とある兄妹のデンドロ記録(旧) (貴司崎)
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登場人物・<エンブリオ>紹介:三兄妹編
※リメイク版『とある三兄妹のデンドロ記録:Re』https://syosetu.org/novel/232018/の執筆を開始したので、そちらもよろしくお願いします。
アバター名:レント
本名:加藤蓮
メインジョブ:【高位召喚師】
サブ上級職:【大狩人】【大騎兵】【突撃騎兵】【司教】【紅蓮術師】【翆風術師】【黒土術師】【蒼海術師】【高位付与術師】【高位魔石職人】
サブ下級職:【狩人】【罠狩人】【弓狩人】【毒狩人】【闘士】【槍士】【弓手】【盗賊】【投手】【騎兵】【殿兵】【死兵】【決死隊】【司祭】【召喚師】【魔術師】【付与術師】【防護術師】【祓魔師】【呪術師】【魔導師】【魔石職人】【見習】
<エンブリオ>:【百芸万職 ルー】
本作の主人公その一、通称・兄。現在大学一年生。
性格は冷静で家族思いだが時折子供っぽくなる事も。妹二人に対してはかなり甘い相当なシスコン。
全方面に平均を遥かに超える才能を持っており、殆どの事を非常に上手く熟せるが、本当に規格外の天才には一歩及ばない。
昔は自分の才能に驕っていた(初期の某閣下の性格を大人しめにした感じ)が、当時やっていた弓道の大会で規格外な才能の持ち主に出会って挫折。その後しばらくは荒れていたが事故で両親を失い自身も命に関わる大怪我を負い、更に妹が自分の才能に絶望して塞ぎ込む所を見た事で、才能への執着が薄れて今の様な性格になった……とはいえ規格外な才能への執着は未だに燻っており、<エンブリオ>にもそれが現れている。
デンドロでのプレイスタイルは“遊戯派よりの世界派”。<エンブリオ>のスキルのお陰で多くのジョブに就いており、戦闘や生産など様々な事を行えるオールラウンダー。現在は二十三の下級職と十一の上級職に就いている。
戦闘スタイルは主に弓と魔法を使った後方支援を担当しているが、必要なら前衛もこなす。生産では【魔石職人】として【ジェム】を作っており、それを売り払ってお金を稼いでいる。
今は【技神】の転職試練でハイエンドの先代【技神】を倒す事を目標にしている。
名称:【百芸万職 ルー】
TYPE:ルール
能力特性:技能補助・才能拡張
到達形態:Ⅴ
固有スキル:《
必殺スキル:《
備考:レントの<エンブリオ>
モチーフは自身を諸芸に達人であると言ったとされるケルト神話の太陽神“ルー”
能力特性は“
《光神の恩寵》は獲得経験値を上昇させるパッシブスキル。第五形態時にはレベル五で獲得経験値を最大300%上昇になっており、このスキルのお陰で多くのジョブをカンストしている。実はモンスターや<マスター>を倒した際にアイテムのリソースや管理AIの送られるリソースの一部を獲得経験値に回したりする効果も含まれており、そのためにモンスターや<マスター>を倒した際にしか効果が発動されない。
《空想秘奥》は自身のHPを現在値の半分消費してジョブスキル一つを強化するアクティブスキル。選択したジョブスキルはアクティブスキルの場合は次の使用時に強化される。スキル効果終了後に選択したジョブスキルは二十四時間使用不可になり、このスキル自体には十分間のクールタイムが存在する。
《全技能》は自身のメインジョブに依らずに取得している下級職・上級職のジョブスキルを使用可能にするパッシブスキル。また、オフに出来ないパッシブスキルをオフに出来る様にもなる。
《百芸創主》は自身が取得しているジョブスキルを複数(第五形態時は最大五つ)組み合わせてオリジナルスキルを作るスキル。作れるオリジナルスキルの数は自身の合計ジョブレベル50につき一つ。一度作成した場合二十四時間削除・変更不可能。既にオリジナルスキル作成に使用しているジョブスキルは、他のオリジナルスキル作成には使用不可能。オリジナルスキル作成時には各種パラメータを調整出来るので汎用性は非常に高いが、その分作れるスキル自体の燃費は非常に悪く、兄はクールタイムを非常に長くするなどして釣り合いをとっている。
必殺スキル《我は万の職能に通ず》はジョブ枠拡張のパッシブスキルで、第五形態時には自身が就く事の出来るジョブを下級職三十個・上級職二十個だけ増やす事が出来る。なので、今のところ兄は三六の下級職と二二の上級職に就く事が出来て、合計レベルを四千まで上げる事が出来る。だが、“ステータス補正がオールゼロになる”、“今後<エンブリオ>の固有スキルを獲得出来ない”、“就いた事のあるジョブに由来する超級職に就く事が出来なくなる”デメリットが課せられている。
◇
アバター名:ミカ
本名:加藤美希
メインジョブ:【戦棍姫】
サブジョブ:【剛戦棍士】【戦棍鬼】【戦士】【戦棍士】【壊屋】【鎧戦士】【斥候】
<エンブリオ>:【激災棍 ギガース】
本作の主人公その二、通称・妹。現在小学五年生。
性格は明るく天真爛漫……に普段は振る舞っているが、半分くらいはワザとそういう風に見える様にしており、内心は結構ナイーブ。
生まれつき異常な直感を持った天災児。その直感には二種類あり直近の危険を感知する“近い勘”と、いずれ起こる危険に備えさせる“遠い勘”がある。某管理AI曰く『【
両親が事故で死んだ時に“直感でその事が分かっていたのに防げなかった”事がトラウマになっており、今はある程度割り切っているが内心では自身の直感を疎ましく思っている。
デンドロでのプレイスタイルは“遊戯派よりの世界派”。これはデンドロ世界に入れ込み過ぎない様に一線を引く様にしているからである。
戦闘スタイルは直感によって攻撃を先読みし、ステータスと<エンブリオ>のスキルを用いてごり押すのが主体。戦闘技能自体はそこまで高くないが、直感でほぼ全ての攻撃に対処出来るのでそこまで問題にはなっていない。
デンドロをやっているうちに直感の精度は上がっており、その事などから『この世界でなら自分の直感について何かが分かるかもしれない…………それでなくてもこの力に納得が行くようになるかもしれない』と思っている。
名称:【激災棍 ギガース】
TYPE:エルダーアームズ
能力特性:高ステータス・スキル効果減衰
到達形態:Ⅴ
固有スキル:《バーリアブレイカー》
必殺スキル:《
備考:ミカの<エンブリオ>
モチーフはギリシャ神話において神々と戦った巨人を指す言葉“ギガース”
約二メートルの両手持ち大型メイスの<エンブリオ>。スキルが少ない代わりに武器性能・ステータス補正が高い。
能力特性は“高ステータス”と“スキル効果減衰”、これは妹の『自身ではどうしようもない災いを退ける力が欲しい』願望が反映された結果、災いを退ける
また、妹の『力が欲しい』という願望からステータス補正が非常に高くなっており、リソースの関係で現在はスキル効果減衰が防御系のみに限定されている。
《バーリアブレイカー》は攻撃時に対象の防御スキル効果・身代わり効果・ENDバフ効果を減衰させるパッシブスキル。【ギガース】さえ装備していれば自身のあらゆる攻撃に適応される。効果の強度はスキルのレベルと攻撃時の攻撃力に比例する。第五形態現在スキルレベルは五。
必殺スキル《神砕刑崩》は装備・スキル効果を除く最大HPの半分をSTRに、四分の一話ENDとAGIに加算する自己強化スキル。発動する場合【ギガース】を装備していて、戦っている相手の総リソースが自身のジョブ・<エンブリオ>の総リソースを上回っている必要がある。また維持コストとして秒間1%ずつ最大HPが削られていき、途中解除も不可能。更に効果発動中は身体に少しずつヒビが入っていき、その部分にダメージを受けると【出血】状態になる。そして効果が終了して最大HPがゼロになったら肉体が砕け散るので蘇生なども出来ず、そうして死亡した時のデスペナルティのログイン制限時間が三倍の七十二時間になる。
◇
アバター名:ミュウ
本名:加藤祐美
メインジョブ:【武闘姫】
サブジョブ:【武闘家】【拳聖】【拳士】【格闘家】【蹴士】【蹴拳士】【護身術家】【魔拳士】
<エンブリオ>:【支援妖精 フェアリー】
少し遅れてデンドロを始めた兄妹の従妹、通称・末妹。現在小学二年生。『なのです』が口癖。
性格は明るく真面目で兄妹の事が大好きで、その分二人に構ってもらいたい寂しがりなところもある。デンドロを始めたのも兄妹と一緒に居たかった為で、両親に「デンドロ内では兄妹と一緒にいる事」と言われた事もあって常に兄妹と一緒にいる。
格闘技に関しての才能は規格外に域にある天災児で、一度見た体術を完全に模倣するなども出来る。趣味で空手をやっており、その才能もあって大会で優勝するぐらいの実力はあるが、本人にとって格闘技は趣味の一つに過ぎないので、それだけに打ち込んでいる天災児と比べると実力は劣る。
デンドロでのプレイスタイルは兄妹に合わせて“遊戯派よりの世界派”で、ゲームより現実を優先している。
戦闘スタイルは格闘技の技術を活かした前衛で、自身の<エンブリオ>であるフェイからのバフを受けて戦うスタイル。その特性上武器を持てない上に必殺スキルも直接戦闘能力が大きく上昇する訳では無いので、火力が不足しがちなのが悩みの種。
名称:【支援妖精 フェアリー】
TYPE:ガーディアン
能力特性:支援・魔法ラーニング
到達形態:Ⅴ
保有スキル:《エール・トゥ・ザ・ブレッシング》《マジカル・ラーニング》《エコー・オブ・トゥワイス》《ミラクル・ミキシング》
必殺スキル:【
備考:ミュウの<エンブリオ>
モチーフは西洋の神話や伝説に登場する超自然的存在の総称“フェアリー”
大きさ三十センチぐらいの四足歩行の生物型ガードナーで、末妹曰く『プリキ○アに出てきそうな妖精みたいな外見』とのこと。また性別は女性で、喋る事も出来て一人称は『ぼく』、末妹からは“フェイ”という愛称を付けられており普段はそう呼ばれている。
能力特性は<マスター>への支援で、主に後方から魔法やスキルによる援護を行う。その為ステータスはMPに特化しており、HPはギリギリ千ぐらいで、AGIは二千弱あるがENDはその十分の一でSTRは百前後。
《エール・トゥ・ザ・ブレッシング》はマスターへのバフを行うパッシブスキルであり、レベル五の今はSTR・END・AGIを30%上昇させ、魔法系の被ダメージを30%減少させる。効果の発動にはマスターの両手が非装備状態である事と、自身とマスターが一定の距離以内にいる必要がある。
《マジカル・ラーニング》は発動を目撃した魔法系スキルを1%の確率でラーニングするパッシブスキル。だが、覚えた魔法スキルのレベルは全て一になる上、リソースの関係でスキルレベルが上がる速度は遅い(ラーニングした魔法が多くなる程レベルの上昇速度は下がる)
《エコー・オブ・トゥワイス》は自身に掛かっているバフの効果を倍にするアクティブスキル。効果時間は最大五分間で、効果終了後に自身に掛かっているアクティブのバフ効果は全てキャンセルされる。クールタイムは一時間で、マスターの両手が非装備状態である事が発動条件になっている。
《ミラクル・ミキシング》は<エンブリオ>がラーニングした攻撃魔法一つを<マスター>が習得している格闘系アクティブスキル一つに付与・融合させるアクティブスキル。発動条件は<マスター>の両手が非装備状態である事と、両者が接触又は融合状態である事。このスキル自体のクールタイムは十分間で付与出来る時間は三十秒間。付与した魔法スキルと付与された格闘スキルは使用後又は交換時間終了後に二十四時間使用不可能になる。
必殺スキル《我等が成るは光の使者》は<エンブリオ>と<マスター>の融合スキルで、互いのステータスは合計されてスキルもお互いのものが全て使える様になる。自身のステータスが低いので融合してもステータスはあまり高くならないが、融合している間は自身に掛かっているバフ効果をパーティー全体に適応させる事が出来る。その為ガードナーの融合スキルでありながらパーティー戦闘で真価を発揮する。発動時にはマスターの両手が非装備状態であり、自身とマスターが接触している必要がある。効果時間は最大五分間で、クールタイムは二十四時間。また融合中は自身とマスターの意識が別々に存在しており、それぞれ独自にスキルを使う事も出来る。
これらのスキルにおけるバフ効果とは、ステータスを上昇させるものだけでなく、属性付与や持続回復効果など自身に掛かっているプラスのスキルの効果全般を指す。
設置が多くなって来たので(特に兄のジョブ)分かりやすい様にまとめてみました。
他のオリキャラのステータスは時間が出来た頃に作成します。
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登場人物・<エンブリオ>紹介:オリ<マスター>編
※今後の本作の更新次第で、ここのステータスは随時追記・修正していきます。
アバター名:エルザ・ウインドベル
メインジョブ:【高位飼育者】
サブジョブ:【高位従魔師】【従魔師】【飼育者】【調教師】【獣医】【従魔指揮官】【騎乗従魔師】
<エンブリオ>:【代行神騎 ワルキューレ】
兄妹と同じデンドロ初日組で、何も分からないままジョブにも就かずに外を歩き回っていたところをモンスターに襲われ、そこに駆けつけた兄妹に助けられた。その後に色々あって兄妹とはフレンドになった。
性格は真面目だが、やや天然なところも。初日に助けられた事で兄妹には憧憬の感情を抱いている。
ファンタジー物の話が好きで、デンドロでは自分も物語の主人公の様にカッコよく戦いたいと思っていたが、運動神経が壊滅的だったので諦めた。また彼女の<エンブリオ>【ワルキューレ】はその事を自覚した後に生まれたので、彼女の代わりにジョブに就いて戦闘を行うガードナーになった。
実は天然物の《審獣眼》持ちで、指揮官としても優秀でありテイマーとしての才能はかなりのもの。戦いでは<エンブリオ>の特性上自身の戦闘力は皆無な為、直接戦闘は【ワルキューレ】やテイムモンスターに任せて後方支援と指揮に徹している。
ジョブ構成は【従魔師】系統特化型。今は【
リアルラックは高く物欲センサーも克服しており、その為ドロップアイテムでお金を稼ぐのは得意だが、テイムモンスターが割と大食らいで食費がかかるので金策には苦労している。
名称:ヴェルフ
種族:【スカウト・デミドラグウルフ】
エルザのテイムモンスターその一。性別は雄で性格は真面目。進化前は【ティール・ウルフ】で、彼女が【従魔師】としてテイムモンスターを手に入れ様と決意して、その為に従魔師ギルドに行った際に出会ってピンと来たので購入した。
【亜竜斥候狼】はAGI特化のモンスターで、総合的なステータスは他の亜竜級の狼型モンスターと比べればやや低い。だが斥候狼の名の通り《危険察知》《殺気感知》《嗅覚索敵》などの索敵・感知系スキルを高レベルで取得している。その為彼女のパーティー内では索敵と遊撃を担当している。
名称:ウォズ
種族:【テンペスト・デミドラグイーグル】
エルザのテイムモンスターその二。性別は雄で性格は鳥系モンスターには珍しく実直。進化前は【ウインド・イーグル】で、彼女が王都の郊外で狩りをしている際に出会い、ピンと来たのでテイムした。
【亜竜嵐鷲】は風属性のスキルを使うAGI型のモンスターで、他の亜竜級の鳥モンスターと比べると大きさは小さいがその分小回りが効く。その為彼女のパーティー内では高空からの周辺警戒と風属性スキルによる攻撃を担当している。
同時期にテイムされたヴェルフとは仲が良く、役割が被っている事もあってお互いに上手く連携している。
名称:アーシー
種族:【アース・エレメンタル】
エルザのテイムモンスターその三。性別は雌で性格は甘えん坊。元々は王国とレジェンダリアの国境付近で生まれたエレメンタルで、すぐにその近くに突然強力なモンスターが現れた所為で住処を追われて王都近辺まで逃げて来た。その際にエルザに見つかってピンと来たので保護され、そのまま彼女に懐いてテイムされた。
【アース・エレメンタル】は地属性魔法全般を使う事が出来る高位エレメンタルであり純竜級のモンスターだが、アーシーは生まれたばかりでレベルが低かったので、テイムされた当初は亜竜級ぐらいのステータスしか無かった。今はレベルが上がったお陰で純竜級のステータスになっている。
戦闘時には基本的にエルザの側で後方支援と彼女の護衛を担当している。地属性魔法は殆どの種類が使えるが、一番得意なのはゴーレムの作成と操作などの個体操作系。また最近重力属性の魔法も習得した。
名称:セレナ
種族:【シャイン・ドラゴン】
エルザのテイムモンスターその四。性別は雌で性格は勝ち気で誇り高い。何処からか迷い込んで来た【ドラグワーム】に敗れ逃げている時にエルザと出会い救われた際、彼女を自身の主人と認めてテイムされた。
【シャイン・デミドラゴン】は光属性の天竜種であり、総合的に高いステータスを持つバランス型。光属性ブレスによる砲撃に加え、五体を使った肉弾戦もこなす。
戦闘時にはブレスや肉弾戦によるアタッカー。また、エルザを乗せて空を飛ぶ移動手段としても活躍している。
名称:サフィア
種族:【サファイア・バリアカーバンクル】
エルザのテイムモンスターその五。性別は雌で性格は臆病だが優しい。とある<UBM>に住処を追われて王国中を彷徨っていた時にエルザと遭遇し、戦闘の結果敗北してその後の交渉の結果仲間になった。
小型だがMP、END、AGIに長けた亜竜級モンスターで、水属性と結界の魔法を得意とする。戦闘時にはそれらの魔法で、エルザの護衛とパーティーのサポートを担当している。
名称:【代行神騎 ワルキューレ】
TYPE:レギオン
能力特性:代行
到達形態:Ⅳ
保有スキル:《
必殺スキル:《
備考:
モチーフは北欧神話の戦乙女“ワルキューレ”。種族は天使で、女性の人型ガードナー。人型<エンブリオ>特有の食癖は“マスターが食べているものと同じものしか食べない”。
【ワルキューレ】の初期ステータスはHP 100、MP・SPが 50、STR・END・AGI・DEX・LUCが30ぐらいで、到達形態が上がっても変わらない。レギオンの<エンブリオ>の為、第四形態時には四人の【ワルキューレ】がいる。
《代行者》により非人型範疇生物でありながらジョブに就くことが出来る。就けるジョブ数は【ワルキューレ】一人につき下級職六つ、上級職二つの合計500レベルまで。【ワルキューレ】が就けるジョブはマスターと同じだが、システム上<エンブリオ>が満たした条件はマスターが満たしたものとして扱うので特に問題にはなっていない。また、マスターと各【ワルキューレ】が同じジョブに就く事が出来なくなるデメリットがある。就けるジョブは下級職六つ・上級職二つで超級職には就くことは出来ない。
《主の加護》はマスターのステータス補正を0にする代わりに【ワルキューレ】にステータス補正を与えるスキル。第四形態時には合計500%の補正を10%刻みで、各ステータスにつき10%〜200%の割合で割り振る事が出来る。一度補正の割り振りを確定した場合には七十二時間再変更は不可。
必殺スキル《神軍騎行・合一戦姫》は【ワルキューレ】一人につき自身にテイムモンスター一体を融合させるスキル。融合時にはそれぞれのステータスが合計され、スキルも覚えている両者のものが全て使える様になる。誰と誰を融合させるのかを事前に決めた上で、スキルの発動には融合させる【ワルキューレ】一人につき五秒のチャージ時間が必要。スキルの最大持続時間は『マスターの合計レベル×10秒を融合させた【ワルキューレ】数で割ったもの』であり途中解除も可能。クールタイムは必殺スキルの使用時間の十倍に融合させた【ワルキューレ】の数を掛けた時間になる。また、チャージ時間中にマスターが攻撃を受けるとスキルが失敗する事と、チャージ開始から効果終了までマスターは一切の戦闘行動と他のアクティブスキルの使用が不可能になるデメリットがあり、スキルを使用出来るのは戦闘時のみになっている。
愛称:アリア
メインジョブ:【剣聖】
サブジョブ:【剛剣士】【剣士】【戦士】【双剣士】【大剣士】【騎兵】【斥候】
一人目の【ワルキューレ】であり長女。髪型は金髪のロングストレート(彼女達【ワルキューレ】の外見は髪型以外は同じ)で性格は真面目なマスター第一主義だが褒められると調子に乗る事も。エルザのテイムモンスターと【ワルキューレ】中ではリーダー役でもある。
戦闘では剣を使った前衛アタッカーであり、ステータス補正もSTR・AGIに極振りして残りはSPという感じ。
最近では二刀流も使い始めた。
愛称:セリカ
メインジョブ:【司教】
サブジョブ:【高位祓魔師】【司祭】【祓魔師】【僧兵】【巡礼者】【解呪師】【防護術師】
二人目の【ワルキューレ】で次女。髪型は銀髪のツインテールで性格は温和でおおらか。パーティー内ではサブリーダー役。
戦闘では主に回復と後方支援を担当しており、ステータス補正はMPに極振りして残りはAGIやHPなどに振っている。
結構個性的な各パーティーメンバーの調整役も担当している。
愛称:トリム
メインジョブ:【守護者】
サブジョブ:【盾巨人】【騎士】【盾士】【鎧戦士】【盾騎士】【鎧騎士】【冒険家】
三人目の【ワルキューレ】で三女。髪型は青髪のポニーテールで性格は明るい元気っ子。
戦闘では主に前衛での壁役で、ステータス補正はEND・HPに極振りで残りはSTRやAGIという感じ。
資金の都合上、高性能な防具が買いづらいのが少し不満。
愛称:フィーネ
メインジョブ:【紅蓮術師】
サブジョブ:【白氷術師】【魔術師】【付与術師】【呪術師】【魔導師】【助祭】【生贄】
四人目の【ワルキューレ】で四女。髪型は緑髪のショートカットで性格は大人しめで物静か。
戦闘では主に後衛の魔法火力役で、ステータス補正はMPに極振り。
ジョブ構成は“【生贄】MP特化理論”にした。
愛称:リーファ
メインジョブ:【弓聖】
サブジョブ:【弓手】【狩人】【盗賊】【罠師】
五人目の【ワルキューレ】で五女。髪型へ黒髪のサイドテールで陽気な性格。
戦闘では弓による後方支援と索敵を担当するサポート型で、ステータス補正はAGIとDEXに降っている。
罠への対処などヴェルフに出来ない分野を担当予定で、ジョブビルドを模索中。
◇
アバター名:ターニャ・メリアム
メインジョブ:【紡績職人】
サブジョブ:【高位裁縫職人】【裁縫職人】【紡績師】【服飾職人】【機織職人】【染織職人】【躁糸師】
<エンブリオ>:【天糸紡蚕 クロートー】
エルザのリアルの友人で、彼女と同時期にデンドロを始めた。今はクラン<プロデュース・ビルド>の一員として、主に衣服などの布製品の生産を行なっている。
散財癖があり賭け事とかも好きで、現実では自重している分デンドロ内ではよく金欠になっている。だが、基本的に自分のお金を使っている為クランのメンバーには迷惑を掛けたりはしてしない(彼女の提案で新しい生産に取り組んだりして失敗してクランが金欠になる事はあるが、それはちゃんとクランメンバーの同意の上でやっている)
クランの事は大切に思っており、その宣伝の為に<DIN>に依頼したり、掲示板に書き込んだりもしている。
名称:【天糸紡蚕 クロートー】
TYPE:ガードナー
能力特性:製糸・捕縛
到達形態:Ⅳ
保有スキル:《天糸紡ぎ》《運命の縦糸》《運命の横糸》《天命紡績》
備考:
モチーフはギリシャ神話の運命の三女神の一人「紡ぐ者」を意味する名前の“クロートー”。
全長一メートル程の蚕型ガードナーで、ステータスはMP・SP・DEXに特化しており、直接戦闘は苦手。
《天糸紡ぎ》は素材を捕食する事で、その素材と同じ性質を持つ繊維を生産出来るスキル。一度に生産出来る繊維の量は捕食した素材のリソース量で決定する。糸を紡ぐ作業はマスターとの共同作業なので【紡績師】系統のジョブスキルの効果も乗る。また、使用する素材に応じてMPまたはSPを消費する。
《運命の縦糸》は巻きついた相手に【拘束】の状態異常を与える白い糸を吐くスキル。相手にキチンと巻き付けなければ効果は無いが、その分状態異常の強度は高い。SP消費。
《運命の横糸》は触れた敵に一定確率で【呪縛】の状態異常を与える黒い糸を吐くスキル。この糸は非実態なので味方を擦り抜けた敵のみに当てる事が出来るが、その分状態異常の強度は低め。MP消費。
《天命紡績》は《天糸紡ぎ》で作った繊維での生産成功率及び生産物の性能を上昇させるパッシブスキル。この効果はマスターが行う生産活動にのみ適応される。
◇
アバター名:エドワード
メインジョブ:【高位冶金錬金術師】
サブジョブ:【鉄鋼術師】【冶金錬金術師】【錬金術師】【付与術師】【刻印術師】【魔術師】【商人】
<エンブリオ>:【幻想冶金 オレイカルコス】
兄の大学の同期生で、クラン<プロデュース・ビルド>のクランオーナーを務めている。主に金属素材の加工・生産を行なっている。
他の二人が性格的にクランの経営などに向いていないので、それらを一手に引き受けている苦労人(その為に【商人】のジョブを取ったりしていた)
<マスター杯>以降は、兄が自身の装備品について聞かれた時に<プロデュース・ビルド>の宣伝を行なったのでそれなりに客が増えた。それによりクラン経営も軌道に乗って来たので、今は新しいクランメンバーを探している。
【幻想冶金 オレイカルコス】
TYPE:テリトリー
能力特性:非金属の金属化
到達形態:Ⅳ
保有スキル:《メタル・トランスレイト》《ファンタジー・メタル・ワーキング》
備考:
モチーフは神話や伝承に登場する金属の名称の一つ“オレイカルコス”。
《メタル・トランスレイト》は周辺の任意の非金属を、性質はそのままに金属化させるスキルで、生物に使用した場合は【金属化】の特殊状態異常となる。成功確率は自身と対象の能力差によって変動する。金属化した場合には基本的に強度は上昇するので金属操作・破壊系の魔法を使ったり、【金属化】が手足の先から進行する事を利用して途中で金属化を止めて動きを封じるなどの手段を取っている。クールタイムは短めで使用にはMPを消費し、消費するMPに応じて効果の強度が変動する。
《ファンタジー・メタル・ワーキング》は自身が所有している非生物・非金属のアイテムを、一定確率で性質はそのままに金属アイテムに変えるスキル。成功確率は自身の能力と効果対象の性能で決定し、失敗した場合にはその素材にスキルを再使用する事が不可能になる。クールタイムは一時間でMPを消費する。
◇
アバター名:ゲンジ
メインジョブ:【彫金職人】
サブジョブ:【高位鍛冶師】【鍛冶師】【装飾師】【彫金師】【細工師】【金工職人】【戦鎚士】
<エンブリオ>:【改訂工房 ヘパイストス】
クラン<プロデュース・ビルド>のメンバーで、主に金属製の武器や防具・アクセサリーの生産を行なっている。大雑把な性格ではあるが、生産は丁寧に行なっている。
時折、意見が対立するターニャとエドワードを仲裁する事あり、クラン名も彼が決めかねている二人を見かねて自身の<エンブリオ>のスキル名から即断で決めた。ちなみにそれで文句が出なかったのは、二人も彼の<エンブリオ>には非常に世話になっているから。
【改訂工房 ヘパイストス】
TYPE:キャッスル・ルール
能力特性:生産スキル効果強化・生産物効果改竄
到達形態:Ⅳ
保有スキル:《プロダクション・エンハンスメント》《プロダクト・リビルド》
備考:
モチーフはギリシャ神話の鍛冶の神“ヘパイストス”。工房型の<エンブリオ>。
《プロダクション・エンハンスメント》は工房内で発動した生産系アクティブスキル効果欄の数字表記を三倍加させるスキル。このスキルは<エンブリオ>内でのマスター自身、およびマスターとパーティーを組んでいる人間の生産スキル効果が発揮される。また、三倍化するのはそれにより効果がプラスになる部分のみ。
《プロダクト・リビルド》は自身、および自身とパーティーを組んでいる人間が工房内で作った生産物の効果を、そのリソースの範囲内で変更するスキル。具体的には装備スキルを削除して装備補正を強化したり、その逆に装備補正を弱化して装備スキルを強化したり、さらには装備制限を追加して装備性能を上昇させるなどの事が出来る。この効果が使えるアイテムは工房内で作ってから外に出ておらず、作ってから二十四時間経過していない物に限る。クールタイムは二十四時間。
◇
アバター名:日向葵
メインジョブ【魔拳聖】
サブジョブ:【魔拳士】【拳士】【魔術師】【司祭】
<エンブリオ>:【日天鎧皮 カルナ】
<月世の会>メンバーで、末妹とは趣味を同じくする同士でありフレンド。
先天性のアルビノで対策無しでは太陽の下を歩く事が出来ず、“一度は太陽の光を浴びてみたい”と思いデンドロを始めた。また、リアルでは病弱なのでよく通院しており、その病院が<月世の会>と繋がりがあった事や、現実の住所が<月世の会>本部の近所だったのでクランオーナーとは顔見知りだった事などがきっかけで<月世の会>に入信した。オーナーとは歳の離れた友人みたいな関係。
クラン内では戦闘班に所属しており、<エンブリオ>のスキルを活かして近接戦で大出力の火属性攻撃を使って戦う。ちなみに【司祭】を取っているのは“オーナーの超級職転職に必要なので”と頼まれたから。とはいえ、半分は魔法系ビルドなのでそこまで困ってはいない。
【日天鎧皮 カルナ】
TYPE:アームズ
能力特性:光熱吸収&蓄積
到達形態:Ⅳ
保有スキル:《
必殺スキル:《
モチーフはインドの叙事詩『マハーバーラタ』に登場する皮膚と癒着した黄金の鎧を持って生まれてきた英雄“カルナ”
全身の皮膚を置換した人工皮膚型の<エンブリオ>で、装備枠はアクセサリー枠を一つ消費。副次効果として通常の皮膚よりは強靭なので、若干防御力も上昇している。また、<エンブリオ>なので回復魔法などでは治せないが、その分自己修復能力は高い。
《日天吸蓄》は自身へに光・熱エネルギーによるダメージを吸収し、蓄積したエネルギーを使ってMP・SPを使うスキルを使用出来る様になるパッシブスキル。一度に吸収出来るエネルギーの量には限度があり、吸収しきれなかった分のダメージは受けてしまう。保有スキルが一つだけであり、<エンブリオ>のリソースをその一点に集中しているので、エネルギーの貯蓄量や最大吸収量は非常に多い(第四形態現在で《クリムゾン・スフィア》クラスの威力なら問題無く吸収出来て、貯蓄量は満杯になった事が無いので自分でもよく分かっていない)
必殺スキル《
他のオリキャラ(ティアンとか)のステータスは時間が出来たら投稿します。
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プロローグ:とあるゲームを買った日
□2043年7月15日
俺の名前は加藤蓮、しがない大学生である。今日は小学生の妹の
…………そしてそこで、美希が
「<Infinite Dendrogram>? それって確か、今日発売とか言っていきなり発表されたVRMMOだよな?」
「うん。なんでも“五感を完全に再現する”とか、“ゲーム内では現実の三倍の速度で時が進む”とか言うやつみたいだよ」
他にも“単一サーバーで億人単位の同時プレイ可能”とか“現実視、3DCG、2Dアニメーションの中から視点選択可能”とかも言ってたな。
そんで、キャッチコピーは『あなただけの
…………だが……。
「…………正直言って本当に実現可能なのか疑問だな。俺はVRに詳しい訳じゃないが、現在の技術を遥かに超越していると思うし。…………というか、それって地雷ゲーじゃね?」
「まあ、確かに今まで発売されたVRゲームは、どれもあんまり評判が良くなかったしねー。…………でも」
そう言った美希は、どこか遠くを見るような目をしていた……。
「私の“近い勘”だと危険なものではないみたいだし、何より“遠い勘”の方がこのゲームに反応しているんだよね……」
「…………それは、このゲームをやらないと俺達に危険が及ぶとかか?」
「そういうのじゃないんだけど……。この<Infinite Dendrogram>の事を聞いた時から、
「いきなり、ゲームを買いにいこうと言い出したのはその為か……」
…………美希の
「分かった、じゃあこのゲームを買おうか。…………まあ最初期の頃ならともかく、今のVRゲームは健康に害が出るような事はないようだし。…………それに何より一台一万円だからな」
「おサイフに優しいゲームだね。維持費も安いみたいだし、MMO初心者の私達でも安心だね!」
…………まあ、これだけ荒唐無稽な宣伝をしておいて一台一万円とか、地雷ゲーだろうがそうじゃ無かろうが明らかに“何かあります”って感じのヤツな気もするんだが。
一応、美希が“危険は無い”と言っているのだから、
「それじゃあ<Infinite Dendrogram>を買ってくるぞ。…………金は、取り敢えず俺が払っておくよ」
「お願いね〜」
ああそうだ、
…………そうこうして、俺達はVRMMO<Infinite Dendrogram>を手に入れたのだった。
◇
一通り買う物を買って家に帰ってきた俺達は、早速<Infinite Dendrogram>のパッケージを開けて中身を確認していた。
「ほーん、このヘッドギアがハードみたいだね。…………意外とシンプルなデザインだね」
「一応説明書も入っているな。どれどれ……」
…………えぇーっと、説明書の内容はっと……。
「ふむふむ…………基本的にはジョブシステム製のよくあるMMOって感じかね?」
「それより、目玉はこの<エンブリオ>ってやつじゃない? 何でも、プレイヤー個人のオンリーワンなアイテムやら能力みたいだけど。…………あと、最初に所属する国家は七つから選べるみたいだね」
…………どうも、この説明書には本当に最低限の用語しか書かれていないみたいだな。詳しくは実際にプレイしてみましょうって感じなのかね。
「取り敢えず、詳しい情報はログインしてからゲーム内で確認しよう。…………まずは、最初に所属する国家を決めようか」
「騎士の国『アルター王国』、刃の国『天地』、武仙の国『黄河帝国』、機械の国『ドライフ皇国』、商業都市群『カルディナ」、海上国家『グランバロア』、妖精郷『レジェンダリア』の七つか…………出来れば一緒にプレイしたいから、同じ国にしようよ!」
そんな感じで、話し合う事しばらく……。
「とりあえず、所属する国家は『アルター王国』にするか。…………後、俺のアバター名はレントで」
「じゃあ私はミカで。…………と言うか、いつもゲームをする時に使っている名前だけどね」
と、言うわけで俺達は最初に所属する国家を『アルター王国』に決めたのだった…………先日までやっていたゲームがSF系だったから、次は正統派ファンタジーものにしよう! と言う美希からの提案で安直に決めただけだがな。
「じゃあ、早速部屋に戻ってやってみようか。…………後の事はプレイして見てから考えよう」
「そうだね」
こうして俺達は<Infinite Dendrogram>を始める事になったのだった。
◇◇◇
□ 加藤 美希
「はーい、ようこそいらっしゃいましたー。初日からプレイしてくれてありがとうねー」
あれからヘッドギアをつけてベッドに横になってから<Infinite Dendrogram>を起動した私は、気がついたら木造洋館の書斎を思わせる部屋にいました。
そして、目の前には一匹の猫が作りの良さそうな木製の揺り椅子に座っていた…………どうやら、私に話掛けてきたのはあの猫? 見たいだね。
「えーと……お邪魔します?」
「うん、いいねー。礼儀正しい人は好きだよー」
…………さて、とりあえず
「あなたはどちら様?」
「あ、僕は<Infinite Dendrogram>の管理AIのチェシャだよー。よろしくねー。あと、ここはゲームの設定をする場所だからー。ここで色々と決めて貰ってから入る事になってるんだー」
確か管理AIって言うのは、現行のスーパーコンピュータを使った人口知性……だったかな? 私もこういう事は詳しい訳じゃないんだけどね。
…………さて、それじゃあちょっと聞いてみようかな。
「じゃあチェシャさん、ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「なにかなー?」
「
「……それはどういう意味かなー?」
私が放ったその質問を聞いたチェシャさんは、少しだけ怪訝そうな雰囲気を浮かべて聞き返してきた…………なので、私はここに入ってから感じた違和感について話す事にした。
…………そうした方がいい気がしたからね。
「私は生まれつき危険に対しての勘が働くんだけど、ここに来てからずっと妙な感じがするんだよね。…………そもそも私の勘は危険を感知するものだから、危険の無いゲームではまず働かないし」
だから、現実の私に危険の無いゲームにおいてはこの直感はまず働かない筈なんだけどね…………直感のお陰か私は普通の先読みも得意だから、お兄ちゃんとの対戦ゲームでも結構な勝率を誇るけど。
…………まあ、私もこの直感について完全に解っている訳じゃないんだけど……。
「…………危険を感知する直感、それはまるで……。おっと、じゃあお答えするよー」
そして、私の質問を聞いたチェシャさんは少し思案している様だったが、直ぐに思考を終わらせて私の質問に答えてくれました。
「とりあえず、これだけは言っておくねー。…………この<Infinite Dendrogram>において現実の人間に危害や危険が及ぶ事は絶対にないよ。実はログアウト不可のデスゲームとかでもないし、その辺りは僕達管理AIの誇りにかけて保証するよ。この<Infinite Dendrogram>は君達にとっては最初から最後までただのゲームだからね。…………あ、でも、ゲーム内で経験した事によって起きる精神的なストレスとかは別だからー。ゲーム内で何を感じるのかは君達の自由だからねー」
成る程、とりあえずチェシャさんの言葉には嘘は無いと思うし、その言葉からは彼等なりの誠意を感じるかな…………直感に違和感はあったけど私の命に関わる危険は感じないしね。
…………じゃあ、ここにしようかな?
「分かったよ、ありがとうねチェシャさん。…………それじゃあ設定をしていこうかな?」
「はーい。じゃあまずは描画選択ねー」
それから私は各種設定をこなしていった…………とりあえず視界は現実視、プレイヤーネームは事前に決めていた通りミカで。
後、容姿は現実をベースにいじる事も出来るとチェシャさんが言ってくれたので、現実の私を中学生ぐらいに成長させた上で髪の色を銀に、目の色を赤にして、少しだけ顔付きを変えておこうかな?
「こんな感じでいいかな?」
「オッケー。じゃあ次は一般配布のアイテムを渡すよー」
そしてチェシャさんから配布アイテムのアイテムボックスを貰い、初心者装備として適当な洋服と初期装備の棍棒を貰った…………ちなみに棍棒の形状は某国民的RPGに出て来る『こんぼう』みたいな感じである。まあ『ひのきのぼう』よりはマシでしょう。
…………あ、後は路銀として五千リル(リルはこのゲームでの通貨単位で一リルおよそ10円ぐらいらしい)を貰ったよ。
「さて、じゃあいよいよこのゲーム最大の見どころである<エンブリオ>を移植するねー」
「おー」
そして、私は一通りの説明を受けた後に<エンブリオ>を移植して貰った…………第ゼロ形態だと左手にくっついている卵型だけど、孵化したら外れて紋章の刺青になるらしい。
…………どんなのが産まれるのかな?
「じゃあ最後に所属する国家を選択してくださいねー」
そう言ったチェシャさんが机の上に地図を広げると、その地図の七箇所から光の柱が起ち上ってその中に各国の様子が映し出された。
…………正直、説明書で見たときよりも目移りしてしまったけど……。
「アルター王国でお願い」
「オッケー。ちなみに軽いアンケートだけど選んだ理由はー?」
「以前までやっていたゲームがSFものだったから、今度は正統派ファンタジーものをやってみようと現実で兄と相談して決めてからだよ」
「そうなんだー」
ちなみに、後で所属国家を変更出来るイベントもあるらしいね。
「それじゃあアルター王国の王都アルテアに飛ばすよー」
「あ、最後に一つだけ。…………このゲームに何か目的とかってあるのかな?」
…………この世界でなら
「何でもー」
「何でも?」
そう思って聞いたらチェシャさんがあっさり返して来たので、つい聞き返してしまったよ。
…………そして、チェシャさんは口調を真剣なものに変えてこう続けました。
「だから、何でもー。英雄になるのも魔王になるのも、王になるのも奴隷になるのも、善人になるのも悪人になるのも、何かするのも何をしないのも、<Infinite Dendrogram>に居ても、<Infinite Dendrogram>を去っても、何でも自由だよ。出来るなら何をしたっていい」
…………その言葉はまるで何かを語りかけている様で……。
「君の左手にある<エンブリオ>と同じ。これから始まるのは無限の可能性。…………<Infinite Dendrogram>へようこそ。“僕ら”は君の来訪を歓迎する」
…………私はチェシャさんのその言葉を聞いたからこそ、この無限の可能性がある世界でなら自分の才能と向き合う事が出来ると思える様になったのでした。
最も、いきなり遥か上空からダイブさせられたのには色々と文句があったけど……。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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2043年7月15日
ログイン・<アルター王国>
※妹の身長を165cmから160cmに変更しました。
※1/2 文章を大幅に追加しました。
□アルター王国・王都アルテア南門前 レント
「青い空、白い雲、目の前にはまさにファンタジーな都市、そしてこれらの光景が現実と変わらないように見えるクオリティ、まさか
なんというか盛大な大言壮語をぶち上げて発売されたゲーム<Infinite Dendrogram>、正直言ってネタゲー枠で買ったけどどうも本物くさい…………まあ、チュートリアルが終わったらいきなり上空からスカイダイビング(パラシュート無し)をやらされるとは思わなかったが……。
「三倍時間に関しては後で確認するとして……ん? 何か上から……プレイヤー?」
「にょわ〜〜〜〜〜〜」
そのどこか聞き覚えのある声につられて空を見上げると、上空から一人の少女が降ってきた。その少女は上空から勢いよく落ちてきた後に地上スレスレで急減速して地面に着地した…………俺の時も側から見ればあんな感じなのか。
「痛っ‼︎くはないけど……まさかいきなり紐なしバンジーとは思わなかったよー。って五感すごっ‼︎クオリティやばっ‼︎やっぱこれマジもんのVRMMOじゃん‼︎」
なんか物凄く
「あ〜そこの君、
と、現実での俺の
「はい? 私の名前はミカですけど……あーひょっとしてレント? てゆーかマイブラザー?」
「ああ、俺の名前はレントだよ、マイシスター」
やはり我が妹様だったらしい。流石に勘がいいな。
「また本名をもじった
「まあ、いちいち名前を考えるのも面倒だからな。それで早速合流できたけど……とりあえず目の前のファンタジーな都市に行ってみるか?」
そう言って、目の前にある城壁に囲まれて中心には白亜の居城があるファンタジーな都市を指差した。
「そーだねー
「チュートリアルでやった事はアバター作って、初期装備もらって、この<エンブリオ>を移植してもらったぐらいだからな。あ、俺の担当AIはダッチェスっていう女の人だったぞ」
そう言いつつ左手の<エンブリオ>を眺める。曰く、このゲーム最大の売りであるすべてのプレイヤーに与えられるユニークなモノ、らしいが……。
「いったいどんな<エンブリオ>が産まれるんだろ〜ねー」
「さあな? いずれ解るだろう。それよりも入り口についたぞ」
そして都市の門の前についた。いや〜間近で見るとまさに王道のザ・ファンタジーな街だなぁ。……ん? あの人は門番……かな?
俺達二人が門の前で立ち止まっていると向こうから声をかけてきた。
「おい‼︎そこの二人‼︎“ジョブ”に就いていない者がなぜ外から来た。少し話を聞かせて貰おうか」
「ジョブ……って何?」
なんか、門番っぽい人がこの世界の専門用語らしき言葉を含めながら話しかけてきた。よし、ここはこの世界の事について聞いてみよう。
「すみません、この世界に来たばかりであまりここの事をよく知らないんです。よろしければこの世界の事について教えてもらえませんか?」
「“この世界”……? ひょっとしてあんた達は<マスター>かい?」
“マスター”って何だろうか?
「マスターって何だろう? お兄ちゃん知ってる?」
「いや知らない。とりあえず話を聞いてみよう」
俺達はこの世界で初めて会った門番さん(仮)に、この世界の事について色々と聞いてみることにした。
◇
あれからしばらくの間、門番さんの話を聞いた所によると、<マスター>とは<エンブリオ>に選ばれた者のことであり、絶大な力を持つ変わりに頻繁に別の世界にその身を飛ばされてしまうとの事。更に死の瞬間にも<エンブリオ>の力で別の世界に飛ぶことで生きながらえる事ができるらしい。ただし死んで飛ばされた場合は最低三日は帰ってこないのだとか。
また“ジョブ”とはこの世界の人間が就くことが出来る職業のようなもので、就くことによってレベルを上げることができるようになって、ステータスを上げたりスキル覚えたり出来る。あと、この世界の
…………どうやら、このゲームでは俺達の様なプレイヤーをそんな風な設定でこの世界に落とし込んでいるらしい。
「ほえ〜プレイヤーの事はそんなふうに言われているのか。…………よく出来てるねお兄ちゃん」
「そうだな、死んだ時のことはデスペナのことか? …………3倍時間が本当なら24時間ログイン出来ないってところか」
俺達がそんな事を話ていると門番さんが
「ところで今後多くの<マスター>がこの世界に現れると聞いたのだが、それは本当の事なのかい?」
「あ〜それは本当の事ですね。この後たくさん来るでしょうし」
「そうか……なら君達はどうしてこの国来たんだい? そしてこの国で何をするつもりなんだい?」
おっと、ちょっと雰囲気が変わったな、これは返答には気をつけないと…………門番って事はこの国の治安維持組織に所属しているんだろうから、下手をするとこの世界の
「えーと俺たちは……「はいっ‼︎私達はこの国に遊びに来ました‼︎あと冒険とかしてみたいです‼︎」っておいっ‼︎」
ちょっマイシスター⁉︎ 今はシリアスな場面だから⁉︎ そんな率直な!
「そうか……遊びと冒険か……。じゃあ君たち<マスター>がこの国に害をなす事はあり得るかな?」
「あーそれは「私達はそんなことをするつもりはないけど、他の<マスター>の事は分かりません‼︎」ってちょっとマイシスター⁉︎」
だから今シリアス‼︎ この国の<マスター>の扱いがヤバくなるルートいってない⁉︎
「そうか……<マスター>という括りではなく、<マスター>一人一人を見て判断していかなければならない……と言う事か」
あっ、門番さんへの返答はこれでいいらしい…………流石に少し焦りすぎたな、うちのミカが
…………どうも本物のVRMMOという物を前にして思った以上に興奮していたらしい。もうちょっと落ち着こう。
「そーですね、<マスター>はこの世界では“自由”みたいですし」
「“自由”?」
ミカのその言葉に、門番さんが疑問の表情で聞き返した。
「はい、私達を
「なるほど…………そういえば……
そう、そんな事をあの女性は言っていた。するとミカが、
「だからこの国に害をなす<マスター>も出て来るかも知れませんが、この国を護ろうとする<マスター>だってきっといます」
と言った…………つまりは“自由”それがこの世界での<マスター>の在り方になるのだろう。
「ふっ……そうか……冒険がしたいなら“冒険者ギルド”がこの国にはある。この道の先に案内看板があるからその指示に従えばいい、すぐに着く。そして……ようこそアルター王国・王都アルテアへ」
「「はい、いろいろありがとうございました」」
そう言って門番さんと別れて、アルター王国・王都アルテアに入ることが出来た。
◇
「いや〜門番さんがいい人でよかったね兄さん」
「そうだな……ていうか、いきなりあんな事言いだすから驚いたぞ」
まあ、ミカのことだから何か
「んーあそこでは素直に本当の事を言ったほうが
「まあ、お前が直感で最適解を選ぶのは何時ものことなのは解ってるけどな。……今思えばあの返答が一番良かったと俺も思うが」
そう言いつつ道を行くと看板が見えて来た、ふむ……ちょっと不安だったが字は読めるな。
まあ、門番さんとも話は通じていたし翻訳機能でもあるのかな?
「さあお兄ちゃん、いざ行かん冒険者ギルド‼︎私達の冒険はここからだよ‼︎」
「なんか打ち切りの漫画みたいなセリフだな」
そんな事を言いつつ、俺達は冒険者ギルドに向かった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:アバター名『レント』
・アバター外見は身長175cmぐらいの金髪・碧眼の男性。
・本物のVRMMOに興奮して独り言が出ている。
・考えすぎて言葉が出てこないことがある。
妹:アバター名『ミカ』
・アバター外見は身長160cmぐらいの銀髪・赤眼の少女。
・本物のVRMMOに興奮してテンションが上がっている。
・基本的に直感で行動する。
チェシャ:管理AI、雑用担当
・原作のあとがきと感想返しも担当している。
・詳しくは原作を見よう‼︎
ダッチェス:管理AI、グラフィック担当
・兄のチュートリアル担当、まだ普通に喋れる。
・二日目以降は
門番さん:本名『リヒト・ローラン』
・実は門番ではなく王都警備を担っている第一騎士団の長。
・王国でも数少ない
・実力だけでは無く頭脳・人望にも優れ、国王や騎士団長からの信任も厚い。
・たまたまレベル0で王都の外をうろついていた二人に声をかけ、
・兄妹が嘘をついていなかったことで、<マスター>については今後もその在り方を見極めつつ、王国に益をもたらす者とは良い関係で
・妻と三人の娘がいる。
読了ありがとうございました。
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冒険者ギルドと初クエスト
それでは本編をどうぞ。
※1/2 文章を追加しました。
□王都アルテア・冒険者ギルド レント
「そしてやってきました! 冒険者ギルド‼︎」
「妹よ、いったい誰に話しかけているんだ?」
ヤケにテンションの高い
とりあえずマイシスター、すごく変な目で見られているから騒ぐのはやめなさい。
「さあお兄ちゃん‼︎ まずはお約束のギルド登録だよ‼︎」
「異世界転移系小説見過ぎじゃないか? とりあえずあそこにいる受付の人に話を聞いてみるぞ。あとあんまり騒ぐなよ」
と、テンションの高いミカに注意しておく。あんまり騒ぎすぎるて周りに迷惑になるからな。
「オッケー! すみませーん! この冒険者ギルドはどんなところで何が出来るんですか‼︎」
「あんまり騒ぐなっつってんだろ‼︎」
全然分かったないだろ⁉︎ ほら⁉︎ 受付の女の人ちょっと困惑しているから⁉︎
「はい、当冒険者ギルドは討伐、護衛、収集、雑事などの多岐にわたる依頼の斡旋所です。登録さえしてしまえばジョブによらずに依頼を受注できます。冒険者ギルドへの登録がお望みでしょうか?」
だが、そこは流石にプロなのか、すぐにこちらの質問に応えてくれた…………本当にうちの妹がすみません。
「はいっ‼︎ 冒険者登録お願いします!」
「は〜もういいよ……あっ、いろいろ騒がしくしてすみません、俺も登録をお願いします」
そう言って謝りつつ、ミカと一緒に俺も登録をお願いした。
「はい、かしこまりました。それではお名前をお願いします」
「俺は『レント』でこっちは妹の……」
「『ミカ』です! よろしくお願いします!」
「はい、かしこまりました、レント様とミカ様ですね……はい、登録が終わりました。それでお二人はジョブに就いていないようですが、その場合受注出来る依頼は非戦闘系の雑事となります、よろしいでしょうか」
まあ、ジョブについていないレベル0の人間に討伐や護衛の依頼がまわされるわけがないか。しかしゲームの中で非戦闘系の雑事をやるのもな〜。
「お兄ちゃん、私冒険とか戦闘とかのクエストがしたいんだけど」
「そうだな……あの、俺達今日この世界に来たばかりの<マスター>なのですが、ジョブにはどうすれば就くことができるのでしょうか?」
というか、俺達この世界の事は門番さんに聞いたことぐらいしか知らないんだよなぁ。
「<マスター>⁉︎あの伝説の⁉︎……たしかに
うん、全然知らないです。
「あっはい、ほとんど分かりません」
「そうですか……ではお二人とも一つ
「「
おや? 何か妙な話になってきたぞ? いきなりクエストとか。
「はい、私達冒険者ギルドも<マスター>についてはあまり詳しくなく、貴方たちも以前からこの国にいた<マスター>とは違うようなので、そのあたりの話を詳しく聞きたいのです。また、各種ジョブについての解説と斡旋もそこでしますし、報酬も出します」
ふむ……いきなり<マスター>なんていう異物が現れたせいで、この国のティアンもだいぶ困惑しているみたいだな。
「ねえお兄ちゃん、私この依頼は
「そうだな、俺もそう思う……わかりました、その依頼お受けします」
【クエスト【相談──アイラ・ローラン 難易度:一】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
「ありがとうございます、それでは立ち話もなんですので個室にご挨拶します、こちらへどうぞ」
そうして、俺達はこのゲームでの初めてのクエストを受けることになった。
◇
「なるほど、やはりこれからこの国に来る<マスター>は、以前からいた<マスター>とはだいぶ違うようですね」
あれから俺達と受付嬢……アイラさんは<マスター>やこの国、この世界のことについて色々なことを話し合った。さっき門番さんと話したこと以外にも、俺達の所持金や装備のことや、この世界にいられる時間、これから現れる<マスター>達のことなどをわかる限り話した。
また、彼女からはこの国やこの世界の様々な常識や物事についてのことを教えてもらった。特に以前からこの国にいた<マスター>であり、
あと、<マスター>同士の争いに関しては、他に被害が出ない限りはティアン側からはノータッチの様だ。まあ不死身の<マスター>を縛るのは難しいだろうからな。だが<マスター>が死んでからこちらの世界に戻ってくるには、セーブポイントを使う必要があるらしく、重大な犯罪を犯した<マスター>に対してはそれを使用不能にすることによって、死んでから戻ってくる場所を“監獄”という隔離された場所にすることができるという。その事についてもミカは『<マスター>専門の
「やはり<マスター>では長時間の護衛任務などは難しいようですね」
まあ、ログアウトのこととかがあるからなぁ。
「そうだねー、でも<マスター>はティアンと違ってどうせ死なないんだし、命の危険が高い依頼とかを押し付けちゃえばいいんじゃないかな〜」
何かミカが物騒な事を言い出したぞ。まあ<マスター>はどうせ死なないんだし別にいいんだが。
「オイオイ……まあ、その手の依頼でも高い報酬をチラつかせれば受ける<マスター>はいるだろうな」
「なるほど、<マスター>は不死であり、ティアンとは行動原理が違うことも考慮して依頼を斡旋する必要がありそうですね」
まあ、これ以上は俺達に出来る事はあまり無いだろうし、これからこの国に来る<マスター>が重大犯罪を犯さないことを祈るしかないかな。
「色々相談に乗っていただきありがとうございます。ではこれからジョブの紹介に移らせていただきますね。お二人は冒険がしたいとの事なので、就くのに条件のない戦闘用下級職を中心としたリストを用意しました。また報酬に関しては、選んだジョブにあった初心者用の装備をこちらから提供いたします。流石にその装備でモンスターと戦うのは難しいので……。あと一人三千リル程で初心者用の講習を受けることができます。冒険に必要な各種アイテムなども貰えるので受ける事をお勧めします」
「「こちらこそ色々ありがとうございました‼︎」」
いや〜アイラさんは超いい人だなぁ。美人だし。
さて、ジョブのリストはっと……ふむふむ……【
「ちょっ‼︎お兄ちゃん‼︎左手の<エンブリオ>が光ってるんだけど⁉︎」
「ああ! 俺もだ‼︎ひょっとして<エンブリオ>が孵化するのか⁈」
ジョブのリストを見ていると突然左手の第ゼロ形態の<エンブリオ>が輝き出したのだ…………まさか、このタイミングで同時に⁉︎
「おお〜<エンブリオ>がすごい光ってる〜〜‼︎バッ……バ○ス‼︎」
「いやそんなに光ってないからな。てか、ラピ○タや巨○兵みたいなのが出てきたらどうする」
アホな事を言っているミカは置いておこう…………さて、俺達の<エンブリオ>はいったいどんなものなのだろうか……。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:尚、祈りは届かなかった模様。
妹:サブカルは広く浅く、テンションが上がるとネットで拾ったネタが出る。
受付嬢:本名 アイラ・ローラン
・前話で登場したリヒトさんの娘さん、長女。
・美人で頭もキレる人気受付嬢。
・実は元冒険者で合計レベルは300を超えている。
・受付嬢になった理由は、とあるクエストで新人冒険者を死なせてしまったから。
・現在はその後悔をバネに冒険者を支援する名受付嬢として活躍中。
・当然《看破》《鑑定眼》《真偽判定》は取得済み。
・兄妹の報酬には少し色をつけた。
・二人から聞いた話を元に他のギルド員達と<マスター>の事について話し合い、今後のギルドの方針を考えるべきではないかと思っている。
トム・キャット:いったいナニモノなんだ……。
次回ついに兄妹の<エンブリオ>が公開‼︎
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兄妹の<エンブリオ>
それでは本編をどうぞ。
※1/28 兄のエンブリオに効果の一部を変更しました。
□王都アルテア・冒険者ギルド レント
さて<エンブリオ>とは<Infinite Dendrogram>最大の特徴であり、プレイヤーのパーソナルにより千差万別化するオンリーワンのパートナー。
そのカテゴリーはいくつかあり
プレイヤーが装備する武器や防具・道具型のTYPE:アームズ
プレイヤーを護衛するモンスター型のTYPE:ガードナー
プレイヤーが搭乗する乗り物型のTYPE:チャリオッツ
プレイヤーが居住できる建物型のTYPE:キャッスル
プレイヤーが展開する結界型のTYPE:テリトリー
これらのカテゴリー以外にもレアカテゴリーや、<エンブリオ>が進化するとなれる上位カテゴリーやオンリーワンカテゴリーもあるよby管理AI。
さて、これらの情報から俺の<エンブリオ>を見てみると……。
「ふむ……
あれから<エンブリオ>の輝きが消えた後は特に何も起きず、ただ“太陽を背負った人”のような紋章が左手に現れただけである。
「と……いうことは……「お〜〜なんか出た‼︎ お兄ちゃんこれ‼︎」ん?」
そう言われて妙にハイテンションな
「見て見てお兄ちゃん! これどう思う⁈」
「すごく大きいです……とでも言えばいいのか?」
実際、ミカの手には約二メートル程の大きさの
「ふむ、某シリーズ物ロボアニメの主人公機の中に、こんな感じの武器があった気がするな」
「ああ、ビームが無くて実弾と鈍器で戦うヤツの主役機だね。…………まあ、今の私と名前的には似てるかもしれないけど」
とまあ、大体そんな感じのデザインである。
「しかし
「うーん、不思議と重さは感じないんだよねー、片手でも持てるし、ちょっと持ってみる?」
たしかにミカは自身の<エンブリオ>を片手で持ち上げている。
「わかった……ってちょっ重い‼︎無理だこれ‼︎ 早く退けろ‼︎」
「オッケー……っと、
「解っていたんだったら俺に持たせるなよ……」
「いや〜何事も実験と考察は必要でしょ?」
ミカは特に悪びれもせずにそう言った。まったく……。
「そう思うなら、まず<エンブリオ>のステータス見ろよ……」
「そうだねー……ふむふむ……こんな感じだよ〜」
と、ステータスを操作して俺に見せてきた。
【激災棍 ギガース】
TYPE:アームズ
到達形態:Ⅰ
装備攻撃力:200
装備防御力:50
ステータス補正
HP補正:D
MP補正:G
SP補正:G
STR補正:D
END補正:E
DEX補正:G
AGI補正:D
LUC補正:G
『保有スキル』
《バーリアブレイカー》Lv1:
攻撃対象の防御系スキル効果・ENDへのバフ効果を減衰させる。
減衰効果はこのスキルのLvと攻撃する際の自身の攻撃力に比例する。
パッシブスキル。
「ふむ、<エンブリオ>の重さを軽減する効果は書いていないな」
「それは<エンブリオ>の基本的な機能なんじゃないかな〜」
「まあ、そうでなければ“<マスター>が生まれた<エンブリオ>を持てない”なんて事態になってしまうからな」
「そうそう、だからさっきのは私が悪いわけじゃないよね?」
と、ミカはニヤニヤしながら言ってきた。まあこのゲームの仕様はまだ分からない事だらけだからな。
「はあ〜〜わかったから、とりあえずそれは物騒だからしまいなさい」
「はーい」
そう言って、ミカは左手の“棍棒を肩に担いだ巨人”の紋章に<エンブリオ>をしまった。
「それじゃあ次はお兄ちゃんの<エンブリオ>の番だよね、早く見せて!」
「見せると言っても……俺の<エンブリオ>は多分テリトリーだからな……えーとステータスは……これだな」
その要望に答えて、俺も自身の<エンブリオ>のステータスを操作してミカに見せた。
【百芸万職 ルー】
TYPE:テリトリー
到達形態:Ⅰ
ステータス補正
HP補正:G
MP補正:G
SP補正:G
STR補正:G
END補正:G
DEX補正:G
AGI補正:G
LUC補正:G
『保有スキル』
《
自身が獲得する経験値を最大で+100%する。
パッシブスキル。
《
自身のHPを現在値の50%を消費し、ジョブに由来するアクティブスキル一つを強化する。
効果の強化度合は消費したHP量に比例する。
クールタイムは<Infinite Dendrogram>内時間で10分。
効果終了後、選択されたスキルは<Infinite Dendrogram>内時間で24時間使用不能状態になる。
アクティブスキル。
「お〜〜、VRMMO物小説主人公お約束の経験値ブーストチートスキルじゃないか(笑)、ルビもふってあってカッコいいね(笑笑)!」
「やめい! ……というかステータス補正が
まあ、レベルが上がりやすくなっているからこんなものなのかな?
って、アイラさん無視して喋りすぎたな…………なんかすごいこっち見てるし‼︎
「すみません!
「いえ、大丈夫です。私も<エンブリオ>が生まれるところは初めて見たので驚きました。しかし、あの【猫神】の
そう言って、アイラさんは興味深かそうに俺達の左手を見ていた。
「まあオンリーワンが<エンブリオ>のウリだからね〜」
「そうだな……ってこれ以上アイラさんを待たせるわけにもいかないからな。さっさとジョブを決めるぞ」
さて、改めてジョブのリストを見て、その中から孵化した<エンブリオ>と相性が良さそうなのを選ぶか…………よし。
「はいっ! 私は【
「俺は【
ようやく俺達は自分のジョブを決めることが出来た。
「かしこまりました、ミカさんが【戦士】、レントさんが【狩人】ですね。二つとも冒険者ギルド内のジョブクリスタルで転職出来るのでご案内します。あと初心者講習は受けて行かれますか?」
一人三千リルの初心者講習か……手持ちは五千リルだしなぁ。
「お兄ちゃん、ここは
「なるほど、お前の直感がそう言っているなら受けたほうがいいか……わかりました、受けます」
まあ、ミカの勘が外れることはまずないからな。この世界で戦うのなら戦闘のコツとかを教えてもらう事も必要だろうし。
「わかりました、それではお二人の初心者講習を始めさせていただきます。担当はこの私、アイラ・ローランです。あとクエストの報酬は講習終了後にお渡しします」
アイラさんが担当か……いったいどんな内容なのかな?
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
妹:RPGではその時一番攻撃力が高い武器を装備して“たたかう”タイプ。
兄:RPGではレベルを安全マージン以上に上げて攻略するタイプ。
【激災棍 ギガース】:妹の<エンブリオ>
・特性は“防御効果減衰”。
・モチーフはギリシア神話において巨大な樫の木や山脈を武器にして神々と戦ったという巨人を指す言葉“ギガース”。
・装備する場合は両手の装備欄が埋まる。
・スキルは<エンブリオ>で装備欄が埋まっていなければ発動しない。
・逆に装備欄さえ埋まっていれば<エンブリオ>を投げようが、素手で殴ろうが、蹴ろうが、噛み付こうが発動する。
・減衰効果は対象に攻撃が当たった時のみ発揮される。
【百芸万職 ルー】:兄の<エンブリオ>
・特性は“ジョブ及びスキルの運用補助”。
・モチーフはケルト神話において自身は諸芸の達人であると言ったとされる太陽神“ルー”。
・《
・その場合は使用不能状態にならない。
アイラさん:実は<エンブリオ>の孵化を見て凄く驚いていた。
・初心者講習は凄く
冒険者ギルド内のジョブクリスタル:基本下級職転職用
・ほぼ全ての基本下級職に転職出来る。
・戦士系統なら【戦士】だけ、狩人系統なら【狩人】だけに転職出来る。
・派生下級職や上級職には転職出来ない。
・主に下級職一職目の転職に使われる。
・
次回、アイラさんとの
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アイラさんと初心者講習
では本編をどうぞ。
※10月15日《モンスター索敵》を《生物索敵》に変更。
□王都アルテア冒険者ギルド・訓練場 【
あれから、俺達は冒険者ギルドのジョブクリスタルでようやく初の転職をして、今は訓練場でアイラさんの講義を聞いている。
「では、お二人が就いたジョブの事についてお話します。まず、ミカさんが就いた【
なるほど、【戦士】はその名の通り近接系のジョブらしい、
「そして、レントさんが就いた【狩人】は主に中遠距離での戦闘を得意としています。主なスキルは【狩人】系統のジョブスキルである
ふむふむ、その名の通りに狩猟で使える技術を覚えられる感じか。
「さて、お二人には自分たちのジョブで使う武器の訓練をしてもらいます。ミカさんは<エンブリオ>と同じ
へえ、アイラさんそんなに強かったのか……よし、それじゃあ訓練を始めますか。
◇◇◇
□冒険者ギルド訓練場 【戦士】ミカ
そんなわけで今、私はアイラさんとの模擬戦で叩きのめされ訓練場の隅で座りこんでいます。
いや、最初の武器の訓練は普通に指導してくれたんですよ。私は棍棒の素振りをして悪いところを直してもらったり、お兄ちゃんは弓や投擲で的当てをしたり短剣の素振りをしていましたし。
風向きが変わったのは、しばらく時間が経ったあとにアイラさんが「二人共だいぶスジがいいですね。そろそろ軽い模擬戦で戦いの立ち回りを教えて起きましょうか。ああ、ミカさんはご自分の<エンブリオ>を使っても構いませんよ」と言ってからです。
それから私は<エンブリオ>を使って模擬戦をしたのですが……「武器の振り方が大振り過ぎますね、<エンブリオ>が重さを感じないとはいえ、それではあたりませんよ」とか「ずいぶん勘が良いようですが技術を磨かなければ戦いはできませんよ」と言われながらボコボコにされました(その割にHPが全く減っていなかったので、そういうスキルでも使っていたのかな?)。
まあ、戦う前からアイラさんが強いことは
で、今はお兄ちゃんがアイラさんと模擬戦を……「ぬわ──ーっ‼︎」あ、お兄ちゃんが吹っ飛んだ。
「二人共本当にスジがいいですね、おかげで少し本気を出してしまいました」
と、息一つ乱していないアイラさんが声をかけてきた。やっぱり300もレベル差があって、技術にも圧倒的な違いがあるとどうしようもないね。
「そうですね……少し休憩したら
…………実戦訓練?
◇
「さて、休憩も終わりましたし実戦訓練に移ります」
実戦訓練と言っても、何と戦うんだろう?
「はーい、実戦訓練ってモンスターと戦ったりするんですか?」
「いい質問ですねミカさん、その通り、モンスターと戦ってもらいます。ただし、戦うのはこの【ジュエル】の中のモンスターですが」
そう言って、アイラさんは右手を掲げ、そこについた薄い宝石のようなものを私達に見せた。
「この【ジュエル】は所有するモンスターを仕舞うことができるアイテムです。今回はこの中にいる訓練用に作られた“インスタントモンスター”と戦ってもらいます。ああ、訓練用に作られたものなので【ジュエル】から出したら十五分程度で死んでしまいます。なので倒してしまっても構いません」
ふーん、モンスターを作ったりとかもできるんだ……。
「それではお二人とも武器を構えてください…………行きますよ……
そう言ったアイラさんの【ジュエル】から出てきたモンスターは……SFものの映画に出てきそうなグロいクリーチャーだった。
「ってか、グロ過ぎないか?」
「人によってはトラウマものだよね〜これ……っっ! 来るよ‼︎お兄ちゃん‼︎」
そうして私達の、この世界に来て初めてのモンスターとの戦闘が始まった。
◇◇◇
□冒険者ギルド訓練場 【
(ふむ……やはり<マスター>という存在は、不死身である事以外にもいろいろと規格外ですね)
そう考える彼女の目の前では、
まず、飛び掛かってきた【クリーチャー】をミカが自身の
(ミカさんの<エンブリオ>、
命が一つしかないティアンにとって、レベルを上げることは非常に困難を極める。
また、獲得経験値を増量させるスキルも、彼女自身がメインジョブにしている【教導官】や【
そう考えている間にも、棍棒の一撃に耐えた【クリーチャー】が腕を振りかぶり攻撃を仕掛けるが、ミカは
(ミカさんのあの動き……先読みしているというより
先程の模擬戦でも手加減していたとはいえ、合計レベルが300以上あって技量にも差がある自身の攻撃ミカは直撃だけは避けていたし、レントもこちらの動きがある程度は見えていたようだ。おかげで最後の方は少しだけ本気を出してしまった。
(彼らの話からすると……これらのことは<エンブリオ>によらないセンススキルと見るべきでしょうね。ティアンでもその手のものを持っている人はいますし……やはり、<エンブリオ>や不死性以外の技術などについては<マスター>もティアンと同じく個人差があるようですね。……まあ、この事については今後増える<マスター>達を見ればわかるでしょう)
そう思っていると、二人の連携に追い詰められている【クリーチャー】が見えた。
(あの【チュートリアル・クリーチャー】は
目の前ではレントの放った矢が【クリーチャー】の足に突き刺さり、その隙にミカの大上段に振りかぶられたメイスがその頭に叩き落とされ、そのまま光の塵となっていった。
(あの見た目の相手にも躊躇なく向かって行けたのは、お二人の精神性によるものか<マスター>の不死性に起因するものか判断が難しいですが……その事も今後<マスター>達を観察することで判断していきましょう)
そうして彼女は戦いを終えた二人に声をかけようと歩きだした。
◇◇◇
□冒険者ギルド訓練場 【狩人】レント
あれから初戦闘を終えた俺達は、しばらくの休憩の後にアイラさんから冒険者としてやっていく為のルールや注意事項、他のギルドの事、王都にある各種施設の事、王国にある主な都市や場所の事、王都周辺のモンスターの情報などを教えてもらって初心者講習を終えた。
「はい、お二人とも初心者講習お疲れさまでした。クエストの報酬、及び講習終了時に渡されるアイテムは今のお二人にあった装備と街の外での行動に必要な各種アイテム、それといくつかのポーションになります」
「はい、わかりました」
そう言って、俺達はクエスト達成の報酬と各種初心者用アイテムを受け取った。
「それと最後に、お二人は<マスター>なので余計な言葉でしょうが……どうか生きてまた
「「はいっ! ありがとうございました‼︎」」
◇
そうして、俺達の初心者講習は終わった。
最初に冒険者ギルドに来た時に受けたクエストの報酬として貰った装備は、ミカが【ライオット】シリーズという軽鎧を中心としたセット装備で《HP増加》と《ダメージ軽減》のスキルが付与されていた。そして俺が貰ったのは【ハンターアロー】という弓と何十本かの矢、投げナイフと短剣、スキルは付いていないものの初期装備よりはマシな皮鎧、コート、ブーツ、グローブである。
「それでお兄ちゃん、これからどうする? 冒険者ギルドのクエスト受ける?」
そうしてもいいが…………ン? これは…………。
「その前に一回ログアウトだ。さっきから空腹と尿意のアナウンスが来ている」
「解った、じゃあ一回ログアウトするねー」
そうして俺達は一旦
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
妹:天災児
・今回チート直感系センススキル持ちと判明。
兄:元弓道部
・兄より優れた妹は結構いると思っている。
《狩人の流儀》:ドロップアイテム上昇スキル
・
・現在の仕様により効果が変更された。
アイラさん:実はスパルタ
・【チュートリアル・クリーチャー】の見た目は彼女の要望。
・曰く「この程度で怯む様では戦いに行っても死ぬだけです」とのこと。
【チュートリアル・クリーチャー】:別名“グロいサンドバッグ”又は“初心者潰し”
・その外見で結構な数の初心者に戦う道を諦めさせてきた。
・近くの最もレベルの低い者を襲うように設定されている。
・そのためギルド内でも一部の者にしか使用許可はでない。
・正直、ギルド内でも
【
・他者を鍛えることに特化している。
・主なスキルは、指導対象の獲得経験値を増量させる《教導》、相手にダメージを与えずに衝撃のみを通す《模擬戦闘》などがある。
・武器技能スキルは主なものは全て取得できるが、戦闘用のアクティブスキルは取得できない。
・ステータスはMP以外はバランスよく伸びる。
・アイラ・ローランの現在のメインジョブ。
・彼女は受付嬢になってから教官系統のジョブを取得した。
【ハンターアロー】:兄が貰った弓
・特にスキルはないが初心者にも扱い易い弓。
次回、ようやく冒険に。
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王都の外へ
では本編をどうぞ。
※10月15日 あとがきのエルザ・ウインドベルの身長を165cmから160cmに変更。
□王都アルテア冒険者ギルド 【
あの後、ログアウトして食事などの所用を済ませてから、再び<Infinite Dendrogram>にログインした。
今は冒険者ギルドで初心者用の
「いっぱいあるねー、どれがいいかな? お兄ちゃん」
「アイラさんは、東門を出てすぐの<イースター平原>でのモンスター討伐依頼が初心者にはオススメだと言ってたな……このあたりの【リトルゴブリン】【パシラビット】【ワイルドキャット】の討伐依頼あたりがいいんじゃないか?」
どのモンスターも、下級職一つ目の初心者でも討伐出来るモンスターだと言っていたな。
「【グリーンスライム】の討伐なんかもあるよ、これも受けない?」
「スライムって物理攻撃無効とかじゃなかったか?」
…………俺達は二人とも、まだ物理攻撃しか出来ないが……。
「私の【ギガース】の
「ああそれがあったな、じゃあ受けるか」
そうして俺達は<イースター平原>に向かった。
◇
ドガアッッッッ‼︎
そして今、俺の目の前では一体の【リトルゴブリン】がミンチにされ光の塵となった。
「ハアッハハハハ! もっとだ、もっと(経験値とドロップアイテムを)よこせ〜〜!」
「いや、おまえ完全に
なぜ、こんな事になっているのかというと……簡単に言えば
最初に遭遇した【パシラビット】の群れは、ミカの一撃で吹き飛び瀕死になったところを俺が弓矢と投げナイフで倒した。
次の【リトルゴブリン】の群れは俺が弓矢で牽制しつつ、ミカが習得したアクティブスキルも駆使して一体ずつ潰していった。
途中、【ワイルドキャット】が死角からミカに襲いかかってくる事もあったが、振り向きざまのアクティブスキルで倒されていた。
そして、【グリーンスライム】に至っては蠢いているところを潰すだけの作業だった(物理攻撃が効かないので俺は見ているだけだった)。
「まあ、【ライオット】の
そう言って、はしゃいでいるミカを正気に戻す。
「はーい……いや〜鈍器を振り回すのって結構楽しいね!」
「その発言はいろいろ不安になるんだが……まあいい、クエストは達成したから王都に戻るぞ」
なんか不安になってきたから、一旦戦闘から離れよう。
「ほーい…………ところでお兄ちゃんレベルは幾つになった? 私は10」
「俺は16だな…………主に
「やっぱ<エンブリオ>ってチートだよね〜……ん?」
ミカの目が虚空を……
「どうした、何か感じたのか?」
「うん……あっち……どうする?」
ミカは少し
「行ったほうがいいんだろう? ……それに
「うん……こっちだよ、行こうお兄ちゃん!」
そうして、俺達は<イースター平原>を走って行った。
◇◇◇
□<イースター平原> 【
私達は予感があった場所へ走っていった。すると……「キャア〜〜〜〜ッ‼︎」おお! 悲鳴が聞こえた。
「お兄ちゃん! 美少女の悲鳴だよ! イベントの気配だよ!」
「だからなろうの小説を読みすぎだろ……とりあえず行くぞ」
走って行くと金髪の少女……左手に
「《看破》してみたがレベル0か……成る程」
「お兄ちゃん、そろそろヤバそうだから私行くよ、援護よろしく」
そう言って、私はすぐに少女の元に駆け出した。
「わかった……《
お兄ちゃんが投げた青白く輝く投げナイフが、少女を襲おうとしていた【リトルゴブリン】の
「さすがはお兄ちゃんいい狙いだね。……じゃあこれで終わりね《スマッシュ》」
そして、もう一体も私のアクティブスキルによって倒された。
「ふう、これで片付いたね。あっ私はミカ、あっちはお兄ちゃんのレント、あなたと同じ<マスター>だよ、大丈夫?」
「え……? あ、はい、だっ大丈夫です……」
…………ちょっとショックを受けているみたいだけど、大丈夫そうだね。
「まだちょっと動揺してるかな? ほら〜お兄ちゃんが目の前で【リトルゴブリン】の頭を吹き飛ばしたから〜」
「目の前でミンチ作ったおまえが言うな」
そうやって敢えて馬鹿話をしていると、この少女も落ち着いてきたみたい。
「助けていただいてありがとうございます。私はエルザ・ウインドベルと申します」
「ふ〜ん、エルザちゃんか。ところで、あそこで何してたの? このゲーム、ジョブレベル制だからレベル0で外は危ないよ?」
と、落ち着いた様子の彼女に聞いてみる。
「お恥ずかしながら…………このゲームのリアリティに感動してしまって……つい、外を走り回ってしまって…………」
「あ〜わかるよ〜このゲームのリアリティ凄いもんね!」
現実のネットでも、そんな理由でデスペナになって「二十四時間ログイン出来なくなった〜(泣)」とか書いていた人がいたっけ。
「じゃあ、私達これから王都に戻るところだからついでに送っていってあげるよ〜。いいよね? お兄ちゃん」
「ああ…………冒険者ギルドまで案内すればあとはなんとかなるだろう」
「ええっ……あっ……かっ重ね重ねありがとうございます。よろしくお願いします」
こうして、私達はエルザちゃんを連れて王都に戻っていった。
◇◇◇
□<ノズ森林> 【
あの後、エルザちゃんを王都の冒険者ギルドまで送り届けた俺達は、そのままクエストの達成を報告した。
アイラさんからは「達成が早すぎますね、これが<マスター>ですか」と言われながらも報酬を受け取り、今のレベルにあった【ティール・ウルフ】の討伐クエストを受け、次の狩場である<ノズ森林>で戦っている。
「さ〜て、お兄ちゃん索敵よろしく!」
「ハイハイ、《生物索敵》…………五匹、こっちに向かってくるな」
「オッケー……それじゃあいくよ‼︎」
すると五匹の【ティール・ウルフ】が飛び出してきた。
まず、先頭の一体に狙いをつけ【狩人】のアクティブスキル《ハンティングアロー》で頭を射る。その隙にミカが二番目の相手に飛びかかり……。
「キミがこの群れのリーダーだよね? 《スマッシュ》!」
そう言って相手を叩き潰した。
そして、俺はリーダーがやられ動きが乱れた【ティール・ウルフ】達に次々と矢を浴びせ掛け、ダメージを与えると共に動きを鈍らせていく。
「さて、あとは烏合の集だね! ……《スマッシュ》! ……《スマッシュ》! ……《スマッシュ》‼︎」
そうして、残りの三体も倒された。
◇
「ふう……終わったか……だがコイツら妙に必死そうだったな、まるで何かか逃げてきたような……」
そう言っていると、
「お兄ちゃん……来るよ」
「…………はあ、気のせいなら良かったんだが……」
ミカの視線の先から現れたのは……1頭の全長五メートルぐらいの巨大な赤い熊だった。その頭上には……
「【
アイラさんの講義に出てきた亜竜級……“下級職六人のパーティー、もしくは上級職一人”に相当する戦力を持つモンスター……!
「さてどうする? 逃げるか?」
「んー、逃してはくれなさそうだし……ここで放置したら
…………なるほど、ミカがそう言うならどうにかしないとな。
「じゃあ戦うか。……なに、俺達は<マスター>だ、諦めるのは死んでからでも遅くはない」
「そうだね、じゃあやろーか」
そうして、俺達のボスモンスターとの戦いがはじまった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
妹:視点は現実視
・ふざけた発言の半分くらいはワザと。
兄:視点は現実視
・妹の発言がワザとなのはわかって受け入れている。
《バーリアブレイカー》:【激災棍 ギガース】のスキル
・【スライム】や【スピリット】も物理攻撃で倒せるようになる。
・相手の強さや、防御スキルの強度によっては減衰効果はレジストされる事もある。
・防御スキルの効果は0に出来るが、マイナスにはならない。
【ワイルドキャット】:<イースター平原>のモンスター
・某管理AIの猫は関係ない。
・小型の身体を活かして気配を消し死角から襲いかかって来る。
・あまり攻撃力は高くない。
【グリーンスライム】:<イースター平原>のモンスター
・基本的に草食性のスライム。
・だが数が増えすぎると人間や他のモンスターを襲いはじめる。
・なので定期的に駆除依頼がある。
・物理攻撃が効かないので報酬はそこそこ高め。
エルザ・ウインドベル:デンドロ初日組、オリキャラ。
・アバターは160cmぐらいの金髪緑眼の少女。
・視点は現実視、グロには耐性あり。
・冒険者ギルドでは兄妹に勧められて初心者講習を受けた。
・今度リアルの友人も誘ってみようと考えている。
《ハンティングスロー》、《ハンティングアロー》:【狩人】のスキル
・それぞれ投擲と弓矢用のアクティブスキル。
・威力が高く射程も長いが、クールタイムも長め。
《スマッシュ》:【戦士】のスキル
・打撃系武器で使えるアクティブスキル。
・威力は高くないが、SP消費が少なくクールタイムも短い。
【
・詳細は次回。
・序盤で亜竜級モンスターと戦うのはデンドロ主人公の嗜み。
《教導官の教え》:【
・指導対象に指導終了後、行った指導に応じた時間の間“獲得経験値増量”と“スキル成長効率上昇”の効果を与える。
・1時間程度の指導でも1日程度は効果が持続する。
・兄妹のレベルアップが早いのはこのスキルのおかげでもある。
次回、ボスモンスターとの戦い、そして第1章終了予定。
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VS【亜竜血熊】
それでは本編をどうぞ。
□<ノズ森林> 【
『GUAAAAAAAAAAA‼︎』
私は【
『GAAAAAA⁈』
私が懐にいるのを嫌がった【亜竜血熊】は、両腕を振り回して突き放そうとするも、
その隙にお兄ちゃんの《ハンティングアロー》が【亜竜血熊】に突き刺さる。
『GIAAAAAAAAAA!』
攻撃されて怒った【亜竜血熊】はお兄ちゃんに向かっていくが、その進行ルート上に
『GAAAAAAAAA⁈』
そうやって相手が怯んだ隙に私達は距離を取り、体制を立て直した。
(うーん、このままじゃジリ貧だね。ステータス差のせいでアクティブスキルを使わないとまともに攻撃が通らないし。……何よりHP高すぎ、これ削って倒すのは無理だね)
実際、さっきからこの繰り返しで戦っているが、HPは3割程度しか削れていなかった。
(そろそろ体力と集中力がキツくなってきたし……お兄ちゃんの次のスキルをキッカケにして勝負を決めよう)
そうして、私は息を整え次の攻撃……最後の交錯に備えた。
◇◇◇
□<ノズ森林> 【
(うん、相変わらずウチの
そもそも、あれだけステータス差のある相手に真っ向から無傷で殴り合うなんて普通は不可能である。
しかし、ミカは
(まあ、本気になったミカに当てたければ解っていてもどうしようもない攻撃をする必要があるしな。……とはいえ体力や集中力が上がる訳ではないし、SPもそろそろ限界、何より相手のHPが高すぎて削り合いじゃこっちが先に倒れるな)
実際、目の前の【亜竜血熊】はまだまだ元気そうだ。
(狙うのは部位破壊、それも確実に倒しきれる頭部か……俺の
そうして、俺は次の攻撃……最後の交錯に備えた。
◇
『GAAAAAAAAAAAA‼︎』
そしてついに、痺れを切らした【亜竜血熊】がミカに向けて突っ込んできた。
これは……ステータスと体格差を活かしたタックルか! というか、後ろにいる俺ごとひき潰すつもりだな‼︎だが……!
「うん、そう来るのは解っていたよ……《スマッシュ》‼︎」
それをギリギリでかわしたミカが、すれ違いざまに
それにより、蓄積したダメージもあって体制を崩した【亜竜血熊】は、俺のすぐ横を転がっていった。
「お兄ちゃん‼︎」
「わかってる! 《
そうして、俺の放った青白く輝く矢が【亜竜血熊】の頭部に突き刺さった。…………やったか‼︎
『GEEEEEAAAAAAAAAAAAA‼︎』
……やってなかったー!
そこには頭部から大量の血を垂れ流した【亜竜血熊】がおり、血走った目でこっちに突っ込んできた。
「ちっ! やっぱヘイトがこっちに移ったか……ほら、こっちだ熊公‼︎」
とりあえず《瞬間装備》で短剣を取り出し、迎え撃つ姿勢を見せる。
『GAAAAAAAAAAA‼︎』
「《ダガーパリィ》!」
俺は振り下ろされた爪を短剣の防御スキルで受け止め……きれずに、手に持った短剣と、とっさに盾代わりにした弓を砕かれて、そのまま吹き飛ばされていき、近くの木にぶつかった。
「ぐはっ! ……まあ、俺のステータスじゃこうなるか……だが役目は果たせたな」
そう言う俺の目には、ようやく敵に攻撃を当てられてご満悦の【亜竜血熊】……の死角から接近してきたミカの姿が見えていた。
「囮役ありがとうね、お兄ちゃん! ……これで終わりだよ《チャージスマッシュ》‼︎」
そして、ミカのチャージ時間に応じて威力を上昇させるスキルが【亜竜血熊】の
◇
「あ〜疲れた。……ところでお兄ちゃん生きてる〜?」
「ああ、生きてるよ…………HP残り二割も無いけどな」
俺は、急いでアイテムボックスから【ポーション】を取り出して飲みほした。
そうしていると、ミカが手に“箱”を持って近ずいてきた。
「とりあえずおつかれ〜……あっ、さっき倒した【亜竜血熊】から宝箱が落ちたよ〜!」
「ハイハイ、お疲れ様……それはボスモンスターが落とす【宝櫃】だな。……さっきの戦いで武器が壊れたから、何か換金できるアイテムでも出ればいいんだが……」
正直言って、これはかなり有難い。
「じゃあ早速開けようか?」
「いや、とりあえず王都に戻ろう。さすがにこれ以上の戦闘はキツイ」
「オッケー、私も今日はこれ以上の戦いはいいかな〜」
そう言いながら俺達は王都に戻って行った。
◇
王都の冒険者ギルドに戻った俺達は、クエスト達成の報告をしつつアイラさんに【亜竜血熊】と戦った事を伝えた。
アイラさんは「冒険者になってまだ一日程度しか経っていないのに、もう亜竜級のモンスターを倒すなんて…………<マスター>とは本当に規格外な存在なんですね。…………しかし【亜竜血熊】が生息している場所は<ノズ森林>のもっと奥だったはずなのですが……人の血の匂いを覚えた個体だったのでしょうか」と言われた。
また、ドロップアイテム【亜竜血熊の宝櫃】からは【亜竜血熊のコート・ネイティブ】と【怪力の指輪】が手に入った。
この二つのアイテムは、アイラさん曰く「【亜竜血熊のコート・ネイティブ】の方は装備スキルでHPとAGIが増加し、更に装備者の索敵系スキルを強化出来ます……しかし、これを装備するには合計レベルが150以上必要なので、今のお二人には装備できませんね。また、売れば三十万リルはするでしょう。【怪力の指輪】の方はSTRを固定値で増加出来るアクセサリーで、装備制限もないのでお二人でも装備出来ますね。売った場合は二万リル程でしょう」との事。
「で、お兄ちゃん、この二つはどうする?」
「コートは売った方がいいだろう。装備出来ない物を持っていても仕方がないし……武器を揃える金も欲しいからな。指輪はどうする?」
と、ミカに聞くと少し悩んでから。
「その指輪は欲しいかな。ああ、指輪分のお金はお兄ちゃんに渡すよ。私はそんなに装備にお金はかからないし」
「別に割り勘でもいいんだが……そう言うならありがたく受け取っておく」
そして、俺達はアイラさんに紹介された雑貨屋で【亜竜血熊のコート・ネイティブ】とこれまでの狩りで手に入ったドロップアイテムを売り、その金で装備と消費したアイテムを買い込んだ。
◇
「いや〜初日から大変だったけど楽しかったね〜お兄ちゃん」
「そうだな……最初はネタのつもりで買ったゲームだったんだがな。確かに楽しいゲームだった」
まあ、
「うん、そうだねー…………まあそう言うスタンスの方が楽しめるかな〜」
「そう言う事だ、リアルよりこちらを優先する訳にもいかないしな。それじゃあ今日はもう
「わかった、また明日もやろうね〜お兄ちゃん」
そうして、俺達の<Infinite Dendrogram>初日は終わった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
妹:天災児の本領発揮
兄:やっぱミカはスゲえよ……
《ダガーパリィ》:短剣のアクティブスキル
・短剣による防御時自身のDEX値を防御力に加算する。
・防御成功時、低確率で相手を極短時間【硬直】状態にすることがある。
《チャージスマッシュ》:【戦士】の打撃系アクティブスキル
・事前にチャージした時間に応じて威力を上昇させる。
【
・ステータスはHP、STR、AGIが高い。
・特徴的なスキルとして、血の匂いを覚えた生物の同種族を探知する《血臭追跡》がある。
・そのため匂いを覚えた種族を積極的に襲う性質がある。
・人の匂いを覚えた【亜竜血熊】が人里まで降りてくることがあるのでティアンからは危険視されている。
アイラさん:<マスター>の規格外さに実はとても驚いてる。
これで第1章は終わりになります。
この様な駄文に最後まで付き合っていただきありがとうございました。
次回の更新はまだ未定です。
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兄妹のデンドロ日和
エルザちゃんとパーティープレイ
では本編をどうぞ。
※1/26、あとがきの【ワルキューレ】の初期ステータスを変更。
□王都アルテア冒険者ギルド 【
今日も今日とて、俺はデンドロ生活を満喫中。今はギルドでクエストを見繕っている。
「それにしても、二日目から一気にログインする<マスター>が増えたね〜」
そう言うのは妹のミカ、今は手元でクエストのカタログをパラパラと開いている。
「そうだな……これも初日組の言葉と
あの発表とは、デンドロ発売翌日に行われた開発責任者“ルイス・キャロル氏”の中継映像の事である。それと初日組の言葉によって<Infinite Dendrogram >が掲げた要素が全て真実であるとわかり、今や世界は空前のデンドロブームとなっている。
「こうしてみると、初日組の私達は勝ち組だね! 今は転売ヤーとかも現れて、デンドロハードの値段が超高騰してるし!」
「ネットのオークションでハード1台二十万とかしてたしな。……元は一万なのに」
やっぱ転売ヤー怖い、オークション怖い。
「あと、<マスター>が増えると変なことをやり出すヤツも増えるよね〜。…………タンス開けたりツボ壊したりしたら、普通に窃盗や器物損害なのにね」
「ああ…………まあそう言う、あんまりわけのわからない事をしている
「それとネタに走る人もいるよね〜。さっきもクマの着ぐるみを着ている人とか見かけたし。ティアンの人達も困惑してたね〜」
「ゲームだからな、ネタプレイに走る人は一定数出てくるだろ。…………まあ、他人に迷惑をかけない範囲でなら別に良いんじゃないか?」
そっちは実害が無ければ、ティアンの人達もじきに慣れるだろう。
さてと、とりあえずクエストを……「あっあの! ひょっとしてミカさんとレントさんじゃありませんか?」ん? ……この声は…………。
◇◇◇
□王都アルテア冒険者ギルド 【
私達が声を掛けられた方向へと振り向くと…………。
「お〜エルザちゃんじゃん! 久しぶり〜」
「はい、ミカさんもお久しぶりです」
そこには、私達が初日にモンスターから襲われている所を助けた“エルザ・ウインドベル”ちゃんが身長170cmぐらいの金髪の女性を引き連れながら立っていた。
「エルザちゃんもクエスト受けに来たの?」
「はい、そこでお二人をお見かけしたので、以前助けて頂いたお礼をしようと思いまして……あの時は本当にありがとうございました!」
エルザちゃんと後ろの女性が深々と頭を下げてきた。
「はい、どういたしまして。でもそんなに頭を下げなくていいからね〜。ほらっ上げて上げて!」
「そうだな、大した事はしていないし、そこまで畏る必要はないぞ」
そう私達が言うと、二人はようやく頭を上げた。
「はい、でもこれは私がお礼を言いたかっただけですので」
「うん、わかったよエルザちゃん。…………ところで後ろの人はどちら様?」
さっきから気になっていたのでエルザちゃんに聞いてみる。
「あっ、彼女は私の<エンブリオ>です。……アリア、挨拶してくれる?」
「はい、……ご紹介に預かりました、TYPEガードナー【代行神騎 ワルキューレ】と申します。マスターからは“アリア”の愛称を頂いております。お二人には私が産まれる前にマスターを助けた頂いたので、是非お礼を言いたいと思っておりました。改めて、その節はマスターを助けて頂き本当にありがとうございました」
そう言って、女性…………【ワルキューレ】のアリアさんが頭を下げてきた。
「ふーん、人型の<エンブリオ>だったんだ〜。……美女の<エンブリオ>を当てるなんてやるね! エルザちゃん‼︎」
そう言うと、エルザちゃんは少し照れて、アリアさんは顔を上げてドヤ顏になった。
「はい、私もアリアがいてくれて良かったです」
「ええそうですとも! 私はマスターを守る最強の<エンブリオ>ですからね‼︎」
うん、二人ともいいチーム見たいだね。……あ、そうだ。
「せっかくだから、私達と一緒にパーティーを組んでクエストに行かない?」
「えっと…………あの、いいんですか?」
「うん! せっかくのゲームだし、いろんな人とプレイしたいしね! いいよね? お兄ちゃん」
「ああ、そちらが良いなら俺は別に構わないぞ」
そう聞くと、エルザちゃんはとても嬉しそうな顔をした。
「はいっ! 私は大丈夫です! 是非お願いします‼︎」
「オッケー、じゃあパーティー組もうか。……あっ私のメインジョブは【戦士】ね〜」
「俺は【狩人】だ」
「私は【
「よかったですね、マスター! ……あっ私は【
そうして私達はパーティーを組み、適当な依頼を受けてから王都の外へ出発した。…………あれ? <エンブリオ>ってジョブに就けたっけ?
◇◇◇
□<サウダ山道> 【狩人】レント
あれから王都南の<サウダ山道>に来た俺達は、討伐依頼を受けた【ブルーレミングス】や【サウダ・ファントムシープ】を探しつつ他のモンスターと戦っていた。
今も、群れで現れた【ランドリザード】と
「とうっ、《スマッシュ》!」
「はあっ! 《ダブルスラッシュ》‼︎」
2人の放ったアクティブスキルで【ランドリザード】が光の塵になった。
さて、俺も援護を……「キャアッッ!」声を聞いて振り向くと、そこには【ランドリザード】に襲われているエルザちゃんの姿があった。
「マスター‼︎今助けます‼︎」
「ちょっ今、前衛一人抜けられるとキツイ……お兄ちゃん! 何とかして!」
「わかっている! ……《パラライズアロー》‼︎」
俺は弓……この前、新しく買った【劣飛竜の弓】……でエルザちゃんに襲い掛かっている【ランドリザード】を撃ち抜いた。
『GIAAAAA⁈』
「あっ、動きが……」
よしっ! 上手くスキルによる麻痺が効いたみたいだな。
「私のマスターに近づくな下郎‼︎《トライスラッシュ》‼︎……マスター! 大丈夫ですか‼︎」
「あっうん、大丈夫…………」
良かった、あちらは大丈夫なようだ。これで安心だな。
「いや、こっちは全然大丈夫じゃないから⁉︎早く援護! ヘルプミー‼︎」
あっ、ミカの事忘れてた。
「わ──! アリア! 早くミカさんの援護を‼︎」
「はいっ! わかりました! すぐに向かいます‼︎」
「いや、ミカならしばらく放置していても大丈夫だと思うぞ」
「お兄ちゃん酷い‼︎」
そう言いつつも、ちゃんとみんなで戦って【ランドリザード】は全滅させました。
◇
「お兄ちゃん! 放置プレイとか酷くない⁉︎大変だったんだよ‼︎」
「悪い悪い、でもお前今回もノーダメージだったじゃないか」
「それはそれ! これはこれだよ‼︎」
そもそも、攻撃がまず当たらない
そういつも通りバカ話をしていると、エルザちゃんが申し訳なさそうな顔でこっちに来た。
「すみません! 私が足を引っ張ってしまって……」
「いえっ! マスターは悪くありません! 悪いのは陣形を乱してしまった私で…………」
なんか凄く謝って来た。
「いや、パーティープレイならよくある事だ、そう気にしすぎる事はない」
「そうそう、気にしない気にしない。……今回悪いのは大体お兄ちゃんだし」
「うぐっ! 否定しにくい事を…………まあ、さっきエルザちゃんへのフォローが遅れたのは事実だからな。それに関しては俺のミスだ、済まなかった」
実際、フォローしなくても問題ない
「いえっ! 悪いのは戦えなかった私で……」
「いや、【従魔師】は直接戦うジョブではないだろう」
「そうそう、殴りテイマーなんて小説の中だけの話だよ〜」
VRMMO小説では結構いる物理型テイマーでも、現実のゲームではほとんどネタプレイだからな。
……まあ、この世界だと<エンブリオ>次第ではわからないが……。
「はい…………私、昔から運動は苦手で……でも、カッコよく戦うファンタジー物の話が好きだったのでこのゲームを始めたんですが……初心者講習の時も
「マスター……」
うーむ、思ったより落ち込んでいるな。たかがゲームなのだし、そこまで深刻に考えなくてもいいと思うんだが……。
「なら、普通にテイマーとして戦えるように戦力を増やせばいいんじゃないか?」
「戦力?」
「そうだよ、エルザちゃん! テイマーは複数のモンスターを後方から指揮するのが王道なんだから! エルザちゃんの護衛が出来るモンスターを手に入れればいいんだよ!」
「そうすれば、アリアさんも攻撃に専念出来る様になるだろうしな」
そう言って、俺達はエルザちゃんに出来る限りのアドバイスをしていった。どうもエルザちゃんはMMOは初めてだったらしく、俺達の話を聞いてしきりに頷いていた。
「お二人とも、ありがとうございます。お陰でこれから何をすればいいのかがわかって来ました!」
「よかったですね、マスター!」
どうやら、2人とも持ち直したようだ。
「よし! エルザちゃんが新しいモンスターを手に入れる為には、やっぱり
「そうだな、じゃあ行くか」
そして俺達は<サウダ山道>を歩き始めた。
◇
そして4時間後…………
「全っ然! ヒツジが見つかんないんだけど!」
「本当ですね……何処にいるんでしょうか?」
あれから、散々<サウダ山道>を歩き回っても、何処にも【サウダ・ファントムシープ】は見つからなかった。
「ネズミの方は直ぐに群れで見つかったのに〜。くそう、道理で報酬が高いと思ったら〜」
ミカの言う通り【ブルーレミングス】は直ぐに群れでいたところを見つけ、倒す事でクエストを達成出来た。
そのためもうひとつも直ぐに達成出来るだろうと思っていたのだが…………やはり高額の依頼には相応の訳があったらしい。
「お兄ちゃん《生物索敵》とかで見つからないの?」
「あれは一度遭遇したことのある相手でないと精度が落ちるからな、まだスキルレベルも低いし…………お前の勘でどうにかならないのか?」
「私の勘は自分かその周りに危険が及ぶ事以外だとムラがあるんだよ〜知ってるでしょ〜」
そういえばそうだったな。…………いかんな、少しイラついてきている……話を変えよう。
「そういえば最初から気になっていたのだが、どうしてアリアさんは<エンブリオ>なのにジョブに就く事が出来るんだ?」
「あ、それは私も気になってた」
ジョブは基本的に人間範疇生物にしか就くことが出来ず、ガードナーはカテゴリー的にはモンスターと同じ非人間範疇生物だったとネットに乗っていたが……。
「それに関しては【ワルキューレ】のスキルです」
「はい、【ワルキューレ】のスキル《
それによると【ワルキューレ】のスキル《代行者》は、<エンブリオ>であるガードナーにマスターと同じ下級職六つ・上級職二つの合計500レベルまでのジョブへ就かせる事が出来るようになるらしい。だが、カテゴリーは非人間範疇生物のままであり【従魔師】の《魔物強化》などのスキルも乗るとのこと。
「へ〜汎用性が高そうなスキルだね〜……私のは基本近づいて防御スキル抜いて殴るぐらいしか出来ないし」
「でも経験値が分散してしまうので、レベル上げが大変になるのですが…………あれっ? ……あの、皆さんあれは……?」
エルザちゃんが指差した場所を見てみると……そこに一匹のヒツジが草を食んでおり、その頭の上には【サウダ・ファントムシープ】の文字があった。
「って、見つけた〜〜〜‼︎」
『MEEEEEEE〜⁈』
こちらと目のあった【ファントムシープ】はミカの叫び声に反応してその身を翻した。
「って! 逃げるよお兄ちゃん‼︎」
「お前が叫ぶからだろ! 《ハンティングアロー》‼︎」
俺の放った矢は【ファントムシープ】の身体に当たり……
「すり抜けた⁈幻術か! ミカッ‼︎」
「解ってる! …………そこっ‼︎」
ミカが何もないように見える場所に【ギガース】を投げつけた。すると、それに驚いた【ファントムシープ】が
「アリア! お願い‼︎」
「分かりました! これで終わりです《トライスラッシュ》‼︎」
そうして、俺達を散々手こずらせてくれた【サウダ・ファントムシープ】は、アリアさんの剣によって光の塵になった。
◇
「いや〜【サウダ・ファントムシープ】さんは強敵でしたね!」
「本当にな…………」
あれからかなり疲れていた俺達はそのまま王都に戻り、冒険者ギルドでクエスト達成の報告をして報酬を受け取った。
……後から聞いた話によると、【サウダ・ファントムシープ】は弱いが発見が困難なモンスターで探すだけでも三日は掛かってしまうらしい。……たった四時間で見つけた俺達は相当運が良かったようだ。
「さてと、報酬は一人四分の一ずつでいいかな?」
「いえっ! アリアは私の<エンブリオ>ですし……」
「イイってイイって! エルザちゃんはこれからテイムモンスターを手に入れるのにお金が必要でしょ〜。それに私達はお金にはそんなに困っていないし〜」
「まあ確かに、この前倒した
尚も渋るエルザちゃんの手に、ミカは無理矢理報酬の半分を押し付けていった。
「あの……本当に色々とありがとうございます! このお礼は必ずします‼︎」
「そんなに気にしなくてイイのに〜……ならフレコ交換しようよ!」
「フレコ…………ですか?」
「そうそう、それでいずれ私達が困った時に助けてくれればイイからさ!」
「…………はいっ! 分かりました! いずれ必ず‼︎」
そうして俺達はフレンド登録を交換し、またパーティーを組む事を約束して別れていった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄妹:あれからも普通にデンドロをプレイしている。
エルザちゃん:今回の主役。
・戦闘において自分が足を引っ張ってしまう事に悩んでいた。
・兄妹の言葉を受け、【従魔師】ギルドで
・リアルの友人も誘ったが、その友人は生産職志望だったのであまり一緒にプレイ出来ていない。
【代行神騎 ワルキューレ】
TYPE:ガードナー
能力特性:代行
到達形態:Ⅰ
保有スキル:《代行者》《主の加護》
・エルザ・ウインドベルの<エンブリオ>、種族は天使。
・モチーフは北欧神話において主神に仕える戦乙女“ワルキューレ”
・紋章のデザインは“神の周りに侍る戦乙女”
・スキル《代行者》により<エンブリオ>でありながらジョブに就くことが出来る。
・当然レベルが上がればステータスも上がり、スキルも覚える。
・就くことの出来るジョブはマスターが就けるジョブに限る。
・もう一つのスキル《主の加護》は
・第Ⅰ形態時は合計200%の補正を10%刻みで各ステータスに割り振ることが出来る。
・その際、各ステータスの補正が10%〜150%の間になる様にしなければならない。
・一度ステータスを割り振った場合デンドロ内時間で72時間変更不可。
・レベル0の状態だと、大体初期の<マスター>のぐらいのステータスを持つ(HP100、MP・SP50、それ以外が30ぐらい)。
・
・人型<エンブリオ>としての食性は“マスターと同じ物しか食べない”
《ダブルスラッシュ》《トライスラッシュ》:【剣士】のアクティブスキル
・それぞれ二連続・三連続の斬撃を繰り出す。
《パラライズアロー》:【狩人】のアクティブスキル
・当たった相手を一定確率で【麻痺】させる。
・同種のスキルに【毒】にする《ポイズンアロー》【強制睡眠】にする《スリーピングアロー》がある。
【劣飛竜の弓】:兄の新しい武器
・【レッサーワイバーン】の素材で作られた弓。
・劣と付いているが、《自動装填》のスキルが付いており、レベル制限の無い弓の中ではトップクラスの性能。
・お値段は約一万リル程。
【ランドリザード】:<サウダ山道>のモンスター
・主に集団で行動しており、体表面の色が土色なので岩場などで奇襲されることもある。
【サウダ・ファントムシープ】:<サウダ山道>のモンスター
・原作にも名前だけ出ている。
・強くは無いが、高い幻術能力で自分の位置をごまかしたり、姿を消したりする。
・見つけるには
少し長くなりましたが、読了ありがとうございました!次も短編の予定です。
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プレイヤーキラーとの遭遇
では本編をどうぞ!
※十月十八日《七の皮盾》を《七の青壁》に変更。
□<ウェズ海道> 【
「ん〜今日もクエスト大成功だったね〜お兄ちゃん」
「そうだな、最近は大分このゲームにも慣れてきたし、クエストも安定してこなせる様になってきたな」
今、俺達は王都西の<ウェズ海道>でのクエストを無事に終えたところだった。
「やっぱり<エンブリオ>が
「お前はそうかもしれないが、俺の【ルー】は進化してもあまり強くはならなかったからなぁ」
つい最近、俺達の<エンブリオ>は第二形態に進化した。
ミカの【ギガース】は武器としての性能とステータス補正が大きく上昇し、
「いや、お兄ちゃんの<エンブリオ>も
「それは嬉しいんだが…………ステータス補正は
新スキル《全技能》の効果は“下級職・上級職で取得したジョブスキルを
……デンドロのジョブシステムでは、現在就いているメインジョブに関係するジョブスキルしか使えないため、このスキルがそういった制限を無くすスキルであることはわかるのだが…………。
「それはつまり下級職一職目の今では何の意味もないスキル、という事なんだよなぁ」
「まあまあ、お兄ちゃんならすぐにレベルが上がるし別にいいじゃない」
「……そうだな、そろそろ【狩人】のレベルも50になりそうだし、次のジョブを考えるか」
そうして俺達はいつも通りに王都への帰路についていった。
◇
喋りながらしばらく歩いて行くと、ようやく王都が見え出した。
……ふむ……しかし…………
「ミカ、
「うん、さっきからずっと見られているよね?」
「ああ、…………それに《殺気感知》にも反応があった」
「ふーん…………そこの人達、いったい私達に何の用かな?」
ミカは【ギガース】を取り出し、俺は弓に矢を番えて視線を感じた方向に振り向いた。
「ゲッヘッヘ、なーんだ、気付いていたのか〜」
「…………」
すると、山賊っぽい格好をして手に剣とデカイ盾を持ったモヒカンの男と、頭に黒い覆面を被った男が物陰から出てきた。
「そっちの覆面の男、それだけ殺気を飛ばしてくれば嫌でも気づくさ」
「ていうか、気配の消し方下手すぎ、もっと上手く隠れたら? ……で、一体何の用?」
まあ、大体察しはつくが…………
「そりゃあ悪かったなぁ〜、生憎隠密系のジョブは取ってなくてなぁ。……それと要件だが、俺達はいわゆる
やっぱりそういう類いの連中だったか。……格好からしてそういう
しかし、さっきから
「貴様らは“カップル”か?」
「「はっ⁇」」
「貴様らはカップルかと聞いていルゥ〜〜〜〜〜‼︎」
なんかいきなり叫び出したぞコイツ! ってか、カップルって…………
「いや、俺達はカップルじゃなry「黙レェェェェェェェェェェェェェェ‼︎」えぇ……」
「貴様らは男女二人だけで行動していたぁ〜〜! つまり汝らカップル罪ありき‼︎加えてぇぇ〜さっきから仲睦まじい空気を醸し出しながらくっちゃべりおってぇ〜〜
あーこれはダメだな。人の話とか聞かないぐらいに拗らせていらっしゃるタイプだわ。隣のモヒカンの男も呆れた顔をしているし。
「我が名は“ボッチー“‼︎貴様らの様な悪しき存在をこの世から一片残さず爆☆滅させるモノなりぃぃ〜〜〜〜‼︎出でよぉぉ〜〜〜〜【ベンヌゥゥゥゥゥ】‼︎」
すると、男の左手から
「フゥフハハハハハァァァァ〜〜〜‼︎さあ! いけぇ〜い【ベンヌ】よ! あの忌々しいカップルを爆☆殺するのだぁぁぁぁぁぁ〜〜〜‼︎《
その声と共に青い鳥……【ベンヌ】が
「お兄ちゃん!
「ちぃぃ! 《
俺の放った青白く輝く矢が、炎をあげる【ベンヌ】に直撃し…………
ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン‼︎
その結果起こった大爆発に俺は吹き飛ばされた。
◆◇◆
■<ウェズ海道> 【
「ハァーッハッハァー! この世に蔓延る悪しきカップルをまた1組消しとばしたゾォォ〜〜‼︎」
あー……まーたボッチーの悪い癖が出てるな…………全く、さっきもオレの<エンブリオ>のスキルで爆発を防がなかったらこっちまでヤバかっただろうに…………
「おいコラ、自分達の近くでそのスキルを使うなっていつも言ってるだろ…………って、聞いてねーし」
はあ……
こうなった理由は
まあ、オレもリアルでのストレス発散の為に野盗ロールプレイなんてしてるから人の事は言えないが。
「取り敢えずあの二人から金目の物をry「へえ? 誰に何をするって?」……なっっ!」
爆煙が晴れた其処には、二人組の片割れである白髪の少女が立っていた。
「ヌゥァゼだぁぁぁぁぁぁ! 何故生きているぅぅ〜!」
「ん? だってお兄ちゃんのお陰で爆発自体は遠くで起きたし、あとは距離を取って伏せていれば問題なかったよ? …………あと、私とお兄ちゃんはカップルじゃなくて血の繋がった兄妹だからね」
チッ、途中で【ベンヌ】が撃ち抜かれた所為で威力が足りなかったか。
「だがヨォ、頼りのお兄ちゃんは其処で伸びてるぜぇ〜」
もう一人の金髪の男は地に伏せたままピクリとも動かない。《看破》で見てみるとHPも
「ん? お兄ちゃん? …………ふーん、
そう言って、地に伏せた男に顔を向けた少女は、すぐに手に持った大型のメイスの様な<エンブリオ>を構えこちらに向き直った。その表情は非常に鋭く、すぐにでも此方へ飛び掛かってきそうだった。なので、オレも少女に向かって自身の<エンブリオ>を構えた。
「フゥフハハハハハァァァァ! 私の【ベンヌ】の攻撃に耐えたコトは褒めてやろう‼︎だがぁぁぁ【ベンヌ】のスキルが自爆だけだと思ったら大間違いダァァァ〜〜! さぁ甦れ《
「なにぃ⁉︎」
ボッチーの喉には
……そしてナイフが飛んで来た方向を見ると、【気絶】したと思っていた男が何かを投げた姿勢で起き上がっていた。
「あの野郎っ! 実は【気絶】なんてしてなry「はい隙あり《スマッシュ》」なあ‼︎」
声に反応してボッチーの方を見ると、男に気を取られていた隙に接近していた少女が、手に持ったメイスでその頭を叩き潰しているところだった。
【パーティーメンバー<ボッチー>が死亡しました】
【蘇生可能時間経過】
【<ボッチー>はデスペナルティによりログアウトしました】
そんなアナウンスが、ボッチーが死亡した事を伝えてくる。
「さて、一人目は終わり。……次はそっちか」
ボッチーをキルした少女が此方に向き直る。その表情は
「ヒイッ! セッ《
その表情に怯んだオレは自身の<エンブリオ>……【アイアス】のスキルを発動して少女との間に青い光の壁を作り出した。
この《
ガッシャァァァァァァン!
そこには少女が無造作に放った一撃によって、鉄壁の筈のスキルがまるでガラスであるかの様に砕け散る光景があった。
「なっ! 何でこんなあっさry「隙が大きすぎだ《パラライズアロー》」がッ⁉︎」
その光景に動揺していると二の腕に矢が突き刺さり、その後すぐに体が動かなくなった。
「
「ふむ、流石に【麻痺蜂の矢】を使うと効果が早いな」
そんな声と共にメイスを持った少女が近づいて来た。
「
「ん? そっちが先に仕掛けて来たんだし……それに<マスター>なら別に
そんな言葉と共に無表情で赤い目を光らせた少女が手に持ったメイスを振り下ろし…………
【致死ダメージ】
【パーティー全滅】
【蘇生可能時間経過】
【デスペナルティ:ログイン制限24h】
◇◆◇
□<ウェズ海道> 【狩人】レント
「やれやれ、傍迷惑な連中だったな」
「そーだねー、あっアイツらが落としていったアイテムがあるよ! 拾っとこう」
PKとの戦闘を終えた俺達は【ポーション】でHPを回復させつつ、連中が落としていったアイテムを拾っていた。……うーむ、大した物は落とさなかったな。これじゃあ【ポーション】代を補填出来るかどうかか……
「しっかし、カップルに間違われるとはね〜。いや〜私が美少女過ぎるのが悪いのかな〜」
「アバターがリアルから大分弄られているからな、身長とか」
「お兄ちゃんひど〜い! 身長と髪の色と目の色ぐらいしか変えてませ〜ん!」
しかし、さっきはコッチの策が上手くハマったな。
「しかしお兄ちゃん、
「有効な手ではあっただろう? 連中の《看破》では俺の状態異常までは判らなかったようだし」
今回の戦いはミカの【ギガース】がモヒカンの<エンブリオ>に相性で勝っていたり、俺の
「やはりデンドロの戦いは相性が重要だな」
「そーだねー、あと獲物の前で舌舐めずりとかは三流のやる事だよね〜」
「まあ、わざわざ俺達の前に出ずあの<エンブリオ>で奇襲して爆発させていれば良かったのにな」
そんな話をしつつ俺達は王都への帰路に戻っていった。
あとがき・おまけ、各種オリ設定・解説
兄:PKもゲームの楽しみ方の一つではあるのだろう、まあ襲い掛かって来たのなら
妹:本気になったら無表情になる。
《
・下級職・上級職で取得したスキルを全て使用可能にする。
・副次効果として《ペンは剣よりも強し》などのオフに出来ないスキルもオフにすることが出来る効果もある。
モヒカン・ディシグマ:今回のかませその一、モヒカン
・ボッチーとはリアフレ
・相方の行動に困惑しながらも自分もPK行為を楽しんでいた。
・今回の一件で“もうPKからは足を洗ってこれからは清く正しいモヒカンとして生きるよ”と言ったとか。
ボッチー:今回のかませその二、覆面
・メインジョブは【
・デンドロ発売の少し前に今まで付き合って来た彼女に手酷くフラれた。
・そのせいでデンドロ内ではリア充爆破マシーンと化した。
・今回の一件で相方とも相談しPKからは足を洗って、デンドロ内で新しい出会いを探す事にしたとか。
【爆炎再誕 ベンヌ】
TYPE:ガードナー
能力特性:自爆・再誕
到達形態:Ⅰ
保有スキル:《
・ボッチーの<エンブリオ>
・モチーフはエジプト神話に伝わる不死の霊長“ベンヌ”
・紋章は“太陽を抱く鳥”
・《爆炎鳥》は【ベンヌ】を自爆させるスキルで、その威力は到達形態に比例。
・発動前に高威力の攻撃を受けると誘爆してしまう。
・《再誕鳥》は破壊された【ベンヌ】を自身のMPを注ぎ込むことで再生させるスキル。
・自爆以外の方法で破壊された場合、消費MPは大幅に増大する。
・………まあ、スキルの発動宣言をする前に喉を潰されてはどうしようもなかった。
【青壁皮盾 アイアス】
TYPE:アームズ
能力特性:障壁展開
到達形態:Ⅰ
保有スキル:《
・モヒカン・ディシグマの<エンブリオ>
・モチーフは“ギリシャ神話の英雄大アイアスが持つ盾”
・紋章は“盾を構える英雄”
・形状は青い大楯。
・スキル《七の青壁》はストック制の障壁展開能力。
・ストック数は七つ、一度使ったストックは1時間で回復する。
・また、遠隔・間接攻撃を受ける場合は強度は上昇する。
・障壁は耐久値が無くなるか、一定時間経過、または自身が消すまでその場に存在し続ける。
・………なのだが、到達形態が上でバリアブレイク特化の【ギガース】とは相性が悪かった。
【麻痺蜂の矢】:【パラライズ・ホーネット】の毒針で作られた矢
・刺さった相手を一定確率で【麻痺】させる。
・兄はこれと《パラライズアロー》組み合わせて【麻痺】させる確立を上昇させた。
読了ありがとうございます!次回も短編の予定です。
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ミカとクマさん
それでは本編をどうぞ!
□<ノズ森林> 【
「あるーひー、もりのーなかー、くまさーんにー、であーったー」
私は今、歌いながら
そういう訳で私も戦士系のジョブクエストを受けようと思ったんだけど……戦士系、と言うか前衛物理職のジョブクエストを受けるには、ある程度の実力がある事をギルドに証明しなきゃならないみたいなんだよね。確かに前衛物理職のジョブクエストは、殆どが討伐・護衛系だから実力のない人には任せられないだろうけど。まあ、実力をギルドに証明するためのジョブクエストもあったし、私もその中から“指定されたモンスターの討伐”のクエストを受けている最中なんだけどね。
「でもやっぱり、お兄ちゃんがいないと狩りの効率は落ちるよね〜。特に索敵面で」
ここ<ノズ森林>の奥地には擬態や隠密に優れたモンスターが生息しているからね。さらにそういった相手は状態異常を使って来ることも多いし。【狩人】のジョブに就いているお兄ちゃんが居れば、そういったヤツらもこちらから狩りに行けるんだけど……まあ、そういった連中の奇襲に関しては
むしろこの森の中で私にとって厄介なのは、仲間を読んだりして物量で襲い掛かって来るタイプなんだけど。私の戦い方は一体一体メイスで相手を叩き潰していくスタイルだから、どうしても相手の数が多いと対処しきれないのが出てくるし。やっぱそういう時にはお兄ちゃんのフォローが無いとキツイ。
まあ、そういった連中に対処できる人にとって、此処は相当いい狩場らしいんだけどね。
「私も対処はできるんだけどね〜…………ん? ……おっと後ろかな? 《スマッシュ》」
振り向きざまに放ったスキルが、
……まあこうやって下手な歌や独り言で敵を誘き寄せて、それを“近い勘”で把握して返り討ちにする……というやり方で今は狩りをしている。
「あっ、【レッサーカメレオンバジリスク】は指定されたモンスターの中に入っていたね。ラッキ〜」
まあ、コイツも“遠い勘”に少し反応があったから選んだんだけど。
…………私が生まれつき持っている勘には主に二種類ある。一つ目は自分や周りに降りかかる直近の危険を感知して、それをどうすれば回避出来るのかを示す“近い勘“。もう一つはいつか遭遇する危険に対応するための行動を示す“遠い勘”…………正直言ってコッチの勘は私にもよくわかっていないし、反応も大分曖昧に感じる…………がある。
…………この前エルザちゃんのピンチに反応したのは“遠い勘”のほうで、これまでのパターンからするといつか私に降りかかる危険に対して
「“遠い勘”の方は変な方向に反応することもあるからなぁ〜……
その反応は私をこの森の奥に行かせたいようだった。
「まっしょうがない、所詮ここは私にとってはゲームの世界だし気楽にいきますか!」
そうして、私は森の奥へと足を踏み入れていった。
◇
「…………あれ、何?」
そこで目にした光景は…………何とも言葉にし難いモノだった。
『クマ────ッ! 撃っても撃ってもキリが無いクマ! 一体この
そこには様々な種類の大量の魔蟲系モンスターが、
…………一瞬モンスター同士の争いかと思ったけど、よく見るとあっちのクマは着ぐるみだし頭上に名前もないから多分<マスター>かな。……普通ならクマの人が蟲たちにあっさりやられそうなもの何だけど……ガトリング砲の殲滅力と周辺の地形を利用した立ち回りでむしろ圧倒している。……と言うより、あれは蟲たちの動きを完全に先読みしているね、あれだけの立ち回り私でも出来るかどうか…………
まあ、あの蟲たちの動きも明らかにおかしいしね…………さっきから大量に倒されているのに1匹たりとも逃げようとしていないし…………それも同じ魔蟲系と言うだけで全く違う種類のモンスター達が。
「うーむ、あの蟲たちの動きは明らかにおかしいね…………
『クマッ⁈そこの少女‼︎そっちに何匹かいったクマ!』
どうやら蟲たちが私にも気づいたらしい。…………とりあえず目の前に迫ってきた【ポイズンホーネット】を打ち払い、死角から飛び掛かってきた【ハイドスパイダー】を
「ヘーイ! そこのクマさん! 悪いけどチョット横入りするよ‼︎
『へぇ…………いや、むしろ一緒に戦ってくれると助かるクマ。俺の攻撃が届かない部分のフォローをお願いしてもいいクマ?』
「オッケー! …………ところでクマさんお名前は?私はミカ!【戦士】をやってるよ‼︎」
『俺の名前はシュウ・スターリングだクマ、【
これが私と…………後の<超級>、<アルター王国三巨頭>の一人“シュウ・スターリング”との出会いだった。
◇
『あーやっと片付いたクマ……いくら何でも数多すぎクマー……』
「ホントにねー……」
あの後、主にシュウさんがガトリング砲で蟲たちを薙ぎ払いつつ、私が攻撃範囲の外や死角から迫るヤツを潰していく形で戦って、どうにか包囲していた連中を全滅させた。…………やっぱり範囲攻撃が出来ると殲滅能力がダンチだね!
…………まあ、コイツら数は多かったけど行動パターンはほとんどただこっちに向かって来るだけだったので、後半は殆ど作業だったんだけど…………やっぱり数多すぎ!
『いやー、ミカちゃんがいてくれて助かったクマ……流石にあの数を1人で相手にするのはキツイクマ』
「さっきの戦いかたを見る限り、一人でも時間をかければ大丈夫そうだったけど…………それよりも《看破》で軽く見てみたけど、コイツら全員
『なるほどな、さっきのコイツらの行動はそれが原因か…………つまり
ガサガサガサ!
その言葉に応えた訳じゃ無いだろうけど、森の中から何かがこっちに向かって来る音がした…………すぐに私とシュウさんは戦闘態勢を取ってそちらに向き直った。
『KIEEEEEEEEE‼︎』
そうして森の中から現れたのは全長五メートル程の白いカマキリだった…………頭の上には【テンプテーション・マンティス】の文字があった。
「フーン、あからさまな名前だね……コイツが元凶か」
『そうみたいクマね』
そう言ったシュウさんがガトリング砲を【マンティス】に向けてぶっ放した。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ‼︎
『KIEEEEEEEEEEEEE⁈』
しかし、放った弾丸は【マンティス】の外殻に大半を弾かれてHPをたいして減らせていなかった。
『チッ!
「オッケー…………来るよ!」
『KIEEEEEEE‼︎』
さっきの銃撃に怒った【マンティス】が腕の鎌を振りかざして襲い掛かってきた。その速さは以前戦った【
「さて、動きを封じるならまずは足を狙うのが鉄板だよね! 《スマッシュ》‼︎」
『KIEEEEEEEEE⁉︎』
そんな事を言いつつ私は【マンティス】の後脚の一本を砕いていった。
…………うん、さっき
『なるほどな……アレなら援護は要らなさそうクマね。じゃあコッチも準備するクマ……“バルドル第一形態”』
その言葉と共にシュウさんのガトリング砲が腕に装着された大砲に変わっていた。やっぱりあのガトリング砲は<エンブリオ>だったみたいだね。じゃあ、アレを打ち込む隙を作る為にもう少し削りますか!
『KIEEEEEEEE⁉︎』
その後、私の攻撃で後脚が殆ど使いものにならなくなった【マンティス】は、ただ闇雲に鎌を振るう事しか出来なくなっていた。そこに鎌を振っても届かない方向から接近したシュウさんが【マンティス】に大砲を向け…………
『いい加減コレで終わりクマ!《ストレングス・キャノン》‼︎』
放たれた光弾が【テンプテーション・マンティス】の上半身を吹き飛ばした。
◇
「あー今日は疲れたよー。しばらく蟲は見たくなーい!」
『同感クマ…………でもまあ実入りは良かったクマ』
あの後【テンプテーション・マンティス】を倒した私達は、ソイツが落とした【宝櫃】(中身は換金アイテムだった)と他の蟲たちのドロップアイテムを拾って王都に戻ってきた。そして、それらのアイテムを換金し二人で半分づつ分けた…………モンスターを倒したのはほとんどシュウさんだったし、私は途中参加だったから取り分は3割くらいで良かったんだけど『助けてくれたお礼も兼ねているから半々でいいクマ』と言われて押し通された。
そういえばずっと気になっていたんだけど…………
「そういえば、なんで着ぐるみなんて来てるの?それ着ない方が絶対動きやすいし強いでしょ」
『うむ…………それは聞くも涙、語るも涙の事情があるクマ』
「ふむふむ」
『チュートリアルでキャラクタークリエイトがあっただろ? そこで俺はリアルの自分をベースにアバターを作ろうとしたクマ』
「あー私もそうしたよ」
『そこでうっかり間違って何も変えずに決定したクマ』
「…………クマー」
ああうん、それじゃ着ぐるみは脱げないよね…………デンドロは現実視だとリアルと変わらないし…………
「ていうか管理AIは対応してくれなかったの?」
『…………その時担当した管理AIが面白がって変えさせてくれなかったクマ…………おのれ! ハンプティ‼︎』
管理AIにも色々いるんだね…………チェシャさんはあたりだったのかな…………
『その後もこの何の効果も付いていないネタ装備の着ぐるみ買うのに初期費用がほぼ全部吹き飛ぶし、ティアンの人達からも変な目で見られるから各種施設も利用しにくいし、同じ<マスター>からもネタプレイヤー扱いされるし、それでヤケになって“いっそこのまま着ぐるみキャラを貫いてやる!”と語尾をクマ語尾に変えたりしたけど正直キツイクマ…………』
「あ、あはは…………でもクマ語尾は似合ってるよ?」
『ありがとうクマ…………』
うーん、すごい苦労してるなぁシュウさん…………あっそうだ。
「せっかくだからフレコ交換しようよ! シュウさんとはまた一緒にパーティーを組んで見たいし!」
『それはかまわないクマ…………ありがとうクマ」
そうして、私達はお互いにフレンド登録をした。
「じゃあ私は達成したジョブクエストの報告があるから……またね〜シュウさん!」
『おう、また会おうクマ」
こうして私とシュウさんの初めてのパーティープレイは終わったのだった。
あとがき・おまけ、各種オリ設定・解説
妹:今回の主役
兄:今回は出番なし
・司祭系のジョブクエストでとある
シュウ・スターリング:みんな大好きクマニーサン
・強制着ぐるみ縛りプレイで序盤はかなり苦労していた。
・当時はまだティアンが<マスター>の奇行に慣れていなかった。
・この後子供にお菓子を配るなどしてティアンからの信頼を得ていった。
【ポイズンホーネット】【ハイドスパイダー】:<ノズ森林>のモンスター
・今回は【魅了】されていたのでその真価は発揮されなかった。
【テンプテーション・マンティス】:今回の敵
・魔蟲限定の魅了スキル《テンプテーションフェロモン》を使い、魔蟲を操って狩りをする性質がある。
・そのため亜竜級の中でも危険度は非常に高く、操っている魔蟲次第では村一つを滅ぼした事例もある。
・だがスキル特化で自身の能力は亜竜級の中では低い。
・その為チートキャラ二人にはあっさりやられた。
読了ありがとうございます………クマニーサンの口調や行動はコレで良かったかな………次も短編の予定です。
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兄妹のアルバイト
それでは本編をどうぞ!
□王都アルテア冒険者ギルド 【
「「アルバイト?」」
今日も冒険者ギルドに来ていた俺と
「はい…………実は私の母が営んでいる雑貨屋で急に欠員が出てしまって、それでアルバイトを募集したのですが人が集まらず…………どうかお願い出来ないでしょうか?」
ちなみにクエストの内容はこんな感じだった。
難易度:一【アルバイトーマリィの雑貨屋】
【報酬:時給300リル】
『時間は約8時間を予定しています。初心者も大歓迎! とてもフレンドリーな職場です』
『※ 働きに応じて特別報酬もあります』
んー…………現実換算で時給三千円と考えれば割りのいいバイトと言えなくもないんだが…………こう…………紹介文が…………
「アイラさんには何時もお世話になってるしね! 私は受けても良いよ。たまにはこういうのも面白いし! お兄ちゃんは?」
「…………うん……まあゲームだし大丈夫か……わかりました、受けます」
そう言うと、アイラさんは嬉しそうな表情をした。
「ありがとうございます。では雑貨屋への地図を出しておきますね…………どうかよろしくお願いします」
こうして、今日のクエストは雑貨屋でのアルバイトになった。
◇◇◇
□王都アルテア<マリィの雑貨屋> 【
もらった地図に従って歩いていると、目の前に一軒のお店が見えてきた…………うん、看板にも“マリィの雑貨屋”って書いてあるね!
「ついたみたいだよお兄ちゃん!」
「そうみたいだな…………すみません! アルバイトの依頼を受けた者ですが、誰かいませんか?」
そう言うと、すぐに店の中から声がして誰かが出てきた。
「は〜い、今行きまーす……いらっしゃい貴方たちが依頼を受けてくれた人達ね! 何時ものバイトの子達が急に来れなくなって困ってたのよ〜助かるわ!」
出てきたのは気の良さそうな女性だった……何処と無くアイラさんに似ているね、つまりこの人が…………
「自己紹介がまだだったわね、私はマリィ・ローラン、この店の店主をやっているわ」
「俺は<マスター>のレントです。今回はアイラさんからの紹介で来ました」
「同じく<マスター>のミカです! 今日はよろしくお願いします!」
するとマリィさんは少し驚いたような表情をした。
「あら! 貴方たちがレントくんとミカちゃんなのね!
「はい、失礼します」
「失礼しまーす」
◇
店の中に入ると、そこにはポーションなどの消耗品や武器・鎧・服・アクセサリーなどの装備品、果ては見知らぬマジックアイテムらしき物などが綺麗に並べて置いてあった…………うーん、流石雑貨屋だけあって様々な物が置いてあるみたいだね。
「とりあえず二人には接客と商品の整理整頓を手伝ってもらうわ。……
「「はい! わかりました!」」
「それと二人にはコレを付けてもらうわ」
そう言って渡されたのは…………これは
「この【鑑定士のモノクル】には《鑑定眼》スキルのレベルを+1する効果があるわ。二人はまだ《鑑定眼》を覚えていない見たいだし、バイトの間だけ貸しておくわ」
「「わかりました、ありがとうございます!」」
「じゃあ早速仕事にかかりましょうか!」
「「はい!」」
こうして私達の初めてのアルバイトが始まった。
◇
「レントくん、コッチの鎧を動かすのを手伝ってくれるかしら?」
「はい、わかりました」
「ミカちゃんはコッチのアクセサリーを並べて置いてくれる?」
「はーい、わかりました」
「…………よし! 大体の整理整頓は終わったわね。じゃあ二人にはこれから接客をしてもらいましょうか」
「「はい! わかりました!」」
◇
「はーい、いらっしゃいませ!」
「あっミカさん! ここで何をしているんですか?」
「エルザちゃんじゃん! 久しぶり〜。今はアルバイトしてるよ〜……ところでそっちの
「あ、彼女は私の<エンブリオ>が第二形態に進化した時に生まれた……」
「【ワルキューレ】二人目のセリカです。よろしくお願いしますね」
「へ〜もう一人増えたんだ……ところでエルザちゃん、何か買ってく?」
「…………じゃあ、MPとSPの回復ポーションをください」
「まいどあり〜」
◇
『お、ミカちゃんだクマ、バイトクマ?』
「あ、シュウさん‼︎久しぶり〜! うん、今バイトしてるんだ!」
「ミカ、そちらの着ぐるみの人は?」
「この人はシュウ・スターリングさん! この前ソロでやってた時に一緒にパーティーを組んだんだ〜……あっ! こっちは私のお兄ちゃんのレントです!」
「ミカの兄のレントです。先日はウチのミカがお世話になったようで…………」
『シュウ・スターリングですクマ。いやいや、ミカちゃんにはむしろこちらの方が助けて貰いましたクマ』
「もー! 二人共なんか保護者の会話みたいになってるよ!」
「いや、お前が世話になった様だしちゃんと挨拶しないと…………」
『ま、弟妹に甘いのは兄の常クマ、よくわかるクマ』
「むー…………で、シュウさんは何買いに来たの?」
『実は、少し遠出をする事になったクマ。だから消耗品を買い込んでいるところクマ、ポーションとかあるクマ?』
「ポーションは色々ありますよ。あと長時間の野外活動に便利なマジックアイテムも新品・中古と取り揃えていますよ〜」
『ふむふむクマクマ…………あっ、この水をろ過して飲める様にするマジックアイテムはいいクマね、それに中古だから安いクマ、これとポーションをいくつか買うクマ』
「は〜い、かしこまりました〜」
◇
「あーレントくんやん、久しぶりやねー。何しとるん? バイト?」
「ああ月夜さん、お久しぶりです。はい、今はアルバイトのクエストをこなしてます」
「ちょっとお兄ちゃん! 一体いつこんな美人と知り合ったの⁉︎」
「ああこの人は、この前ソロで司祭系のジョブクエストを受けた時に知り合った扶桑月夜さんだ。……こっちは俺の妹のミカです」
「いやー美人なんて嬉しいわー……ミカちゃんやね? ウチは扶桑月夜、よろしゅうなー……あ、後ろの二人はウチの<エンブリオ>のカグヤと秘書の影やんや」
「此は月夜の<エンブリオ>のカグヤよ」
「秘書の月影永仕郎と申します」
「はい…………それで月夜さんは何をお求めになられますか?」
「うーん、最初は冷やかしに来ただけのつもりやったんやけど……せっかくやしなんか買ってこかー……あっ、この回復魔法スキルの効果を上昇させるアクセサリーとかええやん、それに中古やから安いしー……これとMPポーションいくつか買っとくわー」
「はい、かしこまりました」
◇
「おー! 本当にエーリカの言ってた通り色々な物が売ってるんだね! マスター!」
「ああそうだな、ネイ……隠れた名店という彼女の言葉は本当だった様だ。……すまない、ステータスが上がるアクセサリーは何処にあるのだろうか?」
「はい、それらのアクセサリーはこちらになります。新品・中古共に取り揃えておりますよ」
「あっ! 結構いっぱいあるよマスター! 中古の安いのもあるし!」
「そうだな…………このSTRとAGIが上がる中古のアクセサリーをそれぞれ一つずつ頼めるだろうか?」
「はい、かしこまりました」
◇
「えーと…………特撮ヒーローの様なヘルムですか? …………普通のフルフェイスヘルムなら置いていますけど……そういうのは置いてないですね」
「そうか…………」
「うーん……そもそも特撮ヒーローという概念がこの世界にはないですから……」
「確かにその通りだな…………すまない、手間を取らせた様だ」
「いえ、大丈夫です。……専門の職人ならオーダーメイドでそういうデザインのヘルムも作れるかも知れませんけど…………」
「……そうだな、その方向で探してみることにしよう。……相談に乗ってくれて感謝する、それといくつかポーションを買っていこう」
「はい! かしこまりました!」
◇
「ふー、いやーようやくバイトが終わったね〜お兄ちゃん」
「ああ、思ったよりいいバイト先だったな。……なんか新しく《鑑定眼》のスキルも覚えたし」
「うん! 私も覚えたよ! …………このモノクルのおかげかな?」
バイトが終わってからそんな話をしていると、マリィさんが質問に答えてくれた。
「ええそうよ、そのモノクルをしばらく使っていると、適正のあるジョブでなら《鑑定眼》のスキルを取得出来るわ」
「へえーそんなスゴイモノクルだったんですね〜。マリィさん! 貸してくれてありがとうございます!」
「ありがとうございます」
「別にいいわよ〜……私の方も二人が手伝ってくれたお陰で助かったわ。今日はいつもよりたくさんお客さんが来たしね。…………さてと、二人には報酬を渡さなきゃいけないわね」
そういうと、マリィさんはリルが入った袋と
「こっちは二人のバイト代、そしてこっちの紙は特別報酬の【墓標迷宮探索許可証】よ。これに二人の名前を書けば、この国の神造ダンジョン<墓標迷宮>に入ることが出来る様になるわ」
「バイト代はいいんですけど…………特別報酬なんて受け取っていいんですか?」
「ええ、今日は二人のおかげで売り上げが良かったし、この【許可証】も旦那のツテでそれなりに手に入れられるし…………それに、二人のおかげでウチの旦那と娘は本当に助かったみたいだから、そのお礼も兼ねているわ」
そうマリィさんが言うけれど、娘の方はアイラさんとしても旦那さんの方はいったい誰のことだろう?
「あの〜旦那さんっていうのはいったい?」
「ああ、貴方たちがこの国に来た時に、門の所であった騎士がウチの旦那のリヒトよ」
あっ! 門番さんのことか!
「貴方たちが話してくれた<マスター>の情報のおかげで、騎士団やギルドが<マスター>の増加に対応するのが大分スムーズになったと旦那と娘が言っていたからね、これはそのお礼だから遠慮なく受け取りなさい!」
「「はい! ありがとうございます‼︎」」
そうして私達は【墓標迷宮探索許可証】を受け取った。
…………私達がやったことは結構ティアンと<マスター>の関係に影響を与えて居たんだね……
「じゃあこれでバイトは終わりね! 次は客として来てちょうだい、サービスするわよ」
「はい! 是非来させてもらいます‼︎」
「今日は妹共々ありがとうございました」
こうして私達の初めてのアルバイトが終わった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄妹:今回のバイトは色々得るものがあったので受けて良かったと思っている。
アイラさん:実は母に頼まれて二人を連れてくる様に言われていた。
マリィ・ローラン:依頼主
・実は昔魔術師として王宮に仕えていた。
・メインジョブに【賢者】、サブの上級職に【高位魔道具職人】を修めている王国でもトップクラスのマジックアイテムメイカー。
・結婚と出産をキッカケに辞職し、今は趣味のアイテム収集を活かして雑貨屋を営んでいる。
・店とは別にマジックアイテムメイカーとしての仕事は続けている。
<マリィの雑貨屋>:王都の雑貨屋
・趣味でやっているため値段は全体的に安い。
・集めたアイテムや彼女自身が作ったマジックアイテムが並ぶこともあるため隠れた名店として知られている。
【鑑定士のモノクル】:鑑定レベルを+1するアクセサリー
・《鑑定眼》の汎用性からお値段二十万リル。
エルザちゃん:今回の客その一
・<エンブリオ>が進化して数が増えた。
・今は装備を揃える為にギルドの依頼をこなしている。
セリカ:【ワルキューレ】の二人目、銀髪
・彼女たちの外見は髪の色以外は同じ。
・なので髪型をそれぞれ別にしようかと考えている。
シュウ・スターリング:今回の客その二
・彼のその後は原作ウェブ版のEpisode Superior Dance of Animaを参照
・マジックアイテムのおかげで水は手に入った。
扶桑月夜・月影永仕郎・カグヤ:今回の客その三
・今はまだクランを創っておらず、地道にデンドロをプレイ&布教活動中。
少女の<エンブリオ>を連れた<マスター>:今回の客その四
・
特撮ヒーローのようなヘルムを探していた<マスター>:今回の客その五
・この後お金を貯めつつヘルムを作ってくれる職人を探し始めた。
読了ありがとうございました。次も短編の予定です。
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<墓標迷宮>と第三形態
では本編をどうぞ!
□王都アルテア<墓標迷宮>前墓地区画 【
「やってきました! <墓標迷宮>‼︎」
「お前は一体誰に言っているんだ?」
なんか叫んでいる
…………『神造ダンジョン』とは、通常のダンジョンと違い“モンスターが自動でリポップする”、“モンスターが外に出てこない”、“一定階層ごとにボスモンスターがいて倒すと追加報酬が出る”などの特徴を持ったダンジョンのことである。
その特殊な性質からティアンの間では“神が作ったとしか思えないダンジョン”である事から『神造ダンジョン』と呼ばれているのだとか。
「メタ的なことを言うと“運営が作ったダンジョン”って事になるんだけどね!」
「まあそういう事なんだがな…………それで、王国にある<墓標迷宮>に入るにはこの【墓標迷宮探索許可証】に記名して使う必要があると」
「【許可証】をくれたマリィさんには感謝だね! …………これ、市場価格じゃ
「本当にな…………」
後で【許可証】の市場価格を知った俺達は<マリィの雑貨屋>に行ったのだが「一度記名した【許可証】は売れないから返して貰っても困るわ。それに前にも言ったけど、これは貴方たちへのお礼も兼ねているから遠慮する必要は無いわ。申し訳ないと思うのならこれからこの店に来て、何か買ってくれればそれで十分よ!」と言われて結局そのまま受け取った。
「あの後マリィさんのお店で装備も新調したしね! 前の【ライオット】シリーズもいい装備だったけど、私とはあんまり相性が良くなかったし」
「まあ、攻撃がほとんど当たらないお前にHPを増やしたりダメージを減らすスキルは要らないよな」
「そうだね、だから今回の装備はSTRやAGIに補正が入るのを選んだよ。何より
そう、先日ミカは【
新しいジョブである【戦棍士】は棍棒の運用に特化した【
「私の【ギガース】はメイスだし、《バーリアブレイカー》との相性も良さそうだしね!」
「実際、防御スキルやENDへのバフを減衰させる<エンブリオ>と、素のENDや装備防御力補正を減算するジョブスキルの相性は最高だろうな」
ミカは徹底的に相手の防御をブチ抜いて攻撃を通すビルドにするらしい。…………将来的に攻撃を防げる奴が居なくなるんじゃないか?
「それに何より私達の<エンブリオ>が第三形態に進化したしね! 私のは相変わらず武器攻撃力とステータス補正とスキルレベルが上がっただけだけど」
「俺も相変わらずステータス補正はオールGのままだけどな。…………まあ《光神の恩寵》のレベルが上がって獲得経験値が+200%になったし、
「いや〜楽しみだね〜お兄ちゃんの新スキル!」
「あまり期待されても困るんだが…………」
そうして、騒がしいミカを後目に俺は<墓標迷宮>に入っていった。
◇◇◇
□<墓標迷宮> 【戦棍士】ミカ
あれから私達は、<墓標迷宮>の入り口の見張りの兵士さんに【許可証】を見せ(<マスター>が【許可証】を見せたことに少し驚いていた)中に入っていった。
「さて! 調べた情報によると序盤の階層に出て来るモンスターはアンデッド系ばっかりみたいだね! ……うん【スピリット】とかも私ならなんとかなるし、お兄ちゃんは【司祭】だから対アンデット用のスキルも使えるよね?」
「ああ、聖属性攻撃魔法の《ホワイトランス》やアンデッドに対する浄化・デバフ魔法《ピュリファイ・アンデッド》が使えるな」
「よし、ガンガンモンスターを倒してレベルを上げていこう! 神造ダンジョンなら
「フィールドでは多くの<マスター>がモンスターを倒し過ぎたせいで一部の狩場でモンスターが殆ど居なくなった、なんて事になってるらしいからな」
「何事もやりすぎは良くないよね〜。じゃあ今日は地下5階のボスを倒して終わりにしようか!」
そんなことを話しながらしばらく歩いて行くと、前からモンスターが現れた…………え〜と【シビル・スケルトン】に【ウーンド・ゾンビ】か〜、さすがに現実視だと色々ハッキリ見えてきついね! ……なんか腐臭も漂ってくるし…………
「さてお兄ちゃん! 早速新スキルの出番だよ‼︎」
「はいはい…………とりあえず撃ってみるか……《ホワイトアロー》!」
そう言ったお兄ちゃんの弓から白い光を纏った矢が放たれ、その射線上にいたアンデッドが
「お〜結構凄い威力じゃん!」
「いや思ったよりMPの消費が激しいな、雑魚相手じゃ威力も過剰だし……《ピュリファイ・アンデッド》まで組み合わせる必要は無かったか?」
「まあまあお兄ちゃん、初めて創ったスキルにしては良くできてると思うよ? …………それにしても
「字面だけはな…………思ったより使いにくいし…………」
そう、お兄ちゃんの新しいスキル《
今使った《ホワイトアロー》は弓系攻撃スキル《ハンティングアロー》と聖属性攻撃魔法スキル《ホワイトランス》、アンデットデバフ・浄化スキル《ピュリファイ・アンデッド》を組み合わせ“アンデッド特効効果を持つ聖属性弓系攻撃スキル”として創ったスキルである。また、創造するスキルの発動形式や消費MP及びSP・威力・射程・範囲・チャージ時間・クールタイムなども調整出来るとのこと。
「実際この《百芸創主》は制限や制約がかなりあるからな…………まず、創れるのはアクティブスキルだけで、組み合わせられるスキルの数は<エンブリオ>の到達形態と同じで今は三つだけ、また使うスキルの数を増やすと使用するためのコストが跳ね上がるようだ、さらに各種要素の調整も何処かを上げれば別のところを下げる必要がある、それに一度スキルを創ってしまうとデンドロ内時間で二十四時間は再調整・削除できず、既にオリジナルスキルを創るのに使っているスキルは別のオリジナルスキルを創るのには使えない、何よりオリジナルスキル作成用のスロットは
「こうして並べてみると結構制約が多いねー」
「出来たスキルも実際に使って見なければ詳細はわからないからな。…………使いこなすには時間がかかりそうだ」
どうも新スキルは大器晩成型らしい…………お兄ちゃんの<エンブリオ>は全体的にそんな感じだけど。
「さて! 新スキルもここでは役に立ちそうだし先に進もうか!」
「そうだな…………大分臭いにも慣れたしな」
そうして私達は先に進んでいった。
◇
「《ピュリファイ・アンデッド》‼︎」
「そこ! 《スマッシュメイス》‼︎」
お兄ちゃんのスキルで敵のアンデッドモンスター達の一部が浄化されて消滅し、それ以外の相手もデバフ効果で動きが鈍る。
その隙に目の前の武器を持った【スケルトン・ソルジャー】を【戦棍士】で覚えたスキル──以前まで使っていた《スマッシュ》のメイス版上位互換スキル──で粉砕した。そしてそのまま周りのアンデッド達を【ギガース】で薙ぎ払っていく。
「ハハハハハ! やっぱりアンデッドは脆いね‼︎」
「脆い分しぶといんだから油断するなよ…………《ホワイトランス》!」
私の攻撃範囲外のアンデッドを弓で牽制していたお兄ちゃんが、まだ残っていた【レッサーレブナント】に魔法を放ち消滅させた。それを横目に近くにいた【ホーンテッド・スピリット】を
「《物理攻撃無効》も私には意味がないよ!」
「はいはい…………やっぱりアンデッドには弓より聖属性魔法の方が有効だな」
そうこうしているうちに最後の一体を叩き潰し、それでアンデッドの一団は全滅していた。
…………周りにはアンデッド達が落としたドロップアイテムが落ちているが、正直中身はしょぼい…………【スピリット】とか何も落とさないし…………
「まあ、ドロップアイテムが目的で来た訳じゃないしね!」
「ああそうだな…………目的の地下五階についたし、多分この先がボス部屋だろう」
とりあえず【ポーション】でMPとSPを回復させてから奥に進むとそこは広い空洞になっていた。
「おーいかにもダンジョンのボス部屋って感じだね!」
「確かにボス部屋のようだな……あそこにボスっぽいモンスターがいるし。…………【スカルレス・セブンハンド・カットラス】ね」
そこには十メートルほどの巨大なスケルトンがいた。その姿は手の代わりに左右3本づつの刃状の骨を生やしており、さらに頭は無く代わりに先端に刃がついている連結された長い骨を振り回していた。…………うん、ファンタジーに出て来るザ・ボスって感じのモンスターだね!
「さて、どう戦うお兄ちゃん?」
「少し
「オッケー、じゃあ行くよ!」
お兄ちゃんのスキルで多少動きが鈍った【スカルレス・セブンハンド・カットラス】に向かって私は突っ込んで行く。するとボスは七本の刃をこちらに向けて振るって来た! 特に頭の鞭みたいな骨が厄介だね、起動が不規則だし…………私には全部の攻撃が解っているけど。
「とりあえず巨大な敵への対処法その一『足を潰す!』《スマッシュメイス》‼︎」
そうやって
……やっぱり硬いね、今のでもあんまり砕けなかった。とりあえずこのまま密着して戦おう、そうすれば頭の鞭骨以外は振りにくくなるだろうし、あとは動きに気をつけていればなんとかなるかな、これだけサイズ差があれば次のお兄ちゃんの攻撃の邪魔にもならないだろうし。
「さて、これなら当てられるな……《
そして、お兄ちゃんが撃った強い輝きを放った矢がボスの胴体部分に当たり、左右六本の刃の内
「《サードヒール》…………思った以上に威力が出たな、《空想秘奥》がスキルの特殊効果も強化したのが原因か。…………それにオリジナルスキルにも《空想秘奥》は効果を及ぼせる事は確認できたな。…………アレに普通の矢は大して効果は無いだろうし魔法主体で戦うか、《瞬間装備》《ホワイトランス》!」
お兄ちゃんは【司祭】用の聖属性・回復魔法に補正が掛かる短杖──この前マリィさんの店で買ったやつ──に持ち替え魔法をボスに放った。左右のバランスが崩れたボスは動きがかなり鈍っておりその魔法をまともに食らった。
…………さて、私も死角になった左側に回ろうか、コッチなら鞭骨以外は届かないだろうし。
「あとはワンサイドゲームだよ! 《スマッシュメイス》‼︎」
「これだけダメージを与えればな、《ホワイトランス》!」
その後集中攻撃された足を砕かれたボスは、それから程なくして倒されたのだった。
◇
「いや〜地上の空気は美味しいね!」
「さっきまでは腐臭が酷かったからな」
「まあ【戦棍士】のレベルも大分上がったから良かったけどね」
「俺も【司祭】がカンストしたからな」
あれからボスを倒した私達は、ドロップアイテムとボス撃破の追加報酬を受け取り、出てきたワープポイント(一緒に地下六階への階段も出てきた)を使って地上に戻ってきた。
また、ドロップアイテムには【エレベータージェム】が二つ出てきており、これを使えば一回だけ地下六階からダンジョンに潜れるようだ。
「他のアイテムは換金アイテムと……【救命のブローチ】か。ええと……確率で致死ダメージを無効にするアクセサリーだって、どうするお兄ちゃん?」
「それは前衛のお前が持っていればいいだろう。…………お前の勘でもどうしようもない攻撃が来ても防いでくれるだろうしな」
「わかったよ……ありがとうお兄ちゃん」
そうして私達の<墓標迷宮>初アタックは終わったのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
妹:オリジナルスキル名をもっとカッコいいのにすれば良いのに、《
兄:戦闘中にそんな恥ずかしいスキル名を言えるか!
《
・オリジナルスキルを創るスキル。
・あくまで既存スキルの合成及び調整のスキルなので“神”系の超級職や才能がある人が創るスキルと比べると自由度などが大きく劣る。
・創ったスキルの名称は自分で決める必要がある………兄的にはこれが一番面倒くさい。
《ホワイトアロー》:兄のオリジナルスキルその1
・《ハンティングアロー》《ホワイトランス》《ピュリファイ・アンデッド》を組み合わせており、特に細かい調整はしていない。
・上記の組み合わせだと“矢型の聖属性魔法を放つスキル”としても創ることが出来る。
《ピュリファイ・アンデッド》:【司祭】のスキル
・周囲のアンデッドに対してデバフを与え、低位のアンデッドを低確率で浄化・消滅させる。
【
・妹の第二のジョブ、メイスの扱いに特化している。
・転職条件に“メイスでの敵の撃破数が三十以上”、“《棍棒技能》のレベルが3以上”がある。
・上級職は【
・超級職は【
【
・棍棒の扱いに特化したジョブ。
・その他の派生職にハンマーの扱いに特化している【
《戦棍技能》:【戦棍士】のスキル
・メイスの扱いを補正するスキル。
・メイスは棍棒としても扱われるので《棍棒技能》でも補正が入るが、こちらの方がより強い補正が入る。
《ストライク・ペネトレイト》:パッシブスキル
・この効果でENDはゼロ以下にはならない。
・【棍棒士】【戦棍士】などの打撃武器系ジョブで取得出来る。
・相手に防御されると発動しないのでAGI基準の《剣速徹し》と比べるとやや使いにくい。
《アーマーブレイカー》:アクティブスキル
・スキルレベルに応じた割合だけ相手の装備の防御力を減算する。
・棍棒士系統のジョブにはこれらの防御の上から殴るタイプのスキルを多く取得する。
読了ありがとうございました! これで今章は終わりです。
次回から新章の予定なので、更新は遅くなると思います。
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指名クエストと<UBM>
兄妹の指名クエスト
それでは本編をどうぞ。
□王都アルテア冒険者ギルド 【
俺達が<Infinite Dendrogram>を初めてから
その間にも世間のデンドロブームは留まることを知らず、この<アルター王国>にも多くの<マスター>が現れるようになった。そして、ティアンの人達も次第にその事に慣れ始めてきたようだった。
「いや〜この一ヶ月、デンドロの中では色々な事があったね〜お兄ちゃん?」
「初日から亜竜級のモンスターと戦ったりな…………まあ確かに色々あったな」
そう言っているのは妹のミカ、今は冒険者ギルド内の一角でカタログを見ながらクエストを見繕っている。
「俺もようやく上級職に転職できたからな。まだまだこれからだろう」
「イヤイヤお兄ちゃん、デンドロ内一ヶ月で下級職二個カンストして上級職に就くなんてスゴイ早いからね! 他の<マスター>なんて下級職一職目もカンストしてないのがほとんどだからね!」
「まあ、俺の<エンブリオ>はそういうものだからな」
つい先日二職目の下級職である【
…………やはり上級職だと1レベル毎に上がるステータスが下級職の時よりも高い、これならより経験値稼ぎも捗るな。
「やっぱり経験値増加スキルはチートだね! チーターだね‼︎」
「別に衣装は黒くないし二刀流も使わんぞ。…………大体お前の方がSTRとか高いじゃないか」
「【
これらの要素と装備補正などを加えるとミカのSTRは1000を超える。【ギガース】の性能とアクティブスキルを合わせれば、亜竜級のモンスターにも大きなダメージを与えられる程である。
…………レベルが倍以上差があるのに物理的なステータスは大体負けてるからな。
「人の事をチートとか言えたモノかよ」
「うーん…………結論! <エンブリオ>は大体チート‼︎」
「…………まあティアンの人から見ればそうなるだろうな」
「そうだねー…………“ころしてでもうばいとる! …………”みたいなことにならなきゃ良いけど」
「<マスター>は死なないけどな。…………ティアンの人達も不死身の化け物相手にそんな無謀なことはしないだろう」
それに、この世界には<マスター>と言う存在がどれだけ理不尽なモノなのかが伝説になるぐらい伝わっている。それらは過去に居たと言う<マスター>──大体全部キャット性のやつ──が原因で伝わったモノだ。
…………まあ、運営側もそんな事態にならない様な布石としての意味もあってそんな伝説を広めたのだろう。
「ま、この話はこれ以上しても仕方ないし今日やるクエストを決めようか!」
「そうだな…………ん?」
「どうしたのお兄ちゃん? …………あっ、あれはアイラさんだね、どうしたんだろう?」
そこには、何時もはギルドの受付にいるアイラさんがこちらに向かって来るところだった。
「レントさん、ミカさん、少しお時間を頂けないでしょうか?」
「別に良いですけど……何の用なんですか?」
「…………ここではあれなので別室でお話しします。どうかついて来て下さい」
そうして俺達はアイラさんについて行きギルド内の個室に入っていった…………どうも周りの目を気にしていた様だし、いったいどんな話なのやら…………
◇
個室に入り、そこに置いてあった机に向かいあって座ると、いきなりアイラさんが頭を下げて来た。
「お二人とも、いきなり呼び出してしまってすみませんでした」
「頭を上げてください、アイラさんには色々お世話になっているのでそのぐらい構いませんよ」
「そうですよ! お兄ちゃんの言う通りですって! …………それで要件は何なんですか?」
「ありがとうございます。…………それで要件なのですが、お二人には
そう言ったアイラさんは一枚のクエスト用紙を取り出し俺達に見せた。…………そこにはこう書かれていた。
難易度:五【調査依頼ーノズ森林奥地】
【報酬:一人当たり十万リル ※ 調査内容次第では特別報酬あり】
『ノズ森林奥地で起きている異常の調査。報酬の十万リルは結果によらずに支払われる。時間は各種準備・調査で約一日を予定』
『※この依頼を受けるのは<マスター>のみとする』
これは<マスター>限定の依頼? 内容は<ノズ森林>の奥地の調査? いやそれよりも…………
「難易度五のクエストとは…………俺達はまだ難易度一から三ぐらいのクエストしか受けたことがないんだが……」
「まあクエストの難易度よりもレベル上げを優先してたしねー。…………それよりも、難易度四以上のクエストはそれまでに成功させたクエストの数によって受けられるのかが決まるんじゃなかったっけ?」
「確かそうだったはずだが…………報酬も妙に高いし…………アイラさん、このクエストは一体どう言うことなんですか?」
「はい、それを今から説明します。まずこのクエストはギルドが特定の相手にのみ提示する“指名クエスト”です」
アイラさん曰く“指名クエスト”とは通常のクエストと違い、ギルドが特定の相手に直接依頼する形式のクエストなのだと言う。
…………色々気になるところの多いクエストだが、とりあえずアイラさんに詳しい事情を聞く事にした。すると彼女は真剣な表情で語り始めた。
「…………事の始まりは王都周辺のモンスターの生態系が変わってきたことです」
「それって<マスター>が王都周辺のモンスターを狩り過ぎて、最近獲物がだいぶ減ったーとか言っていた話ですか?」
「いえ、その話は余り関係はないでしょう。…………なぜならこの件の始まりは一ヶ月前……
アイラさんの話によると、約1ヶ月前から王都の周辺により遠い場所に生息している強力なモンスターが現れた事が何度か報告されたのだと言う。
…………モンスターの生態系の変動自体はこの世界ではそこまで珍しい事ではなく、環境の変化や元々住んでいた場所により強力なモンスターが現れるなどの要因で住んでいた場所を移動するケースはそれなりにあることらしい。
とはいえ王都周辺の生態系の変動はそこに住む住人、ひいては王城に住む王族の安全にも影響するため王国の騎士団や有志の冒険者たちによって、王都周辺及び遠方の高レベルモンスターの生息地の調査がなされた。
「その調査自体は、これまでも何度かあった事なので順調に進みました。…………ただ一ヶ所を除いて」
「それが<ノズ森林>の奥地だった、と」
「はい…………<ノズ森林>の奥地に調査に向かった合計レベル200代のベテラン冒険者のパーティーは、
何でもその冒険者のパーティーは二日程度で調査を終えて王都に帰って来る筈が、三日経っても何の連絡も寄こさず今に至るらしい。
しかし…………
「そんなベテラン冒険者でもダメだったクエストを、よりレベルの低い<マスター>にやらせて大丈夫なんですか? 多分王国の<マスター>の殆どが合計レベル50にも届いていませんよ?」
「そうだねー……合計レベル三桁超えてるお兄ちゃんが言ってもあんまり説得力ないけどね〜」
「俺は<エンブリオ>がレベル上げに向いていただけだしな。それにベテラン冒険者たちや騎士団と違って調査の為のノウハウも無いし」
「いえ…………このクエストは
そう言ったアイラさんは少し申し訳なさそうな表情をしていた…………ああ、成る程ね…………
「死んでも三日経てば蘇る<マスター>なら
「はい…………このクエストは以前お二人が話していた提案を元に私と父…………第一騎士団の長・リヒト・ローランが発案したものです。『<マスター>に調査を任せれば確実に情報を持ち帰ってくれるだろう。それにこれ以上の犠牲も減らせる』と」
「…………あれ? アイラさんのお父さんって門番じゃなかったっけ?」
「えっ……いえ私の父・リヒト・ローランは王都警備を担当している第1騎士団の長をしています。確かお二人と父が出会った場所は王都の門前でしたね、それなら門番だと勘違いしても仕方ありませんか…………父はよく自分で王都の見回りをしているので、偶々門の前でお二人と会って話をしたと言っていました」
そうだったのか…………ずっと門番さんだと思ってたよ…………王都警備担当の第一騎士団の長とか、あの人もの凄く偉い人だったんだ…………
「今までずっと勘違いしてたな…………それにしてもあの時ミカがした提案がまさか本当に現実のものになるとは……」
「えっ、私何か言ったっけ?」
「ほら、お前が初日に言ったじゃないか『<マスター>はどうせ死なないのだから命の危険がある依頼でも報酬次第では受けると思う』とか」
「あ〜そういえばそんな事も言ったっけ! 忘れてたよ!」
俺達がそんな話をしていると、アイラさんがこのクエストの詳細について話してくれた。
「このクエストの報酬の十万リルは調査の結果に関係なく受注した全ての<マスター>に支払われます。そして、調査内容が危険なものであったりした場合には追加で特別報酬も支払われます。…………それで、お二人はこのクエストを受けてもらえるでしょうか? なお、クエストを受けない場合はこの部屋での事は他言無用にお願いします」
ふむ…………確かに危険はありそうだがクエストの内容に対して報酬は破格だし、どうせ<マスター>は死んでも死なないのだから別に受けても構わないと思うのだが…………
「どうするミカ? 俺は受けても構わないと思うんだが」
「うん…………私も
…………ミカがまた遠くを見るような目になっている…………これはまた何か感じ取ったな。ミカがこうなった時はその直感に従わないとロクなことにならないからな。
…………まあ、どうせ死んでも死なないゲームなのだから気楽に行くか。
「わかりました、そのクエストをお受けします」
「はい! 私も受けます‼︎」
「お二人共ありがとうございます、このクエストは冒険者ギルドの方で、他にも信用できる<マスター>に声を掛けています。お二人にはその方達とパーティーを組んで頂きたいのですがよろしいですか?」
「それは別に構いませんが…………他の<マスター>とは一体誰なんですか?」
俺もミカもあんまり野良パーティーとか組まないんだよな。
…………基本二人で組んでるし、お互いソロでも何とかなってしまうからな…………他の<マスター>とパーティーを組んだのってエルザちゃんの時ぐらいじゃなかったか?
「ご安心ください、当ギルドの方で実力と人格面で信用できると判断した<マスター>達に声を掛けていますから。…………まあ何人クエストを受けてもらえるかは分かりませんが。なので詳しい紹介はパーティーメンバーが揃ってからにさせてもらいます。…………ではしばらくこの部屋でお待ちください、クエストを受けた他の<マスター>を連れてきますので」
そうして、アイラさんは部屋から出て行った。
…………とりあえずこの間に少しミカと話しておくか。
「さて、何か妙な話になってきたな。…………ミカ、お前の勘で何か解った事はないか?」
「今のところ近い勘ではこのクエストはそれなりに危険だって出てる、けど遠い勘では受けた方が良いって感じなんだけど…………というかこのクエストを受けないと
「じゃあ受けて正解だったな、流石にアイラさんの身に何かあったら寝覚めが悪い。…………それでこのクエストの成功率はどの位なんだ?」
「そこまではまだ詳しく分からないけど…………これから来る<マスター>達と協力すれば達成するのは不可能じゃないって感じかな」
成る程、ならなんとかなるか…………ミカの勘で受けるなと出ていないからな。
「あんまり私の勘を過信しないでよ。…………特にこの世界では私が不死身の<マスター>なせいか、感覚も微妙に違ってるし」
「ああ分かっているよ、お前の勘でも
「そうだねー、それはちょっと嬉しいかな〜。それに一体どんな<マスター>が来るんだろうね〜、私達他の人とパーティーとかあんまり組まないから楽しみだな〜」
「そうだな」
さてと、これから来る<マスター>達は一体どんな人達なのやら…………
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:今回上級職に転職、ペースは超早い。
妹:今回のクエストでは嫌な予感がしているが、受けない方が悪い結果になりそうな気もしている。
【
・ステータスやスキルは【狩人】を全体的に強化した感じ。
・転職条件は“【狩人】のカンスト”、“モンスターの一定数以上の討伐”、“モンスターから一定の質以上のドロップアイテムを入手する”だった。
《マッスルフォース・メイス》:【戦棍士】のパッシブスキル
・メイスを装備している間、自身のSTRをスキルレベルに応じた割合で強化する。
・特定武器の扱いに特化したジョブには、これらの特定武器装備時に効果を発揮するパッシブスキルをいくつか取得することが多い。
アイラさん:今回の依頼人
・<マスター>が誰も依頼を受けなかった場合には自分も調査に志願しようと思っていた。
リヒト・ローラン:依頼人その二
・今回の依頼は王国の益となる<マスター>がどの位居るのかを確かめる意味もあった。
・なので今回のクエストの報酬はかなり色をつけている。
読了ありがとうございます。これから少しずつ投稿していきます。
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パーティーメンバーとの顔合わせ
後今回から原作キャラが出ます、それでは本編をどうぞ。
□王都アルテア冒険者ギルド 【
それから私達はしばらくの間、冒険者ギルドの一室で今回のクエストで一緒になる<マスター>達が来るのを待っていた。
「まだかな〜まだかな〜、一体どんな<マスター>が来るんだろうねお兄ちゃん?」
「いいからちょっと落ち着けミカ」
そんなこんなしているうちにこの部屋のドアがノックされた。
…………来たね!
「は〜い! 入ってま〜す!」
「いや、それはなんか違うだろう…………」
「あれっ? この声って…………やっぱりミカさんだ! それにレントさんも!」
そう言ってこの部屋に入って来たのは、私達のフレンドでもあるエルザちゃんだった! その後ろからは彼女の<エンブリオ>であるアリアさんと
…………えーと一人は以前アルバイトの時に少し話したセリカさんだったっけ、だとするともう一人も…………
「久しぶりだね、エルザちゃん! 【ワルキューレ】がまた増えているね!」
「はい、先日<エンブリオ>が第三形態に進化しまして…………改めて紹介しますね、みんな自己紹介してくれる?」
「はい、改めまして【ワルキューレ】の長女アリアです。ジョブは【
「以前少しお話ししましたけど……【ワルキューレ】の次女のセリカと申します。就いているジョブは【
「はーい 【ワルキューレ】三女のトリムだよ! ジョブは【
ふーむ、金髪ロングの真面目キャラのアリアさん、銀髪ツインテールの優しそうなセリカさん、青髪ポニーテールの元気っ子なトリムちゃんと三人ともなかなか個性的だね! みんな同じ顔だけど、これなら誰が誰だかわかりやすいね。
「じゃあ私も改めて、ミカです! ジョブは【戦棍士】で役割は前衛のアタッカーだよ、よろしくね!」
「ミカの兄のレントです。メインジョブは【
「二人とも、もう二つ目のジョブに就いたんですね! …………私はまだ【
「いやいやそれが普通だって! 私も二職目についたばかりだし。既に三職目で上級職に就いてるお兄ちゃんがおかしいんだよ!」
「レントさんもう上級職に就いたんですか! 凄いですね!」
そんな話をしていると、いきなりエルザちゃんの服の中から
その石には赤く光るコアの様なモノがあり、ただの石ではなくモンスターであることを伺わせた。
『KYUUUUUU』
「あっこらアーシー! 勝手に出てきたらダメじゃない!」
「エルザちゃんその子って…………」
「はい、この子は私のテイムモンスターで【アース・エレメンタル】のアーシーと言います。以前とあるクエストの最中に偶然出会って
『KYUUUUU!』
エルザちゃんの紹介に応える様に【アース・エレメンタル】のアーシーちゃんが鳴いた。
…………うん、こうして見るとちょっと可愛いかも。
「エルザちゃん! テイムモンスターも手に入れたんだね!」
「はい、アーシーの他にも二人いるので紹介しますね…………
そうして出て来たのは狼型のモンスターと鳥型のモンスターだった。
狼のほうは【ティールウルフ】に似ているけどそれよりも大きいし、鳥のほうは多分鷲かな…………?
「こっちは【ストライク・ウルフ】のヴェルフで、以前従魔師ギルドで買った時は【ティールウルフ】だったんですが最近進化しました。それでこっちが【ウインド・イーグル】のウォズです。この子もアーシーと同じでクエスト中に出会ってピンと来たのでテイムしました」
「おー……しばらく見ないうちにエルザちゃんの戦力が超強化されている…………」
「はい! 仲間になってくれたこの子達のお陰で色々なクエストを達成出来るようになりました!」
本当に凄まじい強化具合だよ…………もう初日に【リトルゴブリン】に襲われていた時の面影はカケラもないね。
でも、エルザちゃんがこのゲームを楽しんでくれているなら良かったかな。
「それで、エルザちゃんもギルドから指名を受けたの?」
「はい、冒険者ギルドの方から『今まで多くのクエストを達成して来たあなたに受けてほしいクエストがある』と言われて、それから詳しい話を聞いて受けることにしました。…………それに報酬も十万リルと良かったので…………」
「…………エルザちゃんお金ないの?」
「…………はい…………【ワルキューレ】達の装備やテイムモンスターの食費とかで…………」
「あー…………」
どうやら、強力な力にはそれ相応の代償が必要らしい。
…………まあゲームでは強くなるほどお金がかかるし、一人で大量の戦力を抱えているテイマーなら尚の事だろう。
「ところで、今回のクエストはまた私達とエルザちゃん達だけで受けるのかな?」
「いえ、他にもこのクエストを受ける<マスター>はいるみたいで、その人たちを連れて来るので先に部屋の中で待っていてほしいとアイラさんは言っていました」
ふーんまだ来るんだ、じゃあその間にエルザちゃんと色々話でもしようかな!
◇◇◇
□王都アルテア冒険者ギルド 【大狩人】レント
それからしばらくの間、俺達は互いの近況を語り合っていた。
ああ、エルザちゃんのテイムモンスター達は【ジュエル】の中に戻している。流石に部屋が狭いからな。
「へー、エルザちゃんそんなに沢山のクエストをクリアしてるんだ」
「はい、みんなのお陰でなんとかやって来れています。…………クエストを沢山こなさないとお金がすぐに無くなるので…………お二人は王都のダンジョンに挑んだんですよね! 私もダンジョンに行ってみたいです」
「まあ5階層まで行ってボスを倒して帰ってきただけだからな。それにレベルは上がったが、モンスターが骨とゾンビと霊体だからドロップアイテムの実入りは良くなかったしな」
「ちなみに<墓標迷宮>に入る為に必要な【墓標迷宮探索許可証】は市場で約十万リルで買うか、アルター王国が定期的に発注する難易度:三のクエストの報酬で手に入るらしいよ」
「十万リル…………クエストでの入手を試みたいと思います…………」
そんな話をしていると、ふいに部屋の扉がノックされた…………どうやら他の人達が来たみたいだな。
「失礼します…………3人とも揃っているみたいですね」
そう言いながら、アイラさんが
男性二人には紋章があるし<マスター>だな、少女の方には紋章が無いがこのクエストは<マスター>専用だし、おそらくエルザちゃんの【ワルキューレ】と同じ<エンブリオ>だろう。
…………男性の内一人と少女には見覚えがあるな、確かマリィさんの店でアルバイトしていた時に来ていた客だったかな。
「アイラさん、その人達が一緒にクエストを受ける<マスター>なんですか?」
「そうですミカさん、今回のクエストは此処にいるメンバーで受けてもらいます。それでは皆様、まずは自己紹介からお願いします」
そう言われたので、俺達はお互いに自己紹介をする事になった。
「はーい、私はミカと言います! ジョブは【戦棍士】をやっています‼︎」
「ミカの兄のレントと言います。メインジョブは【大狩人】に就いています。本日はよろしくお願いします」
「【従魔師】のエルザ・ウインドベルと申します。後ろの三人は私の<エンブリオ>で、TYPEガードナーの【ワルキューレ】です」
「【ワルキューレ】長女のアリアです」
「次女のセリカです。よろしくお願いしますね」
「三女のトリムです! よろしく!」
「俺は【剣士】のフォルテスラという。こっちは俺の<エンブリオ>のネイリングだ、今日はよろしく頼む」
「はーい! メイデンwithアームズのネイリングだよ! マスター共々よろしくね!」
「【
フォルテスラさんにネイリングちゃんにシャルカさんか、三人とも良い人そうで良かったかな。
しかしメイデンか…………確か複数タイプの混成型で、少女の姿を取るのが特徴のレアカテゴリーだったな。他には月夜さんのカグヤぐらいしか見た事は無いし、同じ女性の人型<エンブリオ>でもエルザちゃんの【ワルキューレ】はただのガードナーらしいからまだよくわかっていないカテゴリーなんだよな。
「では自己紹介も終わったところで、改めて今回のクエストの詳細をお話しします。…………このクエストでは<ノズ森林>奥地の調査を行ってもらいます。調べる場所は以前消息を絶ったパーティーが調査していた場所を中心におこなもらいます。調査地点の詳細に関しては、後でマップを渡すのでそれでご確認ください。調査時間はその場所の周辺を約半日程調査してもらいます。また、その結果によらず十万リルは支払われます。そして異常の原因となる情報を持ち帰った場合には特別報酬を支払われます。報酬の内容は得た情報次第で個人毎に要相談となります。以上で説明を終わります、何かご質問等はございませんか?」
俺は特に質問は無いが…………他の人達も特に質問は無いみたいだな。
「特に質問は無い様ですね。…………では今回のクエスト、どうかよろしくお願いします」
◇
あの後、アイラさんから調査地点のマップを受け取った俺達は、各々の準備を整えて王都の北門に集まっていた。
そこでそれぞれが出来る事を話し合い、今回のクエストでのパーティーの役割分担を決めることになった。
「私は主に前衛でメイスを振るってのアタッカーぐらいしか出来ないかな。<エンブリオ>のスキルで、物理攻撃が効かない相手にも攻撃を通すことが出来るけど」
「俺は弓での後衛と索敵役だな。あとサブで【司祭】も取っているから回復役も出来るぞ。……ああ、<エンブリオ>のスキルのお陰でメインが【大狩人】でも回復魔法が使えるからその辺りは心配しなくていい」
「私自身は【従魔師】なので直接戦闘はできませんが【ワルキューレ】の三人はそれぞれアタッカー・ヒーラー・タンクがこなせます。あと【ストライク・ウルフ】のヴェルフは索敵と遊撃、【ウインド・イーグル】のウォズは上空からの偵察や風属性魔法による支援、【アース・エレメンタル】のアーシーは主に私の護衛で、地属性魔法による攻撃と防御が出来ます。あ、テイムモンスターを全員出すと従属キャパシティが足りなくなるので、パーティー枠の空きを使わせてもらいます」
「俺は剣を使った前衛ぐらいしか出来ないな。だが、ネイのスキルは一対一の戦闘向きだから強敵が現れた場合は頼りにしてくれ」
「私はパーティーメンバーにエンチャントをかける後衛ですね。あと、私の<エンブリオ>は【ラフム】という泥状のゴーレムで物理攻撃が効かないので前衛を任せる事が出来ます」
こうして見ると前衛・後衛・回復・索敵と揃った、バランスの取れたパーティーになったな。
「さてあとはパーティーのリーダー役を決めないといけないね…………と言うわけで、私はリーダーにお兄ちゃんを推薦します! この中では一人だけ上級職だしね‼︎」
「おい、一体どういう訳だ…………大体ジョブと指揮能力は関係無いだry「はい、私も賛成します!」えぇ…………」
いきなりミカが俺をリーダーに推薦したと思ったら、エルザちゃんまで賛成した、一体どういう事だ…………?
「そうだな……俺も前衛として戦わなければならないから、後衛が指揮を取ってくれるのはありがたいな」
「私もエンチャントとラフムへの指示がありますので、指揮はお任せします」
フォルテスラさんとシャルカさんまで…………はあ、しょうがないか。
「わかった、このパーティーの指揮は俺が取るよ…………パーティーのリーダーなんて初めてだから下手でも文句は言わないでくれよ」
「大丈夫、大丈夫! このゲームが始まってからデンドロ内の時間でもまだ一カ月くらいしか経ってないんだから、まだパーティーの指揮を完璧にこなせる人なんていないよ〜……それにお兄ちゃんなら大抵の事は上手くこなすだろうし、何より
成る程、ミカが
「じゃあ、前衛がミカとアリアさん・トリムさん・フォルテスラさん・シャルカさんのラフムで、後衛は俺とエルザちゃん・セリカさん・シャルカさんで、テイムモンスターはエルザちゃんが指示を出して遊撃を頼む。……とりあえずそういう布陣で、何回か戦闘をこなして不都合があった場合には修正する。あと、今日組んだばかりのパーティーなので俺は最低限しか指示を出さないから、基本的には各々の判断で行動してくれ。…………これでいいか? 何か意見があるなら言ってくれ」
「うん、それでいいんじゃないかな!」
「はい、大丈夫です」
「私も問題ありません」
「ああ、俺もそれで構わない…………今日初めて組むパーティーに完璧は求めないさ、もっと気楽に行こうレントくん」
フォルテスラさん…………そうだな、少し深刻に考え過ぎていたみたいだ。ミカの勘でもこのメンバーならなんとかなると言っていたし大丈夫だろう。
「じゃあ今からクエストスタートだ!」
こうして俺達の指名クエストが始まった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:今回のメンバーその一
妹:今回のメンバーその二
エルザ:今回のメンバーその三
・前回から大幅に強化されており、亜竜級ぐらいなら彼女達だけで倒せるレベル。
・兄妹とのクエスト以降、デンドロやゲームの事をネットなどで調べていた。
アリア:長女
・ステータス補正はSTR・AGI特化のアタッカー。
・彼女達【ワルキューレ】はジョブレベルを持つ為、レベル制限のある人間用の装備を着けることができる。
セリカ:次女
・性格は穏やかで優しいが、マスター至上主義。
・ステータス補正はMP特化のヒーラー。
トリム:三女
・性格は元気で明るくマスター大好き。
・というより彼女達【ワルキューレ】は全員マスターの事を第一に考えている。
・ステータス補正はHP・END特化のタンク。
ヴェルフ:エルザちゃんのテイムモンスターその一
・兄妹とのクエストの後に従魔師ギルドで購入した【ティールウルフ】が進化したもの。
・性格は真面目で、役割は索敵と遊撃。
ウォズ:エルザちゃんのテイムモンスターその二
・風魔法も使えるが威力はまだ高くない。
・性格は実直、役割は空からの偵察と敵への牽制。
アーシー:エルザちゃんのテイムモンスターその三
・実は亜竜級の上位エレメンタル。
・地属性魔法全般を使いこなし、攻撃・防御・ゴーレム創造による前衛もこなせる。
・性格は甘えん坊、役割はマスターの護衛と後方支援。
フォルテスラ&ネイリング:今回のメンバーその四
・この頃はまだクランは作っていない。
・だからネイリングも団長じゃなくマスター呼び。
・初めてのリーダーに戸惑う兄に対してフォローを入れてくれるイケメン。
シャルカ:今回のメンバーその五
・この頃からフォルテスラとはよくパーティーを組んでいた。
・今のラフムは必殺スキルを覚えていない為、やや攻撃力不足。
読了ありがとうございます。
次回は今章の第3話目です、お楽しみに!
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<ノズ森林>の調査と前哨戦
では、本編をどうぞ。
■<ノズ森林>奥地 ???
『GUUUUU』
タリナイ
『GUUUUUU』
血ガタリナイ
『GUUUUUUU‼︎』
ワガ
ヤハリ、イクラザコヲ切ッテモタイシタタシニハナラヌ。モットツヨイモノヲ切ラナクテハ。
…………アノ六人ノニンゲンドモハナカナカ切リガイガアッタ。マタ、アノヨウナニンゲンドモガコナイダロウカ。
コノ剣ヲモッテカラ、ワレハ絶大ナチカラヲエタ!
…………モハヤワレハアノヨウナアノヨウナチイサナ群ヲスベルダケノワイショウナ存在デハナイ‼︎
マア、アノモノタチモサイゴハワガ剣ノカテニナレタノダカラホンモウダロウ…………
ソウ…………コノ剣ノチカラデ、ワレハコノセカイデ唯一ノソンザイ…………
◇◆◇
□<ノズ森林>奥地 【
「じゃあ、フォルテスラさんとシャルカさんはよく一緒にパーティーを組んでいるんですか?」
「ああ、最初は野良のパーティーで偶々組んだだけだったんだがシャルカとは妙に気が合ってね、それ以来よく一緒にクエストをこなしたりしているよ」
「ええ、私もフォルテスラとは何故か気が合いまして、それに私とラフムだけだと攻撃力が足りないのでアタッカーが居てくれると助かるんですよ。…………それで、レントくんはいつもミカちゃんやエルザちゃんとパーティーを組んでいるんですか?」
「いえ、ミカは実の妹なのでいつも組んでいますが、エルザちゃんはフレンドではありますがたまにしか組んでいませんね。今回のクエストでも一緒になったのは偶然ですし。お二人はどうなんですか?」
「俺とシャルカは二人揃ってギルドからクエストの依頼を受けたな。他にも、何人かよく組んでいる<マスター>は居るんだが都合がつかなくてな…………それに、このクエストを受ければティアンの被害を減らせると思ったからな」
「あと報酬も良かったですしね」
俺は<ノズ森林>の奥地を歩きながら、フォルテスラさんやシャルカさんとこのクエストを受けた訳やお互いのパーティーメンバーの事などについて話している。
やっぱり男同士だと気軽に話せていいな! …………俺がデンドロで話してきた相手って、ミカを始めとしてアイラさん・エルザちゃん・月夜さんと女性が多かったからなぁ。
えっ、ミカ? ミカならエルザちゃんやネイリングちゃん達とガールズトークしてるよ…………その姦しさに居心地が悪くなったから、こうやって男同士で話しているってのもある。
「しかし、さっきから随分と緩い空気になっているな」
「まあ、ギスギスするよりもいいのでは? 出て来るモンスターもほとんど瞬殺出来ていますし」
「俺も《生物索敵》を使って警戒していますが特に反応はありませんからね。他にも、周辺を警戒しているヴェルフやウォズがいますが特に異常は無いみたいですし」
この森の奥地に入ってから出てきたモンスターは、殆どが前衛のミカやアリアさんやフォルテスラさんにすぐに倒されてしまっていた。
たまに現れる少し強いモンスターも物理攻撃無効を持つラフムを突破出来ず、その間に他のメンバーに総攻撃されて倒されていた。
でも、流石にそろそろ注意を促しておくか…………この森の状況は
「はーい! 全員あんまり気を緩め過ぎないようにしろよ、この森に異常が起きているのは明らかだからなー」
「えっ? この森の奥地に入ってからは対して強いモンスターと遭遇してませんよ?」
「だからだよエルザちゃん、<ノズ森林>の奥地にしてはモンスターが
「成る程な……俺達がこうやって楽に行動できているのがそもそもおかしいのか……」
「そういう事です、フォルテスラさん」
俺の言葉に皆が納得したらしく、全員武器を構えて(ネイリングちゃんも剣形態になってフォルテスラさんの手に収まっていた)辺りを警戒しつつ進むようになった。
…………しばらくすると周辺を警戒していたヴェルフやウォズが声をあげ始めた…………俺の《生物索敵》にも反応があったな。
「全員構えて! 向こうから何かきます‼︎」
反応があった方向の森の中から出てきたのは、体長が五メートルぐらいあるカブトムシに似た姿のモンスターだった…………頭の上には【
「亜竜級のモンスターか! 全員気をつけろ‼︎」
『GIGIGIGI!』
こうして俺達と【亜竜突撃兜虫】との戦いが始まった。
◆◇◆
■<ノズ森林>奥地 ???
フム…………マダコノ森ニノコッテイタ虫ケラト、ミョウナニンゲンドモガ戦イヲハジメタカ。
アノ虫ケラモワガ剣ノカテニスルツモリダッタノダガナ。
…………マアイイ、コノ戦イニカッタモノヲワガ剣ノカテニスレバヨイダケヨ…………
◇◆◇
□<ノズ森林>奥地 【
『GIGIGIGI!』
おっといきなり【亜竜突撃兜虫】が突っ込んできたね! どうやらその名前の通り突撃が得意みたい。
…………でも、こっちには物理攻撃にはめっぽう強い壁役がいるんだよね〜。
「抑えろ! ラフム‼︎《エンチャント・ストレングス》《エンチャント・アジリティ》!」
『BO・BO・BO‼︎』
その突撃をシャルカさんの単体バフを受けたラフムが受け止めた。その際相手のツノがラフムの身体を貫通するが、身体が流動する泥で出来ているラフムにはダメージがなく、そのまま強化されたSTRとAGIを使って泥の身体を動かして相手を絡め取り動きを封じた。
やっぱり物理攻撃無効の流体って強いよね! 相手が物理攻撃しか出来ないなら大体完封出来るし!
『GIGIGIGI⁉︎』
「《テイマーズコマンド・アタック》《テイマーズコマンド・スピード》! アリア! トリム! 行って‼︎」
「はいっ! 《スラッシュエッジ》‼︎」
「わかった! 《魔蟲切り》‼︎」
「俺達も行くぞ、ネイ! 《オーヴァー・ブレード》《スラッシュエッジ》‼︎」
「じゃあ私も行こうかな! 《インパクトストライク》‼︎」
動きが止まった相手に私達アタッカーのアクティブスキルが次々突き刺さっていき、相手のHPが一気に減って身体にもいくつも傷がついた。
特に、フォルテスラさんとネイリングちゃんの攻撃は一撃で相手の足を切り飛ばしていた…………大物相手ならまかせて! とネイリングちゃんが言ってただけはあるね。
すると、相手が背中の羽根を広げて飛び立とうとしていた……まあ虫だから空も飛べるよね。
「空を飛ばせるつもりはないぞ《モンスター・ハント》“魔蟲”《ハンティングスナイプ》!」
「アーシー、お願い《ロックランス》!」
『
『GIGIGIGI⁈』
そこへ、お兄ちゃんの指定した種族のモンスターへの特効スキルが上乗せされたアクティブスキルと、アーシーちゃんの岩の槍を放つ地属性魔法が襲いかかり、相手の二枚の羽根を貫いて飛行出来なくさせた。
飛べなくなったと分かった相手はさらに激しく暴れるが、身体に絡みついたラフムを振り解くことは出来ないでいるようだ。
「今だ! 一気に畳み掛けるぞ《ハンティングアロー》‼︎」
「《トライスラッシュ》‼︎」
「《スマッシュメイス》‼︎」
「《オーヴァー・エッジ》《スラッシュ》‼︎」
そこにお兄ちゃんの矢・アリアさんの連続攻撃・私の【ギガース】による一撃・そしてトドメにフォルテスラさんの刀身を大きく伸ばしたネイリングちゃんによる一閃が相手の胴体部の甲殻の隙間に直撃し、その身体を半ばから断ち斬った。
◆◇◆
■<ノズ森林>奥地 ???
…………アノミョウナニンゲンドモガ勝ッタカ。
…………ナラバワガ剣ノカテニナッテモラウトシヨウ。
…………マズハアノ女カラダ…………
◇◆◇
□<ノズ森林>奥地 【大狩人】 レント
フォルテスラさんの一撃によって胴体を真っ二つにされた【亜竜突撃兜虫】は、しばらく痙攣したのちに光の塵になっていった。
「お疲れ様ですフォルテスラさん、見事な一閃でしたね」
「いや、あれはシャルカのラフムが抑えていてくれたから出来たことだ…………それに他のメンバーの攻撃によるダメージで動きが鈍っていたからな。…………それと、アイツが落とした【宝櫃】はどうする?」
「それはフォルテスラさんが持っていてください。クエストが終わった後に他のドロップアイテムと一緒に分配しましょう」
「わかった、では今は俺が持っておこう」
周りを見てみると、一戦を終えたからか弛緩した空気が流れていた…………一人を……ミカを除いて。
「どうしたミカ…………何か感じたのか?」
「うんお兄ちゃん……
「っ! 全員周囲を警戒! 何か来るぞ‼︎」
俺のその言葉に他の皆が、武器を構え直して周囲を警戒し始める。
…………これまで索敵を担当していたから俺の言葉をすぐに信じてくれたよ、ミカの直感は説明するのが難しいから助かったな。
「さて、何が来るかry「エルザちゃん‼︎」っミカ⁉︎」
すると、いきなりミカがエルザちゃんの名前を叫びながら駆け出した…………そのすぐ後に森の中から一つの影が飛び出して、エルザちゃんに襲いかかった!
「《ハンティングスナイプ》‼︎」
『
『GAU‼︎』
その影に向かって俺のアクティブスキルとウォズの風魔法が放たれ、さらにそこにヴェルフが牙を剥き襲い掛かった。
だが、その影は
『
「マスター‼︎」
しかし、稼いだ時間を使ってアーシーの地属性魔法がその影を囲むようにして大きな壁を作り出し、その隙にセリカさんがエルザちゃんを抱えてその場を離脱した。
「エルザちゃん! 大丈夫⁉︎」
「マスター! 無事ですか‼︎」
「はっはい! 私は大丈夫です……でもヴェルフが……」
『KUUUN』
「回復させます《サードヒール》!」
弾き飛ばされたヴェルフも大したダメージではないらしく、セリカさんの回復魔法で完治していた。
そして、その間に他のメンバーも集まって土壁の向こう側にいる謎の影を警戒していた。
「一体何者なんでしょうか?」
『マスター、アイツなんか凄い嫌な感じがする…………』
「ああ俺もだネイ、奴からは異様な気配を感じる…………もしやこの<ノズ森林>の異常の原因かもしれん」
「その可能性が高いでしょうね、明らかな異常ですし」
そんな話をしていると目の前の壁が向こう側から砕け散り、その中から一体のモンスターが現れた。
『GUUUU』
「…………ゴブリン?」
そのモンスターの外見は身長二メートル程のゴブリンの姿をしており、その手には禍々しい存在感を放つ一本の剣が握られ、さらに腰にも一本の剣がさげており、その目は怪しげな赤い光を湛えていた…………そして、その頭上には今まで見たことがない形式の名前が浮かんでいた。
「【魔刃悪鬼 ゴリドン】?」
「まさか…………<
以前、アイラさんから聞いた話では<UBM>とは世界で一体しか存在しない文字通りユニークなモンスターの事であり、特異な固有能力や高いステータスを持つらしい。その戦闘力は
…………なるほど、この森にモンスターが殆どいなかったのはコイツが全部切ったからかな? あの剣もなんか凄そうだ、以前マリィさんの店で見た高性能な装備以上の気配を感じる…………鑑定して見ると【ヴァルシオン】という銘の非常に高い装備補正を持つ剣で、スキルは高レベルの《破損耐性》があるだけだった。
後、腰にさげている剣も鑑定して見たがただの《スティールソード》だった。
『GUUUUAAAAAAA‼︎』
まるで俺達の言葉に“その通りだ”と答えるように、目の前の<UBM>……【魔刃悪鬼 ゴリドン】は吠えてそのまま俺達に襲いかかってきた。
…………これが俺とミカの初めての<UBM>戦だった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:そういえばデンドロ内で男の知り合いが殆どいなかった………
妹:ガールズトークは楽しいね!
《ハンティングスナイプ》:【大狩人】のスキル
・《ハンティングアロー》の上位版。
・威力・射程が上がったがクールタイムもやや長くなっている。
《モンスター・ハント》:【大狩人】のスキル
・遭遇した事のある種族一つを指定し、その種族のモンスターへのダメージを一定時間増加させる。
《スマッシュメイス》:【戦棍士】のスキル
・《スマッシュ》のメイス版。
・打撃武器全般で使えていた《スマッシュ》と違いメイスを装備していなければ使えないが、その分威力が高い。
《インパクトストライク》:【戦棍士】のスキル
・高い攻撃力を持つが、若干のチャージ時間がかかる。
エルザ:ポジションは完全に某ゲームのトレーナー
・すっかり指揮官役が板についている。
《テイマーズコマンド・アタック》《テイマーズコマンド・スピード》:【従魔師】のスキル
・それぞれ、自身の従属キャパシティ内のテイムモンスターの攻撃力とAGIを上昇させる。
・他に防御力を上昇させる《テイマーズコマンド・ディフェンス》などがある。
アリア・セリカ・トリム:三姉妹
・今回のパーティーでは連携の隙を埋める役だった。
・メイン武器はそれぞれ大剣・杖・片手剣と盾を使っている。
・スキルによる高い基礎ステータスを《魔物強化》で底上げしている。
・セリカはSTRとAGIも上げており、緊急時にはマスターを抱えて離脱する役割も担う。
《スラッシュエッジ》:【剣士】のスキル
・《スラッシュ》の上位スキルで、威力の高い単発攻撃。
ヴェルフ&ウォズ:二人とも男
・真面目にヴェルフと、鳥系の中では珍しく実直で思慮深いウォズなので仲は良く連携にも優れている。
・今回のパーティーでは周辺警戒を担当し、新たなモンスターの横入りに気をつけていた。
・ウォズの風魔法は飛行補助がメインのため、森の中でも問題なく行動可能。
アーシー:実は女の子
・様々な地属性魔法に加えて、威力拡大・射程延長・多重発動などの各種魔法拡張スキルも使いこなす。
・今回のラフムの活躍を見て、泥ゴーレムもいいなと思い始めた。
フォルテスラ&ネイリング:後の【剣王】だけあって技術は高い
・《オーヴァー・ブレード》は指定した対象の素のENDをネイリングの攻撃力に加算するスキル。
・これと他のスキルを組み合わせる事で亜竜級すら両断する。
・このスキルは拙作のオリ設定なので、原作でネイリングの詳細が出た時には変更します。
シャルカ&ラフム:今回大活躍
・デンドロでは物理無効の流体は超強い(某悪いスライムとか)
・今回のクエストはラフムがいるかどうかで難易度が大きく変わる。
《エンチャント・ストレングス》《エンチャント・アジリティ》:【付与術師】のスキル
・それぞれSTRとAGIを強化する単体バフ。
・他にも各種ステータスを強化する単体バフがある。
【
・特殊なスキルはなく、高い物理ステータスを用いた突撃を得意とする。
・その突撃からのツノの一撃は、同じ亜竜級のモンスターをも貫くほど。
・……だが、物理無効の泥ゴーレム相手では意味が無かった。
【魔刃悪鬼 ゴリドン】:……詳細は次回!
読了ありがとうございました。次回は<UBM>戦です!
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VS<UBM>
それでは対<UBM>戦をどうぞ!
□<ノズ森林>奥地 【
『GUUUUUUUU‼︎』
「防げ! ラフム‼︎」
『BO・BO・BO!』
私達に向かって剣を振りかざして突っ込んで来た【魔刃悪鬼 ゴリドン】を、シャルカさんのラフムが私達を庇う様にして迎え撃つ。
相手のAGIはこちらよりも大分早いようで振るわれるその剣先は霞んで見える程だったが、《物理攻撃無効》のスキルを持つ泥のゴーレムであるラフムにダメージを与える事は出来ていない様だ。
…………だが、これで終わる様なら<
『
『BO・BO・BO⁉︎』
「ラフム⁉︎ くっ《エンチャント・エンデュランス》‼︎」
「流石にまずいな《ハンティングスナイプ》!」
攻撃が効かないと判断するや否や【ゴリドン】は、剣に炎を纏わせるアクティブスキルを使いラフムを切り裂いた。
…………幸いな事に泥のゴーレムであるラフムに対して、炎による攻撃は効果が今一つだったらしくダメージは少なかった様だ。すぐにシャルカさんがEND単体バフをかけてダメージを減らし、お兄ちゃんの支援射撃を相手が躱して距離を取った隙に体制を立て直した。
…………よし、私も前に出よう。直接戦えばさっきから感じている
「お兄ちゃん、私も前に出るよ」
「わかった! ……前衛は前に出てくれ! 多分次からはラフムを無視してくるぞ‼︎」
『GUUUU!』
お兄ちゃんの言葉通りに【ゴリドン】は攻撃が大して効かないラフムを無視することにしたらしく、高いAGIを使ってラフムを躱し後衛のシャルカさんを狙って来た。
…………だが、その行動を直感で先読みしていた私は、相手の進行方向に先回りしてそのままアクティブスキルを叩き込んだ。
「《スマッシュメイス》」
『GUUUUU⁈』
「やっぱりそっちを狙うよな《ハンティングアロー》!」
私の不意打ち気味に放たれたアクティブスキルは相手の剣で受け止められるが、僅かに体制が崩れたところにお兄ちゃんの援護射撃が突き刺さった。
…………やっぱり強いね、ステータスは大体亜竜級の三倍ぐらいかな。後、違和感の正体も
そして、私達が稼いだ時間を使って他の前衛メンバーも来たみたいだね。
「《テイマーズコマンド・デフェンス》アリア、トリム! ウォズ《ウインドカッター》、アーシー《ロックグレイヴ》‼︎」
『
『
「了解! 防御は任せて‼︎」
「私は攻撃です《トライスラッシュ》‼︎」
エルザちゃんの指示によってウォズの風の刃が【ゴリドン】を牽制し、その隙にアーシーちゃんが地面から石の槍を出す地属性魔法で相手を打ち据えダメージを与えた。
その隙に接近したアリアさんとトリムちゃんに向けて相手が剣を振るうものの、エルザちゃんからの防御バフを受けたトリムちゃんがその攻撃を吹き飛ばされながらも盾で受け止めて、そこにアリアさんが三連撃を打ち込んだ。
「今です! ラフム! 抑え込みなさい‼︎」
『BO・BO・BO‼︎』
「よし動きが止まったね、ここは足を狙おうか《インパクトストライク》!」
「行くぞ! ネイ‼︎」
『オッケー! マスター《オーヴァー・ブレード》‼︎』
「《スラッシュエッジ》‼︎」
怯んだ相手に追いついたラフムが後ろから絡みつき動きを止め、そこに私のアクティブスキルが放たれ相手の足を砕いた。
そこに、フォルテスラさんとネイリングちゃんが亜竜級モンスターをも両断するスキルを放った。
しかし……
『GUUUUUU‼︎』
「なにっ! ……ぐわっ‼︎」
『マスター⁉︎』
その攻撃は【ゴリドン】の身体を少し切り裂いたところで止まっており、それに動揺したフォルテスラさんを剣で弾き飛ばし、そのままラフムを振り払った相手はすぐさま後方に飛び退いた。
「くっ、どういう事だ⁉︎《看破》しても
『マスター、やっぱりアイツ変だよ! なんだかよくわからないけど…………とにかくなんか変!』
「ですがミカさんの攻撃は効いている様です。あの足なら先程の様な動きは……」
『GUUUUUUUU‼︎』
そんな事を言ったシャルカさんの目の前で【ゴリドン】が大声で叫びだした。
…………すると相手が光に包まれると共に、その傷が
「そんな…………」
「《看破》で見てみましたが《超回復》というスキルがありました、おそらくそれが原因でしょう。他に該当しそうなスキルはありませんでしたし…………」
「だが、MPとSPもそれ相応に減っている! このまま攻め続ければ勝てるはずだ‼︎」
その言葉に皆が希望を持ったみたいだけど…………
……すると、お兄ちゃんがフォルテスラさんに話しかけた。
「すみませんフォルテスラさん、差し支えなければさっきアイツに使ったネイリングのスキルを教えてくれませんか?」
「……? ああ、さっき使った《オーヴァー・ブレード》は“選択した攻撃対象の素のENDをネイリングの攻撃力に加算する”スキルだ。…………だが、さっきは何故かアイツには効かなかったな…………?」
「成る程……そっちが効かずにミカの攻撃が効いたって事は……そういう事か……ミカ! 危険度が高いのは
「さっき打ち合った時の感覚だと、
「それじゃあ確定だな……あとはどういうタイプかだが……それはこれから確かめるか」
そんな私達の会話に他のメンバーは疑問符を浮かべていた…………まあ私の直感は他人には理解され辛いし、お兄ちゃんもいざって時には頭が異様にキレるから他から見たときは分かりにくいしねぇ……
「皆、頼みがある……アイツの動き、特に剣を持っている腕の動きを止めて欲しい。その隙に俺の切り札の一つをアイツに打ち込む」
「それでアイツを倒せるのか?」
「……少なくともアイツの能力のカラクリは見抜けると思います」
「カラクリと言っても……ヤツの能力は全て看破できていますよ?」
「いや待てシャルカ、俺もアイツの能力には違和感を抱いている……それに、ネイもさっきからアイツから変な感じがしているらしい。ここはレントくんの指示に従おう」
「ありがとうございます、フォルテスラさん…………来ます‼︎」
『GUUUUUUUU‼︎』
お兄ちゃんの言葉と同時に【ゴリドン】がこっちに突っ込んで来た……どうやら傷は完全に治ったらしい。
「防げ! ラフム!」
『BO・BO・BO!』
「おっと、逃がさないよ《スマッシュメイス》‼︎」
「アーシー! 《グランド・ホールダー》!」
『
それに対しラフムが再び壁になろうとするが、相手はそれを躱し……たところを先読みしていた私の一撃で怯ませ、そこにアーシーちゃんの魔法で作られた“地面から現れる巨大な五本の腕”が掴みかかった。
『GUUUU⁉︎』
「逃がしません《スラッシュエッジ》‼︎」
「させん! 《オーヴァー・エッジ》《トライスラッシュ》‼︎」
「今です! 捉えなさいラフム‼︎」
『BO・BO・BO‼︎』
それを切り払って逃れようとする相手を、アリアさんとフォルテスラさんの攻撃が妨害し、そこにラフムが絡みついて動きを完全に止めた。
「よし! 《モンスター・ハント》“
そうして動きを止めた【ゴリドン】……の剣に向かって、お兄ちゃんの新オリジナルスキル──《ホワイトランス》《弓技能》《ハンティングアロー》のスキルを組み合わせ
…………そして、その剣からこの世のものとは思えない音がした。
『■■■■■■■■■■■⁉︎』
「最初からおかしいと思っていたんだ……俺達の低レベルな《看破》や《鑑定眼》で
そうお兄ちゃんが言うと、ヤツの頭の上の【魔刃悪鬼 ゴリドン】の文字が掠れて消え、そこには【ホブゴブリン・ソードマスター】の文字が浮かんでいた。
…………そして、あの剣の上に文字が浮かんでいた…………【心蝕魔刃 ヴァルシオン】と…………
◇◇◇
□<ノズ森林>奥地 【
『あっ、マスター! あの変な感じが消えたよ!』
「成る程な、そう言う事だったか……ネイにはその能力上“他者のステータスを感じ取る”感覚がある。それがヤツのスキルで妨害されていたのが原因か」
「確かに言われてみれば、私達の低レベルなスキルで能力が全て解るのはおかしいですね……」
その正体を現した<UBM>……【心蝕魔刃 ヴァルシオン】を見て、皆が俺の言葉に納得した様だ。
…………良かった、推測が当たってて……正直、ヤツの種族はエレメンタルとアンデットの二択だったからな。偽装が解けた今なら、狩人系の各種スキルで種族がエレメンタルだと解る……まあ、アンデットでも聖属性の攻撃だったから問題なかったけど。
まあ、重要なのは
「さて、正体を現したところで、早速仕留めさせてもらおうか。……全員! あの剣を狙ってくれ‼︎」
『■■■■■■■■■■‼︎』
俺がパーティーメンバーに指示を出すと同時に
…………だが、俺ばかりに注意を向けていていいのか?
「ラフム! 逃すな‼︎」
『BO・BO・BO‼︎』
「アーシー! 拘束を追加して‼︎」
『
逃げようとするヤツに対しラフムが更に拘束を強め、その足が地面に出来た泥に沈んみ込んだ。それによりヤツの動きは再度封じ込められた。
更に、そこにフォルテスラさんが飛び掛かった。
『マスター! 《オーヴァー・ブレード》の再設定は終わったよ!』
「よし! 《スラッシュエッジ》‼︎」
『■■■■■■■■■■■■⁉︎』
ターゲットを【ヴァルシオン】に変更したフォルテスラさん達の斬撃がその刀身に直撃し、俺がつけたヒビを更に広げた。
…………そこで持ち主の【ホブゴブリン・ソードマスター】がヤツを庇うような動きを見せた…………動きがぎこちないから、やっぱり無理矢理操られている感じかな?
「いや、剣士が剣を庇うとか本末転倒でしょ《インパクトストライク》‼︎」
「そうですね《スラッシュエッジ》‼︎」
『GUUUU⁉︎』
その行動で出来た隙を狙ってミカとアリアさんがゴブリンの手足を攻撃し、そのダメージによってヤツへのガードが緩んだ。
「これで終わりだ……《
そこに《空想秘奥》によって強化された、俺のもう一つのオリジナルスキル──《モンスター・ハント》《
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■‼︎』
その攻撃により【心蝕魔刃 ヴァルシオン】は断末魔をあげて砕け散った。
◇
【<UBM>【心蝕魔刃 ヴァルシオン】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【レント】がMVPに選出されました】
【【レント】にMVP特典【心身護刃 ヴァルシオン】を贈与します】
砕け散った【心蝕魔刃 ヴァルシオン】が光の塵になると共に、今のアナウンスが告げられた。
それと共に、俺の下に一つの【宝櫃】が贈与された…………<UBM>は倒すと特典武具とも呼ばれる特別なアイテムを落とすらしく、それはその戦いで最も活躍した者に贈られると聞いたが、今回は俺がMVPに選ばれたらしい。
…………ちょっと叩いてみるか。
「MVPおめでとうお兄ちゃん、やっと終わったね〜……って何叩いてるの?」
「…………また偽装しているんじゃないかと思ってな」
「いや〜そこまで疑わなくてもいいでしょ…………大丈夫、私の勘でも【ヴァルシオン】はちゃんとやられたって出てるから!」
どうやら本当に倒されたらしい…………流石に疑いすぎたか。
しかし今回の戦いは大分綱渡りだったな、特にダメージを受けたヤツがあそこまで動揺したからその隙をつけた訳だし…………もし、動揺せずに普通に戦われていたらもっと苦戦していただろう。俺のスキルも一日一度だけだからな。
……そこにフォルテスラさんが話しかけてきた。
「MVPおめでとうレントくん。今回の敵は君がいなければ倒せなかっただろう」
「いえ、皆が相手の動きを抑えてくれていたお陰です。……それで要件は
「ああ……あのゴブリンのことだ」
そちらを見ると【ヴァルシオン】に操られていた【ホブゴブリン・ソードマスター】が目を瞑って座り込んでいた。
…………ヤツを倒した後、すぐに限界だったラフムとアーシーちゃんの拘束魔法が外れてあのゴブリンは自由になったのだが、そこで逃げるでもこちらに襲い掛かるでも無くその場に座り込んでしまったのだ。
……その行動に面食らった俺達は激戦の疲労もあって、何かするタイミングを逃してしまったのだった。
「…………正直、あそこまで無抵抗の相手を斬るのは気が咎めるしな…………」
「そうだな…………っ!」
すると、いきなり目を開いたゴブリンは腰の剣を引き抜いてこちらに構えてきた!
それに対して俺達はすぐに迎え撃つ姿勢をとるが、ゴブリンはそのまま動かなかった……その目には先程までの狂気は一切なかった。
「一体何のつもりでしょうか……とりあえず全員にバフを……」
「いや待てシャルカ…………ここは俺一人で相手をする……行くぞ、ネイ」
『……わかったよ、マスター』
迎え撃とうとしたシャルカさんを止め、フォルテスラさんが既に満身創痍のゴブリンの前に出た。
「【剣士】フォルテスラだ……一騎打ちで相手をしよう」
『GUUUU!』
…………そして
『…………GAAAAA‼︎』
『《オーヴァー・ブレード》‼︎』
「《スラッシュ》‼︎」
…………決着は一瞬だった。
ゴブリンの剣はフォルテスラさんには当たらず、フォルテスラさんの剣はゴブリンの胴を薙いでいた。
『…………──』
…………そのまま【ホブゴブリン・ソードマスター】は光の塵になり天に登っていった。
「…………終わったねお兄ちゃん」
「…………そうだな」
こうして、俺とミカの初めての<UBM>戦は終わったのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:初特典武具ゲット
・その詳細は次回!
妹:そのチート直感で初見殺しは大体看破出来る
《
・以前の使用経験から普段使いするなら普通のスキルで十分だと判断した兄は、オリジナルスキルをデメリットつきの高威力スキルに調整していた。
・その結果、強化込みで上級職の奥義と同等かそれ以上の威力を出す事に成功した。
・クールタイムの上昇は二十四時間までが限界であり、クールタイムを等倍で上げても威力が等倍で上がっていくわけではない。
・《アンチ・モンスター・スナイプ》は指定種族への威力を上昇させる代わりに、それ以外の種族への威力を大きく下げる調整もしてある。
・スキルの仕様上、クールタイム中のオリジナルスキルは削除・再調整出来ない。
フォルテスラ&ネイリング:今回大活躍その一
・【ヴァルシオン】は相応に硬い為、彼らの攻撃が無ければ兄の一撃で倒しきれなかった可能性もあった。
・最後の決闘では
シャルカ&ラフム:今回大活躍その二
・実際、今回は壁役や拘束役を担ったラフムがいなければほぼ詰んでいた。
エルザちゃんメンバー:今回大活躍その三
・今のラフムだけでは相手を拘束しきれなかったので、アーシーの拘束魔法は凄く重要だった。
【心蝕魔刃 ヴァルシオン】:今回のボス
・他者を支配し強化するエレメンタル系インテリジェンス・ウェポンの<UBM>。
・多くの強力なスキルを持つが、その代償として単独での行動能力をほとんど持たず、自身を振るう存在が必要になる。
・今回の敗因は、今まで弱い相手を倒して自身の能力を上昇させてきた為戦い方が拙く、偽装を見破られたり大きなダメージを受けたことも無かったので、いざそんな状況になった時にまともな対応が出来なかったこと。
《魂縛心蝕》:ヴァルシオンのスキルその一
・対象一人に強力な【魅了】の状態異常を与え、支配して自身を使わせる為のスキル。
・また、支配した対象の精神や記憶を改竄し自在に操ることも出来る。
・その特性上、既に支配対象がいる場合、それ以外の相手には使用出来ない。
・さらに支配対象が殺害された場合、そのリソースを使って殺害して相手に超強力な【魅了】を与え支配する《絶・魂縛心蝕》という派生スキルもある。
・この《絶・魂縛心蝕》を使ってより強い相手に乗り換えるコンセプトだった。
・……だが、それを見破られ自身が先に破壊された場合には当然使えない。
《陰装魔刃》:ヴァルシオンのスキルその二
・自身とその支配対象のステータスを隠蔽・偽装するスキル。
・その強度は非常に高く、最高レベルの《看破》や《鑑定眼》でも見破れず、単純に突破したければ超級職のスキルクラスの解析能力が必要。
・その効果範囲は多岐にわたり自身をただの剣に見せかける事を始め、頭上の名前の消去や改竄・ステータス及びスキルの偽装・MPやSPを減った様に見せかけるなどが出来る。
・……だが、どんな偽装をするのかは使用者の任意の為、上手く使わないと本編の様になる……隠蔽・偽装能力は強度よりも使い方が重要。
・ティアンのベテランパーティーは高レベルの《看破》や《鑑定眼》を持っていた為、逆に見破れなかった。
《強化魔刃》:ヴァルシオンのスキルその三
・自身を使っている支配対象の全ステータスを+100%するスキル。
・さらに、強化数値は自身によって殺害された生物十体につき1%上昇する。
・この上昇数値は自身の使い手が変わっても継続される。
・今回は五百体以上殺害していた為+150%以上強化されていた。
《吸命転換》:ヴァルシオンのスキルその四
・自身によって与えたダメージの半分の数値だけ、自身のMP・SPを回復させるスキル。
・さらに自身のMP・SPを使って支配対象のスキルを強化した上で行使させる事も出来る。
・持久戦には非常に有効なスキル……だが、ダメージを与えにくい相手だったり、そもそも短期決戦で倒されたりすればあまり意味が無かった。
《陽装魔刃》:ヴァルシオンのスキルその五
・自身のMPを使って使用者のHPと状態異常を回復させるスキル。
・回復出来るのは使用者だけであり、自身の損傷は回復不可。
【ホブゴブリン・ソードマスター】:かわいそうなゴブリン
・ゴリドンは彼の名前。
・亜竜級のゴブリンで剣技・索敵・隠蔽などのスキルに長けていた。
・元は森のゴブリンの群れを率いていたリーダーで、他のゴブリンからも慕われていた。
・だが、その能力に目をつけた【ヴァルシオン】に操られてしまった。
・………最後、彼が何を思ったのかは誰にもわからない。
読了ありがとうございました。次で今章のエピローグです。
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達成報告と打ち上げ
それでは今章のエピローグをどうぞ。
□王都アルテア冒険者ギルド 【
「<
「はい、わかりました。まずは…………」
あの後、<UBM>【心蝕魔刃 ヴァルシオン】を倒した俺達はそのまま王都に引き返し、冒険者ギルドでアイラさんに調査結果の報告をしていた。
…………その際、<UBM>関係については特に念入りに問い正されたが、俺が得た“剣型のペンダント”の逸話級特典武具【心身護刃 ヴァルシオン】の存在が決め手となり納得してもらえたようだ。
しかし、名前からして武器かと思ったんだがアクセサリーなんだよな【ヴァルシオン】。
「…………成る程、報告はわかりました。…………しかし本当に<UBM>を倒してしまうとは……」
「今回は運が良かったんですよ。相手とこっちの能力が噛みあっていましたし。それに多分<UBM>としては経験不足だったんでしょう、特典武具を見ると逸話級だったみたいですから」
「…………普通は逸話級相手でも、多少運と相性が良かろうが勝てないものなのですが…………やはり<マスター>と言う存在は規格外ですね」
実際、物理攻撃が効かず相手を拘束出来るシャルカさんのラフム、地属性の強力な拘束魔法が使えたエルザちゃんのアーシー、そして
…………後でミカに聞いた話だと、偽装を見破れず先に【ホブゴブリン・ソードマスター】を倒していた場合、高確率で
やはりミカの直感は初見殺し相手には天敵だな。【ヴァルシオン】も、もう少し偽装の使い方や立ち回りが上手かったら、あそこまであっさり倒される事は無かっただろうに。
「さて、<UBM>の発見に加えてそれの討伐までしてもらった以上、特別報酬は相当上乗せしなければなりませんね、何かご要望はありますか?」
「ん──俺は特典武具も得たし特に要望は無いかな…………皆はどうする?」
「私も今そんなに欲しいものがあるわけじゃ無いし……
「あっ、私もそれでお願いします!」
「俺もそれで構わないが…………シャルカはどうする?」
「私もリルの上乗せで、それが一番面倒が無さそうですし」
その後アイラさんと話しあった結果、元々の報酬の十万リルに特別報酬の四十万リルを上乗せし、合計五十万リルが俺達にそれぞれ支払われる事になった。
…………報酬が多すぎではないかとアイラさんに聞いたところ、「今回の【ヴァルシオン】はベテラン冒険者のパーティーを壊滅させていますし、存在が発覚していれば相応の額の懸賞金がついたでしょう。それに異常の調査どころか、その原因を解決した事も考えるとむしろ安いぐらいです。…………今回のクエストは調査依頼だったので上乗せ出来る報酬はこれが限界でした、申し訳ありません。ですが、今回の件で貴方達の冒険者ギルドで受けられるクエストは大幅に増えました。また、この件は他のギルドや騎士団の方へも伝えられるので、貴方達の王都での覚えは大分良くなるでしょう」とのこと。
「クエスト達成の報酬を支払ったので、今回のクエストは以上となります。今後も調査は続けられますが、<UBM>が討伐された事で異常は解決したと思われますから騎士団の方だけで大丈夫でしょう。…………最後に冒険者ギルドの職員として、そして王都に住むティアンの一人としてお礼を言わせてもらいます…………今回の異常を解決してくださり本当にありがとうございました」
そうして、俺達の指名クエストは終わりを迎えたのだった。
◇
冒険者ギルドを出ると、フォルテスラさんが話しかけてきた。
「レントくん、ミカちゃん、エルザちゃん、せっかくだからクエスト達成を祝して皆で打ち上げに行かないか?」
「打ち上げ?」
「ああ、俺とシャルカはよくクエストを達成したらパーティーメンバーと一緒に打ち上げをするんだ。それに、今回は<UBM>を倒したりもしたからな。それでどうだ?」
打ち上げかぁ…………俺とミカはそう言う事はあんまりしないからな……いつもクエストが終わったら、適当に王都をぶらついた後ログアウトしてたからなぁ。
「俺は別にいいですけど……ミカはどうする?」
「私も別にいいよ〜、面白そうだし! エルザちゃんは?」
「お二人が行くなら私も行きます。……たくさんお金が手に入ったから懐にも余裕がありますし……」
「じゃあ皆で打ち上げに行こうか」
こうして、俺達はフォルテスラさんの誘いで打ち上げに向かう事になった。
◇◇◇
□王都アルテア食事処<蜜熊亭> 【
「それでは! 指名クエスト達成と<UBM>討伐を祝して、カンパーイ‼︎」
「「「「「「「カンパーイ!」」」」」」」
私の音頭と共に打ち上げが開始された!
周りを見てみると、お兄ちゃんはフォルテスラさんやシャルカさんと一緒に、男同士で話したりご飯を食べたりしていた…………私とお兄ちゃんはお酒が飲める年齢じゃないしね。
エルザちゃんを見てみると、自分もご飯を食べながらテイムモンスターにも食事を与えていた(この店はテイムモンスターOKだそうだ)…………後で聞いた話だと一番食費がかかるのはアーシーちゃんで、高価な鉱石や金属などを好むのだと、遠い目をして言っていた…………強力なモンスターの分燃費も悪いらしい。
他には、ネイリングちゃんと【ワルキューレ】の三姉妹が話し込んでいた。どうも女性型の<エンブリオ>同士で色々話をしているようだ…………あと、人型の<エンブリオ>には特有の食癖があるらしく、【ワルキューレ】の三姉妹はエルザちゃんと同じものしか食べず、ネイリングちゃんは一口で食べられないものは一口サイズにカットしなければ食べないらしい。<エンブリオ>って本当に不思議だね。
さて、私はどうしようかな…………あっそうだ、ちょっと気になっていた事があるんだよね〜。
「そういえばお兄ちゃん、手に入れた特典武具ってどんな性能をしているの?」
「ん? ……ああ、こんな性能だったぞ」
【心身護刃 ヴァルシオン】
<
担い手の精神を縛り肉体に強大な力を与える魔刃の概念を具現化した逸品。
装備者の魔力・技力を増大させ精神系状態異常への耐性を与えると共に、各種能力を増加させ魔力・技力を吸収し隠蔽・回復の能力を強化する。
※譲渡・売却不可アイテム
※装備レベル制限なし
・装備補正
MP+[着用者の合計レベル]×5
SP+[着用者の合計レベル]×5
精神系状態異常耐性+([着用者の合計レベル]÷10)%
・装備スキル
《強化護刃》
《吸命転換》
《陰装護刃》
《陽装護刃》
「《強化護刃》は着用者の合計レベル分だけSTR・END・AGI・DEX・LUCを増加させて、《吸命転換》は自身が与えたダメージの二十分の一の数値だけMP・SPを回復させる、それで《陰装護刃》は自身の偽装・隠蔽系のスキルを強化して、《陽装護刃》は自身の回復系スキルを強化出来るみたいだな」
「ふーん、流石は特典武具だけあって既存のアクセサリーとは桁の違う性能だね」
特典武具は獲得者に合わせてアジャストされるって聞いたから、殆どの数値で合計レベルを参照しているのはレベルが上がりやすいお兄ちゃんに合わせた結果かな?
そんな話をしていると、フォルテスラさんが話しかけてきた。
「二人は今後も王都で活動して行くのかい?」
「んー今のところはそうですけど……フォルテスラさんはどこか行くんですか?」
「ああ、俺とシャルカはこれからギデオンに行こうと思っている。…………実は前から決闘に興味があってね、ギデオンは“決闘都市”と呼ばれる程の決闘のメッカだそうだから一度行ってみたかったんだ。それに、今回のクエストでまとまった金が手に入ったしね」
「んー、そうですね! 私も他の街が見てみたくなりました‼︎」
この無限に広がる世界のことを思いながら、私達の<Infinite Dendrogram>は続いていくのだった…………
◇◆◇
□■ ???
【孤狼群影 フェイウル】
最終到達レベル:37
討伐MVP:【
<エンブリオ>:【戦神砲 バルドル】
MVP特典:逸話級【すーぱーきぐるみしりーず ふぇいうる】
【絶界虎 クローザー】
最終到達レベル:58
討伐MVP:【
<エンブリオ>:【獅星赤心 コル・レオニス】
MVP特典:伝説級【絶界布 クローザー】
【心蝕魔刃 ヴァルシオン】
最終到達レベル:46
討伐MVP:【大狩人】レントLv32(合計レベル:132)
<エンブリオ>:【百芸万職 ルー】
MVP特典:逸話級【心身護刃 ヴァルシオン】
「…………ふむ、これは予想外の結果になったな」
そう呟くのは<Infinite Dendrogram>を管理する十三体の管理AIの一人……<UBM>担当・管理AI四号“ジャバウォック”である。
今、彼が見ているのは最近の<UBM>の討伐記録であり、そこには十を越える
「地球の<マスター>達への最初の試練として、開始地点周辺での<UBM>投下又は作成する計画だったが、まさかこれほど多く討伐されるとは…………」
今回の計画の都合上、そこまで強い個体は投入されなかったとはいえ、<UBM>は一番下の逸話級であれど同レベルのボスモンスターよりも強力である。なので、当初の予定では<UBM>と遭遇して窮地に陥る、又は敗北した<マスター>達の成長と<エンブリオ>の進化を促すカンフル剤としての計画だった。
だが、<UBM>と遭遇した<マスター>達は、その才能や仲間との連携、或いは<エンブリオ>の特殊な能力でそれらを討伐していった。
…………まあ、中にはティアンの超級職などに討伐された例もあり、計画前は多くがそうなる事も予想されていたが…………
「…………まあいい、むしろこれは嬉しい誤算と言う奴だろう。やはり苦戦とドラマの末に宝物を得る、それこそが
そうジャバウォックは満足そうな表情で頷いた。
「…………だが、そう解った以上、今後投入する<UBM>はより強力なモノにしなければならないな…………そうだな、生物に寄生し自己再生・自己増殖・自己進化を繰り返す粘菌型の<UBM>などはどうだろうか」
「バイオなハザードはやめてー」
ジャバウォックが最終的に惑星を覆い尽くしたり、全生物の滅亡とかやりそうな<UBM>の思いつきを口に出すと、それに応える声があった。
いつの間にか、ジャバウォックの背後に猫型のマスコットが存在していた。そのマスコット──管理AI十三号“チェシャ”は同僚に向かって声をかけた。
「取り返しのつかない様なヤツは<SUBM>だけで十分だよー。それにもう地球の<マスター>が来ちゃったから、今までの対処法は殆ど使えなくなってるんだからねー」
「熟知している。それで、何の様だ十三号」
「んーちょっと王国の方で気になる話を聞いてねー…………<ノズ森林>で起きた<マスター>と<UBM>の戦いのログを見せてほしいんだー」
「……? …………ああ、これだな」
そこには五人の<マスター>と【心蝕魔刃 ヴァルシオン】の戦いの光景が映し出されていた。
この【ヴァルシオン】はジャバウォックがデザインしたモンスターであり、使いこなせそうなモンスターの近くに投下したのも彼である。
生物を殺害する程に強くなる特性と、強力な精神支配の能力からそれなりに成長する個体だと見込んでいたのだが…………
「ふむ……成る程、偽装スキルの不備を見破り支配対象の動きを拘束した上で、<エンブリオ>によって強化されたスキルで倒したのか…………確かに偽装スキルを使いこなすには【ヴァルシオン】は経験不足だった様だな。…………それで、この記録がどうしたんだ十三号、こう言ってはあれだがMVPに選ばれた彼は真っ当な方法で<UBM>を攻略しているぞ」
「あー気になっているのはMVPの彼じゃなくて、その妹さんの方なんだよねー」
「ん? ……そちらも特に不自然な点は見られないが…………」
「…………彼女のチュートリアルを担当したのは僕なんだけど、その時にこっちが何か言う前に真っ先に言われたんだー……“この<Infinite Dendrogram>は本当にゲームなのか”ってねー」
「…………ほう?」
改めて記録を見ると、彼女は敵の攻撃を全て先読みしている様だった。さらに、一度打ち合っただけで【ヴァルシオン】が本体だと気付いていた。
「彼女にどうしてそう思ったのか聞いて見たけど“昔から勘が良くて、なんとなくそんな気がした”って言ってただけだからねー…………でも、僕は彼女と似たチカラを持っている人達を知ってたからねー」
「…………
「そうだねー。……ああ、僕が彼女をどうこうしようとかは思ってないよー…………でも、
「
「アイツは色々加減が利かない……というより加減する気が無いからねー。だからちょっと気になってねー」
「そこまで心配する必要はないと思うわよ」
突然聴こえてきたその声に二人が振り向くと、そこには一人の女性がいた。
彼女──アバター管理担当・管理AI一号“アリス”は二人に向かって告げた。
「【先導者】の資質自体はただのセンススキルだから、<マスター>が似た才能を持っていても不思議じゃないわ。それに彼女からは異能の反応は見られなかったし、彼女達の行動ログを見ても今のところは普通のプレイヤーとしてこのゲームを楽しむつもりの様だから、特に問題は無いと思うわよ」
「その才能に関しては、あくまでただの直感の延長線上にあるものだからな。それに特殊な才能を持つ<マスター>は何人かいる。情報の取り扱いに関しても、情報収集に特化した<エンブリオ>が産まれるなどの可能性も議論した上で問題は無いと判断された筈だ」
「…………そうだねー、少し気を回しすぎたみたいだねー」
「まあ、<Infinite Dendrogram>はまだ始まったばかりだから、色々ごたつきはあるのはしょうがないわ」
「むしろ、正規の方法でログインしているならば、その様な才能の持ち主は歓迎するべきであろう。……その様な者達ならいずれは<エンブリオ>を<超級>……或いは
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄妹:この二人の<Infinite Dendrogram>に対するスタンスは“遊戯派よりの世界派”
・これまでのプレイ中に二人で色々話し合った結果、“デンドロはただのゲームでは無く、おそらくは一つの世界であり、そこで生きているティアンも一つのの生命であるのだろう”という結論を出した。
・だが、あまり入れ込み過ぎると現実での生活に影響が出るだろうとも思って、“あくまでただのゲームとして一歩引いた付き合いをして行こう”というスタンスを取る事にした。
・今回の事の様に、世話になったティアンの為に“ゲーム内の一人のプレイヤー”として手を貸したりする事は率先して行う。
【心身護刃 ヴァルシオン】:兄の初特典武具、逸話級のアクセサリー
・複数の手札を使い分ける兄に合わせて、多様な効果を持つ様にアジャストされた。
・……その結果、各スキル・装備補正が大きく弱体化&レベルが上がりやすい兄に合わせて合計レベル参照になった。
・スキルは全てパッシブであり、これはアクティブスキルを多く使う兄の負担を減らす方向でアジャストされたから。
《強化護刃》:《強化魔刃》がアジャストされた
・討伐数参照の割合強化から合計レベル参照の固定値強化になり、対応ステータスも減った。
・今のところはオマケみたいな効果である。
《吸命転換》:《吸命転換》がアジャストされた、名前は変わっていない
・元のスキルは直接攻撃にしか対応していなかったが、兄に合わせた結果攻撃全てに対応する様になった。
・その結果として、吸収効率は十分の一になった。
《陰装護刃》:《陰装魔刃》がアジャストされた
・狩人系の隠蔽スキルを持つ兄に合わせて、偽装・隠蔽スキル強化のパッシブになった。
・強化度合いは特典武具としては低め。
《陽装護刃》:《陽装魔刃》がアジャストされた
・【司祭】の回復スキルを持つ兄に合わせて、回復スキルの強化のパッシブになった。
・強化度合いは特典武具としては低め。
フォルテスラ:この後、ギデオンで後のライバルとの出会いを果たす
管理AI達:今回の件は大体コイツらの所為
・チェシャが妹のことを気にかけていたのは、チュートリアルの事の他に彼の言葉を受け止めてくれたからでもある。
読了ありがとうございました。これで今章は終了です。
次の更新は少し間が空くと思います。
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そうだ、ギデオン行こう
第四形態と旅行準備
それでは本編をどうぞ。
※3/22 召喚師についての文章を大幅に加筆・修正しました。
□王都アルテア 【
「お兄ちゃん! 旅に出ようよ‼︎」
「いきなり何を言いだすんだ?」
指名クエストと<
ちなみに【
「だって、この前フォルテスラさんが王都を出て別の街に行くって言ってたから、私もどこかに行きたくなったんだもん!」
「つまり、王国の別の街に行きたいってことか。だったら初めからそう言え。…………まあ、俺も他の街を見てみたいとは思っていたし別にいいぞ。で、どこに行きたいんだ?」
「うーん、フォルテスラさんは王都南のギデオンって街に行くって言ってたし、私もそこに行って見たいな〜。なんか決闘が盛んらしいし!」
「決闘ね……聞いた話だと、この世界の決闘は“死んでも死なない”んだってな」
何でも、決闘が行われるコロシアムでは特殊な結界が張ってあるらしく、その結界の中で起きたことは、例え人が死んだとしても結界を出れば元通りになるらしい。
…………まあ、そんな結界が無いと、命が一つしかないティアンは迂闊に決闘も出来ないだろうからな。
「あと、決闘に勝ったら賞金とかも貰えるらしいよ!」
「ふーん……で、お前は決闘をやりたいのか? まあ、お前なら結構いいセン行くんじゃないか?」
「どうだろうねー、まずは実際の決闘を見てからかな。私のレベルもまだ低いし〜」
…………そうは言っているが、ミカの直感は一対一の決闘の様な状況では非常に有効である。
何せ攻撃は全て先読みされる上、奇襲・不意打ちの類は一切通じず、更に相手の切り札すらもおおよそ看破してのけてしまうのがミカの直感である。それを突破するには単純にミカの
実際、俺もミカ相手に戦って勝つのは難しいだろう……対戦ゲームとかでも俺の勝率は三割ぐらいだからな。それにコイツは直感以外の能力も普通に高いから、単純に腕前で上回ることも難しいし。
…………まあ、この世界なら広範囲攻撃スキルで決闘場全てを攻撃するとか、解っていてもどうしようもない程に理不尽なスキルとかで攻略される可能性もあるか?
「それに私達の<エンブリオ>も
「<エンブリオ>は第三形態までは下級、第四形態からは上級<エンブリオ>と呼ばれている様だからな。…………この国に元からいた<マスター>が言っていた話だそうだが」
実際、ミカの【ギガース】はスキルこそレベルが一つ上がっただけだが、装備としての性能は倍近くになった。さらに、ステータス補正もこれまでの進化の際と比べても遥かに多く上がっており、HP・STR・END・AGIの補正がAに届く程だった。
…………それに対して俺の【ルー】は…………
「俺の<エンブリオ>は上級に進化しても大して強化されてないんだよなぁ……」
「イヤイヤ、お兄ちゃんの<エンブリオ>は今、掲示板とかで話題の
「その覚えた必殺スキルである《
俺の<エンブリオ>【百芸万職 ルー】の必殺スキル《我は万の職能に通ず》は
第四形態の現在では、二十個の下級職と十五個の上級職に追加で就くことが出来る様になっており、元からのジョブ枠と合わせるとその最大合計レベルは三千に達する。
…………ジョブレベル制のゲームで、最大レベルが増える事が凄く強い事なのは解っているんだが…………
「レベルが五百にも達していない今の俺には意味の無い必殺スキル、という事になるんだよな……ステータス補正も皆無だし。…………まあ、《
「私もTYPEがエルダーアームズに変わってたね、掲示板とかだと上級になったらカテゴリーが上位のものに変わる事があるって情報が出てたっけ。……まあ、お兄ちゃんの<エンブリオ>は大器晩成型みたいだしね、そのうち役に立つよ! と言うかそれでステータス補正まで高かったら完全にブッ壊れだし。…………それに特典武具の【ヴァルシオン】とも相性が良いでしょ?」
「そうだな、そう言う<エンブリオ>なんだから仕方がないか。…………そうすると今後はどんなジョブビルドにするかだな」
「え? 今就けるジョブに片っ端から就けばいいんじゃない? お兄ちゃんの<エンブリオ>ならジョブビルドなんて如何とでもなるでしょ?」
成る程、そう言う考え方も有りか…………確かに今の俺なら下級職をカンストさせるのはそこまで難しくは無いし、レベルが上がれば【ヴァルシオン】の補正も上がって行くからな。
…………さてと、今後のジョブ構成も目処がついた事だし本題に戻るか。
「それで、確かギデオンに行くと言う話だったが、一体どうやって行くんだ?」
「え?」
そう、俺が言うとミカはポカンとした表情を浮かべた。
「だから移動手段の話だ、まさか徒歩で行く訳では無いだろう?」
「…………考えてなかった。…………お兄ちゃんよろしく!」
「はぁー……。まあ、ちょうど
「オッケー! お兄ちゃん!」
そういう訳で、俺達は旅行の準備の為にマリィさんのお店に行く事になったのだった。
◇◇◇
□<マリィの雑貨屋> 【
「はい、これが中古の小型馬車ね。お値段は三万リルになるわ」
「ありがとうございます、マリィさん」
あれからマリィさんのお店に来た私達は、旅行の準備として中古品の小型の馬車を買ったのだった…………馬車だけじゃ動けないけど、お兄ちゃんには何か考えがあるみたい。
「それじゃあ、他に必要なアイテムを買っていくぞ」
「分かったよ」
そうお兄ちゃんに言われたので、私は各種消費アイテムと《着衣交換》スキル付きの私服を買うことにした…………この世界では街中で鎧をつけていても特には咎められないけど、せっかく遠出に行くんだからオシャレとかもしたいしね!
お兄ちゃんはMPポーションなどを買いつつ、今後のジョブレベル上げの為に使い捨てのメインジョブ変更アイテムである【ジョブクリスタル】を見ていたんだけど…………
「使い捨てアイテムなのに高いな【ジョブクリスタル】、一個数万はするんだが。…………マリィさん、使い捨てじゃない【ジョブクリスタル】とかは無いんですか?」
「うーん、【ジョブクリスタル】自体がサブジョブのレベルを上げている時に、メインジョブのスキルが必要になった緊急時の為に持っておくアイテムだから使い捨てで十分なのよねぇ」
「そうなんですか……「まあ、ウチにはあるんだけど」……あるんですか⁉︎」
「ええ、倉庫に仕舞ってあったはずだからちょっと待っててね」
そう言ったマリィさんは店の奥に行き、しばらくして戻ってきた時には手に“先端にクリスタルの付いた長さ五十センチくらいの杖”を持っていた。
「これは【ジョブクリスタル・ロッド】と言う杖で、装備スキルに装備者のメインジョブを変更する《ジョブチェンジ》のスキルが付いているわ。…………値段は十五万リルぐらいでいいかしら」
「【ジョブクリスタル】の値段と比べると、かなり安いんですがいいんですか?」
「ええ、さっきも言った通り【ジョブクリスタル】は使い捨てで十分だから、この杖には需要が無くて倉庫の肥やしになってたからね。…………それにこの杖は昔、私が作った物だから必要としてくれる人のもとにあった方が私としても嬉しいわ」
「…………分かりました、じゃあそれを買わせていただきます」
「ええ、お買い上げありがとうございますね」
…………さて! コレで準備が終わったしようやく旅に出れるね‼︎
◇◇◇
□王都アルテア南門前 【召喚師】レント
あのあと、俺は色々なギルドをハシゴして様々なジョブに就くだけ就いた。
就いたジョブは、まず狩人派生で条件を満たしていた【
「流石に下級職を全部埋めると、今後取りたいジョブが出てきた時に困るからこのくらいでいいか」
「イヤイヤお兄ちゃん一気に取りすぎでしょ、ジョブビルドとか完全に無視してるよね……まあ提案したのは私だけどさ」
「別に構わないだろ、まだ下級職の空きは十個以上あるしな。…………お前もクエストの届け物は持ったか?」
「うん、ちゃんとアイテムボックスに入れておいたよ。これをギデオンのギルドに届ければいいんだよね」
この届け物は旅の準備が終わった後、アイラさんに王都を出る事を伝えに冒険者ギルドに行った時に、彼女から“ギデオンに行くならついでに受けていかないか”と斡旋されたクエストの配達物である。
何でも、以前の生態系の変動のせいで王都と他の街の交通量が減ってしまったので、この手の配達系クエストが冒険者ギルドに結構溜まってしまっているのだとか。
「…………ところでお兄ちゃん。いい加減に移動手段について話してくれてもいいと思うんだけど」
「そうだな。…………まあ見たほうが早いだろう……《
その言葉と共に俺は銅色をした馬型のゴーレムを召喚した。
「おお! お兄ちゃんこれは?」
「コイツは俺の召喚モンスター【ホースゴーレム】だ。【召喚師】に就いてから《
ちなみに召喚師ギルドの人曰く『輸送用の召喚モンスターで戦闘能力はあまり高くないので、最初の召喚モンスターとしてはハズレ』との事…………まあ、月一召喚ガチャが面白そうだから就いて見ただけだし、ちょうど良い感じの移動手段になった(後付け)から別に良いんだけどね!
…………とりあえず、召喚されたブロンに馬車を取り付けて行く。
「よしっ! 出来たね、ステータスのお陰か思ったより楽だったね。……ところでお兄ちゃん、この仔の名前はなんて言うの?」
「名前? …………じゃあ、色から取って“ブロン”で良いだろう」
「わかったよお兄ちゃん! ハイよーブロン‼︎」
「動かすのは俺だけどな」
こうして俺達のギデオンまでの旅路が始まったのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
妹:お兄ちゃんがレベルを上げて物理で殴る方向に行っちゃった………
兄:ジョブビルド? 何それ? 美味しいの?
《
・その効果により第四形態現在、兄は二十六の下級職と十七の上級職、合計レベル三千までのジョブに就くことが出来る。
・必殺スキルとしてはしては
・スキルとしては、ぶっちゃけると劣化【勇者】………なのだが、<マスター>としての不死性と獲得経験値増加スキルによってレベル上げの効率は上回る。
マリィさん:今回、兄妹のお陰で在庫が売れて大満足
【ホースゴーレム】:今回の移動手段
・兄の月一召喚ガチャ最初のモンスター。
・移動用の為、召喚時間と燃費に特化しており、騎乗スキルが無くとも騎乗を可能にする《騎乗補助》のスキルも持っているが直接戦闘能力は低い。
【ジョブクリスタル・ロッド】:今後の兄にとっては重要なアイテム……主にレベル上げで
【
・主に聖属性攻撃魔法と対悪魔・アンデット用の特攻スキル、呪怨・精神系の状態異常回復・耐性スキルなどを取得出来る文字通り“魔を祓う”ジョブ。
・転職条件に“聖属性スキルによる悪魔・アンデットの一定数討伐”がある。
・上級職は【
読了ありがとうございました。次はギデオンへの道中の予定です。
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ギデオンへの道中
では本編をどうぞ。
3/22 召喚関連の文章を変更しました。
□<ネクス平原> 【
あの後、私達は<サウダ山道>特にトラブルに巻き込まれることも無く抜け、平地が続く<ネクス平原>に入ったところだった。
道が険しかったさっきまでと比べると大分楽になったね、後は道なりに進めばギデオンに着くみたいだし。
「この辺りのモンスターなら、今の私達なら特に問題は無かったね!」
「そうだな。…………しかし、【ヴァルシオン】の《吸命転換》は召喚モンスターの攻撃では発揮されなかったし、【毒】によるダメージにも発揮されなかったな。だが、傷痍系状態異常による即死ダメージには発揮されていた…………おそらく、装備者自身の行った攻撃の瞬間のダメージにのみ適応されているのだろう」
どうもそうみたいなんだよね、召喚モンスターを大量に呼び出して減ったMPを【ヴァルシオン】で回復、みたいな事は出来ないみたい。
「このままのんびり周りの景色楽しみながら、ギデオンまでの旅をしよう…………なーんて事が出来れば良かったんだけどねー」
「《殺気感知》と《気配察知》に反応あり、《生物索敵》だと数は二十匹、方向は右からか…………ああ、一匹だけ反応がデカイのがいるな」
そう言うお兄ちゃんの言葉に従って右を見てみると、二十匹程の赤い狼の群れがこちらに向かって来るところだった。
頭上の名前を見てみると【ブレイズウルフ】と表示されており、一匹だけいる大きな赤い狼の頭上には【
「アイツらは確か炎を吐いてくるんだったか、馬車が燃やされるのは避けたいな。……ブロン、馬車を連れて離れていてくれ。ミカ、こっちから仕掛けるぞ」
「わかったよお兄ちゃん。せっかく買ったばっかりの馬車を燃やされたくないからね!」
そうして私達は馬車から降りて、【亜竜炎狼】率いる狼の群れとの戦いを始めた。
「まずは先制攻撃だな、《モンスター・ハント》“魔獣”《ハンティングスナイプ》!」
『GAA⁉︎』
まず、お兄ちゃんの放った矢が一匹目の【ブレイズウルフ】の眉間に直撃してそのHPをゼロにした。
…………確か狩人系統の《ハンティング》系アクティブスキルには、共通して急所に当たった時のダメージ増加特性があったっけ。まあ眉間に一撃なら傷痍系の状態異常も込みで大体死ぬよね。
さて、その攻撃で群れの動きが僅かに乱れるも、【亜竜炎狼】が一吠えするだけで元の陣形を取り戻した…………これは、あのリーダーを潰さないとダメだね。
「お兄ちゃん、突っ込むから援護をよろしく! 《瞬間装着》!」
「わかった、《ハンティングアロー》《パラライズアロー》《ポイズンアロー》《スリーピングアロー》‼︎」
『『『GA⁉︎』』』
私がレベル二の《火炎耐性》スキルがあるアクセサリー【火除けの指輪】を装備してから狼の群れに向かう傍で、お兄ちゃんのアクティブスキルが次々と敵に突き刺さり仕留めるか、又は【麻痺】【毒】【強制睡眠】の各種状態異常に落とし込んでいく。
…………これは、お兄ちゃんが以前に就いていた【
これで流石に敵の陣形は崩れたが、リーダーは怯まずに大きく息を吸い込んだ…………火炎ブレスか!
『GAAAAAAA‼︎』
「《ストライク・ブラスト》‼︎」
敵のリーダーが吐いた火炎ブレスに対し、私が【剛戦棍士】で覚えたメイスから衝撃波を放つアクティブスキルがぶつかりその威力を大きく落とした。
…………この《ストライク・ブラスト》の威力と攻撃範囲は自身の攻撃力によって決定する。<エンブリオ>が上級に進化し、上級職に就いた今の私のSTRは二千を超え、【ギガース】の攻撃力補正も二千はあるので亜竜級のモンスターのブレスの威力を大幅に落とすぐらいは出来る。
そうして、威力の落ちた火炎ブレスをアクセサリーの効果任せに
『GAAAAA⁈』
「《インパクト・ストライク》‼︎」
相手は、私がまさか火炎ブレスを正面から突っ切ってくるとは思っていなかったらしく、怯んでいた所をアクティブスキルによって頭部を粉砕して倒した。
…………今の私の《ストライク・ペネトレイション》のレベルは六であり、攻撃対象のENDを千以上減算出来る。これにより亜竜級相手でもアクティブスキルを使い、傷痍系状態異常狙いで急所を狙えば一撃で倒す事も不可能ではない。
さて、あとは残りを掃討するだけだね…………あ、何匹かお兄ちゃんの方に行ったけど……まあ大丈夫でしょ。
『『『GAAAAA‼︎』』』
「さてと、行きますか。……疾ッ!」
お兄ちゃんに向かって狼達は炎を吐きかけるが、それをお兄ちゃんは問題なく回避して、出来た隙に矢を放って相手を牽制した。
…………そしてその後
「《ハンティングエッジ》《ハンティングシュート》」
『GA⁉︎』『GI⁉︎』
「……よっと、《ハンティングスナイプ》……後ろか、っと《ハンティングアロー》!」
『GI⁉︎』『GA⁈』
接近したお兄ちゃんは、まず一匹の【ブレイズウルフ】首を短剣で跳ね飛ばし、その短剣を投げつけてもう一匹の眉間に直撃させる。そして、
…………うん、人の事をチートだ規格外だと言うけど、お兄ちゃんも大概なんだよねぇ…………ていうか何? 今のアメコミ映画見たいなアクション⁉︎ 私はあんな事出来ないからね。
「…………おっと、お兄ちゃんの逸般人っぷりに呆れている場合じゃないね! さっさと残りを倒そう!」
リーダーを失って烏合の集と化していた【ブレイズウルフ】は、それから間も無く掃討された。
◇◇◇
□<ネクス平原> 【召喚師】レント
「よし、やっと片付いたか……とりあえず回復するぞ《サードヒール》」
「ありがと、お兄ちゃん。今の私達なら亜竜級も安定して狩れる様になったね!」
確かに、最初の頃と比べると俺達も大分強くなったみたいだな。初日はあれだけ亜竜級相手に苦労したのに、今では楽に倒せている。
…………そんな事を考えていると、
「ミカ?」
「……今のところあの人達からは危険は感じないよ」
「そうか…………そこの人達! 一体俺達に何の用ですか?」
「ああ、待て待て! 俺達はお前達に危害を加えるつもりはないぞ! ただ【ブレイズウルフ】の群れと戦っている奴らがいたから様子を見に来ただけだ」
そう言うのは、三人の中央に居た“牛の顔を模した黒い軽鎧”をつけた大柄な男だった。その右には狩人風の装備を身につけた長身の女性がおり、左側には魔術師風のローブを着た小柄な女性がいた。……三人ともティアンみたいだが《看破》して見るとレベルが高く、一部見えないステータスもあるし装備も高性能だな。
「ガイツ、それでは言葉が足りない……うちのリーダーが失礼した。私はレダ・マーチ、冒険者パーティー<黒牛戦団>のメンバーで、今はとある商人のギデオンまでの護衛のクエストを受けている。その途中で【亜竜炎狼】に率いられた【ブレイズウルフ】を見つけて、貴方達がすぐにやられたらこちらに来る可能性もあったから様子を見に来たところ」
「その商人の護衛はいいんですか?」
「ん? ああ、残りのメンバーを残しているしな。それに亜竜級のボスに率いられた【ブレイズウルフ】の群れを下手に近づけると、その商人の乗った馬車が燃やされる事も考えられたからこちらから打って出る事にしたんだ。まあ、無駄足だったみたいだがな。……たった二人であの群れを苦もなく殲滅するとは、流石は<マスター>ってところか……おっと自己紹介がまだだったか、俺はガイツ・ランド、<黒牛戦団>のリーダーをしている」
…………ミカの反応を見てみると、特に嘘をついていたり害意があるわけではなさそうだな……やっぱり《真偽判定》は取った方がいいな、確か《盗賊》か《罠狩人》で取れたっけ。
「俺はレント、こっちが妹のミカで二人とも<マスター>です」
「えっ! レントさんとミカさんですか⁉︎ ……あっすみませんでした、私はメリア・ローランと言います。ひょっとして以前冒険者ギルドで指名クエストを受けた<マスター>ではありませんか?」
「確かに以前指名クエストは受けましたけど……ひょっとしてアイラさんやマリィさんの御身内で?」
「はい、その二人は私の姉と母です」
マリィさんからはアイラさんの他にも娘が二人いるとは聞いていたけど、まさかこんな所で遭遇するとはな。
…………すると、その言葉を聞いたガイツさんの雰囲気が少し変わった。
「……じゃあ<ノズ森林>の<
「はい、そうです。他にもメンバーはいましたが」
「そうか……この道を進んでいるって事はあんた達はギデオンに行くつもりなんだよな。だったら俺達と一緒に行かないか? 数が多い方が野盗にも襲われにくいし…………それにあんた達と話したい事があるんだ」
「…………どうするミカ?」
「んー、別にいいんじゃない? そっちの方が安全そうだし」
こうして俺達はギデオンまでの残りの道中、冒険者パーティー<黒牛戦団>に同行する事になった。
◇
あの後、ガイツさんのパーティーと合流した俺達は、とりあえず他の人達に挨拶していった。
まず、<黒牛戦団>のサブリーダーである眼鏡をかけた細身の男性“アッシュ・トルハ”さん。曰く「同行に関しては構いません。あと、ウチのリーダーが無理を言ったようで申し訳ありません……ですが、どうも貴方達に少し思うところがあるみたいなので、どうかリーダーの話を聞いてあげて下さい」と言っていた。
次に<黒牛戦団>のメンバーで大柄でスキンヘッドの男性“レオン・ダスト”さん。曰く「ほお、お前達が最近増え始めたという<マスター>か。あの炎狼の群れを二人で倒したのなら実力は心配いらんな、短い間だがよろしく頼むぞ!」とのこと……普通にいい人だった。
そして、最後のメンバーであるシスター風の衣服を着用した女性“ニア・フローラ”さん。曰く「私は回復魔法が使えるので、怪我をしたら言って下さいね」だそうだ。
あと、彼等が護衛していた商人の“アレハンドロ”さんにも挨拶した。曰く「護衛にあの伝説の<マスター>が加わってくれるなら頼もしいですな! ギデオンに来たら是非、私共の『アレハンドロ商会』に立ち寄って下さい、歓迎しますよ」とのこと……中々強かな人らしい。
…………挨拶が終わった後、俺達は話があるというガイツさんの下に行った。
「それで、お話があるとのことですが」
「ああ、だがその前に礼を言わせてくれ……先輩の仇をとってくれて感謝する」
詳しい話を聞くと、以前のクエストの時に聞いた<ノズ森林>で消息を絶ったパーティーのリーダーに、彼は新人冒険者時代にとても世話になっていたらしい。
そのため、異変の原因となった<UBM>を討伐した<マスター>には一度礼を言っておきたかったとのこと。
…………特に警戒する様な話じゃなかったな。普通に皆さんいい人そうだし。
「あの時は騎士団やギルドの通告を無視して、森に突っ込もうとするガイツを止めるのが大変だった」
「おい、レダ! それは今する様な話じゃねーだろ(汗)」
「……でもやっぱり<マスター>というのは色々規格外ですね。あの【猫神】で良く分かっていたつもりでしたけど」
「メリアさんは【猫神】について詳しいんですか?」
「私よりもリーダーの方が詳しいですよ、何せ
何でもガイツさんは王国第二位の決闘ランカーとして、第一位の【猫神】トム・キャットと何度も戦っているらしい。
「ま、<マスター>の理不尽さはこの身をもってよく分かっているからな。ほとんど下級職のパーティーで<UBM>を討伐することもあり得るだろう」
「そのトム・キャットという<マスター>はどう言う人なんですか?」
「うーむ、俺も試合に時以外にはあまり話す機会がないからなぁ……そんなにヤツの事について知りたいなら、近くに俺とトム・キャットの試合があるから見に来たらどうだ?」
「……そうですね、見に行こうと思います」
さて、ギデオンでやる事が増えたな…………楽しみだ。
◇
その後、俺達は特にトラブルに巻き込まれることも無く進んで行き、時折現れるモンスターも俺やミカと“黒牛戦団”の皆さんですぐに倒してそのままギデオンに到着した。
「今日は色々話を聞かせてもらってありがとうな! 俺とヤツの試合も見にきてくれよ!」
「はい、こちらこそありがとうございました」
そうして、俺達は<黒牛戦団>の皆さんと別れて、クエストを達成するためにギデオンのギルドに向かった。
「さて、あとはこの荷物をギルドに届ければクエストは完了だね」
「それが終わったらとりあえず休むぞ、流石に移動に一日も掛かったから疲れた」
「そうだねーじゃあ明日からギデオン観光をしようよ」
「あと、ガイツさんの試合のチケットの入手もな」
さて、とりあえずさっさとクエストを済ませるか。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄妹:やっぱりデンドロでは状態異常が強い、特に傷痍系
《ハンティング・アーツ》:【大狩人】の奥義
・攻撃時の副次的な状態異常発生に対してのみ効果を発揮し、状態異常のみを与えるスキルなどには効果を発揮しない。
・【大狩人】は狩人系統でも直接戦闘に長けており、病毒・制限系状態異常で相手の動きを鈍らせ、傷痍系状態異常での必殺を狙うのが基本的なスタイル。
【
・群れを率いて集団で中距離から炎で攻撃するのが基本的な戦い方。
・そのため護衛している対象がいる場合、面倒な相手になる。
ガイツ・ランド:<黒牛戦団>のリーダーで現アルター王国決闘ランキング第二位
・合計レベルは五百で技術も非常に高い。
・メインジョブは闘士系統の複数の武器を使い分ける事に特化した上級職【
・サブジョブに【剣聖】【弓手】【槍士】を取っており、複数の武器とそれぞれのスキルを使い分けて戦うスタイル。
・着けている鎧は【再生牛鎧 リバイブル】という逸話級特典武具で、HP・STRへの補正とHP・SPの持続回復能力を持っている。
レダ・マーチ:<黒牛戦団>のメンバー
・メインジョブは【
・サブジョブに【
メリア・ローラン:<黒牛戦団>のメンバー
・ローラン家の三女。
・メインジョブに【白氷術師】サブジョブに【紅蓮術師】を取っている魔法火力要員。
・魔法に関してはオールマイティな才能を持ち、【付与術師】や【呪術師】も取っている為パーティーのサポートもこなす。
アッシュ・トルハ:<黒牛戦団>のサブリーダー
・メインジョブは魔法剣士系統の上級職【
・サブジョブに【司令官】も取っておりパーティーの指揮を担当している。
レオン・ダスト:<黒牛戦団>のメンバー
・メインジョブは【大戦士】サブジョブに【盾巨人】を取っているパーティーのタンク。
ニア・フローラ:<黒牛戦団>のメンバー
・メインジョブは【司教】の回復役。
・だがサブジョブに【教会騎士】も取っており、たまに前に出て来る。
<黒牛戦団>:アルター王国の冒険者パーティー
・主に王都とギデオンで活動している。
・決闘ランキング第二位のリーダーを筆頭に、他のメンバーも上級職二つを修めているアルター王国でもトップクラスのティアンパーティー。
読了ありがとうございました。
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ギデオン観光とガチャ
それでは本編をどうぞ。
□決闘都市ギデオン 【
「いや〜ここギデオンは活気があるね、お兄ちゃん!」
「そうだな、南のレジェンダリアに近いからか、色々な人種の人もいるしな」
あれからギルドに荷物を渡してクエストを達成した俺達は、一旦ログアウトして一眠りし、次の日に再びデンドロにログインした。
そして、まずはガイツさんとトム・キャットの決闘のチケットを購入した。
「一般席だけど手に入って良かったね、お兄ちゃん。えーとこっちの時間で明日、中央闘技場でやるんだっけ?」
「ああ、何せ決闘ランキング第二位と第一位の試合だからな。…………それまではこのギデオンを観光しよう」
「そうだねー…………ん?」
そうやって適当にぶらついていると、どうもミカが何かに気付いた様だ。
そちらを見ると、そこには黒い犬……あるいは狼の着ぐるみを着た人がいた。
「おーい! そこの着ぐるみの人、ひょっとしてシュウさんじゃない?」
『ん? おお、ミカちゃんとレントくんだワン、久しぶりだワン』
「久しぶりだねーシュウさん、着ぐるみ変えたんだ? それって特典武具?」
『……ああ、色々あってな。その口ぶりだとミカちゃんも<
「うん、特典武具はお兄ちゃんが手に入れたけどね」
『おー、レントくん凄いワン』
「いえ、色々上手く噛みあっていただけなので」
この人はシュウ・スターリングさん。ミカのフレンドで、曰く非常に複雑な事情があって着ぐるみを着ているとのこと。
…………まあ、デンドロは自由だからな、どんなネタプレイも他人に迷惑をかけなければ許容されるだろう。
「ところで、シュウさんも明日の決闘を見に来たの?」
『そうだワン。……この国に以前からいたって言う<マスター>の事も気になっていたからなワン』
「じゃあ、今日これから一緒にギデオンを観光しない? 私達も明日の決闘まで暇だから、これから観光するんだ」
『別に構わないワン。ちょうど気分転換したいところだったしワン。俺は前にもギデオンに来た事があるから案内するワン』
「ありがとーシュウさん!」
「ありがとうございます、シュウさん」
こうして、俺達はシュウさんと一緒にギデオンを周る事になった。
◇
『じゃあミカちゃんはもう三職目の上級職ワン、早いワン。俺はまだ二職目の【
「そうかな? お兄ちゃんとか上級職カンストして、今四職目だし」
「俺の<エンブリオ>はレベル上げに向いているからな」
『それでも凄く早いワン。…………ついたワン、ここが<アレハンドロ商会>だワン』
俺達は昨日出会ったアレハンドロさんの店にやってきていた。俺とミカは道中消費した各種アイテムを買いに、シュウさんはドロップアイテムを売るのが目的である。
ちょうど店にいたアレハンドロさんに挨拶しつつ、商品を見ていく。
「王都の店とはやっぱり品揃えが違うね」
「ああ、決闘都市にある店だからか、それともレジェンダリアに近いからか特殊効果のある装備品が多いな」
「いや、二人共お目が高い。その通りです、当商会ではレジェンダリアから仕入れた希少なマジックアイテムも販売しております」
『高性能なアクセサリーが売っているのは嬉しいワン』
…………着ぐるみは全身装備だから、他にはアクセサリーぐらいしか着けられないからな。
そうして消耗品を買い揃えつつ店内を見てみると、とある場所に人が集まっているのが見えた…………あれは、ガチャ?
「お兄ちゃん! ガチャがあるよ!」
「そうだな……すみません、あのガチャは一体なんなんですか?」
ガチャについて店員さんに聞くと、あれは元々<墓標迷宮>で出土したレアアイテムで投入した金銭を供物にして100倍から1/100の価値のアイテムを何処からか召喚する物らしい。そして、この店で買い物をした客だけが回せる取り決めになっているとのこと。
…………ちなみにこのガチャは少し前に購入したもので、前の所有者はガチャの回しすぎで破産したとか。
「お兄ちゃん、せっかくだし回そうよ! とりあえず十万リルで‼︎」
「…………一回だけだぞ」
「わかってるよー、シュウさんはどうする?」
『あー、俺はやめとくワン。今は懐に余裕が無いし…………それに、俺がこういうのをやると大当たりか大外れの二択になるワン』
「「あー成る程ね」」
この人もミカと同じで規格外側の人間だろうからね、それも多分オールマイティに突き抜けてるタイプ…………そう言う人達って運気とかもなんかおかしい事が多いし。ガチャ回したら呪いのネタアイテムとか出そう。
それじゃあ列に並ぶか。
「どんなアイテムが出るんだろ楽しみだね。ガチャは回すまでのこの瞬間がいいんだよねー………………むうぅぅ……」
「どうした? なんかいきなり不機嫌になったが」
「…………お兄ちゃん、ガチャは何が出るのかが分からないから楽しいんだけど…………
「…………また何か感じたのか?」
「うん…………このガチャは回せって……」
「……じゃあガチャ回すのはやめるか?」
「いや回しとく……遠い勘に従わないとロクなことにならないし。……はあ〜、私の勘って危険察知がメインだから、こう言うのには普通反応しないんだけどなぁ……」
…………ミカの勘も大概融通が効かないところがあるからな。
さて、そうこうしているうちに俺達の番になった様だ。
「こうなったらお兄ちゃんのガチャに期待だよ! さあ! 十万リル突っ込んで大当たりか大外れを引くのだ‼︎」
「…………そんなに期待されてもなぁ」
まあ、金には余裕があるし一回ぐらいなら十万リル突っ込んでも大丈夫か…………おっ出たな、えーと書いてある文字は「C」だから、等価値の十万リルのアイテムか。
「十万入れて十万の価値のアイテムが出たんだから当たりの部類か」
「何が入っているんだろうね! 【墓標迷宮通行許可証】とか(笑笑)」
「おいバカやめろ…………えーと【ライトニング・デスジャベリン】ね、投げ槍だから狩人系統の技能で使えなくはないし、今のレベルなら装備出来るから当たりだな。効果はMPを込めると着弾時に電撃を放つみたいだな……あと、決して手に持ったままスキルを使わないでくださいって書かれているな」
「うーん、普通に当たりだね。面白く無いなー」
「ならお前が大当たりを出せ。勘では何か出るって話なんだろ?」
「そうだねー、じゃあ十万リル突っ込んで回そうか」
そう言ってミカがガチャに十万リルを入れて回すと…………そこからは虹色の鉱石で出来た「S」と書かれたカプセルが出てきた。
俺達以外の周りの店員さんや客が凄いどよめいている。
「おー、凄い豪華なカプセルが出たね」
「そりゃあ最高ランクのカプセルだからな。確か100倍の価値だから一千万リルのアイテムか…………なんか周りが凄いコッチ見てるし早く開けたらどうだ?」
「わかったー…………【尾竜剣鎧 ドラグテイル】ね…………‼︎」
カプセルから出てきたのは竜の顔を模した鎧で、背中には剣の様なパーツが付いていた…………ていうか、その特殊な命名の仕方はひょっとして
周りの客も何人かが気がついたようだし…………その想像できる由来やミカの反応を見る限り、少し面倒そうな物みたいだな。
「お兄ちゃん、詳しい話は人がいないところでしよう。シュウさんも来て」
「わかった」
『わかったワン』
俺達は足早にその場を離れていった。
…………ちなみにガチャの方からは「俺はガチャを回すぞ〜〜! ジョジ○〜〜‼︎」「当たりが! 出るまで! 回すのを! やめない‼︎」「リルッ、リルが溶ける〜〜‼︎」「今のは乱数調整だからっ! 次は出るはず…………‼︎」「ガチャァ……! ガチャァ……‼︎」……みたいな声が聞こえてきた。
…………やっぱりガチャの闇は深いな…………
◇◇◇
□決闘都市ギデオン 【
あのあと、店を出た私達はこの【ドラグテイル】の事を話し合う為に人気の無いところに来ていた…………二人もこの鎧の問題には気づいているみたいだね。
「さてミカ、その鎧は特典武具だな」
「うん…………しかも死んだティアンの人が持っていた物みたい」
『やっぱりそう言う物だったかワン。…………それが知られると、特典武具持ってるティアン殺しに走るヤツが出て来る可能性があるな』
「そうなんだよね…………特典武具持ってるティアンは強い人しかいないだろうし、さらにガチャで「S」のカプセルだす確率はかなり低いからそんなバカな事をする人は早々いないと思うんだけど……」
「ティアンの人が死んだら特典武具も消滅するって話は聞いていたが…………回収してガチャに突っ込むとか色々雑過ぎないか?
『同感だワン。…………まあ、当てちゃった物はしょうがないワン。あとは色々と落ち着くのを待つしかないワン』
「そうだな、だからあまり気にしすぎるなよミカ。…………それでその鎧の性能はどんな感じなんだ」
「…………ありがとう、二人共。……この鎧の性能はこんな感じだよー」
【尾竜剣鎧 ドラグテイル】
<
強力な剣尾を持つ竜王の概念を具現化した至宝。
極めて高い硬度を持つと共に、伸縮自在の剣尾を有している。
・装備補正
攻撃力+1500
防御力+1500
STR+50%
END+50%
AGI+50%
・装備スキル
《竜尾剣》
《???》※未開放スキル
…………改めて見ると凄い性能だね、お兄ちゃんの【ヴァルシオン】と比べても総合的には桁外れの性能だし、ランクが二つ違うとここまで性能が違うんだ…………でも、装備枠で上半身と外套の二つの枠を使うみたい。あと、まだ使えないのスキルもあるし。
…………元になった<UBM>はどんなスペックだったんだろう、あとそれを倒したティアンの人も。
「逸話級と古代伝説級だとここまで性能が違うのか」
『俺の【ふぇいうる】よりも総合性能はかなり高いワンね』
「まあ、当てちゃった物はしょうがないし有り難く使わせて貰うけど…………どこで試そうかな、あんまり人目につきたく無いし」
『それなら心配いらないワン。ここギデオンにある闘技場は、試合をやっていない時には結界を使った模擬戦の為のレンタルが出来るワン。結界には不可視化の設定が出来るから人目も気にしなくていいワン』
「じゃあ空いている闘技場に行こうか、お兄ちゃんちょっと付き合ってくれる?」
「わかった、そのぐらいならいいぞ」
『俺も付き合うワン』
◇
それから、私達は今日空いている決闘都市六番街の第六闘技場に来ていた。
『ついたワン。ここが今日空いている第六闘技場だワン』
「確か決闘場には特殊な結界が張ってあって、その決闘が終わったら結界内で起きた事は全て無かった事になるんだったか」
「そうみたいだね…………ん? あれは……?」
闘技場の近くまで行くと、そこにはフォルテスラさんとネイちゃんとシャルカさんがおり、見知らぬ男性と話しているようだった。
「おーい! フォルテスラさんにネイちゃんにシャルカさん久しぶり〜!」
『おーす、フィガ公、久しぶりワン』
「ああ、ミカちゃんにレントくん。久しぶりだね」
「あ、シュウ。久しぶりだね」
あれ? あっちの男の人はシュウさんの知り合いなのかな?
「ふむ、なんかお互いの知り合いに会ったみたいだし、改めて自己紹介した方が良さそうだな。……俺はレントと言います、コッチは妹のミカでフォルテスラさん達とは以前一緒にパーティーを組んだ事があります」
「レントの妹のミカです! フォルテスラさん達とはお兄ちゃんと一緒にパーティーを組んだ事があって、シュウさんとは友達です!」
『シュウ・スターリングだワン。ミカちゃんとフィガ公とは友達だワン』
「俺はフォルテスラと言う、こっちは俺の<エンブリオ>のネイリング。シャルカは俺のパーティーメンバーでレントくん達とは以前に一緒に戦った事がある。あとこいつはフィガロと言って、最近知り合ってよく決闘をしている」
「メイデンwithエルダーアームズのネイリングだよ! よろしくね!」
「僕はフィガロ。シュウとは友達で、フォルテスラとはよく決闘をしているんだ」
「私はシャルカと言います。フォルテスラ達の付き添いですね」
ふーん、フィガロさんって言うんだ、シュウさんの友達でフォルテスラさんの決闘仲間みたいだね。あと、ネイちゃんもエルダーアームズになったんだ。
とりあえず、挨拶も終わった私達はお互いが闘技場に来た目的を話し合った。フォルテスラさん達は普通に決闘をしに来たみたい。こっちの事情も説明すると彼等も納得した見たい。
「成る程……そう言う事情なら決闘場を使った方がいいか。ところでミカちゃんは誰と決闘するつもりかな?」
「とりあえずお兄ちゃんに頼みたいと思います。いいよねお兄ちゃん?」
「ああ、別に構わないぞ」
「そうか……しかしレントくんとミカちゃんの決闘か、少し見てみたい気もするな」
「私も二人の戦いは見てみたいな!」
「見るのは構わないけど……結界は不可視化するつもりだし……」
「あの結界は確か特定の人間だけに見えるようにする設定も出来たはずですよ」
あれれー? なんだか妙な話になって来たぞ〜?
「えーと、ほら! フィガロさんのことは……」
「僕は構わないよ。決闘は闘うのも観るのも好きだからね。…………それに、二人共凄く強そうだから楽しみだよ」
『あー、フィガ公は脳筋だけど悪いやつじゃないから大丈夫だワン』
そうして、なし崩し的に私とお兄ちゃんの衆人環視による決闘が決まったのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄妹:なんかいつのまにかガチで戦うことになった………
シュウ・スターリング:ワン語尾にもだいぶ慣れた
・少し前に王都付近でトラブルに巻き込まれたので、その気分転換も兼ねてギデオンに来ていた。
【ライトニング・デスジャベリン】:兄のガチャ結果
・電撃を放つスキル《死雷放電》は非常に威力が高いが、無制御のスキルなので手に持って使うと自身にも電撃が流れる。
・また、スキルを使うたびに耐久値が大きく減るので、実質十万リルの使い捨て投げ槍みたいなもの。
【尾竜剣鎧 ドラグテイル】:妹のガチャ結果
・《竜尾剣》は尾で鎧と繋がった背中のブレードを、SPを消費して装備者のAGIの倍の速度で伸縮・操作するスキル。
・その長さの最大は装備者の合計レベル×一メートル、攻撃力は装備者のSTR+【ドラグテイル】の装備攻撃力になる。
・実は何代か前の【龍帝】が所有していた特典武具、なので《竜王気》はオミットされている。
【尾竜王 ドラグテイル】:【尾竜剣鎧】の元になった<UBM>
・純粋性能型でSTR・END・AGIがそれぞれ五万ぐらいあり、《竜尾剣》はそれらの倍のスペックを持つ剣尾を十キロ以上は余裕で伸ばせるスキルだった。
・つまり、攻撃力十万・硬度十万・音速の十倍の攻撃が十キロ以上先から飛んでくる相手だった。
・更に《竜王気》の達人で剣尾に集中させて相手の防御を突破、一点に集中させて相手の攻撃を防ぐとかも出来た。
・他にも広域を探知するスキルもあり、それで強そうな相手に片っ端から戦いを仕掛ける好戦的な性格だった。
・だが、貫こうが八つ裂きにしようが再生する【龍帝】とは相性が悪く、戦いの末に討伐された。
ガチャ:あの後は爆死祭りだった模様
読了ありがとうございます。次回は兄VS妹です。
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レントVSミカ
それでは、本編をどうぞ。
3/22 召喚関連の文章を変更しました。
□決闘都市六番街・第六闘技場 【
今、俺とミカは闘技場の上で向かいあっている。
その周りには、フォルテスラさん達が妙に期待を込めた目でこっちを見ていた。
「はぁ……当初はお前がガチャで当てた特典武具の性能を確かめるだけだったのに……どうしてこうなった」
「あはは……まあいいじゃない。せっかくだから派手にやろうよ、お兄ちゃん」
「ギャラリーもそれがお望みの様だしな。……本気でやるぞ」
俺はさっきガチャで当てた【ライトニング・デスジャベリン】を取り出し、もう片方の手に弓を持って準備を整える。ミカも【尾竜剣鎧 ドラグテイル】を装備し【ギガース】を手に取ってこちらに構えた。
…………デンドロでミカと戦うのは初めてだな。さて、どうするか……
『では僭越ながら決闘の合図はこの俺、シュウ・スターリングが努めさせていただくワン。…………それでは、試合開始ィ‼︎』
その妙に芝居がかったシュウさんの合図と同時に俺は、
「《
「ッ‼︎」
手に持った【ライトニング・デスジャベリン】をさっき作ったオリジナルスキル──《ハンティングスロー》《ハンティングシュート》《投擲技能》《パラライズスロー》を組み合わせクールタイムを二十四時間に引き上げた(名前は良いのが思いつかなかった)スキル──に《空想秘奥》を重ね掛けして投げ飛ばした。
だが、事前にそれを察知したミカは咄嗟に後ろに跳びのき、【ギガース】を盾代わりに地面に突き立てた。
…………そして、放たれた槍が
ガァァァ────────ァァァン‼︎
槍が着弾した場所から全方位に強力な雷撃が放たれるが、ミカは突き立てた【ギガース】をアース替わりにしていた為、与えたダメージはそこまででは無かった。
…………手に持って使ってはいけない投げ槍だから、全方位攻撃系のスキルだと思っていたが予想以上の威力だな。スキルの威力は込めたMPと着弾時の攻撃力で決定するから、アクティブスキルを併用すれば威力は上がると言う考えは当たりらしいな。
……だが、槍自体はスキルの威力に耐えきれずに壊れてしまったようだ。値段と釣り合っていない威力だと思ったら、使い捨てに近い武器だったらしい…………試合が終わったら全てが元に戻る闘技場で試せてよかったな。
「ちょっとお兄ちゃん! この試合は私の特典武具の性能を試す為のものじゃなかったっけ⁉︎」
「《サードヒール》、お前が派手にやれと言ったんだろ。それにこの程度でお前を倒せるなんて思っていない《パラライズアロー》、《ポイズンアロー》、《スリーピングアロー》!」
「ちょぉぉ‼︎」
武器を弓に切り替えると、そのままアクティブスキルと通常の攻撃を組み合わせてミカに矢を射かけていく。
…………まあ、こんな攻撃がミカに通じる筈も無く、全て避けられるか【ギガース】を盾替わりにして防がれている……動きが良くなっているな、特典武具のステータス補正の効果か。
「もー! ならこっちも特典武具使っちゃうもんね! …………行けっ‼︎」
「チィッ!」
すると、ミカの装備している【ドラグテイル】の背中に付いている剣が鎧を離れて…………いや、鎧と剣は尻尾の様なものによって繋がっており、それを伸ばす事で剣をこちらに飛ばして来た。これがあの鎧のスキル《竜尾剣》らしいな、文字通りの能力だ。
こちらにかなりの速度で飛んで来る《竜尾剣》をなんとか避けて反撃の矢を放つが、ミカには容易く避けられた…………だが、その間《竜尾剣》は動かなかったので、どうやらマニュアル操作で動かさなければならない上に剣と自身の同時操作はまだ出来ないらしい。
まあ、手に入ったばかりで、しかも本人にアジャストされているわけではないからな。
「しかし、もう完全に例の主人公機の最終形態みたいだな。…………お前は一体どこを目指しているんだ?」
「そんなの知らないよー。文句なら特典武具やガチャを管理している人達に言ってよー!」
そう適当に茶化してみたが、実際ミカに中・遠距離攻撃の手段が出来るのはかなり強いな。【ギガース】のスキルも装備さえしていれば、本体以外での攻撃にも適応されていた筈だし(以前スライムを踏み潰して倒していたのを見た)
…………戦っている今は厄介極まりないがな。まだ扱いきれていないから、ギリギリ何とかなっているが。
「そろそろどうにかしないとジリ貧だな……《セイクリッド・アロー》‼︎」
「《ストライク・ブラスト》‼︎ シッ!」
俺の放った二発目のオリジナルスキルをミカはメイスから放った衝撃波で軌道をそらし、カウンターで《竜尾剣》放って来るが…………こっちはフェイクで本命は接近戦か。
「《召喚》──ブロン、行け!」
「邪魔! 《スマッシュメイス》!」
俺は飛んで来た《竜尾剣》をギリギリで避け、向かって来たミカに対して【ホースゴーレム】のブロンを召喚しけしかける…………が、直接戦闘能力の低いブロンは直ぐにミカのメイスに叩き潰された。
…………だが動きは止まったな。
「《トリニティ・アロー》‼︎」
「ッ! クゥッ‼︎」
そして放たれた本日三回目のオリジナルスキル──《パラライズアロー》《ポイズンアロー》《スリーピングアロー》《ハンティング・アーツ》を組み合わせクールタイムを二十四時間に引き上げた状態異常特化で威力も相応にある矢──をミカはとっさに【ギガース】を盾にして防いだが、威力に押され…………ていない⁉︎
……しまった‼︎ さっき外した《竜尾剣》を地面に突き刺してアンカー替わりにしたのか!
そして、ミカは尾を縮める勢いを利用してそのままこっちに突っ込んで来た!
「この鎧の剣、意外と応用が効くみたいだね‼︎ あともう
「チィ! 《瞬間装備》《ハンティングシュート》‼︎」
ミカに攻撃が殆ど当たらないから、【ヴァルシオン】の《吸命転換》があまり機能していないからな!
向かって来たミカに対してなけなしのSPでアクティブスキルを使い短剣に装備を切り替え、腰に下げていた投げナイフを投擲するが【ギガース】で払いのけられる。
そのまま、ミカに接近された俺は短剣での防戦を試みるが…………
「《ハンティングエッジ》‼︎」
「《ウェポンブレイカー》! これで終わり! 《アーマーブレイカー》‼︎」
「ひでぶっっ!」
最後のSPを使ってアクティブスキルを使い斬りかかる…………が、どうも先読みされいた様で
そして、そのまま上段から打ち下ろされた装備防御低下効果付きのアクティブスキルで、俺は叩き潰されて敗北した。
◇◇◇
□決闘都市六番街・第六闘技場 【
「イエーイ! アイムウィナー!」
「負けたか。正直、今の手札じゃどう頑張ってもミカの直感を突破できないな。…………しかし潰されても結界を出れば元どおりか、凄いな闘技場」
ほんとにねー、お兄ちゃん潰れてたのに完全に元に戻ってるよ。この結界一体どういう理屈でできているんだろう?
そんな風に私達が闘技場の凄さに感心していると、ギャラリーの皆さんがこっちに来ていた。
「レントくんにミカちゃん、二人共良い試合だったよ。あと、闘技場の仕様は初めてなら驚くのも無理はない、俺も驚いたしね」
『いやー、なかなか派手な試合だったワン』
「やっぱり二人共凄く強かったね。どうだい? この後、僕とも決闘しないかい?」
なんか、皆さん私とお兄ちゃんの決闘の様子を口々に褒めて来るなぁ。私としてはお兄ちゃんに終始攻められっぱなしで、【ドラグテイル】も上手く扱えなかったし色々課題が残る結果だったんだけど。
あとフィガロさんには決闘に誘われた…………この人、実は結構なバトルマニアなのかな?
「俺は遠慮しておく。……結界の中とはいえデンドロで死ぬのは初めてだから少し疲れた」
「私も一戦して疲れたから、しばらくはいいかな〜」
「そうか、残念だな…………じゃあフォルテスラ、一緒に決闘しないかい?」
「ああいいぞ。俺も二人の決闘を見て身体を動かしたいと思っていたところだ」
そんな感じで、フィガロさんとフォルテスラさんは闘技場に向かっていった。
やっぱりフィガロさんはバトルマニアみたいだね、あとフォルテスラさんも…………
『フィガ公の脳筋バトルマニアっぷりは何時もの事だからほっとけばいいワン』
「それに付き合っているフォルテスラも、最近どんどん決闘好きになっていますからね」
「…………まあ、結界の中なら全力で戦えるから、決闘を好む気持ちも分からなくはないかな。死んでも死なないし」
「初手から、切り札を連発してきたお兄ちゃんが言うと説得力が違うね〜」
お兄ちゃんのオリジナルスキルみたいな重いコストや長いクールタイムを持つスキルでも、決闘が終わって結界から出ればそれらも無かった事になるからね。普段は試し難いスキルを試すのにも決闘場は有効じゃないかな。
「それで? その【ドラグテイル】の使い心地はどうだったんだ? 当初はそれが目的だっただろ?」
「いや、お兄ちゃんが初手から殺しにきたからガチな戦いになったんじゃない!」
「えっ? お前があのぐらいでやられる訳がないだろ? 初手は牽制のつもりだったし」
『いやー実に信頼し合っている兄妹ワンー(棒)』
「もー! シュウさんまで! …………まあ使い勝手は良かったかな、ステータス補正もいい感じだったし。でも《竜尾剣》はマニュアル操作だから、自分が戦いながら動かすには少し時間がかかるかな」
実際、使った感触だと色々応用が利きそうだったからね《竜尾剣》。他には攻撃力がSTRと装備攻撃力の合算だけど、多分単純なパワーも私のSTRの同値かな。さっきも《竜尾剣》で自分を引っ張る事が出来たし、上手く使えばワイヤーアクションもどきみたいなことも出来るかも。
あと、お兄ちゃんの普通のアクティブスキルを受けても傷一つつかなかったことから、鎧自体の強度も相当高いみたい。
『それで二人はこれからどうするワン?』
「んー、まだ闘技場のレンタル時間は残ってるし、もうちょっと戦おうかな。【ドラグテイル】にも慣れておきたいし。お兄ちゃんは?」
「俺は試したいことは大体やり終わったからもういいかな」
「じゃあ、あの二人が戦い終わったら勝負を挑んでみようかな」
この後、私はフォルテスラさん・フィガロさんとそれぞれ一回ずつ戦って一勝一敗、フォルテスラさんにはなんとか勝てたがフィガロさんには負けてしまった。
フォルテスラさんとの決闘では特典武具のお陰でステータスで上回っていた為、勘によって先読み出来た攻撃を防ぐか避けるかが出来たのが大きかったね。それでも彼の剣技はかなり鋭く何度か危ない時もあった。そう言う攻撃は【ドラグテイル】で受けたりしたけど、特に傷はつかなかったから相当頑丈みたいだね。
あと、後半武器破壊スキルでネイちゃんを壊しちゃったけど、結界を出たら元どおりになっていたから良かったよ。…………まあ、ネイちゃんは凄い悔しそうな目で私の【ギガース】を見てたけど。
フィガロさんとは、ステータスで上回っているこっちの攻撃を彼は徹底的に回避してきて、あっちの攻撃も最初は私の勘を突破出来なくて持久戦になった。向こうも特典武具を持っていたらしく沢山の刃を飛ばして来たり、球状の結界を展開してきたりした。特に球状の結界が厄介で、【ギガース】の《バーリアブレイカー》を乗せたアクティブスキルでもヒビが入っただけで壊れなかった。
そうやって戦闘時間が長くなると、どんどんフィガロさんのステータスが上がっていって、最終的に勘でも対処仕切れなくなってそのまま負けちゃった。多分、戦闘時間に比例して強化みたいな<エンブリオ>なのかな?
…………その決闘が終わった後、闘技場のレンタル時間が終わったのでそのまま解散となった。
◇
「今日はいい決闘だったね、またやろう」
「今日は負けてしまったが、次はリベンジさせてもらう」
「うぅー! 次は負けないからね‼︎」
「あはは……まあ、またいつかという事で」
そう言う感じで私とお兄ちゃんは皆と別れたのだった…………最後までネイちゃんはこっちを睨んでいたけど…………
あと、皆も明日のガイツさんとトム・キャットの試合は見に行くらしい。今現在、王国で一番強い<マスター>の事は皆気になっているみたいだね。
「しかし、お前がタイマンで負けるとはな。やはりデンドロの<エンブリオ>は恐ろしいな」
「そうだねー、あと特典武具も。……デンドロってゲームとしては完全にバランスを無視してるよね」
「まあ、始めから<エンブリオ>と言うユニークを売りにしているからな。先着一名の“超級職”ってのもあるみたいだしな」
「ま、ネトゲじゃ大なり小なり先発有利だからね」
そんな話をしながら私達は明日の試合に想いを馳せるのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
妹:【ドラグテイル】は結構いい感じ!
兄:やはり妹を倒すには広範囲攻撃か……魔法系のジョブを上げようかな?
《ウェポンブレイカー》:【剛戦棍士】のスキル
・相手の右手・左手装備の武器に当てた場合、自身の攻撃力に応じて相手の武器の耐久力を減少させるスキル。
シュウ・スターリング:結構ノリがいい性格をしている
フィガロ:決闘マニアその一
・今回は決闘相手が増えて大満足。
フォルテスラ&ネイリング:決闘マニアその二
・今回は妹に負けてしまったが、“武器を破壊された経験”と“ステータスで上回られた経験”はネイリングの中に蓄積されている。
読了ありがとうございました。
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決闘王者防衛戦
それでは本編をどうぞ。
□決闘都市ギデオン・中央闘技場 【
「いや〜、人がいっぱいいるね〜、この中央闘技場もほぼ満席だよ!」
「そりゃあ決闘ランキング第二位と第一位…………このアルター王国トップ2の試合だからな」
今、俺達はガイツさんとトム・キャットの試合を観に中央闘技場に来ていた。周りを見てみると多くの人がこの闘技場に詰めかけていた。
やはり、このギデオンでもトップクラスのイベントなのだろうな、決闘ランキング第二位と第一位の試合は。
「さっきのセミイベントもレベルが高かったからね〜。本命の試合も楽しみだよ」
「アルター王国の決闘のレベルは西方三国一らしいからな」
実際、先程の試合もかなりレベルが高かった。ジョブのレベルだけでは無く、自身の戦闘技術や戦術も非常に高くて実に参考になった。
また、闘技場の結界には中の時間の進みを緩やかにする機能もあるらしく、AGIが低い観客でも試合を楽しめるようになっているようだ。
「あと、試合の賭けもやってたね」
「確かオッズはガイツさんが10倍ぐらいで、チャンピオンのトム・キャットが1.2倍だったな。…………決闘ランキング一位と二位の賭けにしては随分差があったが」
「チャンピオンがよっぽど強いのか…………あるいは<エンブリオ>がとんでもない性能なのか、かな?」
闘技場の受付カウンターでは、競技の参加エントリーの他にも試合の勝敗を当てるギャンブルも行われていた。そこでのオッズは大幅にガイツさんが不利と言う内容だった。
…………少し戦っているところを見た感じだとガイツさんも相当強いと思ったのだが、それでもこれだけオッズに差があるということは、ミカの言う通りトム・キャットの実力がとんでもないのか、<マスター>として有している<エンブリオ>がヤバイのか、だろう。
ちなみに俺達はギャンブルには参加しなかった…………昨日のガチャで結構散財してしまったからな、しばらくギャンブルは控えることにしたのである。
「それも、これから始まる試合を見れば分かるだろう」
「そうだねー…………あっ、始まるみたいだよ」
見ると、会場のざわめきが少しずつ鎮まっていった…………どうやら試合開始の時間になったようだ。
『会場の皆様! お待たせいたしました! 只今より本日のメインイベント! 決闘ランキング第二位! ガイツ・ランド対決闘ランキング第一位! チャンピオン、トム・キャットの試合……決闘王者防衛戦を開始いたします‼︎」
そのアナウンスと同時に会場は歓声に包まれた。
『まずは東の門! 挑戦者の入場です! 冒険者パーティー<黒牛戦団>リーダーにして決闘ランキング第二位! “黒牛”の二つ名を持つ【
そのアナウンスと観客の歓声と共にガイツさんが入場してきた。
その装備はパーティー名や二つ名の由来になっている牛を模した黒い軽鎧を身につけて、手には槍を持っていた。
『そして西の門! チャンピオンの入場です! アルター王国決闘ランキング第一位! 最近は増えて来ましたが、あの伝説の<マスター>! “化猫屋敷”【
すると先程以上の歓声の中を歩いて来たのは頭に猫を乗せ、目を前髪で隠している青年だった。
「ふーん、アレが以前から王国にいたって言う<マスター>か…………中々奇抜な格好だねー」
「まあ、<マスター>だしな。…………あの猫は<エンブリオ>か?」
そして両者は舞台の上に立ち、ウィンドウを展開した…………あれは結界の設定ウィンドウで、試合直前にルールを確認し両者合意の上で戦闘を開始するらしい。
『今日こそは勝たせたもらうぜ、トム』
『悪いけど、そう簡単に負けてあげる訳にはいかないなー』
二人はそんな会話をしたあと設定を終えて開始位置に着き、それぞれの準備を終えて結界が起動された…………どうやら始まるようだ。
『それでは本日のメインイベント! 決闘王者防衛戦…………試合開始ィ‼︎』
そのアナウンスにより試合が開始される…………と同時に、
『《ランスシュート》! 《ラピッドアロー》』
『おっと……ッ!』
ガイツさんがアクティブスキルを使って手に持った槍を投擲し、トムが減速状態の結界内でも姿が霞む様に見える程の速度でそれを回避した…………がその槍が途中で
しかし、その爆発もトムはその速度を持って回避し、頭の上の猫を遠くに放り投げていた…………が、そこに武器を弓に切り替えていたガイツさんの連射が襲いかかる。
『疾ッ……──いざいざ躍らん《
『チィ! 《ブラストアロー》!』
それらの矢をトムはあるものは避け、あるものは手に持った剣で弾いていくが、その矢の中には先程の槍と同じで着弾時や時間経過でスキルを発動するタイプの物が混ざっている様で、ガイツさんはそれらを的確に使い分ける事でAGIに勝るトムに少しずつダメージを与えていった…………が、その間にトムの<エンブリオ>のスキルが行使された。
そこに、アクティブスキルにより衝撃波を纏った矢が直撃するが、トムは
「倒された? ……いや違うね」
「さっき放り投げられた猫の方で何かが…………」
そちらを見ると猫が変形し
『《スナイプアロー》!』
『疾ッ!』
ガイツさんはすぐにそちらにも矢を放つが、二人のうち一人がその矢を弾きもう一人はすぐに距離を取った。
そして、一人が応戦している間に距離を取った側が二人、さらに四人と増えていき、瞬く間に応戦している者も含めて八人のトムが舞台の上に現れていた。
「分身? でもさっき分身する前にの本体もやられていたし……」
「おそらく
「じゃあ…………あれって八人同時に倒さないとダメなんじゃない?」
舞台の上では八人のトムのうち四人が近接武器を持ちガイツさんに突っ込み、残り四人が弓や投剣で援護射撃をしていた。そしてそれら全員が最初の本体と同じ速度で動いていた。
ガイツさんは遠距離攻撃をかわし武器を剣や槍に持ち替えて応戦しているが、人数差とAGIの差で少しずつダメージを負っている。
「これはひどい、決闘ランカーって殆どが一対一の戦いに特化してるよね? 八人同時に倒すのは厳しくない?」
「そうだな…………それに【猫神】は超級職、相応のステータスを持っているから上級職のティアンでは相手をするのはきついか? むしろ、人数とステータスで負けている相手にこれだけ持ち堪えられているガイツさんの技量は凄まじいな」
今も、斬りかかってきたトムの一人をカウンターの《レーザーブレード》のスキルで斬り捨てるが、そのまま猫になって消えてしまい、すぐに遠距離にいたトムの一人が分裂し再び八人に戻った。
「ご丁寧に分身のうちの一体だけは、常にガイツさんの攻撃範囲の外に置いているね」
「技量ならガイツさんが勝っているんだが、トム・キャットの技量も決して低くはない。…………というか八人同時制御とかどうやっているんだ? オートで動かしている訳ではないみたいだし」
「実は管理AIが動かしてるんじゃない?」
そんな会話をしている間にも、ガイツさんはどんどん追い詰められていった。先程から何人かのトムを倒してはいるが、その度に増殖されており数を減らすことが出来ていない。
ガイツさんが装備している鎧は特典武具でありHPとSPの自動回復スキルがあるらしく、それが無ければもう終わっていただろう。
「でも、まだ何かあるかな?」
「ああ、ガイツさんは諦めている様子がないし…………トム・キャットもそれを警戒して慎重策を取っている様だな」
だが痺れを切らしたのか、それとも早めに決着をつけたかったのか、後衛のトムのうち二人が近接武器に持ち替え前衛に回り、そのまま六人でガイツさんに仕掛けていった。
それに対し、ガイツさんは一本の剣を取り出した。
『《サンダースラッシュ》!』
『『『ぶにゃー』』』
その剣でアクティブスキルを発動させると、雷を纏った刀身が
そして、これまで以上の速さで残りのトムに斬りかかっていく。
『《レーザーブレード》! 《ランスシュート》! 《フィフス・スラッシュ》!』
『ぶにゃー』『ぶにゃー』『ぶにゃー』
そのまま周りにいたトムを伸ばした光剣、もう片方の手から投げた槍、伸長した刀身による五連続斬撃で倒していく。
「お兄ちゃん、あの剣はひょっとして特典武具?」
「おそらくな…………効果は刀身の伸長とAGIの増加かな」
会場の人間も驚いているところを見ると、今回初めて使った武器なのだろう。
…………しかし…………
「相手の増殖速度の方が早い…………というか、さっきより早くなってない?」
「おそらく、今まで増殖速度を少し落としていたんじゃないか? …………それも、ガイツさんや観客の反応から考えて
「…………切り札を隠していたのはガイツさんだけじゃ無かったみたいだね」
ガイツさんの切り札に対し、トムが取った対処法はシンプルなものだった…………本気で増殖させた分身達を、片っ端から突っ込ませて肉壁にしたのである。
それらの分身達に、ガイツさんはアクティブスキルと特典武具を使って対処していくが、相手の増殖速度を上回ることが出来ない様だ。
「今はなんとか対処しているが…………」
「うん、あれだけ使っていれば、
そうして戦ううちに、ある時からガイツさんがアクティブスキルを使えなくなった…………SP切れである。
相手のSPが切れたと判断したトムは一気に攻勢を強めていく。ガイツさんも応戦していくが、今までアクティブスキルを使ってかろうじて凌いでいた相手にスキルなしで戦えるはずも無く…………
『『『疾ッ‼︎』』』
『グハッ!』
…………最後は三人のトムの剣に身体を貫かれて敗北した。
『試合終了ォォ──! 勝者は王者トム・キャット! やはり決闘王者の壁は厚かったぁぁぁ──‼︎』
本日のメインイベント・決闘王者防衛戦は、チャンピオン、トム・キャットの勝利で終わったのだった。
◇◇◇
□決闘都市ギデオン 【
決闘の観戦を終えた私とお兄ちゃんは、その余韻に浸りながらギデオンの街を歩いていた。
「いや〜、今回の試合は凄かったね! …………しっかし、トム・キャットのあの<エンブリオ>、どうやったら攻略出来るんだろう?」
「ふむ…………広範囲攻撃でまとめて倒すか、相手より圧倒的に高いステータスで増殖速度を上回るとかかな。あとはスキルそのものを封印するとか、<エンブリオ>や特典武具次第ではそう言う事も可能だろう」
やっぱりそんな感じになるよねー。私の【ギガース】じゃ相性が悪いかな、防御スキルは破れても回復系は効果範囲外だし。
むしろ、そういう相手はお兄ちゃんの方が、後々どうにか出来る様になりそう。
「そういえばフォルテスラさんやフィガロさんは、決闘ランカーを目指すって言ってたよ」
「そうなのか…………じゃあ、いつかはあの二人の戦いを中央闘技場で観れる時も来るのかねぇ」
「そうだといいねー」
…………私の勘でもそう言う未来は解らないからね、今から楽しみだよ!
「で? お前は決闘ランカーは目指さないのか?」
「うーん、フォルテスラさんやフィガロさんとの決闘は楽しかったけど…………やっぱり私は一つの国に留まらず、この世界のもっと色んなところを見てみたいかな!」
「…………そうか、それもいいだろうな。…………その時は俺も付き合おう、他の国やこの世界の事も個人的に気になっているしな」
「ありがとうね、お兄ちゃん! …………と言っても、この世界で旅をするには相応の実力が必要みたいだからね! もっと強くならないと!」
「そうだな、じゃあ明日からはレベリングでもするか。俺も就けるだけ就いた下級職のレベルを上げなければならないからな。…………あと、各ジョブの上級職への転職条件も調べないとな」
「お兄ちゃん、レベル上げるジョブがめちゃくちゃ多いからねー」
「はぁー、どこかにジョブの転職条件が簡単にわかる様なアイテムは落ちていないものか…………」
「そんなアイテムなら強いモンスターのドロップ品だろうし、落ちてはいないんじゃない?」
そんな会話をしながら、私達はギデオンを歩いていった。
あとがき・おまけ、各種オリ設定・解説
兄妹:いつかは他の国にも行ってみたいと思っている。
ガイツ・ランド:ティアン達人勢の一人
・実際、トム・キャットがいなければ普通に【超闘士】になれるレベル。
・最後に使った剣は【蟷螂伸剣 マンティスライス】という逸話級特典武具で、AGIへの補正と刀身の伸縮・この剣を使って発動するアクティブスキルのSP消費軽減の効果がある。
《連続換装》:【連装闘士】の奥義
・《瞬間装備》《瞬間装着》の“スキル名発声無しでの発動”・“クールタイムの大幅削減”・“一度に複数の装備を変更可能にする”効果を持つパッシブスキル。
トム・キャット:いつから僕が本気で増殖していると錯覚していた?
・今回の試合は会場の<マスター>に自分の実力を見せる意味もあった。
読了ありがとうございました、ご意見・ご感想をお待ちしております。
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番外編 エルザちゃんのとある一日
それでは本編をどうぞ。
2/11 エルザの必殺スキルの効果説明の一部を分かりやすく変更しました。
2/1 テイムモンスターの名前を原作での表記に合わせて変更しました。
□アルター王国・王都アルテア 【
「えーと、待ち合わせ場所はここ、王都の噴水前だったね」
今、私はリアルの友人とデンドロ内で合流する為に、王都の噴水前に来ています。
この中央通りの大噴水はセーブポイントの一つであり、場所もわかりやすいので<マスター>の間でもよく待ち合わせに使われています。
「マスター、今日はあちらでのご友人と一緒にモンスターを狩りに行くと言う話でしたね」
「そうだよ、アリア。あと、デンドロで知り合った生産職の<マスター>も一緒に連れてくるって言ってたよ」
彼女は【
以前までは下級職の【
「成る程、今回はその彼女達と一緒に行動するんですね」
「でも、生産職って事はあんまり戦闘力は高くないから護衛が必要かな?」
「…………<エンブリオ>次第では必要ないかも……?」
…………最初に話したのは【ワルキューレ】次女のセリカ。今のジョブは【
次に話したのは三女のトリム。今は下級職の【
最後に話したのは四女のフィーネ。彼女は【ワルキューレ】が第四形態に進化した時に生まれた、緑色の髪をした大人しめの性格の子です。ジョブは【
<エンブリオ>が上級に進化した時にTYPEもガードナーからレギオンに変わり、更にもう一つスキルを覚えましたが…………あ! 来たみたいですね。
「おーい! エルザ〜!」
「こっちですよ、ターニャ」
彼女はターニャ・メリアム。私のリアルでの友人で、デンドロでは生産職の【
そして、その後ろには金髪でメガネをかけた小柄な男性と、赤髪で長身の男性がいました…………彼らがターニャの生産職仲間なのでしょうか?
「今回はこっちのお願いを聞いてくれてありがとうね! エルザ。あっ! 紹介するね、この二人がデンドロの生産職仲間で小さい方が錬金術師のエドワード、デカい方が鍛冶師のゲンジね!」
「【
「ワシは【
「【高位従魔師】のエルザ・ウインドベルです。彼女たちは私の<エンブリオ>の【ワルキューレ】達です」
お互い自己紹介も終えましたし、今回はこのメンバーで冒険をするんですね。ターニャが生産職なので、あまり一緒にデンドロをプレイする機会が無いので楽しみです。
…………あれ? 何かエドワードさんがこっちを見ていますね。
「今回の目的は、主に亜竜級モンスターを狩って素材を集める事なんだが…………ターニャ、この子で大丈夫なのか?」
「何よー! エルザの実力を疑うっていうの! エルザはこっちじゃ超強いんだからね‼︎」
…………ああ、成る程。エドワードさんはそのことを心配していたんですね…………私が弱いのは事実なので、そんなに睨まないであげてください、アリア。
「大丈夫ですよ。
「そ、そうか…………じゃあ今回の報酬の確認をするぞ。まず素材系アイテムは全てこちらに、装備系アイテムはそちらが欲しいものがあった場合はそちらが優先で、余ったものは売って四人で分ける。そして俺達が得たアイテムに応じて、こちらが作った各種アイテムを格安でそちらに売る…………と言うことでいいか?」
「はい、それで構いません」
「別にタダであげても良いのに」
「いや、流石にそれは無理じゃろ。というか以前、生産に派手に失敗して素材を大量に無くしたから、こんな狩りをする事になったんじゃから」
「そうだった…………ごめんねーエルザ、迷惑かけちゃって……」
「大丈夫ですよ。私もターニャと一緒に冒険出来るのが楽しみですから」
「…………ありがとう! エルザ〜‼︎」
そう言いながら、ターニャが抱きついて来ました。後ろでは、二人が呆れたような目で見ていますが…………
さて、今回の狩場は<イースター平原>の先にある、亜竜級モンスターがそれなりの頻度で出現する森、<フォロー森林>でしたね。
「じゃあ私達はジョブを戦闘用に変えるから、それから出発ね!」
「はい、行きましょう!」
そうして、私達は王都を発ったのです。
◇
『PYUUUUU‼︎』
「《テイマーズコマンド・アタック》《テイマーズコマンド・ディフェンス》《テイマーズコマンド・スピード》アーシーは壁ゴーレムでリーダーを、ヴェルフとウォズはフィーネと周りの取り巻きを、皆もお願い」
私達は今、目的地の<フォロー森林>でリーダーの亜竜級モンスター【ジャイアント・ホーンラビット】に率いられた【ホーンラビット】の群れと戦っています。
ちなみに【ホーンラビット】の見た目は【パシラビット】に長いツノが生えただけの姿ですが、ステータスは大幅に上がっているので油断すると串刺しにされます。
…………やはり、念じただけで指示が伝わる【ワルキューレ】達と、言葉で指示を出さなければならないテイムモンスター達とでは若干指示にズレが出ますね。
「承知《スクエア・スラッシュ》!」
「はい《ホーリーランス》!」
「オッケー《シールドスタンス》!」
「……《ファイアーボール》!」
『
『
『GAU!』
まず、突っ込んで来たリーダーをアーシーが作った泥のゴーレム──この前見たシャルカさんの【ラフム】を参考に作ったようです、流石に能力は大きく劣りますが──を壁にして勢いを鈍らせ、トリムがスキルを使って防御力を上げた盾で受け止めます。
そこにアリアが斬り込み、セリカが【司教】の聖属性攻撃魔法を打ち込みます。そうやって怯んだところに、泥ゴーレムが纏わりつき動きを封じました。
取り巻きの方は【スカウト・デミドラグウルフ】のヴェルフと【テンペスト・デミドラグイーグル】のウォズ──二人とも最近亜竜級に進化しました──がフィーネの魔法の援護を受けて殲滅しています。
まあ、このぐらいの相手なら問題ないですね。…………さて、あっちはどうでしょうか?
「【クロートー】《運命の縦糸》! 行くわよ《斬糸》‼︎」
『ーーーー!』
『PYUUU⁉︎』
ターニャの蚕型ガードナーの<エンブリオ>、【天糸紡蚕 クロートー】の吐いた白い糸が取り巻きの一匹を絡め取り【拘束】の状態異常にして、そこを彼女が戦闘用のサブジョブである【繰糸士】のスキルで攻撃しています。
「《メタル・トランスレイト》、ゲンジ!」
「おう! 《スマッシュハンマー》!」
『PYUUU⁉︎』
エドワードさんの<エンブリオ>、【幻想冶金 オレイカルコス】のスキルにより取り巻きの身体の一部が
…………ちなみに、ゲンジさんの【改訂工房 ヘパイストス】は完全な生産型の<エンブリオ>なので、戦闘には使えないらしいです。
「あちらは大丈夫そうですし…………こちらもそろそろ終わりそうですね」
こちらはすでに周りの取り巻きを相当し終わり、拘束されたリーダーもアリアの剣とアーシーの魔法で倒されるところでした。
…………さて、良いアイテムを落としてくれると良いんですが。
◇
「ふむ、ドロップアイテムは【巨大角兎の毛皮】と換金アイテムですか…………毛皮の方は素材アイテムなので渡しておきますね」
「あ、ああ…………しかし、亜竜級をああも簡単に倒すとは実力は本当だったのだな…………先程は疑ってすまなかった」
「別に気にしていませんよ。私が弱いのは事実ですし」
ドロップアイテムを渡すと、先程の事でエドワードさんが謝って来ました。別に気にしてはいませんので……アリア、そのドヤ顔はやめなさい。
「いやいや亜竜級をあんなにあっさり狩れる<マスター>なんて早々いないよ‼︎」
「確かにのう、ワシらは取り巻きのおこぼれを倒しただけじゃったしの」
「生産職なら仕方がないですよ。それに、亜竜級を倒せる<マスター>は探せば結構いると思いますよ」
ミカさんとか、レントさんとか、フォルテスラさんとか、シャルカさんとか、あと最近知りあったキャサリン金剛さんとか…………あんまり珍しくは無いですよね。
…………そんな話をしていると、急にヴェルフが唸り始めた。ヴェルフは進化したおかげで感知能力が大幅に上がっているので、何か感じ取ったのでしょう。
『GUUUU!』
「…………成る程。皆さん気をつけて下さい! あちらから何か来ます‼︎」
ヴェルフが指し示しと方向を見ると、一体の羽の生えた白い竜がこちらに
しかし、よく見たら相当なダメージを負っているようですね、天竜種でありながら飛べていませんし…………それに、何かから追われているようです。
「また亜竜級のモンスター⁉︎」
「いえ、そちらではありません! その向こうから来ます‼︎」
そして【シャイン・デミドラゴン】の向こう側から現れたのは、全長五十メートル程の巨大なムカデ型のモンスターだった。
「【ドラグワーム】……純竜級モンスターですか。この辺りにはいないはずの種ですし、はぐれでしょうか」
「それよりもどうするの! こっちに向かってくるんだけど‼︎」
「応戦しましょう。というか、あと三十秒くらいでここに辿り着くので逃げられません」
「それは…………だが、出来るのか?」
「…………
私がそう言うと、全員が応戦の準備を始めました…………さて、今回は三人なのでチャージ時間は十五秒ですね。
そうしていると、こちらに向かってきた【シャイン・デミドラゴン】が私達の横を通り過ぎ…………そのまま力尽きて倒れました。
『KYUUU…………』
「えーと、このドラゴンはどうする?」
「今は構っている余裕はないので…………とりあえずポーションを与えておきましょう。傷が治れば自分で逃げるでしょうし」
そう言って、倒れたドラゴンにポーションを振りかけておく。そうすると、多少は元気になったようだ。
「傷が治ったらさっさと逃げて下さいね。…………来ます!」
『GIIIIEEEEEAAAAAA‼︎』
そうして、目の前には【ドラグワーム】が迫り…………私の必殺スキルのチャージ時間が終了した。
「《
「わかった! 《シールドパリィ》‼︎」
『GEEEAAAA⁉︎』
相手の目の前に飛び出したトリムとヴェルフが“融合”し、そのまま眼前の【ドラグワーム】をスキルで弾き飛ばした。
…………これが私の<エンブリオ>の必殺スキル《
このスキルにより今の彼女達のステータスは、自分と融合したテイムモンスターのものを足し合わせた数値が基本ステータスになっており、そこに《魔物強化》や各々のジョブスキルなどの各種バフスキルが乗ることで、今の彼女達は純竜級に匹敵するステータスを持ち、さらに融合したそれぞれのスキルも全て使うことが出来ます。
また、事前のチャージ時間は融合させる【ワルキューレ】一人につき五秒掛かるので、今回は三人の【ワルキューレ】を融合させる為に十五秒チャージしました。
「アリア! セリカ!」
「《テンペストクロー》《スラッシュエッジ》‼︎」
「《魔法威力拡大》《魔法多重発動》《グランド・ホールダー》‼︎」
『GEEEAAAA⁉︎』
ウォズと融合したアリアが背中の翼を広げて飛び、風を纏った剣で【ドラグワーム】を斬り裂いた。そして、アーシーと融合したセリカが地面から十本を超える数の巨大な腕を生やし相手を拘束した。
…………この必殺スキルの持続時間は私の合計レベルを十倍し、それを融合させた【ワルキューレ】の数で割ったものなので、合計レベル126の私では持続時間は約四百秒程。さらに、使用後のクールタイムが効果時間の三十倍かかってしまいます。
また、スキルのデメリットとしてチャージ開始から効果終了まで、私は一切の戦闘行動及び他のアクティブスキルの行使が不可能になっています…………まあ、私が戦えなくても特に支障はありませんし、アクティブスキルは事前に使っておけばいいのですが。
「【クロートー】《運命の横糸》……触れた相手を一定確率で【呪縛】するスキルだけど、やっぱり純竜クラスには効きが悪いね。あっ! この糸は味方には当たらないから大丈夫だよ」
「《メタル・トランスレイト》……さっきから足の関節を金属化させているが足が多すぎるな。だが、胴体部を金属化すると攻撃の邪魔になるしな……」
「ワシはああいう相手には出来ることが無いのぉ…………エルザ嬢の肉壁になるぐらいか?」
「《ボトムレスピット》……今の私のレベルでは嫌がらせにしかなりません…………最悪マスターを連れて逃げましょう……」
他の皆も各々の能力で援護してくれているが…………やはりあれだけの巨体の純竜級、HPは相当多いようですね。
…………時間内に倒しきれるでしょうか? 私がそう思案していると……
『GAAAAA‼︎』
『GEEEAAAA⁉︎』
いきなり後ろから光線が放たれ【ドラグワーム】の顔面に突き刺さりました…………後ろを見ると、先程の【シャイン・デミドラゴン】がブレスを打った体勢でこちらを見ていました。
…………どうやら、あのブレスで甲殻の一部が砕けたようです。
「皆! あそこのヒビを狙って‼︎」
「了解! 《ウルフクロー》! 《シールドバッシュ》!」
「《魔法威力拡大》《ロック・ジャベリン》‼︎」
『GEEEAAAA⁉︎』
トリムの攻撃が相手の体勢を崩すと、セリカのほぼ全てのMPを籠めた攻撃魔法が甲殻のヒビに突き刺さりました。
それにより砕けた部分に向けて、アリアが飛翔しました。
「《パイル・ブレード》! ……これで終わりです《テンペスト・エッジ》‼︎」
『GEEEEEEEAAAAAAA‼︎』
彼女のアクティブスキルにより放たれた突きが【ドラグワーム】の頭に突き刺さり…………その剣を介して
…………その結果、【ドラグワーム】は脳を破壊され息絶えたのでした。
◇
「ふう、なんとか倒せましたね。…………さて」
…………私は先程からずっとこちらを見ていた【シャイン・デミドラゴン】に近づいて、右手を差し出しました。
「あなたを一目見た時からピンと来ていました。…………私達と一緒に来ませんか?」
『…………KYU!』
差し出したその手に、彼女は鼻先で触れました…………どうやらOKのようですね。
「では《
『KYU!』
「では一旦【ジュエル】に入っていて下さい。セリカのMPがまだ回復していないので、貴女の傷を治せませんから」
そうして、私は新しく仲間になったセレナを【ジュエル】にしまい、皆の元に戻って行きました。
「お疲れ〜エルザ! …………しかしテイムってあんなふうにするんだね〜初めて見たよ!」
「普通はあんなふうにあっさりとはいかないんですけどね。…………あっ! 勝手にテイムしてしまってすみませんでした」
「別に良いって! 誰も文句を言う人はいないよ〜……ねえ?」
「そうだな。今回はエルザさんに助けられたし、そのぐらいは別に構わないさ」
「あの竜には助けられたしの。あのまま倒すのは気が引けたわい」
他の皆の時と同じようにピンときたので、ついテイムしてしまいましたが…………皆さん納得してくれて良かったです。
そうしていると、アリアが手に一つの【宝櫃】を持ってきました。
「マスター、先程の【ドラグワーム】からドロップしたアイテムです」
「ありがとうアリア。…………中身は【純竜甲虫の甲殻】……これは素材アイテムなのでターニャ達に渡しましょう。もう一つは……【適職診断カタログ】?」
このアイテムは、色々なジョブの情報が載っているカタログのようです。さらにいくつかの質問をする事で、その人が今就けるジョブの中で一番合っているものを検索する機能もあるようです。
…………これは良いですね。私は【ワルキューレ】達のジョブも考えなければならないので、これがあれば大分便利そうです。
「あの、この【適職診断カタログ】を貰いたいのですが…………」
「良いよ良いよ! あのモンスターを倒したのはエルザだし、素材アイテムの方は貰ったからね!」
「そうだな。…………しかし、これだけの素材が手に入るとはな。これは報酬の方も奮発しなければなるまい」
「そうじゃの、腕がなるわい! エルザ嬢も楽しみにしてくれい」
「分かりました。楽しみにしていますね」
新しく出来る装備に思いを馳せながら、私達の今日の狩りは終わったのでした。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
エルザ・ウインドベル:今回の主人公
・実は総戦力なら兄妹を上回っている………というか、現在のアルター王国の<マスター>全体でもトップクラス。
・【ワルキューレ】やテイムモンスターの名前は、その時のフィーリングでつけている。
・リアルラックはかなり高く、物欲センサーも克服している。
【ワルキューレ】:今回上級進化&必殺スキル取得
・四女のフィーネは緑髪ショートカットの大人しめの性格。
・ジョブの転職条件を満たす為に、個々でジョブクエストを受ける時もある。
・後に今回の報酬で装備を一新した。
ヴェルフ&ウォズ:今回亜竜級に進化
・ヴェルフが進化した【スカウト・デミドラグウルフ】はAGIに特化しており、各種索敵スキルの運用に長ける。
・ウォズは【テンペスト・デミドラグイーグル】に進化したことにより、風属性攻撃魔法の威力が大幅に上昇した。
・尚、食費も増大した模様。
《
・デメリットとしてチャージ時間中にマスターが攻撃を受けるとスキル効果が失敗する。
・クールタイムはスキル使用時間×融合した【ワルキューレ】の数×10秒。
・スキルは任意で途中解除可能。
・誰と誰を融合させるのかは事前に選択する。
セレナ:エルザのテイムモンスターその四
・亜竜級の光属性の天竜種。
・本編で放ったブレスは《ソルライト・レイ》というスキルで、チャージ時間に応じて周辺の光を吸収して威力を上昇させる効果がある。
・今回はそれなりの時間チャージしたため、純竜級のモンスターの甲殻を砕く威力になった。
・天竜であるのでエルザを乗せて空も飛べるため、今後の移動手段になる予定。
ターニャ・メリアム:エルザのリアフレ
・主に布装備専門の生産職。
・普通の生産の他にも【クロートー】のスキルで作った特殊な繊維を売ったりして金を稼いでいる。
・今回の一件はそれらの特殊な素材を使ってオリジナルアイテムを作ろうとして、盛大に失敗して素材をスったのが原因。
【天糸紡蚕 クロートー】
TYPE:ガードナー
到達形態:Ⅳ
能力特性:製糸・捕縛
保有スキル:《天糸紡ぎ》《運命の縦糸》《運命の横糸》《天命紡績》
・ターニャ・メリアムの<エンブリオ>で体長一メートル程の蚕型ガードナー。
・モチーフはギリシャ神話の運命の三女神の一人「紡ぐ者」を意味する名前の“クロートー”。
・《天糸紡ぎ》は素材を捕食する事で、その素材と同じ性質を持つ繊維を生産出来るスキル。
・一度に生産出来る繊維の量は捕食した素材のリソース量で決定する。
・《運命の縦糸》は巻きついた相手に【拘束】の状態異常を与える白い糸を吐くスキルで、糸自体の強度も非常に高い。
・《運命の横糸》は触れた敵に【呪縛】の一定確率で状態異常を与える黒い糸を吐くスキルで、闇属性魔法に近い性質を持っており物理的には干渉しない。
・《天命紡績》は《天糸紡ぎ》で作った繊維での生産成功率及び生産物の性能を上昇させるパッシブスキル。
・ステータスはMP・SP・DEXに特化しており、直接戦闘は苦手。
エドワード:ターニャの生産仲間その一
・主にインゴットなどの金属素材生産が専門の生産職。
・【オレイカルコス】のスキルで特殊な金属を生産出来るため、それを売って金を稼いだりしている。
・ターニャとの出会いは、同じ方法で金を稼ぐ<マスター>がいると聞いて会いにいったのがきっかけ。
【幻想冶金 オレイカルコス】
TYPE:テリトリー
到達形態:Ⅳ
能力特性:非金属の金属化
保有スキル:《メタル・トランスレイト》《ファンタジー・メタル・ワーキング》
・エドワードの<エンブリオ>
・モチーフは神話や伝承に登場する金属の名称の一つ“オレイカルコス”。
・《メタル・トランスレイト》は周辺の任意の非金属を、性質はそのままに金属化させるスキル。
・生物に使用した場合は【金属化】の特殊状態異常となり、金属操作のスキルなどを持っていない限り動かすことは出来なくなる。
・だが、基本的に金属化した部分の強度は上昇する。
・効果時間は自身と効果対象の能力差で決まる。
・《ファンタジー・メタル・ワーキング》は自身が所有している非生物・非金属のアイテムを、一定確率で性質はそのままに完全に金属化させるスキル。
・確率は自身の能力と効果対象のリソース量で決定する。
ゲンジ:ターニャの生産仲間その二
・主に鍛冶スキルによる金属装備生産を行う。
・二人との出会いは、良質な素材を探していた時に特殊な素材を作る<マスター>がいると聞いて訪ねたことがきっかけ。
・口調はロールプレイ。
【改訂工房 ヘパイストス】
TYPE:キャッスル・ルール
到達形態:Ⅳ
能力特性:生産スキル効果・生産物の効果改竄
保有スキル:《プロダクション・エンハンスメント》《プロダクト・リビルド》
・ゲンジの<エンブリオ>で生産工房型のキャッスル。
・モチーフはギリシャ神話の鍛冶の神“ヘパイストス”。
・《プロダクション・エンハンスメント》は工房内で発動した生産系アクティブスキル効果欄の数字表記を三倍加させるスキル。
・倍加されるのは効果がプラスになる部分のみ。
・さらに、マスターとパーティーを組んでいる人間にも効果が発揮される。
・《プロダクト・リビルド》は自身が工房内で作った生産物の効果を、そのリソースの範囲内で変更するスキル。
・具体的には装備スキルを削除して装備補正を強化したり、その逆に装備補正を弱化して装備スキルを強化したりする、などの事が出来る。
・過剰に変更しすぎると生産物がロストする可能性がある。
・生産物を工房から出した時点で、このスキルの対象には出来なくなる。
【ドラグワーム】:今回のボス
・みんな大好きデミドラさんの進化形。
・カルディナの砂漠に住んでいたが、<UBM>に住処を追われて王国に流れ着いた個体。
読了ありがとうございました、ご意見・ご感想などお待ちしております。
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兄妹の現実と遊戯の話
<レーヴ果樹園>と<月世の会>
それでは本編をどうぞ。
※今回の兄の必殺スキルの説明と矛盾する場所が、17話の説明にあったのでその部分を修正しました。
※11/27 あとがきの必殺スキルの説明を一部変更。
□アルター王国・王都アルテア 【
俺達が<Infinite Dendrogram>を始めてから現実では約一ヶ月、デンドロ内の時間では三ヶ月ぐらいが経った。
その間に俺は【
…………このレベルの上がり方は、この一ヶ月半レベリングに集中していた事と、実力が上がってより上位の狩場を選べるようになった事、そして【召喚師】【魔術師】のスキルによりモンスターの殲滅能力が上がった事が大きいな。
「レベルもようやく五百を超えたことだし、なかなか順調だな」
「ていうか順調過ぎるぐらいでしょ。やっぱりお兄ちゃんの必殺スキルはチート過ぎない?」
「…………実を言うと、俺の<エンブリオ>の必殺スキル《
「えっ! 聞いてないよ⁉︎」
「言ってないからな…………自分の<エンブリオ>のデメリットはあまり話すものじゃないし。それに、そのデメリットは今は特に効果が無いものだったからな」
…………俺の【ルー】の必殺スキルの効果欄には、注意書きとして二つのデメリットが表記されていた。その内容は“【ルー】のこれ以降の進化時における新規のスキル取得不可”及び“ステータス補正をオールゼロにする”である。
…………流石に、これだけのスキルを持っていてなんのデメリットも無し、とは行かなかったらしい。
「んー……でもそれってあんまりデメリットになって無くない?」
「だから言わなかった、という事もあるんだがな。…………実際、ステータス補正は有って無い様なものだったし、そのステータスもジョブを取っていけば何とでもなるしな」
「だからこそ、そういうデメリットが選ばれたんじゃない? 《
「【ヴァルシオン】はともかく《
「…………意外と燃費悪かったんだね。お兄ちゃんはもっとオリジナルスキルでブイブイ言わせてるイメージがあったんだけど」
「それは《
むしろ、そのぐらいのデメリットを付けないと威力と燃費の釣り合いが取れないのだが…………どうも汎用性を高めたせいで、作れるスキルの強度が低くなっているみたいだ。
また、この二ヶ月程《百芸創主》のスキルの組み合わせを色々試したところ、組み合わせ次第ではむしろ弱体化する事もわかった…………光と闇が合わさり最強に見える、みたいなことは出来ないらしい。
他にはスキルを一つだけ入れて、そのパラメータを調整することも出来る様だが。
「まあ、お兄ちゃんなら上手く使いこなせるし大丈夫じゃない? <エンブリオ>は<マスター>のパーソナルに合わせて成長するんだし、お兄ちゃんならそれでも問題無いからそういうスキルになったんだと思うよ」
「そうかもな。…………それよりも上級職の転職条件の方が問題なんだよなぁ」
…………この世界において上級職に就くには、それぞれ個別の条件を満たさなければならない。
なので多くの上級職に就くためには、それらの条件を一つ一つ調べて上でその条件を満たさなければならないのだが…………その為にそれぞれのジョブクエストを達成したり、専門ギルドの人達に条件を聞いて回ったりと正直言って凄く大変である。
…………また、エルザちゃんから自身が今現在就けるジョブの情報が分かる【適職診断カタログ】なる神アイテムがある、と聞いた俺はそのカタログを求め亜竜級以上のモンスターを狩ったり、<墓標迷宮>に潜ったりしたのだが…………
「【適職診断カタログ】が手に入らない…………狩人系統のドロップ上昇スキル機能してないんじゃないか?」
「これは完全に物欲センサーに引っかかってるね、お兄ちゃん」
ぐぎぎ…………司祭系統のステータスと【ヴァルシオン】の補正でLUC値も上がっている筈なのに…………‼︎
「まあ、エルザちゃんも頼めば貸してくれるって言ってたし、別にいいじゃない」
「それはそれとして、一冊手に入れたかったんだがなぁ……」
「うーん……これだけ愚痴ってるって事は、大分落ち込んでいるねー。これは気晴らしが必要かな? …………お兄ちゃん! 今日は気分転換に【レムの実】狩りに行こうよ!」
「レムの実狩り? 【レムの実】を落とすモンスターなんていたか?」
「そっちの狩りじゃないよ! 王都の近くに<レーヴ果樹園>っていうところがあるからそこに行こうって話だよ。五千リル払えば果実が取り放題なんだってさ」
ああ、そっちの狩りか…………いかんな、最近モンスターばかり狩っていたからどうしても思考がそっち寄りになってしまう。
…………これは、確かに気分転換が必要かな。
「わかった。じゃあ今日はその<レーヴ果樹園>に行こうか」
「オッケー! 私、レムの実大好きなんだ!」
…………今回は、ミカに気を使われてしまったようだな。
◇◇◇
□<レーヴ果樹園> 【
やって来ました<レーヴ果樹園>! 王都で最大の果樹園だけあって、レムの実のほかにも沢山の種類の果実があるね。
…………ちなみに、私も以前まで就いていた【
さて、とりあえず受け付けの人に入場料の五千リルを支払って、私達は果樹園に入っていった。
「これが五千リルで取り放題はお得だよね!」
「取り放題といっても、事前に渡された小型アイテムボックスに入る分までだからな。あと取っていい果実かどうかも、事前に渡された専用の鑑定アイテムで識別しなければならないしな。当然時間制限もあるし」
「うん、わかってるよ。そのあたりで上手くバランスを取っているみたいだしねー」
じゃあ、その辺りに気をつけて果実を取っていこうか。
周りを見ると、果実を取っているティアンの人達が結構いるね、それに王都の外にあるせいか、警備の人達も沢山いるみたいだし。
…………でも<マスター>は殆ど居ないみたい、まあこういう所に来る<マスター>は少数派だよね。
「とりあえず【レムの実】はどこに生えているのかな?」
「案内板によるとあっちみたいだぞ」
お兄ちゃんに言われて案内板を見ると『レムの実畑→五〇〇メテル』と書かれていた。ちなみにこっちの一メテルは現実の一メートルに相当するみたい…………実にわかりやすいね!
◇
しばらく歩いていると、看板の通りレムの実畑が見えてきた…………でも、そこには既に沢山の人達が居た。
「結構人がいるねー。さすが【レムの実】、大人気だね」
「…………あそこにいる人達、よく見ると全員
「本当だ、<マスター>が集団でこんなところに来るのは珍しいね、果物狩りツアーでもやってるのかな? …………あと、なんか全員同じマークを付けているね、“三日月と閉じた目”かな?」
「ん? 確かあのマークは……」
お兄ちゃんが何か思い出そうとしたところで、向こうの集団の一人の黒髪の美女がこっちに声をかけてきた…………確か、あの人は扶桑月夜さんだったかな?
「おー、レントくんにミカちゃんやん、久しぶりやね」
「月夜さんもお久しぶりですね。今日は後ろの皆さんと果物狩りに?」
「そうやえー、うちのクランのメンバーから希望者連れて来たんや」
「月夜さん、クラン作ったんですか?」
「最近作ったんや、うちがオーナーしとる<月世の会>っちゅークランなんやけどな」
「…………お兄ちゃん、<月世の会>って現実にある宗教団体の名前じゃなかったっけ?」
「ああ、そうだ。…………成る程、どこかで見覚えがあると思ったら、“三日月と閉じた目”は<月世の会>のシンボルマークだったな」
…………<月世の会>は現実に存在する宗教団体で、確か現実逃避系の教義を掲げてたっけ。
「その<月世の会>で合っとるよ。うちらの教義は『枷に囚われた肉体より離れ、真なる魂の世界に赴く』と『自由なる世界で、己の魂の赴くままに自由を謳歌せよ』やからね、信者の多くにデンドロを勧めとるんや。ちなみにうちはオーナー兼教主なんよ」
「…………お兄ちゃん、デンドロに現実の宗教団体が進出して来たんだけど……」
「ふふふー、このクランを足掛かりにいずれはこの王国を手中に収めるのが目標なんよー!」
「なんか、暗黒宗教の教主みたいなこと言ってるよ!」
「いや、さすがに冗談だろう…………多分。…………それに<月世の会>は確か医療分野にも関わりがあった筈だ、それも
あ、成る程。デンドロは“現実から五感を移せる完全なVRMMO”だからね、医療方面での需要も当然あるか。
実際、そういう用途のための“病室にいながら旅行できるVR”みたいなのも以前からあった筈だし。
そんな話をしていると、月夜さんが少し驚いた表情でこっちを見ていた。
「へー、レントくん詳しいなぁ。うちらが…………というより、うちの家が病院の経営もやっとるって知ってる人はあまりおらへんのやけど」
「…………以前にたまたま<月世の会>について知る機会があっただけですよ。それに<月世の会>の情報自体は特に秘匿されている訳ではないですからね、調べればその発端も含めて普通にわかります。…………というか、デンドロで実名プレイとか大丈夫なんですか?」
「うちらはクリーンな宗教団体&医療法人やからな! あと本名プレイに関しては、うちらはこのデンドロを『真なる魂の世界』としとるから、教主であるうち自身が実践せんといかんからな。…………今回の果物狩りも、戦闘は苦手だけどもっと色んな場所を見てみたい信者の為に企画したものやからな」
…………月夜さん、普通に良いオーナー兼教主だったよ。最初は暗黒宗教の教主みたいな気がしたけど、気のせいだったみたいだね。
「でも、作ったばっかのクランやからまだまだ人手不足でなぁ。…………だから新規クランメンバーは大募集中やで、二人もうちのクランに入らん?」
「んー、今のところはどこかのクランに入るつもりは無いですね」
「私も今はいいかなー」
「そっかー、残念やなぁー。…………気が変わったならいつでも言ってや、歓迎するで。……ほならなー」
そう言って、月夜さんはクランメンバーの下に戻っていった。
とりあえず私も果物を探しに行こうと思った…………が、その前にちょっと聞いておこうか。
「…………お兄ちゃん、<月世の会>について知ったのって
「…………ああ」
「…………あんまり私に気を使わなくても良いよ。さっきも月夜さんの本名の事を持ちだして無理矢理話を変えたでしょ、お兄ちゃんネチケットには厳しい方だから、普段はあんまり相手のリアルの事は言わない様にしてるからね」
「…………そうだな、少し気を使いすぎたみたいだな」
「そうだよ! この世界はゲームだからあんまり気を使わなくても良いからね!」
「分かった。…………じゃあ果実狩りを再開するか」
「うん!」
こうして、私達は果樹園での果実狩りに戻って行ったのだった。
◆◇◆
■ ???
『………… KITI KITI KITI KITI KITI…………』
ソレは元々は一匹の小さな毒虫だった。
『………… KITI KITI KITI KITI KITI…………』
ソレが生まれた場所は、周りにある植物がほぼ全て非常に高い毒性を持っているという非常に危険な環境だった。
それ故に、その場所に生きる者達は強力な毒を持ち、あるいは毒に対する耐性を持っていた。それらの能力により周りの毒性の植物や、他の毒を持つモンスターの落とす毒入りの食材を喰らって生きるのが当たり前の場所だった。
『………… KITI KITI KITI KITI KITI…………』
ソレもそこに住んでいたモンスターの一匹であり、強いて他のモンスターとの違いといえば体内に入った毒を自身の栄養に変えるスキルを生まれつき持っていた事と、少しだけ他のモンスターより賢くて学習能力が高かった事ぐらいである。
…………ソレは、ある時は瀕死のモンスターを倒して落とした食材を喰らい、またある時は強いモンスターを誘導して同士討ちにし、そして強大なモンスターが現れ自身に危険が迫った時には逃げながら姿を隠し、さらには周りのモンスターをよく観察して有用そうなスキルがあれば自分も使える様にしたりもした。
『………… KITI KITI KITI KITI KITI…………』
そうしているうちに、ソレは経験値を得て成長・進化し亜竜級となり、そしてさらに進化し純竜級のモンスターとなった。
だが、ソレが今までのやり方を変えることはなかった。…………なぜならソレは自分が強くなった事は把握していたが、自身より弱い者が自身を倒す事が出来るということを今までの自分の狩りによって知っていたからだ。
『………… KITI KITI KITI KITI KITI…………』
しかしながら、進化によって強化されたステータスとスキルによって、今までよりも効率的に狩りが出来るようになったので、ソレはこれまでよりも経験値稼ぎとスキル習得に力を入れる様になった。
そして、その近辺で自身が最も強くなった時にとある変化があった。
【(<
【(過去に類似個体なしと確認。<UBM>担当管理AIに通知)】
【(<UBM>担当管理AIより承諾通知)】
【(対象を<UBM>に認定)】
【(対象に能力増強・死後特典化機能を付与)】
【(対象を逸話級──【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】と命名します)】
ソレは<UBM>【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】となったのだった。
『………… KITI KITI KITI KITI KITI…………』
しかし、ソレ…………【ラーゼクター】は自身が以前見た強大なモンスターの同類となった事を把握したが、特に今までと行動を変えることは無かった。
ただ、少しだけ狩りを行う範囲を広げることにし、…………今までの毒ばかりの狩場があまり良いところではないことを知った。外の毒の無いところで狩りをする方が獲物も多く遥かに効率が良かったのである。
なので、彼は本格的に狩場を移すことにしたのだった。
『………… KITI KITI KITI KITI KITI…………』
狩場を移すと経験値稼ぎの効率はかなり良くなり、<UBM>としての位階もあっさりと伝説級に上がった。
また、経験値を稼ぐには人間を狩るのが最も効率がいいことも知った。だが人間の強さは個体差が大きく、村や町などを襲うのはリスクが高いと判断し、そこから出てきたほどほどの数の人間を狩るのが最もリスクとリターンが釣り合うとも考えた。
『………… KITI KITI KITI KITI KITI…………』
そして、今【ラーゼクター】はアルター王国・王都アルテア近郊にある<レーヴ果樹園>にいる人間に狙いを定めていた。
………だが、戦える人間もそれなりの数いると感知したので、彼はいくつか策を講じて狩りをすることにした。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:割と物欲センサーには引っかかるタイプ
・デメリットに関して話さなかったのは、妹の前ではなるべく頼りになる兄でいたいという気持ちもあった。
妹:兄はちょっと自分に気を使いすぎだと思っている
【百芸万職 ルー】:今回必殺スキルのデメリットが発覚
・そもそも【ルー】は最初から必殺スキルによるジョブ枠の拡張を前提として、下級時のスキルを習得していった。
・なので強力なスキルを複数取得したデメリットを、必殺スキル取得後の能力拡張制限及び【ヴァルシオン】で補えるステータス補正の減算などで賄うことになった。
・故に、今後の第五・第六形態での強化は“《光神の恩寵》のレベルが一つ上がる”、“《百芸創主》で使えるスキルの数が一つ増える”、“必殺スキルにより就けるジョブの数が増える”のみになる予定。
・当然、もし<超級エンブリオ>に進化したとしても、今のスキルを強化することしか出来なくなっている。
扶桑月夜:祝! クラン<月世の会>設立!
・クランを設立したばかりなので、わりと真っ当にオーナーをしている……脅しも誘拐も
・今回、<月世の会>の詳細を知っていた兄妹の好感度は上がった。
・ちなみに他のクランメンバーは彼女と兄妹の会話を「まーた、うちのオーナーが他人にからかい始めたなー」と生暖かい目で見ていた。
【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】:レベリング&スキル取得大好き<UBM>
・性格は非常に慎重かつ冷静で用心深く、決して油断や慢心はしない生粋の狩人。
・能力の詳細は次回に。
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VS【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】
それでは本編をどうぞ。
□<レーヴ果樹園> 【
「いや〜結構いっぱい果物が取れたね、お兄ちゃん」
「そうだな、【レムの実】以外にも桃っぽい【ピモの実】とか、イチゴっぽい【チェゴの実】とかあったな」
「見た目は現実の果物に似てるけど、味はかなり違っているから面白いよね」
あれから俺達は順調に果物狩りを進め、貰った小型アイテムボックスが八割ぐらい埋まったところで、制限時間が来そうだったので切り上げることにした。
「とりあえずこれで果物狩りは終わりだな。じゃあ果樹園の係員に精算して貰おうか」
「そうだねー…………ん?」
突然、ミカの表情がとても厳しいものに変わった…………これはまた何かを感じとったんだな。
「どうした? …………何か感じたんだな?」
「うん、この果樹園に危険が迫っているみたい。…………多分このままだと、此処に居る人達が大勢犠牲になると思う」
「そうか、原因はわかるか?」
「そこまではまだ解らないな……」
「わかった。じゃあ俺が周囲を調べるさ、…………《超広域脅威生物索敵》」
俺は《生物索敵》《殺気感知》《危険察知》《千里眼》を組み合わせた、広い範囲で脅威となるぐらい強い生物を索敵するオリジナルスキルを使った。
すると、確かにこの果樹園に近づいてくる複数のモンスターの反応を感知した。
「確かにこの果樹園に近づいてくるモンスターがいるな、数は五十ぐらい……亜竜級も三体ほど混じっているな」
「ふーん。…………多分そっちは本命じゃないかな?」
「まあ、今の俺達だけでも時間をかければ対処出来そうな数だからな。…………とりあえず係員の人に伝えに行こう」
そうして、俺達はこの異変を係員の人に伝える為に急いで走っていった。
◇
この事を伝えにいった係員達は、すでに果樹園内の人達を避難させ始めていた。どうやら果樹園を警備していた人達がモンスターに気づいていたようで、すでに王都の騎士団にも連絡が行っているらしい。
そして、それと同時に果樹園付近にいた戦える人間に迫り来るモンスターの迎撃や、避難する人達の護衛が依頼された。
当然、園内にいた俺達や月夜さん達<月世の会>のメンバーにも依頼が出された。
「レントくんにミカちゃん、なんか妙な事に巻き込まれたなぁ」
「月夜さん、貴女達も依頼を受けたんですか?」
「そうやえー。といっても今
「…………月夜さん達はモンスターの迎撃の依頼を受けるんですか?」
「そうなるなぁ。まあ、亜竜級含むモンスター五十体ぐらいなら
「…………俺達は避難する人達の護衛に回ろうと思います」
「ふーん、そっかー。…………そっちには
そう言った月夜さんは、<月世の会>のメンバーと共にモンスターの迎撃に向かっていった。
「…………これで良かったんだな?」
「うん、迫っているモンスター達は月夜さん達がいれば問題ないし、…………でも……」
そう言ったミカの表情が曇っていった。…………これは…………
「護衛する俺達の方が危険…………いや、俺達の身に危険が及ぶのか」
「うん。…………多分この後、私達は
「…………だが、そうしないと避難する人達が大勢犠牲になる、と……」
ミカが落ち込んでるのはそれが原因か。…………こいつにとっては、身内を自分の勘で犠牲にするのはまだ少しトラウマになってるな…………
「あまり気にするなよ、この世界では俺達は死んでも二十四時間ログインできなくなるだけだ。それよりもティアンの命を優先するのには特に文句はないぞ」
「それは分かってるんだけどねー。そういう結果になると解っていると流石に気分が滅入るよ。…………やっぱり、こっちの世界での遠い勘はなんかおかしいな、普通は危険には近づかない様に反応するのに」
「…………多分、こっちの俺達は不死身の<マスター>だからな。自分の危険よりも身近な不幸を防ぐことを優先しているんじゃないか?」
「…………んー、そうかもしれない」
…………あるいはそちらの方が自分の心を守れるから、ということなのかもしれないがな…………
【クエスト【護衛──レーヴ果樹園・王都間 難易度:八】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
…………じゃあ、クエストスタートだ。
◇◇◇
□果樹園・王都間道中 【
あれから、私達は果樹園内の一般ティアンの護衛として王都に向かっていた。
今のところ道中では何も起きていないけど…………私の勘だと、そろそろ襲撃が来るはず。
「お兄ちゃん、そろそろ来るよ」
「俺の索敵系スキルには反応が無いが、相当隠密に優れている敵の様だな」
さて、どこから来るか、………………下か!
「お兄ちゃん下! あと【
「分かった! …………《デトキシケイト・ゾーン》! 全員敵襲です‼︎」
お兄ちゃんが一定範囲内の病毒系状態異常を緩和するスキルを使い、さらに他の人達に敵が来たと伝えている。
その間に私は一本だけ持っていた【快癒万能薬】を飲み干し、勘が示した方向へと走っていく…………すると、その方向の
「そこか! 《グラウンド・ストライク》‼︎」
その尾に向けて私は【
その攻撃は地上に出ていた尾を叩き潰し、その
…………その攻撃に対して、相手は即座に私から距離を取って地上に出てきた。
「【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】<
『………… KITI』
その<UBM>【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】の姿は、身長約二メートルの人型をしている黒い魔蟲のモンスターだった。
でも、コイツから感じる危険度は以前戦った【ヴァルシオン】よりも遥かに上だね。今はこちらを警戒しているのか様子を見ているが…………あるいは【快癒万能薬】の時間切れを狙っているのかな?
さて、お兄ちゃんと避難している人達の方は…………
「《デトキシケーション》…………チィ! 【猛毒】【魔毒】【魂毒】【衰弱】【酩酊】【麻痺】の
「…………ここは私が! 【快癒万能薬】セット! 《皆癒の霊杯》‼︎」
お兄ちゃんが避難民達の解毒に苦戦していると、<月世の会>のメンバーの一人が手に持った杯に【快癒万能薬】を入れて振り撒いた。
…………すると、状態異常に苦しんでいた人達がみるみるうちに回復していった。
「これで状態異常は治った筈です!」
「ありがとうございます! <月世の会>の皆さんは避難民を連れて急いで王都へ、ここは俺とミカで食い止めます。…………【快癒万能薬】の効果が切れるまでは足止めしてみせます」
「‼︎ …………分かりました、ご武運を‼︎」
そうして<月世の会>の人達は避難民を連れて王都へ急いでいった…………と、やっぱりそう来るよね。
『………… KITI』
「私達を無視出来るとでも? 《ストライク・ブラスト》!」
「ここに奇襲して来たんだから、そう来るよな《モンスター・ハント》“魔蟲”《スプリット・アロー》!」
私達を無視して避難民の方に向かおうとした【ラーゼクター】に対し、その行動を先読みしていた私はその進行方向上に【ドラグテイル】の《竜尾剣》を伸ばして牽制し、さらにメイスから衝撃波を放った。
さらに、お兄ちゃんの【
『KIE‼︎』
それらの攻撃をヤツは
…………とりあえず避難民からは引き離せたかな。
「…………今《看破》したが、
「それであの機動、状態異常無効…………いや効果の反転かな?」
だとすると【猛毒】【魔毒】【魂毒】はそれぞれHP・MP・SP回復、【衰弱】がステータス倍加、【酩酊】が感覚の研ぎ澄まし、【麻痺】がAGIの上昇になるかな? …………だとしたらあの動きにも納得だね。
そうしていると【ラーゼクター】の方に変化があった。…………潰された蠍っぽい尾が再び生え、右手からは蟷螂の鎌、左手からは蜂の針が生えたのである。
そして、改めてこちらに向き直った。…………なるほど、避難民を追うのをやめた代わりにこっちを確実に殺しに来るか。
『…………KIE!』
「また毒ガス! ……いや、目くらまし…………横か!」
「……《透視》ターゲット“魔蟲”《アンチ・モンスター・スナイプ》!」
まずヤツは口から大量の瘴気を噴射し、それに身を隠して私の横から右手の鎌で斬りかかってきた。
それを私はかろうじて【ギガース】で防ぐもののSTR差で弾き飛ばされ…………そこに《透視》スキルでヤツを捕捉したお兄ちゃんの矢が襲いかかった。
…………だが、
『KIE!』
「がっ! …………《ブリーズ》!」
「お兄ちゃん⁉︎ ……チィ‼︎」
その攻撃をヤツは容易く躱し、反撃として左手の針を
だが、ヤツはそれもあっさりと躱して距離を取った。…………やっぱりAGIが違い過ぎるね、私のAGIは補正込みで三千ぐらい、お兄ちゃんは二千ぐらいだから攻撃を当てるのもままならない。
ヤツも決して深追いせずに引き気味に戦って来るから、このままだと【快癒万能薬】の時間切れになるね。
そして、多分次は…………
『KIE!』
「お兄ちゃん! …………クッ⁉︎」
「…………ま、弱った方を狙うよな……《瞬間装備》」
やっぱり、ヤツは負傷したお兄ちゃんを先に狙う事にした様だ。
さらに私の方にも尻尾から直径十メートル程の蜘蛛の巣のような網を、何発も発射して牽制してくる。その網は何とか躱せたものの、そのせいで私は足止めされお兄ちゃんのフォローには行けなくなった。
向かって来るヤツに対しお兄ちゃんは【ライトニング・デスジャベリン】を取り出して迎撃の構えを見せて…………突然、ヤツの足が
『KIE⁉︎』
「《
それは、お兄ちゃんの【
そこに間髪入れず、投擲系スキルと雷属性魔法を組み合わせたオリジナルスキルで槍を投擲した。…………あれは以前に私との決闘で使ったものの強化版で、仮に避けても地面に突き立った時に発生する雷撃でダメージを与えられる。
…………筈だったが、
『KIEEE‼︎』
「何ッ⁉︎ …………ゴハァ‼︎」
「お兄ちゃん⁉︎」
その投擲をヤツは
その際に鎌は砕けたもののヤツは意に介さず即座に拘束を抜け出し、再び生やした左手の針に
…………そして、お兄ちゃんは顔の穴全てから血を撒き散らして絶命した。
【パーティーメンバー<レント>が死亡しました】
【蘇生可能時間経過】
【<レント>はデスペナルティによりログアウトしました】
そんなアナウンスがお兄ちゃんの
『KIE!』
「感傷にも浸らせては…………くれないよね‼︎」
お兄ちゃんを仕留めたヤツは即座に右手の鎌を再生させ、さらに左手の針も右手と同じ様な鎌に変化させて、それらから複数の斬撃波を放って来た。
それを私は勘による危険感知で先読みして回避するか、【ギガース】や【ドラグテイル】で受ける事でかろうじて凌ぐものの、その隙にヤツはこちらに接近してきた。
『KAA! …………KIE!』
「また毒……いや! 酸の霧⁉︎ …………それに網まで‼︎」
接近してきたヤツは、口から強酸性の霧を吐き出してこちらの逃げ道を減らしに来た。さらに私が回避した方向に向かって、さっきも使った蜘蛛の巣状の網まで投げかけて来る。
これは完全にこっちの処理能力を圧迫しにきているね。…………ていうか、さっきからこちらへの対処がいちいち的確すぎ! ステータスでもスキルでも上回られている相手にそんな事やられると本当にどうしようも無いんだけど⁉︎
そんな事を繰り返しているうちに、私の身体には少しずつダメージが蓄積されていった…………そろそろ【快癒万能薬】の効果時間が切れるね。
「こうなったら覚悟を決めるしかないか。…………疾ッ!」
『KIE!』
私はヤツに向けて《竜尾剣》を突っ込ませ、さらに自分自身もヤツに向かって突撃した。
それに対しヤツは《竜尾剣》を弾き飛ばし、さらにヤツと私の間に酸の霧を壁の様に噴射した。そして
それらの攻撃により私は全身を焼かれ、右腕と左足を斬り裂かれその場で動きを止めてしまい、そこに接近してきたヤツの斬撃が私の首を薙ぎ……
「《インパクト・ストライク》‼︎」
『GAA!』
その斬撃を装備していた【救命のブローチ】が砕けるのを代償にして防ぐと同時に、片手で放ったカウンターのアクティブスキルをヤツに叩き込み吹き飛ばした。
…………この【ギガース】は<エンブリオ>、私には重さを感じさせないから片手で使う事も出来るんだよね。…………でも、
「流石に……
先程、私は副腕を使って時間差で放たれた斬撃で腰部の鎧の無い部分を斬り裂かれており、そのまま地面に倒れ伏した。
…………身体は半分以上は斬り裂かれているみたいだから、もうすぐ死ぬかな。
(でも、目的は果たせたみたいだし、構わないかな…………)
そんな私の目には、
【クエスト【護衛──レーヴ果樹園・王都間】を達成しました】
…………そのアナウンスに安堵しつつ、私はこのゲームで初のデスペナルティを受けたのだった。
【致死ダメージ】
【パーティー全滅】
【蘇生可能時間経過】
【デスペナルティ:ログイン制限24h】
◆◇◆
■【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】
『………… KITI…………』
今、王都から全速力で離れていく【ラーゼクター】は、今回の狩りは完全に失敗だったと思っていた。
本来の標的だった人間達は、すでに街から出てきた人間達と合流していた。その人間達の中には、今の負傷した自分が戦うには危険な程の実力を持つ相手もいた。
なので、彼はその人間達が自身を狩ろうとする前に、全力でこの場を離脱することにしたのだった。
『………… KITI KITI…………』
また、彼は今回の狩りの失敗の原因は、左手に痣を持つ人間の能力を見誤っていた事だとも考えていた。
特に先程戦った二人には最初の奇襲を見破られたことに始まり、自身がやろうとしていた事の殆どを潰されてしまう形になった。
それに仕留めた時に得られる経験値も人間の割には少なかったので、そういう意味でも割りに合わない相手だった。
…………
『………… KITI KITI KITI…………』
今回の狩りで得たことは、街の側にいる人間達を狩るのはリスクが高すぎる事と、“痣持ち”の人間は標的としては割りに合わないという情報ぐらいだったな。
…………そんな事を考えつつ、彼は隠密系スキルを使って近くの森の中に消えていった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄妹:今回初デスペナ
・伝説級<UBM>にいきなり遭遇して運良く勝てる、などという事は余程規格外な力を持っていなければ滅多に起きない。
・兄以上の万能性と妹以上のステータス、さらに戦術と技術と直感にも優れたほぼ上位互換の【ラーゼクター】相手に、真っ向勝負では流石にどうしようも無かった。
・ちなみに扶桑月夜含む<月世の会>戦闘メンバーと協力すれば勝てる可能性もあったが、その場合一般ティアンに多数犠牲が出ていた。
・ティアンの犠牲をゼロにする為には、本編の様に兄妹がデスペナになるルートしか無かった。
《グラウンド・ストライク》:【剛戦棍士】の奥義
・作中の様に地面の下の敵に使う他にも、巨大な敵の上で使う事で衝撃波により相手の内部にダメージを与えるという使い方も出来る。
・…………というより巨大な敵の内部を破壊するのが本来の使い方、上手く当てれば純竜級のモンスターも一撃で倒せる。
扶桑月夜:今回の裏側ではモンスターの群れ相手に大活躍
・実際、彼女達がいなければモンスターの迎撃にあたっていた警備のティアンが何人か死んでいた。
・今回は兄妹にクランのメンバーを助けられたからいずれ借りを返さなあかんなー、とも考えている。
《皆癒の霊杯》:<月世の会>の<マスター>【高位薬剤師】スズキ・ケンタのスキル
・杯の中に入れたポーション類を振り撒く事で、その効果を周囲に及ぼす事が出来るスキル。
・彼の<エンブリオ>【全癒霊杯 アムリタ】には、杯の中に入れたポーション類の効果増幅・連続使用時のデメリット軽減・味を良くするスキルなども有している。
・リアルでは複数の強力な薬を服用しながらの闘病生活を送っており、そのパーソナルが<エンブリオ>にも影響している。
・多分<月世の会>には、この手の回復・医療系の<エンブリオ>の持ち主も多くいると思う。
【蠱毒狩蟲 ラーゼクター】:割とチートな兄妹を三分以内に瞬殺するヤベー奴
・伝説級<UBM>だが、一番ヤバいのはステータスやスキルではなく戦術と技術。
・特に技術面は達人ティアン並みであり、モンスターとしての危険を察知する直感にも優れている。
・戦術面でも過去に人間と戦った経験から、【快癒万能薬】に対しては時間稼ぎ及び使用の隙をつく、【救命のブローチ】には時間差で攻撃する形で対処してくる。
・今回の経験から以後、人里付近を狩場にしたり<マスター>を標的にする事は、効率が悪くリスクも大きいのであまりしなくなった。
・STR・AGI・END・DEXの平均ステータスは五千前後だが、後述のスキルによるバフでAGI以外は一万、AGIは一万五千に届く。
《蠱毒瘴気》:【ラーゼクター】のスキルその一
・お馴染みの【猛毒】【酩酊】【衰弱】【麻痺】に加えて、MPを減らす【魔毒】SPを減らす【魂毒】の状態異常をもたらす瘴気を発生させるスキル。
・このスキルは使った時に自身にも同じ状態異常をもたらす無制御系のスキルであり、それ故に強度は非常に高く治すには【快癒万能薬】や超級職のスキルが必要。
・また、状態異常をどれか一つに限定して圧縮し、相手に各種耐性を無視して直接叩き込む《蠱毒絶殺》という応用スキルも持つ。
・兄を仕留めたのは【猛毒】に限定されたものであり、見た目は顔から血が出ただけだが、身体の中は毒による汚染を通り越してドロドロのスープみたいになっていた。
・ただし、無制御系のスキルを圧縮したため自身にかかる負担も大きく連発は出来ない。
《益毒反転》:【ラーゼクター】のスキルその二
・自身にかかっている状態異常の効果を反転させる。
・原作主人公のスキルと違いデバフは反転出来ないが、その分状態異常なら超級職のスキルでも問題無く反転可能で、敵から受けた者のみなどの制限も存在しない。
・このスキルにより《蠱毒瘴気》が完全にメリットスキルになっている。
・ただし、耐性を無視する《蠱毒絶殺》は完全には無効化出来ず自身にもダメージを受けてしまう。
《混成魔蟲》:【ラーゼクター】のスキルその三
・自身が倒して、その遺伝情報を摂取した魔蟲系モンスターのスキルを取得できるラーニング系スキル。
・また、遺伝情報を摂取した魔蟲系モンスターのスキル使用の為の部位を自身から生やす事も出来る。
・その応用で部位欠損も再生出来るが、HPが回復する訳では無い。
・作中では兄妹に使用したスキルの他にも、【テンプテーション・マンティス】などからラーニングした魅了・誘引系スキルでモンスターを果樹園に誘導したり、【デミドラグワーム】などからラーニングした《土中潜行》スキルで奇襲したり、索敵や隠密系スキルを使ったりもしていた。
・【ラーゼクター】は元々スキルの開発が得意だったので、ラーニングしたスキルを自身が使いやすい様に改造したりもしている。
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兄妹の現実の話
それでは本編をどうぞ!
□二〇四三年
「…………ッ‼︎」
あの【ラーゼクター】に胸を貫かれて身体の中に強力な毒を注ぎ込まれ絶命した後、俺──本名・加藤蓮、デンドロでのアバター名はレント──の意識は現実の自室に戻って来ていた。
「…………成る程、これがデスペナルティか…………」
とりあえず意識ははっきりしているし、デスペナ直前まであちらで何が起きたのかも覚えている。
最後のデスペナルティを告げるアナウンスも聞いたし、デンドロの機器の横のディスプレイには【ペナルティ期間中です。あと23時間56分47秒】と表示されていた。
「…………美希はまだあちらか。…………だが、長くは持たないだろうな……」
まだ、あちらで【ラーゼクター】と戦っているであろう妹──本名・
「今回の敗因だが…………単純に地力が足りなさすぎたな」
実際、こちらを圧倒的に上回るステータス・スキル・技術を持つ相手に正面から挑めば当然敗北する、という簡単な話ではあるのだがな。
…………まあ、今回の目的はティアンの人達を逃がすことであり、俺達が死ぬのは想定内だったが…………
「とはいえ、あそこまであっさりやられたのは悔しいし…………何より、美希に俺の死ぬところを見せてしまったからな。…………昔の事故のトラウマが甦らなければいいんだが……」
…………今から五年程前の話である。ある日、両親が福引きで海外旅行のチケットを当てて家族みんなで旅行に行こうとしたのだが、美希だけはその旅行には行きたくないと大泣きし出したのだ。
仕方なく美希を叔父夫婦に預け、俺と両親だけで旅行に行ったのだが…………そこで乗っていた飛行機が事故で墜落して両親は死亡、俺も生死の境を彷徨う重傷を負った。
…………今思えば美希はその直感で事故の事が解っていたのだろうが、当時は俺も両親もその事は知らなかった。それにまだ幼かった美希自身もこれまで命の危険などに会わなかったからか、自分が何を感じ取っているのかが解っていなかったのだから仕方がないのだが…………
「当時はかなり酷かったからな…………『自分は解っていたのだから、止められた筈だ』とか言って塞ぎ込んでいたし……」
まあ、その後は奇跡的に回復した俺と叔父夫婦の尽力で、どうにか今の様に持ち直せたのだが。
ちなみにその後、身寄りを無くした俺達を叔父夫婦は引き取ってくれて、とても良くしてくれたので本当に彼らには頭が上がらない。
また、後遺症としてたまに少し身体が痺れる事もあり、そのせいで以前までやっていた弓道も辞める事になったが、あれだけの重傷から回復出来てたのだから些細な事だろう。日常生活には支障は無いし。
あと、<月世の会>について知ったのは、病院でのリハビリの時に知り合った人がたまたま信者で、その人から<月世の会>の成り立ちなどを聞き、少し調べた事があるからである。
…………それはいいとして、問題は…………
「直感で悲劇が解ってしまうせいで、あちら側に過剰に感情移入してしまう事なんだがな。…………その為に<Infinite Dendrogram>の事は
…………もし割り切れない様ならば、その時は…………
そんな事を考えていると部屋のドアがノックされ、廊下から美希の声が聞こえて来た。
「お兄ちゃーん、生きてるー、部屋入ってもいいー?」
「デスペナしたばかりだが生きてるぞ。…………今、鍵を開ける」
扉を開けるとそこには妹の美希がいて、そのまま俺の部屋に入ってきた。…………ちなみにアバターよりも二十センチ以上背が低い。
「…………お兄ちゃん、なんか今失礼な事を考えなかった?」
「…………いや、別に考えて無いぞ…………それより何の用だ?」
「…………まだ小五だし、成長期だからすぐ大きくなるし…………っと。まず、お兄ちゃんのデスペナ後のことを報告に来たよ」
「で? どうだったんだ?」
「私もデスペナしたけど、最後に【ラーゼクター】は王都から離れて行ったのが見えたし、クエスト達成のアナウンスもあったから、多分ティアンの犠牲をゼロにする目的は果たせたかな」
「そうか…………とりあえず最低限の目的は達成出来たか」
…………あとは、美希がどう思っているかだが…………
「言っとくけど、私は<Infinite Dendrogram>を辞める気は無いからね。…………どうせお兄ちゃんの事だし、私が昔の事故の時の事を思い出したりしてないか、とか気にしてたんでしょ」
「うぐっ!」
…………大体その通りだから、ぐうの音も出ない…………
「お兄ちゃんは色々私に気を使いすぎ! もう昔の事故の事は立ち直ったし、自分の勘の事も今では冗談に出来るぐらいには割りきってるから大丈夫だよ! …………それにあの世界でなら、私がこんな力を持った事にも意味があったと納得出来るような気がするし……」
「美希……」
「別に私が力を持った意味なんてモノは、特に何も無いんだろうとは分かってはいるけどさ。…………“無限の可能性”を謳うあの世界でなら、それに“納得”が出来る気がするんだ」
「…………分かった、そこまで言うなら俺からは何も言わない。…………だが」
「分かってるよ。…………私が生きる世界はあくまで
「そういう事だ」
あの世界だと、現実とゲームのバランスが崩れる人は絶対出てくるだろうからな…………美希が直感のせいでそうなる可能性は十分あったし。
だが、少し気を回しすぎていた様だな。…………美希にはもう俺の庇護は必要無いか、…………少し寂しい気もするな。
………さて、湿っぽい話はこれで終わりにするか。
「で? デスペナが明けたらどうする? 【ラーゼクター】にリベンジでもするか?」
「うーん…………負けたのは悔しかったし、もう一度戦う機会があるならリベンジするけど、こっちから積極的に狙いに行くほどじゃ無いかな。アイツは人間に対して悪意を持っている訳では無かったしね」
「まあそうだな。どちらかというと狩りの獲物として見ている感じだった。…………それに今の俺達では地力が足りん。ステータスはレベルを上げればいいが、技術面に関しては俺はそこまで才能がある訳では無いからな」
「…………お兄ちゃんが才能が無いって言ったら色々な人に怒られると思うけど…………」
そうは言っても、俺は全方面にそこそこ優秀ぐらいの才能しか無いからな。
…………何より、その一歩が規格外とそうで無い者との絶対的に差になるからな。
「だが、技術は時間をかけて磨けばいいし、才能の差もあちらでなら補うことも出来る。…………その為の【ルー】だからな」
「…………お兄ちゃんの【ルー】はそういう方向性だよね。私の場合【ギガース】の特性が高いステータス補正だから、上級職までじゃその本領を発揮出来ないし…………やっぱり超級職を目指そうか。噂では戦棍士系統の超級職はロストしているみたいだし」
デンドロはまだまだ始まったばかりだからな、強くなる方法はいくらでもある。
◇
「ところでお兄ちゃん。流石に気づいてるよね?」
「ああ……」
美希に言われるまでも無く、その部屋の開いた扉の隙間から見える少女からの視線には気づいていた。
「じ──────…………」
「え、えーと……何の用かな?
彼女は加藤祐美ちゃん。叔父夫婦の娘であり俺達の従妹にあたる子で、現在小学二年生の女の子だ。
「…………兄様と姉様だけデンドロやっていてズルいのです。私もやりたいのです。…………あと、最近あんまり構ってくれなくて寂しいのです」
「えーと…………今はデスペナ中だから、久しぶりに一緒に遊ぼうか?」
「そう言ってデスペナが開けたら、またデンドロに戻って行くのです。…………やっぱり私もプレイしたいのです」
「でも、叔母さんの許可が下りて無いだろう?」
叔母さんは祐美ちゃんがデンドロをする事をあまり良く思っておらず、ゲームをプレイする許可を出していない。
その理由も、リアルすぎる世界がまだ幼い祐美ちゃんの精神に与える影響を懸念してのもの、という実に真っ当な理由なので俺達も正直反論しにくいのだ。
…………ちなみに美希がお目こぼしされているのは、過去の事からなるべく俺と一緒に行動させた方がいいだろうという心遣いである…………本当に彼らには頭が上がらない。
「…………別にゲームと現実の区別ぐらいつけられるのです」
「んーでも、ゲームハードが無いよね。私達のを交代で使う?」
「あうっ、そうだったのです…………デンドロのハードは今ほとんど売り切れなのです。…………それに出来れば兄様達と一緒にしたいのです」
デンドロ発売から一カ月たった今でも、デンドロのハードはほぼ売り切れ状態であり、ネットのオークションでは凄まじい値段で取り引きされていたりもする。
…………一応、そのあたりは何とかなるんだが。
「実はこんな事もあろうかと初日に予備のハードをもう一本買ってあるから、それを使えばいいんだがな」
「…………お兄ちゃん、いつの間に買ってたの? …………しかもそれ祐美ちゃん用のでしょ」
「祐美ちゃんもやりたがる事は予想出来ていたしな。ちなみにハードは初日のプレイが終わったあとすぐに買いに行った…………確実に大ブームになると思っていたからな」
「流石なのです! 兄様‼︎」
「ハイハイ、さすおに、さすおに」
…………正直、我ながらちょっとシスコンすぎるとは思っている。
「でも、叔母さんの許可無く使わせる事はしないぞ。…………一応、俺達も説得には付き合うが……」
「正直言ってデンドロの世界がリアルすぎて、プレイヤーの心に影響があるってのは事実だからねー」
「うぐぐ…………父様の方は泣き落としでもすれば一発なのですが、母様の説得は難しいですね……」
「「叔父さんェ……」」
まあ、叔母さんの説得が駄目そうならデンドロやる時間を減らして、祐美ちゃんに構ったほうがいいかな…………流石にこの一カ月間、半ば廃人プレイはやり過ぎだったか。
そんな事を思っていると、祐美ちゃんが何か決意を秘めた顔をしていた。
「それにデンドロでなら、私の昔からの夢が叶うと思うのです!」
「夢?」
「はい! デンドロには『魔法』が有ると聞きました。…………実は私は昔から『魔法少女』になってみたいと思っていたのです! それもプリキュアみたいな‼︎」
…………プリキュアね、あの日曜朝で約四十年ぐらいは続いている長寿シリーズか。
確かに祐美ちゃんは、日曜午前八時半にはテレビに齧り付くぐらいに好きなことは知ってたけど。
「確かにデンドロには魔法があるし、それを使う【
「いや、デンドロなら魔術師系統と拳士系統の複合で【魔拳士】みたいなジョブもありそうだからそっちじゃないか?」
「チッチッチ、二人共全然分かっていないのです。プリキュ○をはじめとする魔法少女に必要なモノは、他者を思いやる優しい心なのです! 戦い方などというものは些細な問題なのですよ‼︎」
「「アッハイ」」
…………まあ、祐美ちゃんが良いならそれで良いんじゃないかな。俺も日曜午前のヒーロー・ヒロイン達はそういうモノだと思うし。
実際、王国には仮面ライダーのロールプレイをしている人がいると噂で聞いたことがあるからな…………プリキュアがいても大丈夫だろう。
…………デンドロでは<マスター>は自由だしな。
「あと、魔法に関しては個人的にちょっと見てみたいだけなので、自分で使えなくても別に良いのです。…………それに兄様と姉様には<Infinite Dendrogram>でやりたい事があるんですよね? それに対して、私は足を引っ張りたくは無いのです」
「祐美ちゃん…………」
祐美ちゃん、やっぱりさっきの話を聞いていたのか…………
「じゃあ、皆で叔母さんを説得する方法を考えるか」
「はいなのです!」
「その前に夏休みの宿題とか残っていたら、早めに終わらせたほうが良いよ。私もちょっと残っているし」
「あうぅ…………まだ、ちょっと残っているのです……」
「宿題はさっさと終わらせておけよ」
やれやれ、デスペナ明けにデンドロ仲間が一人増えれば良いんだがな。とりあえず現実の諸々の用事を片付けるか。
◇
あのあと、美希や祐美ちゃんの宿題や俺の大学の準備などを片付けて、仕事から帰ってきた叔父夫婦に祐美ちゃんのデンドロプレイの事を相談したのだが…………何故かあっさりと許可が下りた。
どうも、美希と祐美ちゃんの泣き落とし(偽)にあっさり陥落した叔父さんはともかく、叔母さんの方は祐美ちゃんが以前から寂しがっていた事や、俺達の様子から条件付きなら許可しても構わないと思っていたらしい。
「ようやく、念願のデンドロをプレイ出来るのです!」
「良かったねー、祐美ちゃん。まあ条件を二つ出されたけど」
「一つは“ゲームのやり過ぎで現実の事を疎かにしないこと”、もう一つは“デンドロ内では常に俺か美希と一緒に行動すること”だったな。…………まあ妥当な条件ではあるな」
「つまり、兄様と姉様のデスペナが明けるまではお預けなのです。…………確か兄様達はアルター王国に所属していましたよね、じゃあ私もそこなのです。でも他の国にも興味があるので一度行ってみたいのです。レジェンダリアとか面白そうなのです」
まあ、俺達も他の国には一度行ってみたいとは思っていたけど…………レジェンダリアかぁ…………
「…………お兄ちゃん、レジェンダリアってネットの掲示板では変態が多いって話だけど、祐美ちゃんを連れて行って大丈夫かな?」
「…………まあ、あの世界なら実力があれば多少のトラブルは何とかなるだろう。…………それに、祐美ちゃんに付き纏う変態がいれば俺達で皆殺しにすれば良いだけだ」
「…………まあ、そうだよね。…………祐美ちゃんに手を出す様な輩は一人残らず潰せば良いだけだしね」
「?」
叔母さんからも任せられているし、俺達で祐美ちゃんを守らなければな。
「とにかく! 明日が楽しみだね‼︎」
「はいなのです!」
…………今後のデンドロは少しだけ賑やかになりそうだな。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:アバター名の由来は、カ “ト” ウ “レン” からとって“レント”
・ぶっちゃけ妹二人には超甘いシスコン。
・今は大学一年生。
・【ルー】の能力特性は、兄の規格外な才能を持つ人間に対する羨望や嫉妬などの感情から、“もっと
・以前は弓道の大会で弓の天才(デンドロでなら神系の超級職に就けるレベル)に負けたりした為、鬱屈した感情を持っていた。
・だが、事故によるリハビリや妹の事などがあってからは、自分は自分で他人は他人と割り切っている。
妹:アバター名の由来は、“カ” トウ “ミ” キからとって“ミカ”
・祐美ちゃんには兄と同じく超甘い。
・【ギガース】の能力特性は、かつての事故の時の経験から“自分にもっと力があれば”、“理不尽な出来事を打ち砕く力が欲しい”と思った事が由来になっている。
祐美ちゃん:次回から本格的にデンドロをプレイ予定
・日曜午前八時半からの三十分は、一週間の中で最も至高の時間だと思っている。
・実は空手をやっており、ジュニアの大会で優勝するレベル。
叔父夫婦:凄く良い人達
・叔父さんは娘二人には超甘い。
・叔母さんはVRにはやや懐疑的だが、兄妹に任せておけば大丈夫だとも思っている。
日曜午前八時半からのヒーロー・ヒロイン達:本作では二〇四三年まで続いている設定です
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祐美ちゃんの初ログイン
それでは本編をどうぞ。
2/15 ラーニングスキルの新情報が明らかになったので末妹の<エンブリオ>のスキル効果を一部変更しました。
□王都アルテア・中央通り大噴水前 【
あれからデスペナルティが明けた俺達は、事前に設定しておいたセーブポイントである王都の大噴水前にログインしていた。
また、祐美ちゃんも同じタイミングでログインしており、この噴水の前で待ち合わせをすることになっている。アバター名は俺達と同じ様に本名をもじって“ミュウ”とするらしい。
「デスペナ明けでもアバターの調子は問題ないかな。貴重品用のアイテムボックスも確認したけど、そっちで落とした物は無かったね。落としたのは普通のアイテムボックスの中身と、果樹園で貰った小型アイテムボックスの果物ぐらいみたいだよ。お兄ちゃんは?」
「貴重品用のアイテムボックスを確認したが、幸いな事に召喚媒体などは無事だったな。ドロップした物もそちらとほぼ同じだ」
初デスペナで少し不安だったが、とくに問題は無さそうだ。盗難対策が施された貴重品用のアイテムボックスの中身が無事だったのは良かったな。
ちなみにこのアイテムボックスに施された盗難対策は下級職のスキルを防げる程度のものである…………上級職のスキルを防げる物は非常に値段が高く買えなかった。容量もかなり少なかったしな。
また、今まで使っていた初期のアイテムボックスに適当なアイテムを入れておくランダムドロップ対策は上手く機能したみたいだな。
あとは祐美ちゃん…………もといミュウちゃんを待つだけか。
「しかし、アバターだと見分けがつくか? 俺達のアバター名とこちらでの外見は教えておいたが……」
「大丈夫だと思うよ。ミュウちゃんも私と同じ様に現実の体を成長させて、その一部を変える感じにするって言ってたからね」
確か、プリキ○アの登場人物に合わせて大体中学生ぐらいにするって言っていたな。
とはいえ、あんまり遅い様ならどちらかが迎えにい「レント兄様、ミカ姉様、どこですか〜」……おっと、来た様だな。
「おーい、ミュウちゃん、コッチコッチ〜!」
「あ! …………レント兄様とミカ姉様ですか?」
「そうだよ、ミュウちゃん。私が従姉のミカで、こっちがお兄ちゃんのレントだよ」
「よろしくミュウちゃん。…………それと、ようこそ<Infinite Dendrogram>へ」
「はい! 兄様、姉様、これからよろしくお願いするのです‼︎」
そう言ったミュウちゃんのアバターは、祐美ちゃんを中学生ぐらいに成長させ、髪を桃色にして細部を少し弄った感じだった。
そのミュウちゃんは、私達や周りを見て驚いた表情をしていた。…………ま、初めてデンドロにログインすればそうなるだろうな、俺もそうだったし。
「兄様達から話は聞いていましたが、本当にリアリティが凄いのです。これがデンドロなのですね。…………それで、これからどうするのです?」
「とりあえず冒険者ギルドに行って登録しよう。そうすればギルドでクエストを受けられる様になるし」
「基本的にジョブにならそこで就く事も出来るしね。ところで就くジョブはもう決まった?」
「はい、最初は【
…………ああ、そういえばミュウちゃんはあっちでは空手をやっていたな。それも小さな大会で優勝するぐらい。
この子も才能的にはミカと同じ天災児枠だしな…………やっぱり俺の周り天災児多くないか?
「そうか。じゃあ早速冒険者ギルドに行こうか」
「はいなのです!」
こうして、俺達はミュウちゃんを伴って冒険者ギルドに行くことになったのだった。
◇
「ここが冒険者ギルドだよ、ミュウちゃん」
「おー! 凄いファンタジーな感じなのです!」
さて、実に初々しい反応をしているミュウちゃんを連れて、私達はギルドの受付に訪れた。受付嬢はお馴染みのアイラさんだ。
「すみませんアイラさん、今日は俺達の従妹を連れて来たのでギルドに登録したいのですが」
「ミュウと言うのです、よろしくお願いしますのです」
「はいわかりました、ミュウ様ですね、登録しました。…………それと、お二人もご無事で何よりです」
おや、俺達が【ラーゼクター】に殺された事はギルドにも伝わっているのか。
…………じゃあ、あの事件の事も聞いておくか。
「まあ、私達は不死身の<マスター>だからね。…………それよりも<レーヴ果樹園>から逃げて来た人達はどうなったか知ってます?」
「はい、避難した人達はお二人が<
「なるほど、じゃあティアンに死者は出なかったのですね。なら良かったです」
本当にデスペナになってまで戦った甲斐があったな。
「それとお二人には護衛クエストの報酬があるので後で受け取りに行ってください、と果樹園の経営者がギルドの方に伝言を残していきましたよ。受け取る場所は王都内に果樹園の施設があるので、地図を出しておきます。後でそこに行ってください」
「わかりました。後で向かいます」
報酬は素直に嬉しいな。【ラーゼクター】との戦いでは俺もミカも【
…………さてと、とりあえずミュウちゃんをジョブに就かせようか。
「それじゃあアイラさん、ミュウちゃんをジョブに就かせるために冒険者ギルドのジョブクリスタルを使わせてもらいます。…………そういえば、ここのクリスタルで【拳士】のジョブに就く事は出来ましたっけ?」
「はい、冒険者ギルドにあるジョブクリスタルでは【拳士】のジョブにも就く事が出来ますよ。あと、ギルドに登録した人であれば誰でも使える物なので、気楽にご利用ください」
「わかりました。ありがとうございます」
そうしてミュウちゃんを【拳士】のジョブに就けて、他にも初心者用の討伐クエストをいくつか受けた俺達はギルドを後にした。
「それじゃあ次はミュウちゃんの装備を買いに行こうか! お金は私達が出すし」
「ありがとうございますのです。お金は後できちんと利子を付けて返すのです」
「いやー、別に返さなくてもいいけど……」
「それはダメなのです! 姉様達にあまり迷惑はかけられないのです。…………それに母様からも、こちらで色々な事を学んで来なさいと言われたのです。だから借りたお金はきっちり返すのです」
「これに関してはミュウちゃんの方が正論だな。お金の貸し借りはきっちりしておいた方がいい」
「うーん…………分かった。でも、無利子で良いからね!」
さて、ここからは別行動にした方がいいかな…………この二人の買い物は長いし。
「じゃあ俺はクエストの報酬を受け取りに、アイラさんに言われた所に行ってくるぞ。…………ミカ、ミュウちゃんの事は任せた」
「オッケー! 任されたよ‼︎ ………そうだ、私の果樹園のアイテムボックスも渡しておくから返しておいてねー」
「いってらっしゃいなのです、兄様」
こうして二人と別れた俺は、報酬を受け取りに王都にある果樹園の施設に向かったのだった。
◇◇◇
□<イースター平原> 【
あれからお兄ちゃんと別れたあと、マリィさんの雑貨屋でミュウちゃんに合った初心者拳士用の籠手などの装備と各種消費アイテムを買った私達は、初心者用の狩場の一つである<イースター平原>でミュウちゃんの初戦闘を行うことにした。
…………ここのモンスターの強さならミュウちゃんに何かあっても、今の私なら問題無く対処出来るしね。
「では、これからミュウちゃんにはデンドロでの初戦闘をやってもらいます。えーと、視点はリアル視点だったっけ?」
「はい、姉様達と同じにしました」
「じゃあ気をつけてね、デンドロのモンスターは超リアルだから初戦闘で辞めちゃう人も多いし、無理はしちゃダメだよ?」
「分かったのです」
ちょうど視線を向けた先には一匹の【リトルゴブリン】がいたので、アレとミュウちゃんを戦わせてみようか。
「それじゃあ、あそこに【リトルゴブリン】がいるし戦ってみようか」
「はい! …………では勝負なのです‼︎」
そう宣言したミュウちゃんが【リトルゴブリン】に戦いを挑んで行った。
…………実に新鮮だね、私もお兄ちゃんも“開幕奇襲上等、戦闘中に御託を言う暇があったら攻撃する”みたいな思考だからなぁ。
『GEE!』
「疾ッ!」
まず、振り下ろされた相手の爪をミュウちゃんは完全に見切って紙一重で回避し、そのままカウンターのストレートを顔面に叩き込んだ。
さらに、その攻撃で怯んだ相手の腹に中段蹴りを放ち体制を崩し、そこに上から拳を打ち下ろして地面に叩きつけ、そのまま【リトルゴブリン】は光の塵になった。
…………うん、特に心配する必要は無かったね。確かお兄ちゃんも『祐美ちゃんの格闘の才能は普通に俺よりも上だ』とか言ってたしね。
「姉様〜! 倒したのです〜!」
「…………あーうん、じゃあこのままギルドで受けた討伐クエストをやって行こうか」
「分かったのです!」
そのまま私達は<イースター平原>での狩りを続行するのだった。
◇
「せいっ! はぁ! 《ストレート》!」
『GIAA⁉︎』
今、ミュウちゃんの拳撃からのアクティブスキルでまた一体の【リトルゴブリン】が光の塵になった。
…………あのあとミュウちゃんは、この<イースター平原>にいたモンスターに片っ端から戦いを挑み、それら全てを容易く撃破していった。
ちなみに私はそれを後ろから見ているだけである…………いや、私が参戦しちゃうとミュウちゃんに経験値が入らないからね! しょうがないよね!
「姉様、これで冒険者ギルドで受けたクエストは全部クリア出来ました」
「…………はっ! そっそうだね、じゃあ一旦王都に戻ってクエストの清算をしようか」
「分かったのです。…………そういえば、私の<エンブリオ>はいつ生まれるのでしょうか?」
そう言いながら、ミュウちゃんは左手の籠手を外して第0形態の<エンブリオ>を見ていた。
「うーん、私とお兄ちゃんはログインしてから一時間ぐらいで孵化したけど、掲示板とかの情報だと孵化まで半日から一日かかったっていう情報もあったから、大分個人差があるみたいだよ。まあ、そのうち孵化するから気長に待てばいいよ」
「はい、分かったのです…………えっ⁉︎」
そう言った側からミュウちゃんの<エンブリオ>が光だした…………実にタイムリーだね。
「姉様⁉︎ なんか光っているのです⁉︎」
「良かったね、ミュウちゃん。<エンブリオ>が生まれるみたいだよ」
「姉様すごい冷静なのです‼︎」
そりゃあ、以前にお兄ちゃんのを見てるからね。
…………そうしているうちにだんだんと光は収まっていき、光が消えるとそこには一つの影があった。
「…………あなたが私の<エンブリオ>……なのです?」
『そうだよマスター。僕の名前は【支援妖精 フェアリー】、マスターを援ける為のTYPE:ガードナーの<エンブリオ>だよ。以後よろしくね』
それは大きさは三十センチ程で四足歩行の…………えーと、何というか……犬と猫と兎とフェレットを足して割ったような……何とも言葉にするのが難しい感じの謎生物だった。
…………ていうか、あれって…………
「…………凄いのです‼︎ まるでプリキュアの妖精みたいなのです‼︎」
「そう、そんな感じ!」
『この外見でマスターに喜んで貰えるのなら嬉しいかな』
日曜午前八時半に日本全国のテレビで出てきて、小さな女の子によく目撃されてそうな生き物だね!
…………まあ、<エンブリオ>は<マスター>のパーソナルに由来するからね。ミュウちゃんが喜んでいるのならいいんじゃないかな。
「ミュウちゃん、とりあえず【フェアリー】の能力を確認してみたら?」
「分かったのです…………こんな感じだったのです」
【支援妖精 フェアリー】
TYPE:ガードナー
到達形態:Ⅰ
HP補正:F
MP補正:G
SP補正:G
STR補正:E
END補正:E
DEX補正:G
AGI補正:D
LUC補正:F
『保有スキル』
《エール・オブ・ザ・ブレッシング》Lv 1:
マスターの右手・左手の装備枠が空いている場合、マスターのSTR・END・AGIを10%上昇させ、魔法系の被ダメージを10%軽減する。
このスキルはマスターの一定距離以内にいなければ効果が発揮されない。
パッシブスキル
《マジカル・ラーニング》:
魔法系スキル発動の目撃時に低確率(1%)でそのスキルを習得する。
このスキルで習得した魔法スキルのレベルは1になる。
パッシブスキル
「ふーむ、名前通り<マスター>の支援特化ガードナーって感じかな。まあ、ラーニングする魔法次第では分からないけど。…………あと、私とお兄ちゃん以外には自分の<エンブリオ>の能力は教えない様にね。弱点が分かっちゃうと対策を取られるから」
『この場合の弱点は僕が狙われる事かな。僕自身のステータスはMP特化であとはAGIが少し高いぐらい、HP・STR・ENDは壊滅的だから直接戦闘は出来ないしね。…………まだ魔法もラーニング出来てないから、高いMPも宝の持ち腐れだし』
そうなんだよねー。普通ガードナー系の<エンブリオ>は<マスター>を守る能力を持つことが多いんだけど、ミュウちゃんの【フェアリー】は<マスター>が前に出て<エンブリオ>が後方から支援するタイプみたいだし。
「大丈夫なのですよ“フェイ”! これでも腕っぷしには自信があるのです‼︎」
『…………えーっと、“フェイ”って僕のこと?』
「はい! 愛称なのです! …………私がフェイを守りますから、フェイも私を助けてほしいのです」
『! …………分かったよマスター、僕はキミを援ける為の<エンブリオ>だからね。…………だからこれからよろしくね“ミュウ”』
「はいなのです‼︎」
…………うん、二人共仲が良くて何よりだよ。これなら問題なさそうだね。
私もお兄ちゃんも<エンブリオ>と意思疎通なんて出来ないからちょっと羨ましいかも。
「魔法のラーニングに関しては問題無いよ。お兄ちゃんが大量の魔法系ジョブに就けばいいだけだし、すぐに色々な魔法を使える様になるよ!」
「そうなのです! 兄様なら何とかしてくれるのです!」
『…………じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな』
「それじゃあ王都でお兄ちゃんと合流しようか!」
そうして、私達は新しい仲間のフェイちゃんを連れて王都に戻って行った。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
妹:とりあえずお兄ちゃんなら何とかしてくれる!
兄:というわけで今後のジョブ構成が魔法主体に確定した
ミュウ:格闘系天災児
・だが、彼女にとって空手は趣味の一つなので、シュウやカシミヤなどと比べると積極的に打ち込んでいる訳ではない。
・なので、同年齢時の彼らと比べると実力は低い。
【支援妖精 フェアリー】:ミュウの<エンブリオ>
・モチーフは主に妖精と訳される西洋の神話や伝説に登場する超自然的な存在、人間と神の中間的な存在の総称“フェアリー”
・紋章は“妖精と契約する少女のシルエット”
・能力特性はマスターへの支援、及び魔法のラーニング。
・実は性別は雌、ボクっ娘。
・《エール・オブ・ザ・ブレッシング》の有効距離はマスターと心の中で会話が出来る範囲ぐらい。
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兄妹の遊戯の話
それでは本編をどうぞ。
□王都アルテア 【
「というわけで、こちらがミュウちゃんの<エンブリオ>のフェイちゃんです!」
「なのです!」
『初めましてお兄さん。僕はミュウの<エンブリオ>でTYPEガードナーの【支援妖精 フェアリー】、愛称はフェイと言います。よろしくね』
「ああ、よろしく。…………それとミカ、これがお前の分の報酬だ」
「ありがとー、お兄ちゃん。…………って随分多いね」
あれから、二人と別れて果樹園の経営者に会いに行った俺は、そこで<
さらにクエストの報酬にもかなり色を付けて貰った。曰く、<UBM>の襲撃を受けたのに被害が驚く程少なかった事に対するお礼を込めた分とのこと。これで今回の損害の補填も十分出来るだろう。
ちなみに月夜さんを初めとする<月世の会>の活躍で、果樹園の方にも被害はほとんど無かったので近く運営を再開出来るらしい。
…………その諸々が終わったあと、ミカとミュウちゃんに合流したのだが…………
「それでミュウちゃんの<エンブリオ>……フェイのラーニングスキルの為に魔法を見せてほしいと」
「そうなのです、兄様。…………お願い出来るでしょうか?」
『僕からも頼む、今のままじゃ僕はミュウの力にはなれないんだ』
「…………別に魔法を使うことは構わないぞ。俺もスキルレベルは上げたいからな」
正直、色々なジョブに就き過ぎたせいで、個々のスキルレベルがあまり上がっていないからな。
…………それにデンドロの魔法は結構応用が利きそうだし、ジョブを魔法系で埋めるのもありだろう。物理的なステータスは【ヴァルシオン】で補えるし、上級職の魔法なら範囲攻撃も出来るみたいだからレベル上げも捗るだろう。
「それで次はどこに行くんだ?」
「んー、特に捻らずに次の<ノズ森林>でいいんじゃないかな。ミュウちゃんもそれでいい?」
「はい! 早く強くなって借金を返すのです!」
「別に無利子・無期限だからそんなに焦らなくてもいいよ。お金もこの世界でなら亜竜級モンスターでも狩ればすぐに稼げるし」
確かに亜竜級以上のモンスターを狩ると出てくる【宝櫃】の中身を売れば、纏まった金が手に入るがな。
…………とりあえず、ミュウちゃんもやる気みたいだし<ノズ森林>に行こうか。
◇
「疾ッ! 《ストレート》! 《アッパー》!」
「……《ファイアーボール》……《マッドクラップ》」
『『GAAA‼︎』』
ミュウちゃんの放ったパンチが【ティールウルフ】の鼻先に直撃し、それに怯んだ相手にアクティブスキルの連続攻撃が叩き込まれ相手は光の塵になった。【
そこに死角からもう一体が襲いかかってくるが、俺が放った火球に焼き尽くされた。さらに群れの他の相手を地属性魔法で足止めする。
『『GAAA!』』
『ミュウ! 《ウインドカッター》!』
「ナイスです、フェイ! 《ジャブ》! 《ストレート》!」
俺が足止め
うん、割と早めにラーニングが成功したのは良かったな。覚えた魔法はまだ一つだけだが、基本的に乱数に対しては試行回数で解決出来るし…………リアルラック? 知らない子ですね。
「二人の連携もいい感じだしな《ホワイトランス》」
『GAAA‼︎』
そう言いながら、足止めされている相手の一匹に《詠唱》付きの魔法を放って倒しておく。
…………そういえば《詠唱》とかも魔法系アクティブスキルに含まれるのかね? 今後はもう少し多用してみるか。
「よし! 残りも倒すのです‼︎」
『分かったよ、ミュウ!』
「気をつけてなー、とりあえず痺れておけ《エレクトリカルスタン》」
残りの敵にミュウちゃんが突っ込んで行くので、その援護として相手を【麻痺】させる雷属性魔法を《詠唱》付きで撃っておく。
…………【闘士】がカンストしたら、次は【
◇
「ふぅー、やっとかたずいたのです」
「はい、お疲れ様。じゃあ回復するぞ《ファーストヒール》」
あれから【ティールウルフ】の群れを倒し終わった俺は、負傷したミュウちゃんに回復魔法をかけておいた。
『あっ、今新しいスキルを覚えたみたい……《詠唱》だって』
「すごいのですフェイ! これで二つ目なのです!」
「ふーん、やっぱり《詠唱》とかも魔法系スキルに含まれるのか」
しかし、この短時間で二つ目とは…………いや、乱数とは偏るモノだしな! よくある事だし‼︎
「はーい、お兄ちゃんとミュウちゃんとフェイちゃんおつかれ〜」
「なんだミカ、居たのか」
「居たよ! さっきからずっと! 大体、私が参加したら一瞬で終わっちゃうでしょ⁉︎」
ちなみに、ミカはさっきからずっと後方で周辺の警戒をしていた。こいつの戦い方は加減とか出来ないからな。
「冗談だ、あんまり怒るな…………ん?」
「どうしたのです、兄様?」
「だれか来るみたいだね」
先程から発動させていた索敵系スキルに反応があった。この反応は人間、数は四人かな。
まあ、ミカが特に警戒していないところを見ると、こちらへの悪意は無いみたいだがな。
…………そして現れたのは、
「おー、レントくんにミカちゃんやん。久しぶりー……でも無いな。
以前、果樹園で別れて以来になる月夜さんが、その<エンブリオ>のカグヤさん、秘書の月影さん、あと初対面の白髪の中学生ぐらいの女の子を引き連れていたのだった。
◇◇◇
□<ノズ森林> 【
私達が森の中で出会ったのは、<月世の会>のオーナー月夜さん御一行だった。
「先日ぶりですね、月夜さん。それにカグヤさんと月影さんも…………ところで、皆さんはここで何を?」
「今日始めたばかり初心者のチュートリアルや。うちのクランはその教義上みんな現実視やからね、初日の戦闘だけは他のメンバーで面倒を見ることになっとるんや。デンドロで戦闘がしたくても、実際にモンスターと戦えるかどうかは分からんからな。…………そっちもそうやろ?」
「まあそんな感じだね。親戚の子が今日デンドロを始めたから面倒を見てるんだよ」
「はじめまして、レント兄様とミカ姉様の従妹のミュウなのです。よろしくお願いするのです。こっちは私の<エンブリオ>のフェイなのです」
『ミュウの<エンブリオ>、TYPEガードナーのフェイだよ。よろしくね』
そう言って、ミュウちゃん達は月夜さん達に自己紹介をした…………まあ、ミュウちゃんには面倒を見るとか殆どいらなかったけどね。
「これはご丁寧にどうもなー。うちは扶桑月夜、クラン<月世の会>のオーナーをしとるんや。こっちはうちの<エンブリオ>のカグヤと秘書の影やん、そしてこの子がクランメンバーでミュウちゃんと同じ今日始めたばっかの
「月夜の<エンブリオ>、TYPEメイデンwithワールドのカグヤよ、よろしくお願いするわね」
「秘書の月影永仕郎と申します」
「…………
そうやって、向こうも自己紹介を返してくれた。
…………ところで、さっきからずっと葵ちゃんがミュウちゃんの方…………正確にはその<エンブリオ>のフェイちゃんの方を見てるんだけど…………
「? フェイがどうかしたのです?」
「…………可愛い…………プリキュアの妖精みたい……」
「‼︎ ……分かるのですか⁉︎」
「…………毎週日曜午前八時半からの三十分を楽しみに日々を生きている……」
「…………同士なのです‼︎」
ミュウちゃんと葵ちゃんはガッチリと握手をして、そのままプリキュアの事について語り合い始めた。
…………私もプリキュアは嫌いじゃないけど、さすがに会話がディープ過ぎてついていけないかなぁ。
なんか今も葵ちゃんが「…………妖精型ガードナー羨ましい。私のは愛でるとか出来ないし……」とか言ってるし、ミュウちゃんも「じゃあフェイを触ってみるのです?」と返してるね。
それでミュウちゃんがフェイちゃんを葵ちゃんに差し出した…………なんか物凄いモフモフされているね。
「…………まぁ、友達が増えるのは良いことやしな」
「…………そうですね」
その光景をお兄ちゃんや月夜さん達も生暖かい目で見てるね…………まあ、仲良くなれたのは良いことだと思うよ、うん。
「…………さて、とりあえずこの前はうちのクランメンバーを助けてくれてありがとうなー。スズキ達も礼を言っとったでー」
「いえ、俺達は自分のクエストを達成しただけですから。それに、<月世の会>の皆さんが居なければティアンの犠牲をゼロにする事は出来なかったでしょうし」
「それでも、うちのクランメンバーを二人が助けてくれた事は変わりないからなー。礼は言っとくでー」
やっぱり、月夜さんはクランオーナーとしては凄く良い人だよね…………よし。
「それじゃあ月夜さん、私達とフレンド登録しませんか? クランには入れないですけど、友達にはなれると思います!」
「…………ええよー、じゃあフレンド登録しよかー」
こうして私達と月夜さん達は
…………ちなみに月影さんからは「お三方、今回は本当にありがとうございました」と改めて礼を言われたりもした。
「それで、これからミカちゃん達はどうするん? うちらはもう王都に帰ろうと思うとるんやけど」
「そうですね…………私達はもう少し狩りを続けようと思います。それで良いよね、お兄ちゃん、ミュウちゃん?」
「ああ…………お前はまだ暴れ足りないだろうからな」
「私も良いのですよ、姉様」
そう! 正直さっきからずっと見ているだけだったからフラストレーションが溜まってるんだよ‼︎
「そーかー、じゃあここでお別れやなー。…………ほらー、葵ちゃんもいつまでもモフっとらんとそろそろ返したり」
「………………分かった………………」
そう言って、葵ちゃんはモフられ続けてヘロヘロになったフェイちゃんをミュウちゃんに返した。
…………フェイちゃん大丈夫かな?
「それじゃあまたなー。借りはいつか返すでー」
「…………またね」
「はい! 今度は一緒に遊ぼうなのです‼︎」
そうして、私達と月夜さん達は別れたのだった。
「さて! これからは私も暴れさせてもらうよ! ちょっと色々溜まってるし‼︎」
「好きにしろ。…………ミュウちゃんは俺の側を離れないように」
「はいなのです、兄様」
さて、じゃあ森の奥の方のレベルが高い狩場でひと暴れしようか‼︎
◇
「ふぅー、大分スッキリしたね!」
「…………そりゃあ、あれだけ暴れればな……」
「姉様凄かったのです。モンスター達が次々と消し飛んでいったのです」
「それにドロップも良いのが落ちたよ! ………お兄ちゃんが探してた【適職診断カタログ】とかね!」
「……………………ああ、そうだな………………」
いやー、やっぱり派手に暴れるのは気持ちいいね! 【戦棍鬼】のスキルもいくつか試して見たけど、なかなか使えたし。
…………デスペナからのモヤモヤした気持ちも大分晴れたよ。
「それでミュウちゃん。初めてのデンドロは楽しかった?」
「はいなのです! 新しい友達も出来ましたし…………何より兄様と姉様の凄いところが見れたのが良かったです」
「まあ、モンスターをあれだけ消し飛ばしていればな」
そうお兄ちゃんが言うと、ミュウちゃんは首を横に振った。
「それもそうなのですがちょっと違うのです。…………兄様と姉様はこの世界で沢山の人と出会っていて、その人たちと仲良くなったり助けたりしているところが凄いと思ったのです!」
「っ!」
…………そっか、ミュウちゃんはそんな風に思ってくれたんだ…………なら、色々頑張って来た甲斐があったかな。
気づいたら、私はミュウちゃんを思いっきり抱きしめていた。
「ありがとうね、ミュウちゃん。…………お陰でモヤモヤして気持ちも晴れたよ」
「…………はいなのです……」
…………やっぱり、ちょっとお兄ちゃんが目の前で死んだ事には少し思うところがあったんだけど…………もう大丈夫かな。
「そう言ってくれるなら、俺もハードを買っておいた甲斐があったかな。…………ありがとう、ミュウちゃん。そして、改めてようこそ<Infinite Dendrogram>へ、これから一緒にこのゲームを楽しもう」
「…………はいなのです‼︎」
こうして、私達の<Infinite Dendrogram>に新しい仲間が加わったのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:乱数に関しては試行回数が全て! と考えているタイプ
・以外と負けず嫌いな事もあり、ガチャなどは当たりが出るまで回してしまう為よく沼にはまる。
・本人も自覚はしており、ギャンブルなどはあまりしないようにしている。
妹:仲良くなった相手には積極的にフレンド登録を申し入れるタイプ
・今回の一件で後の<アルター王国三巨頭>全員とフレンドになった。
末妹:今回同好の士が出来て大満足
・デンドロ参加を決めたのは兄妹がデスペナ後、やや不調な事に気づいていたからでもある。
フェイ:今回モフられまくった
・その結果草臥れたぬいぐるみみたいになったので、最後の方は紋章の中で休んでいた。
扶桑月夜御一行:今回兄妹達とフレンドになった
・“今のところ”凄く真っ当なクランオーナー。
日向葵:<月世の会>クランメンバー
・末妹の同好の士。
・リアルではアルビノの色白病弱少女で、入退院を繰り返している。
・そのため“一度は太陽の下を歩いてみたい”と思いデンドロを始めた。
・だが、デンドロ内ではその願いがあっさり叶ったので、<エンブリオ>の方向性は若干変質している。
・また、その病院が扶桑家の経営しているものだったので、その縁で<月世の会>に入信した。
【日天鎧皮 カルナ】:日向葵の<エンブリオ>
TYPE:アームズ 到達形態:Ⅰ
能力特性:光・熱エネルギーによるダメージ吸収&蓄積
スキル:《
モチーフ:インドの叙事詩『マハーバーラタ』に登場する皮膚と癒着した黄金の鎧を持って生まれてきた英雄“カルナ”
・全身の皮膚を置換した人工皮膚型の<エンブリオ>、装備枠はアクセサリー枠を一つ消費。
・《日天吸蓄》は自身へに光・熱エネルギーによるダメージを吸収し、蓄積したエネルギーを使ってMP・SPを使うスキルを使用出来る様になるパッシブスキル。
・一度に吸収出来るエネルギーの量には限度があり、吸収しきれなかった分のダメージは受けてしまう。
・ステータス補正はMP・SPは低く、それ以外は高め。
・また副次効果として通常の皮膚よりは強靭なので、若干防御力も上昇している。
・<エンブリオ>なので回復魔法などでは治せないが、その分自己修復能力は高い。
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三兄妹のデンドロ日和
兄の新ジョブ
それでは本編をどうぞ。
□王都アルテア 【
「というわけで、【魔石職人】に就いてみたぞ」
「いやちょっと待ってお兄ちゃん、いきなり過ぎてわけわかんないよ。大体この前これから魔法系のジョブに就くって言ってなかったっけ?」
「広義の意味で【魔石職人】も魔法系と言えなくもないだろう。それに戦闘中は【
ちゃんと戦闘中はフェイのラーニングも兼ねて、各種魔法で
そのおかげで俺の魔法系スキルのレベルも上がったし、フェイもかなりの数の魔法をラーニング出来たしな。
「…………兄様、姉様はどうして生産職に就いたのかを聞きたいのだと思いますよ」
「そうだよ! お兄ちゃん!」
「ふむ、その理由については単純に俺は色々ジョブに就けるから生産職にも就いてみたかったというのが一つ。もう一つは資金稼ぎだな…………最近は<マスター>の数も増えて実力も上がってきたから、討伐系のクエストも受けにくくなったからな」
実際、<マスター>達にとって各種討伐系クエストは大人気なので競争率も当然高い。
まあ、ゲームの中でもお使いやお手伝いなどの地味なクエストをやりたがる人は少ないだろうしな。
他にも、最近は<マスター>達があまりにも多くのモンスターを狩り過ぎたために、モンスターの数が大幅に減少した狩場もあると聞くので、狩り以外にも収入源があった方がいいと考えたのだ。
「うーん、確かに最近は狩りもやり辛くなったよねー。アイラさんもモンスターの大幅な減少で狩り場が大分変わってきたって言ってたし」
「うむ、おかげででミュウちゃんのレベリングもちょっと遅めだ」
「そうなのですか?」
「まあ、私達の時と比べるとねー」
特に王都周辺の中級者用狩場のモンスター減少が一番酷いな。狩場に行ったら<マスター>達がモンスターを求めてひしめいていた、なんて事もあったしな。
「この世界にはちゃんと生態系があるからねー。モンスターがリポップするのは神造ダンジョン内だけだし」
「そうだな…………やはりミュウちゃん用の【墓標迷宮探索許可証】はいるかな? 市場価格は十万リル程だし買えなくはないが……」
「あうぅ…………また借金が増えるのです……」
以前貸した装備品の代金も返し終わったばかりだかな…………次の王国の【墓標迷宮探索許可証】が手に入るクエストはいつだったかな?
そんな事を考えていると、暗めになった空気を変える為にフェイが話しかけてきた。
『そういえば、お兄さんはどうして生産職の中から【魔石職人】を選んだんだい?』
「ああ、この世界の生産職を色々調べてみたところ、俺の<エンブリオ>と一番シナジーがありそうだったからだな」
「えっ! お兄ちゃんジョブのシナジーなんて考えてたの⁉︎」
失礼な、これでも各種ジョブの事はちゃんと調べているんだがな…………まあ、以前闇雲に色々取った事も確かにあったが…………。
「ゴホン! …………【魔石職人】のジョブは文字通り各種【ジェム】を作る為のジョブだ」
「あの兄様、“ジェム”とはなんなのです?」
「【ジェム】というのは簡単に言えば、魔法を発動出来る使い捨てのマジックアイテムだな。中に込めておいた魔法を一度だけ使う事が出来る」
「それは知ってるけど…………それがどうシナジーするの?」
「まずこの【ジェム】の値段なんだが、下級職で覚えられる魔法なら千リル程度なんだが…………上級職の、それも奥義クラスの魔法だと数十万リルはするんだよな」
「…………どうしてそんなに値段が違うのです?」
「これに関しては【魔石職人】のスキル《魔石生成》が、
要するに下級の魔法のジェムを作りたければ【
さらにデンドロの生産系スキルは『生産物をDEXやスキルレベルなどを基準にして、何%かの確率で作ることが出来る』という感じのものであり、強力なアイテムを作る場合はその確率も低くなっていく。
その確率を上げたければ下級職の【魔石職人】だけでなく上級職の【
…………そして、この世界の人間が就ける上級職の数は基本的に最大二つである。それにティアンには適正とレベル上限という問題もある。
『成る程ね、上級職の奥義の【ジェム】が高いのは、そもそも作れる人間が少ないからか』
「そういう事。供給が少なく需要が多ければ値段が跳ね上がる、という当たり前の話だ。まあ【高位魔石職人】になると他人の魔法を【ジェム】に込める事も出来るらしいが…………人手や成功確率の問題で数を作る事は出来ないみたいだしな」
「…………でも、お兄ちゃんの必殺スキルなら複数の魔法系上級職と【高位魔石職人】に就けるから、そのあたりの問題は解決出来ると」
「理論上はな。…………まあ、上級職の奥義が込められた【ジェム】を一つ作るにしても数万リルは必要らしいから、そう上手くはいかないだろうがな」
それでもお金を稼ぐことは出来るだろうし、俺はメインジョブに依らずにジョブスキルを使えるからジョブクエストでレベル上げも出来る。
「なので、これからは狩りをしていない時には生産活動に勤しむ予定だからよろしく。生産スキルのレベルも上げたいし」
「…………まあ、そういう事なら分かったよ」
「分かったのです」
「それじゃあ、俺はこれから魔石職人ギルドで以前受けたクエスト達成の報告と、新しいジョブクエストを受けにいくから」
「いつの間に…………じゃあミュウちゃん、私達はどうする?」
「うーん…………この王都の事をまだ詳しく知らないので、観光とかをしてみたいのです」
「分かったよ。この王都アルテアのお勧めスポットを案内してあげるよ!」
そうして俺はミカ達と別れて、魔石職人ギルドに向かったのだった。
◇
「さて、とりあえず魔術師ギルドに着いたな。…………しかし、本当に大きいな」
あれからミカ達と別れた俺は王都アルテアの魔術師ギルドに来ていた。
ちなみに魔石職人ギルドはこの魔術師ギルドの一角に存在しており、この魔術師ギルドは司祭系以外の魔法系のギルドを一纏めにしたものらしい。
王都には“魔法最強”とも呼ばれる【大賢者】がいる事もあって、この王都アルテアの魔術師ギルドは王国最大の魔術師ギルドでもあるようだ。
…………そんな事を考えている内に魔石職人ギルドに着いた。他の場所と比べるとやや人は少ないが、王国最大の魔術師ギルドだけあってそれなりの人がおり、様々な魔石の販売も行われていた。
「クエスト達成の報告に来ました。こちらが納品する魔石です」
「はい…………確かに受け取りました。こちらが報酬になります」
そうして、俺は受付嬢さんから報酬を受け取ったが…………やっぱり少ないな。
…………今回、俺が受けたクエストはギルドから素材を貰い、その素材に指定された下級の魔法を込めるというものである。そして報酬は納品した【ジェム】の分だけ払われ、生産に失敗し素材がロストした場合はそこから差し引かれる。
まだスキルレベルが低く、生産に失敗した数も多い俺では報酬も少ないという訳である…………まあ、このクエスト自体が新人【魔石職人】を鍛える為のクエストなので差し引かれる額は少なめだが。
それに【ヴァルシオン】の補正や五百を超えるレベルによるDEX値から、普通の新人【魔石職人】と比べると失敗する回数も少ないし。
「次はこのクエストを受けます」
「かしこまりました。…………こちらが素材になります、指定された期限までに納品してください」
さてとクエストも受けたしギルドの作業場を借り「おお、レントの坊や来ていたのかい」この声は…………。
「こんにちはミレーヌさん」
「ああ、こんにちは。レントの坊やはジョブクエストかい?」
「ええ、今クエストを受けたところです」
彼女はミレーヌさん、この魔石職人ギルドのギルドマスターである。俺が【魔石職人】に転職しに来た時に偶々出会い、以後何故か俺の事を気にかけてくれている。
曰く、『今、各ギルドで優秀な<マスター>の取り込み合戦が行われているから唾をつけておく事にしたのさ。それにアンタの事はマリィから聞いていたし』との事。どうもマリィさんとは昔からの友人らしい。
「それで、要件は何ですか? <マスター>の囲い方なら以前に言いましたけど」
「ああ、『<マスター>は自由だから下手に束縛するよりも高い報酬で釣った方がいい』って話は分かったし、実際役に立ったけどねぇ…………そもそも【魔石職人】を志す<マスター>が少ないんだよ」
「…………まあ、<マスター>の多くが戦闘型ですしね。それに【魔石職人】自体【
「実際、ウチの人員も不足気味でねぇ。特に上級職の魔法の【ジェム】は常に需要と供給が釣り合っていない状態さ。他の魔術師系や生産系ギルドが<マスター>を上手く取り込んでやってる話を聞いたからね、うちもそれにあやかりたいんだよ。…………それで、何か良いアイデアはないかい?」
また無理難題をおっしゃる…………まあ、
「<マスター>の目を【魔石職人】に向けさせる手はありますけどね」
「あるのかい⁉︎ …………正直言って世間話のつもりだったんだけど」
「多くの<マスター>は“強さ”を求めていますし、魔法をノーコスト・ノータイムで放てる【ジェム】は強いアイテムですからやり様は有ります。…………最近流行りの『最強ビルド論』に乗っかりましょう」
デンドロ発売から現実で約一カ月、今<マスター>達の間では“どの様なジョブビルドが最強か”という『最強ビルド論』が巻き起こっていた。
基本的に<マスター>が就けるジョブ数は下級職六つ・上級職二つなので、そういう論争が起きるのはゲームなら当たり前の事であり…………そこでこう囁けば良い。
「『大量の【ジェム】を事前に作っておいて、戦闘時にそれらを投げまくれば強い』とね。強いて言うなら“【ジェム】生成貯蔵連打理論”ですかね」
「成る程、そうして<マスター>達の間で【ジェム】を使うのが流行れば、ここに来る<マスター>も増えるか」
「はい。…………ただし、そう遠からずに廃れる理論でしょうから早めに広める事をお勧めします」
この理論の欠点は、限りあるジョブ枠を生成職で埋める為にステータスが低くなる事である。
うちの妹達の様な前衛系の<マスター>なら
…………そもそも
「…………そう分かっていて広めるのかい?」
「別に嘘はついていませんし、AGI差やコストパフォーマンスをどうにか出来る手段が有れば十分強い理論ですから。それにその理論を聞いてどうするのかは各々の自由です」
「まあ、確かにそうだね。…………【魔石職人】や【ジェム】の宣伝文句ぐらいにはなるか」
実際、こちらからはそういうビルド論もあると提案するだけだしな。
それにミュウちゃんのフェイみたいな魔法ラーニング系の<エンブリオ>とかなら相性も良いだろうし、そういう<マスター>なら既に思いついている者もいるだろう。
「ま、今回の話も色々参考にさせて貰うよ。あんたも
「…………俺の<エンブリオ>の事は話していませんよね?」
「ん? ああ、あんた複数のギルドで様々なジョブに就いて、いくつものジョブクエストを受けている<マスター>がいるってそれなりに有名だよ。その上、わざわざ魔石職人ギルドに来た事も考えれば予測はつくさね。…………あんたなら超級職にもすぐに就けるんじゃないかい?」
「…………下級職や上級職ならともかく、超級職に就くのは非常に難しいですよ」
「ふーん…………まずは【高位魔石職人】になれる様に頑張りな、期待してるよ」
そう言って、ミレーヌさんは去っていった。
…………俺もさっさとクエストをこなして、スキルレベルを上げようか。生産用のオリジナルスキルも試したいし。
◇
あの後、クエストの【魔石】を生産した俺は休憩も兼ねて考え事をしながら王都をぶらついていた。
(本当にミレーヌさんは鋭いな、流石はギルドマスターってところか。お陰で危うく【ルー】の必殺スキル…………の妹達にも明かしていない
そうして俺はステータスウインドウを開き、【ルー】の必殺スキルの効果を見た。
《
20個の下級職と15個の上級職に追加で就く事が出来る様になり、
※この<エンブリオ>の以降の進化時に新しいスキルを取得出来なくなる。
※この<エンブリオ>のステータス補正は0になる。
パッシブスキル
(ミカへの説明の時も
嘘は言っていない、本当のことも言って無いけど、という《真偽判定》を誤魔化す手法である。
…………ミカの直感相手ではあまり意味が無いが、アレは危険感知がメインだから明かしても良いデメリットを話すことで誤魔化せた。
(…………万の職能に通じても一芸を極める事が出来ない、というのは俺の<エンブリオ>らしくて中々皮肉が効いているな)
そう、やや自嘲気味な事を考えてみる…………我ながら面倒なパーソナルをしているよ。
(うちの妹二人の才能ならそう遠からずに超級職に就くことが出来るだろう。その時にあまり気を使われたく無いしな。…………天災児達の前で“頼れるお兄ちゃん”でいるのも大変だ。…………とりあえずジョブに由来しない超級職でも探しますかね)
まあ、自分でも下らない意地だとは思うけど…………やっぱり、あの二人の前では兄として振る舞いたいんだよな。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:かなり捩じくれたシスコン
・兄のパーソナルは主に妹達への愛情や嫉妬、自身の才能への誇りと諦観などで相当捻くれており、それが<エンブリオ>にも多様なスキルやデメリットを持つという形で現れている。
・必殺スキルの各種デメリットは、これまで汎用性の高いスキルを複数習得した反動が一気に出た形。
・最後のデメリットの所為で兄が就ける超級職は、スキル由来の【神】系か系統無しの超級職ぐらいになっている。
妹達:末妹の方は気づいていないが、妹の方は兄のパーソナルを察しておりその上で触れない様にしている
ミレーヌさん:魔石職人ギルドのギルドマスター
・【魔石職人】としては王国最高峰の腕を持ち、人材育成や運用能力も高い女傑。
・慢性的な上級職の魔法の【ジェム】不足には悩まされており、兄を始めとする<マスター>達には期待している。
【魔石職人】:各種設定は本作のオリジナル
・【ジェム】生成貯蔵連打理論はこの後、兄とミレーヌさんの手で王国の<マスター>に広まった。
・この理論は兄が自身の戦力増強のために考えていたプランの一つ。
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妹達と人探し
それでは本編をどうぞ。
□王都アルテア 【
あの後、お兄ちゃんと別れた私とミュウちゃん達は王都アルテアの様々な所を見て回っていた。
「この王都は本当に活気がありますね、姉様」
「まあ、このアルター王国の首都だからね」
『騎士の国と言うだけあって巡回している騎士もよく見るね』
ミュウちゃん達も中々楽しんでくれているみたいだ。この王都アルテアはまさにファンタジーな街並みだから見応えがあるしね。
それに、騎士団の人達が定期的に見回っているみたいだから治安もいいし、過ごしやすい所だよ。
…………そうやって、しばらくぶらついていると見覚えのある人に出会った。
「あっ! 葵ちゃんなのです! 久しぶりなのです」
「…………ミュウちゃん、久しぶり……」
そこにいたのはミュウちゃんの同好の士…………もといフレンドの
そして、その隣には五歳ぐらいの幼女と高校生くらいの女騎士がいた…………二人共左手に紋章が無いから多分ティアンだね。
「ところで一体何をしているのです? そちらの二人は?」
「…………今はこの子……レフィちゃんのお姉さんを探している。…………コッチの女性は聞き込みをしていて、事情を話したら手伝ってくれた……」
成る程、人探しの最中だったんだね。するとと女騎士が葵ちゃんに話しかけてきた。
「あの、葵さんこちらの方達は……?」
「…………この二人は私のフレンドの<マスター>、信頼出来る……」
「初めましてミュウと言うのです」
『僕はフェイ、ミュウの<エンブリオ>だよ』
「ミュウちゃんの従姉のミカです」
「そうですか、お二人とも<マスター>なんですね…………申し遅れました、私は第一騎士団所属の騎士リリアーナ・グランドリアといいます」
◇
あれから、彼女達……特にレフィちゃんの休憩を兼ねてその辺りの喫茶店で詳しい話を聞く事になった。
まず、急に逸れたお姉さん──名前はリファさんと言うらしい──を探していたレフィちゃんを、たまたま葵ちゃんが見つけて一緒に探す事になったらしい。
そして、とりあえず近くを巡回していた騎士達に聞き込みをしたらしくて、その中の一人のリリアーナさんが人探しの為に同行する事になった様だ。
ちなみに、他の騎士達も手分けして探しているとのこと。
「成る程、事情は大体分かったのです、そういうことなら私達も協力するのですよ。…………何より、プリキュアを目指す者として困っている子を放っては置けないのです!」
「…………流石は同士、そう言ってくれると思っていた……」
そうして二人は硬い握手を交わした…………まあ、手伝うことに関しては構わないけどさ。
…………それに
【クエスト【探し人──レフィ・シュタイン 難易度:四】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
協力を申し入れるとそんなアナウンスがあった…………難易度が四ねぇ。
「ちょっとリリアーナさん、こっちに」
「何でしょうか?」
私はミュウちゃん達から少し離れたところにリリアーナさんを呼んだ。
「さっき受けたクエストの難易度が四だったんだけど…………これは明らかに高すぎるよね。普通の人探しの依頼なら二以上にはならないだろうし…………何か事情があるんですか?」
「…………それをどうして私に?」
「強いて言うなら勘です。…………あと、迷子の案内にしては騎士団の動きが少し大仰かなと思いました。…………まあ、話す気が無いならそれでも良いですけど」
「…………分かりました、お話します」
リリアーナさん曰く、最近王都で行方不明者が何件か出ており王都警備担当の第一騎士団はその調査をしていたらしい。
この件も行方不明事件に関わりがある可能性があるとして、既に騎士団の方で調査が進められているようだ。
また、リリアーナさんがレフィちゃんについているのは、人探しの手伝いの他にも彼女が二次被害にあって行方不明にならない様にする護衛も兼ねているとのこと。
「ふーん、成る程ねー。…………だから難易度が四なのか」
「はい…………騎士団にいる捜索に特化したジョブの持ち主でも行方不明者は見つかっていません」
ただの人探しにはならないみたいだね…………とりあえずレフィちゃんに少し話を聞いてみるかな。
「レフィちゃん、お姉さんが居なくなった時のことを詳しく聞かせてくれないかな?」
「…………私とお姉ちゃんが買い物に行っている時、みんながよく使っている路地裏で近道しようとしたの。…………お姉ちゃんが路地裏に入って姿が見えなくなって…………あとを追いかけたらいなくなっていたの……」
「…………そして、そこに私が通りかかって今に至るという感じ……」
ふーん…………じゃあ次はリリアーナさんに聞いてみよう。
「探索系のジョブの持ち主でも見つけられなかったという事ですけど、具体的にどんな感じだったか分かりますか?」
「途中までは追跡出来ても、あるところから反応が途切れるという話らしいです」
ほーん、そんな感じなのか…………。
「ふーん、成る程ね」
「何か分かったんですか?」
「いや? 全然さっぱり」
そう言うと、私以外の全員がずっこけた…………しょうがないじゃん、こう言う推理とかはどちらかと言うとお兄ちゃんの担当だし。
そもそも、私はミステリものには致命的に向いてないし。
「…………あの意味深な質問は一体……」
「単に状況を確認しただけだよ?」
「姉様…………どうしてリファさんが消えたのとかは解らないのですか?」
「検討もつかないね。…………それに方法を考えるのはあんまり意味がないだろうし」
この世界にあるジョブスキルや<エンブリオ>の事などを考えると、人一人を消す方法なんていくらでもあるだろうしね。
どちらかと言うと動機の方を考えるべきだと思うけど…………今回は情報が少な過ぎてどうしようもないし。
…………まあ、私には特に問題にならないけど。
「じゃあ、お姉さんを探しに行こうか」
「いや、さっき何もわからないと言ったじゃ無いですか。それとも闇雲に探すんですか?」
「大丈夫だよリリアーナさん。確かに行方不明事件の事とかお姉さんの事とかは分からないけど…………
やっぱり私にミステリものは向いてないね…………何せ、醍醐味の過程が分からず
◇
そうして私達はお姉さんが姿を消した路地裏に来ており、そこには二人の騎士が見張りをしていた。
「リリアーナさん、あの騎士達は?」
「あれはリヒト団長の指示です。行方不明者が最後に目撃された地点に見張りを立たせておけと。あと必ず二人以上で行動しろとも」
へー、リヒト団長かアイラさんのお父さんで、デンドロ初日に私が出会った騎士何だよね。あれ以来会う機会がなかったけど、本当に優秀みたいだね。
…………見張りは行方不明者の姿が
「お疲れ様です。何か変化はありましたか?」
「リリアーナ殿。いえ、何も変わりはありませんでした…………そちらの方達は?」
「行方不明になったこの子のお姉さんを探している<マスター>です。というわけでこの路地裏を調べさせて貰いますね。あ! レフィちゃんはここでこの騎士の人達と一緒にいてね…………大丈夫! お姉さんが必ず私達が連れて帰ってくるから! …………そう言うわけでこの子の事をよろしくお願いしますね。じゃあ行こう」
「「え、ええ……?」」
とりあえず色々まくし立てて騎士達を煙に巻きつつ、レフィちゃんを彼等に預けて路地裏に入って行く…………私の勘は説明が難しいし、ここは巻きで行こう。
すると、他の皆んなも急いで後を追ってきた。
「ミカさん! 一体どういう事何ですか、説明して下さい!」
「ごめんねー、リリアーナさん。私の勘はこうすればいいって解るだけだから説明が難しくて」
「勘? それがあなたの<エンブリオ>何ですか?」
「いや、これは生まれつき持っているものですよっと。…………ああ、みんなも戦闘準備をしといてね、多分荒事になるから」
「…………お願いなのです、姉様の言う通りにして下さい。…………姉様の勘は必ずあたるのです」
そうして私は《着衣交換》で戦闘用の装備に切り替え、ミュウちゃんも戦闘準備をし始めた。
…………それを見たリリアーナさんと葵ちゃんも準備してくれたね。
「さて、最近解放された【ドラグテイル】の
そのスキルを起動すると、私を中心とした半径約二百メートル四方の物体の位置が手に取る様に分かった。
…………これが【ドラグテイル】の第二スキル《竜意圏》の効果、『自身を中心とする装着者の合計レベル×1メートルの範囲内の物体の位置を把握』する能力である。
まあ、物体の位置を把握することがメインのスキルで、識別能力は生物か非生物かを区別出来るぐらいなのだが…………今回は例外みたい。
「ふーん、成る程こうなるのか…………そこの壁だね」
本来なら物体の正確な形状すら把握出来るスキルなのだが…………今は
…………そして、私は【ギガース】を担ぎながらその場所に向かっていった。
「ああ、三人共ちょっと離れててねー、危ないから」
「一体何をする気なんですか、ミカさん?」
「んー、私は扉の鍵を持っていないから、手っ取り早くマスターキーで開けちゃおうかなっとね………………《チャージインパクト》‼︎」
ノイズが走っている壁に、私が放ったチャージ時間に応じて威力を引き上げる戦棍士系統のスキルが突き刺さり…………その壁に
…………<マスター>の力で無理矢理こじ開けたからマスターキー…………なんちゃって。
「なっ!」
「「「「「どわぁ⁉︎」」」」」
「よっと」
そして、その砕けた空間から五人の男性と一人の眠らされて縛られた女性が飛び出てきた…………あの女性がリファさんだね。
私はすぐにリファさんをキャッチして、男達から距離を取ってみんなに合流した。
「はい、葵ちゃん。お探しのお姉さんだよ、ちょっと預かっておいて」
「…………は、はい……」
「それよりミカさん! あの男達は……⁉︎」
「んー? 多分、王都連続誘拐事件の主犯とかじゃない?」
正直言って細かいところは解らないけど…………まあ、縛られた女性と一緒に居たんだからギルティでしょ。
あと、出て来た男達のうち二人の左手には紋章があった…………<マスター>二人、ティアン三人か。
そんな事を考えていると、<マスター>の一人が喚きだした。
「クソッ! どうして俺の【アガルタ】が⁉︎」
「空間を隔絶させる<エンブリオ>があるなら、空間を破壊する<エンブリオ>があっても不思議じゃないでしょー」
まあ、私も【ギガース】が空間まで破壊出来る事は今初めて知ったけどね。
「さてと、大人しく無抵抗で捕まるなら酷いことはしないよ?」
「チィ! 相手は女四人だ! やっちまえ‼︎」
私が投降を呼びかけると、もう一人の<マスター>がそんな事を言った…………じゃあ、残念だけど酷い事になるね。
「<マスター>二人は私がどうにかするから、皆はティアンの方をよろしくね…………《アクセラレイション》《パラライズ・ストライク》」
「ミカさん⁉︎」
まず、アクセサリーの効果でAGIを上昇させた私は最初に喚いていた方に接近して、【戦棍鬼】で覚えた攻撃した相手をその衝撃で【麻痺】させるスキルを使い足を薙いだ。
「ガアァ⁉︎」
その結果、相手の両足は粉々に砕けていた…………いやしょうがないでしょ、今の私のSTRは各種補正込みで八千は超えるし。そこに《ストライク・ペネトレイション》とかの効果を含めるとどうしてもこうなるんだよ。
…………まあ【麻痺】にはなってるし、もう動けないから別に良いよね。
「クソッ! 役立たずが! 《天衣迷彩》!」
もう一人の男がそう言うと、その姿が一瞬にして消え去った…………成る程ね、隠密系の<エンブリオ>か。自分だけじゃなく他人の姿も消せるなら誘拐にも使えるかな。
…………ただ、
「私には丸見えなんだよね。《竜尾剣》」
「何ィ⁉︎」
展開したままの《竜意圏》には全力で逃げようとする姿がはっきりと写っていたので、《竜尾剣》を伸ばしてその片足を切断した。
そうして相手が倒れ込んだところに剣尾を操作して、残っているもう片足を貫き地面に縫い付けた…………これでログアウトも出来ないでしょ。
…………さて、後はティアンの方だね。そう思って振り向くと、
「ヒィイ⁉︎」
「ごめんなさいィ‼︎」
「騎士様ァ! 投降するので命だけはお助けをォォ⁉︎」
私がそちらを向いた瞬間、一人は腰を抜かし、もう一人は地面にうずくまり、最後の一人に至ってはリリアーナさんに泣きついていた…………あれぇ?
「…………どういう……事だ……?」
「…………どうもこうも無く当然……」
「…………姉様、目の前であんな残虐ファイトを見せられたら、心が折れるのも無理はないかと……」
『正直、無理もないね』
えー、殺さない様に手加減したのに〜。問答無用でミンチとかにはしてないのに〜。
「リリアーナ殿! これは一体何が⁉︎」
「え、えーと……これはですね……」
すると、さっき見張り騎士の一人が路地裏に駆け込んで来た…………流石にこれだけ騒ぎを起こせば気づくよね。
じゃあ、この<マスター>達はどうするかな、と考えていると…………その二人の身体が光の粒子に変わり、代わりに大量のアイテムがばら撒かれた。
「自害したんだ。…………まあ、<マスター>を拘束し続けるのは難しいし、これで良いかな」
◇
あの後、リリアーナさんからの連絡を受けた騎士団の人達がすぐに駆けつけて、三人の誘拐犯は御用となった。
そして…………、
「お姉ちゃん!」
「レフィ!」
レフィちゃんとリファさんの姉妹も無事再開する事が出来たのだった…………やっぱり姉妹は一緒に居ないとね。
…………そんな事を考えている私に一人の人物が近づいてきた。
「やあミュウくん、久しぶりだね。…………今回は行方不明事件を解決してくれて感謝する」
「リヒトさんも久しぶりですね。今回は人探しのクエストを受けたついでだったので、そんなに気にしなくて良いですよ」
そう、私とお兄ちゃんがこの世界で初めて会ったティアン、アルター王国第一騎士団の団長リヒトさんである。
「それでも、君達が騎士団が調べていた事件を解決した事に変わりは無いからね。騎士団としても何もしない訳にはいかないよ。後で報酬を用意しよう、何か要望はあるかな?」
「別に私は特に欲しい物は無いので、普通にお金とかで良いですよ。…………二人はどうする?」
とりあえずミュウちゃんと葵ちゃんにも聞いてみた。
「…………いえ姉様……私は今回本当に何もしていないので……」
「…………私も……」
「んー、そんなに気にしなくていいのに。私だって今回は適当に【ギガース】を振り回しただけだし。…………それにこういうのは相手の顔を建てる事も必要だから、何か受け取った方がいいよ?」
実際、リリアーナさんが協力していたとは言え、事件を解決した<マスター>達に何もしないのは騎士団としても肩身が狭いだろうし。
「…………じゃあ【墓標迷宮探索許可証】が欲しいのです」
「…………私もそれで……」
「分かった、【許可証】二枚と金一封を用意しよう。後で騎士団の詰所で受け取ってくれ」
そう言うと、リヒトさんは騎士達の元に戻っていった。
…………そして入れ替わりにレフィちゃんがこっちに来た。
「あの! 今日はお姉ちゃんを助けてくれて本当にありがとうございました! その…………これはお礼です」
すると彼女は私達に三つの花束を手渡した。
「えっと…………うちはお花屋さんをやってるので…………その、こんな物しかないけど……」
「いーや、十分だよレフィちゃん」
「とても嬉しいのです!」
「…………うん、とても綺麗……」
そうして私達はその花束を受け取った。
【クエスト【探し人──レフィ・シュタイン】を達成しました】
クエストも達成したし、今回はこれで一件落着って事で!
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
妹:今回の探偵役(直感&物理)
・【ギガース】の効果が発揮される範囲は以外と広く、ダメージ減少系や防御に使われている魔法、スライムやスピリットの特性、【救命のブローチ】や《ライフリンク》などの身代わり系にも適応される。
・今回空間が破壊されたのは『空間を隔絶させるスキル』の効果が減衰し無くなった為、亜空間を維持できなくなったから。
・ステータス上昇アクセサリーは【ラーゼクター】にやられて以来、強敵への対策の一つとして買い集めていた。
【尾竜剣鎧 ドラグテイル】:妹は《竜尾剣》の扱いにも大分慣れた
・第二スキル《竜意圏》の解放条件は“合計レベル250以上”及び“《竜尾剣》で300体以上の相手を倒す”であった。
・このスキルは地龍種の竜王であった【ドラグテイル】が開発した重力属性のスキルであり、主に質量や重さなどで物体の位置を把握している。
・その副産物として空間が歪むなどして重力が変動していると、それをノイズとして感知する事も出来る。
・《竜意圏》はSPを継続消費するスキルだが、感知するだけなので消費は少ない。
・ちなみに人間態と竜人態で体格が大きく変わる【龍帝】に合わせて、鎧のサイズは自由に調整出来る特殊な構造をしており、妹が装備出来るのもそのおかげである。
リリアーナさん:今後も<マスター>にはよく振り回される事になる
・原作からデンドロ内で約六年前なので、現在は十四歳ぐらい。
・今は第一騎士団で新人騎士として修行中で、まだ【聖騎士】には就いていない。
・その理由は「単独で亜竜級を倒せるぐらいの実力を持ってから【聖騎士】に就くべし」という父親の教育方針。
・そこには次期【天騎士】になってほしいという期待もある。
誘拐犯達:実はとある非合法組織の末端
・最近増えてきた<マスター>を利用して組織の拡大を狙っていた。
・今回の事件は<マスター>がどの程度使えるのかを測るための試みの一つ。
・ちなみに自害した<マスター>は王国で指名手配されたので“監獄”行き。
【秘匿領域 アガルタ】:<マスター>誘拐犯Aの<エンブリオ>
・物体の内部に居住用亜空間を作る<エンブリオ>。
・現実と亜空間は隔離されており通常の方法では感知出来ず、マスターが認めたモノしか出入り出来ない。
・展開と解除には時間がかかり、解除時に内部に物体がある場合には自動で外に排出される。
【消失天衣 カミカクシ】:<マスター>誘拐犯Bの<エンブリオ>
・自身の姿・音・匂いを隠蔽する外套型<エンブリオ>。
・自身に接触しているモノにも効果を及ぼせるが、その質量には限界がある。
リヒトさん:久しぶりに登場
・今回の件で<マスター>が犯す犯罪を解決するには、同じ<マスター>の力が必要だと改めて思った。
・だが、どこぞの悪いスライムとかのせいで騎士団内に<マスター>に嫌悪感を抱く者が増えているので、その調整に苦労している。
・騎士団は今回捕まえた連中の証言を基に、行方不明者を全員救出する事に成功している。
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<墓標迷宮>パートⅡ
それでは本編をどうぞ。
3/22 召喚関連の文章を加筆・修正しました。
□王都アルテア墓地区画 【
「おー、ここが<墓標迷宮>なのですね。実に雰囲気が出ているのです」
『確かに名前負けはしていないね』
どうも、先日俺が魔石職人ギルドに行っている間に妹達は何かの事件を解決したらしく、その報酬としてミュウちゃんは騎士団から【墓標迷宮探索許可証】を受け取ったらしい。
故に、せっかく貰ったのだからと三人で<墓標迷宮>を訪れたのだった。
「葵ちゃんも誘ったのですが、予定が合わなかったのは残念なのです」
「まあ、人にはそれぞれ予定があるから仕方ないだろう」
「そうそう。…………今回はミュウちゃんがいるから最初からだよね?」
「ああ、ボス部屋へのワープはボスを倒した人間以外は使えないからな」
今回は<墓標迷宮>初めてのミュウちゃんがいるので最初からの攻略になる。
…………まあ、今の俺達が五階層までで苦戦する事は無いだろう。
「じゃあ行きましょうなのです!
『ああ、任せてくれミュウ!』
こうしてミュウちゃんにとっては初めての、俺とミカにとっては何回目かの<墓標迷宮>探索が始まった。
◇
「《ホーリーランス》」
「《ソニックフィスト》!」
「《インフェルノ・ストライク》! …………よしっ! ボス撃破!」
そして今、俺達は第五階層のボス【スカルレス・セブンハンド・カットラス】を倒したところである…………いや、ここまでボス以外は俺が適当に聖属性魔法を使うだけでも突破出来るからな。
それにミュウちゃんも、フェイのスキルのレベルが上がった事でステータスとラーニングした魔法の効果が上がっているので、道中の雑魚相手になら特に問題は無かったし…………強いて言うならミュウちゃんがゾンビを素手で殴るのを嫌がったぐらいだな。
「あっ! 兄様、今の戦闘で【
「そうか、おめでとうミュウちゃん。ここに来る前に次のジョブには就いてきたんだよな?」
「はい、兄様に言われていたので【
「じゃあ、この【ジョブクリスタル・ロッド】でメインジョブを変更するといい」
そう言って俺はミュウちゃんに【ロッド】を手渡した…………ちなみに俺も道中【付与術師】をカンストしたので、メインジョブを【
そうしていると、ミカがドロップアイテムを回収してこちらにやってきた。
「ミュウちゃん、面白いアイテムが落ちたからあげるよ、【身代わり竜鱗】ってやつ」
「良いのですか?」
「うん。私は攻撃にはほとんど当たらないし…………良いよねお兄ちゃん?」
「ああ。その手のアイテムは前衛のお前達で持っていればいいだろう」
「ありがとうなのです。…………でも、新スキルを使う場面は中々来ないのです」
『しょうがないよミュウ。僕の覚えた新スキルは使い所が難しいからね』
確かにミュウちゃんの新スキルは色々と使用後にデメリットがあるからな、その分効果は強力だが。
さて、準備が終わったところで第六階層に降りるか。
◇
「さて、<墓標迷宮>の様相は五階層毎に変わるからな。ここからはアンデットは出ない」
「じゃあ何が出るのです?」
「それは…………あいつらだ」
通路の先から現れたのは【リトルストーンゴーレム】と【ファイアエレメンタル】の集団だった。
…………そう、この第六階層からはエレメンタル系モンスターの巣窟である。物理防御に長けたゴーレム系と魔法攻撃に長けたエレメンタル系のモンスターが徒党を組んで来るので、上の階と比べると難易度がかなり上がっている。
また、この階層からはランダムトラップが増えるので、感知・罠解除スキルが無いと酷い目にあう事になる。
「ミカとミュウちゃんはゴーレムを、フェイは俺とエレメンタルを《アクアバレット》」
「オッケー《竜尾剣》《スマッシュメイス》!」
「分かったのです《ストライクフィスト》!」
『分かった《ウインドカッター》!』
まず、俺の放った《詠唱》付きの水魔法が【ファイアエレメンタル】を一体消し去った。そこにミカが剣尾を伸ばしてゴーレムの一体を貫き、もう一体をメイスで砕いた。
さらにミュウちゃんがゴーレムの一体を一撃の威力が高い格闘スキルで殴り飛ばし、フェイが風魔法でエレメンタルの一体を倒した。
…………まだモンスターのステータス自体は五階層までのものに毛が生えたぐらいだからな、今の俺達ならそう苦戦はしないか。
「とはいえエレメンタルに魔法を撃たれたら厄介だしな、先に潰すか《ウォーターランス》」
俺は残りのエレメンタルを《詠唱》付きの水の槍で一掃した。
そうした事で魔法を警戒する必要が無くなった妹達の動きが良くなり、その後ゴーレムを倒すのにさして時間はかからなかった。
◆◇◆
■<墓標迷宮> ???
ソレは<墓標迷宮>の様々な階層を
『…………』
ソレが
『…………』
その為にソレの身体は人間が使う武器や魔法を受け付けず、この迷宮の壁や床をすり抜ける事が出来た。
更にその両手の刃で付けた傷は、ソレが生きて近くにいる間は決して癒えないという特性もあった。
『…………』
今もソレは自身の同類たるエレメンタルのモンスターがいる階層を徘徊しており、そこにいた三人の人間を獲物として狙っていた。
『…………』
…………ソレはまず
◇◆◇
□<墓標迷宮> 【
あの後、第六・七階層を順調に探索し終えた私達は第八階層を歩いていた。
モンスターに関してはエレメンタル系を先に倒せばなんとかなるし、トラップも私の直感とお兄ちゃんの【
「<墓標迷宮>に潜るのは初めてでしたが、中々変わったところですね」
「神造ダンジョンはね〜。
…………おっと、久しぶりに直感にかなり危険な反応があったね。
このあたりの階層には稀に亜竜級のモンスターも徘徊してるって話だけど、そんなレベルじゃないね…………これは【ラーゼクター】の時のやつに近いかな?
「お兄ちゃん、何か来るよ…………それも、かなり危険なヤツ。《竜意圏》」
「全員、全集警戒! 《召喚》──バルンガ、ブロン」
「分かったのです!」
『分かった!』
その言葉と共に、お兄ちゃんは武器を弓に持ち替え本気の装備になり、【ホースゴーレム】のブロンと【バルーンゴーレム】のバルンガを召喚して周辺を警戒させた。
そして、ミュウちゃんとフェイちゃんも真剣な表情で周りを警戒し始めた。
私の《竜意圏》にも怪しい反応は無いけど、直感では危険が来ると言っているね…………来た!
「ミュウちゃん右! 《竜尾剣》!」
『…………!』
「《ストライクフィスト》!」
ミュウちゃんの
その迎撃に怯んだ相手に、ミュウちゃんは威力に長けたアクティブスキルによる拳を放ち、相手を吹き飛ばしつつ距離を取った。
『ミュウ! 《ファイアーボール》!』
「《ハンティングスナイプ》! 」
『…………』
そこにフェイちゃんの火球とお兄ちゃんの矢が放たれた…………が、放たれた火球と矢は相手にあたらず
『魔法が擦り抜けた⁉︎』
「じゃあ行け、お前たち。…………俺の矢も擦り抜けたが、ミュウちゃんの攻撃は当たっていたな…………そういう事か《オール・エンチャント・アジリティ》!」
『…………‼︎』
フェイちゃんは動揺したものの、お兄ちゃんはさして動揺せずに召喚されたモンスター達をけしかけて、更に《詠唱》付き全体AGIバフを掛けた。
だが、それらのモンスターは即座に相手に切り裂かれていった…………が、相手を観察する時間は稼いでくれたね。
「【暗殺黒晶 ブラックォーツ】<
「こちらの各種索敵スキルにも反応無し、おそらく目視でしか観測出来ないのだろう《オール・エンチャント・ストレングス》…………あと、さっきの攻防から考えて
「兄様達凄い冷静なのです。…………でも大体分かったのです、フェイ」
『ああ……《エンチャント・アジリティ》』
その【ブラックォーツ】の見た目は黒い水晶を二メートルぐらいの人型にした感じで、両手は鋭い剣の様にになっていた。今もその剣で向かって来たバルンガを切り裂いており、その速度は亜音速を超えている。
…………でもヤツからは音が一切しないね。光学的な観測以外は無効にして生物特攻の闇属性攻撃を使う、文字通り暗殺者ってコンセプトなのかな。
あと、ミュウちゃん達への説明中にもお兄ちゃんは《詠唱》付き全体バフを掛けていた…………相変わらずやる事に無駄がないね。
「あと、アイツの攻撃は受けたらかなり危険だと思う…………でも【ラーゼクター】程どうしようもないって訳じゃ無いから勝ちの目はあるよ」
「分かった。《
「《アクセラレイション》《竜尾剣》!」
『…………!』
まず、お兄ちゃんがSTR・END・AGI・DEXの全体バフ魔法を合成したオリジナルスキルを強化した上で発動し、私もアクセサリーのAGI上昇スキルを使った上で、その速度が音速に達した剣尾を放った。
これが私とお兄ちゃんが編み出した<UBM>対策の1つ、“ステータスで上回られたなら更にステータスを強化すれば良い”作戦である! …………正直、作戦とは言えないぐらい脳筋な方法だとは分かってるけどね。
しかし、ヤツも最初の攻防で私の攻撃は擦り抜けられないと判断したのか、その剣尾を回避した…………先にフェイちゃんの単体バフを受けたミュウちゃんが接近していた。
『《エコー・オブ・トゥワイス》!』
「《ソニックフィスト》!」
『…………⁉︎』
それをヤツは迎撃しようとしたが…………その直前にフェイちゃんが使った新スキルの効果で
これがフェイちゃんが第二形態になって覚えた固有スキル《エコー・オブ・トゥワイス》の効果──五分間の間、自身にかかっているバフ効果を倍にする効果である。それによりステータスが強化されたミュウちゃんは、自身の技術もあって亜音速以上で動く相手にも攻撃を当てられるようになっている。
ただし、このスキルには一時間のクールタイムが設定されており、更に効果終了時、自身に掛かっているアクティブスキルによるバフ効果を無効にするデメリットがあるので使いどころを選ぶものになっている。
…………おっと、不利だと判断したからか床を透過して逃げようとしてるね。そうはさせないけど。
「逃がさないよ」
『…………⁈』
それを先読みしていた私は《竜尾剣》を引き戻してヤツを背後から串刺しにし、【ギガース】のスキルで透過の発動を無効化した。
…………最近、私の直感の精度や範囲が上昇しているみたいなんだよね。それがアバターのステータスやスキルの所為なのか、それともこの世界での経験によって直感自体が成長している所為なのかは分からないけど…………まあ、思う所が色々あるけど今は頼りにさせて貰うよ。
そうして、そのまま剣尾を絡めて無理矢理こちら側に引っ張りつつ、私もヤツに向けて突っ込んだ。
『…………⁉︎』
「《インフェルノ・ストライク》!」
剣尾に引っ張られて完全に体制が崩れたヤツは、それでもこちらに向かって両手の剣を振るってきた。
だが、その軌道を
…………やっぱり技量は対した事ないね。あの【ラーゼクター】みたいに
そして砕かれ拘束から外れたヤツは床に転がり…………そのまま床の中に沈み込んだ。
…………逃げようとしているみたいだね、読めてるけど。
「《グラウンド・ストライク》!」
『…………⁉︎』
私は即座にヤツが沈み込んだ場所に、
…………その攻撃に身体が砕けていた【ブラックォーツ】は耐えられなかったみたいで、
【<UBM>【暗殺黒晶 ブラックォーツ】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【ミカ】がMVPに選出されました】
【【ミカ】にMVP特典【黒晶耳飾 ブラックォーツ】を贈与します】
そのアナウンスにより【ブラックォーツ】の討伐が私達に知らされたのだった。
◇
「おー、初MVPだ。やったぜ」
「ハイハイ、おめでとさん。まあ今回はお前の独壇場だったしな」
「おめでとうなのです、姉様」
『おめでとうミカさん』
まあ今回は相手との相性が良かったから、特に苦戦する事は無かったかな。奇襲も特殊防御も私には意味が無いし。
…………とりあえずゲットした特典武具の性能を確認しようか!
…………ふむふむ…………。
「えっと
イアリングとしては黒い水晶が付いた二つひと組のやつで、耳に穴を開けないお肌に優しいタイプだね。
スキルの《闇纏》は、SPを消費して装備者への生物による直接干渉以外の攻撃・効果を最大十秒間だけ透過できる様になるみたい。でもクールタイムが十分間もあるから使い所が重要かな。
もう一つの《不治呪瘴》は、装備者の攻撃を受けた相手に【再生阻害】の呪怨系状態異常を与えるアクティブスキルだね。SPを消費して一定の時間、自身に効果を付与出来るみたい。
「中々いい感じだね! 特にAGIの上昇は有り難いよ」
「それは良かったな。…………で、これからどうする?」
「うーん…………正直結構疲れたから今日はこれで終わりにしたいな。特典武具を手に入れたしね。ミュウちゃんは?」
「私もしばらくスキルが使えないので、今日はこれ終わりで良いのです」
「それじゃあ今日はもう終わりにするか。さっさと地上に戻るぞ」
そうして話し合った結果、私達は<墓標迷宮>を出て地上に戻ることになった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:今回は敵との相性が良く無かったので支援に徹した
・【バルーンゴーレム】は月一召喚ガチャで新しく引いたモンスター。
妹:今回初MVP
・初見殺しやら理不尽防御やらをしてくる相手にはめっぽう強い。
・ステータスさえ十分なら、その手の<UBM>に対しては優勢に戦える。
《インフェルノ・ストライク》:【戦棍鬼】の奥義
・豪炎を纏ったメイスで相手を殴りつけるアクティブスキル。
・威力は非常に高いが、その分SP消費が多くクールタイムもかなり長い。
末妹&フェイ:今回第二形態に進化
・これにより《エール・トゥ・ザ・ブレッシング》の強化割合及び魔法系ダメージ減算割合が15%になった。
・ラーニング魔法も順調に増えている。
《エコー・オブ・トゥワイス》:フェイの第三スキル
・一定時間自身に掛かるバフ効果を倍にするスキル。
・効果時間は五分、クールタイムは一時間、効果終了後アクティブのバフ効果がキャンセルされる。
・発動条件としてマスターの右手・左手の装備欄が空いている事が必要。
・バフの倍加は10%の強化が20%になるという形式で行われる。
・効果範囲はジョブ・<エンブリオ>・装備のスキルのみが対象であり、装備補正は対象外。
・まだレベルとステータスが低いせいでバフ効果を活かしきれていないので、今後の成長に期待。
【
・殴る・蹴る・投げるなど徒手格闘全般に補正が入るが、個々の補正は専門のジョブと比べると低い。
・多くの種類の格闘系スキルを覚えるがスキルレベルの最大値は低い。
【暗殺黒晶 ブラックォーツ】:<墓標迷宮>内の各階層を徘徊するタイプの逸話級<UBM>
・闇属性のエレメンタルで、迷宮内の侵入者を対象として暗殺するコンセプトでデザインされた。
・パッシブスキル《黒暗形》により自身が発する光学以外の情報を遮断し、あらゆる感知系スキルを無効化する。
・その身体はスキル《闇纏身晶》により生物以外の物質を自在に透過し、両手の剣は闇属性の非常に高い攻撃力を有する。
・また自身が負わせた傷に【再生阻害】を与えるスキル《不治呪瘴》により殺傷能力を高めている。
・これらのスキルを組み合わせて壁抜けからの奇襲を行なったり、【再生阻害】を与えて不利になったら壁や床を擦り抜けて逃げるといった戦術をとる。
・だが強力なスキルを複数持つ分ステータスに問題を抱えており、AGIは亜音速を超えるがHP・ENDが低くなっている。
・なので、それらの特性が通じない妹には逃げる事も出来ずに割とあっさり粉砕された。
【黒晶耳飾 ブラックォーツ》:妹の二つ目の特典武具
・《闇纏》は自身への攻撃や効果のみが対象となる為、壁抜けなどは出来なくなっている。
・また、効果使用中は自身も生身以外で他者への攻撃や効果による干渉が出来なくなるが、効果自体は任意で解除可能。
・《不治呪瘴》は持続時間が短く、【再生阻害】も元の効果と比べると強度が落ちている。
【再生阻害】:本作オリジナル呪怨系状態異常
・この効果が付与された傷によるHPの減少と傷痍系状態異常が回復しにくくなる。
・効果が付与された傷と付与されていない傷が混在している場合、付与されていない傷は回復出来る。
<墓標迷宮>:六階層以降は本作オリジナル
・アンデッドとエレメンタルは食事が不要で維持がしやすいから消耗が激しい上層に配置されている、という裏設定がある。
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兄の超級職
それでは本編をどうぞ。
※2/2 原作のラーニング新情報に合わせて、あとがきのフェイの説明文の内容を一部変更しました。
※3/12 メタル系モンスターが希少という情報が出て来たのでボスモンスターの設定を変更しました。
□王都アルテア 【
本日、俺は王都で【魔石職人】としてのジョブクエストをやり終わって、適当な喫茶店で妹達と一緒にくつろいでいた。
…………もうそろそろ【魔石職人】もカンスト出来そうだし、その上級職の【
今はお茶菓子を食べ終わって、《
「それで? もうそろそろ夏休みは終わりそうだが、現実の方の準備はいいのか? 宿題とか」
「宿題は大体終わってるし、新学期の準備も順調だよ」
「私も大丈夫なのです。…………ただ、デンドロをやる時間は減ると思うのです……」
「それはしょうがない。リアル優先だしな」
『そうだよ、ミュウ』
俺も夏季休講が終わって大学が始まるから、ログイン時間が減るだろうしな。
…………うーむ、このスキルはコッチの調整の方がいいか……? むしろコッチのスキルを組み合わせて…………。
「お兄ちゃん、本当にマメにスキル開発するねー」
「正直、組み合わせと調整範囲が多すぎて終わりが見えないからな。こういうのは徹底して試行回数を重ねないと」
「兄様は本当にマメなのです」
…………本音を言うと、こうやって地道に細かい努力を重ねて行かないとすぐに
…………少し話を変えるか。
「ところでミカ、先日手に入れた特典武具の使い心地はどうなんだ?」
「うーん、AGI補正はいい感じなんだけどねー。…………スキルの方はモンスター相手じゃ強さを感じずらいかな。どちらかにというと対人や強敵相手に真価を発揮するタイプかな?」
まあ、モンスターは生身での攻撃がメインだから《闇纏》は使いにくいだろうし、ミカの場合雑魚はほぼ一撃で倒してしまうから【再生阻害】が活きる場面も少ないか。
…………とは言っても、ミカに緊急回避スキルとか組み合わせちゃいけないモノの筆頭だしなぁ。お陰で広域殲滅系の魔法もほぼ効かなくなったし。
もう一つの《不治呪瘴》も【ギガース】で対応出来なかった回復系能力を妨害出来るから相性は良いだろう。
そんなことを考えていると、ミュウちゃんが話出した。
「やっぱり兄様と姉様は凄いのです。それにこの前の<
『その意気だよミュウ! 僕も第三形態に進化出来たしこれからだよ!』
そんな感じでミュウちゃんとフェイが決意を新たにしていた…………いや、ステータスで圧倒的に勝る【ブラックォーツ】相手に当たり前のように攻撃を当てていた様な……?
あと、第三形態に進化したフェイだが新しいスキルは覚えず、既存スキルの強化とステータス補正の上昇のみの変化となっている…………自身にバフをかけて戦うミュウちゃんにとっては、バフの元になるステータスを上げた方が有効だからそういう進化になったんだろう。
「いや〜ミュウちゃん、燃えてるね〜」
「…………そう言うなら、これからレベリングも兼ねて<墓標迷宮>にでも行くか?」
五階層までは俺の【
そう考えつつ、俺はオリジナルスキルの開発と調整を終わらせた…………のだが、
【武術系・魔法系・生産系を含むオリジナルスキルの五十種類開発を達成しました】
【条件解放により【
【詳細は各種クリスタルでご確認ください】
…………突如、そんなアナウンスが俺の元に届いた。
「…………………………ファッ⁉︎」
「うぉぅ! ビックリした〜。…………どうしたのお兄ちゃん?」
「一体どうしたのです兄様⁉︎」
えー…………とー…………、って周りが凄くこっちを見てるな…………驚いて変な声出たからな…………。
「…………とりあえずさっさと会計を済ませてここを離れるぞ」
「は、はい……」
「お騒がせしました〜」
俺達は周りから奇異の視線を向けられながら、慌てて喫茶店から出て行った。
◇
喫茶店から出た俺達は急いで人気の無いところに集まっていた。
「それでお兄ちゃん、本当に何があったの? あんな変な声を出すなんて只事じゃないでしょ」
「…………本当にどうしたのです? 兄様」
「ああ。…………さっき急に“超級職の転職条件を満たしました”というアナウンスがあってな…………それでつい驚いてあんな声を出してしまったんだ。…………驚かせて悪かったな」
何分、超級職について悩んでいたから余計に驚いてしまったしな…………。
「えーと…………とりあえずおめでとうなのです? 兄様」
「…………なんか妙にあっさり達成出来たね。超級職ってもっと就くのが難しいものだと思ってたけど。…………それで? どんな条件だったの?」
「条件は『武術系・魔法系・生産系含むオリジナルスキル五十種類開発を達成』だったな。…………正直、これは《百芸創主》の仕様上のバグじゃないのか?」
本来オリジナルスキルと言うのは、才能があるティアンが一生に一つ作れるかどうかのものだと聞いている。それを武術系・魔法系・生産系含めて五十種類開発すると言う条件は、確かに難易度としては非常に高いモノだと言えるだろう。
だが、俺の《百芸創主》で作られたスキルは《
「そのせいで、今までの《百芸創主》によるスキルの開発と調整が、『オリジナルスキルを開発した』とシステムに認識されたのではないか? …………本来ならあんなショボいスキルがオリジナルスキルとして認められないと思うしな」
「んー、そう考えれば辻褄が合わなくもないかな?」
「でも、そういうのは修正されたりしないのです?」
…………まあ、普通のゲームなら修正案件かもしれないがな。
「この<Infinite Dendrogram>でそういう修正とかは無いと思うよ」
「そうだな。…………そもそもこのゲームに修正というシステムがあるのかも怪しいしな…………」
「?」
「まあ特に気にすることは無いって事だよ」
…………まあ、俺達には特に関係の無い話だろうしな。
「とりあえず、せっかく条件満たしたんだしさっさと取っちゃえば?」
「…………まだ、転職の試練があるから取れるとは限らないんだが……」
「兄様ならきっと大丈夫なのです!」
「それに試練を受けるだけならタダだしね、もっと気楽に行けば? 所詮私達にとってはゲームのジョブだしねー」
…………まあそれもそうか。以前から気にしていた超級職の事だから少し神経質になっていた様だな。
「じゃあちょっと超級職の試練を受けに行ってくるよ」
「いってらっしゃーい」
「頑張ってなのですー」
『頑張ってねー』
◇
とりあえず俺はあまり人が来ない冒険者ギルドのジョブクリスタルに来ていた。
…………各種クリスタルとアナウンスでは言っていたから、おそらくどのクリスタルでもいいと思うんだが。
「…………成る程、これでいいみたいだな」
クリスタルに触れて就けるジョブに一覧を見ると、その中に【技神】の選択肢もあった。
…………だが、他のジョブと違って色が薄いな、まだ条件を全て満たしていないからか?
とりあえずその選択肢に触れてみると、
【転職の試練に挑みますか?】
という表示が出た。
「Yesで」
そう答えると俺は奇妙な空間に飛ばされていた。
「ここは……」
そこには目の前に大きな決闘場の様なものがあった…………というよりギデオンで見た舞台にそっくりだな。
そして、そのそばには一つの石版があり、そこにはこう記されていた。
【先代【技神】の再現体を決闘で打倒する、又は生産において【技神】の同等以上の作品を造り提示せよ】
【成功すれば、次代の【技神】の座を与える】
【失敗すれば、次に試練を受けられるのは一カ月後である】
【決闘か生産かを選び舞台へ上がれ】
「…………成る程ね。まあ技の神と言うぐらいだし、相応しい
俺の生産技能なんて少し【ジェム】が作れるぐらいだからな、まだ決闘の方がいいだろう。
そうして、俺は戦闘用の装備に変更してから舞台に上がった。
「それで相手は……⁉︎」
すると舞台の反対側に腰に一本の刀を挿した壮年の男性が現れた。
…………この時点で俺はこの先の展開を察してしまった。
(あ、これ無r)
次の瞬間、その男性の刀に添えられた手がほんの僅かに霞んだ様に見え…………気付いた時には、既に俺の身体はコマ切れにされていた。
◇
「ウボァぁぁぁ…………」
「…………え、えーと…………大丈夫ですか兄様」
「転職の試練に失敗したの?」
あの後、試練に失敗した俺は冒険者ギルドの一角にある机で突っ伏していた。幸いなことに試練の空間はギデオンの闘技場と同じ仕組みだったのでデスペナはしていないが。
…………いや、あんなバグっぽい方法で条件を満たしたから試練に失敗することは想定していたし、今回はどんな試練なのか様子見するぐらいのつもりだったんだけど…………。
「…………正直【技神】に就くの無理じゃね?」
「そんなに難しい試練だったの?」
「…………まあ、改めて【技神】の転職条件を考えれば、ああいう難易度なのも納得なんだが……」
つまり<エンブリオ>などというズルが出来ないティアンが【技神】に就くことがどういう意味なのか、という事何だよなぁ。
「才能があるティアンが一生に一つ作れればいいオリジナルスキルを、
「…………そんなに凄い人だったのです?」
「…………これでも俺はお前達も含めてそれなりの数の規格外な才能の持ち主を見てきたつもりだが…………先代【技神】ははっきり言ってケタが違う」
正直、俺程度ではその才能を測る事すら出来ないレベルだ。はっきり言って勝ちの目が微塵も無い。
…………ちなみに最後、コマ切れにされながらも《看破》を使ってみたがレベルもステータスも全て見えなかった。
「お兄ちゃんはまだレベルを上げられるけど……」
「…………俺があと何千何万レベルを上げても勝てる気がしない」
「じゃあ生産の方はどうなんです?」
「…………先代【技神】が持っていた刀からは古代伝説級武具の【ドラグテイル】を遥かに超える威圧感を感じた…………おそらく先代【技神】が自分で作った刀、という展開だろうな」
結論、戦闘でも生産でも勝ちの目が無い。
…………<エンブリオ>によるインチキによって、なんちゃってオリジナルスキルを作った程度で就かせる気など無い! …………という鋼の意思を感じる…………。
「…………じゃあ兄様は【技神】を諦めるのです?」
「いや、これからも挑戦は続けていこうと思う。…………この世界でなら何か才能を覆す方法があるかもしれないし」
「お兄ちゃんは負けず嫌いだからね〜」
あの先代【技神】を倒すにはそれ以上の才能を持っているか、
…………俺の【ルー】にはそういう理不尽さがある様な<エンブリオ>ではないしな。今後の進化時に新規スキルを習得出来ないのも足を引っ張っているし。
やっぱり魔法かな、それも自分が死んだ瞬間に闘技場全体を消し飛ばす感じのやつとか。それと【
じゃあ、《百芸創主》だけでは難しいし…………どうせ【技神】を目指すなら<エンブリオ>に頼らないオリジナルスキルの自力作成にも挑戦してみるか? ミレーユさんもある程度熟練した魔術師ならスキルに頼らない魔法の調整が出来ると言っていたし…………。
「まあ、色々試行錯誤してみよう。まずはレベリングだな、とりあえずジョブ枠を全て埋めよう。それと<エンブリオ>のさらなる進化に、あと技術の錬成も必要かな」
「その意気だよお兄ちゃん。まだまだデンドロの先は長いよ!」
「そうなのです! みんなでもっと強くなるのですよ!」
…………今までは妹達の面倒を見る事がメインでデンドロをやって来たが、どうせなら俺自身も明確な目標があった方がゲームは楽しめるだろう。
考えてみれば規格外な才能を持つ人間に勝つ事は昔からの目標だったしな。あの事故以来色々割り切って…………いや、諦めてしまったがこの世界でなら多少無茶をしても大丈夫だろう。
「そうだな。これからは【技神】への転職を目指して頑張ってみるとするか!」
…………これが俺にとって、この<Infinite Dendrogram>で初めて自分自身の明確な目標を持った瞬間だった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:兄の超級職(に就けるとは言っていない)
・【技神】を目指す言ったが、まともな方法で先代【技神】に勝てるとも思っていない。
・なのでこれからレベリングなどと並行して、まともじゃ無い方法を探す予定。
妹達:兄が目標を持ってくれて良かったと思っている
・自分達の事ばかり考えてる兄には、多少思うところがあった。
・ちなみに妹は既に【
フェイ:第三形態に進化した
・スキルに関しては《エール・トゥ・ザ・ブレッシング》のレベルが三になった事が強化点。
・この進化は数多くの魔法をラーニング出来た事でリソースが圧迫された事と、末妹がステータスの高い兄妹に早く追いつきたいと思った事が原因。
【ガーディアン・エレメンタルゴーレム】:<墓標迷宮>十階層ボス
・高いENDと各種防御系スキルを持つ典型的な耐久型ボスモンスターで、取り巻きとして各種エレメンタルを召喚してくる。
・だがAGIが低いので高いENDや防御スキルを無視出来る妹にとっては、高級な属性素材を落とすサンドバッグ扱いになっている。
・取り巻きのエレメンタルも兄と末妹に蹴散らされている。
【
・スキル特化型の【神】の中でも『ジョブスキル』を運用することに特化している。
・転職条件としては“全てのジョブ及びジョブスキルへの適正”と“あらゆる種類のオリジナルスキルを作る才能”を要求する。
・兄は前者を<マスター>としての適正で、後者を<エンブリオ>の特性でクリアして転職の試練に挑む事が出来た。
・【神】でありながら【技神】自体のスキルは奥義一つだけで、ステータスも超級職としてはあまり上がらない(上級職の平均より少し上ぐらい)
・だが【技神】自体の特性として、歴代の【技神】が作ったオリジナルスキル全てがジョブスキルとして記録されている…………が、それらのスキルを習得するには作成者と同等以上の技術が必要になる。
・複数の【神】系ジョブに就いたハイエンドが就く事を想定されたジョブ。
先代【技神】:【覇王】や先々代【龍帝】と同じハイエンドのティアン人外枠
・フラグマンがいた先々期文明時代よりも更に古い時代にいたハイエンド。
・その生涯で【技神】含め七つの超級職に就いていて(内訳は【技神】【刀神】【抜刀神】【斬神】【超闘士】【地神】【鍛治王】)合計レベルは三千ぐらい。
・先々期文明時にも転職条件は分かっていたが、誰も試練での再現体を倒せずに実質ロストジョブになっていた。
・基本的に剣技がメイン(【地神】と【鍛治王】は自分で使う刀を作るのに必要だからとりあえず就いた)
・オリジナルスキルを使って作り上げた刀の性能は、武器としてなら【グローリアα】と同等以上。
・兄をコマ切れにしたのは、
・その生涯をほぼ技量の研鑽にのみ費やしていた為、先々期文明時代にも記録はほとんど残っていなかった。
・試練に登場したのは再現体である為か本物よりも実力は劣化しており、大体平均的な
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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兄妹と生産職
それでは本編をどうぞ。
□王都アルテア 【
あの【
その結果、メインジョブにしていた【
他にも魔石職人ギルドのクエストを積極的にこなしていった結果、【
…………そこまで出来た時点で夏季休講が終わり、大学が始まったのである。
「まあ、学校が始まる前にそこまで出来たのは上出来だったかな」
「学校が始まっちゃったら、これまでみたいな準廃人プレイは出来ないしねー」
「なのです」
…………流石に大学をサボってデンドロプレイ、なんて事は人として駄目だからな。大学に通わせて貰っている叔父さん達にも申し訳が立たないし。
「それに大学が始まっても、デンドロプレイに悪いことばかりではないさ。…………大学の同期生でデンドロをやっている人と知り合いになれたりしたからな。この夏季休講でデンドロをやり始めたヤツは結構いたし」
「それで、今はその知り合いになった人に会いに行ってるわけなのですね?」
「ああ、その人はこの王都アルテアでエドワードと言う名前の錬金術師をやっているらしくてな。他の生産職の<マスター>達とクランを作って商売をやっているから機会があれば訪れてくれ、と言われたからな」
何より生産系<マスター>と繋がりが持てれば、装備面やアイテム面で色々と便利だろうからな。
…………ちなみに大学でデンドロのサークルを作ろうかという話もあったが、今は保留にしている。
「私も生産系の<マスター>と知り合いになるのは悪くはないと思うよ」
「そういうこと。…………向こうも顧客を確保したいだろうしwinーwinの関係というやつだな」
「…………兄様はデンドロ友達が出来て良かったですね」
「そっちは違うのか?」
そう聞くと、二人は凄く微妙そうな表情を浮かべた。
「…………夏休みの間にデンドロをプレイしてみた、って子は結構居たんだけどねー」
「…………その多くが最初の戦闘で怖くなって辞めてしまったそうなのです」
「…………成る程な」
…………ああ、この二人が天災児だから忘れていたが、確かに普通の小学生にデンドロの戦闘はキツイか。
「でも続けている子もいたから、そういう子達とは友達になったよ。まあ、所属国はレジェンダリアやグランバロアや黄河だったけど」
「私のクラスメイトにも、天地所属でデンドロをやっている男の子がいたので友達になったのです。何でも、剣術をやっているので天地は肌に合っているらしいのです」
まあ、デンドロ関係で妹達に新しい友達が出来たのは良いことだろう。今後機会があれば他の国に行ってみるのも良いかもしれないな。
…………さて、確かこの辺りだと聞いたのだが。
「クランの名前は<プロデュース・ビルド>だったかな。皆もそう言う看板とかを探してくれ」
「分かったのです」
『分かったよ』
「…………でも、この辺り大分人気が少なくない?」
「…………人気の多い場所を借りられる様な金が無いらしいからな」
実際、言われた場所を訪れてみると…………こう言ってはあれだが王都の中でも寂れた場所だった。
…………この世界で自分の店舗を持つのは大変だろうからな、特に此方に居られるのが不定期な<マスター>にとっては。
そうやってしばらく探し回ってみるが…………。
「…………見つからないのです」
「もう少し詳しい場所を聞いておけば良かったか?」
「うーん…………あっ!」
正直見つからない様ならば大学で改めて場所を聞こうかと思い始めた時、ミカが何かを見つけた様だ。
その視線の先を見てみると、そこには六人の女性が歩いており、そのうち四人は
…………彼女達は…………。
「エルザちゃんだ! 久しぶり〜」
「えっ! ミカさん、レントさん。お久しぶりです!」
「ん? エルザの知り合いかな?」
やはりエルザちゃんと、その<エンブリオ>である【ワルキューレ】達だったか。最後に見た時より一人増えているな、おそらく進化したからだろう。
あと、一人初対面の女性が一緒にいるな。
「…………姉様。こちらの人達は一体誰なのです?」
「ああ! ミュウちゃんは初めて会うんだったね。この子はエルザちゃん、私とお兄ちゃんの友達だよ」
「始めまして、エルザ・ウインドベルと申します。彼女達は私の<エンブリオ>の【ワルキューレ】です。…………あとこちらは私の友人のターニャです」
「始めまして! ターニャ・メリアムだよ。…………ふーん、貴方達がエルザがよく話していたレントさんとミカさんなんだね〜。色々話を聞いてるよ〜」
「ちょっと! ターニャ!」
そう言いながら、エルザちゃんの友人だというターニャちゃんは俺とミカの事をニヤニヤしながら見つめていた…………一体どんな話を聞いたのやら、妙に顔を赤くしたエルザちゃんが彼女に縋り付いているし…………。
…………とりあえず俺達も自己紹介しておくか。
「始めまして、ミカです。よろしくね、ターニャちゃん!」
「ミカの兄のレントです」
「ミカ姉様とレント兄様の従妹のミュウなのです。コッチは私の<エンブリオ>のフェイなのです」
『ミュウの<エンブリオ>のフェイだよ、よろしくね』
…………そうやって一通りの自己紹介を済ませたところで、エルザちゃんがこちらに質問してきた。
「そう言えば、皆さんはどうしてこんな所にいるんですか?」
「ああ、この辺りにあると言われた<プロデュース・ビルド>という生産クランを探しているんだが……」
「え? ウチのクランに何か用があるんですか?」
そう言ったのはターニャちゃんだった…………どうもエドワードの生産仲間の一人は彼女だったらしい。
なので、ここに来る前の事情を一通り彼女に話してみると。
「成る程ねー。そう言う事なら私がクランのホームまで案内するよ! 私達も丁度向かうところだったしね」
「有り難い、そうしてくれると助かる」
「お礼はウチのクランで買い物でもしてくれればいいよー。…………出来ればそのまま固定客になってくれると嬉しいなー」
そうして俺達はターニャちゃんの案内で<プロデュース・ビルド>のホームに向かう事になった…………固定客になるかどうかは商品の内容次第だが。
◇
「はーい、ついたよー。ここが私達のクラン<プロデュース・ビルド>のホーム(仮)だよ〜」
「…………随分と分かりにくいところにあるな……」
そのホームはさっき探していた場所から、更に路地裏をいくつか曲がったところにあった…………正直、分かりにくすぎる。
…………一応、外の看板には<プロデュース・ビルド>の名前が書いてあったが…………外観はかなりボロい。
「いや〜、ウチはまだクランメンバー三人の零細クランだからねー。王都の表通りの土地とかは高すぎて買えなくて…………ここも賃貸だし」
「でも、三人共良い人達ですし、作っている物も高性能なんですよ」
「成る程、このデンドロで生産職をやるのも色々大変みたいだな」
「そーなんだよねー。…………おーい! エドワード〜あんたの客を連れてきたわよ〜」
そう言いながらターニャちゃんはホームの中に入って行ったので、俺達も続いて行った。
外と違って中は割と綺麗に片付けられており、中にあった机にはメガネを掛けた青年とガタイのいい男性が座っていた。
「ん? ターニャ、客だと?」
「そうよ〜。…………アンタ客を連れてくるんだったらホームの場所ぐらいしっかりと教えておきなさいよね!」
「ようエドワード。大学で話したと思うがレントだ。こっちは妹のミカとミュウちゃん」
「…………ひょっとして加と……じゃなくてレントか。こちらでは始めましてだな」
「なんじゃエドワードの知り合いか? わしはゲンジ、この二人と同じ<プロデュース・ビルド>のメンバーじゃ」
そうして俺達はお互いに自己紹介をして、それぞれの関係を確認しあった…………しかし、エドワードとエルザちゃんがこちらでは知り合いだったとはね、妙な偶然もあるものだな。
そうして話し合う内にミカとターニャちゃんがどうも意気投合したらしく、他の女子達と一緒に話し込み始めてしまった。
流石にあそこに混ざるのは無理だな…………と言うわけで、同じ様に居心地悪そうにしていたエドワードとゲンジさんと話すことにした。
「それで一体何をしに来た…………って聞くまでもないか」
「ああ、大学で言った通りどんな物を扱っているのか興味があってな、ちょっと見に来たんだ…………商品を買うかどうかは実物を見てから判断するがな」
「ああ、是非そうしてくれ。…………後悔はさせんよ」
そう言って、エドワードはアイテムボックスからいくつかの装備を取り出した…………ふむ、金属製の武器・防具か。
鑑定してみると、どれも結構な性能で見たこともない特殊なスキルが有るものもいくつかあった。
「俺とゲンジが扱っているのは主に金属製の装備だ。俺は<エンブリオ>のスキルで特殊な性質を持つ金属を作れるし、ゲンジは生産物の能力を改変出来るからティアンには作れない様な物もあるぞ」
「それは凄いが…………そんなにあっさり自分の<エンブリオ>の特性を明かしても良いのか?」
「…………実を言うとクランの経営が結構キツくてな、正直商品を売るのに手段を選んでいられん。…………“<エンブリオ>で作ったオリジナル金属”と言えば聞こえはいいが、要は既存の【レシピ】では使いにくいと言う事でもあるからな」
「コイツやターニャの作った素材は生産に使うにも一手間いるからのう。素材の性質をしっかり理解しておかんと失敗するし。…………以前は<マスター>が作ったという物珍しさもあって素材も売れておったが、その事が広まった今は殆ど売れんしの」
…………俺も【ジェム】を作るから知っているが、生産活動では【レシピ】によって決められた素材・工程・スキルを使って作るのが一般的である。
そこから外れたアレンジをしたければ本人の技術やセンス、何より高いスキルレベルが必要になり…………それらが足りなければ高確率で失敗するだろう。
「そういう訳で、俺達<プロデュース・ビルド>は特殊な性質を持った製品の少数生産やオーダーメイドをメインにしている。…………どうせ規格品や量産品では<マスター>はティアンには勝てないしな」
「この世界にはキチンと流通と言う概念が存在するからな。…………俺達<マスター>は所詮異邦人、今の時点では生産は出来ても工業は無理だからな」
「そう言う事だ。他にも色々あるから、気に入った物があれば是非買って行ってくれ…………本当に頼む」
「クランオーナーも大変じゃのー」
「…………他人事じゃないんだがなぁ」
…………以前月夜さんに会った時も思ったが、クランを運営する立場のクランオーナーって本当に大変なんだな。
…………とりあえず製品を見ていくか、以前買った【鑑定師のモノクル】を装備してっと。
「ふーん…………高レベルの《炎熱耐性》と《電撃耐性》付きの鎧とか、切りつけた相手の位置を探知する《血臭追跡》スキルが付いた剣とか結構面白いのがあるな」
「とりあえず此処に出したのは売り物になりそうな物だけだからな。…………失敗作には酷いものもあるが」
「着けた人間のHPを吸い取って耐久性を回復させる鎧とかの。別に呪われている訳でなくてそういう機能があるだけだったから、どうしようもなかったからの」
そんな話を聞きながら製品を見て行くと…………一つの短剣が目に入った。
【シェルメタル・ショートソード】
特殊な異能で金属化した甲蟲の甲殻を素材にして作られた短剣。
甲殻の強度を金属化で上昇させているので非常に頑丈で、守りに長けた強力なスキルを有するが装備者にも相応の力量を要求する。
・装備補正
攻撃力+400
防御力+300
・装備スキル
《END増加》Lv8
《HP自動回復》Lv8
《物理ダメージ軽減》Lv8
《破損耐性》Lv5
※装備制限:合計レベル700以上・STR1000以上・AGI2000以上・DEX2000以上
…………これは凄いな、短剣なのに攻撃力補正も防御力補正も超高いし、スキルも防御向きだが強力な物が揃っている。
「この短剣は……?」
「ん? …………それか、売り物じゃ無いんだが間違えて出してしまったみたいだな」
「売り物じゃ無いのか?」
「ああ…………この短剣は今の俺とゲンジが、最大でどれだけの性能のアイテムを作り出せるかを試す為に作った試作品だな」
曰く、この短剣は以前手に入れた純竜級モンスター【ドラグワーム】の素材をエドワードが金属化させて、更にゲンジさんの<エンブリオ>の固有スキルで限界まで強化した物らしい。
「とにかく性能を上げる為に色々やって、それは上手くいった…………上手く行き過ぎたんだが」
「ワシの<エンブリオ>の固有スキルで性能を上げる為に、装備制限を大量に付けてしまったからのぉ。誰も装備できんのじゃ」
「…………いくら強力でも合計レベル七百以上が条件ではな……要求ステータスも高いし」
成る程、確かに普通なら超級職にでも就かなかれば装備出来ないだろうが…………俺なら問題ないな。
「…………この【シェルメタル・ショートソード】を買いたいのだが、売ってくれるか?」
「良いのか? いくら強くても装備できないのでは……」
「問題ない。俺は<エンブリオ>の能力で普通よりレベルが高いからな、装備条件は既に満たしている」
「だが、これは純竜級の素材をいくつか使っているからかなり値段が高いぞ。大体百万リルぐらい……」
「百万リルで良いのか、安いな」
そう言って、俺は机の上に百万リルを置いた。それを見た二人は目を丸くしていた…………これでも色々なクエストを達成しているから、金はそれなりに持っているんだよな。
それに【高位魔石職人】になったお陰で、上級職【
「…………確かに百万リルあるな…………分かった、持っていけ。…………しかし、よくもまあこんな大金をポンと出せるな」
「ああ…………今後も色々装備のことで、このギルドには世話になりたいからな。俺なら装備の合計レベル制限はほぼ無視出来るし、出来れば今度オーダーメイドの装備とかも作って欲しい」
「…………分かった! 今後もよろしく頼む!」
「そこまで褒められるとは職人冥利に尽きるの。…………ワシからもよろしく頼む」
…………これが今後長く世話になる生産クラン、<プロデュース・ビルド>と俺の出会いだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:今回専属生産職ゲット
・【盗賊】のレベルを上げたのは近接戦闘能力の向上やステータス隠蔽系スキルの習得も理由。
・実は【魔石職人】の仕事でかなりお金を稼いでいる。
【シェルメタル・ショートソード】:兄の新武装
・兄は基本的に近接武器は防御にしか使わないので相性は良い。
・この性能で百万なら安いと思っている。
エドワード:<プロデュース・ビルド>のクランオーナー
・兄とは同じ大学の同期生。
・散財することが多いターニャと、生産以外は大雑把なゲンジに挟まれた苦労人。
・今回の兄の買い物のお陰でクランの財政はなんとか立て直せた。
ゲンジ:<プロデュース・ビルド>のメンバー
・彼の【ヘパイストス】の保有スキル《プロダクト・リビルド》は作った装備に装備制限を追加して、代わりに補正やスキルの性能を上げる事も出来る。
・クラン名については他の二人の話し合いが色々紛糾したので、彼が自分の<エンブリオ>のスキル名をもじってさっさと決めた。
女性陣:今回の件で全員友人になった
・妹達も今後装備のことは<プロデュース・ビルド>の世話になると決めた。
・エルザはターニャ達に兄妹の事をべた褒めして話していた模様。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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ミュウの冒険
それでは本編をどうぞ。
12/15 末妹の必殺スキルのデメリットを一部変更し、それに合わせて本文とあとがきの文章を一部変更しました。
3/12 メタル系モンスターが希少という事なのでボスモンスターの名前を変更しました。
□王都アルテア冒険者ギルド 【
こんにちは、ミュウなのです。今日も学校を終えた私と姉様は二人でデンドロのプレイを始め、今は冒険者ギルドで受けられそうなクエストを探しているのです。
ちなみに兄様は大学の方で予定があるという事で、今日は一緒じゃないのです…………やっぱり小学生の私や姉様と大学生の兄様では時間が合わない時も多いのです。
…………兄様がいないと<墓標迷宮>に探索は少し厳しくなるのです。主にアンデッドと罠への対処で。
「それに最近お兄ちゃん、ソロで行動する事が多くなっているしねー。何でも魔石職人ギルドの方で面倒な依頼を受けたからー、とか言っていたけど」
「まあ、兄様には兄様の予定があるから仕方がないですよ。それに私も上級職に転職出来ましたしフェイも
『僕も上級<エンブリオ>になって
そうなのです! まず私は【
格闘家系統の上級職である【武闘家】は徒手格闘時にステータスを上げるアクティブ・パッシブの各種バフスキルを覚えるのです。その特性はフェイが新しく覚えた必殺スキルとの相性もいいから、かなりの戦力強化になったのです!
…………まあ、その代わり攻撃用のアクティブスキルは強力なものをあまり覚えず、最大スキルレベルも低いですが、そこは技術でカバー出来るので問題無いのです。
「でも良いな〜、お兄ちゃんとミュウちゃんは必殺スキルを習得出来て。以前聞いた話だとエルザちゃんも習得したって話だしー…………なんか置いていかれた気がするなぁ」
「…………姉様は必殺スキルなんて無くても十分過ぎるぐらいに強いと思うのです。…………そもそも特典武具を二つも持っている時点で私達の中ではダントツで最強なのです」
『確かにね。…………普通に【ガーディアン・エレメンタルゴーレム】を粉砕していたし』
実際、今の私や兄様が一対一で姉様と戦えば高確率で敗北するのです。
その反則的な直感と圧倒的なステータス、更に特典武具の能力が合わさった姉様は純竜級のモンスターですら余裕で屠りさるのです。…………私や兄様がソロでは倒すのが難しい【ガーディアン・エレメンタルゴーレム】も、姉様の前では即座にミスリル素材に変わりますし。
あと現在就いている【
「さてと、そろそろ受けるクエストを決めないとね〜。何か良いの無いかなぁ」
「…………それならこの【王都・トルネ村間街道の【ブラックウルフ】の群れの討伐】のクエストはどう? …………討伐系のクエストの中でも交通の維持も含まれているから報酬も良いし……」
「成る程、確かに他の討伐系と比べても報酬が良いのです。…………って、葵ちゃん! いつの間に‼︎」
そう言って私達にクエストを提案してきたのは、私の同士でありフレンドの日向葵ちゃんでした。
…………本当にいつの間にか近くに居たのです……。
「…………私もちょっと冒険者ギルドにクエストを受けに行って、偶々ミュウ達は目に入ったから声をかけただけ…………それより久し振りにフェイをモフらせて欲しい」
「良いですよ。フェイも上級エンブリオになってから肌ざわりが良くなりましたのです」
『いや! ちょっとミュウ待っt…………ああ〜⁉︎』
そう言うと即座に葵ちゃんはフェイをモフモフし出したのです…………相変わらず二人は仲が良いのです。
「ふーん。…………最近の生態系の変化で王都周辺の街道に出るモンスターが増えてきたから、定期的にこう言うクエストが出されているみたいだね。…………まあ王都とトルネ村間の街道は利用する人が少ないからか、他と所と比べて報酬は少ないけど」
「でも、普通の討伐系クエストと比べれば報酬も比較的良いみたいですし、何より人助けになるのです!」
「…………討伐する範囲はそこそこ広いし一人だとキツイから、一緒にやりたいんだけど…………ダメかな?」
「大丈夫なのです! 一緒にやろうなのです!」
「他に良さそうなクエストも無いから別に良いよー」
そういうわけで【王都・トルネ村間街道の【ブラックウルフ】の群れの討伐】……クエストスタートなのです!
◇
「《インパクト・ストライク》!」
「《気功闘法》《ストレート》!」
『『GAAA⁉︎』』
そうして今、私達は王都からトルネ村に続く街道の近くで十数匹程度の【ブラックウルフ】の群れと戦っているのです。
まず姉様のメイスによる一撃が一匹の狼を叩き潰し、もう一匹を私が【武闘家】のアクティブスキルで自身にバフをかけた上で殴り倒しました。
「……《フレイムフィスト》」
『《ヒート・ジャベリン》!』
『『GAAA‼︎』』
すぐ近くでは敵陣に突っ込んだ葵ちゃんが炎を纏わせたパンチ──拳士系統と魔術師系統の複合下級職【
これは葵ちゃんの<エンブリオ>が炎熱系攻撃を吸収出来るので、「炎魔法で自分ごと敵を焼き払ってほしい」とフェイに頼んだからなのです…………最初は戸惑いましたが、今は大分慣れてきたのです。
「さて、そろそろ片付けようかな……《サークル・インパクト》《竜尾剣》!」
そう言った姉様がメイスで周囲の敵をまとめてなぎ払い、さらに背中の剣尾を伸ばして次々と狼達を貫いていきます…………正直、姉様一人でもこの群れの殲滅は余裕なのですが、私達に経験値を稼がせる為に序盤は手加減してくれていたのです。
…………そして本気を出した姉様によって、まもなく【ブラックウルフ】の群れは殲滅されたのです。
◇
「はーい、お疲れ様〜」
「…………お疲れ……」
「お疲れ様なのです。これでクエストは終わりでしょうか?」
私がそう聞くと、姉様は首を傾けました。
「んー、クエストの用紙には群れの数は三十匹以上と書いてあったし、この群れにもリーダーと呼べるような個体が居なかったから…………多分まだ居るんじゃないかな」
『成る程。…………じゃあこの群れは一体何だったんだろう?』
「…………偵察隊か先遣隊?」
「…………じゃあ本隊も近くに居るのですか?」
「多分ね〜。…………私の勘だけどここにいる群れはただの【ブラックウルフ】の群れじゃなさそうかな?」
キャアァァァァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ⁉︎
そんな事を考えていると遠くの方から悲鳴が聞こえて来たのです。
「…………悲鳴?」
「姉様!」
「うん、行こうかみんな。…………あとミュウちゃんは現場に着いたら必殺スキルを使うことになるだろうから準備をしておいてね」
「分かったのです!」
『分かったよ!』
そうして私達は悲鳴が聞こえた場所に駆け出して行ったのでした。
◇
『『『GAAA‼︎』』』
「ヒィィィ〜〜ッ⁉︎」
『クッ! 数が多過ぎる‼︎』
悲鳴が聞こえた場所にたどり着いた私達が見たものは、三十匹以上の【ブラックウルフ】に囲まれて横転した馬車と、それに乗っていたらしい数人の
…………あの戦っている人は多分<マスター>だと思うのです。…………だって兜のデザインがプリキ○アの三十分後に放送している仮面ライダーにそっくりですし、その近くに<エンブリオ>らしきバイクが置いてあるのです。
あと、ティアンの方にも武装した人が二人程居ましたが、怪我をして倒れているのです…………その彼らを守っているので仮面ライダーさん(仮)は苦戦しているようなのです。
「私があの群れを殲滅するから二人はティアンの人達の怪我の治療と護衛をお願い。…………それとこの後
「分かったのです!」
「…………了解」
『分かった!』
「お願いね! ……《竜尾剣》《テンペスト・スマッシュ》!」
そう言った姉様は、背中の剣尾を伸ばしてティアンの人達に襲い掛かろうとしていた【ブラックウルフ】を切り裂き、そのまま群れの中に飛び込み風を纏ったメイスでもって敵を馬車から離れた所へ吹き飛ばしていきました。
…………その隙に私達は残りの敵を蹴散らしつつ馬車の方に近づきました。
『君達は……!』
「通りすがりの<マスター>なのです、覚えておくのです! フェイ!」
『《フォースヒール》!』
「…………とりあえずスズキさん謹製のポーションを使おう……」
「おお……!」「傷が……⁉︎」
フェイの上級回復魔法と葵ちゃんのポーションが傷ついた人達を治していくのです。
…………そして、そうしている間に姉様が周りの敵を殲滅し終わっていたのです。
『助けてくれて感謝する。……俺はマスクド・ライザー、この辺りをパトロールしていたら彼等がモンスターに襲われているのを見かけて助けに入ったのだが…………何分相手の数が多くてな……』
「礼なら後で受け取るよ。…………それにまだ終わっていないし…………ミュウちゃん」
「《気功闘法》《アクセラレイション》《ブーステッドパワー》《ディフェンスアップ》」
『《エンチャント・ストレングス》《エンチャント・エンデュランス》《エンチャント・アジリティ》』
『一体何を…………ッ⁉︎』
私とフェイは仮面ライダーさん…………ライザーさんの話を聞きつつも姉様に言われた通りに、必殺スキル発動の準備として私に各種アイテムや魔法などによる単体ステータスバフを掛けていったのです。
…………その行動を訝しんでいたライザーさんも迫ってくる気配に気づいた様なのです…………気配がした方向からは五十匹を越える数の【ブラックウルフ】と、それを指揮するリーダーがいたのです。
『【
「なっ‼︎」「そんな…………」
純竜級モンスターと、それに率いられた亜竜級モンスター三体の出現にティアンに人達の顔は絶望に染まりました。
…………向こうの足はかなり早いので、ティアンの人達を守るためには早急に一匹残らず殲滅する必要があるのです。
なので姉様はすぐに指示を出して行きました。
「ライザーさんは私達とパーティーを組んでアイツらの殲滅。ボスは私が倒すから三人は【亜竜黒狼】をお願い。ティアンの皆さんはなるべく一箇所に固まって動かないように、戦える二人は皆さんの護衛に集中してください。…………時間が無いので急いで‼︎」
『あ、ああ!』
「「わっ分かりました!」」
姉様の指示にパニックになり掛けていたティアンの人達が従って行きます…………こういう時には強く言ってしまえば言う事を聞かせられますからね、流石です姉様。
【マスクド・ライザーからパーティー加入申請が届きました】
【パーティー加入を許可しますか? Yes/No】
当然Yesなのです…………これで準備は整ったのです。
「ミュウちゃん、お願い」
『《エコー・オブ・トゥワイス》……ミュウ!』
「行くのです! フェイ!」
そして最後に自身に掛かっている全てのバフ効果を倍加させて、フェイが私の肩に乗り…………私とフェイの必殺スキルが発動したのです。
「『《
その宣言と共に私とフェイが一つとなったのです。その姿は髪のフェイと同じ色のメッシュがかかり、瞳も片方がフェイと同じ色をした私の姿なのです。
…………これが私達の必殺スキルの効果である『私とフェイを融合させる事』なのです。この状態になるとステータスが私とフェイのものをそれぞれ合計したものになり、スキルも二人が使えるものは全て使える様になるのです。
…………まあ、フェイのステータスはMP以外はAGIが少し高いぐらいですし、私が物理アタッカーなのでMPが低い事もあって
「それじゃあ行くね…………疾ッ‼︎」
『『『GAAA⁉︎』』』
そう言って姉様が
…………これが私達の必殺スキル第二の効果、『自身に掛かっている全てのバフ効果をパーティーメンバー全員に適用させる』事なのです。
この効果により私に掛かっていた強力なバフ効果が
…………そんな光景を見た【亜竜黒狼】の一匹が姉様に襲いかかって行きますが…………、
「邪魔、《スマッシュメイス》」
『GA……!』
それを先読みしていた姉様が無造作に放ったスキルによって瞬時にミンチにされ、そのまま姉様は【純竜闇狼】に向かって行きました…………正直、姉様一人でいいんじゃないでしょうか。
「…………おっと! そんな事を考えている余裕は無いのです。…………二人共、姉様のお陰で敵は浮き足立っているので今がチャンスなのです。このスキルの効果は五分しか持たないので早めに決着をつけるのです!」
「分かった…………【亜竜黒狼】の一体は私が倒すから、ミュウは護衛をお願い……ミュウのバフが切れたら詰むし……」
『それなら、もう一体は俺が請け負おう。……行くぞ! ヘルモーズ! ……《ストーム・ダッシュ》‼︎』
そう言ったライザーさんは自身の<エンブリオ>であるバイクに乗り、スキルを発動して上で敵の群れに突っ込んで行ったのです。
スキルの効果もあってか、道中の【ブラックウルフ】達を片っ端から弾き飛ばしながら【亜竜黒狼】に向かって行きました。
…………そして、それに気付いた【亜竜黒狼】がライザーさんに飛び掛かってきたのです。
『GAAA‼︎』
『ムッ! ……トウッ‼︎』
しかし、それを見たライザーさんは
『《ライザァァァキィィィック》‼︎』
『GAAAAAA⁉︎』
そしてそのままバイクの加速と跳躍の勢いを上乗せした跳び蹴りが【亜竜黒狼】に突き刺さったのです。
…………凄いのです! 生ライダーキックとか初めて見たのです! しかもバイクから跳躍してのコンボ技なのです‼︎
当然、その必殺のキックを受けた【亜竜黒狼】は跡形も無く爆散したのです! (してません。普通に倒されて光の塵になっただけです byフェイ)
「…………時間が無いから出し惜しみはしない……《
『GAAA!』
葵ちゃんの方を見ると、さっき見た時よりも
…………やっぱりああいう属性があった方が魔法少女らしいのです…………しかし! 必殺スキル使用中の私はフェイが覚えている魔法も使えるのですよ‼︎
と、言うわけで【ブラックウルフ】達が馬車に近づいて来るまで少し時間があるので、魔法を使って攻撃するのです。
「……“キュアップ・ラパパ”! 《マッドクラップ》! ……“ルパッチ・マジック・タッチ・ゴー”! 《ウインドカッター》! ……“マージ・マジ・マジカ”! 《ファイアーボール》!」
『《ヒート・ジャベリン》…………ミュウ、今の《詠唱》は?』
「私が知ってる魔法の呪文なのですよ? …………やっぱり『リリカル・マジカル』とかの方が良かったです?」
『…………ミュウの好きにすればいいんじゃないかな……』
そんな会話をしつつ、敵の群れに向かって魔法を打ち込んでいきます…………ちなみに融合中も私とフェイは別々に意識があるので、今みたいにスキルを二人で並行して使うことも可能なのです。
…………どうやら敵のボスと姉様の戦いもそろそろ決着がつきそうなのです。
「これで終わりだよ!」
『! ……GAAAA‼︎』
姉様が【純竜闇狼】にトドメを刺そうと突っ込んで行くと、それを待っていた相手が今まで温存していた闇属性のブレスを放ったのです。
…………それを相手に向かって走っていた姉様は避ける事が出来ずに飲み込まれ……、
「《インフェルノ・ストライク》‼︎」
『⁉︎』
それすらも先読みしていた姉様は特典武具【ブラックォーツ】のスキル《闇纏》でブレスを透過して突破し、それに動揺した相手に炎を纏ったメイスによる攻撃を叩き込み粉砕しました。
◇
あれからボスを失って烏合の集と化した【ブラックウルフ】の群れは間もなく討伐されました。
そして私達はそのままティアンの人達をトルネ村まで護衛しました。どうも王都からトルネ村に向かう途中に襲われた様なのです。
『今回は本当に助かった。君達が来てくれたお陰でティアンに犠牲が出ずに済んだよ』
「いえいえ、どういたしまして」
「…………たまたま通りすがっただけだから……」
「<マスター>同士は助け合いなのです」
どうもライザーさんは日課のパトロールの最中に、あの馬車が襲われている場面に遭遇したようなのです…………やっぱり良い人なのです。
…………どうやら姉様も同じ事を思ったようなのです。
「じゃあライザーさん、私達とフレンド登録しませんか?」
『俺とかい?』
「はい! 日夜パトロールをして人々の為に戦っているライザーさんは凄くカッコ良かったのです! だから友達になりたいのです‼︎」
『! …………分かった。じゃあフレンド登録をしようか…………今回は本当にありがとう』
こうして、また一人私にこの<Infinite Dendrogram>での友達が増えたのでした。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
末妹:リアル仮面ライダーとフレンドになれて大満足
・プリキュアが一番好きだが、仮面ライダーやスーパー戦隊も見ている。
・必殺スキル習得後、ジョブビルドをこのまま物理特化にするかMPも上がる【魔拳士】系を取るかを悩み中。
・自己バフに特化した格闘系ジョブは黄河帝国周辺でしか就けないのが悩みどころ。
《気功闘法》:【武闘家】のアクティブバフスキル
・SPを消費して一定時間物理系ステータスを上昇させる。
・【武闘家】で覚えたこのスキルは、気功系スキルに特化したジョブで覚えたものと比べて最大スキルレベルは低い。
フェイ:必殺スキル初披露
・第四形態に進化した際の他の強化点は《エール・トゥ・ザ・ブレッシング》のレベルが四に上がった事、自身のMPの上昇、ステータス補正の上昇。
・アクティブスキルには長いクールタイムや発動条件があり、自身のステータスも上級ガードナーとしてはMPとAGI以外非常に低いが、その分<マスター>へのステータス補正はそこそこ。
《
・発動時には<マスター>と<エンブリオ>が接触していなければならず、制限時間は五分でクールタイムは二十四時間。
・パーティー内のメンバーの使役モンスターや召喚モンスターにもバフ効果は及ぶ。
・必殺スキルがこうなった理由は複数あり【フェアリー】の特性が『
妹:ヒーロー物ではウルトラマンが一番好き
葵ちゃん:気配遮断はリアルスキル
・今回の事は、現在<月世の会>メンバーがクランホームを建てる為の資金稼ぎをしているのがきっかけ。
【魔拳士】:魔拳士系統下級職
・拳士系と魔術師系の両方のスキルが使え、更に拳に各種属性を纏わせるスキルを覚える。
・属性を身体に纏わせるスキルは【魔法剣士】などの武器に纏わせるスキルと比べるとやや燃費が良いが、自分が制御出来ない程のMPを流し込むと自身もダメージを負う。
・葵ちゃんの場合は<エンブリオ>によって光熱系のスキルならダメージを吸収して、そのエネルギーを更にスキルに回せる為相性が良い。
ライザーさん:リアル仮面ライダー
・現在は王都・ギデオン・クレーミルを中心にパトロールしている。
・最初に苦戦していたのはティアンを守るためにヘルモーズから降りて戦わざるを得なかったから。
《ストーム・ダッシュ》:【疾風騎兵】のスキル
・騎乗時の速度を上昇させ、走行中に接触した相手に走行速度に比例した攻撃力を発生させる。
・要するにライダーブレイク。
【純竜闇狼】:今回の敵
・各種生態系の変動により王都周辺に住み着いたモンスター。
・人間に自身の存在を知られない様に隠密系のスキルを使ったりしていた。
・今回は群れの配下を多くやられた為、自身が仇を取ろうと出てきた。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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兄の挑戦・<マスター杯>
戦いの前・回想
それでは本編をどうぞ。
□決闘都市ギデオン・第三闘技場 【
俺が<Infinite Dendrogram>を始めてから現実では二カ月、こちらの世界では半年程経ったある日。俺ことレントは決闘都市ギデオンの第三闘技場、その
『会場の皆様ぁ! お待たせいたしましたぁ! 只今よりギデオン決闘トーナメント、
そのアナウンスの後に会場の方からかなりの歓声が聞こえてくる…………流石に決闘王者防衛戦程じゃないが結構な人が観にきているみたいだな。
『この<マスター杯>は文字通り<マスター>のみが参加するトーナメントです! …………今から約半年程前、これまでは伝説の中の存在だと思われてきた<マスター>が世界中に現れた事は皆さんも記憶に新しい事でしょう! このトーナメントにはその中から選ばれた十六人の<マスター>が参加し、その力を競い合うのです‼︎』
そう、俺は何故かその<マスター杯>に選手として参加する事になってしまったのだ。
…………事の始まりは、デンドロ内で約二週間程前に遡る…………。
◇
「<マスター杯>、ですか?」
「ああ、大体二週間後にギデオンで開かれる予定だから、アンタには魔術師系ギルドの推薦枠で、私達魔石職人ギルドの代表として出てもらいたいのさ」
ある日のこと、俺はいつも通り魔石職人ギルドでクエストをこなしていたのだが…………突然ギルドマスターのミレーヌさんに呼び出されて、今度ギデオンで行われる<マスター>杯とやらへの出場を打診されたのだった。
「しかし、何でそんな<マスター杯>なんて開くことになったんです? それに魔石職人ギルドは生産系のギルドでしたよね?」
「…………まず<マスター杯>に関しては以前から王宮の方で話し合われていた、この国でのティアンと<マスター>の関係についての会議でそういう話が出たのさ」
ミレーヌさん曰く、こちらの時間で半年程前から急速に増えた<マスター>達によって、この王国で良くも悪くも様々な問題が起きていた。
そこで、今後王国が<マスター>達とどう付き合っていくべきかを話し合う会議が開かれる事になった。その会議には王族・貴族・騎士団だけでなく、普段から<マスター>達がよく利用している各ギルドからも参加者を募ったらしい。
「その会議に魔石職人ギルドの代表として私が出席したわけさ。王宮にいる【大賢者】様には昔世話になった事があるしね。…………その会議で一般ティアンと<マスター>の間に割りと大きな溝がある事が問題視されたんだよ」
要するに奇行に走る<マスター>や犯罪行為を行う<マスター>のせいで一般のティアンが<マスター>達に抱く印象が悪くなっている、という話が出た様だ。
そこで、この国の王様が一般ティアンに対する<マスター>達への印象を良くすることは出来ないかと参加者に聞いたらしい。
…………まあ、ティアンと<マスター>の関係の悪化はこの王国にとってはデメリットでしかないからな。
「<マスター>にも良い悪いがあるって事を分かっているティアンもいるけど、今のところ大部分のティアンはそうじゃないからねぇ」
「まあ<マスター>が増え始めてからまだそんなに時間は経っていませんし、人はどうしても悪い方に目が向くものですから」
「そういう訳で色々話し合ったんだが…………そこで【大賢者】様がこんな提案をしたのさ『<マスター>同士で戦う決闘トーナメントなどを開いたらどうでしょう』とね」
その【大賢者】曰く、『王国が主体になってその様な催し物を開けば、王国と<マスター>の関係は良好であると一般の民衆に示すことができます。そうすれば王国の民達も<マスター>達の事を受け入れ易くなる筈でしょう』との事。
また『殆どの<マスター>は戦いを生業にしている様ですし、決闘トーナメントという形式であれば参加する者も多いと思われます。更にその大会で上位に入った者に高い報酬を支払えば、<マスター>達が王国に向ける心象も良くなるでしょう』とも言ったらしい。
「その提案に国王様とギデオンの領主様、他の貴族達も賛成してね、そんなこんなで<マスター杯>の開催が決まったのさ」
「成る程…………それで何故俺に? 俺は決闘とかには出ていませんが」
「それについては大会に出場する<マスター>達は実力と信頼を兼ね備えている者を選ぼう、という話になってね。各ギルドからもそういう<マスター>が居れば推薦してほしいと言われたんだよ。…………それに【大賢者】様が『普段決闘をやっている<マスター>だけでなく、他にも色々な<マスター>の戦いが観れた方がトーナメントも盛り上がるだろう』と言ったからねぇ。お陰で魔術師系のギルドにいるあの方の徒弟達が張り切っちゃって」
確かに、普段決闘の試合で見れない様な<マスター>が居た方がトーナメントは盛り上がるだろうが……。
「別にミレーヌさんはそんなにやる気には見えませんが」
「まあ私はあの方には昔世話になった事はあるが、別に徒弟って言うほどでもないしねぇ。…………それにあの方にとって本当の意味で弟子と言える人間は、王国には一人しか居ないだろうしね」
「? それは一体……」
「ああ、すまないね。…………ちょっと独り言が漏れてしまったよ、忘れとくれ。…………アンタを推薦した理由だが、まず一つにこの魔石職人ギルドで戦える<マスター>がアンタぐらいしか居なかったのさ」
まあ【
「それと二つ目は以前アンタが言っていた『【ジェム】生成貯蔵連打理論』だっけ? その宣伝をしてほしいのさ」
「…………大会で【ジェム】を使って勝ち進め、と?」
「そういう事。アンタが考えた理論なんだから、アンタが一番実践しやすいだろう? …………あれから中々【魔石職人】を目指す<マスター>が増えなくてね、トーナメントに乗っかってうちのギルドの宣伝をしたいんだよ」
「まあ、<マスター>達の間で“最強ビルド論”が本格的に流行りだすには、もう少し時間が必要ですし……」
今の最強ビルド論はまだ“こんなジョブビルドが強いのではないか”という案が出ている段階で、それが本格的に流行りだすにはこのゲームのジョブや<エンブリオ>の情報がある程度出揃ってからだろうからな。
…………しかし、ミレーヌさんの主目的は魔石職人ギルドの宣伝か。確かに大会で【ジェム】を使って好成績を残せば宣伝にはなるだろうが……。
「今の俺だと『【ジェム】生成貯蔵連打理論』を行うのは難しいですよ。…………まだ【高位魔石職人】になったばかりで強力な【ジェム】を殆ど貯蔵出来ていませんし」
そもそも俺が【ジェム】を作るのは魔石職人ギルドの納品クエストの時ぐらいだからな。自分で使う用の【ジェム】も多少は貯めているが、実戦で【ジェム】を投げまくれる程じゃない。
…………それにまだ上級職の奥義クラスのジェムは作れないし。
「ああ、それなら問題ないよ。…………今回の推薦は魔石職人ギルドのギルドマスターである私からのクエスト、ということになっている。だから、その報酬を前払いで支払うからねぇ…………ほれ」
「これは腕輪…………型のアイテムボックスですか?」
「そうさ。それも即時放出機能つきのね、戦闘で【ジェム】を使うなら必須のアイテムさ。…………まあ
そう言われてその腕輪の中身を見ると…………これは…………。
「…………
「トーナメントのルールは普段やっている決闘と同じだからねぇ。消費型アイテムで使用禁止なのは身代わり系か回復系のヤツだけさ。…………回復魔法以外の【ジェム】なら使い放題だよ」
「そういう意味ではなく…………こんな
そう、アイテムボックスの中に入っていたのは各種魔法が込められた【ジェム】だったのだ。
しかも上級職の奥義が込められた【ジェム】もいくつかある…………この中身だけでも一千万リル以上するんじゃないか?
「ん? 魔石職人ギルドのギルドマスターがクエストの報酬に【ジェム】を使う事に何の問題があるんだい? …………それに中身は大会で上位に入った時用の追加報酬と、今は参考資料として貸しているだけの上級職奥義入り【ジェム】さ。だからトーナメントが終わって一回戦負けとかしたら全部返してもらうよ。…………そういう訳で
「…………要するに借りた【ジェム】を
「そういう事さ。…………例えば決闘の結界内部で使うとかなら別に構わないよ。あの結界は試合終了後に
そう言ったミレーヌさんは実にイイ笑顔を浮かべていた…………完全に決闘の結界の仕様を悪用しているよなぁ。
「分かりました、そのクエストをお受けします。…………それでトーナメント中はどの程度【ジェム】を使えばよろしいので?」
「せっかくのお祭りだからなるべく派手に使ってほしいけど、それで負けたら元も子もないからねぇ。…………そのあたりの判断はアンタに任せるよ」
「承知しました」
…………さて、出場すると決めた以上全力で取り組まなければな…………まずは新しいジョブの取得からかな。
【クエスト【<マスター杯>での魔石職人ギルドの宣伝 難易度:四】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
◇
と、そんな事があってこの<マスター杯>に出ることになったのである。回想終わり。
(それからも結構大変だったなぁ。…………特にレベリングが)
クエストを受けた俺は、まず【ジェム】生成貯蔵連打理論と相性の良い
また、その時に同じ様にソロで<墓標迷宮>に潜っていたフィガロさんに再会したりもした…………その時の話だと彼やフォルテスラさんも今回の<マスター杯>に出場するらしい。
…………幸いな事にトーナメント表を見ると彼らは反対のブロックだったので、決勝まで行かなければ当たる事は無いようだが。
(あとはエドワード達<プロデュース・ビルド>にオーダーメイドの装備を頼んだり……)
更に今まで溜め込んだ資金や素材を放出して、<プロデュース・ビルド>にオーダーメイドの装備を発注した。
彼らもトーナメントで自分達が作った装備が活躍すれば良い宣伝になると、張り切って高性能な装備を作ってくれた…………その分値段も高くついたが
(お陰で今の俺は素寒貧なんだよなぁ。…………正直、上位入賞の報酬が無いとかなりキツイ)
ま、まあ今回のクエストが上手く行けば王国での【ジェム】の需要はかなり上がる筈だし、そうすれば作った【ジェム】を売って金を稼げる筈だし(汗)
(宣伝の為にわざわざメインジョブを【高位魔石職人】にしたしな)
それにミレーヌさんは魔石職人ギルドの宣伝の為に、俺の事を【高位魔石職人】をやっている<マスター>だと言って今回のトーナメントに推薦したらしい…………お陰で今回のトーナメント唯一の生産職と無駄に注目を浴びている。
…………俺は《
(そのせいで優勝者予想の賭けでは俺の倍率が凄く高くなっていたしな)
今回のトーナメントのギャンブルは一試合毎に行われる勝敗予想と、このトーナメントの優勝者を予想するものの二種類が存在する…………そして、その内の優勝者予想の倍率は主に事前の評価によって決められるのだ。
ミカ曰く「お兄ちゃんが生産職とか詐欺の類いだよね。…………私は当然お兄ちゃんに賭けたけど」との事…………ちゃっかりしている。
ちなみにミレーヌさん曰く、「うちのギルドの【高位魔石職人】の<マスター>だとは言ったが、生産を専門にしているとは一言も言っていないしねぇ。周りが勝手に勘違いしただけだよ…………私もアンタに賭けたからね。頑張ってくれよ」とイイ笑顔で言われた…………貴女、絶対確信犯ですよね?
(他にもミカに手伝いを頼んで、闘技場の結界内で貸してもらった【ジェム】の性能を確認したり、自分でも【ジェム】を生産したりもしたし…………出来る事は殆どやったな)
『それでは選手の入場です‼︎』
…………どうやら試合開始の時間の様だな。
「…………ま、やるからには全力で行かないとな」
こうして俺の<マスター杯>が幕を開けたのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:今章の主役
・何だかんだ言っても基本負けず嫌いなので、全力でトーナメントに挑む気である。
・今回のトーナメントに向けて
ミレーヌさん:今回の依頼主
・流石に普段はここまで露骨なテコ入れはしない。
・今回はランキングにも影響が無いお祭りの様なものだったので、それを盛り上げるついでに魔石職人の宣伝を行おうとしている。
・その手腕で魔術師系ギルドの推薦枠に兄をねじ込んだ。
・他の魔術師系ギルドマスターには兄の本来の実力を伝えたが、周りには生産職であるように見せかけている。
【大賢者】:このトーナメントの提案者
・目的は最近急に増えた
・流石に全員は調べきれないので上位の戦闘能力を持つモノ達から<マスター>全体の戦力を測ろうとしている。
<マスター杯>:優勝者をはじめとする上位入賞者には賞金と高価なアイテムが与えられる
・こちら側へ居られる時間が限られている<マスター>に考慮して第一・第二試合は各闘技場で、準決勝からは中央闘技場で行われる。
・なので第一・第二試合のチケットは割と安く手に入る。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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第一回戦・ガードナー獣戦士理論
それでは本編をどうぞ。
□決闘都市ギデオン・第三闘技場 【
「おおー! ここが闘技場なのですね! 凄く大きいのです!」
『そうだね、ミュウ』
「ちなみに前行った中央闘技場はもっと大きかったよー」
今、私達は<マスター杯>に出るお兄ちゃんの応援の為にギデオンの第三闘技場に来ています。
…………ちなみに応援に来たのは私とミュウちゃんだけでは無くて…………。
「ギデオンの闘技場には初めて入りましたが…………凄い人ですね」
「本当にねー。今までは資金不足でこういう所には来れなかったけど、これもレントさんのお陰だよー…………いっぱいオーダーメイドの装備を頼んでくれたからね」
「ああ。…………レントの要望通りに、それもこのトーナメントに間に合う様に作るのはかなり大変だったがな」
「だが満足いくレベルの物は作れたしの。…………それに儂等の作った装備が、この様な大きな催し物で活躍できるのには心が踊るわい」
そう、エルザちゃんと<プロデュース・ビルド>の皆さんもお兄ちゃんの応援に来てくれたんだよ。
特に<プロデュース・ビルド>の皆さんは、自分達が作った装備が活躍する場面が見たい様でかなり盛り上がっているね。
『それでは選手の入場です!』
おっ、始まるみたいだね。
『まずは東の門から選手の入場です! …………魔術師ギルドからの推薦であり、なんと今回のトーナメント唯一の生産職! 【
そのアナウンスと会場からの歓声、更には入場用の音楽と共に東の門からお兄ちゃんが現れた…………前の決闘王者防衛戦より派手じゃない? これも<マスター>の影響かな?
「兄様〜! 頑張ってなのです〜‼︎」
「頑張ってレントさ〜ん! 出来れば私の作った装備を活躍させてね〜! あと今回の賭けで私のポケットマネーの半分を賭けちゃったからね〜。勝ってくれないと今後の生活が〜(泣)」
ミュウちゃんとターニャちゃんも声援を挙げている…………ターニャちゃんのは少し違う気もするけど。
…………すると頭を抱えたエルザちゃんが質問して来た。
「もう、ターニャったら。…………しかし、レントさんは生産職になったんですか?」
「ん〜お兄ちゃんは【ジェム】の生産もやってるけど、メインは戦闘だよ。…………今回は魔石職人ギルドの宣伝も兼ねているから、メインジョブを【高位魔石職人】にしているみたいだけど」
…………まあ、お兄ちゃんにとってメインジョブなんて大して意味は無いからね。相手の油断を誘う意味も兼ねて生産職って事にしているんでしょう。
「しかし、レントは今回のトーナメントでどこまでやれるんだ? …………色々と準備をしていたのは知っているが」
「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、エドワードさん。…………今のお兄ちゃんはかなり強いですし」
闘技場でお兄ちゃんの各種調整に付き合ったけど…………このトーナメントに限定すればかなりいい所までいけるんじゃないかな?
…………そんな事を考えていると、再びアナウンスが聞こえて来た。
『続いて西の門から入場です! …………このギデオンでの決闘ランキングを破竹の勢いで駆け上がっている期待の女戦士! 【
アナウンスと共に現れたのは髪をポニーテールにした長身の女性だった。
彼女が現れると共に会場からは先程以上の歓声が巻き起こった…………ギデオンの決闘に出場している以上、この街ではお兄ちゃんよりも有名だよね。
「ムムム、名前的に兄様の相手はいきなり強敵そうなのです。…………ところで【獣戦鬼】とは一体どういうジョブなんでしょうか?」
「うーん、私も知らないなぁ」
「…………確か【獣戦鬼】は獣戦士系統の上級職ですね」
「知っているのか! エルザちゃん‼︎」
私とミュウちゃんが相手の聞きなれない相手のジョブについて話していると、エルザちゃんがそのジョブについて教えてくれた。
「【
「…………モンスターのステータスを自身に足せるんだったら結構強いんじゃ?」
「そうでもないです。…………獣戦士系統の最大の欠点は従属キャパシティが異常に低い事です。なので強力なモンスターをキャパシティに収めたければ、それ以外のジョブを全て従魔師系統で埋める必要があります」
その結果として獣戦士系統は戦闘用のアクティブスキルを覚えられず、中途半端な前衛と従魔師にしかなれないとの事…………
「でも<マスター>なら…………正確には
「はい…………おそらく彼女も
「…………ああ‼︎ 成る程なのです!」
…………これはお兄ちゃん、最初から厄介な相手に当たっちゃったかな?
◇◇◇
□決闘都市ギデオン・第三闘技場 【
今、俺は対戦相手のアマンダさんと決闘開始前の各種ルール確認を行っていた。
「それで? メインジョブは生産職のままでいいのかい?」
「…………今回は魔石職人として来ているので」
「ふーん…………まあ、相手が何であろうと全力で戦うだけさ」
そう言って、ルール確認を終えた彼女は試合の開始地点へと歩いて行った…………少しは油断してくれると思ったが、そうはいかないか。
…………とりあえず俺も開始地点に戻って行き、お互いに指定の場所に立った。
「…………来な! 【ベヒーモス】‼︎」
『GAAAA‼︎』
その言葉と共に彼女が紋章から呼び出したのは、全長五メートル程の四足歩行の魔獣だった…………やはり
(何せガードナーは
その上で彼女自身も槍を取り出して戦闘態勢を取った…………従属キャパシティが必要無いからサブに戦闘用のジョブを入れる事も出来るよなぁ。
あのガードナーのステータスも純竜級モンスターと同等かそれ以上だろうし。
(差し詰め“ガードナー獣戦士理論”かな。…………<エンブリオ>がガードナーである必要がある事以外はお手軽で強いビルドだし、これは今後凄く流行るだろうなぁ)
そんな事を考えつつ、俺も戦闘の準備をしていった…………と言っても今回は魔石職人として戦うから、武器は装備せずにターニャちゃんに作ってもらった手套を両手に着けて、ミレーヌさんから貰った腕輪型アイテムボックスを右手首に嵌めているぐらいだが。
…………そうしてひと通りの準備を終えると試合開始の時間が近づいてきたようだ。
『それでは<マスター杯>第一回戦…………試合開始ィィ‼︎』
その宣言と共に彼女達はこちらに向かって駆け出そうとし…………。
「《クイックスロー》」
それよりも早く、俺が新しく就いた【
そして放たれた【ジェム】は、即座にその込められた魔法──【
「なっ⁉︎」
『GA!』
いきなり発生した大津波に対し、彼女のガードナーである【ベヒーモス】はその身体を盾にしてマスターを庇った。
…………そうして相手の足が止まった隙に、俺はアイテムボックスから【ジェムー《ストーム・ウォール》】──【
『GUUU!』
「ぐうぅ! 動けない……」
その結果、彼女達は大波と暴風に晒されて、その動きを完全に止めていた…………この二つの魔法は効果範囲や持続時間に優れているが、威力自体は低い足止め用の魔法だ。
…………そして、俺は【ジェムー《ホワイト・フィールド》】──【
「《
スキルによる強化を施した上で、オリジナルスキル──【投手】の高威力投擲スキル《パワースロー》と【魔石職人】の【ジェム】強化系スキルを合成した、投げた【ジェム】の効果を強化するスキル──を使って彼女に向けて投げつけた。
その【ジェム】は風に乗って彼女達の元まで飛んでいき…………着弾した場所を中心とする球状の空間を凍結させた。
『GAAAA!』
「キャァァァ!」
その空間の中にいた彼女達は、あらかじめ濡れていた事もあり瞬時に凍りついていた。
…………だが、ガードナーの方にはダメージを与えられており【凍結】もしているようだが、彼女の方を《看破》してみるとHPが全く減っておらず状態異常にも掛かっていなかった。
「防御スキル……いや、ガードナーがダメージや状態異常を肩代わりしているのか……《フォースヒール》。…………じゃあガードナーを先に潰そうか……《バラージスロー》」
なので減ったHPを魔法で回復させつつ、手套の《自動装弾》機能を使って両手にそれぞれ四つずつの【ジェムー《ロックジャベリン》】と【ジェムー《ライトニングランス》】を取り出し、複数個の物体を一斉に投擲するスキルを使って投げつけた。
…………ターニャちゃんに作って貰った、各種射撃・投擲補助スキルの付いた【射手の手套】はいい感じだな。高い金を払った甲斐があった。
『GAAAAA⁉︎』
「ベフィ⁉︎」
「ふむ……《召喚》──バルンガ」
投げた【ジェム】から岩と雷の槍が開放され、その全てが相手のガードナーに突き刺さった。
…………さて、流石にそろそろ反撃してくると思うから、壁役の【バルーンゴーレム】を出しておくか。
「チィ! 《スパイラル・ジャベリン》‼︎」
「おっと」
これ以上のダメージはマズイと判断したのか、ガードナーの前に出てきた彼女は反撃として手に持った槍を投げ放った。
その槍はスキルの効果で高速回転しており、壁にしたバルンガをあっさり突き破る程の速度と貫通力を持っていたが、反撃を予期していた俺は回避する事ができた…………今の俺のAGIは【ヴァルシオン】をはじめとする各種装備補正も込みで四千はあるので、超音速の攻撃でも来ることが分かっていれば問題無く回避出来る。
…………さて、ダメージを肩代わりするということは、
「《ロング・ファストシュート》」
俺は即座に【ジェムー《ヴァイオレット・ディスチャージ》】──【
…………その【ジェム】は亜音速を超える速度で彼女達の近くの地面に着弾して、
ガガアアアアァァァァァ──────ッン‼︎
「キャアァァァァァァ‼︎」
『GAAAAAAAAAA‼︎』
そこから放たれた大出力の紫電が彼女達を飲み込んだ…………とはいえ<エンブリオ>には《看破》が効かないから、どのくらいHPが減ったのかが分からないしな。
…………とりあえず【
「《バラージ・シュート》」
「えっ⁈ ちょっ⁉︎」
電撃が収まったところを見計らって、それらを彼女に向かって《バラージスロー》をベースとして弾速を上げたオリジナルスキルを使って投げつけた。
ドドドドオオオオォォォォ──────ォォォォン‼︎
「キャアアアァァァ────ッ!」
電撃で痺れて動けなくなっていた彼女にそれを躱す事は出来ず、炸裂した四発の《クリムゾン・スフィア》に飲み込まれそのHPはゼロになった…………よく見たらガードナーは既に消えていたし四個も使う必要は無かったかな?
…………まあ、決闘だし別にいいか。身代わり系や復活系のスキルとかを隠し持っているかも知れないし。
『…………し、試合終了ぉぉ──! 勝者は【高位魔石職人】のレント選手! 各種【ジェム】を駆使しての華麗な戦術で事前の下馬評を覆しての勝利です‼︎』
…………どうやらちゃんと倒せたみたいだな。とりあえず【ジェム】も使いまくったし依頼は達成出来ただろう。
◇
試合終了後、結界の効果で復活したアマンダさんがこちらに話しかけてきた。
「いや〜。負けた負けた。まさかここまで手も足も出ないとわね〜。アンタ強いじゃんか!」
「…………いえ、最初の足止めが上手くいったのが大きかっただけですよ。貴女達が分散していればこうは上手く行かなかったでしょう」
「あ〜、やっぱり最初は散開した方が良かったかな。…………ああべフィ、今回はアタシの指示ミスだからそんなに落ち込むんじゃないよ」
『GUUUU』
何の用かと思ったが、ただ少し話をしに来ただけだったようだ…………普通にいい人だし。
…………正直、今回の俺の戦い方は
「次からの試合も頑張りなよ。…………アンタに賭ければ儲かりそうだし」
「ありがとうございます。…………損はさせませんよ」
…………こうして、俺はどうにか<マスター杯>の第一回戦を突破出来たのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:これが【ジェム】生成貯蔵連打理論だ!(生成はあんまりしていない)
・やっている事は遠くから一方的に貰った【ジェム】を投げつけ相手を倒す、という主人公としてはちょっとどうかと思う戦い方。
・《クリムゾン・スフィア》は上級魔法の中でも
・今回の投擲系オリジナルスキルは【ジェム】投げるために使う事を前提として、威力をほぼゼロにする代わりに射程・弾速を上げている。
・今回のトーナメントではこの試合の様に【ジェム】の投擲を中心として戦うつもりだが、それ以外の手も
【投手】:投手系統下級職
・名前通り、投擲系の各種アクティブ・パッシブスキルを覚える。
・ステータスは主にDEXが上がり、STRやAGIも少し伸びる。
【射手の手套】:兄の新装備その一
・ターニャの作品で手首まで覆う指ぬきの手套。
・防御力は低いが、アイテムボックス内から射撃・投擲用のアイテムを即座に取り出す《自動装弾》を初めとして、《弾速上昇》《射程上昇》《弾道安定》《DEX増加》といった射撃・投擲を補正するスキルを有する。
・兄のオーダーメイドなので、装備制限として合計レベル800以上・DEX2000以上が付いている。
・投擲だけで無く、弓などの射撃武器全般にも補正がつく。
ターニャ:散財癖がある上に賭け事も大好き
・今回は賭けに大勝ちした上、自分の作品が活躍したのですごくハイテンションになっている。
・この儲けを全部次の試合で兄に賭けるつもり。
アマンダ・ヴァイオレンス:兄の第一回戦の対戦相手
・サブジョブには【
・以外と理論派で、多分アルター王国では『ガードナー獣戦士理論』に最初に気が付いた。
・基本的に自身の<エンブリオ>と協力して相手を攻め立て、ベヒーモスのダメージが一定以上になったら一旦下がらせて回復させつつ自身が相手を足止めする、という持久戦を得意としていた。
・今回の戦い以降、広域殲滅や状態異常以外の方法で動きを封じてくる相手に対する戦い方を研究していく事になる。
【再生獣魔 ベヒーモス】
TYPE:ガーディアン
到達形態:Ⅳ
能力特性:再生・肩代わり
スキル:《完全ナ生命》《英傑ノ代糧》
・アマンダ・ヴァイオレンスの<エンブリオ>で、モチーフは旧約聖書に登場する陸の怪物“ベヒーモス”。
・スキル《完全ナ生命》は自身のHPを持続回復させ、状態異常も時間経過で回復させるパッシブスキル。
・もう一つの《英傑ノ代糧》はマスターのダメージと状態異常を肩代わりするパッシブスキル。
・ステータスもHP・STR・ENDのステータスは純竜級以上で、AGIもそれらには劣るが十分に高い。
・だが攻撃用のスキルを覚えていないので、五体による格闘戦しか出来ない。
・性別はメスで性格は以外と温和、愛称はべフィ。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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第二回戦・メタゲーム
それでは本編をどうぞ。
□決闘都市ギデオン・第三闘技場 【
どうにか第一回戦を勝ち抜く事が出来た俺は第二回戦に駒を進める事になり、今は出場者の待機場所である東門の前で試合が始まるのを待っていた。
…………ちなみに一回戦が終わった後にミレーヌさんが会いに来て「中々良い戦いだったよ。特に【ジェム】を上手く使って相手を封殺していたところとかね。お陰で魔石職人の宣伝は大分いい感じだからこの調子で頼むよ。…………結果次第では報酬も上乗せするしね」と言われたりした。
「…………アレもあの人なりの激励の言葉だったのかねぇ。…………お?」
そんな事を呟いていると、会場の方からアナウンスが聞こえて来た。
『それでは第二回戦の始まりです! …………まずは東門! 第一回戦ではその華麗な【ジェム】捌きで事前の予想を覆し勝利した【高位魔石職人】レント選手の入場ですっ‼︎』
そのアナウンスと共に門をくぐり舞台に上がると、会場がかなり大きな歓声に包まれた…………【
『続いて西門から! …………第一回戦ではその特異な<エンブリオ>の効果によって対戦相手を封殺し、決闘ランキングでもかなりの順位にいる<マスター>! …………クラン<月世の会>のメンバー【
そんなアナウンスが聞こえると共に、西門から黒髪黒目の男性が現れた…………<月世の会>のメンバーならじゃあ俺の事も知っているかな。
…………そして舞台の中央でルール確認をしていると、対戦相手のタチバナさんが話しかけてきた。
「君がレントくんだね。ウチのオーナーからは
「こちらこそ、良い試合にしましょう」
色々と含む事がありそうな笑顔でそんな感じの事を言われた。月夜さん達に一体どんな話を聞かされたのやら…………多分、俺が生産職ではない事もバレているかな?
(さて、どう戦うか……とりあえず初手で上級魔法の【ジェム】を叩き込んで様子見をするか)
…………そんな事を考えつつ、俺は試合の開始位置についた。
『それでは! 第二回戦、試合開始ィ‼︎』
そのアナウンスと同時に俺は【ジェムー《ホワイト・フィールド》】を取り出して投げつける…………のと、ほぼ同時に相手も<エンブリオ>のスキルを行使した。
「《クイックスロー》」
「《
そして俺の投げた【ジェム】が効果を発揮するよりも早く、彼が発動したスキルの効果によって結界内は眩い光に包まれた。
◇◇◇
□決闘都市ギデオン・第三闘技場 【
「なんか凄い光なのです、葵ちゃん!」
「…………アレはタチバナさんの<エンブリオ>の必殺スキル……効果は詳しくは話せないけど、見ていれば分かる……」
お兄ちゃんの第二回戦を観戦していた私達は、試合開始直後に使われた対戦相手のスキルの光に目を奪われていた。
…………ちなみに葵ちゃんは同じ<月世の会>メンバーの試合という事で会場に来ていたらしく、いつのまにかミュウちゃんの隣に座っていた…………本当にいつのまにか居たんだよね、私も気づかなかったよ。
さて、葵ちゃんの発言だと相手に必殺スキルらしい光が消えて、そこに見えたものは舞台を円形に囲むようにして配置されて高さ数メートル程の壁だった。
『壁……いや、“コロッセウム”と言っていたし
珍しい戦闘型のキャッスル…………お兄ちゃんの言葉を借りれば円形闘技場の<エンブリオ>みたいだね。
…………それよりも問題なのは相手の足元に転がっている【ジェム】の事だね。
「…………お兄ちゃんの投げた【ジェム】が
「本当だ! ……不良品かな?」
「そんな訳ないだろう……おそらく、これが相手の<エンブリオ>の能力なのだろう」
そんなターニャちゃんの疑問に答えた訳では無いのだろうが、対戦相手のタチバナさんが話し出した。
『今、俺の<エンブリオ>【コロッセウム】の中では、スキル《
「成る程、そのせいで【ジェム】が発動しなかったのか」
「…………でも、なんで話したのです?」
確かにね。相手が混乱している隙に攻撃すれば良いのに。
『ちなみに俺がこの事を話したのは、それがスキルの維持条件だからだ。…………そうしなければ短時間でスキルの効果が消えてしまうからな』
『…………成る程、大体分かった』
そう言ったお兄ちゃんは一本の短剣を取り出した…………アレは以前<プロデュース・ビルド>で買った【シェルメタル・ショートソード】だね。
それに対して相手のタチバナさんも長剣を構えた。
「…………って、ヤバイじゃん! 今のレントさん【ジェム】も魔法も使えないって事でしょ⁉︎」
「それだけじゃないね。…………多分、矢も消費アイテムだから弓も使えないんじゃないかな」
上手くお兄ちゃんをメタって来てるね…………<月世の会>のメンバーならお兄ちゃんの
『レントくん、君の戦い方はオーナーや他のメンバーから聞いている……主に弓と魔法を使って戦う後方支援型の<マスター>だとね。…………だからその二つを封じさせてもらった』
『まあ、メタを張るなら悪くない選択だな。…………この試合では依頼を達成出来そうにないな』
やや残念そうな顔をしたお兄ちゃんはもう一本の短剣を取り出した…………あっちは見た事ないね。
「ほう、儂等が作った【ミスリル・ショートソード】の方も使うか」
「出番があって良かったな。…………このまま【ジェム】を投げるだけになると思っていたし」
「二人共のんびりしすぎでしょ! レントさん大ピンチじゃない! …………一回戦で手に入った賭け金、全部レントさんに突っ込んだのに‼︎」
「…………ターニャ、ちょっと黙っていましょうか?」
大負けのピンチに騒ぎ出したターニャちゃんを、エルザちゃんが物凄い笑顔で黙らせました…………これから、エルザちゃんは怒らせない様にしよう。
…………そんな事を考えていると葵ちゃんが話しかけてきた。
「…………二人は随分と落ち着いているね……?」
「私達はそんなに大金をかけている訳じゃないしねー」
「それに、兄様ならこのぐらいなんて事は無いのです!」
そう言いつつ舞台の方を見ていくと、お兄ちゃんとタチバナさんが斬り結んでいるところだった。
『はあっ! 《スラッシュエッジ》!』
『《ダガーパリィ》……《スリーピング・ファング》』
そこでは相手が放ったアクティブスキルによる斬撃を右手に持った【シェルメタル・ショートソード】で弾き飛ばし、カウンターに左手の【ミスリル・ショートソード】での斬撃を繰り出しているお兄ちゃんの姿があった。
「兄様は普段は私達の援護の為に弓や魔法を中心に戦ってくれていますが…………別に近接戦闘を苦手としている訳じゃ無いのです」
「お兄ちゃんはあらゆる事を人並み
お兄ちゃんはよく私やミュウちゃんの事を“天災児”とか言うけど…………自分だって昔は“神童”とか“天才児”って呼ばれてたんだよねー。
…………そもそも、私は
「<エンブリオ>の能力を含めると、ウチのお兄ちゃんに
◇◇◇
□決闘都市ギデオン・第三闘技場 【高位魔石職人】レント
「《パラライズ・ファング》」
「くっ⁉︎」
俺はタチバナさんの斬撃を右手の【シェルメタル・ショートソード】で捌き、左手の【ミスリル・ショートソード】を使ったアクティブスキル──【
…………この【ミスリル・ショートソード】もいい感じだな。【シェルメタル・ショートソード】と違って攻撃重視に調整してあるし、この剣を使った状態異常スキルを強化する《状態異常強化》のスキルも付いているから【
…………今は効果を発揮しなかったが所詮は乱数だから! 俺が【狩人】のジョブを取っていると知っていたらポピュラーな状態異常には対策を取っているはずだし!
「魔法と弓がメインじゃなかったのか⁉︎ 《スクエア・エッジ》!」
「よっ! とっ! とっ! と! …………弓兵や魔術師や魔石職人だって状況次第では剣を使って戦う事もあるだろう……よっ!」
質問と共に放たれた相手の四連続の斬撃を右手の短剣で捌きつつ、反撃に左手の短剣で斬撃を放ちながら適当にどこかで聞いた事のある様な答えを返した…………やっぱり、全体的なステータスは
…………相手のジョブビルドは魔法と物理の両刀型、それはつまり物理的なステータスにおいてはそれに特化した相手と比べれば劣ると言う事…………まあ<エンブリオ>の能力で物理と魔法のうち相手が得意な方を封じて、その逆の相手が苦手な部分で戦う為のビルドなんだろうけど。
「悪いが俺は近接戦闘も出来るぞ……《ポイズン・ファング》!」
「グゥッ! …………クソッ! 【毒】か!」
やや動揺している相手に左手の短剣を使ったアクティブスキル──【盗賊】の毒の追加効果がある短剣用スキル──で斬りつけて、【毒】の状態異常を入れる事に成功した…………でも【毒】は固定ダメージの状態異常だから、このレベルの戦いだと大した効果はないんだよなぁ。
(技術面でも決して弱くはないんだが、ミュウちゃんやフィガロさんやフォルテスラさん達みたいに飛び抜けてはいないな…………精々が直感抜きのミカと同じぐらいか)
…………さて、相手に状態異常が入ったお陰で動揺が広がっているから一気に攻めようか。
「《ラピッド・ファング》!」
「くっ! ……《パワースラッシュ》!」
「《ダガーパリィ》!」
俺が放った左手の短剣による連続斬撃を相手はなんとか回避して、そのまま反撃の斬撃を打ち込んできたが、それを再び右手の短剣で弾き飛ばした…………あとは武器性能の差も大きいかな、今まで溜め込んできた金を殆ど使った甲斐はあった。
…………おっ、剣を弾いた衝撃で相手の体勢が崩れたな。
「《トリニティ・ファング》!」
「グゥッ⁉︎」
なので相手の体勢が崩れた所に、左手の短剣によるオリジナルスキル──【盗賊】で覚えた【毒】【麻痺】【強制睡眠】の状態異常を与える短剣用スキルを融合させたもの──で斬りつけた…………罹っているのは【毒】だけか、やっぱり【麻痺】と【睡眠】には対策を取っているな。
…………あんまり長引かせて相手が冷静さを取り戻すと、近接用のスキルの差でこっちが不利になるかもしれないからな。とりあえず左手の短剣で切り込む…………、
「《ハイド・スロー》」
「ガァッ⁉︎ 目がっ‼︎」
…………初めからずっと左手の【ミスリル・ショートソード】のみを攻撃に使って、攻撃時に右手の【シェルメタル・ショートソード】を相手の意識から外す作戦は上手くいった様だな。
さて、悪いが死角が出来た以上そちら側から攻めさせてもらおうか。
「《瞬間装備》」
「くっ! 死角から……!」
俺は《瞬間装備》でアイテムボックスから短槍を取り出して、相手の死角になった左側に回り込んで攻め立てた。
それを嫌がった相手は一旦距離を取ったが…………投擲が出来る相手に、しかも片目が潰れて遠近感が狂っている状態でそれは悪手だろう。
「《
「グハァッ⁉︎」
なので容赦なく右手に短槍を
…………まだHPが残っているが、このまま放置しておけば【出血】や【内臓欠損】で死ぬだろう。
「ぐっ…………ウオオオォォォ‼︎」
「むっ」
それを相手も分かっているのか、最後の力を振り絞って雄叫びをあげながらこちらに突っ込んできた。
…………このまま逃げ続ければAGI差で捕まる事は無いし、先に相手が倒れるだろうが…………流石にそれは興行的な見栄えに問題がありすぎるしなぁ。
それにそういう根性のある相手は嫌いじゃないしな…………迎え撃とう。
「《スラッシュエッジィィ》‼︎」
「《ミスディレクション》……《ハンティング・エッジ》!」
その大上段から放たれた相手の斬撃を、俺は【盗賊】のアクティブスキル──自身の位置情報を僅かにズラすもの──を使って紙一重で躱し、そのままカウンターの斬撃で相手の首を跳ね飛ばした。
『…………し、試合終了ォォォ──‼︎ 勝者は【高位魔石職人】のレント選手! 【ジェム】を封じられて窮地に陥ったと思われましたが、短剣を用いた近接戦闘でタチバナ選手を下しました‼︎ …………ていうか本当に【魔石職人】なんですよね⁉︎』
「…………今のメインジョブは【高位魔石職人】です」
…………嘘はついていないよ…………嘘はね。
◇
試合が終わった後、俺とタチバナさんは少し話をしていた。
「今回は完敗だったよ。…………やはり情報収集が足りなかったのが敗因だったか」
「いえ、流石に【ジェム】と魔法と弓が使えなかったのはきつかったですよ」
…………実を言うと封印されたのが“パッシブスキル”だったら詰んでいたんだよな。必殺スキル無しだと俺は雑魚になるし。
「しかし、オーナーは大丈夫かな。…………クランホームを買う為の資金稼ぎとして、俺の優勝にかなりの額のリルを賭けていたようだから」
「…………それはご愁傷様です、としか言えませんね」
なんか賭けの半券をばら撒いて喚いている月夜さんと、それを見てニコニコ笑っている月影さんの姿が浮かんだが…………気のせいだろう。
「まあ賭けたのは自分のポケットマネーだし、そこまで問題にはならないだろう。…………オーナーが何かやらかすのは割といつもの事だし」
「…………そうなんですか」
…………思っていたよりも随分と愉快なクランなんだな、<月世の会>って……。
「俺に勝ったんだからこのまま優勝を目指して、次の試合からも頑張ってくれよ。…………オーナーは君の優勝にも賭けていた筈だし」
「…………なるべく頑張ります」
…………とりあえずこれで準決勝進出だな!
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:自称魔石職人(笑)
・全体的に規格外な人間に一歩劣るぐらいの才能しか無いが、逆に言えば全ての分野で
・それ故に事故に会うまでの小・中学校時代は結構イキっていたので、今では黒歴史。
【ミスリル・ショートソード】:兄の新武装その二
・攻撃用の短剣で装備攻撃力が高く、スキルには《状態異常強化》《STR増加》《破損耐性》が付いている。
・装備制限は合計レベル700以上・STR1000以上。
・総合性能は【シェルメタル・ショートソード】には劣るが十分な性能。
タチバナ・カケル:兄の二回戦の対戦相手
・<月世の会>のメンバー。
・デンドロのPVで決闘のシーンを見て、それに憧れてデンドロを始めた。
・基本的な戦い方は物理か魔法のうちどちらか相手の得意な方を封じて、自分はその逆を使って戦う事。
・そのため、物理か魔法のどちらかに特化したタイプや特定のスキルに依存するタイプには滅法強い。
・今回のトーナメントでは他のクランメンバーが主に情報収集面で支援に回っており、それにより相手の得意分野を封じる事によって有利に戦うつもりだった。
・一回戦はそれで勝てたが、情報収集が不足していた事と兄が自分より上位の万能型だった事で敗北した。
・敗戦後、自身のジョブビルドを見直す事にした。
【禁等円場 コロッセウム】
TYPE:ラビリンス
到達形態:Ⅳ
能力特性:封印・決闘
保有スキル:《高速展開》《禁則決闘》
必殺スキル:《
・タチバナ・カケルの<エンブリオ>、モチーフは古代ローマの円形闘技場の名称“コロッセウム”。
・闘技場の上は開いているように見えるが、大体高さ二十メートルぐらい円柱状に空間が遮断されている(地面も遮断されているので地下に潜る事も出来ない)
・アクティブスキル《禁則決闘》による禁止条件は自身に出来る事しか設定出来ない(例:魔法スキルを覚えていない場合には“魔法スキル禁止”には出来ない)
・第四形態時で設定出来る条件は最大二つで、更に相手が内部に入ってから三十秒以内に封印内容を説明しなければ効果は切れる。
・また条件を再設定するには一旦<エンブリオ>を紋章に格納する必要があり、格納してからの再展開にもクールタイムがある。
・条件が複数あり対象範囲が狭く、かつ自身を巻き込む無差別系のスキルである為に封印の強度は非常に高く、超級職のスキルすらも問題無く封印可能。
・ただし“<エンブリオ>のスキル禁止”など《禁則決闘》の発動に影響が出る設定は不可能(“魔法スキル禁止”などで<エンブリオ>の魔法スキルを封印する事などは可能)
・必殺スキルは《高速展開》の上位スキルであり、自身の認識出来る対象一人を指定し、その人物と自身のみを内部に入れた上で<エンブリオ>を超高速展開する(展開範囲に他の者がいた場合は強制的に弾き飛ばされる)
・更に一度展開すると外界から完全に遮断され、自身か対象のどちらか死ぬまで解除・脱出は不可能になる(通常状態と比べて<エンブリオ>の強度や空間遮断効果も大幅に上昇する)
・必殺スキル使用中は外部から新しく人を入れる事も出来ない(通常状態ならマスターの任意で入れる事は出来る)
・必殺スキルのクールタイムは二十四時間。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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準決勝・テンプレミラーマッチ
それでは本編をどうぞ。
3/22 召喚関連の文章を加筆・修正しました。
□決闘都市ギデオン・中央大闘技場 【
ただいま、私達は決闘都市ギデオン最大の闘技場である中央大闘技場に来ています。この<マスター杯>の準決勝からの三試合はここで行われる事になっているんだよね。
私達もあらかじめトーナメントのチケットを全試合分買っておいたから、残り三試合も観戦する為にここに来たんだけど…………そこで思わぬ人達と合流してしまったんだよね。
「さーて影やん、頑張ってレントくんを応援するえー。…………レントくんに優勝してもらわんと、今日の賭け分の損失を取り戻せへんからな」
「そうですね。ご友人を応援するのは良い事でしょう」
そう言っているのは<月世の会>オーナーの月夜さんと秘書の月影さんである。この中央大闘技場に来た時にたまたま出会って、一緒に観戦する事になったんだよね。
…………試合前にお兄ちゃんにも会って、アドバイスや激励の言葉をかけてくれたんだけど……。
「ククク……レントくんには
『…………この女狐、アドバイスや応援する理由が不純過ぎるワン……』
…………結構黒い事を言っている月夜さんにつっこんでいるのは、以前と同じ犬の着ぐるみを着たシュウさんだ。
どうも友人であるフィガロさんの応援の為にシュウさんも今回のトーナメントを観戦していたらしく、たまたま私達の近くの観客席にいたのでこちらも一緒に観戦する事になったのである。
ちなみにフィガロさんもこのトーナメントを勝ち抜いており、お兄ちゃんの試合の後に同じく勝ち抜いてるフォルテスラさんと準決勝を戦う事になっています。
「そう言えば、シュウさんはこの大会には出なかったの? 結構いいセン行けそうなのに」
『んー、俺は決闘とかはあんまりやってないからワンね』
「まあ、常時着ぐるみな不審<マスター>筆頭のクマやんが、有力ティアンからの推薦とか貰える訳ないしなー(笑笑)」
『俺だって好きで常時着ぐるみな訳じゃねーワン‼︎』
…………どうもこの二人は以前からの知り合いの様で、出会った時からこんな感じの煽り合いをしているんだよね。
まあ、お互いに憎まれ口を叩いてはいるけども、そこまで険悪な関係という訳でも無いみたい…………腐れ縁の悪友みたいな感じ?
そんな会話をしていると、お兄ちゃんが出場する準決勝第一試合の始まりを知らせるアナウンスが聞こえてきた。
『皆さん! 大変お待たせしました! これより<マスター杯>準決勝第一試合を開始いたします‼︎』
すると会場が大歓声に包まれた。やっぱり準決勝ともなると盛り上がりが違うね。
『まずは東門から選手の入場です! …………魔石職人ギルドからの推薦でやってきた今大会唯一の生産職! 多数の高位魔法【ジェム】を使いこなしながらも、決闘常連の<マスター>すら降す卓越した近接戦闘技能を持つオールラウンダー! 【
そのアナウンスによる紹介と共に東の門からお兄ちゃんが入場してきた。声援を送る観客に手を振っていたりしてるね。
…………まあ、お兄ちゃんは昔よく大会とかに出ていたから今更このぐらいで緊張なんてしないよねー。
『続いて西門から! …………冒険者ギルドの推薦によって今大会に出場し、数多のスキルを使い、更に剣と魔法を駆使して対戦相手を降してきた、こちらもまたオールラウンダーの<マスター>! 【
その紹介と共に現れたのは長身で
「…………どこから突っ込めばいいんだ……!」
「
…………正直、私が色々とツッコミ所のある<マスター>の登場に困惑していると、月夜さんが相手選手に対する実に的を射たコメントをしてくれた。
「…………と言うか推薦枠なんだね、あの人」
「私達<月世の会>が調べたところによると、普段は冒険者ギルドでさまざまなクエストを受けたり、市井のティアン達と積極的に交流したりしているようですね。…………なのでギルドからの信頼も厚いのでしょう」
「同じネタ枠でもクマやんより信頼度は上やねーwww」
『うっせーワン! それに最近は子供達にお菓子を配ったりしているから、いい着ぐるみの<マスター>として認知されている筈だワン‼︎』
外見と名前は完全にネタ枠だけど、行動は非常に真っ当な<マスター>みたいだね…………まあ、この世界に“テンプレオリ主”なんて言う概念は無いから、ティアンには普通の良い<マスター>にしか見えないだろうし。
『やあ、君がレントくんだよね? 王都の冒険者ギルドでは色々と話を聞いているよ。今日はいい試合にしよう!』
『あ、ああ……』
お兄ちゃんがルール確認をしていると、対戦相手のオリーシュ氏がすごく爽やかな笑顔で話しかけていた。
…………言っている事とやっている事は凄いまともなのに、元ネタを知っているとギャグにしか見えない……!
「ところで月夜さん、あのオリーシュさんは一体どう言う戦い方をするのですか?」
「んー…………これまでの二試合を見ると、数多くのスキルを使って戦う万能型の<マスター>みたいやね」
「事前の調査によると複数の
「なるほどー。…………テンプレオリ主で良くあるラーニング系スキルか」
まあ、<エンブリオ>は<マスター>のパーソナルから産まれるからね…………でも! テンプレオリ主度ならお兄ちゃんも負けてない筈だし‼︎
「となると…………万能型同士のミラーマッチになるかな?」
『手札の使い方と地力の強さで勝敗が左右されるワンね』
「でも、対戦相手の
二人の会話が凄く真面目なものになってる。どうやら試合が始まるみたいだね。
『それでは! 準決勝第一試合……試合開始ィ‼︎』
◇◇◇
□決闘都市ギデオン・中央大闘技場 【高位魔石職人】レント
『それでは! 準決勝第一試合……試合開始ィ‼︎』
「《クイックスロー》」
「《ウインドブレス》!」
試合開始と同時に俺は【ジェムー《ストームウォール》】を投擲し、相手のオリーシュ氏は手のひらから風のブレスを放った。
その結果として解放された暴風は放たれた風のブレスに突き破られた…………《ストームウォール》は威力自体は低いからな。
(普通に良い戦術だな。初手が妨害系の魔法なら吹き飛ばせるし、攻撃系でも【ジェム】そのものを吹き飛ばして防御出来る。…………名前と見た目はネタまみれだけど、準決勝に上がって来ただけあって普通に強いな)
そして相手は風のブレスで暴風が相殺されたところから突っ込んできた。そこ以外は暴風圏だから、おそらく次の手は遠距離攻撃で牽制かな。
「《真空刃》!」
「《バラージ・スロー》」
予想通り相手は剣を振って複数の風の刃を飛ばしてきた。それに対して俺は八つの【ジェムー《ヒート・ジャベリン》】を投げ放った。
…………投げた【ジェム】は即座に炎の槍に変わり、いくつかは風の刃に相殺されたものの残りが相手に向かって飛んで行った。
「くっ! 《グランド・ウォール》!」
相手は飛んできた炎の槍をスキルによって作り上げた土で出来た半球状の防壁で防いだ…………回避じゃ無くて防御を選んだか。
なので【ジェムー《ホワイト・フィールド》】を取り出して、ジェム強化投擲オリジナルスキルを使って投げつけた。
「《パワースロー・ジェム》」
「くうぅっ‼︎」
放たれた【ジェム】は相手の防壁を含む球状の空間を凍結させた…………土で出来ている以上、前は見えないだろうからな。
…………今の内に相手のステータスを見ておくか。
「《透視》《看破》…………成る程、
おそらく上級職のレベル上限を外す固有スキルだろう…………それによる高いステータスとラーニングした各種耐性系スキルのお陰か、ダメージは思った以上に少ないな。
(俺と違ってちゃんとステータス補正もあるみたいだし、各種スキルによる補正も含めると俺よりもステータスは上か。…………だがこっちにはスキルと違ってノータイムで効果を発揮する【ジェム】があるし、このまま投げ続ければこちらが勝つな)
月夜さんには感謝しなければな、事前に情報が分かっている分戦術が立てやすいな。あとは必殺スキルをどのタイミングで使ってくるかだが。
…………何せ、相手はこれまでの二試合で
「くっ……やはり冒険者ギルドで聞いていた通り相当な凄腕の様だね。…………だがっ! 俺も推薦してくれたギルドのみんなや応援してくれている人達の為にも! ここで負ける訳にはいかない‼︎」
「そ、そうか…………今の内に色々仕込みをしておくか……《トラップ・…………》……《召喚》──バルンガ・ゴレムス・ブレイズ」
なんか凄いカッコいい事を言っているが、元ネタを知っているとギャグにしか見えんな…………とりあえず今の内にオリジナルスキルによる罠を仕掛けて、召喚モンスターも出しておこう。
召喚したのはいつもの【バルーンゴーレム】のバルンガに、新しく契約した【ウッドゴーレム】のゴレムスと【エクスプロード・エレメンタル】のブレイズである。
そして、自身と召喚モンスターを全体強化バフの魔法が込められた【ジェム】を使って強化していき、ゴレムスには
「いくぞっ! これが俺とみんなの絆の力だ! 《
「《自動装弾》……疾っ!」
…………無駄にカッコいい事を言いながら必殺スキルを使った相手に対し、俺は【ジェムー《ライトニング・ジャベリン》】と【ジェムー《フリーズ・ジャベリン》】をそれぞれ四つずつ取り出して投げつけた。
投げられた【ジェム】は雷と氷の槍となって相手に襲いかかったが…………オリーシュ氏はそれらの攻撃を
「無駄だっ! 今の俺にはその程度の攻撃は効かない‼︎」
「《看破》……レベルが大幅に上昇しているのか⁉︎」
必殺スキルを発動し黄金のオーラに包まれたオリーシュ氏を《看破》してみると、メインジョブである【魔剣聖】の
これだけの強化スキルだからデメリットもありそうだが…………時間制限とかならともかく事前コストなどのデメリットなら決闘では踏み倒せるからな。
「いくぞっ‼︎ 《猪突猛進》!」
「くっ! 《ロング・ファストシュート》!」
加速系スキルを使いこちら突っ込んでくる相手にに対し、俺は高速長射程投擲のオリジナルスキルで【ジェムー《ヴァイオレット・ディスチャージ》】を投げつけた。
「甘い! 《アクセラレイション》! 《ブリーズ》!」
「何っ! ……くそっ! バルンガっ行け‼︎」
だが、速度強化スキルを追加発動し【ジェム】に接近したオリーシュ氏は、それを風魔法を使ってを発動前に他所へ吹き飛ばした…………その結果【ジェム】はあらぬところで電撃をまき散らした。
とりあえず俺はバルンガをけしかけて時間を稼ごうとする…………ちょっと焦ったフリをしつつ。
「無駄だ! 絆の力を得た俺がその程度のモンスターに止められるとでも……何ィ⁉︎」
バルンガを斬り捨てようとしたオリーシュ氏は、事前に仕掛けてあった《トラップ・マッドクラップ》に引っかかりその足を泥の中に沈めた…………バルンガは浮いているから引っかからないしな。
(情報通り、必殺スキルを使ってからは短時間で勝負を決める為に突っ込んできたな…………このオリジナルスキルは指定した範囲に敵が入ってきた時に発動するスキルだから、相手の行動を読んで仕掛ける必要があったしな)
…………相手の行動を誘導する為に、そのロールプレイに合わせて“焦った敵”の演技もしてみたが、あんまりこういうのは俺の好みじゃないな。
「《バラージ・シュート》」
そこに間髪入れず【ジェムー《マッドプール》】【ジェムー《グランドホールダー》】【ジェムー《フリーズバインド》】【ジェムー《アクアネット》】などの各種拘束魔法入りの【ジェム】を投擲しその動きを縛った。
…………これで少しの時間は動けないだろうし、準備しておいた戦術が使えるな。
「さて、そんなに絆が好きなら、俺と召喚獣達の絆の力を見せてやろう…………行け、お前達」
その言葉と共に、まずバルンガがオリーシュ氏に纏わり付いてその動きを止め、その隙にゴレムスが相手に接近して持たせておいたアイテムを破壊した。
そのアイテム…………
…………さて、俺が新しく契約した召喚モンスター【エクスプロード・エレメンタル】は炎属性のエレメンタルであり…………基本的に
「…………まあ、
俺がその場を離れると同時に、自爆モンスターであるブレイズが
ドッガガガガガアアアアァァァァァ────ァァァン‼︎
その爆発に周りの炎属性【ジェム】が誘爆して大爆発を起こした…………【ウッドゴーレム】はステータス自体はそこまで高くはないが、今の様に複雑な戦術も取れる器用さがあるから、こういう戦術とは相性が良い。
「ちなみに、あの【ジェム】の中身はほとんどが範囲攻撃魔法の《エクスプロージョン》であり、奥義の《クリムゾン・スフィア》もいくつか入っていたのだが」
「ぐうぅぅ……ま、まだだ……!」
あの大爆発を食らったオリーシュ氏は全身に【火傷】を負って、身体の一部は【炭化】しながらもかろうじて生きていた…………やっぱり炎熱耐性系のスキルも持っていたか。
…………だが、それも想定済みだ。
「《詠唱》終了……《
俺はダメージで動きが鈍くなっていた相手に、事前に
「ぬわあああァァァァァ────‼︎」
その超強化された火球を食らったオリーシュ氏は断末魔の叫びを上げて消し飛んだ…………あの叫び声を聞くと、なんかこっちが凄い悪役の様に感じるんだが……。
『しっ試合終了ォォ──‼︎ 勝者は【高位魔石職人】のレント選手! その容赦の無い戦術でオリーシュ選手を消し飛ばしました〜〜‼︎』
…………やっぱり、俺の方が悪役に見えるかなぁ。
◇
「今回は俺の完敗だったよ。…………俺に勝った君なら決勝戦も勝てるはずだ、応援しているよ!」
「は、はぁ……」
そう言って、オリーシュ氏は爽やかに去っていった…………最後までテンプレオリ主ロールは崩さなかったな……。
(今回は月夜さんの事前情報があったから、相手を上手く嵌める事が出来たな…………あとで礼は言っておくかな?)
次の準決勝はフィガロさんとフォルテスラさんの試合か…………さて、どうなるかな。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:絆の力(自爆戦法)
・自爆戦法は対先代【技神】用の戦術で、本来は自分自身で行う。
・ちなみに先代【技神】には爆発を斬り裂かれて無効化された。
・出来れば決勝まで取っておきたかった戦術で、他には切り札と言える戦術(手札)はあと三つぐらいしか残っていない。
【ウッドゴーレム】:月一召喚ガチャの成果その一
・名前はゴレムス、郊外の森の中で引いた。
・ステータスはENDとDEXが高く、壁役や武器の扱いも可能。
【エクスプロード・エレメンタル】月一召喚ガチャの成果その二
・名前はブレイズ、<墓標迷宮>の中で引いてみた。
・ステータスはMPとAGIが高いが、スキルが全MPを消費する自爆スキルしか覚えていない。
《エクスプロージョン》:炎属性魔法
・【紅蓮術師】で取得出来る魔法で、大爆発する火球を投げつける。
・威力は《クリムゾン・スフィア》より低いが攻撃範囲は広い…………のだが、それ故に術者を巻き込みやすいのであまり使われる事は無い。
オリーシュ・テンプレート:テンプレオリ主ロールプレイヤー
・二次創作物が大好きで、デンドロ内でテンプレオリ主ロールをしている<マスター>。
・名前とアバターの外見はノリで決めた…………かませにはならないように注意している。
・普段は“異世界トリップ系オリ主”のロールで冒険者ギルドでクエストをこなしたり、ティアンの人達からの依頼を受けたりしている。
・ジョブに関しては「テンプレオリ主なら剣と魔法でしょ!」という理由で魔法剣士系のジョブを取っている。
・いくつかの高難度クエストをクリアしたり、大会でも準決勝まで上がってこれるぐらいには実力も高い。
・今回の敗因は罠感知系スキルを持っていなかった事と、兄の悪役ロール(彼視点)に付き合った事。
【英雄道程 ヒロイック・ミィス】
TYPE:ルール
到達形態:Ⅳ
能力特性:学習・成長
保有スキル:《
必殺スキル:《
・オリーシュ・テンプレートの<エンブリオ>、モチーフは英雄たちを主人公とする神話『英雄神話』を意味する言葉“ヒロイック・ミィス”。
・《魔獣の血は我が糧となり》は
・《我が道程に果ては無し》は自身が就いている上級職のレベル上限を撤廃し、レベルを百以上まで上げる事が出来る様になるスキル(当然レベルが上がれば上がるほど必要経験値は増える)
・必殺スキルは自身が今まで達成したクエストの難易度の合計値をポイントとして蓄積し、スキル使用時には溜め込んだポイント分だけメインジョブのレベルを上昇させるスキル。
・難易度一につき1ポイント貯まる(必殺スキル取得時には、<エンブリオ>が生まれてから今までで達成したクエストの難易度の合計値分のポイントが貯まっている)
・制限時間は十分間で途中解除も可能で、発動時に60ポイント以上溜まっていないと必殺スキルの使用が出来ない
・効果終了後にスキルの使用時間十秒につき1ポイント分だけ蓄積ポイントが減少する。
・クールタイムはデンドロ内時間で七十二時間。
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決勝戦・VSフィガロ
それでは本編をどうぞ。
6/9 原作で【翆風術師】の奥義魔法の名称が出たので、本編中の名前をそちらに差し替えました。
□決闘都市ギデオン・中央大闘技場 【
「…………成る程、勝ったのはフィガロさんか」
準決勝第二試合、フィガロさんとフォルテスラさんという見知った二人の戦いで、勝ったのはフィガロさんだった…………とは言え紙一重の差であり、どちらが勝ってもおかしくない実に見応えのある試合だった。
…………正直、俺の戦いは遠距離から【ジェム】を連打するか、作戦で嵌め殺しにするかだからあんまり見応えがなぁ……。
「それはともかくとして、決勝の相手はフィガロさんになったわけだ。…………以前のミカとの戦いで、彼の<エンブリオ>の能力はおおよそ見当がついているが……」
あの戦いでフィガロさんはミカの直感を上回る為に
…………これらの事から彼の<エンブリオ>は“戦闘時間比例の装備品強化”と“装備数に反比例した装備品の強化”と推測される。
(単純なステータス強化なら装備品を外す必要はないし、<エンブリオ>の能力は大体テーマが決まっているからな。…………問題はフィガロさん自身の戦闘センスの方なんだが……)
彼の戦闘センスは間違いなく規格外の領域にある。それと<エンブリオ>とジョブのシナジーによる高い汎用性もあって、間違いなくこれまで戦ってきた相手の中では最強だろう。
(規格外の才能の持ち主というのは、コッチの予想をあっさり超えてくるからなぁ…………事前に立てた作戦は全部上手くいかないぐらいを想定するべきだな)
とりあえず短剣二本は腰に挿しておいて、<プロデュース・ビルド>の皆さんに作ってもらった【鋼老樹の複合弓】も装備しておこう。もう魔石職人の宣伝の依頼は十分こなしたし、決勝戦ぐらいは今の全力で行こうか。
…………基本的な方針は超短期決戦で、勝ち負けはともかく
「あとは出たとこ勝負かな。……そろそろ時間か」
『これより! <マスター杯>決勝戦を開始いたします‼︎』
…………会場の方から聞こえてきたアナウンスに答えて、俺は決勝戦の舞台に上がっていった。
◇
そして今、俺は舞台の中央でフィガロさんとルールの確認をしていた。
「久しぶりだねレントくん。……キミとは以前戦えなかったからね、楽しみだよ」
「……魔石職人の宣伝は終わったので、決勝戦は今の全力で相手をしますよ」
「…………へぇ、それは本当に楽しみだね」
そう言ったフィガロさんはとても
…………それだけの言葉を交わして、俺たちはルールの確認を終えて試合開始地点に着いた。
『…………それでは! <マスター杯>決勝戦……試合開始ィ‼︎』
その宣言と同時にフィガロさんは弓を取り出して、こちらに矢を射かけた。それに対し俺は【ジェムー《ストーム・ウォール》】を三つ取り出し、それをその場で起動して暴風の壁を作り上げた。
…………更に俺も即座に弓を構えて、矢──当たった相手に麻痺効果をもたらす【麻痺蠍の矢】──を番えた。
「疾ッ! ……ッ⁉︎」
「《スプリット・アロー》!」
彼の放った矢は暴風の壁に遮られてこちらには届かず、俺の放った矢は追い風を受けつつ分裂して襲いかかった。
…………本来《ストーム・ウォール》は、こうやって自分に有利な条件を作る為の魔法だからな。
「《パラライズアロー》《スリーピングアロー》《ポイズンアロー》!」
更に俺は状態異常効果のある矢とスキルを駆使して、彼に次々と矢を射かけていく。
…………状態異常を警戒して一つでも装備枠を潰してくれれば御の字なんだが……。
「チィッ! ……セェイ‼︎」
だが、彼は襲いかかる矢に対して武器を斧に変更して、それから放たれた暴風で全ての矢を弾き飛ばした。
(あの斧は準決勝でも見た物だな。鑑定したら【旋嵐斧 フルゴール】という特典武具だったが…………まさか!)
その本来の用途を思い出した俺は、即座に【ジェムー《エメラルド・バースト》】──【
…………それとほぼ同時に彼はいくつかの装備を外した上で、その斧を大きく振りかぶった。
「《
「シャァッ‼︎」
彼はそのまま【フルゴール】を全力で投擲し、それとほぼ同時に俺も
…………そして嵐を纏った斧と【ジェム】から解放された豪風がぶつかって、舞台全体に暴風が吹き荒れた。
(これでは弓は射りづらいし、暴風の壁も全て吹き散らされたな。まさか接近する為だけに
そのフィガロさんは弾き飛ばされた特典武具に一瞥もくれず、暴風が吹き荒れる中を高速で移動してこちらに向かってきた……多分、風除けのアクセサリーとかを使っているな。
…………だが、確かに弓は使い難くなったが使えなくなった訳ではないな。
「《トリニティ・アロー》!」
「! チッ‼︎」
俺は《自動装填》スキルで【風除けの矢】を取り出して、三重状態異常のオリジナルスキルでもって射ち放った。
…………《ストーム・ウォール》を使う以上、当然そういう矢も買い揃えてある。それに加えて手套と弓とジョブスキルにある《弾道安定》系のスキルを持ってすれば、風によるブレは最小限に抑えられる。
あとは
「《ラピッドアロー》《ハンティングアロー》!」
「疾ッ‼︎」
そうやって俺が各種スキルを使って次々と射かける矢を彼はある時は手に持った双剣で撃ち払い、またある時は体捌きで躱していく……こうもあっさり対応されると自信を無くすなぁ。
だが、風も弱まってきたし……何より彼の足を止めることは出来たので、俺は四つの【ジェムー《ライトニング・ジャベリン》】を取り出して投げ放った。更にそれに隠すように
「《バラージスロー》! ……《クイックスロー》」
「疾ィッ‼︎」
投げられた四つの【ジェム】に対してフィガロさんは武器を鎖に切り替えて伸長させて、それらが発動する前に全て打ち払った。その結果放たれた雷の槍はあらぬ方向へと飛んで行った。
そして、それに隠していた最後の一つにも気づいて同じ様に打ち払おうとして……その【ジェム】ではない
「ッ⁉︎」
「《バラージ・シュート》》!」
事前に目を閉じていた俺と違い、彼は直にその光を見てしまったので一瞬その動きが止まってしまった。
…………その隙に俺は弓を手放して、【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】を八つ取り出して投げつけた。
ドガガガアアアアアァァァ────ァァン‼︎
解放された【ジェム】から放たれた爆炎がフィガロさんがいた場所一帯を焼き払った……それを見た俺は即座に《透視》スキルを使いつつ、【ジェムー《マッドプール》】と【ジェムー《マッドクラップ》】、更に【ジェムー《グランドホールダー》】を取り出した。
…………《透視》スキルを使った俺の目には、予想通り以前見た黒い球体に包まれた彼の姿が見えた。
(やっぱりそのスキルで防いで来たか……それをどうやって使わせるかが問題だったんだよな)
そんな事を考えつつ、爆炎が収まり次第取り出した【ジェム】を片っ端から投げ込んで彼の周りを泥で沈め、更に土で出来た腕で黒い球体を掴もうとした……あらゆる攻撃を遮断する結界ならば
…………《マッドクラップ》もその上位魔法である《マッドプール》も、足を踏み込んだ相手を拘束する効果があるから動きを多少は封じられる筈だ。あとは相手がどう対応するかだが……。
「シッ!」
「そう来るか……《ロング・ファストシュート》!」
迫る《グランドホールダー》に対してフィガロさんは即座にスキルを解除して、その
なので、俺は手放した弓を拾いつつ【ジェムー《ホワイト・フィールド》】を空中にいる彼に向けて投げつけた。
「《断命絶界陣》!」
「! チッ‼︎」
それに対してフィガロさんは特典武具のスキルと思われるもので空中に剣の様な物を作って、それを足場にして泥の外に移動しつつ、
それにより俺と彼の間で《ホワイト・フィールド》が起動したので、俺は急いで距離を取りつつ弓を構えた……が、凍結して白く染まった空間から伸びてきた
「ッ⁉︎ 《高速召喚》ーバルンガ‼︎」
慌てて持っていた弓を鎖が伸びてきた方向に投げ飛ばし、即時召喚のスキルでバルンガを呼び出して壁にした。
……その直後、凍結した空間を突き破って
(装備数反比例強化で魔法や凍結の耐性を上げて突っ切って来たのか! …………でも、こんな大会でパンツ一丁になるとかバカじゃないのこの人⁉︎)
そんな事を考えつつも俺は【ジェムー《ヴァイオレット・ディスチャージ》】を取り出すが、彼は向かっていったバルンガを躱してこちらに突っ込んできた。
更に、こちらに鎖を放って牽制し、距離を取らせないようにしてきた。
(……この距離じゃ広域攻撃の【ジェム】を使ったら自分も巻き込んでしまうな……じゃあ、
俺は飛んできた鎖を開いた手で掴み取り、そのまま全力で引っ張って彼をこちら側に引き寄せ…………それと同時に逆の手に持っていた【ジェム】を地面に叩きつけて大電撃を発生させた。
ガガアアアアアァァァ────ァァン‼︎
発生した大電撃は俺ごとフィガロさんを飲み込んだ。
……とはいえ、このままでは数秒後に死ぬが……。
「《クイック・リヴァイヴ》‼︎」
すぐに俺は回復型のオリジナルスキル──《ラスト・スタンド》と回復魔法スキルを組み合わせた、HPが1の時だけ使える即時高速回復魔法スキル──で、HPを三割ほど回復させた……対策装備を着けていたとはいえ、【麻痺】しなかったのは運が良かったな。
当然、魔法耐性装備を着けていたフィガロさんも生きているが、大電撃の衝撃でその動きは止まっていた……装備が少ないという事はステータスは下がっている筈だから、今ならこちらの行動の方が早い。
「《瞬間装備》《ハンティング・シュート》!」
「⁉︎ クゥッ‼︎」
俺はすぐに投槍を取り出して投げつけたが、彼はギリギリで身体を反らしたのでその肩を抉るだけに終わった。
そして、すぐに彼は《瞬間装着》で装備を身に纏いこちらに迫って来た……ここまで距離を詰められると【ジェム】は使う暇がないので、俺は短剣二本を抜いて迎え撃った。
「■■■■■■‼︎」
「⁉︎」
フィガロさんがこちらに迫る瞬間、その表情が狂相に染まりステータスが大幅に上昇した……【狂戦士】系の《フィジカルバーサーク》か! 確かステータスの大幅な上昇と引き換えにアクティブスキルの使用と肉体の制御を失うスキルだったな。
だが、その剣閃は狂戦士のものでは無く一流の剣士のそれだった……おそらく、なんらかのスキルで制御不能のデメリットは消しているか。
「■■■■■■■!」
「《ダガーパリィ》! 《ハンティングエッジ》!」
狂化されたステータスから放たれる斬撃を、俺はアクティブスキルを使ってどうにか凌いで行く。
…………だが、接近戦の技量は向こうがやや上の様で、更にステータスまで上回られているので徐々に押されていった。
「■■■‼︎」
「グゥッ⁉︎」
そして、ついに彼の斬撃を凌ぎきれずに左腕を切り飛ばされてしまった。
……両手で辛うじて凌げていた相手を片手でどうにかできる筈もなく、そのまま俺は彼に切り捨てられる……。
『…………』
「■⁉︎」
寸前にその動きが止まった……彼の
……どうにか、まだ召喚したままだったバルンガの近くまで誘導できたみたいだ……勝機はココしかない!
「《ピアースファング》‼︎」
動きを止められたフィガロさんに向けて、俺は彼の心臓に向けて残った右腕の短剣で突きを放った。
その突きは彼が装備していた軽鎧を貫いてその肉を穿ち……
(ッ⁉︎ ……まさかこの人の<エンブリオ>は
「■‼︎」
その驚愕で一瞬止まってしまった隙をフィガロさんが見逃すはずも無く、止まった短剣を蹴り上げで跳ね飛ばされたので、俺は慌てて距離をとって【ジェム】を取り出そうとした。
……だが、彼は蹴り上げた勢いのまま
「ッ⁉︎」
「■■■‼︎」
短剣を跳ね飛ばされ体勢を崩していた俺はそれを避ける事は出来ず、すれ違い様に首を跳ね飛ばされていた。
…………流石に首を跳ね飛ばされたら《ラスト・スタンド》も意味が無いな……俺の負けか。
『……試合終了ォォォォ‼︎ 短いながらも壮絶な死闘を制したのは【
…………こうして俺の<マスター杯>の最終戦績は準優勝という事になったのだった。
◇◇◇
□決闘都市ギデオン・中央大闘技場 【
『お疲れ様、いい試合だったよ』
『こちらこそ、ありがとうございました』
決勝戦が終わってお兄ちゃんとフィガロさんは握手を交わしつつ、互いの健闘を労っていた…………うん、実に良い大会だったね。
「アバ〜〜〜〜‼︎ 負けた〜〜⁉︎ あの露出プリンス〜〜‼︎」
「ギャア〜〜〜〜⁉︎ 全額擦った〜〜‼︎」
…………賭けに負けて喚いている月夜さんとターニャちゃんは放置の方向で。
「…………うちのターニャが煩くてすまんな……」
「…………こちらこそ、うちのオーナーが申し訳ない……」
…………エドワードさんと葵ちゃんを始めとした周りの関係者も呆れているね……。
…………月影さんは相変わらずニコニコしてるけど……。
「結局、兄様は準優勝だったのです」
「まあ、決闘専門じゃない割には健闘したんじゃない? …………目的の方は達成出来たみたいだし」
あれだけ派手に【ジェム】を使って勝ち進めば、魔石職人の宣伝という目的は達成出来たでしょう。
…………とはいえ……。
「…………シュウさん、<エンブリオ>の特性上仕方ないとはいえ、フィガロさんが大会とかで脱衣するのは色々と問題があるんじゃ……」
『…………フィガ公は基本的に脳筋の天然だからな。…………後で性能が高くて汎用性のある下半身装備を身につけておけ、と念入りに言っておくワン』
…………まあ、フィガロさんの脱衣癖は友人であるシュウさんがなんとかしてくれるでしょう。
とりあえず<マスター杯>もこれで終わりだね…………そうだ、この後お兄ちゃんに以前から考えていたことについて相談してみようか。
◆◇◆
□■中央大闘技場 【大賢者】
中央大闘技場のVIP席の一つ、そこにはアルター王国国王を始めとして、その護衛の近衛騎士団団長などの王国の主要人物達が<マスター杯>を観戦していた。
そこでは決勝戦が終わった後、出場した<マスター>達の健闘を讃える話や今後の王国と<マスター>の関係についての話をしており、彼……【大賢者】もそれらの話に加わっていたが…………内心では別の事を考えていた。
(
元々、この大会を提案した理由は、王国のご意見番として意見を求められた時についでに
更に王国における戦闘能力上位の
(あのインフィニットクラスの“化身”供には遠く及ばず、スペリオルクラスにも至っていないのが今の
その事も含めて
(もし、今いる
実際、
おそらく“化身”供は
(…………うまくいけばスペリオルクラスの
…………この世界の打ち手の一人である【大賢者】は今後の行動を決めた後に王国関係者との会話に戻っていった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:<マスター杯>準優勝
・最後の【ジェム】は《エクスプロージョン》で《ラスト・スタンド》頼りの相打ちに持ち込むつもりだった。
・準優勝したのでかなりの額の賞金をもらい、ミレーヌさんクエスト達成報酬として大会で使った【ジェム】を全て貰った。
・今回の大会でそれなりに有名になったので、二つ名の候補がいくつか出来た(“自称魔石職人”、“魔石投擲職人”、“万能者”、“生産職(笑)”など)
【鋼老樹の複合弓】:兄の新装備その三
・純竜級モンスター【エルダートレント】の樹木をエドワードが金属化し、ゲンジが弓に加工し、ターニャが弦を作った<プロデュース・ビルド>の合作品。
・非常に高い攻撃力に加えて、高レベルの《射程延長》《矢速上昇》《弾道安定》《貫通射撃》《破損耐性》のスキルを持つ。
・兄に合わせ装備条件として合計レベル800以上、STR1000以上、DEX2000以上が課せられている。
・新装備の中では一番値段が高く、兄の所持金の三割くらいを費やした。
【風除けの矢】:兄が持っている矢の一つ
・その名の通り弾道が風の影響を受けにくい矢。
・風魔法による防御なども突破出来るので、風魔法【ジェム】との併用前提で兄は買い揃えていた。
フィガロ:<マスター杯>優勝
・今回の試合で兄への好感度は上昇した、曰く「なりふり構わずこちらを殺しにくるところが良いね。また戦いたい」との事。
・下半身装備を外した事については「下半身装備よりもブーツの方がAGI補正が高かったから」と供述している。
・大会終了後、シュウとフォルテスラから『高性能で汎用性の高く常用出来る下半身装備を着けろ』と厳命された。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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アルター王国一周旅行・まずは南へ
大会の後・準備と出発
それでは本編をどうぞ。
□決闘都市ギデオン 【
あの<マスター杯>が終わった後、私はお兄ちゃんとミュウちゃんにとある話を持ちかけていた。
「“このアルター王国を見て回りたい”?」
「そうだよ、お兄ちゃん。…………ほら、せっかくアルター王国にいるのに、私達が活動しているのって王都とギデオンだけじゃない? だからこの国の他の街とかも見て回りたいんだよ」
これは以前から考えていたことで、ミュウちゃんの事とかがあったから保留していたんだよね。
もうミュウちゃんのレベルも上がってデンドロにも慣れてきたし、そろそろ本格的に色々な所を見て回ってもいい頃だと思うんだよ。
「いいと思うのです、姉様! 私も色んなところを見てみたいのです‼︎」
『ミュウがそうしたいなら僕も構わないよ。それに今の僕達なら二人の足を引っ張る事は無いだろうし』
ミュウちゃんとフェイは賛成してくれたみたいだね…………確かに、今の二人なら亜竜級モンスターでも余裕を持って相手に出来るだろうしね。
「俺も別に構わないが…………どういうルートにするつもりなんだ? …………まさか、また俺頼みとかは言わないよな」
「今回はちゃんと考えてきたよー。…………とりあえずこのギデオンから西に出て、そこから時計周りにこの国を一周する感じのルートで行こうと思うんだけど……」
このアルター王国は大体中心ぐらいに王都があって、それを囲む様に様々な街があるからそんな感じで行けば色々に所を見て回れると思ったんだよね。
「…………まあいいんじゃないか? それで。細かいルートは後々決めていけば良いし…………俺達なら多少無茶なルートでも問題は無いだろうしな」
「その辺りは不死身の<マスター>の特権だよねー」
モンスターが跋扈するこの世界では旅行するのも割と命懸けだけど、高い戦闘能力を持っていて、尚且つ不死身の<マスター>なら気楽に行けるしね。
…………そんな話をしていると、ミュウちゃんが疑問の声を発した。
「…………ところで、この世界を見て回るのはとても楽しみなのですが、ここでの旅行にはどういう準備が必要なのでしょうか?」
「ふむ…………主に食料や移動手段、後はキャンプ用具とかがあればいいだろう。この世界にはアイテムボックスがあるから、その手の準備は現実よりも簡単かな。…………俺達は<マスター>だからログアウトも出来るし」
「まあ、一番必要なのは戦闘能力なんだけどねー」
「成る程、分かったのです」
移動手段に関しては以前手に入れた【ホースゴーレム】のブロンと小型の馬車があるから問題無いかな。後はキャンプ用具と食料を買い込んで…………ああ、長期の旅行なら時間経過遅延機能のついたアイテムボックスも必要だね。
「改めて考えてみると意外とお金が掛かるかも? 特にアイテムボックスが」
「…………あれ高いからなぁ。…………まあ、長期の旅行ならそれなりの資金は必要だから、今ギデオンで流行りの【ジェム】を作成する【
「流行らせたのはお兄ちゃんだけどねー」
お兄ちゃんが<マスター杯>で【ジェム】を派手に使って好成績を収めた所為で、今ギデオンでは決闘をやっている<マスター>を中心とした人達の間で高位魔法【ジェム】がバカ売れしているのである。
その為、ここの魔石職人ギルドでは高位魔法【ジェム】が枯渇してしまっており、それの作成クエストには困らなくなっている様だ。
「何せ【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】を作るだけでぼろ儲けだからな。今のギデオンで資金を稼ぐのには苦労しない」
「<マスター>なら数十万リル稼ぐ人も結構いるしね。…………じゃあ資金稼ぎはお兄ちゃんに任せるよ」
「分かった。…………今の【ジェム】ブームは一過性のものだから遠からず廃れるだろうし、今のうちに稼げるだけ稼いでおこうと思っていたしな」
「それじゃあ姉様、私達は食料品を買えばいいのです?」
「そうだね。それと時間経過遅延機能付きアイテムボックスもね」
そういう訳で長期間の旅行に向けての準備をする為にお兄ちゃんは資金稼ぎ、私とミュウちゃんは食料品などを入れるための時間経過遅延機能付きアイテムボックスを買いに行く事になったのだった。
◇
それで私とミュウちゃんは時間経過遅延機能付きのアイテムボックスを買う為に、以前にも来た事がある<アレハンドロ商会>に来ています。
「こうして見ると王都のお店とは結構品揃えが違うのです」
「このギデオンはレジェンダリアに近いからね、そこから輸入したマジックアイテムとかが豊富みたいだよ」
『本当だね、王都では見た事の無いアイテムが結構あるよ』
このお店の品揃えを見てミュウちゃんとフェイちゃんは感心している様だ…………私も以前初めてギデオンに来た時は似た様なものだったねー。
「じゃあ買い物が終わったらギデオンの観光でもしようか」
「良いですね! 楽しみなのです‼︎」
そんな話をしつつ、私達はアイテムボックスが売っている場所までやってきた。
「…………結構いっぱい種類があるのです。しかもどれも高いのです……」
「まあ、アイテムボックスって高いものは数千万リルぐらいするからねー。…………とりあえず基本的に食料とかは現地調達する予定なので、容量は一番少ないやつにしようか」
『…………それでも百万リルぐらいするみたいだけどね」
フェイちゃんの言う通り、時間経過遅延機能付きのアイテムボックスは一番容量の少なくて(初期に貰ったやつの十分の一ぐらい)、その機能に特化したポーチ型のやつでも百二十万リルぐらいだった…………今の私達なら問題無く払える金額だけど。
…………まあ、別に未開の地に行くとかではないんだし、携帯食料を入れるぐらいしか使う予定は無いからこれでいいでしょう。
「さて、アイテムボックスはこれで良いとして、二人は他に何か欲しい物はあるかな?」
「そうですね…………アクセサリーとかを見てみたいのです。ここなら王都には無い魔法のアクセサリーとかがありそうなのですし、フェイが装備できるアクセサリーとかもあるかもしれないのです」
『僕にかい? …………まあ、魔法発動を補助するアクセサリーとかは欲しいけど……<エンブリオ>が装備できるアクセサリーってあるのかな?』
「んー…………ガードナーは基本的にテイムモンスターと同じ扱いだから、専用のやつなら大丈夫じゃないかな? ほとんどのアクセサリーには装備制限が無かった筈だし」
「とりあえず行ってみるのです!」
◇
そういう訳で私達はアクセサリー売り場にやってきた。決闘都市にあるお店だけあって戦闘に使えるアクセサリーが豊富にあるね。
…………さてさて、お目当ての物はあるかなっと……。
「ふむふむ…………あっ! この【魔導獣の輪】なんてどうかな? 非人間範疇生物専用装備でMPに対して補正が付いて、更に《魔法効果上昇》や《MP自動回復》のスキルも付いているよ」
「おお! 良い感じなのです! それに一番小さいやつならフェイでも装備出来そうなのです」
『確かに良さそうだね。特にMPが上がるのは有り難いよ、何せいくらあっても足りないからね』
そんな感じで一通りの買い物を終わらせた私達は、この店のとあるところに来ていた…………そう『ガチャ』が置いてあるところである。
「…………このデンドロにガチャなんてあったのです?」
「実はあるんだよねー。…………正確に言うと入れたリルに応じた価値のアイテムをランダムで召喚する物みたいだけどね。この店では買い物をした客だけが使える事になってるんだよ」
このデンドロでのガチャはこれで二回目…………今回は私の“遠い勘”も働いていないから、純粋に楽しめるね!
『ふーん……客寄せの施設として使っているんだね』
「成る程なのです。…………ところで姉様はいくらで回すつもりなのです?」
「当然最大の十万リルだよ! お金にはまだ余裕があるしね」
そんな話をしているうちに私達の順番が回って来たので、ガチャに十万リルを突っ込んで回そうか。
「…………『B』か。当たりだね」
「えーと、この場合は百万リルの価値があるアイテムが中に入っている、ということなのです?」
「そうだね。…………正確には百万リル
とりあえず出てきたカプセルを開けると…………ええぇ……。
「…………【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】って……。確かに数十万リルの価値がある物だから『B』だろうけどさぁ。…………お兄ちゃんなら数万リルで作れるよねこれ……」
「えーっと…………ドンマイなのです」
まさかこんなタイムリーなアイテムが当たるとは。十万リル支払って数十万リルの物が当たったんだから、十分得してる筈なんだけど…………なんか凄い損した気分……。
「さて! 次は私の番なのです、とりあえず十万リル入れてみるのです」
「…………別に最大額入れなくても良いんだけど……」
私はそう言ったんだけど、ミュウちゃんはさっさと十万リルをガチャに入れて回してしまった。
…………そして、出てきたカプセルに書かれていたのは『C』の文字だった。
「『C』は入れた額と当価値……この場合は十万リルのアイテムが入っているのですね。とりあえず開けてみるのです…………これは【騎馬民族のお守り】というアクセサリーのようなのです」
詳しく効果を見てみると、どうやら《騎乗》スキルのレベルを+1するアクセサリーだった。
「私は乗り物に乗ったりはしないので使い事は無さそうなのです」
「じゃあ、それはお兄ちゃん渡せばいいんじゃない? 基本的に馬車を動かすのはお兄ちゃんだし」
「それではこれは兄様へのお土産という事にするのです」
使い道がある物が出たという意味では、ミュウちゃんのガチャ結果は当たりかな…………出た物の価値は上の筈なのになんか負けた気がする……。
「さて! 買い物も終わったし、この街の観光にでも行こうか!」
「はいなのです‼︎」
こうして私達はギデオンの観光に繰り出したのだった。
◇◇◇
□決闘都市ギデオン西門前 【
ミカがアルター王国一周旅行に行きたいと言ってから、デンドロ内で大体一週間ぐらい経った。
その間に一通りの準備を整えた俺達は、まずギデオンの南西にある<ニッサ辺境伯領>という場所に向かう事になった。
ちなみに俺は馬車を運転しやすくする為にメインジョブを【騎兵】に変えている。
「とりあえず当面の資金もある程度用意出来たし、準備はこれで良いだろう」
「ある程度って…………お兄ちゃん、この一週間で軽く五百万リルぐらい稼いでいなかったっけ?」
「まあ、この一週間【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】ばかり作っていたからな」
一個数十万リルの【ジェム】を二十個くらい作って売れば、そのぐらいは稼げるからな…………やはり、この世界だと生産系のジョブの方が金を稼げるな。
それに魔石職人ギルドのジョブクエストを多数達成したお陰で【
「…………それに<マスター杯>で準優勝したお陰でかなり悪目立ちしてしまったからな、なるべくさっさとギデオンを離れたいし」
「確かにクランへの勧誘とかは結構あったねー。フォルテスラさんの<バビロニア戦闘団>にも勧誘されたりしたし」
「そのぐらいなら別に良いのですが…………たまにしつこい人もいるのです」
デンドロが始まってそれなりに時間が経ったからか、<マスター>が中心となったクランがいくつも作られる様になっており、まだクランに入っていない有名な<マスター>の勧誘も頻繁に起こる様になっていた。
…………基本的に俺達はクランには入る気は無いので丁重にお断りしており、フォルテスラさんなどの
「まあ、ネトゲである以上はそういう連中も一定数いるのはしょうがないんだが…………言い掛かりを付けてまで絡んで来るのはやめてほしいんだがな」
「そーだよねー。…………ああでも、お兄ちゃんに対して『両手に花のハーレム野郎』とか言ってきた人がいた時には笑えたねー」
「このデンドロはゲームなのでアバターを弄っていれば実年齢が分からないし、見た目で兄妹だとかが分かりにくいのです」
『まあ、事情を知らなければ“両手に花”に見えるよね』
コッチは笑い事じゃ無かったんだが…………大体なぜ小学生の実妹二人と一緒にいて、そんな事を言われなければならないんだ。
…………まあ、言い掛かりを付けて来る連中ぐらいなら適当にあしらうんだが……。
「実力行使に出て来るバカがいたのは、悪い意味で予想外だったな…………それも街中で」
「本当にねー。…………しかもミュウちゃんに手を出そうとするとは…………やっぱり潰しておくべきだったかな」
「姉様、流石に街中の目立つ所でスプラッタはやめて下さいなのです。…………それに、その方々は
『あっという間に全員【気絶】してたね』
そう、適当にあしらっていたら何を勘違いしたのか、勧誘して来た連中の一グループが実力行使に出ようとしたのである…………しかもミュウちゃんに。
流石にそんな連中に容赦をしてやる義理は無く、ミカと二人で皆殺しにしようと思ったのだが…………その前にミュウちゃんによって全員投げ飛ばされて、更に《当身》をくらって【気絶】してしまったので未遂に終わっている。
「二人共、私を気遣ってくれるのは嬉しいのですが、やりすぎは良く無いのです…………特に街中では。例え罪に問われなくても周りの人達に迷惑がかかるのです」
「はーい。…………でもミュウちゃんがやってるのは空手だったよね、あの投げ技はスキル?」
「一応【
「…………確かミュウちゃんは一度見た体術ならほぼ完全に模倣出来るんだったな」
「はいなのです。…………と言っても所詮は側だけ真似しただけのものなので、ちゃんと修練を積んだ人のものには遠く及ばないのです」
そうだった、この子も天災児だった…………最近は『デンドロのアバターでの動き方も完全にマスターしたのです』とも言っていたしな。
…………流石に<マスター>とはいえ、街中で死人を出したら騒動になるからこの方が良かったか。
まあ、そんな感じで少々悪目立ちしてしまった為、さっさとギデオンを出て行く事にしたのだ。
「さて! じゃあ気分を切り替えてアルター王国一周旅行に出発するとしますか!」
「「『おー!』」」
こうして俺達のアルター王国一周旅行が始まったのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:王国で結構有名になった
・最近の悩みは変な二つ名で呼ばれる事。
妹:今回の旅行の提案者
・まだアルター王国をほとんど見ていないので、まずはそこから始めようと思った。
・これが終わったら他の国にも行ってみたいと思っている。
末妹:三兄妹の中では対人近接戦闘最強
・アバターのステータスさえ足りていれば、アニメのプリキ○アの動きすら再現可能。
・実力行使に関しては、二人がキレたのが分かったのでスプラッタになる前に急いで制圧した。
《当身》:【格闘家】のアクティブスキル
・攻撃対象にダメージを与えない代わりに、自身の攻撃力と対象の防御力に応じた確率で攻撃対象を【気絶】させる。
・【気絶】の強度は自身の攻撃力と攻撃対象のENDで決まる。
【魔導獣の輪】:レジェンダリア産のアクセサリー
・魔法系テイムモンスター用でMPを固定値で上昇させる。
・《魔法効果上昇》とMPを固定値で回復させる《MP自動回復》のスキルが付いている。
・テイムモンスター用にいくつかサイズが用意されており、足や首などどこに装備しても効果を発揮する。
・フェイは一番小さいサイズの物を首輪として装備している。
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<ニッサ辺境伯領>・遭遇
それだは本編をどうぞ。
□ニッサ辺境伯領前 【
あれからギデオンを出た俺達は馬車を街道沿いに走らせていき、日が暮れた頃には<ニッサ辺境伯領>へ入る事が出来た。
「いやー、すっかり暗くなっちゃったね」
「これでも道中殆どモンスターに襲われなかったから、ペースは早い方だろう」
「襲ってきたモンスターもそこまで強くは無かったのです…………魔法を使うものが多かったですが」
『まあ、魔法自体は下級職レベルだったけど、モンスターの強さ自体も亜竜級以下ってところだったしね』
俺達の辿ったのはギデオン西の<ジャンド草原>を抜けて、南西にある<サウダーテ森林>を通って<ニッサ辺境伯領>まで向かうルートだった。
事前の情報ではこのルート上にいるモンスターが殆どが亜竜級以下のものであり、ギデオンから辺境伯領に向かうルートの中では一番無難であり、ティアンも普通に使っているという話だったので実際に問題無く通過できた。
とはいえレジェンダリアに近い森林地帯だからか、魔法を使うモンスターが比較的多いのが特徴だった…………まあ、モンスター自体は弱かったのである程度の実力があれば問題が無いルートの様だったが。
「とりあえず、このペースなら今晩中に街に着くだろう」
「フーン、そっかー、じゃあ今日は野宿とかはしなくて済むか…………ん?」
そんな話をしているとミカが何か感じ取ったのか、急に明後日の方向を向いた。
「……お兄ちゃん、あっちから何か来るよ。…………多分敵」
「《生物索敵》には反応が無いが…………いや《瘴気感知》の方には反応があったな。…………全員戦闘準備」
常に発動していた《生物索敵》には反応が無かった、だが【
…………という事は……。
「敵はアンデッドだ《ホーリーライト》!」
すぐに俺は【祓魔師】の聖属性魔法《ホーリーライト》──聖属性の光の球体を出して周辺を照らし、その範囲にいるアンデッドへのステータスデバフと呪怨系状態異常効果を低下させるスキル──を使って辺り一帯を照らし出した…………すると、反応があった方向の暗がりから多数のアンデッドモンスターが姿を現した。
『『『『『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️』』』』』
「うわぁー、凄く沢山いるね」
「ふむ……【ブラックウルフ・ゾンビ】【ポイズンスネーク・ゾンビ】【ハイドスパイダー・ゾンビ】その他色々……ここらに出て来るモンスター達がゾンビ化しているみたいだな」
「種類は全部バラバラなのです。…………どこかに親玉が居るのでしょうか?」
確かにこれだけ種別がバラバラにモンスターがアンデッド化しているという事は、どこかにコイツらをアンデッドにしたヤツがいる可能性は充分に有るだろう…………事前の情報ではこの辺りにアンデッドが生成されるような、怨念が大量にある場所は無かった筈だしな。
『『『『『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️』』』』』
「とりあえず伏兵に気を付けながらアイツらを殲滅するぞ……《ピュリファイ・アンデッド》!」
近づいてきたアンデッド達に対して、まず俺が《詠唱》で強化された浄化魔法を使い、その何割かを浄化して残りを大幅に弱体化させる…………【祓魔師】のアンデッドや悪魔に対するスキル効果を上昇させるパッシブスキル《エクソシズム》が効いているな。
それに、奴らはこの辺りのあまり強く無いモンスターがアンデッド化したものだから、個々の能力は低い様だ。
『いくよミュウ……《ホーリー・ブレッシング》!』
「ゾンビはあまり殴りたくは無いのですが……そうも言ってられないのです! 《ソニックフィスト》《ラピッドフィスト》《回し蹴り》!」
更にフェイが俺からラーニングした聖属性エンチャント魔法をミュウちゃんに掛けて、そのバフを受けた彼女が敵アンデッドを次々と格闘で倒していく…………《ホーリー・ブレッシング》は攻撃に聖属性を付与する効果に加えて、自身を不浄から守る効果もあるのでゾンビを素手で殴っても汚れないのである。
「あんまり無理はしない様にねー……《テンペスト・ストライク》!」
そしてミカが暴風を纏った【ギガース】でゾンビ共を纏めて消しとばしていく…………確かに、いくら再生能力の高いアンデッドでもミンチにされれば殆ど再生しないのだが……。
「おいコラ! ミカ‼︎ あんまり肉片を飛び散らすんじゃない!」
「ちょっ! 姉様、こっちに飛んできたのです⁉︎」
「あっ⁉︎ ごめーん‼︎ っていうか思ったより脆いよコイツら‼︎」
その暴風の所為で、砕け散ったゾンビの肉片が飛び散る事さえ無ければいい戦術だったんだが……少しデバフが効き過ぎたか。
「しょうがないな……二人共、下がっていろ! ……《ホーリー・バースト》‼︎」
『僕もやるよ……《ホーリー・バースト》!』
止む終えずやや混乱していた二人を下がらせて、俺とフェイの聖属性広域攻撃魔法で敵アンデッド共を吹き飛ばす事にした。
『『『『『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️』』』』』
俺達から放たれた聖なる光の奔流は、残りのアンデッド達を纏めて消しとばし浄化した。
「ふぅ。…………とりあえずこれで片付いたかな」
「…………最初からそれで吹き飛ばしておけば良かったんじゃ……」
「仕方ないだろう、相手の詳細が分からなかったから弱体化を優先させたんだから」
『それに下級職の広域攻撃魔法だから威力は低いしね』
だが、あれだけ弱体化を重ねれば問題無く撃破出来た様だがな…………正直、最初から聖属性魔法で攻撃していても倒せた気もするが、それは言わなくてもいいだろう。
「ところで俺の各種探知系スキルには、敵の反応は無いが…………そっちはどうだ、ミカ?」
「うーん…………これといった危険はもう無いみたいだよ。ミュウちゃんは?」
「私も特に視線とか殺気とかは感じないのです」
俺達三人の各種索敵能力に引っかからないという事は、ここら辺にはもう敵は居ない様だな。ちなみに視線や気配を感じ取れるのはミュウちゃんのリアルスキルである(一応《殺気感知》《気配察知》も覚えているがレベルは低い)
曰く「相手が攻撃してくる前に殺気とか気配とかを感じるのです。それを読めば相手が攻撃する位置とかも大体読めますよね?」とのこと……いや、普通そんな事あっさり分からないから、ミュウちゃんの戦闘センスが頭抜けているだけだから。
「でも、なんでこんなところにアンデッドが? この辺にアンデッドが発生する場所なんてあったっけ?」
「事前に調べた時にはそんな情報は無かったが。…………とりあえずさっさと街に入ろう、そこでなら情報を得ることも出来るだろうさ」
俺達は急いで戦闘の後始末を終えると、すぐに街に向かった。
…………幸いな事にこれ以降は何事も無く普通に街に着くことが出来ので、俺達は旅の疲れを癒す為に一旦ログアウトする事にした。
◇◇◇
□ニッサ辺境伯領・冒険者ギルド 【
あれから私達は現実で三日程、デンドロでは一週間ぐらいこのニッサ辺境伯領に滞在していた。ここニッサ辺境伯領アルター王国とレジェンダリアの国境付近にある為か、ギデオンと比べても亜人の数が多いようだった。
更にその街並みはレジェンダリアの影響を強く受けているのか、王国の他の街よりもファンタジーな感じで、売っている物もレジェンダリア産のマジックアイテムが多かった。
…………そして今まで私達はこの街を観光したり、冒険者ギルドのクエストを受けたりしつつ、手分けしてこの街に来た時に遭遇したアンデッドの情報を集めていた。
「とりあえず今まで集めた情報を纏めよう…………冒険者ギルドの職員からの情報によると、ここ最近夜になるとアンデッドモンスターが出没する様になったみたいだな」
「街の人達も、今まではこの辺りにアンデッドなんて滅多に出なかったのに、ここ最近はよく見かける様になったって言ってたね」
街の人達の証言を纏めると、どうもアンデッドが頻繁に目撃され出したのはここ最近の事の様だね。
「実際、冒険者ギルドのクエストでも『夜間に出没するアンデッドモンスターの討伐』のクエストが出ていたのです」
『僕達も何度か受けているよね』
その際に出て来る奴らは、その殆どがこの辺りに居る弱いモンスターがアンデッド化したものであり、アンデッド化した事により耐久力は上がっていたがそれ以外の能力はむしろ下がっていたので倒す事自体は簡単だった。
…………だが、そのアンデッド達には一つの厄介な能力があって……。
「…………まさか、
「幸いな事にアンデッド自体は弱いので被害はそこまで広がってはいない様なのですが……」
「…………冒険者ギルドでは“この辺りに高位のアンデッドモンスターが住み着いた可能性もある”として現在調査中らしいがな」
高位のアンデッドモンスターの中には死体をアンデッドに変えて使役するモノもいて、更に極一部のモノには今回の様にアンデッド化を伝染させるスキルを持つモノもいる様だ。この世界ではアンデッド化を伝染させるスキルを持つアンデッドは特級の危険生物に指定されており、その情報や討伐には相当な額の懸賞金がかけられている程みたい。
…………その可能性も考慮して、現在この領の騎士団と冒険者ギルドで調査が進められており、更に王都に居る近衛騎士団が派遣されているという話もあるみたいだね。此処が王国の端にある所為か、捜索に参加している<マスター>は少ないみたいだけど。
「まあ、俺達は所詮外様、通りすがりの<マスター>だからな。…………自分達が巻き込まれたならともかく、この街の問題に関しては基本的に蚊帳の外だ」
「そうなんだけどねー。…………このまま放置しておくと
…………そう、この街に来てから何度かアンデッドと戦っているうちに、私の『遠い勘』が“早くこの問題を解決した方がいい”と警告を発し始めたのである。
「姉様の勘に反応があったのですか、だとすると何か行動を起こさなければいけませんね。…………ところで姉様、どうすればいいのかは分からないのですか?」
「問題はそこなんだよねー。…………“このまま調査を続行した方がいい”って感じしかしないんだよね」
私の『遠い勘』は、正直言って自分でもどういうモノなのかが分かっていないのでかなりムラがあり、前回の誘拐事件の時の様に明確な行動の指針が出る事もあれば、今回の様に曖昧な感じで伝わる事も多い。
…………むしろ明確な指針が出る事は少なく、そういう場合は大体事件の核心に近づいた時に『近い勘』として出る事が多いんだよね。
「ふむ、じゃあ少し考え方を変えてみよう…………この世界でのアンデッドの発生原因は基本的に二種類ある、自然発生するか誰かが作るかだ」
「えーっと、前者が怨念のある場所の死体がアンデッドになる事とかで、後者が【
「大体そんな感じだ。…………実際はもっと細かい分類があるみたいだが、俺も詳しい訳じゃないしその辺りは置いておく。…………そしてアンデッドは基本的に日の光の下では大幅に弱体化する特性を持っている」
まあ、真昼間にバリバリ動くアンデッドはあんまり居ないよね…………ああ、成る程ね。
「兄様、それはつまり原因がどうあれアンデッドが発生する場所は日の光が刺さない場所、という事ですか?」
「まあそういう事だ。…………普通ならこんな当たり前の事をわざわざ確認しても意味が無いんだが、ミカの直感なら“なぜ”や“なに”や“どうして”が分からなくても“どこで”ぐらいは分かるだろう」
「…………要するに、この辺りにある日中の間に光が刺さない場所を片っ端から調べて、その中で私の直感が反応したところにこの騒動の原因があるって事?」
「そうだ。…………正直調査方法としては下の下だが、この街に来たばかりの俺達に出来る事はそのぐらいだろう」
…………まあ、私達にコネもツテもない以上足で探すしかないよね。
「とりあえず、この冒険者ギルドにある資料や地図を調べてみよう。…………それでミカの直感に引っかかってくれれば良し、そうでなければここら辺を回って足で探す、という感じで行こう」
「「『はーい』」」
◇
そうして資料や地図を漁る事小一時間…………とある資料に目を通した時にピンと来た。
「<サウダーテ霊林>…………多分ここかな、“ここに行った方がいい”って出てるし」
「ふむ…………<サウダーテ霊林>はこの領内にある
自然ダンジョンとはこの世界において、
「この<サウダーテ霊林>は<サウダーテ森林>の一部がダンジョン化した物の様だな」
どうやら地形的な問題で通常よりも空間の魔力濃度が非常に高い所為で、植生やそこに住むモンスターが変質している為に自然ダンジョンとして扱われている様だ。
更に空間の魔力濃度が高い所為で隣国レジェンダリアの森と同じく、魔法現象が自然発生する<アクシデントサークル>が起きる事もある、と資料には書かれている
「鬱蒼とした森だから昼間でもあまり光が刺さないみたいだし、多分ここに原因があるみたいだよ」
「侵入自体は制限されていないから、入る事自体は出来るみたいだな」
「とはいえ、自然ダンジョンの中でも難易度がそこそこ高いみたいなのです」
資料を詳しく見ると周りの森と比べてモンスターのレベルも高い上に、<アクシデントサークル>まで起きる可能性がある以上対策は必須だしね。
でも、ここでしか取れない植物の採取以来もあるから入る人もそこそこいて、中の事も結構詳しく書いてあるみたい。
「とりあえず準備を整えて<サウダーテ霊林>に行ってみるか」
「そうだね。…………それに自然ダンジョンにも一度行ってみたかったしね」
「
「まあ、ダンジョン攻略はゲームの楽しみの一つだからな」
こうして、私達は自然ダンジョン<サウダーテ霊林>の攻略に向かう事になったのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
三兄妹:とりあえず妹の直感で事件が起きそうだと分かった所には首を突っ込んでいくスタイル。
《ホーリー・ブレッシング》:【祓魔師】の聖属性魔法スキルその一
・自身または味方一人を対象として聖属性を付与するスキル。
・付与された対象は攻撃が聖属性になり、呪怨系状態異常耐性が上昇、更にゾンビの肉片程度なら弾ける不浄耐性もつく。
《ホーリーライト》:【祓魔師】の聖属性魔法スキルその二
・光が当たる範囲内の悪魔・アンデッドのステータスを下げ、範囲内の呪怨系状態異常の効果を下げる光の玉を出す魔法。
・《ピュリファイ・アンデッド》と違って浄化による即死効果は無いが、周辺を光で照らすので夜間戦闘では有用。
《エクソシズム》:【祓魔師】のパッシブスキル
・種族が悪魔・アンデッドの相手を対象とするスキルの効果を上昇させるスキル。
・種族特効系スキルの中でも単純なダメージの増加などではなく、効果対象へのスキル効果を上昇させる珍しいタイプ。
・スキルによるダメージや各種スキル効果を上昇させるが、スキルを使わない攻撃には効果を発揮しない。
《ホーリー・バースト》:【祓魔師】の聖属性魔法スキルその三
・聖属性の光の奔流を放射状に放つ高域攻撃魔法スキル。
・攻撃範囲が広い分威力は低く、特攻対象のアンデッド以外には対して効かない。
<サウダーテ霊林>:<ニッサ辺境伯領>に存在する自然ダンジョン。
・<サウダーテ森林>の中にある魔力溜まりによって、その周辺の森が変質した事で出来たダンジョン。
・レジェンダリアの森に近い性質を持っていて、発生頻度は低いが<アクシデントサークル>も発生する事がある。
・王国では手に入らず、レジェンダリアでも輸出していない植物が生えていたりもするので、たまに採取依頼があったりする。
・モンスターは周辺にいるものが魔力によって変質した亜種や、魔力溜まりから発生したエレメンタルモンスターが主に生息している。
・モンスターの強さは最大で亜竜級ぐらいだがごく稀に純竜級モンスターがいる事も。
・特に侵入は禁止されていないがその特性から対策装備は必須。
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<サウダーテ霊林>・堕ちた【冥王】
それでは本編をどうぞ。
◾️<サウダーテ霊林> ???
『…………実験はおおよそ上手く行っているな。…………この森の魔力溜まりと、中心にある霊木を利用する術式の調整も終了した』
自然ダンジョン<サウダーテ霊林>の中心部、そこには一本の巨大な霊木があり、その根元には一つの影があった。
(…………我が研究成果…………
…………そして影の周囲には霊木を中心とした大型の魔法陣が敷かれていた。
(術式の試運転によるモンスターのアンデッド化は上手く行った…………最初、術式の調整不足でアンデッド化させたモンスターが制御を外れて森の外に出て行くこともあったが…………問題は無いな、制御出来ているアンデットだけでも侵入者の迎撃は出来る)
…………男は元々レジェンダリアの森に住んで居た一人の【
以前までは、その技術を使ってレジェンダリアの森の中に彷徨う死霊を成仏させるなどして暮らしており、その清廉な人格からその集落の人間からの人望も得ていた。そしていつの日か妻を娶り、子を成し、仲睦まじい家族として暮らしていたのだが……。
『嗚呼、ようやくだ……ようやくもう一度お前たちに会う事ができる……』
ある日、男が何時ものように森での仕事を終えて家に帰ってくると…………そこにはモンスターに襲われて壊滅している集落と、そこに住んでいた人々の死体、そして自身が愛した妻子の息絶えた姿だった…………ここまでならば、この世界ではよくある悲劇なのだが、そこには二つの不運があった。
まず一つ目の不運は、その集落を襲ったモンスターは殺した生物の魂を喰らい力を得るスキルを持った<
そして、もう一つの不運は男には術師としての規格外な才能があった事…………
(ようやくここまで来た…………レジェンダリアで【アムニール】を奪った所為で指名手配されて、
その後、家族を失いその魂にすら会うことが出来ずに悲嘆に暮れた男は、いつの日からか完全な死者蘇生の術式の開発に乗り出した…………その為だけに男は超級職としての力をもって様々な非道を成しながら。
…………そして、ついにはレジェンダリアの戦略物資でもある【アムニール】を強奪した事で、【
『…………だが【アムニール】を触媒にした術式で死者の蘇生が可能だと
しかし彼は死に際に持っていた【アムニール】を触媒にして、念の為に準備していた死者蘇生の術式を使う事によって
『まあ、お陰でレジェンダリアからは出ざるをえなかったが…………この森の魔力溜まりと【アムニール】にこそ劣るが十分な魔力を宿すこの霊木があれば儀式を実行する事が出来る。…………待っていてくれ、二人とも、もうすぐみんなで永遠の時を生きる事が出来る……』
そうして男…………狂った【冥王】の成れの果て【ハイエンド・タルタロス・リッチ】は、自身が完全な死者蘇生の術式だと
…………自身の名前はおろか、かつて愛した妻子の顔と名前も思い出せない程に狂い果てたまま……。
◇◆◇
□<サウダーテ霊林> 【
あれから<アクシデントサークル>対策用のアイテムである【ジェムー《マナ・ディフュージョン》】を買ったりして準備を整えた俺達は、自然ダンジョン<サウダーテ霊林>に足を踏み入れていた。
…………そして、森に入った俺達を待っていたのは、元々この森にいたモンスターがアンデッド化したゾンビ軍団だった。
『『『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️!』』』
「ハイハイ! ゾンビゾンビ! 《サークル・インパクト》‼︎」
「《ホーリーライト》……次から次へと、どんどん出てくるな《ホーリージャベリン》!」
そのアンデッドの群れをミカがメイスで薙ぎ払い、俺が聖属性魔法でデバフを掛けつつ浄化して行く。
「ここが大元という姉様の勘は当たりみたいなのです《ブラストナックル》!」
『そうみたいだね《ピュリファイ・アンデッド》!』
『『『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️⁉︎』』』
ミュウちゃんが拳から衝撃波を飛ばすアクティブスキル──【
…………実力的にはこれまで戦ってきたアンデッドに毛が生えた程度だし、この森のモンスターが使うはずの魔法も殆ど使って来ないから倒す事自体は容易いのだが……数が多過ぎる。
「いい加減にしつこい! 《ストライクブラスト》‼︎」
「流石に一息つきたいな《ホーリー・バースト》!」
『『『◾️◾️◾️◾️◾️⁉︎』』』
ミカが放つメイスからの衝撃波と、俺の光の奔流を放つ聖属性魔法によって周辺にいたアンデッドは一層された…………感知してみたところ、とりあえず辺りからアンデッドは居なくなっている様だな。
「やれやれ、ようやく片付いたね。…………しっかし、数が多過ぎるよ」
「…………それだけでなく、この森の奥には行かせたく無い様な動きをしていたのです」
確かに、この森のゾンビ達は外に居た連中の様に生者に対して無差別に襲いかかるのでは無く、明確に森に来た侵入者を迎え撃つ様な動きをしていた。
「やはり此処にアンデッド騒ぎの原因があると見て間違い無さそうだな。…………それでミカ、そっちはどうだ?」
「この森に入ってから危険な感じは増してるね。…………むしろ、このまま森の奥に行かないと
…………ミカがそう言っているという事は、なるべく早く森の奥に行く必要があるな。
とは言え、これだけの数のアンデッドに妨害されると、どうしても進行速度は遅れてしまうか。
「では、どうするのです? 私とフェイの必殺スキルで全体強化して無理矢理突破しますか?」
「それだと時間が足りないからダメだよ。…………それに、ミュウちゃん達の必殺スキルはこの森の奥で使わなければいけない気がするから」
「じゃあ全体バフを掛けて、なるべくモンスターとの戦闘を最小限にする形で突破するか?」
だが、まだダンジョンの序盤なのにこれだけのモンスターがいるとなると、先に進むのも相当な時間がかかりそうだな。ここのアンデッド系モンスターは耳が良い上に、生者を感知する能力が備わっている様だから隠密して進むのにも限度があるしな……。
『とりあえず、このまま進むしかないかな?』
「んー…………多分それで大丈夫だと思うよ。…………むしろ
「成る程…………じゃあ、森の奥の問題を解決する為に余力を残しながら、このまま進もう」
こうして、俺達は森の更に奥に足を踏み入れていった。
◇◇◇
□<サウダーテ霊林> 【
そのまま私達はお兄ちゃんとフェイちゃんのAGI全体バフを受けながら、足の遅いアンデットをなるべく無視しつつ戦闘を最小限にして森の奥へ進んでいった。
『此処の連中もアンデッド化のお陰で動き自体は鈍くなっているから、振りきって進む事自体は出来るみたいだね』
「…………というか、さっきからアンデッドの数が少なくなってきているのです?」
「ふむ…………アンデッドの数が減っていると言うよりは、他のところに行っている感じか?」
「多分、お兄ちゃんの言う通りだね。この森には私達以外にも侵入者が居るみたいな感じもするよ」
でも、私の直感は『先に進め』と出ているし、その方が被害が少なくなりそうな気がする。
…………その人達には悪いけど囮になって貰おう。その方がお互いにとって危険が少ないみたいだし、
「とりあえず今のうちに先に進もう、この事件は早めに解決した方がいいみたいだし」
「そうか…………っと、前方からアンデッド、しかも結構強そうだ」
そんな話をしているうちにお兄ちゃんが敵を感知したみたい。私の直感でもそこそこ危険なモンスターだと出ているね。
『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️‼︎』
「結構デカイな……【フォレストオーガ・ゾンビ】に取り巻きの【フォレストゴブリン・ゾンビ】が何体か。……確か【フォレストオーガ】は亜竜級のモンスターだった筈だし、どうもこちらに気づいている様だから避けて進むのは無理だな……さっさと倒すぞ《ピュリファイ・アンデッド》」
こちらに結構な速さで向かってきた【フォレストオーガ・ゾンビ】に対して、お兄ちゃんは《詠唱》で強化した《ピュリファイ・アンデッド》を放ち取り巻きのゴブリンを浄化しつつ、オーガの動きを鈍らせた。
『僕もやるよ……《ホーリーライト》!』
「足を止めるのです《ブラストナックル》!」
続いてフェイちゃんが魔法で光の玉を出して相手の動きを更に鈍らせ、ミュウちゃんがスキル《ブラストナックル》によって拳から放った衝撃波でその足を砕いて転ばせた。
『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️⁉︎』
「《ホーリー・ブレッシング》……ミカ!」
「悪いけど時間が無いからね、さっさと沈んでもらうよ《インパクト・ストライク》!」
倒れた相手にお兄ちゃんの聖属性エンチャントを受けた私が、アクティブスキル込みで【ギガース】を振り下ろしてその身体を粉砕して消滅させた。
…………お兄ちゃんとフェイちゃんが聖属性魔法でアンデッドの動きを封じつつ私達にバフを掛けて、私とミュウちゃんが前衛で敵を倒すというここまでがこの森での鉄板戦闘スタイルなんだよね。此処のアンデッドはただ向かって来るだけでスキルとかも殆ど使って来ないから、亜竜級の相手でも倒す事自体は簡単なんだけど……。
『『『『『『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️』』』』』』
「チッ! 戦闘音を聞きつけて周辺のアンデッド共がこっちに向かって来るぞ‼︎」
「ああもう! 厄介すぎるよコイツら⁉︎」
そう、此処のアンデッドは音に敏感な為、戦闘を行っていると周りの連中が一気によって来るんだよね。アンデッドは弱いけどしぶといから、今みたいな亜竜級アンデッドと戦ったらどうしても音が出るし。なるべく余力を残していきたいから連戦は避けたいんだけど……。
「ええい! 《ホーリーライト》一角だけ残せ! 《ホーリー・バースト》!」
『分かった! 《ホーリー・バースト》!」
『『『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️⁉︎』』』
それに対してお兄ちゃんは《ホーリーライト》による光の玉を追加で出してアンデッド達の動きを鈍らせ、聖属性範囲攻撃魔法《ホーリーバースト》で右から来る敵を消し飛ばし、フェイちゃんも同じ魔法で左から来る敵を浄化する。
「ミュウちゃん、前を開けるよ! 《ストライク・ブラスト》! 《竜尾剣》!」
「はいなのです! 《ブラストナックル》!」
『『◾️◾️◾️◾️◾️!』』
更に前から来る敵を私が【ギガース】から放った衝撃波と【ドラグテイル】の《竜尾剣》で排除して、ミュウちゃんも衝撃波で敵を吹き飛ばして前方の道を開けた。
「お兄ちゃん! 道が空いたよ‼︎」
「よし! そのまま突っ切れ‼︎ あと足止めに【ジェム】を投げろ‼︎ 《アース・ウォール》‼︎」
『『『『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️⁉︎』』』』
私達はそのまま前方に走っていき、後方から来るアンデッド達はお兄ちゃんが【黒土術師】の魔法で土の壁を作って足止めする。更に私やミュウちゃんもお兄ちゃんから貰った【ジェムー《マッドクラップ》】や【ジェムー《ランドウォール》】を投げて、向かって来るアンデッド達の足止めをする。
…………とまあ、こんな感じで此処まで無理矢理突破して来たんだよね。
「よし! 突っ切るぞ!」
そのまま私達はアンデッド達を置き去りにして、森の奥に走っていった。
◇
「《サンクチュアリ》…………ふう、なんとか撒いたか。…………だが、そろそろMPや【ジェム】がきついんだが……」
『…………正直、かなり疲れて来たね……』
「…………こういうのなんて言うのです? ……RTA?」
どうにかアンデットの群れを振りきった私達はお兄ちゃんの《サンクチュアリ》──アンデッド避けの結界を展開する聖属性魔法、結界を動かす事は出来ないので移動中は使用不可──の中で一休みしていた。
…………<マスター>の中でもかなり高いステータスを持つ私達でも、これだけの強行軍は流石に疲れるね。お兄ちゃんやフェイちゃんは今日何本目かの【MPポーション】を煽っているし、ミュウちゃんもその辺の木に寄りかかって息を整えている。此処のアンデッド達はある程度距離を取れば、こちらを追ってこないのは不幸中の幸いだったね。
「そんな皆に朗報だよ。…………多分これが最後の休憩で、そろそろ目的地に着くみたいだから、今の内にしっかりと休んで置いてね。
「! …………そうか、やっとか……」
無茶な強行軍をしただけあって、どうにか間に合ったみたいな感じだね。
「それで? 他に何かあるのか?」
「うーん…………
「分かった、じゃあ【ジェム】をいくつか渡しておこう」
「はいなのです」
こうして私達は最後の休憩をしつつ、この先での戦闘への準備をするのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:今回一番働いている
・各種魔法を駆使して今回の強行軍を成り立たせた立役者。
・今回の事件に遭遇してからその対策として聖属性・火属性魔法の【ジェム】をいくつか作ってある。
《サンクチュアリ》:【司教】の魔法スキル
・一定空間に聖属性の結界を張りアンデッドが近寄れなくする他に、内側にいる生者の気配を外に漏らさない効果もある。
・内側にいる者に掛かっている呪怨系状態異常を緩和する効果もある。
妹:いつも通り直感が大活躍中
・アンデッド相手でも再生出来ないぐらいに跡形も無く潰す事で対処出来るが、どうしても音が出てしまうのが悩みどころ。
・直感によると『あんまり早く着き過ぎてもダメ』と出ているので時間調整もしている。
末妹:基本徒手格闘なのでアンデッド相手は苦手。
・その為、遠距離攻撃が可能なスキルを覚える【拳聖】についた。
フェイ:今回の立役者その二
・ラーニングした魔法で兄の負担を大幅に減らしている。
【ジェムー《マナ・ディフュージョン》】:<アクシデントサークル>対策アイテム
・使用すると周辺の魔力を拡散させて<アクシデントサークル>の発動を無効化する。
・《マナ・ディフュージョン》などの周辺魔力へ干渉する魔法は【森司祭】や【
・いくつかある対策アイテムの中でも速攻性と効果範囲に優れている分値段も高いが、妹が直感で「これを買うべきだ」と選んだ。
【ハイエンド・タルタロス・リッチ】:堕ちた【冥王】、今回の事件の犯人。
・戦闘能力は人間だった頃よりも上がっているが、狂気に蝕まれている為に頭脳面では劣化している。
・その為、基本的に儀式にしか意識を向けておらず、侵入者に対する迎撃もおざなり(アンデッド達には『近くにいる生者を襲え』ぐらいの命令しかしておらず、アクティブスキルを使える様な調整もしていない)
・儀式によるアンデッド化が伝染している事に関しても特に気にしていない……というよりも、モンスター化した彼にはそれが異常だと思う事も出来ていない。
・生前よりも耐久性を中心にしてステータスが大幅に上がっており、かつて覚えていたスキルも殆どそのまま使えるが、唯一《観魂眼》だけは使えなくなっている。
・伝説級<UBM>に匹敵する程の戦闘能力(アンデッド使役能力を含む)を持つが、死霊術師がアンデッド化する事は
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<サウダーテ霊林>・VS屍冥王樹
おそらく今年最後の投稿になります、それでは本編をどうぞ。
3/1 あとがきで間違っていた部分を変更しました。
◾️<サウダーテ霊林> 【ハイエンド・タルタロス・リッチ】
『…………ようやくだ……ようやく儀式の準備は整った……』
自然ダンジョン<サウダーテ霊林>の奥深く、そこにある巨大な魔法陣の中心にある霊木の下で堕ちた【
『…………待っていてくれ……お前たち……すぐに永遠の命を与えてやれる……』
そう言って、彼は懐からアイテムボックス…………彼の妻子の遺体が入った【棺桶】を取り出し、魔法陣の指定の場所へと設置した。
『…………さあ……死者蘇生の儀式を始めよう……◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️』
そう言った彼は霊木に触れながら儀式魔法発動の為の呪文を詠唱し始め、その呪文に呼応して魔法陣と霊木が光を放ち、魔法陣に刻まれた術式に従って周囲の魔力を吸収し始めた。
『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️』
呪文の詠唱が進むと共に魔法陣と霊木の光が強まり、吸収した膨大な魔力を使って魔法陣に刻まれた術式が効果を発揮した…………順調に儀式を進めている様に見える彼だが、そこで二つのイレギュラーがあった。
まず一つ目はこの魔法陣に刻まれた術式は『あらゆるモノを知性のあるアンデッドにする術式』であり、彼はそれによって妻子の遺体をアンデッド化させようとしていたのだが…………魔法陣の特性上、その術式の効果範囲内には触媒である霊木が入っていた事。
そしてもう一つは彼が狂気の中で作り上げたその術式が、彼が思う以上の効果を持っていた事…………膨大な魔力を抱えながらもモンスター化しなかった程に安定していた樹齢数百年の霊木を
…………生前の彼ならばそれらの不備にも事前に気付く事が出来たが、今のモンスターとなり狂い果てた彼はそんな事にすら気付く事が出来なかった……。
『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️……! これは…………⁉︎』
『…………◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎』
術式の効果によりアンデッドモンスターと化した霊木は、その効果によって芽生えた知性により、自身に接触していた彼を敵性存在と認識した…………自身の妻子を蘇らせる為の術式だった為、アンデッド化した後の制御などは一切考えられていなかったのである。
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️‼︎』
『何を……⁉︎ ……ガアア‼︎』
…………そして、アンデッド化した霊木は自身を触媒として展開されていた魔法陣に干渉し、自身に蓄えられた膨大な魔力を術者である【ハイエンド・タルタロス・リッチ】に対して逆流させた。
更に魔法陣に刻まれた『アンデッド化』と『魔力吸収』の術式を無理矢理統合して、『アンデッドを吸収する術式』として起動させた。
『がアアアアアァァァ◾️◾️◾️◾️……』
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️……』
突如、魔力を逆流させられた事で怯んでいた彼は吸収術式に抗う事が出来ず、そのまま彼の妻子の遺体と共に霊木アンデッドに吸収されてしまった。
…………だが、無理矢理統合した術式だったからか、或いは彼の狂気に侵された妄念が霊木に芽生えた知性を上回ったからせいなのか、その霊木と吸収された【ハイエンド・タルタロス・リッチ】は、その肉体と精神が混じり合って一つの
『…………◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️』
変質したその姿は先程までの神々しかった霊木とは打って変わり禍々しいオーラを発しており、その上部には狂気に囚われた人の様な形のウロがあった。
…………そして、この儀式の術式が彼の頭の中にしか無く今後再現は不可能な事と、自然ダンジョン内の樹齢数百年の霊木が変化した事から、この樹木型アンデッドは
【(<
【(過去に類似個体なしと確認。<UBM>担当管理AIに通知)】
【(<UBM>担当管理AIより承諾通知)】
【(対象を<UBM>に認定)】
【(対象に能力増強・死後特典化機能を付与)】
【(対象を逸話級──【屍冥王樹 ハデスルード】と命名します)】
そうして生まれた【屍冥王樹 ハデスルード】には、たった一つの
…………故に【ハデスルード】はその意思に従って行動する。
『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️』
まず【ハデスルード】は<UBM>化した事により動かす事が出来る様になった枝や根を触手の様に伸ばして周辺にあった木々に接触し、自身のスキルの一つ《冥樹屍変》を行使した……すると接触していた枝や根から禍々しいオーラが木々に流れ込み、それらの木々は
そのスキル《冥樹屍変》は魔法陣に刻まれていたアンデッド化の術式とアンデット吸収の術式が統合され、<UBM>化と共に【ハデスルード】の固有スキルとなったものであり…………その効果は自身に接触している生物に呪詛を流しこむ事でアンデッド化させ、更にアンデッドを吸収して自身を拡張・強化するスキルである。
『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️』
その効果により周辺の木々がアンデッド…………【ハデスルード】と化し、更にそれらが周辺の木々をアンデッド化させる事で【ハデスルード】の体積はどんどん増えていき、それに合わせてHPとMPが上昇していく。
また、それと同時に第二スキル《魔力集積》──魔法陣の周辺魔力吸収スキルが【ハデスルード】の固有スキル化したモノ──によって周辺の魔力を吸収して、スキルにより消費したMPを回復していった。
『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️』
…………そうして【ハデスルード】は残されたたった一つの思いに従い、<サウダーテ霊林>を呑み込んでいく…………
◇◆◇
□<サウダーテ霊林> 【
あれから休憩と各種準備を終えた俺達は、再び<サウダーテ霊林>奥地へ出発しようとしていた。
…………その時、森の奥からいきなり膨大な量の魔力が溢れるのを感知した。
「⁉︎ ……これは魔力か?」
『……しかも相当な大きさの魔力だね』
「……この森全体が騒めいているみたいなのです」
「なんか凄いゾワゾワするね」
それは魔法系のジョブに就いている俺や魔法に特化したガードナーであるフェイだけでなく、ミカやミュウちゃんでも感知出来る程の魔力だった…………これは急いだ方がいいかな。
「先を急ぐぞ……流石にこれはヤバそうだ」
「そうだね……私の勘でも『早く森の奥に行った方がいい』って出てるし」
「それでは急ぐのです」
そうして俺達は全速力で森の奥に向かって行った。
◇
森の奥についた俺達が見たモノは禍々しいオーラを放つ巨大樹木と、その周りで同じオーラを放つ木々の姿だった。そして全ての木々の頭上には同じ文字が表示されていた。
「《透視》《千里眼》……【屍冥王樹 ハデスルード】……<UBM>の樹木型アンデッドか?」
『……この禍々しいオーラを放つ木々の全てが<UBM>みたいだね』
「しかもコレ、周りの普通の木々もどんどん変質させているのです」
「コレは……どうも早めに倒さないと手が付けられなくなる気がするよ」
確かに、このまま<サウダーテ霊林>全体が<UBM>化したら、俺達ではどうしようも無くなるだろう。
…………だが、あの【ハデスルード】はどうも先程発生したばかりの様で、変質されている木々の範囲もまだ狭かった。なので今ならまだ俺達でも何とかなるかもしれない。
「……ミュウちゃんとフェイは必殺スキルの準備を、多分あの巨大樹木が大元だろうから、周りの木々を【ジェム】とかで破壊しつつあそこまで突っ込むぞ……《フィジカル・ブースター》」
「分かったのです……《気功闘法》」
『了解……《ホーリー・ブレッシング》』
「うん……多分それで大丈夫だと思うよ。ミュウちゃんの必殺スキルの時間内に倒す必要があるみたいだけど」
俺は皆に指示を出すと同時にミュウちゃんにSTR・END・AGI・DEXを上昇させるオリジナル単体バフスキルを掛け、ミュウちゃんとフェイも各種単体バフをかけて行く……ミュウちゃんにはあらかじめ作っておいた単体バフ魔法の各種【ジェム】を渡してあるから、それも使っていく。
…………だが、そうしているうちに向こうも俺達に気付いた様で、何体かのこの森で見かけた種類のアンデッドが
『『『『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️』』』』』
「えっ、何あの有線ゾンビ共は。しかも
「おそらくアレもヤツの一部なんだろう……多分この森にいたアンデッドを取り込んだんじゃないか? ……MPを温存したいから【ジェム】も使って……《ピュリファイ・アンデッド》!」
「とりあえず迎撃するよ《ストライク・ブラスト》! 《竜尾剣》!」
向かってきた有線アンデッドに対して俺は【ジェムー《ホーリーライト》】を使って光の玉を出し、更に《詠唱》で強化した浄化魔法を放ってその一部を消滅させた。
更にミカがメイスからの衝撃波でアンデッドを砕き、背中から伸ばした剣尾で斬り裂いていく……が、それらの損壊はすぐに修復された。
「ええ、嘘ォ!」
「……
『『『『『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️』』』』』
…………どうも《魔力感知》で感じ取ったところ、あの<UBM>は周辺の魔力を吸収している様で、それによって修復能力を使っていると思われる。
だが、アンデッドだからか浄化によって消滅したものは修復が遅いようだな……よし、アレを使うか。
『バフは掛け終わったよ!』
「よし、すぐに必殺スキルを。 それとミカ、アイツは周囲の魔力を吸収している様だから
「分かったのです《
「オッケー、これだね! ……《サークル・インパクト》!」
『『『『『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️⁉︎』』』』』
まず、ミュウちゃんが必殺スキルによってフェイと融合し、倍加した各種バフ効果が俺達全員に掛かった。
そして、俺の指示を受けたミカは【ジェムー《マナ・ディフュージョン》】を砕き周辺の魔力を拡散させ、掛かったバフによって可能になった超音速機動で敵を薙ぎ払い……再生は遅々として進まなかった。
……どうやら周辺の魔力を拡散させて、聖属性付与の攻撃をすれば再生はかなり遅らせられるらしいな。
「よし! このまま本体のところまで突っ切るぞ‼︎ 《バラージスロー》!」
「《ヒート・ジャベリン》!」
『《ホーリー・ジャベリン》!』
そして俺は前方に向けて八つの【ジェムー《エクスプロージョン》】を投げ込み、それによって起こった爆発で侵食された木々を吹き飛ばした。更にミュウちゃんも炎の槍と光の槍を放って木々を破壊していく。
……だが、相手も黙っている気は無い様で、侵食された木々から禍々しいオーラを弾丸にしてこちらに放ってきた。
『『『『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️』』』』
「呪怨系攻撃来るぞ! 《カース・レジスト》!」
「《心頭滅却》!」
『《ホーリーライト》!』
「《闇纏》!」
俺は即座に呪怨耐性バフをミュウちゃんに掛けて、彼女も自身の状態異常耐性を上昇させるスキルを使った……攻撃の速度は亜音速にも届いていないから超音速機動が出来る今の俺達なら避けられるし、その余波も強化された耐性バフでレジスト出来るな。
……そしてミカは【ブラックォーツ】のスキルでその攻撃をすり抜けて、木々の方へ突っ込んで行った。
「《闇纏》解除! 《インフェルノ・ストライク》‼︎」
「前方以外の木々を妨害する! 《ロック・グレイブ》!」
『《ロック・グレイブ》!』
接近したミカは炎を纏ったメイスで前方の木々を消し飛ばして道を開き、前方以外には俺とフェイの魔法によって大量の石の槍が地面から生えてその動きを妨害した。
……だが、相手は残りの木々から触手の様なモノを出して開けた道を塞ごうとしてきた。
『『『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️』』』
「このまま行くぞ、触手は各々で対処! 《ブレイズ・バースト》!」
「《テンペスト・ストライク》!」
「《ブラストナックル》!」
『《ホーリー・バースト》!』
そのまま前方に突っ込んだ俺は炎の奔流を放ち、前方の触手を焼き払った。そして二人も各々の攻撃や【ジェム】で触手を破壊しつつ前進していった……どうやら触手の量はそれ程多くは無い様だし、速度も亜音速にも届かない様だからこのまま突っ切れるな。
…………そして触手を突破した俺達は、どうにか【ハデスルード】の本体と思われる巨木の元にたどり着いた。
『『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️』』
「いい加減に消し飛べ……《
一番最初に着いた俺は、その禍々しい巨木に向けて強化したオリジナルスキルによる黄金の火球──《クリムゾン・スフィア》をベースに聖属性魔法を合成した、火属性・聖属性複合広域攻撃魔法──を叩き込んだ。
放たれた火球は周辺の侵食された木々ごと【ハデスルード】を焼くが……その巨大な幹へのダメージは人の形をした禍々しいウロを中心に展開された結界によって阻まれた。
『◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️◾️』
「チッ、防御を固めていたか」
その巨木は枝葉こそ消滅していたが、幹の部分は丸々残っていた。更に周辺の魔力を吸収して急速に自身を再生させている……とりあえず【ジェムー《マナ・ディフュージョン》】を使い、周辺魔力を拡散させる事で再生を妨害しておく。
…………今の攻撃を防いで来るとなると、
「……という訳で、二人とも頼んだ」
「オッケー……ミュウちゃん、道は作るから《竜尾剣》!」
「分かったのです」
俺の指示に応え、まずミカが《竜尾剣》を射出して
そして、ミュウちゃんが巨木と繋がった
「《真撃》《インパクトフィスト》‼︎」
『《クリムゾン・スフィア》‼︎』
『◾️◾️◾️◾️◾️⁉︎』
そのまま【ハデスルード】に接近したミュウちゃんは【
…………その反動でミュウちゃんが距離を取ると、それと入れ替わる様にミカが前に出て巨木の消し飛ばされた部分に飛び乗った。
「これ以上再生されない様にキチンと砕いておくよ! 《グラウンド・ストライク》‼︎」
『………………⁉︎』
そして、足場にしていた【ハデスルード】に向かって渾身の一撃を叩き込み、残りの【ハデスルード】本体を粉々に破壊した。
「よしっ! 勝った! 第三部完‼︎」
「悪いが、それはまだ早いみたいだぞ。……周りの木々がまだ【ハデスルード】のままだ」
「本体を破壊したのにまだ生きているのですか⁉︎」
何と、本体を破壊しても侵食された木々の上には【ハデスルード】の文字があった…………だが、動きや再生速度は大幅に鈍っているみたいだな。
「どうやら大分弱っているみたいだし、このまま周りの木々を破壊するぞ。再生速度が落ちている今なら破壊しきれる筈だ……《エクスプロージョン》!」
「分かったのです、みんなで手分けして破壊しましょう! ……《ブレイズ・バースト》!」
『……もうあんまりMPは残って無いんだけど……《ヒート・ジャベリン》!」
「もう! 本当に面倒くさいねコイツ! ……この前ガチャで当てた【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】をくらえ‼︎」
それから全員で魔法や【ジェム】を使って、侵食された周りの木々を破壊していった…………幸いな事にあの巨木を破壊されると再生能力や攻撃能力が大幅に弱体化する様で、木々を破壊するのに大して苦労はしなかった。
だが、周辺のアンデッドがこの騒ぎを聞きつけてこちらに向かってきたりしたので、【ハデスルード】に吸収されない様に倒す必要があった事は面倒だったが。
◇
【<UBM>【屍冥王樹 ハデスルード】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【ミュウ】がMVPに選出されました】
【【ミュウ】にMVP特典【冥樹霊冠 ハデスルード】を贈与します】
俺達がせっせと木々を破壊して周辺を更地にすると、突然<UBM>の討伐アナウンスが流れて来たので、それによって俺達は【ハデスルード】討伐が完了した事を認識した。
「あー! 疲れた〜。しばらくゾンビは見たくないよ。今回は最初から最後までRTAだったね〜」
「…………まあ、そうしなければ倒せなかっただろうからな」
「…………実に厄介な相手だったのです……」
『…………もうMPが空だよ……』
実際、俺達の到着が後一時間遅れていれば【ハデスルード】を倒しきるのは不可能だっただろう…………コイツはそれだけの相手だった。
…………そうして、俺達が強行軍の疲れから休んでいると……。
『…………ありがとう…………』
…………何処からか、そんな声が聞こえた気がした……。
「…………何故、あんなモンスターが此処に居たのでしょうか?」
「さーねー。…………私達に出来る事は手の届く範囲の悲劇を防ぐ事ぐらいだから、既に起こってしまった悲劇はどうしようもないし」
「俺達は所詮通りすがりの<マスター>だからな。…………今回は被害が大きくならない内に問題を解決出来たから、それでいいだろう」
…………こうして、俺達の<サウダーテ霊林>探索行は終わったのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:木々の伐採率はトップ
・今回の件で用意しておいた火属性・聖属性【ジェム】の殆どを使い切った。
・長く一緒に暮らしている為、三兄妹の連携能力は非常に高い。
《ブレイズ・バースト》:【紅蓮術師】のスキル
・炎の奔流を放射状に発射する魔法。
・《エクスプロージョン》よりも威力・効果範囲で劣るが、指向性があるので遥かに使いやすい。
妹:RTAしないと詰んでいた
・到着が早かった場合【ハイエンド・タルタロス・リッチ】と【ハデスルード】の連戦になっていたので、三兄妹でも高確率で負けていた。
・到着が遅かった場合でも【ハデスルード】が伝説級になっていて倒しきれなかった。
末妹&フェイ:今回のMVP
・特典武具の詳細は次回。
・ゼロ距離魔法は低い火力を補う為に考えたもので必殺スキル使用時の切り札。
・自爆ダメージは魔法ダメージ減少スキルでどうにかしている。
《心頭滅却》:【格闘家】で覚えたスキル
・自身の精神系・呪怨系状態異常耐性を上昇させ、自身への炎熱系ダメージを僅かに減らすアクティブスキル。
・【格闘家】以外でも東方の前衛系ジョブなどでも取得出来る。
・複数の効果があるが効果時間は短い。
《真撃》:【武闘家】の奥義
・次に使う格闘系アクティブスキルの威力・効果を三倍にするが、強化したスキルのクールタイムが十倍になるデメリットがある。
・このスキル自体のクールタイムは十分。
《インパクトフィスト》:【拳士】のスキル
・殴った部分の周辺に衝撃を伝播させる範囲攻撃スキルで、威力自体は他のスキルよりも低め。
・今回は必殺スキルによるバフと《真撃》の併用であの威力になった。
【屍冥王樹 ハデスルード】:今回のボス
・【ハイエンド・タルタロス・リッチ】とアンデッド化して霊木が融合して生まれた<UBM>。
・固有スキルの他にも【ハイエンド・タルタロス・リッチ】が使っていたスキルも使用可能(本編で使った呪詛弾や防御結界が該当)
・しかし、能力があっても知性が大幅に劣化しているため、生まれてすぐの状態では【ハイエンド・タルタロス・リッチ】よりも戦闘能力は低い。
・だが、成長性は非常に高く一時間もあれば伝説級<UBM>に、約一日で<サウダーテ霊林>を飲み込んで古代伝説級<UBM>まで成長していた。
・最初に融合して変質した霊樹が本体であり、破壊された場合スキル効果やステータスが大幅に低下する。
・その場合でも変質して取り込んだモノは全て【ハデスルード】のままであり、残っている質量次第では本体を再生させることも可能。
・ちなみに伝説級以上に進化していると本体を複製する事も出来る様になり、知性も強化されスキルを十全に使う事も出来る様になっていた。
《冥樹屍変》:【ハデスルード】のスキルその一
・触手を伸ばして接触した生物を呪詛で汚染しアンデッド化させ、更にアンデッドを自身の一部として取り込むスキル。
・生物をアンデッド化させる場合は対象の強度に応じた量の呪詛が必要で、汚染される途中で触手を切るなどすればアンデッド化は免れる。
・だが、呪詛を送り込まれた時点で何らかの呪怨系状態異常に掛かるので、触手に囚われた時点で自力での排除は困難になる。
・アンデッド化した生物は自身の一部として自在に動かせ、その部分のステータスはそのアンデッドのものに準ずる(有線アンデッドの触手を切断しても呪詛が抜けるまでは【ハデスルード】のままで、当然触手は繋ぎ直す事も可能)
・スキルの行使にはMPを消費するが、アンデッドを自身に一部として取り込む毎にHPとMPが上昇する上、後述の《魔力集積》があるので
・だが、今回は生み出されから間も無く戦闘になった為に取り込んだアンデッドの量が少なく、後述の理由でMPも少なかったのでその真価は発揮されなかった。
《魔力集積》:【ハデスルード】のスキルその二
・空間中の魔力を取り込んでMPを回復させるパッシブスキル。
・周辺の魔力量に応じてMPの回復量は変動し、<サウダーテ霊林>の様な魔力溜まりにいる場合にはMP切れなどまず起こらない程に回復する。
・だが、今回は儀式で消費したせいで周辺の魔力量が一時的に枯渇しており、更に【ジェムー《マナ・ディフュージョン》】の効果で周辺の魔力が拡散した所為でMPの回復量が大幅に低下していた。
《永業不屍》:【ハデスルード】のスキルその三
・MPを消費する事で自身のHPや状態異常を回復させるスキル。
・その再生能力は非常に高く普通の損傷なら即座に、アンデッドの弱点である聖属性攻撃によるダメージでも多少の時間はかかるが修復出来る程。
・だが、今回は前述の理由でMPが足りず、三兄妹の殲滅速度の方が上回った。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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<ニッサ辺境伯領>・事件の後、次への準備
あけましておめでとうございます、皆様の応援のお陰でUAが20000を超える所まで続ける事が出来ました、今年もよろしくお願いします。それでは本編をどうぞ。
□<サウダーテ霊林> 【
あの<
…………ちなみに周辺の木々の殆どを破壊した為、周りは殆ど更地である。お兄ちゃんが《サンクチュアリ》を張っているお陰でアンデッドは近づいて来ないけど。
「そういえばミュウちゃん、初討伐MVPと特典武具おめでとー」
「ありがとうなのです。…………でも、何故私がMVPになったのでしょうか? 多分兄様の方が多くダメージを与えていましたよね?」
「…………おそらく、与えたダメージ量が俺達三人で分散していたから、全体バフと本体撃破の功績で選ばれたんじゃないか?」
『成る程〜』
実際、ミュウちゃんとフェイちゃんの必殺スキルによる強化が無ければ、あれだけ早く倒すのは無理だっただろうしね。
…………あの【ハデスルード】は、時間を掛ければ手が付けられなくなるタイプの<UBM>だっただろうし。
「ところでミュウちゃん、手に入れた特典武具はどんな効果なのかな?」
「えーっと……【冥樹霊冠 ハデスルード】という装備で、分類は頭装備のサークレットみたいなのです」
そう言ってミュウちゃんが取り出したのは枝と蔦で出来たサークレットで、所々飾りとして葉っぱが付いていて額の部分には花が咲いているデザインだった…………あの禍々しい樹とは似ても似つかぬ、かなり綺麗なデザインだね。
「…………それで、効果はこんな感じなのですが……」
【冥樹霊冠 ハデスルード】
<
狂った妄念によって堕ちた霊樹の概念を具現化した逸品。
装着者の魔力を大幅に増幅すると共に、周辺の魔力を吸収して装着者の魔力に変換する。
※譲渡売却不可アイテム・装備レベル制限なし
・装備補正
MP+50%
防御力+10
・装備スキル
《魔力集積》
《霊環付与》
「高いMPへの補正に魔力回復のパッシブスキルである《魔力集積》、更に一人にHPの継続回復と時間経過による状態異常回復効果を付与する《霊環付与》のアクティブスキルがあって、確かに強いのですが…………私は魔法系じゃないので装備してもあまり意味がないのです」
ミュウちゃんはそう言って【ハデスルード】を手に乗せつつ、少し困った顔をしていた。
…………確かにこの装備は魔法使い系の装備だね…………これは多分……。
「…………この装備ってミュウちゃんじゃなくて、フェイちゃんにアジャストされた装備じゃないのかな?」
「フェイにですか? …………でも、サイズが合わないのですよ?」
確かにミュウちゃんが手に持っていた【ハデスルード】は、大体人の頭につけられるぐらいのサイズだった。
…………フェイちゃんの大きさは三十センチぐらいだから、このままなら装備出来るサイズじゃないね。
「とりあえず試してみたらどうだ? …………俺の予想が正しければ、その特典武具は両方に装備出来る様にアジャストされていると思うんだが」
「やってみるのです。……フェイ、コッチに来てください」
『分かったよ』
そうしてミュウちゃんがフェイちゃんの頭に【ハデスルード】を近づけると、その大きさが
「やったのです! 装備出来たのです‼︎」
『…………これは凄い装備だね。魔力が物凄く増えたし、今も急速に魔力が回復しているよ』
「良かったね、ミュウちゃん、フェイちゃん」
「やっぱりサイズ調整機能付きだったか。…………ミュウちゃんの必殺スキルにアジャストすればそうなるだろうしな」
お兄ちゃんの言う通り、普段はフェイちゃんが装備しておいて、必殺スキルを使った時はミュウちゃんに合わせたサイズになるんだろうね。
私の【ドラグテイル】もサイズを調整する機能があるみたいだから、特典武具のアジャストは結構気が効くみたい…………まあ、私のはガチャで当てた物だから、以前の装備者が身体のサイズを変えられたりしたんだろうけど。
「もう一つのスキルも…………確か持続回復効果ならフェイちゃんのスキルの効果範囲内だったよね?」
『うん、“一定時間の間回復効果を付与する”みたいな効果ならバフ効果と判定されるよ。…………普通の回復魔法は無理だけどね』
「これで私達も特典武具ゲットなのです! ようやく兄様と姉様に並べたのですよ‼︎」
「…………良かったな、ミュウちゃん」
とても喜んでいるミュウちゃんに、お兄ちゃんと私はやや苦笑いを浮かべた…………今までのミュウちゃんでも相当強かったもんね、特に対人戦では。
…………この【ハデスルード】も相当強い装備だし、ミュウちゃん達が私達の中で一番強いなんて事も普通にあり得るしね。
「さてと、じゃあ大分回復したし休憩を終わりにして帰r「一体なんだ! この惨状は⁉︎」…………ん?」
私達が休憩を終わりにして帰ろうとした時に、いきなり森の方から人の声がした。
そちらを見ると二十人ぐらいの人達が森を抜けて来るところだった…………格好は色々だけど、騎士っぽい格好をしている人が割と多いみたいだね。
…………その騎士の一団の中に居た一人の女性が、更地になった森の中にいる私達を見つけて話しかけてきた。
「…………この惨状を作ったのは君達か?」
「えーっと……まあ、そうですけど……」
「…………それでは森の中にアンデッドを放ったのも君達か?」
「それは違います。むしろ俺達はこの事件を解決した方ですよ」
その騎士の女性は警戒しながらお兄ちゃんに色々と問いただしている…………まあ、彼らからすればアンデッドが彷徨く森を抜けたらいきなり森の奥地が更地になっていて、そこに怪しげな人間がいたら警戒するのも無理はないよね〜。
…………幸いな事にその騎士の女性は他の人と比べたら冷静であり、お兄ちゃんも無難に受け答えしているから冤罪とかにはならないでしょう。この世界には《真偽判定》のスキルもあるし。
「…………ん? その紋章は<マスター>の…………ひょっとして『レントさん』と『ミカさん』ですか?」
「ええ、俺は<マスター>のレントで、あっちが妹のミカですが……」
ふむ? どうやら彼女は私とお兄ちゃんのことを知っているみたいだね…………そういえば彼女の顔立ちには見覚えが……。
…………そう考えていると、彼女は改めて自己紹介をしてきた。
「申し遅れました、私はアルター王国近衛騎士団に所属しているリリィ・ローランと申します。お二人の事は両親と姉…………アイラ・ローランから聞いています」
どうも、リヒトさんとマリィさんの娘さんだったみたい…………私達はローラン一家とは何かと縁があるみたいだね。
◇
「…………成る程、そういう事でしたか。…………しかし<UBM>をたった三人で倒すとは、<マスター>というのは規格外な存在ですね」
「まあ、あの【ハデスルード】は生まれたてだったみたいなのでなんとかなりました。…………もし、もう少し成長していたら不味かったでしょうが」
あれから私達はリリィさんの質問に答えて、ここで何があったのかやどうしてここに来たのかを話していた。最初は警戒していた人達も私達の言葉に《真偽判定》は反応しなかった事や、ミュウちゃんの特典武具【冥樹霊冠 ハデスルード】を見せた事によって納得して貰えた。
ちなみに、どうして此処に来たのかについては「勘で何となく此処が怪しいと思って来てみたら、偶々<UBM>と遭遇しました」と言ったら、少し唖然とされたけど「…………<マスター>とは本当に規格外な存在ですね」という感じで納得してくれた…………便利だね<マスター>という立場は。
「とりあえず改めて礼を言います。…………この領と王国を襲う危機を排除してくださり、本当にありがとうございました」
「いえ、俺達は偶々此処に来ただけですから」
「それでも礼は言わせて下さい。…………話を聞く限り、おそらく私達では倒し切れなかったでしょうし」
やっぱり、この世界で<UBM>を倒すというのは相当に重い事みたいだね。最初は<マスター>という事で不信感を抱いていた人も、私達の話が事実だと分かったらそういった感情は無くなって、感謝や敬意の視線を送る人も出てきたぐらいだし。
…………まあ、それよりも畏怖や何かおかしなモノを見る視線の方が多かったけど。「あのアンデッドの群れを突破してそのまま<UBM>を倒すとか、やっぱり<マスター>はとんでもないな」とか「<マスター>は色々おかしい…………主に
「それで出来ればこの後私達について来て欲しいのですが、よろしいでしょうか?」
「…………それは一体何故ですか?」
「私達は特級危険生物らしきアンデッドの調査の為にこの森に来ていたので、この後に此処で起きた事について領主に報告をしなければならないのです。…………出来れば、そこで当事者である貴方達に此処で起きた事について詳しく話をして貰いたいのです。…………おそらく報酬も出るでしょう」
「そういう事なら構いませんよ。…………二人もいいか?」
「別にいいよ、報酬も貰えるみたいだし」
「大丈夫なのです」
こうして私達はリリィさんについて行って、此処で起きた事について色々と証言をする事になった…………幸いな事にこの森のアンデッドは私達とリリィさん達が殆ど倒してしまっていた為、帰り道は行きの時と比べれば楽に進む事が出来たけど。
◇
「あ〜、やっと終わったよ〜」
「思ったよりも色々聞かれたな。…………特にアンデッドを作って<UBM>発生の原因となったと思われる存在については」
あの後、<サウダーテ霊林>を出た私達はそのまま此処の領主であるニッサ辺境伯の屋敷の行って、あの森の奥で何があったのかを詳しく話す事になったのだが…………その際、<UBM>【屍冥王樹 ハデスルード】の事に関しては大体納得して貰ったのだけど、その
…………どうもあの森に居た時にリリィさん達も【ハデスルード】が生まれた時の異常な魔力を感知していたらしく、その事などから『この領内にアンデッドを放ち<UBM>が生まれる原因を作ったモノがいる』と考えている様なんだよね。
『まあ、この事件の直接の原因だしね。詳しく知っておきたいと思うのはしょうがないよ』
「…………私達は<UBM>が生まれた後に来たから、“よく分からない”としか答えられなかったのですが」
まあ、私達は本当に何も知らないし、現場で何か見なかったかを聞かれてもあの時は【ハデスルード】との戦闘に集中していたからね。何かあったとしても、あの辺一帯は更地にしちゃったから何も残ってないし。
…………そんな事を考えていると、お兄ちゃんが質問して来た。
「…………それで、この事件は本当にこれで終わったんだよな?」
「うん。…………少なくとも私の直感に反応する様な危険はこの辺りには無いと思うよ」
あの【ハデスルード】を倒した時点で私の『遠い勘』は反応しなくなったからね…………多分、この事件の原因はもうこの世界には居ないんだろうし。
まあ、アンデッドはまだ残っているみたいだけど、私の勘が反応しないからそこまでの危険はもう無いみたいだし。
「なら良いか。…………俺達に出来る事はもう無い様だし、後のことは此処の領主やリリィさん達の仕事だしな」
「そうだねー。報酬も沢山貰ったし、これにて一件落着という事で良いでしょう!」
ちなみに報酬に関しては通常の特級危険生物に掛かっていた懸賞金に加えて、今回<UBM>を倒した事からそこにかなりの額が上乗せされて渡された。
お陰で<サウダーテ霊林>探索の準備に使ったお金や、【ハデスルード】との戦いで使った【ジェム】の分が補填出来たとお兄ちゃんが喜んでいたね。
「…………それにしても、旅行の始まりからいきなり騒動にアンデッド祭りとは運が無いな」
「私は特典武具を手に入れられたので、そこまで残念では無いですが」
『僕達もだいぶ強くなったよね』
「この
…………まあ、しばらくアンデッドは見たく無いけどね……。
「まあ、強行軍のお陰でレベルはだいぶ上がったがな。…………それで、次はなんのジョブに就くつもりなんだ?」
「とりあえず【ドラグテイル】強化を目的にして【
偶々ガチャで当てた【ドラグテイル】だけれど、今ではすっかり私のメインウェポンだからね。ここらでサブジョブ枠を使って強化しておくのもいいでしょう。
「姉様もジョブレベル五百のカンスト目前ですね。私も頑張らなければなのです!」
「まあ、デンドロ初日組にはもうカンストした人も結構いるみたいだけどね。…………それが終わったら超級職に就かないとだけど」
「…………そもそも就けるのか? 超級職に就くのは言うほど簡単じゃないぞ」
うーん、月一で先代【技神】さんに瞬殺されているお兄ちゃんが言うと説得力が違うね。
…………でも、私だって初めてデスペナしたあの日から、【
「戦棍士系統超級職【
「…………それだと転職するのは難しいのでは?」
「そうでもないよー。むしろ超級職は先着一名だからね、現在就いている人がいなければ条件を満たす事が出来れば就けるし。…………先に就いている人がいると譲って貰うか、あるいは殺してでも奪い取るぐらいしか出来ないしね。当然、私は後者をやる気なんて無いけど」
「当たり前だ。…………というか、肝心の転職条件が分からなければ意味がないだろう」
ふっふっふー。実はそうでも無いんだよなぁ…………実は此処に来てから
「【戦棍王】は今現在就いている人が居なくても、
「あっさり出して来たのです⁉︎」
「…………随分と準備がいいな……いや、ギデオンから南に行こうと言ったのはお前だったな」
「そういう事。ギデオンから南に行こうと思ったのは
実は、旅行をしようと思った最後のきっかけは、ギデオンで超級職について調べている時にお約束の『遠い勘』が発動したからなんだよね。ちなみにこの手記は事件の調査をしている最中に、この街の古本屋で見つけた物です。
「それで? その手記に転職条件が載っていたのか?」
「いや、読めた範囲だとこの手記は当時の【戦棍王】さんの従者が書いた物みたいで、主人の様子を書いた日記みたいな物なんだよね」
この手記には当時の【戦棍王】さんの事を『誰よりも戦棍を用いた技に長けていた』とか『強大なモンスターを戦棍の一撃で粉砕した』などと書かれていて、その末に【戦棍王】の力を得たとも書かれていた。
「今後も解読は進めるつもりだけど、多分転職条件がそのまま書かれているって訳では無いみたい。…………私にとってはそれで十分だけどね」
「…………まあ、お前の直感なら何とでもなるだろうな」
「姉様ですしね」
とりあえず、この手記に書かれている【戦棍王】さんの行動から転職条件の予想をいくつか立てて、その中から直感が反応するものをやっていけばいいしね…………いずれ
「さて! この街でやる事はもう無いと思うし、後はアンデッド騒ぎでイマイチ楽しめなかった観光でもしますか!」
「それと次の旅行の準備もな。次の行き先は北にある<ブリティス伯爵領>だったな」
「予定ならそうなっているのです」
『じゃあ観光もしつつ、次の旅行の準備もしようか』
こうして私達は残りの日程で<ニッサ辺境伯領>の観光を楽しんだのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:質疑応答担当
・【ジェム】連打の実戦での有用性が分かったので、今後は【ジェム】の生産数を増やそうと思っている。
・とりあえずオリジナル魔法スキルを【ジェム】に込められないかどうか試すつもり。
妹:超級職の手掛かりゲット
・手記は従者が書いた物であり、当時の主人を褒めちぎった内容しか
・実は【ドラグテイル】のサイズ調整機能は《竜尾剣》の効果で鎧の一部を伸縮させている(効果欄には載っていない隠し機能で、サイズ調整ぐらいの伸縮しか出来ない)
【鎧戦士】:鎧戦士系統下級職
・鎧スキルに特化したジョブで、装備している鎧を強化する《鎧強化》や鎧装備時に発動出来るスキルなどを覚える。
・覚えるスキルは主に防御系で、ステータスはHPとENDがよく伸びる。
末妹&フェイ:特典武具の性能には満足している
・兄妹に置いて行かれない為に自分達も超級職の手掛かりを探そうと思っている。
・ちなみに三兄妹は放置しておくのは後味が悪いという事で、残りの日程の中で可能な限り領内の残存アンデッドの殲滅にも協力している。
【冥樹霊冠 ハデスルード】:末妹の初特典武具
・サイズ自動調整機能により普段はフェイが装備して、必殺スキル使用時には末妹の頭装備になる。
・《魔力集積》は周辺の魔力濃度によってMP回復量が変動し、<サウダーテ霊林>やレジェンダリアの森などの魔力濃度の高い場所でなら非常に高い回復量になるが、それ以外の魔力濃度の低い場所での回復量は大きく下がる。
・周辺で使用した魔法の残滓である魔力を吸収して回復する事も出来る。
・MPを回復させるスキルなので、MPが全回復している時には機能しない。
・《霊環付与》は対象一人に『HPを秒間で最大HPの1%ずつ回復させる効果』と『全状態異常を時間経過によって回復させる効果』を付与するアクティブスキル。
・効果時間は三十分でクールタイムは二十四時間、効果対象に選択出来るのは装着者と装着者に触れている相手だけ。
・実は霊樹に生まれた意思が微かに残っており、サイズ自動調整機能はその為(システム上は効果欄には載っていない《霊環付与》の隠し機能扱い)
リリィ・ローラン:ローラン一家の次女
・近衛騎士団所属の【聖騎士】であり、合計レベルは四百代後半で《グランドクロス》や《聖別の銀光》も取得している同騎士団内でもトップクラスの実力者で父親譲りの高い指揮能力も持つ。
・ちなみにローラン一家は全員合計レベル五百までの才能があり、彼女は三姉妹の中だと合計レベルは一番高い(姉のアイラは【教導官】を取る為にジョブリセットをしている)
・今回は王都とレジェンダリアの交通ルート上で伝染能力持ちのアンデッドが目撃された為、近衛騎士団一個小隊(自身を含めて六人)を率いて<ニッサ辺境伯領>に調査に赴いていた。
・調査の結果、アンデッドが<サウダーテ霊林>内で発生している事を突き止め、調査と討伐の為に辺境伯領の騎士や冒険者と共に森林内を探索していたが、大量のアンデッドが襲いかかって来た為に探索は難航していた(このアンデッド達が数の多い方を優先する様になっていたのが原因)
・その後、事件の調査でレジェンダリアからモンスター化した【冥王】が消息を絶っている事を突き止めている。
・今回のアンデッドは実験で作られたモノだったので稼働時間が短かった事も幸いし、彼女達によって領内のアンデッドは程なく殲滅された。
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番外編 <月世の会>・日向葵
それでは本編をどうぞ。
□王都アルテア 【
どうもこんにちは日向葵です。今日も中学校が終わったのでデンドロにログインしました。
…………ちなみに私はリアルでは病弱アルビノ美少女(自称)ですが、ちゃんと日光対策をすれば外出する事は出来るので学校には通っています。最も通院する事も多いので、学校を休む事は多いけど。
後、デンドロは面倒な日光対策をせずとも日の光の下に出られると考えた両親が買ってくれた物で、今ではすっかりハマってしまった。
「…………さて、今日はどうしようか「おーい、葵ちゃーん」な。とりあえず冒険者ギルドでクエストでも「無視⁉︎」……何ですか、月夜さん」
今日の予定を考えていた私に声を掛けたのは、我等が<月世の会>のオーナー扶桑月夜さんである。そして、その後ろには彼女の<エンブリオ>であるカグヤさんと秘書の月島さんがいつも通り控えていた。
実は自宅の近くに現実の<月世の会>の本拠地がある事とよく通院している病院が<月世の会>と関わりが深いところだったので、私と月夜さん・月影さんは現実でも面識があり、それが縁でデンドロのクラン<月世の会>に入る事になった…………
「偶々見かけたから声掛けただけやよ。…………それにしても“月夜さん”っちゅうのは他人行儀やなぁ。
何か妄言を喚き始めたオーナーを無視して、私は月影さんに用件を聞いた…………ちなみに初めて会った時から、現実での彼女の呼び方は“月夜さん”オンリーである。
「特に用はありませんよ。月夜様が言った通り偶々声を掛けただけです」
「そうやえ、暇だったから声掛けただけや」
「…………以前の<マスター杯>での賭けで、ポケットマネーをほぼ全額擦ったのに暇なんですね」
「グハァァァ‼︎」
そんな感じに返答したらオーナーは地面に突っ伏した…………傷は深いぞ、がっかりしろ。
後、王都に<月世の会>のクランホームを建てる為の資金稼ぎは、その事情からデンドロ廃人と化しているクランメンバーのお陰で順調に進んでいる。故に、そう遠くない内にクランホームがこの王都に建つ事になるだろう…………オーナーが破産しようが関係無く。
「…………だから負けを取り戻す為に、ポケットマネー残り全部賭けるのはやめろと言った」
「此も止めたのだけれど……」
「だってなぁ、上手く行けばクランホーム建てるの早くなると思うたんやもん……」
まあ、オーナーがこの王都にクランホームを建てようと急ごうとする理由については分からなくもないが。
…………この<月世の会>にはその成り立ちから<Infinite Dendrogram>の世界を“真なる魂の世界”だと思っている…………
「…………そもそも、このデンドロはまだ始まったばかりで、クランホームの建設にも相応の手間がかかるのは分かりきっていたはず。オーナーだけではなんとか出来ない問題なのだからもう少し周りを頼るといい」
「…………葵ちゃん……やっぱり月夜お姉ちゃんと「却下」えぇー……」
このオーナーは何だかんだと言っても、<月世の会>とそこに所属している人間の事を真摯に考えているので非常に人望があるのだ。なのでクランメンバーもオーナーの要望には可能な限り答えようとしており、今回のクランホーム建設にもメンバー全員が全力で取り組んでいる。
…………まあ、このオーナーは偶に訳の分からない事をやらかしたりもするが、前述の理由から余程の事がない限りは生暖かい目でスルーしている。
「…………私はこれからレベリングと資金稼ぎを兼ねて、冒険者ギルドでクエストを受けに行こうと思っているけど……」
「じゃあ、うちらも一緒にいくえー。…………お金は稼いでおきたいし、うちもそろそろ
「…………確か司祭系統超級職の条件には『司祭系ジョブで合計レベル500』の条件があったか」
「そうやえー。…………今後の事を考えると司祭系統超級職には就いておきたいしな」
医療関係に回復魔法の使い手が占める割合が多いこの世界において、司祭系統超級職…………部位欠損すら直せる
…………だからこそ、うちのオーナーはアルター王国での<月世の会>地位向上と、王国との交渉カード確保の為に【
ちなみにもう一つの条件である『カンスト【
「じゃあ、冒険者ギルドまで行こか、受けるクエストは葵ちゃんに任せるで。後、他にも暇そうなメンバー何人か誘えへんかな」
「…………他のメンバーは資金稼ぎに忙しいと思うけど……」
まあ、<月世の会>の廃人集団なら何人かは捕まるかな。
◇
というわけで、やってきました<サウダ山道>。今回は最近此処で増え始めたゴブリンの群れを討伐して、王都・ギデオン間の交通ルートを正常化するクエストを受けてきました。
そして、今回のパーティーメンバーは広域デバフと回復魔法を使う我等がオーナー月夜さんと、対人・中距離戦闘に長け状況次第では広域殲滅も出来る月影さん、そして光や熱に強い基本前衛の私…………以上。
「…………結局、誰も捕まらへんかったわ〜……」
「今回は残念ながら間が悪かった様ですね」
「…………みんな資金稼ぎに全力で頑張っているからね」
うちの廃人メンバーなら何人かは捕まると思っていたんだけど…………どうも現在ログインしているメンバーが全員、資金稼ぎなど用事で忙しく誰も暇では無かった様なのだ。王都のクエストは競争率も高いから、遠くで出稼ぎに行っているメンバーも多いし。
うちの教義は『真なる魂の世界で自由を謳歌する』みたいな感じだから、普段はメンバー全員割と自由にやっているんだよね。
「ぐぬぬ……いつの日か<月世の会>の勢力が拡大した暁には、シンボルマークを描いた装備で統一したメンバーを従えて物凄い大物っぽい雰囲気で登場したる……」
「そんな日が来れば良いですね」
「…………まあ、うちのメンバーは割とノリがいいから、オーナーの提案なら結構乗ってくれるだろうけど」
「それは一体どういう状況なのかしら?」
…………多分、オーナーが暇だからと適当な相手に難癖付けて<月世の会>を動かした時じゃないかな?
「…………それで、クエストはこれで良かったの? この数でゴブリンの群れの討伐は面倒だと思うけど」
「まあ、うちと影やんがおれば数だけの相手ならどうとでもなるしな。…………それに報酬も良かったし」
まあ確かにオーナーの《月面徐算結界》と月影さんの必殺スキルの相性は非常にいいからね、ゴブリンの群れぐらいなんとかなるか。
…………そうして山道を進んでいるうちに小高い丘に差し掛かった時、索敵担当の月影さんが目的のゴブリンを見つけた様だ。
「おっ、影やんゴブリン見つけたん?」
「はい、ゴブリンは見つけましたが……群れではなく数は五匹程度、しかも
月影さんに言われて丘の下の方を見てみると、確かに五匹程のゴブリンが何かから逃げる様にして走っていた。そして、そのゴブリン達の動きは妙に遅く時折ふらついていた。
「…………ダメージを負っている? それとも……」
「んー、あれは多分状態異常やないかな」
「……おそらく月夜様の言う通りでしょう。ゴブリンが逃げてきた方向をご覧ください」
そう言われてゴブリンが逃げてきた方向を見ると、そこに生えていた木々が次々と
…………そして、その先から一匹の禍々しい瘴気を纏った巨大な蛇が現れた。
「あれは【ハイ・キング・バジリスク】やね。……成る程な、ゴブリンはあれから逃げとったんか」
「猛毒を撒き散らして周辺を汚染する性質から、王国では特級の危険生物に指定されている【キング・バジリスク】の上位種ですね」
「一体なぜこんな所に……」
二人の言う通り、その蛇……【ハイ・キング・バジリスク】が進行して来たルート上周辺の植物は全て枯れ果てていた。当然、あの辺りに居たゴブリンの群れなどひとたまりもないだろう、先程逃げてきたゴブリン達も既に息絶えている様だし。
「この感じやと、うちらのターゲットのゴブリンの群れは壊滅やろな。……それで、どうするん葵ちゃん?」
「…………私?」
「せやでー。……今回うちらは葵ちゃんに付き合ってここまで来たからな、どうするかは葵ちゃんが決めたらええで」
そう言ったオーナーはややイタズラっぽい表情を浮かべて私に問いかけてきた…………まったく、この人は面白そうな事を見つけるとすぐにこうなる。
「…………アレを倒そう。このままだと周辺の被害が酷い事になるだろうし、これ以上の被害は減らしたい。それに特級危険生物の【キング・バジリスク】には常時懸賞金が掛かっていた筈」
「分かったで、まあ今回の目的は資金稼ぎやからな。……獲物のゴブリンが居なくなった以上、アレには落とし前をつけて貰おか」
「分かったわ」
「了解しました、葵さん」
オーナーはイイ笑顔を浮かべて私の意見に同意し、カグヤさんも頷き、月影さんはいつもの笑顔で首肯した…………どうも今回、オーナーと月影さんは私の反応を見て楽しんでいる節があるなぁ。
「で、どやって倒すん?」
「……三人は毒が届かない距離からアレの動きを妨害してほしい、その隙に私が接近して
「ま、猛毒撒き散らすアレ相手に長期戦なんてする必要はあらへんからな。……でも、葵ちゃんの必殺スキルなら遠間から打ち込んでも十分ちゃう?」
「……私の必殺スキルは見かけほど有効射程が長くないし、前回使用してからのチャージ量にも不安がある」
「成る程な。とりあえず毒耐性はあげとくで、《デトキシケイト・ヴェイル》……これで短時間ならあの猛毒の空間の中でも大丈夫な筈や」
私の作戦に同意したオーナーが、【
「……ありがとう。……じゃあ三人共援護よろしく」
「任せとき」
「ええ」
「承知しました」
礼を言った私は【ハイ・キング・バジリスク】の猛毒の範囲内に入らない様に注意しつつ丘を駆け下り、そのまま相手の進行方向に回り込んだ。
……これで目の前はヤツと汚染された土地だけになるから
「……さて、行くか」
『SYAAAAAA‼︎』
いきなり目の前に現れた相手を警戒して一瞬動きを止めたヤツを尻目に、私は一気に接近して距離を詰めた。
…………無防備に接近してきた私に対して、ヤツは即座に猛毒を撒き散らしながら迎撃の姿勢を取ろうとしたが……。
「《月面徐算結界・薄明》」
「《
『SYAAAAAA⁉︎』
その瞬間、突如周囲一帯が『曇り空の夜』に変わり、細く注ぐ月光が【ハイ・キング・バジリスク】を照らし、それとほぼ同時に『夜』によって周囲に出来た影が無数の手となってヤツを拘束した。
…………これが<月世の会>クランオーナー扶桑月夜の<エンブリオ>である【カグヤ】のスキル《月面徐算結界》……効果範囲内の敵の能力を六分の一にする驚異の『夜』である。今回は相手の能力を考慮して、徐算対象をステータス一つのみ絞る代わりにレジストが困難になる《薄明》でSTRを六分の一にしている様だ。
更に効果範囲内が『夜』になる為、月影さんの<エンブリオ>の周囲の影を操る必殺スキルの効果を最大限に活かす事が出来る……本当にこの二人の<エンブリオ>は相性がいい。
『SYAAA⁉︎ SYAAAA‼︎』
影の腕に囚われた【ハイ・キング・バジリスク】は身を悶えさせながら必死に抜け出そうとするが、STAが大幅に減っているので拘束から逃れる事は出来ず……その間に接近した私はヤツに右手を向けて、自身の<エンブリオ>【日天鎧皮 カルナ】の必殺スキルを行使した。
「《
ズバアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ──────‼︎
その言葉と同時に私の右手から放射状に広がる超出力の光線が放たれた。これが私の<エンブリオ>の必殺スキル《
…………だが、シンプルであるが故にその威力は絶大だ。
『! SYAAAaaaaa………………』
至近距離からその光線が直撃した【ハイ・キング・バジリスク】は一瞬で跡形も無く消滅した……ついでに後方の汚染された土地も粗方焼き払った。
…………この必殺スキルは『溜め込んだエネルギーを
「葵ちゃん、お疲れ〜。…………ていうか、この威力なら毒の範囲外から撃ち込むだけでも倒せたんとちゃう?」
「…………一応、この熱線は射程が遠くなる程に威力が減衰するから確実性を重視した」
それにエネルギーの全放出しか出来ない上、クールタイムが二十四時間もかかる所為で使用回数がまだ少ないから、どのぐらいのチャージ量・距離で相手を倒せるのかがまだよく分かってないし。
…………そうやって話していると、月影さんが焼け跡から【ハイ・キング・バジリスク】のドロップである【高位猛毒蛇王の宝櫃】を回収してくれていた。
「お疲れ様ですお二人とも。この【宝櫃】があれば賞金は貰えるでしょう」
「ありがとな影やん。……でも、ちょっとやり残した事があるな……《デトキシケイト・ゾーン》」
そう言ったオーナーは熱線の効果範囲から外れていた土地の汚染を、【司教】の一定範囲内を解毒するスキルで浄化していた……これは……?
「…………何をしているのオーナー?」
「見ての通り汚染された土地の浄化や。…………さっき葵ちゃんが『これ以上の被害を減らしたい』って言うとったやろ。だから二次被害を減らす為に浄化しとるんや……今回は葵ちゃんの指示に従うって言うたからな」
そう言ってオーナーは汚染された土地を浄化していった…………こういう所があるから、この人はクランメンバーから慕われているんだよね……。
「分かった、私も手伝う」
「此も手伝うわ」
「当然、私もお手伝いしましょう」
こうして私達は可能な限り周辺の汚染を浄化していった。
◇
あの後、一通りの浄化作業を終えた私達は【ハイ・キング・バジリスク】討伐の懸賞金をもらう為に冒険者ギルドへ向かった…………のだが……。
「いやー、今日は中々楽しかったわ。懸賞金の
「…………そりゃあ、あそこまでゴネればね……」
「ゴネたんちゃうで〜、正当な交渉の結果や〜」
…………そこでうちのオーナーは討伐対象であるゴブリンが倒されていた事や周辺を浄化した事などを理由にして、冒険者ギルドの担当者にあの手この手でゴネまくり、通常の三倍以上の懸賞金を手に入れやがったのだ。
…………最後の方は担当者の人が涙目になってたし……。
「…………何故このオーナーはせっかく上がった好感度を速攻でドブに投げ捨てるのだろうか」
「此もそういう所は直した方がいいと思うわ」
「まあ、それが月夜様ですから」
「…………みんな酷ない? 今回うち結構頑張ったと思うんやけど……」
まあ、王国の<マスター>によるクランの中でも、
…………そうなれば私達を利用しようとする
そんな事はこの世界を『真なる魂の世界』とする以上は絶対に認められないからこそ、<月世の会>オーナーとしての交渉では厳しくせざるを得ない事は分かるのだが……。
「…………将来、気に入った人に初対面でやらかして好感度がマイナスになって、更にえげつない交渉の内容がその人にバレて好感度が中々上がらない事態になりそうな気がする……」
「何その具体的すぎる予感⁉︎」
…………とりあえず、やらかしはもう少し自重した方がいいと思う。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
日向葵:今回の主役
・実は頭脳面、特に洞察力とかは規格外側。
・キツネーサンとは歳の離れた友人みたいな関係。
・キツネーサンのやらかしには基本的に塩対応。
《
・《日天吸蓄》により蓄積された全エネルギーを指向性を持たせた上で放出するシンプルなスキル、クールタイムはデンドロ内時間で二十四時間。
・威力・射程は蓄積されたエネルギー量によって決まり、熱線は放射状に広がるので遠くになればなる程にエネルギーが拡散して威力は落ちる。
・今回は右手から放ったが、実際の発射地点は人工皮膚である<エンブリオ>から数センチ程離れた任意の空間から発射している。
・なので、別に左手でも足裏からでも放てるし、その気になれば顔から放って『目からビーム』みたいにも出来る。
扶桑月夜さん:みんな大好きキツネーサン
・葵ちゃんには『教主ではない扶桑月夜』を知っている相手なので割と気安く接している。
・基本的に
《デトキシケイト・ヴェイル》:【司教】の耐毒スキルその一
・対象一人の病毒耐性を上昇させ、対象に掛かる病毒系状態異常の効果を低下させる。
・既に掛かっている病毒系状態異常効果を緩和する事も出来る。
《デトキシケイト・ゾーン》:【司教】の耐毒スキルその二
・一定範囲内の病毒系状態異常効果を低下させる。
・高レベルなら汚染された土地の浄化も可能。
カグヤ:キツネーサンの良心
・マスターのことは好きだがやらかしはもう少し自重してほしいと思っている。
月影さん:キツネーサンの秘書王
・葵ちゃんの事は、キツネーサンが気楽に接する事が出来る相手なので評価は非常に高い。
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アルター王国一周旅行・西の海
<ブリティス伯爵領>・現状確認
それでは、本編をどうぞ。
□<ブリティス伯爵領> 【
あれから俺達は<ニッサ辺境伯領>での観光を終えた後に、一通りの準備を整えてから次の目的地である<ブリティス伯爵領>へ向かう事にした。幸いな事に道中いきなり大量のアンデッドに遭遇したり、唐突に<
今は到着したこの領の領主が住む街<ブリティス>に滞在しながら、この街の観光したり時折冒険者ギルドのクエストを受けたりして旅行を満喫していた。街で話を聞いていると領主であるブリティス伯爵は善政を敷いており、領内も平和で領民にも慕われているみたいだ、
「いや〜、何事も無く実に平和だね。この街も穏やかな雰囲気で観光にはもってこいだし」
「この領内には港町もあるみたいなので、魚介料理が美味しいのです」
『本当に美味しいね』
妹二人とフェイもブリティスの平和な様子には満足している様だ…………ちなみに今居るところはこの街にあるレストランの一つで、ミュウちゃんが言う通り魚介料理がうまい。
…………そんな事を考えつつ料理に舌鼓を打っていると、同じく料理を食べていたミカが最近あった
「それでお兄ちゃん、
「どうと言われても、特に使い心地は変わってないな」
実はこの領に着いてからしばらくして俺達が適当な宿に泊まって休憩を取った後にいつも通りオリジナルスキルの開発をしていたら、いつのまにか【ルー】の到達形態が『Ⅴ』になっていたのだ。
…………前回進化したのがプレイを始めてからデンドロ内で一ヶ月半ぐらい経った頃、現実では八月始めの頃で、今は現実では九月後半だから現実では約二ヶ月、デンドロ内では半年ぐらい掛かっての進化だな。やはり<エンブリオ>が上級に進化すると進化速度が大幅に遅くなるという話は本当らしい。
「いいなーお兄ちゃん。私は進化まだなのに」
「と言っても、知っての通り俺の<エンブリオ>は進化しても戦闘能力が大幅に強化される訳じゃないしな」
実際、俺の【ルー】が第五形態に進化した時の変化は《
ちなみに必殺スキルの強化により、今現在俺が就けるジョブの数は下級職三十六個・上級職二十二個で、合計ジョブレベルは四千まで上げる事が出来る様になっている…………が、それはつまりジョブを取ってレベルを上げなければ強くはなれないという事だ。
「それでも強化された事にかわりはないでしょー。……今までの進化は私と同時期だったのにいきなり差がついたね」
「私は兄様達よりもデンドロを始めたのは遅かったので仕方がないのですが…………やっぱり羨ましいのです」
『うーん…………今までの感覚からすると僕の進化にはもう少しかかる気がするかな?』
「まあ、<エンブリオ>の成長には個人差があるみたいだからな。……それに俺の場合は必殺スキルのデメリットによる進化時の能力拡張制限があるからな、多分それの影響で進化が早まっているんじゃないか?」
俺の【ルー】はそのデメリットの所為で進化時に既存スキルの強化しか出来なくなっているからな。その分だけ進化しやすくなっているのではないかと思うのだが。
…………それに今は<エンブリオ>の進化よりも悩んでいる事があるからな……。
「今は【ジェム】生成の方が問題なんだよな」
「何で? お金が足りないとか?」
「…………私達も兄様の【ジェム】にはお世話になっているので、少しぐらいは出しますよ?」
「あーいや、そうじゃなくてだな……最近《百芸創主》で作ったオリジナル魔法スキルを【ジェム】に込める実験をしているんだが、どうも上手くいかなくてな」
これまでの戦いで魔法を即時発動出来る【ジェム】は相当有用であると考えた俺は、オリジナル魔法スキルを【ジェム】に込める事が出来ないかと色々試していたのだ。
…………【ジェム】での発動なら消費MPやクールタイムの問題は無視出来るから、オリジナル魔法スキルが大分使いやすくなると思ったのだが……。
「出来なかったの?」
「いや、<エンブリオ>で作ったオリジナル魔法スキルを【ジェム】に込める事は不可能ではないんだが……成功率に問題があってな」
まず俺は手始めに魔法スキル一つだけを《百芸創主》のオリジナルスキル作成スロットに入れて、消費MPとクールタイムを引き上げて威力を上げた魔法を作った。そして、それを【ジェム】に込めてみたら、成功率自体はやや下がったものの見事に成功したのだ……まあ、これに関しては事前にミレーヌさんから『ベテランのティアン職人なら魔法の術式を【ジェム】に合わせて改造して込める事が出来る』と聞いていたので成功するとは思っていたが。
そして次に複数のスキルを合成して作ったオリジナル魔法スキルを【ジェム】に込めようとしたのだが…………途端に成功率が下がったのだ。どうもオリジナル魔法スキルに使うスキルの数が増えると成功率が大きく下がる様だった。
…………そして自分で上級魔法【ジェム】を作るには、一つにつき数万リルは掛かってしまう。
「まあ、成功率が下がるのは予想の範囲内だったが…………今の段階では成功率が低すぎてコストパフォーマンスが合わないな。もう少し【ジェム】生成の為の各種スキルレベルを上げないと使い物にはならないだろう」
「魔法スキル一つだけの方は使えるのでは?」
「そっちだと《百芸創主》で使うオリジナルスキルのスロットとジョブスキルを潰す事になるから俺自身の戦闘能力が落ちるな。強力な魔法スキルは自分で使うオリジナルスキルの方に回したいし。…………とりあえず、今後はもっと魔法系のジョブを取って、更にこの世界の魔法についての理解を深めていく必要がありそうだ。その為に【
俺が新しく取った【魔導師】は主に魔法拡張スキルや魔法を感知・解析するスキルなどを覚えるジョブで、多くの魔法を習得出来る【
…………一応、以前ミレーヌさんからこの世界の魔法についての基本ぐらいは教えて貰っているし、旅行に行く前に彼女から魔法に関する資料本を買った(買わされた)ので今後も魔法に対する研鑽は積んでいくつもりだが。
「俺の現状はこんなところだが……そっちはどうなんだ、ミカ?」
「私?」
「ほら、以前【
俺の質問への回答は終わったので、今度はこちらからミカに対して気になっていた事を聞いてみた。
◇◇◇
□<ブリティス伯爵領> 【
お兄ちゃんが以前手に入れた【戦棍王】に従者の手記について聞いてきたね。やっぱり気になるよね〜。
「実を言うと解読と転職条件の絞り込みについては大体終わっているよ」
「本当なのです⁉︎」
「うん、幸いな事に内容は私でも読む事が出来たしね。…………この【戦棍王】さんが活躍していたのは、今から大体
この手記によると【戦棍王】に就いていた“彼”はとある傭兵団の団長をしていたらしく、その実力と人格から傭兵団のメンバーにも慕われていたらしい。その傭兵団は結構長い歴史を持っていた様で、組織として真っ当だったので民草からも慕われており、その団長は代々【戦棍王】のジョブを継いでいたと書かれていた。
この手記に書かれていた彼は合計ジョブレベル五百に至る才能を持ち、戦棍士系統の上級職である【
「それから、その“彼”は前団長以上の実力を発揮してこの傭兵団を更に躍進させて、その後一つの国の専属傭兵団になったらしいよ」
「ほー、順風満帆に進んでいる感じだな」
「その【戦棍王】さんがその国のお姫様といい関係になったとかも書かれているね」
「お〜! ロマンスなのですね!」
「だったら良かったんだけどね〜。…………その後、その国は当時急速に勢力を強めていた【覇王】と呼ばれる人物が率いていた国と戦争になったみたい……」
戦争が始まってしまったので、その国の軍隊と【戦棍王】さんが率いていた傭兵団が迎撃に向かった。そして、そこで見たものは…………たった一人で戦場に立つ【覇王】の姿だったらしい。
…………そして、その【覇王】が剣を一振りすると、迎撃に出た人間は【戦棍王】さんを含めてほぼ全て
「えぇ〜。…………いくらなんでも比喩表現ですよね?」
「私もそう思いたかったんだけど…………勘によるとどうも本当っぽいんだよね。…………この【覇王】は今から約六百年前、この世界を二分する程の大国を率いていたと伝わっている様だし」
「…………先代【技神】の例からしても、この世界にはデタラメに強いティアンがいる事もある様だな」
「そうみたいだね。…………幸いな事はこの話が六百年前って事ぐらいかな」
流石の【覇王】様も六百年は生きられない…………よね? なんか凄い嫌な予感がするけど……。
ちなみにこの手記はここで終わっており、書くのも憚れるのか【覇王】の詳細や登場人物の個人名などは意図的に書かれていない様だ。
「ふーん、そこまで聞くと少し読んでみたい気もするな」
「じゃあ読んでみる? ハイこれ」
お兄ちゃんが手記を読んでみたいと言ったので、アイテムボックスから【戦棍王に纏わる手記】を取り出して渡した。
それを手に取ったお兄ちゃんはパラパラと読み進めていくが…………次第にその表情が訝しいものに変わっていった。
「…………ミカ、本当にこの手記であっているのか? 主人万歳みたいな事しか書かれていなくて
「え⁉︎ そんな事ないでしょ。だって表題にも【戦棍王に纏わる手記】って書いてあるじゃない」
「…………姉様、この本の表題には【我が主人に捧ぐ讃歌】と書かれていますよ?」
「え?」
…………あっれれ〜〜、おっかしいぞ〜〜。なんかお互いの証言が食い違っているね。
「ふむ《鑑定眼》《魔力視》《術式解析》……駄目か。まだ低レベルの俺のスキルでは何も分からないな。…………なら《
「えっ⁉︎ マジで⁉︎」
「ああ、マジだ。…………本来の題名が【戦棍王に纏わる手記】ならば、おそらく条件は『【剛戦棍士】と【戦棍鬼】に就いている』とかだろうな」
「…………道理でロストジョブのヒントになる本が古本屋にバラ売りされている訳だ」
この手記を買おうとした時、お店の人に変な目で見られたのはそのせいかな。
…………しかし、手記にこれだけの高度な隠蔽が掛かっているとは思わなかったね。或いは【覇王】の目を誤魔化すために必要だったのか。
「とりあえず、これは俺達には読めない様だから返しておくぞ。…………それで、超級職の転職条件の方はどうなんだ?」
「うん、この手記の著者さんも転職条件の詳細については知らなかったみたいだけど、当時の【戦棍王】さんの行動や傭兵団の中にあった転職条件の噂とかは載っていたからね。そこから勘で導き出された条件は『【剛戦棍士】【戦棍鬼】のカンスト及び全スキル取得』と『メイスで純竜級以上のモンスターを
手記の中では『彼はメイスにおける全てのジョブスキルを極めていた』とか、先代団長から【戦棍王】の継承をする時に『屈強なモンスターを戦棍の一撃で討伐せよ』と言われていたと書かれていたからね。
その描写を見てから色々条件を考えていくうちに、直感が『これらの条件を満たした方がいい』と出たし、この条件で間違いないと思う。
「それに一つ目の条件は既に満たしているよ」
「姉様早いのです⁉︎」
「まあ、戦棍士系統のジョブスキルは全部取っておいた方がいい気がしていたしね」
ちなみに【剛戦棍士】の奥義《グラウンド・ストライク》の取得条件は『メイスで亜竜級以上のモンスターのHPを50%以上削って倒す』で、【戦棍鬼】の奥義《インフェルノ・ストライク》の取得条件は『メイスの一撃のみで100体以上の相手を倒す』とかだった。それ以外のスキルも取得条件があるものが結構あったけど全て取得済み。
「それじゃあ、これから純竜級のモンスターはお前に譲ればいいか?」
「そうしてくれると助かるね。…………条件的に一人で倒さないとダメだと思うから、バフ効果の【ジェム】が欲しいかな」
「分かった、いくつか作っておこう」
「ありがとうね、お兄ちゃん。お代を出すからさ」
これでなんとか超級職へ転職する目処がついたよ…………私の『遠い勘』では“なるべく早く就いていた方がいい”って出てるしね。これからは冒険者ギルドとかで純竜級モンスターの討伐依頼を受けていく事になるかな。
まあ、旅行を楽しみつつ条件を満たしていこうか…………
「とりあえず次はこの領の港町に行くって事でいいかな?」
「はい! それでいいのです! …………海水浴とか出来ます?」
「うーん、この国の気候は温暖だから出来なくはないけど…………水中だと人間は弱いからね」
「この世界ではその手のアウトドアはあまり発達していないからな…………モンスターが居る所為で命がけになるし」
…………山や海や空にモンスターが跋扈するこの世界で、アウトドアや旅行をするには圧倒的な実力か膨大な資金が必要だからね……。
「…………やっぱりそうですよね。分かってはいたのです」
「まあ、浜辺で遊ぶぐらいなら問題無いと思うよ?」
『ドンマイ、ミュウ』
こんな感じで、私達は旅行を楽しんでいたのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:一足先に第五形態へ
・オリジナル魔法【ジェム】生成は今のスキルレベルだと安定した生産は難しい。
・しばらくはジョブレベルとスキルレベル上げに専念する予定。
・ちなみに兄のレベルが上がりやすいのは獲得経験値増加スキルのせいだけでなく、ソロでジョブクエストを受けたりレベリングをしたりしているから。
【魔導師】:魔導師系統下級職
・《ファイアーボール》などの魔法スキル自体ではなく、《魔法威力拡大》などの魔法拡張スキルや魔法を解析・研究するためのスキルを覚えるジョブ。
・上級職は【
・だが、ベテランの魔法使いならジョブスキルの補助が無くても魔法の解析は出来る上に、魔法系上級職なら魔法拡張スキルもついでに覚えられるので、下級職の方はサブで取る事も多いが上級職の方は魔法の研究者以外にはあまり人気が無い。
《魔力視》:【魔導師】のスキル
・魔力を目で見る事が出来る様になるアクティブスキル。
・《魔力感知》との違いはあちらが周辺の魔力を感知するパッシブスキルで、こちらが一時的に魔法を見る事が出来る様になるアクティブスキルである事。
《術式解析》:【魔導師】のスキル
・発動している魔法の術式を知ることが出来るアクティブスキル。
・あくまで
妹:超級職への転職まであと一歩
・二つ目の条件はアイテムによる補助と直感による危険察知、そして自身の高ステータスでゴリ押す予定。
・兄の単独行動中は末妹と一緒に買い物や観光をしたり、ジョブクエストを受けたりもしている。
【戦棍王に纏わる手記】:【戦棍王】転職のためのキーアイテム
・これを書いた従者は【覇王】との遭遇で唯一生き残った傭兵団の団員。
・傭兵団や使えていた国、そして団長であった【戦棍王】の事を後世に伝える為にこの手記を書いた。
・だが、【覇王】への恐怖や唯一生き残ってしまった悔恨からか、手記からは固有名詞が全て削除されてしまっている。
・【覇王】の目を誤魔化す為の偽装を見破る条件は『【剛戦棍士】及び【戦棍鬼】のカンスト』であり、この条件は後世で【戦棍王】の座に就く者にかつての『彼等』の事を知って欲しかったからでもある。
【戦棍王】:戦棍士系統超級職
・六百年前まではとある傭兵団に受け継がれていたが、その傭兵団が【覇王】に消滅させられた為にロストジョブになった。
・正確な転職条件は『【剛戦棍士】及び【戦棍鬼】をカンストし、それらで覚えるジョブスキルを全て取得している事』と『一人で上級ボスモンスターをメイスによる一撃のみでHPを50%以上削った上で倒した(その攻撃による傷痍系状態異常などでのHP減少も含む)回数が30回以上』、そして『転職の試練を達成する』である。
・二つ目の条件は、戦棍士系統の隙の大きい高位のジョブスキルを相手の急所に的確に打ち込める技術や立ち回りを試す感じで設定されている。
末妹:この世界ではアウトドアがやり難いのがちょっと残念
・最近はレベルも上がってきたので、兄妹とは別にソロでジョブクエストを受けたりもしている。
・だが、ログインする時には母親との約束を守って兄妹と一緒。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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<ブリティス伯爵領>・港町ウェレン
それでは本編をどうぞ。
□<ブリティス伯爵領>港町ウェレン 【
俺達はあれから<ブリティス伯爵領>内を探索しつつ、領内にある港町ウェレンにやって来ていた…………ちなみに道中【
ちなみにミュウちゃんも【
「潮の香りがするのです!」
『これが海なんだね。僕は初めて見るよ』
「港町だからね〜。ちなみにこの港町に面している海は<西海>って言うらしいよ」
「この大陸の西側にある海だからな。あとこの港町に面している海には強いモンスターはあまりいなくて、だからこそ漁業が盛んらしいぞ」
と言うよりも、強いモンスターがあまり出ない海域だからこそ、この場所に港町を作ったみたいだな。
「さて、とりあえず観光をしつつ、この付近の純竜級モンスターの情報を探そうか。この領内での道中で何体かは倒せたけど、まだ転職条件を満たすには足りないしね」
「…………純竜級のモンスターはなかなか遭遇しないからな」
「見つかると良いですね、姉様」
ミカが【
ある時は街周辺に現れた【アーマード・ドラゴン】の討伐依頼において、ミカは相手の手足をへし折った上で頭部を《インフェルノ・ストライク》で消し飛ばした。またある時は農村近くで目撃された【
…………今のミカのSTRは各種補正込みで一万をゆうに超えるから、純竜級モンスターとてアクティブスキルを急所に当てられれば一撃で倒す事は難しくない。むしろ純竜級モンスターを見つける方が苦労する程だ。
「あ〜、どこかに純竜級モンスターの群れとか居ないかな?」
「…………流石に群れで来られると条件を満たすのは難しいだろう」
「それに純竜級モンスターの群れとか、この世界の人達にとっては大事件ですよ」
「分かってるよ、言って見ただけ。とりあえずここの観光と聞き込みを始めようか…………私の勘だと何かある気がするし」
どうやら、ミカはまた何か感じ取ったらしい…………また面倒な<
「じゃあ手分けして聞き込みをしてみるか。とりあえず三時間後に此処に集合で、何かあったら【テレパシーカフス】を使ってくれ」
「「『はーい』」」
そうして俺達は三手に別れて聞き込みを開始した。
◇
俺は妹達と別れてからしばらく街を歩いきながら、いくつかの店をめぐって買い物をしながら聞き込みを進めていた。
…………そして今は道端の魚の揚げ物買い食いしつつ、それを売っていた露店のおばちゃんに話を聞いていた。
「…………この揚げ物美味しいですね」
「そうだろう! これでもこの道で三十年はやっているからね。…………でも、最近は魚の在庫が少し不安でねぇ」
「何かあったんですか?」
「…………実は、最近この近くの海に厄介なモンスターが住み着いたみたいなんだよ」
…………詳しく話を聞くと、一週間ぐらい前からここの海に何処からか迷い込んできた強力なモンスターが住み着いてしまい、そのせいでしばらくここの漁師達が海に出られない日が続いている様なのだ。
「冒険者ギルドなどへの依頼とかは?」
「ここには冒険者ギルドなんて無いからねぇ。…………たまに出てくるモンスターもウチの漁師達が退治してしまうから、冒険者も仕事が無くて殆ど寄り付かないからさ」
…………この世界における【
「…………しかし、それだけ腕が立つ漁師達でも対処出来ないモンスターが住み着いたと」
「そうみたいなんだよねぇ。ウチの漁師達も頑張っているみたいだし、領主様にもこの問題について知らせたみたいだけど…………解決するのはいつになる事やら」
…………成る程、ミカが言っていた予感はこれの事かな。とりあえず話を聞かせてくれたおばちゃんに礼を言って、ミカとミュウちゃんに【テレパシーカフス】を使って連絡を取った。
「色々聞き込みをしてみたが、どうもこの近辺の海に厄介なモンスターが住み着いたという話を聞いたぞ」
『こっちでも似た様な話を聞いたのです。街の人達も困っているみたいなのです』
『私は港の漁師の人達に話を聞いたよ。どうも結構被害が出ているみたい…………それでお兄ちゃん、どうも怪我をしたり毒に侵された漁師の人がいるみたいだから治療出来ないかな?』
どうやら、ミカが一番この事件の核心に近づいているらしい…………あいつの直感を考えれば当然だが。
「分かった。じゃあ合流場所は港に変更するか?」
『そうしてくれると助かるよ』
『こっちも了解したのです』
連絡を終えた俺は怪我人の治療の為に急いで港の方まで走っていった。
◇◇◇
□<ブリティス伯爵領>港町ウェレン 【
「《デトキシケイト・ゾーン》……《魔法威力拡大》《デトキシケイション》」
『《魔法威力拡大》《フォースヒール》』
「「「「「おお!」」」」」
私からの連絡を受けて駆けつけてくれたお兄ちゃんとフェイちゃんが、怪我や毒で苦しんでいた漁師の人達を次々と治療していった。どうもこの街には回復魔法を使える人はいても、上級職である【
…………一通りの治療を終えると、この街の漁師達のリーダー格であるファーガスさんがお礼を言ってきた。
「助かったぜ、嬢ちゃん達。生憎と薬は殆ど切らしちまってたからな、この礼は後できっちりさせて貰うぜ。…………しっかし、<マスター>ってのは凄えもんだな、あっという間に治っちまった」
「お兄ちゃん達は上級職の回復魔法が使えますから」
後、この世界での魔法の効果は最大MP量と使用したMP量に比例するから、各々の<エンブリオ>の特性のお陰でMP量がもの凄い多い二人の魔法効果は高いしね。
「…………それで? この辺りの海に強力なモンスターが住み着いたと聞きましたけど、一体どんなモンスターなんですか?」
「…………まあ、嬢ちゃん達になら話してもいいか。…………今、ここの海に住み着いたのは【デッドリー・オーシャン・スライム】ってやつでよ」
詳しく話を聞くと、ある日突然その【デッドリー・オーシャン・スライム】が現れて、この辺りの海に居た他のモンスターを食い荒らしていったらしい。更には海に出ていた漁師達にも襲いかかってきて、彼等もどうにか迎撃しようとしたのだが……。
「結果はご覧の有様よ。…………何せスライムだから物理攻撃は効かねえし、強力な【溶解毒】と【腐食】の状態異常をばら撒く上に【オーシャン・スライム】種特有の再生能力まで健在と来た」
「成る程ね〜」
漁師達のメインの攻撃手段は物理攻撃であり、数少ない魔法も【蒼海術師】や【翆風術師】などの水・風属性攻撃だったのでスライムの《液状生命体》とは相性が悪く、更には漁船を【腐食】させられて移動もままならなくなった様だ。その上、相手は周辺の海水を吸収して自身の
…………ちなみに【オーシャン・スライム】種は基本的に海水を吸収して生活しているだけで他の生物を襲わない無害なモンスターであり、むしろ汚染された海水を積極的に吸収して無害化してくれる有益なモンスターの筈だと言う。
「だが、極稀に汚染された海水を吸収し過ぎて無害化しきれず、自身が猛毒を持つ様に変異してしまう事があるらしい。更にタチの悪い事に、そうなっちまった【オーシャン・スライム】は他の生物を積極的に襲う様になるって話だ。…………まあ、これはウチの爺様から聞いた話なんだがな」
「…………それはまた厄介な……」
…………デンドロのスライムは物理攻撃無効な上、HP=体積だから身体の大部分を消滅させるまで生き続けられる最強クラスの種族だからね。その上に強力な状態異常に加え、海でなら実質的に無限回復可能とか下手な<UBM>より厄介なんじゃ……。
「うーん…………出来れば海で戦いたくないタイプのモンスターだね。お兄ちゃんどうしようか?」
「…………とりあえず周辺の海ごと凍らせた上で、お前が砕けばいいんじゃないか? お前の【ギガース】なら相手がスライムでも関係ないだろう」
確かに、私の【ギガース】のスキル《バーリアブレイカー》込みの攻撃をスライムに打ち込んだ場合《液状生命体》を無視してHPを削れるから、攻撃力さえ足りていれば相手の
…………私達がそんな話をしていると、ファーガスさんがやや驚いた様に聞いて来た。
「…………嬢ちゃん達、まさかあいつを倒そうとしているんじゃ……」
「厳密に言えば、倒す手段は無くはない、という話をしているんですけどね。…………俺達には海上での移動手段がないので、討伐には貴方達の協力が必要ですが」
「私達をそのスライムの下まで連れて行ってくれるなら、多分倒す事は出来ると思うよ」
私とお兄ちゃんの言葉にファーガスさんはしばし考え込んだ後、意を決した様に顔を上げた。
「分かった、嬢ちゃん達にあのスライムの討伐を依頼しよう。…………ウチの領主様にも連絡はしたが、ここの騎士達であのスライムを倒すのは難しいだろうしな。当然、討伐の報酬は出すぜ」
「分かりました、その依頼をお受けします」
【クエスト【討伐──【デッドリー・オーシャン・スライム】 難易度:七】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
それじゃあ、クエストスタートだね!
◇
あれから私達とファーガスさんは一隻の小舟(漁船の殆どは【腐食】していて修理が必要だった)に乗って【デッドリー・オーシャン・スライム】が出没する海域に向かって行った。
ちなみに操船しているのはファーガスさん、曰く「今動ける人間はもう俺ぐらいしかいないからな。なに、これでも《操船》のジョブスキルは持ってる」との事。
「あのスライムは餌が多い場所に住み着いているからな! この時期のこの辺りには餌になるモンスターが沢山いるからな!」
「はーい! …………流石は漁師さん、私達じゃ場所の特定は無理だったね」
「俺達に漁の専門知識は無いからな」
この海の事はここの漁師さんが一番よく知っているだろうからね。それに私達では船を動かす事は出来ないから、海上の移動には制限が出来るし…………一応、今後の事も考えて短時間の間だけ水上歩行を可能とするアクセサリーをファーガスさんから借りておいたけど。
「それで、作戦はどうするのです?」
「ミュウちゃんがバフを掛けて、俺が凍らせて、ミカが砕く…………以上」
『シンプルだね……』
「まあ、無限回復するヤツに長期戦なんてやってられないからね。…………それに何かされる前に潰すのが一番効率がいいだろうし」
この世界での戦闘は初見殺しとメタの応酬だからね。だから、戦闘にすらさせずに初手で相手を倒して何もさせない事が一番重要なんだよね。
「問題は【ジェムー《ホワイト・フィールド》】が一つしかないからチャンスは一度だけだという事と、最初の奇襲でこの船が沈められる事なんだが……」
「うん、最初の奇襲は私が感知するよ。…………ファーガスさん! 事前に説明した通りにお願いしますね!」
「ああ! 分かってるよ!」
今回の作戦の為に、彼には事前に私が勘で敵の接近を感知出来ると話してある…………理由に関しては“<マスター>だから”でゴリ押したけどね。幸い漁師さん達に《真偽判定》持ちの人がいたから信じてもらえて、『<マスター>はすごいな』という感じで納得して貰えた。
…………そうして暫く海上を進んでいると、私の勘が敵の接近を伝えて来た。方向は……真下か!
「ファーガスさん! 真下から来ます‼︎」
「分かった!」
「『《
「《フィジカル・ブースター》」
私の警告と同時にファーガスさんが船の舵を勢いよく切りその場から離脱し、ミュウちゃんとフェイちゃんが必殺スキルで融合した。更にお兄ちゃんが融合したミュウちゃんに単体バフを掛けた上で、アイテムボックスから【ジェムー《ホワイト・フィールド》】を取り出していた。
…………それらの行動が終わった時、先程まで船が通っていた海中から赤黒い巨大なスライムが姿を現した。
『────────‼︎』
「早速で悪いが凍っておけ《
その【デッドリー・オーシャン・スライム】が海上に現れた瞬間に、そこに向かってお兄ちゃんが【ジェム】強化投擲スキルでもって【ジェムー《ホワイト・フィールド》】を投げつけた。そのジェムがスライムに当たった瞬間に白い球状の凍結領域が展開され、それが晴れた時には周辺の海域ごとスライムは完全に凍結していた。
「《アクア・ウォーキング》」
「姉様!」
「分かってる。じゃあ行ってくるよ」
更にお兄ちゃんはミュウちゃんに水上歩行を可能にする【蒼海術師】の魔法を掛けて、その効果がミュウちゃんの必殺スキルによって私にも伝播した。それを確認した私は海に飛び込み、事前に付けておいた水上歩行用のアクセサリーの効果と合わせ、可能な限りの速度で海上を走って氷漬けにされたスライムの下まで向かって行った。
しかし、海上には波があるからか結構走りにくいね……だったら
「《竜尾剣》!」
私は背の剣尾を伸ばし、氷漬けにされているスライムの天辺に突き刺して全力で跳躍し、更に剣尾を縮めて自身の身体をスライムの下まで引っ張っていった。そのまま剣尾をワイヤー代わりにして跳んでいき、スライムの頭上に着地した。
「よっと! ……まだ完全には凍結していないみたいだね。……でも、これで終わりだよ《不治呪瘴》《グラウンド・ストライク》‼︎」
そして、私は念の為に特典武具【ブラックォーツ】の攻撃対象に【再生阻害】を与えるスキル使った上で、外側だけ氷漬けにされているスライムに全力で【ギガース】を振り下ろした。その
その結果【デッドリー・オーシャン・スライム】は光の塵となり砕かれた氷の粒と共に宙を舞い上がった…………これなら《不治呪瘴》は要らなかったかな?
「よし! 上手く片付いたね。…………しかし、意外と綺麗な光景になったねぇ」
相手の討伐を確認した私は、光と氷の粒が舞う海上を歩いて船まで戻っていった。
◇
「野郎ども! 今日は宴だぁ‼︎」
『うおおォォォォ‼︎』
あれから依頼を達成した私達は漁師の皆さんに誘われて、【デッドリー・オーシャン・スライム】討伐祝いの宴に参加する事になった。出された料理は港町らしい海鮮料理で、漁師らしい大雑把なものだったけど結構美味しかった(お酒も勧められたけど、私達三人とも未成年だったので断った)
ちなみに討伐が終わって港町に帰った時に、ちょうどここに来たばかりのこの領の騎士達に遭遇したりもした。既に【デッドリー・オーシャン・スライム】が討伐されたと知るとポカンとした顔になったが、「領民の治療やこの領を襲った脅威を討伐してくれて感謝する」と言ってくれた…………実質無駄骨になったのに、特にそんな様子を見せずに感謝してくれるとかいい人達だったね。ここの領主が領民から慕われるのも分かる気がするよ。
…………そんな事を考えていると、ファーガスさんが話しかけてきた。
「よう嬢ちゃん、今回は本当に色々と助かったぜ。…………報酬に関しては領主様とも相談して、後でしっかりと払うぜ」
「いえいえ、どういたしまして。…………私達がアレを倒さなかったら被害が酷いことになる事が解っていたので」
…………さっき来た騎士達じゃ、あのスライムには勝てなかっただろうし。
「フーン、そういえば最初に俺達のところに来た時も、負傷した人間を見ずに『このままじゃ後遺症が残る人が出ますよ』とか言ってたな。…………なあ嬢ちゃん、その勘は生まれつきのものなのかい?」
「? ……そうですよ」
「…………ウチの爺様は元々グランバロアの人間でな、その所為か海に関する色々な話を知っていて俺も昔色んな話を聞かされたんだが…………その中にグランバロアという国を
「…………へえ、なかなか興味深い話ですね」
「あと、生まれつきそういう事が出来る人間は特殊超級職【
「いえ、面白かったですよ」
そのまま話を終えたファーガスさんは立ち去っていった…………フーン。
「…………【先導者】ねぇ……いつかグランバロアに行く機会があったら調べてみようかな?」
…………もしかしたら、私の生まれつきのこの力について何か分かるかもしれないしね……。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:今回はサポート要員
・【テレパシーカフス】は旅行前に買っておいた。
・被害を受けたウェレンの人達では報酬を払いきれなかったので、連絡を受けたブリティス伯爵が領民を守ってくれた礼として報酬を払ってくれる事になった。
《アクア・ウォーキング》:【蒼海術師】の魔法
・効果対象が一定時間水上を歩く事が出来る様になる魔法。
・ただし波がある海上などを移動するには相応の慣れと訓練が必要。
妹:今回【先導者】について知った
・超級職の転職条件に関しては順調に達成中。
・ここしばらくはボスモンスター一点狙いで、他のモンスターは皆に任せているのでレベルの上がりはやや遅い。
《ギガント・ストライク》:【剛戦棍士】のスキル
・使用前と後に隙があるが、その分大威力の一撃を放つメイス用アクティブスキル。
・威力は《グラウンド・ストライク》に劣り衝撃波も発生しないが、打ち下ろすしか出来ないあちらと違って普通に殴れるので使いやすい。
・だが、妹は亜竜級までの相手なら下級職のスキルでも倒しきれるステータスを持つ為、あまり使われなかった。
末妹:サポート要員その二
・フェイが殲滅しているモンスターの経験値も入っているためレベルの上がりは比較的早い。
・補助はフェイや兄妹に任せて自分は戦闘能力に特化しようと考えている。
【蹴士】:蹴士系統下級職
・格闘系ジョブの一つで名前の通り蹴り技がメイン。
・末妹はジョブ枠をこのまま格闘系ジョブで埋めていく予定。
【漁師】:漁師系統下級職
・海版の【狩人】で海上・海中での対モンスター戦に長けている。
・覚えるスキルは海で行動する為の《水泳》《潜水》《操船》や水棲モンスターに対する特効スキルなど。
・上級職は【
ファーガスさん:ウェレンの漁師達のリーダー格
・合計レベルは300代後半のベテラン【大漁師】で、知識や判断力にも優れていて人望がある。
・人を見る目もあり三兄妹が領の騎士達よりも圧倒的に強い事を見抜いて討伐依頼を出した。
【デッドリー・オーシャン・スライム】:今回の事件の原因
・汚染された海水を浄化する【オーシャン・スライム】が短時間で大量の毒素を吸収してしまい、無害化しきれず変質してしまったモンスター。
・無害だった頃とは一変して周辺にいる生物を自身の毒で攻撃して捕食するが、海水を汚染する事は無いので海を汚すモノを排除するために変質していると言われている。
・スライムなので通用する攻撃が限られており、海水を吸収して再生するのでグランバロアなどでは非常に危険視されている。
・三兄妹はあっさりと倒した様に見えたが、それは念入りにメタを張って何もさせない様にしていたからで、もしまともな戦闘になっていたら地形などの要因で非常に不利になっていた。
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<水精洞窟>・そして超級職へ……
それでは本編をどうぞ。
□ブリティス伯爵領・<水精洞窟> 【
「さて、やって来ました自然ダンジョン<水精洞窟>! 今日こそ超級職の転職条件を満たすよ!」
「頑張って下さい、姉様」
『頑張ってね』
「しかし、ブリティス伯爵には感謝しないとな。…………何せ、報酬のオマケにミカの要求した情報までくれたんだから」
以前、港町ウェレンで【デッドリー・オーシャン・スライム】を倒した俺達は、その討伐依頼の報酬を受け取る為に領主であるブリティス伯爵の下に向かったのである…………ウェレンの人達はスライムから受けた被害が酷くて報酬を出す余裕がなかったので、代わりにブリティス伯爵が支払ってくれるという話になったのだ。
そこでミカは呆れた事に「お金とか要らないのでこの領周辺の純竜級以上のモンスターの所在地の情報を下さい!」と言ったのだ。その要望に対して、ブリティス伯爵は報酬の一部として領内の有害なボスモンスターの情報をくれたのだ。
曰く「領内の有害なモンスターを討伐してくれるならば此方としても嬉しいので。何より貴方達の実力と人格なら問題ないでしょう」との事。スゴくいい人だよなぁ、ブリティス伯爵。
「まあ、俺達の王国での行動を調べた上で渡しても構わない情報を寄越したんだろうがな」
「ブリティス伯爵、有能だね! …………理由はどうあれ有力な情報ばかりだったから、コッチとしても有り難かったしね」
その情報の中でも私の目的を達成するのに丁度良いと思われたのが、領内を流れる河川の近くにあったこの“自然ダンジョン”<水精洞窟>である。
…………かつて、この洞窟は光熱エネルギー減衰の特性を宿す【マナフィア水晶】や水属性を宿す【アクエリア水晶】などの鉱物が採掘される場所で、モンスターもほぼ居ない為に採掘者も多く訪れる場所だったのだが、今は
「ここが自然ダンジョンと化したのは<
「その【アニワザム】という<UBM>がここの水晶を気に入って、その固有スキルによってこの洞窟を自然ダンジョンにしてしまったらしいよ」
「…………以前には討伐隊も組まれたが返り討ちにあって、このダンジョンに入った少数の<マスター>もほぼやられているみたいだな」
そう、この<水精洞窟>はこの付近でもトップクラスの難易度を持つ自然ダンジョンなのである。その理由とは……。
『『『KYAAAAAAA‼︎』』』
「おっ、出て来たね。【アクエリア・エレメンタル】が三体か。三人共下がっていてね」
「《看破》してみたが三体共亜竜級だ、
『…………このエレメンタルは【アニワザム】が召喚したモノなんだよね』
出て来たのは半透明の身体で、身長150cmぐらいの人型をしたエレメンタルモンスターだった。そう、<UBM>【アニワザム】の能力の
この洞窟で採掘される【アクエリア水晶】は水属性を宿す鉱石なので、ここに居るのは水属性のエレメンタルになる。更に、それらのエレメンタルが【マナフィア水晶】の光熱エネルギーの減衰特性によって、強固な光熱耐性・レジスト系スキルを得ているのである。
…………ちなみに上位のエレメンタルは自身の身体を司る属性と同じにする《精霊体》というスキルを持っており、水属性のエレメンタルなら身体が水になって物理攻撃が効かなくなるのだ。つまり、ここに居るエレメンタルは『物理攻撃無効・光熱エネルギー攻撃耐性』を持っているという事になる。
…………改めて考えてみると酷いダンジョンだな。普通のゲームなら修正案件だろうが……。
「まあ、私には関係ないけどね《竜尾剣》」
『『『KYAAAAAAA⁉︎』』』
ミカは【ドラグテイル】の剣尾を伸ばして、目の前の【アクエリア・エレメンタル】の身体の端を切り裂いて、僅かにHPを減らしていた…………防御をスキルに頼る相手に対しては、とことん強いのがミカの<エンブリオ>だからな。
だが、ミカは相手のHPを僅かに減らしただけでそれ以上の攻撃はしなかった…………というのも、ここのエレメンタルにはとある特性があり……。
『『『KYAAAAAAA!』』』
「お、来るかな?」
何と、ダメージを受けた三体の【アクエリア・エレメンタル】はその身を融け合わせ一つとなった…………そう【アニワザム】が生成したエレメンタルは窮地に陥ると合体して、より上位のエレメンタルに進化する特性を持っているのだ!
『KYAAAAAAA‼︎』
生まれて合体モンスター【グレーター・アクエリア・エレメンタル】は身長3メートル程の人型をしていて、その能力は完全に純竜級上位の力を持っていた。
合体したソイツは、その力でもって俺達侵入者を排除しようとする…………よりも前に、合体中の無防備な時に接近していたミカの攻撃を受けてしまった。
「はい、お疲れ様《アストラル・ブレイカー》!」
『⁉︎ KYAAAaaaa…………』
そのスキル《アストラル・ブレイカー》──【
基本的にこいつらみたいな非実体系エレメンタルのステータスは、魔法を使う為のMPに特化している…………つまり、HPやENDは純竜級モンスターとしてはかなり低いのだ。
特に物理無効や属性耐性を持つ此処のエレメンタルはHPやENDといった
「やっぱり予想通りだね。…………此処のエレメンタルなら一撃で倒せるし、何より
そう、今回この自然ダンジョンに来た目的は『ミカになら簡単に倒せる上位純竜級エレメンタルと遭遇出来る此処で、モンスターを倒して超級職の転職条件を満たそう』という事である。
…………ちなみにこのエレメンタル達は<UBM>のスキルで作られたモノだからか、倒してもアイテムをドロップせず経験値もほぼ貰えない様だ。
「というわけで、そーれ、ガッチャンコ!」
そんな気の抜ける声と共に、ミカはその辺りにあった水晶を砕いた…………すると、その行動に反応してダンジョン内に居た【アクエリア・エレメンタル】がミカに向かって来た。
『『『KYAAAAAAA!』』』
「うん、此処のエレメンタルは水晶に手を出す相手を積極的に狙って来ると言う情報は本当だったみたいだね。…………今度はバフも掛けてっと。さーて! 狩るぞ!」
俺が渡した単体バフ魔法の【ジェム】などを使って自身を強化したミカは、向かって来た【アクエリア・エレメンタル】との戦闘を開始した。ちなみに転職条件はソロで戦う事が条件らしいので、俺達はパーティーを解除して離れた所でミカに万が一の事があった場合の救出役として待機している。
…………しかし、これは……。
「…………RPGでよくあるやつですね。経験値稼ぎの為にワザと仲間を呼ばせて延々と倒し続けるやつなのです」
「…………むしろ、ワザと合体させてドロップアイテム狙うやつじゃないか?」
『側から見ていると結構シュールだね』
VRだと大分アレな光景になるな…………いつの時代も人間がやる事は変わらないんだなぁ……。
◇
それからも、ミカと【アクエリア・エレメンタル】の戦闘は続いていた。
『KYAAAAAAA‼︎』
「甘いよ《闇纏》!」
今も【グレーター・アクエリア・エレメンタル】が大威力の水流を放ち、ミカはそれを【ブラックォーツ】のスキルを使ってで擦り抜けて一気に距離を詰めているところだ。
…………最初の方は合体した時の隙を狙い打ちにされていた相手だが、今では学習したのか初めから純竜級モンスターになった状態で戦いを挑んでいた。まあ、ミカは『合体させる手間が省けた』と言っていたが……。
「《インフェルノ・ストライク》‼︎」
『⁉︎ KYAAAAaaaa…………』
そのまま接近して《闇纏》を解除したミカが、豪炎を纏うメイスの一撃で【グレーター・アクエリア・エレメンタル】を消し飛ばした…………さて、これで何体目だったかなぁ。
「しかし、これだけ暴れて大丈夫なのでしょうか? …………此処は
「正確に言うと【アニワザム】の
古代伝説級<UBM>【魔鉱蚯蚓 アニワザム】はアルター王国近辺にあるいくつかの希少鉱石が存在する鉱山などに、自身が生成したエレメンタルを配置して自然ダンジョンにしている様だ。
だが、縄張りを荒らされたり鉱石を採掘されたりしても、それを理由にして人間を積極的に襲ったりはせず、再度エレメンタルを配置するだけで済ませているらしい。
…………もっとも、食事中にたまたま遭遇してしまった人間は躊躇なく葬っている様なので、単に人間に興味が無いだけなのだろうが。
「それにミカの直感が反応していない以上、此処での戦闘行動は特に問題はないんだろうさ」
「そうですよね」
そのミカは、今も一体の【グレーター・アクエリア・エレメンタル】を撲殺していた…………アレもかなり強いモンスターなんだが、防御スキル特化型だからミカとの相性が最悪なんだよな。
…………そんな事を考えていると、敵を倒し終わったミカが突然その動きを止め虚空を見つめていた。
「ん? …………よっしゃあァァァ‼︎ 【
ミカはそんな事を叫びながらガッツポーズをしていた…………さっき見ていたのは転職条件クリアのアナウンスだった様だな。
「いやー、長く苦しい道のりだったよ」
「…………転職条件が明らかになってから、デンドロ内で一カ月ぐらいしか経っていないが」
「…………モンスターとの戦いも一方的な蹂躙ばかりだったのです」
『…………長くも苦しくもないよね?』
…………それは未だに転職の試練をクリア出来ない俺への嫌味か? そう思ったのだが、どうもミカは転職条件を満たした事でかなりハイになっている様だ。
「あははー! …………あと、アナウンスには【戦棍王】じゃなくて【
「そうなのですね。……あと姉様……」
「それに! さっきステータスを見たら【ギガース】が
「そうか。それは色々おめでとうと言いたいんだが…………とりあえず後ろを見ろ」
「へ? 後ろ?」
…………そうやってハイテンションになっているミカの後ろでは、今まで散々倒して来た【アクエリア・エレメンタル】の
「…………えーっと、もう此処には用が無いので見逃してくr『『『KYAAAAAAAAAAA‼︎』』』る訳ないですよね⁉︎」
「…………あれだけ暴れればなぁ」
「…………あちらも流石に怒るのです」
『当然だね』
その後、俺達は襲いかかって来た【アクエリア・エレメンタル】達をどうにか退けつつ、急いで<水精洞窟>から脱出したのだった。
◇◇◇
□<ブリティス伯爵領> 【戦棍鬼】ミカ
あれからなんとか街まで帰ってきた私は、休憩もそこそこに【戦棍姫】転職の為に戦棍士系統に転職可能なジョブクリスタルまでやって来ていた。
ちなみに道中とダンジョン内での戦闘で【
「さて、やりますか」
そう言って私はジョブクリスタルに触れた。転職可能なジョブの一覧には確かに【戦棍姫】の文字があったが、お兄ちゃんが言っていた通り他のジョブと比べて色が薄いね。
その選択肢に触れると……。
【転職の試練に挑みますか?】
という表示がなされたので、当然『Yes』を選ぶ。
…………その直後、私は妙な空間に飛ばされており、目の前には円形の舞台があった。
「ふむん、闘技場かな。お兄ちゃんのと同じだね。……脇の石版になにか書かれているね」
そこにはこう書かれていた。
【制限時間以内に試練の番人を撃破せよ】
【成功すれば、次代の【戦棍姫】の座を与える】
【失敗すれば、次に試練を受けられるのは一カ月後である】
「…………成る程。よく見ると闘技場の外縁部にはデカイ砂時計が置いてあるね。今は止まっているけど多分私が舞台に上がったら砂が落ち始めて、落ち切ったら終了って感じかな」
試練の内容を把握した私はさっさと舞台に上がっていった。
…………そして、その反対側には5メートル程の大きさの金属製ゴーレムが鎮座していた。
「……【トライアル・アダマンタイト・ゴーレム】か……あれを倒せばいいっぽいね。砂時計も動き始めたし、さっさと始めようか」
『────────』
私は【ギガース】を構えて【トライアル・アダマンタイト・ゴーレム】に突っ込んで行った。それに反応した相手もこちらに向けて拳を振り下ろして来るが、その速度は遅く軌道も直感で先読み出来るので、容易く回避してその足を殴りつけた。
…………だが、殴った足は大きなヒビこそ入ったが砕く事は出来ず、相手はこちらに反撃の蹴りを叩き込んで来たので、私は一旦距離を取った。
(……第五形態に進化してステータス補正と【ギガース】の攻撃力が上がっている私の攻撃を受けても、あれだけしかダメージを与えられないという事は、多分END一万は超えているね)
そこで砂時計を見ると砂は少しずつ落ちていたが、まだ上の砂はタップリと残っていた。
(制限時間は大体三十分ぐらいかな? ……お兄ちゃんの話からすると転職の試練はティアンが受ける事しか想定されていない様だし、アクティブスキルを使って攻撃すれば余裕を持って時期内に倒しきれると思うけど……)
おそらく、あの高ENDを持つゴーレムの攻撃をかいくぐり的確にアクティブスキルを当てて倒すか、どこかにあるコアを砕くとかみたいな事を想定した試練なんだろうけど……。
(……うん、ここは多少のリスクを覚悟してでも
そう考えた私は……。
「《
……先程覚えた【激災棍 ギガース】の
◇
「…………よしっ! 【戦棍姫】ゲット‼︎」
あの後、必殺スキルを使った私は【トライアル・アダマンタイト・ゴーレム】を
「しかし、この舞台が決闘の闘技場と同じ様に、戦いが終わったらリセットされる仕様で助かったよ。……必殺スキルの
…………私の【ギガース】の必殺スキルは確かに強力なんだけど、使用後には
「…………空いている最後の下級職には【
…………そう考えて、私は試練の空間を後にしたのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
妹:祝! 超級職転職&必殺スキル取得!
・【ギガース】は第五形態になって《バーリアブレイカー》のレベルが五になり、ステータス補正と装備攻撃力・防御力が上がったりもしている。
・必殺スキルの詳細はまだ秘密。
《アストラル・ブレイカー》:【戦棍鬼】のスキル
・ゴーストや実体の無いエレメンタルに対して攻撃を当てられる様になる特効スキルで、それらの相手に対するダメージ上昇効果もある。
・習得条件は『メイスを装備した状態で非実体系モンスターを一定数撃破』であり、妹は【ギガース】のスキルで条件を満たした。
【戦棍王】/【戦棍姫】:戦棍士系統超級職
・ステータスはSTRが高く、HP・END・AGIがそこそこ伸び、SP・DEXがあまり上がらず、MP・LUCはほとんど上がらない。
・固有スキルは通常スキルが二つ、奥義が一つ存在する。
【トライアル・アダマンタイト・ゴーレム】:【戦棍王】試練の番人
・ENDは一万を超え、カンストした戦棍士がアクティブスキルを使ってようやく砕ける様に調整されていた。
・実は胸の中央部にコアがあり、制限時間以内にアクティブスキルを駆使して身体を砕きコアを壊して倒す事を想定していた。
・だが、必殺スキルを使った妹には全身を粉砕された。
兄:実は妹の為に単体バフや防御用【ジェム】を大量に作ったりしていた
末妹:どこかに超級職落ちてないのです?
・フェイ『流石にそんな事は早々無いでしょ』
【アクエリア水晶】:水属性を宿す水晶
・加工して水属性の装備や水中行動用装備を作るのに使われている。
【マナフィア水晶】:光熱エネルギー減衰の効果がある水晶
・加工すると《炎熱耐性》《光耐性》などのスキルを装備に付与出来るので、防具の作成などに使われている。
【アクエリア・エレメンタル】:<水精洞窟>のモンスター
・【アニワザム】が【アクエリア水晶】と【マナフィア水晶】を素材に作り出したエレメンタルモンスターで、《精霊体・水》による物理攻撃無効と光熱エネルギー耐性とレジストスキルを持つ。
・だが、その分攻撃能力は低く低級(合体時は上級)相当の水魔法による攻撃しか出来ない。
・実は【アニワザム】が鉱山などに配置するエレメンタルには《魔鉱熟成》と言う周辺の鉱物の質を上昇させるスキルを持っており、それによって鉱物の質を維持・上昇させるのが主な役割で戦闘型では無い。
・また、生成されたエレメンタルが死亡した時には《精鉱昇華》と言うスキルにより、有していたリソースのほぼ全てを近くの鉱物か【アニワザム】に与える様になっている。
・今回は妹に片端からやられていたが、【グレーター・アクエリア・エレメンタル】になると兄や末妹では相性的に倒しきれないぐらいには厄介。
【魔鉱蚯蚓 アニワザム】:王国周辺に居る古代伝説級<UBM>
・普段は王国地下深くで眠っており、偶に食事の為に地上の鉱物を食べに来るが、人里を襲ったりしないので古代伝説級の中では危険度が低い。
・食事の後は《魔鉱熟成》のスキルを使って、その場所の鉱物を十年ぐらいの時間をかけて元よりも質が高い物を生成される様にしたりしている。
・また、特に気に入った場所(主に希少な鉱石がある場所)には環境維持用のエレメンタルを配置しているが、その気になれば破壊された鉱山の完全再生も可能なので配置したエレメンタルが倒された程度ならあまり気にしない。
・だが、食事の際には周りの邪魔なモノに対して
・<UBM>としては多重技巧型で捕食した鉱物のリソースを蓄積し、その性質を学習・スキル化する《魔鉱喰王》と言うスキルを持つ(エレメンタル生成はエレメンタルを生む鉱物から学習したもの)
・全力戦闘時には周辺の鉱物を大量に捕食しながらリソースを蓄積し、それをを使って大量の伝説級エレメンタルを生成しつつ、自身も超級職の奥義に匹敵する様々なスキルを連発してくる。
・とはいえ、基本的に面倒臭がりでグルメなので自身が襲われない限りは戦闘をしようとはせず、戦闘時でもなければ美味しくもない鉱物を無差別大量捕食とかはしない。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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<キオーラ伯爵領>・各種考察と食事事情
それでは、本編をどうぞ。
□<ブリティス伯爵領> 【
あれから、【戦棍姫】の転職条件を満たしたミカが転職の試練を受けに行ったので、俺はミュウちゃんと一緒にその辺の適当な喫茶店で待っていた。
…………そうしてしばらく待っていると、とても嬉しそうな表情を浮かべたミカが店内に入って来たので、俺はミカが騒ぎ出さない内に席へと誘導しておいた。
席に着いたミカは適当なお菓子と飲み物を頼んだ後、俺達に転職の試練の結果を話して来た。
「と、言うわけで【
「超級職転職おめでとうなのです姉様! パチパチ〜!」
『パチパチ〜』
「パチパチー」
そう言って喜色満面のミカに、俺達はとりあえず拍手をして祝っておいた…………まあ、表情を見れば上手くいったのは分かりきっていたけどな。
…………そうだ、超級職に就いた人間を見るのは初めてだしどんな感じなのか聞いてみるか。
「ところで【戦棍姫】にはどういう能力があるんだ?」
「ん? ……えーっと、まだレベルを上げていないからステータスはよく分からないけど、スキルは一つだけあったよ。……《アンブレイカブル・メイス》って言う装備しているメイスの耐久力を上昇させるパッシブスキルみたいだね。…………超級職のスキルの割にはなんか地味だね」
「まあまあ姉様、今後レベルを上げていけば他のスキルも覚えますよ」
ふーん……まあ、まだレベルも上げていない以上はそんなものだよな。
…………とりあえず、ミカも無事に超級職に就けたから次の予定を確認するかな。
「今後の予定だが、この後は北にある<キオーラ伯爵領>に行くって事で間違いはないな」
「それで良いよ。私も【戦棍姫】のレベルを上げたいしね」
「じゃあ、道中はモンスターの多そうなところを通るのです?」
「それも良いかもね!」
ふむ、妹二人は今後の予定について話し合っているが……。
「盛り上がっているところ悪いが……今日はプレイ時間がもうないから、この後はログアウトして晩飯だ。…………旅行は明日のログインからスタートだな」
「…………おっと、もうそんな時間か。
「いつも時間の確認をしてくれる兄様には感謝なのです。…………でも、この後晩御飯なら喫茶店に入ったのは失敗だったかもです?」
『結構いっぱい食べてたよねミュウ』
確かに、ログアウトした後でも腹が膨れた感覚は残るからなぁ。ネットで見たが、その事を利用した『デンドロダイエット』とか言うものもあるらしいし。
…………そんな事を考えていると、ミカが頼んだお菓子を食べながら応えていた。
「別に良いんじゃない? どうせコッチでいくら食べても現実の身体が太る訳じゃないんだし」
「そうですよね! デンドロではいくらお菓子を食べても大丈夫ですよね!」
「…………現実の身体には影響が無くても、コッチのアバターが太るかもしれないがな」
俺が少し気になった事を言うと、妹二人の食べる動作がぴたりと停止した。
「…………お兄ちゃん、お菓子を食べている時にそんな事を言わないでほしいよ……」
「悪い悪い。…………まあ、アバターが太るかどうかは分からないし、仮に太るとしてもキチンと運動すれば良いだけだから問題は無いだろう。ここに居る全員、戦闘とかで激しく動いているしな」
「…………まあ、デンドロアバターの運動量は現実よりも遥かに多いですからね」
実際、デンドロ内でも空腹を感じる事を考えれば運動時にアバターのカロリーを消費しているのは間違いないだろうし、戦闘時の運動量を考えれば多少お菓子を食べ過ぎたぐらいなら大丈夫だろう…………よっぽど食べすぎない限りは。
「じゃあ、運動せずに食べ過ぎで激太りしたアバターの<マスター>とかも居るのかな?」
「可能性はあるだろう、どんなプレイをすればそうなるのかは知らないが。…………体脂肪率を攻撃力に変換する<エンブリオ>を持つ<マスター>とかかね?」
そんな下らない話をしつつ食事を終えた俺達は、会計を済ませてこの日のデンドロを終えたのだった。
◇
そして次の日、各々の学校を終えてからデンドロにログインした俺達は<ブリティス伯爵領>で一通りの準備を終えてから、次の目的地である<キオーラ伯爵領>向かっていた。
…………そしてその際、レベリングを兼ねて街道からやや外れた道を進んでいたのだが……。
『『『『『BUMOOOOO‼︎』』』』』
「《タイダルウェイブ》!」
今、俺はこちらに突っ込んで来た【バイオレンス・ファング・ボア】の群れに対して《タイダルウェイブ》──【蒼海術師】の大津波を起こす魔法──を放って足止めをしていた…………これまで襲ってくるモンスターを倒しつつ進んでいたのだが、<キオーラ伯爵領>に入ったところで運悪くコイツらの群れに遭遇してしまったのだ。
……なので、今は妹達と手分けしてコイツの討伐を行っていた。
「《マッドプール》!」
『『『『『BUMOOOOO⁉︎』』』』』
大津波で足止めされている【バイオレンス・ファング・ボア】達に対し、俺は《マッドプール》──広範囲の地面を泥状にして相手の動きを封じる【
…………先に放った大津波のお陰で、地面がぬかるんでいたからか効き目がいいな。
「とりあえず埋まっておけ《アースイーター》!」
『『『『『BUMOOOOO…………⁉︎』』』』』
泥にはまって動けなくなっている相手に対して、俺は《アースイーター》──地面に穴を開けて相手を落としてから、穴を開けるのに使った土を穴の中に流し込んでダメージ与えつつ生き埋めにする魔法──を使って土葬した。
……この魔法は発動は少し遅いが、相手をダメージで仕留めきれなくても状態異常の【窒息】で大体始末出来るから使いやすい。
「やはり、地上では【黒土術師】の魔法は使い勝手が良いな。……さて、あの二人は「《サークルインパクト》!」『『『BUMOOOOO⁉︎』』』……心配する必要はないな」
そちらを見ると、ミカが【ギガース】を振り回して複数体の【バイオレンス・ファング・ボア】を薙ぎ払っていた……よく見ると、突っ込んで来た相手をそのまま打ち返していたりもしているしあっちは放置でもいいか。
……じゃあミュウちゃんの方はと言うと……。
「《ローキック》! 《ストームアッパー》! 《ハイキック》!」
『BUMO! BUMO! BUMOOO⁉︎』
そこには突っ込んで来た【バイオレンス・ファング・ボア】を下段蹴りで迎撃して転ばせ、体勢が崩れた相手をアッパーで打ち上げ、落ちてきた相手を上段蹴りで仕留めるミュウちゃんの姿があった…………ミュウちゃんは【
……そんなミュウちゃんに向かってまた一体の【バイオレンス・ファング・ボア】が突っ込んで来たが……。
『《ブレイズ・バースト》!』
『BUMOOOOO⁉︎』
そいつは、ミュウちゃんの近くにいたフェイの放った魔法による炎によって焼き尽くされていた……あの二人の連携も良い感じになって来たよな。今もお互いの死角をカバーし合う形で立ち回っているし。
……初めの方はミュウちゃんの機動にフェイが付いてこれなかったり、逆にミュウちゃんがフェイの魔法の射線に入ったりする事もあったけど、今はそんな事も無くなったしな。
「さて、俺も掃討を続けますか……《ハイドロ・スプラッシャー》!」
『BUMOOOOO⁉︎』
とりあえず俺は考え事を一時中断して、自分に向かって突っ込んで来た【バイオレンス・ファング・ボア】に向けて《ハイドロ・スプラッシャー》──高圧水流を放出して相手を攻撃する【蒼海術師】の魔法──を放って吹き飛ばした……今後の事も考えるとなるべく魔法を使ってスキルレベルを上げないとな。
◇◇◇
□<キオーラ伯爵領> 【戦棍姫】ミカ
それからしばらくした後、私達は【バイオレンス・ファング・ボア】の群れを掃討する事に成功していた。しかし、倒す事自体は簡単だったけど『バイオレンス』の名の通り群れの仲間が倒されても意に介さず向かってくるので実に面倒な相手だったね。
…………とりあえず、全員で手分けしてドロップしたアイテムを回収しようか。大量に落ちているから回収が面倒なんだよねぇ。
「いや〜、ようやく片付いたね。…………少し街道を外れるだけでモンスターの群れに遭遇するなんて、やっぱりデンドロの野外は地獄だぜ」
「まあ、今ぐらいの群れに遭遇する事は割とよくある事だしな」
「私達も、この旅の最中に何度もモンスターの群れを掃討していますからね。…………この世界でアウトドアが流行らないはずなのです」
『アウトドア料理なんてしたらモンスターが寄ってくる事もあるしね』
フェイちゃんの言う通り、この世界においては野外で料理を行う際には、周囲のモンスターなど気をつけなければならない事が多いんだよね。なので、この旅行の道中の食事はほとんどが携帯食になってしまっているのだ。
「でも、やっぱり毎回携帯食っていうのは味気ないよね。…………というわけで、お兄ちゃん次の食事でなんか作って〜」
「…………俺が作るのか?」
「だって、私の料理の腕なんて家庭科の授業で卵焼き焦がすレベルだし〜。ああ、周辺の敵の排除なら任せてくれても良いよ!」
「…………私も姉様と同じ様な感じなのです。…………しゅ、周辺の敵は一掃出来るのです!」
『それしか出来ないだけなんだけどね』
…………ウチの女子メンバーは完全に戦闘特化だからね。それに、お兄ちゃんの作る料理はすごく美味しいし。
と、そんな話をしている間にドロップアイテムの回収は終わったみたい、その後は戦闘後のお約束であるステータス確認だね。
「おっと、今の戦闘で【蒼海術師】がカンストしたな。…………とりあえずメインジョブは、以前に取るだけ取ってそのままな【
お兄ちゃんはアイテムボックスから【ジョブクリスタル・ロッド】を取り出してメインジョブを【弓狩人】に変更していた…………そういえば、最近は魔法ばかりで弓はあんまり使っていなかったね、お兄ちゃん。
「あ、私もさっきの戦闘で【蹴士】がカンストしたのです。やっぱり上級職二つを埋めていると、残りの下級職のレベル上げは楽ですね。…………後一応、街を出る前に【
「じゃあ【ジョブクリスタル・ロッド】を使うか? …………ああでも、装備スキル《ジョブチェンジ》のクールタイムは十分だからもう少し待ってくれ」
「分かったのです。…………そういえば姉様、超級職の使い心地はどうですか?」
装備スキルのクールタイムのせいで手持ち無沙汰になったミュウちゃんが、同じ様にステータスを確認していた私に質問してきた。
「うん、流石に『超級職』なんて言うぐらいだからステータスの伸びは凄いよ。一レベル上がる際のステータスも上級職と比べると三倍以上だしね」
「それはすごいな。…………それでレベルの上限が無いんだから、完全にゲームバランスが崩壊しているよな」
「そうだねー。…………まあ、このデンドロに
このデンドロでは、どうも意図的に桁の違う強さが設定されている感じがするしね。
…………そんな感じでステータスの方は申し分ないんだけど……。
「でも、スキルの《アンブレイカブル・メイス》の方はイマイチ有り難みを感じられないんだよねぇ。…………どうも、上昇するのは頑丈さだけで攻撃力とかが上がる訳じゃないみたいだし、元々【ギガース】は私のSTRで振り回してもヒビ一つ入らないぐらいには頑丈だしね」
「成る程。まあ、パッシブスキルならノーコストで常時発動している訳だから別に損はないんじゃないか? …………俺なんて、まともに使っていないスキルが大量にあるし」
「私は結構満遍なく使っていますが、兄様ならそうなりますよね」
…………お兄ちゃんは大量のジョブに就いているから、どうしても使うスキルは偏るよね。ミュウちゃんの場合はジョブを格闘系で統一しているし、アクティブスキルによる連続攻撃を得意としているから、私達の中では一番無駄無く取得したスキルを使っているんじゃないかな。
私も戦棍士系統のスキル以外はほとんど使わないし。強いて言うなら【
「私も【
「まあ、兄様の様な例外でもない限りジョブ構成は悩みますよね」
「そうだねー。…………それに多分、この《アンブレイカブル・メイス》は今後【戦棍姫】のレベルを上げて、他のスキルを覚えた時に初めて役に立つスキルだと思うんだよね」
それに、武器が壊れにくくなるのは私の
…………そんな話をしていると、フェイちゃんが少し真剣な表情を浮かべていた。
『そういえば、僕もラーニングした魔法を結構使っているけど……どうも、ラーニングした魔法が増える程にスキルレベルの上がりが遅くなっている気がするんだよね』
「そうなのです?」
『うん。最初の方と比べると、ラーニングした魔法のスキルレベルが一から二に上がる時間が伸びているし』
「ふむ………おそらく汎用性の高いラーニングスキルのデメリットの様なものではないか? 俺の《
成る程…………まあ、私の【ギガース】がデメリット無しの一芸特化型だから、<エンブリオ>っていうのはそういうものなのかもしれないね。
『スキル欄には標記されていないデメリットって感じみたいだね』
「そうだな。…………俺の《
「そうなの? お兄ちゃん」
「ああ。このデンドロでは経験値が明確に表示される訳ではないから、ジョブクエストを多く受ける様になった最近まで気づかなかったがな。…………このデンドロにはマスクデータが多過ぎる……」
どうも、スキル欄っていうのは本当に最低限の事しか書かれていないみたい…………この様子だと、私の《アンブレイカブル・メイス》も単純な強度を上げるスキルじゃないかもね。
「…………おっと、ミュウちゃん【ジョブクリスタル・ロッド】のクールタイムが終わったから使ってもいいぞ」
「ありがとうなのです、兄様」
そう言って、お兄ちゃんはミュウちゃんに水晶の付いた杖を手渡した…………さて、時間潰しの話はこんなところかな。
「さて! 一通りの事後処理も終わったし旅行を再開するとしましょうか」
「そうだな。…………レベリングを兼ねているから思った以上に時間がかかっているしな」
「それはしょうがないのです」
『元々そう言う予定だったしね』
そうやって、私達はお兄ちゃんが運転する馬車に乗ってレベリングを兼ねた旅行を続けたのだった…………途中、思った以上にモンスターと遭遇してしまって、一日のログイン時間が切れて何度かログアウトしてしまったけどね。
◇
「おー! ようやく街が見えてきたね。あそこが<港湾都市キオーラ>か!」
あれから旅を続ける事暫く、私達はようやくこの<キオーラ伯爵領>でもっとも大きな街、<港湾都市キオーラ>に到着していた。
この領は主にグランバロアなどとの海上交易が盛んに行われており、だからこの<港湾都市キオーラ>は以前立ち寄ったウェレンと比べても遥かに大きな港を中心とする都市になっているみたい。
「それにしても、思ったより時間が掛かってしまったのです」
「街道を通らなかった所為で何度かモンスターの群れと遭遇したからな」
「お陰でレベルは上がったけどねー。…………お兄ちゃんの料理が食べられなかったのは残念だけど」
「仕方がないだろう。…………流石に調理器具や調味料なしで料理は作れないぞ」
『そう言えば携帯食ばかりでその手のアイテムは買ってなかったよね』
そうなんだよねー。時間経過遅延機能付きアイテムボックスとか携帯食料とか野宿用のテントとか各種マジックアイテムは買ってたんだけど、その手の料理用アイテムは買い忘れていたんだよね…………私もミュウちゃんも料理出来ないからすっかり忘れてたよ……。
「まあ、調理器具とかはあの街で買えばいいし、なんなら下級職に【
「料理スキルがあると、料理を食べた時にバフが乗るみたいだしいいんじゃないかな?」
「兄様ならジョブ枠に余裕がありますしね!」
お兄ちゃんに任せておけば大体何とかなるしね!
『自分達が料理するとは言わないんだね』
「…………それは言わない約束だよフェイちゃん……」
そんな会話をしつつ、私達は<港湾都市キオーラ>に入っていったのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:料理の腕は普通に美味しい家庭料理が作れるぐらい
・あの後、妹達に料理をせがまれたが、そもそも調理器具や調味料を買っていなかった事に気付いた。
《光神の恩寵》:実は敵を倒した際の
・単純に経験値量を増やしているだけでは無く、アイテムや管理AIに送られる分のリソースを自身の獲得経験値に回したりもしているため、モンスターや<マスター>を倒した時にしか効果は発揮されない。
・その為、効果起動中はドロップアイテムの質も低下するなどのデメリットもある(兄単体でのドロップアイテム運が悪いのは物欲センサーだけでなくこれのせいでもある)
・効果標記の%は最大値であり、相手や状況によっては割合が減る事もある。
・管理AIの『権能』に関わっているスキルなので、ネタバレ防止の為に効果標記はかなりボカされている。
《ハイドロ・スプラッシャー》:【蒼海術師】のスキル
・高圧水流を放って相手を攻撃する水属性魔法。
・着弾地点が離れる程に水圧が下がって威力が落ちる。
妹:料理の腕はかろうじて手伝いが出来るぐらい。
・【戦棍姫】のレベル上げは順調に進んでおり、ジョブの再構成も視野に入れている。
・必殺スキルの能力は他のメンバーには教えている。
《アンブレイカブル・メイス》:【戦棍姫】のパッシブスキル
・装備しているメイスの耐久力を大幅に上昇させるスキル、だが上昇するのは頑丈さだけで装備攻撃力などは上がらない。
・それでも超級職のスキルなので、店で一番安い鉄製メイスでも
・耐久力の上昇率は装備しているメイスの性能に比例する為、上級<エンブリオ>である【ギガース】の強度は
・物理的な強度だけでなく特殊効果に対する耐久性も大幅に上昇するので、装備しているメイスの熱耐性や状態異常耐性なども大幅に上昇する。
・超級職のスキルとしては地味だが、本来このスキルは他の二つのスキルをサポートする為のものである。
《鎧強化》:【鎧戦士】のパッシブスキル
・装備している鎧の装備攻撃力・装備防御力・装備スキルなどを強化するスキル。
・妹の場合、もっぱら【ドラグテイル】攻撃力上昇に使われている。
《アーマーガード》:【鎧戦士】のアクティブスキル
・一時的に自身のENDを倍にするが、効果発動中は移動する事が出来なくなる。
・妹の場合は広域攻撃に対する防御ぐらいにしか使われない。
末妹:料理の腕は妹と大体同じ
・スキルを連続で使用するためSP消費が激しく、その対策装備をいくつか付けている
・連続攻撃時にいちいちスキル名を宣言するのが面倒なので、最近はスキル名を言わずにスキル発動が出来ないか練習中。
《ローキック》《ハイキック》:【蹴士】のスキル
・それぞれ下段蹴り・上段蹴りを繰り出すアクティブスキル。
・中断蹴りの《ミドルキック》もある。
《ストームアッパー》:【拳聖】のスキル
・風を纏ったアッパーで相手を殴ると同時に高く打ち上げるスキル。
【蹴拳士】:【拳士】【蹴士】の複合下級職
・拳と蹴りの両方を使う格闘系ジョブで、手足を使ったアクティブスキルや拳撃・蹴撃補助のパッシブスキルなどを覚える。
・代表的なスキルは拳撃・蹴撃系アクティブスキルの消費SPとクールタイムを減少させるパッシブスキル《キックボクシング》など。
・転職条件は『【拳士】【蹴士】のジョブに就いている事』と『拳と蹴りの両方を使った攻撃で倒した相手の数が一定数以上』になる。
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<キオーラ伯爵領>・海水浴:前編
それでは本編をどうぞ。
□港湾都市キオーラ 【
あれから、港湾都市キオーラに到着してからしばらくの間、俺達は普通にクエストや観光などを楽しんでいた…………幸いな事に、これまでと違ってその間は特にトラブルは起きなかったしな。
ちなみに、俺は長く取りっぱなしで放置していた【
また、少し前からの単独レベリングで亜竜級以下のモンスターがアイテムを落とさなくなったので、どうも《
…………と、そんな事を考えていると……。
「と、言うわけで海に行こうよ!」
「だから、どういう訳だ」
唐突にミカがそんな事を言い出した…………
…………とりあえず、ミカの話を詳しく聞くとしようか。
「ああ、ごめんごめん。…………実はこの街を観光していた時、近くに海水浴が出来るビーチがあるって話を聞いたからそこに行ってみようって事なんだよ」
「そういう事でしたか。…………でも、この世界での海水浴は命がけになるのでは?」
「そのあたりは大丈夫みたいだよ。何でもモンスターが少ない砂浜に、更にモンスター避けの結界を張っているみたいだし…………その分、少し入場料がかかるみたいだけどね。そもそも、海の強いモンスターは浅瀬にはあまり居ないみたいだし」
詳しく話を聞くと、その海水浴場は前キオーラ伯爵がレジャー施設として作ったものだったが、この世界のティアンが持つアウトドアへの忌避感や結界の維持費がかかる事などから、ほとんど使われる事が無く長い間機能停止の上で閉鎖されていたらしい…………だが、この世界に多くの<マスター>が現れ、更にいくらかの<マスター>達が海でのアウトドア目的でこの領に訪れる様になってからはその評価が一変したようだ。
…………この領に来た<マスター>達が海でのアウトドアを目的にしていると知った現キオーラ伯爵は閉鎖されていた海水浴場を解放し、更にその<マスター>達に周辺のモンスターの討伐や解放時間中の海水浴場の警護を依頼したのだ。
「成る程。まあ、不死身の<マスター>なら危険性はある程度無視出来るからな」
「海水浴場の警護もそんなにガチガチな依頼じゃ無くて、暇な時間は海で遊んでもいいみたいなゆるい依頼らしいから、遊びながら報酬を貰えるって結構人気の依頼みたい」
「…………モンスターの襲撃があった時に、腕っ節のある<マスター>が居ればそれだけで十分な警護になるしな」
「そういう事。…………その分ある程度の実力と信用のある<マスター>じゃないと受けられない依頼みたいだけど」
『それは当然だね。遊んでばかりで依頼をサボる様な人間には任せられないだろうし』
つまり、ミカはその海水浴場に行きたいという事だな…………まあ、ミュウちゃんも海水浴とかを楽しみにしていた様だしな。
「分かった。じゃあ水着とかを準備してから、その海水浴場に行こうか」
「そこは大丈夫だよお兄ちゃん! こんな事もあろうかと、この旅行に出る前にターニャちゃんに頼んで三人分の水着を作って貰っていたからね!」
「せっかく作って貰った水着が無駄にならずに済んだのです!」
…………ああ成る程ね、ミュウちゃんが海でのアウトドアを楽しみにしていたのはそれが理由か。
だが……。
「使うか分からない水着は用意して、キャンプ用の調理器具は買い忘れたんだな」
「「…………(汗)」」
俺のその言葉に対し、妹二人は冷や汗を流しつつ目を逸らした…………この街で調理器具は買い揃えたから別にいいんだが、やはりこの二人にもちゃんと料理を覚えてもらうべきかな?
「と、とりあえず海水浴場にレッツゴー!」
「お、おー!」
「…………やれやれ」
そういう訳で、俺達は<キオーラ伯爵領>にある海水浴場に向かう事になったのだった。
◇
「さて! やって来ました海水浴場!」
「おー! 海なのです!」
あれから俺達は<キオーラ伯爵領>にある海水浴場に来て、入場料金(<マスター>前提だからかそこそこ高かった)を払い水着に着替えて(《着衣交換》スキルで一瞬)浜辺に足を踏み入れていた。周りを見てみるとそれなりの数の人が居て、その多くは<マスター>であり結構賑やかな感じだな。海の家みたいな屋台も並んでいるし。
…………そんな風に周りを見ていると、ミカが来ている水着をで見せびらかしながらこちらに話しかけて来た。
「それで? どうかなお兄ちゃん?」
「ああ、二人共その水着がよく似合っているよ。…………ターニャちゃんはいいセンスをしてるよ」
「ありがとうなのです兄様。ターニャさんに作って貰った甲斐があったのです!」
『良かったね、ミュウ』
ちなみにミカの水着は白地に赤い花の模様のビキニとタンクトップ、確かこの組み合わせでタンキニと言うんだったかな? ミュウちゃんはピンク色のフリル付きワンピースタイプの水着だった…………え? 俺? 俺は普通の黒い海パンだが? 男の水着姿など需要が無かろう。
ちなみにこの水着には《着衣交換》を始めとして《水泳》《潜水》などの装備スキルが付いている無駄にハイスペックな代物であり、そのデザインも他の人が着ている店売りの水着と比べても明らかに手が込んでいた…………ターニャちゃん気合いを入れ過ぎだろう。
「それじゃあ早速泳ごうかミュウちゃん!」
「はいなのです! …………兄様はどうしますか?」
「せっかくだし、俺も少し泳ごうかな。…………ああそれと、はしゃぐのは良いが他の人に迷惑をかけない様にな。何かあったら【テレパシーカフス(防水仕様)】で連絡する様に」
「分かってるって。じゃあ行って来まーす!」
そう言って妹二人とフェイは海に駆け出していき、それに続いて俺もゆっくりと海に向かって歩いて行った。
◇
「プハァ! …………しかしながら、海で泳ぐのなんて随分と久しぶりだな」
それからしばらくの間、俺は姦しく遊んでいる妹達と別れて、色々な事を試しつつ海を泳いでいた。しかし、俺も人並み程度には泳げるのだが、やはり水中だとアバターのステータスを持ってしても動きが大幅に鈍るな。
試しに【
「やはり、水中戦闘用のジョブも取るべきかな? 水中だとスキル発動宣言も出来ないし」
まあ、水中でのスキル発動宣言が出来る様になる装備やジョブスキルとかもあるみたいだが…………それでもやはり、ジョブスキルで《水泳》や《潜水》は取っておいた方がいいか? 【
…………そんな事を考えつつ、更に沖まで泳いでいくと紐で繋がれた沢山のブイの様な物が見えてきた。
「…………おっと。これ以上沖には行けないみたいだな」
どうやら、あのブイがモンスター避けの結界装置みたいだな。この海水浴場に入る時に見た看板にも『沖にある結界装置の向こうには絶対に出ないでください! もし出た場合には命の保証はしません』と書かれていたし。
「まあ、試したい事は一通り試し終わったし、そろそろ岸まで戻るか」
そうして、俺はさっさとUターンして岸まで泳いで行った。
◇
そうしてしばらく泳いで行って、ようやく浜辺が見えてきたのだが……。
「ん? アレはウチの妹二人と…………あのチャラ男どもは何だ」
スキル《千里眼》と使って浜辺の方を見てみると、ウチの妹二人が高校生ぐらいのチャラ男二人(左手に紋章がある事から<マスター>の様だ)に話し掛けられているところだった。
よく見るとチャラ男A・Bは品性に欠ける軽薄な雰囲気(※兄視点です)で、妹二人はやや困った顔をしていた…………ナンパかな?
「やれやれ、小学生の妹をナンパとかしないでほしいんだが。…………アバターは中学生ぐらいだが」
まあ、二人のアバターは結構美少女な現実の姿をそのまま中学生ぐらいに成長させたものな上、ターニャちゃん謹製の気合いの入った水着のせいでだいぶ目立つからなぁ。
「とはいえ、保護者としては小学生の妹に声を掛ける連中に何もしない訳にも行かないかな。…………公衆の面前だし
少し《看破》してみたところ、あのチャラ男どもは一応合計レベルをカンストはしているみたいだが…………その程度の相手にウチの妹二人が直接どうこうされる事は無いだろうし。
…………今のミカは装備やスキルが無くてもそこらのカンスト<マスター>ぐらいならミンチに出来るし、ミュウちゃんは対人格闘においては多少のレベル差なんて関係無いだろうし。
「…………なんか、別の意味でさっさと止めた方が良い気がして来たな」
…………と言うわけで、俺は急いで浜辺まで泳いで行ったのだった。
◇◇◇
□港湾都市キオーラ・海水浴場 【
あれから、お兄ちゃんが沖まで泳いで行ったのを見送った私達は、とりあえず三人で海の浅い所を泳いだり砂浜でキャッキャウフフと遊んだりしていたのだが…………そこで高校生ぐらいの男の人二人に声を掛けられたのだ。
「ねーねー、そこの彼女達! ちょっと俺達と一緒に遊ばなーい!」
「危ない事なんて無いって! 俺らこれでもチョー強いし!」
「えーっと……」
「はぁ……」
うーむ…………これは『ナンパ』というヤツかな? 流石に現実でナンパなんてされた事は無いからちょっと驚いちゃうね。
…………まあ、現実で小学生の私達をナンパする様な人がいたら、即ポリスメン案件だけどさ。
「(どうしましょう姉様。…………一応、悪意や害意の類は無いみたいですが)」
『(どうする? …………焼いちゃう?)』
「(公衆の面前で流石にそれは……。私の直感でも危険性は無いみたいだし、やんわり断るしか無いんじゃないかな)」
それに何というか……こう、すごく背伸びしている感じがするんだよね。多分、実年齢はアバターほど高くないんじゃないかな?
…………あと、この二人顔や雰囲気がよく似ているから兄弟かな?
「えーと、私達一応連れがいるので……」
「大丈夫大丈夫! 俺らこれでもレベルカンストしてるからさ!」
「(レベルにおいて兄様には勝てないと思いますが)」
『(というか、目の前にいるミカちゃんが超級職に就いている気づいていないみたいだけど)』
どうやら、デンドロでカンストして強くなったと思って少し舞い上がっているみたいだね…………流石に公衆の面前でいきなり暴力に訴えるのは気が咎めるし。
…………それに、どうやらお兄ちゃんが戻って来たみたいだね。
「おい、そこのチャラ男A・B、ウチの
「「チャラ男⁉︎ ってか小学生⁉︎」」
「リアルでは小学生だよ」
「なのです」
と、言うわけでお連れ様のお兄ちゃんが登場です…………まあ、私達へのナンパをどうにかするには、リアルの年齢を明かすのが一番手っ取り早いしねぇ。
いきなりのカミングアウトにチャラ男さん達(仮)は動揺しだした。
「小学生かよ! …………っていうか、あっちの男はひょっとして“万能者”か⁉︎」
「それって<マスター杯>で
「…………アンタたち、そこで何をしているんだい?」
何故かお兄ちゃんを見てもの凄く動揺している二人だったが、その後ろから一人の女性が声を掛けた事によってピタリと黙った…………確か彼女は<マスター杯>の一回戦でお兄ちゃんと戦ったアマンダ・ヴァイオレンスさんだったかな。
…………そのアマンダさんを見たお兄ちゃんが、ニヤリと笑って問いかけた。
「おや、アマンダさん。そこのナンパ男二人とは知り合いで?」
「「げっ⁉︎」」
「…………ああ、だいたい分かったよ……べフィ」
『GAU』
「「ぎゃああ⁉︎」」
お兄ちゃんのその言葉を聞いたアマンダさんが、紋章から試合で見たガードナーの<エンブリオ>──確か【ベヒーモス】って言う名前だったかな? ──を出して、その前足に二人を強めに握らせた。
「どうやら、ウチのバカどもが迷惑をかけたみたいだね。…………全く、たかがカンストしたぐらいで調子に乗ってナンパとか馬鹿じゃないのかい? そんなんだから決闘で私に一度も勝てないんだよ」
「お前みたいなリアルアマゾネスと一緒にすrぎゃあああ⁉︎」
「リアルでもデンドロでも周りの女子がお前みたいなアマゾネスしかいnぎゃあああ⁉︎」
何か口答えしようとした二人を、アマンダさんは【ベヒーモス】に更に強めに握らせる事で黙らせた…………普段の力関係が目に浮かぶ様だね。
…………そうしてしばらくの間眺めていると、アマンダさんが謝罪してきた。
「レントさん、それに嬢ちゃん達、今回はウチのバカどもが済まなかったね」
「いえ、別に実害も無かったですし」
「特に気にしてはいないのです」
「この二人がそう言っているのなら、俺からは特に何も無いですよ」
「ありがとうね、そう言ってくれると助かるよ。…………さあ! さっさと行くよ!」
そして、そのままアマンダさんとベヒーモスは去って言った…………あの二人はさっきからずっと黙っているけど、多分【気絶】しているね。
「多分、あの三人の実年齢は中学生ぐらいかな? …………まあ、私達みたいな美少女を見たら少しはっちゃけちゃうのもしょうがないよね!」
「はいはい。…………それで、ミュウちゃんは大丈夫だったか?」
「悪意とかは無かったので大丈夫でしたよ、兄様」
「私はスルーかお兄ちゃん」
まあ、特に問題無く終わったから良かったけど…………もし、彼等に悪意があったら砂浜にミンチが二つ出来ていたし。
「さて、そろそろ昼だな。…………とりあえず腹が減ったし、何か飯でも食べに行くか?」
「そういえば、此処には屋台があるみたいだから行ってみようよ」
「いいですね!」
そういう訳で、私達は気分を切り替えて早めの昼食を取る事にしたのだった。
◇
「おお、結構いっぱいやってるね」
「焼きそば、焼きトウモロコシ、おでん……と色々な屋台があるのです」
私達が屋台のある場所に行くと、そこには様々な食べ物が売られていた…………どれも海水浴場でありそうなメニューだね。
ちなみに調理している人の左手には紋章があったから、此処の屋台は全部<マスター>がやっているみたいだね。
「とりあえず何か買ってみようか。…………すいませーん! 焼きトウモロコシ三つください!」
「はいよー!」
ちょうど焼きトウモロコシの屋台に客が居なかったので、三つ程買って(海水浴場価格なのか少し高かった)食べてみた。ちなみにフェイちゃんはミュウちゃんのものを分けて貰って食べているよ。
…………そして、食べてみた感想は……。
「…………普通だね」
「…………普通だな」
「…………普通なのです」
『…………普通かな?』
その焼きトウモロコシは特に美味しくも不味くもない普通の味だった…………この世界の料理にはスキルの補正が乗るから、平均的には現実の物より美味しいんだけど。作っている人のジョブを《看破》してみると【
…………そんな風に疑問に思っていると、焼きトウモロコシを作っている人が話しかけて来た。
「嬢ちゃん、どうやら味が普通な事に疑問を抱いている様だな。…………実は此処の屋台では海水浴場感を出すために、あえて味を普通ぐらいに調整しているのさ!」
「は、はあ……」
「ちなみに食材は良いものを使っているから、料理バフの効果は高いぞ。……いや〜料理バフの効果を維持しつつ、味を普通に留める調整には苦労したぜ」
…………なんか無駄に凝っていて、ある意味すごいけどさ。確かに料理バフも一時間の間HPが自動回復するって言う強力なものだけど……。
私達がそんな風に考えていると、それを察したのか料理人さんが話しかけてきた。
「もし、美味い飯が食べたいんだったら焼きそばの屋台に行くといいぜ。…………実は、今回飛び入り参加してきた
「カニの着ぐるみ? ってまさか……」
…………その、海水浴場で着ぐるみを着る様な奇特な<マスター>に、なんか凄い心当たりがあるんだけど……。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:何だかんだ言ってもやっぱりシスコン
・物欲センサーによく引っかかるタイプなので、ドロップアイテムの質が落ちている事に気づくのが少し遅れた。
・最初はしょうがない感じだったが割と海水浴を満喫している。
・《ウォーターブリージング》や《アンダーウォーター・アクション》以外の【蒼海術師】の魔法も周りの迷惑にならないものは一通り試している。
妹:可愛い水着を着れてかなり気分が良い
・もうちょっと露出度が高い水着でも良かったのだが、末妹とエルザに止められた。
・基本的に危険を感じなければ暴力に訴えたりはしない。
末妹:楽しみにしていた海水浴にご満悦
・他者からの悪意や害意を察知可能なリアル《殺気感知》持ち。
・ちなみにフェイは、ナンパ騒ぎの時に《魔法発動隠蔽》と《魔法発動待機》のスキルで《クリムゾン・スフィア》をいつでも放てる様にしていた。
ターニャ:「素材が良いなら張り切るしかないよね!」
アマンダ&チャラ男A・B:リアルでは同じ中学の同級生
・チャラ男A・Bは双子の兄弟。
・三人共近所に住んでいる幼馴染で、それが縁でデンドロでもパーティーを組んでいる。
・チャラ男A・Bは合計レベルがカンストした記念に海水浴に来ていたので大分浮かれていた。
・その後二人はアマンダにこってり絞られた。
屋台の<マスター>達:趣味人の集まり
・食べ物の味を普通にしながら高いバフ効果を掛けるのにはデンドロ内の時間で一カ月ぐらいかかった。
・なので儲けは完全に度外視している。
カニの着ぐるみを着た<マスター>:いったい何ニーサンなんだ……
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<キオーラ伯爵領>・海水浴:後編
それでは本編をどうぞ。
□<キオーラ伯爵領>海水浴場 【
先程、焼きトウモロコシ屋の青年から『物凄い美味い焼きそばを作るカニの着ぐるみを着た男』の情報を手に入れた私達は、とりあえずその屋台の所まで行ってみることにしたのだけど……。
『カ〜ニカニカニカニカニカニカニ〜〜! さあ! 海鮮食材たっぷりのシーフード焼きそばカニよ〜‼︎ 一皿百リルカニ〜!』
そこにあったのは、カニの着ぐるみがハサミになっている腕で器用にヘラを持って、鉄板の上に乗っている大量の海鮮食材と焼きそばを凄い勢いで調理している光景だった。
…………と、言うか……。
「…………あれって、シュウさんだよね?」
「ああ……《看破》したところ、ステータス欄には『シュウ・スターリング』と書かれていたから間違いないだろう」
まあ、ここに来る前から何となくシュウさんではないかと思っていたけれど…………こんな海水浴場でまで着ぐるみを装備しなければならない<マスター>なんて、リアルバレしてしまう彼以外他に心当たりがないしなぁ。
「以前に見た着ぐるみとは違いますね。…………海用に変えたのでしょうか?」
「さあ? ……でも、以前着ていた着ぐるみって特典武具らしいよ」
「《鑑定眼》で見たところ、あのカニの着ぐるみも特典武具みたいだな。【はいぱーきぐるみしりーず ゔぇのきゃんさー】という装備みたいだ」
ああ、成る程ね〜。だからハサミでヘラを持つなんて事も出来るのかな。
…………それにしても……。
「…………なんか凄く良い匂いがするね」
「確かに、とても美味しそうなのです」
『凄い行列も出来ているしね』
フェイちゃんの言う通り、シュウさんのいる屋台には行列が出来るぐらい多くの客が訪れていた。
…………そして、それらの客達はシュウさんの作った焼きそばを一心不乱に食していた。
「ここまでくると、味の方も気になって来るな。…………とりあえず並んでみるか」
「そうだねー」
「そうですね! とても美味しそうなので、楽しみなのです!」
そういう訳で、私達はシュウさんの作った焼きそばを食べる為に屋台の列に並ぶ事にしたのだった。
◇
私達が列に並んでからしばらく経って、ようやく順番が回ってきた…………どうも、私達が列の最後みたいだね。
『いらっしゃいカニ〜。…………って、ミカちゃん達カニ。久しぶりカニ』
「シュウさんも久しぶりだね。…………ところで、なんでこんなところで焼きそばなんて売ってるの?」
『見ての通りバイトカニ。ちょっとした資金稼ぎカニよ』
「いや、シュウさんならモンスター倒した方が手っ取り早いのでは? 確か討伐ランカーでしたよね?」
そう、以前王国のランキング表を見たところ、シュウさんは討伐ランキングの上位30位以内に入っていた筈なんだけど……。
『あー、今はちょっと都合が悪くてバルドルが使えないカニ。だからバイトしているカニよ』
「フーン。…………おっと、とりあえずその話は一旦置いといてと、焼きそば三つくださいな」
『はいはいカニカニ。…………お待ちどう様カニ〜! 焼きそば三つカニ。…………ちなみに、これが本日最後の焼きそばカニよ、丁度食材全部使えてよかったカニ」
そう言って、シュウさんは着ぐるみのハサミを器用に使い、お皿に乗せた三つの焼きそばを渡してきた…………本当にあのハサミは一旦どうなっているのだろうか?
…………とりあえず、代金を渡して……。
「それじゃあ、いただきまーす! ………………………………なにこれ美味っ!」
「………………本当に美味いな」
「………………こんなに美味しい焼きそばは今まで食べた事がないのです!」
『………………本当に美味しいね。…………僕が今までこの世界で食べた料理の中でも一番美味いんだけど……』
『そう言ってくれると嬉しいカニ』
その焼きそばは、有り得ないぐらいに超ヤバイ感じに美味しかった…………あまりの美味さにちょっと語彙力が低下するぐらい。
「…………シュウさんって料理人系のジョブとか取ってたっけ?」
『俺は料理人系のジョブは取ってないカニ。取ってるのは戦闘系のジョブだけカニ』
確かに、この料理にはバフ効果とかは付いていないみたいだし、シュウさんの言っている事は本当みたいだね。
「…………という事は、この料理の腕はリアルスキルか。…………本当にとんでもないな」
「本当、お兄ちゃんの言う通りとんでもないね。…………前々から規格外な人だとは思っていたけど、ここまでとはねー」
『照れるカニ〜』
そんなこんなしているうちに私達は焼きそばを食べ終わり、シュウさんは屋台の上を片付け終わっていた…………この世界にはアイテムボックスがあるから片付けが早いね。
…………どうやらシュウさんの今日のバイトが休憩になった様なので、私はさっきの質問の続きを聞いてみる事にした。
「そういえば、さっきの続きだけどバルドルはどうしたの?」
『…………あー、ちょっと厄介な<
「それって、その着ぐるみのヤツですか?」
『そうカニ。…………そいつは【毒霧泡蟹 ヴェノキャンサー】って言う【溶解毒】と【腐食】の複合状態異常をもたらす霧を操る<UBM>だったカニ。そいつが原因で周辺の川や海が汚染されていたって話だから、俺は討伐依頼を受けてどうにか倒せはしたカニが……』
曰く、その【ヴェノキャンサー】は常に猛毒の霧を自身の周囲に展開していたので接近する事は難しかったらしい。更に遠距離攻撃も砲弾を溶かされて軌道を逸らされるか、身体に纏った泡で威力を落とされたりするので、硬い甲殻を持ちENDが高い相手には決定打にはならなかった様だ。
…………そこでシュウさんは、可能な限りの砲弾を撃ち込んで周囲の泡と霧を減らしつつ、陸上戦艦モードのバルドルを全速力で相手に突っ込ませたらしい。
そのまま砲撃で動きが止まった相手に大質量の体当たりをぶちかましてダメージを与え、更にいくつかの着ぐるみ特典武具を犠牲にして猛毒の霧を突破したシュウさんがゼロ距離から攻撃して倒したとの事。
『その時のダメージでバルドルは現在修復中、しかも<UBM>のスキルによるものだからか治りも遅いカニ。それに加えて持っていた着ぐるみも全滅した所為で危うく身バレするところだったカニ。…………特典武具で着ぐるみが出るように祈ったのは初めてカニ』
「えーっと…………お疲れ様です」
どうやら、このカニ着ぐるみは凄い苦労の果てに手に入れた物だった様だ。
…………そんな事を考えていると、シュウさんが更にテンションの低い声で愚痴り出した。
『…………それだけならまだ良かったんだが、毒霧に突っ込んだ時に着ぐるみと一緒にアイテムボックスまで溶かされて中身がばら撒かれてな……。当然その中身も溶かされて全滅、使用したバルドルの弾代と合わせて今の俺の
「ええーっと………………本当にご愁傷様です」
訂正、カニ着ぐるみだけじゃ割に合わないぐらいに踏んだり蹴ったりだね。
…………一通り愚痴って気が晴れたのか、シュウさんはテンションを元に戻して話し出した。
『一応、依頼の報酬も貰ったんだがそれでも損失分には足りなかったカニ。だから、こうやって地道なバイトに励んでいるカニ。バルドルが居ないと狩りも効率が悪いし、もう合計レベルはカンストしてしまったカニ』
「成る程ね。…………じゃあ、今は資金稼ぎをしつつ超級職を探している最中なのかな?」
『そんな感じカニ』
フーン…………ああ、そう言えば【戦棍王に関する手記】に面白い情報が載ってたね。
「確かシュウさんのメインジョブは壊屋系統だったよね? …………実は、超級職【
『えっ⁉︎ マジカニ⁉︎』
「うん、マジ。…………私はもう超級職に就いちゃったし、美味しい焼きそばのお礼に教えてあげてもいいよ」
『…………ミカちゃんもう超級職に就いたカニ?』
おや、そっちに驚くんだ。シュウさんとかならあっさり就けそうな気もするけど。
「ひょっとして、<マスター>で今現在超級職に就いている人って相当珍しいかな?」
『…………俺が知っている限り、フィガ公やあの女狐もまだだった筈カニ。…………今現在<マスター>で超級職に就いているのは、俺が知っている限り
「ほほう。…………という事は、超級職の情報って実はかなり希少なのかな?」
『そりゃそうカニ。…………先着一名の座だからな、下手をすると情報だけで膨大な金が動いたり死人が出たりするカニ』
…………これは、お手軽に話しちゃダメな情報だったかな?
「まあ、この世界でなら超級職一人で国家間のパワーバランスが崩れる、なんて事もありそうだしな」
「私も格闘家系統の超級職の情報を探しているのですが、どうもロストしている様なので全然見つからないのです」
『ロストしている超級職の情報をあっさり見つけられるのなんて、ミカちゃんぐらいじゃないかな?』
『正直、焼きそばのお礼程度で貰う様なモノじゃないカニ』
お兄ちゃん達にもそんな事を言われてしまった…………あの手記って実はかなりヤバイ代物だったのかな?
…………だって、あっさり見つかったし……。
『俺としても【破壊王】の情報が欲しいのは山々だが、あいにく今は持ち合わせがないカニ』
「…………それじゃあ貸し一つとかでいいよ、それに本当に大した情報じゃないしね。…………今から六百年前の“三強時代”に【破壊王】に就いたティアンが居たっていう事ぐらいだし」
あの手記には【戦棍王】率いる傭兵団が遭遇した、何人かの超級職を持つティアンの事が少しだけ書かれていたんだよね。
その中でも【破壊王】の事は『その一撃で城壁を破壊した』とか『伝説級のモンスターを拳の一撃で撃破した』みたいな事しか書かれていなかったんだよ。
「だから、本当に大した情報じゃないんだよ」
『いや、十分希少な情報カニ。特に“六百年前に【破壊王】に就いていたティアンが居た”という情報は大きいカニね。後で<DIN>か<wiki編集部>の連中を当たってみるカニ。…………この貸しは後でしっかり返すカニ』
とりあえず、これで良かったかな? …………今後はもう少し情報の取り扱いには気を付けよう……。
◇◇◇
□<キオーラ伯爵領>海水浴場 【
あれから、休憩が終わったシュウさんと別れた俺達は再び海で遊ぶ事にした…………と言っても、俺とは妹二人のテンションにはついて行けなかったので砂浜にビニールシートを引き、そこで休んでいたのだが。
…………そうしていると、人が近づいてくる気配がした。
「ああ、いたいた。おーい! レント君」
「ん? ……ああ、アマンダさん、どうしたんですか?」
俺に声を掛けて来たのは先程別れたアマンダさんだった…………その後ろにはさっきのチャラ男二人が居たが。
「いや、ウチのバカ二人がまだ謝って居なかったんでね、謝らせに来たんだよ。…………ほら! さっさと謝りな‼︎」
「はイィ! 俺はサク・ウッドベルと言います! 先程は妹さん達に不埒な声を掛けて誠に申し訳ありませんでしたァァ‼︎」
「はイィ! 俺はボウ・ウッドベルと言います! 先程は妹さん達に不埒な声を掛けて誠に申し訳ありませんでしたァァ‼︎」
「あ、ああ……」
と、そんな感じで、彼等は声を揃えて腰を九十度曲げて謝って来た…………さっきとは明らかに態度が違いすぎるんだが……。
「まあ、妹達も特に気にして居ないし、ちゃんと謝ってくれたのだからそれでいいよ」
「「ありがとうございますゥゥ!」」
そう言ったら、また声を揃えて頭を下げて来た…………いったい、どれだけアマンダさんに絞られたのやら、普段の力関係が偲ばれるな。
「それで妹さん達はどうしたんだい? あの子達にも謝らせたいんだけど」
「あの二人なら沖の方に『あ、お兄ちゃん? なんか海の方から面倒くさいのが来そうなんだけど』……分かった、少し探ってみる」
そうやってアマンダさんと話していると、いきなり【テレパシーカフス(防水仕様)】にミカから連絡が入った…………また何か感じ取ったらしいな。
「《広域脅威生物索敵・改三》…………ふーむ、海の方からミカ達に向かって何か来るか? 相手が水中だと分かりにくいな」
とりあえず、索敵用のオリジナルスキルなどで海側を探ってみるが、このスキルでは水中にいる対象を正確に感知する事は難しい様だ。
…………だが、大雑把に報告と現在の移動方向ぐらいはなんとか分かるかな。
『どうお兄ちゃん。何か分かった?』
「ああ、多分結界の外から何か来ているみたいだな。あと、
『それは良かった。手間が省けるね』
そう言ったミカ達は《着衣交換》スキルなどで戦闘用の装備に切り替えた…………ちなみに海上戦闘になりそうなので装備は最低限、更に水上歩行が可能になるアクセサリーを着けている。
そして俺も【射手の手套】と【鋼老樹の複合弓】を装備しておいた…………ら、俺達のその行動に疑問を思ったアマンダさん達が問いかけてきた。
「ちょっと、いきなり武装しだして一体なんなんだい?」
「ああ、妹達から連絡があってね。どうも海の方から招かれざる客が来ている様です……《千里眼》」
すると、沖にある結界の外側の水中に巨大な影が見えた…………そして、すぐにその影の主は海上に姿を現し、眼前にあった結界を食い破った。
『GYAAAAOOOO‼︎』
「ふむ【アクア・ドラゴン】……水属性のドラゴンか。流石にあの結界も、純竜級モンスターの攻撃は防げないみたいだな」
首長竜の様な外見をした【アクア・ドラゴン】は結界を即座に食い破り、そのままかなりの速度で水上を泳いでちょうど近くにいたウチの妹二人に襲いかかろうとしていた。
「ちょっ! 妹さん達ピンチですよ⁉︎」
「早く助けないと⁉︎」
「んー、別にピンチではないんだが。《
何か喚きだした兄弟を尻目に、俺は強化したオリジナルスキル──呪術系スキルと弓系スキルを合成した、当たった相手に【呪縛】の状態異常を与えるスキル──を敵に向かって放った。
…………呪術系スキルって即座に使えるヤツの射程は大体短いからな、それを補う為に作ったスキルだったが早速役に立ってくれた。
『GYAAAAAA⁉︎』
「よし! 当たったな。……あとは任せたぞ」
『オッケー任された』
突き刺さった矢は即座にその効果を発揮し、【アクア・ドラゴン】に【呪縛】の状態異常を与えてその動きを封じた。
…………まあ、純竜級のモンスターだからあまり長い時間は拘束出来ないだろうが、あの二人にとってはそれで十分だろう。
『《真撃》《ストーム・アッパー》!』
『GAAAAAA⁉︎』
動きが止まった相手に向かってミュウちゃんが海上を走って即座に接近し、その顎に向けて強化したアッパーを叩き込んで頭をかち上げた。
…………ちなみにミュウちゃんはバランス感覚も図抜けているから、波が激しい海上での全力疾走とかも普通に出来るみたいだ。
『《竜尾剣》!』
『GAAAAA⁉︎』
そうやって怯んだ【アクア・ドラゴン】に向けて、ミカが【ドラグテイル】の剣尾を伸ばしてその背に突き刺した。
そして、そのまま飛び上がりつつ剣尾を巻き戻し、相手の背中部分に着地した…………どうも以前スライムに同じ事をやった時、そのワイヤーアクション擬きに味をしめたみたいだな。
『悪いけど、コッチは海水浴を楽しみたいからここで消えてもらうよ! 《ギガント・ストライク》!』
『GAA⁉︎ ………………』
背中に乗ったミカがそのまま首の付け根部分にメイスを振り下ろし、その部分の肉体を
…………あと、その光景を見たアマンダさん達三人はポカンとした表情を浮かべていた。
『お兄ちゃん、片付いたよー』
「ご苦労様。…………見ての通り、あの二人は俺より強いぞ」
「へえ、すごいねぇ」
「「は、ハイ……」」
そう言った俺に対しアマンダさんが関心して、他の二人はただ頷いていた。
◇
「多少のトラブルはあったけど、楽しかったね海水浴!」
「そうですね! いっぱい泳げて良かったのです!」
『焼きそばも美味しかったしね!』
「まあ、お前達がそれでいいならそれでいいさ」
それからしばらくして終了時間になったので、俺達は海水浴場を後にしていた…………あの後、ウッドベル兄弟は妹二人に全力で謝っていたが。
「別に私達は大して気にしていないんだから、あそこまで謝らなくても良いのにねぇ」
「そうですよね」
「…………お前達の実力を知ればああもなるだろうよ」
『確かにね』
ちなみに、あの三人とはミカの提案でフレンドになっておいた。
「しかし、あの二人を見て思ったんだが、名前に名字とかを入れておいた方が良かったか? その方が兄妹だと分かりやすいだろうし」
「うーん、私達ってゲームの名前は適当に決めるタイプだからなぁ。…………最初は直感で何となく買って見たんだけど、まさかここまでのモノだとは思わなかったし」
確かに最初はそんな感じだったなぁ…………もうちょっと真剣に考えておけばよかったかな?
「後、残念な事ですがこのゲームで名前の変更は出来ないみたいなのです」
『後悔先に立たずってヤツだね』
「全くだねぇ。…………さて、そろそろ次の街に行くところかな? 次の目的地は<城塞都市クレーミル>だったっけ?」
「その予定だな」
…………と、そんな事を話しながら俺達は帰路についたのだった。
あとがき・オマケ・各種オリ設定・解説
三兄妹:今回は全力で海水浴を満喫した
・<Infinite Dendrogram>を買った理由は妹が
【戦棍王に関する手記】:デンドロ考古学的には結構凄い代物
・その中には僅かだが他の超級職の情報も載っており、現在ではロストした超級職の情報もある。
・この手記を書いたのは当時の傭兵団のナンバーツー、魔導師系統超級職【
シュウ・スターリング:今回はカニニーサン又はカニーサン
・<UBM>との戦闘において全力で勝利の可能性を掴み取ったが、その代償として
・あの後【破壊王】の転職条件を色々調べたが、その条件の内一つしか分からなかった。
【毒霧泡蟹 ヴェノキャンサー】:ニーサンの財布に大ダメージを与えた伝説級<UBM>
・【溶解毒】と【腐食】の複合状態異常を齎す霧を周囲に展開し、自身は病毒系の状態異常を無効化する泡を身体に纏わせて戦う<UBM>だった。
・泡は相手の物理攻撃を滑らせる事も出来るので、本人のENDの高さもあって第五形態バルドルの砲撃でもほとんどダメージを与えられなかった。
・ちなみに三兄妹が以前倒した【デッドリー・オーシャン・スライム】はコイツの毒を吸収した所為で変異したものである。
【はいぱーきぐるみしりーず ゔぇのきゃんさー】:ニーサンの身バレを防いだ特典武具
・ニーサンにアジャストされた結果、毒のスキルはオミットされており病毒回復の泡を出すスキルがメインになっている。
・そのお陰でカニニーサンは毒の後遺症も無く、毒の霧が残っていた場所からも脱出出来た。
・他には水中行動やダメージ減少、掴むも挟み切るも自由自在に万能鋏のスキルなどもある。
アマンダ&ウッドベル兄弟:兄弟は舎弟根性が染み付いている
・兄弟は妹達の真の実力を見たせいで全力で謝罪しており、それに妹達はやや困惑していた。
・それから妹の直感的には悪い人達じゃ無かった事と、ちょっと不憫に思った事もあってフレンドになった。
【アクア・ドラゴン】:今回のかませ
・縄張り争いに負け新しい住処を探している途中で海水浴場に立ち寄り、空いた腹を満たそうとしたがタイミングが悪かったドラゴン。
・海属性のスキルで防御効果を弱める能力を持っており、それで結界を食い破った(元々この結界は亜竜級以下のモンスター避け程度のものだったが)
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番外編 とあるモヒカン達のその後
それでは本編をどうぞ。
※あとがきの【アイアス】の効果・表記を一部変更。
□<カルチェラタン伯爵領>カルチェラタン 【
俺の名前はモヒカン・ディシグマ、その名の通り<モヒカン・リーグ>に所属している<マスター>だ。今は王国の北東に<カルチェラタン>という街をホームタウンにして、相棒の【
…………すると向こうから、巡回中のこの領の騎士が歩いてきた。
「あ! ディシグマさん、ボッチーさん、お疲れ様です!」
「お疲れ様です! お二人ともいつもありがとうございます」
「例は要らないぜ。日々の福祉活動は我々<モヒカン・リーグ>の基本方針だからな」
このように此処のティアンの騎士団とも、今ではこうやって親しげに挨拶をするぐらいに仲良くなっていた。
「…………ふぅ、やっぱり人に感謝されるのは気分が良いもんだな、ボッチー」
「ああ、そうだな。…………しかし、<マスター>を片っ端から
「お前の場合は<マスター>というよりカップル狙いだったけどな」
そう、俺達は元々<マスター>専門のPKになる為にこのデンドロを始めたのだ…………正確には、俺達がデンドロを買ったすぐ後に彼女にフラれたボッチーが、腹いせにデンドロ内の男女カップル<マスター>をPKしようとしていて、それに俺が便乗した形になるが。このモヒカンアバターもPKロールの為に設定したものだしな。
…………そんな感じで始めたPK活動も最初の方は俺とボッチーの<エンブリオ>の相性の良さや、まだデンドロが発売して間もない頃だったので他の<マスター>達がゲームに慣れていない事もあり、かなり上手くいっていたのだが……。
「…………まあ、俺達は所詮井の中の蛙だったって事だな」
「世の中上には上がいる、という事だな。…………一時の激情で他人に迷惑を掛けるのは良くない、という事でもあるが」
何度かPKを繰り返して調子に乗っていた俺達は
…………ちなみに後から聞いた話によるとその二人は兄妹で、後にアルター王国の準<超級>に数えられる程の<マスター>だったのだが。
「それ以来、俺達は完全に頭が冷えてPKからは足を洗った訳だが」
「やはりゲームの中とは言え、八つ当たりは良くないな。…………彼女はまた見つければ良いんだ、幸いな事にこのデンドロには出会いが溢れているしな!」
それからは元に戻ったボッチーが「デンドロで新しい彼女を見つけてやる!」と言い出し、俺もそれに付き合って普通にこのゲームをプレイしていたのだ。
そんな中、現実のデンドロネット掲示板で『モヒカンだけで集まったクランとか面白そうじゃね。活動方針は敢えての慈善事業で』というレスを見かけて、それに答える形で俺は<モヒカン・リーグ>に入り今に至ると言う話さ。
…………ちなみにボッチーは一緒のにパーティーを組んではくれるが、<モヒカン・リーグ>には入っていない。曰く「髪型をモヒカンにするのはちょっと……。只でさえ変な名前なのに……」とのこと。
ボッチーは一時の激情で変な名前を付けてしまってめっちゃ後悔しているからな、このデンドロでは改名とか出来ないし。
「やっぱり、他人を傷つけるよりも他人から感謝される方が気分が良いしな!」
「そうだな。…………それに、そういうプレイスタイルの方が出会いが多いし、女性にも好印象を与えられるしな」
「相変わらずだなぁ。…………それに、この世界のティアンは正直NPCとはもう思えないからな」
「確かにそうだな。…………ところで、今度この領の外れにある天地風温泉旅館のシャーリーさんに声を掛けようと思うのだが……」
…………ボッチーは本当に相変わらずだなぁ…………ん?
「どうした? ディシグマ?」
「いや、向こうから誰かが走って来るな。あれは…………この領の騎士の一人か?」
そこに見たのは一人の騎士が何か焦った雰囲気でこちらに……正確にはさっき挨拶をして騎士達の方に全力で走って来る光景だった。
「ほっ報告! 街の外を巡回していた騎士達が
「なにぃ⁉︎」
…………どうやら緊急事態の様だな。この領に騎士団はお世辞にも実力が高いとは言えないし、ティアンだけで対処する場合には多くの犠牲が出るだろうな。
「ディシグマ」
「ああ。…………すみません、話は聞いたが俺達が力を貸そうか?」
「ん? ……おお! 貴方達はディシグマさんとボッチーさん! ……お願いします、<マスター>としてのお二人の力をお貸しください!」
そう言って、壮年の騎士は深々と頭を下げてきた…………この領の騎士達は実力は高くないかもしれないが、新参の俺達<マスター>に頭を下げてまでこの<カルチェラタン>を守ろうとしているから凄いよなぁ。
…………そんな彼等だからこそ、俺達はこの領をホームタウンにして、此処を守るために力を貸そうと思ったんだがな。
「分かったぜ、任せな!」
「助かります。…………君、彼等を急いで現場まで案内するんだ!」
「ハイ! こちらです!」
そして俺達はさっき走ってきた騎士に案内されて、純竜級モンスターが現れたという現場まで向かう事になった。
【クエスト【モンスターに襲われた騎士の救出 難易度:五】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
よしっ! それじゃあ救出クエストを始めるか!
◇
それからしばらく走って行くと、遠くの方から戦闘音が聞こえてきた。
「この先です!」
「分かった!」
俺達は急いでその音がする場所に向かった……そして、そこで見たものは何人かの騎士達が巨大な二本の角を持つ四足歩行のドラゴンと戦っている光景だった。
『GYAAAAAA‼︎』
「「「グワァァ!」」」
そのドラゴンの頭上には【デュアルホーン・グランドドラゴン】という名前が表示されており、その二本の角でもって周りの騎士達を次々と薙ぎ払っていた……騎士達は負傷はしており倒れている者もいるようだが、幸いな事にーまだ一人も死んではいない様だ。
……そう思ったのも束の間、ヤツはその二本角で負傷して動きが鈍っている騎士達を串刺しにしようと突っ込んできた!
「チッ! ベンヌ、奴を騎士達から引き離せ! 《ハイ・エンチャント・アジリティ》!」
『KIEEEEEE!』
『GYAAAAAAA⁉︎』
それを見たボッチーが自身の<エンブリオ>である青い炎を纏った鳥型ガードナー【爆炎再誕 ベンヌ】を呼び出し、サブジョブの【
突っ込んだベンヌはボッチーの指示通りにヤツの周りを飛び回って、その身体から出る炎で視界を制限することでその動きを牽制していた。
「ええい! 騎士達が近すぎてベンヌのスキルが使えん! 純竜級の地竜相手にスキル無しでは牽制しか出来んぞ!」
「俺達が前に出るから、お前は負傷した騎士達の救助しな! なるべく此処から遠ざけろよ!」
「了解しました! ご武運を!」
そうこうしている間にも、ヤツは周りを飛び回るベンヌを弾き飛ばし、負傷した騎士達の方に向かおうとしていた。
なので俺は自身の<エンブリオ>である青い大盾型の【青壁銅盾 アイアス】を取り出して、ヤツの元まで全速力で走って行き……。
「オラァ! 喰らいな! 《ストロングホールド・プレッシャー》!」
『GYAAAAAAA⁉︎』
防御力を攻撃力に変換する【盾巨人】のスキルを乗せた【アイアス】で、その横っ面をぶん殴った!
………だが……。
『GYUAAAA!』
「おうおう、元気そうじゃねえか」
その一撃はヤツを僅かによろめかせただけで、対してHPを削る事も出来なかった……流石に純竜級の地竜相手に、タンクビルドの俺の攻撃は対して効かねえよなぁ。
……まあ、目的は俺にヘイトを向けさせる事だからこれでいいんだがな。
「ほーら、こっちだドン亀」
『GYAAAAAA!』
攻撃された事に怒ったのか、ヤツは二本の角を俺に向けて全力で突進して来た。
その突進はいくらタンクビルドでENDが高い俺でも、まともに受ければ大ダメージを負うだろう……まともに受ければな。
「待ってたゼェ! 《
『! GYAAAU⁉︎』
その【デュアルホーン・グランドドラゴン】にとっての必殺の突進は、俺の目の前に現れた
今見たとおり、この壁の強度は純竜級モンスターの攻撃を容易く防ぐ事が出来る程に高く、よっぽどの相手でも無い限りは砕く事は出来ないのだ。
……とは言え欠点として、この《七の青壁》はストック制のスキルでそのストック数は名前通り七つしか無く、更にストック一つを回復するのにデンドロ内時間で三十分程掛かってしまうので連戦には向いていないんだがな。
まあ、今はストックは七つ全部あるので……
「《七の青壁》! 《七の青壁》! 《七の青壁》ェ‼︎」
『GYU、GYUAAA⁉︎』
突進が止められて動きが止まっていたヤツに対し、俺は更にストックを三つ消費してその左右を後ろにも光の壁を展開してヤツを閉じ込める四角形の檻を作り上げた。
……最初はただ自分の目の前に展開するしかなかった《七の青壁》も、【アイアス】が進化して俺自身も経験を積んだ今なら光の壁を任意の場所・角度で展開する事も出来る様になったんだぜ。
『GYUAAAAAAAA⁉︎』
「そんな闇雲な攻撃で俺のスキルは破れねぇよ、地竜種なら空も飛べねぇだろうしな。……まあ、一応強度を上げておくか《
自分の周りの壁を壊そうと暴れ回る【デュアルホーン・グランドドラゴン】を尻目に、俺は空いているストック数に応じて《七の青壁》の色を赤くして強度を上昇させるスキル《鋼の赤壁》を使用した。
……コイツの攻撃事態は青のままでも防げるだろうが、
「今だ! ボッチーやれっ!」
「分かっている、ベンヌ!」
『KIEEEEEE!』
俺の合図に答えてボッチーがベンヌに指示を出し、檻の空いている上部分から閉じ込められたヤツに向かって突っ込ませた。
ちなみに【ベンヌ】はデンドロ開始当初の『カップルを爆発させたい』というボッチーのパーソナルがモロに影響した<エンブリオ>であり……その能力特性は
「吹き飛ぶがいい! 《
ズドオオオオオオォォォォォォォ──────ォォォン!!!
『GYAAAAAAAaaaaaa…………⁉︎』
そのまま檻の中に突っ込んだベンヌは大爆発を起こし檻の上部から凄まじい勢いの爆炎を上げながら、中にいた【デュアルホーン・グランドドラゴン】を跡形も無く消し飛ばした…………ちなみに、この戦術は俺とボッチーが最近編み出した必勝パターンである。
その後、爆炎が収まって来たので敵が消し飛んでいるのを確認して《七の青壁》を解除した。
「《七の青壁》解除っと。……やったな、ボッチー!」
「ああ。……それと、良くやってくれたベンヌ。さあ戻るがいい《
そのスキルの宣言と共に、檻があった先程まで場所から青い炎が立ち上り、みるみる内に先程自爆したベンヌの姿を形取った。
このスキル《再誕鳥》は、MPを消費する事によって自爆したベンヌを再生させるスキルである。
『KIEEE』
「おう、ベンヌもお疲れさん。…………しかし、昔と比べて再生が早くなったな」
「ああ、これも<上級エンブリオ>に進化した際に覚えた《魔力蓄積》のスキルで、《再誕鳥》に使用するMPを事前に蓄積出来る様になったのが大きいな」
以前までの《再誕鳥》は必要なMPが多すぎて、再構成までの時間を短縮する事しか出来なかったからな…………お陰でベンヌを自爆させた後はそれっぽいエフェクトでブラフをかけるぐらいしか出来なかったし。
…………さっき昔の事を話した所為か、まだPKだった頃の事を思い出しちまうな。あの頃と比べると俺達も随分と成長したもんだ。
「さて、怪我した騎士達の面倒でも見てやるか」
「ああ、騎士達の救出がクエスト内容だからな。…………とは言え、俺の回復魔法は【
この後、俺達は負傷した騎士達の応急処置を行い、彼等を街まで連れて行った。
幸いな事に騎士達の中で死者は一人も出ず、俺達は無事にクエストを達成したのだった。
◇
「ディシグマさん、ボッチーさん、今回は騎士達を助けて頂き、本当にありがとうございました」
「別に礼なんて言う必要はねぇよ。
騎士達を街に送り届けクエストの達成報酬を受け取った後、俺達は今日最初に挨拶した壮年の騎士に礼を言われていた。
「それでも、お礼は言わせてください。…………貴方達、善良な<マスター>がこの街に居てくれているお陰で、この近辺でのモンスターによる被害は大幅に減りました。…………私達カルチェラタンの騎士にとって、その事はどれだけの礼を尽くしても足りない程の事なのです。…………改めて、本当にありがとうございました」
そう言ってその騎士は去っていった…………確か、此処の領主様は、その昔強力なモンスターに夫と産まれたばかりの子供を殺されたんだったか……。
「ふむ、彼等にも色々と思う事があるのだろうな。…………それはそれとして、今回助けた騎士達の中に女性が居なかったのは残念だったな」
「…………お前は本当にブレねぇなぁ……」
まあ、PKやってた頃よりも今の方が遥かに楽しいし、これはこれで良いのかもしれないがな。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
モヒカン・ディシグマ&ボッチー:以前兄妹を狙った元PK
・今は完全にPKから足を洗い、ディシグマの方は<モヒカン・リーグ>に所属して日々福祉活動を営んでいる。
・ボッチーのナンパは余り上手くは言っていない。
名称:【爆炎再誕 ベンヌ】
<マスター>:ボッチー
TYPE:ガーディアン
能力特性:自爆・再誕
保有スキル:《爆炎鳥》《再誕鳥》《魔力蓄積》《爆裂羽弾》など
・《爆裂羽弾》は自身の羽を分離・射出して爆発させるスキルで、威力は高いが一枚爆発させる毎に自身の全ステータスが1%低下する(《再誕鳥》で再生可能)
・自爆系スキルの威力はベンヌのステータスに比例するので、ボッチーは後方からベンヌにバフを掛けて戦う事を基本戦術にしている。
・スキルの威力と効果範囲は高いが、それ故に自分や味方を巻き込みやすいので相方であるディシグマのフォローが無い場合はよく自滅している。
【色壁銅盾 アイアス】
<マスター>:モヒカン・ディシグマ
TYPE:エルダーアームズ
能力特性:障壁展開
保有スキル:《七の青壁》《鋼の赤壁》《剛の黄盾》《装の緑盾》など
・上級に進化した際に名前が少し変わった。
・《剛の黄盾》はその戦闘中に《七の青壁》が負ったダメージ分だけ【アイアス】の攻撃力を上昇させるスキルで、一度攻撃を当てると効果が切れる(クールタイムは三分、戦闘終了時にダメージカウントはリセット)
・《装の緑盾》は【アイアス】で敵の攻撃を受ける度に《七の青壁》の障壁回復速度が上昇するスキル(受けたダメージ数値の十分の一の秒数減る)
・《七の青壁》で展開される障壁に関わるスキルしか持っていないので、ストックが無くなる様な連戦は非常に苦手。
・なので、相方のボッチーと組んでの短期決戦を基本戦術にしている。
【デュアルホーン・グランドドラゴン】:今回の敵でドライフの方から流れてきたモンスター
・高いステータスを持つモンスターだったが、特殊なスキルは持っていなかった為、二人の必勝パターンによって倒された。
読了ありがとうございました、意見感想評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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番外編 <プロデュース・ビルド>の今
※この話も以前にノベプラで投稿したものの微改定版になります。
それでは本編をどうぞ。
□<アルター王国>王都アルテア 【
はーい、私はターニャ・メリアム、この<Infinite Dendrogram>をプレイしている<マスター>の一人で、今は<プロデュース・ビルド>って言う小さな生産系クランで活動しているの。
でも最近は王都に小さなクランホームを買う事も出来し、新しいメンバーも入ったりしてクラン運営は結構順調なんだよ。
「そんな私は、今はクランホームの一角で絶賛依頼品を生産中〜」
「…………何故、いきなり虚空に向かって話しかけているんだ?」
…………生産中の私に問いかけてきたのは、この<プロデュース・ビルド>のオーナーを務めている【
「何って、無言で黙々と生産するのは私のキャラじゃないしー。じゃあ、続けるよクロートー…………いーとーまきまき、いーとーまきまき、ひーてひーてとんとんとん」
『KYUUU』
そんな感じで適当に返事をしつつ、私は目の前にいる体長1メートルぐらいの蚕から出る糸を紡績用の道具に巻き取って、素材アイテムを作っていた…………この蚕こそが私の<エンブリオ>【天糸紡蚕 クロートー】である。
このクロートーは蚕型のガードナーで、アイテムを捕食してそのアイテムと同じ性質を持つ糸を生成する《天糸紡ぎ》と言うスキルを持っており、それと私のメインジョブである紡績師系統上級職【紡績職人】の糸素材を作るスキル《紡績》を組み合わせることで、現在特殊な糸素材を生産中なのだ。
「しかし【
『KYUI!』
うんうん、クロートーも喜んでいる様だね。
以前まではクロートーの出した糸を使って【
「まあ、色々と調整が効く様になってからはワシらの作った素材も売れる様になって来たからのう」
「でしょ〜。最近は他の生産系<マスター>に素材を卸す事も増えてきたしね。…………ゲンジの<エンブリオ>のお陰で生産の成功率も高いからね」
そう言ってくれたのは、このクランのメンバーの一人である【
ちなみに、今私達がいるのはクランホーム内の空き地に展開されているゲンジの<エンブリオ>である工房…………TYPEキャッスル・ルール【改訂工房 ヘパイストス】の中である。
…………この【ヘパイストス】には《プロダクション・エンハンスメント》という内部で行われた生産系ジョブスキルの数字表記を三倍化させるスキルを持っており、その効果はゲンジとパーティーを組んでいる者にも有効なのだ。
「…………確かに、一時は素材が全く売れない時期もあったが、今は生産系<マスター>の質が上がったお陰でそこそこ売れる様にはなったな」
「私達が作る素材は特殊な性質を持っているせいで、既存の【レシピ】にアレンジを加えなければ使えないからねー」
「せっかくの特殊な素材も、それを扱う技術がなければ意味がないからのう」
そうだねー…………っと。
「よし、完成。……てれれれ〜〜! 【亜竜伸縮蛇の糸束】〜!」
『KYUUU!』
この糸は身体を自在の伸び縮みさせる亜竜級モンスター【エラスティック・デミドラグスネーク】の素材を使って作った物で、そのスキルである《伸縮自在》の特性が宿っているのだ。
…………まあ、
「これで私が担当する素材は出来たよ。…………そっちは?」
「ああ、こちらも問題はない。【グレーター・トレント】の素材である【大魔樹の完全遺骸】、その一部を金属化させた【大魔樹のインゴット】を用意してある」
「ちなみに、そのインゴットはワシが今回の依頼品の金属パーツに加工済みじゃ」
クランオーナーのエドワードは【幻想冶金 オレイカルコス】という非金属を金属化するテリトリー系の<エンブリオ>を持っており、そのスキル《ファンタジー・メタル・ワーキング》により非金属アイテムを特殊な金属素材へと変換する事が出来るのだ。
ちなみに【大魔樹の完全遺骸】は、ウチのお得意様の一人である私のリアフレのエルザから買い取った物だ…………あの子、リアルラックが高いからレアドロップをポンポン落とすんだよね。
…………当然高くついたけど、いくつかの高性能装備をタダで作って上げた代わりに値段はまけてもらったよ。
「おーい、オーナー。コッチも【大魔樹の完全遺骸】の加工が終わったよ」
「ああ、ご苦労様ワカバ」
そうして声を掛けてきたのは背の小さい男の子の<マスター>…………【
…………ちなみにクラン入りした理由は『金属化された木材なんて珍しい物を扱っているから興味を持ちました』との事。特殊な素材の生産はウチのクランの目玉だからね。
「それで? 今回、ワカバ君の依頼の報酬は【大魔樹の完全遺骸】の残りで良かったの?」
「はい、それで頼みます。…………植物系純竜級モンスターの完全遺骸なんてなかなか手に入らないですからね、出来れば
…………彼の【九製界樹 イグドラシル】はTYPEフォートレスの<エンブリオ>で、植物系アイテムの遺伝情報をストックし、それらと同じ性質を持つ植物系素材を複製し生産できるのである。
ただし、植物の生産には複製元のスペックに応じてそれなりに時間がかかり、一度に生産出来る植物の種類は九種類と決まっているらしい。
また、生産する植物はただ複製するだけでなくその性能を強化したり、別の性質を付加したりも出来るとの事。
「それで、今回の依頼品は複合弓でしたね」
「うん、そうだよ。…………以前、私達が作った弓を見て気に入ってくれた人がいてね、その人がオーダーメイドの弓を注文してくれたんだ」
「そして、前回はワカバが居なかったから俺が金属化させた樹木だけを使ったが、今回は同じ素材をそれぞれ金属・非金属状態で組み合わせる複合弓を作る事になっている」
…………私達<プロデュース・ビルド>では<エンブリオ>を使って作った特殊な素材を使って生産する事が多く、その際それらの素材をどう使うか、既存の【レシピ】にどうアレンジを加えればより良い物が作れるのかなどをこれまで色々と研究して来たんだよね。
それで分かった事の一つに<エンブリオ>で性質を変えた素材でも、元が同じ素材同士を使えば生産の成功率が高くなり、素材が持っている性質をそのまま強化したスキルが付きやすいという事があった。
「今回の依頼主の要望の一つに『数が少なくても強力なスキルのついた弓がほしい』というものがあったからな」
「色々な素材を使うと装備スキルは多くなるけど、個々のスキルレベルは下がる事が多いからのう」
「そうですね。…………しかし、こうも純竜級モンスターの素材をこうも簡単に加工出来るとは、ゲンジさんと
…………実は新しくこのクラン入りした<マスター>はもう一人居て、その子は自分の仕事を終えて工房隅で熟睡中「いやー照れるねー」……訂正、もう起きてたみたい。
「起きたのか、マキア」
「はーい、おはようございますオーナー。…………今回のレシピは【複合弓のレシピ】をベースに皆さんが【大魔樹の完全遺骸】などを使って作った素材に対応した【大魔鋼樹の複合弓のレシピ】で、更にスキル《成功の秘》のお陰で生産成功率を上がってるので、ゲンジさんの<エンブリオ>と併用すれば成功率は八割超えると思いますよー」
彼女が最近ウチのクラン入りしたもう一人の<マスター>【
彼女の【図面昇華 ゴブニュ】は生産に使う【レシピ】を改造することが出来るTYPEルールの<エンブリオ>で、それに【レシピ】を作る事に特化した製図工系統のジョブスキルを組み合わせる事によって、私達が使う特殊な素材に対応した【レシピ】を作りあげてくれたのだ。更にその【レシピ】を使った生産スキル効果上昇や生産物性能上昇などのパッシブスキルも有している。
…………一応【レシピ】のアレンジは上級の生産職なら可能だけど、彼女の【ゴブニュ】による【レシピ】改造範囲はその比ではなく……。
「後は出来たパーツをターニャちゃんとゲンジさんとワカバ君のジョブスキルで組み合わせて弓を作ってー、ゲンジさんの
「…………他者の<エンブリオ>のスキルまで【レシピ】に書き込めるとは、相変わらず凄い<エンブリオ>じゃのう」
「普通の【レシピ】では精々対応するジョブスキルぐらいしか乗っていないしね」
…………そう、彼女の【ゴブニュ】による【レシピ】改造は、効果さえ把握していれば他者の<エンブリオ>の生産系スキルすらも【レシピ】内の生産工程に組み込む事が出来るのだ。
なので、今回の【大魔鋼樹の複合弓のレシピ】には私やエドワードの<エンブリオ>による素材生産も【レシピ】内の生産工程に組み込まれているので、そのスキル効果や生産物の質も上昇している。
「それじゃあさっさと組み立てちゃいましょー」
「分かった、私は糸を使って弓の弦を張るよ」
「それじゃあワシはワカバと一緒に弓身を組み立てるか」
「オッケー」
そういう訳で、残りの【レシピ】の工程を進めて行く…………と言っても、ここから先のジョブスキルの行使は殆どが【レシピ】によって自動化されているので直ぐに終わるけど。
…………ちなみに最初手動で作業していたのは、最近買った紡績用のアイテムを使った方が質の良い糸が作れるからなんだけどね。
そうやって私達は作業を進めていき……。
「よーし! 出来た〜! 【大魔鋼樹の複合弓】〜!」
「ふむ……装備攻撃力・防御力共に【レシピ】の予定よりも高いから大成功だな」
「装備スキルも【貫通射撃】【射撃威力上昇】【矢速上昇】が高レベルで揃っているし、オマケに【破損耐性】と【盗難防御】のスキルもあるから依頼通りだね」
「後はワシが《プロダクト・リビルド》で調整するだけじゃの」
ゲンジの【ヘパイストス】には《プロダクト・リビルド》と言う自身、および自身とパーティーを組んでいる人間が工房内で作った生産物の効果をある程度変更出来るスキルである…………今回は、その効果により装備制限を追加して各種装備性能を上昇させる予定になってるね。
また、この効果が使えるアイテムは工房内で作ってから外に出ておらず、作ってから二十四時間経過していない物に限るけど。
「さて…………装備制限を合計レベル500以上にして装備攻撃力を上げて…………STR2000以上とDEX1500以上の条件を付けて《射撃威力上昇》のスキルレベルを上るかのう…………後、メインジョブが【
どうやら調整も終わったみたいだね…………これで依頼の品は完成したから後は依頼主が取りに来るのを待つだけですかね。
「しっかし、これだけの品物が随分と簡単に作れる様になったもんだね〜。これもマキアちゃんの【レシピ】のお陰かな?」
「いやーそれほどでもー。…………まあ、このゲームの生産活動はジョブスキルを使ってさっさと作れるのが良いところですからー。【レシピ】を使えば殆ど自動化出来ますしー、楽で良いですよー」
「でも、マキアさんの【レシピ】が便利すぎて、やり甲斐が少し薄くなっている気がしますけどね」
うーん、その辺りは色々と個人差があるかな。
…………マキアちゃんは生産が好きだけど面倒くさがりだから【レシピ】による自動生産がいいみたいだし、ワカバ君が手作業で作る事も好きみたいだからね。
「でもー、結構専用の【レシピ】を作るのも大変なんですよー。今回も何度か書き直しましたしー」
「まあ、クランとしての仕事の時は全員の能力をフルに使って、個人で生産する時には各々の好きにすれば良いんじゃないかな?」
「一応、それがこのクランの基本方針だからな。…………あと、個人的生産で他のクランメンバーの力を借りたい時はちゃんと話し合う事だ」
そんな感じで、クランオーナーのエドワードがきっちり纏めてくれたね。
「確か完成品を依頼主が受け取りに来るのは明日じゃったな」
「ああ、その予定だ。…………とりあえず、これで今回の依頼は終わりだな。きょうのところはこれで解散だ、お疲れ様!」
「「「「お疲れ様ー!」」」」
◇
そんなこんなでその翌日、私はクランホームに依頼品を持って
…………そうして、クロートーと一緒に糸を紡ぎつつ店番をしていると一人の客がホームを訪れた。
「やあ、こんにちは。依頼した品を取りに来たんだけど、出来てるかな?」
「いらっしゃいませ〜。…………はい、依頼品は出来上がっていますよフィガロさん」
そう、彼が今回の依頼主である【
今回は以前<マスター杯>で戦ったレントさんがウチで作られた弓を使っていたので、その事が縁でウチにオーダーメイドの依頼をして来たみたい。
「こちらが今回の依頼品である【大魔鋼樹の複合弓】です」
「ありがとう。…………うん、これは良い弓だね。…………これが代金だよ、また頼むかもしれないからよろしくね」
「ありがとうございます!」
やっぱり、自分達が作った作品が評価されるのは嬉しいものだね!
…………しかし、この弓はかなりお高い代物なんだけど、流石は王国トップクラスの<マスター>だけあってあっさりと大金を支払うね。
「それじゃあ、僕はこれから弓の試し撃ちも兼ねて<墓標迷宮>に行ってくるよ」
「お気をつけて〜」
そう言って、フィガロさんは去っていった…………これで、今回の依頼は無事完了となったのだった。
「さて! みんなが来るまでは生産活動に勤しみますかね」
『KYUUUU!』
…………この<プロデュース・ビルド>は小さなクランだけど、今は結構楽しくやってます。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
ターニャ・メリアム:弓の弦担当
・クランホームの留守番はメンバーで持ち回り。
【紡績職人】:紡績師系統上級職
・衣類を作るジョブである【裁縫師】系統と違い、糸系素材を作る事に特化した【紡績師】の上級職。
・基本的には素材を加工して糸にするジョブだが、糸系素材をモンスターが落とす様になってからはやや廃れている。
エドワード:金属生産担当
・クランメンバーが増え収入も増加したのでどうにかクランホームを手に入れる事が出来た。
・クランでの事務仕事も担当している(他が使えない為)
ゲンジ:金属加工担当
・<プロデュース・ビルド>生産活動の要その一。
・その為、彼の<エンブリオ>のスキル《プロダクション・エンハンスメント》の能力詳細はメンバー以外には基本的に秘密。
アカイ・ワカバ:木材加工・生産担当
・<プロデュース・ビルド>新メンバーその一
・クランに入った理由は特殊素材の販売を行っているので自身の<エンブリオ>と相性が良いと思ったからでもある。
【九製界樹 イグドラシル】
<マスター>:アカイ・ワカバ
TYPE:フォートレス
能力特性:植物複製
保有スキル:《樹界図》《第一樹層・神》《第二樹層・人》《第三樹層・深》《樹洞拡張》
・モチーフは北欧神話に登場する九つの世界を内包するという架空の木“イグドラシル”
・形状は三階建ての塔で、それぞれの階で植物素材の生産の仕方が違う。
・《第一樹層・神》は生産した植物の性能を強化するスキルで生産場所は3階。
・《第二樹層・人》はそのまま植物を育成するスキルで生産場所は2階で、他の二層を比べると生産速度が早く生産量も多い。
・《第三樹層・深》はそこで生産した植物が他に生産している植物の影響を受けてランダムに変異するスキルで生産場所は1階。
・一つの階層で生産出来る植物の種類は三種・個数は三個まで。
・スキル《樹界図》により植物の遺伝情報をラーニングしてストックし、生産する植物の大きさに応じて《樹洞拡張》で内部空間を拡張出来る。
【木工職人】:木工師系統上級職
・その名の通り木材の加工を行うジョブ【
・木材の加工全般に対応しており、特定の木材加工に特化した派生ジョブも存在する。ー
マキア・マジカ:【レシピ】担当
・<プロデュース・ビルド>新メンバーその二にして、生産活動の要その二。
・基本的に【レシピ】だけ作って後は他のメンバーに任せるスタイルだが、自身も一通りの生産は行える。
・入って経緯はその能力に目を付けたエドワードにスカウトされたから。
【図面改算 ゴブニュ】
<マスター>:マキア・マジカ
TYPE:ルール
能力特性:生産レシピ改造
保有スキル:《改造の判》《成功の秘》《昇華の印》
・モチーフはケルト神話において槌を三振りするだけで完璧な武器を製造したとされる工芸神“ゴブニュ”
・《改造の判》は【レシピ】の内容を改造するスキルで、その内容の詳細が詳しい程他の二つのスキルの効果が上昇する。
・《成功の秘》は自身が作った【レシピ】における生産スキル効果・成功率を上昇させるスキル。
・《昇華の印》は自身が作った【レシピ】で出来た生産物の性能を上昇させるスキル。
【高位製図工】:製図工系統上級職
・【レシピ】の作成・改良に特化した【
・自分が作った【レシピ】を使用する際、それ対応する生産スキルを一時的に得る《試作生産》のスキルを持つが、それによって生産されるアイテムの質は最低になる。
・なので、サブにある生産系ジョブのスキルを使うか、他の生産職との協力が前提のジョブである。
フィガロ:今回の客
・<マスター杯>の後にフレンドになった兄に<プロデュース・ビルド>を紹介された。
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アルター王国一周旅行・城塞都市クレーミル
出発準備と危険との遭遇
それでは本編をどうぞ。
□<キオーラ伯爵領>冒険者ギルド 【
海水浴を楽しんでからしばらく、私達は次の目的地であるクレーミルへ行く為の準備を一通り終えて、今は冒険者ギルドに来ています。
…………ここで何をしているのかというと、一つ目が道中達成出来そうなクエストを見繕っている事、そしてもう一つが<キオーラ伯爵領>周辺からクレーミルまでの
「…………ふむ、討伐系には特に良さそうなクエストは無いかな。ミュウちゃんそっちは?」
「配達系は結構報酬の高いクエストがあるのです。…………どうも、キオーラからクレーミル間で<マスター>の野盗が出ているのが原因みたいですね」
『野盗達の名前は<オーヴァー・デンジャラス・ブリゲイト>…………ネーミングセンスに関してはノーコメントで』
「それだけじゃなくて、何体かの<
…………とまあこのように、デンドロの屋外は危険がいっぱいだからね。旅行する際にも事前の情報収集は結構重要なんだよ。
「まあ、<UBM>に道中遭遇する事は早々無い…………とも言い切れないからな」
「姉様の直感がありますからね」
「そうだねー。…………今日は“旅に出てもいい”とは出ているけど、道中で急に何か解るかもしれないし」
私の直感は基本的には危険を回避する方向で働くんだけど…………この世界だと周辺の悲劇を防ぐ方向にも働く事があるからね。状況次第では<UBM>相手に戦う事もあるかもしれないし。
…………でも、私の遠い勘は結構ムラがあるからね……。
「じゃあいいんじゃないか? <UBM>はともかく<マスター>の山賊団は
「返り討ちにすれば良いだけだしね」
「そうですね」
まあ、ティアンの山賊だと対処がだいぶ面倒になるけどね…………ミュウちゃんの教育に悪いから皆殺しにする訳にもいかないし。
…………ちょっと物騒な空気になってしまったので、それを変える為かミュウちゃんが明るい調子で話してきた。
「私も新ジョブの【
「へぇ、それはどんなジョブなんだ?」
護身術って名前からして、自分の身を守るためのジョブとかかな?
「はい、主に危険に近づかない様にする為の《危険察知》《殺気感知》《真偽判定》《索敵》や、襲いかかってきた相手がどういう人物なのかを把握する《看破》《鑑定眼》、更に危険から逃れる為の《逃走》《護身打撃》《護身投擲》スキルなどを覚えますね。後、アクティブスキルとしては《目潰し》《金的蹴り》や《肘打ち》《膝蹴り》など相手の急所を狙うか組み付かれた時の対処に使うものを覚えますね」
「…………まあ、護身術っていうのは基本的に
…………どうやら思った以上に現実的なジョブみたいだね……。
「そうですね、私は各種汎用スキルを目当てに取りましたが。…………そもそも、護身術というのは“危険から逃れる術”であって“襲ってきた相手を返り討ちにする術”ではありませんから」
『ミュウ……』
そう言ったミュウちゃんの表情は少し寂しそうな表情をしていた…………そうだった、ミュウちゃんも
…………ええい! なんか更に空気が暗くなったぞ! なんとか空気を変えないと!
「ま、まあ! 今の私達なら多少の危険はなんとかなるでしょう! 私も【戦棍姫】の第二スキルを覚えたしね!」
「そうだな! 俺も戦闘用の【ジェム】を作り溜めしておいたし!」
…………そんな私達の慌てぶりが可笑しかったのか、ミュウちゃんはクスクス笑いだした。
「…………ありがとうございます、兄様、姉様、もうそんなに気にしてないので大丈夫なのですよ」
『それに僕も第五形態に進化したからね! TYPEもガーディアンになってスキルも一つ増えたし! …………まあ、相変わらず制限とクールタイムが厳しくて使いどころの限られるスキルで、それ以外には僕のMPとステータス補正が少し上がったぐらいだけど』
そう、つい先日フェイちゃんは第五形態に進化したのだ。その際に新しいスキルも覚えてミュウちゃん曰く『制限とクールタイムがキツイのですが、威力はかなりのものなのです!』との事。
…………さて、かなり話が脱線したけど、そろそろ話を元に戻して道中受けるクエストを決めようか。
「…………ところで道中受けるクエストはどうしますか?」
「そうだな…………ここは鉄板のキオーラからクレーミルへの冒険者ギルド配達物の移送でいいんじゃないか?」
「なんのひねりの無いクエストだけど、無難にそれでいいんじゃない?」
『報酬も良いしね』
今はキオーラからクレーミルの間に山賊団や<UBM>が確認されているせいでこの手のクエストは結構いっぱいあるし、報酬もかなり高めに設定されているみたい。
…………その分、難易度もそれなりに高く設定されておりギルドランクが高くないと受けられないものもあるが、これでも私達は結構色々な依頼を達成しているからギルドランクもそれなりに高いので問題ないんだけどね。
「それじゃあこの【配達依頼──クレーミル冒険者ギルド ギルド間配送】のクエストを受けてから出発するか」
「いいよー」
「おっけーなのです」
そういう訳で、私達はクエストを受注して依頼の配達物を受け取った…………誰がこの配達物を持つのかについては、話し合いの結果【
そうして一通りの準備を終えた私達は、馬車に乗って一路“城塞都市クレーミル”へと向かう事になったのだった。
◇
港湾都市キオーラを出発してからしばらく、私達は道中出るモンスターを問題なく蹴散らしながらクレーミルに向かっていた。
…………そしてその途中、周りにまばらな木々がある林道に差し掛かった時、私の直感がこの先にある
「…………んー?」
「どうしたミカ。…………また何か感じ取ったのか?」
「今度は何なんですか、姉様」
私が虚空を眺めながら訝しげな表情を浮かべていると、それにすぐに気付いた二人が馬車を止めてどうしたのかと問いかけてきた…………二人共察しがいいね。
…………その問いにすぐ答えたいのは山々なんだけど、私の直感は言葉にするのは難しいんだよなぁ……。
「うーん。…………多分、このまま先に進むと私達に危険が訪れると思う……?」
「それじゃあ道を変えた方がいいか?」
お兄ちゃんはそう言ってくれるけど…………今回の遠い勘は“ただ危険を避ければいい”みたいな単純なものじゃないみたい。
「でも…………この先の危険を乗り越えられれば得られるモノがあるかも……?」
「では、このまま先に行った方がいいのです?」
「それがどうも、ここで解決しないと悲劇が起きるって感じじゃないと思うんだよね」
この先の危険を避けるか、それとも危険に飛び込んで何かを得るかって感じかな…………どうも、今回の遠い勘はかなり曖昧な感じらしいね。
「ふむ…………ミカ、この先の危険は俺達でどうにかなるモノなのか?」
「ムムム…………何とかならない事も無いけど、コッチに犠牲が出る可能性もあるかな。…………それに、クエストの達成や三人揃ってのクレーミル到着も難しくなるかも」
どうやら、このデンドロであったこれまでの事件と違って、必ずしも私達が解決する必要が無いタイプの事件みたいだね。
「…………成る程、つまり得られるモノがあるからと言ってクエストや旅行予定を変えてまで危険に飛び込む必要があるか、と言う話か」
「うん、そんな感じ」
ちなみに危険を避けた場合には、何事も無くクレーミルに着いてクエストを達成出来るらしい。
…………そんな風に私とお兄ちゃんが悩んでいると、突然ミュウちゃんが顔を上げて言った。
「…………この先へ進みましょう、兄様、姉様」
「ミュウちゃん……」
「私達がこの<Infinite Dendrogram>をやっているのは、この世界で
…………私達三人には一つの共通点がある。それは『他者より秀でた才能がありながら、その自分の才能が嫌いなこと』だ。
一応、私は自分の才能についてはある程度割り切っている
明言はしていないけどお兄ちゃんやミュウちゃんも同じ様に、この世界で自分の才能に向き合うきっかけを探しているんだよね……。
「…………そうだな、ミュウちゃんの言う通りだな。…………それにゲームをプレイするならば、リスクに尻込みせずに求めるモノに向けて突っ走っていくのが正しい楽しみ方だろうよ」
「そうだね! せっかくのゲームなんだからどんどん挑戦していかないと!」
「そうなのです!」
確かに、ちょーっとシリアスに考えすぎたね…………せっかくのゲームなんだし、安全策をとらずにもっと楽しんでもいいよね!
…………それに、今の方が危険をどうにか出来る可能性は高い気がするしね。
「じゃあ、この先に進むとして…………準備はどうすればいい?」
「そうだね…………馬車は仕舞って徒歩で行った方がいいかな? あとは拘束系と回復系の【ジェム】を私達にちょーだい」
「分かった」
それでお兄ちゃんが馬車を仕舞い召喚モンスターのブロンを召喚解除して、更にいくつかの【ジェム】を私とミュウちゃんに渡してくれた。
「さて、準備はこれでいいか」
「はい兄様! …………目標は誰もデスペナにならずにクレーミルにたどり着く事です!」
『頑張ろう、ミュウ!』
「よーし! 頑張ろう!」
こうして、準備を終えた私達はそのまま危険の待つ林道を歩いていった。
◇
そうして林道をしばらく歩いていると、後ろから
『なーんか、後ろから嫌な感じがするんだけど……』
『はい、先程から尾けられていますね。この視線のネチッこさからしておそらく相手は人間、件の野盗だと思います』
『こちらの索敵系スキルでは後ろには反応が無いな。おそらく何らかの隠密系スキルを使っているんだろう。…………向こうの出方を見るまでもう少し歩くぞ』
お兄ちゃんに言われた通り、後ろに気づいていないフリをしつつ歩いていくと、前方の森からから人の気配がした。
『……あと、前方に人が十一人いるな。コッチは隠す気は無いらしい』
『あからさまにこちらに害意を向けているので《殺気感知》にも反応がありますね』
『という事は、後ろを隠す為の囮かな? ……じゃあ、後ろに気付いていないフリをして声を掛けてみるよ』「……その辺の人達! いったい何の様かな?」
そんな風に私が声を上げると、前方の森から十人程の男達が姿を現した…………全員左手に紋章があるから<マスター>だね。
…………そして、その中に居たリーダー役と思わしき全身を黒服に包んだ長髪の男がこちらに話しかけてきた。
「お初にお目にかかります<マスター杯>の準優勝者である“万能者”レント、そしてその妹の【戦棍姫】ミカ。…………私達はPKクラン<オーヴァー・デンジャラス・ブリゲイト>、そして私はそのオーナーであるシュバルツ・ブラックと申します」
「…………随分と黒そうな名前だな」『どうする? 先制攻撃で潰すか?』
「アバター名は人の自由だしいいんじゃない?」『うーん、それはやめた方がいいかも。……というか、コイツらが“私達に襲い掛かる危険”って
「“ダーク”や“ノワール”が付いていないからまだ黒くないと思うのです」『それでは、本当の危険が来るまで適当に時間を稼ぎましょうか。……あと、後ろの相手には私が対処するのです』
相手の黒黒さん(仮称)の話に適当に答えながら、私達は【カフス】を使って今後の行動方針を話し合っていく。
…………ちなみに、その適当な返答を聞いた黒黒さんはイラついているのか顔を引きつらせていた。
「…………と、とにかく! 貴方達には私達の名を高める為の生贄になってもらいます!」
「ふーん」『リーダー以外の視線が俺達の後ろの方に向いているから奇襲がバレバレなんだが……』
「へーん」『あと、連中の後ろの見えないところで何かしているヤツもいるね。身体で隠しているみたいだけど露骨すぎ』
「ほーん」『後ろの相手が攻撃の意を見せ始めたので少し下がるのです』
そんな感じで適当な相槌を打って相手を煽りつつ、さりげなくミュウちゃんが後ろに下がったので私とお兄ちゃんはそれを庇うようなフリをして前に出た。
…………それはそれとして、あのオデブ(略)メンバーは戦術は悪くないんだけど技術がいまひとつだね。正直、リーダーの黒黒さん以外はあんまり強くなさそう。
「ギギギ……そ、そんな余裕な態度を取って居られるのも今のうちですよ!」
「別に余裕って訳じゃ無いんだけどねー」『本命の危険はもうそろそろ来るみたいだし』
「煽り耐性無いな」『そうか、とりあえずいつでも動けるようにはしておくか』
「実に面倒くさいのです」『後ろのヤツが私を狙っている様なので対処しますね』
適当に返答しつつ本命の危険に備えていると、黒黒さんが表情を消して、おそらく<エンブリオ>であろう木製っぽい槍を取り出した…………怒りすぎて一周回って冷静になったのかな?
そして、それに合わせる様に他のオデブのメンバーも各々の武器を構えた。
「………分かりました、もうお喋りはいいでしょう。………貴様等を俺の槍の錆にしてやろう!」
「《スニーク・レイド》!」
黒黒さんが派手な動作で剣を振りかざしつつ声を張り上げるとほぼ同時に、背後にいたオデブメンバーがミュウちゃんに奇襲を仕掛けた…………いきなり態度を変えた事も、自分に注意を引きつけて後ろからの奇襲を成功させ易くする為みたいだし、実は結構冷静だね。
…………でも、
「よっと」
「なっ⁉︎」
その背後から首筋を狙った一撃を、ミュウちゃんは後ろを見る事すらせずに僅かに身を逸らすだけの動きで躱し……。
「《目潰し》」
「ギャア⁉︎」
「《金的蹴り》」
「アゴォ⁉︎」
そして、そのまま後ろを向いたミュウちゃんは手をチョキの形にして相手の目に突き刺し、それに怯んだ相手の懐に潜り込んでその股間を全力で蹴り上げた…………ちなみに《目潰し》の追加効果は一定時間の【盲目】、《金的蹴り》は攻撃対象が男性の場合だけ高確率で【硬直】の状態異常に出来るらしい。
「ふう……とりあえず片付いたのです」
「アーソウダネー……」
なんか一仕事終えてドヤ顔しているミュウちゃんを見て、オデブメンバー(とお兄ちゃん)がめっちゃ引いてるんだけど……。
ちなみに奇襲してきた相手は地面に倒れこんでピクピクと痙攣している…………このゲームでは痛覚無効があるから【硬直】の状態異常で動けないだけだと思うんだけど、なかなか酷い絵面だね。
「…………ハッ! だ、だが、まだ手は残っている! やれ!」
「あ、ああ! 《クリムゾン・スフィア》!」
流石はクランオーナーと言うべきか、オデブメンバーの中でいち早く立ち直った黒黒さんが後ろで準備をしていたメンバーに指示を出した。
指示されたメンバーはどうにか動揺から立ち直り、他のメンバーの前に出てきて手に持った杖から巨大な火球をこちらに向けて撃ち放った…………普通の《クリムゾン・スフィア》と比べても倍ぐらい大きいね。多分、魔法発動隠蔽と魔法威力増大の<エンブリオ>かな?
…………それに対し、こちらは私が一人で前に出て、
「《エフェクトバニッシュ》!」
「なぁ⁉︎」
そのスキル効果が載った【ギガース】を叩きつけられた火球は
更に無効化したスキルを一定時間封印する効果もあるので、相手はしばらくは《クリムゾン・スフィア》は使えなくなる。
「……戦術としては悪くなかったけど、ちょっと
「くそッ!」
私の挑発に対して黒黒さんは顔を怒りに歪めながら悪態をついていた…………他のメンバーも二連続の奇襲をあっさり凌がれた所為で傍目にも分かるぐらいに動揺してるね。
さて、私の直感だとそろそろ…………っ! 上から!
『上から来る! 後ろに飛んで!』
『はい!』
『分かった!』
その直感に従い私は【カフス】を使って二人に指示を出してそのまま全力で後方に飛び、指示を受けた二人も同じ様に後方に飛んだ。
「一体何を? ……ッ⁉︎ 全員敵しゅドガアアアアァァァァ────ァァァン!!
その行動を訝しむ黒黒さんだったが、その直後に反応した《危険察知》に気付いて他のメンバーに指示を出そうとし…………その声は上空から先程まで
…………私は直ぐに自分が見たモノを二人に伝えた。
『あの光、AGIが一万近くある私の目でも追えないぐらいの速度…………
『成る程。…………そして、ソレを撃ったのは上のアイツか』
そう言われてオデブメンバーの向こう側の上空を見ると、そこには機械で出来た黄金の
…………そして、その一本角が生えた人型部分の頭部の上には【磁改奇馬 マグネトローベ】の文字が浮かんでいた。
「<UBM>⁉︎」
「そんな! どうして……⁉︎」
驚いているオデブメンバーを尻目に、上空の【マグネトローべ】は私達から見て彼等を挟んだ向こう側の地面に降りてきた。
地面に降り立ったヤツは私達を……否、
『劣化“化身”15体確認。……内一体ガ超級職【戦棍姫】』
その言葉と共に【マグネトローべ】はコの字型になっていた左手を開いてT字型にし、更に右手も同じ形状に変形させて、その両手から青白い
どうも発言からして私が狙いなのかな…………コイツが本来の“私達に襲い掛かる危険”みたいだね……
『コレヨリ、知覚範囲内ニオケル劣化“化身”ノ殲滅ヲ開始シマス』
…………そうして戦闘準備を終えた【マグネトローべ】は、両手のビームサーベルを構えながら馬の下半身を全力で駆動させ勢いよくこちらに突っ込んできた。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
三兄妹:今回共通点が発覚
・あと、三人共PKとかには基本的に容赦はない。
フェイ:今回第五形態に進化
・他の強化点は《エール・トゥ・ザ・ブレッシング》のレベルが五になりSTR・END・AGIの上昇率と魔法系被ダメージの減算率が30%になった事。
・《エコー・オブ・トゥワイス》や必殺スキルは効果時間五分のままで、効果も変化なし。
【護身術家】:護身術家系統下級職
・格闘系ジョブの一つで危険を避ける為のスキルを多く覚えるジョブ。
・ただし、豊富な汎用スキルを覚える代わりにそれらの個々のスキルレベルは低い。
・またステータスの伸びが非常に低いので、他の汎用スキルを取得出来るジョブと比べると人気はあまり無い。
《逃走》:逃げる際にAGIを上昇させるパッシブスキル
・【護身術家】以外にも【盗賊】などのジョブでも覚える汎用スキルの一つ。
《護身打撃》《護身投擲》:【護身術家】のスキル
・それぞれ打撃・投擲を相手に当てた場合、一定確率で相手を【硬直】の状態異常に出来るパッシブスキル。
・ただし、その際のダメージ量が相手の最大HPの5%以下である事(ゼロでも可)が発動条件になっている。
・相手の顔面や急所に当てた場合、相手のステータスがこちらを上回っていた場合には【硬直】発生確率が上昇する。
・ちなみに【硬直】は短時間動きを封じる【拘束】の下位状態異常。
《エフェクトバニッシュ》:【戦棍姫】の第二スキル
・対象のスキルを封印出来る時間は無効化した時の自身の攻撃力と対象のスキル強度で決定する。
・スキルの強度に対し自身の攻撃力が足りなければ無効化出来ず、スキルを無効化した際にはメイスに相応の負担が掛かる。
・なので、自身の攻撃力とメイスの強度を上回る様なスキルは無効化出来ない……【覇王】のスキルとか。
<オーヴァー・デンジャラス・ブリゲイト>:アルター王国のPKクランの一つ
・基本的にティアンは狙わず<マスター>のみを狙う、アウトロー的ロールを楽しむ割と真っ当なPKクラン。
・オーナーのシュバルツ・ブラックは本人の実力も決闘ランカーレベルで、クランを纏めるオーナーとしての能力も十分高い現在のアルター王国のPKとしては上の方の<マスター>である……弱点は煽り耐性が少し低い事。
・クレーミル周辺を縄張りにしており、<バビロニア戦闘団>とも何度かやりあっている。
・数や質の差を覆す戦術を立てるところも含めて結構優秀なPKクラン……なのだが、今回は相手と状況が余りにも悪かった。
【磁改奇馬 マグネトローべ】:伝説級<UBM>
・目的は
・ちなみに道を変えていれば探知範囲には引っかからなかった模様。
・あと、フラグマンは一切関係していない。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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VS【磁改奇馬 マグネトローベ】前編
今回は長くなったので前後編に分けます。では本編をどうぞ。
◾️ 【磁改奇馬 マグネトローベ】
『劣化“化身”15体確認。……内一体ガ超級職【戦棍姫】』
現在、
だが、その対象を含む三体の劣化“化身”は事前にこちらの攻撃を察知して回避した…………よって、私は対象の脅威度を上昇させると共に地上に降りて全力戦闘を行う事にした。
『コレヨリ、知覚範囲内ニオケル劣化“化身”ノ殲滅ヲ開始シマス』
その宣言を人型の頭部から発すると共に、まず私は目の前に居る11体の劣化“化身”を排除しようと、人型部分の両手から《プラズマ・ブレード》を展開し
「来るぞ! 全員散k『遅イ《
一団の中に居た黒服の劣化“化身”が周りの奴等に指示を出そうとするが、それよりも早く私は《磁界制御》を使って急加速した…………このスキル《磁界制御》は自身を中心とする半径約十メートルの空間で磁力を発生・制御するスキルであり、今はそれによって私の金属製の身体を前方に弾く事で加速しているのだ(《電磁加速》にはクールタイムがある)
そのまま浮き足立っている奴等に接近した私は両手の《プラズマ・ブレード》によって、まず二人の劣化“化身”の身体を焼き切った…………奴等もそれなりにいい防具を装備している様だが、オリハルコンすらも容易く溶断出来るこの《プラズマ・ブレード》にとっては問題にはならない。
「クソッ! 《パワースラッシュ》!」
「《ストーム・スティンガー》!」
「《レーザー・ブレード》!」
次の瞬間、左から斧を振りかぶった劣化“化身”が、右からは槍を構えて高速で突っ込んで来る劣化“化身”が、後ろからは光を纏わせた劣化“化身”が襲いかかってきた…………中々良い連携ではあるが、武器が
『逸レロ』
「「「ナニィ⁉︎」」」
それらの攻撃を私は《磁界制御》によって磁力を操作して、奴等の武器の軌道を逸らす事によってその攻撃を全て自分から外した。
そのまま攻撃して来た三体を含む効果範囲内に入った劣化“化身”供が装備している金属製武具を磁力によってその場から動けない様にし、両手の《プラズマ・ブレード》でまとめて焼き切った。
…………その間、最初に指示を出していた黒服の劣化“化身”は私から距離を取っており、【戦棍姫】を含む三体の劣化“化身”は先程から遠巻きにこちらを観察していた。
『(さて、今の攻撃で五体は消せたからこの一団の残りは
なので、その三体が固まっている方向に人型部分の頭部に付いている一本のツノを向け、そこを基点にして魔法を発動させた。
『《サンダー・スマッシャー》』
「「「ぎゃああああァァァ⁉︎」」」
ツノから放たれた上級職の奥義に匹敵する威力の雷撃が三体の劣化“化身”を飲み込み、その準備していた魔法を霧散させた…………とはいえ、三体を攻撃範囲に収める為に雷撃を拡散させた所為で仕留めきれなかったので、《磁界制御》によって加速して《プラズマ・ブレード》で三体共焼き切った。
…………これで眼に映る範囲の劣化“化身”は黒服と【戦棍姫】の一団のみになった。
「クソが! 散会しろっつったのに……。ていうか、お前達も遠巻きに見てないで手伝えよ!」
その光景を見た黒服の劣化“化身”が、その後方の【戦棍姫】を含む三体の劣化“化身”に声をかけたが……。
「いや、いつ後ろから撃って来るか分からない相手と共闘なんて無理だから」
「PKしに来たのに虫が良すぎるよ」
「まあ、こちらから貴方達を襲う事はしませんのです」
「チクショォォォ‼︎」
そんな言葉を黒服の劣化“化身”に言い放った【戦棍姫】を含む三体の劣化“化身”はそのままこちらの観察に戻った……この一団とあちらは協力関係にはないらしいな。
…………では、先にこの一団の残り
「だったら俺一人で<
そう叫んだ黒服の劣化“化身”は手に持った木製の槍を持ってこちらに襲い掛かって来た…………コイツの装備は全て非金属製だから《磁界制御》は意味がないな。
…………なので、私は両手の《プラズマ・ブレード》で迎撃する事にしたが……。
「クッ! そラァ!」
『ム……』
黒服の劣化“化身”は私の《プラズマ・ブレード》による攻撃をギリギリとはいえ回避しながら、手に持った槍で反撃しつつこちらに接近して来たのだ…………なので、私は戦い方を《磁界制御》を使った加速・急旋回などでその周囲を走り回りながら斬り込んでいく戦法に変えた。
「クソォ!」
『終ワリダ』
私のその攻撃に黒服の劣化“化身”は徐々に対応しきれなくなり、遂にはその左腕を焼き切られた…………が、その瞬間、今まで姿を消していた劣化“化身”が背後から襲いかかって来た。
「《スニーク・レイド》!」
その劣化“化身”が短刀で私に斬りかかる…………よりも先に、私は馬体に付いている尾を相手に向けてスキルを使用した。
『《サンダー・スマッシャー》』
「グワァァァ!」
先程と違い収束されて放たれた雷撃はその劣化“化身”の身体を焼き払った…………私には電磁波で周囲を索敵する《エレクトロマグネティック・サーチ》というスキルがあり、それを常時使い続けていたので初めから姿を消していた劣化“化身”がいる事には気付いていたのだ。
…………今まで放置していたのは、単にこちらに近づいて来るのを待っていただけである。
「良くやった! くらえ!」
だが、その攻撃によってほんの一瞬だけ黒服の劣化“化身”から注意が逸れてしまい、その隙に奴は片手で槍の後端部分を持ち私の人型部分に突き込んで来た。
…………そんな持ち方では槍の穂先が当たるだけでダメージはないはずだが、奴は会心の笑みを浮かべていた。
「取った! 《
奴がそのスキルを使った瞬間、その槍の穂先が当たっている部分を中心に私の
『(…………やはり“化身”は危険な存在だな。より多くのデータを集めてかの者に送らなければ)』
そんな事を
『《サンダー・カタラクト》』
「何ィ⁉︎」
全方位に電撃を発生させる攻性防御スキル《サンダー・カタラクト》を発動させた…………このスキルは接近して来た敵を弾き飛ばす為に物理的な干渉能力を高く設定されており、主に周辺にある物理的な障害を破壊する為に使われる。
そんなスキルが直撃した黒服の劣化“化身”はダメージこそ装備していた【救命のブローチ】で無効にしたものの、その身体は電撃によって弾き飛ばされた。
『(人型部分の再構成を実行)』
その思った直後、私の破壊された部分から雷が迸り次の瞬間には人型部分が元どおりになっていた。
…………私は元々創造主達であるとある人間の科学者によって作られた“MPバッテリー付き試作型煌玉馬”であり、それをベースとした馬体に“あの者”が作成した【ハイエンド・ライトニング・エレメンタル】を人型部分として融合され生み出されたモノである。
故に雷属性のエレメンタルである人型部分は馬体部分に蓄積されたMPを消費すれば即再生可能なのだ…………まあ、人型部分は外見が機械の様になっていたり頭部から声が出せるなどして、そこが本体であるかのように偽装されているが。
『消エロ』
「ガッ⁉︎」
そして私は再生が終わった人型部分の両手から再び《プラズマ・ブレード》を展開し、黒服の劣化“化身”を頭部から真っ二つにした。
『(さて、これで黒服の一団は片付け終わったな……ッ!)』
「《竜尾剣》!」
私が次は【戦棍姫】に就いた劣化“化身”の番だと考えた瞬間、その劣化“化身”の女が身につけていた鎧に付いていたワイヤー付きのブレードをこちらに超音速で射出して来た。
私は即座に《磁界制御》によってそのブレードを逸らすが、それを見た【戦棍姫】の劣化“化身”は即座に装備していた鎧を《瞬間装着》でアイテムボックス内に収納した。
『《ヒート・ジャベリン》!』
「《ホーミング・ブレイズ》!」
その直後、もう一人の劣化“化身”の女が肩に乗せている小動物(ステータスが見えないのでおそらくその女の“化身”としての異能)がこちらに向けて複数の炎の槍を放ち、最後の男の劣化“化身”も同じく火属性魔法である複数の追尾式炎弾をこちらに向けて撃ち放って来た。
『チィ!』
先程の戦闘を見ていたのか、それらの魔法はこちらの馬体部分を正確に狙って来ていた…………が、私は速度差から最初にこちらに到達した炎の槍を《磁力操作》で横にスライドして全弾回避し、それを追って来た追尾式炎弾を両手の《プラズマ・ブレード》で打ち払う。
「せいっ!」
「とうっ!」
「《パワージェム・スロー》!」
そこにあの劣化“化身”たちはこちらに向かって一斉に
『クッ!』
それに気付いた私はすぐさまその場から離脱しようとするも……。
ドドドガガガアアアァァァ────ァァァン!!!
それらの【ジェム】は私の近くに来た瞬間に一斉に大爆発を引き起こした…………これは火属性魔法の《エクスプロージョン》か。
『……損傷確認。……軽微、戦闘ニ支障ハナシ』
…………その爆発を受けた私はダメージを受けたが、人型部分はMPさえあれば再生可能であり、馬体部分も内蔵された金属粒子を使っての再生で問題ない程度のダメージでしかない。
「ふーむ、流石にこんな攻撃じゃ倒せないか」
「あの<UBM>相当硬いですね」
「加えて再生能力持ちか……厄介だな」
そう言っている劣化“化身”達は互いにやや距離を取りつつ、こちらを油断なく見ながら戦闘の構えを取っていた…………私に内蔵されている《MP蓄積バッテリー》の残量からして、全力戦闘可能時間は残り二時間程か。
『……問題ナシ。【戦棍姫】含ム敵劣化“化身”トノ戦闘行動ヲ続行シマス』
全てはかつての創造主達が私に望んだ事…………この世界の悪である“化身”を駆逐する為に……。
◆◇◆
□クレーミル領内 【
今、俺達はクレーミル領内の林道で、PKクラン<オーヴァー・デンジャラス・ブリゲイト>を僅か一分足らずで全滅させた<UBM>【磁改奇馬 マグネトローベ】と相対していた。
現在、奴は先程俺達が投げた【ジェムー《エクスプロージョン》】の爆発でダメージを負っており、今はそれを再生させているところだ…………なので今のうちに【テレパシーカフス】を使って妹達と状況を確認していこうと思う。
『まあ、彼等の
『電撃に
『特に磁力操作が厄介なのです』
確かに、奴の磁力操作能力のお陰で俺は
具体的に言うとミカちゃんは金属製の籠手を外しただけだが、俺は弓も短剣も使えないので以前ニッサ辺境伯領で買ったレジェンダリア産の木製の杖を装備しており、ミカに至ってはメイスは基本的に金属製なので無手になってしまっている。
…………幸いな事に俺達三人は戦闘では機動力を重視しているため金属製の防具はあまり付けておらず、装備変更による戦闘能力の低下は最低限に抑えられているが。
『それでもステータスは下がっているしな。……ミュウちゃんは必殺スキルを頼む』
『分かったのです』「《
『《霊環付与》』
俺の指示でミュウちゃんとフェイが融合し、更に彼女の特典武具【ハデスルード】の持続回復スキルが付与された…………これにより今ミュウちゃんに掛かっている単体バフ効果が俺とミカにも効果を及ぼす様になる。
また、事前にミュウちゃんには単体バフ魔法と炎熱・雷耐性レジスト魔法を込めた【ジェム】を使って貰っており、それらの効果も俺達に掛かってくれる筈だ。
「(更に俺とミカもそれぞれ単体バフ魔法の【ジェム】を使っている上に、俺が使ったパーティー全体バフ魔法の効果もあるからな。……単体バフ魔法と全体バフ魔法は併用出来ないが、全体バフ魔法を使いながら単体バフのアイテムの使用は出来るのは良かった)」
さて、これでこちらの準備は整ったな…………あちらは……。
『……問題ナシ。【戦棍姫】含ム敵劣化“化身”トノ戦闘行動ヲ続行シマス』
…………どうやら再生は終わったようだな。
その【マグネトローベ】は両手のビームサーベルを振りかざして、更に身体から青白い電撃を走らせている……?
「ヤバっ⁉︎ 私から離れて!!」
「「ッ!」」
その焦った様なミカの指示に対し、俺達は即座にその場を全力で飛び退いた…………次の瞬間、全身に青白い電撃を纏った【マグネトローベ】が
その進路上にいたミカはとっさに【ギガース】を紋章から取り出して防御したものの、奴が超高速移動しながら振るったビームサーベルに弾き飛ばされてしまった…………奴め、最初に撃ったレールガンらしきスキルを自分自身に使いやがったな!
そうやってミカを弾き飛ばしながら通り過ぎていった奴は、そのまましばらく進んだところで静止した。
「《ヒート・ジャベリン》!」
『《ブレイズ・バースト》!』
『《サンダー・カタラクト》』
そこに俺とミュウちゃん(と融合しているフェイ)は攻撃魔法を浴びせ掛けるが、奴は全方位に発生させた電撃でそれらの魔法を相殺した…………とりあえずそのまま魔法や【ジェム】を放って奴を牽制しつつ、ミカに【カフス】で連絡を取る。
『おいミカ、無事か?』
『なんとかね。……アイツのビームサーベルを【ギガース】で防いだ時に、勢いに負けて吹き飛ばされただけだから』
『良かったのです』
…………こうやって念話をしている間にも攻撃は続けているのだが、奴は磁力操作で自身を不規則に移動させたり、両手のビームサーベルでこちらの攻撃を切り払ったりしているので目立ったダメージは与えられない…………更に、まれに攻撃が当たった時でもすぐさま再生されてしまうので決定打にはならない様だ。
一応、事前に俺とミュウちゃんはMPを持続回復させるポーションを使っているが、このままでは特典武具のスキルでMPの回復が出来るミュウちゃん達はともかく俺はMPが切れるだろうし、持っている【ジェム】の数にも限界がある。
『……このままだとジリ貧だからまずは接近戦を挑むぞ。狙いは馬の方、俺が最初に動きを止める』
『了解。じゃあ次に私が突っ込むよ』
『まとめて行くと電撃で一網打尽にされますからね。三方向から時間差で行きましょう』
…………そうやって簡単に作戦をまとめると俺達はそれぞれ行動を起こした。
まず、俺は動きを止める為の魔法を発動させつつ、アイテムボックスから【ジェムー《アクアバインド》】を四つ取り出した。
「《グランド・ホールダー》! 《バラージスロー》!」
魔法が発動した瞬間【マグネトローベ】の周囲から土で出来た腕が四本生えてその身体を掴もうとし、更に俺が投げた四つの【ジェム】から一本ずつ水の縄が奴に向かって伸びて行く。
『ム』
だが、奴はそれらの拘束魔法を両手のビームサーベルで次々と斬り払って無効化して行った。
…………とはいえ、そのせいで奴の動きは一瞬鈍ったので、その隙にミュウが【ギガース】を振りかざして奴の正面から突撃した。
「そりゃあ!」
『止マレ』
その突撃を奴はミカが振りかぶったままの【ギガース】を磁力操作で停止させる事で防ぎ、そのまま動きの止まったミカにビームサーベルを振るい…………その攻撃を
「せいっ!」
『《サンダー・カタラクト》』
無手になって奴のビームサーベルによる斬撃を掻い潜って接近したミカはそのまま殴り掛かろうとしたが、奴の全方位電撃で吹き飛ばされた。
…………まあ、ミュウちゃんの《エール・トゥ・ザ・ブレッシング》の魔法ダメージ減少と雷耐性のお陰でダメージは大した事はなく、何より全方位攻撃を
そして、ミカが弾き飛ばされるのとほぼ同時にミュウちゃんが奴の背後から接近した…………だが、奴は尻尾をミュウちゃんに向けて魔法を発射しようとしていた。
『《サンダー・スマッシャー》』
「ッ! 無駄なのです!!」
その尾から拡散型の電撃が放たれるが、ミュウちゃんは自身に掛かっている魔法耐性効果を頼りに電撃の中を突っ切った…………しかし、ダメージは無くとも僅かにその動きは鈍ってしまった。
…………そんなミュウちゃんに対して、奴はその
「なっ⁉︎ 離脱するのです!」
『偽装解除、攻撃』
奴のその姿に危険を感じたのか、ミュウちゃんは即座にその場から飛び退いた…………次の瞬間、奴はビームサーベルを展開している
…………幸い、先にその場から離脱したお陰でその攻撃はミュウちゃんに当たる事は無かった。
『《クリムゾン・スフィア》!』
『回避』
距離を取ったミュウちゃんは融合していたフェイが準備していた《クリムゾン・スフィア》を【マグネトローベ】に放つが、奴は磁力操作で宙に飛び上がりそのまま空を走って俺達から距離を取った。
…………それを見た俺とミカは即座に遠距離攻撃での追撃を図った。
「《ストライク・ブラスト》!」
「《ロングスロー》!」
『回避困難、防御』
空を駆ける奴に対し、ミカは取り出した【ギガース】で衝撃波を放ち、俺はやや遅れて【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】を投擲した…………奴はミカの衝撃波こそ回避したものの、その回避先に投擲した俺の【ジェム】は避けきれずに巻き起こった火球に飲み込まれた。
…………妙だな? これぐらいの攻撃なら奴は磁力操作による不規則な起動で回避出来た筈だが…………どうやら、奴は地上よりも空中の方が動きが鈍くなるようだな。
「……と言っても、このぐらいでは仕留めきれないだろうが……!」
『《サンダー・アロー》掃射』
火球の中から出てきた奴はビームサーベルを解除した腕をこちらに向けて、そこから何十発もの雷の矢をこちらに撃ち放って来た…………この矢は速度が速い上に広範囲にばら撒かれている為回避は難しいが、その威力は低いので耐性を上げている俺達には大したダメージにはならない。
…………そう考えていると、奴の青白い人型の頭部に一本の
「お兄ちゃん! 最初の攻撃来るよ!!」
「レールガンか! 《魔力視》!」
ミカの警告を聞いた俺は《魔力視》で奴の角を注視する…………あの角から磁力のレールが伸びていてその方向は……俺か!
『《
「チィ!!」
咄嗟に俺は身を翻すと、それとほぼ同時に奴の角が超高速で射出され先程まで俺が居た場所に突き刺さり、大爆発を起こして地面に巨大なクレーターを作り上げた。
…………その攻撃で怯む俺達を尻目に奴は再び地面に降り立ち、再度両手からビームサーベルを展開してこちらに向き直った。
『ダメージ許容範囲。再生シツツ戦闘続行』
「やれやれしぶといね」『ミュウちゃん必殺スキルの残り時間は?』
「かなり硬いのです」『残り四分なのです』
…………そのミュウちゃんの答えを聞き、俺はこの戦いは相当に手間取りそうだと内心ため息をついた。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
三兄妹:三人とも“後ろから撃って来るかもしれない相手との共闘とか無理”と考えるタイプ。
・一応、妹の直感で『共闘したら最後の方で裏切りそう』と出たので当て馬にする事にしたというのもある。
・ちなみに妹の【ギガース】は構造が単純でスキルも少ないので、紋章は出し入れする時間が非常に短い。
《ホーミング・ブレイズ》:【紅蓮術師】の魔法
・敵を追尾する炎弾を発射する魔法。
・追尾術式が組み込まれているせいで威力・弾速共に《ヒート・ジャベリン》には劣り、主に牽制用に使われる事が多い。
<オーヴァー・デンジャラス・ブリゲイト>:今日最も運の悪かったPKクラン
・今回の敗因は妹二人の強さを見たり、初めて<UBM>に遭遇したりしたせいで動揺してまともに戦えなかった事。
・あと、クレーミルで売っている高性能な金属製防具を着けているメンバーが多かった事も敗因になっている。
シュバルツ・ブラック:初の<UBM>戦にしては健闘した方
・彼の<エンブリオ>は【滅神呪槍 ミスティルテイン】と言い、主に対象のステータスが高い程効果が上がるスキルを複数持つ木製の槍型アームズ。
・必殺スキル《其れは戦神を穿つ槍》は穂先が当たった相手に対し、その対象のMP・SPの十分の一及びSTR・END・AGI・DEX・LUCの内一番高い数値の五倍の防御・身代わり効果無視の固定ダメージを与えるスキル。
・本人が身軽さとかっこよさを重視して金属製防具を着けていなかったので、唯一【マグネトローベ】と互角に戦えた。
【磁改奇馬 マグネトローベ】:伝説級<UBM>
・元は先々期文明時に作られたMP蓄積バッテリー搭載試作型煌玉馬(非フラグマン製)を、とある存在が改造して出来た<UBM>。
・戦闘時にはMP消費の激しい各種スキルを連発するスタイルを取っているが、事前にエレメンタル部分で生成したMPを馬体部分に搭載されたMP蓄積バッテリーに溜め込む事で解決している。
・空中走行時には磁力の反発を使い空中に擬似的な足場を作る方式をとっており、磁力操作のリソースを足場生成に割り振っているせいで磁力を使った急加速・急旋回などはやり難くなっている。
・とある存在から『地上に増えた劣化“化身”の戦力調査』を頼まれたが、本人が『“化身”は絶対に滅ぼすべき』という思考であり、『
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VS【磁改奇馬 マグネトローベ】後編
□クレーミル領内 【
俺は現在、妹達と共に上半身が雷で出来た人型、下半身が機械の馬という<
『排除』
「チィ! 《ヒート・ジャベリン)!」
今は地を駆けている奴の振るう
また、奴は上半身のもう一本の腕も同じ様に伸びており、そちらはミカの方に振るわれていた…………幸いにも腕の速度自体は
『回避』
「あー!! また逃げた!」
その炎の槍を奴は磁力を操ることで一時的に自身の身体を加速する事によって回避し、それと同時に距離を詰めようとしていた俺達から遠ざかった…………そう、腕のリーチが大幅に伸びた所為で奴に近付く事が非常に難しくなっているのだ。
更にあのビームサーベルは耐性バフを受けている俺達ですら直撃すればやられかねない威力なので、回避するしかないのも距離を詰められない事に拍車をかけている。
…………距離を取った奴に対し、一番近くにいたミュウちゃんが横合いから接近するが……。
『《サンダー・スマッシャー》』
「くっ!」
それを奴は馬の
…………雷と言うのが厄介で速度が速くて避けにくい上に、耐性バフでダメージ自体は少なくても電撃で筋肉が萎縮するせいで僅かに動きが止まってしまうのが最も厄介だ。
今も一瞬動きが止まったミュウちゃんに対して奴は腕を伸ばしてビームサーベルを振るい、それをミュウちゃんはギリギリで回避しつつ距離を取っている。
『《ブレイズ・バースト》!』
「《ヒート・ブラスター》!」
『《サンダー・カタラクト》』
距離を取ったミュウちゃんと融合しているフェイが奴に向けて拡散する炎の砲撃を放ち、俺も【
…………あの全方位雷撃も厄介なんだよな。下手な範囲攻撃は防がれる上に、近づいた相手を弾き飛ばす事も出来るから距離を詰めても安心出来ん。
それでも奴の動きは止まったので、その間に超音速機動が出来るミカが接近するが……。
『跳躍』
「ああもう! 《ストライク・ブラスト》!」
奴は磁力操作による大跳躍で上空に移動して、そのまま宙を走り出した…………それに対してミカは【ギガース】を取り出して衝撃波を放つが、奴は宙を駆けてそれを回避した。
…………空中を移動する奴は地上と比べてやや動きが鈍る様だが、こちらはそもそも空を飛べない上に対空攻撃手段も限られているので地上戦よりもやり難い。
「《バラージ・スロー》!」
『《ロック・ジャベリン》!』
それでも何もしないよりもマシだと、俺とフェイは空を駆ける奴に対しそれぞれ複数の【ジェムー《エクスプロージョン》】を岩で出来た槍を放った。
…………だが、それと同時に奴の身体に青白い電流が走り……。
『《
直後、超超音速まで加速した奴はそれらの攻撃を振り切りながらその場を離脱した…………そう、奴はあの超加速スキルを主に回避に使用し出したのだ。
あの加速スキルはチャージに少しだけ時間が掛かり使用後に僅かだが磁力操作を使えない時間が出来る様で、更にその移動方向を俺は《魔力視》、ミカは直感、ミュウちゃんは洞察力によって事前に見切る事が出来るため、
…………何せあの速度で離脱されると流石に追い切れないし、使用後の磁力操作不能時間も落下中に終わる程度のものなので空中での回避に使った場合にはさしたる隙にはならないのである。
そうやって奴が距離を取って地面に着地した時、ミュウちゃんから【テレパシーカフス】で連絡があった。
『……兄様、必殺スキルの残り時間は後二分なのです』
『……そうか』
…………そう、一番の問題はこうやって時間を稼がれている所為で、ミュウちゃんの必殺スキルの制限時間が迫っている事なんだよなぁ。
とりあえず、奴が自身の損傷を回復させている隙にこちらもポーションでMPなどを回復させる…………《魔法発動加速》や《魔法威力拡大》とかの魔法拡張スキルも使っているからMPの消費が非道いんだよなぁ。
そして、それと同時に妹達と作戦を立てていく。
『ミカ、《エフェクトバニッシュ》で奴のスキルを封じられないか?』
『無理。あいつ【
『ステータスに寄らない技量も相当高いですよね』
…………確かにミカに対しては雷属性魔法を殆ど使って来なかったし、常に自分が磁力操作出来る空間をミカに近づけないか逆に完全にその範囲に入れるかしていたな。
コッチの最大戦力のミカがあまり機能していないのがキツイな、メイスという武器種は金属製の棍棒を指す物だし…………それに、ミュウちゃんの言う通り奴はスキル頼みの相手じゃないから隙も少ないし。
…………そんな事を考えているとミカがとある提案をしてきた。
『いっそ私の必殺スキルを使う?』
『……いやダメだな。お前の必殺スキルはデスペナ確定だし、何より分かりやすいから奴が逃げに徹する可能性もある』
確かにミカの必殺スキルなら奴を叩き潰せるかも知れないが、空中を移動出来て一時的とは言え超超音速機動が出来る奴相手だと逃げられる可能性が高い。
…………今のところ俺達が奴と戦っていられるのは、奴自身がこちらに向かって来るからなのも理由の一つだからな。
『とりあえず、ミュウちゃんの必殺スキルの時間切れまでは使うなよ』
『分かったよ、お兄ちゃん』
『そうですよ姉様、デスペナしたら一緒に旅行が出来ないのです! ……それに、これまでの戦闘で奴の動きはおおよそ見切りましたのです』
そう、別に俺達だってこれまでただグダグダと戦い続けてきた訳じゃない…………これまでの戦闘では敢えて全力を出さずに相手の能力を見る事を優先して来たのだ。
…………それに再生能力がある所為で一度の攻撃で仕留めきらないと詰むし。
『時間も無いから、次の攻撃では今まで温存していた手札も全て使って仕掛けるぞ。……狙いは奴の足だ』
奴は空中を移動する際にも“空を駆ける”という方法を使っていたから、馬の部分の足を奪えば移動速度は大きく落ちる筈だ…………問題は奴の再生能力と胴体部の装甲の頑丈さだが……。
『じゃあ、足は私が何とかするよ』
『胴体部の装甲は私とフェイの新スキルで破壊します。……なのでフォローは任せました、兄様』
『了解。……それじゃあ行くか』
そんな感じでかなりアバウトに作戦を立てた俺達は、こちらに向かって来る【マグネトローベ】と相対した…………何分、あまり時間が無いんでな。
…………それに、この二人ならこの程度の指示で十分だろうよ。
「《不治呪瘴》」
『迎撃』
まず最初にミカが特典武具(非金属製)【ブラックォーツ】が有する自分の攻撃に【再生阻害】効果を付与するスキル《不治呪瘴》を使いつつ、こちらに迫って来る奴に
その一見無謀に思える突撃に対して、奴は即座にビームサーベルを展開した両手をその進行方向に置く様にしながら伸ばしてミカを斬り裂こうとする…………全速力で突っ込んでいる以上は途中で軌道変更は出来ないと踏んでの行動だろうが……。
「《闇纏》!」
『!?』
そのビームサーベルはミカの身体に
…………あのビームサーベルは確かに強力なスキルだが、スキルであるからこそミカならば一度は確実に突破出来る。
「っと、捕まえたよ!」
『! 排除!』
奴に接近したミカはそのまま相手の右前足に組み付いた…………《闇纏》は
奴は激しく動いて組み付いたミカを引き剥がそうとするが、メイスを装備していない状態でもSTRが二万を超えるミカを引き剥がす事は出来なかった…………そしてミカは片腕で奴の足を掴んだまま、もう片方の手を引き絞り……。
「《破城槌》ィ!!」
『!!』
そのままチャージの終わった【
…………その上、相手の損傷部分に黒いモヤの様なモノ──《不治呪瘴》のスキルエフェクト──が纏わり付いているのですぐには回復しないだろう。
『ッ離脱!』
だが、奴も足が破壊された事でミカの拘束が外れたのを見ると即座に磁力を操り跳躍してその場を離脱しつつ、片手のビームサーベルをオフにした上でその雷の腕で技後硬直で動けないミカを殴り飛ばした。
…………それを見ていた俺は杖を腰に挿しつつ《瞬間装備》で弓を取り出し、それに【霊樹の矢】──付加した魔法効果を増大させるレジェンダリア産の
「《カーズド・アロー》!」
『ガッ! コレハ……!』
呪術《カース・バインド》と弓系アクティブスキルを融合させたオリジナルスキルを使って放たれた矢は奴の人型上半身部分に命中し、その付加されたスキル効果である【呪縛】を増幅した上で奴に齎した…………と言っても<UBM>である奴に対しては、ほんの一瞬だけ動きを止めるのが精々だが。
…………今、奴に接近している
「フェイ、あのスキルを」
『分かった《ミラクル・ミキシング》ー《クリムゾン・スフィア》イン《シャイニング・フィスト》』
奴が動けない一瞬の隙をついて、ミュウちゃんは新スキルを使いながらその懐に潜り込み…………それに対して、動けない奴は魔法による迎撃を選択した。
『《サンダー・カタラクト》!』
「《バックステップ》」
奴が迎撃の為に発動した全方位雷撃を、ミュウちゃんはそれとほぼ同時に【
『!!』
「それの範囲とタイミングはもう見切りましたのです《ファントム・ステップ》《真撃》!」
…………その言葉通り、奴の雷撃はミュウちゃんの
そして直ぐに、ミュウちゃんは【
『迎……!』
「遅い《シャイニング・フィスト》!」
奴が迎撃のビームサーベルを振るうよりも早く、ミュウちゃんの《シャイニング・フィスト》──光属性を纏わせた正拳突きを放つ【拳聖】の奥義──がその馬体部分前面に直撃し…………その拳から
…………これがミュウちゃんとフェイの新スキル《ミラクル・ミキシング》──フェイがラーニングした攻撃魔法の一つを、ミュウちゃんが習得している格闘系アクティブスキルの一つに付加する──の効果である。
先に使った《真撃》を含めて上級職三種の奥義を重ね合わせた一撃の威力は凄まじく、奴の馬体部分の前半分を吹き飛ばし…………その馬体部分の腹部にあった
「ッ!? 二重装甲ですか⁉︎」
「コアは覆っていたか! 《瞬間装着》!」
恐らく、あの金属は話に聞く
それを見た俺は即座に弓を放り出し、装備を《瞬間装着》によって【射手の手套】を《炎熱耐性》スキルの付いた【耐火グローブ】に切り替えた上で奴に向けて駆け出した…………だが、その前に奴はまだかろうじて残っている上半身部分からビームサーベルを両手に展開した。
「ミュウちゃん!」
『ガアアアァァァ!!!』
「グッ⁉︎」
自身の必殺攻撃を防がれたミュウちゃんと追撃の為に接近していたミカに対して、奴は人型を成せないぐらいに崩れた上半身を全力で稼働させ、その両手に展開されていたビームサーベルを振るって二人を切り飛ばした…………幸いその攻撃は二人が装備していた【救命のブローチ】によって防がれたが、攻撃の威力によって二人はそのまま吹き飛ばされた。
そして、そのまま奴はビームサーベルを仕舞い…………その両手を失った前足代わりに地面に着いて態勢を整え、更に
『ガアアAAAAAA!』
「しつこい! 《
そして、その頭部をこちらに伸ばして俺を突き刺そうとしてきた…………それを避けられないと判断した俺は、
「《サファイア・ライン》!」
『ガアアァァァ!』
その右手から残りMPほぼ全てを注ぎ込み、更に《空想秘奥》によって強化もされた《サファイア・ライン》──高圧水流によるウォーターカッターで相手を切り裂く【
『ササササsAAAAAAイイイセsssイイイ!!』
…………だが、どうやら中身までは完全に破壊出来ていない様なので、俺は左手に【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】を取り出して、起動しながらその切れ目に押し込んだ。
「爆ぜろ」
『AAAAA…………マ…………タ………………』
…………その即時起動する様に設定してあった【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】はその絶大な火力で奴の装甲内部を焼き尽くし、そのコアを完全に破壊して【マグネトローべ】を沈黙させた。
◇
「…………ふう、やっと終わったか……」
…………俺は沈黙した【マグネトローべ】の残骸が光の塵になるのを見て、ようやくこの戦いが終わった事を理解した。
【<UBM>【磁改奇馬 マグネトローべ】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【レント】がMVPに選出されました】
【【レント】にMVP特典【磁蹄騎馬 マグネトローべ】を贈与します】
そんなアナウンスが流れたので、どうやら本当に奴は討伐出来た様だ…………あと、久しぶりに特典武具ゲットだぜ。
…………そんな事を考えていると向こうからミカとミュウちゃんとフェイ(もう五分経った)がこちらに向かってきた。
「はーい、お兄ちゃんMVPおめでと〜。…………って! お兄ちゃんその手!」
「ん? …………ああ、これか」
ミカに言われて自分の左手を見ると、そこには重度の【火傷】を負った手があった…………【ジェム】による自爆対策で付けていた【耐火グローブ】も焼け落ちているな。
「ふむ、ゼロ距離で《クリムゾン・スフィア》を受けたにしては大したダメージじゃないな」
「…………そんな呑気なこと言わずに回復したらどうなのです?」
「そうしたいがもうMPが無くてな……。フェイ、頼めるか?
『了解《フォース・ヒール》』
フェイが発動した回復魔法で手の【火傷】は見る見るうちに回復して行った…………ミュウちゃんのバフのお陰で【炭化】もしなかったし、あっという間に治ったな。
「…………よし、治ったな。…………助かったぞフェイ」
『どういたしまして。ほかに回復がいる人は?』
「じゃあ私も頼もうかな」
「私は《霊環付与》の効果がまだ続いているのでいいのです」
そん感じで、フェイ魔法でがミカのダメージを回復していく…………まあ、ダメージ自体は全員大した事は無かったからすぐに終わったが。
「しかし、今回はかなり苦戦したのです」
「まあそうだな。…………だが【ブローチ】と【ジェム】を大量消費したからしばらくは金策かな」
「そうだねー。…………でも! 全員生き残って<UBM>を倒せたんだし良かったよね!」
まあ、それは幸いだったな。お陰で旅行の予定も変えずに済むし…………何より自分達が強くなった事を実感出来たしな。
…………そんな事を考えていると、ミカがふと疑問に思った事を口にした。
「そういえば、あの【マグネトローべ】はなんでこんなところに居たんだろうね。…………機械系のモンスターは
「ふむ、別にこの国にも機械系モンスターが居ない訳では無いみたいだが。…………偶に見つかる先々期文明の“遺跡”の中で、昔の機械が見つかる事があるみたいだし」
「では、この近くにそういったものがあるのでしょうか?」
うーむ、そんな話は聞いたこと無いが…………或いはこの近くにまだ見つかって居ない“遺跡”があるのかもしれないな。
◇◆◇
◾️とある遺跡 【???】
『【磁改奇馬 マグネトローべ】の撃破を確認。それまでの劣化“化身”との戦闘データを解析……』
そこは先々期文明時代に作られ、強力な偽装が施されているため未だに地上の人間には見つかっていないとある地下遺跡…………その最深部にある遺跡全体のコントロールルーム。
…………そこに存在する【マグネトローべ】を
『【マグネトローべ】の戦闘データは防衛用モンスターにフィードバック。…………地上に増殖を始めた劣化“化身”の強度、及びその能力の多様性は想定以上。…………今後の《ハイパーデータリンク》による調査は、
ソレは自身が有する《ハイパーデータリンク》──自身が制作したモノとの距離を無視した情報共有を可能とするスキル──で入手した【マグネトローべ】と<マスター>の戦闘データを解析し、そのデータを開発していた量産機に反映させていた。
…………更に、今後の地上調査の為に、制作した調査用モンスター達を地上に展開していった。
『…………シェルターの防衛、隠蔽機能を再確認。…………可能な限りの強化を実行』
…………その遺跡は、元々“化身”から人々を守る為に作られたシェルターであり、ソレもその遺跡全体を管理・防衛用、及び対“化身”技術を研究する為の生体コンピューターだった。
だが、ソレは自立意思を持っていた為に<UBM>に認定されてしまったのだ。
『…………最優先事項は防衛戦力の強化、及びシェルター隠蔽機能の強化。…………ソレと並行して、地上に増加した劣化“化身”対策の技術開発を実行』
嘗てはシェルター管理用生体コンピューターだったモノ…………
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:《クリムゾン・スフィア》は上級魔法職の最強奥義だと思っている。
・妹達への指示は『あの天災児達ならそんなに細かい指示は要らないだろう』と思っているので割と適当……だが、お互いのやる事は大体分かるので完璧に連携が出来る。
・ちなみに、妹達も『何かやらかしても兄がフォローしてくれるでしょう』という感じなのでどっちもどっち。
・作中使った【霊樹の矢】や【耐熱グローブ】などの特殊な用途で使われるアイテムを旅の中で結構買い込んでいる。
【精霊樹の杖】:兄の装備
・レジェンダリア産の杖で《魔法発動加速》と《魔法威力上昇》のパッシブ装備スキルが付いていてそこそこ強力。
・特定属性特化でより安く強度の高い杖もあったが、複数の属性魔法を使う兄は魔法全体に補正がかかるこれを選んだ。
《ヒート・ブラスター》:【紅蓮術師】の魔法
・熱線を発射する魔法で、【紅蓮術師】の魔法の中では弾速が最も早く威力も高め。
・だが燃費が悪く、発動までの時間も長い(兄は本編中《魔法発動加速》を併用している)
《サファイア・ライン》:【蒼海術師】の奥義
・ウォーターカッターを発生させる魔法で射程は非常に短いが、物理的な威力は全上級魔法の中で最強。
・出力・範囲を調整した上で、ヒヒイロカネなどの高硬度物質の加工に使われる事もある。
妹:今回は相手との相性が悪かった
・《破城槌》は今回初使用。
・また【ブラックォーツ】との兼ね合いで格闘系ジョブを取ろうかどうか考え中。
末妹&フェイ:今回は新スキルを披露
《ミラクル・ミキシング》:フェイの新スキル
・発動条件として末妹の両手装備枠が未装備状態である事と、フェイと末妹が接触又は融合状態である必要がある。
・発動時には付与する魔法分のMPを消費し、その付与時間は三十秒。
・付与された格闘スキルが当たった時に付与した攻撃魔法効果が上乗せされて発動する感じになっている。
・このスキル自体のクールタイムは十分で、更に付与した魔法スキルと付与された格闘スキルは二十四時間使用不能になるデメリットがある。
・決め技が欲しいという末妹の願いにより、兄のジョブスキル強化・融合のスキルを参考にして発現した。
《ファントム・ステップ》:【拳聖】のスキル
・一歩だけ自身のAGIを三倍化した上で移動し、更に元いた場所に一瞬だけ残像を残す格闘系スキル。
・【拳士】系統はパンチ系スキルの他に、これや《バックステップ》などの歩法系スキルもいくつか覚える。
・ちなみに末妹は素で似たような事が出来るので、今まであまり使わなかった。
【磁改奇馬 マグネトローべ】:伝説級の中でも上位の実力がある
・『マグネトローべ』という名前が付いていた試作煌玉馬を改造して単独戦闘を可能ににしたが、その所為で純粋に走行能力は元となった煌玉馬と比べてやや劣化している(空中機動時に磁力操作能力が下がるなど)
・コア及び人工知能、MP蓄積バッテリーなどの重要機関は馬体部分の胴体部に収められており、その部分はヒヒイロカネを使った二重装甲になっている。
・元いた遺跡の中で戦闘シュミレーションを繰り返していたため技術もかなり高い。
・劣化“化身”調査の為に地上に出されたが、本人は『製作者達の為に“化身”は絶対倒す』という考えだったので、劣化“化身”と積極的に戦って戦闘データを調査するという行動パターンになった。
【完理全脳 アークブレイン】:【マグネトローべ】を開発した張本人である神話級<UBM>
・能力を簡単に言うと『フラグマン+フランクリンの能力を持つダンジョンマスター型神話級<UBM>』みたいなやつ。
・本編への本格登場はかなり後の章の予定。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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激戦の報酬と漸くのクレーミル
それでは本編をどうぞ。
□クレーミル領内 【
突如遭遇した<
ちなみに戦闘が始まった場所は林道だったのだが戦闘中に各種魔法をぶっ放した結果、周辺の木々がほとんど消し飛んでしまっていた…………幸い魔法の威力が高すぎて木々が消滅しているので、火災などは起きていないようだが。
「それでも燻っている火種はあるし、消火作業はしておくか。《ウォーターシャワー》」
「そうですね。……フェイ、頼むのです」
『了解。《アクアボール》』
そういう訳で俺は広域に水をばら撒く消火用魔法を、フェイは威力を調整した水属性初歩魔法で火種を消火していく…………放っておいて山火事が起こる、なんて事もこのデンドロでは普通にあるだろうからなぁ。
…………しばらく消火活動を続けて、どうにか周囲の火種を消し終わった。
「…………ふう、とりあえずこんなものか」
『大体消し終わったね』
「お疲れ様、二人共。…………これって弁償とかにはならないよね?」
ミカがそう不安そうに聞いて来たが……。
「まあ大丈夫だろう……。この辺りは街から遠いから国営の森林という訳では無いし、モンスターとの戦闘がしょっちゅうあるこの世界では戦闘時における周辺の被害はある程度お目こぼしされているようだからな。…………まあ、
「だよねー」
「よかったのです」
そういう状況でも個人的な目的ではなく、今回みたいに<UBM>との戦いとかなら罪になる様な事にはならない様だし…………旅に出る前にこの国の法律とかルールとかは一通り調べておいたからな。
…………さて、後始末も終わった事だし……。
「では、今回手に入れた特典武具【磁蹄騎馬 マグネトローべ】を見てみようか」
「おー! 待ってました!」
「どんな物なのでしょうか?」
そうして俺は贈与された伝説級特典武具【磁蹄騎馬 マグネトローべ】をその場に出してみると…………そこには一体の
「…………これは……馬ですか」
「【マグネトローべ】の下半身部分に似ているね」
「装備分類は『特殊装備品』みたいだな。…………おそらく乗り物扱いなんだろう」
その特典武具【マグネトローべ】の見た目は黒色の身体に金色の装飾が入っている機械の馬で、その背には鞍の様なものがあり手綱も付いていた…………ミカの言う通りその装飾は先程戦った【磁改奇馬 マグネトローべ】の下半身部分と酷似していた。
…………最もあちらは金色の身体に黒の装飾が付いていたので、色合い的には反転した形になっている様だが。
「まあ、こちらの方がシックで俺の好みの色合いだが」
「あっちはちょっと派手過ぎるからね」
「こちらの方が兄様には似合っていると思いますよ」
ふむ、特典武具はデザインも本人にアジャストされるのかね? …………まあ、考えても分からない事だし、とりあえず肝心のスキルの方を見ていこうか。
「…………まず《騎乗》《乗馬》スキルのレベルに応じた速度で装備者のMPを消費して地上を走る《走行》、同じく装備者のMPを消費して磁力の足場を作り空中を走れる様にする《磁蹄》、更に装備者のMPを蓄積し、それを使って他の装備スキルを使用出来る《MP蓄積バッテリー》があるな」
「やっぱり乗り物って感じみたいですね」
「戦闘能力は低めかな?」
確かに装備補正は無いし、戦闘系のスキルもない様だが…………ん?
「…………後、表記が《???》のスキルが一つあるな」
「確かそれは装備スキルの使用に何かの条件があるタイプの表記だったね。…………私の【ドラグテイル】の《竜意圏》も最初はそうだったし」
「スキルの解放条件は何なのでしょう?」
「…………さすがに分からないな」
まあ、今のところ使えるスキルを見ると、この【マグネトローべ】は戦うというよりも俺の行動範囲を広める事がメインの特典武具の様だしな…………特に空中を移動出来る様になったのは大きい。
「…………よし、取り敢えず乗ってみるか」
「まあ、このまま見てるだけじゃねぇ」
「百聞は一見にしかずとも言いますしね」
そういう訳で、俺は【マグネトローべ】の背に乗り手綱を握った…………俺の《騎乗》スキルは、今まで馬車を運転していたお陰で【
「よっと…………それじゃあ、少し走ってみるぞ。…………ハイヨー!」
「「『行ってらっしゃーい』」」
妹達に見送られながら、俺は手綱を振るい【マグネトローべ】を走らせてみる…………すると俺の指示に応えた【マグネトローべ】は勢いよく走り出した。
「…………おお! 思った以上に速度が出るな!」
しばらくの間加速した【マグネトローべ】だが、ある速度になってからは一定の速度になった…………どうやら、これが今の最高速度らしいな。
…………速度的には亜音速に満たないぐらいだが、以前に乗ってみた【ブロンズ・ホースゴーレム】のブロンと比べると遥かに早く、更に乗っている感触だとパワーも大幅に上回っていそうだ。
そうして、しばらく周辺を走らせて色々と確認していく。
「…………ふむ、MPの消費は分間で約1ぐらい、それに俺の思った通りに走ってくれるな…………特典武具だからか《騎乗》スキルのお陰かは分からないが」
後、事前に簡単に指示を出しておいて、そのあと俺は何もせずその通りに行動させる事もやってみたが、普通に指示通り行動してくれた…………多分、この【マグネトローべ】にはある程度の自己判断が出来る知能があるみたいだな。
「…………さて、次はお待ちかねの空中移動をやってみるか。…………《磁蹄》発動!」
…………すると【マグネトローべ】は何も無い空中を
「おお!! 本当に空を飛んでいるな!!」
取り敢えず地上五十メートルぐらいまで上がり、そこから地上を眺めてみた。
「…………絶景だな……」
うん、こうして空から地上を見るのは現実では出来ないからな、柄にも無く感動してしまったよ…………あの事故以来空は避けていたが、自分で飛ぶ分には我ながら案外大丈夫みたいだな。
…………そういう訳で、俺はしばらくの間のんびりと空中散歩を楽しんでいた。
「空中でも地上と変わらない速度で走れるみたいだな。…………だが、MPの消費は地上を走るのと比べると約十倍ぐらい余計に消費しているな」
どうも《磁蹄》は思ったよりも燃費の悪いスキルの様だな…………おそらく《MP蓄積バッテリー》で事前に大量のMPを用意しておく事が前提なんだろうが。
…………そんな事を考えていると、地上に居る妹達から【テレパシーカフス】を介して連絡が来た。
『兄様ー、空はどんな感じなのですー?』
『控えめに言って最高だな。……実にいい眺めだ』
この【マグネトローべ】は実にいい特典武具だな! 苦戦した甲斐があった。
『いいなー。私も空飛んでみたいー』
『…………それじゃあ少し一緒に飛んでみるか? 一旦地上に戻るぞ』
…………この特典武具【マグネトローべ】は皆で戦って勝ち取った物だからな、この光景をあまり独り占めするのは良くないだろうよ。
◇
「イエーイ! 絶景だぜー!」
「凄い眺めなのです!」
『本当にね!』
「だろう?」
そういう訳で、俺達はみんなで空中散歩を楽しんでいた…………ちなみに全員を【マグネトローべ】に乗せるのは馬上のスペース的に無理だったので、まず騎乗担当の俺は当然馬上に、そして話し合い結果ミュウちゃんがその後ろに乗る事になった(フェイはミュウちゃんの頭の上にしがみついている)。
…………そして余ったミカは、俺が召喚した【バルーンゴーレム】のバルンガを【マグネトローべ】と縄に繋いで、その上に乗る事で空中移動をする事になった。
「それでミカ、バランスとかは大丈夫か?」
「うん! 大丈夫だよ。結構スペースあるし!」
まあ【バルーンゴーレム】は意外と大きいからな…………それにミカの事を考慮してスピードをかなり落としているし。
「今は高さ百メートルぐらいかな?」
「そんなところですね。…………こうやって空中を移動すれば、これからの旅行の予定もかなり短縮出来るのでは?」
『少なくとも行動範囲はかなり広がりそうだね!』
どうやら三人とも空中移動はお気にめしたみたいだな…………まあ、こちらの世界の俺達なら地上百メートルから落ちても死にはしないだろうし、こうして空中散歩も問題無く楽しめるな。
…………と、思っていたのだが……。
「…………ん? 《千里眼》…………三人共、話の途中で悪いが【ワイバーン】だ」
「「『へ?』」」
走行中、前方数百メートル先の上空に何かが飛んでいる事に気がついた俺は、ひとまず
…………詳しく見てみると【ライトニング・ワイバーン】や【フレイム・ワイバーン】などの派生種らしき姿も見え、更に向こうには【ワイバーン】ではなさそうな
「…………本当だ、【ワイバーン】の群れだね。…………どうするお兄ちゃん?」
「一旦地上に降りるぞ。…………幸い向こうはこちらに気がついていないようだし、コッチの方が高度は低いしな」
「賛成なのです。…………空中では私は戦力になりませんし」
『まだ全力戦闘が出来る程回復してないしね』
初めての空中戦であんな群れと戦うのは避けたいし、何よりポーションで回復しているとはいえ召喚と空中走行で俺のMPはかなり心許ない。
…………そういう訳で、俺達は急いで地上に退避する事になった。
「今の私達じゃ空中戦闘は正直キツイかな? …………お兄ちゃんとフェイちゃんの魔法攻撃ぐらいしか打つ手がないし」
「私や姉様はあまり役に立てそうにないのです。…………空中移動は便利だと思ったのですが」
『あの群れを見るに、この世界の空中旅行は難易度が高そうだねぇ……』
「まあ、周囲を警戒しつつ一時的に空中を移動するとかなら大丈夫そうだし、行動範囲が広がるのは事実だと思うぞ」
…………そんな話をしつつ、俺達の短い空中散歩は終わったのだった。
◇◇◇
□クレーミル領 【
あれから、この世界での空中移動における難易度の高さを知った私達は、取り敢えず地上に降りてクレーミルへの旅路の続きをする事になった。
ちなみに今は【マグネトローべ】でこれまで使っていた馬車を引っ張っており、その速度は今まで使っていた【ブロンズ・ホースゴーレム】よりも遥かに早かった。
「空中移動が出来なかったのは残念だけど、地上での移動速度がかなり早くなったのは幸いだったな。…………おそらく、この速度なら今日中にクレーミルに着けるだろう」
「今回の旅行は色々とトラブルに巻き込まれたけど、どうにか予定通りに行けそうで良かったね。…………空中移動に関しては後で色々考えるって事で」
「そうですね。…………流石に今日は少し疲れました」
ミュウちゃんもかなりお疲れの様子…………【マグネトローべ】との戦いは結構神経を削る感じだったからね、私もかなり疲れているし。
…………そんな感じで、私達が疲れから言葉少なく道を進んでいくと……。
「ふむ、どうやら見えてきたな。あれが城塞都市クレーミルだろう」
…………お兄ちゃんのその言葉を聞いて前を見てみると、そこには王都にも匹敵する様な巨大な城壁がそびえ立つ街があった。
「“城塞都市”という通称通りに凄い城塞だね」
「そうですね。…………取り敢えずさっさと中に入りましょう」
『今日は疲れたからね』
そんな感じで、大分疲れていた私達は早く街は入ろうと城壁にある門まで馬車を走らせていった…………そうして門に近づいた時、ちょうどそこから出て来る二十人程の人達とばったり遭遇した。
あれ? よく見たらその先頭には見覚えのある顔が……。
「! レント君、ミカちゃん、久し振りだね」
「フォルテスラさん、お久しぶりです」
そう、門から出てきたのはフォルテスラさん率いる<バビロニア戦闘団>の一団だったのだ…………よく見るとシャルカさんも居るね。
おや? その中に何処かで見た事がある様な
「あのー……そこの仮面の人はひょっとしてライザーさんですか?」
『ああ、久し振りだねミュウちゃん、ミカちゃんも』
やっぱりライザーさんだったみたいだね…………仮面とスーツが大分
「ミカ、その日曜午前にテレビに出てきそうな人は知り合いなのか?」
「うん、あの人はマスクド・ライザーさんって言って、以前私とミュウちゃんと葵ちゃんでクエストを受けた時に知り合ってフレンドになったんだ。…………それで、フォルテスラさんと一緒に居るという事は<バビロニア戦闘団>に入ったんですか?」
『ああ、オーナーからスカウトされてな』
「街々をパトロールして治安維持をしている<マスター>がいると聞いてね…………しかし、ライザーとミカちゃんが知り合いだったとはね」
そんな感じで旧交を温めていると、一団の中にいたサブオーナーのシャルカさんがフォルテスラさんに声を掛けた。
「オーナー、そろそろ」
「! ああ……済まないが俺達はこれから行くところがあってね、これで失礼するよ」
「何処かに行くんですか?」
『ああ、俺達はこれからこの近辺で目撃されている【磁改奇馬 マグネトローべ】という<UBM>を探して討伐しようとしていたんだ』
…………………………え?
『以前ウチのパーティーがそいつに襲われてな。今回はそのリベンジに行こうとしていたところなんだ』
「あの時はオーナーが居ませんでしたし、メンバーの殆どが金属製武具を装備していた所為で全員良い様にやられましたからね。…………今回はその為に
「それに【マグネトローべ】によって強力な<マスター>が次々とやられている所為で街にも不安が広がっているからね。その所為で他の街との行き来にも影響が出始めているし」
「…………ソ、ソウデスカー……」
…………ヤバイ、超気まずい……。
と、取り敢えず【カフス】で……。
『どうしよう、お兄ちゃん!』
『…………えーっと……どうしましょう?』
『流石にどうしようもないぞ。…………それに、もう《鑑定眼》を使ってる人がいるから手遅れだ』
お兄ちゃんの言葉通り、彼等の中には【マグネトローべ】を凝視している人が何人かいた…………そして、その人達の内一人がこちら問いかけてきた。
「あ、あのー…………その馬の名前、【磁蹄騎馬 マグネトローべ】って出ているんですけど……?」
「「「「「………………………………」」」」」
…………その質問の直後、その場を沈黙が包み込んだ……。
「…………あー、レント君。その馬は……?」
「…………【磁蹄騎馬 マグネトローべ】……特典武具です……」
『…………と言うことは……』
「…………【磁改奇馬 マグネトローべ】はさっき私達が倒しました……」
「「「「「………………………………」」」」」
その私の言葉と共に、再び何とも言えない沈黙がその場を包み込んだ……。
…………き、気まずい! すごい気まずいよ……!
「…………そ、そうか。…………と、取り敢えず! 俺達のホームタウンの脅威を取り除いてくれて助かったよ!」
「い、いえ! 偶々遭遇して運良く倒せただけですから! お気になさらず!」
「そ、そうだね!」
「そうなのです!」
気まずい沈黙の中でいち早く気を取り戻したフォルテスラさんが、どうにか雰囲気を変えようと話しかけてきたので、私達も急いでそれに合わせて勢いよく返事をしておく。
…………その間に私達はそそくさと馬車と【マグネトローべ】を仕舞っておく。
「そ、それでは、俺達は冒険者ギルドに配達のクエストがあるのでこれで!」
「あ、ああ! この街は活気があって良い街だから存分に楽しんでいくといい!」
そんな感じで無理矢理に話を切り上げつつ、私達は急いでフォルテスラさん達と別れてクレーミルの中に入って行ったのだった…………流石に、あれ以上一緒に居たら更に気まずくなるだけだろうしねぇ……。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:今回、空中移動が可能に
・取り敢えず今後のジョブ構成は【騎兵】系統の上級職や、空中での行動を補助出来る【翠風術師】などを転職条件を満たし次第取って行く予定。
・それと装備スキルの解放条件を探す為に、この世界の機械技術について調べようとも思っている。
・また、これからはログアウト前などにチマチマと【マグネトローべ】にMPを貯めておく様にしてこうと思っている。
【磁蹄騎馬 マグネトローべ】:煌玉馬の特典武具
・兄の行動範囲を広げる事をメインにアジャストされており、戦闘能力は低め。
・《磁蹄》は磁力の壁を展開する防御スキルとしても使えるが、磁力で干渉出来る金属などしか防げない上に燃費もかなり悪い。
・《走行》以外のスキルは燃費がかなり悪く、基本的に《MP蓄積バッテリー》で大量のMPを貯めておく事が前提になっている。
・《MP蓄積バッテリー》の最大蓄積量は約五百万。
・最後のスキルは解放条件を含めまだ不明。
《ウォーターシャワー》:【蒼海術師】の消火用魔法
・広範囲に水を撒く魔法で攻撃性能は無いが、その水には熱エネルギーを僅かに減衰させる効果がある。
・ただし、常温までしか温度を下げられない様になっているので、対象を凍らせる事は出来ない。
妹達:空中散歩は大分気に入った様子
・あの後、冒険者ギルドでクエストを達成して、更に【マグネトローべ】の討伐報酬も貰った。
・だが、消費した【救命のブローチ】の代金には遠く及ばないので、しばらくは資金稼ぎを予定している。
<バビロニア戦闘団>:今日はかなり間が悪かった
・【マグネトローべ】討伐の為、事前に結構な資金を使って非金属装備やアイテムを買い込んだり、念入りに情報収集をしたりしていた。
・兄妹達と別れた後、微妙になった空気をどうにかする為にサブオーナー主導・オーナー監修の全力レベリングを行った(今回使ってしまった資金回収も兼ねている)
【磁改奇馬 マグネトローべ】:実はティアンには殆ど手を出していない
・その為、討伐報酬は七十万程度と実力に比べてあまり高くは無なかった。
・<マスター>を積極的に襲っていたので、他にもリベンジしようと思っている者達は結構いた………のだが、相手は空中を移動出来る上に、一度戦闘データを収集した相手は襲わないのでそもそも戦う事が出来なかった。
・<バビロニア戦闘団>はその辺りの事も把握しており、相手と戦闘した事がないメンバーを囮にして誘き寄せる戦術を事前に練ったりもしていた。
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ジョブクエストと掘り出し物
※今回の話は以前にノベプラの方に投稿した話の加筆・改定版です。
それでは本編をどうぞ。
※4/19 あとがきの【防護術師】の説明を一部変更
□城塞都市クレーミル 【
「…………えーっと、これで依頼にあった【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】は全部完成っと。…………次は【
どーも、レントです。今は漸く到着した<クレーミル>で、資金稼ぎの為に一人で【
…………ちなみに、ミカとミュウちゃんはクエストを受けながらモンスター狩りで資金稼ぎをしているので別行動である。
「まあ、スキルをオフにする事も出来るが…………上級魔法の【ジェム】は一つ十万リル以上と単価が高い分クエストの報酬もいいから、狩りよりもこちらの方が金稼ぎには向いているしな」
込められた魔法が使用出来る使い捨てアイテムである【ジェム】を生産するには、生産スキルを使うための【魔石職人】と込める魔法を使用出来る魔法系ジョブに就いている必要がある。
そして、上級職の魔法を【ジェム】に込める為には魔法系上級職と【
…………最も、俺は自身の<エンブリオ>の必殺スキルでジョブ枠を大幅に拡張しているので多くの上級魔法【ジェム】を生産出来るのだが。
「と言っても、この
…………これは【ジェム】を生産する時には、まず使用した際どの様な形式で魔法を発動させるかを設定する必要があるのが原因である。
例えば【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】の場合、起動した際に一定時間後に魔法を炸裂させる様に設定する、或いは敵に対して火球を飛ばして攻撃する様に設定するなどの細かい発動形式を決めた上で【ジェム】を作成するのだが…………一つの魔石に込められる魔法の容量は決まっており、後者の場合“敵を識別する”や“火球を真っ直ぐ飛ばす”、“敵に当たった時点で炸裂させる”などの術式を組み込まなければならないので魔石の容量を圧迫するのだ。
「当然、組み込む術式の量が少なければ魔石の容量にも余裕が出来るし、その分魔法の威力を上げることが出来るからな。…………色々な設定を組み込むと手間がかかるし、下手をすればより上位の魔石を使う必要が出てくるから値段も上がるしなー」
なので、お高い上級の魔法【ジェム】においては起動後一定時間で魔法が発動する、或いは起動後何かに当たった時に魔法を発動する【ジェム】を買ってそれを投げつける使い方が人気なのだ。
上級の魔法【ジェム】を買える人間は殆どが高レベルだろうから、自前のSTRやDEXで投げつける方が射程・精度共に高いだろうしな…………ミスによる自爆には要注意だが。
「途中停止とかのセイフティ機能とかを付けても容量を圧迫するからな。…………各種単体バフ魔法の設定は即時発動かつ使用した人間のみを対象に発動する様に設定してっと……」
この単体バフ魔法の【ジェム】や回復魔法【ジェム】も同じであり、対象指定の効果などと付けない方が魔法自体の効果は強力になるのだ。
…………基本的に使い捨ての【ジェム】の用途は緊急時の切り札として使う事が多いので、使い勝手よりも威力・効果が高い方が人気なのである。
「一時期“【ジェム】生成貯蔵連打理論”とかもそれなりに流行ったけど、そこまで大流行はしなかったな」
確かに、大量の【ジェム】を貯蔵して状況に合わせて使うのは強力な戦術なのだが…………前述した通り、買い揃える場合にはどうしても金が掛かるのだ。
また、自分で生産する場合には、確かにコストは買い揃える場合に比べて十分の一ぐらいにまで抑えられるが…………今度はジョブが魔法系に偏るので投げる為のSTRやDEX、そして相手の動きについていく為のAGIが低くなるので投げるまでに潰されるのだ。
「使ったアイテムが戻ってくる決闘で【ジェム】投げ合戦が流行った時期もあったけど、闘技場の広さなら
噂によると【ジェム】を投げる相手に対して決闘ランキング上位の<マスター>はバイクで距離を詰めたり炎で魔法ごと焼き払ったり、或いは伸びる刀身で投げる前に切り裂いたり鎖を伸ばして発動前に投げ返して自爆させたりしているらしい…………こういう対策が出来るあたり、アルター王国の決闘ランカーはレベルが高いなー。
「…………そもそも、それだけの金があるなら高級な装備を買い揃えて、自分の<エンブリオ>にあった戦闘用のジョブに就いた方が大体の場合は強いしな」
また、使ったアイテムが戻ってくる決闘に慣れすぎた所為で、それ以外の場所で【ジェム】の使用を躊躇ってしまい弱くなったというのも廃れた理由の一人ではある様だがな…………やっぱり、勿体ないオバケは怖いな。
…………とはいえ、戦闘で使う手札の一つとして【ジェム】を使う人は普通にいるので、その分需要もちゃんとある。
「まあ、俺も全力で戦う時には【ジェム】を使うし、使いこなせれば強力な戦術なのは事実なんだが。…………【ジェム】生産と相性のいい<エンブリオ>を持つ<マスター>とかも居るだろうし」
散々こき下ろしておいてアレだが、魔法をノータイムで発動出来る【ジェム】は強力なアイテムであり、俺もクエストでの生産の合間にちまちまと自分様の【ジェム】を蓄積しているしな。
…………最も俺の<エンブリオ>はジョブ枠拡張がメインなので、生産行動自体に何か恩恵がある訳じゃないから【ジェム】の大量生産とかは難しいのだが。
「…………さてと、これで依頼分の【ジェム】の生産は終わったし、後は自分様に【防護術師】の各種レジスト系魔法の【ジェム】でも作って…………後は単体バフ魔法【ジェム】も作っておこうかな? 前回の戦いでも自分で全体バフ魔法を使いつつ【ジェム】を使って自己強化とかは出来たしな」
ちなみに【防護術師】は各種レジスト系魔法を取得出来る魔術師系の下級職であり、防御の為のレジスト系魔法や各種回復系魔法は戦闘中に即時発動出来た方が便利だと思ったので取得した。
…………本来なら【
その上でしばらくは街でジョブクエストで資金を稼ぎつつ、それによって獲得出来る経験値でいくつかの便利そうな下級職のレベルを上げる事にしたのだ。
「まあ、そのお陰で【カタログ】から
◇
あの後、一通りの【ジェム】生産を終えた俺は、クレーミルの魔石職人ギルドに依頼品を渡しに行っていた。
「では、依頼にあった【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】を始めとする攻撃魔法【ジェム】一式と、上級単体バフ魔法及び回復魔法【ジェム】が完成したのでお納めします」
「ありがとうございます。…………それでは依頼品を確認するのでしばらくお待ちください」
とりあえず依頼品を受付嬢さんに渡したので、俺は確認が終わるまでの時間ギルド内のロビーの椅子に座って、暇つぶしにジョブクエストの一覧が書かれた資料を見ながら待機する事になった。
旅行中は何かと金が要り様だから、クエストでお金が稼げるのは嬉しいな…………【ジェム】には一定の需要があって、特に上級魔法の【ジェム】は供給が少ないからどこも不足しておりクエストに困る事は少ないのだが。
「レント様、依頼品の確認が終わりました」
「はい、今行きます」
どうやら確認作業が終わったらしいので、俺は資料を置いて受付に向かった。
「依頼品は全て問題ありませんでした、こちらが報酬の五百万リルになります」
「ありがとうございます」
やっぱり上級魔法【ジェム】作成依頼は資金稼ぎの効率がいいな…………その分、成功率も低くて制作時間も相応にかかるが。
ステータスとスキルレベルが上がったお陰で生産の成功確率の方はだいぶ良くなったが、クエストをこなすにはそれなりの数の【ジェム】を作らなければならないから制作時間の方はどうしようもないしな。
…………さて、後はどれぐらいレベルが上がったのかを確認してみるかな。
(ふむ、いくつかの依頼を達成したから【防護術師】のレベルは一気に上がったな。…………まあ、新しく取った【
俺が【高位付与術師】をカンストした後に転職した【見習】はかなり特殊で、
そして、そのジョブスキルの中にはジョブクエストを達成した際に獲得出来る経験値量とジョブクエスト実行時のスキルレベルの上がり方を増幅させる《手習い》というものがあるのだ。
…………本来ならその《手習い》は【見習】のジョブスキルなので、それ以外のジョブをメインにしている場合には
(俺の【ルー】には下級職・上級職のジョブスキルをメインジョブによらずに使用出来る様にする《
まあ、お陰でジョブクエストを受けた際に取得出来る経験値やスキルレベルの上昇率を上げる事が出来るしな…………今後は、こういうクセがあって使いにくそうなジョブも試していった方が良さそうだな。
「さて、とりあえずの資金稼ぎは終わったがどうするかな。…………しばらくは【ジェム】の制作はいいし、この街の観光でもしようかな」
このクレーミルは城塞都市という通称があるだけあってか、高性能な武器・防具などの装備や各種アイテムを売っている店が多いらしいので、それらを見てみるのも悪くはないだろう。
◇
そういう訳で、俺はただいま絶賛クレーミルの街並みを観光していた…………このクレーミルは多くの店が立ち並ぶ、とても活気があるものだった。
そして、今はこの街でもかなり大きな防具屋にやってきていた…………武器に関してはエドワード達が作ってくれた弓と短剣がまだ使えるしな。
「ほう、高性能な防具が沢山置いてあるな。…………生産系ジョブに就いているティアンの数なら王国でも屈指という話本当だったみたいだな」
なんでもこのクレーミルは数百年前の防衛拠点から発展した都市であり、それ故に戦争に使う武器・防具或いは各種アイテムや食料の生産を行う施設・人員が多く居住していたので王国でもトップクラスの生産都市になっている様だ。
その上、この都市には街全体カバーできる程の範囲を持ち上級職の奥義ぐらいなら傷一つつかない強力な防御結界が張り巡らされており、元々は軍事拠点だったからか在中している騎士達の質も高いので治安も非常に良いのだ。
「…………まあ、その結界も超級職の攻撃を防げる程ではないみたいだが。…………この街も昔の戦争ではそんな感じで攻略されたみたいだし」
この世界においては超級職の単騎突撃で拠点が攻略されるのは割とよくある話の様だ…………ウチの妹の一人も現在超級職に就いているので、そのデタラメさはよくわかる。
…………っと、関係無い事を考えるのはここまでにして、商品を見ていこうか。
「とりあえず軽装の防具から見ていこうかな。…………今の俺の戦闘スタイルは魔法使い系だし、ローブとかマントとかないかな」
ふむふむ…………おっ、この鎧はステータス割合強化の補正と高レベルな装備スキルが付いていてかなりの性能だな。製作者はゾラという人みたいで、値段も相応に高いがこの性能なら当然だな…………でも、俺の戦闘スタイルには合わないかな。
コッチはタワーシールドか、妹達との連携を考慮して盾役系のジョブを追加で取ってみるか? …………いや、俺より遥かに強い上にまともに攻撃が当たる自体が殆どないあの二人をわざわざ守ってやる必要はないか。
「…………おっと、どうもこういう買い物の時は関係無い商品まで見てしまうな。…………《鑑定眼》で商品を見ると色々な説明が見えるから、ついつい読んでしまう」
とりあえず軽装の防具が売っているエリアまで行ってみるか………………おっ。
「この【天威のブーツ】には、自身の
…………何故、この『装備者の合計レベル分の固定値上昇装備補正』が付いている装備が殆ど無いのかと言うと、この補正は装備に付加する難易度がステータスの割合上昇に次ぐ程に高いのが主な原因なのだ。
更に超級職に就いていない人間の合計レベルが通常最大五百な上、殆どのティアンがそれ未満の最大レベルしか無い以上この補正での上昇値は最大五百止まりであり、それなら普通の固定値上昇で五百以上にするか《◯◯増加》の装備スキルを付ける方が遥かに簡単なのである。
また、超級職ならレベル制限はないが、そもそも超級職のステータスなら割合上昇の方がステータスが高くなるだろうしな。
「そりゃあ、最大で五百程度ステータスを上昇させる装備の値段が百万リル以上するんじゃ作る人も居なくなるよな。…………まあ、多くの下級職・上級職に付いている俺にとってはこちらの方が都合がいいんだが」
よし! この【天威のブーツ】はお買い上げだな…………装備スキルが《拘束耐性》《麻痺耐性》《盗難防御》《破損耐性》といった、とりあえず付けておいて損はないものなのも高評価だ。
お値段は三百万リルだから問題無く買えるな…………旅行資金はまた【ジェム】を作って売ればいいし。
「…………それに、この前の戦いみたいに【ヴァルシオン】が使えなくなる場面もあるかもしれないからな。出回っている数も少ないしなるべく買っておくべきだろう」
そういう訳で、俺は【天威のブーツ】を手に入れたのだった…………後日、資金稼ぎの為に追加でジョブクエストを受ける事にもなったが。
◇
「うむ、今日は実にいい買い物だったな。…………此処は中々いい街だ」
あの後【天威のブーツ】を買った俺は、しばらくクレーミルの観光を楽しんでいた。
「…………そろそろ、一旦ミカ達に連絡しておくかな」
そして、俺はアイテムボックスから【テレパシーカフス】を取り出して妹達に連絡を入れた。
『…………あ! お兄ちゃん? 何か用?』
「今日のコッチの予定は大体終わったから連絡したんだよ。取り敢えず二百万ぐらい稼げたしな…………そっちは?」
『コッチも狩りはそれなりに上手く行ったよ。…………流石に一日で数百万稼ぐお兄ちゃん程じゃ無いけど』
『純竜級のモンスターを倒したりもしましたが、肝心の【救命のブローチ】は手に入りませんでしたしね。…………【健常のカメオ】は手に入りましたが』
まあ、特定のアイテムをドロップ頼りで入手するのは難しいからな………え? 買い物しなければ五百万リルの【ブローチ】も買えたんじゃないかって?
…………戦闘能力が上がれば【ブローチ】が必要な場面も少なくなる筈だから……。
「まあ、そこまで焦らなくても大丈夫だろう。…………そもそも、お前達は攻撃なんて滅多に当たらないだろうに」
『それはそうだけど…………ほら! もうすぐ“ハロウィンイベント”があるじゃない』
『イベントに備えて出来る限り準備をしておきたいのです』
…………そういえば、そんなイベントがあると公式ホームページでやっていた様な……。
しかし、現実ではもう十月も終わりだったな…………三倍時間のデンドロをやっていると時間感覚がズレるね。
「成る程、それじゃあイベントに向けて各々準備を進めておこうか」
『そうそう! せっかくのデンドロ公式イベントだからね!』
『楽しみなのです!』
と、そんな感じ定時連絡は終了した。
「そうだな、俺も準備をしておくかな。…………まずは、イベント時の移動範囲を広げる為に【マグネトローべ】のMPをチャージしておこうかな」
おそらく今の<マスター>で空中移動が出来る者は少ないだろうし、この【マグネトローべ】は大きなアドバンテージになるだろうからな。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:今回は資金稼ぎ回
・よくジョブクエストで単独行動をしているが、そういった時にも妹達には定期的に連絡を入れている。
・後でちゃんと暇を見つけて旅行資金は稼ぎ直した。
【防護術師】:防護術師系統下級職
・【魔術師】の派生ジョブで、ほとんどの種類の《◯◯・レジスト》系魔法スキルを習得可能。
・上級職は【
【見習】:見習系統下級職……というか下級職しか無いジョブ
・他のジョブスキルにはジョブクエスト実行時に必要なスキルをメインジョブが【見習】の間だけ取得出来る《技能練習》や、他人から指導されている時にそのスキルのレベルが上昇しやすくなる《師匠の教え》などがある(《技能練習》で取得したスキルの最大レベルは三)。
・そして【見習】
・つまり、まず【見習】に就いてジョブクエストでスキルレベルを上げつつ、《見習い卒業》によって取得したスキルのレベルを引き継いだり、引き続き使える様になった《手習い》などのスキルで以後に転職したジョブのレベルやスキルレベルを上がりやすくする為のジョブ。
・……だが、一番最初にわざわざ限られたジョブ枠を使ってステータスが殆ど伸びない【見習】に就くよりも、普通に下級職に就いた方が楽なので就く人間が殆ど居らずロストジョブ寸前だった。
・ちなみに兄は【ルー】のお陰で《見習い卒業》は必要なく、《手習い》以外のスキルはほぼ使わないので適当にモンスターを狩ってさっさとカンストさせた。
【天威のブーツ】:掘り出し物
・少し昔に作られたものだが、本編で語られた理由通りに値段が高く今まで売れ残っていた。
・しばらくの間は兄の常時装備になる予定。
・ちなみに、新メンバーが加わって個々の技術も上昇した今の<プロデュース・ビルド>なら、合計レベル分の固定値上昇補正付き装備も作る事が可能である。
妹達:デンドロの本格公式イベントを楽しみにしている
・ここしばらくは二人で純竜級モンスターの討伐依頼をして資金を稼いでいた。
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番外編 エルザのクエスト・<イスティア鉱山>
それでは本編をどうぞ。※同じ話が二つ投稿されていたので削除しました。
□イスティア鉱山 【
こんにちは、私はこのデンドロでしがないテイマーをやっているエルザ・ウインドベルです。今日はリアフレのターニャと、彼女が所属しているクラン<プロデュース・ビルド>のオーナーであるエドワードさんと一緒にとあるクエストを受けて、王都アルテアの東にある<イスティア鉱山>にやってきています。
ちなみに道中はテイムモンスターの【テンペスト・デミドラグイーグル】のウォズを護衛にしつつ、三人で【シャイン・ドラゴン】のセレナに乗って一っ飛びでしたが…………どうやら目的地に着いた様なのでセレナには降下、ウォズには周囲の警戒の指示を出しておきます。
『到着しましたよマスター』
「ありがとうセレナ。…………二人共、もう降りていいですよ」
「はーい。…………いやー空の旅なんて初めてだから楽しかったね!」
「そ、そうだな……」
楽しそうにしているターニャとやや顔色を悪くしているエドワードさんが降りて来ました…………どうやら、彼は空の旅があまりお気に召さなかった様ですね。
ちなみに、今私がメインジョブにしている【騎乗従魔師】はテイムモンスターへの騎乗に特化した【
「さて、此処が<イスティア鉱山>ですね。…………確か、此処に何処からかやってきた謎のモンスターが住み着いたのでしたか」
「そうだよエルザ。…………どうも、此処で働いているティアンの鉱夫が何者かに次々と襲われているみたいなんだよね」
「知り合いの業者や生産系ギルドの情報によるとしばらく前から襲われていて、幸い死者は出ていないがそのせいで王都に入る鉱石が少なくなっているらしい」
今回受けたクエストは【<イスティア鉱山>鉱夫襲撃事件の解決】というもので、彼等<プロデュース・ビルド>が以前から付き合っていた業者さんに頼まれたものです。
曰く『事件の所為で<イスティア鉱山>からの鉱石が入って来なくなったので、<マスター>の伝手でどうにかならないか。もちろん報酬も出す』と頼まれてしまった様なのです…………それで色々と付き合いもあったので断りきれず、とりあえず知り合いの<マスター>に依頼して調査に行ってみようという事になったみたいです。
…………最も、<イスティア鉱山>で取れる鉱石は鉄鉱石などの質が低い物が主なのであまり利用する鉱夫の数も少なく、だから事件の緊急性が低いので報酬節約の為に伝のある<マスター>に依頼したという面もあるようですが。
「あそこの業者からはよく鉱石を受注しているし、鉱山が使えなくなれば生産職である俺達も困るからな」
「でも、うちで辛うじて戦闘が出来るのは私とエドワードぐらいだから流石に戦力が足りないし。…………だから
「…………ランキングの端の方に引っ掛かっているだけですけどね」
…………私が討伐ランキングに入っているのは従魔師派生の【
他にもセレナをテイムしたお陰で行動範囲が大幅に広がった事や、私の仲間達のレベルが上がって広域攻撃が出来る様になったのも理由になりますが。
「相変わらずエルザは自己評価低いね。…………そもそも、実力が無ければランカーにはなれないでしょうに」
「全くだな、君はもう少し自信を持った方がいい」
「…………分かりました、私だって受けた依頼はキチンとこなしますよ。…………では、みんな出てきて下さい。あとウォズは今回は鉱山内での行動なので【ジュエル】に戻って、セレナは人化を」
『
『分かったわ』
私の声と共に左手の紋章から五人の同じ顔をした女性が、右手の【ジュエル】からは【スカウト・デミドラグウルフ】のヴェルフが、そして私の懐から拳大の大きさの石…………【アース・エレメンタル】のアーシーが出てきました。
この女性達が私の<エンブリオ>であるTPYEレギオン【代行神騎 ワルキューレ】です。彼女達はスキル《代行者》によって人間と同じ様にジョブに就く事が出来て、それぞれ生まれた順に長女である剣士系ジョブの前衛の通称アリア、次女で司祭系ジョブの通称セレナ、三女でタンク系ジョブの通称トリム、四女で魔術師系ジョブの通称フィーネ、五女の盗賊・斥候系ジョブの通称リーファになります。
そしてウォズが【ジュエル】の中に戻り、セレナが中学生ぐらいの金髪の少女に変化しました。
「…………確か、今回この鉱山に住み着いたというモンスターは
「そうだよ。…………だから、隠密能力が高いモンスターなんじゃないかって言われているね」
「あと、襲われた鉱夫達は『見えない何かに殴られた』とか『水流を浴びせられた』などと言っていたらしいな」
…………成る程、隠密能力の高いモンスターと狭い坑道内で戦うのは結構面倒ですね。それに水気が全く無いこの鉱山で水流ですか…………やはり外部からモンスターが入り込んだ可能性が高いですね。
事前に調べたところによるとこの鉱山内にはモンスターはあまりおらず、その能力も亜竜級に届かないものが殆どらしいですし。
「では、鉱山内での陣形を決めます。まず先頭は索敵役にヴェルフとその護衛にアリアが」
『
「了解しましたマスター」
ヴェルフは索敵能力に特化したモンスターであり、スキル《嗅覚索敵》によって目に見えない様な相手であっても感知可能です。その分戦闘能力は亜竜級としてはやや低いですが、ワルキューレ最強のアリアが護衛につけば問題はないでしょう。
「次に中衛は私とターニャとエドワードさん、そしてその護衛をトリムとアーシーにお願いします」
「分かったよマスター」
『分かったー』
私は戦闘能力皆無ですし、ターニャとエドワードさんも基本は生産職だから護衛は必須です。壁役のトリムと各種地属性魔法によって防御に長けたアーシーを付けておけばいいでしょう。
「最後に後衛はセリカ、フィーネ、リーファ、セレナで。セリカとフィーネはいつも通り魔法で援護を、イブは主に後方の索敵を、セリカは光属性攻撃での援護の他にも後方からの奇襲に対して壁役になる事もあるかもしれないので気をつけてくださいね」
「分かりました、回復はお任せを」
「…………分かった。鉱山内だと酸素の関係で火属性は使いにくいから、【
「分かったっす。…………自分はまだ生まれたてでレベルは低いっすけど頑張るっす」
「分かったわ。人化しているとステータスは少し下がるけど、まあ時間稼ぎぐらいはするわ」
セリカとフィーネの後方支援能力は問題無いですし、セレナは純竜なので人化していても短時間なら十分壁役が熟せるのでまだレベルの低いイブのフォローも大丈夫でしょう。
「ターニャ達もそれでいいですね?」
「それでいいよ。…………流石は討伐ランカー、見事な采配だね…………っていうか、私達は要らなかったかな?」
「…………支援に徹すれば大丈夫だろう。…………多分」
二人共何か言っているみたいですが問題は無い様です。
それでは、<イスティア鉱山>の探索を始めましょうか。
◇
鉱山の探索を始めてからしばらく経ち、私達は鉱山の奥にまで足を踏み入れていた…………中は暗く、一応灯りもあったが念のためセレナに光の球体を出してもらって光源にしてあります。
ちなみに道中モンスターは殆ど出てこなくて、僅かに出てきたモンスターもすぐさまアリアが一刀両断したり、フィーネやアーシーの魔法一発で倒せるレベルの相手でしたが。
「今のところ特に異常はありませんね」
「ああ、今まで出てきたモンスターは元々この鉱山に生息していたものばかりだからな」
「いくらティアンの鉱夫でもこの程度のモンスターにやられる事はないでしょう」
アリアの言う通り、モンスターが蔓延るこの世界において街の外で活動するにはある程度の戦闘能力は必須であり、このレベルのモンスターならティアン鉱夫でも問題なく対処出来るでしょうし。
また、これまでの道中、リーファは【
…………それでは先に「待って」『何かあるよー』……おや?
「どうしましたフィーネ、アーシー?」
「…………僅かだけど鉱石以外の魔力の反応がある《魔力視》《術式解析》」
『この辺りの鉱石に変な魔法がかかってるよー』
…………どうやら二人は何か見つけた様ですね。
「どんな魔法ですか?」
「…………多分感知系の魔法かな?」
『正確には一定の範囲に入って対象を感知する結界みたいー』
…………成る程、ティアンの鉱夫達が次々と襲われているのは、その結界で感知された事が原因ですか。
「…………あと、私達も多分もう感知されてる」
『
「全員戦闘準備! 前方から敵です!」
そのフィーネとヴェルフの言葉を聞き、私はみんなに敵の襲撃を知らせました…………次の瞬間、前方の何も無いところから水流がこちらに向けて発射された。
「チッ!」
『BAU!』
「《カバーリング》!」
その攻撃に対し前衛のアリアとヴェルフは飛びのいて回避して、トリムが【
「ぐわっ⁉︎」
『BAU⁉︎』
次の瞬間、回避した二人は
「アーシーあれは⁉︎」
『見えない結界ー』
「不可視の結界を飛ばして相手を殴りつけてる!」
アーシーとフィーネの言葉で状況を理解したので私はテイムモンスターに次の指示を出して、更にワルキューレ達には時間節約の為に心の中で指示を出していきます。
…………まずは攻撃を防ぎつつ敵の位置を割り出しましょうか。
「セレナは前衛に上がって! アーシーは敵の位置を教えて!」
(トリムとアリアは防御、フィーネは敵の位置を教えて、セリカは前衛を回復、リーファは中衛に上がって後衛のガード)
「了解!」
「承知!」
「承知したわ。……あと、前方に光が歪んでいるところがあるわね」
「……多分前方、そう離れていない位置」
『隠密系の結界を張ってるー』
「《ワイド・フォースヒール》!」
「分かったっす!」
私の指示に従いトリムとセレナが前に出て水流や不可視の結界を防いでいき、更にダメージから復帰したアリアもそれに加わった…………それによって負ったダメージはセリカが全体回復魔法で癒していく。
…………どうやら、アーシー、セレナ、フィーネの情報によると前方に不可視の結界を纏って見えなくなっている
「アーシー、砂を!」
(フィーネは大量の細かい氷の粒)
「……《ダイヤモンド・ダスト》!」
『《サンド・バインド》ー』
その指示に従いアーシーは砂で出来た手の様なものを魔法で作り出して前に放ち、フィーネは細かい氷の粒を無数に生成し前方にばら撒いた。
その結果、大量の砂と氷の粒が前の空間一帯に撒き散らされ…………その一角に
(そこです! アリア!)
「《レーザーブレード》!」
『! KYUAAA⁉︎』
その空間に向けてアリアが突っ込み光を纏った剣を一閃した…………すると、そこに張られていた結界が砕け散りその中から体長50センチぐらいの青いネズミの様なモンスターが飛び出した。
「……【バリア・サファイアカーバンクル】ですか」
「疾っ!」
『GAU!』
『KYU⁉︎」
出てきた【バリア・サファイアカーバンクル】に対しアリアが追撃の剣を振るい、それに合わせてヴェルフが飛び掛かっていった……それに対して相手はアリアの剣を飛び退いて躱し、そこに突っ込んできたヴェルフを咄嗟に展開した結界で弾いて少しよろけながらも距離を取った。
…………しかし妙ですね、カーバンクル系の魔物はこの鉱山には
「皆さん、ちょっと気になる事があるので捕縛優先の戦い方に切り替えて下さい。……《魔物診断》」
『分かったー《マッドクラップ》ー』
「了解……《アイスバインド》」
その指示に従ってアーシーは泥で相手の足を止めて、フィーネは氷で出来た鎖を放って相手を拘束しようとし、他のみんなも相手を倒さない程度の攻撃に切り替えた…………これでも私達はテイマーギルドのモンスター納品ジョブクエストの為に多くのモンスターをテイムしているので、この手の戦い方にはみんな慣れているんですよね。
そして、その間に私はサブジョブである【
「《フリーズフロア》」
『《グランドホールダー》ー』
『KYUAAA⁉︎』
そんな事をしている間に前衛メンバーに追い詰められた【バリア・サファイアカーバンクル】がフィーネの地面を凍らせる魔法によって足を止められ、その隙にアーシーの魔法による土の腕で地面に押さえつけられました。
ちなみに周りには剣を構えているアリアを初めとして、前衛メンバーがいつでも戦闘出来る様に待機しているのでこれで詰みですね。
相手もそれが解っているのか抵抗をやめています…………さて、これから
「では、そこの【バリア・サファイアカーバンクル】さん。私はあなたを見た時に
『KYUUUuuu…………!』
そんな感じで私は
…………しかし、あまり恐怖を植え付け過ぎても今後に支障が出るので少し飴を与えましょうか。
「私の仲間になってくれるのなら、この【アクエリア水晶】をプレゼントしますよ」
『! …………KYUU!』
「仲間になってくれれば今後も食事に困る事はないですよ」
私がアイテムボックスから取り出したその水晶を見た相手は目を輝かせました…………カーバンクル系統のモンスターは質の高い鉱石を主食としており、この鉱山にある様な低質な鉱石ばかり食べていると体調を崩してしまう繊細なモンスターですからね。
なので、おそらく長時間ここの質の低い鉱石ばかり食べていたこの子の目には、この水晶はご馳走に見える事でしょう…………ちなみにこの【アクエリア水晶】はアーシーのご飯として持っていた物の一つであり、更に水属性を宿しているので同じ属性のこの子が好きそうだと思って選びました。
『…………KYUI!』
「分かりました。では交渉成立と言う事で……《
どうやら相手も了承してくれた様なのでテイムしましょう…………よし! テイム成功ですね。
…………では、約束通り【アクエリア水晶】をプレゼントしましょう。
『KYUKYUKYU!』
「よく食べていますね。…………では、あなたの名前は“サフィア”にしましょう。これからよろしくお願いしますね」
『KYUI!』
これで【バリア・サファイアカーバンクル】、改めサフィアが仲間になりました。みんなも仲良くしてあげて下さいね。
…………とりあえず、サフィアが仲間になった事をターニャとエドワードさんに伝えましょうか。
「さて、この子が交渉の結果仲間になったサフィアです。今回のクエストの目的は『<イスティア鉱山>の問題解決』なので、これで達成ですね」
「あ、ああ…………そうだな」
「…………交渉? 脅迫じゃなくて?」
「モンスターのテイムは大体こんな感じですよ」
なんか二人がやや引いている気がしますが、テイムするには基本的にこちらの実力を見せて、テイマーの事を使えるに値する主人であると認めさせる必要がありますからね…………傷ついたモンスターを助けてそのままテイムする事もなくはないですが、そんなシチュエーションは早々ありませんし。
「…………まあ、事件を解決出来たのだからこれでいいだろう」
「そうだねー。…………しっかし、今回私達はかけらも役に立って無かったね。やっぱりランカーの戦闘にはついて行けないや」
「二人共、生産職だから仕方がないと思いますよ。…………さて、クエストも終わりましたし帰りましょうか」
こうして私達は<イスティア鉱山>を後にしたのだった…………私としてはクエストを達成出来て、更に新しい仲間も増えたので実にいい一日でしたね。
…………そういえば、そろそろ公式のハロウィンイベントがあるみたいですし、少し王都を離れてみるのもいいかもしれませんね。王都の北東にあるクレーミルにでも行ってみましょうか。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
エルザ・ウインドベル:特技はテイム時の交渉(物理)
・個人で保有する総戦力は現在のアルター王国ではトップクラス。
・<プロデュース・ビルド>の専属<マスター>で、本人のリアルラックでドロップする希少素材をよく下ろしている。
・その代わりに各種装備を格安で受け取っており、そのお陰で手持ちの戦力は更に上がっている。
・尚、本人の装備は【救命のブローチ】以外は従属キャパシティ拡張スキルやテイムモンスター強化スキル持ち装備で固めている。
【騎乗従魔師】:【従魔師】の派生下級職
・テイムモンスターに騎乗する事に特化したジョブで、騎乗しているモンスターを強化する《騎獣強化》などのスキルを取得できる。
・【騎兵】との違いは騎乗したテイムモンスターの補助が主体で、騎乗者が戦闘する為のスキルを覚えない事。
【獣医】:獣医系統下級職
・モンスターを治療する事に特化したジョブで本編で使った《魔獣診断》の他にも、モンスターのHPや状態異常を回復させるスキルなどを覚える。
【ワルキューレ】:第五形態に進化した
・全員<プロデュース・ビルド>産の上級装備で身を固めている。
・新しく生まれた五女のリーファは黒髪のサイドテールで陽気な性格、そのジョブビルドは【弓手】【罠師】【盗賊】【狩人】などの弓や短剣を武器にする索敵・支援型。
《ダイヤモンド・ダスト》:【白氷術師】のスキルその一
・空間に細かい氷の粒を展開する魔法で、その空間内での氷属性魔法の効果を上昇させる効果がある。
《フリーズ・フロア》:【白氷術師】のスキルその二
・地面を凍らせる魔法で、相手の足ごと凍らせたり凍った地面で相手を滑らせたりして動きを鈍らせる魔法。
エルザのテイムモンスター:全員レベルは相当上がっている
・セレナは純竜に進化した上で《人化》スキルを取得しており、それを見てヴェルフとウォズも《人化》取得の為に密かに修行している。
・アーシーはエルザの懐に入っていたいので《人化》にはあまり興味を示しておらず、むしろ進化しても大型化しない様にコアだけで行動出来る様に自身を調整している。
・また、アーシーとセレナは意思疎通の為に《人間範疇生物言語》スキルを取得している。
【バリア・サファイアカーバンクル】:エルザの5番目のテイムモンスターで名前はサフィア
・小型だがMP、END、AGIに長けた亜竜級モンスターで、水属性と結界の魔法を得意とする。
・カーバンクル種は主に魔法に長けており、成長する過程で食べた鉱石によって属性や能力が変わる生態を持つ。
・元々は<水精洞窟>(当時は自然ダンジョンではなかった)に住んでいたが、<UBM>【魔鋼蚯蚓 アニワザム】に襲撃され住処を追い出された。
・その後、王国中を彷徨い歩いていたがカーバンクル系統が主食とする様な質の高い鉱石が産出される場所はなかなか見つからず、或いは既に強力なモンスターの縄張りになっていたので、仕方がなく人とモンスターの少ない<イスティア鉱山>に住み着いていた。
・人間を襲っていたのは、彼等が質の高い鉱石を採掘する為にモンスターを排除する事を知っていたから。
・本編では長旅と食事不足で弱体化していた。
ターニャ&エドワード:生産職としての付き合いは色々ある
・今回の一件で自分達は完全に生産に特化しようと思った
・ちなみにエルザの交渉()中にはかなり遠い目をしていた(特にターニャ)。
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ハロウィンイベント:前編
それでは本編をどうぞ。
□城塞都市クレーミル 【
「さて、そういう訳でハロウィンイベントの幕開けです!」
「なのです!」
「ハイハイ」
『元気だね』
あれからクレーミルで資金稼ぎをしていた私達は、ひとまずはそれを中止して始まったハロウィンイベントに参加する事にしたのだ。
ちなみに今回のハロウィンイベントは期間中にポップするイベントモンスターと倒して、ドロップしたアイテム(お菓子型らしい)を集めるのが主な目的になるみたい。そして、それらのアイテムはイベント終了後にさまざまな景品と交換出来るらしい。
また、高レベルのイベントボスモンスターや数は少ないがイベント限定の<
…………そして、今回はもう一人パーティーメンバーが居るんだよ!
「そういう訳で頑張ろうね! エルザちゃん!」
「はい! 頑張りましょう!」
「よろしくお願いします」
そう、今回のイベントはフレンドのエルザちゃんも一緒に参加する事になったのです!
エルザちゃんがクレーミルに来ていた時にたまたま狩りをしていた私と再会して、せっかくだから一緒にイベントに参加しようって話になったんだよね。
…………ちなみに、今こそエルザちゃんの側に居るのはアリアさんだけだけど、他の【ワルキューレ】新メンバーや彼女の新しいテイムモンスター達とは既に顔合わせ済みだよ。
「しかし、エルザちゃんが討伐ランカーになってたとはね〜。初めて会った時と比べると見違えたよ」
「そんな、大した事はないですよ。…………みんなが倒したモンスターの殆どが私の討伐カウントになっているお陰で、ランキングの端の方に引っかかっているだけですし」
「そこまで謙遜する事はないだろう。それに、俺達だって討伐ランキングには入っていないからな」
「そんなモンスターを仲間にしている事自体が凄い事だと思うのです」
そうなんだよ、しばらく会わないうちにエルザちゃんが物凄く強くなっているんだよねー。
…………なにせ、亜竜級モンスター三体と純竜級モンスター二体を仲間にしていて、更に【ワルキューレ】達も全員高級な装備を身につけてかなり強そうだったし。
そもそも、討伐ランキングに載っている<マスター>だって、他に私達が知っているのはシュウさんか月影さんぐらいだし…………下手するとエルザちゃん達だけで私達三人よりも強いかもしれないしね。
…………そんな風に言うと、アリアさんがドヤ顔をしていた。
「ええ! そうでしょうとも!! マスターは既にこのアルター王国のおいてトップクラスのテイマーと言って差し支えないでしょう!」
「アリア、あんまり大きな声で言わないで……。それを言うなら、ミカさんやレントさんも王国ではかなりの有名人でしょう? 『アルター王国の各地で<UBM>などの強力なモンスターを次々と倒している三兄妹がいる』って話は結構聞きますよ」
「ふーん、私達ってそんなに噂になってるのか。…………知らなかったよ」
「俺達は基本的に身内でデンドロをプレイしているから、そういう噂には疎いしな。…………だが、ちゃんと俺達が兄妹だと伝わっているのは助かるな」
「これで勘違いする人も減りますね」
まあ、私達は主に私の直感の所為でいくつものトラブルに首を突っ込んでいるからね、そりゃあ噂ぐらいにはなるかな。
…………だから、先日のPKさん達も私達を狙って来たのかなぁ。
「それにお二人には『二つ名』とかもつけられていますよ。…………レントさんは“万能者”や“戦科百般”、ミカさんには“撲殺姫”とか」
「ちょっと待って、厨二っぽいお兄ちゃんの方はともかく私の二つ名が凄い物騒なんだけど」
「オイコラ、誰が厨二だ、誰が」
私のメインジョブは【戦棍姫】であって撲殺姫じゃないよ!
「うぐぐ……何故、そんな二つ名に……」
「確かターニャが言ってましたが、『笑みを浮かべながら純竜級モンスターや襲いかかって来たPKを巨大なメイスで
「後、ミカ殿は今現在<マスター>の中でも殆どいない
「成る程、ぴったりな二つ名だな(笑)」
ぐぬぬ…………おにょれ、お兄ちゃんめ……。自分も厨二臭い二つ名のくせに……。
…………確かに私は純竜級モンスターを一撃で粉砕したり、偶に襲い掛かって来たPK<マスター>を返り討ちにしたりしているけどさぁ……。
「こうなったら、もっと良い二つ名を考えて広めて……」
「やめとけ。…………自分で考えた二つ名なんてどんなモノでも痛すぎるだろ」
ウグゥ! 元厨二病のお兄ちゃんが言うと説得力が違うねー……。
「二つ名というのは、他人から言われるからこそ意味のあるものですからね。自分で言っても間抜けなだけなのです」
「だよねー……。やっぱり、他人が話す噂はスルーするしかないか……」
「それが妥当だろうな。直接の実害がない限りはそうするべきだろう」
まあ、気にしてもしょうがない話だしね……あ、そうだ。
「そういえば、エルザちゃんにも何か二つ名があるの? ランカーだし」
「え! えーっと、それは……「はい! マスターには我ら【ワルキューレ】や何体もの上級モンスターを従える姿から“神軍女帝”の二つ名がありますね!」ちょっと! アリア⁉︎」
私がそんな質問をすると、やや顔を引きつらせたエルザちゃんに変わって、アリアさんがもの凄いドヤ顔で答えてくれた…………チッ、普通にカッコいい二つ名だったね。
「と、とりあえずこの話はここまでにして、早くハロウィンイベントを始めましょう!」
「…………まあ、そうだな。早く行かないとモンスターが狩り尽くされるかもしれないし」
やや顔を赤らめたエルザちゃんが急かしてきたので、ひとまずこの話は終わりにしてイベントを始める事にしようか…………これ以上、二つ名の話をしても疲れるだけだしね。
そういう訳で、私達はクレーミルの城門から外に出たところで移動の準備を始める事にした。
「とりあえず、俺達は空を飛んで人の居ない場所でモンスターを狩る感じで行こうか」
「そうだね。…………主な狩場にはイベントモンスターと<マスター>がひしめいているみたいだし」
私達がこのイベントで有利なところは空中を移動できて行動範囲が非常に広い事だからね、その辺りを有効活用すれば結構モンスターを狩れるんじゃないかな。
「それじゃあ、私はエルザちゃんに相乗りしたいんだけど、いいかな? お兄ちゃんの【マグネトローべ】は二人しか乗れないし」
「はい、構いませんよ。私のセレナは最大三人は乗れますし」
「では、私は兄様と一緒に行くのです」
「ああ、分かった」
と、そんな感じでさっさと準備を整えていく…………前半のグダグダがウソみたいにサクサク話が進んでいくね。
…………そして、私とエルザちゃんと【ワルキューレ】四女のフィーネちゃんが【シャイン・ドラゴン】のセレナちゃんに乗り、お兄ちゃんとミュウちゃんとフェイちゃんが【マグネトローべ】に騎乗して、更にエルザちゃんが空戦可能なウォズとアーシーを【ジュエル】から呼び出して準備は完了した。
「それじゃ、ハロウィンイベントに出発しようか」
「「「はーい!」」」
そのお兄ちゃんの言葉と共に、私達は空へと舞い上がった…………ちなみに、空から見るとクレーミル周辺の主だった狩場は<マスター>が大量に居てとても狩りが出来る様じゃなかったので、私達は少し離れた人の居なさそうなところは行く事にした。
◇
それからしばらく空を飛んで、周りがやや薄暗くなった頃に私達はクレーミル西側にある山岳地帯に足を踏み入れていた(ちなみにハロウィンイベントでは夜の方がイベントモンスターが出やすくなっている)。
ここはクレーミルから結構離れていて道中の地形も入り組んでいるから人は殆ど居らず、生息しているモンスターのレベルもそれなりだから、私達が狩りをするのにちょうどいい場所だと思って選んだんだ。
そして、私はお兄ちゃんとチームを組んでイベントモンスターと絶賛戦闘中である…………最初は纏まって戦ってたんだけど、私達の誰かが瞬時にモンスターを倒してしまい他の人が暇になってしまうので、三チームぐらに別れて行動した方が良いという話になったんだよ。
「《スマッシュメイス》! 《竜尾剣》!」
『『KYAAA⁉︎』』
「《魔法多重発動》《ホーリー・ジャベリン》!」
『『『────⁉︎』』』
私は目の前にいるカボチャの頭にボロボロの黒いローブを着て、手に鎌を持って宙を舞う二体の【ジャック・オー・ランタン】というモンスターを殴り飛ばし、もう一体を背中の剣尾を射出して斬り裂いた。
その上空では【マグネトローべ】を駆るお兄ちゃんが、何匹かの【ウィル・オ・ウィスプ】という人魂型のモンスターが放つ青色の炎を回避しつつ、複数の聖属性魔法の槍を放ってそれらを貫き消滅させている。
…………そうしている間にも上空にはオレンジ色で頭部がカボチャの飛竜──【パンプキン・ワイバーン】が三体、地上にはハロウィンっぽい派手な仮装をした骸骨達──【ハロウィン・スケルトン】が各種様々な武器を持ってこちらに近づいて来た。
「しかし、このイベントモンスター達はステータスは高くないけど面倒だね」
「そうだな。…………なにせ、
そんな会話をしつつ、お兄ちゃんは大量展開した炎の槍を【パンプキン・ワイバーン】達に打ち込み、私は弓持ちの【ハロウィン・スケルトン】が射って来る矢を躱しながら敵に突っ込んでいった。
「とりあえず吹き飛べ! 《テンペスト・ストライク》!」
『『『──────⁉︎』』』
その暴風を纏った【ギガース】の一撃が、前衛の近接武器を持っていた五体程の【ハロウィン・スケルトン】達をバラバラにして、ついでに後方から放たれる矢も吹き飛ばした。
そして敵中に突っ込んだ私は、そのまま背中の《竜尾剣》を伸ばして遠距離武器持ちのスケルトン達を引き裂いていった。
『『『GYAAAAA!』』』
「おっと! 《魔法多重発動》《ボルテクス・ジャベリン》!」
…………一方上空では【マグネトローべ】に乗ったお兄ちゃんが三体のワイバーンが吐く火炎を躱しながら、反撃に渦を巻いた水の槍を五本程放って相手の身体を貫いていっていた。
そして、放たれた水の槍の内一本は一体のワイバーンの頭部を抉り、その身を光の塵へと変えた。
「さて、あと二体……上がってくれ《瞬間装備》《ハンティング・スナイプ》!」
『GYAAA⁉︎』
更に武器を弓に変えたお兄ちゃんは【マグネトローべ】を上に走らせて二体のワイバーンの高所を取ると、そのまま身を乗り出しながら下に矢を放ち翼を抉られて動きの鈍ったワイバーンの頭部を撃ち抜き撃破した。
…………だが、最後に残った一番ダメージの少ないワイバーンが勢いよく上昇してお兄ちゃんに突撃をかけて来た。
『GYAAAAA!!』
「《クイックアロー》!」
その突撃して来たワイバーンにお兄ちゃんは迎撃の矢を放つものの、まだ慣れない馬上で放ったからかその矢は相手を射抜く事は出来なかった。
…………そして矢を回避したワイバーンはその牙でお兄ちゃんを噛み砕こうとし……。
「《磁蹄》解除。《ハンティング・エッジ》」
『GYAA……⁉︎』
その攻撃は
「ふう……おっと、どうも攻撃が掠っていたみたいだな。…………それに
「おつかれ、お兄ちゃん。…………それじゃあイベントアイテムを回収しようか」
そんな感じで周囲の敵を全滅させた私は、イベントモンスターの共通スキルの所為で
◇◇◇
□クレーミル領内 【
先程の戦闘が終わってから俺とミカは地上で落ちているイベントアイテムを拾い集めていた…………しかし、先程の戦闘では魔法は兎も角として空中で騎乗しながらの射撃がイマイチだったな。
一応、先日転職条件を満たした【大騎兵】に就いたお陰で大分騎乗能力は上がったんだが、やはりもう少し練習が必要だな。それに騎乗時の近接戦闘ではリーチの無い短剣はかなり使い難い事は分かったし…………槍でも使ってみるかな?
…………と、そんな事を考えているうちに落ちたアイテムは全て拾い終わっていた。
「……さて、これで拾い終わったね。……ドロップは【ハロウィンキャンディ】と【ハロウィンクッキー】ね」
「こっちは【ハロウィンマシュマロ】と【ハロウィンビスケット】がいくつかだな」
これらのお菓子(ちゃんと食べられるらしい)が今回集めるイベントアイテムである…………ちなみに、他にも【ハロウィンチョコレート】や【ハロウィンケーキ】などいくつかの種類があり、物によってポイントが変わるらしい。
「しかし、今回の
「確かに面倒くさいよね……ランダム状態異常のスキルは」
今回のイベントモンスター達は《トリック・オア・トリート》という『ダメージを与えた相手にそれぞれ五割の確率でHPを一割回復させるか、何らかの状態異常をランダムで一つ与える』効果のパッシブスキルを持っている。
…………その効果は攻撃を掠ったりするだけでも発動する為、更にランダム性があるからかレジストも非常に困難な非常に面倒なスキルになっているのだ。
「対処するには攻撃を躱すしか無いってのは厄介だよねー。掛かった状態異常によっては大分面倒な事になるし」
「確かにな。状態異常の種類も多岐にわたるからアイテムでの回復は難しく、回復役が居ないとキツイだろうしな。…………まあ、状態異常の強度自体は低いから、最低レベルの回復魔法やアイテムでもどうにかなるのは救いだが」
ちなみに俺達は三つのチームに別れる際に、このスキル対策として回復役(俺、フェイ、【ワルキューレ】次女のセリカ)をそれぞれのチームに入れている。
…………ていうか、“トリックオアトリート”ってそういう意味じゃない様な気がするが……。
「ああ、もしかして状態異常の効果が低いのは
「かもしれん。…………と言っても、戦闘中に動きが僅かでも鈍るのは結構致命的なんだがな。まあ、ある程度なら自分で判断して動いてくれる【マグネトローべ】に騎乗していればそこまで問題にはならないが」
と言いながら、側に立っている【マグネトローべ】の背を撫でてみる…………どうも、この【マグネトローべ】には自分の意思がある様でただ俺の指示通りに動くのではなく、その指示された内容から今の状況にあった動きをしている様なのだ。
また、一緒に戦っているうちにその判断力は少しずつ上がっている様に感じるので、おそらくは学習機能もあると考えられる。
…………という話をミカにもしておいた。
「ふーん、じゃあ
「…………多分、大丈夫だと思うが。…………というか、お前の直感でも危険はないんだろ?」
「まあそうなんだけど。…………今のところ、この子からは危険は感じないよ」
「なら大丈夫だろう。一応、今まで乗って来た時にも特に悪意は感じなかったしな」
でも、一応ご機嫌とかも取っておいた方がいいか? とりあえず、後で金属製品を手入れ出来るアイテムとかを買っておくか……。
…………と、そんな事を考えていると【テレパシーカフス】にミュウちゃんからの連絡が届いた。
『あ、兄様? ……どうもエルザさんがイベントボスモンスターと遭遇したらしく援護が欲しいそうなのです。私もこれから直ぐに向かうので兄様達も来てくれます?』
「ああ、分かった。すぐに向かうよ」
「オッケー! 直ぐ行くね」
そう言ってミュウちゃんとの連絡は途切れた…………まあ、そこまで焦ってはいなかったから緊急という訳では無いみたいだし、今のエルザちゃんが<UBM>じゃないボスモンスターにあっさりやられるとは思えないしな。
…………とは言え、万が一もあるしなるべく急ぐべきだと考えた俺は、直ぐに【マグネトローべ】に乗った。そして、話を聞いていたミカも俺の後ろに飛び乗った。
「聞いたなミカ、それじゃあ行くぞ。《ライディング・アクセラレイション》」
そうして【マグネトローべ】の手綱を握った俺は、とりあえず【大騎兵】の騎乗しているモノのAGIを上昇させるアクティブスキルを使った上ですぐさま上空へと舞い上がり、全速力でエルザちゃん達が狩り場にしている方向へと駆けて行った。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:現在騎乗戦闘練習中
・学習していると思われる【マグネトローべ】を自爆や肉壁とかにはなるべくしない様にしようと思っている。
《ボルテクス・ジャベリン》:【蒼海術師】のスキル
・渦を巻いている水の槍を放つ魔法で、回転する水で相手を抉るので威力はかなり高い。
・だが、回転の分だけ他のジャベリン系魔法と比べるとMPを消費する。
【磁蹄騎馬 マグネトローべ】:人口知能搭載
・“動力炉”は無いがスキル以外の本体性能や人口知能のスペックはオリジナル煌玉馬に匹敵する。
・ちなみに人口知能は<UBM>だった頃の記憶などは無いまっさらな状態で、現在兄の行動パターンなどを学習中。
妹:自分の二つ名に関しては大いに不満
・自分が超級職である事は別に隠してはいないのでそれなりに知られている。
ハロウィンイベント:デンドロの季節イベントの一つ
・モンスターの種類は他にも色々いて、手の込んだモノや既存のモンスターの見かけを変えたモノなど様々。
・《トリック・オア・トリート》の状態異常は病毒・呪怨・制限・精神系の中から致命でない物がランダムに一つ選ばれる。
・その強度は低いが種類が多すぎるので治すのが面倒であり、特に自分で治さなければならないソロプレイヤーからの評価は悪い。
・効果出来るアイテムは今回のイベントに参加し難い生産系<マスター>に配慮して高性能な素材系アイテムがメインであり、逆に装備や普通のアイテムは性能が低いかネタアイテムが殆どになっている。
【ジャック・オー・ランタン】:イベントモンスターその一
・霊体で《物理攻撃無効》持ちであり、手に持った鎌にはダメージを与えた時一緒にMPとSPを削る効果がある。
・他にも隠密性に長けており、カボチャ頭から【呪障】(HPを持続現象させる呪怨系状態異常)効果をもたらす呪いの炎を吐く《カース・フレイム》というスキルも持つ。
【ウィル・オ・ウィスプ】:イベントモンスターその二
・こちらも霊体の《物理攻撃無効》持ちで、ランダムで火属性・闇属性魔法や呪術を取得している。
【ハロウィン・スケルトン】:イベントモンスターその三
・様々な種類の武器の内一つを装備しており、その武器に由来するジョブスキルをランダムにいくつか取得している。
・また、杖を持ってランダム(光・聖属性以外)に魔法スキルを取得している個体もいる。
【パンプキン・ワイバーン】:イベントモンスターその四
・スキルはカボチャ頭の口から《カース・フレイム》を吐くぐらいで、基本的には高いAGIと飛行能力を活かした接近戦を行う。
末妹&エルザ:現在別行動中
・チーム分けは末妹がエルザの手持ちを二人(移動役のセレナと索敵役のリーファ)借りて、互いに少し離れたところを探索する形になっている。
・ちなみにエルザは自分の二つ名を恥ずかしがっているが、アリアは凄く気に入っており事あるごとに自慢しようとしている。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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ハロウィンイベント:中編
□クレーミル領内 【
現在行われているハロウィンイベントのモンスターを倒すためにクレーミル領内の外れに来た私達は、纏まって行動していると狩りの効率が悪いと言う事で三チームに分かれて行動することになり、私はエルザさんの【シャイン・ドラゴン】のセレナさんと、彼女の<エンブリオ>の一人であるリーファさんと一緒にチームを組む事になったのです。
そして、今は全長十メートル程の竜形態になったセレナさんが上空にいる【パンプキン・ワイバーン】の群れを足止めしている間に、他のメンバーで地上にいるイベントモンスターを狩っているのです。
「《アローレイン》!」
『『『GYAAAA⁉︎』』』
まず、前方にいる派手な仮装している武装した五体のゴブリン──【ハロウィン・ゴブリン】の群れに対しリーファさんが矢を上空に放つと、その矢が数十本に分裂してゴブリンの群れに降り注ぐ。
その矢によってダメージを受けたゴブリンは奇声をあげながら体勢を崩したので、私はその隙に《アクセルステップ》──数歩だけAGIを倍にするスキル──を使って奴等に接近しました。
「《ライトニング・ストレート》!」
『GYAAA⁉︎』
接近した私は、まず先頭にいた剣を持つゴブリンに《ライトニング・ストレート》──雷を纏った正拳突きを放つ【
…………とはいえ、その間に体勢を立て直した槍と斧を持った二体のゴブリンが、それぞれ左右から襲い掛かって来ました。
「疾ッ! せいっ!」
『GUッ! GYAァ!』
なので、私はまず左から襲い掛かって来たゴブリンの槍を躱しながら《サイドステップ》──AGIを倍にして一歩だけ横方向に移動するスキル──を使ってその間合いの内側に潜り込み、そのまま《肘打ち》を当てて怯ませたところに《ハイキック》の回し蹴りを相手の首に当てて頸骨を砕きました。
…………ちなみに、最近漸くコツを掴んで来たので簡単な格闘系アクティブスキルなら、技名を言わずに使う事が出来る様になったのです。
『《ヒート・ブラスター》!』
『GYAAA⁉︎』
そして右から襲い掛かって来た斧持ちのゴブリンも、後方に居たフェイが放った熱線により消し飛ばされました。
…………後は、後方にいる弓とメイスを持った二体のゴブリンですが……。
「《スナイプ・ショット》!」
『GYU⁉︎』
弓を持った方はリーファさんが矢で眉間を撃ち抜いて倒しましたので、残りはメイスを持ったヤツ一体だけになりました。
『
何と、その最後に残ったゴブリンはメイスに業火を纏わせてこちらに突っ込んで来ました…………って、あれは姉様も使っている【
…………そして、その豪炎を纏ったメイスが私に振り下ろされ……。
「《ファントム・ステップ》……《ハートブレイク》」
『GYA…………⁈』
私がスキルを使って作った
そのまま、私は間合いを詰めて《ハートブレイク》──心臓部分を殴る事で相手を一定確率で即死させる【拳聖】のスキル──をゴブリンの胸に当てて、その息の根を止めました。
「……さて、これで地上の敵は片付きましたね」
「そうっすね。後は『GYAAAAA⁉︎』うえっ⁉︎」
地上の敵を片付けた私達の元に空から大ダメージを受けた一体の【パンプキン・ワイバーン】が勢いよく落ちて来て、そのまま光の塵になりました。
…………とりあえず上空を見てみると、そこでは三体程のボロボロなワイバーンを白い竜の姿をしたセレナさんが一方的に叩きのめしていました。
『遅い! 《レーザークロー》! 《レーザーバイト》!』
『GYEAAAAA!』
まず、ワイバーンよりも遥かに速い速度で接近したセレナさんが光を纏った前脚の爪でその一体を引き裂き、更にもう一体を光輝く牙で噛み砕きました。
…………それを見た最後の一体は慌てて逃げようとしますが……。
『逃すわけないでしょう? ……落ちなさい!』
『GAッ⁉︎ ……GUGYAAA⁉︎』
セレナさんにはあっさりと追いつかれて首根っこを掴まれ、そのまま地面に叩きつけられて光の塵となったのでした…………流石は光属性の純竜ですね、ワイバーン程度では相手なりませんか。
…………そのまま地上に降りたセレナさんは人型に変化してこちらに向かって来ました。
「ふう、あたりが暗いと《閃光集束》が使えない所為で、肉弾戦主体でやるしかないから時間がかかるわね。…………そっちは片付いたかしら」
「ええ、地上の敵は全員倒したのです」
「とりあえず、辺りに敵の気配はないっすよ」
そんな感じで、お互いの状況を確認し合います…………これまで何度も一緒に戦ったお陰で、彼女達とは結構仲良くなれたのです。
『それでダメージや状態異常を負った人はいるかい?』
「大丈夫ですよフェイ。攻撃は全て躱しましたから」
「当然問題無いわよ。あの程度の竜擬きに手傷を負う筈は無いわ」
「アタシは遠距離から撃っていただけなので大丈夫っす」
皆さん特にダメージは負っていないようですね…………今回は
…………全員問題無いとなったので、敵がドロップしたイベントアイテムを回収していきます。
「ふう、これで全部っすね。…………しかし、ミュウさん凄い強いっすね! これまで攻撃に全く当たっていないし!」
「大した事は無いのです。…………それに、あの程度の相手の攻撃を全て躱すぐらいなら兄様や姉様でも出来るのです」
「うちのマスターもそうだけど、人間って謙遜が好きなのかしら? …………私の視点だと、全員そこらの人間より圧倒的に優れていると思うのだけれど」
…………そんな風にお喋りをしていると、突如リーファさんが何かに気付いた様に顔を上げました。
「えっ! ……分かったっす! ……皆さん、どうやらウチのマスター達がイベントボスモンスターと遭遇して現在戦闘中みたいっす!」
「<
「いえ! 普通のボスモンスターみたいっす!」
「分かりました、直ぐに向かいましょう。……一応、兄様にも連絡しておきましょうか」
私は【テレパシーカフス】を使って兄様に手早く事情を説明して、援軍に来てくれる様に伝えておきました。
…………その間にセレナさんは竜形態に戻っていたので、リーファさんと一緒に急いでその背に飛び乗ります。
『それじゃあ、急いで飛んで行くからしっかりと捕まってなさい!』
「はいなのです!」
そして、私達を乗せたセレナさんは全速力でエルザさん達の元へ飛んで行ったのでした。
◇
数分程全力飛行を行うと前方数十メートル先に巨大な影が見えてきたので、セレナさんは空中にホバリングを行う事で一旦停止しました…………よく見ると、その影はドラゴンの様な形をしており地上に向けて炎を吐いている様でした。
そして、地上からも魔法などによる攻撃が行われているみたいです。
「見えて来たっす! アイツは……【グレーター・パンプキンドラゴン】と言うらしいっす!」
「……確かに頭部はカボチャですね。【パンプキン・ワイバーン】の上位種でしょうか」
そいつはカボチャの様な頭部を持つ全身オレンジ色をした体長三十メートル程のドラゴン──【グレーター・パンプキンドラゴン】という名前のボスモンスターの様です。
そしてソイツは地上に向けて口から炎を吐いたり、更に闇属性っぽい黒い弾丸で放ったりしている様です…………地上に居るらしいエルザさん達は障壁や土の壁でそれらの攻撃を防いでいる様ですが、結構押されている様なのです。
「あっ! マスターから連絡っす。……出来ればあのドラゴンの翼を攻撃して飛行能力を削いで欲しいって言ってるっす!」
「分かったのです。……フェイ、ここからでも必殺スキルの効果はエルザさん達に届きますね」
『ああ。パーティーを組んでいて僕達の知覚範囲内にいればね』
私達の必殺スキルはパーティー内の使役モンスターも効果範囲に含めるので、多くの仲間がいるエルザさんとは相性がいいでしょう。
「リーファさん、必殺スキルによる各種バフを掛けるのでエルザさんに伝えて下さい」
「分かったっす!」
『《
そして、私は必殺スキルを使いつつ各種バフスキルを自分にかけていきます…………現在エルザさん達が押されているのはイベントモンスターのスキルによる状態異常を警戒して防御に回っているからでしょうし、私の魔法耐性と【ハデスルード】の《霊環付与》掛ければ形勢は変わるでしょう。
「セレナさん、このまま突っ込んでヤツに組みついて下さい。その隙に私が翼を破壊するのです」
『まあ、これだけ強化が掛かっていればどうにかなるわね。……行くわよ! 掴まってなさい!』
「え? ……えわぁァァァ⁉︎」
その言葉を聞いて慌ててしがみついたリーファさんを尻目に、セレナさんは全速力で【グレーター・パンプキンドラゴン】に突撃してその身体に組み付きました…………向こうの方が三倍ぐらい大きいですが、不意をついた事と必殺スキルによる強化が合わさって一時的に相手の動きを止める事に成功しました。
…………そして、私はその隙にセレナさんの背からヤツの背に飛び乗り、その揺れる身体に合わせて上手く立ち回りつつヤツの翼の付け根まで全速力で走って行きました。
『《ミラクル・ミキシング》ー《ヒート・ブラスター》イン《シャイニング・フィスト》』
「《真撃》《シャイニング・フィスト》!」
『! GYAA⁉︎』
私はその付け根に向けて
…………ちなみに《ミラクル・ミキシング》による魔法付与の形は融合させるスキル次第ではある程度ならフェイが制御する事が出来て、今回は熱線の魔法を光の手刀に合わせてブレード状に展開した形になるのです。
『GYAAAAA⁉︎』
「よっと」
そして、片翼を破壊されたヤツは飛行を維持出来なくなったのか悲鳴を上げながら地面に落ちて行ったので、すぐに私もそこから跳躍して距離を取りつつ地面に降りて行きました。
「えっ! ちょ! おわぁ!」
『全く、捕まりなさい!』
…………急に落下した所為でリーファさんが空に投げ出される事もありましたが、セレナさんが上手くキャッチしてくれたのです。
そして、そのまま私達は地上に無事着地してエルザさんと合流し、体勢を崩していたヤツはそのまま地面に勢いよく激突しました。
「大丈夫ですか、エルザさん」
「ええ、ミュウさんが掛けてくれたバフのお陰で殆どのダメージはありませんよ。……それから、ありがとうございます、お陰で助かりました」
「回復がかなり厳しかったですからね。本当に助かりましたミュウさん」
エルザさん達の無事を確認すると、彼女とセリカさんからそんな風に御礼を言われてしまいました…………少し照れますね。
…………さて、後は地面に落ちたヤツを倒せば……! 殺気⁉︎
「エルザさん! 伏せて!」
「え?」
『BAWU!』
『KYU!』
急に強い殺気を感じ取った私はすぐさまエルザさんに警告を発し、それとほぼ同時に
…………その次の瞬間、その結界は
『《魔力視》! 《ホーリー・ブレッシング》!』
「そこですか!」
フェイが《魔力視》を使うと目の前にうっすらとした影の様なモノが見えたので、私は即座に《ソニックフィスト》を使って前方に踏み込みその影を殴り飛ばしました。
…………手応えはありますが、この感覚は《物理攻撃無効》を持つ霊体ですね。事前にフェイが霊体に対して物理攻撃を当てられる様になる効果を持つ《ホーリー・ブレッシング》を使ってくれて助かりました。
「一体何が⁉︎」
「どうやら新手の様ですね」
すると、目の前の影が徐々にその輪郭をはっきりとさせて行きました…………そして現れたその姿はカボチャ頭に黒いボロ切れを着て、その手には禍々しいオーラを放つ大鎌が握られていました。
…………姿形は【ジャック・オー・ランタン】に似ていますが、それよりも一回り程身体が大きく、発している殺気も比べ物になりません。
その考えを裏付ける様にソイツの頭上には【ジャック・デスサイズ・キラー】の文字が浮かんでいました。
「ボスモンスターがもう一体ですか⁉︎」
「その様です……ねっ!」
『──────!』
そうして姿を現した【デスサイズ】は驚いているこちらを無視して
しかしヤツは自分の攻撃をあっさりといなされた事に警戒したのか、一旦こちらから距離を取って様子を見始めました。
…………とりあえず、今の内にエルザさんと状況の確認をしておくのです。
「ふむ、能力も知性も【ジャック・オー・ランタン】とは比べ物になりませんね。……エルザさん、あの【デスサイズ】は私とフェイだけで相手をするのです」
「それは! ……いえ、分かりました。……私達が
私のその言葉にエルザさんは少し同様したみたいですが、すぐに現在の状況を飲み込んで【デスサイズ】とは逆の方向に向かいました。
…………当然そちらには……。
『GYAAAAAAAAA!!』
落下のダメージから回復して怒り狂った【グレーター・パンプキンドラゴン】がいました…………現在の状況はボスモンスター二体に挟まれているので、どうしても二手に別れないといけませんからね。
「【デスサイズ】はミュウちゃんに任せ、私達はあのドラゴンを倒す事に全力を尽くしますよ! ……みんな! アイツは二分で下します!」
「「「了解!」」」
そう言って、皆さんにはっきりとした指示を出したエルザさんは、仲間達と共にドラゴンとの戦闘に入りました。
…………しかし、成る程……。
「まだ会って間もない私を信じて、完全に後ろを任せてくれましたのです。…………いえ、だからこそエルザさんはあれだけ多くの仲間を得ることが出来たのでしょうね」
仲間に全幅の信頼を寄せて戦闘を任せるというのはなかなか難しい事ですが、彼女は当たり前の様にそれをやっているのです。
…………それに、信頼されるというのはとても嬉しいものですからね。
「さて、それでは私もその信頼に答えなければなりません……ねっ!」
『────⁉︎』
…………その直後、様子を見ていた【デスサイズ】が私を無視してエルザさん達のところまで行こうとしていたので、その進行方向に《アクセル・ステップ》を使って回り込み《ジャブ》と《ストレート》を叩き込んで迎撃します。
「……言っておきますが、私を倒さない限りはあちらには行けないのですよ?」
『──────』
私のその言葉に触発されたのか、或いは私の方を脅威に感じたのかヤツは大鎌を構えてこちらに向き直りました。
どうやら、あちらも戦闘を始めた様ですし…………それでは、こちらも仕合いましょうか。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
末妹&フェイ:決め技は技名を叫んだ方がいいかもと思っている
・騎乗時には【騎馬民族のお守り】を装備している。
・【魔拳士】の転職条件に『魔法系スキルの一定数取得』があったが、フェイの魔法ラーニングのお陰で達成した。
《シャイニング・フィスト》:【拳聖】の奥義
・光を纏った拳で相手を攻撃するスキル。
・攻撃動作が決まっている他の格闘系スキルと違い、拳を使うならジャブやストレートはおろか掌底や手刀でもスキルとして成立する特徴がある。
エルザ:カリスマ指揮官
・その戦いぶりは次回。
セレナ:肉弾戦もかなり得意
・《閃光集束》は光属性スキルを使用する際に周辺の光を集める事で消費MP・SPの軽減と発動までの時間を短縮化するスキルで、その特性上、光が少ない夜間では使えない。
・光属性の射撃と違い、自身の身体に光を纏わせる格闘用のスキルは即座に発動可能。
リーファ:探知役なので末妹に付けられた
・他にも姉妹の中では一番後に生まれたので経験を積ませる目的もあった。
サフィア:戦闘中は常時エルザの周囲に感知結界を敷いている
・今回使ったのは《マルチプル・バリア》という魔力で出来た障壁を自在に展開するスキルで、サフィアが持つ防御系結界スキルはこれだけ。
・だが、障壁を移動させたり、強度・形状を自在に変更できたり、自身の有するスキル効果(各種レジストや隠密系スキル)を障壁に付与したりも出来る希少な万能結界スキル。
・ちなみに用途が違う感知結界の方は《サーチ・フィールド》という展開した範囲に入った対処を感知し、その情報をある程度読み取るスキルが別に存在する。
【グレーター・パンプキンドラゴン】:イベントボスモンスターその一
・【パンプキン・ワイバーン】の上位種の【パンプキン・ドラゴン】の更なる強化種。
・口からの《カース・メガフレイム》と【呪詛】が込められた闇属性の弾丸を放つ《ブラック・バレット》による遠距離攻撃スキルを持つ。
・また、その巨体とステータスから格闘能力も高く、更に窮地に陥ると被ダメージ軽減と接触した対象に【呪縛】を与える効果を持つオーラを身体に纏う《呪怨竜気》というスキルを使ってくる
・ちなみにボスモンスターは<マスター>3〜4パーティーで相手をするぐらいを想定されており、倒すと大量のイベントアイテムをドロップする。
【ジャック・デスサイズ・キラー】:イベントボスモンスターその二
・【ジャック・オー・ランタン】の上位種だが大鎌による接近戦を主体とし、更に魔法や呪術スキルの代わりに非常に高い隠密能力や幻術スキルを持つ。
・大鎌の攻撃でダメージを与えた相手を一定確率で【即死】させる《キリング・デスサイズ》というスキルも持っている。
・ステータスはAGI極振りでそれ以外のステータスはボスモンスターとしてはそこまで高くない。
・イベントアイテムを多く持つ<マスター>を狙う性質がある。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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ハロウィンイベント:後編
□クレーミル領内 【
『GUGYAAAAAAAAA!!!』
さて、私達の目の前には片翼をもぎ取られ怒り狂った【グレーター・パンプキンドラゴン】が雄叫びをあげています…………もう一体のボスである【ジャック・デスサイズ・キラー】はミュウさんが相手をしてくれているので、出来るだけ素早く倒す必要がありますね。
「必殺スキルを使います! チャージは十秒、アリアとウォズ、フィーネとアーシーで! セレナは前衛、サフィアとアーシーは遠距離攻撃を防いで下さい、ウォズとは牽制、ヴェルフは私を乗せて回避!」
「「「「「了解!」」」」」
『《クリエイト・マッドゴーレム》ー』
『BAWU!』
私が指示を出すと共に、まずアーシーが全長十メートル程の泥製ゴーレムを作り上げて皆を守る壁にして、更に私の考えを読み取った【ワルキューレ】達が各々のポジションについていき、そしてヴェルフが私をその背中に乗せた…………【
…………その直後に眼前のドラゴンがカボチャ頭の口から大威力の火炎を吐き出して来ました。
「《ファイア・レジスト》《ワイドガード》!」
『《アース・ウォール》ー』
『
「《セイクリッド・サンクチュアリ》!」
その火炎に対して、前に出ていたトリムが自身の炎熱耐性を上昇させた上で防御範囲を広げるスキルを使い、後ろにいる同じ前衛アリアとセレナを火炎から庇った。更にアーシーが召喚しておいた泥製ゴーレムに加えて複数の土の壁を展開し、サフィアも広域に耐火効果を付与した結界を展開して他のメンバーを守った。そして、セリカが念のために全員に呪怨系や闇属性の攻撃を軽減する結界を掛けていく。
…………それに、今はミュウさんが強力なバフと持続回復を掛けてくれているので、防御していればこの程度の火炎では殆どダメージを負わず、更に《トリック・オア・トリート》による軽度の状態異常も即座に治ってしまうから楽でいいですね。
「《サンダー・スラッシュ》!」
『《レーザークロー》!』
『
「《アイス・ジャベリン》!」
『GYAAAAAAAAA⁉︎』
そして、攻撃直後で隙だらけの相手にアリアが雷を纏った剣で斬りつけ、セレナが光属性の爪撃をみまい、ウォズが風の刃を放ち、フィーネが複数の氷の槍を放ちました。
…………現在掛かっている強力なバフ効果もあって、それらの攻撃は相手の鱗を容易く砕いて相手に大ダメージを与えて行きます。
とはいえ、相手もボスモンスターなのでそう簡単には仕留められず、全身に
「ぐうぅ! ……これは⁉︎」
『チッ! 【呪縛】を掛けられたわね!』
「アーシー、足止め!」
…………どうやら、あのオーラには接触した対象に強力な【呪縛】を掛ける能力がある様です。
なので、私は直ぐにアーシーに相手の動きを止める様に指示を出し、同時に心の中で【ワルキューレ】達に足止めと【呪縛】を直してもらう指示を出しました…………それとほぼ同時に必殺スキルのチャージ時間が終了しましたが、今の状況では発動出来ないので一旦待機させておきます。
『《グランドホールダー》』
「《スナイプ・アロー》っす!」
まず、アーシーが地面から土の腕を複数召喚してヤツを捉えてつつ、残っていた泥製ゴーレムも纏わりつかせてその動きを鈍らせ、同時にリーファが命中精度重視の矢を放ちました…………が、その攻撃はヤツには大したダメージを与えられませんでした。
…………先程と比べるとダメージの入り方が悪いので、どうやらあのオーラは被ダメージ軽減の効果もある様ですね。
『
「サフィア、広域防御!」
…………とか考えていると、私が乗っていたヴェルフが警告を出したので、慌ててサフィアとトリムに指示を飛ばします。
その直後、ヤツは空中に大量の黒い玉を作り出してこちらに撃ちだして来ました。
『GYAAAAAAAA!』
「《サウザンド・シャッター》!」
『KYUUUU!』
その大量の黒い弾丸を前に出たトリムが障壁を作り出してその大部分を防ぎ、残りのうち後衛や動けないアリアとセリカに向かった攻撃をサフィアが展開した障壁が受け止めました…………何発かは私がいた方に抜けましたが、ヴェルフが事前に離脱していたので問題無く回避出来ました。
…………最近ヴェルフは《霊視》という感知系スキルの効果を上昇させるパッシブスキルを覚えたので、相手がどんな攻撃をしてくるのかも何となく解る様になっているみたいなんですよね。
「《魔法多重発動》《ディスペル・カース》!」
「《アイス・バインド》!」
そしてセリカの解呪魔法が二人の【呪縛】を解除し、フィーネの魔法による氷で出来た鎖がヤツを凍らせてその動きを止めました。
…………ここですね。
「《
『『『了解!』』』
アリアの呪いが解かれてヤツが攻撃直後のタイミングを見計らって私は必殺スキルを使い、アリアとウォズ、フィーネとアーシーをそれぞれ融合させて反撃を開始します。
…………まず、ウォズと融合したアリアが背中の翼を使い、超音速機動でヤツに向かって飛翔しました。
「《テンペスト・エッジ》! 《クインティブル・スラッシュ》!」
『GYAAAAAAAAA⁉︎』
そのまま接近したアリアは手に持った剣に強力に風を纏わせた上で五連続の剣撃を放ち、ヤツの身体を斬り裂いて行きます…………反撃にヤツも手足を振り回しますが、超音速で飛行するアリアには攻撃を掠らせる事も出来ていません。
…………私はアリアにそのまま攻撃を続けてヤツの注意を引きつける様に指示を出し、その隙に他のメンバーに攻撃の準備を行わせます。
「アリア! 離脱!」
「了解!」
「《ピアース・アロー》っす!」
『GYAAAAAAAA⁉︎』
そして攻撃の準備が終わったところでアリアを離脱させ、その援護の為リーファが防御貫通効果を持つ矢を放ち…………ヤツの目にオーラを貫通して突き刺さりました。
…………ふむ、目が潰された痛みでヤツが悶え苦しんでいますね。お陰で隙が出来たのでここで攻めましょう。
「……《クリムゾン・スフィア》!」
「……《ディバイン・クロス》!」
『GYAAAAAAAA⁉︎』
アーシーと融合したフィーネが大幅に増加したMPを使って巨大な炎弾をヤツに向けて放ち、その身体の三割程度を焼き尽くし片腕を【炭化】させました。
更にセリカが【
…………私はこのまま推し切れると思い、次の指示を出そうとしますが……。
『
「ッ! 全員突撃が来ます!」
『GUUUGAAAAAAA!』
その前にヴェルフが警告を発しながらその場を離脱したので、私は即座に全員に警告を放ち…………その直後にヤツは残った翼を全力で羽ばたかせて拘束を破壊し、そのままこちらに突っ込んで来ました。
『KYUU! KYUUU!』
「やらせない! 《カバーリング》! 《ギガンティック・ディフェンサー》!」
『GYAAAAAAAA!』
その突撃に対してサフィアが障壁を複数展開しますが、勢いを僅かに鈍らせる事しか出来ずに次々と障壁を砕かれて行きます…………が、その僅かに稼げた時間を使ってトリムが大盾を構えてヤツの前に立ち塞がり、【
「グヌヌヌヌヌヌヌ!」
『GYAAAAAAAA!』
トリムは辛うじて受け止めているもののヤツの突撃の威力を殺しきれず、そのまま後ろに地面を擦りながら下がって行き……。
『《シャイニング・バースト》!』
「《テンペスト・チャージ》!」
『GYAAAAAAAA⁉︎』
その直後、後方からセレナが放った光のブレスでヤツの片翼に風穴を開けて、更に上空からアリアが全身に暴風を纏ってヤツの背中に突撃してその身体を地面に叩きつけました…………それによりヤツの突進は止まったので、その隙にトリムはなんとか離脱出来た様です。
…………大ダメージを受けて身体がボロボロになっているヤツは、それでも立ち上がろうとしますが……。
「……《ホワイト・フィールド》!」
『GYAAAA⁉︎ …………』
トリムとアリアが離脱した直後にフィーネが極大の冷気を放ってヤツを凍らせてしまいました。
…………そして、離脱したアリアが急旋回してヤツの首に接近し……。
「《レーザー・ブレード》!」
『! ────────』
光を纏う剣を振り下ろしてその首を切断しました。
…………その直後、ヤツの身体は光の塵となったのでどうやら倒せたみたいですね。
「マスター! 敵の討伐を完了しました!」
「分かりました! ……では、急いでミュウさんの援護に向かいますよ!」
そうして私達は急いでミュウさんと【ジャック・デスサイズ・キラー】が戦っている方へと向かいました。
「ミュウさん! 大丈夫で……⁉︎」
『『『!』』』
…………そこで私達は、ミュウさんが
◇◇◇
□クレーミル領内 【
さて、ノリで仕合うと言ってみましたが、今の私はデメリットやクールタイムの所為で《ミラクル・ミキシング》《シャイニング・フィスト》《真撃》が使えないので、目の前に大鎌を構えている【ジャック・デスサイズ・キラー】を倒すには少々決定力が欠けているのです。
…………なので、基本的には時間稼ぎをするつもりなのですが……ん?
「ッ!」
そう考えいた時に私は目の前のヤツに違和感を感じ、更に
…………その直後、私の頭上で
『《魔法威力拡大》《ホーリーライト》!』
「シィ!」
『────!』
それとほぼ同時に、私と融合したフェイが事前に準備しておいた聖属性の光源を作る魔法を使うと、その光に照らされた様に殺気を感じた方向に
そして、私は屈んだままその影に《ハイキック》を当てて吹き飛ばし…………そこには先程まで私の目の前に居たはずの【ジャック・デスサイズ・キラー】の姿がありました。
「ふむ、分身……いえ、幻術ですかね。《魔力視》でも見破れませんか」
『それと姿を消す隠密スキルの組み合わせかな?』
『────』
そう、今私の目の前には
…………おそらく、姿を消すスキルを使いながら元居た場所に幻術で自分の姿を置いてこちらに接近したのでしょう。私も
幸い、攻撃する前後には《魔力視》や《心眼》で見破れるぐらいには効果が弱まるみたいですし、アンデッドだからか《ホーリーライト》でもスキル効果を弱められる様ですが。
『一応《ホーリーライト》は維持して、後《ピュリファイ・アンデッド》の準備もしておくよ』
「よろしくなのです。……さてっ!」
『──────!』
そうこうしているうちに、ヤツが複数の幻影を展開しながら大鎌でこちらに斬りかかって来たので、それらの斬撃を回避又は刃の側面を叩いていなしていくのです…………時折、幻影を目隠しにして来たりもしますが本体との見分けは付く上、長重武器である大鎌では振り下ろすか薙ぎ払うかしか出来ないので軌道を読むのは容易いのです。
…………最も、こちらもリーチの差でなかなか反撃の手が打てないのですが……。
『《魔法威力拡大》《ピュリファイ・アンデッド》!』
「ここです《ライトニング・ストレート》!」
『────⁉︎』
ヤツが攻撃するタイミングでフェイが発動した対アンデッド弱体魔法によって一瞬動きが鈍ったので、その隙に私は接近してカウンターの電撃拳を叩き込む事に成功したのです。
…………と言っても、霊体相手なので電撃によって動きが止まる事も無かったのでそのまま距離を取られ、弱体化してもボスモンスターとして相応のステータスがあるヤツを仕留めるには至りませんでしたが。
「……やはり、今の私では決定力に欠けますね」
『ボクが今使える攻撃魔法で仕留められるかどうかは半々かな?』
…………弱体化しているとはいえ超音速以上の速度で動いてますし、普通に技量も結構高いので高威力の魔法を当てるにはどうにかしてヤツの動きを止める必要があるのです。
やはり、エルザさんの方が片付くまで時間を稼ぐのが良さそうですかね…………それに、向こうの感じだともうそろそろ決着がつきそうですし。
…………そんな感じでしばらくの間ヤツとの攻防を続けていると、あちらのドラゴンの断末魔が聞こえて来たのです。
(向こうは片付いた様ですね。……では、こちらもそろそろ状況を動かしましょうか)
『……それじゃあ、反撃の準備をしておくよ』
どうやら色々と周りの状況が動いて来た上にヤツの戦い方もおおよそ把握出来たので、これまでの防御重視の戦闘から攻撃重視の戦闘に切り替えて行くのです。
…………ですが、ヤツも自分が不利な状況だと判断したのか、先程よりも激しい勢いで攻め立てて来ました。
『────!』
「疾ッ!」
私が接近して《ストレート》で殴り飛ばすと、ヤツは身を翻して反撃の横薙ぎを放ってくる様に見えたのでそれを捌こうとして…………その直前、大鎌が
そして、横薙ぎの体制だったヤツは振り下ろしの体制に変わっており、そのままこちらに大鎌を全力で振り下ろして来たのです。
…………どうやら、自分の身体に違う攻撃の仕方をする幻影を被せていたのでしょうね。
「ミュウさん! 大丈夫で……⁉︎」
『『『!』』』
どうやら、エルザさん達が来たみたいですね…………と頭の隅で考えつつ、私は目の前に振り下ろされる大鎌を
…………なかなか上手いやり口でしたが、私は既にヤツの戦い方を把握したので
なので、ワザと幻影に引っかかったフリをした上で、攻撃をギリギリまで引きつけつつ受け止めてその動きを止めたのです。
『《魔法多重発動》《ホーリー・ジャベリン》!』
『────⁉︎』
そして、攻撃を受け止められて動きが止まったヤツに向けて、フェイが至近距離から五本の聖なる光の槍を放ってその身体を貫きました。
…………ですが、大ダメージを与えたとはいえ仕留めるまでにはいかず、ヤツは後退しながら逃げようとしますが……。
「逃す気は無いのです。……
「《
『⁉︎────…………』
その直後、上空から放たれた聖属性を纏う矢に頭部のカボチャを撃ち抜かれたヤツはそのまま光の塵になったのです…………そして攻撃が放たれた方向の空を見ると、そこには【マグネトローべ】に乗って弓を構えた兄様とその後ろに乗る姉様がいました。
…………兄様達かエルザさん達が来るまで時間を稼ぐのが今回の戦闘の主目的でしたからね、それを忘れてはいないのです。
そして、そのまま二人は地上に降りてこちらに合流したのです。
「兄様、姉様、助かったのです」
「それはどうも。…………と言っても、俺はボロボロの相手にトドメを刺しただけだがな」
「私に至っては何もしてないしね〜。…………あっ! エルザちゃんは大丈夫だった?」
「ええ大丈夫です。…………全員無事でなによりでしたね」
とりあえず、これで片付いたみたいですね…………ボスモンスター二体同時とか最初はどうなるかと思いましたが、何とかなって良かったのです。
「それじゃあドロップアイテムを回収するか。…………二人は疲れているみたいだし今日はここまでにしようか?」
「そうしてくれると助かるのです」
「では、みんなも疲れていますしお言葉に甘えて」
その後、私達はボスモンスターがドロップした大量のイベントアイテムを回収して、そのままクレーミルに戻って行ったのです。
◇
「…………あの、私の配分が60%と多すぎるんですが……」
「いや、エルザちゃんとミュウちゃんはボスモンスターを倒しているし、それにエルザちゃんの場合テイムモンスターのお陰で複数人分働いているから、その分配分を増やすべきだと思うんだよ」
「実際、二人が稼いだ量は俺とミカよりも遥かに多いしな。それぐらいが妥当だろう」
「…………まさか、ボスモンスターがあれだけのアイテムを落とすとは思わなかったのです」
さて、あれからクレーミルに戻って来た私達ですが今日のイベントアイテムの配分で少しもめているのです…………具体的に言うとエルザさんが『自分の配分が多すぎる』と言い、それに対して兄様と姉様が『今日の活躍から言ってもこのぐらいが妥当』と主張する感じで。
…………その後、色々と議論は紛糾しましたが最終的にエルザさんが半分、残りの半分を私達三兄妹で分けるという感じで纏まったのです。
そして、エルザさんがログアウトする時間になったので、今日はこれでお開きになったのです。
「今日は一緒にイベントを回ってくれてありがとうございました!」
「うん、こっちも楽しかったよ! …………また一緒に遊ぼうね、エルザちゃん!」
「はい! それではまた」
そう言って、エルザさんはログアウトしていきました…………いつも身内でこのデンドロを遊んでいますが、やっぱり他のプレイヤーと遊ぶのも楽しいですね。
…………そんな感じで、私達はハロウィンイベントを満喫していったのでした。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
エルザ・ウインドベル:指揮は最低限で後はみんなに任せるスタイル
・文字通り以心伝心な【ワルキューレ】達や、全員頭が良く優秀なテイムモンスター達なのでその方が上手くいく。
・なので、普段から仲間同士の連携と信頼関係の強化を重視している。
・イベントの報酬は高価な素材を交換し、<プロデュース・ビルド>のメンバーに売り払った。
・必殺スキルはチャージが終わった後でもある程度の時間なら発動を遅延させられる。
ヴェルフ:危険察知能力と高いAGIを活かしてエルザを乗せて逃げる役
・《霊視》は感知系スキルで
・これにより、敵がどんな攻撃をしてくるのかを何となく読み取れる。
・後、このスキルは今後の進化先にも影響している。
《ディバイン・クロス》:【高位祓魔師】の奥義
・聖属性の光の十字架で相手を貫く攻撃魔法。
・突き刺さった十字架は一定時間残り続け、その間に継続ダメージと浄化効果を与え続ける。
《ギガンティック・ディフェンダー》:【盾巨人】のスキル
・盾による防御範囲を広げて巨大な相手の直接攻撃を防ぎ易くするスキル。
・相手の質量が大きい程防御能力が上がり、ノックバックし難くなる。
《シャイニング・バースト》:セレナの光属性ブレスを吐くスキル
・《ソルライト・レイ》との違いは周囲の光を収束させずに自分のMPだけを使って放つところで、その分燃費は悪く威力も低い。
三兄妹:イベントの報酬は全て兄が使う魔石を交換した
・その魔石を兄が【ジェム】に加工して、それらの【ジェム】とそれらで稼いだお金を妹達に渡している。
イベントボスモンスター:ドロップアイテムは3〜4パーティーに配分出来るぐらいの量
・【グレーター・パンプキンドラゴン】はHP・STR・ENDが高く空も飛べる上、状態異常を与える攻撃を放ってくる普通に強いボスモンスターとしてデザインされている。
・エルザ達も末妹の必殺スキルによるバフと状態異常回復が無ければあれだけ短時間で倒すのは難しかった。
・【ジャック・デスサイズ・キラー】はイベントアイテムを多く持った<マスター>を不意打ち・奇襲で倒す徘徊型ボスモンスターとしてデザインされた。
・姿を現した状態でも幻術と即死効果の大鎌による接近戦で戦うので非常に厄介なボスモンスター……だったのだが、アンデッド対策スキルを持ち超音速機動と幻術を見切る事が出来る末妹とは相性が悪かった。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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祐美の今・ミュウのクエスト
※3/31 意見があったので【武闘王】の読みを“キング・オブ・マーシャルアーツ”に変更しました。
□地球・とある小学校
ハロウィンも終わり
「なるほど。…………では、そちらも天地の各地を旅して回っているのですね」
「ええ、各地を巡って様々な強者と仕合をしたりしていますね。天地は強者が多いので実に良い経験になっています」
各地を巡ってまでやる事が対人戦闘とは、やっぱり天地は修羅の国らしいのですね…………私も戦い自体は嫌いではないのですし、人間と戦う必要があるなら躊躇はしませんが、そこまで積極的にガチな対人仕合をしたいとは思いませんし。
ちなみに、クラスメイトの彼は現実でやっている剣術を活かした一撃必殺の抜刀術を使って天地でブイブイ言わせているらしいのです…………まあ、彼は初めて会った時から『鞘に収まった名刀』みたいな雰囲気がしていたのでさもありなん、という感じでしたが。
「うーむ、話を聞く限り天地は凄い殺伐としているのです?」
「んー……確かに複数の領地に分かれて争っていたり、武芸者達は積極的に野試合をしていたりしますが、それらにもちゃんとしたルールの様なものがありますから。戦わない者・戦う気のない者は比較的平穏に暮らしていますよ。それに武芸者の実力が高い分モンスターによる被害は少ないので、街中では平和に暮らせますし」
「成る程、独特の雰囲気がある国みたいですね」
姉様はデンドロで色々な国を旅することが目標みたいですし、そう言った国ごとの違いを感じるのも旅行の醍醐味だと思うので他の国に行くのも面白そうですね。
…………その後もお互いの近況(彼は最近とあるPKクランにつけ狙われていて、それを毎回返り討ちにしているとか)を話し合ったり、いつかは国の外に旅に出たいと言う話をしたりしたのです。
そうしているうちに休み時間が終わったので会話を終えて授業が始まりました…………学生の本分は勉強なのでそちらを疎かにする訳にはいきませんからね。
◇
そして放課後、私は授業が終わった後に一目散に下校していました…………デンドロをやり始めてからは早く家に帰ることが多くなったのですよ。
…………ちなみに去年から始めた空手の道場にも通い続けていますが、元々週に1〜2回ぐらいしか出ておらず、更に割とゆるいところなのでそんなに生活のペースは崩れていないのです。
(まあ、私は
以前、師範に誘われて小さな大会に出た事もありますが、ほどほどに戦っただけであっさり優勝してしまいましたし…………師範には『あまりそういう大会には出たくない』と言っておいたので、それ以来は大会に出る事も無くなりましたが。
…………まあ、師範は私が自分の才能に向き合う機会を作る為に誘ってくれた事は分かっているのですが……。
(何分、同年代の相手だと基本的に勝負になりませんから、全力で手加減をしなければなりませんし……。熱心に空手をやっていない私が本気でやっている相手を下すのは心苦しいですし…………この考え方が傲慢なものだと言うのは分かっているのですが)
…………そもそも私にとって武術というのは、生まれつき
もちろん、それだけでは精度100%のモノにしかならず、それ以上に極めるとかは出来ないのですが……。
(それ以前に、私が武術を始めた理由は
別に武術自体はそこまで嫌いではないですし、本来の実力は師範以外には完璧に隠蔽しているので、道場のみんなともそれなりに上手く付き合っているのですが…………やはり、全力を出せない以上はどうしても鬱憤が溜まってしまうのです。
…………デンドロをやっているのは相手を選べば全力を出しても問題ないから、というのもあります。
(…………あ)
…………そうやって考え事をしながら歩いていた所為か、前方の曲がり角から出てきた
「
「ッ!」
曲がり角から出て来た少女は私の顔見た瞬間に
…………私は彼女を追いかけようと思いましたが、その考えに反して私の足はまるでその場に縫い付けられたかの様に動きませんでした。
「…………はぁ……。情けないですね……」
その自分のあまりの無様さに思わず天を仰いでしまいました…………まさか
…………その少女の名前は
◇◇◇
□城塞都市クレーミル 【
あの後、帰宅した私はそのままデンドロにログインして、フェイと一緒にクレーミルの街をぶらついています…………ジョブレベルはあと一つでカンストですが、何もする気が起きませんね。
…………ちなみに、兄様と姉様は私に気を使って別行動をしてくれています。
『…………ミュウ、大丈夫?』
「ええ、大丈夫ですよ。…………ただ、自分の情け無さに嫌気がさしているだけですから」
…………ああ、確か<エンブリオ>は<マスター>の記憶を共有しているのでしたか。
『うん。…………だから、ミュウがあちらで何があったのかも知ってるよ。…………僕はミュウを助ける為に生まれた<エンブリオ>だから、こちらでは君が自分の才能に答えを見つけるまで側にいるよ』
「…………ありがとうなのです」
フェイ──【支援妖精 フェアリー】の能力特性は『他者の支援』…………これは他者を助けられる様な自分になりたいという私の願いと、全力を出すために
…………だからこそ、この問題に関してフェイは何も言いません。…………これは私自身が向き合わなければならない問題ですから。
「…………さて! せっかくソロですし格闘家ギルドにでも行ってみましょうか」
『普段は三人いる所為で冒険者ギルドにしか寄っていないしね』
全員メインジョブがバラバラなので、三人で一緒にいる時にはジョブクエストとかは受けにくいですからね。
◇
そんな感じで、私達はクレーミルの格闘家ギルドにやって来ました…………ここ格闘家ギルドでは格闘系ジョブ全般のジョブクエストを受ける事が出来るのです。
『…………基本的には討伐系かな。後は格闘技の指導とかあるけど……』
「それはダメですなのです。…………私には他人に指導する能力はありませんから」
何せ私にとって武術とは『出来て当たり前』のモノで、他人に教えるにしても何故出来ないのかが理解出来ないという感じになってしまうので。
…………さて、何かいい感じのクエストは……『力になれなくてすまない』「いえ、こちらも無理を言ってしまってすみませんでした」おや? 何か聞き覚えのある声なのです。
『どうやら、俺達では
「『お前達では条件を満たさない』って言われちまったしなぁ」
「だが、彼を見る事自体は出来たからな。その条件ってのが分かれば……」
「…………本当にすみません。曽祖父は
格闘家ギルドの一角にいたのは一人の女性と五人程の男性でした…………男性の内一人は日曜午前な仮面を着けていたのでマスクド・ライザーさんの様ですね。
…………女性の方は見覚えがありませんが手に紋章が無いのでおそらくティアン、他の男性は先日この街に来た時に見た顔なのでおそらく同じ<バビロニア戦闘団>のメンバーでしょう。
私がそう考えている間にも彼等の話は続いていきました。
「…………しかし、この王国に格闘系の高レベル<マスター>は他にいたか?」
「居るには居るだろうが…………俺達以上っていうのは中々居ないんじゃないか?」
『そもそも、条件自体がはっきりしていないしな。…………これまでの情報からすると、格闘系のジョブに就いている事が姿を見る条件だと思うんだが……ん?』
私が彼等の様子を伺って居ると、どうやらライザーさんが私に気付いた様でその仮面をこちらに向けて来ました。
…………気付かれてしまったのでとりあえず挨拶をしておくのです。
「お久しぶりなのですライザーさん。…………どうやら、お話の邪魔をしてしまった様ですみませんのです」
『いや、別に邪魔にはなっていないから気にすることは無いよ、ミュウちゃん』
「おうライザー、そっちの嬢ちゃんは知り合いか?」
私がライザーさんに挨拶をすると、他の男性の中で見覚えが無い人がこちらに話かけてきました。
『ビシュマル、この子は俺のフレンドの一人であるミュウちゃんだ。…………それでコイツはビシュマル、俺と同じ決闘ランカーだよ』
「初めましてビシュマルさん、ライザーさんのフレンドのミュウなのです」
「おう、よろしく。…………しかし、こんな可愛い子とフレンドとはライザーも隅に置けんな」
ふむ、どうやら二人はかなり気安い関係みたいですね…………そうしていると、ティアンの女性が何かに気が付いた様にこちらに話かけて来ました。
「あのー、もしかしてあなたは【マグネトローべ】を倒した<マスター>の一人ではありませんか?」
「? そうですが……貴女は?」
「申し遅れました。私はこの格闘家ギルドで受付嬢をしているマリア・グランツと申します。…………実は、貴女を名のある格闘家と見て頼みたいクエストがあるのですが……」
…………そうして、私はとあるクエストについての話を聞く事になったのでした。
◇
とりあえず、私とライザーさん達は詳しく話をする為にギルドの一角にあるテーブルに座る事にしました…………少し話を聞いたところによると、ライザーさん達は彼女からクエストを受けたが失敗してしまったらしく、それで先程の会話に繋がるみたいなのです。
「それで? 一体どんなクエストなのです?」
「はい、今回の依頼は私事なのでギルドを通してのものではありません。…………実は、私の曽祖父──格闘家系統
詳しく話を聞くと、まず彼女の曽祖父のアスカ氏は王国の格闘家の頂点として名を馳せていた人物なのですが、今から十年程前に寿命でお亡くなりになったそうなのです。
…………ですが、つい最近そのアスカ氏の幽霊が彼が生前使っていた廃道場に姿を現わす様になったと言うのです。
「ふむ、成る程。…………ですが、そういうのは【
「ええ、最初は私もそう思ったのでこの街の死霊術師ギルドに依頼したのですが…………私には見えている曽祖父の幽霊が死霊術師達には見る事が出来ず、彼等のスキルでもその存在を感知する事が出来なかったのです」
そしてその時、アスカ氏の幽霊は彼女にこう告げた様なのです…………『私の武を受け継げる人間を連れてこい』と。
「そう言われて、まずは祖父や父・曽祖父の古い友人達に事情私説明して連れて行ったのですが…………父達の何人かは姿を見る事は出来たものの、曽祖父は『条件を満たしていない』と言ったきりそのまま消えてしまったのです。…………その時、曽祖父の姿を見る事が出来たのは格闘系のジョブに就いている者だけだったので『後を継ぐ者を探しているのなら実力のある格闘家を連れてくればいいのでは』と考えて、格闘家ギルドの中でも実力があって信頼出来る人間を連れて行ったのですが、そちらも同じ結果に終わりました」
そして、これらの結果を受けて彼女は『超級職を継げる程に高い実力がある人間ならば条件を満たすのでは』と考えたそうなのです。
…………とはいえ、今の格闘家ギルドにはカンストしている人間もいなかったので……。
「それでライザーさん達に依頼したのですね」
「はい…………伝説の<マスター>であれば或いはと思って、このクレーミルで名高い<バビロニア戦闘団>の方達に依頼しましたが……」
『依頼を受けた俺達はクランの中で格闘系のジョブに就いている者と、たまたま遊びに来ていたビシュマルを誘って彼女の曽祖父の元に向かったのだが…………『条件を満たしていない』と言われてしまったんだ』
「つーか、実力だけならここに居る連中が王国の格闘家の中でもトップクラスだと思うんだがなぁ。決闘ランキングでも俺やライザーより上に格闘系ジョブの持ち主はいないし。…………ライザー、この子で大丈夫なのか?」
おおよその話を聞き終わると、ライザーさんの友人であると言うビシュマルさんが彼に私の実力について疑問をぶつけていました…………どうも大分面倒な依頼の様ですし心配するのも当然ですがね。
…………最も、話を聞く限りでは単純な実力が条件ではない気もしますが。
『ビシュマル、ミュウちゃんの実力に関しては俺が保証するよ。…………それにお前も噂では聞いた事があるだろう、“ニッサ辺境伯領ゾンビ大量発生事件”や“港町ウェレン猛毒スライム襲撃事件”などの王国内で起きた事件を次々と解決している三人組の<マスター>がいると言う話を。…………彼女はその内の一人だよ』
「えっ! マジで⁉︎」
「…………どんな噂が立っているのかは知りませんが、それらの事件を解決したのは私達ですね」
まあ、姉様が直感で事件を嗅ぎつけて、それらの事件を私達で片端から解決しているので、そういう噂になるのは仕方ありませんがね。
…………とはいえ、私の実力を疑問視している人もいるみたいなので、ここらで一つアピールをしておきましょうかね。
「その依頼を受ける事に関しては構わないのです。…………その条件に関しては分かりませんが、実力のある格闘家が必要というのならばパーティーで<
「本当ですか! ありがとうございます! このお礼は必ず!」
『成る程、<UBM>の討伐数が条件というのはあり得るか?』
「…………というか、<UBM>ってそんなに遭遇出来るものだったか?」
「うちのクランでの総討伐数だってそこまでは……」
そんな感じの事を話すと、マリアさんは物凄い尊敬の眼差しでこちらを見てお礼を言ってくれて、他の人達にも私の実力のアピールが出来た様なのです…………それに、今の私には
さて、どうやらクエスト【曽祖父の幽霊の願いを叶える──マリア・グランツ 難易度:十】を受注出来た様ですが……。
「しかし
『ああ、恐らくアスカ氏の要望を満たす様な人間を連れて来るのが、非常に難しいからだと考えられるのだが……』
「後、凄腕の格闘家だったって言うアスカさんの武術を継承出来るだけの技量も必要になるんじゃないか?」
ライザーさんやビシュマルさんの言う通り、アスカ氏が言う条件にはクエストの難易度が最高になる様な理由があるのでしょうね。
…………もう少し情報を集めておきますか。
「さて、マリアさんに少し質問があるのですが…………そのひいお爺様は一体どんな人物だったのでしょうか?」
「はい…………私の曽祖父アスカ・グランツは一言で言えば物凄い
曰く、彼は幼い頃から様々な武術に興味を示しており、その中でも自分に才能があった格闘技をただひたすらに修練続けていたらしいのです。
そうしている中で【武闘王】のジョブに就いたり武者修業として世界中を巡ったりしていた様で、死ぬ寸前まで武術の修練をしていたそうなのです。
…………最も子や孫が出来てからはこのクレーミルに住む様になり、時折修業も兼ねて凶悪なモンスターを倒したりしていたので街の人達からはそれなりに慕われていたようですが。
「それで弟子や【武闘王】のジョブを継ぐ様な後継者は居なかったのですか?」
「ええ、何でも『自身の武を極めるのに忙しい』と言って人に武術を教える事は殆ど無かった様ですし、超級職に関しても『条件を知ったところでどうにもならない類いだから』と転職条件を話す事は無かったですね。…………そんな曽祖父がどうして幽霊になってまで後継者を探しているんでしょうか……」
…………ふーむ、【武闘王】への転職条件とかがその条件に該当するのかとも思いましたが、これではよく分かりませんね……。
「とりあえず、そのひいお爺様の幽霊に会ってみましょうか。…………それでダメならまた別の方法を考えましょう」
「よろしくお願いします」
こうして、私は少し変わったクエストを受ける事になったのです。
◇
そういう訳で、私達はそのアスカ氏の幽霊が出ると言う廃道場にやって来ました…………ちなみに、ライザーさん達も『失敗したままでは終われないし、条件についてのヒントが得られるかもしれないから』と言う理由で付いて来てくれました。
「ここが曽祖父の幽霊が出る道場です」
「ありがとうございます。…………それでは、お邪魔しますです」
そう言って、私達は道場の中に入って行きました…………中はそれなりに広く、きちんと掃除をしているのか結構綺麗な感じでした。
「…………ここに曽祖父が居るのですが……」
「…………フェイ、何か居ますか?」
『《魔力視》や《魔力感知》も使ってるけど特に何も感じないね』
成る程、どうやらマリアさんの話は本当の様ですね…………何せ、私の目の前には
…………その老人は道場に入って来た私達に気付いた様でゆっくりとこちらを向きました。
「アスカお爺様、また人を連れて来ましたが……」
「…………その少女…………
こちらを向いたアスカ氏は私を見てそんな事を言いました…………どうやら、私は彼のお眼鏡に適った様ですね。
…………次の瞬間、目の前の彼が獣の様な笑みを浮かべると共に、その全身から凄まじいまでの闘気が膨れ上がり、半透明だったその輪郭が急に実体を持ち始めました。
「なっ! お爺様⁉︎」
『これは一体……⁉︎』
「どうやら条件を満たしたみたいだが……!」
その一気に様変わりした彼の姿を見た他の人達に動揺が広がりますが、その闘気を一身に受けていた私は彼を注視している…………正確には、その頭上に現れた
「【武王残影 アスカ】……! <UBM>ッ⁉︎」
「《黒界・技指導》」
…………その言葉と共に、私の視界は一瞬で闇に包まれました……。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
末妹:彼女の過去については次回
・クラスメイトの『彼』とは“同じ趣味を持っていて休み時間に偶に話す友人”ぐらいの関係。
・どちらかがもう一方の国に行くように事があれば一緒に遊んでもいいかなというぐらいには仲が良い。
・内心は抜刀術に全力で邁進している彼の事を羨ましく思ってもいる。
・師範と末妹の母親は知り合いであり、その伝手で道場に通っている。
マリア・グランツ:格闘家ギルドの受付嬢
・ギルド職員として優秀な<マスター>の情報は可能な限り集めており、末妹の事もその際に知った。
・曽祖父に格闘技を習っていた時期が僅かにあり、それでサブジョブに格闘系のジョブを取っている。
・その為、家族内では曽祖父と一番仲が良かったので、どうにか曽祖父の未練を晴らしたいと思い今回の依頼を出した。
ライザーさん一行:全員格闘家ギルドに行く事もあったのでマリアさんとは顔見知り
・なので、人気受付嬢である彼女からの依頼は快く受けた。
【武王残影 アスカ】:逸話級<UBM>
・元【武闘王】アスカ・グランツの幽霊が<UBM>化したもの。
・スキル《残影》により格闘系ジョブを持つ者以外には認識不可能(認識させるかどうかは彼の任意で選択可能)であり、『条件』を満たさない限りはあらゆる要素から干渉されず、また干渉する事も出来ない。
・また、このスキルには『条件』を満たした人間以外には<UBM>である事を認識出来なくする効果もある。
・『条件』を満たした人間が現れた場合には上記のスキルは解除され、その上で実体を得て《黒界・技指導》というスキルが発動される。
・その『在り方』を含めてかなり特殊な<UBM>。
・ちなみにクエストの難易度は彼を倒すのではなく、条件を満たした上で彼の未練を果たすのが目的であるが故の難易度。
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ミュウと【アスカ】・祐美の過去
□城塞都市クレーミル・廃道場 【
目の前の闇が晴れると、そこには先程までと変わらない道場がありました…………いえ、よく見ると四方の壁が
…………そして、私の前には先程までの老人だった時の姿と違い、三十代後半ぐらいの見た目になった【
後、この結界の中には目の前のアスカ氏を除くと私とフェイしか居ないので、ライザーさん達は締め出されている様なのです…………とりあえず、まずは話し合いから始めましょうか。
「…………あなたは【武闘王】アスカ・グランツさんで合っているのです?」
「いかにも。…………と言っても、そう呼ばれていたのは生前の事で、今は【武闘王】のジョブを失ったしがない<UBM>だがな」
一応《真偽判定》を使ってみましたが嘘は付いていない様です…………何より、目の前に居る【アスカ】の一切隙の無い立ち振る舞いこそ、彼が極まった武闘家であると何より雄弁に語っています。
「…………私はあなたのひ孫であるマリアさんから『あなたの武術を受け継げる人間を連れて来てほしい』と、頼まれてここに来たのですが……」
「ん? ……ああ、嬢ちゃんをここに閉じ込めたのは俺の武術を継承させる為で合っているぞ。…………まあ、流石に何も事情を知らせないのは不義理に当たるから少し話をしようか」
…………そう言った彼は、自身がここに至るまでの経緯を説明し始めたのです。
「マリアから聞いていると思うが、俺は生前ただひたすらに武術を修練していただけの人間でな。周りの家族の事も顧みず、弟子なども取らずに死ぬまで武術の極みを目指してそのまま寿命で死んだんだが…………どうも死ぬ直前、いや死んでから『自分が生きてきた証である武術を誰かに継承させたい』と、思ってしまった様なんだよな。…………生前散々好き勝手やっておいて、死んでからも性懲りもなくわがままを言う愚かな男だと笑ってくれ」
…………と、彼はどこか自嘲する様に言いました。
「まあそんな訳で、死んでからようやく他人にモノを教えたいとか言う未練を持ってしまった俺は、浮遊霊として当てもなく彷徨っていたんだが…………ある日、地面に
成る程、大体事情は分かりましたが…………まだ、疑問が残っていますね。
…………すると、私のその考えを読み取ったフェイがアスカ氏に質問をぶつけました。
『じゃあ、なんでミュウを継承する相手に選んだのかな?』
「ああ、それは嬢ちゃんがこのスキル──《黒界・技指導》の発動条件を満たせる人間だったからだな」
そう答えた彼は、そのまま詳しい事情を話し始めました。
「このスキルは条件を自身と満たした相手を閉じ込めて、更に自身の生前における最盛期の肉体と最も高いレベルだった時の【武闘王】のステータスとスキルを与えるというものでな。…………そして、このスキルの対象に出来る人間の条件っていうのは
「【武闘王】の転職条件?」
私が聞き返すと、彼は“ああ”と頷いて続きを話しだしました。
「格闘家系統
「…………成る程、なら納得したのです」
ティアンだと『最大合計レベル五百』の条件を満たせず、<マスター>の場合は最初に武器を支給されますからね…………最初に支給された武器を装備せずに素手でモンスターと戦う様な人間は私の様に
…………そこまで説明し終えた彼は一気に雰囲気を鋭いモノに変え、そのまま美しさすら感じる程に見事な構えを撮りました。
「さて、このスキルはあまり長時間展開出来ないからな、説明はここまでにして早速継承に入ろうか。…………ああ、このスキルの解除条件は俺を倒すか一定時間経過する、後は一応俺の任意でも解除出来る、という感じだ」
「…………継承と言って、いきなり戦闘なのです?」
私がそう聞くと、彼はまるで全てを見透かす様な視線でこちらを見ながら答えました。
「悪いが、俺は生前弟子なんて取った事も無く他人に指導した経験も数える程だからな、こういう方法しか出来ないんだ。…………それに嬢ちゃん相手ならコッチの方が手っ取り早いだろ?」
「…………ふぅ……分かりました。元よりそのつもりで私はここに来ましたし…………フェイ!」
『了解! 《
彼の言葉から戦闘は不可避と考えた私は即座にフェイと融合し、更に自身へ可能な限りのバフを掛けていきます。
…………恐らく、こうでもしないとこの戦いは
「準備は終わったみたいだな。…………それじゃあ、武術の指導を始めようか」
アスカ氏のその言葉と同時に、私と彼の
◇◇◇
□城塞都市クレーミル・廃道場前 【
「…………成る程、それでミュウちゃんはそのアスカ・グランツの幽霊と思われる<UBM>と一緒に、この道場の内部に閉じ込められたと」
『ああ。…………すまない、俺が彼女を巻き込んだせいでこんな事に……』
「俺からも謝らせてくれ…………君達の妹をウチのクランで受けたクエストに巻き込んでしまってすまなかった」
「ライザーさんもフォルテスラさんも、そんなに謝らなくてもいいですよ。そのクエストを受けるという選択をしたのはミュウちゃんですし」
俺達は今ミュウちゃんが<UBM>に閉じ込められたという、クレーミルの外れにある廃道場の前にやって来ていた…………俺達がここに来れたのは、ミカと二人で街をぶらついていた時にたまたまフォルテスラさんと遭遇してしばらく話していた時、彼の元にこの事件の連絡が入って来たので事情を聞いて一緒について行ったからである。
…………そして、今は内側に黒い壁が展開された道場にどうにか入れないか、連絡を受けて集まった他の<バビロニア戦闘団>のメンバーが挑戦中である。
「…………くそっ! この黒い壁傷一つつかねぇ!」
「道場の方にも傷がつかない…………単に内側に結界を張っているのではなく道場自体を変質させているのか?」
「透視や解析系スキルも全滅ですね」
と、そんな感じなので、外からこの中に入るのはどうも無理そうだ…………一応、俺も【テレパシーカフス】で連絡を取ってみたが繋がらなかった。
「…………ミカ、お前のスキルで壊せるか?」
「うーん、必殺スキルと《エフェクトバニッシュ》を併用すればなんとか? …………でも、
…………ちなみに俺達が落ち着いているのは、連絡があった時点でミカの直感が『ミュウちゃんにはそこまで危険は無い』と示していたからである。
とりあえず、今回の依頼主であるマリアさんに話を聞いてみようか。
「マリアさん、今回のクエストの目的はアスカ氏の武術を継承して彼の未練を晴らす事であっていますか?」
「え? は、はい。…………幽霊となって現れた曽祖父はどこか寂しそうな雰囲気をしていたので、それをどうにかしたかったのですが…………どうしてこんな事に……」
そう言った彼女は顔をうつ向けてしまった…………まあ、そういう依頼ならミュウちゃんは適役かな。
…………それに、今のミュウちゃんにはこの依頼を達成することが必要だと思うしな。
「…………皆さん、アスカ氏の事についてはミュウちゃんに任せてくれませんか?」
『レントくん、それは……』
「私からもお願いします。…………多分、今のミュウちゃんにはこれが必要なんです」
俺達のその言葉に他の人達は驚いた様な表情(ライザーさんは仮面だが)を浮かべていたが、やがて代表のフォルテスラさんが前に出て言った。
「分かった、君達がそこまで言うならこの件は可能な限り彼女に任せよう。…………それに、どうせ俺達は中に入る事する出来ないからな」
「一応、外での見張りと周辺の避難誘導はしておきますが」
「ありがとうございます、お願いします」
今回、俺達は何も出来ないが…………頑張ってくれよ、ミュウちゃん。
◇◇◇
□《黒界・技指導》内部 【魔拳士】ミュウ
「ハァ……ハァ……ハァ……」
『…………ミュウ、残念だけど時間切れだよ』
その言葉と共に必殺スキルの使用時間が切れて、フェイが私から分離しました…………【武王残影 アスカ】との戦いが始まってから約五分、今の私の状況は控えめに言っても酷いものでした。
…………息は上がり、身体や装備はボロボロになっていて、辛うじて五体は繋がっていると言ったところです。《霊環付与》と各種バフ・回復魔法が無ければ10回は死んでいましたね。
「ふむ……やはり俺の見立て通り、嬢ちゃんの武に関する才能は凄まじいな。…………はっきり言って、俺
「…………これだけボロボロにされてから言われても説得力が無いのですが……」
ちなみにアスカ氏は多少の傷を負っていますが、息一つ切らさずにピンピンしています…………《ミラクル・ミキシング》を使った最大威力攻撃も試しましたが、あっさりと受け流されましたし。
「それに関しては単純にステータスとスキルと経験の差だな。…………俺は【武闘王】になってから数十年の歳月をかけて合計ジョブレベルを千以上まで上げていたし、更にこのジョブには《見稽古》って言う“今まで見た事のある格闘系スキルを習得出来るスキル”と《武の極み》と言う“自身が覚えている全ての格闘系スキルのレベルをEXまで上げる事が出来る様になる奥義”があるからな」
「それはまた……」
無論、その膨大な年月に裏打ちされた技量も私を遥かに上回っており、そこにステータスといくつものレベルEXスキルまで加われば、当然ながら今の私では勝ちの目など無いでしょう。
…………それに、これまでの戦いから彼の体術はこの世界にあるジョブスキルを上手く使う事に特化したモノの様ですし。
「まあ、俺が嘗て習得した
「…………実年齢はこの見た目より低いですし、格闘技の方は初めて一年も経っていませんね」
私がそう言うと彼は感心した様に頷き…………次の瞬間、その顔を真剣なモノに変えました。
「だが、それ故に気になるな……どうして嬢ちゃんは
「それは……」
「言いづらいんだったら無理に聞くつもりは無いが……この場限りとは言え俺は嬢ちゃんの師匠だからな、話ぐらいは聞くぜ」
最も、子育てとかを全て妻に任せきりのダメ人間だった俺にまともな助言とかが出来るとは思えないがな、と彼はカラカラと笑って…………しかし、その目だけは真剣な眼差しでこちらを見据えていました。
…………そうですね、やはりいつまでも過去から逃げる訳にはいかないのです。
「分かりました、お話します。…………あれは今から一年程前のことなのです……」
そうして、私は自分の才能を自覚して恐怖する様になった
◇
あれは今から約一年前、私が小学校に入学してからしばらく経った頃の話です。当時の私は武術などは学んでおらず、ごく普通の子供として生活していました…………まあ、運動能力は他の子と比べても図抜けていたので、周りからやや浮いてしまう事もありましたが。
…………ですが、そんな私にも友人と言える相手…………真里亞ちゃんが居ました。
彼女とは幼稚園からの付き合いで、自分の才能を自覚出来ていない所為で周りからやや浮いていた私に声を掛けてくれた、私の初めての友達でした。
ある日、私と彼女は一緒に学校から帰っていたのですが、その時彼女が『ちょっとだけ近道していこうよ』と言って脇道に入っていったので、私もついて行ったのです…………学校からは『登下校には監視カメラがあるところを行きなさい』と言われていましたが、私も彼女も少しぐらいなら大丈夫だろうと思ってしまったのです。
…………今の時代、街中には監視カメラがあり警備ロボットが巡回する様になっていますが、それらにはどうしても死角というものがあり、そして悪意を持った人間が居なくなる訳でもないにも関わらず……。
その道を歩いてからしばらくした時、私は前方から嫌な気配を感じたのですが私達はそのまま前に進んでしまい…………その先でフードを被った怪しい男と遭遇しました。
私は慌てて彼女を連れて引き返そうとしましたが、それよりも早く男は手にナイフを持ってこちらに突っ込んで来ました。
…………それからの事はあまり詳しくは覚えていないのですが、気がついたら私の手には男が持っていたナイフが
今なら分かりますが、私の武術の才能は初めて武器を握った時でもその最適な使い方を理解でき、敵がどう動くかを完全に見切る事もでき、そしてその武器をどう使えば人体を的確に破壊出来るかも解ってしまう程のモノだったのです。
そして、当時の私は武術を学んでいなかったので、対人戦における手加減などが出来ずこんな事になってしまったのです……。
それからしばらく、私は放心していましたが真里亞ちゃんの事を思い出したので後ろを向くと、そこには腰を抜かして地面に座り込んでいる彼女の姿がありました。
…………私は彼女が無事に事に安心しつつ、そちらへと歩いて行き……。
「嫌! 来ないで!」
「え……?」
近づいて来た私に対して掛けられたのは、彼女の
…………まあ、彼女に男を八つ裂きにする光景を見せつけてしまっていたので、そういう反応をされるのは当然だった訳ですが……。
…………その直後、私は疲労で倒れてしまったので後の事はほとんど記憶に残っていませんが、駆けつけてくれた兄様と姉様が警察と救急車を呼んでくれたらしく、相手の男は一命を取り留めました。
警察にも連れて行かれましたが、男に前科があった事と私の年齢を考慮してお咎め無しになりました。
ですが、それ以来彼女は私に近づく事が無くなり…………私も情け無い事にあの時の彼女の表情がトラウマになってしまって、彼女に近づこうとすると身体が竦んでしまう様になってしまいました。
…………所詮、私に与えられた武術の才能なんてモノは他者を傷つける事に長けるだけのモノでしかなかったのです……。
あれから一年、兄様や母様の勧めで空手を習い自分の才能を制御する事が出来る様になり、こちらの世界で全力を出して戦いながら自分の才能の意味を探し続けていますが…………そんな今でも、私と彼女の関係は途切れたままなのです……。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
末妹:自分の才能に振り回された少女
・武術の才能だけならクマニーサンやカシミヤ以上の戦闘特化ハイエンド天災児。
・なのだが、精神面はそこまで外れている訳では無いため、心技体を含む総合力に関しては上の二人より劣っている。
・トラウマになっているのは自分の才能が友人に拒絶された事で、武術や戦いに関してはあまり忌避感を抱いていない。
・とはいえ、かつての事件を思い出すせいで武器に関して忌避感があるため、<エンブリオ>のスキルに『武器装備不可』のデメリットがついたりしている。
・また、自分の才能への恐怖から『自分の力を他者に管理してもらいたい』と思っており、その為に<エンブリオ>の種別がガードナーでサポートに特化した【フェアリー】が生まれた。
赤城真里亞:末妹の友人
・日曜午前のヒーロー・ヒロイン物が好きで、末妹に進めたりもしていた。
・少し浮き気味だった末妹に声を掛けて友達になるなど凄くいい子……なのだが、普通の小学生だったので末妹の規格外な才能を最悪な形で目の当たりにして恐怖に囚われてしまった。
・本人はあの時の事を謝ってお礼を言いたいと思っているが、未だ勇気が出せずにいる。
兄妹:事件に関しては事前に阻止出来なかった事に後悔している
・妹の直感で阻止出来なかったのは当時そこまで精度が高くなかった事と、妹がいると足で纏いが増えて危険が増してしまうから。
・なので、直感が出た時点で直ぐに兄を読んで来たのだが、そのせいで到着が少し遅れた。
・ちなみに危険の多いデンドロ世界で活動し続けた今は直感の精度は大きく上がっている。
【武王残影 アスカ】:生前はティアン人外勢
・自身の武術の研鑽に生涯のほぼ全てを費やしており、自分の事はダメ人間だと思っている。
・だが、武術の研鑽に支障がない限りは結構面倒見が良く、強力なモンスターを討伐したりもしていた為それなりに人望はあった。
・幼い頃に色々な武器を試して自分の向き不向きを即座に判断出来たりした天才タイプだが、それ故に割と脳筋で指導能力もそこまで高くない(難易度:十の理由)。
・ちなみに妻との出会いはモンスターに襲われていたところを助けたのがきっかけで、その後彼女から猛烈なアタックを受け最終的に押し負けて結婚した。
・また、彼女は割とダメ人間好きだった模様。
【
・ちなみに転職条件はジョブリセットしてレベルゼロからあげ直したとしても、それ以前に他系統のジョブに就いた経験や戦闘時に武器を装備した経験が一度でもあるとアウト。
・彼は語らなかったが最後の転職条件に特殊なクエストを達成する必要もある。
・《見稽古》は【武闘王】に就く前に見た事がある格闘系スキルも習得出来る。
・そのため、アスカ氏は末妹に今まで習得して来た格闘系スキルを片端から叩き込んだ(本人はサービスのつもり)。
・《武の極み》でレベルEXまで上げるには相応の時間がかかり、さらにラーニングしたスキルが多いほどスキルレベルとジョブレベルの上昇にマイナス補正がかかるので、強くなる為には非常に時間が掛かるジョブ。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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祐美の決意・ミュウの継承
□《黒界・技指導》内部 【
「…………これが、私が自分の才能を忌み嫌う様になった理由の全てなのです」
「成る程な」
私は過去にあった事件の事を語り、それに対してアスカ氏は特に口を挟む事は無く真剣に聴き続けていました。
…………そして、一通り聞き終わるとただ静かに頷いて言葉を紡ぎ始めました。
「一応言っておくが、嬢ちゃんの過去や友達の事について俺が言えることは何も無い。…………どう考えても相手の男の自業自得とか、嬢ちゃんがその友達の事を守ったのには変わらないとか、そんな事を無関係の俺が言ったところで大して意味は無いだろうしな」
「…………」
多分、<マスター>達が元いた世界とこちらの世界とではだいぶ常識とかが違うだろうし、と彼は続けました…………力がある人間が敬われる事が多いこちらの世界と違って、現実の日常生活では武術の才能があってもあまり意味は無いですからね……。
…………その後も彼は言葉を続けます。
「それに自分の才能の意味なぞ数十年武術に生きて来て、そして死んだ俺にもさっぱり分からないからな。…………まあ、一つ言っておくなら最終的には嬢ちゃんが一歩踏み出せるかどうかだろうよ」
「…………はい……」
そう、今日だって真里亞ちゃんを捕まえて話す事ぐらいは出来たはずなのです…………彼女との関係が一年前のまま止まっているのは、偏にこれ以上自分が傷つく事を避けている私の臆病さに原因があるのでしょう。
…………私がそんな事を考えていると、やや呆れた様にアスカ氏は首をすくめて言いました。
「何を考えているのかは分からんが、嬢ちゃんは深刻に考えすぎだと思うぞ。…………俺が嬢ちゃんぐらいの歳の時は周りの事なんて何も考えず、自分の好きに武術の修練をしていたしな。…………さて、出来ればもう少し気の利いた事を言ってやりたかったが、武術バカで人付き合いもまともにしてこなかった俺ではこれが限界だな」
妻ならもう少しまともな助言が出来たんだがな、とアスカ氏は自嘲しながら言葉を紡ぎ…………直後にその雰囲気を一変させ、私の全身が総毛立つ程の殺気を放ち始めました。
「さて、そろそろ
「っ!?」
その言葉と共に今まで構えを取っていなかったアスカ氏は、ここで初めて本気の構えを取りました…………嗚呼、これは本当に不味いですね、はっきり言って生き残る未来が見えません。
…………ですが、この後に及んで私の身体は自身に掛けた枷を外す事はありませんでした……。
(…………ここで、終わりです『ミュウ』……フェイ?)
私が諦めかけたその時、私の心の中にフェイの声が響いて来ました…………これは以前モンスターからラーニングした《念話》スキルですか。
『ミュウはこのまま…………一歩も踏み出せないままでいいの?』
(それは……)
私が言い淀みますが、フェイは更に言葉を重ねます。
『僕はミュウの心から生まれた、ミュウを助ける為の<エンブリオ>。だから、君が思っている事を敢えて言うよ…………このまま逃げ続けるだけでは、君は一歩も前に進めない』
…………それは、私が常に心のどこかで思い続け、しかし目をそらし続けていた言葉でした。
『ここ…………<Infinite Dendrogram>は<マスター>が自由になれる場所、自分のやりたい事が出来る場所だ。だからミュウ…………君は何がしたいんだい?』
(私は…………もう逃げたくないです! 彼女からも、そして自分からも!)
私はフェイのお陰で漸く自分がやりたい事を見つけました…………私は、もう一度、真里亞ちゃんと友達になりたいのです!
…………その為には、
『うん…………じゃあ、もう大丈夫だよね』
(はい! …………ありがとうございます、フェイ)
そのフェイとの会話と同時に、私の中で何かが外れる音がした様な気がしました…………そして、まず私は
…………あの事件以来出来なくなっていましたが、私は全力で集中する事で自身の肉体を完全に制御する事が生まれつき出来たのです。
「…………準備は出来た様だな。…………では行くぞ!」
その言葉と共に、アスカ氏は一歩を踏み出しました…………今の私には彼がモノクロの世界の中でゆっくりと動いている様に見えるはずですが、その長い年月の中で極限まで研ぎ澄まされた体術の所為で
…………なので、私は更に集中を深め
「《極撃》!」
その言葉と共に彼の右腕に
…………なので、攻撃が放たれる直前に身を捻り……。
「っ!」
直後、放たれた彼の右拳は私の左腕の直ぐ横を通り空を切りました…………その際、掠めた二の腕の表面が削り取られて激痛が走りましたが無視して、反撃の右拳を彼に打ち込みます。
「…………見事」
…………咄嗟に放ったその拳はアスカ氏の胸を軽く叩く程度に終わりましたが、彼はそう一言呟くと構えを解いてこちらに向き直り話を始めました。
「どうやら枷は外れた様だな。…………俺の全力の一撃を凌ぐ事が出来た嬢ちゃんにはもう言う事は……ん、どうした?」
「………………あ痛たたたたたっ! 痛覚設定! 痛覚設定!」
『わ〜〜〜! ミュウ大丈夫! 《フィフスヒール》!』
彼が何か言っていますが、こちらは集中が切れた所為で抉られた左腕の激痛が無視出来なくなったのでそれどころではないのです…………せっかくいい雰囲気だったのに締まりませんのです……。
その後、どうにか痛覚設定をオフにして、フェイが急いで回復魔法を掛けてくれたのでどうにかなりました。この世界では肉が抉れたぐらいなら直ぐに治せますしね。
…………そうして今、回復した私と
「まあ、取り敢えずこれで俺の指導は終わりだ。…………これで俺の未練も晴れるだろうよ」
「アスカさん、その身体は……」
…………そう会話する内にも彼の身体はどんどん薄くなって行きました。
「ん? ……この《黒界・技指導》は制限時間までに捕えた人間を倒せないと代償に俺を成仏させる効果があるからな。…………まあ、いくら<
「ですが、あなたはその時間の殆どを私の話を聞く事に費やしていましたが……」
私がそう言うと、彼は笑いながら肩をすくめて言いました。
「最初に話しただろう? 俺の未練ってのは『自分が生きた証として生涯研鑽し続けて来た武術を誰かに伝えたい』と言うものだったからな。…………嬢ちゃんは
「…………御指導、御鞭撻の程ありがとうございました!」
そんな彼に対して、私は深々と頭を下げます。
「コッチこそありがとうよ。…………嬢ちゃんのお陰で人を教え導くという生前出来なかった事が出来たからな、お陰でやっと成仏出来るぜ。…………ああ、マリアには迷惑かけて悪かったと言っておいてくれや」
「はい、分かったのです」
…………そして殆ど見えなくなるぐらいに輪郭が薄くなったアスカさんは、笑顔のまま空気に溶ける様に消えて行きました……。
【<UBM>【武王残影 アスカ】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【ミュウ】がMVPに選出されました】
【【ミュウ】にMVP特典【武練闘布 アスカ】を贈与します】
【【
【条件解放により、【
【詳細は格闘家系統への転職可能なクリスタルでご確認ください】
その直後、そんな二つのアナウンスが私の元に届きました。
◇
その後、結界が解かれたので、外に居た兄様達と<バビロニア戦闘団>の皆さんが道場の中に踏み込んで来ました…………彼等は<UBM>との戦闘を覚悟して来ていたのでややごたつきましたが、アスカ氏が既に倒された事を知ると落ち着きを取り戻しました。
…………取り敢えずここでは話も出来ないという事で、事情を説明する為に私達は格闘家ギルドに向かい、その一室で詳しい説明をする事になりました。
「…………つまり、ミュウちゃんアスカさんから武術の指導を受けて、その未練を晴らして成仏させたって事?」
「はい、そうなりますね」
そして、一通りあの道場であった事(私の過去の事などは除く)を説明し終わると他の皆さんからは感心した様な視線を向けられました。
…………まあ、その後にマリアさんや<バビロニア戦闘団>の皆さんから一人で<UBM>と戦わせた事を謝られたりしましたが、貴重な経験をさせて貰った事や特典武具を手に入れた事、そして【武闘姫】の転職条件を満たせた事などを説明して(超級職の事に関しては驚かれた)別に謝る必要は無いと納得して貰いましたが。
…………ああそうそう、アスカ氏から頼まれた彼女への伝言も伝えておきましょう。
「マリアさん、アスカさんが『迷惑掛けて悪かった』と言っていましたのです」
「そうですか……あの人は本当にもう……。ミュウさん、曽祖父の未練を果たして頂きありがとうございました、この御礼は後で必ずします」
…………正直、アスカ氏からは本当に色々なモノを貰ったので、そこまで畏まった物は要らないと言ったのですが「身内があそこまで迷惑を掛けたのに何もしない訳には行きませんし、何より次期【武闘王】に対してのクエストで何も報酬を渡さない訳には行きません」と言われてしまいました。
後、彼女は今回動いてくれた<バビロニア戦闘団>の皆さんにも報酬を渡そうともしていましたが「自分達はクエストに失敗した上、今回は殆ど何もしていない以上は報酬など受け取る訳には行かない」と固辞された様なのです。
そうして説明を終えた後、私は超級職への転職クエストを受ける為にマリアさんの案内で格闘家ギルドのジョブクリスタルへやって来ました。
「これが【格闘家】に転職可能なジョブクリスタルですね。…………さて、一応メインジョブを【武闘家】にしておいてっと……。確かに兄様達の言う通り、灰色の【武闘姫】の文字が出ていますね」
「…………それでは御武運を、次代の【武闘姫】の誕生を楽しみにしています」
そのマリアさんの言葉を受けて、私は色が薄い【武闘姫】の表示に触れて、出てきた【転職の試練に挑みますか】の質問に対して“是”と答えて、その直後にどこかへと飛ばされました。
◇
飛ばされた先は兄様や姉様が言っていた通りの奇妙な空間で、目の前には闘技場の様な舞台がありました。
…………そして舞台の前にある石版に【試練の番人を打倒せよ】【成功すれば、次代の【武闘姫】の座を与える】【失敗すれば、次に試練を受けられるのは一か月後である】と書かれていました。
「ふむ、どうやら兄様や姉様と同じ戦闘系の試練の様ですね。二人の話で聞いていた通りなのです」
『それはいいんだけど…………ミュウ、さっきの戦いでボクのスキルを使ったせいでコッチは大分戦力が減ってるんだけど……』
あ、そうでしたね、久しぶりに全力を出してテンションが上がっていたので忘れてた…………い、いえ! それに今の私はアスカ氏との戦闘の余韻で全力の集中が出来る様になっているので、今のうちに挑んだ方がいいと思ったのですよ! 本当ですよ!
…………それに多分、私の枷はまだ完全に外れた訳じゃないですし、おそらく今後は余程の強敵と戦っている時にしか全力を出せないと感じるのです。
「ま、まあ、一応回復はしていますし、元々はティアンが受ける事が前提のクエストですから<エンブリオ>の力がなくても大丈夫でしょう。…………それにこちらのアバターのスペックなら、全力で集中しても疲労で倒れる事もないでしょうし」
『いや、ミュウの全力ってそんなに危険なモノだったの? …………本当に大丈夫?』
兄様と師範からは『身体が出来上がるまでは全力は絶対に出すな』と言われていますが…………まあ、あの事件の時に全力を出して倒れたのは、まだ小学生だった私の身体がついて来なかった所為ですし、こちらの現実を遥かに超える力を持つ身体ならもう一戦ぐらいは大丈夫でしょう。
「…………それに、アスカ氏から頂いた新しい特典武具もありますし」
『戦力になる様な物ならいいんだけど……』
取り敢えずこの【武練闘布 アスカ】の能力を確認しましょうか…………えーと、形状はマフラー……いえ、この長さだとスカーフですかね? ……で装備枠は外套部分、防御力は10と低くてステータス補正もありませんね。
…………さて、肝心のスキルの方は二つあるみたいで……。
「一つ目は《武練昇華》というパッシブスキルですね。効果は『装備者の格闘系スキルのレベルを合計ジョブレベル百につき一つ上昇させる』というものですね」
『うん、普通に使えるスキルだね。それにラーニングがメインの【武闘姫】に就く事が出来ればかなり有用なスキルだと思うよ』
フェイもそうですがラーニング能力にはスキルを獲得すればする程、それらを成長させ難くなるなどのデメリットがあるみたいですし、そのあたりの事も含めて私にアジャストされたのでしょう…………注釈に『このスキル効果で最大スキルレベルを超える事は出来ない』と『レベル十からレベルEXに上げる際には五百レベル分必要になる』とも書かれていますが、それでも十分に強力ですね。
…………そしてもう一つのスキルは……。
「スキル名は《
『確かにね、ボク達にアジャストされた強力な効果だよ』
そうして憂いがなくなった私は、早速【アスカ】を装備して試練へ挑む為に目の前の舞台へと上がりました。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
末妹:ようやく一歩を踏み出せた
・彼女は『肉体の完全制御』や『観察眼を含む圧倒的な戦闘センス』の様な才能を持っており、全力で集中するとバトル漫画の登場人物みたいな事も出来る………が、現実の肉体だと負担が大きすぎるので使用を禁止されている。
・【アスカ】との最後の攻防で一瞬見えたモノは、この世界におけるリソースの概念だが本人は気付いていない。
【武王残影 アスカ】:無事に成仏した
・元々、自分のワガママに付き合ってくれる人がいたら、武術の継承が出来ずともさっさと成仏するつもりだった。
・なので、自分の武術を継承出来る末妹が来た時には非常に喜んでおり、彼女の悩みにも何かいいアドバイスをしようと思ったが大した事を言えなかったので、最終的に拳で語る事にした。
・ちなみに《極撃》は晩年に編み出したもので名前は適当に付けた……が、予想外にジョブの最終奥義として登録されてしまったので、もう少しカッコいい名前にしておけば良かったかなと思っている。
《極撃》:アスカ氏が編み出した【武闘王】の最終奥義
・自身が有するレベルEXの格闘スキル効果全てを束ねて一撃として放つスキル。
・作中では正拳突きとして放ったが別に蹴りなどの他の格闘技でも放てる。
・攻撃が当たった場合、そこに自分の有するレベルEXの格闘スキル効果が同時に炸裂する。
・所有するレベルEXスキルのリソースを一点に集めて放つスキルなので、使用後にレベルEXスキルは長時間使えなくなり、攻撃に使用した部分は束ねたリソースの量に応じたダメージを受けて弾け飛ぶ(作中では放ったすぐ後に実体化が解除されたので大丈夫だった)。
・習得条件は『【武闘王】のメインジョブのレベル五百以上』かつ『レベルEXの格闘スキル百種類以上』になっている。
【武練闘布 アスカ】:逸話級武具
・防御力もステータス補正も無いスキル特化型特典武具。
・第二スキルの効果は次回。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などがいつでも待っています。
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ミュウの試練・祐美の未来
□転職の試練の空間 【
私が試練の舞台に上がると、十メートル程先に身長百八十センチぐらいの人間…………いえ、頭上に名前表記があるので人型のモンスターですね。
…………そのモンスターは全身が灰色のボディスーツの様な物に覆われていて、顔には黒い仮面が装着されていました。
「えーと、名前は……【マーシャルアーツ・トライアルホムンクルス】ですか。…………あれが、試練の番人の様ですね」
『そうみたいだね……! 来るよ!』
『──────!』
次の瞬間、相手は超音速機動で十メートルの距離を一瞬でゼロにしてこちらに踏み込んで…………そのまま、私の身体の中央部分に
「…………ふむ、この攻撃は《シャイニング・フィスト》ですか」
『────⁉︎』
その一撃を片手で捌きつつ半身になって躱した私は追撃の風を纏った蹴りを躱し、そのまま《バックステップ》で距離を取りました。…………先程距離を詰めた際に使われたのはおそらく《アクセルステップ》みたいでしたし、格闘系のジョブスキルを使えるモンスターなのでしょうか?
…………まあ、取り敢えずフェイに今後の行動方針を伝えておきますか。
(
『分かったよ』
そう伝えてからフェイを後ろに下げた私は、追撃を仕掛けて来た【マーシャルアーツ・トライアルホムンクルス】を迎え撃つ事にしました。
…………相手はまず両方の拳から衝撃波を放ちながらこちらに接近し、距離を詰めてからは拳・蹴り・掌底・組討・投技などの各種格闘系スキルを駆使してこちらを攻め立てて来ました。
「…………やはり、様々な種類の格闘系ジョブスキルを使えるの様ですね」
『────⁉︎』
…………私はそれらの攻撃を全て捌きながら、相手の能力と今の自分の調子を確かめて行きます。
先程、アスカ氏が使った様な超級職のスキル相当の攻撃を繰り出して来ない所を見ると、使えるスキルは上級職のものに限られる様ですね…………後、スキルの種類に関しては、おそらくほぼ全ての格闘系上級職までのものが使える感じでしょうか?
「ステータスは平均数千ぐらいは余裕でありそうなので上位純竜……伝説級、筋肉・血管・骨格の構造はほぼ人間と同じですね」
『──────ー⁉︎』
総評して『上級職までの格闘系スキル全てを習得し、それら全てを伝説級ステータスで完全に運用出来る人型モンスター』と言った所でしょうか…………まあ、格闘家系統超級職の試練としては妥当な相手でしょう。
…………おそらく【武闘王】の《見稽古》で使えるスキルを与える役割もあるのでしょうが、普通に強敵ですね。
『…………いや、その強敵の攻撃を
「まあ、流石に先程まで戦っていたアスカ氏の攻撃と比べればヌルいですし……」
…………と、そんな事を考えながらも、先程から相手の攻撃に一度たりとも当たっていない私にフェイが突っ込んで来ました。
アスカ氏の武術がこの世界に存在する格闘系ジョブスキルを最大限に活かす戦い方だったので、その遥か上位互換の戦い方を見た後だと目の前の相手の戦い方が凄くヌルく感じるんですよね……。
そもそも、彼からこの世界のスキルを用いた戦い方を学んだ今の私にとって、ただ教科書通りにスキルを使う相手の攻撃は全て先読みする事など容易い事なのです。
「それに、人型で肉体構造も人間と同じだから攻撃を先読みしやすいですしね」
『────────!』
今はまだ全力での集中が続いている所為で、相手の身体の動きが筋繊維の一本一本まで見えている事も先読みを容易くしていますし。
ちなみに、以前この視点の事を兄様に話した時には『一昔前に流行ったダークファンタジー少年漫画の最強キャラみたいな能力だな』とか言われましたね…………私は特殊な呼吸法で身体能力を強化とか出来ないし、この視点も常時使える訳ではないので大幅な下位互換だと思いますが……。
「…………おっと、そんな事を考えるのは後にしましょう……か!」
『⁉︎』
くだらない考え事を中断した私は、相手が放った《ライトニング・ストレート》を躱しながら《ミドルキック》で蹴り飛ばしつつ距離を取りました。
…………流石にそろそろ集中が切れて来ましたしね。
『そりゃあ、今日あれだけの戦いを繰り広げればそうなるよ……』
そんな事を考えたら、フェイから呆れた様な言葉を掛けられてしまいました…………今日は色々あった所為でテンションがおかしな事になっていましたからね……。
「と、取り敢えず! そろそろケリをつけましょうか……フェイ!」
『了解、
そう言った私の肩にフェイが飛び乗って必殺スキルの準備をしました…………先程の戦いで使ってしまった所為で、まだ必殺スキルのクールタイムは終わっていませんが……。
「それでは、新しく手に入れた特典武具などの試しと行きますか……《
『《
するとクールタイムが
これにより、フェイが有するスキルのクールタイムがなくなり、更に《ミラクル・ミキシング》のデメリットで使用不能になっていたスキルももう一度使える様になったのです。
…………まあ、このスキル自体に二十四時間のクールタイムが課せられているので、必殺スキルをもう一度使用出来る様にするのが主な効果になりますが。
「さて、相手の底は知れましたしさっさと終わらせましょうか……ねっ!」
『分かったよ……《ハイ・エンチャント・ストレングス》《ハイ・エンチャント・アジリティ》!』
『────!』
私はフェイのバフ魔法によってSTRとAGIを上昇させ、更に《アクセルステップ》を使って高速で相手に接近し、それに対しての迎撃を掻い潜って《ライトニング・ストレート》をその胸に打ち込みました…………ふむ、《武練昇華》の効果でスキルレベルが上がっているので、大分威力が上がっていますね。
…………ですが、アスカ氏の技と比べると精度や練度がまだまだ未熟なので、もっと修行が必要でしょうか。
『…………その割には、相手を一方的にボコボコにしているんだけど……』
「ですから、先程
『────!』
何故かフェイからは突っ込まれましたが、そもそも相手の動きがもう完全に見切れてしまっているので、どこに打ってくるかと事前に予告されている攻撃を避けて、相手が躱せないタイミングで防げない場所にこちらの攻撃を打ち込めばいいだけですしね…………簡単でしょう?
『うーん……そんな簡単に認めちゃいけない話な気がするけど……』
「まあいいじゃないですか。…………では、そろそろ仕留めましょう《真撃》」
『──────!』
私が【武闘家】の奥義を使って事で決めに来ると察したのか、相手も《真撃》を使った上で
…………古今東西の格闘術を収める【武闘王】に就くのならあらゆる動きに対応出来る様になれ、と言う感じですかね。
「ですが、
『《アース・ウォール》』
『⁉︎』
接近して来た相手は、そのまま地面から突き出された土の壁にぶつかってその動きを止めました…………相手が仕掛けて来るタイミングは読めていたので、事前にそのタイミングで魔法を使う様にとフェイに言っておいたのです。
…………融合している状態なら、私の先読みとフェイの魔法を組み合わせる連携も可能みたいですね。試しが上手く言ってよかったです。
そして私は姿勢を低くしつつ、ぶつかった衝撃で砕けた土の壁に紛れて相手の懐に潜り込み……。
「《シャイニング・フィスト》!」
『!!!』
そのまま、光を纏う抜き手で相手の心臓を貫きました…………そのまま腕を引き抜くと【マーシャルアーツ・トライアルホムンクルス】は光の塵になって消滅しました。
…………そして、私はその場で一礼をしました。
「…………今の私の状態も大体分かりましたし、なかなか良い仕合でしたのです」
『…………それで、超級職には就けたのかい?』
フェイがそんな事を聞いて来たので早速自身のステータスを開いてみると、私のメインジョブはちゃんと【
ちなみに【武闘姫】スキル欄を見ると、《見稽古》の他にも数多くの格闘系ジョブスキルが記載されていました。アスカ氏からの薫陶(物理)のお陰ですね。
「…………このスキルも、アスカ氏が残したモノの一つなのですね。…………自分の才能の意味はまだ分かりませんが、こうやって私の才能のお陰で残るモノもあるのですね……」
『…………ミュウ……』
…………よし! 決めました。
「取り敢えず、今日は疲れたのでこのままログアウトをして…………多分、明日は用事が出来るのでログイン出来ないと思います」
『分かったよ。…………頑張って、ミュウ!』
そんなフェイからの声援を胸に、私は
◇◇◇
□地球
そして翌日、私は学校が終わってからとある場所へと向かいました。
「…………一年ぐらい前には良く来ていたのですが、随分と久しぶりに感じますね…………真里亞ちゃんの家は」
そう、今、私は真里亞ちゃんの家の前に立っているのです…………漸く自分の才能に一歩を踏み出す事が出来たのです、だったら彼女との関係にもキチンとした答えを出そうと思いここまで来てのですが……。
「…………いざ、ここまで来るとやっぱり緊張しますね。…………ええい! ママよなのです!」
そんな感じで色々とテンパっている私は、そのままの勢いで玄関のチャイムを鳴らしました。
…………私の体感時間的には凄く長く感じましたが、多分実際には少し後にインターホンから聞き覚えのある声が聞こえて来ました。
『はい、どちら様ですか?』
「その声は……真里亞ちゃんですね。…………私です、祐美です」
私がそう告げるとインターホンから息を飲む雰囲気が伝わって来ました…………正直、心が折れそうですが、ここまで来てそんな事になる訳には行かないと思った私は、更に言葉を続けました。
「お願いします、真里亞ちゃん……もう一度だけ話がしたいのです」
『………………分かったよ、祐美ちゃん』
…………どうにかその言葉を告げると、長い沈黙の後にそんな言葉が返って来ました。
「…………ありがとうなのです」
『…………うん、すぐ行くからうちに上がって。…………私も話がしたいから』
そんな言葉が聞こえてからしばらくして玄関のドアが開き、そこから真里亞ちゃんが出てきました。
「…………どうぞ、上がって」
「…………はい……」
…………お互いに凄く気まずい空気の中でしたが、私は一年ぶりに彼女の家に上がる事になりました。
◇
そうして彼女の家のリビングに通された私は、そこにあったソファーに座って彼女と向かい合っていました…………ちなみに彼女のお母様は仕事で出かけており、お兄様は大学だそうです。
…………さて、勢いでここまで来たのはいいのですが、何を言えばいいのか……。
「…………ごめんなさい!」
「ふぇえ⁉︎」
私が何を言おうか考えていると、いきなり真里亞ちゃんが頭を下げて謝って来ました…………お、落ち着け私! こういう時は深呼吸するんだ! ヒッヒッフー……って、それは違うやつなのです!
…………ええい、戦闘の時には常時平静でいられる私の脳もこういう時には役立たずですね!
私が突然の事態に物凄くテンパっているのを他所に、彼女は言葉を続けました。
「…………一年前のあの日、祐美ちゃんは必至で私を守ろうとしてくれたのに……私は祐美ちゃんを見て怖くなって、あなたを拒絶してしまって……本当にごめんなさい。…………あれからずっと謝りたかったけど、ずっと勇気が出せなくて……」
「あ……」
…………そうだったのですね……彼女も私と同じ様に一歩を踏み出せなかったのですか……。
「…………こちらこそ、ごめんなさいなのです。…………あの日、真里亞ちゃんを怖がらせてしまった事、そしてそれ以来ずっとあなたを避けてしまった事…………本当はすぐにお話がしたかったのですが、どうしても勇気が持てなかったのです……」
「祐美ちゃん……」
そうして、一年ぶりに真っ直ぐ見た彼女の顔は目に涙を滲ませての泣き笑いの様な表情でした…………まあ、私も同じくそんな変な表情でしょうが。
…………そして、私はこの一年間ずっと言いたかった言葉を彼女に伝えました。
「…………真里亞ちゃん、もう一度私と友達になってほしいのです」
「…………はい!」
…………こうして、私達の一年間に渡るすれ違いは漸く解消されたのでした。
◇
それから私達は、この一年間という時間を埋める様に様々な事を話し合いました。
…………そこで驚いた事に……。
「では、真里亞ちゃんも<Infinite Dendrogram>をやっているんですか?」
「うん。…………お兄ちゃんから現実とほぼ変わらないリアリティがあるって聞いて、どうにかしてあの時の恐怖を克服したいと思ったからやり始めたんだ」
どうやら、そういう事らしいですね…………ちなみに、彼女が所属している国はレジェンダリアだそうです。
「こうして祐美ちゃんともう一度友達になれたのも、あの世界で色々な事を経験したからだからね。…………特にフレンドの
「へぇ……」
真里亞ちゃん曰く、LSさんは初めてログインして右も左も分からなかった彼女にデンドロの事を色々と教えて手助けをしてくれた人で、レジェンダリアにおける上位クランのオーナーを務めている凄い人だそうです。
更に孤児院や幼年学校への募金などの慈善事業を積極的に行ったり、ティアンの子供達を守る為に<
「その戦いにはLSさんのクランのメンバーも総出で挑んでいて、私も偶々近くに居たから協力したんだ。…………まあ、その
「じゃあ、真里亞ちゃんは特典武具を持っているのですか、凄いのです。…………というか、古代伝説級とか私も倒した事がないのです」
私達が交戦した<UBM>は伝説級までですしね…………姉様の【ドラグテイル】はガチャ産ですし。
「でも、倒せたのはLSさん達が必死で援護してくれたから、偶然通りかかっただけの私が特典武具を手に入れちゃったのは申し訳無かったけどね」
「それでも真里亞ちゃんが凄いのは変わらないと思うのです。…………私も特典武具を持っているから、MVPがただそこに居るだけで取れる様なモノではない事は知っているのです」
ちなみにそのクラン──<YLNT倶楽部>(アルファベットの意味は知らないらしい)の人達は『無事だった子供達の笑顔こそ俺達への最大の報酬故に気にする事はありませんぞ』と言ってくれたらしいのです…………凄い良い人達ですね。
…………レジェンダリアにはHENTAIが多いという話を耳にした事はありますが、そういう人達も居るみたいなので色眼鏡で見るのは辞めるべきですかね。
その後も私達は色々な話をして、気がつけば外が暗くなり始めていました。
「…………おっと、どうやらもう時間みたいなのです」
「あ! ホントだ。もうこんな時間だね」
色々な話をしたせいで、かなり時間が経ってしまっていた様ですね…………正直、あっという間にだった気もするのです。
…………おっと、実はもう一つだけ彼女に言っておきたい事があったのです、
「じゃあ
「! ……うん! また明日ね!」
…………こうして私達は色々なすれ違いや回り道をしながらも、漸く未来へと足を踏み出したのでした。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
末妹:漸く仲直りが出来た
・ちなみに真里亞ちゃんがお世話になったというLSさんには、機会があればお礼を言いたいと思っている。
【武練闘布 アスカ】:末妹の特典武具
・スキルは両方とも《黒界・技指導》が末妹に合わせてアジャストされたもの。
【マーシャルアーツ・トライアルホムンクルス】:【武闘王】の試練の番人
・伝説級相当のステータスに東西の格闘系スキル全てを習得して使いこなす強力なモンスター。
・……だったのだが、先程まで戦っていた比較対象が強すぎたので末妹にとっては殆ど消化試合だった。
・末妹の考察通り《見稽古》で使えるスキルを増やす役割もあった。
真里亞ちゃん:実はデンドロをやっていた
・事件の時に自身が抱いてしまった恐怖を克服する為にデンドロをやっており、様々なクエストをこなしたり決闘に出ていたりもしている。
・現実では普通の女の子だが、デンドロではジョブと<エンブリオ>と特典武具のシナジーがヤバイタイプ。
・ちなみにLSの格好については「ティアンの亜人種の人達には変わった格好をしている人もいるし、他の<マスター>も色々な格好をしているのでこんなものなのかな?」と思っている。
・<UBM>を倒せたのは、条件特化型だったソイツと彼女の<エンブリオ>の能力が完全に噛み合っていた事と、<YLNT倶楽部>のデスペナを厭わない全力援護があったから。
・本格登場はレジェンダリア編か彼女主人公の番外編の予定(未定)。
LS・エルゴ・スム:真里亞のフレンドで光のレジェンダリアン
・真里亞ちゃんが末妹から逃げた後にログインした時、フレンドの幼女の悲しみの気配を察知して出現して彼女に様々なアドバイスを送った二人の仲直りの裏立役者。
・真里亞ちゃんからは上位クランをまとめており、様々な慈善事業も行なっている上に本人の実力も凄く高い<マスター>と思われており非常に尊敬されている(尚、名前のアルファベットの意味は知らない模様)。
・……というか、性癖を知らずに行動だけを聞くとと本当に聖人か何かとしか思えない人。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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閑章 昔々のお話
先々期文明のとある技術者達の話:或いはその成れの果て
□ とある【
…………私が“ソレ”を最初に見た時、言葉に言い表せない程の衝撃が全身を走った。
世界に名を轟かせる
…………私はその後、どうにかして煌玉馬に関わりたいと思い、機械を作り整備する【技師】の道を歩み始めた…………本当は煌玉馬に乗りたいとも思っていたが、残念ながら私には【
幸いなことに私には【技師】としてはそこそこの才能があり、サブジョブとして【
それから仕事の傍ら煌玉馬の研究をしていた私に一つの転機が訪れた…………量産型煌玉馬の開発計画にスカウトされたのだ!
私は即座に承諾し『量産型煌玉馬開発計画』のメンバーの一人になった…………そこにはかつて知り合った同士の姿もあったので、チームにはすぐに馴染む事が出来たのは幸いだった。
煌玉馬の
それでも、かのフラグマン氏が開発した作品の一つである煌玉馬を、大幅なデッドコピーとはいえ量産に成功した私達チームはは一躍有名になり、多くのスポンサーや国からの依頼も来る程だった…………最も、私達にとって一番嬉しかった事は彼等から大量の資金援助と技術開発の協力を得られた事だったのだが。
多くの援助を受けた私達は、早速量産型煌玉馬に特殊機能を搭載する
何せ“動力炉”はフラグマン氏の秘中の秘であるため私達では開発出来ず、オリジナル煌玉馬の各種特殊機能を搭乗者のMPのみで使うには魔法系超級職クラスのMPが必要になってしまうからだ(そもそも魔法系超級職なら自前のMPで超級魔法を使った方が明らかに強いだろう)…………そこからは様々な試行錯誤の日々だった。
その一つに私が開発した事前にMPを蓄積しておける高性能バッテリーを煌玉馬に搭載するプランもあったが、そのレベルのバッテリーを煌玉馬に搭載出来る程に小型化する作業は難航し、ようやく出来た小型バッテリーもコストや整備性などに問題を抱えた代物だったので、結局技術試験機が一機作られただけでお蔵入りになってしまったが……。
◇
…………それらの技術開発を経て、MP変換炉の高効率化と搭載機能を飛行と簡易バリアに限定するプランでようやく
…………“化身”の襲来である。
異大陸船から現れた“化身”達は瞬く間にこの大陸を蹂躙した…………あのフラグマン氏が作り上げた煌玉竜すらも“化身”達には通じなかったと聞いた時には、あまりの驚愕に私は気を失ってしまった。
…………“化身”による蹂躙が始まってからしばらくした時、私達メンバーもシェルターに避難する事になったが、その際に私達は複数のチームに分かれて各々が煌玉馬の研究データを持ち、それぞれ別々のシェルターに避難する事にした…………私達は『あのフラグマン氏の兵器すら通じなかった“化身”には、この大陸の全戦力を持ってしても勝つ事は出来ないだろう』と考え、せめて自分達が作った量産型煌玉馬を未来に伝えようと思ったのだ。
…………誰か一人でも“化身”から生き残る事が出来れば、後世の人間に私達が作った量産型煌玉馬のデータが伝わるかもしれないと期待して……。
私がいたチームが避難したのは大陸西側にあるシェルターの一つで、そこでは同じく避難していた技術者達が比較的多かった…………その中でもリーダー格の人物は【
彼は生物工学の分野においては世界最高峰の人間──フラグマン氏は生物工学には手を出していなかった──で、自分達の研究チームと一緒にこのシェルターに避難していた様だ…………そして彼は『いつの日か“化身”を打倒出来る技術を作り上げてみせる!』と豪語して、更にその為の協力を他の技術者や魔術師達に求めていた。
…………私達は“化身”の打倒など不可能だと半ば諦めていたので聞き流していたが、彼の『なら、せめてこのシェルターの人達の生活を良くする為に協力してほしい』という言葉には技術者としては思うところはあり、結局私達のチームも彼と協力して技術開発と研究をする事になった…………まあ、やはり私達も科学者だったのだろう、人の為に研究している間はそれなりに充実した日々を過ごす事が出来ていた。
私達チームが対“化身”用の研究として行なっていた事は、私が持ち込んでいたバッテリー搭載型の試作煌玉馬の改造だった…………と言っても殆ど自分達の趣味で改造していたが。
とりあえず、その試作機をバッテリーが尽きるまでの間、オリジナル煌玉馬に近いレベルの機動が出来るまで強化する事が出来たのは結構嬉しかった…………最も魔改造が過ぎた為か整備性や運用性にはかなり問題を抱えており、それ以前にこのシェルターにはソレに騎乗出来る程の人間はいなかったが。
◇
それからいくらかの時間が経ち私が壮年と言える様な年齢になった頃、リーダーの【大教授】がこのシェルターに居た技術者・魔術師達に一つの提案をした…………『ここに居る者達の脳を使って超高性能なコンピューターを作ろう!』と……。
…………流石にあまりにも突拍子の無い提案だったので、その提案を聞いた私達は困惑した…………だが、彼の話を聞くに連れて次第に賛同する人間が増えてきた。
その主な賛同理由を簡単に言えば『これまで研究してきて何の成果も出せず、更には寿命が尽きそうだから』である…………実際シェルター内の環境改善はそれなりに上手くいったが、肝心の対“化身”用技術の開発は全くと言っていいほど進歩が無かったのだ。
…………まあ、私達が作った煌玉馬も“化身“と戦えば瞬殺されると断言出来る程度の物でしか無いからな…………そして、それが割と上手くいった側の研究であるというのがここの実情である。
また、シェルターの環境改善も限界が来ており、これ以上の維持・開発を行うには高性能な演算装置が必要になるというのも理由の一つであるだろう…………そして、その為の
更にこのシェルターに居たもう一人の超級職【
…………『私達の頭脳を結集させれば、あのフラグマン氏以上のモノが作れる筈だ!』……という言葉に……。
やはり、頭では彼が別格の存在だと解っていても、心の何処かには彼への嫉妬や対抗心があったのだろう…………最も、こんな計画が実行に移される事になったのは、こんなシェルターの中でただひたすら研究を続けた結果、思考が狂気に犯されていた所為なのかもしれないが……。
…………私は特に自分の生に未練は無いが…………強いて言うなら、私達チームが作り【マグネトローべ】と名付けたあの煌玉馬が未来に残ってくれればいいのだが……。
◇◇◇
□◾️ シェルター管理用人口知能【アークブレイン】
こうして、彼等の脳を素材としたシェルター管理用人口知能は完成した…………少なくとも、そんな事が出来るぐらいには【大教授】と彼等研究者達は優秀だった。
そして、その名前は名工フラグマンが就いていたジョブ【
この【アークブレイン】には主に二つの命令が与えられていた…………『シェルター内環境及び人員の守護・保守・管理・発展』と『対“化身”技術の開発』である。
最初の方はその莫大な演算能力においてシェルター内の環境を大幅に改善し、研究者達が残した対“化身”技術を大幅に高性能に改良したりも出来ていた…………少なくともその力によって、諦めと不満が蔓延していたシェルター内の人間に希望を持たせる事には成功していた。
だが、そのシェルターにはひとつだけ不幸に事があった…………そのシェルターで“化身”達の目を誤魔化していた隠蔽結界が非フラグマン製の不完全なモノで、時間経過によって綻びが出来てしまった事である。
その結果、施設を管理していた【アークブレイン】の存在が“化身”達に気付かれてしまったのだ…………そして【大教授】が中心となって作り上げた【アークブレイン】は、自立意思を持つ
◇◆◇
【(<
【(過去に類似個体なしと確認。<UBM>担当管理AIに通知)】
【(<UBM>担当管理AIより承諾通知)】
【(対象を<UBM>に認定)】
【(対象に能力増強・死後特典化機能を付与)】
【(対象を古代伝説級──【完理全脳 アークブレイン】と命名します)】
◆◆◆
◾️ 【完理全脳 アークブレイン】
…………【アークブレイン】は自身が“化身”の能力影響下に入った事をその莫大な演算能力で即座に理解し…………その結果、それは
だが、【アークブレイン】は<UBM>になっても、かつて自身に与えられた命令は忘れる事は無かった…………その行動方針は大きく変化したが。
まず、“化身”達からシェルターを守る為に<UBM>化して強化された自身の能力を持ってシェルターの防衛機構を全力で拡張・強化したのだ…………シェルター内の人間の生活用リソースを犠牲にして。
その結果として生活水準が下がり、未来に希望を抱いていたシェルター内の人間は一転して暴徒と化してしまった…………【アークブレイン】は即座に彼等を配下の警備用モンスターを使って鎮圧し、強力な【催眠】を掛けて幸福な生活が出来ていると思い込ませた上で、増設したシェルター最下層に
更に【アークブレイン】はその保管した人間達を生きたまま
また、その事件によって幾らかリソースに余裕が出来たので、【アークブレイン】は更なる戦力の増強を開始した。
…………例えばとある科学者達が作った試作煌玉馬を、自立機動する黄金の機械人馬に。
…………例えばとある【人形姫】が亡き娘を模して作った人形を、永久に踊り続ける舞踏人形に。
…………例えばとある【大教授】が対“化身”用に作り上げた魔獣達を、より強力な融合魔獣に。
そのように戦力を強化していく中で自立意思を持ち再現不可能なモノが<UBM>化する事態も発生したが、それらが作成者である【アークブレイン】には友好的だった事と、そのスキル《ハイパーデータリンク》──自身の作製物との距離を無視した情報共有を可能とするスキル──によって協力関係を築く事が出来ていた…………また、いくつかの実験の結果<UBM>するのは【アークブレイン】の制御下にないモノ達であり、自身が完全に制御下においているモノは<UBM>には認定されない事も分かった。
そして、その後も【アークブレイン】はシェルターの防衛・強化と対“化身”技術の開発と実験をただひたすらに続けて行き、その結果シェルターの防衛能力の大幅な強化や配下であるモンスターの増産を進めていった…………その最中<UBM>化したモンスターが説得を受け入れず制御下から外れる事もあったが、それらのモンスターも《燈幻狂》で催眠をかける事によって封印、又は思考を誘導する事で対処出来たので基本的には問題無かった。
…………最も、彼等が<UBM>化している時点で“化身”の管理下にあるので、対“化身”というその在り方は根本的に矛盾しているのだが…………既に狂った【アークブレイン】はその事に気付く事は出来なかった……。
◆◇◆
◾️□ 管理AI4号ジャバウォック
…………ふむ、【アークブレイン】はなかなか面白い事になったな。…………まさか、自力で<UBM>に認定されるモンスターを作成し、更にそれらと協力関係を結んでいくとは……。
シェルターの強化や拡大にしたがって自己強化もしているようだし、いずれは神話級…………制作物を制御するあのスキル次第では
…………問題は、その在り方からこちらに引き込む事がほぼ不可能な事なのだが…………まあ、基本的にシェルターを防衛しながら地下に篭って技術開発をしているだけであるし、地上のパワーバランスに影響を及ぼす事はあまりないだろう。
…………とはいえ、地上に<マスター>が現れた時には何か行動を起こす可能性もあるか…………それまでにイレギュラーになっていればこちらで処理をする事にして、そうでなければ<マスター>達への試練の為にあのシェルターの情報を地上に出すのも面白いだろう。
…………何せ、今のあのシェルターは難易度だけなら神造ダンジョン
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
とある【技師】:【マグネトローべ】の開発者
・先々期文明に居た普通に優秀なティアンの研究者。
・小型高性能MPバッテリーを開発するなど“普通なら”歴史に名を残せたかもしれない人物。
【大教授】:実は普通に善人な天才
・地上にいた頃は自身の研究成果を医療分野に応用したり、稼いだ富を福祉や医療分野に寄付したりもしていた。
・……だが、普通に善人であったが故にシェルター内という閉鎖環境で、自分でも正直無理ゲーだと分かっている対“化身”研究を続ける事に耐えきれずに壊れてしまった。
【人形姫】:詳細はまだ秘密
・人形制作に特化した【
・尚、彼女が作った人形は【アークブレイン】配下の
【完理全脳 アークブレイン】:現在は神話級<UBM>
・先々期文明のシェルターの管理用人口脳が<UBM>化したモノで、外見はカプセルに入っている巨大な脳みそであり、種別は多重技巧型兼条件特化型。
・ステータスはMP・SP・DEXに極特化しており、固有スキルは《全脳ノ叡智》《超高速演算》《超並列演算》《燈幻狂》《ハイパーデータリンク》など。
・《全脳ノ叡智》は素材となった科学者達の全知識・技術・スキルそのもので、それらは長年の技術開発と自己強化によって現在では生前の彼等よりも遥かに強化されている。
・具体的には各種魔法系及び技術者系超級職のスキルすらも再現可能なほど。
・《超高速演算》によって思考速度を大幅に上昇させ、《超並列演算》によって多くのスキルを同時使用出来る。
・《燈幻狂》は《全脳ノ叡智》内の精神干渉系スキルを整理・統合・強化して独自のスキル化させたもので、神話級となった現在は効率化の為クローン複製した脳で作った分体に使わせている。
・他にもその方が効率が良いと判断された分野のスキルは同じ手法で独立スキル化させ分体に使わせている。
・《ハイパーデータリンク》は制作物との五感の共有や、分体脳との思考同調、効果範囲内での遠隔スキル行使の座標特定にも使える。
・《ハイパーデータリンク》によってシェルター内の防衛設備や制作したモンスターを制御しつつ、《全脳ノ叡智》の各種スキルで支援する事でシェルター内限定でなら条件特化型になる。
・ちなみにコイツは三兄妹の物語のラスボス的なポジション(予定)に居る為、“本人の”登場はまだまだ先(願望)。
【アークブレイン】の配下の<UBM>:洗脳されているモノと自分の意思で協力しているモノが居る
・【マグネトローべ】は自分の意思で協力していたが、元々『“化身”抹殺』の使命に忠実だったので地上に劣化“化身”が増えた事を知って『地上への出撃』を【アークブレイン】に強く要求した。
・それと劣化“化身”の戦力調査を行いたい【アークブレイン】の目的が一致した為、外に出る事が許されている。
・ちなみに【アークブレイン】の基本方針は<UBM>の洗脳は難しい事もあって『協力関係にあるモノは敵対を避ける為、可能な限り相手の意思を優先する』になっている。
・現在は<UBM>の制御が難しい事や戦力的に不安定な事もあって、戦力強化はそれらのデータを元に完全に自身の制御下にある強力なモンスターを作る方向にシフトしている。
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アルター王国一周旅行・北の厄災
色々な問題
□アルター王国北部 【
ミュウちゃんが超級職に転職してからしばらく、デンドロが始まってからこちら側の時間で一年が過ぎた頃、俺達は旅行の続きをする為にクレーミルを出て一路東へ向かっていた…………ちなみに、そのまま北西にあるルニングス公爵領に向かう案もあったのだが、『なんか東に行った方がいい気がする』というミカの鶴の一声でこうなったのだ。
今は【マグネトローべ】でクレーミルで買った新しい馬車(ある程度の速度を出しても大丈夫な頑丈なもの)を引いて、クレーミルから北東方向をミカの直感の導きに従って進んでいるところだ。
「それで? こっちで合っているんだよな? ミカ」
「うん、多分ねー。…………この先に何があるかは分からないけど」
「ですが、地図を見るとこの先はだいぶ濃い森になっているのです。このままだと、馬車が使えなくなるかもしれません」
ミュウちゃんの言う通り、この先にある森を馬車で進むのに難しいか。これ以上進むなら馬車を閉まって徒歩で行くか【マグネトローべ】で空中を進む事になりそうだ。
…………幸い偶に出て来るモンスターは俺とフェイの援護を受けた
「しかし、ミュウちゃんは超級職に就いてから大幅にパワーアップしたよね」
「確かに、動きのキレが上がっている感じがするな」
「それはアスカ氏が教えてくれて【
そう、喜ぶべき事に先日ミュウちゃんは去年の事件から疎遠になっていた友達との和解に成功したのだ…………ちなみに事情を聞いた俺とミカは大喜びして、その晩叔父さん叔母さんと一緒にパーティーを開いたりもした(尚、少しはしゃぎ過ぎた所為でミュウちゃんからは若干引かれたが)。
…………それに、あの事件を阻止出来なかった事は俺とミカもかなり気にしていたから、これで心のしこりが大分取れたかな。
「レベル上げも兼ねたこれまでの戦闘で【武闘姫】の特性やラーニングしたスキルの使い方も大分把握しましたから、これからはもっとパーティーの戦力になれるのです!」
「…………これまでも充分に戦力になっていたと思うが」
まあ、ミュウちゃんが喜んでいる様だし良しとしようか…………問題は俺の事なんだが。
「これで超級職を取っていないのは俺だけか。…………俺も何とか超級職を取れたらなぁ」
「お兄ちゃんは【
『そういえば、最初に試練に挑んでから以降の様子は聞いていないね』
…………つい愚痴が口をついてしまったが、そこを聞いてしまうかミカとフェイよ。
「別に何か伝える程に進展がある訳じゃないからな。…………毎回、瞬殺されているだけだし」
「…………一応相談に乗りましょうか、兄様? 私達でも何か力になれる事はあるかもしれませんし」
「そうだね! 一人で悩んでいると行き詰まる事も多いから、話をするぐらいはした方がいいんじゃないかな?」
そこまで言うなら話そうか…………と、言っても何から語るべきか……。
「じゃあ、まずは先代【技神】アバターのスペックについてだな。…………これまでの戦闘経験から、あのアバターのスペックはオリジナルと比べると『心技体のうち心が無く、技は劣化していて、同じなのは
「つまり、相手はこちらの事を常に初見の状態という事ですね」
「そういう事だな」
なので、有効な手段があれば次回以降の挑戦でも攻略手段の一つとして使えるという事になる…………問題は、その有効な手段を未だに発見出来ていない事だが……。
…………一応、最初の頃と違ってステータスが上がって動きにも多少慣れてきた今なら、
「初太刀以外?」
「ああ、最初に鞘から抜刀する時だけ相手のAGIが桁違いに上がっているみたいでな、多分百倍ぐらい。…………後、遠隔斬撃の正体は刀身をオーラっぽいもので伸ばしている事が分かっている」
「それは、多分抜刀術系のスキルだと思うのです。…………クラスメイトの子が『天地には抜刀時にAGIを増加させるスキルがある』と言っていたので、おそらくその系列にある超級職のスキルでしょう」
多分ミュウちゃんの言う通りだろう…………なので、初太刀だけは【救命のブローチ】で凌ぎその後の攻撃は短剣で凌ぐ形で、相手の攻撃を五回ぐらいまで防げる様にはなったんだが……。
「そうやって防いでいる隙にいつに間にか接近されて、気づいた時には身体を両断されている……というのが最近のパターンだな。…………先代【技神】さんの剣技は、遠隔斬撃と刀の間合いでの斬撃を比べると天と地ぐらい差があるからなぁ。遠隔斬撃を防ぐのもギリギリなのに、接近されるとなすすべが無く一太刀で真っ二つにされる」
「…………つまり、遠隔斬撃は接近する為の布石でしかないという事ですか」
そういう事だ…………最も、その布石ですら気を抜けば一瞬で即死する攻撃なので、遠隔斬撃を凌ぎながら先代【技神】の接近を妨げる事は今の俺には不可能だが。
…………おそらく、この試練は『ミュウちゃんクラスの才能の持ち主が複数の超級職に就いている』事が前提条件なんだろう。俺も色々と工夫をしてはいるんだが……。
「一応前回の試練では【
「うーむ……自爆カウンターもダメか」
「そもそも、超級職に複数就いているという事はステータスも相応のものでしょうし、上級職の奥義ぐらいで倒せるのでしょうか?」
多分、ステータスも平均数万はあるだろうし無理(断言)…………ステータス・スキル・技術に差がありすぎて今のところどうしようもないんだよなぁ。
後は、前回の試練の後に解放された【マグネトローべ】の
…………さて、色々と話したお陰で考えも纏まったし、この話はここまでにして話題を変えようかな。
「まあ、1パーティーに超級職が集まっていると色々悪目立ちするみたいだし、俺が超級職を取るのはもう少し後でもいいさ」
「まあ、デンドロが始まって現実ではまだ四ヶ月ぐらいだから、この時期に超級職を取った人間はどうしても噂になっちゃうしね。…………超級職を独占しているとかいちゃもんをつける奴も居たし」
『それでPKまでしようとする人も居たから、嫉妬って怖いね。…………まあ、全員返り討ちにしたけど』
「他人に嫉妬する程度の有象無象に負ける程、私達は弱くないですからね」
つまり、クレーミル滞在中にそんな事もあってちょっと居づらくなった事と、そこで起きた色々なイベントのせいで滞在期間が長くなっていた事が街を出ようと思った理由になるんだよな…………まあ、ティアンはマリアさんの様な良識的な人物が殆どだったし、<バビロニア戦闘団>の皆さんもフォローしてくれたから、そこまで問題にはならなかったが。
…………そして、話を続けるうちに、ミュウちゃんが
「…………後、私達に取材の依頼が来た事には驚きましたね。確か
「そうだねー。確かリアルで作家をやっていて、自分の作品の材料を探すためにデンドロをプレイしているんだってね」
…………そう、先日俺達の元にエフと名乗る<マスター>が『各地で様々な事件を解決しており、この<Infinite Dendrogram>でも希少な超級職に就いている貴方達に是非取材がしたい』と依頼して来たのだ。
その際に向こうから提示された報酬が非常に高額だった事と、ミカの勧めがあった事もあって俺達は彼の依頼を受ける事にしたのだ…………取材自体はごく普通で俺達が遭遇した事件の事を聞かれるぐらいだったし、こちらが話せない事についても多少聞き返されたぐらいで深くは聞いて来なかったので、その取材自体は普通に終わったんだが……。
「それでミカ、お前はエフ氏を
「うん、あの取材
「成る程。…………では、先程からずっと上空でこちらを見ている
…………俺達が街を出てからしばらくした時、ミュウちゃんが上空から視線を感じたので《第六圏》──ラーニングしたスキルの一つで周辺の気を読む感知スキルらしい──を使ったところ、上空に不可視の球体が浮いている事を感知したらしい。
一応、俺の風属性感知魔法や、ミカの《竜意圏》でも三つ程の球体が上空にある事を確認しており、更に《魔力視》などで調べたところ光属性の光学迷彩魔法で姿を消していると推測出来た。
『それで? その球体は放置していていいのかい?』
「今のところ危険は感じないし放置で。…………多分、破壊しても意味がないと思うし」
「まあ、本体をどうにかしないと変わりを送ってくるだけだと思うのです。…………彼は、自分の目的の為なら手段を選ばないタイプに見えましたし」
「光学迷彩を使っている事と、さっきからの会話に対して反応が無いところを見ると、おそらくは光属性の<エンブリオ>だろうから音までは拾えていないと思う。一応、読唇術とかで会話の内容を悟られない様に位置取りには気をつけているしな」
なので仕掛けて来たら返り討ちにするというのが、今のところの基本方針になっている…………念の為、光属性耐性を上げる《シャイン・レジスト》の【ジェム】は全員に持たせているしな。
…………問題は……。
「この先で起きるトラブルでちょっかいをかけて来る事だな。…………ミカ、この先で起きる事件はどのくらいの規模かわかるか?」
「うーん……はっきりとは解らないけど、
…………それは物凄くヤバイ事件じゃないか? あの【ハデスルード】は事前に一番弱い時を狙い撃ちにしたからどうにか出来た様なものなんだが……。
「では、彼はさっさと始末した方がいいですかね? …………彼の目を欺く方法はありますし、時間をかければ上の端末から《第六圏》で位置を逆探知できそうですなので、でき次第ちょっと行って来ますか?」
『以前、目を誤魔化すのに丁度いいスキルをラーニングしたしね』
「それは待ってね、二人共。…………多分、まだ始末はしない方がいい気がするから」
なんか、妹達が非常に物騒な話をしているのは聞かない事にしよう…………と、思ったその時、進行方向上の森の奥から
「む! お兄ちゃん、馬車はお願い! 多分、あっちに行った方がいい気がする!」
「姉様! 私も行きます!」
その悲鳴を聞いたミカはそう言って即座に馬車を降り、悲鳴が聞こえた方向に超音速で駆けていき、更にミュウちゃんも肩にフェイを乗せてミカの後を追って走っていった。
「さて、俺もさっさと馬車を仕舞って後を追うか。…………頼むぞマグネトローべ」
『────』
二人が走り去ってから直ぐに、俺は馬車を手早く仕舞って【マグネトローべ】に乗り空を駆けてその後を追った。
◇◆◇
□◾️アルター王国北部 【
三兄妹から数百メートル程離れた森の中、そこには片目を瞑った一人の男が居た…………ただし、その瞑ったままの片目には数百メートル先に居るはずの三兄妹の馬車を上空から見た光景が写っていたが。
…………彼の名前はエフ。以前に三兄妹を取材した<マスター>であり、その目に写されている光景は三兄妹の上空に光学迷彩状態で滞空させている球体──彼の<エンブリオ>【光輝展星 ゾディアック】によって視覚スキルを遠隔発動させる事によって実現している。
(ふむ、今のところ彼等が事件に遭遇した様子はありませんね。…………道中のモンスターは亜竜級であっても瞬殺されていますから
彼が三兄妹について知ったのは、取材の為に王国内を散策している最中に『王国内で様々な事件を解決している三人組がいる』と言う噂を耳にした事がきっかけである。
そして偶々クレーミルに立ち寄っていた際に超級職騒動で目立っていた三兄妹を見つけて、もしかしたら噂の三人組ではないかと
(咄嗟の思いつきでしたし報酬もかなりかかりましたが、王国で噂になっていた事件の詳細も知る事が出来ましたし、取材を申し入れたのは正解でしたね。…………何より取材時の彼等の発言や事件への遭遇する頻度及びその解決速度、後は勘になりますがおそらく
…………なので、こうして追跡していれば、今まで見た事がない事件の光景を目にする事が出来るかもしれないと彼は考えているのだ。
(まあ、たとえ意図的ではなく偶然であったとしても事件が起きてそれを見れれば良いのですし。…………事件が起きない様ならばこちらで起こしてしまえば、未だに貴重な超級職<マスター>の戦いを見る事が出来るでしょうしね)
…………同時にそんな物騒な事も考えながらエフは三兄妹の
そして、それとほぼ同時に馬車に乗っていた二人がそこから飛び降り超音速で音が聞こえた方向へと駆けていき、更にそれを追ってレントが機械馬に乗って空を駆けて行く光景がその目に映った。
(ふむ、どうやら何かが起こった様ですね。…………さて、彼等はどんなリスクを私に見せてくれるのでしょうか)
…………そう考えながら、エフは【ゾディアック】を動かして彼等の後を追わせつつ、自身も爆音が聞こえた向けて足を運んだのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:本編では描写されていないが【技神】の試練は何度も行なっている
・その所為かジョブ構成が鉄砲玉みたいになり始めている。
【突撃騎兵】:騎兵系統上級職
・【騎兵】の上級職の一つでステータスはHP・STR・ENDが伸び、騎乗しながらの突撃時の攻撃力強化や速度上昇、衝突時の反動軽減のスキルを取得出来る。
・主なスキルは『突撃時の攻撃力に“突撃時における騎乗対象のAGI×スキルレベル×10%”を加算する』パッシブスキル《騎乗突撃》など。
・だが、スキルの効果が『突撃する為に加速してから、短距離直進し、減速して元の速度に戻るまで』の間しか発揮されないので、常時速度を上昇させられる【疾風騎兵】などと比べると人気が無い。
・兄は【マグネトローべ】が取得した新スキルとの相性もあってこのジョブを選択した。
妹:今回はかなりシビアなので、その直感で色々と調整している
・ちなみにエフとの取材で『どうして多くの事件と遭遇しているのか』と聞かれた時には『勘で嫌な感じがしたところに行ったらたまたま事件が起きた』と普通に答えている。
・彼女は基本的に自分の直感を公言する事は無いが、それ必要だと“直感”すれば他者に明らかにもする。
末妹:大幅にパワーアップ
・ちなみに【武闘姫】のステータスはSP特化で、それ以外はLUCを除いたステータス(MPを使う格闘系スキルに対応する為)が満遍なく伸びる……が、ラーニング特化のジョブの為、個々のステータスは前衛系超級職としては低い。
・また、アスカ氏は実戦指導の際に自身が覚えている有用なスキルはきちんと解説していたので、末妹がラーニングしたスキルは“パッシブスキル含め”結構多い。
・……と、言うか最も強化されたのはアスカ氏との戦いを得て磨かれた戦闘技術だったりする。
《第六圏》:【武闘姫】でラーニングしたスキルの一つ。
・SPを消費してスキルレベルに応じた範囲内の気を読んで周囲を把握するスキルで、発動中は範囲内での《殺気感知》や《看破》などの感知・知覚系スキルの効果を上昇・拡大させる効果もある。
・これらのスキルを併用しつつ集中した上で相応のスキルレベルや技量があれば、周りで発動しているスキル効果や生物の意思の動きなどを感知したりも出来る。
・このスキルは、かつてアスカ氏が黄河に行った時に遭遇した気功型格闘系スキル特化超級職【
エフ:現在三兄妹を追跡中
・三兄妹が追跡に気づいている事は察しているが、それはそれで良い材料になると思っている。
・取材の時の妹の発言については《真偽判定》を誤魔化す為のものか、それとも本当かは半信半疑なので今は何もせずに観察中。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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事件の序章
それでは本編をどうぞ。
□アルター王国北部 【
爆発音が聞こえて来てから、私とミュウちゃんはその方向へ全速力で走っていた…………近づくに連れて爆発音以外にも剣撃の音や複数のモンスターらしき声も聞こえて来たので、どうやらかなりの規模の戦闘が繰り広げられているみたいだね。
「見えて来たね。……あれは」
たどり着いたそこで私が見たものは、空を飛び回り或いは地上を走り回る
…………また、馬車を守っている者達の中に一際目立つ一台の戦車と一人の着ぐるみがおり、その戦車は砲撃を撃って周囲モンスターを駆逐して、着ぐるみ(多分カンガルー)は手に持ったハンマーで近づくモンスターを殴殺していた。
「爆発音はあの戦車から聞こえて来たみたいだね。…………ていうか、あれは多分シュウさんだよね?」
「姉様、それより早く助けた方が良いと思いますよ。…………馬車の中を《看破》した所、あの中には戦えない人達がいる様なのです」
「おっと、そう言う事なら早く助けに行きますか」
そう言った私はとりあえず戦闘が行われている場所に突っ込み、そのまま近くにいたモンスター達を薙ぎ倒していった…………しかし【ブラックウルフ】に【ホブゴブリン・ウォーリアー】に【ツインヘッド・ヴァイパー】などと、私が屠ったモンスターだけでも種類が見事にバラバラだね。
また、それらのモンスターはお互いを襲う事が無く、更に近くにいる人間だけを狙っているみたいだし…………これは以前の【テンプテーション・マンティス】や【ラーゼクター】の時みたいな精神干渉、それもより大規模なヤツだね。
…………そうやってこの事件の原因について当たりをつけながら、私は敵中を突破して馬車に接近する事が出来たので、ひとまず周囲の敵を吹き飛ばしてから近くにいた女性の騎士に話を聞く事にした。
「《テンペスト・ストライク》! っと、大丈夫〜?」
「え⁉︎ はっはい、大丈夫です。……って、貴女はミカさん⁉︎」
「おや、確かリリアーナさんだったかな?」
なんか見覚えがあると思ったら、以前王都で起きた事件を解決した時に遭遇したリリアーナさんだったみたいだね。
…………とりあえず、今のうちに詳しい話を聞いておこうか。
「それで? これは一体どう言う状況なのかな? なんかピンチっぽかったから殴りこんだけど。……あ、今更だけど助けっている?」
「あ、はい! 私達はこの馬車をクレーミルまで送り届ける任務を行なっていたのですが、いきなりこのモンスター達に襲われて応戦していて、偶々近くにいた<マスター>のシュウ・スターリング氏の協力でなんとか持ちこたえていた所で……後、助けは大歓迎です!」
成る程、やっぱりあっちで戦っているのはシュウさんだったみたいだね…………守る馬車が近くにいて、更にこの乱戦だと広域殲滅もやり難いか。
「それじゃあ、私とミュウちゃんで馬車を守りながら周りの敵を倒そうか。フェイちゃんは怪我した人を回復させつつ援護で。……後、シュウさんはほっといても自分で何とかするだろうから放置で」
「分かったのです」
『了解』
何か向こうの方から『凄く雑に扱われた気がするガルー!』と聞こえた気がしたけど、そもそも戦えない人が乗った馬車及びティアンの騎士達とシュウさんならどちらを優先するかは考えるまでも無いしねぇ。
…………と、そんな事をしている間にも、向こうから突っ込んで来る【デュアルホーン・デミドラゴン】を初めとして、色々なモンスター達が地面を走って来たね。
「ミカさん! 危な「《ギガント・ストライク》!」『GYAAAAA!!』
とりあえず、私は突っ込んで来た【デュアルホーン・デミドラゴン】をメイスの一振りによるカウンターでそのツノを粉々にしながら吹き飛ばして光の塵に変えた。
更に向こうからやって来るモンスター達を《ウェイブ・インパクト》──地面にメイスを叩きつけ、前方の地面に扇状の衝撃波を発生させて敵を攻撃する中距離用スキル──で吹き飛ばしておく。
「全く、誰に操られているのか知らないけど面倒な連中だね。……それで、何かなリリアーナさん?」
「…………いえ、何でもありません……」
何故かリリアーナさんが凄く遠い目をしているけど、これ以上話をする時間はなさそうだと判断した私は吹き飛ばした敵がいる方向へと突っ込んで行き、そのままメイスと《竜尾剣》を振り回して周辺の敵を殲滅していった。
…………そうやって、私やミュウちゃんがモンスターの相手をしたお陰で騎士達に掛かる負担が減ったので、彼等もどうにか態勢を立て直した様だ。
だが、裏で糸を引いている黒幕もこれで終わるつもりはない様で……。
『KEEEEEE!』
「! 《エフェクトバニッシュ》!」
いきなり上空から降下して来た【クリムズン・ロックバード】が
…………にゃろう、私達に勝てないからって馬車を狙ってコッチの動きを封じる方向に戦術を変えたな。
「ミュウちゃん!」
「了解なのです! 《軽気功》《空歩》!」
私の言葉と共にミュウちゃんは《軽気功》──自分の重量を軽くするスキル──を使って大ジャンプし、更に《空歩》──スキルレベルに応じた歩数だけ空中ジャンプが出来るスキル──を使って【クリムズン・ロックバード】に接近した。
…………ちなみにミュウちゃんがスキル名を宣言しているのは、使えるスキルが増えたので何のスキルを使っているのかを周りの味方に伝える為である(当然、無詠唱発動も可能らしい)。
それに対して、相手は迎撃の為に炎を吐こうとするが、私の《エフェクトバニッシュ》の効果でスキルを封印されている為に何も出来ず、その隙に接近したミュウちゃんは相手の背に飛び乗って……。
「《発勁》」
『KYAAAaaa……』
その頭部に掌底を放ち、スキル《発勁》によって内部に浸透した衝撃で脳を内側から破壊して【クリムズン・ロックバード】を絶命させた。
しかし、空中にはまだ多くのモンスターがおり、その内の一体【ストライクワイバーン】が空中から降下中のミュウちゃん目掛けて強襲を仕掛け…………横から【マグネトローべ】の新スキル《
「兄様、助かったのです」
「ていうか、お兄ちゃん来るの遅いよ!」
「仕方ないだろう、途中で此処に向かっている飛行モンスターの一団と遭遇して、そいつらを倒していたんだからな! 《ブレイズ・バースト》!」
お兄ちゃんは空中を駆け回ってモンスターを長槍で貫きつつ、私達とそんな会話をしながら《詠唱》していた魔法を放って近づいて来たモンスター達を消し炭にした…………そして、そのままお兄ちゃんは【マグネトローべ】を駆って空中戦を続行していった
「とりあえず空中の敵は俺が何とかするから、地上のモンスターをどうにかしろ!」
「了解〜」
「分かりました!」
そんな感じで私達とシュウさんによって周辺の敵が減って来ると騎士達にも余裕が出て来た様で、態勢を立て直しつつ馬車をモンスターが少ない安全な所へと避難させ始めた。
…………なので私は、今のうちにシュウさんと話して連携を取れる様にしておこうと思い、モンスターを蹴散らしながら彼の元へと移動した。
「ヤッホー、シュウさん」
『おお、ミカちゃん。援軍に来てくれて助かったガル』
私が話かけると、カンガルーっぽい着ぐるみを着たシュウさんはこちらを向いて礼を言ってきた…………ちなみに、その間も彼の<エンブリオ>であるらしい戦車は砲撃を周りのモンスターに撃ち放っていたが。
…………とりあえず、彼と今後の行動について話し合おうと思ったのだが、そこで私はとある事に気がついた。
「敵の数が減ってきている……。いや、
『そうみたいガルね。…………裏でモンスターを操っていたヤツが手を引いたのか?』
そう、おそらく私達が来た時辺りからモンスターの援軍が居なくなっていたのだ…………多分、私達が来た時点でモンスターを操っていた何者かが、此処にモンスターを誘導するのをやめた所為なんだろうけど。
「どうしてこんな事態になっているのか、シュウさんは知ってるの?」
『いや、知らんガル。……俺もついさっきリリアーナ達が襲われているのを見て助けに入っただけだからなガル』
ふむん、やっぱりリリアーナさんに詳しい事情を聞く必要があるかな…………先日から働いている私の直感にも関わりがある気がするし。
「じゃあ、さっさと敵を殲滅して彼女に事情を聞こうかな?」
『そうガルね。……バルドル、第五形態』
『
その言葉と共に戦車形態だったシュウさんの<エンブリオ>──バルドルが光に包まれると共にその質量を大幅に増加させ、その光が晴れた所には一隻の戦艦が鎮座していた…………噂には聞いていたけど戦艦の<エンブリオ>とかもあるんだ……。
そして次の瞬間、バルドルは先程までの戦車形態とは比べ物にならない威力の砲撃を放って周辺のモンスターを殲滅していった。
「流石は討伐ランカー。基本プチプチ潰すぐらいしか出来ない私とは殲滅力が違うね」
『(亜竜級モンスターを)プチプチ潰すガルね、分かるガル。…………まあ、これでも結構大変ガル……主にコストが』
まあ、これだけの火力を出すには、当然代償が必要みたいだね…………さて、あんまりシュウさんばかりに任せておいても申し訳ないし、私も残存モンスターを掃討してくるとしましょうか。
◇◇◇
□アルター王国北部 【
「マグネトローべ、
『GYAAAA!』
俺は今にも電撃を吐こうとしている【ライトニング・デミドラゴン】に対して、マグネトローべのスキルによって
そう、これが【マグネトローべ】の新スキル《電磁加速》…………まあ、<UBM>だった頃にも使っていた磁力による超加速スキルだな。
…………ただ、
「さて、これで空の敵は大体片付いたかな。…………まあ、三割ぐらいはシュウさんの<エンブリオ>による対空砲火のお陰だが」
それに、途中からこの場所にモンスターが誘導される事が無くなった様だしな…………ミカの直感の事もあるし詳しい事情は知っておきたいか。
「それじゃあ、地上に降りて騎士達やシュウさんに話を……ん?」
俺がそんな事を考えつつ地上に降りようとすると、北側の森がある方向から何か物凄いスピードでこちらに向かって飛行してくる者がいる事に気がついた。
…………とりあえず、俺は戦闘の構えを取りながら《遠視》を使って相手を確認すると……。
「えーと【セイクリッド・ハイペガサス】か。…………おや? 乗っているのはひょっとしてリヒトさんか?」
こちらに飛行してくる相手をよく見るとそれは一頭のペガサスで、その背にはアルター王国第一騎士団団長のリヒトさんがまたがっていた。
…………どうやら向こうもこちらに気がついた様なので、俺は話を聞くために彼の下へとマグネトローべを走らせた。
「お久しぶりです、リヒトさん」
「! レント君か、久しぶりだね。……ところで、グランドリア卿からモンスターの集団に襲われていると聞いたのだが……」
どうも、彼はモンスターに襲われているという連絡を受けたので援軍に来たらしい…………なので、モンスターは偶々通り掛かった俺達とシュウさんが粗方倒した事を伝えた。
「そうか、王国の民と騎士達を救ってくれて感謝する。…………では、話の続きは地上に降りてからでも良いだろうか。詳しい事情はそこで話そう」
「分かりました」
そうして、俺とリヒトさんは地上の馬車の所まで降りていった。
◇
「グランドリア卿、被害状況は?」
「はい、避難民・騎士達共に死亡者はおりません。また、騎士達には負傷した者もいましたが既に回復済みです」
「そうか、それは何よりだ。……実はこちらにも襲撃があってな、そのせいで遅れてしまった。時期に村の方から残りの騎士達も来るだろう」
地上に降りた後、リヒトさんは馬車と騎士達の様子を確認しに行ったので、その間俺はミカ達やシュウさんと情報交換をしておく事にした。
「はーい、お兄ちゃんお疲れ〜」
「はい、お疲れ様。…………それで、シュウさんはこの事件の事情はご存知で?」
『いや、さっぱりガル。俺も襲われているところを助けに入っただけだガル』
「今分かっているのはあれらのモンスターが何者かに操られていた事ぐらいなのです。…………後、逆探知は周りのスキルや意識が多すぎて無理だったのです」
…………ふむ、やっぱりリヒトさん達からの説明待ちかな、これは。
「…………すまない、待たせてしまったね。…………とりあえず、君達にも事情を説明しておきたいのだが構わないだろうか。そして、出来れば今回の件について手を貸して欲しい、もちろん報酬は出そう」
「ッ! ローラン卿! 今回の件は王から我等騎士に命じられた事で<マスター>の手を借りる訳には……!」
状況の確認が終わった後、リヒトさんが俺達に説明と協力の申し出をしようとし、そこで護衛の騎士の一人がそれに異を唱えたりもしたが……。
「先程言い忘れていたが村の方にも襲撃があった上、その隙に
「はっ!」
そんな感じであっさりと部下を説得してしまった…………実に出来る上司って感じだよな、リヒトさんは。
…………そして、部下の説得を終えたリヒトさんはこちらに向き直り改めて聞いて来た。
「途中で話を切ってしまってすまない。それで、如何だろうか?」
「…………とりあえず、詳しい事情を聞いてから判断させて下さい」
流石にまだ話が見えて来ないので、まずは詳しい事情を聞いてみる事にした…………妹達やシュウさんもそれで良い様だ。
「そうだな。…………時間もあまりないから簡潔に話すが、馬車に居る彼等はこの先にある<クリラ村>の住人で、俺達は彼等をクレーミルまで避難させる任務を行なっている最中なんだ。…………そして避難させている理由だが、クリラ村には【封竜王 ドラグシール】という古代伝説級の竜王が居てね、その彼が『この土地に
…………ミカの直感で俺達が危険に突っ込んでいくのは何時もの事だが、どうやら今回はかなり厄介なネタを引いたみたいだな……。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
三兄妹:古代伝説級が複数登場する事件をドローした
・尚、今回は事前に危険の強度を下げるのは難しいので、色々な人の協力が必要な模様。
《電磁加速》:【マグネトローべ】の新スキル
・スキル使用までのチャージ時間は速度を上げても多少上昇するぐらいでそこまで大きく変化しない。
・スキルのチャージ時間・消費MP・クールタイムはマグネトローべの人口知能が成長する毎に少しずつ軽減される(これは他のスキルも同じ)。
《スピアチャージ》:【突撃騎兵】のスキル
・槍を持った騎乗時に使えるスキルで、突撃速度と突撃時における槍系武器の攻撃力を上昇させる。
・ちなみに兄が持っている槍はクレーミルで買った【ライド・ポールランス】という武器で、騎乗時の使用に補正がかかるスキルを持っている。
シュウ・スターリング:今回の協力者(予定)の一人
・最初から戦艦を使わなかったのは、戦車状態で狩りをしている時に事件に遭遇してそのまま戦闘していたので変形させる暇が無かった事もある。
リリアーナ・グランドリア:<マスター>の理不尽さには大分慣れて来た
・主に着ぐるみとか某宗教クランのせい。
リヒト・ローラン:騎士団の中では親<マスター>派
・別に<マスター>に好意を抱いている訳では無く、これからの王国には<マスター>の力が必要だと思っているので積極的に力を借りるべきだと思っている人。
・とは言え、力を借りる<マスター>はちゃんと選ぶべきだと考えており、その為に王国内で有名な<マスター>の情報を集めたりもしている。
・乗っていた【セイクリッド・ハイペガサス】は彼の騎獣であり、名前は“デュラル”と言う雄のペガサスで、主に聖属性の防御・回復スキルに長けている。
取材犯:大規模な戦闘が見れて少し満足
・しかし、どこかの戦艦のせいで割とあっさり片付いたので少し不満。
・だが、あのクラスの連中だと下手な戦力を嗾けてもさっきと同じ結果になるだけなので、とりあえず観察を続行中。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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クリラ村へ
それでは本編をどうぞ。
□アルター王国北部 【
ミカがいつも通りその直感によって事件を察知したので、俺達はクレーミルを出て北東に向かっていた(ストーカー付き)のだが、そこで馬車とそれを守る騎士達がモンスターの大群に襲われている所を発見した…………なので、俺達は同じく偶々通りがかったシュウさんと一緒にそれらのモンスターを殲滅したのだが、そこに現れたリヒトさんから俺達は衝撃的な話を聞く事になったのだ。
…………と、そんな経緯で俺達はリヒトさん一通りの話を聞いたのだが……。
「ええと、つまり『この馬車の人達はこの先にあるクリラ村の住人で、そこには【封竜王 ドラグシール】という古代伝説級<
「そういう事だ、レント君」
「見事に纏めたね、お兄ちゃん」
『分かりやすい纏めガル』
改めて聞くと予想以上に厄介事の気配がする案件だな…………まあ、元々
とか考えていたら、突如ミカが手を挙げてリヒトさんに質問しだした。
「ハイはーい! リヒトさん質問です。その封印って後どれぐらいで解けるんですか? 残り三日ぐらい?」
「封竜王殿からは後半年ぐらいは持つと聞いているな。…………まあ、外部から干渉を受けた場合は分からないが」
成る程、そのぐらいか…………だが、ミカが
そんな事を考えていると、次はシュウさんが質問をした。
『俺からも質問良いガル? 村人の避難はどれくらいで終わるのかと、その封印された<UBM>の危険度について聞きたいガル』
「村人の避難は後一週間ぐらいで済ませる予定だったが、今回の事件もあるし王都やクレーミルから増援を募って出来るだけ早く終わらせるつもりだ。そして封印されている<UBM>の事は五百年程前に封印されてもので、封竜王殿は『理性もなく近くにいた人間とモンスターを手当たり次第に食い散らかし、その結果としていくつかの街が滅ぼされた』と言っていたな」
…………話を聞く限りでは非常にヤバそうな相手だな。幸いなのはその【封竜王】さんが味方ポジションっぽい事だが……。
「私からも質問があるのです。封印を破ろうとした者がいたという話ですが、その者達がどういう連中だったのです?」
「俺は直接見た訳ではないが、封竜王殿は『人形をしていたが、おそらくアレはホムンクルスの類である
機密保持の為の自爆とか、この事件の裏で糸を引いているヤツも相当ヤバそうだな…………本当に今回は冗談抜きで危険なヤマっぽいなぁ。
…………じゃあ、俺も一つ質問をしておこうかな。
「俺からも一つ質問です。依頼を受けるとして、俺達は村と馬車のどちらを守ればいいんですか? 後、その期間は?」
「ふむ……。戦力的には主に狙われるだろう村の方に行ってほしいのだが…………実は以前、特典武具狙いで封竜王殿に戦いを挑んだ<マスター>がいてな、それ以来クリラ村では<マスター>に対する警戒感が強まっているんだ。…………後、期間についてだが後三日もすれば王都から援軍も来るし、これからクレーミルで協力者を募るつもりだから1日ぐらいの間は頼みたいな」
あー……まあ、そういう奴等もいるよなぁ……。一応、手出ししたら罪に問われる<UBM>がいるって事も周知はされているんだが。
それと期間の方だが今日明日は休日だし俺達は1日ぐらいなら問題はないかな。後、シュウさんの方も問題はないらしい。
…………さて、とりあえず一通りの情報は出集まったんだが。
「それで? どのルートだと上手くいきそうだ、ミカ?」
「うーん…………まずは村に行ってその【封竜王】さんに会う必要があるかな? 多分だけどこちらの時間で
「では、村の方に行く感じですね」
「…………いや、ちょっと待ってくれ。君達は今回の事件の犯人を知っているのか⁉︎」
とりあえずミカと今後の方針について相談していたら、それを聞いたリヒトさんからツッコミが入った…………まあ、普通はそういう反応になるよなぁ。
…………さて、どう説明したものか……。
「まず、俺達は今回の事件を起こしたのが誰かとかは分かりません。…………ただ、ミカは生まれつき勘がいいので、危険な事がいつどんな風に起こるのかがある程度事前に解るんですよ」
「今回はこのあたりで何か起きそうな気がしたから来てみただけですし」
「…………それは……」
うーん、やっぱりいきなりこんな事を言われても困惑するだけだよなぁ…………と、思っていたのだが……。
「待ってください、ローラン卿。…………ミカさんは以前王都で起きた誘拐事件を解決した時にも、何の手掛かりも無い状況で誘拐した人を見つけ出していました。なので彼女達の言っている事は《真偽判定》に反応が無いですし、嘘ではないと思います」
「…………そうだな、どの道彼等に協力を依頼するつもりだったのだし、今回の事件が起きた事でクリラ村の住人の避難も出来るだけ早く済ませるつもりなのだから、彼等の話が本当かどうかは別に構わないか。…………それに、生まれながらにしてそういう力を持つ人間がいるのは
この様にリリアーナさんのフォローもあり、どうにか納得してくれた様だ…………やっぱりコッチの世界だと《真偽判定》がある分、色々と説明が楽だな。
…………おっと、そういえばシュウさんに確認を取るのを忘れていたな。この依頼をどうするのかをキチンと聞いておかないと。
「それで、シュウさんはどうします?」
「出来れば、私達について来てほしいんですけど……。その方が色々と上手くいきそうなので」
『依頼は受けるし村の方でいいガルよ。ミカちゃんには借りもあるし、どうせ暇だから手伝うガル』
有り難い、今回の事件はかなりヤバそうだからシュウさん程の<マスター>が協力してくれるのは助かるな。
「それじゃあ、君達には正式にクリラ村の人間の護衛を依頼する。そろそろ村の方から追加の騎士達が来る筈だから、その彼等と俺達で馬車を護衛するので、君達へ彼等の代わりに村を守ってくれ。案内には面識のあるグランドリア卿に頼む。…………どうか力を貸してほしい」
「分かりました」
【クエスト【護衛──クリラ村避難民 難易度:十】が発生しました】
【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】
こうして、俺達のクエストが始まったのだった…………しかし、
◇◇◇
□アルター王国北部森林 【
あれから援軍に来た騎士達とリヒトさんが馬車を護衛してクレーミルに行ったのを見送った私達は、リリアーナさんの案内でクリラ村がある森の中を徒歩で進んでいた…………途中から森が濃くなって来た所為で馬車が使えなくなったからね。
後、道中はリリアーナさんがお兄ちゃんの【マグネトローべ】について聞いて来たり(何でも彼女の父親が似たような煌玉馬に乗っているらしい)、リリアーナさんが最近【
「そういえばリリアーナさん、さっきは私の話を信じてくれてありがとうね」
「いえ、ミカさん達には色々と助けて貰っていますから。…………それに、どちらにしろ避難は急ぐつもりでしたから、協力してくれる方が有り難いですし」
まあ、既に事件が起きた後だったから私の話も違和感なく受け入れてくれたんだろうし、そもそも私の話を信じる信じないに関わらず彼等騎士達の行動は対して変わらないけどね…………そういう訳で今のところ上手く行っているけど、今後も綱渡りになるかなぁ。
…………そう考えていると、シュウさんが先導しているリリアーナさんから離れて私に近づいて来た。
『…………ところで、さっきから覗き見をしているヤツについては気付いているガル?』
「うん、多分エフって人だと思うんだけど。クレーミルを出たあたりからコッチをつけているっぽいね」
シュウさんはリリアーナさんに聞こえない様にそんな事を私に耳打ちして来たので、私も同じ様に追跡には気付いている事と私達が以前エフさんから取材を受けた事を含むそれに関しての事情を説明した…………ちなみにリリアーナさんはお兄ちゃんとミュウちゃんが話し掛けているので、コッチには気付いていないね。
…………そして、それを聞いたシュウさんは頭を抱えた。
『ハァ……全く、面倒な時に面倒なヤツが……』
「エフさんってそんなに面倒な人なの? まあ、何かやらかしそうな人だとは気付いているけど」
『ああ、あのエフって男は……』
流石に気になったのでシュウさんに聞いてみると、物凄く面倒そうな雰囲気になって色々とエフさんについて教えて貰った。
…………どうやら彼は自分の取材の為に意図的に事件を起こして、それに巻き込まれる人を観察するという事を各地で行なっており、シュウさんもそれに巻き込まれた事があるらしい。
『エフは事件を長引かせる為に有利な方を攻撃するぐらいはするヤツだからな、対処は早めにした方がいいと思うガル』
「んー…………多分、それは今じゃない気がする。今は村に向かう事を優先するべきだと思う」
『成る程ガル。…………まあ、このメンバー相手に下手に仕掛ければ返り討ちになるのはヤツも分かっているだろうからな。戦闘はさっき見ただろうし、マンネリになるからモンスターを嗾ける事も無いだろうガル』
一通りの事情を聞いた上でまだ対処するべき時では無い気がしたので、シュウさんにそう伝えると彼も私の意見に賛成してくれた。
「…………ていうか、シュウさんもあっさり私の直感を信じてくれたね」
『ん? ああ、ミカちゃん達が嘘を付いている様には見えなかったからなガル。…………後、
妙にあっさり私の直感を信じてくれたのが気になったので、彼にその事を少し聞いてみるとそんな答えが返ってきた…………シュウさんの言っている“誰か”が気になるけど、彼の雰囲気がなんか物凄い影を背負った感じになっているので、多分深く知ったらいけない感じだろうから黙っておこう。
…………という訳で、適当な話をして話題をそらす方向で。
「そういえば、シュウさんはリリアーナさんと以前からの知り合いなの?」
『ああ……以前
「え? 巻き起こしているとかじゃなくて?」
『俺は巻き込まれている側ガル。どちらかと言うとそれは女狐かアイツの役割ガル。…………と言うか、ミカちゃんには言われたくないガル』
「私は事件を感知して突っ込んでいるだけだから」
まあ、そんな感じで適当に話をしてしばらく経つと、リリアーナさんが目的地へ到着したと私達に伝えて来た。
「皆さん着きましたよ。ここがクリラ村です」
そこにあったのは民家が十数件並ぶ程度の小さな村であり、周辺には何人かの騎士達が辺りを巡回していた…………そしてリリアーナさんはそのまま巡回していた騎士の一人に近づいていった。
…………おや? あの騎士には見覚えが……。
「ローラン卿、ただいま戻りました」
「お疲れ様ですグランドリア卿」
ああ、確か【ハデスルード】事件の時に出会ったリヒトさんの娘さんのリリィさんだね。彼女も此処に来ていたんだ、挨拶はしておこうかな?
…………と思ったら、お兄ちゃんが前に出て先に挨拶してくれたよ。
「お久しぶりです、リリィさん」
「お久しぶりです皆さん。貴方達の事は既に父から話は聞いているので今回は宜しくお願いします」
そんな感じでみんな簡単に自己紹介をした後、私はやっておかなければならない気がする事をリリィさんにお願いする事にした。
「それじゃあ、お願いがあるんですけど…………ここの封印を守っているっていう封竜王さんに合わせて欲しいんだよね」
「…………会ってどうするつもりで?」
…………ふむん、以前やらかした<マスター>が居るせいでちょっと警戒されているかな? ここはちゃんと事情を説明しておくべきか。
「ここに封印されて居るって言う<UBM>について聞きたいんだよ。…………多分、今回の依頼ではソイツとは戦う羽目になると思うし」
「…………封竜王殿の言では、封印が解かれるまである半年はある筈ですが「いや、話をするぐらいなら構わないよ」っ!」
私がリリィさんに説明をしていると、その会話に割り込む様に村の方から声が掛けられた…………声が聞こえて来た方向を見ると、そこには一人の銀髪青眼で古びた黒いローブを羽織った男性がいた。
…………だが、その男性が現れた瞬間にその場の雰囲気は一変し、張り詰めた様な空気が辺りを包んだ気がした。
「えーと、ひょっとして貴方が……」
「ああ、私が【封竜王 ドラグシール】で間違いないよ。…………最も、今は人化しているけどね」
確認してみたところ、彼がこの村に住んでいる【封竜王 ドラグシール】で間違いない様だね。
「封竜王殿。貴方は先程封印の様子を見ておくと言っていましたが……」
「封印の方はあのホムンクルスに多少緩められていたけど、問題無く補修出来る範囲だったからもう直したよ。…………それよりも、この村にかなり強い気配が近づいて来たから様子を見に来たんだけど、君達が連絡があった追加の人間でいいのかな?」
「あ、はい、そうです」
…………まともに言葉を交わせる<UBM>には初めて会ったけど、思った以上に理性的な感じだったね。
「…………ふむ、成る程。全員<マスター>で
「<マスター>ではダメでしょうか?」
封竜王さんがこちらを見て少し目を細めたので、お兄ちゃんが<マスター>に悪印象を持っているかを聞いてきた。
「ん? ……ああ、以前に<マスター>に襲われた事もあるけど、それで<マスター>と言う存在自体にどうこう言う気はないよ。…………まあ、戦いを挑んでくるなら容赦をする気は無いけど、これでも竜王の端くれだからね」
その言葉と同時に彼から凄まじい威圧感が発せられ、それに対して私達は即座に身構えた…………しかし、それを見た彼はあっさりと威圧感を消して薄い笑みを浮かべた。
「そんなに身構える必要は無いよ。別にここで君達をどうこうする気はないし。…………うん、ここで話すのも何だし詳しい話は村の中でいいかな?」
「え、構いませんが……」
「それじゃあ色々と話を聞かせてもらおうか。…………特にそちらのお嬢さんにはね」
…………
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
三兄妹:難易度:十のクエストを受ける事に
・事件に首を突っ込む系。
シュウ・スターリング:今回の三兄妹の協力者
・事件に巻き込まれる系(自称)。
リリアーナ・グランドリア:<マスター>に対して顔が広い人
・なので厄介な<マスター>の相手を押し付けられる事が多い。
リヒト・ローラン:今回の避難計画でのリーダー格
・娘のリリィが三兄妹と知り合いな事は知っていたので、それもあって村の警備に回した。
・後、各国の歴史にも詳しい。
リリィ・ローラン:実は父程親<マスター>派ではない
・王国での事件は出来る限り王国の騎士で解決すべきだと思っている。
・だが、自分達の実力について過信はしておらず、必要なら<マスター>と協力するぐらいには割り切っている。
【封竜王 ドラグシール】:竜王の中では非常に温和な性格
・詳しくは次回。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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封竜王と厄災
それでは、本編をどうぞ。
□クリラ村 【
あれからクリラ村に到着した私達は、そこで出会った【封竜王 ドラグシール】の話を聞くために村にある民家の一つにお邪魔する事になりました。
そして、今は紅茶とお菓子を出されてもてなされています。
「どうぞ召し上がれ。茶葉とお菓子は結構いいのを使っているから、美味しいと思うよ」
「「「『ア、ハイ。イタダキマス』」」」
…………ただし、この紅茶は【封竜王 ドラグシール】さんが入れたものだけれどね……。
うん、民家の一つに案内されたところまでは良かったんだけど、そこで当たり前の様に封竜王さんが紅茶を淹れだした時には私達は全員固まってしまったからね…………リリアーナさんとリリィさんなんて表情を凄く引きつらせているし……。
まあ、流石にお菓子は戸棚から取り出した物だったけど……。
「え? 古代伝説級の<
「いや、私は人間の中で暮らしていた時期が長かったからね。多分、こう言う事が出来る<UBM>は少数派だと思うよ。後、このお菓子も自分で作った物だよ」
…………へー、そうなんだー…………あっ、この紅茶とお菓子美味しい。
「さて、確か此処に封印されている<UBM>の事が知りたいんだったね。…………一応、どういう理由で知りたいのかは聞いておこうか」
「えーっと…………多分、後三日以内ぐらいにソイツと戦う事になるから、出来るだけ情報を知っておきたいんだけど……」
そこまで言うと、封竜王さんは少し怪訝そうな表情を浮かべた…………やっぱり自分の封印があっさり破られると聞いたらそう言う反応になるかぁ。
…………機嫌を損ねて彼の協力を得られない事は避けなきゃいけないし、どうにか説明しないと……。
「一応、襲撃があったとはいえ此処の封印は後半年ぐらいは持つんだけど、どういう根拠があって三日以内に封印が解けると君は言うのかな?」
「あー、私は生まれつき直感が鋭いんですけど……」
とりあえず私は自分の直感の事を含むこれまでの事情を全て正直に話す事にした…………相手は人間の事を良く知る<UBM>だし、下手な嘘や誤魔化しは状況を悪くするだけだろうからね。
「生まれつきの直感……解析したら嘘は付いていないし、精神に異常があるタイプでもない。…………ああ成る程、
「バロア氏?」
何か聞いた事がない名前が出てきたね、誰なんだろう…………と思ったら、リリアーナさんがその名前に反応した。
「それはもしかしてグランバロアの語源にもなったかの国祖の事ですか?」
「うん、そのバロア氏であってるよ。彼には六百年程前に一度会った事が会ってね、その彼には未来を見る様な直感を持っていたから同類だと思ったのさ」
「へー」
グランバロアの国祖バロア氏か…………以前聞いた【
…………そんな事を考えていると封竜王さんが少し雰囲気を鋭い物にして、私に向き直った。
「それで、君は何故自分の勘で把握した事件に首を突っ込んでいるのかな? 別に君がどうこうしなければいけない訳でもないだろう?」
「え? いや、事件が起きるのを知っててなにもせずに被害が出たら後味が悪いでしょ? …………それに、私はもうそういう思いはしたくないので」
私がこのデンドロをやっている理由の一つがそれだからね…………私の<エンブリオ>もその為のものだし。
「ふむ……他の人もそうなのかな?」
「ミカがやると言うなら俺も付き合いますよ……これでも兄なのでね」
「姉様を助ける事も私が此処に居る理由の一つなのです」
『俺は偶々巻き込まれただけだが……ここまで聞いておいてなにもしないのは後味が悪すぎるガル』
うん、ここにいるみんなはいい人ばかりだね…………ありがとう。
「ふむ、嘘は言ってないし人格も問題なさそうだから別にいいかな。…………それに、もし三日以内にアイツ──【十狂混沌 ギガキマイラ】が目覚めるなら戦力が欲しいしね。何せ相手は古代伝説級最上位、同じ古代伝説級でも中堅どころの私一人では自身の陣地であるこの森で戦っても勝率は三割ぐらいだろうし」
…………そう言った封竜王さんは自身の過去とかつてこの村であった事を話し始めるのだった。
◇◇◇
□【封竜王 ドラグシール】
それじゃあ、まずは私が生まれた頃の話をしようか…………ああ、別に今回の件に私の生まれが関わっている訳じゃないんだが、その方が色々と説明しやすいんでね。
何、関係のない話だからすぐに終わらせるさ。
私が生まれたのは今から六百年程前…………と言うか、私はかつて“魔法都市”と呼ばれた都市で
…………まあ、この時代は【覇王】に魔法都市を滅ぼされてからクリラと一緒に各地を放浪していただけだから端折るよ。強いて言うなら三神の作る対覇王封印に少しだけ関わったぐらいだし。
時代は少し飛んで大体五百年前──ああ、クリラは長命種だから普通に百年生きているよ。私と出会った時には五百歳を超えていたしね──私とマスターはまだ名前もなかったこの村で隠遁生活を送っていたのだが、そこで【聖剣王】と【邪神】の争いが起きたんだ。
…………ちなみに私とクリラはとりあえずまだましな方だった【聖剣王】側について【邪神】についた先代【封竜王】と戦ったりもしたけど、この辺りも今回の件とは特に関係ないからカットで。
事の始まりは【聖剣王】と【邪神】の戦いが終わってからすぐ後のことだった…………突如、どこからともなく【ギガキマイラ】が現れて街々を襲い始めたんだ。
…………しかも、間が悪い事に【邪神】との戦いが終わったすぐ後だったせいで【聖剣王】を始めとする
ヤツは理性がない代わりにSTR・END・AGIが五万はある純粋性能型な上、《竜王気》や高速再生などの素材となったモンスターのモノと思しきスキルを複数使ってくる古代伝説級最上位の<UBM>だったんだ…………生憎、私とクリラは封印と結界を主な戦闘手段とする補助・防御型だったから、高ステータスでごり押ししてくる相手だと勝ちの目が無くてね。
…………なので、止む終えず私とクリラが力を合わせて発動した
それからは村の救い主であるクリラにあやかって<クリラ村>と名付けられた(クリラ自身は『恥ずかしいからやめろ』と言って拒否していたから、その名前になったのは彼女の死後だったが)ここに封印を守りながら五百年程過ごしていたんだ…………その間に私が<UBM>になる事態も起きたが、事情を知っているこの国の王族の働きかけで特に問題無く暮らす事は出来たし。
まあ、そうやってこの村で暮らしてきた私なんだが流石に封印の効果が切れる時期になってきたので、このままでは村の人間に多大な被害が出るからどうにかしたかったんだよ…………五百年も暮らしていれば情の一つぐらいは湧くからね。
そこで昔【聖剣王】が私とクリラに『肝心な時に力になれなくてすまない、いつか封印が解ける時が来たらこのアルター王国は力になろう』的な事を言っていたのを思い出して、王国の王族に住民の避難と【ギガキマイラ】討伐の協力を要請して今に至ると言うわけさ。
◇◇◇
□クリラ村 【
「と、大雑把に説明するとそんな感じかな。何か質問はあるかい?」
封竜王さんから一通りの情報を聞き終わった俺達は、手元の紅茶とお菓子(メイドイン封竜王)を飲み食いしながら今の状況について考えていた。
…………とりあえず気になった事を聞いておくか。
「じゃあ一つ質問です。…………ここの封印に干渉してきたホムンクルスについて詳しく聞きたいんですが」
「うーん……生憎封印に干渉してきた相手を逆探知して遠くから殺した感じだから詳しくは分からないが、スペックは亜竜級だったけど身体に機械を埋め込まれて強化されていたし、総合的な質は魔法都市時代に見た事があるホムンクルス作成特化超級職が作った物と遜色無いぐらいの出来だったかな。…………ここからは私見になるが、あのホムンクルスと【ギガキマイラ】はどちらも何者かに作られたモノで、その製作者は同一だと思う。それにあのホムンクルスはすぐに自爆したから多分捨て駒で、近くに本命がここに来る可能性は高いと思うよ」
曰く、私も作られたモノだからね、その辺りは何となくわかるんだ、との事…………ちなみに倒した方法は相手が封印に干渉するルートから魔力を逆流させてダメージを与えつつ、《竜王気》を物質化させた水晶の杭を遠隔発生させて貫いたらしい。
尚、クリラ村周辺の森はスキル《陣地作成》によって彼の領域を化しており、その範囲内ならばスキルの遠隔発動や対象の詳細な解析が可能との事。
更に彼は話を続ける。
「ちなみに陣地と言っても有利に戦えるってだけで私はあくまで多重技巧型、条件特化型程の絶対性はないよ。そして相手はステータスで圧倒的に上回られていて、更にこちらのスキルが殆ど効かないから相性が悪いし。…………だからこそ王国に【ギガキマイラ】の討伐協力を要請したのだが」
「後、先程の報告によると王都からの援軍到着は早くとも一週間はかかるそうです」
「つまり三日以内には間に合わないと」
…………さて、これである程度の情報は出揃ったかな。
「で? ミカ、お前はどう思う?」
「んー……その【ギガキマイラ】だけなら封竜王さんと協力して、更に私が
『黒幕や取材犯の事ガル?』
シュウさんにそう聞かれてミカはどこか遠くを見るような目をしながら返答した。
「それもあるんだけど……まだ、何か厄介事が増えそうな気がするんだよね。…………正直ギリギリかなぁ……」
…………どうやら、この事件は一筋縄ではいかない様だな。
◇◆◇
◾️とある遺跡深部 【完理全脳 アークブレイン】
『封印術特化外部行動用【アバターホムンクルス】から該当地点の封印術式のデータを取得。…………解析終了』
ここはとある遺跡の中、そこで神話級<UBM>【アークブレイン】は【アバターホムンクルス】から得たクリラ村の封印を解析していた…………【アバターホムンクルス】とは【アークブレイン】の複製脳を搭載したホムンクルスで、《ハイパーデータリンク》によって遠隔操作する外部端末である。
…………【アークブレイン】はこれらのホムンクルスを地上に配置する事で、遺跡内部にいながら外部での行動をある程度可能にしているのだ。
『解析結果、封印の持続時間は約百九十三日。…………複製脳と現在の状況、及び今後の方針を思考』
そして、それと同時にそこに封印されている
その際には最もレベルと潜在能力の高かった【ハイエンド・グラトニー・ウルフ】をベースとし、その【喰王】を参考にした捕食時にリソースを効率的に吸収できるスキル《暴食餓狼》を使って他の九体のモンスターを食わせる形で他の九体のモンスターを上乗せし、其れ等のスキルを全て使えるキメラとなる様に調整した。
尚、残り九体のモンスターの内訳は以下の通り
・【ベルセルク・ハイグラップルコング】──【
・【ハイ・シャークドラゴン】──物理・魔法問わないエネルギー減衰に特化した防御専門の《竜王気》である《海竜王気》を有する鮫型ドラゴン。
・【スクラッチ・ハイドラグタイガー】──爪牙での攻撃時に対象の防御効果を自身のSTRに応じて減衰させるスキル《ブレイク・リッパー》などの爪牙系スキルを有する虎型モンスター。
・【インフェルノ・ハイドラグファルコン】──高速飛行能力と炎熱攻撃、及び炎熱耐性を持つハヤブサ型モンスター。
・【ヴェノム・ハイドラグスコーピオン】──複数の猛毒を持つ針を有する尾と高い病毒耐性を持つ蠍型モンスター。
・【リカバリー・ハイドラグリザード】──自身のHPと傷痍系状態異常を自動回復させる《自己再生》スキルを持つトカゲ型モンスター。
・【アンチマジック・エレメンタル】──周囲の魔法効果を減衰させるアクティブスキル《マジックジャマー》を有するエレメンタルの変種。
・【ハイ・アームドメタル・ドラゴン】──自身の身体を金属化する《金属変身》スキルを有する上位地竜。
・【ライトニング・ハイストライクベア】──全方位放電スキル《サンダーカタラクト》を始めとする雷属性スキルを持つクマ型モンスター。
そしてスキルを使いやすい様、融合させたモンスターのパーツを元に自身の肉体を変形させる《キメラアビリティ》のスキルを付加し、更に理性の無い欠点を脳改造によって遠隔操作出来る様にする形で欠点を補うプランだったのだが……。
『キメラ化には成功した。……だが、制御下に置くための脳改造直前で制御を外れて<UBM>化』
『狂化のせいで《燈幻狂》が効きにくく、封印・拘束も各種スキルによって困難』
『本能だけでスキルを使い分けると言うのは誤算だった』
なので、止む終えずシェルターに被害が出る前に外部へ緊急転送して好きに暴れさせつつ、そのまま《ハイパーデータリンク》によるデータ取りを行うプランに切り替えたのだが……。
『その結果は大してデータが取れない内に【封印姫】と現【封竜王】による封印』
『当時の技術では制御下に置く事は難しかったので放置した』
『しかし、現在の技術でなら古代伝説級<UBM>をコントロール下に置く事も可能』
『脳に寄生して対象を支配下に置く【侵食型ナノマシン】を使えば良い。試験型は上手くいったからな』
故に【アークブレイン】は封印術特化の【シール・アバターホムンクルス】と精神干渉特化の【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】を派遣して現地の封印のデータを取得したのだ…………【シール・アバターホムンクルス】の方は撃破されたが、元々使い捨て用に作ったモノなので特に問題は無い。
…………そして、もう一体の【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】には【侵食型ナノマシン】を持たせている。
『時間が経てば封印は解けるだろうが、こちらの
『試算すると、封印を破るなら【侵食型ナノマシン】で支配下に置いている
『第一目的にも合致する上、ナノマシンを使う囮にもなる。三日後には実行可能』
『【マインド・アバターハイホムンクルス】なら【ギガキマイラ】に対する短時間の精神干渉が可能。その隙にナノマシンを使えば良い』
『では、そのプランを試行する』
…………こうして、クリラ村に更なる災厄が訪れる事となった。
◆◆◆
◾️城塞都市クレーミル ???
三兄妹とシュウが封竜王の話を聴き終わった頃、クリラ村の避難民を乗せた馬車は予定よりも大幅に早くクレーミルに到着していた。
それからリヒトを始めとする騎士達は今回の事件の対策の為に慌ただしく動き回っており、避難民達は住居の準備が整うまで一時的に待機していた…………そして、その避難民の一部がそこに通りかかった一人の
「成る程、それは大変でしたね」
「ああ、本当にな。…………だが、通りすがりの着ぐるみや<マスター>が助けてくれたお陰でどうにかなったよ」
「<マスター>は以前【封竜王】様を襲ったからあまり良い印象は持っていなかったんだが、良い<マスター>も居るみたいだな」
その女性は避難民に何があったのかを聞いており、避難民の方も三兄妹とシュウのお陰で<マスター>への印象が良くなっていたので特に何か問題が起きる事も無く話は進んでいた。
…………そして避難先の準備が整ったと騎士の一人から連絡があった。
「おっと、どうやら行かなきゃいけないらしい。…………悪いが嬢ちゃん、話はここまでだな」
「いえ、
「ああ! これから厄災に立ち向かう封竜王様と比べれば、このぐらい何ともないさ!」
そう言って、その女性は住居の準備をしに行った彼等と別れて街の路地裏に奥深くに入っていき…………人目が無くなったところでその身体の輪郭が
…………そして、先程までは女性だったソレは眼鏡をかけた中肉中背の男性へと変わっていた。
「戦うと罪になる<UBM>がいると聞いて情報を集めていたのですが…………まさか、シュウまで来ているとはね。…………では、この私もクリラ村に行くとしましょうか」
そうして、その男性…………【
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
【封竜王 ドラグシール】:家事全般は一通り熟せる
・家事スキルは従魔時代にクリラの執事の様な事をしていたので身につけ、その後封印から離れられなくなったので暇潰しに練習していた。
・元の種族である【クリスタル・キメラドラゴン】は魔法都市で行われていた天竜・地竜・海竜の混血竜を作る実験で生まれた種族で、オーラを結晶化させた壁や変形させた障壁で戦う壁役として作られた。
・<UBM>化した現在は《竜王気》を変形させて結界とする《竜王結界》や、《竜王気》を古代伝説級金属レベルの高硬度結晶に変換する《竜気結晶》という形に進化している。
・更に主人であるクリラから各種封印術を始めとする魔法技術を学び六百年間修練を積んでおり、それらのスキルに拘束・封印系の特殊効果を付与する事も出来る。
・防御・補助が得意なMP特化の<UBM>だがそれでも“竜王”としてSTR・END・AGIは一万弱あり、《竜気結晶》を大量に生成しての質量攻撃を行うなどの攻撃能力もある。
・だが、古代伝説級<UBM>としては火力不足なので、高速再生と魔法妨害・結界破壊能力を持ちステータスでも圧倒されている【ギガキマイラ】相手では勝算が低いと考え王国や三兄妹に協力を要請することに。
クリラ:かつての【封印姫】で【ドラグシール】の主人
・魔法都市に所属していたが各地を回って活動するタイプであり客分的な扱いであり、そのお陰で【覇王】が魔法都市に攻めて来た時には偶々都市にいなかったので難を逃れた。
・【ドラグシール】は彼女が知り合いから貰い、偶々封印術の才能があったので半ば弟子の様な形で連れ回していた。
・彼女の使った最終奥義《人柱封印》は術者の命と引き換えに対象を生贄と共に封印するスキルだが、生贄が協力的で封印術に長けていれば術者への負担を抑え生贄にもある程度の自由を与える事が出来る。
【十狂混沌 ギガキマイラ】:厄災1号
・見た目は巨大な狼に様々なモンスターのパーツが生えている感じ。
・現在はクリラ村の地下に封印中(場所は【ドラグシール】以外は知らない)。
・ちなみにコイツだけなら【ドラグシール】と三兄妹が協力すればどうにか倒せるレベル。
【アークブレイン】:厄災2号
・【アバターホムンクルス】達は地上での活動の他にシェルター内での【アークブレイン】の手足としての役割があり、その為ステータスはMP・SP・DEX特化。
・更に高級生産型(名前に“ハイ”とかが付いているモノ)には【アークブレイン】の作業を代行する為に《ハイパーデータリンク》による直接遠隔操作時に自身のDEXを【アークブレイン】のDEXと同じにする《デクスタリティ・データリンク》というアクティブスキルを持つ。
・通常型のスペックは亜竜級ぐらいだが、高級生産型になると特化した分野においては超級職ティアンクラスのスペックがある。
・ちなみに難易度:十なのはコイツが派遣する“ヤツ”が主な理由。
ゼクス・ヴュルフェル:厄災V3
・いつも通り罪になりそうな情報を聞いてクリラ村へ行こうとしていたが、途中でクマニーサンが居ると聞いて大ハッスルしている。
・街への潜入時には<エンブリオ>での変身以外にジョブスキルと装備スキルによるステータスの偽装・隠蔽も行なっていた。
読了ありがとうございます、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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援軍と交渉
それでは本編をどうぞ。
□クリラ村 【
俺達がクリラ村に来てから三日、その間は特に何もなく村の中と外は平和であった…………そして、三日後の現在の村の状況はと言うと。
「じゃあ、村の人達の事はよろしく頼むよ」
「お任せ下さい封竜王様」
そう、つい先程どうにかクリラ村の住人の避難が全て終わったのだ…………あれからリヒトさんを始めとする騎士達が物凄く頑張った様で、たった三日で残りの住人全てを避難させる準備を整えてくれたらしい。
…………まあ、これだけ早く準備と避難を終えるにはティアンの力だけでは無理だったらしく、クレーミルで<マスター>の援軍を雇い入れたのだが、その雇った<マスター>とは……。
「お久しぶり……と言うほどでもないですね、フォルテスラさん」
「それもそうだな、レント君」
そう、フォルテスラさん達<バビロニア戦闘団>だったのだ…………まあ、クレーミルで実力がありティアンからも信頼を得ている<マスター>達を雇うと言うなら、彼等が最も適しているだろうしな。
…………なので、彼等にも諸々の事情を話して協力を要請したところ……。
「ああ、構わないよ。…………と言うか、元より俺達が受けた依頼は避難民の護衛と王都から援軍が来るまでこの村の警護をする事だから、やる事は特に変わらないしな……シャルカ」
「はい、この村を警備するメンバーは腕の立つ者を回しておきます」
「ありがとうございます、皆さん」
そういう訳で<バビロニア戦闘団>のメンバーが援軍に加わってくれる事になったのだ…………これで、こちらの戦力は大分整って来たと思うのだが、ミカが言うには『これでもギリギリ』だそうなんだよなぁ。
…………そんな事を思案していた俺の元に、騎士達と村の警備について話し合っていたリリアーナさんとリリィさんがやって来た。
「お疲れ様です、そちらはどんな感じですか?」
「はい、住民の避難は全て終わりました。避難民の護衛には騎士達と<バビロニア戦闘団>のメンバーが付いています」
「村の方にはローラン卿を始めとする近衛騎士団などの精鋭がつく事になりました。…………ですが、リヒト団長は避難民の生活などの交渉でクレーミルに暫く留まるそうです。なるべく早く村に戻りとは言っていましたが」
成る程、リヒトさんは今居ないのか…………まあ、取り敢えずこれで村の人間が巻き込まれるのは防げそうだし、封竜王さんやフォルテスラさんも交えて、今後の事を話し合っておきましょうか。
…………そう話し合っているとフォルテスラさんとリリアーナさんから質問があった。
「おや? そう言えばミカちゃん達は居ないのか?」
「あれ? シュウさんも居ませんね」
「ああ、あの三人はちょっと村の外でこちらを監視しているエフという人との交渉に行っています」
そう、ウチの妹二人とシュウさんは今この村には居ないのだ…………ミカが『事が始まる前にちょっとエフさんに話を付けてくるから、村の方はお願いね』と言ってミュウちゃんとシュウさんを連れて出て行ったのだ。
…………ちなみに相手の位置は封竜王さんが森の中に入って来た彼の<エンブリオ>を解析・逆探知することで大まかな場所を割り出してくれたので、現在ミカ達が向かっているところだ。
それにミュウちゃんの《第六圏》やミカの《竜意圏》など、大まかな位置さえ分かれば何所を見つける手段はあるからな。
「封竜王さん、色々迷惑をかけてすみません」
「いや、大した手間じゃなかったから別に構わないよ。森の中に入って来た球体を破壊するついでに逆探知しただけだし」
「…………ちょっと待ってくれ、レント君。エフって……アイツがいるのか⁉︎」
そんな感じで俺が妹達が不在の事情を説明していると、フォルテスラさんが物々しい雰囲気になってこちらを問い詰めて来た…………て、よく見ると<バビロニア戦闘団>のメンバー全員が同じ様な雰囲気を醸し出しているんだが……。
「あー……エフさんが今まで何をやってきたのかはシュウさんから聞きましたが、皆さんも何かあったんですか?」
「以前、ヤツの起こしたトラブルにクランが巻き込まれてな。…………お陰で散々な目に遭った」
「もう二度と会いたくな──い!」
「幸いティアンに被害は出ませんでしたが……。あの男、やるだけやって逃げたので後始末が大変でしたよ」
『その上、ギリギリ罪に問われないやり方だったから、こっちから何かするのも難しくてな……』
「クラン的な体面とかもあるし……」
…………うわぁ。皆さん苦虫を噛み潰したような表情(ライザーさんは仮面を被っているが雰囲気でわかる)をしているなぁ…………これは説得出来ても不和のタネになるだけでは?
ちなみに詳しく話を聞くと、どうやら『非常に面倒だけどクラン総出で報復する程では無い』感じの事件だったらしい。
「ま、まあ、エフさんに事についてはミカが何とか説得すると言って居ましたし、それでダメなら始末するので大丈夫でしょう」
「本当に大丈夫なのか? …………アイツは遠距離戦闘なら王国の<マスター>の中でもトップクラスだぞ」
うーむ、ミュウちゃんが『彼の目を誤魔化す策があるのです』と言っていたし、あのメンバーなら大丈夫だと思うが…………むしろ、あの規格外三人組が向かったエフさんの方に同情するレベルだけど。
…………それに、リアル側でミカが『必要だから交渉は大分エゲツない事をする』と言っていたからなぁ。やり過ぎ無いかなアイツら……。
◇◆◇
◾️□アルター王国北部 【
そこはクリラ村がある森から少し離れた場所、ここでエフは自身の<エンブリオ>を使って三兄妹を監視していたのだが……。
「ふむ、森に入れた【ゾディアック】は全滅ですか。…………やはり、古代伝説級<
その為に森に入れた【ゾディアック】は直ぐに結界に囲まれてそのまま潰されてしまったので、今は森の上空など外側に配置した【ゾディアック】で監視を続けているのである。
「とは言え、これでは村の様子が分かりませんね。…………行き来する馬車やクレーミルに居る騎士達や避難民の様子や集めた情報から村で何かがあった、或いはこれから何かが起きる事は分かっているのですが、このままでは何も見れずに終わってしまいそうですね。…………さて、どうしたものか……ん?」
そうエフが今後の行動を思案していると、森の監視につけて居た【ゾディアック】の一つがとある光景を彼の目に映し出した。
「あれは……シュウ・スターリングの戦艦ですね。…………しかも、上に乗っているのは妹さん達ですか」
それはシュウ・スターリングが有する戦艦──【バルドル】の第五形態である軽巡洋艦であった…………更にその艦上には主人であるシュウの他に完全武装したミカとミュウが乗っていたのだ。
…………そして、彼等の乗った戦艦は真っ直ぐにエフがいる場所へと全速力で進んでいた。
「これは、不確定要素になり得る私を始末しに来ましたかね? …………以前、シュウ・スターリングや<バビロニア戦闘団>には
視界に移る彼等の様子から相手の目的をそう推測したエフは、僅かな時間今後どうするかを思考し……。
「仕方ありませんね……今は一旦引いて事件が起きてからどさくさに紛れて接近しましょうか」
ここでデスペナになれば事件を取材できなくなるリスクを考え、更にどうせ事件が起きなければそのまま撤収すれば良いとも思いつつ、エフは左手の紋章から【ゾディアック】をいくつか展開して一旦ここから離れる為に必殺スキルを行使しようとした。
「では《
その時、必殺スキルを発動しようとしていたエフの左手を何者かが掴んだのだ…………
「貴女は……確かミュウさん……でしたね」
「はい、そうなのです。分かっていると思いますが妙な真似はしない様に…………この一挙手一投足の間合いであれば、貴方が何かするよりも早く私が貴方を始末出来るのです」
確かにこの間合いで近接型超級職に腕を掴まれているのでは、魔法型である自身にはどうしようもない事ぐらいはエフにも分かっていた…………だが、彼にはそれよりも気になっている事があり、内心の動揺を押し隠してミュウに問いかけた。
「…………しかし、私の<エンブリオ>には貴女が戦艦の艦上にいる様に見えていますし、貴女はいきなり此処に現れた様に見えたのですが……」
「あれは私の<エンブリオ>が作った幻術なのです。…………こちらミュウ、目標を確保したのです」
そうやって彼女が【テレパシーカフス】で連絡を取ると、次の瞬間には艦上にいた彼女の姿はかき消えていた…………この光景を作り出したのは、以前フェイが【ジャック・デスサイズ・キラー】からラーニングした《ファントム・トリック》──術者の姿をした高精度な幻術を周囲の空間に映し出すスキル──の効果である。
また、この《ファントム・トリック》は術者の幻影しか作れない代わりに《看破》など一定レベル以下の視覚系感知スキルを誤魔化す効果もあるため、視覚系スキル
そして彼女はエフの疑問に答える様に、自分がどうやってここまで来れたのかを説明していった。
「やった事は簡単なのです…………目立つ戦艦に目を向けさせつつ、フェイに私の姿を幻術として映し出させてながら、私自身はスキルで姿を消してここまで接近だけですね」
「成る程、納得しました。…………私の<エンブリオ>は視覚情報しか取得出来ないですからね」
ちなみに彼女が姿を消すのに使ったスキルは《気圏合一》──周囲の気と自身の気を同一化させる事で自身が発する情報を他者に認識されなくするアクティブスキル──というものであり、更にこれと《第六圏》による感知でエフを位置を捕捉して接近した形になる。
…………さて、当初はミュウがいきなり現れた事にやや動揺していたエフだが、疑問を解消する会話をする内に落ち着きを取り戻していた。
「それで、私に一体なんの用でしょうか? …………こうして私がまだ生きているという事は、ただ始末しに来たという訳では無いのでしょう?」
「はい、今回は貴方と交渉するつもりで来たので姉様とシュウさんが来るまで大人しく待っていてほしいのです。…………勿論、抵抗した場合が容赦なく仕留めますので」
その言葉と同時に掴んだ手の力が僅かに強まった…………この状況ではどうしようもないと判断したエフは交渉に応じる旨を伝え、更にこれ以上抵抗しない証拠として自身の<エンブリオ>を紋章の中に収納した。
…………それを確認したミュウは掴んでいた腕を話したが、自身が即座に相手を仕留められる距離を維持しつつ警戒は続行していた。
「…………そこまで警戒しなくても、こちらはもう抵抗する気などないのですが……」
「念のためなのです。…………どうやら来た様ですね」
エフは両手を広げながらそう言うが、ミュウはそれを適当にあしらった…………そうしていると村がある方角からキャタピラの音が聞こえて来て、見ると一隻の戦艦が真っ直ぐこちらに向かって来ていた。
…………それからすぐに接近して来た戦艦は二人の近くで停止し、その艦上から二人の影が地上に飛び降りた。
「はーい! エフさん久しぶり〜!」
『よー! エフ。そろそろ年貢の納め時ガル〜』
「お久しぶりですね二人共。…………それでご用件は?」
勿論、飛び降りて来たのはミカとシュウ、そしてミカの肩に捕まっているフェイである…………それに対してエフは妙に高いテンションの二人をスルーして用件を尋ねた。
「ああ、それは交渉に来たんだよ。…………これから始まる戦いに手を貸してほしいんだ」
『ちなみに拒否したら砲弾の雨をプレゼントするガル』
「…………それは、一般的に交渉では無く脅迫と言うのでは?」
シュウが言ったその言葉を裏付ける様に【バルドル】の砲門がエフに向けられていた…………文字通りの砲艦外交に流石のエフもやや引いている。
…………そんな彼を無視して二人は交渉の具体的な内容を話していく。
「詳しく話すと後半日ぐらいでクリラ村を古代伝説級<UBM>が襲う気がするから、それを撃破する為に力を貸してほしいって事」
『後、ここに【契約書】を持って来てるから、“この件に対する全面協力”と“今から三日間俺達の味方陣営に危害を加えない事”を誓ってもらうガル』
「…………流石にもう交渉の定すら成していないのでは?」
…………余りにあんまりなその内容にエフの雰囲気はかなり剣呑なモノになっているが、二人は更に話を進めていった。
「だってそうしないと貴方はこの事件で有利になった方を襲いにかかるでしょ? …………要するに、こちらが貴方に支払う対価は“ここで貴方を殺さない事”になるね」
『お前の性格からしてここで見逃したり、ただ味方に付けただけでは背中を預けられないガル。…………それに、これはお前にとっても悪い話だけではないガル』
「…………ほう?」
シュウのその言葉にエフは剣呑な雰囲気を少しだけ引っ込めて、代わりに興味を示し出した。
『今、お前は封竜王の領域を突破出来ずに村の様子を覗き見できていないガル。…………ここで俺達の話を飲めば、村の中の様子はこれから起きる事件を何の憂いもなく取材出来る様になるガル』
「ただし、ここで話を飲まないなら不確定要素を排除する為に貴方は確実に始末するよ。…………そうなれば三日後のデスペナ開けには、この事件は終わっているから貴方が最も見たいと思う光景は見れなくなるから」
「…………成る程、確かに私にも利がある話ですね」
その二人の話を聞いたエフは乗り気になったのか剣呑な雰囲気はかなり薄くなったが……。
「ですが、一つ質問をよろしいでしょうか。…………何故、ミカさん達はそこまで正確に事件が起きる事を知る事が出来るのですか?」
『それを話す必要はn「それは、私が生まれつきそういった事を事前に知る事が出来るぐらい勘がいいからだよ」……ミカちゃん、いいのかガル?』
エフの質問に対してシュウはミカの事を考えて回答を拒否しようとしたが、それに被せるようにミカ自身があっさりと自分の能力を明かした。
…………それに対してシュウは
「うん、どうも私の能力について気付かれかけているみたいだし、ここで話した方が良いかな。…………シュウさんが気にしているのは彼が今後私達に付き纏う事だろうけど、まあ覗き見されるぐらいならあまり気にはならないしね。…………それに、こちらに危害を加える様なら直感で先んじて潰せばいいだけだから」
「はい、姉様や兄様に手を出そうとするなら容赦はしないのです。…………具体的に言うと彼は痛覚を遮断していない様なので、人体構造上発狂するぐらいの痛みを与えた上で殺します」
『えーと……ミュウの望みなら可能な限り答えるけど…………あんまりやり過ぎない様にね」
『…………この妹達アグレッシブ(婉曲表現)すぎるガル。レント君の苦労が偲ばれるガル』
「…………これは、地雷を踏みましたかね(冷や汗)」
その真意がかなりヤバイ(控えめな表現)モノだったので、フェイとシュウとエフは物凄くドン引きしていた…………特に直接ミュウの殺気(ガチ)を向けられたエフは冷や汗を流しながら硬直していた。
「私達がデンドロをやっているのは、自分の才能に対して答えを見つける為でもあるからね。…………今回は釘を刺しおくだけだけど、それを邪魔する様なら敵と見做すよ」
「その事を知らずに偶然邪魔をするならば別にどうこうしませんが、それを知った上で意図的に邪魔するなら容赦をする気はないのです」
「ア、ハイ……」
…………どうやら、この交渉()の趨勢は完全に妹二人に傾いた様だ……。
『あー……で、どうする?』
「…………分かりました、貴方達の提案を受け入れます」
かなりアレになった空気を誤魔化す様にシュウがエフに答えを聞き、それに便乗する様に彼はその提案を受け入れると答えた…………と言うか、完全にその場の空気に飲まれた感じだが……。
…………その後、エフはこれ以上何か言われる前にさっさと【契約書】にサインをしてしまった。
「さて! これでエフさんも味方だね! …………脅す様な形になったのはちょっとアレだったけど、この事件で貴重な光景が見られる事は保証するよ」
「そうですか、楽しみにしていますよ。…………それに、改めて考えてみると【契約書】で縛られて戦わされるのは初めての経験ですし、話を聞く限り古代伝説級<UBM>と戦うという貴重な経験を積める様ですからね。まあ、満喫させてもらいますよ」
『…………こいつ切り替え早い上にブレねぇなぁ……』
…………そんなシュウのやや呆れた声をもって、不確定要素の排除と戦力確保の為の交渉()は終わりを告げたのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:今回は村でお留守番
・尚、後で交渉()の内容を聞いて頭を抱えた。
妹:今回の交渉()役
・自分の直感について半ばマッチポンプ的にエフへ釘を刺したのは、彼がその事を普通に気付く気がしたので致命的な事態になる前に抑止する為でもある。
末妹:トラウマが若干克服された所為で言動がやや過激になっている
・とは言え、あの脅し文句は交渉()を有利に運ぶ為の手段というのが主な理由だった(尚、《真偽判定》には反応が無かった模様)。
《気圏合一》:【武仙】からラーニングしたスキルの一つ
・効果を分かりやすく言うと“一定時間の【アルハザード】化”だが、SP消費の激しいアクティブスキルであり長時間は使えない。
・また、他者への攻撃意思を持った時や他者へスキルなどを行使しようとすると効果が大幅に減衰し、実際に実行すれば効果は切れる。
・だが、気を感じ取るだけの《第六圏》の様に他者に干渉しないタイプのスキルなら併用可能。
《ファントム・トリック》:フェイがラーニングしたスキルの一つ
・自身の姿を映し出す幻術だが<エンブリオ>であるフェイの場合、自分自身の姿か<マスター>である末妹の好きな方の姿を映し出せる。
<バビロニア戦闘団>:今回の援軍
・以前エフには酷い目に遭わされたらしく、クラン全体のヘイトが凄い。
カンガルーニーサン:今回の交渉(真っ当な方)役
・事前にエフへの交渉の方針として『脅しながら飴と鞭を使い分ける感じで、どうせ良心が痛まない相手だし』と提案していた。
・……だが、あそこまで酷い事になるのは流石に予想外だった。
エフ:今回の協力者(にさせられた)
・とはいえ、脅されて<UBM>と戦わせられるのは今までに無かった経験の為か、あっさりと気分を切り替えて割と満喫している。
・だが、今回刺された釘によって三兄妹への直接的な敵対行動はなるべく避けようとも考えている。
・ちなみに交渉が上手くいったのはデンドロが始まってから余り時間が経っていないからで、原作の時間軸の様にマンネリ化していた場合にはここまで上手くはいかなかった模様。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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来たるモノ達
それでは本編をどうぞ。
◼️アルター王国北部 【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】
クリラ村から離れた場所にある森の中、そこに居るのは中肉中背の何処にでも居そうな男性…………だが、その顔には感情というモノが無く、ただクリラ村がある方角をジッと見つめていた。
…………彼こそが【アークブレイン】の遠隔操作用分体の一人【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】であり、現在は作戦の開始時間を待ちながら隠密モードで待機していた。
(現在の【ギガキマイラ】封印地点には複数の劣化“化身”とこの国の騎士、そして封印の要である【封竜王】が配置されている。…………
ちなみに彼の監視方法は偵察用に持ち込んだ【フローター・ハインドアイ】──策定・隠蔽能力に特化した空を飛ぶ一つ目型モンスターで《透視》《遠視》《光学迷彩》《気配遮断》などのスキルを持つ──を【封竜王】に感知されない様、領域である森から離れたところに複数配置して、それらが得た情報を《ハイパーデータリンク》で取得する方法をとっている。
…………そうして、しばらくの間監視を続けつつ待機していると、突然
(どうやら“アレ”が到着した様だ。…………これより作戦行動を開始する)
そうして準備が整った【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】は、息を潜め隠密系スキルを使いながらながら目標地点であるクリラ村に近づいていったのだった。
◆◇◆
□クリラ村 【
「と、言うわけで、今回の事件の解決を手伝ってくれる事になったエフさんです!」
「宜しくお願いしますね」
一通り騎士達や<バビロニア戦闘団>、そして【封竜王】さんとの打ち合わせを終えた頃、エフさんとの交渉を成功させたミカ達が村に戻って来て彼が今回協力者になってくれる事を伝えた…………のだが……。
「…………本当に大丈夫なのか?」
「信用出来ないですね」
「こいつ嫌ーい!」
『うん、予想通りの反応ガル』
まあ、予想通り<バビロニア戦闘団>の皆さんからの反応はかなりキツイものだった…………尚、騎士団の人達は<バビロニア戦闘団>から話を聞いていたのか、それとも彼の悪名が広まっていたのかやや懐疑的な雰囲気で、封竜王さんは我関せずな感じだった。
「うーん、分かっていたけどエフさん信用ないねー。…………一応【契約書】で二十四時間はこちらを撃てない様に縛っているんだけど」
「今回は普通に協力する気なんですけどね。古代伝説級<
「…………一応《真偽判定》にも反応は無い様だな」
『まあ、何かやらかしそうなら後ろから撃てばいいガル』
その後、<バビロニア戦闘団>の皆さんはいくつかの確認や話し合い、そしてミカとシュウさんの取り成しの末、どうにかエフさんが今回の事件に協力する事を認めてくれた…………最も、疑惑の視線は最後まで変わらなかったし、彼が何かする気配があればすぐに斬り捨てる事も条件に加えられたが。
ちなみに、エフさんはそんな針のむしろ的な状況の中でも終始いい笑顔を浮かべていた…………この人本当に面の皮が厚いな。
「…………おいミカ、これ戦力は増えたけど連携とかに問題が出来てないか?」
「うーん……多分大丈夫だと思うよ。この方が被害は少なくなる気がするし…………それに、
この状況は不味いのでは無いかとミカを問い質してみたら、そんな感じの答えが返ってきた…………薄々分かってはいたが、今回はそんなにヤバイ事件なのか……。
…………俺が今後の事を思案していると、ミカが更に話を続けてきた。
「それでお兄ちゃん、ちょっと頼みがあるんだけど……」
「何だ?」
…………そして、話を聞く事しばらくして俺はミカの“頼み”を聞き終わり……。
「…………分かった。
「うん、お兄ちゃんが頑張ってくれればこの事件で被害が出る確率少しでも減らせると思う」
やれやれ、どうも今回は俺の活躍が事件に影響を与える比重がかなり大きいらしいな…………プレッシャーはかかるが、ここは兄として妹の頼みぐらいは聞いてやらねばな。
…………それに、さっきの“説得”の事や死んだらそれまでのティアンの騎士達がいる事もあって、今回はミカもかなり余裕がないみたいだしな。
「じゃあお願いね、お兄ちゃん。…………私はミュウちゃんにも話してくるから!」
そう言ったミカは急いで今言った二人の元へと駆けていった…………まあ、ミカの言う事を全面的に信じてくれる人間は俺やミュウちゃんぐらいだからな、他の人間だと説明が面倒だし。
「…………さて、俺も“お兄ちゃん”として頑張りますかね」
…………そうして、俺はミカからの“頼み事”を熟す為に行動を開始したのだった。
◇◇◇
□クリラ村 【
さて、お兄ちゃんとミュウちゃんに一通り支持を出しておいたし、後は相手の出方待ちかな…………私の直感でも“これ以上は出来る事は無い”って感じだけどちょっと不安かな……。
…………と、そんな事を考えていたら、それを察知したミュウちゃんが話しかけてきた。
「…………姉様、大丈夫なのです?」
「あ、うん、大丈夫だよミュウちゃん。…………出来る事はやったからね、後は……ッ!」
…………その時、私の“直感”が今回の事件の始まりを告げた。
「どうやら来るみたいだね。…………とりあえず、封竜王さんに伝えに行こうか」
「お供するのです」
そうして、私はミュウちゃんを伴って封竜王さんの所に向かい、彼にもうすぐ敵が来る事を伝えに行った。
「封竜王さん? 多分もうそろそろ此処に敵が来ると思うよ」
「ふむ、私の探知には引っかからないが……。常時発動しているパッシブ型の探知は封印の監視にリソースの殆どを割いている所為で、隠蔽は光学迷彩ぐらいしか見破れないしな。…………じゃあ能動探知で詳しく調べてみるか……」
そう言った封竜王さんは目を閉じて探知に意識を集中させ始めた…………ちなみに、その話を聞いた他のみんなは半信半疑だったが、封竜王さんの反応を見て戦闘準備を整えつつ周囲を警戒していった。
…………後、シュウさんとミュウちゃんは一見普段と特に変わらず自然体だけど、多分アレで常時警戒してる感じらしい。
「…………ふむ、確かに侵入者がいるな。…………位置はそこの民家の影だな」
「ッ! 全員警戒!」
目を瞑ったままの封竜王さんが侵入者がいる事を伝え、その位置として一つの民家を指差した…………それに真っ先に反応したフォルテスラさんが全員に警戒を呼び掛け……。
「しかし、珍しいジョブだな…………【
「「『ッ!!』」」
封竜王さんがその
…………ふむん、見た目は眼鏡を掛けた普通の男性に見えるんだけど、シュウさんの警戒度が尋常じゃないから多分かなりヤバイ相手なんだろうなぁ。
「おや、あっさり見つかってしまいましたね。一応、この特典武具には王城の警備を潜り抜けられるぐらいの性能があるのですが」
『ゼクス……一体何の用ガル』
客観的に見てかなりピンチな状況なのに、そんな事を言いながら平然としているゼクスさんに対し、彼を警戒しているのか前に出たシュウさんはそう問いただした。
「ああ、要件ですか。この私はこの村に戦うと罪になる<UBM>が居ると聞いたので戦いに来ただけですよ」
「? …………この人、行動指針がよく分からないね。シュウさん、分かりやすく説明プリーズ」
『世界派の犯罪ロールプレイヤー』
要するに犯罪者になる為に行動している感じなのかとシュウさんに聞き直すと、彼は『その通りガル』と答えてくれた…………どうやらかなり変わった人みたいだね。
…………さてと……。
「封竜王さん、多分彼は
「ふむ……了解した。少し範囲を広げてみるか」
他のみんながゼクスさんに集中しているのを後目に、私は封竜王さんに探知の続行をお願いした…………そうしている間にも、以前からの知り合いらしいシュウさんがゼクスさんを牽制しながら問い詰めていた。
『しかし、らしく無いんじゃないか? これだけの戦力が揃っている所に突っ込んで来るなんて』
「いえ、この私は少し偵察でもするつもりだったのですが、不覚にもあっさり見つかってしまっただけですよ」
尚、この二人は凄く和やかに話している様に見えるけど、二人の間には余人を寄せつけない様なヤバイ雰囲気に包まれているんだよね…………まあ、すぐにそんな事を気にしている余裕は無くなるんだけど。
「…………来たね」
「ッ! 地下から超大型モンスターの反応! これは……ッ!」
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️ッ!!!』
そして、私が直感で、封竜王さんがスキルによる探知で“ソレ”の襲来を感知すると同時に地面が激しく揺れた…………その直後、村がある森のすぐ外側、私達から見て後方数百メートル程離れた地面が、咆哮と共に地中から出てきた“何か”によって大爆発を起こした様に爆ぜ飛んだ。
…………そうやって土煙りの中現れたのは直径十メートルを超え、高さは数十メートルにも達しそうな円柱…………否。
「あれは生物みたいだね。…………巨大な蚯蚓かな?」
「馬鹿な⁉︎ 【魔鉱蚯蚓 アニワザム】だと! 何故奴が此処に!!」
ソレは地上に出ている部分だけでも数十メートルに達する大きさを持つミミズ型モンスターだった…………それを見てゼクスさんが現れた時にすら余裕を崩さなかった封竜王さんが、焦った様に【魔鉱蚯蚓 アニワザム】という名前を告げた。
…………ふむ、聞いた事がある名前だね。確か私が超級職に転職する際にお世話になった自然ダンジョン<水精洞窟>を作った古代伝説級<UBM>だったかな。
そして、【アニワザム】は動揺する私達を後目にその鎌首をもたげ、先程現れた時とは比べ物にならない程の大音量で咆哮した。
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️ッッッ!!!』
「ちょッ! 耳が痛いね!」
「ちょっと待て! これは……!」
『地面が揺れて……!』
その大咆哮に私達が怯んでいると、いきなり地面が先程現れた時とは比べ物にならない程に揺れだした…………その揺れの規模は戦闘職である私達ですらバランスを崩す程で、更には周囲の地面が割れたり隆起したりする程だった。
…………そして、古代伝説級<UBM>の能力がただ大声を出しながら地面を揺らすだけの筈が無く……。
「これは……! 地属性魔法による此方の領域への強制干渉⁉︎ 封印術式への干渉ではなく、大魔力によって領域そのものを無理矢理破壊するつもりか! これでは流石に……!」
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️ッ!!』
封竜王さんが発したその言葉を裏付ける様に地面の揺れは更に勢いを増し、とうとう森の木々や民家すら壊れる程の地割れや隆起が起きる程だった。
…………そして、その揺れがピークに達した時、村の地下から
「不味い! 封印が解けr『GAAAAAAAAAA!!!』ッ!」
封竜王さんの焦りの声とほぼ同時に地中から咆哮が聞こえて来て、更に私達から見てゼクスさんを挟んだ向こう側の地面が吹き飛び、そこから一体の巨大な狼が現れた…………その狼は体長十メートル程で、よく見ると背には燃え盛る翼が生え、尾はサソリのモノ、更に四肢は虎のモノになっており、更にソレ等以外にも身体の一部が別の動物のモノに置換されている様に見えた。
…………そして、その異形の狼の瞳からは狂気の意思しか伺えず、頭上には【十狂混沌 ギガキマイラ】の文字があった。
『GUUUUU……』
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️』
「これは……!」
「前門と後門に古代伝説級と……分かっていたけど面倒な事になったね」
…………んー、流石に状況が混沌としすぎて、皆さんどうすればいいか分からずに居るみたい。
幸い前方の【ギガキマイラ】は復活したてだからか周囲の様子を探っている様で、後方の【アニワザム】も大魔法を使った後だからか先程と比べてかなり大人しくなっている様だった…………が。
『…………GAAァッ!』
「む」
周囲の確認を終えたらしき【ギガキマイラ】が音速の五倍以上の速度で近くにいたゼクスさんに襲い掛かり、その口で彼の身体の膝から上を噛み砕き丸呑みにしてしまったのだ…………【ギガキマイラ】はゼクスさんを咀嚼して飲み込み、残された彼の足半分はそのまま液体になって溶けてしまった。
…………そして、この場に居る最後の古代伝説級<UBM>である封竜王さんは何も出来ずに居る……
「《永遠竜晶》全展開」
『ッ! GAAAAA⁉︎』
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️⁉︎』
封竜王さんがそのスキル名を宣言すると同時に周辺一帯の地面から紫色の水晶が生え、更にソレ等の水晶からオーラの様なものが発生して二体の<UBM>を覆い尽くした…………そして【ギガキマイラ】を覆ったオーラはそのまま水晶へと変じて相手を閉じ込め、【アニワザム】の方はオーラが紐状に変形してその動きを拘束した。
「この五百年、私がただこの村でのんびりと料理の練習だけしてきたとでも? 当然、万が一の仕込みの一つや二つはしてあるさ…………と言っても、さっきの干渉で仕込みを半分ぐらい潰されてしまったからな。特に領域の範囲外だった【アニワザム】の方は長くは持たないだろう」
流石は古代伝説級の竜王さんだね、動揺していたみんなを落ち着かせる為の時間稼ぎをしてくれたよ…………それに、この状況なら私が音頭をとる事も出来るだろうし。
「それじゃあ、手早く役割を決めようか。…………私と封竜王さんで【ギガキマイラ】の相手をするから、残りは【アニワザム】を相手にする感じで行こう」
『…………二人で大丈夫なのか?』
そんな風に私が音頭をとると、いち早く状況に対応したシュウさんが疑問をぶつけてきた…………と言うより、敢えて反論する事で私が音頭を取りやすくしてくれてるみたいだね。
「必殺スキルを使えばどうにかなると思うから、多分大丈夫。…………それに【アニワザム】の方が相手をする為に人数がいるみたいだし」
『成る程、あれか』
シュウさんの言葉に釣られて全員が拘束された【アニワザム】を見ると、そこには色とりどりの“何か”を多数召喚している相手の姿が見えた…………遠いからよく分からないけど、以前聞いた情報からしてアレは……。
「【アニワザム】のエレメンタル召喚能力か…………あっちは質量が大きすぎて全身を覆う事は出来なかったからな」
「そうみたいだね。…………お兄ちゃん、しばらく時間稼ぎよろしくー」
『無茶振りを言うな!』
封竜王さんの言う通り、アレは【アニワザム】が召喚したエレメンタルモンスター達だった…………とりあえず事前に事情を説明して、近くに配置しておいたお兄ちゃんに時間稼ぎを頼んでおこう。
…………その指示に対し文句を言っていたお兄ちゃんだが、【マグネトローべ】を駆って空中に躍り出ると各種魔法や【ジェム】でエレメンタル達を攻撃し始めてくれた。
「さて、あんまり時間をかけるとお兄ちゃんが死ぬから、こっちは私に任せてシュウさんはあっちで戦ってほしいな。…………と言うか、シュウさんがあっちに行ってくれないと詰むし」
『…………分かった、バルドル第五形態』
『
私がそう頼むとシュウさんは呼び出した戦艦形態のバルドルに乗って【アニワザム】の元に向かって行った…………近くにいたエフさんをついでに乗せて。
「何故、私まで?」
『テメーは近くに置いておかないと(こっちが)危ないガル』
「信用無いですねぇ。…………まあ、今回は普通に戦う気でしたし別に構いませんが」
そうしてシュウさんが率先して動いてくれたお陰で、他のメンバーも動揺から立ち直り始めた…………その中でも立ち直りが早かったのは、それぞれの集団のリーダー格であるフォルテスラさんとリリィさんだった。
「ミカちゃん、俺達はどうすればいい?」
「この状況を最も把握しているのは貴女の様ですから、この混乱した状況を打開する為に指針をお願いします」
「それじゃあ、二人は他の人を纏めて【アニワザム】の所に行ってほしいな。…………それとミュウちゃん、感知出来た?」
「…………はい、あの【アニワザム】を
そう、ミュウちゃんには事前に精神干渉を行う伏兵がいるかもしれないから、そいつをどうにか見つけてほしいと頼んでおいたのだ。
「それじゃあ、そいつを倒す為にミュウちゃんの方にも1パーティー分ぐらい援軍が欲しいかな」
「それなら、俺達の中で足に自身があるヤツ等を付けよう。…………ライザーは足の早いメンバーを何人か連れてミュウちゃんに同行してくれ」
『分かった』
「まずはクレーミルと王都に事件の連絡を! そして準備が終わり次第【アニワザム】の迎撃に向かいますよ!」
「了解!」
私の提案にフォルテスラさんは即座に応じてくれて、リリィさんも素早く騎士達に指示を出して混乱を納めてくれた…………私じゃ何をすればいいか分かっても集団を纏めあげるのは難しいから、クランオーナーである彼や騎士達のリーダー格である彼女が協力してくれるのは有り難いよ。
「シャルカは残りのメンバーを率いて【アニワザム】の迎撃を頼む。…………ミカちゃん、俺とネイの必殺スキルならステータスで上回る相手にも打つ手があるから【ギガキマイラ】との戦いにも参加出来ると思うがどうだろうか?」
「む……それじゃあ、フォルテスラさんは私の援護をお願いします」
そうして、頼れるリーダーの指示の下で態勢を立て直した私達は各々が向かうべき戦場へと向かって行った…………そのすぐ後に【アニワザム】の拘束が解けたから、本当にギリギリだったね。
…………そして、私達の準備が整った事を見た封竜王さんがこちらに声を掛けて来た。
「【ギガキマイラ】の方の拘束もそろそろ解けるから準備をしておいてくれ。さて、私も本気で行こうか…………人化解除」
その言葉と共に封竜王さんが光に包まれ、その質量を大幅に増大させた…………光が消えた後に私達の目の前に居たのは、紫色の水晶の様な鱗を持ち、背中には大きな翼を持つ西洋風の大型ドラゴンだった。
…………その本来の姿に戻った封竜王さんは、私を見てこう質問した。
『さて、君はアレに対して有効な手段を持っている様だが、どう戦う気なのかな?』
「基本は私が必殺スキルを使って正面から殴り合いをしますので、二人は援護をお願いします。…………後、フォルテスラさんは出来れば必殺スキルの発動条件を教えて下さい」
「俺達の必殺スキルの発動条件は『相手の攻撃でネイが砕かれる事』だ」
「必殺スキルを使うと相手のステータスを自分に加えられるんだよ」
成る程、それならステータスの差は意味がなくなるね…………そして説明を終えたネイリングちゃんは長剣形態になってフォルテスラさんの手に収まった。
…………と、そうこうしている内に【ギガキマイラ】を閉じ込めた水晶にヒビが入り始めた。
「とりあえず、私の必殺スキルの効果は時間制限付きなので短期決戦を目指します。…………どうやら時間が無い様なので、後は臨機応変にやっていきましょう」
『まあ、それしかないか。…………来るぞ!』
話しているうちに水晶のヒビが大きくなって来たので、私は話を打ち切り戦闘準備を整えて前に出た…………直後、封竜王さんの警告と共に水晶が砕けちり、中に閉じ込められていた【ギガキマイラ】が解放された。
『GYAAAAAAA!!』
解放された【ギガキマイラ】は迷わず近くにいた私に飛びかかり……。
「《
その直前、私は【激災棍 ギガース】の必殺スキルを行使した。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
妹:必殺スキルの詳細は次回
・実は兄&末妹がフォローに入るぐらいには焦ってもいて、ここまで“条件”を揃える為に色々と調整した。
・妹が音頭を取れたのは超級職としての実力も大きい。
エフ:信用が微塵も無い
・当然、取材の為に【ギガキマイラ】のところにも自身の<エンブリオ>を配置している。
ニーサン:今回は妹のフォローをしてくれている
・ゼクスの事を含めて妹が色々と“動かした”事は察しているので、可能な限り妹の言う通りに動いてくれている感じ。
ゼクスライム:出オチ
・一応、封竜王相手に一当てした上で撤退出来る様な準備はしてあった……が、位置取りが悪く【ギガキマイラ】にモグモグされてしまった。
フォルテスラ&<バビロニア戦闘団>:頼りになる援軍
・緊急事態だったとはいえ、妹の言うことを普通に聞いてくれるいい人達。
リリィ・ローラン:ローラン一家は基本優秀
・現地での近衛騎士団側のリーダーであり、第一騎士団側のリーダーであるリヒトから指揮を任されていた。
【封竜王 ドラグシール】:サポート役として大活躍
・《永遠竜晶》は【ジェム】の理論を応用して《竜気結晶》を永続固定化するスキルで、事前に作っておいたそれらを《陣地作成》で周辺の地下に配置していた。
・固定化した《竜気結晶》はMPの外部バッテリーとして使ったり、それらに仕込んでおいた術式をノータイムで発動させたり、スキルの遠隔発動の触媒に使用したり出来る。
・《竜気結晶》自体が非常に頑丈だったので【アニワザム】の干渉にあっても半分以上は使うことが出来たが、それ以外の仕込みはほぼ全滅した。
【魔鉱蚯蚓 アニワザム】:【アークブレイン】が用意した手駒
・地下を移動していたところ【寄生型ナノマシン】を<UBM>に使う為のテストとして【アークブレイン】に捕獲されたモノで、ナノマシンにより脳を完全に侵食されて完全に操り人形になっている。
・エレメンタルを召喚したのは《従精召喚》という蓄積した鉱物リソースを使ってエレメンタルモンスターを召喚・使役するスキル。
・今回の役割は封印の破壊と囮で、コイツを暴れさせている内に【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】を領域内に潜入させる作戦だった。
・尚、基本的な精神支配はナノマシンが行なっており、ホムンクルスの方は【アークブレイン】の指示を中継するコントローラーみたいな感じである。
【十狂混沌 ギガキマイラ】:スライムをモグモグしたが味は良くなかった模様
・ゼクスを食らったのは、近くにいたレベルの高い(リソース量の多い)相手だったから。
・現在の姿はデフォルトのモノで、必要に応じて《キメラアビリティ》で変身する。
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神を砕くモノ
それでは本編をどうぞ。
□クリラ村 【
さて、私の<エンブリオ>【激災棍 ギガース】のモチーフはギリシャ神話において神々に戦いを挑んだ巨人達の事である(初日のログアウト時にwikiで調べた)…………これは私が『自身に直感という形で降り掛かる
それ故に【ギガース】の能力特性は『理不尽を打ち破る為の力』であり、その為の手段として高い物理ステータス補正と防御効果減衰の《バーリアブレイカー》が与えられているのだと思う…………多分。
そして必殺スキル《
…………では、肝心の効果はと言うと……。
『GAAAAAAAAAA!!!』
「ふっ!」
封印から脱してこちらに突っ込んできた【ギガキマイラ】は、そのまま鋭い爪が生えた前足を振り下ろし…………私は音速の五倍で振るわれたそれを
…………向こうは五万を超えるSTRな上に全長10メートルを超える大質量だから、受け止めた反動で私の足元の地面に小型のクレーターが出来たが、
しかし、ヤツは狂化している所為か自身の攻撃が受け止められても構わずこちらを喰らおうと牙を剥いて来た。
「《不治呪瘴》《インパクト・ストライク》!」
『GYAAAAAA⁉︎』
だが、その喰らいこうとしていた狼の頭部を、私は【ブラックォーツ】のスキルを使った上でもう片方の手に持っていた【ギガース】でブン殴る事で
具体的には『装備・スキルによる補正を除く自身のHP最大値の半分をSTRに、四分の一をENDとAGIにそれぞれ加算する』スキルになる。そして【戦棍姫】のステータスはSTRが最も伸びるが前衛系超級職として相応にHPも伸びる為、今の私のHP基本ステータスはAランクのステータス補正込みで二十万程であり、それによってSTRは十万、END・AGIは五万程上昇しているのだ。
…………まあ、これだけのスキルには当然デメリットもある訳でして……。
「あ、言い忘れたけどこのスキルの制限時間は
「『え?』」
とりあえず伝え忘れていた事を封竜王さんとフォルテスラさんに話してから、私は吹き飛ばされた【ギガキマイラ】を追撃する為に駆けていった…………そう、この必殺スキルには維持コストとして
…………当然、削られた最大HPはデスペナか闘技場の結界でも無ければ元に戻らない上、このスキルは
更にHPがゼロになってからのデメリットもあるため、使い勝手が非常に悪いスキルになっている…………だが……。
「だからこそ、この百秒間だけは私が“物理最強”だよ!」
『…………!』
そういう訳であまり時間の無い私は、吹き飛ばされながらも態勢を立て直している【ギガキマイラ】に向かって音速の五倍に達する速度で突撃した…………ヤツの狼の頭部はグチャグチャに潰されており、再生阻害の効果もあって治っていないので今の内に接近し……否。
『……GUAAAAAA!』
「なんか生えた!」
再生していない狼の頭部のすぐ横、ヤツの肩の辺りから熊の頭部が新たに生えて来たのだ…………そして、その熊は
これは砲撃だと直感した私は【ギガース】を振りかぶり……。
『GUAAAAAA!!!』
「《エフェクトバニッシュ》!」
その直後、熊の口から放射状に雷撃が放たれた…………が、それを先読みしていた私は雷撃を【ギガース】で殴る事によってかき消し、そのままの速度でヤツを殴れる距離まで肉薄した。
だが、ヤツは既に何かオーラの様なモノ(多分、封竜王さんが言っていた《竜王気》)を展開し、更に背中の翼を巨大化させた上で金属化させ、自身の身体を覆う事で防御の姿勢をとった。
「でも無駄ァ! 《インフェルノ・ストライク》!」
『GUAAAAAAA!?』
しかし、私が放った豪炎を纏う【ギガース】による一撃は、それらの防御をまるで紙切れか何かの様に粉砕した上でヤツの身体に叩き込まれた…………まあ、今の十五万に迫る私のSTRと自身の攻撃力に応じて防御・身代わり・ENDバフといった『身を守るスキル効果』を減衰する《バーリアブレイカー》を組み合わせればこうなるよね。
私のその攻撃を受けたヤツは直撃した片翼と熊の頭部、そして片方の前足を焼き潰されながら吹き飛ばされていった…………うーむ、STRが高くなりすぎてるね。吹き飛ばされたヤツを追うのに時間をロスしてしまう。
…………正直、私はミュウちゃんやお兄ちゃん程の技術が無いから、ステータスが上がり過ぎると制御が難しいな……。
『GAA!?』
「え?
そんな事を考えていると、吹き飛ばされた【ギガキマイラ】がその先にあった紫色の水晶の壁にぶつかっているのが見えた…………あれは封竜王さんが出したヤツかな?
…………そう思って周りを見てみると、いつのまにか村の周りに高さ数十メートルもある円周上の水晶の壁が展開されている所だった。
『時間が無いのなら戦闘領域が限定した方がいいだろう。ついでにこの中ではヤツにデバフが掛かる様にもしてある』
「ありがとう! 封竜王さん!」
疑問に思って後方に居た封竜王さんを見てみると、彼はその様に説明してくれた…………これでヤツの移動範囲が狭くなるから正面からの殴り合いに持ち込めるね!
…………そう思ってヤツに向き合うとその狼の頭部は再生されており、更に熊の頭部があったのと反対側の肩から鳥の頭が生えた。
そして、その頭部が甲高い鳴き声を上げると、ヤツの身体が炎に包まれた上で背中の翼が大型化してその身体を宙に舞わせ、その翼から無数の炎弾をこちらに放ってきた。
『KEEEE!』
「って、逃がさないよ! 《竜尾剣》!」
流石に今の私でも空を飛ぶのは無理なので、降りかかる炎弾を上昇しているEND任せで無視して《竜尾剣》を音速の十倍でヤツに向けて射出し、そのSTR十万以上の攻撃力で右翼を貫き爆砕した…………本当は胴体を狙ったんだけど速度が高すぎて外してしまったので、次からは少し速度を落とすべきかな。
そして片翼を破壊されたからか、ヤツは空中でバランスを崩し……。
『空を飛ばれると厄介だから落ちて貰うぞ……《飛行封印》』
『⁉︎ KEEEEEE!!』
封竜王さんのその声と共に空を飛ぶ事が出来なくなって、そのまま地上に墜落していった…………スキル名から考えると『飛行』という行動を封印する効果かな? 封竜王さん自身も今は地面に立ってるし、この空間全体に効果を発揮するタイプみたいだね。
…………さて、ヤツが飛行を封じられている間に接近しますか。
『KEEEEEE!』
『GAAAAAAAAAA!!』
『GUUUUU!』
「って、そう簡単には行かないか!」
だが、ヤツの方もただやられているままな訳ではなく、狼の頭と鳥の頭、そして再生を終えた熊の頭が一斉に咆哮すると共に、その身体に雷と炎を纏わせてこちらに突っ込んできた…………うーん【ブラックォーツ】の再生阻害は向こうの再生能力が高すぎるのか、それとも逸話級と古代伝説級の格の差か、それこそ耐性でも獲得したのかあんまり効果は無いみたい。
「《ストライクブラスト》!」
『GAAA!』
とりあえず牽制の為に【ギガース】を振って衝撃波を発生させるがヤツは咄嗟に横に飛んで躱した為、残っていてもう片方の左翼を破壊するだけに終わった…………だが、ヤツは破壊された翼の代わりに
『GAAAAAAAAAA!』
「ええい! ビックリ箱か何かか!」
まず、ヤツは私から見て左側の腕を
しかし、ヤツが纏う雷と炎は防ぐ事は出来ず、特にENDでの減衰を望めない雷によるダメージが私を襲った…………が、その雷と炎は私の身体にいつの間にか
『私の《竜王気》を貸そう、余波はそれでどうにかなるだろうから存分に暴れるといい』
「本当にありがとう! 封竜王さんっと!」
『GAAAAAAAAAA!!!』
どうやら、そのオーラの正体は封竜王さんが私に纏わせてくれた《竜王気》だった様だ…………そう確認をしつつ私はヤツが振るって来たもう片方のハサミを【ギガース】で弾き飛ばし、そこから更に踏み込んで来たヤツが振り下ろして来た前足の爪を【ギガース】の持ち手部分で受け止めた。
…………だが、ヤツはこちらの両手が塞がっている隙に蠍の尾を伸長させて、それに付いている針でガラ空きの胴体を串刺しにしようとして来た。
『GAAAA!』
「甘いっ! 《竜尾剣》!」
しかし、直感でそれを先読みしていた私は《竜尾剣》を使って(速度はAGI五万ぐらいに落とした)その蠍の尾を斬り飛ばした…………のだが、よく見ると《竜尾剣》に僅かにヒビが入っている様だった。
…………流石にSTR十五万近く、AGI最大十万で振るう事は装備への負担が大きいみたいだね。多分【ギガース】も《アンブレイカブルメイス》による強度上昇が無かったら早々に砕けていたと思うし。
そのまま私はヤツの前足を跳ね上げて、その懐に潜り込もうとするが……。
『GUUUUU!』
『KEEEEEE!』
「あーもう! ろくろ首か! 《サンダーインパクト》!」
その両肩にある熊と鳥の頭が伸長してこちらに嚙みつこうとして来たので、止む終えず一旦足を止めて雷を纏った【ギガース】でその双頭を打ち砕いた…………が、次の瞬間には距離を取られた上で再生された蠍の腕がこちらに襲いかかって来た。
てゆーか、コイツ再生能力が高すぎる! 封竜王さんとクリラさんが倒さず封印した理由が分かったよ。
『GUGYAAAA!!』
『SYAAAAA!』
「また生えた!』
私が再生されて襲い掛かって来た蠍の腕と尾を破壊していると、先程砕いた鳥と熊の頭部があった場所から新たにサメとドラゴンの頭部が生えて来た…………STRが三倍近く上回っていても砕いた所を片端から再生されるんじゃジリ貧だよ。
それに向こうの身体が大きい上に手足を伸ばしたりして来るからリーチで負けているのも問題だね、お陰で相手の懐に潜り込んで必殺の一撃を打ち込むのも難しい。
『GAAAAAAAAAA!』
『GUGYAAAA!』
『SYAAAAA!』
「これじゃあ近寄れないんだけど!」
その上、ヤツは狂化している所為で痛みや恐怖を感じていないのか、手足が吹き飛んでも関係無く高速再生させた上で攻撃を繰り出して来る…………AGIにはそこまで大きな差は無いし、今の私のENDでも直撃を食らえば無傷とは言えない上に蠍の腕と尾には毒もあるから防御しない訳にも行かないし。
更にこっちは【ギガース】一本と強度に不安がある《竜尾剣》しか攻撃手段が無いのに、向こうは複数の手足と蠍の尾で攻撃して来るから手数でも圧倒的に負けている。
…………一応、ステータスで上回っていれば、直感で攻撃を先読み出来る以上防御と回避には支障は無いんだけど……。
「逆に言えば、
『GAAAAAAAAAA!』
…………そう、私の“近い勘”はあくまでも自身に降りかかる危険を事前に感知出来ると言うモノでしかなく、故にこの様なクロスレンジでの攻防で、尚且つ早急に相手を仕留める必要がある状況だとイマイチ役に立たないのだ。
これがミュウちゃんやお兄ちゃんなら『相手の攻撃を先読みさえ出来れば一方的に殴り倒せる』とか出来そうだけど、私は良くも悪くもステータスによるごり押しが基本戦術だからなぁ。正直、大幅に上がり過ぎたステータスを持て余しているし。
それに……。
「コイツ! なんか
『GAAAAAAAAAA!!!』
『GUGYAAAAAA!!!』
『SYAAAAAAAAA!!!』
そう、この短時間の間にコイツの速度が徐々にではあるが上がっているのだ…………と言うか、肉体の再生速度や変形速度に関しては戦闘開始時を比べて大幅に伸びているみたいだし……。
封竜王さんのデバフ結界や私の再生阻害も効果が薄いみたいだし、これは“耐性の獲得”とかもスキルにあるかな?
◇
…………尚、これはミカや封竜王も知らない事だが、この【ギガキマイラ】がここまでデタラメな再生能力を持っているのは【アークブレイン】による融合改造が上手くいき“過ぎた”事、及び<UBM>化によってスキル《キメラアビリティ》が強化…………否、“狂化”された事が原因である。
…………元々【アークブレイン】によって想定されていた《キメラアビリティ》はスキル使用時に肉体を変形させる程度のモノで、それの応用で傷痍系状態異常の回復が出来るぐらいの性能だった…………だが、現在は再生・変化能力共に古代伝説級<UBM>としてもあり得ない程の性能と化しており、更に僅かずつであるが継続的なステータス上昇と受けた攻撃やスキル効果に対し肉体構造を変異させる事による耐性獲得効果まで備わってしまっているのだ。
ただし、それだけの性能を実現する為に現在の《キメラアビリティ》にはデメリットとして
…………とはいえ、この【ギガキマイラ】最大の凶スキル《キメラアビリティ》の本領は状況に対応する為の肉体変化である事には変わり無く……。
◇
『GOOOOOOO!!!』
「クッ!?」
どうにか直感による先読みで【ギガキマイラ】の攻撃を躱して懐に潜り込もうとしていた私は、ヤツの
…………そして、その僅かな時間でヤツは更に肉体を変形させた。
『GAAAAAAAAAA!!!』
『GUGYAAAAAA!!!』
『GOOOOOOO!!!』
「……第二形態とか勘弁してほしいんだけど」
変形したヤツの姿はまずサメの頭部の代わりにゴリラの頭が生え、更に前足がゴリラの手の様に変形した上で二足歩行の巨大な狼男の様なモノであった…………加えて、背中からは伸長した蠍の腕四本と尾が二本生えていると言う異形の姿になっていた。多分、リーチと手数の差を活かすための姿に変化したらしいね。
(さて、必殺スキルを使ってから三十秒は経ったから、残りは一分弱ってところかな)
異形の姿に変化したヤツと向き合いながら、私は
…………まあ、HPの上限が削られるのているのに肉体に何の影響も無いとはいかなかったのだろう。幸い肉体の動作に影響は無いが痛覚をオンにしたら酷い事になりそうだ。
(以前、試練の時に使った際には速攻で終わらせた上で結界の効果で元に戻ったから気づかなかったよ。やっぱりスキルは事前に検証して置くべきだね。…………さて、コイツの再生能力だと普通に攻撃しても意味は無いみたいだし、やっぱり【戦棍姫】の
…………そんな事を考えつつ、私は【ギガキマイラ】との戦闘を続行するのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
妹:超超音速による濃密な三十秒間
・“物理最強”と言ったのは『今の“時期”なら言っても問題ない気がした!』からだそうで。
・奥義の詳細は次回。
《
・アームズ系統の<エンブリオ>なので、発動条件に『【ギガース】の装備』もある。
・発動条件である『自身より強い相手』の判定条件は彼我のリソース量で決まり、現在の妹のジョブレベルと到達形態だと伝説級<UBM>や準<超級>以上ぐらい。
・このリソース量の判定に装備品は含まれない。
・デメリットの詳細は次回。
《サンダーインパクト》:【戦棍鬼】のスキル
・メイスに雷を纏わせて攻撃するスキルで、【麻痺】の状態異常を与える追加効果がある。
フォルテスラ&ネイリング:現在は後方待機しながら状況を見ている
【封竜王 ドラグシール】:超優秀なサポーター
・戦闘経験はほぼ全て従魔として戦って来たものなので人間と協力する事に長けている。
・《飛行封印》を始めとした各種行動を制限したりスキルを使用不能にするなどの各種封印術をかつての主人から学んでおり、それらの術の練度は超級職のモノにも匹敵する。
・更にそれらの術を《竜王気》や《竜気結晶》に付与したり、結界を張ったり《竜王気》を他者に纏わせる、AGIを補う為の《高速思考》スキルを習得しているなど応用技術も高い。
・だが、五百年ぐらい村に引きこもっていた所為で戦闘勘は相応に鈍っている(自覚済み)ので、それとステータス不足もあって後方支援に徹している。
・ちなみに五百年前【ギガキマイラ】を封印出来たのは、まともに戦うのは不可能と判断した上で村に作成した陣地に引き込んでから初手で最終奥義を使ったから。
【十狂混沌 ギガキマイラ】:生命が尽きるまで戦い続ける戦闘兵器として作られてしまったキメラ
・《キメラアビリティ》によるステータス上昇はリソースを効率的に取得出来る《餓狼暴食》と組み合わせると上昇率が大幅に上がるので、大体後半月ぐらい捕食を繰り返せば神話級まで進化出来る。
・尚、理性を失っているのにスキルをここまで運用出来るのは、中核になった【ハイエンド・グラトニー・ウルフ】のセンスが本能だけでスキルをある程度使いこなせる程に図抜けていたから。
・なので、肉体を制御する為に他の部位が変化しても狼の頭部だけは固定で、そこだけは再生に少し時間がかかる(ただし、狼の頭部を潰されただけではスキルの制御が甘くなるぐらいで行動には支障は無い)
・コイツを倒すには単純に肉体を再生出来なくなるレベルまで一気に破壊するか、寿命切れを待つしかない。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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星を穿つ鉄槌
それでは本編をどうぞ。
□クリラ村跡地 【
さて、なんか異形の巨大な狼男に変化した【ギガキマイラ】との戦いだが…………はっきり言って大苦戦である。
『GOOOOOOO!!!』
『GAAAAAAAAAA!!!』
『GUGYAAAAAA!!!』
「ッ! ええいっ!」
ヤツの狼・ゴリラ・ドラゴンの三頭が咆哮すると共に、右斜め上から繰り出されたハサミ(溶解毒付き)を【ギガース】で砕き、同時に左側から来たハサミを身を逸らしてで回避…………したところに正面から二本の蠍の尾が突き込まれたので【ギガース】で打ち払った。
だが、それと同時に回避したハサミが軌道を変えて右側から襲いかかり、更に残り二本のハサミと尾が正面・上・左側から同時に繰り出される。
「《テンペスト・ストライク》!」
その纏めてこちらに襲い掛かる攻撃を私は【ギガース】に纏わせた風を撒き散らす事によって粉砕した…………ちなみに《テンペスト・ストライク》の風の威力は、スキルを使用した際に振るったメイスの攻撃力と同じである。
しかし、その直後にヤツは太さが一メートルはありそうなゴリラの右腕でこちらに殴りかかって来た。
「チィ! 《竜尾剣》!」
『GAAAAAAAA!』
その拳撃を私は後ろに飛び退いて回避すると同時に背中のワイヤー付きブレードを最上速度で相手の動体に射出した…………が、ヤツが咄嗟に身を捩った為にその左肩を抉るだけに終わった。
…………その直後、
(やっぱりヤツの再生速度が早すぎて決め手に欠けるね。…………接近しても体格の差で【ギガース】は相手の膝上ぐらいにしか届かないし)
そもそも、今の私のSTRが十五万近くあると言っても、ヤツのHPやENDが高すぎる所為で手足を殴ったぐらいじゃその箇所を砕くだけで終わるだけだからね…………END減少スキル《ストライク・ペネトレイション》も“相手が防御出来なかった時”のみ有効だから攻撃の迎撃時には作用しないし。
…………そう考えている間にも襲いかかってくるハサミと尾を破壊しつつ、伸ばしてままの《竜尾剣》を迂回させる様に操作してヤツの背後から狼の頭部を狙い突撃させた。
『GUGYAAAAAAAAA!?』
「チッ! 外した!」
その不意をついた一撃は迂回させた所為か狙いがずれて、その横のドラゴンの後頭部を貫いた…………その後、一旦《竜尾剣》を引き戻したが、よく見るとブレード部分のヒビが大きくなっていた。【ドラグテイル】もかなり頑丈な筈なんだけどね。まあ、特典武具だから時間を掛ければ再生するし、最悪使い潰すつもりで行こうかな。
…………そう私は
(残り時間は後五十秒ぐらい。…………やっぱり、私一人じゃ決め手がないか)
改めて考えると、身体の一部を砕いたぐらいでは即座に元通りになる頭のおかしい再生能力を持ち、AGIに対した差がなく体格とリーチで上回られている相手に単騎ではどうしようも無いかな…………でも、ここで戦っているのは私一人じゃないんだよね。
そう私が考えていた時、まずは後方で支援に徹していた封竜王さんが動いた。
『魔法無効系のスキルがあったから手間取ったが、仕込みはおおよそ完了した。……《竜気結晶・縛》』
『⁉︎ GAAAAAAAAAAAAAA!』
『GOOOOOOOOOOO!』
その言葉と同時に【ギガキマイラ】から少し離れたところに紫色の水晶で出来た柱が四本立ち並び、それらから《竜王気》がヤツに向けて放射された…………その《竜王気》は私とヤツの周囲に散布されると同時に凄い速さで紐状に変形して、ヤツの四肢を縛ってから水晶に変わってその動きを封じ込めた。
ヤツは直ぐに手足を縛る水晶を引きちぎろうとするも、それらの水晶はまるで紐の様に伸び縮みしておりそう簡単には千切れそうになかった。さっき【アニワザム】を封じ込めたのと同じモノだと思ったけど少し違うみたいだね。
…………あまり長くは保たなさそうな上、蠍のハサミと尾は封じられていないけどこれで隙が出来たし接近して反撃を貰う可能性は大幅に減ったね。
「シィ! 《スマッシュメイス》!」
『GAAAAAAAAAA!?』
私は身体の動きが封じられた事で速度と動きの自由度が減ったハサミと尾を手早く破壊してヤツの懐に潜り込むと、その右脚に向けて戦棍スキルの中で最も出の早い初歩スキルを叩き込み、その脚を粉砕してヤツに膝を突かせた…………今の私のSTRなら最下級のスキルでも十分な攻撃力を得られるからね。
…………そのまま私はヤツに追撃を掛けようとするが、それよりも少し早くヤツの全身から雷が迸り始めた。
『GAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
「チッ! 《エフェクトバニッシュ》!」
そのままヤツは全身から先程見たモノよりも遥かに威力の高い雷撃を放ち巻きついていた水晶の紐を破壊した…………一応、自分に当たる前に【ギガース】で雷撃をぶっ叩いて無効化したが、拘束を破壊する事は止められなかったか。
…………しかし、この【ギガキマイラ】は本当に厄介だね。狂化して理性や知性が無くなっているらしいのに、おそらく本能だけでスキルを使いこなしているし。これが狂気に飲まれて暴れているだけなら対処はまだ楽だったのに。
そんな事を考えている間にも、ヤツは損傷した部分を瞬時に再生させてこちらに襲いかかって来た。
『GAAAAAAAAAA!!』
『GUGYAAAAAA!!』
『GOOOOOOO!!』
「全く元気な事で!」
そのまま、先程までの焼き直しの様に私とヤツの殴り合いが始まった…………ふむ、横合いから邪魔されてもあくまで狙いは私だけか。基本的に自身にとって一番脅威になる相手に対して優先的に対処するのがコイツの行動パターンなのかな?
…………でも、
「行くぞ、ネイ!」
『オッケー!』
『! GAAA!』
ヤツが私に集中しているこのタイミングで動いたのは、ずっと後方で状況を伺っていたフォルテスラさんだった…………彼は自分がヤツのマークから外れている事を利用してその背後まで接近して、そのまま切り掛かったのだ。
…………だが、その速度は亜音速は超えているものの超超音速域の私やヤツと比べれば遥かに遅く、更にヤツも接近自体には気付いていたのか即座に蠍の尾の一本を彼等に突き刺そうと伸長させた。
「それを……!」
『待ってたよ!』
その超超音速で正面から迫りくる尾に対し、彼は不敵な笑みを浮かべながら自身はその軌道上に剣形態のネイリングちゃんを置いた…………その結果として超攻撃力を有する尾の直撃を受けたネイリングちゃんは砕け散り、更にそのまま突き抜けた尾は彼に直撃してその身体を吹き飛ばした。
…………だが、彼はその攻撃によるダメージを【救命のブローチ】で防ぎ切り……。
「『《
それと同時に、二人は必殺スキル発動の宣言を行った…………瞬間、折れた刃先から眩い光が伸び、それによって失われた筈の刃が光の剣となって再構築された。
そうして必殺スキルを発動したフォルテスラさんは即座に空中で身を翻してヤツの尾を切断し、更にそのまま地面に着地すると同時に私達と同じ
「《オーヴァー・エッジ》《ディバイド・ブレード》!」
『GAAAAAAAAAA!?』
そして、彼は光剣を伸長させてその片足に剣を振るい超硬度の筈であるヤツの身体をあっさりと切断して、その膝を地面に突かせたのだ…………成る程、敵のステータスを自身に上乗せする必殺スキルと言っていたけど攻撃力とAGIを上昇させているみたいだね、多分STRが上がってるって感じじゃ無いっぽいし。
更に、そのまま彼はヤツとの接近戦を行おうとするが……。
『GAAAAAAAAAA!!』
「おっと」
「チッ!」
だが、ヤツは新たな脅威に対応する為に自身の体毛の一部を炎を纏う羽毛に変化させて、それらから周囲一帯に向けて大威力の火炎を放射して来たのだ…………私達には封竜王さんの《竜王気》が纏わされているのでダメージは受けず、上昇していたAGIもあって火炎には当たらなかったが、接近しようとした出鼻を挫かれてしまったのでその隙にヤツは切断された足をくっつけて私達に向き直った。
…………止む終えず、一旦距離をとった彼は私の隣に来て剣を構え並び立った。
「すまない、攻めあぐねた」
「大丈夫、まだ時間はあるし。……私がヤツに直撃を入れられる様な隙を作ってくれれば、後は【戦棍姫】の奥義でなんとか出来ると思う」
とりあえず、あまり時間も無いので簡潔に今後の戦術を伝えてからヤツとの戦闘に戻ろうとするが、それよりも僅かに早くヤツは次の手を打って来た。
『GAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
「何ッ⁉︎」
「跳んだ⁉︎」
なんと、ヤツは身をかがめるとそのまま直上に向けて数十メートル大ジャンプしたのだ…………更にその背から最初に付けていたモノと同じ炎を纏う翼を生やしてその場に対空し始めた。
…………飛行は封竜王さんに封じられている筈だけど……。
『コイツ! 封印に対して耐性を取得したのか⁉︎』
「おk、把握」
まあ勘だけど、最初に跳躍した事から完全に飛行出来る訳じゃ無くてその場に滞空するのが限界だと思うけどね…………しかし、問題は空を飛ばれるとこちら側が打てる手がかなり少なくなる事なんだよね。
…………そして、ヤツは滞空したまま身体に生えた羽毛から大量の火炎放射を放ち、更に三つの頭部から雷のブレスを吐いたりして水晶の壁で囲まれている地上全てを攻撃し始めたのだ。
『GAAAAAAAAAAAAAAA!!!』
『高域殲滅に切り替えたのか? だが……』
「チッ! 《オーヴァー・エッジ》でも射程外だ!」
しかし、其れ等の攻撃は攻撃範囲は広くても威力は然程でもなかった為、私達は封竜王さんの《竜王気》と強化された防御力で特に問題無く防ぐ事が出来た…………だが、滞空する事でヤツにはフォルテスラさんの剣も私の【ギガース】も届かなくなってしまった。
…………コイツ、その場の状況で有効な手を即座に打ってくるあたり本当に対応力は高いよね。狂化系スキルを本当に使っているのかな?
「とりあえず《竜尾剣》!」
『GAAAAAAAAAA!』
とにかく、こっちからも攻撃しないと時間制限で詰むため、私はさっきと同じ様に背中の《竜尾剣》をヤツの羽根に向けて射出する事で飛行能力を奪おうとした…………だが、同じ手を二回使ったからかヤツは向かってくるブレードをその拳で正面から殴る事によって迎撃したのだ。
…………その結果、ヤツの拳は砕けたものの耐久値が限界だった《竜尾剣》のブレード部分も粉々に砕けてしまった。
「ところがギッチョン!」
『GAA!?』
そこで私は《竜尾剣》の
そして私は【ギガース】を片手持ちにし、残りの手で《竜尾剣》のワイヤー部分を掴んでヤツを地上に引きずり降ろそうと引っ張った。
『GAAAAAAAAAA!!!』
『GUYAAAAAAAAAAA!!!』
『GOOOOOOOOOOO!!!』
「って、流石に質量差があるか」
だが、ヤツも地上に降ろされまいと全力で抵抗したので、この綱引きは拮抗した…………ふむ、STRに差があっても質量差のせいで私が上に引っ張られると思ってたんだけど、ヤツの飛行能力が完全には回復していないからこうなっているみたいだね。そのまま上に引っ張られたらワイヤーを巻き取って接近するつもりだったんだけど。
…………やっぱり、コイツの対処能力は狂化している所為かどこか場当たり的みたいだね。二手・三手先を読む事が出来ていないし、思考能力もほとんどない感じで、更に痛みや恐怖を感じないから脅威となる相手を判断する能力も低いみたい。
…………だから……。
「
『《ストレングス・キャノン》』
『⁉︎ GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!?』
直後、ヤツの
…………それと同時に吹き飛ばされた背中から黒い液体の様なモノ──スライムが飛び出て地面に落ち、それは直ぐに一人の男性の姿を形取った。
「やっと脱出出来ました。……この私はモンスターに食べられるのには慣れていますが、今回は少し手間取りましたね」
その人物は最初ヤツに食べられた【
そして、当の【ギガキマイラ】は地面に墜落してからも即座に肉体を再生させて体制を立て直そうとしたが、内側から吹き飛ばされた所為か少し手間取っている様で…………その隙を見逃す者は此処には居なかった。
『《竜気結晶・縛》!』
「《オーヴァー・エッジ》《クインティブル・スラッシュ》!」
『GAAAAAAAAAAAAAAA!!!?』
まず、地面に落ちたヤツを封竜王さんが先程と同じ水晶の紐を地面から展開してその身体を縛って仰向けに地面に縫い付け、そこにフォルテスラさんが五連続の斬撃を放ちヤツの頭部と四肢を切り裂いてその動きを鈍らせた。
ここまでしてもは数秒もあれば肉体を再生させて拘束を逃れられるだろうが…………それだけあれば、私がヤツに接近してその身体の上に飛び乗るには十分な時間だった。
「あ、多分
『GAAAAAAAAAA!!!』
拘束を逃れようと暴れるヤツの上に《竜尾剣》のワイヤーも使ってバランスを取りつつ降り立った私は、近くにいたフォルテスラさんとゼクスさんに警告を発しつつ両手で構えた【ギガース】を振り上げた…………尚、その警告を聞いたフォルテスラさんは全速力で走って、ゼクスさんは肉体の一部をボードの様な物に変化させてからそれに乗って空を飛んでその場から離れていった。
…………それらを見届けてから、私はヤツが再び動き出すよりも早く【戦棍姫】の奥義を解き放った。
「《メテオライト・ストライク》ーッ!」
…………そうして放たれた奥義の効果は、STRを
『────────────────────!!!?』
そのSTRにして
◇
【<UBM>【十狂混沌 ギガキマイラ】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【ミカ】がMVPに選出されました】
【【ミカ】にMVP特典【十装混鎧 ギガキマイラ】を贈与します】
よし、アナウンスもあったしどうやら【ギガキマイラ】の討伐は出来たみたいだね…………全身が肉片になってもそこから再生するなんて事が無くて良かったよ。
…………とは言え、周りと私自身はかなり酷い事になっているが……。
「……なんか余波で周囲が壊滅しているし、【ギガース】も殆ど壊れてるし」
まず、私の《メテオライト・ストライク》に余波によって地面には巨大なクレーターが出来ており、先程の戦闘と合わせて周辺一帯は大災害でも起きた後の様な壊滅状態になっていた。
更に、奥義の反動で私の両腕の骨が折れており、必殺スキルの反動で腕に出来ていた黒いヒビは亀裂になり夥しい血が流れていた…………そして、百五十万に届くSTRで振るったからか【ギガース】の持ち手部分は折れ曲がり、三角錐の部分には全面にヒビが入り一部は砕けてる程のダメージを負っていた。
(《アンブレイカブルメイス》と《反動軽減・戦棍》があってもこれかぁ……。身体にも全身の八割ぐらいに亀裂が入ってるし…………あ、封竜王さんとフォルテスラさんは大丈夫かな?)
そう思っていたら、空を飛んでいた封竜王さんとフォルテスラさんがクレーターの中にいるこちらに向かって降りて来るのが見えた。
『どうやら【ギガキマイラ】は倒せた様だね』
「はい、特典武具も手に入りましたし。…………余波で酷い事になってますけど、そっちは大丈夫でしたか?」
「こっちは封竜王さんが《竜王気》で防御してくれたから大丈夫だよ。…………むしろミカちゃんの方が酷い事になってるけど……」
まあ、見た目的には私の方が余程酷い外見になってるかな…………さて、残る問題は……。
「おや、終わったんですね。…………では、この私の目的を果たさせてもらいましょうか」
上空からいい笑顔で降りてきたこの【犯罪王】さんをどうするかなんだよねぇ…………私はズタボロでもうすぐ死ぬし、フォルテスラさんはネイリングちゃんが必殺スキル使用の為に壊れてしまったからか予備の剣を取り出して構えている有様だし。最悪、時間切れになる前にブン殴れば相性差で倒しきれるかな?
…………そう私が考えていたら、その前に封竜王さんがゼクスさんに質問をぶつけた。
『確か、君の目的は私と戦う事で王国に罪に問われる事でよかったかな?』
「ええ、その通りです」
『私と戦うと罪になるのは【ギガキマイラ】の封印の要になっていたからで、それが倒された以上は私と戦っても罪にはならないが』
「じゃあ辞めます」
そういう事になった。
「それじゃあ、この私はここで帰りますのでシュウにはよろしく伝えておいて下さい」
「アッ、ハイ……」
そう言って、ゼクスさんはさっきも使っていたボードの様な物に乗って空を飛び、その場から立ち去って行った…………本当に何しに来たんだろうね、あの人。
…………そうこうしている内に必殺スキルの制限時間が終わりそうになっていた。
「あ、もう時間切れだから後はよろしくね」
「……分かった。後の事は任せてくれ」
『私とクリラの後始末を引き受けてくれてありがとう。後日お礼をさせて貰うよ』
その会話と共に黒い亀裂が私の全身に広がって、更にコストとして消費されていた最大HPがゼロになり…………直後、私の身体は黒い亀裂に沿って砕け散った。
【致死ダメージ】
【蘇生可能時間経過】
【デスペナルティ:
しかし、デスペナルティのログイン制限時間三倍のデメリットはキツイよねぇ…………まあ、後の事はお兄ちゃんとミュウちゃんとシュウさん達に任せますか。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
妹:古代伝説級特典武具二つ目ゲット
・今回手に入れた特典武具の詳細は後日。
《
・デメリットの“黒いヒビ”はステータスなどには変化はないが、ヒビがある部分に攻撃されるとそこから血を流し【出血】の状態異常になる特性がある。
・最大HPがゼロになった時に肉体が砕け散る為、蘇生スキルは効かず《ラスト・コマンド》なども意味がない。
《メテオライト・ストライク》:【戦棍姫】の奥義
・奥義として相応の消費SP・クールタイムがあり、更に使用後の反動としてスキル使用時のSTRとENDの差だけ腕などにダメージを負う。
・だが、その反動は大体二十万ぐらいの差なら腕がしばらく痺れるぐらいで済む程度のもので、今回妹の腕が折れたのはステータスに百万以上の差があったから。
《反動軽減・戦棍》:【戦棍鬼】で取得したスキル
・メイス系のアクティブスキル使用時に自身と使用したメイスに掛かる反動をスキルレベルに応じた割合だけ軽減するパッシブスキル。
・この《反動軽減》系スキルは質量の大きい武器(大剣や大斧など)を使う系統のジョブで、それらに対応する武器種のものが取得可能。
フォルテスラ&ネイリング:サポーターその1
・【ギガキマイラ】へのメタとなる必殺スキルと、その技術で妹を的確にサポートした。
・この後は封竜王と共に【アニワザム】戦の援軍に行くつもり。
《ディバイド・ブレード》:【剣聖】のスキル
・攻撃対象の防御スキル効果をスキルレベルに応じた割合だけ減少させる斬撃を放つアクティブスキル。
・フォルテスラは防御力は上回れても防御スキルには影響しない必殺スキルの弱点を埋める為に使用した。
【封竜王 ドラグシール】:サポーターその2
・《竜気結晶》はある程度なら硬度・弾性などを変化させる事が出来る。
・《竜気結晶・縛》は結晶に柔軟性を持たせた上で、捉えた相手に【拘束】【呪縛】の状態異常を与えるスキル。
【十狂混沌 ギガキマイラ】:敗因・食当たり
・異常な再生能力と超高ステータスと多彩なスキルを誇る古代伝説級最上位の<UBM>。
・だが、元々遠隔制御される事が前提で作られた為、寿命問題の他にもスキルの運用などに欠陥を抱えていた。
・ちなみにベースとなった【ハイエンド・グラトニー・ウルフ】には捕食行動を補助する為、“体内からの攻撃に対する耐性”や“高い消化能力”などのスキルを持っていた。
ゼクス・ヴェルフュル:好き勝手やって帰って行った
・尚、あっさり撤退したのは前述の強力な消化能力の所為で体積(HP)がかなり削られていて、あまり余裕が無かったからでもある。
・また、体内攻撃耐性や状態異常耐性の所為で体内からの攻撃が殆ど効かなかった為、止む終えず最大火力で身体に穴を空けての脱出を選択した。
・乗っていたボードは飛行能力を持つチャリオッツ系<エンブリオ>のストックで、某黒鴉さんを手に入れたら削除されるヤツ。
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魔鉱蚯蚓・前哨戦
それでは本編をどうぞ。
6/9 原作で【翆風術師】の奥義魔法の名称が出たので、本編中の名前をそちらに差し替えました。
□クリラ村外縁部 【
さて、ミカから『お兄ちゃん、村の外のあの辺りから敵が来る気がするから足止めをお願いね!』と頼まれたので、指示された場所で待機していたのだが……。
「こんな化け物が相手とは聞いてないぞ! ミカァァァ!」
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』
村の外側の地面を吹き飛ばしながら現れたのは直径十メートル以上、全長は地上に出ている分だけでも数十メートルを超える程で灰色の体表に様々な色の鉱石を貼り付けた巨大な蚯蚓──古代伝説級<
まあ、文句を言ってばかりではどうしようもないので、とりあえず俺はアイテムボックスから【マグネトローべ】を取り出して騎乗し、この【アニワザム】を迎撃する為に上空へと駆けて行った。
…………その直後、相手は鎌首をもたげて気が狂ったかのような大音量で咆哮した。
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』
「ッ! これは……!」
その咆哮と共に莫大な魔力の流れを感じた俺は、咄嗟に《魔力視》を使って相手とその周囲を観察した…………すると、目の前の【アニワザム】が大量の魔力をクリラ村がある方角の地面に流し込んでいる所を見る事が出来た。
…………これは村にある封印を破ろうとしているのか?
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』
「流石に放置しておく訳にも行かないか! 行くぞ【マグネトローべ】!」
とは言っても、流石に古代伝説級<UBM>を単騎で倒せるとは思っていないので、援軍が来るまでの足止めに徹するつもりだったのだが…………相手の元に到着する前にその咆哮は止まり、直後に地上に生えた大量の水晶から発せられたオーラによってその肉体は拘束された。
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️⁉︎』
(さっき村の方から何かがヒビ割れる音がしたので、咆哮を辞めたのは封印を破壊し終わったから。そしてあの水晶とオーラは恐らく封竜王さんの物だろうな)
村に流れていた魔力も止まっているし大方そんな所だろう…………そう考えていたら【アニワザム】から先程とは別種の魔力を感じ取ったので注視してみると、ヤツは周囲に大量のエレメンタルを召喚している所だったのだ。
そして召喚されたエレメンタルモンスター達の八割は【アニワザム】を縛るオーラの排除に、残りはこちらに向かって来たのだ。
…………そんな、割とピンチなタイミングで【テレパシーカフス】にミカから連絡が入った。
『お兄ちゃん、しばらく時間稼ぎよろしくー』
「無茶振りを言うな!」
向かって来るエレメンタルだけでも十体以上居るんだよ! しかも全て亜竜級以上、中には純竜級も数体混じってるし! …………とりあえず《魔法発動待機》のスキルで準備していた《エクスプロージョン》を《魔法射程延長》を併用しつつ、向かって来るエレメンタルの中心部に炸裂させて戦力を削っておこう。
…………以前、水精洞窟の時に調べた情報によると、ヤツが召喚するエレメンタルは全員が《精霊体》スキルを持つから攻撃の手段は選ばなければならないのだが。
(何せ《精霊体》を持つエレメンタルは実態を持たない属性だった場合には純粋な物理攻撃に効かないし、
今も、さっきの《エクスプロージョン》を吸収した【フレイム・エレメンタル】が三体程コッチに向かって来て、更に火属性の攻撃魔法を撃ち込んで来てるし…………とりあえずコッチに飛んでくる炎弾を回避しつつ、【ジェムー《スチーム・エクスプロージョン》】──水蒸気爆発を起こす【
「《ロングスロー》!」
『『『──────ー⁉︎』』』
それを、こちらに向かって来るエレメンタル達の中心部で炸裂する様に投擲した…………そのジェムは狙い通りエレメンタル達の中央に飛んでいき、三体全員を射程に収めたところで水蒸気爆発を起こして大ダメージを与えた。
「まずは三体! 走れ渦を巻く槍よ! 《魔法多重発動》三発《ボルテクス・ジャベリン》!」
『『『────────!』』』
そしてダメージを負って動きが鈍ったエレメンタル達に、《詠唱》によって威力を高めた三発の《ボルテクス・ジャベリン》をそれぞれに打ち込んで撃破する…………詠唱内容に関してはその場で適当に考えただけなのでスルーでお願いします。
…………しょうがないだろう、詠唱するには何か喋らなければならないんだし、そんな見栄えがいい詠唱はポンポン浮かばないし……。
「……て、そんな事を考えている余裕はないなッ!」
『『『────────!!!』』』
その間に接近して来た他のエレメンタル達が各々の属性の攻撃魔法を掃射して来たので、慌てて【マグネトローべ】を動かして回避行動を取った。
…………そうしながら俺はアイテムボックスから【ジェムー《エメラルド・バースト》】を取り出し、即座にエレメンタル達に投げつけた。
「《クイック・スロー》!」
『『『────────⁉︎』』』
そのジェムは起動してからすぐに発動する様に設定してあったので、即座に大型の竜巻を巻き起こしてエレメンタル達を飲み込んだ…………だが、群に一体いた【ウィンド・エレメンタル】は逆に元気になってるんだよな。
…………やはり、複数属性で来られると本当に面倒くさい。
「《モンスター・ハント》エレメンタル! 《瞬間装備》《ウェポン・ブレッシング》《チャージスラスト》!」
『────⁉︎』
なので、俺は取り出した長槍に霊体特効効果を付与した上で【マグネトローべ】と共に突撃し、接近して来た【ウィンド・エレメンタル】を貫いて撃破した…………どうやら召喚されたエレメンタル達のHPはかなり低いみたいだな。
そうやって俺がエレメンタル達の相手で手間取っている間に【アニワザム】は拘束を破壊して…………
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️』
「逃げる気か? …………いや、エレメンタル達は半数以上コッチに向かって来ているし…………そうか、あの方向には
古代伝説級<UBM>である【アニワザム】がクレーミルを襲えば甚大な被害が出るだろう…………それが分かっている以上は止めない訳にも行かないか。
(だが、移動速度が遅いので本来の目的は恐らく囮だろう。どうやら黒幕は余程この場から戦力を引き離したいと見える)
まあ、今の問題はコッチに向かって来るエレメンタル達だ。何せ数だけでも先程の三倍以上、しかも【アニワザム】がどんどん追加を召喚しているので、俺だけだと普通に死ぬ。
更に悪い事に《魔力視》で見たところ、撃破されたエレメンタルから幾らかの魔力が【アニワザム】の方に流れているのが見えた…………どうやら、相手は召喚に使った魔力をある程度なら回復出来る様で、恐らくHPが低いのもこの能力を考慮したものなのだろう。
…………そう相手の能力について考えていると、村がある方角から大音量と共に砲撃が放たれ【アニワザム】に直撃した。
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!?』
「あれは…………シュウさんの<エンブリオ>か! ようやく援軍が来たみたいだな」
後ろを見ると一隻の戦艦──シュウさんの<エンブリオ>【バルドル】が砲弾を放ちながらこちらに向かって来ている所だった…………とりあえず俺は彼に連絡を取るために《ウィンド・ウィスパー》──自身の声を遠くに人物に届ける風魔法──と《ウィンド・リスニング》──遠方にいる人物の声を聞く風魔法──を使った。
「シュウさん、助かりました」
『おー、待たせたガルー。……それで? なんかあいつ逃げようとしているみたいだが』
「進行方向がクレーミルなので、恐らく囮かと」
『やっぱそうか。……
あまり時間も無いので、簡潔にこれまで分かったヤツの情報シュウさんに伝えて情報共有を済ませておく…………やはり、現在の戦力だとそうせざるを得ないか。何分敵の数が多いからな。
…………一通りの情報共有を終えた所で、同乗していたエフさんから報告が入った。
『どうやらミカさんの方も戦闘を開始した様ですよ。……後、こちらに大量のエレメンタルが向かって来ています』
『あー見えてるガル。……狙いをこっちに絞って来たか』
「脅威の度合いが高い方を優先してきましたかね」
どうやら相手はシュウさんの方にエレメンタル達の八割以上を差し向けて来た様だ…………そして、それらのエレメンタル達はバルドルに向けて無数の攻撃魔法を放ち始めた。
シュウさんの方も砲撃を放って応戦するが、敵の一団は物理攻撃が効きにくい種類のエレメンタル達で構成されていた所為であまり効果が無かった…………それならばと本体である【アニワザム】を狙った砲撃も攻撃魔法によって途中で撃ち落とされるか、追加で召喚された対物障壁が使えるエレメンタルに防御されてしまった。
『おや、完全にメタを貼られている様ですが』
『分かってるんならお前も働けガル。……対応が早すぎるな』
「この対応力は厄介ですね」
『『『────────────!!!』』』
そう話しつつも、俺達は砲撃と対空ビットレーザーと各種魔法攻撃などでエレメンタル達を迎撃していく…………だが、エレメンタル達は次々と召喚されているから一向に数が減る様子は無い。
ウチの妹達が上手くやってくれれば、封竜王さんがフリーになるか洗脳が緩むかして状況は変わりそうだが……。
『【アニワザム】も離れて行ってるし、このままじゃ埒があかないガル。……レント君、エレメンタル達はこっちで引きつけるからちょっと本体をつついて来てほしいガル』
「……まあ、このままだとジリ貧になりそうですしね」
今の状況だと延々とエレメンタル相手の戦闘を続けるだけになるだろうし、古代伝説級<UBM>の能力がこれだけとは思えないから詳細情報を手に入れて状況を有利にする為には多少のリスクもやむ終えないか…………この中で一番機動力が高いのは空中を移動できる俺だろうし、最悪【電磁加速】で逃げ切れるだろう。
…………それに村の方を見てみると、どうやら<バビロニア戦闘団>と騎士団も来てくれた様だからエレメンタル達の相手は任せてもいいだろう。
「分かりました、確かにここは多少無茶してでも動いておいた方が良さそうですしね。……それじゃあ、ちょっと行ってきます」
『ありがとうガルー。じゃあ道を作るガル。……バルドル、二十秒だけ全力砲撃。後エフ、お前も手伝え』
『
『はいはい。…………《グリント・パイル》』
そして、さっきまでとは比べ物にならない密度の砲撃がバルドルから放たれ、更にエフさんも【
…………それらの攻撃と到着した援軍のお陰でエレメンタル達の大部分はそちらへ掛り切りになったので、俺はその隙に【マグネトローべ】の高度を上昇させて大きく回り込む様に【アニワザム】へと接近させた。
「…………さて、上手く行くかな」
幸い《遠視》や《千里眼》で確認すると、AGIの高い【ウィンド・エレメンタル】【ライトニング・エレメンタル】【シャイン・エレメンタル】はこちらには来ていない…………というか、それぞれ砲撃による爆風耐性や砲弾対策・金属性の戦艦に対する攻撃能力・光属性攻撃無効能力などの特性を活かすためにシュウさんの所に行っている様なんだよな。
更に地上の援軍には飛行能力と物理攻撃耐性がない代わりに物理ステータスが高い【ランド・エレメンタル】などの地属性エレメンタルと、騎士団対策に聖属性無効の【ホーリー・エレメンタル】が向かっている様だ……。
「メタの貼り方が上手すぎる、これはかなり厄介な相手だな。…………よし、見えて来たな」
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️』
そうして、ようやく【アニワザム】の上空に到着した俺はその周辺を一通り確認した…………【アニワザム】本体はゆっくりと地面を這ってクレーミルの方角に向かっており、その周囲には護衛と思われる海属性エレメンタル達が待機していた。
…………さて、障壁はシュウさんの方向にしか展開されていない様だし、とりあえず一当てしてみますか。
「それじゃあ……突撃! 《魔法多重発動》三十発《ヒート・ジャベリン》!」
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』
俺は【アニワザム】の真上に位置取ると、そのまま重力に従って【マグネトローべ】を直下に加速させて急降下した…………それと同時に《詠唱》で威力を上げた大量の炎槍を上空からばら撒いて、地上にいる護衛のエレメンタル達を攻撃した。
それらの炎槍の殆どは【アクア・エレメンタル】の水流や【レジスト・エレメンタル】の防壁に防がれたが、俺と【マグネトローべ】はその間にエレメンタル達をかいくぐり【アニワザム】の近くまで接近する事が出来た。
…………そして俺はアイテムボックスから【ジェムー《ヴァイオレット・ディスチャージ】を取り出し……。
「《パワースロージェム》!」
『◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️◼️!!!』
可能な限り接近したところでジェムを【アニワザム】へと投げつけた…………そして、そのジェムは【アニワザム】へと当たり、内に込められた紫電をスキルにより強化した上で解放してその身体に襲い掛かった。
…………だが……。
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!?』
「ええいっ! 殆ど効いてないな! やはり魔法耐性が高すぎる!」
その雷撃は相手の体表に僅かな焦げ目を作ったぐらいで、さしたるダメージを与える事が出来なかった…………魔力の篭った鉱石ばかり食べている所為か魔法耐性が物凄く高いのだろう。
上級職の奥義ならもう少しダメージを与えられると思ったのだが、この程度と言う事は多分防御魔法とかも使っているんだろう。
…………直後、ヤツの身体に付いた鉱石が光を放ち始め、それと同時に《危険察知》と《殺気感知》に反応があった。
「ッ⁉︎ 《電磁加速》!」
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』
俺は即座に《電磁加速》によって音速の三倍まで加速してその場から全力で離脱した…………のとほぼ同時に、さっきまで俺が居た上空に向けて【アニワザム】の身体に付いた鉱石が一斉に攻撃魔法を発射したのだ。
更にそれらの魔法は火・風・雷・氷などの様々な属性の攻撃魔法で、その上一つ一つが上級職の奥義クラスの威力があった。
…………とりあえず一旦ヤツから離れた俺は、アイテムボックスからMP回復ポーションを取り出して煽りつつ状況を整理していく。
「なんてデタラメな。……それに、あの身体に付いている鉱石は
あの対空攻撃を受ける直後、ヤツの身体に付いている赤い鉱石の上に【フレイム・マテリアルエレメンタル】の文字が浮かんで居たのが見えたのだ…………恐らくあの鉱石は全て召喚したエレメンタルで、あれだけの攻撃魔法を連射出来るのも鉱石型エレメンタルが各々で魔法を使っているからなのだろう。
「正直言って戦力が足りないな。……多分、ヤツには物理攻撃の方が有効なんだろうが、あれだけの巨体である以上HPも相応に高いだろうし」
巨大な相手なら脳とか心臓とかを狙うのがセオリーなんだが…………ミミズの脳や心臓ってどこにあるんだ? 俺はあんまりそういうのに詳しくないんだが……。
「……と、流石にこのまま放置されるなんて事は無いよなぁ」
『『『────────!!!』』』
どうやら、そうしている間にもヤツは俺に対する追撃用のエレメンタルを召喚して嗾けて来たらしい…………まあ、“ヤツのリソースを分散させる”という最低限の目的は果たしているからこれはこれで良いんだが……。
…………後、【アニワザム】の方は未だにゆっくりと地面を這っているだけで、俺に追撃を仕掛けてくる様な事は無いようだ。どうやら囮として村から離れる事を優先しているのか?
(怒って俺の元に来る様なら誘導とか出来るかと思ったんだが……。やっぱり、ウチの妹二人が鍵かな。……今はあちら側で状況が動くまで死なない様に戦うしかないか)
それに、なるべく【アニワザム】の能力や行動パターンを暴いておく必要もあるしな…………そう考えつつ、俺は向かって来たエレメンタル達との戦いに移るのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:妹の頼みは何だかんだで請け負うヤツ
・尚、詠唱内容に関しては『会話を詠唱にするのも限度があるから、もっとセンスが欲しい』と頭を悩ませている。
《スチーム・エクスプロージョン》:【蒼海術師】の魔法スキル
・水蒸気爆発を起こす広範囲攻撃魔法で、威力は高いが攻撃範囲がかなり広いので自身や味方を巻き込み易く、燃費もかなり悪い。
・また、水蒸気爆発という特性上高熱を生み出す能力も必要なので、取得には天属性魔法の才能も必要になる。
《ウェポン・ブレッシング》:【祓魔師】のスキル
・一定時間自身の武器に祝福を与えて、それらによる物理攻撃を霊体系の相手にも当たる様にする魔法スキル。
・主にレイス系対策のスキルだが、実体の無いエレメンタルなどにも効く。
《ウィンド・ウィスパー》《ウィンド・リスニング》:【翆風術師】の魔法スキル
・両方とも遠隔にいる対象を指定して、その対象に自身の声を伝えたり対象の声を拾ったりする遠隔会話用の魔法。
・対象の周辺にいる人物とも会話は可能で、会話時にある程度なら周囲の雑音をカットする効果もある。
【魔鉱蚯蚓 アニワザム】:古代伝説級<UBM>(ただし操られている)
・黒幕である【アークブレイン】の目的から現在はある程度村から離れる事を優先している。
・召喚されたエレメンタルは【フローター・ハインドアイ】などから観測した情報を元に【アークブレイン】が間接操作しているので、ただ適当に召喚するだけだった【アニワザム】自身が使役している時よりも戦術的な行動を取っている。
・召喚されるエレメンタルが倒された時に召喚に使ったらMPの何割かを回収する《従精帰還》のスキルを持つ。
・【マテリアルエレメンタル】は召喚に時間が掛かり移動能力なども無い代わりに、非常に高いHP・MP・ENDを持つ砲台要員のエレメンタル。
・身体に【マテリアルエレメンタル】を付けているのは、自身の適正が地属性魔法に特化しており他の属性魔法が苦手なのでそれらを代行させる為。
・更に身体に付いている【マテリアルエレメンタル】は【アニワザム】が蓄積したMPを使って超級職相当の魔法を行使出来る。
・ただし、今回は封竜王の陣地を破るために大量の蓄積MPを使ってしまった為、召喚出来るエレメンタルの総数や使用魔法の強度はかなり下がっている。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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クリラ村追撃戦
それでは本編をどうぞ。
□クリラ村周辺・森林地帯 【
クリラ村へ【魔鉱蚯蚓 アニワザム】が襲撃し、それによって封印されていた【十狂混沌 ギガキマイラ】が復活した時、私は
そして、今はライザーさんを始めとする<バビロニア戦闘団>のメンバー四人とパーティーを組んで、逆探知できた方角に向かっているのです。
『ミュウちゃん、コッチで間違いないんだな?』
「はい。……ある程度近づいて来たので、大分詳細な精神干渉スキルの発生源が分かって来たのです」
スキル《第六圏》は『効果範囲内の“気”を感知する』という一見よく分からない効果なのですが、何度か使って行くうちに『スキルなどを使った場合に発生・移動する何らかエネルギー、及び生物に内包されているエネルギーを感知する』スキルらしい事が分かってきたのです…………多分、この二つは同じ物なんでしょう。
ただし、このスキルはそういった
「しかし、大したもんだねぇ超級職ってのは!」
「流石っす! ミュウさん!」
「スゲェっす! ミュウさん!」
「ありがとうございます、アマンダさん、サクさんとボウさんも」
そう、今回私に同行してくれたメンバーには、以前海水浴場で出会ったアマンダさんとサクさんボウさんの三人が加わっているのです…………どうやら彼等は最近<バビロニア戦闘団>に加わったらしく、ライザーさんと同じく私と面識があって実力も十分だと言う事で今回のメンバーに選ばれたそうです。
道中少し聞いた話だとアスカ氏の事件があった直前ぐらいに加入したそうで、その時にはタイミングが合わず私達と出会う事は無かった様なのです。
…………尚、村で再会した時にはこんな話をしていたのです。
「まあ、なんか調子に乗っていたところで“上には上がいる”事を知ったコイツらが、心機一転クランに所属して頑張ろうと言い出したのがきっかけだったね」
「クランに入ってみたら自分の視野が如何に狭いかがよく分かったっす」
「正直、決闘ランカーとか同じ人間だと思えないし……」
『いや、二人とも入って時と比べたら大分実力は上がっているし、結構頑張っていると思うぞ』
と、そんな感じの事を言っていたのです…………まあ、今回の依頼で村の防衛に選ばれる程度には実力と信頼がある様なので、もっと自信を持ってもいいと思うのですが。
ちなみに現在の移動手段は私が肩に乗せたフェイと一緒にライザーさんのバイクへ相乗りさせてもらっていて、アマンダさん達は彼女の<エンブリオ>であるベヒーモスに着けられた鞍(《騎乗補助》スキル付きらしいのです)に乗って追走しています。
…………さて、そんな事を考えている内に大分相手に近づいて来たのです。
「…………よし、ここまで近づけば正確な位置が分かるのです。…………前方五百メートル程先、数は一人で人型の相手ですね」
『そうか…………じゃあ急ぐぞ!』
そう言ってライザーさんはバイクのスロットルを回して更に速度を上げ、まばらに生えている木々をそのドライビングテクニックで掻い潜りながら疾走していきます…………急いで<
…………ッ! これは……!
「どうやら相手に気付かれた様なのです! 現在こちらから離れようとしているのです!」
『ッ! なんだと!』
どうやら相手もこちらに気付いたのか、捉えていた相手の気が急に離れて行くところを感知しました。
『どの方向への逃げているのかを教えてくれ!』
「えーと、相手はそのまま走ってこちらから離れて…………いえ!
感知したその相手は走っている途中で鳥型のモンスターを呼び出し、それに乗って空へと舞い上がってしまったのです…………そして、その直後に肉眼でも前方の上空を飛行している鳥型モンスターとそれに乗っている人型の影が見えました。
更にその鳥型モンスターの速度は亜音速を優に超えており、地上と空中という地形の差もあってこのままではそう遠からず感知範囲外に逃げられてしまうでしょう。
「この距離だと跳んでも追いつけませんね」
『クッ! このままでは!』
「なんだい? あれを撃ち落とせばいいのかい?」
相手との距離が広がって行く事に焦りを覚え始めていた私とライザーさんに、追走していたアマンダさんがそう声を掛けてきました…………彼女達にはこの距離で遠距離攻撃を行う手段があるのでしょうか?
「! どうにか出来るのですか?」
「ああ! ……サク! ボウ! 撃ち落としな!」
「「了解!」」
そう言ったアマンダさんに答えて、同乗していたサクさんとボウさんが左手の紋章からそれぞれ一本の剣を取り出しました…………彼等が取り出した二つの剣は色以外全く同じ形をしていて、持ち手の部分が銃のグリップの様な形をしており刀身の先端に銃口が付いている銃剣で、それぞれサクさんが黒色、ボウさんが白色をしていました。
…………そして、彼等は手に持った剣を空を飛んでいる相手に向けて……。
「《
「《
それらの言葉と共にサクさんの剣からは三つの羽が生えている黒い球体型の闇属性魔法が、ボウさんの剣からは太い光線型の光属性魔法が放たれました…………二人が発した言葉から、確かそれぞれ【
『! KEEEEEE!!!』
…………しかし、相手の鳥型モンスターは《危険察知》系のスキルを持っていたのか、彼等の魔法が放たれる直前に身を翻して回避行動を取ったのです。
まず、光属性魔法特有の光速によってボウさんが放った光線が相手まで届きましたが、その所為で直前まで居た場所を通過…………せずに、その光線は
『KEAAAAAA⁉︎』
翼を貫かれた相手はバランスを崩した所為で高度と速度を落としてしまい、そこにボウさんが放った羽根つき黒球が相手を追尾しながら
…………翼をやられて機動性が大幅に下がった相手はそれを避ける事が出来ず……。
『KEAAAAAA!!!』
その直前に相手は全方位に雷撃を放って自身に迫る黒球を搔き消しました…………アレは以前【磁界奇馬 マグネトローべ】が使っていた魔法と同系のモノですかね。
しかし、相手はダメージの所為でふらつきながらも飛行を続けてこちらから離れようとしていました。
「ちょっと! 防がれているじゃないか!」
「全くだ。ちゃんと当てろよなー」
「しょうがないだろ! 闇属性魔法は強化しても弾速はそんなに早くならないんだから!」
「……いえ、相手の飛行速度を落としてくれただけで十分なのです《
『《エンチャント・アジリティ》《エンチャント・ストレングス》』
そう、回避・防御行動を取った事と翼へのダメージによって飛行速度が落ちた事で、ライザーさんと相手の距離はかなり縮まってくれたのです。
更に私は必殺スキルを使ってフェイと融合しつつ、いつも通りフェイの魔法や【ジェム】で自身に単体バフを掛けていきました。
「ライザーさん、あそこまで
『お安い御用だ!』
私の頼みに応えてくれたライザーさんは更にバイクの速度を上げて相手との距離を急速に詰めていき…………そして前方にあった倒木に突っ込んで行きました。
『ミュウちゃん! 跳ぶぞ!』
そのままライザーさんはバイクの前輪を上げて、その倒木を踏み台にして大ジャンプをしたのです…………凄いバイクテクニックですね! 流石はリアル仮面ライダー!!!
…………そして私はジャンプの頂点に達した時、即座に《軽気功》を使って彼の肩に飛び乗り……。
「少し肩を借りるのです」
『《フォロー・ウィンド》!』
そして、魔法によって発生させた追い風に乗りながら、彼の肩を足場にして飛行中の相手に向かって大ジャンプをしました…………そのまま《空歩》を使って空中を駆け上がりつつヤツに接近していきます。
『⁉︎ KEAAAAAAAAAAA!!!』
私に気付いたのかヤツ──接近したお陰で見えた名前には【ライトニング・ガルーダ】とありました──は接近させまいとこちらに大量の雷撃を面で放って来ました…………やはり、この攻撃は【マグネトローべ】のモノと同じ、お陰で近づき難いですね。
…………なので、私はそれ以上近づかずに《空歩》のちょっとした応用で何も無い空中を踏み込みながら拳を引き絞り……。
「《粉砕波動拳》!」
そのまま正拳突きを放つと共に、触れた物体全てを粉砕し得る拳の形をした衝撃波を放ちました…………このスキルは以前アスカ氏から学んだモノの一つで、何でも【
…………まあ、雷撃など防御力が無いモノにはただの衝撃波なのですが、それでも超級職の奥義なので。
『⁉︎ KEEEEEEEEEEEE!!!』
相手が放った雷撃を突破してその身体の何割かを消し飛ばすには十分な威力があるのです…………まあ、レベルが低い所為でSTRが足りないので本来の使い手である【粉砕王】程の威力は出せませんし、SPもまだ少ないので連発も出来ませんが。
…………さて、今の攻撃で【ライトニング・ガルーダ】は飛行困難な程にダメージを受けているので……。
「当然追撃です。……フェイ!」
『《魔法多重発動》十三発《ヒート・ジャベリン》!』
『KEEEEEEEEEEEE⁉︎』
ふらついている相手に向けて事前にフェイが準備していた魔法を叩き込みます…………そうして放たれた数多の炎槍は【ライトニング・ガルーダ】と乗っている黒いフード付きローブをまとった人型に次々と直撃していきます。
『KEEEEEE…………』
「……離脱を実行」
度重なるダメージで【ライトニング・ガルーダ】は飛行を維持できなくなり墜落していきますが、乗っていた人型はローブで身を守りながら飛び降りて逃げようとしていました。
「……逃す気は無いのですよ? 《サイクロン・ターンキック》!」
「ッ⁉︎」
ですが、それを読んでいた私は即座に空を蹴ってローブの人型に接近して、身体を横回転させながら風を纏った回し蹴りを相手の胴に叩き込み、そのまま地面に向けて蹴り飛ばします。
…………付加された風の効果もあって勢いよく吹き飛ばされた相手は、轟音を上げながら地面に叩きつけられました。
「このままやられてくれるとありがたいのですが…………そうも行かないでしょうね」
その証拠に《第六圏》には相手の気が感知されているので、どうやら未だに健在の様です…………蹴り込んだ時の感じだと物理的ステータスはあまり高くはなさそうだったので、おそらくは【ブローチ】などの身代わり系アイテムか何かですかね。
私はそのまま地上に降りようとも思いましたがスキルを連発した所為でSPが心許ないので、落下しながらポーションを取り出して飲んでおきましょう。
(アスカ氏との“稽古”の際や超級職転職後にマリアさんから受けたジョブクエストで多くの格闘系スキルをラーニング
お陰で未だに【武闘姫】のジョブレベルは五十にも届いていないので、今の私のステータスはカンスト<マスター>に毛が生えた程度…………その所為で超級職のスキルを使うと直ぐにSP・MPが枯渇するのが今の問題なのです。
一応、フェイと融合していればMPの方は何とかなるのですが、そもそもMP消費の格闘系スキルはあまり多くはないですからね。
「それでは、急いで追撃するのです」
『分かったよ』
そして、私はポーションを飲み終わった後、急いで空を蹴って相手が落ちた場所に向かって降りて行きました。
◇
そのまま私は《軽気功》と《フォロー・ウィンド》を駆使して地上に降り、先に地上に落ちた相手に追いつきました…………相手もこれ以上逃げるつもりはないのかこちらに相対しています。
…………外見は人間そのものですがその顔には表情というモノが無く、更にもう隠すつもりも無いのか頭の上には先程までには無かった【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】の文字がありました。
「さて、出来れば精神干渉を辞めてほしいのですが……」
「不可」
まあ、でしょうね…………しかし、地面に叩きつけられても【アニワザム】への精神干渉は途切れていないとは、あわよくばダメージで精神干渉を不可能に出来るかと思いましたが狙いが外れましたね。
「なら、仕留めさせてもらうのです! 《ライトニング・ストレート》!」
ことこうなれば倒すしかないと、私は《アクセル・ステップ》を使って超音速で接近して雷を纏った正拳突きを叩き込みます…………が。
「着装」
その雷を纏った拳は
「ッ!
そう、私が接近する直前に【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】は黒色のパワードスーツを身に纏い、それによって強化されたステータスでこちらの拳を受け止めていたのです…………しかし、相手も踏ん張っているとはいえバフをガン積みした私の攻撃を受け止めて、更に纏わせた電気も効果が少ないとは相当高性能なスーツですね。
…………直後、相手の受け止めている腕から“嫌な気”が私の腕に流れ込むのを感じとったのです。
『《スリープ・マインド》』
「《心頭滅却》!」
『《マインド・レジスト》《霊環付与》!』
強烈な眠気に襲われた私は即座に手を振り払って距離を取りつつ、自身に精神耐性バフと状態異常持続回復を掛けました…………お陰でどうにか眠気は飛びましたが、精神干渉を使ってくる事を考慮してフェイに対策を取って貰って置かなければヤバかったですね。
しかし、距離を取った私に対し、相手は追撃せずにただ右手の甲をこちらに掲げ……。
『
『KETEKETEKETEKETEKETE!!!』
『GOAAAAAAAAAA!!!』
その手にあった【ジュエル】から三本角の巨大なカブトムシ型モンスターと、二本角のこれまた巨大なサイ型モンスターを呼び出して来ました…………配下のモンスターは先程の【ライトニング・ガルーダ】だけでは無かったんですね。
「……これは厄介ですね」
私は目の前の強敵達をどう倒そうか思案しつつ、相手を迎え撃つ為に構えを取りました。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
末妹:レベルが上がらないのです……
・受けたジョブクエストは新しい【武闘姫】の力を示す為、アスカ氏と知己のあったティアン武闘家との試合とかだった。
・マリアさんから“ポッと出の<マスター>が超級職についた事の不満を逸らす意味もある”と事前に聞いていた為、末妹は<エンブリオ>の能力を封印して技術とジョブスキルのみで挑戦者を蹴散らして認めさせた。
《第六圏》:実は周辺のリソースを感知するスキル
・殆どの隠蔽スキルを見破れる非常に強力な感知スキルだが、感知するだけで識別は自分でやる必要があるので使いこなのにはある程度の訓練が必要になる(尚、アスカ氏は使いこなすのに半年ぐらいかかった)。
《フォロー・ウィンド》:風属性魔法
・自身の周囲に任意の方向から強風を吹かせるスキルで、主に移動補助に使われる。
《サイクロン・ターンキック》:【蹴士】系統のスキル
・風を纏った回し蹴りで相手にダメージを与えつつ吹き飛ばすスキル。
・末妹はこれ以外にもジョブクエスト時に上級職までの格闘スキルを多くラーニングしている。
ライザーさん:ハイレベルなドライビングテクニックを披露
アマンダ&サク&ボウ:<バビロニア戦闘団>新メンバーになった
名称:【闇食魔剣 ハティ】
TYPE:アームズ
能力特性:闇属性魔剣・追尾能力付与
到達形態:Ⅳ
固有スキル:《
・サク・ウッドベルの<エンブリオ>で、モチーフは北欧神話に登場する月を追いかける狼“ハティ”。
・《月食装填》は事前にMPを消費して自身が取得している闇属性魔法をストックし、それを必要な時にノータイムで解放するスキル。
・第四形態時でのスキルストック数は最大二十個で、ストック解放は
・《其れは月を追う狼》は魔法解放時MPを追加消費する事で、その魔法に対象への追尾能力・速度上昇・射程延長効果を付与するスキル。
・《グルーム・ストーカー》の様に元々追尾効果がある魔法には、速度上昇・射程延長効果のみを付与する事なども出来る。
名称:【光食魔剣 スコル】
TYPE:アームズ
能力特性:光属性魔剣・追尾能力付与
到達形態:Ⅳ
固有スキル:《
・ボウ・ウッドベルの<エンブリオ>で、モチーフは北欧神話に登場する太陽を追いかける狼“スコル”。
・《日食装填》は事前にMPを消費して自身が取得している光属性魔法をストックし、それを必要な時にノータイムで解放するスキル。
・第四形態時でのスキルストック数は最大二十個で、ストック解放は銃剣型の第二形態でのみ可能(近接用の第一形態もある)。
・《其れは日を追う狼》は魔法解放時MPを追加消費する事で、その魔法に対象への追尾能力を付与するスキル。
・ただし、光速の光属性魔法に追尾能力を付与しているので、燃費は悪く追尾効果もあまり高くない。
【ライトニング・ロックバード】:【アークブレイン】産の改造モンスター
・基本は純竜級AGI型の雷属性怪鳥だが、防御用のスキルとして【マグネトローべ】から得られたデータを元に作った搭乗者を巻き込まない仕様の《サンダー・カタラクト》を組み込んだ輸送・逃走用のモンスター。
・また、スキルを活かすために《危険察知》《殺気感知》などのスキルも高レベルで組み込まれている。
【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】:今回の任務の為にサポート用モンスターをいくつか与えられている
・【アニワザム】への精神干渉は【アークブレイン】の中継役として行っているので、本人を破壊する事でしか止められない。
・纏ったパワードスーツは【ホムンクルス用強化甲冑・TYPEマインド】と言い、精神干渉系スキルの戦闘使用保持のスキルや高い防御力・各種耐性・物理的ステータス補正を備えている。
・更に与えられていたレベル10の《操縦》スキルと《デクスタリティ・データリンク》により【アークブレイン】の
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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それぞれの戦い・中盤戦
それでは本編をどうぞ。
□アルター王国北部・クリラ村郊外 【
さて、あれから【魔鉱蚯蚓 アニワザム】との戦いが続いている訳だが…………現在は比較的こちら側に有利な戦況になっていた。
「《エメラルド・バースト》! 《ロングスロー》」
『『『──────────!!!』』』
まず、俺が【アニワザム】の周囲にいる防御用エレメンタル達を広範囲攻撃が出来る魔法や【ジェム】を投げつけて倒していく…………【アニワザム】本体には大して魔法が効かなくとも、その周囲の護衛エレメンタルを倒す事なら十分可能だしな。
そして、ある程度エレメンタルを倒したところで直ぐにその場を離脱し……。
『バルドル、斉射』
『
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!?』
そうやってエレメンタル達の防御が薄くなったところに、シュウさんが【アニワザム】本体に砲撃を打ち込む事でダメージを与えていく…………どうやら、アイツはシュウさんの砲撃の様に強力に物理攻撃を防ぐには、自身と護衛のエレメンタル達の防御魔法を併用する必要があるらしい。
なので、今のところはその繰り返しでアイツにダメージを与えられているのだ。
(召喚されたエレメンタルの半数以上は<バビロニア戦闘団>の皆さんや騎士団の人達の方に向かっているから、俺一人でもなんとか護衛エレメンタルを引き離す事が出来ているが……)
ちなみに<バビロニア戦闘団>のメンバーは流石に優秀で、本人達の技量と連携そして各々の<エンブリオ>の力もありエレメンタル達とも十分に戦えている。
一方、騎士団のティアン達は少し心配だったが、蓋を開けてみれば全員が魔物との戦いに特化した騎士系統のジョブに就いているのでエレメンタル相手の攻撃手段には困っておらず、リリィさんの指揮とそれぞれ鍛え抜かれた技量で問題なく戦えていた。
それに、シャルカさんから『連携は上手くいっているから、取り巻きのエレメンタル達相手なら遅れをとる事はない』という連絡(戦闘団の通信系<エンブリオ>によるもの)もあったし問題はなさそうだ。
「とは言え、あちらはすぐに片付けられる訳でもなさそうだったし…………こちらも
古代伝説級<
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』
「なっ⁉︎」
ヤツはいきなり雄叫びをあげたかと思うと、その巨体を勢いよく持ち上げて頭から地面に突っ込み、そのまま地面を掘削して地中に潜っていったのだ。
まあ、地中から出てきたんだから当然地面に潜る事も出来るのだろうが。
「不味いな、これでは攻撃が届かない」
流石に俺の魔法もシュウさんの砲撃も地中にいる相手にはどうしようもない…………一応、俺が覚えている地属性魔法には地中に攻撃出来るものもあるが、その程度では地属性魔法に特化した<UBM>には効かないだろうし。
さて、これまでのアイツの行動パターンからして、おそらく次に狙ってくるのは……。
「当然、自分にとって
『バルドル! 今すぐこの場から離れろ!』
そう考えた俺はシュウさんの元へと全力で【マグネトローべ】を走らせ、彼もそれに気がついたのかバルドルをその場から離脱させようとしたが、その巨体と無限軌道という移動手段故にそこまでの速度は出せない様だった。
そして次の瞬間、いきなりバルドルの下の地面が崩落してその船体の半分以上が地面に沈み、更にその地面が爪の様に変形してバルドルの船体に組み付いて身動きを封じたのだ。
…………俺はどうにかシュウさんの元へとたどり着いたが、他の人達はエレメンタルの相手で手一杯の様だった。
『チッ! 地属性の拘束魔法か!』
「地面がいきなり陥没したのは……ああ、
以前に調べた情報によると【アニワザム】は鉱物を食べるモンスターであるらしく、それならば地中の土などを食べてある程度減らしつつ地属性魔法で陥没させるぐらいは訳ないだろう。
…………そして、“食べられた”という事はそこにヤツがいるという事であり……。
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』
直後、バルドルのすぐ後ろから【アニワザム】が勢いよく地中から飛び出して来た…………不味いな、身動きが取れない今のバルドルはただの的だ。
…………加えて、ご丁寧にもバルドルの各砲塔にも土が絡み付いてその動きを封じている。
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』
『『『『『──────────────────ー!!!』』』』』
更に【アニワザム】は即座に大量のエレメンタルを召喚して俺とシュウさんに差し向けて来た…………しかし、あのエレメンタル達これまでのモノよりかなり速度が速い上に魔法も放たず一直線に突撃して来ているな。
…………まさか⁉︎
「《バラージ・スロー》!」
嫌な予感がした俺は、慌てて取り出した【エクスプロージョン】【スチーム・エクスプロージョン】【エメラルド・バースト】の各種広範囲魔法入り【ジェム】三つを投擲してした。
放たれた三つの【ジェム】は計算通り、こちらに高速で向かってくるエレメンタル達とすれ違う直前に爆発し…………それに巻き込まれたエレメンタルは
「やっぱり
そいつらはエレメンタルの中でも希少な自爆能力を持ったヤツらだった…………攻撃に巻き込まれたヤツが爆発したところから、おそらく任意だけでなくHPがゼロになっても爆発する仕様なんだろう。
幸い、俺は召喚出来るモンスターの中に《エクスプロード・エレメンタル》が居たから気づけて対処出来たし、それを見てシュウさん達も気が付いた様だ。
『チィ! やっぱり砲撃は効かんか!』
「数が多くて撃ち落としきれませんね」
だが、どうやら自爆エレメンタルにも《精霊体》による物理攻撃無効を持っており、それらをこちらよりも遥かに多く差し向けられた所為でシュウさん達でも迎撃しきれない様だった…………そして、それらの自爆攻撃はバルドルの砲塔を集中的に狙っており、その多くが破壊されるなどかなりのダメージを受けていた。
…………だが、追撃出来るタイミングにも関わらず、攻撃が終わった後に【アニワザム】は再び地中に潜っていった。
「このタイミングで地中に? 反撃を警戒したのかね?」
『それ以外にも何か目的がありそうだが…………とりあえずレント君、一旦バルドルの形態を変えて拘束から抜け出すから、ちょっと相乗りさせてほしいガル』
「私もお願いします」
流石に二人は載せられないんだが…………止む終えずエフさんを後ろに乗せて、シュウさんは俺が片手持ちにするというやや無茶な方法で運ぶ事になった。だってシュウさん着ぐるみ着てる所為で後ろに乗せにくいし……。
…………まあ、バルドルの形態を変える際は一時的に動けなくなるらしいシュウさんを近くの地上に運ぶだけだからこれでも問題は無いんだが。
「それでシュウさん、バルドルのダメージはどれぐらいで?」
『砲塔がかなり潰されたし、船体にもダメージがけっこうあるから巡洋艦での全力戦闘は難しいガル』
うーむ、ヤツに対して数少ない有効打が打てたシュウさんのバルドルがそれだとキツイか…………そう考えていた時、クリラ村がある方角から
『…………エフ、どうせ向こうの状況も見てるんだろ。何があった?』
「…………見えた範囲だと、この音はミカさんが【ギガキマイラ】を殴った所為で起きた音の様です」
「ああなるほど、奥義を使ったか」
ミカの奥義を食らったのなら如何に古代伝説級<UBM>であっても一溜まりも無いだろう…………アイツの必殺スキルはデメリットがキツイ分反則的な性能だからな。
…………その後、エフさんからの追加報告でミカのデスペナルティ、及び封竜王さんとフォルテスラさんがこっちに向かっている事、そしてミュウちゃんが精神干渉の大元の相手と交戦を開始した事を伝えられた。
「とりあえず、この事を伝える為にシャルカさん達と合流しませんか? …………どうも相手は
『まだ出てこない以上はそういう事なんだろうな…………
「私としては、希少な取材対象を観察出来る時間は長いに越した事は無いので有難いのですがね」
エフさんのブレ無さに俺とシュウさんは揃って白い目を向けつつ、そのままシャルカさん達と合流する為に移動していった…………【ギガキマイラ】が倒され、精神干渉の術者が補足されたにも関わらず時間を掛けようとしている黒幕の思惑は分からないが、今はそれを考えている余裕は無いしな。
◇◇◇
□クリラ村周辺・森林部 【
『──────』
『KETEKETEKETEKETEKETEKETE!』
『GAOOOOOOOO!』
今、私の目の前にはパワードスーツを着た【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】と、その配下の【トライホーン・ストライクビートル】【デュアルホーン・ライノセラス】が今にもこちらに襲いかかろうとしています。
また、先程村の方から轟音が聞こえて来たのでおそらく姉様が敵を倒したのでしょう…………ですが、兄様の方はまだでしょうし、なるべく早く精神干渉の術者であるホムンクルスを仕留めねばならないのですが……。
『──行け』
『KETEEEEEEEEE!!!』
『GAOOOOOOOO!!!』
そうホムンクルスが指示を出すと同時に【ストライクビートル】と【ライノセラス】がこちらに突っ込んで来ました…………仕方ない、とりあえずこの二体を倒しますか。
…………と、思ったその時、私の目は突撃する二体の隙間を超高速で縫ってこちらに迫る
『《スネーク・エッジ》』
「ッ⁉︎ 《硬気功》!」
私は慌ててスキルで自分の手を硬化させた手刀で打ち払いました…………払ったそれをよく見ると、沢山の刃が紐で繋がれた所謂“蛇腹剣”というやつで、それはホムンクルスが来ているパワードスーツの右手甲部分から伸びていました。
幸い《硬気功》を使っておいたお陰で、ダメージは手に僅かな切り傷を負う程度で済み…………直後、私の身体はまるで
「こ、れはっ!」
『KETEKETEEEEEEEEE!!!』
その致命的な隙を相手が見逃す筈も無く、突撃していた【ストライクビートル】が背中の羽を広げて更に加速し、その三本のツノでこちらを串刺しにしようとしてきました。
…………私の動きを止めた状態異常──おそらく精神系の【恐怖】──は《霊環付与》の効果で直ぐに回復しましたが、その時にはツノが私の直ぐ目の前にまで迫っていて回避は間に合わず……。
『《エアロ・ハンマー》!』
『KETEEEEEEEEE⁉︎』
そうして迫っていた相手を、私と融合しているフェイが放った暴風が吹き飛ばしました…………突っ込んでくる連中を迎撃する為に準備しておいた風魔法が役に立って良かったのです。
…………どうやら厄介な事に、あのホムンクルスの攻撃で僅かでもダメージを負うと状態異常にかかってしまう様ですね。
『GAOOOOOOOO!!!』
「《ファントム・ステップ》」
そう考えている間にも残った【ライノセラス】が突撃して来たので、幻影を囮にしつつ回避し……。
『《チェーン・ケージ》』
その回避直後の隙を狙いホムンクルスが
…………傷一つでも負ったら状態異常を食らって切り刻まれるであろう、その刃で出来た檻に対して私は……。
「《瞬間装着》! 疾ィッ!!!」
『────!』
咄嗟に爪付きの手甲である【外装地竜の爪手甲】を装備して、全方位から立て続けに襲い掛かる剣尖をその手甲の爪部分で打ち払い、そうして無理矢理作った包囲の隙間から離脱する事で難を逃れました…………やはり、傷さえ負わなければ状態異常を食らう事も無い様なので、武器などで打ち払うか受け流すかするのが正解の様ですね。
…………ラーニングした【
『KETEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!』
何とか凌いだのも束の間、吹き飛ばされた【ストライクビートル】が体勢を立て直してこっちに突っ込んで来たのです…………しかも【ライノセラス】もこちらに向かって来ていますし、ホムンクルスは遠間からこちらが隙を見せるのを待っていますね。
…………ですが、さっきから使っている《第六圏》にはこちらに向かってくる
『《
『KETEEEEEEEEEEEEEEEEE⁉︎』
まず、突撃して来た【ストライクビートル】の横合いからライザーさんが超音速に迫る速度の飛び蹴りを叩き込んで、相手の身体をへし折りながら吹き飛ばしました。
そしてよく見ると、彼のスーツには先程乗っていたバイクの意匠がある追加パーツが付いていました…………お約束の
「解放《グリント・パイル》!」
「解放《ダークネス・ジャベリン》!」
『GAAAAAAAA⁉︎』
そして、あちらの【ライノセラス】の方にはサクさんとボウさんの放った、それぞれ三本の闇の槍と太いレーザーが突き刺さりました。
「べフィ! 行くよ! 《ブースト・スティンガー》!」
『GAAAAAAA!!!』
『GOOOOOO⁉︎』
それで怯んだ隙にアマンダさんの槍撃とべフィちゃんの体当たりが直撃して、そのまま吹き飛ばされて行きました。
…………皆さんがこのタイミングで援軍に来てくれたのは有り難いですね。何せ……。
「…………お陰で距離を詰められました」
『ッ!?』
彼等の行動にホムンクルスの目が向いたお陰で、私が《気圏合一》で姿を消してヤツに接近する事が出来たのですから…………突如現れた私に相手はほんの僅かに動揺しただけで即座に対応しようとしました。
「《真撃》《粉砕拳》!」
ですが、私にとっては【
…………その一撃は狙い通り相手の心臓を打ち抜く……。
「……ダメですか」
『────!』
事は無く、ただ相手を吹き飛ばしただけに終わりました…………どうやら、ただスーツが硬いだけで無く何か
…………《第六圏》で探ってみると、どうやらダメージを受けた時に右手の【ジュエル】から何かの“気”が出ている様ですが……。
「あれは確か
おそらく【ジュエル】内に入っているモンスターにダメージを移し替えたのでしょう…………どうりで、最初から攻撃しても大してダメージを負った様子が無い筈ですね。
…………そう考えていると、ライザーさん達にやられた二体の様子がおかしい事に気付きました。
『KETEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!』
『GOAAAAAAAAAAA!!!』
『ッ⁉︎ こいつらあれだけのダメージを受けてまだ⁉︎』
「……いや、こいつら
「「マジで⁉︎」」
どうやら、あの二体はご丁寧にも再生能力に特化したモンスターだった様ですね…………先程ライザーさん達が負わせたダメージも殆ど回復していってます。
とりあえず、彼等と合流して情報を共有しておきましょう。
『…………成る程、そういう事か』
「強力な精神干渉に超音速機動、おまけに《ライフリンク》による耐久力とは……これは仕留めるのに時間が掛かりそうだねぇ」
「精神干渉に対しては私の必殺スキルによるバフが掛かっている間は大丈夫でしょうが……」
問題は
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄&ニーサン&エフ:実は残り【ジェム】や砲弾が結構キツイ
・尚、エフは珍しい状況を三つも『取材』出来ているので機嫌が良くかなり協力的。
【魔鉱蚯蚓 アニワザム】:古代伝説級<UBM>の本領発揮
・召喚出来るエレメンタルには通常型・砲台型・自爆型・格闘型・防御型などいくつもの種類があり、大量のMPを使って強力なエレメンタルを召喚するなどの応用も可能。
・地面に潜っているのは鉱物を捕食する事による蓄積MP回復と、操っている【アークブレイン】が『
末妹チーム:相手が思った以上に強く苦戦中
・サク&ボウ兄弟の魔法装填スキルは『発動した魔法をスキルでストックする』ものなので、《魔法多重発動》などのスキルを使って拡張された魔法をそのままストックする事も出来る(ただし、一つのストックにセット出来る魔法の総MPには上限がある)。
【外装地竜の爪手甲】:《グランド・メイル・ドラゴン》の素材で作られた手甲
・装備枠は腕部で高い装備攻撃力・防御力を持ち強度も高いが、スキルは《破損耐性》と爪部分を任意で出し入れ可能にする《伸縮爪》のみ。
・爪をしまった状態なら通常の格闘スキルも使える汎用性の高い装備だが、そこそこ重量があり腕部の動きが少し制限されるので末妹は普段使いしていない。
《エアロ・ハンマー》:【翆風術師】のスキル
・物理的攻撃力を持つ暴風を指向性を持たせて叩きつける風属性魔法。
・威力自体はそこまでではないが、発生が早く相手を吹き飛ばす事も出来るので近接戦では使いやすい。
《硬気功》:短時間肉体のENDを上げるスキル
・特定の部位のみに使う事でENDの上昇率を上げる事も可能。
《粉砕拳》:【粉砕王】のスキル
・効果は『殴った対象の元々の防御力をゼロにする』という《粉砕波動拳》の近接・簡易版。
《ダークネス・ジャベリン》:【暗闇術師】のスキル
・闇属性の槍を飛ばして攻撃する魔法で、闇属性魔法の中では速度が速く射程も長いので使いやすいスキル。
《ブースト・スティンガー》:【剛槍士】の奥義
・STRを大幅に上昇させ上で槍による刺突を放つスキル。
【トライホーン・ストライクビートル】【デュアルホーン・ライノセラス】:壁役兼身代わり役
・ステータス的にはHP・END特化の純竜級で、攻撃系のスキルを持っていない為に突撃ぐらいしか出来る事の無いモンスター。
・だが、お互いが近くにいる限り相互にダメージを超高速で回復し続けるパッシブスキル《相互互換自動回復》のスキルを与えられており、それ以外にも各種防御スキルを有しているので非常に倒しにくい。
【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】:戦術は時間稼ぎ特化
・精神系スキル以外にも蛇腹剣の各種スキルや《ライフリンク》を与えられている。
・スーツに付けられた蛇腹剣には、与えたダメージに応じた強度で自身の精神系状態異常スキル効果を対象の耐性を無視して与えられるスキルが付いている。
・蛇腹剣による状態異常はスーツによる自動発動であり消費MPも少ないので、【アニワザム】の制御に殆どの精神干渉能力を費やしている状態で戦闘を行う為の装備でもある。
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古代伝説級・その本領
それでは本編をどうぞ。
□アルター王国北部・クリラ村郊外 【
とりあえず、俺とシュウさんとエフさんは<バビロニア戦闘団>と騎士団に合流し、情報共有などを済ませてから【アニワザム】との戦闘を続行したのだが…………先程までと違い、今の戦況はかなり不利な感じになっていた。
…………ちなみに、相手がやってきた戦術は単純なもので……。
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』
『『『『『──────────!!!』』』』』
「ッ! またエレメンタル達が来るぞ!」
こちらの攻撃が届かない地中を移動しながら、ある程度距離を取ったところで顔を出して大量のエレメンタルを召喚してこちらに嗾けるというものである…………更に召喚されたエレメンタルの半分近くが自爆型なので、その内一体でも通してしまうとかなりの被害が出てしまうのだ。
「遠距離攻撃が出来るメンバーは自爆型を優先的に狙え! 近接型はそれ以外を! 自爆型には近付くなよ!」
「グランドリア卿、“累ね”で行くぞ! 他の団員も可能な限り自爆型を削れ! 《グランドクロス》!」
「「「《グランドクロス》!」」」
『『『『『──────────!?』』』』』
今のところは個々の実力とシャルカさんやリリィさんの指揮でどうにか凌いでいるが、このままのペースだといずれMP・SPとかが持たなくなって息切れするだろうな。
…………そして、そんな状況で俺が何をしているのかと言うと、
(今は他に飛行出来る人間が居ないし、地上から行くと大量のエレメンタルと【アニワザム】自身の地属性魔法に阻まれるからな)
他にもヤツの対空迎撃魔法攻撃を潜り抜ける為には、俺の《
…………とはいえ、空を飛べるのは俺一人だが
「こちらレント、目標に到達したぞ」
『はい〜、こちらでも確認しました〜』
俺が虚空に向けて発した言葉に念話で返答してくれたのは、<バビロニア戦闘団>のメンバーの一人、シエスタ・テイクアレストさんである…………彼女は【フリズスキャールヴ】という玉座型<エンブリオ>を持っており、それに座っている間
そのお陰で【アニワザム】が地中から出て来る場所やタイミングを先読み出来たので、俺はヤツに接近出来たのだ。
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』
『『『──────!!!』』』
「おっと、気付かれたか」
とはいえ、向こうにも索敵能力はあるので俺がある程度近づいたところで気付き、迎撃の為に高高度を飛行可能な風属性エレメンタルを差し向けて来た…………だが、向こうに戦力を割いている分呼び出された数は少ない様だな。
「シエスタさん、向かって来るエレメンタルは任せていいんだな?」
『はい〜、お任せ下さい〜……《ホワイト・フィールド》〜』
『『『──────⁉︎』』』
直後、こちらに向かって来た【ウィンド・エレメンタル】達の中心部分から強力な冷気が吹き出して敵が白い霧に覆われた…………どうやら、彼女の【フリズスキャルヴ】にはスキルを遠隔発動出来る能力もあるらしい。
そして、霧が晴れて敵が居なくなったのを確認した俺は、そのままヤツの迎撃魔法の射程距離ギリギリまで接近しつつ、アイテムボックスからいくつかの【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】を取り出した。
「さて、どこまで効くかな……《フォローウィンド・スロー》《電磁加速》!」
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』
そうして可能な限り接近した俺は、相手が迎撃の為の魔法を使う直前に手に持った【ジェムー《クリムゾン・スフィア》】を《フォローウィンド・スロー》──投擲物に強風を纏わせる事で速度・飛距離を上昇させるオリジナルスキル──を使って投げつけた…………そして、すぐに《電磁加速》を使ってその場を離脱した。
…………その後、後ろからいくつかの爆発音はしたので投げつけた【ジェム】は全弾命中した様だが……。
『効果はあんまりなさそうですね〜。魔法耐性高すぎないですか〜』
「後、巨体だから単純にHPが多いのと……多分、回復魔法も使ってるんだろうな」
それに俺やシュウさんが先程負わせたダメージも回復しているみたいだしな…………やはり、大ダメージを与えられる攻撃を頭部に集中させるとかして一気に削り倒すとかしないとダメか。
…………一応、俺にも物理的に大ダメージを与える方法はあるが一回きりだしな、他の人達だとそもそも近づくのが難しいし……。
『あっ! レントさん後ろです〜!』
「む……チィ!」
そんな時、突如シエスタさんが焦った声で警告して来たので後ろを向くと…………そこには後方から一体のエレメンタルが亜音速以上の速度でこちらに向かって来ていたのだ。
『──────────!!!』
「【ハイ・アトモス・エレメンタル】だと⁉︎」
そいつは身体を火・風・雷・光で構成された
「クッ! 《ロングスロー》!」
『──────────!!!』
俺はその攻撃を回避しつつ反撃に【ジェムー《スチーム・エクスプロージョン》】を投げつけるが…………それに対してヤツは光の槍を【ジェム】に放ち
その結果、内に込められていた魔法が解放されて水蒸気爆発が起こり、それによって発生した衝撃波がこちらにも届いてしまった所為で俺はバランスを崩してしまった。
「コイツ! 能力だけじゃなく技量もこれまでとは比べ物に……ッ⁉︎ 《瞬間装備》《ウェポン・ブレッシング》!」
『────────────────!!!』
どうにか態勢を立て直した所で《殺気感知》と《危険察知》に反応があったので、俺は直ぐに短剣を取り出して対エレメンタルの付与を掛けた…………直後、衝撃波を回避しながら接近して来た【ハイ・アトモス・エレメンタル】が片腕を雷の剣へと変形させて、こちらに斬りかかって来たのだ。
…………どうにかその斬撃自体は短剣で防ぐ事は出来たが、接触した際に短剣を通して流れてきた電流を防ぐ事が出来ずに僅かなダメージと【麻痺】を食らってしまった。
『──────!!!』
「グゥッ⁉︎ 【ブローチ】が!」
幸い身体の痺れ自体は短時間で解けたが、その隙にヤツはもう片方の腕を光の剣に変形させて俺を袈裟切りにした…………その一撃は【救命のブローチ】で凌いだが、クールタイム中で《電磁加速》が使えない現状では距離を取る事すら難しい。
…………その間にもヤツは距離を詰めて両手の剣を振るってきた
『《アイス・バインド》〜!』
『──────⁉︎』
だが、その剣がこちらに届く直前、シエスタさんが氷属性の拘束魔法を遠隔発動させてヤツの動きを僅かに止めてくれたお陰でどうにか距離を取る事が出来た。
「助かった! 《魔法発動加速》《ハイドロ・スプラッシャー》!」
『────!!』
すぐさま俺は魔法による高圧水流をヤツにぶつけて吹き飛ばした…………だが、ヤツは大したダメージを受けた様子もなく即座に態勢を立て直し、そのまま天属性の各種魔法弾を大量に放ってきた。
…………ええい! 先程までの特攻前提エレメンタル達と違って耐久力も高いし、ここで確実に空を飛べる俺を落とす気かね。
「《魔法多重発動》《ボルテクス・ジャベリン》!」
『《ヘイル・ストーム》〜!』
『──────────────!!!』
それらの魔法弾をどうにか回避しつつ反撃に水流の槍を射ち放つが、彼我の攻撃頻度が違いすぎてどうにか牽制になる程度である…………シエスタさんが氷属性広範囲攻撃魔法で弾幕をある程度相殺してくれていなければ既にやられていただろう。
『──────!!!』
「また接近戦か! これでは逃げ切れんか!」
そしてヤツは魔法弾で仕留め切れないと判断したのか、再び風を纏ってこちらに接近してきた…………自由自在に飛べるあちらと違って、コッチは騎乗しながら空を走っている訳だから機動性が大分劣っているからな。
一応、騎兵系スキルを併用して直線的な速度を互角に持ち込んでいるからどうにか逃げられているが、このままではもう一度捕まってしまうだろう。
…………そう思っていたのだが、どうやら向こうが考えていた戦術はもう少し
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』
『『『『『──────────!!!』』』』』
「あれは【アニワザム】⁉︎ ……それに【ウィンド・エレメンタル】か⁉︎」
俺が空を走っているといきなり前方地中から【アニワザム】が現れ、更に十数体の【ウィンド・エレメンタル】を召喚してこちらに向かわせて来たのだ…………どうやら、こちらの逃げ道を塞ぐ為に回り込んで来たらしい。
…………そして、更に悪い事は続いた。
『ちょ〜⁉︎ ……ごめんなさい〜! こっちにも強力なエレメンタルが……』
「シエスタさん⁉︎ ……援護は期待出来ないか」
そんな言葉と共にシエスタさんからの連絡が途絶えたので、どうも【アニワザム】は向こうにも上位エレメンタルを送り込んで来たらしい。
今まである程度戦えていたから、古代伝説級<
「…………止む終えん、覚悟を決めよう」
正直言って状況はほぼ詰んでいるが、幸い既に《電磁加速》のクールタイムは終わっているそう、前方の【ウィンド・エレメンタル】を無理矢理潜り抜けて【アニワザム】へと
…………そう考え、俺は短剣の代わりに槍を取り出して【アニワザム】に向き合い突撃を仕掛け様として……。
『それは少し早いな……《竜気結晶・槍波》』
『『『『『────────⁉︎』』』』』
直後、俺を取り囲んでいたエレメンタル達に向けて
攻撃が放たれた方向を見ると、そこには紫色の巨大なドラゴンがおり、その頭上には【封竜王 ドラグシール】の文字があった。
「封竜王さん! 助かりました!」
『ああ、こちらこそ遅れてすまなかったね。…………さて、あちらは少し手強い様だな』
『──────────!!!』
そう言って封竜王さんが目を向けた先には、先程の攻撃を全て回避していた【ハイ・アトモス・エレメンタル】の姿があった。
…………そのままヤツは両手の剣を振りかぶり、封竜王さんに向かって突撃を仕掛けるが……。
『生憎、
『──────⁉︎』
それよりも早く、先程放たれた水晶が起動を変えて宙を動き【ハイ・アトモス・エレメンタル】を360度全方位から包囲してその動きを封じ込めた。
『《竜晶封印》……砕けろ』
『────…………』
更に、それらの水晶が一斉に【ハイ・アトモス・エレメンタル】に纏わりついてヤツを内側に取り込んだ一つの水晶塊へと変形した…………そして封竜王さんが一言呟くと、その水晶は中に閉じ込められていたヤツ諸共砕け散った。
…………俺が詰んでいると思った状況をあっさりと覆した封竜王さんは、そのまま【アニワザム】の方向に飛んで行った。
『さて、そちらも随分やる気の様だな……《竜気障壁》』
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』
接近する封竜王さんに対して【アニワザム】は咆哮を上げると共に大量のエレメンタルを召喚・攻撃させつつ、上級職の奥義に匹敵する威力の攻撃魔法を連射するが…………封竜王さんはシールド状に変形させた《竜王気》を前方に展開してそれらの攻撃を全て防ぎきったのだ。
だが、それによって封竜王さんの足が一時的に止まってしまっており、その隙にヤツは口内に
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』
『むっ……成る程、肉体に付けているエレメンタル達と魔力を同調させての《ユニゾン・マジック》か。【
そう言いながら、封竜王さんも身体に力を溜めて迎え撃つ姿勢を取る…………尚、嫌な予感がした俺は慌てて封竜王さんの後ろに移動した。
…………そして、両者のスキルがほぼ同時に発動した。
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!!!』
『《竜気障壁》対炎熱特化《竜気結晶・壁》変形・並列展開!』
そうして【アニワザム】は口内に限界まで蓄えられた光球を超超高熱の白色熱線としてこちらに発射した…………それに対して封竜王さんは大量の《竜王気》を前方に展開した上で四角錐型の水晶に変化させ、更にそれの表面に《竜王気》を纏わせて盾とした。
…………そして、放たれた白色熱線は四角錐型水晶の盾にぶつかり
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!?』
『まあ、正面から防げない威力なら受け流してしまえばいいだけだからな。…………再形成』
何の事も無い様にそう言ってのけた封竜王さんは融解している四角錐型水晶を四つに分解して、それらを先程放った物の数十倍の大きさがある槍へと変形させた。
『おそらく操られているであろう貴様に同情する気持ちが無い訳では無いが…………これでも“竜王”の名を戴いているんでな、売られた喧嘩は全力で買わせてもらう。《竜気結晶・槍波》』
『!? ⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!』
そして、それらの槍を超高速で【アニワザム】に向けて射出した…………それに対してヤツは前方の地面を隆起させて壁にする事でその内の三本までを防いだが、最後の一本は防ぎきれずにその身体に突き刺さった。
…………だが、威力は落ちていたのかヤツはその槍を振り払って、そのまま地中へと潜っていった。
『逃げられたか、やっぱり私は火力に欠けるな。…………大丈夫かい? レント君』
「助かりました封竜王さん。…………それにしても古代伝説級<UBM>って凄いですね」
というか【アニワザム】の方も今までのエレメンタル召喚は完全に舐めプだったみたいだしな…………やっぱり古代伝説級<UBM>ってヤバイ。
『まあ、これでも“竜王”の一人だからね。…………とは言え、分かってはいたがアイツを倒すには私だと火力が足りないな。操られている以上はまた仕掛けてくるだろうし』
「封印とかは出来ないので?」
『そもそも封印術は事前準備や重いコストが必要な技術で戦闘向きでは無いからね。【ギガキマイラ】を封印出来たのは
そういった封竜王さんはどこか遠い目をしていた…………おっと、とりあえずシエスタさん達の様子を確認してみるか。
「あ〜もしもし、シエスタさん聞こえる?」
『あ、は〜い、聞こえてます〜。大丈夫だったみたいですね〜」
「封竜王さんが来てくれたお陰でどうにか。そっちはどうなんだ?」
『コッチはウチのオーナーが来てくれた事と〜、上位エレメンタルをハンマーで殴り潰した着ぐるみさんのお陰で何とか戦えてます〜。…………それでもまだ戦闘中なので〜、コッチに援護に来られます〜?』
どうやらフォルテスラさんも来てくれた様だが、あちらはまだ予断を許さない様だ。
「封竜王さん、俺はこれからあちらの方に行くつもりなのですが……」
『もちろん私も同行しよう。…………キミ達には私の長年の懸念を解決してくれた恩があるからね、最後まで手伝うとも』
そう言ってくれた封竜王さんと共に、俺は<バビロニア戦闘団>と騎士団達が戦っている場所に向かったのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:ふぇぇ……古代伝説級<UBM>しゅごい……
・【アニワザム】が本気を出していない事には気付いていたが、その実力をやや甘く見ていたので反省中。
シエスタ・テイクアレスト:<バビロニア戦闘団>メンバーの一人
・間延びした発言が特徴の少女で戦闘団では<エンブリオ>の特性を活かした支援・通信役。
・面倒くさがりな性格だが判断力が高いので、オーナー・サブオーナーからは『部隊長とかやってくれないかな』と思われている。
【信託玉座 フリズスキャールヴ】
TYPE:ワールド・アームズ
能力特性:神託・広域索敵
到達形態:Ⅴ
固有スキル:《
・シエスタ・テイクアレストが有する椅子型特殊装備品の<エンブリオ>で、モチーフは北欧神話の主神オーディンが有する全世界を視界に収められる高座“フリズスキャールヴ”。
・《全視の玉座》は自身を中心とした広域を索敵出来るアクティブスキルで、更に自身の視覚を索敵範囲内の任意地点に配置したり、範囲内でなら視覚・魔法系スキルを遠隔発動させる事が出来る。
・だが、通常の索敵は識別制度が低く物体の位置情報・生物・非生物・動体ぐらいしかわからないので、詳細な索敵は《看破》《鑑定眼》などを遠隔発動させる必要がある。
・《神座からの啓示》は《全視の玉座》の範囲内に居る対象と念話を行うアクティブスキル。
・自身から他者に念話を送るのは無条件で可能だが、他者から自分、又は他者同士の念話を行うには事前登録が必要になる(自身のパーティーメンバー、クランメンバーは自動登録で、それ以外は個別登録)。
・《観座にある主神》は自身のMP・SPを自動回復し、視覚・魔法系スキル効果を上昇させるパッシブスキル。
・ただし、これらのスキルは【フリズスキャールヴ】に座っている状態でのみ効果を発揮し、更に一度配置した場所から【フリズスキャールヴ】を動かす事は出来ず紋章にしまった場合一時間は再展開出来ないデメリットがある。
・なので、普段は他のメンバーが持つチャリオッツ系<エンブリオ>の上に配置して弱点を補うスタイルを取っている。
《ヘイル・ストーム》:【白氷術師】のスキル
・指定した範囲内に吹雪を発生させて、その中で乱舞する氷塊と【凍結】の状態異常で攻撃する魔法スキル。
【魔鉱蚯蚓 アニワザム】:封竜王が来たので本気モード
・ちなみに洗脳されておらず本気ならば、現在の兄・シュウ・エフを瞬殺出来る程度には強い。
・上位エレメンタルの召喚には膨大なMPとそれなりに長い時間がかかるので地中に潜っている間に済ませている。
・白色熱線魔法スキルは《ハイパーブレイズ》と言う名前で《恒星》を上回る威力がある超熱線だが、消耗した現在の状態だと連発は不可能。
・尚、封竜王が五百年かけて作った陣地を破壊する為に蓄積されたリソースを消費していなければ、上位エレメンタル大量召喚からの《ユニゾン・マジック》連発なども出来た模様。
【ハイ・アトモス・エレメンタル】:【アニワザム】の虎の子である上位エレメンタル
・近接・機動戦様に調整されており各種天属性魔法による弾幕とエネルギーブレード、及び風属性の高速移動魔法を駆使するスタイル。
・総合能力は伝説級モンスターに匹敵するが、古代伝説級の【封竜王】には一蹴された。
【封竜王 ドラグシール】:先々代【龍帝】頭おかしい(断言)
・昔、先々代【龍帝】と遭遇した事があり、その時に見た《竜王気》の操作技術や封印術を参考に技術を修練したり、新しいスキルを作ったりしていた。
・ただし、本人曰く『自分の技術・スキルは“アレ”と比べれば劣化模造品と言うのも烏滸がましいレベルでしかない』との事。
・《竜晶封印》は《竜気結晶》で覆い尽くして封印するスキルで、彼が最も得意としている封印術であり伝説級モンスターすら封印可能。
・更に各種封印術を上乗せしたり、相手が弱いならそのまま砕いて即死させたりも出来る。
・ちなみに超音速移動が出来るのに到着が遅れたのは、【アニワザム】と戦うために村の陣地に使用していた《竜気結晶》の残りを自らのMPに還元して回復していた事と、自身が向かったら相手も本気を出してくると読んでいたから。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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其の命脈を断て
それでは本編をどうぞ。
□クリラ村周辺・森林地帯 【
実に厄介な特性を持っている事が分かった【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】一派を相手に戦ってからしばらく、現在私達はかなりの苦戦を強いられていました。
…………そして、私は現在
『《ダンシング・ヴァイパー》』
「《エンチャントアーム・ウィンド》せいっ!」
まず、ホムンクルスがその両手の蛇腹剣を超高速で乱舞させてこちらを切り刻もうとして来ますが、私は両手に風を纏わせる《エンチャントアーム・ウィンド》──腕部格闘系スキルに風属性を付与する【魔拳士】系統のスキル──を使った上でそれらの刃を横から打ち払う様にして弾き飛ばしていきます。
『《ヒート・ジャベリン》!』
「《ファントム・ステップ》!」
『対魔法障壁展開。《バインディング・エッジ》』
そうしている内に準備を終えたフェイが炎の槍を放ち、私はその隙に距離を詰めようとしました…………が、相手はアーマーのスキルと思わしき障壁で炎槍を防ぎ、更に反撃としてこちらを捉える様な動きで蛇腹剣を放ち足止めを測って来ました。
「《ウィングド・リッパー》!」
私は止む終えず足を止めて、その蛇腹剣を手甲の爪から放った斬撃波で叩き落しました…………と、こんな感じの攻防を今まで続けているのです。
…………ちなみに他の人達は【ストライクビートル】と【ライノセラス】を押さえ込んでおり、どれだけ回復能力と防御能力が高くとも基本的に突撃以外の攻撃手段が無い相手なので問題無く押さえ込んでいるのですが……。
「やっぱり俺たちも援護した方が……」
「アレを完全に捌けないアタシらじゃ、
「魔法も防がれるしな……」
『全く、我ながら不甲斐ない!』
そう、私達と相対したホムンクルスは初手で【魅了】効果付きの蛇腹剣で攻撃して来たのです…………あの蛇腹剣はライザーさんのスーツすらあっさり切り裂く程に攻撃力が高く、上手く受け流している筈の私ですら【外装地竜の爪手甲】にもいくつか傷を付けてしまう有様です。
更に、凄まじい
…………その為、最初は蛇腹剣を捌ききれなかったライザーさんやアマンダさんが【魅了】されて私に襲い掛かって来たり、サクさんボウさんの魔法が私に放たれたりして不利な状況になってしまったのです。
(幸い、必殺スキルの効果で《霊環付与》の効果が皆さんにも適応されているので【魅了】は直ぐに回復するのですが…………こんな乱戦では五秒も味方が寝返った状態だと戦いにならないのです)
特にサクさんボウさんが【魅了】されるとノータイムで追尾式魔法を撃ってくるので非常に厄介なのです…………その為、二人にはそれぞれの<エンブリオ>を近接用のエネルギーブレード状態を主体にして戦って貰ってます。
…………そう言う訳で、他の皆さんには一旦離れた所であの二体の抑え役をやってもらい、まずは私が一対一でホムンクルスと戦ってその手札を明らかにする戦術で行く事にしたのです。
(急いで倒したいのは山々ですが、焦ってやられては意味がないですからね。…………まあ、向こうも時間稼ぎが目的の様なので、敢えてこちらの思惑に乗って一対一で戦っている様なのは問題ですが)
つまりは完全に向こうの良い様に動かされている訳で…………《気圏合一》による奇襲も一度見せた後では通じないでしょうし、正面から突破するしかありませんか。
「…………まあ、このままではどうしようもないですし、色々やってみましょうか。《バックステップ》」
『了解、《ミラクル・ミキシング》《エメラルド・バースト》イン《粉砕波動拳》』
『……警戒《スネーク・エッジ》』
私が後方に距離を取ると相手は警戒しながら牽制の蛇腹剣を放って来ました…………やはり、先程《粉砕波動拳》を一度見せたからか、その攻撃範囲を分かった上で撃たれても確実に回避出来る様に立ち回って来ましたね。
…………ですが、
「《粉砕波動拳》!」
『⁉︎ 防御結界展開!』
私は放たれた蛇腹剣を片手で打ち払いつつ、もう片方の拳からヤツに向けて広範囲を吹き飛ばす豪風を炸裂させた…………相手には私と融合しているフェイの声は聞こえませんからね。《ミラクル・ミキシング》で魔法スキルを融合させているとは気が付かなかった様です。
そして、広範囲風属性攻撃魔法である《エメラルド・バースト》と防御無視の衝撃波を放つ《粉砕波動拳》を融合させた、広範囲を剥ぎ払う防御無視の豪風が相手を展開した障壁や周囲の森ごと吹き飛ばしました。
…………まあ、これも身代わりで凌がれた様ですが、狙い通りヤツは防御姿勢を取っている所為でこちらを攻撃出来ない状態。更に衝撃波で発生した土煙りで視界が塞がれているのでこの隙に接近しましょう。
「《縮地》」
そして、私は《第六圏》で特典したホムンクルスを位置に《縮地》──一歩の距離と速度を上昇させて、更に移動中に《気配遮断》効果を与える歩法系スキル──で拳が届く間合いまで接近しました…………懐に潜り込めれば蛇腹剣は使いにくい筈なのです!
「《浸透勁》!」
『⁉︎ 防御ッ!』
こちらの接近に気付いたヤツは即座に両腕で急所である頭部と心臓部を防御したので、止む終えず私はガラ空きの腹部に拳を見舞いました…………この《浸透勁》は《発勁》から派生した
…………とは言え、その効果がある分《発勁》よりも威力が低いので、急所に当てられなかった以上はあまりダメージにはならないでしょう。なので、このまま一挙手一投足の間合いを維持したまま可能な限り削り倒します!
「《タイガー・スクラッチ》!」
『近接戦闘モード《ブレード・パリィ》』
私が爪手甲で斬りかかると、ヤツも両腕の蛇腹剣を縮めて普通の剣へと変形させて迎え撃ってきました…………最初の攻撃は弾かれましたが、スキル効果による追撃の二発がヤツに直撃してその態勢を崩しました。
(フェイ、今です!)
『《アースハンド》!』
『ッ⁉︎』
そうやって態勢を崩したヤツの足を、フェイが事前に準備しておいた魔法で作られた土の腕が掴んだ…………低位の地属性魔法ですが一瞬だけ動きを止めるには十分なのです。
その隙に私はヤツの剣の間合いよりも更に内側に潜り込み……。
「《発勁》! 《ニースマッシュ》! 《ベアー・スクラッチ》! 《シャイニング・フィスト》!」
『グゥ⁉︎ ガッ! クッ! チィ!』
そこから浸透打撃、ヒザ蹴り、爪手甲での斬撃、そして光属性を纏った正拳突きを立て続けに放って行きました…………これこそが格闘系スキルの真骨頂、技の出が早く出し終わりの隙も少ないので使用者の技量次第ではこの様にコンボを繋げられるのです!
身代わりの所為でダメージは与えられませんが、ノックバックで動きを封じられるのを嫌がったヤツは
『《マッドプール》!』
『退避……⁉︎』
なので、事前にフェイに指示を出してヤツが下がる場所に小さな泥沼を作らせておき、後ろに飛び退いた所でそこに嵌める事に成功したのです。
そうしてヤツの足が止まった所に私は飛び掛かって片足を振り上げ……。
「《ヒールクロウ》!」
『グッ!』
そのままカカト落としを見舞いました…………攻撃自体は相手が交差した両腕に受け止められましたが、その衝撃で泥沼へと更に深く埋める事が出来ました。
…………そして、私は受け止められている踵を支点にして縦に一回転して、ヤツの背後に降り立ち……。
「《
特典武具【アスカ】のスキルで使用済みスキルのクールタイムをカットし、再使用可能になった《浸透勁》を強化した上でヤツの後頭部に打ち込みました…………このまま脳を直接潰して確実に仕留められるといいのですが……。
…………そう思ったのがフラグだったのか、攻撃が当たる直前にヤツが着ていたアーマーから声が聞こえた。
『内蔵【ジェムー《サンダーカタラクト》】起動』
「⁉︎ ヅゥ!」
その声と同時にヤツの全身から迸った雷撃によって私の攻撃は中断されて、そのまま弾き飛ばされました…………と言うか、またこのスキルですか! 便利ですからね!
更に、ヤツはすぐさま泥沼から脱出してこちらと距離を取ったので追撃も出来ませんでした。
『脅威判定修正、撃破優先。《チェーン・ゲージ》』
「チィ!」
そのままヤツはこちらに全方位から蛇腹剣を襲い掛からせて来ました…………それらの攻撃は直接こちらを狙うものが少なかったので弾き飛ばすのは問題ないのですが、どちらかと言うと逃げ場を封じる事が主体の様で私はその場に足止めされてしまいます。
…………そうしている間にヤツのスーツの胸部が開き、そこから非常に高い“気”が感じ取れる宝石が姿を現し……。
「ッ⁉︎ 《瞬間そ『内蔵【ジェムー《
直後、その宝石からこちらに向けて無数の光線が放たれ、私とその周囲一帯をまとめて撃ち抜いて行きました。
◇
そうして、広域殲滅型超級魔法の直撃を受けた私はどうなったかと言うと……。
「まあ、生きてはいるんですけどね」
『…………対象生存』
この様にどうにか生き残る事が出来ています…………咄嗟にクールタイムをキャンセルしていた《瞬間装着》で【身代わり竜鱗】を装備して、元々付けていた【救命のブローチ】と各種魔法耐性バフのお陰でどうにかと言う感じでしたが。
しかし、受けた魔法が光線の超連続攻撃だったので防ぎきれずにかなりのダメージを負ってしまいました。頭部や心臓などの急所は手甲でガードしましたが……。
「足と腹部には撃ち抜かれた所もありますか……回復を」
『《フィフスヒール》!』
それらの傷はフェイの回復魔法でとりあえず塞ぎましたし、《霊環付与》なら肉体欠損や【炭化】なども時間を掛ければ回復しますが……。
『ダメージ確認、装備破損、攻撃継続《スネーク・エッジ》』
「見逃してはくれませんよね!」
当然、ヤツは再び攻撃を仕掛けて来たので凌いでいきますが、やはりダメージの所為か私の動きはやや鈍い…………このままだと不味いですかね。
…………しかし、そうやって攻撃を仕掛けて来るヤツの背後から
『《ライザァァァァァァキィィィィック》!!!』
『回避』
その影の正体はヤツに向かって飛び蹴りを仕掛けるライザーさんでした…………その飛び蹴り自体は回避されましたが、そこに更なる追撃が加えられます。
『GAAAAAAAAA!!!』
『反撃《ダンシング・ヴァイパー》』
ヤツに追撃を仕掛けたのはアマンダさんの<エンブリオ>であるベヒーモスでした…………ですが、ヤツはあっさりとその攻撃を回避しながら反撃の蛇腹剣でライザーさん諸共切り刻んでいきます。
…………不味い、あの蛇腹剣を受ければ【魅了】に掛かってしまいます! 私を助けに来てくれたのですがこのままでは……。
『グッ! ……うおおおおおおおお!!!』
『GAAAAAAAAAAAAAA!!!』
『⁉︎ ……対象【魅了】効果無し』
しかし、彼等はヤツの攻撃を食らったにも関わらず、そのまま何事もなかったかの様に戦闘を続行していました…………あれは状態異常耐性ですかね?
そう考えていたら、こちらにアマンダさんがやって来ました。
「ダメージの方はどうだい?」
「どうにか、少し休めば戦闘続行は可能です。……ところであれは一体?」
「ああ、アレは私の手持ちに【精神興奮薬・ファイト一発タイプⅢ】ってのを持っていてね。そいつを飲んだお陰で暫くの間、精神系状態異常には掛からなくなってるんだよ」
ちなみに最初から使わなかった理由は、その薬の使用中強制的に【興奮】の状態異常になるので行動に制限が出来る事と、使用後長時間に渡って【酩酊】【衰弱】などの状態異常になるデメリットがあるからだそうです…………そりゃあ、ホイホイ使えませんよね。
「後、あっちの方は二人に“死んでも抑えろ”って言ってあるから暫くは大丈夫だろう。……で、今の状況はかなり不味い感じだけど、何か打つ手はあるかい?」
「…………一つ、今なら使える手があるので、どうにか私がヤツに一撃入れられる状況を作ってくれませんか?」
アマンダさんの質問に対して私は一つだけ打つ手があると答えました…………使用条件を満たす必要があるので今まで使えませんでしたが、アスカ氏から学んだスキルの一つにこの状況でもヤツを仕留められるモノがあるのです。
「出来る限りヤツの防御能力を減らして欲しいのです。……外したら次がないタイプのモノなので」
「分かった、じゃあそれで行こうか。……ここで仕留めないとジリ貧だからね、
そう言ってアマンダさんはヤツの元へと向かって行きました…………信じてくれた彼等の為にもやって見せねばなりませんね。
『スキルの効果時間が切れたから再使用するよ《
「ありがとうなのです、フェイ。……私は少し集中するのです」
フェイが回復とバフの再使用をしている間、私は深く集中して以前アスカ氏との試練で至った“あの領域”へと自分の意識を持っていきます…………まだ、かなり追い込まれた状態でないとコレは出来ないんですよね。
『内蔵【ジェムー《サンダー・カタラクト》】起動』
『グワァッ⁉︎』
『GAAAA⁉︎』
「攻め続けなぁ! コイツの手札を可能な限り削るんだよ! どうせあの子のスキルのお陰で回復するんだからねぇ!」
あちらでは彼等が多少のダメージなら回復される事を利用して、斬り刻まれながらも捨て身でヤツを攻め続けています…………さて、ヤツの
…………これなら仕留められます。
「では、行きましょうかフェイ」
『わかった、行こう!』
そうして、準備が整ったところで私も前線に参加します…………すると、ヤツは真っ先にこちらに向けて蛇腹剣を放って来ました。余程、私を警戒している様ですね。
『迎撃「させないよ! 身代わりが出来るのはアンタだけじゃないのさ!」
ですが、その攻撃は割り込んで来たアマンダさんがその身体で受け止める事によって阻まれました…………そして、そのまま蛇腹剣の一本を素手で掴みとってヤツの動きを封じにかかります。
「捕まえた! 今だよやりな!」
『GAAAAAAAAA!!!』
『ウオォォォォ!!!』
『接続解除、内蔵【ジェムー《サンダー・カタラクト》】起動』
そして、その隙にライザーさんとベヒーモスがヤツに直接攻撃を仕掛けましたが、その直前にヤツは掴まれている蛇腹剣の接続を途中で解除し、更に三回目となる全方位雷撃で周囲にいた彼等を一層しました。
それで出来た隙にどうにか私は接近出来ましたが、ヤツは即座に残った蛇腹剣を伸長させてこちらを迎撃して来たのです。
『《バインディング・エッジ》』
「《ファントム・ステップ》《縮地》」
ですが、向かってくるのが一本だけならば回避する事も可能なのです…………そしてヤツの懐に潜り込んだ所で、そのアーマーから全方位雷撃を行う際に感じられる“気”が読み取れました。
『内蔵【ジェムー《サンダー・カタラクト》】起動』
直後、四度目の全方位雷撃が放射されました…………ええ、接近して来た私にそう来る事は分かっていました。だからこそ、これまで
「フェイ!」
『《サンダー・カタラクト》!』
相手から放たれた雷撃は分かってから放たれた
…………攻撃は大体回避か防御出来るのでアスカ氏との試練の時ぐらいしか使わなかったのですが、向こうも乱発するだけあってやっぱり便利ですねこのスキル。
「《アクセル・ステップ》」
『ッ⁉︎』
そうやって雷撃を凌いだ後、即座に加速した私はヤツの懐に潜り込む事に成功しました…………これから使うのはアスカ氏がかつて戦ったという超級職【
…………この【武仙】は周囲の“気”を読む《第六圏》や、周囲と自身の“気”を同調させる事で姿を消す《気圏合一》などの“気”という概念を用いた格闘スキルを極めたジョブであり、その奥義も“気”への干渉を主とするモノなのです。
更に発動には対象と自身の“気”の流れを同調させる為にその流れ完全に読み切る必要があるので、一定時間《第六圏》で対象の“気”を感知する必要があり、更に自身のHPを任意の割合消費して発動されます。
「《断気絶招》」
それは相手の“気”に同調させた自身の“気”を叩きつける事で、相手の生命力の根本を断つという一撃…………具体的には消費したHP×スキルレベル×10%の数値だけ
『ァッ…………』
その一撃はHPを減らすものではないため防御・身代わり系スキルの意味はなく、私のHPの大半を消費したので魔法型である【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】の低い最大HPを全て削り取って絶命させたのでした。
◇
「ふう、どうにか倒せました」
「やったみたいだね、しっかし疲れたよ」
『これで精神干渉も無くなったのか?』
えーと《第六圏》を使っても精神干渉能力が使われている様子は無いので、おそらく向こうの操作も解かれている筈です…………上空にはエフさんの球体がありますし、すぐに向こうにも伝えられるでしょう。
…………その時、まだ
『……ガッ、ガガ……装備者死亡により機密保持の為に自爆を実行。内蔵【ジェムー《圧縮恒星》】起動』
「! 全員離れて!」
その内容が聞こえて来た途端全員即座にアーマーから離れ、それとほぼ同時にアーマーが白い円球に包まれました…………それが消えた時そこには半球状に抉れた地面と僅かな残骸以外は何も残っていませんでした。
「…………自爆したのかい?」
『その様だがほとんど熱を感じなかったぞ』
「おそらく熱量を完全に制御して内側の物体だけを消滅させたのでしょう」
…………この事件の黒幕は一体何者なんでしょう「「ギャァァァァ!!!」」
「ちょ! そろそろ足止め限界なんですけど!」
「終わったんならこっちヘルプ〜!」
『GOAAAAAAA!!!』
『KETEEEEEEE!!!』
声が聞こえて来た方向を見るとお二人が例のモンスター達に追い込まれている所でした…………アイツらまだ残っているんですね。
「やれやれ、締まらないねぇ」
『流石に放置して置くわけにもいかないがな』
「では、助けに行きましょう」
その後、私の《ミラクル・ミキシング》からの《粉砕波動拳》&《エメラルド・バースト》のコンボを中心に片方を集中攻撃して再生される前に倒し、それで再生能力を失ったもう片方も問題無く倒せました。
さて、これで【アニワザム】の制御は無くなった筈ですが、兄様達は大丈夫でしょうか?
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
末妹:《粉砕波動拳》は覚えた超級職の奥義の中で一番使いやすいと思っている
・【ハデスルード】は古代伝説級になれる程の資質を持っていたため、特典武具になった後のスキル性能はかなり高い。
・具体的に《霊環付与》は時間を掛ければ部位欠損や特殊状態異常も治せるし、《魔力収束》はかなりの広範囲から高速で魔力を収集できる。
《ニースマッシュ》《ヒールクロウ》:【蹴士】系のスキル
・それぞれヒザ蹴りとカカト落としの基本スキル。
《ベアー・スクラッチ》:【爪拳士】のスキル
・連撃重視の【爪拳士】では珍しい単発・高威力のスキル。
《断気絶招》:【武仙】の奥義
・
・発動には《第六圏》で対象の気を把握する必要があり、末妹の場合現在では五分程かかる。
・削られた最大HPは自然回復せず、超級回復魔法や同じリソース干渉系スキルでしか治せない。
戦闘団組:そこまで付き合いの深くない末妹を全力でサポートしてくれる善人達
・双子の<エンブリオ>の近接形態はそれぞれMPを継続消費する代わりに高威力の光属性エネルギーブレードを展開する《光輝剣》、同じく非生物透過効果がある闇属性エネルギーブレードを展開する《暗黒剣》と言う。
・更に、それぞれMPを追加消費する事で刀身を延長する《光輝の爪牙》、刀身を変形させる《暗黒の爪牙》のスキルがある。
【精神興奮薬・ファイト一発タイプⅢ】:クランメンバーの一人が作った薬
・実は効果時間中自分に掛かった精神系状態異常を【興奮】に変更する事で無効化する薬だったりする。
・このメンバーは『副作用と引き換えに特殊な効果を持つ薬を作る』<エンブリオ>を持っており、使える状況が限られている代わりに効果が高い薬や毒物を作る事を専門としている。
・……だが、結構マッド気味でまともな薬を作らないのでクランで使う通常の薬は外注している。
【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】:逃亡しなかったのは離れすぎると【アニワザム】の制御に支障を来したから
・パワードスーツには内蔵【ジェム】や障壁展開機能などの厄介な効果が満載で、機密保持の為の自爆機能も完備。
・このホムンクルスはテイムモンスターと同じ扱いなのでアイテムを落とさず、スーツも【アークブレイン】所有の物と扱われているので死んだ後も残っていた。
・《サンダー・カタラクト》は【マグネトローべ】の実験結果で有用だと判断され技術転用が進んでおり、それ以外の<UBM>の能力も多くが“量産”されている。
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金色の流星・銀魔を穿つ
それでは本編をどうぞ。
アルター王国北部・クリラ村郊外 【
あれから、俺は援軍に来てくれた封竜王さんと一緒に戦闘団・騎士団側のメンバーに合流する事が出来た…………その際、まだ上位エレメンタル含む敵がいくらか残っていたが、封竜王さんがあっさりと蹴散らしてくれたので特に問題は無かった。
…………まあ、自分達が苦戦していた相手を一蹴した封竜王さんにはみんな驚いていたが。
『そういう訳で、私も【アニワザム】を倒すのを手伝うよ』
「よ、よろしくお願いします……」
と、そんな感じで封竜王さんが協力してくれる事を他の人達に説明した訳だが…………あれだけ凄まじい戦闘能力を見せられたからか腰が引けている人も結構いるな。
まあ、フォルテスラさん、リリィさん、シュウさん辺りのメンバーは平然としているが(尚、エフさんは古代伝説級<
…………そんな微妙な空気をスルーして封竜王さんは話を続けた。
『私はヤツとなら一対一でも守りに徹する分ならある程度やり合えるだろうし、短時間ならアレの動きやスキルを封印するぐらいは出来るだろう。…………まあ、基本的に君達の指示には従うつもりだから上手く使ってくれ、これでも人間と一緒に戦うのには慣れて居るんでね』
「え、えーっと……そう言われましても……」
まあ、古代伝説級<UBM>にそんな事を言われてもすぐには答えられんよなぁ…………だが、俺はまだ逃げる気は無いし、話のきっかけを作る為にも一つ提案してみようか。
「じゃあ、封竜王さんにアレを止めてもらって、その間に俺達の最大火力を叩きつけるしか無いんじゃないかな。…………一応、俺は一撃限りなら十万以上の攻撃力を叩きだす方法があるが」
『うーん、俺も一撃限定で高攻撃力を出す手段はあるが…………問題は
「封竜王さんは【アニワザム】の動きを止められると言う事だが、止められる時間や方法を詳しく聞きたいかな。それによって取れる戦術も違うだろうし」
俺がそんな提案すると、シュウさんとフォルテスラさんもそんな発言をしてくれた…………やっぱり、こう言う事は一人で考えるよりみんなで意見を出し合う方がいいな。一人だと色々と見落としがあるし。
『ふむ、アレを拘束した上でスキルを封じられる時間は最大三十秒で、更にある程度接近しなければならないだろうな。…………それに、あのレベルの相手を封じるには、コチラも封印術に全力を尽くす必要があるだろう』
「とすると、やっぱり接近手段がネックになるか。三十秒でアレに接近するのは……」
『それに封印中は封竜王さんが掛り切りになるのも問題ガル。…………そう簡単には封印なんてさせて貰えないだろうからな』
「…………いや、
「ん〜、使えますけど〜」
俺やシュウさんなどがアレの迎撃を躱す方法や接近手段を話し合っていたら、フォルテスラさんがシエスタさんの方を見てそんな事を言った。
「私の必殺スキルは〜、玉座周辺にいる念話登録された人のスキル効果の発動地点を感知範囲内の任意の場所にする事が出来るからね〜。数が増える事に消費MPも増えるだけど〜、遠距離攻撃系スキル持ちなら距離を無視して攻撃出来るよ〜」
「成る程、それは便利そうだな。…………ん?」
そうやって、彼女の話を聞いている途中でいきなり地面が僅かに揺れだした。
「これは……ヤツが仕掛けてきたのか?」
「え〜っと、私の探知だと【アニワザム】は結構離れたところの地下に居るみたいだけど〜」
『いや……これは
地面の揺れに俺達が警戒しているのを後目に、そう言った封竜王さんは地面に手をついて何かのスキルを発動した…………すると、俺達が居る地面の一帯が円状の水晶に覆われて、更にそれを底面として半球状の結界が展開された。
…………直後、地面の揺れが一気に大きくなると共に水晶の地面が少し陥没して、逆に円周の外側の地面がやや隆起した。
「ッ! これは⁉︎」
『おそらく、地属性攻撃魔法《アースイーター》かな。…………一応、ここら一帯に地属性魔法を封印・抑制する結界を張ったからこの程度で済んだけど』
「…………これは、かなり不味い状況ですね。どうやら向こうは地面に潜ったままこちらを一方的に攻撃する事にした様です」
シャルカさんの言う通り、ヤツが地面に潜ったままだとコッチには攻撃する手段が無くなるんだよな…………向こうは今までの舐めプを捨てて本気でこちらと戦う気になったらしい。
「ちなみにシエスタさん、君の必殺スキルは地中への展開は……」
「ん〜、発動点は遠隔視で見える場所にしか置けないから難しいかな〜。土に阻まれて威力も落ちるし〜」
『ふーむ、どうやら黒幕は【アニワザム】を本来の戦い方に戻して来たみたいだね。今は防げているがこのまま続けられると庇いきれなくなりそうかな。…………状況が変わったし、撤退する気ならそれまでヤツの相手を請け負ってもいいよ。こちらの問題を解決してくれた恩もあるしね』
うーん、確かにヤツを地中から引きずり出す手段が無いとどうにもならない状況だからな…………他の人達も話し合っているが地中に対する有効な攻撃手段とかがある人は居ないみたいだし。
…………そう考えていたら、さっきからずっと片目を瞑ってどこかを見ていたらしいエフさんが声を上げた。
「それは少し待った方がいいですよ。…………どうやら、ミュウさん達別働隊が【アニワザム】を操っていた相手を倒した様ですから。撤退はその事によるアレへの影響を見てからでも遅く無いかと」
「そうか! やってくれたか!」
「…………問題は制御を外れたヤツがどんな行動をとるかだな」
洗脳が解けて逃走してくれるならそれでもいいんだが、制御を外れて暴走したりしたら面倒になりそうだ…………ミカが『洗脳に対処した方がいい』と言っていた以上、何も変わらない事は無いだろうがどうなるか。
「ん〜? あ〜地下の【アニワザム】に動きがあったよ〜。凄い速度で地上に向かっているみたい〜」
『こちらでも感知出来たな。…………これは暴走しているのか?』
そうシエスタさんと封竜王さんが言った直後、ここからやや離れた地面が大きく爆ぜた。
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!!!!』
そこから現れたのはやはり【アニワザム】だった…………更にヤツは地上に出た途端、これまでと比べても明らかに異常と分かる様な絶叫を上げなから辺り一帯に各種魔法をばら撒いて暴れまわり始めたのだ。
…………これは……。
『どう見ても暴走しているガルね』
『ふむ……おそらく精神操作は完全では無かったのだろう。だから、ああなるのを防ぐ為にわざわざ精神干渉を行う手駒を近くに配置したのだろうしな』
「そして、そいつがやられた事によって精神操作が緩んでああなったと……」
まあ、古代伝説級<UBM>を完全に支配下に置くのは相当な難事だろうからな…………多分【アニワザム】自身の意思と操っている能力が相反しあってああなっているんだろう。
…………とは言え、あんな風に暴走している<UBM>を放置すれば確実に何らかの被害が出るだろうし倒すべきだろう。そうして周りを見ると、どうやら他の人達もそう言う考えになった様だ。
『幸いヤツはああやって地上に出て来たし、ただ暴れるだけなら近づいて封印術を掛けるのも簡単だろうからね』
「そうしてヤツの動きとスキルを封竜王さんが封じている間に、シエスタの必殺スキルで総攻撃を掛けると言ったところですか。…………ヤツが地属性魔法を乱発しているお陰で、その周囲の地面は酷い事になってるから空を飛べないと近づくのは難しいからでしょうし」
「俺は空が飛べるし、攻撃手段も近接型だから封竜王さんと一緒に行くよ」
そうやって、俺達は今後の戦術を手早く話し合って行き……。
「よし! アイツを倒してこの一連の事件にケリをつけよう!」
「「「「『応!』」」」」
フォルテスラさんの号令の下、俺達は最後の戦いに赴くのだった。
◇
そういう訳で俺と封竜王さんは【アニワザム】の下へやって来たのだが…………そこにか地面をのたうち周り辺り一帯の地形を変えながら魔法を乱射するヤツの姿があった。
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!!!!』
「うわぁ……めちゃくちゃ暴れているな」
『だが、ただ暴れているだけでこちらの事は目に入っていない様だな。エレメンタル召喚や超級魔法の行使も出来ない様だし、上級魔法を闇雲に撒き散らされるだけならば防ぐのは容易いよ』
その言葉通り、封竜王さんはこちら側に飛んでくる上級奥義相当の魔法を全て結界と水晶で防いでいた…………そうやって、ヤツに近づいたところでシエスタさんから俺に念話で連絡が来た。
『あ〜、こっちの準備は整いました〜』
「了解。…………あちらの準備は整った様です」
『分かった。では、さっさと始めるとしよう。…………あまり長引かせるのも哀れだからな。《竜気結晶・縛》《魔法封印》最大展開!』
その言葉と共に封竜王さんは巨大な水晶の柱を複数生成して、それを【アニワザム】の周囲の地面に向けて射出した…………それらの水晶柱はそのまま地面に突き立つと、瞬く間にその形を紐状に変えてヤツを縛り上げてその動きを完全に封じてみせたのだ。
更にその水晶からオーラが発せられてヤツの全身を覆うと、先程までヤツ自身や身体に付いたエレメンタル達が狂ったように発動していた魔法が全て無くなったのだ。
『これで動きと魔法は封じたぞ。あまり長くは持たないから早く決めてくれ』
「分かりました。……魔法は封じられた! 攻撃を頼む!」
『了解〜。じゃあ皆さん準備お願いします〜…………設定座標は【アニワザム】頭部のすぐ直上〜《
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!???』
直後、拘束されたヤツの頭部のすぐ上から雷を纏った矢・超高熱の炎弾・超威力の光弾など様々な属性の攻撃が放たれ、そのまま既に防御魔法が無いヤツの頭部に当たりその上部を吹き飛ばした。
だが、それだけのダメージを受けても【アニワザム】はまだ死んでおらず、先程より弱々しいながらも拘束を破ろうと悶えていた。
…………そこで、俺は吹き飛ばされた部分から見えたヤツの体内に妙なモノが蠢いているのを見えた。
「……封竜王さん、ヤツの
『む? ……《看破》《鑑定眼》……ふむ、何らかのアイテムの様だが、鑑定しても【寄生型ナノマシン】と言う名前しか分からないな』
“ソレ”はぱっと見銀色の粘菌の様なモノで【アニワザム】に付けられた傷口の中の半分ぐらいを埋め尽くす様に蠢いていたのだ。
…………そして“ソレ”──封竜王さんが言うには【寄生型ナノマシン】(俺の《鑑定眼》では分からなかった)はこちらに見つかるや否や激しく動き出して、それに連動するかの様に【アニワザム】動きも激しくなったのだ。
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!!!!』
「封竜王さん! アレの動きを!」
『分かっている! 《竜気結晶・槍波》《装備封印》!」
蠢く【寄生型ナノマシン】に対し封竜王さんは小型の水晶の槍をいくつも撃ち込み、突き刺さっているそれを介して封印術を行使してナノマシンの動きを封じたのだ。
『成る程、アイテム扱いだから装備品のスキルを封印する術ならある程度の効果があるみたいだな。種類としては装備者を操る呪われた装備品……いや、先々期文明の特殊な機械系アイテムの類いか』
「まあ“ナノマシン”って言うぐらいですからね。…………つまり、アレが【アニワザム】を操っているモノって事で良いんですね。どうにかならないので?」
俺がそう聞くと封竜王さんは難しそうな顔をしながら答えてくれた。
「私に機械関係の知識が無いからか、或いは予報特殊な代物なのか、あのナノマシンには《装備封印》が完全には効果を発揮していないんだ。だから封印は難しいだろうし、アレは【アニワザム】の中枢に寄生している様だから引き剥がす事も現状では不可能だろう。…………これ以上あのままにしておくのは同じ古代伝説級<UBM>として忍びない。…………頼む、終わらせてやってくれ』
「…………分かりました。行くぞ【マグネトローべ】!」
そして、俺は馬上槍を持って高空に上がっていった…………ちなみに俺と【マグネトローべ】には
…………まあ、ここまで色々勿体ぶったが、やる事は《
「マグネトローべ、俺のスキル使用と同時に
『──────』
ただし、消費するMPは膨大だがな…………最も、このスキルは速度を上げる事に燃費が悪くなるから、これだけ使ってもAGI二十万に届くぐらいだろうが。
…………そうして準備を終えた俺は真っ直ぐに【アニワザム】に寄生しているナノマシンへと突っ込んで行き……。
「《
『────!!』
スキルによって強化した上で【突撃騎兵】の奥義《フルオフェンス・チャージ》──突撃時の速度を倍加させ《騎乗突撃》の攻撃力上昇率を100%にするスキル──を使用して、それとほぼ同時に【マグネトローべ】が《電磁加速》を起動する。
…………これにより突撃時の速度は《電磁加速》を倍加させた事で音速の四十倍を超え、その攻撃力も突撃時の速度を100%加算された事で四十万以上を叩きだせるのだ。
「────────────────────!!!」
『⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️!!!!!!』
そうして、四十万を超える攻撃力を持った上で音速の四十倍以上で走る一条の流星と化した俺は、そのまま蠢く【寄生型ナノマシン】の中央部に
◇
「…………ゴフッ! ガフッ! あー無事……じゃ無いが」
突撃を終えた俺は、その結果として【アニワザム】頭部の半分ぐらいを消しとばして出来たクレーターの中で立ち上がった…………最も、槍を持っていた右手は衝突の際の反動で肘から下はズタボロ、更にその衝撃で身体の至る所にダメージがある有様だが。
…………また、スキルのコストで半減していた事もあって俺のHPはゼロであり、今は《ラスト・スタンド》の効果で無理矢理肉体を動かしているのだが。
「マグネトローべは大破で済んだか。……良くやってくれた」
そう言って、俺は辛うじて原型を留めている【マグネトローべ】をアイテムボックスの中に収納した…………俺もコイツも突撃の反動で粉々になるかと思っていたんだが、封竜王さんの《竜王気》のお陰か思ったよりもダメージが少ないな。
「…………しかし、この【アニワザム】はまだ死んでいないのか」
コイツが光の塵になっていない以上はHPはまだゼロになっていないと言う事だからな…………まあ、その巨体故に身体の大部分がまだ残っていて最大HPも数百万近くある原因の様だ。
とは言え、ナノマシン毎コイツの中枢部分は消しとばされたのか先程までと違ってピクリとも動いていないので、後は残っている人達での集中攻撃で倒し来れるだろう。
…………と考えていたら、突如足元が揺れ始めた。
「! これは、まさかコイツまだ動け……ガハァッ!!!」
俺が突然の【アニワザム】再起動に対して行動を起こそうとした瞬間、俺の左胸が後ろから飛んできた石の槍に貫かれた…………慌てて後ろを振り向くと、そこには銀色の蠢く金属──【寄生型ナノマシン】の姿があった。
よく見るとナノマシンはその質量を徐々に増やしており、それに連動して【アニワザム】の動きも大きくなっていた…………コイツ、自分が【アニワザム】の中枢に取って代わる気か⁉︎
「だが、頭を狙うべきだったな! 《ラスト・アタック》《クイックスロー》!」
だが、俺は心臓を貫かれたまま【
「ゲホッ! ……だが、このまま見過ごす訳にも行かないな! 残り全MPで《魔法発動加速》《魔法威力拡大》《魔法範囲指定拡大》! 《クリムゾン・スフィア》!!!」
更に、まだ残っているナノマシンを可能な限り威力・範囲を強化した《クリムゾン・スフィア》でその一帯毎焼き払った…………が、それでも足元の揺れは収まらなかった。
「どうなってる⁉︎」
『感知したところ、どうやら【アニワザム】の全身にも少数だが【寄生型ナノマシン】が配置されている様だね。…………質量自体は中枢に寄生していたモノよりも少ない様だが、徐々に身体を乗っ取り始めているみたいだ』
俺の疑問に答えてくれたのは近くに来ていた封竜王さんだった…………ええい! どうする⁉︎ このままコイツが復活したらシャレにならんぞ!
…………と、俺は内心かなり焦っていたのだが、それにひきかえ封竜王さんは冷静だった。
『だが、今はまともに身体を動かせない様だし……レント君、コッチに』
「あ、はい」
そう言って彼は手を差し伸べて来たので、俺は急いでその手に飛び乗った…………そして、彼は【アニワザム】からある程度距離を離して滞空した。
「どうするんですか?」
『なに、トドメを刺すだけさ。今なら動きが鈍いお陰で、さっきの様に拘束する必要は無いから攻撃に全力を尽くせるしね……《竜気結晶・槍波》最大展開……発射』
そう言いながら封竜王さんは【アニワザム】の周囲に巨大な水晶の槍が十数個も生成され、彼の号令と共にそれらは次々と【アニワザム】の身体に突き刺さっていき……。
『《竜気結晶》内の全リソースを攻性型《竜王気》に変換……《竜気爆散》』
それらの水晶全てが封竜王さんの指示の下で大爆発を起こして【アニワザム】の身体をバラバラに吹き飛ばした…………うん……。
「…………火力不足とか言ってませんでしたっけ?」
『古代伝説級“竜王”としては火力不足だよ。…………それに、この攻撃は準備に時間がかかるから、相手が防げず避けられない状況だからこそ使えたモノだしね。燃費も悪いし』
そうしている間に、バラバラになった【アニワザム】は光の塵になっていった。
【<UBM>【魔鉱蚯蚓 アニワザム】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【レント】がMVPに選出されました】
【【レント】にMVP特典【魔鉱外套 アニワザム】を贈与します】
「あっ、<UBM>の討伐報告が来ましたね。どうやら本当に倒せた様です」
『そうか、これでひと段落だな』
そして、今回は俺がMVPらしい…………累計戦闘時間と中枢部分の破壊のお陰かな。特典武具も気になるけど、確認している時間は無さそうだ。
「封竜王さん、もう《ラスト・コマンド》の効果時間が来れるのでこれで失礼します。今回はありがとうございました」
『礼を言うのは私の方だよ。…………復活してからは一度クレーミルに来て欲しい。今回の報酬を渡すからね』
「分かりました」
その返答とほぼ同時に《ラスト・コマンド》が切れて、俺はデスペナルティになった…………これで死ぬのは二回目だが、
【致死ダメージ】
【パーティー全滅】
【蘇生可能時間経過】
【デスペナルティ:ログイン制限24h】
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
兄:特典武具の詳細はいずれ
・【マグネトローべ】がオリジナル煌玉馬と比べて最も優れているのは特典武具故の再生能力だと考えている。
・尚、全力《電磁加速》による突撃は<UBM>だった頃の【マグネトローべ】にも出来たが、切り札を使う決断をする前に本体を破壊されて使用不能になった。
《フルオフェンス・チャージ》:【突撃騎兵】の奥義
・上昇するAGI二倍は初期値であり、スキルレベルが上がれば上昇率も増える。
・クールタイムも長く消費SPも多いが、これらのコストは《騎乗突撃》のスキルレベルが高いほど僅かに減少する。
《
・自身の周囲(半径十メートル圏内)にいる念話登録をした任意の人物が次に発動する遠隔攻撃・スキル発動点を、感知範囲内の任意の地点に変更するスキル。
・対象の数が増える毎にMPを消費し、クールタイムも長くなる。
【封竜王 ドラグシール】:火力不足(古代伝説級基準)
・最後に使った《竜気爆散》は準備に時間がかかり燃費も悪いので、事前に特化した《竜気結晶》を作っておき陣地に配置しておく地雷としての使い方がメイン。
【魔鉱蚯蚓 アニワザム】:ぶっちゃけ今回の被害者
・ナノマシンに侵されていたが完全には操作されていなかったので外部から精神干渉を行う必要があり、それが外れたので制御不能になり暴走した。
・本来の戦い方は本編前半にやった様に地下に潜りながら鉱物を食べて回復しつつ、超威力の地属性魔法とエレメンタル召喚で地上を攻撃するスタイルであり、空を飛べなければ高確率で生き埋めになる。
【寄生型ナノマシン】:今回の裏ボス
・【アニワザム】の中枢以外にも身体の各部に寄生しており最後は肉体を無理矢理乗っ取ろうとしたが、古代伝説級を即座に制御下に置くには時間と質量が足りなかったのでその前に妥当された。
・尚、本体が再生・乗っ取り不可能な程に破壊された場合、機密保持の為に自壊する様になっている。
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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終幕・そして……
それでは本編をどうぞ。
□クリラ村周辺森林部 【
あの後、残っていたモンスター二体を倒した私達は、急いで兄様達と合流する為に森の中を移動しています…………徒歩で。
『済まないな、あの戦いで鎧になっていた【ヘルモーズ】が損傷してしまって』
「いえいえ、ライザーさんの援護が無ければ私は死んでましたし」
「べフィも薬の副作用がまだ抜けてないからね。…………ていうか、回復スキル持ちのべフィですら薬が抜けるのに時間がかかるとか……」
ライザーさんの<エンブリオ>ヘルモーズは先程の戦いで鎧として装着されていたのでダメージが酷く、アマンダさんのベヒーモスは例の【精神興奮剤・ファイト一発タイプⅢ】の副作用が抜けきらなかったので紋章の中で休んでいるのです…………ちなみにライザーさんの副作用はクールタイムが回復した【ハデスルード】の《霊環付与》を掛けた上で、回復魔法を併用してどうにか動けるまで回復させました。
…………どうやら、薬の副作用であるからか非常に回復させ難い様なのです。
「さて、そろそろ範囲内だろうしシエスタのやつに連絡するか…………あーもしもし、シエスタ? コッチはそろそろ合流出来そうだ……」
私達が戦闘地点に近づいて来たところで、いきなりアマンダさんが耳に手を当てて話し始めました…………こっそりライザーさんに話を聞いてみると<バビロニア戦闘団>には念話使いの人が居て、その人に連絡を取っているのだと教えてくれました。
「…………ああ、分かった。私達も直ぐに合流するよ……どうやら【ギガキマイラ】と【アニワザム】はもう撃破されたみたいだ」
「それは良かったのです! とりあえず、これで今回の事件は解決したと言うことですね!」
そう言った私に対し、アマンダさんはやや気まずそうな顔をして言葉を続けた。
「ただ…………その戦いでレントとミカがデスペナになったみたいなんだよ……」
「そうですか…………まあ、兄様と姉様は切り札が自爆気味のモノですからね、そうなるのも仕方ないでしょう。…………それより、他に犠牲は出たのですか?」
私がそう聞き返したら、アマンダさん達は少し驚いた様な表情になりました。
「あっ、ああ……デスペナになったのはその二人だけで、戦闘団や騎士団の方には死人は出なかったみたいだ。それと封竜王も無事らしい」
「それは良かったですね。古代伝説級<
と言うか、姉様が“自分と兄様は今回高確率でデスペナになる”と事前に伝えていましたからね…………それに、この世界は
…………まあ、この辺りの意見は人によって違うでしょうし、あまり深くは言いませんが。
「まあ、大丈夫ならいいんだよ。…………仲のいい身内がやられると仇討ちに行くタイプもいるからね」
「私は“あくまでゲーム”と割り切っていますから。…………敵がまだ残っているなら敵討ちぐらいはしますけどね」
そんな会話をしつつ、私達は合流地点に急ぐのでした。
◇
そうして、私達は森の外に出て<バビロニア戦闘団>本隊と騎士団、そして封竜王さんと合流出来たのでした…………しかし、周囲の地形がかなり荒れ果てていますね。激戦だった事が伺えるのです。
『団長、ただいま合流しました』
「おお、ライザー! それにアマンダとミュウちゃんも、今回は助かったよ。君達が精神操作を行っているヤツを倒さなければ、こちらはやられていただろうからね」
「本当に助かりました」
そんな感じで合流した私達はフォルテスラさんやリリィさん達に凄く感謝されました…………どうやら、私達も今回の事件の解決に役だった様で良かったのです。
…………あ、そうでした。
「リリィさん、フォルテスラさん、事件は解決しましたが、この後は何をする予定なのです?」
「え? …………事件は解決しましたし怪我人も回復し終わりましたから、クレーミルにいるリヒト団長と合流して今回の報告と事後処理を行う事になるでしょうね。一応、事件解決の事は先に連絡し終えましたが」
「俺達も騎士団と一緒にクレーミルに戻る予定だが」
なるほど、後はもう事後処理だけみたいなので、私に出来る事はもう無さそうですね。
「じゃあ、私はそろそろお暇するのです。クエストの報酬はまた後日改めて…………確か二人のデスペナ開け地点はクレーミルになっていたはずなのでそこで受け取るのです」
「あっ、ああ……しかし何か用事でもあるのか?」
「いえ、用事は有りませんが…………母様にこちらに訪れるなら兄様か姉様と一緒で無ければダメだと言われているので、二人がデスペナである以上はあまり長居は出来ないのです」
そう事情を説明すると皆さんわかってくれた様で『後日、二人のデスペナが開けたらまた会おう』ということになりました…………ただ、姉様の方はデスペナ三倍のデメリットが有りますから兄様と一緒になりそうですが。
(おっと、その前に封竜王さんに挨拶をしておきましょうか。…………少し
そうして周囲を探ってみると、人化している封竜王さんがシュウさんと話しているのを見つけたので、私はそちらに向かいました…………途中でエフさんも見つけましたが、凄く良い笑顔で手に持ったメモ帳に何かを書き込みまくっていたので、そっとしておきましょう。
「おや、ミュウちゃん。何の様かな?」
「そろそろお暇しようと思ったので、その挨拶に。…………それと少し聞きたい事があったのですが、大した話でも無いのでダメそうなら別にいいのです」
『いや、そっちが先でも構わないガルよ。…………今話していたのはこの事件の
…………確かに、私が聞きたかったのはその黒幕さんの事なのです。とりあえず、こちらが話したかった情報から先に言っておきますか。
「私が戦った【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】には、【アニワザム】への精神干渉とは別にもう一つ精神に働きかけるラインがあったのです。そちら側は隠蔽が強くて詳細は分からなかったのですが、相手の言動や行動からあのホムンクルスも何者かの配下だろうと思うのです」
『成る程ガル。…………封竜王さんは何か心当たりがあるガル?』
「済まないが、私が知る限りではそんな事をしそうな者に心当たりは無いな。…………
…………そう言った封竜王さんは難しい顔をして話を続けました。
「これでも、私は“三強時代”から生きているそれなりに古参の<UBM>で、昔は世界中を旅していたりもしていたからそれなりに強者の情報を知っている。だが【アニワザム】…………私より古くから存在している古代伝説級最上位の<UBM>を支配下に置ける様な相手には心辺りが無いんだ」
『…………それだけの相手にも関わらず、一切の情報を出していないって訳か』
「そして、クリラ村を狙って来た事と高位ホムンクルスの存在から考えて、あの【ギガキマイラ】を作ったのもその黒幕である可能性が高い」
「あのホムンクルスは最後証拠隠滅の為に自爆しました…………逆に言えば、あのレベルの配下を実質使い捨てにしたとも考えられるのです」
…………こうして並べ立てると、その『黒幕』のヤバさが際立ちますね。
「十中八九、黒幕は
『ここまでまともな情報を出して来なかった黒幕が、どうして今回はここまで派手に動いたのかガルね。…………と言うか、それだけの相手がやったにしては今回の事件は余りに杜撰過ぎるガル』
「姉様の直感混みにしても、少しうまく行き過ぎですからね……」
そもそも『存在を知られていない』という事自体が凄いメリットなのに、今回は存在を知られても構わない様な動きをしているのです…………本当に古代伝説級<UBM>二体と高位ホムンクルスを使い潰してまで一体何がしたかったのでしょう。
『正直、黒幕の情報が少なすぎて断言は出来ないが…………近くに行動を開始するから、もう身を隠す気は無くなったとも考えられるガル』
「その可能性はあるか…………目的が読めないのが怖いが、下手に首を突っ込んでも返り討ちに合いそうだし……」
「向こうが動かない限りはどうしようも無い感じですかね」
これ以上話していても拉致があかなさそうだったので、封竜王さんが他の人達にも注意しておくという事になって私はログアウトしましたが…………いつか、何かの事件が起きるのは確実でしょうかね。
◇◆◇
◼️とある遺跡深部 【完理全脳 アークブレイン】
『…………【十狂混沌 ギガキマイラ】【魔鉱蚯蚓 アニワザム】【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】の撃破を確認。複製脳との集積データ解析・考察を実行』
とある場所に存在する遺跡の最深部、そこでは今回の事件の黒幕である【アークブレイン】が自身の複製脳との思考会議を行っているところだった。
…………ちなみに思考会議の際には意見・考察に幅を持たせる為、各々の複製脳には擬似的に人格を与えている。
『第二目標“【ギガキマイラ】の制御”は失敗…………その上、【アニワザム】や【ハイ・マインド・アバターホムンクルス】も撃破された』
『【アニワザム】は討伐される事が前提だったとは言え、こちらの想定よりも遥かに早く倒された…………劣化“化身”への脅威度を上昇させておくべきか』
『データによると【ギガキマイラ】【アニワザム】の特典武具を確保したのは、以前【マグネトローべ】を撃破したのと同じ劣化“化身”の様だが』
『その劣化“化身”達のデータは優先度高で検証中です』
その場所に並ぶ無数の脳による《超並列思考》が行使され、更に《ハイパーデータリンク》と《超高速演算》を駆使して今回の事件で得られた情報を超高速で精査していく。
『【アニワザム】の撃破に関しては精神干渉が不完全だった所為で本来の性能の半分も出せなかった事と、こちらが目的の為に意図的に戦況を引き延ばした事もあったからだろうが……ホムンクルスの方の補足が早すぎるな。高レベルの隠蔽装備と《魔法発動隠蔽》を併用していた筈だが』
『解説出来た範囲だと【武闘姫】の劣化“化身”は《第六圏》をラーニングしていた様だ』
『【武仙】のスキルか……あのジョブはリソースの運用に特化しているからな。リソースの直接感知では殆どの隠蔽は意味を成すまい』
『初期型とはいえパワードスーツを装着した高位ホムンクルスを撃破しているからな、戦闘能力も侮るべきではなかろう』
『【アニワザム】とのラインは感知されたが、こちらとの《ハイパーデータリンク》はどうだ?』
『計算によると、存在する事自体は感知されただろうがこちらの位置までは分からない筈だ』
『元より多少の情報露出は想定内であり、時期が来るまで劣化“化身”にこの場所が探知されなければいい』
その絶対的な演算能力と解析能力で、あの場所に居た<マスター>の能力を始めとする様々な情報を次々と明らかにして、更に思考を推し進めて行く。
『二体の<UBM>の早期討伐については、事前に襲撃を行った所為で防衛体制が整っていた事も原因では?』
『それもあるだろうが……やはり、<UBM>は戦力として安定しない事の方が問題だろう。【ギガキマイラ】に関しては理性がない所為で力押ししか出来ず、スペック以下の性能しか発揮出来ていなかったからな』
『【アニワザム】も【寄生型ナノマシン】だけでは制御出来ず、適時精神干渉魔法を使わなければ支配下に置けない所為で外部派遣にはホムンクルスを同行させざるを得なかったからな。……正直、<UBM>の精神支配はリソースを食うから効率が悪い』
『伝説級<UBM>一体を精神支配するよりも、初めからこちらに従う様に調整された高位純竜級モンスターを十体程作って運用した方がコスト・戦力共に上回るだろう』
『そもそも、私達にとって<UBM>と言うのは“技術蓄積の為の試作機”でしか無いのだからな。以前の【マグネトローべ】も騎乗運用前提のモノを無理矢理改造した所為で機体バランスが悪化し、内包リソースでは古代伝説級を目指せたのに結局は伝説級止まりだったからな』
『【アニワザム】を討伐前提で送り出したのも、目的以外にこれ以上の維持はコストとメリットの釣り合いが取れない為でもあったからだし、むしろ隠密行動用のホムンクルスがやられた方が損失としては大きいだろう』
『【エターナ・レイ】の様にこちらと利害が一致していて、かつ技術的な再現が難しい<UBM>など殆どいないだろうからな』
彼等はそうやって何千・何万といった情報が《ハイパーデータリンク》を介して複製脳同士を駆け抜けさせて、そこから更なる思考を展開する事を延々と繰り返しているのだ。
…………そして、その思考は今回の事件の
『第二目標の方は失敗したが、幸い第一目標──
『【ギガキマイラ】の《餓狼暴食》、【アニワザム】の《魔鉱之王》の戦闘時のデータは集積し終わっている』
『出来ればもう少し長く戦って貰ってデータを集めたかったところだが……まあ、最終調整の為のデータは既に集まっていたし、今回のデータが無くても何とかなるが』
『今回の作戦の目的は実戦データを多く集める事で“計画”の精度を上げる事だからな。収集されたデータが多少少なかろうと“計画”そのものには影響はない』
つまり彼等【アークブレイン】が今回の事件を起こしたのは、とある“計画”に必要なデータを集める事が最大の目的だったのである。
…………そして、その“計画”と言うのは……。
『とにかく今回の作戦で得たデータによって、漸く“計画”──
『それに必要な膨大なリソースをどうにかする為に、外部のリソースを自身の物にする<UBM>のデータが必要だったのだから……我等は人工物であり他の<UBM>を打倒する機会も少ない所為で、自己進化には特殊な方法が必要だからな』
『その為の準備には長い時間が掛かったが、既に最終調整段階……先の作戦で集まったデータがあれば、後数年で作業は終了するだろう』
そう、自身を<イレギュラー>の領域にまで進化させる事である…………そして、その為の作業はほぼ終了しており、残すは最終調整のみという段階に入っているのだ。
『こちらをモニターしているであろう進化の“化身”は今のところ行動を起こして来ない』
『以前から偽装として“我々が只のシェルターを守る神話級<UBM>である”と思わせられる部分の情報に見抜かれる事を前提とした旧式の対“化身”用隠蔽結界を、この思考を含む“計画”を司る重要部分の情報には大幅に強化された隠蔽結界を張っている』
『これにより進化の“化身”は未だに【アークブレイン】が只の神話級<UBM>だと思っている筈だ』
『劣化“化身”達が現れる様になる前後からヤツ等の行動形式に変化がある様だから、それが原因かもしれないが』
『どちらにせよ、我等とこのシェルターの存在に気付かれた時点で進化を実行に移す必要があるだろう。現在の状態でも90%程度のスペックは出せる筈だ』
『なるべく完全な形で進化を行いたいがな。故に作業を急ぐとしよう。…………思考終了。それに基づく各種作業を続行せよ』
そうして、実時間では数十秒程度で【アークブレイン】達の思考は終了して、再び自身の戦力強化の為の各種作業に入っていった。
『全ては“化身”を打倒し、彼奴等がこの世界で成そうとしている悪事を打ち砕く為に』
…………彼等【アークブレイン】は
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
末妹:懸念はあるがとりあえずログアウト
・その後、現実で兄妹と懸念について話し合ったが『今のところは出来る事が無い』という結論になった。
騎士団:この後も事後処理で忙しい
・尚、今回あまり出番が無かったリヒト団長だが、彼がクレーミルでクリラ村避難民の住居などの確保に動いていなければ避難が間に合わずティアンに被害が出ていた(その為に現在三徹中でこの後は事後処理に掛り切り)。
バビロニア戦闘団:騎士団が忙しすぎるので報酬の受け取りは後日になった。
エフ:今回の事件を一番満喫した人
・あの後、今回の取材内容を全力でメモに取ってからホクホク顔でログアウトしていった。
シュウ・スターリング:クエスト報酬の半分ぐらいが今回の弾代に消えた
・更に後日、ちゃっかり妹のDNAデータを入手していたゼクスと戦う事になった模様。
【封竜王 ドラグシール】:一応、クエストの報酬はちゃんと用意してある。
・黒幕については独自に調査を行う模様。
【完理全脳 アークブレイン】:主な目的は自身の進化の為のデータ収集
・元の計画では制御下に置いた【ギガキマイラ】と【アニワザム】暴れさせてデータ収集を行う予定であり、二体が討伐される事も織り込み済み。
・計画が最終段階にきた為、多少の情報露出をは覚悟して今回の計画を実行に移した。
・周到な偽装工作の所為でジャバウォックは【アークブレイン】の<イレギュラー>進化計画には気付いていない。
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アルター王国一周旅行・ようやく東へ
リザルト
□地球
クリラ村で起きた【ギガキマイラ】【アニワザム】との戦いから現実の時間で二十四時間経っ頃、漸くデスペナが開けた俺は
ちなみに
「うだー! デスペナ三日は思ったより長〜い!」
「おいたわしや、姉様……」
「仕方あるまい、そう言うデメリットだからな。だからあんまり喚くな、近所迷惑になるだろう
しかし、たった三日デンドロが出来なくなるだけでここまで騒ぐとは、俺達もすっかりヘビーゲーマーになったもんだなぁ。
「ハァ……。まあ、しょうがないから部屋に戻って宿題でもしてるよ。…………ああ、私の分のクエストの報酬も一緒に受け取っておいて良いよ」
「分かったのです、しっかりと貰って置くのです」
そう言って、美希は自分の部屋へと戻って行った…………さて、じゃあこれからログインして諸々の報酬を貰いに行きましょうか。
「確か、クレーミルにある騎士団の詰所に行けば良かったんだよな」
「はい、前回ログアウトする前にリリィさんからそう言われましたのです。…………後、封竜王さんも報酬を用意しているとの事なのです」
何分、俺達は以前さっさとログアウト(デスペナ)してしまったからな、その後の顛末も気になるしログインしたら真っ先に向かう事にしようか。
◇◇◇
□城塞都市クレーミル 【
そんな訳でクレーミルのセーブポイントからログインした俺達はそのまま騎士団の詰所へと向かい、そこに居たリリィさんとリリアーナさんに再開した。
そして、そこの一室であの事件の顛末を聞きつつクエスト達成、及び<
「はい、ではこちらが今回のクエストの報酬になります」
「ありがとうございます。…………結構な大金ですね」
「クエストの報酬と【ギガキマイラ】【アニワザム】の懸賞金を含めた物ですからね」
ちなみに、古代伝説級二体を大した被害も無くと討伐したという事で、リヒトさんが方々に掛け合ってクエストの報酬にはかなり色を付けてくれた様だ…………後、事件の時に居た他のメンバーへの報酬の受け渡しは既に終わっているとの事。
せっかくだし、そこまでしてくれたリヒトさんにも挨拶がしたかったのだが……。
「申し訳ありません。…………今、リヒト団長は奥で眠ってるんです」
「…………何かあったのです?」
まさか、また事件が起きたのか? …………と思ったが、二人の様子を見ると、どうやらそういう事では無いらしい。
「いえ、単なる過労です。…………リヒト団長はここ最近クリラ村の問題でまともに寝ていませんでしたから」
「五日程徹夜で働いたところで治療班からストップがかかりました」
「それは……お大事になのです」
詳しく話を聞くと、彼はクリラ村住民の避難に彼等のクレーミルでの住居の確保などの指揮をほぼ休み無しで行なっており、更に【ギガキマイラ】【アニワザム】の襲撃時には王都へと連絡しつつ、クレーミルで可能な限りの戦力を集めて援軍に行こうとしていたらしい。
幸い援軍を集めるまでに決着はついたらしいのだが、今度は事件の各種事後処理や参加した<マスター>への報酬の用意などで働き詰めだった模様…………そりゃあ、ドクターストップも掛かるだろうな……。
「…………それは働きすぎなのでは?」
「…………リヒト団長は指揮や事務仕事に関しても非常に優秀なので、こういう時だと仕事量が増えるんですよ」
「父う…………近衛騎士団長も『アイツは真面目に働き過ぎるのが唯一の欠点だからな』と言っていましたし……」
「出来れば彼にも挨拶をしたかったが…………そう言う事情ならやめて置こうか」
…………そんな風に俺達が話していた時、突然部屋の扉がノックされた。
「済まない、封竜王だが。レント君達に報酬を渡しに来たんだが」
「は、はい! 今開けます!」
そうして、リリアーナさんが開けた扉から人化した封竜王さんが部屋の中に入って来て、気さくな様子で俺達に挨拶をして来た。
「やあ、レント君とミュウちゃん。約束通り報酬を持って来たよ、はいこれ」
「あ、ありがとうございます……」
そう言った封竜王さんは懐から一つのアイテムボックスを取り出して、そのままこちらに手渡して来た…………多分、この中身が報酬なんだろうが……。
「中には一体何が入っているのです?」
「ああ、この中には私が陣地を作るのに使っていた【竜気結晶】が入っているよ。これでも魔力触媒としてはそれなりだから、結構いい値段で売れる筈だ」
そう言いながら、彼は見本として手元に拳大の水晶を取り出して見せた…………詳しく話を聞くと、これらは以前クリラ村の陣地を作る際に使っていた物で、事件の時に壊れたか中に込められていた魔力を抜き取った物を再利用した物だから遠慮無く受け取ってくれとの事。
…………魔力が込められている物は危険だから渡せないらしいが、魔力が抜けた物はただのアイテムだから問題ないだろうと考えて報酬にしたらしい。
「流石に【アムニール】などと比べれば質は大分落ちるが、数百年陣地に使って来た物だし素材としても十分に性能がある筈だ。後、大きさは疎らで中には結構大きい物もあるから、取り出す時には広い場所にした方がいいかな」
「あ、はい、ありがとうございます…………ヤベェ、鑑定出来ん」
これでも俺は【
…………ちょっと不安に思ったので、リリィさんにアレについてこっそり聞いてみる事にした。
「…………あれ、古代伝説級<UBM>が作ったアイテムだから、相当な代物じゃないかと思うんですがね…………」
「…………専門家に鑑定を以来したところ、騎士団に渡された分だけでも
コレの管理には気を付けないとやばいかな…………などと俺が考えていたら封竜王さんがこちらに向かって頭を下げて来た。
「…………改めて、私とクリラがやり残した事を解決してくれて本当にありがとう。お陰で漸く責務から解放されて自由になれたよ」
「こちらこそ、先日は色々助けて貰ってありがとうございます」
とりあえず、コレで今回のクエストは全てクリアって事になるかな…………と、俺が感慨深い気持ちになっていたらミュウちゃんが封竜王さんに質問をしていた。
「そう言えば、封竜王さんはこれからどうするのです? またクリラ村の人達と暮らすのですか?」
「いや、これから私は以前から知己のあった【雷竜王】殿の伝手を頼って<天蓋山>に住まわせて貰う事になっているよ。古代伝説級<UBM>が特別な事情も無しに人里に居続けるのはあまり良くないからね。…………それに五百年近く一つの場所に縛られて居たから違う場所にも行きたいし」
まあ、五百年も同じ場所に居て、そこから解放されたのならそうなるよな…………そう言えば、俺達も気が付いたら大分長くクレーミルにいる事になってたし、そろそろ旅行を再開しようかな。
「それじゃあ報酬も渡し終わったし、あまり街中に居続ける訳にもいかないから私はここで失礼しよう。…………何か困った事があったら言ってくれ、可能な限り力になるよ」
そう言って、封竜王さんはこちらに手を振りながら部屋を出て行った…………でも、封竜王さんが住む事になった<天蓋山>って侵入禁止の場所じゃ無かったっけ? 相談しに行くとか無理では?
◇
そうして、報酬を貰った俺達はリリィさんとリリアーナさんに別れを告げて詰所から出た後、クレーミルの外の人目がない場所にやって来ていた…………先日の事件で手に入れた
「そういう訳で《瞬間装着》っと……ふむ、悪くないデザインだな」
『お兄さん、それは……』
「灰色のコート……もしかして【アニワザム】の特典武具ですか?」
その通り、このコートは先日倒した【魔鉱蚯蚓 アニワザム】の特典武具【魔鉱外套 アニワザム】である…………色は【アニワザム】の体表と同じ灰色で、形状は長袖のロングコートだ。
とりあえず、その辺の喫茶店にでも入って肝心のステータスを確認してみる事にした。
【魔鉱外套 アニワザム】
<
鉱石を食らい数多の魔法を用いる大蚯蚓の概念を具現化した至宝。
持ち主の生命力・魔力を増大させると共に、鉱石を消費してエレメンタルを召喚する能力を持つ。
※譲渡売却不可アイテム・装備レベル制限無し
・装備補正
防御力+50
HP+[着用者の合計レベル]×10
MP+[着用者の合計レベル]×10
攻撃魔法耐性+([着用者の合計レベル]÷10)%
・装備スキル
《鉱石保管》
《従精召喚》
《???》※未開放スキル
成る程、装備補正はHP・MP・魔法耐性の上昇で、スキルの方は未開放のモノが一つあるのか…………まあ、それに関しては後々調べていく事にして、まずは使えるスキルの方を調べて行くか
「まず《鉱石保管》の効果は『鉱物系アイテムを収納し、それらを自由に取り出す事が出来る』と言うモノの様だな」
「つまり、鉱物系アイテム限定のアイテムボックスみたいな物と言う事なのです?」
おそらくミュウちゃんの言った通りの物だろうな…………試しに、持っていた【ジェム】作成用の魔石を手に持ってみたら、そのまま収納する事が出来たし、それを手元に取り出す事も出来た。
また、加工済みの【ジェム】も収納出来るか試してみたところ、こちらも問題なく出し入れ出来る様だ。
「出し入れの速度も《即時放出》《即時収納》機能付きアイテムボックス並みだし、戦闘時に【ジェム】を多用する俺にとっては有り難いな」
「ですが、古代伝説級特典武具としては地味な効果なのです」
まあ、出来る事は普通のアイテムボックスと変わらないし、鉱石しか収納出来ないからな…………でもまあ、盗難耐性もあるみたいだし、超高級な鉱石を手に入れたばかりに俺にとっては丁度いいスキルでもあるか。
そういう訳で報酬の【封竜王の竜気結晶】を全部【アニワザム】の中に入れる事にしようか。ミュウちゃんも『正直、持っているのが怖いのです』と言って、これ幸いと【竜気結晶】を俺に預けて来たし。
「…………よし、これで全部しまい終わったな。かなり大きい物も有ったがこの《鉱石保管》は収納量も相当大きいらしい。…………じゃあ、もう一つの《従精召喚》の方を見て行きますか」
そうして、二つ目のスキル《従精召喚》の効果を見てみると…………どうやら
「詳しく言うと、召喚出来るエレメンタルのステータスはコストにした鉱物系アイテムで決まり、更に同じアイテムを複数コストにしてステータスを上昇させる事も出来る。後、召喚時間は支払ったMP数値×1秒間でクールタイムは10秒間という感じだな」
「ふむん、召喚したエレメンタルのステータス次第ですが、大量に召喚出来てクールタイムも短い様なので強力なスキルになりますかね」
『お財布には優しく無さそうなスキルだけどね』
まあ、この《従精召喚》は【
また、召喚するモンスターのステータスは事前に見る事が出来る様なので、試しに【ジェムー《ヒート・ジャベリン》】を対象にして召喚エレメンタルのステータスを見てみる事にした。
「ふむふむ、名前は【フレイム・エレメンタル】で、ステータスはSTR・END・AGIが平均100ぐらい、MPが5000、HPが500ぐらい…………エレメンタルだからか魔法型のステータスみたいだな。後、スキルの方は《ヒート・ジャベリン》を始めとするいくつかの火属性魔法が使えて、更に《火属性適正》と《火属性耐性》があるな」
『ポピュラーな魔法系エレメンタルって感じだね』
ふむ、コストにしたアイテムの性能の割には強力なエレメンタルが召喚出来ているのかね…………インスタント召喚のスキルは他に無いから基準が分からないな。
…………そう思っていたら、効果欄に気になる基準を見つけた。
「…………いや、どうやら召喚出来るエレメンタルの種類はいくつか選べる仕様らしい」
「種類を変えられるとかですか?」
「いや、召喚する前に『魔法型』『近接型』『耐久型』『自爆型』のどれかを選択出来て、それによってステータスの配分や所有するスキルが違うらしい」
例えば『魔法型』の時には魔法系のMP特化型であるが、これを『近接型』にした場合はMPが減るかわりにHP・STR・AGIが上がってスキル構成も近接型になるという感じだな。
他には『耐久型』ならMPが下がってHPとENDが上がりスキルも防御よりに、『自爆型』ならならMP・AGI特化になってスキルが自爆系のモノのみになる様だ。
「正直スキル欄だけみてもよく分からないし、これは実際に試して検証した方がいいかな…………コストにする鉱物系アイテムの種類と召喚型の組み合わせが重要そうだし」
「それじゃあ、早速その辺で狩りでもしますか? 私もレベル上げとラーニングしたスキルの修行がしたいですし」
俺が自分の考えを口にすると、ミュウちゃんがそんなヤル気満々の言葉を返してきた…………俺としてもこの手の組み合わせを試行錯誤するは大好きなので、喜んでその提案に乗る事にした。
…………そうして、俺達は検証と訓練の為に周囲のモンスターをログイン中狩り続けていったのだった。
◇◇◇
□地球 加藤蓮
「…………ふーん、報酬はそんな感じか〜。ああ、私の分の【竜気結晶】もお兄ちゃんの預かりで良いよ。盗まれるの怖いし、私じゃ使い道もなさそうだし」
「俺もコレといった使い道は思い付かないんだがな…………コストにするのも使い捨ての【ジェム】に加工するのも、正直希少過ぎて躊躇いを感じる上、俺じゃあ加工出来るかどうかも怪しいぞ」
「やはり、専門家である<プロデュース・ビルド>の皆様にアイテムとしての加工はお任せした方が良いですかね」
あれから一通りの検証を終えた俺達は、美希への報告の為そのままログアウトしていた…………ちなみに検証結果は中々良い感じだったとだけ言っておこう。
更に、俺達はソファーに座りながら今後のデンドロ内における予定を話し合って行った。
「それじゃあ、私のデスペナが終わると共に旅行を再開して、今度こそ東に進むって事でいいかな」
「まあ、それで良いんじゃないか。準備は俺達が明日明後日の内にやっておくさ」
「何かトラブルでも起きない限りはその予定で良いのでは?」
「そこまでは知らない。私の管轄外だよ」
美希曰く『トラブルが起きたら自動で解っちゃうんだからしょうがないでしょう』との事…………まあ、見過ごすのも後味が悪いからな。
…………そうやって話をして行く内に日が沈み、夕飯の時間になっていた。
「確か今日は叔父さんと叔母さんは仕事で遅くなるし、夕飯は買っておいたから作って食べておいてくれって話だったな」
「レトルトカレーと惣菜を買ってあると言っていた筈なのです」
「じゃあお兄ちゃん宜しくね!」
「ご飯は炊いてあるし、カレー温めて惣菜を盛り付けるだけなんだからお前でも出来るだろ。いいから手伝えや」
そうして、俺はソファーで寝転がっている美希を引っ張って連れ出しながら、自主的に手伝おうとしてくれる由美ちゃんと一緒にキッチンへと向かって行ったのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
三兄妹:カレーは割と美味しく出来た
・【封竜王の竜気結晶】をどう使うかに関しては現在保留中。
【魔鉱外套 アニワザム】:これを用いた兄の戦いはまた後日
・《鉱石保管》の容量は初期アイテムボックスの十倍以上、盗難耐性は超級職の奥義でもない限りは中身を盗れないレベル。
・一度の《従精召喚》で召喚出来るエレメンタルは基本的に一体のみだが、ジョブスキル《多重同時召喚》を使って召喚数を増やす事は出来る。
リリィ&リリアーナ:騎士団内<マスター>受付担当
・兄妹に報酬を渡し終えて漸く事後処理はひと段落した模様。
リヒト・ローラン:実は四十代(見かけは三十代ぐらい)
・『騎士団内でも【天騎士】に次ぐ戦闘能力』『高い事務処理・指揮能力』『ペガサスによる超音速飛行能力』を兼ね備えたティアントップクラス枠だが、その分王都から動きにくい【天騎士】&【黄金の雷霆】に変わって色々な仕事を任される事が多い人。
・仕事量を減らす為にペガサスに乗る後継者を育てようとしているが、飛行可能な馬の希少さと自身の仕事量による時間の無さであまり思うように進んでいない。
【封竜王 ドラグシール】:今後は<天蓋山>に居候しつつ色々な所を旅する予定
・【封竜王の竜気結晶】は高い魔力への親和性を持ち、結晶でありながらも古代伝説級金属に匹敵する強度と高い靭性を併せ持つ非常に高性能な素材である。
・だが、本人的には幾らでも作れる物であり、陣地に残っていた物を回収して再利用しただけなのでその扱いは非常に軽い。
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三兄妹のまったり駄弁り旅
それでは本編をどうぞ。
□アルター王国北部 【
長かった私のデスペナが明けた後、私達は予定通り直ぐに馬車に乗りクレーミルを出て東へと足を進める事にした…………幸いにも【マグネトローベ】の修復は間に合ったので、今は快適な旅が出来ている。
まあ、私達なら極論馬車とか引かずに走ったりした方が早く移動出来るんだけど、画面の中のキャラを動かすゲームならともかくVRで街から街への全力ダッシュとかしたら疲れるし、何よりゆっくり旅行を楽しめなくなるからね。
…………そんな事を考えつつ、私は馬車の荷台の上に座りながら自身に装着された全身鎧を
『ふむむ〜? これは結構応用が効くかな〜』
「…………姉様、その鎧の形状が凄い事になっているのですが……」
『凄く禍々しいデザインだね』
そこに同乗していたミュウちゃんとフェイちゃんからそんなツッコミが入った…………今、この鎧の形状は全身からギザギザの棘を生やしたフルフェイスの全身鎧な上に色を黒く変えてあるので、側から見ているとどう考えても悪役が着ている鎧に見えるかな。
まあ、形状変形は一通り試し終わったしとりあえず元に戻そうか……えいっと。
「あ、戻ったのです」
『ふむふむ、デフォルトに戻す分には早く簡単に出来るみたいだね……この【ギガキマイラ】は』
元に戻したその鎧の外見は、狼っぽい形状の青いフルフェイスの兜を被り、胴体部分には竜を模した意匠が凝らされていて、更に手足などの至る所にまるで別の装備を継ぎ接ぎした様な様々な形状のパーツが取り付けられているという変わったモノだった。
そう、これこそが先日の事件で私が手に入れた全身鎧型の古代伝説級特典武具【十装混鎧 ギガキマイラ】である…………それで
【十装混鎧 ギガキマイラ】
<
十体の力ある獣が融合した狂気の合成獣の概念を具現化した至宝。
極めて高い強度を持つと共に、他の装備品を融合させてその能力を取り込む事が出来る。
※譲渡売却不可アイテム・装備レベル制限無し
・装備補正
無し
・装備スキル
《キマイラ・アーマー》
《シェイプ・チェンジ》
《エクストラ・アビリティ》
ちなみに【ギガキマイラ】の装備に必要な枠は頭部・上半身・外套・両手・下半身・両足の六つであり、元のデザインは頭部が狼の意匠があるだけのシンプルな青い全身鎧だったんだよね。
『…………最初は装備枠が【ドラグテイル】と被っていたからどうしようかと思ったけど、そこは特典武具だけあってちゃんと私にアジャストされていたから良かったな』
「確か、他の装備品を取り込んで強化されるのでしたか」
そうなんだよ。この【ギガキマイラ】の第一スキル《キマイラ・アーマー》の効果は、説明文にあった通り
そして、このスキルで取り込める装備品の数は全部で十個…………しかも装備枠を複数使う装備でも一個分として計算されるので、二枠分使う【ドラグテイル】を取り込む時も一つの枠で済むんだよね。
『実質、装備枠が大幅に増える事になるからかなり強い特典武具だよ。取り敢えず、今まで付けていた装備品を全部突っ込むだけでも大分強化されたし』
『だから、そんなチグハグなデザインになったんだよね』
まあ、装備を取り込むには五分ぐらい時間が掛かるから戦闘中の切り替えとかは出来ないし、一度取り込んだ装備を取り出すにはデンドロ内で一週間以上経っている必要があるといったデメリットもあるが、それでも十分過ぎる程に強力にスキルだね。
…………後、融合させると装備に合わせて鎧の一部が変形する特性もあって、【ドラグテイル】の時には胴体部に竜の頭部を模した意匠が付いたりもした。
『まあ、デザイン自体は《シェイプ・チェンジ》を使えば変えられるんだけど…………やっぱり、フルフェイスの兜があると喋りにくいね。仕舞っておこう」
「あ、マスクオフも出来るんですね」
そう言って、私は頭部の狼型フルフェイスメットを胴体部の鎧に収納する様に変形させた…………この、さっきからやってる【ギガキマイラ】自体を変形させているのが第二のスキル《シェイプ・チェンジ》の効果である。
先程から色々試してみた結果、このスキルは無消費で使う事が出来て基本的にマニュアル操作で好きな形に変えられるが、その際には正確にイメージしなければならないので時間が少し掛かってしまう。
…………ただし、元の形状や取り込んだ装備に由来する形、後は鎧の一部を収納又は展開する形でなら超高速で変形可能になっている様であり、どうも細かいところで色々な制限がある様にも感じる。
「例えば【ドラグテイル】の《竜尾剣》を背中に生やすのは一瞬で出来たけど、それ以外の部分に生やすのは時間が少し掛かっている上、一本以上《竜尾剣》を生やす事は出来なかったからね」
「融合させた装備以上の性能には変形出来ない感じですかね」
『無消費のスキルでそこまで出来るのは強すぎるからかな』
まあ多分、二人の言う様な制限があるんだろう…………これに関しては今後も装備の融合と一緒に色々と試して行くしか無いかな。
…………そして、最後のスキル《エクストラ・アビリティ》の効果だが……。
「
「実質的に他の特典武具のスキルを一つ増やせるのですから、凄く強いスキルですよね」
ちなみに【ドラグテイル】を融合させた時に発現したのは《竜気鎧装》──MPを消費して鎧の表面に全ての攻撃を減衰させる《竜王気》を展開するスキルである…………このスキルは消費MPが非常に少ない代わりに持続時間が最大1分間、クールタイムが十分掛かる仕様になっているので緊急的な防御手段として使えそうかな。
そして、【ブラックォーツ】を融合させた時に発現したのは《黒刃》──SPを消費して鎧から非生物を透過する黒色のブレードを展開するスキルだった…………さっき全身から生やしていたのがコレで、展開出来る数には制限が無く長さや形状もある程度自由に操作出来て、更に《闇纏》を使っている状態でも攻撃判定が出る仕様だ。
この二つのスキルから考えると、発現するスキルは特典武具の元になった<
「総合して、色々と応用が効きそうな特典武具だけど、使いこなすには要練習ってところかな? 融合させる装備もきちんと考えないといけないし」
「まあ、力をポンと渡されたとしても、それを使いこなせる様になるには練習が必要ですからね…………む? 《第六圏》」
そうやって話している途中、ミュウちゃんが突然雰囲気を鋭いものに変ながら目を瞑り周囲を索敵し始めた…………直後、私の《殺気感知》にも反応があり、同じく感知したであろうお兄ちゃんも馬車を止めた。
…………その直ぐ後にミュウちゃんの目が開かれた。
「兄様、九時の方向、上空に九体」
「《遠視》…………二人共、こっちに来ているのは【レッサーワイバーン】の群れみたいだ」
「あららー…………ていうか、さっきからドラゴン系のモンスターが良く襲って来るよね」
そう、この辺りに通りかかってからしょっちゅうドラゴンが襲い掛かって来るんだよね…………まあ、強さは最大でも亜竜ぐらいだし、知性も無い様な連中だから全部返り討ちにしているけど。
「この辺りは天竜種の住処である<天蓋山>が近いからな。多分その所為だろう」
「そこからドラゴンが出てきてるって事?」
「<天蓋山>と言えば、アルター王国の北部にある複数の【竜王】を始めとする強力なドラゴン達が住む秘境でしたね。…………その割には襲って来るドラゴンは知性も無く弱いですが」
そうなんだよねー。さっきから襲い掛かって来るドラゴン達は、どいつもこいつも彼我の実力差も理解出来ないレベルの連中ばっかりだしね。
…………そう私達が駄弁っている間にも、彼我の実力差も理解出来ないレベルな【レッサーワイバーン】達はこちらに向かって来てるし。
『『『『『GYAAAAAAAAAA!!!』』』』』
「【ジェムー《ファイアーボール》】をコストにした自爆型を《多重同時召喚》で九体分、三十秒間《従精召喚》……行け」
『『『『『──────────!!!』』』』』
そんな連中に対し、お兄ちゃんは自爆特化の【フレイム・エレメンタル】を九体召喚して嗾けた…………それらのエレメンタル達はお兄ちゃんの新ジョブ【
まあ、所詮は下位亜竜である【ワイバーン】の更に劣化版でしかない連中が、低位とはいえエレメンタルの自爆に耐えられる筈もなくそのまま光の塵となった。
「ふむ、やはり自爆型は攻撃魔法の代用としてなら使いやすいな。内包された魔法と使われている魔石で召喚獣のステータスが決まる以上、召喚モンスター強化のスキルを乗せれば、ただ【ジェム】を使うよりも遥かに威力・速度が上がる。また、誘導性も付くから当てやすい」
「でも、あの程度の相手に使うにはコスパが最悪じゃない?」
「今回はスキルの試運転と未開放の第三スキルの解放条件を探る意味があるから別にいいんだよ」
そんな風に喋りながら、私達は出てきたドロップアイテムを回収して行く…………正直、戦闘よりもこの作業の方が面倒くさいね。シュウさんが使っていたドロップアイテム自動回収カンガルーが欲しいよ。
…………そうして一通りの作業を終えてから、お兄ちゃんが再び馬車を走らせた。
「さて、さっきの話の続きだが……そもそも、強くて知性の高いドラゴンなら<天蓋山>から外には出ないだろうからな。あそこは地竜種と怪鳥種が住むという<厳冬山脈>と違って食料とかも十分にある様だし」
「つまり、弱くて知性が無いから外に出てしまうと言う事ですか?」
「後は、そうやって外に出たドラゴンが繁殖するから、この辺りにはドラゴン型モンスターの生息数が多くなっている事も理由にあるだろうがな」
「要するに、近くに<天蓋山>があるからこの辺りはそこそこの強さのドラゴン型モンスターの生息地になっているって事だね!」
まあ、私達にとっては純竜以上のドラゴンでも出てこない限りは問題にならないから、このまま旅行を続ける感じになるんだけど…………と言うか、先日からずっとこんな風にモンスターを蹴散らしながら馬車を走らせ続けているんだよね。
途中で街や村とかも殆ど無いから休む事も出来ず、モンスターが居なさそうな所でのログアウトを駆使する事でどうにか進んでいる感じである。
「じゃあ、王国の北部に街が少ないのも多くのドラゴンが住んでいるからなのかな?」
「それは、どちらかと言うと<天蓋山>が近くにある事が原因だと思うがな。…………昔、<厳冬山脈>に攻め込んだ大国が逆侵攻して来たドラゴン型に滅ぼされたと言う話もあるみたいだし、そんな恐れのある場所の近くに住みたいと思う人は少数派だろう」
「でも、これから向かうカルチェラタン領は<天蓋山>の近くに有りますよね?」
言い忘れていたけど、私達はアルター王国とドライフ皇国の国境にあるカルチェラタン領を最終目的地にして旅をしているのだ…………まあ、前述の理由でなかなか途中の街で休んだりが出来ないのが困りものだけど。
「そりゃあ、国境に街を作らない訳にも行かないだろう、国防的な意味で。…………それに<天蓋山>に住むドラゴン達は領域を侵さない限りは地上に降りる事は少ないし、山の両端には神話級の【竜王】が門番をやっているらしいからドラゴンが外に出る事は殆ど無いらしいし」
「でも、この辺りにはドラゴンが出るけど」
「それは、単純に山の横合いは面積が広くてカバーしきれないか、取るに足らない連中は止めるまでも無いと判断しているのか。…………まあ、俺は<天蓋山>内部の事情なんて知らないから、ここまでの話は又聞きの上に推測を重ねたもので確証とかはさっぱりだが」
一通り話終わった後、お兄ちゃんは首をすくめつつそう締め括った…………そもそも、別に私達は長く馬車を走らせている間は暇だから駄弁っているだけで、真面目に考察とかしている訳でも無いし。
「空を飛んで行けば早いんだけど、私達の空中移動には少し制限があるしね」
『それに、ここで空を飛ぶともれなくワイバーンが付いて来るからね。さっきも空を飛んでいる最中に襲われて余計に時間を食ったし』
「【バルーンゴーレム】のクールタイムもまだ終わって無いしな、暫くの間は地上移動だ」
やっぱり、私達の空中移動には【マグネトローベ】に二人しか乗れない事がネックだよね…………全員で移動するにはお兄ちゃんが《空中浮遊》持ちの【バルーンゴーレム】を召喚する必要があるんだけど、お兄ちゃんの消費MPや召喚時間とクールタイムの関係で長時間の移動はやや厳しい。
「どこかに宙に浮く馬車とか売ってないのかなー」
「王国内でそんなのが売っている所は見た事無いな」
「レジェンダリアとかで売ってそうですねソレ」
じゃあ、アルター王国一周旅行が終わったらレジェンダリアにでも行ってみようかな? 確か、仲直りしたミュウちゃんの友達が所属していたし、
…………と、言う話をしてみたらミュウちゃんが凄く嬉しそうに賛成したので、私達の始めての国外旅行の行き先はレジェンダリアに決定したのだった。
「まあ、国外旅行に関してはこの旅行が終わってひと段落してからで良いだろう。…………それよりも、話の途中で悪いがまた【ワイバーン】だ」
「またぁ? なんか本当に多くない?」
「今度はレッサーが付かない普通の【ワイバーン】の様ですが…………姉様、何か事件の気配とか感じませんか?」
そう言われてもねぇ、今のところは危険とかは感じないけど、何分“遠い勘”の方はムラが多いからあんまりアテにしたくないんだけど…………何より、
「特に何も感じないよ。…………単に運が悪いだけじゃない?」
「ありがとうなのです姉様。…………最近トラブルが多かったから、どうも深読みしてしまうのです」
「まあ、俺達の特性上しょうがないさ。…………それよりも、さっきの連中よりは強いだろうし数も多いから、お前達にも戦ってもらうぞ」
…………まあ、【ギガキマイラ】の実践試験には丁度いい相手が来たと思いながら、私はデフォルトの全身鎧モードに切り替えつつ紋章から【ギガース】を取り出して戦闘態勢へと移った。
そして、お兄ちゃんも【マグネトローベ】を馬車から外して空に上がり、ミュウちゃんはフェイちゃんを馬車の護衛に残して私と一緒に前に出た。これが私達の旅行中における基本的なフォーメーションである。
「さて、じゃあ戦おうか」
『オッケー』
「はいなのです」
『『『『『GYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』』』』』
そんな感じで襲い掛かって来るモンスター(九割がワイバーン系)を蹴散らしながら、私達は目的地であるカルチェラタン領までのんびりと旅をして行くのだった。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
妹:まったり駄弁り旅(ワイバーン添え)
・【ギガキマイラ】に関しては今のところ『まあまあ使いやすい鎧』ぐらいの扱いで、まだ《キマイラ・アーマー》にも空きがあるから色々と試して行く予定。
・実は自分の才能に関しての闇が三兄妹の中では一番深い。
【十装混鎧 ギガキマイラ】:後のクマニーサン『何それ超羨ましい』
・現在《キマイラ・アーマー》で融合させている特典武具以外の装備は、ステータス上昇・耐性系パッシブスキル持ちの物と《空中跳躍》や《壁面走行》などの移動範囲を広げるスキルを持つ物を選択している。
・《シェイプ・チェンジ》はある程度の損傷を修復する事も出来るが、大幅に形状を変え過ぎるとステータスが下がる事もあるデメリットがある。
・融合枠は装備アイテム一つで一箇所を消費する仕様なので、着ぐるみなどの装備枠を多く使う物とは相性が良い。
【ワイバーン】系モンスター達:三兄妹が通り掛かった場所に偶々大量発生していた
・大量発生の主な原因はワイバーンを生み出し従える<UBM>が現れた事と、<マスター>の増加による生態系の変動。
・更に、その<UBM>が増え過ぎたワイバーンの面倒を見るのを嫌がって、厳選した精鋭を連れて縄張りを別の場所に移したので、三兄妹が通った場所には弱いワイバーンが大量にいる事になっていた。
・大量発生自体はデンドロ世界では良くある事であり、肝心の<UBM>も別の場所に移動していて、残ったワイバーンも三兄妹にとっては驚異にならないレベルだった為、妹の直感は機能しなかった。
・また、三兄妹に積極的に襲い掛かって来るのは、<UBM>に率いられていた時の成功体験が警戒心を下げていた為。
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到着・カルチェラタン
それでは本編をどうぞ。
□アルター王国北東部 【
あれから、俺達が空を走ったり地上を走ったりまた空を走ったりしながら、何故か途中で襲い掛かって来るワイバーン達を蹴散らしつつ東への旅を続けた。そして朝方頃に、漸く目的地であるカルチェラタン領の近くにある山岳地帯まで来る事が出来たのだった。
…………クレーミルからカルチェラタンまではそれなりに距離があったのだが、思ったよりもかなり早く着いたな。やはり空を飛ぶ手段があると街々の移動はかなり楽になるな。
「古来からRPGの道中で街から街への移動手段として、飛行や転移の手段が追加される理由がよくわかる。コレがあるのと無いのでは移動の効率が桁違いだ」
「初めての道中では景色や新しいモンスターとかで感動出来ても、何度も通っていると飽きが来るからね。プレイ時間だって限られているし、二度目以降は『ルーラ』か『そらをとぶ』でいいよねってなる」
「ですが、デンドロには街々への転移手段なんて無いですからね。飛行が最も効率的に移動手段になるでしょう」
『空間転移という現象自体殆ど聞かないからね。レジェンダリアの<アクシデントサークル>ぐらいかな?』
…………と言うか【マグネトローベ】が優秀過ぎるんだよな。やや燃費が悪いとは言え空中を長距離移動可能、戦闘を考えなければ三人程度なら輸送可能な馬力、更に空中戦闘においても小回りが利く上、最近では自立機動にも磨きが掛かって来ているからある程度判断を任せて俺自身は戦闘に集中出来る様になったしな。
「…………おっと、どうやらバルンガのクールタイムが終わった様だ。もう一度飛ぶから準備するぞ」
「待っていたよ! コレでカルチェラタンに付けるかな?」
「まあ、十分届くのでは? …………途中でワイバーンでも出てこない限り」
まあ、空中移動における最大の問題がそこなんだよな…………この世界の空は基本的に飛行可能なモンスター達の領域だからな。人間は空では物凄く弱いし。
ミカとミュウちゃんが空戦が苦手な為、俺達でも空中戦闘ではワイバーン相手ですら結構苦戦してしまう。
「私も一応《空歩》などのスキルである程度の空中を移動出来ますが…………正直、空戦が出来ると言う領域では無いので、どうしても兄様の足を引っ張りがちなのです」
『お兄さんみたいに常に飛べる訳じゃ無いから、定期的に空に居る【マグネトローベ】やバルンガに着地する必要があるし、その所為でその機動の邪魔になってるからね』
「私も【ギガキマイラ】に《空中跳躍》スキル持ちの装備を融合させたりしてるけど、やっぱり空戦は厳しいよ。…………あー、何処かに飛行する<
…………
だから、飛行中には常に周囲を警戒して飛行型モンスターを感知した場合には高度を落としたり、或いは地上に逃げる必要も出て来るのだ…………そんな事を話しながらも、俺達は空中移動の準備を終わらせた。
「まあ、それでも地形を無視出来るから地上をよりも遥かに早く楽に移動出来るんだよね。…………一度楽を味わえば、人間戻って来れないものだからね」
「モンスターと遭遇するのは地上と変わりませんし」
「俺はゲームで移動手段を短縮する方法がある場合、ガンガン使って行くタイプだからなー。と言うわけで行くぞー」
そうして、俺は【マグネトローベ】に騎乗してミカがその後ろ、ミュウちゃんとフェイが紐で繋がれたバルンガの上に乗って空へと舞い上がり、そのままカルチェラタン領がある方角へ飛んで行ったのだった。
◇
そうやって空を走って行く事暫く、時間としてはお昼を少し過ぎた頃、俺達は漸く遠目に民家が見える所まで来る事が出来た。
「やっと人間が住んでいる様な場所についたね。あれがカルチェラタン領かな?」
「地図を見るとその様だな。…………じゃあ、降りるぞ」
そうして、俺達は地上に降りてバルンガと【マグネトローベ】をしまいカルチェラタン領に入っていったのだった…………次の街に来たにも関わらず、今回は俺達にしては珍しく特に何も無かったな。
…………何時もは、街周辺で起きそうな何かの事件に首を突っ込むか何かするんだが。
「…………ミカ、本当に何も無いんだな」
「もう! だから何も感じないって言ってるでしょ、お兄ちゃん! いくら何でも次の街に行く度に事件が起こる筈もないじゃない!」
「兄様、少々無神経ですよ」
今回はあまりに普通にカルチェラタン領に入れたから、ついミカに確認したらそう言われてしまった…………事件の感知はミカにとってあまり良いものでは無いのだし、確かに少し無神経だったな。ここは素直に謝っておこう。
「あー、悪かったなミカ。…………後で何か奢るから許してくれ」
「まあ、別に良いけどさ。…………今回は私の直感には何も反応が無いし、普通にゆっくりと観光が出来ると思うよ」
「とりあえず、長旅でお腹が空いたのであそこのレストランで食事にしましょう…………もちろん兄様の奢りで」
『結構高級そうなレストランだね』
…………と、言うわけで、俺達は近くにあったレストランで遅めの昼食を取る事になった。そこはフェイの言う通り結構高級なレストランで、妹二人も俺の奢りだからと遠慮なく高いメニューを頼んだので、結構な出費になってしまった。
まあ、先日の報酬や【
「うん、中々美味しいね、このミートスパゲッティっぽいヤツ。お兄ちゃん、そっちの親子丼はどう?」
「コッチも美味いな。…………ミュウちゃんが頼んだのはハンバーグ定食か」
「はい。…………しかし、ここのメニューや内装を見ると現実にあるファミリーレストランを思い出しますね」
確かに、メニューの内容が和洋問わずだったり、店の一角にドリンクバーがあったり、定員さんの呼び出しボタンがあったりする所とかはソレっぽいよな。
…………後で知った話だが、ここの店は<マスター>から伝え聞いた日本のファミリーレストランの情報を元に改装したらしい。
「しかし、少し見た限りだとこのカルチェラタン領は長閑な所みたいだね。ここなら特にトラブルも無くのんびり出来そうだよ」
「ワイバーンの問題があるかとも思いましたが、大量発生している場所がここから離れていたお陰で大丈夫そうですね」
『あのワイバーン達、自分の縄張りに入ってきた相手には積極的に襲い掛かって来るけど、外に出た相手を追ったりはして来なかったからね』
「あの様子なら人里に被害が出る様な事も無いだろう」
自分達のテリトリーに入ったら嫌になる程襲い掛かって来たのに、一旦テリトリーの外に出たらさっぱり追って来なかったからな。アイツら一体なんだったのだろうか。
…………と、そんな感じで俺達は食事を続けながら、今後の予定を話し合って行った。
「それで? これからどうしようか?」
「うーん……とりあえず、観光しながら冒険者ギルドに行って適当な依頼を受けてみるのは?」
「実にいつも通りだな。…………まあ、街に来たらとりあえず観光しつつ、クエスト資金稼ぎをするのが俺達の基本だしな」
それに冒険者ギルドを始めとする各種ギルドには色々と情報が集まっており、きちんと依頼をこなして信用を得れば街の外から来た旅行者にもそれらの情報を教えてくれるからな。
とりあえず、その街のギルドでクエストをこなした方がその街では資金的にも信用的にも色々とやり易くなるのだ。今までこの世界で旅行していった時に学んだ知恵である。
「それじゃあ、食事が終わったら早速冒険者ギルドにでも行くとするか」
「「『はーい』」」
◇◇◇
□カルチェラタン領・冒険者ギルド 【
食事を終えた私達はその足で冒険者ギルドへと向かい、そこでクエストのカタログなどを読み漁って色々と調べていたのですが……。
「ふーむー…………私達が受けやすそうな、高い戦闘能力を必要とされる討伐系のクエストは少ないみたいだねー。この領は実に平和だよ」
「まあ、平和なのはいい事だがな。まあ、別に討伐系の依頼に限る事は無いだろう。…………配達系のクエストもあるし、俺ならちゃっちゃと行ってちゃっちゃと帰って来れる」
「でも、それは兄様一人でやった方が効率が良いですよね。私と姉様は暇になるのです」
ご覧の様に中々決まりません…………何だかんだ言って私達は戦闘特化なのでその手の依頼しか受けられませんし、私と姉様と言う
以前聞いた話ですが、討伐系クエストはレベル上げの要素もあるので高レベルの人が低ランクの依頼を総ナメにするとかは、低レベルの人の成長の機会を奪うからあまり頻繁にやってはいけないと言う不文律がある様なのです。
「ああ、高い戦闘能力が必要そうなクエストもあったな…………この領の近郊に大量発生したワイバーンの調査依頼と言うんだが」
「暫くワイバーンは見たくないから却下。…………あ、<
「えーっと、ふむふむ『<風精鉱山>は【魔鉱蚯蚓 アニワザム】が縄張りにした所為で<自然ダンジョン>と化した鉱山であり……』…………また、最近聞いた様な名前が出てきましたね」
『改めて見てみると<UBM>の名前とかも似ているね。何か関係があるのかな?』
どうやら、兄様と姉様も自分達が倒した<UBM>と関係がある件だから気になっている様なので、一旦ギルドの受付嬢さんにこの件の詳しい話を聞いてみる事にしました。
「済みませーん、この【シルフィーザム】と<風精鉱山>について詳しく聞きたいんですけど」
「<マスター>の方ですね、分かりました。…………この<風精鉱山>はカルチェラタン領近郊にある風属性エレメンタルが出現する<自然ダンジョン>で、いくつかの風属性の鉱石が取れる場所だったのですが、最近になって<UBM>【魔鉱風精 シルフィーザム】が出現しまして」
その受付嬢さん曰く、その<風精鉱山>は【アニワザム】が縄張りにした<自然ダンジョン>であり、そこに住むエレメンタル達は決して外には出なかったので、偶に風属性の鉱石が必要な人間が少し潜る程度の重要度の低い場所だったそうです。
また、<マスター>が増え始めてからも“ダンジョン”という事で腕試しや冒険の為に入る人も偶に出る程度で、それによって風属性の鉱石が少し多く市場に出回ったりするぐらいの、言ってしまえば放置して置いた方が良いダンジョンだった様です。
…………しかし、最近【アニワザム】が討伐された直後に<風精鉱山>内で【魔鉱風精 シルフィーザム】が目撃され、領の近郊に<UBM>が現れた事とそれによって<風精鉱山>内のエレメンタルが外に出て来る可能性があると考えられ、調査の必要があるとこの様なクエストが出されたそうなのです。
「ですが、クエストを受注して【シルフィーザム】の調査・討伐に向かった<マスター>達はほぼ全員倒されていまして…………今のところ分かっているのは【シルフィーザム】が<風精鉱山>から出てこないらしいという事ぐらいなんです……」
「成る程ね……【アニワザム】が討伐されたから、その制御下を外れたエレメンタルが<UBM>化したのか?」
「さあ? <UBM>発生のプロセスなんて知らないし。…………でも、私の直感だとその【シルフィーザム】は特に事件とか起こす感じじゃないみたいだけど」
受付嬢さんの話と姉様の直感を総合すると、その【シルフィーザム】は<UBM>化してもこれまでと同じ様に自分の陣地を守り続けている様ですね…………特典武具目当てでこれまで多数の<マスター>が討伐に向かっている様ですが、ダンジョンから出て来る事は無かったらしいですし。
…………そこまで話を聞いた所で、兄様が確認を取って来ました。
「それで、この【シルフィーザム】調査のクエストはどうする?」
「うーん…………今行動しても特に意味は無い気がするし、<UBM>とは先日散々戦ったから保留でいいんじゃない?」
「せっかく新たな街に来たのですし、まずはのんびりと行きましょう」
『特典武具は沢山持ってるからね。あんまりがっつく必要は無いんじゃない?』
そう言うわけで、このクエストはとりあえず今の所は保留という事になったのです…………後、姉様曰く『勘だけど【シルフィーザム】は私達でも勝てるか怪しい気がする。特典武具は欲しいんだけどねー』との事なので、暫くは様子見した方が賢明みたいです。
…………さて、いい加減受けるクエストを決めましょうかね。
「しかし、俺達が受けるのに丁度いいクエストが見つからんな」
「ふむ…………もう“丁度いい”とか“効率”とか考えるから見つからないんだよ! そう言ったのを無視して面白そうなクエストを選ぼう、街中のゴミ拾いとか!」
「姉様がそれでいいなら構いませんが…………あ、後ろから二人程来たのです。此処にいると邪魔になりそうなので離れましょう」
どうも、クエストを見つけるのに躍起になっていた所為で受付に長時間止まりすぎていた様なのです…………まだクエストが決まらない以上、後ろから来た
「邪魔をしてしまい申し訳ないのです。私達はまだ受けるクエストが決まらないのでお先にどうぞ」
「ああ、悪いな嬢ちゃん。それとツレの…………ゲェッ!?」
「ファッ!?」
そんな風に声を掛けて道を譲ったら、二人の内のモヒカンの方が見た目にそぐわぬ丁寧な対応をしてくれた…………と思ったら、いきなり規制を上げて後ろに飛び退いたのです。
…………どうやら兄様と姉様を見てその様な反応になった様ですが……。
「兄様姉様、あの人達とは知り合いですか?」
「えーっと…………誰だっけ?」
「ふむ…………ああ。まだデンドロを始めたばかりの頃、俺達をカップルと勘違いして襲い掛かって来たPKがいただろう。確か名前はモヒカン・ディシグマとボッチーだったか」
「「ヒィッ!!」」
成る程、私がデンドロを始めるよりも前に出会った人達なのですね。どうりで見覚えがない筈なのです。
…………そして、そのモヒカン・ディシグマさんとボッチーさんですが兄様達を見てめちゃくちゃビビっている様なのですが、どうしたのでしょうか?
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺達はもうPKからは足を洗ったんだ! だからアンタたちと争う気はこれっぽっちも無いんだ!」
「き、クエストの報告をしに来ただけで……!」
「別にそんなに怖がらなくても、そっちから仕掛けて来ない限り私達はどうもしないよ?」
「受付嬢さんが困っている様だからさっさと報告したらどうだ? 俺達は他所に行くからさ」
そう言った兄様と姉様は、何か色々と言い募っている二人を少し困った様な目で見ながらその場を離れて行きました…………何か妙な展開になりましたが、とりあえずその辺の椅子にでも座ってクエスト選びの続きをしましょうか。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
三兄妹:三人とも『ドラクエ』と『ポケモン』はいくつかプレイ経験あり
・<UBM>との戦いが連続しすぎて少し飽きて来たので、今は危険の無い相手にまで戦いを挑もうとする気は無い模様。
【魔鉱風精 シルフィーザム】:ランクは伝説級
・元々は【アニワザム】が
・だが、【アニワザム】が倒されて配下で無くなった事と、その特殊なスキルによって作られていたので同じ個体は再現不可能と判断された事、そして自己進化の結果固有のスキルを習得していた事によって機能と役割をそのままに<UBM>化した。
・<UBM>化により能力は上がっていて縄張りへの侵入者を積極的に排除する様にもなったが、かつて与えられた『縄張りの維持と守護』という命令に今も忠実であり、それに準じたスキルを有しているので外に出て来る事は無い。
・ただし、縄張りの内部では三兄妹でも仕留めきることは難しいレベルのダンジョンマスター的<UBM>になっており、<風精鉱山>に足を踏み入れた<マスター>を全て惨殺している。
・尚、【アニワザム】の縄張りには必ず一体のリーダー役エレメンタルが配置されていた為、現在同じ様に<UBM>化の条件を満たしている<水精洞窟>に【魔鉱水精 ウェンディーザム】が、<火精坑道>に【魔鉱火精 イフリーザム】が、<地精晶洞>に【魔鉱地精 ノーミーザム】が発生して各ダンジョンの難易度を大幅に上昇させている。
モヒカン・ディシグマ&ボッチー:兄妹の事はかなりトラウマになってる
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ちょっと温泉宿行ってみた
□カルチェラタン領・街中 【
何か妙な再会があった後、私達は冒険者ギルド内の空気が微妙に居た堪れなくなったので予定を変更してクエスト探しを中断してカルチェラタン領内を散策する事にしたのだった…………正直、ピンと来るクエストが全然見つからないから意地になって迷走していた感があるし、今回はご縁が無かったという事でスッパリ諦めました。
…………と、そうやって適当に街中をブラついている途中で、ミュウちゃんが私とお兄ちゃんにやや呆れた様な声で質問をして来た。
「ところで二人共、あの人達に一体何をしたんですか? 物凄いビビってましたけど、そんなにアレな人達だったので?」
『とてもそうには見えなかったけど』
「いや、大した事はしてないよ? あの二人がPKを仕掛けて来たから普通に返り討ちにしただけだし」
「ああ、
うんうん、あの二人はコッチをカップルと勘違いして襲い掛かって来ただけだから
確かに、私が直感で<
「コッチだって好き好んでこんな“チカラ”を持っている訳じゃ無いからね…………それをチートだのと言われるのは結構ムカつくんだよ」
「それに、そういう連中はしつこいからな、二度とこちらにちょっかいを出す気が起きないぐらいに念入りに潰さないとな」
「まあ、それに関しては別に良いんですが。…………あまりやり過ぎないで下さいね、あのお二人が改心したというのは事実でしょうし」
別にさっきも言った通り、向こうから仕掛けて来ない限りは何もしないよ。それにあの二人みたいに『カップル爆発しろ!』とか、いつかの黒黒さん(仮)みたいに『お前たちを倒して名を上げてやる!』みたいなPKにはそこまで悪くは思わないし。
…………もちろん、向かって来たら普通に倒すんだけどさ。
「とりあえず! この話はこれで終わりにして、しばらくはこの街での観光を楽しもうよ。最近は闘いっぱなしだったし」
「まあ、暫くはのんびりとするのもいいかもしれないな。…………どうせ、何か事件が起きたら首を突っ込む事になるだろうし」
「休める内に休んだ方がいいですかね」
…………二人の言い分にはやや言いたい事も有るけど、今日私達はとりあえずカルチェラタン領内の観光をする事に決めて街へと繰り出していったのだった。
◇
そんな訳で、私達は今カルチェラタン領の郊外にある天地様式(らしい)温泉宿でのんびりと温泉に浸かっています…………領内を観光している時に温泉宿があると聞いて、旅先で温泉を満喫するとか一回やってみたかった私の意見で今日は此処に泊まる事になったんだよね。
…………そう言う事で早速私達は温泉に入る事になったんだけど、まさか
「しかし、この時間帯は混浴だったのですね。知りませんでした」
「うんうん、いきなりお兄ちゃんが入って来た時にはビックリしちゃったよ」
「それはこちらのセリフだ。男湯に入ったと思ったら何故かお前達がいるんだからな。慌てて《
そうして確認した結果、ここの温泉は一定の時間帯は混浴になっている事が分かったので私達は安心して一瞬に温泉に入る事になった訳です。
…………え? エッチなハプニングとかは無いのかって? 兄妹でそんな事が起きる訳ないでしょう(真顔)。
『ていうか、最初は慌てていたのに今はあっさりと混浴してるよね』
「別に兄妹なら混浴しても問題ないでしょう。そもそもこの身体はアバターだし」
「他に利用者がいるのならまた別の時間にしたかもしれませんがね」
「まあ、偶にはこういうのも良いだろう。本来旅行とはこうあるべきだ」
確かにこれまでの私達の旅行は、旅先で片っ端から事件に首を突っ込んでそれを解決する水戸のご老公様方式になっちゃってたからね〜。この領にいる間ぐらいはのんびりとしていてもいいでしょう。
「しかし、この温泉宿は天地様式らしいけど天地ってこんな感じなのかなー。宿の前にはシーサーっぽい何かが置いてあったけど」
「どちらかと言うと“外国人から見た日本”みたいな感じだが……まあ、実際に天地に行った事が無いから何とも言えんが」
「天地所属のクラスメイトの話だと戦国時代の日本的な純和風の国らしいですが……いずれは行ってみたいですね」
そんな感じで、私達は適当に駄弁りながら売店で売ってた温泉卵を食べたりして露天風呂を一通り満喫したのだった…………まあ、途中でミュウちゃんの《第六圏》で他の利用客が温泉に来る事が感知されたので、慌てて超音速機動で脱衣所に戻ったりしたけど。
…………流石に肉親ならともかく他人と混浴はちょっと難易度が高いかな。
◇◇◇
□カルチェラタン領・天地“風”温泉宿内 【
「風呂上がりの客室はノーマル牛乳派、コーヒー牛乳派、フルーツ牛乳派に分かれて混沌を極めていた……!」
「ちゃーらーらーらー、らーらー、らーらーらーら、このーままー♪」
「ハイハイ、ビルドビルド……というか、お前達知能指数が低くなっていないか?」
予期せぬ混浴だった為、さっさと温泉から上がった俺達は、客室にあった浴衣を着て近くにあった売店で買った牛乳を飲みながら寛いでいた…………ちなみに俺はコーヒー牛乳派、ミカがノーマル牛乳派、ミュウちゃんとフェイがフルーツ牛乳派である。
…………それで、俺のツッコミに対し部屋でゴロゴロしている二人はそのまま寝そべった体勢のまま返答してきた。
「えー、別に良いじゃん。最近は直感で感知した事件を解決するのに頭を使いすぎたしさ、今日はダルダルすると決めたのさ〜」
「そういう訳で、今日はお休みなのです〜」
「…………分かった、好きにしろ」
どうやら完全にウチの妹二人はお休みモードらしいな。フェイもミュウちゃんの紋章の中で休んでいるし。
まあ、最近は闘い詰めだったし今日一日ぐらいはそんな態度でも構わないだろう。
「それじゃあ、俺はこの旅館の中を散策してくるから」
「いってらっしゃーい」
「いってらっしゃいなのですー」
そんなこんなで、俺は二人のだらけまくった声を背に客室を出ていった。
◇
さて、そんな訳で特にやる事も無く暇なので天地風“らしい”この旅館内を歩き回っていたのだが……。
「ヒィィィ〜⁉︎ お、俺達は本当にPKからは足を洗ったんです!」
「いや、それはさっきも聞いたから……」
「やはり、念入りに潰さないと気がすまないと……! お、俺達をキルするのは構わないが、ここの旅館に迷惑を掛けるのはやめて貰おうか!」
「今この状況が一番迷惑を掛けていると思うのだが」
「えーっと、昔貴方とお二人は敵対していたかもしれませんが、今のこの二人はそれなりに良い<マスター>なので出来れば恩情を掛けてくれると……」
「………………ハァ……」
余りにも理解を放棄したくなる状況に、俺は思わず頭を抱えてため息をついてしまった…………何故こんなカオスな状況になっているのかと言うと、まず俺が旅館の中を歩いていたらさっき冒険者ギルドで会ったモヒカン・ディシグマ&ボッチーと再会したのだ。
まあ、そこまでは良かったのだが、こいつらは何故か俺の顔を見ると途端に怯え出すし、なんか一緒にいたこの旅館の店員さんには二人を許してほしいと懇願されるし…………俺はナマハゲとか荒御魂とかの類いでは無いんだが。
「とりあえず、そっちから仕掛けてこない限り俺からお前達に何かする事はないからいい加減に怯えるのをやめろ。…………というか、お前達にはそこまで怯えられる様な事はしていないだろ」
「え? 貴方達三兄妹は噂によるとPKには一切容赦せずに徹底的に痛めつけると聞いたんだが……」
「噂ではどれだけPKが泣き叫ぼうとも決して拷問の手を止めないと……」
「ちょっと待て、なんだその噂は」
この二人から放たれたその話に俺は愕然とした…………いやまあ、それに関しては心当たりが無いことも無いんだが……。
…………まさか、この二人が過剰に怯えているのはその噂が原因か? やれやれ、どう説明したものか……。
「とりあえず、俺はお前達二人にそこまでする程の悪印象を持っていないし、何度も言っているがこちらから何かする様な事は基本しないから」
「つまり、向こうから仕掛けられた上で印象が悪かった場合には容赦無く痛めつけると?」
「…………まあ、デンドロで二度と関わり合いになりたく無いと思う様な相手にはな」
「やっぱり!」
だから、やっぱりじゃない! ここは一度懇切丁寧にこちらの詳しい事情を説明した方がいいか。
「とにかく! 俺達はこっちの事をチートとか反則とか言ってくるPK相手なら痛めつけもするが、別に『カップル爆発しろ!』とか言って襲い掛かって来る程度の相手にはそこまでしないから」
「…………えーっと、そもそもそう言うことを当たり前にやってるのが問題なのでは?」
「え? だって不死身の<マスター>相手にデンドロで二度と関わりたく無い場合には、もう相手の心を折るしかないじゃないか」
「ヒェッ」
まあ、<マスター>には痛覚オフがあるし、一発逆転要素の<エンブリオ>もあるからな。実際には手足をへし折ったりスキルの発声を出来なくする為に喉を潰したり、後は痛覚オフでも呼吸困難の苦しさは消せない事を利用して死なない程度に肺を潰したりするぐらいだし。
…………そう言う事を懇切丁寧に説明したら三人からはドン引きされた。その辺の悪役ロールのPKとやってる事はそんなに変わらないんだがなぁ。
「しかし、チートとか反則とか言われるのがそんなに嫌なのか?」
「まあな。少し<UBM>を人より多く倒したぐらいでそんな事を言われるのはイラつくんだよ。…………こっちだってそれなりに苦労しているのに」
「持てる者への嫉妬はMMOの常だからな。あまり気にする事も無いと思うが」
「噂されたり陰口を叩かれるぐらいなら、そこまで目くじらを立てたりはしないさ。…………それで、こっちをPKしようとするなら排除対象だが」
どうやら、ちゃんと説明したお陰かモヒカンとボッチーもこっちを過剰に恐れる事は無くなった様だし、とりあえずこれで一安心かな。
「それじゃあ、俺は部屋に戻るから」
「そ、そうか…………今日は色々と迷惑を掛けて済まなかったな」
「申し訳ない」
「いや、分かってくれたならそれで良いさ。それじゃ」
「ゆっくりしていって下さいね」
そう言って、俺は(多分)事情を分かってくれたであろう三人を背に自分の客室へと戻っていったのだった。
◇
「ただいま〜……」
「お帰り〜って、なんか疲れてるねお兄ちゃん。なんかあったの?」
「ああ、それはカクカクジカジカ……」
あれかと、客室に戻って来た俺は二人に先程あった事を一通り説明した。
「ふーん、大変だったねーお兄ちゃん、ご愁傷様。…………しかし、私達の事ってそんな噂になってるのか」
「私達って基本的に身内でのプレイだけで他の<マスター>との交流がかなり少ないですし、掲示板とかも殆ど利用しませんからね。その手の噂に疎くなるのは仕方がないでしょう」
「まあそうなんだよな。話の分かる身内だけでプレイした方が楽だし」
それに俺達の場合はミカの直感があるからな。事件が起きそうな時とかに説明する事が難しいので、その事情を知らない他の人間を誘いづらいという事もある。
…………まあ、今回の件でもう少し他の<マスター>と交流を持った方がいいかなとは思い始めたが。
「まあ、その事に関しては気にし過ぎても仕方ないでしょう。基本今まで通り直接仕掛けて来る連中以外は無視で」
「噂なんてどうにかなる類いのものでも無いですし、今回の事も思い当たる事があったあの二人が過剰反応しただけでしょうし」
「それはそうなんだがな」
…………畳の上で浴衣着て寝転がりながらゴロゴロしてる状態で言われてもなぁ……。
「とにかく〜、今日は休むと決めたのでゴロゴロするの〜」
「するのです〜」
「はいはい」
まあ、この二人がこんな調子じゃしょうがないし、また明日で構わないかな。
あとがき・オマケ、各種オリ設定・解説
三兄妹:なんか色々面倒くさくなってきたのでお休みモード
・尚、自分達の才能の事は割と地雷原なので、そこを突かれると(相手が)酷い事になる。
モヒカン・ディシグマ&ボッチー:噂を真に受けた人達
・とにかく、こちらから仕掛けなければ安全だとは理解した(後、地雷を踏んだらヤバイ事も)
読了ありがとうございました、意見・感想・評価・誤字報告などはいつでも待っています。
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