賊勇者 ドラクエⅨ編  (友里)
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性悪天使降臨

ねえ、誰かいるの?

 

いるのだったら姿を見せてよ……

何か言ってよ

 

そんな人々の声が聞こえる

 

一体いつの頃からか

この世界を見守って来たのだろう、んな事知るかい

 

俺達は天使と呼ばれていた……

 

らしい

 

 

「……失礼致します、オムイ様……」

 

「イザヤールか?……入りなさい……」

 

「はっ……」

 

 

此処は天使界。人間界よりも遠く離れた遥か遠い空の彼方に

存在する天使達が暮す世界。この天使界の長でもあるオムイがいる

長老の間に如何にもで気真面目で堅物そうな青年が訪れていた。スキンヘッドヘアの

天使の青年イザヤール。天使の中で最も優れた能力と力を持つ上級天使である。

……彼は自分の弟子の対応に困り果て、相談事も兼ね、長老の間へと訪れたのである。

 

「お主、……その頭は……、またやられたのう……」

 

「……」

 

イザヤールは悔しげに無言でオムイに向かって頭を下げた。彼のつるつるの頭部には

ぼくはこのハゲだよ~、どうだすごいだろう、ハゲだぞと落書きが書き込んであった。

 

「とにかく素早いので……、どう気をつけていても……、気が付くと……、困った物です、

先程、4、5発……、仕置きをしておきましたが……、全然懲りないので……、

隠れて煙草を吸おうとするのも一向にやめません……、本当に天使族なのでしょうか……」

 

「ふむ、確かにあやつは困り者だ、だが、一度となれば、咄嗟に機敏に

行動出来る凄い能力を持っておる、一見のほほんとしておるようだが、

現に何度も人間界の困っている人間達を救ってきた、絶対に弟子など取らぬ主義の

お主があやつを弟子と認めたのもそんな処を見込んだからではないのかのう?」

 

「はあ……、私はオムイ様のご命令に随っているのみです……、しかし、一体私にも

何故なのか分りませんが、困っている人間達を助ける時に見せる

普段のふざけた茶らけた態度からはまるで想像出来ない様な働きぷり、

実に不思議で仕方がありません……」

 

「そうか、して、お主もそろそろ……、弟子の出世を考えておるのだな?」

 

「はい、もう担当場所枠も決めてあります……、私と……」

 

「ふむ……」

 

こんな風に。2人の天使が話を進めていた頃。……話題の話の張本人。

彼……、この賊シリーズの主人公事、ジャミル。……自室のベッドで寝転がり

只管うーうー項垂れていた。

 

「俺……、等々人間じゃなくなっちまったよ、しかも今回は天使にされちまってるし……、

この頭の輪っか……、背中の変な翼……、天使って設定って事は、

つまり……、もしかしたら何百年も生きてるって設定なのか?俺……」

 

しかし、彼はどう考えても天使ではない、……小悪魔系である。

 

「何だっ!……この野郎!」

 

「ジャミル、いるか?……私だ、入るぞ、大事な話がある……」

 

「うわ!今いませんけどいまーすっ!」

 

「入るぞ……」

 

声の主は滅茶苦茶な返答を返すジャミルに構わず部屋に入って来る。

先程、長のオムイと話をしていた人物。……ジャミルに頭部に落書きをされた被害者。

彼の師匠のイザヤールである……。

 

「う、うひゃひゃひゃひゃ!ま、まーだ消えてねえ!あ、頭っ!光ってるっ!」

 

「……油性で書いたのだから一向に落ちぬぞ、……どうしてお前はこう、

悪知恵ばかり働くのだ……、しかも、ベッドの枕の下のその本は何だ?」

 

「ああーーっ!きゃ、きゃああーーーっ!!それはだな、この間人間界に行った時に

騒動を解決したらお礼にくれ……ぎゃーーーー!!」

 

イザヤールは無言でジャミルが枕の下に隠した裸のお姉さんが表紙の本を取り出す。

そして拳と拳で頭部を挟み、グリグリの刑を始めるのだった。

 

「……この様な心を乱す下らぬ本は私が処分しておこう、……いいな?」

 

「へいへい、分りましたようー!本当はアンタ、読みたいんじゃね?プ……」

 

「早く話を進めたいのだが……、もう一度やっておくか……」

 

「何でもないですーっ!さ、早く話進めて頂戴!さーさーさー!」

 

ジャミルは話を逸らそうと慌ててその場に正座。そんな彼の態度を見て、

普段から堅物で糞真面目なイザヤールは心底呆れる。

 

(一体何故本当に私は……、この様なお調子者を弟子になど……、

やはり考えても分からぬ……、しかし、何故かどうしても惹かれる只者でない

拒否出来ぬ何かが……こやつから溢れている……、不思議だ……)

 

「……あのさ、人の顔見てないで早く言えよ」

 

「うむ、お前も知っているだろう、我等天使はそれぞれの担当場所に着き、

人間達の目では決して姿を見れない我らは人間達を災いから守る義務がある、

ジャミル、お前もそろそろ独り立ちの時だ……、一人前の天使としてのな……」

 

「……?」

 

「お前の守護天使としての役目……、ウォルロ村だ……、

これからは私に代り、お前が村と人間達を守るのだ……」

 

それから数か月後。2人はある小さな村の上空から村を見下ろしていた。

ジャミルが天使としてのお役目として、人間達の護衛を任された村、ウォルロ村である。

村の中には小さな滝が流れている。本当に目立たない小さな農村ではあったが、

特にこの村は天使を敬う人々の信仰心の熱い場でもあり、守護天使を祭る像も置かれている。

 

「……天使ジャミルよ、これまで良く頑張ったな、私に代りこの村の

護衛を任せた時は少々、……いや、大変、非常に不安ではあったが……、

お前の働きにより、この村の人々も安心して暮らしている、

立派に役目を引き継いでくれて、師、イザヤール、これ以上の喜びは無い、

これからは守護天使ジャミルと呼ばせて貰おう……」

 

イザヤールは本当にジャミルの活躍ぷりに心から喜んでいる。あの性悪ガキ天使が

よくぞここまで成長してくれ……、たと思っていたが。すぐに撤回。

ジャミルは背中の翼を広げ、パタパタそこら中を飛び回り遊び始めた。

 

「……」

 

(すげー、俺、本当に空飛んでるわ、前の話で、チビに空飛べるって

どんな感じなんだいって聞いた事あったけど、今度はマジモンで空飛べんのな……、

そうだ、この村に確か犬の手綱みてえな変な名前のリーゼント頭の奴いたっけな、

そいつ気に喰わねえから、よし、通ったら上空から屁を……)

 

「……おい、聞いているのか……?やはりお前の心はまだまだ隙だらけだな……」

 

「は?え……、な、何の事だよ……」

 

「むう、……む?」

 

頭を抱えるイザヤール。すると、何かに気が付いた様子。村への道を誰かが

急いで歩いている。歩いているのは、オレンジのバンダナを巻いた可愛らしい少女と、

どうやら少女の祖父らしき2人組である。老人の方はもう歩くのに疲れ切っている様子。

 

「おじいちゃん、頑張って!ほら、村までもうすぐだよ!」

 

「ふぅ、すまんのう、リッカや……、年は取りたくないもんじゃ……」

 

「これはいかん、……モンスターだ!」

 

2人の背後から、モンスターのスライムベスとズッキーニャが忍び寄る。

少女と老人は脅威に気が付かずそのまま歩いて行こうとしている。

 

「あのままでは襲われてしまうぞ!人間達を守るのが我ら天使の役目!

共に行くぞ、守護天使ジャミルよ!」

 

「へーへー……」

 

何か嫌だ、あざとす、普通に呼んでくれた方がいいなあと思いつつ。ジャミルとイザヤールは

モンスターが2人に近づく前にさっと撃退。無事に2人を守ったのである。

こうして孫と祖父は無事にウォルロ村の門付近まで辿り着いた。

 

「ほら、おじいちゃん、見てよ、ちゃんとウォルロ村まで辿り着けたよ!」

 

「おお、どうなることかと思ったが……、わしら、こうして無事に

村まで戻って来れたんじゃのう……」

 

「もう、おじいちゃんたら、オーバーなんだから……、これも守護天使様のお蔭だね、

私達をいつもちゃんと見守って下さるんだわ、ああ、守護天使ジャミル様、

道中見守って下さりありがとう……、こうして無事に村へ戻って来れたのも天使様のお蔭です……」

 

オレンジバンダナの少女、リッカはジャミルの姿が見えていないのにも係らず、

何となく気配を感じているのか、彼のいる方向を向いて腕を組みお祈りを始め

感謝の言葉を述べる。リッカと老人が村の中へ消えた後、不思議な結晶が

ジャミルの手の中に落ちて来る。

 

「……それは星のオーラだ、人間達の我らへの感謝の心が結晶に変った物だ、

その星のオーラを天使界にある世界樹に捧げるのもまた我らが役目、

ウォルロ村の守護天使ジャミル、一旦天使界に戻るぞ、オムイ様に報告せねば……」

 

だからその言い方やめろと思いつつ、ジャミルは背中の翼を広げ、再び大空へと舞う。

空中はやっぱ耳なりがする、風圧で耳痛えと感じつつ……。

 

……星のオーラ。人間達から天使へ、感謝の印と心。天使達はこのオーラを集め

天使界の世界樹へと捧げる。世界樹が育った時、世界樹は大きな果実を実らせる。

その時、天使達は悲願の神の国へと導かれる。

 

……だが、このオーラが天使界を破滅に導く事を今はまだ2人は知らない。



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天使のお役目

天使界に戻ったジャミルとイザヤール。イザヤールは自分は別の用事があるからと、

オムイに直に長老の間に報告に行くようにとジャミルに言い、何処かへ行ってしまう。

 

「報告……、ね……」

 

ジャミルが項垂れていると、別の天使達がジャミルの側へとやって来た。

 

「お帰りなさい、ジャミル、地上に戻ったのならまずはオムイ様に報告よ」

 

「聞いたよー、地上に行って来たんだって?いいなあ、早くオレも守護天使に昇格して

担当地区を持ちたいよー」

 

「あのさ、聞いていい?確認の為なんだけど、俺ってさあ、本当に天使なん?」

 

「……?」

 

「……」

 

ジャミルが天使達に訪ねると、2人の天使達は顔を見合わせ声を揃えゲラゲラ笑いだす。

 

「あなたも時々おかしな事言うのね、見なさい、彼方此方にある

この天使の像を、この像は私達、天使の姿を現しているのよ、

あなたの頭部のその光の輪、白い翼、立派な天使の証じゃない、

翼は空を飛ぶ力を、光輪は聖なる力を私達に与えて下さるのよ」

 

「ははは、……人間にはオレ達の姿は絶対に見えないって言われてるけどね、本当かな?

でも、人間達の中にはオレ達の存在を信じている者もいるんだ、不思議だな」

 

「ま、どうでもいいや、処で、長老の間って何処だい???」

 

「……ちょ、本当に大丈夫?其処の階段を上がった所の先だけど……、しっかりしなさいよ……」

 

「どもども……、へへ……」

 

ジャミルは頭をかきかき、言われた通り、すぐ側にある階段をのこのこ上って行った。

その様子を見ていた天使達は又も顔を見合わせるのであった。

……天使界の各階の天使達はジャミルに色んな話をしてくれる。

 

神は何も無い星空に世界樹を守る為この世界天使界を創った。

天使達に天使界を任せ神達は天界へと戻る。

世界樹が育ち、その実をつけた時、天使達も天界へと戻る事が出来る……。

天使界には魔物もおらず、悪人もいない。だが、地上には魔物がいる。

最近の地上は異様に魔物達の数が増えている、……等。

天使界にある武器や防具は天使達が地上を守る為に使用する物で、普段から

手入れが施されている。

 

「ねえねえ、ジャミルも天使に生まれて良かったと思うでしょ?人間はちょっとした

事ですぐに死んでしまうわ、病気になったり、ケガをしたり、精神力もとても弱いのよ、

それに寿命も短命よ、短いわ、人間なんかに生まれていたら本当に大変よ」

 

「う~、そうなのなあ~、う~ん?」

 

だからって天使がいいとか、良く分からんと考えていると、手前の部屋から

何やら声がした。そっとドアを開けてみると、光るつるつる禿げ頭……、イザヤールと、

後一人、紫色の髪の女性の天使が何やら話をしている。ジャミルは気配を消すと

話を聞こうと、そーっと、イザヤールの後ろに忍び寄って言った。

 

「私も驚いたわ、あの悪戯っ子が、もう守護天使に昇格するなんて……、

でもアナタ、よく許したものね?」

 

「いいや、ラフェット、私は決して許した訳ではないぞ、まだ早いと反対はしたのだ、

……それをオムイ様がだな……」

 

「ふふ、やっぱりね、そんな事だろうと……、くく……」

 

「笑い事ではない!……あいつはまだ未熟だ!……しかも手に負えぬ

どうしようもない馬鹿でアホだ、もしも人間界で何かあったらどうするのだ!

君はエルギオスの悲劇を忘れた訳ではあるまい!?」

 

(おい、一言余分なんだよ……、このハゲ……、ん?エルギオス……?)

 

「エルギオスの悲劇……、勿論忘れてはいないわ、でも、その話を

此処でする事はタブーではないの?」

 

「……、……!?」

 

「やあ……」

 

イザヤールは漸く背後のジャミルに気づく。……そして呆れる。

 

「……ウォルロ村の守護天使ジャミルよ!いつから其処にいたのだ!」

 

「さっきから、ずっとだよ……」

 

「……お前はまだオムイ様に報告をしていないだろう!早く行け!

この部屋のすぐ隣の部屋だ!」

 

「へーへー」

 

「私からも祝福させて頂戴、ジャミル、守護天使昇格おめでとう、

この頑固者が弟子を取って認めるなんて事、相当凄い事なのよ……、ふふ、

奇跡に近いわ、よほどアナタの才能を見込んだのね」

 

「だから違うと……、いいから早く行け!ウォルロ村の守護天使ジャミルよ!」

 

……その言い方やめれやとジャミルは思いつつ、2人のいる場を離れ、

取りあえず、ジャミルは言われた通り、長老の間へと向かった。

イザヤールとラフェット。この2人はライバル同士であり、普段は口喧嘩も絶えないらしいが。

 

「守護天使ジャミルだな?入れ、オムイ様がお待ちだ、オムイ様は神に代り、

天使界を治める尊いお方、くれぐれも粗相の無い様にな……」

 

護衛天使の脇を通り、長老の間に入ると、小太りで長髭の小柄な老人がジャミルを待っていた。

この老人が天使界の長、オムイである。彼は天使界の長として、気が狂う程の

遠い遠い長い年月を生きているのである。その命数は数千年、一万年とも……。

 

「よくぞ参った、守護天使ジャミルよ、守護天使としての地上での

初のお役目ご苦労じゃったのう、とは言え、今まではイザヤールが

お役目で同行していたが……、どうじゃ?お主ももう守護天使として

昇格した身、これからは一人でもやっていけそうかの?」

 

「ま、やって出来ねえ事もねえよ……」

 

「ほほう、ジャミルは中々の自信家じゃのう、結構結構、若いモンはこうでなくては、

……そんなジャミルに次のお役目を与えるとしよう、地上でお主は人間達の感謝の

結晶、星のオーラを手に入れた筈じゃな?……次にやるべき事は分かっておろう、

天使界の頂きにある世界樹にそのオーラを捧げるのじゃ、世界樹はやがて育ち、

その実をつける、さあ、行くがよい……」

 

……うえ、休む暇なしスか……、と、ジャミルは一服したいのを堪えながら、

しぶしぶと今度は世界樹の元へと向かうパシリ天使なのであった……。

この階の大きな扉から外へ。……世界樹の有る上へ、上へと……、只管登って行く……。



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性悪天使、独り立ちへ

天使界の頂に有ると言う世界樹。其処に集めた星のオーラを捧げる事が

ジャミルのお役目らしい。嫌になる程の長い階段を登り終えた先にある

頂上の世界樹へオーラを捧げ、無事お役目を果たしたのだった。

そして、彼は今報告の為、再び長のオムイの部屋を訪れている。

 

「ご苦労じゃったのう、ジャミルよ、して、世界樹の様子はどうであったかな?」

 

「ああ、オーラを捧げた途端、眩しい程ピカピカに輝いてたよ、それこそ、

イザヤールの頭ぐらいに……、俺、目がおかしくなるかと思ったさ」

 

「……これ、お主、少しは口を慎まんか……、お師匠様に向かって……」

 

オムイに注意され、ジャミルは慌ててテヘペロ状態で誤魔化す。

 

「コホン、ふむ、そんなにも輝いておったか……、これはいよいよかも知れんな、

お前も知っておろうが、我ら天使のお役目は世界樹を育て女神の果実を実らせること、

そう、守護天使達が地上の人間達からオーラを集めてくるのも全てその為なのじゃ……」

 

「ああ、階段の途中にいた天使も言ってたんだけど、女神の果実が実る時、

神の国への道が開かれ、天使達は永遠の救いを得る、役目から解放されて

神の国へ戻れるらしいってさ、……んで、その女神の果実ってのが、とてつもない

パワーを秘めてるんだって?もしも、俺らが直に食ったらどうなるんだろ……?」

 

……しかし、アホなジャミルの乏しい頭の中では、ポパイがほうれん草を食って

パワーアップする様なイメージしか浮かんでこなかったのである。

 

「ふむ、しからば、守護天使ジャミルよ、お主のやるべき事も分かって来たのではないか?

再び地上へと赴き、星のオーラを集めてくるのじゃ、しかし、お主ももう守護天使となった身、

これからはイザヤールは共をせぬぞ、さあ、準備が整ったら下の階に行き、輝く星型の

穴の側に居る女天使に話し掛けるが良い」

 

「……分った様な、分らん様な……」

 

「守護天使ジャミルよ、汝に星々の輝きがあらん事を……」

 

オムイに祝福されながら、ジャミルは長の部屋を後にする。しかし、今回も

大変な役どころだなあ、話の派遣場所は天使界、しかも職業は天使だしで、

取りあえず、地上へ行く前に、ハ……、イザヤールの所に行ったり、

他の天使からも色々と話を聞いて回ったりしようと思ったのである。

 

「天使界ってやたらと広えし、しかし面倒くせ……、おい、師匠さん、……いるかい?」

 

「ウォルロ村の守護天使ジャミルか?世界樹にオーラは捧げて来たのか?」

 

「……ああ、さっき長さんのとこにも事後報告してきたとこさ」

 

「宜しい、入りなさい」

 

ジャミルはドアを開け、イザヤールの部屋に入る。……相変わらず頭は眩しかった。

自部屋に戻ったのか、既にもうラフェットの姿は其処には見えなかった。

 

「……ウォルロ村の守護天使ジャミル……、う~む、いちいちこの呼び方だと

面倒であるな、では、たまにはそう呼ぶ事にしよう、よいか?ジャミル……」

 

「ああ……(だから最初からそう思ってんだけど……)」

 

「宜しい、それでこそわが弟子、天使は上級天使には逆らえぬのが習わしだからな、さて……、

どうだ?星のオーラを捧げられた世界樹は実に美しいであろう」

 

「ああ、ものすげー輝いてたよ、……アンタの頭ぐらいに……」

 

「何だ?聞こえんぞ、そなた、言いたい事が有るならはっきり申さぬか」

 

「いや、何でもねえ……」

 

「うむ、人間達からオーラを受け取り、世界樹に捧げるのが我ら天使の務め、

ジャミルよ、お前の今後の活躍に期待しているぞ!……これからは私は決まった

担当地区を持たず、地上のあちらこちらを回るつもりだ、お互い良い成果を出そうぞ!」

 

ジャミルはイザヤールの部屋を後にする。地上への出勤準備でもしておくかなと

思いながら、2階をフラフラする……。

 

「……此処、どこ?」

 

アホな守護天使はまだ自分が行った事のない領域範囲に来てしまったらしく、

迷子になってしまっていた。この付近はジャミルにとって非常に嫌なニオイ……、

勉学、知識のニオイがするらしく、避けて通っていた。

 

「あら、守護天使さんのジャミルじゃないの……、世界樹への

オーラの捧げ物は終わったのね?」

 

「あ……」

 

側に立っていたのは、イザヤールの部屋から姿を消したラフェットである。

ラフェットはジャミルの顔を見てくすくす笑い出す。

 

「珍しいわね、アナタがこんな所に来るなんて、地上に降りる前に

地上についての学習でもする気になったのかしら?」

 

「いや、間違って来ただけ、あは、あはは……」

 

「そう、そんな事だろうと思ったわ、でもちょうどいいわ、アナタまだこの部屋に

入った事ないでしょ、地上に行く前にちょっと立ち寄りなさいな」

 

「いい、遠慮する……、あわわ!」

 

ラフェットはジャミルの手をひっぱり無理矢理部屋の中へと通す。

……中は沢山の本、何かの資料やなんやかんやでいっぱいであった。

 

「おええええ~……、本くせえ~……」

 

「全く、これくらいで酔ってどうするの、アナタは本が大嫌いらしいって、

イザヤールから聞いていたけど、少しは慣れなさいな……、ほら……」

 

そう言いながら、ラフェットは一冊の資料らしき本をジャミルの前に差し出す。

 

「何だい?これ……」

 

「見たいかしら?でも、アナタはだーめ!」

 

「……おい」

 

ラフェットはジャミルが受け取ろうとした本をさっと取り上げた。

 

「この本はね、天使界や地上で起こったありとあらゆる出来事を一冊の本に

資料として纏めているの、簡単には見せてはいけないのよ、

例え、天使界の天使達でもね、此処はそう云った記録の資料が

沢山集められている部屋なの、どう、分った?私はイザヤールやあなたみたいに

守護天使として地上に降りたりしないの、地上の地図、生まれて死んでいった

地上の人間達の名前、そう云ったありとあらゆる記録を書物に纏めているの」

 

「ああ、何となく……、けど、ありとあらゆる記録って……、まさか、俺が

イザヤールに悪戯した事とか、いちいち、ねちねち記録されてんじゃねえだろうな……」

 

「さあ?どうかしら、でも、悪戯は程々にした方がいいって事かも知れないわよ、

さ、もうおいきなさい、守護天使さん……」

 

「……」

 

何となく、ストーカー記録されている様な気がし、図書館からの去り際に

後ろを振り返るジャミル。見ると、ラフェットはニコニコと手を振っていた。

 

「……ふぇえ~、ん?」

 

「な、なあ、ジャミル……、お前、地上から戻らなかった天使の話って知ってるかっ!?」

 

ラフェットに構われ、疲れ気味のジャミルの処にやや興奮気味の

天使の少年が走って近づいてくる。これから地上へ赴けば、お役目で

更に疲れなければならのであるが。

 

「何だい?その天使ってまさか、死んで幽霊にでもなったのかい?」

 

「随分昔の話らしいけど、守護天使として地上に降りたまま、一人の

天使が戻って来なかったらしい、天使達大勢でその天使の行方を

必死で探したんだけど、等々見つからなかったらし……、いてっ!」

 

「こらっ!何処で聞いたか知らんがその話は軽々と喋ってはいかんぞ!」

 

「お、お師匠様あ~……」

 

べらべらと喋る小僧天使の頭部を後ろから誰かがゲンコで叩く。どうやらこの天使の師匠らしい。

どの下級天使にも、必ずイザヤールの様な師匠が付いているのである。

 

「ちぇ、師匠に怒られちまった……、とまあ、地上じゃこんな事も

有るかも知んねえからジャミルも気を付けろよ!」

 

「今の話は忘れる事だ、いずれ絡んでくるかも知れんが……」

 

「……」

 

天使の弟子&師匠コンビはその場を去る。そういや、イザヤールとラフェットも

軽々と話しちゃいけない様なタブー話を口にしていた様な、……しかし、あまり考えたくない為、

忘れろと先程の天使が言ったので、直ぐに忘れる事にしたのだった。

 

かくしていよいよ、守護天使様、地上へと単独初仕事となる。



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ハッスル・エンジェル 前編

さて、自分が守護天使として担当する地上地域のウォルロ村へと降り立った

性悪天使のジャミ公。此処での目的は一人で行動し、人間達から感謝され、星の

オーラを集める事。師匠のイザヤールも側におらず、もう付き添いはいない。

 

「とりあえず何すりゃいいんだか……、こうして宙に浮かんでると何か俺、死人みてえ……」

 

途方に暮れ、空中から村を見渡すジャミル。見事に何も無い、平和な田舎村である。

ぼーっとしていると、子供が何やらブツブツ言っているのが聞こえた。当然、誰の目にも

ジャミ公の姿は見えていない。

 

「何だよ、ニードの奴、村長の息子だからって威張っちゃってさ!ああ、

ジャミル様、もしいるのならニードに少おーしだけでいいです、罰を与えてやってください!」

 

(ニードって、確かニートみてえな、犬の手綱みてえな、糞生意気なリーゼント野郎か?

よし、俺が成敗してくれるわ!これで感謝されりゃ星のオーラが貰えるかもしんねえ……)

 

貰えないと思うが……、ジャミルはニードを探しに村中を飛び回る。そして、

村の橋の側に屯しているニードと子分を発見する。

 

(お、いたいた……)

 

ニードと子分達は何やら話をしている。ジャミルはもっとよく話を聞こうと

ニード達の近くまで飛んで寄って行った。

 

「しかし、不思議なんだよなあ~」

 

「それって、例の天使像に書かれてる名前のことっスか、ニードさん」

 

「ああ、ちょっと前までは、イザ……、何とかって名前だった様な気がするんだが、

急にジャミルになってやがる」

 

「そうっスかねえ、前からジャミルって名前だったスよ」

 

「前からっていつからだよ!お前、ちゃんと覚えてんのか!?」

 

「あれ?あれ?や、やっぱ不思議ですね、思い出せないス……」

 

「だろう!?村の奴らが変なんだよ!最近の事なのに、皆が前からそうだと思ってんだ!」

 

「もしかしたら、天使様のお力とか……」

 

「バーカ!天使なんかいるワケねえんだよ!天使がいるとかそんなモン信じてるのは

石頭のリッカだけだよ!リッカの奴、何かあるとすーぐ守護天使様のお蔭とか、

ばっかじゃねーの!」

 

(……)

 

すぐ近くで話を聞いていたジャミ公は段々腹が立ってきて、

こいつのケツに浣腸を噛ましたくなってきた。

 

「フン、守護天使って奴が本当にいるってんならよ、このニード様の

前に連れて来てみろってんだ!」

 

(あーあ、ニードさん、リッカリッカって……、てんで分りやすいんスから……、

天使様にヤキモチ焼いてるんスよね、完全にべたぼれっつーか、でも、肝心の

リッカは全く気付いてないしで、こりゃ、まだまだ先行き遠そうっスねえ~……)

 

「おい、いるなら出て来いよ!返事しやがれ!守護天使のジャミル!

天使っつってもどうせ暇なんだろう!?村の皆の役に立ってみろってんだよ!」

 

(……コホン、そんなに言うならリクエストに答えてやろう、姿は見せらんねえけどな、

……食らえこのリーゼント野郎!!)

 

 

……ブッ!!

 

 

「……くっせえ……、俺の前に……突然臭って来た……、毒……ガスだ……」

 

「あああ!ニードさんっ!どうしたんスかっ!!」

 

「けーっけっけっ!ざまみろーっ!仕置きはきちんとしたぜーっ!」

 

ジャミ公の毒ガスを食らったニード。その場に倒れる。もう天使では無く、

完全な小悪魔になっているのだが……。

 

「さて、星のオーラ……、あ、あれ?貰えねえ、何でだよ……」

 

人間達を助けた時、感謝されると貰える星のオーラ。だが貰えず、

ジャミ公は不貞腐れる。……当り前である。

 

「調子はどうだ?ジャミルよ……、頑張っている様だな、この村に

私が訪れるのは、もう要らぬお節介であったかな?」

 

「……いっ!?いいいいい、イザヤールっ!?」

 

慌てるジャミル。付き添いはしない筈の彼がまたいきなり目の前に現れたからである。

 

(やべえ……、さっきの……、見てねえよな……?)

 

「何を慌てている?私はこれから地上を回る際、お前に伝え忘れた事があり、

丁度と思い、この村に立ち寄ったのだ……」

 

「あはは、何だ、そうか……、ほっ……」

 

「……?まあ良い、生きている人間達を救うのも天使の役目だが、もう一つ、

役目がある、死してのち地上を彷徨う魂を救う事も天使たる使命、

聞こえるであろう、この村のいずこから救いを求める魂達の声が……、

行け!ウォルロ村の守護天使ジャミルよ、この村と人々を救うのだ!」

 

「ま、又その呼び方でいう……、へーへー、要するに、幽霊さんにも救済をね、はいはい……」

 

幽霊……、ならば、夜……、と、言う事で、ジャミルは昼間出来る事をし、

夜になるのを只管待つのであった。

 

「誰か困ってる奴いるか~?……俺が困ってんだよ……、ん?」

 

取りあえず天使の感で何か感じたのか村の教会の方へと飛んで行ってみた。

中ではお婆さんが困って泣いており、シスターに慰められていた。

 

「……困ったわ、死んだおじいさんに貰った大切な形見の指輪を無くしてしまうなんて……」

 

「大丈夫です、祈りましょう、天使様は必ず困っている者達に力を貸してくださいます、

あなたの大切な指輪もきっと見つかる筈です……」

 

「ああ、天使様……、どうかお願いします……」

 

(……)

 

それって、もう完全に神頼みで俺に探してくれって言ってる様なモンだよな?

と、ジャミルは思いながら、再び教会の外へと飛び出す。

 

「わんっ!わんっ!」

 

外に出ると、犬がおり、ジャミ公の方に仕切に向って吠えていた。

 

「まさか、俺が見えるとか……、……お前、人間じゃないしな……」

 

「わんっ!」

 

「あ、おいっ!」

 

犬はこっちだよと言う様にまたジャミルに向かって一吠え、付いて来いと言う様に

ジャミルを誘導する様に走って行き振り返る。ジャミルはその後を追ってみた。

 

「わんっ!わんっ!(ここ掘れわんわん!)」

 

「……何てお約束な……、えーと、あった!指輪だ!あの婆さんのだな!?」

 

「わんっ!」

 

犬はそうだと言う様にまた吠える。ジャミルは指輪を持って再び教会へ。

……お婆さんの洋服のポケットにこそっと指輪を入れておく。

 

(あ~、懐かしいなあ、この感じ……、元祖シーフ時代を思い出すわ……、

この手の事は俺得意だからな……)

 

ジャミルは今度こそ、星のオーラは大丈夫だろうと確信しつつ、教会を後にする。

指輪の存在に気付いたお婆さんの天使様への感謝と感激に震える涙声を聞きながら。



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ハッスル・エンジェル 後編

次は馬小屋にて馬のフンの後片付けをしたジャミル。が、彼は若干機嫌が悪かった。

……馬のフンに混じって誰かがやったらしい人間の糞も混ざっていたからである。

日もやっと暮れかかる頃、リッカが経営する宿屋にて、彼女の働きっぷりをじっと観察していた。

 

「お客様にお出しする夕食はお豆のスープとおイモのシチュー、どっちがいいかな?」

……玉にはお肉も用意出来るとお料理のバリエーションも広がるんだけどな……」

 

(……)

 

宿屋はあまりお金が無く貧しい為、質素な経営である。それでも、リッカのお客様への

愛情とお持て成しは村を訪れる冒険者や旅人達に好評であった。

 

(しかしよく働くこと、……俺には真似出来ねえよ……)

 

そして、時間は過ぎて夜になる。

 

「……今日も何事も無く、お客様をお持て成しする事が出来ました、

いつも見守って下さり、ジャミル様、ありがとう……」

 

純情リッカは手を胸の前で組み、姿の見えないジャミルに向かって静かにお祈りをする。

……照れ臭くなったのか、困ってジャミルは慌てて宿屋から逃走する。

 

「……あ、あいつ……」

 

宿屋の外に出ると、もうすっかり夜になっているにも関わらず、まだ自宅に

帰ろうとせず、ウロチョロしているニードを発見する。

 

「家に帰ってもどうせ親父にどやされるだけだもんな……、さて、どうしたもんか……、

そういや最近、この村……、人魂が飛んでるって噂があるんだよな……、

……お、思い出したら誰かに何か見られてる様な気がしてきたぞ……」

 

(……早く家に帰れ~、この不良ドラ息子~、でないと~……)

 

ジャミルはニードの背後に回ると、脅しのつもりでまた屁を一発噛まそうとするが。

 

「こ、恐くなんかねえぞ!オレは幽霊なんてこれっぽっちも信じてねえからな!

でも、何か肌寒くなってきたし、そろそろ帰るか……」

 

(……)

 

悪寒を感じたのか、ニードはジャミルに発射される前にさっさと逃走。

スカシを食らったのはジャミルの方で、ジャミルはチッと舌打ちするのだった。

 

「……どうしてだよ、誰か……、どうして皆気づいてくれないんだ……」

 

「今度はあっちの方で声がすんなあ~……」

 

次から次へと。守護天使様は休んでいる暇があらず。声のした方向目指し飛んで行った。

其処にいたのは、通常の人間とは明らかに違う状態の半透明のおっさんだった。

おっさんは地面に蹲って嗚咽している。

 

「ああ、これが……、成程な……」

 

「悲しいよ、何でみんな……、オレの事無視するんだよ……、

オレはちゃんと此処にいるのに……」

 

「あのな、おっさん……」

 

「!!ああっ、あんた、オレの事が見えるんだなっ!!」

 

「ちょ、落ち着……、うわ!」

 

ジャミルに気づいたおっさん。鼻水を垂らしながら大号泣でジャミルに近寄る。

 

「その恰好、頭の輪っか、背中の翼……、もしかして、アンタ天使様かい!?」

 

「一応な……」

 

「教えてくれっ、天使さん!皆が急に冷たくなっちまった!仲の良かったダチも、

家族も、皆がオレの事無視するんだ……、酷ェよ……、どうして……」

 

ジャミルは最初困っておっさんから少し目を反らしたが、一呼吸置いて

頷くと、おっさんに事実を話し始めた。自分が死んだ事をまだ理解出来ていないおっさんに。

 

「そうか……、やっぱりオレ……、死んじまったんだな……、はは……」

 

「ああ、普通の人間には俺の姿は見えない筈だからな……」

 

「有難う、天使さん、真実がやっと分かって、オレ、やっとすっきりした、

これでもう心置きなく行くべき所に旅立てるよ……」

 

「……うん、でもな、おっさん、アンタの事、皆は決して無視してる訳じゃねえぜ?

アンタが死んじまって悲しいのは誰も同じだよ、こうなっちまった以上仕方ねえのさ、

おっさんと話したくても、触れたくてもどうにも出来ないんだ……、あんたの姿は

もう地上の人間には誰にも見えねえんだから……」

 

「……はは、誰にも気づいて貰えないのは本当に辛かったけど、

そう言って貰えて嬉しいよ、本当にありがとな、優しい天使さん、……じゃあ……」

 

「……」

 

ジャミルは黙って、消えていくおっさんの姿を静かに見送る。

迷っていた魂は救済され、空へと高く昇って行った。

 

「……っと、これわっ!」

 

おっさんが消えた直後、辺りが一瞬光だし、ジャミルの正面に結晶が降ってくる。

ジャミルはその結晶を手元に受け止める。星のオーラである。

今日一日で、人間達へ手助けした行いのご褒美であった。

 

「よくやった、ジャミルよ!」

 

「うわ!イザヤール……、又出た……、てか、アンタ今まで何処に隠れてたんだよ……」

 

突然ぬっと出てきた暗闇に光る禿げ頭。どうやらまだ出発しておらず。

恐らくこの村の何処かでずっと弟子を見ていたに違いは無かった。

 

「これであの者も悔いなく天に召されたであろう、……特にオーラは

これまで以上に一際大きく輝いている、先程召された者がそれだけ

お前に感謝の気持ちが大きかったと言う事であろうな……」

 

「だから、アンタの頭も眩しいんだって……」

 

「何だ?して、どうするのだ、ジャミル、一度天使界へ戻るのか?

私はもう暫く下界にいるが……」

 

「う~ん……、オヨ?」

 

「……!あれはっ、天の箱舟!?」

 

突如、頭上から聴こえて来た汽笛にジャミルもイザヤールも頭上を見上げる。

夜空を通過する、金色に輝く銀河鉄道9……、ではなく、天の箱舟。

神が創ったと言われる列車である。古来より銀河を往航し、天使達が

古くから何度もその姿を目撃し、存在を認知している伝説の天駆ける列車。

女神の果実が実りし時、天使界に降り立ち、天使達を神の国へと導くと語り継がれている。

 

「近頃やけに慌しいな……、気が変わった、ジャミル、私も天使界へ同行させて貰うぞ!」

 

「アンタ、下界にいるんじゃなかったのかよ……」

 

「最近これだけ箱舟が頻繁に通過すると言う事は、もう果実が実る日も

近いかも知れぬという事だ、急ごうぞ、ウォルロ村の守護天使ジャミルよ!」

 

「……へいへい……」

 

気が変りやすいおっさんだなあと思いつつも、ジャミルはイザヤールと共に

夜空に向かって再び翼を広げるのであった。



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運命の日・無くしたツバサ……

これにてプロローグ、お試し編終了です。次回から本筋に入ります。
次回更新は11月からです。


天使界に戻った直後、イザヤールはオムイ様と話があるからと、

又一人でさっさと2階へ行ってしまう。一人になったジャミルの処に、

早くも下界での彼の活躍を聞き付けた天使達がわちゃわちゃ集まって来た。

 

「凄いわ!随分沢山のオーラを集めて来たのね、ね、今すぐ世界樹の

所に行って捧げて来なさいよ!何だか凄い事になっているみたいよ!」

 

……此処にいない他の天使達は皆、天の箱舟の到着に備え外に出ているらしい。

もう間もなく天使の役目も終わるだろう、そう呟いている天使もいた。

 

「既に知っているだろうが、世界樹がその実をつけた時、我等は神の国へと

帰れるのだ、お前も見た事があるだろう?人間界と天使界を繋ぐ天の箱舟を……、

そう、その天の箱舟こそが、我らを神の国へと導くための乗り物なのだよ……」

 

皆が歓喜と喜びに満ち溢れている。ジャミルは自分も世界樹の様子を

見に行こうとその場から離れた。まずはオムイの所に顔を出そうと思った。

と、天使の人だかりの中に、ラフェットがいる。しかし、彼女の表情は

これまでにない真剣な表情だった。ジャミルはラフェットに声を掛けようと

近寄るが……。

 

「……もうすぐ神の国からお迎えが来るかもしれないのに……、

エルギオス……、あなたは等々戻らなかった……、……はっ……」

 

「よ、よう……」

 

「ジャミル、何時から其処にいたの……」

 

「いつからって、ずっとだけど……、さっきまで皆と話してたさあ……」

 

「そう……、もしもさっきの私の独り言が聞こえてしまったのならすぐに忘れなさい、

……いいわね、さあ、もう行きなさい、オムイ様の所に行くのでしょう……」

 

ラフェットはジャミルの顔を見ず、淡々と話す。この間も彼女とイザヤールが

話していた、エルギオスと言う、タブーらしい単語。忘れろと言っても度々

出てくる為、異様に忘れられなくなってしまっていた。しかし、ラフェットの

曇りがちな複雑な表情を覗い、今はこのまま一時的に忘れてやろうと思った。

 

「分ったよ、じゃあ、俺、ボケ爺さんの所に顔出したら世界樹の所に行ってみるよ」

 

「ジャミル……、ボケ爺さんじゃないでしょ、オムイ様でしょ!

ちゃんと呼びなさい!……全くもう!」

 

「!あ、ああ、そうだったかな……、じゃあ!」

 

ジャミルは慌てて誤魔化し、急いでその場から逃げようとする。……その時はもう

先程俯いていた彼女は呆れた様な表情をし、しっかりジャミルの方を見ていた。

 

「ジャミル……」

 

「ん?」

 

「あなたの頭上に輝く光輪はあなたに天使としての様々な力を与えてくれているの、

大切にしなさい……、人間達に姿が見えないのも、星のオーラを得る事が出来るのも

全ては光輪のたまもの、……天使は人間にその存在を決して知られてはならない、

けれど、頭上の光輪が有る限り大丈夫なのよ……、さあ、今度こそもう行きなさい、

呼び止めてしまってごめんなさいね……」

 

「うん、いいのさ、またな……」

 

ジャミルはラフェットに後ろを向いたまま手を振る。ラフェットもその後ろ姿を見送るのだった。

 

「何だか……、どうしたのかしら……、これきりあの子にもう会えなくなる様な……、

どうして……?……あの時と同じ感じだわ……」

 

そして、オムイの部屋に訪れたジャミル。オムイは一足先にイザヤールと

世界樹の元へ向かったそう。護衛の天使によると、イザヤールからの

報告を聞いたオムイはとても嬉しそうであり、あんな表情の幸せそうなオムイ様は

これまで見た事がないとの事。

 

「じゃあ……、俺も行ってみるかね、世界樹の所に……」

 

ジャミルは外に出て、再び世界樹の元へと向かう。……まーたこの糞長ぇ

階段登んのかよとウンザリしつつ。

 

「ああ、ジャミルか、さっき、オムイ様とイザヤール様がこの階段を登って行ったぞ!

お2人が世界樹に向かったと言う事は、もう何かが起きるのは間違いないな!」

 

……しかし、爺さん元気だなあと思いつつ、ジャミルもしぶしぶ後を追う。

オムイがどうか途中で昇天していない事を願いつつ……。

登っている最中でも途中、色んな天使と出くわす。皆、もうすぐの神の国への

迎えに心を躍らせている様子だった。

 

「世界樹には星のオーラのパワーがブリブリみなぎってるわ!此処に居ても

何だか凄い力を感じるの!後は果実が実るのを待つだけよ!」

 

「おねいさ~ん、見て~、ほ~ら、オーラのパワーもぶりぶりー!ぶりぶりー!」

 

〔げんこつ〕

 

「……おバカっ!おほほ、ウチの子がどうもすみませ~ん!」

 

「いやああ~ん……」

 

「……」

 

母親は生ケツを出し、左右にひょこひょこ動き始めた子供に制裁を加えると

慌てて退場。変な親子天使である。

 

「なんかどっかで見た事有る様な……、ねえ様な……、まあいいか……」

 

長い階段を抜け、そして、根っこの部屋を通り、漸くオムイと

イザヤール、2人がいる世界樹の元へと……。

 

「おお、丁度良い処に……、ウォルロ村の守護天使ジャミルよ、見よ、この世界樹の輝きを……、

星のオーラの力が満ちて今にも溢れそうではないか……」

 

「う、うっ……、すげえ……」

 

ジャミルは一瞬目を瞑る。あまりの世界樹の輝く眩しさに。漸く眩しさに慣れ、

改めて目の前の世界樹を見つめる。……世界樹は黄金の光で満たされている。

天使達は本当に……、もうすぐ神の国へ導かれるのかも知れなかった……。

 

「あとほんの少しの星のオーラで輝きは実を結ぶ、女神の果実が実る時、

神の国への道は開かれる……、我ら天使は永遠の救いを得る……」

 

「そして、その道を誘うわ天の箱舟……、ジャミルよ、お前の持つ星のオーラを

世界樹に……、私とオムイ様の推測が正しければ、いよいよ世界樹は実を結ぶであろう……」

 

「世界樹になる実は女神の果実と呼ばれるそう、女神の果実実りし時、

天の箱舟が我らを迎えに来ると言い伝えられておる、いざ!天駆ける

天の箱舟に乗り、神の国へと帰ろうよ!……じゃよ!」

 

オムイはジャミルに向かってピースサインする。何ともファンキーな爺さんであった。

 

「さあ、ジャミルよ、星のオーラを世界樹に捧げよ、これが終わりなのか?

……それとも全ての始まりなのか?今こそ明かされよう!」

 

「ああ……」

 

ジャミルは頷くと、世界樹へ近づいて行く。そして、世界樹の前に立ち

両手を掲げ星のオーラを捧げる……。世界樹はこれまでで最高の輝きを

放つ。ジャミルは再び目を瞑り、眩しさを堪えるのだった。

 

「……おおおお!何と……、黄金の果実が!」

 

「遂に……、遂に……、実を結んだのですな!」

 

「……う……」

 

聞こえてきたイザヤールとオムイの歓喜の声にジャミルも目を開き、

目の前の世界樹を改めて見つめる……。等々世界樹に実った黄金の果実……。

これで、これで漸く……、天使達のお役目も終わるかと思われた。だが……。

 

「おお、オムイ様、あれをっ!」

 

「……天の箱舟じゃ!」

 

頭上に現れし、天駆ける天の箱舟……、間も無く天使界に降り立つ……、筈であった。

 

 

だが。……裁きの時、運命の瞬間……、その時は訪れる……。

 

 

「あ、あ……、あああ……」

 

「……ジャミルっ!?」

 

その時、何が起きたのか……、誰にも分らなかった。その場にいたイザヤールも、

オムイも、……ジャミル自身でさえも。突如下界から放たれた謎の閃光……。

 

全てを貫いた。崩壊していく天使界……。天使界を襲う凄まじい揺れ。

下界へと落下していく黄金の果実……。傷付いたジャミルも全てを失い、

地上へと落下していく……。落下していく瞬間、彼が覚えている事は……。

何処までも下へと落ちて行く自分、無残に散らばり何処かへと飛ばされていく背中の翼……。

 

そして、自分の名前を必死に呼び、誰かがその手を差し伸べようとする。だが、彼は

その手を掴む事は出来なかった。地上へと落下する際、彼は何時か何処かで誰かから聞いた

地上の物語をうっすらと思い出した。それは伝説なのか本当なのか……。

 

ロウで作った翼で空を飛び、太陽へと挑み敗北した哀れな男の話を。

ロウの翼は太陽の熱で無残に溶け地上へと落ちて男は死んだ。

多分自分も今、そんな状態なのだろうと……、薄れゆく意識の中でそう思った。

 

……こんな時でもこんな事考えられるんだから、俺って大物かも……。そう、思った……。

 

 

全ては、此処から始まる……。

 

 

「……おおお……、これはどうした事じゃ……、わ、わしらは騙されていたのか……?」



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解雇された天使~つかの間の休息

次回分11月からと記載しましたが、書けたので取りあえず投稿します。


天使界を襲った悲劇から、数日が立ち……。地上でもあの大地震による

壊滅的被害をあちらこちらで受け、数々の影響や災害を引き起こしていた。

地上に君臨するモンスターの数も此処最近ではあっという間に増え、その勢力を増していた……。

 

「……おい、其処のお前っ!何ぼーっとしてやがる!誰かと思えば、この間の大地震で

突然村に転がり込んだ得体の知れねえバカなジャミ公じゃねえか!」

 

「何だよ、お前のその変なツッパリ前髪、……タワシみてえ」

 

「なっ!?……こ、こいつっ!?」

 

地上へと墜落したジャミルは、此処……、自分の元・護衛担当地区のウォルロ村へ

お世話になっていた。ジャミルはウォルロ村の天使像の前に突っ立って像を眺めていた

処であった。自分の名前が刻まれている天使の像を。

 

「何か、この像……、いいよな、前はそうは思わなかったけどよ……、鉾高いわ……」

 

天使の力を失ってしまったジャミルは人間達にも自分の姿が見える様になってしまっていた。

……頭の光輪も、背中の翼ももう無い。しかし、幽霊などの姿は相変わらず

普通に見えたり、会話したり出来る能力は残ったままだった。

 

「はあ、何でリッカの奴……、こんな得体の知れない奴の面倒見てんだよ!

どっから来たのかも言わねえし、着てる服も変だし!どう考えても怪しいんだよ!」

 

「俺知らねーもん!」

 

(……ボソ、きっと、リッカは奴が守護天使様と同じ名前だから気に入ってるだけですよ……)

 

子分はニードの耳元でボソボソ、小声で話をしていた。

 

「フン、その名前も本当かどうか怪しいモンだな……、大方売れない旅芸人が

天使の名前を象って飯でもありつこうとしてんだろ、いいか、あんまり

調子に乗るなよ、よく覚えとけ、村で一番ど偉いのは……、このニード様なんだからよ!」

 

……ジャミルは旅芸人の称号を得た……。

 

「へえ~、さいですか、ご立派でヤンスね!はー立派立派!」

 

しかし、ジャミルはニードに対し、余計牙を剥くのである。ニードはますますかちんと来る。

 

「いいか!この村で妙な真似しやがったら只じゃおかねえかんな!」

 

「……ニードさんはリッカがアンタを構うのが面白くねえのさ……」

 

「ば、ばかやろうっ!余計な事うなっ!あ!」

 

其処へ、オレンジバンダナの少女がずんずん登場。リッカである……。

リッカは腕を組んでニードの前に仁王立ち。……コラ!めっ!をする。

 

「ちょっと2人とも!……ウチのジャミルに何の用なのっ!?」

 

「別になんにも~?こいつに村でのルールを色々と教えてただけさ、

まるで常識ねえからな、じゃあ!」

 

「あっ、ちょっと待ちなさいよっ!ニードっ!……もう~!」

 

ニードは子分を連れ慌てて引上げて行く。その様子を見ていたリッカは

心底呆れるのであった。

 

「ごめんね、ジャミル……、ニードが失礼な事言って……」

 

「ん?別にいいよ、気にしてねえし、得体の知れねーのは本当だし」

 

「……どうしてニードってあんなに威張ってばっかりいるのかなあ……、

昔はもっと素直だったのに……、処で、ジャミル、もう出歩くなんて、

怪我の方はすっかり大丈夫みたいね……」

 

「ああ、お蔭でな、この通りピンピンさ、アンタの手当のお陰だよ!」

 

ジャミルはリッカの方を向いて笑う。リッカはジャミルの言葉を聞き、笑顔を見せた。

 

「うん、……でも、あの時は本当にびっくりしたわ、滝の側で大怪我をして

倒れていたあなたを見つけた時は……、あの大地震に巻き込まれたんだろうけど、

……もう少し遅かったら……、本当に危ない処だったのよ……」

 

「ああ、俺、悪運だけは強いからな……、へへ……」

 

「ふふ、じゃあ私、お家に戻るね、折角歩けるようになったんだから、ジャミルも

村の人に挨拶回りに行って来たらどうかな?あ、お夕飯までには戻るんだよ、

でも、あまり無理しちゃ駄目だよ、折角怪我が治ったんだから、じゃあね!」

 

リッカはジャミルに手を振りジャミルもリッカを見送る。

……大地震の影響により、村を訪れる旅人なども減り、

リッカの宿は客足が遠のき、ますます経営が厳しい状況に陥っていた。

 

「折角助けて貰ったんだから……、何とかしてやりてえなあ……、いっその事、

こうなったら開き直って、マジでお笑い旅芸人として生きて金を稼ぐか……」

 

ブツブツ言いながら歩いていると、いつの間にか村に有る滝の近くまで来ていた。

天使界から落下した後、どうやら自分はそのままこの滝に落ちたらしい。

そして、気が付いた時にはリッカに助けられて……。

 

「……」

 

ジャミルはよそ者の自分を必死で助けてくれたリッカに今度は自分が恩返しをする番だと思い、

……本気でお笑い旅芸人としての仕事を探そうと思った。まずは村の外へと

行ってみるかと思い、村の正門の近くまでやって来たのだが……。

 

「駄目駄目!あんたも知ってるだろう!この間の地震でモンスターの数が

圧倒的に増えてるんだ、現に此処最近では何人も旅人達がやられてる、

危なくて出歩けたモンじゃないよ!さ、帰んな帰んな!」

 

まずはバイトでもいいから仕事を探そうと外に出ようとしたが、村の守り番に追い返される。

日も暮れて来たので、仕方なしに今日はリッカの実家に戻る事にした。

……去り際に守り番の、……全く守護天使のジャミル様は何してるんだ……、

との、小声の小言がジャミルの耳に聞こえた。

 

「あら、……リッカさんの処の……、確か、ジャミルさんでしたか?

お怪我の方はもう宜しいのですか?」

 

「あ、ども、へへ……、お陰さんで、すっかりこの通り……」

 

リッカの家に戻る最中に、散歩途中の教会のシスターと出くわす。以前、この村で

星のオーラを集めていた際に教会で見掛け、大切な指輪を無くし、落ち込んでいた

お婆さんを慰めていたシスターさんである。

 

「滝に落ちて助かるなんて、あなたはとても運がいいのね、そうね、守護天使様と

同じ名前ですもの、あなたにはきっと守護天使様がいつも見守っていて下さるのね……」

 

「ハア、そうなのかな……」

 

ジャミルは項垂れながら、更に村の中を歩く。……と、突如、一軒の家から

外まで聞こえてくる程の凄まじい怒鳴り声が聞こえてくる。リッカの家に戻ろうと

していたジャミルは一旦足を止め、野次馬根性丸出しで、その家に近寄って行った。

そーっと玄関の前に立ち耳を澄ます……。怒られているのは、ニード……。

此処は村で一番大きな家の部類に当たるであろう、村長の屋敷である。

 

「全くお前は!いい年こいて遊びほうけてばかりおって!少しは宿屋の

リッカを見習って村の為に真面目に働いたらどうだ!?」

 

「……リッカは関係ねえだろ!オレはオレのやりたい事を探してるんだ!

やりたい事さえ見つけられれば、オレだって真面目に働くさ、……多分……」

 

「ニードっ!……待ちなさいっ!」

 

ニードは村長から顔を背け、再び外へと逃げようと勢いよく玄関のドアを開けた……。

開かれた扉は近くにいたジャミルの顔に思い切りぶつかる。

 

「いってええーーっ!!」

 

「……何だ?何かにぶつか……、ジャミルっ、お前こんなとこで何してやがるっ!」

 

「いや、すげーケンカだなと思って、ちょっと……」

 

「くそ、いいか……、オレが親父に怒られてた事、リッカには絶対言うなよ、

……みっともねえからよ!……頼むぜ、絶対言わないでくれよ!」

 

ニードはそう言いながらダッシュでその場を逃げ出す。奴には奴の

得体の知れない変なプライドと意地が有るんだなあ……と、思いつつ、

呆れて感心しつつ、逃走するニードを眺めていた。……と、再び玄関のドアが開き、

ちょび髭のおっさん、……私が村長です、さんが顔をぬっと出した。

 

「君は……、確か……」

 

「ども!」

 

「君は確か、滝に落ちて大怪我をしてリッカに介護して貰っていた……、

余所から来た旅芸人さんだったかな?……怪我が治ったのなら、

いつまでもプラプラしてないで働く事だ、やれやれ……、今時の若い者は……」

 

村長は呆れた目でジャミルを見ながら静かにドアを閉めた。

……だからさっき、外へ仕事を探しに行こうとしたら追い返されたんだよっっ!

と、心で抗議し、ブリブリ怒りながらやっとリッカの家へと戻る……。

 

「ただいま……」

 

「あ、お帰りなさい、ジャミル!待ってたよ」

 

「おお、お帰り……」

 

中に入ると、リッカとリッカの祖父が出迎えてくれる。家の中からは温かいシチューの

湯気がやんわり籠り、いい匂いが漂ってくる。

 

「もう少しでシチューが煮えるから、そしたら夕ご飯の支度手伝ってね!」

 

リッカはシチューの様子を見に台所へ。その間に少し休ませて貰おうと

ジャミルは居間に有るテーブル席の椅子に腰かけた。

 

「しかし、滝に落ちたお前さんをリッカが連れて来た時は心底びっくりしたわい、

わずか数日の間に大怪我もすっかり治ってしまうとはのう、いやはや、若いとはいいのう……」

 

「……」

 

リッカの祖父はしみじみと呟きながらお茶を啜る。やがてリッカが台所から戻って来る。

 

「お待たせ、うん、丁度シチューもいい感じだったよ、ジャミルが帰ってくる

タイミングがぴったりだったんだね、さあ、ジャミルも手伝って、お皿を並べて!」

 

「へーい!」

 

先程座ったばかりだが、席を立ち、ジャミルも急いで手伝いに台所へ。

シチューを皿に盛りつけ、テーブルへと運んで並べた。

 

「ごめんね、お肉は無理だし、もう少しお野菜が有れば……、でも、地震の

災害の影響で村の畑のお野菜もみんな不作で増々手に入り難くて……、

いつも通りのお芋だけのシチューだけれど……、さあ、召し上がれ!」

 

「おう、んじゃ、いただきまーすっ!」

 

ジャミルはシチューを口に入れる。……見た目は一見淋しげなシチューではあるが、

料理上手のリッカの手に掛かれば、中身はジャガイモだけでも滅茶苦茶美味であった。

 

「んー、うめえっ!最高っ!」

 

「ふふ、有難う、ジャミルは本当に美味しそうに食べてくれるから嬉しいよ!」

 

「俺、正直だからよう!んーと、お代わりしていい?」

 

「勿論だよ!沢山食べてね!」

 

「うむうむ、あの幼かったリッカが……、こんなにも美味いシチューを作れる様になって……、

立派になったのう、……わしはお前の祖父として本当に鼻が高……」

 

「お爺ちゃん、食べながら寝ちゃ駄目よ、ほらほらほら!溢してるよっ!」

 

「zzzzz……」

 

美味しい夕食も済み、やがて就寝時間となり、今日も一日が終わる。

出来るなら……、もう少し、このまま何事も起こらず、ゆっくりしていたいと、

ジャミルは床に就きながら、そう思うのであった。そして、いつの間にか

眠ってしまい、やがて朝がやって来る……。



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再び、動き出す時

「……ジャミル、ジャミル、ちょっと起きて……、朝だよ……、

あなたにお客さんなんだけど……、その……」

 

「……う、うう~……、……客?」

 

翌朝。ジャミルが使わせて貰っている部屋にリッカが起しにやってくる。

眠い目を擦り擦り窓の外を見る。何だ、もう夜が明けちまったのかと思いながら

欠伸をし、リッカの方を見た。……彼女は少し困っている様子。

 

「何かありました……?」

 

「うん、その……、ニードが訪ねて来てるの……、ジャミルに……」

 

「俺にかい?」

 

「うん……、追い返す訳にもいかないし……、取りあえず会ってあげて欲しいの……」

 

「了解」

 

リッカは部屋を出て、待たせているらしきニードの所へ戻って行った様に見えたが。。

仕方なしにジャミルも服を着替え、支度を始める。……村中で彼がお笑い

旅芸人だと言われ始めた原因の一つの奇妙な天使の服に着替える。

着替え終わった頃、廊下で待ってたのかリッカがまた直に部屋に顔を出した。

 

「あの、あんまりニードが変な事言う様なら、場合によってはチョップ3回まで許すわ、

嫌な要件なら遠慮しなくていいのよ!」

 

「ああ……」

 

ジャミルは部屋を出て玄関へ向かう。……確かに玄関には変なタワシツッパリ頭……、

ニードが待っていた。しかし、彼の態度は明らかに昨日までジャミルに悪態をついていた

時とは違う表情で、やって来たジャミルを見るなりニヤニヤし始めた。

 

「……あう」

 

「ようジャミル!何だよ、そんな意外そうな顔すんなよ!ちょっとお前に話があってよ!」

 

「まさか……、ヤ、ヤラナイカ……!?じゃ、ねえだろうな!」

 

ジャミルは警戒し、ニードから2、3歩、後ずさりする……。

 

「何だよ、何言ってんだ?お前、本当に面白え奴だなあ、此処じゃなんだから

ちょっと外に出ようぜ、ついてきてくれ!」

 

仕方なしにジャミルはニードの後を追って外へ。……連れて行かれた場所は、

リッカの家の裏であった。

 

「此処なら……、リッカにも聞こえねえだろ、んじゃ、改めて話すよ、

話しっつーのは他でもない、お前も知ってるだろ?峠の道の事だよ」

 

「ああ、確か……、地震で起きた土砂崩れの影響で、道が塞がっちまってるとか……」

 

ニードにそう言われ、ジャミルはやっと思い出した。なのに、自分は昨日、

何も考えず村から出て仕事を探しに行こうとしていた事を……。

 

「そう!あの道は、このウォルロ村と他の土地を繋ぐ大切な懸け橋なんだ、

お陰でリッカ……、だけじゃなく、この村の皆が迷惑してんだよ」

 

「……」

 

他の土地からこの村への客足が減ったのは、確かに峠の道が塞がっている所為でもある。

モンスターの脅威が増したのも原因の一つではあるのだが。

 

「そうか……、あそこが何とか通れる様になれば、またこの村にも客が増えるのかなあ……」

 

「そう!其処でこのど偉いニード様は考えた!オレがその現場まで行って何とかして

やろうと思ってな!そうすりゃ親父はオレの事見直すだろうし、リッカも、……村の皆も

大喜びで大助かりってワケさ!」

 

「……そうか、お前も只のタワシツッパリ頭じゃなかったんだな、

偉いな、頑張れよ、じゃあ……」

 

「!ちょ、ちょいお待ち!まだ行くなよ、話は終わってねえんだから!」

 

「……ぐえ!」

 

ニードはその場から去ろうとしたジャミルの首を掴み後ろから思い切り引っ張った。

 

「何だよ!」

 

「……ただ、この完璧な計画にも少し問題があってな、大地震の後、魔物が頻繁に

出る様になっちまっただろ、……危なくてしょうがないんだよ、と、まあ、そう言う訳で、

お前にも一緒に峠の道まで一緒に行って貰いたいんだよ、……旅芸人てのは、

その、結構武芸とかも得意なんだろ?」

 

……どっからそんな情報持って来た……、と、思うジャミ公。まあ、天使の力を

大半失っているとはいえ、彼は普通の人間よりはよっぽど戦えるが。

 

「要するに私はヘタレですって素直に言えこの野郎!そうすりゃ付いてってやるよ!」

 

「……何だとうう~!?誰がヘタレだっ!このお笑い糞芸人めっ!」

 

まあ、リッカの為になるのならいいかと思いつつ。ジャミルは仕方なしに

再びニードに向けて口を開いた。

 

「分ったよ、俺も怪我完治後の肩慣らしになるし、身体がなまっちまってるからな、いいぜ」

 

「ホントかっ!?よっしゃよっしゃ、流石だぜっ、そうこなくっちゃな!

よし、オレは今からお前の後ついてくからな!あ、この事は村の誰にも言うなよ、

オレ達2人だけの企業秘密だからな!頼んだぜ、相棒!カメヤマ君!」

 

「……誰がカメヤマか!しかもその名前相当古いっての、……たく!」

 

ニードはニヤニヤ笑いながら図々しくジャミルの肩に手を回してくる。……本当に昨日と

偉い態度の変りようである。しかし、峠の道に行くのは内緒でも、出掛ける前に

一度リッカの家に戻って報告する必要がある。……こんなに仲良しになってしまったらしき……。

 

「どうしたのよ……、ニードとジャミルが一緒に行動してるなんて……、

何だかまた何かの前触れみたいで怖いわ……」

 

「そう言う事言うなよお!いやあ~、こいつ、話して見たら意外といい奴でさあ~、

そんなわけで、オレ、もっとこいつの事知りたくて、更に分り合う為に一緒にいるのさ!」

 

「……いてててっ!」

 

ニードはジャミルと肩を組んで肩に手を回したまま、実にわざとらしい笑顔を作ると

ジャミルの肩をバシバシ強く叩いた。

 

「ふう~ん、何企んでるのか知らないけど、仲良くなったのならいいか、でもジャミルは

怪我の病み上がりなんだからあまり無茶させちゃ駄目だよ!ジャミルも無理しないんだよ!」

 

「へへ、分ってら~い、さ、行こうぜ、相棒!改めて村回りだ、色々案内してやるよ!」

 

肩を組んだまま、ニードはジャミルをそのまま再び外へと連れ出す。

……そんな2人を、不安そうな……、でも、仲良くなれて良かった様な……、

不思議そうな顔でリッカが見つめていた……。

 

「さて、んじゃあ、バトルの準備だ、まずは村の道具屋で武器を買うぞ!」

 

「武器なんか売ってんのかよ……」

 

取りあえず一応護衛用の武器は売っていたが、現時点では銅の剣しか買えず、

ニードの分も含め、2本購入。ま、何もないよりはマシかと自分を励ましてみる……。

 

「よし!準備も万端、後はっと……」

 

「……万端ねえ~……」

 

後は村の門の処にいる守り番をどうにかすれば村から出られる筈である……。

 

「……駄目駄目!駄目だっ!村の外には危険な魔物がうようよしてるんだよ!

絶対に通さないからな!さあ早く戻れ!」

 

正門の処にいたのは、昨日ジャミルを追い返したおっさんの守り番とは違う、

ニードの子分であった。どうやら多少のバイト料で門番をしているらしい。

 

「……なーにスカした事言ってんだよ!オレ達は此処を出るんだよ、さ、どきやがれ!」

 

「あ、ああっ!?ニードさんっ!?」

 

子分はいきなり現れたニードにオロオロ……。困って慌てだす……。

 

「何で……、ジャミ公とニードさんが一緒に行動してるんですか……?」

 

「うるさい奴だな!偶々峠の道に行く用事が被っただけだよ!なっ!?」

 

「……一応、そう言う事にしといてや……、いってっ!」

 

ニードは再びジャミルの肩に腕を回し、子分に向かってピースピース。

……しかし、足もしっかりと踏みつけながら……。

 

(この……、糞タワシ頭め……)

 

「はあ、……でも、今外に出るのは本当に危ないですよ……」

 

「んなこたあ百も承知だよ!いいから早く其処どかないと、しっぺの刑だぞ!」

 

「……分りましたよう~、はあ、アンタも大変だな……、ジャミル、ニードさんの事、

くれぐれも頼んだぞ……、アホで困るだろうけど……」

 

「了解さあ……」

 

「おいっ!其処っ、何こそこそ話してんだっ!?」

 

アホなのはジャミルも同じではあるが。少なくともニードよりも

遥かに腕は確かな為、バトル面ではまず心配は無い。

……何はともあれ、漸く村の外へと飛び出した珍コンビであった。



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初めての遠出

クエストイベント、人には優しくをちょっと変えてアレンジしてあります。


村の外へと繰り出した2人。モンスターが増えていると言う事で、

やはり簡単には峠の道までは簡単に進ませてはくれない。

まずはシリーズ毎度お馴染のスライムから邪魔をされる。幸い、

ニードはそれ程足手纏いにならず何とか戦えるのが唯一の救い。

まあ、まだこの周辺は敵が弱い方だからかも知れないが。

 

「ふう……、やっぱやれば出来るんだな、オレだってよ、ふふ、ふっ……、

ざまあみろ糞親父……、……あいてっ!!」

 

岩陰に隠れていたリリパットがいたらしく弓を放つ。弓はニードの髪の毛の

先端のタワシ部分を突き抜けデコにぷすっと命中する。

 

「何やってんだよ、バカだなあ!ほれっ、デコ出せ!」

 

「……す、すまねえ……」

 

ジャミルはニードのデコから刺さった弓を引き抜こうとしてやるが……。

 

「あいてっ!?……の、野郎っ!!」

 

「♪ニャ!」

 

後ろからズッキーニャの奇襲である。ズッキーニャの槍はジャミルのお尻を突き刺す。

ズッキーニャはジャミルのお尻に槍を突き刺したまま逃走。

怒り狂ったジャミルはニードのデコに刺さった弓を抜いてやるのを忘れ、

我も忘れてズッキーニャを追掛けて行った。

 

「いでー!いでええようーー!!誰かこのデコの弓何とかしてくれー!」

 

「♪ニャ~!」

 

「てめっ、待てーっ!この野郎ーーっ!!」

 

「……いでえ、いでえよううう!!」

 

ニードはデコに、そしてジャミルはお尻に槍が……。本格的に始まったバトルは

初回からてんやわんやである。それでもどうにか、一旦終わった。

 

「はあ、ズッキーニャの方は何とかブン殴ってやったけど……」

 

「リリパットはまだまだオレ達LV低いか……、やれやれ……、な、何見てんだよ……」

 

ジャミルはニードの顔を覗き込む。早くも疲れてしまっているのか気になったのである。

 

「今日はよそうぜ、日も暮れて来たしあんまり遅くなるとリッカも心配するし、お前の親父も

ギャーギャーうるせーだろ、ま、明日また朝早くから動きゃいいんだから、

焦る事ねえだろ……、ほれっ!」

 

「あ、ああ、わりィ……」

 

ジャミルはホイミをニードのデコに掛けてやる。少しデコの腫れが収まった様子。

 

「分った……、今日は村に戻るか……、てか、お前、本当にいい奴だな……、いや、

少しだけだぞ!そう思ってやるのは!アリの鼻糞程度だ!……わ、分ったか!?」

 

「……分るかっ!第一アリに鼻糞なんかあるかっ!糞タワシ!」

 

「わかんねーぞ!もしかしたらあるかもしんねーじゃねえか!糞ジャミ公!」

 

2人は罵り合いながら村への帰り道を急ぐ。何だかんだ言って、似たモン同志の

コンビは徐々に友情を深めつつ……、あった。そして、再び村の門前。

子分は早くも戻って来た2人を見て、呆れるやら何やらだったが、ニードはジャミルに

キズの手当てをして貰った事を伝えると、子分は心底喜び、ジャミルに何度も頭を下げた。

だが、又明日も懲りずに出掛ける事も伝えておくと、再び呆れた。

 

「じゃあな、ジャミル、又明日、門の所でな、待ってるからよ」

 

「ああ、寝小便すんなよ!」

 

「……するかっ!」

 

ジャミルもリッカの家へと戻るが、リッカは全身汚れて真っ黒のジャミルを見て大騒ぎであった。

 

「すぐにお風呂沸かすから入って!早く早く!もう~っ、ニードと一体何して来たの!?」

 

「ん~、内緒!……芋掘り!」

 

「……はあ~?」

 

リッカは呆れるが、ジャミルの何だか嬉しそうな顔を見て、本当に2人が

仲良くなったのを確信し此方も何だか安心するのであった。

そして、翌日再び早朝。ジャミルは約束通り、村の正門前へ。

だが、肝心のニードが何時まで立っても現れないのである……。

 

「来ねえなあ~、何やってんだ、アイツ……」

 

「もしかしたら、親父さんにバレてとっ捕まったのかもなあ……」

 

「……」

 

ニードの子分の言葉が気になり、ジャミルは村長の家へ。と、家の前で

何やら可愛い女の子とニードが会話しているのが見えた。

 

「お兄ちゃん、お願いよ……、お願い聞いてくれなきゃ、お父さんに言うよ……」

 

「ちょっ、お前……、無理いうなよ……、第一……」

 

「妹……?妹なんていたのか……、お前」

 

「あ、ジャミル……、わり、遅れちまって、ちょっと困った事になっちまってよ……」

 

「あなたがジャミルさんですか?お噂は兄から聞いております、初めまして、

こうして直に会うのは初めてですよね、私、ニードの妹です」

 

……兄貴とは似ても似つかない程、丁寧な対応の妹である。

妹はジャミルに向かってちょんと頭を下げた。

 

「……峠の道の件、こいつにばれちまってよ……、で、条件付きで揺さぶられてさあ、

言う事聞かないと親父にばらすって脅されてんだ……」

 

「……バカだなあ、ドジ!」

 

「うるせーよっ!……ううう~」

 

ニードは相当困っている。どうやら普段から妹にも相当頭が上がらず

立場の弱い兄貴らしい。

 

「で、その条件てのは何なんだ……」

 

「それ程難しい事は頼んだつもりはないんですけど……、峠の道に

向かうのならと思いまして、私もお使いを頼もうと思ってるんです、此処から

北東に向かった所に、大きな蜘蛛の巣があるんですが、其処に有るまだらくも糸で

洋服を作ってみたいんです……、ちょっと採って来るだけですもの、簡単でしょ?」

 

「……おい、簡単じゃねえぞ!あそこのクモは一体どれだけでけえと思ってやがるっ!」

 

「仕方ねえ、行くよ、いいぞ、採って来てやる、その代りあんた、約束は守れよ、

コイツの事、絶対に親父さんには言わないでいてやってくれよ?」

 

「ジャミルっ!?」

 

「ええ、ええ!ちゃんと取って来てさえ頂ければ!私、ちゃんとジャミルさんと

お兄ちゃんが帰って来るまで待ちます!」

 

「よし、大丈夫だ、交渉成立したぞ……」

 

「うえ~……、何でこうなるんだぁぁぁ……」

 

ニードは情けない声を出す。何とか妹は上手く巻いたものの、余分なお使いが入り、

又峠への道が遅くなってしまいそうである。項垂れるニードを引っ張りながら、ジャミルは再び

村の門を潜り、外へと飛び出すのだった。

 

「行ってらっしゃい!……人には優しくよ、お兄ちゃん!」



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吾輩はモーモンである、名前はまだない

サンディだけだと自分的にきついので、この話にもマスコットキャラを出しました。
前作のチビ同じく、余計な事を覚え学習し、する事はちゃんとします。


2人は再び村の外へ。しかし、峠の道へと向かう前に、ちょっとやる事が増えてしまった。

まずは北東に有る巨大蜘蛛の巣に行き、まだらくも糸を失敬してくるのである。

 

「あそこか?」

 

「ああ間違いねえよ、けど、悪い事は言わねえ、よそうぜ、見ろ、あの巣の大きさを……、

ハンパじゃねえだろ、うっかりすると人間だって食っちまう程クモだって大きいんだぜ?

妹には何とか言って誤魔化……、あああ!」

 

確かに目の前には巨大な蜘蛛の巣。ニードが言う通り、下手をすれば人間だって

掛る程の大きさである。しかしジャミルは構わず蜘蛛の巣の上に乗る。

……ジャミルが乗ると、糸はギシギシ音を立て揺れる。まるで吊り橋の様に。

 

「バカっ!……も、戻ってこーい!ジャミ公ーーっ!!」

 

「お前は其処に居ていいよ、糸は俺が採って来るから、

……主がいねえのが幸いだな、よしっ!」

 

ジャミルはニードが叫んでいるのにも構わず、糸の上を器用に歩き、

更に中央部分へとたどり着いた。

 

「……ん?」

 

「モン~……」

 

中央付近で更に奇妙な生き物……、モンスターと遭遇。糸でぐるぐるに拘束され、

唸っているモンスターである。外観はまるで子牛の様なモンスター、モーモン。

この付近にも出没するモンスターで、ジャミル達も何回か遭遇していた。

一見可愛らしいが、人間など攻撃してくる時は恐ろしいモーションをするモンスターである。

実は人間を襲おうとしているのではなく、遊んで欲しいらしい説もあるが本当かどうか謎。

この拘束されているモーモンは更に一回り体格が小さく、まだ子供であった。

 

「お前も捕まったのか、やれやれ……、待ってろ、うん、丁度いいや」

 

「モン~……」

 

「あああ、お、俺……、もう知らね……、ううう、守護天使様……、どうか

あの馬鹿ジャミルを、どうかどうかお守りくださいっ!」

 

ニードはハラハラしつつ、ジャミルが無事に戻って来るのを待っている……。

やがてジャミルは平気な顔をして戻って来た。何だか変なお土産を抱えて。

 

「おおお、ジャミルっ、無事だったかあっ!……!?」

 

「おー、ただいま、ちゃんと糸も取って来たぜ、この通り……」

 

「……ぎゃああああーーっ!?」

 

「?」

 

ニードはジャミルが持って来たお土産……、を見て、すっ飛びあがる。

 

「何だそりゃあーーっ!おま、おま、おまままま!モンスターじゃねえかっ!

は、は、は、早く捨てろおおおおーーーっ!!」

 

「モーモンて奴か?まだ子供だよ、うっかり巣に掛かっちまったんだよ、それにこいつに

糸が巻き付いてたからついでに楽に採取できたのさ!」

 

「子供だって何だってモンスターはモンスターだぞっ!早く何処かへ捨てろおおーーーっ!!」

 

「……だ、そうだ、ほれもういいぜ、早く帰んな、もうドジ踏んでクモに捕まるなよ!」

 

「モンーーっ!……キシャアアアアーーーっ!!」

 

「ぎゃああああーーーーっ!!」

 

モーモンは子供とは言え、大口を開けると非常に凄い表情になり、

グロテスクな鋭い牙を見せた。これでも、お礼を言っているのである。

モーモンは尻尾ふりふり、そのまま何処かへ飛んで行った。

 

「はあ、良かったな、これで糸も取れたし……、おい?ニード……?」

 

「……」

 

「……気絶してやがる、仕方ねえなあ~……」

 

ジャミルは近場に有った岩に腰掛け、ニードが意識を取り戻すまでの間、

少し休ませて貰おうと思った。道中でLVも大分上がっており、

これでどうにか今度は峠の道まで行けそうである。……と、思っていた。

 

「おい、ジャミル……」

 

「何だよ!」

 

「モオ~ン」

 

「……おかしいだろ、おまええっ!何でそのモンスター、ずっと後くっついてきてんだよっ!!」

 

「……」

 

「モオ~ン……」

 

ジャミルは後ろを振り返る。確かに飛んで行った筈のモーモンがちゃっかりと

後をくっ付いて来ていた。

 

「駄目だろ、ほれ、帰れってば……」

 

「モ~ン、ごめんね……」

 

「……うわ!」

 

「ぎにゃあああーーーっ!コイツ今度は喋ったぁぁぁぁーーっ!!」

 

モーモン、今度は普通に喋り出した。ジャミルは落ち着いているが、ニードは更にパニックに。

 

「黙っていてごめんねモン、実はお喋りできるモン、お空から、キラキラ光る

不思議なかけら落ちてきた、それがお口の中に入っちゃったモン、

そしたら急にお喋り出来る様になっちゃった、でも、人間達皆怖がる、

モーモンは人間の皆といっぱい遊びたいモン、……でも、独りぼっち……」

 

「空から落ちてきた不思議な欠片ねえ、成程……」

 

「おーい、落ち着いてんじゃねえよっ!ジャミ公ーーっ!」

 

「シャアアアーーー!!」

 

「……ぎゃああーーーー!!」

 

「おい、あまり構うなよ、こいつ気が小さいんだからさあ~」

 

「何だと!?オレはヘタレじゃねえぞーっ!」

 

「しかし、欠片欠片……、空から落ちて来た光る欠片か……、

何か引っ掛かって気になるなあ~……」

 

それもその筈。モーモンが食べてしまったのは、地上に落下した女神の果実の

ほんの小さい一欠けらの僅かな破片。それでも口に入れたモーモンに異変を

引き起こしたのである。ジャミルは後後、地上の何処かへ散らばった、この女神の

果実を探す事が大きな使命となる。

 

「ま、いいか、来たいなら来いよ、但し、人間に牙向けちゃ駄目だぞ!約束出来るか?」

 

「するモンー!」

 

「だ、そうだ、これからこいつも付いてくらしい、宜しくな……」

 

「宜しくな……じゃねえだろーっ!あわーーっ!」

 

プー……

 

誰かさんの影響で、モーモンはオナラ技を習得。……してしまった……、のである。

 

「……ひぎゃーっ!……く、くっせえええーーーっ!!」

 

「へえ、お前、中々見どころあんなあ!」

 

「……何処がだよっっ!」

 

「♪モ~ン!」

 

こうして、可愛いお供も出来まして、今度こそジャミルとニードは峠の道へ。



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変コンビ結成!?

峠の道

 

「よし、漸く着いたな、土砂崩れが起きたのはこの先の道だ!」

 

「モンモン~!」

 

「……そうか、モンモンだな、モンモン……、って、違う!」

 

「ん?ジャミ公、さっきから何立ち止まって見てんだよ、何かあったのか……?」

 

「うん……、これさ……」

 

「???」

 

ジャミルが見つけたのは、黄金に輝く列車……、あの時、天使界から

天使達を導き、神の国へと迎え入れる役割であった、天の箱舟だったからである。

 

「何でこんなとこに?まさか此処に墜落したのか……?」

 

「だから……、何があるんだよ、何もねえだろ!普通に木が倒れてるだけだろ!

そんなに珍しいのか?やっぱ変わってんなあ、お前……」

 

「う~ん、お前には見えないのか……」

 

「変な奴……、オレは先に行ってるからな!土砂崩れはこっちの道だ!」

 

「モンモン~!」

 

「……お前、モンモンさっきからうるさいんだよっ!たく!」

 

「キシャアーーー!!」

 

「うわ!大口開けて牙見せるなっ!!」

 

それもその筈。ニードは普通の人間なので、見える訳がないのである。

しかし、説明しても分からない為、気にはなったものの此処は一旦ほおっておくしかない。

ジャミルは諦めてその場を離れ、ニードの後を追い、土砂崩れの現場の方の道へと向かった。

……しかし、ジャミルの言動をこっそりと、……ずっと観察していた謎の生物?がいた。

 

 

「何あいつ、もしかしてこの天の箱舟が見えてたワケ……?……まさかのチョ~変人出現……?」

 

 

「ジャミル、大丈夫モン?」

 

「ん?何がだ?」

 

「さっきからずっと難しい顔してるモン、お腹空いたモン?」

 

「いや、そうじゃねえ……、お、ニードだ、おーい!」

 

土砂崩れの現場でニードが立ち往生していた。此方は何か困った様な顔をしている。

 

「どうしたんだよ……」

 

「ジャミル、見ろこれを……、オレ達、土砂崩れの現場ってのを甘く見過ぎてたんだな……」

 

……確かに、土砂崩れの現場は余りにも酷く、2人だけの力で

砂をどうにか排除出来るレベルではなかった。

 

「う~ん、確かに酷えなあ、こりゃ……」

 

「オレとジャミルじゃ無理だよ、こんな土砂崩れの山……、くそっ、折角

親父の鼻をあかして村のヒーローになってやろうと思ったのによ!」

 

「お手伝いモン!モーモンのおならで砂を吹き飛ばすモン!それモンーっ!!」

 

「やめんかいっ!!……うわ!!マジで誰の影響受けてんだよ、こいつめっ!!」

 

「ついでにニードにもお見舞いモン!」

 

知らねえよと思うジャミル。モーモンのおならの所為なのか土砂の山が少し崩れた……。

 

???:おーい、其処に誰かいるのかーっ!?いるなら返事をしてくれーーっ!

 

「おっ?」

 

土砂の向こう側から、微かに人の声がする……。

 

「向こう側に誰かいるみたいだな、ジャミルっ!」

 

「ああ……、らしいな……」

 

「おーいっ!此処にいるぞぉーーっ!ウォルロ村イチのイケメンニード様はここだぞぉーっ!」

 

「それは嘘モンーっ!」

 

「こいつっ、……この糞座布団めっ!」

 

「モモモオ~ンッ!!」

 

ど付き合いを始めるニードとモーモン。ジャミルは最近何だか

自分の影が少々薄くなっている……、様な気がした。

 

「って、んな場合じゃねえっ!俺達はウォルロ村のモンだよーっ!」

 

「モン?モンですか???」

 

「やっぱり……、そうか!ウォルロ村の者か!我等はセントシュタイン城の

遣いの兵の者だーっ!」

 

ジャミルが呼び掛けると、土砂の反対側にいるらしきおっさんは

此方側に向かって再び返事を返した。

 

「なあ、セントシュタイン城って、何処だ……?」

 

「何だ、知らねえのかよ、お前……、本当に旅芸人か?セントシュタインってのは、

ウォルロ村から東にある城だよ!」

 

「そ、そうか……、成程……」

 

「ニード、モン、モンですか……?」

 

「うわ!だから何なんだよっ、でけえ顔近づけんなよっ、四角い座布団めえっ!」

 

「シャアーーッ!」

 

またど付き合いを始めたニードとモーモンはほおっておき、

……ジャミルは引き続き、兵に話を聞いてみる事に。しかし、

ニードとモーモンは何か変なコンビに定着しそうであった。

どうやらこの兵士は国王から命を受け、土砂崩れの砂を取り除く為、派遣されたらしい。

 

「おい聞いたか?セントシュタインの王様が動いてくれたらしいぜ、って事は、

わざわざオレ達が此処に来る必要もなかったって事か、やれやれ……、

もう問題も解決したも同然だな……」

 

「そうなのかなあ~……」

 

「ん?何か珍しく難しい顔してんなあ、ジャミル……」

 

「お腹が空いたんだモン……、それかうんちが出そうで困ってるモン」

 

「だから違うって言ってるだろ……、どうせ俺は真面目な顔は似合わねえよ……」

 

「にょ、にょお~……」

 

モーモンの顔を引っ張って横にうにょうにょ伸ばしながらジャミルが項垂れる……。

顔を引っ張られたモーモンは顔が横に伸びて変な顔になった。

 

「ウォルロ村の者よー、一つ取り急ぎ確認したい事があるのだが、地震の後そちらに

ルイーダと言う女性が訪れたと言う話は聞いていないだろうか?城下町で酒場に

勤めているご婦人で、ウォルロ村へ行くと言って村を出たきり、消息不明なのだ……」

 

「……ルイーダねえ、知らねえなあ、第一そんな女がウチみてえな

田舎の村に何の用があるってんだ?」

 

「そうか、知らないか……、実は彼女はキサゴナ遺跡に向かったと言う話もあるのだ……、

だが、その遺跡へもいつの間にか通路が塞がってしまって確める方法がないのだよ……」

 

「……キナクサ遺跡……?」

 

「ジャミ公、お前も耳鼻科行った方がいいぞ……、キサゴナ遺跡ってのは、

この道が開通するまで使われてた古い遺跡さ、崩れやすくて危ねーし、

モンスターも頻繁に出る様になっちまったしで今は誰も近づかねーよ、

まして女にはそんな遺跡抜けらんねえだろ、筋肉ムキムキのゴリラ女ならともかく……」

 

「とにかく村人達には間も無くこの道は開通すると伝えてくれ、それと、出来れば

ルイーダさんの事も聞いておいて貰えると有難い……」

 

「オーケイ、分った!このニード様がばっちり伝えておくぜい!さ、戻るか、ジャミ公!」

 

「ああ……、急がなくちゃな!」

 

「それにしても、土砂崩れはオレらでどうにかするのは無理だったけどな、

へへ、村の連中喜ぶぞお~!」

 

「モン~!」

 

ジャミルとニード、そして新たに加わったお騒がせ悪戯モンスターモーモン。

2人と1匹は一路、吉報を伝えるべくウォルロ村へと帰省する。



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ニードの敗北

ウォルロ村……

 

 

「あ、ニードさん、ジャミル、おかえりなさ……、!?」

 

「おう、おかえり!ビッグニュースだぞ!」

 

門の前で守り番をしつつ、2人の帰りを待っていた子分は仰天。原因は勿論……。

 

「モン~!」

 

「……ニードさん、ただいまでしょ!しかも何なんですか!何でモンスター連れてるんスか!」

 

「こまけえ事はいいんだよ!それよりさ、聞けよ、オレらの話をさ!」

 

「途中でダチになったんだよ、ま、こいつはモンスターだけど、素で人間を襲う様な

事はしねえからさ、安心してくれよ」

 

「はあ……」

 

「モン、おろしくですモン、モーモン、お話出来るんです、モン」

 

「おろしく……、宜しくだろ……」

 

ジャミルにそう言われても、ふよふよ宙に浮かんでいる変なモーモンを見て、子分はまだ

何が何だか分からんですよと言った感じである。取りあえず、悪い奴ではなさそうだと

言う事は子分は理解した。

 

「まあいいか、んで、土砂崩れの方はどうだったんですか?

勿体ぶらないで早く教えて下さいよ!」

 

「待てよ、とりあえず親父に報告してからだ、行くぞ、ジャミ公!」

 

「へいへい、んじゃ、またな!」

 

「あっ……」

 

2人と1匹は村の中へと突っ込んで行った。そんな騒がしい皆様を見つつ、子分が呆れる。

 

「話聞けって言ったり、報告は後って言ったり、んっとに、落ち着かねえなあ、あの人も、

ま、ニードさんの言う事だから、期待しないで待ちますか……」

 

……村の中を走る2人。ふと、いつの間にかリッカの経営している宿屋近くまで来ていた。

 

「珍しいな、今日は灯りが付いてる……、久々のお客さんかな……」

 

大地震の後、ぱったりと客足が途絶え、リッカは仕事はお休みしていた筈であるが、

今日は珍しく宿に灯りが付いているのである。

 

「本当だ、よしよし、まずはっ!ふふっ!」

 

ニードは悪戯っぽい含み笑みを浮かべ、リッカの宿屋へと走って行った。

 

「おい……、たく、しょうがねえなあ~……」

 

「しょ~がねーニードモンなあ……」

 

「おい、あまり余計な言葉真似しなくていいんだよ……」

 

「モン?」

 

モーモンに頭を抱えながら、ジャミルもニードの後を追い、宿屋の中へ……。

 

「いらっしゃいま……、あっ、ジャミル、それに……、ねえ、まだニードとつるんでるの?

仲が良くなったのはいい事だけど、ジャミル、疲れない……?」

 

客が来て漸く店を開けたのかと思いきや、……中はいつも通りの閑古鳥だったのだが……。

 

「言ってろ!その内お前もオレに感謝する事になるんだからよ!へへん!」

 

「……何がよ、それよりジャミル、さっきからずっと不思議そうな顔してるね、

私がお店開けてるの珍しいって顔してるでしょ……」

 

「!えっ、い、いや、その……」

 

「いいのよ、ふふ!例えお客さんが来なくても、これは心構えなの、何時、お客さんが

来てくれてもいい様にね……」

 

「はあ、お前、マジで偉いなあ~……、頭が上がんねえわ……」

 

「それよりも……、あれ?その子……」

 

「モンー!」

 

リッカはジャミルの側でちょろちょろしているモーモンに気付く。ジャミルは

モーモンと出会った経緯をリッカに説明すると、すぐにリッカは納得した。

 

「そうだったの、じゃあ自己紹介、私はリッカ、此処の宿屋を経営してます、

宜しくね、モンちゃん!……お客さんはそんなに来ないけどね、あはは……」

 

「モンーっ!のろしくモン!」

 

「……宜しくだっつーの……」

 

リッカは微動だにせず、すぐにモーモンと仲良くなる。彼女の優しい性格に

ジャミルは心から感謝するのだった。

 

「でも、中にはびっくりしちゃう人もいると思うから、私がこの子の事、後でちゃんと

村の皆にも説明しておくね、心配しなくていいよ!」

 

「助かるよ、何から何まで……」

 

「よしよし、んじゃあ、次はオレの親父んとこだな、じゃあ、またな、リッカ!」

 

「おじや!おじやモン!」

 

「あっ、……おいっ!ったく、じゃあ、又夜にな……」

 

「うん、行ってらっしゃい……」

 

リッカに見送られながら、ジャミル達は再び村の中を走り回る。そして漸く

ニードの実家、村長の家へと辿り着く。しかし、この後、とんでもない事に

なるのをこのアホ2人は知らず。

 

「……成程な、セントシュタインの兵士達がもう間もなく、土砂を取り除いてくれる訳か……」

 

「ああ、この事を知ったら村の連中も安心するぜ!いやあー、我ながらいい事を

したよなあ、なあ、ジャミル?ははははっ!」

 

「ん、んー?……ああ……」

 

「そうか……」

 

ニードは得意げに村長に峠の道へでの出来事を説明していた。これで親父も

自分をきっと見直してくれるだろう、そう期待に溢れ、ワクワクしていたのだが……。

 

「そうか、だが……」

 

「……?」

 

村長は2人に近寄って行く。……しかし、その顔に笑みはあらず。

 

〔げんこつ×2〕

 

「いっ、でええええーーっ!!」

 

「……いてええーーっ!!……こっ、このっ!」

 

飛んできたのはゲンコツであった。……ジャミルまで巻き込まれ、Wで殴られる羽目に……。

 

「く、糞親父イイイイーーっ!偉業を成し遂げたオレらに何すんだーーっ!」

 

「……何が偉業か!2人だけで峠に行くなど危ないに決まっておろうが!この悪ガキ共めが!!」

 

「で、でも……、オレらが峠に行かなきゃ分かんなかった事だぞ!」

 

「別に知らなかろうが、道が繋がればおのずと分った事だ、……命を危険に晒してまで

手に入れる程の情報では無い……、だからお前達はバカだと言っておるのだ!」

 

「……バ、バカ……?ち、畜生……」

 

「俺もかよ……、はあ~……」

 

項垂れるバカ2人。特にニードはこれで英雄になれると思い、有頂天でいた。

だが、村長を甘く見過ぎていたのである。

 

「……ギョモンーっ!おじや怖いモンーっ!シャーー……」

 

「……こ、こらっ!」

 

ジャミルは興奮して大口を開けようとしたモーモンを慌てて制した……。

 

「君も……、そんなふざけたぬいぐるみで遊んでないで、いい加減に仕事を

探す努力をしたらどうだ?……いつまでもうちのボンクラと遊んでないで……」

 

「……」

 

「ジャミルう~、……モン……」

 

「いいのさ……、別に、気にしてねえから……」

 

「でも、お顔に何かスジが浮かんでるモン……」

 

「……」

 

顔の青筋。……明らかにジャミ公がブチ切れている証である。

 

「畜生……、も、もう一つ話があんだよ、セントシュタインの兵士から伝言を預かったんだよ

ルイーダってねーちゃんがこの村へ向かったそうなんだけど、行方不明らしいんだ、

探してくれって頼まれてんだ……」

 

「……その話……、本当なの……?」

 

「リッカ……?」

 

「リッカっ!」

 

……聞き覚えのある声に後ろを振り向くと……、いつ来たのか、リッカが立っていた……。



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リッカの不安

「偶々、用があって此処を通り掛ったら、大声が外まで聞こえて……、

気になったから、つい……、それよりも……、ルイーダさんが行方不明って、本当なの……?」

 

……村長はウォルロ村の 『バッカモーン!!』 ……かも、知れない。

 

「ああ、確かにセントシュタインの兵士がそう言ってたのさ、な、ジャミル」

 

「うん……、らしいぜ……」

 

ジャミルがちらっとリッカの顔を覗うと彼女は何だか不安そうな表情をしている。

 

「そう言えば、リッカ君はセントシュタインの出身だったね、知り合いの方かね?」

 

「そうだったのか……」

 

「うん、ジャミルも、黙っていてごめんね……、父さんのセントシュタイン時代の知り合いに、

確かそんな名前の人がいた筈なんです、もしかしたら、父さんが死んだ事を知らないで、

会いに来たのかも……」

 

「成程……、しかし、探してやるにも手掛かりが無くては……」

 

「親父、そういや、ルイーダって姉ちゃんはキサゴナ遺跡経由で

こっちに向かってたんじゃないかって兵のおっさんが言ってたぜ……」

 

「……それが本当なら我々の手ではあまりにも危険過ぎる……、

リッカ、心配だろうがあまり思いつめんようにな、今日の処はジャミルを連れて帰りなさい」

 

「はい……、分りました……」

 

「……オホン、儂はこれからこのバカ息子をたっぷりと説教し、罰を与えなくては……」

 

「うええええっ!?……親父ィ~、……そりゃねえぜえ、とほほのほ~……」

 

ジャミルはどうにか解放されそうであるが、ニードはまだまだの様である……。

 

「はあ、じゃあ俺らもう帰るけど、これ、まだらクモ糸、妹さんに渡してやれよ、約束だから」

 

「おう、サンキュ~……、もうどうでもいいや、好きにしてくれ……」

 

ニードは力なくジャミルからブツを受け取る。もう今日の元気は無く、

彼は魂が抜け掛かっていた。そんなニードを心配しつつも、ジャミル達は

村長の家を後にする……。モーモンを連れ、ジャミルはリッカの家へと。

……村長から食らったゲンコツのコブの手当てを受けていた……。

 

「……いってえっ!」

 

「我慢するのよ、男の子でしょ?はい、終わりっ!それにしても、外に出たって

聞いた時はびっくりしちゃったよ、でも、ジャミルって強いんだね……、

私が思っていたよりも、ずっと……、モンスターは大丈夫だったみたいだけど

……代わりに村長さんの所で……、く、くすっ!」

 

「……笑うなよ!」

 

リッカが吹いたのを見て、ジャミルがブン剥れる。

 

「ご、ごめん……、はあ……」

 

「ん?」

 

「何でもない、それより夕ご飯にしようか、モンちゃんの分もあるからね、

もう少し休んだらまた食事運ぶのお手伝いに来てね!」

 

「ああ……」

 

モーモンはいつの間にか、リッカがそう呼ぶ為、モンと名前が定着しそうになっていた。

リッカは救急箱を下げてジャミルの部屋から出て行く。何となく、彼女の様子が

おかしいのがジャミルは気になっていた。ルイーダの話を聞いた時から、

明らかに変だった。心配なのだろうが……。

 

「モン、人間のご飯食べるのはじめて、楽しみモン~!」

 

「おい、お前は気楽でいいなあ、……この四角座布団顔!」

 

「モンっ……!」

 

そして、居間にて夕ご飯。今日のメニューは特製パンケーキとミルクスープ。

 

「頂きます、モンっーー!!シャアーーーーっ!!」

 

「うわあ……」

 

モンは大口を開け、パンケーキをぱくりと一飲み。その凄さに

ジャミルもリッカも釣られて一緒に大口を開けた……。

 

「おおお、美味いのう、美味いのう、わしゃ、これでいつ、

天国へ召されても大丈夫じゃあ~……」

 

「お爺ちゃん、変な事言わないのっ、ほらほら、またぽろぽろ溢してるよ!」

 

「ありがたや、ありがたや……、処で、今日の夕飯はまだかのう?」

 

「……今食べてるでしょ、お爺ちゃん!」

 

「おおお~……、お?ありがたやありがたや、これも守護天使様のお陰じゃ~……」

 

「……」

 

ジャミルは爺さんが段々ボケてきてるのでないかと少し心配になった。

 

「あのね、ジャミル……」

 

ふと、リッカが食事の手を止め、ジャミルの方を覗う。何か話したい事が有る様である。

 

「村長の家にいた時からなんか変だったなあ、いいぜ、俺でいいなら何でも言ってみ?」

 

「うん、もし良かったらでいいんだけど、……キサゴナ遺跡へ、頼めないかなあ……、

私やっぱり行方不明になっているルイーダさんの事が心配で……、だ、駄目……、

ジャミルを危険な目に遭わせてしまうもの、ごめんね、変な話して、今の話は忘れてね……」

 

「いや、俺なら……、あ……」

 

しかし、リッカは立ち上がり先に自分の分の食事の後片付けを始める。彼女は

碌に食事を食べておらず、パンケーキが皿にまだ残っていた。

 

「はい、モンちゃん、私の分だけど、良かったらどうぞ、あ、ジャミルは

気にしないでゆっくり食べてていいからね!」

 

「頂きまーすモン!シャアーーっ!!」

 

「……」

 

リッカは後片付けに台所へ。……そして、一人で静かに祈りを捧げるのであった。

 

 

「今、私達に出来るのはルイーダさんの無事を祈る事だけ、

……守護天使ジャミル様、……どうかルイーダさんをお救い下さい……」

 

 

「……キサゴナ遺跡かあ、何とか動いてみるか……」

 

「おいしー!パンケーキってすっごく美味しいんだモン!」

 

「……」

 

次の日。ジャミルは早朝早く再び村長の家へ。キサゴナ遺跡へ向かうのに、

何とかニードにも力を貸して貰えないか、頼もうと思っていた。

 

「何だね?私は今立て込んでおるのだよ、暫くはバカ息子も謹慎だ……」

 

「悪ィな、ジャミル、オレ、昨日から頭ん中がパニックでふにゃふにゃだよ、

……当分家からも出らんなくなっちまった、あーあ……」

 

ニードは昨日からまだ村長の説教が終わっていないらしく、疲れ果てていた。

村長も未だ不機嫌極まりないらしく、ジャミルの顔を見ただけで眉間に皺を寄せた。

……これではとてもニードに応援を頼むのは無理っぽい。仕方なしに今回は

一人でいくしかなかった。

 

「……駄目だったモン?」

 

「ああ、仕方ねえよ……、ま、何とかなるさ!」

 

「おじやってやっぱり怖いモン……」

 

「……」

 

「そうだったのか、じゃあ、今回はジャミル一人で行くのか、気を付けてな……」

 

ジャミルは再び村の正門の所へ。門の所には相変わらずニードの子分がいたが、

これから一人でキサゴナ遺跡へと向おうとしているジャミルを心から心配してくれていた。

 

「これ、使ってくれよ……」

 

「薬草……、いいのか?」

 

「ああ、アンタはニードさんを守ってくれたからな、へへ、こんな事しか

出来ねえけど、頑張れよ!」

 

「ありがとな!助かるよ!」

 

「……馬鹿でほっとくと何しですか分かんなくて、本当、疲れる人だけど、オレ、

あの人の事、大好きなんだよ……」

 

「俺も、最初の時は嫌なタワシ頭野郎だって思ってたけどさ、

結構いい奴だよな……、バカだけどよ……」

 

……自分の事を棚に上げ、ジャミルはそう言って笑いながら

子分から薬草を受け取る。子分も嬉しそうであった。

 

「さ、行くか!キナクサ遺跡へ!」

 

「おいおい、キサゴナだよ、……本当に大丈夫か?」

 

「ジャミル、モンも付いてくモン、一人じゃないモン!」

 

「おう、そうだった、お前もいたんだな、よしっ、行くぞーっ!」

 

「モンーっ!」

 

……頼もしい?相棒と共に、ジャミルは子分に見送られながら、キサゴナ遺跡へ向かう。



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ルイーダは何処に?

「……ところでジャミル、キサゴナ遺跡って何処だか場所分るモン?」

 

「え……、っと、それはっ!」

 

勢いよく村を出てきたは良いが、肝心の遺跡の場所が分からないんである。

モンに突っ込まれジャミルは焦る。

 

「……此処から多分東の方だと思うモン」

 

「そ、そうか!おま、詳しいな!よし、イクゾおーっ!」

 

「ジャミル、そっち東じゃないモン!どっち行くモン!……そっちは西モンーーっ!」

 

モンに突っ込まれ捲りながらも、ドジジャミルはどうにか目的の場所、キサゴナ遺跡へ。

遺跡はウォルロ村から東南の方角にあった。道中どうにかズッキーニャ辺りは

遭遇すると勝手に逃走してくれる様になり、この辺の敵では安心して戦えるぐらいの

適応のLVになっていた。

 

「はあ~、此処か……、よ、よしっ!」

 

「ダンジョンチャレンジ頑張るモン!」

 

モンはいるが、今回はニードもいない、この世界では初めてのジャミル一人での冒険となる。

新しい場所なので、当然新規モンスターも出て来るのが当たり前。気を引き締めて

目の前の遺跡の扉を開いた。

 

「……六角形の形のダンジョンなのか?変わってらい……、お?」

 

入り口から真っ直ぐ進むと、更に目の前には石碑。しかし、その先の道は壁があって進めず。

 

「……これ以上の魔物による犠牲を出さない様、この先の道を

封じるって書いてあるな……、困ったな……」

 

「ジャミル、うしろうしろ、誰かいるモン!」

 

「ん……?」

 

立ち往生し困っていると、モンが騒いでいる。振り向くと半透明の人間が後ろに立っていた。

初老の商人風の男であった。明らかにもうこの世の人物ではないと言う事が分る。

 

「お前にも見えるのか?あのおっさん……」

 

「見えるモン!あっ!」

 

初老の男はふらふらと別方向の道の方に移動しふっと消える。

……まるでこっちだと案内しているかの様だった。

 

「此処でボケッとしてても仕方ねえ、おっさんが消えたあっちの方行ってみっか」

 

「モン」

 

ジャミルは男が消えた左の方の道へ。……突き当りの行き止まりの

部屋の奥に戦士の像が設置してある。

 

「……その像の……背中に……」

 

「え?あ、ああっ!?」

 

再び先程の幽霊の男が現れ、言葉を一言残し、またふっと消える。

 

「ん~、成程、ここんとこ背中の部分にボタンが……」

 

ジャミルはボタンをぽちっと押してみる。……すると辺りに凄まじい音が響き渡る。

何処かで何か扉が開く様な音が響き渡った。

 

「さっきの処モン!」

 

「よしっ!」

 

急いで先程の石碑があった場所へと戻ると、道を塞いでいた石碑が動き

……奥の部屋へと進める様になっていた。

 

「これで先に進めるな……、けど、ルイーダって奴は一体どうやってこの先に進んだんだ?」

 

先へと進むと二つの階段が。取りあえず右の方の階段を下りてみる。この階から

モンスターの姿もちらほらと見え始める。新規でまず最初にお目見えしたのは笑い袋。

 

「ケケケケケ!バカケケケー!」

 

「……笑ってんじゃねえよ、よし、ここでの最初の腕試しっ!モン、下がってな!」

 

「モン!」

 

……笑うから笑い袋なのだが。ジャミルはモンを後ろに下がらせ、銅の剣を構える。

が、笑い袋が、魔法使い系の一つ目モンスター、ピエロの様なタラコ唇の見習い悪魔を召喚、

ジャミルに向かってメラを放出してきた。ジャミルは構えていた剣で慌ててメラをガードする。

 

「危なねえなあ、このやろ!ちっ、……魔法使う方が厄介だな……、

しかも、このピエロ……、見てると何か思い出すし!腹立つ!」

 

どっかの糞ピエロ:やあ、呼んだかなあ~?リクエストあれば何処でも出るよーっ!

 

「ジャミル、モンもお手伝いモン!……おならプーモン!昨日食べたパンケーキのにおい!」

 

モンが加勢してくれ、笑い袋に向かって一発噛ます。言葉だけだといい香りの様だが、

嗅がされたニオイに笑い袋はひっくり返る。しかし、とんでもない技を学習してしまった

天才モーモンちゃんであった。

 

「……俺知らねえし!とにかくっ、ええーいっ!取りあえずアンタはお黙りっ!」

 

銅の剣を振り回し、見習い悪魔に会心の一撃!どうにかモンスター共を大人しくさせた……。

 

「ふ~、疲れんなあ、どうせボスがいるんだろうし、辿り着くまで

何とかMPも温存しときたい処だよなあ~……」

 

「ジャミル、また出たモン!」

 

次から次へと……。今度はメタッピーとドラキー軍団である。

 

「ま、この程度なら、魔法使われるよりずっと楽さ、LVも上がってるしな、

よし、どんどん突破だあーっ!」

 

「モモモモンーーっ!」

 

ジャミ公とモンはどんどこモンスター達を蹴散らしながら遂にダンジョンの最深部へと突入する。

最深部内では、瓦礫に足を挟まれ怪我をしており動けないらしい青い髪の女性の姿が……。

 

「おーい!アンタがルイーダさんかあーっ!?」

 

「……だ、誰!?」

 

女性は駈け込んで来たジャミルの姿に顔を上げる。少々びっくりしている様子でもあった。

 

「確かに私はルイーダだけど……、珍しいわね、こんな所で人に会うなんて……」

 

「やっぱりアンタがそうか!セントシュタインの兵に頼まれたんだ、ウォルロに向かったまま

行方不明のルイーダって女性を探してくれってな!」

 

「助けてくれるのは嬉しいけど、あなたみたいな子供が……、本当にびっくりだわ……、

そ、そんな事どうでもいいわ!ねえ、悪いけどこの瓦礫をどけて欲しいの、ケガは大した

事はないんだけど、瓦礫に足を挟んでしまって……、動けないのよ……」

 

「俺、本当は子供じゃねえんだけど、この話じゃ初期は天使って設定だし、年齢不詳だ……、

よしっ、今助けるからな、モン、手伝ってくれ!」

 

「モンっ!」

 

「でも、気を付けて!あいつが戻ってくるかも知れないわ!」

 

「え?あいつって……、うわ!?何だっ!?」

 

「モンーーっ!?」

 

ルイーダを助けようとルイーダの側へ駆け寄ろうとしたジャミルの前に突然の地響き。

地面が揺れる……。そして、地響きと共に、羊をムキムキに改造した様な容姿の巨大な

モンスター、ブルドーガが現れ往く手を妨害する。ジャミル、この話では初めてのボス戦となる……。



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出会い、リッカとルイーダ

目の前に立ち塞がりゆく手を阻む巨大な羊のモンスター。ブルドーガ。

こいつを倒し、ルイーダを救うのである。地上での初の試練のバトルとなる。

 

「来いよ、何だって相手してやるからさあ!」

 

ジャミルは銅の剣を握り締めて構える。武器がこれでは心元ないものの、

この際贅沢は言っていられないのだから。

 

「ジャミル、気を付けてモン!」

 

「大丈夫だっ、任せとけ!」

 

ブルドーガが前足で地面を蹴り威嚇。すると地面がぐらぐら揺れ、

天井から瓦礫が落ちて来てジャミルの頭に当たりそうになるが、

素早いジャミルはとっさに瓦礫を避けて交わす。

 

「あ、あぶね……、んなモン落としやがってからにっ!うっかり頭に命中して

これ以上アホになったらどうしてく……、自分で言ってて情けねえ……」

 

「モン~……」

 

急に落ち込みだすジャミルと、ジャミルの頭をよしよしするモン。

ルイーダはそんなジャミルをハラハラ見守りながら本当にあの子、

……大丈夫なのかしらと、どんどん不安な気持ちが増して来るのだった。

 

「ああっ!危ないっ!……避けなさいーーっ!!」

 

「え……?ああーーっ!!」

 

「ジャミルーーっ!!」

 

ルイーダが咄嗟に叫ぶが間に合わず、後ろから突進して来た

ブルドーガの体当たり攻撃によりジャミルは壁際に身体を叩き付けられ、

身動きが取れなくなる。モンはジャミルを庇おうと、地面を蹴って興奮している

ブルドーガの前に立ち小さな身体でジャミルを庇った。

 

「……シャアーーーっ!!」

 

「いっつ……、!バ、バカっ!危ねえだろ、大丈夫だからっ、

ほれ、後ろ行ってろっ!ほれほれ!」

 

「モモモモモンー!」

 

ジャミルは慌ててモンを庇いながら立ち上がる。ホイミを掛け、傷ついた体を癒す。

そして再びブルドーガへと斬り掛って行った。……ダメージを食らい、そしてまた

立ち上がりホイミを掛け、ダメージを与えで繰り返す事数分。ブルドーガも大分追い詰め

体力が無くなりつつあったが、ジャミルのMPも少なくなり、ホイミを使えるのはもう後1回分

ぐらいしか残っていなかった。

 

「此処で何とか決めとかなきゃな……、これで奴が倒れなきゃ……、もう終わりだ……」

 

ジャミルは残りの全MPを使いホイミを掛けると、全力の構えを取った。

ブルドーガも必死である。……雅に駆け引きバトルになりそうだった。

倒れるのは、ジャミルか、ブルドーガか……。

 

「俺が倒れちゃ困るっての!……来いよっ!これでこのバトルは終わりにしてやるっ!」

 

「……どうか頑張って……、お願いおチビさん!」

 

ルイーダも祈る中、最後の力を振り絞りブルドーガ猛突進。ジャミルの決死の一撃、

ブルドーガに当り、巨体のブルドーガは地響きを立てその場に倒れた。勝ったのである。

 

「ふ~……、終わった……、しかしこのシリーズ、くたびれるなあ、色んな意味で……」

 

「やったモン!ジャミルっ!」

 

「まさか……、本当にあんな小さな子が……、私、何か夢でも見てるのかしら……」

 

ブルドーガを倒したジャミルは急いでルイーダに駆け寄り、モンも手伝って

一緒にルイーダの足を潰している瓦礫をどける作業に取り掛かった。

……こうしてルイーダはジャミルのお陰で無事救助され事なきを得た。

救出作業も早かった所為で、足の怪我もそれ程化膿していない状態。

 

「あなた見掛けに寄らず強いのね、はあ~、奴から逃げようとして天井から

落ちてきた瓦礫に足を挟んでしまって動けなくなって困っていたのよ……」

 

「お気の毒だったモン……」

 

「そうね、もう遺跡は沢山だわ……、さあさあ、こんな辛気臭い場所

いつまでもいないでさっさと外に出ましょ!あっ、外に出るまではお姉さんを

ちゃんとエスコートしてね!」

 

「……あ、ああ!?」

 

言うが早いかルイーダと言う女性は最深部の部屋から飛び出す。……ジャミルは

一体彼女はどうやって先に此処に入ったのか聞きたかったのだが、まあいいかで

済まそうと思った。走っているので足の怪我の方も見るからにすっかり大丈夫そうだった。

 

「ジャミル、あのおねーさん行っちゃうモン」

 

「分ってるよ、しゃーねえ……」

 

……2人と1匹は漸く遺跡の外へ……。外の空気を吸った。

 

「此処まで来ればもう安心ね、改めて、私はルイーダ、セントシュタインで

酒場を営んでいるワケありの女よ、そう言えば、あなたはセントシュタインの

兵から私を探してくれる様、頼まれていたんですってね……」

 

「ああ、俺はジャミル、今はウォルロ村で世話になってるのさ、んで、

こっちはモーモンのモンだよ、見ての通りモンスターだけど、

ダチになったのさ、ちゃんと言葉も喋れんだぜ」

 

「おろしくモンー!」

 

「ウォルロ……、そう、あなたウォルロ村から来たの……、って、

こうしてはいられないわ!私はウォルロ村に用があるのっ!

では、お礼はまた改めて、アデューーっ!」

 

「……あっ、おいってばっ!」

 

ルイーダは思い出すとジャミル達を置いてダッシュで駆け出す。

よっぽど急いでいたらしかったが。

 

「やれやれ、んじゃあ、戻るかね、俺らも……」

 

ジャミルも急いでウォルロへと引き返す。正門ではジャミルを心配していた

ニードの子分が出迎えてくれたが、先程、凄い勢いで変な女が駆け込んできて、

宿屋の場所を教えなさいと詰め寄られたという。……ジャミルもリッカの宿屋へと

向かうと、丁度ルイーダが宿屋へと入って行く処を目撃した。

 

「さすがリベルトさんの宿屋ね、隅々までお持て成しの心が行き届いているわ……」

 

「あの……、どちらさ……、も、もしかして、父さんのお知り合いの方……、

あなたが行方不明になってたルイーダさんですかっ!?私、行方不明に

なられたって聞いて、凄く心配で……」

 

「ハアハア、足はええ~っての、……そうだよ、リッカ、その人がルイーダだよ……」

 

「……ジャミルっ!?」

 

其処へ息を切らしたジャミルも宿屋へ到着。ルイーダが案外タフなのに

戸惑っているらしい。

 

「そう、私がルイーダよ、キサゴナ遺跡では私、本当にその子に助けられたのよ、

まさかとは思ったけど……、あんな巨体のモンスターを倒してしまうなんてね……」

 

「そっか……、本当にジャミルが……、ルイーダさんを……、ジャミル、有難う……、

危険な場所にルイーダさんを助けに行ってくれたんだね、無茶させてごめんね……、

怪我は?してない……?」

 

「い、いや……、俺案外こういうの慣れてるし、……暴走野郎だから、へへへ、へへ!」

 

リッカはジャミルの手をぎゅっと握る。ジャミルは照れて顔を赤くするのだった。



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真実と迷い

「リッカも、心配してくれて有難う、あなたはあの頃まだ小さかったけれど、

私の名前をちゃんと覚えててくれたのね、……処で、リベルトさんは何処かしら……」

 

ルイーダの言葉にリッカは一瞬戸惑うが、顔を上げて直ぐに返答をする。

 

「やっぱり……、父さんに何か用があって来られたんですね……、

ですが、父さんは2年前に他界しています……」

 

「……ええっ!?リベルトさんは既に亡くなっているの!?ああ、なんて事……」

 

「……」

 

ジャミルはリッカの祖父以外の家族の事を直に彼女に聞いた事はなかったが、何となく

両親とも既に他界していると言う事は薄々感づいてはいたけれど。

 

「それでは……、伝説の……、は、もう……、それじゃうちの宿屋は……、

ねえ、ここの宿屋はあなた一人で経営しているの?」

 

「ええ、そうですけど、それが何か……」

 

「此処の宿屋は本当に凄いわ、小さいけれど、お客様様へのお持て成しの心が

隅々まで行き届いているのが伝わってくるのよ……」

 

「有難うございます、父さんが私に残してくれた自慢の宿屋ですから……」

 

「そうね、流石伝説の宿王の娘って処ね……」

 

リッカは返答に困り再び下を向く。ルイーダは腕組みをし、

リッカの方を見る。何の事だか理解出来ず俯いたリッカに代わり、

ジャミルが率先し、ルイーダに聞いてみる。

 

「あんたさっきから伝説伝説言ってるけど何なんだよ!

……これはそして伝説への方じゃねえぞ!?」

 

「あなた……、本当に面白い子ね、……あのね、ちゃんと話を聞いて頂戴、

お2人さん、特にリッカ、あなたの方よ……」

 

「はい……」

 

リッカは再び顔を上げる。それを見たルイーダはうんうん頷き、話を進める。

 

「……リッカ、此処を出てセントシュタインで宿屋を始めてみる気はないかしら……?」

 

 

「ええええーーーっ!?」

 

 

「どう?分かってくれたかしら……?」

 

「宿王……、父さんが伝説の宿王だったなんて……」

 

「とりあえず……、俺には何が何だか分かんねえけど、

凄かったんじゃね?……お前の親父さん……」

 

「リッカにもおじやがいるモン?」

 

「……だから、おじやじゃねえよ、親父だよ……」

 

「モン~」

 

そう言われても……、リッカはまだルイーダの言葉を飲み込めないでいた。

自分の父親がセントシュタインにいた頃、伝説の宿王と呼ばれていたなどと……。

 

「凄いなんてもんじゃないわよ!若くして宿屋を立ち上げ、あらゆるライバル達を

押しのけ、忽ち宿屋を大きくしたのよ!」

 

「……そんなっ!!」

 

「リッカ……?」

 

「モン?」

 

今まで俯いていたリッカ。急に表情を険しくすると突然ルイーダに食って掛かって行った。

 

「そんなの信じられません!私の知っている父さんは穏やかで、例え小さな宿屋でも

私と一緒にお店を経営していけるのが嬉しいんだよって、いつも言ってたんだから!」

 

「リッカ……、お前……」

 

普段と明らかに違うリッカにジャミルは心配する。あのいつも穏やかな彼女が……。

自分の中の記憶の父親とルイーダが話している父親の話とあまりにもイメージを

崩されてしまった事に激怒しているのだろうが……。

 

「それが私にも分らないのよね……、一体何故あの宿王が突然に姿を消して、

こんな田舎村で隠れて隠居生活していたのかしら……」

 

「……」

 

「とにかく宿王の去ったセントシュタインの宿屋は今大ピンチなの、だから

伝説の宿王に復帰を願い、宿屋を立て直して貰おうって事になって私は此処まで来たの、

でもまさかリベルトさんが既に亡くなっていたなんてね……、知らなくてごめんなさいね」

 

「いえ、此方こそ……、さっきは取り乱したりしてごめんなさい、折角来て頂いたのに……」

 

「いいのよ、謝る事はないわ、代わりにあなたをセントシュタインに連れて行くから」

 

「……な、なっ!?」

 

「モンーーっ!?」

 

ジャミルもモンも唖然……。ルイーダはリベルトの手を借りるのが不可能と分った途端、

……今度はその伝説の宿王の血を引いているリッカをセントシュタインへと導こうと考えている

様である。ジャミルはリッカがまた心配になり、彼女の方を見る……。

 

「……リッカ、お前……、どうすんだ?」

 

「心配しなくていいよジャミル、……ルイーダさん、私セントシュタインに

行く気なんてありませんから!」

 

「……あら~?」

 

「やっぱりそのお話には無理があります、私一人では普段からこの宿屋を

経営していくのに精いっぱいなんですよ、それに、父さんが伝説の

宿王だったなんて、私は信じません……」

 

「そう言われてもね、これは事実なの、あなたは確実に宿王の才能を引き継いでいる、

私には人の才能を見抜く力があるのよ……」

 

「っ!もうこんな時間!お家の方のお夕食の支度しないと!ジャミル、モンちゃんを

お手伝いに借りて行くね、行こう!では、ルイーダさん、……失礼します!」

 

「モンーーっ!」

 

「……リッカっ!」

 

ジャミルが呼び止めるが、リッカは駆け足でモンを連れてその場から去る。

ルイーダの強引な誘いに錯乱し少々腹を立てている様子でもあった……。

 

「これは長期戦になりそうね、中々頑固な子だわ……、ねえ、ジャミル、

あんたも彼女を説得して頂戴!私は諦めないわよ!」

 

「んな事言われたって……、あんたも相当頑固だよ……」

 

「このままあの子の才能を埋もれさせてしまうなんて、余りにも勿体無いじゃない、

それに絶対にあの子の為にもなると思うのだけれど……」

 

俺にはどうすりゃいいのか分からん状態でジャミルも一旦宿屋を後にする。

リッカ、彼女の気持ちを優先してやりたいのは当然だが……。

だが、もしもリッカがセントシュタインに行ったなら……、確かに彼女ももう

仕事には困る事はないのだが……。何よりリッカの天職となるのは確実だった。

 

「おーい、ジャミルーーっ!」

 

「お、タワシー!久しぶりだなー!もう監禁生活終わったんかー!?」

 

急いで此方へと駆けて来るタワシ頭……、ではなく、ニードであった。

 

「……だから誰がタワシか!いや、一時的なモンだよ、少しだけ解放されたんだ、

それより、リッカが……、さっき物凄い顔して自宅の方に戻ってくのを見たからよ、

マジで般若みてえな物凄い顔しててよ……、お前、何か怒らせたんだろ……」

 

「俺じゃねえっての、実はな……」

 

ジャミルはニードに、ルイーダを遺跡から助け、今彼女が此処に来ていると言う事を話す。

ニードはルイーダが救出された事で、これで親父の説教から完全に解放されると喜んでいたが……。

 

「そのルイーダって女はリッカをスカウトしてセントシュタインへ連れてこうとしてんだろっ!?

駄目だぞっ、絶対っ!……けど、リッカの親父さんが伝説の宿王って話、マジなのか……?

オレ、あの人が生前にいた頃も知ってるけど、どう見たって普通のおっさんだったけど……」

 

「……」

 

ニードもリッカの父親の真実を信じられない様子。さて、肝心の自分は

一体彼女に何をしてあげれば一番いいのだろうか……。このまま此処に残るのを

勧めるか、……セントシュタインへの背中を押してやるのか……。

どちらの道が彼女にとって一番いい道なのか、ジャミルも悩み始めていた……。



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ガングロ妖精登場……

サンディです。此処から話がより一層暴走していくのです。いつもの如く。



「リッカ、話がさ……」

 

「あ、ジャミル、お帰りなさい!」

 

ジャミルがリッカの自宅に戻ると居間のテーブルには席に着いてリッカが待っていた。

宿屋でのルイーダとのやり取り時、そして、ニードが目撃した時の般若顔の様な彼女では無く、

もういつもの彼女ではあったが、その表情にはやはりまだ戸惑いが残っていた。

 

「グウ~、モン……」

 

「モンちゃんてば、先に夕食のおかずをつまみ食いしてね、そのまま寝ちゃったのよ」

 

「こいつ……、何だよこのボテ腹……」

 

ジャミルはテーブルの上で腹を出してぐーすか寝ているモンの腹を触ってみる。

……お腹はふよふよしてまるでクッションの触り心地の様だった。

 

「ジャミル、ありがとう……、心配して来てくれたんだね、私、昼間はあんなに

取り乱しちゃったりして、ルイーダさんにも申し訳ない事しちゃったよね……」

 

「ん、いいのさ、誰だっていきなりあんな話持ち込まれたら困るのが当たり前だっての……」

 

「……」

 

ジャミルはそう言いながらリッカの隣の席に座った。代わりにリッカが席を立つと

温かいお茶を淹れてくれた後、再び自分の席に着く。そしてまた考え込む。

 

「お茶ありがとな……、頂くよ……」

 

「うん、……私、ルイーダさんの話を聞いてたら、何が何だか分からなくなっちゃって、

だって、まるで私の知っている父さんじゃない様に思えてくるんだもの……」

 

ジャミルは無言でリッカが淹れてくれたお茶を啜る。リッカもそのまま

一旦言葉を止めるがすぐにまた口を開いた。

 

「ね、ジャミル……、父さんが伝説の宿王だったなんて……、何かの間違いだよね……?」

 

「ああ……」

 

「うん、そうだよね……」

 

今はそう返事を返しておくしかジャミルには出来ず。お茶を飲み終えたジャミルは

再び席を立つと外へ出て行こうとする。

 

「また何処かへ行くの……?」

 

「ちょっとな、気分転換さ」

 

「そう……、もう夕ご飯は出来てるからね、でも夜だからなるべく早く帰ってね!」

 

「行ってくる、モンを頼むわ」

 

「うん、行ってらっしゃい……」

 

「うーぐー、……モン、プうう~……」

 

ジャミルはまだ眠っているモンをリッカに預け、再び外へ。

もう一度ルイーダの所へ行って彼女と話をして来ようと思ったのだった。

 

「……?」

 

「……」

 

「……うわああーーーっ!?」

 

「あああーーっ!?」

 

と、外に出たジャミルは思わず大声を出してしまう。いきなり宿の前に半透明の

商人のおっさんが突っ立っており、目と目が合ってしまったからである……。

 

「あ、あんた……、脅かすなよっ!たくっ!」

 

「びっくりしたのはこっちですようっ!あなた私の事が見えるんですね!?

私とっくに死んでるんですよう!そう言えばあなたキサゴナ遺跡でお会いした時も

確か私の姿が見えてましたよねえ……?」

 

「そういや……、確か……」

 

おっさんに言われジャミルは思い出す。あの時、遺跡に当然現れ、石像の仕掛けを

教えてくれた幽霊の男……、あの時と同じ人物に間違いは無かった。

 

「ジャミル、どうしたの?其処に誰かいるの……?」

 

「あ、やべっ、こっちだ!」

 

ジャミルが大声を出してしまった為、心配したリッカが家から出て来そうになってしまう。

急いでおっさんの幽霊を連れ、話をしても大丈夫そうな人気のない場所へと移動する。

 

「さあ、ここならいいぜ、話してくれや……」

 

「全く不思議なお方だ、自己紹介がまだでしたね、私はリベルト、リッカの父親です……」

 

「リベルト……、そうか、あんたがリッカの……、親父だったのか……」

 

遺跡で出会った幽霊。リッカの実家をじっともの悲しそうに見つめていた。……正体は

死んだリッカの父親の幽霊だった……。

 

「……流行病でぽっくり往ってから早や2年が過ぎた様です、処で、あなたは……?」

 

「俺はジャミルだよ……」

 

「そうですか、ジャミルさん……、んっ、んんーーっ!?そのお名前は確か、

守護天使ジャミル様と同じ名前ではないですかっ!!もしやあなたは

……守護天使様なのでは!?」

 

 

???:そこ、ちょっと待ったあああーーっ!!

 

 

「……何だい?……うわっ!?」

 

突然……、謎の発行体がジャミルに向かって突っ込んで来た……。

飛んできた発行体はそのまま近くに有った岩に突進し、岩にそのままぶつかる……。

 

「……いったぁ~い……、ちょっとぉ!そこ、ボケッとしてないで

上手くかわしなさいよぉ!……ま、それはいいとして……」

 

勝手に岩にぶつかった発行体は人の形に姿を変えると突然開き直り

ぶつぶつ文句を言い出す。背中に羽が生えた妖精の様である。

其処まではいいが……、顔は真っ黒、頭に花飾り、金髪、いわゆる

山姥ギャル、ガングロの様な凄まじい派手な容姿であった……。

 

「……何だよっ、おめーはよっ!」

 

「聞き捨てならないのは其処のおっさんなんですケド!アンタ今、この人に

向って天使とか言ったよネ!?」

 

「は、はあ……、何なんでしょう……」

 

「アタシもそう思ったけど、いまいち確信がもてないのよネ、第一この人、

翼もないし、頭の光る輪っかもないじゃん!変くね?マジ、チョーうけるっ!

おまけにな~んか頭もからっぽでバカっぽそー!」

 

「おい……、黙って聞いてりゃ……」

 

「はあ、そう言われれば、確かに……、ですが……、変と言うならば、

あなたも変ですよ……、一体あなたはどちら様なのでしょう……」

 

リベルトはジャミルの方を見た後、ガングロ妖精の方も見る……。

 

「フフン、それを聞いちゃいマス?そうね、聞かれちゃったら答えないワケにいかないよネ!?」

 

「別に俺はどうでもいいけどよ……」

 

「何っ!?アンタチョーむかつくんですけド!?何そのデケー態度!黙って聞けぇぇぇーっ!!」

 

「いてててて!あんだよっ、俺はずっと黙って聞いてただろが!しかもおめー化粧くせーなっ!

どっかの妖怪厚化粧オババの親戚かっ!!」

 

ガングロ妖精はジャミルをポカポカ殴り出す。見ているロベルトは困ってオロオロ。

毒舌小僧とガングロ妖精。何やらどうやら……、これから先、一層大変な事になりそうである……。



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the・宿王

「で、聞いて驚けっ!アタシは謎の乙女サンディ!何とあの天の箱舟の運転手よっ!」

 

「は、はあ……」

 

サンディはジャミルに構わず勝手に自己PRを始めた。そう言われても、リベルトには

何の事だか分からず困っている。

 

「そうか……、箱舟が墜落したのオメーの下手糞な運転の所為か?」

 

「だからアンタうっさいっ!ねえ、このアタシを此処まで丁寧に名乗らせたんだから、

アンタもちゃんとアンタの素性教えて欲しいんですけド!?どう見てもただの人間なのに

天の箱舟やユーレーが見えちゃうアンタっていったい何者!?ヘンタイっ!?」

 

アンタアンタ連発でオメーもうっせえなあとジャミルは思う。やかましいのでガングロ妖精……、

サンディに自分のこれまでの足取りを全て話した。仕方なしに。

 

「ふ~ん、あの大地震でアンタ天使界から墜落したわけネ、それで、

気が付いたらこの村にいて、翼やワッカも全部失ってたってコト?

な~んかチョ~信じらんネ……」

 

「俺だって信じらんねえっての!オメーみてえな口やかましい生きモンが

この世にいたとかよ、ガングロUMAか……」

 

「何っ!翼やワッカは無くしてるのにタマシイを見る力は残ってるって、何そのハンパな状態!

もし本当に天使だって認めて欲しいんならタマシイを昇天させてみなさいよ!

それが出来てこその天使でしょ!ホラ、丁度其処にユーレーのおっさんもいることだし!」

 

「わ、私……、ですか?そりゃ私だっていつまでもこのままでいいとは思ってませんが……」

 

「どうせショボイ未練を引きずってるからユーレーなんかいつまでもやってんでしょ!

ねえ、アンタ、このおっさんの未練を解決して昇天させてやんのよ!そうすれば

天使だって認めるし、アンタを天の箱舟で天使界まで送ってあげる!」

 

「おい、んな勝手に……、この野郎……」

 

サンディはジャミルの返事を待たずどんどん勝手に話を進めてしまう。

相当イケイケで強引な性格なのは間違いなかった。

 

「そういうワケで、暫くアンタと一緒に行動するから、宜しくネ!」

 

「うええ~……、マジかよう~……」

 

どうやら、このガングロは暫くジャミルにくっ付いてくるらしい。

勘弁してくれとジャミルはウンザリする……。

 

「あ、そうそう、アンタの観察記録もつける事にしたから!……行動見守らせて貰うからネ!」

 

「ああーーっ!?っと、やべ……」

 

プウウ~……

 

タイミング悪くジャミル一発噛ます。早速サンディに目をつけられる事、……1回目。

 

「やれやれ、何だかおかしな事になってきましたな、あなたも大変ですね……」

 

「たく、冗談じゃねえよ!早いとこアンタを成仏させてやんねーと……、

よう、おっさん、アンタをこの世に縛り付けてる未練て一体なんだい?」

 

「私の未練ですか、そうですね……、宿屋の裏の高台に埋めた……、アレかも知れません……」

 

「よしっ、宿屋の裏だなっ!」

 

「あ、行っちゃった、アイツ、チョーせっかち!」

 

ジャミルは宿屋に向かって走り出す。元々ルイーダの所へ行くつもりではいたのだが。

リベルトに言われた通り高台へ。茂みの中の土を掘ると、トロフィーらしき物が出て来た。

土と泥を払うとトロフィーは黄金に輝き、何か文字が刻んであるのも見えた。

 

「……えーと、汝を宿王と認め、このトロフィーを贈呈す……、セントシュタイン王……、

これ、国王から送られたのか、すげえなあ……」

 

「おお、まさしくそれは宿王のトロフィー……、懐かしいですなあ、

この村に戻ってきた際に此処に埋めておいたのですよ……」

 

気が付くと、いつの間にかリベルトが来ていた。……サンディも。

 

「どうして埋めちまったんだい?こんな大事なもんを……」

 

「娘の……、全てリッカの為です、そしてセントシュタインへの未練を断ち切る為……」

 

「リッカの……?」

 

「……」

 

リベルトは静かに頷く。そしてそれ以上は何も言わず。

 

「おっさん、リッカはルイーダからセントシュタインへ来ないかって誘いを受けてる、

でも、心は迷ってんだよ……、あんたが宿王だって信じられないでいるのさ……」

 

「そうですか、……あの子が……」

 

「俺、このトロフィーをリッカに見せてくるよ、そうすれば、きっと……」

 

「ジャミルさん……」

 

ジャミルはトロフィーを抱え、再びリッカの実家へと走り出す。

 

「おーい、リッカあー!」

 

「ジャミル……、あまり遅くならないでって言ったのに……、もう……、

ご飯も食べないで……、駄目だよ……」

 

「モン、夜遊び駄目モンモン!」

 

リッカは漸く帰ってきたジャミルを見て、ほっとした様な、呆れた様な声を出した。

……丁度モンの耳掃除をしていたらしい。

 

「わりわり、それより見ろこれ!お前の親父さんのだぞ!」

 

「えっ……?、これって……、父さんの……、まさか……」

 

ジャミルはリッカに黄金に輝くトロフィー、宿王のトロフィーを手渡す。

リッカはトロフィーに刻まれた文字を見て、暫く放心状態であった……。

 

「まさか……、国王様に認められたって……、父さんは本当に宿王だったんだ……、

ルイーダさんの言っていた事は嘘じゃなかったんだね……」

 

漸く父親の真実も分り、ジャミルはこれでリッカの迷いも消え、セントシュタインへと赴く

決意が出来るのではと思った。だが……。

 

「でも、ジャミル……、だったらどうして父さんは宿王の地位を捨ててまで

このウォルロ村に戻って来たの……?私には父さんが何を考えてるのか

さっぱり分からないよ……」

 

「リッカ……」

 

リッカはまた俯いてしまう。一体どうしたら彼女を本当に心から安心させ、納得させる事が

出来るのか……、また壁が立ちはだかり、ジャミルも言葉に困ってしまう。

 

「それについては儂から話そう……、もうお前にも話してもいい頃じゃ……」

 

「おじいちゃん……」

 

普段はこの時間は寝ている筈のリッカの祖父が静かに居間に姿を見せた……。



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リッカとお笑い集団の旅立ち

「これはリベルトにずっと口止めされて黙っていた事じゃが……、リッカや、

お前は小さい時、身体が病気がちだった事を覚えておるかの?」

 

「うん、何となく、うっすらと……」

 

「その体質は若くして亡くなったお前の母親譲りのものじゃ……、本来なら

成長するに従っていき、やがては死に至る……」

 

「でも、私……、元気になったよ、病気だなんて事それこそ忘れるぐらいに……」

 

「それはこの村の滝の水、ウォルロの名水を飲んで育ったお蔭じゃろう、

ウォルロの名水は病気を遠ざけ、身体を丈夫にしてくれると言われておる」

 

「……」

 

じゃあ、天使界から墜落して、頭から滝に突っ込んだ俺は……、こりゃますます

パワフル馬鹿になって当分死にそうにないなあと、ジャミルは何だか複雑な気分になってみた。

 

「!もしかして、……父さんがセントシュタインの宿屋を捨てて、此処に移住したのって……」

 

「うむ、お前の為じゃったんじゃよ、リッカ……、あやつは自分の夢よりも、

大切な娘を助ける道を選んだのじゃよ……」

 

「そんな……、じゃあ私が父さんの夢を奪ったんだ、……私の所為で……」

 

「バカだなあ、お前……」

 

「ジャミル……、な、何……?」

 

「親父さんが言ってたんだろ?例えどんな小さい宿屋だって、お前と一緒に

経営していけるのが嬉しいんだって……、宿王になろうが、地位とかそんな事、

関係なかったのさ、あんたの好きだった親父さんの通りだよ……」

 

「……ジャミル、私……」

 

リッカは両手をぎゅっと握り拳にするとそのまま言葉を噤んだ。

 

「うむ……、お前にそう思わせたくなくて、あいつはずっと口止めしていたのじゃろうな、

……リッカよ、今はまだ混乱しておるだろうが、お前ならこの事実を受け止めてくれる

ものと信じておる……」

 

「父さんが時々見せていた、何処か遠くを見つめる様な静かな目……、

ずっと気になってた、そっか、父さんは私の為に……、……ね、ジャミル……」

 

「な、何だい……?」

 

俯いていたリッカは顔を上げジャミルの方を見る。……遂に決心を固めた様である。

 

「私に何処まで出来るか分からないけれど、私……、ルイーダさんの所へ行ってみるね、

そして今度こそ、私が父さんの夢を叶えるの!」

 

「……あ、リッカっ!」

 

リッカは実家を出て駆け足で走って行った。……自分の宿屋へ、ルイーダの所へ。

迷っていた、決め兼ねていた答えを漸く出す為に。

 

「やれやれ、慌しい事じゃな、じゃが、あの子ももう行ってしまうとなると淋しくなるわい……、

どれ、儂もそろそろ休むとするか、今日は久々に夜更かしをしてしもうた、ジャミルさん、

あんたもはよう休みんさいよ……」

 

リッカの祖父は部屋に戻って行く。ジャミルは自分もリッカの様子を見に、宿屋へ

もう一度足を運んで見ようと思い、外に出ると。

 

「あれ?おっさん、来てたんだ!」

 

「……おい」

 

発光体のサンディ、妖精体になり急に姿を現す。そして、家の前にはリベルトの姿。

 

「ええ、話は全部聞いておりました、まさかあの子が私の夢を継いでくれるなんて……、

いつの間にか随分大きくなったものですね……」

 

「ああ、もうおっさんが心配するこたあねえよ、ちゃんとやれるさ、あいつなら……」

 

「そうですね、……どうやらお別れの様です、では、これでもう何も心残りなく、

私も旅立つ事が出来ます……、ジャミルさん、娘の事をどうかこれからも

宜しくお願いします……」

 

「うん、じゃあな、元気でな……、って言い方も変か、んじゃ、さよなら、おっさん!」

 

「……さようなら……、守護天使様……」

 

リベルトはジャミルに頭を下げると光りを放ちながら静かに消える。

こうしてリベルトの魂はこの世の未練から放たれ無事昇天する。

ジャミルはリベルトが消えて行った夜空をそっと見上げるのだった。

 

「行っちゃったね……、ふう~ん、アンタ中々やるじゃん!只のアホかと思ってたけド!」

 

「だから……癪に障るなあ~、オメーの言い方もよう……」

 

「こりゃアンタのこと、天使だって認めないワケにはいかないっしょ、

仕方ない、約束通り天の箱舟で天界まで送って行ってあげるわよ、

このカワイイサンディさんに感謝しなさいよ!アンタ!」

 

「別に感謝なんかされたくねーってのっ!……おーいっ!」

 

サンディはくるっと回転し、再び発光体になると姿を消した。が、すぐにまた飛び出て来た……。

 

「ねえ、アンタ、どうして天使なら星のオーラ回収しないの?

……其処に転がってるじゃん……」

 

「だって何もねえよ?……でけえ犬の糞ならあるけどよ……」

 

「……うわ、マジで?星のオーラ見えなくなっちゃったんだ……、な~んか、こんな奴

マジで信用しちゃって良かったのかな?……前言撤回なんですケド……」

 

「……あーのーなああっ!てめっ、このやろっ!」

 

切れたジャミルがサンディに拳を振り上げるとサンディは再び姿を消した……。

 

それから数日。峠の土砂崩れは無事全て取り除かれ、セントシュタインへの通路は再び

開通する。そして今日はリッカの旅立ちの日である……。同じ日に、ジャミルもウォルロ村を

旅立とうと決めていたのだった。

 

「お爺ちゃん、離れ離れになっちゃうけど、元気でね……」

 

「うむ、お前も慣れない都会暮らしで大変な事もあるじゃろうが、身体は大切にの……、

ルイーダさん、どうか孫の事を宜しくお願いします……」

 

「ええ、お孫さんの事、御心配でしょうけど、私もきちんとサポートさせて

頂きますので、どうかご安心下さいな……」

 

「……」

 

「おい、タワシ頭……」

 

「!?あんだよジャミ公っ!それにオレはタワシじゃねえってんだよっ!」

 

ジャミルはリッカに何か言いたそうで押し黙っているニードの態度に見てて苛苛していた。

……ので、何とか突っ突いてやりたかったのだが。だが、心配しなくてもちゃんと切っ掛けは

彼女の方からちゃんとやってくる。

 

「ね、ニード、ちょっといい?」

 

「……な、何だよ、これから村を出てく奴がオレに何の用だ?」

 

「うん、……村の宿屋、ニードが引き継いでくれるんでしょう?勝手な話だけど、

私、あの宿屋閉めたくなかったの、……だから感謝してる、ありがとう……」

 

「え、えーと、そのだな……」

 

リッカにお礼を言われ、柄にもなくニードが照れている。後ろを振り返ると

ジャミルが口に手を当て、シッシシッシ状態でニヤニヤ笑っていた。

……モンもジャミルの真似をし……。

 

「てめーら、後で覚えてろ……、っと、まあ、働かねえと親父がうるさいしよ、

別にお前の為じゃな……、うわっ!?」

 

ニードの頭を抑え付け、私が村長です、さん登場。リッカに感謝とお礼の言葉を述べた。

 

「リッカ、君には本当に感謝しても感謝し切れない、こんなボンクラに仕事の場を

与えてくれて……、セントシュタインに行ってもどうか元気でな……」

 

「はい、村長さんも……、今まで有難うございました、お元気で……」

 

「はあ~、しかし、ニードさんが村の宿屋を引き継ぐとは……、オレ、宿屋が壊れないか

心配になってきたッスよ……」

 

「おめーもうるせんだっての!ふん、見てろよっ、オレがやるからには

セントシュタインよりもごっつすげービッグな宿屋にしてやるからよ!」

 

「うん、期待してるよ!でも私だって負けないんだからね!」

 

「おー、いつでも受けて立つぜいっ!」

 

子分の頭を小突きながら、ニードもリッカにライバルとして宣戦布告。

これからの関係、2人ともお互い良いライバル同士で共に競り合い、

商売を盛り上げていく事だろう。

 

「そう言えば、ジャミルも今日、故郷に帰るのだったな、君も身体に気を付けてな、

良い仕事が見つかる事を願っているよ……」

 

「へへ、まあ、村の皆には色々と世話になったよ、有難う……」

 

まさか天使界へ帰るんだよとは言えず、戸惑いながらも

村長の差し出した手を握り返すジャミルである。

 

「モンちゃんも元気でね、食べ過ぎちゃ駄目だよ……」

 

「モンモン!」

 

「それからね、ジャミル……、あなたには凄く感謝してる、だって父さんが隠していた

トロフィーを何処かから見つけて来ちゃうんだもの、本当に凄いね……、まさか

本当に守護天使様だったりしてね、……ふふ!ねえ、もしもセントシュタインに

寄る事があったら絶対に宿屋に泊りに来てね!」

 

「あ、あのな……、それは……、あ……」

 

「じゃあ、私、そろそろ本当に行くね!みんな行って来まーす!今までありがとうー!」

 

リッカは父の形見のトロフィーを手に村の皆に見送られながらウォルロを旅立っていった。

ジャミルはいつか彼女になら……と、去っていくリッカの後ろ姿をじっと見つめていた。

 

「……行っちまったなあ……」

 

「モン……」



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モンとガングロ

ジャミル達も皆と別れを告げウォルロ村を離れる。やがて村も遠ざかり、

大分見えなくなって来た処でサンディが妖精型に姿を変えて出て来た。

 

「ねえ、ずっと聞きたかったんだけどさ……」

 

「何だよ……」

 

サンディはジャミル……、ではなく、連れているモンの方をじっと見ている。

 

「アンタ何っ、その座布団っ!まさかこれからもそれ連れて歩くワケ!?

その異様な物体をさあ!チョ~信じらんネ!」

 

「モン、……モン、この黒い芋虫、うるさくて嫌モン……」

 

「ちょっとっ!?誰が芋虫だっての!冗談じゃないっつーの!ねえ、ジャミル、

今すぐ捨てて来なさいよっ!!ねえねえねえっ!!もし食われたらどーしてくれんのぉ!?」

 

「……シャアーーっ!!」

 

「ちょ、すげーナマイキなんですケドっ!アタシに立てつくワケっ!?このデブ座布団っ!」

 

モンはサンディに大口を開け、サンディを威嚇する。しかし、この我儘コギャルガングロには

ジャミルも相当疲れ気味なので威嚇するモンの気持ちも分かるので無理もなかった。

 

「モンは俺のダチでパートナーだよ、これからも連れて歩くさ、

第一オメーよりも知り合ったのが早かったんだぞ、もしも

気に食わねえのなら俺はもうお前と一緒に行動しねえからな……」

 

「ちょ、ジャミルの癖にナマイキっ……、仕方ない……、いいわよ、

我慢してやるわよっ!ふんっ!べーっ!あったまくる!」

 

「何だそのジャミルの癖にってのはよっ!……おいっ!」

 

サンディは不貞腐れ、再び姿を消す。何か癪に触ったり、立場が悪くなるとすぐにこうである。

 

「モン、ごめんモン……、モンがモンスターだから……、モン……」

 

「気にしなくていいっての、モンはモンだろ?さ、行くぞ!目指すは峠の道だ!」

 

「モン!」

 

ジャミルはしょげるモンを励まし、再び歩き出す。目的は天の箱舟がある峠の道である。

 

「峠の道、着いたよ、よしよし、アタシの天の箱舟ちゃん、お代わりないネ?」

 

「わあ、金の列車に入れるモン?」

 

「ちょ、アンタにまで見えてんの!?こいつなんかやっぱおっかしー!?狂ってんじゃネ!?」

 

「シャアーーっ!」

 

「いいからっ!早く行けっての!」

 

ジャミルはサンディを先に箱舟内へと押し込めた。モンスターのモンに箱舟が見えたりするのも、

やはり口に入ったと言う黄金の果実の欠片の所為かも知れなかった……。

 

「ふ~ん、中は至って普通の列車だなあ~……」

 

「そうなのよ、地味でさあ、アタシとしてはもっとこう、可愛くお洒落に

コーディネイトしたいのよネエ~!こう、ゴールドの中にピンクのラインストーンを

鏤めてさあ、アタシ色に染めたいワケよ」

 

「……」

 

「ちょ、何よ、分ったわよ!早く運転しろって言いたいんでしょ!分ったわよっ!

ええ、やってやりマスよ!ぶっちゃけアタシも天使界がどうなったか知りたいっぽいしネ!

それじゃいっくよー!……す す す スゥイッチ……」

 

「……モンッ!!」

 

「ブッ!」

 

「……ぎゃっ!!」

 

モンが後ろからサンディに頭突き。押されたサンディは頭ごと勢いよく

運転席の稼働スイッチにぶつかり体当たりした。後ろで見ていたジャミルはちょっと吹く。

 

「いったああ~、何すんのヨっ!この馬鹿座布団っ!あああ~、よくもやったネっ!!」

 

「♪モモモモ~ン!」

 

モンはその場をふよふよ飛びながら逃げ回る。モンのお蔭でコギャルの

応対に疲れていたジャミルは少し気分がすっきりしたのだった。

 

「それにしても……、何故動かヌ、ウ~ヌ……、アタシ的には天使を乗せれば

動き出すって思ったんだけド……、あ、分った!」

 

「な、今度は何だよ!」

 

サンディは手をポンと打つとジャミルの方を見る。まさか今度は大体アンタが

モンを連れてるから箱舟が動かねーんじゃネ!……とか、滅茶苦茶言い出すんじゃ

ねえだろうなと警戒してみる。

 

「アンタあの時、星のオーラが見えなかったでしょ?それってやばくネ?

大体さあ、天使の癖に輪っかも翼も失うとかありえなくネ?箱舟が動かないの

そう、全部アンタの所為っしょ!」

 

モンの所為にはならなかったが、箱舟が動かないのは結局は自分の所為らしい。

ジャミルは段々機嫌が悪くなり、頬を膨らませて不貞腐れる……。

 

「あ、何、その顔、怒ってんの?やだ、膨れてる、おモチみてー!マジ超うけるんですけド!?」

 

ジャミルはモンにサンディに噛み付くのを許そうかと思ったが……。

 

「とか言ってる場合じゃないか、あんまりヒマこいてるとアタシも神様に

おこられるっぽいしネ、神様……、あーーっ!そうよ、神様よっ!

こんな大変な事になってんのにどうして誰も助けてくれないの……?

おかしいんですケド……、もしかして誰も見つけられない???」

 

「……あいつ、等々発狂しだしたか……」

 

「モン~?」

 

「……と、言うワケで、ジャミル、アタシらも道が通じたって言うセントシュタインへ向かうヨ!」

 

「!!ちょ、ちょっと待て、何で急にんな強引に……」

 

「い~っぱい人助けをして星のオーラを出せば、アタシ的に神様に

見つけて貰えるとおもうのヨネ!」

 

……つい数時間前、リッカと別れを交わしたばかりで……、確かに……。

セントシュタインに来た時は是非宿屋に寄ってねとリッカには言われているが、

一応故郷に帰ると言ってあるので、再会がちょっとあまりに早すぎると思ったのである……。

 

「あ、なあに、そのネリワサビ大量に食べた様な顔!マジ、チョーうけるんですけど!

アンタってマジモンでおモロ~!さー、方針も決まった事だし、いっくよーーっ!」

 

「おい、モン……、噛み付くんは止めといた方がいいけど、屁は思い切り

くせーのあいつに噛まして構えわねえからな……」

 

「♪モンーーっ!」



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the・宿女王……

漸くセントシュタインへと足を運んだジャミル。流石、城が有るだけあって

町も城下町でかなり広く人も多い。取りあえず、装備品を見るか、

それとも宿屋に行ってみるか……。ジャミルは考える。

 

「……」

 

(何?アンタ、宿屋に顔見せに行くの照れてんの?プ、顔に似合わネー事!)

 

「う……、うるせーっ!この糞ガングロっ!」

 

発光体のサンディがわざわざジャミルの耳元でジャミルを構うのであった。

 

「ねえ、お兄ちゃん、その飛んでるぬいぐるみどこで買ったのっ!?」

 

「え?あ、ああ、これか?……非売品なんだよ、わりィな……」

 

「そうモンみたいです、すいません……」

 

「……こ、こらっ!へへ……」

 

「なーんだっ!売ってないんだあ!」

 

近づいてきた子供、モンに興味があるらしくぬいぐるみだと思っている。

町中でモンを連れ歩いても、皆、同じくぬいぐるみだと思っている為、

大した混乱にはならず。優しい世界である……。

 

「やっぱり先に宿屋に行くか、しゃーねえ……」

 

そう言うワケでまずはリッカに顔を見せに宿屋へと向かう。

実はこれから彼女が経営する宿は一体どんな感じなのか、興味があった。

 

「ちわ……」

 

ジャミルがこっそりと中を覘くと……、リッカとルイーダ、それと宿の従業員なのか、

他に何人かの姿も見えた。どうやらまだリッカも此処に着いたばかりらしい。

 

「リッカ、そんなに緊張する事はないわ、あなたにはこれから此処で

頑張って貰わなくちゃならないんだから、もっと大きく構えなさい……」

 

「はい、……でも、今更ですけど、私みたいな小娘が突然現れて、いきなり宿屋を

経営するなんて……、誰も納得してくれないんじゃないかと……」

 

「そうね、最初は誰でも不安になるものよ、でも、私は人の才能を見抜く眼力を信じてる、

心配いらないわ……」

 

「は、はい……」

 

「さて、それじゃ、はいはい、皆さんご注目ー!私達の希望の星を連れて来たわよー!」

 

ルイーダはパンパン手を叩き先に宿屋に集まっている仲間達にリッカを紹介する。

従業員の仲間達は一斉にリッカの方に視線を向ける。

 

(……ふ~ん、何か面白そうだね、ねーねー、少しみていこーよ、アンタと知り合いなんだしさ)

 

「ああ、分かってるけどさ……」

 

「紹介するわ、彼女がウォルロから来たリッカさんよ!」

 

「あの、初めまして、リッカと申します、今日から此処で皆さんと……」

 

「ちょっとルイーダ!アンタ何考えてんのよ!この宿屋潰す気なの!?

こんな小さな子が経営なんて無理に決まってるじゃない!只でさえもう潰れそうなのよ!

下らないバクチはいい加減にして!」

 

突然、茶髪で後ろ髪に青いリボンを着けた女性がしゃしゃり出て来た。……彼女は

リッカを上辺だけで判断しており、あまり快く思っていないらしかった。

 

「まあ、落ち着きなさいよ、レナ、私が危険を侵してまでわざわざウォルロに赴いて

普通の女の子をわざわざスカウトして連れてくると思う?こう見えてもリッカさんは凄い才能の

持ち主なのよ、きっとこの宿屋の救世主となるわ!」

 

「あんた前もそんな事言って……、私に金庫番の才能が有るとか言ったわね!

自信満々に救世主が来るからって言ってたから期待してたのに、それがこんな小娘じゃ……、

期待外れもいい処だわよ!」

 

レナと言う女性、どうやらこの宿屋で金庫番をしているらしいが。

先輩枠なのは分るが、新参者のリッカが気に入らないらしく悪態をつく。

黙って後ろで見ていたジャミルはチッと舌打ちをした。

 

(うわ、何か最悪じゃネ?ちょー性格悪いんですケド!?)

 

「……シャアーーっ!!」

 

「オメーが言うなっ、……コラ、モンも威嚇しちゃ駄目だっての!」

 

自分を棚に上げる毒舌サンディ、モンまで怒って口を開けようとするが、ジャミルが慌てて制す。

しかし、リッカの友人としてこりゃ一言俺も何か言ってやんねーと気が収まんねえなあと、

ジャミルが考えていた矢先……。リッカは毅然とした態度でレナの前に出る。

 

「待って下さい!私、一生懸命頑張ります!宿屋の事は亡くなった父から教わっています!」

 

「……ふ~ん、あなたのお父さんも宿屋人だったの?父親の夢を娘が

引き継ごうってわけね、その心意気だけは立派だけど、……宿屋を

経営するって事がどれくらい大変な事か分かってるの?下手をすれば

あなたのお父さんの名誉だって潰す事になりかねないわ、まあ、あなたのお父さんが

どれくらいの立場の人だったか知らないけどね……」

 

「……」

 

「よくぞ聞いてくれたわね、さ、リッカ、今こそあれを出す時よ!」

 

「……?あっ、はいっ!!あれですねっ!!」

 

レナに押され、少し俯きがちだったリッカ。ルイーダに言われ、

ある事を思い出し心に勇気を振り絞った。

 

(お父さん……、力を貸して、どうか!)

 

 

リッカは宿王のトロフィーを取り出した!!

 

 

「!!ま、まさか……、その黄金に輝くトロフィーはっ!?」

 

「ええ、そうよ、これこそが正にセントシュタイン王から送られた記念の宿王の証、

……これこそが宿王の実力と彼女がその血を引き継ぐまごうことなき証よっ!!」

 

「で、伝説の……、や、宿王の娘っ!!……ははあーーっ!!」

 

レナも、その場にいた従業員も……、宿王のトロフィーを目の前にした途端、

態度を一変させ、全員が膝まづき、リッカの前にひれ伏すのであった……。

 

「あ、あの……、皆さん……、そんな、やめてください、恥ずかしいです……」

 

「モモモモオーンっ!!」

 

「……おい、オメーまで真似してやらなくていいっての、そんな短足で

正座なんか出来ねえんだからよ……、ひっくり返っちまうよ」

 

「モン、足長いんだモン!……モシャアアーっ!」

 

「はあ、それにしても、宿王の効力ってマジですげえんだなあ……」

 

「……あっ、ジャミルっ!それにモンちゃんも!!もう来てくれたんだ!!」

 

「よう……、久しぶり……」

 

リッカは後ろの方で事態を見守っていたジャミルの姿に漸く気づき、

急いで駆け寄ると再会を喜びあったのであった。

 

「でも、早速来てくれたのに……、私達も今此処に着いたばかりで……、

何のお持て成しの準備もしてないの……、ごめんなさい……」

 

「ん?いいのさ、今日は別に泊まりに来た訳じゃねえんだ、

ちょっくら様子を見に来てみたんだよ」

 

「そうね、心配だけれど、宿屋の事は自分には何も出来なくて歯がゆい、

……そんな心境じゃないかしら?」

 

「まあな……」

 

ルイーダに言われ、ジャミルは顔を赤くしてぽりぽり頭を掻いた。

 

「でも、そんなあなたでも、自分にもリッカの為に出来る事があると言ったら……、どうする?」

 

「?」

 

「ルイーダさん、一体何の話ですか……?」

 

「私が見た処、ジャミルはすれ違う多くの人を引き寄せる力があるわ、

あなたが呼び込みに立ってくれたら、きっとこの宿屋も商売繁盛間違いなしだと思うの」

 

「俺がかい……?」

 

「ちょ、そんな、ルイーダさん……、宿屋と何の関係もないジャミルに

そんな事頼めないよ……」

 

「この人の為に何かしてあげたい、そう思わせるのも才能の一つよ、

もしもジャミルが暇な時にだけ、自分がやりたいと思った時にだけ

動いて貰えれば……、それでいいんじゃないかしら?」

 

「うん、ま、俺でよけりゃ……、力になるよ、改めてさ……」

 

「ありがとう、ジャミル……、私もジャミルには人を引き付ける何かがあると思ってたんだ……、

じゃあ……、お願いしちゃっていいかな……?これからも宜しくね、ジャミル!」

 

ジャミルとリッカはお互いに笑いあうと、握手を交わす。宿屋の従業員達も

漸くリッカの才能を認めてくれ、彼女の明日はこれから始まるのである。



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騒がしい冒険、エンドレス……

さて、万を満たしてリッカの宿屋も準備が終わり、無事開店。と、同時に宿屋には

冒険者を登録し、仲間として連れて行ける、ルイーダの酒場も同時開店。

 

「いらっしゃいませ、ジャミル!セントシュタインにお寄りの際には

リッカの宿屋に是非泊って行ってね!どうか今後ともご贔屓に!」

 

「へえ、流石……、もう仕事っぷりが板についてんなあ、リッカの奴!」

 

「かまぼこ、かまぼこモン!」

 

「いや、そうじゃなくてよ……、ま、まあいいや……」

 

「モン?」

 

「ふふ、ねえ、あなたもこれから冒険に出たりするのかしら?そんな時は是非、

この酒場も利用して頂戴、色んなお仲間をお供に連れて行けるわよ、

一人では大変でしょう?ね」

 

「ああ、助かるよ、で、今はどんな奴が来てくれてるんだい?」

 

「ええ、名簿をどうぞ、取りあえずこんな処ね……」

 

ジャミルはルイーダが貸してくれた名簿票に目を通してみる……が。

 

「えーと、戦士クソマキ、……僧侶マタンキ……、おい、真面目に作れよ、

書いてる奴……、毎度毎度……、真面な奴いないのかよ……」

 

「あら?パーティ希望のお仲間ならもう到着してるみたいだけど、

あなたのお知り合いって言ってたわよ」

 

「……なんですと……?」

 

「ジャミルーっ!こんにちはー!」

 

「……お、おおっ!?」

 

「はうあー、また引っ張り出されちゃったよお……」

 

「やあ、ジャミル……」

 

酒場のドアから出て来たのは、このシリーズでは毎度お馴染のメンバー、

アイシャ、ダウド、アルベルト……、の3人。

 

「おーっ、やっとお前らも到着か!しかし、今回は此処まで異様に長かったなあー!」

 

「うん、これで私達もこの世界でやっと一緒に行動出来るね、また宜しくね、ジャミル!」

 

「まあ、仕方ないよね、オイラ達、癖れ縁ですもの~……」

 

「そうだね、僕もまた、久しぶりにスリッパを磨いておくから……、

……うふふ、うふふ、うふ……」

 

「やめろよっ!最後の奴っ!たくっ!ま、まあいいや、とにかくこれで

いつものメンツも揃ったと、よしっ!」

 

「いつものパンツが揃ったモン?」

 

「……お前もやかましいわ!ったく、何か一辺にうるさくなったなあ~……」

 

「わあ可愛い!ね、あなた、お名前なんて言うの?」

 

「モンですモン、おろしくー!」

 

「モンちゃんね、私はアイシャです、此方こそ宜しくね!うふふ!」

 

「モモモモンー!」

 

「ホント、賑やか……、ジャミルのお友達なんだ……、初めまして、ウォルロ村では

とってもお世話になりました、リッカです、これから皆も宜しくね!」

 

「宜しくー!」

 

3人も初顔合わせで声を揃えてリッカに挨拶。その場は本当に賑やかになる。

 

(ちょ、何……、このアタシを差し置いて、何ギャーギャー同窓会やってんのヨ!

幾ら今は此処にアタシが出られないからって……、いいわよ、後で見て驚け

サンディちゃんなんだからネ!……にしても、こいつらバカスギ!じゃネ?)

 

「はいはい、じゃあ、メンバーも無事揃った処で、あなた達もまずは職業を

決めて頂戴ね、じゃないと冒険に出られないから……」

 

「そうですね、まずは最初の職業を決めないと……、出だしが肝心ですね」

 

「分ってると思うけど、今回はチート無しだからな、アル……」

 

「……分ってるよ……」

 

……3での最初から賢者だったチート君は静かに頷いた。

 

「私はまた魔法使いでいいわ!」

 

「だな、アイシャは魔法使いっと、オーケー、……と、ダウド、お前は僧侶……」

 

「ちょ、何でオイラ僧侶なのさあ!盗賊がいいよお!」

 

「あのな……、これの前のプレイで書いてる奴が最初に回復役作らなかったお蔭で、

俺らも痛い目に遭ってんだよ……、回復薬はいないと駄目っ!お黙りっ、問答無用っ!」

 

……ヘタレ、問答無用で僧侶に決定す。

 

「何でこうなるのさああーーっ!ジャミルのアホーーっ!!」

 

「……後はと、俺の他にも打撃担当もいねえと厳しいんだよな……、

つー事で、アル、最初は戦士で頑張ってくれや……」

 

「うん、何とか頑張ってみるよ……、はあ……」

 

という事で、最初の職業も無事決まる……。

 

ジャミル :旅芸人

アルベルト:戦士

ダウド:僧侶

アイシャ:魔法使い

 

「……何だかんだ言ってジャミルが一番変だよおーっ!な、何っ、

しかも、火吹き芸の特技って……、ぎゃはははっ!何覚えてんのさあ!」

 

「うるせーっ!俺だって好きで習得した訳じゃねえやいっ!

……顔貸せこの野郎!火ィ吹いてやるからよっ!!」

 

「もうーっ、やめなさいったら!処で、私達の服装……、私も、魔法使いって言っても、

3みたいなスタイルじゃないのね……、これじゃまるっきりパジャマよ……」

 

アイシャが項垂れる……。確かに、ジャミル以外の3人の初期装備は

布の服が表示され、しかも物凄く地味であった……。

 

「でも、やっぱりジャミルの格好も相当変……、まるでチンドン……あだああーーっ!!」

 

「お前もうるさいーーっ!お黙りーーっ!!」

 

「モンモンモオオオーーンっ!!」

 

その場では、ジャミルとダウドのプロレスが始まってしまい、一時騒然……。

この現場を初めて目撃するリッカはびっくりして開いた口が塞がらず……。

 

「あの、ごめんね……、私達、いつもこうなの……」

 

「えっ?うん……、でも、ジャミルがあんなに暴走するなんて凄い、

凄いけど、何だか楽しいね!」

 

「あはは、そう言って貰えると嬉しいかな……」

 

「うん、仲のいいお友達といると凄く元気が出るんだね!」

 

リッカとアイシャ、女の子同士で笑い会った。しかし、此処に来て

漸くジャミルもアホの本性丸出しをリッカに見せる羽目となる。

リッカは何とか喜んでいるものの……。

 

「やれやれ……、コホン……、君達、いい加減にしないと……」

 

「はい……」

 

アルベルトの一言でバカ2人、押し黙って漸く静かになった。

 

「まあ、早く良い装備品を買って貰えると有難いけどね、ね、アイシャ……」

 

「うん、仕方ないわよね、暫くは布の服で我慢しなくちゃね」

 

「へえへえ、まずは装備品の調達か、取りあえずLV上げでもしてくるかねっと!」

 

「行ってらっしゃい、宿屋はいつでもあけておくからね!疲れたら活用してね!」

 

リッカに見送られ、4人組は動き出す。いよいよこの世界での新しい冒険の始まりである。




と、4人揃った処で、此方の方は暫く更新をお休みします。
ゲームの方が又進み次第書く予定です。


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ヤマンバ女王暴れる 1

本編は進めませんが、……サンディと交流を深める……、という形の
番外編的なエピを書いてみました。


やっと仲間も加わり、ジャミルもこの世界での本格的な冒険への

第一歩を踏み出そうとしていた矢先。……今回はその矢先の話である。

 

「ちょっと、ジャミルっ!?」

 

「ん~?……で、出やがったな……」

 

LV上げの為、セントシュタインの外に出た4人の前に発光体から人間体へサンディが

姿を現す。ジャミル、モン以外はサンディの姿を見るのは初めてなので、

ちょっとと言うか……、かなりびっくりしている様子。

 

「な、何これ……、ジャミル、こんなのも飼ってるの……?」

 

「……ちょっとっ!そこの情けネーツラのオールバックッ!

聞き捨てならないんですケドっ!?このアタシを一体誰だと思ってるワケっ!?」

 

「ひえええーーっ!?知らないから聞いたんじゃないかあーーっ!!」

 

ダウドは高飛車な態度で自分にガンをつけてきたサンディに慌て、アルベルトの後ろに隠れる。

 

「ダウド、落ち着いて……、えーと、初めましてかな……、君は誰……?」

 

「ふふ~ん、よくぞ聞いてくれたわネっ!金髪君!聞いて驚きなさいっ!

アタシはね、あの有名な天の箱舟……」

 

「まだその話はよせっての!ややこしくなるだろが!えーと、説明すっとだな、

……ま、とにかく無理矢理俺について来た訳だよ、そう言う事……」

 

「はあ……」

 

アルベルトは首を傾げる。はっきりいって、彼女に関してはまだ良く

ジャミルも素性が分かっていない為、こう説明しておくしかなかった。

 

「キー!何その説明!チョードタマにくるんですけどっ!?

大体さあ、あんた達ニンゲンには普段はアタシのこの高貴な

姿は見せられないワケ!……それでもこれから先、一緒に付き合う

仲だからと思ってサ、わざわざアンタ達の前でも姿が見られる様に

してやってるのよ!?有難く思いなさいよネッ!?」

 

「……はあ……」

 

アルベルトは又も首を傾げた……。しかもどう反応していいのかかなり困っている。

 

「高貴……?……香狂の間違いじゃないのかなあ……?」

 

「だから何っ!さっきからうっさいのよッ!この困りヅラッ!!」

 

「うぎゃああーーっ!?」

 

「……シャアーーっ!!」

 

「あっ、またアタシに向かって牙向けたねっ!いいわよ、受けて立つわよ!

掛かってこんかい!このデブ座布団っ!!」

 

「ジャミル、どうしたんだい?君、今回は何か随分大人しい様な気が……」

 

アルベルトが心配し、やや控えめなジャミルに訪ねる。実は此処に来る前にも

サンディには散々我儘を言われ、挙句の果てにはサンディはモンと毎日バトル。

流石のジャミルも疲れ切っていたのである。何せ自分を上回るトラブルメーカー

出現かもで、加えてヘタレのダウドが加わった事により、とんでもない事になりそうだった。

 

「ま、またいつもの調子が出るさ、……その内にな……」

 

「そう、ならいいけど……、スリッパ使えないのも淋しいからさ、元気出してね……」

 

「ああ……って、おい……、オメー、心配してんのか、それとも俺が

騒動起こすの待ってんのか……、どっちだよ……」

 

「さ、さあ~?」

 

「もうーっ!ダウドもやめなさいよっ!モンちゃんも駄目よ!……ね?」

 

「シャ~……」

 

忘れていた頃、女神様の仲裁が入る。アイシャはダウドに注意し、モンの大口を閉じさせた。

ジャミルは女の子のアイシャがいてくれた事を思い出し、安心するが……。

 

「えーと、まずはちゃんと自己紹介ね?始めましてサンディ、私はアイシャよ、

こっちがアルベルトで、ダウド、これから先一緒に旅するんだもん、女の子同志

仲良くしてね!」

 

……流石である。人懐こいアイシャは糞生意気なサンディにも動じず、

友達になろうと率先して近寄って行った。

 

「ふ~ん、アンタ中々見どころあんじゃん!ま、このサンディちゃんと仲良くしたいってんなら

いいわよ!ダチになったげる!そこの野郎共よりよっぽど話が合いそうだしサ!」

 

「うわ、……やっぱなんか最悪かも……」

 

「ダウドっ!」

 

またサンディに暴言を吐きそうになったダウドの脇腹を慌ててアルベルトが突く。

……しかし、アルベルトも顔に微かに血管が浮かんでいた。

そして、これで騒動が終わる筈もなく。

 

「んー……」

 

「え?ええええっ!?」

 

サンディはアイシャに顔を近づけ、……アイシャの顔をじろじろ見ている。

 

「あんたさあ、化粧地味じゃね?……女の子なんだもん、

もうちょっとオシャレした方がよくネ?」

 

「……ええーーっ!?」

 

「じゃーん!コレ見てみ?サンディちゃん愛用のメイクセット!ダチになった印に

今回は特別にアタシがアンタを変身させてあげる!」

 

「……ちょ、ちょっと待てーーっ!」

 

やっと大御所動き出す。サンディのメイクセット……、という事は

明らかにサンディはアイシャをガングロメイクに染めようとしているのである。

 

「さあいっくよーっ!まずはファンデーションからっ!」

 

「やめろおおーーっ!このスットコガングローーっ!!」

 

すかさずサンディの暴挙をジャミルが間に割って入り阻止。

……ガングロアイシャなどそんな恐ろしい物は絶対に見たくなかったんである……。

 

「ちょ、何っ!?アンタアタシ達の友情の儀式を邪魔する気?其処どいてよッ!!」

 

「うるせーーっ!何が友情かあーーっ!何が何でも阻止いたすーーっ!!」

 

「や、やっとジャミルが暴れてくれそうだ……、やっぱりこうでなくちゃね……」

 

「……アル、君ってさあ、やっぱり……」

 

「何?ダウド……」

 

「何でも……」

 

「あの、あの……」

 

アイシャを間に挟み、一触即発状態でサンディとジャミルが睨み合う。

……ジャミルはサンディの暴走を阻止出来るのか。



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ヤマンバ女王暴れる 2

「ちょっとアンタ邪魔!……どきなさいって言ってんのッ!」

 

「るせー!冗談じゃねえ、……アイシャをガングロになんかさせて堪るかっ!」

 

「どうしようどうしよう……、えーとえーと……、ちら……」

 

アイシャは困ってちらっとアルベルトの方を見る。明らかに

アルベルトに助けを求めている……。しかし、余計な助け舟を

出したのはダウドの方であった。

 

「はあ~、あのね、ジャミルはね、実は前に女装した事があってね……、

経験あるし、どうせやるならそっちの方が面白いんじゃないかなあ~……、あ!」

 

「……ほお~?」

 

「……ダウドおおーーっ!テメー余計な事言うんじゃねえーーっ!!」

 

ついうっかり呟いてしまったダウド。サンディはそうかそうかと言う

黒い笑みを浮かべている……。

 

「ごめんね、オイラ嘘がつけないからさ、ついうっかり……、あいたああーーっ!!」

 

「この野郎!……あいつの視線が今度は俺に向き始めたじゃねえか!

……どうしてくれるーーーっ!!」

 

ジャミルはダウドを殴りに掛かる。……騒動の相手がまたこっちに戻ってきてしまった。

 

「あーんもうーっ!2人ともいい加減にしなさいようーっ!」

 

「大丈夫だよ、アイシャ、……さあ君達、頭を出して、冷やそうね、少し……」

 

「え……?」

 

「へ……?」

 

「じゃあ行くよっ!……せえーのっ!」

 

 

……パンッ!パンッ!……パンッ!!

 

 

「久々にすっきりした……、やっぱりこれやらないと……」

 

「……いったああ~っ!!」

 

「畜生……、久々にやりやがったなっ!この腹黒めっ!う~、後で覚えてろ~……」

 

アルベルトに頭を叩かれたバカ2人、頭を押え項垂れる。

……見ていたサンディとモンは呆然と……。

 

「凄いモン……、モンもやりたいモン!」

 

「何かチョースゲーんですケドっ!?ねえねえアンタ、その叩きの極意、

アタシにも伝授してよっ!?」

 

「え……?」

 

化粧から話は逸れそうになって来たが、サンディ、今度はアルベルトのスリッパ叩きを見て

何か異様に興奮し始めた。……モンまで……。

 

「モンちゃん、それは覚えなくていいのよ、はい、これどうぞ、さっき町で買ったの、

いちごのキャンディーよ、甘くて美味しいわよ」

 

「♪シャ~!」

 

アイシャは持っていたいちご味のペロリンキャンディーをモンに舐めさせる。

……モンは大口を開けると一口でキャンディーをぱくっと一飲み。

 

「もぐもぐ、甘くておいしいモン!もっと頂戴モン!」

 

「いい子にしてたら又買ってあげるからね、だからアルのは真似しちゃ駄目?分った?」

 

「はいモンー!みんなの食べてる食べ物は美味しい物いっぱいモン!

おいしいのもっと食べさせてー!」

 

「うふふ、モンちゃんも食いしん坊さんなのね、ジャミルに似ちゃったのかしら?」

 

「うるっさい!えーえー、どうせおりゃあ食い意地の張った男だよ!

どうせならとことん食い捲ったらあ!よし、ゴールドも溜まってるし、

よっしゃあ、今日はステーキだあっ!」

 

「ちょ……、駄目だよ、アイシャ!」

 

「あ、あっ!?」

 

アイシャが慌てて自分の口を押える。が、時既に遅し。プッツン切れたジャミルは

この際だからステーキ食ったらあ状態で開き直ってしまう。……どんどん話が反れてきている。

 

「ねーねー、スリッパ叩きー!」

 

「黙ってて!それ処じゃないよっ!ジャミルっ、ステーキは駄目だよっ!」

 

「……な、何かチョーこええーんですケドっ!?ヤバっ!?」

 

此方も切れて来ているアルベルト……。只ならぬ雰囲気を感じたのか、

サンディは慌てて発光体に戻ると姿を消す。……話はどんどん反れ捲っている……。

 

「うるせー!食うったら食うんだよっ!俺を止められるモンなら止めてみ……」

 

 

……パァァァーーンッ!!

 

 

アルベルトの会心の一撃!……ジャミルに999のダメージ!ジャミルを倒した!

 

「倒してねえーっ!……畜生!マジで覚えてろよっ、この腹黒ーーっ!」

 

「もうー、ジャミルったら!これから暫くはセントシュタインの宿屋にお世話に

なるんだから!ステーキなんかよりリッカの作ってくれる手作りの食事の方が

ずっと美味しいんじゃないの!?」

 

「あ、そうか……、そうだったな、うん、あいつのシチュー美味いもんな!ははははっ!

つーことで今日は宿に戻るか!……うん!」

 

単純ジャミル、さっさとセントシュタインの方に引き返してしまう。

 

「はあ、オイラ達、一体何しに外に出て来たの……、何もしていないじゃん……」

 

「ま、まあ、今日の騒動は取りあえず収まったんだから……、良しとしよう……」

 

「そうね……、敵と戦った訳でもないのに何だか凄く疲れたのはどうしてかしら?」

 

3人は浮かれているジャミルを見ながら揃って大きくため息をついた。

……この話では毎度お馴染の光景である。

 

「♪ふんふんふ~ん!」

 

「ちょっとジャミル、何浮かれてんのよっ!食いしん坊なのも

いい加減にしなさいよねっ!……バカっ!」

 

慌ててジャミルに追いつくとアイシャがジャミルを注意。しかし腹が減っているジャミルは

ムキになってアイシャに反論する。

 

「別にいいだろっ、人間食うのが仕事なんだからよ!あ、俺、今回は都合上

設定じゃ人間じゃなかったんだ……、ま、まあ、んな事はどうでもいいんだよ、

オメーもリッカの作ったシチュー食べさせて貰えよ!スゲー美味いんだぞ!」

 

「そうね……、凄く美味しいんでしょうね、……リッカのシチューって……」

 

「ああ、牛乳の調節の加減がだな……、これがまたものスゲーの、

舌がとろけちまうんだよ!プロ、神業級だよなっ!」

 

「ふんだ!そうよ、ジャミルなんかシチューと一緒にとろけちゃえばいいのよっ!バカっ!!」

 

「ああ~ん?何怒ってんだよっ!全く相変わらずオメーはワケわかんねー時あんなあ!」

 

「……知らないっ!バカっ!!」

 

この世界でも此方も毎度の儀式勃発。大概はすぐに収まるのだが、喧嘩状態の2人は

距離を置きつつも何故かぴったり歩調を合わせ、セントシュタインへと一緒に歩いて行った……。

 

(……ふう~ん、そうかそうか、成程ネ!これは面白い事になりそ!くくく、

いいわよ、このキューピッドのサンディちゃんが一肌脱いであげちゃお!

サンディは悩める女の子の味方ヨ!)

 

……化粧からは完全に手を引いたものの。サンディは又別の余計な騒動の火種を

起こしそうである……。それはまた別の話……。




と、言う事で、又暫くの間、自分のプレイが動くまで此方の更新はお休みです。


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姫君と黒騎士 1

本ゲームは中断中ですが、黒騎士の処は終わってますので
また少しずつですが上げていきます。


4人が揃って2日目の朝を迎える。やっぱり初日はドタバタで過ぎて行ったが、

今日からまた改めて気を引き締めて頑張ろうという事に。現在はリッカの宿屋で

朝食をとりながらこれからの事をどうするか会議中である。

 

「ふう~ん、んで、まずはその、人助けすると貰えるって言う星のオーラとか

いうの集めるんだね、成程……」

 

そうは言っているが、何となく我関せずでダウドはのほほんと喋っている。

目玉焼きに付いている付け合せのソーセージをフォークで齧りながら……。

 

「まあ、そう言う事、お前らも頑張ってくれや……、でないと

俺がガングロに呪い殺されるからさあ……」

 

(何っ!ジャミルっ、何か言ったっ!?ちゃんと聞こえてるんですけド!?)

 

「たく、うるせーなあ~、ホントにもう~……」

 

「それにしても……、ジャミルがねえ、今回は天使か、天使……、プ……」

 

「……んだよっ!腹黒っ!何で其処で人の面見て吹くっ!」

 

ジャミルの顔を見、考えてみてアルベルトは吹く。ジャミルはどう見ても

天使ではなく、ベビーサタンの親戚だからである。

 

「はい、モンちゃん、おっきな口開けていいよ、目玉焼きさんあーんだよ!」

 

「あーん!モン!」

 

「やれやれ、そっちは呑気でいいねえ、でも、モンはこれからアイシャが

面倒見てくれるから助かるわ、……んーっ!」

 

ジャミルは気持ちよさそうに椅子にもたれ大きく伸びと欠伸をする。

其処へ4人のテーブルの処にリッカがやって来る。

 

「皆さん、お味は如何ですか?はい、食後のスープですよ!」

 

「おー、こりゃまた……、スゲーいい匂いするっ!流石っ!」

 

「ジャミルったら!食いしんぼ!でも本当、いいにお~い……」

 

「そ、そんな大した物じゃないから、有り合わせの材料でね、

今日はサービスだよ、どうぞごゆっくりしていってね!」

 

ジャミルを注意しようとしたアイシャもリッカ特製のスープの匂いに釣られる。

4人は美味しいスープに舌鼓をうち大満足であった。

 

「本当、美味しいね……」

 

「だろ!?最高だろ、リッカのスープ!」

 

「……あっひいよおー!でも本当にうまうまー!」

 

「……」

 

「モン~?アイシャ、スープとにらめっこさんしてるモン?」

 

「えっ?えええ、何でもないのよ!うん、本当に美味しいねっ!」

 

「モンー!」

 

アイシャは慌ててスープを口に入れた。確かに美味しいが、何となく彼女にとっては

非常に、……とても複雑な味になっていたのであった。

 

(ほーほー、何かすっげーおもしれー事になってきてんじゃない!

いよいよ恋の悩みならお任せのこのサンディ様の出番かしらっ!?)

 

……と、水面下で余計な変なモンも動き出しそうになっている様な気配にも気づかず……。

 

「あっ、そうだ……、今ね、セントシュタインのお城がちょっと大変な事に

なっているみたいだよ……」

 

カウンターへと戻ろうとしたリッカが急に事を思い出し、4人を振り返った。

 

「ん?……城がか?」

 

「うん、詳しくはお城の前に立て看板があったから、見に行ってみるといいかもね、

何だか急遽の衛兵さんを募集してるみたいだったよ」

 

「緊急事態なのか……、取りあえず行ってみるか……」

 

ジャミルの言葉に他の3人も頷く。4人+サンディ、モンは早速お城へと向かう。

リッカに聞いた通り、衛兵募集の件の立て看板もチェックしておく。

 

『我が国に黒き鎧を纏いし正体不明の騎士現る 騎士を討たんとする勇敢な者、

我が城に来たれ 素性は問わぬ セントシュタイン国王 』

 

「だとさ……」

 

「うへえ~……、黒い鎧着てるだけで悪者扱いされちゃうとか……、

世知辛い世の中だなあ~……、悪い人じゃなかったらどうするのさあ~」

 

「とにかくお城に行ってみようか、国王様にお話をお伺いしなくては……」

 

「そうね、此処は私達の出番よね!よーし、頑張るわよっ!」

 

「モンモンー!」

 

「おい……、あまり張り切るな……って、なんかモンの奴、

すっかり騒動屋のパートナーに定着しちまったなあ~……」

 

ジャミルはアイシャの方を見る。……そしてモンの方も。アイシャの奴、

どうせこの話でも暴走すんのは避けられねえなあと思いながらジャミルは

諦めた様に城門の前へと向かう。

 

「……何よジャミルっ!何で人の方ちらちら見ながら蟹股で歩いてるのっ!?」

 

「何だっていいんだっ!……こんちゃーす!」

 

「何だ?お前達は……、まさか……」

 

ジャミルは城の門番衛兵に立て看板を見たと言う事を伝える。

衛兵達は最初不思議な顔をしていたが、慌てて城内へ入り、

国王に報告してくれたのだろうか、4人の処に再び戻ってきた。

 

「宜しい、通りなさい、国王様がお待ちだ……、失礼のない様に……」

 

城内へ許可された4人は国王がいる玉座の間を目指す。モンに関しては

此処でもぬいぐるみと思われている為か、全く心配いらなかった。

 

「フィオーネよ、何度言えば分るのだ!あの者に会いにゆこうなどとこの儂が許さぬぞ!」

 

「いいえ、お父様!あの黒騎士の目的はこの私、フィオーネですわ!

私が赴けば国の民も安心してまた暮らせるようになります!

……何故分かって下さらないのですか!?」

 

4人は玉座の間へと向かったが……、やたらと顔の大きい栗饅頭の様な短足のおっさんと、

煌びやかな顔立ちの美しいポニーテールヘアの姫君が何やら言い争いをしている。

この顔の大きいおっさんがこの国の国王なのだろうが、2人は城内へとやって来た

4人に気づかず。この国に起きているらしい事態はとてもややこしく、深刻そうである。

しかし、栗饅頭の様な顔の短足国王と、この姫君は……、どう見てもとても親子には見えなかった。



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姫君と黒騎士 2

「バカを申せ!自分の娘をあの様な得体の知れぬ怪しい男に差し出す親が何処にいる!」

 

「……ですが!」

 

「……」

 

「お、おお?」

 

国王は先程からじっと自分達を見つめていたジャミル達4人の視線に漸く気づく。

 

「ウォッホン……、客人か、すまなかったな、さあ此方に参られよ……」

 

……国王の隣の椅子には当然の如く、王妃とみられる人物が

腰を落ち着けていたが、此方は何やらずっと俯いて泣いており、

ジャミル達の方も見る気配があらず、只管4人を無視だった。

 

「お見苦しい処をお見せしてしまいまして、申し訳ありません、

私はこの国の姫、フィオーネと申します……」

 

「俺はジャミル!」

 

「アルベルトと申します」

 

「オイラ、ダウドだよ!」

 

「私はアイシャです」

 

「モンです、モン!」

 

「まあ、随分と可愛いらしいモーモンのぬいぐるみをお持ちでいらっしゃるのね、

ふふ、お喋りをするなんて……、本当に最近のお人形は良く出来て……」

 

プッ!

 

「モン、オナラもするんだモン!今のは朝のオニオンスープのニオイだモン!」

 

「あ、あら……?」

 

「……こ、こらっ!ど、どもども、へへへ!」

 

ジャミルはうっかり姫君の前で平気でおならをしたモンを

慌てて後ろ手に隠し引っ込めさせた。

 

「全く……、モーモンまで誰かさんに似ちゃうんだから、……ホント困るよ」

 

「……んだよっ、腹黒っ!」

 

「やめなさいよっ、アルもジャミルもっ!国王様達の前でしょっ!」

 

アイシャが一応注意するが、注意している彼女も含め、この4人に

常識があったらこの話は終わりである。

 

「……いえ、いいのですよ、あなた方は旅のお方ですね?もしかして、

例の黒騎士騒ぎの件で此方にいらして下さったのですか?」

 

「ん、んーと、まあ、そんなとこかな……」

 

「そうでしたか……、私の所為であなた方にもご迷惑を……、ですが、私の事は

大丈夫ですので皆さまは御自分の旅を……」

 

「おおお!いかにもワシがこの国のセントシュタイン国王じゃが、そなた達は

看板を見て城に尋ねて来てくれたのじゃな!?」

 

「……お父様!?」

 

しかし、娘の言葉を国王が遮る。国王はジャミルを見ると目を輝かせた。

 

「お主達があの黒騎士を成敗するのに力を貸してくれると言うのか!そうかそうか!」

 

「……ど、どうすべ……?」

 

ジャミルは困って他の3人の方を見る。まだ正式に返事を受けた訳ではないのだが、

国王はどんどんと事を勝手に進めてしまう。

 

「まあ、一応折角来たんだから……、考えてはおく……、けどさ……」

 

「そうか!黒騎士退治を引き受けてくれるのか!お主、確かジャミルと言ったのう、

ではワシの話を聞いておくれ……、いきずりの旅人であるそなたに黒騎士退治を

頼むのには勿論ワケがある、……実はな、黒騎士は一度、ワシの娘、フィオーネを

狙いこの城に現れた事があるんじゃよ、奴は約束の時間までにシュタイン湖と言う

場所まで趣き、其処に姫を預けて行く様に伝言を残して去って行ったのじゃ、

……ワシはその言葉を黒騎士の罠だと思っておる!ワシがシュタイン湖に兵を

派遣し、城の警備が薄くなった処で、再び奴はやって来るに違いない!

……それゆえワシはお主の様に自由に行動出来る人材が欲しかったのじゃ……」

 

んじゃあ俺、早い話が、暇人て事か……?と、ジャミルは複雑な心境になった。

 

「お父様!彼らは無関係な旅人ですよ!巻き込むなんて……」

 

「お前は黙っていなさい!……これ以上あやつの好きな様にはさせぬぞ……」

 

「……酷い……、あんまりですわ……、私の気持ちなど分ろうともしないでっ……!」

 

「!?あ、ああっ!ジャミル、お姫様が行っちゃうよお!」

 

「……姫様っ!」

 

「モンーっ!」

 

ダウドとアイシャが走って行ってしまったフィオーネを心配するが……、

国王は大丈夫だ、心配あらぬとばかりに首を振った。

 

「お主達にも心配を掛けてすまぬな、フィオーネは責任感の強い娘だ、

この件に責任を感じておるのやも知れぬ、それではジャミルよ、これから

シュタイン湖に赴き黒騎士の所在を確かめて来てくれ、もしも奴が其処で

待っておったらお主の腕の見せ所じゃ!徹底的に叩きのめしてまいれっ!」

 

「……」

 

「ああ、姫、かわいそうなフィオーネ……、あんな黒騎士などに脅されて……」

 

4人は国王からシュタイン湖の場所を聞くと城を出る。……背中に王妃の

おいおい泣く声を耳に受けながら……。

 

(ねーねー、ジャミルっ!)

 

「何だよ……」

 

城を出てのそのそ歩いていく4人。ジャミルの耳元にこっそりと発光体のサンディが囁く。

 

(ここの人達、なーんか黒騎士に困ってたっぽくネ?これは人助けのチャンスだって!

これだけの人達からカンシャされて星のオーラが貰えれば神サマもきっとアタシ達を

見つけてくれるハズ!なんか希望が見えてきたんですケド!んじゃあ、さっそくアタシ達も

イッチョ黒騎士退治にいっちゃいマスかっ!?)

 

「今日は行かねえよ、明日だ、……日も暮れて来たし、皆と話もあるしな……、

それに堪ったゴールドで新しい武器と防具も調達しねえと、色々準備があんだよ……」

 

(んーっ!……イケズッ!)

 

国王に頼まれた以上、シュタイン湖に行かなくてはならないのは山々だが、

ジャミルも皆も……、走り去る際のフィオーネの涙を見てしまった為、複雑であった……。

黒騎士の姫を狙う本当の真意も目的も彼の詳細もジャミル達は分らない為、

果たして国王の判断だけで悪者と決めつけて本当にいいのかと……。

 

「んーっ!んまー!」

 

「おいしーい!」

 

「最高だね!」

 

「おいひーよおー!」

 

「♪モンモンー!」

 

取りあえず宿屋に戻った4人とモンはロビーテーブルにてリッカ特製の夕ご飯を頂く。

今日は特製のナポリタンにサラダ付き。

 

「もう~、みんなオーバーだよ、でもいつも美味しそうに食べてくれて

私、本当に嬉しいな、これからも頑張るから宜しくね、えへへ……」

 

そして夕食も食べ終え、4人は貸して貰っている部屋へと移動する。

 

「はあ~、ついさっき目玉焼き食べたと思ったらもう夕ご飯だもんね、

ホント、この話って時間立つの早いよお~……」

 

「モンモン~、……流石にモンももう食べられないモン~……」

 

お腹をさすりながらダウドがぶつぶつと……。アイシャに沢山ナポリタンのお零れを

貰ったモンは口の周りがケチャップで汚れ、アイシャが拭いてやったものの、汚れが落ちず、

ハンバーガー屋のピエロの様な凄い顔になっていた。

 

「黒騎士さん……、私達はまだ会った事ないけど……、きっと悪い人じゃないわ……」

 

「ん?オメー、んな事わかんのかよ……」

 

此方も……、急に目を輝かせてアイシャがブツブツ言い出した……。

 

「私には分るわっ!……そうよっ、だって、あの時のフィオーネ姫の涙……、

そうよっ、フィオーネ姫は絶対黒騎士さんに恋してるのよっ!」

 

……このアイシャの発言が……、次回、またまたジャミルとアイシャのケンカの原因へと……。



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姫君と黒騎士 3

「……ひ、ひひひひっ!」

 

「ちょ!ジャミルったらっ、何でそこで笑うのようっ!失礼ねっ!」

 

「い、いや……、やっぱお気楽な少女趣味の思考だなって思ってさ、……くくく!」

 

アイシャは顔を真っ赤にしてジャミルに怒るがジャミルは只管笑い転げている。

……あーあ、始まったかとアルベルトとダウドは諦めた様に騒動が始まるのを覚悟した。

 

「もーっ!いいわよっ!うっかりジャミルの前でなんか言うんじゃなかったわっ!

バカっ!野蛮っ!スットコドッコイっ!変態アウストラロピテクスっ!いーだっ!」

 

「……おいっ!んだよ、最後のはよ!コラ待てっ!この暴走ジャジャ馬っ!」

 

アイシャは激怒したままモンを連れ自分が寝泊まりする部屋の方へと逃走。

……今回は何日ぐらいで収まるんだろうねえと、アルベルトとダウド……。

 

「ったくっ!あの野郎っ!!」

 

「……あのさ、誰がどう見たってジャミルが悪いよ……、君、本当に

デリカシーの無さと不器用な処……、相変わらずだね……」

 

「だよお~……」

 

(アンタの観察記録、つけとくネ、……ふむふむ、乙女心のわかんネー

困った古代人の変態アウストラロピテクスと……)

 

「……うるせーうるせーっ!あーっ!どいつもこいつもっ!……知るかっ!アホっ!」

 

「あの……、ジャミル?」

 

「……」

 

ダウドが声を掛けるが、ジャミルはベッドに突っ伏し、毛布に顔を

埋めた状態のままそのまま寝てしまった。

 

「ほっといてあげよう、アイシャとケンカして機嫌が悪いんだから……、

まあ、いつものパターンだからさ……」

 

「そうだねえ……、ま、これがなきゃジャミルじゃないしね……」

 

やがて夜も更け、アルベルトとダウドも眠りについた頃。……お約束。

不貞腐れて先に寝てしまったジャミルは夜中に目を覚ます……。

 

「……冗談じゃねえっつーの……、うるせーガングロも気配がしねえな……、

奴も休んだか、やれやれ……」

 

変な時間に目を覚ましたジャミルは一人、ロビーへと降りてみる。

……当然の事ながら、リッカも従業員達も就寝中である。

 

「しっかし、アホだなあ、俺って……、……ま、自覚があるんだからエライっしょ……」

 

と、一人でブツブツ言いながら誰もいない夜中のテーブル席へと腰を降ろした。

 

「……?」

 

と、ジャミルは誰もいない筈のロビーで何となく人の気配を感じ、

周囲をちらっと見渡してみる。すると。

 

「やあ……」

 

「!?」

 

「君には私の姿が見えるのか……、私の姿が見えると言う事は、君は……、いや、

そんな事はどうでもいい事だ……、だが、これも何か運命の導きなのであろうな……」

 

「あんた……、何モン?……天使界の奴か?それにしちゃ、現地に

いた頃もお目に掛った事ねえけど……」

 

カウンターに突如出現した、天使の輪と翼を持つ謎の人物……。

飄々とした態度でジャミルに接してくる。口調は男の様であるが、

ナイスバディで胸が大きく、美しい外観から女性である事は間違いない。

 

「私の名はラヴィエル、閉ざされた運命の扉をこの手で開く者だ、

君に私の力を貸そう、私はこの手で天使だけが通れる異次元の扉を

開く事が出来る、扉は外の世界へと通じている、天使の扉は君を

新たな冒険へと誘ってくれるであろう……」

 

「あのさ、天使の扉って……」

 

「ふむ、聞きたいか?しかし、まずは一度試してみないか?」

 

「はあ……」

 

ラヴィエルはジャミルにカモンする。ジャミルは仕方なしに一応彼女の側まで行ってみるが。

 

「よし、この扉の中に試しに入ってみたまえ、新たな世界に通じている筈だ……」

 

ジャミルは恐る恐る、扉の中に身を入れる。……と。

 

「キャー!エッチ!の○太さんのエッチっ!!出てってーーっ!」

 

……入った途端、突然入浴中の女児にお湯をぶっ掛けられた……。

どうやら何処かの家の風呂場に入ってしまった模様。

 

「誰がの○太だあーっ!……おい、何が新たな世界だっつーのっ!!」

 

頭からお湯を掛けられ、びしょびしょのジャミルはラヴィエルに激怒するのだった……。

 

「……と、まあ、こういう事だ、……新たな世界から冒険者を此方の世界に呼び、

君の力になって貰う事も出来る、是非活用してくれたまえ……」

 

「……説明になってねーっつーんだよっ!おーいっ!……ふ、ふえーっくっ!」

 

しかし、ラヴィエルは既に姿を消す。更に余分な件で激怒したジャミルは又疲れ果て、

大人しく再び部屋のベッドへと戻るのであった……。

 

翌朝。

 

「ジャミルーっ!おはようー!」

 

「モンー!」

 

朝食を頂きに再びロビーへと集合したメンバー。昨日あんなに怒っていたアイシャは

もう機嫌が直っていた。今回は最速である。

 

「どうしたい?何かあったか?おま、あんな怒ってたのによ……」

 

「うふふっ、もういいのっ、だってね、素敵なドレスを着る夢見ちゃったの!

すっごく幸せだったの!」

 

「そうかい、はは……」

 

んないい夢見たぐらいで機嫌が良くなるなんざ、やっぱあいつって何て単純……、

とは思ったが、折角機嫌が良くなってくれたので何も言わない事にする。しかし、

幸せそうなアイシャとは裏腹に、ジャミルの瞼にはクマが出来ていた……。

俺の方のアレも昨夜の事は夢だったんだと無理矢理思う事にしたが。

 

「何とか……、通常モードでシュタイン湖へ行けそうかな?」

 

「良かったねえ~、ジャミル……」

 

「は、はははは……、うう~……、あう!?」

 

しかし、やはり夢では無かった事を自覚する。……カウンターにて

通常では買えない限定品などを販売し、世界宿屋業界より訪れ、

営業をしているロクサーヌの横にラヴィエルが姿を現した。当然、

この場ではジャミルにしか姿は見えてない。

 

「頼んだよ、どうか、この世界と別世界を結ぶ懸け橋になっておくれ……」

 

「……うーそーだあああ!!」

 

……何はともあれ、湖へ向かう前にまずは武器と防具の新調からである。



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姫君と黒騎士 4

さて、湖へ向かう前に。此処で4人が城下町で整えた現在の装備状況をば。

 

ジャミル うろこのよろい バンダナ  皮のこて 布の手袋 布のズボン 兵士の剣

 

アルベルト うろこのよろい バンダナ 皮のこて 布の手袋 布のズボン 兵士の剣

 

ダウド 皮のよろい バンダナ 皮のこて 布の手袋 布のズボン たけやり

 

アイシャ 皮のドレス ヘアバンド 皮のこて 布の手袋 布のズボン かしの杖

 

うろ覚えですが、大体こんな感じ。でも、違ってるかも知れない。

装備品が高い割にとにかくゴールドが溜まらないので、一部の方の

装備品が適当で酷いですが、話をどんどん進めたいので多少バトルがきつくても、

書いてる奴が強行突破する為です。

 

「ちょ、オイラまだ竹槍ーーっ!?酷いよおー!」

 

「まあ、我慢しろよ、その内知らない間にゴールドも溜まるよ、そうしたら

もう少しいい武器買ってやるからよ……」

 

「あうう~……、酷ス……、倒れたら化けて出てやるう~……」

 

そして、頭部の防具で一騒動もあった。現時点では皮の帽子が一番守備力が高いと思われますが。

 

「パンツ!毛糸のパンツモン!みんなお揃い!毛糸のパンツ!モンも一緒に被るモン!」

 

「……」

 

……と、言う事で、アイシャが膨れて皮の帽子を速攻でお断わりした為、こうなりましたとさ。

 

※実際のゲーム中では、守備力強化の為、全員皮の帽子は身に着けております。

 

そう言うワケで、どうにか装備品を整え、セントシュタイン湖へと一路向かったのだった。

城の裏手から北に進み、更に北へと……。国王に教えて貰った道筋を辿り、湖へ着く。

湖へ行くのならと、リッカが気を遣い、自分の仕事で忙しい中、わざわざ特製の美味しそうな

お弁当を作り持たせてくれたのだった。

 

「わあ、綺麗ねえ……、あっ、遠くに何か見えるね……」

 

アイシャが目の前のセントシュタイン湖を眺めてうっとりする。

 

「……此処が黒騎士が待ってるって場所?てか、黒騎士なんていないじゃん……、

てか、ヒトを呼んどいていないってどうゆうコト……?」

 

「なんか野蛮だよお……、こんな平和そうに見える所で

バトルしなきゃいけないかもなんでしょ……?」

 

「まあ、仕方ないよ、取りあえず黒騎士とやらが来るまで此処で待とうよ……」

 

アルベルトが妖精モードで姿を見せたサンディ、早速ヘタレ始めたダウドを宥めた。

 

「そうだな、リッカが作ってくれた弁当もあるしな……、けど、何かこの感じ、

な~んか、3の時を思い出すなあ~……、ちら、あん時は泉だったけどさ……」

 

……ジャミルは横目でダウドの方を見た……。

 

参照 賊勇者 いつか伝説に……、番外編の回参照

 

「何何何っ!ヘタレ、アンタなんかやったのっ!?」

 

「うう~、何でサンディにまでヘタレ呼ばわり……」

 

「まあ、大した事ねえよ、うっかり泉に落ちてだな、その後が大変……」

 

「と、まあそう言う事ですっ!失敗は誰にでもあるんだからさあ!あーははは!」

 

急いでがばっとジャミルの口を塞ぎ、ダウドが誤魔化す。しかし、好奇心旺盛な

サンディが引き下がるわけがなく、何をしたのか教えろとダウドに突っ込んでくる。

 

「……隠し事ナシだヨッ!……教えなさいよおお~!」

 

「教えるモン~……、シャアーー!!」

 

「ちょ!モンまでっ!何で大口開けるのさああーー!!」

 

「まあまあまあ、プライベートは誰にでもあるから……、う、プッ……」

 

と、アルベルトは言うが、……一瞬、3分裂した時の姿のダウドを思い出して吹いた。

 

「もう皆酷いよおおーーっ!過去の話は忘れろーーっ!このやろーーっ!!」

 

「サンディ、やめなさいったら!モンちゃんも駄目よ!」

 

「……モン~……、ごめんチャボ……、モン……」

 

救いの女神様動く。アイシャはモンの口を閉じさせ、サンディに注意する。流石である。

 

「ちぇーっ!……でもいつか絶対調べてやるんだからネ、見てなさいヨ!」

 

サンディはブツブツ言いながら発光体に戻ると一旦再び姿を消した。

 

「助かったよ、アイシャ~……、ンモーーっ!!余計な事言うなよおっ!バカジャミルっ!!」

 

「んだよっ、バカダウドっ!!」

 

「……2人とも、折角一旦話が収まったんだから……、ね?」

 

「はい、すんません……」

 

ジャミルとダウドはアルベルトがスリッパを取り出したのを見、小さくなるのであった……。

そして、4人とモンは湖の畔でリッカが作ってくれたお弁当を頂きながら黒騎士を待つ……。

これから緊迫した状況になるかも知れないと言う時に、何とも呑気な光景だった。

 

「これ、おいしそ!チョーダイっ!」

 

「あ、ああー!てか、サンディ、君、物食べるんだあ……」

 

また姿を現したサンディ。……ダウドが食べていた唐揚げを横から掻っ攫う。

 

「別に食べなくたっていーんだけどさあ、何かアンタ達だけ美味しそーなモン

食べてんのみてんの気に喰わないのヨ!」

 

「モン、美味しそうなモン……、モンを食べる気モン!シャアーーっ!!」

 

「何ヨッ!あんたみたいな不味そうな、ザ・ブ豚!死んでも食わねーわヨ!」

 

またサンディとモンのバトル始まりそうになる。その場はまたやかましくなる。

4人は頭を抱えた……。黒騎士はまだ姿を見せず……。



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姫君と黒騎士 5

本年度のⅨ編の投稿は此処までです。ゲームをやりつつ、ゴールまで
来年もポツポツ上げていきます。


……4人+αは只管湖畔で黒騎士を待つ。が、黒騎士は現れず。日は暮れ、

もう夕方になってしまっている。何名か我慢の限界に達している方もちらほらと……。

 

「それにしても中々来ねえなあ~……、何時間待たせんだよ、暇だなあ……」

 

「もう少し待ってみようよ、皆……」

 

「アル、そうは言うけどさあ、もう夕方じゃん、今日は絶対来ないよお~、

このままだと夜になっちゃうじゃないかあ~、ねえ、戻ろうよお!」

 

「分らないわよ、相手はいつ来るとか、そんなマナーなんかないのよ、

でも、モンちゃんもすっかり寝ちゃってるわ……、ぽ、ぽよぽよ……」

 

「ぷ~が、ぷ~が、モン……」

 

アイシャは腹を出して寝ているモンの丸いお腹に触れる。皆は数時間前にお弁当を

食べたばかりなのに、時間的にはもう夕食時間になるのである。

 

「……今だけはアタシもヘタレの意見に便乗するヨ!てか、女子との約束ブッチするとか

マジ信じらんねーんですケド!もうアタシ達、帰ってよくネ!?国王サマにはさ、黒騎士なんか

いなかったって伝えればさあ……」

 

「……コホン、サンディ……」

 

「サンディ……、駄目よ……」

 

アルベルトとアイシャ、揃ってサンディをジト目で見た。

 

「チョ!何でんな顔して2人でアタシの事みんのっ!冗談だってばあ~!

ハイハイ、んじゃもう少し待ちましょカネ~、うん、振り返ってみたら

奴がいた……、みたいな~?」

 

「……」

 

「おい、サンディーーっ!!」

 

「後ろーーっ!!」

 

「は……?」

 

「……」

 

サンディは騒ぎ出した4人の言葉におそるおそる後ろを振り返る……。冗談では無く、

後ろには、黒い馬に乗り、黒い鎧を身に着けた騎士が……。顔をすっぽり覆う

兜を着けている為、素顔は分らない。だが、予告通り本当に等々黒騎士が現れたのである。

 

「ま、ま、ま、……マジっすかぁーーっ!!」

 

……サンディは急いで発光体に戻り姿を隠す。4人は遂に現れた黒騎士に対し、

武器を手に取ると急いで身構えた……。

 

「やっと来やがったな……」

 

「……あーっ!オイラ竹槍だからサマになりませえーーんっ!!」

 

「ダウド、そんな事言ってる場合じゃないよっ!」

 

「モンちゃん、しっかり私や皆の後ろに隠れててね!危なくなったらすぐに逃げるのよ!」

 

「モン~……」

 

「誰だ貴様らは……、貴様らになど用はない、……姫を出せッ!我が麗しの姫君をーーっ!!」

 

「うおっ!?」

 

「きゃあーーっ!!」

 

黒騎士は言うが早いか、馬に乗ったまま槍を振り回しながら4人に向かって突進してくる。

湖に派遣されたのは、目的の姫君ではない事に相当怒り狂っている。

 

「や、槍ならオイラだって……」

 

「ギロ……」

 

「ひいいーーっ!?」

 

黒騎士の兜に隠された瞳が赤く怪しく光り、ダウドを睨んだ。困ったダウドは

しっこが漏れそうになり、慌ててジャミルの後ろに逃走。お約束でさっさと隠れる……。

 

「アホっ!何余計な事言って挑発してんだっ!バカっ!!」

 

「だ、だってええ~、オイラ、意外と負けず嫌いなんですよお~……、

もしかしたら、この竹槍、意外と隠された性能があるかも……、なんて……」

 

だから、んな竹槍で張り合おうなんざ、向こうも余計ブチ切れるんが当たり前である。

 

「分りましたよおお!もう何も言いませんよお!」

 

「……最初からそうしろってのっ!」

 

「私がやってみるわ!……本当は悪い人じゃないって、信じたいけれど……」

 

「小娘!何をごちゃごちゃとっ!」

 

アイシャはフィオーネ姫の流した涙を思い出しながら、戸惑いつつも

呪文を詠唱し、ヒャドの魔法を黒騎士の鎧目掛けぶつける。

黒騎士の黒い鎧が凍りつき、固まり掛ける。その隙を逃さず、アルベルトが間に入り、

鎧へと剣でダメージを与える。……黒騎士は乗っていた馬から転落し、地面に倒れた……。

 

「ううう、く、くそ……、只の雑魚だと思っていたが、……これは何たる屈辱……」

 

「アル、有難うーっ!」

 

「いや、……やっぱり戦いの要になる戦士って大変だなあ、

ふう……、これからも頑張らなくちゃ……」

 

アルベルトは汗を拭い、兵士の剣を鞘に納める。鎧ごと傷つけられ負傷した黒騎士は

よろよろと立ち上がろうとすると、4人に対して憎々しげに言葉を洩らした。

 

「何故……、何故姫君は貴様らの様な者を私に遣わしたのだ……、

メリア姫……、そなたとあの時交わした約束は偽りだったと言うのか……」

 

「……メリア姫だと?」

 

「ねえ、ジャミル、こいつキモくね?メリアって誰よ?それに姫様は

メリアなんて名前じゃなかったよネ?確か……、フィオーネって……」

 

サンディは状況が安全になったと分った途端、再び姿を現す。

 

「……それは誠かっ!?」

 

「キャー!?なになにいい!?コイツもしかしてアタシが見えてんのぉーー!?

マジビックリしたんですケドおおおーーーっ!!」

 

黒騎士はサンディに詰め寄る。真実を探している黒騎士を見て、

アイシャは漸く理解する。やはりこの黒騎士は悪い人物ではない。

どうやらメリアと言う姫と、フィオーネ姫を間違えている様だが、

フィオーネ姫は確かに黒騎士を好いていたのだと。アイシャはどうにかしてもう少し、

この黒騎士と話し合ってみたいと思ったのだが……。

 

「なあ、教えてくれ……、あの時城にいた姫君はメリア姫では無く……、

別の姫君だったと言う訳か……?」

 

「そうだよ、あんたが婚約だかの約束したらしい姫はメリアじゃない、フィオーネ姫だよ……」

 

「……何という事だ……、あの姫君はメリア姫ではなかったのか……、言われてみれば

彼女はルディアノ王家に代々伝わる首飾りをしていなかった……」

 

黒騎士は再び膝まづき、肩を落とす……。この黒騎士は

セントシュタインではなく、ルディアノなどという聞きなれない国の名を呟いた。

やはり何か勘違いをしている様である。

 

「私は深い眠りについていた……、そしてあの大地震の後、何かから

解き放たれた様に見知らぬ地で目を覚ましたのだ、しかし、その時の私は

自分が一体何者なのか分らぬ程記憶を失っていた、そんな折、あの異国の

姫君を見掛け、自分とメリア姫の事を思い出したのだ……」

 

「!?は、はうあーっ!深い眠りについていたって、もしかしてこの人おーーっ!」

 

「ダウドっ、静かにっ!」

 

……何となくだが、黒騎士の正体を察し、パニックになり掛けたダウドを

アルベルトが制する。そう、彼はもう既にこの世の人物ではない事が窺えた。

 

「……私の名は、……黒騎士レオコーン……」



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姫君と黒騎士 6

遂に自分の素性を少しだけ明かした黒騎士。だが、黒騎士は再び黒馬に跨ると

何かを思いついた様にその場から逃走しようとしたのである。

 

「ま、待てっ!黒騎士っ!……レオコーン!」

 

「キャラメルコーン!待つモン!」

 

「モン、無理矢理すぎるから……」

 

「モォ~ン……、とんがりコーン食べたいモン……」

 

「モンちゃんたら、お腹まだこんなにパンパンじゃないのよう~……、

めっ!お腹破裂しちゃうわよ!」

 

「プ~モン……」

 

またお腹が減って来たらしいモンを取り押さえ、アルベルトが苦笑しながら

アイシャに手渡す……。やっぱり段々飼い主に似てくるんだなあと……。

 

「……アル、何だ?何で俺の方見てんだよ……」

 

「何でもないよ……」

 

「……メリア姫は我が祖国、ルディアノ王国の姫君……、私とメリア姫は

永遠の愛を誓い合い、祖国での婚礼も控えていた仲であった……」

 

「ちょ、じゃあ、この黒騎士ってさ、元カノとフィオーネ姫を間違えちゃったワケ?

……どんだけ似てんのよ、メリア姫とフィオーネ姫って……」

 

「モン、キャラメルコーンととんがりコーンの間ぐらいモン……」

 

「モンちゃん、……ポケットに小さいキャンディーの残りがあったわ、はい、どうぞ……」

 

「♪モンー!」

 

アイシャは取りあえず飴玉をモンに舐めさせる。……モンは少し大人しくなった。

 

「……いずれにせよ、私は自らの過ちを正す為、もう一度あの城へ行かねばなるまい……」

 

「わわ!それは止めた方がいいよお!只でさえエライ騒ぎになってるのに!」

 

「そうだよ、そんな事になったら又あの顔デカタヌキ国王が騒ぎ出すよ、ね、ジャミル、

こいつ止めた方がよくネ?ややこしくなるだけだって!」

 

「う~ん……?困ったなあ……」

 

ダウドとサンディの忠告にジャミルは首を傾げる。……どうやらこの黒騎士は、

悪意の為に城を訪れたのではないと言う事が段々分かって来たが……。

確かに今止めなければ、城に現れた黒騎士を見て国王は又狂った様に怒りだし、

娘を守る為に今度こそ黒騎士に手を下すだろう。

 

「……ややこしくなる?……それもそうであるか……、ではお前達から城の者に伝えてくれ、

もう二度とあの城には近づかない事を約束しよう、……本当のメリア姫は私のこの手で

探し出そう……、まずは祖国ルディアノを探さねば、ルディアノでは本当のメリア姫が私の帰りを

待っていてくれる筈だ……」

 

「黒騎士さん、……レオコーンさん!……待っ……」

 

しかし、レオコーンはアイシャの言葉を聞かず、再び馬を走らせ

今度こそ何処かへと逃走してしまう。アイシャは、最後に悲しそうな声で呟いた

黒騎士レオコーンが心配で堪らなくなっていた。

 

「レオコーンさん……」

 

「アイシャ、ほっときなよ!それよりアイツもう城には近づかネって言ってくれたんだから

これでいいんだよ、さあ、問題は解決!さ~、アタシ達も城に戻ろ戻ろ!」

 

「……そう言う問題じゃ……、ないのよ……」

 

困っている人を見ると頬って置けないアイシャ。黒騎士の件でどうしたらいいか分からず

心を痛めはじめてしまっていた。またお節介病が出たなあ~……と、ジャミルも困ってしまう。

恋愛などの面に関しては異様に……、彼女は特にそうである。取りあえずは

一旦セントシュタイン城に戻るしかなかった。

 

「アイシャ、このまま此処にいても仕方ねえよ、とにかく一旦城に戻って国王に

報告しようや、それから幾らでもどうにも出来る、……何ならあの国王に内緒で

俺らだけで黒騎士の行方を探したっていいんだしさ!」

 

「……ジャミル……、うんっ!そうだね!」

 

ジャミルはアイシャにウインクする。ジャミルの言葉を聞いて、

アイシャも漸く元気を取り戻した。

 

……そして、お騒がせ御一行様、再びセントシュタインへと急いで一路戻る。

が、城内では再び父娘の親子バトルが再開したらしく、また異様な雰囲気に……。

既に王妃は玉座に突っ伏し泣き崩れていた。

 

「……お父様、お母様……、やはり私は黒騎士の元へ行きます……」

 

「うう、……フィオーネ……」

 

「バカ者!泣く奴があるか!……フィオーネは断じてあの様な男になど渡さぬと言っておろう!」

 

「国王さん……、今戻ったんだけど……」

 

「おお!!ジャミル達か!して、黒騎士の方はどうした!?……成敗してくれたのであろう!?」

 

「……それがさ……」

 

怒鳴り散らしていた国王は戻って来た4人の姿に気づくと目を輝かせた。

……黒騎士討伐の報告を待ち望んでいたらしいが……。ジャミルは仕方なしに

湖での詳細を全て国王に話す。勿論、黒騎士は悪い騎士ではないと言う事も伝えたが。

 

「……何?奴は自分の記憶を無くし、自分の婚約者とフィオーネを

見間違えていた……、だけだった……じゃと?」

 

「国王様、どうか分かってあげて下さい、決して黒騎士さんは最初から

悪意があってこの城を訪れた訳では……」

 

「……うるさいうるさい!黙れ黙れえええっ!!」

 

だが、国王はまるでアイシャの言葉を聴かず、噴気すると鼻から

湯気を出し、再び怒り始める。やはり分っては貰えない様だった。

大体こうなると覚悟はしていたが、どうしたらいいのか4人は困って顔を見合わせた。

 

「……プ~、どうして怒ってばっかりいるモン……」

 

「モンちゃん、……大丈夫よ……」

 

アイシャはそう言いながら力なくモンを側に抱き寄せた。……ジャミルも。

この栗饅頭、大切な娘を溺愛してるのは分るが、だからって碌に話も聴かねえで

頭ごなしに怒鳴りつけるこたあねえだろうと段々イライラしてきた。

出来るなら玉座の後ろに回って頭を一発ブン殴り、……あてっ!?と言わせてやりたかった程。

……そして、これ以上暴走するとアンタも仕置きの場にほおり込まれるぞ……と、

心で警告を発す。

 

「国王様、どうか落ち着いて下さい、僕らの話をもう少し……」

 

「落ち着けるかああっ!……奴はルディアノと言う国を探しに行く為、もう二度と

この城には近づかんじゃと……?そんなもの口から出まかせに決まっておろうが!

お主達は奴の言葉をそっくりそのまま信じて戻ってきたと言うのか!ええいっ!

一体お主達は何をしにいったんじゃあああっ!!」

 

今度はアルベルトが応対するが、国王は顔を大きくし、更にジャミル達に向かって

怒りを爆発させた。……しかし、それをずっと見ていたフィオーネ、我慢出来ず

凛として再び傲慢な父に立ち向かう。

 

「……お父様!どうして其処まであの方の事を悪く言うのです……!!」

 

「ふんっ!ルディアノなどと言う国なぞ儂は聞いた事がないわ!フィオーネ、

ジャミル、お前達も奴に騙されているのじゃよ!……よいかジャミル、奴は再び

フィオーネを狙い、この国に攻め込んでくるつもりじゃ!今度こそ奴の息の根を止めよ!

……それまでお前達への褒美はおあずけじゃ!」

 

「別に褒美なんか要らねえけど、……ただ……」

 

ジャミルも他の3人も心配そうにフィオーネの方を見る。……彼女は

怒りと悲しみで震えており、堪えていた涙を一滴ぽとりと床に溢した。

 

「……何故……、信じてあげられないの……、本当に国に帰れなくて……、

困っているかもしれないのに……」

 

「のう、フィオーネや、これは父として、……全てお前の為を思って

言っている事だ、……聞き分けなさい……」

 

「……うううっ!」

 

「……フィオーネ姫っ!」

 

フィオーネは両手で顔を覆い再度ダッシュでその場を去る。ジャミル達も急いで

急いで姫の後を追い、国王の間から離れる。……4人も非常に不愉快に

なっており、こんな所、何時までもいたくなかった。



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姫君と黒騎士 7

「……」

 

「フィオーネ姫っ!」

 

ジャミル達は慌ててフィオーネを追い掛ける。……フィオーネは国王の間の扉の前で

突っ立ったまま肩を振るわせ泣いている。しかし、後を追って追い掛けて来てくれた

4人の姿に気付くと、涙に暮れた目でジャミル達の方を振り返った。

 

「皆さま、取り乱したりして申し訳ありません……、どうか少しお話を

聞いて頂けないでしょうか……、ルディアノ王国の事です……」

 

「!」

 

「……此処では大きな声では言えませんので、特に父に聞かれると

大変ですし、……此方へ……」

 

フィオーネは4人を東側の通路の先に有る自分の部屋へと通す。

……流石のジャミルも王族の、しかも姫の部屋……、に、入るのは戸惑ったが、

フィオーネが話を聞いて欲しいと言う手前、部屋にお邪魔させて貰う事に。

 

「ジャミルも一応礼儀はあったんだあ……」

 

「……うるっせー!バカダウっ!」

 

「あの、どうかなさいましたか……?」

 

「あっ、ははは!いや、何でもっ!」

 

「はあ……」

 

フィオーネは揉め出したジャミル達を心配する。……姫の手前、いつもの通りダウドを殴る

訳に行かずジャミルは仕方なしに堪える。横でダウドがザマミロという表情。

……ちなみにこの分は後でしっかり返す予定。

 

「……お呼び立てしてしまいまして申し訳ありません……、この話を父に聞かれても

反対されるだけですから……、先も申した通り、ルディアノに関する事です……」

 

4人はフィオーネの話に耳を傾ける。……フィオーネは何かルディアノに

関する事を知っているらしいのか……。

 

「♪お~けしょうパタパタ~、モン」

 

「……うわ!」

 

「きゃあっ!?」

 

「モン、美しくなるモン」

 

……が、モンがフィオーネの化粧セットで悪戯をしだし、その場はエライ事になっていた。

 

「モンっ!……お前、な、何しとるーーっ!!」

 

「こらっ!モンちゃんっ!駄目よーーっ!!」

 

(……ぎゃははははっ!ス、スゲーバカズラっ!)

 

ジャミルとアイシャがモンを止めようとするが既に遅し。モンは怪物メイク完了。

発光体のサンディは只管大爆笑。無論、フィオーネには聞こえていない。

……4人は只管フィオーネに頭を下げて謝るしかなかった……。

 

「あらあら、……いいんですのよ、……それにしても、本当に面白いぬいぐるみさんね!

色んな事をして遊ぶのね、ふふふ、癒されますわ、有難う……」

 

「モン~!」

 

フィオーネはモンを抱き上げると更に抱擁する。……黒騎士の事で心を痛めていたフィオーネ。

……どうやらモンのお蔭で返って少し心が落ち着いた様子。事なきを得た4人はほっとするが、

……もう冷や冷や、……たまったモンじゃねえ~……、状態だった。

 

「此処にリボンを着けても可愛いかも知れませんわ……、あら、似合うわ!」

 

「……姫さん、あのさ……、話……」

 

「!あらっ、ご、ごめんなさい!私ったら……」

 

「モンもお姫様みたいモン?」

 

「ええ、とても可愛いわよ、モンさん、ふふっ!」

 

フィオーネはそのままモンで遊びだしてしまう。ジャミルに言われ、漸く我に返る。

しかし、突発性のモンの悪戯のお蔭で確実に元気は取り戻しているかも知れなかった。

暫くモンと戯れて、癒しを貰ったフィオーネは改めて4人の方を向いた。

 

「その、ルディアノに関する事……、なのですが、昔ばあやによく歌って貰った

わらべ歌の中にルディアノと言う国の名前が出て来た様な気がするのです……」

 

「……わらべ歌?」

 

「ええ、もしかしたらその歌が何かの手掛かりになるかも知れません……、

ばあやは今、彼女の故郷、エラフィタ村で隠居している筈です、

……エラフィタ村はシュタイン湖の西の方にある小さな村です……」

 

「分った!エラフィタだな?よし、行ってみるか!」

 

ジャミルの言葉に他の3人も頷く。又あの国王が黒騎士の事で

騒ぎ出さない内に事は急がねばならない。

 

「……どうかお願いします……、ジャミル様、皆さん、あの黒騎士は父の言葉とは違う、

悪い方ではないと私は信じています、……どうかあの方のお力になってあげて下さい……」

 

「……姫さん、やっぱアンタ其処まで……、分ったよ!任せな!」

 

「ジャミル様……」

 

フィオーネはジャミルの方を見る。何としても黒騎士を救い、

無実を証明してやりたい、彼女の為にも。そう思わずにはいられなかった。

 

「と、もう一つ……、お願いがあるのですが……」

 

「ん?」

 

フィオーネは顔を赤くしてモンの方を見ると、もう一つのお願いをぼしょぼしょ喋り出す。

 

「……暫くの間……、モンさんを私に貸して頂けないでしょうか……、

この子がいるととても落ち着くのですわ……、抱っこしたりしていると

特に……、このふよふよのお腹なんて……」

 

「そ、それは……、困ったなあ……」

 

ジャミルはちらっとアルベルト達の方を覗い、意見を聞いてみるが。

……モンが大人しくしていれば別に構わないが、アホのモンがそれこそ先程の様な

壮大な悪戯をすれば又大変な事になってしまう……。それでもフィオーネは

自分が責任を持つので、どうかモンと暫く一緒にいさせて下さいと

頭を下げてまで頼み込むのだった。……ぽんぴこぴーのモンを相当気に入っている様だった。

 

「フィオーネ姫、そんな……、どうか頭をお上げ下さい!これでは僕らが困ってしまいます……」

 

「でもさあ~、……プチジャミルをお預りして貰う様なモンだからねえ~……」

 

「はい、モンです」

 

「……んだと?……ダウド、てめえ、このやろ……」

 

「ああ、本当に可愛いわ……、モンさん!」

 

フィオーネはますますモンをハグギュウする。その様子を見ていた4人は更に困惑。

……これでは本当に暫くモンをフィオーネの元に置いて行かざるを得なくなってしまう……。

 

「もうっ!……ジャミルもダウドもよしなさいよ!えっと、フィオーネ姫、それじゃあ……、

モンちゃんの事、お願い出来ますか?……なるべくお部屋の外には出さないで

貰いたいんです……、それなら何とか大丈夫かと……」

 

「おい、アイシャ……」

 

「大丈夫だったら!心のカウンセリングも立派なお仕事よ、モンちゃん、

フィオーネ姫を癒してあげてね!」

 

「モン!」

 

「ええ、アイシャさん、有難う!私、モンさんと沢山お喋りしたいですわ!」

 

……アイシャはモンをアニマルセラピーか何かと勘違いしているんではと

ジャミルは思うが。しかしフィオーネが元気になってくれるのなら

まあいいかと思いつつ、モンをこのまま預けて行く事にした。

 

「じゃあ、俺ら行くけど……、モン、くれぐれも悪戯すんじゃねえぞ……」

 

「分かってるモン!プー!」

 

そう言いながら、モンはジャミルにケツを向けておならを一発。

 

「……モン……、おめえなあ~……」

 

「仕方ないだろっ、どうしたって君の悪い処は似ちゃうんだよ!」

 

「そうだなあ……って、……アルーーっ!!」

 

「で、では僕らはこれで……、何とかルディアノの手掛かりを掴んでまいります!」

 

「……いててて!っく!畜生ーーっ!覚えてろっ、この陰険腹黒ーーっ!!」

 

「ほら、早く外に出るっ!……では、姫様、失礼致します……」

 

「あはは、騒がしくて……、どうもごめんなさいです……、あう~……」

 

「モンちゃん、フィオーネ姫様の事、お願いね!」

 

「モンモン!行ってらっしゃいモン!」

 

アルベルトは騒がしいジャミルを小突きながらフィオーネの寝室から出させる。

ダウドとアイシャもフィオーネに挨拶し、部屋を後にする。……段々姫君の前でも

この4人は既にすっかりいつもの地が出てしまっていたが……、それでもフィオーネは

別に気にしてはいなかった。心から黒騎士の事を願い、思いを4人に託さずにはいられなかった。

 

「ジャミル様、……皆さん、どうかお気をつけて……、黒騎士の事をどうかお願いします……」



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姫君と黒騎士 8

ジャミル達4人組はフィオーネから聞いたとおり、昔、セントシュタイン城で

彼女の乳母を務めていたと言う老婆が隠居しているエラフィタ村に訪れている。

此処でルディアノに関する用途が出てくるというわらべ歌を聴き、ヒントに

黒騎士の故郷の手掛かりを得ねばならない。……村の中央にはこの村の

名物でもあり、そしてご神木らしい大きな桜の大木がお目見え。ご神木以外にも

村の中には桜の木が沢山並んでいる。

 

「本当、綺麗な桜ねえ~……」

 

「ハア、こんな忙しい状態でなければ……、お花見が出来そうなのにねえ……」

 

御神木の桜にうっとりのアイシャと呑気なダウド。取りあえず4人は一通り村の中を歩いて回る。

小さな村ながらも一応装備品などを取り扱う露店のよろず屋も。

 

「いらっしゃい!旅人さん、買っていってよ」

 

「そうだな、そろそろ装備品も新しいのにしとかねえとな……」

 

「ねえいい加減にオイラ、竹槍から卒業させてくれない……?」

 

「分ってるよっ!てか、お前はあまり普段からバトルは積極的じゃねえ癖に、

……プライドだけは高ぇんだからなあ……」

 

「ふーんだっ!」

 

ダウドがうるさいので、露天にて装備品を新調……、しようかと思ったが、

が、特にめぼしい物はなかったので、今回は盾を4人分青銅の盾に変えただけ。

後はアイシャがうさぎのお守りを欲しがったので、それを1個購入。

 

「……びえええーーっ!いい加減にしてよおーーっ!!」

 

「ダウド、その内……、又何処かでいい武器が買えるから……」

 

ぐずり出したダウドをいつもの如く、アルベルトがどうどう。……ダウド、モン、サンディ、

……本当に大変な方達であった。

 

「ん……?ちょ、何でオイラもいつの間にかマスコット扱いなのさあ!?」

 

「大変な方達とか聞き捨てならねーんですケドっ!?」

 

「……いいからっ!早くフィオーネ姫のばあやさんを探さないと!」

 

「でも、本当に綺麗な桜なのー……、いい香り……」

 

「……おいっ!コラ!アイシャーーっ!勝手に動くなーーっ!

……まーたデコピンされてえのかあーーっ!!」

 

「……」

 

まーたフラフラ、桜にうっとりし一人でどっか行きそうになったアイシャを

慌ててジャミルが捕獲しに追い掛けて行った。それを見たアルベルトは

ぽつりと濁声で一言、『……駄目だこりゃ、次行ってみよう……』、と、呟いた。

 

「……ぼ、僕は濁声は出してないよっ!!次行ってみようも言ってないっ!!」

 

「……と、時間の都合で話を変えて……、此処だ、聞いた通り、

此処が姫さんの元ばあやの家か……それにしても……」

 

「何よジャミル、何で私の方見てるの……?」

 

「いや、何かお前見てると古代のクソゲー思い出すんだよ……っと、

コラ、書いてる奴、……また俺に何言わせんだよ!」

 

※此処での古代のクソゲーとは。FCのおにゃんこタウンの事。捕まえても捕まえても

家から意味も無く脱走する子ネコを母猫が只管追い掛けて延々と捕まえるゲームです。

 

よろず屋の側の一軒家。動き回るアイシャを捕獲した後、村人から情報を得た。

どうやらソナという婆さんが此処に住んでいるらしい。ジャミルが代表でドアをノックし、

挨拶した後、4人は中に入っていった。中にはテーブルを囲んで老婆が2人。

お茶タイムを楽しんでいるらしかった。顔が丸いほんわかな感じの婆さんと、

髪型が奇抜な婆さん。……この婆さんのどちらかが、フィオーネの

元ばあやだったお婆さんなのだろうが。

 

「もうっ、ソナちゃんたら、また昔の話を持ち出して……」

 

「クロエちゃん、あたしゃアンタの事を心底羨ましく思ったもんだよ……、おや?」

 

「どうも、こんちは……」

 

ジャミル達に気づいた婆さん達が会話を止めて4人の方を見る。どうやら

ほんわか婆さんの方が探していたソナ婆さんらしい。

 

「あらあら、お客さん?どうぞどうぞ、こちらにいらっしゃって、お菓子もありますよ」

 

クロエと言う婆さんの方がジャミル達にもお茶をと勧める。……テーブルの上に並ぶ

美味しそうなお茶菓子の数々。ジャミルはうっかり手を出しそうになるが、アルベルトに

肘で突かれ目線で注意される……。

 

「コホン、分かってるよね……?」

 

「分ってるよっ!……畜生、腹黒めえ~……、んーと、アンタがソナ婆さんかい?」

 

「はいはい、あたしゃ、確かにソナでございますが、……何かご用?」

 

ジャミルは自分達がこの村を訪れた目的、そして、フィオーネの知り合いである事をソナに話す。

 

「そうですか、姫様のお友達の……、姫様はお元気でしょうかねえ~、

して、確かにあたしは昔城にて姫様のばあやを務めておりましたが……、

はあ、……昔、姫様が小さい頃によく歌って聞かせてあげた、わらべ歌……、ですか?」

 

「うん、姫さんから聞いたんだ、ルディアノって言う国の手掛かりを知りたいんだ、

是非、そのわらべ歌を聴かせて欲しいんだけど……」

 

「いいですともいいですとも、こんなおばあちゃんの歌声で良かったら、

……それじゃ、クロエちゃん、合いの手をお願いね」

 

「ほうほう、黒バラわらべ歌だね?お安いご用さ、それじゃあいくよ、

あ、よいよい、よいとなっ!♪」

 

2人の老婆は手を叩き、頭をふりふり、楽しそうに歌を歌い出す。

……4人は微笑ましいながらもその様子を真剣に眺め、歌詞一つ

一つの内容をしっかりと心に刻む。

 

 

♪闇に潜んだ魔物を狩りに黒薔薇の~騎士~立ち上がる

見事魔物を撃ち滅ぼせば白百合姫と結ばれる~

騎士の帰りを待ちかねて城中皆で宴の準備

 

あソーレ♪それから騎士様どうなった?

 

♪北往く鳥よ伝えておくれ ルディアノで~待つ白百合姫に伝えておくれ

黒バラ散ったと 伝えておくれ……

 

♪北往く鳥よ伝えておくれ 黒バラ散ったと伝えておくれ……

 

 

「……と、まあ、こんな感じですが、いかがでしたかの?」

 

「悲しい感じだけど、でも素敵な歌ね、お婆ちゃん達、聴かせてくれてどうもありがとう!」

 

「いえいえ、……久々でしたけえ、声が出るかどうか不安じゃったが、

やれば出来るもんですねえ、クロエちゃん」

 

「本当、まだまだ捨てたもんじゃないねえ……」

 

喜んで絶賛するアイシャにソナ婆さんとクロエ婆さんは恥ずかしそうに照れている。

……そして、段々リズムにのってくる……。

 

「どうですか?リクエストあれば、電線音頭なんぞ……」

 

「クロエ婆ちゃんが踊りましょう、あ、チュチュンが……」

 

「い、いや、急いでるんで、それは又今度……、一刻も早くルディアノの

場所を探し当てなくちゃなんねえんで……」

 

困りだしたジャミルの顔を見て、よっぽど急いでいるんですねえとソナは了解。

……もっと歌声を披露出来なくて少し残念そうであったが。

 

「そうですねえ、ポイントは北往く鳥へ……、のフレーズですかねえ、

歌と同じ様に北へ向かってみては如何ですか?」

 

「……北か、成程……」

 

 

『『ぎゃあああーーっ!……た、助けてくれええーーっ!!』

 

 

「は……、な、何だっ!?」

 

「声は村の方からだよっ、ジャミル!」

 

漸く、ルディアノの手掛かりも何とか掴めそうで安心していたジャミル。

突如聞こえて大きな悲鳴とアルベルトの声に我に返り顔を上げた。

 

「あれまあ、何かあったんですかねえ……」

 

「心配ねえ、ソナちゃん……」

 

「……お婆ちゃん達、危ないから絶対お家の中にいてね、行きましょ、皆!」

 

「あうう~、オイラ達、……本当に退屈しなくていいよねえ~……」

 

4人は急いでソナの家から外へと飛び出す。……その様子をソナ達は

心配そうに見守るのだった……。

 

「あれま、あの子達は……、あんな小さそうに見えて、戦う戦士様じゃったか……、

どうかご無理をなさらんでのう……」



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姫君と黒騎士 9

「……出たあーーっ!だ、誰か助けてくれーーっ!!」

 

4人はソナの家を飛び出し、悲鳴のした方へと急いで駆け付ける。

……其処で見た光景は……、村の入り口に出現した黒騎士……、

黒馬に跨ったレオコーンの姿であった。住民は皆大慌てで逃走し、

家の中に引き籠る騒ぎに……。悲鳴を上げていた男は現れた

レオコーンを目の前にし、腰が抜けて動けない様子だった。

 

「……木こりよ、何故逃げる……、私はそなたに話を聞きたかっただけだ……、

お前には何もせぬ、安心せよ」

 

「嘘をつけっ!……お前もあの魔物の手下なんだろうっ!」

 

「……魔物?この私が魔物の手下だと?何を馬鹿な事を……」

 

「おーい、おっさん、大丈夫か?……後は俺らに任せて早く逃げろ!」

 

「……お前達は……」

 

黒騎士は此方も現れたジャミル達の姿に目を見張る……。

 

「ああっ、だ、誰でもいい、助かった……、けど、腰が抜けて動けないんだ……」

 

「ダウド……」

 

「わ、分ったよお、……ホイミ!」

 

「あ、ああ!ありがとな、これで動ける!」

 

アルベルトがダウドに目配せするとダウドがおっさんにホイミを掛けた。

ヘタレなおっさんは夢中でその場から逃走。ヘタレがヘタレにホイミを

掛ける事になるとは何ともダウドも複雑である。

 

「さて、これでちゃんとアンタと話が出来るな、……レオコーン……」

 

「そなたは確かジャミルと申したな、……何故この様な場所にいる……?」

 

「あんたの為だよ、ルディアノの手掛かりを探しにさ」

 

「……何と……」

 

ジャミルはレオコーンにフィオーネが彼をとても心配している事、彼女からルディアノの

手掛かりをこの村で掴めるかも知れないと聞いた為、此処に訪れた事を伝えた。

 

「……そうか、ルディアノの事を……、わざわざこんな私の為にすまない……、

して、何か分ったのか……?」

 

「うん、実はさ……」

 

 

………

 

 

「黒薔薇の騎士……、確かにルディアノではそう呼ばれていたが……、何?私の事が

わらべ歌になっていたと……?馬鹿な、私がまるでおとぎ話の住人の様ではないか、

……北往く鳥、手掛かりはそれだけか、……ならば私も北へ向かうとしよう……、

北往く鳥とやらの手掛かりを追ってな!」

 

「レオコーンさんっ!待って!私達も一緒に!」

 

「……ハイヨーーッ!!」

 

アイシャが叫ぶが、レオコーンは馬を急かすと再び4人と村から離れてしまう。

4人は頷き合い、レオコーンを追って村を飛び出した。そして、ソナから聞いた

わらべ歌のとおり、一行も真っ直ぐ北へと向かう。……北往く鳥よ、伝えておくれの

歌詞のままに。

 

「……何かやばそうな感じするんですケド、可愛いサンディちゃんには似合わない場所よネ、

じゃあ、ジャミル、皆、アタシは暫く寝てるので宜しくね!」

 

「いつもと同じだろうがよ……、ったく……」

 

「うわあ~……」

 

レオコーンが向かった場所、其処は廃墟と化し、枯れた森の荒れ果てた大地。

周囲には毒の沼地が広がる廃墟地帯。……やはり最初に嫌そうな声を発したのは

他でもないダウド。

 

「ほ、ホントにこんなとこ……、城があんの?もうどう見たって誰も……」

 

「それでも、僕らは行かなくちゃならないんだから……」

 

「あう~、アル、クソ真面目ぇぇぇ~……」

 

「人はいねえけど、……ほら、来たぜ?」

 

「……ぴゃうっ!?」

 

ジャミルが目配せする。現れたのは、羊のモンスター、マッドオックス。

マッドオックスは、前足で地面を蹴り、早速、威嚇の準備万端状態。

……ダウド以外の3人も戦闘態勢に入る。

 

「た、確か……、お宅、あはは、3でもお世話に……っ!……きゃーーっ!!」

 

「ダウドっ!下がってっ!……イオーーっ!!」

 

アイシャ、率先してマッドオックスの前に立ち、ダウドを庇いながらイオを発動。

しかし、マッドオックスはイオを食らいながらもテンションをアゲアゲ、

アイシャ目掛け突撃してくる。マッドオックスに突進されたアイシャは

毒の沼地の方へ飛ばされ、頭から沼地に突っ込んだ。

 

「……なろっ!アイシャっ!平気かーーっ!?」

 

「な、何とか……、大丈夫……、沼は浅いから、でも、毒のダメージを

負っちゃったみたい……」

 

「ダウド、アイシャにキアリーを!此処は僕とジャミルでやる!」

 

「わ、分ったよお!」

 

ダウドは急いでアイシャの援護の方へ走る。残ったジャミルとアルベルトは

再び突っ込んできそうな勢いのマッドオックスを止めようと剣を振い奮戦する。

 

「ジャミル!……また別のモンスターだっ!」

 

「ちっ!?……あ、あいたあーーっ!?」

 

今度は右から毒矢頭巾が現れジャミルの頭部に向けて毒矢を放つ。

……矢はジャミルの頭に刺さり、ジャミルは又、矢ジャミパート2状態になった。

ジャミルは頭に弓矢が刺さった状態のまま、激怒しながら毒矢頭巾を成敗し、

エライ勢いで刺さった矢を頭からぶち抜くと、傷口にホイミを掛けた。

 

「……なめるんじゃねえってのっ!」

 

……しかし、この人本当にどういう神経してるんだろうと、アルベルトは首を傾げつつ、

残ったマッドオックスを片付ける。やがてアイシャとダウドも此方に戻って来た。

 

「何とかこっちも終わったよ、さあ、別のモンスターが又出てこない内に、

この森を抜けてしまおう!」

 

「アル、その前に……、ダウド、俺もキアリー掛けてくれや、さっき頭に

毒矢撃たれてよ、ぶつぶつ……」

 

「えええっ!?……そ、それでよく平気だねえ……」

 

「平気じゃねえよっ!早くしてくれや!」

 

ダウドはジャミルにもキアリーを掛けるが。ダウドが心配しているのは

毒矢を撃たれようが案外平然としている友人の事である。……昔から

ジャミルがおかしいのは元の世界にいる時から知っているが、近年、

ますます変になってきている彼の姿に何となく、不安を覚えたり……、

しなかったり……。

 

(やっぱり、この人当分死なないね、心配ないよね……)



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姫君と黒騎士 10

北へ消えた黒騎士レオコーンを追い、滅びの森を進む4人。わらべ歌のとおり、北に佇む

古びた古城を遂に発見する。城内へ進むと、やはり城の中も荒れ放題、彼方此方に

毒の沼地が錯乱し、もはやもう生存している人間の姿など誰も確認する事は出来ないだろう。

……此処が本当にレオコーンの求めているルディアノなのだとしたら。……この時代には

その国は既に滅んでいる事が確信出来た。そして、レオコーンは、やはりもう現代には

存在している人間では無い事が……。

 

「また沼地だらけだな、……こんな時さあ……」

 

ジャミルがダウドの方を見る。ダウドはジャミルが大体何を言いたいか

分かっている様ですぐにぶすぶす口を尖らせた。

 

「悪いけど、まだオイラ、トラマナ覚えるLVじゃないですから!」

 

「……開き直るなっ!……だったら早く覚えられるLVまで真面目に経験値稼げよ!

ヘタレてばっかいないでよう!」

 

「何だよお!」

 

「こらっ!……又こんな時にっ!いい加減にしないと、叩くよ、2人共!?」

 

アルベルトがいつもどおりスリッパを出したのでジャミダウは仕方なしに黙った。

最近はスリッパ乱舞も威力がパワーアップして来ている為、恐ろしいのである。

 

「……ふん、腹黒め、昨夜の寝言録音しておいてやれば良かったな……、

姉さん、頼むから首絞めないで!ギブギブ!……プ」

 

「何かな、ジャミル、……もっと大きな声で言った方がいいよ?」

 

「……悲しい感じだけど、でも、古いお城って何だかロマンチックなの……」

 

「!!」

 

男性陣が揉めている間に、このお方が一人でフラフラとまた徘徊しそうになる。

……ジャミ公は慌てて後を追い、彼女をとっ捕まえるのだった。

アイシャを捕獲し、アルベルトとダウド共に、いよいよルディアノ城、城内へと潜入する。

……だが、内部は瓦礫だらけで通路は崩壊し、とても普通には進めそうになかった。

唯一通れそうだった薄暗い地下通路を見つけ、中に入り只管進んで行く。

 

「ふう、漸く城内だけど……、本当にだれもいないねえ~……、

オイラ何か……、さ、寒気が……」

 

「ああ、いるのはモンスターばっかだな……」

 

「……いやあ~んっ!!」

 

ダウド、再びすっ飛びあがる。出迎えてくれたのはやはり人では無い、

モンスター集団。廃墟らしく、ガイコツを先頭に、タホドラキー、

ベビーマジシャン、メーダと、粒揃い。

 

「お前ら、この後の事も考えて道中はなるべく打撃中心、MP節約でいこうや、

回復はなるべく薬草で済ませようぜ!」

 

「了解!」

 

「頑張るわ!」

 

「……ひえええ~……、毎度の事だけど……、勘弁してよおお~……」

 

4人は倒しても倒しても妨害してくるモンスター集団と戦いながら更に城を探索。

少しづつLVも上げて行く。此処で出現するモンスターで、特に厄介なのは、MP一回分だが、

ヒャドを使って来るベビーマジシャン、メーダだった。特にメーダの怪光線麻痺攻撃は

アイシャとダウドは狙われやすく、何回も危機に陥った程。そして、シールドで防御しまくる

シールド小僧。正面だと盾防御が厄介な為、ジャミ公は背後に回り、シールド小僧を

思い切り後ろからブン殴るのだった。そんなこんなで、数時間、地下を進みながら……。

 

「此処、色んな本があるね、ちょっと見てっていいかな?」

 

「うわあ……、始まったし……」

 

地下に彼方此方有る書庫の本棚。それらを見る度本好きのアルベルトは目を輝かせていた。

ジャミルは沈痛な表情でアルベルトを見る……。

 

「ね、いいだろ?此処の処、少しだけ……、何だか気になるんだ……」

 

「……わーったよっ!たくっ!しょうがねえな!」

 

「ありがとうー!」

 

本嫌いのジャミルは慌てて書庫から離れる。頼むから余計なモン設置しておくなと

ジャミルは心底迷惑蒙るのだった。

 

「ね、ジャミル、この本見て!」

 

「うわ!?持ってくんなっつーのっ!……ん?」

 

アイシャがジャミルに差し出した一冊の本。ジャミルは最初警戒していたが……。

何となく、本から何か感じたのか、急にアイシャから本を素直に受け取り、中に目を通す。

 

「……えーと、ルディアノ式、結婚の手引き、……ルディアノで結ばれた二人が踊るダンスこそ、

式のメインイベント、恥をかかぬ様、気を付けましょう……」

 

「何だか素敵でしょ?ね?とってもロマンチックなの!」

 

「そうかなあ~、俺には何がロマンチックなんだか良く分かんねえけど……」

 

「……はあ~、呆れた、野蛮なジャミルにはときめきも何もないんだからっ!」

 

「うるせー!いい加減じっとしてろ!ジャジャ馬っ!」

 

「……何よっ!ジャワバーモントカレー原始人っ!」

 

アイシャは呆れながら本を本棚に戻す。しかし、野蛮で原始人なジャミルにも

手引きの中の、ルディアノで結ばれた二人と言う個所が、微かにレオコーンと

メリア姫を連想させていた。こんな事はこっ恥ずかしくてアイシャにはとても言えなかったが。

そして、やっと地下通路を抜け2階へ。道中の寝室らしき部屋でも手紙と手記を見つける。

レオコーンがメリア姫に当てたらしき手紙と、姫自身の手記。……それらはまるで

2人の行く末を暗示しているかの様だった……。

 

姫のお気持ち、大変嬉しく思います。しかし私は魔女討伐の任務を果たさねばならぬ身ゆえ……、

どうかそれまでお待ち下さい。……私の心はいつも姫と共に。   騎士レオコーン

 

レオコーン、私は行きます、遠い異国の地へ……。……あなたの事を忘れたのではありません。

ルディアノの血が絶えぬ限り、……私は……いつかあなたと……。

 

 

そして、モンスターとバトルを繰り返しながら、城内探索する事、更に数時間後……。

 

「よし、みんな、大丈夫だな?……棺桶入ってる奴いねえよな?」

 

アルベルトとアイシャが大丈夫!……と、ジャミルに返事を返す。しかし、このお方は。

 

「大丈夫じゃないよおおーー!もういっその事棺桶入りたいーーっ!」

 

「うるさいっ!全員状態良好、生存とみなす!怪しいのはこの扉の奥!行くぞお前ら!」

 

「……ジャミルのアホうーーーっ!!」

 

外観から地下通路を遠回りし2階へ。漸く辿り着いた大きな扉の有る部屋の前。

この城の玉座の間である。ジャミル達はこの奥に黒騎士がいてくれる事を祈りながら扉を開いた。



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姫君と黒騎士 11

「……お帰りなさい、レオコーン……、随分探したけれど、やはり此処に来たのね……」

 

「貴様は……イシュダル……」

 

レオコーンは確かにいた。玉座の間でまるでバンパイアの容姿の様な

怪しい女と対峙し睨み合っていた……。

 

「……レオコーンっ!」

 

「お前達!何故此処に!?」

 

其処に漸く到着したジャミル達が勢い良く扉を開け部屋に傾れ込んで来る。

レオコーンは又も自分を追い掛けて来たらしいジャミル達の姿を見、又も驚いた。

 

「何故此処にも何もねえっての!たく、どうしてすぐ一人でどっか行っちまうんだよ!

落ち着かねえな!このジャジャ馬娘と同系かよ!あんたを追い掛けてやっと此処まで

来たんだよ、大変だったんだぞ!」

 

「……ぶー!ジャミルのバカ!」

 

「……お前達、其処まで私の為に……、だが此処は危険だ、すぐに……」

 

「帰れるかってんだよっ!だからわざわざ来たんじゃねえか!頑固だな、あんたもよ!」

 

「ジャミル……」

 

「はあ、帰っていいならとっくに帰ってますよおー!」

 

「レオコーンさん、私達もやっと助太刀出来そうね!」

 

「……そう言う事です!」

 

(特にお役に立てないし、アタシ事サンディちゃんは、今回も寝てますので~!頑張ってネ~!)

 

4人はレオコーンの横に並び、武器を構え、変な容姿の女を睨み戦闘態勢に入った。

……明らかにこの怪しい女が敵なのは目に見えている。女は現れた4人組を見ると

くすりと笑う。……そして再びレオコーンの方を見た。

 

「これはまた、随分と可愛らしい援護隊だこと、貴方を追ってこの坊や達もわざわざ

こんな所まで来たのね、泣けるじゃないの……、くくく……」

 

「うるせー黙れっ!オメーは一体何モンなんだっ!」

 

「ジャミル、こやつこそ、お前達が聞いたわらべ歌の中に登場する魔女……、

そう、妖女イシュダルだ……、私が魔女討伐を命じられた魔女……」

 

「……私はルディアノを滅ぼすべく、闇より遣わされし者……、だった……」

 

「そうか!……こいつがっ!」

 

「くくく……、勇ましいボウヤね、でも、お姉さんの相手をするにはまだ数1000年は

早いわね、出直していらっしゃい……」

 

「……う、うるせー、何がお姉さんか!この変態ババアっ!!」

 

ジャミルは改めて笑っているイシュダルを見る。真紅の瞳、紫色の翼、足は無く

代わりに木の根の様な物が生えている。そしていかにもな、誘う様なポロリの

露出丸出しの胸……。ジャミルは何となく、ちょっと対応に困っている……、様にも見えた。

 

「……嫌らしいわね!ちょっと胸が大きいからって何よっ!」

 

「なんか嫉妬してるよお、アイシャ……」

 

「ダウド!うるさいのっ!!」

 

「ジャミル、私は今、全てを思い出した……、イシュダル、……私は貴様を討つべく、

このルディアノ城を飛び出し、……そして……」

 

「私に敗れ、永遠の口づけを交わした、……貴方と私は数百年もの間、

闇の世界で2人っきり……、貴方は私の下部……、そうでしょ、レオコーン……、

ルディアノを滅ぼすなんてどうでもよくなってしまったもの、……あなたの素敵さに

一目ぼれだったのよ、……分るかしら?」

 

「黙れっ!……貴様の所為でっ!……メリアはっ!!」

 

「でも、結果的にルディアノを滅ぼしたのは私ではないのに、恨みを買うのも御免よ、

いい加減にして貰いたいものね……」

 

「……うおおおおーーーっ!!」

 

「……よせっ!レオコーンっ!!」

 

ジャミルが叫ぶが、レオコーンは怒りで我を忘れイシュダルに槍を向け突っ掛って行く。

だが、イシュダルはまるで分かっているかの様に微動だにせず平然と反撃した。

イシュダルはレオコーンに向け、怪しい術を放つと彼を思い切り壁の方へ叩き飛ばした。

 

「……ぅぐわああーーーっ!!」

 

「レオコーンっ!大丈夫かっ!?」

 

4人は倒れたレオコーンに慌てて駆け寄るが、レオコーンはダメージを負っており、

かなり苦しそうである……。

 

「アホッ!だから何で一人で突っ走るんだってのっ!」

 

「う、ううう、すま……ぬ……」

 

「ふう、切れるとそうなるのは君も同じだろ……」

 

「……何だっ!アルっ!?」

 

「ダウドっ、ホイミよっ!レオコーンさんに!」

 

「で、でも……、かなり苦しそうだし、オイラのホイミじゃ治療出来そうにないよお、

もしかしたらべホマなら何とかなるかも知れないけど……、今じゃとっても無理だよお……」

 

「でも、でも、このままじゃ……、レオコーンさんを助けてあげないと……」

 

アイシャは床に倒れたままもがき苦しんでいるレオコーンを必死に介護しようとする。

……レオコーンは苦しみに飲まれつつも、何とか顔を上げ、自分を心配してくれている

4人の方を見上げ口を開いた。

 

「……どうやら……、再び呪いを掛けられたようだ……、あいつを倒さなければ……、

我に掛けられたこの呪いは永遠に解ける事は無い……、だろう……」

 

「呪いだと……!?」

 

「ククク、馬鹿な男、あの大地震の所為で私の呪いは解けてしまったけれど、

こいつにもう一度掛けてやったのよ、……2人きりの世界に誘うあの呪いをね!」

 

「ど、どこまで卑劣で傲慢なおばさんなのよっ!もう絶対に許さないわーーっ!!」

 

「ま、またっ!オメーはっ!……アイシャーーっ!」

 

「……駄目だっ!アイシャっ!」

 

「わあああーーっ!?」

 

アイシャもプッツン切れ、イシュダルに向かって突っ掛って行く。

咄嗟にアイシャを止めようとジャミルよりも早くアルベルトも即座に飛び出した。

……そして、何故か今回は錯乱しているのか、ダウドまでもが……。

 

「馬鹿なクソガキ共め!……死にな!」

 

「……きゃあーーっ!!」

 

「うわあああーーっ!!」

 

イシュダルは突っ込んで来た3人を見ながら不敵に笑った。

するとイシュダルの身体から紫色の鞭の様な光が飛びだしたと

同時に、アイシャ達を拘束し、身動きをとれなくしてしまうのだった。

 

「……皆っ!畜生っ!」

 

「ジャミル、……ごめんなさい……」

 

「……ジャミル、僕らの事は大丈夫だから……、あいつを……」

 

「苦しいよお~……、何でこうなるのさあ~……」

 

「……先に邪魔なこいつらから片づけてあげるわ、レオコーン、その後でね、

楽しみましょうね、2人だけの永遠の世界を……」

 

「……おのれ、イシュダル……、う、ううう……」

 

イシュダルは笑いながら拘束されている3人に近づく。しかし、咄嗟に仲間達を庇い

立ち塞がる者が一人、……ジャミルである。

 

「やめろ!……糞ババア、……これ以上仲間に手ェ出してみろ、……許さねえぞ!」

 

「おや、アンタにはまだ掛けていなかったね、……まさかアンタ、レオコーンと

こいつらを助けようってんじゃないだろうね?この男に掛けた呪いの威力を

見ていなかったのかい?……だとしたら相当のバカだね!アンタもさ!

いいわよ、それじゃお望み通りアンタにも掛けてあげる!とびっきりの呪いをね!」

 

「……」

 

(……わわわ!や、やっぱジャミルって凄いバーカ!?命シラズ親不知っ!?

も~どーなってもアタシしんないんだかんネっ!)

 

ジャミルは自分にも呪いを掛けようと、じりじり迫ってくるイシュダルを

キッと強く睨み返した……。



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姫君と黒騎士 12

「……」

 

「な、何故っ!?このガキ……、何故に私の呪いが効かないっ!?

……呪いを弾き返しただと……?お前は何者だっ!……通常の人間ならば

必ず私の呪いに掛かる筈、も、もしやお前はっ!?」

 

「黙れ、うるせんだよ、俺が何だかとか、んな事どうでもいいっての!」

 

「あはっ!何だか急に動ける様になっちゃったわっ!」

 

「助かったよ、ジャミルっ!」

 

「……全くっ、冗談じゃないよおー!」

 

イシュダルの呪縛に掛かっていた3人もジャミルがイシュダルの呪いを弾き返したと

同時に途端に動ける様になったらしい。自由になった3人は急いでジャミルの元へと駆けつけた。

 

「……お、おのれ!……糞ガキ共!」

 

「よし、これで形勢逆転だな!やれやれ……」

 

ジャミルは戻って来た仲間達を見ると、安心した様に

耳の穴をほじりながらニヤニヤ笑いイシュダルの方を見た。

 

「……お前達、……油断するな、気を付けろ……」

 

「分ってるって!あいつは俺達が絶対倒すから!もう少し辛抱しててくれよ、レオコーン……」

 

「すまない……」

 

「……こうなったらお前ら纏めてズタズタに切り刻んで全員地獄に送ってやるわ!覚悟おしっ!」

 

イシュダルが怒りの形相で4人を睨んだ。しかし、ジャミル達は怯む事無く

もう一度戦闘態勢を整え、イシュダルへと立ち向かっていく。

 

「絶対許さないわよっ!……おばさんっ!!」

 

「……アンタが一番邪魔だね、どっか行ってなっ!!……フンっ!!」

 

「……あ、ああああーーーっ!?」

 

イシュダルは波動でアイシャを弾き飛ばす。ジャミルは慌ててアイシャを

助けに行こうとするのだが、其処にイシュダルが立ち塞がった。

 

「ボウヤ達の相手はこっちでしょ、ほ~ら、おいでおいで……」

 

「な、何……、……う、ううっ!?」

 

「なんか……、誘われるよお~……」

 

「誘惑に乗っちゃ駄目だっ!……う……」

 

イシュダルは邪魔なアイシャを弾き飛ばしたのち、男3人にフェロモンをばら撒く。

そして自分の巨乳へと引き寄せるのだった……。

 

「ほ~ら、ぱふぱふ、ぱふぱふ……」

 

「!!ぐえっ!……む、むぶぶぶぶっ!!」

 

……悲しい男のサガ。イシュダルの胸へと引き寄せられた野郎達は、3人一辺に

巨乳へと挟まれてしまい、むぎゅむぎゅ窒息状態で大変な事態になっていた……。

 

「……バ、バカああーーっ!も、もう絶対に許さないわよーーっ!!」

 

どうにか戻って来て体制を整えたアイシャ。凄まじい現場を見、激怒。そして

怒りMAX必殺ゲージ技、ミラクルゾーン(SP版)を発動させた……。

 

「ふふふ、嫉妬しているのね、この私の美貌と巨乳に、

可愛らしいお嬢ちゃん……、あらああーーっ!?」

 

アイシャのヒャド連打攻撃、イシュダルの頭に巨大な氷の塊が追突。

……イシュダルは慌てて巨乳の拘束から男共を漸く解放した。

 

「た、助かったー……、でもこんなに立っちまった……、って、……うわあーーっ!?」

 

「……アイシャ、落ち着いてーーっ!これは事故……」

 

「てへへ、おっぱい、美味しかったよお~……、アルも何か鼻血出てるねえ~……」

 

「……ダウドっ!!」

 

「あ、あっ!」

 

アルベルトがダウドを注意するが既に遅し。スケベな野郎共の実態にブチ切れのアイシャ。

もう敵味方関係なく我を忘れ、5ターンの間魔法がMP消費無しで使える必殺技を良いことに

怒りのヒャドを放出しまくる。……止めはイオでイシュダルもジャミル達野郎共も全員大爆発へと

巻き込まれるのであった。

 

「お、おのれ……、小娘が……、ふざけおってからに……、全然可愛くない

とんでもないクソガキのまな板だわ……」

 

「……アイシャーーっ!オメー俺達まで殺す気かあーーっ!!」

 

「ふんだっ!ジャミルが一番反省しなさいよっ!!べえーっだ!!」

 

アイシャはジャミルに向かって舌を出す。……やはりと言うか、一番被害が

大きかったのはジャミルであった。

 

「ううう、な、何かが……、恐ろしい事が起きているのか……、……ああああーーっ!!」

 

「……レオコーンさん!苦しいの!?大丈夫よ、もう少しだからね!」

 

……何かの悪寒を感じて再び苦しみだしたレオコーンをアイシャが

必死で励ますが、多分アンタの所為である。

 

「ハアハア、畜生、……糞ガキ共、もう遊びは終わりだよっ!!」

 

イシュダルも本気状態になったらしく4人の方を見る。此処で何としても

この戦いに蹴りを付けなければならない。レオコーンを救う為。

ジャミル達ももう一度真剣モードになる。

 

「……取りあえず、お恥ずかしいですが、オイラも必殺ゲージが溜まりましたので

ゴスペルソング使っておきまーす!」

 

ダウドもゲージ技、ゴスペルソングを発動させる。これにより4人のHPは半分近く回復、

活力を取戻し、イシュダルへと最後の反撃の時を迎えた。

 

「小娘!さっきはよくもやってくれたね!倍返しのヒャドを食らいな!」

 

「お断わりですっ!メラーーっ!!」

 

……激しくぶつかり合う炎と氷。アイシャのメラはヒャドを押し、あっという間に氷を溶かす。

 

「くっ、この私がっ!さっきからこんな糞小娘に押されっぱなしじゃないの!

……冗談じゃないわよっ!!」

 

「僕も頑張らないと!……また姉さんにどやされてしまうっ!……やあああーーっ!!」

 

「!!ば、馬鹿な!……ああああーーっ!!」

 

そして、アルベルトも初のゲージ技を発動。アイシャに向け、タナトスハントを

喰らわせようとしていたイシュダルに会心必殺を発動。……イシュダルに止めの

大ダメージを与えた。古代の悪魔魔女、長き間レオコーンを呪いで苦しめていたイシュダル、

戦士達により、遂に此処に倒れたのであった……。

 

「く、くちおしや……、この私が……、こんな屈辱を……、惨めな……」

 

「あははっ!アル、すごーいっ!」

 

「え、えへへ……、僕なんかまだまだ大した事ないよ……」

 

……機嫌が悪かったアイシャ。アルベルトの快進撃を見てもうすっかりご機嫌が元に戻っていた。

 

「俺のゲージ技って、はっきり言ってあんまり使い処ねえよな、……回避率が

上がるだけだからな……、ダウドより使えねえぞ……、今回は転職出来るなら

早く転職した方がいいのかな、ぶつぶつ……」

 

と、アイシャに絶賛されているアルベルトの方を見て複雑な気分になった

ジャミルがブツブツ呟いていた……。

 

「……イシュダル……」

 

「レオコーンっ!あんたもう大丈夫なのか!?」

 

「ああ、ジャミル、皆も……、そなた達のお陰だ、……誠に感謝する……」

 

レオコーンはジャミル達がイシュダルを成敗した事で呪いから解放され、

立ち上がれる様になっていた。そして複雑な面持ちで倒れているイシュダルを見つめる。

自らのこの手で討つ事が出来なかった宿敵を……。

 

「……悔しいわ、再びあなたと私だけの世界が蘇る筈だった……、でもね、

過ぎ去った数100年の時はもう戻って来ないのよ……、アンタの愛する

メリアはもう何処にもいない、……くくく、絶望に塗れ、もうお前など誰も

知る者などいないこの時代を永遠にさ迷い歩くがよいわ……」

 

「……メリア……姫……」

 

イシュダルは息絶え、姿が消える。……遂に因縁の宿敵は消えたが、愛した人は

もうこの世におらず、……長き時の中に、たった一人取り残された孤独な騎士……。

ジャミル達はレオコーンにどう言葉を掛けてやったら良いか分からず、悲しい現実に

4人ともその場に立ち尽くしていた……。



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姫君と黒騎士 13

「……レオコーン、俺ら偉そうな事言えねえけど……、今は元気出してくれよ……、な?」

 

「済まぬジャミル……、そなたの手まで借りて漸くルディアノへ辿り着いたと言うのに……、

時の流れと共に王国は滅び、……愛した姫君はもういない……」

 

「レオコーン……」

 

「もう……遅すぎたのだ、……何もかも……」

 

レオコーンの絶望に溢れた悲しそうな声が玉座の間に響き渡る。

しかし、直後……。再び玉座の間の扉が開き……。

 

???:いいえ、遅くなどありません!

 

「……い、いいっ!?ひ、姫さんっ!!何で此処に!!……それにっ!!」

 

「モンモン!」

 

「フィオーネ姫っ!モンちゃんまでっ!」

 

「……メリア……、姫……、まさか……、いや、そんな筈は……」

 

ジャミル達4人は唖然とする……。何と、玉座の間に乗り込んで来たのは、

モンを連れたフィオーネであった……。しかし、モンはあのまんま化粧を落とさずである。

……フィオーネは純白のドレスを身に纏い、首にはある物を下げていた。

 

「その首飾りは……、まさか本当に……、あなたはメリア姫なのですか……?

しかし、あなたはもう……」

 

フィオーネ……、メリア姫はドレスの裾を摘みお辞儀をし、

一歩進んでレオコーンの前に出る。そしてレオコーンの手をそっと握る。

 

「約束したではありませんか、ずっとずっとあなたの事を待っていると……、

さあ、黒薔薇の騎士よ、私と踊って下さいますね?かつて果たせなかった婚礼の踊りを……」

 

「……メリア姫……、この私を許して下さるのですか……?」

 

メリア姫はレオコーンの顔を見て静かに微笑んだ。

 

「……お、おおおっ!?」

 

「きゃあー!?」

 

レオコーンの身体が光だし、顔を覆っていた黒い兜が消える。そして素顔の

イケメン顔が現れたのであった……。2人は手と手を取り合い、婚礼の踊りを踊る。

……かつて果たせなかった約束と願いが今漸く果たされようとしていた。ジャミル達は

幸せそうに踊る2人をじっと静かに見守っていた……。特にアイシャはもううっとりさんである。

 

やがて踊りは幕を閉じ、黒騎士レオコーンとメリア姫に別れの時が訪れる……。

 

「有難う、異国の姫よ……、貴方がメリア姫でない事はもう分かっていた、

しかしあなたがいなければ……、私はあの魔物の意のままに絶望を抱え今も

彷徨っていた事でしょう……」

 

「やはりあなたは黒薔薇の騎士様だったのですね……、初めてお会いした時から

ずっと……、あなたには運命の様な物を感じておりました……」

 

「……メリア姫の記憶を受け継ぐあなたならばその様に思われるのも

不思議では無い事なのかも知れません……」

 

「……私が……、メリア姫の……、あ、ああ……」

 

レオコーンの身体が再び光り出す。本当に時間が来た様であった。レオコーンは

素顔のままで最後にもう一度、ジャミル達4人の方を見つめた。

 

「ジャミル、そなたのお蔭で私は本当の真実を取り戻す事が出来た、

もう何も思い残す事はない、……有難う……」

 

「……いや、俺らは別に何も……、その、ちゃんと……今度は生まれ変われ……よ……」

 

「さようなら、レオコーンさん……」

 

「……キャラメルとんがりコーンさん、ばいばいモン……」

 

「ま、またモンは……、全く……、では、お別れですね、さようなら……」

 

「……あううう~!さ、さようならあ~!!元気でねえ~!!」

 

「……」

 

4人とモン、そしてもうメリア姫で無く、フィオーネに見守られ、レオコーンは

空へと昇って行き、昇天したのであった……。消えていく黒騎士……、

レオコーンの姿を最後まで見届けたフィオーネの目から涙が零れる。

 

「さようなら、……愛しい黒薔薇の騎士様……」

 

「えーと、……姫さん、大丈夫かい?」

 

「は、はい……」

 

ジャミルがフィオーネに声を掛けると、フィオーネは目頭を指で擦り、

改めてジャミルと向き合い返事を返す。

 

「あなたに全てをお任せした筈なのに……、あの方の事ばかりを

考えていたらいても立ってもいられなくなり、此処まで来てしまいました……」

 

……しかし、モンスターの群れ掻い潜って……、意外とパワフルな姫さんなんだなあ……、と、

ジャミルは突っ込まずいられなかった。この件は、のちに護衛も付いて一緒に来た事も

知るのであるが、それにしても逞し過ぎだろうと思ってみたり。

 

「あの方と踊っている間、不思議な声が聞こえたのです、優しい女の人の声で、

……よく来てくれましたね、フィオーネ、……ありがとう……、と」

 

「声か、……成程な……」

 

「それでは私は一足お先にお城に戻りますわ、この事を皆様にお伝えしないと、

ジャミル様、貴方へのお礼も改めてお城にてさせて頂きますわ、必ずお城まで来て下さいね、

モンさんも此処まで一緒に来て下さって有難う、とても楽しい旅でしたわ!」

 

「え……?あ、姫さんっ!!」

 

ジャミルが叫ぶが、フィオーネはダッシュで玉座の間を飛び出す。4人も急いで

後を追い、部屋から出るが、既にもうフィオーネの姿は消えていた……。

 

「マ、マジでなんつー姫さんだよ……」

 

「モン、心配ないモン、お姫様は此処までは護衛の兵士さん達と一緒に来たんだモン」

 

「な、なんだ、……なら……」

 

「でも、地下はモンと2人っきりだったんだモン、モンがお姫様守ったんだモン!」

 

「まあ、モンちゃん偉いのね!凄いわ、ふふ!」

 

アイシャが嬉しそうにモンを抱き上げる。彼女は心からのモンの成長を喜んでいた。しかし。

 

「モンの顔見たら地下のモンスター皆逃げてったんだモン!……シャアーーっ!!」

 

「……」

 

モンは化け物化粧顔のまま、怒って大口を開けた。モンの顔はフィオーネの

手による更なるパワーアップメイクの所為で化け物以上のカオス顔になっていた。

……そしてジャミル達もモンスターが逃走した理由を理解したのである。

どうやらモンの顔は聖水代りになったらしい……。

 

「取りあえず……、帰ったらまずはそのお化粧ちゃんと落とすのよ、モンちゃん……、

でも、大分厚化粧みたいだし、……ちゃんと落ちるのかしら……」

 

「モモンのモンプー!」

 

帰りはフィオーネが来る途中で開いてくれたらしい近道を通り、無事城の外へと

難なく出る事が出来た。こうしてルディアノの冒険も終り、4人もセントシュタイン城へと

帰国したのだった。



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久々の和み

取りあえず、練習も兼ねて一話分書いた文を上げてみます。
まだ、小文字が出しずらかったりと文明に慣れず古代の原始人は悪銭苦闘中です(´・ω・`)



シュタイン城へと戻った4人組。先に城へと帰国していたフィオーネから黒騎士の一件を

聞いていた栗饅頭国王はこれまでと態度を一変させ上機嫌だった。お主達は実に

あっぱれな旅人じゃ!と、言う事で4人は国王に相当気に入られたらしい。

……儂も少しは反省している。らしいが。あまりそんな風には見えなかった。

とにかく、機嫌の良くなった国王から東の宝物庫の宝を持って行って良いと言ってくれた

ばかりか、これまで通れなかった北東の関所も通れる様にしてくれたらしい。其所にはまた

大きな町があり、何か大きな事件が起きている様であり、行って見るが良いとの事。

 

「さようなら、皆さん、本当に有り難うございました、また、いつでもお城に遊びに来て

下さいね、お待ちしていますわ」

 

「ああ、姫さんも元気でな」

 

「あの、フィオーネ姫、元気出してね、また、素敵な恋が見つかりますように、

私、心からお祈りしてます!」

 

「ええ、アイシャさん、有り難う……、モンさんもお元気で、また、お化粧したくなったら

いつでもいらっしゃって」

 

「モ~ン」

 

……頼むからそれだけは勘弁して下さいとジャミルは思うのであった。そして、姫とも

別れを告げ、宝物庫から宝を頂戴し城を後にすると4人は町の方へと戻った。

 

「グッジョブ、ジャミルっ!この町の人間、みんなアンタに感謝してるっぽいネ、

その証拠にホラ、この国の周り、こんなに沢山の星のオーラが出てんのヨ!」

 

「……そうなん?」

 

「ああ、こりゃまた、アンタ星のオーラ見えなかったんだよネ!マジうける!

まあ、流石にここまでやれば神サマもアタシ達のこと見つけて天界に帰さない

ワケにいかないっしょ、ささ、天の箱船がある峠の道まで戻るヨっ!」

 

「……ちょ、ちょい待てよ!」

 

「何サ!ああ、アンタ、国王が言ってた北東の関所の向こうが気になるワケ?でも、そんなの

あとあとだよっ!アタシらの目的は天界に帰る事なんだから!」

 

ルディアノでは隠れていてほぼ何もしなかったサンディ。事が終われば自分の目的を

達成しようとし、我儘傲慢である。しかし、疲れていたヘタレがブチ切れ立ち上がる。

 

「だめだよお!今日はみんな疲れてんだから!オイラもう、今日は絶対町から

出ないからね!」

 

「サンディ、休む事も必要だから、疲れている中、無理をしてまたみんな怪我でもしたら

それこそ大変な事になってしまうよ」

 

「ち!わっかりましたよ~だ!バーカアホアホ能無し集団!」

 

「……」

 

アルベルトの言葉にサンディは再び発光体になり姿を消す。しかし、自分は散々

休んでおいてそれはねえだろう状態である。下手をすると、これもそのウチに

仕置きの場に送られそうな候補だった。しかし、一応はレディなので、まあそれは

ないと思うが、何か別の形で軽いお仕置きをして一度懲らしめてやりたいもんである。

 

「オウ、雅にブラック企業ガングロ……」

 

ぼやくジャミル。とりあえず、今日はどうにか休めそうだった。4人は久々にリッカの宿屋へ。宿屋ではリッカが早速皆をお出迎えしてくれたのである。

 

「ジャミル、お帰りなさーい!もう、町中もう噂で持ちきりだよ!旅芸人ジャミルが

この国を危機から救ったんだって!ふふ、私も友達として鼻が高いよ!」

 

「い、いや……、別にそんな大した事はしてねえよ……」

 

「おや?いつもふてぶてしい態度の君が嫌に消極的だね、リッカの前で遠慮

してるのかな?もっと胸を張りなよ」

 

「……うるせー!腹黒っ!オメーは俺に気イ遣ってんのか馬鹿にしてんのか

どっちなんだっ!」

 

多分、どっちもである。アルベルトは只管笑いを堪えている。3の時の様に、勇者がこの国を救ったという表現ならまだしもカッコがつくが、今回はお笑い旅芸人にされてしまっている為、ジャミルも複雑なんである。

 

「あう~、オイラもう駄目で~す、お腹がすいて……」

 

「モ~ン!」

 

ダウドとモンがその場にしゃがみ込む。それを見たリッカは慌てた。

 

「だ、大丈夫っ!?2人とも、わあ、本当にみんな凄く頑張ったんだね!よ~し、

今日は腕によりを掛けてとびっきりの美味しい夕ご飯作るからね!」

 

「悪いなあ、リッカ、こいつらが卑しくてよ……」

 

「ジャミルに言われたくないんだよお!」

 

「モンプーー!」

 

「やめなさいったら!恥ずかしいんだから!……えへへ、実はリッカの

ご飯、私も凄く楽しみなの!期待しちゃうね!」

 

「うん、任せてっ!」

 

リッカはアイシャに手を振ると、カウンターの仕事を他の従業員と交代し、

一時、厨房の方へ食事作りへと姿を消した。

 

「おい、どさくさに紛れて……、さっきオメーの方から何か聞こえたんだけど」

 

「!!な、何よう!私、お腹なんかそんなに大きな音で鳴らしてないもん!」

 

「へえ~、俺、腹が鳴ったとはまだ言ってないぞ、ま、確定か」

 

「!!……きゃ、きゃああーっ!ジャミルのバカ――っ!!」

 

いつも通り、ジャミルとアイシャ、天然バカップルのじゃれ合いが始まる。

ロビーにいる他の客はゲラゲラ笑い、アルベルトとダウドは顔を赤くした。

 

「モーン!お腹なんか鳴らしてないモンーー!」

 

「モンちゃんもっ!……こらああーーっ!!」

 

何はともあれ。現場は和気藹々とした雰囲気になった。そして、夕食。リッカ特製、

英雄さん達お疲れ様、SPディナーが運ばれて来る。メニューはあさりのシチュー、

オムレツ、スパイスたっぷりの焼いたお肉、海鮮サラダと盛り沢山。

ジャミル達はリッカに感謝しながら、美味しい夕ご飯に舌鼓をうち、今回の冒険の

疲れを癒やす。また明日から新しい冒険が始まる。今夜はしっかり休んでおこうと

4人はそう思ったのだった。

 

「ごちそうさん!ふぃ~、もう食えねえ……」

 

「ご馳走様でした、うん、本当に美味しかったよ、リッカ」

 

「私も余りにもご飯が美味しすぎて、つい食べ過ぎちゃったわ、ど、どうしよう……」

 

アイシャが心配そうに自分のお腹に手を当てる。それを見たダウドが余計なフォローを入れた。

 

「いいんだよお、人間素直になんなきゃ、見てごらんよお、モンを、ありのままに生きようよお、アイシャも立派なぽんぽこ仲間じゃないかあ」

 

「もう駄目モン、お腹破裂するモン……」

 

アイシャは太鼓腹状態のモンの方を見ると、無言でダウドの足を思い切り踏んだ。

 

「……いだあああーーっ!!」

 

「……いいわよ、今日の分のカロリーはまた明日からのバトルで消費するんだからっ!」

 

と、密かな闘志を燃やすのだった。

 



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構ってカマエル

段々と新しいパソの方にも慣れてきました。使っているとまだまだ、ブチ切れそうになる
時はありますけども……。


翌朝。ロビーにて朝食を取っていたジャミル達の処へ何やら小さな釜の様な

物を抱えたリッカがやって来る。

 

「ねえ、見て見て!これ、地下室で掃除をしてたらこんなの見つけちゃったんだ!」

 

「何だい?それ……」

 

また得体の知れない釜の出現にジャミルは首を傾げた。

 

「うん、ルイーダさんにも聞いてみたの、これ、錬金釜っていうらしいの、昔この宿屋に

泊まった貧しい錬金術師のお客さんが宿代代わりに置いていったんだって!どうやって

使うのかは分からないけど、ちょっと曰くのあるお品みたいだし、此処のカウンターの

処に飾っておく事にするね、よいしょと」

 

リッカはそう言うと釜をいつもの自分の仕事場所、カウンターの上に置いた。

 

「うん、こうして見るとなかなか味のある形だよね、きっとこの宿屋に幸運を運んでくれるわ!」

 

そうかなあ~、と、ジャミルは思うが。それにしても変わった形の釜である。

ジャミルは試しにと思い、飯の手を一端離れ、リッカがいるカウンターの方へと近づく。

 

「ふう~ん、珍しいねえ、ご飯に食いついたら食べ終わるまで絶対離さないのにさあ」

 

「バカダウっ!うっせー!」

 

「僕もちょっと興味があるなあ」

 

「私にも見せてー!」

 

「モンー!」

 

アルベルトもアイシャもカウンターの方へ。終いにはモンまで行ってしまった。

何がそんなに面白そうなんだか分からないよお~、と、思いながらも、自分だけ

仲間はずれは嫌なので、仕方なしにダウドもテーブルを離れた。

 

「に、しても何処から見ても変わった形の釜だなあ、よっ!」

 

ジャミルは試しに釜を指でピンして弾いてみた。すると……。

 

「……んごごごごご!!」

 

「わあっ!?こ、こいつ何か動いたけど!!」

 

釜が突然ブルブル動き出し、鼾を掻き始めたのである。

 

「あはっ、なんか可愛いね!」

 

「モン!」

 

……天然アイシャの感覚は置いておいて。やはりこれは只の釜ではないらしい。

ジャミルはもう一度釜を指で突いてみた。すると釜はまた震え出す。

 

「はっ!ね、寝てません!私は寝てなどいませんよっと!」

 

「……」

 

釜が今度は喋り出した。しかしジャミル達はもう何が起きても驚かない。

喋る錬金釜は目の前で自分を見ているジャミルの視線に気づく。

 

「あなたにはどうも私の言葉が分かる様ですが……」

 

「一応……」

 

「そうですか、お初にお目に掛かります、私は錬金術を行う魔法の釜、

錬金釜のカマエルと申します、錬金術とは、アイテムとアイテムを掛け合わせ、

選りすぐれたアイテムを生み出す奇跡の見技でございます」

 

「へえ、アイテム同士でアイテムを生み出すのか……」

 

ジャミルは脳内でまた余計な事を考えた。……ヘタレとジャジャ馬と腹黒と、

小デブ座布団と、……ガングロを釜に突っ込んだら何が出来るのかと。

 

「何っ!また何か変な事考えたわねっ!ジャミルっ!」

 

「スリッパ出そうか?うふふ~……」

 

「自分を入れてないじゃないか!ずるいよおー!」

 

「ブブーモン!」

 

どうやら、もう皆さん、長年の腐れ縁で、ジャミルが何か変な事を考えれば

大体顔で分かってしまうらしい。サンディに関しては発光体のまま、

つまんネーつまんネー、早く峠に戻ろうヨー!と、ブツブツ呟いていた為、

気がつかなかったらしいが。

 

「まあまあ、皆さん、そう興奮しないで、また遠出するんでしょ?出発の前に

お茶のお代わりと、クッキーをご飯の後にいかがですか?種はもう作ってあるの、

後はオーブンで焼けばいいだけだから」

 

「わあ、リッカ、ありがとうー!」

 

リッカのお持て成しに機嫌が良くなるアイシャ。ジャミルは助かったと胸をなで下ろす。

この4人の暴走ぷりも、リッカも大分分かってきてはいたが、それでもいつも宿屋で

場を盛り上げてくれる明るい(お馬鹿)4人組を心から見守って陰からサポートしてくれていた。

 

「あの、話を此方にお戻し下さい……、時に、あなたはもしかして、私の長年の

探し求めていた主、私が仕えるべきご主人様ではございませんか?」

 

何だか構って欲しそうなカマエル。ジャミルに向かって何やらブツブツと……。

 

「いや、人違……、いてっ!」

 

「そうかも知れないね、ジャミルは君のご主人様だよ」

 

アルベルトはスリッパで軽くジャミルの頭を叩き、頭を下に向け返事をさせた。

 

「……アルぅ~、てめえ~……」

 

ジャミルは叩かれた頭を押さえて呻いているが、アルベルトは横を向いて誤魔化している。

 

「やはりそうでしたか、ああ、ご主人様に会えて、私、感涙の涙、涙……、でございます……」

 

釜は今度はだーっと涙を流し始めた……。

 

「い、いや、何もそんな泣かなくても……、困ったなあ……」

 

「そうだよお、そんなに気を遣わなくていいんだよお!」

 

「るせー!バカダウドっ!!」

 

今度はまたこっちのコンビが暴れそうになるが、アルベルトが取り出した

スリッパを見てピタッと止まったのだった。

 

「それでは早速錬金を………、と、言いたい処ですが、まずはこれをお持ち下さい」

 

「……ほ、本っ!?」

 

カマエルが釜から出した本を見てジャミルが慌てるが、アルベルトが代わりに

さっと本を取る。

 

「これは……レシピブック?基本の薬草を使った調合の仕方が載ってる……」

 

「錬金レシピブックを持ってさえいれば誰にでも簡単に錬金が出来てしまうスグレモノですぞ、今は登録されているレシピは僅かですが、世界の本棚には無数のレシピが眠っている筈、それらを全て集め、是非錬金の奥義を共に極めましょうぞ!」

 

「……世界の……本棚……」

 

レシピブックを持ったまま、にへえ~……顔になるアルベルト。嬉しいのか顔面崩壊してきた。怖いので、他の3人はアルベルトから少し目線を反らした。

 

「と、そんな遠大な目的はさておき、何事もまずは基本からです、試しに簡単な

錬金からやってみましょう、お勧めはレシピで錬金ですぞ」

 

「ふ~ん、んじゃ、まずは此処に載ってる上薬草をやってみるかね」

 

ジャミルはレシピの作り方通り、薬草と薬草をカマエルの中に突っ込み錬金する。

すると、あっという間に、上薬草が出来上がった。

 

「おお、結構面白いなあ……」

 

(ちょっとッ!いつまでこのキタネーカマと戯れてるワケッ!?いい加減に

峠に戻るのッ!もうアタシ、我慢の限界ッ!!)

 

調子に乗ったジャミルはもっと錬金をしてみようとしたが、サンディに阻止される。

……朝食も食べかけのままだったのもすっかり忘れていたのだった。

結局、サンディに急かされた為、予定よりも早くセントシュタインを出なければならず、

リッカの折角のクッキーも口にする事が出来なかったのだった。4人はカマエルの事を

リッカに頼み、セントシュタインを後にし、峠の道へと戻る。

 



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真っ黒いアイツ……

さて、4人は天の箱船がある峠の道へとやって来たのだが……。

 

「ふうっ、久々にこの可愛い姿で出れるヨ~、って、あれ?……ど、どゆこと?

天の箱船何も変わってないじゃん!神さまがアタシらを見つけてくれたのなら

箱船が光って動き出しそうなモンなのに……、も、もしかして、アタシの予想が

ハズれたっ!?そ、そんなワケないヨ!中に入ったらきっと動き出すって!

ホラ、アンタら早く中に入るヨっ!」

 

「あの、ジャミル、聞くけど此処に一体何が……?」

 

「何もないわよ……」

 

「何も見えないよお~?」

 

「ん?ん~……」

 

ジャミルは困って頭を掻く。何せ現時点で船が見えているのは、ジャミル、サンディ、

そして空から降って来たという謎の果実の欠片を食べてしまったモンだけなのである。

ジャミルは基本的に船の姿が見えない仲間達に対してどう説明してやったらいいか

分からず困り果てる。

 

「いーの、だからとにかく、アンタらは黙ってアタシらの後に付いてくれば

いーのっ!此処に船があるの!」

 

「そう言われても……」

 

アルベルトは強引にどんどん先へと勝手に事を進めるサンディに汗を掻いた。

アイシャとダウドも同様である。

 

「まあ、奴の言う事は本当だよ、お前らには見えないかも知れないけど、目の前に

本当に天の箱船があるのは本当さ、騙されてる様な気にはなるだろうけどさ、

とにかく俺の後に付いて来いよ……」

 

「モンにもお船見えるんだモン!」

 

「そうなの、モンちゃんも見えるのね、凄いわ……、そうね、アル、ダウド、此処は

ジャミル達を信じて前に進みましょ……」

 

「そうだね、立ち止まっていても仕方ないしね……」

 

「なーんか間抜けだよお~……」

 

まずは強引なサンディが先に箱船の中へ率先して入ったのだが……。

 

「ま、まじスか?……中もなんも変わってない……、もしかして、アタシら

神サマに見捨てられちゃった?い、いや、んなワケないヨ……」

 

「始まったな、やれやれ……」

 

次はジャミルが箱船内に入る。アルベルト達はジャミルの後に付いていき、箱船の中へ。

……無論、3人には船の外観は見えていないので、3人にとっては実際は何もない只の

場所でしかないのだが……。

 

ぐらっ……

 

「うわっと!じ、地震かよっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

「……うわああーん!!」

 

「アイシャ、大丈夫だよ、ダウドも落ち着いて!もう収まったよ、って、

ダウド、僕の何処掴んでるの……」

 

「え?あ、ああああっ!」

 

興奮してしまったらしいダウドは間違ってアルベルトのあそこを掴んでしまったらしく、

顔を赤くして慌てて手を離した……。

 

「はう~、びっくりしたあ~、ねえ、てか、今の揺れ、アンタが最初に船に入って来た

瞬間じゃなかった!?ぐらっときたヨ!」

 

サンディはジャミルの方を見る。……その言い方だと、まるで俺が相撲取りじゃ

ねえかよ!とジャミルは変な顔をした。念の為、後ろを振り返ると、ダウドが

片手を突き出すごっつあんです!ポーズをしていた為、問答無用でブン殴っておいた。

 

「アンタが入って来た瞬間……、そうか、それヨ!」

 

「はあ~?」

 

「ジャミルが実はお相撲さんだったって事……?」

 

「……さっきからうるせんだよっ!バカダウドっ!!」

 

「黒騎士事件を解決した時に出た星のオーラのチカラでアンタに天使のチカラが

戻ったのヨ!天使が箱船に乗れば動き出すってアタシの最初の予想、やっぱ

当たってたんですケド!?」

 

「そうなの……?ジャミル……」

 

「ん~、何となく……、言ってた様な、言ってねえ様な……、もう覚えてねえ……」

 

アイシャの言葉にジャミルは疲れた様に無表情で返事を返した。

 

「だったら話は早くネ?ジャミルがもっとも~っと、いっぱい人助けをすれば

箱船は動いちゃうんですケド!?よお~し、それじゃ今度は早速お城の東にある

関所を超えて新しい町にいってみよー!誰か困ってるかも知れないしネ!

なんか希望がみえてキタっ!よーし、人助けの旅に出発シンコー!」

 

「うわ……」

 

さっきまで峠に行け行けと散々騒いでいたのが、もうこのコロッとした変り様。

4人は顔を見合わせた。

 

「今日は一旦宿屋に戻って休めないのかなあ~……」

 

「駄目だよ、また機嫌が悪くなると困るし……」

 

「でもこの先の町でも何か大きな事件が起きてるって言うし、事を急がなきゃ

いけないのも事実だわ、仕方ないわよ……」

 

「そうだな、行くしかねえか……、てかマジ、ブラックコギャル企業だなあ~、

大変なのに雇われたモンだよ、俺らもよ……、しかも事実上タダ働きだしな……」

 

「モモンのブーブー!」

 

「そこっ、何してんのっ!ホラ、早くするする!動く動く!」

 

「やれやれ、それじゃ動くか……」

 

ブラック上司には逆らえず、4人は重い腰を上げ、休む暇もなく、次の場所を

目指し移動を開始する。しかし、歩き出す頃にはサンディはまた発光体に戻ると

姿を消して休んでしまい、眠ってしまうのだった。

 

「ねえ、聞くけど、サンディはいつも何処にいるの?」

 

「多分、姿が見えねえ時は俺ん中だよ……」

 

「うわあ、……楽でいいねえ……」

 

「ダウド、またうっかり聞こえると大変だよ……」

 

アルベルトが愚痴り始めたダウドに注意。しかし、あの傲慢な我儘ぷりは

何とかならない物かと、手元のスリッパを見つめながらアルベルトは考えていた。

……本気で考えていた……。

 

北東の関所を越えれば新しい町である。其処でも4人は変態……ではなく、大変な

事態にまたも巻き込まれる羽目になる……。冒険者に真の休息はあらず。

 



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いつもあなたと 1

もう暫くは此方メインで更新します。賊ダチの方は来週あたりから
投稿再開検討します。申し訳ないです。


お騒がせ4人組、北東の関所を超え、次の目的地の町へ。此処の名称は、ベクセリア……

、というらしい。多くの建物が殆ど高台に面している町である。新しい町を訪れたら

まずは最初にすべき事、武器、防具の調達で町を歩いて回ってみる事にしたが……。

 

「やっぱり、ただ事じゃ……、ないね、殆どの人間が家に引き籠もってる

みたいな感じだね」

 

「ああ、此処でも何か起きてんのは間違いねえなあ……」

 

「空気が凄く変だわ……、淀んでいるのかしら……」

 

「疲れたよお~、てか、モン……、何でオイラに負ぶさってんの……」

 

「モンだって飛びっぱなしは疲れるんだモン~……」

 

(あ~あ、アタシって楽チンだわ~!当分外に出るのよそう~っと!)

 

「……この物臭ガングロめ……」

 

4人はただ事ではない町の雰囲気を感じ取りながら買い物へ。店で武器と防具を調達。

大分資金も貯まっていたので、今回は大盤振る舞いで、ジャミルとアルベルトは武器に

鉄の剣、ダウドにロングスピア。特にダウドは泣く程喜んだ為、アルベルトに、何も

泣かなくても……、と、いつも通りのオーバーリアクションに苦笑。

 

「私もっ、今回は鞭系!バトルリボンよ!」

 

「アイシャ、かっこいいモン!」

 

「……」

 

鞭をぴしぴし振り回すアイシャの姿に、何だかとてつもなく不安を覚えるジャミルであった。

 

「しばかれないように注意した方がいいよお、ジャミル……」

 

「何で俺の方見るかっ!馬鹿ダウドっ!……それにしても……」

 

「うん……」

 

男性陣3人は新しい防具に顔を見合わせる。身体用の新防具は鉄の胸当てを

装備したが、どっからどう見ても、某サイヤ人のお方が普段身に着けている

軽防具にしか見えなかった。ちなみに、アイシャは白いTシャツに赤スカートと、

非常にシンプル。

 

「なあ、親父さん、この町って……」

 

ジャミルが何となく武器屋のおじさんに訪ねてみると、最初、おじさんは

困ったような顔をしていたが、少しだけ、ぼそっとこの町の事を教えてくれた。

 

「君達は他所からのお客さんだね、悪い事は言わないから早く此処から去った方がいい、

原因不明の謎の流行病だよ、急に高い熱や酷い咳が出たりして、もう何人もやられている……、医者でも治す事が出来ないんだ、……現に患者を手当てした医者自体が亡くなって

しまったそうだよ……」

 

「……ひええええっ!?」

 

真っ先にダウドが奇声を上げた。しかし、自分達は困っている人々をほおっておいて

逃げる訳にはいかない。その為に此処を訪れたのだから。買い物が済んだら次にやる事。

この町のもっと詳しい情勢を知る為の情報収集である……。

 

「そう、話が聞きたいのなら取りあえず、北にある町長さんの家に行ってごらん、

けど、坊や達、いつまでもここにいるのはよくないよ……」

 

ジャミルは偶々井戸に水をくみに外に出てきたおばさんを捕まえて話を少しだけ

聞く事が出来たが。このおばさんも一刻も早く4人に此処から出る様にと勧めた。

 

「……折角そう言ってくれてるんだからさあ~……」

 

「……ダウドっ!そんな訳にいかないんだったらっ!!」

 

「冗談だってばあ~!アイシャっ、鞭握りしめてこっちに来るのやめてっ!

何か怖いんだよおお~!!」

 

「……何よっ!失礼ねえ!!」

 

まるでSM女王はバトルリボンを握ったまま呆れて膨れる。その姿に、

ジャミルも段々冷や汗が出てきた……。これでバタフライマスクでも着けられたら

もう完全にお仕置きを食らうのは目に見えていた。

 

「と、恐ろしい想像は此処までで……、どうする?今からこの町の町長さんとやらの

家に行ってみるか?」

 

ジャミルはそう言ってみるが、今日はもう遅いから明日にしようとのアルベルトの

言葉に、漸く休めるとダウドはほっとする……。4人は宿屋へ向かうが、内部は

全然ほっと出来る様な状態ではなかった……。

 

「……苦しい……、私は一体どうなってしまうんでしょうか……」

 

「うう、ダーリンしっかりしてよ……、折角のハネムーンがどうしてこんな事に

なっちゃったのよう~……」

 

中にはこの町に訪れた旅人カップルの旦那の方が病気に感染したらしく、宿屋のベッドに

突っ伏したまま、もう数日動けない状態に……。重い病原菌の感染者を移動させる訳にもいかず、店主も頭を抱えていた。

 

「いつになるか分かりませんが、このままだと私もいずれは病気に感染するのでしょうね……、ああ、こんな状態で宜しければお好きなお部屋をお使い下さい……」

 

店主はカウンターに頭を突っ伏したまま、泊まりに来たジャミル達の方を見ずに答えた。

 

「こりゃ事を急いだ方が良さそうだなあ~、マジで……」

 

「そうだね、僕らで何か出来る事があるのならば……」

 

こんな非常事態の中で、食事も当然出して貰える様な状況ではなく、4人は予め持参して

おいた予備用のパンを口に入れるが……。どうにもモンには足りないようである……。

モン処ではなく、ジャミルも当然腹は満たせなかったが、我慢するしかなかった。

 

……窓の外から見える月明かりを眺めながら、只管味の薄いパンを囓っていた。

ああ、リッカの作ってくれる飯が恋しいなあ~……、と、思いながら。

 

「……モシャああーーーっ!!」

 

「ちょ、モンーーっ!オイラの頭囓るのやめてえーーっ!あだだだだだっ!!」

 

「モンちゃん、やめなさいっ!……明日キャンディー買ってあげるからっ!!」

 

やはりモンスターの症が出るのか腹が満たせなくて我慢の出来ないモンが

ダウドに噛み付きそうになり暫く大騒ぎと化す。どうにか宥めるが、ダウドの

オールバックヘアは、モンの所為でぐちゃぐちゃになり、凄まじい無残な事態に。

 

「ああ、騒がしいなあ~、こんな時に……、こっちゃ疲れてるんだ、いい加減に

してくれよ……、冗談じゃないよ、私らは一体いつ死ぬか分からないんだよ……」

 

2階の部屋から聞こえてくるドタバタの騒音と騒がしい声に、カウンターにいる店主は

相も変わらず、落ち込んだままの状態でぶつぶつ呻いていた……。

 



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いつもあなたと 2

翌日。4人は昨日のおばさんに教わった通り、町の中央に有る大きな高台の屋敷へ。

……モンは今日もダウドに負ぶさっていたが、空を飛ばないのはお腹が空いて

徹底して機嫌が悪いのである。何せ宿屋もあの状態の為、当然朝食も無しなのだから。

 

「勘弁してよお~……」

 

「モン~……、でっかいキャンディはまだモン……」

 

背中に爆弾を括り付けたまま歩くダウドに他の3人は苦笑。またいつ爆発して

ダウドに噛み付くか分からない勢いのモンである。

 

(はあ~、何もしなくていいってサ、本当に楽チンね、マジで!るんるん!)

 

「……オメーもいい加減にしとけ、この傲慢ガングロ……」

 

「見えて来たよ、あそこじゃないかな?」

 

「おおー!だなあ!」

 

アルベルトの言葉にジャミルはひょいっと背伸びして見えて来た屋敷を見上げた。

だが、屋敷は高台にあるので、もう一踏ん張り彼所まで上らねば。

……爆弾を背負っているダウドはウンザリ。此処で待っていたいと駄々をこね始めた

物の、1人だけズルをさせる訳にいかないので無理矢理に引っ張って連れて行く。

ダウドは、じゃあモンのお守り交代してよおと言い出す。……じゃあ、私が交代で抱くわと、

アイシャがモンをダウドから引きずり下ろそうとするが、モンの方もどうしてもダウドの

背中がいいらしく降りようとしない。

 

「いやモンブー!」

 

「……背中ジャックらしいぞ、ま、気に入られちまったんだから、この際

もう暫く我慢してくれよ……」

 

「うわあああーー!!」

 

後ろの方で絶叫するダウドを尻目に、ジャミル達は只管、目的の町長の屋敷を目指す。

 

「こんちは……」

 

「はい……?」

 

屋敷の玄関の呼び鈴を鳴らすとメイドさんらしき女性がそっと顔を出す。

メイドさんは訪れたジャミル達に最初は首を傾げていたが、話を聞くと

自部屋で仕事をしているらしき町長を呼びに行ってくれた。

 

「……ふう、さっぱり読めん、……やはり古文書の解読はあいつに頼むしか

ないのか、ブツブツ……、とにかくこれ以上被害が広まる前に何とかせねば……」

 

「……」

 

居間で暫く待っていると、やがて禿頭の小太りの老人が現れた。

 

「おや、あなた方がお客人でしたか、これはどうも……、私はこの町の

町長を務めている者です……」

 

「初めまして、こんにちは、お忙しいところお仕事のお邪魔をしてしまいまして

大変申し訳ありません、僕達は……」

 

……こういう時はアルベルトに任せるのがベスト。アルベルトは丁寧に

自分達が此処に訪れた目的を丁寧に話して説明すると町長は納得。

 

「そうでしたか、今この町で起きている事について知りたいと……、良いでしょう……」

 

4人は町長の話に耳を傾ける。原因不明の突然の謎の流行病がこの町で流行りだし、

これまで幾人もの町の人間が亡くなっているという事を改めて聞く。

この流行病は、実は100年ほど前にも同じ様に町で流行していたらしい。

町長は何とかして治療法を探そうと、屋敷に現存する古い資料を探しあさって

いたのだが、古文書の解読が出来ず困り果てていたらしい。

……だが、この町に住む、唯一の学者のルーフィンと言う変わり者の男なら、

それが可能という事。現在はその学者に解読を任せているらしいのだが。

町長は自分でも何とかもう一度解読をしてみようと思ったらしいが、無理

だったらしい。

 

「学者……」

 

学者なら、当然本に囲まれて暮らしている筈である。今度はジャミルが嫌な顔をした。

 

「しかし、奴め……、そろそろ何か分かってもよさそうな物だが……、此方から

出向くのも尺だ……」

 

「あの、町長さん……?」

 

「お、おおお!そうだ、君たち、一つ頼めるかな?」

 

「はあ……」

 

町長は目を輝かせ、アルベルトの肩を掴んだ。何かお使い事が始まりそうである。

 

「君たちも様子が気になっておりませんか?どうですか?儂の代わりに、

ルーフィンの家までひとっ走り赴いて調査状況の様子を見ては来てくれませんか?

奴の家は儂の家から西の方角にある一軒家です、汚い家ですからすぐに分かると思います」

 

「はあ、それは構いませんが……」

 

「そうかそうか、頼まれてくれますか!では、儂は引き続き自分でも解読を

してみるつもりですので、では!」

 

「……」

 

町長は4人に学者の調査状況を頼むと自分は又さっさと自部屋に引き籠もってしまった。

 

「まだちゃんと返事してねえぞ、俺ら……」

 

「仕方ないよ、結局は動かなくちゃならないんだから……」

 

「それにしても、町長さん、何だかその、ルーフィンさん?……て言う、

学者さんに会うのを拒んでいる様な気がするんだけど……」

 

「ええ、ルーフィンは嫁いだ娘の旦那です……」

 

アイシャの声を聞き、話を聞いていた初老の女性が奥の部屋から姿を見せた。

どうやら町長の奥さんらしい。

 

「あ、ああ……、初めまして、お邪魔させて頂いております……」

 

「ええ、お話はずっと先ほどから……」

 

再び挨拶を始めたアルベルトに奥さんが返事を返した。

 

「……ルーフィン先生に古文書の解読を勧めたのは私なんです、主人と先生は

仲がとても悪くて……、町は大変な状況ですが、これを切欠に仲違いが収まって

くれればと思ったのですが……、このまま父親と旦那の仲が悪いままでは、余りにも

エリザが可哀想ですもの……」

 

「……」

 

4人は町長の家を後にする。このままでは仕方ないし、自分達もルーフィンの

調査状況が気になる為、今度はルーフィンの家へと足を向け歩き出す。

 

「ぶーがぶーが!モモンモン!」

 

モンはダウドに負ぶさったまま居眠り。今は一応は大人しく……してくれているみたいだった。

 

「……ぜんっぜん大人しくないよお!」

 

「おい、静かにしろよ、座布団が起きちまうだろうが!」

 

「そうよ、モンちゃんが寝てくれてる間に早く学者さんのお家にいかなくちゃ!」

 

「一通り、今日の事が終わればまた店で買い物をしよう、モンにも何か

食べさせてあげられるからさ……、ダウド、悪いけどもう少しだけ頼むよ……」

 

「……ううう~、ま、また爆発しませんように……」

 

……時折背中に当たっては割れるモンの鼻提灯を背に受けながらダウドも皆の後を

びくびくモンで歩いて行くのだった……。

 



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いつもあなたと 3

「こ、こんちはー!」

 

「はあーい!」

 

……4人は今度は変わり者らしい学者の家へと。ドアが開き、出迎えてくれたのは、

緑髪の前髪ぱっつんおかっぱヘアに大きなカチューシャリボンを着けた可愛らしい女性。

 

「ごめんなさい、ちょっとうたたねしちゃってて……」

 

「いや、急に来た俺らも悪いんだけど……」

 

「あっ、もしかして、ルーくんにご用ですか?」

 

「ルーくん……?」

 

「えと、ルーくんていうのは、ウチの主人のルーフィンのこと……、きゃ、やだ!私ったら!

主人だなんて!きゃー!てれるぅ!」

 

女性は顔を赤くして興奮し始めた。どうやらまだ相当の若奥様らしい。

町長の奥さんが言っていた、彼女が嫁に行った娘のエリザと言うのは間違いないだろう。

 

「あの、こんな処で立ち話もなんですから、どうぞ中へ、まだお掃除前で

お家、散らかっちゃってますけど……、あ、私はルーくんの妻のエリザです……」

 

「どうするか……」

 

「うん、色々と説明もさせて貰わなくちゃいけないし、お邪魔させてもら……」

 

「くんくん、何だか美味しそうな匂いがするモン……」

 

「……うわああーーっ!?」

 

アルベルトがそう言った途端、座布団復活。目を覚ましたモンはダウドの

背中の上で大口を開けた……。

 

「ダウドったらっ!大きな声出さないのっ!モンちゃんも駄目でしょっ!!」

 

「だってええ~……」

 

「モン~……、もうお腹ペコペコモン……」

 

「あらあら、随分と変わったお友達ですね、お腹がすいているのかな?そうだわ、

丁度クッキーを焼いていた処です、良かったらその子に……」

 

「モンーーっ!!」

 

クッキーと聞いて途端にモンが興奮し始めた。直後、モンは漸くダウドの背中から

離れ、ダウドも取り付き爆弾魔から解放された。

 

「ホ、助かったああ~……」

 

「モンちゃんたら……、ますます誰かさんに似てきたじゃないの……」

 

「んだよ!俺の方見んなよ!」

 

「プ……」

 

アイシャは横目でジャミルの方を見、アルベルトは吹いた。若奥様が

中に入る様に折角勧めてくれているので、4人は家の中へ……。

エリザに自分達の簡単な自己紹介も済ませた。

 

「どうぞ、少し焦げちゃったかなあ~、う~ん……」

 

リビングで寛がせて貰う4人……、と、+α。エリザは先ほど言っていた焼きたての

クッキーをお茶菓子に出してくれる。紅茶も淹れ立てで良い香りがした。

 

「モン!頂きますモン!……バリバリ!ムシャムシャ!!」

 

「!!モンっ!こ、こらーーっ!!」

 

「あ、あらら~?すご~い……」

 

モンは遠慮せず、皿の上のクッキーの山をペロリと平らげる。……食い意地の張った

ジャミルもこれには困り果て、モンを捕まえてデコピンしようとするのだが……。

 

「凄い食欲ね、良かったらもっと食べる?まだ焼けばあるから……」

 

「モォ~ン!」

 

モンがエリザに甘え始めた。調子に乗るモンをジャミルは慌てて成敗しようとするが、

エリザはいいんですよと手を振った。

 

「けど……」

 

「実は、お仕事を頑張るルーくんの為に、………ほら……」

 

「……うわ!」

 

エリザは顔を赤くし、大量生産で作ってある予備軍のクッキーの種の山を見せた。

つい興奮して張り切り過ぎて、作り過ぎてしまった為、どうしようか処理に

困っていた処らしかった。

 

「あはは、私ってドジだから……、また君は……、こんなにクッキーばっかり

食べられないよ!……、ってルーくんに怒られちゃう処でしたよ、ふふ……」

 

「はあ……」

 

そういう訳ならと……、取りあえずジャミル達は安心する。それから暫く後。

モンは見事クッキーの山を平らげ再び眠りについていた。……今度は安眠状態で……。

 

「ぶーがぶーが……、ゲブ……」

 

「モンちゃん、やっと寝てくれたけど……、本当に有り難うございます……、

ご迷惑お掛けしてしまいまして……、クッキーでお腹があんなに膨れてるわ……、

このお腹、破裂しそう……、全く、しょうがないんだから……」

 

アイシャは困った様な表情をしていた物の、デブチャンモンの状態に吹く寸前だった。

 

「いえいえ、此方も見ていて癒やされましたから、……こんなの久しぶり……」

 

エリザもそう言いながらモンのポンポコ腹に触れる。お腹を撫でられ気持ちがいいのか、

一発、モンは小さなおならをした。取りあえず、爆弾の方は何とか落ち着いた為、

いよいよ本題に入ろうと、ジャミルは町長の言付けをエリザに話し始める。

 

「そうでしたか、パ……、町長に頼まれて様子を見に……、ルーくん、今お仕事に

没頭中で研究室に籠もりっきりなんですよ、丁度いいわ、私も心配だから外にある

地下の研究室の方に先に回って鍵を開けて貰います、ルーくん人見知り激しいから」

 

「あ、エリザさん……」

 

ジャミルが言葉を続ける前にエリザは急いで席を立ち、外に出ようとした。だが。

 

「……い、つう……」

 

彼女は外に出ようとした際に、玄関の入り口で何故か頭を押さえて

そのまま立ち止まってしまったのである。

 

「奥さん……?」

 

「!?」

 

「!だ、大丈夫かい?具合悪いんじゃ……」

 

「ジャミル、何だかエリザさんの様子が……」

 

アルベルトも、モンの腹を突いて遊んでいたダウドも、アイシャも異変に気づき、

エリザを心配するが、彼女は自分を心配してくれているジャミル達に対し、

明るく、あはは、大丈夫ですよー!と、手を振った。

 

「私、偏頭痛持ちなんです、時々こうで……、困っちゃうんですよ!

本当に大丈夫ですから、さあ、私は先に行ってルーくんにお話しておきますね、

皆さんも来て下さいね!……ルーくん、研究に夢中になるとお風呂にも入って

くれないんだから!困っちゃう!」

 

ジャミルは玄関を元気に出て行く彼女の姿を見つめていたが、その姿に何だか

とても嫌な……、悲しい予感をうっすらと何となく感じ取っていたのだった。

 

「……けほっ、けほ、……こほん……」

 



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いつもあなたと 4

「どうする?俺達もそろそろ動くか……、あまり待たせると悪いしな」

 

「そうだね、じゃあ研究所の方に僕らも行ってみようか」

 

エリザが外に出て行ってから数分。ジャミル達も地下研究所の方へ

移動しようと言う事になった。

 

「モォ~ン!」

 

「ちょっ!モンっ!何でまたっ!」

 

機嫌の良くなったモンは今度は自力で移動してくれるかと思いきや、

再びダウドの背中の上に飛び乗ってしまった。

 

「モン、此処がいいんだモン!」

 

「良かったな、相当気に入られたな、お前、まあ、またご機嫌取りで

暫くの間は我慢してやれよ、何せ皇太子は我儘で困るからな……」

 

「モンモン!」

 

「あああーーっ!何でこうなるのさあーーっ!!」

 

「モンちゃんたら……、でも、よっぽど居心地がいいのね、ダウドの背中……」

 

「うう~、アイシャもさあ、笑ってる場合じゃないよお、何とかして……」

 

……ブモンッ!!

 

「……いやああーーっ!もうこんな生活いやだあーーっ!!」

 

また絶叫するダウドにジャミル達は苦笑。モンはクッキーの所為で更に重くなっており、

おまけにおならまでやられる始末。しかし、ダウドは今回の相当の被害者である。

最近はやたらとおならの回数も遠慮しなくなってきている為、これは完全にジャミルの

悪い教育の悪影響を受けているのである。

 

「……何だっつーんだよ……」

 

「それにしても、すっかり暗くなってしまったね、大分冷え込んできたし、

エリザさんにもご迷惑掛けてしまうから急ごう……」

 

夜空を見上げながらのアルベルトの呟きに、ジャミル達は地下研究所へ急ぐ。

……だが、再び爆弾を背負ってしまったダウドは相当大変そうであった……。

 

「……けほ、パパったら、ルーくんに会うのが恥ずかしいからって、何も

旅人さん達に頼まなくても……、ん~と、ルーくん、いる?」

 

「エリザかい?こんな時間に珍しいな、いるに決まってるよ、どうしたんだ?」

 

「お疲れさま、うん、ルーくんにお客様だよ……、パパのお使いの人が古文書の解読が

進んでいるかどうか訪ねてきてくれたんだよ」

 

「僕に……?ふん、そんなよっぽどの暇人が……」

 

「あ、ジャミルくん達、来てくれた、此処ですよー!」

 

「……」

 

途端に外が何やらやかましくなる……。研究所で独り引きこもり、黙々と

作業をしていたボサボサ髪の青年は読んでいた本をパタッと閉じ、椅子から

のそっと立ち上がる。

 

「ルーくん、鍵開けて下さいな……、あっ……」

 

ガチャリと音がし扉が開いた。姿を現したのは、後ろ髪を縛った仏頂面、白衣着用の

無精髭の眼鏡の青年……。胡散臭そうに、訪れたジャミル達をじろじろと見る。

 

(……こいつなんかすっゲーにおうんですケド!?クッサーー!!)

 

ジャミルの耳元でサンディが喚く。当然青年には聞こえていないが。

エリザが言ったとおり、恐らく数週間は風呂をシャットアウトしているのは分かる……。

 

「こんちは……」

 

「君達がお義父さんの……?こんなお子ちゃま達なのかい、仕方ない、お義父さんに

頼まれたんじゃな、しょうがない、入ってくれ……、しかし、あの人も一体何を

考えているんだか、こんな子供に……」

 

「……」」

 

青年は頭を掻きながら再び研究所へ引っ込む。折角来たのに無愛想な態度にジャミルは

むっとするが、声を出したいのを堪えて後に続いて研究所内へ。……先ほど、青年が

頭をぽりぽり掻いた時に何やら白い物が頭から飛んだのをジャミルは見逃さず。

 

「今忙しいんだけど、で、何の用……」

 

「……お~い、古文書の解読の件で来たんだよ!」

 

今度はジャミル、切れそうになるが、アルベルトが何とか注意して制した。

 

「ああ、そうか、古文書の解読結果ね……」

 

「ルーくん、その前にじこしょーかいしなくちゃ!」

 

「しても何の得にもならないと思うんだけどな、面倒くさいな、えーと、

初めまして、ジャミルさんですか?まあ、出来るだけ覚えておきますよ、

すぐに忘れると思いますが、僕はルーフィン、考古学などをやっています、

……まあ、こんなところかな」

 

「ぱちぱち、ぱちぱち!ルーくん、えらいえらい!」

 

面倒臭さ100パ状態でジャミル達に挨拶をした旦那に奥様は拍手。

……一体この夫婦はなんやねんとジャミ公は思ったが……。

 

「そんな事よりも、この奇病の原因が一応、漸く分かりましたよ……、

一応ね……」

 

「さっすがルーくんっ!」

 

ルーフィンの言葉にジャミル達も思わず身を乗り出す。この男は無愛想で一見嫌な

感じではある物の、やはり奇抜な相当の奇怪な天才らしかった……。

それにしても、天才と言うのはやはり何処か変わり者が多い。

 

「えーと、一度しか説明しませんので……、事の起こりは100年ほど前、

この町の西にとある遺跡が発見された事です、遺跡を発見したベクセリアの民が

事もあろうに軽々しく遺跡の扉を開いてしまった事から始まりました、

その中には、病魔と呼ばれる恐ろしい災いが眠っている事も知らずに……、

その病魔こそが今広がっている流行病の元凶と言う訳です……」

 

「あ、ルーくんのおズボンのチャックチャック!封印がひらいちゃってる!」

 

「……エリザ、いいから……、古文書によると、病気と言うよりは、

一種の呪いだった様ですね、当時の人々は病魔を封印し遺跡の入り口をほこらで

塞ぐ事により、呪いから逃れたと言われています」

 

「モォ~ン、モォ~ン、モンモンモーン!ぽーこぽーこモン!」

 

「……うう、オイラのこれも……呪いなんでしょうか……」

 

モンはダウドの頭を太鼓代わりにし、キャンディーの棒をバチにして

頭をぱこぱこ叩きながらご機嫌で遊んでいた。

 

「噛み付かれるよりいいでしょ、少しは我慢して遊んであげてよ!」

 

そうは言いますけどね、じゃあ、アイシャちゃん、あんたも叩かれてみなさいよおと、

ダウドは只管思うのであった。

 

「……何だあれは……、とにかく、今回又、この現代に再び病気が流行りだしたのも、

もしかしたらこの間の地震で西の遺跡に何か異変が起きて封印に支障が出たのかも

知れませんね……」

 

「病魔が復活したのも、遺跡に異変が起きている所為……、ですか?」

 

「その通りです、早い話、それが本当なら遺跡に赴いて病魔を再び封印すれば

いいだけの事ですよ、……この町でそれが出来るのは僕だけしかいないでしょうね……、

素人には出来ない仕事ですよ」

 

ルーフィンは眼鏡を押し上げて、言葉を尋ねたアルベルトの方を見てにやりと笑った。

 



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いつもあなたと 5

ジャミルは仲間達を研究所の方へ残して、自分一人で一旦町長の家へと

報告に戻って来ていた。……ルーフィンが愚痴を言い出した為でもある……。

 

 

「もしかしてルーくんがこの町の為にほこらの封印を直しに行ってくれるの?」

 

「そりゃあ上手くいけばお義父さんも僕の事を認めてくれるだろうし、何より

あの遺跡を調べられる又とない機会なんだから行きたいのは山々さ、

……でも遺跡には凶悪な魔物も出るらしいし、わざわざ出かけていって怪我を

するのも馬鹿らしいな……、ちら……」

 

「……」

 

「僕ならほこらの封印を直す事も出来るけど、とにかく危険に巻き込まれるのは

どうもね、馬鹿らしくて、……ちら!研究の為に遺跡には行きたいけどさ……」

 

「……」

 

 

「……と、まあ、こう言う訳だよ……」

 

「ふむふむ、そうでしたか。この病気の原因は全て西のほこらから来ていると……、

なんと恐ろしい……、病魔の復活ですか……、ほこらの封印を直せるのはルーフィン

だけですと……」

 

「そ、奴は危険に巻き込まれるのを嫌がって遺跡に行くのを拒んでんだよ!」

 

「ならば護衛をつけてやればいいのですね、分かりました……、ジャミルさん、

あなたは見たところかなり腕が立ちそうですね、どうですか?ルーフィンの護衛を

お願い出来ませんでしょうか?」

 

「……何ですと?」

 

「勿論タダでとは申しません、此方としてもそれなりのお礼はさせて頂く

つもりですが、いかがですかな?」

 

「……分かった……」

 

「おお、流石ですな!それではお願い致します!この町の人々の為に!」

 

「……」

 

ジャミルは町長の屋敷を出、再び研究所へと戻るが、何となく気分が悪かった。

あの傲慢考古学者のガードマンを引き受けるのが気に食わなかったのである。

町長から受け取ったほこらの鍵を握りしめながら複雑な面持ちで研究所までの

道のりを歩いて行った。……其処へ、無言のジャミルの前に、暫くぶりで妖精体の

サンディが姿を見せた。

 

「やったじゃん!これで町の人にカンシャされればアンタ、ガッポガッポ星のオーラ

大もうけヨ!おまけにクソチョーチョーもご褒美くれるっていうしサ!こりゃアンタ

いっちょ頑張るしかないっしょ!天使のチカラを取り戻せる日もそう遠くないって

カンジ!」 

 

「……うるさい!俺は別に褒美が欲しくて引き受けたワケじゃねえんだよ!」

 

「別に意地張んなくてもいいっしょ?みんな欲のカタマリなんだからサ、アンタもね!」

 

「……こいつ……」

 

サンディはジャミルを馬鹿にした様に笑うと再び姿を消す。……ジャミルは益々

気分が不愉快になっていった。……そして、イライラの中、漸く研究所へと戻った。

 

「あれっ?その鍵は……、もしかしてお義父さんが僕の護衛をあなたに

頼んだですって?……まさか……」

 

「!うそっ、パパがルーくんの為に!?」

 

「そういう事、しっかりアンタの護衛を務めてくれってさ!」

 

「なるほど、あなたはお義父さんの手の者と言うワケですね、これは見事に

ハメられましたね、分かりましたよ、行けばいいんでしょう!僕が口先だけの

男じゃないって事を証明してやりますよ!」

 

「……あのなあ!」

 

「ルーくん、それはちょっと違うんじゃ……」

 

「そうと決まれば僕は先にほこらへ行っています、ほこらの場所は

この町を出てずっと西に行った処です!それではお先に!」

 

「……ルーくんっ!?」

 

「だからさあ、あのな、おいっ!」

 

ジャミル達の言葉を聞かず、ルーフィンはさっさと研究所を飛び出す。

……頭のフケを落としながら……。ジャミル達も研究所の外に出るが、

すでにルーフィンの姿は見当たらず。

 

「あの、もう夜中になるんですけど……、オイラ達、それでも今から行くの……?」

 

「仕方ないよ、もう行ってしまったんだもの、それにしても、足が速いんですね……、

姿が何処にも見えませんよ……」

 

「すみません、ルーくん興奮すると俊足になっちゃうみたいで……」

 

「はあ……」

 

只管頭を下げるエリザにアルベルトはワケ分からんと言う表情をするが。

 

「とにかく奴を追い掛けねえと、急がなくちゃな……」

 

「そうね、怪我でもしたら大変だもの!」

 

「ううう~、休む暇なしだよお~……」

 

「ぽーこぽこ、ちんぽこモン!」

 

「……ジャミル……」

 

腰に手を当て、凄い顔でアイシャがジャミルの方に迫って来た……。

 

「んだよ!俺何も教えてねえぞ!」

 

「モンちゃん!下らない事覚えるんじゃないのっ!いい加減にダウドの頭を

叩いて遊ぶのやめなさいっ!!遺跡に出発するのよっ!!」

 

「やーモン!」

 

ぶち切れアイシャ、ダウドの頭からモンを遂に引きずり下ろす。……もっと早く

下ろして下さいよお~、と、ダウドは不満顔。

 

「……ブブーのブーモン!」

 

「どうも皆さん、本当にすみませ……う、……ケ、ケホっ!!」

 

「エリザさん?……だ、大丈夫かっ!?」

 

「エリザさんっ!!」

 

……エリザが突然激しく咳き込みその場にしゃがみ込んで蹲ってしまったのである。

皆は慌ててエリザに駆け寄るのだが……。

 

「大丈夫です、心配しないで……、研究所がほこりっぽかったから……、

すぐにほこりを吸っちゃうんですよ、お掃除させてよって、ルーくんに何回も

言ってるんですけど、彼方此方いじられたくないみたいで……、困っちゃいます」

 

「だけど……」

 

「私の事よりも、どうかルーくんの事、お願いします、ルーくん、我儘で、

意地っ張りでどうしようもないけど……、でも、私にとって大切な、大好きな

たった一人の、……世界で一番の旦那様なんです……」

 

「エリザさん、アンタ其処まで……」

 

エリザはジャミルの顔を真剣に見つめる。直後……。

 

「きゃあーっ!なーんか言ってて照れちゃいましたー!はずかしー!」

 

「……」

 

先ほどまで苦しんでいたエリザはあっさりと元気になり、暴走し始める。

まあ、大丈夫かと、ジャミル達は苦笑。エリザは笑いながらジャミル達に手を振り、

家へと戻っていった。何度も何度もルーフィンの事を4人にお願いしながら。

 

「さて、俺らも行きますかね、傲慢考古学者さんの護衛にさ……」

 

ジャミル達も今夜は徹夜作業覚悟で遺跡へと動き出した。……エリザの元気な

姿を見れたのはこれが最後であった。4人も。そして。ルーフィンも。

 



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いつもあなたと 6

「随分と遅かったじゃないですか、早くほこらの鍵を渡して下さい!

それがないと中に入れませんからね!あなた達は僕をちゃんと護衛するのが

仕事なんですから!しっかりやって下さいね!頼みますよ!」

 

先に遺跡に到着していたルーフィン。後から漸く遺跡に着いた4人に愚痴を連発。

幸い、遺跡までそれ程時間は掛からず、思っていたよりも早く着いたのだが。

それでも短気なルーフィンには不満だった様である。

 

「うわ、何か嫌な態度だなあ……」

 

「ダウド、黙ってろよ、病魔を封印出来るのはアレしか出来ねえんだから、

下手に怒らせて機嫌損ねて、町へ帰っちまったら困るんだよ、……むかつくけどよ」

 

ジャミルも何となく愚痴ってみるが、糞威張りするルーフィンの態度は最悪。

……ジャミル達だって動きっぱなしで疲れているんである。

 

「……このおじさんのおけつにカンチョーするモン!」

 

「だからモンちゃんやめなさいっ!どうして碌でもない事覚えるのっ!?」

 

「俺の方見るなっつてんだよっ!ジャジャ馬っ!」

 

確かに最近のモンは悪戯が相当酷くなって来た様である。

ルーフィンはモンの暴言に気づかず、先頭を切ってずんずんと

遺跡の中へと入っていった。

 

「ふむ、見て下さいこれを……、やはりあの地震でほこらの壁が崩れて

入り口がむき出しになっています、やはりこうなると、この奥にある

病魔の封印もどうなっているか、たまったモンじゃないですね、

さあ、早くこの先へ進みましょう」

 

「たまったモン、モン……、モンがたまってるモン?」

 

「オメーはいいっての、ほら、早く奥に行こうぜ!」

 

「そうだね、早く終わらせてしまいたいよ……」

 

「何だか眠くなってきちゃったわ……、でも頑張らないと……」

 

「ねえ、ジャミル、……オイラちょっとジャミルに言いたい事があるんだけど!」

 

「な、何だよ……」

 

異様にダウドが真剣な目でジャミルの方を見ている。何か言いたい事がある様だが……。

 

「オイラはトラマナ覚えないよ!もっと経験値稼げやって言ってたけどさ!

……書いてる人が間違えたんだよ!だからオイラ僧侶のままじゃ永遠にトラマナは

習得しないからね!良く覚えておいてよ!分かった!?」

 

「分かったけど……、糞威張りして言う事じゃねーっての!大体そりゃ

自分で言ったんだろうがよ!」→※悪いけど、オイラまだ、トラマナ覚える

LVじゃないですから!

 

「あいたっ!!」

 

是が非でもどうしてもダウドはジャミルに殴られるのである……。

 

「トラマナ覚えるのは私の方よ、もう習得出来てるけど……」

 

「あなた達!何してるんですか!早く来て下さいよ!!僕は忙しいんです!!」

 

4人に文句を飛ばすルーフィンの罵声。

 

「それにしても、今何時なんだよお、完全に深夜だよねえ~……」

 

「寝不足はお肌に悪いんだから……、ふぁ……」

 

「はあ、腰が痛くなってきた……、こんな事ジャミルに聞こえたら

又爺さんとか、からかわれてしまうよ……」

 

「モーンモンモン!ぽんチンも~ン!」

 

「おい……、モンっ!今度は俺の頭を叩こうとするのやめんかいっ!」

 

4人はそれぞれブツブツ言いながら、パシリ覚悟でルーフィンの後へと続く。

が、中に入った途端、既にルーフィンの姿は見えず……。4人が愚痴っている

間に高速で移動し、遺跡の何処かへ行ってしまったらしい。

 

「あんにゃろう……、ゴキブリかよ!」

 

と、もう少し中に暫く進んで見ると、正面に石碑があるのを見つける。

何やら文字が刻んであるが。

 

「……?」

 

「ジャミルどいて、僕が見る……、ふんふん……、二人の賢者の目覚めし時、

赤き光と青き光が蘇る……、導きの光照らし出す時、閉ざされし扉はひらかれん、

……らしいよ」

 

「俺、頭悪いからさっぱりわかんねえなあ~……」

 

「あら、この奥に扉が立ち塞がってるわね……」

 

「とにかく、このフロアに何か仕掛けがあるんだろう、それを解いたら

この扉が開いて先に進めるって事かな……」

 

「お約束だよお、3の時のピラミッドの石の扉と同じだねえ」

 

「……ダウド、今は世界が違うんだから、あまり前の話の事は

ほじくり返さないんだよ……」

 

「ふぁ~い、オイラも泉の件、ほじくり返されたしね……」

 

遠い目でダウドはジャミルの方を見るのであった……。

 

「やれやれ、しかし、あの傲慢考古学者は何処に行ったんだかよ……、

まああれじゃモンスターも逃げ出すか、殺しても大丈夫っぽいしな」

 

……それはアンタだろうとアルベルトは思った。

 

「でも、無茶してないといいけど……、心配ね……」

 

4人は再びフロア内を疲れた足で歩き出す。流石に今回はモンは普通に

ふよふよと宙を飛んで移動していたが。

 

「ルーフィンさんも……、エリザさんに……もう少し気配りがあればいいと

思うのだけど……、自分の事ばかり考えて、あまり奥さんの方を見ていない

気がするの……、でも、エリザさんは本当に心からルーフィンさんの事が

大好きなのね……」

 

「……」

 

このアイシャの呟きは、後に夫婦に起きる悲劇を予感させていた……。

 

「モンっ!?」

 

「モン、どうし……、おおおっ!?」

 

銀色に輝くトンガリ物体。……餌。3でも騒動の種になったメタルスライムさん登場。

 

「ジャミルっ!今回はあまり暴走してる暇はないんだよっ!またあの人に

どやされてしまうよ!」

 

「わ、分かってるよ、けど、出ちまったんだから一応よ……」

 

「しょうがないなあ……、行こう!」

 

「やっぱりどうしても3時代を思い出すよお~……」

 

アルベルトが剣を構え、アイシャとダウドも戦闘態勢に……、入る前に逃走される。

 

「……きいーっ!どうせ逃走すんならわざわざ出てくんじゃねーっ!バカタレっ!!」

 

「代わりに違うのが来たモン」

 

逃走したメタルスライムの代わりに別のモンスターが何か来た。

……はにわナイトとミイラ男である。仕方なしに4人は相手をする。

休む暇無しのお疲れ様の4人組。……バトりながら只管欠伸を

連発していたのであった……。早く仕事を終わらせて一刻も早く暖かい

ベッドに入りたかった。……今はただそれだけであった。

 



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いつもあなたと 7

アルベルトの知恵もあって遺跡内の仕掛けをどうにか解いた4人。左上の

フロアと右上のフロアにある石像をごちゃごちゃいじった後、塞がれている扉の

前に戻った処、扉が開いて先に進める様になっていた。

 

「それにしても眠いよお、もうオイラ限界……」

 

「ダウド、頑張って……、もう少しよ……」

 

アイシャに励まされながらもダウドは立ったまま居眠りをこきながら歩いて行った……。

 

「遅いですよ、やっと来ましたね……」

 

「おい……」

 

すでに中には傲慢考古学者がいた。何処かに隠れていて、タイミングを見計らい

扉が開いた瞬間、さっさと中に入ったのだろうか。

 

「見て下さい、古文書で見たとおりです、彼所に転がっているのは

病魔を封じていた封印の壺ですよ……」

 

「ひいいーーっ!?き、危険物だぁぁっ!?」

 

居眠りをこいていたダウドはその一言を聞いてすぐに目を覚ました。

 

「やはり地震で壊れているな……、封印の紋章が描かれた部分は壊れていない、

これなら何とか楽勝だな、後はこの僕が発明した接着剤でさっさと壺を直して

再び病魔を封印してしまえば……、まずは散らばっている破片を集めて……、と、

なあに、一流の考古学者ならこれぐらい朝飯前ですよ!」

 

……随分なげえ独り言だなあと、ジャミルは思った。しかし今はこの男に

全てを任せ見守るしかなかった……。

 

「ジャミル、皆!何か来るよっ!!」

 

アルベルトの叫びにジャミルは身構える。壺を直そうとしたルーフィンの前に

ピンク色の悍ましい姿のどろどろした不気味な姿の病原体モンスターがたちはだかる。

恐らくこいつがベクセリアの人々を苦しめている全ての元凶の病魔である。

間違いは無い。……病魔は4人とルーフィンに向かってイミフ口調で喋り掛けて来た。

 

「オろかナる しんニュウ者ヨ ワれヲ ふたタビ 封印せンと

やッテキたか……  ソうハさセヌ…… さセヌぞォォ! なんジに

病魔の ワザワイあレ!あレ!あレ! ワれのジャマをスる者 すベテひトシク

死あルのミ!のミ!のミ!のミ!」

 

「出やがったな!この騒動野郎っ!!てか、ちゃんと喋れっ!!」

 

……だからそれはアンタもだよ……、と、アルベルトは思う……。

 

「モンちゃん、何処か安全な場所に隠れて!すぐに終わらせるからね!」

 

「分かったモン、アイシャもみんなも気をつけてモン!」

 

「あっ、じゃあオイラも一緒に……」

 

「「だーめえええーー!!」」

 

ダウド以外の3人。……ダウドに顔を近づけ一斉に声を揃えた……。

 

「……分かってますよお、皆してハモらなくたっていいじゃん、ぶつぶつ……」

 

「まだ壺を直してないのにっ!あなた達っ、僕が壺を直している間に

時間稼ぎをしておいて下さいね!さっさと早くこいつを倒しちゃって下さい!

……決してそいつを僕に近づけさせない様にっ!!頼みましたよっ!!」

 

「やれやれ、今回最大級級のパシリ仕事だよな……、ま、仕方ねえけどよ……」

 

ジャミルは壺を抱えてその場から何処かへと逃走する傲慢考古学者を見送る。

ルーフィンが此処でやられてしまっては元も子もない。壺が直るまで此処で

病魔モンスターを食い止めなければならない。4人はバトルモードへと入った。

 

「……全く、冗談じゃない!しかし奴らちゃんと役に立つんだろうか、しっかり

戦って食い止めておいて貰わないと!でも、もしもあいつらが倒れたら終わりだなあ~……」

 

……ルーフィンの暴言にも負けず、ジャミル達は必死で身体を張って病魔を食い止める。

毒を食らい、甘い息で眠らされ……、散々な目に遭いながらも真夜中の死闘を繰り広げて

いた。そんな中、傲慢考古学者は等々壺の修復に成功した……。

 

「はあ、もうMPもないねえ……、オイラもう駄目だよお~……、絶望……」

 

「毒消しも薬草も……、もうないわよ……」

 

「くそっ、まだかよ、おっさんはっ!俺らだって限界だぞ!」

 

「みんな、もうあと少し、もう少し頑張ろう……、……ルーフィンさん……?」

 

「!!」

 

「やっと直りましたよ!おお、丁度いいタイミングだった様ですね!」

 

ズタボロの4人の前に、逃走していた傲慢考古学者が走って来た。修復した壺を脇に抱えて。

しかし、病魔も大分追い詰められており、病魔の身体は既に頭部のみと化していた。

だが、最後の力を振り絞り、病魔も4人に止めを刺そうとしていた。雅に、やるか

やられるかのその時であった……。

 

「おのレのレ わが呪イよ…… コのオろかナる者どもに 死の病ヲ……」

 

「お、おっさん!……早くしてくれーーっ!!」

 

「ふふ、やはり最後はこの僕の出番ですね!さあ封印の壺よ!悪しき魔を封印せよ!」

 

ルーフィンが壺を掲げた途端、病魔は一瞬にして壺に吸い込まれた。

……最後までイミフの不気味な声を発しながら……。

 

「ぎゅバばバばバば……」

 

こうして、小さな英雄達と一人の男の奮闘により、等々病魔は再び封印された……。

 

「はあ~、や、やっと……」

 

「今回も……終わったね……」

 

「もう嫌ら……、勘弁してえええ~……」

 

「……」

 

「見てましたか、ジャミルさん!僕が病魔を封印したんですよ!この僕が!

……ふっ、ふふふふ……、これでお義父さんも僕の事を認めざるを得ないでしょうね!」

 

……その場に疲れてしゃがみ込むジャミル達に対して何の心配もしようともせず、

ルーフィンは病魔を封印した事による自らの才能にただ只管酔いしれていた。

 

「ジャミル、みんな、……大丈夫モン?お疲れ様モン……」

 

「モンか……、どうにか無事に終わったよ、ま、これで町の方も

落ち着いたんじゃねえかな……」

 

「モン……、でもみんな……傷だらけモン……」

 

「さーて、やる事はやったし、これで安心して遺跡の調査にも手がつけられますよ、

あ、あなた方はもう戻って結構ですよ、いても気が散りますし、邪魔になるだけですから、

それじゃ、僕はこの奥を調べて来ますんで!報告の方は頼みますよ!」

 

「……」

 

……傲慢考古学者は遺跡の奥へと走って行った。余りにも自分勝手で冷たいその態度に

呆れてジャミル達はもう怒る気さえも起きなかった……。疲れていた所為でもあるが……。

 

「シャアーーー!!」

 

「モン、いいよ、それより早く戻ろうぜ、もう完全に夜明けだ……」

 

「でも、キメラの翼ももうないわね……」

 

「帰りも徒歩になってしまうけど、仕方ないよ、もう少し我慢しよう……」

 

「……徒歩ほのほお~……、だよお……」

 

すっかり夜が明けてしまった帰り道を……、4人は重い足取りで町へと帰って行った……。

 



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いつもあなたと 8

4人が再びベクセリアに戻って来た頃には更に日は昇っており……、町の人も

皆新しい一日を迎え、動き出す頃。しかし、今まで家に引き籠もっていた人々が

動き出していたと言う事は、もうこの町から病魔の脅威が完全に去り、平和を

取り戻したと言う証拠でもあったのである。

 

「おおっ、あんた達!お帰り!昨夜町長さんから聞いたんだよ、

ルーフィン先生と一緒に遺跡へ病魔を封印しに行ってくれたんだって!?

だからもう何も心配しなくていいんですよって、町長さんの言ったとおり

だったんだな!」

 

「はあ……、どうも……」

 

町民達は4人組の姿を見かけた途端、集まって来る。……昨日までとはまるで

打って変わって町の中を漂う風も雰囲気も本当に流れが変わり、穏やかな感じに

なりつつあった。

 

「して、ルーフィン先生……、いや、大先生は一緒じゃないのかい?」

 

「いや、まだ調べ物があるから残るって、俺ら先に戻って来たんだよ」

 

「そうか、いやあ~、あんたらが町を出てってから暫くして、苦しんでいた

病人達がみんな元気になったんだ、いやあ、本当にあのルーフィン先生って

凄い大先生だったんだな!」

 

「……」

 

「いや、先生の事ばっかり褒めてる様に見えるけど、わしらあんたらにも

本当に感謝してるんですよ、あんた達がいなきゃ、そもそも先生は封印のほこらに

行けなかったって話ですから……、先生は元々あのほこらを調べる為、この町に

やって来たんですよ、けれど、町長さんが町の掟に反するからと、ずっと拒んで

いた様ですね……」

 

「なるほど……、な、どうりで仲があまり良くなかったワケはその辺にも

あったのか……」

 

「後は……、先生にも、もう少し人を思いやる気持ちがあれば、

エリザちゃんも苦労しないだろうにねえ……」

 

「まったくだよお、……威張ってばっかで冗談じゃないよお!」

 

「あはは……、それでは僕らは町長さんの所へ遺跡の報告に行きますので、

皆さんもどうかゆっくり身体を休めて下さいね……」

 

「兄ちゃん達もなあ、事が終わったらしっかり休んでくれよ!」

 

愚痴るダウドの背中を突いて笑いながらアルベルトが先に歩き出す。

その後をジャミル、アイシャが歩いて行き、モンも宙をふよふよ飛んでいった。

再び町長の家を訪れたジャミル達を町長は喜んで出迎えてくれた。

 

「おお、待ちかねましたぞ、ジャミルさん達!本当にご苦労様でした!

どうやら病魔とやらの封印は上手くいったようですな……、まさかあの男が

本当にやってくれるとは!……して、奴は何処に……?姿が見えない様ですが

……」

 

「うん、実はさ……」

 

「そうでしたか、あの学者バカめ、少し見直してやったかと思ったらこれか、

まあそれもよかろう、今夜は祝いの宴だ、ジャミルさん達も是非、顔を出して

下さい、エリザにも伝えておいてくれませんか?奴の活躍を聞けばさぞかし

エリザも喜ぶ事でしょうて……」

 

「ああ、そうさせて貰うよ、みんな、俺らも一旦宿屋に戻って休もうや、

……まるでドラキュラ状態だよ、あふう~……」

 

ジャミルが欠伸をすると、釣られてアルベルト達も欠伸する。……モンも

一緒に大口を開け、グロテスクな凄まじい欠伸をした……。

 

「ジャミル、休む前に先にエリザさんの所へ寄った方がいいと思うの、きっと

ルーフィンさんの事、心配してる筈だわ……」

 

「そうだね、町長さんにも頼まれてるしね……」

 

「うん、そうだよお、ぐう……」

 

またダウドは突っ立ったままくうくう居眠りしながら喋っている。しかし器用である……。

くっちゃべっていると、町長の奥さんが皆の所にやって来る。

 

「お疲れの処、お手数お掛けしてしまいますが、御願いします、エリザったら、

近くに住んでいるのにお嫁に行ったらあまりこっちには顔を出してくれないんですもの

……、親としては寂しいわ……」

 

「分かりました、じゃあ、俺らこれで一旦失礼します……」

 

ジャミル達は外に出て、エリザの住居へと向かう。玄関のドアを叩いて

エリザを呼ぶのだが……。

 

「ちわ、エリザさん……、俺らだよ、帰って来たよ、報告があるんだ、

……入ってもいいかな?」

 

しかし、返事はなく、エリザが一向に出てくる気配もない……。

 

「ありゃ、出掛けちまってるのかな……」

 

ジャミルは試しにドアノブを回してみるが、鍵は掛かっていない。

 

「エリザさん……?」

 

ジャミルの胸に、何となくチクリと痛みが走り、昨夜エリザが家から出て行った時の

あの悲しい予感が込み上げてきたのである……。

 

「一応……、確認してみるか、申し訳ねえ、泥棒じゃねえんだけどさ……」

 

「よく言うよお、……元世界じゃシーフじゃん、オイラ達!」

 

「るせー!バカダウっ!……おーい、エリザさーん!」

 

ジャミルはダウドに罵声を飛ばした後、急いで中へ。……寝室にエリザはいた。

彼女は静かにベッドに横たわって休んでいた。だが。

 

「エリザさん、具合でも悪……」

 

彼女の顔は血の気がなく、生気もなくなっていた。ジャミルはそっと彼女の手に触れる。

……だが既に脈もなく、冷たく身体も冷えきっていた。

 

「嘘だろ……?冗談……だよな?」

 

「ジャミル、どうしたのっ!?」

 

後に続いて寝室にアイシャ達も駆け込んでくる。……ジャミルは振り向いて、後から来た

仲間達の顔を見て悲痛な表情を見せた……。

 

「エリザさんが……死んでる……息……してねえよ……」

 

「!!う、うそうそ……!嘘よっ!!」

 

「!!」

 

「……な、なんでえええ~……?」

 

「モン~……」

 

仲間達も何が起きたのか分からず、目の前で起きている事態を認識出来ず

受けいられずパニック状態に……。其処に……ルーフィンが帰宅し寝室へ……。

 

「ただいま、エリザ、あの遺跡の調査にはしかるべき資料が必要でね、取りに戻って

……、ああ、あんた達ですか、お義父さんに報告はしてくれたんでしょうね?」

 

「……」

 

「何ですか、その面白くなさそうな顔は……、僕に何か不満があるんですか?

いいですよ、言いたい事があるなら承りますが……!?」

 

しかし、ジャミル達は何も反論せず俯いて只管黙りこくる。……下を向いて。

ルーフィンはそんな4人の態度を見て不審に思ったのか首を傾げる。そして、

漸く気づくのである。ベッドの上に横たわったままの変わり果てたエリザの姿に……。。

 

「……エリザ?どうしたんだい……、返事をしてくれよ、ま、まさか……、

死んでいる……のか?……嘘だ……、冗談はやめてくれよ、僕は忙しいんだよ、

……な?……やめてくれよ、ふざけるな、怒るぞエリザっ!……!!」

 

「……」

 

ルーフィンは半狂乱で必死で彼女に呼びかけ、身体を揺さぶる。しかし、もうエリザが

返事をする事は二度と無かった。……あの可愛い笑顔で、ルーくん……、と。

エリザが昨夜咳き込んでいたのはホコリなんかの所為ではなかった。あの時既に危険な

死の一歩手前の状態だったのである……。自分の死を予感しながらも、彼女は只管

堪えて耐えていた。苦しみを誰にも告げずに笑顔で。心配掛けない様。

 

「まさか君も病魔の呪いに掛かって……、でも、病魔はちゃんと封印した筈だ、

町の連中だってもうとっくに治っている……、もしかして、僕が病魔を封印した時に

君はもう……、遅かった……のか……?どうして……、どうして……、もっと早く

言ってくれなかったんだ……、君が病魔に犯されていると知っていれば……、

もっと早く……急いだのに……、うう、エ、エリザぁぁぁ……」

 

……傲慢考古学者はジャミル達が側にいるにも関わらず、声を荒げ泣いた。

まるで小さな子供の様に。あの我儘で傲慢で自分の事しか考えていなかった

あの彼が……、大粒の涙を流し絶叫した。冷たくなった妻の遺体を目の前にし……。

自身の地位と名誉の為、引き換えに失った代償は、余りにも悲しく、大きすぎた……。

……本当に心から大切にしていた宝物を失う事になったのだから……。

気づいた時には余りにも遅すぎたのである……。

 



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いつもあなたと 9

翌日……。悲しみの中、しめやかにエリザの葬式が行われた。彼女の亡骸は

丘の上にある墓地へと埋葬された。町は平穏を取り戻したが……、人々はまた新たな

大きな悲しみの中へ包まれる事になった……。

 

「ベクセリアの民は試練を乗り越えました……、しかしその結果……、我々は

かけがえのないもの……、エリザさんを失いました……、この犠牲は余りにも重く、

そして……、我々の心にのし掛かって来ます……、ですが彼女は私達に人がいかに

強くあれるかを教えてくれました、残された私達は彼女の言葉に学び悲しみを

乗り越えていかなくてはなりません、さあ、うれいなく彼女が天に召されますよう、

どうか祈りましょう……」

 

「……」

 

神父の言葉に悲しみの沈黙が走る。町の皆は皆涙を流しながら黙祷を捧げ

エリザの冥福を祈った。町民の後ろの方の列でエリザの葬式を見届けている

ジャミル達も……、静かに目を閉じた。

 

「モン……、クッキーのおねえさん、遠い遠いお空に行ったんだモン、モン、分かるモン、

悲しいモン……、お胸がずきずき痛いんだモン……」

 

「モンちゃん……、皆も私も悲しいのよ……、でも、一番悲しいのは……」

 

「モォ~ン……」

 

アイシャは涙を零しながら静かにモンを側に抱き寄せた。アルベルトもダウドも……、

エリザの納棺から……、先程の神父の言葉まで一言もずっと言葉を交わさず無言で

彼女の旅立ちを見守っていた。ジャミルはそんな仲間達の様子を振り返りながら

只管心配していた。一仕事終えて、漸く休めると思った矢先にこんな悲しい出来事が

起きてしまい、心までも休める状態でなくなっていた。……結局、あれから4人とも

一睡もしていない状態である……。

 

「……ううう、エリザ、……エリザあああ……」

 

「しっかりしなさい……、しかし、ルーフィンの奴め……、娘の最後にも

立ち会わんで一体どういう心境なのだ……」

 

……エリザの墓の前で泣き崩れる奥さんを町長が必死に慰める。ルーフィンは

あれから研究所の方に引き籠もってしまったらしく、エリザの葬式にも

決して姿を見せようとしなかった。彼女の死を受け入れられないのか、

……認めたくないのか……。ジャミル達も心配はしているが……。

 

「なあ、俺、おっさんの処へ行ってちょっと様子みてくるわ、このままじゃ

エリザさんがあんまりだよ、……辛いのは分かるけどよ、……何考えてんだよ!」

 

「あ、じゃあ、僕らも……」

 

「いや、お前らは駄目だよ、ずっと寝てねえんだから、少しでも休んどけよ!

大丈夫さ、俺が行ってくるから!それに余り大勢で押し掛けても逆効果だしな……」

 

「でも、ずっと休んでいないのは君だって同じじゃないか、目の下のクマ凄いよ……」

 

「わ、分かってるよ、少しだけだよ、様子見たらすぐに宿屋に戻るからさ、

特にそこの……、ジャジャ馬が心配でよ………」

 

アルベルトもダウドもアイシャの方を見る。特に彼女はずっとぐしぐし、泣きっぱなしの為、

疲労の上に悲しみが重なっていた為、ジャミルは此方の方もとても心配していた。

 

「な、何よう……、大丈夫だったらっ!ふぇ……」

 

「いや、全然大丈夫じゃないよお、目が腫れて凄い顔になってるし……」

 

「そうだね、じゃあジャミルに任せるよ、アイシャは僕らが見てるから……、

でも、すぐに戻ってくるんだよ、早く身体を休めないと……」

 

「ああ、頼む、モンもな、アイシャに付いててやってくれよ……」

 

「モォ~ン、分かったモン!」

 

「ほ、本当に大丈夫なんだからね!……平気だったら!……ぐす……」

 

「アイシャ……、ほらほらまた……」

 

アルベルト達は涙が止まらず泣き崩れて困っているアイシャを支えながら

宿屋の方へと移動して行った。葬儀も終わり、人々は引き上げて行き、

その場は余計に静けさが漂う。ジャミルは新しく建てられた墓の前に

手向けられた花束を無言で見つめた……。墓には文字が刻まれている。

……我が愛娘エリザ、此処に眠る……、願わくば彼女の魂に永久の安らぎが

あらん事を……

 

「……」

 

「あははっ!アンタしけてるぅー!なーんてにあわネーツラなのっ!」

 

「サンディ……、出たな……、んな時に……」

 

久々に飛び出したガングロ妖精。異様に静かな雰囲気のジャミルが可笑しいと茶化す。

 

「笑いたきゃ笑えよ……、俺だってよ……」

 

「あれ?怒んないの?めっずらしー!に、してもこの暗い雰囲気、折角町を

救ったってのにサ、こんなんじゃ星のオーラなんて出てこないよネ!

もう!アタシ達の頑張りって一体何だったのヨっ!」

 

「お前、何もしてねえだろが……」

 

「よお~し、ジャミ公、こうなったらせめてチョーチョーんとこ行ってお礼を

たんまりせしめてくるのよっ!」

 

「……お前なあっ!」

 

場を弁えないサンディの暴言にジャミルは切れそうになるが。其処に再び町長が現れた。

 

「あ、あっ……」

 

「ジャミルさん、申し訳ありません、あなたにお礼を渡すのを忘れておりましたので、

大した物ではありませんが、どうぞお受け取り下さい、私達の……、せめてもの

感謝の気持ちです……」

 

「いや、だから俺ら……褒美が欲しくて遺跡に同行した訳じゃ……」

 

しかし、町長はジャミルに感謝の気持ちとして、お礼に装備品の羽根飾りバンドを

手渡すと屋敷に戻っていった。……愛する娘の突然の死で町長も気力を無くし、

相当疲れが目に見えているのが嫌でも分かった。

 

「エリザ……、お前はあんな男と結婚して本当に幸せだったのか……?……いや、

今更こんな事を問いても仕方ないだろうな……、もうお前はいないのだから……」

 

「……」

 

「うわ……、それがお礼の印とか……?超シラける~、そんなもの貰っても

アタシは嬉しくもなんともないヨ!ぜんぜんむくわれないっつーカンジ!

はあ、エリザってコが生きてりゃ、今ごろ星のオーラガッポガッポ大もうけ

だったのにサ!今からでもどうにかなんないかな?ねえ、アンタ何で死んだのヨ!」

 

「……」

 

対サンディ用、特大SPデコピン発射!!

 

「……いっ、たあああ~いっ!ちょっとアンタっ!何すんのヨっ!ううう~、

よっ、くも……、この美肌サンディちゃんのおでこに向かってデコピンかましたねっ!

ジャミ公のくせにィィィっ!!」

 

「うるせーっ!!幾ら何でも言っていい事と悪ィ事があんだよっ!デコピンだけで

済ましてやったんだから感謝しろっ!!……今すぐエリザさんに向かって謝れっ!!」

 

ジャミルは怒り心頭でエリザの墓標を指さす。しかし、サンディはジャミルを見ると

余計逆ギレし、更に暴言を噛ました。

 

「ふんっ!ブチブチ切れてばっかでイヤんなっちゃう!もういいわヨーだっ!

アンタ、次はもっと真面目に星のオーラ集めなさいよネッ!!バーカ!!」

 

サンディは発光体になると姿を消した。この怒りとやるせない気持ちを

一体何処にぶつけたらいいのか……、ジャミルには分からなくなって来ていた。

 

「あの、もしもし……、お兄さんや……」

 

「……?う、うわっ!?」

 

誰かがジャミルの肩を突く。振り向くと其処にいたのは、この墓地付近を

うろうろしているらしき、爺さんの幽霊だった……。

 

「のう、あんた、わしらが見えるんじゃろ?お仲間が増えて喜んでいいのか

分からんが……、エリザちゃんの話をきいてやってくれんかの?」

 

「はあ?エリザ……、エリ……、い、いいいいっ!?」

 

「やっほー、ジャミルさーん!こんにちわー!アハハ、私、死んじゃいましたあー!

でも、ジャミルさんて本当に私の事が見えるんだあー!もしかして、ジャミルさんって

れーのーりょくしゃ!?」

 

頭上を見上げると……、宙に浮かぶエリザの姿……。彼女は既に死んでいる。

と、言う事はもう彼女も幽霊である。しかし、自分に向かって手を振る彼女の姿は

悲しみを感じさせない程、異様に明るかった……。

 



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いつもあなたと 10

「え~っと、それじゃあ……、コホン、ジャミルさん、私の姿が見えちゃう

不思議なあなたに!……お願いがあるんです!」

 

「お、俺に……?」

 

ジャミルは先程まで荒んでいた気分が、異様に明るい幽霊さんの姿を見て

何だか気が抜けてしまった。そして、一体何が起きているのかよく理解出来ず。

むしろエリザは死んだ後、余計に元気になっている様にも見えた。……決してそんな

事はないが。

 

「どうかルーくんを立ち直らせるお手伝いをお願いします!ルーくん、自分の所為で

私が死んじゃったと思ってずっと自分を責めて塞ぎ込んじゃってます、……このままじゃ

ルーくん駄目になっちゃう!……私も心配で旅立てません……」

 

今度はエリザは落ち込みだした。しかし、自分に一体何が出来るのか……、

困ってジャミルは頭をぽりぽり掻いた。

 

「ふふ、その仕草!ルーくんも照れて困ると頭をかいて誤魔化すんですよ!もー、本当に

ルーくんてばかわいいんですよう!キャ!」

 

しょげたと思ったらころっと変わって今度ははしゃぎ出す。死んでいるにも関わらず

エリザは生前と変わらず、お茶目な幽霊と化していた。しかし、このままでは彼女は

未練が残って成仏出来ず彷徨う浮遊霊になってしまう恐れもある。ジャミルは一呼吸

置くとエリザと向き合うのだった。

 

「……エリザちゃんをわしらと同じにしてはいかんよ、どうかエリザちゃんの願いを

かなえてやっておくれ、お兄さん……」

 

「分かってるよ、爺さん……、んで、俺に出来る事って何かな?出来るだけ

やってみるけど……」

 

「わ!さっすが、ジャミルさん!それじゃあ、えーとですね!まずは

ルーくんの研究室に行ってみましょう!肝心のルーくんが出てこないんじゃ

どうにもならないですから!大丈夫!私に任せて下さい!」

 

「はあ……」

 

「さ、行きましょう、こっちですよー!」

 

エリザは宙に浮かんだままふよふよと移動する。……ジャミルはその後をついて行った。

 

「あー、お空が飛べるって素敵ですねー!ルーくんにも教えてあげたかったなあー!

一緒にお空のデートがしたかったですー!残念!」

 

いや、現世人にそれは無理だろとジャミルは思う。しかし、ジャミルは

段々と天然ボケしてきたエリザに頭痛がしてきた。やがて2人はルーフィンが

引き籠もっている研究室の前までやって来た。

 

「えーと、ルーくん……、いますね……」

 

「けど、駄目だよ、やっぱり鍵が掛かってる……」

 

「ルーくんに出て来て貰うには……、ノックがコツですよ、えーと、あっ!」

 

「……ノック?」

 

ジャミルはエリザの説明を最後まで聞かず、試しにドアを乱暴に叩いた。

……当然ルーフィンは出て来ない。

 

「駄目ですっ!こうですよ、……こう!リズミカルに可愛く!とんとんとんと!」

 

「こう……?と、とんとんとんとん……」

 

「笑顔でにっこりノックしましょう!」

 

ジャミルは暫くエリザからノックの特訓を受ける羽目に……。俺は一体

んなとこで何をやってんだと情けなくなった直後。ノックが上手くいったのか、

何と、中からルーフィンの声がしたのである。

 

「そのノックの音……、エリザ……、エリザなのかいっ!?」

 

ガチャリとドアが開く。漸く天の岩戸からルーフィンが出て来たが、

ルーフィンはドアの前に立っていたジャミルの姿を見、……顔を曇らせた……。

 

「あなた……、ジャミルさんじゃないですか……」

 

「や、やあ……」

 

「今のノックはジャミルさん、あなたがやったんですか?エリザのノックの

真似をするなんて!僕をからかうにも程がある!二度とこんなタチの悪い

悪戯は金輪際やめていただきたい!!」

 

「いや、あんたと話があって……、って、俺は何話しゃいいんだい……」

 

「ルーくん……」

 

傷ついているルーフィンはジャミルにからわかれたと勘違いし、相当激怒している様子。

ジャミルはエリザの方を向いて助け船を求めた。愛する妻はすぐ側にいるのに

ルーフィンはもうエリザの姿を見る事は叶わず、2人はもう直接会話をする事が

出来ないのである……。

 

「あ、先生ーっ!」

 

「……?」

 

其処へ救世主現れる。町の代表者として、1人の男性がルーフィンへお礼を

言いに来たらしい。男性は町の皆がルーフィンが流行病を止めてくれた事に

どれだけ感謝しているか、ルーフィンへと必死に言葉を伝えている。

 

「いや、僕は、別に何も……」

 

「みんな先生の事を心配しているんだよ、俺たちで出来る事があれば

何でもしようって、……先生には早く元気になって欲しいのさ、みんなを

助けてくれた先生に今度は俺たちが恩返しさせて貰う番だよ!」

 

「僕へ……」

 

エリザは男性とルーフィンが話をしているその間に、ジャミルへと再び話し掛けた。

 

「ジャミルさん、お願いです、私の最後の言葉として、ルーくんに伝えて下さい、

ルーくんが病魔を封印してくれたことで、元気になった人たちに会って欲しいって

私が言っていたって……」

 

「分かった……」

 

やがて男性も帰って行く。ルーフィンは狐につままれた様な表情をしていたが……。

 

「そうですか……、エリザが息を引き取る直前に……、そんな事を……」

 

漸くルーフィンも落ち着いてジャミルと話をする様になってくれたが。

それでもまだ何処か迷いは消えない様だった。しかし、表情が先程よりも

穏やかで優しい感じに見受けられた。

 

「しかし……、僕は誰が病気になっていたのかも分からないし……、あの時は

お義父さんを見返す事ばかりに気を取られていた……、ジャミルさん、僕を

今から、病気に苦しんでいた人達の処へ案内して貰えませんか?今更ですが、

どんな人達が流行病でどんな思いを抱えていたのか、そうすれば病気になった

エリザがどんな気持ちでいたのか……分かると思うから……」

 

「おっさ……、先生……」

 

「ジャミルさん、私からもお願いします……、それが今のルーくんにとって……、

大切な……必要な事だと思うんです……」

 

「ああ、一緒に行こう……、先生……」

 

「ジャミルさん……、宜しくお願いします……」

 

ジャミルが差し出した手をルーフィンが笑顔で握り返す。それは初めて見せた笑顔。

独りよがりで傲慢だった彼は大切な宝物を失った。しかし、もう一度……、新たな道へと

一歩ずつ進み出そうと歩き始めていた。

 



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いつもあなたと 11

ジャミルとルーフィンは、まずは丘の上の教会横の墓地へ。ルーフィンは

まだ建てられたばかりの真新しい墓に愛おしそうにそっと触れた。

 

「エリザ、遅くなってごめんよ、……君の願い通り、かつて流行病に

かかっていた人達を尋ねて回っている処だよ、また、報告に来るからね……」

 

「ルーくん……、私はここだよ……、側にいるのにお話出来ないって

やっぱりとっても寂しいな……」

 

「エリザさん……、何か伝える事があれば、少しぐらいなら、俺が先生に

言葉、伝えるけど……」

 

「ううん、いいんです……、大丈夫ですよ、ジャミルさん……、さ、皆さんの所へ

ルーくんをお願いします!」

 

エリザはジャミルの顔を見て首を振る。自分はもうすぐルーフィンの側を

本当に離れなければならない。その時が訪れるのを覚悟はしている様だった。

 

「お待たせしてすみません、ジャミルさん、さあ行きましょう……」

 

「あ、じゃあ……、最初に宿屋に行ってみるか、彼所には確か病魔で足止め

食らって動けなくなった新婚旅行の夫婦がいた筈さ」

 

「分かりました……」

 

「いきましょー!」

 

エリザは明るく振る舞い再び笑顔を見せた。2人ともう1人……、は宿屋へ向かう。

 

「お、おおおっ!先生!ルーフィン先生っ!!」

 

以前に宿屋のカウンターでどんよりして動かなかった店主も、すっかり

元気になっており、喜んでルーフィンを出迎えた。

 

「先生!……先生のおかげでお客さんもまた此処に訪れてくれる様に

なりまして、……本当に有り難うございました!!」

 

「いえ、僕一人の力だけでは……、とても病魔を封印する事など、到底できや

しませんでしたよ……、ジャミルさん達の護衛のおかげです……」

 

「へ、へっ!?」

 

「ほおー!こんな小さな子が先生のガードマンを!大したもんですな!」

 

ルーフィンは静かに笑顔を浮かべるとジャミルの方を見た。……遺跡の時は

あれだけ4人に暴言を吐いていたルーフィンだが、自分を守ってくれた事に

今は心からジャミル達に感謝が出来る様になっていた。

 

「え、えと、アル達は部屋か、疲れてまだ寝てんだなあ……」

 

「ジャミルさんたら、てれなくてもいいんですよう、くすくす……」

 

エリザに笑われ、赤面したジャミルは相当困っているらしく、いつもより倍の強さで、

高速で頭をぼりぼり掻いた……。

 

「あ、もしかしてあなたが流行病を治してくれたってゆー、ルーフィンせんせーですか?」

 

此方に来るバニーガールの女性。此処で足止めを食らって動けなくなっていた

新婚旅行カップルの若い奥さんの方だった。

 

「ええ、あなたも……病気に?」

 

「いいえ、病気になっちゃったのはダーリンの方、今はすっかり容体が落ち着いて、

ベッドの上で鼾かいてねてますう、ほんっと、もうダーリンとお別れになるかと

思っちゃった、せんせー、ありがとう!」

 

「いいえ、私はそんな……」

 

「よくみると、せんせーって可愛い、大したお礼も出来ないけど、ぱふぱふぐらいなら

ダーリンも許してくれるはず!」

 

バニーガールの女性はルーフィンに向けて、思い切り巨乳をさらけ出す……。

 

「……わわわっ!や、やめて下さいっ!!」

 

「ん~、せんせーってウブ?命の恩人だし、ダーリンがいなかったら私、せんせーを

完全にとりこにしちゃうかも!遠慮しないでっ!!それそれー!」

 

……バニーガールは困っているルーフィンに向けて更にデカ胸を突き出すのだった……。

 

「な、なによっ!嫌らしいわね、この女っ!ルーくんは純情なんだからね!

こらあーーっ!ルーくんからはなれろおーーっ!!きいーーー!!」

 

エリザは怒って後ろからバニーガールの女をぽかぽか殴る。……当然バニーガールは

痛くもかゆくもないのだが……。

 

「純情……、の割には鼻血が出てるし……、あっちの方も……、やっぱおっさんも

男だったんだなあ~……」

 

「ジャミルさんっ!!……うるさいですっ!!」

 

「は、はい……」

 

「きいーーー!ルーくんのアホーーっ!!」

 

「……」

 

……取りあえず此処での聞き込みは漸く終わる。2人は宿屋を後にするが……。

 

「はあはあ、つ、次の場所へ……、いってみませう……」

 

「先生、鼻血の方は大丈夫かよ……」

 

「な、何を言ってるんですか……、僕は鼻血など出していませんっ!!」

 

「……そうかね……」

 

「そうですっ!!」

 

ジャミルはちらっと空中を見上げた。……上には腕組みをして激怒しているエリザの姿。

 

「おい、先生……、ちゃんと責任とれよ、どうすんだいあれ……」

 

「だから何なんですかっ!……あ、ああ、また……、ですがこれは決して

血ではありません!も、持っていた血のりが零れたんです!」

 

「……駄目だこりゃ……、滅茶苦茶な言い訳だし……、無理あんぞ、先生……」

 

「ぷんぷんのぷんぷん!!」

 

困った状態のまま、2人は次の場所へと足を進める。気がつくと、いつの間にか

町長の屋敷周辺へと来ていた。

 

「どうする?寄って行くかい?」

 

「いえ、此処はやめておきましょう、僕はまだお義父さんに会わせる顔がない、

でも、いつか気持ちが落ち着いたらその時は……、お酒でも飲みながら、エリザの

思い出話など語り合いたい物です、お義父さんと一緒に……」

 

「先生、アンタマジで変わったなあ……」

 

「そうでしょうか……?」

 

「変わったよ……」

 

「そうですね、だとしたら……、きっと……」

 

ルーフィンは切なそうに空を見上げた。……本当はすぐ側にいるのに、

今はどうあっても手が届かない、愛しい妻がいる方向へと目を向けた。

 

「ルーくん……、ぐす……、パパ、ママ、お嫁に行っちゃってからあまり

お家に戻らなくてごめんなさい……、いつも心配してくれてありがとう、

……もう一度、お話……、したいよ、……いつまでもずっとだいすき……」

 

「エリザさん……」

 

明るく振る舞ってはいるが、やはりエリザは本心は辛いのである。親しい人達と

もう永遠に触れられない事が、どれだけ辛くて悲しいかエリザの気持ちがジャミルに

伝わってくる。……エリザはかつて幼少期に自分が暮らしていた思い出溢れる大切な

我が家をいつまでもずっと見つめていた。

 



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いつもあなたと 12

「う~、わんっ!わんっ!」

 

ルーフィンの処に一匹の犬が近づいて来た。吠えてはいるが、尻尾をパタパタ振っている。

 

「わわわ!犬っ!?ち、近づかないで下さいよう~、僕、犬って苦手なんですから!」

 

「けど、まだ子犬じゃねえかよ、先生、そんなんじゃウチのヘタレと同じになっちまうよ」

 

「それでも苦手な物は苦手でして、……困ったなあ~……」

 

「あ、先生!お元気ですか?ウチの子がどうもすみません、今、お散歩の途中で

リードが離れてしまいまして、良かった、見つかって!さ、帰りましょうね!

先生、さようなら!」

 

「わんわん!はっ、はっ、はっ!」

 

「はは、どうも……、助かった……」

 

ルーフィンは大きな安堵して大きく息を吐いた。子犬は飼い主の主婦と共に

散歩へと戻って行った。

 

「ふふ、ルーくんてば、本当はね、ルーくん、凄く臆病なんですよ、かっこつけてるけど、

……そんな処が……、私は最高に大好き……」

 

エリザは宙に浮かんだまま、汗をふきふき困っているルーフィンを見つめた。

……ジャミルはそんなエリザの様子を見て、何だか気分が複雑になってくる。

 

「ジャミルさん、さ、次のお家へルーくんをお邪魔させて下さいな」

 

「ん?あ、ああ……」

 

2人は今度は彼方此方の家を訪ねて回る事にした。まず最初に入った家では、

老人が喉を押さえ、苦しそうに呻いて咳き込んでいた。

 

「ううう、……苦しい……、げっほ!げっほ!」

 

「ばかな!病魔の呪いはもう解けている筈なのに!何故まだ病人がっ!」

 

「……違うよー!このおじいちゃんは食べてたお餅を喉に詰まらせちゃったんだよ、

ジャミルさん、ルーくんに真実を教えてあげてー!」

 

「み、水を~……」

 

「……ほんとだ、……先生……、この爺さん病気じゃねえよ……、餅が

喉に詰まっちまったんだよ!」

 

「な、なんとっ!そうでしたか、それはよ……、良くないですっ!」

 

ジャミルは慌てて台所を借りると老人へと水を急いで飲ませた。お陰で

老人は事なきを得たが、もう少しジャミル達の訪問が遅ければ、今頃……、

ち-んで、昇天していたであろう。

 

「ふいい~、助かりましたわい、いやあ~、先生達のお陰でわしゃ助かりましたわ、

まだまだ長生きはせんといかんちゅー事ですなあ!」

 

「いえ、私は何も……、おじいちゃん、お餅を口に入れる時は小さくちぎって

食べるんですよ、あとは良く噛んで……」

 

「ほいほい、ありがとさんです!」

 

「先生、良かったな、さ、次の家へ回ろうか」

 

「そうですね……、本当に何事もなくて何よりです……」

 

ジャミル達は更に次の家へ。今度の家では一家の大黒柱なのであろう、ご主人が

ルーフィンの姿を見ると喜びの表情で急いで駆け寄って来た。

 

「先生っ!……この度は、大切な妻と娘を助けて頂いて本当に

有り難うございました!!」

 

「い、いえ……、そんなに頭を下げないで下さいよ、頼みますから……、

それにしても……、奥さんと娘さん、2人までも病気に……、大変でしたね……」

 

「はい、とても辛かったです、あのままでは僕自身も疲労で倒れてしまう処でした、

だから……、先生は僕自身の命の恩人でもあるんですよ!ささ、先生、良かったら、

妻と子供の顔を見ていって下さい、今はとても状態が落ち着いていますよ」

 

「先生、折角だから行ってみようや」

 

「そうですね……」

 

ジャミルとルーフィンはご主人に案内され2階の寝室へお邪魔させて貰う。寝室には

奥さんと子供さんがベッドで静かに就寝中。その顔は病魔という苦しみから解放され、

本当に穏やかな表情で2人ともすやすやと眠っていたのだった。

 

「くう、くう……」

 

「こんな小さな子供までが病魔に……、僕は一体この町の……、いや、この世界の

何を見て今まで生きてきたんだろう……、誰が病気に掛かっていたのかも分らないで

……」

 

「先生……」

 

「ルーくん、おちこまないで……、ルーくんがいなかったらみんな助からなかったよ……」

 

エリザはそっとルーフィンを静かに励ます。しかし、その声はルーフィンには届いていない。

ルーフィンは暫く無言になり俯いていたが、顔を上げ、頷くとジャミルの方を見た。

 

「ジャミルさん、もう充分です、……僕の研究室に戻りましょう……」

 

それから、2人は研究所へと戻る。ルーフィンの顔はまるで闇から解放された様に

すっかり明るさを取り戻していた。

 

「ジャミルさん、今日は本当に有り難うございました……、お陰でエリザの伝えたかった

事が分かった様な気がします、今までの僕は、研究に没頭するばかりで、自分の事しか

考えていない、独りよがりだったんですね、だから……、エリザの体調がおかしいのにも

気づいてあげられなかった、全く情けない話です、でも、今日町を回ってみて、僕はいかに

色んな人と接しているんだなって、そして支えられているんだなって、初めて感じました、

……これからはこの気持ちを忘れず、ベクセリアの人々と共に生きて行けたら……、

そう思うんです……」

 

「だな、やっぱ人は一人じゃ生きていけねえんだよ……、な……」

 

ジャミルはやっぱりルーフィンは変わったなあ……、と、しみじみ思った。だが、彼を

変える事になったその切欠は愛する妻の死であったと言う事は、とても切ないのである。

 

「それに……、みんなに感謝されるのも悪くない気分ですしね……」

 

ルーフィンは一瞬にやりと笑った様な気がジャミルには見えたが……。やっぱり

本質は変わってねえのかもなあと、ちょっと安心してみた。ルーフィンはジャミルに

頭を下げ、研究室へと入っていった。……そして、ルーフィンの姿が見えなくなった後。

 

「エリザさん……?」

 

「よかった、ルーくん……、ルーくんを助けてくれて、本当に有り難う、ジャミルさん、

私……、もう死んでいるのにお陰で自分の夢を叶える事が出来ちゃいました、ルーくんの

凄いところをみんなに知ってもらうこと、ルーくんにこの町を好きになってもらうこと、

それが私の夢でしたから……」

 

エリザがそう呟いた直後、エリザの身体が光り出す。……昇天の時間が近づいて来ていた。

 

「わわわ!もう時間みたいです!」

 

「エリザさん、このままでいいのか?もう少し何か伝えたい言葉があれば、俺が先生に!」

 

「ううん、私はもう何も……、でも、ルーくんがいつも、いつまでも……、幸せで

いてくれればそれでいいんです、ルーくん、ありがと、あなたが時々でもいいから

私を思い出してくれたら……、私はいつでもあなたと一緒だよ……」

 

エリザの身体の輝きは一層増す。……そして、等々姿が見えなくなった……。

 

 

……さようなら……、どうかお元気で……

 

 

「さよなら……」

 

ジャミルはエリザが消えていった空をいつまでも眺めていた。……いつの間にか

空は暗くなり、満点の星が幾つも輝いていた。

 



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いつもあなたと 13

「ジャミルさん……、何ですか、あなたまだお戻りになられなかったんですか?」

 

「?い、いや、それはこの……」

 

ルーフィンがのそのそと研究室から出て来る。エリザが消えてから、相当時間が立つにも

関わらず、ジャミルはその場で空を見つめたまま、ぼーっと地面に座っていた事に漸く

気づいたアホであった。

 

(アンタってば、ホンッとバカ!口開けたまんまでさあ~、マジうけるぅ~!)

 

「……うるせーぞ!黙れこの性悪ガングロ!」

 

「はあ?あなたと言う方は本当に変わった人だ、丁度いい、まだお戻りにならないの

でしたら……、少しお付き合いしませんか?」

 

「へ?へ……」

 

ジャミルはルーフィンに誘われるまま、彼の後に付いていった。場所は、研究室の

すぐ真上にある、ルーフィンと、……エリザの住んでいた家。

 

「どうぞ、其処のソファーに腰掛けて暫く待っていて下さい……」

 

リビングに通され、言われるままソファーに腰掛けて暫く待つ。もうこの家に

エリザはいない。そう言えば、初めて此処に来た時、クッキー出して貰ったっけと

思い出していると、リビングにルーフィンが戻って来た。何やら皿を持っているが。

 

「それ……」

 

「ええ、エリザが残していったんです、種がまだありましたので……、焼いてみました」

 

ルーフィンはテーブルの上にコトリと皿を置いた。焼きたてのクッキーが乗った皿を。

 

「余っても仕方が無いので……、どうぞ食べて下さい」

 

「いや、悪いよ……」

 

「いえ、元々僕は甘い物は苦手だったんですが……、エリザは僕にどうしても

クッキーを食べて欲しかったらしくて、これでもかと言う程毎日クッキーを焼いて

いた様です、……今となっては、もっとちゃんと食べておいてやれば良かったなと……、

もうエリザはいないんですから……、今更遅いですよね……、あ、どうぞジャミルさんも、

エリザが喜んでくれると思います」

 

「……」

 

ルーフィンは苦笑いしながらクッキーを一枚摘む。ジャミルも一枚、クッキーに

手を出した。……直後。ジャミルの顔が硬直する……。

 

「う、うぇ……、しょ、しょっぺえ……、あの時出してくれたのと大分味が……」

 

「ふむ、どうやらこれは失敗作の様です、全く……、エリザは生前からおっちょこちょいで、

……最後に残していったのがこんな……」

 

「で、でも、何とか食えねえ事もねえと思うよ、多少喉が渇くかもだけど……」

 

ジャミルはお茶をごくごく飲みながら笑う。それを見てルーフィンも笑みを浮かべる。

 

「でも、不思議です……、こうしてクッキーを食べていると、いつも側に

エリザがいてくれる様な気がします、ジャミルさん、彼女はクッキーのレシピを

残してくれていったんですよ、僕はこのレシピを宝物に、エリザの後を継いで、

時々でもこれからもクッキーを焼いてみる事にします」

 

「ああ……、んじゃ、俺はこれで本当に宿屋に戻るよ、またな、先生!」

 

「色々有り難う、ジャミルさん、お休みなさい……」

 

ジャミルは夫婦の住まいを後にし、仲間達の待つ宿屋へと戻る。エリザ特製の

塩クッキーをお土産に持って……。

 

「そうだったの……、本当にお疲れ様だったね、ジャミル……」

 

「……えううう~、エリザさん、行っちゃったんだあ~、でも……、ちゃんと

無事に成仏出来て良かったよおお~……」

 

「ちょっと帰りが遅いから心配はしてたんだけど……、そっか、ルーフィンさんも

町の皆とちゃんと仲良くなれたんだね……」

 

宿屋に戻ったジャミルを真っ先に迎えてくれたアイシャを始め、ダウドもアルベルトも、

ジャミルの話を聞き、エリザの心からの来世での幸せを願うのだった。

 

「モォ~ン、くんくんくん……」

 

「ん?モンか……、このクッキー欲しいのか?エリザさんの最後の……、あ!」

 

ジャミルが言い終わる前に、モン、凄い勢いで袋ごとクッキーにバリバリ食いつく。

……見ていたアイシャ達は苦笑。

 

「ぎびゃあああーー!しょっぱいんだモンーーっ!!」

 

「だから人の話は最後まで聞けよ……、エリザさんが最後に作っていったこれは

失敗作なんだよ、でも、妻の事を皆さんもどうか忘れないでいて欲しいって先生がさ……」

 

「でも、何か味……、相当凄いみたいだねえ~……」

 

アイシャが急いでバケツを借り、モンに大量の水を飲ませている様子を見て、またも

ダウドが苦笑……。塩クッキーを一気に全部口に入れたのだから……、それは凄い事態。

 

「お口……、ひりひりなんだモン~……」

 

「けどさあ~、今回のジャミルの役どころって凄いねえ~、幽霊が見えちゃうなんてさあ、

……こ、怖くないの……?」

 

「別に怖くねえよ、……あ、いるぞ、お前の後ろに……大口開けた……」

 

「……シャアアーーーっ!!」

 

「ぎゃあーーーっ!?」

 

ダウドの背後から……、大口を開けたモンがぬっと現れるのだった……。

 

「……もうーっ!ジャミルっ!構うのやめなさいよっ!モンちゃんもよっ!!」

 

「へえ~い……」

 

「もぎゃ~モン……」

 

「も、漏らした……、少し……」

 

……また騒がしくなって来た宿屋のルームに、アルベルトはやれやれと言った表情で

眉間にしわ寄せ、読み掛けの本をパタッと閉じた……。そして、翌日。

 

「そうですか……、皆様は今日、この町を出られるのですね……、本当にお世話に

なりました……、この町を救う為、お力を貸して下さったご行為、町長として、心から

感謝致しております……」

 

色々あったが、この町も無事救う事が出来、4人は次の場所へと旅立たなければならない。

出発の前に、まずは町長の家に挨拶に寄ったのである。

 

「私も……、泣いてばかりいましたが、漸くあの子のいない現実を少しずつですが……、

受け入れる事が出来ましたわ……、大切な娘の思い出と共に私たち夫婦も強く生きて

行きます、……実は、今朝早く……、先生がいらっしゃいまして、主人にこの家の考古学の

本を貸して欲しいと……、尋ねて来たんです」

 

「ルーフィン先生が?」

 

「ええ、主人たら、最初は戸惑っていましたが、段々と先生ともお話が乗ってきていた

みたいで、見ているとまるで本当の息子と実の父の様でしたわ、ふふ」

 

「こ、こら……、あまり余計な事はべらべら喋る物ではないぞ、ジャミルさん達、

私は仕事がありますので、こ、これにて……、またこの町にいらっしゃった時は

いつでも遊びに来て下さい!歓迎いたしますよ!」

 

町長は顔を赤くし慌てて自室に引っ込んでいった。しかし、その顔には微かに笑みが。

ジャミル達はルーフィンと町長夫婦のこれからの良い関係を願いながら家を後にした。

……そして、次はルーフィンの研究室へ。

 

「やあ、ジャミルさん達……、今日出発なさるんでしたね、色々ありましたが、

本当にお世話になりました、ジャミルさん、僕はあなたに改めてお礼を言いたかったんです、

今まで自分の私欲の為にしか行わなかった学問を、今度はこの町の人と世の中の為に

役立てたい、……心からそう思える様になったんです、今、こんな気持ちになれたのも、

閉じ籠もっていた僕をあの時外に連れ出してくれたあなたのお陰です、何の役に立てるか

今は分りませんが、焦らずにその方法をじっくり探していこうと思います」

 

ルーフィンは笑顔でそう言葉を述べる。彼の仕事机の上にはクッキーが置いてあった。

4人はそれぞれルーフィンと握手を交わすと、研究室を後にした。

 

「ルーフィンさん、本当に凄く人柄が変わったね……」

 

「ち、違う人なんじゃないの……?180度違いスギ……」

 

「ダウドったら、失礼でしょ!でも、最初の頃とは全然違うわ、凄く顔が活き活き

してたわね、エリザさんがもういないのは悲しいでしょうけど、これからも頑張って

欲しいなあ、私も応援するわ!ね、モンちゃん!」

 

「モォ~ン!ツンツンおじさんが優しいおじさんに変身したんだモン!」

 

「だな……」

 

仲間達もそれぞれそう言ってくれ、ジャミルも安心する。そして、エリザが旅立って

行った空を改めて見上げる。……この町を包んでいた暗い雲と空気はもう完全に消滅し、

今日の空もすっかり快晴であった。

 

「あはははっ!ついについについにやってくれちゃったネっ!ジャミルっ!」

 

「うわ、出たし……」

 

昨日まで機嫌悪く、ジャミルを散々罵っていたガングロ妖精登場。一変して

今日は相当機嫌が良く、お花のオーラを飛ばしていた。

 

「アンタには見えないかもしれないケドさ、今、この町に大量の星のオーラが

溢れてんのヨ!これだけ沢山の人間を幸せにしたんだから、アンタの天使と

してのランクアップ上昇間違いないって!って事は、今度こそ天の箱船だって動くハズ!

よぉ~し、峠の道まで戻るヨっ!ダッシュダッシュ!」

 

「うへえ~、また彼所まで戻るのかあ~……」

 

項垂れるダウド。次の目的地は天の箱船がある、また峠の道カムバックらしい……。

最後に……、町を出る前に4人はエリザのお墓参りをしていく事にした。

 



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天使界へ、再び

「エリザさん、俺達もう行くよ、……色々ありがとな、先生の事は

もう心配ねえよ、大丈夫だよ……」

 

エリザの墓前の4人。町の花屋で買った花を墓に手向け、静かに祈った。

 

「モォ~ン、おねえさん、クッキーたくさんありがとモンでした」

 

ジャミル達の真似をして、モンもお墓に向かってちょこんと小さく頭を下げる。

 

「……さあ、これで本当に俺らの此処でのお役目は完了だ、行こう……」

 

エリザとベクセリアに別れを告げ、4人は峠の道へと再び歩き出す。

ジャミルは町長に貰った羽根飾りバンドを装備品で頭に着けた。そして……。

 

「……はあ~、パシリで動き回ってばっかり、いい加減にしてよお~……、

遺跡探索から更に色々あって……、オイラ達、本当にお疲れ様だよね……」

 

「ダウド、文句言わないんだよ……、疲れてるのは皆同じなんだから……、

僕らは冒険者なんだから……、動き回らなくちゃいけないのはRPGの宿命だよ……」

 

「だってさあ~、アル……、ぶつぶつ……、鎌倉の大仏……」

 

峠の道、天の箱船がある場所まで距離が中盤に差し掛かった頃、ヘタレダウドの愚痴炸裂。

例え疲れていても滅多にそれを表に出す事はない頑張り屋の女の子のアイシャに根性は

完全に負けているダウドである。

 

「俺、全然平気だけどな……」

 

「モンもお腹いっぱいだから今は平気モン!」

 

野獣ジャミルと、調子のいいモン……、揃ってバカの一人と一匹にダウドは顔をしかめた。

 

「……ホンっと、アンタ根性ないネ、大分分ってきたケドさ、ココまでとは思わなかったわ」

 

「な、なっ!?」

 

サンディに言われ、ダウドはカチン。大体普段はジャミルの中に隠れて殆ど何もしない癖に

事あるごとに嫌味だけはしっかり落としていくサンディにダウドは激怒する……。

 

「……いいよっ!そうやって人をバカにしてればいいよっ!ふんっ!」

 

「お、おい……」

 

急にダウドは早足になるとジャミル達よりも早く前に歩き出した。よっぽどサンディの

言った事が尺に触ったのか何だか。

 

「……ダウドが行っちゃったわ、私達も早く行かないとよ……」

 

「ふう、とにかく小岩山……、ダウドが動いてくれる気になって良かった……」

 

「あははっ!ヘタレ動かしちゃった!アタシってマジでエライっしょ!」

 

「……やれやれ……」

 

苦笑しながらダウドの後を追うアルベルトとアイシャ、……そしてジャミルがその後から

歩いて行こうとした、その時……。

 

「……いない……」

 

「だ、誰だっ!?」

 

ジャミルの前に、ローブを羽織った謎の女性が突然姿を現す。……女性はジャミルの

方は視界に入らない様子。……うつろな表情で誰かを必死に探している様であった。

 

「うわ、何この女!マジ、暗いんですケド!何かユーレーみたいだし、アンタ

相手してやれば?」

 

「あのな……」

 

サンディはまた身勝手な事を言う。しかし、ローブの女性は一言、……あの人は此処にも

いないと発した後、姿を消してしまった。

 

「何なんだよ……」

 

「おーい、ジャミルー、何してるんだいー?」

 

「早くー!モンちゃんも待ってるわよー!」

 

「モーン!」

 

「ジャミルが一番遅いよおー!」

 

気づくと、いつの間にか天の箱船がある場所まで辿り着いていた。先に行っていた

仲間達は箱船がある木の側でジャミルを待っている。当然、ジャミルとモン以外、

船は見えていないが。……しかし、最後のヘタレの台詞には……、ヘタレを一発

殴りたくなった。

 

「それにしても、さっきの変な女なんなワケ!?シカトかましてくれちゃってさ、

むっかつくー!まあいいや、そんな事より、アタシたちも行くヨ!船に乗り込もう!」

 

「……」

 

ジャミルも箱船へと移動。だが、さっきの謎めいたローブの女が何となく気に掛かって

仕方がないのだった……。

 

「ほーれ、さっさとするする!アンタが船に乗ってくんなきゃ始まらないんだから!」

 

「……分ってるよ!」

 

「はあー、それにしても……、相変わらず何処も何もない空間なんだけど、

オイラ大いに不安……」

 

「仕方ないよ、此処はジャミルとサンディに全て任せるしか……」

 

「想像の世界なのよ、私達には見えなくても、今、目の前に確かに箱船はあるのよ、

そうイメージしてみるわ……」

 

……お気楽な夢少女、アイシャにダウドはウンザリ、呆れてみる……。そして、ジャミルが

箱船に入った瞬間、船が最大級で大きくガタンと揺れた。

 

 

「おおっ!箱船ちゃんのこの反応!漸くジャミルが天使だって認めてくれたって

カンジ!?……いけるっ、これならいけるわっ!今度こそっ!!」

 

「……ジャ、ジャミルが横綱から親方になったって事……、あいたああーっ!!」

 

「よしなさいったら!2人ともっ!」

 

「はあ~……、けど、親方ランクになっちゃうとそれはもう引退しちゃうんじゃ

ないかなあ……」

 

「……アルもうるせーんだよっっ!!」

 

「後はあの操作パネルをちょちょいっといじってやれば箱船は飛び上がるハズだよ!

……いいっ!座布団!今度アタシの邪魔したらアンタ絶対許さないカンね!」

 

「モォーンだ!」

 

して、操作パネルを前にサンディが4人を振り返った。

 

「アタシがこのパネルを操作すれば天使界に行けるワケだけど、その前にやり残した事は

ない?今回だけ特別にこの優しいサンディちゃんが待っててあげるケド!?」

 

「あ、じゃあ……、オイラ……、いだああーーっ!!」

 

「別に何もねえよ、さあ早く操縦してくれ……」

 

ジャミル、ダウドを押さえつける。逃走しない様、しっかりと。

 

「ジャミルの特大バカアホーーっ!!」

 

「よ、よしっ!じゃあいっちゃうからっ!後悔してももう遅いヨっ!」

 

「……」

 

サンディの言葉にジャミル達は息を飲む。そして等々、サンディが箱船の

操縦パネルのボタンを押した……。

 

「すすす 、……スウィッチ・オンヌッ!!」

 

「おおおおっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

「ちょ、ちょ、ちょ……、まってええーーっ!」

 

箱船は更にガタガタ大きく揺れ始め箱船が浮かび上がる。ジャミルとモンは船の内部が

見えているが、他の3人は船の姿が見えていないので、身体だけ空中に浮かんでいる様な

感じなのである。覚悟はしていたが、仲間達はやはり少々パニックに陥っている。

冷静なアルベルトでさえ、顔に大量の冷や汗が滲んでいた。

 

「よし、後はここをこんなカンジでいじってたっけ……、よしっ、動いたっ!」

 

サンディは更に操作パネルをガチャガチャいじる。……箱船は遂に空へ。

天使界へと向けて大きく動き出した……。

 

「おほっ!やるじゃんアタシ!は、こ、このくらいなら運転士として

あたりまえだっつの!よぉ~し、このまま天使界めざして出発しんこー!」

 

「はあ、お前ら大丈夫か……?」

 

念の為、ジャミルが仲間達を振り返ると……、やはり大変な事になっていた。

 

「怖くないっ!怖くないのよっ!怖くないんだったらっ!!」

 

「……いーやーだああああーーーっ!!……おろしてええーーっ!!」

 

「姉さん、ごめんなさい……、もうおねしょしません……、許して……、うふ、

うふふ、う~ふふふふ!!」

 

必死で目を瞑り、怖さを堪えているアイシャ。遊園地のアトラクションは大好きそうな

彼女も……、これは流石にきついらしい。何せ、無防備で空に浮かび、移動している様な物

なのだから。そして、喚いているダウド。これはいつも通りで別に珍しくない。

アルベルトは……、気絶。故郷のサド姉に扱かれている悪夢を見ている様であった。

 

「……天使界、早く着いてくれるといいんだけどな……」

 

「モーン……」

 



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新冒険へ 1

……その頃、崩壊した天使界では……。

 

「神よ、聖なる世界樹よ……、どうか我らをお守り下され、このままでは天使界は……」

 

長老オムイを始めとする天使達が無残に枯れた世界樹の前で必死に祈りを捧げていた。

 

「……あ、あれは!」

 

天使達の頭上に天の箱船が現れる。箱船はそのまま天使達のいる世界樹の前へと降りた。

 

「おおお、これは天の箱船……、神よ、我らの祈りを聞き届けて下さったのですね……」

 

「長老、中から何やら声がします……」

 

「だ、誰か出て来る様ですよ!?」

 

「おおお、おおおっ!?」

 

突然現れた天の箱船、それは天使達の希望の光と救世主、天使達は

絶望の縁から解放されるかも知れない喜びで胸が溢れ始めていた。

 

「も、もういやらああーーっ!!オイラ実家に帰るーーっ!!」

 

「……お?」

 

「……ダウドおめえうるせんだよっ!静かにしてろっ!」

 

「……おおお?」

 

「ブギャー!モンそろそろお腹すいたんだモンーーっ!!」

 

「……?」

 

しかし、船の中からは……、とても救世主とは思えない……、数人は

中にいると思われる間抜けな騒ぎ声が聞こえてきた。

 

「お、おお……!?」

 

「ふい~、やっと着いたああ~、奴ら船が飛んでる間中、騒ぎっぱなしだったからな、

あー、頭いてえや……、帰りのルートも考えるとマジ恐ろしいわ……」

 

「お主は……、ジャミル!ぶ、無事でおったのか!」

 

「あ、へへ、爺さ……、長老、久しぶりだね……」

 

箱船から姿を現した人物に長のオムイは驚きの声を上げ、見守っていた天使達も

ジャミルの元へと駆け寄る。ちなみに、天使達に姿が見えているのはジャミルと、

モンのみで、アルベルト達は見えていない。当人達も姿が透明になっており、ジャミルにも

仲間の姿が見えなくなっている。だが、かろうじて、何とか会話だけは出来る様だが……。

 

「やだやだやだーっ!何これ!もう何がどうなってるのよーっ!」

 

「これじゃどうしようもねえな……、なあ、お前ら、其処にいるんだろ?」

 

「ああ、いるけど……、此処じゃ僕ら全くジャミルの姿も何も見えないんだよ、

困ったなあ……」

 

「悪いけど、暫く其処から動かないでいてくれや、用が済んだらまた戻ってくるからさ」

 

「うん、その方が賢明かな、じゃあ、今回は僕達このまま此処で待たせて貰うよ、

何も見えないんじゃ動けないし、どうしようも出来ないもの……」

 

「分ったわ、暫くお休みなのね……、大人しくしてるわ」

 

「……透明人間怖いよおお!」

 

「はあ……」

 

混乱する仲間達をなんとか宥め、ジャミルはもう一度オムイと向き合った。

オムイは不思議そうな表情で、見えない誰かと会話しているジャミルを不思議そうに

眺めてはいたが。しかし、生身の人間が此処に訪れただけでも凄い事ではあるが。

 

「おんし……、何故箱船に……?して、お前の他にも何か声が聞こえた様だが、

乗っていたのはお主一人だけであろう?」

 

「あ、こ、こいつだよ、こいつ!」

 

「モン!」

 

ジャミルは急いでモンを抱き抱え人間界でダチになったんだよと説明する。

 

「モンですモン!おろしくモン!」

 

「……何じゃそれは……、ま、まあよい、しかし、お主のその姿は一体……、

天使の翼も……、頭の光輪も無くなっておるではないか……」

 

「話すと長くなるんだけどさ……」

 

「……なんと、人間界へ落ち、翼を無くしたお前を天の箱船が送り届けて

くれた……、じゃと……?して、他の天使達はどうしたのだ……?まさか、

おんし一人だけか……?」

 

「……」

 

「い、いや……、すまぬ、お主も疲れておるじゃろう、まずは身体を休めなさい、

話はそれからじゃ、そして地上で何が起きているのか私達に教えておくれ、さあ、

こっちにおいで……」

 

「うん、長老、ありがとな……」

 

ジャミルとオムイ、天使達は去って行く。……此処では姿の見えない仲間達は

会話と足音だけをその場で只管聞いているだけしか出来なかった。

 

「ジャミル……、行っちゃったみたいね……」

 

「仕方ないよ、僕らは此処で待つしか……」

 

「あう~、こんな不便なの嫌だよお~……、もう何なのさあ~……」

 

……ジャミルが人間界から無事に戻ったと言う知らせは天使界中に伝わった。

ジャミルは人間界に落ちた時に、頭の光輪、翼、そして、天使の力も全て失ったこと、

そして今、人間界で彼方此方に起きている異変のこと、……長老の間にて、全て長のオムイに話す。

 

「……そうか、あの時の邪悪な光は天使界だけでなく、人間界にも影響を及ぼして

おったとは……、おんしも覚えておろう?女神の果実が実ったあの日を……」

 

「……」

 

「地上より放たれた邪悪な光が天使界を貫き、そして……、天の箱船もバラバラになり、

実った女神の果実全てが地上に落ちてしまった様なのじゃ、ジャミル、お主と共にな……」

 

「……うん」

 

「あの後……、地上に落ちてしまった天使や邪悪な光の原因を探るため、何人もの天使が

地上に降り立ったが……、ジャミル、お前の他には誰も戻ってこんのじゃよ……」

 

「お、俺だけ……?」

 

「うむ、行方不明の皆の事は気がかりじゃが、お主だけでも無事に戻って来てくれて、

本当に良かった……」

 

「……長老……」

 

オムイはジャミルの肩にそっと手を置く。……そしてジャミルを見つめ静かに頷いた。

 

「お前はまたこれから世界樹の元に赴き、戻れた事を感謝し、祈りを捧げなさい、

もしかすれば、お主の失われた力、天使の翼、光輪……、世界樹の力が蘇らせてくれる

かも知れぬ……、さあ行きなさい、守護天使ジャミルよ、お主に神と聖なる力の守りが

あります様に……」

 

「……」

 

「モーンモン、あ、ジャミル出て来たモン!」

 

オムイに祈って貰った後、ジャミルは長の間を後にする。部屋の外ではモンが

ジャミルを待ちながら天使の一人と一緒に遊んで戯れていた。

 

「ああ、モン、話は終わったよ、また世界樹の処に行くんだ、戻ろう……」

 

「モンーっ!このお兄ちゃんが遊んでくれたモン!」

 

「はは、この子可愛いね、モンスターなのにこんなに懐いちゃって……、しかも

天使界に来ちゃうとか前代未聞だよ、……やっぱりジャミルって何か変な電波と言うか、

何かを呼んじゃう変わったオーラがあるよね!」

 

「変モンーっ!」

 

「……るせー!おい、モン、お前も同調してんじゃねえってのっ!たくっ、

オラ行くぞっ!」

 

「モォ~ン!ばいばいモン!」

 

「ははは、ばいばい!」

 

天使は苦笑いしながら蟹股で歩いて行くジャミルを見送りつつ、モンに手を振った。

 

「……さてと、これでアタシも天使界にアンタを送り届けるって言うお役目、無事

果たせたワケね、なんかアンタもこれからまた大変そうだけど、頑張ってね、一応

応援しといてあげるわ、そんじゃアタシもやることあるから、ジャミル、短いつきあい

だったけど、ま、これからもおたがいガンバロ、んじゃ、ばーい♪」

 

「……あ、おい!……い、行った……のか?」

 

サンディはジャミルの身体から離れると何処かへ飛んでいった。……一応、これで

うるせー奴からは解放されたのかな……、と、思ってみるが。

 

「ジャミル、……本当は寂しいモン?」

 

「ば、バカ言うなよっ!お前はっ!……よし、デコピンするぞ?」

 

「……イギャーモン!ジャミルのバカモン!」

 

「……あのなあ~……」

 

ジャミルはブツブツ言いながら、何となく複雑な気分で、再び世界樹の元を目指し

モンを連れて歩き出した。

 



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新冒険へ 2

「う~ん……」

 

「ジャミル、どうかしたモン?」

 

「折角だから……、情報収集もしていくかなと思ってさ、俺がいない間、

此処の皆はどうしてたのか……、色々聞いてみるかなと……」

 

「モォ~ン」

 

ジャミルは世界樹の元に行く前に天使界の事も聞いてみて回る事に。そう考えて、

いつの間にかある場所まで歩いて来ていた。……あらゆる情報が沢山詰まった図書室。

 

「……うえ」

 

……アルベルトを連れて来れば奴は鼻血を出して喜んだであろうが。だが此処では

普通の人間達は行動出来ない為、無理だが。ジャミルは中に入るのをためらったが、

此処には守護天使イザヤールの親友でもあるラフェットが普段は仕事をしている。

彼女はジャミルが地上に赴く前、とても心配してくれていた。

 

「……ちわ」

 

「あっ、ジャミルだっ!」

 

「まあ、ジャミル!……ああ、無事で本当に良かった……」

 

「えへへ、ご無沙汰……、かな……」

 

中に入ると、ラフェットの弟子の少年とカウンター受付の女性天使が出迎えてくれた。

だが、ラフェット本人の姿は見えない。ジャミルは心配になるが……。

 

「ねえねえ、ジャミル、イザヤール様は……、一緒じゃないの?えっと、ねえ~、

あの日ね……、ジャミルが人間界に落ちた後に……、な、なんでもないよ……、

それより、ラフェット様は多分下の階にいる筈だよ、元気な顔を見せてあげて!」

 

「ウォルロ村の守護天使ジャミル、本当に良く無事で戻りました……、天使の力も

何もかも全て失っても人間達を救うなんて……、あなたは本当に天使の鏡だわ……」

 

「い、いや、俺は別に、そんな……」

 

「柄にもなく、照れております……、モン」

 

「……モン、やっぱ一発デコピンしておくか?」

 

「嫌プップーモン!」

 

「あの日、天使達は長オムイ様の命で、地上に落ちた仲間の天使達や女神の果実を

探しに人間界へと降り立ったのですが……、それきり誰一人として戻って来る事は

ありませんでした……、でも、ジャミル、あなたがこうして無事に戻って来たのですから、

きっと……」

 

「……」

 

ジャミルは図書室を後にする。取りあえず、下の階にラフェットがいる様なので

会って行こうと思った。……途中で天使達から色んな話を耳にする事となる。

……天使界は現在、世界樹の力でどうにか持ち堪えているが、既に限界状態で

ある事……、オムイは地上の何処かに邪悪な光を放った主がいると考え、邪悪な光の

源を突き止める為、多くの天使達を地上へ派遣させたが……、結局、その天使達も皆失って

しまう事となり、……天使界にはもう僅かな天使達しか残されていない現状だった。

……人間は愚かな生き物、地上に落ちた聖なる女神の果実がもしも邪悪な人間達の

手に渡れば大変な事になってしまう……らしい。そして、天使達との話の中で、

……エルギオス……、再びこの名前を頭に刻む事となる。

 

「あんなに沢山の天使が地上へと降り立ったと言うに、戻って来たのはお前だけ……、

エルギオス……、これではまるであの時と同じじゃないか……、い、いや、きっと、

みんな手こずっているんだよ、そうだよ、それだけさ……、それよりも、ラフェットを

探しているんだろう?其処の扉の奥に入って行くのをみたよ、早く顔を見せてあげなよ、

お前が行方不明の間、凄く心配していたよ、じゃあな……」

 

「そうか……、随分と心配掛けちゃったみたいだなあ、に、しても、エルギオス……、

何処までタブーなんだよ……、そろそろ色々ともう避けられなくなってくる時期だよな……」

 

……ジャミルはブツブツ言いながら、ラフェットがいるらしき部屋の扉を開く。

中には確かにラフェットがいた。……彼女は文字が刻まれた石碑の前で祈りを捧げていた。

 

「……偉大なる天使……、エルギオスよ……、どうか……、ジャミルとイザヤールが

無事にお戻り下さります様……、どうか……」

 

「ラフェット……、俺だよ、ジャミルだよ……」

 

「……ジャミル?その声は!……ああ!」

 

ラフェットは声に気づくと顔を上げ、そして此方に急いで駆けて来た。

 

「モーン!」

 

「あ、あああ?……ジャミル、あなた、話は聞いていたけど、地上に行ってから

随分と本当に容姿が変わっ……」

 

「それ、俺じゃねえから、俺こっち……」

 

「あ、あああ!ご、ごめんなさい!つい焦ってしまって!私ったら……、でもジャミル、

本当に無事で良かった……」

 

「うん、色々心配掛けてごめんよ、俺は元気だよ、取りあえずさ、んで、こいつは

モーモンのモン、地上でダチになったんだよ」

 

「モンです、こんにちはモン!」

 

「まあ……、この子モンスターなのに……、どうして天使界に……?それに、とっても

純粋で優しい子だわ……、気持ちが伝わってくるわ、不思議ね……」

 

「……モォ~ン……」

 

「い、いや……、純粋かどうかは……、ちょっと目ェはなせば悪戯ばっかしてるしよ……」

 

「……ブーモンだ!」

 

……それは明らかにお前に似たんである。

 

「それにしても……、ふに、ちょい」

 

「モ、モン……」

 

ラフェットに腹をくすぐられ……、モンは顔を赤くしている。ラフェットもモンの腹の

ぷにぷにの触り心地がいいのか……。

 

「モンの事についてはちょっと聞いて貰いたい事が……」

 

「ふにふにふに、ふにふにふに……、ここの処……、い、いやああ~ん……、

も、もしかしたら……」

 

「あのさ……」

 

「は!やだ私ったら!つい病み付きになりそうだったわ!」

 

壊れそうになったラフェットは慌ててモンをジャミルに返す。……顔を赤くしながら……。

 

「モンがどうして俺らと会話出来るのか、そして此処に来れたのかは追々話すよ、

アンタになら話して大丈夫だよな……、此処の天使達にもまだ誰にも言ってねえのさ、

オムイの長の爺さんにもさ……」

 

「え、ええ、聞かせて頂くわ……、ねえ、イザヤールは……一緒じゃないの?」

 

「い、いや……、俺もあの時……、地上に落ちてから……、一切何も分らなくて……」

 

「そっか……、実はね、あの日、イザヤールは地上に落ちたあなたを探しに……、

地上に降り立ってから戻って来ないのよ……、ご無沙汰なの……」

 

「俺を……探しに……?」

 

「ええ、私ね、……あなたとイザヤールが無事に戻って来れますようにって……、

毎日この石碑の前で祈りを捧げていたの……、そう、エルギオスの石碑……、

エルギオスの事を忘れぬ為……、作られた物よ……」

 

「エルギオス……」

 

天使達の間で幾度となく、タブーと聞いた言葉、エルギオス……、少しだけ

その言葉の謎をジャミルは此処で漸く知っていく事となる……。

 



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新冒険へ 3

……ラフェットは石碑に刻まれている文字を読み上げてくれた。石碑には

こう文字が書かれている。

 

 

偉大なる天使エルギオス その気高き魂と人間を愛する心 我ら忘るることなし

そして誓おう 神の国に帰れるその日まで この世界を見守って行く事を……

 

 

「エルギオスと言うのはかつて、何百年も前にイザヤールの師であった天使、

ある村の守護天使だった、エルギオスは人間達を守る為、地上に降り立ち、

ある時消息不明になったの、何が起きたのかは知るよしもないまま、……私達は

こうして祈るしかないの、……イザヤールは心配だったんじゃないかしら、あなたまで

エルギオスみたいにもしかしたら戻ってこないんじゃないかって……」

 

「……」

 

「多分今も……、イザヤールは人間界の何処かであなたを探しているんじゃないかな……」

 

「そうだな、奴の頭は光ってるから……、案外何処にいても分かりやす……、いて!」

 

「……また!お師匠様に対して駄目でしょっ!」

 

ラフェットは毒舌を吐いたジャミルの頭を軽く小突く。ジャミルはちょろっと

舌を出して誤魔化す。しかし、相変わらず明るいジャミルの姿を見て、ラフェットも

少し癒やされた様であった。何せもうこの天使界は緊迫した状況に追い込まれ、本当に

いつ滅んでもおかしくない状況なのだから……。天使達は皆、不安の荒波の中を

毎日生きている……。

 

「んじゃあ、今度は俺の話聞いてくれる?モンの事だよ、……おーい、モン!

……あ、あれ?いねえ……」

 

「ぷう、ぷう……、モン……」

 

「あら、此処にいるわ……」

 

ラフェットは立ち上がると石碑の後ろに回る。……確かに石碑の後ろから鼾が聞こえた。

モンはいつの間にか石碑にもたれ掛かり、眠ってしまっていたのだった。

 

「たく、モンの奴……」

 

「疲れちゃったのかな、いいわ、私が少し抱いていてあげる、さあどうぞ、

ジャミルのお話も聞かせて」

 

「うん、じゃあ……」

 

ラフェットはモンを抱くと石碑の前に座る。ジャミルも真似をし、ラフェットの隣に座った。

 

「……え~っと、世界樹になってた女神の果実……、だっけか?凄い効力の果実らしい

みたいだけど、悪ィ奴の手に渡ったらそれこそ大変な事になるぐらいの……」

 

「ええ、とてつもない力を秘めていると……、でも、具体的な事は私にも、まだ……、

少しだけ話は聞いているけど……、オムイ様もちゃんと話してくれないわ」

 

「モンは空から落ちて来た光る欠片が口に入ってから喋れる様になったって言ってた、

……もしもこいつが喋れる様になった原因が、その……、地上に落下した女神の果実の

欠片ならあり得ねえ事もねえかな……、と、まあ、俺の推測だけどさ……」

 

「そうね、でもこの子は本当に凄い子よ……、何せ天使界に来てしまうモンスターなんて

初めてだもの……、悪い目的以外でね……、きっと元々純粋な心を持っていたのね、だから……」

 

「ブーブー、……モン……」

 

ラフェットはくすくす笑いながら再びモンのお腹に触れる。モンは気持ち良さそうに

鼾をかき、鼻提灯を宙へとシャボン玉の様にぷうぷう飛ばした。

 

「……まあ、確信は出来ねえけど、とにかくこの事は爺さんと、他の天使達には

まだ内緒でな?……頼むよ……」

 

「ええ、分ってるわ、さ、もうあなたも行かないとよ、……ねぼすけさん、起きなさい」

 

「モン……?」

 

ラフェットはモンの喉元をコチョコチョ。すると、モンは不思議そうな顔をし、

漸く目を覚ました。

 

「色々話聞いてくれてありがとな、じゃあ、俺らこれで……」

 

「ええ、あなたも無事だったのが分って本当に安心したわ、ジャミル、もしも

また地上に戻るのなら気をつけて、イザヤールの事をどうか宜しく頼みます……」

 

「分ってる……、絶対探してみせるよ……」

 

「おねえさん、ばいばいモン」

 

「モンちゃんも有り難う、またいつでも天使界に遊びにいらっしゃい、と、言いたい

処だけれど……、……天使界に一刻も早く平穏が訪れると良いのだけれど……」

 

「……」

 

「モン~……」

 

ジャミルとモンが石碑の間を去り、ラフェットはまた一人になると、石碑の前で

ジャミル、……イザヤールの無事を祈り、再び静かに祈りを捧げた。

 

「偉大なる天使、エルギオス……、イザヤールの師よ、イザヤールをお守り下さい……、

あなたの弟子イザヤールが天使界にどうか無事で帰れます様……」

 

……そして、ジャミルとモンは再び世界樹の元へ。……ジャミルは騒いでいた

姿の見えない仲間達が心配だったが、今は一刻も早く事を終わらせすっきりしたかった。

ちなみに。アルベルト達はあのままどうする事も出来ず、ジャミルに言われた通り、

世界樹のすぐ近くでジャミルを待ちながら、疲れて3人共静かに眠っていた。

世界樹の元に戻って来る間に、多くの天使達と出会ったが、皆悲観に暮れていた。

神の力で作られた天使界。永遠に滅びる事は無い。……誰しもそう思っていた。

だが……。

 

「ふう、此処で祈ればいいってか、やれやれ……、お祈りとか、どうもガラじゃねえよ、

やれやれ……、ああ腹が減ってきたぞ、畜生……、フライドチキン食いてえなあ……」

 

「モ、モン……」

 

モンは一瞬冷や汗を掻いた。ジャミルが自分の方を向いて涎を垂らした……、

様に見えたのである……。モンもとてつもなく食い意地が張っているが。やはり、

飼い主と連れ、……どんどん似てきてしまう悲しいお約束。

 

「っと、いけね!集中集中……、……ん……」

 

ジャミルは世界樹の前にしゃがみ込み、両手を胸の前で組んで、静かに祈りを捧げた。

モンも一体何が起こるのかとわくわくしながらジャミルを見守る。……しかし。

 

「……何だこれ……、頭がくらくらする……、う……、モ、モン……、俺……」

 

「ジャミルっ!どうしたモン!……しっかりするモン!……だ、誰か……、

おねがいっ!ジャミルを助けてモンーーっ!!……嫌モンーーっ!!」

 

突然の眠気がジャミルを襲う……。そしてジャミルは倒れてしまい、そのまま眠りについた。

 

「……ん、ジャミル、戻って来たのかしら……、!!す、すぐ近くでモンちゃんの

悲鳴が聞こえる!……何かあったのよ、どうしよう……」

 

眠っていたアイシャがモンの声に気づき、一番最初に目を覚ますが、しかし、

例え目を覚ましても……。続いてアルベルトとダウドも目を覚ましたらしき。

 

「アイシャ、落ち着こう、とにかく此処じゃ僕ら動けないし、何も出来ないよ……、

でも……、くそっ!今はジャミルを信じるしかない、側で何が起きているのかも確認も

出来やしない……、ジャミル、どうか無事で……」

 

「あうう~、もうこんなの本当にやだよお~……、ジャミルう~……」

 

仲間達は天使界では動く事も出来ず、一切が何も見えない空間の中にいる状態。

モンの悲痛な声だけが耳に届き、互いの姿さえも見えない中、ただジャミルの無事を信じて待つ事しか出来ない歯がゆさ、苦しみを感じていた……。

 



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新冒険へ 4

「……頭……、痛え……、俺、このまま死ぬのかな……、って、元天使は死んだら

何処に行くんだ……、消えんのか……?」

 

意識を失い動けない状態の筈のジャミルの頭に声が響いてくる……。男性と

もう1人……、どうやら女性の声の様だったが……。

 

 

……人間達は……この世界に相応しくない……

 

己の事しか考えず、嘘をつき……、平気で他者を陥れる、そんな人間の

なんと多いことか……

 

 

「……誰……だよ……、誰が……」

 

 

……私は人間達を滅ぼす事にした……

 

……お待ち下さい!!

 

何故……止めるのだ……

 

私は人間を信じます、どうか人間を滅ぼすのはおやめ下さい……!

 

ええい黙れ!……これはもう決めた事だ!……人間は……滅ぼさねばならぬ……

 

……そして、暗黒の雲の切れ間から人間界へ向け放たれる、生々しい

光のビジョンが映し出される……。それは滅びの光なのか……。

 

……私は人間達を信じます、……この身に変えても人間達と人間界を守ります……

 

 

「う、う……、だから……、誰が……、く、くせえ……、臭い……?これは……」

 

そこで声は聞こえなくなり……、途端にジャミルの頭痛も治まる。そして意識も

戻り……、気がつくとモンが側で自分の方にケツを向けていた……。

 

ぷう。

 

「う……、こ、こらああーっっ!!モンっ!オメーは何してんだああっ!!」

 

「ジャミル、良かったモンーっ!……ジャミル、急に倒れちゃったんだモンーっ!

でも、起きてくれて本当に良かったモンーーっ!!」

 

モンはピーピー泣きながらジャミルに飛びついた。どうやらモンは倒れたジャミルを

ずっと心配して側でオロオロしていたらしい。あまりにも目を覚まさないので困って

おならを発射しようとお尻を向けていた処。しかし、ずっと心配してくれていたモンに

対してこれでは怒る事が出来ず、今回は仕方なしに諦め礼を言う。

 

「はあ、俺、どうにか平気だよ、世界樹に祈った途端、急に眠くなっちまってさ、

でも今はなんともねえからよ、……ありがとな……」

 

「モンーっ!」

 

ジャミルはモンに礼を言いながら、改めて自分の状態を確認。世界樹には祈ったが、

やはり、頭の光輪も、翼も……、何も戻ってはいなかった。

 

「たくもう……、どうせ無理なんだから……」

 

ジャミルはそう呟きながら再び世界樹を見上げる。……すると……、何処からか

静かな声が響いてきた……。

 

……守護天使ジャミルよ……、よくぞ戻って来てくれました……

 

「な……、今度は何だ……?」

 

翼と光輪を失ってもなお……、あなたが此処に戻ってこられるという事は……

それもまた……運命なのかも知れません……

 

「……」

 

守護天使ジャミルよ、あなたに新たな道を開きましょう……、私の力を宿せし

青い木が……、あなたを新たな旅へと誘うでしょう……

 

「……青い木……?新たな旅……?」

 

……そしてもう一つ……、これまであなたが旅してきた場所へと移動する力、

ルーラの魔法を授けます……

 

「……わっ!?」

 

「モンっ!?」

 

ジャミルの身体が淡く輝く。一度訪れた場所に瞬時に移動で出来る魔法、

どうやらルーラの魔法を習得した様であった。

 

さあ、守護天使ジャミルよ……、すぐに地上へ戻りなさい、天の箱船で

人間界へ行き、散らばった女神の果実を集めるのです……、それがあなたに

託された……、新たな使命……、そして運命の扉……

 

「俺の……新しい使命……?」

 

「頼みましたよ……、どうか人間達と……、……を、救って下さい……

 

最後の部分はよく聞き取れなかったが、其処で声は途絶えた……。

 

「ジャミル、……大丈夫かの?して、翼と光輪は元に戻ったのか?」

 

「長老……」

 

オムイがヒーコラ言いながら、再びやって来る。ジャミルは先程の夢の話、

祈ったが結局は翼も光輪も戻らなかった事、……全てオムイに伝えた。

 

「……なんとも……、それは不思議な夢じゃ……、地上を滅ぼさんと

する者、それを止めようとする者……、儂らの知らぬ所で既にとんでもない

戦いが始まっておるのやも知れぬのう……」

 

「……」

 

「ばあー!ぴーかぴか!ぺちぺちモンっ!!」

 

真面目な話の最中、時折オムイの禿頭の後ろからモンがチョロチョロと顔を出し

頭を叩いて遊んでいた。注意しようかと思ったが、何となく吹くジャミルであった。

禿頭を叩かれているにも関わらずオムイは全く気づいていない。

 

「……お主が翼と光輪を失い、箱船に乗れるのにもきっと何らかの意味があるのじゃろう、

お主の見た夢はきっと神のお告げ、聖なる声がお前に語りかけたというならば、儂はそれを

信じようぞ、女神の果実には世界樹の聖なる力が宿っておる、女神の果実を全て集めれば、天使界も人間界も救われるやも知れん、……守護天使ジャミルよ、ならば導きの聖なる声の通り、すぐに地上へ再び向かいなさい、そして散らばった女神の果実を集めるのじゃ、

果実は確か7つの筈……、頼んだぞ……」

 

「ああ、俺で出来るなら……、引き続き頑張ってみるよ……」

 

「頼んだぞ、ジャミルよ……、地上に落ちた女神の果実を全て集め、無事天使界に

持ち帰るのじゃ!!……お主には危険な使命やも知れん、申し訳なく思っておるよ、

だが、どうか……」

 

オムイはジャミルの肩を掴んで声を詰まらせた。ジャミルもそれに応えるかの様に頷く。

 

「……ああ、いっちょ行ってくるぜ!」

 

不思議な声に導かれ、そして新たな使命を託されたジャミル。地上へと再び

向かう為、天使界から離れ、また冒険へと旅立つ事となった……。まずは箱船へと

戻る。そう言えばアルベルト達も待たせているのをすっかり忘れていた。

 

「奴ら、どうしてんだろ……、ん?」

 

「困ったなあ~、なんであのオヤジいないかなあ~!!……ここまで来たら

フツー顔ぐらいみせるっしょ!……も、もしかして、箱船が墜落したとき

人間界に一緒に落ちちゃってたりする!?……探すのチョーダルイんですけど……、

でもテンチョーがいないとバイト代も貰えないしィ~で!」

 

箱船近辺をウロウロ、行ったり来たりしている謎のガングロ生物……、サンディである。

 

「何だよ、お前まだいたんか?用事があったんじゃねえの?」

 

「またクサブーがいるモン!」

 

「誰がクサブーっ!……って、ジャミルじゃん!あんたこそ何してんの?

此処での用事はもう済んだワケ?」

 

「ああ、実はさ、今度は地上に散らばった7つの女神の果実を探すんだ、

で、また地上に戻らなきゃなんねんだけど……」

 

「それなら好都合っ!実はさ、アタシも人を探してて、地上に戻らなきゃ

なんないんだよねえ~、んじゃ丁度良かった!一緒にいこ!協力するする!」

 

「ああ、頼む……」

 

こうしてサンディが再び仲間に加わ……。

 

「ジャミルの話声が近くでするのにーっ!あ~ん、どうして姿が見えないのようーっ!」

 

「もーいい加減に地上に戻りたいよおーー!」

 

「いつになったら迎えに来てくれるのやら、ふう……」

 

そして再び、仲間の姿が見えないまま、待たせていた事を思い出すのだった。

 

「お前ら、其処にいるんだろ?俺だよ、ジャミルだ、用事は終わったよ、

さあ、地上へ戻ろうや……」

 

「ジャミルっ!やっぱり側にいるのねっ!でも……」

 

「お、オイラ達……、このままじゃ動けないんだよお~!箱船が見えないし、

動けないいいーーっ!!」

 

だが、今、此処に仲間がいるという事は、到着した時には仲間達は確かに

箱船から降りている筈なのだが……。箱船の姿が見えないまま、適当に動いたら

いつの間にか外に出ていたと言う理屈なんだか何だか。

 

「あーっ!もうっ、アンタ達うっさいっ!これでも掛けてあげるッ!!」

 

「……おいっ!お、おおお?」

 

「……あれええ~?見えるよお……」

 

「あは!ジャミル、私達、姿が見える様になってるわ!」

 

「ほ、本当だ……、僕も……、皆が見えるよ……」

 

サンディは声のした方向へ向け謎の粉の光をぶっ掛けたと同時に不思議な事に

仲間達の姿が見える様になっていたんである。

 

「これでいーんでしょっ!さあさあ、早く船に乗る乗る!忙しいんだからっ!

人間のあんたらの姿が天使達に分ったらそれこそややこしい事にもなんだからネっ!!」

 

「へいへい、んじゃま、帰りの箱船は大丈夫だな、中入れよ、お前らも」

 

「わあ~い!モンちゃん、行きましょ!」

 

「モンモン!今度はみんなで楽しいお船の旅モン!」

 

「……はあ、まさか中が見える様になるなんて……、本当に凄い船だったんだ……」

 

「あうう~……」

 

ジャミルは姿が見える様になってもまーだ1人ヘタレているダウドを無理矢理

箱船へと強引に押し込むのだった。

 

「……ばうううーーー!!」

 

「でも……、箱船ちゃん、壊れてんのよねぇ~、ちゃんと動くんかあ~?

おしっと、おっけええーーっ!みんな、行くよっ!飛び立つよっ!!」

 

「……んぎゃああーーーっ!!」

 

「お、おおお、ジャミルの乗った箱船が……、再び地上へ……、神よ、どうか

あの子にご加護のあらん事を……、お守り下さい……、無事で戻って来ておくれ……」

 

「ジャミルの天使の力は戻らなかったんだな……、でも、例えどんな姿に

なっていても、俺達の大切な仲間だって事に変わりは無いよ……」

 

「……何千年も何万年も皆で一生懸命星のオーラを捧げて果実を実につけたんだ、

ぜ~ったい、女神の果実を見つけてね、ジャミル!」

 

「どうか……、イザヤールを……、お願い、ジャミル……」

 

ダウドの悲鳴と同時に天の箱船が浮かび上がり、再び人間界へと旅立つ。その様子を

長のオムイ、残された天使達は祈りながらジャミルの無事を願い、ずっと見つめていた……。

 

「そろそろ人間界近い?んと、あの青い木がある場所、なんか箱船で降りられるっぽい?」

 

「ああ、夢の中の声も言ってた、青い木が俺を新たな旅へと導いてくれるって……」

 

「よくわかんないケド、ま、とにかく行ってみるっきゃないってことだよネ!

よお~し、みんな行くヨっ!人間界へっ!!」

 

「おおーーっ!!」

 

「おー……、です、だよお」

 

「モンーっ!」

 

ジャミル達4人とモンはサンディの言葉に揃って拳を突き出し、えいえいおーする。

そして箱船は青い木を目指し、降り立つ。地上に散らばった女神の果実を求め新たな

旅立ちのスタート、……此処から本当の冒険の始まりである。

 



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ヘタレモン、元気をなくす

「そうか、次の目的は……、人間界に散らばった……、その、女神の果実を

全て探して集める事なんだね、成程……」

 

「ああ、神の力を秘めたすげえ果実らしいからよ、早く見つけねえと厄介ごとに

なっちまう、悪い奴の手に渡んねえウチにどうにかしねえと……」

 

「大丈夫よっ!私達なら絶対みつけられるわ!いけいけゴーゴーよっ!」

 

「いけいけモンモンよっ!」

 

気合いを入れているアイシャとモンにジャミルはいつもの如く頭痛。ま、頑張って

くれんならいいかと思うが。……やっぱり暴走されるのは困るのである。

 

「あんたらもう到着するヨ、ささ、さっさと降りる準備するする!」

 

箱船はどうにか地上へと無事に辿り着き、青い木の側に着陸。当然他の人間達にはこの船の

姿は絶対に見える事はないので安心である。ジャミル達は久々の地上の大地へと足を踏む。

 

「……今度は何処に行くのさ?」

 

「分らないけど……、取りあえず歩いてみよう、何処かこの付近に町が……」

 

疲れた表情のダウド、アルベルトに尋ねる。早く休みたい様である。が、初めての土地、

新規モンスターも容赦なく出現。4人の行く手を妨害する。竜巻に乗っている為、下半身

不明の変なタラコ唇顔のモンスター、かまいたち2匹。

 

「んじゃあ、アタシはいつもの如く、休んでますから!暫く起こさないでよネ!」

 

発光体へとさっさと代わり消えるサンディ。

 

「……あいつ……」

 

「いいなあ、オイラも隠れたいよお、ねえ、ジャミル、オイラもジャミルの中に

隠れたいよおー!ねえ、隠れさせてえーー!!オイラも消えるーー!」

 

「おい、やめろったらっ!何処触っとるっ!こらあーーっ!!あ、ああーーっ!?」

 

「……ちょっとダウドっ!何してるのよーっ!」

 

……パァァンッ!!

 

錯乱してジャミルを襲い始めた?ダウドをスリッパで叩くアルベルト。最近はダウドも

ジャミルと揃って一緒に叩かれる事も多くなってきた。

 

「と、真面目にやろうよ!敵を倒さなくちゃ!」

 

「えうう~……、とほほのほお~……」

 

「とほほのモンモン~……」

 

「……マネしなくていいんだよおっ!!モンはっ!!」

 

「モンブ―だよおモン!」

 

「だよだよだよおーー!!」

 

やかましいのでアルベルトはもう一回仕置きしておこうかな……とも思ったが。

しかし、今はかまいたちを倒す事が先決である。

 

……かまいたちたちは、かまいたちで攻撃!

 

ダジャレなのか……、よく分らない、攻撃方法も名前と同じ攻撃に、

ダウドが笑い転げている……。

 

「……何ツボにきてんだよっ、オメーはっ!」

 

「変なおかお、おけしょうしてあげるモン!」

 

「モンちゃんっ!!……危ないわよっ!!」

 

「♪モモモンモ~ン!」

 

アイシャが止めようとするが、モンはかまいたちの眉毛をクレヨンで極太に悪戯メイク。

……異様に素早い行動である。顔に悪戯した後、モンはその場を逃げようとしたが……。

余計な悪戯で激怒させ、かまいたちたちは怒りのテンションを上げた。W連続かまいたちを

モンにぶつけようと……、しかし、咄嗟にアイシャが身を挺してモンを庇い、背中に刃を

受ける事になる……。切られた背中からは血が滲んでいた。

 

「い、いた……」

 

「……アイシャっ!なろお!ダウド、ベホイミをアイシャにっ!!」

 

「わかったよお!……って、ああーーっ!え、MP切れー!?」

 

「……何してんだよっ!!んな時にっ!!」

 

※ちなみに、3でオリジ設定だったMPが切れかかると行動不能……、は今回は

無しとしています。

 

「ダウド、大丈夫……、薬草が一つあるから、こ、これで何とか……」

 

「……それじゃ足りないよおおー!」

 

「アイシャ……、ごめんなさいモン……」

 

「こら、めっ!……ふふ!」

 

辛いのに痛みを堪えてアイシャはモンが無事だった事に笑っていた。そんな

アイシャの姿を見て、……ダウドは劣等感に陥る。

 

「なろおっっ!!」

 

ジャミルが間に割って入り、会心の一撃で一匹に止めを刺す。もう一匹は

竜巻に乗ったまま手を上に押っ広げたままのポーズで慌てて逃げていった。

 

「……大変モンっ!アイシャああ~!!」

 

「うう……」

 

「……大丈夫か?ごめんな、先に俺の方がホイミ掛けてやりゃ良かったな、

……モン、お前流石に今日は度が過ぎるぞ……、後でデコピンだかんな……」

 

「はいモン……、くすん……、モン……」

 

ジャミルに怒られ、モンがしょげる。最も普段はジャミルもアルベルトに

突かれる事が多い役回りだが、危険顧みず戦闘中に遊びだしたモンに今日は

心底ぶち切れていた……。だが、内心では、モンの事もアイシャの事も

気が気では無いほど心配していた。……特に……無邪気にかまいたちに突っ込んで

遊ぼうとしていたアホのモンチャンには冷や汗タラタラモンだった。

 

「ジャミル、そんなに怒らないであげて……、私は大丈夫だったんだから……」

 

「だけどよ……」

 

「今はとにかくこの付近で休める処を探そう、話はそれからでいいよ……、

ゆっくりね……」

 

「分ったよ……、アイシャ、歩けるか?」

 

「ええ、ジャミルに連続ホイミ掛けて貰ったもの、行きましょう!」

 

アイシャは立ち上がり、歩き出す。……モンが申し訳なさそうにその後を

ふよふよと飛んでついて行った。

 

「……」

 

「ダウドもいいかい?」

 

「……あっ、……うん……」

 

ダウドものそのそとアルベルトの後に続いて歩いて行った。4人は歩いている間、

暫くの間無言であった……。モンもすっかり元気がなくなっており、お腹が空いていても

我慢して我儘も言わなかった。

 

(やっぱりオイラって……、何やっても駄目なヘタレだなあ~……、このままじゃ、

いずれヘタレキングの称号貰っちゃうよお、……うう、そんなのいらない……)

 

暫く東に歩いて行くと、やがて長い階段が見えてくる。更にその階段の向こう側には

周囲を河に囲まれた大きな神殿が見えた。漸く休めそうな場所にたどり着けた事に

4人は安堵するのだったが……。そして此処でもまた大きな事件に巻き込まれる事になる。

 



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大神官を探せ!1

「ようこそ、此処は転職を司るダーマ神殿でございます、転職をご希望の方は

どうぞ中にお進み下さい、……ですが……」

 

入り口にシスターと神父さんがおり、4人を出迎えてくれたが、何だか

両方とも浮かない様な表情をしている。

 

「転職?此処って……、ああ、分った、何となく、成程……」

 

「ダーマ……、パンにつけて食べるんだモン、おいしいモン……」

 

「それはラーマだよ……、って、どっかで言った様な……、ま、いいか……」

 

しょんぼり元気がなかったモンがまた少し暴走し始めたので、ジャミルは何となく

ほっとする。さっき、少し怒りすぎたかな……、と、心配していたので。此処は

3でも重要な場所でもあったダーマの神殿らしい。奥の転職の間に沢山の人達が

新たな人生の旅立ちを求め、行列を作りずらっと並んでいた。……の、だが。

 

「ん?」

 

「おい、どういう事だよっ!大神官はまだ戻らねえのか!おれたちゃ遠くから

わざわざ金かけて転職に来てやってるんだぞっ!!」

 

「んだんだ!冗談じゃねえだよ!おら、なけなしの金をはたいて田舎から出て来たって

言うのにひどいでねえか!」

 

「わしゃあ、メイドさんになる為に頑張って此処に来たんじゃあ、冗談じゃねえぞい、

メイドさんになるまで絶対此処を動かんぞい!」

 

「も、申し訳ございません、皆様のお気持ちは分ります、ですが、もう少し

お待ち頂けるかと……、大神官様は必ずお戻りになられますので、どうか……」

 

「……そう言ってもう何日たってると思ってんだよ!!」

 

「本当に誠にどうも申し訳ございません……、はあ、はあ……」

 

神官の前で抗議しているらしい、沢山の客……。神官は滝の様な汗を掻きながら

クレームらしき対応に追われている様だった。……ジャミルは近くにいた

シスターに現状を尋ねてみる事にしたが……。

 

「大神官が……不在……?」

 

どうやら……、数日前から、大神官が謎の失踪を遂げたまま、行方不明との事。

大神官は数日前から何か悩んでいた様なのだが……。とにかく大神官がいなくては、客が

転職する事が出来ずに、神官達は対応に追われてんてこ舞い……、の、様だった。

 

「大神官様も……、もしかしてヘタレなのかなあ~……って、そんなワケないよね、

ごめんね、オイラの独り言だから、ぶつぶつ……」

 

と、ダウドは呟いていたが、誰にも聞こえなかったらしい。

 

「けっ、また明日も来るからな!……畜生!」

 

「……あんた達も困ってばっかいいねえで、そうしてる暇あったら大神官様を

早く探すだよ!!」

 

「……メイドさんは絶対諦めんぞい!」

 

……クレーム客達は本日は引き上げて言ったが……、対応に追われていた

神官は疲れてどっとその場に座り込んでしまった。

 

「ジャミル、神官様にも少し話を聞いてみようか……」

 

「ああ……、あの、ちょっといいかい?」

 

アルベルトがジャミルの肩を突く。ジャミルは頷いて神官の処まで話を聞こうと

近寄っていったが、神官はジャミルの姿を見ると慌てて土下座をし始めた……。

 

「!あ、ああ……、申し訳ございません!大神官様不在の今、転職は暫く出来ません!

ご理解賜りますよう、どうか、どうか……、何卒……」

 

「い、いや……、俺ら別に転職しに来たんじゃねえんだ、ただ、何処か休める

場所でもあればなと……」

 

「そ、そうでしたか!それでしたら神殿の地下に休憩所がございます、宿屋も

ありますので!是非!是非!」

 

「ありがとう、じゃあ、暫く世話になるよ……」

 

神官はジャミル達が転職の目的で訪れたのではない事が分り、安心した様だった。

しかし、大神官が行方不明とは……、また、ただ事でない事件が起きているらしい。

 

「暫く此処でまた情報収集だなあ~、それにしても消えた大神官か……」

 

「誰かに連れて行かれたって言う可能性もあるわよ!」

 

「まさか……、オメーじゃねえんだし……」

 

「何よっ!」

 

いつも通り揉め出すジャミルとアイシャ。アイシャもすっかり元気になっていた。

だが、このお方は……。

 

「とにかく宿屋に行こう、身体を休めなくちゃ、アイシャ、君も疲れてるんだから、

今日はゆっくり休むんだよ」

 

「はあ~いっ!」

 

「ダウドもね、……ダウド?」

 

「……ん?な、なんだい、アル……」

 

ダウドは暫く考え事をしていた様だったが、アルベルトに声を掛けられ、漸く我に返る。

 

「いや……、身体はしっかり休めておくんだよ……って言う事……、だよ……」

 

「うん、わかってるよお、ありがとうね、アル」

 

ダウドはそう返事を返すが、あまり声に元気がなかった。……昼間の件で

お役に立てなかった事を相当気にしているらしかった。

 

「ねえ、ジャミル……」

 

「んだよ……」

 

「君からも少しフォローしてあげたほうがいいんじゃないかな?絶対気にしてると

思うんだよ、君はダウドの親友なんだからさ……、ほら、さっきのこと……」

 

「ああ、たく、仕方ねえ……、おい、ダウド……」

 

「なんだよお?」

 

「俺もきつく言い過ぎたよ、まあ、おっちょこなのは俺もだからさ、

あまり気にすんなよ……、ま、ヘタレじゃねえと、お前じゃないしな……」

 

「い、いや、オイラ別に、その……」

 

「モンーーっ!!」

 

と、ダウドが言葉を繋げようとしたその時、またモンの声。神殿内をふよふよと

飛び回り遊びだした。慌てて止めようとアイシャが必死でモンを捕まえようと奮戦していた。

 

「モンお腹すいたんだモンーーっ!!」

 

「モンちゃん!駄目よーっ!待ちなさーいっ!……こらーっ!!」

 

「……モンも調子が戻ったみたいだね、良かった……」

 

「心配して損した、……やっぱ後で一発だけデコピンしておくか……」

 

この時、先ほど、ダウドが繋げようとした言葉……。この言葉をちゃんと

最後まで聞いておかなかった事で、ジャミル達は大神官の失踪、もう一つの大騒動に

巻き込まれる羽目になる事を今はまだ知る由もなかった。

 



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大神官を探せ!2

その日の夜……、疲れていたジャミル達4人組はダーマの地下休憩所にある

宿屋の一室を借り、ぐっすりと……。明日はもう少し行方不明の大神官について

情報収集をするつもりでいた。とにかく今日はもうお疲れモードで只管

皆ぐっすりと……。休んでいる筈だったのだが。

 

(全くもう!……んな爺さんなんかほっときゃいいって!アタシら忙しいのに!

このメンバーは別に転職なんか誰もするワケないんだから!……あれ?)

 

「……」

 

……夜中に1人目を覚まし、発光体のままブツブツ文句を言っていたガングロ。

誰かがのそっと起き上がり、こそこそ部屋を出て行くのを目撃した。

 

(あれ、ヘタレじゃん……、ちょ、何してんのよ、アイツ……)

 

「……」

 

サンディはダウドに気づかれない様、発光体のままこっそり後を付けた。向かった先は、

昼間騒動が起きていた……、転職の間。神官はまだ寝ずに起きて仕事をしていた。

 

「ほう、光る果実をお探しですか?」

 

「何か知っている事が少しでもあればオイラに教えて下さい……」

 

(……う、ウソっ!あのヘタレがっ!?1人で……、あ~んな真剣なツラして情報収集

してんじゃん!マ、マジスか……?で、でも、なんか超オモローーっ!)

 

サンディは面白がってダウドの様子を覗って観察中。……どうしようもない陰険ガングロである。

 

「光る果実ですか……、そう言えば大神官様が失踪なさる前に、転職に来た客から

その様な果実をお受け取りになられていた様な……」

 

「本当ですか!?」

 

「その者はまだ神殿にとどまっていた筈です、話を聞いてみるのが宜しいかと……」

 

「有り難うございます!……あの、大神官様は……、何かとても悩み事が

あったと聞いたのですが……」

 

「ええ、確かに大神官様は此処の処、少し塞ぎ込んでおられた様に見受けられます、

……しかし、大神官様のお悩みがどの様な物なのかは私には分かり兼ねません、

大神官様が行きそうな場所は粗方探したのですが、……お姿は何処にも……」

 

「そうですか……」

 

ダウドは神官に礼を言うと再び動き出し、地下休憩所へと戻った。今度

向かった先は冒険者達の憩いの場でもある、酒場……。

 

「はあ?光る果実を知らないかって……?」

 

「そう……です」

 

ダウドはバーテンダーの男に尋ねている。男は困った様な顔をしていたが、こうダウドに

伝える。ワインなら取りそろえているが、果実その物は取り扱っていないと。スイーツなら

女のメイドの方が詳しいのでそっちに聞いた方がいいとの事。

 

「……はい、光る果実ですか?はい、それなら見た事があります、この間大神官様が

お昼を食べに来た時、持ってきたんです、果物が大好物の様で、食後のデザートに

食べるので皮を向いてくれと頼まれたので食後にお出ししました、その果実はこの神殿で

武闘家に転職した方から頂いたのだとか……」

 

「わ、分かりましたーっ!どうもっ、ぶ、武闘家さああーーんっ!!あうーーっ!?」

 

ダウドは武闘家を探し、慌てて走って行き、……廊下をすってんころりん、転がり

デコを打ち、勢いでおならもプッと出した。

 

(な、なにやってんのよ、アイツ……、マジウケるんですけド!?)

 

「君、大丈夫かい……?」

 

「……ううう~、すみませえ~ん、オイラどうもドジなもんで……、!?」

 

転がったダウドに手を差し伸べた親切なお兄さん。その顔を見上げ、ダウドははっとする。

 

「も、もしかして……、あ、あなたは……武闘家さん……?」

 

「ああ、確かに……、でも、最近転職したばっかりで、まだ駆け出しLVだよ……」

 

「お、オイラ、あなたを探してたんですよおーっ!ひ、光る果実の事、教えて下さいっ!!」

 

「……光る果実?ああ、それなら確かにオレが大神官に差し入れしたよ、此処に来る

途中で拾ったんだ、大神官は果物に目がないらしいからな、その後の事は知らないが、

果実を持って酒場のメイドと話をしてるのはみたよ……」

 

「そうですかっ!色々と有り難うございます!」

 

「い、いや、オレで役に立てれば何よりだよ……」

 

ダウドは再び神官の処に向かっていた。そしてある考えに辿り着く。

 

「そっか、女神の果実は大神官様が食べちゃったんだあ、これは急いで大神官様を

探さないと!女神の果実はとんでもない力があるってジャミルも言ってたもんね、……」

 

「おや、先程の……、まだお休みになられないので……?」

 

「あの、実は……、オイラ、酒場で色々と話を聞きまして、その、大神官様の事で……」

 

「はあ……、な、何ですと?その、大神官様が食べた果実は、とんでもない力を

秘めていると!……大神官様が出て行かれたのは、その果実を食べた所為だと!?

……むむ、そうか、ダーマの塔か!」

 

「塔……が、あるんですか……?」

 

神官の話によると、この近くにかつて転職の儀式が行われていたダーマの塔と呼ばれる

塔があるらしい。だが今は其処は魔物の巣窟になっており、そんな危険な場所に大神官

一人で趣くなど考えにくいが、不思議な果実により、圧倒的な力を得たお陰でその塔に

行ってしまった可能性もあると。

 

「……旅の方!どうかダーマの塔へ趣き、大神官様を連れ戻しては頂けないでしょうか?

我々の力ではとても塔の魔物には太刀打ち出来ないのです、どうか大神官様をお救い下さい!」

 

「分かりましたーっ!オイラ、やります!」

 

(……え、ええええーーっ!?)

 

こっそりと、まだ様子を覗っていたサンディ。ダウドの言葉におったまげ。おかしい、

明らかにおかしいんである。いつもなら絶対に拒否するヘタレが……、今日は自分から

率先し、真面目に情報収集。……そして最後に、大神官捜索をあっさりと引き受けた……。

 

(………ま、マジ怖いんですけドーーっ!!これ、何か良くない事の前触れーーっ!?)

 

何か得体の知れない恐怖を感じたサンディ。……そのまま急いで部屋に戻ると、只管

呑気に寝ているジャミルの中へと消えた。その後、彼女もダウドの足取りは知らず……。

……翌日、目を覚ましたジャミル達が大騒ぎになる事件が待ち構えていた……。

 



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大神官を探せ!3

……翌朝……。ジャミル達はダウドが残した書き置きを見つけ大騒ぎになっていた。

 

……オイラはこれから大神官様を探しに東のダーマの塔に行ってきます。

強い男になりたいんです。どうか探さないで下さい。        ダウド。

 

「大変だわーーっ!!無茶よっ、ダウドったら一人で行くなんて!!」

 

「……何考えとるーーっ!あんのヘタレめえええーーっ!!」

 

「……」

 

……探さないで下さいと書いている割には、しっかりと向かった場所も記入してあるので、

やっぱり気には掛けて欲しいんだね……、と、思うアルベルト。

 

「うんっ、ヘタレってば夜中面白かったわヨ!真剣な顔で聞き込みしててさあ、

神官のとこで!マジウケるーーっ!!」

 

「……サンディ、おま、もしかして……、黙って見てたんか?」

 

「うん、ヘタレ記録観察しちゃったのヨーっ!!」

 

〔げんこつ〕

 

「……いっ、たああーーいっ!アンタマジで何サマーーっ!!レディにゲンコ飛ばすとか

チョーしんじラんネ!……アホーーっ!!」

 

サンディはギャーギャー激怒。ジャミルに散々罵声を飛ばすと再び消えた。女性キャラで

ゲンコツを貰ったのは奴が初である。まあ、多少加減はしているが。しかし、今はんな事言ってるバヤイではない。

 

「ジャミルも落ち着いて……、気持ちは分かるよ、でも、僕らもダウドが話を聞いた

神官様の所にまずは行ってみよう……」

 

「アル……、そうだな、俺がまずは落ち着かねえとな……」

 

……ヘタレを無事に捕獲出来た際には、連続デコピン+ゲンコツの刑もしっかりと検討していた。

 

「けどなあ、こいつがフラフラ……どっか行っちまうのは諦めてるけど……、ヘタレまで……」

 

「……ちょっと!人の方見ないでよっ!ジャミルっ!」

 

「と、とにかく!……神官様の所へ行かなくちゃ!」

 

「……ま、待って!?」

 

「今度は何だよっ!アイシャっ!」

 

アイシャが固まり、ジャミルとアルベルトの方を見ている……。何かまた恐ろしい

事実に気づいた模様……。

 

「モンちゃんも……いないわ……」

 

「……何ですとおおーーーっ!?」

 

そして……、失踪大神官ならぬ、失踪ヘタレは……。

 

「ふう~、オイラ、漸く此処まで来たよお~、塔が見える……、彼所がダーマの塔かあ………」

 

ダウドはちょろっと背伸びし、目の前に見えてきた塔を見上げる。……ジャミル達の

力を借りず、自分一人の力で此処まで来た事に大きな快感と喜びを感じていた。

 

「ふん、冗談じゃないよお……、ジャミルのアホ、いっつもオイラのことヘタレ扱いするんだからさあ!オイラだって真に秘めた力は凄いんだからね!見てろお~……、絶対に

オイラだけで大神官様を連れて帰るんだから……」

 

本人はそう言うが、……実際は只管猛スピードでモンスター達の群れを搔い潜り、ゴキブリ

パワー全開で殆ど逃げ回って此処まで辿り着いたんである。

 

「へへ、少し休憩……、出てくる時に神官様に頂いたりんごが……、これ、貰おう……、

んと、……重かったなあ、……神官様、こんなに沢山入れてくれたのかあ……、

どうもありがとう……」

 

ダウドはそう言いながら背中に背負ったリュックをおろす。……だが異様に何だか

違和感を感じたのである。中にはリンゴではなく、……何か別の物が入っていそうな

……。

 

「何か別の話でもこんな事あった様な……、中から何か違うモンが出て来て……、

りんご食べられちゃってるとか、……まさかねえ~、はは……、よいしょ……、開いた……、

あ、ああ……?」

 

「モンーーっ!違うモンじゃなくて本物のモンだモンーーっ!!」

 

「……あああああーーーーっ!!」

 

リュックの中から出現したのは……、モン。先程感じた違和感は雅にこれであった……。

ダウドが絶叫している頃、……ジャミル達は……。

 

「そうだったのか……、大神官がおかしくなったのは光る果実を食べた所為だったのか……」

 

「あ、ああ……、申し訳ございません、事情を知らなかったとは言え、たったお一人で

塔に向かわれてしまったとは……、ま、誠に、本当に申し訳ございませんでした!!」

 

……ジャミル達は神官の元へ行き、昨夜神官がダウドに話した事などを聞いていた。

神官はダウドを塔に一人で向かわさせてしまった事を只管謝罪していた……。

 

「神官様、どうかお顔を上げて下さい、……ダウドに気を配ってやれなかった僕らも

悪かったんですから……」

 

「ですが……」

 

「アルの言うとおりさ、返って神官様には迷惑掛けちまったな……、忙しいのに……、

大丈夫さ、大神官もあいつも必ず連れて帰るから、心配しないでくれよ……」

 

「本当に申し訳ございません……、ど、どうか宜しくお願い致します!!」

 

只管謝り続ける神官にジャミル達は頷く。こうなったら一刻も早く自分達も塔に趣いて

大神官とダウドを探しに行かなければならない。と、モンも……。

 

「ダウド……、やっぱりあの時の事……、それにしてもどうして黙って行っちゃうのよ、

私達、仲間じゃないの……」

 

「アイシャ、あまり気にすんなよ……」

 

「でも……」

 

アイシャは切なそうに下を向いた。ダウドはあの時、自分が怪我をした時に回復出来なかった事を申し訳なく思っていて悩んでヤケを起こしてしまったのなら……、それは怪我をしてしまった自分の不注意の所為でもあると思っていた。

 

「それに、多分一番の原因は俺だよ、分かってる……、大分きつく言っちまったからよ、

今回は爆発させちまったのかもな……」

 

「ジャミル……」

 

「とにかく此処で討論していても始まらない、ダーマの塔へ僕らも急ごう……!」

 

「ああ、アル、分かってるよ……」

 

ダウドが一時的に外れ、トリオとなったジャミル達は失踪軍団救助へとダーマの

塔へと向かう事に。……ところが、神殿を出ようとすると、誰かが後ろからもの凄い

勢いで走って来た……。

 

「おおーいっ!……待ってくれええーーっ!!」

 

「……?あんた誰……?」

 

ジャミル達に声を掛けた男。その人物は昨夜、ダウドに果実の事を話したもう一人の人物。

……大神官に女神の果実を差し入れした張本人の武闘家である。

 



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大神官を探せ!4

「……君達、あの困り顔少年の仲間なんだってな、神官様から話は聞いたよ……」

 

「はあ……」

 

「いや……、実はさ、彼が一人で行っちまったのもオレにも責任がある、果実の事を

彼に話したのはオレだからな……、けど、まさか一人で行くなんて思わなかったよ、

あんな夜中に……、困った顔してる割には、彼、随分勇気があるんだなあ……」

 

武闘家は淡々と話す。どうやら……、ダウドは相当勇敢だと勘違いしているらしい。

 

「あのさ……、あんたの方も……、ダウドと話した事、俺らにもちゃんと説明してくんね?」

 

「ああ……、話すよ……、そうだな……」

 

武闘家はジャミル達に、ダウドに伝えた事……、自分が大神官に光る果実を差し入れした

張本人である事を伝えた……。

 

「そうか、分かった……、こいつが全ての元凶か、アル、スリッパ貸してくれよ……」

 

「……だ、駄目だよ!ジャミルっ!」」

 

「チッ……」

 

「しかし……、あの果実は一体何なんだろう……、一目見た時、あまりにも美味そうでさあ、

俺もかぶりつきたくなったぜ!……もしかして、大神官がいなくなったのは……、オレが果実を渡した所為なのかな……」

 

「……今頃自覚すんなっ!このやろ!」

 

「ジャミルっ!……い、いえ……、あなたの所為ではありませんよ、大神官様は

何かとても悩んでおられた様ですから……、原因は他にも何かある筈です……」

 

ジャミルを必死に止めながら武闘家と話すアルベルト。……逆にジャミルは

スリッパで頭をアルベルトに叩かれた。

 

「そうだよな……、で、でも、もしかしたら果実が死ぬほどまずくて大神官が

逃げ出したんなら、……お、オレの所為じゃねえからな!」

 

「はあ……、アルもジャミルも……、早く塔に行きましょう、ダウド達を急いで

追い掛けなくちゃ!」

 

ジャミル達が心配している中、一方のダウドは……。お約束の様に出現したモンに困惑。

中のリンゴもモンによってすっかり平らげられていた。

 

「げっぷモーン、ごちそうさまモン!」

 

「……今更……、連れて帰るワケにいかないし……、オイラも戻る気もない、

大神官様を自分の手で探し出すまで……、それにしても、モン、いつの間に……、

やっぱりオイラって抜けてるヘタレ……」

 

其処まで言い掛け、ダウドは首を振る。……自分はヘタレを卒業しようと決意したのだから。

……ジャミルを見返してやる為。みんなの足手纏いにならない様に……。

 

「いいよ、モン、一緒に行こうよ、オイラが守るから、大丈夫だよ……」

 

「モォ~ン?」

 

モンにも何となく、ダウドの様子がおかしいのが分かる様で、不思議そうにきょとんした。

 

「ダウド、何だかいつもと違うモン……、無理しちゃ駄目なんだモン?」

 

「な、なんでさっ!オイラ別に普通だよ!それより行くなら早く行こうよ!

何だったらモン一人でも神殿に戻っててもいいからっ!」

 

「……モォ~ン……」

 

モンにはダウドが何で怒りだしたのか、それは理解出来ず。塔へと歩き出して

行ってしまったダウドの後を追った……。

 

「よし、塔の扉の前だ!と、等々此処まで来たぞ!えーと、扉を開けるには、確か……」

 

ダウドは神官に教わった扉の開け方を実行。扉の前で丁寧に頭を下げ、お辞儀をする。

モンもマネしてちょこんと一緒にお辞儀。……すると、勢いよく音を立て扉が開いた。

 

「やったあ!」

 

「モンーっ!」

 

「よし、中に突撃……ひゃあああっ!!」

 

「……ガルルル……」

 

しようとしたダウドを待ち構えていたモンスター集団。……見た途端、ダウドは

腰を抜かしそうになり、やっぱりいつものヘタレに戻ってしまうのだった……。

 

「大丈夫モン!モンに任せるモン!モン、さっき食べたりんごパワーのお陰で

元気百杯モン!!……行くモンーーっ!!」

 

「……だ、駄目だよっ、モンっ!危な……うわーーっ!!」

 

「ガルーーッ!!」

 

「キシャァァーーッ!!」

 

モンスターとは言え、まだ小さな子供のモン。ダウドは慌ててモンを

助けようとするが、腰が抜けて動けず……。しかし、モンは大口を開け、率先して

モンスター集団に噛み付き、ダウドを守ろうと健気に戦っているのだった……。

 

「どうしよう、どうしよう……、オイラ、オイラ……、あ、ああーーっ!?」

 

ブーー!!

 

モンはモンスターに向けて砲屁。ジャミル譲りの必殺技である。モンスター集団は

仰け反りうって全員その場で倒れる……。ダウドはその隙にモンを抱えると素早く

塔内に潜入するのだった……。

 

「全くもう!……危ないじゃないか!怪我でもしたらどうするんだよお!」

 

「……モン~、でも、モンのせいで……、アイシャは怪我しちゃったモン……、

全部モンのせいモン、だからモンも何かお手伝いしてお詫びしたかったんだモン……」

 

「モン……」

 

モンはモンなりに……、昨日の事で心を痛めていたのである……。

 

(オイラ……、ジャミルを見返す事ばかり考えてた……、だから此処に来たんだ……、

意地張って……、でも、モンは……、ちゃんと……)

 

「オイラ、自分の事しか考えてなかったよ……、やっぱりヘタレはヘタレだなあ~。

駄目だよ、ホント……」

 

「モン……、ダウド、やっぱりみんなの所に戻るモン?」

 

「いや、オイラが決めた事だよ……、大神官様を探すまで戻らないよ、モン、悪いけど、

一緒に最後まで来てくれるかな?」

 

「モン、ダウドがそう決めたのならモンも一緒に行くモン」

 

「ありがとうー!……って……」

 

「♪ぽーこぽーこちんちんモーン!やっぱり此処は居心地がいいんだモン!

……ジャミルにやるとデコピンが飛んで来るモン!やーモン!」

 

「ま、また……人の頭を太鼓にする……、……こらあーーっ!!」

 

反省は凄くしている様だが……、やはりモンはモン。いつも通りだった……。

……それから……、ダウドはモンを連れ、只管高速でモンスター達から逃げ回り……、

漸く最上階まで辿り着く事になるが……。

 



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大神官を探せ!5

「……やっと此処まで来れた、オイラだけの力で……でもないんだ……」

 

「モォ~ン?」

 

ダウドは改めて周囲を見る。漸く辿り着けた塔の最上階。だが、やはり此処まで

来れたのは殆どモンのお陰もあった。もしも……、自分一人だったら……、モンが

いなかったら……、そう考えて落ち込んで来た。そして、もしかしたら……、皆が

追い掛けて来てくれるかも知れない……、そんな甘い考えがダウドの頭をよぎった。

 

「モン?ダウド、この石さん、何か書いてあるモン」

 

「石碑だよ、えーと……、何かもう今は何も見る気になれないや、モン、ごめん……」

 

「モォ~ン……」

 

「……今ならまだ間に合うよお、……間に合いますよお~……。早く都合良く

みんな来てくれないと……、オイラこの先に進んじゃうよお……、はあ、やっぱり

駄目だね……、今更何言ってんの、オイラは……」

 

やはり心の何処かでは……、ジャミルを求め……、皆に会いたくて仕方ない自分の

本性がちらちらと垣間見え、こんなヘタレな自分が嫌になって来ていた。いつもの事だが。

 

「こうやって、……やった事にいちいち後悔して落ち込むのもオイラの性だもの、

……あ、モン、ごめんよ、さあ行こう……」

 

「モン……」

 

ダウドは暫くぶつぶつ言っていたが、漸く腰を折り、先へと歩き出す。その後を

心配しながらふよふよと追うモン。……鏡の様な扉の入り口から空間の中を通り抜ける。

……その先の祈りの間にいた、其処で見た人物は……。

 

「あれ、……大神官様かなあ?」

 

「モンプー?」

 

確かにそうだった。司祭の帽子を被り、必死で見えない何かに向かって祈りを捧げている老人……。誰がどう見ても、姿からして消息不明の大神官に間違いは無かった。ダウドは

思い切って老人に声を掛けて見ようと思うが……。

 

「……全ての職業を知り、全ての職業を司どる大いなる力よ……!今こそ我に……、む!?」

 

「……ひ、ひっ!?……あ、あの……、オイラ決して怪しい者ではっ!わわわわ!!」

 

老人がダウドの方を振り向く。……ゆっくりと。だが、振り向いたその表情は

やはり生気が無くやつれていた。

 

「あの……、あなたは……、いなくなった大神官……、様……ですよねえ?」

 

「確かに儂はダーマの大神官じゃが……、普通の人間には決して入る事を許されん

、この神聖なる場にお主は何故入って来れたのだ!……儂のなすべき事を妨害する者、

即ち儂の的と見なす!!……お前は只の旅人風情ではなかろう……!!」

 

「!!ち、ちちちち!違いますよお!オイラ、あなたを連れ戻しに来たんです!

……あのですね、今、神殿は大変な事になってますよお!!大神官様が急にいなく

なっちゃって、神殿に来てる沢山のお客さんが困ってるんです!神殿で神官様達も

大神官様の事、とっても心配してますよお!……心配……、心……」

 

ダウドは必死で説明しながら……、ふと思う。自分も……、こんな勝手な事をして、

皆に相当迷惑掛けてるんだろうな……、と。だからこそ、今回は絶対に何がなんでも、

此処から先は本当に自分の力だけでこの大神官を説得し、連れて帰らなければならない。

そう強く思い、改めて目の前の大神官を見据えた。

 

「儂は……、転職により、人々を正しい道へと導いて行けたのなら……、それが

何よりも嬉しい事であった……、だが……」

 

「大神官様……」

 

「これまで多くの人々を転職させたが……、果たして本当に正しい道へと導いて

行けたのであろうか……、力を誤り、間違った使い方をする者、与えられた力の

重さに後悔し、迷うもいるであろう……、……全ての人々が新たなる門出の道を

迷う事なきに進んで行ける筈がないのだ……」

 

「だ、だって、それは……」

 

……項垂れる大神官……。こんな時、ジャミルやアルベルトなら……、どう大神官に

答えを返すんだろう……。自分にはそれがどう考えても思いつかなかった。

 

「うううっ!オイラバカだから分かんないや!……単純に考えて、オイラが今此処で

出来る事は一つだけ!大神官様!オイラとすぐに神殿に戻りましょう!その為にオイラは

此処まで来たんですからねっ!!」

 

「モン!帰るモンですからねっ!」

 

「お主……、本当に何様なのだ……、大神官であるこの儂に生意気な口をききおって……」

 

「ひえっ!?」

 

「ひえーモン!冷えー冷えーモン!」

 

「モンっ!……いちいち真似して遊ぶなよお!本当に緊張感ないなあ!」

 

「ブーモンだ!」

 

大神官は生気の無い表情のまま、虚ろな目でダウドを見る。……最悪、どうしても

このまま大神官が戻る事を拒否するのなら、自分でも少しだけ使える軽い攻撃魔法で

うっかり気絶させて連れて帰ろうと思った。……そうしよう、その方が手っ取り早いと……。

 

「よし!強硬手段!……そうしよう!や、やっちゃいましょう……」

 

(ダウド……、何か変な事考えてるモン……)

 

「……悪いが儂は神殿に戻る気など今更ないわ……」

 

「あ、や、やっぱり……!そう来ますね!でも、オイラにも立場とプライドと言う物が

ありますから!大神官様、少しだけ痛い目に遭って貰いますよお!!」

 

「ほう、小僧……、この儂に武器を向けるか……。こんな何の力の持たん老人に……、

やはり此処まで訪れるだけあって、只の暇人ではないと見た、それは理解したぞ……」

 

「……」

 

ダウドは勇ましく、威嚇のつもりでロングスピアの矛先を大神官に向けた……、つもりだった。

 

「ダウド、違うモン、それ、たけやりモン……」

 

「……あああーーっ!?あ、焦って気づかなかったあーーっ!!やっぱりオイラって

ドジーーっ!!バカーーっ!!……ヘタレええーーっ!!全然カッコつかないよおーー!!」

 

自分で弁明し、その場で泣きわめくダウド。しかし、これで良く此処まで気づかず

持ったモンである……。ついでに。……ダウドは竹槍マンの称号を得る……。

 

「……いらないよおーー!!」

 

「ダウド、……モンモン……、ダウドはいつも頑張ってるモン、モンは分かってるモン」

 

モンに慰められるダウド。……カッコツケマンPRは失敗に終わる……。

 

「えうう~、嘆いてる場合じゃない……、そうだ、ま、魔法使って……!大神官様を……」

 

……止められる。こんな何の力も持たない、我儘爺さん……、そう思っていた。

だが、次の瞬間……、やはりダウドは自分がいかに、疎かで無知なヘタレだったか

改めて思い知らされる事態と窮地に追い込まれる事になる。

 



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大神官を探せ!6

「儂は力を手に入れたのじゃ……、全ての人々をより良い方向へと導く事が

出来る力をな……、儂はダーマの大神官としてこれからも此処で祈り、更なる

力を手に入れるのじゃ……」

 

「……はい……?な、何ですと……?あああーーっ!!」

 

「モンーーっ!?」

 

「今こそ我に力を!我に人々を導く為の力を与えたまえーい!!」

 

突如、大神官の周りを黒い渦が渦巻き始め、渦は大神官の姿をあっという間に包み込む。

 

「おおお、これは……、力じゃ、力が漲ってくるぞ、お?おおおーーっ!?

……お、おおおーーーっ!!何じゃこれはーーっ!!」

 

「だ、大神官さ……、うわーーっ!!」

 

しかし、直後……、大神官の姿はとてつもない巨大な化け物の姿へと変わる……。

予測していなかった事態にダウドは頭を抱え、大パニックに陥る。

 

「何事じゃこれは……、儂の身体が化け物に……、黒い力が溢れておる……、違う、儂は

こんな力を求めていたのではない!!」

 

「……大神官さまあ~、あうう~……、なんでこうなるのさあ~……」

 

「ダウド、しっかりするモン!お爺ちゃんを元に戻すんだモン!」

 

「……そんな事言ったって……、無理だよお~、……オイラ一人じゃ……、

皆がいてくれなくちゃ……、ジャミルが……」

 

ダウドは地面に這いつくばり、顔を突っ伏した態勢のまま、只管唸る。あれだけ決意して

此処まで来たのに……、完全にもういつものヘタレに戻ってしまっていた。

やはり自分は何も変える事の出来ないヘタレなんだと……、いつもの如く後悔の念に

駆られた。

 

「ククク、そうか、成程、この力で人間共を支配すればいいと言う事か……、

我は名乗ろう……、今日から魔神ジャダーマとな!人間共を絶対の恐怖で

支配する事を今此処で誓おうぞ!!」

 

「……ち、誓わなくていいですよおーー!!」

 

「モン、ダウド……」

 

「丁度良い、今此処で手始めにまずは貴様らを恐怖に落とし込んでやろう……」

 

「……ひ、ひいいいっ!?」

 

丸くなって怯えるダウドにジャダーマが近づいてくる。ダウドは動けず、全てを覚悟した。

 

「弱者よ!儂の力におののけ!たっぷりと怯えるが良いぞ!!」

 

「も、もう充分怯えてますからーーっ!!」

 

「ダウドっ!危ないモンっ!!」

 

「……モン……?だ、駄目……、!!」

 

怯えていたダウド。漸く薄めを開け、目の前で見た光景は……、ジャダーマが放った

稲妻から自分を庇い、地面へと落下し、黒焦げ状態の姿で倒れているモンの姿だった。

 

「あ、あああ!モンっ、モンっ、しっかりしてよお!やだ、いやだっ!

……死んじゃやだよ!……ごめん、ごめんよ、オイラの所為で!!」

 

ダウドは半狂乱になり、急いで倒れているモンに駆け寄りモンの生死を確かめるが……、

モンは白目を向いたまま、ピクリとも動かず。

 

「どうじゃ?……我の力を思い知ったであろう……、む?」

 

「モンっ!蘇れっ!!……ザオラル!ザオラル!……ザオラルーーっ!!」

 

ダウドは覚えたばかりのザオラルをモンに必死で掛けまくる。……MPがなくなるのも

承知で覚悟の上だった。それでもどうしてもモンを助けたかった。……絶対に……。

 

「は、はあ……、やった……、何とか……、モン……」

 

MPが突き掛け、もう駄目かと思ったその瞬間、祈りは届き、瀕死状態のモンは

無事に息を吹き返した。だが目は覚まさないままである。

 

「愚かのよう、それで全魔法力を失ったか……、そんな何の役に立たんクズの為に……」

 

「クズなんかじゃないっ!……モンはっ!畜生!モン、ごめんよ……、オイラももう

死ぬ気で戦うよ!!何が何でもっ!!」

 

「ほお……、しかし、例え助けても、お前ももう死は間近ではないか……」

 

ダウドは竹槍の矛先を再びジャダーマに向ける。もうMPはゼロ。武器は竹槍……。

どうしようもないのは分かっていた。だが、自分の起こした身勝手な不注意でモンを

こんな酷い目に遭わせてしまった。自分も罪を償わなければならない。何が何でも、

例え勝てっこないと分かっていても……。目の前のジャダーマにコケにされようと

……。モンを守ろうと立ち上がる……。

 

「……ジャダーマっ!大切な仲間のモンを傷つけたお前は絶対に許さないっ!!」

 

ダウドのテンションが上がる。無謀にも怒り状態でジャダーマに突っ込もうと

したダウドに再びジャダーマの稲妻が襲い掛かる。

 

「……ヒャダルコっっ!!」

 

だが、それを制する様に稲妻を掻き消した氷魔法……。ダウドは涙目になりながら……、

おそるおそる後ろを振り返った……。其処にいたのは……。

 

「……何者だ、この魔神ジャダーマ様の魔法を妨害するとは……、ほう、援軍か……」

 

「全くもう!無茶ばっかして!……駄目じゃないのっ!!」

 

「オメーが言うなっての!……ふう、やっと見つけた……、おい、ダウドっ!!」

 

「無事で良かったよ、ダウド……」

 

「……あうう~、アイシャ、ジャミル……、アルううう……」

 

漸く駆けつけ、助けに来てくれた仲間達の姿……。ダウドは顔中涙でくしゃくしゃで、

ちゃんとした言葉が出ず……。だが、すぐに倒れているモンを抱き抱え、急いで仲間達の

処へ……。

 

「そうだったのか……、モン……、お前……」

 

「モンちゃん……、頑張ってくれたのね、ありがとう……」

 

「ダウドの蘇生魔法が素早かったお陰だね、でも良かった……、無事で……」

 

「ごめんよ、ごめんよおお!……オイラの所為でえええ!ごめんなさああーいっ!!

オイラ、オイラあああーー!!やっぱり情けないヘタレだよおおーー!!」

 

「ダウド、すぐに頭出せ……、と、言いてえ処だけど、それは後でたっぷりと

してやるからよ……、終わったら覚悟しとけよ……」

 

「ひいいーー!?……そ、それも嫌だあーーっ!!」

 

「……今は大神官様を一刻も早く元の姿に戻さなくては!!」

 

「モンちゃんも、もう少しだけ待っててね!」

 

「サンディ……、出て来てくれよ、……少しの間モンの事、頼めるか……?」

 

ジャミルが呼び掛けると、サンディが姿を現し、発光体から妖精モードへ。

 

「分かったわヨ!全く!今回だけだかんネ!ヨエークセにアンタは無茶すんじゃ

ねーってのヨ!……デブ座布団はっ!!……」

 

サンディは暴言を吐きながらもモンの状態を確認。モンを見守るお役目を渋々引き受ける。

だが、内心はいつも自分に大口を開け、牙を向け刃向かってくるモンが目を覚まさないのに

段々不安を感じ始めていた。

 

「デブ座布団……、しっかりしなさいヨ……、ねえ……」

 



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大神官を探せ!7

「……爺さん、幾ら大神官だからってさあ、アンタやっていい事とわりィ事があんだよ、

俺らの大事なダチを傷つけてくれた仕返しと仕置きはしっかりさせて貰うぜ……」

 

ジャミルはそう目の前の暴走老人に言い放つ。……モンを傷つけた事に相当切れている。

 

「……愚かなガキ共め……、この偉大なる魔神ジャダーマ様に向かって説教を

垂れる気か?良かろう、お前達も纏めてこの聖なる稲妻の裁きを受けるが良い!」

 

「たく、不良爺め……、角なんか頭から生やしやがって!冗談じゃねーっつの!」

 

「……うわ、少し冷えたかも……」

 

毒舌を垂れるジャミルを見ながら、何だかアルベルトが少し寒そうに震えた……。

 

「み、みんな……、本当にごめん!全部オイラの所為だよ!モンはオイラを庇って

ああなっちゃったんだ……、それに……、モンを助ける為に、オイラ必死でMPを

使いまくって……、もうMPが残ってないんだよお……」

 

「ダウド、分かってる……、後の事は心配すんな、アイシャ……」

 

「ええ、はいっ!!」

 

「え……?わ、わああっ!?」

 

ジャミルは頷くとアイシャに目配せする。アイシャは大量に薬草が入った袋を

ダウドの目の前に差し出した。

 

「こんな事もあるだろうから、念の為に買い込んでおいて良かったわ、さあ、ダウド、

回復は引き続きあなたの担当よ!私達のサポートをお願いね!」

 

「ダウド、頼むよ、モンとサンディも守ってあげて欲しい……」

 

「う、うん……、こんな竹槍マンのオイラだけど……、で、でも、みんな

気をつけて!!あいつの稲妻の威力は半端じゃないよお!!」

 

「分かってるさ!……危険じゃねえボスなんかわざわざ出て来ねえからな、行くぞ!

アル、アイシャっ!!」

 

「了解っ!!」

 

ジャミルの言葉にアルベルトとアイシャも頷き、いよいよジャダーマとのバトルが

開始される。……ダウドはジャダーマに突っ込んでいく3人の無事を必死で祈った……。

 

「爺ーっ!更生して大人しく神殿へ帰れーーっ!」

 

「……神に刃向かう愚か者共め!!」

 

ジャダーマが連続稲妻を放ち、ジャミル達は一辺にダメージを食らい初っぱなから苦戦を

強いられてしまう。特にHPの少ないアイシャは何発も食らえばそれこそ致命的状況に

陥る危険性もある。……それでも我慢強いアイシャは何とか堪え、ふんばっていたが……。

 

「アイシャ、おま、大丈夫か!?」

 

「……まだまだ平気よっ!!」

 

「ほう?ならばこれは如何かな……?」

 

「きゃ!?……え、MPが!?」

 

ジャダーマはアイシャからMPを吸い取り、自らの力へと変えている様だった。

だが、戸惑っている暇もあらず、意地の悪いジャダーマは隙を逃さず、今度はバギを

3人目掛け放ってくる……。

 

「……あわわわ!み、みんなあーー!!これじゃ薬草だけじゃ間に合わないよおー!!」

 

「ちょっとヘタレっ!ヘタレてんじゃねーわヨっ!アタシも手伝うからっ!

こらーーっ!負けたら絶対許さねーかんネーーっ!!しっかりしなさいヨーー!!」

 

サンディは3人目掛け、薬草をドカドカ投げつけ、援護し、ダメージを回復させる。

乱暴だが、どうやらベホマラー効果になっているらしい……。

 

「……何という……、卑怯者めが……」

 

「オメーに言われたくねえっての!よし、爺!今度こそ覚悟しろよっ!!」

 

「……先に邪魔な後ろの雑魚共を始末しておくか……」

 

ジャダーマの目線がダウド達の方を向いた。しかし、そうはさせまいとアルベルトが

咄嗟にジャダーマに突っ込み、剣で斬り掛りダメージを与えるが、ジャダーマはすかさず

スカラで守備力を高め、ダメージを軽減した。

 

「大神官様、お願いです!もうこんな事はお止め下さい!……皆さんがどれだけあなたの事を心配なさっているとお思いですか!!」

 

「……そんな事は与は知らぬ!どけ!生意気な小僧め!!」

 

「本当に我儘なお爺ちゃんねっ!……モンちゃんをいじめてくれた事、絶対許さないんだからっ!!」

 

アイシャのテンションが上がり、MP5ターン無制限のミラクルゾーン発動。

この間にと、ジャダーマに向け、怒りのヒャダルコ攻撃を連発。ジャダーマが

焦り始めている……。だが、ジャダーマも立ち上がり再び、連続稲妻攻撃を発動。

ジャミル達もまた攻撃の手を止められてしまうダメージを食らってしまう……。

 

「……あ、あらららー!もう薬草もないわっ!これマジどうするのよーっ!!

も、もうアタシしんないんだかんネーーっ!!」

 

「ジャミル、みんな……」

 

あれだけあった薬草もあっという間に其処をついてしまう……。3人は傷だらけ、

絶対絶命状態に追い込まれていた……。

 

「流石にお前達ももう最初の勢いが無くなってきたのではないか……?どれ、そろそろ

止めを刺してやろう……、死んだ後、神の元へと趣き、罪を償うがよいぞ……」

 

「畜生……、冗談じゃねえぞ……、俺らはしぶてえんだよ、爺、お前も舐めてると痛い目に遭うぞ……、俺らを馬鹿にした奴は大概後でしっぺ返しを食らうんだかんな!」

 

「絶対に負けるもんか……、こんな処で……、大神官様……、僕らはあなたを必ず助けます……」

 

「そうよ……、頑張ってくれたモンちゃんの為にも……、絶対諦めないんだから……」

 

「モン……」

 

ジャミルは意識を失ったままのモンの方を振り返る。普段は悪戯ばかりして、

やんちゃなモンは……、あんな小さな身体でも身を挺してダウドを庇ってくれた。

何がなんでも絶対に負けらんねえと……、アイシャが呟いた言葉に再び気力を奮い立たせた。

 

「そうだよ……、冗談じゃねえよ……、畜生……」

 

「強がりか、小僧……、まだやる気か?そうか、それ程、神への元へ……、死を望むのか、

良かろう……」

 

「み、みんなあー!こんな時の為に取っておいたんだよおー!オイラのゴスペルソング、

……受け取ってーーっ!!」

 

「……む?」

 

「ダウド……」

 

ダウドは先程溜めておいたチャージ技を発動。3人のHPをある程度まで回復させた。

 

「何か……、あんまり受け取りたくないんですケド……」

 

「……う、うるさいなあー!サンディはっ!!」

 

「よしっ、ダウドっ!良くやったっ!」

 

「あははー……、はあ、す、少しはお役に立てたかなあ……」

 

「戻ったら取りあえず、仕置きのゲンコツは半分にしてやるからな!……良かったな!」

 

「……えうう~、酷いよお~、ジャミルうううー……」

 

「ほう、隠し球か……、だが、お前達は儂には勝てん、無駄な事だ……」

 

何とか立ち直った3人はジャダーマの方を改めて見る……。これが残された

僅かな勝利へのチャンスだった……。

 



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大神官を探せ!8

「……何とか此処で一気に決めちまおうや!2人とも!」

 

「分かってる!」

 

「そうね、これ以上バトルは長引かせられないわよ!」

 

3人がそう会話している間にも、ジャダーマは又連続稲妻を放ってこようとする。

だが、ジャミルもテンションが上がり、必殺チャージゲージがMAXに。

 

「……なってもなあ、俺のアクロバットスター……、どうしろっつんだ……」

 

悲しい程本当にあまり使い処のないテンション技である……。

 

「来るよっ!ジャミル!」

 

考えている間はなかった。連続稲妻攻撃は再度3人目掛けて襲い掛かる。

稲妻を食らいながらも必死で堪え、耐える3人。そのままジャダーマへと

突っ込んでいき猛反撃を開始する。

 

「……この暴走不良糞爺っ!いい加減にしろ!この野郎!!」

 

「心を一つにして一気に攻めよう!……行くよーーっ!!」

 

「私のミラクルゾーンもこれで最後のターンだわ!えーいっ!特大級よーーっ!!」

 

「食らいやがれええーーっ!!」

 

「会心必中――っ!!」

 

3人の攻撃は一つとなり、ジャダーマに襲い掛かる。アイシャの放つヒャダルコが

ジャミルとアルベルトのW連携攻撃に力を与え、刃は氷の剣となる。氷の剣はジャダーマの

身体を貫くのだった……。

 

「おおおお!わ、我の力が……力があああーーっ!!消えてしまうーーっ!!」

 

ジャダーマを取り込んでいた黒い渦が抜けてゆく。ジャダーマは元の大神官の姿に戻り、

バタリとその場に倒れた……。

 

「はあ~……、……終わったの……かしら……」

 

「爺さん……、大丈夫かよ……、死んでねえだろうな、おいおいおい……」

 

「心配ないよ、気絶しているだけみたいだ、完全に元の大神官様に戻ってるよ……」

 

アルベルトが大神官の安否を確認。すると……、倒れていた大神官が起き上がり、

意識を取り戻すのだった。

 

「うう……、わ、儂は此処で何を……、全く覚えておらん……」

 

「爺さん……、痴呆のフリは駄目だぜ?アンタ、とんでもねえ事しでかす一歩

手前だったんだからさ……」

 

「そなたは誰だ……?何故……此処にいる……?」

 

すっとぼける素振りを見せる大神官。目の前にいるジャミル達を見てきょとんとしている。

どうやら此処に来る間の記憶も……、ジャダーマになっていた時の事も全く記憶にないらしい。ジャミル達は自分達が何故此処に来たのか、神殿で皆が心配している事、全て伝えた。

 

「……光る果実を?そうじゃ!儂は確かに光る果実を食べた、じゃが、その後の事は

全く覚えておらん……、微かに覚えておるのは自分が自分ではなくなってしまう恐怖

だけじゃ……」

 

「……」

 

ジャミルは後ろにいるダウドの方を振り返る……。ダウドは目を覚まさないモンを

ずっと抱き抱え、黙ったまま、項垂れたままの状態だった。

 

「なんと……、儂は魔物の姿になり、世界を支配しようとしていたじゃと……?

そうか、そなた達が儂を救ってくれたのか……、かたじけない……」

 

「あの……、何回も言う様ですが、神殿の皆さん、大神官様の事をとてもご心配

なされております……、転職希望のお客様も沢山訪れておられた様ですが……」

 

「ああ、そうじゃ……、ダーマに戻らねば!転職を求める人々の声が聞こえるのじゃ!

……キイイイーーーンッ!!」

 

「あっ、大神官様……?ちょ、ちょっとーーっ!!お待ち下さいーーっ!!」

 

アルベルトが止めようとするが、大神官は物凄い勢いで祈りの間を飛び出したかと

思えばあっという間に姿が見えなくなった……。

 

「……セントシュタインの姫さんと言い、逞しすぎだろ!!色々突っ込み処が多すぎんだよ!」

 

「と、とにかく……、私達も一旦神殿に戻りましょうよ……」

 

「ちょっと待って!?……何か光ってるヨ!これ、果実……?」

 

サンディが目を見張る。大神官が消えた後……、ジャミルの前に光る果実が出現した。

果実はそのままジャミルの手のひらの上にポトンと落ちた。

 

「……黄金の果実だ……、これで一個目か……」

 

「大神官のおっさんに食べられちゃった筈なんですケド!?……ま、まあいいか、

アンタの探してる果実が見つかったんだから……、此処は喜ぶトコロよネ!

それにしても、生身の人間が直に食ったりしたら碌な事にならねーわネ!やだやだ!」

 

「全然……、喜べないよお、……オイラ……、オイラ……、どうしたらいいのさ……」

 

聞こえて来た声に後ろを振り返ると、落ち込んだままのダウドが半ベソで声を漏らした……。

 

「ダウド、此処にいても仕方ねえよ、アイシャの言う通り、此処は俺らも神殿に

戻ろう、……全てはそれからだ……」

 

「……」

 

ダウドはそれから又、無言になり一言もジャミル達と会話を交わさなくなる。

ジャミルのルーラで一行は神殿に戻るが、やはり大神官は4人よりも早く、神殿に

ちゃっかりと戻って来ていたのだった……。他の神官達は、無事に神殿に戻って来た

大神官の姿に4人に何度も何度も頭を下げ、礼を言い捲った。しかし、今は礼など

言われても全然何一つ嬉しくない状況であった。

 

「……モン、ごめんよ、ごめんよ……、オイラの所為で……」

 

宿屋のベッドでずっと静かに眠ったままのモンを見守るダウド……。こんな状態では

流石のジャミルもダウドにゲンコツを噛ます心境では無かった……。

 

「もしかして……、手遅れだったのかなあ、……オイラのザオラル……、だとしたら……、

オイラ本当に役立たずのヘタレ僧侶だよお……」

 

「はあ、もうこんなの見てらんないんですケド!……辛気クサっ!!」

 

サンディは悪態をつきながら発光体になり、姿を消す。しかし、彼女も本当は

塔でモンを見守っていた時から、未だ安否が心配で心配で仕方が無かった……。

 

「ダウド、お腹すいてるでしょ?ご飯はちゃんと食べなくちゃ駄目よ、ね?元気だそ?

食堂で神官さんやメイドさん達が私達に美味しいご飯を用意してくれたみたいなの、ね、

食べに行こう、みんなで!」

 

「アイシャ……、悪いけど……、とてもそんな気にはなれないよ、オイラ……」

 

「くんくん、……ご飯モン……?」

 

「モン……?」

 

「モン……、ま、まさか……」

 

俯いていたダウド、……ジャミルもアイシャもアルベルトも……、一斉に反応する。

モンが漸く目を覚ましたのである……。モンはベッドからぴょこんと起き上がると、

大欠伸。……自分を見つめる皆の姿にちょこんと首を傾げ、不思議そうな顔をした。

 

「……あああーーっ!モンっ、モンっ、……良かったあああーーっ!!ごめん、

ごめんよおおーーっ!本当に良かったよおおおーーっ!!」

 

「モン~?ダウド、なんで泣いてるモン?」

 

「ふふ、モンちゃん、……お帰りなさいっ!!」

 

続いてアイシャも目を潤ませ、モンのフヨ腹にダイブ。わんわん大泣きするアイシャと

鼻水を垂らして号泣しているダウドにモンは困って、笑っているジャミルとアルベルトの方を見る……。

 

「……モ、モン~?」

 

しかし、大概は良い場面ばかりで終わらないのがこの話でありまして……。

 

「さあ、モンもちゃんと戻って来たし、やる事はちゃんとやっとかねえとな、飯の前に、

それが俺らの決まり事さ、よし、家出人達、こっち来な……、心配掛けた罰だ……」

 

「……え?ええええ……?」

 

「頭出せ、ダウド、……モンもな……、お前はデコだ……」

 

「モ、モン……?」

 

〔ゲンコツ×5、+デコピンの刑、SP、……発動!〕

 

やる事はしっかりと……。ダウドはジャミルにゲンコツ攻撃、モンはデコピンの

仕置きを揃って食らったのだった……。ジャミルがやらかした場合は、アルベルトに

スリッパ連打の刑。これでバランス?……を、保っている。

 

「……えううーっ!いだいよおーー!ジャミルのアホーーっ!!」

 

「モン、でこっぱちになっちゃったモンーーっ!!」

 

(全くも~、これだからっ!あー、心配して損し……、って、アタシは全然心配なんかしてネーわヨっ!!フンっ!!)

 



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新しき門出の日

その日の夜。1人、中々寝付けないでいたダウドは、状態も落ち着き、ぷうぷう

眠るモンの姿を見つつ、窓からぼーっと星を眺めていた。無事に此処に戻ってこれ、

モンも無事で、気分もやっと安定していた。

 

「おい、ダウド……」

 

「あ、ジャミル、……ごめんよ、何か寝付けなくてさあ、えへへ……」

 

「……」

 

ジャミルはダウドの座っているベッドの方へ移動。そしてそのまま隣に腰をおろす。

 

「はあ、やっぱオイラってバカだよねえ~、カッコ付けて割に合わない事しちゃってさあ!」

 

「……バカなのはもう分かってっからさ、あまり気にすんなよ……、諦めてるから」

 

「うん、……って、そんなストレートに言うなよお!」

 

「こ、こら!でけえ声出すなっ!……アル達が起きちまうだろ!」

 

「あ、め、めんご……」

 

ダウドは慌てて声のボリュームを下げ、眠っているアルベルト達の方を振り返る。

 

「ま、バカなのは俺もだからさ、……お互い様だよ、けど、これでなくちゃ、

俺らコンビじゃねえっての、あん時は俺もついムキになって、きつい事、……

言っちまったかもだけど……、その、お前をいつも心配してるって事、その、

分かってくれや……」

 

……言ってて恥ずかしくなったのか、ジャミルは顔を赤くする。照れを誤魔化すようにして、

急に立ち上がると、アイシャの横で眠っているモンの顔をわざわざふにふに突っつきに行った。

 

「ねえ、ジャミル、オイラこれからも、ヘタレでいいんだよね、ね……」

 

「ああ、……けどな、あまり度が過ぎんのは又俺も切れるからなっ!分かったかっ!!」

 

「へえ~い!」

 

そう返事を返すダウドの顔は笑っていた。無理せず自分らしくこれからもヘタレで行こう。

……何回もヘタレを卒業しようと思った時期もあった。やはり今回も止めたのだった。

別の世界の話でも自分のヘタレが原因で大変な事になった話もあった。もしかしたら

これからも又、ヘタレ奪回しようとするかも知れない、でも、また、すぐに止め……。

 

「……うるせーんだよっ!ウダウダ1人ナレやってないで早く寝ろっ!このヘタレっ!!」

 

「あ、ま、またヘタレって言ったなあーーっ!バカジャミルーーっ!!」

 

「るせー!少しは反省しろ!このヘタレっ!!」

 

「……君達……、いい加減に寝たらどう……?今一体何時だと思ってるのかな……?」

 

気がつくと……、ゆら~りと……、スリッパを手に持った黒い顔のアルベルトが……、

2人の正面に立っていたのだった。その後、揃ってアルベルトに頭を叩かれた後、

渋々と両者共ベッドに戻ったのである。

 

「……畜生!腹黒めっ!後で覚えてろっ、……に、しても……」

 

ブツブツ言いながらベッドで横たわるジャミル。……実はジャミルも、此処、ダーマに来て

ちょっと考えていた事があった。

 

……翌日。

 

「転職するのかい……?盗賊に?」

 

「ああ……」

 

驚きの声を上げるアルベルトにジャミルが淡々と返事を返した……。

 

「これまで旅芸人として、バトルで習得したスキルは別の職業でも引き継げる分は

そのまま残るからよ、どうしてもな、これからの事を考えるとな……、俺本来の

素早さとか、得意分野を生かしてみたいのさ……、盗賊は結構攻撃力高いらしいし……」

 

「うん、それもあるね、僕もいずれは戦士としてもう少し修行を積んだら、上級職に

チャレンジしてみたいなと思っているんだ、まあ、まずは君の転職を応援するよ……」

 

「いいんじゃないかしら?ジャミルが考えるのなら……、ね!」

 

「アル、アイシャ……、あ、ありがとな!」

 

「ふふ、頑張って、ジャミル!何だか本来のマルディアス時代を思い出すね!」

 

アイシャに応援され、ジャミルが真っ赤になる。しかし、問題はこっちである。

ジャミルは又ダウドがいじけに走らないか心配になる……。元々僧侶になるのに

気が進まず、それでもヘタレながらも頑張ってくれていたダウド……。ダウドも

本来の盗賊をやりたがっていた。……自分だけが先に又、賊に逆戻りしてしまえば、

ダウドに逆恨みされても仕方が無いと思っていたが……。

 

「オイラ何も言わないよ、ジャミルが決めた事なら……、ま、この世界ではオイラ、

回復役に適しちゃったんだから、でも、もしも機会があって、余裕が出来たらオイラも

転職させてくれればそれでいいよ、だからそれまでオイラこのままで頑張るから……」

 

「ダウド、お前……」

 

ダウドはジャミルの方を向いて微笑みながら頷く。どうやらいじけの心配なく、

ジャミルの転職を快く承知してくれた様だった。

 

「ッシャアーっ!こりゃ頑張るしかねえだろ!いっちょやるかっ!!」

 

(はあ、アイツ転職すんのネ、転職したらLVも1に戻っちゃうらしいし、な~んか、

またこの先長くなりそうなんですケド……、前途タナ~ン!……アンタやるからには

ちゃんとしっかりやりなさいってのヨ!……テンチョー、ココでも見つからなかったし、

……ブツブツ……)

 

そう呟いているサンディの言葉は、騒いで奮起しているジャミルには聞こえなかったらしい。

 

「モンも転職するモン!モン、太鼓叩き職人さんになるモン!」

 

「……ま、また……、てか、モン、最初から職業ついてないでしょ……、

そんな職業ないしっ!……人の頭の上に乗るなああーーっ!!」

 

元気になった途端、再び始まるモンの悪戯。いつもの通り、ダウドの頭を太鼓代わりにし、

ポコポコ叩いて遊び始める。ダウドもモンもすっかりいつも通りに戻っていた。

けど、これでいいんだよな……、と、ジャミルは安心感を覚えるのだった。

 



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ジャミル、ヘタレ化する

4人は転職の間へ。……其処にはすっかりいつも通り、ケロッと……、仕事を熟し、

神殿に訪れた人々を新たな人生へと導いている大神官の姿があった。

 

「爺さん……」

 

「おお、そなた達か!ダーマの塔では世話になった!一体あの果実は何だったのじゃろうな、儂は確かに人々をより良い道へと導く為の力を求めていた、あの果実はその力を与えて

くれた物かも知れないが……、儂はその力に溺れ、世界を破滅させる処であった……、

そなた達が止めてくれなければ儂は世界を滅ぼしていたかも知れん……、心から礼を言う、黄金の果実は人間が口にしてはいけない禁断の果実だったのだな……」

 

「でも、果実がお爺ちゃんのお尻からうんちと一緒にぷりぷり出て来なくて良かったモン……」

 

「……こ、こらっ!モンちゃんっ!……あっ、待ちなさいっ!!」

 

「♪モォ~ン!」

 

モンはその場から逃走。アイシャは慌ててモンを追い掛け走って行った……。

……モンの暴言は大神官には聞こえていなかったらしいが。

 

「全く!……モンは最近毒舌までどんどん凄くなって来てる気がするよ!ちらっ!」

 

「……んだよ、腹黒!俺の方見んなってんだよ!!」

 

「そなた達には本当に礼のしようも無い……、せめて儂のこの転職の力をこれからの

旅に役立てていって欲しい、儂はダーマ大神官、転職によって人々をより良い道へと

導く事こそが儂の使命……」

 

「うん、その事で来たんだ……、俺、転職したいんだ、盗賊に……」

 

ジャミルはちらちらと大神官の方を見る。……テレテレ顔を赤くしながら……。

 

「そうか!早速、この儂の力がお役に立てるか!そうかそうか、では、ジャミル、

儂の側に来なさい……」

 

「へ、へっへへっ!行ってきやーす!」

 

「ジャミル、嬉しそうだねえ~……」

 

「うん、これから益々頑張って貰わないとね……」

 

ジャミルは、らったった状態で転職の儀式を受けに大神官の近くへ。暫くの間、大神官に

祈って貰う。そして、自らも神へと祈りを捧げる。……少々鳥肌が立っていたが。いよいよ、旅芸人から盗賊へと変わる時である。

 

「おお!この世の全ての命を司りし神よ……!ジャミルに新たな人生を歩ませたまえ!!」

 

ジャミルの頭上に光が降り注ぎ、装備品で頭に着けていた羽根飾りバンドが外れる。

 

「これでお主は新たな道へと進む事が出来るぞ……、装備品は新しい物に変えたまえよ、

さあ、行くが良い……」

 

「俺……、マジでまた賊になったんだな……、な、なんか……、素早さがアップした様な

気がするっ!ひゃっほー!」

 

「あまり調子に乗らないんだよ、LVはまた1からなんだからね……」

 

調子に乗るジャミ公にアルベルトが注意を促そうとするが、本人は浮かれている為、

アルベルトの声も耳に入らず……。

 

「よしっ、確か地下によろず屋の行商人が来てたよな!お前らも装備品整えとか

なくちゃな、ささ、行こうぜ!!」

 

……本当はダーマの塔に行く前に、装備品を変えておく予定だったのが……、ダウドが

暴走して行方不明になった為、ジャミル達は新しい装備品を買うのも忘れ、急いで塔へと向かった状態だった。

 

「はあはあ、……ジャミル……、転職の儀式は終わったの……?」

 

其処に漸くモンを捕まえ、息を切らしたアイシャが戻って来る……。神殿の客にも

力を貸して貰い、モンがバナナを頂いている隙に漸く捕獲したらしい。

 

「もぐもぐ、バナナ、おいしーモン!」

 

「うわ、食べ物で捕獲されるとか……、ますます誰かさんそっくりに……」

 

「……ダウドもうっせーっての!ご、ご苦労だったな、アイシャ……、これから

装備品整えたら、俺、少し近辺でLV上げしてんだけど、お前らもいいかい?」

 

「うん、転職したばっかりだからね、もう少しダーマでお世話になろう……」

 

「私もいいわよ!」

 

「オイラもいいでーす!」

 

「ちんちんバナナモン!」

 

「……モンちゃんっ!!」

 

(はあ~、今度は修行っスかあ~、どうでもいいけど、こっちは人捜しだってあるんだから、

レベルなんかちゃっちゃと上げちゃいなさいヨネ……!)

 

4人は地下の行商人からある程度の装備品を買って外出バトルの準備を整えようとしたが、

売っているラインナップは、ほぼベクセリアと同じで、特にランク上の装備品を取り扱っている訳でもなかった。……ジャミルも武器を特に変える必要もあらずで、とほほのほ~で、4人は神殿の外に出た……。

 

「よし、修行だっ!モンスターちゃん、出て来いっ!」

 

「……あんまり出て来て欲しくないけど……、わ、出たっ!」

 

ダウドが身を縮こませるが、出たのはスライム一匹……。

 

「よしっ、これならっ、丁度腕試しにならあ!楽勝っ!」

 

「……ジャミルっ!油断しちゃ駄目だよっ!こらっ!ジャーミールううう!!」

 

アルベルトがジャミルに注意するが、聞いていない。ジャミルはそのままスライムに

突っ込もうとするが、スライムは仲間を呼び、その数は5匹になり……、ジャミルは

スライムに取り囲まれてしまう……。そして、スライムは合体し、キングスライムとなる。

 

「だ、だから僕がっ!……あああーーっ!!?」

 

「きゃあーーっ!!」

 

「……ぐえーーっ!!」

 

ジャミル、キングスライムに潰され、ぺちゃんこ。ちーん、昇天……しかける。

 

「ダウドっ、すぐにジャミルにザオラルを!……此処は僕とアイシャで何とかする!」

 

「……う、うん!」

 

「モンもいるモン!」

 

「ダウド、ジャミルをお願い!行こう、アル、モンちゃん!」

 

「何か見てて情けないなあ~、もう~、ほらジャミル、しっかりっ!!」

 

こうして、ジャミルはダウドに助けて貰ったが、転職したての為、仲間とのLVの差、

約15……。皆にLVが追いつくまで、ジャミルは暫くの間、モンスターにやられ捲りで

……、ヘタレ状態となってしまったのだった。

 



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祈りの少女と主神様 1

それでも……、ジャミルは持ち前の粘りと根性で、怯む事なく敵に突っ込んではぶっ倒れ、その都度仲間を冷や冷やさせた。漸くLVも10。倒れる回数も徐々に減っていった。

 

(……ホント、こういう処が……、ジャミルの凄さなんだよね……、絶対諦めないし……、

やっぱりオイラ……、ジャミルには敵わないよお……)

 

また卑屈になりそうなダウドだったが、お前はお前のままでいいんだよと言うジャミルの

言葉を思い出し、ヘタレは素直にいつも通り開き直る事にした。……反省の色無し……。

 

「ジャミル、そろそろ神殿に戻ろう、日も暮れて来たし……」

 

「ああ、ようやっと俺も皆とLVが追い付いて来たな、明日にはダーマを出発出来るかな……」

 

「良かったわね、ジャミル!」

 

「はあ、アンタってホントバカ!底抜けのしつこい嫌らしさサイコーチョーじゃネ!?」

 

「うるせーガングロ!嫌らしいのはオメーもだろうがよっ!」

 

「シャアーーっ!!」

 

「あ、ま、またアタシに向かって大口開けたねッ!このデブ座布団っ!!やる気かっての!!」

 

サンディを威嚇するモン。もうすっかりいつも通りになっていたが、再び喧しさも

戻り4人は苦笑するのだった……。して、本日の修行?は終了し、神殿へと戻る。

 

「う~ん……、何にするか……、戦士も捨てがたいなあ……」

 

「?」

 

神殿に戻ると、昼間は見掛けなかった人物が転職の間入り口付近でウロチョロしていた。

漁師風の容姿の男である。男は4人に気づくと、すぐに声を掛けて来た。

 

「よう、あんたらも転職しに来たのかい?オレは南のツォの浜辺にある漁村から来たんだ、

光る何かが海に落ちたのを目撃してな、……これは転職しろって神のお告げだと

オレは思ったのさ!」

 

……単純なおっさんだなあとジャミルは思ったし。しかし、海に落ちたという光る何かと

言うのが非常に気に掛かっていた。

 

「ジャミル……、光る何かって……、もしかしたら、女神の果実が海に落ちたのかも知れないね……」

 

「ああ、俺もそう思ったさ、よし、明日はその漁村に行ってみようや、次の場所は決まったな!」

 

「……海?海って何モン?」

 

「モンちゃん、海はね、お魚さんが沢山見れるわよ!」

 

「モンー!」

 

(……海かあ~、やだなあー、アタシ日焼けしちゃうかも、……美肌クリーム塗っとこっと!)

 

他のメンバーが話を纏めている処で……、この男だけは又不安になり、一人でブツブツと……。

 

「もしもその……、光る何かって言うのがさ……、本当に女神の果実なら……、海を

探さなきゃいけないって事じゃないかあ……、勘弁してよお~……」

 

次の日……。神殿を後にしようとした4人を大神官達が見送ってくれた。

 

「皆さん、どうかお気を付けて……、本当にお世話になりましたの、……今思えば儂が

魔物になったあの時……、何か人々の心が不安に満ちているのを感じた……、この世界に

何かが起きようとしているのは定かではありませぬ……、それが何なのか儂には分かりませんが……、このダーマ神殿にて新たな道を選ぶ者達がおれば案ずる事はないと儂は信じておりまする、あなた方もどうか自分の信じた道を信じて……、真っ直ぐに進んで下さい……、何か職業でお困りでしたら、またいつでも神殿においで下さい……」

 

「ご武運をお祈りしております……!」

 

4人は神殿の皆に礼を言い、ダーマを出る。道中、のんびりと散歩を楽しみつつ足取りは軽く、時にはモンスターに襲われ、また調子に乗ったジャミルが倒れながらも……、南の浜辺を目指した。

 

ツォの浜辺……

 

「くんくん、……お塩の臭いがするんだモン、あの大きなお水さんが海モン?」

 

「ああ、海水だよ、海は塩がたっぷりだからな、舐めたらしょっぺーぞ!」

 

「モン~?」

 

ジャミルの言葉に不思議そうにモンが宙に浮かんだまま首を傾げる。此処まで皆と一緒に

旅に付いてきたが、まだまだ小さいモンにはこの世界での分からない事が沢山あった。

 

(ハア~、生臭ッ!魚のニオイがプンプンなんですケド!?やだやだ!)

 

「サンディったら……、我儘なんだから……」

 

(フンっ!)

 

発光体のまま相変わらず愚痴を飛ばすサンディにアイシャが呆れる。ジャミルは

サンディが直に出てくるとうるせーからほっとけよとアイシャに言うが。

 

「ジャミル、彼所……、浜辺で何かやっているよ、人があんなに沢山……」

 

「お?ホントだな、行ってみっか!」

 

「ゲ、も、もしかして……、浜にドザエモンでも打ち上げられたのかしら、……あ、ああ!」

 

また怯えるダウドをほっぽっておいて、他のメンバーは浜辺へと駆けていってしまう。

……ダウドは仕方なしに後を追った。……浜辺へ向かうと、アルベルトの言った通り、

沢山の密集している人々……。皆息を凝らして何かを見つめている。視線の先には

海に向かって無言で祈りを捧げているピンクの髪の二つ縛りの少女の姿があった……。

 

「なあ、……一体何が始まるんだい?」

 

「……これからオリガが主様に祈りを捧げる処さ、黙ってみてなよ、兄ちゃん……」

 

「こらこら、バチあたりめ!オリガの邪魔すんじゃねえだよ!」

 

「オリガが主様を呼んでくれるお陰で私達、本当に助かっているんです、それにオリガも

まだ小さいのにお父さんを亡くしたばかりで……、頑張ってくれているんですよ……」

 

オリガと言うのはやはりさっきから無言で一心不乱に海に向かって祈りを捧げている

少女の事で間違いは無かった。だが、何となくジャミルはそのオリガの姿に何となくまた

物悲しい雰囲気を感じ取っていた。

 

「別に邪魔してるつもりはねえんだけどなあ……」

 

「ジャミルは其処にいるだけでどうしてもそうなっちゃうからねえ~……」

 

「……んだと、このやろ!バカダウドっ!!」

 

村人の視線が一斉にジャミルとダウドの方へ……。アルベルトは慌てて2人の頭を

押さえ付け、村人達に頭を下げ、バカ2人を黙らせるのだった……。

 

「……旅の方ですかな、申し訳ありませんが、少し下がって此処は見て頂けますかな……」

 

ガタイの良い髭面の男の言葉に4人は渋々後ろへ下がる。暫く見ていると、無言で

あったピンクの髪の少女、……オリガが静かに言葉を呟いた。

 



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祈りの少女と主神様 2

「……主様……、海の底よりおいで下さい……、あたし達にお力を……、

ツォの浜の為、どうか海の恵みをお分け下さい……、どうか……」

 

オリガが祈りの言葉を呟いた瞬間、振動が起こり浜辺一体が大きく揺れ始める。

 

「……お、おっ!始まったぞ!」

 

「きゃあ!?」

 

「これは……、地震か!?」

 

「……ぎゃあああ!い、嫌だよおお!!」

 

「……モン、ふよふよしてても何かぐらぐらくるんだモンーっ!」

 

「ダウドっ!落ち着いて!……だからあの、僕のそこ掴まないで!……、モンもだよ!!」

 

「なになにー!?なんなのよっ!?」

 

ジャミル達は慌て始める。……だが、村人達は待ってました状態で誰一人慌ててはいない。

サンディもいつの間にか出て来ていた。当然村人達には姿は見えていないが。

 

「来たぞっ!主様だ!!」

 

「イヤッホー!魚だあーーっ!!」

 

「ふう……、何がどうなってんだよ……、!?」

 

ジャミルが海を見ると……、海から魚の尻尾が見えたかと思うと、本体を少しだけ見せる。

……正体は何と、巨大な鯨の様な怪物だった……。怪物は砂浜に向けて水飛沫を飛ばす。

4人にも水が掛かりびしょびしょに。怪物はいつの間にか姿を消し、砂浜には大量に魚や

貝などが打ち上げられていた……。

 

「はあはあ、はあ……、……あっ……」

 

「……あ、おいっ、平気かっ!?」

 

少女……、オリガは立とうとしたが立ち眩みを起こしたらしく、砂浜にまたしゃがみ込んでしまう。ジャミル達は慌ててオリガに駆け寄るが、村人達はオリガの様子など誰一人、

気にも掛けておらず、怪物が消えた後に浜に残った魚などを見て騒ぎ喜びあっていた。

 

「平気です……、いつもの事ですから……、すみません、ご迷惑お掛けしまして……」

 

「い、いつもって……、君、いつもこんな事をさせられてるの……?」

 

ダウドが尋ねると、オリガは小さな声で、はい……、お役目ですから……、と返事を返した。

 

「なんなのよっ!もうー、ビショビショじゃん!……ねえ、この子が今、クジラの

怪物みたいなのを呼んだんだよね!?そしたらサ、まあ、魚が大量じゃないの!!」

 

「……サンディうっせえ!少し黙ってろよ……」

 

4人は息を切らしているオリガの様子を心配するが……、其処へ先程の髭面の

ムサイ男がオリガの側にご機嫌で近寄って来た。

 

「村長……」

 

「ふむ、今日も大量だな、ご苦労だったな、オリガ、お前には又明日も頑張って

貰わなくてはならんからな、早く帰って身体を休めなさい……」

 

「はい……、有り難うございます……」

 

気を遣っている様で、実は全然何も気を遣っていない男の態度にジャミルはカチンと来る。

オリガはジャミルが男に対して切れているのを感じ取り、本当に大丈夫ですから……、と、

ジャミルに向けて小さく笑みを浮かべた。本当に村長と言う肩書きは、何処かの雪国の

村の、私が村長ですさん同じく碌なのがいない。

 

「……しかし、主様は一体オリガの何処をお気に召したのでしょうな、まあ、そのお陰で

私達はこうして食べる物にも困らなくなっているのですから、今夜も大量のご馳走が用意出来そうですぞ、有り難い有り難い!!ははは!!」

 

「……」

 

ジャミルは去って行く村長の後ろ姿にガンを飛ばす。村人が話してくれたが、この間の

大地震の日に浜は酷い嵐に見舞われ、その日、漁に出ていたオリガの父親は海に船ごと

飲み込まれ、命を落としたと言う。母親は既に他界、たった一人の家族を失ってしまい、

浜辺で一人、毎日泣いてばかりいた幼いオリガを哀れんだのか、主が姿を現すようになり、オリガの元に大量の魚を届けてくれる様になった……、と、言う話だった。

 

「主様はのう、このツォの浜でずっとまつっていた海の守り神様なんじゃよ……、わしも

まさか生きている間にこうして毎日そのお姿を拝めるとは……、元々この村は貧しい漁村じゃった……、じゃが、あの大地震以来、魚は益々捕れん様になってのう……」

 

4人に大まかな話をしてくれたお婆さんは去って行く。……オリガは疲れてしまったらしく、まだ立てない様子である。其処に別の村人のおばさんがやって来てオリガに容赦なく、労働

基準法違反的なきつい言葉を投げ掛けた。

 

「ねえ、オリガ……、悪いんだけど、今日もういっぺん主様を呼んでくれないかい?

主人が足を怪我しちゃってね、暫く仕事が出来ないんだよ、とてもじゃないが、今日明日、食べていく分のおまんまがあたしらには足りないんだよ、ね……?」

 

「で、でも……、そんな事……」

 

「あの、この子はとても疲れていますよ……、無理をさせては駄目ですよ……、どうか

休ませてあげて下さい……」

 

アルベルトがオリガを庇うと、傲慢おばさんは慌てて家に帰っていった。4人から

大分離れた処で、随分生意気な他所者だね!と、罵声を飛ばしていた様であったが。

 

「……何よ、この村の人達、皆自分達の事しか考えてないじゃない!」

 

「モンモンっ!」

 

アイシャも腰に手を当てぶち切れ。モンも怒る。しかし、自分を庇ってくれた4人の

心遣いが嬉しかったのか、漸く立ち上がれる様になったオリガは、有り難うございます……と、再び言葉を発した。

 

「おう、大丈夫なのか?」

 

「はい、あの……、皆さんは旅の方ですよね……?少しお聞きしたい事があるんです、

夜になったらあたしの家に来て貰えませんか?浜の東にある小さな家です、では……」

 

オリガは4人に頭を下げると家に戻って行った。その後ろ姿を見つめているジャミル。

 

「夜か……、今じゃ駄目なのか……?俺、こんな糞村、いたくねえんだけど……」

 

「また始まった……、あの子も色々あるんだよ、本人の身体も休めなくちゃ……、

その間に僕らは村で情報収集しようよ……」

 

と、糞真面目なアルベルトは言う。今は確かにそれしか出来なかった。しかし、他に

あまり大した話はそれ以上聞く事は出来ず。村にある小さな宿屋にて身体を休めながら

夜になるのを只管待つのだった……。

 



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祈りの少女と主神様 3

「……そろそろ出掛けてみるか……」

 

空に月が出始めた時刻、ジャミル達は宿を出て東にあるオリガの小屋へと向かって歩き出した。

 

「あんな小さな女の子が……、一人暮らししてるかと思うと……、オイラ悲しくなるよお~……」

 

「モォ~ン……、モンも悲しいモン……」

 

「おいおい……」

 

「プ、あんた達もう揃ってバカコンビ定着?」

 

「……サンディ、うるさいよお!!」

 

「シャアーーっ!!」

 

鼻水を垂らし始めるダウドとモン。……確かにオリガはまだ幼い少女である。運命は残酷だなあとジャミルは思うのだった。

 

「私達が此処にいられる間は出来るだけお話を聞いてあげましょ、私、オリガとお友達に

なりたいわ!」

 

「そうだね、少しでも僕らに何か出来る事があれば……、力になってあげられたら……」

 

くっちゃべりながら歩いていると、それらしき小屋の前まで辿り着く。だが、小屋の

中から話声がする。オリガともう一人……、誰か来ている様だった。

 

「先客か……、じゃあ邪魔すると悪いな、もう少し外で待……、ん?」

 

暫く様子を見ようとすると、……中から男が現れ外に出て来た。……男はオリガの手首を

強引に無理矢理掴んで引っ張っている。彼女を何処かへと連れて行こうとしている様子だった。

 

「何だてめえはっ!オリガに何してんだよっ!!人さらい野郎っ!!」

 

ジャミル達は慌てて男を取り囲もうとする。だが、それを見てオリガも慌てて首を振った。

 

「……旅人さん、来てくれたんですね、でも、これは違うんです……」

 

「……お前達こそ何だ?私は村長の遣いの者だ、オリガに用があり、連れてくる様に

村長に言われ来たのだ、邪魔をすると許さんぞ!!」

 

「……なっ!?」

 

この強引な男はどうやら村長の手の者らしい。だが、こんな時間に一体オリガを

村長はどうしようと言うのか……、まさか又主を呼ばせる気ではないかと、4人の

思考は一致し、そのまま動かず男から離れない。

 

「折角来て頂いたのに……、ご免なさい……、でも、あたしは本当に大丈夫ですから……、あっ!?」

 

「もたもたするな!早く来いっ!!村長も暇ではないのだぞ!!」

 

「……この野郎!乱暴は止めろっ!!」

 

男は更にオリガの手首を強く引っ張った。ジャミルは男に思わず男に飛び掛かりそうに

なるが、オリガに何かあったら大変だよ!……とアルベルトに制される……。

 

「あたし行ってきます、……皆さん、本当に有り難うございます……」

 

「オリガ……」

 

オリガはそのまま男に連れて行かれてしまう。だが、このまま大人しく黙っている

4人組ではない。ジャミル達は頷き合い、男とオリガの姿が見えなくなった頃を見計らい、

一行も村長の家へと走った……。

 

「……旅人よ……」

 

「……っとお!?」

 

「わあっ!?」

 

ジャミルがいきなり足を止め、アルベルト達はジャミルにぶつかる……。ジャミルの前に

……ジャミルしか姿の見えない老婆が出現した。……幽霊である……。

 

「……婆さん何だよっ!危ねえなあ!!」

 

「な、何っ!?ジャミル誰と話してんのさあ!!誰もいないじゃん!!」

 

「……ジャミルは今、幽霊のお婆さんとお話してるんだモン~……」

 

「……ぎゃああーーっ!!」

 

焦り始めるダウド。モンにも幽霊の姿が見える為……、モンは三角の額あてを着け、ダウドを脅して遊ぶ……。後、見えるのはサンディだけであるが、既に彼女は発光体に戻り寝ている。

 

「モン、君も悪戯の度が過ぎると……、そろそろスリッパの刑デビューだよ……、うふふ……」

 

「……モギャーモンっ!!」

 

モンは慌ててアイシャに飛びつく。……アイシャは苦笑。腹黒の怖さは幽霊より上である……。……ダウドは少し漏らした様子。

 

「お兄さんや、驚かして済まぬのう……、そなたは死んだわしの姿が見えるのだね、じゃが、これはとても大事な事じゃ……」

 

「……婆さん、話を聞かせてくれよ、どういう事だい……?」

 

「……」

 

お婆さんの姿が見えない他のメンバーは、ジャミルの言葉をただ黙ってその場で聞いているしか出来なかった。

 

「見たろう、この病んだ浜と欲に取り付かれた民の姿を……、あの主様と呼ばれておる

者は断じて海の守り神などではない……!かわいそうにのう、オリガと言う少女は得体の

知れぬあの生き物に取り付かれておるのじゃ……、旅人よ、頼む、どうか……、オリガを

守ってやっておくれ……、このままでは今に良くない事が起きるぞ……」

 

「……婆さん……」

 

ジャミルは黙って唇を噛む。老婆はジャミルにそれだけ伝えると姿を消す。

 

「ねえ、ジャミル……、幽霊さんは何て……」

 

アイシャが心配してジャミルに聞く。老婆から話を聞いたジャミルの表情は硬かった……。

 

「俺にも何が起きてるか分からねえ、ただ、あの主神は良くねえらしい……、このまま

オリガに主神を呼ばせ続けたら、オリガが危ねえ!……早くあの糞村長をシメねえと!

オリガを私欲で利用しようとするのを止めさせるんだ!!」

 

「分かった……、急ごう!」

 

「……あわわわー!!」

 

「モンーーっ!!」

 

ジャミル達は村長の家へ向かう足を更に強める。……もしもあの糞村長が拒否しようと

するならば、村長をブン殴ってでも止める覚悟でいた。

 

「だ、だけど……、村長の家……、何処だかジャミルは知ってるのさあ!?」

 

「う……、そ、それはっ!?」

 

ダウドに突っ込まれ、ジャミルは焦り出し……、足を止めた……。

 

「お、丁度あそこに家があらあ!其処で聞いてみっか!すんませーん!!」

 

……側にあった民家の住人に、どうにか村長の家の場所を尋ね、止めていた足を

再びダッシュフル稼働させる4人であった。

 



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祈りの少女と主神様 4

「あった!あの家だな、オリガもいるのも間違いねえな!よしっ!!」

 

……村の隅に佇む一軒家。だが、その家はこの村の村民の家と比べ、明らかに

造りは良く、外観も大きかった。あの村長の家に間違いは無い。

 

「待って!どうしてそう君は落ち着きがないの!少し様子を見なくちゃ!」

 

ストレートに村長の家に突撃しようとするジャミルをアルベルトが抑える。

仕方が無いので、言う通り暫く外で張り込んで様子を覗う事に。……窓から

ちらっと中を見ると、確かにオリガはいた。村長と話をしている様子。

 

「……気になるなあ、何話してんだよ……」

 

「でも、此処からでも少し声が聞こえるわ……」

 

アイシャが言った通り、外にいても静かにしていれば多少の声が此処からでも聞こえる。

……4人は窓枠に張り付き、会話を必死に盗聴する……。

 

「オリガ……、あの嵐の日、お前の父親が行方不明になった日から随分立つ……、厳しい

事を言う様だが、死んだ者は何時までも待っていてもこの浜には戻って来ない、……だからな、どうだ?……私の家の子にならないか?」

 

「……村長……」

 

「あいつっ!……オリガを養子にして何時までもテメエの手元に置いて……、利用して

こき使う気かっ!!」

 

「ジャミル!……抑えて!此処は我慢してもう少し大人しくしていよう……」

 

外にいるジャミル達は村長の目論見に、いても立ってもいられない様子だった。

 

「パパ……、そ、そうだよ、オリガ!家においでよ!一人ぼっちなんてさみしいよ!」

 

家の中にいるおかっぱ頭の少年。村長の息子らしい。此方は純情その物の様であるが、

事の次第を分かっておらず、ただオリガと一緒に暮らせるのを望み、喜んでいる。

 

「お前は息子のトトと仲がいい、お前がこの家に来てさえくれればトトも喜ぶ、なあ、

……考えてみてくれないか……?儂はお前の事を本当の娘の様に思っている、お前はもう充分頑張った……」

 

「!!本当の……、む、娘……、んな事ハナっから思ってもねえ癖に、爺マジで何考えてっ!!」

 

「……だからっ!駄目だったらっ!!バカジャミルっ!!」

 

暴れそうになったジャミルの口を必死で塞ぐアルベルト。静かに待つのも本当に大変である。

 

「嫌に外が騒がしい様だが……、誰かいるのか……?」

 

「わ、……わんっ!わんっ!」

 

「モン、モンっ!!」

 

「……野良犬とフクロウか、まあ良い……、オリガ、話の続きだが……」

 

……単純である。必死で誤魔化す役目をしたダウドは冷や汗ダラダラだった。

 

「モン、フクロウじゃないモン……、モーモンだモン……」

 

むくれるモンにアイシャはモンを宥める。でも、モンて鳴くフクロウさんがいるのかしらと

少し困ってみた。

 

「有り難うございます、でも、もう少し時間を下さい、それにあたしも村長にお話があります……、ずっと考えていた事なんです……」

 

「ほう?何だね?言ってごらん……」

 

「……あたし、もうこれ以上主様をお呼びしたくないんです……」

 

「!!」

 

「オリガ……」

 

「よ、良く言ったぞっ!!」

 

「偉いわ、ちゃんとオリガはもう自分の筋を通そうとしていたのね……」

 

「しっかりしてるよ、本当に……」

 

「うん、健気だねえ~……」

 

外で様子を覗っていたジャミル達も感心する。だが、これぐらいであの傲慢村長が

簡単にオリガから手を引くとは思っていなかった。……案の定……。

 

「……こんな暮らし……、何だか間違ってると思うんです、……だから……」

 

「バカな事を言うな!そんな話、今更村の者が納得する訳がないであろう!お前は

これまで散々お前を可愛がってくれた村の者を裏切る気か?これからもお前はこの村の

為に働かなくてはならないのだぞ!!……それにお前はどうするつもりだ!他にこの村の

為にお前は何が出来る!?」

 

「それは……」

 

オリガは言葉を止める。あくまでも村の為、村民の為と言い張り、しつこくオリガを

私欲に利用しようとする村長にジャミルは怒り心頭、他の3人も呆れて顔面蒼白に。

 

「まあ良い、今日はもうこれで帰りなさい……」

 

「はい、失礼します……、お休みなさい……」

 

オリガは村長から解放され、家を出て行く……。オリガがある程度、村長の家から離れた

距離まで歩いて行った処で、窓の下で隠れていた4人も慌ててオリガの後を追い掛けた。

 

「おーい、オリガーーっ!」

 

「あ、旅人さん達……、来て下さったんですか……?」

 

「うん、実は……」

 

オリガはジャミル達の側に駆け寄ってくる。……ジャミルはさっき、オリガと村長の

会話を外で聞いてしまった事を彼女に全部話した。

 

「そうだったんですか……、心配して下さって本当に有り難うございます、嬉しいです!」

 

オリガはジャミル達に笑顔を向けるが、彼女の心は迷いと不安で満ち溢れているのが

手に取る様に感じられた……。

 

「海の神様に頼り切ってしまうなんて本当にいけない事だと思っています、なのに……、

誰も耳を貸してくれない……、村長様だって……、でも、村の事に関係ないあなた達なら、

きっとお話を聞いてくれると思ったんです、……ねえ、あたし達のこんな暮らし……、

絶対に何処か間違っていますよね……?」

 

「オリガ……」

 

オリガはジャミルの方を向いて目を潤ませ、返答を求めるのだった……。

 

「ああ、間違ってるさ、絶対……、お前を利用しようとするこんな汚ねえやり方はな!」

 

「ジャミル……、うん、僕らもそう思うよ、オリガ……」

 

「そうよ!これ以上あなたに酷い事しようとするならっ、私達も黙ってないんだから!

皆でオリガを意地悪村長から守ってあげる!!」

 

「そうだよっ、オ、オイラ達もついてるよっ!!」

 

「モォーーン!!」

 

「皆さん……、そ、そうですよね!有り難うございます!あなた方ならきっとそう

言ってくれるんじゃないかと思ってました!あたし、何だか勇気が出ました!

……明日もう一度、村長様とお話をしてみます!!」

 

「ああ、一緒に俺らもついて行くよ、心配すんな!!」

 

「はいっ!!」

 

(うわ、これだから偽善者集団て困るのよネ、なーんも考えてないし、……ヘタレまで

あんな張り切っちゃってサ……)

 

しかし、サンディだけは……、オリガを守ろうとするジャミル達を見て、何か思う処があり、

顔を曇らせた……。そして、今夜はそのままオリガの家に招待され、其処で一夜を明かす事になった。

 

「ねえ、ジャミ公、起きてんの……?」

 

「ああ……?ガングロか、起きてるよ、何だよ……」

 

アルベルト達は既に寝ていたが、ジャミルだけは何か考えており、眠れないらしかった。

 

「アンタ、随分ムセキニンな事言ってくれちゃってるけど、これでもし、あのオリガって

子が村中からハブンチョにされたらどーすんの?……確かにあのヌシってヤツ、良くないかもしんないよ?でも、本当にどうすんの……?ヨソモンのアンタが……、このままこの村の事に関わる気……?」

 

「……」

 

サンディの言葉にジャミルはベッドで仰向けになったまま……、そのまま返事を返せず、

結局寝てしまう……。疲れもあったのだろうが。そして、朝を迎えた……。

 



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祈りの少女と主神様 5

「ジャミル、ジャミルったら!ねえ、起きなさいヨっ!アンタ一番遅いじゃん!」

 

「起きるモンーっ!……プ」

 

「……何だ、ガングロと……、ってモンっ!くせーケツ向けんなっ!」

 

「モンモンーっ!」

 

ジャミルは朝からサンディとモンのモーニングおなら付きのお尻で起こされた。

だが、他の仲間達は既に起きており、心配そうにジャミルの方を見ている。

 

「お前らも早いなあ~、もっと休ませて貰えば……、ふぁ~!」

 

「もうっ!そんな場合じゃないったら!」

 

「ジャミル、昨日の事……、もう忘れたわけじゃないよね……?」

 

アルベルトが深刻そうな顔でジャミルを見ている。しかし、眉間には皺が寄っている。

 

「分かってるって、オリガは俺らで守ってやるって事だろ?忘れてねえよ!」

 

「消えちゃったんだよお、オリガが……」

 

「……何ですと……?」

 

仲間達に話を聞いてみると、ジャミル以外のメンバーが目を覚ました時には既にオリガは家にいなかったと言う。早朝、幾ら突いても起きないジャミ公を除き仲間達はオリガを探し村中を走り回ったのだが……。

 

「困ったなあ、一体何処に行ってしまったんだろう……」

 

「もしかして……あのでっかいお魚さんがつれてっちゃったモン!?」

 

「ひえええーーっ!?」

 

「もうっ!モンちゃんもダウドまでっ!そんな筈ないわよっ!!オリガは大丈夫、無事よ……、ね、ジャミル……」

 

アイシャはそう言ってジャミルの方を見ているが。ジャミルはさっきから珍しく静かに

黙ったままずっと俯いており……。

 

「ぐう……」

 

……パンッ!!

 

「寝るんじゃないっ!……何やってんの君はわっ!!」

 

「わー!アル、落ち着いてーー!!」

 

「考え事してたらうっかりしちまったんだよ!俺だって何も考えてねえ訳じゃねえぞ!

たくっ!おいお前ら、あの糞村長のとこ、……行くぞ!」

 

「……」

 

「まさかジャミル……、わ、私もあまり考えたくないけど……」

 

アイシャの言葉の後、仲間達は無言になり、外に飛び出した。と、外に出ると、オリガを

尋ねて来たのか、村のおっさんが家の外で待っていた。

 

「おい、お前ら、オリガはもう帰って来たのけ?お祈りの時間なのに、幾ら呼んでも出て来ねえからよ……」

 

「いえ、僕らが目を覚ました時には既にオリガはもういなくなっていて……」

 

「あんだと?もう家にはいねえってか?んなバカな……、んじゃ、どこ行っちまったんだろうなあ……」

 

おっさんはのそのそ引き上げて行く。ジャミルの胸に益々嫌な予感が込み上げて来た。

 

「ちょっとジャミ公!アンタあの子を守ってやるって約束したんでしょっ!男なら責任

取りなさいヨねっ!!」

 

「分かってる!とにかく村長の家だ、行ってみよう!」

 

仲間達は頷き、サンディは発光体に戻る。あの村長が何かしでかす前に……。絶対に阻止しなければならない。だが……。

 

「おーい、おーい!お兄ちゃん達―!」

 

此方に向かって息を切らして走って来るおかっぱヘアの少年。村長の息子のトトだった。

 

「大変なんだよーっ!ハア、ハア、ハア……」

 

「大丈夫か?……落ち着いて話してみ?」

 

「うん、あのね、オリガが今朝早く家に来て、もうぬし様を呼びたくないって言ったら、

パパが凄い顔をしてオリガを怒鳴ったの、そしたらパパ、嫌がるオリガを無理矢理引っ張って連れて行っちゃったんだよ!僕の家の裏の門から行ける浜の洞窟だよ!そこにパパ専用のプライベートビーチが……」

 

「も、もしかして……、切れた村長は……、オリガを直接主の生け贄にする気なんじゃ……」

 

「ダウドっ!だから悪い方向に考えちゃ駄目だっ!」

 

「アルだって……顔が青ざめてるじゃないかあ~……」

 

「……くっ!」

 

「オリガ……」

 

「遅かったかっ!……畜生っ!あの強欲爺っ!!」

 

やはり嫌な予感は当たった。ジャミル達がグースカ寝ている間にオリガは1人で村長の家に直訴しに行ってしまったのだった。守ってやると約束したのに、こうなってしまった事に

怒りと悔しさがジャミルの胸に込み上げて来る……。

 

(アンタ震えてる場合じゃないっしょ!まだ間に合うヨ!オリガを助けに行くんでしょ!)

 

「モンーっ!ジャミル、しっかりするモン!」

 

「まだ全然遅くないわよ!サンディの言う通りだわ!急いでオリガを助けに行きましょう!」

 

「ああ!そうだな!」

 

サンディとモンに渇を入れられ、アイシャにも励まされたジャミルは再びオリガを助ける決意をする。もし本当にダウドの言った最悪の事態が本当ならそうなる前に何としても村長を止めなければならない。

 

「トト、洞窟の場所まで案内してくれ!頼む!」

 

「うん、門の鍵は開けておくからね!お願い、絶対パパを止めて!そしてオリガを助けて!

もし、パパが言う事を聞かなかったらパパをお仕置きしていいから!ぼく、オリガが心配なんだ!」

 

「許可が出たな、よし……」

 

「全くもう、君は……」

 

にやりと笑って指を鳴らすジャミルに呆れるアルベルト……。しかし、彼も脳内ではスリッパの準備を考えていた。

 

「もうー!ジャミルはっ!でも、トトはオリガの事が本当に大好きなのね!うふふ!」

 

「え、そ、その……、えへへ……」

 

アイシャの言葉にトトは顔を赤くし、小指と小指と合わせてちょんちょんした。それにしても、あの村長とは全く似ても似つかない、トトは純粋な子であった。

 

「よし、お前ら行くぞっ!絶対にオリガを助けるんだっ!」

 

ジャミルの言葉に頷く仲間達。頼もしいお兄ちゃん達の姿を見てトトは心から皆を信頼し安心するのだった。

 



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祈りの少女と主神様 6

ジャミル達は村長とオリガを追いトトに教えて貰った海辺の洞窟へ。もしも本当にあの

村長が良からぬ事を企んでいるのならば全力で阻止しなければならない。だが、事は

そう簡単に進む筈が無く、洞窟内に潜んでいる水棲系のモンスターが4人の妨害を

して来る。

 

「ではいつも通り、か弱いあたしは休んでますのでー!頑張ってねー!」

 

サンディ姿を消す。まあもう別にいつもの事なので、側に居ればいたで

うるさいので彼女に関しては特にもう皆何も言わない。

 

「でも何でこんなとこあの何の力も無い村長が通過出来るのさーっ!」

 

「……だからそう言うとこは突っ込んじゃ駄目だってばっ!ダウドっ!」

 

「あの爺の事だ、きっと洞窟内のモンスターを飼って慣らしてんだろ……」

 

「嫌な趣味だよおー!」

 

「そんな訳ないだろ……」

 

「もうっ!足場は狭いし彼方此方水だらけだし、うっかり落ちたら最悪よ!でも、

頑張らなくちゃ!」

 

狭い通路に敵は密集して襲ってくる。海の近くの洞窟だけあって此処は水場が多い。

……バトルも慎重に行なわなければならない為、冷や冷やモンだった。

 

「……ちら、あ!」

 

「……ダウドっ!馬鹿っ!アホっ!たくっ、何やってんだっ!!」

 

「きゃーモン!ダウドが水の中に落ちちゃったモンーっ!!」

 

4人は、慎重に、慎重に……と、洞窟内を進んでいた。だが第1号者、早速やらかす。宝箱に気を取られたダウドが足を滑らせ道中に下の水場に転落。ジャミルは慌てて水場に飛び込むとダウドを助けに行った。

 

「ジャミル、ダウドっ!あっ!」

 

心配するアイシャとアルベルトの前に敵はどんどん襲ってくる。ダウドの事はジャミルに

任せるしかなかった……。2人には海賊ウーパーが妨害し立ちはだかる。

 

「ぷはあ!あーもう最悪!ジャミル、有り難う~……、あ~う~……」

 

「流石……、あの糞爺が管理してるプライベートビーチがある場所だよ、冗談じゃねーってのっ!……ひっくし!」

 

「ごめんね、は、早く上に……、皆のとこに戻ろう……、風邪ひいたら大変だし……」

 

「ああ……、けど、前の話で……、お前が泉に落ちたのまた思い出した……」

 

「……だからそれは穿り返さないでよお!」

 

2人は体中から雫を滴らせながら水から上がる。しかし、其処に又もドロヌーバの

集団が現れ行動を妨害。

 

「邪魔だってのっ!突破するぞ、……ダウド、いけるか!?」

 

「うん、今日は頑張るよお!オリガの為にも!えへー!」

 

ダウドは勇ましくロングスピアを構える。まあ、可愛いオリガの為にやる気に

なってくれているとは言え、今日は何となく相棒が頼もしく見えるジャミルだった。

 

(オリガ、待ってろよ、……すぐに行くからな……!)

 

「アイシャ、この先に備えて魔法はなるべく温存した方がいい、大変だと思うけど、

何とか大丈夫かい?」

 

「うん、頑張る!やってみるわ!……ええーーいっ!」

 

「うわ……」

 

びゅんびゅんバトルリボンを振り回すアイシャの姿を見て、アルベルトは何となく冷や汗を垂らした……。

 

「モンも頑張るモン!シャアーーっ!!」

 

「モン、君も有り難う!頼もしいよ!」

 

「えへーモン!」

 

アルベルトに言われ、モンが嬉しそうに笑った。

 

……そして、一方のオリガと村長は……。

 

「どうだ?綺麗な場所だろう?此処なら誰も来ん、落ち着いて二人きりで話が

出来ると思ってな……」

 

「……」

 

洞窟を抜けた先に広がる美しい浜。村長専用のビーチだった。其処にオリガは連れてこられていた。しかし、見方によってはロリコン親父が幼女を誘拐した様に見える危険な光景。

 

「どうした?疲れてしまったのか?まあ無理も無いだろう、お前には毎日の様に

主様を呼んで貰っていたからな、もう村の浜辺で主様を呼ぶのは止めにしよう……、

主様をお呼びするお前の力は消えたと村の者にはそう伝えておこう、これまでご苦労だったな、オリガ……」

 

「……村長様……?」

 

村長の言葉に、オリガはほんの少しだけ希望を見いだす。だが、次の瞬間の村長の言葉で

オリガは無残にも希望を砕かれるのである……。

 

「だがこれからは……、この儂専用の岩場でこっそりと儂の為に主様を呼んで貰えないか?海の底には珊瑚や真珠、それから沈んだ船の財宝などもあるだろう?お前なら主様に頼んで、それらを取ってきて貰えるかと思ってな……」

 

「村長様……、な、何を言っているのです……」

 

オリガは怯え、後ずさりする。だが、村長はオリガにジリジリ迫り、ムサイ顔をオリガに

近づけるのだった……。こいつはやはり危険なロリコン親父だった。

 

「なに、毎日などとは言っておらんよ、たまにでいいのだ、儂の為に力を貸しておくれ、

お前が気が向いた時でいいんだよ、……そうすれば儂らは豊かで幸せな生活を送る事が

出来るのだからな……」

 

「豊かで……、幸せな生活……?」

 

「そうだ、おお、これからはオリガ、儂の事はお父さんと呼びなさい、儂もお前を是非、

大切な娘、養女として迎えたい、トトも喜ぶ……、さあ……」

 

迫る村長にオリガは拒否し、必死に叫ぶのだった……。

 

「やめてっ!あなたはあたしのお父さんなんかじゃない!……あっ!?」

 

「騒ぐな、大人しくしろ、此処には誰も来ん、分かっておるだろう?さあ、おいで、

オリガ……、来るんだ……」

 

「やめてっ!いやーっ!放してーーっ!!」

 

村長は嫌がるオリガの手首を乱暴に掴み、海の方へ無理矢理連れて行こうとする……。

 

「ジャミル、あそこ、いたヨっ!」

 

「モンーーっ!!」

 

「オリガ……」

 

妖精体に戻り、場に出て来ているサンディの言葉に目を見張るジャミル。どうにか

間に合ったらしいが……。

 

「止めろ!この糞爺っ!!オリガ待ってろ!すぐ行く!」

 

「……旅人さんっ!」

 

「貴様ら……、何故此処が……、だがオリガは渡さぬ!儂の為に死ぬまで主様を呼んで貰うのだ!さあ、来いっ!!」

 

「痛っ!お願い、もう放して下さい!」

 

「テメエっ!乱暴はやめろーーっ!!」

 

「旅人さん、……あたし、もうこんなの嫌です、怖い、怖いの、助けて……」

 

助けに来てくれた4人の姿を見て、オリガは震えて遂に本音を漏らし涙を浮かべた……。

 

「近づくな!もしも近づいたらオリガの手首を折る、なあに、お前に多少の損傷があっても

主様を呼んで貰うのには問題ない、それにちゃんと医者も呼んでやる、安心しなさい」

 

「……村長様……」

 

「糞爺っ!何処までっ!!」

 

「何て事をっ!あんな小さな子に!!是が非でも自分の私欲の為にオリガを

利用する気なのかっ!!」

 

「絶対許せないよお!!」

 

「そうよ、いい加減にしなさいよっ!オリガを放さないと此処からあんたに

メラをぶつけるわよっ!脅しじゃないんだからっ!!」

 

「シャアーーッ!!」

 

「勝ち気なお嬢さん、やれる物ならやってみなさい、だが、儂を傷つければオリガも

逆に傷つく事になるがな!」

 

何処までも強欲で卑劣な村長の姿に仲間達も怒りを覚える。だが、村長は4人を見て

ニヤニヤと笑っているのだった。しかし、次の瞬間……。

 

ゴゴゴゴ……

 

「きゃ、きゃっ!?」

 

「これは……、地震か……?だが、そんな事は儂らには関係ない、揺れが収まり次第、さあ共にゆこうぞオリガ、主様をお呼びしてくれ……、儂らの幸せの為に……」

 

「村長様、あたし、あたし……」

 

「ぎゃ、ぎゃーーっ!!嫌だよおーーっ!!」

 

「ジャミル、オ、オリガを……、早く助けないと!」

 

「本当にあのおじさん何処まで性根が腐ってるのよう!信じらんない!!」

 

「く、畜生、オリガ……、待ってろよっ!」

 

突如大きく浜が揺れ始め、皆は立っていられなくなる程の地響きが起こる……。これは神の怒りなのか……。にも、関わらず尚も強欲村長は地震が収まり次第、オリガに主を呼ばせる

気である……。オリガの表情から幼い彼女はもう辛労的に限界なのがジャミルにも痛い程伝わって来る。一刻も早く彼女を助けなければならないと。だが……。

 



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祈りの少女と主神様 7

書いてる人がまたやらかしたんで修正して投稿するよお。けど、馬鹿だなあ、
書いてる人。…こういうとこだけはジャミルとそっくりなんだよね。他にもなんか
やらかしてるカモなんで、うっかり見つけちゃった方はどんどん突っ込んで下さいねえ~。



「……地震……治まったのか……?」

 

「ねえ、ジャミルっ!あ、あれ見てヨっ!」

 

サンディが叫ぶ。揺れが治まった後に……、オリガの目の前に巨大な鯨の怪物が

海から姿を現したのである。それは……。

 

「主様……?」

 

「……」

 

海から砂浜へ出現した主は頻りにオリガの方をじっと見つめている……。何か言いたそうに……。

 

「ジャミル!このままじゃオリガが危ないわ!」

 

「くっ!い、今行くからなっ!オリガっ!!」

 

「貴様らは来るんじゃないと言っているだろう!……さ、さあ、オリガ、丁度良い、

直ぐに主様にお願いをしなさい、おお、主様、よくぞいらっしゃいました!早く財宝を

持って来て頂く様にお願いをするんだっ!!は、早くしないかっ!……オリガっ!!」

 

……何処までも本当に私欲に塗れた欲の塊の男に4人は怒りの限界が来ていた。

こうなったらもう躊躇せず多少乱暴な手段を使っても絶対にあの男からオリガを

引き離さなければ!そう行動に移ろうとしたのだが……。

 

 

「「……オ、オオオオオオーーーっ!!」」

 

 

「うわ!ま、また揺れだしたよおーーっ!!」

 

「これじゃ近づく事が出来ないっ!!」

 

「怖いモンーーっ!あ、あの大きいクジラさんが地震を起こしてるんだモン!」

 

「あーんっ!何なのようーーっ!!」

 

再び揺れ出す辺り一帯。主は怒りに満ちた雄叫びの様な鳴き声を全身から発する。

揺れはますます酷くなり、真面に動く事が出来ずに皆は大混乱に陥った。

 

「ジャミル、あのヌシ神サマ、何かスッゲー怒ってる……、もう完全にブチ切れてるヨっ!」

 

「……オリガーーっ!!」

 

揺れはまた治まったが、主神はそのまま自分の口の中へとオリガを飲み込んでしまう。

事態を見ていた村長はパニックを起こし、股から何か流した……。

 

「ひいいいーーっ!?オ、オリガがあーーっ!食われて……、ひ、ひっ、主様、

わ、私だけはどうか、お助けをーーっ!!あああ!何でも致しますからーーっ!!」

 

村長は腰を抜かし、地面に尻餅をついたままの体制で自分を睨んでいる主から後ずさりする。……今度は命乞いである。本当に何処までも汚い救い様の無い根性の最低な男だった。

 

「おっさん、テメエはもう要らねえ!邪魔だよっ!早く何処かに消えろっ!!」

 

「……お、お前達……」

 

漸く動ける様になった4人は主神の前に立つ。こんな男庇いたくも無かったが、

オリガを救う為である。ジャミルは村長の顔を見ず、早くどっか行けと後ろで尻込み

している村長に向かって手をヒラヒラ、シッシッの合図をする。

 

「畜生っ!ふざけおって!な、何故儂がこんな目にっ!……あああーーっ!?」

 

「ま、また地震よっ!」

 

「……いーやーだあああっ!!」

 

主が再び怒りだし、しつこい地震が来る……。怒りの主は津波を起こし、4人は巨大な

波の中に飲み込まれる。……腰が抜け逃げ切れなかった村長も当然巻き込まれ流された……。

 

「ジャミルっ!みんなあーーっ!!」

 

「モンーーっ!!」

 

……波に飲み込まれながら、4人は苦しい水の中で只管耐え、波から解放され

空気が吸える様になるまで只管耐えた……。

 

「ハア、ハア、畜生、冗談じゃねえや……、ドザエモンになる寸前だったぜ……」

 

「……ホント、今日はオイラ、水難だよお~……、パタ……」

 

「苦しかったわあ……、私達、本当に溺れちゃう処だったわよ……」

 

「あ、あんなのを何回も食らったら……、身体が持たないよ……」

 

「でも……、此処で俺らも立ち止まってる場合じゃねえぞ!」

 

「あ、あんたら大丈夫――っ!?本当に息してマスーーっ!?」

 

「モンーーっ、皆がホンワカぱっぱーにならなくて良かったんだモン……」

 

「意味分かんねえし!サンディ、モン、頼みがある、……このおっさんを何処か安全な

場所まで連れてってくれ、邪魔でしょうがねえ!暫く見ててくれや!俺らもさっさと

カタを付けちまうからよ!」

 

ジャミルは横目で気絶している村長を見た。一緒に波に飲まれた村長は鱈腹塩水を

飲んだらしく、仰向けの体制のまま潰れたカエルの様にひっくり返っていた……。

 

「しょうがないなあ~、でも出来るだけ早くちゃっちゃと済ませてヨネっ!ホラ、おデブ

座布団っ!行くヨっ!ちゃんと持ちなさいっ!く、このおっさんアンタに負けず重いっての!!」

 

「……クサコゲ焼きまんぢゅーうるさいモン!シャアーーっ!!」

 

「うるさいのはアンタでしょっ!誰がコゲ焼きまんぢゅーなのヨっ!!」

 

モンはサンディの毒舌に大口を開けながらも一緒にクズ村長を引っ張って安全な場所まで連れて行く。普段ケンカばっかしているモンとサンディだが、何だカンダで段々絆深まりいいコンビへと定着しそうであった。

 

「よし、あいつらも何とか避難してくれたし、後は……!」

 

ジャミルは自分達の目の前に立ちはだかる巨大な鯨……、主を見据える。

 

「オリガが捕まってる事も考えると、バトルを長引かせるのは危険だ!何とか短期決戦に

持ち込むぞ!……絶対オリガを助けるんだ!!」

 

「了解っ!!」

 

ジャミルの言葉に仲間達も頷いた。そして4人は改めて主の方を見る。だが、もしも今此処で主が海の中に逃げてしまったら事実上オリガを救出する事は不可能になってしまう。

………それを防ぐ為にも何としても全力で主に立ち向かわなければ。

 

「きゃあ!?」

 

「だ、大丈夫か!?」

 

「平気よっ!!」

 

主は巨大な身体をアイシャ目掛け突進しぶつけて来た。だがアイシャは根性で踏ん張り

攻撃魔法の呪文の詠唱を始めた。イオを主へと放つ。主は爆発に巻き込まれダメージを負い錯乱している。

 

「今度はオイラがジャミルの守備力上げてあげる!スカラ!」

 

「よしっ!ダウド、良くやったっ!」

 

「私も負けないわよっ!えーいっ!!」

 

その間にと、アイシャも再びイオを連呼。ありったけの魔法力を放出し主へとぶつけ捲った。

 

「ジャミル、丁度僕のテンションゲージも上がってる、またあいつが津波を起こさない

内に此処は連携して一気に決めよう!」

 

「アル、分かった!……行くぞっ!」

 

「はい!ピオリムよっ!!ダッシュダッシュ!!」

 

「だあああーーっ!!」

 

其処にアイシャが更に補助魔法を掛けてくれ、ジャミルとアルベルトの素早さは一気に上昇。津波さえ食らわなければ、思っていたよりも主はそれ程強敵ではなかったのである。

 

「当たれーーっ!会心必中――っ!!」

 

「オリガを返せーーっ!!」

 

アルベルトのテンションゲージ技とジャミルの会心の一撃!主神にヒットし、止めを刺す。

主は大きな音を立て、砂浜に倒れる……。そして、倒れた主の口の中から解放されたオリガが無事に姿を現した。

 

「あ、あたし……、何ともない……?」

 

「オリガ!大丈夫かっ!?」

 

「ああ、旅人さん達!!皆さんもお怪我はありませんか!?」

 

オリガはジャミル達の姿を見つけると急いで駆け出す。こうして無事にオリガは救出出来たのだが……。モンとサンディもいつの間にか皆の所に戻って来ていた。……クズ村長は

そのまま放置されているらしい。

 

「……」

 

「キャっ!?」

 

「ぬ、主がっ!まだ完全には駄目だったのかよっ!?」

 

倒れていた筈の主が……、ゆっくりと身体を起こし、再び立ち上がったのである。

4人はもう一度オリガを守ろうとするが、しかし、それよりも早くオリガが両手を広げ

主の前に立ち塞がるとジャミル達を庇った……。

 

「オリガっ!止めろ!あぶねえっ!!」

 

「主様、お願いです!この人達に手を出すのは止めて下さい!!」

 

「……オリガ、その者達は……村長の手下ではないのか……?」

 

「主様……?こ、この声……、よく知ってる……、私の大好きな……、でも、でも、そんな筈ない……」

 

「ひいっ!しゃ、喋ったあああーーっ!!」

 

パニクるダウド……。何と。等々主神が口を開いた。しかし、その声を聴いたオリガは……。

何やら思い出す事があり、呆然とするのだった……。やがて、主の頭上に何者かが姿を現す。

その人物は……。

 

「……おとう……さん……?」

 

「……ええええーーっ!?」

 

ジャミル達は一斉に声を揃える。主の中から出現した人物は……、嵐の海で遭難し、

命を落としたオリガの父親の幽霊だったのである……。

 



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祈りの少女と主神様 8

「お父さん……」

 

「オリガ、……私の大切な娘よ……」

 

「えええーーっ!って、僕らには普通姿が見えない筈なんだけど……、今回は見えるよ……」

 

「不思議ね……、もしかしたら主様の力を通して奇跡が……?」

 

「……ひええーーっ!?お、オイラにも見えてまーすっ!」

 

ダウドは縮こまる。主の頭上に浮かんでいるオリガの父親の幽霊。強く逞しく優しい、

オリガの大好きだった父。でも、今は……。オリガは久しぶりに逢えた大好きな父親の姿に涙を零す。オリガの父親は今度はジャミルの方を向くとジャミルと話を始めるのだった。

 

「……旅人よ、そなたには申し訳ない事をした、私は怒りで我を忘れてどうかしていたのだ、

そなた達はオリガを守ろうとしてくれたのだな、オリガ……、お前にも辛い思いをさせてしまって済まない、許しておくれ……」

 

「いや、俺は別に……、ただ……」

 

「お父さん、……お父さん……」

 

オリガは許されるのならやっと逢えた大好きな父の胸に今すぐ飛び込みたかった。

温かい大きな腕でもう一度抱いて欲しい。だがもう、オリガの父親は実体を持たない身。

言葉を出したくてもちゃんと浮かんで来ず、目の前に浮かぶ幽霊となった父の姿を見て泣く事しか出来なかった。

 

「私はあの嵐の晩、確かに海で命を落とした、だが、海に投げ出され意識を失う寸前、

私の目の前に光る黄金の果実が降って来たのだ、薄れゆく意識の中、その果実を手にした

瞬間、大切なお前の事を想った、まだ幼いお前を残し……、このまま死にたくないと……、

そして私は死んだ筈だった、……だが次に目が覚めた時私はこの姿だった……、主の姿で

こうして蘇っていたのだよ……」

 

「お父さん……、そんな、そんな……」

 

ジャミルも仲間達も衝撃で黙りこくる。……浜に現れていた主神はオリガの父親だった事実に。

 

「……私はお前の為を想い、お前が生きていく為にこれまで浜に魚を届けていた、だが、

村人はお前の力に頼り切りになり、お前の力を悪用しようとする様になった……、黙って

見ていたが、もう此処までだ、我慢が出来ん、オリガ、あんな村は捨てて私と共に行こう……」

 

「お父さん……!?」

 

「オリガの親父さん!ちょっと待っ……!!……」

 

「ジャミル……?どうしたのよ……、どうして何も言わないの!なら、私が!」

 

「アイシャ、よせっ!」

 

ジャミルは主……、オリガの父親を止めようとするが言葉を止めた。漸く逢えた

父と娘の再会を邪魔したくなかった……。それに、どうするのかは彼女が決める事、

自分達が出しゃばる立場ではないと思ったのである。

 

「私がこれからも何時までも安全な場所でお前を守る、この姿になっていても

私は私、お前の父親だ、何も変わっていない、……また一緒に暮らそう……」

 

オリガの父親はオリガに手を差し伸べる。だが……。

 

「お父さん……、駄目……、それは出来ないよ……、そんなの良くない……」

 

「オリガ……?」

 

ジャミル達も見守る中、オリガは自分の意思で父親の言葉を拒んだのである……。

そして、オリガは涙に明け暮れた目で父親の姿をしっかり見つめた。

 

「あたし……、働きたいの、村の皆と一生懸命汗を流して浜で漁業がしたいの、働いて

もっとちゃんと仕事が出来る様になりたい……、もう独りでも生きていける様にならなくちゃいけないの、何時までも……泣いていられないから……、大丈夫、これまでお父さんのやってきた仕事、全部覚えてる、だってあたしは村一番の漁師の……、お父さんの娘だもの……」

 

「オリガ……、お前は……」

 

???:おーい、おーい、オリガーっ!お兄ちゃん達――!!

 

「トトっ!!」

 

「トト……?な、何で一人でこれたんだっ!?」

 

「や、やっぱり突っ込み処満載だあーーっ!!」

 

「ダウド……」

 

此方に向かって聞こえて来る小さな足音。村長の息子のトトだった。

再びパニくり出したダウドに困るアルベルト。だが本心は……、同じく本音突っ込んで

みたくて仕方が無い様子。

 

「た、逞しいのね、トトは!きっとオリガを守りたくて頑張ったら此処まで来れちゃったのよ!」

 

「……」

 

アイシャの言葉に、そういう事にしておこうと、アルベルトは無理矢理自分を納得させた……。

 

「オリガ大丈夫だった!?ごめんね、ごめんね、パパが本当に酷い事を……、僕、あの後、

旅人さん達の後をこっそり付けてたんだ、オリガが心配で……、皆さんも本当にごめんなさい!」

 

「な、何だ……、そうだったのか、は、はは……」

 

笑うジャミル。どうやらトトが無事に此処までこれた理由が判明し、何となく安心する……。

しかし本当にあの傲慢糞親父とは180℃違う天使だった。もしかしたら養子なのではと、

4人は疑いだした……。

 

「あの、僕、隠れてみんなのお話を聞いてました、ぬし様はオリガのパパなんですよね?

僕、大きくなったらオリガを守るから!約束するよ!もしもパパがオリガを又虐めたら

僕、パパを許さない!パパと戦います!」

 

「トト……」

 

トトは力強い目でオリガの父親と向き合っている。トトの言葉に偽りは無い。真剣その物だった。

 

「お父さん……、お父さんは今まで主様の姿になってこれまで私を守ってくれて

いたんだよね?でも、もう大丈夫だよ……、私にはこうして私を助けてくれる大切な

友達がいる、お父さん、これまで本当に有り難う……」

 

「そうだな、オリガ、……お前は私が思っていたよりもずっと大人になっていたのだな、

どうやら私は余計な事をしていた様だ……」

 

「お父さん……、ううん、そんな事ないよ……」

 

「本当に……立派に……なったな……」

 

父と娘はもう一度向き合う。親子に本当の別れが近づいて来ていた。もうこれ以上、

オリガを守る必要の無くなったオリガの父親は役目を終える今、旅立たなければならない。

オリガの父親の身体が光り出す。……天へと召され、昇天する時が訪れた。

 

「……オリガ、私はお前の言葉を信じよう、自分の力で生きるお前をこれからも

見守り続けよう……、例えどんなに遠く離れていても……」

 

「おとう……さん……」

 

 

……オリガ……私は……いつもお前の側に……

 

 

やがて主の姿は海へと消えていき、その身体からは光が溢れ、光は空へと昇っていく。

……その光をオリガは零れる涙と共にずっと見つめていた……。

 

「あ、ジャミル、果実だよっ!やったネ、アンタ!又迷えるおっさんも助けちゃったしサ!

何か最近のアンタ、マジでやるじゃん!最初はどうにも信用出来なかったケド!」

 

「ああ……、そうなのかな……、だといいけど……、って、最後の言葉は何だっ!

それに、俺一人だけじゃ無い、大事なダチがいつも力を貸してくれるからだな……」

 

「さあ~!?じゃ、アタシ疲れたから寝るネ!」

 

「おい……、だから人の話は最後まで聞けよ、性悪ガングロ……」

 

主が消えた後、ジャミルの手元に女神の果実が降ってくる。サンディは発光体になり逃走。ジャミルは手のひらに降ってきた女神の果実をそっと受け止めた。

 

「モン~、モン、目から何か汗が流れて来たモン~……」

 

「……オイラもでずうう~……」

 

「も、もう……、モンちゃんもダウドも……、しょうがないわねえ~……、ひっく……」

 

そう言っているアイシャ自身も慌てて指で目頭を擦るのだった。

 

「さあ、オリガ、帰ろう?これからは僕がいるよ、ぼ、僕、オリガのお父さんの

代わりにもなるから……」

 

「トト、有り難う……、でも、トトはトトだよ、これからもあたしの友達でいて?ね?

トトはトトらしく……、ね?」

 

「うんっ!えへへ!」

 

「ふふふ!」

 

絆を深めたオリガとトト。その微笑ましい姿に、後ろにいるお兄ちゃん達も

そっと見守……れなかった。

 

「はあ~、あんな小さな子達まで春が来てるのに、オイラには何時春が来るのかな……」

 

「ま、……一億年後にはどうにかなるんじゃね……?」

 

「うるっさいなあーっ!……馬鹿ジャミルううーーっ!!しかも何で一億年後なのさあーーっ!!」

 

「……何も本気で目に涙溜めてまで怒らなくても……」

 

本気でブチ切れているダウドにアルベルトが苦笑。本人にとっては真剣な問題らしい……。

 

「旅人さん達も本当に有り難うございました、さあ、村に戻りましょう!」

 

「お兄ちゃん達、みんなを助けてくれて本当にありがとうーー!」

 

「あ、2人が行っちゃうわ、私達も追い掛けましょ!」

 

「モォ~ン!」

 

「よしっ!おーいコラ、お前ら気をつけろよーっ!」

 

「あうう~……」

 

「ダウド、君もいつまでも嫉妬しないんだよ……、全く……」

 

オリガとトトは手を繋いで一緒に歩いて行く。仲睦まじい姿を見つめながら、

ジャミル達も後ろからそっと2人を見守るようにして歩いて行くのだった。

 



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祈りの少女と主神様 9

あれから数日が過ぎた。4人はここ数日オリガの家に世話になっている。村人達は皆もう

オリガの力は無くなり、浜に主が現れないと言う事を、理解してくれた。

そして以前の様に主の力に頼らず、自分達の力で仕事をし、汗を流して働く生活へと

誰しもが送る当たり前の毎日を取り戻していた。ある村人は、ジャミルにこう言ってくれた。

 

「この村も完全に元に戻るにはまだ時間が掛かるかも知れねえ、けど、俺達は昔から

海と共に生きてきたんだ、心配要らねえさ、なあ……」

 

「……う~ん、う~ん、……主様……ど、どうかお許しを……」

 

傲慢村長はショックの為か、寝込んでしまったのである。息子のトトはパパはバチが

当たったんだよ、オリガを虐めたから……、しょうがないよと言葉を漏らしていた。

 

「よし、今日も浜は晴天なり、良い事であるぞよ!」

 

「な~にかっこつけてんのさ、ジャミルってば!プ……」

 

「モン!」

 

「うるせーなっ!バカダウドっ!あ、モンまでっ!俺に内緒で何食ってやがる!」

 

「これ?おばちゃんに貰ったの、鮎の串焼き、取れたての焼きたてだよお!」

 

「モン、だよお!」

 

……最近は、モンまでたまにダウド口調を真似する様になり、その都度モンちゃん

止めなさいとアイシャに注意をされているのだが。

 

「たくっ!そういや朝起きたらアイシャの奴、もういなかったな、……相変わらず

落ち着きがねえなあ、あいつも……」

 

「浜にいたみたいだよお、オリガと一緒に網を片付けるのお手伝いしてたみたい、

行ってみれば?じゃあ、オイラ達もう少しお散歩してきま~す!」

 

「モンモン~!食べ終わったらこの串でまたダウドの頭ちんぽこぽこ叩くんだモン!」

 

「モン……、それはしなくていいから……」

 

「そうか、オリガ……、頑張ってるんだなあ……」

 

父親との本当の別れから数日。オリガは自ら村のおばちゃん達に頼み、網漁業を

教えて貰おうと現在は懸命に仕事を熟そうと頑張っている。まだ見習いらしく、網を

収納するだけの仕事だがそれでも働くオリガは活き活きとしていた。

 

「ね、ジャミ公!そろそろこの村ともお別れして出発しなきゃなんネでしょ?

……次の果実も探さなきゃネ!アタシも人捜し終わんないし!」

 

「ああ、それは俺も考えてんだよ、ってか、ジャミ公言うなっ!」

 

「お~い、旅人さ~ん!」

 

「おう、トト!」

 

ジャミルの姿を見つけ、ちょこちょこ走って来たおかっぱ頭の少年トト。

初めて会った時よりも、この数日でトトは見違える様に逞しくなっていた

様にジャミルには見えた。

 

「えへへ!お早うー!でも、旅人さん達って本当に凄いんだねえ!僕ももっともっと

強くならなきゃ!僕、頑張って大人になる!そして旅人さんみたいになるんだ!

オリガの事、守るんだ!絶対にもう一人ぼっちになんかさせないよ!オリガは女の子だもん、心細い時だってあるよ!だから……」

 

「トト……」

 

トトはジャミルの目を見つめて真剣に言う。でも、ジャミルはこれだけはトトに伝えたかった。幼い日の時間はあっという間に過ぎ去る。だから、無理をせず、自由に伸び伸び過ごして欲しいと言う事。……誰しも嫌でもいつかは大人になってしまうのだから。

 

「でも、オリガも言ってたろ?お前はお前らしくでいいんだって、な……?それを

忘れないでいて欲しいんだよ……」

 

「……うん、旅人さん、ありがとう!ジャミルお兄ちゃん!」

 

「よしよし、それでいい!さ、オリガの仕事が終わるまで遊んで来い、ほれ行ってきな!」

 

「はーい!あ、あのね、そろそろこの村も船を出すのを再開するみたいだよ、この村から

東の大陸付近まで船を出すみたいなんだ、浜で聞いてみたらどうかな?」

 

「東の大陸か……、新しい場所みたいだな……」

 

トトは村の同じ歳の子供を見つけると肩を並べ一緒に走って行く。ジャミルは暫くの間、その光景をずっと見守りながら見つめていた。

 

「ジャミル、それ、いいいいっ!ね、新しい場所だヨ!早く船借りよう!」

 

再びサンディがしゃしゃり出て来る。ジャミルは分かったよとサンディに返事をしておく。

 

「取りあえず奴らとも相談しとかねえと、まずはアルか……」

 

ジャミルはオリガの家に戻る。今日はアルベルトはオリガの家の掃除をしている傍ら、

合間に本を読んで寛いでいる……。

 

「よう、アル……」

 

「あ、ジャミルか……、もううるさいのが戻って来たね……、はあ……、今凄く

最高潮で面白い処なんだけどなあ……」

 

「んだよっ!本ばっか読んでるとその内頭からコケがニョキニョキ生えるぞっ!

このアホベルトっ!!オメー戦士だろっ、たまには運動しろっ!!」

 

「……生えないよっ!バカジャミルっ!全くっ!」

 

アルベルトはぶつくさ言いながら読んでいた文学本にしおりを挟むと一旦閉じる。……

こうなるのが分かっているからアルベルトにとってジャミ公は本を読むのを妨害してくる雅に本に生えるカビの様な男だった……。

 

「で、何……?」

 

「うん、今後の事だよ、トトが言ってたんだけど、この村でもそろそろ漁業が

本格的に再開するだろ?まだ俺らが行った事の無い大陸まで船を出すみたいだし、

一緒に世話になって今日辺りそろそろ出発しねえ?」

 

「そうだね、そろそろその辺も考えなくちゃなんだね、……暫く寛ぎすぎてすっかり

頭から離れていたよ……」

 

「俺、アイシャの処まで行ってくるわ、オリガの仕事の手伝いに行ったみたいだし、

オリガの仕事っぷりも見学したいしな!」

 

「うん、行ってらっしゃい……」

 

再びのそのそと外に出掛けて行くジャミルを見送りながら、アルベルトも再び本に手を付けるのだった。

 

「えーと、アイシャ、アイシャ……、と、いた……、いいいいっ!?」

 

「ア、 アイシャさん、大丈夫ですか!?」

 

「……キャーいやーっ!何なのようーーっ!もうーー!!誰か助けてーーっ!!」

 

浜に行ってみると、ジャミルは凄まじい光景を目の辺りにする。網収納を手伝う

つもりが、恐らくドジを踏んだのか、逆にアイシャ本人が網に絡まって困っていた。

それこそまるで捕まった魚の様に……。浜は爆笑の渦に包まれていた。

 

「嬢ちゃん大丈夫かあ!?無理すんなよ、ほれほれ!今網外してやるから!」

 

「ふえぇ~、何でこうなるのようーっ!!もうーっ!!信じらんなーいっ!!」

 

「プ……、ぎゃははははっ!!」

 

「あ、ジャミルっ!こんな時にっ!何で来るのようーっ!バカバカバカーーっ!!」

 

「いや、その……、話があってだな、来てみたんだけど……、すげーもん見れたな……」

 

「こらこら、暴れるんじゃないよ、もう少しで網が外れるからな……」

 

「ごめんなさ~い、お手伝いのつもりが……、ご迷惑お掛けしまして……、ぐす……」

 

「ははは、いいんだよ、ほらほら!じっとしてな……」

 

網に絡まってきゃあきゃあ暴れるアイシャの姿は何だかマグロの様にジャミルには見えて

しまったのである。……それを言うと後で殴られるので黙っていた。今は取りあえずまた

オリガの家に戻ることにした。のだが。

 

「……旅人さん、……あの、ジャミルさん……」

 

「オリガ?どうかしたかい?」

 

戻ろうとしたジャミルをオリガが走って来て呼び止めた。何か話がある様である。

 

「はい……、本当に有り難うございました、主様をもう呼べないって事、村の皆にも

分かって貰えたし、お父さんが主様だったなんて……、この目で見た事なのに、何だか

今でも夢を見ていた様な気がするんです……」

 

「オリガ……」

 

「でも、あの時本当は……、主様でもいいから、一緒にいられるのなら本音はお父さんと

もっと一緒にいたかった、……そう考えてしまったの、でも、いけない事ですよね……、あんなの良くない、お父さんが可哀想だもの……、あたし、これからお仕事頑張ります、

今はまだ見習いだけど、少しづつ、少しづつ……、コツコツと……、お父さんもお母さんも

見守っていてくれる、それに私にはトトが付いていてくれる、……ジャミルさん、あたし、

本当に頑張りますよ!」

 

「オリガ、そうだな!お前ならきっとやれるよ!頑張れよ!」

 

「はい!」

 

トトの名前を口に出したオリガの顔は赤らんでおり、本当に嬉しそうだった。だが、

これからこの子らが成長し、そして何れは夫婦となり、家族となるであろう幸せな未来に

あの傲慢糞親父は一体どんな顔をするんだろうかと想像して吹いた。

 

「それでな、急で悪いんだけど、俺らも今日、そろそろ出発しようと思うんだ……」

 

「ジャミルさん……、ええ、分かっています、皆さんは旅する旅人さんなんだもの、

いつまでも一緒にはいられない事、でも、またきっと……、いつかこの村に遊びに

来て下さいね、皆で歓迎します!」

 

「ああ、またな!」

 

オリガとジャミルは硬く約束の握手を交わす。最初はどうしようもない糞村に思えた

この村もいつの間にか……、何時しか離れがたい大切な場所に変わっていた。そして、

出航の時が訪れ、ジャミル達4人は、オリガやトト、村の皆に見送られながら船に乗り、村を後にするのだった。

 

「旅人さん達―!どうかお気をつけてー!また、また……、絶対会いましょうーー!」

 

「色々な事があると思うけど、……負けないでねーっ!僕も頑張るよーっ!時々は

この浜に戻って来てねーーっ!約束だよーーっ!!」

 

「兄ちゃん達、達者で、元気でなーー!!」

 

「嬢ちゃんーー!また何処かで網に絡まるなよーー!気をつけてなーー!!」

 

「も、もうーーっ!絡まりませんたらっ!!」

 

「さようならーー!!」

 

……4人は皆に手を振りながら別れを惜しむ。やがて浜も遠くなる。アイシャは

遠ざかっていく漁村の姿を見つめながらぽつんと言葉を零した。

 

「やっぱり……、お別れって辛いね、本当に……、でも、私達もオリガに負けない様に

もっともっと頑張らなくちゃね!これからも!!」

 

「だな……、村の皆ともまたきっと逢えるさ!」

 

「うんっ!」

 



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カラコタ橋の義賊団 1

此処から暫く、オリ話、オリキャラでお送りします。今回はアルベルトメインです。
暫くの間お楽しみ下さい。


「はー、それにしても、こうして人間の船に乗せて貰える日が来るとわね~、さあっ、

次は新大陸だよっ!とっとと果実もこの調子で回収しちゃおー!アタシも早くテンチョー

見つけなきゃ!」

 

「なあ、ガングロ、聞きたかったんだけど、その、テンチョーってのがお前の尋ね人……」

 

「ジャミル、そろそろ船が着くよ、準備しないと……」

 

と、サンディに聞く前にアルベルトがやって来る。……まあ、旅の間に又いつでも聞けるかと今回は諦めた。やがてツォの浜辺から4人を送ってくれた漁船は船着き場へと着く。

いよいよ新しい土地、東の大陸での冒険の幕開けだった。

 

「さあ、着いたぜ、ここからが東の大陸だ、この船で送ってやれるのは此処までだ、

これから先、世界を回りたいのなら船が必要だ、まずは自分達の船を手に入れる事だ、

何でも花のサンマロウって町には立派な船があるらしいな、取りあえず尋ねてみな」

 

「色々有り難うな、おっさん!」

 

「此処まで大変お世話になりました!」

 

「む、村の皆にも宜しくね……」

 

「おじさんもどうかお気を付けて、本当に有り難う!私達も頑張ります!」

 

「モンモン、ばいばい!」

 

「お前らも達者でな!浜にも又来いよ!」

 

おじさんはジャミル達に手を振ると、再び船を出航させた。皆は船が見えなくなるまでの間、

ずっと見送っていたのだった。

 

「さてと、此処から……、まずはサンマロウって町を探すか、……場所が分かんねえ……」

 

「とにかく歩き出そうよ、立ち止まっていても仕方ないからね……」

 

「モン、そろそろお腹空いたモン!モギャー!」

 

「うわ、また始まった……」

 

アルベルトの言葉に頷き、ジャミルを先頭に先へと進み出す一行。モンはまたダウドの

背中に張り付く。暫く立つと、頭の方に移動し、また棒か何やらをバチに、頭を太鼓代わりに、ぽこぽこ演奏して遊び出すのである。

 

「あ、橋よ!」

 

「渡ってる途中で崩れないかなあ……」

 

「……ダウド……、また君はどうしてそう悲観的な……」

 

「思考になっちゃうんですっ!」

 

ダウドは無視してジャミルはどんどん橋の方へ一人向かって歩いて行く。慌てて

ジャミルの後を追い、走り出す3人。……橋の側には何やら全裸のおっさんがおり、

ガクブル震えていた。

 

「こんちわ……、ど、どうしたんだい?」

 

「ああ、あんたら見慣れない顔だな、旅人だな?だったらこの下の集落には

近寄らない方がいい……、俺みたいな目に遭うぞ……、身ぐるみ全部剥がされちまうぞ!」

 

「集落?」

 

ジャミルは橋から身を乗り出し下を覗き込んだ。確かに周囲を河川に囲まれた場所に

小さな家がごちゃごちゃ密集している。身ぐるみを剥がされたと言うおじさんの言動から

察するに、……どうやら余り感じの良くない場所に見受けられた……。

 

「はーやだやだ、ひっくし!」

 

おじさんはくしゃみをしながらそのまま橋の向こうへ行ってしまった。

 

「ね、ねえ……、早く行こう……、サンマロウに行くんだろ?船を手配して貰わないと……」

 

「ん?」

 

ジャミルを急かしたのは珍しくアルベルトであった。眉間に皺が寄っており、何だか

あまり機嫌が良くない感じである。……下の集落に行くのを拒んでいる様子。

 

「でも、アタシら此処の土地に関しては何も分かんないんだもん、情報収集って

大事じゃネ?ね、下の場所まで行ってみよーヨ!」

 

「サンディ、余計な事言わなくていいから!早く!」

 

……と、又もアルベルトが慌てだした。その時。

 

「いない……、この町にも……、まさか!」

 

「あんた……」

 

「ジャミル、又あの変な女だよっ!」

 

峠の道で会った、ローブを羽織ったあの謎の女が突然現れ、橋をスーッと通過して行く。

女は歩行の途中で足を止めると、ジャミルに近づき、ジャミルの顔をじっと見つめ始めた……。

 

「違う、違うわ……、どうかしてる……、旅人を天使と間違えるなんて……」

 

「あ、おいっ!待てよっ!!」

 

しかし、ジャミルが呼び止めるも謎の女は又も急に姿を消すのだった。

サンディも首を傾げている。

 

「何なんだろうね、アイツ、どっかで会わなかったっけ?ま、いいや、さ、果実探しに

レッツゴーっ!」

 

「はあー、ですね……」

 

「ねえ、ジャミル、急に大声上げたりして、誰と話してたの?」

 

「ま、また幽霊っ!?」

 

「いや、俺の勘違いだよ、誰もいねえよ、それよりも……」

 

「うそうそうそっ!絶対何か見えてたわよ!」

 

「教えてよおーっ!」

 

ジャミルは何とか誤魔化すが、アイシャとダウドは納得していない。

 

「あのさ……、君達、早く行こうよ、そんな事どうでもいいだろ、……早くっ!!」

 

遂にアルベルトが大声を上げる。アルベルトの豹変にアイシャとダウドもきょとん。

……目を丸くする……。

 

「あ、ご、ごめん……、でも……」

 

「何だよ、オメー今日はおかしいなあ!どっちみち、俺らこの土地に関しては

素人なんだよ!それにもう日も暮れる、……このまま闇雲に進んでもどうにも

ならねえだろが!サンディの言う通りだよ、取りあえず町みてーだし、今日は下まで

行くぞっ!!」

 

「だ、だからっ!……あんな処に行くくらいなら……、野宿の方がマシだっ!!」

 

「はあー!?こ、このっ、アホベルトっ!テメエ、いい加減にしろ!!」

 

「いい加減にするのはジャミルの方だろっ!いつもいつもっ!!」

 

「わわわ!ケンカ駄目だよおーー!!」

 

「そうよ、どうしたのよ、アルっ!落ち着いてっ!!」

 

遂に衝突しだしたジャミルとアルベルト。このチームはこんな沙汰になるのはしょっちゅうだったが、今日はまた、厄介で深刻な方向になりそうだった。ジャミルは遂にアルベルトに掴み掛かる事態になる寸前に……。

 

「ねえ、アンタら……、ケンカしてる場合じゃないっしょ、いいの……?」

 

「何がだっ!!」

 

「何がっ!!」

 

「うっわ!何その態度っ!スッゲームカツクッ!もーいいわヨっ!人が親切に注意して

あげようと思えばっ!アッタマくるっ!……デブ座布団いなくなってるヨっ!!もー

アタシしんねーかんネっ!!いーダ!」

 

「は……?」

 

「……」

 

ジャミルとアルベルトは一旦ケンカの手を止め、お互いの顔を見る……。そして、我に

かえるのだった……。

 

「……馬鹿モンーーーっ!!」

 

「ど、どうしようっ!わ、私達が目を離した隙に!サンディ、有り難う!教えてくれて!

ごめんね、機嫌直して!ね、サンディ、お願い!!」

 

(やっ!アタシ当分アンタらとは口聞きませんっ!!話し掛けないでッ!)

 

「サンディ……」

 

アイシャが宥めるが、サンディは姿を消したまま声だけ出した。モンも消えてしまうしで、ジャミル達4人は本当に最悪の事態突入となった……。

 

「オイラの背中に張り付いてたのに……、いつの間に……、ごめんね、皆……、

オイラ気が回らなくて……」

 

「ダウドの所為じゃないわよ、私達皆の責任よ!」

 

「アイシャ……、ありがとう……」

 

落ち込みだしたダウドをアイシャがフォローする。最もアイシャはすぐいなくなるフラフラ逃走者の先駆けの常習犯であるが……。

 

「畜生!やっぱあの集落にとっとと行くべきだったんだっ!俺は下まで行ってモンを探す、

お前らは先行っててもいいぞ!」

 

「私も行くわよ!モンちゃんが心配だもの!」

 

「うん、お腹すいたって行ってたし、下まで食べ物を探しに行っちゃったのかもね、

モンをほおっておけないよ、オイラも行くよ!」

 

「仕方が無い、こうなった以上……、モンを探しに行かなきゃ!でも、最初から

もっと早く橋を通過してればこんな事にはならなかったかも知れないのに!!」

 

「んだとお!?この腹黒っ!まだ言うかっ!!」

 

「ジャミル……、アル……、こんな時に二人ともいい加減にしてっ!!」

 

また始まりそうになった二人に対し、アイシャも声を荒げる。しかしその声は震える涙声に……。泣き出す寸前のアイシャを見て、ジャミルとアルベルトは漸く押し黙る。

しかし、暫く二人は口を聞かなくなってしまったのだった……。

 



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カラコタ橋の義賊団 2

また糞キャラです。ゲスの様で又違う荒くれの糞です。


一方のモンはと言うと、4人が揉めている隙にやはり下の集落へと勝手に移動してしまっていた。

……川の方から焼いた魚の匂いがし、釣られてしまい、ついフラフラと……。

だが、町の者は集落の中をモンスターが一匹でふよふよ移動しているにも関わらず誰も全く気がついていなかったのが幸い。これまでもモンはジャミル達と常に一緒に行動はしていたが、それは何かと時折知らない人に突っ込まれそうになる度、喋る最新式のぬいぐるみで全て誤魔化せていた。

モンもモンスターだが、人間を敵とする他の凶悪モンスターと違い、元々根がフレンドリーな性格の為。

……川の側にある今にも崩れそうな汚いボロ小屋の外に焚き火で焼いている魚を見つけた。

だが、火を扱っているに関わらず、周囲には誰もいなかった。

 

「モン……、焼いたお魚……、もう我慢できないモン……」

 

モンは涎を垂らしながら焼きたての魚に食いついて全部平らげてしまう。……そして事態に気づくのである。

 

「……モン~……」

 

食堂などで皆と一緒に食事をしている際、まだ子供にも関わらず大食漢のモンは隣の

テーブルのお客さんの食事を横から搔っ攫い、食ってしまう事も度々あり、その度4人は

客に頭を下げ、モンはアイシャに「「めっっ!」」をされる。……ジャミルもダウドがちょっと油断している間に、ダウドが最後に食べようと思っていたタンドリーチキンに手を出し、

ダウドをメソらせてしまい、アルベルトにスリッパで叩かれた事があった。……雅にこのモンスターにして、この相棒だった。

 

「……どうしよう……、モン、又やっちゃったモン……、!?」

 

静かだった周囲に急に声が聞こえ始めた。小屋のドアが開き、中から子供がぞろぞろ

出て来た。モンは慌てて宙を飛び、小屋の後ろに隠れた。

 

「……魚、そろそろ焼けたかな……、あ、ああっ!?」

 

「おちゃか……」

 

小屋の中から出て来た2人の子供。片方は横ポニテのヘアのまだ幼いあどけない表情の少女。だが、その身なりは貧しく、何ヶ月も洗っていない様な髪、ボロボロの破けた黒い服に穴の開いたスカート、素足。真っ黒に汚れた顔。……スカートから見える膝部分は赤くなって腫れており、キズだらけだった。少女はモンが食べてしまい、串だけになってしまった魚の残骸を見てひくひくベソを掻きだした。

 

「……どうしよう……、わちがうっかり寝ちゃってて、お魚のばんさぼっちゃったから……、

誰かにお魚食べられちゃったよう~!うわあ~ん!!」

 

「ああ~ん!う、う~!おちゃかー!」

 

少女と一緒に出て来た、更に幼い短髪の男児。まだちゃんとお喋り出来ない年齢の様だった。

……少女が泣き出したのを見て釣られて泣き出したのである。

 

「モ、モン……」

 

隠れているモンは困って謝りに行こうかと思った。其処にもう1人の少年が姿を現す。

此方は2人よりも遥かに年齢が大きく、見た感じ14歳ぐらいの細身の少年だった。

 

「……お前ら……何してんだ……」

 

「ああっ!あーにーじゃああ!!」

 

「あうー!」

 

少女は兄者と呼ぶ少年に飛び付く。顔を覆う賊用のターバンから片っぽだけ延びた前髪、

後ろ手に縛った長髪。隠れた前髪から覗かせる片方のその瞳はまるで冷め切った様な氷の目。

 

「ごめんなさい!……おっさんの魚、わちがうっかり寝ちゃってる間に……、誰かに食べられちゃったのーーっ!!」

 

「やれやれ、又やったのかよ……、糞が……、マジでお前は……」

 

「「おいっ!!」」

 

「ひ、ひいいっ!?」

 

「……」

 

少年が言葉を言い終える前に現れた一升瓶を抱えた小太りの髭面の男。子供達と違って此方はいかにもな肥えた体型であり、ズボンのチャックは開きっぱなし、捲れたシャツから

タプタプの段々腹が揺れており、実に惨めな姿である。……少女は現れた大男に怯え始めた。

 

「俺の夕飯のお魚ちゃーん、どうしたー?ん~?もう焼けた頃だろ?んん~!?……んじゃ!なんじゃこれはーーっ!!おい、ゴルアアーーっ!?」

 

荒くれデブ男は魚の残骸を見て子供達の失態に気づき、少女目掛けて一升瓶を振り下ろそうとした。だが、その手をぐっと掴み、少年が阻止した。

 

「止めろ、こいつの所為じゃない……、俺が……食った……」

 

「……なん……だと……?」

 

「あ、あにじゃーーっ!!」

 

荒くれデブ男の一升瓶を持つ手が怒りで震え始めた。少女から的を変え、今度は今にも

少年の方に殴り掛かる寸前だった。

 

「今日も余り稼ぎが良くなかったんだよ、苛々してた、だから食ってやった、……どうもこの……カラコタって場所はよ……」

 

荒くれデブ男、少年の襟首を掴むと顔をボコボコに殴り飛ばした。……何回も何回も……。

しかし、少年は抵抗する事無く、荒くれデブ男に口から出血しながらも只管殴られ続けていた。

 

「……ペッ、……気がすんだかよ……」

 

「何だっ!その目はっ!テメエ、今日の稼ぎも碌に出来やしねえ癖に何だその態度はっ!!しかも俺の大事な夕飯をよくも食いやがったなあーーっ!!」

 

「やめてーっ!兄者が悪いんじゃないんだよーっ!わちが、わちが……」

 

「るせー!……糞め!黙ってろっ!!……こんなモン、いつもの事じゃねえか……」

 

「ああーーんっ!!」

 

少年は少女を庇い、尚も暴力に耐え、荒くれデブ男に殴られ続けた。側では男児がわんわん泣いている。……その様子を隠れて見ていたモンは恐怖に怯え、その場から逃げ出してしまうのだった……。

 

「……怖い、怖いモン……、どうしよう……、モンの、モンのせいモン……」

 

これまでずっとジャミル達と一緒に行動していたモンは、今回初めて一匹で行動し、

……醜い人間の醜態を目の辺りにする事になった……。今までも、ツォの浜辺の村長など

糞人間と遭遇する事はあったが……。モンは生まれてからこれまで、これ程の恐ろしい人間と遭遇した事が無かった。しかも自分の犯した失態の所為であの子達が……。モンはどうしていいか分からず、ジャミル達と離れた事を後悔していた。

 

そして、モンを探すジャミル側……。

 

「ねえ、2人とも、いつまでそうしてるのさ……」

 

「いい加減にしたらどう……?」

 

ジャミルとアルベルトはあのまま黙ったまま口を聞かず。薄汚い集落をモンを探し、只管歩き回っていた。後ろから後を歩いているダウドとアイシャは呆れている……。しかし、先に

沈黙を破ったのはジャミルの方だった。

 

「分かってる、分かってんだよ……」

 

「……何が……」

 

「……オメエは元々お堅いショバ出身だからよ、こんな所歩きたくねえのは分かってんだよ、糞真面目だもんな……」

 

「……別に……、そんな……、ただ、僕は……、正直言うと……、何故ダーマに神に仕える

職業に盗賊があるのか納得出来ないとは思う……」

 

「……」

 

時折アルベルトは真面目な顔をしてボケを噛ます時がある……。

 

「だから本音は又君が賊業に着くのは感心出来ない、この旅を有利に熟す為だとは思うけど……、だけど他にももっと有利な職業は幾らでもあった筈じゃないか!!」

 

「……だから俺に賊止めろってのかよっ!ええっ!?」

 

再び衝突しそうになる2人。ダウドは困りっぱなしだったが、アイシャはもう何も言わず、

黙って見ているしか出来なかった……。

 

「悪いけど、僕は一人でモンを探すよ、集合場所を此処の建物にしよう、モンを見つけたら

この場所で又……」

 

「勝手にしろよ、行くぞ、ダウド、アイシャ……」

 

「あの、アル……、機嫌直して……、ね?」

 

「アイシャ、僕は別に機嫌が悪い訳じゃないよ、ただ、僕も独りになりたい時があるから、

ごめんね、心配しないで……」

 

「アル……、気をつけて……」

 

「……」

 

心配するアイシャの言葉にそれ以上返事を返さず、アルベルトはジャミル達に背中を

向けると薄暗い路地に向かって独り歩いて行った。

 



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カラコタ橋の義賊団 3

「……やっぱり……ちゃんとごめんなさいしないと駄目モン……、悪い事したら……、

ジャミル達に嫌われちゃうの嫌モン……」

 

モンは急いで引き返すとさっきの小屋の方へと再び飛んで行く。だが、すぐその後ろから

探しに来てくれたアルベルトが追いつく寸前だった。もう少しで再会出来たのにモンは知らずにそれを振り切ってしまった。

 

「ハア、モン……、一体何処へ行ってしまったんだよ、僕らこんなに心配してるのに……」

 

「おい、兄ちゃんや、兄ちゃん、へへ、ちょっと美味い話があるんだけど、どう?

ちょっと遊んでいかない?」

 

家の中から小汚い初老の老人が顔を出し、アルベルトに手招きした。だが、アルベルトは

速攻でそれを断る。

 

「悪いですけど……、僕はそう言った事には一切関わりませんので、失礼します……」

 

アルベルトはますます足を速める。もうさっさとこんな集落、直ぐにさよならしたかった。

だが、その為にはモンを探さないといけない。気分はどんどん悪くなってきて最悪だった。

……終いには目眩と吐き気がして来た……。

 

「……ふう、……あ、ああっ!?」

 

「へへっ!ごめんよーっ!」

 

油断していてトロいアルベルトはぶつかって来た子供に財布をスられる。一応用心はしていたが、考え事もし捲りだった為、やはりお約束の結果に……。

 

「……お、追い掛けなくちゃ!冗談じゃないよっ!!」

 

我に返ったアルベルトは再び気力を取り戻し、財布をスッた子供を追い掛け、どんどん集落の方へと自ら踏み込んで行く事になる……。走りながら必死で子供を追い掛けるアルベルトは、ふと、ある出来事を思い出していた。

 

(……そう言えば、元の世界でのジャミルとの出会いもこんな感じで……、最初は最悪だったっけ……、姉さんから預かった大切な指輪をあいつにスラれたんだ……、でも……)

 

そして、ジャミル達も又、モンを探して集落を歩き回っていた。そろそろ日も暮れ掛け、

辺りの風景はどんどん薄暗くなる。

 

「やっぱり……、アルと一緒に行った方が良かったんじゃないかなあ……」

 

「私もそう思うんだけど……、でも……」

 

「あいつが独りにさせろって言ってんだから仕方ねえっつんだよっ!もうほっとけよ!」

 

心配するダウドとアイシャを余所に、ジャミルの方もまだ機嫌が治まらなかった。

 

「ったくっ!腹黒めっ!人をこんなに心配させやがって!モンもモンだっ!見つけたら今回はデコピン連打大量の刑だっ!!」

 

「……おんやあああ~?」

 

「な、何だよ……」

 

ついうっかり呟いたジャミルの言葉にダウドがニヤニヤしている。……アイシャも何となく笑っている……。

 

「や~っぱりジャミルって変なツンデレだよねええ~、本当はアルが心配な癖にさあ~、

でも、隠せないんだから無駄だよお~、ンモ~、素直になりなよお~……、プッ……」

 

「……なっ!?」

 

「もう、本当よねえ~……」

 

「んだよ、アイシャまでっ!別に俺は心配なんかしてねーぞっ、してねーったらしてねーっ!……ア、アルはトロイからだっ!!」

 

「……何、思いっきり心配してんじゃん……、アンタってマジでバカ……?」

 

「あはっ、サンディっ!出て来てくれたのね!有難う!」

 

「別にィ……、ただウダウダしてるから何か見ててムシャクシャすんのヨ!バカっ!!」

 

「……バ、バカだとう!?このガングロっ!!」

 

「べーだっ!」

 

煮え切らないジャミ公に苛々し、再び姿を現したサンディはアイシャの言葉に顔を真っ赤にするとまた姿を消す。……サンディに突かれたジャミ公も顔が赤い。……どっちもどっちだった。

 

「あーもうっ!どいつもこいつもっ!畜生っ、こうなったら何が何でもあいつら絶対探してやるっ!!……オラ行くぞっ!ヘタレっ、ジャジャ馬っ!!」

 

「やっぱりそうなりますか……、だよねえ~……」

 

「ふふっ!」

 

……ジャミルはアルベルトが向かった方向へと足取りを変え、蟹股になると顔から湯気を出しながらドスドス歩いて行った。その後を笑いながらダウドとアイシャが走って追い掛ける。

……アイシャはジャミルに追いつくと、ジャミルに気づかれない様、背中に指で、

そっと、……ば・か、と文字を書いたのだった……。……そして……。

 

「……おい、分かってんだろう?俺に逆らうからイテえ目に遭うんだよ、テメエ、俺様に

世話になって一体何年立ってると思ってんだっ!いい加減に学習しろっ!!この能無しの糞ガキがよううう!!……人のおまんまを黙って食うなんざ最悪だぞ!……お前の死んだ

母ちゃんも天国で今頃泣いてるぞお……」

 

「……」

 

「……やめてえええっ!!」

 

場面は再びあのボロ小屋の前。荒くれ豚男に散々殴られた少年は出血して顔面血まみれだった。ぐったりしている少年に対し、豚男は尚も少年の襟首を乱暴に掴もうとした。

……それを必死に止めようとしている横ポニテヘアの少女……。

 

「おい、今日の罰だ、今からちょっこし稼いでこいや、でないと……」

 

「あ、あーーっ!?」

 

「!っ、……やめろーーっ!!」

 

豚男は急に少年から手を離し、乱暴に地面に叩き付けたかと思うと、今度は少女の方に

矛先を変え、少女の横ポニーテールを乱暴に掴むと思い切り引っ張り、少年に対し、嫌らしい顔を向けた。

 

「いたい、……いたいよう……、うっく、ひっ……」

 

「そうさなあ、俺は今から又ハシゴしてくるから、俺が戻ってくるまでのその間に最低、

10000Gは稼いで来な……、こんな優しい金額チョロいもんだろう?よおおおっ!?」

 

豚男は自分が飲みに行っているその間、少年に金を稼いで来いと脅しを掛ける。もしも

指定した金額を持って来なかった場合、今度は少女を殴ると言っているのである。

泣いている少女の姿を見て、少年は痛みを堪えながら身体を起こすのだった……。

 

「分かったよ……、用意して来てやるよっ!……だからエルナから手を離せっ!!」

 

「ふん……、相変わらず気に食わねえ目だ……、おい、俺は気が変わってすぐ戻って来る場合もあるぞ、……それを忘れんじゃねえぞ……」

 

「……早く行けよっ!!俺を舐めるなっ!!」

 

豚男は少女……、エルナを漸く解放すると少年を睨みながら何処かへのしのし歩いて行く。

 

「……兄者あーー!!ごめんなさああーーい!!」

 

「ああーん!!」

 

エルナともう一人の男児は……、豚男が消えた後、泣きながら少年に飛び付く。

……口元の血を拳で拭いながらそれを見た少年は大きく息を漏らすのだった……。

 

(……今夜中に何とか……、10000Gだ……、あの糞が戻って来る前に……、

こいつらは俺が守ってみせるさ……、絶対に……)

 



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カラコタ橋の義賊団 4

「畜生!あの糞豚親父め!冗談じゃねえっ!……おい、お前ら、暫くじっとしてろよ、

俺が戻るまで……、絶対に金を持ってくるからよ……、くっ!」

 

「だ、駄目っ、兄者……」

 

「何だ!エルナ、邪魔すんな!……時間がねえんだよ!!」

 

少年は鼻血を出したまま、顔面血だらけの状態で、よろよろしながら再び町の方へと向かおうとする。

しかし、エルナはその手にしがみつき、少年を必死に止めようとしたのだった。

 

「そんなお顔で歩き回ったら死んじゃうようー、わち、おっさんに殴られても痛いの

我慢するよう、だから兄者……、行っちゃ駄目だよう……」

 

「馬鹿野郎!ふざけてんな!お前も今此処で俺に殴られてえのか!?ええっ!?」

 

「……やだ、嫌だよう……」

 

「俺が金を稼いで来なきゃお前、もっと酷ェ目に遭うんだぞ!分かってんだろ、さ、我儘

言うな役立たず!大人しくしてろっ!」

 

「にー、にー……、ちゃあ、やああ……」

 

「……ペケ、お前まで……」

 

まだちゃんと喋れない男児はペケと言うらしい。までが少年に飛び付いて再び外出の阻止をする。少年が困り果てていたその時、3人の前に……。

 

「モン~……」

 

「あ、兄者っ!怪物っ!ちっちゃいモンスターだあっ!!」

 

……戻って来たモンが現れたのだった。少年は急いで身構え、懐から短刀を出すとエルナと

ペケを後ろ手に庇う様に身構える。

 

「畜生!何でんなとこにまでっ!この野郎!近づいてみろ、……俺を舐めるなよっ!!」

 

「違う、違うのモン、……モン、人間を襲ったりしないモン、信じて……」

 

「しゃ、喋った……?」

 

「……おおー?」

 

「もー!」

 

突然喋り出したモンスター、……モンに子供達はびっくり仰天。少年も短刀を手に持った

ままの状態で暫く固まっていた……。

 

「兄者、この子、悪い子じゃないよ、わちには分かるよ、あはは!」

 

「……こらっ!エルナっ!あ、危ねえから近づくなっ!!」

 

「モォ~ン、モンです、初めましてモン」

 

モンは側に寄って来たエルナの手にすり寄る。見ていたペケもモンに近寄るとモンの耳に

ぺたぺたと触るのだった。

 

「もーん、もーん」

 

「……お前、本当に俺達を襲いに来たんじゃねえのか……?それに……」

 

「モン、皆にごめんなさいしなくちゃで、一旦逃げたけど、又此処に来たモン……、

本当にごめんなさいモン……、……此処で焼いていたお魚を食べたのはモンなの……、

モン、お腹がとっても空いてて……、モン……」

 

「……何だと……?」

 

「モン……」

 

再び少年の手が震えだした。モンはただ只管頭を下げ、少年に謝罪するしか出来なかった。

 

「そうか、魚が無くなったのはテメエの仕業だったのか、ふざけんじゃねえぞこの野郎!!」

 

「モン……」

 

モンは硬く目を瞑った。何をされても今のモンは頭を下げる事しか出来ないのだから。

だが、今にもモンに斬り掛かろうとする勢いの少年をエルナが再び止める……。

 

「エルナっ!……又邪魔すんのかっ!!」

 

「兄者、駄目……、この子悪い子じゃないよ、お願いだからやめて……、この子を

いじめたら兄者もおっさんと同じになっちゃうよ、お願い……」

 

「んな甘いモンじゃねえんだよっ!……おい、お前……、人間の言葉が理解出来るなら……、

分かるだろ?人間様の住むこの世界には掟がある、テメエのやった事はテメエで落とし前付けろ……、よう……、俺はテメエの所為で今夜中に始末金を稼いで来なきゃならなくなったんだっ!!」

 

「……や、うわああーーんっ!!にー、めええーーっ!!」

 

等々幼いペケまでがモンを庇い大泣きし、モンを斬ろうとする少年に必死に抗議するのだった……。

 

「あのね、モンは本当に何も出来ないけど……、モンのお友達なら皆を助けてくれるかも

知れないモン!ジャミルなら……」

 

「はあ……?ジャミル……?何処にいんだよっ!そんなモンっ!!」

 

「モンは此処モン?それにね、モンは甘くないモン?なめてみるモン?」

 

「あのな……」

 

最初は噴火していた少年も……、段々とモンの天然に呆れてきていた。少年は疲れ切った

様子で短刀を懐にしまい、モンの方を改めて見る。いつの間にか少年の鼻血も止っていた。

 

「よく見ると……、でかくて変な顔だな、お前……、プッ……」

 

「シャアーーッ!!」

 

モンは大口を開ける。見ていたエルナはきゃっきゃと笑い出した。ペケも……、モンを怖がる処か、ますます喜んでいる……。

 

「よう……、随分と楽しそうじゃねえか……、シュウ、お前、夜勤はどうしたんだ?ええ……?お喋りタイム?おじさんを仲間はずれにして……、おじさん悲しいよ……、しくしく」

 

「あ、あっ!?」

 

「……糞親父っ!な、何でっ!!」

 

「モンっ!!」

 

モンのお陰で雰囲気が漸く少し明るくなって来た処に……、出掛けた筈のあの

荒くれ豚男が姿を現したのだった。その場は凍り付き、ペケは大泣きする……。

 

「おい、言ったろう、金……、稼いで来いとさ……、オメエ、んな所でサボってる場合かああーーーっ!!」

 

「うわあーーっ!!」

 

「兄者――っ!!」

 

少年……、シュウに再び豚男のパンチが入り、シュウは吹っ飛ばされ地面に……。エルナは

倒れたシュウに慌てて駆け寄る……。

 

「ち、畜生……、ぐっ……」

 

「兄者……、やだ、やだようう……」

 

「気が変わったんだよ、だから戻って来た、……ま、どうせテメエなんかに今夜中に

10000Gなんか稼ぐのはほぼ不可能に近いからよ、仕置きだけはきちんとしておかなきゃな、エルナ、来い……、そうだな、オメエも一応レディの端くれだ、今回は頭部ゲンコ

10回ぐらいにしといてやる……、タンコブだらけで嘸かしお洒落な頭になるぞう~……」

 

「……や、いやっ!!」

 

「オラ、来るんだよおおおっ!!」

 

「やだーっ!兄者っ!怖いよーーっ!!」

 

「……やめろおおーーっ!!」

 

地面に倒れたままのシュウが必死で叫ぶが体中に走る激痛でどうにもならず……。

しかし、豚男の前にモンが……。立ちはだかったのだった……。

 

「……もう意地悪は止めるモンーーっ!!」

 

「……お、お前……」

 

「……なんだあ?おい、シュウ……、テメエいつの間に俺に内緒でこんなくだらねえ玩具なんか買いやがったんだあ……?おいコラ……」

 

「ひく、だ、駄目だ……よ、モンスターさん、に、逃げて……」

 

「モンスターだと……?ああん?」

 

「モンはもう逃げないモン……、魚を黙って食べちゃったのはモンだモン……、モン、何も

出来ないけど……、でも、……だから、モンが皆を守るモン……」

 

豚男は自分の目の前に立ちはだかり、必死で子供達を守ろうとするモンをじっと見つめる。

直後、ゲラゲラと大笑いするのだった……。

 

「な、成程……、テメエ、モンスターかあ、こいつはおもしれえや、身を挺して人間様を

守るってか、こいつはおもしれえや!あーっはっはっはああ!……」

 

「……モンーーっ!!」

 

「……あ、あああっ!」

 

しかし、モンは宙を舞い、地面に倒れた。荒くれ豚男はモンの腹にパンチを入れたのだった。

豚男は気絶しているモンの耳を掴んで無理矢理引っ張り上げた。

 

「……喋るモンスターか……、こいつは高く売れそうだ……、俺ってばついてるなあ、

抵抗もしなかったしな、こ~んな金蔓が飛び込んで来るたあなあああっ!!おい、……

シュウ君?アンタの出番よ?今度こそちゃんとお仕事して来て頂戴な、……ねえ、君なら出来るよね……、……ねええーーっ!?そうだよねえええーーっ!?」

 

「う、うううう……」

 

豚男はモンを掴んだまま……、ドス黒い笑みで倒れているシュウに近寄るのだった……。

 



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カラコタ橋の義賊団 5

「……分かってる、おっさんの……いつもの知り合いの奴の処だろ……?」

 

「兄者……?」

 

「め、めー!?」

 

シュウは痛みを堪えながらゆっくりと立ち上がる。そして目の前の豚男を前髪で隠れて

いない方の片側の目で見た。……その目は何時しか氷の様な冷たい目へと戻っていた。

 

「分かってんじゃねえか、流石俺の弟子だ、丁度今夜、奴らが来る頃だ、しっかり交渉してきな、いいお友達だからよ、嘸かし高額で買い取ってくれるだろうよ、へへへ……、場所は

カラコタ橋周辺だ、そら……」

 

豚男は小さな布袋をシュウに手渡す。……シュウはモンが目を覚まさない様、そっとモンの小さな身体を袋に入れた。

 

「……兄者!その子を売る気なの!?お願い!止めてよう!こ、この子はわち達を助けようとしてくれたんだよ!?」

 

「めー!めー!」

 

「エルナ、こいつはモンスターだ、モンスターは本来の人間の敵だ、こいつだって何時モンスターとしての本能を出すか分かんねえんだぞ、……俺は誰も信用しない……、人懐こく

たって……、それ程の知能があるなら人間を騙す事も充分ある、危険て事だ……、分かったらその手を離せ、これもお前らを守る為だ……」

 

「だ、駄目……きゃあう!?」

 

シュウを必死に引き止めようとするエルナ。だが、後ろから乱暴にエルナの横ポニテを

豚男がまた引っ張りシュウから遠ざけるのだった。シュウは後ろを振り返らず、その場を立ち去ろうとする。

 

「お前はね、いいのっ!お兄ちゃんの邪魔しちゃ駄目でちゅ!俺の晩酌の相手してね、

さあ、来いっ!能無しチビ、お前もだっ!!」

 

「やあああ!うああーーん!!」

 

「兄者、兄者―!……駄目だようううーー!!」

 

シュウは背中腰に聞こえて来るエルナとペケの悲鳴と泣き声を耳に受けながら無言で

早足になる。向かうは豚男の言った通り、カラコタ橋周辺。一刻も早くこんな事は終わらせたかった。……だが、モンが中に入った布袋を掴んだその手は恐怖と後悔の念で震え始めていた。

 

(……畜生、何が俺達を守るだよ、何も出来ねえ低俗モンスターの癖に……、ふざけやがって……)

 

その後、ボロ小屋に無理矢理連れ込まれたエルナは泣きながらも豚男の晩酌の相手を

只管させられ、……ペケは既に泣き疲れて眠ってしまっていた。

 

「ひっく、ひっく……」

 

「へふふう~、ゲフ、うい~、一時はあの糞ガキのお陰で気分最悪様々よ、しかし、今の俺はさいっこ~にご機嫌でしゅ、でもお~、今はもうご機嫌るんるんでしゅう~、なぜならあ~、お金が入るから……、なので……、ぐおおおおーーー!!」

 

酒を鱈腹飲んだ豚男もたるんだ腹をさらけ出し、上機嫌で眠ってしまう。そのだらしない姿を目の当たりにしたエルナの脳裏にモンの言葉とある考えが浮かんだのだった。

 

「モンのお友達なら皆を助けてくれるかも知れないモン!……ジャミルなら……」

 

「今なら……、もしかしたら……、でも……」

 

エルナは眠っているペケと豚男を交互に見比べる。自分が今しようとしている事、チャンスは豚男が眠っている今しかない。もしかしたらモンを救えるかもしれない、神様が与えてく

れた時間なのだと。そう思った。エルナは眠っているペケの小さな身体にそっと触れた。

 

「……ごめんね、ペケ、わち、行ってくるよ、このままあのモンスターさんほっとけないの、

兄者にも悲しい顔して欲しくないの……、でも、絶対戻って来るからね……」

 

エルナは急いで暗い外へと飛び出す。裸足のままで。……暗い夜道を町目指して走るその足には道端に錯乱するガラスが刺さり、小石が彼方此方踵にぶつかり既に血が滲んでいた。

 

「ひっく……、兄者、駄目……、駄目だよう……」

 

シュウもエルナもペケも皆、親のいない孤児だった。人買いを通じて、彼、彼女らは豚男に

売られた身であり、出会って一緒に生活を共にする様になった。

豚男にいつも脅され何処かの旅人達から金を盗んでくるシュウの目はいつも何処か悲しそ

うな目をしていた。……仕事に失敗すれば殴られ、傷だらけで蹴られて戻って来る。そして豚男にも暴力を振るわれる。自分も早く仕事を覚えろと豚男から脅されていたが、エルナにはまだ早い、俺が当分頑張るからといつも豚男の手から悪い事をさせるのを阻止して守ってくれていた。……そしてまた悪い事に手を染めようとしている。……自分達を守る為……。

必死で走るエルナの目から涙が滲んだ。心の傷。……それは足の痛みなんかよりも数倍辛かった……。

 

「ハア……、だ、駄目……、もう走れな……、でもっ、わちが頑張んないとっ!」

 

走っていて息が切れ、途中で立ち止まってしまう。しかし、走るのをやめる訳にはいかない。

モンが言っていたジャミルと言う名前……、エルナは会った事も見た事も無い。けれど、モンの友達だと言うその人物も今頃モンを町で探し回っているかも知れない。エルナは只管、その人に会える奇跡を信じ、町までもう一踏ん張り走って行った……。

 

……その頃、アルベルトはまだ独り、ジャミル達との合流を拒否し、最初の場所……、カラコタ橋の中央に佇んでいた……。

 

「やっぱり……、もう皆の処に戻った方がいいかも知れないな……」

 

橋の中央から下の集落の景色を見つめ、大きく息を吐く。……一体何故こんなに苛々して

いるのか自分でも分からなくなり混乱していた。此処はその日暮らしの罪人達の溜まり場所。賭け事や盗み、この集落の人々は日々を皆悪事に手を染めて生きている。そういった人達を許す事が出来ないのか、それとも……。色々考えているとアルベルトを再び頭痛が襲った。

 

「アニキー、アニキのお友達は今日は一体何を持ってきてくれるのねー?」

 

「……誰か来る……?」

 

「さあ~、わからんのねー、何でもいいのねー、ぼくら今回は危険な実験に使えるもんなら何でも買い取る闇営業さんなのねー!」

 

「お見積もりわっしょいしょいなのねー!」

 

「……は、はあ?でも、この声……、何処かで……」

 

暗くて良く分からないが、確かに橋の向こう側から変な声がし、数名が此方に近づいて来ていた。しかし、アルベルトの頭にはその聞こえてきた声に微かに聞いた事がある様な危険な

感じを覚えていた……。

 



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カラコタ橋の義賊団 6

「……お前達はっ!?」

 

アルベルトの方に向かって橋を歩いて来た同じ顔の変な3人組。……カネネーノネー基地害3兄弟である。事ある事にどのシリーズでも段々現れる様になり、4人組の妨害をしてくる最悪のクズ共の一部類。

 

「よう、金髪、久しぶり~、なのね~!」

 

「今回も出てやったのね、ほれほれ~!」

 

「今回はね、ぼくら危険物を買い取るお偉いさんなのね、だからカネネーノーネーじゃないのねー!……カネアルノネー3兄弟様とお呼び!なのね!」

 

「どっちでもいいっ!そんな事っ!お前達っ、今回は一体何の悪巧みなんだっ!!」

 

アルベルトは鉄の剣を取り出すと身構える。……その姿を見た基地害バカ3兄弟は同じ

変な顔を見合わせ首を傾げるのだった。

 

「お前、前々回共バランスサポート系だったみたいだけど、今回は戦士みたいなのね?」

 

「……気が狂ったのね?」

 

「亀みたいな糞がまあ、無理しちゃって……、なのね~」

 

「……うるさいっ!僕だって日々修行してるんだっ!覚悟しろこの基地害共っ!!」

 

「それはこっちの台詞なのね!……それにお前、いつも連んでるバカな仲間が

一緒にいないみたいなのね?」

 

「う、ううっ、だからそんな事お前達には関係ないって言ってるんだ!いちいち

うるさいなっ!!」

 

アルベルトはどんどこ突っ込んで来るバカ兄弟のカシラに苛々を募らせた……。

 

「アニキ、こいつきっと、余りにもトロすぎで遂にパーティ解雇されたのねー!」

 

「オー、不況の波がこんなとこにまで押し寄せているのねー!リストーラ!」

 

ぶちっ……

 

アルベルト、遂に腹黒モードになり、スリッパを取り出す……。

 

「あ、やれるモンならア~!」

 

「やってみやがれェてやんでぃ!」

 

「なのねえ~!!」

 

タン、タン、タン、タタン……

 

「……」

 

基地害3兄弟は3人並んで橋の中央に立つと、カシラを間に挟み、片手を前に突き出す

歌舞伎のポーズを取る。だが、3基地は、タンタンタンと、見得のポーズのまま、そのまま3人横に並んで片足を上げたまま、跳ねながら横に移動、……橋から揃って転落した。

 

「アーーーーーーーーーーー!?」

 

 

「……な、一体何だったんだ?」

 

アルベルトは再び橋の下を覗き込む。……墜落した3基地はそのまま川に流されて行ったらしい。

 

「よう、……アンタがおっさんの知り合いの……密売人かい?」

 

「えっ……?」

 

再びアルベルトに声が掛かる。ぼーっとしていたアルベルトは慌てて我に返るが、振り向くと其処に立っていたのは……。

 

「君は……?」

 

「……こ、こいつ……、違う……?」

 

……漸くカラコタ橋に到着したシュウであった。しかし、シュウはアルベルトの顔を見て

違和感を覚えた。……何かが違うと……。暗闇でもほのかな光を放つ金髪の髪。真面目で

いかにもな清潔そうな顔立ち。とてもあの豚親父の知り合いとは思えなかった。シュウは豚男に汚い知り合いがいるというのは以前から聞いていたが、今回、初めてシュウが単独で、

闇取引に強制的に駆り出された。だから、先程橋から転落した基地害兄弟の顔も知る筈がなかった。

 

「ねえ、君は一体誰なんだい?それに僕が密売人て……」

 

シュウは動揺し、手に再び汗が滲み出す。完全に人違いだった。……彼が手にしている袋の中にまさか、探しているモンが入っているなどと、アルベルトは気づく筈もなく……。

 

「……人違いだっ!じゃあ!」

 

「……待てっ!」

 

アルベルトも不審に思い、慌てて逃げようとしたシュウの片手を思い切り掴んだ。シュウは

慌ててその手を振り払おうとするのだが……。

 

「は、離せっ!……畜生!ああっ!?」

 

「!?」

 

シュウは焦って手にしていた袋を地面に落とす。……衝撃で袋の中に閉じ込められていた

モンの頭部が少しだけ姿を現す……。

 

「……モンっ!!」

 

アルベルトは慌ててモンが入った袋を拾おうとする。しかし、アルベルトよりも素早く、

シュウがさっと袋を拾い回収する……。

 

「困るんだよ、こいつは大事なカネヅルだ、渡さねえぞ……」

 

「き、君が……モンを誘拐したのかっ!?」

 

「そうだよ、わりィか?ふ~ん、こいつはお前の知り合いか、けど、俺も商売なんでね、

上からの命令でさ、こいつをある奴に届けなくちゃなんねえのさ、金の為に……」

 

シュウは再びモンの身体を袋に押し込むとそのまま背中に背負う。そして懐から短刀を抜くと、矛先をアルベルトへと向けた……。

 

「兄ちゃん、このまま大人しく黙って帰るなら許してやってもいいぜ?怪我したくねえだろ?」

 

「……ふざけるな、モンは探していた僕達の大切な仲間だ、……返して貰う……」

 

アルベルトも鉄の剣を持ち直すと胸の前で構える。その姿にシュウはバカにした様に鼻を鳴らす。

 

「こんな奴……、何の価値もねえ、クズのモンスターじゃねえか、庇う必要あるのかい?」

 

「君に分かるもんか!……分かって欲しくもない、とにかくモンは返して貰うよ……」

 

アルベルトの言葉に……、シュウはモンが身を挺して豚男から皆を守ろうとしてくれたのを思い出す。……あんな小さな身体で必死に……。

 

(分かってる、分かってんだよ、……一番クズなのは俺なんだ、でも俺が此処で手ぶらで

帰りゃ……、又エルナ達が酷ェ目に遭っちまうんだよ!!)

 

「……ウォォォーーッ!!」

 

「ぐっ、……は、速い!?」

 

シュウは短刀を構えたまま素早い動きでアルベルトに突っ込む。アルベルトは何とか

剣先でシュウの攻撃をガードするが、……かなり押されていた……。

 

「く、くそっ……」

 

「どうだい……?ガキだと思って舐めて貰っちゃ困るんだよ、俺だってアサシンの端くれさ……」

 

シュウの短刀は等々アルベルトの喉元まで矛先が迫っていた。しかし、アルベルトも

負けてはおらず反撃に出る。アルベルトは怒りに身を任せ、敵を攻める事ばかりに気を取られ、防御は完全無防備でまだ未熟な浅知恵のシュウの下半身を足で思い切り蹴り飛ばした。

 

「……ぐううっ!?……ち、畜生っ!!」

 

「甘いよっ!」

 

「い、嫌だ……、負けねえっ!何がなんでもっ!……エルナ、ペケ!俺はお前らが守るっ!!」

 

「仕方が無い、少し落ち着いて貰うよ……」

 

アルベルトは剣を柄の方に持ち換えると、そのまま勢いよくシュウの腹に柄を叩き込む。

……シュウはゆっくりと……、意識を失いながらその場に倒れた……。

 

「……ペケ……、エ……ルナ……、嫌……だ……ちく……しょ……う」

 



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カラコタ橋の義賊団 7

そして、ジャミル達の方は。アルベルトが待ち合わせ場所に指定した宿屋らしき建物が

ある場所に一度戻る事にしたのだが……。一向にアルベルトが戻って来る気配は無かった。

 

「アルの野郎……マジで何してんだよ……」

 

「ねえ、アルは……、オイラ達と一緒に行くの完全に嫌になっちゃった……、

のかなあ……、もしかしたらもう、1人で先に……」

 

「バカねえ、どうしてそうすぐ悲観するのよ、アルがそんな事する訳ないでしょ!」

 

「オイラのクセだもん……、どうしたって昔からこうなんだよお、ほっといて……」

 

いつもの如く悪い方向にと悲観を始めたダウドをアイシャが注意。しかし、彼女も本心では

段々不安が増して来ていた。……モンの状況も3人はまだ全く知らないのである。

 

「はあ……、どいつもこいつも……、ん?」

 

「まーたあの、汚いムスメッコだよ、嫌だねえ……、一体今日は何の騒ぎだい……」

 

「最近この集落に変な男と越して来て川縁の空き家に住んでる子だろ?気が悪いったら

ありゃしないよ……」

 

ジャミル達の目の前をおばさん達がべっちゃらべっちゃら喋りながら通過して行った。

 

「何かあったのかしら……」

 

「……」

 

「……ジャミルさーん!あのっ、ジャミルさんと言う方はいませんかーっ!?も、もし、

まだこの町にいたらお返事してくださーーいっ!!」

 

「……い、いいいいっ!?」

 

突如、いきなり自分の名前を呼ぶ甲高い声が聞こえて来た。一体何が起きたのか分からず

ジャミルは慌てだす……。

 

「ねえ、ジャミル……、また何かやったでしょ……」

 

「今度は何なのよ……」

 

ダウドとアイシャはジャミ公をジト目で見る。ジャミ公は再び慌てだし、必死で否定。

 

「アホっ!俺ら今日此処に来たばっかだぞっ!第一、今日は俺とお前らずっと一緒に行動

してたろがよ!」

 

「……ん~、そう言えばそうねえ……」

 

「いつも言ってるけど、普段が普段だから疑われるんだよお~……」

 

「そりゃそうで……って、やかましいわっ!!」

 

「あいたあーーっ!!」

 

「……やめなさいったらっ!!」

 

ど付き合いを始めてしまうバカ2人。……と、其処に……、1人の少女がフラフラと……、

此方に向かって歩いてくるのが見えた。だが、うっすらと街灯の明かりで見えた少女の容姿は凄まじかった。縛ってあるポニテは既に解け、顔は真っ黒、服はボロボロ、……裸足の足は血まみれだった……。

 

「ハア、ハア……、も、もう……」

 

「ジャミル……、あの子大変だわ!」

 

(うっわ!……ま、まるで、世界ナントカゲキジョーの世界じゃネ!?)

 

「……ジャミル……?も、もしかして……、おにい……さ……ん……」

 

少女……、エルナは立ち眩みを起こし、そのまま地面に倒れる。ジャミル達は慌てて倒れた

エルナへと駆け寄るのだった……。

 

「大丈夫かっ!……おーいっ!?」

 

……エルナは夢を見ていた。久しぶりに夢に出て来た母に抱かれていた。もう逢えない筈の

母。温かい腕で自分を抱いてくれていた。

 

「おかあさん……、いかないで……、……?」

 

「大丈夫……?」

 

「ふぇ!?」

 

目を覚ましたエルナは慌てる。……倒れた自分を全く知らないお姉さんが抱いて介抱してくれていたのである。ふわふわで甘い優しい良い匂い。だが……。

 

「え、ええええ!?あ、あの、ごめんなさいっ!わ、わち、こんなに汚いのにっ!

……本当にごめんなさいっ!!」

 

倒れたエルナを抱いて介抱してくれたのはアイシャであった。しかし、身なりの汚い自分を

抱いたりなんかしたら、迷惑を掛けてしまう、エルナは慌ててアイシャから離れた。ふと、ある事に気づく。……足の痛みがいつのまにか治っており、キズも無かった……。

 

「……ど、どうして……?わち……」

 

「うん、ベホイミ効いたみたいだねえ、良かった!」

 

「……え、えーと、あのう……」

 

エルナは何が起きているのか分からずしどろもどろになるが、ダウドは笑って、いいよ、

もう少し座ってなよと、立っているエルナに声を掛ける。

 

「このお兄ちゃん、ダウドは回復魔法が使えるのよ、あなたの足、とっても痛そうだったわ、

でも、治って良かったわね!」

 

「うん!」

 

アイシャとダウドは顔を見合わせて笑う。……一体何故、見ず知らずのこんな汚い身なりの

自分を平気で助けてくれるのか……、両親が死に孤児となり、あの豚男に売られてから……、毎日泣かない日は無かった。だが、何だか今までと違う嬉しい何かが心に込み上げて

来て、エルナは又泣き始めた……。

 

「うわああーーん!わち、わち、こんなに優しくされたの始めてだようー!あーーんっ!!」

 

ジャミルは泣き出したエルナを見て、ダウドとアイシャに目で合図する。……落ち着くまで

もう少し見守ってやろうやと言う合図である。

 

「そうね……、ね?落ち着いたらお姉ちゃん達にお話ししてね?力になれるかも

知れないから……」

 

「うん……、ひっく……」

 

やがてエルナの嗚咽も収まり、そろそろ話が聞けそうかなとジャミルは思い、

エルナに尋ねてみる。

 

「あのさ、さっき俺の名前……、呼んでたの、嬢ちゃんかい?」

 

「はい、あの……、お兄さんはモンちゃんのお友達の……、ジャミルさん……?

お間違いないですか?わち、エルナって言うの……」

 

「ああ、俺は確かにモンの……、って!もしかして、モンの居場所を知ってるのか!?」

 

「……えええっ!?」

 

横で会話を聞いていたアイシャとダウドも騒然。まさかこの少女からモンの名前を聞けるとは……、夢にも思っていなかった。

 

「ああ、やっぱり……、良かった、会えたんだ、……モンちゃんのお友達のジャミルさんに……、神様……、有り難うございます……」

 

奇跡の出会いにエルナは再び涙を零す。エルナは自分の身の上、そして、モンに起きた事、

……全てをジャミル達に伝えるのだった……。

 

「そうか……、エルナ達はそのクズ男に……、モンの奴も捕まっちまったのか、

絶対許せねえな、その糞男はよ……」

 

「そんな悪い人は恒例のお仕置きが必要よ、ジャミルっ!モンちゃんを助けたら

皆で懲らしめに行きましょう!!」

 

「行こうよ、モンを助けにさあ!……モンに酷い事して……、許せないよお!!」

 

「ああ、シメてくれるわっ!……どんな奴か知らねえけどよ、まずはモンを助けにいかなきゃな、手遅れにならねえウチに……」

 

(はあ~、ま、しょうがないっしょ、ジャミル、どーしよーもねー、デブ座布団

助けに行こっか!)

 

「ああ!サンディ!」

 

「み、みなさん、ありがとう……、おっさん……、親方の取引相手は今夜、カラコタ橋に

来る筈なの、お願い、どうか兄者を止めて……、本当は兄者だってこんな事したくないんだ、

悪い事だって分かってるんだ、でも、わち達を守る為に……」

 

「任せとけ!絶対に助けてみせるさ、モンもお前の兄さん達もな!」

 

「あ、あはっ、……うんっ!!」

 

エルナの目に再び涙が滲む。やはり、モンの言った事は間違っていなかった。

……この日、エルナにとって初めての嬉し泣きをした日になった……。

 



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カラコタ橋の義賊団 8

そして、こっちも糞。あっちもこっちも糞。もう糞祭りです。


「……?」

 

「気がついたかい……?」

 

「くっ、て、てめえっ!」

 

そして此方は再びアルベルト側。アルベルトに気絶させられていたシュウが目を覚ます。

シュウは短刀を構え後ろに素早くジャンプすると再び警戒し身構えた。

 

「……もう止めよう、こんな事は……、僕達はずっとこの子を探していたんだよ、

大切な仲間のモンを返して貰えればそれでいいんだ……」

 

アルベルトの手の中には既に袋詰めから解放され静かに……?眠るモンの姿があった。

それを見たシュウは激怒する。

 

「ぶーがぶーが……、プウ~……、今日は学校休みマスモン……」

 

「……」

 

「……畜生……っ、俺達だってそいつがなきゃ困るんだよっ!絶対に返して貰うっ!!

俺を舐めると本当に痛え目に遭うぞっ!!」

 

「どうしてそんなにモンを狙うんだ……?この子はモンスターだけど、人間が大好きで

とても優しい子なんだよ、……ま、まあ、誰に似たんだか時偶悪戯もする事も多いけど………」

 

誰に似たんだかの人:……ぶええーーっくしょんっ!!

 

「う、う、くっ……」

 

シュウの脳裏に再びあの時の事が思い浮かんだ。モンが命懸けで自分達を庇ってくれようとしていた事。短刀を持つシュウの手が汗ばみ迷いで又震え始めた。だが、直ぐに感情を

捨て心を無にした。

 

「俺達はこうでもしないと生きられないのさ……、所詮哀れな糞ガキだからよ……、

悪魔に捕まって一生這いつくばって生きていくんだ、解放されるその時は……、

そうさ、自分が死ぬ時さ……」

 

「……悪魔……?」

 

シュウは氷の目をアルベルトに向ける。……力尽くでもどうしてもモンを取り返す気だった。しかし、アルベルトにはこの少年が心では酷く怯えているのが手に取る様に分かっていた。

 

「それにお前、バカじゃねえのか?俺なんかほっといてさっさといきゃ良かった

じゃねえか、そいつを取り戻せりゃよかったんだろ?……アホと違うか……?」

 

「……囈言を……聞いた……、ほおっておけなかったんだ……、君の本当の心は

違うんじゃないかと思ってね……、気になったのさ……」

 

「何だと……?」

 

「君が魘されている時、必死に誰かの名前を呼んでいた……、俺が絶対に守るって、ねえ、君にももしかしたら……、守りたい大切な誰かがいるんじゃないのかな……」

 

「うるっせーっ!この糞野郎――っ!!俺にそんな奴いるもんかーーっ!!」

 

シュウは激怒し、アルベルトに再び突っかかって来た。アルベルトは無言でもう一度シュウの腹に拳でパンチを入れた。

 

「……う、ううう……、や、やっぱり俺……、駄目なのかよ、雑魚なのかよっ!!

誰も守れねえのかよ、……お、俺はやっぱり弱いんだ……、畜生――っ!!」

 

未熟なシュウはアルベルトに勝つ事が出来ず……、地面に這いつくばり悔しさで目に

涙を滲ませた……。

 

「……違う、違うよ……、兄者……、弱くなんかないよ……、だって……」

 

「……エ、エルナっ!?」

 

シュウには何が起きているのか理解出来なかった。……小屋で待っている筈のエルナが

何故此処にいるのか……、どうして自分の目の前にいるのか……。

 

「コラ!この家出人共っ!やーっと見つけたぞ!オイ!」

 

「……ジャミル、……アイシャ、ダウド……」

 

そしてアルベルトも少し躊躇う。見慣れない少女の側には……、自分を探しに来た

ジャミル達が一緒にいたからである。

 

「後でオメーもモン共々デコピンだっ!つるっパゲデコ出して待ってろっ!!」

 

「……お断りいたす」

 

「!?っ、こ、この腹黒めーーっ!!」

 

しかし、アルベルトが大人しくジャミ公に成敗される筈がなく、アルベルトは

ストレートに仕置きを拒否するのであった。

 

「アル、お願い……、この子の話を聞いてあげて……」

 

「アイシャ……」

 

アルベルトはしゃがみ込んでいるシュウと突如仲間達と現れた少女の姿を交互に見比べる。

2人の様子からして、シュウと少女は顔見知りなのに間違いない様だったが。

 

「シュウ兄者は……、いつもワチらを庇って怖い親方から守ってくれてるの、兄者は

親方に殴られそうになったワチをいつも親方から助けてくれた……、悪い事をさせられているのも、自分がいつも身代わりになって……」

 

「……エルナっ!余計な事言うなっ!俺には何の感情もねえ!したくてやってるだけだ!

そうさ、これが俺の運命さ、賊として生まれて、賊として死ぬ……、本望じゃねえか……」

 

シュウは気力を振り絞り立ち上がる。そして短刀を再び構え、……ジャミル達とアルベルトを凶器の目で睨み付けるのだった……。

 

「オメーもデコピンが必要か……?お好みならサービスしてやるぞ……?」

 

「なっ!?こ、この……短足チビ野郎っ!!ふざけんなっ!!」

 

ストレートに言い放つジャミルにシュウは一瞬クールに構えていた表情が崩れ掛かる。

そして此方も負けてはおらず。

 

「うるせーこの野郎っ!俺は短足じゃねえっての!……す、少し背が低いだけだっ!!」

 

「はあ、やっぱり気にしてたんだねえ~……」

 

「そうだよっ!……って、うるせーバカダウドっ!!」

 

「あいたああーーっ!!」

 

「止めなさいよっ!ジャミルもダウドもっ!!」

 

「こ、こいつら……」

 

いきなり目の前でどつきあいを始めた連中にシュウは唖然……。人を小馬鹿にしているかと思いきや、そうではなく、素でやっているのである。

 

「2人とも……、いい加減にしないとですね……」

 

「はい、すみません……」

 

そして、スリッパを構え、黒い笑みを浮かべたアルベルト。一瞬にしてバカ2人を大人しくさせた。

 

「おい、まだ話は済んでねえんだよっ!アルっ!……オメーもだよっ!!」

 

「あ、あはは~!」

 

アルベルトは慌ててその場から少し離れる。そもそも何せ今回の騒動の大まかな原因は

腹黒……アルベルトにあるのだから……。

 

「……其処までだよ、シュウちゃん……、お前、仕事さぼって一体何してるの……、

駄目でしょうが……、お前、お父さんの言う事に逆らったね……」

 

「……っ、こ、この声……、まさかっ!?」

 

「……兄者っ!!」

 

暗闇から突如また新たに聞こえてきた声にシュウはビクッとし、身体を硬直させる。

エルナも怯え、シュウにぎゅっとしがみつくのだった……。

 

「この糞野郎……、さっきはよくもぼくらを川に叩き込んでくれやがったのね!!」

 

「許さないのねー!」

 

「のね!」

 

「……お前達っ!!」

 

アルベルトが叫んだ。橋の向こう側から近づいて来る4つの影……。豚男、そして、

勝手に自分達で橋から落ちて川に流されていった筈の基地害3兄弟であった……。

 

「おい、エルナ……、お前もお父さんの言う事に逆らってよくも夜遊びなんかに

行ったね?……この不良娘がぁぁぁぁ!!……これを見な!!」

 

「……ペケっ!!」

 

豚男は無理矢理連れて来た幼いペケの姿をシュウ達の前にさらけ出す。豚男に

頭を掴まれたままのペケはぐったりしており、もう意識が無い様子だった。

 

「……糞親父っ!ペケに何しやがったっ!ペ、ペケは……まだ3歳だぞっ!!」

 

「あん?エルナ、さっきも言ったろう?おめえが悪いんだよ!俺に逆らうからこういう

事になるんだよ!見せしめだ、……泣いてギャーギャーうるせーからよ、ちょいと軽く

ブン殴って大人しくさせてやったまでだよ!が、がはははは!!う~ん、もう死んだかもな?かわいそうでちゅねえ、おちびちゃーん!ばかなお姉ちゃんの所為でねえ~!」

 

「あ、兄者ああ~!どうしよう、ワチの……、ワチのせいだよううーー!!ああーーんっ!!」

 

「……ちく……しょううう……」

 

「何て事を……、まるで人間の心を持っていないのか……?」

 

「ジャミル……、酷すぎるわよっ!!あんな小さな子に……!絶対許せないっ!!」

 

「ああ……、けど、まだ間に合うかも知れねえ、ダウドっ!!」

 

「了解だよっ!あの子は絶対オイラが助けるっ!!」

 

極悪非道以下の糞豚男にジャミル達も怒りを爆発させた。ダウドも何とかペケを

助けようと試み、回復魔法の呪文の詠唱を始めるのだった……。

 



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カラコタ橋の義賊団 9

……エルナはシュウに抱きついて嗚咽する。脱走したのがばれ、自分が罰を受けるのは

覚悟で承知していた。だが、まだ何の抵抗も出来ない幼いペケの方に見せしめに本当に

暴力を振るうとは、豚男の残虐性はシュウもエルナも地獄の毎日の中で充分分かっていたがまさか此処まで感情と心の無い人間だとは本当に思わなかったのである……。

 

「大丈夫よ、エルナちゃん、ダウドがいるからね……、どうか信じて……」

 

「あっ、お、お姉さん……!ダウドお兄さん、ワチの怪我を治してくれたみたいに……、

お、お願いします!どうかペケを助けて!!」

 

再びダウドが頷いた。だが、詠唱を始めようとする物の……、ダウドに戸惑いが浮かんだ。

ペケはまだ身体が未発達の幼児である。……あれだけ容赦なく痛めつけられていたら……。

本人の方も既にぐったりしている。もしかしたらもう回復魔法を掛けても、ザオラルを掛けても……、手遅れに近い状態かも知れなかった。

 

「……どうしたんだよ、ダウドっ!早くっ!」

 

「おい、またMP切れとか言うなよ……?頼むよ、俺のホイミじゃ、あの状態じゃ絶対

間に合わねえんだよ!!」

 

「ダウド、お願い……」

 

アルベルトとジャミルに急かされ、アイシャもダウドを見つめる。ダウドは何とか気力を

振り絞るが、もしも今、ベホマやザオリクが使えていたら、助かる確率が確実に上がっていたかも知れない。そう思うとやるせなさが募ってきた……。

 

「で、でも……、やるだけの事はやらなくちゃ!オイラ、僧侶として!!」

 

「……にー、ねー……、いた、いたよう……」

 

その時……、豚男に捕まっているペケが小さく言葉を発した。まだ微かに息はしているのである。それは奇跡に近い状態かも知れなかった……。

 

「ペケ……?お、お前……」

 

「兄者!ペケの声……、い、今、微かに聞こえたよ……!ま、まだ……」

 

エルナとシュウの心にほんの少し再び希望の明かりが灯り掛けた。だが……。

 

「あ、そうはさせねえのねえー!!」

 

「ねえーっ!!」

 

「ねえーーっ!!」

 

「……て、てめーらっ!!」

 

だが、一番厄介な相手……、基地害バカ3兄弟がいたのである。基地害トリオは再び

歌舞伎ポーズを取ると、揃って並び、ペケを人質にしている豚男の前に立ち、庇う様に援護し立ち塞がった。……何かあれば豚男はすぐにペケに暴力をいつでも震える状態であり、

頭を掴んだまま笑っている……。

 

「ど、どうしよう、あいつらが妨害して……、あれじゃ回復魔法が届いても……」

 

「糞基地兄弟かっ!!……まーた出やがったのかっ!懲りずにっ!!こっちまでっ!!」

 

「もうーーっ!本当に何てしつこい人達なのよっ!!」

 

「因縁なのねえーっ!……お前らへ復習完了するまで何処へでも追い掛けるのねえーーっ!!」

 

「イヨー!ポン!なのねえーーっ!!」

 

「宜しくお願いしまーす!なのねえーーっ!!」

 

あの、……復習の字、違うだろ……、復讐だよ……、と、知能の無いバカなカシラに

アルベルトは心で呆れるのであった。

 

「うるせーのねっ!糞パッキンめがあーーっ!!覚悟しろーーっ!!なのねえーーっ!!」

 

「へへ、この先生共はね、俺の長年のワルダチなのさ、凄い研究家なんだぜー?……おい、

シュウ、無駄な抵抗しねえ方がいいぜ?お前らは俺にはどうやったって逆らえないのさ、

早くとっととそのモンスター搔っ攫ってこっちによこせ……、で、ないと……、能無しチビの頭がスイカみたいにぐしゃっと本当に潰れるぞ……、オラ、早くしろよ……」

 

「……やめろおおーーっ!!」

 

豚男は再びペケの頭を強く掴もうとする。このままあの豚男の手にペケが捕まっている状態では非常に危険だった。ジャミルの脳裏にある考えが浮かんだ……。

 

「……サンディ、頼む!お前の姿は奴らには見えない筈だ!……お前しかいないんだよ!」

 

ジャミルは自分の心の中に隠れているサンディに呼び掛けた。……白羽の矢が当たってしまったらしきサンディは渋々返事をジャミルに返した……。

 

(わ、分かったわヨ、もう、……。その代わり、ジャミ公、アンタ後で蜂蜜入りカクテル

ジュース50杯分おごんなさいヨッ!?)

 

「何でもいいっ、時間がないんだ!」

 

「……おんやあ~?……のねえ~?」

 

……バカ兄弟のカシラは独り言を言っているかの様なジャミルを見て不審に思う。そして、

サンディは発光体のまま飛び出すと、ハンマーを片手に急いで豚男の元へと飛んだ。

 

(全くもー!ジャミ公ってば妖精使い荒いんだからサっ!……あんなの相手にすんの?

……マジで……?)

 

ジャミルは奴らには姿の見えない筈のサンディに豚男の駆除を頼んだのである。こっそりと、サンディに豚男を殴って貰って気絶して貰う。そう、一かバチかの作戦を試みた。

 

「あ、ハエが仲良くトンデレラー!なのねー!古い」

 

「あ、ハエが仲良くシンデレラー!なのねー!古いんだよ!」

 

「な、なに!?きゃーーッ!?」

 

「……サンディっ!!」

 

「……あああーーっ!!」

 

……だが、子分Bが見えない筈のサンディに向かって液晶パネルの様な物を翳すと、途端に

サンディの姿が一瞬現れ、誰の目にも見える様になってしまい、直後にサンディは機械の中に閉じ込められてしまう……。

 

「良くやったのね!子分B!……この機械はぼくらが共同開発した目に見えない、変な

モンをキャッチする、ボケモンGOなのね!!」

 

「サンディ……、そんな……嘘だろ……?」

 

「ちょっとおおー!ジャミ公――っ!アンタこの落とし前どうつけてくれんのよーーッ!!……責任とんなさいヨネーーっ!!キーキーキー!!」

 

液晶画面の中のサンディが喚く。ジャミルの作戦は失敗に終わり、サンディまでもが人質に

捕らわれてしまう事態に……。やはりこいつらは舐めたらアカンの、非常識な極度の変態集団だった……。一方で、幼いペケの命の灯火は消えかけ、間もなく力尽きようとしていた。

 



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カラコタ橋の義賊団 10

「……やっぱり俺達は……所詮哀れなドブネズミなんだよ、……誰も助けちゃくれねえ、

そうさ、この世に神なんかいるもんか……もし、いるんだったら……」

 

「兄者……?」

 

シュウは怒りで拳を握り、再び氷の目になる。そして、短刀を強く握り締め、怒りの矛先を

向ける。……その矛先は……。

 

「お前……」

 

シュウはジャミル達の方を睨む。強く。強く……。彼は怒りと悲しみで誰を信頼したらいいのか分からなくなっており、完全に理性をもう失い掛けていた……。

 

「ちょ!これマジやばいっしょ!?こらー!ジャミ公ううう!早くアタシを此処から出せーっつ!!出せってのーーっ!!」

 

「わ、分かってんだよっ!けど……」

 

喚くサンディ。ペケは助ける事が出来ず、状況はどんどん最悪になり、ジャミル達は追い詰められていた……。

 

「兄者!やめてよっ!お、お兄さん達は……、ワチ達の味方だよ!?ワチの怪我だって

治してくれた、なのにどうして!?」

 

「エルナ、うるせえ、黙ってろ……、どっちみちもうペケは手遅れだ、助からねえよ……、

元はと言えば……、この糞モンスターが魚を食っちまったからこんな事になったんじゃねえか!!……何が俺達を守るだよ……、全部あいつの所為だ!……こんなモン、この町に連れ込んだてめえらが全部悪いんだっ!……てめえらさえ来なけりゃ……」

 

「兄者……」

 

エルナの目に再び涙が滲む。……勝てないと分かっていながらもシュウは4人に詰め寄る。

どうしてもモンを奪い取り、基地害兄弟へと手渡す気である……。

 

「お前……、自分の事自分でドブネズミって言ったな……、本当にそれでいいのか?」

 

「何がだっ!!」

 

「諦めたら其処で負けって事さ、自分で弱いドブネズミって認めてたら本当にそうなっちまうんだぞっ!!確かに魚を食ったのはモンが悪いさ、モンをちゃんと見ていなかった俺達にも責任はある、でも、今の状況からどうやったら抜け出せるのか、どうやったら良くなるのか、……お前、一度でも考えた事があんのか!?」

 

「そうよ、シュウ君……、諦めちゃ駄目よ!ペケ君は絶対私達が助けるわ!!」

 

「うるっせー!この野郎!!この偽善者糞アマ!てめえ、あの状況を見てもまだそんな事が言えんのかよ!!……もう、助かる……、助けられる訳ねえだろうがよーーっ!!

……それに……、勝てる訳がねえだろ、……あの糞男に……、俺みてえな……、従って生きるしか道はねえんだよ……」

 

シュウはアイシャの言葉にも怒りをますます覚え、錯乱する……。絶望の中に取り込まれているシュウを……もう誰も止める事は出来ない……、出来なかった……。ジャミルはアイシャを手で制止、顔を見て黙って首を横に振った……。

 

「ジャミル……、そんな……」

 

「ふん、やーっと分かったかよ、……。シュウくん……?お前達ね、お父さんには逆らえないんだよ、そう、だーれもお前達なんか助けちゃくれないの?ね?クズは一生俺の下で

稼いで金渡して貢ぎゃいいのさあーーっ!!美味い糞メシならこれからもたんまり食わせてやるからよ!あーっはっはっはっはああーーっ!!さ、お仕事してちょうだいな!!」

 

「のーねのねののねー!」

 

「ねーのねのののねー!!」

 

「のねののねねーー!!」

 

絶望と悲しみの中にいるシュウとエルナをあざ笑うかの様な豚男と基地害兄弟。しかし、まだジャミル達も諦めた訳では無い。最後の最後まで。どうしてもペケを救いたい、助けてやりたかった。……勿論、シュウもエルナも。

 

「……エルナの話には聞いてたけど、あの豚、マジ最悪だな……、こりゃ1回や2回死んでも救われねえ……、最悪だっ!!反吐が出るっ!!」

 

と、ジャミルも呆れ返った処で、ダウドが喚きだした……。

 

「は、早くしないとっ!あの子本当に回復魔法を掛けても手遅れになっちゃうよおー!

……ザオラルでも呼び戻せなくなるかも知れないよおっ!!」

 

「ダウド、分かってるんだよ、ジャミルも僕らも……、でも、あいつに捕まっている限り……、どうにも出来ない……、下手に手を出せばどっちみちあの子は殺されてしまう……」

 

アルベルトが俯く。はっきり言って、あんな豚男、ジャミル達にはウンコの様な相手なのだが、何せ、何をしてくるか分からない厄介なガードマンも側にいる……。だから頭を悩ませているのである。しかしもう本当に時間は無かった……。

 

「にー、ねー……、あ……が……と……ね……」

 

「ペケ……?」

 

遂に力尽きたペケが魘され囈言を言い出す……。旅立つ前の、……シュウとエルナに向けた

最後のお礼の言葉だった……。

 

「おう、そろそろ行くのか?能無しチビ、元気でな、んじゃもうお前は要らないね、ばいばい、あの世で死んだお父ちゃんとお母ちゃんに会いなさい、元気でねー!お前は少しだけ

最後に役に立ったぐらいだったねえー、ホント、大きくなってもこりゃ使えねえ奴だと思ってたけどよ、フンっ!!」

 

……豚男は……、何と……、皆のいる前で表情一つ変えず、掴んでいるペケを真っ暗闇の

川が広がる橋の下へと叩き落とそうとしているのである……。

 

「……な、何て事をっ!!やめろっ!!貴様……、本当にそれでも人間なのかーーっ!?」

 

「ふん、知らねえな……、おらあ、不要なゴミを捨てるまでだよ……」

 

豚男は自分に向かって絶叫するアルベルトに平然と言い放ち、ほじくっていた鼻糞を飛ばした……。そして、……次の瞬間……。

 

「……ジャミルーーっ!!……ペケ君がーーっ!!」

 

「……あ、あの糞野郎――っ!!も、もう……完全に間に合わねえっ!!」

 

「……く、くっ……!!」

 

「冗談……、だよね……?ねえ……」

 

「……いやああーーーっ!!兄者、兄者――っ!!」

 

「うそ……、だ……、こんなの……、う……、いやだああーーっ!!」

 

「あ、あああ、も、もう駄目……、う、アタシ……、も、もう知らないわヨっ!!」

 

豚男の余りにも卑劣すぎる行動と、この瞬間は……、ジャミル達も、シュウもエルナも……、基地害兄弟を除いたその場にいた全員を凍り付かせ、絶望の淵へと叩き込んだ……。だが。

 

「……守るって言ったモン、……モン、約束絶対に守るんだモンーーっ!!」

 

「……モンっ!!」

 

「モンちゃんっ!!」

 

「……な、何なのねえーーっ!?」

 

「……の、のおおおーーーっ!?」

 

しかし、まだ希望は失われておらず……。意識を取り戻したモンが、橋の下へと急降下で、猛スピードで飛んで突っ込み、川へと落ちそうになる寸前のペケを救い出した……。余りの出来事に豚男と基地害兄弟は暫くの間、鼻水を垂らし、スカシをこき、口を開け方針状態に……。その間に、モンは急いで抱えているペケを連れてジャミル達の元へと戻った。皆が見守る中、ダウドは急いでペケにベホイミを掛け捲るのだった……。

 

「大丈夫、大丈夫だよ……、神様、どうか……、この幼き命にもう一度光を……」

 

「や、やっ……、う、嘘だ、嘘だろ……、こんな、こんな事ってあんのかよ……、嘘だろ……」

 

「あ、兄者……、兄者あああ……」

 

エルナがシュウに飛び付き、再び泣き出す……。しかし、それは再び希望を取り戻した

喜びの涙へと変わっていた……。

 



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カラコタ橋の義賊団 11

……ダウドは基地害兄弟と豚男がアホ放心状態の間に必死でペケにベホイミを掛け捲る。

そして、等々ペケの呼吸が落ち着いた事を確認し、安堵したのだった。

 

「や、やったああ……」

 

「兄者!ペケが、ペケが!!……すやすや眠ってる……」

 

「……ほ、本当に……なのかよ……、ペケ、助かったんだな……」

 

「ダウド、良く頑張ったな!ありがとな!モンもな!……けど、する事は後でするからな、

全部終わったらな……」

 

「良かった……、けど、も、もう……、オイラ……、疲れた……、少し休ませて……」

 

「モォ~ン……、分かったモン……」

 

エルナもシュウも……、再び喜びの涙を目に浮かべた。ダウドの頑張りのお陰、そして、

モンの決死の行動、ジャミルはダウドとモンに礼を言うが、モンに対してはするべき事は

する様である。

 

「ちょっとおおーっ!アンタ達っ!アタシの事忘れてんでしょっ!ちゃんと助けろっつーの!コラーーッ!!」

 

「あ、もう1人捕まってたの忘れてたわ、悪ィけど、モン、もうひとっ飛び頼めるか?」

 

「モーンッ!」

 

モンは急いで基地兄弟の側まで飛ぶと、子分Bが握っている変な機械を回収。再び皆の処まで飛んで逃げた。サンディが閉じ込められている機械も何とか奪ったが、肝心の、機械の中に閉じ込められているサンディは……。

 

「……で、ちょっとっ!アタシはどうなんのッ!早く出しなさいっていってんのヨ!」

 

「サンディ、今はちょっとんな場合じゃねえんだ、必ず出してやるから……、もう少し

辛抱しててくれるか……?」

 

「わ、分かったわヨッ!たくっ!……カクテルジュース、100杯追加にしてやるんだからッ!」

 

「うわ……」

 

サンディは怒りながらも承諾してくれたが、ツケは大変そうだった……。

 

「さてと、最後の仕事だ、後は俺らに任せとけ、お前らは何処か安全な場所に隠れてろ!急いで避難してくれ!!」

 

「あんたら……」

 

「お兄さん……」

 

「うん、あいつらは僕らが仕置きしておくから、ま、毎度の事だけどね……、諦めてるから、

大丈夫だよ……」

 

アルベルトは困った様に頭を掻いてシュウとエルナの方を見る。……この2人を安全な

場所に逃がすには、糞共が放心状態の、今が絶好のチャンスである。

 

「大丈夫、私達に任せて!!」

 

「……嫌だ……」

 

「シュウ君……?」

 

「兄者……?」

 

しかし、シュウはアイシャの言葉を拒否し、黙って首を横に振った。もう表情に険しさは

無かったが、何か心に思い詰めている様な不安定な心境の面持ちは消えていなかった。

 

「俺もやる……、今ならあの糞親父に復讐出来る……、俺らを散々苦しめてくれた落とし前……、今此処で付けさせて貰うっ!!」

 

ハイスピードぴんぴんデコピン×5

 

「……いっ、てえええーーっ!!」

 

「……兄者あああーーっ!!」

 

しかし、シュウのデコにもジャミ公のデコピンが発射された。……余りに痛かったのか、

シュウはデコを抑え、激怒する……。

 

「……何しやがるっ!てめえーーっ!!」

 

「だからいいってんだよっ!邪魔なんだよ、オメーはっ!まだ真面に戦えねえ癖に……、

強がってるだけで本心は戦うのを嫌がってる癖に何言ってんだっ!!」

 

「な、何だとーーっ!?……この糞野郎っ!!」

 

ジャミルはシュウの方を見る。全部分かっていた。彼を見た時から……、何回も短刀を握り

直すシュウの姿を見た時から……、微かに彼の身体が震えていた。だが、大切な妹分、弟分達を守りたい、……その気持ちだけは本当なのだと。感じ取っていた。

 

「だから……、悔しかったら強くなれよ……、本当に大事な奴らを守りたいと思ったら……、

お前に今出来る事をしろ、安全な場所で……、チビも怖い思いしただろ、側に付いててやれよ……」

 

「俺に……、今、出来る事……、分かったよ、……エルナ、行くぞ、尺に触るけど、今は

このおっさん達とおばさんに任せようや……」

 

「……お、おっさんだとっ!?」

 

「……がああーーんっ!!」

 

「ちょ、誰がおばさんなのようーーっ!!」

 

シュウはジャミル達に向かって舌を出す。……先程弱いと言われた分の仕返しである。

 

「きゃーはははっ!いい気味だっつーの!きゃーははははっ!!」

 

「……ガングロっ!オメーもやかましいわっ!……おい、暫くの間、この機械も預かっててくれよ、たくっ!!」

 

「わ、分かりました、ワチがお預かりいたします、どきどき……」

 

「宜しくネ、丁寧に扱ってヨ!……もしもうっかり落としてくれたりなんか

しちゃったら……」

 

エルナはおっかなびっくり……、サンディが閉じ込められている機械を慎重そうに受けとった。……後は……。

 

「よし、モン、お前も仕事だ、……一緒にこいつらを守ってやっててくれ、直ぐに終わらせるからさ!」

 

「うん、分かったモン、……おじちゃん」

 

「……コラああああーーっ!!」

 

モンはシュウ達と共にジャミル達に背中を向け、ついでにおならを落とし、一目散に

横に並んで逃げ出すのであった。

 

「へえ、お前、中々やるな……」

 

「えっへんモン!」

 

「たくっ!モンの野郎、口が達者になりやがって!誰に似たんだっ!!」

 

お前だよ、……お前……、と、言う表情でジャミルの方を見るアルベルト。

そして、丁度子供達の逃走が無事終わった後、漸く3基地バカ兄弟と豚男が我に返った……。

 

「こ、この野郎……、何もかもお前の所為なのねえーーっ!!役に立たねえこの糞豚っ!!」

 

「何でえ!俺の所為にするってのか!?ええーーっ!?冗談じゃねえぞ!このエテ糞

基地害野郎共め!!」

 

「アニキに何を言うのねえー!この豚っ!!許さんのねえー!」

 

「ミンチにしてやるのねえーーっ!!」

 

「……あてっ!?い、今後ろからぼくの頭はっとばしたの誰なのねえーーっ!?」

 

「はーい、ぼく、子分Aなのねー!」

 

……大体こうなる事は4人も予想していたが、豚男も交え、良心のカケラもない糞共は

醜い擦り付け合いのケンカを始める。この間にと、もうさっさとシメてしまおう、ジャミル達はそう思っていた。

 



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カラコタ橋の義賊団 12

「……こ、う、なったらあああ~、糞豚!腹いせにオメーをモンスターに変えてやるのね!

やるのね、子分B!」

 

「のねー!」

 

「……あ、あいつらっ!またっ!」

 

ジャミル達が止める間もなく、いつもの如く、子分Bがまた取り出した変なリモコン装置を

豚男に向けて放出。リモコン装置から怪光線が発射され、浴びた豚男は顔を押さえ呻き出す……。

 

「クソ、な、何をしやが……ぎゃああーーーっ!!」

 

……肥満体キラーマシンが現れた!!

 

「……おおーーいっ!?」

 

「まあ、随分と太ったキラーマシンねえ……」

 

「こうして見る限り動きは鈍そうだけどね……」

 

また厄介な事をする基地害兄弟。……豚男を肥満体のキラーマシンへと変えてしまったのだった。……やはりもうこうなった以上、ボス戦の覚悟を決めるしか無かった。

 

「あの、……申し訳ないんだけど……、オイラもうMPが……、ですね……」

 

「おう、大丈夫だ、ダウド、ツォでよ、オリガがお守りに一個くれたんだ、魔法の聖水さ、

使うとMPが30程度回復するらしいぞ、有り難く使わせて貰おうぜ!」

 

「……いーやーだあああっ!!」

 

バトルを免除させて貰えると思っていたらしきダウド。しかし、世の中そんなに甘くは

ないのだった……。

 

「よし、……あんなの楽勝だな!皆、さっさと倒しちまおうぜ!!」

 

「了解!」

 

「あ~うう~……」

 

ジャミルの言葉に返事を返す仲間達。だが。

 

「そんなにあっさりと倒して貰っちゃ面白くないのねー、やるのね、子分A!」

 

「なのねー、ぽちっと!」

 

今度は子分AがCDデッキを持って来てボタンを押す、……すると、ボス戦のバトルBGMが掛かり、辺りに響き渡るが、……何故か音のテンポが2倍速で異様に速かった……。

 

「……な、何企んで……うおっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

「うわわわわっ!!」

 

4人は慌て出す。高速バトルBGMのテンポに合わせ、肥満体キラーマシンの動きが

機敏と化し、動きは素早くなり、4人に詰め寄り襲い掛かって来た!

 

「……アルっ!!アイシャっ!!」

 

キラーデブマシンは2連続拳攻撃でまずはアルベルトとアイシャをパンチで吹っ飛ばした。……デブ体型からは想像のつかない程になってしまっている……。しかも、怪力の為、

エライ事態にもなっていた。……このターンでアイシャはHPを初回から半分も削られて

しまっていた……。……カラコタ橋の向こう岸へと吹っ飛ばされた2人は……。。

 

「あーっ、もうっ!2人とも大丈夫かーい!?い、今、ベホイミ掛けるからねー!!」

 

「そうはさせないのねー!やれ、子分共!!」

 

「ぼくらがいる事も忘れちゃ駄目なのねー!」

 

「ねえー!」

 

「や、やべっ!ダウドっ、逃げろっ!!」

 

「……そ、そんな事言っ……うわーーっ!!」

 

敵は当然肥満体キラーデブマシンだけではない。油断しすぎていた。子分Bはダウドの

身体を掴むとジャンプし、逆さまに急降下で落下、モズ落としを掛ける……。結果、頭を打ったダウドはあっさり気絶……。回復担当がノックダウン、リタイアしてしまう事態にも……。

 

「ふにゃあ~……」

 

「……ダウドぉぉぉーっ!……こ、このアホーーっ!!」

 

「どうなのねー!今日のぼくらはひと味違うのねえー!」

 

「よし、後はクソ猿、おめーだけなのねー!」

 

「覚悟しろなのねー!今までの仕返し、た~っぷりぷり、うんこもぷりっ!

……させて貰うのねえー!!」

 

「……チッ!」

 

ジャミルは基地害兄弟に取り囲まれてしまう。その間に、デブキラーマシンは倒れている

アルベルトとアイシャの元へ……。

 

「……あの機械から変な電波が流れてんだな、あれを何とか出来りゃ……、くっ、でも、

こいつらが邪魔だなあっ!!」

 

「だ、駄目……、動けないわ……、ジャミル……、早くジャミルを助けに……、でも、

身体が痛くて……どうすればいいのよ……」

 

「……アイシャ、諦めちゃ駄目だ、でも、このままじゃ……」

 

「何やってんだ!……しっかりしろよ!!弱えーなあっ!!」

 

「……お前っ!?……言う事聞かなかったなっ!?」

 

「うるせー!エルナ達にはモンが付いていてくれる!だから任せて来た!

お前らの方が心配なんだよっ!弱えーんだからさあ!!」

 

「こいつっ……!!」

 

エルナ達と逃走してくれた……、と、思いきや、又シュウが現場に戻って来たのである。

ジャミルは怒鳴ろうとしたが、が、シュウは決死のダッシュで、苦戦しているジャミルの横を横切り、呆然としている基地害兄弟を無視し、……橋を通過しようと只管走って行く。

 

「はっ……、あ、あいつ!……機械を壊す気なのね!!てめーら何ぼーっとしてんのね!!」

 

「アニキもアホなのね!あの機械を止められたら豚がスローに戻ってしまうのね!」

 

……基地兄弟が橋の袂に設置したCDデッキ。やはり其処から流れている高速BGMが

キラーデブマシンに暗示を掛け、動きを活発に、機敏にしているのである。……ならばそれを止めてしまえばいいのだから。

 

「……だああーーっ!!」

 

シュウは怒りを込め、橋から川へとCDデッキを蹴り倒す。……CDデッキは川へと墜落。

途端、キラーデブマシンは途端にスローモーションになり、ロボットダンス状態に……。

 

「……へ、へへ、どうだよっ!スッキリしたぜ!!」

 

シュウは得意げに鼻を擦る。確かに彼の機転のお陰で助かった事は事実。そして、ジャミルはもう一つ気づいた事があった。最初に見た時よりもシュウの顔は活き活きと、明るく輝いており、少年らしさを取り戻していた……。

 

「こ、この野郎!お前らもさっさと川に落ちて機械を探してくるのねえーっ!!」

 

「何を言うのね!?アニキがさっさと落ちて探してくればいいのね!!」

 

「冗談じゃねえのねえーーっ!!もうあんな機械とっくに壊れてんのねえーー!!」

 

……また始まったなとジャミルは呆れる。そして、これはチャンスでもあった。

 

「なら平等に……仲良くさっさとお前らトリオで探して来いっ!!」

 

ジャミルの跳び蹴り、3基地にヒット。蹴られたバカトリオはまたまた橋から転落。

結果、……揃って又川を流されて行った。そして後はいつもの通り。

 

「……覚えてろォォーー!なのねええーー!!」

 

「ぼくらこれからも何回だって出てやるのねえーー!!」

 

「……とほほのほお~、なのねえ~……」

 

「……もう出て来んでええわいっ!!って、無理か……」

 

ジャミルは夜の川を流されていく3基地を見つめながらウンザリ。しかし、まだ終わっていない。残るはキラーデブマシンだけである。ジャミルはアイシャとアルベルトを助けに向かおうとするが、あっちでもとんでもな、……嫌、またトンでもない事が起きていた。

 

「ぶふっ、ふびびひいいーーっ!!」

 

「何がどうなって……?」

 

「こ、今度は豚さんになっちゃったわっ!?」

 

「……おーい、お前ら平気かぁーーっ!?」

 

「ジャミルっ、私達はもう大丈夫よ、だけど……」

 

「キラーマシンが……、突然豚になっちゃって……」

 

「……い、いいいいっ!?」

 

ジャミルも、後から付いてきていたシュウも騒然……。豚男は完全に豚になってしまって

いたのだった。完全に豚になった豚男は……、ブヒブヒ鳴きながらカラコタ橋を橋って何処かへ逃げて行った。時折、鋭い目でジャミル達の方を振り返りながら……。それは、畜生、

覚えてろ、何れ又出てやるからな……、と、言う様な恨みがましい目であった……。

 



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兄妹達の旅立ち 前編

あれから、ジャミル達はシュウ達を連れて町の宿屋に一泊していた。しかし、恐ろしい

豚男の魔の手からシュウ達は漸く解放されたが……、何も持たず広い砂漠に放り出された

様な物なので、彼らはこれからどうしていいか分からず困惑していた。特にエルナはまだ

9歳。ペケは3歳。4人は子供達がまだ寝ている隙に、ロビーで話し合いをしていた。サンディもどうにか機械から抜け出た様で疲れて眠ってしまっている。少々処か、

相当機嫌が悪い様だったが……。カクテルジュースの件も含め、後処理は大変そうである。

 

「オイラ達と一緒に連れて行く訳にいかないし、困ったねえ……」

 

「う~ん……」

 

「……」

 

「よう……」

 

「あっ、シュウ君達……」

 

皆が唸っている処へシュウ達がやって来る。昨夜はモンも一緒に子供達と寝ていた。

特にすっかり元気になったペケのモンの懐き様は凄まじい物があったのだが。

 

「ぽ~、ぽ~……、たた、たた……、ぽん、ぽん、ぽん……」

 

モンと一緒に……、キャンディーの棒を持ったペケが出現。

 

「……おい、コラ、モン……」

 

「ペケはモンの一番弟子だモン!太鼓の極意を教えたんだモン!……ターゲット、ロックオンモン!!ちんぽこモォ~ン!!」

 

「きゃーきゃー!おんおん!」

 

「……ちょっ、な、何で君までオイラの処に来るのおおーーっ!!うわああーーっ!!」

 

「……」

 

モンはペケと一緒にダウドを追い掛け回す。取りあえず……、小さなお子ちゃま達は

ダウドに任せておいて……、此方は此方で話を進めようと思った。ジャミルは、シュウ達が良ければだが、いい方向になるまで、暫く一緒に旅に連れて行ってもいいかなと、思っていた。だが……。

 

「……はあ、小さなお子様……、ですか……?」

 

「どうしても見つけたいんだ、大切な息子夫婦の忘れ形見なのだよ、私はその子を探して遠路はるばる此処まで来たのだ、あの子と引き離されてもう丸一年になる……、何か知っている事があれば教えて欲しいのだが……」

 

「そうですねえ……、小さなお子さんと言えば……、そういえば……、確か……」

 

「きゃう!?」

 

「お、おお……?」

 

ロビーを走り回っていたペケは早朝から宿を訪れ、店主と話していたお客さんと

ぶつかってしまう。直ぐに事態に気づいたエルナは慌てて客の処へ……。

 

「ペケ、駄目だよう、おじさん、ごめんなさい……、ペケもごめんなさいして……」

 

「なさ……」

 

「モンちゃんも駄目よっ!……こら、めっ!!……ペケ君に変な事教えちゃってっ!!」

 

「モォ~ン……」

 

「い、いや……、私は別に気にはしていないよ……、……」

 

アイシャもモンを慌てて回収に掛かる。ペケがぶつかったのは、中折れ帽子を被った

小柄でスーツ姿の服装の初老の老人だった。しかし、老人は何故かペケの方をじっと

見つめているのである……。小さくちょこちょこ謝るペケの姿に……。

 

「……き、君は……、も、もう少し傍で顔を良く見せてくれないかな……?」

 

「おかお……?ペケの?」

 

「ペケっ!ア、アイシャお姉さん!あの人、ペケを誘拐しようとしてるよう!」

 

「……た、大変だわっ!!みんなーーっ!来てーーっ!

 

「……ど、どうしたんだっ!!」

 

事態に気づいたジャミル達も慌ててすっ飛んで来る。特にシュウは率先して怪しい老人の前に立つと、ペケを庇おうとするのだった……。

 

「今度は誘拐かよっ!……何があったって俺はペケを絶対に守るっ!エルナだって……!」

 

「モンも許さないモンっ!!……シャアーーっ!!」

 

「兄者……」

 

「君、落ち着いて話を聞いてくれないか……?其処の大きいお兄さんの君達も……、

話をどうか聞いて欲しい、私は誘拐犯などではないよ……」

 

老人は帽子を一旦外すとハンカチで汗を拭く……。どうやら本当に話を聞いて欲しいらしく、深刻そうな顔をしている。それにいち早く了解したのはアルベルト……。

 

「この人は悪い人じゃないよ、話を聞くだけでも聞こう……、シュウ達も落ち着くんだ……」

 

「……アルっ!お前っ!!」

 

「この人、行方不明になってしまった大切な小さなお子様をずっと探して旅をしているらしいんですよ、気の毒でしょ?私からもどうかお願いしますよ……」

 

店主もカウンターから身を乗り出し、ジャミル達に老人の話を聞く様に勧める。

……小さな子供……、と、聞き、ジャミルはきょとんしているペケの方を見つめた……。

 

「う~?」

 

「分かった、俺らも一応話を聞こう……、シュウ、いいな?」

 

「……チッ!冗談じゃねえ!俺はゴメンだ!!暫く外にいる!!けど、もしもペケに

何か遭ってみろ、……ジャミル、俺はテメエらを絶対許さねえぞ!!」

 

「シュウ君!……」

 

アイシャは外に出ようとしたシュウを止めようとしたが、逆にアルベルトに止められる……。

 

「あの子も……、悪態はついてるけど、一応は分かってくれている、後は僕らで

あのご老人から話を聞こう……」

 

「アル、分かったわ……」

 

「た、助かったぁぁ~、ほっ……」

 

「ダウドもお疲れ様……」

 

ダウドに声を掛けるアルベルト。宿屋内は狭くて質素な場所であったが、店主は話がしやすい様、気を遣ってロビーを貸し切りにしてくれた。……モンも何とか大人しくさせ、ジャミル達は老人の話を聞く事に……。

この現れた老人との出会いが、ペケの未来を取り戻す事になり、エルナにも希望の人生を

与える事になるのだが……。それはシュウとの悲しい別れでもあった……。

 



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兄妹達の旅立ち 中編

「……爺さん、それじゃ……、ペケが……、あんたの探している行方不明の孫かも

知れないんだな?本当なんだな……、……嘘言うなよ?」

 

「ああ、これを見て欲しい……」

 

老人はジャミル達に一枚の写真を見せた。其処には……、両親に大事そうに抱き抱えられている生まれたばかりの幼い赤子、そして、今此処にいる老人本人が写っていた。

だが、父親の方は子供が生まれた直後、不慮の事故で他界。母親も心臓の持病が有り、

旦那を失った事でショックを受けたのか、病気が発症し、我が子を心配しながらも、一年後に亡くなったとの事。……それから数ヶ月あまりの出来事だった。老人が悲しみに包まれたまま、続けて悲惨な出来事が起きる。……幼い赤ん坊が突如消えてしまったのだった……。

 

「この手紙も……、孫が消えてしまった直後、……屋敷の郵便受けに残されていたのだ……」

 

老人は更に手紙も見せた。其処には汚い字で脅迫状の様な文が書き殴ってあった。「お前の

孫を誘拐した、……返して欲しくば……、10000000ゴールド用意しろ、それまで

お前の孫は俺が大事に預かっておいてやるよ、金を用意して俺の所まで来い、但し、俺は

子供を愛する流浪の旅人だ、何処にいるか教えねえよ?ま、会いたかったら自分で探しに来いよ、……果たしてチビ君が大きくなるまでに無事に会う事が出来るかな?あばよ!」と。

 

 

「バ、バカ……?」

 

ダウドが目を点にする……。エルナが言うには、この汚い文字は見た事があり、豚男の文字に間違いは無いと。明らかにこの手紙はあの豚男が書いたもんである。だが、金が欲しい

割にはこんな回り諄い事をして……、まるでゲームを楽しむかの様な。4人はあの豚が何を考えていたのかさっぱり分からないのであった。しかも、孫を豚男に渡したのは、屋敷で働いていた専属メイドさんだったと言う事実。そのメイドは実は豚男の知り合いの営み屋の遊び相手だったらしい。メイドは恐ろしくなったのか、真実を直ぐに老人に打ち明け、謝罪。自分は自ら警察に連行されていった。その後、警察がどんなに八方尽くしても、誘拐犯は見つからず。メイドに問い詰めても、申し訳ありません、あの人の居場所は分からないんです、の、一点張りであり、老人も途方に暮れていた。……それから更に一年が立ったのである。

 

「ふう~ん、成程成程……、しかしなあ~……」

 

やっぱり金持ちって厄介事に巻き込まれるんだわん……と、嫌~ねえ……、写真を見ながら何となく人事の様にジャミルは思ったのである。

 

「おい、書いてる奴……、俺をカマみたいに書くなよ……」

 

「ちなみに……、孫の名は……、ジョナと言う……」

 

「う~?」

 

老人は切なそうに写真の中の赤ん坊と今傍に来ているペケとを交互に見比べる。もしも、本当にペケが老人の孫なら……、連れ去られた時、赤ん坊だった手前、老人の顔を覚えてはいないだろう。愛おしそうにペケを見つめる老人のその瞳は本当に優しそうだった。

 

「うそ、うそ……、ペケはお爺ちゃんの本当の……、うそ、うそ……」

 

「エルナちゃん……」

 

エルナは驚き、目に涙を浮かべ始め少々混乱し始めた。アイシャはそんなエルナを優しく、

慰める様に側へ引き寄せた。

 

「おい、爺さんよ……」

 

「ん?シュウっ!」

 

「あ、兄者……」

 

ジャミルが後ろから聞こえて来た声に振り向くと、外に行っていた筈のシュウがいつの間にか宿屋内に戻って来ていた。シュウはジャミルを無視すると、ずんずんと老人の側へ近寄る。

 

「爺さん……、ペケがアンタの本当の孫だっつー証拠でもあんのかよ、完全にアンタの

孫だっつー事を示す証拠がよ……、もしかしたら人違いっつー事もあんだよ……」

 

「シュウ……、君はまだそんな事を言っているのか!人を疑うのもいい加減にしろっ!!」

 

「うるせー!簡単に人なんか信用出来るかっ!……俺達は散々あのクソ豚に酷エ目に遭わされたんだぞ……、そうさ……、全てこの爺さんの作り話かも知れねえじゃねえか……、余りにも都合がよすぎらあ……、もしかしたら爺さんはあいつの手下で……、ペケを

取り返しに来た可能性だってあるのさ!」

 

「それは無いだろう!何て事を言うんだっ!!」

 

「ア、 アルも……、落ち着いてよお、エルナちゃんとペケ君がびっくりしちゃってるよお!」

 

「そうよ、アルが心配なのも分かるわ、だけど……」

 

「……うん、ダウド、アイシャ、ごめん、つい……」

 

「そうモン、こんな時はモンと一緒に太鼓をぽんこぽんこ叩いて落ちくんだモン!」

 

「いや、……叩かないから……」

 

そう言いながらアルベルトはちらっと横目でジャミルの方を見た。近頃、モンのアホ度の

具合が誰かに負けず、どんどん増している様な気がしたのである。もしかしたら、ダーマの塔でジャダーマにあの時、落雷を食らった所為なのかも……、と、思ってもいた。

アルベルトと口論になったシュウは再び氷の目を取り戻し、老人をキッと睨んだ。しかし、

口ではシュウを怒ったアルベルトだが……、シュウはこれまで酷い目に遭いながらも、必死で大切な妹分と弟分を守って来た。だからこそ……、そう簡単には素直に返事が出来ないのも充分に分かっていた……。

 

「あの子の左腕には……、火傷のケロイドの跡と、手術の傷跡が残っている筈だ、母親が

他界した後の事だった、あの子からうっかり目を離してしまったメイドの不注意でね、紅茶が入っていたお湯の容器を悪戯でテーブルから落としてしまって……、熱湯を左腕に被った、一命は取り留めたが、それは大変な大手術だった……、その時の手術の……、消えない生々しい跡が残っている筈なんだ……」

 

「あ、兄者……、そう言えば……、ペケ……」

 

「い、言うなっ!エルナっ!!」

 

エルナの言葉に、シュウは真っ青になる。やはりシュウ達は何か知っている様だった。

……もう決定的だった。……ペケが老人と血の繋がった本当の孫である事が。

ジャミル達も確認する。確かにペケの左腕には……、それらしき、ケロイドの跡があった。

 

「お、おお、やはり君は……、私の探していた……、き、奇跡だ……、おお……、

やっと逢えた……、おお、おお、大きくなって……、こんなに……、ジョナ……」

 

「じ~?」

 

老人は漸く逢えた本当の孫を愛しさで力いっぱい抱き締める。ペケは良く分かっていない

様であったが、泣いている老人の頬に不思議そうな顔をしながらも小さな両手でそっと触れるのだった。

 



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兄妹達の旅立ち 後編

「良かったわ……、ペケ君……、これで本当のご家族さんと会えたのね……」

 

「う、うんっ!よ、良かったねえ~……」

 

「本当に……、良かった……」

 

「モン~……」

 

(ふんっ、まるでクッセードラマ状態じゃん!……な、何よ、アタシ泣いてなんか

ないんだからネ!……これは目から汗が流れてるだけなんだから!)

 

アイシャもダウドもアルベルトもモンも、そして、ツンデレサンディも……、心からの

この巡り会いと奇跡を祝福してくれた。そして最後は軽いこの男である。

 

「おう、ペケ!お前、マジで良かったなあー!なあ!」

 

「なー!」

 

ジャミルは軽くぐしぐしと、ペケの頭を撫でた。まだ何も分からないペケはジャミルに

合わせて笑ってみせるのだった。

 

「……良くねえってんだよっ!!」

 

「シュウ……」

 

「兄者……」

 

だが、心から素直に祝福出来ない者もいる……。老人とペケが生き別れの本当の家族で

あると分かった以上、僅かな時間ではあったが、これまで兄弟、姉弟の一緒に暮らして来た

シュウとエルナとは別れなければならない。シュウは目に涙を溜めるエルナの方をじっと

見つめ、再び老人を睨むのだった……。

 

「兄者、ワチだってペケとさよならは寂しいよう、でも……、ペケは本当の家族さんと

一緒に幸せにならなくちゃだよ……、これまでいっぱい辛い思いしたんだもん……、ね?

ペケ、色々あったけど……、これでさよならだね、ワチ、ペケの事……、ずっと忘れないよ……」

 

「ね、ね~?……や、や~……」

 

エルナはそっとペケを抱き締める。だが、その姿にさっきまで笑っており、まだ何も

分からない筈のペケは何かを感じ取ったのか、急にぐしぐし泣き始めるのだった……。

 

「ふむ……、君達さえ良かったらだが……、儂の屋敷で一緒に暮らさないかね?」

 

「え、えっ……?」

 

「……じ、爺さん……?」

 

老人はエルナを側に抱き寄せる。勿論シュウも……。老人の行動に、ジャミル達4人も

待ってましたとばかりに顔を見合わせ笑顔になる。

 

「これからも孫のお兄さん、お姉さんとして一緒に暮らして欲しいのだよ、特にシュウ君、

君はお兄さんとして、本当に有り難う、心からお礼を言いたい、君が孫を守ってくれなかったら、儂はこうしてこの子とも無事巡り遭う事が出来なかった……、有り難う、有り難う……、皆、皆、儂の可愛い大切な孫だよ、これからも皆で仲良く一緒に暮らしておくれ……」

 

「爺さん……、お、俺みたいな……はみ出しモンが本当に……、じょ、冗談だろ?」

 

「いいや、君は何一つ悪い事はしておらんじゃないか、これまで沢山辛い思いをしたんだろうに……、もう何も心配する事はないよ、のう……」

 

「へ、へへ……、マジでお人好しな奴っているんだな……、バ、バカじゃねえの……」

 

「兄者……、ワチ達、これからも……、ずっと、ずっと一緒にいられるんだね……」

 

「ねー!」

 

「ああ、そうだよ、皆ずっとこれからも一緒だよ……」

 

老人は再度子供達を側に抱き寄せ抱擁する。その瞬間、……等々……頑なであり、誰も溶かす事の出来なかったシュウの心の氷が溶けたのである……。

 

「モン、はみ出してませんからモン!」

 

……どっから持って来たんだか、モンは巨大なパンツを履き、大口を開けて威嚇する。

アホがどんどこ加速するモンに、アルベルトは……、おい、責任取れよ飼い主……、とばかりにジャミルの方を見るのだった。して、これで漸く話も纏まり、3人も離ればなれにならず、その場にいる誰しもが、ハッピーエンドを迎える事が出来る。そう思っていた……。

 

「爺さん……、あんたの気持ちは嬉しいよ、でも……、俺は一緒には行けねえよ……」

 

「兄者……?」

 

「……」

 

シュウは自ら老人の抱擁から離れる。そして静かに下を向いた直後、又前を向く。

何か言いたい事がある様だった。その態度に……、ジャミルはブチ切れになるのだった。

 

「おい……、お前まだ何か不満があんのか!?爺さんはこんなにもお前らの事を気遣ってくれてんだろっ!?……ええっ!?」

 

「ジャミル、止めるんだっ!!」

 

「……落ち着いて、ジャミル!」

 

「そうモン、落ち着いてモンーっ!!」

 

「シュウ君の話も聞いてあげようよおー!」

 

(たく、どうしてアイツってあんなに気が短ケーんだか、……痔になるわヨ、って、

もう手遅れかあ……)

 

仲間達はシュウに掴み掛かろうとするジャミルを止めようと大騒ぎだった。折角幸せに

なれるチャンスをシュウは自らの手で拒否しようとしている。お節介なジャミ公にはそれが許せなかったんである……。

 

「う……、うあああーーん!!」

 

「兄者、どうしてなの……?もしかして、もうワチ達と一緒にいるの嫌なの?……も、

もしかして……、兄者は最初からワチ達の事が嫌いで……、ワチ、迷惑ばっかり掛けた

もんね、ご、ごめんなさ…