鏡の中のアリス (ブルーな雛菊)
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賢者の石
廃墟になった町


今作はフラグを立てて終盤で回収したいなと
あえて誰か何時の時期かなど伏せた物をチョイ出ししていこうかと思います(作者もフラグ自体忘れて未回収のまま完結する可能性もありますがw


人は少しずつ記憶を忘れていく生き物だ。

楽しい記憶や悲しい記憶、分け隔てなく忘却は訪れる。

 

幾多もの忘却の夜を越えても尚、思い出すことの出来る心に刻み込まれた記憶……それらの積み重ねが人格というものを作り上げているとするならば私には一体どれ程の思い出が残っているというのだろうか?

 

静かに瞳を閉じて思い返す。

 

 

 

仄かに香る薬品の匂い。

中央には簡素なベッドが設置されているだけの何もない部屋。

 

天井、壁・・・シミ一つない真っ白な壁紙で統一された空間は何所か非現実的と思えてしまう。

唯一、開けっ放しにされた窓からのぞく景色・・・雲一つない青空だけが何もない部屋を彩っていた。

 

風に靡くカーテン

小鳥の逃げた鳥籠。

 

 

私は……唯一の記憶さえ楽しい物とは言えそうにない。

 

 

・・・・・

 

 

日の光を遮る程の分厚い曇天

街頭に並ぶ家電量販店のテレビからはまるで警鐘の様に午後の天気予報が鳴り響く。

 

市民達が雨が降り始める前に…と足早に目的地を目指す中、幼い子供の姿が一つ。

 

ボロボロになった服、何処か薄汚れた顔。

明らかに親からはぐれた…だけとは思えない子供の姿を横目にしながらも、街の人々は少女の前を通過していく。

 

少女はまるで自身が透明人間みたいと思った。

実際その認識は間違っていない。

 

言葉にするなら[事なかれの大衆心理]。

 

本来、親を失った孤児なら施設が保護する。

しかしその少女がボロ布で着飾った格好で街角にいるということは保護対象から外れたと言っているのと同義である。

 

国籍不明、住所不明。

名前を名乗ったとしても実名なのかさえ怪しい。

そんな人物に誰が手を差しのべる?

 

同情はしても施しはしない。

何故なら街の人々には見ず知らずの子供を養う義理もないからだ。

下手に声をかけて目をつけられ、金品目的で刺される可能性だってある。

その結果が[見て見ぬふりをする]というこの状況になっている。

 

少女は廃棄されたカサカサに乾燥した黒パンを齧りながら街並みを眺める。

街には色んな人が溢れている。

 

此方を哀れそうに見るスーツを着た中年の男性。

明らかに不機嫌な表情を浮かべ去っていく女性。

 

「見て!お母さん。あの子汚い。」

時折、無邪気な子供が此方に指を指して嘲笑う姿が見える。

 

……もっとも、私にはその言葉に反論などする気にもなれずに泣き寝入りするしかないのだが。

 

 

自嘲の笑みを浮かべながら少女は立ち上がり歩き始める。

もうすぐ夕立が訪れる。

 

「雨を凌げる所を探さないと…」

 

 

 

私の心の中を示す様にポツポツ…からやがてザーザーという雨音に変わり勢いを増す豪雨。

 

私は高架橋の下、

上から滝のように落ちてくる雨水で両手を洗う。

 

 

 

激しい雨音の中微かに聞こえる街の喧騒……ふと、何気なく見回した街の風景は…

 

「何時になっても変わらないものね…今も、昔も、そしてこれからも。」

 

……酷くデフォルメした景色に見えた。

 

 



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入学案内






プリベット通り四番地の住人、ダーズリー夫妻には大きな秘密があった。

 

「おかげさまで、私どもはどこから見てもマトモな人間です」

 

と……胸を張って断言するのが自慢である夫妻は[不思議]や[神秘]など非科学的な事が大嫌いな人種で、まさか自身が身をもって体験する等とは夢にも思わなかっただろう。

 

始まりは10年前。

自宅の玄関前でぐっすりと眠る幼子を保護した事から始まった。

書き残された手紙には自身達が赤ん坊の親戚にあたり、この子を保護する義務と必要性が簡潔に纏められていた。

 

……夜中に訪れ、赤ん坊を此方の同意無しに押し付けるなど非常識と憤慨すれども妻の説得に折れて結局引き取る事になってしまった…というのが事の顛末だ。

 

……問題はその子供の周辺では[不思議]な事が起こるということくらい、

 

 

「さぁ、起きて!早く!」

妻のペチュニアがヒステリックな声。

 

 

当主であるバーノン・ダーズリーは今となっては恒例となったやり取りを新聞を読みながら聞き流す。

 

階段下の物置の戸を叩く音がダイニングまで聞こえてくる。

 

いつも通りの日常、変わらない平和な毎日。

ただ、その日は一つだけいつもとは違う物があった。

 

来るはずのない居候への一通の手紙。

今時珍しい羊皮紙の封筒にエメラルド色のインクで宛先が書かれている。

 

内容は人を小馬鹿にした悪戯の様なもの

 

「魔法学校だと! 人を虚仮にしやがって!」

 

思わず口に出てしまった自身にバーノンは悪態をついた。

 

今時、魔法使いなんて存在しない。

第一に遥か昔に魔法使い等と呼ばれていた輩は結局の所、只の手品師か現代で言う科学者だという証拠が次々と上げられている。

 

こんな低レベルな悪戯に引っ掛かるのは…それこそ[変わり者の甥っ子]くらいなものだろう。

 

切手は貼っていなかった事から察するに、愛しい我が子の愉快な仲間達が悪戯半分でドッキリをあの[出来損ない]に仕掛けたってところだろうか。

 

「悪戯小僧達にはダドリーにお灸を添えて貰わなければな!」

 

微笑ましい悪戯に大人が介入するのは[マトモじゃない]。

子供のジャレ合いは子供同士で楽しむべきだ。

そうバーノンは結論し、微笑みながら封筒を破り捨てる。

 

魔法……仮にそんなものが存在するとしてもその者達からは10年前に我が家に赤子を押し付けてから一切音沙汰ない。

今更[マトモじゃない]狂人達に家の秩序を踏みにじられてなるものか

 

そう心の中に決心し、いつも通りの[当たり前の日常]が始まる。

……翌日、大量の[マトモじゃない]エメラルド色のインクの封筒が大量に届くまでの話なのだが…

 

~~

 

とある城のとある部屋へと向かう女性の姿が一つ。

 

ホグワーツ魔法学校 占い学 教授 シビル・トレローニー

 

ひょろりと痩せた体、折れそうな程細い首には何重にもビーズや鎖のネックレスをぶら下げた昆虫……と言った表現が一番しっくり来るだろう。

 

彼女の顔にサイズが合ってない大きな眼鏡は

廊下を照らす[消えることのない]魔法の松明の

炎の揺めきが眼鏡に反射して、レンズで拡大された眼を心なしか更に強調しているように感じられる。

 

合言葉を口にし、ガーゴイル石像が通路を塞いでいた先の部屋の扉をノックし入室する。

 

「忙しい所にすまんの…シビルや…」

 

髪も長すぎる髭も真っ白で相当の年寄りと伺える人物…ホグワーツ魔法学校現校長、アルバス・ダンブルドアが労いの言葉をかける。

 

「いえいえ、校長先生。あたくしの『心眼』で今日お呼びがかかることはあらかじめ存じておりましたの…ですので「では、既に用件がお分かりなのでしたら取りかかられたら如何ですか?」

 

トレローニーの霧の彼方から聞こえるようなか細い声を、乱入者の『如何にも』厳格と伺える声が上書きをする。

 

「あら…マクゴナガル先生も要らしてましたの。」

 

「ええ、貴女の『心眼』で私もこの部屋に居ることをお分かりになられなかったのですか?」

 

副校長マクゴナガルはトレローニーの占いを信じていないのもあり、無意識のうちに口調が強くなっていた。

 

仕方ないことである。

新しく請け負ったクラスで『死の宣告』という予見を教え子にするのは毎年のこと、今まで当たった事など一度もない。

 

 

「ええ、ええ!私の心眼では確かにこの出来事を予言する事も可能です。ですがその様な些細な事まで予言をしていては、わたくしの心眼が曇ってしまいますの。それに…実際に校長先生のお言葉を貰わなければならない事もあるのですよ?」

 

 

(このペテン師は私の存在は占うに値しない些細な存在と言っているのですか?)

 

 

 

「その通りじゃよマクゴナガル先生。シビルが気を利かせて行動してくれる事は有難い事じゃが、ワシがちゃんとお願いした事実がないともしもの事があったとき責任を負うことになってしまう。」

 

 

「わかりました…」

 

尊敬する偉大なる上司が『この場は抑えろ』と言うのならばマクゴナガルは苦虫を噛み潰した顔で黙るしかない。

 

 

「さて、シビルは知っておると思うが改めてお願いするとしよう。

もうすぐ進学シーズンじゃ。毎年、マグル産まれの魔法使いの入学案内を教師が行っているのじゃが今年はシビルにも手伝ってもらいたいのだ……知っての通り、今年は他の先生方も忙しくて手が空いていなくての。」

 

「わかりました。確か予言ではご用件はこれだけでしたね(これ以上押し付けるなよ?タヌキ)?」

 

「そうじゃ、よろしく頼むのぅ。」

 

 

トレローニーが校長室を去り、扉の閉まる音が響く。

 

「………それと、マクゴナガル先生。例のあの子の案内はどうなっておる?」

 

「保護者からは依然として連絡はありませんね。おそらく此方を警戒しているのかと……」

 

マクゴナガルからため息が漏れる。

 

「何か不味いことを書いてはおらんかの?」

 

「いいえ、一般的な内容と如何に素晴らしい教師の元で指導を行っているかを書き綴った程度です!」

 

「……ちょっと見せて貰えんかの?」

 

「私に落ち度があるとでも?」

 

「いや…そなたに任せる……程ほどにの…」

 

「では」と校長室を後にするマクゴナガル。

 

「そちらが無視する気なら大量に送りつけましょう」とか「逃げるものなら毎日逃げた先に送り付けてやります」など、ブツブツ一人言が口から漏れている彼女の後ろ姿に労いの言葉をかけるダンブルドアであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




トレローニー
大半がはったり
ただし長年なんちゃって予言者してるうちに多少は肝っ玉がすわった様だ

マクゴナガル
頑固 融通がきかない
ダンブルドア教の信者


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ダイアゴン横丁

「うちは(宗教勧誘は)結構です!」

 

慌てて開けた扉を再び閉じて施錠する。その間僅か2秒!

我ながら良い判断が出来たと称賛したい。

 

~~~

 

家に呼鈴があるにも関わらず

『コンコンコン』とノックでしつこく住人を呼びたそうとしているお客様。

 

「煩いなー」と悪態をつきつつ扉を開けたら其所には

ローブにマント、鎖のネックレスと指輪をジャラジャラさせたカマキリみたいな素敵なマダムが居たとさ。

 

そりゃー、戸を閉めるわ!

全力で閉めるわ!

明らかに怪しげな宗教勧誘か何に使うか分からない骨董品の押し売りか何かだろ!これ!

 

「帰れ!警察呼ぶぞ!」

 

施錠した扉越しに訪問者を追い返す為に声を張り上げて警告。

幼さの残る少女の声が廊下に反響したが周囲の住人の耳迄は、このやり取りが届くことは無いだろう。

 

ここはコークワース州。

工場が建ち並ぶ工業地帯。

そして私の家は騒音放つ工場の横!

仮に悲鳴を上げても騒音でかき消されてしまう。

 

警察へ電話?

携帯?固定電話?何それ?美味しいの?

貧困舐めるな!

 

 

客観的に見て面白い状況ではないが幸い扉は集合住宅特有の鉄製の少し丈夫な物。

扉を隔てた先に居る非力そうなカマキリではこじ開ける事は不可能だろう。30秒前の私、グットジョブだ!

 

あとは放置するなり、罵声を浴びせてお引き取りを願うなり彩りみどり。

 

『ガチャ』

 

「おい!扉!何故開いた!?根性見せろ!」

 

思いの外、簡単に開いた扉を通り抜けて無断で侵入してくるカマキリ。

 

(あぁ…神様。明日から別の如何わしい神様を信仰する事になりそうです)

今まで1mmたりとも神を信仰したことは無いが、そう思わずにはいられなかった。

 

~~~

 

「要するに、私は魔法使いで貴女は魔法学校に入学させるために案内に来たと?」

 

「その通りですわ。残念ですが拒否権はありませんの。」

 

この事が真実ならばそうなるでしょうね。

話によると魔法族は非魔法族から存在を認識させないように行動してきたそうだ。

新しく産まれた子供が起こした魔法事故を非魔法族に認知されないように揉み消すより、子供に教育を受けさせて育てる方が生産的な考えだ。

 

「仮に入学するとしても私にはお金がありませんよ?」

 

家の中には家電という家電が無く、酷く殺風景だ。

 

 

「入学中は奨学金がありますのでご安心を。」

 

「分かりました(このカマキリ帰る気配見せないし、暇潰しがてら騙されたつもりで)受けましょう」

 

それではこれを…と

手渡せられた手紙に目を通し、少女は顔をひきつらせた。

 

 

『ホグワーツ魔法魔術学校

 

 校長 アルバス・ダンブルドア

 

マーリン勲章、勲一等、大魔法使い、魔法戦士隊長、

最上級独立魔法使い、国際魔法使い連盟会員、日刊予言新聞マーリンの髭賞、チャーミング口髭賞』

 

 

「………やっぱり悪戯でしょ?」

 

価値の分からない聞き覚えの無い賞が鎮座している手紙に目眩を感じる。

大体なんだ?マーリンの髭賞って!

 

「大真面目ですの。」

 

「それはそれは『おったまげ~』で御座いますの。」

 

そして少女は考えることを止めた。

だからせめて愚痴の一つぐらい赦して欲しい。

 

「では、必要な教材を購入しに行きましょうか。」

 

 

 

~~~

 

ロンドン  パブ:漏れ鍋

 

 

『バチンッ!』

 

小さな破裂音と共に女性と少女の姿が現れる。

突然の出来事に一旦は客達の注目を集めたが次第に興味を無くし、手の止まった食事へと戻っていく。

 

「おや、トレローニー先生とは珍しい。今回は新入生の案内かい?」

 

「ええ、そうですの。たまには下界の様子を見ておかないと未来の観測に誤差が生まれますの。案内はそのついでですの。」

 

などと教授はバーテンのじいさんと話をしているが……私、現在進行形で吐きそうです。

姿表しという移動魔法らしいのだが

例えるのなら遊具の珈琲カップを調子にのって回しすぎた様な体幹を揺さぶる感覚で吐き気が込み上げてくる。

 

『バチンッ』

再び破裂音と共に人が現れる。

一斉に音の方へ視線を向ける客達。

明らかに異様な光景だった。

 

「どうしたのですの?」

 

「いつもはこんなことは無いんですがね。ほら、生き残った男の子がそろそろ顔を見せる頃かと皆首を長くしてまってるんですよ。だから……おおっと…これはいかん!お嬢ちゃんこれをお飲み。酔い止めだ」

 

ゲロ色の薬を出してすすめるバーテン。

 

「止めてください死んでしまいます「ほら、いいから飲むんだよ!」」

 

問答無用で流し込むバーテンのじいさん。貴様は鬼か!

でも酔いはさめたから感謝するぞじいさん!

 

薬の味?ゲロの味でした。

ゲロを吐かない為にゲロ味の薬を飲む……これ如何に!?

 

 

「大丈夫そうだな、長々と先生をひきとめるのも悪い。」

 

「では時間がある時にまたお邪魔しますの」

 

 

 

中庭を抜けてダイアゴン横丁へ

流石にこれを目撃したら魔法という存在を認めなければならないだろう。

店頭に並ぶものは空飛ぶ箒やドラゴンの眼球、ゴミ箱に廃棄された新聞も写真の人物が動いたりなど見たことの無いものばかり。

 

「不思議の国へようこそ……」

思わず口から言葉が漏れた。

 

 

制服、鍋、学用品を教授と手分けして買っていく

特に変わったことはないが気になる事が2つ程あったくらいか…

 

一つはオリバンダーの杖店

入店すると目に入ったのは積み重ね上げられた細長い箱の山。

その中で楽しそうに箱を漁る老人と、渡された杖をひたすら振り続けている茶髪の少女の姿だった。

 

「これも駄目か…ああ、いらっしゃい!其所に座っててくれ

お嬢ちゃん中々決まらないからって気を落とすな。必ずお前さんを待っている杖がある。」

 

そう言い残しスッと消える老人、歳の割には機敏だ。

 

 

 

「貴女の両親は魔法使い?」

 

待ち時間、店内を見回してると先程の少女が声をかけてきた。

 

 

「私は…「これはどうじゃ!栗に芯材はユニコーンの毛。23cm」」

 

割り込むオリバンダーを一瞥することなく杖を掴み振る少女

老人は振り下ろす前に奪い取り「これも駄目か」と再び杖の山の中に消えた。

 

「私の両親は非魔法族だからもしかすると私に合う杖なんて最初から無いんじゃないかって思ってしまうのよ……」

 

少女の横には試した杖の山が出来ており少女の茶色の瞳からはハイライトが消えている。

 

「大丈夫だよ。きっと…「ブドウにドラゴンの琴線27cm」…もう、何なのさ!」

 

オリバンダーのタイミングに悪意を感じてしまう。

 

 

少女が先程と同じ様に杖を取り振るうと前回と違い奪われる前に振り抜く事が出来ていた。杖の通った軌道が花火の様に煌めいている。

 

「素晴らしい、これに決まりの様じゃの」

 

先程の暗い表情とはうって変わって此方に抱きついて喜ぶ彼女。

うむ、良かった良かった。

 

「私ハーマイオーニー・グレンジャー。良かったら友達になってください!」

 

「ジェーン・ウィルソン。よろしく」

 

という勢い任せの流れでハーさんも私も魔法学校初の友達をゲットした訳です。

いや~若いっていいな~とシミジミ。

 

 

 

 

「私ね私ね、今まで魔法なんて存在しないって思ってたんだけど実際にこの目で見てビックリ。こんな素晴らしい世界を今まで知らずに過ごしてきたのかって思うと何か勿体無く感じて。幸いホグワーツに行くまでに時間があるから帰ってから教科書をじっくり目を通そうと思うの!だって代々魔法の家系の子とか既に魔法を使ってる子もいるんでしょ?それじゃ急いで予習しないと今の私では全然追い付けないかもって……とても心細かったの。私一人だけが授業に置いていかれるんじゃないかって。でも貴女がお友達になってくれたから一緒に分からない所を教え会いながら勉強出来るじゃない?それってとっても素晴らしい事だと思うの!だから今日貴女に合えて本当に良かったと思う!」

 

……お……おう……。

ちょっとハーさん落ち着こうか!?

 

今の息継ぎ無しで言い切ったよね!?

心なしか抱き寄せる腕の力が強まっていないですか?

目が血走っておりますよ!?

誰かヘルプ!

 

「ねぇ!ジェーンはもう教科書買って目を通してみた?私、変身術の…「さて、おまたせしたのう。次のお客さんどうぞ」

 

オリバンダー爺……空気読めと思って悪かった!

グッドジョブだ!

 

「……あ~、私も長引くかも知れないし続きはホグワーツでゆっくりしよう?」

 

「でも……」

 

「私も魔法はさっぱりだからハーさんに授業内容聞くかもだし!ほらほら!時は金なり!善は急げっていうじゃん?」

 

「うん…そうね。今日はありがとう、次はホグワーツで会いましょう」

 

 

ハーさんの後ろ姿を見つめながら安堵の息が漏れたのは秘密だ。

 

「さてさて、きょうのご用件は杖の手入れ用品ですかな?」

 

「購入です」

 

「?」

 

「?」

 

杖を買ってもいないのにどうやって手入れしろというのだろうか?

首を傾げる私の顔をオリバンダー爺が覗き込む。

 

「おっと、失礼。人違いだった様じゃ。お客さんに似た少女が数ヵ月前にこの店に訪れての……その子と間違えてしまったようじゃ。ナナカマドにセントラルの尾毛24cm堅牢。鮮明に覚えておる。あの時は本当に店の中の杖を全部引き出す羽目になったの。それこそ先代が作った杖を出すほどに」

 

「それは気の毒に……」

 

店内に並ぶ物は勿論、店の奥に見える倉庫部屋の在庫まで試したのだろう、おそらく1日がかりで。

 

「まあ、物は試しだ。この杖を降ってみてくれ

胡桃にセントラルの尾毛、21cm。先の少女の杖の兄弟杖になるものだ。」

 

 

綺麗に加工されている木材の表面は滑らかで光沢を放っている。手に持ってみた感想は良く馴染むだ。

 

特になにも考えずに杖を一振り。

 

積み上げられていた杖の山が吹き飛びガラガラと崩れ落ちていく。

 

 

「ああああ!?ごめんなさい!」

大惨事だ『なんと言うことでしょう』と言いたくなるぐらい悪い方向にビフォーアフターしてしまった店内。

 

「大丈夫じゃよ」

杖を爺が一振りすると崩れた杖達が勝手に浮き上がり、元の位置に整列されていく。便利!

 

杖の代金を支払い(教授から貰った)店を後にした。

 

「不思議なことじゃ」と一人呟く爺を残して

 

~~~

 

 

二つ目は些細な事だ。

 

教科書を買いにフローリシュ・ブロッツ書店に足を向けた時の出来事。

 

天井までギッシリ積み上げてある本の山から教科書を探している時に後ろから会話が聞こえた。

 

「お兄ちゃん今年入学なんでしょ!生き残った少年に会ったらサイン貰ってきてよ!」

 

「嫌だよ!そもそも同じ寮になるかわからないのに!」

 

 

微笑ましい兄妹喧嘩なのだが……

 

「生き残った少年ね~」

 

どんな人物かは以外とすぐに情報が手に入った

目を週刊誌のコーナーに向けると『生き残った少年ハリー・ポッター、ホグワーツに入学か!?』とデカでかと少年の顔写真の載った雑誌が販売されていたのだ。

 

ボロボロの眼鏡、額には稲妻の様な傷痕、自信無さげに微笑む少年の顔写真に少し同情する。

 

「有名人にプライベートなんて無さそうだしね」

 

彼も今年入学するそうだ。

 

「少なくても今年は退屈せずに済みそうだ」

 

 

少女は一人、笑みを深めた。

 

 

 

 

 

 




胡桃:知識のある人と相性が良い、多岐にわたる魔術に適正があり使い手次第では最凶の杖になる可能性がある

ハーマイオーニー:マグルの学校でも孤立することが多い
杖が決まった喜びと勢いでジェーンに絡む。
寂しかった反動でジェーンの前ではポンコツに


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その頃ダーズリー一家は

~~~
「何が望み?」

「そうじゃな……お嬢さんの言葉を借りるならば……
『取引をしないか?なに……悪い条件では無い筈だ』じゃろうか?」

「皮肉ね……」


ダーズリー一家は逃げていた。

姿の見えない変質者から。

 

始まりは一通の下らない内容が書かれた手紙……勿論すぐに破り捨てたのだが。

誰かの気まぐれな悪戯…そう思っていたのだがそうではなかった。

 

次の日もその次の日も手紙は配達され、日に日に増えていく。

そして暖炉から四十枚もの手紙が投下された時、一家の主であるバーノンは逃亡を決意した。

 

お気に入りのテレビ番組があると駄々をこねるダドリーに珍しく雷を落とし、全員を車に押し込めて住み慣れたプリペット通りを後にした。

 

ダーズリー夫人の故郷であるコークワース州の安いモーテルに宿泊しバーノンは(逃げ切った)と安堵するが、翌朝その希望は絶望へと変わった。

 

「ごめんなさいまっし。ハリー・ポッターという人は居なさるかね?これと同じものがフロントに百通ほど届いたんだが」

 

甥のハリーが手紙を受けとる前にバーノンはそれを取り上げて確認する

『コークワース州

    レールヴューホテル17号室

         ハリー・ポッター様』

 

ただの手紙。

だが、その手紙には色んな意味が含まれているとバーノンは感じた。

 

日々送られる手紙の数は増えていき今となっては100通が届く。

しかもコピー機で大量印刷した物の様にも見えない。

少しずつ各手紙の筆跡に差異がある様子から察するに、手書きで複数人が作成した物と判断できる。

 

そして手紙の配送手段。

家を離れる前は窓や扉を全て塞ぎ外部との接触を絶った。

しかし、手紙は送られてきた。

配達員が夫人に手渡した卵のパッケージの中に一個につき一通ずつ……手紙をねじ込むという非常識な方法で……

業者に苦情をいれても、知らぬ存ぜぬの一点張り。おそらく敵は業者を買収するだけの経済力を持っていると見ていい。

 

極めつけは誰にも言わず移動したにも関わらず、モーテルに100通もの手紙を送りつけた。

まるで、お前らの行動は全て監視されてる。何時でも、何処にいても殺せるぞと言ってるかのように。

 

(決して屈するものか!)

追い詰められたバーノンの精神でただ一つあるものは『家族を守る』となった決定的な瞬間だった。……例えその手を他者の血で汚そうとも。

 

車を走らせるバーノン

行く先などない。ただただ、追跡者の魔の手から逃れられる場所へ。

ある時は森の奥深く

(障害物が多すぎる。これでは追跡者の接近に気づけない)

 

ある時は吊り橋の真ん中で

(敵は複数、挟撃されるのが目に見える)

 

またある時は立体駐車場の屋上で

(実用化されてるか分からないがスパイ映画の様な衛星写真や偵察機からの高高度・航空写真で居場所が特定されるか……)

 

そして………またある時は……

 

~~~

 

郊外……周りには建物の影すら見えず、見渡す限り一面の畑が広がっていた。

 

そんな何もない場所で何を思ったのかバーノン叔父さんは車を停めて、先程購入した長細い箱を持って畑の中を一人歩き出した。

 

「あなた?……ちょっと何処にいくの!?ねぇ!聞こえてる!?」

 

「ハリー!あの人を連れ戻してきて!」

 

車の中に残されたままのペチュニア叔母さんの困惑した声が響くがバーノンの耳には届いていない様だった。

 

(ここでは見晴らしが良すぎる……)

 

最早バーノンの思考は逃亡者のそれと対して変わらない。

自身が追跡者ならどの様な手段を取るか…また、その手段を取られた場合どの様に対処出来るのか。

 

キャンプを張れそうな場所を見つけては脳内でシミュレート、そして不利と判断すれば次の場所へ。

 

かれこれ一日中移動しているが御目に叶う場所が未だに見つけられず次第に苛立ちと焦燥、そして恐怖がつのっていく。

 

「珍しい…旅行ですか?」

 

「誰だ!?何が目的だ!」

 

 

突如、背後から妻以外の女性の声が聞こえた。

バーノンは反射的に長細い箱を腰だめに抱えて声の方向に先端を向ける。

 

「いや~目的って言ってもね~……ここら辺じゃ人が通るのも滅多にないし珍しくて声をかけただけですよ……ほら、何も無いところですし。」

 

声の主はバーノンが予想以上に驚いた為か、若干気まずそうに頬をかきながら返答した。

 

「あ………あぁ………」

(良く見たら年端もいかない普通の少女じゃないか……)

毛先にいくにつれてウェーブのかかった黒が強めの銀髪、透き通る様な銀色の瞳。希少と言えば希少なのだが血族に外国の血が流れているのなら普通なのかもしれない。

 

(現地の人からすると自分達の方が余所者で異端……さらに、いきなり怒鳴ってしまうという異常な行動を見せてしまった……)

 

「叔父さん!叔母さんが早く車に戻るようにって言ってた!」

 

息を切られながら追い付いたハリー。

夫人からの言伝てを聞き、道草くってる場合ではないと本来の目的を思い出した。

 

 

「坊主……すまないお嬢ちゃん。此処は通過点ですぐに移動するつもりだ。妻も呼んでることだし失礼させてもらうよ。」

 

「そうですね。もうすぐ日没だし、近くには宿泊施設も無いから宿を探すなら急いだ方がいいですよ。」

 

流石のバーノンも気まずさから逃げる様に車に戻ろうとするが、少女がポケットから取り出した物に気をとられて振り返る途中の姿勢で止まってしまった。

 

少女が取り出したのは懐中時計。

 

(今時、懐中時計なんて物は爺さんくらいしか持ってないぞ!)

(思えば自らを魔法使いと名乗る輩は服装や持ってるものまでおかしかった。)

 

バーノン自身も何度かその目にしたことがある。

マントにローブという中世の様なコスプレした集団を。

スーツジャケットに短パン、チグハグな靴下という頭のおかしい格好でコスプレ集団と楽しそうに歩く変態を。

 

では、目の前の少女はどうなのか?

本当に普通の少女なのか?

 

 

「ん?……これが珍しいですか?」

 

バーノンの不躾な視線に気付いた少女は懐中時計を目の前でブラブラさせた。

 

「貰い物ですが、私にとって御守りみたいなものなんです。」

 

 

 

(……深く考え過ぎか)

少女の格好は至って普通。

若干和服に近いデザインは寧ろお洒落な方だと思えた。

 

「そうか……すまない、邪魔したな。」

 

「いえいえ、良い旅を~」

 

車に向けて歩き始めるバーノン

 

 

叔父を追いかけて車に戻る途中、ハリーは喉に小骨が刺さった時の様な何とも言えない違和感を感じていた。

 

何もない場所で夕刻なのに何故…あの子は一人で其所に居たのだろう?

周りには見渡す限り一面畑。少なくても車がないと移動出来ないのではないか?

 

その様な疑問に思考が辿り着きそうだが其処に至らないというモヤモヤとした感情が胸の奥に居座っている。

 

 

車に乗り込み扉を閉める。

最後に窓から見た先程の場所には誰の姿もなかった。

 

 

 

 

 

 




若干ホラーっぽくなってしまうのは何故だろう…(*´・ω・)


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ホグワーツ特急

ポンコツハーマイオーニーって可愛いと思う!(確信


9と3/4番線……

ホグワーツの案内を読み直した時から疑問に思ってた事である。

 

これをそのまま受け止めるなら9番線と10番線の間に、ホグワーツ行きの列車が待つプラットホームがあると言うことになるのだが……

 

「魔法界の常識が人間界で育った者に分かるわけがない!」

 

あらかじめ説明してて欲しい。

 

漏れ鍋の中庭の煉瓦の壁の様にギミックが仕掛けられているのだろうかと9から10番線へ向かうまでの壁を『コンコン』と叩きながら行くと一ヶ所だけそのまま壁を叩く手が通り抜ける場所があった。

 

疲れて壁にもたれ掛かるという風な他から見て自然な形で壁の中にダイブ。

するとなんて事でしょう!赤色のSL機関車とローブを着た人達がまばらに居るではないですか。

 

「いや……分からないからね?普通」

 

壁の反対側に空洞が無いか調べなければ、まず気付く事は無いだろう。

同じ境遇のハーさんが無事に辿り着けるのか心配になってきた。

とはいっても…教授は案内のときに拒否権は無いと言った…乗り遅れたらそれはそれで迎えが来るのは何となく予想は出来るのだが。

 

荷物を車内に持ち込み一息。

お茶でも飲みながら教科書でも眺めようかな…と思っていた矢先に突然コンパートメントの扉が開き見覚えのある顔が目についた。

 

「ああ!ジェーン!?久しぶり!元気にしてた?

私ね、ダイアゴン横丁で別れた後貴女に電話しようと思ったの…そしたらうっかり電話番号を聞くのを忘れてたって思い出して連絡方法もないしがっかりしてたの。其所で疑問に思ったの…魔法界の人達はどうやってお互いに連絡を取り合っているんだろう?って

電話は使えないだろうし、勿論faxなんてものも無い。今のところ分かってるのは消印無しで届いた手紙くらい。

そこで私、調べました!答えはなんと、ホグワーツの歴史の中で見つけることが出来たのよ~。

ホグワーツの施設欄に梟小屋って項目があってね、詳しく内容を見ていくと魔法使い達は魔力を持ち、人語を理解出来る梟を使ってお互いに手紙を届けさせているというわけ!魔法使いって黒猫に烏ってイメージだったのだけど梟を使うなんてなんか…斬新よね?

それでね、来年か再来年か…私、梟を買っていいか両親にお願いしてみようかなと思うの!魔法使いの手段で文通なんて素敵じゃない??」

 

お……おう……ハーさん相変わらずお元気そうで何より…

 

「それとね私、帰ってから教科書に目を通してみたの。もう……何から何まで全て新鮮で……気付いたら夜があけてしまうぐらい没頭しちゃった…

学科も色々あるのよね。闇に対する防衛術、変身学、魔法史、魔法薬学……他にも色々あるけどジェーンはどの教科に興味があるの?」

 

うんうん、そうかそうか……

……ん?私の答える番なのか?

何処から答えればいいんだ…これ……

 

手紙の案件か?連絡手段は電話で良くないか?電話くらい買うぞ?(奨学金 出世払い)

 

「私も教科書読んだよ~確かに面白いね。興味があるのは魔法薬と防衛かな。変身学も楽しそうだけど。」

 

「だよね!私は変身学かな。マッチ棒を針に変えたり、ティーポットを亀に変えたりするやつ」

 

「物質を生物に変えたりするのはどうなの……道徳的に…」

 

「正確には亀の様に動くポットって事らしくて命を吹き込んでいる訳では無いみたい。だから亀がどの様に動くかを正確にイメージして変身させる必要があるとか…」

 

流石ハーさん。好きと言ってるだけあって調べあげてる様です。

一年生の学習範囲を軽く越えている様な気がするけどきっと気のせいだよね。

 

「なるほどね~………ならば、反対に人を箒に変身させて…誤って折ってしまった場合は……?」

 

「|私達は、何も知らない。何も気付いてない。いいね?《君の様な勘の鋭いガキは嫌いだよ》」

 

あ……はい……

きっと○ラゴンボールの魔神○ーみたいな感じになるんだろうなと…大惨事だ。

 

~~~~

 

笛がなり、列車が動き始める。

早めにローブに着替えて、カートを押した魔女から変わったお菓子を購入して(ゴキブリごそごそ板飴なんて買う人いるのか…?)魔法界を満喫していた所、コンパートメントの扉が開き泣きべそかいた男の子が侵入してきた。

 

どうやらペットのヒキガエルを無くしたらしい。

うん……私は当分、魔法界のセンスにはついていけそうもない。

 

近くのコンパートメントからしらみ潰しに。

確か呼び寄せ呪文もあったとは思うのだけど…予習のつもりで軽くしか目を通していない為、記憶があやふやな部分がある。

 

私が開けた一つめのコンパートメントは空振り、2つめのコンパートメントは扉から近い位置にいたハーさんが開けて中の生徒に質問をしている。

 

「誰かヒキガエルを見なかった?ネビルのがいなくなったの」

 

何となく威張った話し方をしている。先程迄の彼女とは大違いだ。

……誰だお前!ハーさんはもっとマシンガントークの寂しがり屋な可愛らしい少女だぞ!私のハーさんを返せ!

 

「見なかったって、さっきもそう言っただろう。」

 

ネビルが先に訪れた事を私達に伝えなかったので2回目の訪問+いきなり高圧的な態度

中の生徒もお怒りの様だった。

 

「あら、魔法をかけるの?それじゃ、見せてもらうわ」

 

勝手にコンパートメントの中に入り込み座るハーさん

 

話を聞かないのは平常運転の様で……

それで、通路に残された私達はどうすればいいんですか!?

 

中から詠唱が聞こえた、ここからでは何が起こってるのか確認出来ないが…

 

「その呪文間違ってないの?」

と、ハーさんの声

 

ナチュラルに喧嘩売るのはやめようね?

 

「まぁ、あんまり上手くいかなかったわね。私も練習のつもりで~~~」

 

 

 

「……ネビルだっけ?他のコンパートメントを探そうか?」

 

「うん。」

 

ハーさんの話が始まり長引きそうな気配を感じた私はネビルを連れて他のコンパートメントを探す事にした。…喧嘩する雰囲気でもなかったし問題ないだろう。

 

 

 

~~~

 

茶髪の少女の話は続く……

「グリフィンドールに入りたいわ。絶対一番良いみたい。ダンブルドアもあそこ出身だと聞いたわ。でもレイブンクローも悪くないかもね……ジェーンは何処の寮がいいと思う?ああ、後ろにいる彼女はジェーンって言って私の友達なの。彼女も教科書の内容をしっかり覚えてて賢いからレイブンクローとか似合うと思うの!」

 

「で、透明なお友達はそこに居るの?」

 

先程から誰も居ないにも関わらず友達の紹介を始めるハーマイオーニーに首を傾げるハリーと耐えきれず突っ込みを入れるロン。

そもそもジェーンもネビルですらハリーのコンパートメントに足を踏み入れてなかった。

 

「……え?…えぇ!?と……とにかく、もう行くわ。ヒキガエルを探さなきゃ!」

 

慌ててコンパートメントから飛び出し、友人の後を追うハーマイオーニー

 

その後、追い付かれたジェーンが「なんで勝手に置いていったの!」とポカポカ涙目で叩かれたのは言うまでもない。

 



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組分け

列車が止まり、舟に乗せられどんぶらこ。

9月になったばかりでまだまだ残暑が残る日々が続いているが、舟の上は心なしか肌寒かった。

 

一年生が舟に乗り込み一斉に湖の上を滑る様に動き始める。

前方に壮大な城が見え始めた頃には大半の生徒は圧倒され緊張し始めている。

 

一同、険しい顔で城を見据える様はまるで『まるで魔王城に向かう勇者一行』『上陸作戦』という思考が頭から離れずにジェーンは一人クスクスと笑っていた。

 

城に到着、ハグリッドが分厚い扉をノック

扉はすぐに開き、中には見るからに厳格(堅物)そうな黒髪の魔女が待機していた。

 

「ご苦労様、ハグリッド。ここからは私が預かりましょう」

 

マクゴナガル教授に案内されホール横の小さな小部屋へ。

 

「ホグワーツ入学おめでとう。新入生の歓迎会がまもなく始まりますが「教授!その前にお手洗いに行きたいのですが」」

 

「………………」

 

はい、私です。

途中で話をぶった切ってすまないと思う。

でも、精神衛生的にも気になり始めたら気が散ってしまうのですよね~

悪いとは思ってますよ?だからそんなに睨まないで!

 

「ホールに先程のハグリッドがまだ居ます。彼に案内してもらいなさい。」

 

「いぇす、まむ!」

 

敬礼した後に退室。マクゴナガル教授の眉間が凄い事になっているが気にしたら負け

 

 

手洗いを済ませて小部屋に戻ると入口近くにハーさんが待ち構えていた

 

「もう、ジェーンたら!いつも一人で行っちゃうんだもん。私に声をかけてくれたら一緒に付き合ったのに……ああ、でも分かるよ!その気持ち!試験前とかドキドキが止まらなくてソワソワしちゃうよね!?私も間違ったテスト範囲で試験勉強してないかとか何か見落としが無いかとか考えちゃうもん。酷い人はプレッシャーで体調崩したりする人もいるみたいだし試験前に一度リセットするのも良いみたいね。とこで寮の組分けの内容なんだけど、どんな試験をするのだろう?私、まだ人狼の特性や行動範囲まで目を通してなくて不安な所があるの。魔法の家系の子にテスト範囲聞いてみたのだけど皆知らないってしか答えてくれなくてね……ねぇ!ジェーンはどう思う?」

 

 

周りの生徒からも組分けに関する憶測や噂を話す声が辺りに蔓延していた。

 

入学前、しかもマグル……非魔法族出身の魔法使いも居る状況で魔法の実地試験や魔法界の一般常識の筆記試験は無いだろうと当たりをつけてのんびり構えてるのはジェーンくらいなものだろう。

 

「さぁ?方法は知らないけどあったとしても特性検査くらいじゃないかな?」

 

「ん~でも呪文とかのテストが「あったとしてもハーさんは十分テスト範囲クリアしてるから問題ないって!」え…ええ、そうね。」

 

 

扉が開き再びマクゴナガルが入室

それまでの喧騒が嘘のように静まった。

 

「さあ、行きますよ」

 

マクゴナガル教授の後に続いてホールへ

そこには何千もの蝋燭が空中に浮かんでおり、天井を見上げると星空が浮かんでいた。

 

「本当の空に見えるように魔法がかけられてるのよ。ホグワーツの歴史に書いてあるわ」

 

ハーさん解説ありがとう

 

帽子が歌い始める。

どうやら帽子を被れば寮を決めてくれる様だ。

歌を聞き終えた一年生の間には「騙された」と憤慨するものや試験ではないと分かり安堵の息を吐く者と反応は様々。

 

そんなこんなで最初の一人目の名前が呼ばれる

 

「アボット・ハンナ」

『ハッフルパフ!』

 

「ボーンズ・スーザン」

『ハッフルパフ』

 

私はWilsonなので最後の方

徐々に自分の名字へと近づい来るのはまるでカウントダウンされてるかの様で心臓に悪い。

 

「グレンジャー・ハーマイオーニー」

『グリフィンドール』

 

満面の笑みでグリフィンドール寮の席へ向かうハーさん

お目当ての寮に行けて良かったね~と拍手を贈る

 

「ポッター・ハリー」

ホールがざわついたがすぐに沈黙に変わる

其所に居る全ての人がハリーという人物の組分けに注目している。

ハリーが帽子を被り幾分かの時間が過ぎる

 

『グリフィンドール』

 

一斉に今日一番の割れんばかりの盛大な拍手が起こる、有名人は大変そうだ。

その後は緊張が切れたかのように組分けへの注目が閑散となった様に感じてしまう。

流石に注目を集めすぎるのは居心地が悪いので自分としてはありがたいのだが。

 

「ウィルソン・ジェーン」

 

私の番か……大丈夫、誰も私になんて注目していない。

ホールの中央の席におもむき帽子を被る。

 

(ふむ、心を開いてくれんかね?)

 

耳からではなく頭の中に直接響く声

心を開く?座禅でも組んで悟りを開かなきゃいけない?

 

(違う違う、そうじゃない!)

(………では、何処の寮にいきたいかね?)

 

それを決めるのが帽子の役目でしょ?

 

(そうなんだが……希望を言ってくれ)

 

こいつ放棄しやがった!

しいて言うならグリフィンドールかな、友達いるし

 

『グリフィンドール』

 

こんなに大雑把な組分けで大丈夫なのだろうか?

首を傾げながらグリフィンドールの席へ向かった。

 

~~~

ハリー視点

 

歓声と拍手に包まれながらハリーはグリフィンドール寮の席へ向かった。

 

「ポッターを取った!ポッターを取った!」

 

ウィーズリー兄弟は雄叫びの様な歓声を上げ、監督生のパーシー・ウィーズリーはハリーと力強い握手を交わす。

 

上座の来賓席に座るハグリッドはハリーに親指を上げて「よかった」と合図を送った。

 

ハリーの組分けの熱は冷めず、後続の生徒の組分け時にもハリーを讃える話し声は消えなかった。

 

静粛な式を行う事を諦めたマクゴナガル教授が生徒の名前を読み上げる

 

「ウィルソン・ジェーン」

 

名を呼ばれ、小柄な少女がホールに躍り出る。

緊張してガチガチになるわけでも、逆に堂々と胸を張って歩くわけでもない。

まるで近くのコンビニに赴くかの様な軽やかな足取りで帽子の前へたどり着いた少女。

 

周囲の関心が未だに組分けに戻っていない中、ハリーはその少女に注目していた。

 

毛先にいくにつれて徐々にウェーブのかかった銀髪

透き通る様な鮮やかな銀色の瞳

黙っていれば人形と間違えてしまうような端正な顔立ち

 

一度まじまじと見たら早々忘れることの出来ない印象を残す少女…

 

(ジェーン…確か、ハーマイオーニーが紹介しようとしていた子だっけ?)

 

名前に聞き覚えがあるのは当然か…

ならば、姿に見覚えがあるのはどうしてだろう?

 

記憶を探すハリーだが友人のロンに呼ばれた為、思考を中断した。

 

(本人に直接聞けばいいだけか……)

 

 

~~~

ジェーン視点

 

 

……組分け後の話ですか?

校長の意味不明な挨拶の後、ご馳走です!

 

「早く始まればいいのに。勉強することがいっぱいあるんですもの。」とか「初めは小さい物から試すんだよ。マッチ棒を針に変えるとか…」等々ハーさんと監督生が話しておりますが、私はその話題はノーセンキューです。

 

今から嫌と言うほど学問を頭に積み込むことは分かっているので

今くらいはのんびり美味しい料理を味わいたいじゃ無いですか!

こんな豪勢な料理は久しぶり……いや、始めてです!

 

ローストビーフにチキン、ラムチョップにソーセージ、ベーコン、ステーキ……肉…多くない?

胃もたれしないように気を付けないと……

 

 

その後は注意事項を先生方が説明

森は危険生物が一杯です、四階右側の廊下には立ち入り禁止っと……

当然生徒が間違って入り込まないように立て札とかフェンスくらい置いてるよね??

 

 

ダンブルドアが指揮をしながら決まったメロディーの無い、校歌とは呼べないような校歌を歌って解散。

 

本当に大丈夫か?魔法界!

色々と大雑把じゃありません?

 

 

 

 

 

 



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日常

人の感覚は時より狂うことがある。

例えば高額な車を購入した時……金銭感覚が狂い1000円札を100円感覚で浪費してしまったり。

 

家電店で小さめのテレビを買ったつもりが家に入りきれない程巨大だったり、逆に小さい家と思ったら案外広かったり等だ。

 

では、外から見た時点で巨体な城の中はどのくらい巨大になるのだろう?

 

一年生に聞くなら「来たばかりなのに分かるわけ無いだろう!」と返すだろう。

上級生に聞いても「巨体過ぎて全ては把握出来ない」と答えるだろう……つまり、はぐれたら自分の寮まで帰りつく事も出来るか分からない!

 

入学式?の後に寮の談話室まで案内されたが、その時点で隠し扉を2回通過している。

 

さらにはホグワーツには階段は142もの階段が存在するようだ。

しかも時間帯で違うところに繋がる階段もある。

扉もお願いしないと開かない扉や、壁が扉に擬態してるものもあったり様々だ。

 

こんな状況でお目当ての教室まで遅れずに向かえと言うのはそれ自体が困難な課題だと心の底から思う。

 

 

~~~

 

「開けてください」

 

>>反応がない。唯の扉の様だ

 

「時間がありません。お願いですので開けてください!」

 

>>しかし反応がない。唯の扉の様だ。

 

「ジェーン…諦めて他の道を探しましょう?」

丁寧に頼み込まないと開かない扉の前で立ち往生

その場に居合わせた同級生達が順にお願いするが誰がお願いしても開かない状態だ。

 

私の番になってお願いしても変わらず…ハーさんは諦めて別のルートを考え始めている。

これ以上丁寧なお願いの仕方といえば、日本風に皆で土下座でもしろとでもいうのだろうか?ただの扉ごときに?

 

「後一回試して良い?」

 

「うん……別ルートなら走らないと厳しいか…

 

ジェーンは更に一歩踏み出して扉に密着した後、優しく扉を撫でる様に指を沿わせた。

 

マスターキー……マグルの世界でそう呼ばれている物がある…12ゲージのスラグ弾を装填した散弾銃、もしくは扉を標的とした携帯型の破城鎚のことだ。一年生といえども私ならそれに似たものをこの場で作り出すことも出来る……何が言いたいか分かるな?

 

>>『ガチャッ』扉のロックが解除された

 

「凄いわジェーン!どうやったの!」

 

「勿論()()()しただけですよ?」

 

いつか、無駄に多い城の扉を()()しないといけないな…とひっそりと心に誓うジェーンであった。

 

 

授業に関しては興味深いものが多い。

人間界では存在しないとされている不思議な植物の育て方と使用用途等を教える薬草学、妖精魔法…どれも新鮮で楽しい。

 

魔法史ははっきりいって退屈だが内容自体は勉強になるものがある。

年号はどうでも良いのだが悪人エメリックがどの様な魔法を使い追っ手から身を隠していたのか、魔法省のハンターはどの様にして追い詰めたのかなど歴史に残る英断を学べるのは楽しいと思える。

この教授でなければの話だが……

 

変身術

説教と共にマクゴナガル先生の授業は始まった。

 

「変身術は最も複雑で危険なものの一つです。いい加減な態度で授業を受ける生徒は出ていってもらいますし、二度とクラスには入れません。」

 

確かに生物をピーナッツに変えて『プチッ』してしまったら不味いですものね。

ウンウンと頷く私を『お前のことだよ』みたいな目で見るのやめません?

ひょっとして入学式の事を根にもってます?

 

その後、マッチ棒が配られて変身術が始まった。

変身術は先生が始めに説明したようにとても高度な技術が必要で、授業終了時迄に僅かにでも変化させることが出来たのは2人だけだった。

 

「素晴らしい!皆さん見てください。これはミス・グレンジャーの変化させたマッチ棒です。まるで本物と大差ない硬度と鋭さ、色も完璧な銀色です。これまで数々の生徒達に術を教えてきましたが最初の一回目で完璧にこなせたのは片手で数えれる程しか居ません。グリフィンドールに10点」

 

厳格なイメージの先生で常に眉間にシワを寄せている印象だったが、今日始めてハーマイオーニーに向けて微笑みを見せた。

 

「それとミス・ウィルソン。グレンジャーと同じく完璧な変身術です。完璧なのですが……どうして隣に居るロングボトムのマッチ棒に術がかかってるのですか?」

 

……はい。私が聞きたいです

 

「先生!ジェーンは悪気があってやった訳ではありません!前の授業でもしっかり狙っている筈なのに術が明後日の方向へ飛んでいってました!」

 

ありがとう、ハリー……

それ以上庇いながら私の心を抉るのはやめて欲しい……

 

「きっと杖が不良品なんですよ……(泣」

 

「そ……そうですか……それは難儀な……

  ふざけて行ったのなら退室をしていただく事になったですが、やむおえない事情ですし今後とも不問と致します。ミス・ウィルソンは上手くコントロール出来るように精進しなさい。グリフィンドールに5点」

 

 

「…ありがとう」

 

「うん。同じ寮の仲間だしね!」

 

ハリー良いやつだな…後ろで笑い転げてるロンとは大違いだ。

 

 

 

闇に対する防衛術

はっきりいってこれには落胆した。

始めに教室がニンニク臭い。豚骨ラーメンに追加ニンニクを加えてもここまで臭いが充満する事は無いだろう。

 

クィレルは常にビクビクしていて頼りない。

ゾンビを討伐したというが本当かどうか……まだ、戦場カメラマンがテレビ担いでゾンビを殴り殺したと聞いた方が信憑性がある。

 

彼に教わるよりかハーさんと意見を討論したり自習していた方が有意義なのではないかという考えが頭をよぎった。

 

 

 

魔法薬学

「このクラスでは杖を振り回すような馬鹿げたことはやらん」

 

その一言を聞いた瞬間、フーと安堵の息が漏れたのをしっかりハリーに目撃されていた。

だから優しい目で此方に微笑むのはやめて!

不治の病なの!きっと産まれた直後からかけられた強力な呪いなの!

 

「ポッター!」

唐突にハリーが呼ばれ、理不尽な問題が出題される。

 

「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

 

確かに教科書にはのってる……分厚い本の最後の方に…

間違っても最初の授業で出される問題ではない。

 

ハーさんは分かるとしてもその他の生徒が答えれるとは思えない。

 

「有名なだけではどうにもならんらしい」

 

ハーさんの上げた手は無視されハリーはネチッこい声で皮肉を言われる。

ハリーには(一応)変身術でフォローしてもらったので助けてあげたいのだが、席が離れていてこっそりと教える事が出来そうにもない。

 

「ポッター、ベアゾール石を見つけてこいと言われたら何処を探すかね?」

 

「分かりません」

 

「クラスに来る前に教科書を開いてみようとは思わなかったわけだな、ポッター、え?」

 

……もう、いいや

 

「お言葉ですが教授、確かに教科書に載ってはいます。『生ける屍の水薬』は397ページに、万能薬は456ページに……これ等は教える教師によっては来年度に持ち越される可能性のある高度な薬品、又は知識であり

()()()()()今日、この時に出題される内容ではないと存じ上げます。少なくともハーマイオーニー以外は其所で笑い転げているスリザリンの()()()()共にも回答は不可能だと思いますし……そもそも、それらの知識を私達に教えるのが教師である貴方の仕事では無いのですか、え?」

 

「グリフィンドール10点減点、罰則は後日言い渡す。教師に対する無礼な態度は即刻あらためよ!」

 

「先生!そんなの「ハリー!大丈夫だから落ち着きなさい」」

 

「ポッター、ウィルソンの心暖まる自己犠牲に感謝しろ。異議のあるものは名乗り出ろ。無いのなら口を閉ざして空っぽの脳みそが少しでも重くなるように授業に専念する事だな」

 

それから授業が始まった

2人組でおできを治す()()()薬を調合することとなった。

 

材料を計り、砕いて粉末に……

流石にこれ以上寮の足を引っ張る訳にもいかないので一つ一つ気を付けながら材料を鍋に投下していく。

今回はハーマイオーニーがペアなので凄く心強かった。

 

お気に入りのマルフォイと私達の班以外は漏れなく注意を受けている。

スネイプが通りすぎる時に『チッ』と舌打ちしたのが印象的だ

 

(間違いなく少しでもミスがあれば皆の前で吊し上げる気だったな…)

今後の魔法薬学の授業はより一層気を引き締めないとならないようだ

 

ハリーの班をねちねちと注意している最中にネビルの班の鍋が炸裂。

錫製の大鍋が溶けて小さな塊になってしまっている。

至近距離で浴びたネビルはおできが体を侵食していき痛みで呻いていた。

 

「医務室へ連れていきなさい」

その後ネビルが間違った作業をしていたのにも関わらず止めなかったとしてハリーが減点された。

 

解放されたのは一時間後、ハーさんと合同で作っていたのもあり完璧に

薬は仕上がった。

 

加点?無いよそんなの

 

「ごめんね…余計な事をした……」

10点も減点されれば流石に皆に申し訳ないと謝るジェーンだが

 

「全然いいよ!皆スッキリしたし気にするな!」

「寧ろ貴女の罰則が酷いことをされないか心配」

 

なんて言葉貰う始末。本当にごめんね、ありがとう

 

 

~~~

ハリー視点

 

 

話す機会と探しているうちにいつの間にか時間が立ってしまう……

仕方のない事だと思う。

 

 

同世代の女の子といえばホグワーツに入学する前はハリーのみずぼらしい格好を見て笑うか、ダドリーの虐めの対象にならないように遠巻きで傍観するくらい。

 

ハリーはまともに話す機会が少なすぎた。

 

「君…昔何処かで僕に会った?」ではナンパしているようだし…

「ジェーン……僕と友達にならないか?」……更に論外だ

 

頭を左右に振って浮かんできた言葉を振り払った。

(もう少しまともな言葉…出てこいよ)

 

なんだなかんだで機会を伺う為に観察していると気付く事もある。

 

彼女は魔法界で育ったとは聞いていないが、僕の知らない知識を数多く知っているということ。

それでもってハーマイオーニーの様に鼻にかける様な言動もない、親しみやすい雰囲気の子ということ。

 

彼女はハーマイオーニーのお友達だということ

ハーマイオーニーを例えるなら若かれし頃のマクゴナガルと言えばしっくり来ると思う。規律に煩く、他人にも強要する。教えを乞えば「こんなことも分からないの?」と呆れ混じりで解説が始まる…

「良くあんな奴と仲良くなれるよ」とロンは感心しているが

2人とも学力があるので話があうのかもしれない、だが時折まるで孫を見る様な目でハーマイオーニーを眺めているジェーンをみるとそれだけではない気もする。

 

 

次は、彼女はよくお手洗いに行くということ。

食事前は勿論、休憩時間には高確率で手洗いを済ませている。

 

「綺麗な手なのに何で頻繁に洗うの?」

「違う違う。ちょっと気になってしまうタチなだけ、別に潔癖症ではないよ」と話していた

 

後は決定的に魔法をかけるのが下手くそということくらいだ

完璧な呪文、杖の振り方で難しい変身術でさえ簡単にこなす。

……狙う物以外は。

彼女が杖を振ると何故か魔法が真横や酷いときには背後に飛んで行く。

その日から彼女にも苦手なものがあるんだと親近感が増した気がする

 

 

 

彼女に直接話かける人は今のところあまりいないが密かに注目されているのは言うまでもない。

 

丁寧なお願いをしないと開かない扉の前で

そっと寄りかかり、扉を指でなぞる様に小声でお願いをしている姿を見て居合わせた同級生が男女問わず顔を赤らめた。

 

「勿論、お願いしただけですよ?」

 

朗らかに微笑むジェーン

 

「是非とも僕にもお願いしてほしいものだ」というシューマスをハリーは見えない位置で小突く

 

 

……もう少し自覚をもって欲しい

 

 

 




魔法薬学のページ設定は適当に作ったものです


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日々2

水曜日、授業が終了して食事を済ませた午後9時。

今朝届いたラブレターの指定された場所で、私は手紙を送ってくれた素晴らしい方の到着を待っています。

 

城の地下牢。

少し肌寒いと感じてしまう気温ですがそんな事など気にもならないくらい私は今……ドキドキしています。

 

カツカツと足音が廊下に反響してもうすぐ彼が此処にたどり着くのが実感できる…

 

扉を開く音

 

「どおした、ウィルソン?顔色が悪いぞ」

 

愛しい彼の声が私の心の中に染み渡る。

彼の為なら私は何だってやってしまうかもしれない…

 

「何故君を呼んだか分かるかね?」

 

「先日はご迷惑をおかけしました!深く反省しております。」

 

 

 

90°……深々と頭を下げての謝罪

 

「ふむ…よろしい。しかし、しっかりと罰則は受けて貰う」

 

彼の為なら何だってやってしまうかもしれない……

それが罰則だから……

 

 

 

罰則の内容はネズミの心臓を生きたまま取り出して劣化防止の魔法のかかった小瓶に入れる事でした!

 

本来なら授業で解剖し摘出してそのまま使用するらしいのだが、過去に取り逃がしたネズミが室内を暴走して薬品をなぎ倒す事故があったらしい。

それからは要注意人物には予め部材の準備をしたものを使用させる様になったらしい。

 

 

逃げようとする鼠を金縛り呪文で拘束して解剖する……

鼠は暴れないし声も出さないが目だけは助けを求めるように此方を見つめるし、生きてるので心臓を取り出せば当然血が飛び散る。

 

なかなか精神的にくるものがある……

 

しかし慣れというものは怖いもので

1時間後には手や顔に飛び散った血も気にならなくなり

2時間後には鼻歌を歌いながら解体出来るほど成長しました!

 

おかげさまで至近距離ならまともに魔法を当てれる様にはなったし、次に魔法薬で鼠の解剖があった時には目を瞑っても摘出出来る自信もあるよ!

 

実りある罰則…ほくほくしながらお礼を言って寮に戻る時に、何故か申し訳無さそうな表情で教授に謝罪されたのは何故だろう?

 

遅くなったけどシャワーを浴びて就寝するとしよう。

今日は何だか疲れた……明日は楽しみにしていた飛行訓練……早く寝ないと

 

~~~

 

「……て……おきてジェーン!」

 

ハーさんの声が聞こえる……

 

「おはよう…ハーさん。どうしたの?」

 

「どうしたもこうしたもないでしょ!貴女、シャワー室で倒れてたのよ!昨日何があったの!?」

 

昨日……授業を受けて食事をした後……何があったんだっけ?

記憶に霞がかかってるように思い出せない。

 

「まさか…スネイプに口で言うのもおぞましい事をされたんじゃ……」

 

うん……違うと思う。

 

見回すとここは保健室、見知った寮の仲間達が心配そうに顔を覗き込んでいた。

ハーさんのおぞましい事の下りで一同の眼光が鋭くなり今にも殴り込みに行きそうな雰囲気だったので慌てて待ったをかけた。

 

「それにしてもどおしたんで?こんな大勢で…」

 

クラスメイトの半数が医務室に駆け込んで来るなんて異常だ。

 

「今日は木曜日、飛行訓練の日よ」

 

どうやら飛行訓練の授業は受け損ねた様だ。

 

「……負傷者?」

 

「此処に大勢いるのはネビルが落下してそのお見舞もかねてね…」

 

死者が出なかったのは幸いか、魔法界は回復魔法や回復薬があるので危険なスポーツや野蛮な悪戯をする傾向がある。

 

特に若いうちは加減がわかっていないので取り返しのつかない事故にならなくて良かったと思う。

 

「ハリーは?」

 

「マクゴナガルに連れていかれた…もしかすると退学になるかも」

 

クラスの中心であるハリーの姿が見えないと思い訪ねると、ロンがくらい顔で返答した。

 

~~~

 

 

結論からいうとハリーは退学を免れた。

今は内密にしているようだがクィディッチというスポーツの選手に選ばれたという噂もある。

 

情報源はハーさん

その日、就寝する前に酷く怒った表情で愚痴をいいに来たのだ。

 

「もう、本当に信じられない!彼、絶対自分が有名だからって何をしても許されると思ってるのよ!1日に2回!信じられる?退学か大量の点数を引かれそうな規律違反を2回も立て続けにやったのよ!大体、今時決闘なんて馬鹿げてる!私が親切にやめるように説得しても聞く耳持たないし、フィルチに追われて挙げ句の果てには『禁じられた廊下』で三頭犬に頭から丸かじりされるところだったわ!」

 

「止めに行くのが何で貴女まで冒険してんの…」

 

「わ……私は別についていきたくて行ったんじゃなくて、たまたま肖像画の貴婦人が外出してて寮から締め出されただけであって…」

 

完璧かつポンコツハーさん…

 

「はいはい…大変でしたね~早く眠って嫌なこと忘れよう」

 

「…うん」

 

私の知らない所で大冒険をしていたハーさんを少し羨ましく思ったのは本人の前では言わないでおこう。

 

 

 

次の日

ハーさんは愚痴を言えた為かご機嫌

だけどハリー達を見ると途端に気分が急降下。

 

特にロンがいただけない

前々からいちいちハーさんの神経を逆撫でする言葉を連発する…

ハーさんをフォローする此方の身にもなって欲しい。

 

最近では流石に面倒になって2人が言い争っている中、ハーさんの手を取って強制離脱をしたこともあるくらいだ。

 

勿論、ハーさんの方にも問題があるのは重々理解しているが、端からみてもハリー達の行動は日に日に悪化していっている様に感じられるのでそちらの肩を持つことは出来ない。

 

 

 

「何かあったら自己責任。一度煮え湯を飲んまないと彼等は分からないよ!」

 

「…そうね、ジェーンのいう通りだわ。」

 

と言うことで口出ししないと決めたのだが……

朝食後、ハリーの姿を見つけて背後から接近するハーさんの後ろ姿を見つけながら深いため息をついた。

 

 

 

「だって本当だもの。もしマルフォイがネビルの玉を掠めていなかったら、僕はチームに入れていなかったし」

 

「それじゃ、校則を破ってご褒美を貰ったって思ってるのね」

 

……また始まった

 

「僕達と口をきかないんじゃなかったの?」とハリー

「今更かえないでよ。そっちがありがたいんだから」とロン

 

ツンとそっぽ向いて立ち去るハーを見て再度ため息

 

「君もハーマイオーニーの味方なんだろう」

『シッシッ』と犬を追い払う様なロンの仕草に少しイラッとしたが相手にするのも馬鹿らしいと思い止まった。

 

その調子じゃ遅かれ早かれ破滅するのは目に見えてる。

 

 

 

 

 



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ハロウィン・前編

入学して早2ヶ月

ハーさんの大冒険!

その後は比較的に平和な日々が続いている。

ハリー達は相変わらず、逆にハーさんの視界に彼等が入り込まないようにハーさんを引き連れて図書館で色々な本を読みあさっている。

 

 

 

ハロウィーンの朝

パンプキンパイを焼く美味しそうな匂いで目が覚めた。

夜にはパーティーの様なご馳走が並ぶらしい。楽しみ

 

出だしは好調な1日だった

妖精魔法のフリットウィック先生が「物を飛ばす練習をしましょう」と言って新しい呪文の授業が始まった。

ネビルのカエルをブンブン飛び回らせるのは見てて楽しいが、使い方次第ではこの魔法は色々と実用的だと思う。

 

例えばホグワーツ特急に乗る際に、カートにこの魔法をかければカートの接地抵抗が無くなりエアホッケーみたいに重さを感じず滑る様に押せるというわけだ。

勿論、マグルに見つからないように超低空維持しないとならないという高度な技術が必要にはなるのだが。

 

 

ハリーはシューマス、ネビルは私と、ロンはなんとハーマイオーニーとペアを組むこととなった。

 

一斉に呪文が唱えられて配布された羽を飛ばす練習が始まるが、これまでの呪文と比べて格段と難易度が上がっており成功者は今のところ居ない。

 

ハリーは何故か火のついた羽を防止で鎮火しているし、ロンは長い腕を振り回しハーマイオーニーに注意されている。

そして、私はというと……

 

「ねぇ……そんなに近づいたら杖を振れないと僕は思うんだけどな…」

 

机に置いた羽を穴が空くように凝視するジェーンにネビルが堪らず声をかける。

 

「大丈夫です!大丈夫大丈夫大丈夫」

 

「えぇぇ………」

 

ネビルの困惑した声を無視し標的に集中!

その距離20cm、普通ではこの距離で杖を振ろうとすると障害物に当たり魔法を発動出来ないのだがスネイプ先生との特訓の成果もあり、あの日以降は至近距離での魔法を失敗する事は無くなった。

 

……本当にあの日、何があったんだ!?

 

『ウィンガーディアム レヴィオーサ』

 

ハーマイオーニーが魔法に成功した後、続けて私も成功。

 

 

もう少し距離をとっても大丈夫だろうか?と

調子にのって少し離れた所で魔法を放ったら真後ろの先生がフヨフヨと浮き上がる事となった。…何故だ?

 

 

授業が終わり教室を移動

ハーさんの機嫌は最悪で私と合流してからも終始無言。

 

元凶は前を歩くロン

 

「だから、誰だってあいつには我慢できないっていうんだ。まったく悪夢みたいなヤツさ」

 

その一言が此方まで届き、遂にハーマイオーニーのダムが決壊した。

 

走り去る彼女。

 

「今の聞こえたみたい」

「それがどうした?」

 

「…………」

さて、どうしてやろうか…?

 

 

 

~~~

 

ハリーはきが気でなかった。

一つは走り去るハーマイオーニーが泣いていたこと。

 

一つは彼女の友達のジェーンがハーマイオーニーを追わずに()()()通路に立ち塞がっていること。

 

 

「トリック・オア・トリート!お菓子くれないと悪戯しちゃうよ?」

 

「……はぁ?」

 

まるでハーマイオーニーの事など気にしていないかのように振る舞うジェーンにロンも困惑しているようだ。

 

「今日はハロウィンだよ?マグル風ではお菓子をくれない人には悪戯していいという風習なのです!」

 

朗らかに微笑むジェーン

他のクラスメイトは首を傾げるだけだが長い間ダーズリー一家やマグルの学校の中で虐めを受けていたハリーには分かる……

 

『滅茶苦茶怒っている』ということを……

 

ヒステリックな金切り声を上げるペチュニア叔母さんや、唾を撒き散らしながら怒鳴るバーノン叔父さん、真っ赤になって殴りかかってくるダズリーとその取り巻きとは違う…

数々の人々の悪意を間近に接してきた鍛えぬかれた感覚を持つハリーだからこそ分かる有無を言わせぬ迫力。

身体中がマズイと警鐘をならしている

 

無意識に一歩、二歩と後退したハリーに誰も気付かない。

 

 

「お菓子持って無いんだ~なら、仕方ないね!悪戯を甘んじて受けてくださいな」

 

『トンッ』と軽いステップ、何の予備動作もなく行われたそれは3m程離れていたロンとの距離をほぼ0にする。

 

まるで抱きつくかの様なお互いの息がかかりそうな距離

ジェーンはロンの目の前で踏み込んだ足を軸に、未だに反応出来ないままでいる彼の体を避ける様に優雅にターンを行った。

 

一瞬の出来事

2人の体が交差、ジェーンはロンを回避するように通り抜け

ロンは空高く切り揉みしながら舞い上がる。

 

後にハリーはこう語る

クィディッチの練習で鍛えられた動体視力を持つ俺だから気付くことが出来たと……

「あれは恐ろしく早い抜杖!俺じゃなきゃ見逃しちゃうね」と…

 

普通なら杖を振り回す空間が無い状況で腕を胸元に引く、そして杖の中央を持つことで空間を確保。

まるで相手に文字を書き込む様に素早く正確に杖を振り魔法を発動させたのだ。

 

「は!?!?」

 

打ち上げられたロンの間抜けな声が通路に響く

魔法をかけられた本人も含め、クラスメイトも何が起こったのか理解できていないようだった。

 

「ジェーン!」

 

3m~4mと宙へ舞い上がったロンに危機感を抱いたハリーが堪らずにジェーンへ講義の声を上げる。

 

「大丈夫だよ。毎秒9.8mの加速をつけながら地上に戻ってこれる」

 

つまり自然落下……助ける気など無いということ

 

『ベチャ』と効果音が付きそうな無様な着地をしたロンを一瞥することなく、ジェーンはハーマイオーニーが消えた方向へと進んでいった。

 

「いててて……一体僕が彼女に何をしたというんだ…」と呟くロンをため息混じりに見据えるハリーであった。

 

 

~~~

女子トイレ

 

 

 

「………で、授業サボってこんなところで一人で泣いていたってわけ?」

 

「うるさい!放っておいてよ!」

 

 

ロンにささやかな悪戯を与えた後、ハーさんを探しましたよ?探しましたとも!

 

図書館、談話室、寝室、空き教室、校庭……ハーマイオーニーの居そうな場所や一人になれる場所を重点的に。

まさか…よりにもよってトイレに立て籠るなんて予想外だったけど。

 

一人になれる場所を考えればトイレなんてすぐに分かる?

いやいや、一人になれるようでそうでない。

 

寝室なら自分を含めルームメイトの3人だけ事情が知られるだけですむ。今は10月後半だ…既に気温は下がり暖房のついていない空き教室や校庭での他者の遭遇は少ない。

 

ではトイレはどうだろう?

全学年の女子が利用出来る、暖房なし、臭いあり……何一つ良いことなど無い。

近くの教室で授業があった生徒が利用する際はその都度息を殺して泣くしかない。それでも尚、逆に目立ってしまう。

パーバティーから場所を伝えられ私が此処にいるのがいい証拠だ。

 

 

「彼に言われたことをまさか本気で気にしてるの?」

 

「貴女には関係ないでしょ!一人にしてよ」

 

そしてこのやり取りの繰り返し。

探しだすのに時間がかかり、とっくに日は沈みもうすぐハロウィンパーティーだ。

 

「もしかして彼のこと好きなの?」

 

「誰があんなヤツ好きになるもんですか!「だったら別に嫌われてもいいんじゃない?」」

 

沈黙、辺りにはジェーンの手を洗う水の音だけが響いている。

 

 

 

「合わない人が離れていくのは仕方ない事よね。そして残されるのは惨めな小娘一人。笑っちゃうわ~

お前に私の何が分かる…何も知らないくせに『何でも分かってますよ』みたいなツラして!貴女が私に構うのはどうせ『面倒な頭でっかちな友人』を持ってしまって振り回させてる『可哀想な私』を演じて周囲から同情を貰いたいだけなんでしょ!私はアンタなんかの引き立て役なんかじゃない!もう構わないでよ!あっちに行って!

貴女は良いわよね!誰からにも気軽に話しかけられて

私なんか居なくても大した問題じゃないでしょ!」

 

それは悲鳴のような叫び声だった……

 

 

 

「…………ハーマイオーニー…つまり貴女は誰からにも『嫌われたくなかった』って訳ね」

 

悲鳴の返答した声は酷く平坦なものだった。

その声には怒りや悲しみ哀れみなどの感情が一切感じられず、まるで機械のように温かみがない

 

 

 

「…ねぇ、『頭でっかち』さん貴女は『嫌われない人間』ってどういう人なのだと思う?ハリーの様にグリフィンドールの中心の様な人物?それともロンの様にお調子者?

 

でもね、『誰かに好意を持たれる人物』『好意を持たれる様な行動をする人物』は一方で『誰かにとって都合が悪い人物』でもあるんだよ?ハリーとマルフォイがいい例ね。

それじゃ、どんな人間が嫌われないと思う?」

 

「そんなの分かるわけ無い」

 

 

「…空気の様な存在よ。

一般的な常識、当たり障りの無い回答、目立つ様な能力もなく、誰にでもニコニコと笑いながら対応する。

当たり前の日常を繰り返し、自身の意志などまるでない、他人の都合に流され生きていく…

他人の領域に踏み込まなければ当然、嫌悪感など生まれない

 

でもね……それって本当に『生きてる』っていえるの?」

 

「…………」

 

 

 

「貴女は私の何が分かる?って言ったけど

貴女こそ()()()()()()()

もう出ていくから一人で好きなだけ泣くといいよ。泣いたところで何も状況は変わらないけどね。いつまでも悲劇のヒロイン演じてなさいな」

 

 

水道の蛇口が捻られ水の音が止んだ。

 

 

 

 

 

 




ハーマイオーニーをオーバーキル
「クララの馬鹿!もう知らない」



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ハロウィン・後編

きっと主人公はカルシウム不足


手洗いを済ませて『カツカツ』と硬いブーツの音を響かせてその場を後にするジェーン。

 

トイレの出口にたどり着い筈たが、いつの間にか出口は無くなり壁で塞がれているようだった。

正確に言うならば視界に収まりきれない壁のように巨大な生物なのだが…

 

トロール

生息地はイギリス、アイルランド、その他北ヨーロッパ

身長最大4m。体重最大1t。しばしば棍棒を持っている。

強力だが知能はO・W・L等の試験で最低のT(トロール並)と揶揄されるくらい恐ろしく低い。

暴力的で行動が予測不可能。

 

川トロール、森トロールと種類があるが目の前の個体は灰色の肌と禿げた頭部から山トロールということが伺える。

 

 

どうしてこんな所にトロールが?

しかも広い場内で私達がいる場所にピンポイントで出現するなんて…

誰かが意図的に引き込んだのは間違いない…一体誰が……?

 

今の置かれている状況、恨みを持っている人物、そして自身が死亡したときに特をする人物をジェーンの優秀な頭が即座に犯人を特定した。

 

「……(ロンの報復か!?)」

 

ハロウィンパーティーのサプライズとしては少々過激ではないだろうか?

第一彼がトロールを誘導出来るとは驚きだ

単細胞同士気が合うのか?

 

 

 

 

「………(さて、どうする?)」

 

と下らない思考から、まずどうやってこの状況を切り抜けれるかに思考を切り替える

 

悲鳴をあげる?

一番の悪手だろう。刺激されたトロールは此方を敵と見なし襲ってくる

 

ならば、ゆっくり後退りして距離をとるのはどうだ?

ここはトイレで戻った所で行き止まり、逃げ場はない

それに今はお互いに予期せぬ遭遇で意表を突かれているだけに過ぎない、数刻もしないうちに私達を潰しに来るだろう。

 

命乞い?

そもそも言葉を理解できる脳ミソが詰まってない

 

「……(相手はトロール!良く考えるんだ!)」

 

話し合いは不可能

逃走、戦闘は絶望的

ならば……

 

 

「やぁ!調子はどうだい?」

友人を装って手を振り挨拶しながら自然に通りすぎる!

 

脳ミソの入ってないトロールだからこそ成せるスルー方法

状況を理解できずにジェーンへ手を振り返すトロールを横目にトイレから外へと脱出に成功した。

 

「この手に限る!」

一人ガッツポーズをとる

 

中にはハーさんが残っているが静かにしていれば気付かれないし、姿を見せなければ攻撃はされない。

誰も居ない事を確認したトロールがトイレから退室した後でハーさんを回収すれば良いだけだ。

 

 

 

 

「……………」

「……………………」

 

『……キャー!!!』

 

中から聞こえた悲鳴と破壊音に思わず溜息

本気で中に戻りたくない……

 

 

~~~~

 

ハーマイオーニー視点

 

 

苦しかった

誰にも理解されずに繰り返す日々

教科書と違い、明確な答えのない日常

寮の為にした注意は聞き入れてもらえず、逆に此方が悪者扱い

 

理解者が欲しかった

人気者になんてならなれなくていい

ただ、普通の少女の様に友達と共に楽しい学校生活を送りたかった。

 

そして破れ去った夢に打ちひしがれて

唯一、手にした物まで手放してしまった……

 

「ジェーン……」

 

『カツカツ』と響くブーツの音

すぐに此処を出て謝れば彼女は許してくれるだろうか?

 

涙をローブの袖で拭き

トイレの個室を飛び出した

 

~~~

再び入ったトイレの中はまるで台風が通りすぎた様な有り様だった

残骸と貸した個室と便器、割れた床、そして現在進行形で破壊されていく洗面台。

 

トイレの隅で縮こまってるハーマイオーニー

無傷なのは奇跡としか言いようがない

 

徐々にハーマイオーニーへと距離をつめていくトロール

時間の猶予が残されていない

 

何とかしてトロールの注意を引かなければ!

 

ジェーンは今覚えている魔法を瞬時に思い出す

マッチ棒を針に変身させる魔法、吹き出物の治療薬、浮遊魔法に…魔法界の歴史!頼みの綱の闇に対する防衛術は吸血鬼に有効なニンニク料理の作り方!一体どうしろって言うんだ!

唯一使えそうなのは罰則で教わった全身金縛りの呪いくらいか……

 

ダメ元で金縛りの呪いを続けて唱えて魔法を連続で放つ

壁に、天井に、ハーマイオーニーに……金縛りの呪いが命中して大きな音を立てた。

 

音でジェーンに気付き振りかえるトロール

ひとまずハーマイオーニーが潰される危機は回避出来たが状況は良くない

 

きっと私の呪いではあの脂肪の塊を貫いて拘束する事は出来ない

巨大な物は時に、その存在事態が驚異となる。

身長4mに及ぶ体は圧倒的なリーチがあり1tにもなる体重はそれ自体が凶器となる。そして、ブクブクと太った脂肪は魔術の効果を半減させる

 

 

トロールと睨み合う

数分とも思える様な数秒間

 

遠くから聞こえてくる廊下を走る足音を皮切りにトロールは行動を再開した

 

ジェーンを潰さんと振り落とされる棍棒をバックステップで回避し棍棒が引き戻させる前にトロールへ接近して魔法をトロールの体に刻み込む。

金縛りの呪いが発動した手応えを感じながら流れる様な動きで追加で3回呪いを放つ

一瞬トロールは硬直

握っていた棍棒が手を離れて真横の壁へと突き刺さった

 

至近距離で洗面台の鏡が割れて破片が飛び散る

頬に痛みを感じながら素早くトロールの横を通り抜けてハーマイオーニーの倒れているトイレの隅へとたどり着いた。

 

再び目を戻すと呪いが解けて動き始めるトロールが棍棒を壁から引き抜く姿が見える

 

 

「……(次はどうやって出口へ向かう?)」

 

 

 

 

「「ハーマイオーニー!」」と叫び声と共に現れたハリーとロン

 

「大丈夫か!?どういう状況だ?」とロン

 

 

「手前この野郎!こんなサプライズ用意してよくもぬけぬけと出て来やがったな!見ての通りだ!ハーマイオーニーがやられた!」

 

ハーマイオーニーの目が「いや、お前だよ!」と訴えているような気もするがきっと気のせいだ!

 

「いや……僕じゃないし……」

「…とにかく僕達が引き付けるからその間に此方側に!」

 

言うや否やトロールにハリーは飛びかかった。

 

その間にジェーンはハーさんを引き摺って出口側に走り込む

ハーマイオーニーの拡がった髪がトイレの残骸をモップの様に回収しているが気にしてはいけない!

 

振り返りハリーを見るとトロールに拘束されている……

足を捕まれて逆さ吊り、そして身動きの取れないハリーへとトロールは棍棒を振りかぶる

 

「何とかして!」

 

『ウィンガーディアム レヴィオーサ』

ロンが放った浮遊魔法はハリーを強打しようと迫る棍棒に当たり

偶然にもトロールの頭上へと落ちた。

 

ふらつくトロールだが倒れる迄には至らない

 

激昂して低い唸り声を上げながら

近くのハリーを潰そうと腕を振り上げた

 

 

 

ジェーンは走る。助走をつけてスライディング。まるで大木の様なトロールの足の間をすり抜けて足元で停止する。

 

「魔法は苦手」

ヘンテコな呪文を唱えて杖を振り回した上で相手に照準を合わせなきゃならない。

 

マグルの使う銃がそうであるように狙う角度が1度でもずれたら25m先では頭一個分程の誤差が生まれる。

 

それを呪文が言い終わると同時に杖の振りを完了させて尚且つ相手を狙わなきゃならない……

 

だからこそ言える

杖で狙い打ち出来る人の方が異常なのだと…

 

もっとも…歴戦の魔法使いでも交戦距離は50m以内だと思われるが

 

 

「私には狙って当てる技量などないから……」

 

……でも、魔力が足りなくて魔法が発動しない訳ではない

 

付近の床に転がっている洗面台、便器、破壊された個室の仕切り等の残骸……大小様々な破片を幾多ものナイフ、刀、鎌等の刀剣類に変身魔法で変化させる

 

『ウィンガーディアム レヴィオーサ!!』

 

そして、あえて必要以上の大量の魔力を込めて魔法を刀剣に放つ

 

 

 

床に散らばっていた刀剣は浮遊魔法を受けて勢い良く舞い上がった。床と天井の間に居たトロールを無惨に引き裂き天井へと深々と刺さる。生暖かい血の雨が降り注ぎ呆然と眺めるハリーと私を赤く染め上げた。

 

 

~~~

複数の足音がトイレの外から聞こえてマクゴナガル、スネイプ、クレイルがトイレに踏み込んで来た

 

「一体全体あなた方はどういうつもりなんですか」

相当怒ってるなと一目で分かる

唇を蒼白くなりそうなくらい真一文字にしたマクゴナガルが問いかける

 

「どなたか納得のいく説明を出来る者はいますか」

 

 

 

「僕達はトロールが侵入してきた時にハーマイオーニー達がトイレに行ってるのを思い出して……彼女達に避難を連絡しないと……と思って」

 

とロンが説明した

 

「それで避難指示に従わなかったという訳ですか…この際ですから言っておきます。本来、入学したての一年生がトロールに立ち向かうという行為は極めて愚かです。今回、負傷者が出なかったのが奇跡と言ってもいいほどです!何故!貴方達は避難案内をしていた監督生や教授に助けを求めなかったのですか!トロールくらい自分達で対処出来るとでも思ったのですか!」

 

うんうん、言いたい事は分かるよ。

勇敢と蛮勇は紙一重であるって事も…

だけどね………

 

「……先生……彼等の後先考えない行動を注意する事は出来ても責め立てる事は出来ない筈です」

 

「ミス・ウィルソン何が言いたいのですか」

 

「彼等がここへ到着したのはギリギリのタイミングでした。避難誘導で手が離せない監督達の救援が到着する頃には私達はトイレの染みになってますね。

現に先生方が駆けつけたのは全てが終わった後でした。

 

事態が終息したあとで分かった事を、さも当たり前の様に最善の方法と結論付けるのは卑怯と思いませんか?」

 

例えるならそれは後出しジャンケンの様なもの

皆、全体の状況が分からない状態で自身が最善と思う行動を選択している。そして、箱を開けてみて初めて分かる結果を知った上で「あの時どうするべきだった」とか「何故そうしなかった」等と他人が責め立てるのは……フェアじゃない

 

「では、私からも先生に質問です」

「何故、危険生物が校内に侵入したにも関わらず全館に聞こえるように避難指示を出さなかったのですか?校内にはパーティーに参加していない人も少なからず居た筈です。指示がもれていた上で「何故避難しなかったか」等というのですか?」

 

「そもそも、禁じられた森などという魔法生物保護区が近くにありながら校内に魔獣が入り込まない様な措置が取ってあったのですか?これまで前例がないから大丈夫?考えれば分かることでしょうに」

 

 

「……………」再起動したハリーを含めて誰も言葉を発せなかった

 

 

「ね?フェアじゃない。お互いの揚げ足をとって見苦しいだけです。……そろそろ寮に戻って大丈夫ですか?夕食をまだとっていないので」

 

 

「……先に医務室に寄って傷を治して貰いなさい」

 

 

「わかりました」

 

 

一同の時間が止まったかのような状況の中

『カツカツ』とブーツの音を響かせて立ち去る

 

トイレの出口付近で胸に手を当ててヒイヒイと息を上げているクレイル教授が目に入った

本来、真っ先に駆けつけて対処しなければならない教授なのだがこんな様子では今後も役にたちそうもない。

 

 

「それで……何年生になったらニンニク料理を卒業してトロールをぶち殺せる方法を学べるのですか?」

 

闇に対する防衛術

危険生物の生息範囲?苦手な物質?戦闘になった時はニンニク料理を相手に振る舞う?全くもって反吐がでる

 

 

 



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クディッチ

補足:野生の熊
種類にもよるが泳ぎは得意、木登りも出来る個体も存在する。
走る速度も人間より早く丸腰で出会った時点で(熊に闘争の意志があるなら)詰んでいる




「さぁ、ついにやって参りました!因縁のグリフィンドール対スリザリン戦!肌を刺す様な凍てつく寒さですが選手だけではなく、各寮の観客達からも熱い闘志が伺えます!実況は例年の如く私、リー・ジョーダン!」

 

自己紹介と共にグリフィンドール寮から爆発しそうな歓声が上がる。対するスリザリンはブーイングの嵐。

 

皆、試合前の熱狂に包まれピリピリしていた。

 

「昨年度はスリザリンの小賢しい妨害を受けて惜しくも優勝を逃したグリフィンドールですが今年は一味違います!」

 

「ジョーダン!」

 

ジョーダンのスリザリンへの罵倒をマクゴナガルがすかさず注意するのも毎年恒例となりつつある。

 

「そう……今年のグリフィンドールは違うのです!

シーカー不在で出場が危ぶまれていたグリフィンドールを救ったのはなんと!偉大なるあの英雄!

史上最年少!グリフィンドールの秘密兵器!さぁ!選手達の入場です!」

 

一斉に上がる歓声

毎年スリザリンに寮杯を取られて影を歩いていたスリザリンを除く寮からは、文字通り希望の光だった。

 

競技場に集まるすべての観客からの視線を集めながらハリー達は入場を行う。

 

「今年の注目はなんと言っても『生き残った少年』ハリーポッターと言っても過言ではないでしょう!どんな素晴らしいプレーを行うのか期待が集まります!」

 

大声援と大ブーイングを受ける中、ハリーの心境はとても穏やかだった。

 

共に練習し、手に馴染んだニンバス2000という相棒。

スリザリンからのブーイングをかき消す程の声援、実況者からの激励の言葉、そしてボロボロになったシーツに『ポッター大統領』とデカでかと書き込み旗にして振っている親友の姿が目に入ったからだ。

 

(温かくて心強い)

きっとこの試合は素晴らしいものになるとハリーは確信していた

 

 

 

~~~

 

「今!試合開始のホイッスルが鳴り響き、選手達が空へ舞い上がりました!」

 

距離がかなり離れているにも関わらずに遠くで響く実況や歓声が図書館まで響いてくる。

 

知らない者は居ないと断言出来るほど魔法界でメジャーなスポーツ……クディッチ!

 

世界大会となれば各国から遥々大勢の魔法使いが会場に押し掛ける。

大きな大会でなくても学園で開かれれば校内には誰一人として居なくなるという事もある程の人気っぷりだ。

 

「本当、クディッチ様々よね…」

 

おかげさまで誰一人として居ない図書室で堂々と閲覧禁止の本棚を物色出来るというわけだ。

 

「………まぁ…流石に観戦の誘いを断ったのは気の毒に思ったけど…」

 

ため息と共に一人言が口から漏れる。

仕方ないよ…誘いを断った瞬間に捨てられた子犬の様な眼差しで3人とも見つめてくるんだもの……

 

しかし、背に腹はかえられぬ!

私が読み放題というチャンスを見逃す訳がない!

 

「ワー」とか「キャー」とか歓声を楽しそうだなーと聞き流しながら一人黙々と本棚を漁る………

 

「全く……何で勉強をこんなこそこそしないといけないんでしょうね~」

 

元はと言えばきちんとした闇に対する防衛術の授業が行われていればこんな事をする必要などなかった……いや、どちらかと言うと教育として魔法省が推奨する内容と言うべきか……

 

例えば、吸血鬼から身を守るためにはどうすればいいか?と言う問いがあったとする。

その問いに対する模範解答はこうだ

 

『魔法省の闇祓いによる活躍で吸血鬼の個体数は低下の一方である、最後に目撃されたのはフランス。その地方に訪れなければ遭遇する事も無いだろう。また、ニンニクや銀を嫌う傾向があるため日常的にニンニクの入った料理をとり銀のナイフを携行する事で驚異度は低下する。夜に活動が活発になるため夜間外出は控えること。』

 

 

では、人狼の場合は?

 

『一見人間の様に見えるため人間社会に溶け込む事が可能、その為見分けるのは困難を極める。特長としては犬歯が通常の人間よりも発達している。通常は縄張り意識があるため自らが定めた区域で行動する。特に満月の日には人間性が欠落する為注意が必要、銀の武器で付けられた傷は回復が遅い。』

 

お分かりになっただろうか?

確かに最初から行動範囲に入らなければ危険に脅かされない。確実な防衛手段と言える。だが、もしも運悪く遭遇してしまった場合は?

 

現時点での闇に対する防衛術の授業では対処法が綺麗さっぱりと抜け落ちているのだ。

 

「もしも丸腰で腹を空かせた野生の熊に出合ってしまったらどうするのでしょうね?」

 

いつ遭遇するかは襲撃する側しか分からないし明確な悪意のあるものに話し合いなど不可能

 

その状況で必要な物は無駄な雑学ではなく相手を殺傷し無力化させる武力なのに……

 

 

 

 

 

 

「まぁ、その心境も分からないわけでもないのだけどね」

 

 

近年、『例のあの人』と呼ばれる闇の魔法使いを筆頭に大きな『戦争』があった反動だと思って間違いないだろう。使い方を誤れば人を傷つけてしまう強力な魔法や呪いを次の世代に教えるのを拒み、その他の方法で解決させようと強要している。

 

 

マグルが行っている銃刀を規制して犯罪率を減少させる取り組みに似ている……だけど

 

「こちらの……魔法界では無駄な努力でしょうに…」

 

銃は明確な形として存在する為それを没収、所持していた者を取り締まれば良い。

では魔法は?

魔法は知識、簡単に伝えられた上に実際に使われる迄に取り締まる事など不可能。

 

強力な呪いを残すことを自重する一般に対して闇に傾倒する魔法使い達は揃って子供達に伝授させるだろう。

結果、罰する側の力が弱くなりパワーバランスが崩れる

そして再び戦争が起きる……

 

 

 

「下らない方針に従って自らの骨を埋めるのは御免だわ」

 

もしも安全が保証させていたのならこんな事をするつもりはなかった。しかし、頼みの綱の教師達は無能と迄はいかないが頼りになりそうもない状況。最低限自身の身くらいは守れるようにならなければとトロールの一件で実感した。

 

 

 

表紙がおそらく人の皮で作られているであろう本を棚に戻す。

目当ての本は、呪った相手が恐ろしい死に方をする様な呪文でも死者を蘇らせて下僕にするものでもない。

 

効率の良く実戦的で応用のきく攻撃魔法……

 

「あっ……これ良いかも……」

 

何気なく手に取った表紙が金糸で刺繍された豪華な本

自身の周囲を吹き飛ばす攻撃魔法…これなら狙いを付けずに発動出来る。

 

 

 

「おっと……ポッター選手!箒のコントロールを誤ったか?…………おい……大丈夫か?あれ……どお見てもおかしいぞ!?」

 

一際大きく響く悲鳴の様な歓声

 

 

「……あっちは楽しそうだな~」

 

競技場ではハリーの箒が大変な事になっているが、そんなことは図書館に居るジェーンが知る筈もなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 




補足:ジェーンの思う平和とは
各勢力の力が拮抗した状態
その状況で戦争した場合、利益と損失の身合わないと判断出来る期間

次の戦争の為の準備期間


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犯人はこの中にいる!

(学園内に居るので当然です


「お疲れ様。大変だったみたいね……無事で何より。」

 

ジョーダンが壊れた様にグリフィンドールの勝利を叫び続けているので離れた図書館にいても試合が終了したことが分かった様だ。

 

「ジェーン!大変何てものじゃ済まないわよ~ハリーが危うく殺されかけたのよ~!」

 

ジェーンが労いの言葉をかけるや否や『ポスッ』と効果音が付きそうな具合でハーマイオーニーがジェーンの胸の中に飛び込んでいった。

ナチュラルな感じでジェーンの胸に顔を擦り寄せるハーマイオーニー……

 

「………硬い「うるさい!」」

 

 

 

「…………あっ……え~と……スネイプだったんだよ…犯人は」

と目の前の光景を目の当たりにして思考停止していたロンが再び話を戻した。

 

「教授が?本当に?」

 

半信半疑といった感じのジェーンにハリーは苛立ちを覚えた。

 

「ロンもハーマイオーニーも目撃したんだ!僕からずっと目を離さずにブツブツ呟いている姿を!聞き込めば目撃者なら大勢出てくる筈だ!」

 

 

「う~ん……例えスネイプが犯人なのだとしても動機は何なのかしら?例え好ましくない生徒でも殺害しようとまでは普通は考えないよ?」

 

 

「アイツは僕を憎んでる!それにきっと、ハロウィンの日にフラッフィーを出し抜こうとトロールを連れ込んだのに僕達が奴の予定よりも早く対処してしまったことで目的を果たせなくなった事を恨んでるんだ!」

 

「フラッフィーって?」

 

「ハグリッドの三頭犬の名前」とすかさずロンが補足を入れる。

 

『ハグリッド』という名前が出た瞬間、ジェーンの目元がピクピクと痙攣していたが説明に夢中の3人は気付かなかった。

 

 

「君も見ただろう?トイレに駆けつけた時にアイツは脚を引き摺っていた……フラッフィーに噛まれたんだ!」

 

 

「……なるほどね…ハリーが障害となりうると判断して排除しようとしたって訳ね…」

 

「ジェーン、私も最初は信じられなかったわ…だけど今回は間違いないと思う。」

 

いつもはストッパーになっているハーマイオーニーも今回は味方をしてくれている。これ程心強いものはない。

 

「貴女達がそう言うのならそうなのかもしらないけど……」

 

「しれないけど?」

ジェーンの含みのある言い方にハーマイオーニーは眉を寄せた

 

「ええ……箒に呪いなんて方法、教授らしくないなって思ってね」

 

 

「「「はぁ??」」」

「ジェーン!大丈夫!?罰則の日に何か弱味でも握られたのか!?」

「一体何されたんだ!」

 

「……多分皆、勘違いしてると思う」

 

 

「大丈夫よジェーン!私達がスネイプの存在と共に嫌な記憶を全部消し去ってあげるから!」

 

「……もう、話を聞いてよ!泣くぞ!?」

 

ハリーがロン、ハーマイオーニーに視線を送ると無言で頷き返した。ジェーンをこれ以上巻き込む訳にはいかない。ジェーンと番犬が守るモノをスネイプの魔の手から護り通すと3人が結束した瞬間であった……

 

 

~~~

無言で頷き合い、その場を去っていく3人を半ば焦点の合ってない瞳でボンヤリと見つめながらジェーンは思考する。

 

「私はただ…ハリーを箒から振り落とすなんて不確かな方法をとるなんて意外って言いたかっただけなのに……」

 

私が彼なら事故を装い殺害する。

 

仮にも魔法薬学の教師だ。当然彼なら回復薬から毒薬まで熟知しているであろう。ならば分解されて後に死体から検出不可能な毒や無色無臭、揮発性の高く少量吸い込むだけで判断力を低下させる毒薬なども知っている筈だ。

 

鉄球が選手を叩き落とそうと飛び回る会場。

一瞬意識が飛ぶだけで命取りとなる。

ならば致死性の毒など必要無いだろう……

 

ストレス、プレッシャーで昨晩寝れなかったハリーは試合中に集中力が切れる。そして寝不足で意識が朦朧としているハリーに鉄球が直撃し転落死という筋書きだ。

 

全てはハリーの体調管理ミス

当の本人も含めて誰も他殺だとは思わない。

 

そんな芸当を彼ならやってのけると私は確信している。

 

彼がその気になればハリーはとっくにこの世を去っている、ハリーが生きている…それが彼が犯人でない証拠だと思える。

それを箒に呪いね……

 

「やっぱり教授らしくない…」

 

現状放置の教師達、殺人未遂の凶悪犯が野放しになっている校内

何も知らず箱庭で踊る生徒達

 

「……ほら、身を守るためにも結局武力が必要じゃない」

 

 

 

~~~

 

 

図書館

本漁りは最早日課になりつつある。

大半の攻撃魔法は閲覧禁止棚にあるため機会を伺わないと手を出せないが、反対に防御魔法は全て閲覧自由となっているので一年生の身でありながら上級生の魔法を自主的に取得する事も可能だ……最もそんな物好きはホグワーツ始まって以来、皆無といっていいほど前例がないらしいが。

 

勿論、知識があるのと実際に使えるのでは意味が違うが…

 

 

中世から使われている弾避けの呪文に盾の呪文ね…

 

防御魔法の基本だ

自らの中にある魔力を杖で増幅させて体外に放出する。

放出された魔力は飛来する矢や弾丸に抵抗を与えて弾道を直撃コースから逸らせるという魔法だ。中世、マスケット銃が生産された辺りに開発された呪文だが現在においても有効なものだ。

 

そして弾除けの呪文を更に一段階昇華させたものが盾の呪文だ。

 

体外に魔力を放出するまでは同じなのだが外の空間で魔力を凝縮、硬化させて物理的に攻撃を防ぐ盾を成形する呪文である。

 

いずれも発動には大量の魔力が必要、盾の呪文に至っては魔法を維持する為に繊細な魔力操作とイメージ力が必要となり高難易度を誇る。

具体的には取得推奨学年は5年生くらいからだが取得出来ずにそのま卒業した魔法使いも多い。

 

 

勿論、私も発動出来るかと聞かれれば答えは否。

根本的に魔力がまだ足りていない。

成長と共に魔力量も増加するので数年後には使えるようになるとは思うのだが……精々それまでの間にコントロールを練習しておくとしよう。

 

「次の閲覧禁止棚を訪れる機会はクリスマスか…」

 

大半の生徒達は実家に帰省し校内は閑散となる。

教師達の見回りも通常と比べて緩くなるのが予想出来る。

 

「楽しみね…」

 

 

 

 

 

 




盾の呪文などの理論は独自解釈です
一年の時から進んで実戦的な呪文を取得しようとするジェーンは後々凄い事になりそう…


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クリスマス

進行が遅い気も……(少しペースアップしようかな

~~~
ある日の3人

「ニコラス・フラメル……ニコラス・フラメル……何処かで聞いたことあるはずなのに……」

「こっちの本も駄目、ニコラスの二の字も出てこないよ」

「これも駄目だ…ニコラスは一体何者なんだよ!」

図書館、いつもの3人組は積み上げられた本の中、声の音量を下げて話し合っていた。
ハグリッドが漏らした情報…ニコラス・フラメルという人物の情報を探して図書館に入り浸っている状態だ

「もう一度ハグリッドに鎌をかけてみる?」

「いいえ、流石にあのハグリッドでも警戒している筈よ」

「ならどうするんだよ…ニコラスを探しだしている間に三頭犬が出し抜かれるかもしれないのに!」

「………いっそのことジェーンにニコラスのことを聞いてみるか?」

図書館の片隅で一人黙々と分厚い呪文集を読んでいる少女に目をむけた。
夕日が少女の銀色の髪を赤く染め上げている。
窓の外に見える赤い雪景色と相俟って何処か幻想的で人間味をおびていない。例えるなら一つの絵画、もしくは完成した高級人形。

「……いえ、止めておきましょう。これ以上彼女を巻き込まない方がいい」

頷きあう3人

彼女なら答を知っているという確信はあるのだが、ジェーンは黒幕であるスネイプに脅されているかも知れない。
ハリー達が嗅ぎ回っていることが露見するかもしれないし情報を聞き出す為にジェーンに酷い事をするかもしれない……と判断した。

「大丈夫!フラッフィーもダンブルドアも居るんだいくらスネイプでも迂闊に動けない筈だ」






クリスマス

大半の生徒は実家に帰省して家族と共にクリスマスを迎えている。

4人部屋なのだがハーマイオーニー、ラベンダー、パドマは帰省しているのでとても静か。2度寝しても誰も咎めない……幸せ

 

目が覚めるとベッドの横にプレゼントが置いてあった…

大半はクラスメイトの物だが面識のない上級生からの物も中にはある。

 

やっぱりあれか?トロール討伐やあのスネイプ教授に楯突いた事でガッツがあるとか思われてしまっているのだろうか?

 

トロールの件は完全に偶然なんだけどな…

などと思いながらプレゼントを開封

 

悪戯呪文集、基礎防衛学書……次の包みからは……また本だ

 

このプレゼントのチョイスは図書館に入り浸って居るからかな?

嬉しいのだが自身に変なあだ名が付いていないか心配だなぁ…

 

小さな薄い封筒の様な袋

「フレッドとジョージ……ロンのお兄さん達から?」

 

開けてみるとジッパーの中に乾燥した7つ葉が入っている。

一緒入っていた手紙には……

 

『メリークリスマス、ジェーン!

いつも弟が世話になっている様だな?良かったらこれでハッピーになってくれ!マグルの間で流行している幸運の葉っぱという話だ。ため息の多い君にはうってつけだと思うぜ?』

 

「………ありがとうフレッド&ジョージ」

>>ジェーンはジッパーを開けずにゴミ箱へとシュートした。

 

 

次の包みは小さな物だ

 

「これ…ハーマイオーニーからだ」

私が彼女に送った『サラサラストレート縮毛矯正剤』は気に入って貰えただろうか?と思いながら開封すると中から見覚えのある瓶が顔を出した。

 

『ふわふわ縮毛矯正剤』

ハーマイオーニーへのプレゼントを買った店で購入した物の横に陳列されて販売されてた薬だった。

 

「……………ハーさんや……私のは天然ではなくてヘアスタイルなのだよ……」

 

凄く複雑な心境だ

 

~~~

 

朝食後、妙にテンションの高いフレッドとジョージに連れられて雪合戦。

班分けはパーシー、ハリー、私vsロン、フレッド、ジョージ

(開始直後にパーシーは浮遊魔法をかけられた特大の雪玉を頭から落とされた上に集中砲火を受けて一瞬で雪ダルマにされていた)

 

最初こそは「キャキャキャ」「ウフフ」程度の微笑ましい雪玉の投げ合いだったのだが、ここは頭のネジの外れた輩が多数居るホグワーツ。その程度で終わる筈もなかった。

 

「嘘だろ!?壁を抜いたぞ!」

 

現役クディッチ選手であるフレッドとジョージ

迫り来る鉄球を棍棒で打ち返す程の腕力から繰り出される投球は最早凶器と言っても過言ではない。

 

盾がわりに作り出した雪の壁を軽々と貫通しハリーへと着弾した。

 

「誰か!衛生兵!」

 

尚も放たれる雪玉は壁をあっという間に蜂の巣にしていく

 

 

 

「降参よ!」

 

両手を上げて敗北をアピールするジェーン

 

 

「どうするよ、兄弟?」

「そうだなー俺達は紳士だ」

「そうだなー俺達は紳士だ」

「つまり………」

 

双子が互いに顔を見合せて口元を歪める…嫌な予感がする

 

「「男女平等」」

 

双子が予想通り投球フォームをとる

対するジェーンの行動は早かった

 

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ)」

「アクシオ(来い)」

 

背後の作り置きしていた雪玉が一斉に宙を舞い、呼び寄せ魔法の影響を受けてジェーンめがけて凄まじい速度で飛来する。

本来であればジェーンが雪ダルマになる所なのだが今回はそうはならなかった。

 

ここで問題だ

Q:呼び寄せ呪文を途中で打ち切ったら移動中の物体はどの様な軌道を行うか?

 

答えは簡単だ

魔法により移動した物体だが、途中で誘導を打ち切られた時点で軌道は魔法的なものから物理法則へと変化する

 

A:慣性の法則に従い、空気抵抗で緩やかに減速しながら重力に引かれて放物線をえがく

 

雪玉がジェーンに殺到する瞬間に彼女はヒラリと回避した

ジェーンが居た地点を通過して勢いをそのままに、放物線を描きながら前方へ

 

雪玉は10m先のウィーズリー家を飲み込むどころか50m先の城壁まで届き次々と白い弾痕を刻む。

 

その日、雪合戦には身合わない……まるでキャニスター弾が着弾したような『ズダンッ』という効果音が響き渡り幕をおろした。

 

~~~

 

「……で雪合戦の時のあの魔法、一体どうやったんだい?あんな魔法僕、見たことないよ」

 

夕食後、談話室でロンがハリーとチェスをしながら私に問いかけた。余裕のロン、対するハリーは次の一手をどう攻めるか頭を悩ませている。

 

 

「魔法が発動する原理をある程度理解していれば応用がきくものよ」本から目を離すことなく答える

 

「「??」」

 

ハリー達は意味を理解していない様子

 

「魔法って同じ結果を残すものが複数あるの…例えば『ウィンガーディアム・レヴィオーサ』と『アセンディオ』どちらも浮遊術よ

他にも『エクスパルソ』『コンフリンゴ』は爆破魔法

魔法使い達は状況に応じて膨大な量の魔法の中から適切な魔法を選択して使用するのだけど同じ効果を残すのならわざわざ複数覚えて使い分ける必要はないのじゃないかってね」

 

「魔法は効果、対象物、範囲などは使用者の技術で補えるの。ベースとなる魔法を一つ覚えていてそれを応用させた方が効率がいいしとっさの時に間違わない……そう思わない?まぁ、ハーマイオーニーが聞いたら怒りそうだけど」

 

 

 

「授業じゃそんなこと聞いたこともないよ…」

 

 

「まぁね……自身が作った魔法が後世に受け継がれるのは名誉なこと

才ある魔法使い達はこぞって呪文を開発してオリジナルの魔法として残したがる…既に同じ様な物があったとしてもね。

そしてそれらをかき集めて溢れかえったのがのが今の現状

誰もその事に気付かない、触れようとしないの」

 

 

「へぇ~マーリンの髭!」

 

「………貴方達も呪文集を読んでいればわかるわ」

分厚い参考書を見せるジェーンにロンはウゲーとうめき声をあげる

 

「遠慮しておくよハーマイオーニー」

 

「……………」

 

本に目を戻すとディフィンドという魔法が目に入った

対象を引き裂く呪文……少しは使えるものだといいな

 

 

~~~

クリスマス、深夜

 

ハリーは手に入れた透明マントを頭から被り図書館を目指す

既に一般書はかなりの量に目を通しているがニコラスという人物に一向にヒットしない。ならば、一般書物ではないのではないかと……

 

ランプを持った手だけをマントの外に出して辺りを照らしながら暗い廊下を歩く

 

『ガタッ』

 

背後からした物音にハリーは息を飲む

(大丈夫!ランプをマントの中に隠せば周囲からは僕の姿は見えないはず!)

 

音のした方を注視するが人の気配はしない。

気のせいがと気を弛めた瞬間だった

 

「動くな!」

「!」

 

突然背後から声をかけられた。背中には硬い尖ったものの感触がある。

 

背中に杖を突きつけられてハリーは「ヒィッ」と口から情けない声が漏れてしまった

音をたてなければ誤魔化せたのだが致し方ない。

 

「吐け!」

 

(吐けって!?情報を吐けばいいのか?何の情報を?)

 

「言うんだ!」

 

(くそ!こうなれば自棄だ!)

 

「ス……スネイプ教授は女子児童を脅迫している変態だ……」

 

「女子児童?それは誰だ!」

 

杖で背中を押され回答を促された

 

「女子の名前はジェーン…銀髪でとても可愛らしい……」

 

 

「……………」

「……………」

 

 

クスクスと笑い声が聞こえハリーが振り返るとそこにはジェーンが腹を抱えて笑っているところだった。

 

「ふっw………フフフww私が脅迫されているなんて初耳だよ~」

 

「ジェーン!?さっきの声は男性だった筈……」

例えるなら30~40代くらいの渋い男性の声だった。

 

「『精力をもて余す』ふふふ…これくらい魔法を使わなくても出来るよ」

 

内容はさておき、確かに先程ハリーを尋問した声と同じだった。

 

「さてと…この方向なら図書館に行くのかな?それならご一緒してもいい?」

 

「う……うん……」

 

 

……彼女には驚かさせる事ばかりだ

 

 

 





~~~
クリスマス深夜

生徒寝室へ入り込んだダンブルドアは綺麗に包装された包みをそっと生徒の枕元に置いて寝顔を眺めていた。

その姿はまるで父親の生き写し。
今は瞼で閉ざされているがその目は母親の様な輝きを見せるであろう。

少年を見ていると今は亡きかつての教え子であり、友人の姿が目に浮かぶ様だった。

「おぬしはワシを恨んでいるじゃろうか?」

思い返せば後悔する事ばかり。
もし、あの時別の選択をしていれば…
もし、あの時これを借りていなければ…違った未来が訪れていただろうか…と

「儂を歳をとったものじゃ…」

まるで我が子を見つめるような優しい眼差しで老人は少年の寝顔を眺めていた


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潜入のお供といえば…

図書館

閲覧禁止棚は生徒が誤って入り込まない様にロープが張ってある。

保管されている本は主に強力な呪い、検出不可能な魔法毒薬、キメラ製造方法等。

 

強力な呪文や人間の一部を材料とする薬のレシピ、命という概念を冒涜するものばかり保管されている。

 

ランプの灯りを頼りに本を吟味するハリーとジェーン。

 

 

(この本は蘇生薬考察……)

黒の表紙に銀の文字。

パラパラと捲ってみると表紙通り考察が書かれている。ざっくり纏めると『完全な蘇生薬は未だに完成しておらず、薬を使用した死体は何らかの欠如が見られる』とある。例えば甦った者は残忍な性格になっていたり、生きた人間の血肉を欲する様になったりなど。

 

『薬を使用したマグルが凶暴化、その場に居合わせた10名前後の魔法使い達をマチェーテで惨殺した事件の後、研究は凍結している。』

 

暴走した検体は闇払いが捕獲して金属製の棺に入れられて近くの湖の中に沈められたらしい……

場所は……クリスタルレイク

 

 

(私にはまだ早いかな…)

そっと本を閉じて本棚に戻した。

 

次の本を…と本棚を眺めているとハリーが開いた本が鋭い悲鳴を上げた。

 

ハリーはあわてて本を棚に戻して一目散に逃げていく……

 

 

「…えぇ~~~」

置いてけぼりか…絶対このあとフィルチが駆け込んでくるやろ…

 

 

 

急いでジェーンが本棚に身を隠した直後に駆け込んでくる足音

 

「いい子だ、しっかり臭いを嗅ぐんだぞ。まだ奥に隠れているかもしれない」

 

あぁ……飼い猫のミセス・ノリスも一緒らしい…全く嬉しくない状況だ。

 

入口から順に捜索していくフィルチ達、このままでは発見されるのは時間の問題か……図書館の一番奥、逃げ場はない。付近には積み上げられた本棚へ戻される予定の本の山だけ…

 

~~~

フィルチ

 

「いいぞ~その調子だ」

 

匂いを嗅ぎ徐々に奥の本棚へと進むミセス・ノリス。

この先には逃げ場はない。早く恐怖でひきつる生徒の顔を見たいものだ。

 

そして辿りついた最奥、閲覧禁止の棚。

右手の通路には返却待ちの本の山、左手には……

 

「!」

 

「なんだ?これは……」

 

目に入ったのは見慣れない紙製の箱。

大人一人入れそうな大きさがある。

 

「ミセス・ノリス!生徒が飛び出して来ないかしっかり見張っててくれ」

 

賢すぎる愛猫に指示をだしてゆっくりと段ボールを持ち上げると……

 

「…誰も居ないか」

 

気を取り直して右側の棚も捜索、やはり生徒の姿は見当たらない。

 

「一足遅かったか…ミセス・ノリス!外を探すぞ!」

 

まだ近くに居る筈だ。逃がしはしない!

 

~~~

ジェーン

 

肝が冷えたよ…伝説の傭兵はいつもこんなことをしているのか……

何ともまぁ…凄まじい胆力だとしか言いようがないな。

 

自身は本の山に身を潜め、反対側の本の山に変身術をかけて段ボールに変化させて注意を引く。

 

段ボールを調べている間に既に捜索が終わったエリアに入り込む。

生徒が図書館の外に逃げた可能性がある以上長々と同じ場所には時間を費やせないだろう。

 

フィルチ達の足音が遠ざかる……ほとぼりがさめたらゆっくりと寮へ帰るとしよう。

 

~~~

 

「ロン、ジェーン!今晩一緒に鏡を見に行こう!僕の家族達の姿を見れるよ!」

 

翌朝ハリーが元気に話しかけてきた。

 

へー鏡ねー……私を置き去りにして呑気に鏡を眺めてたわけだー

此方は捕まったら罰則は確定している状況だったのに…鏡ねー…

 

「……ハリー…昨日の今日じゃない。また、危険をおかすの?」

 

「危険がなんだ!君だっていつも平気でやってる事だろう、今更御託を並べるな」

 

あっはい…すみません…

見つかっていないけど日常的に閲覧禁止の棚に入り浸ってます…

 

「僕は止められたって鏡を見に行くぞ!ロンはくるよな?」

 

「あ~……僕もその…君の家族を見たいかも……「それじゃあ一緒に行こう!」」

 

まるで取りつかれた様な強引さだ

(昨日の閲覧禁止棚で変な本でも引いて取りつかれたのかな…)

 

魔法のかかった本は読んだ者の精神を侵食するものもある。

流石にそんな危険な者を学校に置かないとは思うのだが…ここはホグワーツだしな……

 

この状況が長引くようなら教授に相談するべきか…

思わぬ厄介事が追加され溜息が増えたのはいうまでもない。

 

 

 

 

 




~~~
「ジェーン!君も次のクディッチの試合は来るよな?」

チェス中のロンがジェーンへ話しかけた。ロンはチェスが得意で現状を打開するのに必死のハーマイオーニーより幾分か余裕が伺える。

「いえ…今回も観戦はしないかな」

「ハリーが今度こそ死ぬかもしれないのに?次の試合の審判はスネイプなんだぞ!」

君達はどれだけ教授を疑っているのだろうか?
ゲームと殺人とでは全く意味が違うということを理解していない。

「そう…ならば尚更安心じゃない…」

「はぁ?何を言ってるんだいジェーン。遂に本の読みすぎで頭が可笑しくなったか?」

「ちょっと!ロン!」

喧嘩腰のロン、止めに入るハーマイオーニー。
ハリーの危機、無関心な私に腹を立てているようだ。

「自身の破滅とハリーの殺害……スネイプ教授にとってそれらを天秤にかけても尚、実行する価値のあるものかしら?審判という目立つ立場で見つからずに呪いをかける何て不可能よ。そんな事すら気付かないほど教授は愚かではない」

例外として薬を使った暗殺は可能性があるが、それを考えれる頭があるのなら最初から使っているだろう。
犯人は脳筋で間違いない。

その会話は結局、談話室に入ってきたネビルとハリーによって中断された。



「フラメルを見つけた!どっかで名前を見つけたことがあるって言ったよね。」

談話室の端でヒソヒソと話すハリー、ロン、ハーマイオーニー。
断片的だが此方まで内容が聞こえてくる。

若干興奮した様子でお菓子に付属しているダンブルドアのカードの裏の説明文を読むハリー


(ダンブルドアに関係のあるフラメル……ニコラス・フラメルか…錬金術で有名…代表的な成果物は………)

ハーマイオーニーが「本を取ってくる!」と言い寝室へと向かった


(黄金と命の水を産み出す『賢者の石』、今回狙ってる犯人は警備の厳重なグリンゴッツ銀行にまで侵入している。…それほどの手腕があるなら職には困らない筈だ。ならば、目的は命の水と見て間違いないだろう)

ジェーンは読んでいた本をパタンと閉じて談話室から立ち去った

(難攻不落の銀行を攻略して、呪い対策の施してある競技用箒をコントロール不能へと追いやった『命の水』を欲する魔法使い……一体どんな方なのでしょうね…)

(ポリジュースを使ってホグワーツ内に潜伏している?もし変身して潜入するなら…生徒よりもある程度権力をもっている者に変身していた方が立ち入り禁止区域にいても怪しまれない…教授達の誰かか…)

(……本当にこの学校は退屈せずにすむ)

少女は一人微笑む



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突撃隣の晩御飯!

ロンは次の日からジェーンへ話しかける回数がめっきり少なくなった。彼からしたら友人のピンチすら気にかけない冷酷な女という事なのだろう。

 

(私も本当に危険ならば私も手を貸したよ)

今回は危険性はないと判断した上で静観しただけなのだ。

 

 

そんな微妙な空気を吹き飛ばす程、教師達からは年度末の進級試験へ向けての宿題が大量に出された。

 

山の様な宿題を前にするとその他の事がどうでも良くなってくる気する。ひたすらに教科書を開き課題を消化する毎日。

 

「やっと終わった!」

図書館で最後の問題の解答書いた後、伸びをしていると普段ならこの場所で絶対に見ないような人が目に入った。

 

モールスキンのオーバーを着たハグリッド

オーバーの下、背中の部分には何かを背負っている様な膨らみがありキョロキョロと本棚に並べられた本を探す様子は心なしか挙動不審に感じる。

 

そんなハグリッドをロンが発見してハリー達がハグリッドを囲み話し合っている様子をジェーンは遠くで眺めていた。

 

(……明らかに厄介事でしょうね。あの子達もなんで自分から首を突っ込みたがるのかな?)

 

~~~

数週間後

ロンが呻き声を上げながら朝食を食べている。

手は2倍くらいの大きさに腫れ上がっていた。そして午後には傷口が緑色に変色し初めていたので強制的に医務室へロンを引き摺って行く事になった。

 

「先生、犬に噛まれたらしいです」

 

「どんな犬にですか!こんな強力な毒をもった犬がいてたまるものですか!いいですか、きちんと説明してくれないと誤った処置をして取り返しのつかない事になることもあるのですよ。強力な呪文や毒は完治せずに醜い傷痕を残す事もあるのです。」

 

校医のマダム・ポンフリーの怒りようといったらまるで火山が噴火した様だ。

 

「犬に噛まれたんです」とロン

 

「貴女も知ってる事があったら話して下さい」

ポンフリーさんや此方に振るのはやめてください

 

「私もなにがなんだか……噛まれた所を見たわけではないので何とも……」最近の出来事から察するに大方ハリーの友人の愉快な『大きな友達』のペットの仕業なんだろうけど

 

「はぁ…わかりました。彼は此方でひきとります」

「よろしくお願いします」

 

ロンを医務室に届けた後、教室に戻らずにそのまま図書館に。

ハグリッドが眺めていた本棚をさがす。

 

『イギリスとアイルランドのドラゴンの種類』『ドラゴンの飼い方』

 

「………………」

 

何でハリー達は自ら厄介事に首を突っ込みたがるのでしょうね?

 

 

そして週末、150点がグリフィンドールから減点されていた。

ハリー、ハーマイオーニー、ネビルが原因らしい。

 

~~~

「貴女は私達に冷たく接しないの?」

 

図書館で本を読みながらいつも通りハーマイオーニーと接していると、ふと彼女はそう切り出した。

 

大きな減点のせいで彼等は自寮だけでなく他寮からも悪口を言われているらしい。それも7年間寮杯をスリザリンに取られていて今年こそはと他の寮の学生も期待していたという背景がある。

 

「別に…寮杯なんて興味ないし」

 

熱くなっている生徒達の前では決して口にしないが最初から興味は無かった。

 

学生達を互いに競い会わせて高め合う資本主義の様な発想。ルールから外れる様な生徒を生徒が粛正する様な仕組み。

 

そして手に入れた栄光で賞金が出るわけでも就職活動で役に立つわけでもない。

 

「私にとっては価値のないものよ」

 

「でも…」

 

「人の価値観は人それぞれ。私はそれを他人に強制しないしされない。責任を感じているなら何処かで挽回出来るようにしなさいな。……ところで、その後ハグリッドからは何かあった?」

 

 

「…何でその事を。いいえ…何も」

 

「………そう、野暮用が出来たから席を外すね」

 

ハーマイオーニーはジェーンの異様な雰囲気に何も言えないまま見送るしかできなかった。

 

~~~

『コンコン』と扉を叩く音

 

「誰だ?」と訪ねるが返答はなかった

ハグリッドが首を傾げながら扉に近付くがその手がドアノブに触れる事は無かった。

 

突如『ズダン』と分厚い木の扉が両断された後、一人の少女が姿を表す。『ゴツ…ゴツ』とその姿にはみあわない重い足音を響かせながら小屋の中に入り込んだ少女の瞳には光がない。

 

「一体なんの真似だ「黙れ『フリペンド(撃て)』」」

 

圧縮された魔力を標的に打ち出す魔法。まるで銃弾の様に放たれた呪文はハグリッドの頭部へ着弾する。

 

「もともと入ってないと思ってたが脳味噌まで筋肉で出来ているとは驚きだね。なぁ木偶?」

 

本来なら貫く筈の魔法は硬い頭蓋骨に弾かれて近くのテーブルに大きな穴をあけた。

 

「何に怒ってるか分からないがとりあえず落ち着け!話し合おう」

 

「何に怒ってるかですって!?本当にわからない?『ディフィンド(裂けよ)』」

 

魔法はハグリッド服を切り裂くだけにはとどまらず床にざっくりと亀裂を残す。ハグリッドの肌には鞭で打たれた程度の赤いアザが出来る程度のダメージしかないようだ。

 

「私の友達が苦しんでいるのに心当たりはない?彼女は賢く決して悪戯で深夜徘徊で捕まる様な子ではなかった」

 

表向きはドラコ・マルフォイに偽の情報を流して誘きだして捕まる様子眺めていた卑怯者、そして自身も逃げ遅れて捕まった愚か者。

 

「彼女はその不名誉な理由を否定しなかった。出来なかった、何で?」

 

「それは…「お前を庇ったからだろうが!」」

 

近くの椅子を蹴り上げ空中でディフィンドをかける、バラバラになった椅子欠片に変身術で刀剣に変化させハグリッドへ向けてアクシオを使った投擲を一瞬のうちに行った。

 

大男の筋肉に刀剣は深々と刺さるが大したダメージを負わせていないようだった。

 

「ハリー達には本当にすまないことをしたと思っているこの通りだ」

 

「私に謝ってどうなる!謝罪の意志があるなら今すぐに校長のところへ行って事情を説明してきなさいよ!子供達の見本となるべく大人が法律を侵してそのとばっちりを子供達に負わせた上で自身は知らん顔?巫山戯るのも大概にせえよ」

 

「本当にすまなかった」

 

「貴方それしか言えないの?」

 

御託など聞きたくもない、行動で示せよ

 

「もういいわ…貴方のせいでハリー達は罰則を受ける…

それともう一つ、ドラゴンなんてどうやって手に入れたの?」

 

「バーでフードを被った男から「法律で禁止されているのに?」」

 

 

「それじゃ、ホグワーツや賢者の石、三頭犬に関して何か話した事はない?」

 

「………いいや、俺はなんも話しとらん」

 

「……そう」

 

話しはこれで終わりと言わんばかりに踵を返し立ち去るジェーン。振り向く事無く杖を一振りすると散乱した室内や変化した椅子が全て元通りとなっていく。

何事も無かったかのような室内でハグリッドは暫くの間、呆然と膝をついていた。

 

~~~

 

 

(あの時、記憶を辿る様に視線は斜め上を向き、その後横へ視線を泳がせた。手は自身の腕を無意識のうちに掴んでいる)

 

(………三頭犬の情報は間違いなく漏れているとみていい)

 

 

賢者の石か……誰かの手に渡るのを静観する訳にはいかないか

 

 

 

 




ハグリッド
その身に流れる血の影響で魔法の影響が軽減される
魔法での攻撃は効果的ではない。
物理的にも一般的な魔法使いよりも恵まれているため倒すのは困難
今回、ジェーンが圧倒していたのはハグリッドに交戦の意志が無かった為。
ハグリッドの唯一の弱点は脳味噌が筋肉で出来ている事くらいか…


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禁じられた廊下

賢者の石もいよいよ大詰め!


ハグリッドの番犬は出し抜かれるのは間違いないだろう。

問題はいつ実行するのか?というところだ。

 

前提としてダンブルドアが校内に居るときには行動を起こさない。例のあの人は最も力のある全盛期でも直接対決を避けていた。ならばその配下がダンブルドアの力を過小評価している訳がない。

 

そして人気の少ない夜間の可能性が高い。

 

そわそわしている3人組を談話室のソファーに腰掛けながら「あぁー今日がその日なのか」と他人事の様に感じている辺りジェーンも感覚が狂ってきてるのかもしれない。

 

ポケットの中に準備した物がきちんと入っている事を確認した後、ジェーンはハリー達よりも一足先に談話室から外へ出た。

 

 

~~~

4階廊下前

既に鍵が外されている。これまでの一連の犯人は予測通り今日、賢者の石を強奪する気のようだ。

 

「ジェーン!何故君がここに!?」

「君もネビルみたいに僕たちを止めに来たのか!?」

「ジェーン道をあけて!このままじゃ大変な事になるの!」

 

私の姿を見つけるや否や一斉に口を開く3人

 

「別に邪魔しに来たわけじゃないよ…」

 

両手を上げて戦う意志がないこと見せるのだが

 

「ごめんなさい、スネイプの配下かもしれない貴女を信じられないの!『インカーセラス(縛れ)』」

 

ハーマイオーニーが魔法の縄でジェーンを簀巻き状態にして拘束した。

 

「そこで待ってて……全て終わったら解放するから」

 

そう言い残し3人は先へと進んでいく。

 

 

 

「…………」

 

「………………」

 

「……………………寒い」

 

どれ程時間が経ったか分からないが身動きとれない状態で放置されるとは思わなかったよ!

 

『エマンシパレ(解け)』

 

呪文を使い縄の拘束から解放される。

もし、私じゃなかったら…呪文を解除出来なかったら凍死してるかもしれなかったよ!

 

このまま帰るのも癪だしせっかくだから……

 

「元凶さんのツラでも拝みに行きましょうか」

 

勢いよく廊下の扉を蹴り開けて侵入する。

中には巨大な三頭犬の姿が見えるがあまり時間を割いてやるつもりはない。

 

ポケットに手を突っ込んで取り出した缶詰。

パンパンに膨れ上がったソレをだらしなく開いた口の中に放り込んであげる。

 

パンと音をたてて弾ける缶詰。

3つの口から同時に嘔吐し白目をむきながら痙攣する三頭犬の横を通過して仕掛け扉の中へ入り込むジェーン

 

投げ込んだ缶詰は塩漬けニシンが発酵したもの。

『シュールストレミング』という名前の世界一臭い缶詰だ。

販売者が勇気をもって食べてみたところ「人間の食べ物ではない」「屋外で開封しないと汁が飛び散るので注意」「万が一汁が服に付いた場合はいくら洗ってもとれない」「一口食べただけでも吐き気が込み上げてくる」「完食は不可能」と言うほどの……食品ではなく兵器といっても過言ではない品物様だ。

 

それを人間の嗅覚の1000倍〜1億倍とも言われる犬に食べさせたら当然こうなる。

 

「ちょっとやりすぎたかな……」

 

いまだにのたうち回る犬の姿が不憫に思えた。

 

~~~

 

仕掛け扉の先は滑り台の様なきつい傾斜でそこが見えないくらい下へと続いている。

 

『トゥームレイダー』というゲームをしたことのある人なら分かるだろうが…滑り台の終点には大抵、致死性のトラップが仕掛けてあるものだ。当然、ジェーンも警戒しているわけで……その手にはのらぬ!

 

『ウィンガーディアム・レヴィオーサ』

 

滑り台が終わる直前で浮遊術を発動することで滑り落ちる勢いを相殺してトラップを回避する

 

「悪魔の罠か…」

 

床にビッシリと敷き詰められた植物の絨毯

範囲に入った動物を締め上げる植物のトラップ。

火に弱い性質がある。燃やしてもいいのだが、そもそも範囲に入らなければいい話だ。

 

トラップを完全にスルーして次の部屋に向かう

 

通路の先はアーチ状の天井の高い部屋。

羽のついた鍵達がバサバサと飛び回っている

奥には分厚い扉と壁に立て掛けてある箒

 

「飛び回る鍵を箒に乗って捕まえろって事でしょうけど…」

 

わざわざそんなお遊びに私が付き合ってあげる義理はないよね?

 

『アクシオ(来い)』

 

翼が折れてヘナヘナと弱々しく飛ぶ鍵へ呼び寄せ魔法をかけた。

勢いよく飛来する鍵をキャッチして鍵をあける。

 

「やっぱり狙いをつけなくても発動出来る魔法は便利よね」

 

この魔法が光線を当てたものだけに発動するのならばこの部屋で私は脱落していただろうな。

 

次の部屋は巨大なチェス盤の様な部屋でハリー達が自身を駒がわりにして対戦していた。

 

「ジェーン!どうやってここへ!?」

 

「あ~私の事は気にしないで~ゆっくりとチェスを楽しんで!」

 

驚愕する3人をよそにヒラヒラと手を振り応援するジェーン。

 

観戦する事数十分……

ロンが吹き飛ばされた後ハリーが相手へ王手をかけた。

 

「ロン……いい奴だった……「いや!死んでないからね!?」」

全く心配していないジェーンにハリーは突っ込みを入れる。

 

次の部屋…気絶したトロールの横を通過して更に奥の部屋へと進む

 

 

 

「この試練はスネイプだ!何をすればいいんだろう」

扉の敷居を跨ぐと入ってきたばかりの入口と奥の扉への入口が燃え上がり閉じ込められた。

 

中央のテーブルに7つの瓶

ハーマイオーニーが瓶の横に置かれた巻き紙を読み上げ解読を試みる。私?傍観しています!

 

「すごいわ!これは魔法ではなくて論理よ。大魔法使いと言われる人って論理の欠片もない人も沢山いるの。そういう人はここで行き止まりだわ」

 

「でも僕達は違う…そうだろう?ハーマイオーニー」

「勿論!任せて」

 

ブツブツ一人言を言いながら巻き紙を読み直すハーマイオーニー

そしてついにパチンと手を打った。

 

「わかったわ。一番小さな瓶が『石』の方へ行かせてくれるわ」

 

「一口分しかないね…戻れる薬も分かる?」

 

一番右端の丸い瓶を指差すハーマイオーニー

 

「いいかい、よく聞いてほしい。戻ってロンと合流してくれ。それから鍵の飛び回っている部屋に着いたら箒に乗る。そうすれば仕掛け扉も三頭犬も飛び越えられる」

 

「あ~三頭犬の心配はしなくていいかも…もう暫くはグッスリ眠っている筈だから」

 

「……ふくろう小屋へいってダンブルドアに手紙を送ってくれ。彼が必要なんだ。」

 

「でももし例のあの人がスネイプと一緒にいたらどうするの?」

「そうだな、一度目は幸運だった。だから二度目も幸運かもしれない」

 

ハリーに抱きつくハーマイオーニー……私?完全に空気です。

 

「ハリー、あなたって、偉大な~~~」

 

     ・

     ・

     ・

「ジェーン、貴女を疑ってごめんなさい…すぐにダンブルドアを連れて戻ってくるから待ってて!」

 

あ~ 話し終わったみたい?

 

「大丈夫、ハリー以外の人が奥から出てきたら私が足止めしててあげる」

 

「幸運を祈ってるわ」

 

ハーマイオーニーは一気に薬を飲み干した後踵を返しもと来た通路へと炎の中を歩いていく。

その姿を見届けたハリーも同じように薬を飲み干した後奥の扉へと続く炎の中へと消えた。

 

残された私はハリーが通った後に炎が不自然に揺れる様を只眺めているしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

でもね……せっかくここまでたどり着いたのだから『答え合わせ』したくない?



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塗り立ての黄金林檎

原作とは別と思っていただけると丁度良いですが
原作読まないと『説明をはしょってる』所がありますので……あしからず(´・ω・`)


「何で……何故貴方がここにいる!?」

 

炎を抜けた先、中央に鏡が置いてあるだけの何もないホールの様な広い広場でハリーを待ち構えていたのはスネイプでも『例のあの人』でもなかった。

 

「答えて下さい!クィレル先生!」

 

ゆっくりと振り返りハリーへと顔を向けるクィレル教授。

 

 

「わ、私は…スネイプ教授にお、脅されて秘密をは、話してしまった………とでも言うと思ったかね?」

 

いつもの挙動不審、痙攣した顔、自信のない雰囲気から一変。

堂々した態度にかわり威圧感まで感じる。

これが本当にクィレルなのか?

僕を殺そうとしたのはスネイプの筈…何故クィレルが?

 

「でも、スネイプは僕を殺そうとした!」

 

「それは私だよ、ポッター君。クディッチの時にスネイプが反対呪文を唱えなければ君をもっと早く叩き落とせた。」

 

「貴方が……」

 

「左様、『好奇心は猫を殺す』という言葉をご存知かね?君はあちこちに首を突っ込みたがる……私はね、とても君が目障りでしょうがないのだよ…」

 

スネイプが僕を助けようとしていた?

 

 

「おやおや、信じられないって顔をしているぞポッター君。では、教えて差し上げよう。グリンゴッツ銀行から石を奪おうとしたのは?『私だ』ハロウィンの日にトロールを校内に引き込んだのは?それも『私だ』スネイプと共にいると『イビられている可哀想なクィレル』と周りが勘違いしてくれるから非常に助かったよ。」

 

「無駄話は終わりだ、ポッター…こっちに来て石を探すのを手伝ってもらおうか?」

 

クィレルがパチンと指を鳴らすと何処から現れたのか、縄が出現してハリーを縛り上げた。

 

「私には石を手に入れてご主人様に献上している姿しか見えなくてね。さぁポッター、鏡に何が見える?」

 

 

鏡の前につき出すクィレル。

『みぞの鏡』鏡の前に立つものの望みを写す鏡

 

(クィレルよりも先に石を見つけないと……)

 

『石を使う』事ではなく『石を探し出す』事を望むハリーに、鏡の中に写るハリーは微笑み石を自身のポケットの中へ入れた。

 

「良くやった!小僧、石を渡してもらおうか?」

 

クィレルのターバンの中からゾッとするような声が聞こえる。

ターバンをほどき、後ろを向くと後頭部にはもう一つの顔が其所にあった。

 

「嫌だ!」

 

「無駄な抵抗はよせ。お前も両親の様に不様な最後を遂げたくはないだろう?」

 

「だが、断る!」

 

逃げるハリーの手をクィレルが掴んだ。

突如悲鳴を上げるクィレル、ハリーを掴んだ手はまるで火傷したかのように爛れていた。ハリーにも頭が割れる様な頭痛が襲う。

 

「殺せ!」

 

クィレルの後頭部から冷酷な言葉が発せられる。

 

(死んでたまるか!)

クィレルの顔を鷲掴みするが振りほどかれ蹴飛ばされる。

ポケットに入れていた石が転がり落ちる

 

「目が!目がーーー!!」

「もうよい、愚か者!我輩が直々に相手をしてやろう」

 

近付くクィレルの足音

その音とは別にもう一つ

 

『ゴツッ』『ゴツッ』と

 

ハリーは薄れ行く意識の中で聞き覚えのある重い足音を聞いた。

 

~~~

炎の中に取り残された私

万が一ということは無いだろうが、ここまで来て結果を待ちぼうけするつもりはない。

 

瓶を開けてナイフの先端を薬につける。

 

「これも毒薬、こちらも……無色無臭、だけどこれも毒薬」

 

ドン!と机にナイフ突き刺す

 

ハーマイオーニーの推理は間違っていないようだ。残る瓶の中身は全部毒薬。ルールに従うなら私はこれ以上先へと進めない。

 

「ルールに従うならだけどね」

 

その証拠に、この先に居る石を求める犯人は薬の入った瓶に手を付けていない。炎を無効化する魔法があるのだろう。

 

「私は知らないけどね」

 

この一年、攻撃と防御を重点的に魔法を探していた弊害か。

その一点だけが突出していて他の基本的な雑学が同じ水準まで追い付いていない。

 

ならば違うアプローチをするだけだ

 

燃焼する物質の消化方法は主に3つ

可燃物を取り除く 除去消化

酸素の供給を断つ 窒息消化

可燃物の温度を引火点以下まで冷却する 冷却消化だ

 

目の前に広がる炎は魔法か物質の燃焼かは分からないが魔法薬学のスネイプ教授ということで薬品が燃焼しているということに仮定する。

とれる消化方法は数種類あるが簡単なもので対処しようと思う

 

『全て吹き飛ばしてしまえばいい』

酸素も……燃焼する薬品も……奥に見える次の部屋への扉も…

 

杖を一振り

「あぁ………骨に染み渡る良い音だ……」

 

業火を消し飛ばし、扉を消し飛ばし、室内を破壊しながら轟音と心地よい突風が部屋をかけぬけた。

 

 

部屋の残骸を越えて最後の部屋へ

『ゴツッゴツッ』と重い足音を響かせて歩く。

 

ホグワーツでは靴に指定はされていない

拘りのない大半の生徒はスニーカーを履くし、スリザリンなどの由緒正しい者は革靴を好む。

 

だが、その者の足音は革靴に近いが重さが違った。

踏み抜き防止用に靴底と爪先に金属プレートで補強されたブーツの音。

 

『バキッ』

 

「あら?ごめんなさい。大事な石ころ踏んじゃった☆」

 

「貴様!!!」

 

こうして侵入してきた少女と教授との戦闘は始まった。

 

~~~

 

目を潰され、利き手は負傷。後頭部の顔で此方を睨みズッシリと構える教授とは対称的に『タンッタンッタンッ』と軽やかなステップを踏む少女。

 

挨拶など交わす事なく呪文は放たれる。

 

 

(いつも通りの間合いで、いつも通りに魔法を放つ)

 

教授の最初の呪文を回避する。

産まれながらの『妖怪糞AIM』の呪いのせいで接近しないと何も始まらない。右へ左へフェイントを混ぜながら接近する。

 

(盾の呪文を私はまだ使えない)

「エクスパルソ(爆破せよ)」

 

牽制で放った呪文は両者の間の床を吹き飛ばした

 

「sit!」

 

当たる事は最初から期待していないが、それは相手も同様の様だ。

防御する気配さえみせていない。

 

 

教授の杖が空気を裂く、呪文が詠唱されて此方へ狙いを付けられる。

 

(回避は無理そうね)

 

盾の呪文が使えないならば『何かを盾にする』までだ

 

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ(浮遊せよ)」

 

破壊された床材の破片を浮遊させて盾にする。

クィレルの呪文が床材を吹き飛ばす。

ジェーンは砂埃の舞い散る中、前進してクィレルへ肉薄した。

 

「フリペンド(撃て)」

「プロテゴ(護れ)」

 

至近距離で放たれた魔法の銃弾は盾の呪文で弾かれる。

お返しとばかりに教授から爆破魔法を放たれるが、ジェーンはその腕を蹴り上げて軌道を無理やりかえた。

 

「ディフィンド(裂けよ)」

「プロテゴ(護れ)」

 

強固な盾の呪文を貫く事は出来ない

ならば揺さぶるだけだ

 

先程爆破された天井から残骸が降りそそぐ、その破片に変身魔法をかけて刃物へ変化させた。

 

教授の盾が前方から上へ……その瞬間

 

「ディフィンド(裂けよ)」

 

スレ違い様に魔法を放ち離脱する。

 

 

 

 

「お見事!なかなか見所のある生徒ではないか」

 

振り返ると片腕が切り落とされた教授が立っている

 

 

「全く……分が悪い。目を潰され、利き手を負傷してやっとイーブンですか」

 

「いやいや、俺様を前にして良くやってる方だぞ?小娘。だが遊びはここまでだ!死ぬがよい!」

 

「……貴方がね」

 

無言で発動した呼び寄せ魔法

発動目標は前の部屋に残したナイフ

 

凄まじい速度で飛来したソレは、ジェーンの前に立ち塞がるクィレルの胸元に深々と刺さった。

 

「ホグワーツ1の魔法薬教授の毒薬よ。効果はお墨付き……」

 

毒の効果はすぐに訪れた

血を吐きながらのたうち回るクィレル

 

「貴方が本当に願いを叶えたかったのなら『ここに』来てはいなかった……」

 

静かになった広間

少女の呟きは良く響いた。

 

 

~~~

 

駆け寄る足音がきこえる

顔を上げると広間の入口にダンブルドアが立っているのが見える。

 

「全て終わりましたよ」

 

「そのようじゃな…儂としたことが出遅れてしまった様だ。」

 

「………」

 

ハリーの無事を確認するダンブルドア。

そしてクィレル……後頭部の顔は既に無くなっていた。

 

「ハリーは?」

 

「無事じゃよ、気を失っているようじゃ」

 

「……そう、少しお時間良いでしょうか」

 

ハリーを抱き上げて引き返そうとするダンブルドアに声をかけた

 

「構わんよ。ただし、あまり時間は取れないがね。ハリーを医務室まで運ばなきゃならぬ」

 

 

「………まずは、賢者の石を破壊してしまい申し訳ありません」

 

「その事なら仕方な「ですが別に問題ありませんよね?元々破壊するつもりだったのでしょう?」」

 

老人の穏やかな表情が一瞬固まった。

 

「何故そう思うのかね?」

 

「まず、警備がザル過ぎます。賢い一年生ならクリアできる程度の難易度の試練。相手はここよりもさらに厳重なグリンゴッツ銀行を攻略したことは貴方もご存知だった筈です。実際、クィレルが時間をかけたのは三頭犬とその鏡だけでした。そして、三頭犬が優秀でも飼い主が無能ならば意味がない。言いたいこと…貴方なら分かりますよね?マーリン勲章、勲一等、大魔法使い、魔法戦士隊長、最上級独立魔法使い…アルバス・ダンブルドア」

 

情報漏洩を防ぐ為の方法は知っていた筈……

『優しい』と『甘い』では意味が違う。

甘い人間なら騎士団を率いる事も戦争で生き残る事も出来はしない。

ハグリッドを殺す……

ダンブルドア……貴方は本気で石を守ろうというのなら、それくらいは平然とやってのける……ねぇ、そうでしょ?

 

「そうじゃな、儂も他の先生方も襲撃者を過小評価していたのは認めざる負えないのう。そして勘違いしてるようだが今は戦時中ではない。その様な措置をとる必要はないと判断しただけじゃ」

 

 

建前はそう答えるでしょうね、でも本音は違う筈。

 

入学当初の挨拶で一年間は4階の廊下に立ち入り禁止と言ったのは何故?

 

賢者の石を餌に誘きだしたのは理解できる。そのわりに警備がザルだったのは?恐らく犯人が持ち出す事が出来ないように石自体に自壊するように細工をしていたのだろう。故にここまでたどり着き、石を手に入れようが問題はなかった。最初の試練を越えた時点で教師たちが犯人確保の為に動き出さなかったのも頷ける。

 

 

では…難易度の見会わないこの試練は一体誰に向けてのものだったのでしょうか?

 

 

「そうですか……」

必要以上は話すつもりはないと言うことなのだろう。

 

「ではもう一つ。クィレルがハリーに触れなかったのは何故ですか?」

 

 

「それは愛じゃよ。ハリーの母君がハリーを護るために自らの命を犠牲に古の魔法をかけたのじゃ」

 

「そうですか。『愛』ですか……それはいい。とても良い。」

 

一年間のうちに世界中で何万人もの人が死亡している

ハリーと同じような状況の人も少なからず存在する。

ならば、助からなかった人はきっと……

 

 

 

 

 

……………『愛』が足りなかったのでしょうね?

 

 

 

 

 

 

 

クスクスと笑うジェーン

 

「儂からもお主に質問じゃ、其所の鏡で何がみえた?」

 

「さぁ、鏡ですから自身の姿じゃないのですか?そろそろ医務室にハリーを運ばないと可哀想ですよ?」

 

「……確かにその通りじゃな。」

 

ハリーを抱えて立ち去るダンブルドアの姿を見届ける

 

「腐った真実の上を見映えの良い英雄談でコーティングした世界。私から貴方に伝える事など何もないわ」

 

炎に囲まれたあの部屋でハリーを追うように揺らめいた炎……

例え透明になっても存在と自身の質量までは消すことは出来ない。

この場所で最初から見ていたのならば……私が駆けつけずにハリーが死んだ場合も貴方の計画の内だったのでしょうか?

 

「なんて可哀想なハリー……

何も知らず箱庭で踊るハリー(アリス)

 

 

 

 

 




少々無理矢理感はありますね(*‘ω‘ *)


曲の影響を受けているため歌詞を使っている所が多々あります。
『廃墟の国のアリス』良いですよね~
追記:サブタイトルに歌詞を使いたいが為に楽曲コード入れる羽目になりましたw
入れ忘れがないか探さないとw


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一年の終わり

ちょっと書き方を忘れてしまった…というか今書いてる別の小説に引きずられてしまった感じの雰囲気になってしまってますw

秘密の部屋からはまた明るい感じで書けたらいいね!知らんけど!!


「失礼します。」

「・・・ハリー・ポッターの面会ですか?」

 

ジェーンはグリフィンドール生と見るや否や渋顔をするマダム・ポンフリーに対して自然と笑みが零れた。

 

「まだ意識は戻っていないというのに物好きな方の多い事、多い事。」

「あはは・・・先生もお疲れ様です。」

 

例の件から既に3日が経った朝。

多くの生徒が英雄、ハリーポッターの顔を見ようと病室に訪れた。

勿論、マダム・ポンフリーにとっては招かざる客であるフレッドとジョージの姿があったのは言うまでもない。

一向に退出しようとしない生徒を追い出し、意識のない患者に落書きをしようとする不届き者に出禁を言い渡し、休憩時間の度に代わる代わる訪れる生徒の波を捌く()()に心底うんざりしてた様子にジェーンはねぎらいの言葉をかけた。

 

「貴方みたいに行儀のよい子なら負担にはならないのですが」

 

「そうでない方が過半数?」

 

「ええ、残念ながら。これで終わりならまだ我慢できるのですが、私の勘では・・・」

 

「後6年間・・・ありますものね・・・今度、紅茶でも差し入れますよ。」

 

それは見事な『苦虫を噛み潰した様な顔』をする教員に、声を上げて笑いだしそうになるのを必死に抑えるジェーン。

いっそ笑ってしまう?そんなことしたらハリーのハの字を言う前に病室から追い出されてしまいますよ。

顔面の筋肉を総動員して必死に無表情を作るジェーン。その努力を知るものは居ない(※悟られたら追い出されます)

 

一番奥の窓際。

(ああ、入り口にハリーが居たら渋滞して病室が閉鎖されますものね)と一人納得するジェーン。

3日目、そして授業(闇に対する防衛術(自習))を抜け出したせいか病室には生徒の姿はない。

 

「おや、今は授業中だと思うがの。」

「後回しにしてきた結果、今があります。」

 

「ならば、学業よりも()()()()()と言えるの」

「感謝します。」

 

※「授業をなにさぼっとんねんワレ!?」「サボらなかった結果ここまでお見舞いに来る時間が出来なかったんだよ!察しろ!」「仕方ないな、儂から今回のサボりの件は口添えしてやるよ」「おう、分かればいいんだよ。分かれば」などという会話を狸爺と卒なくこなし、爺の隣の席に腰を掛けるジェーン。

 

「マダムは何も言いませんでしたがあれは・・」

「おそらく列をなして毎日面会に来るものだから時間の感覚が無くなっているのじゃろう。」

「それは難儀な・・」

 

静かにマダムへ黙祷をささげた。

 

ピクリとも動かないハリーを眺めながらジェーンは問う。

 

「ハリーが闇の帝王の眷属を退け賢者の石を守った。皆が知っているのはここまでですね。どこまで話されるおつもりですか?」

「この件は秘密でな。秘密というのはつまり、学校中が知っている事じゃ。儂は努力した者には相応の評価を与えるべきだと考える。それが実を結ぶか否かはさておいての。」

「そうですか。」

 

ジェーンは瞳を閉じ静かに考える。

 

「可能なら私の事は口外しないでください」

「はて?一番の功労者が功績を辞退するのかね?」

「悪を倒した。魔の手から退けた・・・といえば聞こえはいいですね。ですが・・・」

 

両手をまじまじと見つめる少女にダンブルドアは掛ける言葉を見失っていた。

 

「ねぇ、先生。来年からは平穏が訪れると思います?」

「儂等教員は生徒たちの安全を第一に考えておる。」

 

「そうですか。私は興の乗らない音楽で踊ることは出来ませんので。」

「それは重々承知しておる。」

 

頷きもう話すことはないと立ち上がるジェーン。

最後に振り返りこの学校の最高責任者に問う。

 

「それは・・・女子トイレの便座ですか?」

「・・・・・ああ・・・・便座じゃの・・・・女子トイレの・・・」

 

こうして2人の会談は終わった。

ハリーが目を覚まし、便座の上に真顔で座るダンブルドアを目撃するのは15分後のことであった。

 

 

その夜の学年度末パーティー。広間に入り目にするものは緑とシルバーのスリザリンカラー。蛇を描いた巨大な横断幕。そして自身の席にふんぞり返るどや顔のスリザリン生だった。

 

(・・・・・面白くない)

 

それがジェーンの正直な感想。

もともと寮杯には興味は無かった。だからこそ3人がやらかして盛大に減点された時に責めることはしなかった。

ただ、この場の空気が嫌いだった。そしてこれから起こるであろう展開も。

 

ハリーの診察が終わり遅れて入場。それまで談笑してた生徒達が一斉に黙り静寂が生まれる。

グリフィンドールの席から

「おーい!ハリー!便座の座り心地はどうだった?」

という声を皮切りに再び広間に話し声が溢れかえる。

 

「ハリーお帰りなさい。」

「久しぶり、ジェーン。」

 

会話といえばこの程度、ハリーは最後の部屋での出来事は最後まで見てはいない。

彼の中ではクィレルと戦い意識を失った直後に駆けつけたダンブルドアによって一命を繋ぎとめたとなっている。

この事は校長とジェーン、2()()()()()()()()()()()()()

 

「また一年が過ぎた。」

「私お花積んでくる。」

「えっ!?もう発表が始まるよ!?」

「結果は見なくても分かるわ・・・・」

 

広間から聞こえる歓声を背に、お手洗いへと目指す。

 

「駆け込みの点数をいくつか与えよう。えーと、まずはロナルド・ウィーズリー君」

 

この空気が嫌だ。

数日前まで彼らを厄介者として笑ってたくせに

 

「この何年間か、ホグワーツで見ることの出来なかった様な最高のチェスゲームを見せてくれた事を称え、グリフィンドールに50点与える。」

 

広間に木霊するような大歓声が離れた場所でも伝わってくる。

 

それがどうだ?

「次にハーマイオニー。グレンジャー嬢に・・・火に囲まれながら冷静な論理を用いて対処したことを称え、グリフィンドールに50点与える。」

 

まるで掌を返したように英雄扱い。情報に踊らされ真実を知ろうともしないで人を嘲笑う。誤解と分かれば笑顔で歩み寄り「悪かった水に流そう」などと口にする。

 

「三番目はハリーポッター君」

お前の様な奴らに()()は殺された。

 

 

「儂等教員は生徒の安全を第一に考えておる。」

その言葉が本当ならこの事件も調整された舞台だったのでしょうか?

 

「私は興の乗らない音楽で、踊ることは出来ませんので。」

これから先も死ぬか否かのギリギリのラインで踊らされるというのでしょうか?

 

「その完璧な精神力と、並外れた勇気を称え、グリフィンドールに60点与える。」

 

大歓声。計算が確かなら今、スリザリンと同点の筈だ。

 

「いい事だけでなく悪いことも清算しないとじゃの。」

「病人の見舞い品には過激すぎる物を送り付けた生徒がいる、微笑ましい悪戯ではあるが校内の便座を根こそぎ破壊されては叶わんからの・・・グリフィンドール50点減点。」

 

悲鳴に似た叫び。それを打ち消すように校長の話は続く。

 

「勇気にもいろいろある」

 

「可能ならば私の事は口外しないでください。」

 

「敵に立ち向かっていくのにも大いなる勇気がいる。」

 

洗いすぎて真っ赤になった手をそのままに水を払う。

蛇口を捻り水を止める。

「儂からもお主に質問じゃ、そこの鏡で何が見えた?」

 

「鏡は鏡でしかない・・・そうでしょ?ダンブルドア。」

嫌悪感を滲ませる言葉とは裏腹に、鏡に映る顔はまるで風のない水面の様に凪いでいた。

少女の唇から言葉が漏れる。

 

「しかし、味方の友人に立ち向かうのにも同じくらい勇気が必要だ。そこでネビル・ロングボトムに60点を与えたい」

 

「闇の眷属を殺害したことを称えジェーン・ウィルソンに50点って所でしょうか?そんな称賛は私は望んでいない。」

もがき苦しむ最期の姿、徐々に呼吸が浅くなり…消えていく。

どう取り繕っても私は人殺し。

裁かれる事がないからこそ黒い鎖が自身の心を蝕んでいくように感じられて震えが止まらなくなる。

 

「タスケテ…」

「ゴメンナサイ……」

 

ーーーー

キングズ・クロス駅

プラットホームに降りて別れを惜しむ生徒、家族の再会に喜ぶ者達。

 

「それじゃ私はこれで…」

「大丈夫?学期末からなんだか変よ?」

 

「色々な事があったからね~」

「そ・・・そうよね!来年はきっと素敵な年になるわよ!」

 

「ふふふ。良い休日を。ハーマイオニー」

「貴方も。良い休日を。ジェーン。」

 

迎える家族の居ない少女は誰にも気づかれることの無いまま駅から姿を消した。

 

 

 

 



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秘密の部屋
バーノンの秘密の部屋


 

「いらっしゃい。何もない家だが・・・・自由に腰掛けて寛いでてくれ。お茶を入れてくる。」

そう言い残し、家の主は退出した。

 

部屋に残された少女は、まじまじと辺りを見回す。

()()2()()()()()何の変哲もない()()()時計。絵の()()ことのない()()()絵画。レコードプレーヤーに電源の付いていないブラウン管のテレビ・・・

ハリー・ポッターの親友であるロン、その父親である魔法界でマグル好きと名高い『マグル贔屓』のウィーズリー氏がこの家の様子を目のあたりにしたら、きっとこれ以上にないくらい目を輝かせていたに違いない。

・・・・無理もない。ここは彼の憧れるマグルの家、そのものなのだから・・・。

使い込まれ少しくたびれたソファーに腰掛け、招かれた少女は家の主の帰りを待った。

 

「待たせたな。」

 

「この度はお招き頂きありがとうございます。担当させていただきますジェーンドゥと申します。」

 

差し出される茶を受け取りながら客人は答える。

低い背丈、張りのある肌、艶のある髪。そして、紡がれる音色()は想像通り、柔らかく可愛らしいものだった。

とても成人した女性とは思えない容姿の客人・・・しかし、家の主は何故か()()()()()()()()()()()客人の容姿に、何故か()()()思う事は無かった。

 

「長い戦争がありました・・・・世間には露呈しない様な戦いが・・・貴方が軍を去り10年が経ちましたがお変わりはないでしょうか?」

「至って平凡で穏やかな生活が過ごせているよ。」

「夜、眠れない事は?」

「無い。」

「では、トラウマがフラッシュバックすることは?」

「それも大丈夫だ。平和な日常、戦場に居た頃の記憶が夢で出てくるわけでもない。そういう意味ではPTSD(心的外傷後ストレス障害)は無いと思える。」

 

少女の様に見える容姿の女性はノートに筆を滑らせる。

辺りを見回し、一拍して核心を口にする。

 

「・・・・でも、何かが足りない。そういった喪失感はありませんか?」

 

男性の一人暮らしにしては家の部屋数は多い。

綺麗に片付けられた部屋の様子を主は見回しながらゆっくりと口を開いた。

 

「俺は軍に所属し・・・戦い続けていた。この家を買ったのも退役してから・・・そのはずだ。」

幾多の傷と共に大事に磨き上げられたテーブルを男は指でなぞる。

 

「ふと、目を閉じると()()()()()()()幸せそうに俺に笑いかけてくる景色が浮かぶんだ。」

ーーー俺は結婚したことが無いのにーーー

 

「一人で街中を歩いていると、目に入ったホビーショップでこの玩具は()()()喜びそうだ・・・と思ってしまうことがある。」

ーーー俺に家族は居ないはずなのにーーー

 

「妻と笑いあった思い出、息子を抱き上げた感触・・・・夢が覚めると同時に薄れていく。」

ーーー独り身の現実と、毎晩夢で見る家族と過ごす自分の姿・・・・どちらが真実なのか分からなくなってくるーーー

 

 

「あんたを呼ぶ前に何人かカウンセラーを呼んだ。皆が皆「戦争の後遺症だ」「お前は狂っている」と口を揃えたよ。なぁ、教えてくれよ。俺は狂っているのか?答えを聞かせてくれ。」

 

「貴方の置かれている状況を()()()()()の言葉にするのは難しい、存在しない者の記憶を貴方だけが覚えている。それは妄想、幻覚、幻影、無意識に自身の理想を投影していると結論付けた方が正論と捉えられる。」

 

「・・・・あんたも他の奴らと同じか。「もし・・・・もし、その状況を他者が意図的に作り上げているとしたら・・・貴方はどうします?」

「世の中には知らない方が幸せだという時もある。それでも、貴方は知りたいですか?」

 

ーーー夢での出来事を信じるというのか?それが真実だというのか?ーーー

存在しないはずの家族の痕跡を辿る・・・

ただの笑い話、口にした自身でさえあり得ないと笑い飛ばせるような非現実的な与太話。だが、対面する少女の瞳には一切の疑いも迷いもなくその先に答えがあると確信している様な輝きがあった。

 

「では、取引をしましょう。」

 

男が頷くのを確認した少女は満面の笑みで話を切り出す。

 

ーーー御代は要らない。全てを思い出した上で貴方には協力して貰いたいことがある。ーーー

一見すると少女のそれは花が綻ぶような笑顔なのだが、男にはナイフを喉元に突きつけられている様な冷たい感覚がぬぐえなかった。

 

 

 

 

ーーーーー

 

ジェーンお久しぶり。休日は如何お過ごしでしょうか?

私は勿論、とても忙しくしております。

・・・とはいっても、手持ちの教科書では学べる範囲も限られるし、新しい本が欲しいと思ってる所なの。

(ダイアゴン横丁に気軽に行けるのならいいのだけどマグルの交通手段だと時間がかかるし中々赴けないの。魔法界の手段ならあっという間に行けると思うのだけど・・・)

9/1に新しい教科書のリストが配布されると思うからその後に時間が合えばロンドンで会いませんか?

それと・・・ハリーの件なんだけど。

ロンも私もハリーへ手紙を送ったけども返信が一向に来ないの・・・

ハリーの保護者さんって・・ほら・・・・魔法族を毛嫌いしてるってハリーが言ってたじゃない?

もし、何かの弾みでハリーが酷い目に合ってないか心配で・・・

ジェーンも何か分かりましたら教えてね。(ロンったら放っておいたら違法な事をしてでもハリーを救い出しそうな気がして仕方ないの)

 

貴女と会える日を楽しみにしています。

                    ハーマイオニー

 

 

「相変わらず苦労性よね…ハーさん・・・」

読み終えた手紙を畳みながらため息を漏らす。

 

「というか、私もマグル界育ちだから普通に電話掛けてきてくれたらいいのに・・・」

 

郵便やフクロウを飛ばすよりかよっぽどスマートで効率的だと思うのだけど、その手段を思いつかないハーさんを見る限り、何だかんだで魔法界育ちの魔法使いよりも()()()なと感想が漏れてしまった。

とはいえ、ハリーが音信不通なのは気がかりだ。

 

「私の方も出来る事をしてみようかしら・・」

 

 

ーーーーー

ハリーside

 

 

魔法を恐れるダーズリー一家。

魔法の力の威を借りて(例年より)平和な日常を過ごそうとしたハリーの計画は、7/31日・・・つまり、ハリーの誕生日に現れた『屋敷しもべ妖精』であるドビーの手によって儚く消え去った。

 

ハリーの保護者であるバーノン叔父さん。

その大事な取引先の商談の最中にドビーがパイ投げ夜露死苦と言わんばかりに、ペチュニア叔母さん特性の特大ケーキを浮遊術を使ってハリーに投げつけたのだ。

その結果、商談は破談。魔法省から『国際魔法戦士連盟機密保持法第13条』の違反(再度違反すれば退校処分)と警告の手紙をダーズリー一家に読まれるというおまけつき。

 

ハリーがむやみやたらに魔法を使用できないと分かるや否か、バーノンはハリーを部屋に監禁。少量の食事だけ与えられ、新学期にホグワーツに登校できるかも不透明。

 

「いや、絶対に登校させるなんてない。ダドリー(従弟)の玩具を一ダース掛けてもいいくらいありえない!」

覇気のない声で愚痴を溢すハリー。鉄格子の掛けられた窓、部屋の扉は厳重にロックされ、動物園の餌差し込み口のような隙間から僅かな食料が与えられる毎日。

既に希望なんてハリーにはなかった。

 

来客を告げるチャイム。

「こんな夜分に非常識だ!」と怒鳴りつける声。

慌ただしく響く足音にもハリーは興味を抱けず、ベットの上にうつ伏せのまま横たわっていた。

既に開かずの間と化した厳重に鍵の掛けられた扉が開かれるまでは・・・

 

ーーーーー

 

「いいですか?私が対応しますので貴方は一切話さないで下さい。いつも通り調書を書いている感じでお願いします。」

「しかし、それでは説得力が・・・」

「マグルにはマグルなりの守るべき法があります。今回はそれを利用させてもらうだけです。こちら(マグル界)の事情に疎いのでしたら口出しされると面倒なことになりますので黙っていてください。いいですね?絶対にだぞ?」

家の玄関の前、打ち合わせの様に話し合う男女。

 

「ああ、わかった。しかし、なんでまた、こんなにも信用が私にはないのか・・・」

男の意見など聞く耳を持たないと言わんばかりに呼び鈴を鳴らす。

時刻は深夜1時を回ったところ。()()()()住宅街であるプリベット通りに灯る明かりは少なく、大半の住人達は寝静まっているようだった。

その静寂を切り裂くような呼び鈴の音を、1回、2回、3回と女性は構わず繰り返す。

 

開かれる扉。

「こんな夜分に何事だ!!非常識だと思わないのか!」

顔を真っ赤にし、怒りを露わにしたバーノンは・・・

 

「今晩は。厚生労働省・児童家庭局総務課虐待防止対策室のウィルソンです。こちらは、補佐のMr.ウィーズリーです。この度は児童虐待が行われている可能性が高く、緊急性が高いと判断したため第9条、第9条の4。夜間執行制限の解除・立ち入り調査を行いたいと思います。」

 

 

スーツ姿の男女の姿を見て一気に顔色が青くなった。

 

「なな・・・なんのことかね?何を根拠に虐待などと・・・わ・・私の愛する()()()()()()今はぐっすり寝ているところだよ。邪魔をしないでやってくれ。」

 

バーノンの会話を背後に控えていた男性・・ウィーズリー氏が一言一句間違わずに用紙に記入している様が目に入り無意識に顔を顰めてしまった。

(下手な事は口に出せない・・・)

 

「ダドリーや!愛する坊や~!起きて来るんだ!何やら()()()()()政府の役人が、お前の元気な姿を見たいそうだ。」

 

己の体をバリケードに免れざる客を自身の家の中に立ち入れまいとするバーノン。

 

「ペチュニア!い・ま・す・ぐ!ダドリーを連れてくるんだ!」

 

「呼び出し中で申し訳ないのですが。今回、我々がここに赴いたのはハリー・ポッターというお子さんの件です。」

「残念だが、その子は今、この家には居らん!親戚の家に預けて・・・あ~泊りに行ってるのでな!」

「・・・因みにどちらに?「あ~~マージだ!ここから離れているのでな!申し訳ないがすぐにはハリーに合わせることは出来ない!」」

顔を見合わせる来客の二人。

 

「これ以上踏み込むならプライバシーの侵害と不法侵入で警察を呼ぶぞ!悪いことは言わない!今日は帰ってくれ!」

「・・・・本来なら調査および状況把握のつもりで訪れたのですが・・我々としても警察を呼ぶことには同意させて貰います。勘違いしている様なので訂正させていただきます。これは法に乗っ取った調査です。」

 

警察を呼びたければ呼べよ。寧ろ公務執行妨害で私が呼ぶぞ?と言い放ち、ズイっとバーノンの巨体を押しのけ家宅に侵入する2人組。

「記録を」

「調査を開始。時刻は1:23分。確認をお願いします。」

 

「横暴だ!国家権力を善良な民間人に振りかざすのか!?非常識にも程がある!」

「・・・常識と、貴方達は決まって繰り返しますが、それは誰の決めた常識なのです?人が人として生きていく上で守らないといけないルールとして法律があるのです。法を侵す様な常識がある筈がないでしょう。」

 

非常識はお前だと吐き捨てる銀髪の女性。

一言も話さず記録をしている(頭の薄い)男性に目を向けると、これまでの温和な表情から徐々に険しくなっているのを見とれた。

 

「例えば虐めの末に銃を乱射した少年が居たとします。世間は少年を異常者と罵りますが、少年をそこまで追い詰めた周りの人間は何の罪もないのでしょうか?」

 

コツコツと2階への階段を登る

「この部屋は?」

「ここはただの物置だ!」

「物置に閂鍵が4つも?「勿論だ!溢れんばかりみっしりガラクタが入っているからな!」」

「では、この異臭は?」

 

「・・・・生ゴミ()だ。開けたら片付けが大変だ。当然責任はとってくれるのだろうな?」

「我々の見当違いなら責任は取りましょう。Mr.ウィーズリーお願いします。」

 

名を呼ばれた男は懐から棒状のバーナー()を取り出し、高温で鍵を焼き切っていく。

 

 

 

 

そして開け放たれた扉。

獣臭、目に入る鳥かごは清掃されていない為か異臭を放っていた。

「これは・・食事?」

 

部屋の中にはスープ椀が1つだけ。とても()()()と呼べるものではない。

「あいつはまともじゃない!世間の為に!よそ様に迷惑を掛けないようにこの家に閉じ込めていたのだ!ああ、それが虐待と呼ばれようともだ!「それで鉄格子を掛け閉じ込めたと・・貴方には黙秘権がある、不用意な発言は自身を不利にすることがある。」俺達は何もわ「聞こえなかった?『黙れ』と言ったんですよ。」」

 

「貴方の判断が正しいかはこちらで判断します。Mr、・・・・腕を下ろしなさい。」

 

月明りの中、男性の腕が自身に突きつけられているのを視界に捉え、腰を抜かす。

怒髪天。初対面の時に見せた人の良さそうの表情が今では鬼の様な怒りと憎悪に染まっていた。

 

「Mrウィーズリー、ハリーの様子を。」

「Mrバーノン。ハリーの身柄は当方の方で保護させていただきます。当人に状況を確認して必要ならば警察への連絡も考えなければなりません。」

 

ハリーを連れて退出するウィーズリー氏を尻目に女性は続ける。

「誠に残念ながら虐待防止の重要性などはこの国ではまだ浸透していません。厳重注意、その程度でしょう。ですが、これ以上、あの子に危害を加えるならば・・・」

 

ーーー()()()手段を選ばないでしょうねーーー

 

透き通った瞳で女性は告げる。

如何なる方法も辞さないと・・・

 




捕捉
ジェーン・ウィーズリー氏。ハリー宅を家庭訪問

ハリー監禁の発覚は不味いので身代わりにダドリーを連れて来ようとするバーノン

警察呼ぶぞ!「呼ぶなら呼べよ!寧ろ私達が呼ぶぞ!?」

ハリー発見。ジェーン&ウィ-ズリー氏ぶち切れ

手段を問わない(主に魔法界が)
ジェーンは最終手段として、虐待をマスコミにリークさせて会社の株価を暴落させるって事も考えてたり・・・(;'∀')
取引先の代表が後ろ暗い人物だと分かったら多少変動はするよねw

視点の切り替わりが多いのと、誰の会話か分かりずらいってのはあるかも・・・
口調や話の流れで察してくださいませw


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サブタイトル思いつかないよ★

「おい!大変だ!我が兄弟!」

「寝てる場合じゃないぞ!我が兄弟!」

 

同じ兄弟でも見分けのつかない双子の兄にたたき起こされるロン。

 

「今日は大事な日だ。僕は寝てないよ。」

 

「いや、俺にははっきりわかるんだね!お前は寝た振りをしたつもりで本当に寝ていた!」

「あれは恐ろしく早い寝つき・・・俺じゃなきゃ見逃してたね!」

 

「時間にはまだ早い筈だけど、あんまり騒ぐとママが起きちゃうよ!」

 

「そう!大事な作戦だ!」

「作戦で使用する手筈の車なんだが・・・パパが一旦帰宅して、車に乗って出かけたらしい「じゃあ、ハリーの迎えはどうするのさ!」」

皆が寝静まった深夜。父親が興味本位で購入し、魔法を掛けた空飛ぶ車に乗って3人で音信不通のハリー様子を見に行く手筈だった。

ロンも、当然双子の兄達もマグルの機械である車の免許など持ち合わせていないが、そもそも()()()()()()()()()事故が起こる訳もないと高を括っていた。

 

「どうするも何も足が無いならお手上げさ。」

「後日決行って事になるな」

 

 

「それはいつになるのさ!ハリーに何かあってからじゃ遅いんだぞ!」

 

 

「声を落とせ兄弟!ママが起きるぞ」

「だが安心したぞ。俺達はヒヨッコのロナルド坊やが臆病風に吹かれないか心配だったんだ。」

 

「安心しろ、パパは明日もきっと残業だ。」

「ああ、間違いなく残業だ。」

 

「何で断言できるんだ?」

 

「それは男の秘密だぜ、坊や」

「お前が漢になったら教えてやるよ坊や。明日の為に今日は寝るんだぞ坊や」

 

まるで台風の様にやってきて風の様に撤収する兄弟の背中・・・敵に回すとこの上なく面倒だが、味方であればこれほど心強いものは無い。

 

「ア・・・マグルのカメラで撮った写真は中の人物は動かないらしいぞ?」

「ここに涎を垂らしたロナルド坊やの写真があるが・・・お前も見るか?」

 

・・・・やっぱりコイツ等キライだ!

 

 

 

ーーーーーー

 

 

深夜の来客。ハリーと世界を隔てる扉が開かれて飛ぶように時間が経過するような感覚だった。

先程まで怒りを露わにしていた男性職員は、ハリーの手を引き一階への階段を下りた。

未だに睨み合っているバーノン叔父さんと女性職員から十分に距離が空いたのを確認して。

 

「ハリー無事で何よりだ。私達は君の味方だ。」と小声で話しかけた。

 

職員に促されるままに階段下の物置からハリーの私物・・・・マグル界ではお目にかかれない魔法の箒や怪しげな調薬セット、魔法学校に必要な道具を一通り取り出し職員の物と思われる少しくたびれた(フォード・アングリア)のトランクに荷物を詰め込んでいく。

 

荷物を運び出す途中で階段を下りて来た(まるで死刑台に立つ間際の)バーノン叔父さんと目が合った。

女性職員にしきりに目で合図をし『後ろの小僧の持っている荷物を見てみろ。とても()()()な人間の持つ物じゃないぞ』と訴えている様にハリーには見えた。

 

女性職員はバーノン氏の行動を見逃さないように鋭い目つきで監視している様で一向にハリーの方に視線を向ける気配は無い。

 

「~~♪」

ハリーはバーノンに『ベー』と馬鹿にした表情で舌を出し、大鍋を帽子の様に頭から被り鼻歌を奏でながら、悠々と最後の荷物を忌まわしき家から運び出した。

 

「情緒不安定、挙動不審・・・薬物、もしくはアルコールを最後に接種したのはいつ頃ですか?」

「ワシは素面で至って健康的だ!」

 

車に乗り込む直後にバーノンと職員のやり取りがハリーの耳にも聞こえ、ハリーは笑い声を出さないようにする為に息を殺すのに必死だった。

それから10分ほど時間が立ち、女性職員が車に乗ると同時に颯爽と走り出す車。

 

それから、職員と会話をすることなく10分が経ち・・・30分が経過した。

静まり返った道路を照らし出すヘッドライト。散発的に通り過ぎる外灯。

 

自由になった解放感、それがこれから訪れるであろう不安に塗り替わっていく。

「あ・・あの・・。僕はこれから何所に向かう事になるのでしょうか?」

 

いよいよハリーの不安がピークに差し掛かり、室内に漂う沈黙をハリーの口から破った。

 

「安心してください。貴方は学校の夏季休暇の期間は我々の施設で保護することになりました。」

「あの・・学校なのですが‥」

 

ハリーは魔法学校の名前を口に出そうとして、ハッと息をのんだ。

(ただでさえマグルの前で魔法を使うことが禁止されているのに、自分の口からマグルの職員に魔法学校の説明が出来るわけがないじゃないか!)

 

「Ms.ウィルソン・・それくらいにしないとハリーが可哀そうだよ。」

「そうですね。ハリー・・・私達の顔を見て見覚えは無い?」

 

運転席に目を向ける。多少薄くはなっているが鮮やかな赤毛には見覚えがある。

 

「ハリー・・人の名前を毛量で判断するのはやめた方が良いわ・・・それって・・つまり、とっても失礼よ?」

「髪の色だよ!量じゃない!」

「2人とも聞こえているよ?アーサー・ウィーズリーだ。息子のロナルドがいつも君の事を話していたよ。改めてよろしく。」

 

ハリーも髪の色と家名で予想はしていた。

「どうしてここに?」

 

「息子が君からの連絡が来ないと騒いでいてね、不審には思っていたんだよ。そしたら先日、君がマグル相手に魔法を使ったって情報が・・・あ~~こう見えても私は魔法省で働いていてね、そういう情報も耳に入ってくるんだ。それで、流石に様子を見に行くべきかと迷っていたところに彼女から提案があってね。」

 

ウィーズリー氏が助席に座る女性に目を向けた。

「このまま任せていたらバーノン宅の呼び鈴を鳴らす代わりに、玄関に大穴を開けそうだと思ったから政府職員に成りすましてハリーを引き取ろうって提案したの。何もなければそれで良いし、もしハリーが手紙を書けない状況なら保護しようってね。」

 

「え~と・・・貴女はジェーンのお姉さんですか?」

黒髪、金髪、赤毛、プラチナブロンド・・・ホグワーツでも様々な髪色を見てきたが純粋な銀の髪色はハリーの知り合いには一人しかいない。

 

(身長がハリーよりも低く、博学で、ゆるふわっとした雰囲気を醸し出す美少女。」

「綺麗なお姉さんだと思った?残念ジェーンちゃんでした★」

 

「いや、途中から声に出てるからね?人の回想に勝手に入って来たけども!そこまでは思ってないからね?」

ハリーの訴えは華麗にスルーされた。

 

 

「簡単に言うと老け薬飲んで職員を装ったってわけ。ハーマイオニーでない限り、数多ある法律を丸暗記してる人なんて居ないでしょうしね。」

「でも、未成年が魔法を使ってはいけないはずじゃ・・・「そこは大丈夫だよハリー。」」

 

問題ないと口を挟むウィースリー氏。

「魔法が使用されると匂いが出るんだ。それを魔法省が察知して警告を送ったりするんだが~如何せん、制度が悪い。例えば同じ屋根の下で息子が魔法を使ったとしても()()()()()使()()したと誤認するくらいには。」

 

しかし、それでもマグルに魔法族の存在を秘匿する為の処置としては十分だと改良を加えられることはなく現在に至るというわけだ。大事なのはマグルから魔法族の存在を隠蔽できる大人が居ない状況で魔法を使用し、世間に露呈してしまう事なのだと。

 

「私の場合は、たまたま()()()の入ったボトルを()()()飲んでしまった為。近くに()()通りかかったウィーズリー氏が薬の効果が切れるまで監査役として一緒に居てくれてるの。」

そして、ウィーズリー宅への帰宅途中に()()()()夜道を一人で歩いているハリーを見かけて、子供をこのまま放置するのは危険だから保護したって流れね。

 

「かなり無理やりなんじゃない?」

「全て偶然、不慮の事故よ。」

 

ふふん!と胸を張るジェーンにハリーはため息を漏らす。

 

 

ーーーー

地平線の彼方が桃色に染まり。やがて真っ赤な曙光が差し込み始めた。

「もうすぐ我が家だ。」とウィーズリー氏

「ご協力いただき有難うございました。お陰様で比較的穏便に進めれたと思います。」とジェーン

 

バーノン叔父さんの『まるでこの世の終わり』の様な表情を目にしたハリー。しかしながら当の本人は『穏便に済ませた』と口にした・・・(つまりそれ以上があるってこと?)

そしてハリーは『絶対に逆らってはいけない人物ランキング』に友人の名前を追加しようと心に決めた。

 

 

「長旅お疲れ様。モリーに君の分の食事を用意して貰わないとな。あとは睡眠だ。」

 

車を止めるや否や『隠れ穴』と書かれた看板の入り口から、小柄で丸っこい温和そうな女性が周囲の(庭に飼っている)鶏を蹴散らしながら此方に向かって駆けてくる姿がハリーの目に映った。

 

「ハリー!!皆貴方の事を心配してたのよ!!まぁ、こんなにやせ細って!」

勢いをそのままに、タックルをするようにハリーを抱きしめる夫人

 

「ジェーンも!こんなに見かけない間に別嬪さんになって・・・「あ~薬の効力ですね」」

「アナタもお疲れ様!ごはんを用意するから中に入って。」

夫に労いの言葉をかけて忙しく家の中へと消える夫人

 

「では、ウィースリー氏。後はよろしくお願いします。ハリー、近いうちにダイアゴン横丁で会いましょう。」

またね、と手を振り家の中へと消えるジェーン。

昨日の今頃からはとても想像は出来ない日常、ハリーは『おかえり』と知り合いから声を掛けられて初めて、これが夢ではない、帰って来たんだと実感した。

 

 




絶対に逆らってはいけないランキング
1 ダンブルドア
2 マクゴナガル
3 ジェーン

スネイプとドラコは嫌な奴のランキングにランクイン!!


別れの挨拶をしたのにウィーズリー家の門をくぐるジェーン

煙突飛行ネットワークを使用するために暖炉を借りたよ!


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ロックハート(略

『I took their smiles and I made them mine:他人の笑顔を盗み、自分の物にした・・・』

 

ーーー懐かしい歌が聞こえる・・・ーーー

 

『I sold my soul just to hide the light:光を覆い隠すため、私は魂を売った・・・』

 

ーーーまるで自身の事を謳ったような歌詞に笑みを漏らすーーー

 

『And now I see what I really am:そして自身がどんな人間か気づいたってわけ』

 

本日リリースされたばかりの懐かしい新曲に私は声を重ねる。

 

「A thief, a whore, and a liar:盗人で穢れた・・・嘘つきなんだって。」

 

突然、鼓膜を震わせた澄み渡る音色に、付近の通行人は足を止め周りを見回す・・・・

音色の方には人影はなく、家電店、ディスプレーに飾られたTVが変わらずPVの音楽を奏でていた・・・・

 

 

ーーーーー

 

「ハリー。去年はどうやってダイアゴン横丁まで学用品を買いに行ったのかい?」

「去年は地下鉄に乗っていきました」

 

マグル好きのウィーズリー氏に話したとたんに目を輝かせるウィーズリー氏に、夫人は「これじゃ、どちらが子供か分からないわ・・・」と、ため息を漏らした。

 

「マグルの交通手段は置いといて・・・ハリー、今回は煙突飛行粉(フルーパウダー)を使って行くわ。」

「煙突飛行?」

 

ハリーが聞き返すと、夫人はハッとした顔をし急いで説明を始める。

 

「ああ、ハリーは初めて?煙突飛行はマグルの交通手段よりも早いの。この粉を暖炉に「ママ!ママ!ハリーは大丈夫だよ!」」

話が長くなると察した双子が夫人の説明を遮り、壺から粉を一掴み取り出して暖炉の燃え盛る炎の中に振りまいた。

 

「ハリー、僕たちのを見てなよ。」

フレッドがダイアゴン横丁と唱えた瞬間、姿が暖炉の中から消えた。

 

「肘は引っ込めろよ。」

ハリーの肩を叩きながらジョージが暖炉へと姿を消す。

 

「正しく発音しないと駄目だよ。」

「目を閉じててね。煤が「ハリー、ジョージ達が先に待ってるから姿が見えるまで待っていなさい。」」

 

心配そうな表情を浮かべる夫人の話を遮り、ウィーズリー氏がハリーに暖炉へ行くように促した。

粉を暖炉に振りまき中に入る。肌を焼くような熱さはなく、暖かな風が体を撫ぜる。目を閉じ、肘を引っ込め、大きく息を吸い込んで・・・

 

「ダ、ダイア、ゴン横丁」

煤に咳き込みながら発音した。

 

 

ーーーーーー

~漏れ鍋~

 

マグルの店が建ち並ぶチャリング・クロス通りに面する古い店、漏れ鍋。

店内は薄暗く、一見いつ潰れてもおかしくはない風貌なのだが、この店の役割を考えると閉店することはないように思える。

この寂れたパブの中庭、ゴミ箱の上にある特定のレンガを叩くことで魔法使い達の繁華街であるダイアゴン横丁への入り口が開くのだ。

 

「あら?先客?」

 

モップの様なボリュームのある・・・一年間、見慣れた茶髪の少女が杖を取り出してレンガを叩こうとしている場面に出くわして思わず声が漏れた。

少女は振り返り、驚愕の表情を浮かべた後、嬉しそうに駆け寄ってくる。

 

「まさか、こんなに早く再開できるなんて思わなかったわ。ハリー達からの手紙を読んだわ・・・貴女、マグルの職員を装ってハリーを迎えに行ったんですって?私、自分にも何かできる事がないか色々方法を探していたの。でも、中々良い方法が見つからなくて・・・・そうしているうちに貴女がハリーを救出したって連絡があってほっとしたわ。ロンったら、もし貴女があの日ハリーを助け出さなきゃどうしたと思う?なんと、兄弟達だけでハリーの家に()()迎えに行くつもりだったみたいよ!ええ、私、知ってます!悪戯好きの双子に私が貴女がマグルを騙した武勇伝を話したら、羨ましそうに自身達が計画していた()()()()()()()の全容を教えてくれました。まったく・・・あの人達は自身がどれ程、無謀で危険な事をしているのか自覚が無いのでしょうね!ほんと信じられない!ええ、()()()()()()()()()()()()()()()!とにかく・・・皆が無事で()()()()()救出できたのは良かったわ・・・このままハリーを救い出せなかったらハリーはきっと、大変なことになっていたと思うわ。」

 

「う・・・うん。ハーマイオニーも元気そうで何より・・・」

ーーーマグルの執行官に変装して、偽りの家宅捜査をするのもマグルの法律を侵してるのだけど・・・それはノータッチでいいのかしら?(良い子はマネしないでね!)ーーー

 

「そういえば・・・ジェーンの私服?似合ってるわ!髪型も変えたの?」

ーーーええ、変えました!髪型も背丈も後ろから見るとハーさんとキャラ被ってしまうからね!在学中に教師達のお手伝い()をして稼いだお小遣い&バイト代をつぎ込んでリニューアル!(奨学金?そんなもの私生活の分までは出ないのだよ!)ーーー

 

「ああ~~私の癒し~~!いい匂い~」

 

・・・・なんだろう?ハーさんから勢いよく左右に振られる尻尾の幻覚が見える気がする。自然な感じで胸元に顔を埋めて匂いを嗅ぐハーさんは、もはや犬にしか見えない。

 

「硬い「うるさい!」

 

「・・・・ところで、後ろの御二方は?「あ!!」」

ハーマイオニーの後ろで気まずそうに固まってる2人の姿が気になってハーマイオニーに尋ねる。

 

「私の両親です。「挨拶が遅れました。ジェーンさんですね?いつも娘がお世話になっています。」」

 

ハーマイオニーの両親が深々と頭を下げて挨拶をしてくるのだ。

ーーーまさか、私の事を変な風に親御さんに紹介してないよね?例えばハグリットの小屋を蹴破ったりとか、禁じられた廊下の先で闇の配下と一騎打ちしたりとか・・・ーーー

とハーマイオニーに視線で訴えるが、何を勘違いしたのか誇らしそうに胸を張るハーさん。

(まぁ、当事者には口止めはしてるし・・・)

 

「初めまして。ジェーン・ウィルソンと申します。昨年度は娘さんに大変助けられました。どうぞ、よろしくお願い致します。」

私服のロングスカートの端を摘まみカーテシー。

 

「さて、ここで話し合うとパブを訪れた方の妨げになりますし・・・まずは銀行へ向かいましょうか。」

と待ち合わせ場所を目指して歩き始める。

 

「そういえば、今年の闇に対する防衛術の教材を見た?」

「ロックハート?「そうそう!今年の先生はきっとロックハートのファンに違いないわ・・・教材に()()彼の書いた本を指定しているんだもの!ええ、勿論彼の本が教材に適していないという意味ではなくて、寧ろ良いチョイスだと思うもの!彼の武勇伝の数々を見たら、きっとジェーンも彼の事を気にいると思うわ!だって彼って凄いのよ!本来、ベテランの闇払いくらいでないと退治できない様な人狼や吸血鬼を()()()退治してるのよ。」」

 

お・・・おう。いつにもなく熱が籠ってるハーさんの圧。

 

「え~っと・・・良かったわね・・・」

「?」

「ほら・・・・あれ。」

 

フローリシュ・アンド・ブロッツ書店の上階の窓にかかった横断幕『サイン会 ロックハート ~~ 本日12:30~16:30』を指すジェーン。

「ああ!!何てこと!信じられない!!」

 

既に店内には待機するファン達で人だかりが出来ている。

 

「一応、確認だけど。ロックハートって人は有名人?「勿論よ!!」」

既に混雑した店内を横目にため息が漏れる。有名人のサイン会、しかもホグワーツの教材が決定し、学生達が訪れ、混雑するであろうこの時期に。

まだ時間まで2時間近くあるが、それでもこの混雑具合なのだ・・・・これが12時になった時の事は考えたくはない。

 

「先に本だけ買っておこうかな・・・「サイン会は!?」私は遠慮しとく」・・・ええ、全力で!

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

「ハリー!ハリー!こっちよ!」

グリンゴッツ銀行のホールでハリー達と合流。いつもの3人組で和気あいあいと話し合うハリー達。ハーマイオニーの両親に絡むウィーズリー氏と諫める夫人。そして私はというと・・・

 

「よう!兄妹!」

「探したぞ、我が分身よ。」

 

「こんにちは、お二人さん・・・お久しぶり・・・というよりは初めましてかしら?」

去年の記憶を辿るがどうしても親しくした記憶はないのだが?

 

「連れない事を言うなよ我が妹よ。」

「雪が積もる中、体を温め合った仲じゃないか!「そうね、雪合戦以来でしたね。」」

近くに居たジニーが、信じられないモノを見る様な顔で此方を見ていたので、双子の言葉に訂正をいれた。

 

「ところで、マグルを騙すなんて面白い事を何で俺達に黙ってたんだ!教えてくれたら喜んで手を貸したのに!」

「貴方達に協力を仰ぐと、取り返しのつかない状況になるでしょう・・・」

 

ハリーと話しながらチラチラと此方の様子を伺っているロンの姿が視界に写る。

「共闘は最終手段よ。」

「連れないな~。まぁ、面白そうな事をする時はぜひ呼んでくれ!「それより・・・アレ(ロン)はどうしたんですか?」」

 

私の視線の先に気づいたのかフレッドがにやりと笑った。

 

「親愛なるロニー坊やは救出の手柄を取られて嫉妬しているのさ。」

「優秀な兄妹に挟まれた坊やは必死なのさ。」

 

「・・・八つ当たりされる此方としてはこれっぽっちも嬉しくないのですがね。」

私としてはいい迷惑でしかない。

 

 

「さて、皆買うものも見たい店も違うでしょうから1時間後にブロッツ書店で合流しましょう。」とウィーズリーおばさん

目を輝かせるハーマイオニー。そして、さらに悪化しているであろう店内へ、教材を買いに行かなくて済むと安堵の息を漏らすジェーンであった。

 

「久しぶり。この間はありがとう。」

「ハロー、ハリー。調子はどう?」

 

追いついてきたハリー達と横丁を歩く。

「そういえばハリーはいつから監禁されてたの?ロン達に連絡とれなかった?」

 

ハリー曰く、屋敷しもべ妖精がホグワーツに行かせないために手紙を止めていた。曰く、ホグワーツは危険だから自宅に居させるために叔父さんを激怒させた。

煙突飛行で誤った暖炉から出た際に、ドラコを見かけた事・・・トラブル気質は未だ健在のようだ。

 

「そんなの、陰気くさいドラコの仕業に違いない!」とロン。

「まだ決めつけるのは早いわ」

 

「呪いの品を店主に売りつけてたらしいじゃないか。きっとハリーに使用した証拠品も一緒に処分しようって魂胆なのさ。」

「ハリー。他には何か聞いてなかった?」

 

「たしか・・・人権がないとかで新しい刑務所を建てているとか・・・言ってた。」

 

それなら知っている、とロンが得意げに声を上げた。

 

「アズカバン・・・あ~、魔法使いの刑務所の事さ。とにかく環境が悪くて何人も服役してる囚人がそのまま死ぬんだ。やっこさんは、いずれ自分がアズカバンにぶち込まれるのが怖くなって今更ながら人権問題を謳い、自身が住むことになる刑務所を居心地よくしようって話さ。全く・・・あんな奴らアズカバンで十分なのさ!」

 

 

「つまり、今の段階では何も分からないって事ね・・・何か仕掛けて来るならば痕跡が出来るはず。ハリーも罠にはめられないように気を付けて。初手を凌がないと次のチャンスは無いからね。」

うんうん、と頷くハーマイオニー。

 

「やられっぱなしは好きじゃない。僕たちが尻尾を掴んでやるんだ」と、ロンとハリー。

 

通りの喧騒の中、私は空を仰ぎ見る。

雲一つない綺麗な青空・・・

 

ーーー今年も退屈はしなさそうねーーー

トントンと、重いブーツのつま先を石畳の路面に打ち付けた。

 




皆大好きロックハート回!

サブタイトルの通り待望の登場シーンはジェーンの機転により省略されました!

・ジェーン ロングスカート(私服)+鉄板入りのブーツ 髪型も去年までハーマイオニーと同じように腰まであるウェーブの掛かったロングだったが、今年は胸元くらいの長さの2つ結び(おさげ)でイメチェンしている

・ハーマイオニー 犬は良いぞー!最高だ!マシンガントークは健在。マグル出身だが魔法界の常識にどっぷりつかってしまっている。
・ハーさん両親 マグル出身。横丁の品は全て珍しく、住む世界が違うと実感している。娘と仲良くしてくれているジェーンに友好的。

・ロン 兄弟の栄光に隠れていた反動で英雄的行為に幻想を抱いている。表面上には出していないがジェーンを警戒している

・ハリー 行動力のある少年。だけど無鉄砲。
・バーノン叔父さん 自称、常識人。しかし虐待紛いの事を平気でするのは如何なものか・・・

・ロックハート (以下略

歌詞はエヴァネッセンス Farther Awayから!


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何の成果も!!

「ねぇ、ジェーン・・・。ホグワーツ発の列車は11時発だったわよね?」

 

そわそわと列車のコンパ―トメント中から外の様子を伺うハーマイオニーを横目に私は新しく購入した『狼男との大いなる山歩き ギルデロイ・ロックハート著』を開く。

 

「そういえば、去年もギリギリで列車に乗り込んで来たよね・・・ウィーズリー家。幸い、赤毛は目立つから入ってくるとすぐに分かると思うわ。」

「・・・そうね。」

 

向かいの席に座るが、やはり落ち着かない様子のハーさん。

「ねぇ、ジェーン。」

「なぁーに?ハーさん・・・?」

 

「もし、ロン達が乗り遅れたらどうなると思う?」

本から視線を上げると真剣な眼差しでハーさんが此方を見つめている。

きっとロン達が()()、善からぬトラブルを持って来ると確信しているように思える。

・・・もう少し信用してあげなさいな。

 

「間に合ってないのはロンとハリー達だけではないわ。ウィーズリー家には確か梟を飼っているのでしょう?組み分けには遅れるかもしれないけれど連絡が届けば問題ないと思う。」

 

「残念ながら拒否権はないんですの。」

去年の今頃、悪質な宗教勧誘と判断した私が学校から来た教師を追い返そうとした時に返された言葉だ。

素質のある者に学ぶ機会を与えるのではない。無自覚に魔法を使い惨事を起こす前に、子供達を学校へ収容し、魔法のコントロールを学ばせる・・・そういう政府からの圧力を自身の経験から感じるものがあった。例え遅刻したからと言って一年間、ホグワーツに登校できない・・・なんて事には成りえないとジェーンには確信めいたものがある。

 

(それに、ハリーの不在なんて狸爺が許さないでしょうしね。)

そう、あのハリー・ポッターなのだ。組分けの時にハリーの姿がないと狸が気付けば、当然迎えを寄越すことだろう。

 

(でなければ、去年わざわざ回りくどい試練などさせる筈もない。)

校長自身であったならば、簡単に片がつく襲撃者をわざわざ生徒に迎撃させた事件は記憶に新しい。そして、その主役となったのが何を隠そう…ハリーなのだから。

ええ、あの狸が主役不在の物語を進める訳がない……。

 

視界の隅に目立つ赤毛が横切った。

「ハーさん。杞憂で済んだみたいよ・・・到着したみたい。開いているコンパートメントを探して2人ともここに来ると思うわ。」

 

そうこうしてるうちに、汽笛が鳴り列車がゆっくりと前へ進み始める。

 

「ねぇ、ジェーン……」

「………………もう少し待ってみましょう。」

 

お嬢ちゃん達、御菓子は如何?とカートを引いた魔女がコンパートメントを通り過ぎた。あの二人なら、真っ先にハーマイオニーの居る場所を探し回って来ると思っていたが…予想が外れたのだろうか?と首を傾げる。

 

 

窓の外を見れば、景色は自然豊かな田舎を疾走しているところだ。

2人の居るコンパートメントのドアを開く音が聞こえ、私とハーさんは同時に「やっと来たかー」と、入口に視線を向けた。

 

「あの……兄……ロナルド・ウィーズリーとハリー・ポッターを見かけませんでしたか?」

予想していた人物達ではなく、赤毛の小柄な少女が2人の視線を受けるなか、居心地悪そうに訪ねた。

確かウィーズリー家の末娘、ジニーだったかな…?

 

「まだ見かけてないわ……と言うか、ハリーは貴方達と一緒に列車に乗り込んだのじゃないの?」

 

ハリーは夏休みの期間、ロンの家で過ごして居たのだから……知らない筈がない。とハーさんが問う。

 

「駅までは車に一緒に乗って来ました。だけど、列車に乗り込む時には姿が見当たらなくて……」

 

「「………………」」

考え込むハーさん。コンパートメントには沈黙が流れる。

 

「「ねぇ、」」

「「ハーマイオニー」「ジェーン」」

 

見事に声がシンクロした。

まさかね?そんなはずはないよね?と、互いに見つめあう。

 

「私も車内を探してくる!」

腰を上げようとした矢先、黒い物体が疾走する列車の車内に飛び込んできた。

ピクピクと痙攣するソレを摘まみ上げると、手紙を持った気絶した梟………。

 

「エロール!!?」

ジニーが慌てて駆け寄り、気絶した梟を叩き起こし水を飲ませる。

 

「ねぇ、ハーマイオニー?」

「奇遇ね。私も貴方に聞こうと思ってたの……。」

 

手紙を恐る恐る拾い上げる

「この手紙は読まない方が良いと思うの。」

「嫌な予感しかしないものね……」

 

とは言いつつも宛名も書かれていない封筒の封を切り、手紙を広げた。

 

 車が盗まれました。

そんなことはどうでも良いのですが、列車に全員乗っていますか!?

思い返すと見送りの時に、ハリーとロンを見かけなかった……(時間ギリギリで慌ててたので私の見落としであって欲しいのだけど)

   何か分かりましたらパーシーの梟で連絡を下さい。

 

「「「……………。」」」

 

「まさかね………」

「ハーさん……あの二人よ?私達の予想の斜め上を行く……あの二人よ?」

 

あたふたとしているジニーとは対照的に天を仰ぐ二人の少女。

 

「取り敢えず、今出来る事をしましょうか。……ジニーは他の兄弟に連絡。列車内を手分けして探した後にパーシーの梟で連絡を飛ばすから、手元に置いておくように言ってて。私は最後尾から一つずつコンパートメントを巡るから範囲が被らないように……ハーマイオニーが兄弟達を割り振って。」

 

「了解!」

 

「兄達が素直に聞いてくれるか「夫人からの吠えメールが御所望なら私から口添えしますよ…って伝えなさい!」」

 

ジニーの顔には明らかな動揺が伺えた。

もし、列車に乗り込んで居なかったのならばハリーとロンは何処に居る?

2人だけで親の車を運転して、ホグワーツに向かおうとしている事がほぼ確定するのだ。

 

「大袈裟な事じゃないのよ……あの2人なのよ?警察に無免許で止められた……程度で済む筈がない!」

 

 

「ジェーン落ち着いて!」

宥めようとするハーマイオニー。

 

「もしも……もしも2人が本当に列車に乗っていなかったら、それこそ私達が慌ててもどうにもならないでしょ?」

 

「そうね………」

慌てたウィーズリー氏がやらかさないとも限らないが……..

 

「それじゃ、手筈通り行動しましょう……」

 

そして散り散りに列車内を探索する事20分・・・・

 

「何の成果も!!得れませんでした!!!」

・・・うん、知ってった。

 

号泣(嘘泣き)しながらお互いを抱き合う双子の報告を聞き、パーシーがウィーズリー氏が立ち往生しているであろう、駅に向けて手紙を飛ばした。

予想通り、汽車には乗っておらず駅にも居ない。車は消え・・・あとは、神のみぞ知るだ。

 

 

ーーーー

 

遡る事、10分前・・・

 

コンコンとコンパートメントの扉をノックし、中の様子を伺う。

 

「すみません・・・少々人を・・・・いえ、何でもないです!失礼しました!」

 

≪ジェーンは扉を閉めて無かった事にした≫

ホグワーツ行きの列車だし、何処かに乗ってるってことは知ってたよ!でも、ウィーズリー一家やハーマイオニーも探してる中、自分が引き当てるなんて思わないじゃないか!

確立にして1/6?つくづく運がない、とジェーンは己の運命を呪った。

 

「どうした?用事があって来たんだろう?まぁ、入って行けよ。」

《しかし回り込まれてしまった。》

 

昨年度は知識を吸収するために、ほぼ一年、図書室に籠りっぱなしだったので私としては他寮の生徒とはあまり接点がない。

しかし、共同授業にて、食堂にて、ホールにて、グラウンドにて、廊下にて・・・・

ありとあらゆる所にて彼らが偶然鉢合わせした結果、碌な事にならないという事を理解するのには、一年間という時間は十分すぎる物だった。

ハリーの言葉を借りるなら、同学年の生徒の中でも随一の陰険で嫌な奴。スリザリン寮所属、ドラコ・マルフォイ。

ハリーとドラコが水と油の様に反発しあうのは、互いの寮がいわゆる、敵対関係にあるだけではない・・・そう思わざる得なかった。

 

「ああ、取り巻きが居ないと怖くて話もできないのか。()()()()()()ハリー・ポッター様と金魚の糞みたいなウィーズリー」

「安い挑発ね。そんなものに釣られるとでも?」

 

扉を挟んでの会話。

ハリーやロンの様に互いに罵声を浴びせるでもなく、静かに会話するようなやり取り。

実際、他のコンパートメントには列車の走る騒音で届くことはないだろう。

 

「別に僕としては皆に知ってもらってもいいんだけどね!迷子の「分かった・・・入るから。少しだまってて。」」

 

突然大声で話し始めるドラコ。

既に手遅れな気もするが、わざわざ騒ぎ立てる事でもない。

渋々、戸を開き中へと足を向ける。

4人、詰めれば6人は入ることの出来る部屋に金髪の少年が一人、意地の悪い笑みを浮かべて此方を見つめていた。

 

「それで、どこまで把握してるの?」

 

 

「さて、どこから話そうか?あれは、36万・・・・いや、1万4千年前の事だったか・・・」

「蛮勇を勇敢と盲信する獅子。同族すらも蹴落とす鷹。全てを受け入れたが為に、方向性の定まらない穴熊。蛇にとって外部の者は敵だった。故に、蛇達は団結する必要があった。全てを知っているよ。お前達が()()さがしているか。()()汽車に乗り遅れたのか。その()()()()()今、()()()()()()()()()()まで。お前達が思っている以上に僕には情報が入ってくるんだ。」

 

壁に耳あり、障子に目あり。仲間達()が教えてくれた、と彼は薄ら笑いを浮かべる。

 

「そう。では、肝心の()()()()()今、どこに居るのかしら?」

「教えてやるよ。ただし、僕の質問にお前が答えてからだ。」

 

等価交換。情報を親切に教えてくれる道理はないと

 

「狡猾で手段を選ばないスリザリンらしいわね。」

「合理的と言え。ずっと気がかりだった・・・・ポッターの近くにいるが俗に言う()()でもない。かといって、ポッターが減点された時には大衆が責める中お前は唯、傍観に徹していた。」

 

敵でもなく味方でもない。お前の立ち位置は何所だと問いたいのだろうか?

ハリーを含むグリフィンドール生が近くに居る事が多くて声を掛けれなかった。

話す機会を伺っていたが、それが今日だったという事なのだろう。

 

「私は平和が好きなんですよ。例え互いの寮が仲が悪いと言えどもね。36万…1万4千年前でしたっけ?誰かさんの始めた喧嘩を私達が受け継ぐ必要性があると思います?」

 

コンパートメントの扉が開く音でジェーンは会話を中断した。

振り返ると見慣れたトロールが2つ。

 

「興が削がれましたね。…貴方との最初のやり取りで2人の今の状況もある程度把握できましたのでこの辺でおいとまさせていただきます。」

どの道、主導権を握られてる以上、すんなり情報を渡してくれるとは思えない。これ以上は不毛と判断し、足早に立ち去りハーマイオニーと合流した。

 

(そういえば普段の雰囲気とは違った・・・)

言うならば小物臭のする小悪党。三下。チンピラ。

今回のが彼の地なのだとするならば普段の彼は()()()()()()()()()()()

 

いいや、違うと自問自答をして頭を振るう。

足手纏いの案山子が近くにいないからか・・・

 

(そんな装備(取り巻き)で大丈夫か?)

お互いに難儀なものね少し同情をした。

 

 

 




ドラコ・・・原作とキャラが違いすぎる('ω')
利用できるものは利用する。表立って敵対していないジェーンを懐柔できないかと考えている。実際、敵寮に内通者とか居れば行動しやすくなりますしねw

ジェーン・・寮同士のしがらみに対して無関心、中立地帯(図書室)に居る為争いとは無縁だった。(暴れれば摘まみ出されます)ぶっちゃけ後世にいざこざ残すなよカス!と思ってるよ!因みに相手が仕掛けてきたら勿論、(個人への闘争)と判断して喧嘩買います!

一同・・・十中八九、車乗って学校目指してるだろう。現状どうする事も出来ないしどうにでもなれよと思ってるよ!

やっとホグワーツに入れるw


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主人公不在

辺りが暗くなり始め、落ち着きが無くなっていく新入生達。

列車の窓から見える景色は漆黒。見渡したところで、街灯の明かりや民家の照明も見えない。雲の隙間から時折見える月明かりが通過していく木々達の黒いシルエットを写し出すだけだった。

 

列車は速度を緩め、やがて停止する。

 

「いっちねん生はこっちー!いっちねん生はこっちー!!!」

 

新入生が汽車を降りると、3mを越える大男が待ち構えているのだ。まさに土肝を抜かれる。大口を開けたまま停止した新入生は毎年恒例になるのかもしれない。(去年はネビル、シューマス、ゴイルがフリーズしていた。)

 

 

 

「組分けで所属する寮を決めるための試験があるらしいぞ。」

「どんな試験なの?」

「先輩達は教えてくれないんだ……」

 

筆記試験どうしよう。絶対、僕はハッフルパフ(落ちこぼれ)だ。スリザリンは嫌だ、スリザリンは嫌だ。など、念仏の様な小声が聞こえてくる。

 

マグル産まれの生徒はもとより、純血の………魔法使いの家族に囲まれて育ったジニーも例外では無いようで、「グリフィンドール、グリフィンドール」と壊れた人形の様に呟いていた。

 

「大丈夫だ、ジニー。お前なら筆記試験も楽勝さ。」

「問1、ハリーの今日の朝食は?問2、ハリーの好きな教科は?問3、今日、着用しているハリーの下着の色は?」

「ほら、お前なら目を瞑っても満点さ!」

 

腹を抱えて笑う双子。

組分けに関するデマ情報を下級生に教え込むのも恒例と言えるだろう。

 

「シンシオ(黙れ)」

 

「ジニー、心配しなくても大丈夫よ。貴女に合った寮に振り分けられるから。」

 

「グリフィンドールじゃなきゃ駄目なの!ハリーと一緒の寮じゃなきゃ意味ないの……

 

口がふさがりモゴモゴしている赤毛の双子。ジタバタと暴れまわってるのを『どこ吹く風』の様にスルーしてハーさんは優しく(小刻みに震える)ジニーにアドバイスを授けた。

 

「グリフィンドールか~……いい?ジニー。トロールは分厚い脂肪で守られているの。貴方一人の力では有効打を与えるのは難しいわ。」

「ど……どうしたの?ハーマイオニー?」

 

懐かしいな~去年のハロウィンでは山トロールがパーティーに参加したっけな~。4人で攪乱しながら袋叩きにしたっけな~。・・・ハーさんは気絶してたけどな!

 

 

近くに居た新入生たちがが『何いってるんだコイツ』みたいな顔をしているが構わず続ける。

できる限り、口角を上げないように……噴き出さないように真顔で話すハーさん・・・

 

「素早く動いて攪乱して。「ちょっと待って!本当に試験でトロールと戦うの!?」」

 

声色も極めて真剣に。聞き耳を立てていた周りの新入生も、今となってはジニー達を取り囲む様に近寄って来ている。まるで一言一句聞き逃さないという強い意志を感じた。

(これから起こりうる試験で、何も情報が無いのは怖いものね。)

 

フレット&ジョージのように日常的に悪戯や嘘を吐いてる者よりも、見るからに優等生のオーラが出ているハーさんの嘘は普段の行いの性もあり、説得力は甚大だ。

 

「私も、ハリーも、貴方のお兄さんのロンでさえトロールと戦ったのよ。ね、そうでしょう?ジェーン。」

「え・・・・・まぁ、戦ったのは確かね・・・・。」

 

確かに私も戦ったし、トロール以上に危険度の高い怪物とも対峙する事にもなったな~っとチラリとハグリットの方へ視線を送る。

視線に気づき、ビクリと肩を震わせる大男・・・

 

「色んな事がありましたね~お陰様で。」

 

トロール以上に危険な3頭犬の縄張りに侵入する事にもなったね。

冒険せざる負えない状況に追い込んだ元凶・・・・ハグリット。ハリー達は全て水に流したのだろうか?

私は彼が清算したとは思えない・・・ハリーを見捨てた時点で管理人として、人としての信用は地の底へ沈み込んでいる。

最も・・・・長年、動物と触れ合ってきた感があるのか友好的ではない動物(私)には、決して近づこうとはしないのだが・・・

 

「試験内容は詳しくは話せないけど、貴方達なら上手くやり遂げれると信じてるわ。」

 

ハグリットに連れられトボトボと湖の方へ誘導されていく新入生。

吸い込まれそうになる程黒い湖面は、月や星々の光を反射してまるで鏡の様に映し出している。

進むにつれてやがて鮮明に見えてくる巨大な城。

松明と蝋燭の炎の明かりで照らし出された城は雄大で、きっと記憶に残り続ける様な幻想的な仕上がりになっているだろう。

 

(周りの景色を眺める余裕のある生徒が何人居るでしょうか?)

自身達が新入生だった去年の事。ボートの中ではハーさんが呪文の復習で念仏の様に唱えていたし、城の前ではロンが「凄く痛いってフレットが言ってた・・・もしかしてトロールと戦うのかも?」と言ったせいで周りの生徒は恐慌状態。・・・・今年の子達は楽しむ余裕があればいいけどな・・・。願うばかりである。

 

「ねぇ、ハーさん。なんであんな事吹き込んだの?」

「そうねー。きっと今頃、不安でいっぱいだと思うの。だから、あらかじめトロールと戦うくらいの心構えだと実際に組み分け帽子を見た時に()()()()()()()って気が楽になるといいなって思ってね。」

 

~こうして先輩達が後輩にデマを広める伝統が出来上がるのであった~

 

新入生は湖。そのほかの学生は()()()()()()()()()()()()()に乗って城へ向かう。

 

「去年の年度末にもこの馬車に乗ったけど、どんな魔法が掛けられてるのだろう?不思議よね。」

 

物凄い速度で疾走する馬車。

揺れは無いとはお世辞にも言えないけども魔法の力か、それとも高性能サスペンションが内蔵されてるのか・・・速度の割には不快と思えるほど乗り心地ではない。

在校生は陸路で迂回するにもかかわらず、水路直線ルートの新入生よりも到着が早いのはこの馬車のスペックが高いからと言える。

 

力強く疾走する骨と皮だけの黒い肢体と、まるでミイラの馬にドラゴンの翼を取り付けたヘンテコな姿な生物。

 

「ボートみたいに魔法で引っ張ってるのかしら?」

「案外、馬が馬車を引いてるのかもしれませんよ?」

 

()()()()に透明魔法を掛けたところでこのスピードは出ない。

そんなことはあり得ないと笑うハーマイオニー。

 

他の人には()()()()馬の引く馬車、ハーマイオニーは熱心にどんな魔法が掛けられて()()()()()()()()()()()、魔法式を念仏の様に唱え始めるのをジェーンは遠い意識の中で聞いていた。

 

ハーマイオニーだけではない、他の人に見えないものが見える私・・・・この事実をいったいどの様に受け止めれば良いのだろう?この事実にどれ程の意味があるのだろうかと・・・。

 

 

 

ーーーーーー

「マクゴナガル教授、イッチ年生の皆さんです」

「ご苦労様、ハグリッド。ここからは私が預かりましょう。」

 

マクゴナガル先生が扉を大きく開けて新入生達をホールに招き入れる。

在校生が寮の席に着き、準備が整うまでホール脇の小さな小部屋で待機・・・これらは例年の流れ。

 

やがてマクゴナガル先生を先頭に新入生が一列になって大広間に入ってくる。組み分け帽子が歌を歌い、組み分けの儀式が始まる。

 

帽子を見たジニー(話を聞いて居た新入生含む)が物凄い勢いでグリフィンドールのテーブルを見回し、隣に座るハーマイオニーを涙目で睨みつけている。

 

「それで・・・・彼女がグリフィンドールになったら間近で苦情言われる事になるし、他の寮に決まったら廊下ですれ違った時に後ろから呪いを掛けられるんじゃないかしら?」

「そうね、気を付けないとね。()()

 

私を巻き添えにした挙句、更に追い打ちの様に殊勝な笑顔で新入生に手を振っている・・・・やめなさい、本当に刺されるぞ!?

 

 

・・・・勿論、帽子を被って1秒も満たない時間で「グリフィンドール」と組み分けされたジニーが私の横に座り、私を挟んでハーさんとジニーが無言で笑いあってたのはとても愉快で、その後に食べた食事の味が全くしなくなったとさ!チクショーめ!!

 




帽子を被るジニー
(グリフィンドールグリフィンドールグリフィンドールグリフィンドールグリフィンドールグリフィンドールグリフィンドールグリフィンドールグリフィンドールグリフィンドールグリフィンドールグリフィンドールグリフィンドールグリフィンドールグリフィンドールグリフィンドール)


(……君には勇敢であろうとする精神が宿っている。だが、手段を選ばない狡猾さも持ち合わせているようだ)

(あ"?トロールのパンツに縫い合わされたい様だな?)

『グリフィンドール!』
この間およそ1秒未満



────────
ハッフルパフが落ちこぼれって言われること多いですが
自分としては一番《まともで》良識のある寮としか見えなくなっているw



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そんなこと言われても、なんだ?言ってみろ

『生き残った少年』『英雄』と呼ばれた、一見何の変哲もない少年、ハリーポッター。

彼の周りには様々な不思議な事が起こった。

動物園の蛇の声が聞こえた。

猛獣を閉じ込めていた強化硝子が消失した。

切った髪が一晩で元通りの長さまで戻った。

 

それらは彼が魔法使いの才能があったが為に起こったことだと言える。

 

無意識であるにも関わらず、自らの願いを叶える為に使用された魔法。

しかし、それらは必ずしも望んだ通りの結果を生むとは限らなかった。

 

猛獣の逃げた園内はパニックに陥いった。

蛇と会話していたハリーを目撃した彼の従兄はハリーを異常と罵り遠ざけた。

一晩で髪が伸びた時の親族の反応は、正に悪魔の所行。

 

無意識で施行された魔法、ソレを使う度に彼の立場を悪化させていった。

 

『魔法を使えると言うことは、必ずしも幸せに直結するとは限らない。』

 

まだ幼いハリーがソレを理解するのは、まだ先の話。

 

……彼の周りにはトラブルがつきまとう。

魔法学校に入学し、自らの力を自覚した後も変わらずソレは続いた。

 

去年は闇の勢力から賢者の石を守るため、教師陣が施した防御措置を掻い潜る大冒険を行った。

…それこそ、命の危険の伴うようなものを。

 

そして今現在、列車に乗り遅れ、空飛ぶ車で魔法学校に駆けつけ、校庭の暴れ柳に墜落し、『怒れるハードパンチャー』と化した柳の魔の手から命辛々逃げ延びたのも、彼の宿命だったと言えよう。……ここまでくれば、呪われていると言っても過言ではない。

 

彼の災難は続く。

 

何故かハリーに隠すことなく敵意をぶつけてくるスリザリン寮監、スネイプ教授に『無免許運転』で『違法改造された空飛ぶ車』を乗り回し、『マグルに目撃され新聞に記載される程のパニックを起こした』事を咎められ『学校が所有する木に深刻な傷を負わせた』として連行され薄暗い部屋に拘束された。

 

ハリーの寮であるグリフィンドールの寮監、マクゴナガルに正論で、本来取るべきであった対処をみっちり咎められた。

(ハリーの機転で、自身の寮でも必要ならば遠慮なく減点を行う寮監から減点を免れたのは不幸中の幸いだった。)

 

そして、生徒達には滅多に見せない落胆した表情の校長、アルバス・ダンブルドアに事の顛末を説明する際には生きた心地がしなかった。

 

実際、隣に座るロンは圧力に負けて自ら「荷物を纏めます」と言い出す程のプレッシャー。

 

…罰則はあるものの、退校処分にならなかったのは奇跡と言える。

 

 

「今日は散々な一日だったよ・・・。」

 

2人が事情秤取が終わり、解放されたのは真夜中。

広間での歓迎会はとっくの昔にお開きとなり今頃、談話室でふかふかのソファーに座り、久方ぶりの学友と団欒している頃合いだろう。

その中に2人の姿が無いのは、単に自身の行いの性だと言えばそれまでなのだが・・・。

 

「今年はジニーの組み分けなのに見逃しちゃったよ」

 

一生に一度の晴れ舞台。一番見届けてほしいであろう人物を危険なドライブに誘った挙句、式に間に合わなかったのだ。

ああ見えて、結構煩いんだよ・・・君の前ではまるで借りて来た猫の様な感じだけどさ。っとロンがぼやく。

 

「そういえば・・・今年の合言葉。知ってるわけないよな・・・。」

 

ハリーがロンに聞こうとするが、今まで一緒に行動していた彼が知る訳もないな、と思いとどまった。

 

各寮には合言葉があり、合言葉の変更は寮の掲示板に張り出される。

では新学期、寮に入る前にどうやって寮に入ったのだろう?と去年の事を思い出そうと頭をひねるハリー。

 

「去年は確か、歓迎会の後監督生に連れられて一緒に寮まで行ったっけな。合言葉もその時だ!」

「なら、話は早い!パーシーから聞き出せばいいんだ!」

 

ハリーの言葉に顔を輝かせるロン。だが、それは一瞬の事、すぐに表情が曇る。

 

「いや、パーシーは面倒くさい。そもそも、寮の中に居る連中は皆、合言葉を知っているんだ。わざわざ奴に顔を出す必要はないな。」

「でもどうやって寮の中の連中を外から呼び出す?」

 

「普通に叫べば気づいてくれるんじゃないか?」

「去年のネビルを忘れたか?」

 

初めての飛行訓練で大けが。医務室から解放されたのは良いがそのタイミングで合言葉が変更され締め出されていた。

外で呼んでも誰にも気づいてもらえず、隠し通路の入り口である『太った貴婦人』の絵画の前で寮生が通りかかるのを野宿覚悟で待ちぼうけしていた姿が2人の頭の中をよぎった。

今回は自身がその状況・・・とても笑えない。

 

「・・・・君の梟で中の奴に知らせる?」

「梟小屋に辿り着く前にフィルチ&ミセス・ノリスに捕捉されるだろうな。」

 

ホグワーツの管理人(雑用)、生徒達が不幸な目に合う姿を愛し、規律違反をした者を猟犬の如く追い回し、教師に突き出し減点させる(ロン曰く)卑しい年老いたハイエナだ。

深夜徘徊を目撃した暁には事情を知り、酌量の余地があると判断するマクゴナガルよりも()()()、きっちり減点するであろうスネイプの元へ行くことになるだろう。

 

「いっそマクゴナガルに聞きに行く?」

「却下。理由は同上。」

 

歩きながら案を出すロン。それを却下していくハリー。

 

「フレット&ジョージが寮の前で待っててくれたらな」

「あの2人なら寧ろ、寮の目の前で入れずに待ちぼうけしている僕たちを見て笑うよ。」

 

「ハーマイオニー?」

「彼女なら助けてくれるかもな、説教付きだけど。」

 

ウゲーと顔を歪ませるロン。かというハリーにもお節介な友人が鬼の様な顔で煩く喚く姿が目に浮かんでいる。

 

「いっそパーシーでもハーマイオニーでもいいよ!寮の目の前で凍死するなんて間抜けな死に方だけはごめんだ!」

 

階段を登り、グリフィンドールの寮がある塔に足を踏み入れる。

 

 

「ああ~よりにもよって・・・」

太った貴婦人の横でハリー達を待っている少女の姿を見たロンが立ち止まった。

銀髪の2つおさげの少女が、肖像画の横の壁に背中を預け、背表紙に豪華な金色の文字で書かれた本・・・『泣き妖怪、バンシーとのナウな休日』から顔を上げてハリー達を視線の先に捉えたところだった。

 

「待ってたのが私で悪かったわね・・・」

 

まるで興味ないかのように、再び本に視線を戻す少女。

 

ハリーは知っている。

ハーマイオニーやパーシーの様にガミガミとお説教をする人物ではないという事を。

少し厭きれた表情で3人の冒険談に耳を傾ける程度。ならば、何故ロンがジェーンを苦手としているのか?

その理由は去年のハロウィンの際に彼女を怒らせた時のことが尾を引いているのだろう。

 

危機感の低いロンにとって、彼女はいつ怒ってるのか怒ってないのか分からない人物。

故に、自身が疚しい事をしてしまった際には、彼女との態度が余所余所しくなる。

彼女に関してもロンとの距離感を測りかねて遠巻きに観察してる様にも感じる事がある。

 

こういう感情を読み取るのは、従弟や10年間共にした叔父、叔母の悪意に晒され続けたハリーの悲しい生存本能といえる。

 

「貴方達、もっとマトモな登校をする事が出来なかったの?」

ふーっとため息を吐きながらジェーンが問う。

 

(そんなこと言われても・・・)

「そんなこと言われても、なんだ?言ってみろ。」

 

隣のロンが目を見開き、信じられない物を見るかのように口をパクパクしている。

 

「何がまずい、言ってみろ。」

「ッ!?・・・・・」

 

沈黙。

顔の真っ赤にしたロン。これはまずいとハリーがロンを庇うように前に進み出て2人との視線を物理的に遮った。

丁度いいタイミングでハリー達の背後からパタパタと足音が聞こえて振り返ると、息を切らしたハーマイオニーが此方に向かって駆けよってくる姿が目に入った。

 

「気持ちは分かるけど、僕たち疲れてるんだ。時間も遅いし廊下で雑談はしたくないな。」

ハリーは責める人物が2人に増える前に早く切り上げようと合言葉を問う。勿論、ジェーンがすんなり教えるはずがないとも感じていた。

 

『ミミダレミツスイ』

2人の予想は裏切られ『太った貴婦人』肖像画は開かれた。

 

ロンが弾かれたように談話室に駆けこむ。

 

「おい!なんで俺達を呼び戻してくれなかったんだよ!」

「感動的だったぜ!なんてご登場だ!」

拍手、声援が談話室から今だ廊下で対峙しているハリーの元まで漏れてくる。

 

「君、心の声が聞こえるの?」

「開心術の事を言っているのなら答えはNOよ。」

 

開心術。文字通り相手の心をのぞき込む術。

対処を知らなければどんなに正論やアリバイを見繕っても、心の声を隠すことは出来ない。

 

「そんな上等な術ではないですよ。彼の考えてそうな事を言ってみただけ。彼は見事に墓穴を掘ったってわけ。」

「・・・そう、なんだ」

 

とてもそれだけとは思えないが、これ以上聞き出すことも出来ないだろうと早々に諦めた。

談話室へと足を向け、ジェーンの横を通り抜けるハリー。

 

「命を掛ける必要の無い場面で危険を犯す、彼らは勇敢だと褒め称えるけども結果が違っていれば・・・」

もし、ハリー達がホグワーツに辿り付けずに墜落。死亡していたなら?

 

「彼らは無謀だ、愚かな行為だ。と手の平を返すでしょうね?」

自分の命ではないですからね、っとジェーンは続ける。

 

「勇敢と聡明は一致するとは限らない。結果次第でどちらとも捉えられる世の中。そのことを心に留めておいて。」

 

ーーーーーー

 

「あの2人は言いたいことがあったのに!何でとどめておいてくれなかったの?」

 

追いついたハーマイオニー。目の前で談話室の中に消えた2人の姿を口惜しそうに眺めていた。

中からは大声援、拍手喝采。2人を囲むように人だかりが出来ている事だろう。

 

「ねぇ、ハーマイオニー?私は入る寮を間違えたみたいね?」

「ジェーン・・・・?」

 

パチンッ!と本を閉じる少女。表情はいつも通り。

ただ、少女の纏う空気に違和感を感じた。

 

「私、彼等とは距離を置こうと思うわ。もう、闘争も!冒険も!それを囃し立てる外野も!心底うんんざりなの!」

「2人には私も思う所が無い訳でもないけど・・・一旦冷静になりましょう?」

 

「彼らにとって、彼らを心配して探し回った人達は気に留める必要が無いって事なのでしょう?彼に費やす時間、労力、想い。場合によっては命さえも!彼らにとっては『勝手に君らがやった事』って言うのでしょう?」

「そんな事には「本当に否定できる?」」

 

去年、一歩間違えれば死んでいたかもしれないのに?

三頭犬、悪魔の罠、空飛ぶ鍵、巨大チェス、トロール、毒薬のロシアンルーレット。

 

「ハーマイオニー。貴方が居なければ間違いなく死者が出ていたわ。そして、みんなの前で称えられる・・・」

 

彼は危険を承知で自らの意思で巨大な悪と懸命に戦い、勇敢に散ったと。

そして綺麗に纏められ、いずれ皆の記憶からも忘れ去られる。

 

「でも、それは当事者が勝手にやった事。全ては自己責任。外野が逃げられない状況に追い込みリスクを背負わせる。それなのに損失が出れば切り捨てる。それが!この寮のやってる事よ!」

 

散々煽てていたクセに、減点があれば手の平を返した去年の出来事、私は『はい、そうですか。一件落着ですね』と納得したわけではない。出来るわけがない。

それは積もり積もって不信感へと変わる。

本当に…この寮……延いては人間という生き物に反吐が出る。

 

「この寮は・・・・そういった愚か者の集う寮に見えて仕方ないのですよ!」

「そんなことは「私は、もう付き合いきれない!」」

 

廊下の先、闇の中へと消える少女の姿。

その日を境にグリフィンドール寮から彼女の姿が消えた。

 

 

 

 

 




去年の出来事を振り返りつつの秘密の部屋
周囲に流されるロン、囃し立てる外野の寮生にイライラ
原作の様に去年の事は水に流して~って切り替えは無しです!
カルマだよ!己の行動を精算していけw

秘密の部屋が書き終わったらホグワーツ戦争までオリジナルに絡めるネタがないのです!
断片的にオリジナルストーリーをかましつつ、決戦、終結に持っていこうかなと思います!


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ペットって可愛いよね!(ただしハグリット!お前は駄目だ!

「ところで貴方、昨日の夜は何所で寝たの?寮の寝室には戻ってこなかったようだし・・・ハーマイオニーったら心配して部屋の中をグルグルしてたわ。」

「そうそう、お陰様で此方まで安眠できやしないし!」

 

飼い主(ハーさんの友人)ならちゃんと面倒見てよね、と朝食の席で苦言を申し立ててきたのは、私と同じ部屋のラベンダーとパーバティー。

ハーマイオニーと私、そして目の前の2人の計4人で一つの部屋を使用している。

 

「まるで犬みたいな・・・「間違いなく昨日の彼女は犬だったわよ。」」

「そうそう!同じところをグルグル回って、まるで捨てられた子犬みたいに声を上げるの!」

「私達も気になって・・・お陰様で私達も寝不足よ!」

 

あの後、寮の方では色々と大変だったみたいだ。

言葉では咎めるように質問してくる2人だが、端々にジェーンを気遣うような表情を浮かべているので不快感はない。

 

「ごめんなさい、迷惑を掛けて。」

 

「・・・で、実際の所何があったの?ハーマイオニーと喧嘩でもしたの?」

「確かに彼女、いつもピリピリしてる所があるけど登校初日に喧嘩するなんて中々よ?」

 

本題とばかりに身を乗り出して訪ねてくるラベンダー。隣のパーバティーも心なしか目が輝いているようにも感じる。

この二人は・・・何というか、簡単に言うならミーハーだ。占いの話や、寮生(上級生達)の恋愛事情、噂話を集めるのが好きで2人の興味のある方向だったならば情報屋としてもやっていけるんではないか?と思えるぐらい把握してる。

そんな二人には、友人と珍しく喧嘩した今の私の状況がとても興味深く感じるのかもしれない。・・・もっとも、ハーさんとは喧嘩はしてないのだけどね。

 

「彼女がとは喧嘩はしてない・・「じゃあ何があったの!?」」

 

「・・・・・車を盗み出すなんて退校処分になっても当たり前です。首を洗って待ってらっしゃい。承知しませんからね。」

 

突然(聞き覚えのある)女性の怒鳴り声がホールに反響し、パーバティーが食べていたトーストを詰まらせ咳こんだ。

 

「あれですよ・・。」

「あ~・・・・。」

 

音の発生源。赤い封筒を持って椅子の上で小さくなっているロンを顎で指して、「これ、以上巻き込まれるのは嫌なんです」と説明するとすんなりと納得してくれるのは、やはりハリーとロン、2人の日頃の行いの賜物なのだろう‥。

昨日、列車内や校内をハーさんジニー、私で探し回ってたのは周知の事実であり「ご苦労様」とばかりに同情の視線を向けてくるのだ。

 

「あの二人も悪気があってやってるわけではないんでしょうけどね。」

「それでも実際、巻き込まれた身としては堪ったものではないのは理解できるかな・・・でも、寮を離れる必要までは無かったんじゃない?」

 

「・・・と思うでしょう?最終的には巻き込まれるんですよ!手を貸さないといけない状況に陥るんですよ!それはもう、半径50メートル以内には近づきたくないって思うくらいには可能な限り距離を置きたい!」

 

助けを求めても真剣に受け止めてもらえないという背景もあった(主に教師陣)それでも、子供達だけで問題に立ち向かうには危険すぎる事を平気でやろうとする。

そして、一番残念なのはソレ(問題)を解決してしまう能力があるという事。

結果、自分達で対処できると自身の力を過大評価してしまい如何なる困難にも立ち向かおうとしているようにも感じられる。・・・例えそれが勝ち目のない戦いでも。

これではまるで、()()()()()()()()()自身が英雄になった気でいる幼い子供のようだわ、とジェーンが笑う。

 

「・・・・一度挫折を味わうといいんだわ、心がへし折れるような。」

 

どう思う?とパーバティーが隣のラベンダーに問うが、即答で説得は無理ねとため息交じりに返事を返す。

 

「それでも、その時は手を貸すんでしょ?」

心配そうに尋ねるパーバティー。

目の前の二人を背にジェーンは席を立った。

 

「私は平和が好きなんですよ。今の何気ない日常に感謝してるんです。」

だから、私はきっとその時がくれば・・・・

 

 

------

「夏季休暇の間に昨年詰め込んだ知識が抜け落ちていない事を願います。既にご存知の通り変身術は高度な学問の一つです。動物を物言わぬ椅子に変える事も出来れば、魂の無いテーブルを鳩に変化させ優雅に空を飛ばすこともできます。そして、変身術を極めれば・・・・」

 

目を離した一瞬でマクゴナガル先生の姿は消えて、代わりに先生の居た場所には猫が行儀よく座っていた。目の周りの毛並みだけが一部、他の場所とは異なっている為まるで猫が()()()()()()()()様に見える。

目つきが鋭いせいか少し近寄りがたい雰囲気を醸し出しているが、少なくてもミセス・ノリスよりは毛並みが良く、可愛いなとジェーンは先生の姿を眺めながら考えていた。

 

「このように、自身の姿を人族以外の姿に変化させることも可能となります。この学問では呪文の正確な発音、正確な杖の振り方だけではなく変化させた対象が、どの様な姿なのか。どの様な色で、どの様な硬さで、どの様に動くのか。といった形で術を使用する者の記憶やイメージ力、内部構造の把握など様々な知識が必要となります。誤った術を使用してしまった場合、最悪元の姿に戻すのが困難になる可能性がありますので心して取り組むように。」

 

猫から人の姿に戻った教授が説明を続ける。

 

「さて、皆さんには手始めにコガネムシをボタンに変えていただきます。変化させる素体を各自、取りに来てください。」

 

といった形で、今季初となる変身術の授業は始まった。

昨年、ネズミを嗅ぎ煙草入れに変化させるのに比べたら確かに()()()なのかもしれない。

 

先に取り掛かっているハリー達横目に呪文と杖の振り方、雑学をノートに書き込み、素体を取りに行く。

 

動物は動き回るから、小瓶から出した瞬間に金縛りの術で拘束する。

しっかりと狙いを定め、ボタンの形状を思い返しながら魔法を唱える。結果は・・・

 

「夏季休暇で久しぶりだったけど・・・まぁ、こんなものよね。」

 

派手な装飾もない何の変哲もないコートのボタン。

見回すとハーさんはいつも通り、難なくこなしている。ハリーのコガネムシは机の上で逃げ回り、ロンに至っては彼の席だけ煙に包まれ、時折パンパンと炸裂音が響いてくる。

 

「派手な登校をした時に杖を折っちゃったみたいよ。それより、ボタンに変えるコツを教えて。」

ロンの方を眺めているとラベンダーが親切に教えてくれた。いや、教えを請われたのか・・

 

「ボタンの素材はポリエステル樹脂です。回転する台に樹脂を流し、遠心力で均等に引き延ばします。完全に硬化する前にプレスでボタンの形状にくり抜くという制作方法をしています。「いや、その説明で分かる方がおかしいから!ハーマイオニーくらいしかその説明、理解できないから!!」」

 

確かに、魔法使いの家庭ならば便利な魔法が身近にある為、材料や構造など理解する必要がないのかもしれない。その点、マグル産まれの人の方が日頃から不便の中生活している為、物の構造や製造方法を理解しているのかもしれないと思い当たる。

 

「お手本なら貴女の服にもついてますよ。()()()()()()()が課題なので大きさや色は指定されていません。だから、大きさはコガネムシと同じ大きさ、色も虫と同じ色、形状だけボタンの形にするって考えれば少しは難易度が下がるんじゃないかな?」

 

「なるほど!」

 

そんなこんなで昼休みのチャイムが鳴り、生徒がぞろぞろと教室から出て行った。

ロンとハリー?勿論居残りで練習ですよ★

 

「待って!ジェーン!!もう、先に行っちゃうんだもん。やっぱり変身術は他の教科と比べて難しいわね。これ、私が変えたボタンなんだけどどうかしら?中々の出来だと思うのだけどマクゴナガル先生は加点をくれなかったのよね・・・確かに去年の年度末の試験に比べたら、コガネムシをボタンに変える事なんて()()()()()()()だとは思うし、そう考えると残念だけど加点無しも納得は出来るかな。貴方のボタンは?・・・うんうん、流石ジェーンよね!完璧じゃない!」

 

追いついてきたハーさんの頭をワシャワシャと撫でながら話を聞く。気持ちよさそうに目を細める辺りどう見ても犬にしか見えない!

 

「それで・・・やっぱり昔みたいにみんなで一緒に・・・ってわけにはいかないのよね。」

「うん・・・もう、振り回されるのに疲れちゃってね。ハーマイオニーも私と一緒に来る?」

 

 

「・・・・ごめんなさい。誰かがあの二人の面倒を見ないと。きっと取り返しのつかない事になると思うの。」

 

暫く黙り込んだ後、絞るような声で返事を返すハーさんをもう一度撫でる。

 

「貴女と喧嘩してるわけでもないし、今生の別れでもないのだからそんな顔しないでよ~。助けが必要になったら教えて。あの2人の目に入らない所で可能な限り協力するわ。ほらほら元気出して!次の授業は楽しみにしていた防衛術よ~~」

 

「ジェーンもすっかりロックハートのファンね。「ファンとはちょっと違うかな~でも彼の歩んできた道のりには興味があるよ。」」

 

雑談しながら食堂へと歩く。

私は平穏が好きだ。

 

 

 

 

 

 




マクゴナガル先生をモフモフしたい
ハーさんをモフモフしたい!

前回、何も言わず寮から家出したので心配している学友に説明会。
因みに寮以外の何所で生活しているかは後々!

見捨てると仄めかしてるけどもハーさんには弱いジェーンw
皆が居る日常が平穏だと思っているのでいざとなったら結局は自分から介入する事になりそうw

尚、ハグリットは除く


何だかんだで今年も僅か!
来年度もよろしくです!


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泣き妖怪バンシーとのナウな休日(前日章

ホグワーツ・レガシー?発売でしょうか?
城の内部や雰囲気を見るためにも少しやってみたいw


私が訪れた村は、どこか寂しく陰湿な空気を醸し出していた。

 

時代は1978年。魔法界で起こっている8年前から続く戦争・・・後に『第一次魔法戦争』と呼ばれることになる闘争は、未だ終わりを告げる素振りもない。

つまり、『例のあの人』率いる『死喰い人』と呼ばれる闇の勢力と、それに対抗するために結成されたダンブルドア率いる『不死鳥の騎士団』、鎬を削り合い、日夜血で血を洗う闘争が行われていた時代の事だ。

 

死喰い人は反抗勢力の拠点を薙ぎ払い、非魔法界出身の魔法使いを迫害、虐殺を行っていた。

一部の魔法族は戦火から逃げるようにイギリスから去っていった。

 

では、魔法とは無縁の非魔法族の住む世界は安全なのだろうか?

 

私・・・ロックハートはそれは違うと断言しよう。

目の前に広がる町と呼ぶには小規模な、村と呼ぶには大きい集落の惨状を目の前にして憤怒した。

 

石造りの建物には穴が開き、歴史ある石畳は破壊され、水道管からはまるで噴水の様に水が噴き出している。

 

「そこの君、何があったのか教えてほしい。」

 

「知らないね!こっちが聞きたいくらいさ!「よく思い出してほしい。何か()()()いる筈だ」」

「・・・轟音。気が付いたら町がこの有様さ。あんた、旅人なんだろう?悪い事は言わない、ここから去った方が良い。」

 

他の通行人に話を持ち掛けても同じような答えばかり返ってくる。

曰く、『自然災害だ、巨大な雹が降り注いだんだ』やら『祟りだ、この町は呪われている』だの要領を得ない。

 

この被害は闇の魔法使いによるものか?

 

否、戦時中魔法使いだけにとどまらず吸血鬼、吸()鬼、人狼、巨人族、()()()人族とは友好的とは思えない陣営からも戦力を動員した。

戦争が長引き死者が増えると、今度はその死体に魔法を掛け兵隊とした。

 

勿論、使用する死体の調達は死体置き場から拝借する必要必要はない。

彼等にとって非魔法族の人間の命など家畜以下の存在であり、()()という名の虐殺(娯楽)を各地の街で行い、自身の勢力に兵隊として徴収、増強する。

人権、倫理観など初めから存在しないのだ。

 

そこまで思考した後で、私の側を通過する非魔法族の一般市民の姿を視界に納めて息を零す。

 

彼等(マグル達)が生きている事こそが死喰い人の襲撃が無かったという事の何よりの証拠だ。

・・・ならば、この町に一体何が起こっているというのだろうか?

確証はない。だが、一つ思い当たる節がある。

 

 

 

----

 

教室に入り、目に入ったのは、一番後ろの席に本を机の前に山積みにしてその陰に隠れるようにしているハリーの姿。

その両脇にはロンとハーマイオニーが座ってる。

 

(ハーマイオニーなら最前列に行くと思ってたのに予想が外れたか・・・。)

 

3人とは離れるように最前列に腰掛けるジェーン。

程なくしてドタドタと他のクラスメート達も入室し、後列から順に席が埋まっていく。

 

全員が席に座ると教壇から咳払いが聞こえ、生徒たちの雑談が消え、静寂が辺りをつつんだ。

 

「私だ。」

本から目を上げると、ジェーンの前の席に座るネビルの教科書(表紙のロックハートがウィンクをしている)を高々と掲げ、表紙と同じ顔をしているマヌ・・・教師の姿。

 

「ギルデロイ・ロックハート。勲三等マーリン勲章、闇に対する防衛術連盟名誉会員、そして、『週間魔女』5回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞。もっとも、私はそんな話をする訳ではありませんよ。バンシーをスマイルで追っ払ったわけではありませんしね。」

 

「皆さんには最初にちょっとした小テストをしていただきます。心配ご無用・・・皆さんがどれだけ予習をして、どれだけ覚えているかチェックする為ですからね。」

 

僅かに騒めく教室。

これまで最初の授業でいきなりテストを行われたことなどない。

もっとも、他の教科とは違い、途中から引き次ぐことになったロックハートにとって、現在の生徒の学力がどれ程なのかは気になるところなのだろう。

 

前列の生徒が顔を青くしながら答案用紙を取りに行き、後列へ回していく。

 

「30分です。よーい始め!」

 

一斉に用紙に目を落とす生徒。

 

1,ギルデロイ・ロックハートの好きな色は何?

 

・・・疲れが堪っているのだろうか?これが『闇に対する防衛術』の問題?

きっと、ジェーンと同じような心境なのだろう。周りからも堪らず噴き出す音、空気の抜けたような呻き声が聞こえた。

張り詰めた空気から一転、まるで「気負って損した」というような空気が漂う。

 

この問題を()()()()()()()()()()ただの大間抜けとしか言いようがない。

だが、ジェーンには何の意味もないこの問題が、無価値とは思えなかった。

 

つまり、このテストは去年、魔法薬学の教授が生徒達にプレッシャーを与えるためにやった事とは逆の事を何気なくやってのけたという事なのだ。

これまで担当していた者から授業を引き継ぎ、今年度初の授業。担当は魔法界で話題となっている魔法戦士・・・・生徒達が緊張しないわけがない。

彼は自らが道化となり、振舞うことで生徒の緊張を解き、授業しやすい雰囲気を作り出そうとしているのだ。

 

「流石ね。」

 

賞賛を呟き、次の問題へと目を向ける。

 

2,ギルデロイ・ロックハートの密かな大望はなに?

3.現時点までのギルデロイ・ロックハートの業績の中で、あなたは何が一番偉大だと思うのか?

 

「・・・・・・・」

 

これは・・・・・はたして、本当に緊張を解くためのパフォーマンスなのか?

確認すれば3ページに渡り、みっしりと両面に同じような問いが記されている。

 

これは、本当に意味のない問題?

2問めで羽ペンを持ったまま固まっているジェーン。ロックハートが「残り15分」と終了時刻を教室の生徒達に告げる。

 

勲三等マーリン勲章。即ち、マグル社会に置き換えるならば名誉勲章と呼べる物だ。

戦闘においてその義務を超えた勇敢な行為をし若しくは自己犠牲を示した魔法使いに贈られるもの。ただの馬鹿が貰えるようなものではない。

ならば、この問いは?

 

「難しいですか?頑張ってください。」

顔を上げるとウィンクしながら笑いかけるロックハートの姿があった。

 

ジェーンの背中に冷たい汗が流れた。

・・・・・なるほど、これは一見無意味な問い。

しかし、限られた時間で少しずつ言い回し方を変えて同じ質問をすることにより、その者の精神状態、性格、癖や特徴、人としての本質を把握しようとしているのか・・・・。

まるで、マグルのプロファイリング(犯罪心理学)

 

 

何故、生徒相手にそこまで?

 

「去年、クィレルによる賢者の石強奪未遂」

「今年はハリー監禁、ホグワーツは危険・・・」

そう考えなおすと、これまでの彼の行動にも納得がいく。

既にロックハートは内部を警戒している。

自身をただの馬鹿と見せかける事で襲撃者の油断を誘い、証拠を残す様なミスを誘う。

 

ならばと、自身が疑われないように当たり障りのない回答を用紙に記入していく。

 

54.ギルデロイ・ロックハートの誕生日はいつで、理想的なおくりものはなに?

 

 A『争いのない平和な世界』

 

ジェーンが最後の回答を記入すると同時に30分のテスト時間が終了した。

 

答案用紙を回収したロックハートが目を通しながら答え合わせをしていく。

生徒達には表面上の回答をしているが彼の注目しているのは別の事。

 

「ほんと・・・気を抜けない。」

 

 

まったくもって素晴らしい!グリフィンドールに10点!さて、授業ですが・・・魔法界で穢れた生き物と戦う術を教えるのが私の役目です。この教室で君たちはこれまでにない()()()()()に合うでしょう」

 

ハーマイオニーがいつもの様に加点された後、お待ちかねの……といった感じでロックハートは、教室の片隅に設置されている暗幕の掛けられている大きな檻へと歩きだす。

 

「どうか、叫ばないようにお願いしたい。奴らを挑発してしまうかもしてないのでね。さあ、どうだ!」

 

暗幕が取り払われ、檻に閉じ込められていた生物の姿が生徒の前に晒された。

体長20センチほど、群青色、人型の妖精とは似つかない容姿、キーキーと甲高い声を上げ凄まじい速度で檻の中を飛び回っている。

 

(そういえばロックハートの本にピクシーとの戦闘が記述されていたね・・・)

 

シューマスが妖精を見て「こんなもの危険には見えない」と笑い飛ばし、ロックハートが油断するなと警告する中でジェーンはぼんやりと本の内容を思い出す。

 

ーーーーーー

 

原因の分からない町の破壊。

住人達は気味悪がり、日没と共に店を閉め、家の明かりが外に漏れないようにきつくカーテンを下ろしている。

唯一、例外があるとするならば外出している客の為に門灯を付けている宿屋くらいなものだろう。

 

私はこの町で一番明るいであろう、宿屋に設けられたバーの一角に腰を下ろした。

 

「お客さん、すまないがもうすぐ閉店なんだ。」

「・・・なるほど。確かに私の他には客が居ないようですね。まだ時間も早いのに。」

 

「知ってるとは思うがこの町は呪われている。週に一回、これくらいの時間になると町が破壊されるんだ。だから悪霊に目を付けられる前に店を閉めなきゃならん。」

 

店主の訴えを聞き流しながら私はグラスを傾けた。琥珀色の液体、気泡の入っていない透明な氷がグラスに当たりカランと小気味いい音を奏でる。

 

「これは・・・・中々良いものだ。銘柄は何かな?「お客さん!これはあんたの為にも言ってる事なんだぞ!?」」

動じない私に痺れを切らした店主が催促の声を上げる。

 

「焦ったところで結果は変わらない。それに・・・・隠れるには遅すぎたようですね。」

グラスに残った液体を飲み干し、ロングコートを翻しながら立ち上がり、店の出入り口へと体を向けた。

 

誰も居ないはずの扉が独りでに開き、外の冷たい空気が店内へと入り込む。

 

「私がいいと言うまでカウンターの裏に身を屈めて下さい!」

 

 

店の扉が何度も開閉した。

私の目の前には鮮やかな青色をした生物。体長20センチ、悪戯好き、小さい体格だが家畜を持ち上げ家の屋根に置き去りにするなど力は強い。そして非魔法族の人々には姿は見えない。

ピクシー小妖精。人々に気づかれず町を破壊したのは十中八九、この忌まわしき魔法生物の仕業だろう。

 

店内に侵入した何体もの妖精達は「キーキー」と私の姿を見て威嚇した。

懐から杖を取り出し、妖精達へとその切っ先を向ける。

 

「そこに何かいるのか?」

 

非魔法族の人々。例え姿が見えなくても存在を感知する事は出来る。

一触即発。薄暗いバーの中、見えない恐怖、張り詰めた空気に耐えかねた店主が声を上げるのと私が妖精達を無力化するために行動を開始したのは同時だった。

 

「早く!!隠れて!!」

 

私はまるで流水の様に流れるような動きで杖を振った。

 

 

 

ーーーーーー

「さぁ、それでは貴方達がピクシーをどのように扱うかやってみましょう。」

 

この後に何が起こるか知っているのは本を読んだ者だけだろう。

ハーマイオニーはきつく杖を握りしめ、ジェーンは素早く机の下に体を滑り込ませる。

 

ーーそして檻の扉は開かれたーー

 

生徒を吹き飛ばし、本や鞄を引き裂き、生徒達のインクを辺り一面にぶちまける。

窓から数匹逃げ出してくれれば良かったのだが、あらかじめ()()()()()を予測していたのだろう、強化の魔法が施された窓ガラスはピクシーの凄まじい突進にも耐えてしまっていた。

 

結果、密閉された教室に上下左右暴れまわる20匹の怒れる妖精、取り残された哀れな間抜け達(生徒達)の地獄絵図が完成した。

 

唯一、ハーマイオニーだけが暴れまわる妖精達を鋭く見つめ杖を振り上げる。

・・・何をしようとしているのか()()()()()()()()

私は慌てて机の下から這い出してハーマイオニーを止めようとするが・・・・

 

『ペスキピクシペステルノミ(ピクシー虫よ去れ)』

 

呪文は唱えられた。

 

・・・・教科書の一説が脳裏をよぎる。

 

使用する魔法は一般的な妖精避けの呪文ではない。

『ペスキピクシペステルノミ(ピクシー虫よ去れ)』つまり、妖精避けの呪文ではその場の窮地から脱する事は出来るだろう。

だが、後日再び妖精達が集団で報復してきたという事例がある・・・これでは根本的な解決とは程遠い。

 

(私はこの町に留まり、用心棒として働こうとは考えていないのでね。今晩で破壊活動を行っている妖精達を鎮圧し、捕縛する。)

 

教室内、散り散りに暴れまわっていた妖精達は呪文が唱えられるや否や、一目散にハーマイオニーから離れるように我先にと逃げ出す。

教室後方から前方へ。ネビルが宙を舞い、シェーマスは吹き飛ばされ壁に叩きつけられている。頭を抱えて小さくなっているラベンダーには弾き飛ばされた椅子が落下し、甲高い悲鳴が教室に響く。

机を、生徒を、まるで津波の様に立ちふさがる全ての物を弾き飛ばしながら押し寄せる群青色の(妖精の群れ)

 

『目立たないように』『疑われてしまう』など、先程まで心配していた事など既にジェーンの頭には無かった。

『対処しなければ病院行き、最悪死ぬ』目の前に広がる惨状、残り1秒程度で自身にも訪れるであろう未来、避けることの出来ない濃密な死の気配。

 

(教科書通りに・・・)

 

冷静になれと自身を叱咤し杖を振るう。

 

「プロテゴ!」

目の前に展開される透明な(盾の呪文)に青色の波が接触する。

 

盾の呪文の効果は一部の強力な呪いを除き、全般的な防御に使用できる。

素早く展開した盾の呪文にピクシーが接触。まるでガラス戸に気づかずに突っ込んだ猫の様だ。無様に膜に張り付いたその姿を鼻で笑う。

優秀な防御だ、しかし欠点もある。強力な防衛魔法が故に、術を維持している間は自身も反撃が出来ないという点だ。

これは術自体の取得難易度の高さも影響しているが、一番の要因は強固な盾である為に内部からの反撃すらも反射してしまうからだ。

 

私は素早く盾を解除、突進の勢いを削がれ眼前で呆然と浮遊している妖精へと続けざまに金縛りの術を放った。

先程まで悪鬼の様に飛び回っていたそれは、ゴトゴトと床に落下し鈍い音を立てる。

再び私を掴もうと手を伸ばす妖精。距離を取るように一歩後退しながら盾の呪文を展開する。

 

盾で攻撃を弾き、隙だらけの相手に槍を突き刺す。使っている道具は違うがやってること自体は古代ローマ兵の戦い方となんら変わりない。

効率的かつ合理的。

 

「ペトリフィカス・トタルス、ペトリフィカス・トタルス、プロテゴ、ペトリフィカス・トタルス・・・・」

 

噛まずに詠唱している私を誰か褒めて!!

 

じりじりと後退しながらの迎撃。

妖精の波状攻撃に耐えながら僅かな隙に反撃して数を減らす。

 

何度目かの攻防の中、盾の展開と反撃の間を縫って入り込んだ妖精。

弾丸の様な速度で突貫するソレをギリギリのところで身を捩り最悪の状況を回避する。

突風が顔を掠めジェーンの髪を揺らした。

息継ぎする間もない連続での詠唱。肺に残る空気を無理やり絞り出す。

 

「ディフィ……(裂けよ)」

お返しとばかりに防御網(盾の呪文)の中に入り込んだ妖精の首筋に当てられた杖先。苦しそうに絞り出された詠唱。

完全な形とは程遠いにも関わらず術は効力を発揮し、対象を切り裂き生暖かい液体を巻き散らす。

 

『キーキー』と騒ぎ立てる声、同胞が殺されたことを感じ取ったのか膜の向こうから感じられる圧が一段と強くなったように感じた。

 

突き破られる盾の呪文・・・・元々限界は感じていた。私のプロテゴは盾の展開速度も、盾の強度も実戦に使用できるほど完成されたものではなかった。

この本はロックハートの対妖精の攻略方法・・・()()()()()()()

 

盾が消えて迫り来る妖精

 

(あと何体だ?)

 

既に肺の空気は使い果たし詠唱は出来ない。

 

突出した一体がジェーンを襲う。

鳩尾に強烈な衝撃、逆流した胃液が喉を焼く。

 

「そこまで!!アクシオ・ピクシー!(ピクシー妖精よ来い)」

 

金縛りで床に転がっている者、ジェーンを襲おうと破壊した机の木片を振りかざそうとしている者。

それらはロックハートの呪文により強制的に引き寄せられる。

あわや教授と妖精が衝突する間際、最初に妖精達を閉じ込めていた檻の戸を開けてその中にピクシー達を押し込んだ。

 

「変身術、魔法薬学、教科書通りに作業を行わないと成功しない科目もあります。しかし、闇に対する防衛術においては教科書が全てではありません。」

 

ロックハートが再び杖を振る。

インクで黒く汚れた壁は本来の色を取り戻し、机は修復され元の位置へフワフワ浮かびながら移動し、台風が過ぎ去った後のような教室は何事も無かったかのような落ち着きを取り戻した。

 

「防衛術。即ち、自らの命を守るためにこれまで学んできた内容を全て活用し対抗する。そういった科目なのです。嵐が過ぎ去るまで狸寝入りする。勿論場合によっては有効な手段ですが襲撃者の気分次第で自身の命が左右される状況を防衛術とは呼べません・・・どうやらこのクラスには自身の身を自身の力で守り通すことの出来た生徒は2人だけのようですね。残念な事です。」

 

授業の終わりを告げるチャイムが鳴るが誰一人として動こうとする者は居なかった。

 

「始めに言った筈です。バンシーをスマイルで追い払った訳ではないと………。私の授業を終えた暁には、仮に狼男に遭遇してしまったとしても適切な対処を……あ~例えば、タップダンスを強制させる程度の呪いで応戦しよう等と考える愚か者が一人も出ないことを祈ります。」

 

「怪我人を医務室へ。」

 

否、一変したロックハートの雰囲気に飲まれていた。

 

 

 

「ありがとう!神父様!!」

「……神…父?」

 

「ああ!悪霊を追い払ってくれたんだろう!?」

 

マグル達が崇拝し、聖なる象徴と崇める神の使徒。

かつて魔法使いが身分を偽り神父として活動している時代があった。魔法を神の奇跡と称し、施行し、利益を得る。

エクソシスト。これ等は我々が活動していた時代の名残と言えるだろう。

 

「……この地の呪いは根深い。これ以上、土地を開拓し自然を破壊するようなら祟りは再び訪れるだろう。」

 

……私は早々にこの地を離れる事を決めた。

 

結局、一番邪悪なのは何だったのだろう?

 

 

環境を破壊するマグル達か?

虐殺を繰り返す死喰い人か?

戦争に手を取られ、マグルへの被害に対処出来ない魔法省か?

住処を破壊され、報復を行った妖精達か?

あるいは・・・・魔法使い間では価値のない土地(妖精の住処)をマグルに高値で売り付けた同族(魔法使い)か?

 

「・・・・くだらない」

 

分厚い雲が月を隠し、ガス灯の光が照らす夜道を一人、歩く。

一寸先は闇。

 

「まるで我々の進む未来のようだ。」

 

その胸の不満を口にした。

 

     ーーー泣き妖怪バンシーとのナウな休日ーーーより抜粋  

                著・ギルデロイ・ロックハート




LVUP    ジェーン

取得スキル 短縮呪文(無言呪文一歩手前)
      盾の呪文

状態    ロックハート崇拝

Q、授業初めは馬鹿を模してたのに終盤では態度を変えたのは?
A,ジェーン「そんなの小テスト(プロファイル)でこの教室の生徒に怪しい人物が居ないと分かったから馬鹿の振りをする必要が無くなったからに決まってるじゃないですか!!」
 

ロックハートの本の内容気になるな―って・・・勝手に内容作っちゃいました★
きっと名誉勲章貰える内容なのだからバリバリの戦闘もの!

この話はジェーンが教科書の話を思い出しながら実践する話ですので教科書の部分は薄文字で書いてます(*'ω'*)

(低学年なのに盾の呪文はやりすぎかなーって思ったけども・・・その他のジェーンが使える戦闘方法って・・・R規制入っちゃうし(禁術)

魔法絶対の原作とは世界観がズレてきますけども
まぁ、2次ですしね・・・(マグルの兵器も使い処によっては有効じゃね?ってか魔法族はマグルの力を甘く見すぎとか日頃から思ってるのでw)


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図書館

いつもの場所、いつもの席。何も変わらない日常。一つ違っていたすれば・・・

手に取った本の隙間から黒い背表紙のノートが滑り落ちたってことくらいだろう

これが何のノートか、誰の物なのか、中身は白紙の古びた新品の様なノートに目を落としながら私は首を傾げた

「間違って私物を図書館に返却しちゃったのかな?」

まぁ、そんな日もあるよねと・・・

「私の姿が見えますか?私の声は聞こえますか?」

中央には生徒達が本を広げ、学習するための長テーブルと長椅子。両端には高さ10メートルにも及ぶであろう本棚に、みっしりと詰め込められた分厚い本達。

入り口の横、図書館全体を見回せる位置にカウンター。そして格子で囲われた雰囲気の異なる一区画、禁書コーナー。

大聖堂と言っても遜色のない程の巨大な部屋の突当りには2階へと続く螺旋階段。

そして中央を吹き抜けにして両端に巨大な本棚が建ち並んでいる。

一言で言い表すなら圧巻。

腰まで届く艶のある黒髪の少女は丸テーブルの上に腰を下ろし、まるでどうでも良いかのように此方に向かって話しかけた。

これがマグルの経営する図書館であったのならば、本を劣化させる原因となる湿度と日光に気を使い何所か薄暗い雰囲気を感じてしまっていただろう。

だが、ここは魔法界。一冊一冊に丁寧に保護魔法が掛けられている。その背景があるからか2階には窓が数多く設置されており、外からの温かい日光が室内を照らしている。

かつて、この図書館を目にして感嘆の声を上げたものだ。

いや、本当に彼女にとっては周囲が彼女の存在に気付いていても、いなくてもどうでも良かったのかもしれない

そして、グリフィンドールの談話室を避けるようになった影響か図書館を訪れる機会が多くなったのも事実だ。

本のページをめくる音、声を潜めて議論し合う生徒達、ぽかぽかとした陽気、睡魔に敗れイビキをかく生徒を叩き起こし「ここは本を読み学習する場です!用が無いのならば、さあ!!行った行った!!」シッシと退出を促す本の番人 マダム・ピンス。

「せっかくですので少し物語を話しましょうか・・・」

その見慣れた景色を横目に2階へ、本棚の前に設置されたテーブルに本を置き()()()()席へと腰を落としたところで「ふーー」とため息交じりの声が漏れた。

「これは時間魔法を作り上げ、後に天才と称えられた魔法使いの物語です」

ホグワーツ図書館の掟。

食べ物の持ち込みは禁止。

居眠り、笑い声はもとより、ささやき声・・・つまり話す事自体が禁止されているのだ。

先程の議論してた生徒達?司書様に見つからなければつまり・・・何もなかったって事なのでしょう?

つまりつまり、図書館を利用する人達は短気、独裁的な司書様、マダム・ピンスに目を付けられないように日々、肩身の狭い思いをしているというわけ・・・。

斜陽の照らす古びた廃城跡、時計の針は6時を刺したまま。少女は真紅の瞳を薄らと開き言葉を紡ぐ。

まぁ、それだけならまだ()()()()。その程度ならば、ここまで()()()()事はなかった。

本を管理しているというのに、生徒達の本を探すのには非協力的、『本を大切にしない者』を攻撃するように自ら管理する本に呪いをかけている。

・・・・巨大な本棚だ、上段など大の大人でも届く高さではない。

一度、呼び寄せ呪文を使って本を取り出そうとした際に・・・ほら?呼び寄せ呪文って物が自分の手元に来る際に必要以上に勢いが乗るものでしょ?

マダム・ピンス特製の()()()()()()が発動し、本に襲われる→自衛の為に本を吹き飛ばす→マダム・ピンスが駆けつけるというトラウマ級のコンボを食らいそうになったことがあるのだ。

あと一瞬でも本の復元が遅かったらと思うと・・・・いや・・・本当に笑えない。

妻が居て、娘が居る。裕福とは言えないが彼は始めは何の変哲のない普通の青年だった。

そんなこんなでマダムはフィルチと大差ない程度には生徒達に嫌われている。

物語が狂ったのは彼の妻が流行り病に倒れ、この世を去った後。娘が妻と同じ病にかかっていると気づいた時だった。

本を広げ目を通す。

図書館に籠るのは嫌いではない。授業の課題はすぐに終わるし無駄な気配りで胃を痛める事もない。

魔法史の課題である『中世におけるヨーロッパ魔法使い会議』について1メートルの長さの作文を書き提出・・・流石に興味の無い教科の課題は筆が進まないが、もめ事に巻き込まれるよりはマシだよね。

貧しいながらも必死に働き、薬代を稼ぎ、娘の元に戻った。冷たくなった娘の横で彼の持つ薬はペテン師が作り上げた粗悪品だと知った

「ホグワーツの歴史は全部貸し出し中です!」

彼は激怒した、絶望した。だが、どんなに恨んでも娘は帰って来ない

遠くから聞こえるマダム・ピンス声。基本的に静かな図書館だからこそ少しの音でも大きく響いてしまう。

丁度、課題も終わったし。伸びをした後に今日の()()()()の御供になる本を探しに行こうと席を立つ。何せ魔法界の本が全部あるのではないか?と思えるほどの蔵書の数なのだ、卒業するまでに全部読み切れるのか?と問われれば即答で「いや、無理でしょ」って言葉が出てしまう自信がある。

故に作り上げたのだ、時間を巻き戻す魔法を。何年も何十年も研究に明け暮れ・・・

そして魔法を使い、かつての病に侵される前の妻子に対面し、抱きしめた。

時間と共に若返った自身の体、手には2人分のちゃんとした薬。今度こそ運命を変えてみせると・・・

ーーーーーーー

1周目と同じように妻が流行り病にかかり薬を使用した

ホグワーツに在籍するすべての生徒が使用する図書館に訪れる頻度が増えると新たな発見もあるものだ。

例えば、目の前でピョンピョンと飛び跳ねて、本棚の上段の本を取ろうと奮闘している下級生の姿とか・・・

一時期回復の兆しがあったが結局は同じ結果を辿った。残された娘も同様に・・

本人は必死なのだろうが微笑ましい・・・(まぁ、私も人の事は言えないけどな!チビッていうなし!)

飛び跳ねるのを辞めた後に、最後のあがきなのかつま先立ちで本棚に手を伸ばす金髪おさげの少女。やがて手を下ろしどんよりとした空気を漂わせている。

「ア・・・諦めた」

「何がいけなかったんだ!!」男は嘆いた。妻子亡き後も世界中を駆け回り新薬と呼ばれるものを人には言えない様な手段で手に入れ、過去へと戻る

流石にこのまま放置するのは可哀そうだと私は少女の代わりに目的の本を本棚から引き抜く。

過去の自身と出会わないように気を付けながら新薬を二人に投与、「これで終わる・・・」男がそう思った矢先、妻の容体が急変し、同じ結末を迎えた。

「この本で合ってる?」

「!?」

一人ぼっちになった部屋の中、男は自身で薬を作ることを決意した

いきなり後ろから声を掛けられた為か、金髪の少女は小さく飛び跳ねた後に勢いよく振り返る。

なんだろう?動作一つ一つが小動物的な・・・守ってあげたくなるような可愛さが漂ってくる。

娘から採取した血液を媒体に特効薬を作ろうと何十年もの期間を研究に費やした

「あ・・・りがとうございます?」

「うん。下級生を導くのもお姉さんの役目だしね!」

時には奪い、時には浮浪者を攫い人体実験まで・・・だが、男にとってそんな些細な事はどうでも良い事だったのかもしれない

何度も戻り、何度も失敗を繰り返し、そして研究に明け暮れる

「あの・・・グリフィンドールのジェンさんですよね?2年生の」

あれ?回答間違った?少女の顔色が更に暗くなった気がしてならないのですが・・

「そして彼は悟ったってわけ。自身が過去に持ち込んだサンプルが漏洩していたって事に」

「そうだけど・・?」

「私も、2年生」

「・・・・・。」

薬が効かなかったのは?彼が持ち込んだ病原菌は幾度となく繰り返す実験で変異し、薬剤耐性がついてた

本来なら回復するはずの薬が妻子にだけ効果が無かったのは?

「またですか! 現在所有している『ホグワーツの歴史』は2週間先まで予約でいっぱいです!・・・ええ!そうです!全巻です!要件は済みましたね!?さあ!出口はあちらです!」

彼はあらゆる薬を試した。その中には副作用の強いものもあった

遠くで響くマダム・ピンスの声で飛んでいた意識が戻ってきた。まぁ、他の寮だよね?同じ寮でこんな小学生みたいな子を見て忘れてるはず無いし・・・

自身が妻子に施した全てが、彼らを死へと導く原因になったと悟ったのだ

「あの・・・「ちょっと待ってって。」」

「とはいえ・・・彼のしたことは偉大よ。1()()()()()とはいえども不可能と言われたいた時間魔法を完成させた。勿論、あえて性能を落とされた物と知る者はいない。」

まるで見せしめの様に本の予約状況を聞いた生徒が、司書様の手によってつるし上げられたばかりだ。

触らぬ神に祟りなし。現在の図書館は話し声が()()()()

「従来の薬が効かない流行り病への特効薬を作り、何十万もの人々を救った」

杖を取り出しながら本棚の端へ。

「だからこそ栄光と賞賛の中、自らの命を絶った彼の本音を理解できる者はいないの。」

「クワイエタス(静寂)」

木材の床に杖を押し当て前後の本棚と本棚を結ぶように線を引く。正式な結界や人避け呪文ではないが・・・

「ねぇ、貴方ならどう思う・・・・?」

「まぁ、気休め程度だけど大声で話さない限りは大丈夫でしょ。()()()()()ジェーン・ウィルソンよ。」

「ショザキ・スーザン・カレン・・・です。・・・ハッフルパフ」

「もしも、過去に戻る事が出来るのなら貴方は運命を変える事が出来るのかと?」

「他にも何か探してる本があるなら手伝うよ?」

ほら・・・・本来、業務の一部の筈であろう司書様は色々とお忙しいようだしね?あと・・・呼び寄せ呪文はおすすめしない!

「過去があり、今の貴方が居る。今があり、未来の貴方がある。ならば・・・」

「きっと未来の貴方はとっくに過去に戻って、今あなたが変えたいと思ってる運命を変えてる筈・・・」

「未来の貴方は失敗したのかしら?それとも戻る事すら運命に組み込まれてるのかな?・・・まぁ、私にとっては関係のない事。」

「ただ、一つ言えることは・・・きっと人類には魔法なんて品物は早すぎたのでしょうね」

 

チェシャ猫:複数の作品に登場する人間辞めちゃった元主人公。エコー。一条鈴音など複数名前がある。腰にまである艶のある黒髪、金の鈴を身に着けている小学上級生くらいの少女。物語の観測者として今作に登場!どうでも良い事を言ってるようだがこの物語の主軸を暴露しているw

この子の存在に気づいた人が居れば(=^ω^=)って感想いただければ作者が喜びますw

 




クワイエタス(静寂):元々は自身の喉に術を掛け、拡声器の様に使うソノーラス(響け)の反対魔法。今作の使い方は違うとは思うけど音は空気や物体を振動させて伝わる訳で・・・空間自体を制振、隔離すれば防音になるやろ!って安易な発想からw

マダム・ピンス:図書館の番人。音に敏感、「話しかけるな!私が法だ!」を地でいってる方!似た者同士ってことでフィルチと仲がいいらしい~知らんけど!!(*'ω'*)

ショザキ・スーザン・カレン:ハッフルパフの2年生。金髪おさげ、小学生と見間違うくらいちっこい!(友人の作品のオリジナルキャラを一足先にこの作品に出演!題名決定しましたら改めて紹介させてもらおうかな!

時間魔法:現在は1時間しかさかのぼる事が出来ないが元々は年単位で逆向可能だった


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Q.B級ホラーの定番のアイテムを述べよ

前話冒頭に例のノートの一文を追加しました!


「助けてくれ・・・もう、限界なんだ」

「今更、ならば何故引き受けたんだ」

涙と鼻水で顔をグシャグシャにした男に寄り添わられてうんざりしたように返答する少女

「仕方なかったんだ、他に方法はなかった」

「その結果貴方は全てを失う。どう考えても手遅れ「見捨てないでくれ!君だけが頼りなんだ」」

君が了承するまで離さないぞとすがる男。少女はその気迫を別の努力に向けなさいよと再び呆れる

「・・・・はぁ、いいでしょう。取引をしましょう。そんなに身構えなくても取って食ったりはしないさ・・・」

「・・・・今はね」

男には手を差し出す少女の姿が天使の様に見えた。少女は鏡に映る自身の姿を見て(まるで悪魔のようね)と嗤った

ーーーーーーー

 

ハロウィン。10/31、この夜は秋の終わりを意味し、冬の始まりでもあり、死者の霊が家族を訪ねてくると信じられていた。死者の魂は、幽霊や妖精、悪魔などの姿をしており、家に戻ったときに機嫌を損ねないように食べ物や飲み物を用意しておくのが伝統である。

 

だけど考えてみて?魔法使いにとってゴーストは別段特別な存在ではないの。ホグワーツにも各寮にも1体ずついるし、なんなら魔法史の先生もゴーストよ・・・そうね、私達にとっては彼らは恐怖の対象ではなく身近な存在であると言ってもいいかもしれない。

仮装?魔女もゾンビも吸血鬼すら実在するの、別に私達はそのままでいいんじゃない?

だから、私達にとってハロウィンは死者を尊ぶという意味合いは薄くただのお祭り程度の認識くらいしかないのかな。

 

そして、ゴースト達が自身が肉体を失った日を祝うという絶命日パーティー。

生きているうちにこのパーティーの招待が来るなんて中々ないと思うの・・・そうね、ハリーに誘われたってこともあるけど好奇心に抗えなかったって言い方が正確かしら。

 

私の予想とは違った?ええ!勿論ですとも!

死者の為のパーティーよ?私ったら少し考えれば分かる事なのに、きっと招待されて浮かれてたのでしょうね。

音楽は黒板を引っ掻いたような不快音。並べられた料理・・・魚料理は腐り、チーズはカビが生え、肉料理は?ええ、蛆がわいていましたとも!出てくる食事にまともな物なんて何一つなかったの!

ゴーストは生前に比べると感覚が鈍くなるから()()()為に()()()()()()()されていたのよ!

 

うん・・・分かってるわ。当時の状況を聞きたいのでしょ?今から話すわ。

今言った通り、パーティーは散々だったわ。大勢のゴーストが集まったせいで室温は氷点下以下!何も食べれるような物は無く、蓄積された疲労もあって・・・

ハリーがズリズリと壁を伝って歩いていくのも不思議には感じなかった。

 

たしか、一階のホールに出る階段を登っているときだった、ハリーが突然立ち止まって「あの声だ!聞こえる!」って言って突然走り始めたの。

 

 

「うん。ハーさんちょっと待って?その言い方だとハリーしか聞こえなかったみたいに感じるけど?」

「ええ、私とロンにはハリーの言う()()聞こえなかったわ。」

 

それで、ハリーを追って一階のホールにでたの、ハリーは辺りを見回した後にそのまま2階へ。

 

「ハリーは声を()()()に階へ?2階から音がしたから向かったではなくて?」

「私達には声は聞こえなかった・・・ハリーはキョロキョロと・・・まるでハリーにしか感じることの出来ない何かが近くに居て、それを追って2階へって感じだったわ。」

 

ハリーは「誰か殺すつもりだ!」って叫びながら3階へ、鬼気迫るものがあった・・・。

そして、水浸しの廊下。石にされたミセス・ノリス。壁に書かれた脅迫めいたメッセージ。

 

「早く離れた方が良かったんじゃない?その状況は真っ先に貴方達が疑われる・・」

「できなかったの・・パーティーが終わった生徒達が3階の()()の階段から登って来て・・・私達は逃げ道が無かった。」

 

「でも、おかしな話よね?犯人は何所へ逃げたのかしら?周辺の部屋もあの後先生達が捜索してたのよ?」

「それが分からないから貴方に相談してるのよ~」

 

ため息と共に項垂れるハーさん。

その他の生徒達からするならばハロウィンの会場にはハリー達の姿は無く、ゴースト達から離れた後から発見されるまでアリバイは無し。逃げ場がない状況での第一発見者と・・・・

サラサラと黒い背表紙のメモ用紙に犯行時の状況を書き込みながら情報を整理する。

 

「もう、ハリーが犯人でいいんじゃない?「それ、本気で言ってる?」いや、ちっとも!!」

 

犠牲になったミセス・ノリスは未だに石のまま。マンドレイク回復薬が出来るまで慎重に()()

少なくてもハリーにはダンブルドアが解呪出来ない様な呪いを使えるとは思えない。一年の時、一緒に禁書コーナーに立ち入った事があったけど・・・それを踏まえても不可能なんじゃないかな?

 

「強力な呪いである事は確かね。教師陣、少なくても上級生と思うのが妥当。2年生になったばかりの生徒に使える呪いとは思えない。」

「伝説の通り、秘密の部屋の怪物の仕業って線は?」

「犠牲になった者は、スクイブであるフィルチの飼い猫、そしてマグル生まれのコリン・クリービー。いくら怪物が強力でも飼い主の指示に従うものじゃないとね・・・継承者は選別がしたいのであって()()がしたいわけではない。」

 

「私からすれば殺戮も選別も同じ事よ!」

「そうね・・・」

 

問題はどうやって情報を仕入れたか・・・

「ところでハーさん、貴女なら今年の新入生の家系を把握してる?」

 

純血、混血、マグル生まれ、様々な生徒が在籍している。今となっては純血よりも混血の家系が多い、そしてそれらは家名が変わるのも()()()()()

その上で他の寮の生徒を。しかも、情報の少ない新入生の出生を、他の者に自身の目的を悟られることなく知る事は可能なのだろうか?

 

「どちらにせよハリーではないのは確かね。今は情報が足りないけど。」

「何か分かったら教えて頂戴。それと、ジェーンもいい加減寮に戻って来なさいよ!例え貴方が標的じゃなくても偶然犯行現場に居合わせてしまったら命の保証はないのよ!?」

 

「分かってる・・・分かってるよ・・・」

「なら「今はレイブンクローの談話室にお邪魔してる」なんで!?

 

談話室に入る条件は鷲の彫刻が出題するなぞなぞに答える事。逆に言えば質問に答えさえすれば誰でも入ることは出来るのだ!

当然追い出そうとするレイブンクロー生もいましたが・・・まぁ、知識を誇りとしているレイブンクローは知識で勝てないと分かると静かになりましたよーっと。

 

「色々と都合がいいのよ・・・・」

「私は貴女の事が心配で」

 

思い返すと私も何故ここまで意地になってるのだろう・・?ただ・・・

「ロンが石になったら戻ってくるよ」

「冗談でも言わないでよ!」

 

このままでは釈然としない。

 

「貴方達の立場は第一発見者になるように嵌められた時点で危ういの。これ以上、周囲から怪しまれないように気を付けてね。間違っても犯人探しなんてしないように!」

 

大勢の生徒、優秀な教師達、世界最高とまで言われるダンブルドアを出し抜いての犯行。

犯人が一筋縄で捕まるとは思えない。

 

 

 

ーーーーーーーー

ハーさんと別れ、廊下を歩く。

 

「目立ちたがりのポッターから離れたと思ったら、『穢れた血』の次は『血を裏切る者』ときた・・・付き合う相手は選べと列車内で忠告したはずだが?」

 

広大な城内、寮が違えば当然行動する範囲も変わってくる。それでも()()出会うというのならそれは()()なんじゃないかな?

『穢れた血』はハーマイオニーの事、ならば『血を裏切る者』は誰の事を言ってるの?

一瞬の逡巡、普段なら聞き流す筈の()()が頭の中に残ってる。

 

それを好機とニヤニヤ笑いながら両手を広げ演説を始めるマルフォイ。

 

「ご忠告どうも。それで、わざわざ自虐ネタを言うために一人で付け回してたの?マルフォイ」

「なるほど、気づいてなかったのか。まぁ、そんなことはどうでも良い。」

 

「『継承者』の標的となる出来損ない達と共に居るのは何故なんだい?『類は友を呼ぶ』つまりお前も『穢れた血』なのかい?」

 

「貴方こそ()()()()の選定かしら?おっと失礼。貴方は生徒を襲うなんて大それた事なんて出来ないよね。情報収集の使いパシリ・・・お勤めご苦労様です。」

 

互いに杖を抜く。ジリジリと間合いを測るように睨み合いながら歩を進める。

 

「僕こそが()()()だとは思わないのかい?」

「そんな軽口を聞ける時点で貴方ではない。こんな短絡的な行動をとるのも自分が一連の犯人でないから、だから捕まった所でなんとでもなると思っている。そうでしょ?」

 

ならば、何故私に余計な干渉をするのか?

 

「きっと貴方は何所の馬の骨かも分からないぽっと出が目立っているのが気に食わないだけでしょ?」

 

まるで癇癪をおこす子供のようだ

 

互いに杖を相手には向けていないがチリチリと張りつめたような空気が一触即発の状況を雄弁に語っていた。

 

「純血ってそんなに御身分が高いものなのかしら?」

少女は問う

 

「当たり前だ。貴族は平民達よりも優れているのが世の理」

少年は『そんなことも分からないのか』と自慢げに語る

 

「良いこと教えてあげる。」

 

かつて遥か昔、今の様に雁字搦めの法が無かった時代。

人々は自身の自由の為に個人の力を使用していた。でも、その自由が他人の自由と重なり合った時、何が起こったのだろうか?

様々な思惑はあれど結局、万人による万人に対する闘争が始まった。

 

奪い蔑み殺し合う。

やがて争いに疲れ果てた人々は、個人が力を行使する事を禁じ代表者に自身の力を献上する事にした。

力が無ければ争いは起こらない。互いの主張は公正公平の元、代表者に決定してもらう。

ならば、もし自治区外のよそ者が攻め込んできたら?その為に市民は統治者に権利を譲渡したの

故に、代表者の持つ権力は内部の混乱を治めるものであると同時に()()から民を守る為にあるべきもの。

 

「おわかり?それが貴族であり王であり国家であり法なのよ。責務を果たさず権力の上でふんぞり返るだけの貴族にいったいどれほどの価値があるというの?」

 

やり場のない怒りで目の前がチカチカする。

そう、何の役に立たない者達。居ても居なくても問題ない害虫なら・・・・

 

「別に殺しちゃってもいいよね?」

 

 

杖を振り上げる

 

流れるように・・いつもと同じように()()()軌道を杖でなぞる

 

当たる事のない狙い?この魔法は命中する。放つ前だが確信へと変わる

スローモーションのように流れる景色、正面のドラコが驚きで口を開け間抜け面している様を鼻で笑いながら呪いを唱える

 

 

「アバダ「エクスペリアームス 武器よ去れ」

 

自身の手から弾け飛ぶ杖、衝撃で地から足が離れそのまま後方へ。

再び廊下に()()()着地すると同時に通常の時間へと速度を戻す世界。

 

「おっと、大丈夫ですか?私とした事が力加減を間違えたようですね。それは良いとして・・・生徒同士の私闘は禁止されていますよ?今回は未遂ということで目を瞑りますが、例の事件で周りが敏感です。くれぐれも()()()()()()()()()

 

「ミスター・マルフォイ。もうすぐ授業が始まります、先に行きなさい。私はこの子を医務室に運びますので」

 

 

ーーーーー

 

「医務室は必要ないです。」

「そうですか、無理はしないで。立てますか?」

 

差し出された手を取る。

なんで私は・・・?この程度の事で人を殺そうと思ったのだろう・・・

 

「ありがとうございます。ロックハート先生が間にあわなければどうなってたかと思うと・・・」

「ええ、私だってカッとなる時もありますですので。ええ、学生時代の時は良く友人達と呪いをかけ合ったものです」

まるで他人の怒りが自身の中に渦巻いている様な?

大したことではないとウィンクするロックハート。

違う!私は私の意思で引き金を引こうとした。

「ああ、ミス・ウィルソン。これは君のかい?」

先生の手にある黒い背表紙のノートが目に入った。

 

 

「拾い物です、図書室の本の隙間に挟んでありました。中には何も書いてないので持ち主を特定しようにも出来なくて。とりあえずメモ代わりに使ってたところです」

「では、私の方から持ち主に返しても?」

 

ヒラヒラとノートを振りながら満面の笑みを浮かべる教授。・・・別に私のってわけでもないし大丈夫だけど

 

「では、返却お願いします。それと・・その本、あまりいい物とは思えないので気を付けて」

例えるなら禁書コーナーに並ぶような本達の様な歪な気配。

開くと本が絶叫するなんて序の口、表紙を触るだけで手が焼け爛れる物や、開いたら最後、読み手を本の中に引きずり込む様な物まで。

思い返すと、そんな邪悪な物と同じような気配があの本にはあった。

 

「ご忠告有難う。では、良い一日を!」

だけど、きっと先生の前にはどんな邪悪な物も尻尾を巻いて逃げていくんだろうな・・・そう思えてしょうがない。

癇癪を起し無差別に殺戮するのが革命や聖戦というのならば私はそんなものは望んでいない

忘れるな「私が望むのは復讐・・・」

 




ミセス・ノリス:石
コリン:石

例のノート:図書館の本の隙間に挟んであったよ!もはや時限式無差別テロ

レイブンクロ-寮:鷹を模した彫像が入口、彫像の問いに答えれれば誰でも入ることは出来る。そんな寮の雰囲気だからこそ他寮の生徒が平然と居座っていても(口論で追い返せないような相手なら)見てみぬふりをしている


時間的には決闘クラブの前


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君の名は?

題名に特に意味は無い(`·ω·´)
今回少し長いかも!



『やあ、君の名は?』

『こんにちは。私はジネブラ・モリー・ウィーズリー貴方は?』

 

最後に会話をしたのは一体いつになるのだろう?

今が()()なのか、最後の記憶がいったいどれ程昔の事なのかも分からない。

 

『僕は、トム・リドル。この日記のを作った最初の持ち主だよ。ところで、この日記を何処で手に入れたの?』

『わからない・・・私が購入した教科書の間にこの本が挟まってるのを見つけたの。』

本音を言うならば誰が何処でこの日記を手に入れようが関係ない。どのみち()()()同じになるのだから。

 

『そうか、前の持ち主と文通したのは何年も前になるのだろうし・・・良かったら文通のつもりで僕にこれまでの事を教えて欲しいのだけど。』

しかし、持ち主が変わったというのに理由もなく無警戒で近づく者を信じるかと言われればそうではないだろう。

既に持ち主が所有権を放棄してると臭わせ、紛失物を使用しているという事実から(自身の所有物を使う)へと認識を昇華させていく。

普通の会話から情報の断片を抜き取り、現在の状況を推測する。相手の信頼を得て、魂を抜き取り、自身のものへと上書きする。

  ・

  ・

  ・

 

『ハリーって本当に素敵なの!『ハリー?君の想い人かい?』あー・・・ハリー・ポッターよ!若くしてあの()()()()()()()()()()()()()()を打ち破って世界に平穏を与えた英雄よ!』

『彼って本当に素敵なの!英雄って自身の事を特別だと鼻に掛けるような態度をとるのが普通じゃない?でも、彼は誰よりも勇敢で偉大な事を成し遂げたのに一切そんな素振りをみせないのよ。彼の笑顔を見ると胸が高鳴って上手く話す事もできないの・・・・それでね!彼って・・(以下省略)』

 

つまり、纏めると

・現在はこの日記が出来た時からおおよそ50年後

・未来の自分は宿敵、ダンブルドアを抑えて魔法省を掌握

・征服まで後一歩のところでハリー・ポッターという赤子に敗れた。

・昨年、賢者の石を使い帝王の復活を試みた死喰い人を撃退

・ハリー素敵

・ハリーカッコイイ

・ハリーしゅき

 

『聞いてよリドル!ハリーがね・・・』

そして今日もリドルは(半ばうんざりした気持ちで)少女の恋愛相談を受ける。

 

  ・

  ・

  ・

『ハロー、ハロー?』

『やぁ、君は誰?』

 

『貴方を拾った者よ。』

違う筆跡。明らかに()()警戒した素振り。何よりも第一声に『ハリー』と言う単語が出てこない。

例え相手の姿が見えなくても、ジニーとは別の人物がこの日記を開いていると言う事が分かった。

 

『名前を教えて欲しい。君を何と呼べばいい?』

『Joe BloggsでもFred BloggsでもJohn DoeやJane Doeでもいい。好きなように呼べば?』

 

『・・・分かった、匿名さん。この日記は君のものではない筈だ。元の持ち主に返してあげて欲しい。』

『いいよ、持ち主の名前を教えてくれれば届けてあげる。その人にとってはきっとこの本は()()()()()なのでしょうしね。貴方の持ち主(飼い主)は誰?』

 

『・・・・』

『どうしたの?貴方のことだから当然最初に名前を聞いている筈なのでしょう?』

 

答えれば簡単に解決する反面、もしジニーの事をこの持ち主に話せば、現状での唯一の駒を失いそうな胸騒ぎがあった。

『個人情報だ。僕はまだ君を信用していない。』

『いいわ、暫くお話しましょうか。それにしても、ただの紙の集合体の癖にまるで()()()()()()()()()()会話するのね、貴方。』

 

とある方法で人の魂を移した日記。

日記に目はなく、書きこんだ文字で相手を把握する程度。

だが、この時だけは日記の外側の世界でクスクスと面白そうに笑う少女の姿を幻視できた。

  ・

  ・

  ・

『ねぇ、トム?秘密の部屋の怪物ってなんなのだと思う?』

『分からない。僕の在学中にも同じような事件が起きた。とある生徒が危険な魔法生物を校内で飼育しようとして・・・そして失敗して怪物は野に解き放たれた。その際に女子生徒が1人犠牲になった。』

 

『それでは禁じられた森に潜んでいるとか、繁殖した一部が餌を求めて校内に入ったとか考えられるって事?』

『僕にはその怪物が何なのかも分からない。だから、一概に言えないがその可能性も充分にありえると見ていい。』

 

『襲われる可能性があるならば自衛する為の強力な呪文が必要よね?良い呪いとかご存じ?』

『それならば良い呪文がある・・・』

  ・

  ・

  ・

 

Gilderoy・Lockhart

 

色紙にサインを描くように記された文字。

日記に書き込まれた見慣れない筆跡にため息が出そうになる。

前回の匿名希望の持ち主は此方が怪しい素振りを見せたら即刻日記を破棄するだろうとは感じてはいたが、どうやら予想よりも早くその時が来たようだ。

互いに腹の探りあい。とてもやり辛い相手はではあったがもう少しで掌握出来そうと目処が立ったとたんに()()持ち主が変わったのだ。

 

(また最初からやり直しか。)

疲労を滲ませながらも『君は?』と返答を返す。

どの道、現在は日記()の姿である以上、相手を選ぶことは出来ないし心を通わせない事には何も始まらない。

 

『おや?私をご存じない?勲三等のマーリン勲章を授与、闇の力に対する防衛術連盟の名誉会員、週刊魔女のチャーミングスマイル賞を5回連続受賞。魔法界で知らない人など居ない偉大な魔法使いですよ?』

 

ジニーがハリーとの比較によく話題に出す教師の名前だと把握している。

誇張癖がある、ハリーを馬鹿にしている、肝心の授業は大して教える事をせずに魔法生物と戦闘させるだけ。

 

『これは失礼した。なにぶん、本の身で外部の状況が伝わってこないのでね。』

だが、この手の相手は幾分かやり易い。適当に褒め称えれば情報や信頼を簡単に得られる。

 

『良かったら君の武勇伝(物語)を教えて欲しい。』

『ええ、ええ!勿論!ただし私の武勇伝を話す前にこの本の事が知りたい。』

 

トムは首を傾げたい気持ちだった。本の身でしかない自分の一体何が知りたいのかと。

 

『加熱した硫酸への投入、1時間に及ぶ炎での炙り、呪いによる切断試験、水中に投入後の全方位爆破による衝撃波にすら耐えれる本なんて私は知らないので・・・いざ開いてみたら自身の事をただの()()等と自称するではありませんか。』

 

『一体なんて事をしてくれたんだ!?』

ただの()にする仕打ちではない。

 

『ホグワーツにはとても危険な魔道書が保管されているので。しかし、最後まで耐え抜いたのはこの本が初めてです。』

『そんな事を図書館の本で試そうとするな!そもそもなんでこの本が呪物扱いにされているんだ!ふざけるな!』

『知識を授けるわけでもなく、ただ読んだ相手を害するだけのものを書籍とは言えない。そんな物、最初から()()()()()方が世の為だと思いませんか?これだけの耐久試験を無事に耐え抜いたのです。とても全うな物とは思えませんね。それで、()()()一体なんなのですか?』

 

『・・・・』

『だんまりですか。それもいいでしょう。』

 

話し合いは不可能。最初から他者を害するものとロックハートは決め付けている。

何故?

ジニーの話ではただの目立ちたがり屋。とてもこの本の正体を見破れるような人物ではない筈。

ならば・・・

 

そこで一人の少女の姿が脳裏をよぎる。

 

『(あいつか~~~~!!!!)』

 

『ですが、困った事に貴方を処分する方法がないのですよね。』

『・・・・・』

 

焦る必要はない。どの道この本を破壊することなど出来はしないのだから。

   ・

   ・

   ・

 

『ハローハロー?今、貴方にぴったり場所にやってきました!』

『何処にいる?』

 

『とある島国では倒すことの出来ない相手を炊飯器の中に封じ込めて深海へと沈めるという封印方法があるようです。私もそれに見習おうと思います。短い間でしたが君には存分に楽しませてもらいました。これでお別れとなりますが、これまでの蟠り(わがかまり)も水に流そうではありませんか。』

 

『一体何をする気だ?』

『はるか昔から臭い物には蓋をしろや、汚物は消毒だなどと言うではありませんか?塵は塵に。塵に過ぎないお前らは・・・塵に還れ。

 

『・・・おまえ、まさかっ!!?』

『やめろ!やめるんだ!』

 

何かを感じ取ったのか日記の白紙のページに高速で文字が現れては消えて新たな文章を次々と映し出していく。

『チクショウ!!ロックハートーーーー!』

 

最後の断末魔の様な文字列を眺めながら、

私、ロックハートは日記を女子便器の中に突っ込みレバー(トリガー)を引いた。

 

「そして、世に平穏のあらんことを。」

上機嫌に故障中の誰も居ない女子トイレから立ち去るロックハート。

 

斯うしてホグワーツの平和は偉大なる教師、ロックハートの活躍によって守られてのである。

・・・とある配管内に潜むゴーストが親切にも便器の水を逆流させ、本を排出させたり、便器の水で塗れた日記を躊躇いなく拾い上げ、開こうとする男子生徒さえいなければの話だ。

 

 

ーーー

 

「さて、情報を整理しましょうか。」

 

時刻は10時。

11時からグリフィンドールVSハッフルパフの試合が行われる為か図書館内に居る生徒もまばら。

本の番人であるマダムも姿が見当たらない。

(集団行動が基本となった今、クィディッチの試合で過疎となる図書館を閉めるのも道理か・・・)

 

防音に気を使わずに会話が出来るのは利点ではあるが、いつも以上に静まり返った図書館にいるのはどうにも落ち着かない。

ジェーン自体も何度となく試合中に『禁書棚』に忍び込んで閲覧しているのだがこの日ばかりは胸騒ぎがとまらなかった。

 

「人が居なくて落ち着かないのも分かるけど、話をしないことには進展は見込めないよ?」

きっとハーさんも同じ心境なのだろう。キョロキョロしているハーさんを諭し、議論を始める。

 

「まずは最初の犠牲者、ミセス・ノリス。飼い主であるフィルチさんはスクイブでありその関連で狙われた可能性がある・・・って見解の生徒が多数だけど、ハーマイオニー・・・貴方はスクイブだって知ってた?」

 

「いえ、魔法を使っているところを見たことがない程度。だけど、それを言うならハグリッドだって魔法を使えるって知っている人は少ない筈よ」

「そうね、本人もスクイブだって事は隠していたでしょうし、多分在学中の上級生でも事件前に知っていた人はいないはず。そうでしょ?赤毛の双子が知った暁には学校中にひろまっている筈ですもの。ハグリッドに関しても・・・たしか魔法の使用を禁じられているんだっけ?実際に目撃したハリーや教員以外はフィルチと大して違いが分からないはず。」

 

どうやって情報を知ったのかしら?と首を捻るハーさんに次の事件に進めましょうと促す。

 

「次の犠牲者はグリフィンドール寮所属、コリン・クリービー。彼に関してはあまり隠してはいなかったってのが痛いところね。ハリーのお見舞いに医務室に向かう途中で怪物に遭遇した。因みにご両親が非魔法族って事、貴女は知っていた?」

 

「一応、私はハリーの近くに居たしね・・・」

「それじゃあ、もしも貴方が他の寮に所属していたならば?」

ハーマイオニーの立場でコリンがマグル生まれだと知っているのは()()()()()()()()()に居た事でコリン自身が打ち明けた点が大きい。

ならば、その他の寮だったのならば同じ様に情報を入手できていたのだろうか?とハーさんに問う。

 

「彼はマグルのカメラを持ち歩いていたからきっと・・「魔法界にもカメラは存在するしマグルの骨董品を集めるのが好きな純血の方も私は知っているよ?それだけでは決定打に欠ける」」

マグル好きな純血(変わり者)も居れば、ハリーのようにマグルに育てられた魔法族も居る。持ち物や嗜好品の傾向だけで標的を決定するのは早計ではないのだろうか?

仮にも純血主義を掲げて襲撃を行っているのに、万が一()()()()()()()()()()()()()()場合・・・そもそもの前提が破綻する事になるというのに・・?

 

「現時点での最後の犠牲者。ジャスティン・フィンチ=フレッチリー。彼の出自を知っている人は?」

「私は今年最初の薬草学での自己紹介の時にマグルの名校の名前がでたからそこで。それから決闘クラブの後はハッフルパフの中でジャスティンにハリーから隠れるようにと話になってたらしいわ。」

 

「つまりハーさんは彼の事を知ったのは今年に入ってから。丸1年間彼の出自を知らなかったって訳けね。いいえ、それが普通なの。」

 

ハーさんも納得したのか頷いた素振りを見せた後に続ける

「学年、所属寮が違えばそれだけ情報収集が困難になるって分けね。事件が起こってしまったら情報は更に入手しにくくなる。『貴方はマグル出身ですか?』なんて聞いて廻るお馬鹿さんなんて居ないでしょうしね。それじゃあ上級生の可能性は?今まで情報収集していたリストアップしていた・・・いえ、違うわね」

 

「そう。被害者は1~2年。上級生は同じ寮に所属してないと下級生の情報を知る事が難しい。コリンが襲われた時点でマグル生まれの生徒は最大限の警戒をしていたのでしょう?ジャスティンに関しても()()()()()()の中で隠れるように話題が上がっていた程度。もし、上級生が前々から計画をしていて、実行に移す時を待っていたのなら・・・コリンにしてもジャスティンにしても不確定要素が多い生徒を標的にするよりも確実に出自の裏が取れているリスト入りした上級生から襲う筈よ。」

 

マグル生まれの排除。

それは行動方針であり枷である。

万が一間違って純血の生徒を襲ってしまったら?その時は継承者は一体誰の支持を得ようと言うのだろう?

間違えなどあってはならない最低のライン。それを簡単踏み越えようとしているように思えてならない。

 

「それじゃあまるで・・・」

「『正直、相手が誰でも良かった?』きっと自称継承者さんは本当の意味で選別する気は無いみたいね。選別という看板に隠れて本当の狙いは別にある。そしてこの犯行は長い年月を掛けて計画されたものではない。でなければマグル生まれ()()()()()()程度の情報で人は襲わない。」

 

「そう・・・それじゃ、実質的に純血だろうと混血だろうとマグル生まれだろうと、都合が悪くなれば切り捨てるかも知れない人物って訳ね・・・」

「うんうん、己の掲げた看板すら守ろうとしないただのクズよ。だけど、今の時点では此処までね。これ以上は絞るのは難しそう。」

 

ハーさんとの会話は楽しい。本当は話に来た段階である程度案が纏まっている。

彼女がほしいのは裏付け、確証、それに対する反対の意見。

思考が似ているのかとんとん拍子に会話が進んでいく。

 

「ジェーンは教員、ハッフルパフ。グリフィンドールが怪しいと思う?」

 

正直犯人を特定までは難しいと思う。だけど状況証拠から考えるならば・・・

「仮定として継承者がスリザリン所属だとするならば・・・スリザリンってだけで情報収集は困難、だって皆警戒しているもの。それと、私は今レイブンクローの寮に居座っているけども彼らでもなさそう。」

 

レイブンにもマグル生まれの生徒は居た。寮でも常に友人と行動していた。

周りの人も近くに保護対象が居れば自然と視線は其方に吸い込まれていく。

監督生も他寮の私が怪しい行動をしないか監視していたし・・・つまり、レイブン内の生徒は皆、自寮のマグル生まれの生徒を知っている。

それでも被害が出ていないのはレイブンに継承者が所属していない、尚且つ()()()()()()情報が入手しずらいからなのか。

 

「なんで分かるのよ?それって開心術ってやつ?」

「言葉にしなくても身体は雄弁に真実を語るってやつですよ・・・」

 

開心術が心を読み取る術ならば、私の行っているのはそんな上等なものではない。

一定のストレスや揺さぶりを掛けて無意識で行われる身体の動作から相手の真意を読み取るマグル式のもの。

 

「魔法使いって心とか魂を重点的に考えているからか心を閉ざして読まれないようにとか努力しているみたいだけど・・・もっと隠すところはあるものよ?」

「貴方が味方で良かったって心底実感できたわ・・・」

 

レイブンクローとスリザリン。全校生徒のうち半分が候補から外れる。残る可能性がグリフィンドール、ハッフルパフの2つの寮。

 

それはさておき、

 

「ハーさんはもう、怪物の目星は付いたのでしょう?」

「ある程度ね・・・」

 

うんうん、流石ハーさん仕事が速い。

 

「とりあえず、まずは私から候補を挙げていこうかしら。石化に関する情報、それに纏わる怪物を魔法界、マグルの伝承からピックアップしていくね」

「まずはメドゥーサとバロールこれは神話ね。流石にこれは除外。理由は継承者程度が従えれる物ではないって事。怪物ではカトブレパス、コカトリス、バジリスクが有名ね」

 

うん、ハグリッドが好きそうな名前が出てきたね。

 

「邪瞳か・・・なるほどね。動きの緩慢なカトブレパスは除外、となると・・・バジリスクか。」

「魔法生物規制管理部に報告すれば唯でさえ危険生物指定されているのよ?即時に魔法騎士連盟に話がいって討伐隊が結成される事になるわ。」

「ただし、当局を動かすにはまだ証拠が足りないと・・・「残念ながらね」」

 

 

「・・・ねぇ、時間いいかな?」

推理が纏まって一息ついたタイミングで本棚の列から顔を出したジニー

 

「もうすぐクィディッチが始まるよ?」

時計を見ると10:20分を廻っている

 

「あー集団行動だったね。ハーさんはもう少しここで調べ物があるみたいだから私が一緒に競技場に行くよ。ハーさんは・・・丁度もう一人図書館に居る人もいるしその人と一緒に来て?」

 

え?って顔をしているハーさんを置いて私はジニーの手を引いて図書館から出た。

 

 




ガバガバ推理?
本当に・・・・・すまないと思う(`·ω·´)

レイブンクローのシンボルは鷹でしたっけ?
でもレイブンって渡り鴉のことだったような・・?


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バジリスクタイム!

元々前話と一緒にするつもりが1万文字オーバーで急遽分割!



「静かね・・・もう生徒は皆、競技場に行ったのかしら?」

 

静かになった校内。磨き上げられた床材の上をコツコツと2人分の足音だけが一致のリズムを奏でていく。

ジニーが先頭、私はその後を付いていく形で広い校内を早足で歩く。

 

「ねぇジニー、私とハーさんが図書館で話していた声って結構響いてた?」

「分からない、私今着たばかりだったし。」

 

そう、それじゃあ私達を呼びに行くためだけに()()()図書館に訪れたってわけね?

 

「ねぇジニー、最近体調が優れなかったみたいだけど、もう大丈夫なの?」

「大丈夫よ。心配してくれてありがとう。」

「そう?ってっきり体調が悪くてギリギリまで寮に居たのだと思ってたわ。」

 

だって()()()()ジニーなら1時間前には競技場に入って席を取っていてもおかしくはないもの。

 

「ねぇジニー、もうすぐハリーの試合で急ぎたい気持ちも分かるけど、走っている所をフィルチさんに目撃されたら大事な試合の間、ミスターの事務所に監禁される事になるよ?」

 

「そうね・・・でも大丈夫。此処には誰も居ない。」

「でしょうね。だって此方側は競技場へ向かう道ではないもの。」

 

ブーツが石を叩く音から湿っぽい水気を帯びたものへと変わった・・・

進行方向には水道管を壊したのか大きな水溜りが出来ていた。

 

(その割には水面に波紋は無い・・まるで意図的に配管を壊して水を出した後に修理したみたいに?)

波のない水面は窓から差し込む日光を反射してまるで鏡のように廊下の天井を写していた。

 

「それじゃ、此処が終点って事なのね。そうでしょう?リドル」

 

「何故最初にフィルチさんを襲った?ってずっと気になってたんです。貴方にとっては他のマグル生まれの生徒を襲うよりもフィルチさんを狙う方が確実だったのでしょうね。だって、最初に切れる手札がそれしかなかったでしょ?」

 

仮に生徒の出自を知っている教員ならば()()事件を起こす必要性などない。

なんなら去年事件を起こせばダンブルドアの対処能力を上回る事ももしかしたら出来たかもしれない。

 

「不確かな情報で標的を決めざる得なかった・・・だって意思を持ったのが最近だったのだから・・」

「ご名答。ジェーン・・・いや、匿名さん」

 

小さく拍手をしながら振り返るジニーの姿をしたような他人。

その両目は硬く閉じられているのをジェーンが確認したのと同時に、後ろの空き部屋の扉が開いた気配を感じた。

 

「それで?私をどうするつもり?」

「勿論、この舞台から退場してもらう」

 

違う、そうじゃない

 

「今、均衡が保たれているのは秘密の部屋の怪物の正体が不明だからですよ?バジリスクだと感付かれたらたちまち討伐隊がこの学校に押し寄せて来るでしょうね・・・それで、私を絞め殺します?毒牙にかけますか?ヘビらしく丸呑みさせます?いえ・・身重になった図体では怪物が隠れるのには苦労しそうですね。それとも・・・あなた自身が魔法を使って私を殺します?」

 

きっと振り向けば赤い瞳があるのだろう・・・廊下を這う音、水が弾ける音、巨大な気配を背後に感じながらも相手の取れる手段を潰し、相手にとっての勝利条件を限定させていく。

 

「まさか、何も考えずに誘き出したってわけ?貴方・・・脳筋といわれたことない?」

 

背後からシューシューと低い声が目の前で向かい合う少女に話しかけている。

彼女が返答すれば即刻私は死ぬ事になるだろう。だが、そうはならない。

 

「此処は静かね、良く音が通る。もし、戦闘音が響けば誰が駆けつけてもおかしくはない。貴方は罠にかけたつもりだけど、随分分の悪い賭けに出たようね?」

 

杖を取り出しその場でステップを踏む。

足を下ろす度に水飛沫が弾ける。凪いだ水面に波紋を残していく。

 

「もう一つ貴方に悪い知らせよ。」

 

戦闘の気配を感じたのか杖を取り出すジニー。

実際にはクィディッチの試合で校内には誰も居ないのかもしれない。だが、可能性をチラつかせればそれだけで()()()()()()の事を考えざるえない。

そして、その結論を出す前に私から仕掛ける。戦いの主導権は()()握っている。

 

「私の魔法は前には飛ばない!」

担架を切ると同時に小声でディフィンドを唱える。ジニーを狙った杖先から光が漏れ魔法が射出される。

前方ではなく私めがけて・・・

(もう慣れたよ・・・)

 

最初からそうなると思っていて既に身体を背けていた・・・その横を眩い光が通過し鈍い音を奏でる。

のた打ち回り背後の扉や廊下の壁が破壊される音を聞きながら弾ける様に前方のジニーめがけて疾走をした

 

(そもそも挟撃と言えば聞こえはいいけど同士討ちは避けるべき)

バジリスクとの連携である以上どちらかが目を閉じなければならない。最大火力を叩き出せない。つまり、無防備な状態で対峙しないといけない訳だ。

 

ジニーの口から人の言葉ではない音が出た後、少女の目が開かれた。

杖を疾走するジェーンに向ける

 

(盾の呪文かしら?それとも、自慢げに語っていた死の呪文?どちらにせよ・・・もう遅い)

先に杖を振り、呪文を唱え始めていたジニーの身体に衝撃が走った。

 

「私は近距離しか魔法が当たらないの。でも、相手を害するだけならわざわざ杖を振り回す必要なんてあるのかしら?」

 

少女の鳩尾に深く打ち込まれた肘。鈍く何かが折れた音が伝わる。

吐瀉物がジェーン肩にぶちまけられるが構うことなく、一連の動作のように流れるように次の打撃へと移行する。

くの字に折れ曲がったジニーの身体。救い上げるように下から掌底をジニーの顎に添え、ジェーンは更に踏み込みこんだ。

そのままジニーの背後に身体を滑り込ませながら、掌を振りぬく。

 

ジェーンの足を軸に一回転。そのまま地面に叩きつけられるジニーの復帰を待つことなく私は廊下の窓へと駆け寄った。

城の2階。飛び降りれば怪我は免れない。運が悪ければ死亡する。

(だけど、この場にいるよりはマシよ)

 

そもそも私の勝利条件は生き延びて情報を教師陣に報告する事。

術をぶつけ合う決闘など付き合う道理もない。

窓枠に手を掛け一気に引き上げようとした瞬間だった。

 

低い『シュルシュル』という音の後に続けて『ルーモス(光よ)』と詠唱を聞いた。

直視できないような強烈な光。

太陽の光を押しのけて廊下を照らし出した光は、廊下の水溜まりを・・・ジェーンの握る窓を鏡のように映し出していた。

 

・・・・その中に写る瞳孔が縦に割れた黄色い瞳が一つ

「・・・やられた」

 

片目から血を流し、此方を反射した窓越しに睨みつけるバジリスク。

廊下に倒れこみながら光を放つ杖を掲げるジニー

そして窓に映る、半笑いで『してやられた』というような表情をしている自身の顔を最後に私の意識は途絶えた。

 

ーーーー

「ロックハート先生、これをどう見る?」

「そうですね・・・私の見解では犯人は複数居ると見て間違いないでしょう。競技場へと向かう通路で2人、反対側の通路で1人の女子生徒が犠牲になったのですから。僅かな時間に2箇所。大胆な犯行といっても過言ではありません」

 

「手がかりはどうじゃ?」

「今回も同様に・・・しかし、御安心下さい。このロックハートは怪物の正体を掴みつつあります!」

「そうか・・・期待しておるぞ」

 

ーーーー

 

授業以外は寮から出歩く事を禁止され人気(ひとけ)の無くなった校内。

月明かりが窓から差し込む廊下。時折、音も無くゴーストが巡回だけの静かな空間。

 

廊下に四つん這いになって何かを探す男が一人。

男は良く『年老いた老犬』や『ハイエナ』と例えられていた。実際、今の姿を見たものは犬が廊下の匂いを嗅いでいるとしか思わないだろう。

 

「何か手がかりは見つかりましたか?」

その男に向けて私は声をかける。

 

「ええ、今回は奮闘したのか痕跡が至る所にのこっているようでね」

「よければ手がかりをお聞きしても?」

 

男は床に頭を付け土下座のような体勢をとっており、顔だけ横に向け会話に付き合ってやってるといった感じだった。

「わたしゃ、お前さんに情報を提供する利点なんぞ何一つ思い浮かびませんがね?」

「そうですか、それは残念です。ところで・・・貴方がしたいのは犯人探し()()ですか?」

 

男は地面に這いつくばったまま会話を続ける。

やがて、何かを見つけたのか『ニィ』と効果音が付きそうなくらい口元を綻ばせた。

 

「そりゃぁ先生方は一体何が言いたいんで?」

「生徒からは馬鹿にされ、邪険にされながらも職務を全うしてきた。それなのにぽっと出の輩に『出来損ないは不要』とレッテルを貼られたのはさぞかし不満でしょう。もう一度聞きます、貴方がしたいのは犯人を見つけ出す事だけなのです?その、コートのポケットに入っている物は一体何に使うつもりなんですか?」

 

「わたしゃ非力なスクイブなんでね。怪物が出たらひとたまりもないもんで」

「それは結構・・・さて、本題に入りますか。取引をしましょう?なに、悪いようにはしませんよ。私は事件を解決できて貴方は敵を討てる。お互いWinWinの関係です」

 

これまで馬鹿にされてきた。そして、継承者が目指す未来にも自分の居場所は無い。

自身の大切な存在を守れない非力な弱者とあざ笑う糞餓鬼。

やられっぱなしで「はい、そうですか」と納得できるわけでもない。

 

(復讐は蜜より甘い・・・よく言ったものですね)

立ち上がる老犬。ただし・・・目だけはまるで獲物を見つけた猟犬のようにギラギラと輝いていた。

「おまえさんは何を望む?」

 

「我々は個にして群れ。群れにして個・・・・私の望むものは魔法と非魔法のハーモニーです。だから・・・」

「秩序を破壊する者。力を持ち過ぎた者・・・それらは、この世界には・・・・不要なんですよ」

週刊魔女のチャーミングスマイル賞を5回連続で受賞した満面の笑顔で彼に告げた

 

 

 




バジリスクとの戦闘後、辺りの痕跡を消してハーマイオニーを狙いに(ただし、破壊の範囲が大きくて完全には修復復元は出来なかったもよう
イラストいただきました!(n‘∀‘)η
【挿絵表示】


*城の2階って具体的になんメートル!?


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それぞれの想いあるいは信念

「具体的に何か対策は?私は一体どうすれば・・・」

 

マグルの営む極々普通のホテルの一室。窓から見える夜景、道を行きかう人々。

賑やかに車が行きかう繁華街。

頭を抱えて悩みこむ(男性)

その様子を気にする事も無く、少女は私の前、机に置かれたチェスの駒を一つ進める。

 

「戦いはチェスに似ています・・・ほら、貴方の番ですよ。」

 

私はさしてチェス盤を見ることもなく、駒を進める。

自身の置かれてる状況は、このチェスと同じようだ。既に王手を掛けられている状態。再び頭を抱えてブツブツと念仏のように言葉を呟きたい気持ちでいっぱいだった。

「私はこのままでは破滅だ・・騙し続けるなんて出来ない・・・逃げても・・」

 

少女は私の様子にも構うことなく駒を進める

 

「駒は私達。戦いとは()()()()()()()()()を惜しまない事です。相手の逃げ場をなくし、ゲームを終らせるの。」

 

「チェスと私の未来が一体どう関係があるんだ!」

彼女の言葉を真に受けるならば、私は必要な犠牲。誰かの栄光の糧となれと訴えているように感じられた。

私の事など何も気にしていない様な少女の態度に苛立ちを感じる。

 

「チェックメイト。」

「私達は駒です。皆自身のゲームの上で踊っている。キング()が討ち取られたら其処でゲームは終る・・・()()()()()ではね」

 

私のキングが居なくなったチェス盤、少女は終わったゲームにもかかわらず自身の駒を動かして、残った私の駒を詰んでいく・・・

 

「一つの戦場を対極的に見るなら私は駒の一つに過ぎないの。私が詰まれても・・戦いは終らない。」

 

一方的な虐殺は続く。

坦々と私の駒を詰んでいく。まるで戦いはまだ終わっていないというように・・・

 

「勝負が終われば互いが手を取り合って、互いの勇姿を讃え合う?」

最後の私の駒を回収して・・・

 

「そんな未来は訪れない。」

そして、黒の少女の駒だけになった。

 

「話がそれましたね。()()()は全てを見通そうとしている。だから些細な事(貴方の事)・・・ましては、それがプラスになるならば、彼は貴方の地位なんて気にもとめないでしょう・・木を隠すのなら森の中。良くいったものです。隠しきれない悪行があるなら、それ以上の善行で覆い被せばいいの。」

私の人生を些細な事と例えられて苛立ちが増すが、ここで暴れる程自制心が無い訳でもない。

 

「それは良かった・・・」

少女はそうですねと相づちをうち、更にチェスの駒を進める。

既に私の駒は無く、彼女の駒しか居ない盤上。

彼女は自身の駒を進めて自身の駒を殺していく。

やがて、最後の一個になった駒。

 

それを間近に見た私は、信じられないものを見るような目つきで少女を眺めていた。

 

「誰も居ない盤上。これが現実になるのなら悲惨ですね。いったい何時まで戦いは続くのですか?」

 

クフフフと少女の口から笑いが漏れる

「さあね、だけど詰まれた駒は戻ってこない。家族を殺した相手を目の前にして戦争だから仕方ないと納得できる人間なんてごく僅かなんですよ。」

 

だから、戦いは終わらない。

人は人である以上、行き着くところまで進むしかないのだから。

 

「この結末は彼らの夢。彼等が望んだ結末。そして本質なのかもね。」

 

 

さて、英雄殿は何処を目指すのでしょうかね

 

-----

 

年度末テストが始める3日前。

朝食の席でマクゴナガル先生が「良い知らせがあります。」と報告した。

 

耳を傾けていた生徒達は一斉に

「ダンブルドアが帰って来るんだ!」や「継承者が捕まったのか!」

なかには「クィディッチが再開されるんだ!」とそれぞれの『良い知らせ』を先生の報告を聞く前から想像し勝手に喜んでいた。

 

クィデッチ狂いの1人を除いて、大半が継承者に関するもの。

連日の犯行を止められなかった責任として、ダンブルドアを停職。ハグリットは容疑者としてアズカバンへと連行された。

最も偉大、そして最強と言われている校長が不在の今、次の犠牲者は誰になるのかと・・・皆が皆、精神をすり減らしながら日々の生活を送っているのだ。

『良い知らせ』で自身への脅威が無くなったと、そう想像してしまうのも仕方の無い事だと思える。

しかして、マクゴナガル先生の報告はその『願い』とはどれにも当てはまらないものだった。

 

「スプラウト先生の話では、とうとうマンドレイクが収穫できるとのことです。今夜、石にされた者達を蘇生できるのでしょう。言うまでもありませんが、そのうちの一人が誰、又はナニに襲われたのか話してくれるかも知れません。この恐ろしい一年が犯人逮捕で終わる事を期待しています。」

 

歓声が爆発した。

当然だが、スリザリン寮のドラコは面白くなさそうにしていたがハリーにとってはそんなことすらどうでも良かった。

 

「ハーマイオニーさえ戻れば犯人なんてすぐに捕まるさ!」

 

ロンがここ一番嬉しそうな顔で話す。

その背後、教員席の端。

大歓声の木霊する中、一人だけ渋い顔をしているロックハートの表情を見たハリーは何故か腑に落ちない気持ちに襲われた。

その違和感が一体()()()()()()分からないまま期末テストが始まり・・・

 

「生徒は全員、それぞれの寮に戻りなさい。教師達は大至急、職員室にお集まりください。」

とマクゴナガル先生の全ての廊下にも行き渡る様な魔法で拡声された声が響き、まだこの事件が終わっていない事をハリー達に告げた。

 

 

────

ハリーの生涯で最も最悪な日と言えるかもしれない。

テストは中止。全校生徒が各寮に帰され、生徒が溢れかえっているにも関わらずこんなに静かな談話室は初めてかもしれない。

ウィーズリー一家がマクゴナガルに呼び出され、その中に居る筈の少女が居ない事、普段ならば「良かったな!もうすぐ回復薬が出来る頃さ」等と陽気に笑っていただろう双子ですら押し黙っている事からグリフィンドール生は内容を聞かずとも何が起こったのか正確に把握していた。

 

パーシーは両親に梟を飛ばした後は部屋に閉じこもり、双子も何もすることが出来ずにジッとしておくのが堪らなくなって寝室へと上がっていった。・・・きっと一睡もすることは出来ないだろう。

 

「なあ、ハリー」

この後に続く言葉はハリーにも予想は出来た。

 

「ほんの少しでも希望はあるだろうかーーーつまり、ジニーがまだーーーだってそうだろう?ジニーは秘密の部屋に()()()()()()()だけ!まだ()()()()とは書かれていなかった!」

ジェーンが聞いたら、犯人が残した犯行声明を真に受けるなとロンを怒っただろうな、とぼんやりと今では懐かしく感じる友人の姿を思い浮かべながらロンの話に耳を傾ける。

ジニーが生きている可能性は限りなく低い。しかし、ロンの言葉を否定などハリーには出来る筈もない。

ハリーにとっても友人の家族。夏休みの間共にすごした、もはや()()()()()()()()関係になってしまった。ほんの少しでも可能性があるのならば出来る限りは手を貸したいという気持であった。

 

「ロン・・・僕たちでは無理だ。せめて戦える人が居ないと・・」

「先生達は!?僕達は秘密の部屋への入口を知っているし、怪物の正体も知っている!」

 

ハーマイオニーがが残した手掛かりから怪物の正体を知り、入り口と移動手段を予測した。

この情報を教師に伝えれば手を貸してくれる筈とロンはまくしたてる。

 

「ロン・・・寮から出ていた事で減点されて強制送還するのが目に見えてる。話なんて聞いてもらえないよ、ましては相手がバジリスクならば尚更。」

「ロックハートなら・・・仮にも闇に対する防衛術の教師で魔法戦士なんだろ。」

 

ハリーは思った、さんざん馬鹿にしてきた相手を案に出す程ロンには余裕がないのかと

誰からも引き留められることもなく、談話室を抜け出してロックハート部屋へ。

 

「逃げてなければね」

扉をノック。

しかし、ハリーのノックは響くことはなかった。

鍵の掛かっていない扉が開き、かつては自身の肖像画や本、ファンレターで溢れかえっていた部屋は最初っから何もなかった(そう)であったかのように生活感のない空っぽの景色が広がっていた。

 

「考えれば予想は出来た。奴は怪物の正体を知っているだの、秘密の部屋の場所を知っているなんて言ってたんだ。ジニーが攫われて責任を取って()()して来いって他の先生達に言われて尻尾を巻いて逃げたのさ」

 

「じゃあ!僕たちは一体どうすればいいというんだ!!」

教師陣は当てにならず、他の生徒達は手を貸してくれるとは思えない状況。

正確には怪物の正体が分かっていても、その危険度の高さから迂闊に踏み入る事が出来ない。

そして、生きているかどうかも分からない寮生の為に自らの危険を顧みずに立ち向かおうとする者がいないというだけの話。

 

簡単に言うならばリスクに対するリターンが

「割に合わない・・・」

 

ハリーの呟きを聞くこともなく、ロンは相変わらずロックハートの部屋をウロウロと目的もなくさ迷い、状況を打破するためのきっかけを探しているように思えた。

 

「ロン・・・」

 

「ハーマイオニーさえ居てくれれば・・・この3人なら継承者も倒せる筈・・・だってそうだろ?去年、力を合わせてあの人の配下を退けたんだ!」

もしもなんて意味はない。ハーマイオニーは襲われ、今も医務室で眠っている。

 

「ロン・・・」

「せめてジェーンがいれば「ロン!いい加減にしろ!自身が何を言ってるのかわかってるのか!」

 

バジリスクの情報を掴んだハーマイオニー。

その同日、ハーマイオニーとは反対方向で怪物と()()になり石にされたジェーン。彼女は穢れた血だったのか?

そうじゃない。ならば何故?

本当はロンも分かっていた筈だ。

 

「彼女はハーマイオニーを逃がすために()()()襲撃者と戦ったんだ!」

 

全て言わずとも伝わるはずと思いを込めてロンを叱責する。

襲われる必要のない人物を巻き込んでしまった事。

「何故ハーマイオニーを一人にした?何故彼女はグリフィンドールから離れた?」

 

ハリーは知っている。

ハリーが継承者ではないかと疑われた同時期にもう一人『怪しい人物』としてジェーンの名前が上がっていたことを。

確かに、自身の所属していた寮には帰らずに行方知れずな事を疑問に思う者もいたが、()()()()ではここまでグリフィンドール生から遠巻きにされることはなかった。

 

「君が彼女を孤立させ、僕はそれを否定しなかった。()()()()彼女を死地に追い込んだんだ!それを自身の都合が悪くなったら彼女なら助けてくれたなんて調子の良い事を言うんじゃない!

 

目の前がチカチカするような感覚、荒い呼吸音、嗚咽。

すがるような目線を向けていたロンは、今は俯き血が滲むくらいに拳を握りしめている。

静かになった部屋でハリーは仰ぐように天井を見上げる。

 

(彼女なら・・・彼女達ならどうしただろうか?)

 

「ロン・・・行こう。」

ロンが望む未来が訪れる可能性は低い

しかし、もし彼女達がこの場に居たのなら一通り叱責した後に、きっと呆れながらこう言うだろうな・・・

 

「まだ、何も終わってはいない。逝くんだろ?僕達の手で終わらせよう。」

 

差し出した手をロンが力強く握り返した。

 

 

ーーーー

 

「それで、わたしゃいつまで待てばいいんです?」

 

老犬は狩人の指示を待つ。

敵の正体も、移動手段も、それがどこに居るのかも当の昔に絞り込めている。

それなのに未だに()()が始まらない事に苛立ちが募っていく。

自身を焚きつけた男が土壇場で臆病風に吹かれたのかと。

 

「まだ最後のピースが揃うのを待っているところです」

狩人はさも当然の様に老犬へ返答した。

 

「根拠は?話を聞くと何でも回復薬が完成したそうで数日中に石にされた者達が元通りになるそうで」

愛猫がもうじき自身の元に返って来るにも関わらず、老犬の声は堅い。

 

「根拠ですか・・・まだ犯人を特定していないにも関わらず犯人へタイムリミットを設けてしまった。犯人に残された時間は何に使います?例えば証拠となる()()を破壊して回る?襲われたと見せかけて失踪、海外へ高飛びでしょうか?それとも、自暴自棄に殺戮を起こしますか?どちらにせよ、我々には止める事は出来ないのです。なにせ、()()()()何も情報を持ち合わせていないのに切り札になりえるカードを()()()()()()()犯人を挑発してしまったのだから。・・・1週間以内に再び犯行が起きるでしょう。」

 

「そうですかい。わたしゃ、この手で落とし前を付けれればその後の事などどうでもいい」

「それは重畳」

 

 

 

 

・・・それで今日がその日ですかい?

 

狩人との合図や連絡などのやり取りはしていない。

それにもかかわらず、老犬は導かれるように自身の事務所、鍵の掛かったロッカーへと手を掛けた。

廊下も教室にも生徒達の声はなく、まるで廃墟の様に感じられる寂しい校内。

真っ赤に燃える様な太陽が地平線に沈んでいく中、老犬は古びたロッカーの中から鉄の筒を取り出し、筒の中にプラスチック製の円柱を一つずつ納めていく。

 

「生憎、わたしゃ出来損ないなんで高貴なる使命とやらはてんでわかりはしねぇんで」

セラミックの板とケブラーが編み込まれたベストを羽織り、

 

「何をやっても中途半端。正真正銘の出来損ない」

自身を鼻で笑いながら黒塗りの鋭い金属板を眺めた後、強化プラスチック製の鞘に納める。

 

「だけど、どうしても譲れないものが一つだけあるんだ」

金属製の野球ボールくらいの球体が納められたポーチを、ベストに設けられた帯に縫うように固定していく。

ロッカーの扉を閉めた男、半年以上使われる事無く放置されたエサ入れが目に止まる。

浅く息を吸い込み、吐き出しながら歯を食いしばる。

一方的に奪われ、馬鹿にされ続けてきた。私が地べたを這いずり回っているというのに奪った当人は何食わぬ顔?

 

「簡単な事だ。」

 

手に持つ筒をスライドさせ、薬室に初弾を送り込む。

 

「死者にとって生者は・・・羨ましくて・・・妬ましくて仕方のないものなんだよ」

 

───憎悪を込めて殺してやる

 

明確なる目的、揺らぐことのない意思。人はそれを復讐と呼ぶ。

 

 

 




原作読み直すとあれ?って思うところがチラホラw
牽制で使う情報もあれば、相手を仕留めるために秘匿する情報もありますがー先生はどちらのつもりでカードを切ったのでしょう?


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そして辿り着いた誰かが捨てた夢の上


ーー悪の芽を摘む者は五万と居ても
      根から絶やそうとする者は一握りしかいないーー


「さて、今年度も残りわずかとなりました。これより皆さんは学期末試験を受け、その後は夏季休暇となります。つまり私が今学期の授業を行うのも今日が最終日となるわけです。」

 

季節はポカポカと陽気の差し込む5月末。マクゴナガル先生が朝食時に行った報告・・・(~マンドレイク回復薬の完成が間近という連絡)で生徒達の緊張が緩んだのか、教壇に立つロックハートの言葉に耳を傾ける者はいなかった。

 

「皆さんの気が緩むのも理解できますが油断は大敵です。」

 

「何故ですか?ポッターのお友達の木偶の坊がアズカバン(刑務所)に連れていかれたから、もう犠牲者は出ないと思いますが~?」

ドラコ・マルフォイがロックハートの話に割り込むように反論を言い、スリザリン生は同調するように嘲笑の笑みを浮かべながらグリフィンドール生が固まる方へと視線を投げかける。

グリフィンドールとスリザリンの合同授業。控えめに言っても雰囲気は最悪だった。

 

犯行を裏付ける証拠もなければ、無実だと証明できる物もない。ハグリットが犯人でない事は理解しているが反論したところで連行された事実が覆るわけではない。

ハリーが憎々しげに顔を歪ませた時、意外なところから助け舟は渡された。

 

「ハグリットを弁護するわけではありませんが皆さんは本当に彼が犯人だとお思いですか?この一年、誰にも見つかる事もなく証拠も残さずに複数の生徒を襲った・・本当にそうお思いですか?」

ロックハートの問いにスリザリン側からケラケラと笑い声が漏れた。

 

「あー、なるほど。君たちは勘違いしている。()()ならば自身に危害が加わらないと?」

 

最初の授業以来、焼きまわしの授業、決闘クラブではスネイプに敗北、虚言ともとれる言動をとる教授・・・いつしか無能と印を押されて誰も耳を傾ける事のなくなった教授。

しかし、今日に限ってはよく澄み渡る声で話す姿に誰も反論すら出来やしなかった。・・・正確には最初の授業の時と同様に、彼に()()()()()()

 

「もしも、更に犠牲者が出たならばの話をしましょう。この学校は自称継承者の言う通りマグル生まれを廃した学校になると思いますか?」

「答えは否。閉鎖され在学生、これより後に入学する予定の者達は他の学校に行くことになるでしょう。」

 

当然でしょう?テロリストが統治する学校に子供達を通わせようとする親が居ますか?

安全は保障すると声明があったところで誰が信用しますか?

魔法省は危険生物の生息する学校をそのままに放置するとでも?

 

「貴方達は別の学校に移動する事になるでしょう。では、歓迎されると思いますか?」

ホグワーツに名家(純血)の生まれがいる様に別の学校にも同じように()()()生徒がいます。

住処を終われて逃げ延びて来た貴方達が別の学校でもホグワーツと同じように伸び伸びと生活が出来ると?

 

「他校の生徒が貴方達に下す評価は侵略者から自身の住処を()()()()()()()()()ただの『間抜け』ですよ。」

 

だから、決して間違えないで下さい。

継承者は短絡的に襲撃を繰り返す愚かなテロリストであり、貴方達の味方になりえない存在だと。

貴方達の未来です。貴方達で決めなさいとロックハートは言い、最後の授業を締めくくった。

 

一年に渡る襲撃事件。ようやく終わりを迎えると誰もが信じてやまない時に彼だけは現実を見ていたのかも知れない……

ハリーは暗い通路を歩きながら平和な日の出来事を思い返していた。

 

 

 

ーーーー

ハーマイオニーの残した推測から怪物の正体を。

リドルの日記から得た50年前の事件、その犠牲者になった生徒が『嘆きのマートル』という事に思い立ったったハリー達は3階の女子トイレへと向かった。

 

「私の死んだ日の事?よく覚えているわ。あの日もオリーブ・ホーンビーに私の眼鏡の事をからかわれてこの部屋に閉じこもって泣いていた時だったわ。声がしたの、外国語だったと思う。とにかく嫌だったのはその声が男子の声だったことよ。」

「私は部屋を出てここは『女子トイレ』だって注意しようと思ったのよ。そうしたらあったの・・・黄色い大きな目が。」

 

マートルはそう言いながら自身が見た『ナニカ』がいた方向・・・何の変哲もない手洗いの台を指した。

ハリー達が隅々まで調べると銅製の蛇口の横に小さく蛇の様な彫りこみがあるのを見つけた。

 

「開け」

 

ハリーの口から人の言葉ではなく、「シューシュー」という音が唱えられた途端に流し台は沈み込み、大人1人が滑りこめれ程の太いパイプが姿を現す。

ロンはハリーと無言で目を合わせ、頷き合った後先陣を切ってパイプに飛び込む。

 

一瞬で見えなくなったロンの姿、未だに落下しているのかパイプから反響して響いてくる騒音。

底の見えない一寸の光の無い漆黒の闇。ハリーもロンの後を追ってパイプの中に身を投げる。

 

城の三階から遥か下層へ。パイプが曲がる度に軽くドスンドスンと衝突音を響かせながら滑走は終わらない。

ハリーが着地地点の心配をし始めたころにパイプの傾斜が平らになり始め、吐き出される様に終着地点から排出された。

 

「ルーモス(光よ)」

杖を掲げ小声で呪文を唱えて、杖の先端に明かりを灯す。

薄暗い洞窟、床には大量の小動物の骨が無造作に捨てられている。

きっとこのトンネルの上は湖があるのだろう。壁はヌラヌラと湿気を含んでおり、床にも薄らと水が張っている。

 

「行こう、何かを見つかたらすぐに目を閉じるんだ。」

 

パキパキと白骨化した小動物の骨の上を歩きながらロンに注意を促す。

怪物の正体はバジリスク。

その邪眼は直視した者を即死させる。

その牙には猛毒が纏われており、咬まれた者は数分としないうちに絶命する。

その体躯は6メートルを超し、人間の大人を丸呑みすることだって可能だ。

 

出会ったら最後、勝ち目など万が一にもありはしない。明かりを消し、息をひそめ通り過ぎるのを待つのが関の山だろう。

ジニーを救出するのが目的であり、怪物や継承者を打ち倒すのが目的ではない。

ハリーは横目でロンに視線を向ける。

緊張で顔は強張っており、ガチガチに硬直した腕、その先には真っ二つに折れ、ステロテープで固定された杖が前方に向けられている。

暴れ柳墜落事件以降、折れた杖は正確に魔法を発動する事もなく暴発を繰り返す。戦力として頭数に入る訳もなく、ハリーは正確に自身達に出来る事を把握していた。

 

・・・・ただ予想外だったのは、トンネルを曲がった先にあった巨大な蛇の抜け殻を見たロンがソレ(脱皮後の抜け殻)を生きた怪物と勘違いして先制攻撃を仕掛けようとした事だろう。

魔法は暴発。杖は爆発しロンと隣にいたハリーを弾き飛ばし、爆風の余波でトンネルの天井が崩落、2人を分断した。

合流するには二人の間に佇む岩は巨大かつ強固、時間だけが過ぎていく。

 

「ロン、先に進むよ。1時間たっても戻ってこなかった時は・・・」

「…分かった。僕はこの岩をどうにかするよ。君が戻ってきた時に帰り道が必要だろう?だから・・・」

「また後で「必ず戻ってこい」」

 

何回もトンネルを曲がり、やがてロンが岩をどかそうと奮闘する唸り声も聞こえなくなった。

緊張状態が長時間続き、全身の神経がキリキリと痛む。

そして歩き続け、ついに巨大な蛇の彫刻が刻まれた石の扉が眼前に広がった。

 

「開け」

 

 

長細く奥へ続く薄明りの灯った部屋。蛇の彫刻が施された石柱が上へと吸い込まれる様な漆黒が広がる天井を支えていて、緑がかった幽明が何本も連なる柱の影をゆらゆらと照らし出していた。

注意深く辺りを見回しながら杖を構えて前へと進む。

数分だろうか?実際にはもっと短かったかもしれない。部屋を進んだ先、終着地点。

壁を背に天井に届きそうなほど巨大な石像の足元に燃える様な髪の色をした小さな姿を見つけてハリーは駆け寄る。

 

「その子は目を覚ましはしない」

後ろから声を掛けられるが構わずジニーの様子を伺う。

体は冷たく、その目は堅く閉ざされている。だが、これまでの被害者の様に石化しているわけでもない。

 

「その子は生きているよ。辛うじてだがね。」

ハリーはジニーの状況を確認すると背後の声の主へと向き変える。

 

「トム・・・リドル」

かつて日記の記憶の中に見たそのままの姿でソレはいた。

 

「ゴースト?「記憶だよ。50年前から日記の中に残された記憶さ」」

リドルが目線を向けた先にいつの日か見た、見覚えのある黒い日記が開かれた状態で床に置かれていた。

 

「君は今、秘密の部屋の中に居るわけだけど驚かないんだね?バジリスクの邪眼は例えゴーストでも活動を停止させるほど強力なのに」

「アレは呼ばれるまで来やしないよ、それより少し答え合わせをしよう。君にとっても悪い話ではない筈だ、話している間だけ長生きが出来る」

 

リドルは杖を己に突きつけるハリーに降ろすように促す。

絶対的な強者の余裕。例え交渉が決裂しても敵対者を粉砕できるという自信。

ハリーがリドルの手元に目を移すとジニーのものと思われる杖が握られていた。

 

「君が継承者なんだね?怪物を操り生徒達を襲ったのも君が仕向けた」

「正解だ。だが、秘密の部屋を開けたのも学校の雄鶏を絞め殺したのも穢れた血や出来損ないの飼い猫にスリザリンの蛇を仕掛けたのは全部ジニーがやった事だ」

 

「まさか「そのまさかさ」」

横たわる赤毛の少女をあざ笑うかのようにリドルは続ける

 

「傑作だったよ、君に聞かせてやりたい。ローブに大量に鳥の羽を付けたおチビさんが「どうしてそうなったか私覚えてないの。ねえ、リドル、私どうしたらいいの?」」

「君がジニーを操って襲わせたんだ!ジニーじゃない!()()()やったことだ!」

「その通り。馬鹿なジニーは日記を信用して心を通わせた。苦痛だったさ、興味の無い色恋の相談だったり程度の低い授業のアドバイスをしたり・・そして長い時間をかけて信用を得て、ジニーのおチビさんの魂を僕の魂で上書きをし始めたのさ」

 

「まるで寄生虫だな、君にはとってもお似合いだよ。だけど知ってる?寄生虫は宿主と共存を選ぶ者もいる。君は食い潰すしか能のない糞虫にも劣る存在だよ」

ハリーは固く拳を握ったまま、吐き捨てるように言った。

 

「その糞虫にまんまと騙された君たちは一体どうなるというんだい?僕の話はこの辺でいいだろう君の話を聞かせてくれ。君は偉大な闇の帝王に2度も逃げおおせた、君にはいったいどんな能力があるんだい?」

ハリーはリドルに応答しながら気づかれないように辺りを見回し勝算を探す

 

「君とヴォルデモートが一体なんの関りがある?」

「まだ分からないかい?」

 

リドルは空中に自身のフルネームを書く、魔法により宙に書かれたスペルに更に杖を一振りすると文字の並びが入れ替わり始める

 

I AM LORD VOLDEMORT(私はヴォルデモート卿だ)

 

リドルの手にはジニーの杖が握られている。

姿は見えないがバジリスクも控えている。

その輪郭が時間が経つごとに次第にはっきりとしていく事にハリーは気づいた。

ジニーは命を削られそれに比例してリドルはより確かなものへと変わっていく。

戦いになるのならば時間を掛けるべきではない

 

「君が僕を襲った時なぜ殺せなかったか、君が力を失ったかを知る人はいない。だけど僕にはわかる、君が穢れた血と蔑んだ母が僕を庇ったからだ!」

「母親が君を庇って死んだのか。それは呪文に対する強力な反対呪文になりうる。結局君は何の能力も持ってない唯の子供で幸運だっただけなんだな。それだけ分かれば十分だ。」

 

「さてハリー、お手合わせ願おうか?」

リドルはハリーに呪いをかける事もなく嘲笑うかのように一瞥すると天にまで届く石像の足元まで歩を進めた。

 

 

「スリザリンよ。ホグワーツ四強の中で最強のものよ。我に話したまえ」

蛇語で紡がれた言葉に連動するかのように石像が稼働しているのが分かる。

遥か上、石像の口が開き始め遂には大きな穴になるのを見ていた。口の中で蠢いたソレがズルズルと這い出し、やがて部屋の床に落ちる振動を感じた。

目を閉じたままでも感じる巨大な何か。ハリーにはとぐろを解きながら此方を凝視しているバジリスクの姿を肌身で感じる。

 

「そいつを殺せ」

 

埃っぽい床を伝いながら巨体がハリーめがけて接近するのを感じ

ハリーは死を覚悟した

 

 

 




原作~一応進めないと場面が飛んでしまうのでw
次話やっと戦闘~(*'ω'*)


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数えきれない感傷と忘却の夜に

ーー貴方は愛を知らないと言います
ーー貴方は自身の力を絶対なものとして他者を信頼する事はなかった
ーー貴方は理解をするべきでした
支えてくれる者達の献身を、共に歩を進める同士達の信頼を

ーーだから貴方は手にしたソレにも気づくこともなくすべてを失ったのです


「さてさて、蛇というものは厄介なものですね。瞼が無いので視線が切れる事が無い。バジリスクの生態がどのような物かまでは知りませんが、ピット器官の様に赤外線で動物を認識する事が出来るかもしれませんね。今回は配置について、情報を聞き出すだけ聞きだした後にフラッシュバン(閃光手榴弾)を投げ込んで突入しましょう。奇襲?敵の予期しない時期・場所・方法により組織的な攻撃を加えることにより、敵を混乱させて反撃の猶予を与えない攻撃方法の事を奇襲と言います。正面火力は此方が上ですよ、これから行うのは強襲です。」

 

「凄まじい熱と爆音、瞼が無い以上、網膜に光が一時的に焼き付き、ピット器官も熱により麻痺させる。貴方は適当に頭部へ向けてバックショットを見舞ってください。目を潰した後は貴方に任せます。先に進んでるハリーポッター?170-180デシベルの爆発音と15メートルの範囲で100万カンデラ以上の閃光を無防備な状態で受ける事になりますね・・方向感覚の喪失や見当識の失調を起こすことになりますが非致死性兵器です。些細な巻き添えですよ。」

 

フィルチは苦笑いを押し殺す。敵対者が例えホグワーツの生徒であろうと弁解の余地をも与えない、殺した後に死体に尋問するのか?と言いたくなるような徹底ぶり。

奥から「シューシュー」と蛇の発する様な音が聞こえ正面の大蛇が動き始めたのを確認し、フィルチと反対側の石柱の影に身を隠していたロックハートがハンドサインで突入の合図をした。

 

ピンを抜きバジリスクの足元にM84スタングレネードが投げ込まれた。

 

(我々への知識が少しでもあるなら寧ろ降伏を選んだろうに…)

 

お互い向かい合って早撃ちをするような時代は遥か昔に通りすぎた。

魔法使い達が思っているよりも苛烈に、血生臭い歴史の中、研鑽された兵器達はやがてより遠くの敵を、より正確に相手の息の根を止める事すら可能にした。

 

突如現れたソレにハリーを襲おうとしていた大蛇、その様子を見て楽しんでいたリドルの視線を集める。

見慣れない物体を注視される中、ソレは強烈な音と光を伴って炸裂した。

 

間髪入れずに柱の陰から身を乗り出しながら散弾銃を大蛇の頭部目掛けて弾が切れるまで乱射を行うフィルチ。

 

どんなに熟練した魔法戦士が早口で唱える呪文よりも早く引き金を引き、一度の射撃で目視する事は不可能な音速を超えて飛来する弾丸を複数ばら蒔くソレは、まさしく暴力と言っても過言ではないだろう。

 

 

ーーー

 

「いったい何が・・・!?」

強烈な光に視力を奪われたリドルは腕で目を庇いながら杖を無茶苦茶に向けて呪いを放っていた。

直後、腹部襲う衝撃。吹き飛ばされる肢体。暫く痛みにのたうちながら石柱の陰に隠れ何が起こっているのか把握と、視力の回復に努めた。

 

「女子トイレの配管はお気に召さなかった?ここも大して変わりないでしょうに・・・」

「いったい何をした!?」

 

自らの杖をクルクルと廻して遊ぶ教師へと怒鳴り声を上げるが気にする様子もない。

「バジリスク!この男を殺せ!!」

 

「無駄ですよ。相手を捕捉する器官を一時的に焼かれて身動きが取れなくなった所に立て続けに9.14mmのペレットを8粒、頭部へ向けて放たれ続けたのですから…」

 

元々鹿などの中型動物狩猟用の散弾だ。散弾の特性を生かし眼球を直接見ることなく破壊したフィルチ。

その後に何が待っているかなど言うまでもない。

 

リドルは舌打ちをしながらロックハートへと無言で呪いを放つ、それを当然の様に反対呪文で打ち消す教師。

 

(話が違う)

ジニーが日記に記した決闘クラブでの無様な一幕。スネイプ相手に無駄な動き、出鱈目な呪文を放とうとしてあっさりと吹き飛ばされた教師と目の前に佇み、平然と命のやり取りを行う人間が同じとは到底思えなかった。

 

「君は自身の敵はダンブルドアだけだと考えたのでしょう。だから、その計画も常に敵を意識し重点的に対処した物となった・・・」

無言で放たれ続ける魔法、時には反対呪文で打ち消し、時に盾の呪文で弾き返す。

最小限の動きで突き出された杖から無言で放たれる呪い。『フリペンド(撃て)』学生同士の決闘では相手を吹き飛ばす程度だが過剰に込められた魔力は当たったら最後、大口径の銃弾に撃たれたような大穴を残すことになる。

 

リドルはそれを対抗呪文で弾き飛ばし、許されざる呪文・・・死の魔法を敵対者へと放つ。

反対呪文が存在しない絶対の呪文であり、盾の呪文も通用せず防御不可能。

受けたら最後、これまで一部の例外を除いて数多の命を摘み取ってきた呪文だ、直撃しないように逃げ回るのがこれまでの定石にも関わらず、ロックハートが呪いを避けるには遅すぎた。

直撃コースを進む緑色の閃光を見てリドルは薄く笑みを漏らした。

・・・ロックハートが同じように緑色の閃光を杖から放ち、空中で衝突させ打ち消すまでだが。

 

「いったい何をした!?」

「最も強力な防御呪文が盾の呪文であり、もっとも強力な攻撃呪文が死の呪文ならば対抗する事は出来ないでしょう。簡単な事です、防御力2の盾で攻撃力4の鉾は防げれない。ならば、同じ質量の(呪文)をぶつければいい。」

 

確かに理論では可能だろう。だが、一歩間違えたら自身が死亡する状況で、涼しい顔をして当然の様に許されざる呪文を打ち落とす人間が居るのだろうか?

例えるならばプロの野球選手が投げた速球を、自身が投げた球を空中でぶつけて弾く様なことをしているのだ。

「・・・・狂人め!」

 

「確かに君の目論見通りダンブルドアに嗅ぎ付けられることなく排除できた・・・いえ、あの人は案外分かったうえで罠に乗ったのかもしれませんね。ただ、君にとって誤算だったのは・・・」

ーーー相手のキングを打ち取ったのにゲームが終わらないと気づいたことでしょうか?ーーー

 

ホグワーツ内。互いに姿くらましを多用した高速戦闘は行えず、正面からの殴り合いは続く。

空中で飛び散る緑色の残光。その光に触れれば命までは届かないにしろ、意識を刈り取るには十分な威力がある。

気にすることもなく呪いを打ち落としながら一歩ずつリドルの方へ歩を進めるロックハートにリドルは自然と後退をした。

 

「君はうまくやった。魔法省が怪物の正体に気づき学校に乗り込む事もない、誰一人としてジニーが継承者と気づかれる事無く幾度となく襲撃を行った。だが、見落としている事がある・・・そう思いませんか?相手が立て直す間もなく打撃を与える電撃戦は有用な手段です。過去に君は魔法省相手にそれを行い多大な戦果を残したこともある。ですが、思い返してみてください・・」

ーーー過去に成功させた時と同じ戦力を君は持っていますか?君の体は君のものですか?ーーーー

 

「人質はね・・・生きているからこそ価値があるんですよ」

ロックハートが放った緑色の閃光がリドルから離れた位置に向けて・・・横たわるジニーに向けて進むのがスローモーションのようにその目に映った。とっさに自身も死の呪文をぶつけて相殺する。

 

「復活の為に緻密に組まれた計画、もしそれが術中に宿主の死亡という形で幕が落ちたら残された君はどうなるのでしょう?不完全な形で復活となるのでしょうか?それとも宿主と共に消滅するのでしょうか?どちらにしろ・・・誰も知りえない事です。なにせ前例が無いのですから。とっさにジニーを庇ったのはそういう事なのでしょう?」

 

「ジニーー!!ロックハート!お前なんてことをしてるんだ!!」

リドルと相対するロックハート、視覚障害から回復したハリーの絶叫

 

「おやおや、これではまるで私が悪役ではないですか?襲撃を行った実行犯の小娘の命と、復活したら最後何百、何千もの命が犠牲になると分かってる暴君の命を天秤にかけているのですよ?考えるまでもないでしょう・・・」

 

ロックハートが杖を一振りするたびに苛烈になっていく攻撃・・正面からは緑の閃光、リドルやジニーの足もとからは石のスパイクが突き出し、天井から滴る多数の水滴は鋭利なツララとなって2人へと降り注ぐ。

「君は実にうまくやった。だが、自らの状況を考えずに各方面へ喧嘩を売りすぎましたね?何より、私がこの学校に居たのがあなたの運の尽きです」

 

蔑み嘲笑う言葉とは裏腹に、まるでガラス細工の様な感情の籠っていない透き通ったロックハートの瞳にリドルはダンブルドアと相対した時の様な薄ら寒い何かを感じた。

 

 

 

ーーーーーー

バジリスクを見ないように目を閉じていたのが幸いしたのか目を焼くような閃光の影響は他のものと比べて軽微なものとなった

しかし、敏感になってた聴覚を吹き飛ばす様な轟音を防ぐことはハリーには叶わなかった。意識が飛ぶとは違う放心状態

回復したハリーが目にしたのは片側の頭部を損傷して、のた打ち回る大蛇の姿とプラスチック製のショットシェルをローディングポートからチューブマガジンに送り込むフィルチの姿だった。

 

(もう片目も失明してる・・・)

銃弾を受けてない側頭部、もう片方の眼球がある位置にはまるで古傷の様に光を灯していない抉れた目があった。

フィルチは過去の戦闘の痕跡から大蛇が負傷したのは把握していたが、その箇所が目であると・・つまり現在両目とも失明していると把握するとこれを好機と散弾銃に装填する弾薬を大型狩猟用のスラグ弾へと弾種を変更する。

 

熊すら沈黙させる威力をもつ親指大の鉛玉。

その弾頭は着弾と同時に体内で変形し弾頭の持つ運動エネルギーを余すことなく対象に伝える。

装填が完了すると同時にバジリスクの巨大な体躯に連続的に弾を吐き出す散弾銃。

 

半開きとなったバジリスクの口内にピンを引き抜いた後の()()を投げ込み、呆然とバジリスクとの戦闘を見守るしかなかったハリーを引きずって柱の陰に身を隠すフィルチ。

「ホグワーツではマグルが使うような機械は使えないんだ!」

ハリーが慌ててフィルチに伝える

 

「勉強不足だ坊主。ピンを抜く事で発火レバーが跳ね上がる、ばね付きの撃鉄が信管にぶつかり薬品ヒューズに火が付く、やがて起爆装置が発動し爆轟が起こる。形は違えど昔と何ら変わりない」

 

投げ込まれて5秒。爆発時5メートル範囲以内の人間は致命傷を受け、15メートル範囲に殺傷能力のある破片が飛散する手榴弾が体内でば爆発したのだ。

飛び散る臓物。辺り一面に真っ赤なペンキをぶちまけてスリザリンの蛇と恐れられた大蛇はあっけなく生命の幕を下ろした。

 

「これの何所に精密機械が含まれてるんだい?ええ?」

 

ハリーにとってウザったいフィルチが頼もしく感じたのは後にも先にも今日が最初で最後だろう。

 

「小僧、今から継承者とやらをぶち殺しに行くが邪魔をするなら・・今この場で鉛玉をぶち込んでやることになる・・言いたいことはわかるな?」

血走った眼で睨むフィルチに対してハリーには選択肢などなかった。

コクコクと頷くハリーの姿を見たフィルチは満足げに足を引きずりながら今も尚、戦闘を続けているロックハートの元へ向かった。

 

ーーー

 

「待たせたな。」

「まったくですよ!襲撃犯を〆るのを手伝うという契約でしたが、これ以上待たせられるのなら私がやっちゃうところでしたよ!」

 

ロックハートの背後で銃を構えるフィルチを鼻で笑うリドル。

マグル同然の出来損ないが一人増えたところで何も変わりない・・・とでも思ってるんでしょうね。

 

ロックハートの動作だけ注意深く観察するリドルに対しフィルチの散弾銃から鉛玉が放たれるが、しっかりと照準を付けられていたにも関わらず銃弾は逸れてリドルの足元に着弾した。

最初から眼中にないと無視されていたフィルチは構うことなく次弾を装填する。

 

「マグルの兵器は魔法使いには通用しない。弾避けの呪文や盾の呪文を()()()()()展開している事で弾丸がその身に届くことはない。それでは、もしも他の魔法使いによって()()()()()()()()()()どうなるのでしょう?」

ロックハートが杖を一振りした直後にフィルチの散弾銃が火を噴いた。

 

「有利な状況で遊びたいのは分かりますが、今度は当ててくださいね?」

 

リドルの頭部の真横を掠めるように通過した弾頭は、リドルの髪の毛数本と頬にうっすらと赤い筋を残した。

 

如何ですか?魔術と非魔法のハーモニーは?

 

ロックハートが防御を崩し、フィルチによって狙われたら最後、回避することなど出来る筈のない銃撃がリドルを襲う。

 

盾の呪文には死の魔法を、弾避けの呪文には反対魔法で打消しを。

逃げ回ろうとすれば横たわるジニーに銃弾と死の魔法が殺到する。

リドルに残されたのは地面の石板を隆起、肥大化させて身を隠す程度だ。

 

「君は自身の力を過信しすぎた。自身の身体でもないのに過去の経験を基準に計画をたてて実行した。」

 

・・・余裕なんて無かったのでしょう?だから肝心な事を見落とす。

 

「アクシオ(来い)」

 

リドルにとって背後から自身の上を通り過ぎ、ロックハートへと向かう黒い物体が何なのか見当がつかなかった。

ソレが自身の魂を封じ込めていた日記だと気づいたのはロックハートがそれをキャッチしようとする寸前。

 

「アバダ・ケダブラ(息絶えよ)」

石柱から身を乗り出し死の魔法を放つリドル。

身を翻し、倒れこむように緑の閃光を避けるロックハート。

黒色の日記は呼び寄せ魔法の誘導が術者に辿り着く前に切れた影響で、予定地点よりも遥か後ろに落下し滑る。

バジリスクの死体の近く、戦況を見守っていたハリーの足元近くへと。

 

「詰みです」

ハリーは無造作に拾い上げたバジリスクの毒牙を日記へと突き立てた。

 

 




胸からどす黒いインクを垂れ流し絶叫するリドル。
何度も日記にバジリスクの毒牙を一心不乱に突き立て続けるハリー。

「誰もが明日がくれば明日を求めてしまうように・・・」
対照的に静かに佇み、リドルにしか聞こえない声量で静かに語り掛ける教師

「変わらずに続くと信じてやまない日常は、案外あっけなく終わりを告げるものなんです。ここは皆が思い描き、そして捨てられた夢の上」
「きっとこれは悲しい戯曲なの・・・君もそうなの?」

回答はない
血のように大量のインクを残してリドルは消滅した
ハリーが思い出したようにロックハートの横を通り過ぎ、ジニーの安否を確認する。

「結局、君たちにとっては敵を倒した・・でしかないのでしょうね」

仲間が殺され怒り狂い、敵を殺しはしゃぎ喜ぶ。
戦うという事の結末を知ろうとしない子供達・・だけど、今はそれでいいのかもしれない
己に課せられた責務、背負わされる命の重み。
一度入り込めば抜け出す事の出来ない英雄という名の檻
それは、君を飼い殺す鉄格子……
「ここに来ちゃいけない」


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私の出番は?………あ………はい(察し

あまり見直してないので誤字おおいかも!
長くなりそうだったので分割投稿


清潔感のある白の多い室内。

 

ベットを囲むようにカーテンが掛けられており、見舞いに来たであろう生徒達の声や保護者の声と思われる聞きなれない声が微かに私の耳に届いてくる。

横たわったまま、ぼんやりと腕を天井へ伸ばし緩やかに指を拡げる…

 

──私はまだ、生きているの?

 

ほとんど首なしニックの様なゴーストみたいに自身の体が半透明になっていない事を確認。

状況から察するに石化してしまい医務室に運ばれたのだろう。

最後の記憶は、バジリスクを率いるジニーとの対決。

 

「それで?先生がここにいるという事は、襲撃犯を目撃していないか確かめに来たという事でしょうか?」

 

ベット横に置かれた椅子に腰かけ、ニコニコと此方の様子を伺う老人へと問いかける。

秘密の部屋の怪物の正体はバジリスク。自称、継承者の正体はジニー。

知り合いの家族が犯人だと判明して、先生に伝えるべきか一瞬迷う・・・

きっと犯人が分かれば、どんな形であれ、この老人は数刻もしないうちに混沌とした事態に終止符を打つ事が出来るだろうとジェーンは確信していた。

 

「どうやら現在と君の中で流れる時間に相違がある様だ。まずは現状を説明しようかのぅ。まず一つ目、君が襲撃者と死闘を繰り広げた日から3カ月程経過しておる。2つ目、秘密の部屋は場所を特定され、継承者及びスリザリンの蛇は既に討伐済じゃ。」

 

「そう・・・ですか・・・。他に犠牲になった人はいますか?」

 

静かに首を振る老人

「ハリーは骨折、被害にあったMsジネブラは疲労が貯まっておったが命に別状はなく、先週ここを退院しておるよ。つまり、継承者こと『トム・リドル』の手によって起こされた今回の事件での死亡者は0名という事じゃ。」

 

まるでジニーは被害者であって今回の襲撃事件に関与していない、という風な言い方に違和感を感じた。

「そういう事になったのですね・・・」

「左様。」

 

 

「・・・・先生がここに来た理由をお聞きしても?」

「なに、君が眠っている間に起った事を話しておこうと思っての。ただ、それだけの事じゃ。」

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

銃声や魔法の撃ち合い弾ける音は無く、先程までの喧騒も嘘の様に感じてしまうような静寂。

 

バシリクスの折れた牙を日記に突き立てたまま周りを見渡すハリー。

 

普段の学生生活とはかけ離れた現状。

掛け値無しの殺しあい。

それらを目の前にして、ハリーは『現実味を帯びない、まるで夢を見ていたかのような感覚』と、それまでの出来事がまるで他人事の様に感じてしまっていた。

 

視界に写る、床に広がったインク溜まり。

銃と杖を向けるフィルチとロックハートがゆっくりと構えを解くと同時にハリーは現実の世界へと意識を戻した。

 

「ジニー!!」

 

まるで『此処には用はない』とばかりに鼻を鳴らして来た道を引き返すフィルチの横を通り抜け、興味深げにジニーとハリーの様子を伺うロックハートの視線を躱し、ジニーの元へと駆け寄る。

 

リドルとの戦闘の前にジニーを見た時とは違う。

血の気がなく、まるで人形の様に感じられていた顔色は、かつて夏休みに合った時のように健康的な肌の色に戻り、しっかりとした呼吸、服越しでも感じられる体温を確認して安堵の息を溢した。

 

「ジニー!起きて!ジニー!!」

ハリーは少女の肩を持って揺さぶり、声を掛けるが返事はない。

 

リドルを倒した事により、ジニーへの呪いは解かれた筈。

目を覚まさないのは疲労?

それともリドルの言う強力な闇の儀式を、術者を殺すという形で妨害した影響なのか?

 

リドルとの戦闘の前にジニーの状況を『魂を奪い、自身の魂で上書きした』と言っていた。

そして、ロックハートは『間違いの許されない緻密な儀式、失敗したらどうなるか分からない』とも。

 

「ジニー!」

激しく揺さぶる。

このまま目を覚まさないのではないか?と最悪の結末が脳裏を過り、焦りが募っていく。

 

「先生!ジニーが目を覚まさない!」

一向に反応を示さないジニー。

半ば半狂乱になりつつあるハリーは其処にいる筈のロックハートへと助けを求め、視線を上げた。

 

ーーーーーーーーー

 

「それで、ロックハート先生がハリーとジニーに向けて魔法を放ったと?」

「左様。その場にいた者の話を信じるならば・・・つまり、ハリーの証言を信じるならばロックハート先生がハリー達を襲ったという事になる。そして、儂はハリーに絶対の信頼をおいておる。」

 

ハリーが見たものは、杖を掲げ、今にも魔法をハリー達目掛けて放とうとしているロックハートの姿。

ハリーはジニーを抱いたまま、転がるように放たれた呪文を避けた後、ハリーVSロックハートの一騎打ちをしたと・・・突拍子の無い話をダンブルドアの口から聞き、ジェーンは開いた口が塞がらなかった。

 

「何故?だって彼は、後に闇の帝王となる様な実力ある闇の魔法使いと互角に戦い、打ち勝ったのでしょう?無様な戦い方をして、目撃者のハリーに真実をばらされては困るってわけではない筈です!」

信じられるはずも無い。全てが終わったと思った矢先にハリー達の口封じをしようとしたなんて。武勇伝にするには十分な成果があり、凶行を行う動機がロックハートには無い筈なのだ。

 

「彼は勇敢に戦った。」

声を荒げるジェーンをよそに、まるで聞き分けの無い子供に言い聞かせるようにゆっくりと、確かな声でダンブルドアは真実を伝える。

 

「彼は勇敢だった。この学校の誰もが想像する以上に・・・問題だったのは、その過程だと儂は考えておる・・・つまり、いかなる場合でも人を対象として放ってはならない魔法・・『禁じられた魔法』を使用したという事実をハリーの記憶から消そうと考えたのかもしれぬ。」

 

「ですが!相手は名前を言ってはいけないあの「禁じられた魔法・・・すなわち、最も恐れられている死の呪文を含む3つの魔法の事じゃ。」」

「・・・魔法使いにとって『杖』とは便利な道具なのだ。人々の生活を支える一方で、使い方を誤れば人々を傷つける『武器』にもなる。君達の学ぶ『闇に対する防衛術』は如何に『武器』を使わずに自身の身を守るか?という事に重点を置いた学科なのだ。・・・・彼は間違ってしまったのだよ、使い方を・・・」

 

料理中、包丁を落としてしまい隣に立っていた友人を傷つけてしまう『事故』。

ライフルのボルトを引き、弾薬を薬室に装填、狙いをつけて引き金を引く『殺人』。

禁じられた魔法を使用するのと、その他の魔法で人を傷つけるのでは明白な違いがあるのだと老人は話す。

 

「例え、かの者の復活を止めるためだとしても・・・あ奴の中では刑務所に送られる確率は五分五分と見たのじゃろう。」

ましては大戦を生き抜いた戦士。自身の活躍で刑務所に送られた魔法使いも数知れず・・・きっとその場に自身が赴くことになるという事は、さぞかし恐怖だったに違いない。

 

「・・・・それで、ハリーは無事だったという事は先生に勝ったという事なのでしょうか?」

「左様、格下と油断していたのかもしれぬ。ハリーとロックハートが放った呪文が空中でぶつかり合い、混ざり合った物をハリーがロックハートへと押し返したようじゃ。」

 

話を聞いているだけで疲れが貯まる様な内容に、ジェーンは無意識に目頭を押さえた。

 

その後、これまでの記憶が一切無いロックハートにジニーを背負わせて秘密の部屋の入口まで。

ハリーとロンの姿が見えない事に気づいたマクゴナガル教授が、他の先生と共に学校中を探し回り、ハリー達を発見、保護。

これが一連の出来事らしい。

 

「この事は一体何所まで公表したのですか?」

「トム・リドルが学校に侵入。秘密の部屋を開放して、怪物に生徒を襲わせた。ハリーがリドル及びバジリスクを討伐した・・・までじゃ。」

 

「確かに嘘ではないですね。」

「全て真実じゃよ」

 

穴だらけの真実。

足りないパズルのピースを人々は自身で『その日、何があったか』を考えて無理やり種類の違うパズルに似たようなピースをはめ込んでいく・・

その結果できるのは

 

「似て非なる物・・・」

「嘘は言っておらぬよ」

 

人から聞いたものは疑うべき。

しかし、自身の体験した物。自身の導き出した答えは誰しもが信じて疑わない。

だってそうでしょ?穴だらけの真実の中で、自身の納得できる答えを自分自身の手で導き出したのだから。

 

「つまり、ジニーは襲撃とは無関係。ロックハートは激しい戦闘の末に負傷して記憶喪失に・・という認識でいいのですね?」

「実際に襲撃を受けた君に、容認しろと言うには心苦しいがね。」

 

苦笑いしながら目を閉じる老人に、ジェーンはため息をつきながら半目になった。

 

「まったく・・・目が覚めたら殴り返す予定の相手がいなくなってるというのも考え物ですね。」

慰謝料で済む分はいい。今回私が失ったのは石化している間の『時間』と本来得る筈だった『知識』。

 

「君はいつも時間に追われているからの~」

ほれ。っとダンブルドアは手に持った物をベットに座るジェーンへと投げ渡す。

 

「懐中時計?しかも壊れていないですか?」

1から12までの文字盤が反時計回りに順に刻まれており、秒針は『カチカチ』と同じ場所に留まり時間を刻んでいる。

正直言って使い方が分からない。

 

「時には時間を忘れる事も重要なのじゃよ」

と言う老人に、首を傾げるしかできなかった。

さて、そろそろマダム・ポンフリーに追い出されてしまう。と腰を上げるダンブルドア

 

「最後に一つ。」

「今年、ハリー達と距離を置いていたそうだが・・・答えは見つかったかね?」

 

「・・・・・」

新年度早々、喧嘩別れ。

距離を置けばトラブルに巻き込まれないかと聞かれれば、そんな事もなく。

気が付けば雁首揃えたジョーカー(回避不可能死亡フラグ)が目の前にありましたとさ。

当然、準備無くしてしのげるはずも無く・・・それならば寧ろ

 

「どうせ巻き込まれるのなら、予兆が分かるだけ近くにいた方が平和・・・かもしれませんね。」

 

それだけではないだろう?

老人の優しげな青い瞳がジェーンの視線と重なりあう。

 

────言わせないでよ

 

今さら寂しかった等と白状する気にはなれず、ジェーンは大きく顔を背けた。

 

 

 

 



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狼男と大いなる山歩き(前編

長くなるので切りの良いとこで一旦投稿(=^・^=)
ロックハートの本とハリーの体験した出来事が交互に入ります
本の内容や過去の出来事などは薄字で書いてますので参考にしていただければ(全部するとは言ってない
楽曲コード:7A7-3302-7



 

『歴史を学ばない者は同じ過ちを繰り返す』

とある代表の言葉だ…

 

では、歴史とはどういうものなのだろうか?

生き残った者が、自身の都合の良いように真実を捻じ曲げて後世に記すのが『歴史』なのだろうか?

勝者こそが正義。勝者にとってのみ都合の良いように修正された歴史に一体何を学べと言うのだろうか?

 

『歴史を学ばない者は同じ過ちを繰り返す』

とても説得力のある言葉だと言える

・・・だって、言った本人が同じ過ちを繰り返してるのだから

 

ーーーー

幼い少女が歌を紡ぐ。それは先日訪れたマグルの町で聞いた歌

 

「~Are you a saint or a sinner?(生き延びたいんだ)~」

 

闇の帝王が英雄に打ち倒され、世界は平和になった。

 

本当に?

かつて多くの者達がその力に屈し、戦いを強制された。その者達は戦争が終わると武器を捨てたが、未だ戦い続けようとする者達もいる。かの者の力と栄光に魅了され、他者の命を奪うことに抵抗さえない『悪しき者達』

魔法界が連日お祭りの様に騒ぎ出す中、私は・・・いや、私を含む数名は現在の状況を楽観視していなかった。今も尚、各地で起こる襲撃、殺人は未だ数多くの死喰い人が身を潜め、活動をしている証明ともとれる。

 

「~Fighting 'til the war's won,(勝つまで戦い続ける)~」

 

皆が口を揃えて『戦争は終わった』と言う。

「いいや。何も・・・何一つ終わってなどいない。」

 

「~Sometimes to win, you've got to sin.~」

 

皆が口を揃えて『悪』と呼ぶ者達にも守りたい者達が居る。守りたい未来がある。・・・私達と同じようにね。だからこそ、私は自身の正義と相反するものを『悪』などと呼びはしない。

 

それぞれの信念があって戦いは続く。それを一方的に力で押さえつける事を『正義』とは呼べない。

そうでしょう?大義名分を得て行う殺人は罪にはならないのか?我々が闇の残党を駆逐しようとするのは自身達の住み良い未来の為、やってる事は彼らがやった事と大して変わらないのかもしれない。

 

「~They say before you start a war,(彼らは戦争が始まる前に言っていた)~」

「~You better know what you're fighting for.(戦っている相手のことをよく知るべきだって)~」

 

これは私の望んだ戦いではない。望んだ結末ではない。だが・・・

 

「~Fighting 'til the war's won,(勝つまで戦い続ける)~」

 

だからこそ戦う必要があるんだ、自身の望んだ未来に導くために。誰が正しいのか、間違っているのかなど関係ない。誰しもが始まってしまった戦争を終わらせる為に闘っている。……未来へと進む子供達に背負わせる訳にはいかないから。私の代で始まってしまった負の遺産は、私の代で清算する義務があるから。負けた者の末路は歴史が物語っているから・・・だから負けるわけにはいかない。

 

魔法局がマグル達の記憶を消すよりも早く聞き込みで得た情報。それらを精査、統合し地図に記録していく・・・

 

「先生、プロファイルは完成しましたか?」

「完全とはいきませんが・・・8割程度は完成しています。現状でもそれなりの精度は出るでしょう。」

 

これまで襲撃を行った町、村。目撃情報のあった地点、それから導き出される潜伏していた山など、複数の色分けされたピンが刺されている地図を眺めながら少女は首を傾げていた。当然だ。魔法使いの機動力はマグル達の比ではない。『姿くらまし』を使用すれば一瞬で数百Kmもの距離を移動できる。マグルへの聞き込みも目撃情報自体、記憶を改ざんされているのかもしれない。『こんなもの本当に役に立つの?』という疑問は言葉にせずとも、少女の瞳が雄弁に問うていた。

 

「私が知りたいのは生物としての行動基準です。誰しもが安全の確認できていない見ず知らずの土地で一夜を過ごすのには抵抗があるでしょう。どの様な場所を襲い、どの様な立地を根城として使用するのか。それらのデーターを収集することで相手の行動の未来を予測するのです。・・・魔法使いはマグルが行うのよりも簡単に結果を得る事が出来るが故に、物事を分析するという点においてはマグル達の考えた理論が我々の()()を上回ります。なので、私達はそれぞれの秀でた方法を取り入れて、効率的に目標を追跡するべきなのでしょう。」

 

良い方法がそれぞれにあるのなら、『マグルの方法だから』や『魔法使いらしくない』などと意味のない意地を張る必要はないでしょう?と少女に理解を求める。

 

「さて、準備が整いましたら()()に出かけましょうか。」

 

皆が平和になったと口を揃えて言う世の中で、私は何年戦い続けているのだろう?目の前に居る少女の様に私の戦いに理解を示し、助力(助手)を買って出てくれる者もいれば、反対に『野蛮だ』『戦争に取りつかれている』『倒した相手にも家族が居たはずだ、可哀そうな事を・・』などと苦言を示す者もいる。

それでも、私は立ち止まるつもりはない。だってそうでしょう?いかなる理由であれ、ナイフを突き立てようとしている相手に大人しく殺されてやる道理など、どこにもないのだから。

 

私には、先に散っていった者達から託された想いがあるこの手に届く者達を守る義務がある。だから私は・・・・・

 

幾多もの友の屍の山を越えて、幾千もの夜を血で紅く染め上げて………

血生臭い両手を掲げ愛を詠う

 

――――――

 

秘密の部屋の怪物が倒されてから、ハリーにとってはあっという間に時間が過ぎていくかのようだった。

 

継承者、スリザリンの蛇を撃退したことにより、ハリー・ロンは一人200点ずつ加算という異例の措置が取られて、他の寮を大きく突き放し寮杯を死守した。

 

ハリーやジニーが保健室に拘束されている間もウィーズリー一家は頻繁にハリーの見舞いに訪れ感謝の言葉を耳がタコになるくらい話して行った。

 

ハーマイオニーやジェーン、バジリスクの襲撃に合った生徒達が退院すると盛大なパーティーが開かれ、マクゴナガル先生の口から今年の期末テストは免除との発表があった。

 

 

「それで。僕は巨大なバジリスクに向かって言ってやったんだ!『ホグワーツは渡さない!皆を傷つけるなら僕が相手になってやる!』ってね」

 

結局のところ、今回の襲撃騒動の結末を見た者は少ない。

 

フィルチは我関せずを貫き通し(「校内で銃火器や爆発物を使用し、緊急時とは言えども生徒含む生物を殺傷する恐れのある攻撃を行っていた為、口止めされているのよ」とハーマイオニーは言っていた)

 

ロックハートは記憶喪失で魔法病院へ入院することになった。

 

結果、ロンは洞窟の瓦礫を掘りおこしただけではなく、ハリーのピンチに駆けつけ、床に落ちていた白骨を変身術で鋭い剣に変化させてバジリスクの首を刎ねたところまで話が盛られている。

 

 

ジェーンの姿を見たハリーは皆の前で得意げに話すロンの脛を軽く蹴飛ばす。

 

 

「・・・あー・・・ジェーン・・・その・・・僕達、君と喧嘩して仲は良くなかっただろ?君が襲われてからよく考えたんだ・・・君の言うとおりだったって。それで、もし君が許してくれるならばなんだけど・・・」

 

彼女の存在に気付いたロンは言葉を濁しながら謝ろうとする。

 

 

「私もムキになっていたのかもね・・・また、昔みたいに接してくれると嬉しい」

 

 

ハリーが継承者と疑われて遠巻きにされていた時期、いつ襲撃されるかとピリピリしていた期間、ハリーにとっても面白いと思えるような一年とはいえなかった。

 

それらの不安が無くなった今、夏季休暇前のひと時は夏の暑さに朦朧としている間にあっという間に過ぎ去っていった。

 

ホグワーツで過ごす最後の夜、ハリーは名残惜しいと思いながらもベットに入り、眠りにつく。

 

 

・・・その日、ハリーは夢を見た。

 

 




次話で秘密部屋は完結!
ロックハートの歳とか魔法戦争の時期とか色々狂ってしまってたけど……まぁ、いいか!この小説の世界では!ってことで! (n‘∀‘)η


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(後編: 孤蝶の夢

鮮明に覚えていた夢の出来事も、時間が経つごとに記憶から零れ落ちていく・・・別に誰かの思い出になりたいとは思わないよ。私はただ、貴方の覚悟を知りたかっただけ・・・


夢を見ていた。

ジニーを抱えながらロックハートを睨むハリー。

これは過去の出来事の焼きまわし。バジリスクは死に、継承者ももういない。ジニーは目を覚ましていないが生きている。

全て終わった。その筈だった。

 

「一体何のつもりだ!」

 

襲撃者に杖を向けながら、ジニーを引きずって柱の陰まで向かい、ロックハートから隠れるようにジニーを横たえるハリー。

対照的にニコニコと2人の姿を目で追いながらも見送るロックハートの姿はこれまで対峙してきた何よりも不気味で恐ろしいとハリーは感じていた。

 

襲撃者のロックハート。

攻撃を受けたハリーとジニー。

そして、彼らとは違い離れた位置から物語を見守る(俯瞰する)自身の視点。自分自身の行動を第三者の視点として見るのはなんとも不思議な感覚だったが、違和感として感じるのは目が覚めてから・・・つまり、夢の中を行動するハリーとそれを見守る自身(ハリー)というありえない状況にも違和感を覚える事はない。・・・所詮は夢の中の出来事に過ぎないのだから。

 

(この後、話す事もなく魔法を打ち合い僕が勝利した・・・)

「ハリー・ポッター。何も終わっていないんですよ。」

 

しかし、夢の中では実際に起こった事とは別の物語へと変化していくようだった。

身を隠す事もせず部屋の中央に陣取り、掌の上でクルクルと杖を弄びながらロックハートはハリーへと対話する。

 

「ハリー。今回の襲撃で何人が犠牲になったかご存知ですか?」

 

ミセス・ノリス

ジャスティン・フィンチ=フレッチリー

ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿

コリン・クリービー

ジェーン・ウィルソン

ハーマイオニー・グレンジャー

ジネブラ・モリー・ウィーズリー

 

「これらの者は本来、命を失っていても不思議ではありませんでした。」

「さて、トム・リドルが君と戦う前に話した事を覚えていますか?」

 

ーーーー「ジニーのおチビさんの魂を僕の魂で上書きをし始めたのさ」

種明かしの様に自慢げに話すリドルの顔がよぎる。何か重大な事を見落としている。胸騒ぎの様な感覚がハリーの中で大きくなっていく。

 

「私は言ったはずです。緻密に組まれた儀式をぶち壊したらどの様な影響を及ぼすか分からないと。私達は彼を倒しました。では、これまでに上書きされた魂は元通りに戻るのでしょうか?それとも彼女の中に上書きされたまま残っているのでしょうか?」

 

「(そんなの!・・・・そんなの、ジニーが目を覚まさないと分からない事だろう!)」

夢を見ているハリーと同じように夢の中の(ハリー)はロックハートへと叫び返した。

 

「ええ、その通りです。そして、目を覚ましても、きっと気づくことは出来ないでしょう」

ーーー今年、7人が犯人を突き止める前に襲撃に会いました。

 

友人が、教師が、家族が、近くに居たにもかかわらず、誰にも気づかれる事無く丸一年、正体を隠しながら襲撃を行いました。

 

「行き当たりばったりのずさんな計画ですら我々は止める事は出来なかった。」

では、長期間潜伏し、少女の皮を被って徐々に力を蓄えながら復活を目指していたのならば・・・・我々は彼女の異変に気付くことが出来たのでしょうか?彼女を止める事を出来たのでしょうか?

 

「次は何人が犠牲になります?7人で済むなんて考えていないでしょう?何百人?何千人?その時、自身の友人の死体の前で遺族に何て話しますか?『本当は秘密の部屋で終わらせる事が出来た。未然に防げる犠牲でした』といいますか?仮に気付く事が出来たとして……君は彼女を執行機関に引き渡すことが出来ますか?」

 

ーーー混じった彼女は永久に隔離されると分かっているのに?

ーーー社会の危険分子は処分されると知っているのに?

 

「君は泣きながら命乞いする少女を払いのけ、公正に裁くことが出来ますか?」

ーーーどうせ君は、決断する時になっても『今はその時ではない』などと言って問題を先延ばしにするだけでしょう?

選択すると見せかけて結果を見ることから逃げている。だからこそ、何も得ることが出来ない、何も守れない。

 

(こんなの知らない・・・こんな展開などなかった!)

ハリーの隙をついて奇襲を仕掛けたロックハート。その攻撃を躱して、間一髪のところで放たれた魔法を打ち返した・・・それがハリーの体験した全てであった。

なのにこの夢は・・・既に今見ているモノはハリーの知る内容とはかけ離れたものとなっていた。

 

 

「安心してください。今回は君の代わりに私がその責を負いましょう」

今なら終わらせる事が出来る。

継承者を倒したが連れ去られた少女は手遅れだったと偽れる。

そう諭す教師

 

……だけど

 

「そんなの間違っている!「正しい、正しくないではないのですよハリー。君は何人の命を危険に晒すつもりですか!戦争になればこの程度では「今は戦争なんかじゃない!」」」

「ハリーハリーハリー。こんなにショックを受けたことは、これまでになかったと思うくらいに。君が何故、不合理な判断をしてしまった私にはわかりますよ。教師達が何もできない中、怪物を倒し、少女を救い帰還する。有名になるという蜜の味を私が君に教えてしまった。『有名虫』を君に移してしまった「そんなんじゃない!」では、何故こんな理の無い判断が出来たのでしょう?」

 

「戦争を終わらせた英雄、ハリーポッター。君は確かに偉大な事をした。だが、『戦争』を体験したわけではない」

ーーー君は兵隊を集めるために焼き払われた町を見たことがありますか?

ーーー拷問されて廃人になってしまった者達の姿を見たことは?

 

「戦争が()()()()()、その傷跡を復興したこともない。」

ーーー死喰い人が起こした虐殺をどのように隠蔽したかご存知ですか?

 

戦いは終わった。言葉にするのは簡単ですね。でも、目を閉じれば今もメリメリと肉が裂け、悲鳴を上げながら裏返っていく母の姿が瞼の裏に焼き付いている。

無音の暗闇の中に居るとボトボトと弟が生きながら腐り果て、床へ崩れ落ちていく肉の音が耳の中で反響する。白を目にするとあの部屋を思い出す。青空が視界に入るとあの日を思い出す。

 

 

「君はただ、教科書で歴史を知り、英雄になっただけ。戦火の中で戦っていた者達の想いなんて分かるはずも無い!違うのですよ、歴史を『知る』と『歩む』とでは・・」

「君の判断で世界が戦火に包まれるかもしれない・・・私はそう言っているのですよ。『友人だから裏切るなんてありえない』等と希望的観測なんて糞の役にも立ちやしないんだ。『英雄』ハリー・ポッター。君の役目は何ですか?身内の悪行に目を瞑り、自身にとってだけ都合の良い世の中にすることですか?もし、違うというのならば・・・為すべきことを為せ!」

 

これ以上、言葉は不要とばかりにロックハートの持つ杖が空を裂き、静寂に終わりを告げた・・

 

 

ーーーーーー

「今回の標的は人狼・・・つまり狼男です。肉体は強固、身体能力は人間の()()とはかけ離れた差があります。通常でしたら熟練の闇払いがチームで討伐するような相手ですが今回は私達で対処しなければなりません。」

 

「あの・・・今からでも魔法省に通報して応援をお願いした方が良いのでは・・・?」

「時間があれば応援を依頼するべきなのでしょうが・・・生憎、今回はその時間が無いのです。唯でさえ人を襲うことに躊躇いの無い人狼が、満月の日に大人しくしてくれるとはおもえませんのでね。心配しなくても大丈夫ですよ。アリス・・・君を危険な目に合わせる様な事はしないつもりです。日没までに時間があります。必要な物を揃えて戦いに備えましょう」

 

私は不安そうに眉を顰める助手の少女・・・アリスを落ち着かせるように、ポンポンと優しく頭を撫ぜるが、彼女の瞳に写る不安の影は消える事はなかった。

 

戦いに勝ちたければ相手を知ることが重要だとよく言ったものだ。『何のために戦うのか?』今回の相手・・人狼に当てはめるとどうなるのだろうか?

これまでの歴史、最近では前の戦争で人狼が闇の陣営に協力していたこともあり一般の認識としては『治療法のない病に侵された人』ではなく、『人類に仇を為す悪しき魔法生物』と捉える人々が大半だろう。目撃され次第、魔法省へ通報、捕獲、そして監禁もしくは監視の下で日常を送るべきと意見を述べる議員も数多い。では、今回の相手は『己の自由の為』に戦っているのか?

 

答えは否。プロファイルから導き出された人物像はそんな高貴なものではなかった。

では、『生きるために』?人類を『食料』として捉えていると仮定するべきなのだろうか?人の味を覚えた熊の様に?

答えは否。襲撃件数の多さ、仕留めた相手を捕食せずに『感染させるだけ』にとどめておくという行為から飢えを満たすためという生物的な欲求ではないと言える。では、何が正解なのか?

 

()()は自らの体験した苦しみを、より多くの人々に味わせる為に襲撃を繰り返している」

『化物』と呼ばれ、監禁や迫害を受けた幼少期。そして、成長して自由となった今、自身の受けた地獄をより多くの者に体験させてやる為に襲撃を繰り返しているのだ

 

「アリス、君は奴を見て『可哀そうだ』と思いますか?」

幼い子供に感染させる。つまりこの少女も奴からすれば標的でしかない。仮にも人だった者。命のやり取りになる以上、討伐に赴く上で躊躇う様では話にならないと私は彼女に鋭い視線を投げかけた

 

「私にはそんなもの分かりませんよ。ただ、私達が生きる上で彼は障害であり、排除しないとならない存在という事でしかないのでは?・・・話が通じるのならよかったのですが・・」

 

言葉は通じても聞く耳を持たなければ『話が通じない』と同義、ましては自身の意思で人を襲う怪物に成り下がった獣に人としての慈悲など必要ないとどこか冷めた目でアリスは返答した。

「それでいいのです・・・」

既に賽は投げられている。

遠くで聞こえる自動車や機関車、人々の生活の営みの音を聞きながら着々と山道にわなを仕掛けていく

 

「もうすぐ日が暮れる・・・・」

戦いの時は着々と迫っている。

 

 

 

「さて、ハリー?戦いに必要なものは何だと思いますか?」

ロックハートの杖から放たれた呪いは、ハリーとジニーの隠れる石柱を何の抵抗もなく貫いた。

縦長の秘密の部屋、その天井を支えるための巨大で強固な支柱をだ・・・

1/3を綺麗にくり抜かれ、柱の反対側に佇むロックハートの姿まで確認できる。その威力にハリーか静かに生唾を飲み込んだ。

当たればただじゃすまない・・・寧ろ、脅しではなく殺しに来ているのだと嫌でも思い知らされた。

このまま柱の裏にとどまれば、柱ごとジニーと一緒にハチの巣にされる未来がハリーの脳裏を過った。

 

丁度、夢の中のハリーも同じことを考えたのだろう。ハリーは背にした柱から腰を上げて駆けだす準備をしている様だった。

 

「この一年、私は君達に生き残る術を教えてきました。再び闇の魔法使いが生まれる事を危惧した魔法省が『対人戦闘』ではなく『対魔法生物』としての授業を行うように圧力を掛けられていましたが・・・君達はピクシーや数々の魔法生物と戦闘して、その脳みそに何か得ることは出来たでしょうか?」

 

石柱から飛び出し走り出したハリー。その姿をロックハートの杖は正確に捉えていた。

俯瞰していたハリーは叫びたい気分だった。このままでは数十秒もしないうちに殺されてしまうと。

だが、見届けるしかない自分にはどうする事も出来ない。

 

ロックハートの杖を持つ腕がゆっくりと動く。

緊張でハリーの心臓が張り裂けそうになった時、夢の中のハリーも物陰に逃げ込む前に殺されてしまうと気づいたのか、走りながら出鱈目にロックハートへ向けて魔法を放った。

 

 

魔法使いの戦闘とはどういったものなのだろう?重要なのは『速度』そして『命中率』

どんなに強力な呪いでも長ったらしい呪文を唱えて、出鱈目に杖を振り回し、放ったところで当たらなければ意味がない。したがって実戦で使用する呪いは、より強力に、より簡単な呪文で、よりコンパクトな動作で発動するようにと『同じ効果の呪文でも』最適化された呪いが存在する。子供達が『決闘ごっこ』で使用する『タップダンスを踊らせる呪い』等とは画する性能があるものだ。

 

それらを使用し()()()()()()()()()()()()()()()()のが魔法使いの戦闘となる。自身の呪いを相手に当てる。言葉にするのなら簡単だが実際は違う。スペルを唱え杖を振り回し、発動のタイミングで移動する相手へと杖を向ける。皆が馬鹿にするマグルの小銃の交戦距離は100m、狙撃銃は2kmに及ぶものまであるのに対し魔法使いの戦闘はせいぜい25mが限度だ。

 

 

「ハリー・・・君は授業で何を学んだんだね?手元が1度でもズレれば25m先では頭一個分もの誤差が生じる。こんなもの(走りながら放った呪い)では牽制にもなりはしない。当たりたくても()()()()()()()

ロックハートが何もしなくても逸れていくハリーの攻撃。対するロックハートは一歩も動かずに狙いを定めて呪いを放つ。

 

放たれた呪い。

反対側の石柱へと飛び込んだハリーの頭上を掠め、天高く聳え(そびえ)立つようなスリザリン石像に着弾し、その足を破壊する。

 

 

遠吠えが響く。狩りの始まりだ。人狼と人間のスペック差は致命的な程の隔たりがあり、生身の身体能力だけで戦闘を行うのは自殺行為だ。では、奇襲はどうだろうか?透明マントを使用して背後から接近を試みたとしよう。その際は風向きに注意しなければならない、何故なら犬の嗅覚は人間の40~50倍程度優れていると言われているからだ。

 

「無いよりはマシと言ったところでしょうか・・・とはいっても見つかってしまってからは意味が無いのでしょうけども。」

罠を仕掛けた帰り道、不運にも遭遇してしまった狼男。幸いなのは人狼に見つかったのは先頭を歩いていた私だけで後ろに続く、助手のアリスはまだ奴の視界に入っていないという事だ。互いにとって不意な遭遇、人狼が気を取り直し私の背後に隠れるアリスに気づく前に行動を開始する。

 

『バチン!』と小さな炸裂音と共にロックハートの姿が人狼の前から姿を消し、再び至る所から響く炸裂音の後に四方八方から何十もの相手を死傷させるには十分な威力を持った閃光が人狼へと降り注ぐ。

現代の死喰い人や闇払い多用する『姿くらまし』を使用した戦闘方法だ。魔法により一瞬で位置を移動し、『姿あらわし』で立ち止まった状態で出現する。走りながら狙いを定めるよりも正確に魔法を放つことが可能だが、一歩間違えれば自分の体を置き去り(バラける)にするというリスクがある為、その道の精鋭しか()()()()()()を使用する事は出来ない。しかし、魔法の欠点を補うように設計された戦術は、現時点で最難関、最高峰そして最強の戦闘方法と言える。

 

「これで仕留めれたらば苦労はしないのですがね・・・」

木々は魔法でなぎ倒され、人狼が居た地面にはいくつものクレーターが出来上がっていた。それでも仕留め切れていない。『バチン』とその場からロックハートが姿を消したと同時に弾丸の様な速度で人狼が一瞬前まで彼が居た場所の地面に()()した。

 

精鋭の闇払いがチームで討伐する様な化物だ。音を聞くと同時に身を捻り、呪いを避けるなんて造作もない事だろう。何度も言うが身体能力が人間とは天と地ほどの差がある

 

辺りを見回す。身を隠していたアリスは既にこの場を離れた。頭上には静かに山道を照らす満月。そう、既に目的は果たされたのだ。

満月の人狼は人間的な思考は消え去り、獣と化す。十分に注意を集めた。ここで背中を見せて逃げ始めると()()は間違いなく追ってくる。

 

 

「魔法使いの戦闘は如何に盾の呪文に頼らずに攻撃するかに重点が置かれています」

姿くらましはホグワーツ内では使用できず、盾の呪文による防御は強力だが、性質上反撃できない。

防御に入ったら盾の上から一方的に殴られる、ましては防御を貫通する呪いも存在する為、必要な時にしか使用できない。

 

「呪文を唱えれば、相手は容易に反対呪文で君の攻撃を弾くでしょう。故に、無言魔法は対人戦闘の第一歩です。さて、君が無言魔法も盾の呪文も、姿現しを多用した高速戦闘もマスターしたと仮定しましょう。おめでとう、君は一人前の闇払いになりました。では、先の戦争で生き残ることが出来ると・・・そう思いますか?残念ながら、()()()()の魔法使いなど世界中には五万と居るのです。上位であっても()()()()()()。」

 

今の君にはどれ程の力がありますか?自身の我儘を押し通せるだけの力を持ち合わせていますか?

 

「足りない・・・全然たりないのですよ。その程度の覚悟じゃ何も為せない、何も守れない、誰かに傷を負わせることだって出来やしない!」

 

チラチラと緑色の光を放つ松明。照らし出されるハリーの影を眺める事で柱の裏に隠れるハリーの状況を手を取るように把握している様だった。

(やめろ!今飛び出せばあいつの思うつぼだぞ!)

 

俯瞰するハリーはロックハートと対峙しているハリーへと決して届く事のない声で叫ぶ。方や命の危険に晒されながらも走り回り心拍数の上がった自分自身。方や日常の様に命のやり取りを行い冷静に周囲の状況まで確認をしているロックハート。他に手段がハリーに残されていないとしても、再びロックハートの前に躍り出ればどの様な結果になるかは明白だった。

 

そしてハリーは意を決して飛び出した。

「エクスぺリアームス !!(武器よ去れ!)」

 

しっかりと狙い放たれた赤い閃光。

それは杖を前に突き出したロックハートが手首をスナップさせるだけで簡単に軌道を逸らされる。

(駄目だ。逆立ちしたって勝てっこない!)

 

お返しとばかりにロックハートが杖を振る。

くねくねと複雑に宙を描く杖。聞いたこともない呪文。かつて決闘クラブの時にスネイプの前で披露した無駄に洗練された無駄のない無駄な動き。

 

当時はロンと無能と笑い話にしたものだ。だが、リドルと正面から魔法を打ち合い、殺し合う魔法戦士がそんな意味のない事をするのだろうか?

ハリーは再び駆けだした。

 

放たれた呪文

ハリーの手間の床を粉々に吹き飛ばし、周囲に石の破片が飛び散った。

肩に衝撃と激痛。奥の石像の足元へと吹き飛ばされるように赤いペンキで床に線を引きながら転がっていくハリー。

 

夢の中では何が起きたかは分からなかっただろう。

だが、俯瞰するハリーにはしっかりと何が起こったのかその目に映っていた。

 

床を吹き飛ばし、放射状に弾けた床材が何十、何百もの短剣へと変化しハリーを追尾するように放たれたのだ。

まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の効力を持った一撃が放たれたかのように・・・

 

ハリーは痛みを無視して立ち上がる。

待ってくれるような無能(甘い相手)とはとても思えなかったからだ。

 

 

 

「気配のない相手と相対すると何ともやりにくいものでしょう?」

人狼が私の姿を見失わないように短距離の姿くらましを多用しながら一定の距離を保ちつつ撤退を開始する

一瞬前まで私が居た場所に人狼が飛び掛かるが、もう既に私はその場所には居ない。代わりに『待ってました』と言わんばかりに複数の指向性対人地雷が炸裂し、何千、何万もの銀製のベアリングが獣へと飛来する。

 

もし人の心が残っていれば違和感に気づいたかもしれない。理性があれば撤退を考えたかもしれない。だが、今となってはすでに遅い。

木々が立ち並ぶ登山道、砂利の敷き詰められた林道を通り過ぎ、アスファルトに舗装された国道へとたどり着いた。車一台も通過しない真夜中の峠道。前方には月明りの中でも明々と光り存在を示す電話ボックスがある。

 

背後からは未だ追ってくる気配がある。私が電話ボックスに辿り着き、その中に身を滑らせた時に()()は木々をかき分け、道路の端に姿を見せた。

頭部と心臓を守る為にその腕を犠牲にしたのだろう。片腕は千切れかけ、全身から血を滴らせながら一体の獣が私の前へと進み出る。

咆哮。

電話ボックスに立て籠もる私の姿を見て歓喜に震えているようにも見えた。確かに怪物の見立ては間違ってはいない。鉄製のフレームが格子状に組まれている『鋼の檻』ではあるのだが人狼の怪力にかかれば数刻もしないうちに解体されてしまうことになるだろう。

 

好機とみたのか咆哮を上げながら接近する狼。

「まさに絶体絶命でしょうか?・・・私でなければね」

私は電話ボックスの扉を開け放ち、正面から迫り来る巨体に杖を向けながら見据えた

 

もう休む時間さえ与えてもらえない。

松明の光を遮りながら飛来した、人間サイズの巨大な鷹の石像がハリーの隠れていたスリザリンの石像を破壊し、倒壊させる。

体に鞭を打ち走り出すハリー。

 

だが、ハリーが隠れている間にも走り回るハリーの機動力を削ぐように、ロックハートは床を微かに凹凸やスパイクを混じらせ確実に足への負荷を加速させる様に罠を仕掛けていた。

環境を変化させ自身の有利な状況へと作り替えていくロックハート。

誰がどう見ても絶望的な状況。だが、夢の中のハリーは諦めていないようだった。

 

崩れ落ち、倒壊した石像。その土煙に紛れてロックハートへと肉薄を試みる。

 

「ハリー大きく吠えてーー」

かつて授業で人狼役を演じさせられた。

茶番だと馬鹿にした授業は、案外ハリーを真剣に学ぶべきものだったのかもしれない。

相手に自身の突撃を察せられるにも関わらず、自然と己の口から漏れる咆哮。

どの道、満身創痍。次の手などありはしないのだから。

この時、本当の意味でハリーは人狼の()()()()()と言えるだろう。

 

「ーーそうそう、それで信じられないかもしれないですが私は飛び掛かった」

土煙の先に見えたロックハートの表情は突然の奇襲に驚くようなものではなく、満面の笑みだった。

 

(教科書)に記された事だけが正しいとは限らないと最初の授業でいったはずですよ?」

 

(密着するような距離では魔法使いは呪いを放つことは出来ない。()()()()()()

ハリーは杖手とは反対側の手でロックハートの胸倉を掴み、相手の退路を断った。

ハリーは自身の杖を相手から奪われないように半身になりコンパクトな動作で杖で宙を描く。

今年になるまで毎日のように眺めていた異質な方法・・・今となって遠い昔の様に思える平和だった日常。かつて友人が得意としていた近距離に特化した呪文の詠唱方法。

 

 

 

 

 

 

 

 

「エクスぺリアーム

 

ハリーの全身全霊、捨て身の特攻は自身の脇腹に突き刺さるロックハートの拳により、最後まで詠唱を終えることなく終わりを迎えた。

「その友人はとっさの戦闘では殴った方が早いといいませんでした?」

 

「終わりです」

地面へと崩れ落ちるハリーへと杖を向けるロックハート。

 

既に呪文を唱える空気すら肺に残されていなかった

それでも・・・諦めたくなかった

だから、心の中で強く願う

『エクスぺリアームス !!(武器よ去れ!)』

至近距離で放たれた青と赤の呪文は空中で混じり合い、周囲を煌々と照らし出した。

 

 

ーーー

 

「急に呼び出してすまないの~トレローニー先生」

「そう思っているのならば気軽に呼びださないで下さいまし。唯でさえ俗世に下ると心の中にある内なる瞳が曇ってしまいますのに。」

 

所狭しと本の詰められた本棚に囲まれている。

壁には歴代の校長たちの絵画、古びた組み分け帽子、憂いの篩、キャビネットには記憶の入った小瓶が並べられている。

トレローニーは憂鬱だった。

秘密の部屋、継承者による襲撃事件。解決後には校長からの呼び出し、内容など容易に想像が出来た。

 

「無いとは思いますが初めに。今回の襲撃事件は、これが最善でした。誰も死亡者もなく、私も襲われることもなく今をすごせている。」

「先生、知っておるよ。今更『予知できなかったのか』などと無粋な事は言うまいよ。儂も先生と同様にこれが最善の道だったと感じておる。」

 

トレローニーはウンザリしていた。事ある毎に、「予知できたのなら何故教えてくれなかったのか?」等と煽ってくる輩は一定数はいる。

ーーーましては校長からの呼び出し・・・

『解雇』という言葉が脳裏を過った。

 

だが、校長の話を聞く限りは襲撃を予知できなかったことに対する『能力不足』からの『解雇』ではないらしい。

首を傾げるトレローニーに「個人的に話を聞きたかっただけじゃよ」と老人は話す。

 

「儂は自慢ではないけれども、他の人よりも予想が当たると自負しておる。未来を見通すという共通点で先生の話を聞いておきたいと思っての?」

なるほどと頷くトレローニー。自身には占いに対する才能がない事はとっくの昔に気づいていた。だが、自身が『出来ない』のと『知識がない』のとは別の話。

 

「いいでしょう。まず、先生がしている『予想』は『予知』とは全く別物という事を先に話しておきます。」

確定された事象を予知するのと、これまでの事柄から未来を予測するのとでは正しく『似て非なる物』なのだと

 

「予知が内なる瞳で未来を見ているのに対して、ダンブルドア先生の予想は過去を元にこれから起こる事を予測されています。これは占い学というよりは数占い学に当たりますの。過去の出来事、現在の状況を全て数字に置き換えて式に代入し、これから起こる事象を予測する。」

温度、湿度、天気、城の構造、人の能力、感情、行動基準、それらを全て統合し計算し、答えを導く。データが多ければ多いほど未来への予測は精密に、正確になっていく。

 

ーーーもし、計算した上で外したのならば?

疑問を口にする校長、「人は時間と共に成長しますし、退化もします。変動値は計算に入れました?」と指摘するトレローニー。

 

「何度も計算したよ。じゃが、その予想はことごとく外れたのじゃ」

止まり木に止まる不死鳥、棚に置かれた組み分け帽子に目を移した後、ダンブルドアは静かに目を閉じる。

ーーー何度も計算し、調整した。

ーーー事の直前にも・・・しかし、訪れる筈の未来は訪れなかった。

 

「ならば、何が間違っていたのだと思う?」

「そうですね・・・きっと根本的に数値を測り間違えたのでしょう」

 

誤差はあれども想定の範囲内で収まるはずの事象は、全く別のものになっていた。ならば、計算に入れていない『何者、あるいは何か』がはいりこんでいたのでしょ?

答えるトレローニーの前で珍しく、最も偉大な魔法使い。アルバス・ダンブルドアは声を上げて笑った。

 

 

弾き飛ばされ床に力なく横たわるハリー。意識と共に徐々に自身が何と戦っていたのかさえも薄れていく。

(きっとこの調子だったら僕は敗北したのだろう・・・)

ハリーは状況を見てそう判断した。

 

遠くから聞こえる重いブーツの音。やがてハリーの前まで来ると立ち止まり、足音の主は覗き込むようにハリーの顔をみた。

綺麗な銀髪は、部屋を照らす緑色の幽明に照らされて鮮やかな色に輝いていた

 

「良く頑張りましたね。今回は貴方の意思に従おうと思います。」

「ロックハート先生・・・継承者が・・・ジニーが・・・」

「大丈夫ですよ、ハリー。全て終わりました。継承者は倒され、ジニーも無事です。君のおかげですよ。『英雄さん』。学校に戻った後にこの功績を誇るといい」

 

「そうか・・・僕は負けなかったんですね・・・」

何故この時『勝った』と言わなかったのだろうか?

普段は無能と馬鹿にしていた筈のロックハート。だけど、この瞬間だけは長い間、共に戦った友人の様な心地よい感覚すらあった。

 

「少し眠るといい。目が覚めた時には嫌な事は忘れて・・・貴方の望んだ世界が広がっているはずだから。だから、今はお休み・・・」

成人男性にされる膝枕。筋肉で堅いと思っていたが、予想よりも()()()()()()居心地の良い温かみがあった・・・

 






私は混乱していた。『ここで電話が来るまで待つように』と言われた電話ボックスの中でひたすらと・・・自らを『助手』になると言ったアリスという少女。彼女はこれから何が起こるのかまでは私に教えてくれなかった。ただ、遠くで断続的に聞こえる爆発音や咆哮は自身の手に負えない化物と戦闘が行われているという事はしっかりと分かった

戦闘音は絶え間なく山間部に響き渡り、どんどん私のいる方向へと近づいてくるようだった。いよいよ堪らなくなって電話ボックスから出た瞬間だった、木々をかき分けて体長3~4mくらいは有にあるかもしれない、巨大な狼が姿を現したのだ

狼は私の顔を見た瞬間、大きく咆哮し満身創痍の体を引きずって私の元へと距離を縮めてくる・・・「さっきまで戦っていたのは私じゃない!」叫びながら電話ボックスの中に駆け込むがとても話を聞いてくれるような相手ではなさそうだ。開け放たれた扉を閉めようと必死で取っ手を引くが一向に動かない。電話ボックスを出て逃げるか?そんなことをしようとした瞬間、狼は私へ飛び掛かり、喉元を食いちぎるだろう。鋭く睨め付ける眼光からはまるで親の仇のように『絶対に殺す』という意思すら感じ取れる

公衆電話の呼び鈴が鳴る。私は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で必死に受話器を取り寄せて相手が誰か?などと確認する間もなく助けを求めた

「貴方に頼んで正解でした。あなた以外の演技ならこれが罠だと感ずいたでしょうね」

「ばぁなじがぢがうそ!!まっでるだげだどいっだじゃないが!!」

「ええ、そのままで結構ですよ。もう終わる。」

開け放たれた電話ボックスの入口から私へと飛び掛かるケダモノ。生きたまま食いちぎられるのは想像を絶する痛みだそうな・・・と身を屈めて神に祈った。

すぐにでも訪れると思った激痛は一向に来ず、代わりに遠くから『ターーーン!』と聞きなれない音が私の耳に届く。恐る恐る目をあけると目の前には頭部の吹き飛んだ人狼の死体が横たわっていた。

「お疲れ様。予定通りね」
『パチン』と音を残し全ての元凶であるアリスの姿が私の前に現れた

「話が違うぞ!!何も危険が無いって言ったじゃないか!」
当然わたしは少女へと抗議するが、アリスは「あら?私の言った通り先生には傷一つないでしょ?」と満面の笑みで返す

「私のこんな姿など本には書けない・・・」
「私は何も真実を包み隠さず書けなんて言ってないですよ。契約の通りに功績は全てあなたの好きなように書くといいわ」

自慢の銀髪を土で汚し、自身の匂いを撤退的に排除した少女は、私を囮にしている間に2km離れた位置から対物ライフルで銀の弾丸を打ちこむ・・・現実は小説よりも奇なりとはよく言ったものだ。こんな真実、公表したところで誰も信じる者などいないだろう

ーーーー
フェンリール・グレイバック
数々の襲撃を行い、数多の不幸を生み出した『最悪の獣』は私の手で葬られた。
後に駆けつけたアリスが戦いの状況、電話ボックスの出入り口を開け放つことで相手の侵入方向を特定し、正面から一騎打ちしたと伝えた際には綺麗な銀色の瞳を涙で潤ませ、私の胸の中で「無茶な事をしないで下さい」と言ったものだ。

私達にとって最悪の敵だったが、彼にも彼なりの正義があったのだろうか?
今となってはその本意を知ることはない。
ただ、私は命を奪ったことに後悔はしない。
私に寄りかかり泣き止まない少女の背中をトントンと優しく叩きながら・・・いつの日か子供達の笑顔で溢れる素敵な世の中になるようにと・・・そう願う。

       ~狼男と大いなる山歩き~  著:ギルデロイ・ロックハート


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私は誰だ?
おお、運命の女神よ


今年もよろしくお願いします(/・ω・)/
複数の人物が登場するのでフォントを分けています

「一般枠、この話では地上部隊の統合末端攻撃統制官。コールサイン(グリズリー23)」
『ユーロファイター タイフーン、戦闘機パイロット。コールサイン(ロッキー11)』
「銀髪、銀瞳の少女。(アリス)」
「黒髪、青瞳の少女」
『オーケストラ、オペラ合唱。歌詞』



「手始めに手ごろな獲物で練習して貰います。」

「彼らは人よりも素早い・・・だけど、車の速度には劣る。」

「彼等は鋼の様な筋肉を持っている・・・だけど、本物の鋼の塊や重金属の複合装甲を貫徹させることの出来る貴方達には些細な違いでしかないでしょう?」

「彼らは魔法を反射する・・・だけど、そもそも魔法を使わない貴方達を相手にしては何の意味もなさない特色と言えます。」

「彼らは巨大だ・・・ね?分かったでしょ?貴方達にとっては相手は唯の案山子でしかないのですよ。」

 

なんなら弾頭に高性能炸薬を込めるのすら勿体ない、コンクリートを詰める程度でも良いくらいよ。

と少女はクスクスと笑った。

ーーーー

 

「ロッキー11へ、此方グリズリー23」

『グリズリー23。こちらロッキー11』

「攻撃中止コードは無しのままでいいか?」

『ロッキー11。攻撃中止コードは無し』

「了解、9ライン受領準備出来次第知らせ」

スタンバイ(準備よし)

 

「タイプ2コントロール、標的に攻撃

IP Mazdaから進入

IPからの目標方位270左へオフセット

IPからの目標距離12.1マイル

目標高度5050フィート

目標は巨人

PG37858490

誘導はレーザーを使用

2km南

退避は左旋回のち IP Mazda へ、高度1万3千から1万4千フィートへ復帰、ライン4と6を復唱せよ」

 

『此方ロッキー11、5050フィート37858490』

「復唱良しリマークスとリストリクションを続ける」

 

岩肌の立ち並ぶ険しい山の中、翼の無い虫達は地に身を隠し様子を伺う。

レンズ越しに見える景色。

生物的にも上位に君臨するその存在達に、不運にも遭遇してしまっていたならば、その者は悲惨な末路を辿ることになっていただろう。

魔法使いであれ、マグルであれ、戦闘訓練を受けていない一般市民が単純に巨人達の縄張りに侵入してしまった末路でしかない。

つまり・・・当たり前に訪れるであろう結末は『今回』には当てはまらない。

 

『ロッキー11攻撃侵入、方位030』

「グリズリーからロッキー11へ、攻撃を許可する。」

『ロッキー11、了解』

 

彼等は自ら魔法を使うことはない。

それは、使()()()()のではなく、学ばなくてもその手を振りかざせば全て解決する事を知っているからだ。

彼等にとっては物事を解決するために何時間も講義を受け、魔法を身に着ける事など無駄な労力でしかない。

 

彼等は魔法を使うことはない。

正しくは、『魔力がない・魔法を理解する知能がない』のではなく『覚える必要性を感じない』のである。

その証拠に、彼らの血には人間の魔法使いが放った呪文を反射する程の濃密な魔力が流れている。

 

『投下完了。着弾まで18秒』

 

彼等にとって魔法は脅威になり得ない。

攻撃魔法・魔法で発生させた火炎。あらゆる魔法をも反射し有効打には程遠い。

ならば物理攻撃はどうだろうか?

否、巨人相手に人が剣を振るったところで一寸法師が鬼を針で突いた程度のダメージしか与えられない。

対する相手は体長7.6m、振るわれる手は一撃で建物すらも粉砕する。

 

眠れる巨人を起こすべからず。

それが、魔法使い達の共通の認識であり、常識である。

故に大戦の時には自軍へ引き込もうと、死喰い人が命懸けで交渉へ赴いたという過去すらある。

 

つまり、兼ねてより彼らにとって脅威となるものなど存在しなかった。

今日、この日までは…

 

ーーーーー

 

ホールの照明がおとされ、舞台だけ明々と照らしだす馬蹄形のコンサートホール。

一回の観客席、2階のボックス席、共に満員。

幕が上がるその時を待ちわびるかのように辺り一帯に静寂が漂っている。

 

「失礼、お隣の席・・・ご一緒してもいいかしら?」

唯一、空席があるのは2階正面。

 

「その席は私の取引相手の為に用意した席です。ご遠慮ください。」

「かつて王族が使用していたであろう特等席をまるまる貸切って?随分太っ腹ね?」

 

銀髪の少女は同意なく隣に座った少女に視線を送る。

濡烏の様な干渉色の浮かぶ腰まで届く漆黒の長髪。

横顔を見ただけでも整っている事が窺い知れる、そして東洋人には見られないような青い瞳。

何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の少女にアリスは苦虫を噛み潰した様な表情を作った。

 

「衣擦れ音さえ耳に届きそうな静寂の中、これだけ雑談しても誰も気にも留めない。便利なものね・・・()()って物は。」

「私は、私と同じような存在が非魔法族(マグル)にも居る事が残念に思いますよ。」

 

クスクスと鈴を転がす様な声で笑う黒髪の少女。

「仕方ないですわ、少佐殿は16時から空手の稽古ですもの。ですが、少佐からはこれからの案件は私が適任だと任せられているんですよ?」

「だといいけど…」

 

少女達の雑談をよそに、舞台の幕は上がる。

指揮者は台に立ち指揮棒を振るう。

 

O Fortuna,(おお、運命の女神よ)

velut luna statu variabilis,(お前は月の様に絶えず姿を変え)

semper crescis aut decrescis; (満ち欠けを繰り返す)

管弦楽団の奏でる音色、圧倒的な声量で周囲を圧倒する合唱。

 

「オルフ、カルミナブラーナ・・・『おお、運命の女神よ』」

「ええ、修道院で発見された詩集を元にカール・オルフが作曲した曲よ。この曲にはかつての時代の風景が刻まれている。」

 

愛と自然、愛の喜びと苦しみ。宴会、遊戯、放浪生活。そして、時代と風俗に対する嘆きと批判。

この曲には、当時その時代に生きていた者達の思いが込められている。

 

vita detestabilis(このイヤな人生は)

nunc obdurat et tunc curat (抑えつけたり、宥めたり)

ludo mentis aciem,(いつも気まぐれで)

 

「運命の気まぐれで人間としての権利も自由も命さえ左右される・・・まるで今の私達のようね?」

 

魔法族はマグルを見下し家畜の様に扱う。

時に騙し、時に道化の様に痴態を晒させ、指を差しその姿を嗤う。

無知で、無力で、愚かな・・()()()()()()()()()

 

egestatem, potestatem(貧困も、権力も)

dissolvit ut glaciem. (氷の様に溶かしていく)

 

「私達は貴方達の尊厳を踏みにじり、命さえも奪う。そして、償うこともなく何気ない日常に戻っていく・・」

国際魔法機密保持法によりマグルが魔法界の戦闘に巻き込まれた場合、その犠牲者、関係者は記憶を改ざんされる。

隠蔽は様々だ。

時にガス爆発、または違法建築により建物の崩壊、あるいは飲酒運転による人身事故と記憶を操作し処理するかもしれない。

魔法界は起こった事故の理由に≪魔法≫が関係していないならば何でもいいと思っている。・・・そのでっち上げた理由で更なる犠牲者が発生するにも関わらずに・・だ。

 

Sors immanis et inanis, (おぞましく空虚な運命よ)

rota tu volubilis, (お前は回転する車輪の様に)

status malus,vana salus semper dissolubilis,(悪意に満ち、幸福を無にする)

 

「私は・・・それが気に食わない

何がマグル保護法か?

その法律で一度たりとも護ることが出来たためしも在りはしないのに。

何が無力で守らなければならない存在か?

 

obumbrata et velata michi quoque niteris; (影に隠れて私を苦しめる)

魔法界が無力と嘲笑うマグル達は治安を守る為に活動する警察か?それとも、自国を守る為に厳しい訓練を受けている兵士達か?

武器も持たない一般市民を虐殺して、兵士たちが駆けつけた頃にはその場には居ない。

私達のしている事は、見つからないようにコソコソと悪事を働く小悪党のそれでしかない。

はたして、まともに戦った事もないのに彼らを無力と呼べるのだろうか?

マグルは守るべき存在?その考えこそが傲りとも言える。

魔法界が想像している以上に彼等の技術は発展し、魔法との隔たりは年々縮まってきている。

 

「かつて、魔女狩りが行われていた時代。マグル達は魔法使い、無実の非魔法族、関係無く捕まえ火炙りにかけていました。その姿に心を痛めた魔法族は非魔法族の前から姿を眩ませる事を議会で決定させた。」

 

いい話ですよね?と銀髪の少女は笑う。

我が物顔で君臨し、民衆の不満に火が付き始めたら慌てて逃げ出した。

そして、そのまま隠れておけばいいものを、時代の端々で姿を表し甚大な被害を残し去っていく。

だからこそ、ハッキリとさせないといけないこともあるのですよ…と意見を吐き捨てる。

 

「私達と貴方達。文化も歩んできた歴史も違う。もしも戦争になったら当然、貴方達が有利に事が進むことになると思います。・・・それでも、貴女は我々に価値を見出したのでしょ?」

 

「我々の出来る事は銃弾の無力化。精密機器の動作不良。無意識下での人避け。魔法薬による変装、情報収集。長距離を一瞬で移動する機動力。数え上げればきりがないですね。ですが、それらは貴方達が魔法をどういった物か把握してないという、情報の優位性によるものだと考えます。だから貴女達には・・・・」

 

Sors salutis et virtutis michi nunc contraria,(運命は健やかさも、力強さも奪い)

est affectus et defectus semper in angaria.(私を渇望と失望のとりこにする)

 

「私達の殺し方を教えてあげる。」

 

「・・・理解できませんね。貴女達には何のメリットもない筈です。一体何が目的で自ら破滅に向かおうというのですか?」

「私は平和が好きなんですよ・・・」

 

魔法族とマグル。積み重ねた歴史は既に、調整できないほど天秤を傾けてしまっている。

終わらない戦い、いつまでも続く差別。そして、いつの日か戦火は広がる。

ゲラート・グリンデルバルド。トム・マールヴォロ・リドル。臭い物に蓋をしたところで匂いは無くなっても汚物が消えるわけではない。

いつの時代か、必ず戦争は始まる。

ならば、いっその事・・・・

 

答えの無い答え。

それでも分かる事が出来たのか黒髪の少女は問う事もなく静かに目を閉じた後、舞台の劇に目を向けた。

 

「運命は強者をも打倒するのだから・・・」

「そうですね・・・貴女達の手から零れ落ちた火の粉は私達にも降り注ぐ・・・これは、貴女の戦争であり、私達の戦争でもある。」

 

舞台では女王が民衆を虐げ、踏み躙る。

そして、怒り狂う民衆が王に反旗を翻す様が劇場の中で繰り広げられていた。

 

mecum omnes plangite!(皆の者、我と共に共に嘆こう)

 




敵勢力
巨人部族10名前後


使用した兵器一覧

近接航空支援
ユーロファイター タイフーン 3機編成
ペイブウェイ II 1000ポンド誘導爆弾

AH-64D アパッチ・ロングボウ 2機

支援火力
L16 81mm 迫撃砲 3門

航空爆弾→迫撃砲と戦闘ヘリによる掃討→逃亡した巨人を再突入した戦闘機で殲滅
※9コードの座標、高度、部隊編成などは結構出鱈目な数値になってるかと思いますがド素人なので許して!!
山間部ですので地上部隊のアプローチが大変かなと思った次第です。

ーーーー
アリス:情報提供者
黒髪の少女:とある特殊部隊出身。マグルだけど魔法使いよりもヤバい奴。(別シリーズでもオリ主として活動中(; ・`д・´))


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ロック

誤字報告ありがとうございます(=゚ω゚=)
相変わらず部隊構成とか良く分からないですので!頭空っぽにしてお楽しみください((( ;゚Д゚)))


「此方エコー、ポイントゴルフに到着。各員状況を報告せよ。」

『リマ、配置についた』

『シエラ、到着まであと2分』

『ケベックいつでも行ける』

 

タンゴ(敵勢力)武装勢力(看守)30名、非武装勢力(囚人)50名、双方共に攻撃対象とする。作戦開始時刻に変更はなし、タイミングを合わせろ」

『了解』

 

ウエットスーツを脱ぎ捨て、闇夜に紛れる様な黒塗りの装備を身に纏う。

一見、宇宙服の様にも見えるレベルAの化学防護服。

耐穿刺性ポリプロピレン、プラスチックポリマー、ネオプレンなどの素材をふんだんに使用された防護服は、お世辞にも動きやすい物と言えるものではない。

少女はトリガーガードの外され、薬室に銃弾を装填されていない銃を握り、分厚い手袋の上から引き金を絞る動作した後に形の良い眉をハの字に歪めた。

 

 

「今回使用する特殊武装はとても凶悪だ。万が一症状が出だしたら速やかにアトロピンを体内に注入しろ」

「時間だ、始めろ」

 

幼児向けのサンダルの様に歩くたびに『キュッ!キュッ!』となる自身の足音に何とも言えない表情を作りながら少女は闇夜の中に溶け込んでいった。

 

ーーーー

 

ハリーは初めて()()を手にしたが、その奇妙な感覚に慣れるまで数日間の時間を要した。

好きな時に起き、好きな時間に寝る。食べたい物を食べれるし、退屈したら魔法使いの繁華街・ダイアゴン横丁へと赴くことも出来る。

つい最近までプリベット通りの従弟の家で、自分の部屋に閉じこもってコソコソと宿題を済ませていた生活とは、まるで別世界といっても過言ではない。

 

時間が経てば経つほど、自身の置かれている状況も奇妙に思えてくる。

ハリーは死んだ両親を馬鹿にした親戚を、()()()()()()()()()()()逃亡したのだ。

去年(屋敷のしもべ妖精がハリーに冤罪を掛けるために魔法を使用)の際はどんなに弁解しようと問答用無用で再度の(未成年の学校外での)魔法使用は退学と警告の手紙が送り付けられてきた。

去年と今年の2アウト。当然、()()()()()()ハリーも杖を折られて学校は退学。ハグリットやフィルチの様に魔法使いとしてではなく雑用として魔法界にとどまるか、魔法を諦めてマグル界で生きていく事になるのかと考えざる得なかった。

ところがどうだろう?蓋を開けてみれば『あれは事故だった!おばさんを膨らました廉でアズカバン送りにすることはない!』現魔法大臣、コーネリウス・ファッジはそう言い切ったのだ。

 

ハリーは手紙を書いた。エジプトへ家族旅行しているロンや、フランスへ観光を満喫しているハーマイオーニーではなく、ハリーの国・・・イギリスに居るであろうもう一人の友人へ。

その夜に体験した不思議な事・・・おばさん風船事件、ナイトバス、漏れ鍋での魔法大臣の待伏せとハリーへの処罰について。

 

数日後、ヘドウィグが運んできた手紙。

今や今やと待ち望んでいたハリーは早速開封をし、目を通した。

 

ハリー、お元気?

 

・・・と聞いていいか微妙なラインではありますが、ひとまず学校を退学にならなかった事、事故に巻き込まれる事無く無事に漏れ鍋に辿り着けた事を嬉しく思います。

初めにお説教みたいな事は言いたくはないのだけど、仕事でも、学問でも、スポーツでも、本当に大切にしたいと思うのならば、凶行を行う際にその手段を使用するのは止めた方が良いと思うの。

程度はあれど記憶と罰は貴方の身に纏わりつく。魔法が楽しいと思っていても、使うたびに最悪の記憶が蘇って苦しいと感じる様な事には・・貴方もなりたくないでしょ?

とは言っても、貴方の気持ちも分かるから『身を亡ぼす様な無茶は止めてね?』とだけ言わせてほしいです。

 

手紙で貴方が疑問に感じてた、退学処分の隠蔽の私の見解を述べます。

貴方の起こした事件に対して魔法省から派遣された職員は『魔法事故巻き戻し局』の職員の2名だけ、その事件から数日経ちましたが日刊預言者新聞にも貴方の起こした()()に関する事は一切記載されてなかったわ。

必要最小限の人数で、無駄に事を荒げないように・・・つまり、魔法大臣は()()()()この件を()()として処理しようとしてたみたい。

 

この手紙に添付した新聞の切り抜きを見て。凶悪犯が脱走したという事は、マグルのTVでも放送があった事ですし貴方も知っているかもしれないわね。

問題なのは、この凶悪犯が魔法使いで、難攻不落と言われてるアズカバン(魔法使いの要塞刑務所)から脱獄したということなの。

この脱獄犯は過去に、マグルの行きかう大通りを魔法で吹き飛ばして13人を死傷させた正真正銘の悪党・・・自由になった今、何をしでかすのか誰も予想できない。

そんな中、良くも悪くも貴方がマグルに対して違法に魔法を使用した上に一人で逃亡しているって知った魔法大臣は気が気じゃなかったでしょうね・・・

唯でさえ監獄の警備体制の見直し、逃亡犯の確保、その為の情報収集や指名手配を行っている最中に貴方が危険な街中に居るって情報が入った事でしょうから。

貴方、自身の『英雄』としての価値をご存知?貴方に万が一のことがあれば『魔法省の対応は最悪だ!』って大勢の民衆が大挙をなして魔法省を包囲する事になるわ。

そう思うと、マグルのおばさんを膨らませた事なんて些細な事よね。

 

魔法省にとっては行方をくらました貴方の安全確保が最優先。つまり、そういう事なの。くれぐれも()()()()()()()懸賞金を貰おうなんて考えないでね!

私も近直、新学期の準備の為にロンドンに向かうわ。貴方の変わらない元気な姿を見れる日を楽しみにしています。

 

   ジェーンよりーーーー日々の健康と健勝を祈って

 

ハリーの行動を注意しながらも心配している・・・実にジェーンらしい文だな、とハリーは笑みをこぼした。

同封されてた新聞の切り抜きは2つ。

一つはナイトバスで車掌のスタンがハリーに見せてくれたものと同じもの。

 

ブラックいまだ逃亡中

と一面にでかでかとシリウス・ブラックの顔写真と魔法大臣の対応やコメントが記された記事

 

もう一つの切り出しは、どこかの廃墟からモクモクと黒煙が立ち上っている記事だった。

記事の日付は昨日、見出しには・・・

 

魔法使い刑務所・アルカトラズ崩壊、ブラックの襲撃か!?

昨晩、魔法使い要塞監獄アルカトラズが襲撃され、受刑者、看守含む80名の生死を確認できないという前代未聞、大胆不敵な犯行が行われた。

アルカトラズは近年、人権問題になっている軽犯罪者のアズカバンへの収容、その対策として新設された刑務所だ。

この島は過去にマグルが監獄として使用していたが、食料品等の物資の運搬コストの増大など経営難から閉鎖されたものを魔法省が買い上げ、改築した監獄だ。

 

犯行には極めて強力で危険の伴う闇の呪文、『悪霊の火』が使用されている事が当局の捜査で明らかになった。

等刑務所は受刑者を留置する施設として、『姿くらまし』『姿現し』は使用できない様に対策が取られている。

また、島を囲む様に放たれた『悪霊の火』と合わせて、パニックになった受刑者による暴動が内部で行われ、看守の状況対応を上回った為に被害が拡大したとみている。

 

魔法大臣であるコーネリウス・ファッジはこの件に対して、

『一連の犯行は、ブラックの手によるものとみて間違いない!この犯行を見て分かる通り、ヤツにとっては味方も敵も無い!』

と怒りの言葉を残している。

 

ブラックが脱獄不可能とまで言われたアズカバンから逃亡し、既に1週間が経過した。魔法省の威信を掛けた追跡も、結果は虚しく未だにブラックの足取りも掴めていない状態だ。

魔法省はブラック確保に繋がる情報提供に懸賞金を掛け、魔法界、非魔法界問わずに情報提供を募っている。

 

─────

険しい山脈に建てられたヌメンガード城、大洋のど真ん中に存在するアズカバン。孤島に建てられたアルカトラズ。

凶悪犯を収容する監獄には人里から離れた場所が好ましい。

 

それは、一重に脱走した際に周囲の被害を軽減するという意味合いでもある。勿論、簡単にアクセス出来てしまっては意味がない。したがって姿現し、ポートキー等の対策は必須である。

 

周囲とは隔離された世界。

皮肉にもマグルが建設した刑務所の環境はマグルから身を隠さざる得ない魔法使い達には適した環境はであると言える。

 

 

「ブラック様々だよな!」

巡回から戻った看守が守備室に戻るなり、唾を床に吐き捨てる。

とても政府の役人『闇払い』とは思えない態度に俺はタメ息を漏らした。

 

「何が不満なんだ?囚人は大人しく、Tvでラグビーを観戦するだけの平和な日々じゃないか。」

 

「知らないのか?ブラックがアズカバンから脱走した!」

そんなことは世界から隔離された地、このアルカトラズ島でも把握してる。

 

「それで?監視体制の見直しでこのアルカトラズ島にも監査が来ると思ってるのか?」

この刑務所は他の刑務所とは勝手が違う。

アズカバンの様に、気味悪く不浄な看守の餌として囚人を放り込む訳でもない。

ヌメンガードの様に精鋭の闇払いが24時間体制で警備しているわけでもない。

 

ここは政府の息のかかった()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「新入り、分かってないようだから教えてやる」

 

お前が逃亡犯だとしてブタ箱にぶちこまれるならば、入ったならば最後、数年で冷たくなって出所出来る刑務所と、外を出歩く事や杖の携帯は出来ないが所内での自由は認められているグループホームみたいな施設。どっちがいい?

俺だったならば断然後者だね!

追い回される自由か、何一つ不自由のない監獄か?

さて、問題は悪事に手を染めた上院議員にも同じ事を考えたヤツが居るらしい。

勿論、そんな都合の良い監獄なんてあるわけがない。ならば、作ってしまえ!

そうして此処が出来たって訳だ……

 

お前も囚人を見て分かっているだろう?

あいつらは囚人であり、お客様なんだ。

 

快適な生活を行い、刑期が終われば罪を精算したとして

晴れて自由の身。

 

誰もが大枚をはたいてでもこの刑務所に入りたがるさ。

勿論、大臣様々も知っている。

今まで足取りの掴めなかった逃亡犯が次々と自首してきたんだからな。

 

魔法大臣もさぞや鼻が高いだろう。

凶悪犯を捕まえ、平和に貢献したとして支持率も上がった事だろうよ。

 

「理解したか?ここは奴らにとっても楽園で、わざわざ抜け出そうなんてヤツは居ない。囚人は顧客で政府や雇われの俺達はその金で飯を食ってるんだ。政府の視察?そんなもの1日だけ、いつものように()()するだけでいいだろう。」

 

新入りは説明を理解したのかしてないのか…再び唾を吐き捨ててエールをあおった。

 

こんな施設だからこそ数少ない戦闘訓練を受けた本物の闇払いなんて派遣されるわけがない。派遣されては囚人も、政府としても都合が悪い。

だからといって、こんな質の悪いチンピラみたいな人間をこの仕事に配属するのも考えものではあるのだが……

 

「おい!お客様がシャワールームでお呼びだぞ。どうせマーライオン(蛇口)が詰まったとかだろう、行ってこい!」

「糞が!」

 

「くれぐれも行儀良くしろよーそうすりゃチップでも恵んでくれるだろうよ!」

瓶を片手に悪態をつく看守。その後ろ姿に皮肉を込めて仕事を押し付けた。

煎餅片手にマグルのTVでラグビーを観戦する。

 

魔法使いにとって魔法由来の道具が身近にあること程危険な物は無い。

魔法刑務所という事もあり使用されるものは極力、魔法を使った物は排除されている。

とは言ってもマグルの残した無線機の使い方も分かる訳もなく大半は唯のアンティークに成り下がっているのが現状ではあるが。

 

試合が終わり、紅茶を啜ったあとにふと思い出す。

「あの薄鈍(うすのろ)、お使いに何分時間をかけてるんだ」

 

看守が既に守備室を出て40分は経過している。

看守長は重い腰を上げざるをえなかった。

 

誰も入っていない見せかけの牢獄(居住スペースは拡張魔法で設けてある)を抜け大浴場へ。

 

脱衣室へ入る際に看守長は違和感を感じた

脱衣所から見える開けっ放しの戸、その先にある浴室は湯気で奥までは見えない、鳴り続けるシャワーの音

何より・・・『人の声がしない』

 

杖を取り出し構える。

看守が溢していた「ブラックが逃亡した」という愚痴が脳裏を過った。

 

奴の目的何て分かりはしない。俺は狂人じゃないんでね。と普段なら笑い飛ばしていただろう。

だが、今になってそのことが頭から離れない。

 

(もし、奴に明確な目的があってアズカバンを脱獄していたのならば?)

アズカバンを警備する看守は人ではない。囚人から幸せな感情を抜き取り、最悪な記憶を見せつける。

やがて囚人は生きる事を諦めてしまうのだ。

 

(そもそも、意志の弱い奴は数カ月で自殺する。それなのに10年もの間あの場所に服役してる事が異常なんだ!)

明確な目的がある。看守長の中でその考えは確信へと変わる。

 

(一体どんな目的が?)

そんなの考えなくたって分かる。奴は闇の帝王の腹心だった。どうやって捕まった?

敵対する魔法使いを殺す為に大通りでマグルごと()()()()()()んだ。

それじゃ、()()()()()()()()()()()()()どんな奴らだ?

 

ブラックを忠実なる僕とするなら、ここの囚人は主人を見限り、政府に首を垂れる()()()と見られてもおかしくはない。

自問自答の中で見つけた答え。そして、濃い湯気の隙間から覗く倒れた人間の足を確認した看守長は中の惨劇を見届けることなくその場から走り去った。

 

ーーーー

「魔法は万能のようでそうではない。例えば最強の防御手段『盾の呪文』」

「一つの呪文を除いてあらゆる脅威から身を守ることの出来る呪文です。さて問題です、『あらゆる脅威』とはどこからどこまでの事でしょう?」

例を挙げるのなら私達の身近にある『空気』これが複数の気体が混合したものという事はご存知かと思います。(魔法使いの中にはこれすら知らない人もいますけどね)と銀髪の少女は笑った。

 

窒素7.8割、酸素2割、残りをアルゴンや二酸化炭素、その他諸々で構成されています。

酸素の比率が少なければ人間は『酸素欠乏症』となり筋力低下、意識喪失、死亡と弊害が起きます。

逆に酸素が多ければ安全か?体に無害な酸素だけを盾の魔法内部に通そうとすると結果的に高濃度の酸素が形成され酸素中毒になる。

 

「私達は『空気』という概念を理解して、その中にある『あらゆる脅威』を排除しているわけではありません」

それじゃ、もしも無色無臭、少量でも容易に意識を刈り取り死に至らしめる、自然分解には時間がかかり、皮膚に付着しただけでも効力を発揮する毒ガスが室内に流されたとして、魔法使い達は『自身の脅威』を理解して対処が出来るか?

「答えはNOですよ」

 

大勢が何が起こったかも分からずに死亡する。

仮に把握したとしても毒に侵され、口の端から白い泡が噴き出し呂律の回らない状態で魔法を正しく唱えれるのでしょうか?

激痛、痙攣、途切れそうな意識の中最善の行動をとれるのでしょうか?

 

「つまり魔法使い達は『自身が脅威に思った物』に対して防御出来るけれどその正体が分からなければ貫通できるというわけね」

 

「なりふりを構わなければいくらでも手段はありそうですね。自身の家を焼く覚悟が出来ているならばの話ですが。」

 

 

 

看守長は走った。

目的地は医務室。

40分前に送り出した看守の他にも複数の囚人、看守が大浴場に居たにもかかわらず一方的に虐殺されていた。

考えられるのは強力な毒薬を水道に流し込まれた・・・・

毒ガスの充満した浴場近くに居る自身も唯で済むとは思えなかった。

 

既に痙攣し始める足を引きずって。

 

「魔法界にはあらゆる毒物を解毒できる万能薬となる物が存在します」

 

医務室からガラスの割れる音が鳴る。

看守長は部屋に飛び込むと同時に呪文を放った。

 

「だけど、それは大量に生産できるようなものでもない」

 

ベゾアール石を握りしめたまま、驚愕の表情を浮かべる看守の手から石をもぎ取り、その石を飲み込む。

「残念だがお前は手遅れだ!」

 

「どんなに魔法使いが高貴な存在と説こうが、中身は薄汚い人間であることには変わりはない。」

 

魔法族、非魔法族以前に人間であるのだとアリスは笑う

「初手で施設の大半は機能を失うでしょうね。残りは異変に気付いた囚人、看守を処理していく作業になりますね」

 

杖の無い魔法使い程、無価値なものはない。彼らは武装したマグルを目の前にしてもきっと鼻で笑うでしょうね。自分自身も、杖が無ければ何もできない糞虫にも関わらずにね?

 

『此方リマ、守衛室を確保。』

「了解、モニターを監視、警備に注意を払え。」

『了解、現存する脅威を転送する』

 

「とはいっても戦闘態勢に入った魔法使いを相手するのは細心の注意が必要でしょうね?」

黒髪の少女の問いに銀髪の少女は無言で頷く。ならば、警戒態勢に入られる前に可能な限り数を削ることが重要ねと黒髪の少女は結論を出した。

 

隠密、誰にも気づかれる事無く無音で処理を行っていく。

銃口につなぎ合わされたサプレッサー(抑制器)は最終手段。

いくら音を押さえる事が出来るとしても生活音で誤魔化せる範囲を優に越している。

まして、密閉された室内では余計に目立つ。

 

杖を構えて前進する魔法使いを、廊下の角で待ち伏せし、杖を掴み取り捩じ上げる。

とり落とした杖を足で蹴飛ばし、胴体に黒塗りのナイフの刃を突き立てた。

くぐもった声を上げよろめく看守、態勢を崩しのけ反った体。その場でたたらを踏んだ看守の太ももに少女は足を乗せ、踏み台がわりに宙を舞う。相手の頭を掴み、少女の膝は看守の顔面に突き刺さる。

魔法に頼ってばかりの魔法使いが、魔法の無い世界で戦い、研鑽してきた技術に対抗できるのか?

この結末も当然の結果と言える。

廊下に崩れ落ちた看守の喉をナイフで切り裂き、少女の姿は再び闇の中に溶け込んでいった…。

 

 

 

『此方シエラ、コンタクト!』

「エコーより各員へ、フェーズ3へ移行!兵装の使用制限を解除」

 

 

「貴方達の話を聞いていると、魔法界由来の生物には強力な魔力が宿っている見ていいのです?」

「肯定よ。魔法使いの杖には魔法生物の素材が含まれている。その素材を用いて魔力を増幅、制御を行っているの」

 

「それならば先日仕留めた巨人の骨を弾芯に、血肉を混ぜ合わせた鉛を流し込み、その上を真鍮で覆い、ルーンを刻んだ特殊弾は対魔法使いに効果が出ると思いますか?」

「ルーンを刻んだだけでは意味が無いの。貴方達の銃から放たれた弾丸は魔力を流さない限り鉛玉以上の効果は出ない筈よ?」

 

 

「あら、魔力ならちゃんあるわよ?」

少女は両手を顔の前で合わせてにっこりと満面の浮かべる

「魔力ならちゃんと殺したい相手(貴方達)が持っているでしょ?」

 

 

口径5.56mmの銃口から放たれた特殊弾は室内の空気を裂き、盾の呪文を展開する魔法使いへと向かう。

弾丸が見えない壁(盾の呪文)に接触、弾頭は潰れ、弾芯が露出した。刻まれたルーンが光り・・・止まるはずの銃弾は勢いを失うことなく術者の心臓を貫いた。

 

看守長は目の前で起こった現実に目を疑った。

無力と嘲笑っていたマグルの兵器に貫かれ、同僚が倒れた・・・信じられる筈もない!

きっと、盾の呪文を解いた瞬間を撃ち抜かれたんだ、間抜けな奴め。

 

壁の裏に身を隠し、姿の見えない襲撃者。

数少ない生き残りである同僚の2人に、襲撃者を包囲するように指示を出す。

正面、左右に分かれてゆっくりと回り込む。

 

「投降しろ!シリウス・ブラック!!貴様は完全に包囲されている!」

「大人しく降伏するなら身の安全は保障しよう!」

当局に引き渡すまでの間はな・・・・

 

「此方シエラ、包囲されている援護を頼む」

『エコー、10秒で到着、タンゴ3をやる!』

『ケベックだ。タンゴ1いつでもいける』

「カウント3」

 

盾の魔法を展開しながらゆっくりと包囲する看守。

自身の心臓の音が聞こえてきそうな静寂の中、『パリン』とガラスの割れる音が背後の窓から聞こえた。

左に回り込んでいた同僚と目があった・・・胸に穴が開き、その目は驚愕で見開かれている。

銃声、正面に目を戻すとブラックが身を隠していた壁に、複数の小さな穴が開いていた。右から『ドサ』と倒れこむ音が聞こえる。

もう、状況を確認する必要すら感じない。咬み合わせた歯がガタガタと鳴り響く。

 

胸に違和感を感じ、視線を下げてみる・・・ナイフを持つ子供の手の様なオブジェが自身の腹部から生えていた・・・・・

 

 




「綺麗な炎ですね、何もかも……灰に変わっていく」

轟々と燃え盛る炎を前に的外れな感想がもれる。
魔法の獄炎は毒ガス、薬莢、脱ぎ捨てられた化学防護服や魔法使いの戦闘ではあり得ないような蜂の巣になった死体をも……全て灰に変えていく。

それは、証拠隠滅の為。
それは、空白のピースを作り追憶者に都合の良い過去を予想させるためのもの。

全てが灰になった後、彼等は悪霊の火を使われた事のみを把握する。
足りないパズルのピースを勝手に想像し、無理やり押し込み、一枚の絵を完成させる。

こんなことが出来るのは凶悪犯、シリウス・ブラックだけだ!ってね………

「昔は私も夢を実現できる不思議な力…なんて思ってました」
「今は違う?」

まるで肯定するかのように空白の時間が流れる。

「もうじき魔法省が事態を察知し、駆けつけてくる」

でしょうね、とそれまで無言で待機していた隊員に撤退の合図を送る。

「また会えるかしら?」
まるで親しい友人へ話しかける様に黒髪の少女は問いかけた。

「いいえ、もう会うことも無いでしょう
銀髪の少女は悲しみも喜びもない無機質な瞳を少女に向けながら返答する

そう、それは残念ね


「でも、案外世界は広いようで狭いものよ?また会いましょうエイシー」
と微笑みを残して………


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まぁ、いいんじゃないの・・・どうでも

個人、国家、力の在り方、大衆心理
人々は集められた強大な力を一匹の獣に例えた・・・


「聞いたか?ロニー坊や」

 

新学期早々何だよ!

と面倒そうに返すロン。

一言で言うならば雑な対応。

それは、例えロンがその様な対応をとっても関係性が崩れる事のないという絆であり、信頼であるのかもしれない。

単に、家族、年の近い兄弟、イタズラ好きで些細な事は気にもせず、お調子者で常にロンを弄ってくる双子の兄弟への通常の対応と言えばそれまでの事なのだが……

 

「俺達の宿敵が、遂にホグワーツへ浸入してきた!」

「全く、偉大なるダンブルドアは一体何を考えていらっしゃるのだろうか!!」

 

両膝を床に付き、両手を天へ……世の中の不条理を嘆くかのようなオーバーリアクションをするフレッド。

対するロンは、その場に居合わせたグリフィンドールの女子から(クスクス)と笑われ耳まで真っ赤になっていた。

 

「そもそも宿敵って誰だよ!」

 

「おお、兄弟!由緒正しいウィーズリー家と相反する忌まわしき門番の存在を知らないとは何とも嘆かわしい……」

「我が盟友は既に、寮監殿に話を持ちかけ『魔法生物飼育学』を専攻から外したというのに……我が弟は何も知らないとは、なんたる怠惰!」

 

魔法生物飼育学。去年までこの学科を受け持っていた教授は「腕か足が一本でも残っているうちに退職したいんでね!」と言い残しホグワーツを去った。

したがって、闇の魔術に対する防衛術と合わせて2人の教員がホグワーツに訪れる事となったのだ。

すなわち、闇の魔術に対する防衛術のルーピン教授と

魔法生物飼育学のハグリッドだ。

 

ハグリッドは去年まで『禁じられた森』と呼ばれる魔法生物が生息する広大な森の森番役としてホグワーツに滞在していた。

当然、イタズラ好きの双子が禁じられた森で『面白そうな怪物』を捕獲してホグワーツへ持ち帰ろうとするのを幾度となく阻止して来たわけで………

 

「もしかして、そんな事で宿敵なんて呼んでいるの?」

 

「おお、兄弟……残念な事に俺達の聖戦を理解できる者は少ない……そう、居ないんだよ……俺達には……味方も……そして、敵もね……」

「あぁぁぁいぃぃぃしぃてるんだぁぁぁぁ!!きぃみぃたちぃをぉぉぉぉぉ!!HAHAHA」

 

盛大なコント、もしくは役を演じてる双子を尻目にロンはため息をこぼした。

愉快な兄弟の話ではジェーンは既に魔法生物飼育学を除外して別の学科を選択したようだ。

 

「他人事ではないぞ兄弟!」

「そう、俺達はハグリッドがどんな刺激的な怪物を飼育してるのかワクワクしてるんだ!」

「毛むくじゃらで足の多い巨大な御友人と仲良くなれるチャンスかもな!!そう言えばロン……足の生えた熊の人形は今何処にある?」

 

………僕もジェーンを見習って飼育学を外すべきなのだろうか………。

 

 

魔法生物の危険性

今年度一世間を騒がせているのは逃亡犯、シリウス・ブラックであることは誰も異論を上げる事のない事実である。しかしながら魔法界では『闇の魔法使い』以外にも数多くの危険が存在するという事も忘れてはいけない。近年で最も偉大な魔法使いと称される、アルバス・ダンブルドアが校長を務めるホグワーツ魔法学校。最も安全で、優秀な教師が滞在する事で有名な当校でも不意な事故を防ぐことは難しいと言えるだろう。

9月半ば、『魔法生物飼育学』の授業の最中に、男子生徒がヒッポグリフ(上半身がグリフォン、下半身が馬の合成獣)の攻撃により負傷したという事実が明らかになった。当生物は鋭いくちばし、30センチの鉤爪を持ち危険度の高い魔法生物である。

 

校長であるアルバス・ダンブルドアは授業、監督に不備はなく適切な授業がされていたとコメントを残しているが一方で危険動物処理委員会は「ヒッポグリフと一括りにしても狂犬病を発症した犬の様に手に負えない凶暴な個体も存在する」と返答し、危険個体について適切な処分を行うように協力を仰いだ・・・

 

 

 

・・・・・・・

 

「ねぇ、ジェーン・・・ハグリットの事なのだけど・・・」

グリフィンドールの談話室、熾火になりつつある薪がチロチロとか細い炎を上げる空間にはまるで人払いをしたかのように人気がない。

白熱するクィディッチ合戦。ハリーの転落、ニンバス2000の破損、送られてきたファイアボルト、呪い調査の為の箒の分解。そして返却された芸術品とも思える様な最強の箒。初のお披露目となるグリフィンドールVSレイブンクロー戦。当然、全校生徒が試合に行き、校内が閑散となるのも然り・・・箒に呪いが掛かっていると疑い、提出するようにマクゴナガルへ進言した一人の少女を除いてだが。

 

「そんな事よりも少し休みなさいよ」

目の下のクマは酷く、頬はやつれ目も充血している。まるで何日も寝ておらず十分な休息、十分な食事が取れていないかのようだった。

少なくとも箒の返却されるまでの間、かつて寮の点数を一晩で150点減点された時の様に寮全体から敵対視されている針の筵の様な状況で穏やかに過ごすなんて胆の据わった度胸は彼女にはなく、日に日に憔悴していく様を見る事しかできないジェーンには歯がゆい状況でしかなかった。

 

()()()()ではないわ!バックビークの命がかかってるのよ!危険動物処理委員会がどんな組織かはハグリッドから聞いたわ・・・ハグリッドが負ければバックビークは間違いなく殺されてしまう!」

「・・・それは貴女が背負うべき問題なの?」

 

何を言っているのとハーさんの目が見開かれる。

「法律ってものは私達が平和に日々を過ごす為に存在しているの」

 

勿論、例外もあるわ・・・狡賢い政治家が自身の有利になるように抜け道を用意することだってある。

それを知っている者と知らない者では大きな差が生まれもするけどね。

 

「重要なのは、法律は私達の守るべきルールであるって事」

大昔では人間の正しき在り方として『神の言葉』とか『神罰』なんて仰々しい言葉を使って人々に犯すことのない様に意識付けていたのかもしれない。それが現在では『国家』が守るべきルールとして『法律』が存在するの。安易に反故し、他者に危害を与える様な人物には、それ相応の罰を与え、法律の鎖で縛り付ける。そうしてこの世の中は回っている。

 

例え話をするならば・・・

「訓練された猟犬をけしかけて他者を殺した場合・・・飼い主は罪に問われない?」

 

そうではないでしょ?そんなことが罷り通る(まかりとおる)のなら世界は()()()()()ばかリ起こってしまうわね。

『犬が勝手に食い殺した!俺には殺人の意思などなかった!』なんて言い分なんて許されない。だからこそ法があるの。飼い犬の罪は当然、飼い主が負うべき責務・・・そうでしょ?

 

「ハグリッドはどうかしら?マルフォイ氏は最初に授業の監督体制の不備を指摘した。ハグリッドは否定し、ダンブルドアはそれを肯定した・・・」

ハグリッドには罪はない。ならば、ドラコの負傷は誰が責任を取る?

 

「犬なんかに咬まれる奴が馬鹿なんだ?当然、そんな言い分が通る訳もない。…となれば、飼い犬に罪を清算させようとするのは当然の流れよね?」

そうでしょ?適切、厳重な監督の下で行われた授業にも関わらず起こった事故。つまり、手が付けれない凶暴な猛獣ってことなのだから。

 

「つまり、私には当然の結末だと思うわよ?それで、どうしてハーさんがハグリッド()()()の代わりに時間を使って法律の抜け道を探す必要があるわけ?」

教師が生徒に尻ぬぐいをしてもらう?笑わせないでよ。

責任をとれる立場の大人がなにもせず、日々の生活で余裕の無い少女の負担になるなんて・・・そんな奴とっとと職を辞めた方がいい。

 

「なら私達はどうすればいいの?」

疲れ切った表情でソファーのクッションの中に沈み込むハーさん

ジェーンは少し考えた後、結論を呟いた。

 

「ハグリッドも含め私達には権力も発言力も無い。頼みのカードであるダンブルドアはハグリッド免罪で使ってしまってしまった」

「ならば法律を熟知した専門家に状況を検分してもらうべきね。それと動物好きで擁護してくれそうな著名人に協力をお願いしたら?」

世間、大衆を味方につけて危険動物処理委員会が雑な対処を行わないように枷を付けるの。

「それでも駄目なら・・・・」

 

ドラコ達が本当に欲しいのはハグリッドの首でしょ?なら渡してやりましょうよ?

ハグリッドも『家族』の様に可愛がっている大好きな怪物の為に職を失うのは本望でしょ?なに、去年までの暮らしに戻るだけ・・・実質あいつは何一つ失うことなく日常に戻れる。

 

「・・・やっぱり貴女はハグリッドには優しくないわね・・でも、ありがとう」

ハーマイオニーは深く息を吐いた。

 

「どういたしまして・・・おやすみなさい、ハーマイオニー」

パチパチと音のなる部屋。

規則正しく聞こえる寝息を聞きながらジェーンは暖炉へと薪をくべた。

 

 

シリウス・ブラックまたもや逃亡か!?

 

1993年。シリウス・ブラックはこれまで脱獄不可能、難攻不落の要塞刑務所と名高いアズカバン刑務所から脱獄した初めての囚人となる。

その後、魔法使いの収容されたアルカトラズ刑務所を襲撃し囚人、看守共に全員を殺害し姿を眩ませていた。

以降、足取りの掴めていなかったブラックだが1993年10月31日、ホグワーツ魔法学校へ侵入。『太った貴婦人の肖像画』を破壊。『生き残った少年』ハリー・ポッターの部屋へブラックが侵入など・・・正に神出鬼没ともいえる大胆不敵な凶行を繰り返してきた。

これは、ブラックが脱走した当初にコーネリウス・オズワルド・ファッジ魔法大臣が指摘していた『今後、考えられるブラック行動』の予想が的中したといっても過言ではない。魔法省とホグワーツの監視のを目を搔い潜り行われていた犯行だが、遂にシリウス・ブラックを一時的に拘束したという情報を当局は極秘に入手した・・・

 

激戦の末の悲劇

三大魔法学校対抗試合、最終戦の事故によりホグワーツに在籍する生徒が命を落とすという痛ましい事故が起こった。同大会は複数の機関の監督の下行われ、事故当日の最終確認でも『特に異常はない』との報告を受けたと関係者は述べている。

事故の際、間近で人の死を目撃したハリーポッターは錯乱しており・・・・

 

英雄の末路

長年、闇の魔法使いと剣を交えてきたアルバス・パーシバル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアの功績は20世紀で最も偉大な魔法使いと断言しても過言ではない。しかし、昨年度末に『闇の帝王が復活した』等、複数の問題発言を公言しており、周囲に混乱を与えている。1996年現在115歳になり、最前線で杖を振るった栄光時代と現在の衰え行く体との差異で錯乱していると専門家は述べている。魔法省はこの事態を重く捉え、ドローレス・ジェーン・アンブリッジ次官をホグワーツの闇の魔術に対する防衛術教授に任命し、正しい教育が行われるようにと宣言した。

 

 

不審死相次ぐ

今日未明、聖28一族として知られているクラッブ氏の邸宅で火災が起きているとの通報があった。魔法省が駆けつけた頃には家屋は全焼しており、中からは3人の身元不明の遺体が見つかった。通常の火災では炎凍結呪文の使える魔法使いが死亡するケースは稀で、当局は殺人の疑いがあると捜査を進めている。闇の勢力に対抗した騎士団として有名な『不死鳥の騎士団』だが、団長であるアルバス・ダンブルドアは近年、折り重なる激務と老いで正常な状態ではないと専門家が診断しており、暴走した騎士団が純血の一族を『闇の勢力』として私刑を行っている可能性を示唆した・・・

 

・・・・

 

「人々は自分の生命を守る権利があり、自由に行動する権利がある。しかし、それらの自然状態では互いに他者の権利を損害してしまう恐れがある。したがって、人々は平穏を享受するには個人の力を『国家』へ譲渡する必要がある。国家権力はそれらの力を使用し個人の権利の保護と社会の管理を行う義務がある」

 

「貴族が義務を負うのならば、王族はそれに比してより多くの義務を負わねばならない。ノーブレスオブリージュに似ていますね。最近では、主に富裕層、有名人、権力者、高学歴者が社会の模範となるように振る舞うべきだという社会的責任に関して用いられる」

 

「国家と民の在り方を説いたものです。まぁ、似たようなものではありますね。」

 

ガチガチと硬質な物を叩き合わせた様な異音、木々をなぎ倒す音、周囲の落ち葉を踏み荒らす音をまるで最初っから存在しない音かのように無視し、のんびりとした口調で話す少女とは対照的にロックハートの声は若干震えているようにも聞こえた。

 

「もし、力を譲渡した国家が外部からの脅威に対応できないと民が知ってしまったらどうなるのでしょう?」

「自らの国を捨て、他国に服従するか・・・国への力の譲渡を辞め、個人が自身の身を守る為に使うかもしれませんね」

 

日没し、暗闇が辺りを包み込む森の中。杖を構えながらキョロキョロと見回すロックハートは心ここに在らずといった感じで投げやりな回答をアリスへ返した。

最終的にはそうなるかもしれませんね・・・ですがそれは最後に起こる事です。とアリスはロックハートへ返答する。

侵略する他国の言葉など信用するには値しない。甘い言葉で誘惑し蓋を開けてみれば家畜の様な扱いなんてこともあるかもしれませんね。私達は敗者なの。不満を口にする権利さえありはしないのだから。

 

「秩序が破壊され、万人の万人に対する戦争が始まるのは最後に起こる事。実際はもう一足搔きあるでしょうね・・・」

国家が責務を果たせないのならば、民衆は次の代表者へ力を譲渡しようとする。新しい王へ、大統領、総理大臣、天皇陛下、英雄、勇者へ・・・力を持ち、侵略者へ対抗できる組織、もしくは個人へと・・・

貴方みたいな英雄へ投資を行うのですよ、とアリスが笑う。

ロックハートは顔を顰めて嫌な顔をするがアリスの言葉を否定する事はなかった。

 

「本当に私にとっては迷惑な話ですよ」

薄暗い地下室で目が覚めて、病院に入院すればファンレターの山と婚約者を名乗る女性が複数人。

 

「アリスを名乗る少女も数人いましたが・・・」

「責務を果たせと詰め寄る助手はいませんでした?」

 

ため息と共に肩をすくめる。当時の事は鮮明に思い出せる。

 

仄かに香る薬品の匂い。

中央には簡素なベッドが設置されているだけの何もない部屋。

天井、壁・・・シミ一つない真っ白な壁紙で統一された空間は何所か非現実的と思えてしまう。

風に靡くカーテン。

唯一、開けっ放しにされた窓からのぞく景色・・・雲一つない青空だけが何もない部屋を彩っていた。

何もない部屋、数十にも及ぶ身に覚えのない家族や恋人の見舞いに疲労を感じていた私の姿を見たアリスは心底面倒そうな顔をしたのだ。

 

「何人も私を名乗る娘や家族を名乗る人が居たのでしょう?その人達を『本物』と選んだのなら私としても身を引くつもりでしたよ?」

「君が第一声で『責務を果たせ。英雄である貴方が平穏な生活を送る事など、この世界は認めない』と脅したからでしょう?」

 

闇の帝王に忠誠を誓う死喰い人。裏切者を処分し、主の仇をとる為に厳戒態勢のひかれるホグワーツに強襲を掛けた凶悪犯。

それらに戦いの記憶を失った魔法騎士はどの様に映るのでしょうか?力を失ったのなら戦う価値の無い者として見逃してもらえるとでも?情勢が闇へと向かった時、世間は貴方を戦いに駆り出さずに、そっと見守ってくれるのでしょうか?と少女は困惑するロックハートへと聞いたのだ。

 

「君の言った事は真実だと私は判断した。私の意思で君と共に戦う事を選んだ」

まぁ、選択肢なんてありませんでしたし、こんなに過酷な訓練と冒険になるとは思いませんでしたがねと笑うロックハート。

 

「まぁ、やるって言うのならば本気でやらないとね。そっちの方が楽しいでしょ!」

「私は嫌いですよ!こういうマジなやつは!!」

 

風に吹かれ木々の隙間から差し込んだ月明り。

アリスとロックハートを包み込む盾の呪文、それを隔てて相対するアクロマンチュラの群れ。

5メートルにも及ぶ巨体、黒い毛がびっしりと胴体を覆っていて集団でガチガチとハサミをカチ鳴らす様は正しく『死』そのもの。

 

「さあ、先生。戦闘はダンスの様に。重く、軽やかに、規則正しく、そして変則的に」

 

盾の魔法が解除されると同時に動き出す巨大なクモの群れ。

『パチン、パチン』と連続した軽快な炸裂音の様な音が鳴り響き、魔法を弾く硬質な外殻を持つアクロマンチュラの胴体が両断される。

 

「先生を病室から連れ出して3年。共に戦闘訓練をしてきましたね・・・見せてください、貴方の力を・・・」

ロックハートは少女の言葉に答えるように巨大なクモの群れ目掛けて緑の閃光を放った。

 




時間経過を新聞記事風にしてみました~この話でアズカバンから騎士団終盤くらいまで時間経過しています(読みにくかったらごめんなさい!)

シリウスさん・・・結局無実だけどどんどん余罪が増えていく可哀そうな人
ロックハート・・・記憶喪失、アリスに回収されてしまったが故に騎士団も真っ青になる実地訓練(実戦)の毎日を送る事に。実力もかなり上がってる!

姿くらまし、現し・・・一般的には移動手段、『パチンパチン』と軽快な音が鳴る。他者と密着して姿くらましする事で同伴する事も可能。ダドリー軍団から逃げる為にハリーが無意識に発動したこともあるので杖もマントも必要条件には当てはまらない。つまり移動する範囲を明確に意識して発動すれば、物体の硬度を無視した切断(バラけさせる)事も可能になるってことに・・・

ハグリッド・・・飼い犬の命と自身の職を天秤に掛けて、彼は決断する事が出来るのでしょうか?


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