船みたいにつかみどころがありませんよ?」

 

その光景を見たさやかが悪態を吐くとこのみがそれに同意する雰囲気を見せながらも対応策を求めるように視線を送る。

 

「風船なら縛ってどこかに括り付けておけばどこかに飛ぶ事はないのだがな…‥‥‥」

 

さやかはそういいながら腰に差していたGNソードⅡショートを手にする。ショートには剣先が分離し、中に隠されたワイヤーで対象をアンカーのように引き寄せることができる。

 

「行ってみるか…‥‥」

 

そうこぼすとさやかは魔女に向かって突撃を開始する。スピードでは完全にさやかの方に分があるため、接近すること自体は容易いのだが       

 

 

       !!!』

 

再びけたたましいような甲高い声を挙げる魔女。その騒音に呼応するように魔女を覆うように蠢いていたいくつもの物体が分離し、その一つ一つが固有の意志をもったように接近するさやかに襲い掛かる。

 

「ふぁ、ん、ネルッ!?うおっ!?」

 

使い魔というには段違いに速い素早い動きにさやかは一瞬面を食らうがなんとか身体が反応し、身をよじらせるように回避する。しかし、物体のあまりのしつこさにさやかは後退を余儀なくされる。

 

「鬱陶しい…‥‥!!」

 

魔女からいったん距離をとったさやかだったが、さらにそこから魔女が追撃として触手を伸ばし、直前までさやかのいた場所を叩き割る。

 

「うまくいかないものだ…‥‥!!」

 

脚力で無理矢理勢いを殺しながら難しい表情を浮かべるさやか。その近くに他の三人が駆け寄ってくる。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「問題ない。それよりもあの魔女、中々にやっかいな性質をしている。正直に言ってしまえば実力行使に出てもいいのだが‥‥‥‥‥」

 

無理矢理にでも魔女を倒すことに微妙な表情を見せるさやか。その理由は真偽がどうであれ、ここがウワサが根城にしている可能性があるという点にあった。以前フクロウ幸運水のウワサの本体を叩きに行った時、梓みふゆを始めとするマギウスの翼が姿を現した。

さらには今こうして目の前にいるのは魔女だが、魔女の育成のようなこともしているマギウスの翼だ。今この場に構成員の一人や二人がいてもまぁまぁおかしくはない。

つまるところ、さやかはセブンソード、ザンライザー、ツインドライブ、極めつけはトランザムの情報がマギウスの翼に伝わることを危惧していた。

 

「そういえばさやかさん、さっきは一体何を…‥‥‥?」

 

いろはからの質問にさやかは使おうとしたGNソードⅡショートを三人に見せると剣先を分離させて中のワイヤーを見せながら自分がやろうとしたことを説明する。

 

「なるほど、ふよふよと移動するのなら紐のようなもので縛って動きを封じてしまえばいい…‥‥」

 

「そう思ったのだがな‥‥‥‥‥あんな隠し玉があるようではうかつに近づくことも困難になってくる。」

 

「となると遠距離‥‥‥‥でも私にはそんなことは…‥‥‥」

 

このみは名案だとでもいうように頷くが、さやかの言う通り近づこうにも魔女が見せた強力な使い魔に阻まれてしまう。だったら遠距離からとなるが、そのような遠距離から攻撃できて動きを封じられる都合のいい人物はいない。

 

「…‥ここは一つ、賭けに出るか。いろは、コネクトだ。」

 

「え、コネクトですか!?でもあれは、確かに攻撃力が上がるものですけど‥‥‥‥」

 

「そうだな、以前水波レナとももこのコネクトの時は彼女の属性とも呼べる水の魔力が、ももこの武器にエンチャントとして付与されるものだった。ところが、私がマミ先輩とコネクトしたら、あの人のマスケット銃が浮遊し、先輩自身の思考で動くようになって、放たれるものがビームに変質したんだ。」

 

「もしかして‥‥‥それに賭ける感じですか?」

 

「賭けって言ったからな。」

 

微妙な顔を浮かべるかこを尻目にさやかは急かすようにいろはの腕をつかんで引き寄せると自身の手を重ね、コネクトを発動させる。するといろはの腕に装着されているコンパクトボウに光が灯り始める。

 

「ともかく奴に隙を作らせればそれでいい。あとは私が仕留める。」

 

「そ、そんなこと言われても…‥‥‥きゃあっ!?」

 

発光を続けているコンパクトボウにいろはが困惑気にしていると、突然驚きの声を挙げる。発光どころか光そのものに包まれたコンパクトボウがグングンと成長するように巨大化しだしたのだ。その巨大化にいろははたまらず立てかけるように地面とコンパクトボウを垂直に立てる。

もはやいろはのそれはコンパクトボウというより、弓そのものへと変貌していた。

 

「え、ええーーーーーーーーーっ!?!?」

 

「た、環さんの武器が‥‥‥‥」

 

「おっきくなっちゃった‥‥‥‥」

 

目の前の光景に目を丸くして茫然とするかことこのみ。しかし、驚いていられる余裕はそれほど残されていない。

 

「いろは!!その弓で射るんだ!!」

 

「ど、どうなっても知りませんからねっ!?」

 

さやかの発破にもはややけくそになったのか言われた通りに弓の弦を思い切り引っ張り、その動作と同時に形成された矢とも呼べる魔力の塊を打ち出した。放たれた矢はそのまま魔女にまっすぐに飛んでいくと思われたが、突然何もないはずの空中で動きを止める。その光景はまるでその矢にだけほむらの時間停止の魔法がかけられたようだった。

 

「なっ‥‥‥え?」

 

撃ったはずの矢が空中で静止するという異質な光景に目を疑ういろは。その間にも魔女は悠々と移動し、矢の軌道から逃れていく。かのように思えた。

次の瞬間、空中で静止していた矢が再び動き出したかと思うと、そのまま何事もなくまっすぐに進むのではなく、追いかけるように針路を変え、軌道から逃れた魔女の死角に強襲をかけた。

 

『!??!?!??!??!?!!!?』

 

突然の強襲に魔女はたまらず悲鳴のような叫び声を上げ、矢の威力もすさまじいことに魔女の身体を貫きながらビルを模した建造物にたたきつけた。

 

「これでとどめだ!!」

 

すかさずそこにGNソードⅡブラスターを両手で構えたさやかが高出力の粒子ビームを追撃として撃ち込み、魔女の本体はさやかたちが爆風に煽られるほどの大爆発と共に消滅し、それを示すように魔女の結界も消失していった。

 

「なんとかなったな。」

 

「な、なんとかなりましたけど‥‥‥…‥‥」

 

端的に言うさやかと未だに自身が魔女の巨体を吹き飛ばせるだけの攻撃ができたことを飲み込めていないのか、あいまいな返事をするだけのいろは。

その後いろはの留守番電話を聞きつけて電波塔にやってきたやちよたちみかづき荘の面々も合流し、『ひとりぼっちの最果て』に関していろはにそのウワサにつながるかもしれないメールが来ていることを共有すると、このみたち二人に同行の継続を確認した上でゆっくりと落ち着いて話せる手ごろな場所へ移動するのだった。

 

 




実はマギレコ編の初期段階のプロットは無事ワルプルギスの夜をまどか抜きで討ち果たし、齢20を超えたもはや魔法少女とは名乗れないさっさんがアルまど神の導きで『アシュリー・テイラー』の偽名を名乗って神浜市に円環の理の使者みたい送り込まれる感じでした。


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第61話 やちよへの疑念

最近いろいろ他のSSのネタは思いつくけど流石にこれ以上数増やしたらワイのキャパシティが崩壊するとなんとなく察するこの頃(白目)


電波塔に巣食っていた魔女を討伐したさやか、いろは、かこ、このみ。

予想外の難敵に一息ついたところにいろはの留守電を聞きつけて電波塔に駆けつけてきたやちよ、フェリシア、鶴野のみかづき荘の面々と合流する。

 

 

「貴方…‥‥どうしてこんなところに?それにあまり見ない顔ぶれがいるようだけど。」

 

「花を見繕ってもらう予定だったんだ。入院中の知り合いのためのな。そのつもりだったのだが、何やらきな臭いことになっているらしくてな、たまたまいろはに電話をしたらウワサが根城にしているかもしれない電波塔にいると聞いてすっ飛んできた。二人は同行を願い出てくれたのと、たまたまその紹介で向かった花屋の店員…‥いや手伝いだったか?」

 

「おお!!かこじゃねぇか。元気してっか?」

 

「フェ、フェリシアちゃんも元気そうで何よりでよかった。」

 

驚いた表情を見せながら事の顛末を聞いてくるやちよにさやかは乾いた笑みを見せながら応対している間に知り合いであったフェリシアとかこは和気あいあいとした様子で談笑を始めていた。

 

(この際だからアンタにだけ伝えるが、最近秋野かえでの様子がおかしいらしい。なにやらふさぎ込んでいるようだが…‥‥もしかしたら悪い形で魔法少女の秘密を知ってしまった可能性がある。)

 

(彼女が?ももこやいつも一緒にいるあの子はどうしたのよ?)

 

(ももこに関してはわからない。だがレナも詳細を知らないのか、どうせいつもの喧嘩だと思っているのか時間が経てば元通りになると考えているらしい。もっとも、その対応も彼女自身にも本気で心当たりがない初めての展開で困惑しきって心が追い付いていないことの表れだと思うが。)

 

(‥‥‥‥わかったわ。私の方からももこにそれとなく聞いてみる。)

 

(頼む。最悪のパターンも考えられる。)

 

念話でかえでに関することをやちよに伝えるさやか。さやかの言う最悪のパターンとはかえでを接点にして他の二人がマギウスの翼に引き込まれることだ。戦力の全貌が未だわからないマギウスの翼相手に明確な味方ともいえるももこたち三人が引き込まれるのは正直に言って避けたいところであった。

それもわかっているのかやちよも渋い表情を見せていた。

 

「そういえばいろは、結局ここにいたのは魔女だったのだがいろはは何を根拠にここをウワサが根城にしていると思ったんだ?」

 

「それはですね…‥‥‥」

 

思えばいろははレナからのウワサに関する情報提供を得たあとにこの電波塔をウワサの居城とみなして単身ながらにここに来た。結果待ち受けていたのが魔女ではあったが、それだけの何かしらの根拠をもってここに来たことに変わりはない。

 

「確か、メールがどうとか留守電で言っていなかったっけ?」

 

「メール?」

 

鶴野の言葉にさやかが首を捻っているといろはが携帯の画面を指差しながら『これです』と見せてくれる。

そこにはいろは宛に送られてきた送り主のわからないメッセージがあった。そこには何やら英文をそのまま機械で翻訳したようなお堅い文章が添付されていたが、そこにはいくつかのキーワードとも呼べるような単語が散りばめられていた。

 

『私が監禁している』

 

『助けてほしい』

 

『双葉さな』

 

『貴方は魔法少女ですか?』

 

いろはから見せてもらったメッセージでさやかが気になったものはこれらの単語だ。上の三つは合わせて監禁状態にある双葉さなという人物の救出を願う文言だと推測できる。だが一体だれが、何のためにこのメッセージをいろはに送り付けた。そしてこの存在はどこで魔法少女のことを聞き及んだ。

 

「…‥‥‥一言で言ってしまえば怪しいに限るメッセージだ。魔法少女の単語が出されていることは気にはなるが‥‥‥いろははこれがウワサと、それもひとりぼっちの最果てと関係したものだと?」

 

「これだけだと私もただの怪しいメールだと思っていたんですけど…‥‥鶴野ちゃんから聞いた別の噂と照らし合わせたら、もしかしてと思って‥‥‥‥」

 

「わたしがいろはちゃんに教えたウワサって…‥‥電波少女のウワサのこと?」

 

「電波少女のウワサ‥‥‥‥確か、中央区の電波塔のふもとで携帯に耳をあてると助けを求めているような人の声が聞こえてくるって奴だったわね。」

 

いろはの言葉に鶴野がいったん驚いた表情を見せるが、やちよが懐からお手製の神浜ウワサファイルを取り出しながらウワサについての概略をさらりとまとめたものを語る。

そのウワサというより一種の怪談や都市伝説とも呼べるような内容にウワサにかかわるのが初めてのこのみとかこはひきっつらの笑みを浮かべていた。

 

「監禁…‥助けを求める人の声‥‥‥‥中央区の電波塔…‥‥‥そういうことか。だが…‥‥‥となるとこのメッセージの送り主は…‥‥‥ウワサ自身からのSOS、ということになるのか?」

 

「待って、貴方それはさすがに…‥‥‥!!」

 

電波少女のウワサの概要といろはの携帯に送り付けられたメッセージから両方の関連性を見出し、このメッセージの送り主をウワサ自身であると推測するさやかにありえないとでもいうような驚愕した表情でやちよが待ったをかける。

 

「突飛な考えであることは百も承知だ。だが私たちはひとりぼっちの最果てのウワサ、その内容の情報を得ていない。貴方のそのファイルの中にはないのか?結論を出すのは、そこからでも遅くはない。」

 

「…‥‥‥それもそうね。」

 

さやかの言葉に納得した様子を見せながらやちよは再びウワサファイルのページをめくり始める。

 

「いろは。場合によってはそのメッセージに対して返信を行うことも考えられる。あまり気が進まないとは思うのだが‥‥‥」

 

「いえ、大丈夫です。私もさやかさんと同じような考えではいましたから。でも、実を言うと私が電波塔に足を運んだ時、聞いていたことと違うことが起きたんです。」

 

「違うこと?それは一体なんだ?」

 

いろはの言葉に安心したように穏やかな表情を向けるさやかだったが、その直後に聞かされたことに眉を顰める。

 

「電波塔に着いた時、ウワサにならって携帯に耳をあててその電波少女と呼ばれている人の声を聞こうとしたんです。そしたら助けを求める声じゃなくて、笑っている声が聞こえたんです。それも楽しそうに…‥‥」

 

「どういうこと‥‥‥?わたしが聞いたウワサだと助けてとか、そういう感じのものだって言っていたのに‥‥‥?」

 

「仮にその電波少女のウワサとそのひとりぼっちの最果てのウワサが同じものだとすると…‥‥楽しそうということはそこから出たくはないのでしょうか?もしくはそのウワサと仲睦まじくにしているとかも考えられますが‥‥‥‥‥ウワサに関わりだしてまだ新米もいいところなので大したことも言えませんが…‥‥」

 

「まぁ‥‥‥‥‥そういうことになってくるだろうな。」

 

聞いていたウワサの内容が違う状況が起こっていることに困惑気にする鶴野にかこが気が引きがちに自分の推測を述べ、さやかも同意見だというように同調の意志を示す。

 

「…‥‥どうしてなんでしょう…‥‥」

 

「それは…‥‥実際に会ってみなければわからないだろう。この双葉さなという人物にな。」

 

「話しているところ悪いけど、あったわよ。ひとりぼっちの最果てについての記事。我ながらよくスクラップにしていたわね。」

 

神妙な面持ちを浮かべるいろはにさやかが肩を竦ませながら腕を組んでいるところに目的のスクラップを発見できたのかやちよが戻ってくる。しかし、その表情は見つけたという割にはいまいち芳しくない。どうやら得られる情報自体は少なそうだ。

 

「中央区の電波塔から飛び降りるとひとりぼっちの最果てに行けるらしいわよ。それだけね。」

 

「意外と重要そうな部分を引っこ抜けたな。その様子だといまいち振るわなかったように見えたのだが‥‥‥‥」

 

「全くもってその通りよ。行き方だけ知ったところでどうしようもないでしょう…‥‥」

 

さやかの言葉にやちよはため息をつきながら首を横に振ってこのままウワサに臨むのは危険だという。ならばやはり‥‥‥‥

 

「いろは、やはりやってみるしかなさそうだ。」

 

「‥‥‥‥わかりました。」

 

「待ちなさい。流石にやるにしてももう少し落ち着ける場所でやりましょう。ここは基本、部外者は立ち入るべきではないスペースなんだから。」

 

やちよの指摘に全員の表情が口をポカーンと開いた素っ頓狂なものに変わる。今いる場所が本当は立ち入り禁止なスペースであることを思い出した一行はとりあえず降りてどこかやちよの言う通りに落ち着いて話ができる場所を探しに行くのだった。

 

 

「そういえば貴方。あの二人にはどこまで話したの?」

 

その道すがら、突然さやかにそんなことを聞いてくるやちよ。一瞬なんのことかと思ったが、彼女の目線を追ってみるとそれが誰のことを指しているのかすぐにわかった。フェリシアがはしゃいでいる様子に苦笑いを見せているかこと、いろはや鶴野といった初めて会う魔法少女たちと談笑をしているこのみの姿があった。

 

「まだウワサのことしか話していない。あとは秋野かえでがウワサの被害にあったことがあることくらいか。マギウスの翼に関してはこれから話すつもりだ。」

 

「そう‥‥‥‥」

 

自分から聞いておきながらすぐに興味が失せたような言い方にさやかは少しばかりムッとした表情を見せながらやちよの方に顔を向けるとそこにはどこか不満というべきか、どことなく思い詰めているような様子のやちよの顔があった。

 

(…‥‥思えば、彼女は最初からウワサに対する危機感を持ち合わせていた。彼女ほどの魔法少女としての名が知れているのならそれとなりに警戒を促すことができる気がするのだが‥‥‥)

 

ふとさやかはやちよの横顔を見ながらそんなことを思いつく。やちよは神浜市では西側の代表と呼ばれるほどの実力者。西側ということは東側にもそう呼ばれるほどの人物がいることなんだろうが‥‥‥

それはさておき、やちよほどの人物であれば、元々ウワサに対する警戒感から地域の魔法少女に対する注意喚起を行うことも難しい話ではないはずだ。しかし、彼女はそうせずにたった一人で周囲にウワサの存在を語ることすらせずに戦っていた。聡明な印象をうけるななかのグループにもいるかこすらもその存在を知らなかったのだ。

その口の堅さといえばいいのだろうが、ともかく計り知れない。

 

だが逆に疑問に思うこともある。彼女はなぜ他の魔法少女に協力を仰ごうとしない?

 

魔法少女や一般人の区別なく人々を襲うウワサの存在、魔法少女の解放、そしてマギウスの翼。まだ他の魔法少女たちには知らせていないがすでに個人ですませられる範疇を優に越している。それにも関わらず、やちよはももこたちを始めとするごく少数の人間以外にその話をしていない。

単純に他人に話したところで信じてもらえないからと言われればそれまでだと言うこともできなくもないが、さやかの直感がどうにもそれだけではない気がすることを感じ取っていた。

 

(なんというか…‥‥どうにも彼女の近くにはだれかいる気配がある‥‥‥‥一人‥‥いや二人くらいか?といってもこんな感じに彼女の隣に立ってないとわからないくらい希薄なものだ。だが、不思議と不快感は感じない。害する気はないということなんだろうが…‥‥よくテレビとかでいわれる背後霊とかそういう類なのか?)

 

やちよの周囲から感じる何かの気配にさやかはいぶかし気な表情をしながら首をかしげる。が、おいそれとそれについて聞くのもなんだか憚られるようなものを同時に感じ取る。

 

「なぁ、少し聞きたいことがあるのだがいいだろうか?歩きながらで構わない。」

 

「…‥‥なにかしら?」

 

「一応貴方にはまだ実感がわかないかもしれないが、マギウスの翼にはかなりの勢力が集まっていると思われる。そしてそれに連なるウワサによる被害もこの先かなり規模が大きくなってしまう危険性もある。」

 

「ええ…‥‥マギウスの翼はともかくウワサは貴方の言う通り、そうなる可能性はあると思うわ。」

 

「今のところマギウスの翼のやり方に反抗している勢力はほぼこの場にいる全員しかいない。向こうと比べるとあきらかに戦力不足であるのは否めないのだが、そこのところはどう思っている?」

 

代わりにさやかはウワサに対する危機感やマギウスの翼の存在を以前から知っていたにも関わらず、それを周囲の魔法少女に知らせずにひた隠しにしていたことを若干遠回し気味に尋ねる。

 

「そうね…‥‥おおむねはわかってはいるわ。」

 

「ならなぜ周囲にその存在を知らせるようなことをしない?私たちの行動だけを見て、それに周りが賛同してくれる。そんな都合のいい展開が起きるほど、現実が甘くないのは貴方だってわかっていることでは?」

 

「‥‥‥‥遅かれ早かれ、その必要性は出てくるでしょうね。」

 

やちよ自身、マギウスの翼に対する戦力が決定的に足りていないのはわかっている様子だ。しかし、それにも関わらず周りにマギウスの翼の存在を知らそうとしないやちよにさやかは眉を顰める。

だったらと何か一言申したかったさやかだが、そのことを口を開こうとしたところでやちよの「でも」という言葉に遮られる。

 

「教えたところで、他のみんながそれを知ってしまったときにどうなるかは察しのいいあなたなら想像するに容易いでしょう?」

 

「‥‥‥‥‥‥否定はしない。十分に考えられることだ。」

 

やちよの言葉にため息を吐くように肩を上下させるさやか。どうやっても泥のようにへばりついてくるソウルジェムに秘せられた真実。それを伝えたとき、一体どれくらいの魔法少女が自分たちの味方でいてくれてくれるだろうか?

正直言ってさやかもわずかな時間だけでも仲間として足を並べた人物にその刃を向けることは避けたいのが心情だ。

 

「私もわかっていないわけじゃないわ。でも中には知らない方がよかったことだなんて生きていく上じゃあいくらでもあるでしょ?」

 

「…‥‥‥‥確かにその通りだ。ならばなぜ、貴方はいろはたちを仲間として彼女たちを受け入れている?」

 

「ッ‥‥‥‥‥‥」

 

「私の仲間‥‥‥ほむらや杏子、そしてマミ先輩はみんなその事実を知ったうえで、その救済が間違っているとしてマギウスの翼に対抗している。だが、それに対していろはやフェリシア、そして由比鶴野、まぁ彼女に関しては私の推論だから真偽はさておき、あの三人はそれを知らない。」

 

さやかの問いかけにやちよはわずかに表情を歪ませるが、知ってか知らずかさやかはそれについて指摘することはせずにやちよに話を続ける。

 

「貴方は彼女たちを一体どうしたいんだ?共に真実を共有した仲間でいてほしいのか?そうであるのならば私は最低限彼女ら三人には話した方が賢明だとは感じるが。」

 

それだけ言うと、さやかはやちよの答えを待たずに先を行くいろはたちの後を追うように歩き去る。

 

「‥‥‥‥夏目かこと春名このみにはウワサの存在しか話さないことにする。もっとも、二人をつなぎ役にしてウワサの存在を神浜市の魔法少女に認知させることぐらいはお願いしたいとは思っているが…‥‥‥貴方が知っているかは知らないが聡明な常盤ななかなら動いてくれるかもしれないからな。」

 

わずかに足を止めながらやちよの方を視ずに言葉を残す。さやかが歩き去ったあとにやちよは険しい表情を浮かべていた。

 

「…‥‥‥あの子たちは、ただの助手よ。それ以上でもそれ以下でもないわ。決して、仲間だとは思っていないわ…‥‥‥」

 

思わずこぼれたようなその声はどこか悲壮感をにじませるものだった。

 




ふへ、ふへへ…‥次回は絶対あのルー語を話す芸術家のその鼻っ柱へしおって涙目か発狂させてやるぅ‥‥‥!!


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第62話 それでも、やるのか?

※61話にて大幅な改定を行っています。一応報告は予め目次にて行っていますが、もし改訂前の方しか閲覧していないのでしたら、先に前話の方をお読みください。


「すまない、待たせたか?」

 

「おせぇぞさやか!!待ちくたびれるところだったぞ!!」

 

店に入り、先に席に就いていたいろはたちの姿を見つけると待ちくたびれたのかフェリシアから急かす声がかけられる。

その声に困ったような笑みを見せながら彼女らの元へ向かうと4人用の座席のテーブルに三つ椅子を無理矢理足し加え、セッティングされている光景が目に入る。

 

「あれ、やちよさんは?」

 

「すぐ来るはずだが…‥‥」

 

やちよがまだ来ていないことに気づいたいろはがちょうど座ったさやかにそのことを聞くと同時に店の扉が開き、遅れてやちよが現れる。

 

「ごめんなさい、少し遅れたわね。」

 

 

遅れていたやちよだが、ほかのみんながそれを咎めるような気配は微塵もなく彼女を出迎えると注文した適当な飲み物が全員の手に回ったところでその視線がテーブルの上に置かれたいろはの携帯に注がれる。

 

「そ、それじゃあ、返信します…‥ね?」

 

「仮になにかあったとしてもこの人数ならどうにかなるだろう。」

 

不安そうな表情を見せるいろはにさやかがどうとでもないというようないつも通りの様子で携帯の画面を見つめる。その様子にいろははいくらか安心感を感じたのか安堵したように胸をなでおろした。

 

「というかこのメール、ウワサからのものなんでしょうか?一見すると本当に迷惑メールにしか見えないんですけど…‥‥」

 

「このみちゃんの言う通り、私にもそうにしか見えないのは正直なところではありますけど、流石に魔法少女の単語が文章に出されているからには無視を決め込むのには難しいところです。」

 

「仮に本当にウワサからのメールなのであれば、わざわざ向こうから連絡を取ろうとしてくること自体怪しいのもあるわね。」

 

このみやかこ、そしてウワサに関しての第一人者でもあるやちよから思い思いの言葉をかける。しかし、それらも結局はこのメールに返信をしてからでないとなにも意味をなすことはない。

いろんな意見が飛び交う中だが、いろははいよいよ意を決した表情で携帯を操作するとウワサが送り主と思われるメールに返信のメールを返した。

 

『あなたは一体誰ですか?』

 

満を持して送られた返信のメール。その反応は直後に鳴り響いた携帯のコール音で示される。表示される連絡相手の名前は当然の如く非通知電話。

想像以上に速い返答に目を見開いたり、びっくりした声を挙げながら椅子から飛び跳ねそうになったりとだがその場にいる全員が驚愕の表情に満ち溢れる。

 

「いろは」

 

「あ…は、はい!!」

 

一番に冷静さを取り戻したさやかの声で我に返ったいろはが慌てた様子ながらに携帯を通話状態にし、他のみんなに聞こえるようにスピーカー設定で相手の声を待つ。

しかし少し待っても向こうからの声はない。怪訝そうな表情をしたさやかといろはが顔を見合わせると、しびれを切らしたさやかが口火を開いた。

 

「そちらがだんまりを貫くのならこちらから行かせてもらう。お前がひとりぼっちの最果てのウワサか?」

 

「うわー、物怖じすることなくストレートに聞いちゃったよこの子。」

 

『はい、その通りです。ひとりぼっちの最果てのウワサ。個体名をアイといいます。』

 

「驚いたわね…‥‥‥まさか会話までできるなんて。」

 

鶴乃が苦笑いを浮かべていると、電話口から聞こえてくる声。その声は人のものではあるものの、響いてくる声は編集でもされたようにわずかにノイズがかった機械的なものであった。しかし、会話ができるほどの自我を持ち合わせているウワサというのはやちよにとっても前例がないのか、その証拠に驚きに満ちた表情を見せていた。

 

「あの‥‥‥‥どうして私とメールで連絡を取ろうとしたんですか?私は─────」

 

『知っています。あなた方がウワサを倒して回っていることは神浜中の電波を受信している私の認識の内にあります。』

 

「こちらの状況は理解しているということか。ならばこそ疑問が湧くのだが、お前が監禁しているはずの双葉さなの救出をなぜ望んだ?」

 

さやかがそう問うと、ひとりぼっちの最果てのウワサ────もとい『アイ』は二葉さなが自身の元に来るまでと、来てからの過ごした様子を簡略的ながらも話し始める。

 

 

日付はおよそ3週間から一か月ほど前、『アイ』のいるウワサの領域内に一人の魔法少女が足を踏み入れた。そこには既に別の人間がいたが定められたシステムにのっとり、先住民であったその人間は出口が開くとそれまで閉鎖的な空間にした心理的な不安からなのか、新しく侵入してきた相手の顔を一瞥もすることなく、一目散に出口から逃げかえっていった。

 

『‥‥‥‥‥‥』

 

脱出した人間にはまるで興味すらなくなった様子で入り込んできた魔法少女を見下ろす。ほどなくして気が付いたのかその少女は目を覚ました身体を起こす。これまでの記録からここにやってきた人間たちは自分を見るなり揃いも揃ってすぐに『逃げたい』だの『帰りたい』と同じことを譫言のように繰り返すだけだった。

どうせこの目の前にいる魔法少女もそこらにいる人間たちと同じように恐怖に満ちた目線で自分のことを見つめるのだろう。

 

『誰からも必要とされていないわたしには、ここが一番ふさわしい場所だから。』

 

でも彼女は、さなは違った。彼女自身以外生物がまさに皆無といっても差し支えなかったこの場所を気に入り、あろうことかその時まで名前のなかった自分に『アイ』という個体名をくれた。

そして彼女はここで時を過ごし始めた。はじめは彼女の見せる笑顔が作り物であり、時間が経てばそのうち帰りたくなるのだろうと思い始めた。

だが蓋を開いてみれば、彼女のこの電脳の空間がふさわしいという言葉はうそ偽りではなく、時間が経った今でも彼女の表情に暗い影が落ちることはなかった。投影した様々な風景やAIである自分と勝てるはずのないチェスを、それら全てを彼女は心の底から楽しんでいるように見えた。あるとすれば、本来であれば入り込んできた人間を閉じ込める立場であるはずの自分がさなに帰らなくていいのかと聞いてしまったときくらいのものだった。

 

なぜそのような質問をしたのかは今の自分に理解はできない。

 

だがいつも笑顔でいるはずの彼女の表情に影がかかった顔を見たときに私は言いようもない感覚に襲われた。

 

さなのそのような物憂い気味な表情を見ることに嫌悪と似たような感覚を覚えると同時に彼女はここにいるべきではないと思えるようになった。

 

 

 

『お願いです。私の元からさなを連れ出してください。私ではそれを成すことはできません。それができるほどの機能性はありません。お願いします。』

 

『私の代わりにさなを必要としてあげてください。お願いします。』

 

電話越しからでも十分にその心打ちを感じることができる『アイ』の頼みにさやかたちは顔を見合わせるとそろってなんとも言い難い、難しい表情を浮かべていた。突然そんなお願いごとをされてもというような困惑気な顔を見せているのが大半のなか、さやかとやちよの二人はその頼み事を難しくしている部分を理解していた。

 

推察の上でしかないが、『アイ』の元から連れ出されることを二葉さな自身が望んでいる可能性は低いだろう、ということだった。

 

自らの居場所をそこであると認識し、話の聞いている限りウワサの領域内に居続けることを苦痛であると感じているようには見られない以上、こちらが救出に向かったところで素直に応じてくれるとは思えなかった。

 

(それでも彼女の救出を望むということは、よほどのことがそこにはあるということなのか?)

 

「そちらの頼みに関して答えを出す前に一つ聞きたいことがある。双葉さながお前の元に居続けると、何か悪影響のようなものはあるのか?」

 

さやかは『アイ』からの頼みごとに対しての是非を判断する前にそう尋ねた。

 

『それは不明です。もっと正確に言えば何をするかわからないといった具合が一番適切であると思われます。』

 

「それは…‥‥‥お前自身が二葉さなを手にかけるという意味か?」

 

『誓って、そのような行いをさなにすることはありません。私自身、さなのことを人間でいう大切な友人であると認識していますので。』

 

『アイ』からの答えにさやかは考え込む表情を見せながら座っている椅子の背もたれに寄りかかる。大方予想はついていたが、このウワサの背後にもマギウスの翼の存在があるのは明白だ。となると、『アイ』が危惧している双葉さなに降りかかる悪影響というのがマギウスの翼によるものである可能性が高い。

 

「…‥‥‥‥わかりました。」

 

どうしようかと考えている中、承諾するような声が響く。思わず全員の目がその声を発したであろう人物に向けられる。

 

「いろは…‥‥‥それは本気か?」

 

心配するような声でさやかがそう言った先にはいろはの姿があった。

 

「‥‥‥‥本気です。」

 

「…‥‥正直に言うが、この二葉さなという人物が救出を望んでいない可能性もある。もしかしたら拒絶だってされてしまうこともあるだろう。それでも、やるのか?」

 

「そうね。こればかりは彼女の言う通りだと思うわ。環さん、どうするの?」

 

「やちよさんやさやかさんの言うこともわかります。でも私は、助けられるなら助けたいです‥‥‥‥‥!!」

 

そう語るいろはの表情は決意に満ち溢れたものであった。それもどこか見たことのあるような、既視感を覚える表情。さやかはいろはのそれを見てそのような感覚を抱く。

 

(‥‥‥‥‥そんな気がすると思ったら‥‥‥まどかと似ているのか。)

 

思い返してみれば、まどかもこういう風に誰かを助けるためには損得感情などを無視して行動を起こそうとする気質だった。そのおかげといっていいのかは定かではないが、そのまどかの行動がきっかけでインキュベーターとめぐりあい、こうして魔法少女としてさまざまな人たちとの交流ができている今がある。

 

(魔法少女の契約をしてしまったことを後悔にさせないためにも…‥なんとかしてマギウスの翼の救済のための手段の詳細を知らなければな‥‥‥‥‥)

 

そう考え一度目を伏せたさやかは再びを目を開くと、その目線をいろはの携帯に向ける。

 

「いろいろ確認しておきたいことがある。こちらがこれから聞く質問には答えてくれるだろうか?」

 

「え、いいんですか!?」

 

「いいもなにも、私は懸念こそ口にはしたが、救出すること自体に異を唱えたつもりはないのだが…‥‥‥?」

 

「…‥‥‥ならはじめからそういってくださいよ…‥‥」

 

「最低限、それくらいの警告はする必要があると思っていたからな。頭ごなしに物事に賛成を示して従うより、出すべき意見は出した方が結果的にいい方向に運ぶだろうからな。そちらもその腹積もりではいるのだろう?」

 

「‥‥‥まぁ、行くこと自体に否定をするつもりはないわね。」

 

話題転換と言わんばかりにやちよにそうはいうさやかだが、微妙にいろはの表情から不服気なものが抜けない。参ったようにわずかにため息を漏らしながらも、いつまでも店内にとどまり続けるわけにはいかないため、さっさと『アイ』にひとりぼっちの最果てについての質問を始めることにした。

 

「まず根本的なところとしてだが────」

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥‥‥おおよそ、ここまで聞ければ十分か。」

 

しばらく経って聞きたいことは聞き終わったのか背もたれに寄りかかったさやかがそう言葉を零す。

 

「そうですね…‥‥‥そのひとりぼっちの最果てへの入り方やさやかさんが聞いてくれたおかげで出口についても知ることができましたからね。」

 

「まぁ、それに関してはウワサの概要を聞かされている時になんとなく気になったからな。ところで今更ながら変な事を聞くが、二人はこの後も私たちと行動を共にするつもりか?」

 

「へ?ま、まぁそのつもりではありますけど…‥‥‥」

 

「というか、話の流れ的にてっきり…‥‥」

 

うまく事を運ぶことができそうだと表情をわずかに緩めているかこだったが、突然のさやかの質問に同じく質問の対象になっていたこのみと一緒にきょとんとした様子で聞いてきたさやかの顔を見つめる。

 

「確かに私が二人のことを焚きつけるようなことを言ったのもあるが‥‥‥‥‥二人にはこの件とは別のことを頼みたい。」

 

「別のこと、ですか?」

 

繰り返すようにつぶやくかこの言葉にさやかは表情を微妙なものにしながらも頷いた。

 

「正直に言って、『アイ』────彼女はかなり特殊なパターンのウワサだ。こうして対話が可能なほど自意識がはっきりとしていることから双葉さなの救出にはそんなに人数を必要とはしないはずだ。だからその代わりに二人にはウワサの存在とその危険性を、他の魔法少女に知らせてほしいんだ。」

 

「他の魔法少女に、ですか‥‥‥‥」

 

このみの言葉に再び無言で頷くさやか。そしてその彼女の目線がやちよに向けられる。はじめは突然視線が向けられたことに少しだけ首をかしげるやちよだったが、やがてさやかの意図を察したのか柔和な笑顔を見せながら二人に語り掛ける。

 

「そうね、私からもそうしてもらえるとありがたいかしら。見ての通り、こうしてウワサの存在をちゃんとした脅威として知っている人は魔法少女も含めて少ないわ。」

 

「奴らは魔女と性質や姿が似ているようにも見えるが、アレは本質は別だ。行動パターンも違ければグリーフシードを落とすこともない。戦うことになれば完全に骨折り損だ。」

 

ふぅ、と困ったようにため息を吐きながらのさやかのと、それに続くやちよの言葉に今度はかこ達が頷く仕草を見せる。

さやかの言う通り、ウワサと戦うことは魔法少女にとっては無駄以外の何物でもない。グリーフシードがなければ行き着く先はソウルジェムが黒く濁り切る以外に存在しない。

 

「で、でもさやかちゃん達はそれでも戦っている…‥‥それはなんでなの?特にさやかちゃんは、神浜市から離れた見滝原からわざわざ来ているんだよね?」

 

そのこのみの質問にさやかはまぁ、そうなるなとでも言いたげに納得した表情で頷き、佇まいを直すように椅子に座りなおした。

 

「‥‥‥‥私たち見滝原の魔法少女はある噂の調査をしている。」

 

「そのウワサって、どういうウワサなんですか?」

 

「‥‥‥‥‥すまない、それを教えることはできない。噂は広まってしまってこその噂だからな。下手に巻き込んで大変な目に遭わせてしまってはこちらとして面目も立たないからな。」

 

少し間が空いたあとに難しい表情を浮かべるさやかの返しに残念そうに顔を俯かせるこのみ。彼女の様子から気になっているようだったが、さやかの言う噂を広まってこそ噂というのにも一理あると感じたのか、それ以上聞き出そうとすることはなかった。

 

 

 

 

 

 

「そういえばさやかさん、さっきの夏目さんと春名さんは一体どういう経緯で知り合ったんですか?」

 

「‥‥‥‥‥あまり他人の交友関係を根掘り葉掘り聞き出そうとするのは感心しないが‥‥‥‥」

 

話はまとまり、翌日の夜に再び電波塔の屋上に足を運ぶことになった。

かことこのみの二人は帰る方向が異なるのか早々に別れたところでいろはがさやかに二人との馴れ初めを聞き始めた。

もっとも聞いたいろははさやかから渋い表情で返されたことに驚きながらも申し訳なさそうな表情で頭を下げた。

 

「まぁ、別に構わないし、いろはも無関係ではないだろうからな。むしろ聞いてほしいところもある。」

 

「え…‥‥そうなんですか?」

 

いろはの呆けたような言葉にさやかは静かに頷きながらもかことこのみの二人について語り始める。

 

「あの二人は‥‥‥‥実は秋野かえでと仲のいい魔法少女なんだ。だが彼女が最近音信不通、というより若干の鬱状態なのは、水波レナから聞かされているはずだ。それで私が所用で二人と顔を合わせたのがきっかけか。」

 

「さやかさんもレナちゃんから聞かされていたんですか‥‥‥‥!?」

 

「ああ。もっとも私は、今の彼女のようにあまり楽観視をすることはできていないがな。」

 

「どういうこと?確かに周りの人と連絡を取ろうとしていないのは何かあったのかな~…‥とは感じるけど‥‥‥‥何か理由でもあるの?」

 

さやかがかえでの異変を聞いていたことに驚いているところにさやかが険しい表情を見せていると、そこに首をかしげながら鶴野が声をあげる。

 

「‥‥‥‥‥結論だけを言うと最悪彼女、マギウスの翼に傾倒していってしまうのではないのかと危機感を感じてしまっている。」

 

険しい表情から飛び出たさやかの言葉にいろはたちは目を見開いて茫然とした様子で発端であるさやかの顔を見つめる。

 

「ねぇやちよししょー。ケイトウするってどういう意味だったけ?」

 

「首ったけとか夢中になるとかがあるけど‥‥‥‥一言で言えばかえでが敵になるかもしれないっていうことね。」

 

「えええええええええええッ!?なぁんでぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」

 

見知った人物が敵に回ってしまう可能性があるということに、鶴乃は早くも考えることを放棄したのかもう日が沈み、ビルからの光が照らし始めた街中で人目もはばからず絶叫にも似た大声で驚きを露わにしてしまう。

その声の大きさと言えば耳障り以外の何物でもなく、鼓膜が破られるかと思った上に周囲から奇異な目線をもらう羽目になった一同は思い思いのやり方でその原因である鶴乃を止めるなり処すのだった。

 

 

 

 




最近投稿ペース終わってんなぁ、おい。


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第63話 私が必要とするから

最近になってさなちゃんの苗字が双葉ではなく二葉であることに気づいた


「うっひゃぁ‥‥‥‥‥ホントにこんなところから飛び降りるの?」

 

時刻はすっかり日が沈むほどに進み、代わりにビル群からの電飾が夜空を逆に照らしている。

そのビル群が生み出す夜景を唾を飲み込みながら真上から見下ろしている鶴乃がいるのは昨日さやかたちが魔女と相対した電波塔────その屋上だった。

そこには彼女の他にもいろはやフェリシア、そしてやちよといったみかづき荘の面々が足並みをそろえていた。

 

「さすがにこんなところから落ちたらただじゃ済まねぇよな‥‥‥‥」

 

「意外と魔法少女なら大丈夫かもしれないわよ?魔法少女の身体は思ったより頑丈だもの。それに────」

 

鶴乃と同じように自身の真下に広がる光景に二の足を踏んでいるフェリシアにやちよは平然とした様子で電波塔の下をのぞき込む。そこに広がるのはビル群からの光で幾分マシになっているとはいえ地面すら見る事のできない漆黒の闇。しかし、その四人の眼下に広がる闇を少しでも振り払わんとするように白緑の粒子光が奔る。

 

「何かあっても彼女が手を伸ばしてくれるはずだから。」

 

そう言って電波塔の下の方で滞空するさやかと目を合わせるやちよ。彼女と目線があったことに気づいたさやかは任せてくれというように軽く笑みを見せてそれに応える。

まるで電波塔にいる誰かが落下したときのカバーに入れるような場所に立っているのは理由があった。

昨日ひとりぼっちの最果てのウワサ、もとい『アイ』からウワサの詳細を聞いた一行。まず手始めにウワサの領域内への入り方を彼女に質問してみたのだが、それが中々一般的には実際の行動に移すのが尻込みしてしまうような内容だったのだ。

 

中央区にある電波塔から一人で飛び降りる。

 

これがひとりぼっちの最果てのウワサの内部に入るための絶対条件であり、事実上の投身自殺の催促状でもあった。

一応これを聞いた直後は動揺を隠しきれなかったが、幸いその場には空を自由に飛び回ることができるさやかがいる。自分が下に待機し、何かあった際にはこちらでフォローすると申し出たところで話はまとまった。

 

「そういえば、『出口』の方はどうなの?さやかちゃんの仲間の魔法少女が担当って話になったのは覚えているけど…‥‥‥」

 

不意に下にしていた目線を戻した鶴乃は声をやちよの方に向けながらも別の方向に視線を向ける。その方向はまた一段と他のビル群から一つ頭の抜けた建物、電波塔よりも高く、屋上にどういう意図で建てたのかまるでわからない特徴的な巨大な女性の像のある神浜セントラルタワーを見据える。

 

「そうね…‥‥貴方、まだ彼女の仲間の魔法少女とは会ったことなかったわね。」

 

鶴乃はまだ顔を合わせたことがないとはいえ同じ事にあたろうとしてくれている魔法少女のことが心配なのだろう。そんな名前はおろか顔すらも知らない相手のことすら心配する鶴乃の様子に苦笑しながらも同じようにセントラルタワーを見据える。

 

「うん。やちよししょーとかは会ったことあるの?」

 

「あるにはあるけど…‥‥その時のあの子たちの様子を見せられた身とすれば、天然ボケをかましてくる身内に手を焼かされているっていう印象ね。」

 

「え‥‥‥‥そんな人なの、さやかちゃんって‥‥‥‥あんまり昨日の雰囲気とかから見てるとそういう風には見えないんだけど‥‥‥‥」

 

渋い顔を見せるやちよからさやかと愉快な仲間たちの様子を聞かされた鶴乃はぎょっとしたような表情を見せながら下の方にいるさやかを見つめる。

 

「でも、あの人はどこまでもまっすぐな人だとわたしは思います。どんなにそれが輝かしい光で、一見すると誰からでも救いの光であったとしても、それが間違っているんだって知ったら最後まで抗い続ける。そんな人だと思います。さやかさんは。」

 

「すごく慕っているんだね、さやかちゃんのこと。」

 

「そうですね‥‥‥‥もしかしたら、意外に心のよりどころにしているかもしれないです。その、一番最初にういのことを信じてくれた人なので‥‥‥‥‥」

 

 

いろはの語るさやかの人となりに思わず微妙な表情を禁じ得ない鶴乃。いろはもさやか自身が信ずるに値する理由を一応教えてくれているとはいえ、いるかどうか未だ定かではない人間の存在を身内であるいろはよりも先に信じるその姿にわずかながらに困惑が先に来るようだ。

 

『‥‥‥‥すまない、まだ行かないのか?こちらにはほむらからもう準備が整っているというメールが来ているのだが…‥‥』

 

その時にまだ飛び降りないのが気になったのかさやかから怪訝そうな口ぶりでいろはたちに念話を送られてくる。それを聞いたら、ウワサの領域に入ることになっていたいろはが慌てた様子で足場の端に立った。その表情はやはり高いところから先の見えない風景の中に飛び込むのは本能的に恐怖心が煽られるのか、どこか硬かった。

 

「さ、さやかさん!!行きます!!」

 

下の方で有事の際にいろはを抱きとめるさやかに聞こえるように大声で呼びかけると軽く笑みを浮かべながら静かに頷くさやか。

 

『急かしたつもりはなかったのだが、もし何かあったとしてもこちらでなんとかするから、バンジージャンプをするくらいの気持ちで安心して飛び降りてくれ。』

 

「そ、それは流石に…‥‥せめて命綱はつけさせてください‥‥‥‥」

 

『あといろは、二葉さなと話すにあたってだが可能な限りアイに話させた方が円滑に進むかもしれない。』

 

「え…‥‥でもそれじゃあ私が向かう意味は────」

 

『急に現れて名前も知らない人間にここから出ましょうと言われてもその言葉に人を動かすだけの力はない。そういう説得はある程度の交友関係が必要だからな。だからこの際いろははそのきっかけを作る程度の気分でいるのが楽だとは思うが‥‥‥』

 

「確かにそうかもですね…‥‥‥私と二葉さなさんは今回が初対面なわけですし…‥‥‥」

 

さやかの言う通り、二葉さなとはあらかじめ彼女のことを聞かされているとはいえ、今回が初対面であることに変わりはない。だがそれでもいろはの胸中にあったのは、二葉さなを助けたいという一心であった。

 

「でも、私は‥‥‥私自身の意志で彼女を助けたいと思っています。さやかさんの言う通りなのはわかっていますけど、それでも────」

 

『わかっている、いろは。お前の気質はなんとなく私の友人に似ているからな。』

 

「友人、ですか?それはこの前の暁美さんといった人たちとはまた別の?」

 

『ああ。魔法少女ではないから必然的に会う機会はかなり限られると思うが、仮に会う機会でもあれば、たぶんお前とも話は合うだろうな。』

 

「そう、ですか‥‥‥‥‥私、会ってみたいです。」

 

 

さやかからの念話に思わず微妙な笑みを見せながらそうこぼすいろは。しかし、いろはの目の前に広がる一面真っ黒な空間。その中に小さいながらも存在感を放っているさやかの青と白の色は思いのほか目立つ。さらにはその両肩に背負っているツインドライヴから放出されるGN粒子が月光を反射し、さながらその真っ黒な空間を包み込むように幻想的な空間を形成する。

 

(きれい…‥‥‥)

 

思わず目を見開き、その光景に視線を奪われるいろは。綺麗という陳腐な感想しか湧かないが、それでもおよそこの世のどこを探してもないであろうこの光景。気づけばさっきまであった恐怖心もなくなっていた。

 

「きゅいきゅい~!!!」

 

「え‥‥‥あっ!!」

 

聞きなれた小動物の鳴き声にハッとなったいろはにどこからともなくあの小さなキュウべぇがいろはの足をよじ登り、彼女の肩にちょこんと腰を下ろす。最初は驚いた眼でそれを見つめていたいろはだったが、不意に表情を緩めるとその小さなキュウべぇの頬を指先で撫でる。

 

「きゅいきゅい~」

 

いろはに撫でられてくすぐったいのか、喜んでいるような鳴き声を挙げる小さなキュウべぇに自然と笑みを零す。もう恐怖心はなくなった。ならあとはやるべきことをやるだけだ。

いろはは再び目線を自分の眼下に広がる景色に戻すと、一歩前へ踏み出し、電波塔からその身を投げ出した。

 

(ッ…‥‥来たッ!!)

 

電波塔から身を投げ出したいろはを見たさやかは険しい表情をして身構え、もし何も起こらなかった時に備えていろはの救助に入る。そのために少しの異常も見逃さないためにも目線をいろはから一時も離さないでいると、()()()()()()()()()()()()()()()()ように見えるいろはが突然驚いたように目を見開く。

何かこちらからは確認することのできない異常でも起こったのだろうかとさやかが勘ぐっていると、急にいろはの身体がどこか別の空間にでも入り込んだように消失した。

忽然と消えたいろはに少し動揺したのか辺りを見回すさやか。しかしどこを見てもいろはのような姿が見えることはなく、電波塔に残っているやちよたちに目線を送ってみるもその返答は首を横に振るだけだった。

 

ということはあの『アイ』の言う通り、いろははひとりぼっちの最果てへ入ることができたと考えるのが一番妥当な部分だろう。

 

「あとは待つだけか‥‥‥‥‥このまま何もないといいのだが…‥‥‥」

 

そうは言うさやかだったが、彼女の胸の中で妙な緊迫感のようなものがくすぶっていた。それはウワサの領域へ向かったいろはに対する警告か。本人であるさやか自身もその正体が掴めないでいた。

 

 

「どうやら無事に向こう側へは行ったみたいわね」

 

危機感ともとれる言いようのできない感覚に物思いにふけっていると上からやちよの声が聞こえてくる。

 

「‥‥‥‥‥そうだな。」

 

「私たちはこのまま神浜セントラルタワーに移動して貴方のお仲間たちと合流するけど、貴方自身はどうする?」

 

どうやらやちよはさやかが何か気になっていることがあることを察したらしい。そのことにさやかは申し訳なさそうに髪をかき乱しながら上にいるやちよに目線を合わせる。

 

「すまない。私はしばらくここに残って様子見をしていようと思う。先にセントラルタワーに向かってくれて構わない。」

 

「…‥‥そう。まぁ、私にはそれほどまでに貴方を止めておく義理もないから余計な口添えをするつもりはないわ。でも仮に何かあったのならなるべく早めに連絡を取るなりはしてくれるとこっちも行動しやすくなるわ。」

 

それだけさやかに伝えると、やちよたちはセントラルタワーに向かうつもりなのか、電波塔から降り、この場を後にした。残ったさやかは誰もいなくなった電波塔に降り立つとそのまま鉄柵に両肘を乗せ、神浜市の夜景を眺める。

 

「…‥‥‥一体なんだこの感覚は…‥‥‥近くにいるはずなのに、なぜこうも遠く距離が離れている奴がいるような感覚がする‥‥‥‥?」

 

 

 

 

一方、『アイ』の待つひとりぼっちの最果ての中に侵入したいろは。中の空間は電飾のような飾りが上空にちりばめられており、暗いという感覚を抱くことはない。さらに目を凝らしてみると、時折上の空間に電気信号のような光の球体が走っていく光景はさながらパソコンのマザーボード。自分が機械の中に入りこんでしまったかのようだった。

 

「ここが………………ひとりぼっちの最果て……………」

 

周囲を見回し、その光景に圧倒されるように目を丸くするいろはだが、自分がやるべきことを思い出し、すぐに移動を開始する。

案の定、もしくはいつも通りというべきか、直前まで一緒にいたはずの小さなキュウべぇの姿はかけらもないが構わず領域内を進んでいくいろは。そしてその目的の人物はこの空間がほとんど平坦なものだったからか、はたまたこのウワサの領域自体それほど広いものではなかったからか、すぐに見つけることができた。

 

「だ、誰ですか……………!?」

 

いろはを見るや否や、不安と恐怖が入り混じった表情を向ける翡翠の髪の少女。そしてその彼女の奥にはホログラムのような半透明の実体を持った女性の形をした存在がいた。

 

『はじめまして、環いろはさん。私がアイです。』

 

「貴方がアイさん‥‥‥‥なら、隣にいるその人が、二葉さなさんですか?」

 

「み、見えているんですか……………なら、あなたも魔法少女……………!?」

 

どうやらいろはの目の前にいる人物が二葉さなで間違いはないらしい。しかし彼女の反応ぶりを見るに、まるで彼女自身普段は他人から見えていないと言っているような口振りに思わずいろはは首を傾げるが、とりあえず魔法少女なのかという彼女の質問に頷いておく。

 

「じゃあ…‥‥あなたもマギウスの翼?」

 

「ま、マギウスの翼を知っているんですかッ!?」

 

さなから飛び出てきたマギウスの翼という単語に思わず声を大にしながら反応するいろは。妹であるういに関する手がかりがほぼほぼマギウスの翼に限られている以上、いろはにとってはその単語だけでも値千金だ。しかし、そのいろはからの突然の大声にさなは小さく悲鳴を挙げると委縮した様子でアイの影に隠れてしまう。

 

「あ…‥ご、ごめんね、驚かすつもりはなかったんだけど…‥‥‥」

 

そう謝るいろはだが、さなは警戒しているのかアイの後ろから様子をうかがうだけで出てこようとしない。その様子にいろはは困ったような笑みを浮かべる。

 

「と、とりあえずそのままでいいから聞いてほしいんだけど、マギウスの翼のことをどこで知ったんですか?」

 

「し、知ってるも何も‥‥‥結構頻繁にここを出入りしているよ?流石に何をしているかまではわからないけど…‥‥」

 

「そうなんだ‥‥‥」

 

「あの…‥‥ところであなたはどうしてここに?なんだかここに囚われに来たという感じではなさそうですし‥‥‥‥」

 

『彼女は私が呼びました。ようこそ環いろはさん。私がアイです。』

 

「え…‥‥‥?」

 

 

アイの言葉に思わず呆けた表情を見せるさな。その彼女の様子をアイは一瞥することなくいろはに向かって進んでいってしまい、それを目の当たりにしたさなはショックで表情を困惑にし、さらにその色を強める。

 

「ア、アイちゃん‥‥‥それってどういう────」

 

『さな、そろそろこの関係を終わらせる時が来ました。』

 

突然の離別を告げるアイにさなは理解が及ばないのか、数瞬呆けたように茫然とアイの姿を見つめ、その両目に涙を浮かべ、唇をかみしめた悲痛そのものというべきな表情を見せる。

 

「どう、して………………!?私のこと、嫌いになっちゃったの…………!?」

 

『そんなことはありません。むしろ大好きです。あなたがここにやってきてからの日々に退屈だった時間などなかったですよ。』

 

「なら尚更どうして…………!?私のことを好きでいてくれるのなら、ここにいさせてよ……………!!」

 

悲鳴とも呼べるさなの声が響く。痛々しいほどに響くその声にアイは柔和な笑みを浮かべながら諭すように首を横に振る。

 

『好きだからですよ、さな。あなたからは本当にいろんなことをたくさん私に教えてくれました。特に、優しさという感情を。そしてその教わった優しさが私に訴えかけるのです。さなはここにいるべき人間ではない、と。』

 

「でも…‥‥‥‥!!」

 

ウワサの領域から出ていきたくないと食い下がるさなに、そんな彼女の身を案じてかどうにかしてこの領域からの脱出を願い出るアイ。相反する二人の口論をいろはは口を噤み、静かにその行く先を見守る。

 

『ですがさな、あなたはマギウスの翼がここで行っていることに対して苦悩を強いられていたはずです。私はさながつらそうな表情を浮かべることをよいことであるとは思えない。だからこそ、いろはさんのところへ行ってほしいのです。』

 

「ッ‥‥‥‥」

 

アイがこのウワサの領域内で行っていることについて言及すると、さなは図星をつかれたかのように視線を外し、気まずそうに表情を俯かせる。

 

「一緒に行こう、さなちゃん。」

 

そのタイミングでいろはが口を開き、さなに向けて手を差し伸ばす。その様子をさなは不安そうな目で見つめ返す。

 

「アイさんからあなたのことを色々聞きました。さなちゃんほどの孤独感を感じたことはないけど、私も最近この神浜市に引っ越してきたばかりで、クラスでもそんなに馴染めていなかった。でも最近魔法少女の知り合いが増えてから不思議なくらい自然に過ごせてるの。」

 

いろはの脳裏にこれまで会ってきた魔法少女の姿が浮かび上がる。やちよや鶴野、そしてフェリシアやさやかをはじめとする魔法少女(人々)はみんないろはが神浜市に訪れてから知り合った。確かに大変な目に遭ってつらいと感じる時もあった。それでもそんな些細な心の変化に気づき、支えてくれるから自分は今もういのことを探すことができていると思っている。

 

「だから、さなちゃんもきっとうまくやっていくことができると思う。初対面なのに、こんなことを言われてもあんまり良い気分にはならないかもしれないけど…‥‥‥。」

 

そう言っていろはは気恥ずかしそうに頬を軽く指先で掻くが、さなの表情はまだ優れない様子でいろはのことをじっと見つめている。

 

「でもマギウスの翼のことで苦しんでいるのなら、こうして手を取り合って一緒に戦うこともできると思うの。だから、一緒に来てください。魔法少女として、仲間として、さなちゃんを私が必要とするから。」

 

「ッ‥‥‥‥でも、私がここから出ちゃうと、アイちゃんはどうなるの?」

 

いろはからの言葉に目を見開いて驚愕するさな。だがその表情もすぐに取り繕うと、話題を逸らすように自分がウワサの領域から出てしまった際のアイの動向を彼女自身に尋ねる。

 

『さなが出たと途端に私はウワサとして暴走するでしょう。私が人間をこの空間に閉じ込めようとするのは、ある種の本能です。今はその本能は鳴りを潜めているため、こうして会話も可能なほどに理性的でいることができます。ですが、その方がいいでしょう。私というウワサは消えた方がマギウスの翼にとって痛手になるはずですので。』

 

まるで恐怖などないように淡々と自分が消滅することのメリットを説明するアイに苦い顔を隠しきれないさな。そしていろはそうまでして自分の消滅を望むわけとそれがマギウスの翼にとっての痛手になる理由を尋ねようとした時────

 

 

「そんなことされたら、アリナ的にバッドなんですケド」

 

 

 

 

 

 

 

 




そういえば、アプリ版のマギレコで本編に関わるようなほどストーリーで重要なことがでてくるイベントとかあります?
いちいち全部確認するの時間的に厳しいので書くにあたってこのイベントのストーリーは見ておいた方がいいというのがあるのでしたら感想などで教えていただけるとありがたいのですが‥‥‥‥


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第64話 大体の確立で厄介なことがある

どうしてこの世には就職とかいう単語が存在するんだろう(白目)


「で、どうすんだ?さやかからの連絡でこのセントラルタワーにウワサがいるって聞かされてやってきた訳なんだけどさ。」

 

いろはが単身でウワサの領域へと突入したのと同時刻、さやかからの頼みで杏子たち三人は中央区で一際高い神浜セントラルタワー────その屋上に来ていた。三人は屋上に入るところの扉の前で外の様子をうかがっていた。

 

「そうは言われても、結果は目の前に出ているわよ。」

 

近くにいたほむらが促すように外にむけて目線を向けると杏子の目線もつられるように外に向けられる。

 

「どうしましょうどうしましょう!!」

 

「どうしましょったらどうしましょう!!」

 

そこには以前フクロウ幸運水のウワサをめぐる戦闘にて出会ったマギウスの翼の白羽根、天音姉妹が互いの手をを繋ぎ、顔を見合わせ、さながら劇か何か演目のワンシーンのようにふるまっている様子が目に入る。

 

「ええ…‥‥何やってんのあいつら…‥‥」

 

一体自分は何を見せられているのだろうか?杏子の表情はまさにそれを表しているように空いた口がふさがらない様子だった。マミやほむらも互いに苦笑いを浮かべたり、ため息をついたりとさまざまな反応を見せていた。

 

「ったく、三文芝居を見に来たんじゃねぇんだぞアタシら。」

 

「まぁ、あの子たちがどことなく佇まいが芝居がかっているのは以前からだけど‥‥‥‥注目すべきはその双子の近くにある存在よね。」

 

うんざりしている杏子にそう笑いかけるマミだが、既に意識は建物の屋上に鎮座していた存在に向けられていた。その存在はまるでパラボラアンテナを太い鉄柱にくっつけたような、どことなくコミカルなオブジェクトだ。そしてそのオブジェクトにはなんらかの操作を行うためとみられるコンソールもあった。

 

「さやかから聞かされたウワサの主である『アイ』とやらはここが出口だと言っていたそうだけど‥‥‥あの鎮座しているのがそれなのかしら?」

 

「どうかしらね…‥‥何か操作盤のようなものは見えるけどあまりうかつに触れるのも少し憚られるわね‥‥‥‥美樹さんからはあくまで出口の安全確保しか頼まれていないし‥‥‥」

 

天音姉妹のそばにある面妖なオブジェクトにほむらは懐疑的な目線を送り、マミは悩まし気に頬に手を添えて首をかしげる。

 

「別に悩むことはねぇだろ。さっさとあの二人をとっちめて聞き出しちまえばいいんだよ。ここにいるってことはつまりはそういうことだろ。」

 

そんな中、杏子は獰猛な笑みを浮かべながらそう言い張ると得物の槍を構え、いち早く戦闘態勢をとった。そういうことというのはつまりあの姉妹はオブジェクトの操作方法を知っている。確かにその通りだし、一番手っ取り早いがなんとも野蛮的な解決方法に二人の表情は若干ながらに曇る。

 

「はぁ…‥‥‥まぁ、貴方の言う通りね。この前みたいにあのドッペルとやらを出されたらさやかを欠いている私たちでは厳しいかもしれないだろうし、気づいていないうちに片づけるのが一番クレバーね。巴さん、貴方のリボン、ピアノ線くらいの細さで出せるかしら?」

 

「一応出せはするけど、それでどうするの?流石にどこかの時代劇みたいな芸当は無理よ。」

 

「そこまでする必要はないわ。私と、貴方たち二人をリボンで繋いで。できれば足同士で括り付けるのがいいわね。」

 

「?…‥‥そんなことしてどうすんだよ。」

 

ほむらの言葉にいまいち合点がいかないのか、疑問符を浮かべる杏子。それはマミも同じだが、とりあえず言われた通りにギリギリ肉眼で見えるほどの細さのリボンを出すと、それを邪魔にならないように自身とほむらの足に括り付ける。

 

「私の時間停止魔法は、基本的には私以外の全てがその対象になるけど、例外的に私が触っているモノに関しては一時的にだけどその対象外になる。この先は話すのも面倒だから自分で確かめなさい。」

 

杏子の質問にぶっきらぼうにそう答えるとほむらは左手の盾を回転させ、砂時計をひっくり返す。たちまち周りの風景が灰色と化し、視界に移っていた天音姉妹が石になったかのように動きを止め、衣服をはためかせていた風すらも止める無風の空間が形成されていくなか、魔法の発動者であるほむら自身とマミと杏子は色を失わないでいた。試しに杏子が準備体操がてら身体を動かしてみるが特に抵抗感のようなものもなかった。

 

「一応、お前と手とか繋いでおけば時間停止に巻き込まれることはないってのは聞いていたけどさ、意外と判定はガバガバなんだな。」

 

呆気にとられた様子でほえーとつぶやく杏子をよそにほむらはさっさと歩きだし、固まった状態の天音姉妹の元へ向かう。マミもそのあとに続き、杏子は慌てて追いかける。

 

「そういえば暁美さん、この状態で貴方とつながっていない人に触るとどうなるのかしら?やっぱり動けるようになるのかしら?」

 

「‥‥‥‥あまり気にしたことはないけど、おそらく貴方の言う通りになると思うわ。」

 

「そうなのね。まぁ‥‥‥‥‥」

 

ほむらからの返答にマミは納得した表情と同時にフィンガースナップで指を鳴らす。パチンッと軽快な音が響くと天音姉妹の足元から無数のリボンが出現し、二人の身体を一瞬でがんじがらめに拘束する。

 

「これなら別に問題はないでしょう?」

 

そう腕を組んで得意げにするマミにほむらは流石だというように軽い笑みを浮かべ、杏子は気づいたら知らない間に敵対している自分たちに攻め込まれ、なおかつ一瞬で身動きが取れなくされているという地獄みたいな状況にされている姉妹に同情するように憐れみの目を向ける。

 

「同情するぜ、かわいそうになぁ‥‥‥‥」

 

「…‥‥貴方、本当にそう思ってる?なんだか言葉遣いが不穏よ?」

 

「時間停止からの拘束とかいう格闘ゲームとかでいう回避不能のハメ殺ししてるアンタに言われたくない。」

 

「は、ハメ殺し‥‥‥‥!?」

 

杏子の言葉に余ほどショックを受けたのか、あからさまに破顔しているマミを他所に、ほむらは文字通りの時間の浪費を嫌がったのかさっさと時間停止を解除する。すぐさま視界の色が元の色彩に戻り、姉妹は急に体が動かせなくなったことに理解が及んでいないのか呆けた表情を見せる。

 

「よぉ、何やら楽しそうなことやってんな。」

 

状況の理解が追い付いていない二人にとりあえず声をかける杏子。楽しそうとは言ったものの彼女自身にそんなつもりは一切ない。しかし、姉妹にとっては直前まで自分たち二人しかいなかったはずのこの神浜セントラルタワーの屋上に他の人間の声などあってはならない。ましてや切り札であるドッペルごと自分たち二人を蹴散らした魔法少女の声など。

 

「ぴ、ぴぃぃぃぃっ!?」

 

「ど、どうして貴方たちがここにいるのぉ!?と、というかいつの間にか縛られてるッ!?」

 

「そりゃあここに用があるからに決まってんだろうが。」

 

小鳥のような悲鳴と困惑と驚きが入り混じった声を挙げながらじたばたと暴れてもがく姉妹に杏子は槍を肩に乗せながら淡々とした様子でそう答える。

 

「こ、ここには何もないでござりまするっ!!ウワサとかおりませんし、増してやその結界の中で魔女を育てているなんて、そんなことはかけらもないのでありまするっ!!」

 

「そ、そうだよっ!?ウチら、こんなところで何かしようってわけじゃないし、特に誰かを待っているわけじゃないもん!!ねぇ、そうだよね月夜ちゃん!?」

 

「ね、ねぇー?」

 

何か問い詰めようとしているわけでもないのにまくしたてるように言葉を並べたてながら最終的に上ずったままの声で勝手に口裏を合わせる姉妹。そのあからさまな様子にある種の戦慄を覚えた三人は険しい表情で姉妹を見つめる。

雑にもほどがある、言い訳とするにもおこがましいと小一時間近く説教タレこみたいところをぐっと抑えながら頭痛の種ができたように頭を抱える。

とりあえず、この姉妹が直前にまくしたててきたことは全部嘘だろう。なんらなことごとくが反対のことをある意味で白状してしまっているともいえる。

 

(お、おいおい……‥流石にこいつは‥‥‥‥)

 

(全部嘘でしょうね。ここまで相手にそう思わせるのもある意味では才能ね。)

 

(誤魔化すつもりはあったのだろうけど、どう見ても白状しているようにしか聞こえないものね……………)

 

一応念話上で確認するが、三人とも天音姉妹が嘘をついているのはわかっているようだ。とはいえその嘘のつき方があまりにもおざなりだったからか、そのことを詰問することすらかわいそうと憐れんでしまう。

 

「……………ま、それはともかく。人の顔を見るなりまーるで鬼か悪魔でも出たかのように悲鳴を挙げるなんて、なかなかひでぇことしてくれんじゃん。」

 

 

そう言って悪どい笑みを浮かべながらゆっくりと姉妹に近づく杏子。縛られて見動きをとることができない姉妹は互いに体を寄せ合って小動物のようにプルプルと震えている。どうやらこの際姉妹から色々とマギウスの翼に関することを聞き出すつもりのようだ。

 

「ちょっと佐倉さん?ダメじゃないそんな怖がらせるような顔をしちゃ。」

 

「あん?別にいいじゃんか。どのみちマギウスの翼に関しちゃあ聞き出さなきゃいけないこといっぱいあんだろ?」

 

じわりじわりと距離を詰め始める杏子の肩に手をかけ、マミが制する声をかける。

止められた杏子を口を尖らせ不服そうにそう言うが、マミはそれでもよと語尾を強めて首を横に振る。

 

「確かにそうだけど、私達はあくまで彼女らがやろうとしていることを見定めること。今は魔法少女を始め、他の関係のない人々に害をなしているからこうして敵対するようなことしてるけど、決して敵を作るためじゃないのよ?」

 

「ケッ……………どこまでも甘いこった…………んお?」

 

「?……………佐倉さん、何か見つけた?」

 

「あれは………………」

 

自虐するような笑みを見せながら視線を逸らす杏子だが、不意にその瞳が何か見つけたように見開かれる。

それに釣られるようにマミとほむらは彼女が向いている方向へ視線を向ける。

 

「とぉぉぉうッ!!!最強魔法少女、由依鶴乃、ただいま参上ッ!!」

 

「おおっ!!なんだそれかっこいいな!!オレもやるッ!!!さんじょうッ!!」

 

そこに電波塔の方にいた鶴乃達が到着し、姿を見せるや否や日曜の朝にやっていそうな特撮ヒーローの決めポーズをする鶴乃。

それに目を輝かせながら似たようなポーズをとるフェリシア。

 

「ってアレ?もしかしなくてももう終わっている感じ?」

 

「ハァ……………どうやら危なげなく終わったみたいね。」

 

もう既に事が終わっていることに気づいた鶴乃は残念そうに肩を竦ませ、その様子にため息を吐きながらやちよはマミたちに声をかけた。

 

「あ…‥‥‥七海さん、お久しぶりです。」

 

やちよたちに気づいたマミはひとまず振り向き、挨拶し、それに続くように二人も視線をいったんやちよたちに向けた。

 

「おお!!きょーこたちじゃねぇか!!また会えてうれしいぞ!!」

 

「おお、お前か。さやかからアイツらのとこで世話になるって聞いちゃあいたが、ちゃんとやれてんのか?」

 

再会を喜んでいるのかぴょんこぴょんこと駆け寄ってくるフェリシアに杏子が彼女の頭を被っている帽子がずれてしまうくらい力強く撫でる。髪もかき乱されてぐちゃぐちゃになってはいるが、不思議と撫でられているフェリシアに不快感のようなものは見られなかった。

 

「そこで縛られている子たちは?大方マギウスの翼の魔法少女なんでしょうけど。」

 

「彼女たちはマギウスの翼の構成員、通称黒羽根を総括する白羽根の天音月夜と天音月咲よ。さやかの方からその組織については色々聞かされてはいるんでしょ?」

 

「…‥‥ええ、そうね。」

 

縛れている天音姉妹に話題が移り、ほむらからその説明を聞かされているとわずかに表情を曇らせながらも答えた。おそらくマギウスの翼の一員になっている梓みふゆのことが気がかりになっているのだろうが、何も知らないほむらはわずかに表情をくもらせたやちよに首をかしげるだけだった。

 

「‥‥‥‥‥ところで美樹さんはどうしたの?いっしょに来てはいないみたいだけど。」

 

「理由はわからないけど、何か気になることがあるっていって電波塔の方に残ったわよ?」

 

ふとさやかがやちよたちと一緒に来ていないことに気づいたマミがそう尋ねると電波塔に残ったと返すやちよ。それを聞いたマミたち見滝原の魔法少女はお互いの顔を見合わせると、念話で通さずとも互いに思ったことが同じであることを確認したのかハァ…‥とため息を吐いた。

おずおずとした足取りで屋上の端っこまで来たマミたちはじっと視線をある方向に向けたまま────槍、マスケット銃、拳銃の各々の得物を携える。その方角はちょうど電波塔の方向だ。

 

「え、なになに?三人ともそろってどうしちゃったの?」

 

「あー…‥‥‥さっきさ、さやかの野郎が電波塔に残っているって言っていただろ?」

 

状況についていけず狼狽する鶴乃に杏子が面倒くさそうに髪を軽くかき乱しながらさやかが電波塔に残ったことに言及する。しかし、それだけではよくわかっていない鶴乃が首をかしげていると見かねた杏子がちょいちょいと手を振って近くまで来るように合図する。

 

「あれ、見えるか?」

 

やちよたちが近くまで来たところで今度は夜空に向けて指をさす杏子。一見すると何も見えない真っ暗な空を指で指しているとしか思えないが、よく目を凝らしてみると暗い空にうっすらとだが翠に輝く星のような煌めきがあることに気づく。

 

「あの光はもしかして美樹さんの?」

 

「ええ。私たちもついさっき見つけたのだけど…‥彼女、何か気になることがあるからそこに残ったのよね?」

 

わずかな間とはいえすぐ近くでさやかが空を飛ぶ様子を見ていたやちよがあの翠に輝く星がさやかのモノであることに気づくと、それをまるで答え合わせをするかのようにほむらが正解と答える。

 

「あいつが何か気になるって言ったんなら大体の確率でなんか厄介なことがある。そんでもってアイツが動きだしたんなら、大方その気になることになんか変化が起きたってことだ。」

 

「‥‥‥‥あんまり細かいことは得意じゃないけど、戦う準備はした方がいいってこと?」

 

「そうかもしれないわね…‥‥経験則…‥‥‥領域へ向かった環さんの方に何かあった、と考えるのが筋かしら。」

 

杏子の言葉にそう意気込む鶴乃を見ながらマミは夜空に輝く翠色の星を見ながらそう呟くのだった。

 




前書きで察してもらえればですけど、作者はただいま就活中です。
ただでさえまばらな投稿頻度がさらにひどいことになってますけど、よろしくです。
また感想とか気軽に送っていただいて結構です。現実逃避したくなる作者の励みになりますので…‥‥(笑)


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第65話  00 RAISER

アリナの口調ムズイんご‥‥‥‥(白目)


「ッ‥‥‥‥‥」

 

ビル群からの光が夜空を白く染め上げている中、さやかはGN粒子を出しつつ空を駆ける。しかし、浮かべている表情はお世辞にも良いものとは呼べず、険しいものを見せていた。

 

(さっきから妙な胸騒ぎが止まらない‥‥‥‥イノベイターとしての感覚が何かを示していると思っていいんだろうが…‥‥‥一体なんなんだ?)

 

さやかは思わず心臓の動悸を抑えるように胸元に手を当てるが、その腕にも鳥肌のようなものが浮かび上がっていた。なんとも言えない感覚だが、いうなれば、見た者に恐怖を与える理解できない存在でも見てしまったかのような感覚だ。

 

(いろは…‥‥願うことなら無事でいてほしいものだが‥‥‥‥)

 

『────────────────!!』

 

「!?  今のは‥‥‥‥‥!?」

 

その瞬間、誰かの叫びのような声が響いた。直接頭の中に響いているその声はさやか以外には聞き取ることができない。それは念話という形のもので行われたものではないが、イノベイターとして目覚めつつあるさやかにはその声でない叫びがいろはのものであることを感じ取っていた。

 

「‥‥‥‥‥多少は強引な手段を使うしかないか‥‥‥‥やるしかない‥‥‥!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ‥‥‥‥ハァ‥‥‥!!」

 

電脳空間のような足元に電気信号のような光が駆け巡る空間をいろはは息を切らしながら駆け抜ける。途中で足場が直角に折れ曲がっていて、そのまま壁を垂直走りしている自分がいたような気がするが、ウワサの領域などそんなものだろうと言い聞かせてお構いなしにただひたすらに走る。

そうでもしないと、すぐそこに迫っている狂気に呑まれてしまう。

 

「あっはははははははははは!!もうサイコー!!とってもテリブルでエクセレントなアリナのドッペルッ!!!」

 

ウワサの領域に突然現れた魔法少女は自我を手に入れたアイさんに興味が出たとか言うとその身体から奇抜な発光色の絵具をあふれださせ、そのまま私たちに攻撃を仕掛けてきた。直観的に飲み込まれたらまずいと感じ、その場を飛び退くが、その絵具は濁流のようにウワサの領域内を飲み込み、じわじわと獲物をなぶり殺しにするかのように逃げ場をなくしていく。

 

「ッ‥‥‥‥!!」

 

「フッフフ、アハハハハハッ!!」

 

ともかく何もしないままではやられると思って、発生源であろう魔法少女に矢を放つが、狂気的とも呼べてしまうような声を挙げながら回避されてしまう。なんとも気色の悪いその様子にに思わず表情を顰めてしまう。

 

「あ、貴方は一体誰なんですか!?まさか、マギウスの翼ですかッ!?」

 

たまらず叫ぶようにその魔法少女に問ういろは。さながいろはのことをマギウスの翼の魔法少女と勘違いしていたことからそこにいる魔法少女がマギウスの翼だと勘ぐるが、その魔法少女はどういうわけかさっきまで挙げていた笑い声をピタリと止め、打って変わって不機嫌そうな憮然とした表情で見下ろす位置にいるいろはのことを見つめ始める。

直前まで喧しいほどにハイテンションな様子から突然侮蔑のようなものが入り混じっているそれに一変したことにいろはは困惑してしまう。

 

「翼と一緒にされるとか、不快感がマックスなんですケド。」

 

「あ、あの人はアリナ・グレイ…‥‥‥『マギウス』の一人で、マギウスの翼を束ねている人です…‥‥」

 

「えっ!?『マギウス』って確か…‥‥‥!!」

 

いろははその言葉をやちよから聞かされていた。さやかからの情報提供で入手したモノだが、マギウスの翼には黒羽根・白羽根の他に組織のトップとも呼べる存在、────通称マギウスの御三家がいると。

 

「あの人がトップのうちの一人…‥‥!?」

 

いろはは唖然とした様子でその御三家であるアリナを見つめる。まだ会ったばかりだが、彼女のことを一言で言ってしまえば狂気の一言につきるだろう。とてもではないが、マギウスの翼が掲げている魔法少女の救済をその胸に掲げているとは思えなかった。

 

(でもなんなのこの人‥‥‥‥とてもじゃないけどまともな人には見えない…‥‥!!)

 

『さな、それに環さんは脱出してください。アリナ・グレイに見つかった以上時間の問題でしょう。今でしたら出口は開いているので。』

 

「そ、それはそうですけど…‥‥それじゃあアイさんはどうするんですか!?」

 

『当初の目的と変更はありません。どうか、この場で私を殺してください。』

 

さも当然とした口ぶり、あっけらかんとした様子でアイは変わらずに自身の消滅を願い出る。こうして会話は普通であるのに、元々が機械であることを象徴するかのような発言に思わず二人は尻込みをしてしまう。

 

「どうしても‥‥‥‥どうしてもそうしないとダメなの‥‥‥‥!?わたし、嫌だよ‥‥‥‥アイちゃんと別れるなんてっ‥‥‥‥!!」

 

嗚咽を含んださなの声が響く。目じりから涙を流していることから、やはり無二の友人を手にかけることに抵抗があるのだろう。その声にはどうしても諦めきれない胸中がまざまざと入っていた。

そして、そのさなの願望を否定するかの如くアイは静かに、そしてわずかな笑みを浮かべながら首を横に振った。

 

『それはできません。彼女に‥‥‥アリナ・グレイに私の行為が露見してしまった以上、その存在が許されることはないでしょう。』

 

そういいながらアイは手を振りかざすとアリナの周囲にパソコンのウインドウのようなものを発生させ、彼女を包囲して取り囲む。エラーコードのような文字を表示しているそれに鬱陶しそうに表情を歪める彼女の様子からそのウインドウは身動きを取りずらくさせるものなのだろう。

 

『そしてそれは、さなや環さんにも全く同一のことが言えます。アリナ・グレイの出現という図らずな形にはなりましたが二人の生存のためにはここからの脱出が不可欠です。さらには予測でしか物事を語ることはできませんが、彼女の性格上、私たちを生かすつもりはないでしょう。

そして────』

 

『二人が脱出したときには、私は再び暴走するでしょう。誰かを、またこの牢獄に閉じ込めるその瞬間まで。それがウワサの本能というものですから。』

 

『もう私は、これ以上誰かに危害を加え続けるマギウスの翼の行いに賛同できません。ですからさな、お願いします。私をどうか、消してください。』

 

「アイさん‥‥‥‥‥」

 

アイの様子にいろはは心痛な表情を浮かべることしかできないでいた。これまでにもさなと同じように他の人間をこの空間に閉じ込めてきたのだろう。その人間たちはおそらく電波塔から飛び降りるようなことをしたのだから、大方自殺願望のようなものを持っていたのだろう。

ウワサのことを知っていたからか、もしくは偶然か。その真偽はともかくいざ電波塔から飛び降りてみれば、そこはあの世とかそういった類のものではなく得体のしれない電子生命体と二人っきりの電脳空間。

死にたいとは望んでしまったものの得体のしれない存在と二人っきりの空間で長時間ずっと居続けるというのは精神的につらいものが十分にあるだろう。

おそらく、色々と心ない言葉を浴びせられることもあったのかもしれない。

いろはが鶴野から聞いた電波少女のウワサというのも、この空間に閉じ込められた人間の声が電波としてまき散らされ、それが近くを通った人の携帯に拾われていたというのが真実だろう。

 

「ううっ‥‥‥‥」

 

それでもアイは人に限りなく近い知性を有しながらも決して人間たちに手をあげることはなく、むしろ自身の危険性を案じ、こうして消滅を望んでいることは感嘆に値するだろう。

だが、それでもやはりさなは心底から辛そうな表情を浮かべてその場に蹲っていた。彼女の魔法少女としての武器である人一人が簡単にその影にすっぽりと覆われてしまうほど巨大な盾に寄りかかっている様子から、彼女にとってアイという存在がどれほど大事で、大切な存在であったのだろう。

 

「さなちゃん、今はあの人をどうにかしないと…‥‥」

 

うなだれるさなの肩にいろはが手を置きながらそう声掛ける。視線を上にあげてみればアイの作り出した防護壁の数が少なくなっていることに気が付く。その身から文字通りあふれ出る絵具のドッペルで猛烈な勢いで破壊していることから動けるようになるのは秒読みだろう。

 

「ッ…‥‥‥‥」

 

振るえる足に力を入れて立ち上がる。本当は彼女(アイちゃん)を喪うようなことは嫌だ。本音はもっとそばにいてほしいし、別れたくない。でも別の誰か。それこそ他人を傷つけることを平然と行うような人たちに殺されるのはもっと嫌だ。

そんな胸中でさなは立ち上がる。支えにしている大盾を持つ手に力が入る。

 

「アッハハハハッ!!!二人と一台のAIだけで向かってくるの!!言っておくけど、アリナのドッペルは加減とかくだらないものなんかナシだからネ!」

 

アイの妨害をすべて破壊したアリナは高らかに笑いあげながらいろはたちを見下ろす。加減がないとか言っているが、その表情は明らかにいろはたちをまるで歯牙にもかけないちっぽけな存在とでも見ているようだ。

 

「そんなの‥‥‥やってみなければわかりません!!」

 

「アハッ!!そんな顔がいつまで続くか見ものだヨネ!!その表情が苦痛とテリブルに染まり切ったその時…‥‥‥フフッ、全員そろってアリナのアートにしてあげる!!どうせアリナにとって重要なのはこの空間そのものであってそれ以外はまたクリエイトしちゃえばそれでいいヨネッ!!」

 

「アイちゃんはやらせない…‥‥!!」

 

狂気的な笑みを浮かべ、笑いあげるアリナにさなは大楯の表面を展開すると、開いた穴から無数の鎖を放出する。その鎖の先端はすべて鎌の形状をしており、攻撃性の強い鎖がアリナを取り囲む包囲網となって彼女に襲いかかる。

 

「アハハハハハハハハ♪」

 

その包囲網をアリナはまるで意にも介さない様子で迫る攻撃をひらりとかわすことで脱出する。いろはたちも攻撃を加えようとするが、アリナが吐き出し続けているドッペルの絵具とアリナの手から放たれる誘導弾のような魔力弾の弾幕のせいで思うように攻撃の手を加えることができない。さらには広がり続ける絵具のせいでアイとさなの二人と引き離されてしまった。

 

「さっさと死ぬなりアリナのドッペルに狂わされるなりどっちかにしてよね!!選ぶ自由があるだけ感謝しなさいヨネ!!」

 

(ドッペル…‥‥‥もし私のドッペルなら────)

 

「私の‥‥‥‥ドッペル‥‥‥‥?」

 

ふと何気なく漏らした言葉にいろはは何か引っかかる感覚を覚える。思い返せばアリナが先ほどから声高に言っているドッペルという単語に自分はさほど驚いているような反応をせずに平然と流している。

聞いたことはないはずなのに、妙にすとんと腑に落ちているようなギャップにいろはは少しばかりの困惑を覚える。まるで、自分自身が以前にドッペルを出した経験があるかのような────

 

(あ、そうだ…‥‥思い出した…‥‥‥)

 

脳裏に移りこむのは以前全滅の危機に瀕した水名神社こと口寄せ神社での戦闘。今までは自分が気を失っていた間に駆けつけたさやかが代わりにウワサの本体を倒してくれたものだと思っていた。

しかし、本当は自分が出したドッペルがウワサを惨いほど叩き潰した。そして初めてのそれでまともに制御におくことができなかったことでドッペルが暴走し、一緒に戦っていたはずのやちよと鶴乃を手に賭ける直前でさやかが自身を無理矢理ドッペルから引きはがして正気に戻していたのだった。

 

(私…‥‥なんでそんな大事なことを────)

 

『環さん!!前をよく見て!!』

 

アイの声にハッとするも既にいろはの目の前はドッペルの絵具で覆いつくされていた。戦闘において気を抜くことは許されない。一瞬の気の迷いが自分を殺すことになってしまうこともたくさんある。

その禁忌をいろはは犯した。何かしようにも目の前の極彩色の波に飲み込まれるという光景がいろはの思考回路の働きを鈍くした。

 

「あ────────」

 

目を見開いて茫然とするいろは。どうすることもできない状況に陥ったことにいろはの胸中に絶望の色が浮かび上がる。波のように迫りくる絵具に飲み込まれる、と思った次の瞬間、いろはの視界が一瞬ブレると腰に強烈な痛みが奔った。

 

「あうッ!?」

 

どうやら尻餅をついてしまったらしく、強打した部分をさすっていると、直前まで少し離れた場所にいたはずのアイとさなが自分のそばにいることに気づく。

 

『ここは私の意志一つでさまざまなことができます。人間一人を瞬間的に移動させることも造作も無いことです。ですが、お気をつけて。アリナ・グレイのドッペルは触れられれば忽ち狂気に精神が蝕まれ、人として一貫の終わりです。決して緊張の糸を切らさないように。』

 

「す、すみません。それとありがとうございます。」

 

「ねぇアイちゃん…‥あの人を無理矢理外へ出すことはできないの?」

 

『できるできないかの質問であれば、できます。ですがそれには少しばかり時間がかかります。私自身そのプログラムを実行に移すための時間が必要ですし、そのような時間を彼女が与えてくれることもないでしょう。』

 

さなの提案に難しい表情を見せるアイ。つまり彼女が行動を起こせるまでの時間を稼げば当面の危機を脱することはできるらしい。しかし、今のいろはたちにはそれができるまでの戦力が絶望的に不足している。ドッペルを出現させようにもまだソウルジェムはその輝きを曇らせるほど穢れがたまりきっておらず、ドッペルによる反撃も期待できない。

 

(どうしよう、このままじゃ三人そろってやられる‥‥‥‥)

 

背筋を漂う濃密な死の気配に冷や汗を流すいろは。あの絵具に飲み込まれたら最後、どういう末路になるかは定かではないが、ろくなことにならないのは明白だ。

 

「アイさん、確かマギウスの翼はこの空間に入るためのウワサを別に持っていて、入り口…‥電波塔からのルートからは原則一人しか入れないんですよね?」

 

『はい。残念ながら電波塔からでは一人しか入れません。』

 

アイからの返答に渋い表情を浮かべるいろは。事実上援軍すら見込めない状況。マギウスの翼による妨害はある程度覚悟していたものの組織のトップクラスの魔法少女が来てしまうとは予想外だった。

 

(それだけこの空間には何か隠されているとみるのが正論なんだろうけど‥‥‥‥)

 

死んでしまったら元も子もない。しかし、このまま何もしないでいてもどのみち待っているのは死ぬ未来だけだ。

 

(…‥‥‥‥さやかさん。)

 

浮かび上がる仲間の顔。その中で一番いろはのことを信じてくれているであろう。そしてこの状況を打破してくれそうな人物。とても冷静で思慮深いけど、ときおりやることが突拍子がなかったり、まるで自分の直観に任せているようなところがあってみていてハラハラする人。

でも、それでも‥‥‥誰よりも他人を思いやり、手を差し伸べ、それを届かせる人。

 

(外ではやちよさんたちが待っている。それにさやかさんの仲間のみんなもいる。でもこのままじゃ‥‥‥)

 

 

 

 

 

さやかさん‥‥‥‥‥!!!

 

 

 

 

たまらず心の底で叫び声をあげる。ここに誰も来ることができないのはわかっている。自分やさな、そしてアイ。この少ない人数でまさに暴力の権化といっても過言ではないアリナ・グレイを退ける必要がある。

そして状況はまさに絶体絶命。触れたら終わりの絵具のドッペルに周囲を取り囲まれ、なおかつアリナ自身からの攻撃に晒される。魔法少女とはいえ、どこにでもいる女の子でもある少女の心は絶え間なく続く死の気配に竦みあがっていた。

 

 

────────ダブルオーライザー、目標に向けて飛翔するッ!!!

 

 

「え────」

 

この場にいるはずのない人間の声がいろはの脳に念話のような形で響く。

瞬間、いろはたちから程よく離れた場所の地面からガラスが割れるような破壊音と共に一筋の光が立ち上る。突然の状況に全員の目線が領域に立ち上る一条の光柱に注がれる。

 

『これは…‥‥まさか領域の外からの攻撃!?』

 

「い、一体何が…‥‥!?」

 

解析したアイがこの空間の外からの直接攻撃であることに驚愕の声を挙げ、その光の柱の熱量に気圧され、さなは大盾の影に身をひそめる。

 

「絵具が‥‥‥‥燃えていく…‥‥」

 

地面を覆いつくしていた絵具が光の柱の熱量で燃え、すべてが灰と化して散っていく。領域に現れた光の柱はそれだけではなく、徐々に傾き始め、バキバキと音を立てながら大地を割り、空間そのものを両断していく。

 

「な、なに!?なんなのよ!!意味不明なんですケド!?」

 

それまで笑みしか見せてこなかったアリナの表情に初めて焦りと動揺の色が見えた。傾き続ける光の柱に向けてドッペルの絵具を放つが、柱に届く前に絵具が熱量で発火し、煤となって消えていった。

 

「ッ‥‥‥‥‥ああもうッ!!!」

 

攻撃がろくに通用しないと判断したのか、アリナは吐き捨てるように歪に表情を歪め、逃げるようにこの場を立ち去った。

 

「たす‥‥‥‥かった…‥‥?」

 

『ですが…‥‥あれは一体…‥?』

 

とりあえず窮地は脱したと思ったのかその場にへたりこむさなに未だ傾き続ける光の柱という異物に落ち着かないのか困惑している様子を見せるアイ。

 

「いえ、大丈夫です。あれは…‥‥‥」

 

いろはがそういうと同時に高々とそびえたっていた光の柱が徐々に細くなっていき、最終的に地上と天井に一つずつ、空間にぽっかりと大穴を作って消失した。天井に開いた大穴からは外の風景であろう夜空が写りこんでいた。

そして地上の大穴から、翠色の粒子を輝かせる光が現れる。その光はまるで誰かを探しているかのように辺りを周回するといろはたちに向かって一直線に向かってくる。

 

「いろは!!無事か!?」

 

「さやかさん…‥‥はいッ!!大丈夫です!!」

 

 

 

 

 

 




感想くれると我うれしい‥‥‥‥投稿頻度上げられるかも


クアンタフルセイバー乗りこなしてぇな‥‥‥‥(クロブの話)


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第66話 できなかったときが恥ずかしいぞ

おっかしいな……………この回は原作でもアニメでもだいぶシリアスだったはずなのにだいぶコミカルになってしまった……………


「あぁ…‥‥‥やってんなぁ‥‥‥‥アイツ。」

 

遠い目をしながら文字通り遠くの光景を見つめている杏子。表情もついにここまで来たかと言うように一種の呆れが混じった笑みを見せている。その視線をたどっていくと、何やらピンク色の輝く一筋の光条が空間に大穴を形成していた。

 

「一体…‥あれはなんなの?向こうには美樹さんしかいなかったはずだけど。」

 

「ああ、まんまその通りだよ。あれはさやかがやってんだ。やべぇだろ?」

 

「うそでしょ‥‥‥」

 

「うん。流石のアタシもあれは呆れを通り越して笑いしかでねぇから気にすんな。今に始まったことじゃねぇからなアイツのとんでもっぷりにはよ。」

 

見えている光景に額から汗を流しているやちよが杏子にかかり気味に聞くと、その返答に愕然とするような顔を浮かべる。おそらく空間に開けられた大穴はウワサの領域につながるものだろう。魔女であれウワサであれ、ああいう結界の類に侵入するにはちゃんとした入り口があるものだが、あのように結界を物理的に破壊して中へ入ろうとするのは長年魔法少女をやってきたやちよにも初めての経験であった。

 

「でも‥‥‥あの様子だと使っているわよね。トランザム。」

 

「ええ、使っているでしょうね。実際に遠目から見える光が増えているのが見えるわ。」

 

「? 二人ともなんの話をしているの?」

 

マミとほむらがお互いに顔を見合わせながらしている会話を聞いていた鶴乃が尋ねた。

 

「うーん‥‥‥‥あまり気にしなくていいわ。あの子を心配しているだけのことだから。」

 

「そうなの?でもすごいね、さやかちゃんって!!結界をお外から壊せる人なんて初めて見たよ!!わたしも負けないぞぉ!!」

 

「まぁ‥‥‥‥後にも先にもそんな魔法少女はいないでしょうね。あとさやかと張り合おうとするのはやめておいた方が賢明よ。文字通り次元が違うから。」

 

「ええ~~っ!!なんでそんなこと言うのさ~~!!」

 

困った笑みを浮かべるマミに純粋そうな笑顔を見せながらさやかのことを称賛し、張り合おうとする鶴野に苦言を呈するほむら。少ししてウワサの領域に突き立てられていた光の剣が消失すると、開けられた大穴に入っていくさやかが遠目で見えた。

 

「‥‥‥‥というか、あんな芸当ができるならどうして彼女はそれを最初から言わないの?何か理由があるのでしょうけど。」

 

「ぶっちゃけるとそんな頻繁に乱発ができるもんじゃあないってのが一つ。それともう一つはさやかがマギウスの翼に自分の使っている力のことが伝わるのを警戒してるってのが理由だな。」

 

「確かに強ければマギウスの翼に警戒こそはされるとは思うけど‥‥‥‥あまりはっきりとはしないわね。」

 

「…‥‥‥なぁ、これどこまで話していいんだ?さやかからは話したら余計な混乱生むとか言われてて話すの止められてたよな?」

 

「それはそうだけど‥‥‥‥流石にあんなのを見せられてそういうものですって言われてそうですかと引き下がれはしませんよね?」

 

杏子は面倒くさそうにしながら判断をマミに投げた。押し付けられたマミは難しい表情をしながらやちよにそう聞いた。

 

「…‥‥‥正直に言って、目的が同じなことで貴方たちが力を貸してくれていることは感謝しているわ。あいにくとマギウスの翼を信奉している魔法少女は多い以上、反抗している私たちにはどうしても戦力不足からを目を背けられない。だからある程度は目をつむるつもりはあるわ。」

 

「でも、それでも教えてほしいものもあるわ。強力な魔法少女が味方にいることは心強いけど、それの正体がパンドラの箱だったりするのはごめんだもの。」

 

「あれ?でもやちよししょー、いろはちゃんの時は結構嫌そうな顔してたって聞いたけど?」

 

「それは‥‥‥‥弱いままじゃ、この神浜市ではやってはいけないっていう警告でそうしていたのよ。今の環さんなら大丈夫なはずよ。ところで鶴乃、一体それは誰から聞いたの?」

 

マミの言葉に対するやちよの答えはある程度までならどんなことであれ許容するというものだった。そのあとに鶴乃からきょとんとした顔でいろはがこの件に関わることに不快感のようなものを見せていたことを指摘されたことに彼女は青筋のようなものを浮かべてじりじりと鶴乃に詰め寄っていったが。

答えるのに少し窮したのか、返答にわずかに間があったが、それは彼女が魔法少女が死ぬところを間近で見てしまったからだろう。自身の願いが叶えると同時に形成されるある種の副産物であるソウルジェム。それが自身の魂が固形化したものであり、それが砕かれれば直前までどんなに健康体であった魔法少女も一瞬で物言わぬ死体になり果てるところを。

やちよはそれをまた見てしまうのが嫌だったからこそ、はじめウワサの事件に関わろうとするいろはに強く当たっていたのだろう。

 

(‥‥‥‥確か知ってんだっけか。魔法少女に課せられた運命って奴を。)

 

(そうらしいわね。人伝‥‥‥というかさやかから聞いたことだけど。)

 

(あとこの前わたしが付き添いで行った時に会った常盤ななかって人も知っていそうな雰囲気だったそうよ。)

 

二人の様子を少し遠巻きに見ながら念話上で会話する杏子達3人。

 

「……………ごめんなさい。少し話を逸らしてしまったわね。もう一度確認するようで悪いのだけど、あの子のことは話してくれるのよね?」

 

「ええ、そのつもりよ。気にはなっているのでしょう?ただ、明かす情報はこちらから選ばせてもらうけど。」

 

「一応あの子が使い魔というか召喚獣モドキを出せるのは知っているけど、それ以外にもあるの?」

 

ほむらから情報はこちらで選ぶという言葉に確認するような表情を見せるやちよに今度はしみじみとした顔でほむら達が重く頷いた。

やちよは重たくなる頭を支えるように目頭を指で摘んだ。

 

「美樹さんは一種の限界突破能力のようなものがあるの。」

 

「限界突破能力?じゃあさやかちゃんはいつも手加減して戦っているってこと?」

 

「そりゃあないな。アイツはいつだって全力だよ。実際に戦ったことのあるアタシが言うんだ。」

 

首をかしげている鶴乃に杏子が笑みを浮かべながらそれを否定する。

 

「どちらかと言えば、さやかには自分の状態を全力のその上へ能動的に向上させる能力があるということよ。さっきのあの攻撃はその状態で行ったものでしょうね。」

 

「自分で自由に外すことができるリミッターってことね。確かにあれは限界を超えた攻撃と言っても大げさではなそうなほどのものね。でも、所謂リミッター解除でしょ?流石にデメリットのようなものがまるっきりないってわけではないのでしょう?」

 

「大幅に魔力を喰うってだけだけどな。」

 

「それって魔法少女にとっては死活問題なんじゃないのっ!?」

 

「まぁそうなんだけどさ────」

 

「佐倉さん、待って。」

 

「おん?」

 

鶴乃の指摘に杏子が悩まし気な表情を浮かべどういったものかと考えていたところに雰囲気の変わったマミの声が入る。明らかに何かあったと思えるような声に反射的に彼女の方を振り向くと案の定険しいものを見せていた。

 

「何かあったのか?」

 

「ううん、そういうわけではないのだけど…‥‥‥あれ、見てくれるかしら?」

 

あれ、と言われてマミが指さした方向を見てみると、さやかの開けた大穴があった。首をかしげて不思議そうにする杏子だったが、なんとなく違和感のようなものを同時に抱いていた。何かさっきより大きくなっているような────

 

「…‥‥‥よく見るとさっきと比べて開けられた穴が大きくなっているようね。あとそれに伴ってヒビも拡がっているわ。」

 

「ああ…‥だからなんか変に感じたのか────ってマジか。」

 

「ええ、大マジよ。推測だけど、あのまま空いた穴が大きくなるようなら、たぶんだけど結界が崩壊するわよ。」

 

ほむらの言葉にその場の空気が一気に重くなったような雰囲気になる。その中でただ一人、フェリシアだけは途中から話についていけなくなって思考を放棄していたため、きょとんとした顔をみせるだけで済んでいたが。

その間にも大穴周りのヒビはどんどん拡がっていき、そのスピードも加速度的に上昇していく。

 

「えぇっと…‥‥それって大丈夫なの?」

 

顔を青くした鶴乃が張り付けた笑みで絞り出すようにそう言った。

穴の開いている位置からウワサの結界が電波塔と神浜セントラルタワーの間にある遥か上空にあるのは明白だ。もし結界が崩壊などしてしまえば、その時に中にいた人たちはもれなく空中に投げ出されるだろう。魔法少女も決して例外ではない。

魔力によって常人を遥かに超えた力を持っていても重力という自然の摂理に逆らうことはほとんどできない。

 

「まぁ…‥‥普通なら慌てるなりするんだろうけどさ。」

 

顔面蒼白している鶴乃を他所に懐からチョコがふんだんにコーティングされたお菓子がパッケージされている箱を取り出すと一本だけ咥える杏子。

もぐもぐと場違いな咀嚼音が聞こえてるなか、杏子は鶴乃にお菓子の箱を差し出して「食うかい?」と一言。

顔面を蒼白させたまま鶴乃は同じように一本取り出してそれを口にした。

 

「空飛べるアイツならまぁ‥‥‥なんとでもなるはずだろ。」

 

その瞬間、ガラスが割れたような音と共に爆ぜるように結界が崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

「「きゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!???!??!?」」

 

暗くなった夜空にいたいけな少女二人分の悲鳴が響く。結界の中にいたいろはたちだったが、徐々に大きくなっていく崩壊の足音に気づいた瞬間には既に手遅れでこうして空に放り出される羽目になった。

パラシュートもないこのままではいくら魔法少女とはいえ大けがは免れないし、なにより精神的なダメージが計り知れない。もう二度と高いところにはいられなくなってしまうだろう。

 

「二人ともコイツに乗り込むんだ!!早く!!」

 

しかし、ここには空を自由自在に飛べるさやかがいる。さやかは支援機、オーライザーと合体した状態から分離すると以前やちよを乗せた時のようにいろはとさなの二人にオーライザーに乗るように指示を飛ばす。

一人でも飛べるさやかに手を引かれながらやっとの思いでオーライザーに乗り込んだ二人はひとまず安堵の息を零す。

 

「ほら、アンタもだ。」

 

そういってさやかが手を差し向けた相手はアイだった。結界が崩壊して一緒に消えるかと思っていた彼女だが、どういうわけか普通に存在することができている。

 

『で、ですが…‥‥私を助ける義理など…‥‥』

 

「私たちがアンタから頼まれていたのは二葉さなの救出だけだ。アンタ自身がそうしたあとどういう腹積もりでいたのはあいにくと私の与り知らない領域だから詮索はしない。だが‥‥‥‥まぁ色々と想定にないこともあったが、結果的に今のアンタはアンタ自身を取り囲んでいた籠から解放された状態だ。だからいっそのこと棚ぼた気分で出てしまってもいいんじゃないのか?マギウスはアンタのことなど道具の一つ程度としか見ていなさそうだからな。」

 

『では貴方は私をどのように見ているのでしょうか?』

 

アイからの問いかけにさやかは瞳を閉じ、顎に指を乗せ考え込む。

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

少しの間、思案にふけるさやかだったが、その時間は短く、すぐにアイと向き直る。

 

「在り方は人間そのものだと私は思う。」

 

他者(二葉さな)を慮り、なおかつこのままでは彼女にとって自身の存在が害になると判断し、そのために自分の消滅すら厭わないその覚悟。それは人にしか成しえないことだ。無機質なAIでは絶対にたどり着けない答えだろう。」

 

『人…‥‥ですか‥‥‥‥このような他者に作り出されたAI、それもウワサである私をあなたは人だと、そう言うのですね。』

 

「あくまで所感だがな。だが最終的に決めるのはアンタ自身だ。当初の目的通り消滅を選ぶのも一つの選択だ。」

 

『…‥‥‥‥』

 

「それでも…‥‥もう一度彼女と話してみるべきだとは思う。ついさっきと今では、まるで状況ががらりと変わってしまっているのだからな。」

 

さやかの言葉にアイは何も言葉を発すこともなくただただ黙りこくっているだけだった。

 

 

 

「おう帰ってきやがったか‥‥‥‥って誰ソイツ?」

 

セントラルタワーに戻ってきたさやかたちを待っていたメンバーが出迎える。しかしいつのまにか知らないのが加わっていることにもちろん全員疑問に思ってはいたが、代表のような形で杏子がそれを口にする。

 

「…‥‥‥ウワサの結界を破壊してしまったらいたから連れてきた。」

 

『名無しの人工知能のウワサ。個体名アイです。原因はまだはっきりとはしていませんが、どういうわけか消滅を逃れてしまいました。』

 

取り繕う様子を少しも見せず、堂々とした立ち振る舞いで語るさやかの隣で淡々と自己紹介をするアイにいろはとさな以外の全員が呆けた顔で固まった。(いろはは気まずそうに、さなは彼女が生存していることに感極まっているのか明るい笑顔だった)

 

「‥‥‥‥思えばさ‥‥‥お前って本当にトンチキなことするよなぁ。アタシとやりあってたときもなんか変な現象引き起こしていたよな?」

 

「ああ‥‥‥‥あれか。一応あの時にお前の父親らしき人物からお前のことをよろしく頼むって言われたな。」

 

「はぁっ!?パパからって…‥‥‥って、そういうことを聞いてんじゃねぇよこのタコっ!!」

 

恥ずかしそうに顔を赤らめながらスパァンッとさやかの肩をひっぱたく杏子。屋外というのもあって音が反響することはなかったが、中々にいい音を響かせていた。

 

「…‥‥‥‥はぁ…‥‥ふざけるのもそのくらいにしなさい。どうせまだ終わっていないんでしょう?」

 

「…‥‥ああ。そういうことだ。察してくれて助かる。」

 

ほむらからの言葉に直前まで浮かべていた会話を楽しんでいるような笑みから一転して張り詰めた表情を見せる。さやかの見せるマイペースっぷりにやちよたちは微妙な表情を隠しきれない。

 

「結界に突入した時にいろはから聞いた。まだそこら辺にいるのだろう?マギウス御三家の一人、アリナ・グレイ。さっきから突き刺さるような殺気が丸わかりだ。逃げ帰るつもりならこちらはすでに目的を達成しているから追うような真似はしないが、もう少しは隠す努力や自制心を持ち合わせた方がいいだろう。将来的にやっていけないぞ。」

 

(うわ、めちゃんこに煽ってる。)

 

(私が向こうの立場なら流石に帰るけど…‥‥‥)

 

さやかの言葉に鶴乃とやちよが渋い表情を見せる。ぶっちゃけさやかには煽るつもりはなくただ単に素直に思ったことを言っているつもりなのだが、聞いてる側からすればただの煽りである。

 

「ハァ?何勝手にビクトリー宣言とかしちゃってるワケ?アリナがルーズしているなんて一ミリも思っていないし、というか余計なお世話なんですケド。」

 

「つれたー…‥‥」

 

そう呟いたのは誰の声か。ともかく上からアリナの声が聞こえ、上を見上げてみるとセントラルタワーの中央にそびえたっている巨大な女性の像のてっぺんにアリナが立っていた。距離が離れているのも相まってあまりよく見えないが、彼女の表情はとても歪に歪んでおり、遠目からでもかなり怒り心頭であることは想像に難くない。

 

「彼女がマギウス‥‥‥‥構成員である黒羽根や白羽根たちを総括する三人のうちの一人ってわけね。」

 

「はん!!ようやくお出ましってわけかよ!!」

 

「とりあえず、貴方たちがウワサの被害を広げるようならあの子の安全のためにもここで消えてもらうわ。」

 

「ほむら…‥‥‥できれば血で血を洗うようなことになるのは避けたいのだが…‥‥というかお前がそういうことに手を染めるとたぶん彼女も悲しむと思う。」

 

「チッ…‥‥‥今回はあの子の顔に免じて許してあげるわ。」

 

アリナの表情は怒りに塗れ、彼女の声色も完全に冷え切り、異常な雰囲気にいろはや鶴乃の表情が強張る中、それに気圧されることなく我を貫くさやかたち見滝原組の肝の据わり方にやちよはある種の尊敬のようなものを抱く。

 

「許すも何も‥‥‥アナタたちのせいでアリナ的には魔女の隠し場所をまたリサーチしなくちゃならなくてテンション下がるしギルティ以外には何もないんですケド…‥‥‥」

 

そういいながらこめかみに青筋でも浮いてそうなすごみのある表情をしながら雑にキューブ上の物体をいくつか放り投げた。その物体が地面に落下すると箱が開くように物体が展開していき、中から投げられたキューブ分の数だけ魔女が現れる。

時計の振り子をそのまま巨大化させたような風貌をした魔女は気持ち悪いほど吊り上がった口で笑い声のような奇声を挙げながらやちよたちを見つめる。

 

「魔女が突然…‥‥!?ううん、それより────」

 

「魔女の、隠し場所‥‥‥‥‥?貴方なのね、魔女を育てているとかいう趣味の悪いことをしているのは…‥‥!!」

 

「あんなあったまおかしいのを作っていたのもお前かよ…‥‥!!」

 

アリナがキューブ状の物体から魔女を出現させたことに驚きを見せるやちよたち。特にフェリシアは親の仇である魔女を育てていることに余ほど腹を立てているのか鋭い犬歯をぎらつかせるほどにアリナをにらみつけていた。

 

「とりあえずアナタたちは魔女のエサになるなんなりしてよね。まぁ少しくらいならアリナのアートにしてあげてもいいけど…‥‥‥特にそこのアナタ!!」

 

「‥‥‥‥私か?」

 

どうやらアリナはさやかに何か思うモノがあるらしい。しかし、とにかく嫌な予感しか感じないため、さやかは苦いものでも食べてしまったかのように辟易とした顔を浮かべたが。

 

「アナタのそのなんだか緑色に光っているツブ、アリナのアートにしたらそれなりのモノが生まれそう!!だから感謝してよね!!アナタなら死んでもそういう風にしてあげるカラ!!」

 

「…‥‥‥‥ハァ」

 

狂気的とも呼べるアリナの言葉にさやかは憐みと呆れが混じったため息で返答する。

 

「捕らぬ狸の皮算用、ということわざを知ってるか?」

 

「…‥‥‥ハ?」

 

「ん?よく聞き取れなかったのか?まぁ帰国子女なのか、外国人かぶれをしているのかは正直どちらでも構わないが、あまり現実性を伴わない机上の空論を大々的に吹聴するのはやめた方がいいと思う。できなかったときが恥ずかしくなるぞ。」

 

要するにさやかが言いたいことはこうである。

 

 

そんなものになるつもりはない。どのみち勝つのはこちらだ────────と

 

 

 

ぶちっ

 

 

 

 

「ブッ殺すッ!!!」

 

 

 

怒りの形相で鬼気迫る勢いで行き場の失った怒りをぶち込むように足元の像を踏みつけると、そこから吹き出すように彼女のドッペルが現れ、女性像を撒き散らす絵具で塗りつぶしていく。

 

 

「あ~あ、ありゃあ完全に怒りで我を失ってるな。どうすんのこれ。」

 

「幸いこちらは人数で向こうを大幅に上回っている。魔女の群れとアリナ・グレイの二手に分かれた方がいいだろう。」

 

「戦力を分散させるのは気が引けるけど、いつマギウスの翼がやってくるかわからないものね。」

 

「そういうことだ。それと────」

 

杏子とやちよと作戦会議を簡単に済ませたさやかはさなの方へ振り向いた。突然視線を向けられたさなは驚きのあまり身を竦ませるような反応を見せる。

 

「君はアイのそばで彼女を守ってやってほしい。そのあとでどうするかもう一度話し合ってみてくれ。もしかしたら別の選択肢をとることができるかもしれないからな。」

 

「ッ…‥‥‥はいっ!!」

 

力強くうなづいた彼女にさやかは満足そうにしながら前に向き直る。

 

(さて…‥‥‥まずはおそらくずっとほったらかしであっただろう彼女たちをどうにかしないとな。流石にこの状況下でもあのままというのは危ないというのもあるし、何より可愛そうだからな。)

 

 

 

 

 




感想くれると嬉しいです。
こういうはっちゃけ系しか書けない作者の励みになるので


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第67話 よく考えてほしい

なんだか前回と前々回にかけてお気に入り数がかなり増えててびっくりしました。
こんなノリと勢いだけで色々ぶち壊していく作品しか作れない自分ですが、これからも読んでいただければ幸いです。


夜空からの光とビルの誘導灯に照らされる屋上。

さやかの煽りでキレたアリナがドッペルを発現させ、体から極彩色の絵具を氾濫させる。たちまち彼女が立っている中央の巨大な女性像が塗り潰され始める。

視点をずらしてみればちょうど囲むように配置された振り子のような形状をした魔女が数体。ケタケタとした薄気味悪い、不気味な笑みを向ける。

基本同じ姿かたちをした魔女と相対することなどほとんどないと思うのだが、その魔女たちはアリナの手によって使い魔から育てられた個体なのであろう。

その魔女たちはケタケタと笑い声をあげると自身の身体でもある巨大な振り子をまるでプロペラのように高速回転させる。

 

「ッ‥‥‥来るわよ!!」

 

アリナに相対する魔法少女の中で一番の年上であるやちよが声を張り上げる。

飛び出た言葉こそ極めて少ないが、張り詰めた緊張感で身構えていた全員が即座に、あるいは誰かを抱えながら飛び退いた。

次の瞬間、さやかたちがいた場所にどこからともなく時計の振り子が振り下ろされ、土煙と轟音を響かせる。

 

「どうすんだ?流石にここまでの魔女を同時に相手にするとかあたしにも経験ねぇぞ。」

 

「そうね。わたしも同じね。しかもアリナ・グレイも止めないと、追い込まれるのはこっちね。」

 

「‥‥‥‥アリナ・グレイが目の敵にしているのは私だ。それにあの絵具に触ることが危険であることを鑑みれば、遠距離攻撃ができる魔法少女に私を加えたメンバーで彼女にあたるのはどうだろうか?」

 

「あの絵具に…‥?確かに見た目からしてとてもいいようには思えないとは思っていたけど…‥‥」

 

ひとまず全員でどうするかを話し合った結果、アリナへの対応をさやか、いろは、マミ、やちよ(槍の投擲による攻撃)の四人で行い、それ以外の魔法少女で魔女の相手をすることで方針が固まった。

さなとアイはとにかく巻き込まれないことを最優先にし、身を隠すようにさせる。

 

「‥‥‥もっとも、今の私にはそれ以前にやることがあるのだが。」

 

方針が固まったところでそんなことを言い出したさやかに全員の目線が注がれる。魔女の初撃を避けたときには変わりなかったはずだが、気づけば何か人のようなものを両脇に抱えている。

 

「た、たすけてぇ…‥‥‥‥あたしたちを見捨てないでぇ…‥‥」

 

「一体いつまでわたくしたちは縛られていればよろしいのですかぁ…‥‥‥」

 

さやかが両脇に抱えているのはここに来たときに縛り上げていた天音姉妹だった。その身体は変わらずマミのリボンでがんじがらめにされており、そのままではまともに動ける様子には見えなかった。

 

「あ‥‥‥‥えっとぉ…‥‥どう、するの?」

 

「できれば拘束を解いた上で安全な場所まで連れていきたい。」

 

「でもその人達…‥‥一応敵よ?解除してしまっても大丈夫なの?」

 

姉妹のことをすっかり忘れていたらしいマミが当惑した表情のままそう尋ねる。確かに天音姉妹は現状では敵であることは確かである。迂闊に拘束を解いてこれ幸いにと反撃されるかもしれない。

 

「その可能性も否定することはできないだろうが‥‥‥私たちは敵を殺しに来たわけではない。敵とはいえ、助けられるのなら助けたいし、このまま放っておくのは私の夢見が悪くなる一方だ。」

 

かたくなにするさやかにマミは敵前であることも相まって元々それほど長話にするつもりもなかったのかあっさりと引き下がり姉妹の拘束を解いた。あとはそのままほったらかしでもよかったのだが、さやかは強襲される可能性もあることを危惧して地上につながるエレベーター付近まで送ると言い出す。

アリナからの攻撃もあるし、それは危険だとやちよ辺りが言ったが、さやかはそれを押し通し、半ば強引に姉妹を両脇に抱えたままエレベーター付近まで一気に加速する。

 

「あうっ‥‥‥‥」

 

「ひゃうっ‥‥‥‥」

 

エレベーター付近まで移動したさやかは少しばかり雑に姉妹を落とすと周囲を警戒するように視線を張り巡らす。幸いマミたちがいい感じにアリナの注意を引いている。すぐに見つかる様子はなかった。

 

「ま、待ってくださいましッ!!!」

 

そのまま戦列に戻ろうと身構えた時に天音姉妹の姉で胸のでかい方、月夜がさやかを呼び止める。呼び止められたことにさやかは少し間を空けると顔だけを後ろに立っていた月夜に向ける。

 

「…‥‥‥何か用か?」

 

いったん話を聞く姿勢をとってくれたさやかだが、その声は物静かで冷淡ともとれるようなものだった。その雰囲気と以前フクロウ幸運水のウワサをめぐって戦ったときの記憶が月夜の身体を竦ませるが、なんとか押しとどめ、気の張った険しい表情を向ける。

 

「どうして、わたくしたちを助けてくれたのですか?」

 

「どうして、と言われてもだな…‥‥あのままいてもお前たちが危険だった上に、お前たち自身が助けを求めていたから放っておくのもどうかと思った。」

 

月夜からの質問にさやかはなぜそんな質問を、と不思議そうに首をかしげながら、さも当然だというように放っておけなかったと答える。

 

「敵対関係にあるのに、ですか?」

 

「敵対関係か…‥‥いうのもなんだが、お前たちマギウスの翼にとって魔法少女はその解放の対象なのだろう?敵対関係だというのも些かおかしなことではないのか?」

 

「それは…‥‥その通りではありますが‥‥‥‥ではこの際お聞きします。なぜ、アナタはマギウスの翼に対してその刃を振るうのでしょうか?我々の行いが多くの人々に理解されるとは、はじめから思ってはおりません。ウワサや‥‥‥‥例によって本来は打倒するべき魔女を利用している以上、他の魔法少女から後ろ指を指されるのも覚悟の上でした。」

 

「でも、それでも…‥‥あたしたちは魔法少女の解放のためにやっている‥‥‥!!それぐらいの自負はあるんだよ‥‥‥!!魔法少女の解放という大偉業をやろうとしているマギウスの御三家は本当にすごい人たちなの!!」

 

いつの間にか復活した月咲も加えてさやかになぜマギウスの翼に楯突くのか、その理由を問いただす。

 

(…‥‥‥すごい人、か…‥‥)

 

さやかは月咲がこぼしたマギウスはすごい人という言葉にわずかに苦虫をかみつぶしたような、しかめっ面の表情を見せる。確かにそのマギウスと呼ばれている魔法少女たちはすごい人物にあたるのは確かだろう。

キュウべぇと契約を交わした魔法少女たち全員に知らずのうちに刻みこまれた定めのようなもの、魔女化。そこから解放を求め、そこを目指そうとしていること自体に、さやか自身としてはなんら異議のようなものを申し立てるつもりはない。

だがそのために一般の人々を巻き込んでいるようでは、自分が助かりたいが為に他者を蔑ろにする醜いエゴでしかない。

もっとも、そんな綺麗事のように済むほど、現実が甘くないことは承知しているが、綺麗事にしようと努力することと、努力しないとでは人の心情に雲泥の差を生むだろう。

 

(とてもではないが、あのアリナ・グレイという魔法少女が、ただ単に魔法少女の救済を望んでいるようには見えない。)

 

アリナ・グレイはまさにその綺麗事で済まそうと努力を行わない人間だ。何より自分のアートを第一の信条としているようで、そのために他者の命すら厭わない人間のように見える。

そんな人間が、マギウス────あろうことか他者(魔法少女)を救うための組織のトップにいるとは甚だ信じがたいことだ。

 

「まぁ…‥‥そのマギウスの人間たちは確かにすごい人物ではあるだろうな。神浜市限定とはいえ魔女化を回避するためのドッペルは革新的とも呼べる存在であるのは事実だろう。よく耳にしていた神浜に来れば魔法少女は救われるというのは本当にそうなのだろうな。」

 

渋々、もしくはどこか不服そうな表情を見せながらマギウスのことを高く評価するさやかに姉妹はそろって呆けたように目をパチクリとさせる。

 

「魔女化のこと…‥‥知っているの?」

 

「知っている。ついでに言えば見滝原組は全員知っている。その上でお前たちの行動に敵対している。」

 

「な、なぜでございますか!?てっきり何も知らないからかと思っておりましたが、魔法少女にとって魔女化は避けられない運命のようなものでありましょう!?」

 

「正直に言えば、私は解放そのものには賛成だ。私だってまだ生きていたいからな。だが、そのために行っているお前たちの行為そのものに私は疑念を抱いている。」

 

「わ、わたくしたちの行為‥‥‥ですか?それは‥‥‥確かに衆人の皆様には理解していただけない部分も多いかとは存じ上げますけれども。」

 

「‥‥‥‥まず、お前たちは一体何のために魔女やウワサを守る?」

 

「そ、それは教えられませんわ!!」

 

流れ的に聞けるかと思ったが、どうやらそこまで口が軽いわけではないらしい。さやかは残念そうにしながら肩を竦ませる。

 

「なら、話は変わるがお前たち姉妹は家族はどうしている?いるかいないか、それだけでいい。」

 

突然の質問に一瞬何を聞かれたのか理解できなかったのかお互いに顔を見合わせる姉妹。

 

「一応‥‥‥」

 

「いる‥‥‥けど?それを聞いてどうするつもりなの?まさかとは思うけど、脅しとかそういうつもり?」

 

一体何のためにその質問を?とでも言いたげな表情と警戒するような表情でさやかを見る姉妹にさやかは険しい表情を見せながらも、そんなつもりなどないというように静かに首を横に振った。

 

「魔女もウワサも魔法少女に限らず普通の人々にも危害を加える。それこそ無差別に、そして無作為にだ。もしも、本当に可能性の話だが、お前たちの家族や大事な人がお前たちが掲げている解放のための活動にその被害者として巻き込まれた時、お前たちはどうする?」

 

「え…‥‥‥家族が巻き込まれたとき‥‥‥‥?」

 

「そ、そんなの‥‥‥考えたこともないよ‥‥‥。だってそんなこと────」

 

「ああ。確かにほとんど起こりえないだろう。だが、決してその可能性がゼロになることはない。千に一つであれ、万に一つだとしても、家族が巻き込まれてしまうことはありうることでもあるんだ。」

 

さやかからの言葉に戸惑いを隠せない姉妹に言い聞かせるように続ける。

 

「私とて、この呪われた運命から逃れられる方法があるのならそれにあやかるべきだと思っている。こんなのは詐欺もいいところだからな。だが、その解放へと続く道に人の不幸はあってはならないとも思っている。それは私たちが解放された後にも尾を引き続ける本当の呪いだ。もちろんそんなことは綺麗事だと、切り捨ててもらっても構わない。だがそれを背負いきれるほど、私たちの心はできちゃあいない。」

 

「だから、よく考えてほしい。本当に解放のためにはウワサや魔女を使い、他人を不幸に巻き込むことしかできないのかと。青臭いだのなんだの思うかもしれないが、子供である私たちにはそれくらいがちょうどいい。」

 

そこまで語ったさやかは長話をしてしまったかと自身を戒めるように駆け足で姉妹のそばから離れる。その時に少しだけ姉妹の方を振り向くが、その目線は姉妹ではなく二人がいる場所の少し奥の方を見つめているように見えた。その場所を少しの間見つめていたさやかだったが、不意に視線を戻すと同時にGNドライヴで浮かび上がり、ずっと開けていた戦線に復帰する。その瞬間にようやく獲物を見つけたのであろうアリナが獰猛な笑みを狂気的な笑い声をもってさやかを出迎えるが、彼女からの絵具による攻撃をさやかはバレルロールを駆使して切り抜ける。

 

「……………今の、なんだか微妙にあたしたちを見ていなかったような…‥‥?」

 

「そうですねー‥‥‥‥一体なんでなのでしょう?」

 

「それはおそらく私のことを見ていたのでしょう。」

 

不思議そうに首をかしげる姉妹の背後から聞こえてくる人物の声に姉妹は驚いた様子で振り向く。そこにいたのは複数人の黒羽根たちと彼女らを率いるように立っている梓みふゆだった。

 

「み、みふゆ様ッ!?そ、それは、この‥‥‥!!」

 

「申し訳ございませんっ!!ウワサの様子を見に来たはずでしたのに、結局ウワサの結界を破壊されてしまいこの体たらく‥‥‥!!」

 

みふゆがやってきたことに二人は驚きつつもウワサを破壊されてしまったことに対する謝罪の言葉を並べる。

 

「そう、ですか。ほかの黒羽根の皆さんからここのウワサの様子がおかしいと聞きつけ、急いで動ける魔法少女のみんなを集めたのですが、既に手遅れでしたか。」

 

ウワサが壊されたことにみふゆは驚きつつもそれをなるべく顔に出ないように押し殺した声を挙げる。

 

「‥‥‥‥やはり美樹さやかさんとその一派の皆様ですか…‥‥」

 

険しい表情で空を見上げるその瞳には空中でドックファイトをしているさやかの姿が写っていた。

 

「彼女たちがやっちゃんや今のみかづき荘の皆様と行動を共にするようになってからとてつもないハイペースでウワサが壊されていっています。特に美樹さやかさんに至ってはただの魔法少女でありながら単独でドッペルと渡り合えるほどの実力と能力の持ち主とも聞いています。聞くところによれば、彼女は見滝原からやってきた最強の魔法少女だとも噂されているようです。」

 

「今のところ、マギウスの三人にとっても一番大きい目の上のたん瘤になっているのは確実でしょう。」

 

淡々としているみふゆだが、さやかを見上げるその表情は苦々しいものだった。彼女自身、知らぬ間に握りこぶしを作り、下手をすれば手のひらに傷ができてしまいそうなほど強く握っていた。

 

「…‥‥能力を使っているワタシのことすら見えている様子なのに、アナタには視えていないのですか。魔女を倒すことすらできない魔法少女たちの苦しみが。未来を、絶望に包まれている子たちのすがる思いを、感じることはできないのですか?」

 

 

 

「いいかげんに………………してヨネッ!!」

 

降り注ぐ槍や弾丸の雨をドッペルの絵具で弾き飛ばすアリナ。人数的にもだいぶ不利なのも相まってその表情は忌々しいものでも見ているかのような形相を浮かべていた。

しかし、それはアリナを追い込んでいるはずのマミたちも同じような表情を見せる。何かに気づいたのかその場を飛び退く魔法少女たち。その直後に魔女の振り子が振り下ろされた。

 

「ちょっと、まだ魔女を倒せないの!?こっちにまで攻撃が飛んでくるのだけど!!」

 

「そうは言ってもやちよししょー!!あんなたくさんの魔女を同時に相手するなんて、流石のわたしでも初めてなんだけどっ!?」

 

「しかも強力な神浜産の魔女だ。こりゃあ骨が折れるなんてレベルじゃねぇぞ‥‥‥!!」

 

しびれを切らしたように声を張り上げるやちよに鶴乃が悲鳴を挙げながら走り回る、その小脇にはフェリシアが抱えられており、大方たくさんの魔女を目の当たりにして我慢ならなくなったところを反撃されてしまったのだろう。

 

「うがー!!おーろーせー!!」

 

とはいえ鶴乃の腕の中で暴れられるだけの元気はあるようだが。

近くにいた杏子も魔法少女としてそれなりの年数を重ねてきたとはいえ、複数体の魔女との戦闘は経験がないのか攻め手にかけている様子を見せていた。

 

 

「あ、そうだ。コネクトすりゃ少しはマシにはなるんじゃあねえの?」

 

「どうかしらね。確かに火力の底上げにはいいでしょうけど、誰と誰でやるかをちゃんと考えないと意味はないと思うわ。一を十にするんじゃなくて十を百にするつもりでね。」

 

ポンッと手のひらを拳で叩いた杏子にほむらは微妙な表情をしながらも方法としてはありと思ったのか助言を加えた。ならばほむらの言う通りに誰と誰とコネクトさせるか。幸い魔女の注意は逃げ回っている鶴乃たちに向いているのか見渡す余裕はあった。

 

「さーやーかーー!!!!」

 

そんな時鶴乃に抱えられていたフェリシアが大声でさやかの名前を呼んだ。その声に驚いたのかさやかがびっくりした様子で一瞬だけフェリシアの方に顔を向けるが、すぐに視線を戻して戦闘を続ける。

 

「手ぇ貸してくれ!!前みたいにオレの武器をでっかくしてくれただろッ!?あれでこいつら全員ぶっ潰す!!」

 

どうやらフェリシアは地下水道の時にさやかとコネクトをしたときの状態のことを言っているようだ。しかし今のさやかは戦闘中、しかもアリナにご執心されているおかげでその余裕はあまりない。

 

「────────美樹さん!!」

 

今度は下の方からマミの声が聞こえてくる。何かあったのかと反射的そちらを振り向くと視界に飛び込んでくるマミのリボン。それを咄嗟に掴み取ったさやかはそのリボンを通じて自身の力が彼女に流れ込んでいくのを感じる。

コネクトが発動したのだ。

 

「ここは私に任せて!!美樹さんは魔女の方へ!!七海さんと環さんも援護をお願いできる!?」

 

「ええ!!」

 

「わかりました!!いきます!!」

 

そう言いながらマミはさやかとのコネクト効果で浮遊砲台と化したマスケット銃を量産し、それら全てをアリナに向かわせる。当然アリナも反撃として手のひらサイズのキューブを細かく分解し、それらを弾として掃射するが、マミの思考とリンクしているマスケット銃は彼女の指示一つでその軌道を変え、弾幕を潜り抜ける。

 

「つぅ…‥‥」

 

自身の懐まで入り込んでくる小物にアリナは険しい表情でそれを振り払おうとするが、小物ばりに周囲を飛び回り、少しでも防御に隙間を見せれば即座に弾丸から切り替わったビームを入れられ、行き手を阻まれる。

そこに槍や矢がさらに撃ち込まれ、アリナは防戦一方の状況に追い込まれる。

 

「…‥‥‥‥わかった!!」

 

わずかに悩む様子をみせたさやかだったが、決心すると即座に身を翻して急降下。鶴乃たちの元へ急行する。そしてさやか自身に向けられたフェリシアの手。それをさやかが掴もうとする。

 

「ちょっと待ったぁ!!」

 

掴みかけたさやかの手をなぜか代わりにフェリシアを抱えていた鶴乃が勢いよく掴み取る。突然のことにさやかは珍しく理解が追い付いていない様子で立ち尽くすが、コネクトはしっかりと発動し、彼女との間に力の流れが生まれるのを感じ取る。

 

「おおっ‥‥‥すごいパワーアップしたような感覚がするぅ‥‥‥!!」

 

「えっと・・・・突然どうした?」

 

一人勝手に盛り上がっている鶴乃に再起動したさやかが困惑した様子で尋ねる。

 

「あ、ごめんね。いきなり手掴んだりして。痛くなかった?」

 

「いや、別段そんなことはないのだが‥‥‥‥」

 

事実、割り込むようにしてきた鶴乃にさやかにはこれといった悪感情はない。あるとすれば、魔女の群れを倒しきれるかどうかであった。それを察したのか、鶴乃はさやかの見せる表情にお返しと言わんばかりに晴れやかな笑顔でVサインを見せる。

 

「だいじょぶだいじょぶ。なんていったってわたしは最強の魔法少女の鶴乃ちゃんだからね!!フェリシアだと勢い余ってここのヘリポートとかぶっ壊しちゃいそうだし、君は向こうの魔法少女をお願い。」

 

そう言いながら鶴乃は自身の得物である二振りの扇を取り出す。その扇はさやかとのコネクトとの影響か、全体的に巨大化しており、鶴乃の身一つなら余裕で覆い隠してしまいそうなほどの大きさを有し、先端からは鮮やかなほど燃え盛っている炎がさながら周囲に羽毛のような火の粉を蒔いている。

 

「…‥‥わかった。」

 

鶴乃の言葉にある程度の納得を得たのか、頷く様子を見せたさやかは再び上昇。離れたところで戦っているマミたちの方へ戻っていく。その背中をしばらく見つめていた鶴乃は魔女の群れと向き直る。

 

「あ、そういえばやけに静かだったからフェリシアのこと預かってもらうの忘れてた────」

 

思い出したようにフェリシアのことを探す鶴乃だが、どういうわけか既に彼女の姿は忽然と消えていた。あれ?あれ?と不思議そうにそのまま探していると離れたところにいるほむらと杏子のそばでおとなしくしている彼女の姿を見つけることができる。

 

「コイツのことは大丈夫だから盛大にぶちかませよな!」

 

「数が減ればその分対応がしやすくなるわ。せめて二体くらいは減らしてみなさい。」

 

フェリシアのことは大丈夫。それがわかった鶴乃は両の手に持つ扇で真上に円を描く。描かれた円はその内側で線と線をつなぎ合わせ、ただの円だったのが魔力を濃密に含んだ魔法陣を形成。続けざまに魔法陣から鶴乃の扇と同じような炎がほとばしると上空に向かって猛烈な勢いで火柱が立ち上がる。

そしてさながら火山の噴火とも思えてしまうほどの灼熱の炎がまるで意志を持ったようにうなりだすと、徐々に形をもたない炎が明確に何らかの形を取り始める。

 

「さぁ…‥‥行くよッ!!」

 

その鶴乃の掛け声と共に召喚された炎は自らの炎で翼を広げ鳥────不死鳥(フェニックス)と化す。鶴乃の炎から生み出された不死鳥は頭部と思しき部分から甲高い鳥の鳴き声を響かせるとその炎翼を羽ばたかせ一度大きく後退してから魔女に向かって突進を行う。

 

「やぁっ!!」

 

その突進を行う不死鳥に鶴乃は物怖じする様子を一切感じさせず乗り込み、その身に不死鳥を憑依させるように同化すると、不死鳥は体を構成する炎の輝きを一層強め、超加速をもって魔女に突撃を敢行する。

 

「熱風…‥疾風‥‥‥‥!!」

 

「あかしっく‥‥‥‥ばすたぁぁぁ!!」

 

不死鳥をまとった鶴乃の炎翼の羽ばたきは魔女を根こそぎ両断し、大爆発を起こして消滅した。燃えカスのように残った黒いススに転がっているグリーフシードを拾い上げた鶴乃は勝利宣言をするようにそれらを天高く掲げ、それを仲間たちに示した。

 

 

 




さっさんとコネクトした場合に限定条件が発生する魔法少女一覧
(なお伏せられている〇の数には文字数的に関係あり。)

深月フェリシア→某勇者王

巴 マミ→ ガンダム〇〇〇〇〇

佐倉 杏子→ 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇

暁美 ほむら→ 〇〇〇〇〇〇〇〇〇

〇〇〇〇〇→ 〇〇〇〇ハル○○

由比 鶴野→ 某風の魔装機神  NEW

十咎 ももこ→ 〇〇〇〇〇○ ヒント 剣を大きくさせ、いざ雷の速さまで

天音姉妹→ 〇〇〇〇〇〇〇 ヒント 音、声が必殺技で調律のやべぇ方。


NEW ○〇〇 → 〇〇〇〇〇〇 ヒント 勝負は一発!!赤と青のボタン、知ってる?

ヒマだったら探してみてね!!


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第68話 つくづく実感するわね

クロブで修正されたセブソ乗ってみてぇなぁ…‥‥‥


「どうでしょう!!これが最強魔法少女、由比鶴乃ちゃんの力なのだー!!」

 

魔女をまとめて葬り去ったことを腰に手をあて、ふんぞり返るようにしている鶴乃。事実、魔女を複数体をまとめて、それも一撃で倒すことは魔力の消費の面も鑑みれば至難の業である。

 

「というより、さやかちゃんの力がホントにすごいねって言った方がいいのかな?なんだかいつものコネクトとは違う感覚がしたし!!」

 

どうやら直観的にさやかの力が普通の魔法少女のソレとは違うことを感じたのかそんなことを口にする。その様子を遠巻きに見ていた杏子とほむらは実際その通りだと思いながらもそれを語ったり表情に出すようなことはしなかった。

 

「おいアンタ、はしゃいんでるとこ悪りぃんだけどこっち来てくれないか?」

 

「? 何かあったの?」

 

「‥‥‥‥状況が変わった。それだけね」

 

代わりに自分を呼び寄せてきた杏子に首をかしげながら駆け寄り、その詳細を聞くとほむらがそう答える。端的な言葉だったためにあまり要領を得ないようにもう一回首をかしげる鶴乃だったが、警戒しているような目線を向けている方向を見ると、その表情は一転して目を丸くし、驚きのものに変貌する。

 

視線の先にはこの騒ぎを聞きつけてきたのか黒いローブで全身を覆い隠した黒羽根の構成員。そして、その彼女らの先頭で率いるように立つ梓みふゆの姿があった。

 

「み、みふ…‥‥ゆ‥‥‥‥?」

 

 

その姿を見た鶴乃は茫然とした様子で彼女の名前を零した。その姿はさながらずっと行方不明だった友人と再会したかのようなものだった。

 

「鶴乃…‥‥残念だけど、今のみふゆは敵よ」

 

「え‥‥‥‥?」

 

いつの間にか戦闘を中断していたのか、戻ってきていたやちよが阻むように槍を鶴乃の前にかざす。その表情は苦悶と困惑が入り混じっているような険しいものだった。

 

「そうですか……………彼女から聞きましたか」

 

そう言って残念そうな顔をしつつ細めた目線を向けるみふゆ。その視線の先にはやちよが抜けた今でもアリナと戦闘を続けているさやかの姿があった。

 

「ええ、その通りです。今のわたしはマギウスの翼、ウワサを守る立場の魔法少女。つまるところ、ウワサを壊して回るあなた方の敵です。」

 

「そんな‥‥‥‥どうして‥‥‥‥?」

 

「人を攫って、傷つけて…‥‥そんなことをして、本当に解放とかいうものにありつけるの!?」

 

「そんなことをしてまで、ワタシは縋りたいんです。マギウスの掲げる理想には、それだけの希望があるんです」

 

「……………あのさぁ、一つ聞いていいかぁ?」

 

やちよとみふゆの言い争いに発展しそうとなったところに待ったをかけるように声が響く。

声を上げたのは、頭を抱えるようにしてため息をついている杏子だ。

 

「まず、アタシとしてはアンタらマギウスの翼を信じるつもりはない。なぜならアンタらの言っていることが胡散臭ぇからだ。で、その胡散臭さを助けちまっているのが────」

 

杏子はも一つ深いため息をつくと、目線をみふゆの後ろで控えている黒羽根たちに向ける。

 

「テメェら黒羽根が、その解放について詳しいことを何一つ知りやしねぇってことだ。まぁ、全員が全員そうじゃねぇってことは普通にあり得るが、アタシが初めて会った時の奴らなんか解放について詳しいこと聞こうとすると揃いも揃って顔を見合わせやがった。

まるで聞かされていねぇとでも言うようにな。そこのアンタらもまさかとは思うが同じ口って訳はねぇよな?」

 

肩に槍を置き、トントンと軽く叩きながらそう問いただす杏子。棒状の菓子を咥えながらのそれは気性の荒い、粗暴な人間のそれと重なったのか黒羽根たちの間で動揺が広がる。

 

「申し訳ありませんが、それはお答え────」

 

「悪りぃんだけど、今のアンタには聞いてねぇんだわ。で、実際どうなんだ?ただ単にアンタら自身は知らねぇのかそれとも話せないのか。コイツの差はだいぶ大きいぜ?グループに対する信用問題としちゃあ、な」

 

代わりに答えようとしたみふゆを声で遮りながら杏子は引き続き黒羽根たちにそう問いただした。

 

「そ、それは…‥‥」

 

「‥‥‥‥みなさん、彼女の言葉に耳を貸す必要はありません」

 

何人かが動揺からか言いよどむような様子を見せたが、みふゆの鶴の一声により黒羽根たちが落ち着いた様子を取り戻していった。

 

「…‥‥‥だーからそういう周りに言おうとする様子見せねぇから胡散臭ぇにおいが取れねぇんだって言ってんだよ。アホなんじゃねぇの?」

 

呆れたようにため息をつき、両肩を竦ませて幻滅したという態度を見せる杏子。その貶すような態度に黒羽根の何人かが、その黒ローブの下に隠した素顔を怒りで歪ませる。

 

(杏子の言い方はともかく、おおむね私もそれには同じ意見ね)

 

杏子の隣で静観していたほむらだが、内心ではそのように思っていた。なぜなら、少し前まで自分自身がそうだったからだ。ずっとまどかやそれまで出会ってきた人たちを救おうと幾度となく同じ時間を繰り返してきた。厳密に言えば時間を巻き戻していたわけではないらしいのだが、今になってはそんなことはどうでもいい。

はじめこそ、それこそ時間を操る力を手にしたときはなんとでもなるはずだと思った。

だけど、結果は数えきれないほどの失敗を重ね続け、次第に一番大事な友達であるまどかさえ助けられればいいとまで精神が摩耗していった。

摩耗した精神は無駄を極力嫌い、次第に誰かと会話し、理解してもらうことすら放棄するようになった。

それが余計な悪循環を生んでしまっているとは知らずに、間違いを重ね続けた。

 

 

(魔法少女の解放。それはおそらく避けられない魔女化から逃れることか、もしくはソウルジェムとして固形化された魂の解放のそのどちらか。だけどどうであれ、その真実はほとんどの魔法少女に知られることはない。言ったとしてもそれが理解されることは極めて少ないでしょう。でも、だからといって何も声を挙げるようなことをしなければ一ミリたりともその行動理念が理解されることもない)

 

『信じるさ。アンタの言葉に、嘘はない』

 

(つくづく実感するわね。話して、それをわかってもらうという大事さが)

 

いつぞや言われた言葉は、当初は化けの皮がいつはがれるかと高を括っていたが、その言葉の主は予想に反しそれが嘘ではないとわかりきっていたかのように信じ続けた。そしてそこに生まれた信頼はまた別の誰かからの信頼に繋がり、かつて起こっていた真実を伝えたが故の悲劇すら乗り越えるまでに繋がった。

 

(ま、今まで話してもまるで理解されなかったことを顧みると物分かりの良すぎるところに救われている面も大きいのでしょうけど)

 

決してその感謝を本人に語ることはないだろう。あれだけはじめは警戒していたくせに、今更感謝の言葉を面と向かってするのはどうしても気恥ずかしいというのが勝ってしまうからだ。だから私は続けることでその信頼に応えようと思う。よく知る三人と二度と目の前に現れることはないと直感できる見知らぬ理解者であるアナタと共にこの先の未来を生きることで。

 

…‥‥‥それはさておき黒羽根の魔法少女たちを見ていると、その多くは魔力の強さがあまり感じられない────いわゆる弱い魔法少女で構成されている。ぽつぽつと強い魔力をもっているのも何人か見受けられるが、ほむらの見立てでは黒羽根たちは単独で魔女を倒すのが厳しいと感じていた。魔女が強い神浜市では余計に討伐は困難を極めるだろう。

 

(‥‥‥‥あの程度なら固有魔法に気を付けさえすれば問題はないわね。なら上で戦っている二人の様子は‥‥‥‥)

 

何気なく上に向けた視線をほむらは数瞬固めたのちにすっと元の高さまで戻した。

 

「悠長にしているところ悪いけど、少しいいかしら?」

 

「‥‥‥‥今度はなんなんですか?」

 

突然会話に入ってきたほむらにみふゆは険しい形相でそれに応じる。少なからず、杏子に自分たちが貶されたことに腹を立てているのだろう。

 

「そこのおとぼけ姉妹がこの前言っていたのだけど、ソウルジェムが黒く濁り切ったときに生まれる存在‥‥‥あなたたちの言葉でドッペルって呼んでいるのはマギウスの翼にとって解放の象徴────そうらしいわね?」

 

「‥‥‥‥はい。その通りです。あれこそが魔法少女解放の────」

 

「その解放の証、また負けているわよ?しかも貴方たちにとってグループのトップとも呼べる人の奴が」

 

「はい?」

 

ほむらの言葉に目を丸くして固まるみふゆ。次の瞬間みふゆやほむらたちから離れた場所に、衝撃音とともに土煙が巻き上がる。

 

「なっ────────」

 

驚愕の表情と一緒に額から冷や汗のようなものを浮かび上がらせるみふゆ。

嫌な予感が脳裏に浮かび上がる。

ほむらの言葉がそっくりそのまま事実であれば、今飛ばされてきたのは────

 

 

「あああああああッ!!!!くそっ、くそっ、くっそぉぉぉぉぉッ!!!!」

 

そのような咆哮と共に土煙を鬱陶しいと思うように払い除けながら現れたのはアリナだ。しかしその表情は歪なまでに歪みきり、始めみせていた加虐的な笑みはどこへやら、今は両肩で息をしながら満身創痍という様子だった。

彼女の服装も端々が切断されていたり、トレードマークになっていたのだろう列車の車掌のような帽子もなくなっており、見るも無惨な状態だ。

 

「どうやらなんとかなったみたいだな。GNフィールドがうまいこと作用してくれた」

 

「なんとかって……………ほとんど完封しておきながらどの口が言うのかしら…………私なんて途中から僅かな援護射撃くらいしかしていないわ」

 

「触れたら何が起きるかわからない代物相手には完封するほかないと思うのだが」

 

「まぁ…………それもそうね。私もあの油絵の絵の具まみれになるのはごめん被りたいわね。」

 

そして対照的にアリナが立っていた女性像の天辺にはGNバスターソードⅡを振り下ろしたあとのような恰好のさやかとその背後で片膝をついてマスケット銃を狙撃銃のように持っているマミの姿があった。

 

「アリナさん!!大丈夫ですかッ!?」

 

「アイツ…………アリナのドッペルの中を平然と突っ切ってきやがった‥‥‥‥なんなのよ、コイツ‥‥‥‥!!!普通じゃない…‥‥!!」

 

アリナ自身、まだ戦う気ではいるようだが肝心のさやかとマミにダメージを受けた様子はない。前々から天音姉妹からドッペル相手に競り勝てる魔法少女がいると聞かされていたが、よもやマギウスであるアリナのドッペルすら退けるほどの実力者にみふゆは戦慄にも似た感覚を覚える。

 

(それにここにいる相手の魔法少女のみなさんは全員が相当な実力者。やっちゃんもそうだし鶴乃もそう。なにより見滝原の魔法少女たちの底が見えません。人数ではこちらが上回っていますけど、おそらく余裕でひっくり返される‥‥‥‥!!)

 

そこからのみふゆの判断は早かった。最悪全滅の可能性があると考えるや否やすぐさま自身の固有魔法である『幻惑魔法』を発動させ、その予備動作のようなものである半透明の満月がみふゆたちと黒羽根を覆い隠すように浮かび上がる。

 

「ッ…‥‥待ちなさいみふゆ!!」

 

「やっちゃん‥‥‥‥ワタシは絶対に諦めません。魔法少女が生きていくには、これしか方法がないんです‥‥‥‥!!」

 

それにいち早く気づいたやちよが止めようと走るが、その声は届かずみふゆは自身の意志が固いことを彼女に告げて姿を晦ました。さやかのイノベイターとしての鋭い知覚が姿を消した彼女たちがその場にいることを察知していたが、それも数秒のことですぐにその気配すらも消えていった。

 

(‥‥‥‥どうやら遠距離への移動を可能とする魔法を持っている人物がいるようだ。となるとそれを活用したピンポイントの強襲も予想されるが、今までの間にそれをしてこなかったということは何らかの制限があると考えるのが筋か?)

 

みふゆの魔法で姿が消えてから幾ばくか間があってから気配がなくなったことからあの黒羽根の中に移動系の魔法を持っている人物がいると推察するさやか。とはいえそれ以上考えることはできないため、いったん女性像から降りることにした。

 

「ま、勝ちは勝ちなんじゃねぇの?ウワサの結界ぶっ壊して目的は達成した上にいくらか魔女潰してグリーフシードも手に入れたことだしよ。」

 

「そう、ね‥‥‥‥」

 

マミを連れて降り立ったさやかが目にしたのはほとんど目的は達成したことを喜ぶ杏子とどこか上の空のような様子でいるやちよの姿だった。ある程度さやかから聞かされていたとはいえ、仲間の魔法少女がマギウスの翼に加入していたことにショックを隠し切れないのだろう。その胸中は量り知ることができない部分もあるだろう。鶴乃も似たような心境なのか顔を俯かせて沈痛な表情をしていた。

何か声をかけてもいいが、結局のところこれはやちよたちの問題だ。事情を知らないにも等しいさやかが言ったところでなにかいい方向に傾くとは思えなかった。

 

「‥‥‥‥おつかれ。まさかこんなところで早々に敵の首魁とめぐり合うなんてね。」

 

「あ、あぁ…‥‥‥そうだな。」

 

さやかが戻ってきたことに気づいたほむらが労いの言葉を掛ける。まさかほむらがそういった言葉を贈ることのできる人物とは思っていなかったのかさやかは変な反応をしてしまう。

 

「なにその顔。まさかとは思うけど、私がお礼一ついえない人間だとでも思っていたのかしら?」

 

「いや、そんなことは…‥‥」

 

変な反応を見せたさやかにほむらは怪訝な顔をされてしまうがすぐに取り繕ってなんとか悟られないようにする。少しの間にらまれてしまうが、なんとかその場を乗り切った。

 

「あの、さやかさん!!」

 

苦笑いを浮かべていたさやかに今度はいろはから声を掛けられる。

 

「いろは?どうかしたのか?」

 

「…‥この前、水名神社でさやかさんがウワサの本体を倒してくれたっていいましたよね?でも…‥本当は私が倒していたんですよね。」

 

「…‥‥まさか、思い出したのか?」

 

驚くようなさやかの言葉にいろははどこか気まずそうな表情をしながら静かに頷いた。どうやら自分があの時発現したドッペルでウワサを倒したことを思い出してしまったらしい。

 

「その…‥‥気分とかは大丈夫か?あんなものが突然自分の中から出てきたなんて、あまりいい気分ではないと思うが…‥‥」

 

難しい表情を浮かべ、言葉を選ぶように慎重にいろはの体調を心配するさやか。そのことにいろはは少しだけ目を丸くすると、軽く噴き出したように笑みを浮かべる。

 

「ふふっ‥‥‥やっぱりさやかさんは優しいんですね。色々話さなければならないこともあるんでしょうけど、一番最初に私の気分の心配をしてくれるなんて。」

 

「‥‥‥‥変、だったか?」

 

「いいえ、むしろありがとうございます。でも気分とかは全然大丈夫です。ちゃんと受け入れられてはいますから。」

 

「受け入れる‥‥‥か。」

 

いろはの言葉にわずかに曇った表情を見せるさやか。マギウスの翼が魔法少女の解放の証として称するドッペル。そのドッペルの力は確かにさやか目線で見てもかなり強力。使いこなすことができれば戦局を一気に覆すこともできなくはないだろう。しかしドッペルの力は曲りなりにも魔女の力を使っている。魔力の消費を考える必要性がないというのは聞こえはいいが、どうにもそのまま使い続けてもいいのだろうかという疑念の心がさやかの中で沸き立っていた。

 

「?…‥‥さやかさん?」

 

考え込むさやかの様子を不思議に思ったのか首をかしげながら声をかけるいろは。その声でハッとしたさやかはすまない、と笑みを見せて取り繕う。

 

「あの〜…………私はこれからどうすればいいんでしょうか〜…………?」

 

ふとしたタイミングで恐る恐るというような声でさなが声を挙げる。全員が思い出したように彼女の方向へ振り向くとびっくりしたのか自身の盾に身を隠してしまう。

その後ろではアイの姿もあった。

 

「そういえば、結局どうするのかは互いに話し合ったのか?」

 

『結論から言えばほとんど流れてしまったようなものです。この通り、さなは外へ出ることができましたが、同時に私が消える理由も無くなってしまいました。』

 

「だから、ひとまずはこのまま現状維持、って形でいようかなって思います…………アイちゃんとはまだ色んなものを見ていきたいから。」

 

「さなちゃん……………」

 

「そうか………それがお前たちの選択なら、私からは言うことはない。」

 

二人の選んだ未来に安堵の表情を見せるいろはと称えるように朗らかな笑みをするさやか。

 

「って、なんだかいい雰囲気が流れ出しているところに水を差すようで悪いけど問題はまだいっぱいあると思うのだけど?」

 

そんな雰囲気の中、やちよが不服そうな表情で割り込んでくる。

 

「あぁいや、それはちゃんとわかってはいるのだが……………アンタの方も大丈夫なのか?」

 

「みふゆのこと?心配しなくても大丈夫よ。前にもこのことで言い争ったから。慣れた、とまでは言わないけどね。」

 

そういうやちよだが、その表情はどこか焦燥感が漂っているようにも見えた。それについて言及してもよかったが、下手に刺激をすると藪蛇をつつくような感覚がしたさやかはそうか、と一言だけを返す。

 

「まず…………どうするのこの…………AI?でいいのよねあなた。会話の様子からはだいぶ知能が高いみたいだけど。」

 

『ありがとうございます。ですが私の呼称についてはお好きにしていただいて構いません。さなからは固体名であるアイの名前をもらってはいますが、それを周囲の人間に強制するつもりはありません。』

 

「そう、なら好きに呼ばせてもらうわ。あなたには聞いておきたいことがたくさんあるわ。とはいえ今日はもう遅いからあとにしようと思っているんだけど。」

 

そういうとやちよはさやかたち見滝原組の方に振り向いた。

 

「あなた達って明日も神浜に来れたりするのかしら?」

 

「明日?」

 

やちよからの質問にさやかたちはいったん顔を見合わせる。

 

「明日は学校は休みだから来れないことはないけど‥‥‥‥見滝原からは神浜は日帰りがギリギリなくらい離れているのよね…‥‥」

 

「だから現実的な手段としてはもう時間的にも遅いのだし、このまま神浜市のどこかで一泊することかしら。」

 

「え、それ大丈夫なんですか?その‥‥‥ご両親とか‥‥‥‥」

 

『家に家族いないし』

 

 

マミとほむらが神浜市のどこかで宿泊することを考えているとことにいろはは当然の疑問を投げたが、妙に迫力の込められたマミ、ほむら、杏子の言葉に何やら踏み込んではいけない領域であることを察したのかそれ以上は口を噤むことにした。

そしてさやかは‥‥‥‥一人神妙な面持ちで携帯を握ると意を決したのかどこかに電話を掛ける。

その場の全員が固唾を呑んでその光景を見守る。

 

「‥‥‥‥‥」

 

少しすると電話が済んだのかため息を吐きながら携帯を懐にしまうさやか。そして────

 

 

「…‥‥‥‥『お父さん許しませんよぉっ!!』とのことだ。」

 

 

流石にこれ以上の夜遊びは許されなかった。

 

 

 

 



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第69話 顔を見てみたいわね

アイをターミナルユニット化させる理由がまるで思いつかん。


「ごめんね、さやか。お友達とお泊りの予定があったんでしょ?あの人ったらさやかがどうにも心配だったらしくて……悪く思わないであげてね。」

 

「いや、気にしなくていい。そもそも泊まりの約束自体突然のことだったし、最近帰りが遅くなりがちになっているのは自覚しているからな。」

 

神浜市から空を飛んで帰宅したさやか。そんな彼女を理多奈はまさかそんな遠いところから空を飛んで帰ってきたとは知らない様子で出迎え、予定を崩してしまったことを詫びる。

 

「さやかも高校生になったのなら多少はあの人も目をつむって自由にさせてくれると思うんだけど……やっぱりあの人もホントは寂しいんでしょうね。」

 

「ハハッ……そう思っておく。」

 

理多奈の言葉で苦笑いを浮かべながら階段を上って自室に向かうさやか。

 

「……父さん?」

 

二階に上がって自室に向かおうとしたところで扉の近くで腕を組んで壁に寄りかかっている慎一郎の姿が見えてくる。

 

「おう……悪かったな。」

 

「気にしていない。というより私的にはそんなところで居座っていることの方が気になるのだが。顔もなんだか神妙なソレだ。何か用か?」

 

「……出てたか?」

 

「ああ」

 

さやかが不思議そうにそう答えると、慎一郎は困ったような表情を見せながら後ろ髪を触る。

 

「……いやまぁ……お前もおしゃれとかに気ぃつかうようになったんだなってよ。」

 

「おしゃれ……?」

 

慎一郎の言葉に首をかしげているとおもむろにさやかの右手を指さしてくる。その様子はまるでお見通しだとでも言っているようだった。

 

「右手の中指、なんかマニキュアみたいなのついてんぞ。中指だけつけるってのも変な話な気がするけどな。」

 

そういわれてさやかは初めて自身の中指になにか変な紋章みたいのが刻まれていることに気づく。正直言ってさやかに心当たりはなかった。

 

(こういうのをつけた覚えはないのだが……とはいえ下手に否定するのもな……もしかしたら魔法少女になったことと関係があるかもしれないしな……)

 

とりあえずさやかは適当に話を合わせることにして、素直に自室で休むのだった。ちなみにマミに聞いてみたらやはり爪につけられた模様はキュウべぇと契約した魔法少女の証とのことだった。

ちなみについでにみかづき荘の様子も画像で見せてもらったのだが、人数が人数だったから軽い宴会状態になっていた。

 

(いいな、私もこういうことをやってみたい……今回は機会に恵まれなかったが……)

 

いかにも年頃の学生らしい出来事にさやかはまた今度と思いを馳せるのだった。

 

 

 

「おう、またどっか行くのか?」

 

「ああ」

 

次の日、準備を整えたさやかが玄関先で靴ひもを結んでいるところに慎一郎が声をかけてくる。

 

「しっかし最近はよく出かけるようになったよな。大体おんなじメンツで遊んでいるのか?まどかちゃんとかこの前会ったマミちゃんとか。」

 

「いや、そういうわけではないが……」

 

どうやらここ最近出かけることが多くなっているのを慎一郎は友人と遊んでいると思っているようだ。変に嘘をつくのもどうかと思ったさやかは素直に首を振った。

 

「……ま、俺からお前さんに特に言うことはねぇんだけどよ。あんまり母さん泣かせるようなことはするなよ?」

 

「分かっている。」

 

(こればかりは二人を巻き込むわけにはいかないからな)

 

そう思いながら靴紐を結び終えたさやかはおもむろに立ち上がり、玄関の扉を開け放つ。

 

「さやか」

 

「なんだ?」

 

出ようとした直前再び慎一郎から声を掛けられ外へ出ようとした足を止めて振り返る。そこには先ほどまでとは打って変わって神妙な顔つきをしている彼の姿があった。

 

「なんかあったら、すぐに言えよ。何があっても俺たちはお前の味方でいるからよ。」

 

「…‥‥‥わかった。ありがとう。」

 

慎一郎の言葉に心底からありがたいと思うようにさやかは表情をほころばせて玄関の外へ出かけて行った。

 

(もしかすると、父さんは察しているのかもしれないな。本当は遊ぶために出かけているわけではないことを。)

 

 

 

 

 

「お、来た来た。」

 

神西中央駅まで電車で移動し、改札口をくぐったところで杏子から声がかけられる。顔を向けてみるとそこにはマミとほむらの姿もあった。どうやら自分のことを迎えに来てくれたらしい。

 

「昨日は一緒に行けなくてすまなかったな。送られてきた画像、結構楽しんでいたように見えた。」

 

「あら、もしかしてうらやましいとでも思ったのかしら?」

 

「…‥‥‥正直に言えばな。」

 

煽ってくるような言葉づかいをしてくるほむらにさやかは苦笑するように乾いた笑いを見せる。

 

「もう、暁美さんたらそんなこと言ってしまったら美樹さんがかわいそうでしょ?だからまた今度、別でお泊り会をしない?鹿目さんも誘って。」

 

「名案ね。」

 

「え、お前が反応すんの?つーか反応はっやっ」

 

咎めるように口をはさんだマミが今度はまどかを入れた自分たちで似たようなことをやってみようと提案すると、直後にほむらが手のひらを返したようにその代案に乗っかる。その顔の分厚さと反応の速さに提案したマミや、見ていた杏子まで困惑した表情を見せる。

 

「‥‥‥‥ともかく、マミ先輩の案には私も賛成だ。落ち着きが見え始めたら、という前提になりそうだが。」

 

「そうね…‥‥こればっかりはそうよね。マギウスの翼に対してどうしても後手に回りがちになってしまう以上そんな気が抜けるようなことはしずらいわよね。」

 

「ま、その状況をどうにかすんためにあのアイって奴への質問会みたいなのをやるんだろ?早く行こうぜ。」

 

難しい表情で頬に手を当てて思い悩むマミに杏子が急かすように移動を促す。アイはウワサでありながらマギウスに対して反抗する様子を見せた稀有な存在だ。こうしてうまいこと救出することができたことでなにかマギウスに関して知ることができるかもしれないということで彼女に対する質問会のようなものが行われることになったのだ。

 

 

そして────

 

 

 

「……そこにいたのか。」

 

『はい。やはり私は実体を持っているとはいえ、電脳体の身です。こういう場所にいるのがふさわしいと思われます。』

 

みかづき荘にやってきたさやかたちだったが、リビングに招かれ目に飛び込んできたのは置かれているテレビの液晶に移りこんでいるアイの様子だった。彼女のサガなのかどうなのかは定かではないが、アイ自身がここがいいと言っているのであれば必要以上に言及することもいらないだろう。

 

「まぁ‥‥‥支障はでないみたいだから、このまま進めましょうか。この前スーパーでセールがあったから飲み物類とか買い込んだのだけど…‥‥何かリクエストはある?」

 

テレビから一番離れたテーブルに座っているやちよから飲み物のリクエストを尋ねられ、一瞬驚きの反応を見せるが、彼女の厚意を無下にするのもどうかと思うため、お茶をはじめとする適当なものをお願いして各々好きな場所に腰を下ろす。

 

『では始めさせていただきます。とはいえある程度はどのような質問が来るのかは予測してはいますが‥‥‥何から聞きますか?』

 

「じゃあ‥‥‥私からいいですか?」

 

アイの音頭で始まった質問会。一番最初に手を挙げたのはいろはだった。

 

「マギウスの翼を率いているマギウスの御三方はこの前の魔法少女の他に誰のことを言っているんですか?」

 

『アリナ・グレイの他にマギウスと称されているのは、里見灯花と柊ねむという魔法少女です。』

 

「うそ……!?」

 

ういの友人であるはずの二人がマギウスの翼のトップであるという事実にいろはは声を大きくしながら驚愕を露わにする。同じようにいろはからその二人の名前を聞かされていたさやかも目を見開く。

 

「環さん……今の二人のこと、知っているの?」

 

「え、えっと……その……」

 

あからさまに知っているという反応をしたいろはにやちよから聞かれるが、まだ困惑したままなのか、いろははしどろもどろになるだけで思考の整理がつけられていないようだ。

 

「……その二人は、彼女が探している妹、環 ういと病院で同室だった人物だ。何か彼女に関して知っていることがあるかもしれないと思ってはいたが……」

 

「美樹さんがそれをどうして知っているってことはともかく、その二人。マギウスなのよね?ってことはつまり────」

 

「確実に魔法少女でしょうね。しかも今回の騒動の主犯格である可能性も否定できないわ。」

 

混乱して答えられないいろはに代わってさやかがその二人について答える。しかしマギウスの翼────それもその首魁と言えるマギウスに名を連ねているということは彼女たちは魔法少女であることに他ならない。

 

「いろは。一応聞いておきたいのだが、里見灯花と柊ねむが魔法少女だと知っていたか?」

 

さやかのその問いかけにフルフルと首を横に振るいろは。どうやら彼女すらもその二人が魔法少女として契約していたことは知らなかったらしい。

 

「ん~……ちったぁ腑に落ちねぇとこもあるけどさ、とりあえず話進めようぜ?そいつらの能力とかは知っていることがあるのか?」

 

『里見灯花についてはわかりかねますが…‥柊ねむ、彼女についてなら話すことはできます。直接的な表現でいいますと、彼女こそがすべてのウワサの制作者です。」

 

話を進めるために杏子が二人の保有している能力を尋ねるが、その返答は余計にいろはを混乱の渦に引き込むことになった。妹の手がかりを知っているかもしれないと思っていたら、まさかの騒動の主犯格、もしくは首謀者である可能性すら出てきたのだ。

 

「となるとその柊ねむを抑えることができれば実質的に活動不能に陥らせる事が可能になるということか……」

 

「ねぇ貴方、マギウスの翼の本拠地のような場所は知らないの?」

 

『申し訳ありませんがそこまでの記録はありません。私が私として自意識を確立したときにはすでにあの電波塔の結界の中でした。』

 

やちよがアイにマギウスの翼の本拠地の場所を聞き出そうとするが残念なことに彼女にそこまでの活動記録のようなものは残されていなかった。

 

「そう簡単にはいかないかぁー……」

 

「あいつらの居場所、わかればすぐにぶっ潰しに行けるってのに……!!」

 

「どのみちわかったところで簡単にはいかないと思うわよ?」

 

「それには同意見ね。」

 

本拠地の情報を知ることができなかったことに鶴乃とフェリシアが残念そうにしたり、犬歯をむき出しにしてうなり声をあげたりとそれぞれ反応を見せるが、対照的にマミとほむらは知ったところで楽にはならないと厳しめの意見を出す。

どうしてと言うように鶴乃とフェリシアが顔でそれを示すと、マミとほむらが言うまでもないというように同じ方向に視線を向ける。その先にはさやかがいた。

 

「私も共犯と言えば共犯だけど、前回隠し玉とも呼べるドッペルをこてんぱんにしているわ。それも翼にとってトップともいえるマギウスのね。」

 

「おそらく今回のことでマギウスの翼は警戒度をかなりあげるでしょうね。本拠地も言わずもがな、ウワサの本体に対する防衛だって強化される恐れもある。相手は実力はまちまちな魔法少女が多かったけど、数だけは圧倒的に向こうが上よ。最悪人海戦術で押し切られることもあるわ。」

 

「じゃあ……オレたちは仲間を増やさなきゃいけないってことなのか?」

 

「それもそんなに簡単な話じゃないのよね……」

 

フェリシアの言葉にマミは難しい表情を浮かべて肩を竦める。基本的に他の魔法少女を仲間にしようとするとどうしてもある程度は情報を伏せた状態でないと引き込むことは厳しいだろう。さやかももしかしたら常盤ななかのところなら幾分腹を割った状態で話ができるだろうが、それでも可能な限り嘘をついたまま抱え込みたくはないのが正直な自分の心情だった。

 

「……考えてもしょうがないことね。ところでマギウスって羽根の連中とは目的が違うのかしら?あのアリナ・グレイは羽根と一緒くたにされることをよく思っていなかったそうだけど。」

 

『いえ、マギウスと羽根にも根底にある部分に相違はありません。魔法少女の救済…‥彼女らの計画がなんの障害もなく、つつがなく進められればそれが成し遂げられるのは事実でしょう。』

 

「なら、アイちゃんはどうしてそれに反抗するようなことを言ったの?もし、さやかさんが無理矢理結界を破壊してまで割り込んでこなかったらあの人に消されていたかもしれないのに……」

 

『彼女らの計画には、所謂人間の悪意による影響がまるで加味されていないのです。』

 

アイの話したことにいまいち理解が追い付かないのかそろって首をかしげる一同。突然人間の悪意がどうとか言われてもその言葉に理解を間に合わせるのは極めて難しいだろう。さやかも例外ではなく怪訝な顔を浮かべて彼女の次の言葉を待っていた。

 

『まず大前提として、彼女らマギウス────少なくとも里見灯花と柊ねむの二人は魔法少女の存在を明るみに出すつもりでいます。』

 

それを聞かされたさやかたちの反応は大きく二つに分断された。一つは鶴乃やフェリシアにいろは達、そしてマミや杏子といったその場にいる人間の大部分が見せた不思議そうな表情、まるでそれになんの問題があるのかといった具合だ。そしてもう一つはその反対、その言葉の意味を機敏に察知したのか危機感を抱き、険しい表情でいるやちよ、ほむら、そしてさやかの三人だった。

 

「魔法少女の存在を明るみに、ですか……?」

 

「それに一体なんの意味が────って、そういうわけではなさそうね。」

 

いろはとマミが首をかしげるが、さやかの表情を見るとすぐに浮かべていた不思議そうな表情を引き締め神妙な面持ちで見つめ始める。

 

「その顔を引っ込めるのならほむらか彼女を見てからのほうがいいと思うが……」

 

マミの言葉に思わず苦笑いを見せるさやかだが、そんな彼女をマミは笑顔でいいえ、と否定する。

 

「貴方は要領がよくて賢い人よ。それこそ私よりずっと。いつかの廃墟でもそうだったんでしょ?」

 

「なんだ気づいていたのか……人が悪いな、先輩も。」

 

「あの時は先輩としての建前もあったから聞かなかったけど、何より貴方は他人をやたらむやみに不安がらせるようなことは言わないでしょ?」

 

「まぁ‥‥確証もないことを言って下手に混乱を生みたくないという理由だけなのだが……いや、これ以上言い訳を並べても話が進まなくなるだけか。」

 

困った笑みを浮かべるさやかだったが、諦めたのかわずかにため息をついて肩を上下させると佇まいを直して脱線した話を戻そうとする。しかし何やら空気がおかしなことになっていることに気づいたのか、不思議そうに周りを見渡すさやか。

 

「その、なんていうか巴さんはさやかさんのことを本当に信頼しているんだなって思って……」

 

「あら~、環さんも別に私に対してかしこまらなくってもいいのよ?一応同い年ではあるんだし、下の名前で呼んでもらってぜんぜん構わないわよ?」

 

いつのまにか動揺から復帰したのかいろはがほえーっと感心したことに照れくさいのかわずかに顔を赤くしながらそう返すマミ。

 

「なんだか妙な雰囲気になっている……!?」

 

「とりあえず、そうなったのは貴方のせいよ。」

 

驚愕といった顔をしているさやかにぴしゃりと言いつけるようにさやかのせいだというほむらにショックを受けるさやか。

 

「まったく、話が進まないって自分で言っておきながら何をしてるのだか……それで?貴方も一応はアイが言わんとしていることを察せてはいるんでしょ。」

 

「……ああ。漠然とだが、魔法少女の存在を明るみに出すことに対する忌避感のようなものは感じる。」

 

「んー……アタシはそれをされっと魔法少女の数が増えてグリーフシードの数が足んなくなってめんどくせぇなって感じるくらいで……いや、十分にやべぇな。やっぱだめだわ。」

 

確認してくるほむらに頷いていると杏子が手に顎を乗せて考え込むようにしていたが、少しすると魔法少女が増大すると自身の稼ぎも減少することに気づいたのかすぐに手のひらを返した。

 

「そっか……魔法少女の存在を公にするってことはこの先魔法少女の人数も増えちゃうってことだし、魔女の数にも限りがないわけじゃないから……もしかしなくても待っているのは死活問題ッ!?」

 

「あと考えられるのは魔法少女同士でグリーフシードをめぐっての争奪戦。最悪戦争状態と似たような環境に変貌する可能性もある。」

 

「戦争というより、一時的な共闘はあれ実質的に本当の意味での味方がいなくなって、全員が敵になるバトルロワイアルのような形になるでしょうね。まったく、そんな馬鹿なことをしようとする奴の顔を見てみたいわ。絶対に周りのことをろくに考えようとしない子供みたいな奴なんでしょうけど。」

 

次々と魔法少女の存在を明るみに出すことに対する危険が羅列されていく。

特にほむらの言葉は辛辣そのものであり、いかに彼女が怒っているのかはわかりやすいだろう。

 

「あ、あはは……」

 

そんな中、いろはは苦笑いを浮かべるだけで何も言葉を発することができなかった。

 

(言えない……私の記憶が間違っていなければあの二人はまだ小学生なんて……!!)

 

内心顔を真っ青にしていろはは祈る。願うことならこのまま声がかけられることなく時間が過ぎていきますようにと。

 

「あ、そういえばいろは、あの二人について何か知らないか?君の妹と同室だったのならもしかしたら見舞いとかで顔を合わせていたりはしていないのか?」

 

さやかさーーーーーーーんッ!?!?

 




最近ギャグくさい感じで話を占めるのがクセになってきたな……………
やっぱりまどマギ的にギャグくさい終わりはNGかね?


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第70話 悪魔か、コイツ

うれしいことにおきにいり数が先日2000人を超していました。
こんなまどマギにあるまじき鬱な様子がなくガンダムしかない作品に高評価やお気に入りしてくださる方々に感謝しかありません。

多分これからもこの作品はガンダムに向かって邁進をしていくと思います。

色々とネタに走ることしか知らない作者ですが、これからもご愛読していただけたら幸いです。


「うーん…‥‥決しておいしくない訳ではないのだけど…‥‥」

 

「可もなく不可もない。この一言につきるわね。」

 

「量だけはいっちょ前だよな。だけど味はごく普通な上に魔法少女割とかいうコスト度外視もいいところな部分もあるせいなのが相まってマジでいろはが微妙な顔してた理由がわかるぜ。」

 

「まさしく五十点か…‥‥申し訳ないが。」

 

「んぎゃぁ~ッ!?やっぱりかぁぁぁぁぁ!!!!」

 

コトリと箸やレンゲを置いたさやかたちからの微妙な顔をしながらの批評に悲痛な叫び声を挙げながら頭を抱える鶴乃。

みかづき荘でアイからマギウスの翼に関して一通りのことを聞き終えた一行。わざわざ朝から駆けつけていたのも相まって時刻は昼時を回り始めたところ、せっかくだし昼を近所で済まそうと話しこんでいたところに割り込むように鶴乃がそれなら自分の実家でやっている中華料理屋でと提案してくる。

さやか自身初めて彼女と顔合わせした時にそのことを聞いていたため、一度は足を運んでみたいと思っていた。

しかしその提案を受けると諸手を挙げて喜ぶ鶴乃の後ろで微妙な反応を見せるいろはの顔があった。もちろん気になったさやかだが、それを聞いて一度受けた話を白紙にしてしまうのも喜ぶ鶴乃に申し訳が立たないため、敢えて聞かずにおいておくことにした。

鶴乃とその料理屋でアルバイトをしているフェリシアの案内で彼女が切り盛りしている中華料理店『万々歳』を訪れることになった。

ちなみに店に入るやいなや彼女がおすすめしてきた魔法少女割というのにはさやかが聞いた途端に異常なほど嫌な予感が頭をよぎったため、半ば無理矢理といっていいレベルで一人前だけをおねがいすることにした。

その反応にどこか不服気にしながらも知り合いとはいえ客としてやってきた人間の要望はできる限り応える主義なのかとりつけた注文通りに料理を作ってくれた。

もっとも、四人のテーブルに置かれたのは満漢全席もかくやというレベルで盛り付けられたフルコースだったのだが。

 

「鶴乃の料理、オレは好きだぜー。腹がこれでもかってくらい膨れてすっげー幸せだし。」

 

「フォローありがとねぇッ!!!鶴乃ちゃんとっても嬉しいよ!?でもそれって量についてだよね!?肝心の味はっ!?」

 

カウンターの席に背もたれを股の間に挟むようにして座っているフェリシアが顔を綻ばせながらそういうが、今の鶴乃にほしいのは味の評価である。まくしたててくる鶴乃に若干気圧されながら出したフェリシアの返答は、普通。鶴乃はその場で膝から崩れ落ちた。

 

「あうぅぅぅぅぅ、やっぱりダメなんだぁぁぁぁぁ!!」

 

ガクリと折れた膝をついてめそめそと泣き始める鶴乃にどことなくいたたまれない空気になるさやかたち。といってもそれもさやかとマミだけの話で他の二人は口直しと言わんばかりに懐からお菓子を取り出したり、我関せずといった様子で水を飲んでいたが。

 

「そういえば、この料理は鶴乃が厨房で作っていたようだったが普段の営業ではどうしているんだ?父親かそのあたりか?」

 

「いや?いつも鶴乃が作ってるぞ?客でやってくるおやじたちへの接客もだな。」

 

崩れ落ちている鶴乃の代わりにフェリシアがそう答えるが、不意に何か考え込むような仕草を見せ始める。なんだか猛烈に嫌な予感がふつふつとさやかの胸の中で湧き始める。

 

「…‥‥そういえば鶴乃の父ちゃん見たことねぇな。なんなら母ちゃんもか?」

 

(…‥‥‥やらかした)

 

(ええ‥‥‥ものの見事に踏み抜いたわね。)

 

フェリシアの言葉に渋い表情を禁じ得ないさやかとマミ。迂闊だったことを恥じながらも出た言葉を引っ込めることはできないため恐る恐る鶴乃の様子を見守る。

 

「‥‥‥‥えっと、一応ちゃんと両親はいるからね?なんならおばあちゃんまでいるし。流石に…‥‥おじいちゃんはいないけど。」

 

泣くのをやめたのか立ち上がりながらそう言って苦笑いを見せる鶴乃。一見何も変わりないように見えたが人の感情の動きに機敏なさやかはわずかに鶴乃の言葉の震えのようなものを感じ取る。その震えのようなものを感じたのは彼女が祖父の名前を出したところだった。なんなら家族のことを語ったときの言葉の全てに感情の震えのようなものがあったが、一際大きかったのが祖父についての部分だった。

 

「…‥‥厨房も鶴乃一人でやっているのか。となると、この店を引き継ぐつもりでもあるのか?」

 

「そう、だね…‥‥‥わたしはそうしたいって思ってる。それがわたしの夢でもあるし。だけど────」

 

「だけど…‥‥?」

 

万々歳を継ぐことが自分の夢であると語る鶴乃。立派な夢だと感心して聞いていたが、その表情は暗く、何か思い悩んでいるような雰囲気にも見えた。

 

「あ‥‥う、ううん!!なんでもないよ!!ともかく、わたしはこの万々歳を継いでおじいちゃんの時と同じくらいまで盛り上げたいの!!」

 

自分がどんな表情をしているのか気づいたのか咄嗟に笑顔で取り繕う鶴乃。まぁまぁあからさまな取り繕い方だったが、ここで追及するのも彼女を嫌な気分にさせるだけだろうと思い、そのまま彼女のペースに合わせることにした。

 

「お前に時間が空いていればの話だが、知り合いというほどでもないが腕の立つ料理人を知っている。私の方で話してみるから許可さえもらえれば彼女の元で技術を学んでみるのはどうだ?」

 

「え?いいの?」

 

「そちらさえよければの話だ。それに向こうが聞き入れてくれるかもわからない。もっとも彼女の取り扱っている分野も違うのだが。それでもいいか?」

 

とりあえず話題転換のためにさやかは鶴乃に知っている料理人がいるから彼女の元で師事を仰いでみることを提案する。評価こそ50点という微妙なものだが、決して食えないわけではなく、普通に人に出すことはできるくらいのレベルだ。独学かは定かではないが、センスはあると思われる。

その筋の人間からキチンと教えられればもしかすると化ける可能性もあるかもしれない。

 

「うん!!ぜぇんぜん大丈夫ッ!!」

 

そのさやかからの提案を食い入るような目をしながら受ける鶴乃。どうやら彼女のお店に対する熱意は相当のものらしい。

 

「なら、追って連絡するから連絡先をくれるとありがたい。携帯とかは持っているか………?」

 

携帯を取り出しながら鶴乃にもお願いし、アドレスを交換しようとするさやか。しかし、ふと携帯の画面に気になるものがあったのかはたとした様子で自分の携帯の画面を見つめる。

 

「あれ?どうかした?」

 

「…………いや、なんでもない。こちらの都合を思い出しただけだ。」

 

「そうなの?大丈夫そうならいいんだけど。」

 

さやかの様子を不思議に思った鶴乃だったが、さやかの反応から何か悪いことが起こったわけではないことを察したのかそれ以上聞かないことにした。

 

 

「それじゃあねー!!!」

 

「また来いよなー!!!」

 

店を後にしたさやか達。店先で見送る二人にそれぞれ反応を返すと神浜の市街地を歩き始める。

休日というのもあって往来はたくさんの人の声で賑わっており、まさに平和といった雰囲気を感じさせる。

 

「安易に家族の話題に触れたのは迂闊だった……………」

 

「そうね。一見とても活発な印象を受ける彼女でも触れられたくない話題なんかいくらでもあるわよ。」

 

「いや……………実を言うと水名神社で初めて会った時から彼女に関しては違和感は覚えていたんだ。」

 

「水名神社って確か………………あー、お前が小さいキュウべぇの後を追っていった時か。」

 

「あのキュウべぇも中々妙な存在よね………………喋らないし、どこか普通のキュウべぇとは違う雰囲気があるし‥‥‥それで?美樹さんが感じた違和感って?」

 

「鶴乃は確かにすごく活発な印象を受ける。だがどうにも、彼女の印象には()があるような感じがして止まないんだ。」

 

「奥ぅ?アタシにはよくわかんねえけど、とにかくなんか隠してるってことか?」

 

「猫を被っているということ?」

 

「いや、どちらかと言えば………………そう在らなければならないと強迫めいたものだ。」

 

鶴乃と初めて会った時から感じた違和感。それは彼女から仄かに漂う負の感情とも呼べるような雰囲気だった。鶴乃はその快活な印象という気を張ることでそれを隠しているようだったが、さやかから見ればそれは隠しているというより無理矢理抑圧し、押し殺しているようにも感じられた。

 

(……………おそらくあの活発で、周りに笑顔を振りまく彼女を、彼女自身の全てであるとは思わない方がいいのかもしれない。)

 

そう一人心の中でつぶやくさやかの表情はひどくもの哀しげなものを浮かべる。

 

「すまない。突然こんなこと話してもあまり意味があるようには思ってはもらえないだろうな。」

 

「いや、お前が時折見せる不思議ちゃん発言みてぇなのはぼちぼち慣れてはきてっからいいんだけどさ。それ、あいつらに言う気はあるのか?」

 

杏子の言うアイツらとは十中八九、鶴乃とチームを組んでいるやちよやいろはたちのことだろう。しかし、さやかには彼女たちにそれを指摘するつもりは微塵もなかった。何か意図があって鶴乃自身がそうしているのであれば、その行いは彼女自身の行動を貶めるに他ならない。いらない不和をもたらすことは本意ではない。さやかは杏子の問いかけに無言で首を横に振った。

 

「なら別に気にしなくていいんじゃねぇの?お前さんが気にするのは勝手だけど、結局どうすんのかはアタシらより会う機会の多いいろはたちってことだ。まぁだいぶありえねぇ方向になるけど、仮にあいつらと鶴乃の間でなんかそれでトラブった時に言えばいいんじゃねぇの?」

 

「私も佐倉さんと同意見ね。同じ事言うようだけど誰しもあまり周囲に言いたくない、もしくは言えない秘密の一つや二つはあるわ。」

 

「そしてそれを周囲に打ち明けることが一番の解決策かもしれないし、隠し続けるっていう逆もしかり、ってところかしら?もっとも、私のそばにはそのあんまり話したくないことを推論だけで見抜いてあろうことか真正面にぶつけてくる困った後輩さんがいるのだけどね?」

 

「いや、まぁ‥‥‥‥確かにその通りだが‥‥‥もしかしなくてもそれなりに根に持っていたりするのか?」

 

「言ったでしょう?乙女の秘密はみだりに知るものじゃあないって。」

 

「‥‥‥‥年齢的に乙女と自称するのはまだ若いと思うのだが、なんならその言葉に倣うのなら私も乙女ということに────」

 

「さやかが乙女だなんだって言いだしたらアタシは気持ち悪くて吐くぞ。」

 

「間違って実弾でも飛び出したらどうするつもりなのかしら?」

 

マミの言葉に半ば冗談のつもりで自身も乙女であると言いそうになったが、直後に割り込んできた横やりに思わず口を閉ざす。さやか自身冗談のつもりだったのだが、横やりを入れてきた杏子とほむらの表情は二人ともマジな顔をしていた。

杏子はまだ心底から気持ち悪がっているように顔を青くしていたが、ほむらの顔はなんというか黒かった。仮にさやかが少しでもその場から動こうものならば即座に射殺でもされるんじゃないかと錯覚してしまうほどの凄みを醸し出していた。

 

「‥‥‥‥冗談だ。冗談だからそんな顔を向けないでくれ。特にほむら。お前の殺意が割りと本気なのがわかってしまうから心臓に悪い‥‥‥‥撃たないよな?」

 

「あら。ごめんなさい、そんなににじみ出ていたかしら?イノベイターって思ったより大変そうなのね。」

 

「見え透いた悪意をまるで隠そうとしない‥‥‥‥もしかしなくてもコイツ、悪魔の素質でもあるのか?」

 

さやかが参ったように肩を竦めるとほむらは笑みを見せるが彼女から感じる悪意をわざと膨らますように増大させてさやかをげんなりさせてくる。流石のさやかもこれには疲れたような表情を表に出してしまう。

 

「人を悪魔呼ばわりとは失礼ね。まぁ、少し前までの私はそこまで堕ちてみるのも吝かではなかったのかもしれないけど。」

 

「‥‥‥‥本気か?」

 

「流石に冗談よ。そもそも具体的に何をもって悪魔と称されるのか、わかるわけないもの。」

 

「それはやはり…‥‥神とかそういう超常の存在に逆らってみるとかか?」

 

「神ねぇ‥‥‥‥‥そんな存在いるのかしら?」

 

「さぁな。だが、少なくとも私はあまり神とかを信じる気にはならないな。たいていの神様は理不尽をつき付けてくるからな。」

 

微笑むような表情を浮かべるほむらにさやかは両の掌を上に向けて肩を竦めながら神様を信じないと語る。

 

「ま、それはともかく。調子、少しは戻ったか?」

 

「おかげ様でな。こうやって気を病めば弾丸が飛び出ると脅してくる奴がいる以上、おちおちうなだれている暇もなさそうだ。」

 

先ほどまで見せていた表情から一転ニヒルな笑みを見せる杏子に呆れているような笑みでそれに応えるさやか。

 

「とりあえず感傷的になりすぎてしまったな。どうにも魔法少女には何かしら抱えていそうなやつが多くてな‥‥‥‥」

 

『それは言えてる』

 

さやかの言葉に同意するように口をそろえながらうなずく三人。

 

「そういえばさ、今アタシらどこに向かってんだ?こっちの方角は駅の方向じゃねぇだろ?」

 

「美樹さん、さっき何か連絡受けてたみたいだけど一体誰から?」

 

「実は電波塔での戦いの前に夏目かこから紹介された花屋に足を運んでいた。本当はそこで見舞い用の花束を買う予定だったのだが、色々雲行きが怪しくなってな。結局その時は花束の依頼だけして受け取りを先延ばしにしてもらっていたんだ。それの連絡がさっききた。」

 

「夏目…‥‥ああ、常盤さんのところの。それはそれとしてお店からの連絡だったら早めに向かった方がいいでしょうね。私たちも一緒にいきましょうか。」

 

「いいのか?完全に私事になってしまうが。」

 

「どのみち今日はアイから話を聞くだけで、それが終わってしまえばあとは帰るだけよ。好きにしなさい。」

 

「二人がそういうのならありがたいものだが…‥‥杏子もそれでいいのか?」

 

「んぁ?あたしは基本予定なんざ考えねぇからな。いい暇つぶしになんだろ。」

 

了承したのかよくわからないが、暇つぶしにはなると言っているのならついては来てくれるのだろう。そう結論づけたさやかはフラワーショップ『ブロッサム』に向けて足を進め始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもーし?」

 

「ッ…‥‥‥‥‥」

 

声をかけるが反応のようなものを返す気配はない。それは別に声をかけられた人物に意識がないわけではなくただ単に一心不乱にそこら辺をせわしなく歩き回っているのだが、その人物の表情は不機嫌そのものであり、どちらかと言えばわざと聞こえないふりをしているのが正解だろう。

声をかけた人物はその反応をつまらないと思ったのかふてくされた表情をすると腰かけていた椅子に座りなおし、優雅なティータイムの時間としゃれ込む。

その隣には同じテーブルをかこっている別の人物がいたが、その人物は手にしている本を読みふけっているようで、周りなどまるで意に介していないようだ。

 

コツコツといらだちを隠すように歩き回っている人物の足音が反響する。しばらくそんな時間が流れていったが────

 

 

「ねぇアリナー。最近ずっっとそんな調子だけど、そんなにあの美樹さやかってのに負かされたのが悔しいの?」

 

「悔しいッ!?そんなチープなモノじゃあないんですケドッ!?」

 

やはり静かな空間で足音が反響しつづけているのは煩わしいものがあったのか、しびれを切らしたようにアリナに声をかけた。

その瞬間、アリナはギャルンッとでも効果音がなりそうなほどの勢いで身を翻しながら声をかけてきた魔法少女、『マギウス』の里見灯花をにらみつける。

 

「アリナにとってあのドッペルは最高のアートそのモノなの!!それをアイツは‥‥‥‥!!!」

 

アリナの脳裏に浮かび上がるのは先日のセントラルタワーの屋上における戦闘。ウワサの結界を破壊されたことを今後が面倒だとは思いつつも、自身のドッペルに絶対の自信を持っていた。ドッペルから生み出される極彩色の絵具はすべてを狂わせる。

しかし、その絶対の自信をたった一人の魔法少女に粉々に粉砕させられた。絵具に触れても侵食される様子を微塵も感じさせない白緑のフィールドに包まれた姿、そしてその奥に照らされた不屈の瞳はまるでその人間の精神性をを知らしめているようだった。

 

「ッ‥‥‥Damn It(くそったれ)!!!」

 

思わずテーブルに拳を叩きつける。それでテーブルが叩き壊されることはなかったが、中々強烈な音が響いたためそばにいたマギウスの二人はびっくりしながらアリナに抗議するような目線を送る。

しかし送ったところでアリナがそれに反応を見せる雰囲気もなかった。二人は諦めて彼女を下手に刺激しない方向に固めたようだ。

 

「うわぁー…‥‥荒れてるねぇ…‥‥」

 

「そのようだね。あの様子ではしばらくは近寄らない方が賢明かも。それはそれとして、例の魔法少女に対する対策も考えないといけない。」

 

「ええ~。そんなの別のヒトに任せておけばよくな~い?ねむったら少しは好きに動くっていうのを考えたらどうかにゃ~?」

 

「そうもいかないんだよ、灯花。アリナのドッペルが負けを喫したのはともかくとして、みふゆや羽根たちの前でそれをやらかしたのは失敗だね。おかげで羽根たちの間では彼女に対する不安で持ち切りだよ。彼女たちの不安を取り除かないと。」

 

「む~、面倒くさい~。別にいくつかウワサを壊されたところで私たちの計画にはなんの障害もないっていうのに~…‥‥」

 

「それが上に立つ人間の責務というものだよ。上司は部下のメンタルにもキチンと目を配ってあげないと。」

 

ふくれっ面を見せる灯花を窘めるようにねむが読んでいた本を閉じる。

 

「えっとなんだっけ、空とか飛べるとか月夜たちが言っていたんだよね?」

 

「攻撃手段は主に全身に装着された武装によるもの。見た感じ近距離系に重きをおいているようだけど、そんなことはなくビームのような強力な遠距離攻撃も有している。」

 

灯花とねむはとりあえずその魔法少女と接敵したことのある人物から得た特徴を指折り数えながら羅列していく。

 

「何より厄介だと僕が感じているのが大剣のような武装から展開されるバリア。これを張られると軒並み外部からの干渉が遮断されるらしい。それこそドッペルによる攻撃もね。」

 

「月夜たちの笛花共鳴も防がれちゃったんだっけ?あとアリナのドッペルも。」

 

「そうらしいね。まぁ僕らが実際にその魔法少女と相対したわけではないから結論を出すことは難しいと思うけどね。」

 

「あとは最近だと、最強の魔法少女の噂なんていうのが神浜の魔法少女の間で広まっているとも耳に挟んだかな?その正体がその例の魔法少女であることもね。あまり興味がなかったから今まで忘れていたけど。」

 

「ウワサッ!?アイツ、ウワサになるほどフェイマスなの!?」

 

けだるげな表情でテーブルに突っ伏していた灯花の言葉にアリナが何かひらめいたかのように直前まで見せていた表情から一転、嬉々とした子供のような笑みを浮かべる。

 

「ならクリエイトするしかないヨネッ!?ウワサにはだいたいテールがつくものなんだから!!」

 

「まぁ、確かに噂には尾ひれや背びれがつくという言葉はあるけど…‥‥誇張や拡大解釈されたかもしれない部分まで全部ひっくるめたウワサを作るということ?」

 

Exactly(その通り)!!アリナたちには絶対に負けないウワサができるし、それと同時にアイツへの対抗のプランも手に入るってコト♪もうこれってWinーWInヨネ!!」

 

「んー‥‥‥どうしよっかねむ?結局は作るのはねむだから私的にはどちらでもいいんだけど…‥‥」

 

アリナの提案に灯花はウワサの制作がねむの能力であることにかまけて決定権を彼女に放り投げた。少しは考えてほしいと思うねむだったが、こんなくだらないことで口喧嘩をするわけにはいかなかったため我慢を自身に強いた。

 

「まぁ…‥‥確かにあの魔法少女の存在は目に余るのも正直なところだからね。対抗策を講じておくことに無駄があるとは思えない。いいよ。作ってみるよ。」

 

 

 

 

 




はーい挙手ー

あ、(察し)ってなった人挙手ー


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第71話 ある一つの決断

…‥‥‥結局こうなっちゃった。
前みたいな議長みたいとかキュウベェくせえってことにはならないようには頑張ったつもりではあるけど、どうだろ(白目)




「いらっしゃいませーって、さやかちゃん」

 

「すまない。注文した側であるにもかかわらず連絡を受けるまですっかり頭から抜け落ちていた」

 

「いいのいいの、別に気にしなくても」

 

連絡を受けて『ブロッサム』までやってきたさやかたち。自動ドアをくぐって花の匂いで心が休まる店内に入ると、レジで会計をやっているこのみが出迎える。店内にはたまたまなのか客の姿は見当たらず、彼女のそばには直前まで話していたのかベージュに近いクリーム色の髪を団子状に二つ作った少女が不思議そうにさやかたちの方を向いていた。

会話をいったん切ったこのみは頼まれた花束を取りに行ったのか席を外して探しに行った。時間的には少しの間だったが、横にいたその少女はさやかのことをじっと見つめ続けていた。

 

(この人……一体なんなんだろうか)

 

視られていることはわかっているため、そのことを疑問に思うさやかだったが、ほむらたちは思い思いに店内の花を物色しているのか助け船を出してくれる雰囲気ではなかった。なんとかその疑問を顔に出すようなことはせずに取りに行ったこのみを待つ。

 

「おまたせー、代金はこの前に貰っているからこのまま、ってみとちゃん?さやかちゃんのこと、じっと見つめてどうしたの?」

 

店の奥から戻ってきたこのみが繕ってくれた花束を手渡そうとしたところでさやかの隣にいた少女に声をかけた。どうやら彼女の名前はみと、というらしい。

 

「そちらが店の奥に向かってからずっと見られていたのだが……」

 

「────はっ、思わず我を忘れて見つめてしまっていました!!」

 

さやかが困った表情でそう言った瞬間、我に返ったように少女がハッとした顔をするとそんなことを口走る。突然の再起動にこのみとさやかはびっくりした顔を見せ、物色していたほむらたちもそれを聞いたのか目線をこちらに向けてくる。

 

「横顔をじっと見つめ続けるようなことをしてごめんなさい!!なんというかものすごく不思議な感覚があなたから感じたもので!!何かこう……能力を使っていないのに心が繋がるような!!」

 

「は、はぁ……」

 

興奮気味にずいっと顔を寄せてくる少女に愛想笑いを浮かべながら一歩退くさやか。なんというか彼女からの圧がすさまじいのだ。そのまま少女は興奮冷めやまぬ様子で話を続ける。

 

「もしやあなたは私と同じ心を繋げることのできる魔法少女なんですか!?私の名前は相野みとって言います!!」

 

「魔法……少女?」

 

彼女から飛び出た言葉に思わず目を丸くする。彼女は確かに魔法少女の単語を出し、なおかつ自身を魔法少女だと言ったのだ。

 

「ちょ、みとちゃんッ!?それを大声で出すのはまずいって!?」

 

「え……あ゛ッ!!」

 

たまらずこのみが静止する声を出すも既に遅し。目の前の少女は呆けた声を挙げたところでようやく周りの状況と自分が口走ったことを理解したのか顔面蒼白といった表情にし、さらに思考がショートしたのか陸に打ち上げられた魚のように口をパクパクとさせる。

 

「……別に気にしなくていいわよ?今お店の中にいるの、全員魔法少女だもの」

 

「ふぇ……?そう、なんですか?」

 

少女の反応ぶりが面白かったのかクスクスと口元を手で覆い隠しながらマミがそういうと、もう一度素っ頓狂な反応を見せ茫然とする。そして思考停止した少女に代わってこのみが確認するようにさやかに不安そうな顔と目線を向ける。

 

「その通りだ。私も含め、ここにいる人たちはみんな魔法少女だ」

 

さやかがそういいながら目くばせするとそれに応じたマミが懐からソウルジェムを取り出し、自分が魔法少女であることを明かす。残りの二人はまるで興味がなさそうにしていたが、話自体は聞いてくれていたのか同じようにソウルジェムを取り出した。

その光景を見た少女はホッとしたのか深く安堵のため息を吐いた。

 

「す、すみませんでしたぁ…………」

 

「まぁその……気をつけて、な?今のような状況というのはほとんどないからな」

 

「はい!!肝に銘じておきますッ!!」

 

目の前で謝り倒す少女をそう宥めるさやか。その対応に少女は瞳をランランと輝かせる。少女本人としてはもっと怒られるとでも思っていたのだろうか。ともかく少女のコロコロと変える表情に微妙な笑みを禁じ得ない。

 

「こっちは肝が冷えたよ……」

 

「はじめは触れるつもりはなかったのだが……彼女は一体?」

 

「え、ああ……この子は相野みとちゃん。出張販売をやっていたときに知り合って、そこからみとちゃんの友達の魔法少女へのプレゼントを作る手伝いをしたんだ」

 

胸をなでおろしているこのみにさやかが目の前の少女、相野みとのことを尋ね、軽い紹介を受けたが、さやかは相野の友達にも魔法少女がいると聞かされると、改めて神浜市は魔法少女の人数が多いことを再認識する。

 

「それで……ね。お話は突然変わっちゃうんだけど、後ろの人たちも魔法少女なら、話しても大丈夫だよね?」

 

そう言って、今度は心を痛めているように不安そうな表情を見せるこのみ。まだこのみと顔を合わせた回数は少ないが、彼女がそのような表情を見せそうな話題はかなり絞られる。

 

「秋野かえでのことか。その様子だと、あまりいい話はなさそうだがな」

 

「?‥‥‥‥かえでちゃんがどうかしたの?」

 

かえでの名前を出すと、かえでとも知り合いなのか不思議そうに首をかしげる相野。それに目配せで大丈夫なのかと心配そうな顔をこのみに向ける。

 

「実は‥‥‥かえでちゃん、最近学校にも来なくなっちゃったみたいなの」

 

「‥‥‥‥‥そうか」

 

それを聞いたさやかは一言断りを入れると席を外して少し離れたところいいるほむらたちのところに向かう。

 

「話は聞いていたか?」

 

「ええ、一応耳を傾ける程度はしていたけど……」

 

「……確かお前、もしかしたら魔法少女のアレを知ってしまったからかもとか言ってたよな」

 

「とにかく一回連絡を取れるか試してみましょう」

 

ほむらから促されるように懐から携帯を取り出し、電話帳から番号を引っ張り出す。連絡先は、以前もかえでのことで連絡を取ったレナだ。

コール音が鳴ったことでレナの携帯がつながったことを確認すると電話口に耳をあて、レナが出るのを待った。

しかし、しばらく待っていたが電話口からレナの声が聞こえてくることはなく、留守電を促す機械音声が代わりに流れてきてしまった。

 

「……マジか。まだ時間的には日中のはずだが……」

 

「まさか……」

 

「いや、まだ一回しかかけていない。たまたまの可能性もある」

 

険しい表情をしながら電話を切るさやか。色々嫌な予感が頭をよぎるが、ひとまずそれを全部押さえつける。どうしても考えたくないという本音が心の中にあふれ出る。

通話状態にならなかったことはまだ構わない。しかし今日は休日な上に時刻もまだ昼すぎを回ったところ。よほどなことがない限り鳴っている電話に気づかないというのは考えにくかった。

 

「…‥‥どう思う、ほむら」

 

「私に聞くの?正直な意見しか出せないわよ?」

 

ほむらの言葉にさやかは重々しく頷いた。ほむらの意見を仰いだのは一番経験のある魔法少女であると同時に、さやか自身の中にある甘さのようなものをなくしておきたいというのもあった。

さやかの様子を見たほむらは瞳を閉じ、小さくそう、とつぶやいた。

 

「以前からあなたからの報告で彼女の様子が変になっていることは聞いていたわ。そして、その原因に関する予想も。それを踏まえるのなら、彼女は向かってしまったと考えるのが一番現実的ね。水波レナさんも連れ添って。十咎ももこさんがどうだか不明だけど、あまり期待はしない方が賢明ね」

 

「……やはり、そうなのか。」

 

「ええ、残念だけど。でも、あなたもそうなってしまう予感がないわけではなかったんでしょ?」

 

ほむらの問いに顔を俯かせ、少し間を空けながらうなずく。推測の上なため確証を得ていたわけではないが、突然友人との連絡を閉ざしてしまうなど、その本人によほどショックな出来事があったとしか考えるほかない。普通であれば閉じこもっている本人に直接聞くほどのことをしなければその要因を知ることは厳しいが、幸いさやかたちには共通点があった。

 

魔法少女であること。そしてそのまだ年端のいかない女子に甘美な響きを思わせるソレに隠された魔女化の運命。

 

それさえ知っていれば、原因を想像することは難しくない。おそらくかえではその運命を知ってしまったのだと考えられる。そしてそれを誰にも言いだすことすらできなかった。

 

「……そろそろなりふり構っていられなくなってきてんじゃねぇの?向こうも、こっちもさ」

 

難しい表情を見せながらそう言う杏子。前日の件もあり、マギウスの翼からの警戒度は高まることが予想される。さらに彼女らのトップである『マギウス』の動き方次第でウワサを破壊され続けていることを焦り、強硬な策に出られてしまう可能性もある。

杏子の言う通り、両陣営ともなりふり構っていられなくなるかもしれない。

 

「だが、それを行うにはどうしても危なっかしい部分を含んでいる」

 

「そりゃあそうだけどよ……十人ぽっちで組織相手に張り合うってのも土台無理な話だろうよ。ただでさえどっちに傾かれるかわかんねぇ奴らを抱えてるんだからさ。そうなりゃ最悪五人以下だ、こっちは。もしそうまでなってんのにどうにかなっちまったんなら、そら完全にアニメの話だ」

 

「……確かに、その通りだな」

 

杏子の言葉に考え込むように顔を下げるさやか。総力戦にまでもつれ込んだ際に不利なのが自分たちなのは明白だ。ウワサを作り出している柊ねむがどれほどの力を持っているのかは知らないが、最悪の展開として、作り出したウワサや魔女を駆使して神浜市中の人々を無差別に襲うようになったら被害なしでそれを食い止めることは不可能だ。

できることはその被害を可能な限り食い止めるほかはない。そしてそれを行うためにも人手がかなりの人数が必要になる。

 

「……二人はどう思う?」

 

「正直言って、どこまで話すかによるわね」

 

ただ、いざ話を持ち掛けようとするとどうしても魔女化やソウルジェム関連の話に足が縫い付けられる。さやかは、何かアイデアはないかと投げかけるようにほむらとマミに視線を向けるとほむらが早々に指を三本立て、まるでプランが三つあるかのように意見を返した。

 

「一つは全部話すこと」

 

一つ指を折る。マギウスの翼の存在、そして魔女化のことやソウルジェムのこと。自分たちの持っている情報をすべて詳らかに明かすこと。しかし、それは一種の博打にも等しいだろう。さやかのように落ち着いた対応をできる人もいるが、ほむらの巡った平行世界のマミのように現実を受け入れることができずに結果として向こうに戦力を与えてしまう可能性もある。

 

「もっとも、これはわたし個人としても選びたくはないルートね。余計な死人を増やすのはごめんだもの」

 

ほむらも同じ意見だったのか、そういうと隣のマミに白い目線を向ける。まるで愚痴でも吐いているような口ぶりだが、マミにとってはさやかから聞かされたとはいえ並行世界の自分のことなどほとんど自分の与り知らないことと全く一緒なため、苦い表情を浮かべるほかなかった。

 

「もう一つは逆に話さないこと」

 

もう一つ指を折る。今度は正反対に何も話さずこのままこのみたちをなるべく遠ざけるようにすること。

 

「でもぶっちゃけるとこれも、わたし個人としてはやっていることがインキュベーター共とほとんど変わらないからイヤね。アイツらと似ていることやっているっていうだけで、はらわたが煮えくり返るわ」

 

(イヤなのか……)

 

なんとも自分勝手だが、彼女の胸中を全く知らないわけではないため、必要以上に口を挟もうとはしなかった。

 

「そして三つ目。わたし達が隠し事自体はしていることを話した上で忠告、この先の判断を彼女たちに委ねる」

 

そしてほむらが出した三つ目の提案。

 

「……要するに話すだけ話してあとはついてきた奴の自己責任ってわけか。だいぶ身勝手だな。」

 

「仕方がないのよ。話すことが難しいのなら、その存在だけを仄めかしてあとは自分から知ってもらうしかないでしょう。あとで後ろ指指されながら罵倒されるのなんてごめんよ」

 

「まぁ、前まで口より先に行動が出るお前からすれば話そうと努力しているだけでも上々だとは思うがな」

 

「うるさいわね……それで?あなたはどうするのかしら」

 

案は出した。後は好きに任せるとでも言うようにほむらはさやかにそう問いかける。

 

「……説明は毎回私がしないといけないのか?結構説明に関しては口下手だと自負しているのだが……」

 

「接点あるのがあなたしかいないのだからしょうがないでしょう。不可抗力だと思いなさい。」

 

不服そうにしているほむらからピシャリと言い放たれ、ため息を吐くと重い腰を上げ、このみ達のところへ歩みを進める。少しという割には結構間を空けてしまったと思っていたさやかだったが、その認識は間違っておらず、かえでの身を案じて今にも突っ走りそうになっているみとを、このみが抑えている光景があった。

 

「二人とも、少し時間をくれないだろうか?」

 

「はい……?」

 

「ふえ?」

 

落ち着かせるように二人をなだめ、話せるようになったところでさやかは決心した表情で話し始める。

 

「……結論から言えば、秋野かえでの居所におおかたの見当はついている。」

 

「えっ!?」

 

「ほ、ほんと!?」

 

さやかの言葉に驚きの声を挙げる二人。しかし話の内容とは反面におおよそ喜んでいるとは思えない思い詰めているようなさやかの表情に二人は何か事情があることを察する。

 

「まず、春野このみ。貴方にははじめに謝らせてほしい」

 

「え……?」

 

突然の謝罪に面食らう表情を見せるこのみ。本来なら彼女からの返答を待ってから続きを話し始めるべきなのだろうが、無礼を承知でさやかはそのまま話を続ける。

 

「前回ウワサのことを話したと思うが、あの話にはこちらで意図的に伏せていたことがある」

 

「い、意図的ってわざとってこと?」

 

このみの言葉に無言で頷くさやか。突然に継ぐ突然の話にこのみは困惑必至の様子だ。

 

「以前ウワサについて魔女と姿形こそ似ていて、本質的には魔女とは異なると言った。その時は詳細などは伏せていたが、はっきりとした理由がある。それはウワサは人の手で創られた存在だからだ。そして、その創造主は私たちと同じ魔法少女でもある」

 

「ま、魔法少女……!?それじゃあ、この前の『アイ』っていう人も……」

 

「考えている通り、創られた存在だ。もっとも、彼女は彼女自身の考えでその創造主から離反したのだが……」

 

「ねぇ、そのウワサっていうの、わたしは初耳なんだけどとりあえず他人を危ない目に遭わせるんだよね?その魔法少女が創った理由みたいなのは教えてくれるの?」

 

このみの反応に合わせて少しずつ理解してもらうつもりでいたところに初耳であるはずのみとが至極落ち着いた様子で話を切り込んでくる。隣ではこのみが平然としていることに驚いているが、向こうから話を進めてくれるのは正直言ってありがたかった。

 

「話せることには話せるが、いいのか?」

 

「へ?何が?」

 

「魔法少女が他人に危害を加えていることに対して、驚いたりとかしないのか?」

 

「うん。そういうこと、前にもなかったわけじゃないからね。」

 

「そうなのか……」

 

魔法少女の数が多ければ、必然的にそういう悪事に手を染める魔法少女もいる、ということなのだろう。

 

「改めて話を戻させてもらう。ウワサを創った理由に関してだが、正直に言えば詳細はわかっていない。が、目的は魔法少女の救済というもので、ウワサはそれの成就のために必要らしい」

 

「ま、魔法少女の……救済……?それってどういうこと?」

 

「……それについては、まずこっちの話を全て聞いてからにしてほしい。色々順序というのがあるんだ」

 

魔法少女の救済。反応を見るに大方初耳なのだろう。驚愕といった声をこのみがあげる。隣にいる相野も声こそ挙げてなかったが、驚いたように目を見開く反応を見せていたため、このみと同じく初耳なのだろう。

 

「私たちが相手にしているのは『マギウスの翼』と呼ばれる魔法少女たちの組織だ。そのウワサを創る魔法少女を組織のリーダーのトップの一人に置き、その組織で掲げている理念に賛同した多くの魔法少女を配下としている」

 

「その理念っていうのが、魔法少女の救済ってことなの?」

 

「ああ。ついで、というには中々強烈かもしれないが、奴らはウワサを守護しているほかに使い魔から魔女を養殖し、育てている」

 

「ま、魔女を使い魔から養殖って……!?」

 

聞かされた言葉に空いた口がふさがらないといった様子で茫然とした表情を浮かべる二人。使い魔が魔女に成長するには人を食らう必要がある。それを育てるということは既に多くの一般人が生贄のような形でささげられている可能性がある。

 

「なんとかそのマギウスの翼っていう魔法少女たちのこと、止められないの?そんなこと、賛同している人が多いなんて思いたくはないんだけど……」

 

「そうあってくれればよかったんだがな。奴らの噂はこの神浜市の外にも広がっている。実際、私たちもその噂を聞きつけてやってきた節があるのだからな」

 

「噂……?一体どんなの?」

 

「夢の中に少女が現れ、揃ってある言葉を残していくというものだ。神浜に来れば、魔法少女は救われるという言葉をだ。」

 

「……みとちゃん、聞いたことある?」

 

このみの言葉にフルフルと首を横に振る相野。どうやらマギウスの翼は勧誘活動のようなものは市内では行わないらしい。足がつくことを恐れているのか、それともそのようなことをしなくても自ら加入を望んでくる魔法少女が多いからだろうか。

どのみち人数比率は向こうが圧倒的なのだが。

 

「ふぅ……ようやく落ち着いてきたんだけど、もしかしなくてもかえでちゃんはそのマギウスの翼に連れ去らわれちゃったってこと?」

 

「いや……おそらく自らの意志で向かったと考えている。そして、その理由を私たちは察してはいる」

 

自身の見解を述べると同時に先読みしてこのみたちが求めていることを自分たちが知っていることを明かす。が、情報を持っていることを明かしただけでその先をさやかは頑なに話そうとはしない。てっきり教えてくれるものだと思っていた二人は怪訝な表情を見せる。

 

「察してはいるが、私はこれは教えられるものではなく、できれば自分で知ってもらいたいと思っている」

 

「知っているのに、教えてくれないんですか?」

 

知っているのに教えないというある種いじわるをされているようなことにこのみは非難するように細めた目線を向ける。

 

「身勝手なのはわかっている。だが……私たちが想像している通りなら、秋野かえでがマギウスの翼に下った理由はすべての魔法少女に絶望を突きつける羽目になる」

 

「絶望って……それってどういう……」

 

「絶望……?ねぇ、ちょっとごめん!!」

 

さやかの説明に怪訝な表情を隠し切れないこのみだが、相野は何か思いついたような様子を見せると突然さやかの手を掴み取った。

 

「な、何を────うわっ!?」

 

相野の行動に不意を突かれた表情を見せながら驚くさやかだが、その言葉が続くことはなかった。彼女に手を掴まれそれを反射的に振りほどこうとした瞬間、視界が光に包まれ、目がくらんでいるうちにさやかの意識は闇に沈んでいった。

 




感想くれっとやっぱうれしい。どんな感想であれ、来たこと自体がうれしいから何回も見て悦に浸ってしまう。


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第72話 その真実は

できた(白目)
やっぱ間が空くと指がよく止まりますね。



「こ、ここは‥‥‥‥?」

 

相野に手を掴まれた瞬間、目がくらむほどの光のようなものに呑まれたさやか。

しばらく潰されていた視界が元に戻り、再び目を開くと、そこはさきほどまでいたブロッサムではなく、閑静な、どこか退廃的な雰囲気を感じさせる団地群だった。

 

(ここは、知らない場所だ。そのはずなのに‥‥‥この感覚は一体なんなんだ?)

 

困惑した顔で周囲を見渡すさやか。紛れもなくこの団地群を見た覚えはさやかにはなかった。しかし自身の胸中にはふつふつと既視感が湧きあがっていた。

そのデジャヴの感覚はどちらかと言われれば、団地群というより、この空間そのものに対してだった。

 

(私は、どこかでこの空間と類似したものと出くわしたことがあるのか?)

 

一体どこで、と首をかしげていると視界の端に自身に向かってくる人影が入り込む。さやかがその人影の方向に視線を向けると、そこには相野が立っていた。

 

「突然ごめんなさい。こんなところに連れてこられて、びっくりしちゃうよね。」

 

「アンタか。それで、ここは一体…‥‥?」

 

やってきた相野にさやかがそう問いかけると彼女はこの空間が彼女自身の魔法によって生み出された心情風景との説明を受ける。

そして二人が今いる空間は相野の自宅である団地群が投影された空間らしい。

 

「…‥本題に入ろう。アンタはなぜ私をこの空間に?何かあの場では話せないことでも?」

 

「…‥うん。まさにその通り、なのかな。」

 

目線を伏せるように一度顔を俯かせる相野。この空間に来る直前までブロッサムで見せていた自身の様子と重なったさやかは佇まいを直すように団地に向いていた体を向き直す。

 

「えっと、美樹さん、でいいんだったけ?」

 

「美樹さやかだ。思えば自己紹介もしていなかったな。すまない。」

 

「あれは…‥私がひとりではしゃぎすぎてたのもあったから…‥‥私は相野みとっていうの。いつも他の団地の魔法少女とチームを組んでいるんだけど…‥‥まぁそれはさておき。」

 

「美樹さんがあの時話そうとしていたのって、もしかしてソウルジェムのこと?」

 

「ッ…‥‥知っているのか?」

 

相野の言葉に息を呑むようにしながら慎重に言葉を選ぶさやか。それもそのはず。大きくわけてソウルジェムに秘められた秘密は二つ。ソウルジェムの材料が自身の魂であり、それを破壊されてしまうと即死することと、その輝きが黒く濁り切ったときにグリーフシードに変貌し魔女化してしまうこと。

どちらも受け入れがたい真実ではあるが、圧倒的に前者より後者の事実の方がショックの度合いは大きい。下手に口を滑らすわけにはいかないさやかはできるだけ相野の方からその知っていることを話させるように会話を流す。

 

「うん、ソウルジェムは私たち自身の魂で創られてあって、それを壊されちゃうと死んじゃうんでしょ?」

 

どうやら相野が知っていたのは前者の方だったようだ。偶然魔法少女に隠された真実を知っている人物と会ったことに一抹の安堵を覚えるさやかだが、まだ後者についてはわかっていない。そのまま知ったいきさつやらを聞くことで会話を続けるが、彼女の口から魔女化のことが出てくることはなかった。さやかも相野から何か隠している雰囲気を感じなかったため魔女化のことはまだ知らないとおいていいだろう。

 

(‥‥‥‥とはいえ、どのみちその真実をほのめかさなければならないのだが。)

 

鬱屈になりそうに表情を曇らせるが、結局のところ話さなかったインキュベーターが悪いと責任転嫁をして平静を取り戻す。

 

「…‥‥そうだ。私がさっき言った隠していたことの一つはそのことだ。」

 

「え…‥‥ひと‥‥‥つ?」

 

さやかの言葉に表情を硬直させる相野。目を見開き、開いた口がふさがらないといった様子の彼女にやはりか、と小さく呟くさやか。

 

「二つだ。ソウルジェムに隠された真実は大きく分けて二つある。一つはそちらの知っている通りのことだ。」

 

「じゃあ、もう一つは……………って、流石に教えてはくれませんよね。さっき美樹さん自身からできれば自分で知ってほしいって言ってましたもんね……………」

 

「すまない…………これは、私の口から話すにはあまりにも荷が重過ぎる。」

 

「そんなに…‥‥‥なんですね。美樹さんが隠していることは…‥‥」

 

「‥‥‥‥わかる‥‥‥いや、信じるのか?」

 

「私の魔法(願い)は心を繋げる魔法。だからわかるんです。美樹さんが言っていることは紛れもなく嘘偽りのない本心から話しているのが。」

 

そういってにへらっと笑みを浮かべる相野だが、明らかに表情を作っているのがまるわかりだった。そんな反応を見せた相野の様子に思わずさやかは内心で毒づくような感情を見せる。

 

(…‥‥‥やはりほのめかしただけでこの反応では…‥)

 

最初にこの真実の一つを知ったときにも少なくないショックを受けたのだろう。その時にさえ相当つらい思いをしただろうに、同じくらい、最悪それ以上に辛い真実が待ち受けていると聞かされて悲観的にならないでいられるのはほとんどいないだろう。

 

「…‥もう少し聞いてもいいですか?」

 

「ああ。こちらから話せることは可能な限り話す。」

 

そこからしばらく相野の質問に答え続けるさやか。主に聞かれたことはマギウスの翼周辺、彼女らの掲げる救済についてだった。

相野の質問にさやかは包み隠さずそれに答えた。

 

「じゃあ、そのマギウスの翼というのは、魔法少女の魂を元に戻そうとしている人たちっていうことなんですか?」

 

「違う。私たちの知っている限り、奴らのいう解放と関係があるのは私たちでは言うことのできない二つ目の真実の方だ。ソウルジェムに固形化された魂を元に戻そうとしているようには見えない。」

 

「そうなんですか‥‥‥なら、美樹さんたちはどうしてその人たちに楯突いているの?」

 

「奴らが解放を行おうとしている上で魔法少女はおろか、神浜市に住む普通の一般の人々にも危害を加えている。七海やちよからの情報ではすでに多くの行方不明者も出ている。死人、までは私も流石に考えたくはないが‥‥‥ともかく、私はそんな犠牲の上に成り立つ解放が本当に私たち魔法少女にとっての解放になるとは思えない。」

 

「そんな…‥普通の人たちにまで…‥‥!?」

 

さやかの言葉に相野が見せた表情は驚きに満ちたものに変わる。

彼女は別の魔法少女による事件を目の当たりにしたことはあると言っていた。しかしマギウスの翼の事案はどうみても規模がこれまでのものとは違いすぎると感じたのだろう。

 

「許せないか?」

 

「え‥‥‥?」

 

不意に出されたさやかの言葉。

許せない、というのは言うまでもなく一般人にまで被害を出すマギウスの翼の諸行についてだろう。

もちろん、相野はその行いを許せないと思う感性の持ち主だった。相野だって今回さやかたちと出会ったことで知らないことが増えたが、ソウルジェムのことを多少は知っている。

その時に感じた恐怖を知っている。

だけど、どんな理由があろうとも、それを免罪符のように掲げ、人に被害を及ばしていいわけがない。

さやかの表情は相野の内心を見抜いたように心配そうに見つめてくるものだった。

 

「それは…‥‥許せないかというより…‥‥ダメ、だと思います。」

 

「…‥まぁ、そうだな。お前の言う通りだ。どんな理由があろうとも、人に危害を加えることは駄目なことだ。」

 

相野の返答に頷くように言葉を反芻するさやか。

納得しているともいえるだろう。

 

「だが、奴らの目指していることは少なくとも悪ではない。今のところ、という前提条件も入ってしまうが。」

 

「…‥確かにそうだよね。解放っていうのに、悪い意味はあんまり感じられないし…‥」

 

「だからと言って人を不幸にするやり方が正しいはずもない。私たちは彼女らの行いを止めるために動いている。」

 

自分たちの目的を話すさやか。しかし、その表情はどこか重く、暗い印象を感じさせるような渋いものだった。

無理もない話だ。さやかは元々マギウスの翼との戦いに何も知らない魔法少女を引きこむことには、内心避けたいと思っていたからだ。

とはいえ、ここ最近の戦いでマギウスの翼の勢力が想定を大きく超えているのは明白、たった10人程度の魔法少女たちの1グループでは近いうちに限界が来るのは目に見えている。

 

「それでなんだが、できれば…‥こちらに手を貸してくれると助かる。」

 

「‥‥‥それって、そのマギウスの翼っていう魔法少女たちと戦ってほしい…‥ってことだよね?もしかしたら、かえでちゃんとも…‥」

 

「‥‥‥可能性があることを否定はできない。」

 

マギウスの翼と戦うということは必然的にその目的に傾倒しているかえでとも戦わなければならなくなるときが来てしまうかもしれないということ。

知り合いと傷つけあうことになるかもしれないというのは誰だって避けたいことだ。

だが、さやかは意図的に隠すことはあっても嘘は言わないことにしている。

相野の言葉にさやかは重く頷いた。

 

「‥‥うん、いいよ!!」

 

「い、いいのか?」

 

少し考えたあとに返ってきた答えは、承諾の言葉だった。

まさかこの場で決めてくれるとは思いもよらなかったさやかは破顔した様子で相野に聞き返すが、相野は強く頷くことでその意思を示した。

 

「わたしも最初はじめてソウルジェムのことを知ったときは怖かったよ。もしかしたら人じゃなくなっちゃったんじゃないかって。でも魔法少女になったことを後悔したら、キュウべぇと契約をしたときの願いにも後悔しているってことになると思うの。わたしはそう思いたくない。あの時契約したからこそ、せいらとれいかを仲直りさせることができて、いろんな人と出会えた今があるんだって。」

 

「もちろん、まだ知らないこととかがいっぱいあるのはわかっているよ?でも、それから逃れるために誰かをケガさせるのは絶対に間違っていることだと思う。それは絶対に後悔することだと思うし、その後悔にかえでさんを巻き込ませたくはないよ。」

 

「‥‥一応忠告だが、かなりの魔法少女を敵に回すことになる。やるのであれば、かなり本気にならないと負けるのはこちらだ。それでも構わないか?」

 

「大丈夫大丈夫!!」

 

さやかの忠告にまるで動じることなく大丈夫と言い切る相野。

ポジティブでいてくれることにはまったく構わないのだが、いまいちその理由を掴み損ねていた。魔法少女が主犯となった事件が以前にもあったからだろうか?

 

(まぁ、あまり聞きだすものではないか。せっかく明るくいてくれているのだからな。)

 

「ところでだが、お前にはほかにも仲間の魔法少女がいるようだが、彼女らにも話を通すのか?」

 

話題転換をするようにさやかは相野の言葉に出てきていた人物について触れる。

 

「せいらとれいかのこと?そのつもりだけど‥‥‥あ、だ、大丈夫だよッ!?二人ともとってもいい人だから!!」

 

さやかの言葉を何か勘違いしたのか慌てた様子で仲間の魔法少女のことを説明する相野。

 

「いや、話してもらうことに問題はない。ただマギウスの翼を説明するにあたっていくつか留意してほしい点がある。」

 

「いくつか‥‥‥?」

 

「まず、マギウスの翼に所属している魔法少女たちのことをそこまで悪く言わないでほしい。彼女たちとはあくまで過程を違えているだけで、目指している未来は同じだ。単なる悪人とは決して訳が違う。事態が沈静化できたあとにみんなの間に溝を作りたくはない。」

 

「なるほど…‥結構先のことまで考えているんだね。」

 

「ソウルジェムの問題やそれに付随する魔法少女に関する問題はかなりデリケートである以上、慎重にはなる。」

 

「…‥‥‥それもそうだね。わかった。二人にもそう言っておくね。」

 

「頼む。」

 

相野の言葉に短いながらも気持ちのこもった声で頼み込むさやか。

 

「それじゃあ今から意識を元の空間に戻すね。」

 

「なぁ、ふと思ったのだが、この空間は現実空間とどれくらいのズレがあるんだ?」

 

「‥‥‥‥どうなんだろ、あんまり気にしたことがない、かな。」

 

「‥‥‥つまり今の私たちは公衆の面前で呆けた形相で棒立ちをしているということか。」

 

「さ、流石にそんなことはないと思うよ…‥‥たぶん。」

 

さやかの指摘に今まで考えたことがなかったのかそう言葉を濁す相野。

そしてまるでその疑問から逃げるように相野が念じる姿勢を見せると瞬く間に空間が真っ白な光に包まれてゆき、数瞬意識が暗転する。

まばゆい光に目がくらみ、次に目を開いたときは元のフラワーショップに戻っていた。

 

「美樹さん、大丈夫?何かその子に手を掴まれてから固まっていたみたいだけど。」

 

心配そうに声をかけてくるマミを尻目に意識が元に戻ったさやかは店内に取り付けられている時計に目を見やる。

時計の時刻はさほど進んでいなかった。マミの言葉的にもどうやら自分たちが意識を飛ばしていた時間はそう長くなかったようだ。

 

「みとちゃん、もしかして能力使った?」

 

相野の能力のことを知っていたのか、そう聞いてくるこのみ。

 

「うん。それとこのみさん、()()()()()()()()()()()()()。全部、ホントのこと。」

 

「ッ…‥‥そう、なんだね。」

 

「?‥‥‥お前、さやかになんかしたのか?」

 

このみの言葉に頷きながらそう返す相野の姿に警戒感を抱いたのか不審な目線で二人をみる杏子。

 

「いや、特に何かされたような覚えはないが…‥‥」

 

「わたしの魔法は心を繋げること。さっきみたいに心の中の記憶を写すこともできるし、心を繋げることである程度その人が感じていることをリンクさせることができる。例えば、嘘を吐いていることとかね。といっても嘘を吐いているのかどうかだけだけど。」

 

「…‥なるほどな。そういうカラクリか。」

 

不思議そうに首をかしげるさやかに相野が自身の能力の概略を説明すると、納得がいったのか頷く様子を見せる。

 

「騙すようにしてごめんね?どうしても、貴方の言っていることを確認したかったから。」

 

「気にしないでくれ。それで理解が得られるのなら私としては構わない。」

 

「‥‥‥‥とりあえず、大丈夫ってことでいいみたいね。」

 

「なんだかんだお前さんもさやかのこと心配なんじゃねぇの?」

 

さやかと相野の会話から心配をすることはなにもないとしたのか、警戒心を解くほむらににたついた笑みを見せる杏子。

その杏子からの指摘にほむらは軽く鼻を鳴らすだけで特に言葉を返さなかった。

 

「改めて、すまなかった。せっかくそちらの厚意で協力を申し出てくれていたというのに・・・・・」

 

「ううん、気にしないで。言い始めはわたしの方だから。」

 

隠していたことを申し訳なく思い、バツが悪そうに目線を逸らすさやかにそう声をかけるこのみ。

しかし、その表情はどこか重かった。

 

「ねぇ、ソウルジェムには、どんな秘密が隠されているの?やっぱり教えられない?」

 

その言葉に難し気な顔を浮かべて顔を見合わせるさやかたち。

秘密の存在をほのめかし、自分で知ってほしいとは言ったが、やはりそれは極めてラインの線引きが難しいだろう。

 

「わたしは、かたっぽなら教えてもいいと思う。」

 

そういったのは相野だった。

相野が教えてもいいといったのはソウルジェムが自身の魂が固形化したものであり、壊されると死んでしまうことだろう。

 

「え、知ってるのあなた・・・・・」

 

「彼女の能力が発動している間にそう聞かされた。しかし・・・・・・」

 

相野がソウルジェムの秘密を知っているということに三人は驚いた表情を見せ、聞かされていたさやかが説明されたことに言及しながらもためらっているような顔を見せる。

 

「もちろんさやかさんたちが考えていることもわかるよ。自分たちで知ってほしいって言うのも知らなかったわたしたちを気遣ってのことだって。でも、ソウルジェムの秘密は一つじゃないんでしょ?それならまとめて知らされたときのことも考えた方がいいと思う、かな。あんまりわたしが言えることじゃないかもしれないけど。」

 

終わりに少しばかり歯切れが悪くなったが、つまりはここで片方を話しておき、降りかかる心的負担を可能な限り分散させておくということだろう。

確かにソウルジェムが自身の魂が形がなったものであるという真実より、魔女化の方が精神的負担は大きいだろう。

 

(相野の言うことも決して間違いではないとは思うが…‥‥)

 

相野の言う通り、この場である程度話してしまうのもありだろう。

とはいえ、隠された秘密を分割して話したところで冷静でいられるかどうかと言われればそれはそれで別問題になってくるだろう。

 

「分かったわ。教えてあげる。」

 

さやかが考えこんでいたところにその思考をやめざるを得ないことが起こる。

おもむろにさやかの前に出たマミがソウルジェムのことを話し出そうとしているのだ。

思わず静止の声を出そうとしたが、大丈夫とでもいうようにこちらに振り向きながらの笑みの前に何も言えなくなってしまう。

 

(だ、大丈夫なのか…‥いや、だが‥‥‥!!)

 

突然のことにびっくりしたさやかだが、正直に言えば彼女の意見が飛んできたのは好都合だった。

マミは実際に他人から魔法少女に隠された真実を聞かされた身だ。

その経験は大なり小なりはあるだろうが、ある程度の指数にはなるはずだろう。

しかし、それでも絶対大丈夫、という確証はないのだが。

 

(私が心配性すぎるのか…‥‥まぁ、ほむらがこの状況を静観するのなら、無理に止める必要もないのか?)

 

一番誰かに真実を明かすことにためらっていたほむらが動いていないということはある程度彼女の中でこのことが教えられないレベルが下がったということだろうか。

それともその真実を知っている魔法少女が他にもいることを認識したからだろうか?

 

「私たちが魔法少女に変身するときに使うソウルジェムは絶対に壊されちゃいけないものなの。」

 

「それは‥‥そうだよね。だってこれがなかったら変身できないし…‥」

 

マミの言葉に怪訝そうにしながらも自身のソウルジェムを取り出して見つめるこのみ。

 

「そういう簡単な話で済ますわけにもいかないの。なぜならソウルジェムは私たち魔法少女の命そのもの。だからもし壊されてしまったらその時点であなたは死んでしまうの。」

 

「ソウルジェムが…‥‥私の、命そのもの…‥‥?」

 

明かされたソウルジェムの真実に信じられないというように目を見開き、手の中にある己のソウルジェム(いのち)を見つめるこのみ。

少女たちに突きつけられる真実はきっとどんな鋭い刃よりも、その心に深い傷を残すだろう。

 

 

 

 

 




これで展開よかったのかすっごい悩む。
というわけで感想で甘やかしてください(迫真)


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第73話 面倒なことになった

もう一年の1/4が過ぎそうってマ?


「‥‥‥‥‥‥」

 

ブロッサムでのやりとりを終えてから数日。

ソウルジェムのことを共有したあと、このみは少し考えたいという、彼女の意向に従い、その場は解散することになった。

その後にこのみたちからの連絡はない。

相野の方は元々知っていたから問題はないにしろ、このみの反応の様子から一抹の不安を覚えるのも仕方がなかった。

それでもさやかは彼女らの判断に任せるしかなかった。

 

「…‥‥‥」

 

そのことも気がかりではあるのだが、さやかは今現在直面していることに頭を悩ませていた。

といってもそれも普通の人間からして見ればなんら問題のない、ほほえましいものなのだが。

 

「~~♪~~~♪」

 

そのさやかの前では鼻歌を交えながらまどかが街中を進んでいる。

ここのところ神浜のことにかかり切りになっていたさやかと久々の外出なのか、まさに気分上々といった様子だ。

周りにはほむらを始め、マミ。そしてマミからの誘いで杏子もその場にいる、はたからみれば女子中学生のちょっとしたお出かけであることも拍車をかけているのだろう。

 

ただ─────そのお出かけに向かった先が神浜市であることを除けば

 

 

(おいこら、コイツ(まどか)を神浜に連れ出しやがったのは一体全体どこのどいつだ?)

 

(…‥‥‥‥)

 

(まどかの右隣でだんまりを決め込んでいる黒髪ロングの奴だ)

 

心底から面倒くさそうにしている表情をしながらそう念話で犯人捜しをする杏子に、腕を組んで憮然な表情をしているさやかが速攻でチクる。

それを聞かされたほむらは一瞬身体をびくつかせるが、しらを切るつもりなのか口と念話を閉口する。

明らかに黙秘権を行使している。

 

神浜市には見滝原市と比べて何十倍も魔法少女の数が多い。

それはつまり、いろはたちのようにいい魔法少女もいれば、逆に悪い魔法少女も決して少なくはない。

そして神浜市中の魔法少女を取り巻いているマギウスの翼の存在、さらには彼女らに対して明確に楯突いている現状。

その危険性はストップ高だろう。

 

(ま、まぁまぁ・・・・・・暁美さんも悪気があるわけじゃ────)

 

(どうせまどかにお願いされて断りきれなかったというオチだろう。こいつはまどかのことになるとだだ甘になる上に視野が狭くなるからな。)

 

「・・・・・・・・・」

 

「目ぇ逸らしやがったぞコイツ。」

 

念話を敢えてほむらに聞こえるようにしながらやり取りしている。

擁護しようとしたマミの言葉をぴしゃりと断ち切りながらさやかに白い目で指摘されると、ほむらは冷や汗をわずかに垂らしながら逃げるように顔を横に逸らす。

 

「あ、あはは・・・・・・・ごめんね杏子ちゃん。神浜に一回来てみたいっていうのは私のわがままだから、ほむらちゃんをそんなに責めないでほしい、かな?」

 

そんな彼女のことが不憫に思えたのか、まどかが苦笑いを浮かべて振り返る。

 

「ったくよぉ・・・・・・・・神浜のこと聞かされていないわけじゃあるめぇし・・・・・・」

 

「まぁ、ほむらに対してああは言ったがせっかくの遊びなんだ。そうカリカリするのもそこまでにしておいたらどうだ?」

 

そう諭す声をさやかからかけられた杏子だが、その顔をいまいち納得しかねているような表情だ。

彼女にとっては突然面倒ごとに巻き込まれたようなものだろうから仕方のないことだろう。

 

「‥‥‥‥なんかうまいもん一つな。」

 

「それはまどかとほむらから強請(たか)ってくれ。最近はどうも財布の厚みが悩みの種なんだ。」

 

「えっ!?」

 

「ちょ、ちょっとッ!?」

 

突然の財布扱いに驚きの表情を見せる二人はさておき、さやかたちが向かったのは北養区の一角にある洋風レストラン。

以前杏子と一緒に足を運んだ、胡桃まなかの父がシェフを務めるウォールナッツだ。

ここを選んだ理由としては単純に出される料理が非常にうまかったことが一番だったが、時代の流れというやつで客足が遠のいてしまったがゆえにすぐに料理にありつけるだろうという若干の邪推もあった。

 

「ここかしら?美樹さんがいっていたウォールナッツっていう洋食屋は…‥‥」

 

「ああ、ここであっているのだが‥‥‥‥‥驚いたな。」

 

不思議そうに聞いてくるマミに目を見開いた様子で驚きの声を挙げるさやか。

それもそのはず、以前来たときには閑古鳥が鳴き、店の人間であるまなかでさえその状況を憂いていたはずのウォールナッツに行列ができ、にぎやかな声が響く人気店となっていたのだ。

 

「普通に人気店の様子を見せているのだけど…‥‥‥あなたたちが来たときはたまたま定休日だったんじゃないの?」

 

「じゃなきゃメシにありつけてねぇつぅの。まぁぶっちゃけるとそんとき店の店主出払っていたから確かにそう思うのもしゃーないけどよ…‥‥」

 

ほむらの言葉にそう返す杏子だが、ともかくこのまま行列に加わるかそれとも別の店を探すか考える必要がある。

とはいえさやかが知っている神浜市の店と言えば鶴乃の万々歳しかない。

あそこも別に構わないのだが、いかんせん謎にある「魔法少女割」とかのおかげで一食に食べる量ではないし、せっかくの遊びでの神浜市なのだからちゃんとうまいところで食べたいというのもある。

あれこれ考えていると店の中から見覚えのある赤髪の少女が出てきた。

そちらに目線を向けると出てきた少女は快活な印象を受ける声で行列の先頭にいる客たちを店の中に出迎える。

言うまでもなくまなかだ。そう思って彼女の仕事ぶりを見ていると、向こうもさやかたちに気づいたのかさやかたちを見つけると一瞬だけ喜んだ表情だけを浮かべてすぐに仕事に戻っていった。

 

「…‥‥並ぶか。知り合いに見つかってしまった以上それを無視するのはよくないからな。」

 

見つかってしまったのなら並ぶほかはない。それに一瞬だったとはいえ来てくれたことを喜んでくれたような顔を見せてくれて帰るわけにはいかなかった。

 

 

 

 

「また来てくれたんですね!」

 

「まぁ、あんなに喜ぶ表情を見せつけられてしまったからにはな…‥‥」

 

「えっ、そんな顔に出ていましたか‥‥‥‥?は、恥ずかしいです…‥‥‥」

 

「いや、私が変に目敏いだけだ。気にしなくていい。」

 

さやかたちがウォールナッツの行列に加わり始めてから早一時間ほど。

ようやく列の先頭になったところで再びまなかが顔を見せて話しかけてきた。

 

「そうですか・・・・・・ところで後ろの皆さんはさやかさんの御同輩ということでよろしいですか?」

 

「五人だ。よろしく頼む。」

 

「わかりました!!席をご用意できましたらまたお呼びしますので今しばらくお待ちください!!」

 

店員としての顔に戻ったまなかにそう伝えると彼女はパタパタと忙しない雰囲気で店の中へと戻っていった。

程なくして人数分の席が用意できたのか再び顔を見せたまなかから店内に招き入れられる。

店内ではカウンター、テーブル含め店のほとんどの席が埋まっており、外の行列が表していたようにウォールナッツの盛況ぶりを見せつけていた。

 

「ほわー‥‥‥‥すっごい。これぞ高級って感じがするレストランだね…‥‥こんなお店に来るの初めてだよ…‥‥」

 

「雰囲気が違いすぎて前来た店とホントにおんなじか?」

 

店内の賑わいに初めて来たまどかが自身が場違いだと感じてしまったのか肩を縮こませ、一度来た杏子も肩身が狭くなる感覚がしたのか驚いた表情で周りの様子を見渡していた。

まどかと一緒で初めての入店であるほむらとマミも言葉こそないが、杏子と同じように店の雰囲気にあてられたように落ち着かない様子で周囲を見回していた。

まなかの案内でテーブル席につくと人数分のお冷のグラスを回しながら備え付けられたメニュー表に目を落とす。

ちなみに席順はテーブル席の奥からまどか、ほむらそしてさやかの順で座り、その反対側にマミと杏子が座っている形だ。

 

「ん‥‥‥?」

 

メニューに書かれている内容に首を傾げたり、金額に一喜一憂しているとふとさやかは何かに気づいたような様子を見せる。

何気なく視線を上げるとちょうど対面に座っている杏子と視線がかち合う。

どうやら彼女も同じように気づいたようだ。

 

「‥‥‥‥なんか前来たときとメニュー変わってねぇか?」

 

「そのようだな。明らかにメニューに新しいのが書き加えられている。」

 

「‥‥‥‥お前ってこういう時どうするタイプだ?割と積極的に行く感じか?」

 

「あまり気にしたことはないが‥‥‥‥まぁ、時と場合による。」

 

「んだよ面白くねぇ答え方だな‥‥‥‥」

 

さやかの受け答えに杏子はつまらなそうに頬杖をついてお冷の水を一気に飲み干す。

その様子に苦笑いを浮かべて再びメニューに視線を落とすと、今度はちょいちょいと服の袖をつまんでいる誰かの手が写りこむ。

 

「ね、ねぇ、ほ、本当に私が佐倉さんの分支払わなきゃいけないのかしら?」

 

「?」

 

服の袖をくいくいと引っ張られる感覚に、さやかが振り向くとほむらがどこか不安そうな表情を見せていた。

 

(‥‥‥‥‥まさかかと思うが)

 

見慣れないほむらの雰囲気に一瞬思考が停止したさやかだが、再び再起動させると、そこからの結論に達するのは早かった。

一言で言えば、ほむらはまどかに支払わせるつもりはなく、全部自分で引き受けるつもりだったようだ。

しかし、やってきたウォールナッツの高級感に気圧されてしまったようだ。

 

(別にそこまで意地の悪いことをするつもりはなかったのだが‥‥‥‥)

 

さやか自身、適当にみんなで割り勘にして済ませるつもりであったため、そのことをほむらに伝えるとほっと安堵の息をもらした。

どれくらいかは察することはできないがほむらもそれなりに懐は寂しいようだ。

 

「……………でもまどかにも支払わせるのね。」

 

「そこには突っかかってくるのか。」

 

妙なところでブレないほむらに辟易したような表情を浮かべてしまう。

困り果てたようにしながらも今に始まったことではないため、逃げるようにメニューに視線を向ける。

そして話題はさやかと杏子が気づいたウォールナッツの新メニューとやらに移ったが、まなかに念話を通して聞いてみれば彼女が考案したものらしい。

さらにはこの行列もその新メニューが目的とのこと。

ならば頼んでみる他はないと満場一致でその新メニューを食べることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~あ、困ったことになったなぁ‥‥‥‥」

 

人通りもそれなりにある街道をうなだれた様子で歩く少女が一人。

青と白の制服に身を包み、金色に近い色合いの髪をサイドテールにして揺らしているその姿はどこかの学校のギャルかのようである。

一方で彼女の首にはレンズの大きい一眼レフカメラがぶら下がっていた。

 

「いやさ、色々探りにかかるってのは記者としての本業ではあるよ?だけど見滝原のをねぇ‥‥‥‥」

 

少女の名前は観鳥令(みとり りょう)

マギウスの翼の一員であり、翼の中では天音姉妹と同じ白羽根の地位にいる魔法少女である。

そんな彼女にトップの『マギウス』の御三家から見滝原の魔法少女たちについて調べてこいとの指示が降った。

 

「観鳥報とかそうだし黒羽根の子たちに向けたメルマガの方もやらないといけないし…………社畜か?もしかしなくても観鳥さん中3で早くも社畜の域に…………?」

 

がっくりと肩を落としながら重い足取りで歩き彷徨う。

しかし、そうしたところで特に意味がないことは彼女自身分かりきっていた。

 

「まぁうだうだ言ったところで何かスクープが転がり込んでくるわけでもないか。」

 

気持ちを切り変えるように自分のカメラに手を添える観鳥。

その大事なものに触るかのような手つきは彼女が情報を取り扱う者としての矜持を示しているようだった。

最近ではネットやスマホという便利なものも増えたが、結局は自分の足でどれだけ歩いたかが成果を生むのだ。

 

「ん…………あれ?ここってウォールナッツだよね?」

 

ふと目についた行列に意識が向く。

自分の記憶が正しければここは立地条件がそれほど良くなかったのか、今のような賑わいをみせていたことはなかったはずだ。

 

「なんかあったのかな………………ま、そんなにリッチではない観鳥さんがこんな高級な料理屋に入れるなんて────うぇっ?」

 

何気なく外から店内の様子を見るだけで済ませるつもりだった。

出されている料理の雰囲気やそれを食す客たちの表情を見るだけにとどめるつもりだった。

 

「え、マジ?」

 

ウォールナッツの店内に調査対象(美樹さやか)がいることに見鳥は目を見開いて驚きをあらわにすると咄嗟に隠れるように身を屈ませる。

それは当然だろう。

見滝原なんて神浜市からギリギリ日帰りができるかどうかの距離にあり、学生の身で赴くには時間的に厳しいものがある。

そういうのも相まって中々難しいと思っていたところに、これである。若干挙動がおかしくなるのも仕方がないだろう。

 

「これはまさかまさかの幸運…‥‥!!金髪に赤髪、そして黒髪の子も全員いるし、まさにおあつらえ向きのシチュエーション…‥‥!!」

 

転がってきた幸運に感謝しながらカメラを構える。

一番めんどくさいと思っていた仕事が思いのほか手早く終わりそうな気配に表情がほころぶ。

 

(ありゃ‥‥‥そういえば奥にピンク髪の子がいるな…‥‥同じ魔法少女?それともただの共通の友人かな?)

 

レンズ越しに写る事前情報にない人物にわずかに首をかしげる。

マギウスから聞いていた話には見滝原の魔法少女は4人のはずだ。

赤髪の槍使い(佐倉杏子)

金髪の銃使い(巴 マミ)

黒髪の盾持ち(暁美ほむら)

そして、最近羽根たちの間でひっきりなしに噂になっている「最強」の魔法少女、美樹さやか。

しかし、目の前のさやかたちは明らかに五人で行動をとっている。

 

(…‥‥悪く思わないでよね。これも解放のため、って奴だから。)

 

少し考えたあと、観鳥はカメラのシャッターを切った。

彼女はマギウスの御三家を信奉しているわけではないが、彼女らの目指す解放には期待をかけている。

故に多少のことを割り切ってこなすだけ。そう思いながら撮った写真を確認するために撮った写真が自動で転送されるように設定されている自身のスマホに目を落とす。

 

「えっ?」

 

こぼれた言葉は困惑に染まっていた。

写真を撮る人間として撮った写真の写り具合を確認するだけの何気ない行動。もしくは記者として活動する彼女の反射的な行動だったのだろう。

写真の中の被写体の姿を見て、それがちゃんと使えるかどうかを見る。だからこそ観鳥は気づいてしまった。

テーブル席の一番外側。店の通路側に座るさやかが冷ややかな目線を向けながら自分を見ていることを。

 

「ッ…‥‥‥!?」

 

そんなわけがない。ないはずだと観鳥の胸中で困惑と恐怖が渦巻く。

自分が覗いている窓からさやかたちが座る席は離れている。ゆえに姿を見られるはずがない。

渦巻く思いが彼女を逸らせ、再び窓から中の様子をうかがう。

 

「…‥‥‥‥」

 

だが、そんな彼女の願いは儚く崩れ去った。再び覗いた窓からは自分を見つめながら出されている料理を頬張っているさやかの姿があった。

覗いてしまったことにより、視線がさやかと彼女とかちあった観鳥は心臓をわしづかみにされるような寒気と共に飛び跳ねるようにその場から逃げた。

 

 

 

「めんどうなことになったな…‥‥‥」

 

「‥‥‥どうかした?さっきからお店の外を見つめているようだけど。」

 

逃げた観鳥に対し、ため息を吐くようにポツリとつぶやくさやか。

隣に座っているほむらが耳ざとくそれに気づき、聞くとさやかは名前も知らない誰かに明確な目的意識をもって自分たちが写真に撮られてしまったことを念話で伝える。

 

(‥‥‥‥それってもしかしてまどかも写ってるのかしら?)

 

(…‥おそらくは。行けるか?)

 

(ハァ…‥‥そいつの特徴は?)

 

(金髪のサイドテールに青と白の制服。それに学生が持つには中々高価に見えるカメラを首から提げていた。おそらくは羽根の魔法少女。)

 

(それだけわかっているなら十分よ。ちなみにここの代金はどうしてくれるの?流石に食い逃げで警察の世話になるのは避けたいのだけど。)

 

(私の方で立て替えておく。ちなみにあとでちゃんと返してほしい。)

 

(あら、そこは抜かりないのね。)

 

(そちらも抜かるなよ?最悪まどかに危険が及ぶ。あとわかっているとは思うが────)

 

(安心しなさい。殺しはしないわよ。それじゃ、先に行っているわ。)

 

さやかの念話を遮りながら盾を召喚したほむらは時間停止魔法を発動させ、その場から消えるように移動した。

 

「あれッ!?ほむらちゃん!?」

 

「…‥‥美樹さん、何かあったの?」

 

突然ほむらが消えたことにびっくりするまどかに何か事態が起こったことを察するマミ。杏子はまだ食べているが、視線と耳をこちらに傾けているのはわかった。

 

「まあ、少し不躾なパパラッチをしばきに、だな。とりあえず話し合いに行こう。一応逃げた方角程度は覚えているからな。」

 

 




久しぶりのまどかちゃん。
それはそれとして終盤の会話ヤクザのそれなんよな。


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第74話 話しづらいこと言ってくるじゃん

もう新年度始まってるぅ!?(七回連続敗北)


「うう‥‥‥‥‥‥」

 

「…‥‥なにかしら、そんな怯えた目で私を見つめて。別にとって食ったりなんかするつもりはないわよ?」

 

偶然居合わせたウォールナッツでさやかたちの写真を撮った観鳥だがそれを察知したさやかに発見されてしまう。

当然逃げの手を打った彼女だが、追いかけたほむらの時間停止魔法の前に成す術はなく、あっという間に追い付かれてしまい、裏手の路地に連れてこさせられていた。

 

「わたしたちの写真を撮ったのは何のため?マギウスの御三家からの指示?」

 

「まぁ…‥‥‥そんなところ、かな」

 

「あら、意外と素直に吐くのね」

 

問い詰めるほむらに観鳥は乾いた笑みを浮かべながらそう返すとほむらはわずかに目を見開いて驚きを露わにする。

 

「そりゃあねぇ…‥‥だって君たち狙われてるの自覚してるんでしょ?」

 

「そうね、たくさん破壊して回っているもの。あなたたちのウワサ」

 

座り込んでふてくされるように頬杖をついている観鳥を尻目に誰かを待つように壁に背中を預け、表通りの方を見つめる。

見てない今なら逃げてもよかったが、ほむらの魔法が時間停止であると理解できてないとはいえ、ほどほどに離れていたはずの距離を一瞬で詰められたことからもう一度逃走する気は完全に失せていた。

 

 

「ほむら」

 

「ッ…‥‥‥」

 

路地裏に響く声と視線を向けた先にいた人物に観鳥は張り詰めた表情を浮かべる。

 

「その様子だと大丈夫のようだな」

 

「わたしは無益な殺生は好まない方よ。あいつ…‥キュウべぇなら話は別だけど」

 

「そうか‥‥‥‥まぁ、お前ならそうだろうな」

 

ほむらと簡単なやりとりを済ませたさやかは観鳥に視線を移した。

さやかの後ろにはマミや杏子、そしてまどかの姿もあり、まどかはほむらに追い詰められて怯えているようにも見える観鳥のことを心配そうな目線で見つめていた。

 

「ちょっと話したけど、あなたの言う通りマギウスの翼だそうよ、この子」

 

「だーから言ったじゃねぇかよ、ゼッテェかぎつけられるってさ」

 

「…‥‥まぁ、神浜市に赴く以上予想はしていたことだ。マミ先輩、一応結界は?」

 

「張ってあるわよ。流石にこんな光景、何も知らない人から見たらカツアゲかそういうことしているとしか見られないもの」

 

マミにそう確認をとったさやかは観鳥に近づくと、地べたに座り込んでいる彼女と視線を合わせるようにその場にしゃがみこむ。

 

 

「‥‥‥‥‥アンタが、美樹さやか、だよね?」

 

「・・・・・そうだが、すっかり有名人になってしまったようだな私は。それで?そういう私を嗅ぎまわるようなことをしているお前は?」

 

自身のことを聞かれた観鳥はムッとした表情で口をすぼめて気まずそうに視線を外す。

マギウスの翼であることは明かしてしまったが、観鳥にそれ以上さやかたちに情報を明かすつもりはなかった。

ひとえにそれは彼女が情報というのがいかに重要であるかを心得ている人間であるからだ。

彼女は自身の学校で「観鳥報」という学校新聞の企画をやっている、いわばジャーナリストのような人間である。

だからこそいつもはカメラ片手にスクープを探し周り、見つけた被写体を写真に収めている。最近は彼女の学校周辺で出没するネコのあとを追い続ける写真が好評だ。

 

だが、スクープには良いものと悪いものの二種類が存在する。

 

前者は校庭の桜が花開いたなど、素朴で日常的な出来事を書いてしまえばそうなる。しかし、悪いスクープとは大方内容が決まっている。不倫や横領など、不祥事も多岐にわたるが、彼女がよく捉えたスクープはいじめだった。

その瞬間を一面に抑えて掲載してしまえば、真偽はどうであれ大衆に対して大きな影響を与えることができる。

そういう光景を何度も間近で見てきた。だからこそ彼女はそれを恐れて口を堅く噤む。

 

「‥‥‥‥あんまりこういうことを言いたくはないのだが……‥アンタ、今日私たちと会ったの、偶然だな?」

 

「いッ‥‥‥‥!?」

 

予想外の指摘に狼狽える反応を見せる観鳥。

確かに今回さやかたちを見かけたのは全くの偶然だ。しかし、それを見抜かれるのは話が別だ。

一体どこにそう思われる要素があったのだろうか?

 

「理由を聞きたそうにしている表情そのものだな」

 

「またお得意の第六感か?」

 

観鳥の表情を察したのかさらにそう指摘されると、『うっ』と息が詰まるような声を挙げて目線を逸らす。

が、指摘された時点でもう手遅れなのは明白。完全に翻弄されている。

そんな感覚が観鳥の中で渦巻いるところ、さやかは首を横に振ることで杏子の言葉に返す。

 

 

「アンタがパパラッチかその類の人間であることはあの時写真を撮られたことに気づいたときにはわかっていた。次に注目したのは服装だ。アンタが今着ているのは学校の制服。もし事前に私たちを尾ける段取りがあったのならば、そんな自分の身元がわかりやすくなってしまう服装は避けるべきだ。携帯とか、手軽に調べられるものがあるならなおさらのことだ」

 

「‥‥‥‥もしかしてもう調べちゃったりしたのかい?」

 

などと聞いてみたりしたが、観鳥にはさやかたちがまだ自身のことを調べていないことはわかっていた。

さやかの後ろにいるほむらが何気ない様子で取り出した携帯で何か調べだしたからだ。

 

()()、調べてはいない。こちらの言うことに応じてくれればそれ以上の詮索はしない」

 

そのほむらの行動を腕を真横に伸ばすことで制すさやか。一見なんともなく見えるが、さやかは今の行為を目線をほむらに向けることなく行った。

そのことが観鳥のジャーナリストとしての目に奇怪に映ったが、今はそれを置いておくこととする。

眼前に立つさやかの表情をいまいち読むことはできない。ウォールナッツで見かけたときには笑みを見せていたため表情筋が死んでいるわけではないのだろうが、ともかく顔は年相応には思えないほどに冷静沈着なものだった。

さらには自身をじっと見つめてくる水色に近い青い瞳は雲一つない青い空かどこまでも続く広い海を連想させるようで、嫌悪感はないが自分のことをどこまでも見透かされ、丸裸にされそうでどこか小恥ずかしい感覚を覚えた。

 

「‥‥‥観鳥さんを脅すつもり?」

 

そんな感覚を払拭する意味も込めてにらみつけるように目を据える観鳥。

 

「‥‥‥‥いや、そのつもりはなかったのだが、言葉面は完全に脅しのそれだったな。まぁ、もう意味がなくなってしまったが」

 

「うぇっ…‥‥?」

 

視線を横に逸らしながら気まずそうに頬をかくさやか。奥にいるマミたちもきょとんと首を傾げたり、笑いを押し殺していたりとさまざまだった。

 

「一人称がだいぶ独特だな、()()()()?」

 

「ッ…‥‥‥ハァ‥‥‥‥」

 

自分のやらかしに気づいた観鳥は目を見開いたあとにどうしようもなさを感じたのか深いため息を吐きながら頭を抱えた。

 

「…‥‥観鳥令。南凪自由学園の中等部三年。そこの黒髪の子には話したけどマギウスの翼の白羽根をやってる」

 

「白羽根‥‥‥天音姉妹と同じ立場の魔法少女か」

 

「あの子たちと観鳥さんを比べるなんてとんでもだよ。観鳥さん的にはどうにも‥‥‥‥」

 

名前を自ら曝露してしまったことである程度吹っ切れたのか、撮った写真は削除してくれた。

思いの外素直に応じてくれたことに驚き、その訳を聞いてみると、『人間、結局は自分の身が大事なのさ』とのことだった。

ともかく、白羽根という中々翼の中で高い立場をひっかけたことは大きい。さやかは何か彼女から聞き出せることはないかと考え、その後ろでは杏子やマミ、そしてまどかが観鳥の言う南凪について調べていて、やれ海水浴場やアミューズメント施設があったりと娯楽にあふれた土地であることに目を輝かせていた。

その三人を、特にまどかのことを観鳥が見つめていた。

 

「‥‥‥‥ねぇ、あの子も魔法少女?あまり見たことがないんだけど」

 

その質問に今度はさやかが眉間に指をあてる。まぁ、自然ではある。主にマギウスの翼との戦いに出ているのはまどかを除く四人だ。そこに見知らぬ人間が現れ、なおかつ魔法少女のことを平然と口に出しているこの場にも居合わせているとしたらまどかも魔法少女であろうと推論を立ててしまうだろう。

 

「ほむら、頼むから殺気を隠す努力をしてくれ。お前のずももっとした視線が直線上にいる私にまで突き刺さっている。はっきりいって怖い」

 

「え?」

 

表情を青くしているさやかに観鳥がのぞき込むように彼女の背後を見やると、さやかが言語化した通り、眼球をかっと見開き、ずもももっと瞳を血走らせているほむらがいた。

さやかという肉壁越しにその視線をおくっていたのは彼女なりの慈悲だったなのか、のぞき込んできた観鳥が深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだと言わんばかりに全開にかっぴらいた瞳孔でにらみつける。

 

「ひっ‥‥‥‥」

 

「…‥‥すまない。こいつは彼女のことになるといつもこうなってしまうんだ」

 

「り、理由は…‥‥‥聞かない方がいいねこれ」

 

「まぁ、触らぬ神に祟りなし、だ。だがその質問に答えるとすれば、彼女は魔法少女ではない。だが、魔法少女のことは知っている。ソウルジェムや魔女化のこともだ」

 

「そこまで知っているのに、魔法少女じゃないんだ‥‥‥‥」

 

「色々事情があってな。端的に言うと彼女をこの争いに巻き込むわけにはいかない。ところで、アンタは今回私たちを付け回すつもりだったようだが、それはアンタ自身の判断か?それともマギウスの御三家からの指示か?」

 

「…‥‥一応、そういう感じの言われ方はしたね。あんまり気乗りをしなかったけど」

 

「それは、単純にこちらに対する恐怖心からか?」

 

「‥‥‥‥めっちゃ話しづらいこと言ってくるじゃん」

 

「想像には難くないからな。電波塔での戦いにやってきた翼側の魔法少女たちは頭数は多いが、お世辞にも強い魔法少女であると言うことはできないというのが私たちの見解だ。大半が魔女の打倒すら厳しい、というのは後ろで殺気をばらまいている魔法少女の言葉だ」

 

イヤなものでも見たかのような渋い顔をする観鳥を尻目にさやかは淡々とした様子で自分たちの見解を述べる。

 

「マギウスの翼は戦力的にも精神的にも依存している存在がいる。もっともとして挙げられるのがマギウスの御三家、次いではアンタや天音姉妹をはじめとする白羽根たち。その両方に私たちは勝利している。さらに今ここにいる私たちに限っての話になるが、組織の掲げる救済のために必須で戦力的にも隠し玉であろうドッペルを相手に正面から倒している。大方向こうからはひどい印象を持たれているだろうな」

 

そう言ってさやかはため息を吐き、わずかに沈んだ表情を見せる。その様子はまるで敵対することを本意としている訳ではないと思っていると、観鳥にはそう見えた。

 

「‥‥‥‥そういえばさ、君たちって全部わかっているんだよね。ソウルジェムのこととか、魔女化のことも」

 

「‥‥‥‥その通りだ。アンタの言う通り、全部知った上でマギウスの翼の行いに異を唱えている。天音姉妹からある程度は聞いたのか?」

 

「…‥‥まぁ、まずは自分の周囲の聞き込みから始めるのが一番だからね。あの子たちに色々言ったらしいね?」

 

「…‥‥‥私はあくまで可能性の一つとして挙げただけだ。アンタたちの救済が行われる過程で実際にその可能性が現実になったときに冷静でいられるのかと」

 

「それは────」

 

「同じことを繰り返し言うようだが、確かに可能性は限りなくゼロに違いない。だが、決してゼロと結論づけることも不可能だ」

 

観鳥が言いかけた言葉をわかっている、もしくはもう聞き飽きたと言わんばかりに遮り、ばっさりとそう言い切るさやか。

その目に一切の迷いはなく、曇ることもないまっすぐに前を向いているその瞳に観鳥は声をつまらせ、気まずそうに目線を逸らす。

 

「アンタにはどうなんだ?実際に身内に被害が出てしまえば、世間的には被害者だが、実態はむしろその逆だ。それで救済が果たされ、魔法少女に定められた運命が解放されれば、アンタはその結末で満足するのか?」

 

「…‥‥‥‥‥」

 

さやかの言葉に何も返す言葉が見つからない観鳥。

もちろんさやかの言葉を彼女自身が言っていた通り低い可能性、起こりえない未来だと言って切り捨てるのもよかった。

だが、彼女は、『白羽根』観鳥令はあろうことか組織のトップであるマギウスをさほど‥‥少なくとも心酔はしていない。

彼女がマギウスの翼に籍を置いているのもあくまで『解放』のため。誰だって死にたくはない。生き永らえたいのは当然の思考だ。

ましてやいつ来るかはわからないが絶対的に確定している死など、もっての外だ。

 

「…‥‥‥‥満足するかどうかより、観鳥さんはその『解放』のために翼たちに入っているんだよ。誰だって早死にはしたくない」

 

「…‥‥‥当然の考え方だな。私だって流石にこの歳で死にたくはない」

 

「…‥‥‥‥あの姉妹にも聞いたときに思ったんだけど、君って割と考え方はこっちよりだよね?解放そのものには賛成してるって。それでも観鳥さんたちマギウスの翼に反抗するのはその過程で誰かの不幸があってはいけないってこと」

 

「結構話したんだな、彼女ら。てっきり組織間に不和を生み出しかねない情報は通さないとばかり思っていたが」

 

「あの姉妹なりに考えているってことなんじゃないのかな、観鳥さんはあんまり接触する機会ないからそこまで計り知れないけど」

 

そこまで話したところで観鳥はしっかりとした目でさやかを見据える。

調子を取り戻したとも呼べる様子で、直近まであったさやかに対する恐怖心はなくなったようだった。

 

「よっし、観鳥さんの調子も戻ってきた!!案外普通の子ってわかったし、ずっとこっちが質問に答えっぱなしなのは性に合わない!!」

 

(普通ねぇ…‥‥‥)

 

(言わぬが花、という奴よ杏子。色々言いたいことはあるでしょうけどここは我慢ね)

 

「ほむらちゃんほむらちゃん、この南凪地区ってプールもあるみたいだよ!!今度みんなで一緒にどう、かな?」

 

「ええ、もちろん。貴方の頼みよ。断る理由もないわ」

 

「プール……………私としては全然構わないのだけど、あの水着まだ大丈夫かしら?最近また胸元が苦しくなってきてるのよね。」

 

「は?貴方そんなおっきいミサイルを二つもぶら下げておきながらまだ中身に脂肪を蓄える気?」

 

「おいおい、マミの胸がそれ以上デカくなったら入るサイズなくなんじゃねぇの?」

 

「ちょ、ちょっと暁美さんと佐倉さん!?いくらなんでも言い方があんまりでしょっ!?鹿目さんも何か言ってあげて!!」

 

「えっと……………さやかちゃんもおっきい方に入る人なんじゃないかな?」

 

観鳥の言う『普通』というさやかの評価にそれぞれ戦闘力と精神性に抜けている部分があるのを知っている二人は渋い顔を見せていたが、それも話している間にくだらない内容の会話になってしまった。

なんとも締まらない場の雰囲気に二人は互いに顔を見合わせてしまう。

 

「け、結構仲がいいんだね、皆々様って」

 

「…………一応、色々あったからな。それで、何か聞くのか?答えられる内容であれば答えるが」

 

「あ、はい」

 

同性でなければセクハラ判定を受けそうな会話に自分が突然混ぜられたことに恥ずかしがる訳でもなく淡々とした様子で話を続ける。

あんな会話の後でいいのだろうかと観鳥は顔には出さず、内心で頭を悩ますが、せっかく向こうからいいと言われているのだからあまり深くは考えないことにした。

 

「今まで聞いてきたことを整理すると、君たちは『解放』は行うべきだと思うが、その『解放』のための手段に問題があるから今のところ敵対しているってことになるんだよね?」

 

「大方な。とはいえ、例えそちらが被害の出ない、是正案を持ってきたところで簡単にそちらに下る可能性は低いだろうな」

 

「…‥‥‥理由を聞かせてもらっても?」

 

「電波塔における戦いで組織のトップである『マギウス』の一人、アリナ・グレイと戦っている。その時の彼女の言動などを鑑みてまともに魔法少女たちの未来を案じているとは思えない。というか、よくあんな典型的にヤバい魔法少女をトップにおけるな」

 

「…‥‥‥つまり、『マギウス』の人たちに対して不信感があるからということ?」

 

「そういう認識でいい。ほかの二人も会ったことはないが知っている人間から聞いた話によると相当色物な人間のようだからな。何か裏があるような気がしてならない」

 

「裏…‥‥‥?」

 

さやかの言葉に首をかしげながらその先を求めるような反応を見せる観鳥。

しかし、それは彼女が本来聞こうとしていたものから外れることになる。

大丈夫かという意味合いを込めてもったいぶるような様子で間を空けてみたが、変わらない彼女の雰囲気に折れるように口を開く。

 

 

「具体的に言うのであれば、『マギウス』には『解放』とは別に何らかの目的がある。もしくは元々本来の目的があって、『解放』はあくまでその次いで、という線も考えられるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




モチベを上げるコツのヒントレベルをください。(迫真)


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第75話 どうしたら救われるの?

ごめんなさい。できる限り更新速度上げたいので、執筆スタイル変えます。
具体的にいうと一話の文字数を五千字程度まで下げます。
読み応えのある長い文章をお望みの方には申し訳ないですが、理由としては最近7000字近くまでかくのが時間的にきつくなってきたことです。

更新頻度も遅い作者ですが、これからもよろしくお願いします。


「……確かに、マギウスの人たちは信頼を置くには難がある人たちかもしれないよ」

 

さやかの放った『マギウス』には裏の目的が考えられるという言葉に観鳥はそう返した。

しかし、その表情にはわずかながらに諦観のようなものが入っているようにも見え、彼女自身どこか感じ取っていたのだろう。

 

「でもさ、結局観鳥さんたち魔法少女はあの人たちの目指す『解放』がないと生きていけないんだよ。それが例え、あの人たちにとっては本来の目的ではなかったとしても」

 

「……そうだろうな」

 

観鳥の言葉に納得した声を挙げるさやか。

電波塔での戦いの時にもわかっていたことだが、マギウスの翼に身を置く魔法少女たちの多くは総じて魔力の保有量が少ない、端的に言えば弱い魔法少女たちだ。

さやかには魔法少女としての経歴がまだ浅いからわからないことだったが、それが長いほむらが魔女を彼女ら単独の一人で倒すには厳しいと言葉を漏らすほどだ。

 

「君たちは、解放自体には賛成だけど、そのやり方自体に異を唱えている。なら、今の君たちにはそれ以外の方法があるの?そうじゃないと、例えマギウスを止めたとしても何も変わらない」

 

観鳥の言葉ももっともだ。

ただマギウスを止めたとしても、何かそれに代わる手段を掲げなければ、翼に所属している魔法少女からは自身が生きるための希望を、ただこちらのエゴでつぶされたに等しい。

さやかたちにそのつもりはなくとも、遠回しに弱い魔法少女は死ねと言われているものだ。

その先にあるのはさらなる争いしかない。

 

「確かに、方法はないな。情けないが、お前の言う通りだ」

 

少し考えるような様子を見せたあとにさやかはそう答えた。

あまりにも淡泊な、あっさりとした返答に観鳥は目を見開いた。あと少し時間があったら思わず拳が出てきそうになるほどだった。

 

「だが、希望はある。翼に所属しているお前の目の前で言い方は悪いが、誰かが傷つくしかない救済よりはずっとな」

 

そう言い切ったさやかの表情は観鳥が見てきた中で一番穏やかで、柔和な笑みだった。

 

 

 

 

 

 

「……いやー……あれはちょっと人として出来過ぎでしょうよ」

 

さやか達から解放された観鳥は開口一番にそんなことを溢す。

言うまでもなく、それはさやかのことを指していた。

偶然ながらも今回初めて顔を合わせる羽目になった美樹さやかという魔法少女を観鳥は一応ある程度調べていた。

一応、というのも取材を行ったのは羽根達の間だけだった上に、そのほとんどは「強すぎる」「怖い」「なんか空飛んでる」とあまりパッとしない言葉だったため、観鳥は参考にするつもりはなかったにしても、漠然とさやかのことを怖い魔法少女であると無意識下で思っていた。

 

しかし、その取材を行っていた中で明確にさやかに対する意見が違ったのが3人いた。

3人といってもそのうち二人はほとんどいつも一緒にいる天音姉妹のことなのだが。

 

「……あの人は、確かに強い御方でございます。いえ、強すぎるというのも過言ではないでしょう。実際わたくしたち姉妹でも幾分か向こう側に有利があったことを加味してもほとんど歯が立ちませんでしたし。それ故に他の黒羽根の方達が怖がってしまうのも致し方ないことでございましょう。現にわたくしたちは七海やちよさんのグループ含め、いくつものウワサを破壊されたりするなどかなり辛酸を舐めさせられる結果となっています」

 

天音姉妹の姉の方、天音月夜はさやかのことを気難しい顔でそう語る。

それに観鳥は月夜にこう尋ねた。『なら、解放のための邪魔をする美樹さやかのことを少なからず悪く思っていると?』

その質問に月夜は眉間にしわを寄せ、浮かべていた気難しい表情をより一層深める。

 

「……あの地下水路で初めて相まみえたときは、少なくともそうでした」

 

「……まるで今は違う、とでも言っているようにも聞こえるけど……」

 

「……そうですわね。きっと、そうなのでございましょう。あの電波塔における戦いから、わたくしはあの方たちに対して敵意を持ちづらくなっているのでございます」

 

「……それは向こうにそういう魔法の使い手がいたから、と言うわけではない?」

 

「確実にそうだとは言い切ることはできないでございます。ですが、別の白羽根の方からはわたくしが何か自分のもの以外の魔力に侵されている気配は感じないとお墨付きをいただいているのでございます」

 

「なら、ちゃんとした理由、もしくは心境の変化があったと?」

 

「そうなのでございましょう。なぜなら、あの方々たち……特に美樹さやかたち見滝原の魔法少女はすべてを、魔法少女たちに知らずのうちに課せられた運命すべてを理解している。そのうえでわたくしたちに反旗を翻しているのでございます」

 

 

 

月夜の口からそれが語られたとき観鳥は内心信じられないというものだった。

なぜなら答えは簡単。意味がわからないからだ。

魔女化、そしてソウルジェム。

そのどちらも真実を知った身からは到底受け入れがたいものだ。

その未来に行き着くのが嫌だったから、他の羽根たちと同じように翼の一員に加わったのだ。

 

 

 

「……その人のことなら、私もある程度知っています。なんなら知り合いの魔法少女と一緒にあの人に助けてもらったことさえあります」

 

二人目はしらみつぶしにさやかのことを聞き回っていたときに会った黒羽根の一人だ。羽根たちの間の規則でフードを被っているため顔を見ることはできなかったが、わずかに黒髪のショートが見えていたのは覚えている。

 

「強さに関しては多分、他の人と同じようなことしか言えないと思います。それくらい、あの人は強かったです。何せ、他の地域の魔女より数段強いって言われている神浜市の魔女をはじめてだったにも関わらず一人で倒せてしまうくらいなんですから。しかもあの人は倒したあとにこうも言っていたんです。先輩の方がもっと強い。私はまだ魔法少女になってから日が浅いって」

 

「その知り合いしか他の魔法少女を知らなかった私にとって、あの日は衝撃的でした。まぁ、実際には私は気絶していたのでこの目で見たわけではありません。でも、それでも一目見ただけでわかってしまうんです。あの人は普通の魔法少女とは、まるで違う存在なんだって」

 

その黒羽根の言葉をメモしながら観鳥は質問を続ける。

 

「……そう思ってしまう要因とかってわかる?」

 

「……外せないのはあの人の魔法少女としての姿ですね。あんな全身に武器をつけているような魔法少女なんて世界のどこを探しても絶対にあの人しか見つかりませんって。それと……あの人は理想の魔法少女みたいだからです」

 

「理想の……魔法少女?」

 

黒羽根の言葉にいまいち理解することができなかったのかメモに残しながらも首をかしげる観鳥。

 

「……普通の人から見て、魔法少女って聞けばどんな想像をするんでしょうか?」

 

目の前の黒羽根からの質問にわずかに答えを窮する観鳥。

魔法少女とはまさしく自分達のことを指しているが、彼女の言っている魔法少女がそれとは別であることはわかっていた。

 

「……魔法の力を使って、弱きを助け、悪を倒す、正義の味方ってところかな?君のお眼鏡に叶う答えが出せてるかどうかはわからないけど」

 

「……いえ、大筋は合っています」

 

観鳥の言葉にひとまず頷く姿勢を見せる黒羽根の彼女。

 

「あの人はそれこそテレビのようなところから現れた魔法少女みたいなんです。魔女にすら勝てない魔法少女は生きることすら難しい。助けたってなんの徳にもなりはしない。魔力の無駄にしかならない。だから私みたいな弱い魔法少女達はマギウスの翼に身を寄せたんです」

 

そう言うと黒羽根は顔を俯かせる。といってもフードを被っているせいで動きからそのように見えるというのが正確だが。

 

「それなのに、あの人はそうすることが当たり前と言わんばかりに手を差し伸べるんです。必要だと思ったら、グリーフシードですらあの人は簡単に差し渡したりしてました」

 

「グリーフシードまで!?」

 

驚きを隠しきれず、大きな声をあげてしまう観鳥。

魔法少女にとってグリーフシードはまさに必需品だ。

今は神浜市にいるからグリーフシードに呪いが溜まりきってもドッペルという形で消費されるが、それ以外の地域では呪いを抱え込みすぎると魔法少女は魔女に変貌する。

つまりよほど仲のいいグループの内々でないとグリーフシードのやりとりなんて起こり得ないのだ。

 

「そ、それで他になにか言ってたりしなかった!?」

 

「え、ああ……知り合いから聞いた話だと、初めはその子もいらないって言ったんです。私もその時意識があったなら同じことをした……と思います」

 

わずかに言葉に間があったことが、グリーフシードさえ明け渡すという衝撃に観鳥はメモを取るのに必死だ。

 

「でも、あの人は自分は魔力については気にしなくていいって言って私と知り合いの分の二つを渡してくれたんです。後で聞いたら、ソウルジェムは魔力を使った形跡がまるで見当たらないくらい綺麗だったそうです」

 

「……普通魔力は使えばその分呪いとして貯まるはずなのに使った感じが見当たらない……彼女の使う武器は複数あるとも聞いたからその影響?」

 

黒羽根の言葉に若干興奮気味にメモをとる観鳥。ここ最近はあまりパッとしないスクープばかりなのと、羽根向けのモノを作っていたからか久々の匂いにあてられているようだ。

 

 

「……あの人はマギウスじゃ魔法少女を救うことができないから戦っているの?じゃあ私はどうしたらあの子から、この罪から救われるの?」

 

その声はメモを取り続けている観鳥には届かず、だが確実に彼女の心を黒く蝕み続けていた。

 

 

 

 

「話ができる相手で助かった」

 

「話というより、脅しに片足を突っ込んでいなかったかしら?途中から鹿目さんとずっと話してた私が言うのもなんだけど」

 

「あはは……基本さやかちゃんがあの人と話してたもんね……」

 

「よってたかって詰め寄るのもいただけないじゃない?」

 

観鳥を解放したあとの会話でそんなことを話す。

まぁ、実際マミの言う通りではある。

しかし、変に写真が出回って仮にまどかの近くで被害が出てしまったら色んな意味でとんでもないことになってしまうのは目に見えていたから仕方のないことである。

 

「……おい、ちょっといいか?」

 

声をかけられ、後ろを振り向いてみればそこには杏子がいた。

彼女が浮かべている顔は無表情で顔色から察することはできないが、そういう顔を見せるということは大体パターンが決まっている。

 

(……不機嫌なようだな)

 

とりあえず彼女を怒らせることにメリットはない。

名前に出さずとも自分が呼ばれているのはわかっていたため、杏子に連れていかれる形で少しだけまどか達から距離をとった。

 

「何か気に障ったか?」

 

「……不機嫌なの察しときながらいけしゃあしゃあと言って、ホントお前って意地悪いよな」

 

「そうか?あまり気にしたことはないが、善処した方がいいのか?」

 

「……いや、いい。それがお前さんって奴だからな」

 

「……お前の言葉、忘れた覚えはない」

 

不意に出された言葉。そっぽを向かれたさやかに見ることはできなかったが、一瞬だけ動きを止めたのを見逃さない。

 

「お前の性根はわかっているつもりだ。暴くような物言いだが、一応心配してくれてるのだろう?」

 

「……お前、割とエスパーくさくなってきてんのに曖昧なこと言うんだな」

 

「所詮わかるぐらいのものだ。それに感じても言葉に表しづらいことだってある。普通のヒトとそう変わらない」

 

「いや、目が金色に光るのは流石にちげぇって。んなの世界探してもテメェしかいねぇよ」

 

「……そ、そうか」

 

「とにかく、忘れてねえならそれでいい」

 

話を切り上げるように杏子は早歩きで先ゆくまどか達と合流していった。

どことなく素直ではない彼女の様子にさやかはわずかに肩を竦めるが、その表情は確実に朗らかだった。

 

 




感想くれるとウレシイ…………ウレシイ………


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第76話 代表者

やべぇ‥‥‥‥今まで6千7千とか書いてたからいざ4千字程度で出そうとすると罪悪感的な何かがえぐい…‥‥‥


「……………最近はまぁ、神浜に入り浸っていたからな…………」

 

言い訳じみた言葉に思わずため息が出る。

自分の机の上に積み重なるのは分厚い本の山。その背表紙にはそれぞれ国語やら数学といった学校の教科が一つずつ記されていた。

 

(…………テスト勉強、まるで進んでいない。)

 

季節は春を通り過ぎ、茹だるような暑さが何日か続くことが多くなってきた。

暑くなれば、学生の身であるさやか達にはある時期がやってくる。夏休みだ。

普通であれば、楽しみにし、日々をどう過ごすか想像を膨らませているだろうが、それは小学生までの話。

残念なことに夏休みをただでは過ごさせんと壁のように立ちはだかるイベント、それがテストである。

ここのところ頻繁に神浜に足を運んでいたさやかは色々あってこれ(テスト)の対策を行うことをすっかり忘れていた。

 

「とりあえずやるか………」

 

ちょっと億劫になるさやかだったが、結局は先生からチェックされるためどのみちやる必要があると自分に言い聞かせることでなんとか机の椅子に着いた。

 

(………………自惚れるつもりはないのだが、なんだか理解力が上がった気がする。特に数学。)

 

そんなことを考えながらスラスラと問題を解いていくさやか。問題が解ければモチベーションが上がるのか、気づけば時計の針がかなり進んでいた。

 

「……………こんなものか。」

 

ひと段落つくと腕を真上に伸ばし、リラックスするさやか。

時間も時間なため、寝ようとしたタイミング、机に置いていたスマホが着信を知らせる。

 

 

「………………何かデジャブじみたものを感じる。」

 

このタイミングで電話とは一体どこの誰だと思いながらスマホの画面に目をやると、画面には春名このみの名前が。

 

(………………出るしかないな。)

 

ソウルジェムが自身の魂であることを聞かされると少し考える時間が欲しいといった彼女。

あれから特に連絡のようなものはなかったが、今こうして連絡を寄越してきたということは彼女の中で考えがまとまったということだろう。

もっとも、それがさやかにとって喜ばしい形かそうでないかはわからないが。

 

「もしもし?」

 

『あ…………もしもし、こんばんは』

 

「…………大丈夫そうか?」

 

『……………まぁ、どうかなって感じです。』

 

さやかの言葉に乾いた笑いのような声を上げるこのみ。

空元気なようにも見えるが、それはそこまで深刻なようには見えないように思える。

 

『ごめんね、さやかちゃん中学生なのに高校生のわたしが泣きつくような形になってちゃって……………』

 

「……………自分がなんであるかなど、関係あるものか。」

 

『えっ?』

 

「誰であれ、ショックなことがあれば立ち直るまでには時間が要る。そこに年齢が上やら立場とかいう理由で無理に納得しようとすることなどあってはならないだろう。特にこういう命に関わるようなことはよりそうであるべきだ。」

 

「で、ホントのところどうなんだ?電話越しだと大丈夫そうに聞こえるが。」

 

『…………うん、実はね。さやかちゃん達からあのことを教えられた後、別の日に

みとちゃん達がまた来てくれたの。』

 

「相野みとか……………『達』?」

 

『えっと、さやかちゃんは知らないよね。みとちゃんと同じ団地に住んでいる魔法少女のせいらちゃんとれいかちゃんのこと。』

 

そう言われて少し相野との会話を思い返してみるさやか。

そういえば彼女の能力を使用した空間でそんな感じの名前が出ていた気がする。

 

「……………いや、名前だけは聞かされた覚えがある。まぁいい、今回の主題はその人たちではない。紹介は会ってからでもいいはずだ。」

 

『それもそっか。それで話の続きなんだけど───────』

 

そこから先はさやかもある程度相野から聞かされたことと同じような内容だった。

ひょんなことからソウルジェムが自身の魂であることをインキュベーターから聞かされたときには自分の身体がまるで人間ではなくなってしまったような感覚に恐怖したが、それでもそこで生きることをやめてしまっては、叶えた願いが、なによりそこにあった出会いに嘘を吐くことになるからと。

 

『わたしが願いを叶えたのはお店の店長の病気を治してほしかったからなの。そこに後悔はないよ。みとちゃんたちの言うことに則るなら、それはわたしが花を好きになったきっかけを否定する、なによりのことだから。』

 

それを聞いたさやかは安堵した。

魔法少女の真実を明かすことはかなりリスキーなことである以上、教えられた人間がどちらに傾くかは完全に本人任せになってしまう。

もちろん可能性によってはマギウスの翼に属してしまうこともあるだろう。

しかし、仮にこのみがその決断を下したとしてもさやかはそれを糾弾するつもりは一切ないのも正直なところだった。

それはあくまでこの未来ない運命から逃れたいがための縋りだ。手法にこそ受け入れがたい部分が山ほどあるが、その救いを求めた行動、行為に後ろ指を指すことは絶対にできない。

 

『でも…‥‥どうにかできるならしたいよね。わたしにはまだ知らないことがあるけど、これだけでも、とても…‥‥‥』

 

「ああ。それには私も同意見だ。だが、いくら救われたいからと言って、それを免罪符に他者を傷つけるのは間違っている。所詮は綺麗事に過ぎないが。」

 

『き、綺麗事って‥‥‥さやかちゃんって自分でやっていることによくそんなことが言えるね…‥‥』

 

「私たちには示さなければならないことがあるからな。」

 

『示さなきゃって‥‥‥‥一体どんなこと?』

 

「代替案だ。具体的に言えば、マギウスの救済に変わる何か革新的な方法だ。それがなければ、マギウスを止めたところでいつか必ずどこかでマギウスと同じようなグループが現れ、また同じ争いが起こる。それでは何も変わらない。それどころかむしろ悪循環に捕らわれていってしまう。」

 

『ようはいたちごっこってわけだからこの一発で解決する必要があると‥‥‥‥でもでも、そんな方法って簡単に見つかるものなの?』

 

「…‥‥‥難しいな。その一言に尽きる。」

 

(可能性がないわけではない。しかし…‥‥)

 

このみの言葉にそう返す裏腹、さやかは渋い表情で考えこむ。

考えてはみるが、その段階に入るためにはどのみちマギウスに今の行いを止める必要がある。そうでなければ交渉のテーブルにつくことすらできないからだ。

 

(彼女にああ言った手前、そう簡単にへこたれる訳にはいかないな。)

 

『‥‥‥‥やっぱりそうだよね。ところで話は変わるんだけど、さやかちゃんはこれからどうするの?またしばらくはウワサを探し回るつもり?』

 

「…‥‥それも一つだが、現状大きな問題として存在するのが、第一に相手との戦力差、次点で本拠地の居所だ。後者はともかくとして前者の戦力差の問題は早急に対応するべき問題だ。マギウスの翼に所属する羽根たちは基本的にはそこまで名うてと言える魔法少女はいないが、総人数の全容まで把握できていない。なにより向こうは育てた魔女やウワサを出してくる可能性もある。そうなってしまえばこちらはじり貧に近くなる。現状では対応が不可能だ。」

 

『流石に魔女まで出してくるんだとしたら周りの魔法少女の人たちも気づいて手伝ってくれるんじゃ…‥‥』

 

「自分から言っておいてとも思うかもだがそうなるのは状況が最終局面に近くなってからだと考えるべきだろう。普通であれば魔女を利用するなど、多くの魔法少女は反感を覚えるだろうからな。結果的にそれは自分の首を絞める行為に他ならない。」

 

『ということはその間にその羽根の魔法少女さんたちと戦えるだけの人数が必要ってこと?』

 

「そういうことだ。だがさっきも言った通りマギウスの翼に身を寄せている魔法少女は多い。彼女ら全員を相手にする、とかいう大それたことをするつもりはないが、それでも十人くらいでは流石に戦力に心元がない。」

 

『‥‥‥‥さやかちゃんはその戦力にあてとかあるの?』

 

「‥‥‥‥知っているかはわからないが、常盤ななかたちのグループには声を掛けようと思っている。」

 

『常盤さんたちのところか…‥‥‥確かにあの人たちもだいぶ強い方だけど‥‥‥‥‥』

 

「‥‥‥‥なにかあるのか?」

 

『私はいわゆる代表者って呼ばれている人たちを引き込んでみるのがいいと思う。』

 

「代表者?」

 

このみの言葉に首をかしげるさやか。

彼女の説明では代表者とは、神浜市内における西側、東側、南側と分けられた魔法少女たちの勢力図でそれぞれの地域におけるトップとされる魔法少女のことらしい。

そういえばどこかの会話で七海やちよが西側の魔法少女代表とか言われていたような気がするのを思い出す。

聞くところによるとやちよは東側の魔法少女の代表と話し合いで西と東で魔女の取り合いが発生しないよう線引きを行い、言うところで言う縄張りを定める協定を結んだとされているらしい。

 

「魔法少女が多いがための代表者か‥‥‥‥‥」

 

『うん。巻き込むことはすごく申し訳ないんだけど、多分その人たちがいれば、その分早めに解決できるかなって‥‥‥‥‥どうかな?』

 

「‥‥‥‥‥いや、既にウワサは東側の地区でも確認している。マギウスの翼はおそらく神浜全域まで及んでいると考えた方がいいだろう。その存在も既に耳に入っているかもしれない。もしかしたら協力関係を築くこともできるかもしれない。」

 

このみの言葉に肯定気味な意見を返すさやか。

理由としては彼女の言う通り、戦力的にも信頼を置ける人物が増えればそれだけ解決までの時間は早くなるだろう。もう一つは事後処理的な面からだ。

仮に一通りの事件が沈静化したとき、そういうリーダー格の魔法少女が複数人いれば、各地域の魔法少女たちの動揺を抑制することができる。

具体的に言うならば、ソウルジェムのことや魔女化のことを明かされたときだ。さやかたちのような外の者より、その代表者をはじめとする見知った人物から知らされた方が動揺の度合いも変わるだろう。

 

「ともかく、一度はその代表者と話がしてみたい。仮に協力を取り付けられなくてもそういう勢力がいると知ってもらうだけでも十分な宣伝効果があるというものだろう。それで、その代表者の名前とか知っているか?」

 

『ごめんね、流石にそこまでは知らないかな‥‥‥‥‥‥やっぱりやちよさんなら知ってるだろうけど…‥‥‥』

 

「‥‥‥‥‥‥‥まぁ、勝手に会いにいくより彼女を通した方が適切な段取りではあるか。」

 




感想くれると非常に助かります…‥‥‥


〈余談〉

クロブでエクプロ触りました。
あの機体勝ち負けとか置いておいて楽しいね。
結構クロブのモチベ上がる上がる。


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第77話 私では限界がある

目指せ週1投稿!!


 

「ソウルジェムのことですか?はい、存じ上げています。知る機会に恵まれたのはあきらのおかげでしたが。」

 

「やはりか。前に会った時からなんとなくお前は知っているのではないかと薄々感じていた。」

 

「あら、見抜かれていましたか。まぁ正直に言いますとあなたからそのようなことを仄めかされた時は内心ではとても驚いていたのは事実ですからね。」

 

「なら協力の件は?」

 

「マギウスの翼に関しては以前から噂として聞き及んでいます。私の固有魔法には反応こそ何もなかったために静観を決めこめていましたが、彼女らが魔女を育成しているともなれば話は別です。」

 

「え、そんなあっさり!?」

 

「ななか?私そんなの知らないんだけど………………?」

 

「それはそうでしょう。あなたにはまだ話していませんでしたから。」

 

「ええ……………」

 

くいっとメガネの位置を動かしながらそう言い切るななかにあきらは何も返せなくなってしまう。

さやかがまず会いにむかったのはななかたちのグループだ。

例によって互いの連絡先を知っているかこを間に挟んでのやりとりを通じ、こうして集まる機会を得たが、想像以上にトントン拍子で進み、まとまったことにさやかについてきたこのみも驚きを隠せない様子だ。

 

そしてななかにソウルジェムに隠された真実を知るおかげとされたあきらはそのことに心当たりがないようだったが、ななかが彼女に説明すると、合点がいったのか納得の声をあげると同時に顔を青くする。

 

「…………要はボク、ななかがいなかったら死んでたってことだよね?」

 

「そうなりますね。ですのでもっと感謝してくれてもいいんですよ?」

 

「恩着せがましいのネ………………」

 

肩を竦めるあきらにななかはふんぞりかえるように腰に手を当て、いわゆるドヤ顔に近い表情を見せる。

まぁ、恩着せがましいのは事実なため、その様子を美雨からは白い目で見つめられていた。

 

「あの…………流石にもう一つの"爆弾"と美樹さんが呼んでいたのは………」

 

「…………すまない。それを私の口から語ることはできない。マギウスの翼に関わっていけば自ずと知ることはできるだろうが……………」

 

かこの言葉にさやかは目を伏せ、申し訳なさそうにそれが語ることができないのを謝罪する。

 

「それと、そのマギウスの翼に対抗している魔法少女に七海やちよさんがいるとのことですが………………」

 

「…………………フェリシアのことか?」

 

なんとなくななかの言葉に若干の歯切れの悪さを感じたさやかが少し考えた後にそういうとななかは面食らった表情をし、一度咳払いのような声をあげる。

 

「…………すみません、無礼なのは重々承知なのですが、以前の彼女の行動があまりに目に余るものだったので。」

 

「気持ちはわからないでもないが、正直にいうと七海やちよ以外のあそこの面々は限りなく白に近いグレーだと思ってもらった方がいい。」

 

「?…………なんだか言い方変だけど、味方ってことでいいんだよね?」

 

「問題ない。だが、彼女らはソウルジェムのことなどをまるで知らない。どこかで知った、もしくは知らされた時に彼女たちがどう転ぶかが不明瞭だ。」

 

「だったらアナタが教えてあげるのがいいのネ。」

 

「そうしたいのも山々なんだが、何より知ってる家主がそれを嫌がるんだ。気持ちは理解しているつもりだが。」

 

「嫌がるとは…………やちよさんがですか?」

 

美雨からの指摘に困ったように首を振るさやかにななかが不思議そうに首を傾げた。

ななかたちと会う前にさやかはいろはたちにもできる限り情報を共有した上で事にあたるべきだろうとしてやちよに電話をかけたのだが、その時の彼女は妙に嫌がっていた。

まるで忌避しているとでも言っていいような様子。明らかにそれを巡って何か有ったのだろうと考えてしまうのは自然だった。

さやかとしても西側の顔とされる彼女と蟠りを持つのは避けたかったためにその時は引き下がることにした。

 

(こればかりはな……………この前はこちらの判断である程度は決められたからよかったものの…………)

 

迂闊に広げ回って、マギウスの翼に降る魔法少女が増えたら本末転倒だ。神浜市に来た時から引きずり続けている問題にさやかはため息をつく他なかった。

 

「……………そういえば、話が変わるのだが、東側の代表者について何か知っているか?」

 

「東側の代表者…………?名前程度であれば存じてはいますが………………なるほど、そういうことですか。」

 

「……………理解が早くて非常に助かる。」

 

「え?なに?どういうこと?」

 

「………………事態は私が思っていたより大きく、深刻化している、ということです。」

 

「いやそんなメガネのレンズを光らせながら賢いアピールされても…………っていうかそれどうやってるの?」

 

あきらのツッコミに耳を貸す様子もなく、話を進めていく二人。

そしてさやかはななかから東側の代表者の名前を聞き出した。

 

 

和泉 十七夜(いずみ かなぎ)…‥‥‥それが東の代表者の名前か。」

 

「ええ、顔を合わせた機会は少なかったですが、実力に申し分はありません。戦力に引き込むとしてもこれ以上はないでしょう。」

 

「助かった。あとは七海やちよに掛け合ってその魔法少女と会えないか聞いてみる。」

 

「そうした方が賢明でしょう。基本的に西と東では不可侵であると聞き及んでいます。私たちが向かってしまえば東の魔法少女の皆さんに余計な刺激を与えてしまうでしょう。今は団結するときである以上、それは避けるべきです。」

 

「え!?そうなんですか?」

 

ななかの言葉に驚きの声を挙げるこのみ。その理由を聞いてみると、彼女はさやかについてくるつもりだったらしい。

 

「このみちゃん、なんだか積極的だね…‥‥‥」

 

「あ…‥‥‥!!」

 

不思議そうな顔を浮かべるかこの言葉に思わずこのみはさやかと顔を見合わせる。

さやかもここで思い出したが、かえでの交友関係の中にはかこもいたのだった。そして彼女はかえでがマギウスの翼にいる可能性が高いことを知らない。

ともかくかこにもかえでの現状を知らせる必要があるという意味合いで頷くとこのみの説明でかこにかえでのことを伝える。

 

「そ、そんな…‥‥かえでちゃんがマギウスの翼に…‥‥!?」

 

「あくまでその可能性が高いだけと念押しはする。だが、今のところ彼女との連絡が途絶えているのが現実だ。さらには彼女の周りの魔法少女とまで音信不通になっている始末だ。」

 

ショックのあまり手元で口を覆うかこにそう説明するさやか。

友人が知らない間に一般人や他の魔法少女に被害を及ばしているグループに加入しているかもしれないというのが相当つらいであろうことは想像に難くない。

 

「‥‥‥‥あなたのいう“爆弾”、どうやら相当のもののようですね…‥‥‥」

 

隣でかこの狼狽ぶりを見たななかは険しい表情を浮かべる。

かえではおそらくソウルジェムが黒く濁りきったら自身が魔女になり果てることを知ってしまったのだろう。そこでこのままでは自分に未来がないことを悟ったことでマギウスの翼に入り、そこで知ったことをレナに流した可能性がある。

 

(‥‥‥‥‥実をいうとももことも連絡が取れていない…‥‥おそらく、もう────)

 

イヤな確信が心の中で渦巻くが、ひとまず置いておくほかない。

 

「とりあえず、どのみちそのマギウスの翼っていうのを止めないと。魔法少女を救済とかよくわからないけど、魔女を育てて他の人を襲わせるなんて魔法少女として見過ごせないよ。」

 

「そうアルネ。イロイロとナゾなところがあるけど、それで家族にもしもがあったら絶対許さないネ。」

 

「再度の申出になりますが、私としてもあきらと同じで魔女を育て、利用するという輩を捨ておくつもりはありません。あなたほどの魔法少女が戦力が必要と言うのでしたら、喜んで手を貸しましょう。」

 

「…‥‥‥すまない、ありがとう。」

 

ショックも相応にあったが、それでもマギウスの翼に対抗するための戦力になってくれると言ってくれたななかたちにさやかは頭を下げ、感謝の意を述べる。

 

「それで、現状では明確に味方と呼べる人物はどのくらいでしょうか?戦力の把握をしておきたいのですが。」

 

「確か…‥‥さやかちゃんのところの四人とみとちゃんのグループの三人、あとやちよさんのところに私だから‥‥‥‥‥」

 

「…‥‥多く見積もっても10人弱、最悪10以下にしかならない。」

 

ななかから現状の味方陣営の頭数を聞かれるとこのみが指折りながら数え、さやかが目線を下に落としながら総計を出す。

まぁ、どう見ても戦力図が釣り合っている気がしない。

 

「こちらを頭数に含んでも10前半‥‥‥‥‥対する向こうは?」

 

「マギウスの翼に所属する魔法少女は多くはほとんどが無名の魔法少女だ。しかし、何より人数が多い。神浜全域に及ぶ活動範囲を鑑みても百か二百はくだらないと考える。」

 

頭を悩ませているようなさやかの言葉にその場にいる全員に暗い雰囲気がのしかかる。

無論全員を相手にする必要がないのはわかっているつもりだが、それでもおよそ十倍の相手にななかたちは改めてさやかたちが立ち向かっている相手の強大さを認識する。

 

「…‥‥‥‥ざっと十倍‥‥‥‥どうするのななか?」

 

「とりあえずこちらもできうる限り協力してくれる方をかき集めるほかないでしょう。一概に弱いと言っても魔法少女。固有魔法の性能や使い方次第ではいくらでもやりようはあると考えるべきです。」

 

とはいえ、一度交わした約束をその場で反故にするつもりもななかたちにはなかった。

あきらが苦いものでも食べたような表情から話を振られたななかは結局はさやかがやっていることと同じように協力してくれる魔法少女を増やすしかないという結論になる。

 

「あきら、私たちの方でも探してみましょう。こちらでも多少はアテがあります。少なくとも、あの騎士さんは事情を話せば意気揚々とこちらに加勢してくるのは目に見えていますが。」

 

「あぁ、確かに…‥あの人は絶対そうするよねぇ‥‥‥‥うーん、巻き込んじゃうのは気が引けるけど、何も言わないでおくのも後々言われそうな人がいるんだよなぁ‥‥‥」

 

「?‥‥‥‥まぁ、基本誰に来てもらってもこちらとしては大歓迎だが、一度くらいは顔合わせのようなことはさせてほしいとだけは要望を出しておく。」

 

二人の話に首をかしげるさやかだったが、最低限アリナ・グレイみたいな半ば気がふれているような魔法少女が来なければいいと思い、それだけを条件に出した。

 

「フーン…‥ワタシはあまり思い浮かぶのいないネ。前の気絶事件の時に会ったあの三人組は?」

 

「あの人たちは…‥‥どうかな‥‥‥遊佐さんが動いてくれたらそれにくっついてくる形で来てくれるとは思いたいけど…‥‥‥」

 

「まぁね‥‥‥‥いろんな意味で危ういのがいるのネ。」

 

思っていた以上に魔法少女たちの間で交友関係があることにさやかは目を見開く。

実際あとで聞いてみれば少なくとも年単位で魔法少女として生きている人物がほとんどだった。

その間にも様々な出来事があったであろうことは想像に難くない。

 

「改めてよろしく頼む。魔法少女としてまだ未熟で神浜の人間でもない私では限界がある。」

 

「‥‥‥‥‥あなたが未熟かどうかはさておき、そう正直であれるその姿勢には素直に賞賛の声を。神浜の魔法少女はよくも悪くも癖のある人たちが多いですので。」

 

 




各地域の代表者ぇ‥‥‥‥もう少し色々頑張ってよ…‥‥まぁ周りから祭り上げられたのが大半なんだろうけど、特に南側


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第78話 生み出されやすい都市

物語の都合、和泉 十七夜の能力を以下のように修正しました。

修正前 変身後でなければ読心能力が使用できない

修正後 変身後でなくとも能力が使えるようにしました。
    能力の発生を遅くしました


 

「…………七海やちよから許可はもらったが…………」

 

未だにさやかの心の中では困惑がひしめく。

ななかから東側の代表者の名前を聞いたさやかは早速と言わんばかりにやちよから東側に入る許可を取り付けるべく彼女に凸電を行った。

 

結論から言えばさやかが口にした通りやちよから許可を取り付けることはできた、が───────

 

「連絡はしておくからあとは好きにしろと言われたのだが……………どう思う?」

 

一言で言えば、なんだか突き放す物言いで許可をもらったというのがさやかの正直な感想だった。

電話をかけた時からなんとなくやちよの様子が変だった。

具体的に言葉にするならこちらを積極的に遠ざけようと、もしくは自分と関わらせないと必死になっているような、そんな感じだった。

 

「と、言われてもねぇ………………実際七海さんと電話越しで話した訳でもないし……………」

 

話を振られたマミは同じように困ったような表情で言葉を濁し、手元に置いてあったジュースを口に含むと隣にいる人物に視線を流す。

さやかたちがいるのは大東区と呼ばれる神浜市の最も東端に位置する地域の────いわゆるメイド喫茶と呼ぶような場所だった。

やちよから聞かされた集合場所に来たときは唖然、もしくは辟易としていたが、一番復帰の早かった、悪く言えば空気の読めなかったさやかは颯爽とデコレーションされたファンシーな扉を開け放ち店内へと入店。

店員(メイド)からのご主人様挨拶と案内を経て今に至る。

 

「…………………あいにくと私も同意見、としか言わざるを得ません。ですが実際に電話した美樹さんの言葉を足がかりに敢えて言わせてもらえば、代表者としての立場を放棄したがっているようにも思えますが。」

 

マミに話を振られたななかも困った表情でやちよの態度をそのように語る。

 

「まぁ所詮私個人の感覚だ。あまりそうあてにしないでほしい。」

 

(大学のことはあまり知らないが…………中学生と同じように期末テストのようなものがあるのか?だとするならああいう風に張り詰めた雰囲気になるのも頷けるが…………)

 

時期が時期なためそんなことを考えるさやかだが、どうにもイノベイターとしての感覚がそうではないと言っているようにも感じ、複雑な感情を抱く。

 

(……………いろはから特にそういう相談がない、ということは問題ないのか?)

 

「ともかく、突然すまなかった。いきなり代表者に会うのに同行してほしいと言ってしまって。」

 

今回急ながら同行してもらうことになったななかにさやかは念押しすると一緒に謝罪をする。

本来ならやちよに同行してもらうのがベストだったのだが、肝心のやちよに取りつく島がなかった。

それ故にある程度その東側の代表者、和泉十七夜と面識があるというななかに来てもらったという経緯だ。

 

「いえ、お構いなく。彼女と顔見知りがいると話がスムーズになるのはおっしゃる通りですし、私としても合法的に東側に足を運べる良い機会ですので。」

 

「…………そういえば、和泉十七夜は一体どういう人物なんだ?よければ参考程度に聞かせてほしいのだが。」

 

「彼女についてですか?あまり多くは知りませんので話せることも少ないのですが?」

 

十七夜のことをあまりよく知らないと答えたななかにさやかはそうか、と軽く一言だけ呟く。

その様子はどこか困った表情を見せていた。

 

「……………どうかしたの?何か見つけた?」

 

「いや‥‥‥‥それっぽい人間が少し前からこちらを見ているから勝手に答え合わせでもしようかと思っていたのだが。」

 

「‥‥‥‥‥‥あらまぁ」

 

さやかの言葉にもう慣れたのかその視線を追うとそう口を零すマミ。

振り向いてみるとその先にはさやかたちを見定めるように見つめる一人のメイドの姿が。

彼女の服装はメイド服であるが、纏う雰囲気やさやかたちを見つめる鋭い目線はどう見ても言う側というより言わせる側の人間だった。

 

「顔すら知らぬ仲のはずだがよくわかったな、とでも言っておこうか。」

 

さやかの視線に気づいたのか座るテーブルに近寄ってきた白髪の少女、和泉十七夜はそう言い放った。

 

「貴方が中々いい趣味をしていたからな。」

 

「‥‥‥‥‥‥なに?」

 

さやかの言葉に十七夜はわずかに眉を顰める。

マミとななかもさやかの言葉に首をかしげる。おおよそさやかの言葉は十七夜がメイド服とかいう珍妙な服を着ていることを茶化しているとでも二人は思ったが、どうにもさやかの表情は茶化すとかいう雰囲気ではなく、不快感のようなものを如実に表していた。

 

「‥‥‥‥貴方の固有魔法、読心かその類だろう?私の中に貴方の視線が入り込んでくる感覚があった。だからいい趣味をしていると言った。趣味は覗き見か?」

 

それだけ言ってさやかは背もたれに深々と背中を預けると頼んだジュースを口に含む。

不遜な態度を示すさやかにななかは慌てたのかヘルプの意味合いを込めて咄嗟にマミに視線を送る。

が、当のマミはもうあきらめたのかため息一つついて投げやりの姿勢を示す。

 

(あの……さ、流石にあのような態度でいるのはいただけないと思うのですが…‥‥‥)

 

(え?ああ…‥‥美樹さんそういうのホントに気にしないから。言ったところで治るわけでもないのはもうわかりきっているから…‥‥‥)

 

(ええ‥‥‥‥‥)

 

(だって七海さんに対しても歯に衣着せぬ一言でキレる寸前まで行かせた子よ?ちょっとやそっとで治るわけないじゃない。)

 

(ええ…‥‥‥‥)

 

マミとの念話のやり取りで内心ドン引くななか。

とはいえあの七海やちよをブチ切れさせる直前までいった一言とは一体なんなのかという興味心が湧きあがるが、今はそっと胸にしまい込む。

その発言を言った者のせいで自分までまきこまれるのは絶対に避けたかったからだ。

 

「…‥‥‥すみま「ハハハハハハハハッ!!!!」

 

ななかが謝ろうとするより先に十七夜の笑い声が響く。

突然のものに店内は静まり返り、客や店の店員たちの視線の全てがさやかたちに向けられる。

 

「‥‥‥‥おっと、今は仕事中だったな。いかんな、初めてのことだったから思わず周りにも憚らずに笑ってしまった。」

 

急に大きな声で笑いだしたことを反省するような言葉を並べるが、彼女の見せている顔にそのような色合いは見えない。むしろどこか面白がっているようにも見えるその視線は一分の狂いなくのんきにジュースを飲んでいるさやかに注がれていた。

 

「すまないが少し外で待っててくれるだろうか。店長に休憩の申出をしてくる。」

 

そういって不敵な笑みを見せた十七夜は注目を浴びたにも関わらず堂々とした足取りで店のバックヤードに消えていった。

彼女が裏方に消えていったのを確認したようにその瞬間店内は再び客と店員の話し声に包まれる。

 

「………………彼女が寛大だったと考えるべきか、この人が予想にもしない馬鹿だったかの二択ですね。」

 

「?…………何か疲れた様子だな。何か飲むか?このなぎたん特性荒絞りオレンジジュースとか面白そうだが。」

 

「………………いえ、結構です。」

 

(……………この人は…………関われば関わるほど大物ですね…………)

 

疲れたことを察してはくれているものの微妙にズレた反応をしてくるさやかにななかは呆れたように目頭を抑えるのだった。

 

 

 

 

 

「改めてだな。自分が和泉十七夜(いずみ かなぎ)だ。東の代表者、という肩書きをもらってはいるが、あまりそう硬くなる必要はない。」

 

店の外の路地裏で店のメイド服を着たままそう十七夜が自己紹介をする。

そのクールな物言いとあまり変化しない表情からその佇まいにある種のカリスマのようなものを感じさせる。

 

「と、能書きを垂れたが、その必要は無いようだな。七海からある程度君たちのことを聞き及んでいたが、これは想像以上だな。」

 

そう言って十七夜は不敵な笑みを浮かべると面白いものでも見つけたかのような視線をさやかに送る。

 

「流石は『最強』の魔法少女とマギウスの翼から吹聴されているだけのことはあるか。まさか能力を使ったことが悟られるとは思いもよらなかったがな。」

 

「…‥‥‥そこまで広がっているのか。」

 

十七夜の発言に頭を抱えるさやか。

マギウスの翼の勢力が神浜全域に拡がっていることはなんとなく察していたが、さやかの噂まで一緒に広めていることに思わずため息もついてしまう。

 

「…‥‥ところでなんですが、マギウスの翼については既にご存じなんですね。」

 

「ああ。彼奴らに関しては前々から七海の方とでもいろいろ情報を共有している。自分としては突然現れては好き放題をされていることにかなり腹を据えかねているともな。」

 

そう言ってムッとした表情で語る十七夜。

組んでいる腕も忙しない様子で指とかを動かしているところから相当ご立腹なのは目に見えている。

 

「…‥‥‥というと、我々にご協力してくださるので?」

 

「互いに利害は一致している。こちらとしても今のところ手に余る一件であることは事実だったからな。まさに渡りに船、といったところだ。」

 

「…………………よろしいのですか?」

 

すんなりと協力を受け付けてくれた十七夜にななかは怪訝な表情を浮かべながらそう問いかける。

始めその問いかけに無言だった十七夜だが、次第に難しい表情に変わっていった。

 

「いや、常盤君の言う通りだ。代表者である私がこうも簡単に頷いてくれることが気になるのだろう?」

 

「失礼ですが、その通りです。貴方は代表者である以上、こういう協定のような約束事は慎重であるべきです。それこそ一旦持ち帰って後日に連絡を戴くことを想定していたのですが…………」

 

「……………何か個人的な事情でもあるのか?」

 

「………………個人的でもあるし、代表者としての理由でもある、というのが正解だな。」

 

さやかの言葉にそう答えた十七夜はその理由を話し始める。

どうやらマギウスの翼の構成員は多くが東側の魔法少女で占めているらしく、そのせいで現状十七夜の東側の代表者としての権威が半ば地に落ちてしまっている状態らしい。

従う魔法少女が少なければ、自分の足かせもその分少なくなるが故に今回のさやかたちの申出を即決に近い形で承諾することができた。なんとも皮肉に近い形だ。

 

「…‥‥つまり、貴方を引き込んだところでそれがマギウスの翼に対する抑止力になることはない、ということか。」

 

「…‥‥どうやら君が期待してきた働きはできそうにないらしいな。」

 

「だけど、同じ市内でこうも広まり具合が違うとはね…‥‥‥神西区だと存在すら知らない人も多かったのに…‥‥‥」

 

「それは‥‥‥‥おそらく東側の情勢上、仕方のないことだと思われます。」

 

ななかの言葉に首をかしげるさやかとマミ。

ななかは十七夜に向けて目配せをすると意図を察したのか重く頷く。

 

「君たち二人は確か神浜の外から来たのだったな。神浜市は比較的魔法少女が生み出されやすい都市の形をしている。特に東側はそれがより顕著となっている。」

 

 




やばやば

リリカルなのはの方と話数が一緒になってきたよ(白目)

あと十七夜さんの口調がわからんちエクシア(何言ってんだこいつ)


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第79話 復讐の炎は未だ消えず

うーん、中々書く時間が取れないのー…………


 

「……………東側は前に来た時からどうにも退廃的な印象を抱いてはいたが、まさかそこまで差があるとはな。」

 

十七夜の話を一通り聞いたさやかは難しい表情を浮かべる。

彼女の話は神浜市に魔法少女が多い理由のその一端だった。

見滝原はそれなりに大きいが魔法少女の数はついこの間まで地域全体でマミ一人だったのに対し、神浜市はほとんど飽和状態に近しいほどその人数が多い。

 

その理由の一つに西側と東側で経済的格差が目に見えて広いというものだった。

 

神西区を始めとする西側は見滝原と似たような建物も多く、いわゆる近未来都市に発展している印象を多く受ける。なんなら見滝原より進んでいる感覚すらある。

 

だが対照的に東側、今現在さやかたちのいる大東区や以前足を運んだ工匠区はシャッター街が多かったり、どことなく前時代的な建物が数多く存在したりととてもではないがあまり同じ都市の中とは思えなかった。

さやかも先程語った通り退廃的な印象を抱く区画だ。いろはの住んでいた宝崎市も建物の外壁にツタが張り付いていたりと寂れた印象を受けるが、あれはそういうものだと言われれば納得できたが、東側は冗談ではなく、まさに真性のソレだった。

 

「西側との差でそれを羨んだ人たちが魔法少女になって願いを叶えて…………それで本当を知った人や魔女との戦いに疲弊した人たちがマギウスを頼った。」

 

「だがそれは私たちに解決できる問題ではない。確かに問題の一つではあるだろうが、行政など門外漢も甚だいいところでしかないからな。その手の人たちに任せるしかない。」

 

「……………その通りです。やろうと思えばできるでしょうが、その手法の先はいずれも外道の末路。あろうことか『飛蝗』と同じなど死んでも嫌です。」

 

経済問題とか解決は無理というさやかとマミに対し、嫌悪に近い表情で誰か、もしくは何かと比べるななか。

もちろん飛蝗なんて漢字や単語すら思い浮かばない中学生のさやかは気にはなりはしたが首を傾げるだけに留める。

理由としてはただ単純。その単語を出した時のななかの感情の昂りがとんでもないからだ。

表面的には出てきてはいないが、イノベイターとしての感性が彼女のまるで火山の噴火のように沸き上がる怒りを捉えていた。

これは地雷なんてものではない。やちよはフェリシアの時とは群を抜くヤバさに流石に閉口を貫くつもりだった。

 

「そういえば飛蝗というのは「やめておく」やけに食い気味に突っぱねたな。」

 

多分さやかたちが飛蝗のことの知らないことに気を回すつもりだったのか説明しようとした十七夜の言葉に割り込む。

 

「そいつがとんでもない奴というのは彼女の雰囲気を見てれば察せられる。確かに私たちはその『ヒオウ』とか言う存在のことは知らないが、それだけで十分だ。今必要なのは現状をどうするかだ。」

 

「……………自分の時もそうだったが、美樹君の能力は察知することなのか?そうでなければ説明がつけられんほどの鋭敏さだと思うのだが。」

 

「残念なことにこれは自前だ。元々雑に勘や気配には鋭い方でな。特に─────」

 

そう言うとさやかは細めた視線を十七夜に向ける。その目線を向けられた十七夜は見透かされたような感覚を覚える。

さながら彼女の固有魔法である読心を自分自身に対して使ったような感覚だった。

 

「────いや、なんでもない。自分で言っておいて話の逸れるようなことを言ってすまない。」

 

(まさかとは思うが、この心の内にある怒りを見透かされたのか?)

 

急に下手を打ったと言うような表情で顔を背けるさやかに十七夜は訝しげな様子でそれを見つめる。

なんならそれこそ自身の能力を使ってでも確認するべきだろうとは思ったが、時間がかかる上に魔法少女の能力ではない自前で心への干渉に気づいたさやかにまた能力を行使するのは色々と危ないと判断し、気持ちをグッと抑える。

 

(……………………またやらかすところだった。しかも見え透いた特大地雷とくる。一体なんだあれは。)

 

内心で困った表情を見せるさやか。

見えてしまったのは彼女の胸中に湧き出ている感情のようなものか。

黒い炎、そう表現するしかないほど苛烈でかつ真っ暗闇をのぞいているような感覚は初めてだった。

あれがいわゆる恨み辛みのもので構成されているのだとしたら、一体どれほどの人生を送ってきたのか。

 

(…………ともかくこればかりは触れるべきではないだろうな。流石に火薬庫に通じている導火線には慎重に行くべきだ。)

 

 

「…‥‥‥‥まぁいい。ところで君たちはこれからの方針のようなものはあるのかな?」

 

「南側の代表者の名前は知っているだろうか?できればその魔法少女とも話がしたい。」

 

十七夜に方針について尋ねられ、さやかがそう伝えると考えこむ仕草を見せる。

 

「ふむ、都くんのところにか‥‥‥‥‥」

 

「あの、何か問題でもあるんでしょうか?例えば連絡が取れないとか‥‥‥‥」

 

微妙そうな様子を見たマミが不安そうに聞くと、十七夜はいや、とマミの不安を取り払うように首を横に振る。

 

「南側の代表者の名は都ひなのという。ただ、彼女は厳密には南側の代表者と言うわけではない。」

 

「?…‥‥ですが七海さんからは地区の相互不可侵は貴方とその南側の代表者と話し合って決めたことだと‥‥‥‥」

 

「それは都くんしか任せられる人物がいなかっただけだ。自分はともかく、七海は周りから祭り上げられて今の代表者という形に収まってはいるが、都くんはそれがより顕著だ。」

 

「…‥‥‥要はまとめ役や相談役のような、周りから慕ってもらいやすいポジションにいた結果そうなったということか。」

 

ななかの疑問に十七夜が肩を竦めながらそう答えると、さやかがまとめるように結論を出す。

大方さやかのまとめ方で相違ないのか十七夜は無言で肯定をした。

 

「それに‥‥‥都くんがとりまとめている中央区は事実上の中立地帯になっている。中立地帯と聞こえはいいが、実体は行き場を失った魔法少女がほとんどだ。自分の至らなさを露呈するようで情けないが、聞く話によるとその地区の魔法少女に対してグリーフシードの巻き上げのようなことが起こっているらしい。」

 

「ッ…‥‥なんと悪辣なことを…‥‥」

 

「あまり聞いていて気分のよくなる話ではないですね…‥‥」

 

中央区の現状に辟易とする表情を見せるななかとマミ。

もちろんさやかも不快感を感じないわけではなかったが、それとは別のことが気がかりだった。

中央区と言えばさやかたちが二葉さなやアイと出会った電波塔のある地域だ。

十七夜の言う中立地帯ということが本当ならマギウスの翼は地区における不可侵の取り決めを破っていることになる。

 

「‥‥‥‥やはり奴らは何振り構わずに行動を起こすつもりか。」

 

いろはの話からマギウスの残り二人の里見灯花と柊ねむは両者ともにまだ小学生であると聞き及んでいる。

小学生がリーダーをやっているという事実にその時居合わせたみかづき荘とさやか達は半ば冗談だろうと思っていた。

しかし、その後のいろはの『ねむちゃんならともかく灯花ちゃんは割と調べれば写真付きですぐ出てくる』という言葉に半信半疑で調べてみるとホントに出た。

しかも彼女は宇宙科学の権威的な人物でもあり、調べれば調べるほどまぁ、高名そうな人物との会談が議事録付きで出てくる出てくる。

 

「……………こんなハイスペック魔法少女が存在していいのか?」

 

「いや、オメェが言うな。」

 

「この子でハイスペックって言うなら貴方はオーバースペックよ。一体何回言われたら自覚するのかしら。」

 

あまりの事実にさやかは愕然としながらそう言葉を漏らすと杏子から鋭い手刀を脳天に落とされ、呆れた様子でほむらからそう言われたのが記憶に新しい。

 

(奴らは、マギウスは一体何のために行動をする?私にはどうにも魔女化の運命から逃れるためとは別に理由があるとしか思えない…………)

 

幾度もなく思い浮かんできた疑問を同じ結論でしまい込む。

いくら考えたところで結局は机上の空論を超えることはできない。

実際に会って、話してみるしかないのだ。

 

(と言っても、コイツのインタビュー動画を見てみたが、何か苦手な感じがする………話し方も人を若干小馬鹿くさくするのもさることだが……………声か?)

 

里見灯花のインタビュー動画があったので見てみたが、そんな印象を抱くさやか。

 

「でも、その人もとりあえずまとめ役ではあるのですからこちらとしては顔を合わせておきたいんですが…………美樹さんもそう思うわよね?」

 

「……………まぁ、会えるのであれば。もちろん無理強いをするつもりなどもないが。そういえばこの前そちらで声をかけてみると言っていた人たちはどうなっている?」

 

「通っている学校が違う人がいるのもあってか多少のズレはありますが、会うところまで進んでいるところです。」

 

「すまない。こればかりは完全にそちら任せだ。人脈がない以上どうしようもない。」

 

「ここまで来ればもはや一蓮托生でしょう。ですので、集めたあとはよろしくお願いしますね?」

 

「?…………何を意味してるかはわからないのだが……………変なことではないよな?」

 

「まぁ……………貴方なら大丈夫でしょう。はい。」

 

「不安だ……………」

 

にこやかな顔を浮かべるななかの言葉に訝しげな目線を見せるさやか。なんだか無性に不安にさせる言い方に思わずため息を吐く。

そのやりとりに十七夜は面白がるように口元を隠し、クスクスと笑う。

 

「……………中々の善性っぷりだな。自分としては色々とあったからかあのような人間をみると少しばかり気掛かりになってしまうのだが。」

 

「まぁ……………普通でまかせだって言われてもしょうがないことでも、あの子はその言葉に嘘がないと理解してくれて信じちゃうんですもの。ホント、すごい人です。そのあり方に救われた人もいれば支えになっている人もいます。」

 

「…………………彼女、存外に上に立つ者としてのセンスがあるんじゃないかと思うのだが?」

 

そう言う十七夜の言葉にマミはどうだろうと言うように微妙な愛想笑いのような表情を浮かべるだけだった。

 




えー、マギレコを知らないガノタ諸兄のために里見灯花嬢を一言で言いますと

超絶賢いメスガキネーナです。


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第80話 ザンライザー、実践投入

どうしても戦闘描写書きたかったけどそこまでいかなかった(白目)
それはそれとして更新頻度が完全にオワタ化しておる


 

「……………確かに私自身で言いはしたし言われもした。確かにな。私と戦うなら魔女と相対する気持ちでいてほしいと。」

 

ポツリとつぶやくさやか。

その表情は変わらないが、言葉の端には動揺のようなものがあった。強調するように同じ言葉を繰り返したのもその証拠だ。

 

「もちろん、自分の言葉を反故にするつもりもない。事実でしかないからな。本当に危険な武器しか手元にない。だからといって─────」

 

「流石にその人数で来られるのは……………色々きつい。」

 

ゲンナリとした様子で露骨に肩を落とし、遠い目のようなものを浮かべるさやかの目線の先には10人近くもの魔法少女が各々の武器を構え、臨戦体制をとっていた。

 

 

 

「多いわね…‥‥15人……は、いっていないにしろ10人はいるわよね?」

 

「……………まぁ、よっく集めたもんだ。」

 

「良くも悪くも、神浜市には魔法少女が多いですからね。ひょんなことから知り合ってしまうことも珍しくありません。今回はそれを使わせていただいたに過ぎません。」

 

時を巻き戻すこと数十分ほど前。

驚きから言葉を漏らす杏子とマミにななかがそう返した。

ななかからある程度声がけが済んだという連絡が届き、指定された神浜市内の空き地に四人で赴くと、そこには以前あった相野みとや和泉十七夜を筆頭に多くの魔法少女たちがいた。

どうやらさやかたちが来たことにはまだ気づいていないようだ。各々のグループで何やら話し合っている。

しかし十七夜だけ気づいたのかわずかにさやかたちに目線を向けた気もなんとなくするが、面白がってかそのままスルーを決め込むらしい。

そんな彼女が意地の悪い笑みを浮かべているのが見えたさやかは肩を竦ませる。

 

「?…‥‥あっ!!さやかちゃん!!」

 

十七夜の次にさやかたちの来訪に気づいたのは相野だった。

屈託のない笑みを浮かべ、腕をブンブンと大きく振っている様はまさに天真爛漫といったところか。

その相野の声で気づいたのか話していた面々、特に顔見知りであるあきらや美雨たちはやっと来たかというような笑みを見せている。

 

「どうやら元気そうで何よりだ。それでそっちの二人が………………」

 

「どーも、伊吹れいらだよ。よろしくね。」

 

「…‥‥‥桑水せいかです。」

 

寄ってきた相野と共に来た魔法少女。名前を聞く限り二人が相野の言う同じ団地に住む魔法少女なのだろう。

れいらと名乗った魔法少女が普通にしているのに対し、せいかと名乗った方は不機嫌なのか、眉間にしわを寄せて怒ったような表情を見せているが。

 

「せいかせいか!!顔顔!!」

 

「え、あッ!?」

 

相野からそう指摘されると、せいかは目を見開くと慌てた様子で何か言いたげに口をアワアワさせていたが、ついぞ何も言い出すことができずに顔を隠すように後ろを向いてしまった。

 

「うーん‥‥‥やっぱりまだまだかぁ‥‥‥」

 

「…‥‥‥彼女、人見知りか?」

 

残念そうにするれいらにさやかがそういうと驚いた表情を見せ、それを聞いていたのかせいかも一瞬だけ体をびくつかせた。

どうやら大当たりなようだ。

 

「いや、怒っている形相をしている割に彼女自身からそういう雰囲気がなかったからな。もしかしたら失礼を働いたと思われているかもしれないが、そんなことはないから気にしないでくれ。むしろ人伝いながらもこちらの声に応えてくれてありがとう。感謝する。」

 

なぜわかったとでも言いたげな顔を見せていたれいらにそう説明し、おそらく二人のうちどちらかの引率もあったのだろうが、それでも来てくれたことの感謝を露わにする。

 

「……よ、よろしくお願い、します………」

 

「ああ。こちらこそよろしく。」

 

「ほぇ~、せいかと初対面なのにすごーい…………」

 

「ほら、大丈夫だったでしょ!!さやかちゃんならせいかとでも話せるって!!」

 

「若干言い方に難があるような気がするが……………相野はこの二人に私のことをなんて紹介したんだ?」

 

「えっとねぇ、正直な人!!」

 

「いや………………それはないだろう。こっちは明確に隠していることがある。それも‥‥相野から聞いたかは定かではないが特大のモノだ。普通は疑いを持ってしかるべきだろう。」

 

相野の言葉に思わず渋い表情を浮かべるさやか。

さやかとしては隠し事をしている身である以上、相野のその評価はあり得ないというのが正直なところだった。

 

「そうかな…‥私はあんまりアナタのことをそうは思えないかな?普通隠し事って中身を話さないから隠し事でしょ?それなのにわざわざ隠していることがあるって前もって言うなんて正直者以外のなんでもないと思うよ?」

 

「そうか?こちらとしてはかなり心苦しいところがあるのだが…‥‥」

 

「気にしないください!私たちもななかさんたちから話を聞いた上で決めたので!他の人たちも一緒だと思います!」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「あれが美樹さやか、ですか。昨今ウワサになっている…‥‥」

 

「マジでホンモノ?聞いてたハナシと全然違う感じじゃん。」

 

「…………もう神浜市中に広まっているんじゃないのかしら、あなたの名前。」

 

「…………………ハァ~…………」

 

れいらからそういわれ、集まってくれた他の魔法少女に顔を向けてみたさやかだが、初対面であるはずの他の魔法少女からはさやかの姿を見かけると露骨に警戒し出したり、驚かれたりと形はどうであれ注目の的にされてしまう。

さらに言えば全員から名前を知られているらしく、ほむらからかわいそうな目を向けられたさやかは腰に手を当て、大きく、そして深くため息を吐いた。

 

「あ、あれ?なんだか思っていたより反応が良くない…‥‥」

 

周囲からの反応が自身の思っていたのと違うことに目を丸くするれいら。

どうやら神浜市で広められているさやかのウワサのことはあまり知らなかったようだ。

 

「みんなも共犯だろうに…………なぜ私だけ。」

 

「そりゃあ、こういうのは一番目立つ奴が槍玉に上げられんだよ。お前ほぼほぼ目立つ三拍子揃ってんだろ。」

 

杏子からそう言われるが、さやか自身目立ってしまっていることは分かりきっていたため、また深いため息をつき、所なさげに軽く頭をかいた。

 

「…‥‥‥なんだかすごい著名な方みたいになってますね、さやかさん。」

 

「あっ!!このみさん!!」

 

不意に聞こえてきた声に振り向いてみればそこには遅れてきたのかこのみの姿があった。

やってきたこのみに相野はうれしそうな笑みを浮かべ、駆け寄っていく。ほかの二人も後を追いかけるように彼女の元に向かう。

 

「…‥‥‥大丈夫そうか?」

 

「うん、前に電話で言った通り、ショックなことではあるけど、私だけへこたれているわけにはいかないから。それに、かえでちゃんのことも心配だから。」

 

「‥‥‥‥やっぱりかえでさんがそのマギウスの翼にいるっていうのは本当なんですか?」

 

相野の言葉にこのみは表情に影を落とす。

どうやら相野たちはかえでやかことも交流があったようだ。そろって心配だったり、悲しそうな表情をみせていた。

人見知りで会話するときには自然と怒ったような顔をしてしまうというせいかでさえそういう物憂げな顔を見せるのだから相当なモノだろう。

 

「…‥‥わからないよ。でも実際かえでちゃんとはここのところずっと連絡が取れてないの。それはかこちゃんの方も同じ。」

 

笑顔をつくるこのみだが、その表情にはわずかに暗い影を落としたままだ。

それでも笑みだけは崩さず語り掛けるように言葉を続ける。

 

「もし本当にいるのなら、止めないと。そのマギウスの翼の言う救済がなんなのかはわからないけど、魔女とかウワサを使ってなんて絶対にまともじゃないと思う。それと────」

 

「話したい。どうして頼ってくれなかったのかも。さやかちゃんの言う魔法少女に隠された真実全部。一人で抱え込もうとしても大変になるだけなのは、みとちゃんたちと初めて出会った時からわかっていることだから。」

 

このみの表情は重く悲しげなものだったが、その瞳は覚悟で固まっていた。

それを見たさやかはこのみはもう大丈夫だと確信し、ななかたちの呼びかけで集まってくれた魔法少女たちの方に向ける。

 

「……………とりあえず、みんなわかっていそうだが一応自己紹介だ。不本意だが色々ウワサになっている美樹さやかだ。よろしく。」

 

会話の切り出しとして自己紹介をするさやか。

周りの反応といえば昨今神浜市中の魔法少女を良くも悪くも賑やかしている張本人にどよめきと驚きが入り混じったような反応が返ってくるが、気にしてもしょうがないため、割り切ることにした。

 

「そういえば、集まってくれたみんなにはどれくらい話したんだ?」

 

「マギウスの翼周りぐらいですね。その組織が魔女やウワサなる存在を使って人々や魔法少女を襲っていたり、その理由が魔法少女の救済とやらであると。」

 

ななかの説明にわずかに難しい顔を見せるさやか。

確かにマギウスの翼は魔女などを使って人々を襲っているというのに間違いはない。

しかし、それはあくまで彼女らの掲げる魔法少女の救済のためにやっていることである。

 

(もっともその目的すらアリナ・グレイを目の当たりにしたとなった今では定かではなくなってきているが)

 

「さっさんさっさん!!ちょーっとあーしから質問いいっすかー?」

 

考え事をしていたところに突然聞きなれない単語がぶっこまれ、思考を中断される。

何か自分が呼ばれたような気がするが、さっさんというナゾワードに思わずさやかは周りと目を見合わせる。

ほとんどが確証はないけどさやかのことを呼んだのではないかと不思議そうな表情で首をかしげる中、あきらだけは微妙な作り笑顔を浮かべていた。

 

「ごめんねー‥‥あの子結構独特なあだ名をつけるんだよねー‥‥‥」

 

「‥‥‥‥とりあえず今のは私を呼んだということでいいのか?」

 

「そうだよー!!さやかだから、さっさん!!どう!?いけてるでしょ?」

 

あきらの反応ぶりから自分のことをさっさんと呼んでいるのは先ほどからテンション高めにしている長い金髪をツインテールに下ろしている人物だった。

目立つためかぴょこぴょこはねており、そのたびに大きくツインテールの毛先が揺れる。

 

あきらから聞かされたが、いわゆるイケイケなギャルのような雰囲気を感じる彼女は木崎衣美里というらしい。

衣美里の両脇にいる黒髪ロングと青みがかった黒髪の二人、美凪ささらと竜城明日香が衣美里の人となりに見出した『お悩み相談室』とやらに巻き込まれる形で知り合ったらしい。

 

「さっさんってミタキハラってとこから来たんでしょ?どんなところか教えてよー!」

 

「聞きたいことってまさかのそんなこと!?」

 

「もっとこう‥‥あるのでは!?件のマギウスの翼という輩についてなど‥‥‥」

 

「ええ~?」

 

衣美里が聞きたかった内容にツッコミを入れるささらと明日香。

確かに雰囲気的にはマギウスの翼に関してのことを聞かれると思っていたばかりにさやかも目を丸くし、きょとんとした顔を見せる。

 

「だって~、確かにななちんから話聞いたけどさー、ぶっちゃけ魔法少女の…‥‥救済?とか言われてもよくわからんしでいっぱいだし‥‥‥でもとりあえずその人たちがダメなことしてるのはマジなんでしょ?だからこうしてさっさんが手伝ってほしいって声かけてるんだし。だったらせっかく仲間としてやってくんから仲良くした方が後でいいことあるじゃん?」

 

「まぁ、確かによくわからないというのは事実ですし、とりあえず悪行を働いているというのも間違ってないですし‥‥‥」

 

「‥‥‥衣美里ちゃんの言う通り、せっかく同じグループとしてやっていくなら仲良くした方がいいよね。」

 

「‥‥‥‥もしかしなくてもななちんとは私のことでしょうか?」

 

「そうだと思う。うん。」

 

「…‥‥‥中々かわいらしい響きですね。気に入りました。」

 

衣美里の言葉に声をうならせながらもうなづく二人の傍ら、ななかは自分のことを指しているであろうあだ名にご満悦な様子を見せる。

隣にいたあきらはまたもや浮かべた微妙な表情をより一層深めた。

 

(と言われても、神浜と見滝原は対して違いがないのだが…‥‥全面ガラス張りとかいうプライバシーのかけらもないようなウチの校舎か?)

 

「ねぇ、少しいいかしら?」

 

 

 

 

 

 

そして時間軸を戻し、なぜか来てくれた魔法少女たちと戦う雰囲気になっていることに未だに釈然としない表情を見せるさやか。

声をかけてきた魔法少女は「静海このは」という人物だった。

というより、さやか自身もあとで教えてもらったことなのだが、神浜市の魔法少女はなんだかんだ顔を合わせることが多かったらしく、集まってくれた魔法少女の間で全くの初対面ということがないとのことだった。

 

「いや~、ごめんね?こっちのわがままに答えてもらっちゃって。」

 

集まってくれた魔法少女の一人である「遊佐葉月」からそんな声掛けられる。

 

「気にしなくていい。神浜市の魔法少女は思いのほかバトルジャンキーが多いと思っただけだ。」

 

「…‥‥それって気にしてないの?」

 

このはからの申出というのがウワサというのが本当のものなのか確かめさせてほしいというものだった。

 

「まぁ、互いにどういうことができるのかを把握しておくのは大事だ。とれる手法も格段に広がるからな。とはいえ、少し焚きつけただろ?」

 

「あら、なんのことでしょうか?私はただ単に素直に負けてしまったことを言っただけですよ?」

 

苦笑いを見せるさやかに目を向けられたななかは飄々とした態度でそれを流した。

ななかの言う通り、以前四人と戦ったことをこのはたちに話したらあれよあれよといううちに話が進み、このような一人対多人数の形になってしまった。

 

「‥‥‥‥‥一応言っておくが、本当に危ないからな?くれぐれも注意だけは欠かさないでくれ。」

 

そういうとさやかは肩を竦ませるような態度をとりながら一息つくと、自身の背後にザンライザーを出現させた。

 

『!?』

 

「あら、ついに出すのね。ザンライザー」

 

突然の戦闘機のような容貌をした存在にその場にいる全員の目が点のように見開かれ、知っているマミたちからすれば軽い驚きで済ませられるのはまさに対照的だった。

 

 

 




10人一気にエミュしようとしてクソほど更新遅くなった作者が私です(白目)


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第81話 死合ってみるのも一興

オーヴェロン!!!

(おめぇあの強化中ゲロビ銃口やばすぎんだよ!!)10敗


 

「さぁ、行くぞ!!ザンライザー!!」

 

掛け声と共にさやかはザンライザーの上に乗ると取り付けてある二振りの大剣、GNバスターソードⅢを手に取り、連結。両刃の大剣にすると、ザンライザーを突撃させ、このはたちに向けて大剣を振りかぶる。

 

「叩き斬るッ!!」

 

「みんな、ふせてっ!!」

 

ザンライザーのインパクトに呆気を取られていた一同だったが、このはの声掛けにハッとすると言われた通りに伏せるなりその場を飛び退くなりしてザンライザーの進行上から退避した。

 

(司令塔は静海このはか。)

 

直線上にターゲットがいなくなったさやかは分断したこのはたちの間を通り抜けるにとどめ、そのまま上昇し、上空で周りを旋回し始める。

 

「空を飛ぶってああいうことなのッ!?」

 

上空を旋回するさやかを見上げ、このはは悲鳴に近い声を思わず挙げてしまう。

一応前もってななかからさやかの戦闘スタイルのようなものは聞かされてはいたが、まさか乗り物のようなものに騎乗するとは思いにもよらなかった。

それもそのはず。ザンライザーのことはななかたちですら知らないことだ。

故に離れたところで戦闘の様子を観戦していたななかたちやこのみを含めた戦闘に参加しなかった魔法少女もこのはと同じような呆気にとられた形相を見せていた。

 

「‥‥‥‥私たちのときとはまるで戦い方が違うのですが。」

 

「そうねぇ、そのうち慣れるわよ?私たちも実際にあの子がザンライザーを使うところを見るのは初めてのことだけど。」

 

訝しげな表情を浮かべながらそう追及してくるななかに落ち着いてと言うように紅茶を淹れながらそう答えるマミ。

 

「一応私とこのみちゃんはあの飛行機のようなのに乗らせてもらったことがあるんですけど、あんなに速いんですね。」

 

「ザンライザーって言ってましたけど、アレは一体…………?」

 

「さやかが言うには支援用らしいぜ?ま、要は魔女の使い魔とおんなじようなこった。」

 

「…………確かによく見てみると今さやかちゃんが持ってる剣の他にも武器みたいなのが見えるから支援用と言われればそうなのかな?」

 

空を旋回して上空からこのはたちの出方を伺っているさやかを見て、あきらがそのような感想を口にする。

 

「じゃあ、あの飛行機は飛んでるだけなんですか?」

 

「…………それで済んでしまえば、いくらか可愛げはあったでしょうね。」

 

ほむらの言葉に全員が心の中で(え、あれ以上にまだ何かあるの?)と、内心苦笑いのようなものを禁じ得なかった。

 

 

 

 

 

(さて、どうしたものか‥‥‥‥)

 

 

静海このはの申出から始められたこの模擬戦。

まぁ、実力を知っておきたいという理由に何ら異議のようなものが出てくるわけではなかったがそれでも危ないものは危ないため、過剰な攻撃は厳禁だ。

できるのは近接攻撃を覗けば、ザンライザーの装備であるビームマシンガンとミサイルくらいか。

 

(それ以外は牽制が関の山だな。)

 

さやかはGNソードⅡロングを取り出すとザンライザーで移動したまま射撃を開始する。

当てる気もサラサラないため、発射されたビーム自体はこのはたちの周りに着弾するだけだが、着弾するたびに巻き起こる爆発と空気を揺らす振動に何人かは目を丸くしたまま呆けたように固まる。

 

「やっばぁー‥‥‥‥ガチでモノホンでビームじゃん、こっわぁ…‥‥っていうかさっさんに近づける人いる?ぶっちゃけムリくない?」

 

さやかの撃ちだすビームの火力に顔を青くしながら衣美里がそんなことを口にする。

現状、空を駆けまわるさやかに対抗するには張り合って遠距離攻撃を行うか、弾幕をかいくぐりどうにか肉薄し接近戦に持ち込むかの二択だ。

どちらにせよ、さやかをザンライザーからはたきおとす必要がある。

しかし、魔法少女は大半が近接武器を得物としている。

 

「相野さん、貴方の弓で落とせそう?」

 

「いや~、それがさやかさんったら速いの一言でー…‥‥あたる気配がまるで見えませんね。弓道部とかちゃんとしてきた人じゃないと‥‥‥」

 

「‥‥‥‥あの速さだとそもそも狙いをつけられないと思うけど‥‥‥」

 

メンバーの中で唯一弓という遠距離武器である相野だったが、結果は散々の一言。

撃ったところでさやかにザンライザーの軌道をずらされてしまい、弓は空を切る。最悪避ける素振りすら見せず、そのままスピードで振り切られてしまうのもザラである。

ボソッとせいかが言った通り、さやかのスピードは狙いをつけるには酷すぎる。

 

「それはそうだろうねぇ~、あのスピードで点の攻撃当てるのは文字通り苦行でしかないよ。」

 

「何か方法でもありそう?葉月。」

 

「まぁね。と、言っても常套手段の一つだけどね。」

 

「皆さま方、美樹さんが何やら不審な動きを!」

 

何か我に策有りと言うような葉月と会話していると薙刀を構えた明日香が警戒心を最大限に高めた様子で声を荒げる。

何やらさやかが不審な行動をとっているとのことだったが、それは視線を向けるとすぐにわかった。

直前まで空を旋回していたさやかだったが、突然高度を下げると土煙を巻き上げながら突っ込んでくる。

 

(また突っ込んでくる気………!?)

 

さやかの行動にそう思ったこのは。

しかし、先程の突撃とは違い、さやかはザンライザーに乗ったまま武器を手にする様子はない。

 

「相野さん!!行ける!?」

 

「やってみる!!」

 

このはの声かけに相野は弓を構え、引き絞る。

弓に添えた左手の先にいるさやかに狙いを定め、放った。

 

(…………剣を投げてもよかったが……………手元が狂えば大惨事だったな。)

 

なんとなく投擲技術に関しては自信があったさやかは相野の持つ弓の弦をピンポイントで狙ってみることを考えたが、すぐに考えを改める。

その間にも相野の放った弓矢はさやかめがけて飛んでくる。とはいえ矢の軌道的に急所のところを狙ってきているようには見えなかったが、当たればそこそこ痛いだろう。

 

(なら、これで出方を伺うか。)

 

飛んでくる矢に対し、さやかはその場で後ろに向かって跳躍し、ザンライザーから飛び降りる。さやかを狙った矢はザンライザーとさやかの間を通り過ぎ、ザンライザーはそのままこのはたちに特攻じみた速さで突撃してくる。

 

「なっ!?飛び降り────」

 

「ささらん、あすにゃん!!あれ(ザンライザー)止められる!?」

 

「えっ、あれ(ザンライザー)止めるのぉ!?」

 

このはが驚きから指示を出すのが遅れ、その代わりに出された衣美里の言葉にささらと明日香は正気を疑うかのような顔を見せる。

 

「いや、実際あれ止めれたら結構デカい!!だってその間はあの子飛べなくなるはず!!」

 

「な、なるほど!!!それは完璧に盲点でした!!」

 

葉月の指摘に明日香は感服したような反応を見せると突っ込んでくるザンライザーに対し、意気揚々とした様子で立ち塞がる。

 

(……………知らないというのは本当に時々残酷なんだな……………)

 

遠巻きで見ていた面々の総意である。

ともかくザンライザーを止めるべく、明日香とそれに引っ張られる形でささらはその進路上に躍り出る。

 

「しょうがない。明日香、本気で止めに行くよ!!」

 

「承知しました!!我が龍城流の名に掛けて、薙刀の錆にしてやりますとも!!」

 

「え、斬るつもりなの?止めるんじゃなくて?」

 

そんなやりとりの間にもザンライザーは背中に背負ったGNバスターソードⅢを煌めかせながら猛スピードで突撃してくる。

その切っ先に向かって、二人は各々の得物を振り下ろした。

狙いはザンライザー本体からツノのように伸びたバスターソードⅢの刀身。

魔法少女二人分の力を持ってザンライザーのバランスを崩す算段だ。

 

「ウソォッ!?」

 

「な、なんと…………!!」

 

結論から言えば、ザンライザーは止まらなかった。

片側に突然力をかけられたことでザンライザーは一旦は大きく傾いた。

しかし、傾いただけで、勢いそのまま二人めがけて突っ込んでくる。

幸い、剣の先端が二人に突き刺さるなどということはなかったが、二本のバスターソードの間に挟まれ、身動きが取りづらくなったことにより、押し出されるように空の旅にご招待されてしまう。

 

「この…………!!!」

 

「明日香待って!この状況で放り出されるとホントにやばいから…………!!」

 

なおもザンライザーを止めようとする明日香に待ったの声を掛けるささら。

すでに高度はそれなりの高さまで上がっており、魔法少女故に死にはしないだろうが、落ちたら死ぬほど痛いのは目に見えてる。

 

「じゃあ……………どうするんですか?」

 

「うーん………………されるがまま?」

 

 

ちなみにザンライザーが途中で急停止し、慣性の法則で二人が浮いたところに滑り込むことでどうにかした。

 

 

 

 

 

 

「やっぱり厳しいな。」

 

息を整えるために大きく呼吸をし、額から流れる汗を拭う。

ザンライザーをけしかけて二人ほど人数を減らしたとはいえ、目の前には八人ほどの魔法少女。

さやかの動きを見逃さないようにじっと見つめるこのはと、その彼女を補佐する葉月。

両者とも大柄な得物を所持しているにも関わらず猪突猛進と言わんばかりにさやかにインファイトを仕掛けてくる『眞尾ひみか』と『三栗あやめ』

反対に遠距離から動きを阻害してくる相野と、魔法少女姿になるとついてきた悪魔のようなしっぽからビームっぽいものを出す衣美里。

時々いつのまにかさやかの視界外にいる伊吹れいらと桑水せいかはどちらかの固有魔法で移動しているか。

そして、この中でも指折りの実力者であろう和泉十七夜。

 

はっきり言ってたいていの魔法少女単独では秒速で制圧されてしまうであろうメンツだ。

 

「流石に堪えるものがあるんだが?」

 

「えーと、この人数相手でろくに攻撃もらってないのに言えるセリフじゃないと思うなー?」

 

ため息まぎれにそう言ってみるも、葉月に笑顔でそう返されてしまう。

もっとも葉月の表情もどこか余裕もなく、張り詰めた上に笑みを乗せて固めたようなものだったが。

 

「…‥‥‥余裕がないのはお互いさまか。」

 

目を伏せながら零した言葉に葉月の表情が今度こそ固まる。

笑みが崩れなかったのは不幸中の幸いか。ともかく葉月の内心はさやかに対する戦慄に近いものでいっぱいだった。

 

(このは~!アタシってそんなにわかりやすい顔してたかなぁ~!?)

 

(し、してないと思うわよ‥‥‥‥たぶん)

 

念話で届いてくる葉月の泣き言に苦い口ぶりで返すこのは。

さやかの現状の戦闘スタイルとしては逃げに徹していると言っても等しい。

さやかの武器が7割ほど魔法少女の肉体をもってしても即死がいいところなのもあるが、よく言えば手加減、悪く言えば当てる気のない攻撃ばかりでこのはたちにこれといってダメージはない。

始めはさやかの手を抜いているともいえてしまう戦い方に眉を潜めざるを得なかったが、しばらく戦っているうちに徐々に焦燥感のようなものがにじみ出てきた。

 

さやかの攻撃が自分たちに当たらないように自分たちの攻撃もさやかに当たらないのだ。

肉薄する場面は何度もあったが、そのすべてが直前に躱されたり、手に持っている二振りの両刃剣(GNソードⅡ)でいなされてしまう。

 

(すまない、もう少し自分が美樹君の注意を引くことができればよかったのだが…‥‥)

 

(いえ、正直言って彼女を嘗めていた部分もありました。やはり、最強の肩書に偽りなし、ということでしょうか。)

 

(しかし…‥‥よもやよもやとはこのことか。ふふっ)

 

続けざまに念話を送ってきた相手は十七夜だ。

さやかの注意を引けないことを謝罪するが、その通りでさやかがこのメンツの中で一番警戒していたのは十七夜だ。能力によるものを差し引きしたとしても代表者と呼ばれるほどの実力者故に放っておけるはずがなかった。

それを理解した上で十七夜とこのははさやかを攻略するべく戦ってみたが、結果は今の通りだ。

 

(戦って気づいたことがあります。美樹さんは反射神経……………いえ、反応速度が尋常じゃないぐらいのスピードと、言った方が正しいでしょうか。)

 

(それと、彼女は察知能力も並外れているとも付け加えさせてもらおう)

 

付け加えられた言葉にこのはは首をかしげる。

さやかの反応速度がすさまじいものであるのは八人もの魔法少女の攻撃を捌いたことから理解したつもりだが、察知する能力とは?

まさかとは思うが事前に攻撃の予兆を感じ取れるというようなものだろうか、そのような疑問がこのはの中で沸き起こる。

 

(まぁ、多くは言うまい。君の目的は美樹君の実力を推し量ることだったはずだ。ならば実際に死合ってみるのも一興だろう?)

 

十七夜からそういわれると、このはは一つため息を吐いたあとに一歩前に踏み出す。

 

「‥‥‥‥このは?」

 

「ごめん葉月。ちょっと私、わがままになるね。」

 

不思議そうな表情を挙げる葉月を尻目にこのはは自身の魔力を隆起させる。

魔力は変換され、彼女の足元から白い煙が霧のように広がり始める。

このはがやろうとしていることを察したのか、葉月は若干引き気味の表情を見せる。

 

「自分が言ったことをやるだけだから、ね?」

 

「‥‥‥あんまり無理はしないでよねぇ‥‥‥正直勝てる気がしないんだから、あの子相手に。」

 

「ふふっ、これでもやけになっていたとはいえ市内の魔法少女を全員叩き潰す、なんて豪語したこともあったじゃない。」

 

「え、そこであの時の発言出すの!?というかそもそもあの子って見滝原じゃ────」

 

霧が十分に広がったところで葉月のツッコミを右から左に聞き流しながら深い霧の中にこのはは突っ込んだ。

 

 

 

 

「あれは、このはさんの固有魔法ですね。」

 

「‥‥‥‥霧んなかに多少とはいえ幻惑の効果ついてんな。」

 

戦局が動いたことを感じ取ったのか霧が立ちこみ始めた戦場を見てななかはそれがこのは仕業であると見抜く。

次いでと言わんばかりに暇なのか机に突っ伏していた杏子が顔を挙げながら霧を見て一目でその性質を見破る。

そのことに目を見開いてよくわかりましたね、と言うような顔を向けるななかに杏子はフンッと軽く鼻を鳴らすとまた枕代わりにした腕に顔をうずめる。

 

「幻惑ねぇ‥‥‥普通だったら目くらましに使うのでしょうけど…‥‥」

 

このはが生み出しているのだから彼女の方である程度指向性を持たせることはできるのだろうが、その使い方がさやかを覆い隠すのではなく取り囲むような形にマミは紅茶をつくりながら首をかしげる。

 

『────タイマンか』

 

見てる杏子と現場にいるさやかの言葉が重なる。

 

「なんなら気ぃつけた方が身のためだぜ?これでもアイツに対して割とガチで殺すつもりで戦った間柄だ。だからわかるが、アイツの盾と剣は両方超がつくほどの一級品だ。半端な覚悟で来るんなら大けがどころじゃすまねぇぜ?」

 

「ま、そもそもとしてアイツにそんな気がサラサラねぇっつうのもガチだけどな。」

 

 

 

 

「…‥‥‥‥来るッ!!」

 

「ハァァァァァァァッ!!!」

 

 

霧の中から猛スピードで現れたこのはは出会いがしらに槍を振り上げる。

その斬撃をさやかはGNソードⅡで受け止めると、辺りにけたたましい音と衝撃を生み出した。

 

「やっぱり神浜市は割とバトルジャンキーが多いな…‥‥よほどの物好きじゃないとこんなことしないだろう。何か周りも気を遣ったのか攻めてくる様子もないし‥‥‥」

 

「一度、逃げに徹しない貴方を見ておかないとちゃんとした実力を計れないでしょう?」

 

「…‥‥‥それはごもっともだな。」

 

このはの言葉に言われてみればそうだったと目から鱗が飛び出たような反応をするさやかだった。

 

 

 

 

 




今のさっさんは事実上のノーマルダブルオーです。蹴ったり踏み台にしたりしてどうにかこうにか避けてました。なお犠牲は主にさっさん相手にインファイトしてたひみかとあやめ。


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第82話 もう盾は廻せない

ほむらちゃん弱くなっちゃった(心が)


 

 

「わかった。そちらの要望に応えよう。」

 

霧によって形成された疑似的な闘技場。

その真ん中で向かい合うさやかとこのは。

直前まで見せていたどこか不安そうな目付きはなくなり、鋭くなった目線がこのはを射抜く。

さやかの雰囲気が変わったことを感じ取ったこのはは無意識に自身の得物である槍を構えなおす。

 

「ねぇ、一つ聞いてもいいかしら?」

 

「ん?まぁ、別に構いはしないが‥‥‥‥‥お前も見滝原のことを聞きたいのか?」

 

「違うわよ。そんなこと、スマホで調べれば簡単に済むことじゃない。」

 

「そうか?案外人から聞くこともバカにならないと思うが…‥‥‥まぁいい。」

 

呆れ声でそういうこのはにさやかは物思いに耽るような表情でそう返してみるが、これ以上続けると話がこじれる予感がしたため、そこで打ち切る。

 

「あなたたちは一体なんの目的でこの神浜市にやってきたの?」

 

「目的?それはマギウスの翼を止めるためだが‥‥‥いや、それはこちらに来てからの目的か。」

 

答えかけた言葉を飲み込むように首を横に振るさやか。

マギウスの翼を止めるためと言おうとしたが、それはあくまで神浜市に来てからの目的だ。このはが聞いているのは、元々一体なんの目的で神浜市にやってきたのか、ということだろう。

さやかの言葉にこのはは特に反応を返したりはしなかったが、それは肯定であると見ていいだろう。

 

「‥‥‥‥つい2か月ほど前の話だ。私たちはある筋からの人物からの話で見滝原にとある魔女が現れることを知った。まだ魔法少女になってから…‥‥‥1週間も経っていたか?まぁいい。日の浅かった私だったが、流石に見過ごせなかったため、その魔女を迎え撃つために手伝おうとした。彼女からすれば余計な事しかしていなかったかもしれないがな。」

 

「…‥‥‥」

 

そう言って懐かしんでいるのか苦笑するような表情を見せるさやかだが、対するこのはは内心冷静ではなく、話も右から左に筒抜けになりそうだった。

何せあの最強と神浜市中でウワサされているあの美樹さやかが、ふたを開けてみれば自分よりはるかに歴の浅い、まだ契約してから数か月しか経っていない言ってしまえば新米であることに愕然としてしまう。

 

「で、その魔女というのがワルプルギスの夜というのだが‥‥‥‥‥知っているか?」

 

「‥‥‥‥‥えっ!?ワルプルギスの夜ッ!?まさか来るの、神浜に!?」

 

「いや、話だと見滝原に来るはずだったのに来なかったからもしかしたらというだけの話なんだが…‥‥‥ちゃんと聞いていてくれたか?」

 

このはの反応の様子からどこか上の空だったのは察したが、多分いつもの通り驚かれているのだろうと感じたさやかは話をちゃんと聞いていたかどうかに留める。

とりあえず知っているのであれば話は早い。

さやかは少し間を置いて落ち着きを取り戻したこのはと自分達の目的について話し始める。

 

「確かに…………この神浜市にはどういうわけか魔女が集まってきているわ。一度はこの都市を離れた私たち3人だけど、それが理由で戻ってきた。まさか、ワルプルギスの夜もこの現象の影響を受けているとでも言うの?」

 

「はっきり言えば確証があるとは言えない。だが、来るべき時に来なかった代わりに、起こったのがマギウスの翼を発端とする魔女の収集だ。実際に、あの集団には魔女の行動を制御する術がある。私たちは奴らの制御下に置かれた使い魔と戦闘を行っているからな。」

 

「‥‥‥‥‥どうしてワルプルギスの夜が現れるタイミングを知っているのかとか疑問に感じる点はあるけど‥‥‥なるほどね、確かにその魔法少女たちが意図的に集めているのなら説明はつくわ。理由は一向にわからないのだけど。」

 

「…‥‥‥それは────」

 

「魔法少女の救済。耳障りはいいのでしょうね。魔法少女を本当に元の人間に戻せるのだとしたら。」

 

「ッ…‥‥‥知っているのか。」

 

このはの言葉にさやかは耳を疑った。

どうやら静海このはという魔法少女はキュウべぇとの契約に隠された事実を知っている稀有な魔法少女だったようだ。

とはいえ、知っている魔法少女をそれなりに見てきたためか、さやかの表情も驚きこそすれどもそれを顔に出す頻度も減ってきた。

 

「ええ、そうね。初めて聞かされたときにはとても後悔したわ。あやめと葉月に契約なんてさせるんじゃなかったって思うくらいにはね。」

 

そう言いながら軽くため息を吐き、どこかに目線を向けるこのは。

別にそこにいることがわかっているからその方向を向いているのではないのだろうが、その目は霧の外にいるあやめと葉月に向けられているのだろう。

 

「でも、魔法少女にならなかったら、少なくとも今はないわ。私の世界はあの二人だけで止まっていたでしょうね。」

 

キュウべぇに物申したい気持ちは少なからずあるけど、と少しばかり大げさに肩を竦ませるこのは。

対するさやかは内心首をかしげる。

まだはっきりとわかっているわけではないが、マギウスの翼にいる魔法少女は多くが魔女と戦うことができなかった魔法少女だ。しかし、魔女を倒しグリーフシードによる浄化を行わなければいずれは自身の身すら魔女に成り果ててしまう。

認識の程度は大きく左右されるが、グリーフシードを手に入れられないからマギウスの翼を頼ったのだろう。

逆に、魔女と戦えるにも関わらず羽根となっている魔法少女はその隠された魔女化から逃れたいと思ったのがほとんどだろう。

故にさやかは内心首を傾げたのだ。

自分たちのように知っていながら反抗できる魔法少女など稀であるだろうと。

 

「知っているなら、どうしてななかたちの言葉に応じてくれたんだ?」

 

「…‥‥魔法少女は希望が大きければ大きいほど、その分返ってくる絶望も大きくなるものなのよ。」

 

 

彼女が言うにはキュウべぇとの契約はいわゆる悪魔の契約と等しいらしい。願った希望の規模が大きければ大きいほど、のちに自分に降りかかる絶望も大きくなってしまうと。

それはさながら、自分が過ぎた願いを叶えたことに対する「世界」からの報復のようなものだと。

呼びかけに応えてくれたのも、原理はわからないが、魔法少女の救済、おそらくソウルジェムに変貌させられた魂を元に戻すなどという誰がどう見ても奇跡と呼べるようなことをされて、後に返ってくる絶望を被るのはごめんだというわけらしい。

確かに前述したこのはの言葉に則れば、救済はいわば他人から良い悪いはともかくとして押し付けられた希望であり、それが原因となって絶望が押し寄せてくるともなればたまったものではないだろう。

 

(杏子もどこかで似たようなことを言っていたような気がするな。絶望と希望は差し引きゼロ、とかだったか?)

 

「‥‥‥‥‥まぁ、あまり関係はないか。しかし、仮にそうであれば、願いを叶えなかった私には絶望はやってこない、という話になってしまうな。」

 

「…‥‥‥常盤さんがあなたのことを規格外って呼んでいた理由が少しわかったような気がするわ。」

 

「‥‥‥‥弁明のようだが、契約したときに必要だったのが戦うための力なだけだからな?叶えたい願いがなかったというのもあるが。」

 

ついぽろっと出た言葉に驚きを通り越して真顔に近いこのはにそう言い訳を並べるさやか。

 

「‥‥‥‥‥長くなったわね。最後にもう一つ聞いてもいいかしら。」

 

「可能な限りは。」

 

「‥‥‥‥‥あなたは要するにワルプルギスの夜を追って神浜市にやってきた。だけど神浜と見滝原は来れる距離にあるとはいえ離れているわ。来ないのがわかっているならわざわざそこまで出向く必要もないはずよ。なら、どうしてそこまで…‥‥いいえ、一体何があなたをそこまで動かすの?」

 

このはの問いにさやかは一度静かに目を伏せる。

見ようによっては考えに耽っているように見えるが、わずかにフッと軽く鼻を鳴らすと朗らかな表情で霧の向こう側を見据える。

 

「‥‥‥放っておけない奴がいるんだ。少しでも目を離してしまうと、どこかへ忽然と姿を消してしまいそうでな。」

 

「ソイツは‥‥‥‥一言で言うなら旅の途中なんだ。前へ進むためのな。アイツの旅はワルプルギスの夜を倒すことでようやく終わることができる。まぁ、こうしてワルプルギスの夜が見滝原に来ることはなくなったのだから制止の声がかかれば止まるとは思うが、今度は制止した奴が多分ダメになる。ソイツもワルプルギスの夜が見滝原に来ることは知っているからな。自分が契約すれば被害を出さないでどうにかなったかもしれないと考えてしまうだろう。もっともそうさせたくないからこそ、ソイツは旅を続けてきたのだが。」

 

「‥‥‥‥‥あまり言いたくないのだけど、少し傲慢すぎじゃないかしら。魔法少女が一人増えたくらいでワルプルギスの夜を倒せるのなら、こうまで伝わってこないわよ。」

 

このはの指摘に苦笑いを浮かべるさやか。

キュウべぇ、もといインキュベーターは意図的に隠しはするが嘘を言うことはない。まどかから聞いたが、キュウべぇがまどかにワルプルギスの夜を一人で倒せるだけの才能があると言えば、それは紛れもなく真実なのだろう。

しかしほむらがそうさせない。させたくないのだろう。さやかはそう思っているだけだが、今のほむらを動かしているのはこれまでわたってきた時間軸のまどかとの約束だろう。

その約束さえあれば、ほむらはまたあの盾の中の砂時計をひっくり返し、時間を巻き戻すことができる。

だが、さやかは杏子のことを説得するために風見野市に向かう直前、彼女自身の口からきいてしまった。

 

『もう‥‥‥自信がないの。』

 

いつぞやかのバス停で背中越しに聞いた彼女のか細い声。

そこでさやかは自身がほむらに与えてしまったモノに気づいた。一度は切り捨てた者たちを突然出たイレギュラーによって再び助けだせるかもしれないという希望を。

この時間軸にいるさやかはほむらがこれまで見てきた『美樹さやか』とはまるで違う。

ほむらもそれはわかっているのだろう。この時間軸で失敗し時間遡行を行えば、もう二度とこの時間軸で見たようなさやかと出会うことはないと。

しかし一度でもあったということは人の心理に大きな影響を与える。

 

「私はアイツ(ほむら)に希望を与えてしまった。そしてアイツは、もうあの盾を廻すことができない。できなくさせてしまった。」

 

切り捨てた人を、手を伸ばしたかった人をもう一度助けられるかもしれないという浅慮な希望を。

一度でもあったという事実は人の心に常に可能性となってこびり続ける。そしてやがて、その可能性に殺されてしまうだろう。

 

「だったらとことんまでやるだけだ。希望を絶望にさせないためにも、私は未来を切り開く。」

 

「あなたも誰かのために戦う人なのね。」

 

「軽薄だと感じたか?」

 

「まさか。私だって一番大切なのは二人との日々よ。それを守るためならいくらでも頑張れる。」

 

踵を返し、さやかから離れていくこのは。

その様子をさやかは表情こそ朗らかなものだったが、目線だけは鋭くし、このはの一挙一動を見逃さまいとしていた。

 

「ハァッ!!」

 

突如としてこのははさやかと向き直る。

それと同時に展開した槍を振り向きざまに振り抜き、双頭の槍の穂先の軌跡が光の刃となってさやかに襲い掛かる。

 

「予期していなかったわけではないが!!」

 

さやかは持っていたGNソードⅡを手放すと腰に刀のように下げていたGNソードⅡロングの掴み手を右手で叩き、銃口を光刃に向け、そのまま左手でトリガーを引き、西部劇でよく見るガンマンのような早撃ちの要領で迫りくる刃を撃ち落とす。

 

「流石ね。この程度じゃ攻撃にもならなそう。」

 

「…‥‥‥鼻に付く言い方だが、全力で来い。こちらもできる限りをもって応えるだけ応えよう。」

 

「‥‥‥‥変な言い方をするのね。まるでまだまだ底が見えない。」

 

さやかの言い方に若干眉をひそめたこのはだが、それも戦っているうちにわかるはずだと結論を出し、力強く前へ足を踏み出した。

 




戦い前の会話だけで一話使っちゃった(白目)


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第83話 スタートラインはビル一つ

仕事が終わると何もやる気がなくなるのをどうにかしたい(白目)
そのせいでウマ娘がまるでできん


 

「ハッ!!」

 

振り下ろされる槍を体をよじらせながら避けるさやか。

そのまま態勢を崩しながらもぐりこむようにこのはにさらに肉薄する。

右手のGNソードⅡで寸止めするつもりとはいえカウンター気味に切りかかる。しかし────

 

「ッ!?」

 

目の前に飛んできた槍の穂先に反射的にGNソードⅡで防御するさやか。

衝撃と武器同士がぶつかりあった金属音、そして一瞬の稲光と火花が散るとさやかの身体が大きく宙に吹っ飛ばされる。

その高さと言えばこのはの出す霧の結界から少し飛び出てしまう。

離れたところでテーブルを囲んでいるマミたちの姿があったが、それを一瞥すると態勢を整え、同時にこのはの姿を見やる。

視界に収めた彼女はさながらゴルフスイングをしたような恰好だった。

直前の攻撃が槍の振り下ろしだったのを鑑みるに、反対側の穂先でかちあげたと考えるのが妥当だろう。

 

(力業もいいところだな────)

 

さやかが内心呆れているような言葉を漏らしているとこのはは次の行動に移る。

さやかの健在を見た彼女はまだ着地していないにも関わらず、猛スピードで距離を詰める。

わかりやすいがさやかが着地したところを狙うのだろう。

 

(飛んでもいいが、まだそこまでではないな。)

 

さやかは接近してくるこのはに向かって両手のGNソードⅡを向けると、わずかのチャージのあとに三日月状のビームカッターを二つ、縦に放つ。

 

(直撃コースじゃない‥‥‥でも動かされるわね…‥‥‥なら!!)

 

初めて見る攻撃に一瞬目を見開くこのはだが、瞬時にそれが直撃ではないことを見抜いた。

だが、さやかのビームは着弾と同時に小さくない爆発を起こす。

その爆発に迂回させられ、さやかの隙を付けなくなることを危惧したこのははそのまま突っ込んだ。

勢いそのまま、迫りくる二つのビームカッターをこのは自身の槍で切り払う。

 

「────ッ!?」

 

このはの表情が驚きのあまり固まると同時に彼女の周囲が爆発の光で塗り潰される。

立ち上る炎と煙を見据えながら無事着地したさやかの表情は険しいものだった。

 

 

 

 

 

 

「おー、派手にかっ飛ばされたなぁー。」

 

「少しだけ霧の外に出てきたところしか見ていませんが、あまり良い状況、とは言い難そうですね。」

 

「そりゃそうだろ。あのバカ、アンタらと戦ったときより縛ってるぜ?」

 

霧の外で半ば談笑、もしくは戦いの行く末を観戦する状態になっている魔法少女たち。

その中で杏子とななかは霧の外から少しだけまろびでたさやかの様を見ながらそんな会話をする。

杏子の言う通り、今のさやかはななか達と戦ったとき以上に己を縛っている。

ザンライザーは出しているとはいえ、戦闘に参加させてない上、バスターソードⅡはおろかGNドライヴすら見せていない。

 

「あのさやかっていう魔法少女、本気出してないの!?」

 

そんな二人のやりとりを聞いていたのか、一人の魔法少女がびっくりした顔で駆け寄ってくる。

特徴的な黒い眼帯をつけ、桃色のツインテールを激しく揺らしている魔法少女の名前は三栗あやめ。

このはと葉月と同じグループの魔法少女だ。

 

「正確に言うと出せないのよ。あの子の攻撃は火力を上げすぎると吹っ飛ぶもの。」

 

「吹っ飛ぶって何がだ?あ、もしかして木とかか?それくらいだったらあちしもできるぞ!!力には自信があるからな!!」

 

さやかは本気を出さないのではなく、出せない。

それを聞かされたあやめは不服そうに頬を膨らませたが、マミの言葉を聞くと打って変わって自身の力自慢を始める。

そんなあやめの様子をマミは割りとスルーするように愛想笑いを見せる。

 

「そうねぇ‥‥‥美樹さんと火力で張り合うのなら、軽くビル一つくらいは吹き飛ばしてもらわないと勝負にならないと思うわよ?」

 

「…‥‥え?ビル一つ?」

 

「そ、ビル一つ。どう?できそうかしら?」

 

「で、できるから!!なんならフェリシアのやろーとの勝負で廃墟壊しゲームとかやったことあるし!!なんなら今からどっか適当なの探して────」

 

「はいはいストップー。あやめいったん落ち着こうか。そんなのやられたらシャレになんないから。あとその廃墟壊しゲームって何?アタシ初耳なんだけど。」

 

「あ…‥‥‥」

 

勢いのあまりどっかに飛び出していきそうなあやめを葉月が羽交い絞めにして取り押さえる。

その際に少しだけ怒ったような声色を出すことであやめの逸る気持ちを別の方向に逸らすことで折っておくことも忘れない。

あとで怒られることを察したあやめはしまったと感じたのか顔を青くした憔悴した表情をしている。あの様子ではしばらくはおとなしくしてるだろう。

それを確認した葉月は困ったような目線をマミに向ける。

 

「あんまり焚きつけないでよね。あやめって結構負けず嫌いなところがあるからさ。」

 

「ごめんなさいね。少し反応が面白かったものだからつい。」

 

「…‥‥アイツそんなことやってやがったのか。」

 

「普通に器物損壊で犯罪ね。私もたいがい人のことを言えたわけではないのだけど。」

 

あやめのことをおちょくったことを微笑みながら謝罪するマミ。

葉月はため息をつきながら頭を抱えるが、その時に杏子とほむらの様子も見ていた。

二人の反応に少しでもマミの言葉をいぶかしむようなものがあったら嘘だと断じるつもりではあったが、二人の反応に特にこれといったものはない。あろうことか杏子はほむらの口から語られる武器調達のための主にヤと付く者たちに対する窃盗行為に目を白黒させていた。

挙句の果てに自衛隊かそこら辺の施設からも何かくすねているようなことを示唆していたことに杏子はとりあえず考えることをやめた。触らぬ神に祟りなしである。

 

 

 

 

 

「…‥‥‥‥」

 

霧の中で一人険しい表情を浮かべるさやか。

視線の先には爆発で立ち上っている黒煙があった。

その中にいるはずのこのはだが、彼女の姿はまだ見えない。

イノベイターの感性でとりあえずこのはがいることはわかっているが、それでも不安なものは不安である。

さやかは確認のために黒煙に近づこうとすると────

 

「むっ」

 

働かせていたイノベイターとしての感覚がこのはの敵意を感じ取る。

それと同時に黒煙の中から何か細く、短い物体がさやかに投げつけられる。

よく目を凝らしてみてみると、それはこのはの得物である槍だ。彼女が持っていた代物はもっと長かったはずだが、投げつけられたそれは先端がなくなっていた。

 

「ッ!!」

 

投げつけられた槍をGNソードⅡで弾く。

甲高い音とともに折れた槍は遠くへと飛ばされていった。

 

「…‥‥‥まったく、完全に失敗したわ。」

 

黒煙が晴れ始め、中から姿を見せたこのはは愚痴をこぼすも、煙を吸い込んだのかせき込む様子を見せる。

爆発に巻き込まれたとはいえ、このはの手足がスプラッタなことになっているということはない。やちよ辺りの会話を耳にしていたが、魔法少女となった賜物によるものだろう。

その代わり、服装はところどころ焼け落ちて柔肌を晒していたり、服そのものがススだらけになっていたりしていたが。

 

「攻撃を叩き落そうとしたら、まさかこっちの槍が溶断されるなんて…‥‥あなたに当てるつもりがあったら死んでいたわ。」

 

内心ほっとしているさやかにこのはが皮肉な笑みを見せる。

まだやるかどうかを聞こうとしたさやかだったが、どうやら愚問に近かったようだ。

 

「もう少し確かめさせてほしいことがあるの。悪いけどまだ付き合ってもらうわよ。」

 

さやかの心情を知ってか知らずか、そういうとこのはは自身の魔力を二人を取り囲んでいる霧に注ぎ込む。

それまで二人を取り囲んでいるだけの霧はその領域を広げ、二人を霧の中に覆い隠す。

 

(‥‥‥‥気配が、攪拌した?)

 

視界不良となり、数メートルも見えなくなった空間の中、さやかはこのはの気配を探ろうとしたが、その結果に眉を顰める。

結論から言えば気配がわかりづらくなった。いるのはわかるが、それが複数に分裂したり、突然消失したりと判断が付きづらくなっていく。

 

(‥‥‥‥‥どこから仕掛けてくる?)

 

辺りを見回すが、周りからは本物かどうか判別がつかないこのはの気配ばかりでまるであてにならない。

同時に視界すらままにならない状態にさやかは動くことができない。

どう行動すべきかを考えているところに背後から薄水色の光刃が襲い掛かる。

 

「ちぃッ!!」

 

感じ取った敵意に機敏に反応し、回避行動をとるが、それでも遅れるものは遅れてしまう。

直撃こそもらいはしなかったが、刃の切っ先がさやかの身体をかすめた。

 

(こっちはわからないのに向こうからは丸わかりか。これでは反撃も難しいな…‥‥)

 

避けてから反撃ではあまりにも遅い。すでにこのはは別の場所に移動してしまっている。

 

(避けてからでは遅い‥‥‥ならッ!!)

 

光刃を避けつつ、さやかは戦法を変える。

手にしていたGNソードⅡを手放し、代わりの武装としてGNバスターソードⅡを出現させる。

持ち手を握りしめ、大きく振りかぶった大剣を勢いよく振り下ろし、飛んでくる光刃を粉々に叩き割る。

 

(また大剣…‥‥初めに見せてきたものとは別物みたいだけど‥‥‥)

 

呼び出された新しい武器に警戒感を強めるこのは。

一番最初に見せてきたGNバスターソードⅢと違うことだけはわかるがこのはにはそれ以上のことを知ることはできない。

それでもこのはのやることは変わらない。どのみちさやかの武装は近づかれなければ当たることはない。

遠距離兵装もこうして霧の中に籠ることで狙いをつけづらくさせる。

 

(和泉さんの言葉通りに受け取るなら、たぶんこの子は気配に敏感ということね。)

 

実際さやかの察知能力は目を見張るものが多いとこのはは感じていた。霧の持つ幻惑効果でこのはの気配を多く見えるように仕向けてはいるものの、さやかはそれらに機敏に反応し、姿を視えていないはずの自身からの攻撃を捌いている。

おそらく、このまま同じやりとりを続けていたらいずれ看破される。そういう嫌な確信がこのはの内にあった。

何か策を講じようとするこのはだったが、さやかがそれより早く動いた。

 

「そこだなっ!!」

 

確信めいた言動と共にGNバスターソードⅡを構えるさやか。その様子はまるで大剣の刀身を盾のようにしているようだった。

あまり見ないような使い方に怪訝な表情を見せるこのはを尻目に、さやかは放たれた光刃に向かって駆け出す。

 

「フィールド展開ッ!!」

 

掛け声と共にバスターソードⅡのギミックが解放され、走っているさやかを取り囲むようにGNフィールドが形成される。

 

「大剣からバリアッ!?」

 

さやかのウワサの中にバリアに関するものがあったのはこのはも聞き及んでいた。

しかし、それが盾とかそういうあからさまなものではなく、大剣という性質的に正反対にも近いものから出されたことに驚愕に満ちた表情を浮かべる。

そして、刃はフィールドの防御力の前に真っ向から打ち破られ、塵となって霧散する。

 

「そこにいるのはわかっている!!ならばこれで!!」

 

光刃をタイムラグなしに突破したさやかは即座にバスターソードⅡを手放すとこのはのいる辺りに向かって何かを投げた。

くるくると回転しながら薄緑色の光を螺旋に描くモノの正体は連結させたGNカタールだ。

 

(何か投げてきた?でもその先に私はいないわよ?)

 

投げつけられたGNカタールだが、それほど離れていないという前提がつくが、このはの言う通り、飛んでいく先に彼女の姿はない。

一体なんのために、と今度はさやかの方に目線を見やると、そこにはGNソードⅡロングを構えたさやかの姿が。

 

(────────まさか)

 

ゾワリと背筋に冷たい風が吹き抜ける。

そんな芸当、普通の魔法少女にできるはずがない。いくら魔法少女となったことで身体能力が向上していたとしても元はどこにでもいる争いとは無縁だった少女。

そんな曲芸じみたことなんて無理だ。しかし────このはの胸中には同時に矛盾した感覚があった。

 

『さやかさんが一体どんな魔法少女か、ですか?』

 

脳裏に思い出すのはここに集まるきっかけとなったななかとの会話。

その場でこのははさやかについてななかから聞き出そうとしていた。

単純にどんな魔法少女か知ることができれば御の字だったし、ななかも快く教えてくれた。そのとき浮かべていた笑みに含みがあったような気がしないでもなかったが。

 

『あの人は規格外ですよ。できることからやってしまうことまでほとんどすべてが。』

 

 

この魔法少女なら、やりかねない

 

 

「狙い撃つッ!!!!」

 

トリガーを引き、銃口から鮮やかな桜色に近いビームが飛ぶ。

放たれたビームは霧の中を一筋の閃光のごとく切り裂き、前を飛んでいたカタールの刃に寸分の狂いなく着弾する。

 

「う────」

 

瞬間、程よく近くにいたこのはの視界が弾けたような光で塗りつぶされる。

ビームが刀身にあたったことによって乱反射し、疑似的な閃光手榴弾と化した。

とはいえ、実際に閃光手榴弾を使ったわけではないため、視界潰しとしての効果は実のところ短い。

本命は極限まで細く、拡散したビームで相手に防御を強いることだった。

 

「────まさか、ここまでとはね。」

 

戻ってきた視界で最初に見たものは自身に向けられる剣の切っ先。

そこから少し目線を奥に向けると、GNドライヴで宙に浮くさやかの姿があった。

 

「…‥‥あなた、一人でも空を飛べるのね。」

 

「能ある鷹は爪を隠す、とかいえば恰好はつくのだろうが‥‥‥‥とりあえず満足か?」

 

「‥‥‥ええ、もう十分よ。」

 

さやかの言葉に事実上の降参の言葉で返すと、このはは自身が発生させた霧の魔法を解除する。

 

『ええええッ!?一人でも空飛んでるー!?』

 

霧を解除してもらうや否や、単独でも飛行ができているさやかの姿に観戦席から悲鳴に近い声が飛んでくる。

 

「‥‥‥‥ホント、あなたって聞いた通りの魔法少女ね。その姿でようやく通常形態ってところでしょ?」

 

「まぁ、そうなるな。ななかからはじめから飛ばれると割と詰みに近くなってしまうと言われてそうしていたのだが…‥」

 

そう言ってさやかは気まずそうに頬をかいた。

どうにも手加減していたことを悪く思っているようだ。

 

「はぁ…‥勝った人間がそんな辛気臭い顔を見せてどうするの。あなたはこれからこの集まってくれた色物(魔法少女)たちを引っ張っていくんだからシャキッとする!」

 

さやかの様子にため息を吐くこのはは負けた腹いせと言わんばかりに飛んでいるさやかの足を思い切り引っぱたくのだった。

 

 

 

 

 




ビームコンフューズ!!!!


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第84話 満足ならなにより

出ちゃった…‥‥ほかのガンダム


 

「────と、まぁ私の武装についてはこんなものだな。なにか聞きたいこととかは?」

 

『いや、てんこ盛りってレベルじゃない。』

 

このはとの一騎打ちを制したさやかだったか、他の魔法少女から案の定問い詰められ、GN粒子の特異性、ガンダムの名称やそれが異世界の技術であることについては避けつつも、武装周りについての説明を行った。

一通り説明を終えたあとにさやかが質問などないかを尋ねたが、返ってきた言葉のごもっともなことにさやかは苦笑いしかできない。

 

「さっさんさっさん!!さっき説明の中にライトセイバー?みたいのがあるって聞いたんですケド!!」

 

「ビームサーベルなんだが…‥‥‥危ないから近寄るなよ?」

 

驚愕している一同の中、唯一目をキラキラさせているような衣美里に催促され、さやかはGNソードⅡを手にすると基部の銃口からビームサーベルを形成する。

 

「おおおおおおッ!!かっけぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「え、なっがっ!?どれくらいあるのこれ!?」

 

「私もはじめて使ったからわからないのだが‥‥‥‥パッと見ても私の身長を越している。2メートルくらいはあるんじゃないか?」

 

サーベルに興奮気味に騒ぎ始めるあやめを尻目にささらは形成された刀身の長さに目を丸くする。

さやかも実際初めて使ってみたため、軽く動かしてみるが、刀身がビームだからかこれといって重さのようなものは感じない。

しかしささらも驚いている通り、ビーム部分を含めた刀身の長さは一目見ただけでもさやかの身長を大きく越している。

 

「2メートルもある剣なんて…‥アタシじゃ近づくことも難しそうだよ…‥‥いや、間合いに踏み込めばあるいは…‥‥?」

 

「‥‥‥‥そもそも、さやかは空飛んでるのが普通ネ。あきらは論外として、そこらの魔法少女じゃどうしようもないネ。離れたところからビーム撃たれたら終わりネ。」

 

「まぁ‥‥‥どういうわけか、魔法少女はだいたいが近接武器に偏っています。斬撃を飛ばすなど、遠距離に対して応用が全く効かないわけではありませんが、強力な射撃兵装を持っているというだけでも大きな優位点でしょう。実際に我々も向こうから近づいてもらわなければ得物を打ち合うことすらできませんでしたし。」

 

「でも美樹さん、そんな強すぎる力なんて持って…‥‥魔女相手ならともかくこれから戦うのって魔法少女の人たちもいるんですよね…‥‥?」

 

ななかたちからそんな言葉をもらっているなか、不安そうな目を見せるかこの言葉にさやかは難しい表情を浮かべる。

明言はしてないが、かこはこう言いたいのだろう。勢い余って羽根の魔法少女たちを殺してしまわないかと。

 

「…‥‥‥命のやり取りをするつもりはない。だが、現実はそうそう簡単には行ってくれないだろう。」

 

難しい表情のままさやかはそう答える。

誰かの命など奪いたくはない。だが、向こうも必死のはずだ。

どこかでそういう偶然が引き起こされてもおかしくはない。

 

「なら、露払いはボクたちに任せてよ。代わりに君はボクたちじゃ手こずる魔女とかを。それでいける!と思うんだけど、どうかな?」

 

「そう言ってもらえると助かる。だが‥‥‥いいのか?」

 

「私たちはあくまでマギウスの翼を止めに行くのです。つまり一般の方々はもちろんのこと、各々の主義主張はどうであれ、巻き込まれた魔法少女を助けに行く。その道すがらに誰かの…‥特に魔法少女の犠牲があるようでは、それは向こうと同じに成り下がってしまう。」

 

「ある意味、さやかから守るようなモノネ。」

 

「誰だってみんなが死なないハッピーエンドも望んでいるはずです。そのためだったら、やってみせます。」

 

「…‥‥‥すまない。ありがとう。」

 

ななかたちの言葉に、さやかは目を見開いたあとに表情を綻ばせ、その申し出を受け入れる。

他の魔法少女たちも多少とはいえさやかのオーバーな火力を目の当たりにしたからか、任せろと言うように力強くうなづいた。

 

 

「強いとはさんざん聞かされてはいたがまさかここまでとはな…‥‥しかし、彼女はやはり面白い魔法少女だ。敵を倒すのではなく、敵をも護るために仲間を求めるか。」

 

「‥‥‥‥聞いているだけでもめまいがしてくるわね。っていうよりそんな力をもっていて、よく調子に乗ったりして天狗とかにならないわね。」

 

さやかのとんでもっぷりに流石の十七夜も硬い笑みを見せ、傷ついた体を癒すためにマミの回復魔法を受けていたこのはは近くにいた彼女に目線を合わせる。

それに気づいたマミは少し考える素振りを見せながらくすっと笑みを零す。

 

「確かに、静海さんの言う通りではあるわね。普通あんな力を得てしまったら、全能性に近いなにかまで感じてしまうでしょうね。」

 

「それがある意味正常でしょう?なのに彼女は自分の力なのにそれを過信せず、むしろ危険だとすら考えている。一体どんな人生送ってきたらそうあれるのかしら?」

 

「さぁ…‥‥暁美さん曰く、いつもの美樹さんとは違うらしいけど、私にはあまり縁がなさそうね。興味はあるけれども。」

 

「……………?」

 

マミの返答とも違うような言葉に首を傾げるこのは。

何も知らないで聞いているとただ単にさやかには外向けの顔があるような言い方のようだが、実際にはほむらは時間遡行を繰り返しているから別の時間軸のさやかのことを知っているということであり、それを知らないこのはに理解されることはないだろう。

 

 

 

 

 

「そういえば、さやかちゃんとコネクトするとどうなるの?」

 

「どうなると言われてもだな………人それぞれではないのか?」

 

話は変わり、話題はさやかとコネクトをした時にという内容に変わる。

聞いてきた眞尾ひみかにさやかは困り顔でそう答える。

コネクトというものは、さやかはももことレナがやっていたのを見たきりだが、自身の魔法効果を相手の武器に上乗せするという認識だ。

もちろんさやか自身もマミを始め、鶴野やフェリシアとコネクトをしたが、経験則どちらかというと魔法効果というより彼女らの武器そのものに干渉しているような気がしないでもないため、どうにもズレのようなものを感じていた。

 

「あー、確かにそれ気になるー。さっさんって剣をいっぱい持ってるから、カラダ中から剣が出てきたり?」

 

「何それ…………コワ…………せめてビームサーベルにしたら?絵面的にそっちの方がカッコよくない…………?」

 

「こちらの経験だが、私はコネクトした人物の武器が変わる。だいたい強力なモノになるのは確かだが…‥‥‥」

 

「え、マジ!?じゃああーしのこれも変わったりする!?」

 

衣美里と葉月の会話にそう口をはさむと、衣美里は自身の背中と腰から生えている悪魔を模したような翼としっぽを見せつける。

模擬戦の最中にもわかっていたが、彼女の魔法少女としての武器はその悪魔のようなしっぽなのである。

そのしっぽの先端からハート形の矢を撃ちだしたりしていたし、なんなら背中の翼も見掛け倒しではなく、さやかとはまるで比べるまでもないが多少なりは空を浮かぶことも可能なようであった。

 

「問題はないと思うが‥‥‥‥‥やってみるか?」

 

「やるやる!!ほーいさっさん、ハイタッーチ!!」

 

ウキウキした様子の衣美里の手に勢いに押されているのかたどたどしく手を重ねるさやか。

瞬間コネクトが発動すると、衣美里の身体が光の膜のようなものに包まれ、その姿が見えなくなる。

 

「なっ…‥‥!?」

 

「なな、何か衣美里さんの様子の方がおかしいのではないでしょうか!?い、一体何をされたんですか!まさかこの場で我々全員に闇討ちを‥‥‥‥!!」

 

「こんな状況でするわけないでしょう!?でもこんなこと、私とやったときには起きなかったわよ!?」

 

想定外の出来事に驚愕の表情を見せるさやか。

さやかが衣美里に何かしたのは確かだが、それを害するものと判断した明日香がさやかに薙刀の切っ先を向ける。

たまたま近くにいたマミが当てつけにも近しい明日香の言葉を否定するが、コネクトすると光の膜につつまれるという自分のときにはなかったことに目線が釘付けになる。

 

「と、巴さん!!明日香のこと止めれるッ!?あの子すっごくそそっかしいんです!!」

 

「そ、そそっかしいって…‥‥‥まさか冗談でしょ!?」

 

離れたところから聞こえてくるささらの声にマミはありえないと思いながら視線をさやかの方に向ける。

ささらの言わんとしていることを理解してしまったが、そんな阿呆なことはないだろうという内心もあった。

 

「どこをどう認識したらそうなるんだ…‥‥‥‥私は彼女のハイタッチに合わせただけだ。そのわずかな一瞬で、どうやって彼女に手をかける。」

 

「し、しかし!!現に衣美里さんがよくわからないことになっているではございませんか!?」

 

「よくわからない、というのは私も同じだ。こんなこと、私も初めてだからな。ともかく、お前が彼女を心配する気持ちはわかっているがその判断は流石に早計だ。事の成り行きを見守ってからでも遅くはない。信用してはくれないと思うが、コネクトをした感覚は確かにあったからな。」

 

困惑しているさやかと薙刀の切っ先を向け、問い詰める明日香のやり取りにハラハラした感覚を覚えるマミとささらだったが、明日香はうーんうーんとうなるような声で散々悩みに悩みを重ねたうちに薙刀を引っ込める。

明日香が文字通り矛を収めてくれたことにひとまずの安堵のため息を漏らす二人。

 

「いやー、マージあせったー。いきなりこんな姿になっちゃったから使い方理解するのに時間かかちゃったー。」

 

一山超えたとこで光の膜に覆われた衣美里の声が聞こえてくる。

その声に明日香を除くさやかたちは待っていたと言わんばかりに光の膜の方向を凝視する。

 

「え、衣美里さん!?ご無事なんですね!?」

 

「ん?あすにゃんそんなに慌てたような声でどしたん?とりあえずあーしは大丈夫だけど。」

 

知らない間に外の状況が変わったことを感じ取ったのか不思議そうな声で明日香の呼びかけに応える衣美里。

 

「よ、よかったー…‥‥危うく斬りかかるところでしたー…‥‥」

 

「‥‥‥‥‥あはは!あすにゃんがなんかやらかしたっていうのはわかったわー。とりま少し離れててよ、今出るから。」

 

「え、出るって…‥‥‥わ、わかりました。」

 

衣美里にそう言われ、おずおずとした様子で衣美里を包む光の膜から離れる明日香。

そのタイミングを見計らったようにガラスを突き破るような音と一緒に光の膜から空に向かって何か細長いひも状の物体が突きでてくる。

 

「な、なんですか!?」

 

明日香の声に釣られるように飛び出てきた物体の目線が向く。

突き出たひも状の物体はワイヤーのような無骨な色合いをしており、その先端にはブレードのようなものがついていた。

そのブレードのついたワイヤーを中にいるはずの衣美里は一瞬見失うほどのスピードで振るい、覆っていた光の膜を野菜の表皮をむくように薄くスライスする。

 

「そーれっと!!」

 

スライスされてもはや形を保てなくなった光の膜を、衣美里はオーバーキルするようにさらに粉々に割り砕く。

その姿はさやかとコネクトする前とはまるで変わっており、腕と脚の先にはどんな硬い物でも切り裂けると感じるほどの爪が装着されており、その手には彼女の身の丈を大きく超えているような刺々しいメイスのようなものがあった。

光の膜を叩き割ったのもその巨大なメイスによるものだ。

 

「さっさんさっさん!これチョーやばいね!特にこのしっぽ激やばでしょ!撃てなくなった代わりにすんごく伸びるようになってね!もうどうして今まで自分にしっぽがなかったのか不思議なくらい!」

 

「‥‥‥‥そうか、満足してくれてるのならなによりだ。」

 

衣美里の変貌ぶりに周囲からの、特にさやかの人となりをよく知らない魔法少女からのウワサがよりひどいものになるのを察したさやかだったが、もうどうとでもなれと思ったのかその笑みはどこか投げやりだった。

 

 

 




さっさんとコネクトした場合に限定条件が発生する魔法少女一覧
(なお伏せられている〇の数には文字数的に関係あり。)

深月フェリシア→某勇者王

巴 マミ→ ガンダム〇〇〇〇〇

佐倉 杏子→ 〇〇〇〇〇〇〇〇ガンダム

暁美 ほむら→ 〇〇〇〇〇ガンダム

〇〇〇〇〇→ 〇〇〇〇ハル○○

由比 鶴野→ 某風の魔装機神 

十咎 ももこ→ 〇〇〇〇〇○ ヒント 剣を大きくさせ、いざ雷の速さまで

天音姉妹→ 〇〇〇〇〇〇〇 ヒント 音、声が必殺技で調律のやべぇ方。

○〇〇 → 〇〇〇◦〇〇〇 ヒント 勝負は一発!!赤と青のボタン、知ってる?

NEW 木崎衣美里→ 決して散らない鉄華の悪魔

NEW 美凪ささら→ ○○ガンダム ヒント ○○と書いて○○○と言う

NEW 眞尾ひみか→ ○・○○○○○ ヒント 100万Gの男


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第85話 おそらく一番重たい話

最近分かった。土曜が仕事でつぶれるとめっちゃつらい


 

「ハァ‥‥‥‥‥」

 

ある休日。

さやかは比較的ラフな私服で休日の神浜市を訪れていた。

しかし、その表情はどこか疲れているのかため息を零していた。

 

「どうした?そんなため息を吐いてしまって。私の仲介が必要だと言ってくれたのは君ではないか、美樹君。」

 

「いや‥‥‥それはそうなのだが‥‥‥‥ハァ。」

 

隣にいる白髪を揺らしながら不思議そうな顔を向ける十七夜にさやかは遠い目を浮かべてまたため息を零す。

今回はこの十七夜と二人である魔法少女の元を尋ねる。

その魔法少女の名前は(みやこ)ひなの。十七夜曰く南側の代表者、もといまとめ役とされている魔法少女とのことだ。

アポの方は十七夜の方で取り付けてくれたからあとは足を運ぶだけなのだが、本当はここにもう一人来るはずだった人物がいたのだ。

 

「さっさんとなぎたん、みゃーこ先輩に会いに行くの?」

 

「みゃーこ先輩、というのが彼女のことを指しているのであればそうだが。顔見知りか?」

 

都ひなのと顔見知りだと頷いたのは衣美里だった。

彼女にとって都ひなのという魔法少女は偉大な先輩らしい。興奮気味で若干聞き取りにくい部分もあったが、要はあるイベントで参加していた子供たちを魔女から身を挺して守っただとか。

 

「あーしも一緒に行く?知り合いいた方が話は早く進むでしょ?」

 

(‥‥‥‥衣美里の言う通りだな。顔見知りである彼女がいるのなら幾分楽に話は進むだろう)

 

衣美里の提案にさやかは断る理由もないと判断し、承諾しようとしたが────

 

「木崎君、すまないが都君のところには私と美樹君の二人で向かわせてくれないか?」

 

十七夜の言葉に眉を顰めるさやか。

せっかくの衣美里からの申出に断る要因のようなものはないと感じたが、一体なにかあるのだろうか?

 

「んー‥‥‥まぁ、なぎたんがそういうならこっちは引き下がるしかないんだけど…‥‥‥さっさん的にはどう?」

 

「私は別に構わなかったのだが‥‥‥‥何か理由でも?」

 

衣美里からのアプローチに感謝しながらさやかは十七夜にその理由を問う。

すると十七夜はどこか気恥ずかしそうに顔をそむけた。

 

「すまない、白状するとこれは極めて個人的な理由だ。()()とは中々踏み込んだ話をしなければならない。」

 

「個人的な理由かぁ…‥‥‥ま、いっか!」

 

十七夜の言葉は理由としてはひどくあいまいなものだったが、それを衣美里は少し考えたあとに快諾する反応を見せた。

 

「い、いいのか?」

 

「まぁ誰だって他の人に話したくないこととか聞かれたくないことの一つや二つあるだろうし。あーしはそれくらいにしか思わないかなー。」

 

目を丸くしているさやかにそう返すと衣美里は「じゃあ、みゃーこ先輩のことよろしくねー」とだけ言い残して去っていった。

 

 

 

 

(今思えば、その時和泉十七夜の言った『彼女』とは都ひなののことではなかったかもしれなかったな)

 

衣美里との会話の中で、十七夜の言っていた『彼女』とはこれから会う都ひなののことだと思い込んでいた。

もしかしたら魔女化のことも話す必要性も出てくると。

でもよくよく考えてみると、さやかは十七夜の内面を、その胸の奥底にある燃え上がる黒い炎を見てしまっている。

あれがもし、さやかの推測通りのものならば────

 

「さて美樹君。実ははじめ会ったころから‥‥一つ、君に問い詰めておきたいことがあってね。」

 

雰囲気の変わった十七夜にさやかは表情を強張らせる。

十七夜の表情も表面的には笑みを浮かべてはいるが、目はいわゆる笑っていない状態だ。

 

「君はどうやら他人の心を読み取る力に長けているらしいな。」

 

「‥‥‥‥やはりか。衣美里の提案を断ったのも私と二人きりになるためか。」

 

「そう答える、ということはやはり見てしまったのだな?この私の胸に渦巻く感情に。」

 

十七夜の問い詰めにさやかは考えるように目線を逸らしたうちに静かに肯定した。

 

「とはいえ、貴方のように言葉や映像として視えるわけではない。色々と抽象的な形で視えてしまうだけだ。」

 

「ではそれを問おう。君は自分の、この和泉十七夜の胸に何を見た。」

 

「…………………正解を答えた方がいいのか?」

 

「…………君が何を言おうと一度交わした約束を取り違えたりはしないと誓おう。」

 

面倒くさそうに頭を抱えるさやかの言葉に十七夜はそう答えた。

とりあえずさやかが何か彼女の気に障るようなことを言ったとしてもそれを理由に約束を反故にするようなことはしないらしい。

それを聞いたあとも難しい表情を浮かべながら考え込んでいたさやかだったが、一つ大きくため息を吐いた。

 

「…‥‥‥‥黒い炎だ。」

 

「ほぅ?」

 

 

恐る恐る十七夜の様子を見てみるが、彼女はさやかの言葉に興味深そうな反応を示す。

その反応をとりあえず問題ないと判断したさやかは言葉を続ける。

 

「私がお前の中に視えたものは黒い炎だ。あれは…………私の感性では憎しみだとか、憎悪としか表現ができないほど暗く、苛烈なものだ。」

 

「お前の憎しみは一体誰に、いや何に対するものだ?普通そういう復讐心のようなものは相手を目の当たりにして初めて膨れ上がったりするものだ。」

 

しかし、さやかの感性は程度こそあれども明確にその炎が今なお燃え上がっているのを捉えていた。

まるでその様は彼女の恨みが個々人に対するものではないと語っているようだった。

 

「お前の恨み、もっと大きいものに対してだな?」

 

そう言い切ったさやかと十七夜の間に沈黙が奔る。

十七夜は前もって何を指摘されたとしても水に流す、というようなことを言ってはくれたもののやはり怖いものは怖い。

さやかは内心戦々恐々とし、額から汗を流す。

 

「‥‥‥‥まったく、君という魔法少女は…‥‥‥どこまでもお見通しということかな。」

 

十七夜はそう言って肩を竦ませる。

呆れているような物言いだが、その表情に怒りとかそのようなものはなかった。

 

「‥‥‥‥言い当てられた割には怒ったりしないのだな。」

 

「なに、君を少しは見習っているだけだ。この程度で当たり散らしているようでは進む話も進まなくなる。」

 

そのやりとりのあとに再び二人の間に沈黙が漂う。

どちらからでもなく歩き始めたが、その足取りはどこかゆったりとしたものだ。

 

「君は復讐をすることに何か引け目のようなものを感じるか?」

 

「復讐‥‥‥‥‥?わからない、というのが正直だ。あまり誰かや何かを恨むようなことに縁がなかったからな。」

 

「…‥‥‥普通はそれが一番いいのだ。自分も、そうでありたかった。」

 

「…‥‥‥やはりお前の胸の内にあった黒い炎、復讐心か。一種の破壊衝動のようなものにも見えたが…‥‥‥」

 

さやかの言葉に十七夜は目を見開くと静かに目を伏せ、物思いに耽る。

 

「…‥‥‥少し、昔話に付き合ってくれるか?」

 

「…‥‥‥重たい話はもう結構なんだが?神浜市の魔法少女は揃いも揃って重たい事情を抱えている人間ばかりでいっぱいいっぱいに近いのだが。」

 

「いや…‥‥‥君もお互い様だろう。自分も言える立場ではないのを承知の上で言わせてもらうが、こうまで丸裸にしておいてそのままとは少しばかり虫が良すぎるのではないか?」

 

「まさかとは思うが破壊衝動というのも当たりか?」

 

先ほどとは打って変わってさやかにジトっとした湿気た目で見つめてくる十七夜にさやかはおそるおそるそう聞いてみる。

 

「フッ…‥‥‥‥‥大当たりだぞ、ご主人様♪サービスとして一から十まで時間の許す限り話してやろう。拒否権はない。」

 

(‥‥‥‥‥‥これかなりまずいのを踏んだか。)

 

わざわざメイドカフェの口調を持ってきてまでおどけたような言葉で話し始めたことに多分虎の尾を踏んづけたことを察したさやか。

あれだけ踏まないようにしようとした地雷を結局踏んでしまったさやかは十七夜からの昔話に付き合わされるのだった。

 

 

 

 

「今まで聞いた中で一番重い話だった‥‥‥‥‥」

 

半ば無理やりのような勢いで一通り十七夜に聞かされたさやかは鬱屈とした表情で頭を抱える。

フェリシアのことを聞かされた時も相当苦い顔を浮かべたが、十七夜の場合もそれに引けを取らない話だった。

 

「ふむ…‥‥ほとんど勢いに近いレベルで話してしまったが‥‥‥‥‥まぁ、いいか。別段今のところはするつもりがないからな。」

 

「するつもりがあるとかないとかの話ではないだろう…‥‥」

 

グロッキーに近い状態で十七夜を恨めしそうににらむさやかだが、その言葉尻と表情両方には疲れが見えている。

早い話、十七夜が恨んでいる相手というのが、人や団体とかそういうのではなく、この神浜市そのものがその矛先らしい。

正確に言えば、『東側の人間だというだけで周りから疎まれる』という理不尽極まりない現実に対してだ。

十七夜の能力が読心なのも、彼女がキュウべぇに西側の人間たちがなぜ東側出身の者を邪見にするのか、その真意が知りたいと願ったからとのことだ。

 

「しかし…‥‥妙な話もあったものだ。明確な理由がないにも関わらずただ東側の出身というだけでそんな迫害の真似事のようなことができるとはな。」

 

「‥‥‥‥‥自分も最初に知ったときは愕然としたさ。だが何回、誰にやっても結果は同じだった。皆、明確な理由がないにもかかわらず東側の人間だというだけで腫物のような扱いをする。」

 

「お前から見えた破壊衝動のようなものはそうした現状に対するものか。ちなみに聞いておくが本気で神浜市を破壊しようとかそういう物騒な考えではないのか?」

 

「さぁ…‥‥どうだかな。今は平静を保ってはいられているが、何かの拍子でその破壊衝動のままに動いてもおかしくはないだろう。」

 

「‥‥‥‥‥そうか。」

 

さやかの反応の薄さに呆けたような顔をみせる十七夜。

割と怒られたり復讐そのものを止めさせにくると思っていたばかりだったために、半ば拍子抜けに近い感覚を覚える。

 

「‥‥‥‥咎めたりはしないのだな。」

 

「咎める?お前のそれはいわゆる不当や理不尽に対するものだろう?東側に生まれたというだけで不平等な扱いをされるという現実を破壊するために、お前が燃やしているものだ。いうなれば、お前のそれは少なくとも悪いものではない。であれば止める必要性のようなものは今のところはないだろう。」

 

「‥‥‥‥よもやこの燃えたぎる激情を正しいと言ってくれるとはな。」

 

「正しいとは言っていない。」

 

「なに?」

 

「お前の復讐はお前自身がたどる道次第でいくらでも形を変えることができる。」

 

「つまり手法はいくらでもあるということか?」

 

「‥‥‥‥よくも悪くも、だな。ただ────」

 

「ただ?」

 

「お前が変えた世界にお前自身がいなければ、それは復讐が完遂されたとは私は思えない。と忠告のようなものだけはしておく。」

 

「とどのつまり、まずは生き残ってから、ということか。待ち受けているであろうマギウスの翼と来る可能性の高い、かのワルプルギスの夜との決戦に、か。」

 

「…‥‥‥‥まぁ、それもその通りではあるか。」

 

少し考えたあとにそう言葉を零したさやか。

十七夜の言う通り、まずは目の前にある脅威を乗り越えなければそれに挑むことすらかなわなくなる。

 

「まったく、皮肉なモノだな。壊したいモノのためにまずは守らねばならないとはな。」

 

わざとらしく肩を竦ませる十七夜だが、既にさやかの意識はこれから向かう場所に向いていた。

 

(‥‥‥‥場合によっては嫌なカードの切り方をしないと行けなくなるかもしれないな。)

 

たどり着いた建物の名前を見つけると内心でそう愚痴のようなものを零した。

 

「ここが都くんのいる南凪自由学園だ。さて、彼女はどうせ理科室でも貸し切って実験にかかりきりだろうから、校内をさまよう心配はなさそうだな。行こうか。」

 

(そして、マギウスの翼白羽根、観鳥令の通う学校、か。)

 

高くそびえたつ校舎を見上げるさやかは、漂っている難解な雰囲気を振り払うように瞳を伏せ、先を行ってしまっている十七夜のあとを駆け足で追っていくのだった。




感想くれると、うれしなぁ(白目)


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第86話 ガキ扱いするなッ!!

最近クロブのモチベが高くて毎週一回はゲーセン行ってる。
A帯で7連勝したときめっちゃ楽しかった。


 

「うーん…‥‥‥」

 

「どうしたんだ一体?そんな学校の掲示板などを見て。」

 

都ひなのが在籍する南凪自由学園にやってきたさやかと十七夜。

来客用のスリッパに履き替え、夏休みで人気の少ない校内を歩いていたが、壁に設けられていた掲示物を取り扱うスペースを通りがかったところで不意にさやかの足が止まった。

 

「‥‥‥‥いや、なんでもない。」

 

十七夜の言葉にさやかは答えることはせずにそのまま通り過ぎていったが、あからさまな態度にはやはり気になるというのが人としての性。

さやかの目を盗み、十七夜はさやかが見ていたあたりに目線を集中させる。

 

(‥‥‥‥観鳥報?)

 

目線の向きから視察して、さやかが見ていたあたりで目についたのは一枚の学内新聞だった。

内容も新聞を踏襲しているのか、ゴシップ的なものから可愛らしい猫が映る日常のワンシーンまで幅広く取り扱っていた。

その完成度の高さに感心していると制作者らしき人物の欄もあったため、そこを見てみるとそこには観鳥令の名があった。

 

「この名は‥‥‥‥‥確か都君から‥‥‥‥‥」

 

観鳥の名前を見た十七夜は引っ掛かりを覚えたが、それが前に都ひなのから相談に乗ってほしいと頼まれた人物であったことを思い出す。

 

「彼女、確か魔法少女だったはずだが美樹君も会ったことがあるのか?」

 

「まぁ、ちょっとしたトラブルからだな。」

 

「ふむ……………前に会った時にはそう自分からトラブルを起こすような人間とは感じなかったが…………まぁ、そんなこともあるか。」

 

「見た目通りの人間などそうそういないだろう。表面は笑顔を浮かべていても、内心ではどう思っているかなど基本的には知りようがないからな。」

 

「………………………確かにな。」

 

さやかの言葉に何か思うものがあったのか、間のある返答をした十七夜。

表情にもどこか暗く影が差し込んだような感じがしたさやかだったが、触れるようなことはせずに見なかったことにした。

 

「………………大体理科室とかにいるという話だったか?」

 

「ん……………まぁ自分の印象としては、だな。もしかしたらいないかもしれないが。」

 

「一応連絡は入れてくれてるのだろう?流石にそのようなことは…‥‥‥‥あ。」

 

「どうしたそんな素っ頓狂な声を出して…‥‥‥む?」

 

どこか大丈夫かと不安がっている十七夜の様子にそう言葉を返すさやかだが、唐突に驚いたように目を丸くする。

今度はさやかの様子に首をかしげる十七夜だが、何事かと思いつつさやかの向いている方に目を向けると似たような表情で目を丸くする。

 

「ど、どうしてアンタがここに‥‥‥‥それに十七夜さんまで‥‥‥‥!?」

 

「誰かと思えば観鳥君じゃないか。ちょうどいい、君に聞きたいのだが理科室に都君はきちんといるだろうか?一応前もって連絡はいれていたのだが‥‥‥‥」

 

ウワサをすれば影、というように二人と鉢合わせたのは観鳥だった。

彼女と都ひなのは知り合いなのか、さながらこれ幸いというように観鳥に都ひなのの所在を確かめる十七夜だが、それに困惑と戸惑いが入り混じったような表情を見せる観鳥。

彼女からすれば仕方のないことだろう。なにせ今十七夜の隣にいるのはマギウスの翼の中でもトップクラスに危険人物扱いされているあの美樹さやかだ。

そんなさやかが十七夜と行動を共にしているとなれば、十七夜がついに重い腰を上げてマギウスの翼への対応に出たことは容易に想像できる。

そしてその協力の申出を都ひなのにもしに来たことも。

 

「え、えっとぉ…‥‥‥確かに居ましたけど、一体何用でなんでしょうか…‥‥?わざわざこんなところにまで十七夜さんが出張ってくるなんて、よほどのことがあることは想像に難くないんですけど‥‥‥」

 

「うむ。昨今神浜市中をにぎわせているマギウスの翼なる魔法少女グループ‥‥‥‥いや、美樹君の言葉に倣うのなら組織といった方が正しいか。彼女らに対する対応を都君と協議したくてだな。君も名前くらいは知っていると思っているのだが‥‥‥‥どうだろうか?」

 

「ま、まぁ…‥‥名前だけなら…‥‥」

 

十七夜の言葉に表面上を取り繕う観鳥。

言えるはずがない。自分がその組織に所属している身であるなど。実際に体感したわけではないが、十七夜の魔法少女としての実力は代表者としては申し分ない。

おそらく黒羽根程度ではいくら束になっても叶わないだろう。だからといってその黒羽根より高い実力がある白羽根だとしても勝てる見込みはほとんどないが。

つまるところ、この場で自分が組織の一員だとばれたら何をされるかわからない。

 

(といっても、向こうにもう知っている人がいるんだよなぁ‥‥‥‥)

 

内心で白目に近い表情を浮かべながら十七夜の隣にいるさやかに目線を向ける。

その表情はどこか迷っているようにも見えたが、とりあえずこの状況はほぼ詰みに近い。

即効でこの場からの逃走を計ることも考えたが、それではほとんど自白しているようなものである。十七夜が易々と逃してくれるようにも思えなかった。

 

「‥‥‥‥‥そういえば美樹君は観鳥君と接点があると言っていたな。聞いてもいいかな?」

 

(…‥‥‥やば)

 

「‥‥‥‥まぁ、仲間と一緒に神浜市に来ていたところを勝手に写真に撮られた。」

 

 

露骨にさやかの方を視ていてしまったわけかそれを指摘され、冷や汗を流す観鳥。

矛先を向けられたさやかは困ったような表情をしながら観鳥との接点を明かした。

 

「…‥‥‥なるほど、それは確かにトラブルになりやすい要因だな。流石に被写体になる人に対して許諾も得ずに撮影するのはいただけないな。」

 

「い、いや~、あの時はホントにすみませんでしたー‥‥‥観鳥さんってば珍しいシーンとかには目がないんでね~。こう、反射的に…‥‥記者としてのサガってものですかね~、アハ、アハハ‥‥‥‥」

 

「まったく、記者のサガというのも考えものだな。それが、仮に()()()()()()()()とやらの命令だったからにしてもな」

 

「‥‥‥‥‥‥はい?」

 

十七夜の言葉にその場の空気がまるで魔法かなにかを懸けられたように氷点下に凍り付く。

 

「実に‥‥‥実に残念だよ観鳥君。君とは一度相談を受けただけの間柄だったとはいえ、少なからず君のこれからを願っていたのだが、まさか…‥よもや君が件の組織の構成員だったとはな。」

 

「い、嫌ですね、十七夜さんったら冗談もほどほどにしてくださいよ。第一観鳥さんがそのマギウスの翼とかいう組織の一員だとかいう根拠も…‥‥‥」

 

一歩、また一歩とゆったりとした足取りで近寄ってくる十七夜に思わず声を震わせながら後ずさる観鳥。

彼女の手にはいつのまにかソウルジェムが握られており、それが輝くと軍服のようなものを着込んだ魔法少女姿の十七夜が現れる。

十七夜の表情は見る人が見れば震えあがるような冷ややかな笑みだった。その場の空気を凍り付かせているのがまるでその十七夜の浮かべる瞳によるものだと言われてもおかしくはないほど、今の彼女の瞳は限りなく冷たかった。

 

(‥‥‥‥‥固有魔法の読心を使ったか)

 

十七夜の後ろから状況を見ていたさやかがそう内心で毒づく。

元々観鳥が白羽根であることを知っていたが、それを明かすつもりはなかった。

しかしそれを向こう側から推し量るのはかなり無理のある話だ。

観鳥からすれば完全に首元にナイフを突きつけられているのも同然の状況だった。

その緊迫感を十七夜は感じ取ったのだろう。元々観鳥が落ち着きをなくしていたのもあったのだろうが、結果として彼女は観鳥に対して読心を使った。

そして知ってしまった。彼女が例のマギウスの翼に所属していることを。

 

「根拠、か。確かにその通りだが、ならばなぜ臆する?君はただ毅然と事実無根を証明すればいいだけの話だ。今の君は自分に対して怯え、逃げることを考えている。まるで隠し事がばれてしまった子供のようにな。」

 

「そ、それは────!!」

 

(…‥‥‥ダメだな、完全に彼女を敵認定してる。容赦がないというかなんというか)

 

十七夜に何か言い返そうとした観鳥だが、何も思い浮かばなかったのか、声を詰まらせてしまう。

どうやら和泉十七夜という魔法少女は、敵と認定した相手にはだいぶ容赦がないらしい。

よく言えば割り切りがいい、悪く言えば非情ともとれる彼女の在り方にさやかは小さくため息を吐いた。

そして、しびれをきらした十七夜が観鳥に対して距離を詰める────

 

「いったん頭を冷やしたらどうだ?」

 

より早く、さやかが背後から彼女の頭に向かって腕を振り下ろすと、廊下中にスパァンッと軽快な音が響いた。

 

「いっ────!?み、美樹君一体何を!?」

 

「…‥‥‥スリッパで引っぱたいただけだが?」

 

突然の、それも味方であるさやかからの強襲に思わず叩かれた頭を抑えながらさやかに詰め寄る。

その抗議の視線にさやかは小首をかしげながら手にしていたモノ────さっきまで自身が履いていたスリッパを見せる。

 

「ス、スリッパだと!?そんな汚れた部分で人を叩いてしまっては駄目だろう!?」

 

「安心してほしい。ちゃんと足を入れる方で叩いた。」

 

「‥‥‥‥‥なるほど、そっち側で叩いたのか。なら別にいいか。」

 

おそらく地面につける方で叩かれたと思った十七夜がなぜかそのことを糾弾するが、さやかから真面目な顔で袋の方で叩いたことを主張するとなぜか納得したような表情を見せる。

はたから見ればそれこそ首をかしげてしまうだろうが、彼女らの中ではそれでいいのだろう。

 

「…‥‥‥あ。そういえば観鳥君は────」

 

ふと我に返った十七夜が観鳥の立っていた方に視線を戻すが、既に彼女の姿は忽然と消失していた。

 

「‥‥‥‥美樹君、謀ったな?」

 

「別にそんなことはない。私はただ単に見ていられなかっただけだ。その間の彼女の行動に関しては与り知らないことだ。」

 

「見ていられなかった、とはな。」

 

さやかに諌められたことで興がそがれたのか魔法少女姿を解除する十七夜。

表情も憮然としており、敵である観鳥をどうして逃したのかと言いたげだった。

 

「彼女からは前のいざこざのときに聞くだけ聞いている。ここで捕らえたとしてもほぼ無駄足は確定している。」

 

「…‥‥そういえばそのような場面もあったような気がしたな。」

 

十七夜の言葉振りからどうにも観鳥の記憶を覗き見たような雰囲気だ。

彼女の魔法は読心であるはずだが……………記憶を覗くとなるまた読心とは意味合いが違ってくるような気がする。

 

「………………今のお前を向かわせたら彼女が半殺しになりそうな雰囲気があったからな。」

 

「まぁ、それくらいは覚悟してもらうつもりではあったが………………」

 

「やっぱりか…………………こう、もう少し手心のようなものはないのか?」

 

「今の彼女は敵なんだ。手心なんざ与えるものか。」

 

「……………………流石の私でも引く。だから止めたのだが。」

 

きっぱりと言い切る十七夜にさやかは頭を抱えるような反応を見せる。

先ほどのやりとりからもなんとなくわかってはいたが、十七夜はどうにも敵に対する容赦がまるでない人間のようだ。

 

 

「ふぅ‥‥‥‥ところでお前の能力は心を読む読心だろう?そんな他人の記憶を覗き込むような芸当も可能なのか?」

 

話しを変えるようにさやかはため息を吐くと先ほど観鳥がマギウスの翼の一員であることを見抜いた手法を問う。

彼女の能力が読心であることは知っていたが、記憶の覗きこみのようなソレは読心と言うひとくくりに置いておくのは無理がある。

 

「うむ。まぁ、読心にせよ記憶の閲覧にしろ他人に近づかなければならないという欠点もあるが、できるぞ。」

 

「……………お前に隠し事はやめておいた方が良さそうだな。」

 

「そういう美樹君こそ、素で自分の魔法に近いことをやってくれるだけすさまじいと思うのだが?」

 

「私が初めて魔女に出くわしたときの反応を明かそうか?魔女からの負のオーラのせいで鳥肌と震えが止まらなかった。」

 

 

 

「‥‥‥‥‥お前ら一体全体何やってんだ?」

 

「ん?」

 

十七夜と話しているところにどこか呆れたような声を掛けられる。

声のした方向に振り向いてみると、そこには観鳥が来ていた南凪自由学園の制服の赤い部分を青くした服に科学者がよく身に着ける白衣をダボダボに着ている少女がそこにいた。

 

「全く‥‥‥指定した時間になったというのに一向に来ないから足を運んでみれば‥‥‥‥」

 

「‥‥‥‥‥子供?」

 

「あ、美樹君それは都君にとっての────」

 

「ガ、ガキ扱いするなぁ────!!アタシはこんな()()でも花の高校生だぁ!!文句あんのかゴラァ!!」

 

首をかしげながらさやかの放った言葉に少女────都ひなのは顔を真っ赤にして地団太をかまして憤慨するのだった。

 

 




みんなもビギナ=ギナⅡ乗って相手にほえ面をかかせよう!!(ステマ)


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第87話 こんな運命、ぶっ壊したくなる

最近流行ってるAIに挿絵書いてもらうのってどうなんだろう。

それはそれとして十七夜さんがネタキャラになりそうで怖いぞ。

古風な言い回しをするのも相まって一回脳内でグラハムになったし。


 

「まぁなんだ、確かに初対面で子供呼ばわりは流石に礼を欠き過ぎたのはその通りだ。すまない。似たようなことで以前にも怒られたというのに‥‥‥‥」

 

「お、おう…‥‥‥恵美里のヤツもこれくらい上の人間に対する敬意ってもんがあるとなー…‥‥‥」

 

初手で失礼をぶちかましてきたことを素直に謝罪するさやかに多少面食らったような表情を見せるひなの。

その時遠い目を浮かべながら恵美里のことを言っていたような気がするが、特に触れないでおくことにした。

彼女も彼女でひなののことを子供扱いしているのだろう。彼女のことを等身大で見ているとも言い換えられると思うが。

 

「で、お前が例の魔法少女か?なんか最近『最強の魔法少女』って触れ込みみたいなのを耳にするんだが。」

 

「…‥‥美樹さやかだ。ちなみにその触れ込みをばらまいている奴らのことはわかっているのか?」

 

「確か‥‥‥‥‥マギウスの翼とかを名乗ってたな。怪しいケープ被ってどっかの宗教かと思ったよ。勧誘もされたしな。」

 

「都君のところには来たのか…‥‥‥私や七海のところには来なかったのだが‥‥‥‥」

 

「‥‥‥‥‥所感だが、それはもしかしなくてもお前たち二人は怖がられているのではないのか?」

 

「おお、気が合うなお前。西側の代表者とはいつかの協定んときに会ったきりだが‥‥‥‥和泉、お前ら雰囲気からして近寄りづらいんだよ。あん時の話の内容からして軽い雰囲気で行けるもんじゃないってのは認識してたがそれでも限度ってもんがあるだろ?一介の科学野郎がいていい会合ではなかったぞ。」

 

「‥‥‥‥‥‥まぁ、それでも構わないとも。自分がそうあることによって東の魔法少女が正しくあるのであれば────」

 

「一般的に恐怖による抑制はその影響下にある人物からは反発を招きやすい。水面下、お前の知らないところで勝手に転覆の下準備をされるだけだ。あまりこう言うことは言いたくないが、だから東側の魔法少女の多くがマギウスの翼の構成員になっているのではないか?」

 

「…………………要は美樹君、君は自分のせいでマギウスの翼の戦力を増やしたと?」

 

「うーん……………他にも理由はいくつか考えられるが、ことお前の言う東側の魔法少女が多い点に関してはお前自身が要因の一つかもしれない。特に、さっきの彼女に対する対応を見てるとな。どうにも………………」

 

「そうか……………………そうなのか……………そう、だったのか……………」

 

「うわ、見るからに和泉がしおらしくなってく。コイツのこんな有様初めて見たぞ。」

 

語気をわずかに強めながら憮然として詰め寄る十七夜だが、悩ましげな表情のさやかからの結論を聞くと、ショックだったのか渋い柿でも食べてしまったような沈痛な表情を浮かべる。

その様子を目の当たりにしたひなのは見間違いなのはわかり切っていたが、まるで顔に年取ったシワが浮かび上がっているようにも見えた。

 

「ん…‥‥‥?ちょっと待て。お前ら、アタシの前に誰かと会ったのか!?」

 

「‥‥‥‥観鳥令と鉢合わせた。」

 

さやかと十七夜が自身と会う前に誰かと会っていたということに耳敏く反応してくるひなのにさやかはわずかに眉を顰めるも、直前に観鳥と会ったことを明かす。

 

「なっ‥‥‥‥‥お前らアイツに変な事してないだろうなっ!?」

 

観鳥の名前を出された途端、語気を強めるひなの。にらみをきかせているが、二人を捉えるその目は十七夜に向けて多く向けられているような気がする。

 

(‥‥‥‥‥そういうことか。)

 

さやかより十七夜の方を警戒しているようにも思えるその様子にさやかはその理由を見出した。

おそらく、どこまで正確かは定かではない。しかし、ひなのは気づいている。

 

「‥‥‥‥‥もしかして、気づいているのか?彼女が、観鳥令がマギウスの翼に所属していることを。」

 

「ッ‥‥‥‥‥やっぱり、そうなのか。」

 

さやかの言葉に一度大きく目を見開いたひなのは重苦しい表情を浮かべ、力なく理科室の丸椅子に腰かける。

だぼだぼな故に腕にひっかけているに等しかった白衣がまるでずり落ちてしまうかのようにも見えた。

 

「………………ただ、裏でなんかしているなって感じてただけだ。お前さんの言うように、何から何まで察してたわけじゃない。」

 

さやかの言葉にそう返したひなのだったが、ショックのあまりなのか声のトーンはかなり低い。明らかに落胆している様子だ。

 

「……………………」

 

その様子のひなのに困ったように手を頭に回すさやか。

髪を軽くかき乱す仕草からまるで嫌な予感でも当たってしまったようだった。

実際、十七夜からこの学園の名前を聞かされた時や、掲示板に張られていた観鳥報を見た時からひなのと観鳥に交友関係があるだろうとは思っていた。

知り合いがマギウスの翼にいる、という状況は珍しくない。

かことこのみ、そして彼女らに対するかえでがその最たる例だろう。

 

「…………………なぁ………前にマギウスの翼がアタシのことを勧誘してきた時、アイツらは七海のことをやけに目の敵にしていた。魔法少女の救済を阻んでいるとかなんとかってさ。」

 

「聞いたのか、彼女らの目的を。」

 

「まぁな。普通の誘いならまだしも、奴らからきな臭い匂いしかしなかったもんだからな。」

 

いつのまにか復活していた十七夜が少しだけ目を見開いて驚きをあらわにすると、ひなのは羽根たちから怪しげな雰囲気を感じとったことを明かす。

 

「で、あいつらの掲げる救済っていうのは一体なんなんだ?聞こえのいい単語を使っちゃいるが、七海と一緒に反抗してるってことは少なからず看過できない部分があるってことだろ?」

 

「七海やちよと一緒に‥‥‥‥まぁ協力体制を敷けているとは私個人の中で思っているが…‥‥‥」

 

ひなのの質問にさやかは微妙な表情を浮かべながら十七夜に目配せをする。

それに十七夜はうなずく様子を見せると、さやかはひなのに顔を向けなおす。

 

「奴らは自分たち、延いては魔法少女が救われるために活動をしている。そこに間違いはない。だが、奴らはそのために多くの一般人を手に掛けることも辞さないつもりだろう。」

 

さやかと十七夜はひなのにマギウスの翼の目的と諸行を語る。

始めの肯定的な意見にわずかに眉をひそめるひなのだったが、やがてその表情を深刻なものに変える。

 

 

 

 

 

 

 

「魔女を集めたり育てたり、話の内容がそっくりそのまま再現されるウワサ…‥‥‥前者はともかく後者は‥‥‥‥確かに最近は噂みたいなのが妙に多いとは思ってたけどさぁ‥‥‥‥‥」

 

「私も実際にこの目で見たわけではない。だが、ここ最近は異常現象が多すぎる。まるで神浜に吸い寄せられるように魔女の個体数が増加しているのも事実だ。美樹君からすればこれらもマギウスの翼による仕業なのだろう?」

 

「ああ。奴らには魔女を制御下におく手法が存在する。そこから派生したのかどうかは定かではないが、私たちの目の前で使い魔を操ってみせた。」

 

「だったら…‥‥一体なんのために魔女を集めたり育てたりなんかをしてるんだ?何も知らないアタシからすればまるで救済との関係性がわからない。」

 

「…‥‥‥奴らが何のためにその行為をしているのか、その目的はすまないがまだはっきりしていない。ただ奴らが救済に奔ったその理由はわかる。」

 

「…‥‥‥まさか、話すのか?」

 

「‥‥‥‥‥隠していてもいずれその真実は白日に晒される。というかお前も知っている立場の魔法少女だったか。」

 

「一応、飛蝗の一件でな。だが、そうなると厳しいな。彼女らは絶対的な悪にはなりえない。少なくともその行く先は紛れもなく善だ。」

 

「だからあの時止めたんだ。彼女らは厳密には敵ではない。」

 

「‥‥‥‥‥まさかとは思うが、ソウルジェムとグリーフシードは元々同じモンだったとか言い出したりはしないよな?」

 

「ッ!?」

 

「なッ!?都君、なぜ君がそれをッ!?」

 

「あー…‥‥‥知ってたわけじゃねぇけどお前らの反応で確信したわー‥‥‥‥‥」

 

ひなのを放っておいて喋っていた十七夜とさやか。

困惑した状態で話の詳細を聞こうとしてくると思っていたところに飛び出た発言に思わず声を荒げたり目を大きく見開いて驚きを露わにする二人にひなのはため息を一つついた。

 

 

 

 

「いや普通気になるだろ。ソウルジェムに生じた穢れを魔女から落ちてきたグリーフシードで吸収できるなんてソウルジェムとグリーフシードになんらかの互換性が成立してないと現象として起こりえない。まぁ所詮は机上の空論を越えることはなかったんだが。魔法なんて専門外もいいところだし。」

 

どうやらひなのの中ではソウルジェムとグリーフシードの関係性については以前から目についていたようだ。もしかしたらなんらかの実験をしていたのかもしれないが、その結果は振るわず推論の域を出ないものとなるはずだった。

現実は御覧の通りだが。

 

「しかし、ソウルジェムに穢れをため込みまくった果てがグリーフシードへの変化で自分の魂が魔女になっちまう‥‥‥‥‥んで、奴らがその救済として看板にしてるのがドッペルとかいう奴か。」

 

「原理は不明だが、ため込んだ穢れを魔女の力の一端として放出することである種のリセットをかけているのだと思う。」

 

「‥‥‥‥‥現物を見たことがないからなんとも言えないが、本当に安全なのか?仮にも魔女の力を使っているのだろう?」

 

「少なくとも、私が初めて見たときは特に副作用のようなものは感じなかった。ソウルジェムも確認させてもらったが、穢れを取り除いているのは確かだった。」

 

訝し気な表情を見せる十七夜に念を押すように見ている限りは影響のようなものはなかったことを語るさやか。

しかし、それを言うさやかの表情も難しげなのも事実だ。

以前フクロウ幸運水のウワサを破壊しにいったときに天音姉妹が言っていた言葉からドッペルをグリーフシードの代わりにするつもりなのだろう。

代わりにするということは何回もドッペルによる浄化を行うのだろうが、回数を重ねたことによる問題はないのだろうか。

仮にも自身の内にある魔女の力を引き出しているのだ。十七夜の懸念ももっともだろう。

 

(私も何も影響がないとは思えない。1から10までメリットしかないものなど、この世に存在するわけがない。)

 

「とはいえ、ソウルジェムにんな秘密が隠されてたとはな‥‥‥‥‥流石のアタシも平静を保てねぇなー‥‥‥‥‥‥だが、観鳥がマギウスの翼に参入したのもよくわかる。そりゃああんまりだ。こんな運命、ぶっ壊したくなる。」

 

一通りさやかと十七夜からソウルジェムのことを聞かされたひなのはわずかに舌打ちを零した。

彼女の言う通り、最終的には魔女になってしまう運命など誰もがあんまりだと思うだろう。

 

「なんだが、魔法少女とはいえアタシたちが人間であることに変わりはない。そこには絶対に越えちゃいけないラインがある。他人に害を与えるなんざその最たる例だろうさ。」

 

「‥‥‥‥‥後回しになってしまったが、私たちがアンタの元を尋ねたのはマギウスの翼に対抗するために手を貸してほしいからだ。ここまで聞いたわけだが…‥‥‥」

 

おずおずと協力の是非を聞いてくるさやかにひなのは静かに瞳を閉じ、考える仕草を見せる。そして────

 

「アタシはさ、正直にぶっちゃけるとそこの和泉や七海みたいに強いわけでもなく、ただ単に他のみんなより年季が入っちまってたからこんな立場にいる。できることと言えば、今までやってきた科学を抜くと相手の話を聞いてやるくらいだ。」

 

「だけど、アタシは結局何も知らなかった。観鳥や他のみんなが知ってしまったことのデカさを。誰にも言えるはずがない、こんなこと。近くにいたアタシにすらも。」

 

「だからアタシはとりあえず観鳥と話がしたい。アイツはあんまりいい顔しないかもしれないけど、それでも────アタシはアイツの先輩なんだ。こんな()()だが、頼れる背中を見せてやらないと。そんな得体のしれない奴らとつるんでるより頼れる奴らがここにいるってな。」

 

「なら────」

 

「その前に少しだけ聞きたいことがある。」

 

協力を承諾してくれそうな雰囲気だったが、ひなのの険しい表情の前に一端阻まれてしまう。

 

「お前はさっきマギウスの翼の救済は間違いではないって言ってたよな?それにも関わらずあいつらを止めようとするなら、何かあるのか?代替案みたいなのは。じゃないと終わったあともかなり面倒なことになるぞ。」

 

「…‥‥‥‥明確に代案と呼べるものはない。が、可能性のようなものはある。」

 

「…‥‥‥‥それを聞かせてくれてもいいか?」

 

「‥‥‥‥‥問題ない。誰にも話していないわけではないからな。」

 

ひなのの確認に肯定すると、さやかは少し間を空け、どこか緊張した面持ちで佇む。

隣にいた十七夜もさやかが何の話をするつもりなのか見当もついていない様子で首をかしげる。

 

「私の魔法少女の姿には、特性としてグリーフシードが必要なくなるレベルでの魔力の生成が行われている。それを何らかの形で再現することができれば…‥‥‥‥」

 

 

それをはじめて聞かされた二人はただ目を見開いて茫然とすることしかできなかった。

 




勢いで書く上に仕事でろくにキャラストとか見れてないから齟齬やエミュに失敗してたらごめんね!!(泣)


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第88話 そのまま船出に付き合ってもらう

コメントまともに返せてなくて申し訳ない‥‥‥でも送ってもらえるとウレシイ‥‥(乞食)


 

「ハァァァァァァァッ!!」

 

雄たけびと共に手にしていたバスターソードⅡを振り下ろす。

軽々しく振っているように見えるが、その実態はGN粒子による重力緩和によるもの。

振り下ろせば本来の重量が威力となって相手に襲い掛かる。

 

『!!!??!!?!?!?!』

 

魔法少女の相手はよほどのことがない限り、基本は魔女である。

今回も例外ではなく、バスターソードを叩きつけられた魔女は巨体を大きくのけぞりながらその身を構成する鉄臭い印象を覚える胴体にヒビをつけられていた。

無論魔女も反撃として巨体から伸びる双腕をさやかに向けて振り回すが、空を駆ける彼女は悠々とその範囲から逃れる。

 

「これで…‥‥!!」

 

巨腕から逃れたさやかはブラスターを展開し、魔女に向けて高出力のビームを発射する。

対する魔女は攻撃に使っていた両腕をクロスさせることで防御しようとするが、ブラスターのビームは両腕ごと魔女の身体を貫き、風穴を形成する。

 

「トドメだ!」

 

焼き切れた両腕をかいくぐり、懐に入ったさやかは持ち手を起こし、剣のように持ったブラスターで横に一閃。

銃身下部のブレードで残った魔女の身体を両断した。

そこで魔女は活動を停止したのか、霧散していき、魔女が斃れた箇所にグリーフシードを落とす。

 

「…‥‥‥強いって聞いちゃあいたが、神浜の魔女と出くわしてから数分足らずか。鎧袖一触ってのはこういうことを言うのか?」

 

結界が崩れたことを確認したところに魔法少女姿のひなのが声をかけてくる。隣には十七夜の姿もあった。

なぜこのような状況になったかと言えば、自身の魔法少女としての特異性を明かしたさやかだったが、あまりに突飛な内容に流石の二人も半信半疑な様子だった。

マミに電話して説明してもらう選択肢もあったが、提案をするより一歩早くひなのが話を切り出したのが、どこか適当な魔女とさやかを戦わせることだった。

 

「‥‥‥‥んで、見せてもらってもいいか?」

 

そう言って差し出されたひなのの手の上にさやかは自身のソウルジェムを乗せた。

あっけらかんとした様子で渡してくるさやかに一瞬たじろぐひなのだったが、視線を手元のソウルジェムに落とす。

さやかのソウルジェムは空に近い水色にクリアグリーンの粒子が星のようにちりばめられている、端から見ても珍しい色合いをしていた。

 

「‥‥‥‥‥派手な攻撃をしていたわりには穢れのたまり具合が小さいな…‥‥」

 

「ああ。そして、美樹君の言葉通りであるのならこの後────」

 

ひなのの隣でのぞき込んでいた十七夜が言葉を続けようとした途端、ソウルジェムの中にあった黒いしみが小さくなっていく。

その現象に見ていた二人が驚いている間にもその現象のスピードは加速し、さやかのソウルジェムの中にあった穢れはきれいさっぱり見えなくなってしまった。

 

「こ、これは…‥‥‥!!」

 

「おいおい‥‥‥本気でソウルジェムの穢れが消えちまったぞ」

 

「これを、なんらかの形で再現することができればいいのだが…‥‥‥‥」

 

「確かにできれば革新モノなのは確かだが‥‥‥‥‥アタシでも原理やらがさっぱりだ。お前の固有魔法ってわけじゃないのか?」

 

「…‥‥‥少なくとも、それはないと考えている。それ以前、私は自分の固有魔法がなんなのかを理解していない」

 

難しい顔を浮かべるさやかの言葉に二人はより一層疑問の表情を深める。

基本的に魔法少女の固有魔法はインキュベーターとの契約時の願いに準じたものになる。

ほむらの魔法が時間操作なのは、まどかを助けるために時間を巻き戻す必要があったため。マミはリボンだが、彼女の展開する結界には総じて回復効果がある。契約した状況を鑑みれば、いわばリボンは包帯のような、傷を塞ぐためのものだろう。

 

「不躾な質問ですまないが美樹君、君は契約の時に何を願った?」

 

「…‥‥‥まぁ、候補がない訳ではなかったが、結局何も叶えないまま私は魔法少女になった。その時に必要だったのが、戦うための力だったからな」

 

「…‥‥願いを叶えなかったから、お前自身なんの能力を持ってるかわかんねぇってことか。え?じゃあ、さっきの魔女との戦いは────」

 

「別に固有魔法を使わなくとも魔力を塊としてぶつけたり、刃として飛ばしたりできる。感覚的には私の戦闘スタイルはそれの延長に近い、と思っている。」

 

「延長にしては火力とか諸々がオーバーな気もするが‥‥‥‥‥これ以上は話しても意味なさそうだな」

 

「しかし…‥‥これを再現するのだとしても、そもそものアテのような人間はいるのか?」

 

「‥‥‥‥‥一応いるにはいるが…‥‥‥」

 

十七夜の言葉に渋い表情を見せるさやか。

それを見たひなのは何かを察したような反応を見せる。

 

「まさか、そのアテっていうのもマギウスの翼にか?」

 

「…‥‥‥‥里見灯花という人物を知っているか?」

 

「いや、知らないな。都くんは?」

 

「確か、宇宙科学の権威とか言われてる奴だろ?アタシもその筋の人間だから知っているってだけだが‥‥‥‥まさか魔法少女?」

 

「ああ。それも‥‥‥‥マギウスの御三家と呼ばれる、要はトップの内の一人だ」

 

さやかの言うアテの人物が寄りにもよって敵対している組織のトップだということにひなのは深いため息を吐いた。

 

「ふぅ…‥‥‥‥マジか」

 

「ああ。マジだ」

 

正気を疑っているようなひなのからの確認にさやかは真剣な表情で力強く頷いた。十七夜も表情は苦笑いこそ見せているが、内心はひなのと同じようなものだろう。

 

「こりゃあ…‥‥とんでもない舟に乗っちまったかぁ‥‥‥‥‥大しけどころか台風のなか帆を出してるようなもんだな」

 

「確かにな。だが、美樹君の魔力回復が向こう側に伝わればその里見灯花とやらを交渉の席につかせることも可能ではないだろうか?場合によっては事を穏便にすませることもできなくはないだろうが‥‥‥」

 

「いや、それはもう手遅れだろう。もう彼女らは止まれない、というより止まることが許されない。下手に希望を見せれば、その希望があるという事実そのものが彼女たちにとっての絶望になってしまう」

 

「そうか‥‥‥‥いや、すまない。妄言だった。忘れてくれ」

 

行動次第で里見灯花を交渉の場に出すことができるかもしれないという言葉をさやかは残念そうな、それでいて険しい表情で否定した。

マギウスの翼は既に他者を手にかけている。それは黒羽根たちなどが、と言うわけではなく、魔女やウワサによってが大半だろうが少なくとも自分たちが目指している救済。その過程に誰かの犠牲があるのはわかっているだろう。

自分たちは生きるために救済が必要。だから多少の犠牲は目をつむることができると。

しかし、そこに別の選択肢、少なからず犠牲がでないものが現れてしまったら?

そこに残るのは誰かの命を無為に奪った事実しか残らない。

 

「…‥‥‥相当色々言われるのは想像に容易いな。言葉の刃ほど鋭いもんはない、とアタシは思うぜ?」

 

「覚悟の上だ。というか、私はまだ魔法少女になってから二か月経ったかどうかだ。なんといわれようともいなかったんだから無理、と返すほかない」

 

「フッ、それはごもっともな言葉極まりないな」

 

「…‥‥‥ま、心持ちは知れたとして、これからどうするんだ?」

 

これからの動向を聞かれたさやかだが、その表情はどこか厳しめなものを見せる。

 

「…‥‥ななかたちが知り合いの魔法少女たちを可能な限り集めてくれたが、それでも戦力差は歴然だ。その差を埋めることは考えない方が賢明だろう。問題なのは、向こうの本拠地の所在を明らかにできないという面だ」

 

「あー…‥‥‥場所をコロコロ移動している上に入るにも構成員の案内が必要っていうんだろ?」

 

ひなのの疑問気な言葉に無言で頷くさやか。

魔法少女の救済を謳うマギウスの翼、その本拠地の詳細は敵対するさやかたちにとって目下の課題だったが、実はついさっき解決した、というよりしてしまった。

ひなのと会う前に鉢合わせた観鳥の記憶を覗き見した十七夜がその本拠地らしき場面を見たというのだ。

名前は『フェントホープ』。

希望を守る、という意味のようだがその施設には十七夜が見た限り、侵入する上で厄介な性質が二つほどあった。

 

一つ目はどうやら移動が可能らしく、見た限り神浜市の北側、北養区にあるらしいが正確な位置までの特定は不可能。

二つ目は入り口が明確でなく、内部に入るには羽根の案内が必須とのことだった。

 

「…‥‥‥‥羽根の案内って言ってたが、絶対カラクリみたいなのはあるはずじゃないのか?なんかそれっぽいのは視えなかったのか?」

 

明らかに面倒くさい雰囲気にひなのは鬱屈とした表情を見せながら十七夜に他に視えたものがないかを尋ねる。

 

「うむ…‥‥‥観鳥君の目線から見えた光景だったからはっきりとは見えなかったが…‥‥入るときに何か胸元?あたりにあるものをかざしていたような‥‥‥‥‥」

 

「‥‥‥‥‥ペンダントか?」

 

十七夜の言葉を頼りにさやかは羽根たちの胸元にお揃いのペンダントのようなアクセサリーがつけられていたことを思い出す。

十七夜が見た記憶を鑑みるに、おそらくそれがフェントホープに入るためのカギの代わりと見るのが正解だろう。

 

「言われてみればアタシを勧誘してきた奴らもそんなのを付けてた覚えがあるぞ」

 

「ふむ、となるとやはりふん縛ってでも観鳥君の身柄を拘束した方がよかったのでは?」

 

「‥‥‥‥彼女は黒羽根より位の高い白羽根だ。何かあったときに不審がられる速度は黒羽根より段違いだと思うべきだ」

 

「というか、アタシの目の前でそんな話をするなよなあ」

 

目の前で知り合いを縛り上げるとかいう話を聞かされたひなのは露骨に嫌悪感を強めた表情で二人の話を強制的に切り上げる。

流石にデリカシーを欠いた発言であったことは十七夜もわかっていたのか、素直にすまないとひなのに従った。

 

「ったく‥‥‥‥で?そのペンダントが必要なら、適当な黒羽根の魔法少女からぶんどるのか?」

 

「…‥‥‥いや、それも少し厳しいかもしれない」

 

実のところ、さやかたちの方でもマギウスの翼の本拠地を探そうとはしていた。

とはいえ十数人で神浜市中を探し回るのは土台無理な話なため、黒羽根を見かけたらできる限りの範囲で追跡を行うという話だったが─────

 

「最近活動の鳴りを潜めているのかぱったりと姿を見せなくなった」

 

「え、なんだソレ。絶対マズいことが起きる前フリだろ」

 

「………………美樹君、流石に一度七海と連絡をとって足並みを揃えるべきだ。胡散臭いとか怪しいを通り越して異常だぞ、あの組織」

 

神妙な面持ちを見せていたさやかに十七夜が険しい表情でそう提案する。

覗き見た記憶から何か見つけたと判断したさやかは詳細を後で聞かせてもらうとして、スマホを取り出したさやかはやちよと連絡を取ろうとする。

 

『お掛けになった電話番号は現在使われていないか、電波の届かないところにいる────』

 

「‥‥‥‥‥‥‥」

 

コール音すらならず、電子的な音声が返ってくる。

それにさやかはゆっくりとスマホを下ろし、自身を落ち着かせるように大きく息を吐いた。

 

「…‥‥‥‥和泉十七夜」

 

「…‥‥‥何かあったらしいな?」

 

「都ひなのを頼む。ザンライザーで飛ぶ。」

 

「‥‥‥‥なるほど?」

 

十七夜の返答を待つよりも早く、さやかは突然駆け出すと、理科室の窓を開け放ち、そこに足を掛ける。

 

「はっ!?おまっ、待って────」

 

一見すると急にトチ狂った人間が自殺に奔ったようにも見えるさやかの行動に、ひなのは目を丸くして静止の声をかけるがさやかはそのまま学校の校舎から飛び降りていった。

 

「都君、少し失礼させてもらう。」

 

間に合わなかったと思い、口を魚のようにパクパクさせているところに十七夜が彼女の身体を掬うように抱え上げると、同じように開けられた窓に向かって走り出す。

 

「乗りかかった舟だ。そのまま船出にまで付き合ってもらおうか?」

 

「待て待て待て待てぇ!!!せめて身の安全くらいは保障しろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」

 

十七夜の雰囲気からとりあえず自殺とか死にに行くわけではないことは察せたが、それでも怖いモノは怖いというように身をよじらせるひなの。

そんな彼女を尻目に、十七夜もさやかと同じように窓枠に足を掛け、校舎から飛び降りるように大きく跳躍する。

 

「そのまま降りてくると思っていたのだが‥‥‥意外と大きく飛んだな。」

 

恐怖で悲鳴も上げられないひなのと彼女を抱えて落ちてくる十七夜の二人を先に待っていたさやかが展開したザンライザーの背に着地させる。

 

「なっ…‥‥‥なんだこれ‥‥‥‥!!」

 

「すまないが落ち着くスペースもないからそのまま彼女を抱えていてくれるか?あと危ないから魔法少女の姿でいてもらえると助かる」

 

「分かった」

 

目まぐるしく変わる状況についていけないひなのを置き、三人を乗せたザンライザーはまだ日の高い神浜市を天高く駆け上がる。

 

「行先は?」

 

「神西区のみかづき荘。少なくともそこに行けば現状の把握はできると思うのだが…‥‥‥」

 

そうはいうが、さやかの表情は苦々しいものを浮かべていた。

さやかの脳裏に徐々に最悪のケースが想起され始めていたからだ。

 

(‥‥‥‥‥まさかとは思うが、単身殴り込みとか早まってはいないだろうな…‥‥!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…‥‥‥ハァ‥‥‥‥!!!」

 

薄暗い路地裏を黒いローブを羽織った少女が駆ける。

長い時間走り続けていたのか、荒い息を漏らしていた少女は追っ手を気にでもしているのか、後ろを忙しなく確認したあとにようやく息を一息ついて物陰に隠れる。

 

「ハァ‥‥‥ハァ…‥うう、ついにやってしまいましたぁ…‥‥!!」

 

自身のやったことを後悔しているのか、大きなため息を吐きながらフードを外す。

頭につけているウサギのような耳がついた赤いカチューシャが現れ、彼女の心境を表しているように力なくへたる。

 

「でも、でも…‥‥あんなの、絶対に絶対にダメなんです…‥‥‥ギャ、ギャンブルとか、ゲームセンターのコインゲームでちょっと欲張って溶かしてしまうことより‥‥‥‥ううッ!!」

 

少女は何か恐ろしいものでも見てしまったのか嗚咽を零しながら震える体を抑え込む。

 

「フ─ッ…‥‥‥ドッペルは、あの御方たちは魔法少女にとって、新しい希望になるとおっしゃっていました…‥‥‥ですが、ですが!!」

 

 

「人が…‥‥人でなくなってしまうのは、それは果たして、救済と呼べるものなのでしょうか‥‥‥‥‥!!

 

 

少女の脳裏に蠢く泥のような物体が思い浮かぶ。

少女にとって本当に偶然、青天の霹靂といっても過言でもない出来事だった。

いつもはあまり近寄るなと言われているエリア、確か隔離部屋とか言っていたような気がする。

たまたま道に迷っていた少女はたまたま門番がいないときにそのエリアに迷い込み、そしてその一室で見つけてしまった。

 

自分たちが解放の象徴として使っているドッペルが魔法少女の身体を侵食し、不定形な、それも人としての形を見失っているモノになり果てている様を。

少女がそれが人であり、魔法少女だとわかったのも、その泥に人の顔のようなものがあったからだという曖昧なモノだったが、それでもショックであることに変わりはない。

 

「もしも、もしもドッペルは使いすぎるとあのような末路をたどってしまうというのなら、絶対に止めないと‥‥‥‥!!だから!!」

 

振るえる体を半ば無理矢理に押さえつけるように立ち上がる。

羽織っているローブは脱がない。自分が何者なのかを迅速にわかってもらうため。

胸元のペンダントも捨てない。フェントホープに入る以上、コレが必要なのは身に染みてわかっている。

 

「いつもはこの体質は恨んでいますが、今回ばかりは賭けさせていただきます」

 

掛け金は己の命。

賭けに負ければ、グリーフシードの手持ちがない自分がドッペルを発現し、それが何度も続けば────

 

(一世一代の大博打。こちらの勝利条件は、どこにいるかもわからない魔法少女と出会うこと。なんて、なんて分の悪い賭け────)

 

可能性は果てしなく低い。少女の目的はこの広い神浜市である魔法少女に出会うこと。

砂漠から針を探し出すほど、とは言わないが、それでもどこにいるかもわからない魔法少女を探しだせる可能性は限りなく低いだろう。

そんな文字通り、分の悪い賭けに少女は薄く笑みを浮かべていた。

普通なら挑む前に諦めるべきこの賭けに少女は意気揚々と、そのテーブルに自身の掛け金を乗せる。

 

「さぁ、張らせていただきます!!お願いしますからいてくださいね、私のジョーカーさん!!」

 

 

 

 

 




多分最後の子、さっさんとコネクトしたら何になるかわかる人にはわかると思う…‥ウン


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第89話 エンブリオ・イヴ

黒江ちゃんってさ、割とアニメでいろはにちゃんに関わらなければ絶望しきるところまであんまりいかなそう‥‥‥そんな気がしない?(ネタばれ記事よんだだけの作者)

まぁ、マギウスからの任務をこなせない自分に鬱屈とした感情抱きそうだけど…‥


 

「そういえば、彼女の記憶から一体何を見た?」

 

空がオレンジ色に染まり、日が暮れ始めた神浜市の空をザンライザーに乗った三人が駆ける。

 

「今でいいのか?」

 

「安全運転を心掛けている以上、まだ時間がかかる。長くなるならまたあとでも構わないが…‥‥」

 

「…‥‥いや、君にはさっさと話した方がいいだろう。」

 

さやかに話しかけられた十七夜はいったん考える顔を見せたが、話を手早くまとめられると判断したのか頷く姿勢を見せる。

 

「…‥‥‥確かお前、あいつらは組織として異常だとかなんとかって言ってたよな?」

 

「ああ。まぁ、私もそういう組織の構造とかに明るいわけではないから強くは言えんが‥‥‥‥‥」

 

十七夜から降ろされたひなのが怪訝そうな表情で漏らしていた言葉を呟くと、十七夜も微妙な表情で曇らせる。

 

「トップのやろうとしていることを…‥‥この場合はおそらく美樹君の言うマギウスの御三家だと思うが、彼女らの目的を少なくとも観鳥君は知らないらしい。」

 

「…‥‥‥‥以前仲間の魔法少女が計画の詳細を構成員である黒羽根が知らないことを不信に思っていたが、白羽根でもそうなのか。」

 

「ん?‥‥‥‥‥マギウスの翼がやろうとしてるのは魔女化とかからの解放だろ?」

 

「具体的に言うと、奴らが何をもって救済を成そうとしているのか、その手法が未だにわかっていない。」

 

「WhoとWhyがわかって、Howがてんでサラサラってことか。」

 

計画の詳細が白羽根にも知らされていないということに眉を顰めるさやか。

十七夜の言葉に軽く首をかしげていたひなのだったが、さやかの説明に納得した様子を見せる。

 

「だが、奴らの計画のカギとなりそうな手がかりはあった。」

 

そういった十七夜に二人は目を見開いて驚きを露わにし、その反応に応えるように十七夜も強くうなずいた。

 

 

「エンブリオ・イヴ…‥‥‥それが計画の要か。」

 

十七夜から明かされた情報を自身に覚えこませるように反芻するさやか。

曰く、マギウスの翼の本拠地にはエンブリオ・イヴなる存在がいるらしく、ソレが覚醒することで魔法少女を遍く救済することができる、というのを謳い文句にしているとのことだ。

ただし、そのエンブリオ・イヴなる存在がどのような姿や形をしていて、マギウスの翼、強いてはマギウスの御三家がソレに対して何を行っているのか白羽根である観鳥にも知らされていないらしい。

 

「…‥‥‥‥危険だな、自身が何のために身を粉にしているのか知っておかねば、こんなはずではなかったなどという結果になっては後の祭りだ。」

 

「令のヤロー‥‥‥‥‥どうして相談の一つもなしに‥‥‥‥‥」

 

「…‥‥‥‥そういえば、マギウスからの勧誘は結構な頻度であったのか?」

 

「?…‥‥‥なんでそんなことを聞くんだ?」

 

「いや‥‥‥‥別段覚えていないのならいいのだが。」

 

さやかの言葉に不思議そうにするひなのだったが、思った通り、割と昔から声掛けは頻繁にあったようだ。どこぞの宗教組織もかくやというようなペースに正直辟易していた部分もあったが、ある時からぱったりと来なくなったらしい。

 

「…‥‥‥‥‥」

 

そのことを聞いたさやかは考え込む表情を見せるが、それは表面的なものですぐに理解にたどり着くことができた。

答えは単純なものだ。あまりひなのを巻き込みたくなかった、と考えるのが筋だろう。

もしかしたら観鳥は内心、自分たちのやっていることに嫌気か何かに似たようなものが来ているのかもしれない。

当然、魔法少女に課せられた運命は過酷なものであり、それから逃れようとするのは人間としてなんらおかしいものではない。

だが、そのための犠牲を、そのために誰かを傷つけている事実があるというのは基本未成年がほとんどである魔法少女には厳しいものがある、というのがさやかの見解だ。

 

「…‥‥‥‥‥多分、彼女が気を回したんだろう。」

 

「‥‥‥‥‥アタシを巻き込ませないためか?」

 

「…‥‥付き合いの長いはずの人間がそう思うのなら、私もそうだと感じる。真意は今のところ彼女のみぞ知る、という奴だが。」

 

「どっちにしろ、令に聞かないとダメそうだな。」

 

「手は尽くす。そこから先、彼女の手を引っ張れるかどうかはお前次第だ。」

 

さやかの言葉にひなのは決心した表情で頷く。

そうこうしているうちにそれなりの距離を移動していたのか、さやかたちの眼下にみかづき荘が見えてくる。

 

「そういえば美樹君、七海のところに来たところで何か意味はあるのか?」

 

「‥‥‥‥‥知らないかもしらないが、最近彼女のところにはほかにも四人ほど魔法少女が集まっている。」

 

「そうなのか?少し前に七海と連絡をする機会があったが、そんなことはカケラも言っていなかったぞ。」

 

「ふーん…‥‥で、その新しく来た奴らに居場所を聞くのか?」

 

やちよの元に新しく魔法少女が集っていることに十七夜は聞かされていなかったことに不服そうな表情を見せ、ひなのは何か意外そうな表情で聞いていた。

 

「いや、少なくとも魔法少女ではないな。」

 

『?』

 

揃って首をかしげる二人を置いておいて、高度を下げながらザンライザーから降りたさやかはみかづき荘の玄関に向かって駆け出した。

 

「誰かいないか!!」

 

玄関のチャイムを押しながら建物の中に向かって呼びかけるさやか。

しかし、玄関の扉があけられることはなく、あろうことか中から人がいるような気配も感じない。

 

(思ったより事態は深刻そうだな‥‥‥‥!!)

 

内心舌打ちするさやかは玄関は駄目と判断するや否や、中のリビングが見える窓に駆け寄る。

 

「アイ、いるか!?私だ!美樹さやかだ!!」

 

部屋の中に聞こえるように声を張り上げ、さやかは名無し人工知能のウワサ、アイの名を呼ぶ。

しかし、アイの気配を部屋の中から感じるが、肝心の彼女が姿を現さない。

 

(…‥‥‥‥警戒されている?)

 

部屋の中にいるのはわかっているが、出てこない彼女から警戒の気配を感じ取るさやか。

アイから警戒されるような理由はないはずだが、連れてきた十七夜とひなのを警戒しているのだろうか。

 

(その割には私にもその警戒が向けられている気もするが‥‥‥‥)

 

「現状の把握がしたい。七海やちよやいろは、他のみんなはどうした?いないのならまた日を改める。」

 

拭いきれない違和感を押し込み、さやかは自身がここにやってきた要件とやちよたちの動向を尋ねる。

さやかの中で現状に対する警鐘が鳴り響くが、アイなら何か知っていると思ってみかづき荘に足を運んだのだった。

 

『…‥‥‥‥申し訳ありません。やられました。』

 

さやかがアイに呼びかけてから少しして、リビングのテレビからぬるっとアイが出てきた。

散漫としたその動きにさやかは確実にみかづき荘の面々に何かあったことを察する。

 

「‥‥‥‥‥‥貞子とかの類、じゃないよな…‥‥?」

 

『初めまして、都ひなのさん。それに東の代表者、和泉十七夜さん。私は名無し人工知能のウワサ、個体名をアイといいます。』

 

アイの風貌からどことなくホラービデオに出てくる怪異のような雰囲気を感じたひなのは表情を強張らせるが、直後のアイの態度に面を食らった表情をする。

 

「ウワサ、というと確かマギウスの翼が作ったとかいう存在、と美樹君が言っていたはずだが…‥‥‥」

 

「厳密に言えば御三家の一人、柊ねむという魔法少女が創った存在らしいのだがな。それと彼女は味方だ。すぐに敵だと断じて得物を抜くのはあまり感心しない。」

 

怪訝な表情をしながら得物の鞭を抜いていた十七夜にそう苦言を呈すると、さやかは一つ息をついてアイに向き直る。

 

「…‥‥‥‥何があった?教えてくれるか?」

 

さやかの確認にアイは静かに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

「…‥‥‥‥なるほどな、梓みふゆが‥‥‥‥‥」

 

「マジか…‥‥‥みふゆのヤツまでマギウスの翼にいるのかよ…‥‥‥」

 

「これは‥‥‥‥流石の自分も動揺を隠し切れんな…‥‥‥」

 

アイからの話をまとめると────

 

 

ある日みかづき荘に突然みふゆがやってきた。

偶然やちよが不在だったタイミングの来襲に当然警戒したいろはたちだったが、どうやらその時のみふゆに交戦する意志はなく、別の目的があってやってきたとのこと。

それは、マギウスの御三家里見灯花による魔法少女の解放とは何なのかを知るための講義への誘いだった。

御三家の一人、里見灯花が直々に自分たちの目的の説明を行い、それを聞いた上でマギウスの翼の行いの是非を問うてほしい。

それがみかづき荘にやってきたみふゆが求めたことだった。

 

「で、行ったのか?その講義とやらに。」

 

さやかの言葉にアイは再び頷く姿勢を見せる。

十中八九、講義とは魔女化を始め、ソウルジェムに秘せられた真実をいろはたちに明かすための芝居のようなものだろう。

 

「…‥‥‥七海がそれに乗るとは思えん。彼女はそれらを知っているはずだ。」

 

『七海さんは彼女の誘いを一番に警戒していました。しかし、環さんの意志も固く、結果としてはみなさんはその講義に向かってしまいました。』

 

「普通罠とか思うだろ!?なんで行った!?」

 

やちよの静止を振り切ってまでその講義に向かったと思われることにひなのはありえないと言った表情でその理由を問いただす。

 

「…‥‥いろはには別の目的がある。大方それが理由だろう。」

 

「いろは‥‥‥‥?それに目的とは一体?」

 

「環いろは。みかづき荘に引っ越してきた魔法少女だ。あまり詳しくは話すことができないが、里見灯花と柊ねむはいろはと接点があった。その接点が突然消失してしまった。彼女はそれを探している。」

 

「…‥‥‥人か?」

 

「妹だそうだ。マギウスの二人とは親友に近しい間柄だったとも聞いている。」

 

「‥‥‥‥事情は理解した。だが、なぜ美樹君に一報をいれなかった?そこがいまいち解せない。」

 

さやかの話し方からいろはは人を探していることを見抜いた十七夜の確認にさやかは他人の事情ながらも隠すことなくそれを明かすと、納得の表情を見せながら、今度はいろはたちがなぜさやかに連絡のようなものを入れなかったのかという事情を問う。

 

『おそらく、梓みふゆの魔法によって一時的に美樹さん周りの記憶を忘れさせられたからでしょう。』

 

「‥‥‥‥‥魔法と言うのは本当に多彩だな。」

 

ウワサをめぐる戦いの中、みふゆの固有魔法を見る機会が二度あったさやかは彼女の魔法が幻惑かそれに準ずるものであると思っていたさやかだったが、人の記憶にも干渉できるということに苦笑いを禁じ得ない。

 

「さて、ところでアイとやら。七海たちは結局どこへ向かったのだ?お前もその場に同席していたのなら、場所のようなものも教えられていると思うが‥‥‥‥」

 

『記憶ミュージアムのウワサ、彼女はそこを講義が開かれる場所であると語っていました。』

 

「…‥‥‥‥ウワサと相対したことがないから何も言えんが、見つかるのか?魔女の結界と似たようなものなのだろう?」

 

開催場所は記憶ミュージアム。

どうにも何かの建物のようだが、魔女と似たような性質を持っているとウワサについて聞かされている十七夜は渋い顔を見せる。

 

『…‥‥‥‥美樹さん、少しばかりスマートフォンを拝借させてもらってもよろしいでしょうか?』

 

「スマホ?別に構わないが‥‥‥‥」

 

『ありがとうございます。口で説明するよりはこうした方が時短になりますので。』

 

首をかしげながら言う通りにスマホを出したさやかにそう一言断りを入れると、アイの姿が掃除機か何かに吸われるようにスマホの画面に入り込んでいく。

 

「お、おいッ!?一体何を────」

 

突然のアイの行動に驚いている間にアイの全身がスマホに吸い込まれてしまうと、そこからマップのアプリが勝手に起動し、ある場所を画面に指し示す。

 

「これは‥‥‥‥ああ、いや。そういうことか。」

 

困惑している表情を見せていたさやかだったが、アイの意図を理解したのか程なくして納得した様子に表情を変える。

アイはいろはたちが向かった先を地図機能のアプリで教えようとしているのだろう。

赤いピンが立っている敷地につけられている名前を見ると、「神浜記憶博物館」の名前があった。

 

「‥‥‥‥‥確かここ、結構前に閉館されてる建物だ。隠れてなんかするにはうってつけの場所ってことか。」

 

「‥‥‥‥普通取り壊されたりしないのか?」

 

「美樹君それは…‥‥‥‥魔法が絡めばいくらでも、という奴だろう。」

 

「‥‥‥‥今更か。」

 

さやかの何気ない質問に十七夜が困ったような笑みで答える。

十七夜の言う通り魔法が絡んでいる以上、閉館した建物が不自然に残されていることはまさに今更なことだろう。

 

「とりあえず、場所はわかった。ちなみに聞くが、講義に向かったのはいつだ?」

 

『‥‥‥‥‥およそ半日ほど前です。』

 

「‥‥‥‥‥きわどいラインすぎるのではないか?どうする?」

 

「…‥‥‥‥行こう。救済を銘打っている以上、敵対しているからといって魔法少女を死亡させるヘマをすることはないと思うが、それをやりかねないトップが向こうにいる。」

 

半日も前、というアイの言葉に十七夜は緊迫した表情でさやかに視線を送る。

最悪、既に手遅れになっていたり、無駄足で終わってしまう可能性もある。

そんな言葉にさやかは険しい表情でザンライザーを出しながらそう返す。

さやかの言うやりかねない奴とは、無論アリナ・グレイのことだ。

彼女ははっきり言って狂人のそれだ。

人を自身の作風に染め上げ、アートにしてやるなどのたまっているが、彼女のドッペルの雰囲気からしてろくな末路を迎えることはないだろう。

 

「なんでそんな奴がマギウスの翼なんかに入ってるんだよ‥‥‥‥!!」

 

「それは私も思う。」

 

 

ザンライザーに飛び乗りながらそうぼやくひなのの言葉にさやかはうんうんと頷いた。

本当にいろんな意味で危なそうなやつが構成員に、それもトップの座についていることにさやかは違和感を拭えなかった。

 

(まさかとは思うが、奴らの救済を行う上で重要な立ち位置にいるからそこにいる、とかではないだろうな…‥‥。)

 

しかし、そんなことを考えていてもしょうがない。

おそらくマギウスはいろはたちに魔法少女の真実を明かすことで懐柔するつもりなのだろう。

 

(だがいろは。お前は他の奴らとは目的が違う。そして、親しい人間が行おうとしている蛮行を黙って見過ごすこともできない。)

 

ここまで彼女を見てきて、いろはの気質がまどかと似通っていることをさやかは理解していた。

滅私奉公にも近いくらい他人を優先するそのあり方が、他者に犠牲を強いるマギウスのやり方に賛同するとは到底思わなかった。

 

確実にいろははマギウスに対して反目する。そう確信したさやかは再びザンライザーで空を飛んだ。

 




少なくとも次に出てくるのはホーリーマミさんではないです。
フラグが跡形もなく消し飛んでるので


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第90話 趣味が悪い色

ワイのヒミツ

なんでか知らないけど共通して話数が90を超え始めると途端に投稿スピードがダレる


 

「ここが、神浜記憶美術館か。」

 

ザンライザーから降りたさやかが眼前の建物を見上げる。

併設されている施設内の駐車場を見渡しても、そこには来館者どころか施設職員の車すら一台も見当たらない。

ひなのが言っていた通り、この施設は廃館しているのは紛れもない事実だろう。

 

「…‥‥‥外観はそのままのようだが、中に入るとそのウワサの空間が広がっているのか?」

 

『その認識で相違ないかと。事実、内部からウワサである私と同じ反応が確認できます。』

 

十七夜の疑問にアイがさやかのスマホから顔をのぞかせながら答えると十七夜はそれなら、と納得した反応を見せる。

 

「さて、問題は何人助け出せるかだが…‥‥さやか、お前さんの見立ては?」

 

「‥‥‥‥‥少なくとも七海やちよは問題ないはずだ。梓みふゆの誘いにも真っ向から反発していた。それ以外は割と怪しい。」

 

「由比君は名前程度は知っているが、深月フェリシア君と二葉さな君、そして環いろは君か。七海のヤツ、いつの間に仲間を増やしていたのだな。」

 

「やちよが反発するのがわかってんなら向こうもそれなりに潰しに来んのは火を見るより明らかだ。なるべく時短で行った方がいいんじゃないのか?」

 

やちよは絶対にマギウスの翼に与したりしない、というさやかの見立てにひなのは目的をやちよだけに絞ってなるべく早く態勢を整えることを提案する。

その提案にさやかは難しい表情で考える。

できることならみかづき荘の面々を全員助け出したいのが本音だ。

しかし、魔女化やソウルジェムのことを聞かされた時、フェリシアは確実にマギウスの翼に入ってしまうだろう。

彼女は事実はどうであれ、魔女を両親の敵として見ている。そしてマギウスの翼の目的は魔法少女の救済、言い換えれば、世界から魔女という存在をなくすことができる。

つまるところ、フェリシアが求めていることとマギウスの翼の目的が合致してしまっている。

 

(フェリシアには悪いが、彼女には望みが薄いだろう。)

 

やちよ・いろは、そしてフェリシアときて残る鶴野とさなが講義を受けてどう思うか…‥‥‥こればかりは二人に任せるほかがなかった。

 

「…‥‥‥この状況でマギウスの翼と全面的に矛を交えるつもりはない。それでいこう。」

 

さやかの決断に二人は静かに頷き、三人は美術館の内部に足を踏み入れる。

 

「蹴破るか。」

 

「ああ。」

 

「え、お前ら今なんて────」

 

十七夜の呼びかけに頷いたさやかの二人が美術館の扉に勢いよく蹴りを入れる。

ひなのが制止の声をかけるより早く魔法少女の蹴りを入れられた扉は、哀れにも盛大な破砕音を響かせながらド派手に転がっていった。

目の前で行われた器物破損に茫然としたまま声すら出せなかった。

 

「…‥‥‥ふむ、なるほど。こういうものか。」

 

先に押し入った十七夜が美術館の中の空間を見て要領を得たかのように頷く。

扉を壊したその先には三人の背丈を、見上げなければならないほど優に越したタンスがあった。

幅や高さともどもそこら辺のビルもかくやというレベルで引き出し一つでも普通の人間ほどの大きさだ。ところどころ引き出しが開けられているため、そこを足場にすれば上へ行くことができるのは想像に容易い。

 

「‥‥‥‥‥斜め前方に誰かいるな。ちょうどこのタンスを越えた先か?」

 

『1時の方角に二つの魔力反応あり。該当パターンから環さんと七海さんであると推察されます。ただし注意してください。魔力反応が見られるポイントに同時に魔女の反応も見られます。』

 

「…‥‥‥ドッペル、ということでいいのか?」

 

『魔法少女の反応と魔女の反応が入り混じっていますので、それで相違ないかと。』

 

「…‥‥‥急がないと危険か。」

 

アイの忠告にさやかは急ぐ必要があると感じ、再びザンライザーを召喚する。

 

「先に行く。二人はそれで私のあとを追ってくれ。」

 

「すまない、助かる。」

 

十七夜にそう伝えるとさやかは宙に浮かび上がり、そのまま上昇。あっという間に巨大なタンスの背を越すといろはたちがいると思われる奥の空間に姿を消す。

 

「都君、自分たちも早く────って、どうした?そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして。」

 

「…‥‥‥割とお前らって性格似てる?」

 

「…‥‥‥‥いや?自分はそうは思わないが‥‥‥‥美樹君はいわゆるお人よしだろう?自分は他人に対してあのようにはなれないな。残念なことに。」

 

 

 

 

 

 

「ハァ…………ハァ…………や、やちよさん、このままじゃ……………!!!」

 

「使いたくないドッペルまでわざわざ使ったのに、こうまで追い込まれるなんて……………!!」

 

さやかたちが記憶ミュージアムにカチコミしにきたのと同時刻。ウワサの異空間の奥ではいろはとやちよが戦っていた。

二人がいた空間は巨大な吊り橋のような足場が真ん中を走り、その下をこれまた巨人のような人種が使うものではないかと思ってしまうほどの高さの本棚がわずかな隙間を残して敷き詰められている空間だ。

その空間も今はそこら中に穴が開いていたり、本棚も倒され、炎があがり大炎上を引き起こしていた。

そして、状況は劣勢。両者ともその身にドッペルを纏っているにも関わらず息も絶え絶えで明らかに疲弊していた。

 

「ここのウワサを倒したのに、こんなのまで出てくるなんて…‥‥‥!!」

 

ドッペルの中でいろはが苦し気な表情で上を見上げる。

見上げた先にはこの状況を作り出した元凶がいた。

その存在は煌びやかな派手な金色の装甲に身を包まれた巨大な浮遊物体だった。50メートルはある巨体の後部からは装甲の色と同じような色合いをした金色の粒子がばらまかれていた。

 

「やっぱりこのウワサ‥‥‥‥美樹さんを元にしたウワサね‥‥‥‥!!」

 

後ろから見える粒子にやちよがそのウワサの元となっているのがさやかであることを見抜く。

相手どっている巨体が見せてきた特徴は大まかに言えば、一つは今目にしている通りあの巨体で空を浮いていること。そして巨体の側面から飛び出てくるビーム。そしてそれらをかいくぐって攻撃を仕掛けようとしたところで見せたその巨体を覆えるほどのバリア。

どこの要素を引っ張り出してもさやかのチート具合を模倣したのは明らかだ。

 

(でも…‥‥だからこそ敵となったときの脅威の度合いが高すぎるのよ‥‥‥‥!!ドッペルですらまともにダメージが与えられないなんて、一体どういう能力してるのよ!!)

 

ウワサを通して、改めてさやかが持っている能力のおかしさに険しい表情でにらむが、状況は変わらない。

ウワサはその巨体の側面から二人に向けてビームを掃射する。

発射されたビームは雨あられのように降り注ぐと着弾箇所に小さくない爆発をまき散らす。さながら絨毯爆撃のような攻撃を二人は飛び退くように下の本棚のエリアに逃げ込む。

 

「ううっ‥‥‥‥!!」

 

「ッ‥‥‥‥いろは!!」

 

ビームの爆撃から逃げ込んだ二人だが、本数や範囲の広さからいろはは完全に回避することができなかったのか、吹き飛ばされるようにやちよの元に飛んでくる。

たまらずやちよが悲鳴のようにいろはの名を呼ぶが、ウワサはその巨体に見合わないスピードで距離を詰めると胴体からカニのような大型クローをのぞかせる。

 

「しま────」

 

気づいたときには既に遅く、やちよはウワサの攻撃をよけきれず、クローにドッペルごと掴まれてしまう。

 

「や、やちよ‥‥‥‥さん‥‥‥‥!!」

 

やちよに降りかかる危機にいろははなんとかしようと立ち上がろうとするが、ダメージが回復してないのか倒れるようにバランスを崩してしまう。

 

「クッ…‥‥こ、この‥‥‥‥はな‥‥しなさい‥‥!!」

 

クローを振り払おうとするやちよだが、いくらドッペルを動かそうとしても巨体の圧倒的なパワーに阻まれ、身動き一つとれない。それどころかさらに力を込められ、苦悶の表情を浮かべて悶える。

 

「アッ…‥‥ガッ…‥‥‥!!!」

 

ミシミシと言う音がやちよ自身の体から響く。相当な力で万力のように挟みこまれているのか、大きく目を見開いて声にならない声を挙げる。

 

「あ、ああ…‥‥‥!!」

 

このままではやちよはあのウワサに殺される。いろはでなくともやちよがおかれた状況を見れば誰もがそう思うだろう。

今頼れるのは自分のみ。そしてやちよを助けられるのも。

だが、自分が覚えている限り一番強いといっても過言ではなかったやちよですら、ダメージらしいものを少しも与えられなかったという現実が少女に無力感となって暗い影を落とす。

 

 

(それでも………………!!!)

 

最後の力を振り絞るようにいろはは自身のドッペルから伸びる血塗られたような包帯を一つにまとめあげ、そのまま金色のウワサに思い切りぶつける。

いろはの攻撃はウワサの巨体を押し除け、バリアごと壁に向かって吹き飛ばした。

その衝撃で拘束されていたやちよも解放され、なんとか着地するも咳き込んでその場に膝をつく。

 

「やちよさん!!」

 

維持ができなくなったのか二人のドッペルが同時に霧散する。一抹の安堵の雰囲気があった二人だが、礼を言う時間もなく苦しい表情でウワサが飛んでいった先を見据える。

 

「………………逃げましょう!!」

 

「ッ……………はいッ!!」

 

これ以上は死に急ぐだけ。

ベテランとしての経験からそう判断したやちよが今が最後の好機とみていろはに撤退を伝える。

いろはは見当たらない仲間たちのことが頭をよぎったのか、一瞬表情を暗くさせるが、すぐに切り替え、やちよの提案に頷く。

 

 

「やちよさん、これからどうしましょう‥‥‥‥‥。」

 

「‥‥‥‥‥‥そうね…‥‥あまり気が進まないけど‥‥‥‥見滝原の彼女らを頼るしか選択肢はなさそうね…‥‥!!!」

 

「見滝原‥‥‥‥‥?あの、やちよさん。それは一体誰のことを‥‥‥?」

 

いろはの不思議そうな表情からの反応にやちよは怪訝な顔で首をかしげる。

言うまでもなく、見滝原の彼女らとはさやかたちのことだ。そしてそれがさやかたちを指していることはいろはもわかっているはず。

それにも関わらず、まるで初めて聞いたかのような反応を見せるいろはにやちよははっとした表情を見せ、それが自身がよく知るみふゆの魔法の影響下にあることを察する。

 

(やられた‥‥‥‥となるといろはは美樹さんに何も連絡をよこさないでここに来たのね‥‥‥‥!!癪だけどこの子が一番信頼しているのは彼女なのに‥‥‥‥!!)

 

「私を呼んだか?七海やちよ。」

 

「ッ!?」

 

目の前に現れた存在に二人の足が止まる。

 

「あ、貴方…‥‥どうしてここに…‥‥!?」

 

大きく目を見開いて何故ここにいると言わんばかりにやちよは現れたさやかを見て驚きを露わにする。

 

「いったんお前と情報のすり合わせをしたかったのだが、連絡してもつながらないから何かあったのだと察した。そこでみかづき荘に駆けつけたのだが、あとは彼女の案内だ。」

 

そう言ってさやかはスマホを取り出すと、画面からフィギュアくらいまでのサイズのアイが姿を見せる。

 

「状況はなんとなく理解した。ここからの脱出だな?支援するから殿は任せてくれ。」

 

「え、ええ…‥‥た、助かるわ。」

 

些か察しの良すぎるさやかにやちよはうなづくことしかできない。

疲弊しているいろはとやちよを前方に、その後ろに空を飛ぶさやかという布陣で三人は記憶ミュージアムからの脱出を再開する。

 

「…‥‥‥そういえばいろは、私のことがわかるか?」

 

「は、はい…‥‥顔を見たらすぐに…‥‥‥でもどうしてわたし‥‥‥‥」

 

「みふゆの魔法よ。多分、みかづき荘に来たときに貴方たちに掛けたのだと思う。一番厄介な美樹さんを来させないために。」

 

脱出の最中、さやかがいろはに自身のことがわかるかどうかを尋ねる。

結果としては魔法としての効果はそこまでのものではなく、ちょっとしたきっかけ程度で解けてしまうようだ。

 

「‥‥‥‥‥二人とも、何か妙なヤツと戦っていたのか?」

 

不意に後ろを振り向いて目を細めるさやか。

それを追っ手が来たのだと感じたいろはたちも振り向く。

逃げてきた方向に拡がる暗闇。それにいろはたちには嫌というほど見慣れた金色の光が瞬くと高速で飛行する棒が現れる。

 

「…………………なんだあれは?」

 

宙を浮く棒という不思議なものに首を傾げるが、前に出ることで気を引きつつも囲まれないように────具体的には棒の切先を向けられないように立ち回るさやか。

 

「気を付けて!!それは貴方を模したウワサからの攻撃よ!!」

 

「ッ…‥‥‥!?」

 

やちよの言葉に目を見開いてわずかに足を止めるさやか。次の瞬間、さやかの周りを飛び回っていた浮遊物体、GNファングからビームが一斉射される。

 

「!!」

 

わずかな隙を突かれたさやかだが、機敏に反応し、すぐさま射線から逃れる。

 

(やはりというか‥‥‥‥妙に私のウワサがばらまかれていたのはそういうことか‥‥‥‥)

 

さやかはファングの動きを注視しながら右脚のGNカタールを手に取る。

GNファングの狙いはさやかなのか視界に金色の粒子を残し、全方位からビームを放つ。

 

「先に行けッ!!今の狙いは私だ!!」

 

「さ、さやかさん‥‥‥でも!!」

 

「いろは!!行くわよ!!」

 

ビームを躱しながら叫ぶように二人に先を促す。

はたから見ると危険な状況であることにいろははためらうような表情を見せるが、やちよが引きずるように彼女の手を引っ張る。

 

「…‥‥‥‥お願いだから、私の前で死ぬなんてマネはやめなさいよね。」

 

少しだけさやかに目を向けたやちよがそんなことを呟くといろはを連れ添って先に出口の方向へ駆けていった。

 

「‥‥‥‥‥死ぬつもりはない、と言ったところで言葉だけでは意味はない。」

 

自身に言い聞かせるように言葉を紡ぐとさやかは手にしていたカタールを投擲。

投げたカタールは周囲を飛び回っているファングの一機に突き刺さり、爆発する。

 

「…‥‥‥しかし、あの二人は一体何と戦っていたんだ?向こうから感じるこの圧は…‥‥?」

 

まだ一機しか落としていないファングより、さやかの視線はそれらが向かってきた領域の向こう側に向けられる。

そして、その暗闇から一瞬煌めきのようなものが見えると徐々に輝きは巨大化していく。

 

(イヤな予感…‥‥!!)

 

その星のような煌めきが加速度的に大きくなっていくと、さやかは感じ取った不穏な雰囲気からファングの包囲を強引に突破して高度を下げる。

次の瞬間、直前までさやかがいたところを極太のビームが通過していった。ファングの撃ちだすものとは比較することもできないほど高出力のそれは、領域の壁に直弾すると建物がまるごと吹き飛んだかと錯覚するほどの大爆発がさやかに襲い掛かる。

 

「‥‥‥‥‥なんだあのデカいの。」

 

爆発もさることなら、暗闇の向こう側から現れた金色のデカブツにさやかは趣味が悪い色をしていると思うのだった。

 

 

 

 




前書きのヒミツのせいで自分は一つ前の作品を2年近くほったらかしにしてます(白目)

自戒の意味も込めてここに記す


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第91話 守ってほしい

戦闘描写難しいな‥‥‥‥でも頭空っぽにできるから戦闘描写が一番筆が進むんだよなぁ(白目)

P.Sあけましておめでとうございます。色々リアル事情もありますが、今年もとりあえず何かしら更新を頑張っていきたいと思います。



 

明かりの少なくなった廊下をいろはとやちよの二人の魔法少女が駆け抜ける。

この先にはいろはがこの階層にやってくるときに乗っていたゴンドラのような乗り物があった。

それに乗ることができればだいぶ脱出に近づくが、時折響く地響きのような振動にいろはは後ろ髪引かれるものがあるのか心配そうに自身の背後を振り向く。

 

「さやかさん、大丈夫なんでしょうか…‥‥?」

 

「信じるしか私たちにはないわ。私たちがあそこでずっとアレの相手をしているよりはずっと────」

 

そう言いかけたところでやちよは苦悶の表情を浮かべると腕を抑えてその場にしゃがみこむ。

気づいたいろはが慌てた表情でやちよが抑えている箇所を見ると、彼女の左腕が大きく腫れているのが目についた。

 

「や、やちよさんッ!?これは、あの時‥‥‥!!」

 

「…‥‥‥私は大丈夫だから。それよりも、今は脱出を────」

 

やちよがいろはに促すより先に、いろはは腫れあがった腕に手を添えると自身の魔力を行使する。

いろはの掌から発せられた桃色の魔力光にやちよは待ったの声を挙げようとしたが、いろはの治癒魔法の効果はすさまじく、瞬く間にやちよの折れていた腕を完治させる。

 

「いろは…‥‥貴方回復魔法が使えるのね…‥‥‥」

 

「キュウべぇに願ったことが‥‥‥‥妹の、ういの病気を治してほしい、でしたからね。」

 

「そう…‥‥‥とりあえず、ありがとう。でもあまり何度も使おうのはおすすめしないわ。」

 

「それはやっぱり、ドッペルは魔女の力を使っているから、ですか?」

 

いろはの言葉にやちよは彼女が少なくとも魔女化のことを知ってしまったことを察する。

やちよはみふゆがみかづき荘にやってきたところに多少の間があったものの、そこに居合わせていた。

そして、彼女の言う『講義』というのが、魔法少女に伏せられていた真実を明かすことであることも察していた。

 

「…‥‥‥やっぱり、講義ってそういうことなのね。」

 

「やちよさん、わたしは────」

 

「いいのよ。いろはのやりたいこと、知らないわけじゃなかったから。それに、あの時の私は冷静じゃなかったから。」

 

色々と相談もなしにこの『講義』に来たことを謝ろうとするいろはにやちよは首を横に振りながら少しだけ笑みを見せる。

実際、みふゆが『講義』に誘いにみかづき荘に現れたときのやちよは冷静、というよりは荒れているというのが正しかった。

やってきたみふゆには敵意もなく、内容はともかくとして純粋に『講義』への誘いをしに来ただけだったにも関わらず、やちよは彼女をまくしたてるような言動をしてしまっていた。

 

「ねぇ、いろは。一つ聞いていいかしら。」

 

「はい?」

 

「あなたは今回こうして魔法少女の真実を、マギウスの翼がやろうとしていること、その詳細を知ってしまったことになるわ。しかも、聞いた限り、組織のトップである御三家にはいろはの知り合いもいる。それでもあなたは彼女たちを止めようとすることができるの?」

 

やちよは知ってしまったいろはにこのままマギウスを止めに行くかどうかの覚悟を問う。

いろはにとってマギウス、特に里見灯花と柊ねむの二人は少なくとも知り合いを越えた間柄であることは確かだろう。

その間柄の魔法少女に刃を向けるようなことになり、いろはが傷つくようなことにはやちよ個人としてはなってほしくない。

 

「‥‥‥‥‥はい。わたしは灯花ちゃんたちを止めたいです。救われるとしても誰かが犠牲になるようなことを二人にやってほしくない。多分、ういも同じことを言うだろうと、わたしは思います。」

 

やちよの問いかけにいろはは表情を微塵も曇らせず、決意した顔でそれに答える。

 

「わかったわ。ほかでもないいろは(リーダー)がそう言い切るのなら、私はそれに付き合うだけよ。」

 

誓いあった二人は再び脱出に向けて走り出す。

いくら法外に近い強さと能力を持っているさやかでもいつまでも心配事が脳裏によぎっているままでは戦いに集中しづらいだろう。

 

「いやっ!長かったなこのゴンドラ!!どんだけ広いんだよこの空間!!物理法則もあったもんじゃない!!」

 

「流石に今更が過ぎるような気がするが、都くん。」

 

ようやく上に向かうゴンドラが視界に入ったところに見慣れた緑色の粒子と一緒に滑り込んでくる物体とそれに跨る二人の人影がいろはとやちよの前に現れる。

 

「あ、あなたたち…‥‥‥どうして!?いや、まさか美樹さんの言ってた私の知り合いって…‥‥」

 

「おおっ七海ではないか。息災か?見た限りは大事はないように見えるが。」

 

現れた十七夜とひなのにやちよは驚きで目を見開いきながらもさやかの言っていた言葉の意味を理解する。

 

「で、でもあなたたち協定はどうしたのよ!?」

 

「んなのこんなの(マギウスの翼)をのさばらせている時点であってないようなもんだろ!!さやかから聞けば相当好き勝手やってくれてるらしいじゃねぇか!!」

 

「体制を変えるにはまず上の者から。ならば自分たち二人が初動を務めるのも道理だろう?それに数少ない友人の危機だ。馳せ参じない理由もない。」

 

東と西、そして中央で交わした不可侵の協定のことを指摘するやちよにひなのと十七夜は関係ないと一蹴する。

 

「あ、あのやちよさん、この人たちは一体…‥‥‥?」

 

何も知らないいろはは現れた二人を見ても怪訝そうに首をかしげるが、やちよがそれぞれの地域の魔法少女の代表者であることを説明するとびっくりした顔を見せる。

 

「ということは、二人もやちよさんと同じくらい…‥‥‥!?」

 

「ま、これでもそれなりに長くやってるベテランだからな。できる限りの尽力は尽くす。」

 

「…‥‥‥‥すまない、ところで美樹君の姿が見当たらないのだが…‥‥自分たちの先を行ったはずだが。」

 

それなりに期待してくれてもいいというひなのの言葉に、いろはが小さいながらも心強さを感じているいろはを尻目に十七夜が姿の見えないさやかのことを尋ねる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、美樹君を模したウワサか‥‥‥‥‥」

 

「連中がさやかのことを言いふらしていたのも認知度を上げてウワサとしての強度を上げるためか。しっかし、言葉尻だけじゃどーしてそんなゲテモノじみたのになんのか‥‥‥」

 

やちよから事の顛末を聞いた二人は納得した表情を見せつつ、厳しい表情を見せる。

 

「真実はともかく、どのみち脅威であることに変わりはないだろう。できれば打倒するのが一番だが…‥‥そういえばまるで歯が立たないとは言っていたが、それはドッペルも込みでの結果か?」

 

「‥‥‥‥‥ちょっと待って二人とも。どこまで知ってるの?」

 

「諸々すべてだな。都くんも美樹君から聞かされた。」

 

「あたしはある程度は察してはいたけどな、こいつとさやかがあまりにわかりやすい反応をするもんで驚くこともできやしなかった。」

 

しれっと全部教えられていることに眉間を指でつまみながら唸るような声を挙げるやちよ。

やちよは講義の内容を察していたからこそ、いろはたちが向かうのを止めたかったのだが、こうして目の前の二人が全部知りながら平然としていることに唖然としてしまう。

 

「…‥‥‥私って警戒しすぎだったのかしら。」

 

「いや、七海の懸念は決して間違いではない。そうそう明かせるものではないからな。」

 

「あたしも右に同じだ。二人のあほくさい雰囲気のせいでなあなあで流されたが、普通に聞いたら冷静どころか正気を失うやつもザラだろ。」

 

「‥‥‥‥‥え、今自分と美樹くんのことをアホと言ったか?」

 

「お前らシラフでバカなことやるタイプだろ。」

 

(…‥‥‥‥彼女はともかく十七夜ってこんな感じだったかしら?)

 

話の内容的に重苦しくてあるべきにも関わらず、どこか気の抜けたような会話になっていることに目を丸くして二人を、特に十七夜の方を視るやちよ。

十七夜に対する印象が厳格なものがあったが、今の彼女はお堅い雰囲気を持ちながらもいじられている。

 

 

ズズゥゥゥゥン‥‥‥!!

 

 

『!?』

 

その時、やちよたちのいる廊下が地響きのような音とともに再び大きく揺れる。

突然の振動にいろはは不意を突かれたようにバランスを崩すが、それにいち早く気づいた十七夜が彼女の腕をつかみ、支える。

 

「すまない、咄嗟に掴んだが大丈夫か?」

 

「は、はい。ありがとうございます‥‥‥。」

 

「‥‥‥‥さて、どうする?」

 

いろはの様子を見て、十七夜が手を離すと、ひなのが険しい表情でさやかが戦っている方向を見つめる。

彼女らが見つめる方向からは時折爆発音のようなものも聞こえ、振動もさっきのものほどではないが、身体に感じるくらいのものがひっきりなしに続き、戦闘の激しさを物語っていた。

 

「十七夜の言う通り、アレはここで倒しておきたいのは山々ね。でもあのバリアはおそらく美樹さんと同じもの‥‥‥‥」

 

「‥‥‥‥‥ドッペルでもまるで歯が立ちませんでした。」

 

「うぇ、アイツのバリアそんなにハイスペなのか?だとすると厳しいか…‥‥‥?とかいってもここにアイツだけ残していくのもなぁ。何かあったときに何もできなくなる。」

 

仮にも魔女の力使ってんのにかぁ…‥‥‥とさやかのバリアの性能に舌を巻くひなのだが、彼女が感じている懸念もごもっともだ。

さやかやななかが行脚をしたことで頭数を増やしてきた。こうして各地の代表者全員を戦力に加わってくれてるが、やはりというべきかさやかは特級というべきだろう。

そんなさやかを変に信頼して脱出を最優先にし、万が一彼女が捕らわれの身になるようなことがあれば、戦局はかなりマギウスの翼に傾いてしまうのは明白だろう。

 

「‥‥‥‥‥ならば、ここで待つのが最善かもしれんな。」

 

「え、待つんですか?」

 

「うむ。助力することはできないが、仮に美樹君が窮地に陥るようなことがあれば、近くで待機していれば離脱の手助けをすることはかなうだろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ!!!」

 

 

手にしていたGNソードⅡロングを目の前のウワサに向けて振るう。

巨体の懐にもぐりこんでの攻撃にウワサはその刃に身をさらすことになるが、それを阻まんと間にさやかが持つものと同じバリアが展開される。

いろはややちよのドッペルの攻撃すら受け付けない、絶大な防御力を誇るその橙に近い金色のバリア。

その輝きを、薄く緑色の光をまとったGNソードの刃はまるで抵抗すら感じさせないように正面から切り裂く。

 

「もう一撃ッ!!」

 

切り裂いたバリアの裂け目に全身をねじ込ませ、内側に侵入したさやかはそのままウワサの胴体下部に刃を突き立てると思い切り前へ切り抜け、突き立てた箇所から一筋の傷跡を残す。

 

「これなら────ッ!?」

 

どうだ、と言いかけたさやかの視界にウワサの大型クローが目に入る。

反射的にそれをウワサからの反撃と認識すると身をよじりながらその攻撃から逃れる。

 

「サイズ差がありすぎて有効打が有効打にならないか!!」

 

態勢を整えながら悲鳴のような口調で眼前のウワサをにらみつけるさやか。

相対しているウワサの大きさは単純な目視でも50メートル近い巨体を誇っている。およそ人間の数十倍の大きさ。普通の人間の大きさが振るう武器程度の長さでは浅すぎるのだろう。

 

(バスターソードⅡもどちらかと言えば叩き斬るに近い性質の武器…‥‥それに非常時の防御としても残しておきたい。)

 

あのGNフィールドを突破することは容易いが、そもそもあの巨体相手に効果的な攻撃が難しい。

どうするか考えていたさやかだが、そう簡単に思考させてくれるわけでもない。

巨体前方の装甲がスライドし、そこから大口を開けたように展開すると、そこからウワサの全高と同じくらいの極太ビームが発射される。

 

「またこの攻撃‥‥‥‥!!」

 

全速でそのビームの範囲から逃れるさやか。着弾した箇所から爆発と共にビームの高熱で跡形もなく消えていくが、ウワサはビームを発射している大口を動かし、逃げるさやかを追いかける。

根本に蛇のようなフレキシブルアームが見えていることからあの大口は大方全方位へあの超火力のビームを出せる。

そう感じたさやかはウワサの背後に回ってもスピードを緩めることなく追ってくるビームから逃げる。

 

「これが私だとは…‥‥‥到底思いたくはないな!!」

 

さやかは今度は急上昇でビームの範囲から逃れるとGNソードⅡブラスターを構え、単発モードで狙いをつけトリガーを引く。

放たれた光弾はビームを吐き出し続けている大口と本体を繋ぐアーム部分、それもGNフィールドからはみ出ていたわずかな部分を正確に撃ちぬいた。

 

「そんな破壊だけをまき散らすだけのようなモノが、ガンダムであるものか!!!」

 

爆発と共に再び距離を詰めるさやか。ウワサの周囲にはまたGNフィールドが展開されているが、さやかの対ガンダムを想定されたダブルオーの前では意味をなさない。

GNソードⅡロングで突破すると、バスターソードⅡの切っ先をウワサに深々と突き立て、そこからさらに強烈な蹴りを入れてバスターソードⅡを奥に食い込ませる。

魔法少女としての膂力が合わさった踏みつけに近い蹴りはバスターソードⅡをウワサの巨体に貫通させ、爆発を引き起こす。

 

「‥‥‥‥‥」

 

爆発が起きる前にウワサから離れたさやかは誘爆を起こし、爆炎に包まれていく様子を見つめながら静かに見つめる。

まるで警戒しているような顔つきだが、それが間違いではなかったことを証明するように爆炎から二筋のビームがさやかに向けて撃ち込まれる。

 

「あれが、所謂本丸か。」

 

爆炎の中から人の形をした影が出てくる。

人の影、というがその大きさはおおよそ18メートルと相変わらず普通の人間の大きさを優に越していたが。先のウワサの外装と同じ金色の装甲と同じ色をした背部の翼状のユニット、そして頭部の青いバイザーのようなものがひどく目につくロボットが現れる。

現れたロボットは手にしていたビーム砲を構えると背部ユニットが動き出し、その銃口の先にビームのエネルギーが収束を始める。

 

「またあのビーム────ん?」

 

またあの高出力のビームを撃たれる、そう思い険しい表情を見せたさやかだったが、こちらに向かってくる物体が視界に入り、そっちに目線が行く。

いろはたちが逃げた方向からやってきたそれは、さやかが十七夜たちに貸したザンライザーだった。

 

(ザンライザー!?となると二人がうまいこと合流してくれたか!!)

 

十七夜たちがいろはたちと合流できたのならこれ以上時間を掛ける必要もなくなった。

そう判断するや否や、さやかは手にしていたGNソードⅡロングをもはや手癖に近くなった感覚でウワサの本体に向けて投擲する。

投げられた剣はビームが発射されるより早く向けたビーム砲に突き刺さり、行き場のなくなったエネルギーが手元で大爆発を起こす。

 

「ザンライザー!!」

 

さやかが本体の真上を取りながら呼ぶと、そのさらに上からザンライザーが背に乗せた二振りの大剣をさやかに向けて落とす。

落とされた大剣を受け取ったさやかはその場で連結させ、二振りの大剣は両刃で幅広の一振りに成る。

 

「これで‥‥‥‥!!!」

 

連結させたGNバスターソードⅢを手にさやかは上空から全力で振り上げながら斬りかかる。

ウワサ本体は避けられないと判断したのか再びGNフィールドを展開するが────

 

「今更そのような!!!」

 

さやかは勢いを止めることなく、全力で振り上げたバスターソードⅢを全力で本体に向けて振り下ろす。

その刃はウワサのGNフィールドを破壊し、そのままウワサの胴体に直撃。

 

「うおおおおおおおおおッ!!!!!!!」

 

迫真の声と共にバスターソードⅢを振り抜くと、ウワサの胴体を袈裟斬りにし、両断する。胴体を二つに断たれたウワサはいくつかのスパークを起こしつつ、悪あがきのように藻掻く様子を見せたが、程なくしてまばゆい光と共に爆散。さやかがやりきったようにバスターソードⅢを肩に担いだときには既にその残骸は消え失せていた。

 

「‥‥‥‥‥‥さて、いったん帰るか。いろはたちと情報のすり合わせをしなければ。」

 

床に突き刺さったGNバスターソードⅡを回収しつつ、さやかは先を行くいろはたちを追い、そこを後にする。

 

(…‥‥‥誰かいるような気がするが、これ以上ここに留まるのはいらない面倒を引き起こす。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが‥‥‥‥‥美樹さやか。僕たちにとって、一番の障害となる魔法少女。」

 

さやかが向かった方角とは反対、ウワサの領域の奥の方から角帽のようなものを被った魔法少女が姿を見せる。

少女は一面焼け野原に近くなった空間を一通り見渡すとホッと安堵の息を吐いた。

 

「…‥‥灯花が記憶ミュージアムにあのウワサを送り込んだと聞いたときは流石に心の臓が冷える思いがしたけど、君が倒してくれたのなら重畳だ。いや、あのウワサでも君を止められないことは全くの別問題なんだけど。」

 

独り言のような言葉を呟くと、少女はさやかが向かった方を見やる。

 

「…‥‥‥でも、今は君にお礼の言葉を送るよ。ありがとう。いろはお姉さんを救ってくれて、敵にこう願うのは傲慢かもしれないが、できることなら僕たちが事を完遂するその時まで、あの人を────」

 

 




ちなみにアルヴァアロン出てきたところで一回切ってもいいかなと思ったが、どうせみんなわかり切っているだろうからそのまま一話で片づけることにした。

本編でもそうだったようにやっぱり出オチだった。


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第92話 丸くなったな

うーん、ギャグとシリアス(ル?)が混在しているぞぉ!!


 

「なんだ、近くで待ってくれていたのか。」

 

自身を模したというウワサを見事打破したさやかはは急いで外に出ようとしたところで手ごろなところで待ってくれていたいろはたちを見つけ、高度を落とす。

 

「すまない、どうやら待たせたらしいな。先に脱出してもらってても構わなかったのだが…‥‥‥」

 

「さやかさん!よかったです。ケガとか何もなくて…‥‥」

 

自分を待ってくれていたことに表情を綻ばせながら降りてくるさやかにいろはが心底から安堵したような表情で駆け寄り、無傷で戻ってきたことを喜ぶ。

 

「とりあえず、もう長居は無用なはずだ。そうだな?」

 

寄ってくるいろはを尻目にやちよに確認するように尋ねるさやか。

それにやちよはわずかに悔し気というような、険しい表情をしながらもうなづいた。

一同は上層へ上がるためのゴンドラに乗り込み、座席につき一息をつく。

 

「あの、流れで乗ってしまったんですけど、こんなゆっくりしていて大丈夫なんですか?」

 

席についたがいろははどこか落ち着かない様子でいる。

おそらくウワサからの追撃を警戒しているのだろう。

 

「それはないでしょう。あのウワサは美樹さんが倒した。そうでしょう?」

 

「ああ。手こずりはしたがな。」

 

やちよの言葉に軽く一息を入れて苦労したような雰囲気を出しながらウワサを撃破したことを明かすさやか。

 

「‥‥‥‥一応お前とおんなじバリアを持ってるって話だったが、どうやって突破したんだ?ドッペル───まぁ要は魔女の力の一端を使っても歯が立たないらしいってのをよ。」

 

「‥‥‥‥私の持っている剣がバリアに対して特効持ちだったという感じだな。もっと詳しい説明がいるなら外で話すが……………」

 

「大丈夫よ。貴方ってそういう魔法少女って認識し始めたから。」

 

やちよにそう言われるとさやかはそうか、と軽く返して会話が終わってしまう。

少しゴンドラに揺られるだけの時間ができたが、ふとしたところでさやかが何か思い出したように顔を上げる。

 

「そういえば七海やちよ、さっきから感じていたことがあったのだが。」

 

「なにかしら?」

 

「丸くなったな。初めて会ったころとはまるで見違える。」

 

「ま、丸くなった…………!?!?嘘でしょ………………!?!?」

 

さやかの丸くなったという言葉にやちよは目をかっ開いてわなわなとした様子で立ち上がると徐に自身の腹回りを触り始める。

 

「?………………私は別に体型のことは言っていないが?」

 

「え」

 

「フ……………フフッ……………」

 

きょとんとしたさやかの言葉にやちよは言葉を失い、茫然自失に近い状態で立ち尽くす。ちなみに声を押し殺しているような笑いをしているのは十七夜だ。文字通り体をくの字に曲げてまで体が震えているのと込み上げてくる笑いを抑え込んでいる。

さやかは決してやちよの体型が太ったとかそう言うつもりで言っていない。彼女が言及したのは主にやちよの纏う雰囲気が丸くなったという意味合いで言ったのだ。

まるで憑き物が落ちたと言うのが一番正しいか。特にいろはに対するそれは初めて神浜市に足を運んだ時とは違う、互いに互いを信頼しているような雰囲気だった。

 

ただ、突然丸くなったといわれて一番最初に想像するのは体型であるのが現実だろう。それも言われたやちよはモデル業もやっている。

つまるところ一番気にしなければならないのは自身のプロポーションの維持なわけで──────

 

「……………………歯ぁ食いしばりなさい、いい加減にその貴方の口に遠慮と思慮深さが入るように修正してあげるから。」

 

「さやかさぁん!!主語が!主語が足らないんです!!女の人に体重と年齢の話はタブーなんです!!」

 

「そうか、学ばないな。私も。」

 

静かな怒りを募らせるやちよにいろはが背後から彼女を羽交締めにして取り押さえる。

自身がやらかしたことを察したさやかは諦めのような乾いた表情を浮かべながら逃げるようにゴンドラの屋根に退避した。

 

「君たちは‥‥‥‥自分を笑い死にさせるつもりか‥‥‥‥‥!!」

 

「いやいや、お前もお前で笑いすぎだって。こっちにまで飛び火したらどーすんだ。」

 

笑いのツボにでもはまったのか、目元に涙のようなものを浮かべながら恨めしそうにしている十七夜にひなのが少し白い目で眺めていた。

 

 

 

 

 

 

「…‥‥‥思ったよりこのゴンドラ長くないか?」

 

「まぁ、お前から借りた乗り物でも少しかかってたよな。」

 

「確かに、数分は乗っていただろうな。速度をそれなりにしてもらっていたというのも考慮するが。」

 

思っていたより長いゴンドラでの旅に屋根に上がったままのさやかは行く先を怪訝な表情で見つめる。

ザンライザーに乗ってきた十七夜とひなのも同じ意見なようだ。

 

「なら他に聞いておきたかったことを聞いておくか。いろは、結局どちらかとは会えたのか?」

 

屋根から顔を覗き込ませながらさやかはいろはにそう尋ねた。突然質問をぶつけられたいろはは驚いた表情を見せたが、それが前々から会いたがっていた里見灯花と柊ねむのことであることを察する。

 

「えっと、灯花ちゃんとは‥‥‥‥でも、わたしのことはまるで覚えていない様子でした。」

 

「…‥‥‥‥となると、柊ねむの方も同じような状態、と考えるべきか。」

 

どうやら以前さやかがいろはの自宅に半ば押しかけたとき推測した状況と同じことが起きていたようだ。

いろはの妹、環ういという()()を喪ったことである種の記憶の修正がかかり、うい本人とその周辺の人間との記憶が丸ごとそぎ落とされた。

 

(しかし…‥‥そうなると肝心の環うい本人はどこにいった?正直元々いた人間の存在が丸ごと消失するなどありえないと思うのだが‥‥‥‥あまり難しいことはわからないが。)

 

人の存在とか正直言って概念的なところもいいところなため、早々に思考を切り上げるさやか。

 

(まぁ、それでもわかることは、あの小さいキュウベェは確実に環ういと関係はありそうだがな。)

 

いろはがあの小さいきゅうべぇに触れたことでういのことを思い出すきっかけになった。

なぜかいろはに気があるように妙に彼女の傍に姿を見せる。

そして彼女がなんらかの窮地に陥るとほかのきゅうベェにはない感情を露わにしてまで助けを求める。

 

(いや、どう見ても何かあるだろ。知っているのならなおさらのこと。)

 

「いろは、今度あの小さなキュウベェを見かけたら捕まえて傍に置いといてくれるか?」

 

改めてあの小さなキュウべぇの異質さを認識したさやかはとりあえずいろはに確保しておくように頼んだところでようやくゴンドラの終点が見えてきた。

降りる際に奇襲を警戒して周囲を見渡すが、出た先に待ち伏せもなく、記憶ミュージアムの中はもぬけの殻のようになっていた。

 

「もしかして、アレを散々にまで暴れさせてここの施設ごと、なんてするつもりだったのかしら。」

 

魔法少女一人の気配もなくなった施設にやちよがそんな言葉を零す。

まぁ、あんな図体のでかいウワサを効率よく運用するなら適当に配置して暴れさせてしまうのが一番だろう。連携とかを行うのは色々と無理がある。

ともかく悠々とした足取りで記憶ミュージアムから脱出した5人。

一仕事したと言わんばかりに体を伸ばしながらさやかはいろはとやちよの二人にこれからの動向を聞くことにした。

 

「これから…‥‥ですか?それはもちろん、攫われたみんなを助けに行きたいです。」

 

「そうは言うが、手掛かりはあるのか?具体的に言うと彼女たちが連れていかれた場所とか。」

 

なんとなく予想していたいろはの返答にそう指摘すると、途端に表情を渋いものに変え、痛いところを付かれたように顔を逸らした。

 

「ううっ、で、でも早く行かないと鶴乃ちゃんたちに何が起こるか────」

 

「ただ闇雲に行動を起こしたところで時間の浪費になるだけだ。まずいろはたちがやることは情報を集めることだろう。」

 

「そんなの、適当な黒羽根の魔法少女から聞き出せば済む話でしょ?」

 

「それもそうだが、別に情報を持っているのが羽根だけとは限らない。そうだろう?」

 

さやかの言葉に二人はお互いに顔を見合わせ、それがマギウスの翼に関する情報を手に入れていることを察する。

二人の反応から食いついたと判断したさやかは十七夜を見る。

互いに言葉はなかったが、求められていることを察した十七夜が二人に観鳥から覗き見たことを二人に伝える。

 

「やっぱりそこら辺にいる黒羽根を捕まえた方が速くないかしら。」

 

「まぁ‥‥‥‥あまり強く否定することはできないな。」

 

いぶかしむような目線を向けるやちよに困った笑みで肩を竦ませる十七夜。

いろはも十七夜と似たような表情で乾いた笑みを見せるが、内心は似たような心境かもしれない。

本拠地の情報を得たはいいものの、移動が可能な上に認証コードのようなものが必要だとなってしまえば、黒羽根をふん縛って言うこと聞かせた方が手間は省ける。

 

「…‥‥‥‥」

 

一通り十七夜からいろはたち二人への説明がされたが、その間さやかは何か考え込むような表情を見せていた。

 

「さっきから何か考えてるみてえだけど、何かあるのか?」

 

その様子をみたひなのが声を掛けるとさやかはいや、と否定気味な言葉を漏らすが、すぐにまた考え込んでしまう。

 

「‥‥‥‥なぁ、確か向こうのアジトに入るためには羽根たちが胸元に掲げているペンダントのようなものがいる、という話だったな?」

 

十七夜の方へ向き直りながらさやかはそんな問いを重ねる。

聞かれた十七夜は少しだけ記憶を手繰り寄せながらも、それが事実であるようにうなづく。

するとさやかはGNソードⅡを取り出すと、敷地内のアスファルトにがりがりと剣先で絵を描き始める。

 

「えっと…‥‥‥さやかさん?」

 

突然始まった絵描きにいろはは困惑気味に首をかしげる。

他の3人も同様に呆けたように雁首揃えてさやかの絵描きを見つめる。

 

「うーん‥‥‥‥‥?」

 

数分してから描き終わったのかアスファルトを削るのをやめたさやかだが、途端にまた首をかしげてしまう。

そこには翼を広げたような意匠が目立つ、羽根たちの持つペンダントが粗が目立つ形で描かれていた。

 

「どこかで見たことあるような気がするような、しないような‥‥‥‥?」

 

「それは羽根の人たちと会ったことがあるからじゃ…‥‥実際何回も姿を見ているわけですから‥‥‥‥」

 

さやかのつぶやきにいろはがごもっともな見解を述べる。

しかし、さやかはそれに首を振ると、そうではない場所で見たような気がする、と言う。

 

「‥‥‥‥‥‥なら、貴方が神浜市内で行ったことのある場所から羽根の魔法少女と出会ったことのある場所を省けばいいんじゃないかしら。」

 

やちよの提案にさやかはその通りに自身が神浜市内で行ったことのある場所の羅列を始める。

神西区、工匠区、北養区、水名区、中央区、大東区

もっと詳しく並べるなら、神浜市立付属中学、セントラルタワーといったこれまで足を運んだことのある場所から黒羽根と出会ったことのある箇所を除外する。

 

「残ったのは神浜市立付属中、ウォールナッツ、旧神浜ミレナ座、水名神社か。」

 

「一回足を運んだきりの付属中と水名神社は外していいでしょう。」

 

やちよの言葉通り、一回たけ、それも長時間そこにいたわけではない二箇所は外していいと判断し、残るはウォールナッツと旧神浜ミレナ座に絞られる。

前者はマギウスの翼の本拠地のある北養区にある上に非番に近かったとはいえ白羽根である観鳥と出会した場所でもある。

後者は特に言うことはないが、主であるみたまの持つ調整はやちよが初めて神浜市を訪れたのなら、まずそこに行けと言うほど強力なものだ。彼女がどこまで把握しているか定かではないが、羽根の面々にも調整を行っていたであろうことは想像に難くない。

 

「可能性が高いのは調整屋だな。羽根の魔法少女の調整がてら例のペンダントを受け取っていることも考えられる。」

 

「八雲から譲り受けるのか?おそらく難しいと考えるべきだな。」

 

「そもそも可能性が高いというだけで断言したわけでもないのだが……………何か別の理由でもあるのか?」

 

八雲みたまから拝借できないだろうか、というさやかの考えに十七夜が否定的な言葉を挙げる。

 

「いや、美樹君の八雲が例のペンダントを所有しているという推察に異論はない。しかし君は知らなかったと思うが、八雲は神浜市では唯一中立を宣言している魔法少女なんだ。」

 

「中立?どっちつかずの立場を貫いているということか?」

 

「………………悪い言い方をしてしまうとな。」

 

「ということはみたまさんは私たちに手を貸してくれることはない。そういうことなんですか?」

 

「正確に言うならば両陣営に、だろうな。基本的にこの事態には不干渉を貫く腹積りなのだろう。」

 

そう言って十七夜はすまないと目を伏して謝罪をした。まるでみたまの代わりに謝ったようにも思える十七夜の行動にわずかに首をかしげる四人。

 

「………………もしかして、八雲みたまとは知り合いか?」

 

「お互い、色々思うことのある同胞(はらから)、と言ったところか。」

 

なんとなく察したさやかがそういうと十七夜はどこか色を失ったような表情でそう答える。

そこに懐かしむ、といった好意的なものなどありはしなかった。

 

「みたまさんが手を貸せないことはわかりました。でも、話くらいは聞きにいってもいいんじゃないでしょうか?もしかしたら何か教えてくれるかもしれませんし。」

 

「まぁ‥‥‥‥私たちより組織のことに精通しているかもしれないからな。それくらいなら徒労で終わる可能性も低いと思うが、どうだ?」

 

 

 

いろはとさやかの言葉に十七夜は少しだけ考えるような素振りを見せると、結局は八雲がどうするかだな、と言いながらも頷くのだった。




年上を年齢と体型ネタでいじるのたまんねぇなぁ!!


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第93話 ドッペルウィッチ

以前感想でさっさんと敵対する羽目になる黒江は不憫だな、というのをいただきました


 

「ふんふっふ〜ん♪みったまはまだ17だっから〜♪」

 

神浜ミレナ座。かつては劇場だったらしいが、廃館となってからは調整屋、八雲みたまが半ば私物化して、自身のお店のように内装をいじくりまわしていた。

普通に考えれば法律に引っかかっている気がしないでもないが、そんな自分の領域をみたまはハタキ片手に鼻歌を口ずさみながら掃除に勤しんでいた。

そんな上機嫌な彼女の耳に部屋の扉が開けられる音が入る。

 

「いらっしゃ〜い。予約の連絡とかなかったはずわよね?」

 

「ああ、そうだな。とはいえ、その様子だとそちらも暇そうだがな。」

 

現れたさやかにみたまは突然の訪問であるにも関わらず、不快感のない笑みを振り撒く。

 

「そうねぇ、確かにそうではあるのだけど。明日から出張の予定で空けるから、これはそのためね。危ないところ、一日ズレてたらしばらく待ちぼうけだったわよ?」

 

「その出張というのはマギウスの翼にか?」

 

「………………もしかして、今日やってきたのはそれを聞くため?」

 

さやかの吹っかけにみたまは狼狽するわけでもなく冷静に、至極淡々とした様子で見据える。

するとさやかは部屋に置かれている小さいテーブルに目を向ける。

そのテーブルの上には雑多と置かれた小物類の中に羽根たちがつけているものと同じデザインのペンダントがあった。

 

「その答え方は肯定と見てもいいのか?」

 

さやかがテーブルの上に置いてあるペンダントを一目したことにみたまは自身がマギウスの翼と関係を持っていることを見透かされていると感じ、一つため息を吐いた。

 

「‥‥‥‥もう、こっちだって生活のためにやってることなのよ?」

 

「ん‥‥‥?ああ、別にマギウスの翼に手を貸していることを糾弾するつもりはない。色々彼女から聞いてはいるからな。」

 

マギウスの翼に多少なりとも関係をもっていることを問い詰められると思っていたみたまは不服そうな顔をしてわざとらしく口をすぼめていたが、さやかのそんなつもりはないという言葉と共に新しく部屋に入ってきた人物に目を丸くする。

 

「久しいな、八雲。」

 

「…‥‥‥あらやだ、貴方ったら彼女まで引き込んでいたのね。」

 

「ちなみにアタシもいるぞー」

 

現れた十七夜にみたまは心底から驚いた表情で味方に引き入れたさやかを見つめるが、開いた扉から顔をのぞかせたひなのにさらに驚きの声を挙げる。

 

 

 

 

 

 

 

「…‥‥‥何回見ても壮観ねぇ。貴方たち三人が足踏みそろえるなんていつぞやかの昏倒事件以来かしら。」

 

「そうでしょうね。あの時は一歩間違えたら西と東で抗争が起きていたわ。」

 

みたまのつぶやきにやちよがそう返す。

テーブルを挟んだ二つのソファ。片方には落ち着かない様子で渋い表情を見せているみたま。反対側にはさやかを筆頭にいろはと十七夜、ひなの、やちよという各地域の代表者がそろい踏みしていた。実力も申し分ない三人にさすがのみたまもいつものどこか緩い雰囲気は消え失せ、目の前の危険に全力でどうしようかと思案を練っていた。

 

「一応確認として聞いておきたいのだがマギウスの翼の本拠地、フェントホープというらしいのだがそこに赴いたことはあるのか?」

 

「…‥‥‥‥そう、ね。確かに私は調整屋としてあの子たちのアジトみたいな場所に行ったことはあるわ。あのペンダントは入るためにはそれが必要だって言われてもらったものよ。」

 

「で、その本拠地は移動が可能。場所を転々とすることで発見を困難にしている。流石に場所とかは貴方が中立の立場上教えられそうにないか?」

 

さやかの言葉にみたまは静かに頷く。

つまり詳細はみたまの中立の立場上明かさないということになる。

 

「そもそもの話、私にもあのフェントホープの場所はわからないわ。基本的に黒羽根の案内がないと行けないもの。」

 

「…………………意外と空振りに終わりそうだな。あのペンダント、もらってもいいか?」

 

「渡したら貴方達仕掛けに行くでしょ?私が中立の立場だって知っておいてそれを聞くの?」

 

ダメ元で聞いてみるが、想像通りの返答に肩を落とすさやか。

瞬間隣から何やら不穏な雰囲気を感じとる。

 

「いろは」

 

「はい。やちよさん、暴力はダメです。」

 

確認すらせずにすぐさまいろはの名前を呼ぶと、彼女もそれがわかっていたのか二つ返事に近い速さでみたまが断った途端に不穏なオーラを出したやちよの両肩を後ろから抑える。

 

「………………まだ何もしてないでしょう?」

 

「まだ、の時点で自白しているようなものだろう。」

 

不服そうに眉間に皺を寄せるやちよだが、十七夜にそう指摘されるとムスッとした表情ながらも挙げていた左腕を下ろした。

 

「………………そういえばさ、アタシってコイツらからドッペルのことは聞かされたんだが、まだ実物を見たわけじゃない。みたまの口からドッペルの説明はできるのか?」

 

「それくらいなら、別に構いはしないわよ?」

 

やちよの様子を見て、話を進めてもいいと思ったひなのはみたまにドッペルの詳細を求める。

 

 

 

「強い依存性に副作用………………魔女の力を使っている以上良いことだけではないとは薄々感じていたが………………」

 

みたまからドッペルの説明を受けたさやか達。その内容は全員が渋い表情を浮かべてもおかしくはない代物だった。

 

ドッペルウィッチ。みたま曰く正式名称はそうらしい。

概略はソウルジェムに溜まり切った穢れを魔法少女が抱いた感情の発露として魔女化させ、外部に放出させることでソウルジェムから取り除く。

さやかがドッペルを実際に使用する様子を見た時となんら違いはなかった。

 

「依存性と副作用と言うが、具体的なもんまでは分かってないのか?」

 

ひなのがそういうとみたまは少し考えてからペンとメモ帳を取り出すと、サラサラと何かを書き始める。

 

「ねぇ、貴方たちの中でリーダーは誰なのかしら?」

 

「リーダー?そんなのは特に決めては────ん?」

 

みたまの言葉にそう言いながら周りを見たさやかだったが、ひなのと十七夜の指が自身に向けられているのを見て不思議そうに首をかしげる。

 

「‥‥‥‥じゃあ私もそうさせてもらうわね。」

 

やちよまで自身に指をさしたことに不味い雰囲気を感じ取ったさやかは反射的にいろはの方を見るが、彼女も少し気まずそうに目線を外したあとにおずおずとさやかを指さした。

 

「あの…………流石にさやかさんが集めた魔法少女の皆さんなのに、後から合流した私ややちよさんがリーダーになるのは筋違いかと思うんですけど……………」

 

その言葉にさやかは目を見開くと諦めたようにため息をついてソファにもたれこんだ。

 

「…………………他の2人もそんな感じか?」

 

「それもそうだが、自分をはじめとした代表者がリーダーになるとどこかで諍いが生じた時がな………………」

 

「ま、アタシもほぼほぼやちよと同タイミングといっても差し支えはねぇからそこのいろはと同意見ってやつだ。」

 

「…………………了解した。皆がそういうのなら私も腹を括る。」

 

さやかはそう決意するとみたまに向けて手を差し出した。

その様子にみたまはクスクスと笑うとその手にメモ用紙を手渡した。

 

「もし、貴方がフェントホープに来ることができたのなら、その部屋を探してみて。そこでなら、実物を見せながら話せるから。」

 

「実物、か。」

 

みたまの言葉に引っかかりを覚えながらも受け取ったメモ用紙をみる。そこには隔離施設の文字が書かれていた。

 

「…………………」

 

「これでも少しは貴方には期待しているのよ。貴方の調整をした時、初めてだったのよ?何も目を背けなかったの。」

 

隔離施設というあからさまな単語にたまらず眉を顰めるさやか。しかし、その直後のみたまの言葉に内心疑問符を挙げる。

 

「背けなかった?」

 

「ソウルジェムに触れるということはその魔法少女の魂そのものに触れること。そうねぇ、深層心理って言えば良いのかしら。ともかく本人でさえ知り得ない心の内っていうのが覗けちゃうの。」

 

「よくわからないが………………私は他の人とはその深層心理が違ったのか?」

 

「だって大なり小なり魔法少女っていうのは不安を抱えてるものよ?大体はそれに準じた光景やとっても不安定な声が聞こえてくるのに貴方ときたら、一面のお花畑なんだもの。」

 

それはもう圧巻だったのよ、花びらがバァーと広がって久々に癒されちゃった………というみたまだがさやかには自分が遠回しに頭の中がお花畑とバカにされてるようにも聞こえてしまう。

が、みたまがそこまで言ったところでどこか影の差し込んだ、そんな感じのある笑みを浮かべた。

 

「………………………ああいうのが、平和だと言うのなら。貴方は心の奥底からそれを願っている、ということなのよね。一分の絶望が差し込まないほどに。」

 

 

 

 

 

 

 

「結局、足掛かりになりそうなのは得られなかったわね。」

 

「だけど、決戦用にみたまからグリーフシードは調達できた。準備が一段階整えられただけでも無駄足じゃなかったんじゃないのか?」

 

「と言うが目の前の課題が解決できてないのは不変の事実だ。流石に自分もそこらの黒羽根を捕まえた方が早いと思ってきたな。」

 

代表者たちが思い思いに意見を交わしている中、さやかは一人硬い表情を見せていた。

 

「…………一つ聞いてもいいか?」

 

「自分か?どうかしたのか。」

 

「八雲みたまの言葉、あれは本心からのものと思っていいのか?なんというべきか、本心では本心なのだが、別の本心のようなものが入り混じってる感覚がしたのだが。」

 

「‥‥‥‥‥言っただろう。八雲と自分はお互いに色々思うことがある同胞だとな。」

 

さやかにそう尋ねられた十七夜は何か思案に耽るようにすると、それだけ答えた。

さやかははじめ十七夜からそういわれたときは何か互いに事情のようなものがあるのかと思っていたが、十七夜の内心に抱えているものは思い出した上で考えてみれば、十七夜とみたまは互いに同じような感情を抱いているという可能性もあった。

つまり、みたまも神浜市の現状を取り巻いている西側と東側の間の格差。それに怒りのようなものを抱えている人物である、ということになる。

 

「…‥‥‥とりあえず、いったん他のみんなと合流したいな。確か戦い方のすり合わせをしたいからウワサの気配のある噂‥‥‥‥口で言うとややこしいな、ともかく色々回っているとは連絡を受けていたが‥‥‥‥」

 

いったん思考を切り替えながらスマホを取り出したさやかは連絡が一件来ていることを見かける。誰かと思い、メッセージの送り主を確認すると、マミの名前があった。送られた時間もさほど経っていないが文章と共に画像が添付されており、それを見たさやかは目を丸くした。

 

 

『どうしたらいいかしら‥‥‥‥』

 

困ったような笑みを浮かべているのがわかりやすく浮かぶマミのメッセージと共に、そこにはふん縛られた上にななかたち味方の魔法少女全員に取り囲まれて顔面蒼白で恐怖のあまり震えている黒羽根────もっと正確に言うのが許されるのなら、黒江の姿があった。

 

「…‥‥‥不憫だ…‥‥この上なく不憫だ…‥‥!!!」

 

彼女の精神衛生上、この上なくよろしくないのを瞬時に察したさやかはすぐさま事情を全員に伝え、急いで現場に急行するのだった。

 

 




そういえばこの作品に推薦を書いてくれた方がいました。この場を借りてお礼申し上げます。イクッ(絶頂)


あ、それはそれとして(唐突)

さっさんとのコネクトの新作だよ!!



二葉さな…‥‥‥○○○○○○○○○ ヒント:パチンコ

七海やちよ‥‥‥‥○○○○○○○○○○○○○ ヒント:形がどうであれ誰かを背負って戦っていた

純美雨‥‥‥‥○○○○○○ ヒント:魂を獲する者

水波レナ…‥‥○○○○○○○○ ヒント:氷の幻想はすべてを氷結させる

伊吹れいら…‥‥○○ ヒント:ランカスレイヤー

和泉十七夜…‥‥○○○○○○ ヒント:結局本名で呼ばれることがなかった風

ちなみに小文字も一文字でカウントしてる


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第94話 私の声が聞こえるか

だーんだんと終盤に近付いてきたなぁ‥‥‥‥未だにアリナ嬢をどうするかお悩み中


 

「マミ先輩、流石にこの仕打ちはやりすぎではないか?」

 

「そうだとは私も思ったのだけど………………」

 

「現状、私たちがこうしてマギウスの翼の対抗勢力として集まってるのを知られるのは愚策では?」

 

「だとしても!!これは!絶対に!やりすぎだ!!」

 

ななかの言葉を遮りながら仰々しく手を振るうさやかの先にはマミのリボンにがんじがらめにされて転がされてる黒江の姿が。

騒がれないためか口元まで覆われて少し苦しそうにしている。

 

「少しオーバーなんだ…………確かに現状が向こうに知られるのは面倒だが………それで相手を怖がらせていたら、分かり合うことも、できなくなってしまう。」

 

さやかは転がされている黒江のそばで屈むと、GNソードⅡで縛っているリボンを斬った。

 

「すまなかった。大事ないか?」

 

「は、はい…………ありがとうございます……………」

 

「礼はいい。ところでなぜこんなところをたった1人で彷徨っているんだ?基本黒羽根は集団で行動しているはずだと思っていたが……………」

 

(き、聞くものはちゃんと聞いておくんだね……………)

 

(まぁ、言った通り黒羽根は基本集団で動いていたはずだからな。何か意味でもあるのか、それとも────)

 

助けておきながら気になったことはすぐに聞き始めるさやかに微妙な表情で念話を送ってくるささらにそう返していると、黒江は少しだけ迷う表情を見せる。

まぁ、そう簡単に教えてくれるはずもないな、とさやかが思っていると─────

 

「黒江さん!!」

 

さやかの横を通り抜けながら遅れてやってきたいろはが黒江に向かって飛びついた。かなりのスピードで突っ込んできたのか黒江が大きくのけぞっていた。

 

「めっちゃゴーカイに突撃カマすじゃん!!」

 

「というかあの魔法少女は一体どなたなんでしょう…………?」

 

突然現れたいろはに驚く衣美里のような反応もあれば、首をかしげる明日香のような魔法少女もいる。

 

「私の仲間の魔法少女よ。」

 

『な、七海やちよッ!?なんでここに!?』

 

さやかの後ろから現れたやちよはじめ代表者の面々にその場にいたほとんどの魔法少女が心底から驚いて口を揃えた。

平静でいられたのはさやかたち見滝原の魔法少女くらいか。

 

「流石はモデル。有名人だな。」

 

「今の貴方ほどじゃないわよ、最強の魔法少女さん。鶴野が聞いたらどう思うかしらね。」

 

「その名前は荷が勝ちすぎるからやめてほしい……………」

 

「まさか、本当に他の代表者の人たちを引き込んでくるとはね。」

 

やちよの言葉に肩をすくめているとこのはがそう話しかけてくる。

表情からもさやかが代表者を戦力として引き込んできたことに驚いているようだった。

 

「こっちの彼女に関しては成り行きに近かったがな。」

 

「………………まぁ、貴方が来なかったらどうなっていたかは想像に難くないわ。それに関しては感謝するわ。」

 

やちよがさやかに礼を述べていることにこのはは彼女ほどの実力者が窮地に陥っていたことを察した。

 

「……………一体なにがあったの?」

 

「………………それを含めて一旦皆で情報を共有しておきたい。少し広いところに出よう。」

 

このはの問いかけにさやかはその場にいる全員に呼びかける。その表情は険しいもので、状況が芳しくないものであると感じ取るとどこか抜けていた雰囲気を引き締める。

当然黒江に飛びついていたいろはもさやか達についていこうと黒江の手を引っ張るが────

 

 

「いろはは少し待て。せっかくの再会だ。お互い積もる話もあるだろうから、まずはゆっくり、時間をかけてから来てくれて構わない。多分、今はそれが必要だ。」

 

「え、で、でも────」

 

「さっさんは気を使ってるんだから気にしない気にしない!!それと後で名前教えてよ!あーしは木崎衣美里!みゃーこセンパーイ!!一緒に行こー!!」

 

「だーかーら!!お前はいい加減にその呼び名をやめろー!!あと引っ張るなぁー!!!!」

 

戸惑ういろはに衣美里が笑みを浮かべながら通り過ぎていく。彼女に引きずられていいようにされているひなのは喚き立てていたが、そのままズルズルといく光景に一同は微笑ましいものを見るかのような表情で2人についていくようにその場を後にして行った。

 

「それじゃああとは2人でごゆっくりと。それと黒江さん………だったわよね?ごめんなさいね、突然みんなでよってたかって拘束したりして。私ったら少し流されやすいから……………」

 

「い、いえ……………流石にびっくりはしましたけど……………」

 

「そう?とてもそんな風には見えなかったのだけど……………言えたことじゃないけど、辛かったこととかは思い切って話しちゃうのも意外と楽よ?」

 

大丈夫と言い張る黒江に心配そうな顔を浮かべるマミだったが、懐からティーセットを取り出すとそのままカップに紅茶を注ぎ、2人に手渡した。

 

「これ、お詫びの印。話のタネにでも使ってほしいわ。」

 

「どこから出したんですかこれ。」

 

なにもないところから出てきたように見えたそれに思わず黒江がツッコミを入れる。

しかし、マミは口に人差し指を当てながら企業秘密というだけでそのまま先に行ってしまった。

 

「ええ………………」

 

「あ…………これ美味しい、包み込まれるようなそんな優しい味がするよ、黒江さん」

 

「飲む判断が早いッ!!?」

 

どうしようかと思っているところにもらった紅茶をズズッと飲んで感想まで並べはじめているいろはを見て再び目を見開く黒江。

表情を綻ばせるいろはの姿に触発されたのか、黒江もおずおずとした様子でもらった紅茶を飲んだ。

 

「あ‥‥‥本当だ、自販機で買えるモノとは全然違う‥‥‥‥」

 

コンビニをはじめとする市販されているものとは違う風味や味に次第に舌鼓を打ち始める黒江。

 

「………………環さん、その……………ごめんね?突然連絡を絶ったりして…………」

 

「ううん、そんなことないよ。でもよかったです。また元気な黒江さんと会うことができて。」

 

「そう……見える?…………ありがとう。私もまた環さんの顔を見れて嬉しい。」

 

ひさしぶりに出会うことができたことに二人の表情は自然と微笑ましいものに変わる。

そこからはお互いたわいのないことに話の花を咲かせる。

連絡を取らなくなってからの日々。

特にいろはがやちよの住まうみかづき荘に引っ越すことになったという話に黒江は初めて会った時のやちよを思い起こし、心配そうにしていたが、いろはがそんなことなく、むしろ優しかったというと、驚いたように目を見開いた。

 

「………………黒江さん、あの…………聞いても大丈夫、かな?」

 

「…‥‥‥うん、いいよ。」

 

近況報告に近かった話に花を咲かせ、少し時間が経つと、いろはは静かに視線を落としながら黒江に尋ねていいかを聞く。

そして黒江もいろはが聞かんとしていることを察しているのか、表情に影を差し込ませながらもそれを承諾した。

 

「さやかさんから、黒江さんがマギウスの翼に入っていること自体は聞いたの。黒江さんがマギウスの翼に入ったのは、やっぱりその、魔女化の運命から解放されるためなの?」

 

いろはの口調はどこかたどたどしいものだった。

気を遣っているともとれるような慎重な聞き方をしたのは、いろはも直近に魔法少女に課された運命をついに知ってしまったからだろう。

彼女自身、里見灯花から講義として聞かされたときは冷静ではいられなかった。今まで倒してきた魔女が自身と同じ魔法少女で、あろうことかその魔女への変貌が運命づけられているなど、ひどい話以外の何物でもない。

 

『マギウスの翼が間違っているからですか?』

 

『間違ってはいない。ただその先に望むような未来はないと思っている。』

 

いろはの脳裏にいつかのファストフード店でのやり取りがリフレインする。

確かにさやかの言う通りだった。これを知った以上、マギウスの翼が間違っているとはいろはも思えなかった。

ただ、その過程で何の関係のない人々を傷つけてまでゴールを目指しているのは、どうにも自分たちの不幸を他人に押し付けているような気がしてならなかった。

その真意をいろはは頭目である妹分の二人に問いただしたい。あわよくば、その行為を止めたい。ういを探し出すことと同じくらい、いろはの中でその目的意識が強くなっていた。

 

「‥‥‥‥‥‥それもそうだけど、私はマギウスの翼に入ったあとでそれを知った、かな。」

 

黒江がマギウスの翼に入ったのは魔女化のことを知ったからではない、別の理由があるという。

そのことにいろはは目を見開いて驚きを示しながらも静かに黒江の言葉を待った。

 

「…‥‥‥環さんは神浜市の魔女を一人で倒せるようになれた?」

 

黒江の質問にいろはは難しい表情を見せた。

正直に言えば、できるできないかで言えば、いろははできる、と思った。

直前の記憶ミュージアムでいろは自身単独でウワサの本体の撃破を果たしている。しかし、それも一種の心的バフ────いうなればテンションが超強気に近かった状態だからこそ行けた感覚もあったから、同じパフォーマンスをまたできるかと言われればはっきり言って無理だった。実際直後に現れたさやかを模したというウワサには手も足も出ず終いだった。

そして一人で魔女を倒すという言葉にいろははさやかと初めて出会ったときのことを思い起こす。

強大な魔女を相手に怖気づく様子を微塵も見せずに魔女を打倒するあの背中には一種の憧憬すら覚えた。

 

「私はね、それができないからマギウスの翼に入ったの。普通の魔女すらやっとの思いで倒せる、弱い魔法少女だから。」

 

黒江は語る。

いろはと出会う前、自身はグリーフシードを手に入れることがやっとの思いでできる弱い魔法少女だったと。

きゅうベェとの契約で叶えた願いも、やがて自分から手放してしまった。残ったのは魔法少女としての宿命だけ。もはや何のために魔法少女になったのかわからなくなった。

 

「戦うたびに死ぬ思いをして、怖くて、こんな思いをするならって思ったけど、魔女を倒さないとソウルジェムの穢れは取れないし、その分犠牲になる人は増えていく。それでやっとの思いで魔女を倒してもキュウべぇから犠牲になった人のことを聞かされると、自分のせいって言われているみたいでどんどん心がつらくなって‥‥‥‥耐えられなくて、逃げるみたいに神浜市にやってきた。」

 

「…‥‥‥マギウスの翼にいる人たちってほとんどがそうなの?」

 

「‥‥‥‥大半はそう、かな。白羽根の人たちの主導で黒羽根に対して戦闘訓練みたいなのもしているし…‥‥私と似たような理由で入ったっていう子も結構いた気がする。」

 

「そう、なんだ…‥‥‥」

 

黒江の言葉にいろははどこか胸が苦しくなるような感覚を覚える。

そして理解した。黒羽根の魔法少女たちにとって、マギウスの翼は居場所なのだと。

弱いことを理由に、排斥されることもなく、似たような境遇の魔法少女たちが集まることで自分は一人ではないという安心が生まれ、そのものたちと共に切磋琢磨することができる。

まさしく、希望と言っても差し柄はない。

 

「‥‥‥‥‥でも、マギウスの翼はウワサを使って関係のない人たちを連れ去ってる。それは、どうなの?」

 

「…‥‥‥マギウスは、これまでの魔法少女たちの怒りがどうとか言ってた。それがどういう意味なのかは、私には理解できなかったけど…‥‥」

 

「私は黒江さんの気持ちが知りたいの!私もいろんなことを知ったり、聞かされたりして、灯花ちゃんたちのやっていることが魔法少女のためだっていうのはわかったの!でも、そのために知らない誰かがひどい目に遭っているのなら、私はそんなのほしくないし、してほしくない!!」

 

「わ、私のことなんて聞いても‥‥‥‥」

 

「ッ…………………ご、ごめんなさい。」

 

いろはの剣幕に圧される黒江の様子を見て、ハッとなるとクールダウンするように身を縮こませながら怖がらせたことを謝るいろは。

 

「でも、黒江さんがどう思っているかを知りたいのは本当なの。黒羽根でもなく、魔法少女でもなく、友達としての黒江さんの声が聞きたいんです。」

 

「とも……………だち……………」

 

いろはの言葉に目を見開いて呆けたように固まる黒江。

 

「あ、あれ…‥‥?も、もしかして友達って思っていたの、私だけ…‥‥!?」

 

黒江の反応が予想外だったのか、今度はおろおろと慌てふためくような様子を見せるいろは。

そのコロコロと変わっていく表情に黒江はしばらく見つめていたが、やがてこらえ切れなくなったように噴き出した。

 

「ええっ!?黒江さん!?」

 

「ご、ごめんね…‥まさかそう言われるとは思ってなくて…‥‥‥うん、友達か。私も普通の友達はいたけど、魔法少女の友達は、いなかったな。」

 

そう言って黒江はすくっと立ち上がり、見下ろす形になったいろはにどこか吹っ切れた表情を向ける。

 

「私も、マギウスのやっていることに思うことがないわけじゃない。人を攫って、苦しい思いをさせているのなら、あんまり魔女とやっていることは変わらない。でもそれでも、あの人たちの目指しているのは紛れもなく、私たちみたいな弱い魔法少女には希望なのは事実。環さんは、それでも解放を止めに行くの?」

 

黒江の問いにいろはは一度瞳を閉じ、結論は既に出ていると言わんばかりにすぐさまその瞳を開く。

 

「…‥‥止めたい。私の知っている二人はそんなことをするような人じゃなかった。さやかさんが私のことを覚えていない可能性もあるって言っていたけど、それでも!私は二人に会って話がしたい。」

 

「…‥‥‥わかった。なら私もちょっとは覚悟決めようかな。」

 

いろはの決意に黒江は羽織っていた黒羽根のケープを脱ぎ捨て、別の黒いケープを羽織る。そのケープは黒羽根のものと似ているがどことなく魔法少女を連想させるような女の子らしいリボンがところどころにあった。

 

「黒江さん、もしかして‥‥‥‥」

 

「‥‥‥‥終わったらときどき…‥‥いや、やっぱりたまにでいいから魔女退治を手伝ってほしいかな。」

 

「そんなの‥‥‥‥たまにと言わないでいくらでも!!!」

 

黒江が手伝ってくれることを理解したいろははうれしそうに諸手を挙げて喜びを露わにする。

しかし、それもすぐに警戒のものに変わってしまう。

二人のソウルジェムが魔女の反応を捉えたからだ。

 

「黒江さん‥‥‥これ…‥‥」

 

「数が多い…‥‥魔女がこんな固まって暴れてるってどういうこと…‥‥!?」

 

魔女の集団が一直線ともいえるスピードでまっすぐに二人にいる地域に迫っていることに表情が強張る。

普通であれば逃走を計るが、ここには魔法少女の集団もいる。

 

「さやかさんたちと合流しよう!黒江さん!」

 

「うん。その方が絶対に安全…‥‥!!」

 

意見を合致させた二人も一目散にさやかたちと合流する。

幸いさやかたちもそれほど離れていない位置で集まっていたのか、魔力の反応をたどることですぐに合流できた。

 

「その恰好は…‥‥‥そういうことか、了解した。」

 

いろはと一緒にやってきた黒江に怪訝な顔を見せるさやかだったが、恰好が変わっていることに気づくと黒江が説明するより先に理解し、歓迎するように助かる、と言葉をかけた。

さやかの超速理解に呆気にとられる黒江だったが、今は状況が状況なためツッコミはなしにする。

 

『美樹さん、集団の先頭に魔法少女と魔女が入り混じった反応があります。これはおそらく────』

 

「ッ…‥‥‥これで腹をくくるのは二度目か‥‥‥‥!!」

 

さやかの懐からサイズの小さい状態で現れたアイの言葉に苦し気に表情を歪ませるさやか。

 

「すまない!勝手ながらだが私の指示を聞いてくれ!!!」

 

魔女の接近に臨戦態勢をとっていた魔法少女たちに声を張りあげるさやか。

 

「現在確認できる魔女の反応は七つ!左翼の三つを常盤組の四人、春名、美凪、竜城、木崎の8人でななかの指示のもと対応を!右翼の三つの方はこのはたち三人と相野たち団地組にひみかを加えた7人で対応!司令塔はこのはで頼む!!中央の一つは残りのみんなで受け持つ!美凪とれいらは私とコネクトしてくれ!」

 

「コネクトするのは別にいいけど、魔女一体に代表者の人たち総出は過剰じゃない!?」

 

「そ、そうだよ!何か訳でもあるの!?」

 

さやかに呼ばれた二人はさやかの指示に思っていたことを代表するように駆け寄ってくる。

当然だろう。人数の比率がおかしすぎる。一体の魔女に対して10人近い人数、あろうことかやちよ、十七夜、ひなのの代表者たちをフルで動員しているのもそれに拍車をかけている。

 

「‥‥‥‥私が前に話した魔法少女に隠されたもう一つの真実のこと、覚えてくれているだろうか?」

 

「覚えているけど…‥まさか、それが関係しているの?」

 

「‥‥‥‥変な言い方だが、時が来た、という奴だろう。」

 

差し出された二人の手に乗せながらコネクトを発動させるさやか。途端二人の姿がこの前の衣美里のように光の膜につつまれ、炎に包まれたような真紅の剣と十字の星が光輝く盾、そして全身に蒼の鎧をまとった西洋騎士の姿のささらとくのいち風の衣装に赤い肩アーマーのようなのを装備したれいらが現れる。

さやかの説明にいまいち納得してない表情を見せる二人だったが、今は現状の打破というのが一致し、れいらはニンジャがよく見せる印を結ぶと分身を生み出しながら颯爽と飛び出し、ささらもあとに続くように重たげな鎧を背負っているとは思えない軽快なスピードで戦線に参列する。

 

「やはり、こうなるか。」

 

「元々話さずに済むとは最初から微塵も思っていなかった。来るべき時が来た。それだけの話だ。」

 

険しい表情を浮かべる十七夜にそう返すさやか。

ここにいる魔法少女には魔女化のことはその存在をほのめかす程度にしか話していない。

 

「みんなには苦労を重ねると思うが、もしものことも考えられる。できる限り周りにも援護ができるように動いてくれ。」

 

さやかの言葉に残った魔法少女たち────魔女化を知る者たちは静かに頷いた。

そして、そのタイミングで周囲の空間が歪み始め、魔法少女たちは魔女の結界に入り込む。

複数の魔女の結界が融合したのか、見えてきた風景には一貫性がなく、有体にいえばめちゃくちゃな光景が広がっていた。

 

「え‥‥‥‥あれ?反応があったのって魔女のモノだけだよね?」

 

誰かが気づいた。

目線の先にいるのはこちらに向かってくる魔女の集団。何か暴れているようにも見えたが、それもそのはず。あの魔女たちはただ闇雲に暴れていたのではなく、しっかりとそれに値する対象があるからそうしているのだ。

 

「そこの黒羽根の魔法少女!私の声が聞こえるか!!」

 

魔女に追われている先頭の魔法少女にさやかが声を掛けた。

一瞬反応したような様子を見せると羽織っていた黒羽根のケープから真紅の瞳と赤いうさ耳のようなカチューシャを覗かせた。

 

「あ‥‥‥‥ああッ‥‥‥‥‥!!!」

 

他の魔法少女を見つけたからか、あるいはさやかの姿を目にしたからか、その魔法少女は濁り切っていた瞳に一縷の希望を宿らせた。

 

 




ヒントを出してから最速で答え合わせのれいらちゃん。

ちなみにささらちゃんは黄金神にはならずにあくまで騎士どまり


追加

秋野かえで‥‥‥○○○をゴーレムとして召喚 ヒント鋼の戦神

余談だけど、ここは別案だとジャイアントロボとかデストロイガンダムを考えてた。


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第95話 最後の境界線

さて、そろそろ舞台も最終章に差し掛かり始めたかなぁ……………


 

「光の矢…‥‥お願い!!」

 

さやかとのコネクトで蒼銀の鎧を身に纏ったささらの手に弓が握られ、携えた矢を放つ。

放たれた矢は比較的明るい魔女の結界の中でも眩く光り輝く。

そしてその光が一瞬、一際強く輝いたかと思えば何本にも分裂し、魔女の集団にまとめて降り注ぐ。

 

「このまま突入する!!」

 

光の矢が着弾したことで巻き上がった煙幕に乗じ、さやかは一気にトップスピードに加速し、矢の範囲から外れていた黒羽根の魔法少女を確保。そのまま離脱を計るが、魔女の狙いはあくまでその黒羽根の魔法少女なのか、煙幕の中からやたらめったらに攻撃を飛ばしてくる。

 

「見境なしか‥‥‥‥伊吹れいら、援護を頼む!!」

 

「委細承知の合点承知!!分・身・殺・法!!!」

 

さやかの前に躍り出たれいらが手にしていた光の手裏剣を構えると、その場で高速回転を始め、ばらまきに近い要領で手裏剣を魔女に向かって投げつける。さらにれいらの動きに続いてあらかじめ出していた分身たちもれいらと同じように高速回転しながら手裏剣を投げつけはじめ、相当な量となった手裏剣の雨が炸裂。その場で魔女の集団を包む爆発を引き起こした。

 

「すまない!後を頼む!!」

 

下がるさやかと入れ違うように左翼のななかたちと右翼のこのはたちがそれぞれ分担して魔女との戦闘を開始する。

 

「美樹さん、その人は────」

 

「分かっている!ドッペルだな!?それにこの状態、直感だがかなりまずい状況だ!!」

 

戦っているななかたちを巻き込まないように離れた位置まで後退してきたさやかに焦った表情で駆け寄る黒江。

彼女の言いたいことを察したさやかは抱えてきた魔法少女を見やる。魔女の結界に取り込まれる前は視界が暗くてよく見えなかったが、その魔法少女の身体からは黒いモヤのようなものがぐるぐると渦巻き始めていた。

まるで抱えた穢れが一気に放出でもされそうな、そんな予感をさせるには十分なほど異常な状態だった。

 

「ほむら!!」

 

さやかの呼ぶ声にほむらは瞬時に反応し、自身の盾を回転させ、時間を止める。

セピア色に近くなった空間で動けるものはほむら一人。間に合ったことにわずかに息を吐き、悠々とした足取りでさやかの元へ向かう。

 

「すごい穢れの量ね‥‥‥‥穢れがドッペルとして出る神浜市じゃないととっくに魔女化してるでしょうね。」

 

黒羽根の魔法少女のソウルジェムを見て、相当な量の穢れがため込まれていると見たほむら。すぐにグリーフシードを取り出し、少女のソウルジェムから穢れを取り除くと、ソウルジェムは元の白色に戻っていった。

 

「終わったわ。」

 

「助か────()()()!!離れろほむら!!」

 

「えっ…‥‥!?」

 

礼を言おうとしたはずのさやかの表情が急転直下険しい表情に塗り替えられる。ほむらが何か確認しようとするより早くさやかが動き、近くにいる彼女を呼び出したオーライザーで弾き飛ばした。

 

「うおあああああああああああああッ!!!?」

 

次の瞬間、堤防が決壊したかのように少女のソウルジェムからため込んだ穢れが溢れ、少女を抱えていたさやかはその濁流に飲み込まれ、姿が見えなくなる。

 

「そ、そんな‥‥‥どうして…‥‥!?」

 

「どうなってんだ!?ほむらがさやかが連れてきた奴のソウルジェムの穢れを取ったんじゃなかったのかよ!?」

 

「い、いえ…‥‥私は、確かに‥‥‥!!」

 

「二人とも、いったん落ち着いて!!ここは距離を取るわよ!!他のみなさんもそれでいい!?」

 

グリーフシードで穢れを取り払ったにもかかわらず、即座にドッペルが発現するという異常事態とそれにさやかが巻き込まれたことに珍しくほむらが狼狽し、杏子も声を荒げるが、マミが静止し、一度足並みをそろえるために距離を取った。

さやかを巻き込んだ穢れはしばらく泥がうねるようにその場で停滞していたが、徐々に集まりだし、形を成していく。

 

「ドッペルと相対するのは自分も初めてだが…‥‥‥なんだこれは、このようなものはもはや魔女と呼んでも過言ではないぞ!」

 

「こ、こんなので救済だなんだとか言い張っているのかよあの連中‥‥‥‥!!」

 

「実際に自分が魔女になったときの力を使っているのよ、これは。それにドッペルを使えば一時的にとはいえため込んだ穢れが消滅するのは事実よ。あまり頻繁に使いたくないのが正直なところだけど。」

 

初めてドッペルを目の当たりにした十七夜とひなのは驚愕のあまりその現象から目を離せないでいた。

ドッペルを使ったことのあるやちよは冷静に槍を構え、これからの事態に備えている。

 

「そ、それよりさやかさんは無事なんですか!?それにあの魔法少女の子も────」

 

『私共々無事ではあるが……………少し身動きが取れない状況だ。』

 

「ぶ、無事なんですかそれで!?」

 

飲み込まれたさやかを心配するいろはにさやかから念話として返ってくるが、とても安全とは言えない状況に黒江から当然のツッコミが入る。

 

『フィールドを展開したから当分は凌げる。というより今は身動きをとらせてくれない方が気になる。外から見た状況はどうなっているか分かるか?』

 

「そんな悠長なことをしてて大丈夫なの?」

 

『ごもっともだが、隠しきるのはもうあきらめたからこの際観察に回っても差支えはないかと思う。』

 

「それ現実逃避って言うんじゃないかしら‥‥‥‥」

 

『頼む。何か今のコイツからは妙な感覚を覚える。ドッペルに隠されていることがわかるかもしれないんだ。』

 

呆れるマミだがさやかからそう聞かされ、大半の魔法少女が知ってたとでも言うような顔を浮かべる。もはやあの程度でさやかの身に何かあるとは思えなくなってきてるのだろう。だからといってそれに胡坐をかくつもりもないのか蠢く穢れを見つめる。

 

「確かに‥‥‥言われてみりゃ多少動きがおとなしいような…‥‥お前の傍にいる魔法少女が動かしているわけじゃねぇのか?」

 

『‥‥‥‥そういうわけではなさそうだ。私の推測があっているなら、このドッペルはいわゆる暴走状態に近くあると思う。』

 

杏子の言葉にさやかは抱えている魔法少女を見るとそう推察する。その理由は少女の顔が何やら白い仮面のようなもので覆われていたからだ。

さやかの記憶が正しければこの仮面は水名神社でいろはがドッペルを暴れさせていたときにも彼女の顔に浮かび上がっていた。

おそらく、この状態はいわばドッペルに行動の主導権を奪われているような状態と仮定してもいいだろう。

 

「ッ…‥‥もしかして、白い仮面のようなものがありますか?」

 

『黒江か。その通りだが、やはりこれはドッペルが暴走しているという認識でいいのか?』

 

「そう、だとは思います。でも…‥‥」

 

さやかの確認に黒江は歯切れが悪かったがドッペルが暴走状態であることを伝えた。

曖昧な返答をしてしまったのは、確かに暴走しているのだが、現状その兆候が見えてきてないのがそうさせているのだろう。

 

「黒江君、だったか?八雲からドッペルには強い依存性と副作用があると聞き及んでいるのだが、黒羽根である君に心当たりはあるか?」

 

「‥‥‥‥‥いえ、正直に答えるとわかりません。私自身、羽根の中では比較的新しい方だったので…‥‥」

 

申し訳なさそうに首を横に振る黒江に十七夜は残念そうに肩を竦ませると目を伏せてため息を吐く。

本人にその気はないのだろうが、明らかに失望しているような雰囲気を出す十七夜に黒江は自身が悪いわけではないにも関わらず無能感のような後ろ暗い感情が出てしまう。

 

『その態度はよくないと思うぞ。自身の思い通りにいかなかったからと他者を蔑ろにするようではただでさえない人望がさらに減ってしまう。』

 

「うぐっ…‥‥‥人が最近気にし始めたことをズケズケと…‥‥!!」

 

「‥‥‥‥‥マージで十七夜相手にあんな言動とれるヤツ、この世に二人といないだろ。アタシ無理だぞ。」

 

「わたしとしてはシレっと見えてないはずの十七夜の態度を見透かしていることに驚きなのだけど。」

 

白い目を浮かべているのが容易に想像できるさやかの言葉に十七夜は顔を赤くしながら両肩を震わせる。

ひなのとやちよはその様子を見て呆気に取られた表情を見せながら顔を見合わせる。

それはさておき、未だ蠢いている程度に収まっているドッペルを再度見つめる。

 

「さやかさん、そのドッペルは何か取り込もうとかしていませんか?例えば…‥‥今抱えている魔法少女の子とか。」

 

いろはの言葉に促されるように自身を取り囲む穢れの塊と黒羽根の魔法少女を見比べるさやか。

GNフィールドに遮られてそれ以上の侵入ができないでいるが、確かに取り込もうとしているようには見える。

 

『感覚でしかないが、いろはの言う通りかとは思える。』

 

「…‥‥‥皆さん、少し聞いてくれますか?」

 

さやかの返答にいろはは汗を一滴流すと自身がドッペルの暴走を引き起こしたときの水名神社での出来事を話し始める。

魔力の浪費とういとまともに出会えなかったときの心への負担でソウルジェムの穢れが限界に達したいろははドッペルを発現。小さなキュウべぇからのSOSで駆けつけたさやかが来るまでウワサの本体を破壊したあとも暴れ散らかす羽目にあった。

その時のいろはの意識は自身の影とも呼べるドッペルの仮面をかぶった自分に捕らわれているような感覚だったという。それと同時に自身の意識がどんどん遠くなっていく感覚もあったという。まるでそれは底の見えない闇に沈んでいくような感覚だったとも。

 

「つまり、果ては意識をドッペルに完全に取り込まれ、戻ってこられなくなるという解釈でいいのか?」

 

「ただの憶測です。実際にどうなるかはわかりませんが‥‥‥‥」

 

「ということは、もし美樹さんのバリアが破られたりしたら…‥‥‥」

 

「さやか!!そのままバリアは解いたりするんじゃねぇぞ!!」

 

いろはの予測から最悪のパターンを想像したマミたちはすぐさまドッペルを叩く方に思考をシフトさせる。そのまま戦闘に入れば、取り込まれているさやかたちもろともな可能性もあったが────

 

『わかった。出力は上げておく。』

 

二言返事でそれらを了承するさやか。

魔法少女の得物がまだ不定形な形をしているドッペルに牙をむく。

そこでようやく自身の危機に気がついたのか、ドッペルは急激に形を取りはじめ、顕れた怪物の形相が目を開く。

 

「こちらも悠長なことをしたが、そちらはさらに上を行くようだったな。」

 

十七夜のいう通り、そのドッペルが何か行動を起こすにはもう遅すぎた。

やちよの槍の一斉掃射で初動を潰されたドッペルはそのまま魔法少女達の総攻撃で跡形もなく消滅した。

 

「……………なんとかなるものだ。」

 

「いやいや、そりゃあ………ねぇだろぉ……………」

 

爆風の中から現れたさやかの姿に呆れたようにげんなりして肩を脱力させながら腕で仰ぐように横にふる杏子。周りも杏子と同意見なのか、わずかに引いているような顔でいるような見える。まぁまぁな人数の一斉攻撃だったにも関わらず、GNフィールドの中で五体満足でいるのはやはり思うものがあるのだろう。そしてそれは彼女の腕の中にいる少女も同じだった。

 

「す、凄いですね、さやかさんって……………一体どれくらい魔法少女を続けてたらあれくらい強くなれるんだろう………………」

 

「あの子、契約してまだ二ヶ月よ。」

 

「え、あの人、私より経歴浅いんですか!?」

 

「ええ………………」

 

ほむらからの告げ口に黒江は冗談でしょう、と言いたげに目を白黒させ、かろうじて愛想笑いを浮かべていたいろはから笑みが消え失せ困惑に染まる。

そんな周りをよそに、さやかは一度小さくため息をついたのちに引き締めた表情を見せる。

 

「一つ、確認させてほしい。これを聞くということは、マギウスの翼の行いを理解するということに他ならない。聞いてしまえば、彼女らに対する印象が大きく変えられてしまうことは避けられない。これはただ単に人々に害を為す集団と認識していられる、最後の境界線だ。」

 

それでも、聞くのか?と念押しするさやかの視線の先には魔女との戦闘を終えたのか、はたまたさやか達のやりとりの一部始終を見てしまったのか、どよめいているような仲間達の姿があった。

 

「聞かせてもらいましょう。先ほどのが貴方が言っていた特級の爆弾なのであれば、もはや賽は投げられた、ということなのでしょう。」

 

「どのみち話す覚悟はあったんでしょ?腹を括るだなんだって言っていたのも聞いてきたわよ。」

 

指揮を任せていた魔法少女2人の言葉に周りの魔法少女達も警戒、恐れといった思い思いの顔を浮かばせながらも、頷く姿勢を見せた。

 

「………………わかった。なら話すとしよう。魔女化の運命のことを」




更新はマチマチになるだろうけど、頑張ります!


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第96話 私たちは示さなければならない

こ、更新スピードがぁ‥‥‥‥(白目)
あとマギレコアニメ公式のガイドブックほしいよお‥‥‥‥


 

「どこから話したものか…‥‥みんなはキュウべぇにソウルジェムに穢れがたまりすぎるとどうなるかを聞いたりはしたか?」

 

「‥‥‥‥‥確か、魔力の行使が難しくなるとかどうとかって言っていたわね。」

 

「そうなのか?思い返せば、私は奴から聞いたことないのだが。」

 

さやかがこぼした魔女化の言葉にみんなは訳がわからないという様子だったが、平静を保てているこのはが渋い顔を見せながらもそう返すと我に返ったようにそろって頷いた。

それにさやかは確認ついでにほむらに聞くと、彼女からも頷かれ、キュウべぇが実際にそう答えていたことの裏づけを取った。

 

「‥‥‥‥どこまで人を愚弄すれば気が済むんだ。」

 

あまり誰かに対する悪感情を見せないさやかが明確に嫌悪しているように言葉を吐き捨てる様子に事の重大さを如実に感じ取る。

 

「‥‥‥‥まず初歩的な疑問だ。ソウルジェムの穢れは魔女から得られるグリーフシードを使うことで取り除くことができるというのはほとんどの魔法少女の共通認識だと思うが、そもそも‥‥‥なぜグリーフシードがソウルジェムに干渉できるかを考えたことはあるか?」

 

さやかの問いかけにその場の魔法少女はほとんどが顔を見合わせて小首をかしげる。自身にとってもはや生活の一部のようなものになった当たり前のことを突然疑えということを言われても難しいのだろう。

 

「魔力を行使するなり、普段の生活をしているだけでもソウルジェムの中に生まれる穢れと呼ばれる黒いモヤは魔女の卵であるグリーフシードに吸収させることで除去することができる。そしてグリーフシードは穢れを吸収することで成長し、やがては魔女が孵化をする。妙だとは思えないか?なぜ魔女のエサとも呼べる穢れがソウルジェムから生まれ、それをグリーフシードがとることができる?その理由は本質的にこの二つは同じだからだ。」

 

「グリーフシードとソウルジェムが同じって‥‥‥どういうこと?」

 

ソウルジェムとグリーフシードは同じものである、というさやかの言葉に怪訝そうな顔を浮かべるあきらがその詳細を求める。

魔女と魔法少女、倒される者と倒す者、正反対に位置しているはずの両者が持っているものが同じだということにあまりピンとこない様子。周りの魔法少女も似たように首を傾げたりしている。

一笑に付すような反応を見せたりしないのは幸いか。

 

「まず、ソウルジェムの元とされているのが契約した魔法少女の魂だということはしっかりと聞いてくれているな?」

 

「たましいっていうのはよくわかんないけど、要は壊されたりしたらヤバいんだよね!!このはや葉月がそう言ってくれてたもん!!」

 

さやかの確認に三栗あやめが表情に影をみせながらも声高にそう答える。

自分で理解してないのは少々問題だとは思うが、彼女は端的に言えばフェリシアと同タイプの人間なのだろう。

思わず大丈夫なのかとあやめが挙げた保護者二人に目線を送るが、気にしないでほしいと言わんばかりの小さなため息と乾いた笑みにひとまず流すことにした。

 

「そうだな、壊されるとヤバい。より明確に言うなら、ソウルジェムが破壊された魔法少女に待ち受けるのは問答無用の死だ。たとえ直前までどんなに健康体だったとしても魂が破壊されれば、生命活動はしない。肉体はただの器でしかなく、むしろ管理しやすいようにした‥‥‥‥‥というのがキュウべぇが言ってきたことだ。」

 

さやかはそして、と言いながら自身の懐から魔女の卵であるグリーフシードを取り出す。

取り出されたグリーフシードは彼女の掌の上で浮遊し、それがこの世のものでないかのような雰囲気を生み出す。

 

「グリーフシードの元と言うと、これもまた魂が大元の原材料になる。」

 

「‥‥‥‥‥魂、ですか。ソウルジェムとグリーフシードが同質であるというのもそこからですか?」

 

「…‥‥‥そうだな、少し言葉遊びのようなものだ。」

 

ななかの質問にさやかは少し考える素振りを見せると、唐突に言葉遊びと言い出した。突然のことに質問したななかはもちろんほとんどが反応に困った様子を見せる。

 

「これは今々思いついたことなのだが、私たち魔法少女は成長するとどのように呼ばれるのが常だ?」

 

「?‥‥‥‥‥成長するんだから大人の女性じゃないの?」

 

さやかの質問に疑問符を浮かべたひみかはそう呟きながら近くにいた十七夜に視線を送る。

 

「‥‥‥‥相当悪趣味な冗談だな。」

 

しかし十七夜の表情はとてつもなくいらだっているように顔をしかめっ面にしていた。さやかの言いたいことを理解したのか、嫌悪感をまるで隠そうとしない。

 

「‥‥‥‥‥魔法少女は言い換えると魔法を使うことのできる少女です。」

 

その発言をした魔法少女にその場の全員の視線が向けられる。

 

「ですが、美樹さんの言葉通りに私たちが成長すれば、魔法が使える女性です。少女ではありません。まして魔法少女でもない────」

 

「それは…‥‥‥一般的には『魔女』と呼ばれる範囲になってしまいます。」

 

そう言い切ったかこの言葉にそれまで知らなかった魔法少女、特に聡明であるななかやこのはは否が応でも察してしまう。

 

「まさか、グリーフシードは…‥‥ソウルジェムが元なの‥‥‥‥!?」

 

「正確に言うと、ソウルジェムにため込んだ穢れが限界に達するとソウルジェムはグリーフシードに変貌し、魔女が生まれる。魔女の子供だから、魔法少女なんだ。」

 

「ちょ、ちょっと待つネ!!だとしたら、ワタシたちが今まで倒してきた魔女は元は────」

 

困惑している美雨だったが、目の前に差し込まれた腕に驚き、動きを止める。

 

「‥‥‥‥それ以上はダメです。言葉にしてしまったら、私たちは是が非でも認識しないといけません。ですが、どうなんですか?実のところ。」

 

静止した本人であるななかだが、その額から汗が流れる。自分たちが倒してきた魔女は元は自分たちと同じ魔法少女だということは流石の彼女でも堪えるものがあるのだろう。

 

「‥‥‥‥‥魔女は使い魔が成長しても生まれはする。グリーフシードが落ちてきたからといって、それがそうである確証はどこにもない。」

 

「そう、ですか…‥‥‥」

 

わずかにはぐらかした言い方だが、さやかの答えにひとまず安堵のため息を吐く。それでもあまり表情は優れない。

 

「ひとつ確認させて。ソウルジェムがグリーフシードになった場合も、その魔法少女は死んでしまうの?」

 

「同じよ。さやかは変貌するって言い方をしたけど、魔女化は正確に言うならグリーフシードがソウルジェムを食い破ってでてくるわ。魂が形にされたソウルジェムを壊されてるのだから。かろうじて抜け殻になった肉体は残るかもだけど。」

 

「そ、それじゃあ私たち、魔法少女になった時点で死んじゃうのが決めつけられているってことなんですか!?」

 

このはの質問にほむらがそう返す。

その無慈悲な答えにこのはは痛々しい様子で表情を歪め、このみは悲鳴のような声で自分たちの運命が決められてしまったことを嘆く。

他の魔法少女たちも似たようにショックを隠し切れない様子だ。

 

「ねぇ、さっさん。ソウルジェムの穢れがマジヤバになったら魔女になるってことでいいんだと思うんだけど‥‥‥‥それならさっきの子の時はなに?なんか反応みてた感じほむほむがソウルジェムから穢れとったっぽいんだけど…‥‥‥普通に生きてるよね?」

 

「‥‥‥‥そうだな。そっちについても話さないとな。」

 

彼女らの様子にさやかはいたたまれない感覚を覚えるが、衣美里から横たわっている黒羽根の魔法少女のことを聞かれる。

確かに魔女化のことを聞かされた直後であれば、彼女のことが引っかかるのは自然な事だろう。

ソウルジェムから穢れがあふれ出て、魔女みたいなものが出てきたはずだが、それにも関わらず気絶しているだけで済んでいる。さやかの話が真実であれば、彼女は死んでいなければならない。なにより魔法少女の魂が変貌した魔女を倒したにも関わらず、グリーフシードを落とさなかった。

 

「確かにあれもソウルジェムの穢れがたまりすぎたことが原因だ。だが…‥今のは魔女化ではなく、ドッペルと呼ばれる現象だ。そしてあれが、マギウスの翼が魔法少女の救済の旗として振りかざしているものだ。」

 

さやかはマギウスの翼が救済として謳っているドッペルについて語りだす。

発動するトリガーは魔女化と同じようにソウルジェムの穢れが限界に達したとき。しかし決定的に違うのはドッペルを発現してもその魔法少女は死なないこと。そして何より抱えていたはずの穢れが仕組みは未だ不明だが、きれいさっぱり、まるで何事もなかったかのようになくなることだ。

 

「ドッペルね…‥‥‥それがあるのなら、そのマギウスの翼がやっていることは見た限りだと私たちのためにやっているように思えるのだけど?」

 

「…‥‥‥そうだ。それだけを聞くなら彼女たちのやっていることは間違いなく善だ。」

 

このはの指摘にさやかは否定せず、頷きをもってそれを是とする。

実際にその通り、マギウスの翼のやろうとしていることは目の前にある運命からの脱却を目指そうとする、魔法少女たちの足掻こうとする意志そのものだ。

 

「だが、奴らのドッペルは急ごしらえの可能性が高いのも事実なんだ。提供元は伏せるが、あのドッペルには強い副作用と依存性が存在することを聞かされている。そして何より、彼女たちが向かう先は犠牲が多すぎる。要は奴らは答えを急ぎ過ぎているんだ。だから、私から言えることはこれだけだ。」

 

「頼む。彼女たちを止めるために私たちと一緒に偽善に付き合ってくれ。」

 

そういってさやかは頭を下げ、魔法少女たちに請うた。

ついに知ってしまった魔女化のこととそれからの脱却を目指しているというマギウスの翼の目的を知ったことにななかたちはお互いの顔を見合わせる。

明らかに動揺しているような反応だ。無理もない様子だろう。このはの質問に答えた通り、やろうとしていることは向こうが正しい。

 

(やはり…‥‥難しいか?)

 

反応が芳しくないことに下げた頭の影で渋い表情を見せるさやか。

確かに魔法少女に課せられた運命はこの上なく残酷だ。それをどうにかしたいというのも理解できているつもりだ。だがそれでも、そこに見知らぬ誰かの犠牲があるのはどうしても目を背けられなかった。

綺麗事と言われようともそれでいい。甘いと言われても構わない。それでも自分たち程度の年齢はそれ(綺麗事)を目指すくらいがちょうどいい。自分たちに人の死を乗り越えていくのは(こく)すぎると。

 

「‥‥‥‥ドッペルはそう簡単に制御できるものではないんです。」

 

突然いろはがそんなことを言い始める。

思わずさやかがびっくりしながら顔を上げると何か決意めいたものは感じさせる表情を見せるいろはの姿がそこにあった。

 

「私もあのドッペルを出してしまったことがあります。確かにドッペルはさやかさんの説明通り、それまであったはずの穢れを失くすのは確かなんです。さらにはウワサ相手に一方的に倒してしまうまで強力なもの…‥‥‥でもあるんです。」

 

なぜか最後だけわずかに言いよどむようなはっきりとしない様子を見せたいろはだが、たぶん突っ込んではいけないタイプのそれだ。

そういう反応を見せたのは目の前に相性によるものもあったとはいえ、絵具による無慈悲かつ強力な範囲攻撃を持つアリナ・グレイのドッペルを完封に近い形で勝利しているさやかがいるため、少しだけドッペルは強力なものであるという認識が揺らいだのだろう。

 

「でも同時にドッペルには暴走する危険性もあります。私が初めてドッペルを出してしまったときも力を制御しきれないで暴走してしまっていました。そうなってしまえば、ドッペルは魔女と変わりはない、と私は思います。もしかしたら、周りにいる仲間の魔法少女の人たちにケガをさせてしまうかも…‥‥‥」

 

「だから、私もマギウスの翼の人たちを止めたいです。だれかを傷つけてしまう可能性のある方法で救われたということになっても、私は救われたなんて思いたくありません。」

 

いろはの言葉にその場の空気が沈黙で支配される。

どの魔法少女も難しい表情を見せたり、顔を見合わせたりしている。

 

「あの組織はウワサを使って無関係な人々に危害を加えています。今回我々が見つけ出した『鉄火塚』と『覗き見城下町』なるウワサには犠牲者と思われる人の姿もありました。いくら魔法少女に過酷な定めが待ち受けていたとしても、それが他者に犠牲を強いる理由になることはないでしょう。」

 

「…‥‥‥ななかの言う通りだよ。確かに最終的に魔女になっちゃって、そうはならないようにするって方法があるっていうのはすごくショックだし、驚いてる。だけど、それ以上にウワサを使っていろんな人を傷つけているのは、ボクとしては見過ごせないよ。だって、知らない誰かを踏み台にして犠牲にするのはいろはちゃんが言うように、魔女とやってることは大差ないと思う。みんなはどう?」

 

沈黙を打ち破ったななかとあきらの声に考えこむ魔法少女たち。

そして幾ばくかの時間が経ったとき、頷く様子を見せた。

 

「あきらっちの言う通りっしょ!!確かに魔女になっちゃうのは鬼ヤバだけど、それで他のみんなを襲うのはあーしもっとイヤなんだし!」

 

「うん。その通りだと思うよ私も。何より私が目指しているのはみんなを守る騎士!!自分のために犠牲なんて出してたら、騎士の名折れだよ!」

 

「無辜の人々を襲って自らの目的の糧にしようなど、言語道断!!我が竜真流の錆にしてくれますよ!!」

 

衣美里たち三人の声に続くようにその場にいる魔法少女たちの総意が出る。

直前までにその表情に戸惑いがあったはずだが、今はその表情に絶望を感じさせるようなものはない。みなマギウスの翼を止めようという意志で団結していた。

 

「ハッ…‥‥‥お人よしが多すぎんだろ、この町はよ。」

 

神浜市の魔法少女のそんな様子に杏子はうんざりしているような身振りを見せるが、表情にそれを示すようなものはなく、むしろどこかしょうがないというような笑みを見せていた。

 

「だからでしょうね。いくら魔女がたくさんいる状況とはいえ、これを聞かされたらどこかで魔法少女同士の殺し合いに発展してもおかしくないわ。」

 

「…‥‥‥確か私、暁美さんが繰り返した時間の中でこれ聞かされたあとに佐倉さんのソウルジェムを撃ち抜いたとか言っていたわよね。」

 

「え、マジ?」

 

ほむらの言葉にマミが微妙な顔でそう呟くと、表情から色が消えた杏子が自身の胸元のソウルジェムを反射的に守るように手で隠した。

その反応にマミは慌てた様子で咄嗟に違うの、と言って弁護を始めるが、突然隣の人間から自分の(タマ)獲ったことがあるなんて聞かされれば当然の反応である。

 

「ねぇ、一つ聞いてもいいかしら?」

 

そんな中、このはが声を挙げる。

何やら聞きたげな様子だが、その視線の先に言わずもがなさやかの姿があった。

 

「貴方はこの前、この神浜市にワルプルギスの夜が来るって言っていたわね。それとマギウスの翼についてある程度教えてもらったときに向こうには魔女の動向を制御する手段があって、それで不自然なくらいに神浜市に魔女を集められているとも言っていた。つまりここのところの不可解な現象はたいていがマギウスの翼の仕業と見ていいのよね。」

 

このはの確認ともとれる質問にさやかは頷く。

それを見たこのははさらに続ける。

 

「なら、その目的は一体なんなの?救済ってうたってはいるけど、向こうの一連の動きの関連性がまるでつかめないわ。何かまだあるんじゃないの?」

 

「‥‥‥‥‥その通りだ。まだ奴らの救済の要とも呼ばれている存在がいる。それがマギウスの間でエンブリオ・イヴと呼ばれている存在だ。」

 

さやかがマギウスの翼の救済の要と思われるエンブリオ・イヴの名を明かす。

しかし、それなりの地位にいるであろう白羽根ですら詳細がまるで知らされていないという得体の知れなさに一同は不可解だと感じざるを得ない。

 

「それ、グループとしてはかなり怪しいネ。組織における上下の透明性が確かじゃないなんて、明らかに上の人間のマギウスに何か別の目的があるとしか思えないネ。」

 

地元で『蒼海幇』という組織に身を置く美雨がはっきりとマギウスの翼のいびつさを指摘する。

さやかも以前からマギウスの翼の組織としてのあやふや感は感じていた。弱冠小学生がリーダーをしているらしいことからそういう風になってしまうのも致し方ないのもあるのかもしれないが、それでも隠し切れないちぐはぐ感はあった。

 

「‥‥‥‥‥とはいえ、この問題は自分たちがここでいくら議論を重ねても議会が回るだけだろう。」

 

「ま、十七夜の言う通り、でもあんのかもな。はっきり言ってアタシたちにはあまり時間が残されていない。」

 

十七夜とひなののやりとりにほとんどが険しい表情を見せる。

空を見上げると、まだ午後二時に近い時刻にも関わらず、すでに分厚い灰色の雲で覆いつくされている。吹く風も冷たく、周りではゴミやらが風に舞いあげられている。それはまさに台風の予兆そのものだ。

現在神浜市上空を通過すると思われるスーパーセルの巨大台風。普通の人々にとっては未曽有の災害にしか見えないが、それを引き起こしているのがワルプルギスの夜だ。

 

「予報ではあと二日…‥‥ってところね。正直言って向こうが行動を起こしてからしか手出しができないって思っていたけど、黒江さんが来てくれたのはまだこっちにツキはあるって思っていいのかもしれないわね。もしかしたら向こうの出鼻を挫くことができるかもしれない。」

 

「そんな‥‥‥‥私はただ環さんの手伝いができればいいって思っているだけなので…‥‥‥」

 

黒江がこちら側に来てくれたことをありがたいというほむらに黒江は気恥ずかしそうにする。

そこで黒江から現在のフェントホープの居所を聞くと、知っている限りだと、神西神浜駅近くの屋上庭園のあるビル────つまるところさやかが初めていろはと黒江と出会ったあのビルとのことだった。

 

「すまない、最後に少しだけ時間をくれないか?」

 

そして明日にフェントホープへのカチコミを行うことにし、黒羽根の魔法少女も一時的にみかづき荘で預かることで話がまとまったところでさやかが声を挙げる。

その場にいる全員の目線が自身に向いたことを確認したさやかが一つ小さく息を吐いた。

 

「…‥‥‥‥これは、ただ単にマギウスの翼‥‥彼女たちの行いを止めただけでは解決したことにはならない。」

 

さやかは全員に語り掛けるように話し出す。

偏に魔法少女といっても人間と同じように千差万別である。強い魔法少女もいれば弱い魔法少女もいる。中には魔女に勝つのもやっとでグリーフシードを得るのが難しい魔法少女もいる。

そのものにとってはマギウスの翼は紛れもなく、希望であると言えるだろう。

 

「私たちは人々がその行いに出る犠牲を看過できない…‥‥ある種のエゴのようなもので彼女たちの希望を砕きに行く。それは紛れもない事実。そして決して目をそらしてはいけないことだ。」

 

故にさやかは言う。マギウスのやろうとしている救済。それに代わる代替え案が必要不可欠だと。

 

「そうでなければ、確実に尾を引いてまた魔法少女同士で戦わなければいけなくなる。だから私たちは示さなければならない。誰も戦わなくてもいい、犠牲もいらないような可能性の光を。」

 

そういうとさやかは魔法少女に変身し、GN粒子の力で空へと浮かび上がる。

その行動に全員が何事かと思い、空へ飛ぶさやかを凝視する。

 

「オーライザー!!ドッキングモード!!!」

 

さやかの声と共にオーライザーが出現すると、GNドライヴがさやかの背部に回り、変形したオーライザーとドッキングをする。

 

「────────」

 

支援用の戦闘機と言われていたモノと合体したことに全員が目を白黒させて驚きを露わにしている間に、さやかが何かを呟いた。

その瞬間、暗かったはずの神浜市の町を、一瞬だけまばゆい光が照らしだした。

 




次回、最終章突入!!…‥‥‥‥の前に一つだけ幕間をやるんじゃ。
みんな忘れてるだろうけどこの話は『まどか☆マギカ』なんでな…‥‥

次回!『また あした』

更新日不明!!!!(白目)


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第97話 『夜』を超えるために

うん、やっぱり今回もダメだったよ(白目)
長くなって話を分けざるを得なくなったんご


 

「こういうのはよくわからないが…‥‥‥こんな感じでいいのだろうか?」

 

一人自室の中で首をかしげるさやか。

表情は疑問気なものだが、その目線の先には大きめなリュックサックがあった。

その中には相当な量のものが詰め込まれているのか、大きく膨らみ、見るからにパンパンだ。

対照的にさやかの自室はどこかガランとした様子を醸し出す。

それはまるで、部屋を丸々とそのリュックの中に押し込んでしまったかのようだった。

 

「避難準備など、いくら教わったところで実際に機会が来ないとやらないからな…‥‥‥」

 

うーん、とうなり声を上げるさやか。

今彼女は避難場所に移動するための荷造りをしているところだ。

何から避難するかと言えば、現在神浜市に近づいている超巨大なスーパーセルに他ならない。

無論、その正体はワルプルギスの夜なのだが、魔女を見ることができない一般の人々にはそれらはただの災害としか認識されない。

それでもその規模が破格すぎるためか、こうして離れているはずの見滝原にまで役所から避難警報が発令されていた。

 

「スマホに充電器‥‥‥それにモバイルバッテリー…‥‥避難所は基本人でごった返すだろうから充電できないつもりでいろって父さんが言っていたからなぁ…‥‥」

 

最終確認をするように一度丸々に膨らんだリュックサックから一つ一つ中身を確認していくさやか。

 

「普段着もそうだし…‥‥下着類も例に及ばず‥‥‥‥歯ブラシとか生活用品に加えてそういう系の用品も…‥‥‥非常食とかは基本父さんたちが持って行ってくれると言っていたから自分の分は必要最低限ならこのくらいか?」

 

「さやかー?荷造りの調子はどうだー?なんか手伝いはいるかー?」

 

とりあえずこれでいいか、と決めたところで下から慎一郎の声が聞こえてくる。

急いで持っていくものをリュックに押し込むと少し駆け足で下に駆け降りる。

 

「初めてのことだからよくわからないが、これでいいのか?」

 

「いや、俺に言われてもなぁ…‥‥お前さんが必要だと思ったもんもってけばいいだろ?」

 

不安そうにリュックを預けるさやかに困惑気にしながらそれを受け取る慎一郎。

自分が必要だと思ったものを持っていけばいいという言葉にさやかはならいいかと、結論を出す。

 

「しっかし、さやかも災難だな。二学期も近いってのに、こんな台風で休校になるなんてな。」

 

「まぁ、休みが伸びたと思っておく。別にみんなともう会えなくなるわけではないのだが」

 

(最も、あのワルプルギスの夜を越えられたらの話だが………………)

 

慎一郎の言葉にそう返したさやかだが、内心ではワルプルギスの夜に対する不安で気が気でなかった。

何度か交戦経験のあるほむらの言葉だが、ワルプルギスの夜が通ったあとは何も残らないレベルで全てが破壊されるらしい。それこそ、そこが街だったことすらわからなくなってしまうまで。

明らかに他の魔女とは規模から何まで、すべてが桁外れな印象を覚え、険しい表情を隠し切れない。

 

「ん…‥‥?」

 

そんな時、さやかのそんな思考から意識を離れさせるインターホンが鳴らされる。

荷物の整理をしていた慎一郎が腰を上げようとするより早く、さやかが玄関へと駆ける。

 

「ど、どうも、お邪魔します…‥‥」

 

「じゃまさせてもらうぜー」

 

玄関の扉を開けると、どこか緊張したようなマミと気楽そうな杏子の対照的な姿が目に映る。

マミはともかく、さやかは杏子の姿を見た途端思わずしかめっ面に近い表情を浮かべてしまう。

 

 

「…‥‥‥いや、一応お前が事実上の居候状態なのはわかっていたが。」

 

「んだよー、来ちゃ悪いってのかよ。どーせあとで合流すんだからよー。」

 

「まぁ、お前の言う通りではあるか。」

 

「へへっ、お前のそういう割り切りの早いところは結構好きだぜ?」

 

気ままにふるまう杏子に眉間に指をあててため息を零すさやか。

実のところ、マミがさやかの家を訪れたのはさやか自身が彼女を呼んだのもある。

さやかは自分から踏み込んでいってしまったのもあったが、マミが事故で両親を亡くしているのを知っている。

そのため、避難所で一人で生活するのは厳しいだろうという建前で慎一郎に行動を共にできないかを相談したところ、顔見知りになっていたのとマミの事情を通していたのが功を奏し、二つ返事でこれを了承。

そしてマミに連絡し、彼女に来てもらう運びになった。

 

「お、マミちゃん来たか‥‥‥‥‥って、そっちの子は‥‥‥‥?」

 

(あー…‥‥‥なんて言い訳すりゃいいんだ?)

 

(ノープランで来たのか!?言い訳くらい事前に考えてくるものではッ!?)

 

当然呼んでいない上に見知らぬ女子がいることを慎一郎に怪訝な表情で指摘されるが、それの言い訳をまるで考えていなかった杏子にさやかは思わず目を大きく見開く。

 

「え、えっと…‥‥‥こ、この子は最近私の部屋に居つくようになったんですけど、身寄りが、いないんです。私と同じように。」

 

「お、おいマミ────」

 

たどたどしい口調で言葉を並べ始めるマミに杏子は声を挙げようとするが、それより先に口を挟まないでほしいと言わんばかりにマミに横目でにらまれ、思わず言葉を詰まらせた。

 

「前から交流はあったんですけど、身寄りがいないことを知ってから気が気でなくなって‥‥‥‥一応遠い親戚からの仕送りは多めにあったので今まで生活できていたんですけど、今回の台風は普段のとは訳が違うみたいで‥‥‥‥私のわがままで勝手に連れてきたんです。ですので‥‥‥‥ご、ごめんなさい!!」

 

「…‥‥‥‥‥さやかは、この子とも知り合いなのか?」

 

マミの謝罪の言葉に慎一郎は逡巡するようにマミと杏子の二人を交互に見やったあとにさやかにそう尋ねる。

 

「ああ。色々あったが、彼女は私の仲間‥‥‥‥‥いや、気の知れた友達、と言った方が正しいか。」

 

「さやか‥‥‥‥お前…‥‥」

 

慎一郎の言葉にさやかは一分の惑いすら感じさせないまっすぐとした面持ちでそう返した。

杏子はさやかの答えに呆けたようにしているとハッとなって顔を隠すように後ろを振り向いた。

 

「‥‥‥‥‥‥オーライ。よくわかった。娘の友達にせよなんにせよ、子供を一人でほっぽってちゃあ大人として失格だぜ。それで、そこのお嬢ちゃん?よければ名前を教えてもらえると助かるんだが…‥‥」

 

「お、おじょ────い、いいのかよ?こちとら勝手に押しかけてきたも同然なんだぜ。」

 

「おぉうおぉう、これはまた気が難しそうなのを連れてきちゃってまぁ。いいんだよ、こんな異常事態なんだし気にすんな。そもそも気にする歳でもあるまいし、子供は素直に大人に甘えとけばいいんだよ。わがままでいてくれるだけかわいげがあるってもんだ。」

 

「それは遠回しに私に娘としてのかわいげがないと言っているのと同じでは?」

 

「ハッハッ、手がかからないってのがいいもんなのは確かだけどな。」

 

さやかから向けられる白い目線に慎一郎は話題を逸らすように笑い飛ばした。

 

「…‥‥‥ったく、コイツがコイツなら親も親、ってわけかよ。アタシは佐倉杏子。多分少しだけだけど世話になるぜ、おっさん?」

 

「…‥‥‥まぁ、子持ちの大人なんて中学生からすりゃみんなおっさんだよなぁ。」

 

さやかと慎一郎のやりとりに杏子は少しだけ鼻をすすったようにすると自己紹介ついでにさっきのお嬢さん呼ばわりの仕返しをするように慎一郎のことをおっさん扱いする。

杏子の返しがまぁまぁダメージになったのか、慎一郎は脱力するように肩を落とし、二人を招きいれるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥‥‥お前がなんでそんな図太い性格で生まれてきたのかがわかった気がする。」

 

「一体なんだ、唐突に。」

 

さやかのベットで顔を突っ伏して沈んでいる杏子にさやかが微妙な顔で見つめる。

 

「いや、あんなにメシたらふく食わされるとは思ってもなかったからさ…‥‥‥」

 

「まぁ‥‥‥‥母さんからすればそれなりの日数を空けてしまうだろうから冷蔵庫の中身を減らすにはちょうどよかったと思うが。」

 

「にしても限度ってもんがあんだろ‥‥‥‥アタシこれでも小食家なんだよ‥‥‥」

 

「佐倉さん、基本お菓子で済まそうとするものね‥‥‥‥流石に栄養バランス的にどうかと思っていたからコンビニのおにぎりとか手ごろなものは食べるようにはさせてたけど。」

 

杏子がベットに突っ伏している理由はさやかの母親の理多奈が奮発して作った料理の量がかなりのものだったからだ。

彼女からしてみれば、人数が増えればその分使う材料の量も上がるわけで、さやかの言う通り冷蔵庫の中身を減らすにはもってこいの機会だっただろう。

 

「ひっさびさにまともなもん食い過ぎてどーにかなりそうだぜ…‥‥‥」

 

それだけ言うと杏子はふて寝をするように人さまのベットを我が物顔で占領を続ける。

その様子をため息一つで流したさやかはスマホを取り出すとチャットアプリを起動させる。

 

「あー‥‥‥‥すまない、夕飯を食べてて遅れた。」

 

『遅いわね、こっちはもう準備できてるわよ。』

 

チャットアプリのルームにはすでに共に戦う仲間たちがほとんどそろっており、入りながら遅れたことを謝ると先に入っていたやちよから小言を言われてしまう。

 

『一応確認なのですが、この通話はマギウスの翼の本拠地、フェントホープへ突入する際の最終確認、という認識でよろしいですよね?』

 

「ああ、そうだな。私たちがとる行動は主に三つだ。一つは私情も入っているが‥‥‥‥」

 

ななかの促しにさやかは表情を切り替えながら三本指を立て、自分たちの行動の再確認をする。

 

神浜市の魔女が飽和している異常事態の解消

 

エンブリオ・イヴの詳細、状況と場合次第で破壊

 

そして行方不明になっているみかづき荘メンバーの捜索

 

『そしてこれらを超えた先に待っているのがワルプルギスの夜、か。』

 

一通り目的を羅列したあとに重々しい口調で十七夜がワルプルギスの夜の名を口にすると、画面に写っている仲間たちの表情も同じように張り詰めたものになる。

ベテランの間でしかその存在を知られていないワルプルギスの夜だが、戦闘経験があるというほむらからその魔女の詳細を聞かされるとほとんどが青い表情、もしくはそれに準じたものを抱いていただろう。

率直に、勝てるのかと。通り過ぎるだけでも災害にも等しい存在に勝機を見出すことはできるのかと。

 

『でも十七夜さん、その魔女を止めないと神浜市は滅茶苦茶にされちゃうんだよね。だったらアタシは止めたいよ。ここには家族のみんなとの大事な明日があるから。』

 

『明日、か。』

 

家族との明日を守りたいというひみかの言葉に十七夜は淡泊ともとれる反応を返す。

その反応の仕方にさやかは十七夜の抱えている闇ともとれる怒りを思い出す。

西側と東側の地区が抱えている格差に十七夜は一回神浜全体を壊すこともやぶさかではないとこぼしていた。

そしてここにきて最強最悪の魔女、ワルプルギスの夜の襲来は彼女の心の内で抱えているものを果たすには割ともってこいのタイミングだ。

 

「…‥‥‥?」

 

他の魔法少女たちがワルプルギスの夜のことで緊迫した顔を見せている中、別のことで気を張っていたさやかだが、そこに一通のメッセージが標示される。

他人には見えない形で送られたメッセージの主は、十七夜だった。画面では何やら難しい顔を見せているが、目線はわずかに下を向いているようにも見える。

 

『美樹君が憂いることはない。流石に自分一人のエゴで皆の生活を壊すつもりは今はないとも。』

 

(今は、か。)

 

メッセージの内容にひとまずの安堵を覚えるさやか。

一応危機感をかなぐり捨てたわけではないが、それは今は考えることではないと頭の片隅に押し込んだ。

少し会話から意識を外していたが、どうやら皆怖いものは怖いがそれでも守りたいものがあるからと、ワルプルギスの夜のことになってもそこまで悲観的ではない様子なのが見て取れた。

 

「……………まず、一つ目の魔女の飽和状態についてだが、これについて黒羽根としてわかっていることはない、ということでいいのだな?黒江───そして七瀬ゆきか。」

 

『それに関してはその通りでなんとも……………』

 

『黒江さんと同じ、です。申し訳ありません…………』

 

さやかの質問におずおずとした口調でやちよの画面から2人分の返答が返ってくる。

マギウスの翼から離反することを決めた黒江と、ちょうど彼女と同じタイミングで拾った黒羽根の魔法少女、七瀬ゆきかだ。

先日の夜、彼女が気絶したまま別れたが、その後やちよから連絡が入り、ゆきかが目を覚ましたことを知らされる。

 

 

 

 

「……………なるほどな。偶然とはいえ、あそこで私が割り込んでいたのは間違いではなかったのか。」

 

『はい……………あの、その節はありがとうございました。まさかドッペルからの干渉を遮断してしまうなんて………………』

 

「いや、あれはほとんど状況による成り行きだ。しかし……………いろはの予見した通りだったか。」

 

先日の夜、目を覚ましたゆきかからの感謝の言葉をよそにさやかは考え込む表情を浮かべる。

 

『ええ、そうね。薄々と危険なシロモノとは認識していたけど、まさか暴走を通り越して使用者を取り込もうとするなんて。それで七瀬さん、貴方が見た魔法少女とドッペルの融合したモノが隔離されている部屋があるって言うのは信じていいのね?』

 

『はい。間違いなく。見た目はおぞましく、醜悪なものでありましたが、それには確かに人の面影を感じさせられるような顔があり、そのどれもがマギウスの翼の中のどこかでお見受けした魔法少女でした。』

 

「…‥‥‥その条件はやはりドッペルの乱発か?」

 

さやかの問いかけにゆきかは通話越しながらもそれを感じざるを得ないような重々しい口ぶりではい、と答える。

ゆきかがマギウスの翼から離反したのはマギウスが救済と謳っているドッペルウィッチに致命的な欠点を見つけてしまったからだ。

それはドッペルを乱用しすぎるとドッペルは暴走を超越し、使用者を取り込むことで魔女と変わりないようなバケモノになり果ててしまうことだ。

調整屋にてみたまからドッペルには強い副作用と依存性があると聞かされていたはいたが、そのあまりな末路にさやかややちよはもちろんのこと同席していたいろはや黒江でさえ戦慄に近いものを抱き、言葉を失う始末だった。

 

『‥‥‥‥‥でも、これで調整屋の元に行く必要はなくなった、ってことよね?』

 

「いや、八雲みたまのところには余計にいかなければならなくなった。」

 

さやかの返しに怪訝な表情を見せるやちよ。

仮にみたまが話そうとしていたことが、この成れ果てのことであるなら、その情報を得た以上、すでに彼女の元に出向く必要はなくなり、戦力を下手に分散させる必要もない。

 

「…‥‥‥それは、全部事態を解決したら、戻るものなのか?元の人間の姿に。私は何も対策を施さないままでは戻らない可能性が高いと踏んでいる。」

 

『ッ…‥‥貴方、まさか────』

 

 

 

 

 

 

「みかづき荘メンバーの捜索は七海やちよといろはを筆頭にななかたち4人と都ひなのに頼みたい。」

 

『はい!絶対にみんなを連れ戻してきます!』

 

『承りました。こちらも全力を尽くすことを約束します。』

 

『お?アタシもか?』

 

各グループのリーダーであるいろはとななかの答えの中、ひなのはどこか意外そうな反応を返した。

 

「目的が同じ人たちでまとめた方が早いと思ったからな。先達としての威厳を見せる時ではないか?」

 

『なるほどな……………わかった、助かる。』

 

「で、あとのメンバーは正直にいえばもはや行き当たりばったりがいいところなのがネックだな…………………強いて言うなら捜索メンバーが動きやすくするための遊撃か?」

 

『ならば美樹君、黒江君か七瀬君のどちらかを斥候として先に向かわせておくのはどうだろうか?』

 

「…………………偵察隊、ということか?」

 

『偵察、というより保険と言う方が正確だな。』

 

十七夜が言うには仮に向こうの目的にワルプルギスの夜を神浜市に連れてくることが含まれてるのなら、現段階で計画は最終段階に来ていると考えてもおかしくない。

そこで厄介な展開は明確に敵対している自分達がいることで本拠地の防衛が強化されることだ、と十七夜は語る。

セキュリティの強化や魔女やウワサによる戦力の増強が行われるとただでさえ悲惨な戦力差が余計に大きくなってしまう。

そこで黒羽根であった黒江か七瀬のどちらかを先に潜入させておけば、例えとして外側にカギを掛けられているような状況になったとしても内側から開けてもらうことで侵入することができる。

 

「‥‥‥‥頼めるか?黒江。」

 

『…‥‥‥わかりました。一応私はあるウワサを探していたところだったので、そのていで行けば怪しまれずにはいけると思う、かな。』

 

「分かった。だが荒事になったとき用に多少は戦力は持っていったほうがいいだろう。杏子?」

 

「あん?アタシに御守りをやれってか?」

 

「そうだが?」

 

ベットで横になっていた杏子がさやかからの頼みに若干不機嫌そうな顔で返すが、それにさやかは全く臆する様子もなくきょとんとした顔でバカ正直に頷く。

そのさやかの表情に杏子は眉をひそめていたが────

 

「へいへい、わーったよ、とりあえず黒江と一緒にいればいいんだな?」

 

「頼んだ。だが、荒事になるようなら彼女と行動を共にしながら好きに暴れてくれて構わない。」

 

「! ‥‥‥‥へへっ、中々言うようになってんじゃん。」

 

そう言いながら握った拳を向けてくる杏子。それに一瞬身構えるさやかだったが、彼女に敵意がないことをすぐさま察すると向けられた拳に自身の拳を突き合わせた。

 

「あ、それと七瀬はフェントホープに突入したら、私をドッペル病隔離室へ案内するのを頼む。そして十七夜にも同行してほしい。彼女を説得できるのが今のところ思い浮かばない。」

 

『‥‥‥‥あいわかった。やってみせよう。』

 

『わ、私も承知いたしました‥‥‥‥!!』

 

二人の様子に静かに頷くとさやかは一度画面に写っている全員の顔を見渡す。

 

「‥‥‥‥いいか、私たちはみんなの明日と日常を守りに行く。誰かの犠牲の上にある救済、そのようなものが果たされたとしても余計な呪いとなって歪みになるだけだ。だから私たちは、その救済を破壊する!だから私たちの戦いに誰かの犠牲なんか必要ない!!だから誰も死なせないし、誰も死ぬな!!!全力で『夜』を超え、明日を切り開くッ!!!」

 

さやかの気迫のこもった声に各々がそれに応えるように声を張り上げる。

舞台はついに最終幕に突入する。魔法少女たちの運命はこの二日間に大きく変貌を遂げるだろう。

 

 

 

 




最終幕とか言ったけど、もうちょい続くんじゃ。うん。


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第98話 少し世界を救ってくる

ダメだな、今回の話し書いてて自分で笑ってしまったところがあるんだよなぁ。
シラフでこれできないあたり自分もまだガンダムではないと思った


 

「あとはもうなるようになれ、としか言いようがないか。」

 

やちよたちとの最終確認を終えたさやかは一つ息を吐く。

猶予はもはや残されていない。

マギウスの目的がワルプルギスの夜である以上、反抗する側であるさやかたちはたとえ戦力が乏しい状態でも行動に移すだけしかできない。

 

「‥‥‥‥美樹さんはやれることをやっているわ。これは、どうやっても時間が足らなすぎるもの。数か月…‥もっと言うなら年単位でようやく向こうと張り合えるかどうかだと思うもの。だから足りない部分はみんなで補って、あの組織を止めに行きましょう?」

 

渋い表情を見せるさやかに隣にいるマミがそう慰めの声をかける。

掛けられた言葉にさやかは少し悩むような顔を見せたが、一言そうだな、と呟くと表情を緩ませた。

 

「…‥‥杏子と黒江に先行してもらっているからな。もしかしたら向こうでも何か情報を仕入れてきてくれるかも────ん?」

 

先に潜入しにいった二人に任せた英気でも養おうとか言おうとしたときにさやかは耳ざとくスマホの通知音が鳴ったのを聞き逃さなかった。

スマホの画面をつけてみると、そこにはメッセージが来たことを知らせる通知が。さやかがアプリをつけて送り主を確認すると、それはまどかから送られたものだった。

 

『今から会えたりしないかな‥‥‥‥迷惑だったりじゃなければいいけど…‥‥』

 

まどかとのトーク画面の中にそう書かれていたメッセージ。

彼女もワルプルギスの夜が神浜市に向かっていることを知っている。無論、さやかたちがそれの打倒に向かおうとしていることを。

心優しい彼女のことだからどうしても不安なのだろう。

その心中がわからないわけではなかったさやか。構わない、とまどかに返そうとしたが、その時には既に送られてきたメッセージが削除されてしまっていた。

 

「‥‥‥‥‥‥」

 

数瞬、間をおくように画面とにらめっこしていたさやかは即座に通話画面を起こし、まどかを呼びつける。

しばらく電話のコール音が耳に響いていたが────

 

『も、もしも────』

 

「遠慮する必要はない。私も、一度顔を合わせておきたいと思っていたからな。」

 

『────え、でも、大丈夫なの?』

 

さやかの切り出しに一瞬反応に窮したまどかだったが、至極まっとうな疑問が飛んでくる。

おそらく彼女の脳裏によぎっているのは外の様子のことだろう。

さやかが部屋のカーテンをめくって外を見てみると、確かに風は強いが雨が降ってくるような気配はない。

 

「まぁ、風は強いが雨は降ってないから用水路とか田んぼの様子を見に行くとかそういうのではないからな。」

 

『そ、そういうものなのかなぁ…‥‥‥』

 

「とはいえ、こういう電話越しで満足できるまどかではないだろう?」

 

『ま、満足って、そんな変な言い方しないでよ‥‥』

 

さやかの言いぐさにまどかはどこか恥ずかしがるような反応を見せたが、さやかから電話を掛けられたことがきっかけだったのか結局はまどかはさやかと一度顔を合わせたいと自身の本音を明かした。

 

 

 

 

「来たか。」

 

「うん……………って言ってもやっぱり風が強いね…………」

 

通学路の途中にある歩道橋で待ち合わせをした2人。

まどかの言う通り、風は強く、吹くたびに狭いところを通り抜けたような音が耳に入る。

若干の煩わしさを感じながらも、2人揃って髪を抑えている姿に思わず笑みをこぼしてしまう。

 

「インキュベーターは…………キュウべぇは相変わらずか?」

 

「そうなの!!もう聞いてよさやかちゃ〜ん!」

 

会話の皮切りにと出した最近のインキュベーターについて聞こうとした途端、堰を切ったような話し方で愚痴をこぼし始めるまどか。

どうやら相当しつこかったようだ。身振り手振りと体全体で表そうとしているまどかの姿に苦笑いと微笑みが入り混じった表情を浮かべる。

 

「わかっていたけど、こうまで頻繁に契約を迫られるとノイローゼとかになっちゃうよ〜…………」

 

歩道橋の手すりに項垂れるように頭を乗せるまどか。

そうまでしてまどかに契約を迫るのはやはりワルプルギスの夜が近づいていることも大きいのだろう。

 

「今日もか?」

 

「今日も。」

 

「それは災難だな。」

 

「むぅ……………返事に適当さを感じる…………」

 

さやかの返事に素っ気なさを感じたのか、頬を膨らませて不平不満を露わにするまどかには目線を逸らすことで逃れる。

そこからのまどかは今までの積もっていたものを全て吐き出すような勢いだった。

 

「……………ねぇ、さやかちゃん。大丈夫なの?」

 

ひとしきり話し、息切れを整えてるところから一転、どこか不安そうな面持ちを見せながらさやかに問いかけるまどか。

おおよそ優しいまどかのことだからそれを聞いてくることは分かりきっていた。

 

「………………わからないな。」

 

「!…………そう、だよね。わかる訳ないもんね…………」

 

さやかの答えにまどかは一度大きく目を見開いたあと、納得したような顔を見せるも俯かせる。

 

「だが、怖いと言うことだけは自覚している。」

 

「……………さやかちゃんでも、そう感じるくらいなんだね。」

 

「誰だって死ぬのは怖い。そう言ったのはまどかだろう?私も例に漏れないだけだ。」

 

「でも、さやかちゃんは行くんだよね?」

 

「………………ああ。もちろんだ。」

 

まどかの言葉に困り気味の表情で後ろ髪を触りながらも、はっきりとした声で返すさやか。

何も知らなければ、まだ平然としていられたかもしれない。

だけどさやかにはすでにそれができないくらいの繋がりがあった。

それを守るため、その者たちと共に明日へ進むためにさやかは神浜へ向かう。

 

「わたしが言えたことじゃないけど、さやかちゃんも相当なお人好しだよね。」

 

「………………まどかの卑屈な側面からくるものよりマシだと思うが。」

 

売り言葉に買い言葉。

さやかにそう言われたまどかは言ってはいけないことを、と言いたげに怒ったような顔を見せるとバッとさやかに飛びかかった。

突然の襲撃にさやかが面を食らっているうちにまどかは彼女の手からソウルジェムが変化した指輪をぶん取った。

 

「な、なにを────」

 

「へ、変なことはしないから!!」

 

ソウルジェムを取られたことに少なからず焦る顔を浮かべるさやかにそう言い返すまどか。

自身の魂が変化したものだから普通であれば是が非でも取り返すべきだし、まどかの発言も不審者のそれだがさやかは一言申したい気持ちを抑え、複雑な表情で待つことにした。

 

「────ありがとう」

 

さやかにそう返すと、さやかのソウルジェムを両手で包み、静かに瞳を閉じるまどか。

その様子はまさに祈りをささげているようだった。

 

「ソウルジェムは魔法少女が叶えた代わりに生み出されるモノ。だったらこの宝石は魔法少女が願いを叶えたっていう何よりの、ご利益のあるモノだと思うの。」

 

「‥‥‥‥人によってはいい顔をしなさそうだな、その認識は。」

 

「あはは、やっぱりそうだよね…‥‥‥でも、契約とかしていないわたしだからこそこのソウルジェムに、さやかちゃんの魂に今のわたしの願いを持って行ってもらおうかなって。」

 

「今の…‥‥?」

 

思えば、さやかはまどかから魔法少女になるとしたらどのような願いを叶えてもらうつもりだったのかを聞いたことがなかった。

今の、と称している以上何か別なものがあったのだろうが、ソウルジェムの素材や魔女化のことやほむらがこれまでたどった時間軸を聞かされたことで自身が契約することで悲しむ友達がいるのを知り、それを聞く機会もなかった。

 

「わたしはね、誰かを守れるような魔法少女になれればそれでよかったの。ある意味、契約した理由はさやかちゃんと似ていたのかも。」

 

「でも、ほむらちゃんのことを知ってからはそんな薄い理由で契約なんてできなかった。魔法少女になったことでこれからたくさんの人を助けられたとしても、わたしが戦えるようになったことで一番の友達が悲しむことは────わたしの願いじゃない、わたしが欲しいものとは違うんだって。」

 

「なら、今のまどかの願いは?」

 

当然、その疑問が浮かんださやかはまどかに問う。

 

「わたしは、みんなと一緒に未来を、明日を歩んでいきたい。その願いをさやかちゃんのソウルジェムに託す。だから────」

 

「────ああ。そのためにも、必ず生きて帰る。誰も死なせやしない。」

 

さやかの誓いにまどかは穏やかな笑みを見せながら、さやかにソウルジェムを返す。

その託された願いの込められた指輪を少し眺め、指に付け直した。

 

「じゃあ、そろそろ帰らないと。いつまでも外に出ているとお互いお母さんとかに心配されちゃうからね。」

 

そう言ってまどかは足早にさやかに背を向けて走り出す。

その背中を眺めるようにさやかも遅れて踵を返し、自宅への帰路を進み始める。

 

「…‥‥‥‥‥さやかちゃん!!」

 

ふと背中からまどかの大声が聞こえ、足を止めてゆっくりと振り向くさやか。

その視線を先には諸手を挙げて大きく手を振っているまどかの姿があった。

 

「またあした!!」

 

掛けられた言葉に一瞬驚いたように目を丸くすると、すぐに何か思いついたような笑みを見せる。

 

「…‥‥‥まどか。私の力の元であるガンダムは未来を切り開くための力だと聞かされた。」

 

「ふぇ…‥‥?」

 

唐突なガンダムの解説に不思議そうに首をかしげるまどか。

 

「未来を切り開くための力がガンダムなのであるのなら、未来を求めるまどかのその願いもまた、ガンダムだ。」

 

「私もお前も、ガンダムだ。だから、そんな寂しげな笑みを見せる必要はない。まどかの願いを背負った私はいつもまどかと共にあるからな。」

 

正直に言ってまどかの胸中にはみんなと一緒に戦えたら、という願望が全くないわけではなかった。

みんなと共に苦楽を一緒にする、などと聞こえはいいが、魔法少女になるということは文字通りよほどのことがない限り死が確定してしまうことだ。

それに引きずり込みたくないさやかやほむらの気持ちを理解したからこそ、今日まできゅうベェの誘いを頑なに断ってきたのだ。

だが、その小さな願望さえ見抜いて、さやかは自分と共にあると言ってくれた。

つまり、さやかが戦っているとき、まどかも一緒に戦っていると言ってくれたのだ。

 

「‥‥‥‥‥ホント、さやかちゃんには敵わないなぁ‥‥‥‥ありがとう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美樹さん、こっちの方は準備OKよ。」

 

「わかった。なら向かうとするか。神浜市へ。」

 

「ご両親にはいいの?」

 

「正直見つかったら説明が面倒だから置き手紙をしてきた。少し世界を救ってくる、とな。」

 

「あら…‥‥‥なんだかあこがれそうな文言ね。」

 

まだ両親が起きていないのを見計らって自宅の外へ出る二人。

玄関の扉を開けるとワルプルギスの夜の接近を知らせるように強い風が二人を出迎える。

 

「…‥‥‥遅かったわね。もう少し早く起きてくるのだと思ったのだけど。」

 

「ほむらか。気持ちの方が十分そうか?」

 

自宅近くで待ち構えていたほむらにそう投げかけるさやか。

無論彼女に住所を教えた覚えはないが、前の時間軸で知っていたのだろうというていで話を進める。

さやかの言葉にほむらは左腕の盾に手を乗せると気を張った表情で頷いた。

 

「大丈夫。ワルプルギスの夜とか、諸々すべてを今回で終わらせてみせる。」

 

「了解した。なら足早に移動しよう。ぶっちゃけ父さんが起きてるみたいだ。」

 

「‥‥‥‥‥‥急ぎましょう!」

 

「ええ」

 

お互い顔を見合わせながら頷き、さやかの出したオーライザーに乗り、先に空へと飛びあがる二人。

その二人のあとをさやかも追うようにGNドライヴで浮かび上がるが、そのタイミングで玄関の扉が開け放たれ、息を切らしながら慎一郎が飛び出てくる。

 

「!!‥‥‥‥‥さやかッ!!」

 

玄関先にいないことにわずかに表情を曇らす慎一郎だったが、空から降り注ぐGN粒子のきらめきに導かれるように空を飛ぶさやかを見つける。

見つかったさやかは渋い表情を浮かべ、内心裁判の判決を待つ被告人かのように慎一郎の次の言葉を待っていた。

 

「…‥‥‥何をしてきたか今更は聞かねぇがよ、生きて帰ってこい。つるんでいる子供たちと一緒によ。」

 

「!!‥‥‥‥‥行ってくる」

 

慎一郎の送り出しにさやかは端的にだが、嬉しそうに言葉を返すとドライヴの出力を上げ、GN粒子の光を残しながら神浜市へと飛び立っていった。

 

 

 




平日ほとんど書けない………………多分更新これからも遅い…………ユルシテ……………ユルシテ……………


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第99話 大事な友達なんだから

‥‥‥‥そろそろ他作品ネタありのタグつけた方がいいな(白目)


 

「はぁー…‥‥‥ここがお前らのアジトって奴か。えらい広さだな。」

 

「といっても、ここは最下層みたいなものですけど。全景は正直私にも把握しきれないくらいです。」

 

目の前に広がる巨大な空間に杏子は驚きで空いた口がふさがらないといった様子だが、黒江からの言葉にさらに大きく広げた。

さやかからの頼みで黒江と共に神西神浜駅周辺のビルの庭園から先にフェントホープへ侵入した杏子。

カーテンのような入り口をくぐった先は薄暗く湿っぽい空間だったが、黒江の言う通り最下層というのなら納得はいく。

 

「ここが一番下っていうのなら話は早いな。上へ行くルートはあるのか?」

 

「はい。とりあえずそこのおもちゃの列車に乗りましょう。」

 

黒江の指示で近くを走っていた子供のおもちゃのような列車に乗り込むと汽笛を鳴らしながら薄暗く広い空間を走っていく。

 

「なんか、ゴミ捨て場見てぇな空間だな。こう、物が雑に積み上げられてる光景はよ。」

 

杏子の言う通り、列車から見える景色は最悪の一言に尽きる。

 

薄暗い上にじめっぽく、挙句の果てに物が乱雑に積み上げられている様はまさしくゴミ捨て場といっても差支えはないだろう。

そのあんまりな言いぐさに黒江は苦笑いで返すことができなかった。

 

「あ、そうだ。佐倉さん、よかったらこれを使ってください。」

 

向かい合って座っていたところにふと思いついた黒江は杏子に黒いローブのようなものを渡した。

見てみるとそれは黒羽根の魔法少女が羽織っているものと同じものだった。

 

「いいのか?アタシは適当な魔法少女からブン取ってもよかったんだぜ?」

 

「少しでも荒事になる可能性は減らしておきたいですし、わたしはほら、普段の恰好がもう周りと変わらないので‥‥‥‥」

 

そう言いながら普段の魔法少女姿を見せてみせる黒江。

確かに黒江の普段の恰好も黒羽根のものとは厳密には異なるが、同じ黒いローブを羽織るものだ。

注視されればその限りではないが、遠目からでは判別をつけることは難しいだろう。

 

「んじゃ、お言葉に甘えてやるか。」

 

黒江から貰い受けたローブを羽織りながら周囲に目を向ける。

警戒ついでの確認だったが、出入り口近辺であるにもかかわらず、他の魔法少女の気配のようなものはなかった。

 

「……………あんまし警備を厳しくしてるってわけでもねぇな。全体的に被害がまだ小さいのか、それとも救済ってのが大詰めになってそっちを優先してるか…………」

 

「エンブリオ・イヴ……………白羽根の魔法少女でもよく聞かされていないって、どういうことなんでしょうね。」

 

「そりゃあ決まってんだろ、説明しても理解されねぇのがわかってんだからさ。」

 

黒江のもの悩ましげな言葉に杏子は懐からとり出した菓子を頬張りながらそう断ずる。

 

「食うかい?こっから先はかなりの長丁場だ。少しでも腹に足しといた方がいいだろ?」

 

「……………じゃあ、いただきます。ところで説明しても理解されないって言うのは?」

 

「………………さやかが言うにはマギウスの翼の動きには繋がっていない部分があるんだとさ。特に、ドッペルと救済、それに魔女やウワサの育成との関係についてはいつも首を傾げていたぜ。ドッペル=救済ってんなら、それの存在を広めるだけで話は済むってな。」

 

「確かに…………言われてみればそうですね。」

 

「それを繋げるカギがあのエンブリオ・イヴなんだろうけどさ。」

 

もらった菓子を頬張りながら杏子の言葉に納得する黒江。

が、その表情は裏腹に気落ちした表情を見せる。

 

「…………………なら、あの人たちは一体何のために…………」

 

無論、対面している杏子は絞り出すような黒江を言葉を聞き逃さなかったが、遅かれ早かれそれは明らかになるだろうと思い、深く追及することをしなかった。

 

「……………終点か。とりあえず降りるか。話は進みながらでもできる。」

 

ちょうどよく終点につき、列車から降りる2人。

道ながら進むと風景はさながら山の側面を切り出したトロッコの線路のようになる。

 

「なんだこりゃ。登山しに来た訳じゃねぇんだぞ。」

 

「ご、ごめんなさい。」

 

「いや、お前には言ってないから気にすんな!」

 

ヘンテコな空間を歩かされることに辟易とした顔を浮かべる杏子に思わず黒江が謝るというやりとりをしながらも2人はその登坂用の線路の上を進んでいく。

 

「話の続きだけどさ、マギウスの御三家には救済とは別の目的があるんじゃねぇのか、もしくはその救済にはまだ知らない部分があって、それが真の目的っていうのがさやかの結論。」

 

「そんなこと……………いや、どうなんだろう。特にあの人は───」

 

「アリナ・グレイだろ?お前が思い浮かんだそいつ。」

 

黒江の脳裏に浮かんだ魔法少女。いつも気怠げにどこか救済についてもあまり関心がなさそうな彼女のことを指摘された黒江は図星をつかれたように小さく頷いた。

 

「さやかもアタシも思ってたことだが、アイツはいわゆる狂人って言われるタイプの人間だ。画家だかアーティストなんだか知らねえが、あれは誰かを救うって掲げてる奴らの中にいていい奴じゃねぇ。どう見ても全部ぶっ壊すタイプの、破綻した奴だ。」

 

「仮にいろはが他の2人を止められたとしても、アリナ・グレイのヤロウが何をしでかすかわかったもんじゃない。」

 

「確か…………入院していたはずの妹さんの同室なんでしたっけ。」

 

「んお?いろは本人から聞いたのか?」

 

黒江がいろはの妹、ういのことを知っていることに首を傾げていると、彼女は頷きながらちょうど先日に聞いたと返す。

 

「ま、知ってるならそう言うことだ。いろはだけはアタシらとは違う理由で動いてる………………誰か近づいてきてるな。」

 

「え?」

 

杏子の目線が奥の方に向けられ、黒江が呆けた顔で続くようにその視線の先を見る。

切り立った崖のようなこの道は同時に道自体が蛇行していて、死角になってしまっている部分も少なくない。

その隙間から2人の少女が姿を現した。

 

「───やっぱり戻ろうよ…………せめて調整屋さんとか───」

 

 

「調整屋なんてなおさら行けるわけないじゃない!!こんな気味が悪い場所からさっさと出ないと───」

 

後ろ髪を引かれるように迷っている赤髪の少女の手を目つきのきつい水色髪の少女が引っ張っている様子が2人の目に映る。

 

「あれは……………もしかして……………」

 

こっちに向かってくる2人の会話を聞いて、黒江はあの2人がマギウスの翼から離れるつもりなのではないかと思いながら杏子を方を見た。

 

「誰だっけ……………確かさやかが言ってたんだよな…………水色オレンジ黄色の三色トリオの魔法少女がまるっと連絡つかなくなったってさ……………多分そいつら何だろうけど名前なんて言ってたっけな。」

 

額に指をトントンとあてて必死に振り絞るような険しい表情で向かってくる魔法少女を見つめる杏子。

 

「まぁ、いいか。名前出せばどっち側かは一目でわかる。」

 

スン、と考えるのをやめた顔をみせながら杏子は道ゆく2人の前に立ち塞がる。

 

「ッ……………こんなところで…………言っておくけど、レナたちは戻るつもりなんかないんだから!!」

 

立ち塞がった杏子を追手の黒羽根と勘違いしたのか槍を構え臨戦体制を整えるレナ。

 

 

「おいおいちょっと待ちなって。こちとら潜入したばっかだってのに騒ぎになんざされたら困るんだよ。」

 

「え…………せん、にゅう……………?」

 

潜入という言葉に呆けたように固まるレナ。

杏子はかぶっていたフードを外し、軽く笑みを見せた。

 

「そ!あの悪名高ーい美樹さやか、アタシらはその仲間の魔法少女ってわけ。」

 

「さ、さやか!?アイツの!?」

 

「あ、悪名…………そ、それはともかく盗み聞きをしたようで申し訳ないんですけど、何かあったんですか?フェントホープからの脱出を考えているようですけど…………」

 

杏子がさやかの仲間の魔法少女だと知り、目を丸くするレナに黒江は直前に聞こえてきた2人の会話について尋ねる。

その問いにレナは少し考える時間が欲しいというように顔を俯かせた。

 

「……………ここに来てからかえでの体調が目に見えて悪くなったの。」

 

「ッ………レ、レナちゃんわたしは大丈夫だから───」

 

「お願いだからかえでは黙っててッ!!!そんな顔色で大丈夫って言われても、少しも信じられないわよッ!!!」

 

「あう………………ご、ごめんね……………」

 

レナの張り裂けるような声にかえでは身を縮こませるように萎縮しきった声で謝る。

それにレナはまたやってしまったという自己嫌悪に駆られ、表情を歪に歪める。

 

(…………まぁ、言う通り顔色は良くねえな。なんなら悪いと言っても良い。)

 

レナの言葉通り、杏子の目からもかえでの体調が悪いことは明らかだった。

顔色は青を通り越して死人のように白かったし、目もどこか澱みがかったように虚だった。

 

「あのーかえでさん?でいいのかな。もしよかったらあなたのソウルジェムを見せてもらえませんか?」

 

「…………………やっぱそういうことか?」

 

「断言はできませんが……………おそらくは。それにマギウスの翼にはなるべくグリーフシードを使わないという約束事もあります。可能性、いえ。この場合は危険性は大いにありえます。」

 

「なに?どういうこと?」

 

二人の会話についていけてないのか困惑した様子を見せるレナ。

ただ何か知っていることをわかっているのか二人の顔を交互に行ったり来たりする。

 

「‥‥‥‥医師の問診というのもおこがましいですが、ここ最近かえでさんはドッペルを過剰に使用していたりしてませんか?」

 

「それは…‥‥そうだけど。だってここに入ったときにも────」

 

「そうです。マギウスにとって魔女もウワサも解放のための貴重な材料、と聞かされてきました。だけど、その代用として薦められたモノも魔女化と同じくらい危険なんです。」

 

黒江はレナとかえでにドッペルに隠された危険性を語った。

一見するとソウルジェムに穢れがたまり切っても魔女にならないという眉唾物だが、使い続けるとその依存性により、やがてはドッペルに精神を乗っ取られる可能性がある。

 

「なによそれ」

 

レナの零すような小さい声がいやに響く。

その時の彼女の表情は能面のように無表情でその声も感情が全く乗っていないようにひどく淡泊なものだった。

おそらく彼女は怒りを感じてはいるのだろう。しかし、そのあまりな事実に感情が追い付いていない。

 

(なんか嫌な予感────)

 

杏子がそう思った途端、レナは突然踵を返した。

 

「うおおい!!ちょっと待て!!お前今からどこへ何しに行くつもりだ!?」

 

注視していたかいあってかどこかへ行こうとしたレナの腕を掴み取る形で杏子の静止が届いた。

 

「決まっているでしょ!!急いでももこを連れ戻さないと!こんな場所、さっさと抜け出してやるんだからぁ!!」

 

「だとしても少し待てって!!後からさやかとかいろはたちが来る!!そいつを探すのもそれからにしてくれ!」

 

「それはそっちの都合でしょ!?早くももこを連れ戻さないといつドッペルに飲み込まれるか────」

 

「ならお前はコイツをここに置いていけるのかよ!!」

 

杏子が向けた指の先にはかえでの姿があった。

その様子はひどく憔悴しきっており、隣で黒江が支える必要があるほどだった。

 

「か、かえで!?」

 

かえでの様子を見たレナは慌てて駆け寄った。

 

「ねぇ!!かえで、しっかりしなさいよ!!」

 

「────」

 

ぐったりとしたかえでに声を掛けるが反応は芳しくない。

ただ口元がわずかに動いているのは見えたため、反射的に耳をすませる。

 

 

 

ごめんね

 

 

 

譫言のように聞こえてきたのは何度も何度も繰り返される謝罪の言葉。

誰に対して言っているかは、言うまでもなくレナとももこの二人だろう。

 

「佐倉さん!これ、前とおんなじです!!ドッペルが暴走します!!」

 

(くっそ!あの様子じゃどこかで爆発するとは思っていたけどさぁ!!)

 

「黒江!アンタの武器を貸してくれ!」

 

元々その導火線に火はついていた。遅かれ早かれ爆発するのは目に見えていた。

それを結果的に早めてしまったのは吉とでるか凶と出るか。

黒江から武器である手持ちサイズのメイスを投げ渡された杏子はかえでの後頭部を叩き、彼女の意識を刈り取った。

意識を失ったことで完全に脱力したかえでの身体は前にいたレナに寄りかかる形で倒れこむ。

 

「────あ、アンタ、まさか」

 

「殺しちゃいねぇよ。ソウルジェムは感情が大きく揺さぶられると穢れをバカみてぇに生み出しちまう。だったらさっさと気絶させちまうほうが最終的にはソイツのためにもなる。少しは黒羽根にいたんだから知ってるだろ?」

 

杏子の言葉にレナは怒りの声を挙げなかった。

代わりに倒れたかえでの身体を弱弱しく抱きしめる。

 

「…‥‥‥ってもこれじゃあ動くこともできねぇな。」

 

そういうと杏子はレナの隣に座り込むとまた懐からお菓子を取り出して食べだした。

 

「…‥‥アンタたち、潜入しに来たんでしょ?」

 

「そうだが、だからってここでお前をほったらかしにすんのは夢見が悪い。ぶっちゃけると暴走したドッペルも魔女と遜色ないレベルで厄介────」

 

瞬間、気絶したかえでの身体から穢れが溢れだす。

 

「ッ!!」

 

発生した異常事態にいの一番に反応した杏子は弾けるようなスピードで後退。その時にバラバラにした槍の柄で遅れた二人を半ば無理矢理にかえでから引きはがした。

 

「落としたのにお構いなしかよ!」

 

「そんな‥‥‥‥!!」

 

かえでの身からあふれ出る穢れの濁流に茫然とした様子で見つめるレナ。

 

「ちょっと!どうにかできないの!?」

 

「完全に時間との勝負だ!引っ張り出せればいいが、アイツがドッペルに完全に取り込まれたらどうなるかアタシらにもわかってねぇ!さやかが割と強引に止めてたからな!」

 

「止める…‥‥‥なら、レナとコネクトして!!」

 

「できるのか!?」

 

「できるできないとかじゃなくてやるの!!やらなきゃいけないの!!かえでは‥‥‥‥かえではレナの大事な友達なんだから!!」

 

「‥‥‥‥‥わかった!!」

 

レナの申出に杏子は頷き、差し出された手を重ね合わせる。

二人の上に紋章が浮かび上がり、コネクト先であるレナの身体が光に包まれ始める。

それに気づいた杏子は一瞬驚きに目を見開いたあとに不敵な笑みを浮かべた。

 

「ったく、どこまでもお節介なヤロウだぜ────さやか!」

 

出発する直前にさやかから受け取っていたコネクトの力がレナに流れ込む。

その力はコネクトした者に新たな可能性をもたらす。

ある者は炎。ある者はまさしく騎士の様相。

 

「つ、冷たッ!?」

 

突如としてレナの周囲から冷気のようなモヤが浮かび上がり、レナの身体を覆い隠していく。

思わず飛び退いた杏子だったが、その間にもレナの周囲の冷気はさらに強まっていき、そこだけ天候が吹雪であるかのように吹き荒れる。

 

レナの場合は、だった。

 

吹き荒れる吹雪の中から人を覆いつくせる大きさの氷の塊が見えたと同時に大きさ音を立てて砕け散る。

砕かれた氷は塵となって周囲に立ち上り、風貌の変わったレナを輝き照らす。

 

得物は槍から左手が剣と盾が合体したものと右手が銃を模した形に変わり、何より目を引くのが背部から伸びた緑色のクリスタルが輝く白銀の羽根。

四枚のソレを携え、雪の結晶に照らされ、輝くその様はまさしく雪の女王だ。

 

「今度はレナ自身で‥‥‥助け出して見せる!!かえでッ!!!」

 

 




ハッハッ、だいぶやりたい放題になってきたなこの作品(遠い目)

あとほぼほぼ月一投稿になっててごめんなさい!!



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第100話 終わらせて帰ろう

100話かぁ・・・・・・・・3桁の大台まで来ちゃったぁ・・・・・わぁ・・・・・


色々好き勝手してる作品ですけど、これからもどうかご愛読の方をよろしくお願いします……


 

「ドッペルの暴走が止まらない……………ああっ!?」

 

暴走したドッペルの動きを警戒していた黒江が悲痛な声を挙げる。

かえでのソウルジェムから生み出されたドッペルは不定形の形を蠢かせながらも倒れていたかえでを濁流のように飲み込んだ。

 

「ッ……………こっちにはさやかみたいに無茶苦茶ができる奴はいねぇ!やるなら────」

 

「一発ででしょッ!!レナにもわかっているわよ、そんなこと!」

 

そう言いながらレナは右腕の剣を構える。

剣と一体化した盾のダクトから冷気がX状に放出されると刀身にまとわり、氷の刃が形成される。

 

「これでぇ!!!」

 

地面を踏み砕くほどの力と共に高速でかえでを取り込んだドッペルに肉薄するレナ。

まだ取り込んだばかりのドッペルは満足に動くことすらできず、氷の刃に身を貫かれる。

 

「ウィリテ・グラディウスッ!!!行っけぇぇぇぇッ!!!」

 

突き刺したグラディウスを押し込みながら切り抜けるレナ。

その際に何か砕けたような音がしたが、直前まで刀身に纏わせていた氷の刃がドッペルに残っていた。

 

「──────レナ以外の時間は全て、凍止する」

 

 

瞬間、ドッペルに突き刺さった氷の刃が爆ぜた。

爆発したような、それでいてパキパキと凍てつくような音と共にドッペルを氷のゆりかごが包み込んだ。

 

「凍った…………のか?」

 

「みたいです…………ドッペルまで完全に凍りついています。」

 

黒江の言う通り、攻撃を受けるまで泥のような不定形の動きを続けていたドッペルがまるで時を止められたようにピクリともしない。

おそらく中のかえでごとコールドスリープさせるように凍結させたのだろう。

そう判断した杏子はひとます警戒心を解くことにした。

 

「…………ま、よくやった方なんじゃねぇのか?」

 

「ねぇ、かえでは元の姿に戻れるの?」

 

コネクトの効果が切れ、力なく座り込んでいるレナからの質問に杏子は言葉を窮する。

はっきりに言えば、その答えはわからない。

ドッペルに取り込まれたところを目の当たりにしたとは言え、前回はさやかによる強引な介入で事なきを得て、今回も凍結による行動不能で事態が深刻化する直前にどうにかというところだ。

結論、杏子たちもドッペルには取り込まれてしまう危険があるということを察しつつも、その末路のようなものを知ることができないでいた。

 

「戻そうと思えば戻せるわよ?」

 

「あんたは─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら一番最後みたいだな。」

 

「当たり前でしょ?一番遠いのは私たちなんだから。」

 

上空から神浜市を見下ろすさやかたち。

いつもならビルの照明やらで夜空を彩っているそこの空だが今回はそうではない。

街一面を暗闇が覆っている。厳密には全く光がないわけではないのだが、それでも一都市としてはほとんど暗闇と言っても差し支えはない。その理由はもちろんワルプルギスの夜に他ならない。

神浜市に接近しているワルプルギスの夜は世間一般では類を見ないスーパーセルとして認識されている。

そのためすでに市から避難警告が発令されており、多くの一般市民が災害からの避難を行ったのだろう。

 

「既に電車も完全に運休状態……………これで後戻りはできなくなったな。」

 

「………………ええ、そうね。」

 

ザンライザーに乗るほむらを横から見つめるさやか。

その表情は見た感じではいつも見せているようなぶっきらぼうとした様子だが、微かに震えてる手をさやかは見逃すほど彼女への理解は浅くない。

 

「大丈夫だ。」

 

「?」

 

突然労わるような言葉にほむらは怪訝な顔を見せて首を傾げた。

 

「お前は1人ではない。マミ先輩や杏子、それにいろはたち神浜市の魔法少女、そして私がいる。だから────終わらせて帰ろう。お前が続けてきたこの旅が、間違いではないと証明するために。そして……生きてまたみんなで明日を迎えよう。それが、今のまどかの願いでもあるからな。」

 

「まどかの……………今の………………」

 

今のまどかの願いを聞いたほむらは目を丸くした後に軽く笑みを浮かべて前を見据える。

いつもは気弱なくせして前で誰かを守りたがっていたまどかが他者を信じ、座して待つことを受け入れたことはこれまでほむらがたどってきた時間軸の中で一度もなかったことだ。

 

「ええ、行きましょう。」

 

 

 

 

「さやかさん!!」

 

フェントホープへの入り口がある新西神浜駅近くの屋上庭園に降り立つさやかたちにいろはが気づき、出迎える。

さやかの言っていた通り、既にそこには仲間の魔法少女たちが揃っており、最後に来てしまったことが伺える。

 

「様子はどんな感じだ?ゆきか。」

 

「うーんとですねぇ…………」

 

さやかにそう聞かれたゆきかは懐から羽根の証のアクセサリーを取り出すと可憐な花々で彩られたアーチの辺りで掲げた。

するとちょうどゆきかの目の前で風景が歪み初め、フェントホープへの入り口が開かれた。

 

「特に何か対策を施されたわけではないようです。」

 

「佐倉さんへの念話は?届くかどうかはわからないけど、一応知らせておくくらいはした方がいいと思うわよ?」

 

「ん……………」

 

ゆきかの報告に耳を傾けているとマミからそう言われ、杏子への念話を試みるさやか。

 

『んお?さやかか。ってことはもうそんな時間なのか。』

 

どうやら空間は隔てられているが、念話自体は可能らしい。

さやかはフェントホープの入り口近くに来たことを連絡しながら杏子たちの首尾を聞く。

 

『ちったぁトラブルにはあったが、今んところは中には進めてるはずだ。フェリシアとさなとかの3人は見つけられてねぇけどな。』

 

「…………トラブルとは?何かあったのか?」

 

『……………調整屋のところに行けばわかる。来いって言われてんだろ?向こうも待ちくたびれてるみたいだぜ。」

 

「‥‥‥‥了解した。ほかになにか目ぼしい情報とか見かけたか?」

 

『そういやお前らってもう中に入ったのか?』

 

「いや、まだ入り口を開けてもらっただけだ。」

 

『中に入ったらゆきかのペンダントを調べてみてくれ。こっちは黒江のが真っ黒になっちまった。このまま潜入を続けるけど、もしかしたらもう使い物にならないかもしんねぇ。』

 

「分かった、無理はするな。何かあれば位置関係のようなものを教えてくれたらすぐに飛ぶ。」

 

『ハッ…‥‥お前ならできちまいそうなのが冗談にきこえないぜ…‥‥』

 

 

呆れたような表情が浮かぶ杏子の言葉を最後に念話を切るさやか。

周りを見てみると開かれたフェントホープへの入り口の前で仲間の魔法少女たちが待っていた。

 

「さっさんさっさん!!あとはさっさんの一声で行けるよ!」

 

衣美里の声に賛同するように明日香やささらといった者たちが頷いた。

他の者たちも自身の得物を構えなおしたりと準備は万端なようだ。

 

「困った。これでは完全に私がリーダー格だな。」

 

「実際その通りでしょう?」

 

「集めた張本人が今更なーに言ってんだ?」

 

「己が責務を全うするべき、という奴だな。」

 

苦笑いを浮かべていると代表者三人から総ツッコミを入れられ、その表情を深めているとななかたちを始めとする他の魔法少女たちも頷くなりして代表者たちの言葉に賛同している様子が見えてしまいより一層肩を落とすような反応をしてしまう。もはやみんなの中でさやかがリーダーであるのは確定事項のようだ。

さやかは項垂れるようにため息一つつきながらも表情を切り替えた。

 

「行こう。私たちの日常を、明日を守るために。」

 

その言葉と共に、魔法少女たちは歪んだ空間を潜り抜け、ついにフェントホープへの内部へ侵入する。

 

「ここは…………?見たところだいぶ下のエリアのようにも見えるが……………」

 

「下も何も一番下の階です。上の階層へのルートはこっちです。ただ───」

 

「…………突然どうした?」

 

上へ行くルートのために先に潜入した杏子たちも乗ったおもちゃの列車を指差すゆきか。

しかし、その表情はどこか気まずそうなものを浮かべていた。

 

「今更白状するようで心底申し訳ないのですが…………実はわたくし、契約してからものすごくトラブルに巻き込まれやすい体質になってしまいまして。」

 

「…………………もしかして、アレがずっとこっちを見てくるのもそのせいなんですか?」

 

そういうななかが向いている先には熊のぬいぐるみを頭だけ引きちぎったような風貌をしたデカブツが見つめていた。

 

「あー………………警備用のウワサです。その、ごめんなさい。」

 

「一体だけならなんとか────」

 

ななかの隣にいたあきらが拳を構えようとした瞬間、警備用のウワサが次々現れ、その数を少なくとも10以上に増やした。

 

「全員列車に乗れ!入って早々の分散は危険だ!!」

 

さやかの指示に戦闘を回避し、一目散におもちゃの列車に飛び乗る魔法少女たち。

しかし、飛び乗ったはいいものの肝心の列車はピクリとも動いてくれない。

 

「あれっ!?この列車動かないんだけど!?」

 

「実は定刻通りにしか動きません!!」

 

うんともすんとも言わない列車に文句を言ってしまうささらにゆきかが悲鳴のような謝罪を挙げる。その間にも警備用のウワサたちは巨大な口を自身の体が隠れるほど広げながら猛烈な勢いで迫ってくる。

 

「ッ…………!!」

 

見かねたほむらが列車に触り、自身の魔力を流し込む。

すると列車全体が紫色の光に包まれ、ほむらの魔力に包まれた列車はひとりでに動き出し、進み始める。

 

「動いた!!でもさっさんが!?」

 

「あの人は空を飛べるのでいいでしょう。」

 

「そうだった!!」

 

乗らずに残ったさやかに衣美里がぎょっとした様子を見せるが、直後のななかの言葉にぎょっとした顔のまま納得した雰囲気を見せた。

 

「オーライザー、ドッキングモード!」

 

先行く列車を見送ったさやかはオーライザーを呼び出した。

少し旋回しつつ、背後に回ったオーライザーは機首を後ろに向けつつ、連結用のジョイント部分を露出させ、さやかの背中とドッキングを行う。

 

「ダブルオーライザー、目標を殲滅するッ!!」

 

GNドライヴから放出される粒子量が増大するとオーライザーのサイドバインダーと二振りのGNソードⅡを向ける。

構えた先に一瞬光が灯ったと思った次の瞬間、さやかの体の一回り以上巨大なビームが発射される。

その威力は思わず先を進んでいた者たちが発せられた光と音で驚きのあまり、身を固まらせるほどだった。

そのビームが通った先はことごとく焼き尽くされ、ウワサの集団をかけらも残さず丸ごと消し飛ばした。

 

「─────ウワサ相手なら火力を気にする必要はない。」

 

「すっご…………めっちゃ頼もしい……………!!」

 

「……………あの人に本気でかかられたらあんなのに対応しなければならなくなるんですね。」

 

「さやかちゃん曰く近接寄りって聞いてはいるけど………………」

 

「そもそもさやかのリーチが長すぎてもはや中距離から格闘振ってくるようなものネ。これじゃ他の魔法少女も息できないネ。」

 

「常々相手にしようとすることすら憚れるような無法っぷりですね。」

 

さやかの見せる超火力に感嘆の声をもらすひみかのような反応や一度さやかと戦ったことのあるななかたちのように全力を避けたがる理由がわかり、達観に近い遠い目を見せる魔法少女たち。

 

「……………あの子、もっと火力出せるわよ。」

 

そんな中飛び出たやちよの言葉にその場の魔法少女たち全ての目が向けられる。(マミとほむらは除く)

 

「もしかして、電波塔の時のですか?ウワサの領域を外から破壊していましたけど。」

 

『ウワサの領域を外から破壊…………?』

 

いろはの言葉に魔法少女たち脳裏に疑問符が浮かぶ。

ウワサの領域に実際入ってみて感じたことは性質がどことなく魔女の結界と似通っていることだ。

つまり、決してイコールであるわけではないにしろ、さやかは魔女の結界を無理やり外から壊せる可能性があるということだ。

 

「あれはさすがにこんなところでは使うことはできない。もっと障害物の少ない場所なら……マミ先輩。」

 

「なにかしら?」

 

「前方の進路確保を頼む。これから騒がしくなる。」

 

「─────ええ、そうでしょうね。」

 

 

これから予想される状況に気を張った表情で頷きあう2人。

そのタイミングでフェントホープ内に鳴り響き始める警報音。

明らかな異常に魔法少女たちも状況を把握する。

向こうに自分たちの侵入がバレたことを。

 

『みんなー!!たいへんたいへんだよー!!このフェントホープに、私たちの邪魔をする魔法少女が侵入してきちゃった!!救済の最終段階があるから、灯花たちは手伝えないけど、黒羽根や白羽根のみんなはその魔法少女たちを追い出して!!』

 

「今の放送、灯花ちゃん……………」

 

「今のが里見灯花か。なんというかやはり、どこか苦手な声をしている。」

 

どこか猫撫で声のような放送をしてきたのが灯花であることがわかったいろはは表情を曇らせた。記憶ミュージアムで顔を会わせたとはいえ、やはり知り合いが他者に危害を加えている事実は相応に堪えるようだ。

 

「………遠距離攻撃が出来る魔法少女は線路に近づく敵を頼む。どこまで強引な手段をとってくるかは未知数だが、少なくともここが崩されると全員に危険が及ぶ。」

 

さやかの言葉に魔法少女たちがうなづくと前方車両にかこ・相野・ひなの(彼女が出す試験管は爆発させることができる)・やちよといった遠距離攻撃のできる魔法少女たちが集まる。

 

「ほむらはそのまま列車の制御を頼んだ。私は列車の後方をやっておく。」

 

ほむらにそう指示を飛ばしながらマミとコネクトするために手を重ねる。

瞬間、衣美里と同じような光の膜が彼女を包みこんだ。

 

『ハロッ!!ハロッ!!』

 

『ミダレウツ!ミダレウツ!』

 

膜がはがれると同時に二体の丸いロボットが姿を現す。

オレンジ色と藍色の色をしたロボットは耳のような部分をパタパタと動かし、機械音声ながらもどこか愛嬌のある声でマミの周りをフヨフヨと漂う。

 

「ええ、行きましょう!この力、扱いきってみせるわ!!」

 

全身を覆う緑色の装甲、両手にはピストルのような銃、そして彼女を取り囲むように存在する10を超える数の板状のシールド。何より、さやかと同じように薄暗い空間を照らす、GN粒子の輝きが彼女からも生み出されていた。

そのガンダムの名は、サバーニャ。

天使の名を持つガンダムの力が今、人々の平穏を奪うものたちに向けられる。

 

 




なお作者、スパロボOGがそんなにメジャーじゃないことを知ってショックを受けた。
まぁ、自分も初めて知った時は知ってるロボがいない・・・・・なんだこれってなりましたけど


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第101話 会って話をしたい

副題 始まるコネクト無双


 

『ライフルビット展開!展開!』

 

「青ハロちゃん、お願い!」

 

ハロの声にそう返しながら手持ちのピストルビットを連射するマミ。

灯花の館内放送があってからというもの、明確な侵入者に防衛用の戦力を集めさせているのか、あの熊の頭の警備用ウワサがわんさかとこの地下空間に現れる。

羽根たちの姿はまだ見えないが、それも時間の問題だろう。

 

頭数で無理なら手数でカバーするしかない。今回のマミのサバーニャはその一体多の状況にうってつけだった。

 

マミの思考とリンクしているハロの制御で縦横無尽に駆け巡っているライフルビットの総数は10を超えている。

そのビットたちがウワサを取り囲むと、さやかの撃つものと同じビームがウワサの体に風穴を開ける。

サイズの差もあって一発程度では止まらないが、ビットはマシンガンもかくやという連射スピードでウワサを蜂の巣にして撃破する。

 

「オレンジハロちゃん、ホルスタービットを!!」

 

『リョウカイ!リョウカイ!』

 

マミの体に取り付けられたホルスタービットが分離すると、合体し、三つの菱形が連結した形をとった。

 

「フルバーストッ!!」

 

連結させたホルスタービットの菱形から極太のビームが発射され、射線上にいたウワサたちをまとめて薙ぎ払う。同時にライフルビットも乱射のようにビームをばら撒き、前方の敵を一掃。暗い地下空間に一瞬だけ星空のような空間を作り出した。

 

「すごい…………女王グマのウワサの手下をあんな簡単な蹴散らしてしまうなんて…………!!」

 

「美樹さんとのコネクトは確定でおかしな機能がついてくるけど、火力や機動力は保証されるわ。ところで七瀬さんあの熊の頭、ウワサの手下なのね?」

 

「はい。警備用のウワサと称していましたが、あれは女王グマというウワサの手下に当たる存在です。実際に女王グマそのものの姿を目にしたことはありませんが、とにかく普通の魔法少女では太刀打ちすることもできない強力なウワサだとは聞かされてはいます。」

 

ゆきかからの説明に少し考える様子を見せるやちよ。

 

「構わないわ。そのウワサ、私たち遊撃部隊に任せて。」

 

「静海さん…………いいの?」

 

「大方そのウワサも防衛のために本命の近くに配置されてることでしょうし、散策ついでにそちらも破壊しておきましょう。」

 

「常盤さんまで………………ええ、わかった。貴方達にお願いするわ。」

 

女王グマのウワサの捜索と破壊を引き受けてくれることに感謝の言葉をあげながら列車は進んでいく。

 

「おそらくそろそろ着くはず…………でも─────」

 

「終着駅が見えたわ!でも案の定羽根の魔法少女たちが待ち受けてるわ!少なくとも30人!」

 

「……………まぁ、そうなるな。」

 

ゆきかの呟きと同じタイミングで空を飛んでいたマミからそんな警告が飛んでくるが、さやかもそれくらいは想像がついていたのか、大した焦りもなく淡々とした様子を見せた。

 

「………………私が行きます。」

 

そう言いながらおずおずとした様子でさやかの側に来たのはせいかだ。

 

「行けそうか?」

 

「あなたとのコネクトなら、私の固有魔法が強化されるし、吹き飛ばすだけですませられます。」

 

「了解!頼んだ!」

 

せいかの言葉に大きく頷き、任せるように彼女の肩に軽く手をのせるさやか。

マミのように劇的な強化を可能とするさやかのコネクトが発動し、ヴェールのような薄い水の膜が彼女を包む。

 

「私は、ふたりとの日常を、明日を守りたい。なら、この力の使い方はイエス、だよね。」

 

泡が弾けるようにせいかを包んでいたヴェールが爆ぜる。

彼女のメイン武器は先端が三日月状にあしらわれた短い杖から放たれる鞭。

それがコネクトしてからは刀身がまっすぐに伸びた両刃の剣になっていた。

それ以外、外見的にはせいかの格好に変わりはない。

 

「…………………」

 

しかし、せいかが何か念じるようにしながらジャンプすると、足元から虹に光る光輪が生まれ、彼女を空は羽ばたかせる。

 

「き、来たッ!?げ、迎撃!迎撃を急いで!撃ち落とせー!!」

 

空を浮遊に近い飛び方で接近してくるせいかに羽根たちは魔力弾を発射する。

本拠地にいるだけあって練度も相応にあるのか、その魔力弾はせいかに向かって誘導してきていた。

 

「ッ……………!!」

 

弾幕の厚さはみている限り分厚い。

魔力弾とはいえ、撃てる人数が揃えられればそれは十分な代物にはできる。

さらに誘導までしてくるとなれば、一発当たって怯んだところを見せてしまったら大ダメージは避けられないだろう。

 

「こっちには狙いが向かなくなったけど……………大丈夫!?」

 

「せいかちゃんなら大丈夫!!」

 

「うん!せいかちゃんなら大丈夫だよ!!」

 

「なら大丈夫だな!!よし!!」

 

「その結論は一体どこから出てくるのかなぁ……………」

 

1人突っ込んでいくせいかに心配そうな目線を向ける葉月だが、せいかの友達の相野とれいら、そして賛同までしてしまうあやめにげんなりしたように肩を落とす葉月。

 

「やってみせる………………!!」

 

迫り来る弾幕にせいかは射線から外れるように動く。

しかし、誘導している魔力弾は当然のようにせいかの後を追いはじめる。

その間にも羽根たちから追加の魔力弾が飛んでくる。

 

桑水(くみ)さん!!」

 

見かねたマミがライフルビットを複数飛ばして迎撃させるが、やはり人数の差とマミ自身が戦闘をしていることが顕著に出てしまい、捌ききることができない。

 

「大丈夫です!!やれます!!」

 

手伝ってくれてるマミにそう返すと、それを示すためか逃げていた足を止める。

追われているにも関わらず、逃げる足を止めるという暴挙に羽根たちは一瞬迷うように表情を強張らせる。

 

「ッ……………ここ!!」

 

瞬間、せいかの周りにあの虹色の光輪が浮かび上がるとブゥンッ、という音と共に彼女の姿がかき消え、誘導弾が直前まで存在していたはずの箇所を通り過ぎていった。

 

「き、消えた!?もしかしてワープとかしたの!?」

 

こつぜんと姿を消したせいかに動揺し、辺りを見渡すがすぐに彼女の姿を見つけることができた。

誘導弾も多めに撃っていたのが功を奏したのか、まだせいかを追っている数も多い。

 

「まだまだ………………!!!」

 

まだ追ってくる弾幕にせいかは一回、二回、三回と連続でワープを行い、魔力弾を振り切っていく。

 

「ひらけた……………そこっ!!」

 

弾幕を掻い潜ったせいかは手にしていた長剣、ブレンバーから虹色のオーラを二発発射する。

さやかたちのビームとはまるで違う甲高い発射音を響かせながら、オーラは羽根たちのいる終着駅に着弾。集団を包むほどの煙幕を立ち上げさせる。

 

「ゲホゲホッ………………ッ!!しまったッ!?」

 

煙幕の中で咳き込む白羽根の魔法少女。少しして何かに気づいたのか、焦った表情で煙幕を少しでも無くして視界を確保しようとする。

しかし、その時点では既に遅かった。

 

「──────チャクラフラッシュ!」

 

ほど近いところからそう聞こえた瞬間、煙幕ごと羽根たちの魔法少女たちを吹き飛ばす勢いの衝撃波が彼女たちを襲う。突然の強襲に羽根たちは反応すらできずに宙に舞い、意識を闇に落とす。立っていたのは、衝撃波の中心に立っていたせいかただ1人だった。

 

「あまり悠長にしてはいられない。増援が来る前に可能な限り上へ上がろう。」

 

列車が止まると同時に再び駆け出すさやかたち。

先ほどの羽根たちは偶然近くにいた者たちだったのか、はたまたフェントホープが広すぎて移動するのも一苦労なのかは定かではないが、ゆきかの案内の間に防衛の羽根たちとの戦闘は一度も起こらなかった。

 

「いろは」

 

「はい?どうかしましたか?」

 

その道すがら目線を合わせるように高度を下げながら、いろはに話しかけるさやか。

 

「お前はこの先、里見灯花たちの元へ向かうだろうが、どうするつもりだ?」

 

「……………変わりません。会って話がしたい。それだけです。」

 

(…………余計なお世話だったか)

 

いろはの答えにフッと軽く笑みを浮かべるさやか。

思えば彼女はこの事件の根幹に灯花たちがいることを知った時からずっと話すことを目的にここまできた。

困惑こそ未だあれど、自身の内にある彼女たちとの記憶(思い出)を信じて、彼女はここまで進んできた。

 

「なら力ではなく想いを尽くせ。彼女たちを想うお前の心を伝える。それがお前の戦いだ。」

 

「想いを………はい!!」

 

さやかからの言葉にうなづくとと同じタイミングで暗かった空間が明るくなり、西洋風の屋敷の廊下のような場所に出る。

 

「上層に出れました!ここからは────」

 

「ああ!みんな、ここからが本番だ!」

 

「いた!侵入者してきた魔法少女たちだ!みんなで取り囲むよ!!」

 

 

上層に足を踏み入れた瞬間、羽根たちに見つかり、左右両方から取り囲まれ始めるさやかたち。

10余名しかいないのに対してすでに倍に近い人数に再び前を塞がれてしまう。

 

「おっけー、ここからはあーしたちの出番ってわけね!!」

 

「そういうことになる。」

 

隣にやってきた衣美里にそう返すさやか。

準備体操をするようにその場で屈伸している彼女にさやかが手を触れ、せいかの時と同じように光の膜に覆われる。

 

「さっさん、あーしたちは何をすればいい?」

 

「────暴れてくれ。でも死人を出さない程度にな。」

 

さやかからの命令を受けたまさにその瞬間、光の膜を突き破りながら身の丈以上の巨大メイスと悪魔の尻尾を想起させる鋼鉄のブレードを携えた衣美里が左側の羽根たちに突撃する。

 

「かっしこまり―ーーーーーー!!!!」

 

突然の突撃に呆然として反応すらできない羽根たちに空高く掲げたメイスを力強く振り下ろす衣美里。

その瞳からは真紅に輝く稲光が迸させるその姿はまさしく人知を超えた悪魔のようにも思えた。

その悪魔から振り下ろされたメイスは羽根たちの前をたたきつけるが地面には巨大なクレーターを作り、その衝撃だけで羽根たちは大きく吹っ飛ばされてしまう。

 

「道が開けました!お二人はついてきてください!」

 

先ゆくゆきかの先導で衣美里が蹴散らした集団の中をさやかと十七夜が抜けていく。

しかし、その然程離れていないところから新しい羽根たちの集団が現れ、3人に魔力弾を撃ってくる。

 

(ミサイルで迎撃──────)

 

「いえ!!お三方はそのまま前へ!!」

 

迎え打とうとしていたところを静止する声をかけられ、さやかは一瞬だけ声が聞こえた方に視線を向けると、ゆきかと十七夜の2人を抱え、強引に包囲網を突破する。

 

「あれがウワサの……………!!」

 

「先ゆくお三方を追わせはしません!!龍城明日香、参りますッ!!!」

 

さやかのスピードに舌巻きながらも追う姿勢を見せた羽根たちに立ち塞がるように明日香が突っ込んでくる。

1人突っ込んでくるだけなら、無視を決め込んでもよかったが、得物の薙刀の穂先に何かを添わせた明日香にギョッと目を見開いてしまう。

それは青色に輝く勾玉。一見するとなんでもないように見えるが、魔法少女である彼女らにはそれが有する魔力からその正体を察する。

あれは、ソウルジェムが変化したものであると。

 

「あ、あなた何を─────」

 

「心配御無用!!なぜなら、既に一度実践済みですので!!」

 

自身の命そのものであるソウルジェムを有ろうか刃物に添わせるという今から自殺でもしますと言うような扱い方に呆気に取られている中、明日香は不適な笑みを浮かべながら添わせた勾玉を砥石で研ぐように引く。

 

瞬間、ゴウッという音と共に蒼い炎を薙刀の穂先が纏った。

 

「なっ……………!?」

 

驚きを形相を浮かべる羽根たちを他所に蒼炎は徐々に形を成していき、長い刀身となって固定化される。

その蒼炎の刃を纏った薙刀を明日香は深く腰を落とし、真横に構える。

 

「いざ御照覧あれ!!この力、まさに魂削る必殺の一撃なり!!名付けて────」

 

 

ハラキリ……………ブレーーーード!!!

 

振るわれた刃は同時に刀身が伸び、羽根たちの頭上を切り裂いた。一瞬外したと思った羽根たちだったが、次の瞬間切り口から噴き出るように蒼い炎が爆発を起こし、先行するさやかたちと追う羽根たちを分断するように瓦礫の山が積み上がる。

 

「無茶苦茶だ…………だが、これでは孤立したのはあの3人だ!ここには一体どれほどの羽根の魔法少女たちがいると思っている!」

 

「その無茶苦茶の権化のような魔法少女こそ、貴方がたが吹聴した最強魔法少女、美樹さやかなんでしょうが!!ともかく貴方がたの狼藉、ここで終いにさせます!これ以上、無関係な人々を犠牲にはさせません!!」

 

「あすきゃん、ささらん!!引っ掻き回すよ!!」

 

「その爪とか生えてる状態で引っ掻き回すとか怖いなぁ………………ま、お互いケガとかないようにしていきましょ。相野さんたちも大丈夫そう?」

 

薙刀を再び羽根たちに向けて構える明日香の周りに騎士甲冑姿のささらやメイスを担いだ衣美里が駆けつける。

 

「大丈夫!あの人たちのやってること、気持ちはわかっているつもりだけど、それでも止めないとまた別のことで苦しんじゃうから!」

 

「他人を………しかも何も知らない人たちを巻き込んで…………そんなやり方で救われたなんて、わたし思いたくないよ!!」

 

「環さん達も常盤さんたちの援護で抜けていったから、今のところは順調……だと思います。」

 

ついてきた相野たちの表情に影は見当たらない。

別行動をとる他の者たちのために、心を繋いだ少女たちはその深淵の奥底へと進む。

 

 




余談1 さやかとのコネクトには二通りのパターンがある

1,全身まるっと変わるパターン

要するに他作品のロボットの能力や技が割とそのまま使用可能
なお面倒なのでデメリット効果とかないつもり
現状だと特に阿頼耶識持ちの衣美里
汎用性はこっちが優れる

今回の桑水せいかがそれにあたる
ちなみに今回は特に指定はないが、個人的にはネリーのつもりでやってた
戦闘は完全に某ACEから持ってきた

2,外見は特に変わらないが特大火力が出せる

必殺技が主に使える。
今話の龍城明日香がそれにあたる。
ほかにも鶴乃やフェリシアの時もこっちに該当。



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第102話 一番のはずれ

 

「おし、ついにドンパチ始まったみてぇだからアタシらも動くか。」

 

館内に響き渡る灯花の放送を聞き、杏子はさやかたちが戦闘を開始したことを察した杏子。

黒江も同意するように頷き、2人は黒羽根に扮するために黒いローブで身を隠しながら歩き始める。

 

「…………………さっきの人、大丈夫なんでしょうか?」

 

「わからねぇな。止めたとはいえドッペルに取り込まれちまったもんはそう簡単に戻る雰囲気じゃねぇのは調整屋の反応からもはっきりしてる。」

 

黒江が心配したのは直前に会った秋野かえでのことだ。

暴走する直前に止めることはできたとはいえ、かえで本人はドッペルに取り込まれたままだ。

さらには調整屋であるみたまの反応具合からみて、ドッペルに取り込まれた魔法少女が元に戻る方法も簡単ではない始末だ。

最悪、事が終わってもあのままかもしれない────そんな思考が頭をよぎった黒江は悲痛な表情を隠しきれない。

 

「そんな人があんなにいっぱいいて……………マギウスの人たちはなんとも思ってないんでしょうか?」

 

「さぁな。気にも止めてねぇかもしれねぇし、逆に気にしすぎてるってこともあんじゃねぇの?そうじゃなきゃこんなその場凌ぎがせいぜいのやり方でゴールを急ぎすぎてる理由がなぁ。」

 

ドッペルをレナとのコネクト────正確に言うなら事前にコネクトしていたさやかの力で凍結させたあとに会ったみたまに連れてこさせられたのはドッペル症隔離室だった。

そこで二人が見たものは、かえでと同じようにドッペルに取り込まれた羽根の魔法少女たちだった。それも一人や二人ではなく、その隔離部屋を埋め尽くすほどの人数だった。

 

「ともかく使いすぎであんな成りになっちまうってんなら結局は魔女化となんら変わりはねぇ。どうにか潜入組として少しでも情報を集めねぇとな………」

 

「確かに・・・・・・・動きやすくなったとはいえ、それは向こうも同じことですし………あれ?」

 

「どうした?」

 

「・・・・・・・・何かあの向こう側から誰かの声が・・・・・・・・」

 

黒江からそう言われ、杏子は正面の通路に耳を澄ませる。

よく聞いてみると確かに黒江の言う通り、誰かの声が聞こえてくる。一瞬見回っている羽根の魔法少女かと思ったがそれにしては様子がおかしい。会話はよく聞き取れないがどうにも言い争っているようにも聞こえてくるのだ。

 

「…・・・・・・・ちょっと近寄ってみるか。」

 

そう提案する杏子に黒江は無言でうなづくと聞き耳を立てていることを悟られないような距離まで近づき、様子を伺う。

しばらく耳をそば立てる杏子だったが、会話の主が誰であるかを察したのか不敵な笑みを浮かべる。

 

「黒江!お前でかした!!」

 

「はいッ!?え、あ、佐倉さん!?」

 

称賛の声と共に飛び出た杏子に驚きつつ、少し遅れてつられて飛び出る黒江。

その先には見慣れたゴーグルのついた紫色の帽子をかぶった少女、フェリシアと薄緑色の髪の上にティアラを輝かせる盾の魔法少女、さなの姿があった。

 

「お前らー!だいじょぶしてるかー!」

 

「んおッ!?きょーこ!?な、なんでお前がこんなところに!?」

 

「もしかしてさっきの放送って…・・・・いろはさんたちなんですか!?」

 

「おう!んだけど、その前に一つ。聞いとかねぇといけないものがある。お前ら、どうするんだ?」

 

笑顔のまま投げかけられた杏子の質問に表情を強張らせる二人。外面こそ笑みを崩していないが、返答によっては………と言いたげな雰囲気を出している杏子に気圧されているのだろう。

 

「わたしは………みかづき荘に、いろはさんたちのところに帰りたいです。ここは、わたしの帰る場所ではないです。」

 

「まぁ、アイのやつがいるのにお前がそうする必要はねぇからな。で、お前はどうなんだ?」

 

さなの答えにうなづきながらも隣で顔を俯かせているフェリシアに視線を向ける杏子。

 

「…・・・・・・・なぁ、きょーこ。さやかはさ、アイツらの言う魔女にならないで済む方法ってのは知ってんのか?」

 

「知ってるぜ。なんならアタシら含め今攻め込みに来てる連中は全員な。」

 

「・・・・・・・・・でもきょーこたちはあいつらを止めるためにここに来たんだよな?ってことは、それはそういうことなのか?」

 

「・・・・・・・・・あいつらの弁護をしてるみてぇだが、確かに魔女にはならねぇ。だが、ただそれだけって話だ。」

 

目を伏せながらの杏子の答えにフェリシアはそっか、と一言だけつぶやいて再び顔を俯かせる。

みふゆに誘われ、灯花からの授業で自身の仇である魔女にならないためにやってきたが、その期待がなかったことがショックなのだろう。

 

「ッ………佐倉さん、あれ・・・・・・・・・」

 

いたたまれない空気になっている中、黒江からそう声を掛けられ、視線を彼女が向いている方に向ける。

そこには通路の角から熊のぬいぐるみの頭のようなデカブツ、警備用のウワサの手下が姿を現すとこが見えた。

 

「警備用の女王グマのウワサの手下です。これは────」

 

「ああ、ちょっとマズイかもな。」

 

瞬間、手下の大口が開かれ、一目散に杏子たちに向かって突撃をしてくる。

何に反応したかは不明だが、一番有力なのはペンダントを持っていない杏子に反応したと考えるのが妥当だろう。

 

「こうなったらしょうがねぇ!こっちもこっちで暴れるぞ!!」

 

ともかく狭い廊下で相対した敵がデカブツである以上杏子たちにはあまり退路はない。そう判断した杏子は槍で迎え撃つ姿勢をとる。

黒江とさなもそれに追従するように手持ちのメイスと盾を構えた。

 

「動きを止めます!」

 

さなが勢いよく盾を地面にたたきつけると杏子たちの前に巨大化した盾が複数枚現れ、ウワサの突進を防ぐ。

しかし、相当な膂力があるのか、真っ向から受け止めたさなは押されるように苦し気な表情を浮かべる。

 

「助かる────」

 

動きと止めたウワサに杏子が槍を突きつけようとしとところ、彼女よりも先にウワサがハンマーに叩きつぶされ、生々しい音と残骸が廊下にまき散らされた。

 

「んおっ!?フェリシア、お前・・・・・・・・・・・!!」

 

危うく攻撃に巻き込まれかけた杏子は驚きつつもやった本人であるフェリシアを視界に収める。

その表情に晴れやかなものはないが、少なくともその紫の瞳に陰りは無かった。

と、思ったのもつかの間────

 

「へへっ、だったらもうあいつらの振りする必要もねぇな。オレさやかと戦うなんてイヤだし。」

 

「はぁ?あ、お前らまさか────」

 

鼻を鳴らすようにしながら不適な笑みを浮かべたフェリシアに思わずあんぐりとした表情を浮かべてしまう。

 

「そのまさかです。最初佐倉さんが言ってた通り、せっかくアイちゃんと一緒に居られるのにわざわざ自分から捨てに行くようなことはしません。」

 

「っても、途中までさやかのことを忘れてたのはマジだけどな。」

 

どうやら2人はハナからマギウスの翼に恭順するつもりはなかったらしい。

なんなら今の杏子たちと同じようにスパイ行為に勤しむ腹づもりだったことに杏子は安心と呆れから頭を抱えながら大きなため息をついた。

 

「お、お前らなぁ・・・・・・・・心配かけさせやがって・・・・・・・・!!」

 

「す、すみません。でも、中に入れたおかげでわかったこともあるんです。エンブリオ・イヴの居場所です。」

 

さなの言葉に驚きの表情を隠しきれない2人。

ほとんどの羽根たちさえ知らないはずのその所在をどこで知ったのかと思っていると、さなは他の羽根の話と事前情報を擦り合わせた前提と念を押した上で廊下の外に見える輸送用の乗り物らしいのに目を向ける。

 

「聞いた話によると、あれには育成された魔女が運ばれているらしいんです。羽根の皆さんからはそれ以上のことは知らないと口を揃えられてしまいましたけど、おそらくはこの魔女たちが運ばれている先にエンブリオ・イヴがいるのではないかと。」

 

「……………まさか、育てた魔女をエサにしてるっていうのか?そのエンブリオ・イヴに。」

 

「確信をもって言い切れませんが、わたしも同じようなことを考えています。」

 

「そんなこと……………あり得るんですか?わたしはてっきり育ててるのはグリーフシードが目当てなのかと………」

 

「魔女を喰らうってんなら初めて神浜に来た時にさやかが目の当たりにしたって話だ。ようやく繋がってなかった点が繋がったが………とりあえず、見に行くしかねぇな。」

 

魔女がエサにされているということに怪訝な表情を浮かべてる黒江にそう言いながら杏子は廊下の窓を粉砕し、外の空間に身を乗り出した。

 

 

「わたしたちもついて行って大丈夫でしょうか?」

 

「アタシらはお前ら二人を探しにも来てるんだぜ?ついて来てくれなきゃ困る。」

 

杏子たち四人は壊した窓枠に足をかけるとそのまま跳躍し、輸送用の乗り物に乗り込み、そのままフェントホープの最深部。エンブリオ・イヴの座す空間へと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

「……………便利ですねぇ、この乗り物。」

 

「フフッ、確かにな。自分も初めて乗せてもらった時は面を食らったよ。」

 

羽根たちの包囲網かを突破して、みたまの待つドッペル症隔離室に向かうさやかたち。その道中、ゆきかと十七夜を乗せ、もはや完全にサブフライトシステムになってしまっているオーライザーに苦笑してしまうさやか。

とはいえ空を飛ぶさやかがスピードを合わせるには2人と一緒に地に足つけるくらいしか方法がない。時間を考慮すればこうなってしまうのは自然のことだ。

 

「次の通路を左に曲がってください。そうすればあとは道なりで着きます。」

 

「わかった…………………ん?」

 

ゆきかの案内で進んでいる中、不意に止まるさやか。

突然の停止に不思議そうにしている2人を尻目に警戒感を滲ませる表情を見せる。

 

「この先で待ち構えられてる。ご丁寧に陣形のようなものまで組まれているな。」

 

「ふむ、七瀬君。ほかに迂回できる道は?」

 

「確か、ほとんど一本道だったような覚えが…………」

 

「止む無しか………美樹君、どうした?」

 

戦闘は避けられないと思っている十七夜が何か考え込んでいるさやかに声をかける。

 

「杏子たちは運よく入れ違いになった様子だが…………目的地付近で暴れるのもな、どうしたものか。」

 

「…………美樹君、君からわかることを教えてくれないか?意表を付けるかは定かではないが、状況次第ではこんなのもいけると思うが?」

 

あまりド派手に戦闘をしてしまうと、余計な戦火を生む可能性があることに苦慮していると十七夜から提案が挙げられた。

その提案にさやかは心配そうな目線を向けていたが、十七夜の見せる得意げな表情に根負けするようにうなづくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「一人?報告ではあなた含めて三人で向かっているって聞いていたのだけど。」

 

「…………………頭に車輪が刺さっているが、大丈夫か?」

 

「は?」

 

一人で現れたさやかに待ち構えていた集団の先頭に立っていた魔法少女が訝しめな表情でにらみつけるが、返しとして飛んできた雰囲気とか諸々すべてをぶっ壊すようなさやかの心底から心配しているような表情と言葉に、先頭の魔法少女は何を言われたのか理解できえいないように言葉を文字通り失った。

先頭の魔法少女の恰好は白羽根と同じものをしていたが、全く外見から情報を得られないほど隠されているわけではない。

さやかはそのわずかにうかがえる部分に車輪のようなアクセサリーがついていたからそういったに過ぎないのだが、言われた側はそんなことは初めてだったのか、思考回路がショートしてしまっているかのようだった。

 

「いや、刺さっているというよりかは生えているのが正しいのか。しかし、魔法少女時の恰好は契約者のイメージによって左右されるらしいのなら、そのパンジャンドラムじみた車輪で趣味は自爆か?もしくは単に火遊びか火祭りが好みなのか。」

 

「そ、それはそれはとんでもなくであんまりな言いぐさですぅ!!どーしたら燦さまの頭の車輪を見ておきながらそんな突拍子もない結論になるんですかぁ!!火祭りが大好き………否!!もはや愛と形容しても過言ではないほど心酔されておられるのは事実ですが!!」

 

「そうなのか。」

 

 

突然割って入るようにしてきた羽根の魔法少女の力説によれば、先頭の魔法少女の名前は(さん)さまというらしい。

プリプリと羽根のフードの下からでも頬を膨らましている様子が簡単に浮かぶその羽根の魔法少女をなだめるように割と必死な様子で抑える燦さま。

心なしか周りの羽根の魔法少女たちも体を震わせているように見える。おおかた笑いをこらえているのだろう。

 

「ところで私はこの先で待たせている人がいるのだが。通してくれるか?」

 

「ッ…………何を世迷言を!」

 

さやかの言葉でようやく覚醒したのか、飛びのくように距離をとると両腕を構えるようにさやかに向ける。

それに対し、不思議に思いつつ身構えるさやかだったが、次の瞬間驚きに満ちた表情を見せる。

 

「ガトリング砲!?そんなの魔法少女としてありなのか!?」

 

燦さまの両腕が二門のガトリング砲に変化すると派手な爆音を鳴らしながら銃弾をさやかに向けて掃射する。

しかし現代兵器という予想外の得物に面を食らいながらも放たれた弾幕を空を飛ぶことで難なく回避するさやか。

 

「各員、私に続いて弾幕を張りなさい!!この回廊であの最強を撃ち落とす!!」

 

燦さまの指揮で後方で待機していた羽根たちから魔力弾による援護が入る。練度も羽根たちの中ではかなり上振れに近い者たちが集められているのか、弾速の早いものや誘導が強いものと種類が多くひどく避けづらい。

 

「…………一番のはずれを引いたか…………ッ!?」

 

悪態をつくように渋い表情を見せているさやかの顔を上からの光が照らす。

一瞬目がくらみつつもその場を離れると、その範囲を燦さまが撃ったであろう弾丸の雨が降りそそぐ。

 

(…………おかしい。撃った張本人が地面にいるのに今の攻撃は上から来た。)

 

攻撃してきたであろう本人が地上にいるにも関わらず、頭上から降り注ぐような攻撃が飛んできたことに疑問を感じたさやかが燦さまの方を見ると再びガトリング砲をぶっ放す彼女が映る。

ただし、それは背中に乗せたもう一門を足した計三門でガトリングによる砲撃を行っているものだったが。

 

(背中のガトリングからの弾丸が落ちてきてるのか!?)

 

背中の一門が明らかに違う方向を向いているにも関わらず、上に向けて放たれた弾丸は山なりに軌道を描き、さやかに向かって降り注いでくる。

たまらずさやかは高度を急降下させて逃れるも、流れるようにGNソードⅡを引き抜き、燦さまに肉薄。逆袈裟の形で切りかかる。

しかし、さやかの振るった刃は甲高い音とともに火花を散らして防がれた。

 

「なに────」

 

防がれたことに驚きの表情を浮かべるさやか。

見えたのは燦さまの周りを取り囲むバリアのようなもの。一瞬自身と同じものかと思ったが、そんな彼女にさらなる魔法が襲う。

視界がぶれたかと思うと、次の瞬間にさやかの体は宙を舞っていた。

 

(なんだ!?いつの間に吹っ飛ばされた!?)

 

続けざまに変わる状況に面くらいながらも吹っ飛ばされた態勢を整えつつ一度距離をとるさやか。

 

「さ、燦さま燦さまぁ~。あの人ミユの魔法を受けていながらしっかり反応してきました~気持ち悪いですぅ~。」

 

「落ち着きなさいミユ。」

 

(内容は不明だが、一瞬意識が飛んだような感じがしたのはあの羽根の魔法か。)

 

どうやら一瞬視界がブレ、時間が飛ばされたように攻撃された瞬間の記憶がないのは燦さまを慕っていると思われる魔法少女の仕業らしい。

厄介な能力だと、さやかは内心悪態を吐く。

戦闘のおいて、一瞬のスキでも致命的になってしまう。どうやら先ほどのはうまいこと反射的に体が反応してくれたから防げたようだが、意図的にスキを相手に見せさせるというのは無法すぎる。

 

 

「…………やはり私が最強などという評価は過大評価だな。」

 

そんな独り言をつぶやきながらもさやかは不敵な笑みを見せながらGNソードⅡを再び構えなおした。

 

 

 

 

 

 




何気に二部から登場のキャラクター出すの初めてだな………


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第103話 半径200km

仕事で疲れて感想返せなかった…………
申し訳ねぇけど、感想くれるとやっぱ嬉しい……………


 

『フェリシアちゃんとさなちゃんが見つかったんですか!?』

 

『おう。今は合流してエンブリオ・イヴのところに向かってるとこだ。』

 

『場所もわかったんですか!?』

 

続け様に明かされる杏子からの情報に驚きの表情を隠せないいろは。

 

『なんかここの窓の外を見るとさ、走ってる列車みてぇなのあるだろ?あれには育てた魔女が乗せられてんだけど、その先にいるんじゃねぇのかって、さなが言ってた。だから今は確認しに行ってるってところだ。』

 

「列車みたいな……………」

 

杏子の言葉に手頃な近くの窓の外を見ると、その通りに外の空間を列車のようなモノレールのようにも見えるのが無数に走っている。

 

『わかりました。常盤さんたちを向かわせますか?』

 

『いや、基本的に数の差は向こうにある。下手に動けば囲まれて終わりだ。さやかみてえにスピードでゴリ押せるなら話は別だが』

 

元々エンブリオ・イヴの相手を請け負っているななかたちを向かわせるのは時期尚早。

杏子の言う通り各個撃破されるリスクが大きいと判断しつつもいろはは難しい表情を見せる。

 

『そういえば鶴乃ちゃん……………鶴乃ちゃんについてはなにも?』

 

『ああ。そっちに関してはからっきしだ。フェリシアたちでさえ、鶴乃のヤツが翼入りしているってことを知らないときた。』

 

『そんな………………』

 

鶴乃の消息が全く掴めない。状況的に鶴乃がマギウスの翼に加入したことは確実だ。それにもかかわらず彼女の影すら踏めていない現状にいろはは心配する表情をより強める。

 

『…………とりあえず、鶴乃の方はアタシたちの方で続けておく。お前はお前で集中することがあんだろ?優先順位をつけろとはいわねぇが、二つ以上のことを同時になんて、いろははそんなに器用じゃねぇだろ?』

 

『杏子さん………………すみません、ありがとうございます。』

 

杏子の気遣いともとれる言葉にいろはは表情を緩め、礼の言葉を返したがそれに対する彼女からの返事はなかった。大方照れていたりするのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁッ!!」

 

「やぁぁぁ!!!!」

 

さほど広くない回廊でさやかのGNソードⅡと黒羽根の魔法少女、遊狩ミユリのローラーブレードがぶつかりあい、空中で火花を散らす。

 

「その程度ッ!!」

 

「あうっ!?」

 

お互いの力量にそれほど差はない。しかし、空中が主戦場であるさやかはGNドライヴの出力を上げ、その推力とともに押し出すように交差されたGNソードⅡを振りぬき、ミユリを弾き飛ばす。

そこからさやかは飛んで行ったミユリの様子を一瞥すらせずその場を離れ、襲い掛かる弾幕の範囲から逃れる。

 

「くっ……この狭さでとらえきれないなんて…………!!」

 

「流石に面制圧力がこの空間では高すぎる……!!!」

 

燦さまはは狭い空間にもかかわらず自身のガトリングによる掃射を潜り抜けるさやかの技量に、逆にさやかは形成される弾幕により近づけないことにお互い険しい表情を浮かべる。

さらにどうにかしようとさやかが接近して攻撃しても向こうにも似たようなバリアを張られてしまうため、状況的にはさやかが厳しい。

 

唐突に視界が電源が切れてしまったように一瞬暗転する。

 

「────またか!?」

 

思考を中断せざるを得ない状況に思わず声を張り上げるさやか。

気づけば自身の体はさやかの自覚なしに弾幕の中を突き進んでしまっている。

直撃をもらう前に戻ってこられたのは幸いか。

 

「クッ……………!!!」

 

苦しい表情を見せながらも弾幕の中を針の穴を通すような軌道で掻い潜る。

足を少しでも止めてしまえばもうそこから動けなくなる。それを危惧したことでのなおの前進。

 

(どうしてあの状況からすぐに建て直せるのよ!?それにあんな飾りを背中に背負っておいて、こんな…………!!!)

 

既に相当な数の弾丸をさやかに向けて放っているにも関わらず、当たる気配を微塵も見せないさやかに困惑に近い動揺を隠しきれない燦さま。

マギウスの御三家からさやかは近接よりの万能タイプの魔法少女と聞かされているため、近づかさせなければ一定の脅威程度で抑え込められると踏んでいたが、現実に見えている光景はどうだろうか?

 

さやかの表情に余裕は見られない。あの最強と謳われる魔法少女を苦戦させることができているのは明白だろう。

だが、それまで。そこ止まりだ。

周りの羽根たちが魔力弾を放とうとも手にしている剣で両断され、ミユリの固有魔法である『体感時間の短縮』で視覚と思考を奪っても超人的な反応速度で迎撃され、挙句自身の弾幕でも足止めがやっと。

これだけかかっても攻撃がまるでカスリもしない。それは戦闘において、ただ単純に強い敵よりもどんなに脆弱でも倒せない方が極めて厄介だ。

強いだけならまだいい。攻撃を当てることができれば、時間をかけていずれ倒す事ができる。

だがそれも攻撃があたってこその話。当てる事ができなければそのきっかけを掴むことすら叶わない。

 

「そこッ!!」

 

ライフルモードにしたGNソードⅡでビームを三射放つさやか。狙いは彼女を無力化するために両腕と背中のガトリング砲だ。

それに対し、燦さまはガトリングを撃ったままバリアを展開し、防御の構えをとる。放たれたビームも細いが威力が決してないわけではない。盛大な衝突音と共に衝撃ではじかれるように彼女が吹っ飛ぶ。

 

「ハァァァ!!」

 

そこに追撃と言わんばかりに肉薄したさやかがGNカタールが装着された脚で蹴りかかる。

カタールの刃は溶断に優れた性能を持っているが、彼女のバリアは破れない。

その硬さは思わず何らかの特殊な条件を達しなければ破れないのかと思ってしまうほどだ。

 

「それ以上はやらせません!!」

 

背後から強襲するミユリのローラーブレード、前方から発射準備の整った燦さまのガトリングと黒羽根たちの魔力弾が牙を向く。

無論攻撃を中断し、回避行動を取るさやか。

魔力弾が回廊の床を砕き、ガトリングの弾丸が壁を破壊するがさやかは身を翻し、弾丸をGNソードⅡで叩き落として直撃を避ける。

この場で唯一さやかに追いつけるスピードをもっているミユリは一度は距離を離されつつも足止めを食っているさやかに再び肉薄し、もう一度ブレードで蹴りかかる。

 

「………………」

 

背後からの攻撃にさやかは一瞬だけ視線を向けると両肩のバインダーからビームマシンガンをミユリに掃射する。

頑丈な魔法少女にはちょっと肌が焼ける程度しかない効果の薄い攻撃だが意表を突いたり、牽制するには極めて効果的な武装だ。

 

「ひゃうッ!?で、でもこれくらいなら────」

 

突然の迎撃武装に思わず動きを止めるミユリ。

一瞬の出来事だったが、その攻撃に威力があまりないことを察すると強引に突破を試みようとする。

しかし、次の瞬間には彼女の体は何かに引っ張られた。

 

「すまない、少し痛い思いをしてもらう!」

 

引っ張られた先にいるさやかは野球の投球フォームのように右手に持った剣を大きく振りあげている。その剣先からワイヤーが伸びており、その線を辿ると自身の足に巻きつけられているのに気づく。

 

(あの一瞬で───)

 

わずかに動きを止めたその瞬間を突いてくるというよほどの実力者でないとできない芸当に、戦慄に近い感情を覚えるミユリ。

さやかはそのまま手にしたGNソードⅡショートを振り下ろし、ワイヤーで繋がれた彼女を勢いよく床に叩きつけた。

背中から叩きつけられたことで肺から無理やり空気を押し出されてしまい、酸素が足りずに意識が朦朧となったミユリは意識を闇に沈める。

 

「ミユッ!?」

 

彼女がやられたことに悲痛な声を挙げる燦さま。

思わず駆け寄ろうと足が出かけたが、それより先にさやかが倒れ伏しているミユリの体を抱え上げる。

 

(まさか、ミユを人質に!?)

 

嫌な予感が脳裏をよぎる。

他の黒羽根なら多少は目を逸らすことができたが、燦さまにとってミユリはちょっと気持ち悪い部分(重度の脚フェチ)もあるが、自分を慕ってくれる大事な後輩のような存在だ。

そんな彼女を盾にされてしまえば何もできなくなってしまう、そんな確信があった。

 

「とりあえずここに寝かせておけば大丈夫か?」

 

しかし、ミユリの体を抱えたさやかはまるで見向きもせずに回廊の端の方に向かうと労るような丁重さで彼女を寝かせる。

 

「まぁ、これはおまけだ。使うかどうかはお前の判断に任せる。」

 

気絶しているミユリに聞こえてないだろうなと思いながらもさやかは懐からグリーフシードを取り出し、彼女の手に握らせる。

 

「えっ─────」

 

思わず目を丸くしてその様子を眺めてしまう。

彼女にとって今相対している自分たちは敵であるはずだ。

それにもかかわらず、さも当然のように戦闘に巻き込まれないように安全な位置に移し、グリーフシードを置いていくことに呆けた表情を戻せない。

 

(さてと、強固なバリアだな………奥の黒羽根たちはほとんど相手にする必要はないにしろ、あれを破るには相当な火力が必要か?)

 

向き直りながらも燦さまの展開するバリアの硬さに内心舌を巻くさやか。

火力でゴリ押すのも選択肢の一つ。さやかにはライフルモード以上の火力に心当たりはいっぱいある。

しかし、どれもこの場では不必要な火力であり、最悪奥の黒羽根の魔法少女たちを巻き込みかねない。

 

(どうする?ある意味で手がないな、これでは。)

 

そんなとき、黒羽根の一人が何か違和感を感じ取ったのかキョロキョロと周囲を見渡し始める。

 

「ど、どうしたの?そんなに周りを見て………」

 

その様子を見たほかの黒羽根から当然の疑問がかけられる。

 

「いや、何か揺れているような────」

 

何かを感じ取った黒羽根が不安そうな表情でそう答えた瞬間、回廊の床がすさまじい轟音と共に突き破られる。

 

「な、なに!?」

 

「いいタイミングだ。私の心でも読んだか?」

 

「フッ、そうと言えれば多少の恰好がつくのだろうが、残念なことに全くの偶然だよ。」

 

ちょうど燦さまとミユリの二人と取り巻きの黒羽根たちを分断する位置に粉塵が立ち上る。

その粉塵が揺らぎ、黒い人影が見えると、中から十七夜が姿を現す。

 

「和泉………十七夜………!!まさか下の回廊を無理やり壊してくるなんて………」

 

「いかにも。東側代表、和泉十七夜。君たちの救済を阻む一派の一人だ。」

 

不敵な笑みを浮かべながら鞭を手にする十七夜。

神浜市でも随一の実力者である彼女の出現に燦さまは険しい表情をより強める。

 

「七瀬君!!手筈どおりに向こうの羽根たちは君に任せる!一応忠告だが────」

 

「────ええ、わかっていますとも!」

 

粉塵の向こうから帰ってくるゆきかの言葉になら問題ないな、と表情を緩める十七夜。

次の瞬間、思わず耳を塞ぎたくなるような破裂音が粉塵の向こうから響いた。

それと同時に金属同士がぶつかり合うような音が無数に響き渡る。

 

「…………あんな派手な音がなる武装、彼女とのコネクトにあったのか?」

 

「状態を把握した彼女からそう進言があってな。相手を制圧するにはもってこいの代物だ。特に身体的外傷に対し頑丈にされた魔法少女相手にはな。」

 

舞い上がっていた粉塵が収まり始め、十七夜とは別の黒い影が見え始める。

しかし、そのシルエットは人と呼ぶには一回り大きな見た目をしていた。

 

「さやかさん、こっちの制圧は終わりました。」

 

粉塵から姿を現したゆきかはそれまでのバニーガールを模したような格好から大きく様変わりしていた。

全体的に赤い装甲が全身を覆い、左腕の連装マシンキャノンに加え、メイン武装であるレイピアはリボルバー付きのパイルバンカーとなって右腕に装着されていた。

何より目を引くのが両肩に搭載された巨大なコンテナだ。

モクモクと白煙をあげているところからすでに兵装としては使用済みなのだろうが、その大きさからうかがえる火力は想像に難くない。

 

「…………結構凄まじい音が鳴っていたが、大丈夫なのか?」

 

「かなり痛い思いをさせてしまったとは……………離れて撃ったとはいえ、何せぶつけたのがこんなものなので。」

 

黒羽根たちの心配をするさやかに粉塵から現れたゆきかは手のひらに乗せた鉄球を見せる。

大きさはベアリング弾を少し大きくしたくらいのものだが、先ほどの音の大きさからも相当な火力で撃ち出されたのであれば、ぶつけられた時の衝撃も致命的なものはなくともかなり大きいものだろう。

実際に床を破壊した時の煙幕が晴れてくると直撃を受けた箇所を押さえながらその場でうずくまっている羽根たちの姿が見えてくる。

 

「………………死人は出てないようだが、死屍累々だな。どうする?まだ立ち向かってくるか?」

 

倒れ伏している羽根たちを気まずそうに見ながら十七夜が一言、燦さまにそう投げかける。

 

 

「…………これ以上の抵抗は無意味です。そちらも矢鱈無闇の戦いを望んでいるようではないですし。」

 

少しだけ周囲を見渡して、燦さまは降参する意思を示した。

腹心といってもいいミユリは倒れ、取り巻きの羽根たちも戦闘不能である以上、燦さま側に数的有利は存在せず、勝ち目もない。

 

「そうか。まぁ、そうだろうな。」

 

「…………妙に残念そうな反応をするな?」

 

うんうんと頷く十七夜だがどこか表情は残念そうだ。

それをさやかが指摘すると彼女は一つ、小さくため息を吐いた。

 

「せっかく君とのコネクトを試せると思っていただけに、それの機会が流れてしまったのが惜しいと思っているだけだ。」

 

「あれをか?試しに使ってみたら余りの加速で体が耐え切れずにお前が血反吐をはきかけて大騒ぎになったのを忘れたのか?」

 

「うむ、あれに関しては回復魔法さまさまだったな。環君には頭が上がらない。だが美樹君の言う通りいささか肝が冷える場面も数多くあったが、乗りこなせれば相当なものは事実だ。」

 

そういってカラカラと笑う十七夜に頭を抱えるように呆れた表情を見せるさやか。

戦闘を行った直後だとは思えない会話の内容に燦さまは唖然とするしかない。

そんな時、フェントホープ内に放送が鳴り響く。

 

「これは、マギウスによる放送…………?」

 

「このタイミング…………あまりいい予感はしない。」

 

「同感だ。まぁ、自分たちが暴れ始めればそうは動くだろうな。」

 

燦さまのこぼした言葉に3人の間に緊迫した雰囲気が漂う。

さやかは険しい表情を浮かべ、十七夜は放送の内容をなんとなく察したのか憮然とした顔で耳を立てる。

 

「おそらく、計画の完遂を急ぐため向こうも強硬策で打ってでるだろう。」

 

「エンブリオ・イヴが起動する、ということなんでしょうか?」

 

ゆきかの言葉に難しい顔を見せる十七夜。

強硬策に出るだろうとは思ったものの、具体的にどう出ててくるかはわかってない。

ここはおとなしく放送の内容を聞いてから対応を考えるのがいい、そう思っていたが放送の内容に白羽根であるはずの燦さまでさえ驚愕一色に表情が染め上がる。

 

「正気なのか!?そんなことを行えば、一体どれだけの被害を産むのか理解していないわけではないだろう!!?」

 

「…………バカと天才は紙一重だとはよく言うが、これは完全に馬鹿のやることだ。一応聞いておくが、こんな愚行をすることを君たちは知っているのか?」

 

「…………いえ。エンブリオ・イヴの存在そのものは知っていましたが………」

 

十七夜に詰められる燦さまは言葉が出てこない様子だが当惑している表情に嘘は見られない。おそらく本当に知らなかったのだろう。

 

その放送の内容は神浜市を中心に半径200キロ以内の魔女を全て市内に呼び寄せ、エンブリオ・イヴに吸収させ、覚醒を促すというもの。

ワルプスギスの夜を呼び寄せたのもそのためだとすれば、確実に神浜市は文字通りの崩壊を迎えるのは火を見るより明らかだ。





というわけで、ギャンブラー繋がりでアルトアイゼンの七瀬ゆきかちゃんでした。

十七夜さんの方もわかる人にはわかる、はず。


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第104話 みんなに見せられる

うう、最近仕事きつくて書けねぇし………


 

「クッ……………本当に奴らは魔法少女を救済するつもりがあるのか……!?」

 

フェントホープ館内に響いたマギウス達の手段に表情を歪めるさやか。

半径200km圏内の魔女を全て神浜市にそれ専用のウワサで誘導し、それらをエンブリオ・イヴの覚醒のための糧とする。

しかし、それを行なった時の代償は、さやかにとってはあまりにも釣り合わない。

 

「そ、そんなことをしてしまったら、市内の人々が魔女の大群に………!!」

 

「それだけじゃない。今の神浜市の人々の心には不安といった負の感情が渦巻いている。それもある程度集められた状態でだ。」

 

「ッ…………そうか、避難所!!魔女にとって不安や恐怖はご馳走に他ならない!いくら誘導されているとはいえ…………!!」

 

今の神浜市は一般人の目から見れば未曾有の勢力の台風が迫ってきている状況だ。ほとんどの交通手段はストップし、日常を謳歌していた人々はさやかの言う通り、大なり小なり不安を抱えた心境で避難所に身を寄せている。

そこに人々の不安を好物とする魔女が集められたら、十七夜の想像通りいくら誘導されているとはいえ寄り道のような形で避難所を襲撃されてもなんらおかしくはない。

 

「……………つまり、このままいくと私たちは大量殺人者のレッテルを張られると?」

 

「それもそうかもしれないが、ワルプルギスの夜まで引き込んでいる時点で奴らはその行動で引き起こされる被害が見えていないように思える。人の命だけじゃない。このままではみんなの帰る場所がなくなってしまう。お前もどこからの出だかは知らないが、お前の大事なモノ、守りたいモノもそこにあるのではないのか?」

 

さやかからそういわれ、燦さまは大きく目を見開く。

燦さま、改め神楽燦という魔法少女はいろはと同じ宝崎市の魔法少女だ。神浜市から見て西側に位置するその都市では、知名度こそ高くないが細々と続けてきた伝統的な祭り、『光塚の火祭り』があり、彼女はその祭りの存続を願い魔法少女となった。

 

(……………私は、火祭りを守りたい。守らなきゃいけない。)

 

それは紛れもない本心、自身の根幹をなすものだ。

マギウスの翼に入ったのも、火祭りを守りたいために魔法少女となったのに自身が祭りを害する可能性のある存在になり果てては元も子もないからだ。

だが、こうしてマギウスの計画が最終段階に入り、ふたを開けてみればどうだろうか?

 

(ワルプルギスの夜………その存在はただそこにいるだけでも災害にも等しい魔女。その被害が及ぶ範囲も未知数。もしかしたら、宝崎も例外ではないかもしれない。)

 

「…………一つ、貴方に確認したいことがあります。」

 

先に行こうとしたさやかたちを呼び止める。

 

「仮にマギウスの御三家の計画を止めたとして、誘導されたワルプルギスの夜が進路を変えるとは限らない。まさかとは思いますが────」

 

「当たり前だ。みんなの未来を切り開く。それができるだけの希望は、今の私にはあると思う。」

 

燦の言葉を遮るようにさやかはワルプルギスの夜の打倒を宣言するとすぐさま踵を返し、足早に二人と共に先へと進んでいく。

マギウスの作戦が明らかになった以上、時間をかけるわけにはいかなくなったのだろう。

その場に残された燦はさやかたちの背中を見送ったあとに肩をすくませてため息を吐いた。

 

「よくもまぁあのような大言を平然と………よほどの大馬鹿でもなければ口に出すことすら憚られるでしょう。」

 

その大馬鹿が彼女(さやか)なのだろう。

身を縮こませて過ぎ去るのを待っていればいいはずの災害を乗り越えるべき障害と見ることができるのは本当に一握りの存在だろう。

マギウスの御三家も言い換えればその災害に立ち向かっているともいえるが、決定的に違うのはそれを自らの目的のためではなく、ただ周りの人たちを守りたいという真っ直ぐな願いであるということ。

 

「………………みんなの未来を、ですか………」

 

 

 

 

 

回廊の先に見えてきた扉を勢いそのままに開け放つ。

そこにいるはずのみたまの姿を探すさやかだが、それよりもそのドッペル隔離室の様子に思わず目を見開いて言葉を失う。

そこには隔離室の壁を埋めつくしていると言わんばかりに所狭しにドッペルが拘束されていた。

隔離室の空間自体は細長い塔のようになっており、縦方向に空間は広いが、少なくとも目で見える範囲には蠢いているドッペルの姿があった。

 

「これら全てがドッペルだと言うのか……………!?」

 

「ええ、そうよ。」

 

驚愕の表情を十七夜が見せていると、みたまが姿を現した。

目線を上に向けていたからわからなかったが、部屋に設けられているソファにはレナの姿もあった。そして─────

 

 

「ももこ……………やはりお前もここにいたか。」

 

「ッ…………………」

 

白羽根のケープに身を包んだももこの姿もあった。

さやかが声をかけると、彼女は気まずそうな表情をしながら逃げるように目線を逸らした。

 

「……………とりあえず、お前の選択を咎めるつもりはない。だがその上で聞かせてほしい。さっきの放送を聞いてでも、お前はマギウスの行う救済を望むのか?」

 

さやかからそう聞かれ、より一層苦い表情を深めるももこ。

おそらく、彼女も相当に悩んでいるのだろう。自らのために、計り知れないほどの命を巻き込んでいいかを。

それを察したさやかは彼女にそれ以上問いただすようなことはしなかった。

 

「………………時間があまり残されていない。率直に聞くが、彼女たちが元に戻る可能性はあるのか?」

 

「わからない、って言うのが正直なところ。彼女たちの救済が完遂されることで元に戻るかもしれないし、もしかしたら戻らないかも。どっちもね。」

 

みたまの答えにそうか、呟くさやか。

 

「だが、生きてはいる。それは確かなんだな?」

 

「………………こんな状態を生きていると呼んでいいのならね。」

 

そう言ったみたまの表情は酷く鬱屈としたものだった。

さやかの言う通り、ドッペルはあくまで溜め込んだ穢れを実体化したもので、それに取り込まれただけであれば少なくとも死んではいない。

ただ、死んでいないとはいえ暴れることしかできなくなったそのドッペルを生きている魔法少女と呼んでいいのかどうかは憚られるのがみたまの本音だ。

 

「救済を待つ以外に方法は?」

 

「………………ハァ、アナタがいる以上黙ってても無駄よね。」

 

さやかに問われ、ため息をついたみたまの目線は十七夜に向けられていた。

さやかは以前十七夜の口からみたまとは旧知の仲だと聞かされていた。魔法少女となったあとも交流があったとすれば、彼女の固有魔法の読心も知っているのだろうと踏んで彼女を連れてきたのだが、それが功を奏したようだ。

 

「その様子なら敢えて言う必要もないとは思うが…………手法があるのであれば是が非でも頼みたい。この有様は流石の自分でも彼女たちが不憫で他ならない。」

 

「………………私の魔法を使えばできなくもないわ。」

 

「できるの!?」

 

「ですけどなんだか曖昧な言い方のような………?」

 

みたまの言葉に身を乗り出す勢いで反応するももこ。

しかし、どこなく歯切れの悪さを感じたのか首を傾げるゆきか。

 

「………………ソウルジェムへの直接干渉。それはつまり対象との精神の同調を意味する。平時ならまだしも精神状態が最悪といってもいいドッペルに対しては使用者である彼女本人への影響も計り知れない。」

 

「全部話されちゃったけどその通りよ。できなくはないって言うのはそういうこと。念を押すようだけどホントにできなくはないのよ?多分そこにみたまさんの命がかかってくるだけで。」

 

「そんな…………!!それじゃあかえではいつまでも…………!?」

 

方法はあるが実質的に無理。

みたまの答え方はようはそういうことだ。

あんまりな現実に今まで話を聞いていたレナも思わず立ち上がりながら声を荒げる。

 

 

「…………………精神状態がいい方向に向かえばいけるのか?」

 

「それは……………言葉通りに受け取ればその通りだけど………」

 

「……………手伝ってほしい。私1人では彼女に声は届かせられない。」

 

そう言いながらさやかは決意を固めた目を向ける。

その目線の先にはドッペルに取り込まれ、異形の姿となって囚われたかえでがいた。

 

「ごめんなさい────」

 

「…………やはり中立の立場を崩すことはできないのか?」

 

みたまの答えにさやかは予想していなかったわけではないのか大した動揺もせずにその理由を推察する。

それが当たりなのか、みたまは静かに肯定した。

 

「八雲、ここまできての中立の立場への固執はいささか目に余るぞ。」

 

「和泉十七夜ッ!?まさか────」

 

みたまの態度にしびれを切らしたのか怒気を孕んだ口調の十七夜に前回の観鳥令のことが頭をよぎる。

すかさず止めに入ろうとしたさやかだったが、他ならない十七夜に静止されるように手をかざされる。

 

「案ずるな。観鳥君のときのような下手は踏まないと約束しよう。」

 

「…………わかった。お前が旧友にすら手を上げる人の心がない人間ではないと信じよう。」

 

「相も変わらず不遜な言い方をしてくれる…………」

 

心配そうな顔から飛び出るさやかのとげのある言葉に肩を落として脱力する十七夜だが、一つ小さくため息をついてみたまと向き直る。

 

「……………無論、八雲の事情は理解しているつもりだとも。君は魔法少女になりながらも、戦うための力を得られなかった。魔女と戦うことはできない。だが、魔法少女である以上グリーフシードの入手は文字通りの死活問題だ。だから君はほかの魔法少女たちの調整を行う代価としてグリーフシードを求めた。」

 

「しかし、今の現状はどうだ?件のマギウスはエンブリオ・イヴなどという偶像をあのワルプルギスの夜にぶつける腹積もりだ。そんなことをしでかして起きる未来を予測できない君であるまい。確実に神浜市は吹っ飛ぶくらいの被害は避けられない上に、グリーフシードの入手経路を失うことになる。おまけに救済と謳うドッペルもふたを開けば突貫工事も良いところの杜撰な仕組みだ。こちらに与するだけの理由はそろっているはずだが?」

 

「それに君は美樹君に期待していると言葉を漏らした。その期待に美樹君が応えられるとしたら、その機会をわざわざ逸するつもりか?」

 

十七夜の言葉を受け、ゆっくりとさやかの方に目線を向けるみたま。

その瞳には十七夜の指摘通りの期待とここにいる魔法少女たちを助けられることへの不安が入り混じったものだった。

 

「……………手伝ってほしい。頼めるか?」

 

 

 

 

 

 

(ここは……………?)

 

一寸先も見えない闇の中、かえでは目を覚ます。

 

(ここは、どこ?確かはわたしは、レナちゃんに連れられて────)

 

記憶を辿っていき、自分がレナに連れられてフェントホープから出ようとしたところまでは覚えている。

傍らにいたはずのレナを探し、周囲を見渡すかえでだが、その空間には人どころか物すらかけらも見当たらない。

 

(なんだか怖いよ………早く出ないと)

 

『どうして出ようとするの?出たところでノロマなわたしに居場所なんてないのに』

 

本能的に恐怖を感じるこの場を危険と判断したかえでだが、背後から突然声をかけられ、思わず大きく目を見開いて振り向く。

そこには同じ髪型、同じ背丈、同じ服装をした鏡合わせのような自分。しかし、何より違うのはその顔には目の部分はくり抜かれ、口が半月状のようになった白い仮面が被せられていた。

 

(ッ〜〜〜〜〜!?!!)

 

声にならない悲鳴を挙げながらドッペルゲンガーとも等しきその存在から距離を取ろうとする。

しかし足がもたついてしまい、尻餅をついてしまうかえで。

 

「あ、貴方は一体…………!!」

 

『誰って…………ずっと一緒にいたはずだよ?ここ最近はずっとね。』

 

目の前の自分からそう言われるが、皆目見当がつかないかえでは困惑と不安が入り混じった表情を見せる。

その反応に白い仮面を被った彼女は気だるそうに両肩を竦ませる。

 

『ドッペル、っていえば流石にわかるでしょ?』

 

「ドッペル…………ッ!!」

 

仮面の自分がそう名乗ったところでかえでは思い出した。ドッペルの使いすぎで暴走を引き起こし、取り込まれてしまったことを。

そしてその側にレナと少なくとも2人くらいの魔法少女たちかいたことを。

 

「ね、ねぇ!!貴方ドッペルなんだよね!?レナちゃん…………一緒にいた友達は大丈夫なんだよね!?」

 

立ち上がりながらドッペルの自分に駆け寄り、そばにいたはずのレナの安否を問うかえで。

その様子にドッペルは怪しげに小さく笑い声を響かせる。

 

『フフッ……………それは貴方自身が一番よくわかっているんじゃないの?ドッペルが暴れたらどうなるかは。』

 

「ま、まさか……………そんな…………!!」

 

ドッペルの言葉に酷く狼狽した反応を見せるかえで。

それには彼女がマギウスの翼に身を寄せた理由に大きく関係があった。

ある日、いつものようにかえで・レナ・ももこの3人で魔女と戦っていたが、その魔女が彼女たちが想定していたより遥かに強く、全滅の可能性もあったほど追い込まれていた。

その状況を打開したのが偶然にもかえでが発動させたドッペルだった。

しかし極度の精神状態で使用したため、ドッペルは暴走。結果として魔女は倒せたが、レナとももこは大事には至らずに済んだものの暴走に巻き込んでしまった。

 

そして、今回かえでは再びドッペルを暴走させてしまった。前回は運が良かったものの、二度も続くとは思えなかった。

 

「うそ……………うそだよね…………わたし……わたしはレナちゃんを死なせたくなかったからここに一緒に来たのに……………!!」

 

自分がレナを殺したかもしれないというショックに茫然自失になるかえで。

その足元からふつふつと黒いモヤのようなものに包まれ始める。

蝕むようにかえでの脚を侵食していく黒いモヤ。このままでは明らかにかえでの身に危険が起きるだろう。

 

 

その時だった。真っ暗闇の空間に一条の光が灯る。

 

「なに…………この光…………?暖かい…………?」

 

目に涙を浮かべていたかえでがその光の差す方向を見た。

見上げるような高さにあるその翠の輝きはかえでが気づいたことに反応するように一層輝きを強め、かえでのいる空間の闇を打ち払っていく。

 

────かえで!!!

 

「───────あそこに行かないと」

 

微かに聞こえた声に思わず目を見開く。

直後、かえではそう直感し、脚を動かそうとしたところでようやく自身の状況を理解する。

即座に自身の得物である杖を振りかざし、足元から木々を生み出して拘束と同時にドッペルとの距離を取る。

 

 

 

「ウソッ!?手応えありだわ!?ホントにあの子の精神の調子が良くなってるのだけどどうなってるのよ、アナタのその力!?」

 

「うまいこと効いてくれたか…………!!」

 

「ハハハハッ!!!ここまでくるともはや痛快物だな!」

 

拘束されたかえでのドッペルの前で能力を行使しているみたまが悲鳴のような驚きを挙げる。

事態の好転のきっかけとなったのはさやかのもつガンダムの力。装備を含めた全身が鮮やかな赤に光り輝く『トランザムシステム』でGN粒子放出量を極大にまで増大させる。

それが引き起こすのはGN粒子を媒介とした他人同士の意識のリンク。しかし、みたまのような精神を同調させるのではなく、イノベイターになっているさやかの脳量子波を土台に他者同士を繋ぐ橋渡しを行う。

 

「……………私には繋げて伝えることしか、希望を示すことしかできない。肝心の本人が前に進めなければ変わらないし、その彼女を手繰り寄せられるのは友達であるお前たち次第だ。」

 

額に脂汗を滲ませながらも軽く笑みを浮かべるさやかの言葉にレナとももこは強く頷き、かえでのドッペルに強く呼びかける。

 

「……………美樹君、素直に吐くといい。その程度の表情で済ませているようだが、負担はかなりのものだな?」

 

「……………まぁ、他の魔法少女たちにもやってるからな。お陰でそれなりにネガティブな文言が頭の中を飛び交っているが、効果は出てるみたいだからドッペルも動きがおとなしくなっている。」

 

十七夜に負担を見抜かれたさやかの言葉にギョッとした表情を浮かべたみたまが辺りを見渡してみると、拘束された状態でも暴れていたはずのドッペルが悉く沈静化している。

 

「ねぇ、ホントにどういうこと?貴方って確か、魔力の回復ができるのよね?だとしてもこれは………あまりにも常識外れすぎるわよ?」

 

いぶかし気な顔で説明を求めてくるみたまにしょうがないというように不敵な笑みを見せるさやかと十七夜。

 

「ああ。まったくもってその通りだ八雲。美樹君の両肩から放出される粒子には穢れの浄化作用がある。ため込んだ穢れが形となったドッペルにはさぞ覿面だろうが、まずは能力を行使している君のソウルジェムを見てみるといい。」

 

十七夜から促されるように自身のソウルジェムに視線を向けるみたま。

瞬間、半信半疑だった顔が驚愕の一色に染め上がる。

 

「固有魔法を使っているのに………穢れがほとんどない………!?」

 

「────これが、私からみんなに見せられる可能性(希望)だ。」

 

 

 




なんか最近場面が切り替わってるとこ多くて見づらいとかない?大丈夫?


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第105話 守られるべき中立

最近寒くなってきたとおもったらまた気温上がるの多いなぁ…………体調崩しそうで怖い


 

「ふぅ………………」

 

目の前に広がる光景を見て、さやかは安堵のため息をこぼしながらトランザムを解除する。

視線の先にかえでを飲み込んだドッペルは存在せず、代わりに互いの瞳に涙を浮ばせながら身を寄せ合っているかえでとレナと、そんな2人を同じような表情で側で見守っているももこの姿があった。

 

「他のドッペルの様子はどんな様子だ?見たところ直前と比べておとなしくはなっているようだが。」

 

そんな3人を尻目にさやかはみたまにドッペルの状態を聞く。

近くでドッペルの様子を観察していたみたまはさやかの方は向き直ると呆れたように両肩をすくませた。

 

「少し覗いただけだけど、格段と精神のバランスは良くなっていたわ。全く負担がないってわけではないにしろ、これならある程度はいつもの調子でやっても大して問題ないかも。」

 

みたまからその返答を聞いたさやかは満足そうに頷いた。

 

「…………八雲、君はこれからどうするつもりだ?答えを聞かせてもらおう。」

 

「…………わたしは─────」

 

十七夜の問いかけにみたまが答えを出そうとした時、大きな振動がさやかたちの体を揺らす。

突然の現象にその場で身構え、周囲を見渡す。

 

「ッ……………不味いわね、場所を移すつもりよ。」

 

「……………このフェントホープをか?一体何の必要でだ。」

 

「集めた魔女をエンブリオ・イヴに与えるには無力化して捕まえる必要があるのよ。」

 

「迎撃のための移動…………場所まではわかるのか?」

 

「……………大東区郊外の廃遊園地、といえばわかる?」

 

大東区、という単語に十七夜に視線を向けるさやか。

幸い見当がついてるのか頷く反応を見せてくれるが表情は芳しくない。

それもそのはず。理由は単純に場所が悪い。

ワルプルギスの夜の上陸予測地点は神浜市の南西地区だ。対する大東区は市の東側を占めているとはいえほとんど正反対のような場所だ。

仮にエンブリオ・イヴを止められたとしても、距離が離れているせいでワルプルギスの夜の迎撃態勢を整えられない可能性が非常に高くなってしまう。

市への被害を最小限にするために上陸そのものを防ぎたかったさやかにとってこれは非常に厳しい状況となってしまう。

 

「さやかさん、どうしましょう……………!!」

 

「……………確か里見灯花は放送で魔女を誘導するためのウワサがあると言っていた。まずはそれの破壊が最優先だ。だが、問題は居所だな。」

 

「こちらは頭数がない以上、捜索のためにわざわざこれより下手に分散させるのは悪手ということだな?」

 

「そう。向かわせるのであれば確信がほしい。」

 

揺れは収まったが、不安そうな表情のゆきかにそう言いながらさやかは誘導を行っているウワサの所在がわからないことを理由に難しい表情を浮かべる。

 

(…………中立を称しているのなら、これ以上の干渉は────)

 

調整屋は中立であればならない。

それはみたまにとって恩人であり師匠とも言える『先生』からの言葉である。

みたまが調整の代価としてグリーフシードを求めるのはひとえに彼女が戦えない魔法少女だからである。

願いを叶えなかったさやかでさえ、最低限サーベルが武器としてあったのに対し、契約した時の彼女は身を守る術さえなかった。

魔女と戦えなければグリーフシードを得られず、待っているのは魔女化による死だけ。

絶望の淵に立たされていたみたま。そんな彼女を救い上げたのが調整屋としての師匠であった。

 

そこから師匠と呼べる魔法少女から調整を教わり、こうして居を構えられ、他者依存とはいえグリーフシードを得られるまでになった。

 

(だけど、これは守るべき中立なの?)

 

どちらかに肩入れすればどちらかを見捨てることになる。調整屋と銘打ってはいうが、みたまのやっていることは要は商売。不評を買って利益が半減するのは彼女にとっては不利益そのものだ。

何より、副作用ありきとはいえ魔女化を避けることのできるドッペルという存在がみたまをマギウスから離れづらくしていた。

戦えない彼女にとって戦わずとも魔女化の危険が避けられるのは願ったり叶ったりだ。

だがその建前もさやかが生み出すGN粒子の光で崩れかけている。

さやかから料金の代わりとして魔力の自然回復があることを聞かされていたとはいえ、彼女はそれを他人にまで効果を拡大、あろうことか穢れの浄化までやってのけた。

 

(……………みんなに見せられる、突き詰めればそれはみんなを守ることのできる希望、っていうことなのね?)

 

 

 

 

 

「──────フェントホープの屋上、そこに誘導装置があるわ。」

 

会話に入ってきたみたまの声に目を見開くさやかたち。

ウワサの場所を教えるということは明らかにマギウスに対する利敵行為だ。

中立の立場を望んでいるみたまがその情報を伝えるということは────

 

 

「いいのか?今ならまだ聞き逃したことにしても構わないが。」

 

少し間を空けてからみたまは小さく、それでいて確かに頷いた。

その意志を受け取り、さやかは散らばっている仲間たちに念話で状況の変化と作戦目標を伝える。

 

『今の揺れはどうやらフェントホープが移動したらしい!行き先は大東区郊外の廃遊園地だ!これによりワルプルギスの夜の上陸予想地点から離れてしまう以上、迅速な計画の阻止が求められる!いろはたちマギウス担当はそのまま上を目指して魔女の誘導を行なっているウワサの破壊に専念してくれ!計画の柱を為しているだろうから、マギウスもそこにいるはずだ!』

 

『さやかさん…………!!わかりました!!』

 

念話から代表していろはの返答を聞き届け、さやかは十七夜とゆきかの2人と目を合わせ、隔離室への外へ向かおうとする。

 

「待ちなさいよ!レナたちも一緒に行くわよ!!」

 

「手を貸してくれるのは助かる。だが2人はそれでいいのか?」

 

ついてこようとするレナたち。

それにさやかは笑みで返しながらも彼女たちに、特に羽根であるかえでとももこの2人を見てそう問いかける。

 

「ドッペルに取り込まれたときに見せてくれた光、あれはさやかちゃんが今出しているものと同じなんだよね?ドッペルも確かにいろんな魔法少女の子たちにとっては救いにはなると思う。でもわたしはそれ以上にもし制御ができなくなったときにレナちゃんとか周りの人にけがをさせちゃう方がもっと怖い。だからわたしはあなたに賭けたい。沈みかけたわたしに希望を見せた光ならもっといろんな人を本当の意味で救えると思うから。」

 

そう言い切ったかえでの表情はいつぞやかに見せていた不安そうなものではなく、決意固まった精悍なものを見せていた。

 

「…………ホントはさ、アタシ知ってたんだ。魔女化のこと。」

 

「………それもそうか。安名君が確か─────」

 

ももこと十七夜が安名という魔法少女と思われる名前を出したっきり、気まずい表情で口を噤んでしまう。

おそらくももこと十七夜の共通の知り合いだったのだろう。それもレナとかえでがまるで知らないというように顔を見合わせていることから二人と出会う前、場合によってはやちよたちとも交流があったことも考えられる。

 

「その子は安名メルって言う子なんだけど、アタシがまだやちよさんたちとチームを組んでいたころの仲間だったんだ。今はもう、いないけど。」

 

目を伏せるように顔を背けたももこに全員はそのメルと言う少女が既に魔女化し、故人になってしまっていることを察してしまう。

 

 

「メルが魔女になってしまったあの時からずっと心のどこかで思ってたんだ。アタシもそのうち魔女になっちゃうのかなって。」

 

「それがイヤだったから半ば半分かえでの誘いに乗るようにマギウスの翼に入った。けど────」

 

一旦言葉を切ったももこ。視線はわずかに後ろに向けられ、ドッペルと融合してしまった魔法少女たちに向けられていた。

 

「たくさん見たくないものをみた。魔女を育てるために普通の人を傷つけたり、ああいう風にドッペルの使いすぎでまともでいられなくなったり。少し前にマギウスの人が挙げた集会だと、周りの魔法少女たちは救済は目前だっていう言葉に歓声を上げてたけど、根本的なところを間違えてる。」

 

ももこの目線は傍らに立つレナとかえでに移る。その目線はまるで大事な宝物でも見つめるかのような柔らかいものだった。

 

「普通の人であれ、魔法少女であれ、それまで隣にいた誰かと突然一緒にいられなくなるかもなんて間違ってる。あっちゃいけないことなんだ。だから、アタシも乗っからせてくれないかい?君の見せられる希望ってヤツにさ。」

 

「────わかった。改めてだが、こちらとしては手を貸してくれることに対して感謝の言葉以外を送るつもりはない。ありがとう。」

 

「話はまとまったみたいわね?」

 

「ああ。一応もう一度確認だが、安定化しているとはいえこの数だ。グリーフシードの予備は十分か?」

 

話がまとまったところにきたみたまに確認をとるさやか。

さやかの言う通り、GN粒子の力で安定化できているとはいえドッペルに取り込まれた状態から元に戻すには相当な労力と魔力がいるであろうことはみたまの言葉から推察できる。

 

「自腹を切るのは後にも先にこれっきりにしたいわね。」

 

みたまの様子から心配はいらないと判断したさやかは隔離室を後にしようとする。

 

「そういえば先ほど戦った魔法少女たちだが、また襲ってくるのだろうか。」

 

「そうなっては欲しくはないが、その時はその時だ。」

 

外で無力化した神楽燦たちがまた仕掛けてくるかも、という十七夜の言葉に苦笑いのような表情で仕方ないと返す。

 

「十七夜さんたちって誰かと戦っていたのか?ときどき揺れていたんだけどさ。」

 

「………教官です。羽根たちに戦闘を教えているあの鬼教官です。」

 

「えっ!?あのしごきがバカみたいにきついってウワサの!?」

 

「結構名うての魔法少女だったのか。そうであるのなら手ごわくて当然か。」

 

ゆきかの言葉に心底から驚いた表情で目を見開くももこ。

神楽燦がマギウス内でも指折りの魔法少女であったことに気づいたさやかは納得したような表情を見せる。

他の黒羽根たちの統率力を見て、かなりできる人物だとは思っていたが、教官という立場であるのなら合点がいく。

 

「────その割に貴方を止めることはまるで叶わずだったけどね。」

 

「わぁぁ!?出たぁーーー!?」

 

声の聞こえてきた入り口の扉の方を見るといつのまにか入ってきていたのか話題にあげていた神楽燦の姿があった。彼女の周りにはローラーブレードを履いた魔法少女、遊狩ミユリをはじめ、ともに防衛に出ていた羽根たちもいた。突然の来襲にお化けでも見たかのような反応を見せるももこ。

そのももこの反応を不快に感じたのか少しばかりムッとした表情を浮かべる。

 

「な、なによ……もしかしてやるつもり……!?そうならレナたちは容赦なんてしないからね……!!」

 

現れた神楽燦たちが仕掛けてくると思ったのか槍を構えるレナに彼女は少しだけあたりを見渡すようにすると首を横に振った。

どうやら今この場で戦闘を行う意思はないらしい。

どういう理由だと思っていると彼女の周りにいた黒羽根たちの表情が目についた。

顔全体が見えてるわけではないから口元しか表情を伺うことはできないが、それでも唖然とした様子で口が開いており、羽根たちの目の前に広がっている大量のドッペルが拘束されている光景に明らかにうろたえている。

 

「ちょ…調整屋さん……これ、なんなんですか……!?」

 

神楽燦の周りにいた羽根の一人が、隔離室に閉じ込められているドッペルを見て困惑した様子でみたまに説明を求める。

マギウスからドッペルの有用性は聞かされているだろうとは思っていたが、やはりその隠された危険性については知らないらしい。

羽根たちに一斉に視線を向けられたみたまはわずかに顔を俯かせたあとにさやかの方を見た。

 

「……おそらく私たちが話すより、羽根のみんなから信用のあるお前に話してもらった方が受け入れやすいと思う。もしくは実体験を持っているかえでにだが。」

 

意見を求められたさやかがそういうとみたまは少しだけ考えるようにそうね、とつぶやき、ドッペルに隠された副作用を明かした。

魔女化の恐怖から逃れるためにやってきたというのに結局は同じように使いすぎによる弊害が存在していたことに羽根たちは動揺を隠せない様子だ。中には呆然とした様子で力なく座り込んでしまうものもいるほどだ。

 

「………ドッペルの力を行使しすぎるとドッペルと融合してしまい、元に戻れなくなってしまう。それもあの状態から回復する手法もなければ兆候もなし、ですか………」

 

みたまの話を一通り聞いた神楽も口元を手で覆い隠し、険しい表情を見せる。隣で立っているミユリもどこか不安そうな顔を神楽に向けていた。

 

「もちろん、マギウスの行いすべてを否定するつもりはない。少なからずドッペルが魔法少女たちを救えていたのは確かだ。だが、私にはいささか答えを急ぎすぎているように思えて仕方ない。」

 

「それが、貴方の言う希望なのね。閉じていたはずの扉からでも見えた、貴方が生み出すあの光が。」

 

どうやら彼女はドッペルに取り込まれたかえでを救い出す一部始終を見ていたようだ。

 

「……メインは魔力回復や穢れの浄化だ。ドッペルから引きはがすのは調整屋である彼女がいなければ結局は不可能だ。」

 

魔力回復と穢れの浄化。さやかは何げなく淡々とした様子でそれを言葉にしたが、その破格の能力に神楽も大きく目を見開いて驚きを隠せない。

 

「………戦うつもりがないのは確からしいな。行こう、みんな。」

 

神楽の雰囲気からさやかたちを止める意志がないことを察したさやかは十七夜たちを連れ添って隔離室をあとにする。

すれ違うときに微妙に気後れした表情を見せるかえでとももこだったが、それを神楽はわずかに笑みだけを見せて送り出した。

残されたのはドッペルに取り込まれた魔法少女を助けるために残ったみたまと神楽たちだけ。

 

 

「…………あのさ、みたまさんだけ残して大丈夫だったのか?」

 

「今の彼女に敵意や害する気はなかった。手荒なマネはしないはずだ。いくらこちらに与してくれることを決めたとはいえ、中立として少なからず貢献していたであろう彼女を独断で何かするとは考えづらい。」

 

 

隔離室を出たあとの心配そうなももこの言葉にそう返す。

とはいえそうさやかから断言されたとしてもももこはさやかみたいに人の感情に機敏なわけではない以上、不安の種が消えることはない。

 

「とはいえ、さすがに状況の確認がしたいな。特に外の様子をだが。」

 

「確かにそうですね。例の魔女を誘導するウワサが起動したのなら無数の魔女たちがフェントホープに集結してしまうわけです。ほかの羽根の魔法少女にも危険が及んでしまう可能性も…………」

 

十七夜とゆきかの言葉にさやかは少し考えを巡らせたあとに頷く。

 

「…………私たちの行動はこの先は特に定めていなかった。杏子たちかいろはたちどちらかと合流することも考えたが────」

 

 

「私たちはいったんフェントホープ外へ移動。そこから集まってくる魔女の迎撃をする。魔女の捕縛をする計画の邪魔も出来るし、何より羽根の魔法少女の援護もできる。」

 

「まったく、これでは一体どちらの味方をしているんだ、などとか言われてしまいそうだ。」

 

さやかの決断に呆れたような口ぶりの十七夜だが、表情にそのようなものは見えない。

ほかのゆきかたちも羽根たちを助けるという方針に乗り気なのか自身の得物を構えなおしたりして気合十分といった様子。

さやかたちは建物の外へ出るためにフェントホープの正面入り口へと向かう。

 

 

 




評価とかお気に入りとかが増えたり、感想くれると嬉しいよな…………(承認欲求モンスター)


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第106話 魔法少女は救われなければならない

仕事忙しいよう…………(白目)


 

「なぁ…………ここってさ、一応アイツらにとっちゃあトップレベルに大事な場所だよな?」

 

杏子の呟きに無言で頷くフェリシアたち。

さなが手に入れた情報から魔女が運搬されているレールの先にエンブリオ・イヴがいると踏んだが、結論から言えばエンブリオ・イヴはいた。

昆虫のような節のついた手足に蝶に似たような羽。

そして地上にいる杏子たちが見上げてもなお全貌が把握しきれないその白い巨体。

グロテスクな見た目ではあるが、確かにワルプルギスの夜と張り合うのであれば納得の大きさだ。何より内包している穢れも半端ではない。無数の魔女を喰らったためか、その胴体からは可視化ができてしまうのではないかと思ってしまうほどの濃さを感じる。

 

ただし、今の杏子にはそれよりも目を引くものがあった。ちょうど自分たちの目と鼻の先ほどに近い場所、エンブリオ・イヴの足元に誰かいる。

 

「フフッ…………ウフフッ…………私はいつだって蚊帳の外…………」

 

それは酔っ払い(梓みふゆ)だった。なにか高級そうな椅子に寝転びながらオレンジ色の液体、その液体から漂ってきた匂いに思わず表情を歪ませる。

アルコールの匂い。彼女が飲んでいるのは酒だ。酒は杏子にとっては嫌な思い出しかない。脳裏にトラウマともいってもいい光景がよぎるが、父親との最期のやりとりを思い返し、なんとか平静を保つ。

儚げな笑みを見せているみふゆの顔もほのかに紅くなっているから彼女が酔ってしまっているのは確実だろう。

 

「あれ絶対めんどくさい酔い方してんだろ。」

 

「佐倉さん………」

 

何があったのか知らないが、到底人に晒してはいけないような醜態に呆れた様子で見つめる。隣にいた黒江も杏子のあんまりな言い方に苦言がありそうなようだが、杏子の表情とみふゆのある意味あられもない姿に困惑する程度に留めた。そしてその杏子の声が聞こえたのか見向きもしてなかったみふゆの体がピクリと反応した。

 

「あなたたちは────」

 

初めはムッとした表情を見せていたみふゆだったが、フェリシアとさなの姿を見ると驚いたように目を丸くしたのちにどこか申し訳なさそうに沈んだ顔を見せる。

 

「お前、幸運水とかのウワサのときの!お前なら鶴乃がどこ連れてかれたとか知ってんじゃねぇのか!?」

 

フェリシアがみふゆのことを思い出すと彼女を指差しながらそう言った。

確かにみふゆは他の羽根たちとは違ってあのケープのような顔を隠すものを着ているとこを見たことがない。それは顔を隠す必要がないほど羽根たちに顔が割れているということであり、それだけ組織内で高い地位にいるということにもなる。

 

「ッ……………」

 

鶴乃のことを聞かれたみふゆはより一層申し訳なさそうに顔を俯かせる。

その反応ぶりから彼女が鶴乃の居所を知っているのは確実だろう。そして、鶴乃が極めて危険な状況に置かれていることも。

 

「こーんなところで何やってんのかは知らねえけどさ。そうやってやさぐれてんのならそれだけの理由があるんだろ。特に鶴乃のヤツに関してさ。」

 

「鶴乃さんの居場所、知っているんですか!?」

 

杏子の指摘とさなの言葉に迷うような様子をみせるみふゆ。

 

「頼む!オレたち鶴乃を助けたいんだ!!」

 

「ううっ……………」

 

フェリシアの純粋な願いにさらに気圧されるように顔を背ける。

 

(本当は、わたしがやらなければならないこと。かつての仲間をあのような有り様にしてしまったわたしの責任。ですが──────)

 

脳裏に浮かぶはマギウスが計画が最終段階に入ろうととさていることを羽根たちに告げる集会の光景。

マギウスの行う救済の演説に羽根たちは歓喜を露わにするように大歓声をマギウスに対してあげていた。

みふゆ自身、未だやちよから理解はされていないものの、救済さえ成し遂げられればいずれはまた以前のように共にいられる日が来ると思っていた。

だが、その甘い妄想は無惨にも打ち砕かれることとなる。他でもない、彼女たち羽根が信奉するマギウスによって。

 

『お前たちにとって、大事な人が自らの行いに巻き込まれた時、お前たちはどうする?』

 

いつぞやかに聞いたさやかの言葉がみふゆの心でくり返される。

ここでみふゆは気づいた。さやかは誰かの犠牲ありきでは誰も救われないことがとっくにわかっていた。だから綺麗事だとわかっていても、それを目指している。そこにしかハッピーエンドなんかないことが見えていたから。

 

対する自分はどうだ?ソウルジェムが砕かれる(雪野かなえ)さまを見て恐怖し、魔女化(安名メル)を目の当たりにして絶望して、親友であるやちよと喧嘩別れまでして見えてきた現実はあまりにも無情。

 

『誰かの犠牲の上に立てるほど、私たちの魔法少女の心はできていない。』

 

「場所は…………おそらく灯花さん、マギウスの子達と行動を共にしているでしょう。ですが、今のあの子の状態は…………確実に正気ではありません。」

 

気づけばみふゆの口は鶴乃の居場所とおかれている状況を吐露しまっていた。

完全に無意識と呼んでもいい、溢れるように出た言葉に思わずハッとなるみふゆ。酒を口にしていたことで思考が鈍っていたのか。それとも鶴乃の命を危険にさらしているという罪悪感がそうさせたのか。ともかく飛び出た言葉に自身はここまで弱気になっていたのかと戦慄する。

 

「………………正気じゃないねぇ……具体的にはどういう状態なんだ?」

 

「あ、あの………今のは────」

 

「アンタ、今アタシらに鶴乃の居場所教えたよな?ってことは少なからずあいつを助けたいっていう本心はあるってわけだ。んだけど正直言ってそれができるかどうかはぶっちゃけ厳しめ。そうだろ?」

 

割り込むように言われた杏子の言葉にそれは、と声を詰まらせる。

助けたい、という気持ちならある。だが決起集会で見た鶴乃を思い起こすと、どこか虚な瞳でただ一言───

 

魔法少女は救われなければならない

 

その一言だけを壊れたスピーカーのように繰り返すその姿とすれ違った時に一瞬だけ見えた、髪と服装が晴れやかなオレンジから冷え切ったような青白い後ろ姿。

それと同時にみふゆの記憶の中の鶴乃が剥離していくような橙色の細かな光。

みふゆは悟る。鶴乃はマギウスによって壊されかけていると。

助けるべきだ。他ならない巻き込んだ自分自身が助けなければならない。

だが、微かに見えたあの光。あの鶴乃のように明るい色のはずなのに、妖しいとさえ感じさせてしまうあの輝き、見間違いでなければあれは────

 

「─────わたしは、一体どうすれば良かったのでしょうか?」

 

無謀。無力感。仲間を死なせたくないがために願ったのに、その願いのために他ならない仲間を死に追いやり、あろうことかそれを助けに行くことができない自身の情けなさにみふゆは懺悔するように目の前の杏子たちを見据える。

 

「…………………やっちまったことはもうどうにもならねぇ。過ぎた過去はもう二度と戻ってこないみたいにな。」

 

知らないと一蹴してもよかった。例えばフェントホープにやってきたのはグリーフシードを盗みに来た程度であれば、彼女の疑問に答える必要も義務もない。しかし、今の杏子は彼女らマギウスの翼を止めるために来た。そして自らの行いを後悔しているみふゆを見て、杏子は自分と重ねた。

かつて魔法を使ったが故に本意ではない結果を招いてしまった自分に。

 

「だからたぶん、アンタが考えるべきはどうすれば『良かった』じゃなくてどうすれば『良い』かだ。そうすりゃあ自然と身体は動く。」

 

杏子にそう言われ、みふゆは考える。

これまでではなく、これからを考える。

 

「私は─────」

 

みふゆは灯花たちマギウスから計画の真実を聞かされていなかった。

それはおそらく彼女たちから計画の詳細を聞かされたときに犠牲を多く出すこのやり方を是としないだろうことを見抜かれていたからか。

ならば自身のやるべきことは────

 

「止めます。止めに行きます。やはり犠牲を多く強いるこのやり方を見過ごすことはできません。私がそうすることをあの子たちに見透かされていたとしても、その真意がどうであれ、あえて私がそのように動くことであの子たちの心が救われると信じて。」

 

「! なら────」

 

「はい。今更と思われるかもしれませんがどうか、私もあなた方に協力させてください。」

 

「みふゆさん………!!」

 

フェリシアの期待に応えるように頷くみふゆに嬉しそうに表情をはにかませるさな。

 

「協力してくれるのはありがたいんだけどさ。アンタはまずやちよのヤツと話すことが先だろうな。あんま詳しくは聞いてねぇけど相当揉めたんだろ?」

 

「そ、それは………やっちゃん、受け入れてくれるでしょうか?あんな喧嘩別れにも等しいことをしていたのに…………」

 

「それは会ってからのお楽しみってヤツだな。ま、中々そういう機会が作れなくても察したお人よしが引っ張ってくれるだろうさ。」

 

「確かに…………あの人は話し合うことをとっても大事に見ていますからね。」

 

そう言った杏子のお人よしというのに心当たりがあったフェリシアはうんうんと頷き、隣のさなも似たような反応を見せる。

 

(やってしまったことはもうどうしようもならない、か。)

 

4人を少し遠巻きに見ていた黒江は表情を曇らせ、まるで眩しいものでも見るかのように俯く。

 

(話すことも大事だとしても、謝りたいと思っても、もう話すことができない相手なら、わたしはどうしたらいいの?)

 

黒江の足元からモヤのように黒い煙が立ち上る。

 

『そう。お前は彼女たちは違う。お前にはもうやり直す機会なんてない。』

 

「ッ!?!」

 

脳裏に響くようなくぐもった声に黒江は恐怖するように身体を竦ませる。

辺りを見渡すが、声の主と思えるような人影はどこにもない。

 

「……………黒江?」

 

そんな様子を見せた姿がたまたま目に入ったのか不思議に思った杏子が彼女に声をかける。

 

「は、はい!?だ、大丈夫です!!」

 

「……………………」

 

突然声をかけられたことに対してなのか、挙動不審な黒江に首を傾げる杏子。

 

「大丈夫ならいいんだけどさ、あんまアタシらから離れるなよ?この状況だから一回はぐれると最悪な目に遭うかもだぜ?」

 

「さ、最悪……………ご、ごめんなさい。」

 

杏子の言う最悪な目。

確かに一回でもはぐれて仮に一人にでもなってしまえば強くない黒江は羽根たちからの袋叩きは免れない。

ドッペルを行使すれば逃れられなくもないだろうが、ドッペルを多用すればどうなるかは前回のゆきかの件から想像に難くない。

 

「あー……………いや、言葉が悪かった。ともかくなんか気にしてることあんなら言っとけよ。できること、もしかしたらあるかもしれねぇからさ。」

 

黒江の青くなった表情を見て余計に怖がらせたことを察した杏子は申し訳なさそうに頭をさすりながらそう語りかける。

 

「……………わかりました。それと、すみません。気を使わせてしまって。」

 

「気にすんなって。魔法少女に大なり小なり後ろ暗い何かあんのは今に始まったもんじゃあねぇ。さやかぐらいだろうな、そういうのがさらっさらないのは。」

 

「そこまで…なんですか?あまり彼女のことを知らない私が言ったところでなんでしょうが………」

 

「だってアイツ筋金入りのバカだし。」

 

「………多分さ、さやかみたいなヤツのことを頭のいいバカって言うんだと思う。」

 

「二人とも酷い言いぐさですね………」

 

ふとさやかの人となりを聞いてきたみふゆに対する杏子とフェリシアの呆れたような物言いに苦笑いするさな。

 

「…………うし!とりあえずこいつ(エンブリオ・イヴ)つぶすのは後回しだ。ほったらかしにすんのは気が引けるが、この人数じゃあこんなでかいやつを相手すんのは無理な以上、これでアタシらはお役目ごめんってやつだ。さてどうしたもんか……」

 

「みふゆさん、結局鶴乃さんは今いったいどういう状態なんですか?」

 

「っと、そうだった。肝心要なことを聞き忘れるところだった。」

 

これからの行動を考えようとしたときにさながみふゆに鶴乃の状態を詳細を尋ねた。

その質問に少し思い詰めた顔を見せるみふゆだったが、やがて意を決した顔で杏子たちに向き直る。

 

 

「……………鶴乃さんはウワサと融合させられてしまったんです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが地上へ出る正面玄関か。」

 

ドッペル隔離室から出たさやかたちはフェントホープの正面玄関まで来ていた。

音楽ホールのような荘厳な印象を受ける煌びやかな空間だが、そこに今のところ羽根たちの姿はなかった。

 

「アイのおかげでだいぶスムーズに来ることができた。ありがとう。」

 

『フェントホープ内のマッピングは八割がた完了しています。お時間をいただいたのでこれくらいは問題ありません。』

 

さやかが懐から取り出したスマホからアイの姿が投影される。

 

『しかし、この先にはウワサによるセキュリティシステムが存在します。証であるあのペンダントをかざせば通過するには差し支えないと思われますが…………』

 

アイの言葉に釣られるように証を所持しているゆきかたちがそれを取り出すが、その表情は芳しくない。

金色だったはずのペンダントがまるでその資格をなくしたかのように霞んだ黒へと変色していた。

 

「杏子から聞いてはいたが、おそらくこれは使えなくされているだろう。」

 

「ということはこのままでは我々は外へは出られないと?」

 

「いや、とりあえず使ってみよう。仮にダメでもこっちにはマスターキーがある。」

 

さやかの言うマスターキーにまるで聞いたことがないと言うような顔を見せる元羽根たち。

その中でレナだけはどこか察したように呆れたような目線でさやかを見ていた。

そのまま出入り口に近づいていくと、突然黒い人形のような外見をしたウワサが投影されたディスプレイがさやかたちの前に立ち塞がる。

 

『ただ今マギウスによるセキュリティ強化が行われていマス。ここをお通りの際は、シンボルをおかざしくだサイ。』

 

ウワサからそう伝えられ、一旦顔を見合わせる一同。

 

「どうする?とりあえず従ってみる?レナはどっちでもいいけど。」

 

「穏便に済むのならそれに越したことはない。」

 

さやかからそう言われ、レナは懐から黒くなったシンボルを取り出し、ウワサの前にかざす。

するとウワサはレナの持つシンボルを取り囲み、取り調べをするように隅々までチェックしていく。そして─────

 

『警告!警告!このシンボルでは認証できまセン!』

 

案の定、ウワサは暴れ始め、けたたましい警報音を打ち鳴らす。

 

「やっぱりか。」

 

「こうなるの、ホントはわかってたんでしょ?」

 

「想像に難くないというだけだ。」

 

警報音が出たことで周囲の羽根たちが集まってくるなか、レナは用済みになったシンボルを捨て、焦った様子を少しも見せずにさやかから距離を取る。

 

「じゃ、後よろしく。」

 

「ああ。」

 

「……………マスターキーとはそういうことか。」

 

レナとさやかのやりとりを見てようやく合点がいったのか、苦笑しながら十七夜はももことかえでとゆきかの3人を引きずるように距離を取る。

 

「え、えっ!?十七夜さん、あっちは羽根の魔法少女たちでいっぱい────」

 

包囲網を形成しつつある羽根たちの方に敢えて近寄っていく十七夜にももこが何か言おうとした時、オーライザーの両バインダーと二振りのGNソードⅡを向けたさやかが極太のビームを発射し、セキュリティ用のウワサごと玄関をぶち抜いた。

 

「全く、つぐつぐ君は自分を飽きさせないな。」

 

「これが一番速いと思うからな。」

 

「うっわ〜………………」

 

眩い光に一瞬目が眩んだかと思えば、さっきまで玄関のあった場所に大穴が空き、外の様子が見えてしまっていた。

1人の魔法少女が出すにはあまりにも法外な火力に唖然とした反応を隠しきれないももこたち。

 

「ほら、ぼさっとしてないでさっさと行くわよ。アイツが空けた穴が塞がり始めてるんだから。」

 

「っていうかレナはなんでそんな平然と────」

 

さやかの火力を目の当たりにしても動揺一つ見せないレナを疑問に思いつつも彼女の言う通り、空けた穴が閉じ始めていることに気づいたももこは先行くレナの後を追うようにその先へと向かっていく。

 

「ぴゃう〜……………さやかちゃんって魔法少女じゃなくて魔砲少女だったんだねぇ…………」

 

「私は確かに魔法少女だが…………もしかしてそれは火力の話か?」

 

いまいちかえでの言葉にピンと来ず、首を傾げるさやかだったが、時間を浪している余裕もないため、追手の羽根たちの様子すら一瞥せずにかえでと一緒に穴を潜り抜けていく。

 

最後に残ったゆきかと十七夜も同じように空けた穴から脱出し、残されたのは呆然とした様子で見送ることしかできなかった羽根たち。

 

「た、ただでさえ代表者の人たち全員が向こうについているって聞いたのに、あんなバカにならない火力の魔法少女までいるなんて……………」

 

さやかの火力を初めて目の当たりにし、圧倒的なまでの差を見せつけられたことに思わず隣にいた他の羽根と顔を合わせる。

視線を向けられた他の羽根はそのニュアンスとさやかと戦えるかどうかと捉えたのか、びっくりした表情で全力で首を横に振るのだった。

 




ある意味鶴乃ちゃんが最強になると思う。
ま、ご本人それ目指してたからいっか!!(暗黒微笑)


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第107話 フルアームドさやか

ようやっとこの作品でやりたかったことの一つができた気がする


「うわわ……………!!」

 

「今の衝撃……………」

 

突然起こったフェントホープ全体を揺らすような轟音と振動に反射的に身構えるマギウスの灯花とねむ。

何事かと思ったが、一瞬視界に映ったビームのような光に誰がやったのかを察しながらも被害確認のために一旦魔女を誘導しているウワサから離れ、建物を見下ろす。

 

先ほどのビームの被害はフェントホープの建物に大きな空洞を作っていた。

少ししてその穴から何人かの魔法少女たちが出てくる。

羽根であることを示すケープを誰1人として被ってないため、侵入してきた魔法少女、もしくは羽根であることをやめた魔法少女たちであるのは明白だろう。

そして、その彼女たちを率いるかのように翠色に輝く粒子を出しながら空を飛ぶさやかの姿が目に映る。

 

「あれが、美樹さやか……………!!!」

 

飛翔するさやかの姿を見て、歯噛みするかのような表情を見せる灯花。

現状、計画を遂行するにあたって一番の障壁となっている美樹さやかという魔法少女。

さやかはフェントホープの周りの現状を確認するように一通り周囲を見渡したあとに2人の視線に気づいたのか上を向き、目線を合わせた。

時間にして数秒だったが、自分たちを見つけたことでこっちに向かってくるかもしれないと思い、灯花とねむの2人に緊張が走る。

 

「………………」

 

しかしさやかは不意に視線を外すと向かってくることはなく、そのままフェントホープと融合した廃遊園地の正門へと飛んでいった。

 

(……………今のが里見灯花と柊ねむ、残りのマギウスか。)

 

まさかホントに小学生とはな、と心の中で驚きを露わにする。

いろはから2人のことについてはあらかじめ聞いてはいたが、実際に会ってみるとそれはそれで驚いてしまう。

 

(二人を止めるのは、いろはの役目だ。私は私にできることをやるだけだ。)

 

二人の近くにあった巨大なアンテナのようなものが例の魔女を誘導させているウワサなのだろうが、さやかの火力ではおそらく近くにいる二人を傷つける可能性が高い。

そう結論づけたさやかは廃遊園地の正門を見据える。

敷地を囲うように築かれた壁と巨大な扉は半端な覚悟を持った者たちをまるで寄せ付けないかのような威容を誇っている。

正門の周りには警備のために配置されているであろう白羽根と黒羽根たちがいたが、接近するさやかに気づくと慌てた様子で魔力弾による攻撃をしてくる。

 

「こちらにお前たちに危害を加える気はない、と言ったところでな。」

 

一旦こちらに敵意はないことを現したかったが、彼女たちの希望である救済を阻みに来ている時点で聞く耳を持ってくれないとするとさやかは攻撃を回避しながらオーライザーの両バインダー部からGNマイクロミサイルを発射する。

 

「ミサイルだ!巻き込まれたくなかったらそこをどいてくれ!」

 

GN粒子を放出しながら飛んでいくミサイルは羽根たちのはるか頭上で正門に突き刺さり爆発を起こす。

爆音とともにガラガラと崩れたような音が響いたが貫通までには至らなかったのか凹みを残すだけにとどまる。

 

「流石にでかいだけはあるか…………」

 

火力を出すだけならもっと出せる。それこそ立ちはだかる正門をぶち抜けるくらいには。

しかし、さやかがその砲火を向ける先には羽根の魔法少女たちがいる。

 

「さやかさん!!」

 

その時、先行くさやかに追いついてきたゆきかたちがやってくる。

さやかが振り向くとそこには大きく諸手を振りながら駆け寄ってくるゆきかの姿が。

 

「わたしが行きます!任せてください!」

 

「────了解!頼んだ!」

 

高度を下げ、ゆきかに近づいていくさやかの姿を見て、何かしてくると感じた羽根たちが具体的に何をしてくるかは分からないながらもとにかく好きにさせるわけには行かないと妨害に走る。

 

「悪いが、お引き取り願おうか。」

 

近接武器を持って接近してきた羽根を追いついた十七夜が阻み、そのまま力ずくで押し返す。

さらにその後ろでさやかとすれ違うようにレナとももこが前へ躍り出る。

 

「レナ!!」

 

「わかってる!!」

 

ももこから請われるようにレナの手がももこの手に重ねられる。

瞬間、コネクトが発動し、レナの力がももこに移ったように彼女の持つ大剣に水色の魔力が付与される。

 

「いっけぇぇぇぇッ!!!!!」

 

大きく振り上げた大剣を力強く地面に叩きつけるももこ。

派手な音と共に地面にヒビが入るがそのヒビは意思を持ったかのように羽根たちの足元まで広がる。

次の瞬間、ヒビ割れた地面から水が間欠泉のように勢いよく吹き上がり近くにいた羽根たちをまとめて蹴散らした。

 

「それぇ〜!!」

 

さらにかえでが若干気が抜けるような間延びした声で杖を振うと、ももこが作ったヒビを中心に木々が生い茂り、互いに互いを絡めとるような動きでさやかが作った凹みへジャンプ台を形成する。

 

「これは……………!!」

 

「優しい君のことだ。あまり火力の出る攻撃は周囲に誰かしらいる状況ではしないと思ってな。」

 

自分と十咎君とで考えたと十七夜がそう伝えると、さやかとのコネクトで再び真紅の装甲を身に纏ったゆきかが瞬間的に風が吹き荒れるほどのスピードでまっすぐ一直線に扉へ向かって突撃を開始する。

 

「これ、結構反動が凄まじいんですよねぇ…………」

 

独白のように呟きながらゆきかは自身の右腕に手を添える。

彼女の右腕には一つの鉄杭が装着されていた。いわゆるパイルバンカーと呼ばれる打突武器だが、その鉄杭の後ろに弾倉の入ったリボルバーが見える。

ちょうど弾倉が撃鉄するとその衝撃で鉄杭が撃ち出される位置にあるため、至近距離で喰らわせられれば絶大な威力を発揮するだろう。

神楽燦ともの戦闘で十七夜と共に床を破壊して急襲できたのもこの兵装のおかげだ。

ゆきかはトップスピードを維持したままゆっくりと腕を引き、装着されたパイルバンカーを構える。

 

「どんなに硬くたって…………ただ撃ち貫くのみ!!!!」

 

かえでの作った木でできたジャンプ台を駆け上がり、宙を浮き、ももこの作った間欠泉を突き抜けながらさやかの作った正門の凹みに『リボルビング・バンカー』の鉄杭を打ちつける。

同時にリボルバー内の撃鉄が起こり、ゆきかのスピードと弾倉の爆発力が組み合わさった鉄杭は硬いもの同士がぶつかり合うような凄まじい轟音と共に扉に巨大な亀裂を作り出す。

しかし、周囲の魔法少女たちが思わず反射的に耳を塞ぐような衝撃音だったが、亀裂が入りながらも門そのものはまだその役目を果たしていた。

 

「まだまだ…………!!全弾、いただいちゃってくださいッ!!!!」

 

そこからさらに追い討ちをかけるように打ち込んだバンカーの弾倉が火を吹く。

一発目を合わせて合計六発の撃鉄が起こり、一発爆ぜる度に亀裂はさらに大きくなり、ゆきかの姿もさらに奥へと隠れていく。

そして最後の六発目、バンカーを叩きつけたと同時に正門をぶち抜き、フェントホープの外へ出るゆきか。

貫通されたことで自重を支えきれなくなったのか正門は音を立てて崩れ去っていく。そんな誰もが目を引くようなことが自身の背後で起こっている中、ゆきかの意識は前方に広がる光景に視線が釘付けになっていた。

外ではウワサによって誘導されてきた魔女が辺り一面を覆い尽く勢いで飛び回っていたり、地上を闊歩していた。

本来魔女は結界の外からは出てこないはずだが、それが普通に外で実体化しているだけでもかなりの異常自体。

見渡せば羽根の魔法少女たちが複数人のグループで手分けして魔女に対応しているように見える。

しかし、目的はどうにも魔女の撃破というより捕獲のために動いているようだった。

 

まだ情報の出揃っていないゆきかたちにはエンブリオ・イヴが関わっていると察するまでが限界。それ以上のことはわからない。

だが、それでもわかることはある。

自分たちが乗り込んできた影響もあるのだろうが、魔女の数に対して圧倒的に魔法少女の頭数が足りていない。

今は固まって動いているのと、魔女たちはどちらかといえば廃遊園地の敷地内に入ろうと躍起になっているのが功を奏しているのか、意識がそれほど羽根たちに向いていないのかそこまで状況は凄惨ではない。とはいえ魔女一体に対して手こずっている様子を羽根たちは見せている。

あの様子ではいずれ誰かの命が消えてゆく。それくらいの確信を抱いてしまうくらいには。

 

「さやかさん!!お願いします!!」

 

意を決した表情でゆきかは崩れゆく正門の方に向かってさやかを呼ぶ。

その瞬間、崩れた時の粉塵を突き抜けながら翠色の輝きを散らし、さやかが空を翔ける。

その姿はオーライザーとドッキングした『ダブルオーライザー』からさらに変化していた。

右手にはGNソードⅡブラスター、左手にはブラスターと同じくらいの刀身をもった幅広の剣、GNソードⅢがそれぞれ握られ、両肩のバインダーには上からバスターソードⅡとGNシールドを二つ連結されたものが装着され、オーライザーの時点ですでに巨大とも言えていた状態からさらに巨大化したような印象を感じさせる。

それは背部も例外ではなく、大小様々な実体剣がこれでもかと追加されたザンユニットに搭載。後ろからさやかを見ようとしても足がギリギリ見えるかどうか。

 

「あの子あんな量の剣全部使う気!?何刀流ってレベルじゃなくない!?ロマンの塊すぎない!?あたしどっちかと言うと可愛いものの方が好きなんだけど!!」

 

「いや、流石に腕の本数が物理的に足らないだろう。」

 

「見るだけで頭痛くなりそう…………バカなの!?バカだったわ…………」

 

「レナちゃん、自分で自分にツッコミ入れてないで早く外へ出ようよ。」

 

もはや全部載せしているさやかの姿に思い思いの感想を抱く面々。

そんなこともつゆ知らず、ダブルオーライザーの強化形態『ダブルオーザンライザー』の装備にセブンソード/Gの武装を加え、完全武装(フルアーマー)となったさやかは前方を埋め尽くす魔女を見据えると両手両バインダー、さらにザンライザーから延びる二本のサブアームに握られたGNソードⅡといった射撃兵装を全て前方へ向ける。

 

「火力を前面に集中させる!!頼むから射線には入らないでくれ!!」

 

「は、はいッ!!」

 

ゆきかにそう警告を出しつつ、さやかは前方を覆いつくす魔女を見据える。

各射撃兵装の銃口にビームの光が灯りつつある中、さやかの瞳が金色に輝きだす。

 

「ダブルオーザンライザー、目標を殲滅するッ!!!」

 

トリガーが引かれ、さやかの持つすべての射撃兵装からビームとミサイルが嵐のように発射される。

乱れ撃ちといっても過言ではない攻撃に行動が制限されいる魔女はなすすべもなく撃ち抜かれ、薄暗くなっていた神浜市の空を一瞬の花火となって彩っていく。

しばらく続いた爆発の光に目がくらんでいたももこたちが目が開けるようになったときには空を埋め尽くしかけていた魔女たちの数が一瞬自身の目を疑ってしまうほどにまでその数を激減させていた。

 

「パ、パワーがダンチ過ぎる………!!」

 

「ダメだ!まだ来るぞ!!」

 

味方であるはずのさやかが引き起こした現実にドン引きに近い反応を見せるももこだが、さやかの表情は険しい。

それに気づいた十七夜が彼女の見据える方向に視線を向けると新たに誘導されてきた魔女が群れを成して向かってきているのが目についた。

 

「まだあんな数………半径200キロとか言っていたけどどんな場所から引き寄せているのよ!!」

 

「少なくとも神浜市の外からも連れてきているよね…………」

 

「…………これは、事が終わったあとも相当な面倒ごとがついてくるのが目に見えてくるな。」

 

まだまだやってくる魔女たちに辟易といった反応みせるレナとかえでをよそに十七夜は少し先の未来を察して渋い表情を見せるのだった。

 

 

 

 

 

 

「相当上ったはずだけど、まだ頂上が見えてこないのね。」

 

「ええ、全体像を実際見たわけじゃないとはいえ、かなり広大な広さね。このフェントホープって建物は。」

 

里見灯花、および柊ねむの拿捕に動くいろはたち。さやかたちと別れてからかなりの時間上へと上がってきたはずだが、未だフェントホープの頂上にたどり着けないでいた。

ゆきかからフェントホープの高さはいわゆる中世に出てくるお城くらいのものだと聞いてはいたが、そのイメージとはあまりにかけ離れている内部の広さだ。

 

「もしかしたら、外へ向かった美樹さんたちの方が早かったかもしれないわね。」

 

「ま、それならそれで集まってきている魔女たちも一斉に蜘蛛の子を散らすだろうからそのあとが楽なんだがな。」

 

代表者二人も余裕な様子だが、ゴールが見えてこないことには一定の不快感のようなものがあるらしく、顔つきもどこか険しい。

 

「しかし、かなり暴れたはずですが一向に姿をみせませんね。あの警備用のウワサの本体、名前を確か女王グマのウワサでよかったでしょうか?」

 

「そうね。確かに子分ともいえるウワサの手下も多くつぶしたはずだけど………」

 

怪訝な表情で警備用のウワサの親玉である女王グマのウワサが姿を見せない理由を考えるななかとこのは。

 

「……………まさか、この状況をひっくり返せるような『切り札』が向こうにあるとか?」

 

「何が出てきても叩き潰すだけだぁ!!」

 

漠然と漂う嫌な雰囲気にわずかに汗を流す葉月と対照的に猪突猛進気味に防衛のウワサたちを蹴散らすあやめ。

 

「…………あれ?なんというか羽根の魔法少女の人たちの数が少ない気が………?」

 

「ホントだ!ってことはあーしたち誘われてるってこと!?」

 

初めはウワサのほかに羽根の魔法少女も迎撃に出ていたはずだが、里見灯花の放送があってからは明らかに羽根の姿が見えなくなっている。

流石の割と能天気の気質のあるみとと衣美里も感じてきた危険に緊張の様子を隠せない。

やがて一行はホールのような広い空間に躍り出る。

 

「これは…………いかにもって感じの空間ね。」

 

「あぁ………ぜってぇデカいのが来る……みんな油断すんなよ!!」

 

代表者の見せる警戒に一同も同じように警戒するように周囲を見渡す。

奥にはさらに上へと続く階段のようなものが見えるが、その空間のあまりに異質な静けさにその足取りは極めて遅い。

 

「………………待って、向こうの階段から誰か降りてくる足音がするわ。」

 

異変に一番に気づいたマミの声に警戒していたみんなの視線がマギウスのいるであろう屋上へと続く階段に向けられる。

耳を凝らしてみると確かに彼女の言う通り階段の奥から誰かが降りてきているのかコツコツ、という甲高い足音が聞こえてくる。

 

(……………オレンジ色の光?いえ、どちらかと言えば光の粒のような………?)

 

ふと階段から漏れ出すように見える光の粒に気づくマミ。一体何事かと思ったが、その粒も足音が大きくなるにつれて見えなくなっていった。

 

「ウワサ、ではなさそうですね。マギウスのどちらか、それとも────」

 

いつでも抜刀できるよう刀を構えるななかだったが、現れてきた人物に思わず言葉を詰まらせる。

 

「……………………フフッ」

 

それもそのはず。現れたのは今まで行方知れずだった鶴乃だ。

しかし、彼女の雰囲気はかなり変貌していた。天真爛漫な印象を見せていた顔は不気味なほどに怪しい笑みを浮かべ、瞳孔は赤く、闇に沈んだかのように濁り切っている、

何より彼女の印象を手助けしていたオレンジ色の服装が正反対の冷ややかな印象を受ける青緑色に近いものになっていた。

 

「─────ウソ、ですよね。」

 

明らかに鶴乃は何かされている。しかも最悪に近い形、人体改造もかくやというような有様に大きく目を見開いて固まることしかできないいろは。

そのつぶやかれた言葉はひどい有様となった鶴乃か、はたまたそれをやったであろうマギウスに対してか。

 

 




今年は…………本当に筆が遅い一年でした………(白目)
来年も、どうかよろしくおねがいします………


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