とあるオタク女の受難(戦姫絶唱シンフォギア編)。 (SUN'S)
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とあるオタク女の受難。
第1話


☆月℃日

 

早朝、アニメ拳法を練習するために近所の公園で見様見真似の技を行っていると活発そうな淡い栗色の髪の毛の女の子にアニメ拳法の事を聞かれてしまった。

 

彼女は立花響と名乗り、少し先に建つリディアン音楽院に通う女の子だそうだ。何でも身体を鍛える必要があり、特定の師匠は居ても危険な修行は禁止されている…とのことらしい。

 

最近の女子高生は格闘技を習うものなのか?なんて考えながらも聞かれた拳法の技を一つ、伝授して欲しいと言われた。私の考えた技では無いんだけど。

 

まあ、こういう子供はアニメとか特撮とか観ないんだろうな。

 

一応、安全で派手な技を教えれば満足すると思うことにして。明日の六時三十分に公園で待ち合わせる事になった。保護者同伴(立花さんの師匠さん)でも構わないと伝えたら喜んでた。

 

 

☆月〟日

 

 

公園に到着すると立花さんの隣には真っ白なリボンを着けたジャージ姿の女の子が立っていた。何でも公私共にお世話になっているそうだ。彼女は師匠さんじゃないらしい。

 

手始めに灘神影流の技の一つ弾丸滑りだ。

 

内容は「弾丸を掌などで滑らせ、軌道を変化させるモノ」だと教えた。

 

立花さんの付添人こと小日向未来は訝しむように見てくるので実際に見せた。知人から借りてきた熊殺しと呼ばれるクロスボウを三足脚立に固定して連射される矢を超至近距離で掌や甲で反らし見せたら、化け物を見るような目で見られた。

 

ふむ、こういうのはダメなのか?等と考えていると立花さんは「是非、教えて下さい!」と言ってくれた。

 

結論から言わせて貰うとアホと天才は紙一重とは言ったモノだね。

 

あの子、立花さんは見せただけで覚えちゃったよ。

 

 

☆月 ̄日

 

 

立花さんは三日ほど経過してから訪ねてきた。今日は赤髪の熊みたいな男の人も引き連れてた。この人は立花さんの師匠さんらしい。

 

危険な技を教えた事を謝罪すると「他にもあるのか?」と聞いてきたからアニメ拳法に終着点は無い事を伝えた。この人も灘神影流の技を教えて欲しいそうだ。

 

ちょっとした出来心や好奇心で風鳴弦十郎さんの脹ら脛や太股を触ってみた。ガッチリとした男性の筋肉とは硬いモノなんだな。

 

なんて思いながら「TOUGH」の作中に登場した。「龍腿」「虎腿」「鷹腿」について教えた。立花さんも聞き入っていたけど。

 

風鳴さんに三つの性質を兼ね備えた「玄腿」の可能性があると伝えたらニマニマと笑っていた。立花さんも「流石、師匠です!」と尊敬の眼差しを送っていた。今日は解説や説明するだけで終わってしまった。

 

まあ、二人は楽しそうだったので喜ばしいと言えば喜ばしいのだろうな。

 

 

 








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第2話

♡月ゐ日

 

早朝、立花さんはキリッとした目付きの女性と共に来ていた。なんでも学校とバイト先の先輩らしい。彼女も武術を習っており、手合わせを願いたいそうだ。他流試合を望む女の子なんて居ないと思ってたんだけどな。アップライトスタイルに構え、先輩さんが構えるのを待っていると竹刀を取り出した。

 

なんと言えばいいのか、見た目通りというのか。剣術や剣道を習っているんだろうな。なんて考えていた予想が当たってしまった。カッチリとした正道を往く剣の持ち方であり、虚を突くような攻撃には対処し切れないような感じだ。

 

試してみる価値はある。

 

右手を前へ突き出し、左手はヘソを隠すように腹部に添えて軽く踵を浮かせた状態を維持する。

 

灘神影流の返し技の一つ夜叉燕だ。

 

ジリジリと間合いを詰めてきた先輩さんの竹刀を握る両の手の下を突き抜け、前蹴りが丹田に押し当てられる。ヒットした感触が残る右足を引き戻し、そのまま腹部を押さえようとした先輩さんの顎を蹴り上げ…られなかった。意地でも止めるつもりだったのか。竹刀の柄で蹴りを止められていた。

 

つまり、引き分けということだ。

 

♡月∧日

 

昨日、手合わせした先輩さんから謝罪と感謝の言葉を貰った。なんでも自分は強いと慢心していた心を正せたとのことだ。イマイチ、この子の言っていることが分からないんだよな。

 

アニメ拳法ならぬアニメ剣法に関することは分かるけど。この子の使ってるのって実践剣道とかなんだろうな。彼女もアニメ拳法を習いたいと言ってきた。

 

立花さんには徒手空拳を主体としたモノだって教えた筈なんだけど。なんで剣術小町まで引き連れて鍛練しないとイケないんだろうか。頼み込まれれば断れる筈も無くて、承諾してしまった訳だけど。

 

風鳴翼さん、彼女は風鳴さんの姪に当たるそうだ。

 

なんとも御都合的な展開だね。

 

あとはヒロイン役の女の子でも連れて来れば完璧なんじゃないか。一応、知っているアニメ剣法の技を教えていこうと思う。

 

天下無双と謡われた剛剣、一文字流の技を。

 

立花さんには悪いけど。今日だけは翼さんに斬岩剣を教えることにした。公園の端に在る私よりも大きな岩石の前に立ち、翼さんの竹刀を軽く握って一瞬で横に振り抜いて翼さんに竹刀を返却した。二人は困惑していたけど。私の後ろで滑り落ちる岩石を見てギョッとしていた。

 

これこそ「この世に斬れぬものなし」と謡われた一文字流の基本技にして極意である。

 

♡月。日

 

翼さんは岩石の多そうな山へと籠るそうだ。修行僧になりたいのか?等と考えていると立花さんから「翼さんみたいな技を教えて下さい!」と言われた。

 

一文字流に類するモノを所望している訳じゃない。徒手空拳を主体としたモノを欲しているんだろう。舞い落ちる木の葉を見て思い付いた。

 

立花さんに見せるようにアップライトスタイルに構えて右ストレートを突き出した瞬間、舞い落ちる木の葉は暴風と共に水平に吹き飛んだ。

 

立花さんはキラキラと目を輝かせており、ボクシングは紳士淑女のスポーツである事を告げてからマッハ・パンチを教えた。

 

流石に、これは一発では成功しなかったが微風を放つ程度には成長していた。急成長とは言うけれど、ここまで成長速度の速い子供はいないと思う。立花さんが拳を振るう毎に尋常ではない風切り音が聞こえてくる。

 

なんでも有りな女の子だね。

 

 



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第3話

◯月・日

 

立花さんは一日でマッハ・パンチを習得してきた。私でも1ヶ月は掛かったんだけどな。まあ、そんなことは置いておこう。今日は防御を教えて欲しいと言われた。風鳴さんから防御は教わってないのか?そんなことを考えながらも弾丸滑りを思い出させた。

 

普通に忘れていたようでタハハと笑って誤魔化そうとしていたので、立花さんの首を掴みそのまま自身の身体を立花さんの頭上を通り抜けて背後へと飛び跳ね、着地する前に膝裏を踏み付けて「首」「背骨」「股関節」「膝」を固める。立ち海老固めを極めた。

 

これはプンチャック・シラット猛獣跳撃である。因みにアレンジを加えているため、本家よりも残忍性は増している。

 

謝ってきたので首を絞めていた手を離し、立花さんを立ち上がらせる。ちょっとビビってたけど。この技なら「攻撃されずに動きも封じる」ことが出来ると教えた。あとは「力加減は間違えないように」とだけ伝えておいた。

 

その身に刻まれた痛みは相手への労りとなるだろう。

 

◯月`日

 

今朝、立花さんから「使えました!」と電話を貰った。誰に使ったのか知らないけど。近所では爆発事故が起こっていたんだよなぁ…。

 

まあ、そんなこと、あの子には関係無いんだろうけど。

 

それから翼さんが斬岩剣を会得したそうだ。最近の女子高生ってスポンジみたいに吸収していくのか。オバサン、あの子達の将来とか不安になってきたよ。

 

そんなことを考えていると公園に風鳴さんが立っていた。ジャージ姿でシャドーをしている。成る程、あの人はボクシングのトレーナーだった訳だな。そうなると立花さんは未来の女子プロボクサーになるのか。ちょっと興味が出てきたな。あの子、渇いた砂みたいに何でも吸い取るからね。

 

風鳴さんの隣に立ち、左手を軽く突き出す様に構える。「肩」「肘」「手首」を高速で連動回転させ、直線を突き穿つコークスクリューブローの原理を加えたジャブ「弾丸」を放つ。鋭さと速さを重視しており、威力には欠けているが強くて速いジャブだ。

 

立花さんに教えようと思っていたが、トレーナーの風鳴さんに教えておけば多用することは無くなるだろう。

 

◯月⇔日

 

ちょっと胸が大きくなった翼さんが感謝の言葉を伝えたいと訪ねてきた。何でも斬岩剣を使用していると胸が大きくなったような気がするそうだ。

 

なんで斬岩剣だけじゃなくて乳斬りも会得してるんだよ。私でも使えないよ。

 

えっ、本当に使えるようになってるの?

 

そんなことを考えていると、私の斬り倒した公園の岩石を斬り裂いて見せてくれた。しかも、さっきより、ちょっと胸が大きくなってた。これって教えた方が良いのか?まあ、本人は幸せそうだから黙っていれば問題ないんだろうな。

 

よし、黙っていよう。

 

 



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第4話(立花響)

ハアァウゥッ!!

 

シンフォギアを纏った状態で放つ『マッハ・パンチ』はノイズの胴体を軽々と打ち抜き、衝撃波は雄々しくノイズを吹き飛ばしていた。あの人から伝授された技は、私の戦い方と適合している。

 

ノイズは螺旋状の流動体へと形状を変化させ、私を突き穿つために突進してくる。落ち着け、あの人の行っていた技を思い出すんだ。

 

しゃあっ、灘神影流弾丸すべりっ!!

 

手のひらを釘のように形状を変化させたノイズの先端を反らすように動かし、私の隣を通過する前に手刀でノイズを真っ二つに斬り裂いた瞬間、地中と頭上から十数体のノイズが覆い被さるように纏わり付いてきた。

 

「なめるなぁ───っ!!」

 

身体を捻るように回転させながらノイズを弾き飛ばす。然程、威力は無いけど。距離を取るためには使えた。

 

「立花、しゃがめ!!」

 

背後から翼さんの声が聞こえてきた。開脚して踏み台となるように背中を広げる。

 

トッという背中を軽く踏まれた感触が残る最中、体勢を戻すと空中へと飛び上がりながら身の丈よりも大きな刀(翼さんは剣って言うけど)を背中へと隠れるほど大きく構えていた。

 

「この世に斬れぬものなしッ!!」

 

剣は大きく分厚く変化していき、剣が振るわれる時には三階建てのマンションほど長くなっていた。

 

一文字流、斬岩剣!!

 

轟音と共に振り抜かれた剣は空中を浮遊していたノイズを斬り、その剣圧は地上に密集していたノイズを掻き消す程だった。

 

素人丸出しの私と違って何年も前から戦っていた経験と、あの人に伝授された技の相性が良いとしか考えられなかった。

 

翼さんは剣を通常の大きさに戻し、散々として残っているノイズへと切っ先を突き付けるような構えた。

 

たしか、剣術の「霞の構え」だよね。

 

そんなことを考えていると翼さんは左手を切っ先に添えるように構えた。

 

なんか、前にテレビで放送されていたビリヤード大会の選手が同じような体勢で棒を持っていたな。翼さんが「牙突」という言葉を呟いた。

 

次の瞬間、人間サイズの弾丸のように真っ直ぐに残っていたノイズの胴体を突貫していた。

 

私も負けてられない!

 

剣を振るう翼さんへ近付こうとするノイズの眼前に立ち塞がり、竜巻を起こすイメージで身体を高速回転させる。

 

破裏拳(ハァリィケェン)ッ!!

 

右回転から左回転、左回転から右回転、何度も何度も同じ行動を繰り返して散らばっていたノイズはオレンジ色の竜巻と化した立花響に打ち上げられ、その半数以上は消滅している。

 

蒼ノ一閃!!

 

最後は翼さんの使っていたオリジナル技で、打ち上げられても残っていたノイズを斬り裂いて終わった。

 

 

 



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第5話

◇月↑日

 

立花さんが小日向さんと一緒に出向いてきた。何でも自身も習いたいとのことだ。筋肉の質を確かめるために少しだけ小日向さんに触ったが、短距離走や徒競走の選手だったのか?瞬発力を鍛え続けた良い足腰だと思う。教えることが多くなると思っていたため、ミットやバンテージ等を買っておいて良かった。

 

小日向さんにバンテージの巻き方を教え、綿抜きミットを構える。あの足腰ならば立花さんとも張り合えるボクサーに成れるだろうな。なんて考えながら基本的なジャブとストレートを教えた。

 

立花さんは自前のバンテージを巻いており、呼吸の荒くなり始めた小日向さんと交代して構えていた。ふむ、オーソドックスなモノとは違うな。身体を斜めに、防御しながら突進するような構え方だな。予想していたが、風鳴さんは立花さんを近距離戦闘型に仕上げるつもりなんだろう。

 

それなら、あの技を教えるべきかな?

 

立花さんから距離を取り、踏み込みとダッキングを同時に行って左手を突き上げるようにフックを打つように指示する。やっぱり、立花さんのウィービングやステップインの速度は素早くて捉え難い。

 

異常な風切り音と一緒に構えていた左手のミットが弾け飛び、ジンジンとする熱い痛みが手のひらに残っている。

 

ボクシングの技の一つ、ガゼルパンチだ。

 

自信の持てる一撃だったのか、小日向さんにキャーキャーと騒ぎながら抱き着いていた。小日向さんは、立花さんのパンチに驚いていたけど。

 

◇月ヽ日

 

昨日と同様、小日向さんはジャージ姿で来ていた。立花さんは風鳴さんの所へ行っているそうだ。ジムで練習してるのかな?なんて考えていると小日向さんに「私にも教えて下さい!」と頼まれた。

 

元々、教えるつもりだったからね。

 

グローブを嵌めずに軽く左拳を握り締め、ジャブからフックへと軌道を変化させる技を見せた。

 

これなら立花さんの突進力を相殺することが出来ると伝えるとやる気を出していた。やっぱり、友達と言うよりライバル関係なんだろうか。

 

小日向さんは立花さんのように一瞬で覚えるようなことは無かったけど。ジャブからフック、フックからアッパー、アッパーからジャブ、ジャブからアッパー、完全にマスターするのには半日も掛からなかった。しかし、白い狼と同じように足を捻り込む癖が付いてしまった。

 

だが、まあ、飛燕を使いこなせているので良かった。

 

◇月^日

 

今日は立花さんと小日向さんが一緒に来ていた。なんでも立花さんとマトモに打ち合えるようになったそうだ。ふむ、あの豪腕と対等に殴り合えるとは凄い逸材なのではないだろうか。

 

二人とも顔にガーゼを貼っており、今日は見学だけと伝えに来てくれたそうだ。なんとも言えないが、女の子が殴り合うのは控えるように言うと二人して苦笑いを浮かべていた。

 

まあ、なんとかなるだろう。

 

グローブを嵌めて放り投げたバスケットボールが落下する寸前、目の前を通過する瞬間に左のアッパーカットとチョッピングライトを叩き込む。一瞬、ほんの一瞬だけ立花さんと小日向さんにはバスケットボールが静止したように見えてたらしい。

 

これこそ誇り高きオオカミの白い牙だ。

 

二人は興味津々なのか。私の動きを真似るように普通にシャドーしていた。

 

君達、今日は休むんじゃなかったの?

 

 

 



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第6話

△月〓日

 

風鳴さんと大きな胸の女性が公園で待っていた。奥さんか何かだろうか?なんて考えながら歩み寄り、挨拶を交わすと女性から別の生き物を見るような目で見られていた。

 

なにか、変なところでも有っただろうか?等と考えていると同じ仕事場で働いている櫻井了子さんを紹介された。

 

ふむ、女性トレーナーを雇っているのか。立花さん達の事を、よく見ているようだ。同じ大人として尊敬することが出来るな。風鳴さん曰く「久々にミットを殴りたい」とのことだ。

 

立花さん達に使っていたミットを手に嵌め、パンッ!という軽快な音を立てる。それを見た、風鳴さんはニヤリと笑うと、櫻井さんにジャージの上着を預けた。フォームとしては右足の踵を浮かせて顔と同じ高さに両の腕を上げて構えている。

 

先日、教えた「玄腿」を完成させたのか?

 

そんなことを考えていると爆音?轟音?喩え様の無い風切り音が聞こえてきた。

 

直感、なんと無くの感覚で左足の太股を守るようにミットを構えた瞬間、爆発したような音と焼けるような激痛が両の手から脳髄へと伝わってきた。風鳴さん、手加減しろとは言いませんけど。

 

一応、私も女なんですよね。なんて考えながら引き裂けたミットを眺めつつ、苦笑いを浮かべてしまった。

 

△月┘日

 

翌日、新品のミットをお詫びの品として受け取ることで先代ミットの件はお咎め無しということで片付いた。

 

なんでも特殊繊維を使用しており、並大抵の攻撃では壊れないそうだ。試しに風鳴さんの上段廻し蹴りを受け止めたが、傷は付いていなかった。

 

まあ、私の手には激痛が残っているんだけどな。

 

ミットの感触を確かめてから櫻井さんはいないのか?訪ねると「ビデオ撮影を頼まれた」と教えてくれた。ふむ、こんな修行でも見返せばボクシングにも使える動きは有ると考えているんだな。

 

やはり、才女というのは。あのような女性の事を指す言葉なのだな。立花さんに教えられるような新技を聞かれたのでスマッシュを教えてはどうか?と伝えてみた。

 

なんと言えば良いのか、新しい玩具を貰った子供のように興味津々な反応だった。自身の教え子の成長には胸踊るものがあるんだな。

 

△月:日

 

今日は、小日向さんだけが来ていた。近々、立花さんには用事が出来るそうだ。

 

大事な用事とはなんだろうか?なんて考えながら小日向さんはミット打ちを繰り返しているが、彼女は心此処に在らずという言葉が似合う表情だった。

 

ちょっとした忠告として「立花さんの隣に立つには今以上の努力が必要だ」と伝えたらやる気に満ち溢れた。

 

やはり、ライバルの関係なんだよな。

 

小日向さんは教えたばかりの飛燕をコンビネーションに加えており、ストレートと思えばアッパーを打つような変則的な動きが出来上がり掛けている。

 

この調子なら二羽目の燕を伝授するのは明日か明後日だな、なんて考えていたが今日にでも伝授させておこう。

 

この子、立花さんが絡むと異常に反応するんだけど。

 

小日向さんは説明と動きを見せれば理解してくれる。彼女ならば燕返しを完璧に使いこなせると信じることにしよう。

 

本当、最近の女子高生はバトル漫画に登場しそうな主人公並みの吸収速度だよ。

 

 

 

 



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第7話

▽月∀日

 

翼さんが訪ねてきた。なんでも斬岩剣には派生が在るのでは?と考え、聞きに来たそうだ。

 

この子、一文字流を極めようとしてない?

 

なんて考えながらも寝巻きからジャージに着替え、身の丈よりも長い倭刀木刀を持ちながら公園へと向かう途中、剣の道とは一振りの剣と化すことだと教えられた。ふむ、そんな話なんてテレビでは聞かなかったけどな。

 

まあ、いいや。

 

公園の端に在る大木を指差し、翼さんの視線を大木へ誘導する。ゆっくりと木刀を振り上げた構えになり、一気に振り落とす。

 

爆風と共に翼さんの綺麗な髪が風で靡き、大木には龍の鉤爪の様な傷が刻まれていた。抜刀速度、剣の技量、剣圧の力、そのすべてを一振りに押し込めた。

 

これこそ一文字流、烈風剣である。

 

翼さんは一度だけ烈風剣を試すが微風程度の勢いしか出なかった。小声で悔しそうに「クッ」とか言ってたけど。

 

いやいや、初めから微風を起こせてるよね?本当に最近の女子高生っていうのは天才型と努力型を融合させたようなハイブリットさんだな。

 

▽月∠日

 

真夜中、アニメ拳法の鍛練を行っていると特撮に登場するような真っ白なボディスーツを纏った女の子が殴り掛かってきた。結晶を直列に束ねた鞭を振り回し、的確に死角を狙ってくる。

 

ふむ、背後で指示している者がいるような動き方だな。鞭を振るう前に腕を振り上げる瞬間を狙って懐に入り込み、私を撃退するためにハイキックを放ってきたが、型も何もない適当な蹴り方だな。

 

脹ら脛を肩に乗せるように捕まえ、首を掴んで地面に叩き付ける。固い地面に背中を打ち付け、溜まっていた酸素を吐き出すように口を開けていた。

 

動きも素人、防御も出来ない、なんだ?立花さん達と同い年のように見えるんだがな。

 

コスプレ少女が頭に着けているバイザーを引き千切り、コスプレ少女の素顔を拝ませて貰ったが、なんとも可愛らしい女の子だった。

 

筋肉の付け方から察するに鞭とは別の物を使っていたな。胸元を掴んで起き上がらせ、話程度ならば聞くと伝えたらギャーギャー叫んだ後に疲れたのか、肩を荒々しく揺らしていた。

 

その後、あっさりと帰ったけど。

 

▽月%日

 

昼頃、夕飯を作るための食材を選んでいると立花さん達と遭遇した。小日向さんは知っているが、他の子達は知らないな。

 

一応、会釈してから立花さん達と別れようとしたが、友達になりたい女の子が居ると相談された。

 

私はアニメ拳法しか教えられないぞ。

 

悩みながら拳を合わせれば大抵のことは分かり合えるとは伝えたらやる気を出していた。なぜか、小日向さんもやる気を出していた。

 

その後、立花さん達の友人から色々と聞かれた。

 

小日向さんは「響と私を鍛えてくれる人」と言ってくれたが、立花さんは「すっごく強い人で竹刀で岩とか斬ったりパンチで音速を越えたりとか出来るんだよ!」と絶賛してくれた。

 

しかし、立花さん達はボクシングのことを友人には話していないのか。意外ではないが、嘘とか吐けない子だと思うんだよな。

 

立花さん達はカラオケに行ってから帰るらしいが、私はその前に帰らせて貰った。長時間も魚を常温に晒すのは危険だからな。

 

 

 



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第8話(立花響&風鳴翼)

太陽が傾き掛けて空がオレンジ色に染まりそうな時間帯、坂道を降りてくる『ネフシュタンの鎧』を纏った女の子が地面を叩き砕いて襲ってきた。

 

それだけなら許せた。

 

未来を、私の大切な親友に怪我させたッ!

 

Balwisyall Nescell gungnir tron

 

ガングニールを装着しながら未来に落ちていく車を殴り付け、『ネフシュタンの鎧』を纏っている女の子を睨み付ける。あの人は殴り合えば分かり合えるって言ってたけど。今の気持ちは仲良くなりたいじゃない。

 

これは、友達を傷付けられた怒り───。

 

「未来。直ぐに倒すから待っててね」

 

振り返って倒れている未来の頭を軽く撫でる。

 

やっぱり、未来の髪は柔らかくて綺麗だな。

 

そんなことを考えながら立ち上がり、雑木林の中で立っている『ネフシュタンの鎧』の女の子へと殴るために歩いて向かう。友達になって未来にも謝ってもらう。謝るまで殴るのは止めないッ…。

 

「ハッ、そんなノロノロと動いてて良いのかよぉッ!!」

 

ピンク色の結晶を直列に束ねた鞭を振り下ろし、私を攻撃してくる。拳の届く範囲に入れば手の甲を使って受け流し、横から攻められれば弾いて退ける。あの夜の時の襲撃に比べれば、落ち着いて見ることが出来る。

 

スゥーッ、ハァーッ

 

呑み込むように呼吸(いき)を吸って力強く吐いて身体をクラウチング・スタートのように屈め、踏み出しと同時に一気に駆け出す。あの人は言っていた縄紐系統武器の攻略法は振るう為の距離を潰すこと。

 

それなら一直線に突き進んでぶん殴るだけ!!

 

「ネフシュタンを嘗めんじゃねえェ!!」

 

結晶を直列に束ねた鞭を突き出すように放ち、私の顔を弾き飛ばすつもりだったんだろうけど。その程度の威力じゃ私は止められない。

 

なにより弾丸すべりはすべてを反らせる万能な防御技だ。顔を這わせるイメージで、あの子に身体を押し付けるように左拳を顔面に叩き込んだ。

 

「グッ、ガハァ!?」

 

威力を落とし切れなかった拳を握り締め、道路の壁に埋もれている『ネフシュタンの鎧』の女の子へと歩み寄り、クイッと手招きする。それが燗に触ったのか、表情を歪めながら立ち上がってきた。

 

「テメェ、嘗めてんのか!?この雪音クリスを!!」

 

「そっか…。雪音クリスって言うんだ。じゃあ、クリスちゃん…未来に謝ってもらうよ」

 

「殺すッ、ぶっ殺す!!テメーは本気で叩き潰さねえェと怒りが収まらえェ!吹き飛べよッ、アーマーパージだァ!!」

 

次の瞬間、クリスちゃんの纏った『ネフシュタンの鎧』が弾け、焦らずに飛んできた破片を叩き落としていると歌が聞こえてきた。

 

…あれって、私や翼さんと同じ…シンフォギア…!?

 

「あたしは歌が大っ嫌いなんだよ!!だから、憂さ晴らしだ。テメーを完膚無きまでにブッ潰す!!」

 

そんなことをクリスちゃんが叫んだ瞬間、薄い紫色の矢が飛んできた。この程度なら弾丸すべりで受け流せる!

 

「全総力!最大量!受け流してみやがれえェッ!!」

 

弾丸やミサイルが降ってくる最中、目の前に壁のようなモノが現れた。

 

 

立花へと降り注いでいた砲撃を防ぐことは出来たが、あの少女はネフシュタンの鎧を脱ぎ捨てたのか?

 

「テメー、死に損ないの分際でしゃしゃり出てくんじゃねえェ!!」

 

たしか、彼女の使っているアームドギアは機関銃という種類の銃器だったか。抜刀するように構え、迫ってくる音速を越えた銃弾の雨を見ることが出来れば斬ることも容易い。

 

一文字流、烈風剣!!

 

今よりそよ風(わたし)は本物の(つるぎ)と化そう。

 

少女の放った弾丸を剣圧にて跳ね返し、風に切り裂かれた道を突き進んでいく最中、背後から立花の駆け出している足音が聞こえてきた。

 

…フッ、ここは先輩後輩と力を合わせるか!!

 

「立花、合わせろ!」

 

「はい!」

 

「な…なんだよ、その技は!?」

 

立花と共に剣を掴みながら飛び上がり、剣を可能な限り最大まで巨大化させる。

 

「「斬岩先輩後輩誇羅墓剣!!」」

 

雑木林の一部を一掃してしまったが、ネフシュタンの少女は倒せたな。

 

 

 



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第9話

∇月ゎ日

 

最近、近所の雑木林を一掃されて駐車場を作るという話を耳にした。あの場所は子供の頃に遊んでいた場所だったんだがな。

 

まあ、時の移り変わりとは、そういうモノなんだろうな。なんて考えているとポツポツと雨が降ってきた。傘はコンビニで買うとするか。

 

そんなことを考えていると路地裏にワインレッドより濃い赤のドレスを纏った女の子が倒れていた。なんだ、家出か?等と考えたが見覚えのある独特の髪色だった。

 

ああ、この前のコスプレ少女か。

 

とりあえず傘を買うより担いで帰った方が早いな。今夜は健康食でも作ってみるか。

 

コスプレ少女を背負うと立花さん達とは比べ物にならないほど軽かった。キチンとした食事を取っていないのか?等と考えつつ、アパートのドアを足で引っ張り開けて布団に寝かせる。

 

起きる前に着替えと軽い食事を用意しておくかな。しかし、私の下着には収まらん、むしろ溢れ落ちるな。

 

∇月Å日

 

翌朝、朝食を作っていると磨り硝子越しに部屋の中を警戒したように歩き回っている姿が見えた。

 

とりあえず台所と部屋の磨り硝子の扉をスライドさせ、食べ物の乗った食器をコスプレ少女の前に運んでいく。コスプレ少女は睨んでいたが、その程度の睨みなどチワワにも劣っている。

 

手のひらを押し合わせて「いただきます」と呟き、自身のお皿に盛り付けた和布蕪を頬張るように食べていると警戒しながらも箸を持ち、箸の先端を玉子焼きに突き刺して食べてくれた。

 

よく分からんが犬の耳の幻影が見えた。

 

やはり、この年の少女は甘い玉子焼きが好きなんだろうな。なんて考えながら豆腐と若芽の味噌汁を啜り飲み、山盛りの大根おろしを秋刀魚の丸焼きに乗せ、骨を摘出しながら食べる。

 

コスプレ少女は骨が刺さったのか、涙目になりながら口の中に手を入れて骨を取っていた。もう一度、手のひらを押し合わせて「ごちそうさま」と呟き、台所に食材の無くなったお皿を運んでいるとボロボロの秋刀魚とご飯粒の残っているお椀とお皿を持って来てくれた。エプロンで泡と水を拭い取り、軽く頭を撫でてから食器を受け取ると頬を赤らめて部屋へと戻ってしまった。

 

やはり、最近の子供の感覚は分からんな。

 

∇月ヴ日

 

私は、コスプレ少女こと雪音クリスを連れて町へと買い物に来ていた。

 

一応、勝手ながら彼女が家に帰るまでは面倒を見ることにした。下着や替えの服を選んでいると立花さん達と出会った。相変わらず小日向さんとは手を繋ぐほど仲良しだな。なんて考えていると立花さんとクリスが睨み合っていた。

 

なんだ、知り合いだったのか?

 

そんなことを考えているとノイズの出現を知らせるアラートが聞こえてきた。

 

三人を抱き上げ、シェルターへと向かっていると「おろせ、あたしは帰る!!」と言いながら行ってしまった。その後、立花さんはクリスを追い掛けると叫んで行ってしまった。

 

二人を連れ戻すために追い掛けようとしたが、小日向さんに止められた。

 

彼女は「響なら絶対に大丈夫ですから!」と自信満々に言ってきたので渋々ながらも小日向さんを連れてシェルターへと向かうことにした。

 

 

 



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第10話

㊨月Π日

 

今日は立花さんと他の人も公園に来ていた。風鳴さんは立花さんの鋭い拳打を受け止め、小日向さんと櫻井さんは二人の動きをビデオカメラで撮影している。翼さんは剣術だけじゃなくてボクシングも出来るようだ。

 

例えるならば研ぎ澄まされた日本刀のような鋭さを秘めたストレートを放ち、フェイントを織り混ぜた乱打殴打を繰り返している。

 

立花さんは亀のようにガードを固めたピーカブースタイルで身体を揺すって翼さんのストレートを掻い潜るように懐に入り込み、血ヘドを吐き出しそうな肝臓打ちを叩き込んでいた。

 

翼さんは「く」の字に折れ掛けながらもステップバックで距離を開け、軽く左手を突き出すように構えると立花さんの身体を揺らすタイミングに合わせて身体を上下させている。

 

チラッと風鳴さんを見るとサムズアップを送られた。やはり、尾張の竜と謡われた男のサンデーパンチの一つを立花さんではなく翼さんに教えたのか。

 

立花さんが踏み出した瞬間、顔を守っていた右腕が弾き上げられ、翼さんの速射砲が立花さんの顔や胸部に叩き込まれていき、あっさりと倒されていた。一応、先程の技を説明してから解散となった。

 

㊨月ψ日

 

久々に家に帰るとアパートが潰れていた。大家さんにアパートが無くなってると電話すると「ノイズに壊された」と言われた。

 

大家さんの話では商店街も同様に潰れた店もあるらしく、右手で後頭部を掻きながら今後の住所を考えているとリディアン音楽院にスカイツリーより高そうなタワーが建っていた。

 

なんとも言えない奇抜なデザインだな。

 

とりあえず自身の部屋だった場所を探るために瓦礫を退かしていくとクリスに渡そうと思っていた替えの服や下着が瓦礫に押し潰された箪笥の中から出てきた。まあ、これだけでも無事だったんならいいか。

 

なんとか通帳や判子も見付けた。

 

やっぱり、アパートよりも普通に家を買っておけば良かったかもしれないな。なんて考えながら歩いていると日本では見慣れない銀色の髪色をした少女が目の前に立っていた。

 

なんだ、帰ったんじゃなかったのか?

 

㊨月ゑ日

 

よく分からんがクリスの暮らしているマンションへと居候することになった。

 

年下の少女の家に居候しても良いんだろうか?そんなことを考えていると立花さん達が玄関の鍵を開けて入ってきた。

 

なぜか「生きてたんですね」と泣きながら抱き着かれた。しかし、鹿児島へ出張している間になにがあったんだろうか。

 

まあ、私には些細な出来事だったんだろうな。

 

なんでもクリスへの歓迎会パーティーを開くと言われ、手料理を振る舞うことになった。私の料理などパーティーには向いていないと思うんだがな。

 

クッキー生地を焼く前に生クリームにココア粉末を混ぜてから塗り付けていき、軽く焦がして甘さと苦さを合わせたお菓子を準備しておいた。

 

なんと言えば良いのか、スマホとは便利なモノだと再確認することが出来たな。

 

 



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第11話

≪月⊿日

 

翼さんが日本では有名な歌姫だと聞かされた時は驚きのあまり、座ろうとしていた椅子の背凭れを押し壊してしまった。クリスに謝罪してから買い替えようという話になった。

 

それとクリスは立花さん達と修学旅行に行くそうだ。

 

立花さんは翼さんの世界デビューを果たすライブを見たかったそうだが、学校行事では諦めるしか無いだろうと頭を撫でながら説得しておいた。

 

クリスには「修学旅行の間は学生寮は任せておけ」と伝えると「…ん…」とだけ返された。

 

なんだ?修学旅行を楽しみにしているのか?

 

なんて考えていると立花さんとクリスの持つ変わった携帯電話からアラートが鳴り響いた。二人はバイト用とは言っていたが、なんのバイトなんだろうか?

 

≪月≡日

 

今朝、いつもの公園でアニメ拳法の修行を行っていると無表情ツインテールと活発そうな金髪の二人組に道を尋ねられた。なんでもライブ会場へ向かう途中だったらしい。

 

ああ、翼さんのライブのことか。

 

確かクイーンなんちゃらとか言う世界最高の音楽祭典だったか?翼さんの美貌だ、老若男女を惹き付けてしまうのは仕方の無いことだな。

 

なんて考えていると、この子達の知り合いも出演するそうだ。それは凄いなと褒めると「当然デス!」「うん、当然だよ」と返してきた。

 

二人をライブまで送り届けると去り際に名前を教えてくれた。今後、会うことは無いだろうに律儀な性格だな。

 

暁切歌さん、月読調さん、二人とも変わった苗字だな。なんて思ったのは内緒である。

 

≪月Ф日

 

クリス達が修学旅行から帰ってきた。

 

しかし、立花さんの雰囲気が可笑しいので訪ねてみると修学旅行先で「偽善者」とか「上っ面だけの癖に」とか言われたそうだ。

 

元気付けるため「善でも、悪でも、最後まで貫き通せた信念に偽りなどは何一つない。もしキミが自分を偽善と疑うならば戦い続けろ」と言い聞かせると「はい!」と元気な返事を返してくれた。

 

まあ、キャプテン・ブラボーが言えば。もっと力強くて説得力を与えてくれるんだろうけど。

 

しかし、誰が、そんな酷い言葉を立花さんに言い放ったんだ。初対面の相手に対して、その仕打ちは酷いものだぞ。

 

そんなことを考えているとクリスから「考えずに突っ込むのが取り柄だろうが、会ったら話し付けろよ」と立花さんへ激励のような台詞を口にしていた。

 

感極まったのか、立花さんが横を向いていたクリスへと飛び付いて逃がさないように抱き付いた瞬間、小日向さんから異様な気配を感じたが無視しておこう。

 

立花さん、察することも大事なんだ。

 

なんだ、これは、今までに受けたことのない。重苦しくて呼吸することすら疲れる、喩え様の無い圧力を感じてしまう。

 

 

 



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第12話(雪音クリス)

あたし達は学生寮を抜け出してカ・ディンギルの建つ跡地へと来ていた。

 

あのチビ共の決闘という言葉を聞いて、素直に行こうとするのは得策じゃねぇと言いたいが、あの立花響(バカ)は一人でも行こうとするから仕方無く付いて来てやってる。

 

「テメェ、クソ眼鏡!!」

 

ソロモンの杖からノイズを断続的に出し続けている白髪の男に罵声を浴びせながらノイズをアームドギアで撃とうとした瞬間、地鳴りと共に足元から病院で見たヘンテコな化け物に吹き飛ばされた。

 

空中で体勢を立て直しつつ、着地すると網状の粘着液を吐き出すノイズを撃ち、白髪眼鏡にネフィリムと呼ばれた化け物を睨み付ける。

 

「あァ~ッ、特撮の撮影か?」

 

後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。バカも先輩も唖然として薄着のアイツを見ていた。次の瞬間、ネフィリムがアイツを押し潰すように落下した。

 

待て、待ってくれ、あたしは恩返しも出来てないんだぞ?ふざけんなよ、勝手に死ぬんじゃねぇよ、何時もみたいにアホみたいな技で、その化け物を吹き飛ばせよ。

 

なあ、おい、聞こえてるんだよな?

 

「重てェんだよぉ!?」

 

脚を鉤のような形で固定した状態のまま、化け物を殴り付けていた。あの攻撃を例えるなら乱打殴打だ。絶えず拳を叩き付け、化け物を押し返している。

 

白髪眼鏡も口をがっぽりと開けて驚いてた。そりゃあ、自分の持ってきた最高の手札をアッサリと民間人に止められりゃあ驚くよな…。あのネフィリムってヤツはギアを纏ってねェ、アイツでも殴れるのか!?

 

「空中巴投げえぇ!!」

 

ネフィリムの皮膚を掴んで身体を浮かせた状態で投げ飛ばしやがった。

 

もう、笑うしか出来ねぇよ。

 

「クリス、貴女が手紙を寄越したの?」

 

起き上がりそうなネフィリムを無視してのズボンの後ろポケットから白い封筒を見せてきた。

 

「あたしじゃねぇよ」

 

「そう、じゃあ…このヘンテコな着ぐるみは?壊しても良いわけ?」

 

「ま、まあ、良いんじゃねぇの?」

 

アイツの生存に安堵して適当な言葉を返してしまった。

 

そんなことを考えているとネフィリムがアイツに突進しようとしたが、片手で受け止められていた。もう、アイツだけで良いんじゃねぇの?

 

「この馬鹿者がァ!!」

 

バヂイィンッ!!という炸裂音と共にネフィリムが吹き飛ばされ、立ち上がろうとするネフィリムの頭を掴み上げ、何度も何度もビンタを繰り返していた。

 

ネフィリムも反撃しようとしたが「抵抗するなァ!!」と怒鳴られてビビったのか。叩かれてる途中から助けを求めるような鳴き声に変わっていた。

 

白髪眼鏡を殴られるネフィリムの次は自分なんじゃないか?と考えているのか、ネフィリムが叩かれる度にビクビクと身体を震わせていた。

 

「そこのお前、白髪の眼鏡だ。監督なら公平な考えで物事を進めろ。もし、次に、こんなことがあれば地面にめり込むまでぶん殴るからな?」

 

「は、はい!?心に刻んみました!!」

 

 



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第13話

㊤月β日

 

翌朝、ぐったりとしたクリス達が雪崩れ込んできた。

 

昨晩の撮影での派手な演出とか格闘シーンでも撮っていたのか?等と考えながらも「学校休むか?」とクリスに尋ねると「…いく」とだけ返してきたので食べやすい握り飯や味噌汁を作っている間に入浴することを勧めた。

 

面倒臭そうだが浴室へと向かい、立花さんが「わたしもおぉ…」と言いながら着いていき、翼さんも「では、私も」と三人で入浴するようだ。

 

学生寮の浴室は広いからな、三人は余裕で入れる。まあ、クリスは髪の洗い方も乾かし方も雑だったから数日間だけ一緒に入っていたしな。

 

浴室から「おかか、シャケ、野沢菜!?」なんて声が聞こえてきた。

 

野沢菜の握り飯か、美味しそうだな。

 

そんなことを考えているとドライヤーの熱風を放つ音と「あぁあぁあ…」という、だらしない声が聞こえてきた。

 

立花さん、その声は女の子が出しちゃダメだよ?

 

学生服に着替えてきた三人を食卓へと招き入れ、手のひらを押し合わせて「いただきます」と呟き、全員で握り飯を頬張ると「私、シャケだ!」とか「ふむ、おかかですか」とか「つぁっ、酸っぱい!?」等と違う声が聞こえてきた。

 

㊤月∃日

 

クリス達が学校に行っている時、訪問者を知らせるアラートが部屋中に鳴り響いた。

 

宅配便か?なんて考えながらドアを開けると、いつぞやの月読調さんと暁切歌さんがドアの前に立っていた。

 

クリスの友達だったのか?なんて考えていると「来てほしい」と頼まれたので書き置きをテーブルに残してから二人に着いていくことにした。

 

横道を抜けて大通りへ出ると、説教した白髪の眼鏡が悪役として立花さんと対峙していた。

 

しかし、迫真の演技だな。なんて考えていると目の前にカラフルなマスコットキャラが現れた。立花さんが見えない上に邪魔だったので『グルメ細胞の悪魔』『赤鬼』をイメージして近付いてきていたマスコットキャラ達に叩き付けると萎んで消えた。

 

えっ、最近のマスコットキャラって萎むの?

 

そんなことを考えていると白髪の眼鏡が飛び付いてきたので殴り飛ばしておいた。

 

良い年の大人が、がっつくなよ。

 

㊤月∽日

 

久々に風鳴さんと出会ったので話していると視線を感じた。

 

あの白髪の眼鏡、なんでオバサンを追い掛けるのかねぇ?等と風鳴さんに尋ねると「綺麗だからじゃないか?」と返されて頭を抱えてしまった。

 

この人は天然のタラシなのか!?

 

その後、物陰から出てきた。

 

ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスという悪役してた白髪の眼鏡が出てきたので風鳴さんに任せて、スーパーへと夕飯の食材を買うために別れた。

 

なんか、僕はァ!?私はァ!?とか聞こえてきたけど。無視していると鉄管の束に押し潰されそうになっている暁さんと月読さんが居たので鉄管を叩き斬って助けた。なぜか別の生き物を見るような目を向けられたけど。

 

まあ、助かった訳だからね、別に良いか。なんて考えながら二人の頭を撫でてスーパーへ向かった。

 

 

 



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第14話

〒月Ω日

 

風鳴さんから山籠りを提案された。仕事も入っていなかったので同行することになったが、クリス達のトレーニングも兼ねているそうだ。

 

立花さんと翼さんは基礎的な呼吸法を使っているが、クリスは数kmほど走っただけでヘロヘロになっていた。

 

あの夜の撮影では二挺拳銃だったからな遠距離もしくは中距離でのバトルスタイルで戦うキャラクターなんだろうな。

 

野原にてクリス達は馬歩站椿を行う傍ら、私は首ブリッジの体勢を維持する風鳴さんの腹部に座っている。

 

前々日、教えた首回りの筋肉の付け方や身体を柔らかくする為の修行だ。生肉冷凍庫へと入室して冷凍保存された豚や牛の肉へ拳打を叩き込んだ。

 

クリスに近付いて銃を使うなら銃用の打撃技を教えるぞ?と提案したら「…そんなの…あるのかよ…」と驚いていた。

 

なにも銃の使用法は長距離だけでは無いんだ。

 

熊避けのエアガンを取り出して自動式拳銃を逆手に、小指をトリガーに掛けて構える。

 

虚空へ向かって銃口を叩き付け、スライド部分を横へ薙ぎ払うように使う。クリスに拳銃を投げ渡し、銃を持たずに動きを真似させる。

 

〒月д日

 

翌日、必殺技のことも相談されたので高出力のエネルギーを弾丸の中に圧縮して弾き出すイメージしてみることを提案した。

 

教えるのは「怒りの暴発」「炎の鉄槌」「炎の蕾」「決別の一撃」等である。

 

一発逆転みたいな技も聞かれたのでスナイパーライフルを用いて高出力のエネルギーを一点集中させた弾丸を放つ「マキシマム・バースト」を聞かせた。

 

ウンウンと頷きながら学校へと行ってしまった。私の知識で参考になると良いのだが…。

 

やはり、死神体術はキツかったか?

 

そんなことを考えながら食器を洗っていると訪問者を知らせるアラートが部屋中に鳴り響いた。

 

またか、今度は誰だ?なんて考えてドアを開けると薄い桜色の髪が特徴的な女性が立っていた。

 

えっ、だれ?

 

〒月¶日

 

掃除や選択も終わって暇なので…。

 

昨日、訪ねてきたマリア・カデンツァヴナ・イヴの言葉を思い返してみよう。彼女は「世界を変えるために力を貸して欲しい」と言っていた。

 

数年前に同じような台詞で勧誘する悪徳宗教を殲滅したな。あの時はノイズは神の使者だとか騒いでいたので殴り飛ばして黙らせた。

 

神様頼みなんてモノは現実から逃げようとするカスのアホみたいな戯言だと信者共に言い放ち、襲い掛かってきた奴らは片っ端からぶん殴って更正させたな。

 

しかし、まさか、あの宗教団体の残党が居たとは思わなかった。驚きのあまり殴り飛ばして黙らせてしまったからな。

 

今度、会った時は謝罪してから殴るとしよう。

 

なんて考えていると海の方から爆発するような音が聞こえてきた。

 

なんだ、花火大会には早いぞ?

 

 



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第15話

ヰ月→日

 

浴衣に着替えて浜辺へと来たのに屋台が無かった。それどころか海面を突き破って島が現れた。

 

なんだ、大掛かりな設備だな。花火を見るために持ってきていた双眼鏡を持ち上げ、浮かんできた島を見るとクリスが翼さんと戦っていた。花火じゃなくて特撮の舞台だったのか…。

 

…なんとも言えないな…。

 

二挺拳銃なのは変わらないが翼さんが弾丸を斬り落とすシーンばかりだ。もしや、NGの撮り直しを行っているのか?なんて考えていると爆音と共に浮かんできた島が左側へと傾いた。

 

爆発演出の威力も高いな。

 

よく見ると月読さんと暁さんも戦っていた。プライベートでは仲良しだったが仕事中は敵対関係という訳だな。二人とも辛そうな表情を浮かべている、迫真の演技だな。

 

数時間ほど経過した頃だろうか?巨人みたいなキャラクターが現れ、殴り飛ばした薄い桜色の髪が特徴的な女性が出てきた。もしかして女優だったのか?

 

なんて考えていると太陽のような球体が巨人の口から放たれた。撮影する時にはエフェクトを投射しながら行っているのか。

 

随分と変わった撮影方法だな。

 

ヰ月₩日

 

あの日、私は空から落ちてくるスピリット・オブ・ファイアを見てしまった。

 

シャーマンキングは実在しているのか?等と考えつつ、部屋で眠っているクリスを揺すって起こす。

 

目元を擦りながら起き上がり、パジャマ姿のまま洗面台へと向かっていった。女の子としては身嗜みには気を付けることだな。

 

朝食を食べているとクリスから「アンタの技…まあ…使えたよ」と聞かせてくれた。

 

ふっ、ならば良しだ。

 

クリスは白米を口の中へと掻き込んでから「行ってきます」と手をヒラヒラと振りながら言ってきた。

 

何気無い仕草だが「行ってきます」は初めて言われたな。なんて考えながら米粒の残った食器を台所へ運んでいく。

 

ヰ月⊥日

 

学生寮付近にジムを設立することが決まった。なぜか、私はトレーナーとして働くことになった。

 

立花さんと小日向さんは最新設備の置かれたジム内を散策しており、翼さんは「自動防御人形」というスパーリング・ロボットを見詰めていた。

 

クリスはジムの地下に在る射的場に設備されている銃器を物色している。

 

視線を横へ動かすと風鳴さんがサンドバックを殴っており、ワン・ツーの打ち終わりしか見えなかった。

 

ふむ、更に鍛えてきた訳だな。

 

翼さんに視線を戻すと木刀の刀身に該当する部分をスパーリング・ロボットに受け止められており、何度も斬ろうと挑戦していた。

 

あの疾い剣撃を受け止めるとはスパーリング・ロボットとは侮れないな。

 

 

 



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第16話(風鳴弦十郎)

彼女と出会ったのは響君の見知らぬ技を見たことが切っ掛けだった。響君に頼んで同行させて貰った公園ではジャージ姿の女性が立っていた。

 

響君より少し高いぐらいの身長でセミロングの髪を一つに束ねて尻尾のように垂らした特徴的な髪型だった。彼女と挨拶を交わしてから響君の教えた技を聞いてみた。

 

彼女の口から灘神影流という活殺自在の流派の技だと聞かされた。

 

なんとも男心を擽るような言葉だ。

 

俺にも教えてくれないか?と駄目元で頼んでみた。すると、彼女は俺の身体をペタペタと触り始めた。女性に身体を触られるのは気恥ずかしさを感じてしまうな。

 

俺の身体を触り終えた彼女から灘神影流や中国の古式流派でしか伝わっていない三つの剛脚について教授してくれた。

 

響君も聞き入っており、俺も真剣に聞いていた。だが、彼女の口から驚くべき一言を受けた。

 

なんでも俺の脚は三つの剛脚のすべてを兼ね備えたモンスター・フットと呼ばれるモノだそうだ。

 

ニヤけそうな表情を押さえていると響君から「流石、師匠です!」と尊敬の眼差しと言葉を貰った。

 

その日の響君は基礎的な呼吸法や中途半端な体勢からでも放てる拳打を教えられていた。

 

 

冷え込む朝霧の中を身体を動かして待っていると彼女が小走りで来ているのが見えた。

 

彼女は何も言わずに俺の隣に並び、左手を中途半端に突き出した変わった構えを取った瞬間、俺の打っていたジャブとは比較すら烏滸がましい回転を加えたジャブを放っていた。

 

見た感じではコークスクリュー・ブローのようだが腕の関節だけで放っている。通常のモノよりモーションが小さい上に速射砲とはな……。

 

彼女に先程の技を尋ねると弾丸というボクシングの技だと教えてくれた。最近のボクシングでは、このような高等技術を取り入れているのか!?

 

 

なぜか、了子君も同行することになった。公園で待っていると彼女がやって来た。了子君を見ながら自身の胸を触っていたが、俺は見ていないフリに徹する。

 

俺の提案でミット打ちを行うことになり、了子君はビデオカメラで撮影していた。

 

フォームのブレを確かめるには持って来いだな。なんて考えながらローキックを放ち、受け止めようとした彼女の手から外れていた。

 

彼女は両の手を開閉させながら転がるミットを拾い上げて戻ってきた。しかし、ミットは蹴りの衝撃を受け切れずにズタズタに引き裂けていた。

 

あ、新しく買うから泣きそうな顔をしないでくれ。

 

謝罪してから二課へ向かう途中に了子君に女性へのお詫びの品を選ぶコツを聞いたが、飄々と受け流されてしまった。

 

結局、新しいミットを渡す事で納得してくれた。

 

 

 



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第17話

├月∟日

 

ジムのスペアキーを配り終えてから三日ほど経過した頃だろうか?いつぞやの薄い桜色の髪の女性を引き連れて暁さんと月読さんがジムへやって来た。

 

色々とトレーニングマシンを物色してから更衣室へと向かった。改めて薄い桜色の髪の女性にマリア・カデンツァヴナ・イヴと名乗られ、殴ったことを謝罪しておいた。

 

更衣室から出てきた二人は汗だくになっても良さそうなハーフパンツとスポーツインナーを着ていた。グルグルと適当に巻かれた彼女達のバンテージを巻き直しつつ、練習用グローブを嵌めさせる。

 

体験入部というヤツだろうか?なんて考えながらサンドバックの後ろに回り、揺れないように押さえて打つように指示する。

 

二人ともクリスよりはマトモなパンチを打てるようだ。それと「さん」付けで呼んだら名前で良いと言われた。

 

このジムには色々と物が揃っているからな。彼女達の手の大きさに合うグローブがある筈だ。

 

用具室からグローブと書かれた段ボールを持ち出し、サイズ順に並べていると小学高学年サイズが二人の手にフィットした。

 

├月⌒日

 

二人の武器は「デスサイズ」と「マルノコ」だそうだ。殺人鬼みたいだな。なんて思ったのは内緒だぞ?

 

用具室から花壇で使う鎌を持ち出し、風鳴さんのパンチに耐えられず壊れたサンドバックから離れた位置で立ち止まり、鎌の刃へと力を乗せるイメージで斬撃を放った。

 

調はパチパチと拍手してくれたが、切歌は「飛ぶ斬撃デスか!?」と驚いていた。

 

鎌鼬の技の一つ「レラ・マキリ」だ。

 

教えて欲しいと言うので教えたら二振りの鎌から合計で六度の斬撃を放てるようになっていた。

 

この子、あれだな。立花さんと同じタイプの人間かもしれないな。

 

調は「切ちゃん、かっこいい」と呟いていた。

 

まあ、カッコいいのは認めよう。

 

調には膝から膝裏までチェーンソーのように丸鋸を変化させてキック主体にしてはどうだ?と聞いてみた。

 

今度、試してみるそうだ。

 

├月δ日

 

翼さんから新技の伝授を懇願された。理由は「スパロボ」に木刀が叩き込めないからだそうだ。

 

彼女の振るう太刀筋は悉く防がれており、技を放つことすら躊躇してしまうそうだ。

 

項垂れる翼さんから木刀を借り、スパロボに木刀を振ってみたが綺麗に当たったぞ?

 

翼さんは「なぜ、当てられるのですか!?」と詰め寄ってきた。

 

多分、インプットされてない倭刀術だからじゃないか?と言うと教えて欲しいと懇願された。

 

詰め寄り方が怖かったので倭刀術を見せると見様見真似とはいえアッサリと動きを模倣してしまった。

 

歌姫が倭刀術を覚えても良いのだろうか?

 

 

 

 



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第18話

‰月.日

 

翼さんは倭刀術一文字流を極めていた。教えた張本人としては光より速い進化に多少はビビっている。

 

クリスも二挺拳銃を逆手に構えて死神体術・罪の構えから迫り来るヒト型の的を撃ち抜いている。

 

立花さんはサンドバックを縦に揺らすし、小日向さんは高速で左右に揺れるパンチングボールをジャブで止めている。

 

調はテコンドーやムエタイの雑誌を読んでおり、切歌は「お仕置き用スパロボ」の振るう竹刀を二振りの木製の鎌を交差させ、刃と刃が噛み合うように押さえ付けている。

 

マリアはなんとも言えない表情を浮かべながら風鳴さんとミット打ちを行っていた。

 

なぜか、あの子は技を聞いてこない。

 

マリアはミット打ちを終えると翼さんに歩み寄って竹刀を構えていた。

 

予想通りだが、竹刀が竹刀に切断された。

 

‰月¬日

 

クリス達は友人の送別会を行うそうだ。遠くまで行くので数日は帰れないらしい。

 

怪我や事故には気を付けるように伝えてから頭を撫でた。やっぱり、犬の耳のようなモノが見えたような気がする。

 

掃除機を起動させようとした時、訪問者を知らせるアラートが部屋中に鳴り響いた。掃除機を壁に立て掛け、玄関のドアを開けると好青年が立っていた。

 

一応、顔は知っている。

 

翼さんのマネージャー緒川慎次さんだ。

 

どうしたのか?なんて考えていると彼から赤い封筒を手渡された。これはマトリ内では有名なモノだ。

 

緒川さんをリビングへと招き入れ、麦茶を淹れたコップを手前に置いて話し始めた彼の話を聞いていた。

 

なんと言えば良いのか、最大規模の麻薬組織と取引を行おうとしているヤクザ連中の話を聞かされた。

 

緒川さんにクリスのことを一時的に任せていいか?と尋ねると「はい、任せて下さい」と答えてくれた。

 

はぁ…さっさとボコって仕事を片付けよう。

 

‰月Ж日

 

1ヶ月ほど経過した頃だろうか?

 

麻薬売買の現場を取り押さえるために武装警官達と現場へ突入してきた。

 

銃器を使おうとする者には自慢の拳を叩き込んで黙らせ、逃げようとする麻薬組織の幹部らしき男に上から放つ膝蹴りを叩き付けて気絶させた。

 

まあ、警棒と盾だけで制圧することに成功した。だが、麻薬組織の幹部らしき男から「俺を倒しても2世とかジュニアとか真とか増え続けるぞ!?」なんて言ってきたので、ブッ飛ばすと答えておいた。

 

その後、手当の給料を貰ってクリスの待っている学生寮へと戻ろうとしたら官房から「身体には気を付けろよ?」という心暖まる一言を戴いた。

 

そう思うなら麻薬を使おうとする奴らをボコれる法律とか作ってくれよ。久々に学生寮のドアを開けると見知らぬ金髪の少女が立っていた。

 

えっ、だれ?

 

 



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第19話

Щ月Й日

 

居候2号の名前はエルフナインというバイト先で雇われた新人デザイナーだそうだ。ふむ、風鳴さんの人を見る目は確かだからな。

 

将来有望なデザイナーなんだろう。

 

遅れてしまったがクリスに「ただいま」と伝えると顔を背けながら「おかえり」と返してくれた。クリスとの関係は良くなって来ているな。

 

しかし、よく見ると小日向さんやエルフナインを除いた子は包帯やガーゼを巻いており、クリスも二の腕に包帯を巻いていた。

 

爆発演出の時の火薬量を間違えたのだろうか、頭を撫でながら労いの言葉を掛けるとフンスと自慢気に胸を張っていた。

 

やはり、でかいな。

 

そんなことを考えていると立花さんから新技を教えて欲しいと言われた。他の子達も真剣な眼差しで見てくる最中、エルフナインだけが困惑していた。

 

その後、一人ずつ修行をつけることになり、ジャンケンの末に1番目は翼さんとなった。

 

Щ月⇒日

 

とある森林地帯、古城跡地にて風鳴翼と向かい合うように立ち、彼女の話では真剣を用いた戦いで無様にも剣を折られたとのことだ。

 

学生寮近所の包丁店で購入した短刀を取り出し、彼女の隣に崩れた城壁の岩を切り裂いてみせた。その刃は黒く染まっており、異質な威圧を放っていた。

 

身の丈を越える岩を切り裂いても刃毀ぼれの無い短刀を翼さんに突き付けて「刃毀ぼれすら己の恥と思え」と言い放ち、市販の日本刀を手渡して斬れるまで見続ける。

 

しかし、黒刀へと至るのは時間の問題だな。

 

彼女は歌と剣に関しては天賦の才としか例えられない程のセンスを持っている。ふと気になったので、彼女の使用していた剣の名前を聞いてみた。

 

彼女が言うには天羽斬々という日本神話に登場する剣だそうだ。翼さんに適している武器だな。なんて考えていると地鳴りと共に翼さんが身の丈を越える岩を切り裂いていた。

 

その刀身は僅かに黒刀の片鱗を見せていた。

 

Щ月З日

 

とある山岳地帯、雪音クリスは銃撃戦で負けたそうだ。敗北するとは思っていなかったのか、悔しそうに拳を握り締めていた。

 

彼女の頭を軽く撫でてから三つのソイル魔銃について説明していき、死神体術・狂罪の構えを教え込む。

 

時折、腰を曲げようとするので強制的に正したりする。エネルギーを集束させ、飛行用として使うのも手だと教えたから試してみるとのことだ。

 

距離を詰めれば拳銃の銃口やスライドで殴り飛ばすことは覚えており、危うくスポンジ弾に当たるところだった。クリスは拳銃に頼る癖があるのか、ここぞという時には必ずと言って良いほど右の拳銃を突き出してくる。

 

まあ、それは修正しておいたがな。

 

 

 



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第20話(暁切歌&月読調)

私達はオートスコアラーに負けてしまった。正規の奏者と違っているから負けたとか言い訳するつもりはないデスけど。

 

負けたくない、みんなを守りたいと思ってしまう。

 

「オバサン、どうすれば良いデスか!?」

 

「さあ、自分で考えてみなさい」

 

都市部から数百kmも離れた森林。頭を撫でてくれるオバサンと目の前に在るのは切倒された大木と手に持っている斧だけじゃ分からないデスよ!?

 

なんて考えていると激流の中でキックをしている調を見てしまったデス…。よく見ると調の顔色は青を通り越して茶色かったデスよ。

 

アレって酸素欠乏症デスよね?

 

調、大丈夫かな。なんて考えながらも丸太を切り倒すために斧を振り落としても上手く切れない。オバサンは斧を、どうやって振り落としていたか。しっかりと思い出して調と一緒にご飯を食べるためデス!

 

足は肩幅に開き、重心を前に傾けて、振り上げた斧を一気に振り下ろす!!

 

ガゴォォンッ!!という音と共に大木は半分まで切れていた。でも、オバサンみたいに一撃で切り倒せなかった。もっと筋肉の伝導率と関節の連動率を引き上げないと駄目デスね。

 

こう、いや、こうだったデスかね?

 

「分からないデーーーースっ!!」

 

身体を大きく仰け反らせ、斧を振り落とすと綺麗に切り倒せていた。あれ?上手く出来ちゃったデス。今の感覚を忘れない内に、試してみるデス。

 

ガゴォォンッ!!

 

「やっぱり、出来なかったデス!?」

 

 

切ちゃんの「デーーースっ!!」っていう叫び声が聞こえてきた。川の中でキックを放ち、オバサンの投げてくるピンボールを蹴り返していると切ちゃんの修行している方から爆発するような音が聞こえてきた。

 

「なんだ、気付いたのか?」

 

「……気付いた…?…」

 

「ああ、関節は衝撃を和らげるクッションだ。切歌の倒木切りは、その関節を固定して力の分散を徹底的に削いだら出来るんだよ」

 

そうなんだ、知らなかった。オバサンは物知りだな。なんて考えているとコツンと頭にピンボールが当たった。

 

あっ、私も修行してるんだった。

 

私は流れていくピンボールを蹴り上げてオバサンに蹴り返す。

 

オバサンが言ってた「好きな子へ料理する手は戦いで使っちゃダメだ。なにより料理人の手は命だ」って…私の手は切ちゃんにご飯を作るためだけに使う。

 

だから、ノイズを倒すのは蹴り技だけで良いんだ。

 

オバサンの手から投げられた三つのピンボールを蹴るために川の水を蹴り裂いて飛び上がり、回転しながらピンボールを蹴り返して陸に着地する。

 

オバサンからタオルを貰って斧を地面に置いて手を大きく振っている切ちゃんに小走りで駆け寄る。

 

 

 



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第21話

ヱ月⊆日

 

立花さんは攻め手ばかりを出す傾向があるため、攻防一体の構えを教えることになった。

 

前の手は攻撃もすれば防御もする、後の手は防御もすれば攻撃もする。付かず離れずの距離を保ち、前の手のコンマ数秒後に飛び出してくる後の手に相手はド胆抜かれて血ヘドを吐く訳だが、立花さんは構えの名前を聞いて恥ずかしそうにしていた。

 

普通に夫婦手って良い名前だと思うんだけどな。なんて考えながらも左手を前に右手を後にして構えていると「なんか、窮屈ですね」と愚痴を言うのでスパロボの攻撃を防がせてみたら気に入ったようだ。

 

前へ前への精神は認めるが、防御を疎かにするのは二流三流の行うことだと伝えるとしょんぼりとした表情を浮かべていた。

 

否定している訳ではないからな?

 

立花さんは前の手で防御しながら攻撃していた。あれは想定していたモノとは違うな。無骨にして簡潔的、正しく剥き出しの武術だな。

 

立花さんの放つ左右の連打を同等の速度で弾き上げたり払い落としているスパロボの性能には驚いた。アレの真ん丸としたフォルムからは考えられないな。

 

ヱ月Μ日

 

マリアにも教えようとしたが断られた。

 

なぜだ?なんて考えていると風鳴さんから翼さんの使っていた黒刀について聞かれたので簡単に答えたらノイズにも対抗することが出来るのでは?等と言っていた。

 

流石にノイズを倒せるとは思わないよ。

 

それに、アイツらに触ったら炭素化するからね。

 

そう答えると苦笑いを浮かべながら頭を撫でられた。いい年のオバサンの頭を撫でても良いことないぞ?と伝えると「そうでもないぞ?」と返された。

 

ほら、やっぱり、タラシじゃないか。

 

マリアは立花さん達と話し合っており、翼さんはスパロボへとリベンジしていた。だが、あっさりと受け止められていた。

 

あのスパロボの中に、誰かが入ってるのか?

 

ヱ月С日

 

なんでも都市部で爆発物が発見されたらしい。

 

リディアン音楽院では全校生徒を集合させ、避難させているそうだ。私も官房から騒動に紛れて逃げようとする麻薬組織の残党を追うように指示を受けた。

 

クリスとエルフナインには怪我しないように言ってから残党の逃げ込んだと思わしき、下水道を懐中電灯を携えて探していると海辺へと出てしまった。

 

残党を探すために戻ろうとした瞬間、轟音と地鳴りが海まで響いてきた。

 

何十年前の爆弾を掘り当てたんだよ。

 

そんなことを考えているとクリスから電話が掛かってきた、仕事中に電話とは初めてだな。

 

なんて思いながら通話ボタンを押すと雑音の混じった声で「怪我したけど、生きてるぜ」と言われた。

 

なんと言えば良いのか、クリス達の無事を聞いてホッとしているとアタッシュケースを抱えた男を見付けたので殴り飛ばしておいた。

 

マンホールを突き抜け、道路に転がり落ちる残党の手足をガムテープで縛ってから官房に電話すると「御苦労」としか言われなかった。

 

いや、私の休日を返せよ。

 

 

 



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第22話

・月?日

 

立花さん達に連れられ、エルフナインの眠っている病室へと来ていた。なんでも身体を蝕んでいた病魔の進行が速まってしまったそうだ。

 

最後の別れと宣おうとしたのでワシャワシャと頭を乱暴に撫でて黙らせた。

 

みんな、夜になると病室から出ていってしまった。私はエルフナインの話を聞いていた。

 

立花さんの話していた「花火大会へ行ってみたい」とか翼さんの話していた「盆踊りをしてみたい」とかそんな話を聞いていた瞬間、私の隣にエルフナインと瓜二つな少女が現れ、ビックリしているとエルフナインが「キャロル」と呟いていた。

 

二人の話を聞いていたが、二人とも病魔のせいで死ぬそうだ。人道に逆らう行為だと思っていたが致し方ない。

 

二人を強引に並ぶように寝かせ、左手をエルフナインの胸の真ん中に、右手をキャロルの胸の真ん中に、私を媒介として繋がるようにイメージする。

 

私を通して二人の生命力を循環させる。

 

二人から呻き声のようなモノが聞こえてくるが、二人の生命力の波長を繋ぎ合わせ、二人の生命力を同等の質量へと戻すと、ゆっくりと染み込ませるように私の生命力を送り込んでいき、病魔を掻き消す程の波動を叩き付ける。

 

・月!日

 

翌日、病室へと入ってきた立花さん達は驚愕の声を上げていた。そりゃあ、昨日の夜には死んでしまうと聞かされていたエルフナインが生きている。

 

しかも、そのエルフナインに瓜二つな少女を見れば驚きたくもなるよな。

 

立花さん達は涙を流しながら二人を抱き締めていた。

 

クリスに生きている理由を聞かれたので「灘神影流の秘術で生命力を分けた」と伝えたら怒鳴られた。怒鳴っているので聞こえ難かったが「恩返し」とか「死ぬまで」とか聞こえたような気がする。

 

とりあえず頭を撫でて嗜めているとエルフナインから「オカーサン」と呼ばれた。

 

未婚の子持ちとは大出世だな。

 

クリスはエルフナインに張り合うように腕を掴んできた。訳が分からないので二人の張り合いが終わるまで待っているとキャロルという少女には「パパには及ばないが認めてやる」と言われた。

 

ファザコンというやつか。

 

エルフナインとクリスは病室の傍らで口論しており、ファザコン娘は胸を張っているので頭を撫でておいた。

 

二人に喧嘩は静かにと伝えてから病室を出ていき、上司へと有給休暇の申請を頼んでみた。

 

・月+日

 

有給休暇を頼んだ結果を言っておこう。

 

許可して貰えた。なんと言えば良いのか、久々の有給休暇を使うのだが…。

 

休みの日の過ごし方ってあるのか?等と考えていると立花さん達に連れられ、お祭りへと向かうクリス達に同行することになった。

 

若い衆にオバサンが紛れていいのか?

 

エルフナインから金魚掬いのコツを聞かれたので普通に膜を水に半分だけ浸して弾けば入ると手本を見せながら教えた。

 

後ろから射的の景品だった大きなクマを担いだクリスが帰ってきた。その口には綿菓子の残り滓が着いていたので掬い取って食べてみた。

 

最近の綿菓子は甘さ控えめだな。

 

キャロルは水風船をペチペチとしながら歩いてきた。なぜか、フンスとやり遂げたような表情を浮かべながらだった。

 

 

 



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第23話

¥月;日

 

学生寮に帰るとクリスが分裂していた。眉間を押さえながら疲れているのか?なんて考えているとクリスが話し掛けてきた。

 

多分、こっちは何時もの方だな。

 

二人の話を聞いてみた。クリス(現地)とクリス(異界)と認識することにした。まあ、クリス(現地)の方がクリス(異界)よりも数段は強いな。

 

そんなことを考えているとクリス以外にも分裂している、とのことだ。

 

なんと言えば良いのか、クリス(異界)はヘンテコな機械の誤差働が原因で、この世界の誤差を修正すれば帰れるらしい。

 

二人は話を進めていき、クリス(異界)をリディアンへ連れていくという話をしていた。まあ、学校に行けば他の異界人とも会えるというのは確実だからな。

 

しかし、夜に出歩くことは認めないぞ?

 

¥月ν日

 

翌朝、クリス達を見送ってからエルフナインとキャロルを起こして洗面台へと向かう。

 

カクンカクンと立ちながら眠りそうな二人の歯を磨きつつ、冷ました温いお湯で顔を洗ってからクマ絵柄のタオルで顔に付着したお湯を拭い取り、リビングの食卓へと抱えながら運んでいく。

 

二人ともコーンスープを気に入っているのか。朝はパンとコーンスープをベースとしたものしか食べない。

 

デザイナー特有のルーティーンというものなのか?なんて考えているとクリス(現地)から電話が掛かってきた。

 

なんでも立花さん達も増えているそうだ。

 

小日向さんが二人に増えて立花さんが一人だと最悪の場合は取り合いになるな。等と考えているとヘンテコなマスコットが覗いていたので威圧したら消えた。

 

本当、最近のマスコットは盗撮や覗き見する奴らを入れてるところが多いな。

 

二人は食器を台所へ運び終えると白衣に袖を通してリュックサックを背負って「行ってきます」と言いながら玄関のドアを開け、デザイナーの仕事へ向かった。

 

しかし、あの子達の間で言っているモノを聞かされたがデザイナー用語では分からないぞ。

 

¥月Ч日

 

スーパーでエルフナイン達と買い物していると立花さんと遭遇したが、クリスと同様に分裂していた。夢幻ではなかったようだ。

 

立花さん(異界)の方から「師匠と同じぐらい強いって本当ですか!?」と聞かれた。私の実力は風鳴さんと同等とは思えないが…。

 

まあ、強いと思うぞ?なんて答えると立花さん(現地)から「師匠と同じぐらい強くないと音の壁を越えたパンチは打てませんよ!?」と言われた。

 

いや、立花さん(現地)も打てるだろ?

 

そんなことを話しているとエルフナインがカートの上に乗った籠の中に「うたずきん」のお菓子を入れていた。

 

その程度なら問題ないのだが、キャロルの「激辛タバスコチップス」の購入は阻止した。

 

あれを食べるのは覚悟しなくてはダメだ。

 

オバサン、忘年会の時に食べたけど。喉が焼けるほど痛かったからな。キャロルはチップスを棚に戻すと「激辛タバスコチップスEX」を持ってきた。

 

辛いの好きなの?

 

 

 



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第24話(雪音クリス)

あたし達は並行世界の奴らと模擬戦することになった。正直に言えば並行世界のあたしとの実力差を知ることが出来る良い機会だと思っている。

 

バカ二人は「流派違いなので大丈夫!」とか言っていたが、あたしにも流派は在るんだよな。

 

ただ、どう見ても、向こうのあたしは我流だった。

 

死神体術を使っても大丈夫なのか?なんて柄にも無いことを考えてしまった。

 

まあ、戦えば分かることだな。等と考えていると先輩同士が戦い始めた。

 

最初は先輩(現地)はアームドギアの技を使っていたが、戦ってる途中から倭刀術にチェンジした。先輩(現地)は剣の峰を蹴り上げ、威力と速度を強引に増した斬撃で先輩(異界)のアームドギアを砕いてみせた。

 

あの攻撃を初見で避けるのは無理だな。あたしは無理だったからな。あのバカは「白刃取り!」とか叫びながら掴んでたけど。第六感ってヤツはバカみたいな奴にしか備わってねぇのか?

 

「クッ、なんだ今の技は!?」

 

「ただ、斬り上げを蹴っただけだ」

 

先輩(現地)はアームドギアを突き出すように構えながら斬られた場所を押さえながら膝を着いている先輩(異界)に語り出した。

 

「彼女は刃毀ぼれすら己の恥と思えと言っていた。故に、我が剣は妖刀(コクトウ)へと姿を変えたのだ」

 

強化硝子越しに見ていた向こう側の連中は聞き慣れない言葉に違和感を感じてるみたいだ。

 

「コクトウ?」

 

「かりん糖の知り合いデスか?」

 

チビッ子共の質問に答えるオッサンと未来を眺めていると向こう側のあたしと目が合った。

 

なんと言えば良いのか、お前もアレぐらい出来るのか?と言いたそうな目だった。そりゃあ、出来ねぇと勝てない奴らも出てくるだろうからな。

 

そんなことを考えているとバカ二人が先輩と入れ代わりで演習室に入室していた。バカ二人の構え見ただけで違うと分かった。

 

アレだ、灘神影流VS中国拳法だな。

 

初っぱなから突っ込むような攻撃を仕掛けるバカ(異界)の崩拳を受け流し、バカ(現地)はバカ(異界)相手に首投げしようとしていた。

 

こっちでも弾けるヤツはオッサンとかアイツぐらいだろうが、相手との力量を測れるようになれよ。

 

なんて考えているとバカ二人の動きが映画やドラマで見るような派手な動きから小さくて速くなり、相手の陣地を取り合うような陣取り合戦へと発展していた。

 

向こうのバカ(異界)、制空圏を使えるぐらいには強いのか。そうなると制空圏を崩された方が負けるな。

 

バカ二人の繰り広げる乱打殴打の応酬は続いており、一撃を交わす毎に強さを増していた。次の瞬間、バカ(異界)の顔面が仰け反るように弾け飛んだ。

 

いきなり、灘神影流から古流空手に攻め方を変えたのか?もっと灘神影流に慣れさせると思ったんだがな…。

 

「負けるかあぁぁ!!」

 

灘神影流菩薩拳!!

 

バカ(現地)は突進してきたバカ(異界)の攻撃を掻い潜り、そのまま合掌していた手を絡め合わせて鳩尾へと突き出すように両拳を叩き付けた。

 

 



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第25話

Ⅲ月┗日

 

エルフナイン達からプレゼントを渡された。包みを開けると仕事で使っているチョークストライプのダブルスーツ一式がケースに収納された状態で置かれていた。

 

見ただけで分かる、これはスゴい高いヤツだ。

 

キャロルとエルフナインに料金の事を尋ねると自作だと教えてくれた。

 

デザインはクリスが考えてくれ、性能や素材は二人で決めたそうだ。クリスは頬を染めて顔を背けていたが、三人を寄せ集めて抱き締めても抵抗することはなかった。

 

オバサン、すっごい嬉しい。

 

エルフナインとキャロルの言っている「ガ=ジャルグ」という特殊な繊維を織り混ぜており、並大抵の事では傷付かないそうだ。最近のスーツは傷防止のコーティングを行っているのか。

 

初めて知ったな。

 

Ⅲ月♯日

 

プレゼントされた「ガ=ジャルグ」という名前のスーツを着て麻薬取引現場を押さえているとヘンテコなコスプレ集団と出会った。

 

全員、美女だ。しかし、なんとも言えない不可思議な気配を放っている。

 

一際、目立つような衣服を纏っている薄い水色の髪の毛をツインテールのように束ねたヤツの氣の流れに違和感を感じるんだが…。

 

そのことはあとで追求しよう。

 

試験管のような容器に入った淡い桜色と札束の詰まったアタッシュケースを交換しようとしていた男を蹴り飛ばし、空中を回転しているアタッシュケースが落ちてくるまでに男達を殴り倒して、落ちてきたアタッシュケースをキャッチする。

 

よく見ると容器の中身はチップのようなモノを液体で漬けていただけだった。最新の麻薬か?なんて考えているといつの間にか三人組の美女が消えていた。

 

ふむ、取引現場を撮影していた一般人なのか?

 

振り返ると緒川さんが立っていた。この人、何処にでも現れるな。先週は翼さんの部屋で見た気がするぞ?その前はリディアンだったか?

 

緒川さんにアタッシュケースを渡して欲しいと頼まれた。考えれば分かると思うが、一般人に麻薬を渡せる訳ないだろ。それから官房から「渡して良いよ」という電話が掛かってきた。

 

Ⅲ月♀日

 

早朝、気怠さを感じながら食器を洗っていると国外で爆破テロが行われていたという報道が流れていた。

 

クリス達は神妙な顔付きでテレビを見ていたが時計を指差すと駆け出すように学校へと行ってしまった。

 

三人を見送ってから最近の麻薬組織の縄張り争いを纏めた資料を流すように読んでいると「パヴァリア光明結社」という変な名前の組織を見付けた。首謀者の名前や顔写真が挟まれており、顔を確認するために写真を取り出した。

 

なぜか、光を放つ男の全裸の写真だった。

 

眉間を押さえながらも幹部らしき女性の顔写真を拝見してみたがプリクラとか有り得ないだろ!?

 

 



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第26話

Ю月㏄日

 

新発見、人間は粒子化する。

 

先日と同じチップを買おうとしていた日本の悪徳企業を追い詰めた。またしても三人組の美女と遭遇してしまった。

 

二度も続けば関係者としか思えない。

 

問い詰めるように歩み寄った瞬間、手のひらにオーラを集束させたような光の球体を作り出して投げてきた。

 

遊んでる場合じゃないだろ、光の球体を殴ったらシャボン玉のように破裂した。

 

なんと言えば良いのか、いい年の大人がシャボン玉で攻撃とか恥ずかしくないか?

 

痙攣したような痺れを発する拳を開閉しながら駆け寄り、露出の多い軽装ツインテールの土手っ腹に回転を加えた右拳を叩き付けた瞬間、ツインテールの着ていた服は弾け飛んでいた。

 

なぜだ、変な技は掛けていないだろ。

 

高みの見物を決め込んでいた三人組の二人は驚愕したような表情を浮かべており、吹き飛ばされたツインテールもキョトンとした表情を浮かべていた。

 

二人に持ち上げられたツインテールは槌の代わりに窓を突き破らされ、そのまま逃げてしまった。

 

本当に、なんだったんだ?

 

Ю月ゞ日

 

久々にヘンテコなマスコットを見付けた。群がってくるので叩いたら消えた。ホログラムとか風船とかだったのか?なんて考えていると特撮衣装を纏ったクリス達と出会った。

 

やはり、マスコットは群がっていた。面倒なので一つ一つ殴り飛ばしていたら「えっ」という表情で見てきた。

 

あ、もしかして撮影中だったのか?

 

とりあえず怪我しないように激励してから離れると爆発する音が聞こえてきた。

 

おぉっ、今回は爆発オチなんだな。

 

そんなことを考えながら歩いていると資料に記載されていた「パヴァリア光明結社」の首謀者アダム・ヴァイスハウプトが青白い肌の少女を連れて歩いていた。

 

成る程、ペドフィリアだった訳だな。

 

後頭部を掴んで地面に叩き付け、地面にめり込むまで叩き付けていたら身体の半分までめり込んでいた。

 

青白い肌の少女はペド野郎の足に抱き着いていたので引き剥がし、地面から引き抜いて少女にペド野郎の被っていたソフト帽を持たせ、顔の原型を留めていないクソ野郎の両手を結束バンドで固定しておいた。

 

抵抗すれば指を一本ずつ折ってやる。

 

Ю月≠日

 

官房から「大手柄だ」と褒められた。

 

よく分からないが「パヴァリア光明結社」とは世界規模の組織だったらしい。

 

その首謀者を捕まえたことで相手の思想理念を叩き潰すことが出来たそうだ。三人組の美女と遭遇した。

 

逮捕するために拳の骨を鳴らしながら歩み寄ったらビビられた。それと彼女達の使っている「レンキンジュツ」という技を消した理由を聞かれた。

 

考えられるのは「度胸」とか「気合」とかだな。

 

そう答えると頭を抱えて蹲ってしまった。頭痛か?偏頭痛か?病院に行くか?なんて聞いていると「もう、警察で良いです」と言われた。

 

いや、私は警察じゃないぞ?

 

 

 



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第27話

Б月υ日

 

カリオストロ、サンジェルマン、プレラーティ、この三人は「パヴァリア光明結社」の重要参考人として日本政府の特務機関にて保護するそうだ。

 

キャロルは「プレラーティ、生きてたのか」と驚いていた。あの眼鏡少女とは知り合いのようだ。官房に頼み込んで数十分程度なら話せる時間を貰えた。

 

二人の話はデザインに関することばかりだ。

 

最近では黄金錬成という派手な衣装を考えており、絵空事を叶えることが出来ると宣うアダム・ヴァイスハウプトの口車に乗ってしまったらしい。

 

他の二人も同じ境遇であり、なんとか出来ないか?とキャロルは聞かれていた。

 

キャロルはチラチラと見てくるが、日本政府で保護している重要参考人を連れ歩くのは危険な行為だぞ?と官房達の前で伝えたら「えっ、君が言うの?」と言われた。酷いな、寄って集ってオバサンを虐めるんじゃない。

 

あとで襲われるかもしれないぞ?

 

Б月м日

 

結局、重要参考人として保護された三人を引き取ることになった。

 

三人にはジム内に在る仮眠室や給仕室を使って良いと伝え、夕飯を作るためにジムの扉を開けようとした瞬間、スパロボの頭を叩こうとして、逆に殴り飛ばされるカリオストロが見えた。

 

私は何も見ていない。

 

学生寮の非常階段を登っていると窓硝子を突き破ってカリオストロが飛び出してきた。

 

よく見ると、顔が腫れていた。スパロボに喧嘩を売るのは構わないけど。美人なんだから顔には気を付けるように伝えたら照れたように後頭部を右手で掻いていた。

 

しかし、立花さんですら気絶したスパロボのパンチを受けても気絶しないのか。このままジムのトレーナーとして過ごしてくれると楽なんだがな。

 

そうなると給料を提供しないとダメだな。

 

Б月∧日

 

早朝、三人の様子を見に行くとカリオストロと思わしき唸り声が聞こえてきた。

 

給仕室にはキャロルの買った期間限定「激辛タバスコチップスMAXIMUM-EX」が開封されていた。

 

サンジェルマンとプレラーティの二人は表情を歪めており、その手には牛乳瓶が握られていた。

 

開封時の臭いだけで気分を害する事があるからな。

 

私は開けただけで気分が悪くなった。

 

しかし、まあ、毎日のようにキャロルが食べているところを見ていれば臭いにも馴れるはずだ。プレラーティが「……劇物……な…ワケ…ダ…」と呟いていた。

 

一応、口元の牛乳は拭いておいた。

 

サンジェルマンは給仕室の冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して直飲みしていた。

 

アレを食した同士として許そう。だが、口を付けて飲むのは衛生的に良くない。キャロルやエルフナイン、クリス達の前では控えてくれよな。

 

 



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第28話(雪音クリス)

あたし達の戦っていた「パヴァリア光明結社」は壊滅したとオッサンから伝えられた時、どんなバケモンに潰されたのかを想像していた。

 

手元の資料を流すように読んでいると見慣れた顔写真が挟まっていた。あの「パヴァリア光明結社」をブッ潰した張本人はアイツの写真だった。

 

考えてみれば不思議じゃねぇな。

 

オッサン並みの身体能力とあたし達の作った「RN式回天特機装束"ガ=ジャルグ"」を身に付けてればアルカ・ノイズ相手でも勝てんだよな。

 

なんて考えながら学生寮に帰ってきた訳だが、あたしの寮室ではガキ相手に肉取り合戦を繰り広げるアホ共。エルフナインやキャロル、プレラーティに肉と野菜を均等に入れたお椀を手渡しているアイツの姿だった。

 

「あーしの肉うぅ!?」

 

「私の豚肉だ、貴様は春雨でも食べていろ」

 

「おぉ、感謝するワケダ」

 

後頭部を掻くような仕草をやめ、服を着替えるために自室へと向かう。

 

そう言えば、マリアとクソ眼鏡が手を繋いでるところを見たな。まあ、キャロルの引き起こした事件での吊り橋効果的なモノだと思うけどな。

 

「クリス、おかえり」

 

「ん?ああ、ただいま」

 

普通の家庭では何気無い言葉だろうけど。

 

カ・ディンギルの時にアイツの住んでいたアパートは潰れていたし、ちょっとの間だけ鬱ぎ込んでいたのも事実だから言い訳もしねぇ…。

 

その、なんだ、兎に角、大切な言葉なんだよ。

 

「あーしだけ春雨の鍋なんだけど」

 

「ふっ、貴様の脳では私の箸捌きには勝てまい」

 

カカカカカッと補助器の付いた箸を持ちながらフンスと自慢するアホは無視する。

 

ありゃあ、ダメだな。

 

マジで平穏な日常に染まってやがる。

 

「あ、あの、喧嘩しないで…」

 

「エルフナインが怖がってるだろ、プレラーティもバカ共を止めろ」

 

「それについては無理なワケダ」

 

リビングで鍋を囲んでいる奴らの中へと入り、すでに装われている白米と鍋の具材に胡麻ドレッシングを掛けようとしたら手を掴まれた。

 

「雪音クリス、そこはポン酢の筈でしょ?」

 

「いや、知らねぇよ。個人の趣味嗜好だろうが」

 

「醤油も有りなワケダ」

 

「私も胡麻ドレッシングを入れているぞ?」

 

「くっ、ダメなワケダ」

 

「私の口調を真似する必要は無いワケダ」

 

アホみたいな会話を聞きながらお椀の中へ胡麻ドレッシングを投下する。大体、お前らは人の指図を受けるとは思えねぇんだよ。

 

味付けは自己流で良いんだよ。

 

好きなものは好きな味で食べる。嫌いなものは好きな味で誤魔化して食べる。

 

そうすりゃあ、なんとか口の中で噛み砕かれる嫌いなものの味を誤魔化せるだろ?なんて言おうと思ったが、アイツの前で言えば嫌いなものを克服するまで忍ばせてくるからな。

 

 

 

 



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第29話

Х月Т日

 

サンジェルマン達と鋼の錬金術師を視ていた途中からサンジェルマン達の表情が曇っており、カリオストロは指パッチンしようと右手の人差し指と親指でペチペチと練習していた。

 

プレラーティは賢者の石製造について注視しているが、素材を聞いて顔を歪めていた。

 

サンジェルマンは手合わせ錬成が気になるのか。私達からは見えないように手を合わせてソファに手を押し付けていた。

 

私も子供の頃は試したな。

 

まあ、出来なかったけど。

 

エルフナインやキャロルは鋼の義肢を見ていた。あれは格好いいからな。

 

女の子でも見てしまうのは仕方の無いことだ。

 

クリスに至ってはホークアイ中尉の銃捌きを参考にしようとしていた。私の教えた死神体術だけじゃあ物足りないのか。

 

まあ、仕方無いな。

 

Х月К日

 

翌日、サンジェルマン達はアメストリスの軍服を着ており、胸元には国家錬金術師の銀時計が鎖で繋がれていた。

 

まさか、そこまでハマるとは思わなかったぞ。なんて考えているとカリオストロは見せ付けるようにマスタング大佐発火布の手袋を引っ張っていた。

 

ここでエンヴィーのシーン再現とは…。

 

三人の後ろから出てきたエルフナインとキャロルも同じように軍服を着ており、フンスと胸を張っていた。クリスに視線を向けると「いや、着ねぇぞ!?」と言われた。

 

あんなに中尉のことを見ていたじゃないか。

 

着てもバチは当たらないと思うぞ?等とねっちょりとした口調でクリスに軍服とエアガンを渡そうとするカリオストロ達からエルフナインとキャロルを抱えて離れ、眺めていると玄関のドアをタックルしながら逃げてしまった。

 

ちょっと期待したのは内緒だぞ?

 

その後、私は大総統閣下のコスプレをすることになった。最初に言わせて貰いたいのは着心地は最高の一言だった。

 

Х月Η日

 

サンジェルマン達の鋼の錬金術師ブームを切り替えるために武装錬金を見せた結果、核鉄を作っていた。

 

フォルムやナンバーは完璧だな。

 

そんなことを考えていると風鳴さんにCと刻まれた核鉄を渡そうとするエルフナインをキャロルが必死で止めていた。

 

風鳴さんはエルフナインから核鉄を受け取り、そのまま十数分ほどサンジェルマン達と話してから帰っていった。

 

私はキャロルから貰った核鉄を左胸のポケットに入れておいた。手触りは金属っぽいからな。万が一、撃たれても心臓は守れるな。

 

しかし、なんと言えば良いのか、カリオストロは蝶々仮面になっていた。「あーしの魅力は蝶爆発!!」等と叫んでいた。

 

確かに、美人だな。

 

そう伝えると顔を反らされた。なぜだ?

 

 



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第30話

ф月〉日

 

またしても都市部に不発弾が見付かったと報道していた。

 

エルフナインとキャロルには自身の大切な物を持ってくるようにと伝えたら一緒に選んだ食器や衣服を詰め込んだリュックサックとカバンを持ってきた。

 

サンジェルマン達は日本政府の人々と避難するそうだ。クリスは前回と同じように学校へと向かっていった。

 

携帯ラジオから聞こえてきたのは、前回の都市部を崩落させたモノよりも強力な不発弾ということだけだ。二人を乗せて車で移動している最中、偶然にもアイツを見付けてしまった。

 

そう、ソフト帽だけを被った全裸の男アダム・ヴァインズハウプトだ。先日、官房から幼児を連れて脱獄したと聞いていた。

 

まさか、こんなところで遭遇するとはな。

 

エルフナインとキャロルの安全な場所まで送り届けてからブッ飛ばしてやる。

 

都市部を脱することは出来たが、変態野郎を取り逃がすことになってしまった。今度は再犯しようとは思わないほど殴り飛ばしてやる。

 

ф月┗日

 

二人を乗せていた車を海岸沿いの駐車場に停止させた。ここまで離れていれば爆風は微風ほどのはずだ。なんて考えているとエルフナインとキャロルからスーツを手渡された。

 

キャロルから「仕事なんだろ?」と言われ、エルフナインから「僕達は大丈夫ですから」とサムズアップを見せられた。

 

二人の頭をワシャワシャと撫でると、海岸沿いまで先導するように避難してきていた白バイ警官からからバイクとヘルメットを借り、都市部へとバイクを走らせる。

 

流石に避難し終えているのか、行きと違って渋滞にはなっていなかった。そんなことを考えているとカリオストロと思わしき女がビルを突き破って飛んできた。

 

急ブレーキを掛け、飛んでくるカリオストロの腹に手を回して受け止める。カリオストロから「うげっ」という声が聞こえてきたが気にしている時間はない。

 

カリオストロを道路の端で寝かせ、彼女の飛んできた方角を戻るようにバイクを走らせる。すると、特撮衣装を纏ったクリス達と出会った頃と同じ服を纏ったサンジェルマンとプレラーティがいた。

 

その真正面にはアダム・ヴァインズハウプトが立っていた。バイクを最大まで加速させながら左拳を通り過ぎ様に叩き付け、バイクを急停止させる。

 

下半身の無い人形は「アダム、アダム、アダム」と呟いていた。よく見ると捕まえた日に連れて歩いていた幼児と瓜二つだった。

 

下半身の無い人形の頭を軽く撫でてから「神の力」の凄さを語りながら起き上がろうとしたクソ野郎の顔面をサッカーボールを蹴るように吹っ飛ばし、顔を押さえながら蹲るクソ野郎の髪を掴んで強引に起き上がらせ、砲丸投げのようなフォームでクソ野郎をゴミ箱に放り投げる。

 

手に絡み付いた髪の毛を払い落とし、マンホールの蓋でゴミ箱を密封して下半身の無い人形を抱き上げる。

 

この子は、あの男の被害者だ。

 

ф月Ζ日

 

色々と仕出かしたことを官房に謝罪してから辞表を提出したら破り捨てられた。

 

あの殴り飛ばす様子を撮影していた報道局の応援活動のせいとのことだ。しかし、子供の前で暴力を振るってしまったことには代わり無い。

 

そんなことを考えていると官房から「お前は子供のために拳を振るっただけだ」と言われた。

 

官房は溜め息を吐きながら2ヶ月の謹慎処分を言い渡すと告げ、出ていくように急かしてきた。

 

クリス達から怖がられる覚悟を決めよう。あんな表情で人を殴るところを見せてしまったんだ。

 

厚労省を出るとクリス達が立っていた。なぜか、風鳴さんや緒川さんもいる。クリスは臆した表情を浮かべるどころか平然と「さっさと帰るぞ」と言ってきた。

 

私が怖くないのか?

 

そう尋ねると風鳴さん達も一緒に「怖くない」と言ってくれた。なんと言えば良いのか、これは、あれだな、私が臆していたんだな。そんなことを考えながら固まっているとクリスに腕を引っ張られ、思わず苦笑いを浮かべてしまった。

 

 

 



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第31話

㊥月㎞日

 

あのクソ野郎をブッ飛ばしてから一週間ほど経過した頃だろうか。都市部では怪獣が出現していた。

 

なぜか、立花さんが巨大化したりして倒していた。あの光景を見た時は柄にも無い叫び声をあげてしまった。

 

しかし、本当に、特撮技術は発展しているな。

 

自家用車を踏み潰された怒りで脛を思いっきり蹴ったら倒れたぞ。

 

あんな重そうな見た目とは裏腹にな。

 

クリスも巨大化したりするんだろうか?なんて考えているとドリルを担いで歩くカリオストロとラガンらしきロボットに乗っているプレラーティを見付けた。

 

アンタ達、日本政府に保護されてたよな?等と思いながら見ているとジムの隣で膝を抱えて座っているグレンを見てしまった。

 

あの三人の複製したような再現技術は凄いと思っていたが、ここまでとは想像していなかった。

 

今度、乗せて貰おう。

 

㊥月Β日

 

翌日、リビングのカーテンを開けるとグレンラガンと怪獣が戦っていた。

 

驚きながら振り返るとエルフナインやキャロルは満足そうな表情を浮かべており、二人の手にはグレンラガン建造計画書と記された書類の束が握られていた。

 

キャロル達の後ろに立っていたクリスに顔を向けると気まずそうに顔を反らされた。

 

あんなものを造る許可を出したのは日本政府なんだろうけど。あそこまで大きなモノを造るのに何兆円を使ったんだ。

 

まあ、そんなことは置いておこう。

 

しかし、グレンラガンを造れるなら他のロボットも造れるんだろうな。ギガドリルブレイクを放つ時に風鳴さんの声が聞こえてきた。なんと言えば良いのか、操縦者は風鳴さんだったんだな。

 

冷静になって考えればグレンラガンを操縦することが出来そうな男なんて風鳴さん以外には有り得ないんだよな。

 

あの人、男気の塊みたいな人間だしな。

 

㊥月Ы日

 

今日は立花さんと翼さんが巨大化していた。

 

その隣には見慣れた光景となりつつあるグレンラガンが怪獣をボコっていた。時折、カリオストロの風鳴さんを「アニキ」と呼ぶ声が聞こえてくる。

 

しかし、あんな攻撃を繰り返しているのに都市部には傷一つ付いていない。やっぱり、特撮の技術は光を越える速度で発展しているのか。

 

なんて考えているとエルフナインから「クリスのロボット!」とヨーコWタンクをクリスを模したように作り替えていた。

 

チラッとクリスを見ると、キャロルから手渡されたヨーコWタンクならぬクリスWタンクを困惑したように見ていた。

 

クリスに二人が造ったら一回だけでも乗ってやれよ?と伝えたら「マジか」と呟いてテーブルに額を押し付けながら頭を抱えて悩んでいた。

 

そりゃあ、悩むよな。

 

 

 



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第32話(月読調)

今日、ギャラルホルンの緊急アラートと一緒に向こう側の私達が現れた。

 

今回は、私や切ちゃんも加わっていた。

 

切ちゃん(現地)と切ちゃん(異界)は演習室の中央で向かい合うように構えていたけど。

 

切ちゃん(異界)は以前の切ちゃん(現地)と同じデスサイズのアームドギア…。対して、切ちゃん(現地)はアームドギアは背中に車輪を作るような六本のサイズに形状を変化している。

 

「行くデスよーっ!」

 

「掛かって来いデースっ!」

 

デスサイズの利点を活かした中距離攻撃を二本のサイズで受け止め、切ちゃん(異界)の掴んでいたデスサイズの柄の部分を切り落としてしまった。

 

「ほわぁ!?」

 

切ちゃん(現地)は両手のサイズを切ちゃん(異界)に向かって放り投げると背中の車輪を回転させて残っていた四本の内の二本を掴み取ると地面に突き刺した。

 

「私の勝ちデスね!」

 

予め、切ちゃん(異界)へと投げていたサイズにはワイヤーが付いていたのか。弧を描くように切ちゃん(異界)を縛り上げて動きを封殺していた。

 

「調ぇ~っ、見てたデスか~?」

 

「…うん…切ちゃん…格好良かった……!」

 

「えへへっ、調の前だからデスよ!」

 

向こうの切ちゃん(異界)と私は「おんなじデース!」と言いながら向こうの私に抱き着いていた。

 

うん、どの世界でも切ちゃんと私は仲良しだね。

 

演習室の外へと切ちゃんを送っていき、そのまま演習室の中央に向かって歩く。切ちゃんが勝ったんだ、私も頑張って勝とう。

 

「切ちゃんの仇、取らせて貰う」

 

「切ちゃんの為、私には勝つよ」

 

「「Various shul shagana tron」」

 

シンフォギアを纏うと私(異界)は以前の私(現地)と同じように丸鋸アームを伸ばして攻撃してきた。その攻撃、断続的な威力は出せても速度や一撃の威力には欠けてるんだよ?なんて考えながら右足のチェーンソーのように回転させたノコギリを出現させ、丸鋸アームを右足の脛で受け止める。

 

「…えっ…なんで…!?…」

 

私(異界)は動揺しているのか、丸鋸アームの動きが鈍くなっていた。直ぐ様、転がるように両手を演習室の床に押し付け、腕を伸ばす力の反動を利用して私(異界)の顎を蹴り上げる。

 

木犀型斬(ブクティエール)シュート!!

 

「ぐっ、かはぁ!?」

 

肩ロース(バース・コート)!!腰肉(ロンジュ)!!後バラ肉(タンドロン)!!腹肉(フランシェ)!!上部もも(カジ)肉!!尾肉(クー)!!もも肉(キュイソー)!!すね肉(ジャレ)!!

 

肉の部位を叫びながら私(異界)の体を蹴り続ける。

 

仔牛肉(ヴォー)ショット!!

 

落下してくる瞬間を狙って後ろ蹴りを腹部に叩き込んでトドメを決め、演習室の床に叩き付けられる前にキャッチして訓練を終了する。

 

「…手抜き?…」

 

「……違う…怪我したら…そっちの切ちゃんが…悲しむから…やめただけ……」

 

私達の切ちゃんは泣いているより笑ってる方が可愛いのは常識だから…。

 



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第33話

■月↓日

 

今日は怪獣大戦争を行っていなかった。

 

やはり、仕事のし過ぎで幻覚を見ていたのかもしれない。なんて考えているとエルフナインに肩叩きして貰えた。

 

うん、これで今日も頑張ることが出来そうだ。そんなことを考えながらリビングへ視線を向ける。

 

キャロルとプレラーティが新作の衣装デザインについて話し合っていた。

 

二人は真剣に話し合っており、二人の正面では一対一でジェンガして遊んでいるカリオストロとサンジェルマンがいた。

 

お前ら、自分より年下の子供が仕事の話してるのに遊んでる場合なのか?等と考えているとクリスが帰ってきた。膝の上に座っていたエルフナインを降ろし、

 

夕飯の準備を始める。

 

みんな、大好きなカレーライスだ。

 

キャロルだけ特製タバスコソースを加えたモノを作ってるから安心して良いぞ。

 

カリオストロはタバスコの臭いを嗅いだだけでお腹を押さえる癖がついてしまったな。

 

■月゜日

 

今朝、目を覚ますと布団の中にエルフナインとキャロルが侵入して来ていた。

 

ガッチリと拘束されてい故に抜け出すことは出来ず、クリス達の朝食を作ることが出来なかった。

 

そのことを部屋へと入ってきたクリスに伝えるとエルフナインとキャロルを引き剥がしてくれた。すると、なぜか、ぞろぞろとサンジェルマン達も入ってきた。

 

エルフナインとキャロルを布団の中に包み込んでリビングへと持って行かれた。

 

二人の子供体温はオバサンの身体を暖めてくれる湯タンポ代わりだったのに…。なんて考えている暇はないな。

 

さっさと朝食を作らないとな。

 

手頃な食パンとスクランブルエッグは作って余り物のトマトサラダをテーブルの上に並べている途中、カリオストロのお皿からトマトが消えていた。

 

そして、なぜか、新聞を読んでいるプレラーティのお皿にトマトが増えていた。カリオストロには子供みたいなことをするなと叱っておいた。

 

■月μ日

 

クリス達は海外で特撮の撮影を行うため、数週間は帰れないと言われた。サンジェルマン達も技術提供者として同行するそうだ。

 

私は、そろそろ仕事に復帰するとしようか。

 

官房に復帰すると電話すると日本政府の抱えている機密情報を担う組織の不正事実を突き止めて欲しいと言われ、麻薬関連のモノとは違うが仕事には復帰することは出来そうだ。

 

しかし、日本の機密情報を担う組織とは何処に在るんだ?等と考えていると官房から地図や重要参考人の顔写真をファックスで送ると伝えられた。

 

数分後、ファックスで地図と顔写真が送られてきた。だが、しかし、その顔写真には筋肉質な壮齢の男性が写っていた。

 

しかも風鳴という珍しい苗字だった。

 

マジか、マジなのか…。

 

これは、あれだな、風鳴さん達に説明しないとダメなような気がしてきたぞ。

 

 

 



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第34話

㊤月ъ日

 

色々と調べて回った結果を報告しよう。

 

この男、風鳴訃堂は日本を圧政で支えようとした狂人だと言えるな。100歳を越えていると資料に記されているが、彼の筋肉質な肉体では五十代ほどにしか見えないんだよな。

 

そんなことを考えていると太刀を構えた風鳴訃堂が立っていた。慌ててブレーキペダルを踏み込んだ瞬間、車体を中心から一撃で真っ二つに斬られていた。

 

なんだ、今の斬撃…。

 

斬り終わりしか見えなかった、どんだけ速く振ってるんだよ。私でも光速を越えた攻撃なんて出来ねぇからな?等と考えているとバックミラー越しに歩み寄ってくるジジイの姿が見えた。シートベルトを外してジジイと向き合うように構える。

 

剣士の到達する無形の位とかっていうのは構えないことだとか言われてるが、片手で車を斬れるジジイは位で測れるとは思えねぇんだよな。

 

ジジイは間合いに踏み込むと同時に心臓へと刺突を放ってきたが、灘神影流弾丸すべりは日本刀すら受け流してしまう。

 

そのまま弾丸すべりでハバキ付近まで反らし、がら空きの顔面へと右拳を叩き込んだ瞬間、巨大な岩盤を殴ったような錯覚に陥りそうになった。

 

こりゃあ、ダメだな。

 

あんなモノを殴ってたら、こっちの拳が使えなくなる。

 

ジジイの呼吸を真似るように構え直し、そのまま鏡写しのように同じ動きで斬り掛かる。

 

流石に、刀を奪えるとは思っていなかった。

 

憤怒に顔を染めるジジイから全速力で逃げる。あんなの相手にしてやる理由は無い。そんなことを考えていると難波走りで追い付いてきた。

 

このジジイ、風林寺隼人の知り合いか!?

 

㊤月⇔日

 

一晩中、雑木林の中を駆け回っていた。ジジイに見えるように刀を手刀で叩き折ってやった。

 

なんと言えば良いのか、変な雄叫びと共にへし折れた刀の破片を集めようとしていた。

 

その好機を逃すことなく真っ正面からサッカーボールを蹴るように顔面を吹っ飛ばし、ジジイはイビツなブリッジで止まったが、ジジイはブリッジの体勢から身体を戻す反動を利用し飛び掛かってきた。

 

突如の出来事に反撃は遅れ、殺られると覚悟した。次の瞬間、私の左頬を掠りながら袖の捲られたワインレッドのワイシャツが似合う男が真後ろに立っていた。

 

ジジイは忌々しそうに顔を押さえながら風鳴弦十郎と私を睨み付け、雑木林の奥へと消えていった

 

㊤月〇日

 

取り逃がしたことを官房に謝罪していると風鳴さんに電話を取られ、そのまま官房と風鳴さんが話し始めてしまった。

 

しょんぼりしていると頭を撫でられた。

 

風鳴さん、私の頭を撫でることが多くなってきてるような気がするんだよな…。なんて考えているとカリオストロから「同居人が増えます」とプライベート用の携帯電話にメールが来ていた。

 

ジムの隣にアパートを建てないとダメなのか?

 

風鳴さんから「あのジジイのことは任せろ」と言われたが仕事なので引けないと伝えると刀を折っただけでも大成果だと褒められた。

 

あのジジイ、どんだけ刀ラブなんだよ。

 

 

 



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第35話

┌月┘日

 

私の叩き折った日本刀は護国挺身刀“群蜘蛛”という風鳴家の家宝らしい。

 

死ぬ気で謝ろうとしたら「あんなもの無くていいんだ」と告げながら車のハンドルを握る手に力が籠っており、人造皮革のハンドルがミシミシと音を立てていた。

 

これ、壊れないよな?

 

そんなことを考えていると「あのジジイは犠牲も厭わない頭の狂った男だ、自身さえも国への贄として捧げるつもりだ」と聞かされた。そこまで思考回路の狂ったヤツとは会ったことないぞ。

 

会ったとしても何百回と殴られても笑い続けてるヤツとかなら殴ったことあるけど。

 

あのジジイ、十数回も殴ったら私の拳が壊れるんじゃないか?なんて考えていると学生寮の前で車を停止させ、降りるように急かしてきた。

 

一人で追うつもりなら着いて行きますよ?

 

そう告げると急速バックで学生寮から遠ざかり、本家へ向かうと教えてくれた。風鳴さん家に行くとは聞いていなかった。

 

身嗜みは大丈夫だな。

 

┌月┐日

 

森の中を突っ走って鎌倉へとやって来た。

 

何回、崖から落ちそうになったのか。何回、死ぬかと思ったか。マジで数え切れないな。なんて考えながら車のドアを蹴破って日本屋敷の庭へと着地する。

 

風鳴さんは車の天井を殴って車の中から飛び出してきた。あの人、スーパーマンとか言われても真偽を確かめる方法が無いんだよな。

 

庭の見える襖を開けて翼さんの特撮衣装を纏うジジイが出てきた。

 

口元を押さえて吐くのは我慢した。

 

風鳴さんを見ると「えぇ…っ…」という表情を浮かべていた。なんと言えば良いのか、お父さんの仕事服を着る子供のようなモノだと思えばイケるはずだ…。

 

別の事を考えたがダメだな。

 

ダメだ、どこからどう見ても変態にしか見えん。

 

しかし、翼さんから借りたとは思えないんだよな…。まさか、翼さんが仕事で海外へ行っている間に盗んできたのか!?

 

やっぱり、変態じゃないか!?

 

┌月┤日

 

太陽が山を越えて出てきた。

 

流石のジジイでも身内からの変態扱いには堪えたのか。動きが鈍くなっていた。好機を逃すことなく真っ正面から徹底的に殴り続ける。

 

拳の骨が軋む音が聞こえてくる。

 

風鳴さんのイビツな風切り音と共に上段廻し蹴りを放ち、ジジイを僅かに傾かせたが、仰け反ったような体勢を利用してサマーソルトを顎に叩き込まれた。

 

実戦で使うとか有り得ないだろうがっ。

 

無理矢理、ヒールの踵を掴んで引っ張り倒すと風鳴さんに「やれ!」と叫んだ瞬間、ぽっかりと心臓の収まっていた左胸に穴が出来ていた。

 

心臓が潰れただけだろうが、そんなんで止められると思うなよッ!!

 

弱まっていく身体の力を強引に引っ張り出してジジイの腰に抱き着いて逃げられないように固定する。

 

 

 

 



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第36話(風鳴弦十郎)

風鳴訃堂を殴り飛ばした瞬間、彼女は支えを無くしたように地面へ倒れ伏していた。彼女を抱き上げるように起こすと心臓が有る筈の左胸に穴が出来ていた。

 

辛うじて呼吸することは出来ているが、彼女の超人的な身体機能でも数分が限界だろう。風鳴訃堂を倒すことを諦めれば救えるかもしれない。だが、彼女は屋敷の奥から出てくる風鳴訃堂を指差していた。

 

君は、自身の命より世界を選ぶのかッ。

 

「愚かな女は死んだか…。弦十郎、貴様はどちらを選ぶ?儂と共に日本を守るか?それとも…」

 

「俺は目の前で女殴られて引き下がれるほど大人じゃねぇんだよッ!」

 

「やはり、貴様はウツケだ」

 

甘ったれた言葉を掛けてこようとした風鳴訃堂を怒鳴り、弱々しく呼吸している彼女を抱き上げると殴り合いの衝撃や物が飛んでこない位置まで運んでいき、風鳴訃堂を倒すところを見えるように岩に凭れ掛かるように手の中から降ろし、彼女の流した血の染み着いたワイシャツを脱ぎ捨てる。

 

「俺がウツケならテメーは屑だろうがッ!」

 

風鳴訃堂が音速で放った片手刺突を拳を叩き合わせるように受け止め、革靴の爪先で鳩尾を蹴り潰す。一瞬、ほんの一瞬だけだが内臓の圧迫される痛みで身体を硬直させた。

 

アームドギアを掴む手を脇に挟み込んでがら空きの顔面へと拳を叩き付け、仰け反ろうとした風鳴訃堂を手繰り寄せて頭突きを叩き込む。ペキッと鼻の骨が折れる音が頭蓋骨を通して聞こえてきた。

 

「ぶぉづぉ!?」

 

風鳴訃堂は鑪を踏むように後退しようとした瞬間を狙って右の裏拳をがら空きの顔面へと放ち、腕を引き戻す反動を利用して右脇腹へと拳槌を打ち込み。地面を踏み潰すように震脚、地電流を右拳に集束させるイメージで一気に放つッ!!

 

数ヵ月前、俺が響君に教えた「稲妻を喰らい、雷を握り潰す」ように放つ。これは彼女から教えられた技の中で最強の一撃ッ!!

 

これが愛の力だッ!!

 

身体に蓄えた地電流を赤い雷撃に変化させ、右拳を伝って風鳴訃堂と風鳴本家を吹き飛ばした。あんな大技を放った代償は大きい。右腕には引き裂けたような無数の傷が出来ている。

 

「…流石に…キツ…い…な…」

 

血の滴り落ちる右腕を押さえながらドサッと音を立てて彼女の隣に座り、俯くように眠っている彼女を見詰める。

 

結局、世界を救うために覚悟してきたのは俺じゃなくて彼女だった。俺は彼女の命と引き換えに覚悟を決めたようなものだ。

 

そんなものが欲しい訳じゃない。

 

「……俺は君のことが好きみたいだ……」

 

ゆっくりと彼女の頬を撫でると耳に掛けられていた髪の毛が手の甲に重なり、死んでいる彼女へと口付けした。次の瞬間、彼女の左胸へと光り輝く六角形の物が吸い込まれていった。

 

まさか、生き返るのか?

 

そんな淡い期待を願いながら彼女の胸に耳を押し当てると微かに心臓の脈打つ音が聞こえてきた。

 

「ははっ、彼女達には感謝しないとな?」

 

 



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第37話

( ̄ー ̄)月Σ(゜Д゜)日

 

目が覚めると真っ白な病室で眠っていた。

 

生きていることを不思議に思いながら左胸を触ろうとした時だった。なぜか、左手の薬指に銀の指輪が嵌まっていた。

 

とりあえず指輪を外そうと試みたが外れない。

 

えっ、なんで?

 

右手で指輪を掴んでギリギリと引っ張っていると病室の扉を開けてクリス達が飛び掛かってきた。抱え切れずに「グフゥッ」という声が出てしまったが、三人をベッドから落とすような事態にはならなかった。

 

クリスやエルフナイン、キャロルを備え付けの椅子に座らせると指輪の事を尋ねる。

 

なぜか、ニマニマと笑われた。

 

笑われるようなことは聞いてないと思うんだがな…。そんなことを考えていると風鳴さんが病室の扉をガシャンッ!という音と共に引っ張るように開けて入ってきた。

 

ジジイの事を聞こうとした瞬間、大きくて分厚いモノに包まれていた。訳も分からず手を振っていると「好きだ、結婚しよう」と風鳴さんの声が聞こえてきた。

 

えっ?結婚?誰と誰が?

 

(  ̄ー ̄)ノ月(ー_ー;)日

 

今日は官房と一緒に風鳴さんが病室にやって来た。

 

なんでも二人は兄弟だそうだ。アニメでも早々無いような急展開に驚いていると官房がニマニマと笑いながら「弦を頼む」と言ってきた。

 

官房、私情を挟んで謀ったな…。

 

なんて考えているとエルフナインが風鳴さんの事を「オトーサン」と呼んでいた。コイツら、私が眠っている間に外堀を埋めてきやがったなッ!?

 

えっと、その、あれだぞ!?

 

男性との交際経験とか皆無の女を嫁にすると大変な事になるぞ!?と告げたら「身持ちが固いのは良いことだ」とサムズアップを送られた。

 

そんなことを話していると立花さん達が花束を抱えて入室してきた。

 

話を変えようとしたら「ご結婚、おめでとうございます」と言われた。風鳴さんと官房に外堀を埋められたのは君達もだったのか!?

 

表向きの発表として「風鳴本家での騒動は次男坊の婚約者紹介」による宴会騒ぎという事で片付けたそうだ。

 

マジで結婚しか残されていないのか!?

 

ヽ( ̄▽ ̄)ノ月(//∇//)日

 

翼さんも風鳴さんとの結婚には賛同しており、官房は仕事での知り合いに結婚すると報告しているそうだ。なんだ、外堀を埋める程度の問題じゃなかったのか。

 

その後、風鳴さんに面会時間のギリギリまで口説かれていた。あの風鳴本家での私が死にそうになった時に恋心を自覚したそうだ。なんと言えば良いのか、唸るように考えていると「俺ではダメなのか?」と風鳴さんに聞かれた。

 

いや、風鳴さんのことは、好きですよ?

 

そんな言葉を投げ掛けた瞬間、病室の扉を開けて官房が入ってきた。その手には、私も愛用している録音機が握られていた。

 

風鳴さんと一緒に困惑していると「言質は取った」とボソッと呟いて出ていった。

 

マジか、マジで結婚するのか…。

 

結局、根負けしてイエスと答えてしまった。

 

もう、好きに進めてくれよ…。

 

 



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第38話

(^ー^)月(°Д°)日

 

風鳴さん…。いや、弦十郎さんと一緒に婚姻届と養子として迎える契約書を提出して、クリス達と一緒に新居へと来ていた。

 

三階建ての家を買うとは聞いていたけど。

 

地下室有りとは聞いていなかった。

 

クリスは三階の窓際を自室にしたいと言ってきたので許可するとエルフナインとキャロルはクリスの隣に在る部屋を選んだ。私と弦十郎さんは二階の端の部屋を選ぶことにした。

 

三階の空き部屋はキャロルとエルフナインの作業室として使うそうだ。地下室にはサンドバックや運動用ゴムマットを敷いて簡単な遊び部屋とするそうだ。

 

クリスは長女として二人の二段ベッドを組み立てると言っていたが、落下防止の手摺を持ち上げるのですら苦労していた。

 

キャロルは超圧縮された敷物の栓を抜いてボフンッと跳ねていた。

 

最近の敷き布団は子供を飛ばせるのか。

 

私は軽作業の食器やテーブル等を運んでいき、庭の窓を開けてソファを持ち込もうとする弦十郎さんの手助けに勤しんでいる。

 

殆んどの荷物を運び込むことができた。すでに太陽は傾いており、空はオレンジ色に染まっていた。そう言えば、立花さんのメインカラーもオレンジ色だったな…。

 

しかし、彼女達の出演している特撮ドラマは何時になったら放送されるのだろうか。

 

(〃_ _)σ∥月( -_・)?日

 

昼食を終えてリビングでボーッとしていると弦十郎さんがエルフナインとキャロルを担いでリビングへと出てきた。

 

なぜか。クリスは弦十郎さんの背中に張り付いていた。

 

なんと言えば良いのか、弦十郎さんはトトロなのかな?なんて考えていると弦十郎さんの背中から降りたクリスは新品のソファへとダイブして寝息を立て始めた。

 

まあ、今日は休日だからね。

 

弦十郎さんは二人をモコモコとした敷物の上に寝かせると同じように寝転んでしまった。どうしよう。等と考えていると空いている腕の中を指差してきた。

 

さ、流石に子供の前では恥じらいましょうよ。

 

恥ずかしさで戸惑っていると袖を掴まれて強引に胸の中へと押し込められた。

 

金魚のようにパクパクと口を開閉させているとソファで眠っていた筈のクリスがスマホを構えていた。ちょ、写真は撮らないで!?

 

(・∀・)月(^∇^)日

 

色々と考えた末に表札は石彫りになった。風鳴弦十郎の隣には「風鳴叶」と私の名前が刻まれており、その下にはクリス達の名前も彫られていた。

 

うん、凄く良いね。

 

弦十郎さんの一緒に新居の出入り口へと貼り付け、電話越しに「叔父様と叔母様のために宴を開く!」と騒いでいた翼さんは立花さん達を引き連れていた。

 

なんと言えば良いのか、マリアの隣には変態のように騒いでいた白髪眼鏡が立っている。調と切歌から撮影途中の事故から助けられて惚れたそうだ。

 

マリア、実は惚れっぽいのか?なんて考えていると庭の窓を開けてクリスが「パーティーしねぇのかぁ~っ」と聞いてきた。

 

クリスの言葉を聞いて翼さん達に入るように急かすと全員同時に「お邪魔しまーす」と言ってきた。弦十郎さんは口元を押さえながら笑っていたが、笑うところはあっただろうか?

 

 



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とあるオタク女の生活。
第39話


◇月£日

 

十二時を過ぎた頃だろうか?

 

弦十郎さんから電話が掛かってきた。なんでも「異世界から俺が来た!」と伝えられた。

 

弦十郎さんを増やすのは抑止力として利用するためだろうか?等と考えながらリディアン音楽院へと向かう。向こうの弦十郎さんは防衛省の人間じゃなくて教師らしい。

 

戸締まり確認してからリディアン音楽院へ向かうと、本当に弦十郎さんが増えていた。

 

なんで、どっちもカッコいいんだよぉ…。

 

校門の影からひょっこりと頭とスマホを構えるクリスと立花さん達から顔を隠しつつ、二人の前まで小走りで歩いていき、近所の喫茶店で話すことになった。

 

弦十郎さん(異界)は結婚しているとは思っていなかったのか。心底、驚いたと言わんばかりに目を見開いていた。まあ、最初は退路を塞がれてたからだけど。

 

気付いたら好きになってたんだよねぇ…。

 

なんて考えていると弦十郎さん達は映画の話で盛り上がっていた。私も特撮やアニメ以外の映画も見た方が良いのかな?

 

そう言えばサンジェルマン達はリディアン音楽院の科学科担当教師として就職したと聞かされた。マジで、あの三人を雇おうという度量には驚かされたな。

 

◇月⊂日

 

換気するために二階の窓を開けると庭で弦十郎さん(現地)と弦十郎さん(異界)が突きの速さ比べを行っている。

 

二人を挟むようにエルフナインとキャロルは空条承太郎DIOのコスプレでジョジョ立ちしていた。

 

クリスは静観しているが残像の見えるラッシュのせいか、現実逃避しているように見えてしまった。

 

そんなクリスの隣では遊びに来ていた立花さんと小日向さんが励ましの言葉を掛けていた。

 

そりゃあ、あんな攻撃を見ていれば励ます以外に慰めることは出来ないよな…。

 

流石にジョジョ立ちは疲れたのか。

 

エルフナインとキャロルが庭の隅っこで二人のラッシュを眺めていた。

 

とりあえず部屋越しに「子供を放置するな」と伝えると弦十郎さん(現地)がラッシュの速度を落としていき、飽きたような表情を浮かべているエルフナインとキャロルに次の遊びを聞いていた。

 

◇月=日

 

いつの間にか弦十郎さん(異界)は元の世界へと帰っていたらしい。

 

立花さんは「ダブル師匠の特訓は堪えました!」と報告に来てくれたが、立花さんもアクション女優として有名になってきた事もあり、小日向さんとの遊びに行く機会が減ってきたこと嘆いていた。

 

我が家へと報告に来るより小日向さんと話せば良いのでは?なんて考えながらも激励の言葉と頭を撫でてあげた。

 

最近ではノイズによる死亡者報告も無くなり。

 

キャロルとエルフナインの作ったスーツや衣装のコマーシャルが増えてきている。母親としては眠らないで作業するのはやめて欲しいけどね…。

 

 

 



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第40話(風鳴クリス)

昼頃、あたしは甘ったるい匂いで充満している喫茶店へと来ていた。…理由はバカと小日向に呼び出しを受けたからだ。

 

変な事や騒動を起こした覚えはないんだが、並んで座っている片割れのバカは問題事に首を突っ込まないと気が収まらないのか。

 

「それで?あたしを呼んだ理由はなんだよ」

 

「クリスちゃん、富士山の樹海から怪物の唸り声が聞こえてるのは知ってるよね?」

 

「それってあれか?小日向がニュースで喋ってたやつか?」

 

バカの隣に座っている小日向へと視線を変えると「クリス、見てくれたんだ」と感激したような表情を浮かべていた。

 

いや、ニュースぐらい誰でも見るだろ?

 

そんなことを考えているとバカの「樹海探索の護衛役をお願いします!」とアイスコーヒーを掴んでいる手とは逆の手を掴まれた。

 

お前、本当に暑苦しい奴だな。等と思いながら見ていると入店してきた子供が「ご飯の女王様だっ!」とバカを指差して騒いでいた。そう言えば、コイツってテレビの大食い番組で優勝してたな。

 

あんだけ食ってるのに脂肪とか増えねぇのか?

 

「クリスちゃん、どうかな?」

 

「…まあ、そんくらいなら…」

 

「響、やったね!」

 

「いやぁ~っ、断られると思ってたよ!」

 

富士山の樹海に行くことはオヤジとカーサンにも伝えとかねぇと…。あの人達、過保護の領域を越えてるような気がすんだよな。

 

 

携帯端末を調整しながら待っていると登山家みたいな格好のバカと小日向、カメラマン達がゾロゾロと富士山の樹海前に集まっていた。

 

しかし、監督らしき男の服装はお遊び感覚の私服だった。

 

男の目線は小日向へと向けられており、その目は薄汚れた欲望に染まっているような感じだった。

 

バカと話している小日向の肩を触ろうとした瞬間、あたしの持っていた拳銃とバカの右拳が男の顔面を撃ち抜く前に停止させた。

 

拳銃をホルスターに納めると富士山の樹海地図を眺めている小日向を呼び寄せる

 

「小日向、バカを一人にさせんなよ~っ」

 

「あっ、響、ごめんね!?」

 

「そのくらいへーき、へっちゃらだよ!」

 

小日向とバカの前を歩いていき、予め下見していたコースと場所から外れないように唸り声や怪物の影が目撃された場所へと向かっていると…。

 

あの男は一人だけ「こっちに進もう!」と叫んでいた。渋々と言いたそうなカメラマン達と申し訳なさそうにペコペコと頭を下げている監督補佐に同情してしまった。

 

なんと言えば良いのか、動物園で嗅いだことのあるような獣の臭いが漂ってきた。

 

数多く存在している野生動物は縄張り意識が強いため、同族のみに理解することが出来る。独特のサインを残していることが多いのだ。

 

傾いている大木を見る。すると、モノを叩き付けたような傷痕が残っていた。

 

クマより大きなモノが捕獲した動物は縄張りを主張するための道具として利用されているのか。

 

 

 



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第41話

π月ξ日

 

最近、パワーダウンだな。なんて嘆いていた筈の弦十郎さんが猿と遊んでくると行ってしまった。

 

私でも手こずった相手を、普通に殴り飛ばしてたからなぁ…。キャロルとエルフナインは「さる?」と不思議に思っていたので「天下取るなら飛騨の夜叉岩行ってこ、夜叉の大猿天下一」と謡い。

 

宮本武蔵塚原卜伝と言った超メジャーな人物を残して名前が残っていないのは夜叉の大猿に喰われたからだと教えた。

 

まあ、弦十郎さんは殴り飛ばして殴り飛ばされてたけど。なんで、あのパンチを受けて平然と立っていられるのか。

 

未だに不明なんだよねぇ…。

 

そんなことを考えているとキャロルが「超人だな」と呟いていた。エルフナインは「オトーサン、最強なんですか?」と聞かれた。

 

まあ、あの人はスーパーマンだからね。

 

π月Φ日

 

弦十郎さんがモンキーチャレンジを終えて帰ってきた。以前のような闘気を纏っており、その後ろからクリスと立花さん達がゾロゾロと入ってきた。

 

クリスから「オヤジ、あんなのと戦えるのかよ…」と聞いてきた。私も戦ったと教えたら頬を引き吊らせ、ガクッと肩を竦めて浴室へと行ってしまった。

 

立花さんと小日向さんを引き連れてだけど。

 

あ、今は弦十郎さんが汚れた衣服を脱いで…。なんと言えば良いのか、三人の叫び声が聞こえてきた。まあ、うら若き乙女達の前に筋肉の化身が居れば、そうなるよね。

 

追い出されてきた弦十郎さんの泥や土をお湯で温めたタオルで拭い取っていると脱衣室のドアを開けて三人が写真を撮っていた。

 

もう、撮らないで!?と騒いでいる方が疲れるので言い返すのは止めることにした。

 

エルフナインが「夜叉の大猿、強かったですか?」と聞いていた。その問い掛けに弦十郎さんは「前よりは強かったな」と答えていた。

 

あの大猿、前より強くなってるのか…。

 

π月т日

 

クリス(現地)の隣には学生服姿のクリス(異界)が座っていた。前回と同じように異世界から飛んできたそうだ。

 

向こうの世界は、どれだけ科学技術が発展しているのだろうか。なんて考えているとクリス(異界)の「はぁ!?あのオッサンの養子になったのかよ!?」という驚きの声が聞こえてきた。

 

とりあえず、話を変な方向に進む前に切り返そうとテレビを点けた。『風鳴翼、マネージャーと熱烈交際発言!?』というニュースを報道している小日向さんの姿が映っていた。

 

ソファに座っていたクリス達を見ると驚愕していた。二人は小声で「緒川さん、苦肉の策だな」とか「行き遅れるの分かってんだな」等と失礼なことを言っていたので叱っておいた。

 

そこまで酷くは…。あの家事洗濯の壊滅的なセンスではダメだな。

 

緒川さん、ナイスな判断だと思うぞ。

 

 

 



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第42話

Ⅳ月Ⅰ日

 

弦十郎さんに待望の子供を身籠る事が出来たことを伝えると「仕事を切り上げて帰る」と電話越しに聞こえてきた。

 

なんと言えば良いのか、想像していた以上に喜んでいるな。なんて考えていると汗だくの弦十郎さんが帰ってきた。電話してから五分も掛かってないよね?

 

どんだけ加速してきたんですか…。

 

抱き着こうとしてたけど。お腹の子供の事を考えて停止したので優しく抱き締めておいた。

 

うん、これなら問題ないね。

 

三姉妹にも伝えると「仕事を切り上げる」と言い出そうとしたので止めた。あの子達、弦十郎さんと同じことをしようとしてるよ…。

 

ベビーグッズの情報を聞いておかないとダメだな。女医さんに聞けば色々と教えてくれると思うからね。サンジェルマン達にも伝えた方が良いのだろうか?

 

Ⅳ月Ⅱ日

 

早朝、朝御飯を作ろうとしたらクリスに母体に障るから寝てろと言われた。まだ、大丈夫な時期なんだけどなぁ…。等と思いながら寝室へと戻された。

 

エルフナインとキャロルは階段の落下防止のために手摺やエスカレーター改造を施そうと話していた。

 

待て、それは待ってくれ…。

 

足腰を鍛えるには階段は必要なモノなんだぞ?と伝えたら転倒防止コーティングを施すということで収まった。

 

転倒防止の原理は不明だが、転ばなくなる特殊な液体を塗り込むらしい。

 

そんな液体を売るお店は知らないんだよなぁ…。

 

コーティング塗料が乾くまでリビングで待っていることにした。三階のすべてに塗ると言っていたので数時間は掛かると思う。

 

しかし、弦十郎さんは「危ない物を撤去すべきだ」と言って、自身のベンチプレスを別荘と化した前家へと運んでしまった。

 

あれ、意外と気に入ってたんだけどな。

 

そんなことを考えているとクリスに転ばないように手を握られながら椅子へと座った。

 

Ⅳ月Ⅲ日

 

官房から祝電を貰った。弦十郎さん、あの人にも話したのか…。なんて思っていると酸味の強いモノを送ると言われた。酸味の強いモノ、レモンみたいな果実だろうか?

 

しかし、サンジェルマンから渡された指輪匣兵器の使い道は思い付かないんだよな。

 

私は死ぬ気の炎を出せるとは思えないんだがな。

 

まあ、クリス達は世界最高峰の科学者と特撮技術の合同製作したモノだと言っていたが、私は晴の指輪で合っているのだろうか?

 

クリスは獄寺隼人Xanxnsの所持していた装備を匣兵器を持っており、あの特撮に登場していた七人にはボンゴレリングは行き渡っているらしい。

 

小日向さん、彼女は本当に大空の死ぬ気の炎を出せるのだろうか?

 

もしも、本当に出せるなら見てみたいな…。

 

 



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第43話

㎜月㍉日

 

テレビでは″蝶人″パピヨンの密着取材を行うと話した後、富士山の樹海に棲息していた大猿と殴り合う男の映像も流れていた。弦十郎さん、普通にテレビ出演してるじゃないですか…。

 

立花さんと小日向さんはセコンドのように弦十郎さんにアドバイスを送っており、最後は利き腕のスマッシュで殴り飛ばしていた。

 

おぉ、私の教えた技で倒したのか。

 

そんな考えていると映像を見ていた小日向さんの「風鳴さん、相変わらずパワフルな人ですね~っ」の一言でスタジオがザワザワとしていた。

 

まあ、殴った人の事を知っていたら驚かれるのは当たり前なんだろうけど。

 

大きくなったお腹に負担を掛けないように立ち上がり、病院の個室へと戻るために廊下を歩いていると弦十郎さんが駆け寄ってきた。

 

一人歩きは危ないから止めてくれと言われた。そのことには謝罪しておいた。まあ、他のママさん達と交遊を深めていたんだけどね?

 

㎝月㌢日

 

まあ、なんと言えば良いのか、あれだな。

 

出産の痛みは男の人には分からないって話を聞いたことあったけど。ありゃあ、マジで男の人には分からないわ。私でも何度か意識が飛び掛けたからな。

 

赤ちゃんに母乳をあげていると弦十郎さんが達筆で「詩緒」と書かれた和紙を見せてくれた。

 

成る程、うたのはじまりで詩緒って読むのか。

 

詩緒ちゃん、この人がお父さんですよ~っ。

 

あれ?お腹一杯で寝ちゃった。

 

弦十郎さんは抱っこ出来なくてガックリとしてたけど。人差し指を掴まれて感激したように目元を腕で覆ってしまった。

 

ひょっとして泣いてるのかな?

 

詩緒ちゃんは「けぷっ」と寝ながらゲップしていた。

 

ふふっ、可愛いなぁ~っ。

 

㎞月㌔日

 

骨盤の位置を戻すために歩くリハビリを行っているとママさん達から「貴女の旦那さん、あのゴリラと戦ってた人でしょ?凄いわねぇ~っ」と言われた。

 

弦十郎さんを褒められるのは嬉しい。

 

そんなことを考えていると翼さんが緒川さんと一緒にリハビリルームへと入室した瞬間、翼さんにリハビリしていた男性患者や男性医師が群がり始めた。

 

まあ、緒川さんが壁を作っていたけど。

 

もっと根性を見せれば官房も結婚を認めてくると思うよ。だから頑張って官房の頑固な脳ミソを孫パワーで粉砕してくれ、そうすれば夜遅くまで仕事しようとする考えも無くなるはずだ。

 

翼さんの隣に座っている人造皮革のベンチに座り、やって来た理由を問うと「赤ちゃん、触りたいです」と頬を赤らめて言われた。

 

その程度なら「ご飯の時に触って良いよ?」と伝えると花が咲いたように笑っていた。女の子なら誰でも赤ちゃんを触りたいよね。

 

その後、緒川さんの「お嫁さんに下さい」発言にキレた官房との殴り合いの話を聞かされた。

 

どんだけ娘を渡したくないんだよ…。

 

 

 



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第44話(風鳴弦十郎)

最近、歩くことを覚えた詩緒は俺の膝に座ることを最優先としている。キャロル達は「お姉ちゃんだぞぉ~っ」と言いながらクマとパンダのパペット人形で相手している。

 

料理や掃除している叶の代わりに抱っこしているクリスの腕の中は心地好いのか。

 

詩緒はクリスの前では眠っていることが多い。

 

「ぱぁーっ!」

 

ビデオショップで詩緒と一緒に映画を選んでいると詩緒がアクション映画の前で叫んでいた。

 

「だっ!」

 

そこには無敵超人シリーズが並べられていた。もしかして、これが観たいのか?手に取って詩緒に渡すとパシッとケースカバーを掴んで離さなくなった。

 

映画好きは俺の影響なのか?なんて考えながら詩緒に借りるか借りないかを聞いてみた。

 

「これを借りるか?」

 

「うっ!」

 

詩緒は借りたいと答えた。

 

しかし、無敵超人シリーズは借りたことはないからな…。どんな内容なのか、分からないワクワク感はあるな。

 

 

詩緒を背負って歩いていると調君達と出会った。二人は俺の背中に張り付いている詩緒に手を振っていたが、詩緒は恥ずかしそうに両手で顔を隠してしまった。

 

「やっぱり可愛いデスっ!」

 

「詩緒ちゃん、可愛いね」

 

「うーっ、やぁっ!」

 

二人の褒め言葉に照れているのか。俺の背中に顔を押し付けてきた。照れている詩緒を切歌君に撮って貰った。

 

これで詩緒のアルバム写真が増えたな。

 

「ばいばいデース!」

 

「また、ね」

 

「ねーっ!」

 

詩緒は背中から肩へと移り、離れていく二人に手を振っていた。くっ、この角度だと俺の腕が邪魔で上手く撮れないだと!?

 

「ぱぁ…?」

 

「詩緒、どうかしたのか?」

 

「んーっ、なぁ!」

 

「ああ、あそこは空き地だから何も無いな」

 

空き地に何かあるのか?詩緒の指差している空き地へ向かうと山を作るように土管や木材が置かれていた。遠目からでも分かっていたが、何もないな。

 

 

家に帰ると叶が出迎えてくれた。調君達に会ったことを伝えると首を傾げていた。

 

理由を尋ねると彼女達は「アニマル塾」という番組のゲストとしてアメリカの動物園へと向かう飛行機に乗っているそうだ。

 

じゃあ、大通りで照れている詩緒の写真を撮ってくれたのは誰なんだ?等と考えていると詩緒の手には食塩袋が握られていた。

 

「ドッペルゲンガー、というヤツなのか?」

 

「うっ?」

 

「詩緒ちゃん、パパは考えてるみたいだからアッチで遊びましょうか?」

 

「まぁーっ、だっ!」

 

「はいはい、抱っこねぇ~っ」

 

玄関先で立っている間に詩緒と叶はリビングへと行ってしまった。しかし、本当に、俺が話していたのは本当に誰だったんだ?

 

 



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第45話

Δ月ヵ日

 

詩緒ちゃんは遊び部屋の真ん中でゴムボールを転がして遊んでいる。

 

弦十郎さんは写真を撮ろうとしているが、詩緒ちゃんは恥ずかしそうに両手で顔を隠してしまうため、顔を撮ることが出来ていないのだ。

 

クリスはゴムボールの上に猫のパペット人形を置いた瞬間、詩緒ちゃんの動きが止まった。

 

ジーッと猫のパペット人形を見ている。

 

クリスがスーッとパペット人形を横に動かすとコテンッと倒れながらパペット人形を見ていたが、倒れたことで意識が戻ったのか、慌てて顔を隠してしまった。

 

二人は「やぁっ!」と恥ずかしそうにしている詩緒ちゃんを見て悶えていた。

 

まあ、気持ちは分かるけど。

 

詩緒ちゃんの前で、変な動きしたら真似しちゃうと思うんだけどな。なんて考えているとキャロルが部屋の前を通ろうとして二度見していた。

 

キャロルは「新手の細菌兵器か?」と聞いてきたので「可愛さに悶えてるのよ」と教えておいた。

 

Δ月г日

 

詩緒ちゃんは、弦十郎さんと一緒にビデオショップへと行ってきた事を教えてくれた。

 

借りてきたDVDは無敵超人と謳われた老人が数多の強敵達との死闘を描いたモノだった。

 

これを子供に見せようと思うのは良いけど。乱暴な女の子にはならないようにね?

 

弦十郎さんは未だに玄関先で唸っていた。

 

そんなに気になるなら電話で聞けば良いのでは?等と考えていると、詩緒ちゃんが弦十郎さんに食塩袋を渡していた。

 

えっ、本当に話して帰ってきたの?

 

ああ、考えてみれば簡単だ…。

 

弦十郎さんも異世界から自分が飛んできてたじゃない。そのことは完全に忘れているのか、それともドッペルゲンガー説を信じ込んでしまったのか。

 

まあ、考えて分からないなら教えてあげようかな。

 

Δ月ν日

 

たぶん、昼頃だろうか?

 

私の腕の中で眠っている詩緒ちゃんを撮ろうとしていた弦十郎さんの電話から着信音が鳴り響き、詩緒ちゃんが起きそうになった。

 

私達から名残惜しそうに離れていき、廊下で電話の相手と話しているようだ。

 

これは休日出勤かな?なんて考えていると「翼が結婚だとぉ!?」という声が聞こえてきた。

 

おぉ、ついに緒川さんは官房を倒して翼さんを嫁にすることが出来るんだな。

 

身内の結婚は喜ばしいことだ。

 

そんなことを考えながら聞き耳を立てていると「慎次、翼を泣かせるなよ?」という声が聞こえてきた。

 

ちょっとお父さんみたいな台詞になってるのには気付いてないのかな?

 

クスクスと笑っていると帰ってきた弦十郎さんが「どうした?」と聞いてきた。

 

ふふっ、秘密です。

 

 



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第46話

Ο月Κ日

 

今朝、リビングでは自棄酒のせいでグッタリと倒れている官房と疲れたように右側頭部を押さえる弦十郎さんに温いお湯を手渡しておいた。

 

まだ、官房は酔っているのか。それとも素の状態で言っているのか。テーブルに顔を押し付けながら「あの子は白無垢が似合いそうだ」と呟いていた。

 

まあ、キリッとした見た目だからね。

 

今の子はウェディングドレスの方が好みなんじゃないだろうか?なんて考えながらクリスに抱っこされて詩緒ちゃんがやって来た。

 

詩緒ちゃんは、官房を見ると「じぃーっ!」と言って飛び掛かり、突っ伏している状態の背中に向かって突撃していた。

 

詩緒ちゃん、顔とか痛くなかっただろうか?

 

クリスは「詩緒、今は酒飲み爺さんだからなァ~ッ」と伝えていた。クリスも本人の前で「爺さん」とか言わない方が良いのよ?

 

Ο月Ь日

 

ニュース速報で動物園へと輸送していた野生のゴリラ「タイラちゃん」が護送車を転倒させ、脱走したという話を報道していた。すると、現場付近で報道していた小日向さんの前にゴリラが現れた。

 

カメラマンは遠目のゴリラをズームして撮影しており、前に放送されていた夜叉の大猿より小さなゴリラだったのだが小日向さん達に気付いたのか。

 

ゴリラは咆哮を上げて迫り来ていた。

 

カメラマンや他のスタッフは逃げるように指示している最中、小日向さんだけはオープンフィンガーグローブを嵌めていた。

 

ゴリラの豪腕が振るわれる前にジャブを放ち、動きを押さえ込んでいた。あの瞬間、ストレートを打ち込んでいれば牙を折れたと思うんだがな…。

 

自身の攻撃が当たっていないことに腹を立てたのか。ゴリラは両の腕を振り回しながら威嚇していたが、どことなくピクル戦の烈海王と似ていると思ったのは私だけでは無いはずだ。

 

次の瞬間、小日向さんが半歩ほど後退した。

 

好機と勘違いしたゴリラは身体を叩き付けるように豪腕を振るおうとしたが、アレは力を溜めるために下がっただけだ。小日向さんの右のコークスクリューブローはゴリラの心臓を1秒ほど止めていた。

 

直ぐ様、軸足を入れ換えてトドメの左のコークスクリューブローをゴリラの顔面に叩き込んでいた。

 

まあ、アレは肉体的にも精神的にも効くな…。

 

Ο月Т日

 

新人美女アナウンサー、ゴリラを殴り倒す!?という感じで放送されていた。

 

小日向さんは恥ずかしそうにはしていたが、ネットでは「伊達未来さんw」や「烈ゴリ王(笑)」等の言葉が飛び交っているそうだ。

 

お笑い芸人の「師匠とか居るんか?」という質問に対して「すごく強い師匠は居ます」と答えていた。

 

詩緒ちゃんは「まぁーっ?」と尋ねてきた。

 

まあ、小日向さんに教えたのは否定しないけど。師匠のような立場では無かったと思うんだけど。

 

お笑い芸人の「電話できる?」の言葉を聞いた瞬間、携帯の電源を切ろうとしたが向こうの方が速かった。

 

やっぱり、小日向さんだった。

 

電話に出るとテレビから声が聞こえてきた。ああ、スピーカー状態で話してるのね。

 

その後、あの超人的な動きを授けるに至った経緯を質問されたが黙秘権を使わせて貰った。そう簡単に彼女達のプライベートな問題を気軽に話せるか。

 

 

 



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第47話

ч月х日

 

公園で詩緒ちゃんと一緒に砂場で遊んでいるとヘンテコな帽子を被った男の子が此方を見ていた。

 

なぜか、詩緒ちゃんは砂を掴んでいた手を止めて抱き着いてきた。

 

イマイチ、状況を把握することは出来ていないけど。帰りたいという事なのだろうか?

 

子供用のスコップやバケツを片付け、詩緒ちゃんの手を公園備え付けの水道で洗っていると男の子が此方へと近付いていた。

 

そう言えば赤ちゃんや子供は大人には見えないモノが見えるって聞いたことがあるけど。

 

あれが、そうなのだろうか?

 

玩具と詩緒ちゃんを持ち上げると公園を出ることにした。あの男の子は、なんだったんだろうか?なんて考えていると詩緒ちゃんが「ばぁーっ!?」と後ろを指差して驚いていた。

 

後ろに振り返ると男の子が犬のように四足歩行で追い掛けてきていた。あまりのキモさに蹴り上げて廻り蹴りを叩き込んでしまった。ジタバタしているので顔面を踏んづけておいた。

 

どっかの村で見たような光景だな…。

 

ч月υ日

 

最近、奇行種を見掛けることが多くなってきた。

 

他のママさん達は奇行種を蝿叩きやモップで撃退していた。そんなママさんの中でも凄かったのは掃除機で奇行種を吸い込んだ人だな。

 

ゴーストバスターズではお馴染みの解決方法だな。なんて考えながら暴れる奇行種を殴り飛ばしておいた。

 

子供の成長を妨げる存在は許さない。

 

サンジェルマン達には奇行種の正体を調べた結果を報告するために来てくれたがら他のママさん達も分かるように説明して貰った。

 

最初の説明ではこの世に留まっている悪霊と言っていたが、分かりやすい説明は台所の油汚れのような染みと教えてくれた。

 

これで納得してしまうのは仕方の無いことだ。

 

サンジェルマン達は現世との繋がりを断ち切る魂送弾数多の回転式拳銃の入ったガンケースを渡された。

 

ч月ε日

 

世界では完全なる死者復活を阻止するため、世界最高峰の科学者達の哲学兵装"魂送弾"の使用を許可された。

 

サンジェルマン曰く「魂送弾は生身の人間には効かない」優れものらしい。

 

私は、3年振りに「ガ=ジャルグ」を着ている。なんとも言えない実家に帰ってきたような安心感に包まれていると奇行種改め悪霊を殴り飛ばし、倒れているところをママさんに撃って貰った。

 

格闘技や武術に心得の在るママさん達は、私と共に奇行種を殴り飛ばしてもらう防衛班。

 

格闘技や武術の心得の無いママさん達は、私達の倒した奇行種を撃つトドメ役を担う殲滅班。

 

各家の旦那さんが帰ってくるまで子供を守ることを優先するようにしているが、家事洗濯は疎かにはなっていない。

 

それでも大きな奇行種には旦那さんの力を借りることが多い。弦十郎さんは「織田信長とか復活したら大変なことになるな」と言っていた。

 

それ、すごい分かります。

 

 

 



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第48話(風鳴詩緒)

ヒバリ、私の可愛いヒバリ。

 

ヒバリ、お前の母を殺そう。

 

ヒバリ、お前の父を殺そう。

 

ヒバリ、君の姉妹を殺そう。

 

ヒバリ、私は君から奪おう。

 

また、この歌が聞こえてきた。私のパパとママを奪おうとする真っ黒な影は夢を見る度に大きくなっている。

 

パパは強くて、ママは優しくて、お姉ちゃん達は愛してくれる、私の大切な人達を取らないで…。

 

私は貴方のヒバリじゃないのに…。

 

「詩緒ちゃん、どうしたの?」

 

「ゆみぇみちた」

 

ママに買って貰ったタオルケットとクマの縫いぐるみを持ちながら歩いているとお姉ちゃん達がリビングで話していた。

 

近年、不可思議な現象を解明しようとする学者達の無駄な議論だった。

 

あれ?なんで無駄な議論だと思ったんだろ?

 

「よっ、と」

 

「ふぉう!?パパちぇかい!」

 

「おう、近くだと良く見てるな!」

 

「きゃーっ!」

 

ジョリジョリとした髭を押し付けられる。でも、嫌いじゃないと思うのはパパだからだろうか?そんなことを考えているとママの方に運ばれ、並ぶようにテレビを見ることになった。

 

私はアニメの方が良かったのに…。

 

「姉ちゃんと遊ぶか?」

 

「クーちゃ、だっこ!」

 

「ほれ、こっち来い」

 

私はクーちゃんの胡座をかいている太股に座り、彼女のプレイしていたゲームのコントローラーを渡される。◎ボタンを押し込むと列を成している花の妖精達が石や葉っぱを持ち上げる。

 

雨水のせいで渡れなかった場所を石を積み重ねることで通れるようにする。すると、クーちゃんに「偉いなぁ~っ」と頭を撫でられる。

 

これくらい当然だよ!

 

キーちゃんとエーちゃんは大きな花の妖精を作ることに集中しているのか、目の前を銀色の花の妖精が通り過ぎていった。

 

クーちゃんの妖精には強そうなのいないのにね。

 

「なあ、詩緒…」

 

「なぁ?」

 

「…すげぇ…足が痺れてきた…」

 

「いちゃい?」

 

ペチペチとクーちゃんの足を叩くと「あふんっ」と言いながら仰け反るように倒れ、私もクーちゃんと同じように倒れる。ママは、クーちゃんと私を見て笑っているけど。パパはカメラを構えていた。

 

カメラは恥ずかしいからダメっ!

 

クーちゃんと一緒にゴロゴロとフワフワしてるカーペットの上を転がっていき、ソファへと座るために立ち上がる。

 

クーちゃん、ソファが好きなのかな?なんて考えていると手に持っていたゲーム機が無くなっていた。

 

どこいったのかな?

 

キョロキョロとリビングをみわたしていると上からゲーム機が降りてきた。クーちゃん、隠すのは良くないぞ?

 

プクーッと頬を膨らませているとツンツンと指で押されてしまった。

 

私、怒ってるもんね!

 

 



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第49話

Ⅵ月†日

 

詩緒ちゃんと一緒に買い物していると手足の長い悪霊と遭遇したのだが、詩緒ちゃんに手を伸ばしてきたのでボコっておいた。

 

悪霊はスーパーの店員さん達の一斉射撃によって消滅していき、お肉を二割引して貰えた。

 

なんか得した気分だね…。

 

詩緒ちゃんは「ばぁーっ!」と言いながら地縛霊を指差していた。コラ、人を指差しちゃイケませんよ。

 

叱ってからお菓子コーナーでお菓子を選んでいると緒川さん達と出会った。

 

近所に引っ越してきたとは弦十郎さんから聞いていたけど。同じスーパーを使ってるとは思わなかったよ。

 

こちらに気が付いたのか、翼さんと緒川さんがカートを押しながら近付いてきた。

 

こんな堂々と出歩いて大丈夫なのか?なんて心配していると商品棚の影から官房が顔を覗かせていた。

 

あの人は諦めを知らないのだろうか?

 

世間話、悪霊の発生源を探る為の仕事をクリスやサンジェルマン達だけに任せるのは申し訳ないと伝えると「その程度のこと心配する必要はありません」と言われた。

 

Ⅵ月Φ日

 

今日は戦うママさん会だ。

 

議題としては悪霊の出現場所や状況確認を行っている。理由は通学中や帰宅中の子供の安全を守るために見回り強化を見直し、清めた場所を維持するために活動している。

 

旦那さんの帰りが遅くなる日は大勢の見回りで安全を確保している。子供が悪霊と遭遇した場合、どのような対応を行うべきか。

 

学校内部での対策として清め塩を所持することを義務付けるとのことだ。

 

あんな市販の食塩を清めたとか言っているようなモノを子供達に手渡せばボコると伝えておいた。

 

まあ、それなりに高名な法師の霊力を施したモノを持たせるらしい。

 

使い続ければ護符は黒く染まるそうだ。

 

梵字のアクセサリーならば着用許可を取り付けておいた。最近では悪霊の大量発生時は学校へと逃げることを優先するように呼び掛けてある。

 

Ⅵ月И日

 

なぜか、リディアン音楽院にて護身術の講師として呼ばれていた。呼ばれた理由はカリオストロの武術の達人を呼ぼうという発案を受け入れた校長達の責任だと思う。

 

私は達人と呼べる程、腕の立つ人間では無いと思うんだがな?

 

悪霊と遭遇した場合、人間を殺せる技を叩き込めば怯ませる事が出来るとマイクで教えていると「例えば~っ!」という声が聞こえてきた。

 

こんな状況を作り出したカリオストロを相手役として呼び付け、虎口拳で視覚を潰して鳩尾へと立拳を叩き付ける動きを教えた。

 

生身の人間を相手する時は親指や人差し指で鳩尾を突き刺すと効果抜群だと教えたら頬を引き吊らせていた。

 

そこまで変なことを教えたかな?

 

なんて考えていると目元とお腹を押さえながら転がっているカリオストロを立たせ、首を絞めながらお腹に膝蹴りを叩き込んで気絶させておいた。

 

 



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第50話

г月в日

 

最近、詩緒ちゃんがハン・ジュリの動きを模倣するようになってきた。

 

弦十郎さんの持つ幼児用の綿詰めサンドバックをペチペチと蹴ったりしている。

 

脚を高く上げられず変則的な回転膝蹴りになっており、弦十郎さんは困ったように同じ動きを繰り返している。一生懸命な詩緒ちゃんを撮ろうとするが、サンドバックを持っているため、撮ることが出来ない。

 

結局、詩緒ちゃんが脚を上げる方法を聞いていたので一気に振り上げるように蹴れば出来ると教えてみた。すると、左斜め下から切り裂くように後ろ回し蹴りを放っていた。

 

そこまで教えたかな?

 

まあ、アレだと…。ほぼ真下から顎を踵で蹴り上げる事が出来るから問題ないのか?なんて考えていると、先程の技を連続技の一撃目として使用するようだ。

 

最初は顎への右の飛び後ろ回し蹴り、次は右側頭部への左の飛び回し蹴り、トドメは顔面への右の飛び後ろ蹴り、コレを一度の跳躍で行っているから凄い訳なんだけど。

 

最後はコテンッと転んでしまった。

 

г月р日

 

防衛省、スパロボを作成した開発班の方々より子供用スパーリング・ロボットを頂いた。

 

弦十郎さんのトレーニングスペースだった地下室は詩緒ちゃん専用のトレーニングルームへと変貌していた。説明書には子供用バイクとして使えるそうなのだが、変形でもするのだろうか?

 

詩緒ちゃんは「ミスパ」と呼ぶので、家ではミスパという名前で定着している。時折、遊びに来るカリオストロはミスパを見る度に警戒する。

 

カリオストロに「子供用のスパーリング・ロボットだから基本性能は下がってる」と教えたら調子に乗っていたので詩緒ちゃんの本家とは別物の挟む様に放つ鉤鎌斬を受け、あっさりと倒されていた。

 

一応、バイク形態とヒト型形態の二種類へと変形することは可能だと分かった。しかもホイールの中身をミットにするとは想像していなかった。

 

お尻を乗せる場所だと思っていた。

 

リビングに倒れ伏すカリオストロを持ち上げ、ソファに座らせる。小さな声で呟くように「詩緒、強すぎね?」と言ってきたので「まだ、弱いわよ?」と答えたら頭を抱えていた。

 

г月ν日

 

最近、詩緒ちゃんは友達の九尾蛍介君と遊ぶことが増えてきた。まあ、蛍介君の両親は格闘家らしく詩緒ちゃんとは似たような生活環境ということで仲良くなっている。

 

詩緒ちゃんはスピード&テクニックな静タイプであり、蛍介君はパワー&パワーな動タイプである。

 

我が家のミスパを相手に臆することなく戦いを挑んでは敗けるを繰り返している。詩緒ちゃんは蛍介君の拳打を足や手で受け流し、怪我させない程度の蹴りで倒している。

 

ハッキリと言えば蛍介君には武術の才能は皆無なのだ。もっと分かりやすく言えばゼロである。

 

蛍介君、彼は努力型の天才だね。

 

少しでも才能を持つ人は「ここまでやった」という達成感で練習を終えてしまう。

 

しかし、努力型の天才は「あの子より遅い」「あの子より弱い」等の思いで練習を延々と繰り返して才能を凌駕してしまう。

 

まあ、詩緒ちゃんは努力型天才+才能持ちという感じだけど…。

 

 

 



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第51話

к月ё日

 

最近、詩緒ちゃんが新たな技を編み出した。飛び付き腕挫十字固めを改良したモノで、詩緒ちゃんが言うには左右どちらでも使える。

 

先ずは振るわれた腕を掴んで右足(もしくは左足)の膝裏で相手の首を絞めながら左足(もしくは右足)で背中に膝蹴りを叩き込む技らしい。

 

試しに遊びに来ていたカリオストロに使ってみたら殺傷性が極めて高かった。

 

ほぼ同時に「首」「腕」「背骨」を攻撃することが出来る技なので、詩緒ちゃんに「ママも使っていい?」と聞いたから許可を貰えた。

 

詩緒ちゃんオリジナル技の名前は「断頭脚」で決定した。

 

この名前を付けたのはカリオストロだ。

 

もう少し可愛い名前は無かったんだろうか?なんて考えていると弦十郎さんがエルフナインとキャロルを担いで帰ってきた。

 

クリスの姿が見えないので弦十郎さんに尋ねるとクリスは響君達の護衛の仕事を請け負ったらしい。

 

成る程、友達のために頑張ってるのね。

 

к月Я日

 

蛍介君、詩緒ちゃんより強くなりたいと弦十郎さんに弟子入り志願していた。弦十郎さんのトレーニング方法は知ってるけど。この子、弦十郎さんの過酷な修行に付いて行けるのかしら?

 

詩緒ちゃんはパワフルな動きが苦手なのか。

 

攻撃した後の着地する瞬間、一瞬だけ止まる癖が付いている。それを修正するため、着地する瞬間に低空での回し蹴りを教え込んだ。

 

翌日には足払いから突き上げるように蹴りを放つようになっていた。詩緒ちゃんの成長速度は止まることを知らないのだろうか?

 

そんなことを考えていると、詩緒ちゃんが挟む様に虚裂襲を放っていた。

 

今回は肘打ちと膝蹴りを同時に叩き付けるように改良しており、牽制としては良い方だと思うけど。

 

タフな相手には弱いわね。

 

к月б日

 

早朝、ぐったりとしたクリスが帰ってきた。クリスを肩に担いで部屋へと運び、仕事服を脱がしてパジャマに着替えさせておいた。

 

スーツの皺を直すのは大変だからな。

 

エルフナインとキャロルは白衣を脱がそうとすると引っ張るので安らかな眠りへと誘ってから脱がしている。

 

しかし、三人には浮わついた話を聞かないな。

 

そんなことを考えながら弦十郎さんを見送るために鞄を持って玄関まで向かう途中、ネクタイがズレていたので直しておいた。

 

うん、完璧だな。

 

玄関を開けようとして「忘れ物だ」と言いながらチューされた。んっ、んんっ、弦十郎さんの顔を直視することが恥ずかしくて顔を隠してしまった。

 

弦十郎さんが「やっぱり、そこは詩緒とそっくりだな」と言っていた。えっ、そうなの?詩緒ちゃんが恥ずかしがったり照れたりすると顔を隠すのは私からの遺伝だったのか…。

 

 



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第52話(風鳴クリス)

最近、護衛系の仕事が増えてきた。あたしの実力を認めてくれたと考えると誇らしい。そう言えばクソ眼鏡は未だに英雄を目指してるそうだ。これはチビッ子から教えられた情報だけどな。

 

まあ、今のアイツが目指してるのは一人の女を守れる英雄らしいけどな?ギャラルホルンで遊びに来ていたマリアは「えっ、あ、そんな、うそ」って驚いていた。その気持ちは良く分かるけど。人前で自分の婚期を焦るのは止めてくれよ。

 

あの時は、詩緒が「なかないの、えらいねぇ~っ」と励ましていた。そんなアイツを見て吹き出したのは悪くない。チビッ子やバカだって笑うのを堪えてたんだからな。

 

「クリスちゃん、どうしたの?」

 

「何でもねぇよ、さっさと仕事して来い」

 

「ふぇあーい」

 

「アクビで返事すんなよ!?」

 

今現在、遊園地を舞台とした爆破テロを防ぐために駆け付けた刑事として色んな人から動きや顔の作りを指示されている。

 

しかし、爆破テロを起こす役をチビッ子にやらせるのは難しいと思うんだよな。

 

チビッ子は警棒を蹴りで受け止めるし、スタントマンの連中を蹴り飛ばしてるし、バカも警棒を振るだけでへし折ってる。監督や撮影スタッフも頭を抱えていた。

 

そりゃあ、あんな予定していた動きより派手な動きされたらカットとか言えねぇよな。

 

「おっけぇい!!」

 

「ふぇはぁーっ、疲れたね!」

 

「私も少しだけ疲れた」

 

チビッ子とバカが汗をタオルで拭きながら近寄ってきた。とりあえず「あたしとしてはお前らよりスタッフが疲れてるように見えるぞ?」と伝えておいた。芸能界ってのは想定していたモノよりハードな仕事なんだな。

 

そんなことを考えていると鎧武者のような悪霊を発見した。

 

鎧武者の悪霊を撮影しようとするスタッフを押し退け、S&W M40"センテニアル"を右腰のホルスターから引き抜いて全弾を顔面に撃ち込んでおいた。

 

回転弾倉の空薬莢を排出しているとカメラを向けられていた。とりあえず左手を銃に見立てて「バーン」と言いながら撃つような真似をする。

 

バカとチビッ子は「速くて見えなかった」と言っているが、大体の抜き撃ち用の回転式拳銃はコレと同じだぞ?と思いながら聞き流すことにした。イチイチ、コイツ等の話を聞いていても疲れるんだよ。

 

まあ、何て言えば良いのか、ギアを纏っていた時より銃を引き抜いて撃つ速度は遅くなってんだよなぁ…。バカの動きは衰えねぇから気付いてねぇみたいだけどな。

 

それにしても小日向のヤツは過保護にも程があるぞ?あたしを雇う必要は無いだろ?あのバカは悪霊だろうと殴り飛ばしてる光景しか思い浮かばねぇからな。

 

 

 



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第53話

♭月⌒日

 

ママさん達から「悪霊を崇める変な人を見掛けるから気を付けて」と言われた。変な人とは目の前に立ち、悪霊へと土下座しているオッサンのことだろうか?なんて思いながら悪霊をブッ飛ばしておいた。

 

なんて言えば良いのか、変な人は悪霊から私へと崇める対象をシフトチェンジしやがった。

 

とりあえず無視してスーパーへと向かうことにした。あそこは人の目が多い、騒動を起こせば一発で捕まること間違いないのだ。

 

そんなことを考えながら籠を乗せたカートを動かしていると掴んでいる持ち手の反対側を掴まれ、ニタニタとした気色悪い笑顔を向けられていた。あまりのキモさに幻影脚を叩き込んでしまった。

 

まあ、あんな変態を助けようとするヤツはいないと思うことにしよう。おぉ、ブロッコリーとニンジンが安いな。

 

夕飯はシチューで決定だな。

 

♭月ю日

 

最近、下着の量や変な臭いに違和感を覚える。

 

なんて言えば良いのか、誰かが触ったような気がするんだよな。なんてことを考えていると訪問者を伝えるアラートが室内に響き渡り、チェーン越しにドアを開けるとブッ飛ばした変人が立っていた。

 

スーパーで見た時と同じようにニタニタとしていたのでドア越しに覇王至高拳を叩き込んでおいた。

 

流石の変態でも気力の塊を受ければ気を失うのか。ゴミ捨て場に放置してきた。

 

結束バンドで手足を逆向きに縛っているので身動きは取れないな。

 

一応、このことは弦十郎さんに相談している。

 

色々と準備したモノを警察へと送り、あの気色悪い変態は逮捕された。しかし、分かったことはある。あの変態は助けた相手を運命の相手のように思い込み、相手のモノを物色したりしているのだ。

 

持っていた全ての下着や衣服を同じものと買い換えてきた。触られてるのか、触られてないのか、分からないモノを使うほど勇気は持っていない。

 

期間限定の服とか在ったんだけどな…。

 

♭月υ日

 

弦十郎さんと詩緒ちゃんと一緒に公園で遊んでいるとヘンテコな帽子を被った男の子が現れた。アレだな、はじめて見付けた悪霊だな。

 

弦十郎さんは悪霊とは言えど子供に対して、攻撃することを躊躇っている。

 

彼の代わりに倒そうとした瞬間、詩緒ちゃんが下段足払いから逆立ちへと体制を瞬時に変えて回し蹴りを連続で叩き込んでいた。アレってハン・ジュリの使っていた回旋連脚だ。

 

私の子供すごくね?

 

ちょっとした親馬鹿のような言葉を言っていると弦十郎さんが「俺達の、だな?」と頭を撫でてきた。初勝利を飾った詩緒ちゃんを褒め称えながら頭を撫でるとフンスと胸を張っていた。

 

ふふっ、クリスと同じだね。

 

 

 



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第54話

Ф月В日

 

クリスの「バーン」が可愛かったので録画してしまった。クリスは「消せよ!?」とか「見せんな!」とか言ってくるけど。無理矢理、消そうとはしないのである。元同僚から「娘さんをください」と言われたが「やだ」と答えておいた。

 

それくらい自分でなんとかしろよ。

 

私の娘を落とせば考えてやる。

 

絶対、お前には無理だろうけどな。

 

そんなことを考えているとリビングで銃の手入れを行うクリスを見付けた。私は拳銃を使うほど困ったことには遭遇していないからな…。

 

銃の手入れを見るのは初めてだな。

 

しかし、弾丸を込める場所を取り外して大丈夫なんだろうか?等と思いながら見ているとリボルバーを組み直して片目を瞑って銃口を向けてきた。条件反射で拳を突き出しそうになったのは秘密だ。

 

手入れを終えたリボルバーを磨いてからホルスターに納めると道具を自室へと持って行ってしまった。

 

まあ、詩緒ちゃんが触ると危ないからね。

 

Ф月ж日

 

久々にキャロルとエルフナインが帰ってきた。ラガンを操縦しているカリオストロとプレラーティと一緒にだけど…。サンジェルマンは新たな発明品を思い付いたため、今回は来なかったとのことだ。

 

来るのは良いんだけどな…。なんて言えば良いのか、我が家の前にラガンを置くのは止めてくれないか?

 

カリオストロはキャロルの菓子棚を開けていたが、直ぐに扉を閉めていた。

 

まあ、「激辛タバスコチップス逢魔刻」とか意味分からないよな?味はタバスコなのにワサビやカラシの味も広がってくる最低最悪のお菓子だと思う。

 

カリオストロはお腹を押さえてソファに座っており、プレラーティは口許を押さえながら震えていた。

 

そこまでキツいとは感じないな…。キャロルの食べているところを見続けたせいで感覚が麻痺しているのか?等と考えながら胃に優しいプリンを出しておいた。

 

ちなみに自家製である。

 

やはり、女子のエネルギーの源は甘いものだと思うのは勝手なことなのだろうか?

 

Ф月≒日

 

翼さん(現地)と翼さん(異界)が家を訪ねてきた。

 

なぜ、我が家に訪問してくるのだろうか?なんて考えていると二人の体型に違和感を覚えた。そう、現地と異界は胸の大きさが違ったのだ。

 

まだ、二人は気付いていないのか。

 

流石に、そんなところを指摘するのは失礼という配慮で無視していると翼さん(異界)が翼さん(現地)の「しかし、肩が凝るな」の一言で気が付いてしまった。

 

翼さん(異界)はペタペタと自分の胸を触りながら翼さん(現地)の大きく膨らんだ胸を凝視していた。そんなに目を見開かれると怖いんだけど…。

 

翼さん(異界)は「詰め物とは防人の恥だ!!」とか言いながら翼さん(現地)の胸を掴み取ろうとしたが、触れたことで本物と分かってしまったのか。

 

自分と同じ存在なのに胸の大きさが違うことを酷く嘆いていた。あまりにも可哀想なので翼さん(現地)に「アドバイスとか教えてあげれば?」と小声で言ってみた。

 

翼さん(現地)は「慎次さんに揉んでもらえ!」と胸を張って言い放ち、静観していた二人の緒川さんはお茶を吹き出していた。

 

そりゃあ、ねぇ?

 

 



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第55話

ξ月ε日

 

詩緒ちゃん、はじめてのキャンプである。

 

川遊びは浮き輪を持たせているので安全だと思う人はいるんだろうけど。私は付きっきりで詩緒ちゃんと遊んでいる、理由は近くで可愛い詩緒ちゃんを見たいからである。

 

エルフナインは釣竿を構えており、キャロルは焚き火を起こしている。クリスは浮き輪の上に乗りながら流されていた。リラックスしてるのは分かるけど…。

 

そこから先は激流になるぞ?

 

そんなことを考えていると弦十郎さんに日焼け対策の麦わら帽子を被せられた。ちなみに詩緒ちゃんとお揃いである。弦十郎さんの持つバケツの中身はイワナ等の川魚だった。

 

えっ、どこで捕まえたの?

 

えっ、掴んできたの?

 

警戒心の強いイワナを掴んで捕まえるのは難しいと思うんだよな…。まあ、詩緒ちゃんは生きてる魚を見るのは初めてだよね。

 

今度は水族館、行こうか?なんて考えていると川下の方から「つめたあぁあぁ!?」という声が聞こえてきた。

 

成る程、クリスの流された川下は冷たいのか。

 

ξ月♀日

 

キャンプ二日目、エルフナインの釣ってきた魚を食べようとバケツを探していたらクマと遭遇した。

 

首元の白い体毛、月輪熊だろうか?

 

そんなことを考えていると魚の血で染まった牙を剥き出しにして襲い掛かってきた。

 

受け流しはダメだ、投げ技も絞め技も無理だ、打撃技で対抗するしかない。

 

月輪熊の振るう豪腕を転がりながら避け、がら空きの横腹へと諸手突きを放とうとした瞬間、クマの動きが防御に変わった。

 

コイツ、メスなのか?

 

そんな期待を抱きつつ、川魚の入っていたバケツを月輪熊の手前に放り投げると警戒しながら食べ始めた。子供を産む前の体力を付けるために川魚を狙ってきたのか…。

 

とりあえず川魚を餌としてテントから引き離すことには成功した。

 

あとは、無事に帰れることを願うばかりだな。

 

テントに帰ると川魚をクマの餌にしたことを謝り、カレーを作ることになった。

 

クマ、今度は人前に出てくるなよ?

 

ξ月∬日

 

我が家に二日振りに帰ってきた。

 

汗を流すために浴室に向かう三姉妹へと詩緒ちゃんを預ける。理由は、私が弦十郎さんと一緒にキャンプで使っていた物を片付けるからだ。

 

折り畳まれたテントを物置小屋に運び込んでいき、弦十郎さんは釣竿をガレージの棚へと寝かせるように乗せていた。詩緒ちゃんは子供用の釣竿を使ってたけど。

 

最後まで釣れなくてシュンとしていた…。

 

まあ、あの表情も可愛かったけどね。なんて考えていると弦十郎さんが「この寝袋は何処に仕舞う?」と聞いてきた。

 

とりあえず釣竿の隣に置くことになった。

 

 

 



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第56話(マリア・カデンツァヴナ・イヴ)

私はカナエさんの異常な格闘技術やノイズを威圧だけで消失させる常識では計り知れないモノに恐怖していた。まあ、あの人は子供や年下を守るために怒るところを見ているのだけどね。

 

マムはジョンとの交際を認める条件として家事全般を習得することを指示してきた。

 

その程度の事、造作もないわね。なんて自信満々に言っていたのだけど。頑固なジョンの偏食を直すために、彼の好きな味を確かめるように味付けを変え続けている。

 

カレーも甘口じゃないと食べてくれない。

 

う~ん、肉類や魚類すら食べないのが体調不良の原因としか思えないのよね。偏食の解決方法をツバサやシラベに聞いてみようかしら?

 

ツバサ、出会った頃は家事洗濯が出来なかったけど。今も家事全般を恋人に任せてるのかしら?いや、まさか、そんなことは…無いわよね?

 

「そう言えば…渡すのを忘れていましたね」

 

ジョンに食べさせる作戦を考えているとポツリと思い出したように渡す物を取りに行ってしまった。私の料理を食べないための作戦だったらぶっ飛ばすからね?

 

悪さを働いていた頃のジョンの表情を浮かべながら戻ってきた。よし、変な物を渡してきたら殴ろう。

 

「マリア、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。僕と結婚してくれますか?」

 

「はへぇっ!?」

 

「なんですか?そのヘンテコな叫び声は…。ナスターシャ教授には許可を得ています。この指輪、受け取ってくれますか?」

 

「えっ、あ、えと、よ、よぉひくきゅ!?」

 

あまりにも唐突なプロポーズだったせいで噛み噛みで答えてしまった。恥ずかしいけど、凄く嬉しいわ…。

 

「姉さん、良かったね♪」

 

懐かしい声が聞こえてきた。フロンティアを起動した時、聞こえてきたセレナの声だった。全世界で起こっている死者の復活事件、あの子が復活しないとは限らないじゃないッ。

 

後ろに振り返ると、小さな妹が立っていた。あの頃と変わらない死んでしまった時の肉体のまま、現世へと蘇ってきた。その姿は紛れもない私の大切な妹だ。

 

「姉さんを泣かせたら許しませんよ?」

 

「フッ、愚問ですね。僕は彼女の英雄ですよ?彼女を喜ばせる事を仕出かすんですよ!!」

 

そんなことを言いながらジョンはセレナを試験管のような物の中へと吸収してしまった。ジョンの行動に困惑しているとマムの住んでいる屋敷へと向かうことになった。

 

なにがなんだか分からないけど。彼は「彼女を喜ばせる事を仕出かす」と言っていた。多分、凄いことを仕出かすつもりなんだと思う。

 

「ナスターシャ教授、準備は出来ていますね!」

 

「ウェル博士、セレナが現れたんですね?」

 

「その通りですよっ!」

 

地下研究施設の真ん中には人を収納することが出来るほど大きな冷凍保存カプセルが置かれていた。

 

ジョン、貴方のやろうとしていることって…。

 

「さあ、神々への叛逆です!!」

 

試験管をカプセル前のタブラットに装填すると試験管の中身がカプセルの中へと流れ込んでいき、カプセルから目映い光と共に、生前の可愛らしい姿のセレナが困惑したような表情を浮かべながら出てきた。

 

「まあ、バージンロードを歩む時にはお母さんだけじゃあ物足りませんから…ね?」

 

「え、えと、ただいま?」

 

「えぇっ、お帰りなさい」

 

やっぱり、貴方は最低な英雄よ。

 

こんなに花嫁を泣かせるんだから…!

 

 

 



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第57話

#月∝日

 

ボロボロのサンジェルマンが玄関前で倒れていた。慌てて抱き起こそうとした瞬間、カリオストロとプレラーティに両の手を掴まれていた。

 

えっ、どういうこと?

 

サンジェルマンは何事も無かったように立ち上がり、ワゴン車へと連れ込まれていた。

 

これって犯罪認定で良いよね?

 

そう、隣に座っているカリオストロに尋ねると「ま、まあ、話は聞いてよ!?」とガタガタと囀ずるのでプレラーティの指を鼻に射し込んでおいた。

 

プレラーティ、ドン引きした表情を浮かべながら鼻の中に刺さっていた指を引き抜いてハンカチに人差し指と中指を包んでいた。

 

鼻刺しのショックでカリオストロは気絶しているのでワゴン車を運転しているサンジェルマンの首筋に指先を突き立てておこう。

 

ダラダラと冷や汗を流しているサンジェルマンはお腹を押さえており、プレラーティはハンカチに包まれた指を嗅ぎながら表情を歪めていた。

 

そんなの匂うからだぞ?

 

#月¢日

 

私達はメソポタミア展覧会に来ていた。なんで?と考えているとサンジェルマンが「メスラムの鍵を展示してから悪霊騒動は始まった」と語り始めていた。

 

サンジェルマンの話を要約すると「メスラムの鍵は冥界の門を開ける力が在り、この展覧会の開催時に誤って門が開いた」とのことだ。

 

そんな物を展覧会に出すなよ…。

 

そう思っているのは私だけでは無いはずだ。

 

まあ、なんて言えば良いのか、世界の平和とか興味ないけど。家族や友人達と過ごす世界を好き勝手に壊されるのはムカつくから冥界の王様でもぶん殴りに行きましょうか?

 

そんなことをサンジェルマンに伝えると抱き着いてきたので引き摺るようにワゴン車へと戻ろうとした時、カリオストロが鼻を押さえながら入館してきた。

 

擦れ違いながら話は終わっているので帰ることを伝えたらガックリと肩を落としていた。

 

#月㌘日

 

弦十郎さんはメスラムの鍵の事を知っていたらしく、黙っていたことを謝ってきたが、家族のために黙っていたのでお咎め無しです。

 

詩緒ちゃんを翼さんに預けることになったが、緒川さんは「僕も付いていますので」という言葉は安心することが出来た。北極圏、そこの中心点に冥界の門が存在するそうだ。

 

これは久々の遠出だからね。 

 

身体の鈍りを完全に取り除かないとダメだな。エルフナインとキャロルに防寒服を作ってくれないか?と頼むと出来上がっているそうだ。

 

アイツ等、私への説明を最後に回したのか?等と考えているとキャロルから「ガ=ボウ」という名前の革手袋と軍用革長靴を貰った。

 

キャロル、こんなモノも作れるのか…。

 

 



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第58話

/月`日

 

鍛え直すために弦十郎さんとスパーリングを行っているのだが、現役の時よりパワーもスピードも衰えている。何度も何度も弦十郎さんへと拳を振るおうと当たらない。

 

こんなのは想定範囲内だろう。

 

今はスパーリングに集中しろ、理想の中の自分と重なるようにイメージしろ、理想の中の自分と重なるようにイメージしろ。

 

ダメだ、遅いッ。

 

さっきのジャブは理想の中の自分だと掴めた。

 

もっとだ、もっと意識と身体を合わせろ。

 

弦十郎さんの左フックを掻い潜り、リングへと倒そうとしたが震脚の余波で弾き飛ばされる。

 

あと少し、ほんの少しで理想の中の自分とシンクロすることが出来る。

 

弦十郎さんの弧を描くような蹴りが顔面に直撃しようとした寸前、理想の中の自分と完璧にハマった。

 

来た、来たぞ、これだ、この感覚だッ!!

 

これこそ完璧な自分だ。馬乗りの状態で弦十郎さんを抱き締める。戻った、これが現役時代の感覚だ。歓喜のあまり、弦十郎さんに熱烈なチューをしてしまった。

 

まあ、感謝の気持ちだな。

 

/月∀日

 

早朝、肌寒い風を頬で感じながらジョギングしていると立花さんと小日向さんに遭遇した。二人は並んで走っており、完璧に呼吸も揃っている。

 

あの二人は出会った頃から仲良しだな。

 

我が家へと帰宅するとクリスとキャロルが朝食のオカズを摘まみ食いしていたので叱っておいた。

 

詩緒ちゃんが真似したらダメなことは怒るようにしている。まあ、悪いことをしたら叱るのは当たり前だけどね。

 

そんなことを考えていると弦十郎さんが詩緒ちゃんを抱っこしながらリビングへと入ってきた。弦十郎さんの腕の中は暖かいのか、張り付くように眠っていた。

 

ほら、寝ちゃダメでしょう? 

 

顔を洗いに行きましょうね。弦十郎さんから詩緒ちゃんを代わるように抱き上げると洗面台に向かう。

 

寝起きに熱いモノは危ないのでお湯を染み込ませたタオルを絞り、詩緒ちゃんの顔を優しく拭うとお湯の暖かさで目を覚ましてしまった。

 

エルフナインは何時も通りの寝坊である。

 

/月ヵ日

 

弦十郎さんと一緒に詩緒ちゃんを翼さん達に預けに来ている。詩緒ちゃんは不安そうな表情を浮かべているが、翼さんやエルフナイン達も一緒だから大丈夫だと伝えると頷いてくれた。

 

やっぱり、他の子より成長が早いと思っていても子供だと理解してしまう。サンジェルマンがメソポタミア展覧会を開いていた発案者と所有者から買い取ってきたメスラムの鍵は輸送機に積んでいると教えてくれた。

 

アレを忘れていたら大変だからな。

 

弦十郎さんは「シルバースキン」のような防寒服を着ており、私は雪原仕様の迷彩服を着ている。

 

コレも「ガ=ジャルグ」という服だと教えられた。私は二つの「ガ=ジャルグ」に加えて「ガ=ボウ」という革手袋と軍用革長靴を持っているのだ。

 

 



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第59話

℡月㌍日

 

メスラムの門が在る筈の地点付近にて簡易的な拠点を作ることになった。北極熊やペンギンだけじゃなく、半裸のモヒカン兜を被った変態集団を見掛けるとは思わなかった。

 

彼らは己の肉体を覆い隠すほど大きな盾を所有しており、身の丈を越えるほど長い槍を持っている。あのような形状はファランクスという陣形等で使用されることが多い。

 

カリオストロは出会った頃の露出の多い衣装を着ており、その上には防寒外套を着ている。うん、まあ、それで良いなら良いんじゃないか?

 

そんなことを考えていると「アァァララララララララッ!!」と言いながら変態集団が迫り来ていた。プレラーティは不快そうな表情を隠そうとせず、ラガンの中へと入ってしまった。

 

まあ、仕方の無いことだ。

 

サンジェルマンはプレラーティの入っているラガンへと乗り込んでいき、狭いとか重いとか言われていた。そりゃあ、あのラガンの中に二人乗りはキツいだろうね。

 

℡月㌻日

 

弦十郎さんの"粉砕"ブラボーラッシュには驚いてしまった。本当に使えるようになるとは思ってなかったのに、ファランクスの盾や槍を拳で砕いて突き進んでいくし、私は本当に必要だったのだろうか?

 

なんて考えながらラガンの作る斜めの道を降りている時、サンジェルマンが「悪臭が酷いわね」と言い始めた。これは悪臭というより獣の臭いだな。

 

ラガンの後を追うように氷界の中を歩いていると氷漬けのミイラを見付けた。しかし、それは弦十郎さんより大きなヒトだった。

 

いや、人と呼べるようなモノは身に付けておらず剥き出しの牙はケダモノのように伸びており、底知れない威圧を感じる。

 

そんなことを思いながらラガンの照らす氷界の先には半開きの十階建てのビルより大きな石門が聳え立っていた。

 

なに、これ、大き過ぎる…。

 

℡月㌫日

 

呼吸を整えようとした瞬間、吐き気を催す程の気味悪い気配を感じてしまった。アレだ、アレが、今回の悪霊騒動の原因だ。

 

カリオストロはメスラムの門の、その先から顔を覗かせている化け物を睨み付けていた。地上で相手していた悪霊とは桁が違い過ぎる…。

 

サンジェルマン達は「核鉄」を握っており、突き出すように構えた。

 

まさか、叫ぶのか?なんて考えていると武装錬金という掛け声と共に、三人は原作に登場していた武装錬金を持っていた。三人の科学技術に驚いていると弦十郎さんが親指を立てていた。

 

つまり、アレなのね?

 

弦十郎さんの「シルバースキン」は本物という訳なのね。まあ、そんなことは置いておこう。それより私の「核鉄」って、どこなのかしら?

 

そう尋ねると普通に左胸を指差されていた。

 

まさかの主人公枠だった!?

 

 



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第60話(風鳴翼)

慎次さん、彼はマネージャーであり私の大切な恋人である。それなのに、父様は交際を認めると言っていたのに結婚の許しを得るために訪ねてきた慎次さんと殴り合いを始める始末だ。

 

そのことを叶さんに相談すると「それだけ、翼さんの事が大事なのよ」と頭を撫でてくれた。

 

やはり、叶さんは頼りになる女性だな。等と考えていると父様から「翼の家事力を鍛えてみせろ!」という声が聞こえてきた。

 

むぅ…っ、否定することが出来ないのはダメなのだろうが、父様は意地悪なことばかりする。

 

天羽家墓標前、荒々しく穏やかな気配を放つ女性が立っていた。見間違うことなど有り得ない。

 

あれは、あの子は、私の大切な片翼…。

 

「奏!!」

 

「ん?おぉ、翼…だよな?」

 

「おい、何処を見て判断しようとした!?」

 

今では奏より大きくなった胸を両の手で隠しながら詰め寄り、力任せに天羽奏を抱き締める。氷のように冷たい、それでも奏は此処に居るんだ。

 

奏の匂い、すごく安心する…。

 

死んでるけど、救うことは出来るんだ。ウェル博士、貴方の実験を借ります。奏のお父さん、奏のお母さん、ぶっつけ本番の奏を生き返らせる実験を行うことを許してください。奏を横抱きに、お姫様抱っこで持ち上げる。

 

「武装錬金!!」

 

日本刀の武装錬金。銘は風切、その能力は吸収放出。柄から手を離すと靴底のクラッチに柄と刀身を噛み合わせ、姪の詩緒達の待つ我が家へと集束させた風を切っ先から暴風の如く吹かせる。

 

「ちょ、速い速い速いッ!?」

 

「掴まっていろ、次の角を曲がるぞ!」

 

「ぶあぁあぁぁあぁぁ!!」

 

「くっ、ブレーキ用の風を忘れていたッ!!」

 

「お、おま、お前バカかぁぁぁ!?」

 

風切の上に乗っていた左足に力を入れ、コンクリートの通り道に切っ先を突き刺すように体勢を変える。ガゴガゴガゴッというイビツな音と共に奏を乗せていた風切は停止する。

 

「ツーちゃ、どしたー?」

 

「詩緒、この人は天羽奏。私の大切な片翼だよ」

 

「お、おぉおっ、目が、目が回る…」

 

目を回している奏をガレージの中に連れ込んでエルフナインとキャロルをガレージへと運び込み。二人に目を回している奏と複製された天羽奏の肉体へと魂を戻してもらう。二つの箱の中に運び込まれた同一人物は目映い光と共に真ん中の箱から出てきた。

 

未だに目を回しているようだが、生き返らせることは出来たのだな。今の奏は私より年下なだけだ。まあ、それくらいは年上として教えてあげよう。

 

なんてことを心の中で誓っていると奏が頭を押さえながら立ち上がり、両の肩を掴んで頭突きしてきた。

 

「あぁ~っ、スッキリしたぜ」

 

「か、かにゃで…いひゃい…!」

 

「アタシは死ぬかもって思うほど怖い思いをしたんだが?まあ、身体にダルさを感じるってことは生き返らせてくれたんだろ?」

 

「…ぅん…」

 

「まあ、その、なんだ?ありがとよ」

 

えへへっ、これから奏に慎次さんとのことを報告しなきゃね。なんて考えていると奏に「核鉄」を投げるように渡していた。

 

 



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第61話

〆月―日

 

メスラムの門から出てきたのは童子のような相貌とは異質な程、ずんぐりとした胴体と柳のように細く長い腕の生えた化け物だった。

 

童子の顔の皮膚が菱形にひび割れ、皮膚の裏側でウネウネと密集した蛆虫がボトボトと音を立てて氷界の地面に溢れ落ちた。

 

次の瞬間、日本の怖い話に登場するようなテケテケと同じように「手だけ歩行」で迫ってきたが、数十人に分裂したサンジェルマンの魂送弾の乱れ撃ちで門の中へと押し戻されていた。

 

弦十郎さんは「錬金しろ」と言ってくる。

 

左胸に右手を押し当てながら「武装錬金」と大きく魂を奮い立たせるように叫んだ。すると、全身を覆う錫色の鬼を模したプレートアーマーを纏っていた。

 

どうしよう、武装錬金を創造しようとしてたのに弦十郎さんを思い浮かべてしまった。

 

とりあえず弦十郎さんの隣に並んで殴り飛ばすしか出来ないような………。

 

よし、ブッ飛ばしてやる。

 

〆月↑日

 

化け物を殴り飛ばしている間、サンジェルマン達は後ろで疲労回復に勤しんで貰っている。しかし、間近で見ても気持ち悪いな。化け物の股下を潜り抜け、左腕を掴んで転ばせる。

 

荒々しい地鳴りと共に化け物の頭が氷界の地面に埋まっている。震脚を踏み潰しに使おうとするのは弦十郎さんぐらいなのでは?なんて考えながら門の中へと化け物を放り込んで弦十郎さんを後退させる。

 

まだ、メスラムの門の外側へと出てこようとする化け物を睨み付ける。人間の世界に憧れるのは勝手だけどなぁ?人様の迷惑を考えろ。

 

飛び掛かってきた化け物の顔面に打ち下ろすような拳を叩き込んで地面にめり込ませる。

 

……………………。

 

めり込み具合がイマイチだったので踏ん付け、更にめり込ませておこう。なぜか、カリオストロから「めり込みに不満でもあったの!?」という声が聞こえてきた。

 

うん、まあ、そうだな…。

 

まだ、立ち上がろうとする化け物へと打つために拳を握り締める。右拳を振るおうとした瞬間、化け物の相貌が詩緒ちゃんに変化していた。

 

テメー、マジで赦さねぇッ!!

 

「このクソ野郎がァッッ、人の子供の顔を真似してんじゃねえぇぇぇぇッ!!!」

 

詩緒ちゃんの顔を真似してもテメーの臭い化け物の悪臭は消えねぇんだよッ!!まあ、さっきより力の籠った拳を叩き込んでやったがな?

 

化け物は今のパンチで失神したのか、門の中で動かなくなっている。化け物が気絶している間にサンジェルマンの漫画やアニメに出てきそうな呪文と共に門は閉じていき、完全に閉じようとした瞬間、化け物が突進するように向かってきたが、弦十郎さんの右ストレートが化け物の顔面を捉えていた。

 

まあ、お前じゃあ弦十郎さんを倒せねぇよ。

 

〆月±日

 

サンジェルマンはメスラムの鍵メスラムの門が閉じる瞬間に投げ込んでいたことを聞かせてきた。あの鍵は生者以外では使用することは出来ない代物らしい。

 

カリオストロは持ち込んでいた保温ポットでカップラーメンを食べているが、プレラーティは破損したラガンのフェイス部分を愛おしそうに眺めていた。

 

ロボットの破損を好むとは良い趣味だな。

 

流石に弦十郎さんも疲れたのか。私の太股を枕代わりに爆睡している。

 

しかし、クリス達の行っていたモノは特撮の撮影じゃなくて本物だったのか…。まあ、そんなこと言われても対応を変えるつもりは無いけどね。

 

 



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第62話

⊆月⊇日

 

サンジェルマンの運転するワゴン車を降りると四人が飛び付いてきた。流石に、四人を支え切れず倒れそうになったけど弦十郎さんが後ろから抱き止めてくれた。

 

ふふっ、久し振りに家族全員が揃った。

 

色んな事を聞いた。

 

月を破壊しようとした拗らせ年増、マリア達の起こしたフロンティアと呼ばれる場所、キャロルやエルフナインの引き起こした爆発、ぺド露出魔野郎の馬鹿みたいな計画、彼女達は世界を守るために頑張ってきたことを。

 

気が付かなくて、ごめんね。

 

弦十郎さんが謝ってきた。理由を尋ねるとエルフナインやキャロル、クリス達を戦うように指揮していた事を話してくれた。クリス達は必死に弦十郎さんの事を責めないように頼んでくるけど。

 

ここは、しっかりと怒らないとダメなの…。

 

⊆月⊃日

 

弦十郎さんを怒ってから1日ほど経過した頃だろうか?あの人を責めるのは心苦しかったけど。

 

みんな、しっかりと真実を話してくれた。

 

だから、その、あれだよ、怒るのは軽いデコピンと家族サービスを要求しておいた。

 

まあ、世界を守るために一緒に戦ってきた訳だからね。怒る要因が子供を戦わせたこと以外は問題なかったよ。

 

詩緒ちゃんを抱っこしながらリビングに入るとエプロンを着けた弦十郎さんが料理していた。クリスは特盛の炒飯を食べており、キャロルはエビチリにタバスコを振り掛け、エルフナインは天津飯を冷まそうと息を吹き掛けている。

 

今日は中華定食なのかな?

 

詩緒ちゃんを椅子に座らせると小盛の炒飯と卵スープが出てきた。この匂い、鶏ガラを入れてるのかな?なんて考えていると並盛の炒飯が目の前に置かれていた。具材は人参と玉葱、チャーシューが入っていた。

 

いや、何処で売ってたのよ…。

 

⊆月∩日

 

弦十郎さん、家族サービス二日目。

 

今日は遊園地に来ている。詩緒ちゃんと一緒にメリーゴーラウンドに乗りながら弦十郎さんにピースサインを送るとニマニマと嬉しそうに写真を撮っているではないか。

 

ついに写真を克服したのか!?なんて思いながら詩緒ちゃんを見ると恥ずかしそうに両の手で顔を隠していた。

 

いや、まあ、分かってたよ?

 

クリスとキャロルはゴーカートでリアルマリオカートを繰り広げていた。他のお客さんの邪魔だけはしないようにね。エルフナインは二人を抜かしてゴールしていた。

 

あの子も抜け目が無いわねぇ…。

 

最後はジェットコースターで楽しんできて貰った。私は詩緒ちゃんと一緒に搭乗中に撮影された写真を見る。

 

平然と腕を組ながら座っている弦十郎さんと髪のセットを気にするクリス。半泣きのエルフナインと半泣きのエルフナインの隣で殴られた衝撃で気絶しているキャロルの写真を貰うことにした。

 

帰ってきたキャロルは記憶が飛んでいることに疑問を抱いていたので、写真を見せたらエルフナインと追い駆けっこを始めた。

 

あの二人は本当に仲良しだなぁ…。

 

 



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とあるオタク娘の日常。
第63話


これは「とあるオタク女の生活」から数年ほど先のお話です。


ヴ月‡日

 

私の名前は風鳴詩緒、立派な武道家を目指す普通の女の子です。今は幼馴染みの九尾蛍介君と一緒に小学校へ向かっています。

 

クリ姉、エル姉、キャロ姉、三人から危ないことは控えるようにと言われたけど。パパとママから受け継いだ正義の魂を静めることは出来ないのだ。

 

そんなことを考えていると私立リディアン音楽院初等部の下駄箱へと到着しました。

 

実はね、リディアン音楽院は女の子だけしか通えなかった学校なんだって!

 

これはクリ姉から聞いた話なんだよぉ~っ!シンピョー性は抜群なのさ。等と一人で考えている間に蛍介君が教室へと行ってしまった…。

 

蛍介君、待ってよぉ~っ。

 

一緒に教室に行こうよぉ~っ。

 

三年生の教室から怒鳴り声が聞こえてきたので蛍介君のランドセルを掴みながら見に行くと緒川凉君と同級生の子が喧嘩していた。

 

ヴ月%日

 

昨日、喧嘩していた二人を西棟の空き教室に呼び付けて喧嘩していた理由を聞いてみた。

 

なんて言えば良いのか、緒川凉君の責めていた男の子が「男の癖に髪は長いし、すっげぇナヨナヨしてんのが悪い」と言い始めたので、思わず馬鹿みたいに大笑いしてしまった。

 

男の子は訳が分からないって表情で見てくるから教えてあげることにした。緒川凉君の前髪を持ち上げながら「スズ君は女の子だよぉ~っ!」と教えたら土下座していた。

 

うんうん、常識の在る子だね。

 

スズ君はしゃがみ込んで「もう、いじめない?」と男の子に尋ねたら「いじめないっ!」と力強く返事していた。

 

ふっ、落ちたな(確信)。

 

蛍介君は「昼休み終わるぞ?」と言いながら空き教室を出ていってしまった…。

 

やばいっ、次の授業はサンジェルマン先生の科学だった!!あの先生、遅刻すると実験の助手に使おうとするから危ないんだねぇ~っ。

 

ヴ月》日

 

今日はスズ君のお家のドウジョーに来ています。スズ君のお母さんは「この世に斬れぬものなし」と豪語する程、日本刀でモノを斬ってる人なんだよ。

 

色んな技をママから教えられて、剣士としての実力は世界一なんだってさ。私もママから技を教えられてるけど。

 

上手く出来るのはキックなんだよねぇ~っ。

 

まあ、史上最強の弟子(予定)である蛍介君以上に過酷な修行を行っている人は居ないと思うけどね!

 

キャロ姉とエル姉の作った"ヒト型サンドバック"軟体ちゃん2号を蹴り上げ、仰け反るように倒れながら腕を伸ばす反動を利用して「軟体ちゃん」を両足で蹴り飛ばす。「軟体ちゃん」を追撃しようとした瞬間、トレーニング時間終了アラームが鳴り響いた。

 

身体を急停止させて落下してくる「軟体ちゃん」を壁に立て掛ける。

 

さあ、勉強を始めよぉ~っ!

 

 



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第64話(緒川凉)

私には二つ年上の従姉妹が居る。

 

良く言えば天真爛漫な女の子、悪く言えば猪突猛進なお節介さん、この前も私とクラスメイトの喧嘩を仲裁するために九尾さんを連れながら割り込んできた。でも、彼女のおかげで陰湿なイジメは無くなった。

 

クラスメイトの半数以上が男の子だと思っていた事には泣きそうになったけど。

 

髪の毛だけじゃ、分からないのかな?

 

なんて考えていると跳ねるようにステップを刻みながら詩緒さんが手招きしてくる。そんな見え見えの誘い乗るのは愚か者のすることです。

 

「むぅ…っ、来ないなら近付けば良いよね!!」

 

詩緒さんがステップを止め、急速旋回としか言い表せない角度から駆け寄ってきた。人間、身体を斜めに倒した体勢でも走れるのか…。

 

なんて思いながら右切上を放って体勢を崩そうとしたが、あっさりと身体を持ち上げられていた。母様の先生は詩緒さんより強いんですよね?本当に人間なんですか?

 

「スズ君、これは何かな?」

 

「その、詩緒さんに刀を当てるのは至難の技なんです。だから組み技で対抗させて貰いますッ」

 

詩緒さんの首を右脇に挟み込んで右足を持ち上げるように倒す。意識を落とすまで時間は掛かるけど、攻撃することは出来ないはずです。

 

"新不殺"鬼哭き十指!!

 

「えっ、それって、ひゃっ!?ふみぇあぁああぁぁ!?ちょ、やめ、やめぇっ、あはははははははっ!!ほんとにぃひいぃぃ!?」

 

「さあ、固め技を解かないと擽り地獄からは逃げること出来ないぞ!!」

 

「んみゃああぁああぁあぁ!!」

 

私は道場の床で無様にもピクピクと痙攣しています。うぅっ、こんなところを母様に見付かったら「防人五ヶ条」を言わされてしまうぅ…!!

 

「スズ君、私の勝ちで良いね!」

 

「ふぇあい」

 

詩緒さんが腰に巻き付けていた薄い空色のジャージの上着を羽織りながらフンスと胸を張って聞いてくる。あんな即興の技に負けるなんて普通は思わないよぉ…。

 

しかし、負けた事に対する言い訳はしない。

 

そんなこと考えている暇が在るならば剣を鍛えるために研鑽を積まなければならんのです!!

 

「スズ君、シャワー行くよ~っ」

 

「えっ、あ、はい!」

 

「いや、防具は仕舞おうね!?」

 

あっ、そうでしたね。危うく忘れてしまうところでしたよ。まあ、しかし、詩緒さんを倒す日は来るんでしょうか?来ると良いなぁ…。なんて考えながら詩緒さんの後を追い掛ける。

 

今は遠いですけど。

 

半歩先、一歩先、貴女より強くなってみせます。そうすれば一文字流倭刀術の使い手として母様に認めて貰えます!!

 

 



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第65話

ゎ月≒日

 

最近、初等部東棟に在る立入禁止の空き教室を使用する幽霊の噂を聞いた。この噂を教えてくれたのは一年生のアリス・C・E・W・ウェルキンゲトリクスちゃんである。

 

ちょっと変わった台詞を叫ぶことが有る以外は優しくて可愛い女の子なのだ!

 

それにしても低学年の間では不思議な噂が飛び交っているんだね。噂のことを尋ねようと蛍介君を見たら顔を反らされた。

 

ふぅん、そういう態度を取るんだね…。

 

こっちを見ない蛍介君の耳元で「おねがい♡」と甘ったるい声で囁いてみる。そしたら、スゴい勢いで振り向いてくれた。

 

おぉっ、それは怖いからやめてね?

 

サンジェルマン先生が男を利用する時には使える技だって教えてくれた。そんなの教えるなってママに殴り飛ばされてたけどね!

 

コーカテキメンってヤツだね!

 

ゎ月◯日

 

放課後、アリスちゃんを迎えに行くと「私は、私達はフィーネっ!」って教卓の上でポーズを決めていた。アリスちゃんの友達は「ふぃねー!」とか「わたしもやる!」と楽しそうにしていた。

 

アリスちゃんを呼び寄せると「荒ぶる神の化身、どうかしたのか?」と聞いてきた。

 

いや、荒ぶってないよ?神様の化身でも無いからね?なんてアリスちゃんの言葉を否定しながら幽霊騒ぎの事を尋ねると「忘れ物を取りに来ていた友達がオバケを目撃してしまった」らしい。

 

一年生の教室は一階、幽霊騒ぎの空き教室は三階、夕方だと太陽の反射でカーテンがオバケに見えたのかもしれないけど。

 

カリオストロ先生を連れて調べるしか無いみたいだね。さあ、蛍介君もアリスちゃんも一緒に行こう!!ついでにスズ君も拾って五人で調べてみよう!!

 

カリオストロ先生から土曜日にして欲しいと頼まれた。カリオストロ先生には「夕方ぐらいに行くね」と言いながら帰ることになった。スズ君は茶道の稽古、蛍介君はトレーニング、アリスちゃんと私は家に帰るのである。

 

二人とも疲れないようにねぇ~っ!

 

ゎ月Η日

 

夕方、カリオストロ先生と一緒に立入禁止の空き教室へと突入するとアニメや漫画に出てきそうな研究室と化していた。

 

驚きながら空き教室の中を見渡しているとキィィンッ、キィィンッ、キィィンッという耳障りな音が聞こえてきた。

 

カリオストロ先生には聞こえていないのか。サンジェルマン先生とプレラーティ先生に電話しようとしている。

 

先生、よく分かんないけど。

 

この空き教室から出た方がいいかもしれない。なんて言いながらカリオストロ先生と一緒に立入禁止の空き教室を出ると空き教室から金切り声と窓枠の軋む音が聞こえてくる。

 

カリオストロ先生は黒い砂を蝶々の形に固めたモノを浮遊させていた。へぇ…っ、カリオストロ先生は"蝶人"パピヨンの使ってるヤツと同じモノを使ってるのね。

 

 

 



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第66話

Α月¶日

 

金切り声の聞こえてきた空き教室に近寄ることを禁止する理由を理事長先生に尋ねてみた。

 

なんでも私達より数年前は正式な教室として使用していたけど。

 

あの空き教室は男性教師と女子生徒の逢い引き場所に使われていたらしく。別れようと言った女子生徒に対して逆上した男性教師が持っていたペンで刺し殺した…とのことだった。

 

カリオストロ先生は胸糞悪そうに表情を歪めながら「除霊などは?」と理事長先生に聞いたけど。理事長先生は申し訳なさそうに祓い屋さんに「彼女の遺体から発する怨みの念が強すぎて祓えない」と言われたらしい。

 

カリオストロ先生はガリガリと頭を掻きながら「帰るぞ」と言ってきた。なんか、いつもと違う気がするのは私だけだろうか?

 

理事長室を出ようとした瞬間、ゾワッと生暖かい風と擦れ違ったような気がした。

 

廊下の窓は閉め切ってるのに…。

 

Α月`日

 

今朝、ママから学校はお休みだって聞かされた。なんでも理事長先生の履いていた靴が壁に半分だけ埋った状態で見付かったらしい。

 

もう一つ、カリオストロ先生も教員寮に帰っていないと聞かされた。ウソ、だって、昨日は校門まで送ってくれて…。

 

そんなことを考えながらママを見上げようとした瞬間、右手が焼けるように熱くなった。いや、手の甲にヘンテコな文字が浮かび上がっていた。

 

えっ、なに、どうなって…。

 

なんて言えば良いのか、変なものが見える。これが幽霊なのかな?試しに触ろうとしたら避けられた。ちょっと、なんで避けるのさっ!

 

ムカついたので幽霊の腕を掴んだ。次の瞬間、幽霊が弾け飛ぶように消えてしまった。唖然としているママから「凉ちゃん達、来てるわよ?」と言ってきた。

 

あ、うん、分かった…。

 

三人を部屋に招き入れると「右の手の甲」を見せてきた。ビミョーに形は違うけど。私も含めてヘンテコなアザが出来ているのは確かなのね。

 

アリスちゃんは「戒めの女皇を救うのか?」と尋ねてきた。

 

たぶん、私達しか戦えない。

 

カリオストロ先生を助けよう。

 

Α月ゐ日

 

真夜中、私立リディアン音楽院初等部へと侵入することに成功した。アリスちゃんを真ん中に挟むように空き教室へと向かう。

 

スズ君は平造りの木刀を構えながらアリスちゃんの手を握っており、蛍介君は後ろを警戒してくれている。

 

先頭を歩いて進んでいる私の前に真っ白な制服の女の人が現れた。電気が点いてないのに、真っ白な制服って分かるのは可笑しいッ!?

 

ケタケタケタと気色悪い声を上げながら駆け寄ってきた女の人の脛を靴の爪先で蹴り飛ばす。

 

当たる、私の攻撃は当たるんだッ!!

 

脛を押さえようとした女の人の上下から頭を挟むように鉤鎌斬を叩き込んだ。

 

なんとか襲われる前に倒せたけど。この女の人には神社で買ってきたお札を貼っておこう。

 

 



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第67話

ゞ月、日

 

女の人は蛍介君と遊ぼうとしたショタコンという人種らしいです。スズ君は「ショタコン」という日本の未知なる人種に興味を持ったのか。

 

最初は女の人の話を真剣に聞いていたのだが…。いきなり、スズ君が女の人を殴り始めた。

 

理由を聞いても教えてくれなかった。

 

サンジェルマン先生に聞けば教えてくれるかな?なんて考えていると「ショタのビンタで昇天しゅりゅうぅぅ!!」等と叫びながら消えてしまった。

 

結局、カリオストロ先生のことは聞けなかったけど。学校の中には幽霊が迷い込んでることが分かったから良しとしよう。

 

他にも居るのかな?等と考えていると理科室の人体模型と骨格標本が校庭で徒競走しているのが見えた。アリスちゃんは「ふっ、忌まわしき枷を解かれたか」って言いながら顔を反らしていた。

 

アリスちゃん、難しい言葉を使ってるけど。意味を分かってるのかな?等と思いながら階段を上がろうとした瞬間、理事長先生の部屋で感じた生暖かい風の正体を見てしまった。

 

身体は窪んだように痩せて、目の中は真っ黒に染まり、ボサボサの髪の毛と無造作に伸びた爪、口元を覆っても耐えられない悪臭を撒き散らしている化け物だった。

 

ずっと「せんせぇ、せんせぇ、せんせぇ、せんせぇ、せんせぇ、せんせぇ」と呟きながら真横を通り過ぎていった。

 

気付かれる前に階段を駆け上がって空き教室に向かう。空き教室を押し開けて中へと転がるように入室する。

 

頭を押さえながら立ち上がると身体を髪の毛で包まれたカリオストロ先生が床に倒れていた。

 

急いでカリオストロ先生を引っ張り出そうとすると髪の毛が手足に絡まってくる。ムカついてきたので「邪魔っ!」と叫んだら髪の毛が弾けるように切れた。

 

ゞ月Φ日

 

私達は朝まで保健室に立て籠っていた。

 

アリスちゃんは眠くてカリオストロ先生が眠っているベッドの中へと潜り込んでいたけど。スズ君と蛍介君は保健室の出入り口を睨みながら木刀とモップを構えていた。

 

目を凝らすと磨り硝子越しに中を覗こうとする化け物の顔が見えた。あの時と同じだ。ジンジンと右手が焼けるように熱くなってきた。

 

スズ君と蛍介君にドアを開けるように指示すると唖然としていた。大丈夫だよ、よく分からないけど。今なら行ける気がする。

 

二人は、私の言葉を信用してくれたのか。ドアを開ける体勢になってくれた。ガラガラガラッ!!と音を立ててドアを引っ張り開けると階段で擦れ違った化け物が保健室に入ろうとした瞬間、真っ正面から飛び掛かるように顔面をぶん殴った。

 

なんて言えば良いのか、奇声を放っていたので続けるように右手を叩き込んだら爆発するように飛び散ってしまった。

 

とりあえず勝てたよね?

 

ゞ月⇒日

 

ママには怒られたけど。カリオストロ先生を助けたことは褒めてくれた。

 

フンスと自慢気に胸を張っているとパパが写真を撮ろうとしたので顔を隠しておいた。写真は恥ずかしいからダメなのっ!

 

プレラーティ先生とサンジェルマン先生から「カリオストロを助けてくれた感謝の品」とやらを貰ったけど。箱を開けるとアニメ版東京魔人學園緋勇龍麻の使ってた鬼顔付きアームカバーが入っていた。

 

アレって正式な名前とかあるのかな?

 

ブレスレットは外れるようにキャップ式だった。うん、外れなかったらママに言い付けてたよ。

 

ママから「危なくない物だったから持っていて良いけど。人前では使わないようにね?」と言われた。大丈夫だよ、使うのはオバケ相手だけだからね!

 



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第68話(アリス・ウェルキンゲトリクス)

我が名はアリス・カデンツァヴナ・イヴ・ウェイン・ウェルキンゲトリクスなり、親しみを込めて「アリスちゃん」と呼ぶことを許可してやろう。私には尊敬する両親と大好きなスズがいるのだ。

 

「アリスちゃん、いっしょにかえろぉ~っ」

 

「うむ、黄昏を出迎えよう…!」

 

「おぉ~っ、たそがれぇ~っ!」

 

"親愛なる盟友"藤尭夏海"友愛なる盟友"藤尭冬馬共に深淵に沈み往く黄昏の帰路を歩んでいると忌まわしき黄泉の狭間より愚鈍な悪鬼が這いずり、現世へと出てこようとしていた。

 

少し先まで盟友を見送ると現世に半身の抜け出ている悪鬼を滅するため、近くに在った立入禁止看板を悪鬼に叩き付け、血ヘドを吐いて無様に転がる悪鬼の頭部を固定するために看板を地面に突き刺してやる。

 

今度は必死に逃げ出そうとしているので手近に在った歩道橋の標識を地面から引き抜いて、何度も悪鬼の顔面をブッ叩いてやる。

 

あれほど激しく暴れていた手足は動かなくなり、気色悪かった相貌は醜くブクブクと腫れ上がっていた。

 

父が「英雄とは非道になることも必要なのです!」と言っていた。私は、父の言葉には賛同している。残虐非道な行為を行うのは大切なモノを救うための選択の一つだからだ。

 

悪鬼の出てきた狭間に頭から押し込んで臀部を蹴り飛ばすとスポンッ!という音と共に悪鬼は消えてしまった。

 

ぐにゃぐにゃの標識を地面に突き刺すと立入禁止看板を元の場所に戻しておいた。二つとも壊れ掛けているが問題は無いはずだ。

 

「あれ?アリスちゃん、こんな時間に一人歩きは危ないよ?」

 

「荒ぶる神の化身、如何様か?」

 

「いや、荒ぶってないからね?」

 

「ふっ、我は悪鬼を滅していたのだ」

 

「私の回答は無視なのね…」

 

"荒ぶる神の化身"風鳴詩緒、我が母の話では世界最高峰の戦士より産まれし最強の戦士とのことだ。いずれは貴様と相対する事になるだろうが、その時こそ我が最強だと教えてやろう。

 

「アリスちゃん、右の手の甲のアザは痛くない?熱くない?」

 

「くっ、我が腕に宿りし暗黒竜を抑え込むことは出来ないのかッ!!」

 

「そっか、大丈夫なのかぁ~っ」

 

「荒ぶる神の化身、汝の雷光竜は…」

 

「う~ん、たまにジンジンと熱くなるかな?」

 

我が暗黒竜を上回る雷撃と星光を纏いし最強の魔竜を宿す者よ。貴様を討つのは、私ということを忘却しようとするのは赦さんぞ?

 

「荒ぶる神の化身、その腕の魔装は……」

 

「これ?あぁ~っ、サンジェルマン先生とプレラーティ先生からお礼に貰ったんだよね。たぶん、アリスちゃんのも家に在るんじゃない?」

 

「ふっ、運命の導に従うか…」

 

「また、学校でねぇ~っ」

 

あのような魔装を貰えるのか?

 

ふふっ、我が魔城へと帰るとしよう。

 



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第69話

‰月⇔日

 

下駄箱で待っていたカリオストロ先生に頭をワシャワシャと撫でられた。蛍介君とスズ君はアザを隠すために包帯を巻いていた。

 

勿論、私は巻いてないよ?誰に見られても困らないからね!なんて考えているとヘンテコな帽子を被った中学生ぐらいの人がサッカーゴールの横に立っていた。

 

なんて言えば良いのか、アレを知ってるような気がするんだよね。まあ、あんな人と話したような記憶は無いんだけどね?

 

アリスちゃんが「我の到着である!!」と叫びながら小型扇風機でバサバサと服を靡かせていた。

 

あ、あ、パンツが見えちゃうよ!?

 

そんなことを言おうとした瞬間、スズ君がアリスちゃんのスカートを押さえ込んで下駄箱へと持って来てくれた。

 

えっ、おっ、速くね!?

 

‰月℃日

 

昼頃かな?″超人気アクション女優″ビッキー″狂愛アナウンサー″ミクサンがリビングでママと話していた。

 

最近、ママの友好関係に疑問を抱いているのは私だけなのだろうか?なんて考えているとクリ姉がビッキーの頭を叩いていた。あ、そっか、クリ姉ってリディアン音楽院の卒業生だもんね。

 

そんなことを一人で納得しているとミクサンが目の前に来ていた。えっ、なんで、ちゃんと気配が分かるように制空圏を築いてたのに…。

 

一応、応戦するために構えようとした。次の瞬間、ビッキーが「やぁ~っ、久し振りだね!」と言いながらワシャワシャと頭を撫でてきた。

 

ママ達とは違った上手さがあるね…。

 

クリ姉は「詩緒、ソイツは女好きだから気を付けろよぉ~っ」と教えてくれた。

 

もう、やだなぁ…。

 

クリ姉の冗談には騙されないよ?なんて思いながらビッキーを見ると気まずそうに顔を反らしていた。

 

えっ、マジなの?

 

‰月〈日

 

カリオストロ先生曰く「恋する人には性別など関係無い」とのことだ。まあ、そういうの言われても分かんないから気にしないけど。

 

赤ちゃんが産まれたら見せてくれると言ってくれた。「早く見せてくださいね」と答えておいた。私には大人の世界は過酷なようだった。

 

そんなことを思いながらクリ姉に「彼氏はできた?」と尋ねるとパパから空間が歪むような気配を感じた。

 

クリ姉は「そういうのはいねぇなぁ…」と答えてくれた。もう、そんな調子だと三十路まで彼氏が出来ないぞ☆と悪ふざけで言ったら頬っぺたを引っ張られた。

 

むぅ…っ、本当の事を言っただけじゃないか!なんて言おうかと思ったけど。クリ姉には勝てないので黙っておくことにした。

 

クリ姉達に彼氏が出来てもパパを倒さないと結婚とか出来ないんじゃないかな?等と思いながらママに聞いてみることにしたんだけど……。

 

なんか、笑って誤魔化された。

 



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第70話

ヴ月Α日

 

日直の仕事をするために学校に向かっている途中、ヘンテコな帽子を被った中学生ぐらいの男の子が電柱の影から出てきた。

 

あまりのキモさに"不殺"旋回断界落を叩き込んだのは間違いじゃないはずだ。

 

教室の黒板を掃除していると自転車のベルを鳴らす音が聞こえてきた。

 

後ろに振り返るとヘンテコな帽子を被った中学生の男の子が三輪車に乗って近付いて来ていた。

 

いや、マジで迷惑なんだけど。

 

イライラで乱れていた呼吸を整える。

 

ヘンテコ帽子に駆け寄って裏拳(右側頭部)、拳槌(右脇腹)、掌打(左胸部)、前蹴り(右膝頭)、諸手突き(顔面&鳩尾)、左上段後ろ廻し蹴り(左側頭部)の順番に叩き込んでゴミ箱の中に捨てておいた。

 

ママの使ってる煉獄より精度は劣ってるからね。そんなに痛くはないと思うよ?まあ、カリオストロ先生はママの煉獄を受けても普通に学校には来てたけどね。

 

二番目に到着した蛍介君はゴミ箱から出ている足を掴んでゴミ箱の中へと押し込んでいた。いや、流石に、それ以上は死ぬんじゃないかな?

 

ヴ月Ψ日

 

ヘンテコ帽子は動き回るゴミ箱のオバケとして有名となった。いや、まあ、犯人は蛍介君だよ?それなのに「オバケ退治は任せる」とか意味が分からないんだけど…。

 

アリスちゃんに相談すると「ふっ、我が古き闇の眷属を葬ってくれる…!」と手助けしてくれると約束してくれた。

 

感謝の印として頭をワシャワシャと撫でたらフンスと胸を張っていた。

 

このポーズとか何処かで見たような気がするんだけどなぁ…。うん、まあ、よく思い出せないから保留だけどね。

 

スズ君にも応援を頼んだけど。書道の稽古があるので断られた。

 

まあ、稽古が理由だと仕方無いね。

 

ヴ月ζ日

 

カリオストロ先生と一緒に転がり回るゴミ箱を捕まえる事には成功したけど。

 

どうやって退治すれば良いんだろうか?

 

この前は右手が焼けるように熱くなってきた時だったからなぁ…。なんて考えているとアリスちゃんが清めの岩塩を取り出していた。

 

待って、ヤバそうなことしようとしてない?止めようかと迷っている間にゴミ箱の中へと岩塩を全力で叩き付けていた瞬間、ゴミ箱の中から「ぷぎゅうっ!?」という声が聞こえてきた。

 

あの声はキモかったのでカリオストロ先生も一緒に岩塩を全力でゴミ箱の中に叩き付けていた。ゴミ箱を覗くとヘンテコ帽子が岩塩を赤く染めていた。

 

まあ、私には関係無いね。

 

カリオストロ先生が用意してくれた聖水を容れた霧吹き器をシュッシュッと吹き掛けると奇声を上げながら逃げてしまった。

 

えっ、ちょっと、ゴミ箱は返して!?

 



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第71話

〒月ж日

 

我が家に帰ると有名人や知らない人が集まっていた。えっ、どういうこと?なんて考えているとクリ姉とママが料理や飲み物を運んでいた。

 

成る程、エンカイってヤツだね!

 

藤尭姉弟を抱っこする二人の女の人はヘタレそうな男の人の手を握っていた。

 

うむむっ、どういうことなんだろうか?等と思いながら頭を傾げているとキャロ姉が「詩緒、どうした?」と聞いてきた。いや、私の知らない人が多いから驚いてるだけだよ?

 

スズ君の家族も来ていた。クリ姉は欠伸を噛み殺しながらソファの真ん中を陣取っている。

 

しかし、なんの集まりなんだろうか?

 

〒月`日

 

クリ姉を起こすために部屋のドアを開けたら全裸で寝ていた…。クリ姉、たまにアホみたいな行動するけど。それは流石に無いと思うよ?等と思いながら部屋に入るとビッキーやミクサンも全裸だった。

 

あれだ、頭が痛いってヤツだね。

 

とりあえずママには教えておこうかな。そっと部屋のドアを閉めるとリビングから良い匂いが漂ってきた。

 

音を消しながら階段を下りるとママ達が料理していた。クリ姉も少しはママを見習えば良いのにね?

 

そんなことを考えているとママからパパ達を起こしてきてと頼まれた。お客さんを泊める部屋のドアを開ける。

 

お酒臭かったからハンカチで口と鼻を押さえながらパパを揺すって起こすとママの名前を呼びながら抱き締めてきた。

 

ちょ、苦しいってば!!

 

"不殺"鬼哭き十指を貫手として使った。流石に痛みで起きてくれた。お酒の飲み過ぎを反省するように言ってから部屋から逃げるように出ていき、ママ達の待っているリビングへと向かう。

 

まあ、ママには言うけどね。

 

〒月∨日

 

サンジェルマン先生の超天才的な授業が終わった。いやぁ~っ、サンジェルマン先生の授業は実験をメインとしてるから面白いけど。

 

カリオストロ先生やプレラーティ先生みたいに実験室の外には出ないんだよね。

 

カリオストロ先生は色んな話を聞くけど。一番、多いのは料理教室での話かな?カリオストロ先生曰く「男を落とすのは胃袋からね♡」とのことだ。なぜか、カリオストロ先生の料理教室には他の先生も混じってるんだよね。

 

プレラーティ先生、男子生徒や男性教師から多大な人望を持つ技術の先生だね。小さなロボットから大きなロボットまで作れる凄い人なんだってさ…。

 

パパもプレラーティ先生の作ったロボットには乗ったことが在るらしいけど。そんなに大きなロボットを作ったのかな?

 

あの三人は仲良しだと分かった。まあ、何回も我が家に来ては必ず愚痴ってるけど。

 

たぶん、凄い人達なんだと思う。

 



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第72話(カリオストロ)

あーしは学校内の妖怪退治を行おうとする風鳴詩緒と付き合わされる九尾蛍介、3年1組の緒川凉と1年3組のアリス・C・E・W・ウェルキンゲトリクス達を引き受けることになった。

 

まあ、叶さんの娘だけに身体能力は並大抵の成人男性より高いので、あーしが宿直室を利用する日には忍び込んでいることが多くなってきている。

 

四人とも礼儀正しいんだけどさ。オバケや妖怪をブッ飛ばして倒す光景を見せられる、あーしのことも心配してほしいわけよ。

 

ほら、あーしだってか弱い乙女じゃん?

 

「カリオストロ先生、ペットボトルで何するんですか~っ!」

 

「ふっふっふっ、スゲーことだし!」

 

校庭の小石を少しだけペットボトルの中に容れるように指示する。大きいヤツはハンマーで叩いて砕くから問題ないかんね。

 

みんな、適度に容れたのを確認してからヘリウムガス容器とケースに入った風船ゴムを取り出す。

 

「好きな色を取って良いかんねぇ~っ、先ずは一人ずつあーしのところに来な……詩緒、アンタはなにしてんの?」

 

「えっ、並んで待ってるだけだよ?」

 

「いや、普通に待てよ…。ほら、さっさとチュウチュウトレインは止めな」

 

「はぁ~っい」

 

ペットボトルの中にヘリウムガスを噴射する、ペットボトルの中がヘリウムで充満したら風船で飲み口を覆ってからビニールテープで固定する。

 

みんな、しっかりとペットボトルは持ってるね。

 

「そんじゃあ、手を離してみな」

 

ゆっくりとペットボトルは浮かび上がり、小石の重さでギザギザとした軌道を描きながら進んでいき、想定していたモノよりも長く大空を飛んでいる。

 

「うっし、あとは羽根を付けたりすれば完璧だね。ほれ、厚紙とか画用紙とかあるから切ってけぇ~っ」

 

生徒達の「ドラゴンの羽にしようぜ!」とか「いや、ロボットが良いって!」とか「天使の羽だよねー!」とか色んなことを話す声が聞こえてくる。

 

「詩緒、アンタは……なにそれ?」

 

「えっ、防人ブレードだけど?」

 

あぁ~っ、うん、まあ、人の趣味に口出しするつもりは無いんだけどさ。それって緒川翼の使ってる武装錬金だよね?

 

「うん、まあ、良い趣味だな…」

 

「凄いでしょ?最高でしょ?革命的でしょ?スズ君が教えてくれたんだよぉ~っ!」

 

さっきの言い方、どっかで聞いたようなフレーズだと思ったらサンジェルマンが言ってた台詞だったわ。アイツ、叶さんにボコられないのか?

 

ちょっとした心配でサンジェルマンの事を考えていると九尾蛍介の作ったペットボトル風船に「アバンギャルド号」と真っ赤なマーカーで書かれていた。

 

アンタ達、意外と趣味嗜好は似てんのね…。

 



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第73話

Р月Ц日

 

私立リディアン音楽院中等部のアイザック=シュナイダー君とバルムンク=フェザリオン君、長谷川マミューダパオ君と一緒に暴れるヘンテコ帽子を見掛けた。

 

長谷川マミューダパオ君はイングロマクソン族という村から留学してきた人なんだってさ。

 

私としては長谷川って苗字が気になって仕方無いんだよね。外国人さんなんだろうけど、なんで長谷川なんだろうね?

 

しかもアリスちゃんに叩かれる時は顔を赤くして鼻息を荒くしてるし、ちょっと変な人なのかな?

 

なんて思いながら観察しているとバルムンク=フェザリオン君が飼育係としての仕事を真面目にしていることも驚きだった。

 

なんか「ヘルズファキナウェイ!!!」とか叫んでたけど。アレってなんなんだろうね?

 

Р月≠日

 

翌日、カリオストロ先生から「中等部の四人組を動物園へと送り返してきた」と聞かされた。

 

絶対、あの人達だよね?

 

なにを仕出かしたら動物園に送られるんだろうか。なんて考えていると清掃業者の人達の騒ぎ声が聞こえてきた。

 

なんでもリディアン音楽院付近で悪臭を放つモノを放置されていたらしい。なにかなぁ?等と考えていたらカリオストロ先生が「アイツ等は人間の尊厳を捨て去ったケダモノ」と語り始めた。

 

カリオストロ先生、なにを言っているのか。イマイチ、分かりません。でも、まあ、うん、分かったと思うことにします。蛍介君に「人間の尊厳ってなに?」と尋ねると「知識」と答えてくれた。

 

成る程、あの人達は考えることを放棄したんだね。それでも、なんで、それだけで動物園に送られることになるんだろ?

 

よし、帰ったらママに聞いてみよう。

 

Р月Η日

 

リビングのソファで眠っているパパとママを起こそうかと考えたけど。クリ姉やエル姉、キャロ姉と一緒に買い物に行くことにした。

 

キャロ姉の持つ「激辛タバスコチップス"祝福刻"」を棚に戻そうとしたら頬っぺたを引っ張られた。だって、辛くて美味しくないもん。

 

クリ姉やエル姉は甘い物を食べるけど。キャロ姉だけ激辛とか分からないよ!?ほら、こっちの甘いお菓子を食べようよ!!

 

えっ、美味しくなさそう?

 

いやいや、いやいやいや、キャロ姉の選んでるお菓子より美味しいと思うよ!?クリ姉やエル姉に聞けば分かると答えは思うよ!!

 

二人とも「程好い物が好き」だと答えてくれた。いや、ほら、甘くてフワフワなんだよ!?マシュマロはイチゴ味が一番なんだよぉ~っ!!

 

そんなことを話しているとスズ君のお母さんと遭遇したので「辛いお菓子と甘いお菓子どっちが好きですか?」と聞いてみた。返ってきた答えは「抹茶や煎餅はダメなのか?」だった。

 

うん、まあ、それも良いですよね…。

 



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第74話

Χ月κ日

 

最近、身体に違和感を感じるようなってきた。ママ曰く「分岐点へと到達した」とのことだ。武術家は二つの性質に別れるそうだ。

 

ママは「心を落ち着かせて闘争心を内に凝縮、冷静かつ計算ずくで戦う」"静"のタイプで、パパは「感情を爆発させ、精神と肉体のリミッターを外して本能的に戦う」"動"のタイプらしい。

 

まあ、よく分からないけどね?私はどっちかの性質に向かう必要があるんだってさ…。

 

二人とも人を活かす活人拳であり、殺人には拳を使わないけど、人を守るためには振るうって教えてくれた。

 

私の使う流派はママの創った豈眼流(ガイガンリュウ)って拳法らしいけど。

 

色んな武術の技を織り混ぜた地上最強の流派だと自負しているし、パパは中国拳法をベースとした我流だってママから教えて貰ってる。二人の流派を合わせれば史上最強なのではないだろうか?

 

Χ月≡日

 

夏休み期間を利用して性質の発展を目指すことにした。パパとママは「友達と遊ばなくていいの?」と聞いてきたけど。

 

一人の武術家として自分の進んでいく道のことは知っておくべきだと思うんだよね…。そんなことを思いながら公園の前を歩いているとママが呼吸を整えながら構えていた。

 

よく見るとママの身体の周りが歪んで見える、アレが気ってヤツなのかな?なんて考えているとズンッ!!と重苦しい威圧に襲われた。

 

あ、あ、これ、知ってる!!

 

悪い人達を捕まえてるパパから感じたヤツと同じヤツだ!!急いでママに駆け寄りながら「今の、今のが私の進んでいく性質だと思う!!」と興奮気味に伝えると、ママ曰く「動の気を静の気で凝縮する危険な行為」だと言われた。

 

ママでも一分間しか持ち堪えることが出来ない性質、それでも運命的な感覚だったんだよ。今のヤツじゃないとダメなの!!

 

渋々ながらママは教えてくれた。

 

Χ月■日

 

私の目指す性質は「"活殺"静動轟一」と呼ばれる活殺自在の性質だと気付いた。

 

二つの性質を調律する、静気は覆う蓋として、動気は燃やす熱として、身体は二つを媒介とするモノ、イメージするのはお湯を沸かす鍋と同じだと分かった。

 

呼吸を整えながら胸の中心から広がるように動気を放ち、服を纏うように静気を身体の周りに纏わせる。

 

いや、うん、まあ、そこそこ上出来だと思うのは私だけじゃないと思うんだよね。

 

お昼ご飯を作っている途中のママに「"活殺"静動轟一」を見せると眼を見開いていた。そこまでビックリされるとショックなんだけど。

 

そんなことを考えていると今までとは桁の違う威圧を放たれた。正直に言えば生きた心地はしなかったけど…。

 

しかもママ曰く「40%の気当たりには耐えられるようになったわね」とのことだ。アレで40%とは思えないんだけど。

 

まあ、認めてくれたわけだね。

 



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第75話

∀月←日

 

夏休み中盤、スズ君との他流試合を行うことになった。いつもの修行の一環としてじゃなくて、本気で戦うことをママとパパから言われたけど。

 

まあ、たぶん、大丈夫だと思う…。

 

そんなことを考えながら目の前に立つスズ君を見詰める。私よりも小さな身体で数多くの研鑽を積んできた。

 

私の知る人界最高の剣士だよ。

 

スズ君の正眼の構えで迎え撃つ体勢を築いており、崩すには正面突破しか無いな。

 

イマイチ、構えの必要性を考えてしまう。なにより構えると技を繰り出す瞬間が少しだけ遅れるんだよね。

 

故に、私は「構えない」構えを使う。

 

そうだね、敢えて名前を付けるなら豈眼流"初期型完成形"果断かな?

 

ゆったりとした足並みでスズ君に歩み寄り、踏み込めば木刀の射程距離に突入する一歩手前にて立ち止まる。うん、唐竹(面)と思わせて逆風(切り上げ)を狙ってるのかな?

 

木刀の切っ先に左手を添えるように、右手でスズ君の左手首を掴む。いや、まあ、瞬きするのは良いけど。相手から眼を離すのはダメだよ?等とアドバイスを言いながら投げようとした瞬間、スズ君が身体を押し付けるように近付いてきた。

 

そっかぁ~っ、密着状態で短刀を使うつもりだったんだね。でも、ごめんね?私ってば勘が良いからさ。

 

直ぐに見破っちゃったぜ。

 

∀月≡日

 

昨日の他流試合は引き分けとして終わることにした。パパとママは「あの密着状態なら発勁を撃てただろ?」と言われたけど。私は考えて行動してるから安心して良いよぉ~っ。

 

玄関の扉を開けるとスズ君が立っていた。なぜか、木刀を腰に携えて…。

 

いつから待ってたの?と尋ねると五分前と教えてくれた。いや、まあ、うん、普通に呼び鈴を鳴らせば良いんじゃないかな?

 

木刀を玄関の中に立て掛け、近くの公園で話すことにしたんだけど。スズ君は「私は強くないですか?」とか「いつも擽りや押さえ込み」等と言ってきた。

 

ふざけたのは悪かったけどさ…。

 

昨日の他流試合、すっごく嫌そうな顔してたよね?止めるならアレしか無い訳じゃん?等と言いながらスズ君を落ち着かせ、次の試合ではボコると伝えたらガタガタと震え始めた。

 

ほらぁ~っ、この前のオバケ騒動の時からビビってるじゃない。

 

∀月∪日

 

エル姉の作った気力計測スカウターを右目と耳に被せるように装着する。試しにエル姉を測ると「3」とレンズに表示された。

 

おぉっ、最新技術の集大成的なヤツだね。

 

クリ姉の前に立ち塞がり、スカウターのスイッチを押す。すると「450」と表示された。う、うん、桁が二つも上がると凄い威圧感を覚えるね。ついでにキャロ姉も測っておこう。……うん、眼の錯覚じゃないね。キャロ姉は「580」だった……。

 

怒らせるのは控えよう。うん、そうしよう。

 

よし、パパとママの気力を測ろう。リビングでテレビを視ているパパをスカウター越しに見ながらスイッチを押し込む。

 

うん、まあ、なんて言えば良いのかな?こういうのって実在するんだね。パパは「当代無双」としか表示されなかった。

 

ママは大丈夫だよね?数字で出てくるよね?出てきてよね?キッチンのママをスカウター越しに見ながらスイッチを押し込む。

 

はい、出ました!

 

ママは「測定不能」だってさっ!

 

可笑しくない!?スカウター、故障してないよね!?いや、まあ、さっき貰ったばかりだから壊れてないと思うんだけど…。

 



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第76話(風鳴弦十郎)

早朝、詩緒と共にジョギングから帰ると味噌の煮える匂いが漂ってきた。グウゥゥゥッという動物の唸り声のような音が腹から鳴り響き、詩緒に笑われてしまった。いや、しかしだな、叶の作る食事は美味いんだ。

 

「パパってば焦りすぎだよぉ~っ」

 

「美味い物の事を考えると鳴らないか?」

 

「えっ、普通に鳴るけど?」

 

詩緒の言葉に「やっぱり、鳴るよな?」等と言葉を返しながら洗面台に並んで、少しだけ汚れた手を洗っているとパジャマ姿のエルフナインがキャロルを引き摺ってきた。

 

二人とも酒臭かった。

 

…詩緒は夏休み中だが、俺もお前達も仕事は入っているだろ?なんて思いながら見ていると「オトーサン、見すぎですよ」と言われた。

 

うむっ、そこまで見ていただろうか?

 

リビングと廊下を隔てる扉を押し開け、ソファを見ると欠伸を噛み殺しながら小日向君の映るテレビを眺めるクリスが視界の端に映り込んだ。

 

ふむ、今日は昼頃から雨なのか。念のために二つほど傘を持っていくとしよう。しかし、慎次の子煩悩には驚かせることばかりだな。

 

アイツは甘やかそうとして引かれているのが分からないのか?等と考えると家族が揃ったことを確認したのか、クリスが詩緒の正面の席に座ろうとするのをキャロルが阻止していた。

 

我が家の朝の行事と化している席争奪戦は詩緒の座る前の席を奪い合う行為である。俺と叶は詩緒を挟むように座っているので必然的に争奪戦から除外される。

 

今回の勝者は二人の連携を打破したクリスで決まったのだが、三人は料理の前で暴れたことを叶に怒られていた。

 

やはり、我が家の家族序列第1位は叶だな。

 

「いただきます」

 

両の手のひらを押し合わせ、食材や作ってくれた叶に感謝しながら言葉を口にする。

 

「「「「「いただきます」」」」」

 

みんな、俺のあとに続くように言葉を呟いて個々の皿へと箸を伸ばしていたのだが、気が付いたら俺の皿の中のニンジンが増えていた。

 

不思議に思いながら白米を掻き込んでいると詩緒がバレないように自分の皿から俺の皿へとニンジンを移していた。ニンジンが嫌いなのか?等と考えていると一瞬にしてニンジンが詩緒の皿へと戻っていた……。

 

「ふふっ、好き嫌いはダメよ?」

 

詩緒の皿には小さなニンジンの山が築かれていた。いや、それは、流石に大人気ないぞ?と注意しようかと思ったのだが、好き嫌いを無くすのは良いことなので注意するのは止めよう。

 

「みんな、時間は大丈夫なの?」

 

叶の疑問を尋ねるような言葉を聞いて壁に掛けられた時計を見上げると朝礼まで二時間を切っていた。

 

「すまん、俺は先に行くぞ!!」

 

「あっ、おい!あたしも乗せてけ!!」

 

「エルフナイン、オレも先に行くぞ!!」

 

「うえぇっ!?三人とも待ってよおぉぉ!!」

 

やはり、我が家の朝は騒がしいな。

 




この作品は完結しました。

活動報告に技などの元ネタを記載しておきます。


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