やはり俺がウルトラセブンなのはまちがっている。 (断空我)
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第一話:奉仕部へようこそ

ウルトラマン等をみていて、思いついた話。
短編で、感想が多ければ、続きをのせていくかも……。
とりあえず、この話を含めて、三話ほど、掲載して、判断する予定です。


 もし、運命というものがあるというのなら、あの日が俺の……いや、俺達の運命がはじまった日だろう。

 

 

 高校の入学式の日、俺達は運命というものに遭遇してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――地球は狙われている。

 

 

 

 かつて、地球防衛軍の参謀がテレビで告げた言葉だ。

 

 

 

 人類が宇宙開発を始めてから長い年月が過ぎた。

 

 

 

 その中で様々な問題が地球人類へ降りかかってきた。

 

 

 

 自然破壊による怪獣の出現。

 

 

 炭鉱に現れたゴメス、

 

 

 発電所を襲撃したネロンガ、

 

 

 古代人が封印した悪魔、バニラとアボラス。

 

 

 そういった怪獣の出現と同時に地球を侵略しようと外敵、宇宙からの侵略者が次々と空の彼方からやってくる。

 

 

 ガラモンを地球へ送り込んだセミ人間、

 

 

 子供を諭して地球を支配しようとしたメフィラス星人、

 

 

 自らを遊星からきた兄弟として信頼を得て裏から支配しようともくろんだザラブ星人、

 

 

 人を拉致監禁して降伏勧告をしたクール星人。

 

 

 そんな事態に地球防衛軍は撃退と迎撃を繰り返してきた。

 

 

 今思えば、平和から一番遠い選択を人類はとってきたのかもしれない。

 

 

 敵が強大な兵器を使えば、それを上回る兵器で撃退する。

 

 

 人類はマラソンを続けているのかもしれない。

 

 

 血を吐きながら続ける悲しいマラソン。

 

 

 そのマラソンのゴールは誰もが幸せの平和なのだろうか?それとも何もかもなくしてしまうのだろうか?

その結果は誰にもわからない

 

 

二年F組 比企谷八幡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷、これはなんだ?」

 

 日本の高校、総武高校の生徒指導室。

 

 そこで現国の担当教師で生徒指導も請け負っている平塚静はため息を吐きながら目の前の“メガネ”をかけた男子生徒、比企谷八幡へ問いかける。

 

「作文です」

 

「私の課題はなんだったかな?」

 

「平和です。ただ、途中で今朝みたニュースを思い出して気づけば、このような出来栄えに……反省はしていますが後悔はしていません」

 

 メガネを胸ポケットに入れて八幡は答える。

 

「お前という奴は」

 

 平塚は呆れながら目の前の相手を見る。

 

 総武高校の制服を纏って、胸元のポケットにはメガネが入っていた、何より特徴的なのは目。

 

 濁り切った目は見る者を委縮させるだろう。

 

 見慣れた平塚は気にしないが初対面の教師は必ず怯える。

 

「比企谷、お前に友達は……いなかったな」

 

「はい」

 

「まぁいい、部活などに……励んではいるな」

 

「まぁ」

 

「作文は書きなおせ、今日は部活へ行くように」

 

「その予定です」

 

 頷いた八幡は立ち上がって生徒指導室のドアを開ける。

 

「比企谷」

 

 出ていこうとした彼を平塚は呼び止める。

 

「今の世界は平和だとキミは思うか?」

 

「平和になろうとしている途中じゃないっすかね」

 

 短く答えながら八幡は生徒指導室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八幡は自販機でMAXコーヒーを購入して一口。

 

 千葉のソウルドリンクと呼ばれるものを含みながら青空をみあげる。

 

「空はどこまでも澄み切っているっていうのに」

 

 ぽつりと漏らしながら周りを見る。

 

 グラウンドでは生徒達が部活に励み、教室を見れば残った生徒達がだらだらしながら世間話に花を咲かせていた。

 

 そんな光景を見ていると誰もが平和と思うのだろう。

 

「(自分達だけの世界が平和っていうことだけどな)」

 

 飲み干してもう一つ、購入。

 

 こういう甘いものを飲んでいる時だけ、色々と忘れられるというものだ。

 

 一年前の交通事故、あれからすべてが狂って――。

 

「さて、行きますかね」

 

 首を振りながら自販機のあるスペースから部室棟へ入る。

 

 誰も使用していない空き教室のドアを開けた。

 

「うーっす」

 

「遅刻よ」

 

 中に入ったところで咎める声が響く。

 

 教室内には二人の少女がいる。

 

 一人は文庫本を手に持ち、流れるような黒髪、総武高校の制服に身を包んだ少女。

 

 もう一人は片方の髪を団子にして、制服を着崩して胸元を大きく開けている少女。

 

「由比ヶ浜に遅れる旨の連絡はしていたが」

 

 ちらりと八幡は咎めた雪ノ下雪乃へ説明をする。

 

 長い髪を揺らしながら首を振った。

 

「他人任せにするからいけないのよ。ちゃんと私へ連絡しない貴方のミスね、遅刻谷君」

 

「……オーケー、次からはそうするよ」

 

 雪ノ下の隣にいる由比ヶ浜はふぅーと息を吐いた。

 

「言伝を受け取っているならちゃんと伝えないといけないのではないかしら?由比ヶ浜さん」

 

「うえぇ!」

 

 話の矛先が自分へ向けられたことに気付いて由比ヶ浜結衣は声を上げる。

 

 わたわたして慌てている由比ヶ浜を横目にみながら八幡は二人の少女から少し離れた場所に腰かけた。

 

 これが彼らの距離感。

 

 入学式当日に数奇な運命で出会い、その間に濃密な時間を過ごした三人。

 

 紅茶を飲みながら文庫本を読む雪ノ下。

 

 由比ヶ浜はそんな雪ノ下へその日起こった話を伝える。

 

 二人の話を聞きながら新聞や図書館で借りた本を読みながらMAXコーヒーを飲む八幡。

 

 これが三人の今の日常。

 

 大事なひと時である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。

 

 一色いろはは夜道を歩いていた。

 

 自分へ話しかけてくる男子達をいなしながら帰路へ向かっている。

 

 いつものように自分へアプローチをしてくる男子達、心の中で辟易としながらもそんな感情は決して見せない。

 

 

――ヒタ、ヒタ。

 

 

「……っ!」

 

 後ろから聞こえる足音のようなもの。

 

 暗闇で一色いろはしかいないこの空間でその足音は不気味なくらいに響く。

 

 いろはは鞄を抱きかかえるようにして足早に夜の自然公園を歩く。

 

 家へ帰るための近道がこの自然公園を抜ける事だった。

 

 しかし、ここのところ、この道を通ると決まって不気味な足音が聞こえてくる。

 

 最初は気のせいだと思っていたが日が過ぎるごとに足音が大きくなり、段々と近づいてきている気がした。

 

 目の前の出口に向けていろは足早に駆け抜ける。

 

 少し歩けば人が行き交う通路へでられる。

 

 そうすれば。

 

 ふと、目の前に人の気配を感じていろは顔を上げた。

 

 そこには――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷、いるか!」

 

 放課後、いつものように三人だけの空間にいたところでノックもなしに平塚先生がやってくる。

 

「平塚先生、ノックをしてください」

 

 雪ノ下が文庫本を閉じて顔を上げる。

 

 鋭い眼光に平塚はものとせずに話し出す。

 

「奉仕部に相談したい生徒がいるという事で連れてきた、入ってくれ」

 

「失礼しまぁす」

 

 間延びした声で入って来るのは女子生徒。

 

 一年生でまぁ、可愛い部類に入るだろう。

 

 だろうというのは俺の傍にいるこの二人がとにかく美少女過ぎるので感覚がマヒしているのである。そもそも、宇宙一美しい存在をみたこともあるから可愛い程度で今更、揺れる八幡ではないのだよ。

 

 何より仕草がいちいちあざとく感じる。

 

 おそらく自分がどうすれば男を魅了させられるかわかっているのだろう。

 

「あざとい」

 

「へ?」

 

「ちょっと、ヒッキー!」

 

 横にいた由比ヶ浜が慌てて口をふさいでくる。

 

 ヤベッ、声に出していたか。

 

「それで、一色いろはさんだったわね。貴方の相談事というのは何かしら?」

 

「はい、その、帰り道なんですけど、誰かが後から追いかけてくるような気がするんですぅ」

 

「え、それって、ストーカー!?」

 

「そうかもしれないんですぅ、いつも決まった場所で足音がして一定の距離でついてくるようでぇ、もぉ、怖くて、怖くてぇ」

 

 ちらりとこちらを見るんじゃない。

 

 俺は興味ないという風に雪ノ下へ続きを促すように求めた。

 

「警察に相談はしたのかしら?」

 

「しましたよ!でも、この話に続きがありましてぇ」

 

「早く話してもらえるかしら」

 

 段々と雪ノ下がイライラしているのがわかる。

 

 あざとい話し方に我慢ができないのだろう。表情に変化はないが付き合いの長さからわかった。

 

「これなんです」

 

「何、これ?」

 

 画面を覗き込んだ由比ヶ浜がぽつりと漏らす。

 

 一色の携帯端末の画面にブレているが白と黒の魚眼のような何かの画像が映っていた。

 

「宇宙人です!」

 

 断言する一色に俺と雪ノ下は呆れたような表情を浮かべていることだろう。

 

「お前、それ、警察に言ったのか?」

 

「はい!」

 

 俺はそこで沈黙している平塚先生を見る。

 

「もしかして、ここへ連れてきたのは」

 

「警察が頼りにならない!そこで最低限の自衛としてしばらく集団で帰宅したらということでキミ達を選んだ」

 

「……勝手過ぎます。そもそも、依頼を引き受けるという事も」

 

「いいんじゃないかな?ゆきのん」

 

 反論しようとした雪ノ下をやんわりと由比ヶ浜が待ったをかけた。

 

「だってぇ、同じ女として嫌だよ。ストーカーなんて、それがもっと変態なら尚のこと、助けてあげたいなぁって思わない?」

 

「……由比ヶ浜さんの気持ちもわかるわ。そうね、一色さん」

 

「はい!」

 

「私達がしばらくの間、貴方の帰宅の付き添いをするわ。勿論、しばらくは部活などの類も控えてHRが終わり次第、すぐに帰ることを条件だけどね」

 

「え、でも、私ぃ」

 

「それが嫌なら私達では手に負えないわ……それに、自分で最低限なんとかしようという気持ちが貴方から感じられない。ここは最低限の手助けをして自力で問題解決を促すという方針で活動している部なの。それがないなら、私達ができることはないわ」

 

 提案ならぬ最終通告のような雪ノ下の言葉に一色は戸惑い、目をさ迷わせながら俺を見る。

 

 おれなら助けてもらえると期待しているのだろう。

 

 甘い。

 

「俺も雪ノ下の意見に同意だ。諦めろ、あざとい後輩」

 

「だ、誰があざといですか!いいですよ!お願いします!」

 

 よくわからんが負けず嫌いではあるらしい。

 

 了承したことを確認して俺達は平塚先生へ話を通してもらうことにした。

 

 一色は平塚先生と一緒に出ていく。

 

 残されたのは俺達のみ。

 

「さっきの写真、比企谷君はどう思うかしら?」

 

「画像が荒れすぎてなんともいえないがおそらく宇宙人だろうな」

 

 画像を解析してみないことにはわからないだろうけれど、あれはおそらく宇宙人だ。

 

 経験と直感のようなもので俺は断言できた。

 

 この世界は昔から宇宙人やら怪獣らが猛威を振るってきた。その度に人類の手で撃退してきた。近年は侵略者の出現の報道も少ないが完全にいなくなったというわけじゃない。

 

「あー、じゃあ、いろはちゃんは」

 

「何らかの理由で宇宙人に狙われているのでしょうね」

 

 由比ヶ浜はその事実を聞いて不安そうに瞳を揺らす。

 

「ま、ただの変態という可能性もゼロじゃないからな」

 

 彼女の不安を少しでも取り除こうと俺はそういった。

 

 一瞬だったがあの姿は知識として該当するものがある。

 

 だが、果たしてそうなのかどうかはわからない。

 

 

――こういう時、彼が表にでていればどれだけよかったか。

 

 

「比企谷君、変なことを考えていないかしら?」

 

「いいや、別に」

 

「そう。ならいいけれど」

 

 ぽつりと、けれど雪ノ下の鋭い眼光がこちらへ向けられた。

 

 危ない、危ない、由比ヶ浜と同じくらい“あの件”に関しては神経質な雪ノ下だ。

 

 悟られないように気をつけなければ。

 

「それじゃあ、今日から一色さんと一緒の帰宅をしましよう……はぁ」

 

「ゆきのん?」

 

「何でもないわ。平塚先生も少しは相談などをしてほしいと思うわ」

 

「まー、あの人、悪人ではないんだがなぁ」

 

 強引ささえなければ結婚もできただろうに。

 

「ね、ねぇ、宇宙人の可能性があるならほら“ウルトラ警備隊”に通報という事は?」

 

「あの乱れた画像だけじゃ、一色さんを襲ったのが宇宙人だという証拠がない。警察も同じで悪戯と捉えられてしまうのが関の山といったところかしら」

 

「そっかぁ」

 

 それぞれ帰宅準備を始めて正門の前で一色を待つ。

 

 平塚先生に話を通しておいたおかげで一色は十分も経たずにやってきた。

 

「よろしくお願いします」

 

 ぺこりと頷いた一色と共に俺達は帰路につく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま~」

 

 初日は当然というか何事もなく帰宅できた。

 

 一色を家へ送り届けて、その後は雪ノ下と由比ヶ浜を送り届けたことで俺はくたくただった。

 

「お兄ちゃん、お帰り~」

 

 玄関で靴を脱いでリビングに向かうと妹の小町が出迎えてくれる。

 

 そして、もう一人。

 

「あ、八幡、お帰り~」

 

 ふわふわと床の黒いモヤ、ダークゾーンと呼ばれる場所からひょっこりと姿を見せるのは黒と白い体、円筒形の頭部の左右についている小さな目、パーカーとズボンを履いているが人ではない。

 

 ペガッサ星人ペガ。

 

 我が家の居候であり宇宙人である。

 

「ペガ、何やっているんだ?」

 

「目覚まし時計の修理だよ。よし、できたよ~」

 

 机の上にファンシーなデザインの目覚まし時計が置かれていた。

 

 手先が器用なペガは機械いじりが趣味でこうして小町の頼みをよく聞いている。

 

「あれ、八幡、お疲れみたいだね」

 

「まぁな」

 

 ペガの隣の椅子へ腰かける。

 

「もうすぐご飯ができるからねぇ~、先にお風呂入る?」

 

「あ、いいね!ペガも入る!」

 

「え~、偶には一人で入らせてくれよ」

 

「いいじゃないか~」

 

 ペガはダークゾーンからバスセット一式を取り出した。

 

 便利だよなぁ、ダークゾーンって。

 

 横で見ながら風呂へ入ることにした。

 

「なぁ、ペガ」

 

「なぁに?」

 

「宇宙人が女の子を狙う理由ってなんだと思う?」

 

「うーん、わかんない。宇宙は広いから色々な宇宙人もいるし」

 

「だよなぁ」

 

 ペガも宇宙人だ。

 

 ペガッサ星から様々な経験を積ませようという両親の方針で宇宙を旅していたが奴隷売買を生業としている宇宙人に狙われて地球へ避難してきた時の騒動から比企谷家の一員として生活することになった。

 

 我が家の両親は共働きで中々、家に帰ることがないのと仕送りはしっかりしてくれるのでペガが一人増えたところで何ら問題もない。

 

「ねぇ、八幡」

 

「なんだ?」

 

「もし、悪い宇宙人がこの地球で悪さをしたらどうするの?」

 

「止めるさ」

 

 ペガの問いかけに迷わずに答える。

 

 俺を助けてくれた“彼”への恩返しだと思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、その次の日も八幡や雪ノ下達は一色と帰宅をしていたのだが、不審人物は影も形もない。

 

 

「もう、現れないってことですかね?」

 

 笑顔で一色はいう。

 

「二日、三日も姿を見せないからもう大丈夫というのは気が早いわ」

 

 雪ノ下は一色の考えを否定する。

 

「私達と帰っているからしばらく様子を見るという可能性もある。数日で答えを出すのは危険すぎるわ」

 

「でも……こんなことが続くのは息が詰まります!」

 

 我慢できないという風に一色は叫ぶ。

 

「何で私がこんな目にあわないといけないんですか?どうして我慢しないといけないんですか!おかしいですよ!ストーカーが悪いのに」

 

「そうだな」

 

 一色の心からの叫びに八幡は頷いた。

 

「本当ならお前がこういうことになるのは間違っている。だが、相手にそれを言って通用しなかったらどうする?」

 

「それは……」

 

「いろはちゃん、もう少しだけ頑張ろうよ!何かあってからじゃ、遅いんだし」

 

 由比ヶ浜の励ますような言葉に一色も小さく頷いた。

 

「あら、あれは何かしら?」

 

 帰宅途中、警官がある一角を封鎖していた。

 

「何かあったのですか?」

 

 雪ノ下が警官へ問いかける。

 

 警官の話によるとコスプレした不審者が暴れまわって逮捕されたという。

 

「じゃあ!」

 

「終わったとみるべきかしらね」

 

 破顔する一色。

 

 予想外な形で奉仕部の依頼は完了となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何かあっけなかったねぇ~!」

 

「タイミングが良かったと思うべきなのかもしれないけれど、少し良すぎるような気もしなくはないわ」

 

 一色を家へ送り届けようとしたのだが、もう大丈夫だと彼女が断りを入れた為に道中で解散となった。

 

 後はぶらぶらと帰るだけだったのだが。

 

「最近、物騒よねぇ」

 

 ふと、主婦達の会話が聞こえてきた。

 

「そういえば、家出している人も多いわよねぇ?三丁目の岩田さん、奥さんが出て行ってもう一週間くらいですって」

 

「あら、そういえば、隣町でも似たようなことがあったわよ」

 

 聞こえてきた声に八幡は歩みを止める。

 

「ヒッキー、どうしたの?」

 

「なぁ、雪ノ下」

 

「何かしら?」

 

「この町周辺の失踪事件がどのくらい起きているかってすぐにわかるか?」

 

「近くのネット喫茶で調べられると思うわ……急にどうしたの?」

 

「さっきの主婦達の会話が気になってな。とにかく、行こう」

 

 八幡達は近くのネット喫茶に入る。

 

 支払いは八幡が済ませてネットブースで検索を始めた。

 

「そろそろ教えてもらえるかしら、何を気にしているのかしら?」

 

「主婦の話では周辺で連続失踪が起こっているらしい。ただの偶然なら良いんだが、結果は?」

 

「この町周辺で四件も起こっている。でも、年齢、職業、すべてバラバラね……唯一共通点があるとすれば」

 

「女性か?」

 

「えぇ、警察は家出などで詳しい捜索をしているか、怪しいところね」

 

「どういうこと?」

 

 ぽかんとしている由比ヶ浜を横に八幡はパソコンでハッキングする。

 

 表示されたのは地球防衛軍のモンスター&エイリアンのデータベース。

 

「ちょっと、比企谷君!」

 

「え、これ!?」

 

「これだ」

 

 短い時間で目的のファイルを表示する。

 

「DADA?」

 

「今から四十年ほど前に宇宙線研究所を襲った宇宙人だ。データによると人間の標本を集めることを目的としていたらしい」

 

「標本?え、人間って標本にできるの?」

 

 おバカな由比ヶ浜はさらに横へ置いといて。

 

「貴方はこの失踪事件がダダの仕業とみるの?」

 

「おそらく、失踪事件が標本採取という点からみれば、このバラバラな理由は納得できる。それに知っているか?」

 

 八幡はかつて知った情報を伝える。

 

 

――地球人の女は宇宙人の標本としての売買は高値で売れるらしい。

 

 

 二人の女性が顔をしかめた。

 

「とにかく、一色が危ない、急ごう」

 

 パソコンを閉じる。

 

「えっと、この場合、ウルトラ警備隊に知らせるとかは……」

 

「そうね、一応、通報はしておきましょう。彼らが信じてくれるかは置いといてね」

 

 “ウルトラ警備隊”

 

 宇宙からの侵略者が多発した時代、地球防衛軍内で多くの侵略から地球を守ってきたエリートチーム。

 

 今は第二期編成になっているらしいが、宇宙人による怪事件はウルトラ警備隊を呼ぶという認識は今も変わらない。

 

 由比ヶ浜が通報しているのを横目で確認しながら八幡は急ぎ足で一色の家まで向かう。

 

 嫌な予感をひしひしと八幡は感じ取っていた。

 

 一色の家が見えてきたところでドアが開かれる。

 

「先輩!」

 

 泣きそうな顔をしている一色がこちらへ手を伸ばしてくる。

 

 部屋の中から魚眼の顔で白と黒の宇宙人が細長い武器を構えていた。

 

「一色、伏せろ!」

 

「え、あ、はい!」

 

 うずくまるように座った一色、ダダへ八幡は右手を握り締めるようにして前へ振る。

 

 念動力による攻撃でダダは吹き飛ぶ。

 

「え、なに、なに!?」

 

「一色、こっちへこい!」

 

 戸惑う一色の手を引きながら後ろへ身を隠す。

 

 攻撃を受けたダダはふらふらと姿を見せる。

 

 身構える俺の前でダダはテレポートした。

 

 逃げた?

 

「先輩!」

 

 後ろから一色の悲鳴が聞こえる。

 

 

 振り返るとダダが自らの武器で殴りかかってきた。

 

 一色を守りながら手で受ける。

 

 痛みに顔を歪めながら腹を蹴り飛ばす。

 

 少しのけ反りながらダダが手の中にあるミクロ化機を構えた。

 

 一色を守ろうと念動力を発動させようとした時。

 

 バコンとダダの後頭部に石が激突する。

 

「今よ!」

 

 雪ノ下の叫びに念動力を放つ。

 

 攻撃を受けたダダは派手に吹き飛ぶ。

 

 バチバチとミクロ化機が爆発を起こした。

 

「ダダダダァ!」

 

 顔を抑えて仰け反るダダ。

 

 再び顔を上げたダダの顔半分は火傷で醜くゆがんでいた。

 

 怒りでプルプルと体を震わせているダダは転移する。

 

 一瞬の隙を突いて、八幡を突き飛ばして一色を連れていく。

 

「いや、いやぁあああ!」

 

 悲鳴を上げている一色へ手を伸ばそうとしたが間に合わずダダと一緒にテレポートしてしまう。

 

「いろはちゃん!」

 

「比企谷君!」

 

「クソッ、ペガ」

 

「発信機をつけておいたよ!」

 

 八幡の影からひょっこりとペガが姿を見せる。

 

 ペガから受信機を受け取った。

 

「よし、雪ノ下と由比ヶ浜はここでウルトラ警備隊に事情を説明してくれ」

 

「え、ヒッキーは!?」

 

「このままダダを追いかける。彼はこの星の生命に手を出している。それは重大な罪だ」

 

「貴方……比企谷君、よね?」

 

 雪ノ下の問いかけに八幡は柔和な笑みを浮かべながら胸ポケットの奥にしまい込んでいる変身アイテム、ウルトラアイを取り出す。

 

「デュワッ!」

 

 二人の前でウルトラアイを装着した八幡は瞬時にM78星雲人であるウルトラセブンに変身する。

 

 赤い体に銀の兜、頭頂に輝くアイスラッガー、体のプロテクター。

 

 ウルトラセブンは空へ舞い上がりペガの発信機の反応の場所へ降り立つ。

 

 町外れにある廃工場。

 

 降り立ったウルトラセブンはそのまま廃工場内に突入する。

 

 中にはダダが数体、そして部屋の中心には円筒形のカプセルが複数、置かれていた。

 

 その中の一つに一色いろはがいる。

 

「一色!」

 

 ウルトラセブンの声にダダ達が振り返り一斉に襲い掛かる。

 

 襲い掛かっていたダダを殴り飛ばし、一体は投げ飛ばす。

 

 ミクロ化機を構えたダダにはウェッジ光線を放つ。

 

 光線を受けたダダは爆発を起こして地面に倒れる。

 

 残り一体、顔に火傷を負ったダダが後退った。

 

「ダダよ、星に住まう者達を勝手に連れ出すのは重大な罪だ。すぐにこの星から立ち去るんだ。そうすれば、私も命までは取らない」

 

「ウルトラ……セブン……くそっ」

 

 ウルトラセブンの言葉にダダは小さく下がりながらそのまま逃げようとした。

 

――かと思えば、落ちている光線銃を手に取ってセブンへ向ける。

 

 それよりも早くセブンは額のビームランプの前で指を構えた。ビームランプからエメリウム光線がダダを直撃。

 

 ダダは体から炎をまき散らして消える。

 

 ウルトラセブンはカプセルを覗き込む。

 

 そこでは助けを求めている女性達がいた。

 

「もう大丈夫だ」

 

 テレパシーで彼女達を安心させるように優しく声をかける。

 

 三十分後、通報を受けて駆け付けたウルトラ警備隊の隊員は星人から解放された人たちは口をそろえていう。

 

 

――ウルトラセブンが助けてくれたと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の奉仕部

 

「おっはようございます!」

 

 MAXコーヒーを飲んでいた八幡はドアを開けてやってきた人物に面倒そうな表情を浮かべる。

 

「あれ、先輩だけですか?」

 

「二人はそれぞれ用事で遅れている。もしかしたら来ないかもな」

 

「そうなんですか!先輩、少しお話いいですか?」

 

「なんだ」

 

 一色は笑顔を浮かべながら尋ねる。

 

「助けてくれてありがとうございます」

 

「あ?それならウルトラ警備隊の人達に言えよ。俺は何にも出来てないよ」

 

「そんなことないです!先輩があの宇宙人から私を守ってくれたじゃないですかぁ!感謝しているですよぉ」

 

「感謝しているならそのあざとい発言やめろよな」

 

「えぇ~、そんなことないですよぉ」

 

 既にやっていますよね?

 

 心の中で思いながら八幡は誤魔化すようにMAXコーヒーを飲む。

 

「ところで先輩達は何者なんですか?」

 

「いきなり何の話だ。俺達は地球人だぞ?」

 

「ふーん」

 

 不満そうな表情の一色。

 

 八幡は気にしない。

 

「まぁいいです。これから時間があれば遊びに来ますね?」

 

「勝手にしろ」

 

「はい!勝手にします!」

 

 にこりとほほ笑む一色。

 

 苦手だなぁと心の中で思いながら八幡はMAXコーヒーを飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――地球は狙われている。

 

 しかし、理不尽な侵略に正面から挑む人類を助ける者がいる。

 

 遠い別の宇宙にあるM78星雲からやってきた地球を愛する宇宙人。

 

 名前を、ウルトラセブンという。




比企谷八幡
高校二年生、自称ボッチ。濁った目を普段はメガネで隠しているが瘴気が漏れだしたりしているため、あまり効果は薄い。
高校の入学式の日に交通事故に巻き込まれるも発生したワームホールによって宇宙空間に放り出されてしまう。
死にたくないという意思がミュー粒子となって一人の宇宙人が感じ取ったことで一名をとりとめる。
その後、多くの戦いや出来事を経て本来の世界へ戻ってきている。
超能力が少しほど使えるが人間としてのスペックは中の上程度。
専業主夫を夢見ていたが、今は少し違う模様。



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第二話:怪獣、拾いました!

第二話、色々な反響があって、驚きです。

今回、ウルトラ警備隊が絡んできます。

本来ならカタカナで表記すべきかなと悩みましたが、ここでは漢字表記でいきます。

漢字は当てはまるものを選んでいます。実際の設定では異なる可能性もありますが温かい目で見守ってください。

ちなみに第二期ウルトラ警備隊は六人編成なのであしからず。


 

 今でも鮮明にあの日のことを俺は思い出せる。

 

 入学式当日、自転車通学をしていた俺は飼い主から離れた犬を助けようと車道に飛び出したところで運悪くリムジンと激突。

 

 その後、急に現れたワームホールに吸い込まれて俺達は別宇宙に飛ばされた。

 

 宇宙空間に放り出された俺はゆっくりと自分が死んでいくことを嫌でも痛感させられる。

 

 まさか車にはねられた後に宇宙で死ぬことになるなんて誰が想像できるだろうか?

 

 徐々に体が凍り付いていく、命が失われていく感覚。

 

 本当に死ぬと思った時、俺は嫌だと叫んだ。

 

 死にたくない。

 

 まだ、生きたい!生きたいんだ!

 

 生きていたいんだ!そんな俺の叫びに赤い光が接近してきた。

 

 その日、俺は運命というものと出会ったのだろう。

 

 

 M78星雲のお人好しの宇宙人と出会った瞬間でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙、そこには人類の知らない様々な生物が存在している。

 

 その日、宇宙ステーションV3は群れを成して渡っている大量の渡り鳥怪獣を観測した。

 

 当然のことながらその情報は地球防衛軍極東基地内にあるウルトラ警備隊司令室にも伝えられている。

 

 ウルトラ警備隊司令室には第一期隊員から隊長へ昇格した古橋茂(フルハシ・シゲル)をはじめとした五人の隊員が待機していた。

 

「渡り鳥怪獣?」

 

 ウルトラ警備隊の隊長、古橋は報告してきた観測員へ尋ねる。

 

「えぇ、十年に一度、群れを成して宇宙を渡っている怪獣です。大人しく、攻撃性のない怪獣ということが過去の観測結果でわかっています」

 

「つまり、危険性はないという事ですね?」

 

「はい」

 

 観測員は頷く。

 

「その渡り鳥怪獣っていうのが地球へ来る可能性はないんですか?」

 

 東郷隊員の疑問に観測員は首を振る。

 

「渡り鳥怪獣は地球よりも温かい場所に渡る怪獣なので、地球へ来ることはないでしょう。問題があるとすれば、その渡り鳥怪獣の天敵が現れないかという事です」

 

「天敵?」

 

 梶隊員がオウムのように繰り返す。

 

「スペース・ジョーズと呼ばれている凶暴な肉食怪獣です」

 

「古橋隊長!ステーションV3から緊急連絡です!」

 

 通信隊員の報告に古橋は通信機を受け取る。

 

「古橋だ!なにぃ?わかった、すぐに向かう」

 

 通信機を置いて古橋は振り返る。

 

 隊員達は整列していた。

 

「ステーションV3から緊急報告、渡り鳥怪獣の群れを一匹の怪獣が襲撃している。その群れが地球へ向かう可能性がある。俺達はホーク2号で迎撃準備の為に出撃する!」

 

「了解!」

 

 隊員達はすぐに出撃準備に入る。

 

 極東基地からウルトラホーク2号に搭乗した古橋隊長と梶隊員が出動。

 

 司令室では東郷隊員、リサ隊員、ユキ隊員、渋川隊員が何かあればすぐにウルトラホーク1号で出撃できるように待機。

 

 ウルトラホーク2号で宇宙空間へ出た古橋隊長と梶隊員がみたのは沢山の渡り鳥怪獣。

 

 ある方向へ進んでいく姿はまさに渡り鳥を連想させる。

 

 そんな彼らを一匹の怪獣が襲撃していた。

 

 怪獣は次々と渡り鳥怪獣を食らう。

 

 一匹、また一匹と食らっていく姿はサメのようなもの。

 

「酷い、隊長!迎撃の許可を」

 

「許可はできない」

 

「どうしてですか!?」

 

 敵意のないものが一方的に蹂躙される姿に梶は攻撃を提案するが古橋は許可しない。

 

「バカ!俺達の目的を忘れるな!地球防衛以外の目的であの怪獣を攻撃して万が一、地球へ飛来させてみろ!大災害につながる可能性がある」

 

「ですけど!!」

 

 梶は悔しそうに目の前で食い殺されていく渡り鳥怪獣をみているしかなかった。

 

 その時、一匹に渡り鳥怪獣が天敵相手に突撃した。

 

 不意打ちを受けた怪獣は驚きながら渡り鳥怪獣へ襲い掛かる。

 

 攻撃を受けた渡り鳥怪獣の一体が地球へ向けて落ちていく。

 

「あぁ!」

 

「梶、攻撃準備だ!」

 

 地球へ落ちていく渡り鳥怪獣を追いかけようとするスペース・ジョーズにウルトラホーク2号が攻撃を開始した。

 

 凶悪な怪獣を地球へ向かわせてはならない。

 

 地球防衛を理由にウルトラ警備隊は行動を起こす。

 

 機首のレーザー砲で怪獣へ攻撃する。

 

 怪獣は攻撃を受けて苦しそうな声を上げながら離れていく。

 

 ウルトラホーク2号はスペース・ジョーズを追跡する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球。

 

 

 

「何でピクニックなんだよ」

 

「いいじゃん!三人で仲良くお出かけだよ!」

 

 三連休。

 

 学生ならのんびりとした休日を送るだろう。

 

 比企谷八幡なら、そうする。

 

 そのはずだったのだが、由比ヶ浜の希望によって近くの山でピクニックをすることになった。

 

「怠け谷君は諦めなさい。あぁなった由比ヶ浜さんは止まらないわ」

 

「ペガは楽しみだよ!」

 

 ひょっこりと八幡の影から現れるペガ。

 

 影から姿を見せながら嬉しそうにしていた。

 

「ペガちゃんも大好きなおかず!ママと一緒に作ったからね!」

 

「え、あぁ、はい」

 

 由比ヶ浜の料理と聞いてペガは曖昧に答えながらダークゾーンの中に戻る。

 

 随分前に由比ヶ浜のマズイ料理を食べてしまったから苦手意識を持っているのだろう。

 

「あぁ、酷い!今回はちゃんとママ監修なんだから!ちゃんとゆきのんにも見てもらっているし」

 

「それなら安心……なのか?雪ノ下」

 

「大丈夫だと思いたいわ」

 

 ぽつりと漏らした言葉に八幡は肩をすくめて、ダークゾーンにいるはずのペガがブルブルと震えた、様な気がした。

 

 周囲の山の景色が見渡せる位置でレジャーシートを広げて弁当箱を由比ヶ浜が開ける。

 

「「「おぉ~!」」」

 

 中身を除いた面々が驚きの声を上げる。

 

 少し形の崩れたおにぎり、少し焦げ目が入っている卵焼きやから揚げ。

 

「見た目は一応、大丈夫だな」

 

「ヒッキー!ひどい!」

 

「当然の意見だ。バンデラス星系で炭を食わされた事、わすれちゃいねぇからな?」

 

「あれは酷かったねぇ」

 

 八幡とペガは遠い目をする。

 

 由比ヶ浜は頬を膨らませながら箸で卵焼きを突き刺して八幡へ差し出す。

 

「ほら!食べてみて!」

 

「……」

 

「八幡、ファイト~」

 

 ペガは助ける気がないことはわかった。

 

 八幡は意を決して卵焼きを食べる。

 

 もぐもぐと数回、咀嚼をして飲み込む。

 

「……うまい」

 

「でしょう!」

 

 えっへんと胸を張る由比ヶ浜。

 

 メロンほどの大きさの果実も揺れていたが八幡は信じられないという表情で気づかない。

 

「じゃあ、いただきまーす」

 

 箸を伸ばしてペガが卵焼きを掴むとそのままダークゾーンの中に飛び込む。

 

「いつも思うけれど、普通に食べればいいじゃない」

 

「えぇ~、恥ずかしいよう」

 

「よくわからないわ」

 

 恥ずかしがるペガ。

 

 由比ヶ浜と雪ノ下は不思議そうにする。

 

「その星それぞれの文化があるからな。しつこく言ってやるなよ」

 

「わかっているわ」

 

 もぐもぐとおにぎりを手に取って食べる雪ノ下。

 

 しばらく談笑しながら昼食を味わっていた時だ。

 

「あれ?飛行機?」

 

 由比ヶ浜が青空の中を飛行する飛行機を発見する。

 

 八幡は目を凝らす。

 

「あれ、ウルトラホークだな」

 

「何か事件かしら?」

 

 雪ノ下も空を見ていた時。

 

「何か落ちてくるよ!」

 

 ペガが落下してくる赤い火の玉のようなものに気付く。

 

「伏せて!」

 

 雪ノ下が叫んで全員がその場に伏せる。

 

 落下、衝撃が広がった。

 

 飛ばされないように、そして守るように八幡が二人へ覆いかぶさる。

 

 しばらくして衝撃が収まって三人は顔を上げた。

 

「びっくりしたなぁ」

 

「何だったのかしら?」

 

「隕石、とかではないみたいだ……この周辺に落ちたのか?」

 

 二人で話している時、移動していた由比ヶ浜とペガは地面にめり込んでいる巨大な卵らしきものを発見する。

 

「大きな、卵ぉ」

 

「危ないよぉ、結衣ちゃん」

 

 少し離れた場所だったが由比ヶ浜は小さなクレーターを作っている卵へゆっくりと近づいていく。

 

 ペガが止めることも聞かずに由比ヶ浜は卵に触れる。

 

 直後、卵に亀裂が入った。

 

「結衣ちゃん!」

 

 慌ててペガが卵から引き離す。

 

 少し遅れて卵から黄色い嘴、そして愛くるしい顔が姿を見せる。

 

「わぁ、可愛い!」

 

「でも!大きいよ!」

 

 由比ヶ浜は気にせずに卵から産まれた雛へ触れる。

 

 彼女に撫でられると嬉しそうに目を細めた。

 

「由比ヶ浜さん!」

 

「あ、雪乃ちゃん!八幡!結衣ちゃんが!」

 

「ペガ、落ち着け、こいつは危険な生き物じゃない」

 

 慌てるペガをやんわりと八幡はなだめながら由比ヶ浜に甘えている怪獣を見る。

 

「間違いない。コイツは渡り鳥怪獣だ」

 

「渡り鳥怪獣?」

 

「十年に一度、温かい惑星を目指す宇宙怪獣だ。肉食というわけでも攻撃的というわけでもない。温かい場所を目指す姿から宇宙の時の流れを教える怪獣ともいわれている」

 

 八幡は頭に流れてくる知識を伝えると雪ノ下はゆっくりと渡り鳥怪獣へ触れる。

 

 他の人間に触れられても嫌がらない、むしろ嬉しそうにちろちろと雪ノ下の手を舐めた。

 

 にこりと雪ノ下は微笑む。

 

「ねぇ、この子に名前を付けてあげようよ!」

 

「由比ヶ浜さん、まさか、飼うつもり?大きすぎるわ」

 

「でも、赤ちゃんじゃん!放っておけないよ!それに、私に何か懐いているし」

 

「あー、そのことだがな、由比ヶ浜」

 

 

 

 

「キミ達!そこから離れるんだ!」

 

 いつの間にか茂みをかき分けてグレーの隊員服に白と赤のメットを装着した人たちが独特な形をした銃を向ける。

 

「あれは……」

 

「ウルトラ警備隊ね」

 

 ひそひそと八幡と雪ノ下が会話をする。

 

 ペガは八幡の影に避難していたおかげで彼らにその姿を捉えられることはなかった。

 

「待って!」

 

 ウルトラガンを構えるウルトラ警備隊のメンバーを前に由比ヶ浜が手を広げた。

 

「キミ!危ないぞ!」

 

「この子は何も悪いことしていないです!」

 

 警戒するウルトラ警備隊員へ由比ヶ浜は渡り鳥怪獣が脅威ではないと訴える。

 

「みて、怯えている」

 

 リサ隊員は由比ヶ浜に隠れようとするように怯えている渡り鳥怪獣の姿に気付いた。

 

 怯える怪獣へ武器を向けていることに罪悪感を覚えたのか渋川や東郷はウルトラガンをホルダーへ仕舞いながら近付いていく。

 

「とにかく、この怪獣は我々が保護する。キミ達も事情聴取のため同行してもらえるか?」

 

「はい!」

 

「まぁ、仕方ないな」

 

「わかりました」

 

 その後、八幡達は地球防衛軍の管理している施設へ同行して事情聴取が行われた。不用意に怪獣へ近づいたことの厳重注意と他言無用の確約、最後に連絡先の記入をすることでようやく三人は解放された。

 

 

 

「疲れたぁ」

 

「地球を防衛している組織ということもあるけれど、通路もピリピリしていて辛いものね」

 

「つっかれたよぉぉぉぉ」

 

 くたくたになりながら三人は地球防衛軍の施設を後にする。

 

 帰りのバスに揺れながらふと、由比ヶ浜は疑問を漏らした。

 

「あの怪獣、どうなるのかな?」

 

「少なくともいきなり殺されるという事はないはずだ。どこかで保護して生活することになるんじゃねぇかな、まぁ、短い期間になると思うが」

 

「短い期間って?」

 

「渡り鳥怪獣は幼くてもすぐに成長して飛行できるようになる。まぁ、二~三週間もすれば、宇宙空間へはばたくんじゃないか?」

 

「暖かい惑星へ旅立つということね」

 

「あぁ」

 

「じゃあ、大丈夫だね!」

 

 笑顔で答える由比ヶ浜。

 

 その表情に八幡と雪ノ下は笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二日後、

 

 いつものように授業をダラダラと受けていた八幡。

 

 放課後になって奉仕部の部室へ向かおうとした時だ。

 

「あん?」

 

 頭上の校内放送で由比ヶ浜が呼び出しを受けた。

 

 空耳かと思ったが二回も放送されたので間違いではない。

 

「結衣、アンタ、何かしたの?」

 

「うーん、心当たりないなぁ」

 

 クラスメイトのトップカーストである三浦の質問に由比ヶ浜は本当に覚えがないのだろう、不思議そうに首をかしげていた。

 

「ちょっと、行ってくるね!」

 

 ちらりと八幡の方を見ながら由比ヶ浜は教室を出ていく。

 

 まぁ、後で部室に来るだろう。

 

 そう考えた八幡は廊下へ出る。

 

 奉仕部の部室へ到着すると既に雪ノ下が読書をしていた。

 

「あら、一人かしら」

 

「由比ヶ浜は職員室に呼び出しだ、理由は本人もわかっていないらしい」

 

「そのようね、校内放送は聞こえていたわ」

 

「何だろうな」

 

「貴方もわからないなら、私も知らないわ」

 

 話し合いながら八幡は一つのスペースを作って用意したMAXコーヒーを飲む。

 

「偶には違うものを飲んだらどうかしら?」

 

「それをいうならそっちも紅茶以外を飲んでみたらどうだ」

 

「あら、反論するなんて良い度胸ね」

 

 笑みを浮かべているが目は笑っていない。

 

 こわっ、と心の中で思いながら鞄の中にあった新聞紙を広げようとした時。

 

 ガララ!と部室のドアが開いた。

 

「ヒッキー!!」

 

 部室に飛び込んできたのは由比ヶ浜だった。

 

 何やら慌てた様子で室内に駆け込んでくる。

 

「なんだ?」

 

 慌ただしい姿はいつものことなので、八幡は気にしていなかった。

 

 しかし、次の発言に八幡はおろか雪ノ下も言葉を失う。

 

 

 

「私、ママになっちゃった!」

 

 

 

「……ゴフッ」

 

「ハイ?」

 

 珍しく雪ノ下が紅茶を吹き出し、八幡は呆然と尋ね返すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルトラ警備隊が保護した渡り鳥怪獣について参謀会議の結果、渡り鳥怪獣は成鳥になるまで保護することが決定した。

 

 地球に害を与えないという事がわかっていることから電磁バリアを怪獣の半径ニ十キロ周辺を囲む形で展開されることとなる。

 

 そこで新たな問題が発生した。

 

 渡り鳥怪獣がグズりはじめたのだ。

 

 突然のことにウルトラ警備隊の面々は戸惑いながらも渡り鳥怪獣をあやそうとしたが効果がない。

 

 そこで宇宙怪獣などの研究について第一人者と言われる城野重蔵博士の話によって渡り鳥怪獣は生まれた時に初めて見たものに懐くという地球のひな鳥と似たような習性があるという。その話を聞いて、東郷隊員が由比ヶ浜に懐いていたことを思い出した。

 

東郷隊員とリサ隊員の二人は総武高校へ私服姿でやってきて由比ヶ浜に渡り鳥怪獣の面倒をみてほしいと協力要請をしたのである。

 

 由比ヶ浜は驚きながらも引き受けた。

 

 一部始終を聞いて八幡と雪ノ下はふぅと息を吐く。

 

「寿命が縮まった気分がしたわ」

 

「そこまではいかないが、驚いたのは事実だ」

 

 身振り手振りで話す由比ヶ浜を横に八幡と雪ノ下は肩をすくめる。

 

「それで、引き受けるのは良いが大丈夫なのか?」

 

「うん、ウルトラ警備隊の人も傍にいてくれるみたいだし……ねぇ、ヒッキー」

 

「なんだ?」

 

「私に、出来るかな?」

 

「やる前から不安になるのは当然のことだが、それを他人である俺へ尋ねるのは間違いだろ」

 

 不安そうに揺れる由比ヶ浜へ八幡は厳しく接する。

 

「お前は渡り鳥怪獣が巣立つまで面倒を見るという依頼を引き受けたんだからな、奉仕部の部員ならば最後まで責任をもってやり遂げるべきだ」

 

「そこの冷酷谷君に同意するわけじゃないけれど、由比ヶ浜さん、やる前に不安になるのは仕方のないことだわ。でも、不安で踏み出す勇気を躊躇うのはよくないと思う」

 

「ゆきのん……」

 

「何かあれば私達も協力するわ」

 

 にこりとほほ笑む雪ノ下の言葉に由比ヶ浜は不安そうな表情から破顔して抱き着いた。

 

 驚きながらも雪ノ下は嬉しそうに由比ヶ浜を抱きしめ返す。

 

 そんな彼女達のやり取りを見ながら八幡はMAXコーヒーを一口、含んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピィちゃん!」

 

 渡り鳥怪獣の保護エリア。

 

 総武高校のジャージ姿で由比ヶ浜は元気に手を振る。

 

 由比ヶ浜の姿を見つけた渡り鳥怪獣は嬉しそうに両手で振り返した。

 

「うわぁ、本当に由比ヶ浜ちゃんのこと親と認識しているんだな」

 

 ポインターから降りた渋川隊員は驚きながら由比ヶ浜と渡り鳥怪獣のやりとりをみて感想を漏らす。

 

「しかし、怪獣と人間が親子関係というのは変わっているな」

 

「いやいや、親子に怪獣も人間も関係ないって、東郷君~」

 

「渋川さん、俺より年上なのはわかるんですけど、君付けはちょっと」

 

「まぁまぁ、ここは年長者として可愛い女の子と怪獣の子供のやりとりを眺めるとしましょう」

 

 渋川の言葉に東郷隊員は苦笑するしかなかった。

 

 由比ヶ浜は餌を渡り鳥怪獣へ与える。

 

 渡り鳥怪獣ことピィちゃんは嬉しそうに餌を食べていた。

 

 ピィちゃんがおいしそうに餌を食べている姿を由比ヶ浜は優しく眺めている。

 

 餌を食べ終えたピィちゃんはぴょんぴょんと跳ねた。

 

 怪獣が跳ねることで小さな地震のような揺れが起こって由比ヶ浜は倒れそうになりながら笑顔を浮かべる。

 

 尚、渋川と東郷の二人はピィちゃんの起こした揺れに倒れないよう必死の姿でポインターにしがみつく。

 

 数時間ほどして、ピィちゃんはすやすやと気持ちよさそうに眠りについた。

 

 由比ヶ浜はピィちゃんの嘴をやさしく撫でてから渋川と東郷の方へ向かう。

 

「いつも悪いね!由比ヶ浜ちゃん!」

 

「いえ!こんな私でもできることがありますから」

 

 渋川の感謝の言葉に由比ヶ浜は苦笑する。

 

「でも、毎日、毎日、こんな山奥まですまないな」

 

 東郷は毎日、由比ヶ浜に山の保護エリアまで来てもらっていることに申し訳ない気持ちを抱いていた。

 

「まぁ、それも来週までの期限だな」

 

「え?」

 

 由比ヶ浜は東郷へ尋ねる。

 

「どういう意味です?」

 

「あぁ、今の成長速度で行くと来週に成鳥となって宇宙へ飛び立てるだろうということらしい」

 

「そう、なんですか」

 

 ポインターに乗り込む間際、由比ヶ浜は気持ちよさそうに寝ているピィちゃんをみた。

 

 別れの時は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、古橋隊長と梶隊員は宇宙空間で大量の渡り鳥怪獣を捕食したスペース・ジョーズ ザキラの行方を追っていた。

 

 多くの渡り鳥怪獣を捕食した存在が地球へ訪れるかもしれないという可能性を考慮したウルトラ警備隊は宇宙パトロールを強化、スペース・ジョーズ ザキラが地球へ来ないか警戒を強め、宇宙の巡回パトロールを行っていた。

 

「かなりの数の肉片らしきものが散らばっていますね」

 

「奴さん、かなりの数をくらったとみえる。こりゃ、餌を求めて地球へやってくる可能性も捨てきれないな」

 

 ウルトラホーク2号から外を見る梶。

 

 古橋はスペース・ジョーズザキラが強大な存在になっていることを予想する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと結衣!あーしの話を聞いているの!?」

 

 二年F組の教室内が一瞬だけ静かになった。

 

 突然のことに多くの生徒の視線を集めた。

 

 しかし、トップカーストの三浦優美子が周囲へ睨みを利かせるとすぐに視線を逸らす。

 

 三浦はぼーっとしていた由比ヶ浜に尋ねる。

 

「アンタ、最近、ぼーっとしていることが多すぎるわよ!どうしたのよ!」

 

「あー、ごめん、色々と考え事をしていて」

 

 小さく首を振りながら大丈夫という由比ヶ浜だが、離れたところにいる八幡からみても明らかに悩んでいることは明白だった。

 

「もう!勝手にしろし!」

 

 怒った三浦が教室を出ていく。

 

「結衣、本当に大丈夫か?何かあったら俺に相談してくれ」

 

 様子を伺っていた葉山隼人が笑顔で由比ヶ浜に言うが「大丈夫」と答えて、教室を出ていく。

 

「……巣立ちすることを悲しむ母親みたいなことになってんじゃねぇか」

 

 誰に聞かれることなく八幡は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奉仕部の部室。

 

 由比ヶ浜の姿はない。

 

 二人の本のページをめくる音だけが室内に響いた。

 

「由比ヶ浜さん、様子はどうかしら?」

 

「渡り鳥怪獣の巣立ちが来てほしいけれど、別れたくない、母親の気持ち丸出しだった。三浦が教室で怒鳴るほどだ」

 

「深刻ね」

 

「こればっかりは由比ヶ浜が決着をつけないとどうしょうもない問題だ」

 

「……私達にできることは何もない、のかしら?」

 

 雪ノ下の言葉に八幡は答えない。

 

「雪ノ下……」

 

「何かしら?」

 

「次の休み、暇か」

 

「デートのお誘いかしら?」

 

「そんなわけないだろ、ペガも連れてピクニックだ」

 

「貴方がそんなことを言うなんて驚きね」

 

「お前も心配だろ?由比ヶ浜のこと」

 

「当たり前よ。彼女は大事な存在なのだから」

 

 真剣に言う雪ノ下。

 

 その言葉にウソ偽りはない。

 

 本当に由比ヶ浜を大事に思っていることがわかる。

 

 こういう関係を八幡が望む本物だろうか?

 

 そんなことを思いながら八幡は机に置かれているMAXコーヒーを飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の休みの日、八幡はペガ、雪ノ下、由比ヶ浜と共に渡り鳥怪獣の保護エリアである場所までピクニックへ来ていた。

 

「ピィちゃん」

 

 少し離れたところで怪獣保護のための電磁バリアシステムが見える位置の近くでシートを広げて弁当を準備する。

 

「うわぁ、これ、おいしいね!」

 

「当然よ、私が作ったのだから」

 

 ペガは雪ノ下が作った弁当をおいしそうに食べていた。

 

 雪ノ下は小さく微笑みながら由比ヶ浜へおにぎりを差し出す。

 

「由比ヶ浜さんもどうぞ」

 

「……ありがとう、ゆきのん」

 

 小さく頷きながら由比ヶ浜はおにぎりを食べる。

 

「おいしい……おいしいよ、ゆきのん」

 

「ありがとう、そういってもらえると嬉しいわ」

 

 由比ヶ浜は食べかけのおにぎりをみて、渡り鳥怪獣のいる方向を見る。

 

「ピィちゃん、もうすぐ巣立ちなんだ」

 

「そう……」

 

「巣立ちっていうことはあれなんだよね、会えなくなる……ってことだよね」

 

 ぽつりと漏らす言葉に八幡は頷く。

 

「周りは巣立ちが大事だっていうけれど、別れたくないってあたしは思うんだ。これって、あたしの自分勝手な発言だよね」

 

「そうか?」

 

 八幡は疑問を漏らす。

 

「大事な人と別れたくないという思いは誰だってあるはずだ。由比ヶ浜の場合、その相手が渡り鳥怪獣だったっていうだけだろ?」

 

「そうかな……やっぱりさぁ、別れたくないや」

 

 自らの気持ちを吐き出す由比ヶ浜はやがてぽろぽろと涙をこぼす。

 

 雪ノ下は優しく、大事そうに由比ヶ浜の頭を撫でる。

 

 ペガも心配そうに由比ヶ浜を見つめた。

 

 八幡は彼女が落ち着くまで様子をみることにする。

 

 しかし、予期せぬ事態が宇宙で起こっていたことを彼らは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙ステーションV3が地球へ向かっているスペース・ジョーズ ザキラの姿をレーダーで捉える。

 

 連絡を受けた地球防衛軍極東基地からウルトラホーク2号が緊急発進。

 

 宇宙空間でスペース・ジョーズ ザキラを迎えうつ。

 

 ウルトラホーク2号のコクピット内で古橋隊長と梶隊員の二人は膨大なオーラを放つ怪獣の姿をみつける。

 

「奴め、かなりの力を蓄えているようだな」

 

 ウルトラホークの機内越しからでもわかるほど、ザキラは力を持っている。

 

「梶、迎撃準備!奴を決して地球へ向かわせるな!」

 

「了解!」

 

 ウルトラホーク2号からレーザー砲がザキラに向かって放たれた。

 

 ザキラは攻撃を受けても進行速度を緩めない、それどころかよりスピードを増して地球へ向かおうとする。

 

 進路を変えようと阻止するウルトラホーク2号のレーザー砲による攻撃。

 

 ザキラは体にレーザー砲を受けながらも突き進む。

 

 レーザー砲を放つウルトラホーク2号へザキラの目が怪しく輝いた。

 

 パノスレーザーがザキラの目から撃たれた。

 

 ザキラの攻撃はウルトラホーク2号へ直撃。

 

「くそっ、エンジンをやられました!怪獣を追跡できません!」

 

「くしょう!なんて奴だ!」

 

 警報を鳴らすウルトラホーク2号の中で古橋は悪態をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピィちゃんとちゃんと向き合うよ」

 

 由比ヶ浜の言葉に八幡と雪ノ下は頷いて怪獣保護エリアへ足を向ける。

 

 事前に由比ヶ浜がウルトラ警備隊へ連絡をしていたことでポインターに乗って東郷と渋川が待っていた。

 

「やぁ、由比ヶ浜ちゃん!」

 

「渋川さん、東郷さん!すいません、無理なお願いを聞いてくれて」

 

「いやいや、こちらこそ、渡り鳥怪獣の面倒を見てもらっているんだ。これくらいは大丈夫さ!」

 

 サムズアップする渋川、東郷も同じく微笑んでいる。

 

「あ、二人に紹介しますね?私の友達!ゆきのんとヒッキーです!」

 

「お前、ちゃんと自己紹介しろよな……比企谷八幡です」

 

「雪ノ下雪乃です。私達もピィちゃんと会って構いませんか?」

 

「勿論!ただし、口外は駄目だぜ?」

 

 にやりと笑みを浮かべて渋川が許可を出したことで三人は渡り鳥怪獣のところへ向かう。

 

 渡り鳥怪獣、ピィちゃんは由比ヶ浜をみつけると嬉しそうな声で鳴いて喜びの感情を表す。そして、八幡や雪ノ下をみると興味深そうにのぞき込んでくる。

 

「やっぱり、近くで見ると大きいわね」

 

「でも、可愛いでしょ?」

 

 嘴を伸ばしてくるピィちゃんを由比ヶ浜は優しく撫でる。

 

「もうすぐ巣立ちというのは本当みたいだな」

 

 ピィちゃんの成長具合を間近でみた八幡はもうまもなく宇宙へ飛び出せるだろうという事を理解した。

 

「ピィちゃん、もうすぐ巣立ちだね……別れるのは正直、嫌なんだ」

 

 ピィちゃんも同じことを思っているのか悲しそうな声をだしながらちろりと由比ヶ浜の頬を舐める。

 

「でも、私の我儘でピィちゃんをこの場所に閉じ込めておくのはよくないよね……だから、飛び立つときは泣かずに見送るからね!だから、今は……許して」

 

 涙を零しながら由比ヶ浜はピィちゃんへ抱き着く。

 

 彼女が悲しんでいることを理解しているのだろう、ピィちゃんも涙を零す。

 

 そんな姿を八幡と雪ノ下達は見守っていた。

 

 直後、八幡は真剣な表情で空を見る。

 

 ぞっとするような悪意のようなエネルギーを八幡は感じ取ったのだ。

 

 上空を八幡が睨んでいた直後、空から一体の怪獣が降り立つ。

 

「キミ達、こっちに避難するんだ!」

 

 怪獣が現れたことで東郷がウルトラガンを構えながら三人のところへ駆け寄って来る。

 

 八幡達もポインターの方へ向かう。

 

 降り立った怪獣はスペース・ジョーズ ザキラだ。

 

「こちら東郷!保護エリアに怪獣が出現!」

 

 ビデオシーバーを開いて東郷が極東基地へ応援要請をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「古橋隊長と連絡がとれない」

 

「じゃあ、私達が出撃するしかない」

 

「そうね!行きましょう!」

 

 極東基地で待機していたリサとユキの二人はウルトラホーク1号で出撃準備に入った。

 

 カタパルトに到着した二人はウルトラホーク1号に乗り込む。

 

『フォースゲートオープン、フォースゲートオープン』

 

 誘導アナウンスと共に管制塔の窓に特殊合金の金網が下りていくのと同調して、カタパルトの漆黒の天井が細く割れて青い空が見えてくる。

 

 巨大なレールに載って、二子山の斜面がスライドされてウルトラホーク1号が地下からその姿を現す。

 

『オーケー!レッツゴー!』

 

 管制塔からゴーサインが出たことを確認してウルトラホーク1号のエンジンが点火して大空へ飛び立つ。

 

 銀色の戦闘機が空を飛行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キミ達はここにいるんだ!いいね!」

 

 念を押して渋川はホルダーからウルトラガンを抜いて走り出す。

 

 東郷はポインターのバリアシステムを起動して、八幡達を守るようにしながら同じようにウルトラガンを片手に追いかける。

 

 渋川は現れたザキラにウルトラガンを撃つ。

 

 殺傷レベルに設定されたウルトラガンのレーザー光線がザキラに直撃する。

 

 光線を受けたザキラだが、体皮を少し溶かす程度だった。

 

 ザキラはダメージを気にせずに渡り鳥怪獣へ近づいていく。

 

 ボタボタとザキラの口の端から涎が零れる。

 

 目の前の獲物を捕食しようということだろう。

 

「ピィちゃん!」

 

 ポインターの車内で由比ヶ浜が悲鳴を上げる。

 

 渋川や東郷がウルトラガンで攻撃しているが効果がない。

 

 ザキラはピィちゃんを守っている電磁バリアへ手を伸ばす。

 

 バチバチと電磁バリアがザキラの手にダメージを与えた。

 

 目の前に餌があるのに邪魔されたことでザキラは苛立ちを隠さずに電磁バリアを展開している塔を破壊する。

 

 渡り鳥怪獣を捕食して通常よりもパワーが増しているザキラの一撃によって電磁バリアがなくなり、目の前の餌を阻むものはなくなった。

 

 舌なめずりしながらピィちゃんへ近づこうとする。

 

 天敵が現れたことを本能的に理解したピィちゃんは悲鳴を上げて逃げようとした。

 

 しかし、恐怖によって体がすくんでしまい、地面へ倒れてしまう。

 

「ピィちゃんが!」

 

 涎を垂らしながら近付くザキラをみて、八幡はポインターのバリアをオフにした。

 

「二人はここにいろ、ペガ、後は頼む」

 

「ヒッキー!?」

 

「比企谷君!」

 

 外へ出た比企谷は胸ポケットからウルトラアイを取り出す。

 

 あの怪獣は渡り鳥怪獣を捕食してかなりの力を有している。

 

 そんな相手に自分が勝てるのだろうか?

 

 不安を抱きながらも八幡はウルトラアイを見つめる。

 

 八幡は泣きそうにピィちゃんをみている由比ヶ浜をみた。

 

 いや、必ず、勝つのだ。

 

「デュワ!」

 

 意識を集中させながらウルトラアイを装着する。

 

 眩い閃光とエネルギーが体内を駆け巡って、比企谷八幡の体はM78星雲の宇宙人、ウルトラセブンへその姿を変える。

 

一瞬で巨大な姿に変身したウルトラセブンはピィを捕食しようとしたスペース・ジョーズザキラの背にキックを入れた。

 

 ウルトラセブンのキックを受けたというのにザキラは振り返り、タックルしてくる。

 

 攻撃を防ごうとしたウルトラセブンだが、ザキラの力は想像以上に強く、吹き飛ばされてしまう。

 

 攻撃を受けたウルトラセブンが起き上がろうとした時、ザキラの瞳からパノスレーザーが撃たれた。

 

 レーザーがセブンの体に直撃、赤い体をバチバチと焼くような痛みに苦悶の声を上げながら耐える。

 

 ザキラは膝をついたセブンからピィへ視線を向けた。

 

 ウルトラセブンよりも渡り鳥怪獣の捕食を考えているのだろう。

 

 膝をつきながらもウルトラセブンが額のビームランプからエメリウム光線を放つ。

 

 光線を受けたザキラは怒りの声を上げながら振り返り、猛進してウルトラセブンへ突撃してきた。

 

 攻撃を防げなかったウルトラセブンは地面を転がる。

 

 ザキラの背にミサイルが直撃した。

 

 上空にウルトラホーク1号が飛行する。

 

「ブレイカーナックルミサイル発射!」

 

 ユキがウルトラホーク1号の操縦桿の横にあるボタンを押して攻撃を仕掛ける。

 

 しかし、ザキラはブレイカーナックルを受けて平然としていた。

 

 それどころか攻撃を受けて唸り声を上げながらウルトラホーク1号へ尻尾を振るう。

 

 回避しようとしたウルトラホーク1号だったが、後部に尾が直撃して黒煙をあげながら墜落していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「苦戦しているよぉ!」

 

 ポインターからウルトラセブンとザキラの戦いを見ていたペガが困惑した声を上げる。

 

 大量の渡り鳥怪獣を捕食したザキラは通常よりもパワーが上昇しており、ウルトラセブンといえど苦戦してしまう存在になっていた。

 

「ヒッキー……」

 

 ふらふらと起き上がりながらもウルトラセブンはピィちゃんを守るために立ち上がる。

 

 ザキラの攻撃を受けながらもピィちゃんを守ろうとするウルトラセブン。

 

 勝てない相手だろうと挑もうとする姿に由比ヶ浜は覚悟を決めたように鞄から一つのアイテムを取り出す。

 

「結衣ちゃん!?」

 

「由比ヶ浜さん、それは……」

 

 雪ノ下は驚いた表情で彼女が取り出したアイテムをみる。

 

 最初は驚いていた雪ノ下だが、由比ヶ浜の真剣な表情に気付いて、静かに尋ねた。

 

「行くの?」

 

「うん、ヒッキーが命がけでピィちゃんを守ろうとしてくれているんだ。それなのにあたしが何もしないなんておかしいし、だって、あたし、ピィちゃんのお母さんだもん!」

 

「そう、なら、止めないわ」

 

「ありがとう、ごめんね、ゆきのん」

 

 ポインターから出た由比ヶ浜は手の中にあるアイテム『ジャイロ』を握り締める。

 

 ワームホールで飛ばされた先で由比ヶ浜が手に入れたアイテム。

 

 これを使うのは久しぶりである。

 

「ピィちゃん、今、行くからね!」

 

 泣いて怯えている渡り鳥怪獣の姿をみながら由比ヶ浜はジャイロの中心に怪獣が描かれたクリスタルをはめ込む。

 

 ジャイロの左右のハンドルを引っ張りながら空へ掲げる。

 

【グルジオキング】

 

 光と共に由比ヶ浜の体が包まれてその体は瞬時に巨大な怪獣、爆撃骨獣 グルジオキングにその姿を変えた。

 

 出現したグルジオキングはザキラへ頭部の角で突進する。

 

『ヒッキー!』

 

 グルジオキングからテレパシーでウルトラセブンへ語り掛ける。

 

『お前……どうして』

 

『私だってピィちゃんを守りたいもん!』

 

『そうか……行くぞ!』

 

 ウルトラセブンとグルジオキングがザキラと戦闘を始める。

 

 ザキラの光線が放たれるもウルトラバリヤーで防ぐ。

 

『今だ!』

 

『うん!くらえぇ、えっとぉ、ギガキングキャノン!!』

 

 グルジオキングの背中の大砲、グルジオバレルから放たれた技がザキラの体を撃ちぬいた。

 

 ザキラは苦悶の声を上げながらパノスレーザーを放つ。

 

 狙いは怯えている渡り鳥怪獣、ピィちゃんだ。

 

『ピィちゃんはやらせない!』

 

 両手を広げてグルジオキングがレーザー攻撃をその身で受け止める。

 

 バチバチと背中が焼けるような痛みを感じながらもレーザーを受け続けた。

 

『ピィちゃんは、あたしが、守るから』

 

 必死にザキラのレーザー攻撃に耐えるグルジオキングこと由比ヶ浜の姿にピィは涙を零しながらも両腕の翼を広げる。

 

 地面を蹴りながら舞い上がったピィは急降下して光線を撃ち続けているザキラへ突進した。

 

 突進を受けたザキラはバランスを崩して光線が止まる。

 

 ザキラは怒りのあまりピィを殴り飛ばして、そのまま食い殺そうとした。

 

「デュワ!」

 

 ウルトラセブンが頭頂のアイスラッガーを投げる。

 

 光に包まれたアイスラッガーがザキラの体を真っ二つに切り裂く。

 

 左右に体が割れてザキラは地面に倒れた。

 

 こと切れたザキラ。

 

 ふらふらと起き上がったグルジオキングへピィちゃんが近づいていく。

 

 心配そうな声を上げるピィちゃんをグルジオキングが優しく撫でる。

 

『由比ヶ浜』

 

 ウルトラセブンがテレパシーでグルジオキングこと由比ヶ浜へ問いかけた。

 

『渡り鳥怪獣は成鳥になった……もう、宇宙空間へ飛び立てる』

 

『そっかぁ』

 

 グルジオキング内で由比ヶ浜は泣きそうになるのを堪えながら目の前で自分に甘えてくるピィちゃんの頭を撫でる。

 

『ヒッキー、お願いがあるんだけど』

 

『なんだ?』

 

『あたし、ピィちゃんを最後まで見守りたい』

 

『……わかった』

 

 頷いたウルトラセブン。

 

『ピィちゃん』

 

 グルジオキングはピィちゃんを優しく撫でる。

 

『これから大変なこともあるかもしれないけれど……頑張って生きて』

 

 巣立ち。

 

 その言葉が頭に浮かぶ。

 

 ピィちゃんは由比ヶ浜の気持ちが伝わったのか頷いて両手の翼を広げて青空に向かって飛んでいく。

 

 グルジオキングから由比ヶ浜の姿へ戻ると、差し出されたウルトラセブンの掌に乗る。

 

 ウルトラセブンは赤い球体にその姿を変えると渡り鳥怪獣ピィちゃんを追いかけて宇宙へ飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球から何万光年も離れたある銀河系。

 

 そこには無数の渡り鳥怪獣が群れで飛んでいる。

 

 赤い球体の中で由比ヶ浜とウルトラセブンはその群れへ合流しようとするピィちゃんの姿を見つめていた。

 

 ピィちゃんは怯えることなくゆっくりと群れに合流する。

 

「ありがとう、ヒッキー」

 

「もう、いいのか?」

 

「うん……これ以上はあたしも心配してずっとついていっちゃいそうだもん」

 

「わかった」

 

 赤い球体は進路を地球へとる。

 

「元気でね、ピィちゃん」

 

 去り際に由比ヶ浜は微笑みながら群れと旅立つピィちゃんに告げた。

 

 

 

 

 

 




簡単な怪獣紹介

渡り鳥怪獣バル
出典はウルトラマン80
今回はピィちゃんという名前を由比ヶ浜からもらう。
大人しい怪獣で群れで温かい惑星を目指す怪獣。
今作では由比ヶ浜を親と認識したようにウルトラマン80においても、UGM隊員の矢的猛を親と認識してしまう。
ウルトラマン80においてはザキラから80を守ろうとして命を落としてしまうが、今作においてはウルトラセブンとグルジオキングの姿になった由比ヶ浜のおかげで無事に地球を巣立つ。


スペースジョーズ ザキラ
ウルトラマン80に登場する怪獣、上記の渡り鳥怪獣の天敵である。
基本的に渡り鳥怪獣を捕食する。今作においては餌を求めて地球へ飛来、保護されていた渡り鳥怪獣を狙い、ウルトラセブンと戦闘になる。
かなりの数の渡り鳥怪獣を捕食していたことで膨大な力を宿しており、セブンも苦戦を強いられるがグルジオキングに変身した由比ヶ浜の参戦によって状況は一転、さらに渡り鳥怪獣ピィちゃんからの攻撃を受けたところでウルトラセブンのアイスラッガーを受けて体が両断されるという最後を迎えた。


一応、次回も近いうちに投稿する予定です。


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第三話:緑の再来

台風が猛威を振るっていますが、みなさん、大丈夫でしょうか?

こちらは雨の中車を運転して、周りが暴走気味でヒヤヒヤしておりました。


さて、この話も三話目、一応、これの反響次第で、続けるかどうかを決めます。

予想出来ているかもしれませんが、今回の話は彼女メインでもあります。

ちなみに、少しばかりアンチヘイトがありますが、別に嫌いというわけではありません。


 

 

――夢をみていた。

 

 

 

 銀河系に数多ある惑星の一つ。

 

 生命が存在しないその惑星で私は一人の宇宙人と対峙していた。

 

「貴様を潰す!いけ!レイキュバス!」

 

 これから私は目の前の相手を殺す。

 

 殺すと言っても直接、殺すわけではない。

 

 自らが使役する“怪獣”を使って倒すのだ。

 

「ヒッ――」

 

 相手が悲鳴を上げながら地面へ崩れ落ちる。

 

 私はゆっくりとこと切れた相手の手の中にあったアイテムを拾い上げた。

 

「勝ったようだね」

 

「おねえちゃん」

 

 私は笑顔を浮かべてやってきた相手に駆け寄る。

 

 右目に黄色い傷のようなものがあるけれど、おねえちゃんは笑顔で私の頭を撫でてくれた。

 

「キミとコイツに勝てる相手はいないだろう。そう、キミがこのまま勝ち続けてくれるととても嬉しいよ」

 

「任せて、頑張るから」

 

 この時の私はきっと無邪気な笑顔を浮かべていただろう。

 

 姉と呼んでいた相手がどういう目的で私を利用していたのか知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの日の夢……」

 

 夜中に目が覚めた私はベッドから体を起こす。

 

 全身から流れた汗でパジャマがベトベトだ。

 

「シャワーでも浴びようかしら」

 

 はぁ、とため息を零しながら私はパジャマを脱いでシャワーを浴びる。

 

 体を少し冷やしてから新しいパジャマに着替えた。

 

 そのまま寝ようとするけれど、シャワーで汗を流した為か……少しばかり目が冴えてしまう。

 

 どうせなので勉強をすることにした。

 

 頭を使えば少しは休めるだろう。

 

 そう考えて、購入しておいた宇宙関係の本を手に取る。

 

「誰が信じるかしらね……一年前に多次元宇宙を旅したなんて」

 

 自嘲な笑みを浮かべながら私は本を開く。

 

 将来は宇宙関係の仕事に就きたい。

 

 それが今の私の将来。

 

 もう一度、広大な宇宙へ行きたい。

 

「けれど、あの夢をみてしまうと……」

 

 今まであの夢を見なかった。

 

 思い出したのはここ数日、怪事件に遭遇したことだろう。

 

 三面怪人ダダによる人の誘拐、

 

 渡り鳥怪獣ピィちゃんとスペース・ジョーズザキラの襲来、

 

 短い期間にこれだけの事件に遭遇したことであの時の出来事を思い出してしまったのだろう。

 

「ふぁわぁ」

 

 小さな欠伸が口から漏れる。

 

 本を閉じた。

 

 そのままベッドへ横になる。

 

 私はそのまま夢の世界へ向かう。

 

 できれば、幸せな夢を見たいと思うのは、我儘だろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつもの奉仕部の日常。

 

 その日は珍しいことに来客があった。

 

「失礼します!」

 

「あ、彩ちゃん」

 

 部室内に入ってきたのは小柄で童顔の少年。

 

 八幡は女の子が来たと勘違いしそうになったがすぐに体の骨格などで理解することができた。

 

「あれ、比企谷君?」

 

「うん?誰だ」

 

「ヒッキー!?何言っているの!?同じクラスだよ!」

 

 由比ヶ浜が目を丸くしながら八幡へ言う。

 

「あー、悪い。クラスメイトの顔、覚えていないわ」

 

「貴方らしいわね」

 

 ため息を吐きながら雪ノ下は文庫本を閉じる。

 

「えっと、僕は戸塚彩加っていいます。実はここのことを聞いて依頼をしたくてきました!」

 

「依頼?」

 

「はい!」

 

 頷いた戸塚の話によれば、テニス部に刺激を与えるために自分を強くしてほしいというものだった。

 

 三年生がまもなく受験で抜けてしまうことと、不慣れな一年生もいることから、モチベーションが低くテニス部の実力低下が深刻であるということから刺激を与えたいということらしい。

 

「そうね、いいわ」

 

「大丈夫なのか?」

 

「私がメニューを考案するから比企谷君はチェックをしてくれるかしら」

 

「あ、俺が?」

 

「えぇ、だって」

 

――人の構造などは詳しいでしょう?

 

 そこから先の言葉は小さくて戸塚は聞き取れなかったが八幡はため息を吐きながら了承した。

 

 翌日から雪ノ下雪乃考案のメニューがはじまった。

 

 基本的な体力づくりに始まり、テニスボールを使っての本格的な技術向上メニューが組み込まれていき、体を虐めるため、一見するとスパルタのようなイメージもあったけれど、戸塚が精いっぱいにこなしていることから一週間で効果が出てきた。

 

「彩ちゃん、凄い!」

 

「体力面もそうだけれど、彼自身が強くなりたいと思っているからでしょうね。精神面もかなり強くなっているわ」

 

 少し前まで本人は自信がもてないということや、気弱な印象もあった。

 

 しかし、テニスにおいては本気でやっている。

 

 疲労でふらふらになりながらも次のボールを取ろうと構える姿は雪ノ下や八幡も好感をもてた。見ているだけしかできない由比ヶ浜も凄いと叫んでいた。

 

「あー、テニスやってんじゃん!テニス!」

 

 その時、水を差すような声がテニスコートの外から聞こえてきた。

 

 視線を向けると八幡と由比ヶ浜と同じクラスで強い影響力を持っている三浦優美子と葉山隼人のグループがやって着た。

 

「ね、戸塚~、あーしらもここで遊んでいい?」

 

「悪いけど、遊んでいるわけじゃないから、今、練習中だし」

 

 片手に持っていた缶ジュースを飲み干し、軽い調子で尋ねた三浦へ戸塚ははっきりと拒絶する。

 

 戸塚の性格を知っていた三浦は自分が押せば許可するだろうと思っていた。しかし、雪ノ下や八幡たちによって鍛えられた彼は肉体や精神面も強くなり、以前と異なってはっきり否定できるようになっていた。

 

 それでもプライドの高い三浦は諦める様子を見せず、彼女の状況を察した葉山が笑顔で戸塚に話しかける。

 

「まぁまぁ、あまり喧嘩腰にならないでよ、戸塚君。みんなでやった方が楽しいし、ほら、俺達も手伝うから」

 

「悪いけれど、楽しく練習をするためじゃない。僕は真剣にやっているんだよ。だから、断るよ」

 

「それは……」

 

「言っておくけれど、このテニスコートは部の施設扱いなんだ。だから使うためには許可を取る必要があるんだ。申請も前日中に出す必要があるから、悪いけれど、無理なんだ」

 

「正論ね」

 

 ぽつりと雪ノ下が漏らした言葉に三浦が反応して睨む。

 

「アンタ、何様のつもり?」

 

「あー、これは失礼。俺達は戸塚の手伝いでここにいるんでね、ちゃんと戸塚が許可を取ってくれてここにいる。突然の乱入者じゃないんだよ」

 

 雪ノ下と三浦が争いにならないように間へ入ったつもりの八幡だったが、火に油を注いでしまう。

 

「戸塚にアンタら生意気なんじゃ……」

 

 突如、三浦が喉元を抑える。

 

「優美子?」

 

 彼女の様子がおかしくなったことに気付いて葉山が彼女へ声をかける。

 

「う、ぐ、ぐぁあああ!」

 

 葉山の声に振り返った三浦優美子。

 

 その顔は緑色の怪物へ変貌していた。

 

「うわぁあああ!」

 

 緑色の怪物へ変貌していく姿は一種のホラーだ。

 

 突然のことにグループの誰かが悲鳴を上げて逃げ出す。

 

「は、はや、と」

 

「皆下がって!」

 

 緑色の植物みたいな手を伸ばして三浦は葉山に助けを求める。

 

 しかし、葉山も顔は恐怖に染まって他のグループを守るように遠ざけていた。

 

 その姿は自分を異物としてみている。

 

 はっきりとそう三浦は感じてしまった。

 

 恐怖で震える彼女をみて、冷静に動いた者達がいる。

 

「戸塚君、テニスコート周辺に誰も近づけないようにして」

 

「え、あ、うん!」

 

 雪ノ下が戸塚へ誰も近づけないように指示を出すと手元の端末からウルトラ警備隊へ通報する。

 

 ここで警察を呼んだとしても彼らの範疇に収まらない。怪事件のエキスパートと言えるウルトラ警備隊を呼ぶべきだと彼女は考えたのだ。

 

 そして、二人が緑色の怪物へ変貌していく三浦へ近づく。

 

「優美子!大丈夫!?」

 

「ゆ、い……」

 

「意識はあるようだな、深呼吸して、落ち着くんだ」

 

 異形になっていく彼女の手を握り締めて必死に呼びかける由比ヶ浜。

 

 八幡は脈を図りながら誰にも気づかれないように三浦の体を透視する。

 

「(体内の細胞が急速に変化している。何かウィルスのようなものが侵入しているのか?)」

 

 冷静に調べながら八幡は念力を使いながら三浦の精神を落ち着かせようとする。

 

 理性を失って暴走すれば、より大きな被害に繋がる恐れがあると踏んだからだ。

やがて、ある程度、落ち着いたのか三浦の意識はゆっくりと落ちて、地面へ横になった。

 

「ゆ、優美子は大丈夫なのかい?」

 

 苦悶の声をあげることなく横たわった三浦の様態を葉山が問いかける。

 

「今は気絶している、安静にしておいた方がいいだろう」

 

「そうか、ありがとう」

 

 ちらりと葉山を一瞥してから八幡は考える。

 

 何かが起こっている。

 

 それは嫌でも感じさせられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウルトラ警備隊です」

 

 通報を受けたウルトラ警備隊が駆け付けると警察が既に立ち入り禁止のテープを貼っていた。

 

 立ち入り禁止のテープ前で立っている警官へ渋川が身分証明をみせる。

 

 隊員服とヘルメットでわかるかもしれないが身分証明を見せることは規則として決まっていた。

 

 一緒にきたリサと共に立ち入り禁止のテープを潜り抜ける。

 

 テープの向こうでは一足先にやってきていた古橋と梶の姿があった。

 

「お待たせ!」

 

「渋川隊員、遅いですよ」

 

「無茶言うなって、ホーク1号でのパトロールから帰ってきて大急ぎでポインター乗ってきたんだぜ?」

 

「ところで、状況は?」

 

 渋川を横へ押しのけながらリサが尋ねる。

 

「目撃者の話によると少女が突然苦しみだして植物の怪物へ姿を変えたという事だ」

 

「そんなこと、ありえるの?エイリアンの擬態が解けたとかそういう話じゃ?」

 

 驚きを隠せない表情でリサは問いかける。

 

 人が怪物へ変身する。

 

 それでウルトラ警備隊が真っ先に考えるのは人間へ擬態していたエイリアンが本性を現すという瞬間。

 

 何度も目撃してきたからこその考えをリサは言うが、梶は無言で首を振る。

 

「問題の少女は防衛軍のメディカルセンターで検査を受けている。その結果待ちだな」

 

「メディカルセンターの方は?」

 

「そっちはユキに行ってもらっている。俺達は目撃者の事情聴取と周辺の調査だ。念のため、ウルトラガンはパラライザーモードにしておけ」

 

「わかりました」

 

 四人はウルトラガンを取り出してモードを切り替える。

 

「そういや、東郷隊員は?」

 

「目撃者の事情聴取だ」

 

 そう言いながら古橋は学校の方をみる。

 

「なんともまぁ、数奇な運命なこった」

 

 呟いた彼の言葉が暗闇の中に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いね、詳しい話を聞かないといけないんだ」

 

 にこりとほほ笑みながら東郷は目撃者である八幡、雪ノ下、由比ヶ浜、戸塚、葉山へ尋ねる。

 

 目撃者は他にもいたのだが、一番近くにいたということで選ばれた。

 

 葉山のグループについては他言無用を約束して、警察に送ってもらったのである。

 

 友人である三浦が異形へ姿を変えたことにショックを受けている由比ヶ浜はスカートを両手で握り締めて俯いていた。

 

 雪ノ下は彼女を見て心配そうにみている。

 

 戸塚は不安そうにちらちらと周囲を見渡していた。

 

「勿論です。俺達にできることなら」

 

 その中で力強く答えるのは葉山だ。

 

 八幡は思案するように窓からみえる景色を見ていた。

 

 葉山は東郷隊員へ自身が目撃したことを話す。

 

 少し戸惑っているところもあるのか、彼自身の主観の話も混じっていたが、東郷もそこはわかっているのだろう。

 

「そうか、ありがとう」

 

 話し終えた葉山に東郷は柔和な笑みを浮かべて頷いた。

 

「キミ達にも確認だが、彼の話した内容であっているかな?」

 

「概ねといったところかしら、私達も三浦さんに何が起こったのかはっきりとわかっていないですから」

 

 代表する形で雪ノ下は答える。

 

「そうか、すまない」

 

「あの、東郷さん、優美子はどうなるんですか?」

 

 由比ヶ浜がおずおずと尋ねる。

 

「防衛軍管轄のメディカルセンターで検査を行っている。人間へ戻れる方法も探すことになるからしばらくは入院ということになると思う」

 

「あの、会うことは」

 

「すまない、しばらくは面会謝絶になる。空気感染も考えられるから」

 

「そんな、優美子……」

 

「結衣、彼らだって仕事なんだ。迷惑をかけちゃ駄目だ」

 

「何で!?優美子は友達なんだよ!心配して会いたいと思っちゃいけないの!?」

 

 葉山としては優しく説得するつもりだったのだろう。

 

 だが、今の由比ヶ浜にとっては怒りの起爆剤でしかない。

 

「落ち着け、由比ヶ浜」

 

「ヒッキー……」

 

 立ち上がった由比ヶ浜をやんわりと抑えたのは八幡だった。

 

「東郷隊員、み、三浦は命に別状はないんですね?」

 

「あぁ」

 

「ヒッキー、優美子が」

 

「今はウルトラ警備隊と防衛軍を信じるしかない……三浦も変異したからって元は人間なんだ。今はアイツが戻ってくることを信じろ」

 

「そう、だね……うん!」

 

 頷いた由比ヶ浜は目元の涙をぬぐって笑顔を浮かべた。

 

 無理した笑顔だったが、ふさぎ込んでいるよりかは幾分もマシだ。

 

 そんな二人のやり取りを雪ノ下は横でみていた。

 

「周辺の調査が終わり次第、キミ達も家へ送り届けよう!ウルトラ警備隊のポインターに乗れる滅多にないチャンスだぞ!」

 

 皆を明るくさせるつもりで東郷隊員が笑顔で言う。

 

「本当ですか!?」

 

 静かにしていた戸塚が笑顔を浮かべる。

 

 東郷隊員は腕のビデオシーバーからの着信に立ち上がった。

 

「ここで待っていてくれ」

 

 全員が頷いたことを確認して東郷は外へ出る。

 

「はい、東郷」

 

『古橋だ。目撃者の子供の様子はどうだ?』

 

「落ち着いてはいます。ただ、いきなり友達が目の前で変異したことで戸惑いは隠せていません」

 

『そうか、学校周辺の調査は完了した。東郷隊員はリサ隊員と一緒に目撃者の子供たちを送り届けてほしい』

 

「わかりました……隊長、メディカルセンターに運ばれた子は」

 

『今のところ、命に別状はない……検査の途中だが、彼女はエイリアンではないという結果がでている』

 

 古橋からの連絡で東郷は安堵の息を漏らす。

 

 もし、三浦優美子がエイリアンに擬態した姿だったのならば、排除の可能性もあり得た。

 

 彼女が人間だという結果が出た以上、隔離はありえるだろうけれど命が奪われる心配は消える。

 

 そのことに東郷は安心した。

 

 しかし、事件ははじまったばかりであるということを、ウルトラ警備隊はおろか、誰も知る由がなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件から四日が経過した。

 

 三浦優美子が異形な姿へ変わった事件を皮切りに既に十人もの人間が緑色の怪物へその姿を変えている。

 

 地球防衛軍は警察を通して夜間外出禁止を徹底させる。

 

 夜間はウルトラ警備隊、準隊員や警察が交代を行いながらも徹底的にパトロールを行っているのだが、目撃者はおろか怪しい人物の情報がない。

 

 ウルトラ警備隊司令室は緊張した空気が漂っている。

 

 古橋隊長が司令室のスクリーンにモンスター&エイリアンのファイルを表示した。

 

 現れるのは緑色の植物のようなエイリアンの姿。

 

「ワイアール星人、こいつはステーションV3の職員に姿を変えて地球へ侵入後、地球人を次々と人間性物Xへその姿を変えた」

 

「隊長はこの事件がワイアール星人の仕業だと?」

 

「人間生物Xへ姿を変える液体が変異した人々の中から検出されたとメディカルセンターから報告があった……だが、俺はどうもワイアール星人の仕業と思えない。ワイアール星人の仕業にしては、宇宙人の影も形も見えないというところに納得がいかねぇ」

 

「では、何の仕業だと」

 

「わからん、だが、このままいけば、徐々に被害が増えることは事実だ。早急に液体の出所を調べなければならない」

 

 ウルトラ警備隊の司令室内に重苦しい空気が広がるのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪ノ下雪乃は夜道を歩いていた。

 

 夜間外出命令の時間が刻々と近づいている中で彼女は買い物を済ませて、家を目指している。

 

 ふと、彼女は暗闇の向こうに何かがいることに気付く。

 

 その人物は自販機を眺めている。

 

「貴方、何をしているの」

 

 気付けば雪ノ下は相手へ問いかけた。

 

 相手はちらりと雪ノ下をみると怪しい笑みを浮かべる。

 

「貴方、宇宙人ね」

 

 雪ノ下は笑みを浮かべる相手の姿が偽装したものだと見抜く。

 

 それは過去の経験からくるもの。

 

 笑みを浮かべていた相手が姿を変えた。

 

 人の姿から黒を基調とした体に青く輝く二つの瞳、銀や赤などの姿をした宇宙人。

 

「メフィラス星人ね」

 

「ほぉ、この姿を見ても驚かないとはなぁ」

 

「その手にある液体の詰まったケース、貴方ね、三浦さんや多くの人を植物人間へ姿を変えさせたのは……なぜなの?」

 

「地球が欲しい」

 

 両手を広げてメフィラス星人は伝える。

 

「宇宙のオアシスともいわれるこの星を手に入れたいと思うのは当然のことだろう?そのためには星に住まう生き物が邪魔だ。お前もわかっているはずだ、人間は醜いと」

 

「そんなこと」

 

「ないと言い切れるのか?ゼットン星人の右腕として戦っていたレイオニクスよ」

 

 雪ノ下の呼吸が止まる。

 

 それがわかっていたのかにやりとメフィラス星人が笑う。

 

「知っているぞ。ゼットン星人の右腕として多くの敵を叩き潰した最強のレイオニクスが地球にいるとなぁ」

 

「もし、私がそうだったら、何だというの?」

 

「俺と手を組まないか?」

 

 手を差し伸べるメフィラス星人。

 

 一瞬、過去の記憶がフラッシュバックする。

 

 ぶるぶると体が震えた。

 

 呼吸が荒くなっていく。

 

「お前の力と俺の頭脳!それがあれば、この星を支配することなど造作もない!地球防衛軍、ウルトラ警備隊も手も足も出ていないこの状況で、お前の持つ最強怪獣を使えば!」

 

 いつの間にか近づいてきたメフィラス星人が雪ノ下の腕を掴む。

 

 悲鳴を漏らして離れようとするがすさまじい力で逃れることができない。

 

 メフィラス星人の瞳が怪しく輝いた瞬間。

 

 衝撃波によってメフィラス星人が吹き飛ばされた。

 

 自販機に激突して大きな音を立てる。

 

「だ、ダメ!」

 

 宙に浮いた鞄が彼女を守るように怪しい光を放っていた。

 

 雪ノ下は鞄の中にあるものを必死に抑え込む。

 

 ぶるぶると彼女の手の中で暴れようとしている存在。

 

 それが外に出ることを雪ノ下は恐れている。

 

 必死に鞄を胸元で抱きしめた。

 

 やがて、光を放っていた何かがゆっくりと収まる。

 

「ぐぅぅ、なんて力だ。だがますます、欲しく」

 

「おい!そこで何をしている!」

 

 懐中電灯の光を向けられたことでメフィラス星人は振り返る。

 

「う、宇宙人」

 

 メフィラス星人を発見したのは巡回していた警察官だった。

 

 驚いている一人の横で年配の警官が無線で応援要請をする。

 

「ちぃ」

 

 メフィラス星人は手の中のカプセルを持ったまま走り出す。

 

 警察官が追いかける中で雪ノ下はぺたりと座り込む。

 

 髪が乱れて、過呼吸を起こす。

 

 ひどく、苦しい。

 

「たす、けて」

 

 ぽつりと漏らした言葉は誰に聞かれることなく地面に倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッキー!こっち!」

 

 雪ノ下雪乃が倒れたという連絡を由比ヶ浜から受けた八幡

 

 病院の通路で手を振る由比ヶ浜。

 

「声がでかい、静かにしろよ」

 

「無理だよ!だって、ゆきのんが!」

 

「落ち着け」

 

 小さく諭すようにいいながら八幡は尋ねる。

 

「雪ノ下が宇宙人に襲われたっていうのは本当なのか?」

 

「うん、東郷さんが連絡してきてくれて、それでいてもたってもいられなくて」

 

「中には入れるのか?」

 

「……うん」

 

 ノックをして中に入る。

 

 綺麗な病室の中で上半身を起こした状態の雪ノ下、そしてウルトラ警備隊の渋川と梶の両名がいた。

 

 ウルトラ警備隊がいたことで八幡と由比ヶ浜は小さく挨拶をする。

 

「じゃあ、キミはエイリアンの姿を目撃しただけだというんだね?」

 

「はい……夜間外出禁止時間が迫っていたので足早に帰ろうとしていましたら、自販機に何かをしようとしている宇宙人の姿が」

 

「じゃあ、他になにか話をしたことは」

 

「梶、雪ノ下ちゃんは疲れているんだ。そんな尋問めいた問いかけはやめてやれよ」

 

「渋川隊員、俺達はエイリアンを追いかけているんですよ。被害者は今も出ている、悠長にしている時間はないんです」

 

「だからって、一般人である雪ノ下ちゃんにここまで尋問めいたことする必要はないだろ?」

 

「そう、ですね……すまない」

 

「いえ、貴方達の仕事は理解しているつもりですので」

 

 謝罪する梶に雪ノ下は首を振った。

 

「また、何か思い出したら教えてほしい」

 

「安静にするんだよ」

 

 渋川と梶は感謝の言葉を告げて病室を出ていく。

 

「えっと、ゆきのん、大丈夫?」

 

 由比ヶ浜は横になっている雪ノ下へ問いかける。

 

「大丈夫と言いたいところだけれど、かなり疲れているわ」

 

「何があったんだ」

 

 八幡が静かに尋ねる。

 

「エイリアン、いいえ、メフィラス星人に勧誘されたわ。私の力……狙っていたわ」

 

「……ウルトラ警備隊にそのことは」

 

「伝えられるわけないじゃない……話すという事は私が、私が侵略者の片棒を担いだことを伝えるのと一緒なのよ!」

 

 慟哭する雪ノ下の言葉に由比ヶ浜は言葉を失う。

 

「で、でも、あの時はゆきのん、操られていただけで」

 

「それで許されると思う?私は、姉と語ったあのゼットン星人の為に多くの星人を滅ぼした。相手を叩き潰すために……この力を使ったのよ!」

 

 叫ぶ雪ノ下の手に握られているアイテム。

 

――バトルナイザー。

 

 並行世界の宇宙でレイブラッド星人が自らの後継者を生み出すために作り出したアイテム、レイオニクスのみが操ることができるバトルナイザーをみせた。

 

「私は許されるべき存在じゃない」

 

「そんなことないよ!」

 

 由比ヶ浜が雪ノ下の両手を握り締める。

 

 バトルナイザーが布団の上へ落ちた。

 

「ゆきのんは操られていたんだよ!本心でやったわけじゃないって、あたしも、ヒッキーも知っている!何より、ゆきのんは後悔しているじゃん!だから、あの時、ヒッキーのお兄さん達を助けようとした。だから、ヒッキーのお兄さん達も、あの父さんも許してくれたんだよ!」

 

「私は……」

 

「雪ノ下」

 

 八幡がゆっくりと雪ノ下の前に立つ。

 

「お前が本当にどうしょうもない悪人で最低最悪のレイオニクスだというのなら俺が、いや、私がキミを倒そう」

 

 ウルトラアイを取り出して机に置く。

 

「だが、キミが自分の罪を悔いて、償うために生き続けるという限りは守ろう。この星に住まう者の一人として」

 

 彼とは思えない温かく、優しい言葉に雪ノ下雪乃は俯いた。

 

 由比ヶ浜は呆然とそのやり取りをみているしかない。

 

「貴方は、本当に…………」

 

 そこから先の言葉を彼女は飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆきのん、まだ、悩んでいるんだね」

 

「あぁ」

 

 雪ノ下雪乃はワームホールに飲み込まれた時、ゼットン星人に助けられた。

 

 偶然なのか、故意なのかはわからない。

 

 その際に雪ノ下雪乃は洗脳を施されてアイテム、バトルナイザーを渡される。

 

 彼女にレイオニクスとしての適性があったことを知っていたのかわからない、偶然にも手に入れたバトルナイザーを与えて自身の右腕、ゼットン星人の妹として扱った。

 

 八幡達と再会した時は敵として対峙する。

 

 冷酷な侵略者の片腕として、次々と破壊の限りを尽くした。

 

 そんな彼女が普通の生活を送っていること、その事に悩んでいるのだ。

 

「ヒッキー、さっきの演技?それとも」

 

「演技に決まっているだろ?あの人は俺の意識の奥深くだ。不用意に表へ出てくることはしない」

 

――キミと一心同体になろう、だが、私は不用意にキミの精神、思考へ踏み込むことはしないということを約束する。

 

 ウルトラセブンは比企谷八幡と一心同体になる際に交わした誓いのようなもの。

 

 不用意に彼は八幡の中へ踏み込んでこない。

 

 ここぞという時、大事な時があれば接触してくるが、八幡の方からウルトラセブンとコンタクトをとることはなかった。

 

「ゆきのんにドリンクでも持って行こう!」

 

「紅茶か?」

 

「うん!それで時間いっぱいまで話し合うんだ!あ!ヒッキーもちゃんと付き合うんだよ!」

 

「げぇ、マジかよ」

 

 彼女の言葉に八幡はため息を漏らすしかなかった。

 

 この場にペガがいないことが悔やまれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルトラ警備隊は雪ノ下雪乃からもたらされた情報を元に街中のすべての自販機を徹底調査。

 

 その結果、自動販売機の中に特殊な液体が含まれたドリンクが複数個発見される。

 

 地元警察などの協力を得ながら自販機をすべて調査、回収した。

 

「古橋隊長!地元警察から緊急通報!逃走する宇宙人を発見したとのとこです!」

 

 ウルトラ警備隊司令室の通信隊員からの報告を受けて、二台のポインターが通報先へ急行する。

 

 ポインターが到着すると疾走するメフィラス星人の姿を発見した。

 

「エイリアンだ!」

 

 助手席の東郷隊員が叫ぶ中、運転席にいる梶がアクセルを踏む。

 

 ポインターはうなりを上げながらメフィラス星人を追跡する。

 

 常人とかけ離れた脚力を持つメフィラス星人は振り返りながら光弾を放つ。

 

「バリア!」

 

「了解!」

 

 東郷隊員がポインターのスイッチを起動。

 

 ポインター全体をバリアが覆い隠し、光弾を防ぐ。

 

 逃げていくメフィラス星人の道をふさぐようにもう一台のポインターが現れる。

 

 ポインターから降りた古橋、リサの両隊員がウルトラガンを構えた。

 

「ちぃ!」

 

 メフィラス星人は二台のポインターに挟まれるがテレポートした。

 

「くしょう!逃げやがったなぁ!」

 

 悔しそうに古橋が声を漏らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おのれぇ」

 

 テレポートしたメフィラス星人は膝をついた。

 

 力を消耗したことで疲労に襲われる。

 

 ウルトラ警備隊によってすべての自販機が回収されたことによって計画は失敗したとみていい。

 

 人間生物Xもいずれは元の人間へ戻されるだろう。

 

 メフィラス星人は自らの計画のとん挫に苛立ちを隠せない。

 

「ならば!」

 

 せめて、手駒としてあの女を手に入れよう。

 

 メフィラス星人は運よく、転移した先が雪ノ下雪乃のいる病院であることに気付いた。

 

 にやりと笑みを浮かべながら雪ノ下雪乃がいる病室を目指す。

 

 道中に悲鳴を上げた人間がいたが光線で無力化させた。

 

 ドアを乱暴に開けてメフィラス星人が病室に踏み込む。

 

「っ!」

 

 突然の侵入者に雪ノ下は目を見開いて、後ろへ下がろうとする。

 

 一足早く、メフィラス星人が彼女の体の動きを封じ込めた。

 

 光線を受けて硬直してしまう雪ノ下をそのまま抱えようとした時。

 

「ゆきのん~、ドリンクを買ってきたよ……って、宇宙人!?」

 

「ちぃ!」

 

 メフィラス星人は窓を開けて雪ノ下を抱えて飛び降りる。

 

「ヒッキー!ゆきのんが宇宙人に!?」

 

「由比ヶ浜、ここは任せるぞ!」

 

「え、ちょっと!?」

 

 驚く由比ヶ浜を置いて、八幡は階段を駆け下りる。

 

 必死に階段を駆け下りて、メフィラス星人を追いかけた。

 

 メフィラス星人は雪ノ下を抱えているおかげかいつもより速度が遅い。

 

 ウルトラセブンと融合したことと様々な銀河系を旅してきたことで体が鍛えられていたおかげで宇宙人を見失うことはなかった。

 

「はぁ、はぁ……はぁ!」

 

 荒い息を吐きながらメフィラス星人が雪ノ下を拘束した状態で立っている。

 

「お前、雪ノ下を返せ」

 

「ふん、貴様らには理解できまい。この小娘が持つ強大な力を」

 

「雪ノ下のレイオニクスとしての力の事か」

 

「ほぉ、知っているのか……ならば、理解できるはずだ。レイオニクスの力は強大だ。その気になれば、光の国の戦士すら凌駕することができるだろう。最強の怪獣を宛がえば、よりその力は真価を発揮するというものだ」

 

「お前、雪ノ下を兵器として利用するつもりか!?」

 

「それ以外に何がある?」

 

 平然と答えるメフィラス星人の言葉に雪ノ下は俯いた。

 

 八幡は拳を握り締めた。

 

「ふざけるな、雪ノ下は兵器じゃない。俺の、俺達の仲間だ」

 

「仲間?地球人とやらは二言目には愛だの、平和だの、仲間と囁く。コイツの強大な力を理解していないのではないか?」

 

「雪ノ下が強大な力を持っていることはわかっている。だが、力というのは持っている者によって左右される。正しく使えば、正しい力に、悪いことに使えば、悪しき力に」

 

「何がいいたい!」

 

 メフィラス星人の言葉に八幡は答えない。

 

 彼の目は俯いている雪ノ下へ向けられていた。

 

「雪ノ下、全てはお前が決められるんだ。どうすればいいか、いや、お前はどうありたい?」

 

 八幡からの問いかけに雪ノ下はゆっくりと俯いていた顔を上げる。

 

「私は、普通でいたい……レイオニクスの力なんて、本当は要らないわ!」

 

 泣きながら雪ノ下雪乃は叫ぶ。

 

「お願い、助けて」

 

「貴様ぁああああああ!」

 

 その姿にメフィラス星人が髪の毛を掴んだ。

 

 直後、放った念動力によってメフィラス星人が吹き飛ぶ。

 

 倒れそうになった雪ノ下を八幡は慌てて抱える。

 

「大丈夫か?雪ノ下」

 

「……えぇ」

 

「くそう!邪魔をするというのなら……お前達ごと、叩き潰してやる!」

 

 メフィラス星人が指を鳴らす。

 

 空から眩い輝きと共に背中に翼を生やした宇宙怪獣ドラコが降り立つ。

 

「雪ノ下、ここにいるんだ」

 

「比企谷君!」

 

「デュア!」

 

 八幡は懐からウルトラアイを取り出して装着する。

 

 眩いスパークと共にウルトラセブンが現れた。

 

 ウルトラセブンはドラコの振るう鎌を回避しながらパンチやキックを放つ。

 

 タイルのような皮膚にセブンの連続パンチやキックが直撃して苦悶の声を上げるドラコ。

 

「ちぃ、ウルトラセブンだったのか、貴様を倒せばいいだけのこと!」

 

 メフィラス星人は巨大化して背後からセブンに襲い掛かる。

 

 後ろから拘束されそうになったセブンだが、メフィラス星人を投げ飛ばす。

 

 その間に飛翔していたドラコの攻撃がセブンを襲った。

 

 攻撃を受けて地面に倒れたセブンだが、起き上がろうとする度にドラコの高速飛行を用いた鎌の一撃に翻弄されてしまう。

 

「今だ!」

 

 メフィラス星人の光弾が雨のようにセブンへ降り注いだ。

 

 光弾を受けたセブンは地面に倒れる。

 

 不敵に笑うメフィラス星人。

 

「比企谷君……いえ、ウルトラセブン!」

 

 雪ノ下は叫ぶ。

 

 何を訴えればいいのかわからない。

 

 だが、一つだけ自然と彼女の口から言葉が出た。

 

「負けないで!」

 

 彼女の訴えが聞こえたのかわからない。

 

 起き上がったウルトラセブンは頭頂のアイスラッガーを投げる。

 

 回転しながら飛行するアイスラッガーがドラコの両翼を切り落とす。

 

 飛行能力を奪われたドラコは悲鳴を上げる。

 

 ウルトラセブンはエメリウム光線でドラコを倒す。

 

 ドラコが倒されたことでメフィラス星人は動揺しながらも光弾を放つ。

 

 ウルトラセブンは地面を蹴り、光弾を躱しながらメフィラス星人の顔を殴る。

 

 続けて繰り出したパンチで仰け反ったメフィラス星人。

 

 腰のあたりで両手を構えてエネルギーをチャージしながら両手を前にさせながら放つ、リュウ弾ショットがメフィラス星人の体を貫いた。

 

 攻撃を受けたメフィラス星人が大爆発を起こす。

 

 ウルトラセブンは大空の中へ消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日常が戻ってきた。

 

 人間生物Xにされた人間はウルトラ警備隊の手によって普通の人間へ戻される。

 

 少しばかりの検査はあったものの、彼らは日常に戻って問題なしと判断された。

 

「おはよう」

 

 三浦が教室に入ってきた時、しーんと静かになった。

 

「優美子!おはよう!」

 

 誰もが近づこうとしない中で由比ヶ浜が笑顔を浮かべて彼女に近づいた。

 

「もう、大丈夫なの?」

 

「まーね、色々と検査で疲れたし」

 

「でも、無事でよかったぁ」

 

「ちょ、なんで結衣が泣くのよ!?」

 

 驚きながら三浦は抱き着いてきた由比ヶ浜を優しく撫でる。

 

 その光景を一瞥して八幡は机に寝そべった。

 

「おい、ヒキオ」

 

 傍で何かが聞こえたけれど、八幡はそのまま寝ようとした。

 

「おい、無視するなし」

 

「あ、俺のことか?」

 

 机を揺らされて八幡は顔を上げた。

 

「俺はヒキオじゃないんだが?」

 

「うるせーし、その、アンタにちゃんとお礼、言っておこうと思って」

 

「お礼?」

 

「あーしが怪物になった時、結衣と一緒に声をかけてくれたでしょ、その時、アンタの声がやけにあーしの中で残っていたからさ、アンタ達の声のおかげであーしを保てていたし、まぁ、ありがとう」

 

「別に、まぁ、何かあれば、連絡して来いよ」

 

「まー、何かあれば頼りにするし」

 

 そういって三浦は由比ヶ浜の方に戻っていく。

 

 八幡は再び眠りに就こうとした時。

 

「あの、比企谷君」

 

「戸塚か……そういえば、部活の件だが」

 

「そのことだけど、もう大丈夫!」

 

 戸塚は首を振る。

 

「これから僕自身で頑張ってみせる!僕自身の力で部活を盛り上げてみせるから!」

 

「そうか、依頼は完了ということだな」

 

 満足そうに頷いた八幡。

 

 ふと、戸塚がもじもじしていた。

 

「どうした?」

 

「その、また、機会があれば、壁打ちの練習とか付き合ってくれない?」

 

「暇なときであればいいぞ」

 

「ありがとう!あと、比企谷君のこと、八幡って呼んでいい?」

 

「お、おう」

 

 突然のことに驚きながらも八幡は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

 

「そう、彼の依頼は達成なのね」

 

「本人がそういってきたぞ」

 

 部室で雪ノ下と八幡は少しの距離を開けて腰かけている。

 

 由比ヶ浜は三浦の復帰祝いということで今日は休みらしい。

 

 二人だけの部室ということで奇妙な空気が漂ってはいるけれど、いつも通りにしていた。

 

「ねぇ、比企谷君」

 

「なんだ?」

 

「貴方は私がまたエイリアンに攫われそうになったら助けてくれるかしら?」

 

「唐突だな……」

 

 八幡はMAXコーヒーを飲みながら。

 

「当たり前だろ。宇宙であれだけの出来事があった……何があろうと守るさ。お前も由比ヶ浜も」

 

「……そう、その答えがきけて嬉しいわ」

 

 にこりとほほ笑みながら雪ノ下は紅茶を一口。

 

「貴方のそういうところ、好きよ」

 

「ブフゥ!」

 

 八幡はマッカンを吹き出した。

 

 慌てふためくその姿が面白くて、雪ノ下は小さく微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見る。

 

 あの時の悪夢、けれど、今は夢を見ても怖いとは思わない。

 

 彼女には親友と不器用な男の子がいるのだ。

 

 二人のことを思い浮かべれば、夢のことは怖くない。

 

 雪ノ下雪乃は決意する。

 

 いつかは過去を乗り越えてみせると。

 




怪獣説明

メフィラス星人二代目
出典はウルトラマンタロウ。
マンダリン草という植物を用いて、次々と人間を襲った宇宙人。
紳士的だった初代と比べると卑怯な手段は当たり前のように使う、卑怯もラッキョウも大好きだとかいう名言はここから生まれたとか?

ワイアール星人
出典はウルトラセブン。
第二話、緑の恐怖に登場。宇宙ステーションV3の隊員に成りすまして地球へ侵入。
地球で多くの人間を植物人間Xへ変えてきた張本人。
今回は過去のデータとして。

ドラコ
出典はウルトラマン。
怪彗星ツイフォンに乗ってきたと思われる宇宙怪獣。
雪山で地球産の怪獣たちと戦うも羽をもぎとられて倒されてしまう。
メフィラス星人が怪獣兵器として地球へ持ってきたがウルトラセブンにより倒されてしまう。


今回の話は雪ノ下メインだったのですが、どういう怪獣をだすかで色々と悩みながらメフィラス星人を出すことに決めた後、偶然見た緑の恐怖の類似的な展開を考えました。
ソリチュランにするかと悩みました。





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第四話:宇宙の通り魔を倒せ!

感想を貰って思う事、

ウルトラセブンについて、様々な見解があるのは理解していますが、この作品におけるウルトラセブンは地球人よりも地球人を愛している宇宙人です。

そのため、厳しいよりも見守るという姿勢が強いところがあります。

ウルトラ兄弟のウルトラセブンというよりも、平成ウルトラセブンやULTRASEVENXよりでしょう。


 深夜の町中。

 

 一人の男が悲鳴を上げながら逃げる。

 

 その後ろではカチャカチャと刃をこするようにしながら追いかけてくる者が一人。

 

 逃げ惑う人が助けを求めるが、誰もいない。

 

 必死に逃げる人だが、やがて、追いつかれて。

 

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 その体は真っ二つに切り裂かれるはずだった。

 

 両断しようと伸ばされた二つの刃は間に割り込んだ長い鉄パイプに阻まれてしまう。

 

「キシシ!?」

 

 振るわれた鉄パイプを慌てて回避する。

 

「逃がさんぞ、貴様!」

 

 現れた相手をみて襲撃者は不気味に笑いながら両腕の刃を構える。

 

 振るわれる刃はすべてを両断する。

 

 通り魔の刃は標識や壁を切り裂いていく。

 

「無駄だ」

 

 振るわれた鉄パイプの一撃が襲撃者の頭部を叩き割る。

 

「ちぃ!」

 

 本来ならば確実に相手の命を刈り取っていたであろう一撃。しかし、それは本来ならばである。男は舌打ちしながら鉄パイプを戻す。

 

「浅い!」

 

 鉄パイプを振り下ろしたものの、とどめを刺すに至っていない。

 

 追撃しようとしたことで相手は闇夜の中へ消えてしまった。

 

「やはり、この体では限界があるか」

 

 鉄パイプを放り投げて汗だくの顔を拭う。

 

「相談するしかあるまいな」

 

 ため息を吐きながら通り魔を撃退した人物も夜闇の中へ消える。

 

 残された男はぺたんと座り込んだまま、呆然としており、警邏中の警官が見つける時まで動くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 比企谷八幡はボッチであると一年前なら胸を張って言えただろう。

 

 しかし、今はどうだろうか?

 

「比企谷、あーしの話を聞いているわけ?」

 

「悪いが、そういうファッションとか疎いからわからないんだよ」

 

「優美子~、ヒッキーにそういうのはゆっくり教えないと」

 

「でも、八幡に似合うと思うけどなぁ」

 

 

――なに、これ?

 

 

 自称ボッチを貫いていた筈の八幡。

 

 それがいつの間にか元トップカーストの三浦優美子やら、葉山グループにいた由比ヶ浜、テニス部に所属している女の子と間違えられそうな男の子、戸塚彩加。

 

 そんな彼らに包囲されている事態に八幡は心の中で疑問符を浮かべていた。

 

 答えはすぐにでる。

 

 先日のメフィラス星人による侵略事件だ。

 

 三浦は目の前で人間生物Xに変貌した。

 

 地球防衛軍の参謀がニュースで今回の事件のあらましについて報道をしていたが、三浦優美子が怪物に変貌したということで噂が一気に広まってしまったことで距離をとられてしまっている。

 

 葉山は気にせずに話しかけようとしていたが周りの取り巻きにとめられてしまったらしく、三浦は孤立しかけるところだったのだが、由比ヶ浜は変わらず友人として接している。

 

 そのことで三浦は辛うじて腐らずに済んでいた。

 

 戸塚は前の一件を通して部活を盛り上げると頑張っており、友人のようなクラスメイトという立ち位置になっている。

 

「(ボッチの俺がどうしてこうなっているんだか?)」

 

 疑問を抱いていたところで目の前に雑誌が突きつけられる。

 

「話聞いているし!?」

 

「あー、はいはい」

 

 大きな声を上げる三浦に辟易しながら八幡は休み時間が終わることを切に願った。

 

 しかし、休み時間が終わるまでにまだ十五分あったことを知った八幡は絶望する。

 

「ヒッキー!こっちだよ!」

 

「結衣!絶対にこっちだって!」

 

「あははは、大変だね~」

 

 これでもう一人が加われば四面楚歌になるなぁ。

 

 どうでもいいことを思いつつ、天井を見ながら八幡は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ~、甘くておいしい」

 

 放課後、手持ちがゼロになったのでMAXコーヒーを購入して八幡は部室棟へ向かう。

 

 奉仕部の部室が見えてきたところで八幡は立ち止まる。

 

「お前ら、何やってんの?」

 

 部室のドアの前で雪ノ下と由比ヶ浜の二人が立っていた。

 

 二人は困った表情を浮かべながら部室を覗き込んでいる。

 

「あ、ヒッキー」

 

「丁度、良かったわ。比企谷君……部室の中に変な人がいるのよ」

 

「変な人ぉ?」

 

「分厚いコートをきたデブ」

 

「シンプルな説明だな、おい」

 

 一瞬で誰か該当した八幡は呆れながら部室のドアを開ける。

 

「フッフッフッ!待っていたぞ!比企谷八幡よ!」

 

「お、お前は……デブの材木座かよ」

 

「チョッ!?ハチエモーン!?」

 

 メガネをかけてダラダラと汗を流しているデブこと、材木座義輝は部室内で悲鳴を上げた。

 

「二人に自己紹介をしておくと、コイツは材木座義輝。中二病患者で、一応、顔見知りの関係だ」

 

「ケプコンケプコン!中二病とは失礼な!我は剣豪将軍――」

 

 ガクンと体が傾いて動きが止まる。

 

「……キモイ」

 

「一歩、間違えれば、変質者ね」

 

「ただし、表向きの紹介になるけどな」

 

「え?」

 

 八幡が続けた言葉に二人が疑問の声を上げようとした時。

 

「ディヤァアアアア!」

 

 背後からカッと目を見開いた材木座が手刀を振り下ろす。

 

 その動きを読んでいた八幡は手刀を弾きながら拳を叩き込もうとする。しかし、相手は振るった拳を受け止める。

 

「うわっ、汗でベトベトじゃねぇか」

 

 手を振り払いながら用意していたタオルで拭う。

 

「フン!肥満の証拠だ」

 

 悪態をつきながら汗まみれのメガネをポケットにしまって、しかめっ面の材木座が八幡を睨む。

 

「鍛えていないからこんなに汗をかく、くだらぬ小説を書いている暇があれば、鍛錬をすべきなのだ!」

 

「……え、どゆこと?」

 

「二重人格というわけではない、わね?」

 

 突然の事態に目を白黒させる由比ヶ浜と雪ノ下。

 

「実は、コイツの中には宇宙人がいるんだよ。宇宙剣豪って呼ばれた最強剣士が宿っている。聞いたことはないか?宇宙剣豪ザムシャーって」

 

 八幡はため息を吐きながら説明した。

 

 告げられた名前に二人は息をのんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、粗茶ですが」

 緊張した様子で雪ノ下は緑茶の入った紙コップを材木座の前へ置いた。

 

「かたじけない」

 

 ぺこりと会釈しながら雪ノ下が用意した緑茶を飲む。

 

「(緑茶もあったのか)」

 

 MAXコーヒーを飲みながら八幡は材木座に尋ねた。

 

「それで、ここへ何の用事だ?」

 

「うむ、本来ならば誰かに頼るというのは酷く抵抗があるのだが、背に腹は代えられない状況なのでな」

 

「話が見えない!!」

 

「由比ヶ浜、静かにしろ」

 

 八幡は続きを促す。

 

「この星へ侵入している宇宙人を倒したい、お前の力を借りたいのだ。ウルトラセブン」

 

 材木座は眉間へ皺を寄せながら口を開いた。

 

「侵入している宇宙人?それはつまり、侵略者?」

 

「えぇ!?それってウルトラ警備隊へ通報しないといけないじゃん!」

 

 雪ノ下の言葉に由比ヶ浜がオーバ-に反応する。

 

 彼女達の言葉に材木座はフンと鼻音を鳴らす。

 

「ウルトラ警備隊か、確かにアイツらならなんとかできるかもしれんだろう、だが、奴……ツルク星人は神出鬼没だ。連中が気付くまでにどれほどの犠牲者がでるか」

 

 材木座の告げた名前に雪ノ下と八幡は目を見開く。

 

 由比ヶ浜は知らないようで首をかしげている。

 

「おい、奴が地球へ来ているのか?」

 

「それは……早急になんとかしないといけないわね」

 

「え?え?どういうこと?」

 

「そういうことだ、俺一人で対処をしたかったのだが、この体では万全に戦えん、そこでウルトラセブン、いや、比企谷八幡、非常に癪だが、貴様に協力を申し込みに来た」

 

「それは依頼か?」

 

「あぁ」

 

「わかった」

 

「うむ、ではあばばばばばばば」

 

 壊れた家電のように不気味な動きをする材木座。

 

 しばらくして、ハッと周りを見る。

 

「あれ、我は何を」

 

 先ほどまでの威厳の類など存在しない。

 

 中二病の材木座義輝がそこにいた。

 

「熱さにやられたんだろ、そんな恰好をしているからな」

 

「うーむ、真面目にお祓いを考えた方が――」

 

「それで、お前は何でここに来たんだ?」

 

 この後、材木座は自作のラノベを読んでもらいたいという依頼のために奉仕部を訪れたのだという。

 

 分厚い印刷用紙を受け取るとルンルンとした足取りで彼は去っていった。

 

「さて、そろそろ説明をしてもらえるかしら?」

 

 材木座の気配が完全になくなったことを確認して雪ノ下が尋ねる。

 

 八幡は少し考えながら事情を話すことにした。

 

 理由は数か月前、侵略者の持ち込んだ怪獣兵器が街中で大暴れした事件があった。

 

 ウルトラ警備隊の活躍によって被害は最小限に抑えられる。

 

 しかし、戦いの中で負傷した者がいた。

 

 それが材木座義輝である。

 

 死の淵をさ迷いかけた彼は偶然にも地球へ来訪していた宇宙剣豪ザムシャーと一体化することで一命をとりとめた。

 

 材木座の体が完全に回復するまでザムシャー自身は精神の奥深くまで寝るつもりでいたらしい。

 

「だが、一体化するというところでミスがあったらしくて、時々、あーやってザムシャーの意識が表へ出てくる時があるんだよ。そのタイミングで俺と遭遇したわけでアイツの正体を知っているんだ」

 

「そういうこと」

 

「でもでも、宇宙剣豪ザムシャーって、確か、ヒッキー以上のボッチで冷酷だって聞いたけど、人助けなんかするの?」

 

「お前」

 

「由比ヶ浜さん、事実だけど、容赦ないわね」

 

「この地球へ来る前に一人のウルトラマンと戦って、心境の変化があったと本人は言っている」

 

「貴方ではないのね」

 

「違う」

 

「それはそうと、ヒッキー、あの依頼引き受けるの?」

 

「あぁ、材木座……いや、ザムシャーが依頼してきたとなると放っておくわけにいかないしな」

 

「じゃあ、あたし達も!」

 

「いや、今回は」

 

 八幡は正直、この依頼は一人で受けようと考えていた。

 

 ツルク星人は神出鬼没かつ残酷な存在である。

 

 もしかしたら由比ヶ浜や雪ノ下に命の危機が迫るかもしれない。

 

「ヒッキーだって危ないじゃん!」

 

「そうだが」

 

「あなた一人を行かせて何かあれば、後悔するのは私達も同じよ。そうね……逐一、貴方が報告してくれるというのなら行かせてあげるわ」

 

 ニコリ、いや、ニヤリという笑みを浮かべる雪ノ下。

 

 戸惑っている由比ヶ浜だが、雪ノ下だから良い考えなのだろうと考えて、彼女は何も言わない。

 

「逐一の連絡でいいんだな?」

 

「えぇ」

 

「わかった、約束する。逐一、連絡すればいいんだろ」

 

「その通り」

 

 微笑みを浮かべる雪ノ下に八幡は完全敗北した。

 

「でもでも、あのデブが表に意識がある場合、ザムザムは表に出てこないんでしょ?連絡とか大丈夫なの」

 

「そのことについてだが、多分、向こうが荒技を仕掛けると思う」

 

 首をかしげる二人の姿に八幡はただ肩をすくめる。

 

 言えるわけがない。

 

 意識を表に出すために、無理やり材木座義輝にランニングをさせて疲労させるなんて。

 

 いつぞやのスポ魂漫画でもあるまいしと心の中で八幡は漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の町中。

 

 高校生が夜にうろついていれば、最悪、警察に補導されてしまうだろう。

 

 そんな危険をはらみつつ、八幡は私服姿で家を出る。

 

 家の守りはペガに任せてきた。

 

 小町を守るために最悪、ダークゾーンへ入ってもらえばいい。

 

 尤も、ペガは「ツルク星人!?怖いよう!」といって早々にダークゾーンへ逃げてしまった。

 

 宇宙の通り魔といわれる侵略者達の中で凶悪な存在として名があがる宇宙人ということを知っていれば、震えあがってしまうのは当然だ。

 

「遅かったな、ウルトラセブン」

 

「俺は地球人、比企谷八幡っていう名前がある。確かにウルトラセブンと同化しているけれど、ここでは地球人としての名前を呼べ、お前に宿っている材木座という名前があるように」

 

「フン、覚えておこう」

 

 鼻を鳴らしながら材木座と共に夜道を歩く。

 

「奴が出現する宛はあるのか?」

 

「先日、奴の頭を叩き割り損ねた。そのことから俺を潰そうと躍起になるだろう。そのことからいけば」

 

「自らを囮にするわけか」

 

「その通りだ。だが、この体の反応は悪い。もしかしたらを考えて貴様を呼んだ」

 

「だろうな」

 

 一応、定期報告も兼ねて連絡を入れておく。

 

 夜道だけあって人の気配がない。

 

 いくら文明が発展したとしても人類は明るい時間に活動して夜は眠りにつく。

 

 勿論、例外はあるとしてもそこは変わらない。

 

 夜の世界に住まう殺人鬼こと宇宙人。

 

 奴がどのタイミングで姿を現すのか警戒をしなければならない。

 

「来たぞ」

 

 材木座の言葉でこちらへ近づいてくる宇宙人の存在を感じ取る。

 

 向こうは足音を立てないようにしているのだろう。

 

 しかし、地球に住まう者ではないという体に流れるエネルギーといえばいいのだろうか?そのようなものが不思議と八幡は感じ取れた。

 

 二人は同時に左右へ避ける。

 

 直後、ツルク星人の振り下ろした刃が地面に突き刺さった。

 

「フン、後ろからにしてはわかりやすすぎる!」

 

 ザムシャーは用意していた鉄パイプでツルク星人へ振り下ろす。

 

 回避しようとするツルク星人へ八幡は右手を握り締めて念動力を放った。

 

 背後からの攻撃にツルク星人は動きが鈍る。

 

 そこにザムシャーの一撃がツルク星人の頭へ振り下ろされようとした瞬間。

 

 真っ赤な光弾が飛来する。

 

「ちぃっ!」

 

 咄嗟にザムシャーは鉄パイプで切り裂くもドロリと握っているより上が溶解してしまう。

 

 突然の不意打ちに身構える二人を余所にツルク星人は暗闇の中へ消え去った。

 

「今のは……」

 

 真っ赤な光弾が飛来した方向をみる八幡。

 

 暗闇を透視するように彼の両目が輝く。

 

 しかし、怪しい影は何も映らなかった。

 

「逃げられたか」

 

「邪魔が入った。プライドの高い奴のことだ……次は巨大化して暴れるだろう」

 

 ザムシャーの言葉は事実になるだろう。

 

 八幡は自然と拳を握り締めた。

 

 あの光弾を放った存在は何者なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうつもりだ?」

 

 薄暗い闇の中、ツルク星人は相手へ問いかける。

 

 暗闇の中、相手は笑みを浮かべた。

 

「何だ?助けなければよかったか?あのままでは宇宙剣豪と地球人にやられていたぞ?」

 

「ぐっ!」

 

 人物の指摘にツルク星人は顔をしかめる。

 

「このまま、ザムシャーの奴に舐められたままでたまるか!次は巨大化して叩き潰してやる!」

 

「そうか、では、これを受け取るといい」

 

「何だ、これは?」

 

「特殊な細胞を宿したカプセルだ。それを飲めば強くなれるぞ」

 

 暗闇から囁く言葉にツルク星人は思案しながらカプセルを手に取った。

 

 ニヤリと相手が不気味な笑顔を浮かべていたことにツルク星人は気づかない。

 

「巨大化する前に飲むといい、確実にお前の力となり、邪魔存在を叩き潰せる」

 

「わかった、だが、俺を騙していたら容赦はせんぞ」

 

 カプセルを握り締めながらツルク星人は姿を消した。

 

「あぁ、騙してはいないさ。強大な力を手にすることができる。ただし、何事も代償は付き物なのさ……そう、強大な力っていうものはさぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八幡やザムシャーの予想していた通りに巨大化したツルク星人が街に出現する。

 

 人型のような姿からトカゲのような姿は最早、怪獣同然のようなものとなっていた。唯一、人型と似ているところがあるとすれば、それは両腕についている刃だろう。

 

 振るわれる刃は近くの高層ビルを次々と両断する。

 

 昼間に出現したツルク星人に人々は悲鳴を上げながら逃げていく。

 

 ツルク星人の出現は即座に地球防衛軍へ連絡がいった。

 

 地球防衛軍極東基地の地下格納庫からウルトラホーク3号が発進する準備を取っていた。

 

 発進カタパルトで出撃準備をとるウルトラホーク3号の正面ゲートが開く。

 

『オーケー!レッツゴー!』

 

 管制塔から発進許可が下りた。

 

 偽装滝が流れている中をウルトラホーク3号が出動する。

 

 慣れない者が操縦すれば水圧に負けてコントロールを失って墜落してしまうだろう。

 

 しかし、搭乗しているのはウルトラ警備隊。

 

 並々ならぬ訓練を積んでいる彼らにとって偽装滝から降り注がれる水圧など苦ではない。

 

 二子山がスライドした場所からウルトラホーク1号が緊急発進する。

 

「くそう、隊長!星人一体だけで被害は甚大です!」

 

 梶とユキの両隊員を乗せたウルトラホーク3号がツルク星人の暴れている市街地へ到着する。

 

「攻撃、開始します」

 

 ユキが操縦桿の横についているボタンを押す。

 

 ウルトラホーク3号から放たれるミサイル弾。

 

 攻撃を受けてツルク星人はのけ反る。

 

 旋回しながら再度、攻めようとした時、ツルク星人の刃が煌めく。

 

 咄嗟にユキ隊員がウルトラホーク3号を上昇させる。

 

 彼女の判断が窮地を救う。

 

 標的を失ったツルク星人の斬撃が背後にあったビルを両断した。

 

「何て奴だ!?」

 

「今の斬撃を受けたら流石のウルトラホークも一刀両断だ」

 

 少し遅れて渋川の操縦するウルトラホーク1号が到着する。

 

「くしょう!侵略者の好き勝手にされてたまるかってんだ!」

 

「隊長、もう少し、速度をぉおおおおおおおおおお!?」

 

 古橋が操るウルトラホーク1号のブレイカーナックルミサイルがツルク星人へ降り注ぐ。

 

 揺れる機内の中で冷や汗を流しながら渋川はしがみつく。

 

 ウルトラホーク3号もツルク星人へミサイル攻撃を続ける。

 

 地上ではポインターに乗った東郷隊員とリサ隊員が避難活動を行っていた。

 

「リサ隊員、威嚇射撃だ!」

 

「了解!」

 

 地上の二人はウルトラガンを構えてツルク星人へ撃つ。

 

 レーザー光線をツルク星人は刃で弾く。

 

 接近するウルトラホーク3号。

 

 ツルク星人の刃が煌めく。

 

 振るわれた攻撃がウルトラホーク3号の片翼を切り裂いた。

 

 黒い煙を放ちながら地上へ緊急着陸しようとするウルトラホーク3号。

 

 地面へ回転するようにしながらウルトラホーク3号は不時着した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宇宙人が街で暴れているって!」

 

 総武高校は宇宙人出現のニュースを聞いて騒ぐ。

 

 自分達のいる場所からかなり離れたところということもあって、彼らは祭りのような気分だ。

 

 自分達が実際に被害を受けない限り、どこか他人事のような雰囲気を放つ彼ら。

 

 八幡は静かに立ち上がる。

 

「ヒッキー?」

 

「悪い、出かけてくる」

 

 静かに告げて、八幡は廊下へ出る。

 

 屋上へ向かおうとした先で材木座、否、ザムシャーがいた。

 

「行くのか?」

 

「あぁ」

 

 短く答えて、八幡はザムシャーの横を通り過ぎる。

 

 屋上に出たところでウルトラアイを装着した。

 

 ウルトラセブンは空からツルク星人の暴れている市街地へ急行する。

 

 上空からツルク星人の背中へキックを放つウルトラセブン。

 

 攻撃を受けて前のめりに倒れるツルク星人だが、起き上がると同時に腕の刃をセブンへ振るう。

 

 後ろへ下がりながらツルク星人の刃を躱す。

 

 突如、ツルク星人の体に異変が起こる。

 

 緑色の不気味な光を放ちながらツルク星人の背中から複数の触手が現れた。

 

 蠢く触手にツルク星人は苦悶の声を漏らしながら暴れだす。

 

 突然のことに驚くウルトラセブン。

 

 反応するよりも早く複数の触手がセブンの体に絡みついて、その体を持ち上げる。

 

 抵抗しようとするが強い力で体を締め付けられて苦悶の声をあげた。

 

「渋川!ホルバスターミサイル準備!」

 

「了解!」

 

 ウルトラホーク1号の機内で渋川がシステムを起動する。

 

 ホーク1号の下部ハッチが開いて、ホルバスターミサイルが発射準備となった。

 

「準備オーケーです!いつでもどうぞ!」

 

「ホルバスターミサイル!発射!」

 

 ホルバスターミサイルが暴走するツルク星人の背中に直撃。

 

 全身を焼かれるような痛みに悲鳴を上げる。

 

 ウルトラセブンは力が弱まった瞬間をついて、拘束から脱出。

 

 頭頂のアイスラッガーを投げる。

 

 光に包まれたアイスラッガーがツルク星人の背部の触手全てを切り裂く。

 

 戻ってきたアイスラッガーを逆手持ちで構えるウルトラセブン。

 

 二つの刃を構えるツルク星人。

 

『勝負は一瞬だ』

 

 その時、ウルトラセブンへテレパシーで囁きかける者の声が。

 

『奴の斬撃は二段攻撃だ。それが終わった瞬間、隙ができる。その時を狙うことが勝機の鍵だ』

 

 テレパシーの言葉に相手の動きを伺うウルトラセブン。

 

 走り出すツルク星人。

 

 振るわれる二段斬撃。

 

 攻撃が繰り出された直後を縫うようにウルトラセブンのアイスラッガーが煌めく。

 

 振りぬいたアイスラッガーをそのまま頭頂へ戻す。

 

 両腕を切断されて、宙を舞う。

 

 刃が二つともツルク星人の胴体へ突き刺さる。

 

 振り返ると同時に両腕をL字に組んでワイドショットが放たれた。

 

 光線を受けたツルク星人は緑色の光に包まれて消えていく。

 

 構えを解いたウルトラセブンはとあるビルを見る。

 

 ビルの屋上では真っ直ぐにこちらをみていた材木座義輝の姿があった。

 

 ウルトラセブンは胸の前で両拳をぶつける。

 

 白いスパークと共に比企谷八幡の姿へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の奉仕部

 

「全然、ダメね。起承転結がしっかりしていない。そもそも話の骨格がぐちゃぐちゃだわ」

 

「ぐふぅ!」

 

 雪ノ下雪乃による的確過ぎる発言が材木座義輝にクリティカルヒット。

 

 材木座義輝は汗をまき散らしながら膝をついた。

 

「まぁ、こうなるわな」

 

「ハチエモン~~!」

 

 涙でグシャグシャになった顔を近づこうとするが、手で阻む。

 

「うわぁ、キモイ」

 

 汗だらけの材木座をみて由比ヶ浜がぽつりともらす。

 

 しばらくして、落ち着いた材木座が尋ねた。

 

「その、また、持ってきても良いかな?」

 

「お前、ドMか?」

 

 雪ノ下に徹底的に指摘されながらもまた持ってくるという言葉に八幡は戦慄した。

 

「違うもん!あの、その……こうして評価してくれる人がいないから、その、何度か読んでもらいたいんである」

 

「言葉遣いが滅茶苦茶になってんぞ、まぁ……」

 

 八幡はちらりと雪ノ下と由比ヶ浜をみる。

 

「そうね、依頼という形であれば問題ないわ」

 

「うん!まー、時間つぶしくらいはなるかな?」

 

「ありがとう」

 

 そういって材木座は出ていった。

 

 再び戻ってくる。

 

「今度はザムシャーの方かよ」

 

「ややこしい!」

 

「意識が昇天したおかげで出てこられたのだ」

 

 あれだけで昇天するって、色々と問題があるのではないか?

 

 心の中で三人は同時に思った。

 

「この前はすまなかったな。感謝を伝えに来た」

 

「……そうか」

 

「でも、私達、何もしていないよね?」

 

「私と由比ヶ浜さんはね」

 

 首をかしげる由比ヶ浜とため息を漏らす雪ノ下。

 

「感謝するぞ。比企谷八幡」

 

 そういってザムシャーはそういって今度こそ、教室を出ていく。

 

「ツンデレ?」

 

「宇宙最強と言われている剣豪に対してツンデレと言える由比ヶ浜さんはある意味、強者ね」

 

「激しく同意だな」

 

 そういって三人は笑いだしてしまう。

 

 彼らの声を聴きながらザムシャーは奉仕部を後にした。

 




アンケートをしようと思います。




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登場人物(1/22更新)

本編の投稿が間に合いそうにないので、世界観や登場人物(三人だけ)を簡単にのせます。

尚、本編開始前の設定がさらっと入っています。


1/22 登場人物を追加しました。



世界観

 

ウルトラマンが地球に訪れたことがなく、現れた怪獣や侵略者は人類の手によって撃退されたことになっている。

記録としてはウルトラQ~ウルトラマンTくらいまでの怪獣や星人が確認されている。

 

 

 

地球防衛軍

 

激化する怪獣災害や侵略者と対抗するために人類が組織した軍隊。

当時の科学技術を結集して作られたライドメカや武装などで怪獣と戦ってきた。

本部はパリに置かれており、各国に支部が置かれている。

 

 

 

 

地球防衛軍極東基地

 

地球防衛軍の日本にある極東基地。

富士山麓の地下に広がる施設。

300階というフロアを持ち、ウルトラホークなどの格納庫や都市部などへ直結されているシークレットハイウェイが地下に設営されている。

 

 

 

 

 

 

 

ウルトラ警備隊

 

最も星人による侵略や怪獣が暴れていた時期に活動していた地球防衛軍極東基地内に組織された六名からなる特殊部隊。

長きにわたる戦いにおいて六名から死亡者を出したことがないことから栄光のウルトラ警備隊、伝説として防衛軍内では憧れの的となっている。

初期はキリヤマ隊長が率いていたが、現在は第二期編成となっており、隊長はフルハシ・シゲル。

 

 

 

 

ギャラクシークライシス

 

本編開始より一年前に比企谷八幡、雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣が遭遇した事件。

別宇宙(アナザースペース)で光の国や多くの星の住人達を巻き込んだ戦いのことを指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下、主要キャラ紹介~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

比企谷八幡

高校二年生、自称ボッチ。濁った目を普段はメガネで隠しているが瘴気が漏れだしたりしているため、あまり効果は薄い。

高校の入学式の日に交通事故に巻き込まれるも発生したワームホールによって宇宙空間に放り出されてしまう。

死にたくないという意思がミュー粒子となって一人の宇宙人が感じ取ったことで一命をとりとめる。

その後、多くの戦いや出来事を経て本来の世界へ戻ってきている。

超能力が少しほど使えるが人間としてスペックは中の上程度(というのは本人による自己申告だが、侵略者と渡り合えているのでかなり怪しい)

ワームホールから宇宙で放り出された時に、異変を察知したウルトラセブンと融合する形で一命をとりとめる。その際に融合の影響で一時的に八幡の意識が表に出た状態で様々な異変を解決。

由比ヶ浜や雪ノ下と再会して、いつしか、本物の関係が欲しいと思うようになっていく。

元の世界へ戻る際に本来なら融合を解除するつもりだったのだが、八幡の中にかなりの“ウルトラセブンの力”が宿ってしまったことから、彼の将来を案じて融合したまま、八幡の住む宇宙へ戻る。

意識は彼の生活のために出てくることはないが、ふとした拍子に切り替わるようにウルトラセブンの意識が出てくる(本人たちがどの程度自覚しているかは不明)。

将来の夢は専業主婦であるらしいが、密かにもう一つ、夢があるとか、ないとか。

アナザースペースを旅したことから人として成長しており、異性からもてるようになっているが本人は中学の時の出来事からもてるとは信じていない。

ある宇宙人が彼を求めて、やってくるかもとか、そうでないとか。

 

 

 

 

由比ヶ浜結衣

高校二年生、ビッチ(八幡の初期の印象)。髪の片側を団子にして制服を着崩した少女。

高校入学式の日、飼い犬が車道へ出てしまうのを止めようとしたところでワームホールに巻き込まれてしまい、惑星O-50へ転移してしまう。

当初はO-50にあった村でなんとか生活をしてきたが、星間連盟の一部の過激派の暴動から親しくしてくれたものを守ろうとして、偶然にも戦士の頂へ訪れる。

戦士の頂の光へ触れたことで【ジャイロ】と複数の【クリスタル】を手にして星間連盟の怪獣兵器をジャイロの力を用いて撃退。

その後、星間連盟に目をつけられてしまったことと与えられたミッションを達成するため逃げるように宇宙へ飛び立つ。

助けたファントン星人の宇宙船で各惑星を旅している途中で八幡と再会。

元の世界へ帰る方法を模索する旅をはじめる。

道中で敵対した雪ノ下とぶつかりあい、友人としての関係を築き、今までの自分から変わることを誓う。

元の世界へ戻ってからは誰かに流されることのない強い人間を目指す。

飼い犬を助けようとしたり、色々なところで助けてくれた八幡に対して好意を抱いているが、同じ気持ちを持っているだろう雪ノ下に対して、少しばかりの遠慮をしており、あまり進展はない。

 

 

 

 

 

雪ノ下雪乃

高校二年生、女王(八幡の初期の印象)。長い髪に整った顔立ちをした少女。

高校入学式の日、他の二人と同じ場所にいたことによってワームホールで別宇宙へ飛ばされてしまう。その時、狙っていたのか、偶然なのか不明だが、ゼットン星人と出会う。

ゼットン星人は雪ノ下の記憶から尊敬する人、最愛の人=姉としての姿を象って、彼女に助けを求める演技をして、バトルナイザーを雪ノ下自らが使わせるように仕向けた。

その目論見は成功して、雪ノ下はバトルナイザーを起動させて怪獣使いとして覚醒。

姉のフリを続けるゼットン星人に協力することで多くのレイオニクスを倒していき、やがて、ゼットン星人の右腕として、宇宙で名前を広めるようになっていく。

姉の為に星人や怪獣を倒していくことに知らないうちに苦悩や恐怖を蓄積していくが、姉の為と感情を押し殺して戦い続けていたところで、八幡や由比ヶ浜と再会。

当初は敵として、戦いを続けていく中で八幡、由比ヶ浜と心の中の気持ちをぶつけていくことで、ゼットン星人から離れていくこととなる。

元の世界に戻った後、ゼットン星人の右腕として活動していた自分のことを恥じて、罪の意識を抱き、バトルナイザーの力を使うことに拒絶していく。

自分を受け入れてくれた由比ヶ浜を親友として、大切に思っている。

八幡のことは少なからず異性として思ってはいるが、初めての感情でどうすればいいかわからないということと、自分が好きなのは比企谷八幡なのか、ウルトラセブンなのかわかっていないため、あまり進展はない。

 

 

材木座義輝

高校二年生 中二病(八幡の印象)分厚いコート、指ぬきグローブ、メガネという完全なる中二病姿。

本人は自覚していないが星人の破壊活動の際に瀕死の重傷を負ってしまい、偶然にも宇宙剣豪ザムシャーと融合をしてしまう。

自覚がないため、不意打ち同然に意識をザムシャーへ切り替えられてしまうため、記憶の欠如が激しく、病院へ行こうか本気で悩んでいる。

中二病かつボッチというダブルパンチがあり、八幡を同士とみており、何かと0点ばかりとる駄目少年みたいな言動がたびたび起こってしまう。

変なところも多いがその分、観察眼などには優れていて、八幡の真意をすぐに気づくと言ったこともある。

ラノベ作家を目指しているが小説の出来はいまいち、読者は雪ノ下や由比ヶ浜、八幡のみだが、腕は一応、あがってきている模様。

ザムシャーによって肥満体を改善させられようとしている。

 

一色いろは

三面怪人 ダダに狙われて奉仕部の扉を叩いた高校生。

八幡曰くあざとい性格。

男受けがよく同性から好かれていない。

ダダの誘拐事件において、はじめてウルトラセブンの存在を知り、名前をウルトラ警備隊に伝えた人物でもある。

後に八幡がウルトラセブンであることを知り、彼らの過去を知って、三人の関係に興味を持つ。

小町のことをお米ちゃんと呼ぶ。

 

 

 

比企谷小町

比企谷家の次女。

八幡曰くハイブリッドボッチ。

両親がいない間の家事を担っており、兄や居候の二人は逆らうことができない。

兄の体験したことを知って、最初は戸惑うも信じるなど、肝の据わった人物でもある。

怪事件に巻き込まれる兄の身を案じており、無事に帰って来ることを必ず約束している。

兄が幸せになることを望んでいるブラコンでもある。

 

ペガッサ星人 ペガ

比企谷家の居候。

ペガッサ星から見聞を広めるために旅をしていたものの、宇宙船が故障。別の宇宙人に狙われるという出来事に遭遇。

ピンチに陥ったところを八幡に助けられてから比企谷家で居候。

ただ居候しているだけでなく内職などをして比企谷家の負担を減らそうとしている。

年齢的には八幡と同い年くらいであり、彼の「友達」を自称しているが、八幡はその点だけは否定中。

度々、八幡の影の中に入って学校に来ている。

 

 

 

 

 

 



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第五話:天国と地獄

ウルトラマンタイガ、今回、闇堕ち脱出からのようやく相棒としての再スタート?

これからどうなるのか楽しみ。

ボイスドラマ、タイタスさん、春ごろにどんな反応をするのか楽しみだ。




 

「遅れましたぁ」

 

 教室のドアを開けて中に入る八幡。

 

「遅刻か?比企谷」

 

「すいません、寝坊しました。反省しています」

 

 ぺこりと会釈する八幡。

 

 ここで不用意に言い訳しても良いことがあるわけがない。

 

 沈黙が一番。

 

 何より相手は平塚先生、不用意な発言をしてゲンコツを受ければたまったものではない。

 

 そう思っていると背後からドアが開く音。

 

 振り返ると長い髪をポニーテールにして、総武高校の制服を少しばかり着崩した女子。

 

 鋭い目つきに八幡は後ろへ下がってしまいそうになった。

 

「川崎、お前も遅刻か」

 

「すんません」

 

 短く会釈して川崎と呼ばれた少女は席へついた。

 

「全く、おい、比企谷、いつまで立っているつもりだ?」

 

「あ、すんません」

 

 謝罪して八幡は自身の席へ向かう。

 

 ちらりと過ぎる際に川崎の姿を見るも、彼女は肘をついて、窓からみえる景色をみていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

 

 

 

 

 八幡は妹の小町と共に近くのファミレスへ来ていた。

 

「偶にはお兄ちゃんのオゴリ夕飯も良いよねぇ~」

 

「ペガも、ペガも!」

 

 足もとのダークゾーンからペガが嬉しそうに顔を出す。

 

 こういう場でもし見つかったらという不安もあるけれど、ファミレスの周りはほとんどが楽しく談笑しているか、勉強している人のみだ。

 

 こんなところに宇宙人がいるなど、夢にも思わないだろう。

 

 八幡はそう思いながら店員さんが運んできたフライドポテトを手に取る。

 

「ファミレスの料理もバカにできないねぇ」

 

「ここは店長がこだわりを持っているらしいぞ?」

 

「ペガも調べたオススメだよ!」

 

 ネットサーフィンが趣味でもあるペガによってオススメのファミレスとしてここがピックアップされたのであった。

 

 フライドポテトをつまみながら一部をダークゾーンへ落とす。

 

「お兄ちゃん、学校はどう?」

 

「まぁ、ボチボチだな。最近は日常生活から離れているし」

 

「怪事件の連続だものねぇ~」

 

 小町の言うことに八幡は苦笑する。

 

「八幡、ペガ、おかわり!」

 

「はいはい」

 

 ペガは嬉しそうにポテトを食べる。

 

「あ、比企谷さん!」

 

 食べていた時、学生服を着た男子が小町へ声をかける。

 

「あ?小町の知り合いか?」

 

「うん、友達科の子だよ」

 

「友達っていうことだよな?なんでそんな遠回しな言い方」

 

「えへへへ、お兄ちゃんを心配させないためだよ」

 

「(それはそれでどうかと思うけど?)」

 

「(まぁ、黙っていよう)」

 

 やってきた男子は川崎大志で小町のクラスメイトらしい。

 

 礼儀正しいが少しばかり固い印象があった。

 

「はじめまして、お兄さん!」

 

「お兄さんというんじゃねぇ、小町と恋人というわけじゃねぇのに」

 

「す、すいませんっす!」

 

「もう、お兄ちゃんはぁ」

 

 ため息を零すが満更でもない表情を浮かべる小町。

 

 この二人はもう、とペガはため息を吐いた。

 

 対面へ着席した川崎大志は相談があるらしい。

 

「実は、相談っていうのは姉ちゃんのことで、家の姉ちゃん、その川崎沙希っていうんですけど」

 

「……(なーんか、聞き覚えのある様な名前)」

 

 横でそんなことを思いながら話を聞く。

 

 高校二年になったところで姉は急に帰宅時間が遅くなったという。

 

 日付が変わった時、さらには朝の五時に帰宅してきた時もあったという。

 

「それで、俺、姉ちゃんが不良になったんじゃないかって、心配で、危ないこととかしているんじゃないかとか……そうじゃなくても、俺、姉ちゃんには傍にいてほしいっていうか、出来れば、妹や俺と遊んでほしいと思うんです」

 

 ゆっくりと、けれど、己の不安を吐き出すようにしながら悩みを伝える。

 

「……それで、小町、いや、俺にどうしてほしいんだよ?」

 

 八幡は途中から相談をしたい相手というのが小町ではなく自身にあることを気付いていた。

 

「その、姉ちゃんのこと、見てほしいんです。できれば、前みたいな家族仲良くみたいな、その……」

 

 少し考えながら八幡は尋ねる。

 

「おい、大志といったな。お前、父ちゃんと母ちゃんはどんな人だ?」

 

「えっと、優しいっす!休みになれば、俺達をどこかに連れて行ってくれたりしますし、うちの両親、共働きなんです。姉ちゃんに口うるさいこといわないし、俺や妹の面倒見たり、暮らしも一杯一杯なんですよね」

 

「何か、うちと少し似ているところがあるね」

 

「だな……まぁ、どこまでできるかわからんが、調べてやるよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 ぺこぺこと頭を下げる大志に八幡や小町は笑みを浮かべる。

 

 尚、ペガは感動して涙をこぼしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、大志から姉が働いているであろうお店の名前を聞いた。

 

 ペガに頼んで調べさせたところ、エンジェルラダーというBarではないかという話になる。

 

「Barかぁ」

 

「お兄ちゃん、いけないね。未成年だもん~」

 

「そうだな、まぁ、学校で話をして駄目だったら考えるかぁ」

 

「頑張ってねぇ~」

 

「ペガも応援はするよ~!」

 

「こいつら……まぁ、最悪、雪ノ下達にも協力してもらうとしよう」

 

 明日、川崎へ接触してみることにするか。

 

 八幡はそう考えていた。

 

 そんな彼らを見ている者がいるなど、誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み。

 

「あ、比企谷、どこへいくのさ?」

 

「……人探し?」

 

「何で疑問形なんだし」

 

 話しかけてきた三浦へ八幡は少し考えて無難な答えを選んだつもりだったのだが、失敗だったようだ。

 

 気になるという様子で三浦が尋ねてくる。

 

「そうだ、三浦、お前、か、川崎がどこにいるかって…………知っていませんかねぇ?」

 

「あぁ?」

 

 きょとんとした表情から徐々に鬼のように険しい表情に変貌する三浦さん。

 

 突然のことに会話の後半が尻すぼみしてしまう。

 

「川崎?川崎つった?アンタ、何でそいつを探しているの?」

 

「いや、その、なんていうか、その川崎と話をしないといけないことがありまして」

 

「フーン、屋上でもいるんじゃない。一匹狼気取って」

 

 鼻音を鳴らしながら三浦は離れていく。

 

 今の様子からして二人は面識でもあるのだろうか?

 

 しかし、今の三浦に問いかける勇気はなかった。

 

 八幡は教室を後にする。

 

 総武高校の屋上へ向かうとこちらを睨んでくる川崎沙希の姿があった。

 

「川崎沙希さんだっけ?少しお話よろしいですか?」

 

 川崎大志から聞いていた彼女の好物と献上品として差し出す。

 

 献上品をむすっとした表情を崩さないまま、受け取る。

 

「何か用事?」

 

「まぁ、川崎大志から相談を持ち掛けられた」

 

「大志から?」

 

「あぁ、単刀直入に言う。夜のバイトはやめておけ、弟が心配している」

 

「他人のアンタは関係ないよね?」

 

「確かに俺は赤の他人で関係ないとはっきりいえるだろう。だが、今回はお前の弟から頼まれたんだよ。一応、話してくれるなら教えてくれないか?なんで夜のバイトをしている?」

 

「教える理由はないよね」

 

「あぁ、だがまぁ、予想は出来る」

 

 ギロリと川崎が睨む。

 

「言い方は悪いけれど、金が必要なんだろ?」

 

「……続けなよ」

 

「大志から聞いた話によると、両親は共働きで生活費とか色々と苦労が絶えないと聞く。だから、自分の分くらいなんとかしようと考えたんじゃないのか?」

 

「……アンタ、超能力者かなんか?」

 

 驚きを隠さずに川崎は驚きの表情を浮かべる。

 

「俺も妹を持つ兄だからな。そういうことくらいの予想は出来る。後は知り合いにすこーし、調べてもらった」

 

 ペガの力もバカにできない。

 

 八幡はもう一つ、用意しておいた書類を取りだした。

 

「答え合わせといこうか?」

 

「……恐ろしいくらいに正解だよ、本当に。アンタ、シスコンでしょ」

 

「かもなぁ」

 

 苦笑しながら自分の分のMAXコーヒーを飲む。

 

「そこで、一つ提案だ」

 

 事態解決の為に八幡はある提案をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから数日後。

 

 

 

 地球防衛軍(Terrestrial Defense Force)はパリに本部を持ち、各地に支部を持っている。

 

 1966年に出現した古代怪獣ゴメスをはじめとする様々な怪獣災害、宇宙人による侵略活動を阻止するべく結成された。

 

 地球防衛軍極東本部に富士山麓の地下に秘密基地を設営しており、300人以上の職員が昼夜問わず、侵略者の活動に目を光らせている。

 

 極東本部の中にはエリート部隊であるウルトラ警備隊があった。

 

 1967年に発生したクール星人による人間消失事件を解決してからというものの、様々な侵略者や怪獣との戦いを潜り抜けてきた最強の六人。

 

 現在は第二期編成だが、ウルトラ警備隊は伝説の存在であり、栄光の隊員達として常に防衛軍内で語り継がれている。

 

 ウルトラ警備隊の司令室は常に最新鋭の設備を導入しており、今、古橋を隊長とする五人の隊員達はある映像を見ていた。

 

 

 KCBというメディアの放送をみている。

 

 

 放送の内容は「多発する怪事件について」という内容。

 

 近年、多発する侵略者による怪事件を皮切りに怪獣騒動、そして、現れた赤い巨人「ウルトラセブン」について。

 

 ウルトラ警備隊が苦戦するような怪獣を次々と倒していく赤い巨人。

 

 その巨人は敵か味方かということでKCBが呼んだゲストが司会者の進行によって議論が行われていく。

 

 普段はマスメディアの内容などみている暇などないウルトラ警備隊だが、彼らもウルトラセブンという存在に興味があり、どのような内容なのかみてみたいということで正面スクリーンに映されていた。

 

「地球は常に狙われています。地球防衛軍が呼称する赤い巨人、ウルトラセブンもいずれは地球を狙うはずです」

 

「ですが、ウルトラセブンは多くの侵略者や怪獣を倒しています。先日、発生したケムール人による人間誘拐事件においてもウルトラ警備隊を手助けしたという話があります」

 

「それも演技ですよ。栄光の部隊といわれるウルトラ警備隊、彼らの信用を得ることができれば、裏でどんなことをしていても、誰も疑うことをしない」

 

「つまり、侵略のための準備であると?」

 

 テレビで行われる内容はほとんどが「ウルトラセブンは侵略者」という話で進んでいる。

 

 内容を見ていたウルトラ警備隊の司令室ではリサが憤慨していた。

 

「信じられない!ウルトラセブンは私達の為に戦ってくれているのに!」

 

「自分達よりも強大な力を持つ存在を人は恐れる」

 

「ユキ隊員はウルトラセブンを侵略者だというんですか!?」

 

「そうじゃない、人は正体不明の存在、自身より強大な存在を恐れる。それ故にウルトラセブンという未知の存在を恐れるという事は仕方のないことだといいたいだけ」

 

「二人の言い分もわかるが……実際のところ、俺達もウルトラセブンについては何もわかっていないしな」

 

「侵略者なら叩き潰せばいいだけですよ!」

 

 東郷の漏らした言葉に梶が攻撃的な意見を告げる。

 

「隊長、隊長はウルトラセブンのこと、どう思います?」

 

 渋川の問いかけに古橋は全員を一瞥した後。

 

「そんなもの、自分達で考えろ」

 

 柔和な笑みを浮かべながら置かれている湯飲みの茶を飲んだ。

 

 納得いかないという表情をしている隊員達だったが定時パトロールの時間になったため、ヘルメットを手にして渋川とリサの二人が司令室を出ていく。

 

 極東本部の地下にはウルトラホークをはじめとするライドメカの格納庫、ポインター等の各種車両の為の駐車場がある。

 

 誘導員の許可が下りた特殊車両ポインターが各都市に繋がる地下の秘密通路(シークレット・ハイウェイ)を通って道路へ出ていく。

 

 運転席にいる渋川は助手席にいるリサが怒っていることに気付いた。

 

「おいおい、リサ隊員。まーだ、怒ってんのか?」

 

「だって、一緒に戦ってきたウルトラセブンをあんな否定されたら我慢できませんよ!」

 

「こらこら、キミはウルトラ警備隊なんだからね?冷静かつ的確に!が大事なんだからさぁ」

 

「冷静かつ的確に!私はウルトラセブンが味方だと思っています。渋川隊員はどうなんです!?」

 

「俺だって、ウルトラセブンは味方だと信じたいなぁ、だが、確固たる証拠がないもんだからなぁ」

 

「共に戦っているじゃダメだと?」

 

「報道で演技だという可能性もあるからなぁ……ま、俺達のやることは変わらねぇよ。侵略者を倒して、地球の平和を守るってもんだ!ウルトラセブンが敵味方かどうかについてはいずれ、答えがでるって」

 

 渋川の言葉にリサも一応の納得する様子を見せた。

 

 直後、ポインター内に緊急通信が入る。

 

「こちら、ポインター!」

 

『基地のレーダーが高エネルギー反応を検知しています。至急、急行してください』

 

「ポインター了解!」

 

「向かうぞぉォ」

 

 アクセルを踏みながらポインターを目的地へ急行しようとした。

 

 遠くから赤い閃光が空へ走る。

 

 直後、大きな爆発が起こった。

 

「渋川隊員!!」

 

「なんてこった!」

 

 驚きのあまり言葉を失いつつも渋川は目的地へポインターを走らせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発が起こったのは無人の廃ビル。

 

 取り壊しが決まっていた建物だったことが幸いで被害者はゼロだった。

 

 ポインターで駆け付けた渋川とリサは警察の現場検証が終わるのを待っている。

 

 爆発が起こったといっても、今回の事件が人的被害によるものなのか、侵略者の仕業なのかわからない為であった。

 

「運が良かったですね、爆発があったにしても、人がいなくて」

 

「そうだなぁ、ま、ウルトラ警備隊や警察、その他は大変だけどなぁ」

 

 渋川が楽観的に呟く。

 

 リサは倒壊した建物を見ながらなんともいえない表情を浮かべていた。

 

「え、爆発物の反応がない?」

 

 やってきた警察から告げられた言葉に渋川が驚きの声を上げる。

 

「え、じゃあ、これ、どうやって倒壊したっていうんだ?」

 

 困った表情を浮かべる警官の話では周囲を捜索したけれども、爆発物はおろか、火薬の反応も見られなかったという。

 

 リサがポインターの車内に置かれていた機械を使っていたが反応がない。

 

「どういうことだよ」

 

 崩壊した建物の跡地をみながら渋川は額から流れる汗をぬぐった。

 

 何か嫌な予感がひしひしと感じ取る。

 

 事件はこれからはじまるのではないだろうか?

 

 そんな予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜に事件が起きた。

 

『聖なる炎が穢れを焼き払うであろう!キリエル人に従うのだ!キリエル人こそが人類を救うことができる。従う証をみせなければ、さらなる炎が穢れを焼き払おうとすることになろう!』

 

 ニュース放送中に美人キャスターの一人の髪が逆立ち、瞳の周りが真っ黒に染まると天井へ浮かび上がった。

 

 突然の事態に放送を止める暇もないまま、映像は全国に流されてパニックを巻き起こしその日に発生したビル倒壊事件が大々的に報道されることとなる。

 

 翌日、総武高校において、話題となっていた。

 

「何か、みんな、騒いでいるね……」

 

「知らない」

 

 机に突っ伏している八幡に戸塚が声をかける。

 

 周りを見れば、誰もが携帯を片手に昨日のニュース、キリエル人の予言について喋っている。

 

 由比ヶ浜は三浦と海老名の三人と騒いでいる彼らの様子を眺めていた。

 

「八幡はどう思う?キリエル人について」

 

「内容はテロリストが国家へ犯罪声明を流すものと似たようなものじゃないか?まぁ、大抵、あぁいうものは無視されるか却下されるか相場は決まっているけどな」

 

「でも、ビルを原因不明の力で倒壊させたってきくよ?」

 

「それが本当にキリエルなんちゃらがやっていればな」

 

「え?」

 

 ぽかんとする戸塚に八幡は面倒そうに話す。

 

「爆発が起こってすぐにあぁいう放送がされたから誰もが爆発=キリエル人の仕業って繋げてしまう。もしかしたらそこを狙ってあぁいうインパクトある放送をしたって考えられるだろ?」

 

「そっか、凄いね!八幡」

 

「まぁな(おそらくは違うけどな)」

 

 表面上は別の考えを伝える八幡だが、本当は違う。

 

「(あの映像に合成や細工の類は感じられなかった。直接、みたわけじゃないがキャスターに何者かの意識が入り込んだと考えられる……これは明らかな侵略行為だ。ウルトラ警備隊が活動を起こすだろうなぁ)」

 

 八幡は周りを見る。

 

 昨日の映像が原因で誰もがキリエル人について話し合っている。

 

 まるで新たな新興宗教の誕生だな、と心の中で彼は思った。

 

「ねぇ」

 

 考え事をしていたところで声をかけられる。

 

 視線を向けると眉間へ皺を寄せた川崎沙希がいた。

 

「少し、良い?」

 

 複数の視線が集まるのを感じながら八幡は頷いた。

 

「この前はありがと、アンタのおかげで夜間にバイトとかしなくて済むようになった……あと、大志や親と話し、した」

 

「それはよかったな。ただ、俺に感謝されてもなぁ、俺はただ大志の奴に頼まれた。感謝なら家族を大事に思っていた大志に言ってやれ……それか、何か飯でも奢ってやるんだな」

 

「そうする……」

 

 家族の話題は恥ずかしいのか、視線を逸らす川崎。

 

 少しして、視線をさ迷わせながら話を切り出す。

 

「それで、さ、アンタ、おかしな出来事とか、そういうことに詳しいって話を聞いてさ、相談したいことがあるの」

 

「おかしなって、何だよ」

 

 話を聞いたというが誰が言ったのだろうか?

 

「一年生で噂になっていたよ?怪しい出来事はアンタに相談すればいいって」

 

「(一色だな)」

 

 すぐに噂の出先がわかった。

 

 呆れながら八幡は頷いた。

 

「まぁ、出来ることと出来ないことはあるが……話を聞かせてくれ」

 

「昨日、私の前に予言者っていうのが現れたんだ」

 

 川崎の話は驚くことに昨夜、あのニュース放送が終わった直後のことらしい。

 

 予言者と名乗る男が川崎の前に現れて、キリエル人へ忠誠を誓う様にと言ってきたのだ。

 

 もし、誓わないのなら大勢の者が炎で焼かれることになるという脅しまで。

 

 突然のことに戸惑って動けない川崎の前から予言者は姿を消したという。

 

 時間にして五分程度。

 

 夢のような話に川崎自身も現実だったのか、自身の妄想だったのかわからないという。

 

「それ、お前一人だけの時に?」

 

「うん……ただ、その、本当にわかんないだけど、ベランダの宙にソイツ、浮いていたんだ」

 

 八幡の表情が一瞬だけ変わる。

 

 宙に浮いていた。

 

 川崎の前に現れた予言者が実際にいたというのならそれは人間ではない。

 

 人の姿をした何かであろう。

 

「夢だったのかな、私、怖いんだ」

 

 険しい表情は不安を必死に隠しているのだろう。

 

 他からみれば機嫌が悪そうにみえる。

 

 だが、大志から聞いた彼女の印象から弱いところをみせたくないのだろう。

 

「わかった、川崎、もし、変な事があれば、俺に相談してくれ。解決できるかはわからないにしても、一人で抱え込むよりマシだ」

 

「……ありがと」

 

 険しい表情を緩ませて川崎が感謝の言葉を告げる。

 

 その時、川崎の携帯端末がブルブルと震えた。

 

「あ、ごめん」

 

 携帯の画面を見た川崎が戸惑った声を漏らした。

 

「どうした?」

 

 彼女の異変に気付いた八幡が尋ねる。

 

 震える手で八幡へ携帯の画面を見せた。

 

【穢れを焼き払う炎は止まらない。貴方がキリエル人へ従うという証を見せない限り、炎は次々と噴き出すだろう。さぁ、今回はH-1地区です。予言者】

 

 メールの内容は明らかな脅しのようなもの。

 

 驚くべきところは送り主のアドレスが表示されていないという事だ。

 

 これだけで、相手が普通でないことが窺い知れる。

 

 総武高校の屋上から離れたところからもくもくとあがる黒煙がみえた。

 

「ウソ、でしょ」

 

 信じられないものをみる表情で川崎は目を見開いていた。

 

 

――決まりだ。

 

 

 予言者は実在する。

 

 どういうわけか川崎が狙われている。そして、予言者は普通の人間ではない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 H-1地区の上をウルトラホーク3号が飛行する。

 

 三十分前は多くの人達が当たり前のように生活していた。

 

 仕事の為に道を歩くサラリーマン、楽しく話す主婦、せっせと働く従業員たち。そんな人達が原因不明の爆発によってその命を失う。

 

 ビルは爆発を起こし、炎によって人は一瞬にして炭になる。

 

 紙は燃え付き、パソコンは壊れ、ガラスは割れて地面へ散らばった。

 

 そんな地獄の光景をウルトラホーク3号から梶隊員とユキ隊員がみている。

 

「こちらホーク3号、H-1地区の被害は甚大です!犠牲者多数!繰り返します。被害は甚大です!」

 

「これは人類の仕業じゃない」

 

 無線機に叫ぶ梶隊員の横で燃え上がる街を見下ろしながらユキ隊員はぽつりと呟いた。

 

 

 H-1地区の被害のことで地球防衛軍はキリエル人に対しての緊急会議が開かれることとなった。

 

 極東基地の参謀会議室は重たい空気が広がっている。

 

「では、キリエル人と名乗る謎の存在についての緊急会議をはじめる」

 

 老齢の山岡長官の言葉に参謀たちは様々な意見を告げた。

 

「相手は侵略者です。迎撃すべきです!」

 

「どういう目的であんなテロ行為に等しいことをするのかまず、その原因を探るべきだ」

 

「予言をしたニュースキャスターは今も昏睡状態にあります。彼女から情報を探ることは難しいでしょう」

 

 会議は難航していた。

 

 正体不明の相手からの攻撃に対抗すべきと告げる参謀がほとんどだが、敵の居場所もわからず、有効策も見つかっていない今において、最適解は見つかっていない。

 

「一つ、情報部からの報告でキリエル人の予言者と名乗る人物が一人の少女へ接触したという報告があります」

 

「接触?」

 

 稲垣参謀の言葉に山岡長官が尋ねた。

 

「はい、報告によれば、H-1地区爆破予告もその少女へ行ったと」

 

「キリエル人とやらの仲間ではないのか?」

 

「あるいはキリエル人そのものかもしれんぞ」

 

「少女については?」

 

「ウルトラ警備隊が事情聴取を行っています。H-1地区の爆破については、目撃者が傍にいたということで直接的な犯人とは考えられないでしょう」

 

 山岡長官の問いかけに竹中参謀が答える。

 

 参謀会議は続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「送り主のアドレスがない」

 

 ウルトラ警備隊に事情を説明しようという八幡の意見で川崎は防衛軍へ連絡。

 

 やってきたウルトラ警備隊の渋川とリサ隊員へ川崎沙希はメールの内容をみせる。

 

「悪戯でもなさそう……でも、なぜ、貴方にキリエル人の予言者っていうのは接触してきたのかな?」

 

「そんなの!……わかるわけ、ないじゃないですか」

 

 リサの言葉に川崎が叫ぶ。

 

 彼女自身、色々と混乱している。

 

「落ち着け、落ち着け~、川崎ちゃんだったよね。もし、また予言者から連絡があれば、すぐに俺達へ教えてくれないかな?」

 

「ウルトラ警備隊に?」

 

「そう!大丈夫!何があっても俺達、ウルトラ警備隊が解決するから泥船にのったつもりで信じてほしい!」

 

「大船ですよ、渋川隊員!」

 

「え、あ、いけね!」

 

 リサ隊員の指摘で慌てる渋川。

 

 そのやりとりに川崎が小さな笑みを浮かべた。

 

 わかっている限りの情報を伝えて、川崎は家へ帰らせる。

 

「酷い話だよな、あんな将来これからって子に多くの人の命をゆだねさせるようなことを強いるなんてよ」

 

 去っていく川崎の背中を見ながら渋川は呟く。

 

 それだけキリエル人の予言者という人物がやったことに対して渋川は腹立たしかった。

 

 必ず予言者を見つけ出して、事件を解決する。

 

 決意を新たにして渋川とリサは隊長からの連絡で極東基地へ戻ることになった。

 

 ぶらぶらと道を歩いていた川崎沙希。

 

 不在を知らせる着信があって、内容を確認すると弟の大志からだった。

 

「あ、もしもし、大志……うん、これから家へ――」

 

 帰ると言おうとした川崎は人ごみの中を流れる様に進む男の姿を見つける。

 

 男の姿を見た川崎は目を細めた。

 

「ごめん、大志、少し寄り道してから帰るから、うん、じゃ」

 

 短く会話を終わらわせて川崎は男、予言者の後を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 川崎は予言者を追いかけて高層ビルへたどり着く。

 

 男が部屋に入ったところを確認して階段をあがる。

 

 目的の部屋の表札を確認した。

 

 どこにでもある名前をみて眉間へ皺を寄せる。

 

「何が予言者だよ、アンタはどこにでもいる人間だってこと証明してやる!」

 

 ゆっくりとドアを開けて中に入る。

 

 夕方から夜空に変わっているというのに室内は灯りの一つもついていない。

 

 疑問を抱きながらも奥に向かう。

 

 ゆっくりとドアを開けた。

 

 リビングは驚くほどに質素だった。

 

 机と椅子、観葉植物がいくつか。

 

 生き物の類はない。

 

 川崎は机にパソコンが置かれていることに気付いた。

 

 予言者の姿がないことに疑問を抱きつつもゆっくりとパソコンへ触れる。

 

 ブゥゥゥンと音を立てて起動されたパソコンの画面。

 

「どういう、こと?」

 

 パソコンを操作した川崎は疑問の声を漏らした。

 

 開くすべてのファイルが二年前で更新のすべてが止まっている。

 

 全てのファイルが、である。

 

「なんで」

 

「簡単なことだよ」

 

 背後から聞こえた声に川崎が振り返る。

 

 何かがいた。

 

 暗闇でわからないが複数の何かがいることを川崎はなぜか理解できる。

 

 闇の中から何かが放たれた。

 

 衝撃が腕、足、腹、胸、肩と襲う。

 

 突然のことにされるがまま、の川崎の体は宙を浮いて、何も貼られていない白い壁に叩きつけられる。

 

「ぐふっ!」

 

「話の続きだが」

 

 暗闇の中から予言者が現れる。

 

 靴音を鳴らしながら川崎の傍へ近づく。

 

「私は二年前に死んでいるのだよ。死んだ私はキリエル人に選ばれて予言者となった」

 

「つまり、アンタは死人!?」

 

 驚きの声を上げる川崎。

 

「なんで、なんで、私なんだよ!」

 

 自らの疑問を吐きす川崎。

 

 苦しかった。

 

 なぜ、自分、なのかと。

 

 突然、崇めよと選ばれて、多くの人が死ぬ瞬間をみせられて。

 

 傍に彼がいなければ、おかしくなっていたことだろう。

 

「貴方が、いえ、貴方も奴を受け入れようとするからですよ」

 

「奴?」

 

「奴が現れるよりも前からキリエル人は地球にいたのです。人を導くために……ですが、奴を受け入れようとする者達がいる。それは許される事ではない」

 

「その、奴が誰のこといってんのか、知らないけれど、私は」

 

「受け入れないというのなら多くの人が聖なる炎に」

 

 拒絶しようとしたタイミングで告げた予言者の言葉に川崎の顔が歪む。

 

 暗に拒絶すれば多くの人が死ぬぞ、と告げているのだ。

 

 脳裏に大事な弟や妹、家族の姿が過ぎる。

 

 最低だ。

 

 心の中で悪態をつくも壁に縫い付けられたように手足は動かない。

 

 予言者の試すような笑顔が悔しくて視界が滲む。

 

「それは脅迫っていうんじゃないのか?」

 

 響いた第三者の声。

 

 その声に川崎は目を見開き、予言者は忌々しそうに顔を歪める。

 

「比企谷……アンタ!?」

 

 驚く川崎に対して予言者はため息を吐く。

 

「脅迫というのは失礼な言い方ですね」

 

「違うのか?動けない相手に従わないというのなら大勢の命を奪うぞという言葉をちらつかせているのは脅迫でないというのか?」

 

 八幡の言葉に予言者は笑みを浮かべる。

 

「人類はキリエル人に従うべきなのだよ!これからはじまる大いなる恐怖から救われるためにはねぇ!だからこそ、お前は邪魔だ。いや、要らない。貴様のような存在は消えてしまえ!」

 

 予言者の口から炎が吐かれた。

 

 仰け反りながら躱した八幡は右手に力を込めて、念動力を放つ。

 

 放たれる念動力は予言者を捉えたはずだった。

 

 目の前にいた筈の相手がいない。

 

 同時に拘束されていた川崎の体が床に落ちる。

 

「川崎、大丈夫か?」

 

「……アンタ、なんでここに?」

 

「大志に感謝しておけよ。アイツが気になって俺に連絡してこなければ気付かなかったからな」

 

 八幡に肩を借りながら川崎はゆっくりと体を起こす。

 

『最後の予言を伝えよう』

 

 暗闇の中で響く予言者の声。

 

「最後だと?」

 

『キミ達が生きている間に聞くこととなる最後の予言、という意味だよ。聖なる炎が焼き払う場所、それは、ここだぁ!』

 

「ふざ、けんな!アンタは何だと思ってんだ!」

 

 苛立ちをぶつけるように川崎は天井へ叫ぶ。

 

 八幡はゆっくりと川崎と共に立ち上がる。

 

「すぐに、ウルトラ警備隊へ通報しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「市民からの通報で次のキリエル人の攻撃先が判明した」

 

 ウルトラ警備隊司令室で古橋が隊員達へ告げる。

 

「ですが、敵の攻撃の対抗策が……」

 

「その件ですが、敵の攻撃は地下からくることがわかりました」

 

 ユキ隊員が前に出る。

 

「科学班からの報告で地下からの対抗策として電磁波を放つマイクロウェーブに効果があると言われています」

 

「よし、ホーク3号にマイクロウェーブを搭載して梶、現場へ急行せよ!ユキは梶と同行してサポート!残りは俺と共にホーク1号で民間人の避難を行う!」

 

「了解!」

 

 全員が敬礼をする。

 

「時間が限られている!ウルトラ警備隊、緊急出動だ!」

 

 極東基地からウルトラホーク1号とウルトラホーク3号が緊急発進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現地では多くの住民が警察や防衛軍隊員の誘導の元、避難をしていた。

 

 この街に人を殺す炎が吹き荒れる。

 

 誰もが恐怖に包まれながら、避難誘導に従う。

 

 その中に当然のことながら八幡と川崎の姿もあった。

 

「ごめん、比企谷。色々と迷惑をかけて」

 

「困った時はお互い様っていうだろう……俺には無縁な言葉だが」

 

「アンタねぇ」

 

 予言者から受けた攻撃が体に響いているのだろう。

 

 川崎から汗が流れる。

 

「無理はするな、避難所で休めばいい」

 

「アンタは、どうするの?」

 

「逃げるさ、こんな危ない事態は大人……ウルトラ警備隊に任せればいい」

 

 ちらりと周囲をみる。

 

 老人、大人、子供、多くの人が誘導に従っている。まるで、これから起こることが世界の終りのようなものに川崎は感じられた。

 

「私達、滅びるなんてことに、なるかな?」

 

「ならないだろ」

 

 不安の声を八幡は一蹴する。

 

 避難所に到着したところで川崎を八幡は座らせた。

 

「さっきの話だけど」

 

 小さな笑みを浮かべる。

 

「そう簡単に人類は滅びねぇよ、地球人よりも地球人を愛している宇宙人だっている」

 

 川崎は戸惑いの表情を浮かべている中、八幡は立ち上がる。

 

「水でもとってくる。川崎はそこで休んでいてくれ」

 

 離れていく八幡。

 

 その姿を目で追いかけていた川崎だが、視線を感じて振り返る。

 

 怪しげな笑みを浮かべている男がいた。

 

 みられていることに気付いたのか男は歩き出す。

 

「っ!」

 

 予言者かもしれない。

 

 ふらふらと鉛のように重たい体を引きずりながら川崎は後を追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルトラホーク3号は市街地上空に到着する。

 

「マイクロウェーブ起動!」

 

「起動します」

 

 梶の言葉にユキがシステムを起動する。

 

 ホーク3号の下部からマイクロウェーブが姿を現す。

 

「五秒前!」

 

 ユキがカウントする。

 

 マイクロウェーブは少しでも位置がずれればその効力を失う。

 

 故に科学班が予想した位置へ正確に放たなければならない。

 

 市街地は無人。

 

 そのはずの場所にふらふらと川崎が現れる。

 

 男の姿を探していたが見失ってしまう。

 

「どこに……」

 

 額から汗を流しながら川崎は市街地を歩く。

 

 マイクロウェーブの範囲内に自身がいることに気付いていない。

 

「川崎!」

 

『四秒前!』

 

 バランスを崩して地面に倒れる川崎。

 

「川崎!どこだ!」

 

 彼女がいないことに気付いて探しに来た八幡。

 

『三秒前!』

 

 八幡は地面に倒れている川崎の姿を見つける。

 

 声をかけるも彼女が起き上がる様子はない。

 

『二秒前!』

 

 彼はウルトラホーク3号がマイクロウェーブを発射する状態であることに気付いた。

 

『一秒前!』

 

 八幡はポケットからウルトラアイを取り出して装着する。

 

『発射!』

 

 ウルトラホーク3号から放たれるマイクロウェーブ。

 

 眩い閃光を放ちながら瞬時に巨大化したウルトラセブンが市街地に姿を現す。

 

 彼の手の中には意識を失っている川崎沙希の姿があった。

 

 ゆっくりとウルトラセブンが川崎を地面へそっと寝かす。

 

 ウルトラ警備隊のおかげでキリエル人の攻撃は失敗に終わる。

 

「ようやく姿を現したな!ウルトラセブン!」

 

 呼ばれた声にセブンは視線を向ける。

 

 予言者が道路の真ん中に姿を見せていた。

 

 彼は怒りに染まっていた。

 

『お前はなぜ、こんなことをする』

 

 テレパシーでセブンは問いかける。

 

「キミは地球の守護神になるつもりかい!」

 

 しかし、セブンの問いかけに予言者は答えない。

 

「烏滸がましいと思わないかい!?地球人は我々キリエル人の導きを待っていたのだよ!」

 

『仮にキリエル人の導きとやらを地球人が望んでいたというのなら、なぜ、なぜ……多くの命を奪う!貴様がやっていることは侵略者と大差ない!』

 

「みるがいい!キリエル人の怒りを!怒りの炎を!!」

 

 地面に亀裂が入り、そこから炎が噴き出していく。

 

 炎が形を変えていき、やがて、異形の巨人がその場に現れる。

 

 心臓の部分を胎動する発光部分、黒とグレーが混ざり合ったような体皮。

 

 それこそキリエル人が戦うために姿を変えたキリエロイドである。

 

「あれが、キリエル人の正体だっていうのか!?」

 

 避難民を誘導して上空のホーク1号で様子を伺っていた東郷隊員が驚きの声を上げる。

 

『多分、違います』

 

 ホーク3号のユキ隊員から否定の言葉が入る。

 

『奴の姿を見る限り、ウルトラセブンと戦うために、身長、体重、全てを模倣したと思われます』

 

「何て奴だよ。相手と戦うために同じ姿になるなんてよ」

 

「それだけ、ウルトラセブンを敵視しているということ」

 

「どちらにせよ、奴は侵略者であることは変わらん」

 

 動揺している隊員達に対して古橋隊長は鋭い目でウルトラセブンとキリエロイドの戦いをみていた。

 

 先手を切ったのはウルトラセブン。

 

 キリエロイドに接近してパンチを放つ。

 

 同じようにキリエロイドもパンチを繰り出してウルトラセブンとぶつかりあう。

 

「ジョキィ!」

 

 不気味な声を上げながらパンチやキックを繰り出してくるキリエロイドにセブンは真っ向から挑む。

 

 ウルトラセブンと同じ身体能力を宿しているという事で互角の戦いが続いていく。

 

 距離が開いたところでセブンが駆け出す。

 

 キリエル人は手に炎を纏い放つ。

 

 炎の塊がウルトラセブンの体を焼こうとする。

 

 銀のプロテクターを溶かそうとするほどの熱にセブンは苦悶の声を漏らす。

 

 ダメージに膝をついたウルトラセブン。

 

 不気味に笑いながら接近したキリエロイドがセブンの体を持ち上げて、顔を殴る。

 

 何度も殴り、そのまま投げ飛ばす。

 

 近くのビルの上に体をぶつけながら倒れこむウルトラセブン。

 

 キリエロイドは自らの勝利を予見しているのか両手を広げて笑う。

 

「しっかりしやがれ!」

 

 気付けば古橋はウルトラホーク1号のスピーカーをONにして叫んでいた。

 

「てめぇがどこの誰で!どういった理由で地球人の為に戦ってくれているのか知らねぇ、けれど、俺達の為に戦ってくれているというのなら、必ず勝て!ウルトラセブン!」

 

 古橋の操縦しているウルトラホーク1号からブレイカーナックルミサイルが放たれた。

 

 攻撃を受けたキリエロイドはのけ反りながら、炎の塊をウルトラホーク1号へ投げようとする。

 

 起き上がったウルトラセブンが頭頂のアイスラッガーを投げた。

 

 真っ直ぐに放たれたアイスラッガーがキリエロイドの胸部に激突。

 

 標的を失った炎は地面で爆発を起こす。

 

 戻ってきたアイスラッガーを頭頂に戻して、構えを取るウルトラセブン。

 

 苛立ちの声を上げながら駆け出すキリエロイド。

 

 先ほどよりもセブンのパンチの速度があがる。

 

 まるで拳が燃えているように次々と繰り出されるパンチ。

 

 連続ラッシュを受けて、ふらふらになるキリエロイド。

 

 ウルトラセブンは後ろへ下がりながら両手をL字に構えて、ワイドショットを放つ。

 

 反撃しようとしたキリエロイドはワイドショットの直撃を受けて大爆発を起こす。

 

 ウルトラセブンは夜空の中へ消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷、ちょっといい?」

 

 キリエル人の事件から数日後。

 

 念のため、入院をしていた川崎沙希が復学した。

 

 大志からの情報によると体に異常はみられなかったという。

 

 いつの間にか大志とメールのやり取りが異様に多いことが発覚してしまうが、ただ、そういうことであり、今後は減る。

 

 必ず減るはずだ。

 

 ペガの呆れた声を思い出しながら八幡は川崎と屋上へ出る。

 

「その、前はありがとね」

 

「礼なら大志にいえって」

 

「しっかり言ったよ……そうしたらアンタに言えっていわれちまったよ」

 

「そっか、良い弟だな」

 

「自慢の家族だよ」

 

 川崎はちらちらと視線をさ迷わせる。

 

「色々と迷惑かけたけど、ありがとう。無事に解決したから」

 

「まぁ、俺にできたことは少ないけどな」

 

「そんなことないよ、アンタがいたから、助かったところもあるし……いつかは、お礼するからさ」

 

「それだけ聞くと、少し不安になるんだが」

 

「ハァ?」

 

 鋭い瞳でみられて八幡は自然と後ろへ下がる。

 

 苦笑しながら川崎は近づく。

 

「ありがとうね、お節介な宇宙人さん」

 

「は?お前、今、なんて?」

 

「さぁね。あ、そうだ。今度から普通に話しかけるから声かけても無視とかしないでよ」

 

 手を振って屋上から出ていく川崎の姿を見ながら八幡は呟く。

 

「よくわからんが、またボッチから遠ざかった気がする」

 



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第六話:チェーンメール事件

今回、短いです。

あと、つなぎのようなものです。
ちなみに私は話の流れ上、アンチな展開もしますが、基本的にそこまでアンチ好きじゃないです。

次の話は小町メイン?になる予定です。


 

 

「ねぇ、八幡は職場見学どうするの?」

 

 昼休み。

 

 小町特製の愛妹弁当を食べ終わった八幡に戸塚が問いかける。

 

「職場見学、あぁ、そんな時期か」

 

 総武高校は職場見学という行事がある。

 

 進学校として、将来の職業を考えさせる為にという目的であるというのだが、八幡としてはここのところ連続して起こった事件ですっかりと忘れていた。

 

 まるで空想特撮番組のように一週間ごとに怪事件に巻き込まれている――なんて、八幡はバカみたいなことを考える。

 

「もしかして、考えていなかった?」

 

「全く」

 

「何の話ぃ?」

 

 二人で話し合っていると三浦、由比ヶ浜、海老名の三人がやって来る。

 

 続いて、川崎が会話に気付いてやってきて、三浦とにらみ合う。

 

「定番だね~」

 

 文庫本を片手に微笑む海老名。

 

 由比ヶ浜や戸塚は苦笑している。

 

 あっという間に出来上がる摩訶不思議グループ。

 

 その中にボッチである自分がいることに八幡は未だに信じられない。

 

 ボッチ街道からいつの間にか外れてしまっているようだ。

 

「職場見学かぁ、今回は色々とあるよねぇ」

 

「あーしとしては、“愛染テック”が興味あるかなぁ」

 

「複合企業だよねぇ、かなり社長さんがユニークって噂だよねぇ~」

 

 皆がそれぞれの企業の行く先について話す中で、八幡は一つの候補を選ぼうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩~~!」

 

 奉仕部のドアを開いて現れたのは一色いろは。

 

 いつも通りに部活が終わるかと思っていたタイミングの来訪者に八幡はため息を零す。

 

「何の用事だ?一色」

 

「えへへ、先輩ぃ、職場見学、どこへいくんですかぁ?」

 

「別にどこだっていいだろう?」

 

「いいえ!もし愛染テックへ行くなら!愛染社長のサインをもらってきてほしいんです!」

 

「唐突だな」

 

「一色さん、職場見学は将来を見据えた行事であって、遊びではないのよ?」

 

「あー、でも、優美子たちも愛染テックに行きたがっていたなぁ」

 

「そうです!もし、行くなら愛の伝道師っていっている社長さんのサインをくださいよ!自慢できますから」

 

「お前があったわけじゃないだろ……それに、行く先なら俺は決まっているぞ」

 

「え?ヒッキーはどこに」

 

 コンコンと奉仕部のドアがノックされた。

 

「…………どうぞ」

 

 もうまもなく帰る時間というタイミングで新たな来訪者出現に雪ノ下は入室を促す。

 

「やぁ、失礼するよ」

 

 部室に入ってきたのはクラスの人気者、葉山隼人だった。

 

「すまない、サッカー部の課題が終わるのに時間が掛かってしまって」

 

「そちらの都合の話をされても困るわ。こちらはそろそろ帰ろうと思っていたから依頼の話をすぐにお願いするわ」

 

 爽やかな笑顔を浮かべる葉山に対して雪ノ下は厳しい。

 

 普通に謝罪をすれば良いのに言い訳をしてしまったからだろう。

 

「あ、それで、隼人君、依頼っていうのは?」

 

「これなんだ」

 

 困った様な様子で葉山が携帯端末を差し出す。

 

「チェーンメールね」

 

 雪ノ下が八幡と由比ヶ浜へメールの内容をみせた。

 

『戸部はカラーギャングの仲間、ゲーセンで西高狩りをしている』

 

『大和は三股をかけている。美女のより取り見取り』

 

『大岡はラフプレーで相手校のエースを潰している。エースキラー』

 

 上記のような内容の所謂チェーンメール。

 

 こういったメールがクラス内に出回っているらしい。

 

 そして、こういうチェーンメールによってクラス内の空気がかなり悪いとのこと。

 

「そうか?てか、こんなメールこねぇしな」

 

「あぁ、その、キミや結衣達がいるグループはかなり特殊じゃないからかな?えっと、比企谷君」

 

「ふーん、それで、葉山だっけ?お前の依頼はこのメールの犯人を突き止めるという事か?」

 

「いや、それは、できれば、したくない……その、こういうメールがでなくするにはどうすればいいだろうか?」

 

「原因の根絶ではなく、一方的な対処ということね、相変わらずのこと」

 

 ぽつりと雪ノ下が呟いた言葉を八幡は聞いたが反応しないことにした。

 

「出来るかな?雪乃ちゃん」

 

「難しいわね。犯人を特定してやめさせれば一発だけれど、それをしないというのなら、これは止まらない。一時的に止める手段は思いつくけれど、あぁ、もう一つあったわ。原因を取り除くことくらいかしら」

 

「原因?」

 

 葉山の問いかけに八幡が察する。

 

「このメールが出始めたのは何か理由がある。その理由を取り除けば、チェーンメールも回らなくなるってことか」

 

「そう、心当たりはあるかしら?」

 

「……すまない、あまり」

 

「あー、これって、あれじゃない?職場見学の話が出たころくらいだと思う」

 

 首を振る葉山、その直後の由比ヶ浜の言葉に部室内の時が止まった。

 

「あ、あれ?」

 

「由比ヶ浜先輩、タイミング悪すぎですよ」

 

 先ほどまで沈黙していた一色の言葉に由比ヶ浜はみんなをみる。

 

「まぁ、由比ヶ浜さんがヒントを与えてくれたわね」

 

 ため息を吐きながら雪ノ下が言う。

 

「けれど、なぜ、職場見学でチェーンメールが出回るのかしら?」

 

「あの、質問いいですか?」

 

 話を聞いていた一色が手を挙げる。

 

 ちらりと雪ノ下が八幡を見た。

 

「一色、何が聞きたいんだ?」

 

「はい、あの葉山先輩……ここの名前の挙がっている人達って先輩のグループですか?」

 

「え、そうだけど……」

 

「私、分かったと思います」

 

「え、ホント!?」

 

「教えてくれるかしら?一色さん」

 

 驚く由比ヶ浜の横で雪ノ下が続きを促す。

 

「はい、このチェーンメールって、おそらく牽制だと思います」

 

「牽制?」

 

「はい、おそらくですけれど、葉山先輩と職場見学へ行くための……ほら、葉山先輩って大人気じゃないですか、大人気の葉山先輩と一緒に見学へ行けれるように他の人達を蹴落とそうとする……こういうことをする女の子がいるんでわかっちゃいました」

 

「(一色はやっていないだろうけれど、そういうことをやる女子をみてきたんだろうな)」

 

 一色の話の横で八幡は推測していた。

 

「じぁあ、どうすれば」

 

「簡単だ」

 

 戸惑う葉山に対して八幡がある提案をする。

 

「お前が行く連中を堂々と宣言すればいい」

 

「え、宣言?」

 

「あぁ、お前の取り巻きはどこへ行くのかわかっていない。だから、牽制をすることで一番乗りできないようにしたいんだろう?だったら、お前がはっきりと誰と行きたいかを言えばいい、つまり、ここの連中とどこへ行きたいかを考えて決めればいい」

 

「それで、解決するのか?」

 

「チェーンメールをやろうとすることはなくなるだろうよ」

 

「……わかった、やってみるよ」

 

 そういって葉山は感謝を告げて教室から出ていく。

 

「今回は一色さんの手柄ね」

 

「えぇ~、本当ですかぁ?でしたら、先輩に何かお礼を」

 

「はいはい、あざとい、今度、何か駄菓子でも奢ってやるよ」

 

「えぇ、そこはパフェとか、あ、そうだ!」

 

 何か思いついたような表情を浮かべる一色。

 

 嫌な予感が八幡の中を駆け巡る。

 

「先輩、今度の休日、予定はないですよね?」

 

「だったら、なんだ……」

 

 おそるおそる八幡は尋ね返す。

 

「休日にデートしましよう!それがお礼です!」

 

 一色がこの場に爆弾、否、水爆を投下したと八幡は心の底から思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八幡も大変だねぇ、女の子とデートなんて」

 

「俺はデートと断じて認めない」

 

「相変わらずなんだから」

 

 自室で寛いでいるとダークゾーンからペガが顔を出す。

 

「そういうペガはどうなんだ?女の子とで、デートに誘われたら」

 

「えぇ!?それは嬉しいけど……でもぉ、恥ずかしいよう」

 

 そういってダークゾーンの中に消えた、と思うと再び顔を見せる。

 

「その子は八幡に好意を持っているの?」

 

「は?ないない、アイツはあざとい後輩だ。ただ、お礼として揶揄っているだけだ」

 

「じゃあ、僕も付き合っていいよね?」

 

「は?」

 

 ペガは体を出して本棚から数冊の漫画を取り出す。

 

 ベッドから体を起こして八幡はペガをみる。

 

「着いてくる気か?」

 

「八幡の影から顔は出さないよ。デートというものを知っておきたいからさ」

 

「はぁ、お前の勉強の為か」

 

「いいでしょう~?八幡~」

 

「わかった、わかった、一色の邪魔だけはするなよ?」

 

「やったぁ~!」

 

 嬉しそうにはしゃぐペガの姿に八幡はため息を零す。

 

 休日のデート、何も起きなければ良いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当日、八幡は私服姿で駅前へ来ていた。

 

 まるでリア充のような待ち合わせ場所である。

 

 八幡の傍にイケメンの男子が立っていた。

 

 ちらりとこちらをみてフッと笑う。

 

 何を評価したのか八幡は知らないし知りたくもない。

 

「遅れてごっめーん、待った~?」

 

 隣の男の待ち人はやってきたようである。

 

「いやいや、俺も今来たところだぜ!」

 

 まるで八幡へ女性をみせつけるようにしながらニヤリと笑う。

 

 こちらに勝ち誇った様な笑みだが、張り合う気もない八幡は気にしなかった。

 

「先輩~、遅れてごめんなさぁい」

 

「あざといぞ。てか、お前、約束の時間より十分も早く来るんだな」

 

「うわっ、先輩、時間測っているんですか?細かいです、怖いです、残念ですけれど、先輩はあくまで友達という関係であって恋人とかそういうものではありませんのでごめんなさい」

 

「何で俺が告白して振られたみたいになっているんだよ。てか、お前に付き合うだけなんだからな」

 

 呆れながら八幡

 

 女の子らしい薄いピンクを基調とする服装に身を包んで、白いベレー帽をかぶっている。

 

 あざとさ全開の一色の姿に八幡はやれやれと呆れながら歩き出す。

 

「あれれぇ、手をつなぐとかはないんですか?」

 

「遠慮しとく。行くぞ」

 

 一色に行くぞといいながら二人はショッピングモールへ向かう。

 

 休日ということで人ごみだらけの中をはぐれないように一色と一定の距離を保ちながら進んでいく。

 

「プランは一色が決めるという事だったが」

 

「はいはーい!デートといえば定番は映画です!チケットはネットで購入していますので行きますよぉ!」

 

 前に出てきた一色が八幡の腕を引いていく。

 

 抵抗する暇もないまま映画館へ入る。

 

 一色は映画のチケットを購入してからポップコーンとソフトドリンクを購入。

 

 八幡はソフトドリンクを買うことにした。

 

「先輩はポップコーンを買わないんですか?」

 

「ドリンクだけで十分だ。ところで、見る映画は何なんだ?」

 

「これでーす!」

 

 一色が選んだ映画のタイトルは「ウルトラQ」と書かれていた。

 

 

 

 

 

「え、マジ?」

 

 

 

 

 

――ウルトラQ。

 

 航空会社に勤務していた社員が今までに遭遇した怪事件を記したノンフィクションの本を映画化したものである。

 

 数十年前に出版されたものだが、今でも根強い人気を持ち、何より怪事件が再び連発していることから熱を持ち始めたらしい。

 

「ネットの評価で人気だったってことだから選んだんです。先輩も男の子ですからこういうの好きですよね?」

 

「え、あぁ、まぁ」

 

 曖昧に頷く八幡。

 

 その姿に一色は首を傾げながらも映画館内へ入る。

 

 二時間くらい経過して。

 

「いやぁ、面白い映画でしたねぇ!」

 

 有名な映画監督が作ったという事だけあってクォリティは最高だった。

 

 最高だったのだが。

 

「(まぁ、本物をみたことがあるからなぁ……面白いと言えば納得なんだが)」

 

「さぁ、次は買い物です!荷物持ち、お願いしますね!」

 

「……荷物持ち確定なんだな」

 

 ため息を吐きながら一色とショッピングモール内を行き来する。

 

 服に拘りを持たない八幡はあっさりと選んで買い物は完結するのだが、一色は試着を重ねて服を選んだ、かと思えば……買わなかったり、買ったりということを繰り返していた。

 

 興味のない八幡にとっては苦痛に等しい時間だ。

 

 夕方ごろにようやく八幡は解放された。

 

「死ぬかと思った」

 

「大袈裟過ぎますよ、女の子の買い物は長いんです!先輩が彼女をできた時はこういう苦労を味わうんですからね!」

 

「へいへい、俺にそういう機会がくればな」

 

 ため息を吐きながら荷物を持つ八幡に一色は尋ねた。

 

「先輩は奉仕部の二人とお付き合いとか考えないんですか?」

 

「ないな」

 

 八幡は考えるそぶりを見せずに答えた。

 

「えぇ?あの二人、美人じゃないですか、私より劣るかもしれないですけど」

 

「そういうことを言えるお前は凄いと思うわ」

 

 自信満々なのは悪いことではないが、あの二人は美少女だと八幡は思う。

 

 一色もまた別方向の美少女であるけれども。

 

「美少女とお付き合いとか考えないんですか?」

 

「さっきもいったがない……」

 

 脳裏をよぎるのは別宇宙での出来事。

 

 泣きながらバトルナイザーを構える雪ノ下と傷だらけになりながらジャイロを握り締める由比ヶ浜の二人の姿。

 

「本当にぃ?」

 

 疑う様にこちらをみてくる一色に八幡はため息を零す。

 

「さっきからなんだ?」

 

「何でもないですぅ」

 

 頬を膨らませながら先を歩く一色。

 

「先輩は職場見学、どこに行くか決めたんですか?」

 

「まぁな」

 

「そうですかぁ、お土産、期待しますね!」

 

「勉強の一環だってこと、忘れるなよ」

 

「何ですかぁ!ケチィ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チェーンメール事件の後日談というかオチ。

 

 葉山隼人が愛染テックへ仲間達と一緒に行きたいと昼休みや休憩時間に堂々と宣言したことが功を成したのかあれからチェーンメールがクラス内を飛び交うことはなかったらしい。

 

 ちなみにこの情報は葉山から伝えられた。

 

 本人は今の関係を崩すことがなく解決できてとても喜んでいた。

 

「(いつまで続くかわかんねぇ関係だけどな)」

 

 人間関係など些細なことで壊れやすい。

 

 勿論、本物の絆といえる関係ならやすやすと壊れることはないだろう。

 

 彼の知る宇宙人と地球人による強い絆をみてしまえば、よくわかる。

 

 葉山隼人が告げたが果たして本当にチェーンメールは起こらないかと言われると今後もありえる。

 

 今回は葉山が率先したことで解決したけれど、実際、悪化する可能性もあった。

 

 賭けに勝っただけである。

 

「さてと」

 

 八幡は席から立ち上がり後ろの黒板をみる。

 

 そこには複数の企業の名前が記されていた。

 

 

 

 

 

 世界環境保全委員会が管理する太陽エネルギーの発展を目的とした【ハイパーソーラーシステム研究施設】。

 

 日本における複合企業においてナンバーワンということと社長が有名過ぎる【愛染テック】。

 

 自然と人類の共存を目的として試験的に開発が進められている大学の研究施設、【バイオ空間】。

 

 宇宙開発に力を入れている企業であり、社長が最年少で博士号をとったといわれる文字通り天才が一代で築き上げた【サイテックコーポレーション】

 

 学生が滅多に立ち入ることのできない企業や施設に行けるということで多くの生徒が楽しみにしている中で八幡は一つの項目に自らの名前を書き込んだ。

 




本当は一色登場する予定はなかったのですが、一話から全く出てきていないので、ここで活躍してもらいました。


どの企業に行くかで起こる事件が違う……なんてことがありえるかもしれない。


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第七話:小町とダークマター

川崎さんの次にアンケートで票が多かった小町の話です。


 

「買い物、よろしくね、っと」

 

 放課後、中学生の小町は携帯端末を鞄の中に入れる。

 

 メールの送り先は彼女の兄。

 

 放課後の教師の手伝いで帰りが遅くなるので、兄に買い物を頼むことにしたのである。

 

「いやぁ、三人分の料理というのも中々に大変だなぁ」

 

 比企谷小町。

 

 年齢十五歳。

 

 普通といえばいいかわからないが兄よりも優秀なハイブリッドボッチ。

 

 誰とでも親しくなれるし、独りになろうと思えば、好きになれる。

 

 そんな比企谷小町の周りは普通じゃない人達がいた。

 

 まず、彼女の兄。

 

 一年前に事故で別宇宙を旅して戻ってきたと思ったら宇宙人と一心同体になって生活している。

 

 普段は普通の人としてふるまっているが身近で怪事件が起これば、女の子が惚れこむほどのイケメンになる(尤も、腐った様な目が惚れこむ要素を少しだけ引き下げてしまっている)。

 

 続いて居候のペガ。

 

 ペガッサ星という地球から遠く離れた星から社会勉強の為に旅をしていたのだが、宇宙船が壊れて、様々な理由から比企谷家に居候している。

 

 手先が器用で内職で比企谷家の家計を助けていた。

 

 兄の周りには他にも普通じゃない人はいるものの、毎日、楽しそうだ。

 

「けどまぁ、小町は心配なのです。お兄ちゃんは危ないことに平気で首を突っ込むし」

 

 メフィラス星人事件、キリエル人事件もそうだが、表向きウルトラ警備隊の活躍で解決したことになっているが少なからず、いや、ほとんど兄が関わっていると思われる。

 

「妹としては誰か素敵なお嫁さんを手に入れて幸せな生活を送ってほしいと思うのですが」

 

 周りに美少女がいて素晴らしい物件があるのだが、兄はそれを選ぶ様子はない。

 

 まぁ、宇宙人と一心同体しているし、色々と思うところがあるのだろう。

 

「兄の考えなど、小町はすぐに理解できるのです」

 

 胸を張りながら小町は家へ帰ろうとしていた時、地震が起こった。

 

「え、地震!?」

 

 驚きながら倒れないようにする小町。

 

 地震と共に離れた場所から巨大な塔が姿を現す。

 

「うわぁー、マジですか」

 

 街中に巨大な塔が出現したというのに、周りの人間は慌てる様子がない。

 

 それどころか、さっきの地震は凄かったなぁというだけである。

 

「怪事件の予感がしますぅ~」

 

 同じころ、別の場所で騒ぐ三人の子供がいたとか、いないとか。

 

 

 

夜の比企谷家。

 

 両親は共働きで滅多に家へ帰ってこないから食卓は居候のペガも含めた三人である。

 

「ねぇ、ペガちゃん~、そろそろダークゾーンから出てご飯を食べない?」

 

「えぇ~~!恥ずかしいよう!」

 

「うーん、ペガッサ星人の生活に小町は興味が出てきますなぁ!」

 

「ほとんど大差ないはずだ。ペガは恥ずかしがり屋なところもあるしな」

 

「もう~~!からかわないでよ!八幡」

 

 茶碗をダークゾーンから机の上へ置きながらペガが文句を言う。

 

 一年前は兄妹二人だけの食卓で少し寂しいものを感じたが、居候、宇宙人が増えただけでここまで楽しくなるものなのだろうか?

 

「あ、そうだ、お兄ちゃん」

 

「なんだ?」

 

 ズズズとみそ汁を啜っている兄へ小町は報告する。

 

「今日、小町、怪事件の前兆を目撃しました」

 

 今の発言で漫画ならみそ汁を吹き出していただろう。

 

 だが、ここはボッチエリート?を極めた兄。

 

 この程度で動揺することはなかった。

 

「ごくん」

 

 みそ汁を飲み込んで八幡はお椀を机へ置く。

 

「前兆って?」

 

 おぉ、ここは冷静に尋ねるようです。

 

「えっとねぇ、地震起こって、地面から巨大な塔が出てきたんだけど、周りの人達、地震のことばかりで誰も塔のことを気にしないし、驚きもしないんだよねぇ」

 

「どんな形の塔だ?」

 

「写真撮ったんだけど、こんなんなっちゃったんだよねぇ」

 

 小町が端末の画面を見せる。

 

 八幡とペガがのぞき込むと画面はノイズが走っていて、塔らしき姿は映らない。

 

「みえないね」

 

「これは、塔そのものをみにいくしかないかもなぁ」

 

「おぉ!お兄ちゃんがやる気出してくれた!」

 

「妹の頼みだからな。兄としてひと肌脱ぐのは当然だろう」

 

「そこは愛しい女の為とかいうべきだよ。小町も嬉しいけれどさぁ」

 

「八幡のシスコンは変わらないからねぇ」

 

 呆れながらも明日、八幡は小町達と一緒に塔へ向かうことが決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、ウルトラ警備隊司令室に梶とリサの二人が入室する。

  

 腕を組んでいた古橋の前で二人は敬礼した。

 

「早速だが、二人はこれから指定した場所に調査へ向かってもらいたい」

 

「エイリアンですか?」

 

「それはわからん」

 

「わからないんですか?」

 

 叫ぶ梶の傍に竹中参謀が現れる。

 

「実は防衛大臣から要請が入ってね。一夜にして不思議な塔が出現したという話を聞いたらしい。それだけなら天下のウルトラ警備隊に出動を要請する必要はなかったのだが、エリア周辺でダークマターの反応があったのだよ」

 

「ダークマター?」

 

「宇宙に漂う未知の物質だ。それがどうして地球で探知されたのか、もしかしたら侵略者が何か企んでいる可能性がある」

 

「そういうわけだ。梶とリサの両隊員はポインターで調査へ出動!」

 

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「調査はわかるけどさぁ、俺達は防衛大臣のパシリじゃねぇんだぞって」

 

 運転席で悪態をつく梶。

 

 ポインターは極東基地からシークレットハイウェイを抜けて市街地を走っていた。

 

 陽の光を受けて輝く銀色の車体は道路をまっすぐに突き進む。

 

「防衛大臣というけれど、実際は防衛大臣の息子さんの友達ということらしいわよ?」

 

「子供が親の権力使うなんて、世も末だな」

 

「悪態をつかない!もしかしたら怪事件の始まりなのかもしれないんだから、まずは調査!調査!」

 

「わかっているって」

 

「あ、あそこね」

 

 リサの指をさす方向、ポインターをみて手を振る子供たちと緊張した様子の警官がいた。

 

「じゃあ、あの塔はいつかあるのかわからないってことですか?」

 

 白い複数のアンテナのようなものがついた塔を指さしてリサが尋ねる。

 

「はぁ……」

 

「あの塔はどういう用途で作られたのですか?」

 

「いやぁ、それがぁ」

 

 梶の質問に対しても警官の言葉はたどたどしい。

 

 本当に白い巨塔がどういった用途で作られたのかわかっていないということだろう。

 

「リサ隊員、周辺住民へ聞き取りをしよう」

 

「了解です」

 

「本官はこれにて!」

 

「あ!」

 

「逃げた」

 

 自転車に乗って去っていく警官。

 

 その後ろ姿を見て、目撃した子供が呟いた。

 

 一人ならともかく、二人以上の目撃者がいる以上、ウソだと断言するわけにいかず、二人は聞き込みを開始する。

 

 開始したのだが。

 

「あの塔?いつからあったかしら?前からあったような気がするわぁ、あ、タイムセールスはじまるからごめんなさい~」

 

「儂が生まれる前からあったと思うなぁ、多分」

 

「さぁ?あんなの気にしているほど暇ではないので」

 

 聞き込みを開始して三十分、思うような成果を得られなかった。

 

「誰も、あの塔がいつからあって、何のためにあるのかわかっていないわけか」

 

「皆、些細なことだと思って気にしていられないのかしら」

 

「さぁな」

 

 リサの疑問に梶は首を振る。

 

 子供たちは不安そうに二人を見ていた。

 

 笑みを浮かべたリサは子供たちと目を合わせる。

 

「大丈夫!私達、ウルトラ警備隊が責任をもって調査するから!」

 

 彼女の言葉に子供たちは嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

 梶はVCを起動する。

 

「こちら梶、すまないがこの町周辺の地図を調べてほしい。あの塔がいつからあるのか調べたい」

 

『東郷だ。了解した。少し時間が掛かる。わかり次第、連絡する!』

 

「頼む」

 

 通信を終えて、梶は塔を指さす。

 

「塔の周辺を調査しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「近くでみるとデカイなぁ」

 

 子供たちを乗せたポインターは白い巨塔の前に到着する。

 

 窓一つない巨頭はコンクリートらしき素材で作られているが、壁を叩くとガラスのような音が響いた。

 

「窓一つもない。一体、この塔はなんなんだ?」

 

 その時、VCから通信があり、梶は蓋を開く。

 

『東郷だ!頼まれていた地図などを調べてみたがそこに塔の類は存在しない!また、建築予定の記録もなかった!』

 

「つまり……これは一夜にしてできたってことか!」

 

『梶隊員、こちら渋川!その地区周辺でダークマターの収束率があがっている!危険だから一旦、そこから離れるんだ』

 

「了解!あれ、リサ!リサ隊員!」

 

 梶は塔の周辺を調べているはずのリサがいないことに気付いて声をかける。

 

 直後、梶の目の前で眩い光が起こった。

 

 あまりの輝きに目を閉じる梶。

 

 再び視力が回復した時、目の前にいたはずのリサと子供たちの姿がどこにもなかった。

 

「リサ隊員!くそっ!隊長!こちら梶!非常事態!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「梶!」

 

 梶隊員からの要請を受けた東郷隊員と渋川隊員はポインターで応援として急行した。

 

「東郷さん!渋川さん!すいません」

 

「謝罪は後々、この塔の中にいるってことか?」

 

「その、はずです」

 

「じゃあ、このエネルギー探知機を使って!」

 

 渋川がエネルギー探知機を塔へ向ける。

 

 しばらくして探知機か反応を示した。

 

「ここが入口か……」

 

 探知機を置いて、三人はゆっくりと塔の入口へ近づく。

 

 三人が振れた直後、白い輝きを放って三人を塔内部へ誘う。

 

 塔内部は薄暗く、壁や床は全て緑色の輝きを放っていた。

 

「警戒を怠るな」

 

 東郷を先頭に三人はウルトラガンを抜いてゆっくりと通路内を進んでいく。

 

 狭い通路をゆっくりと進みながら順調に彼らは上のフロアにあがっていた。

 

「ジョアァ」

 

「おいおい、東郷隊員、変な声ださないでくれよ」

 

 聞こえた声に身構えるもすぐに静かになったことから渋川が文句を言う。

 

 前を歩いていた東郷が数歩、下がる。

 

「俺、じゃない」

 

 二人は警戒してウルトラガンを握り締める。

 

 東郷たちの前に宇宙人が現れる。

 

 青い一つ目に白い爪のような者を持つ宇宙人に三人がウルトラガンを構えた。

 

 直後、背後から黄色い瞳の宇宙人が姿を見せる。

 

「東郷隊員!渋川隊員!」

 

「くそっ!」

 

 三人がウルトラガンで撃退しようとするが、二体の宇宙人から光線が放たれた。

 

 光線を受けた三人は苦悶の声を上げながら繭のようなものに包まれてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルトラ警備隊の三人が塔へ突入してから少し。

 

 比企谷八幡は妹の小町、そしてペガと一緒に白い塔の前まで来ていた。

 

 本来なら小町は留守番だったのだが上目遣い+お願い、お兄ちゃんコンボによりあえなく撃沈。連れてくことになったのである。

 

「ありゃ、近くで見るとやっぱりでかいねぇ」

 

「これは……」

 

「この作り、多分、ザム星人のものだよね?」

 

 塔に触れる八幡へペガが問いかける。

 

「間違いないYY星系第9惑星のザム文明の素材が使われている」

 

「でも、確か、ザム星って滅んだんだよね?原因は僕も知らないけれど……」

 

「え、そうなの?」

 

「うん、僕が生まれるずっと前の話だけど、ザム星で何かが起こったって」

 

「ふぅん」

 

 小町とペガが話している横で八幡は意識を集中させる。

 

 彼の両目が輝いて内部を透視した。

 

 塔の内部を探っていくうちに白い繭に囚われたウルトラ警備隊や子供たちの姿を発見する。

 

「ペガ、内部に入るぞ」

 

「えぇ、大丈夫かなぁ?」

 

「ザム星人は好戦的な宇宙人ではない筈だ。話し合いで解決するはず、小町はここで」

 

「小町もついていく!」

 

「え、いや、危ないよ?だから、ここは」

 

「えぇ、お兄ちゃんが可愛い小町のことを守ってくれるんでしょう?」

 

 自らの可愛いとわかってくる角度で見上げられたことでシスコンの八幡にクリティカルヒット。

 

「お兄ちゃんに任せろ!」

 

「八幡、チョロイよぉ」

 

「よし」

 

 超能力を使って入口を発見した八幡と小町、ペガは中に入る。

 

 緑色に輝く通路内を歩いていく。

 

 迷いそうな構造をしている内部を八幡は迷わずに進んでいた。漂うミュー粒子を通して、何者かが八幡を呼んでいるのだ。

 

「八幡、進んでも大丈夫なの?はわわ!」

 

 不安そうにしていたペガが悲鳴を上げる。

 

「おぉ!宇宙人だ!」

 

 彼らの前にザム星人が現れたのだ。

 

「挟まれちゃったよぉう!」

 

 背後に現れたザム星人。

 

「落ち着け、こいつらは番人だ。敵意を見せない限り何もしない」

 

「ほ、本当ぅ?」

 

 不安そうな声を上げるペガ。

 

 男の子なのに、既に涙目なのである。

 

 男の娘にジョブチェンジすべきだ。

 

「俺は比企谷八幡、地球人だ。アンタ達はこの塔で何をしようとしている?」

 

 ミュー粒子を通して相手へ問いかける。

 

 返事は同じくミュー粒子だ。

 

「何て?八幡」

 

「彼らは故郷を失い、再び生き残るために宇宙に漂うダークマターをこの塔へ集めて進化しようとしているらしい」

 

「えぇ!?それって危ないんじゃ」

 

「危ないことだ、そんなことをすれば、体にどんな変化を及ぼすかわからない。なぁ、ザム星人、そんな危険なことをせずに地球への移住を希望すればいい……宇宙の観点からすれば、キミ達は悲しい理由で故郷を失った者達だ。キミ達が望めば、受け入れてくれる者がきっと出てくる」

 

 八幡の意識にふわりと温かい何かに包まれる。

 

 彼の中に眠る宇宙人の感情が八幡の感情と混ざり合う。

 

「だから、無理な進化はしなくてもいいんだよ」

 

 再びミュー粒子を通して返答がやって来る。

 

「ペガ、最上階へ向かうぞ」

 

「え?」

 

「お兄ちゃん?」

 

「連中のトップが会いたがっている」

 

 そういって歩き出す八幡の後を小町が追いかける。

 

 ペガは戸惑って、ザム星人達をみてから、慌てて着いていく。

 

 複数の階段を上りながら到達したフロアは先ほどまでと異なって様々な機材と闇色の天井。

 

 そして、機械から伸びたケーブルに繋がっている赤い瞳のザム星人がいた。

 

「お前がザム星人のリーダーだな」

 

『そうだ』

 

 機械を通してザム星人の声がフロア内に響く。

 

 低いけれど、優しさを感じるような声だなと小町は感じた。

 

『キミ達の星へ無断に入ったことを許してほしい……しかし、宇宙で一番、ダークマターが集まっていたのはここでしかなかったのだ』

 

「どうして、ダークマターで進化しようとするんだ?」

 

『私達の星は悪魔に滅ぼされたのだ。故郷のザム星は奴の力で生まれた怪獣であふれかえり、環境を破壊されてしまった。奴によって我々は故郷を追われてしまったのだよ』

 

「悪魔?」

 

『悪魔から我らの故郷を取り戻すために力が必要なのだよ。そのためにダークマターに手を出すことにした』

 

「地球に……」

 

 ザム星人が地球へ来た理由をきいて小町は思ったことを尋ねる。

 

「地球に住めばいいよ」

 

『…………』

 

「わけのわからないもので進化してもきっと、良いことはないよ。背伸びなんてせずに地球で生活しようよ!文化とか色々と違うかもしれないけれど、互いに理解していけばできるんじゃないかな?」

 

「小町…」

 

「うちだって、ダメなお兄ちゃんに気弱な宇宙人の居候だっている……ほら、貴方達も生活できるかもしれない可能性が目の前にあるんだよ?それを掴もうとしようよ!」

 

「あの、小町ちゃん?ダメなお兄ちゃんって」

 

「気弱な宇宙人って、僕のことだよねぇ」

 

 後ろで外野が騒がしいけれど、無視である。

 

 小町はゆっくりと近づいていく。

 

 ケーブルに繋がれたザム星人は後ろへ下がっていこうとするが壁にぶつかってしまう。

 

 ハサミのような形をした手と小町は手を握り締める。

 

「温かいねぇ~」

 

『……』

 

 息をのんだザム星人に小町は微笑む。

 

「無理な進化なんて考えないでさぁ、この星で住むことを頑張ろうよ」

 

『しかし、システムは』

 

「システムはまだ起動していない……地球に漂うダークマターもいずれは拡散していく。時間は掛かるかもしれないだろう、だがザム星人……小町が言う様に無理して進化する必要はないのではないか?」

 

『良いのだろうか?我々がきても』

 

「知っているはずだ。先住民を暴力で追い払って支配することは宇宙の法は認めていない。だが、友好的に、共に歩む者達を邪魔する者はいない」

 

 八幡の姿が一瞬だけ変わる。

 

 その姿はミュー粒子を通してザム星人へ伝わった。

 

 平和を愛するM78星雲の宇宙人としての姿。

 

『ありがとう……キミの言葉に私は自分の考えが如何に危険なことなのか、理解させられたよ……キミの名前は?』

 

「比企谷小町です!」

 

 ザム星人へ笑顔で挨拶する。

 

『小町……』

 

 人間と違い、表情の読めないザム星人だが、不思議と相手が笑顔を浮かべていることがわかった。

 

『どれだけ長い年月がかかるかわからない。だが、この素敵な星、新しくできた友人達となら新しい人生を歩めるだろう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これだけならハッピーエンドだっただろう。

 

 しかし、悪魔はその結末を認めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ!?」

 

 バチンと設備の一つが音を立てて爆発した。

 

「え、なに!?」

 

『グゥゥゥゥゥゥゥウウウウウ!?』

 

「ザム星人さん!」

 

 小町の目の前で苦しみの声を上げるザム星人。

 

『ど、どうゆうことだ!?システムが起動して、私の中にダークマターが!』

 

「え、ウソ!お兄ちゃん!」

 

 小町が悲鳴を上げながら八幡をみる。

 

 八幡はシステムを調べた。

 

「何だ、これ、システムが書き換えられている!?」

 

『悪魔の仕業だ』

 

 体から蒸気を吹き出すザム星人。

 

『このままでは暴走してしまう!』

 

「お兄ちゃん!」

 

「駄目だ、システムは何も受け付けない!」

 

 八幡の言葉に小町はザム星人へ触れようとする。

 

 ザム星人は小町達から離れていく。

 

「ザム星人さん!?」

 

『こうなっては仕方がない……私はダークマターの力を制御する!だが、もし、もしも、実験が失敗して、この星に迷惑をかけてしまうとしたら、その時は……頼むよ、ウルトラセブン』

 

 八幡とザム星人の視線が交差する。

 

 頷いたことを確認してザム星人が塔のシステムの一部を起動した。

 

 一瞬で、八幡達三人、ウルトラ警備隊の東郷、梶、渋川、リサと子供たちは塔からはじき出される。

 

 呆然とする小町の前で塔が爆発した。

 

 爆発する塔の中から巨体が姿を見せる。

 

 ダークマターを自らに取り込んだザム星人だ。

 

 彼は苦しそうに自らの体を揺らしながら町中で暴れだす。

 

「あれは、進化じゃない」

 

 八幡は暴れるザム星人の姿を見て呟いた。

 

「はわわ!あのままじゃ、街を破壊しちゃうよ!」

 

 ペガの言葉通り、暴走しているザム星人によって街が壊滅してしまうのは時間の問題だった。

 

 暴れるザム星人は倒されてしまう。

 

 人類の手によって?

 

 それとも、

 

 動けない小町の頭を八幡が撫でる。

 

「お兄ちゃん?」

 

「ごめんな」

 

 小さく謝罪して八幡は前に踏み出す。

 

「頼まれた以上、ザム星人の暴走は俺が止める」

 

「まっ――」

 

 小町が止めようとする前で八幡は懐からウルトラアイを取り出して装着。

 

 眩い閃光と共に暴れるザム星人の前に現れるウルトラセブン。

 

 ウルトラセブンの存在を脅威と感じたのか、それとも本能のままに敵として認識しているのかわからないがザム星人は声を上げながらウルトラセブンへハサミを動かしながら接近した。

 

 振るわれるハサミを躱してザム星人の腹部を拳で殴る。

 

 拳を受けたザム星人はのけ反りながら目から怪光線を放つ。

 

 光線を躱しながら接近しようとするウルトラセブンだが、ハサミを地面へ突き立てる。

 

 連続して地面が爆発を起こす。

 

 破壊弾によって土煙が舞い上がる中、突きぬけるウルトラセブン。

 

 しかし、目の前にいたはずのザム星人の姿はどこにもなかった。

 

 周囲を警戒するウルトラセブン。

 

 直後、地面からザム星人のハサミが両足を掴む。

 

 逃れる暇もないまま、宙に持ち上げられたウルトラセブンは何度も地面へ体を叩きつけられる。

 

 何度か叩きつけられたところで投げ飛ばされた。

 

 地面を転がりながらも起き上がろうとしたところで両手に雷のエネルギーを吸収して放つ。

 

 雷のエネルギーを浴びたウルトラセブンは後ろへ吹き飛ぶ。

 

 倒れたウルトラセブンへとどめをさそうと雷のエネルギーを集めようとするザム星人。

 

 突如、ザム星人の背中が爆発を起こす。

 

 上空に現れるのは二機のウルトラホーク。

 

 ウルトラホーク1号にのる古橋はスイッチを押してブレイカーナックルミサイルを。

 

 ウルトラホーク3号に搭乗しているユキ隊員は機首からレーザー光線を放つ。

 

 二機のウルトラホークの攻撃を受けて攻撃を中断されたザム星人へセブンは額の前で構えて、エメリウム光線を放つ。

 

 一条の光線がザム星人を射抜いた。

 

『―――!』

 

 動かしていた腕をだらりとさせて、大きな音を立てて地面に倒れこむザム星人。

 

 ウルトラセブンはゆっくりと近づいてザム星人の体へ手を伸ばす。

 

 エメリウム光線を受けて息絶えたザム星人の体を抱きかかえる。

 

「あれは……」

 

 ホーク1号の操縦席から古橋は地面から姿を見せる円盤に気付いた。

 

 円筒形の円盤は不規則な動きを見せながらウルトラセブンの前で停止する。

 

 円盤から光が放たれてこと切れたザム星人の肉体を回収するとそのまま空に向かって飛んでいく。

 

「古橋隊長、追撃しますか?」

 

「追撃はしない」

 

 ユキの質問に古橋は首を振る。

 

「相手は敵意がない。追撃の必要はない」

 

「……了解です」

 

 二機のウルトラホークが円盤を追撃しないことを確認したウルトラセブンは光に包まれる。

 

 ウルトラアイをポケットにしまって、八幡は小町とペガの方へ歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツの墓か?」

 

 翌日、ザム星人が暴れた跡地に小町は小さな石と花束を置いていた。

 

「うん、遺体はないけれど、安らかに眠ってほしいから」

 

 八幡の問いかけに小町は小さく頷く。

 

「お兄ちゃん、ザム星人さんの仲間はどうなるのかな?」

 

「宇宙を放浪する旅を続けることになるだろうな」

 

「せっかく、安住の地を見つけたかもしれないのに、こんなことで追い出されるって納得できないなぁ」

 

「そうだな」

 

 小町は両手を合わせていた手を離す。

 

「さ、帰ろうか」

 

「あぁ」

 

 小町と共にザム星人の墓から離れながら八幡は考えていた。

 

 ザム星人が死ぬ間際にウルトラセブンへミュー粒子を通して伝えてきた警告。

 

 死ぬ間際に理性を取り戻したのだろう。

 

「(悪魔に気をつけろ、か)」

 

 伝えられたメッセージの意味はわからない。

 

 だが、ザム星人ほどの知性や科学力を持つ者が恐れるほどの相手。

 

 それが地球にいる。

 

「(忘れないようにしよう。この地で生きようとしていたのに、それができなかった悲しい宇宙人のことを)」

 

 来るべき戦いを予見しながら八幡は小町と共に家へ帰っていた。

 




二回目の職場見学のアンケート協力ありがとうございます。

その結果、以下の話を書くことにしました。

職場見学(八幡ルート)地球環境保全委員会

職場見学(由比ヶ浜ルート)愛染テック


途中でサイテックコーポレーションも追い上げていたのですが、この二つに届きませんでした。





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第八話:職場見学(八幡ルート)

遅くなりました。

今回はアンケートで投票の多かった職場見学になります。

かなり難産でした。

太陽エネルギー作戦を何度見返して、話の展開を考えたか……みんな、この話が大好きなんでしょうね。

ちなみに愛染テックについては誤字ではらいませんのでご注意を。


「ほう、でかいな」

 

 バスからみえる巨大なパラボラアンテナがついたシステム、ハーパーソーラーシステムをみて、感嘆とした声を漏らす。

 

 職場見学で俺が選んだのは地球環境保全委員会が計画進行中のハイパーソーラーシステム研究施設だ。

 

 今も地球を蝕んでいる環境汚染、地球温暖化という問題を解決するために従来のエネルギーから新エネルギー候補として太陽エネルギーの使用を目的として作られた試作機、ハイパーソーラーシステムを俺はみている。

 

「でっかい、アンテナだね」

 

 通路側の席にいる川崎も窓から見えるハイパーソーラーシステムをみる。

 

「そういえば、何で川崎はこっちを選んだんだ?」

 

「消去法かな……愛染テックは興味ないし……サイテックコーポレーションは天才肌が集まるイメージで、どちらかにするってところでアンタがいる方を選んだわけ」

 

「あ、そう」

 

 やめてよ。

 

 聞いたら俺がいるからバイオラボを選ばなかったみたいに聞こえるんですけど?

 

 しかし、ハイブリッドボッチに比べると劣りはするが、エリートボッチである俺は勘違いしない。

 

 中学時代ならともかく、広大な宇宙を旅して多くの宇宙人と出会った俺に死角など、いや、ありまくりかぁ。

 

「そういや、アンタはなんでハイパーソーラーシステムを選んだわけ?」

 

「あ、僕も聞きたいかな?こういうところでいえば、バイオラボもあったわけだし」

 

 後ろの席にいた戸塚が身を乗り出して俺に尋ねてくる。

 

「あぁ、そのことか?太陽エネルギーっていうのに興味があったんだよ、クリーンでいくら使用しても問題がないと言われるエネルギー、それを人類はどういう風に利用するかって……バイオラボの方は何か、あれだ、資金援助を狙っているっていうイメージがしたんだよ」

 

 俺と一心同体になっているウルトラセブンのエネルギーは太陽だ。

 

 元は人のような姿をしていたというM78星雲の宇宙人たちがどのような経緯で太陽エネルギーのみで生きていけるようになったのか、人類もいつかウルトラセブンのようになれるのか?

 

 その疑問をここならわかるのかもしれない。

 

 淡い期待のようなものが俺の中にあったから、ここを選んだのだと思う。

 

 みえてきたハイパーソーラーシステムを大きく迂回するようしながらバスは研究施設の正面ゲートに到着する。

 

 ほとんどの生徒が愛染テックを選んだことからここへやってきた生徒は十人とかなり少ない。

 

 しかも、愛染テックの人数制限にあぶれたから仕方なくここを選んだという生徒もいる。

 

 大滝というメガネをかけた職員の話をまともにきいているのはおそらく俺と川崎、あと、戸塚くらいだろう。

 

 余談だが、俺のクラスで来ているのはこの三人だけだ、由比ヶ浜は三浦に誘われる形で愛染テックへ行っている。

 

 職員と一緒に歩いていると別の方向から制服を着た集団の姿が見える。

 

 普通なら気にしないのだが、中にウルトラ警備隊の制服を着た者がいれば気になってしまう。

 

「あのぉ、あっちの人達は?」

 

 戸塚も気づいたのがおずおずと質問する。

 

「あぁ、今日は世界環境保全委員会が開催している会議があってね。そのための視察だよ」

 

「大丈夫なの?そんな日に学生が来てさ」

 

「このハイパーソーラーシステムを開発した楠原博士の要望だよ。多くの人に太陽エネルギーの素晴らしさを知ってもらいたいという、ね」

 

「ふぅん、なんていうか凄いね」

 

 大滝主任から話を聞いた川崎は納得した声を漏らす。

 

 実際のところ、太陽エネルギーは画期的なシステムだと思う。

 

 この先、導入されていけば、環境破壊の危険をはらんでいる化石燃料等、多くのエネルギーが使用されなくなり、オゾン層の破壊という心配すらなくなるのだ。

 

「さ、ここからは会議で来ている役員の人達も話に参加することになるから静かにしているんだよ?」

 

 大滝さんの言葉に俺達は頷いた。

 

 ウルトラ警備隊の隊長さんがいたということで一部の生徒が騒がしくなるも、事前に静かにしておかないといけないと釘を刺されていたからすぐ静かになる。

 

 多くの偉い人達と一緒にハイパーソーラーシステムの立案者で責任者でもある楠原博士の話を聞いていた。

 

 環境破壊を防ぐこと、地球をこれ以上破壊しないという名目で太陽エネルギーがどれほど素晴らしいものかであるかと語る楠原博士。

 

「しかし、日本中のありとあらゆる場所にエネルギーを振り分けるという事になるとハイパーソーラーシステムは十二万機以上、必要になります」

 

 新しいシステムを開発することは難しい。

 

 実例がない以上、手探りで行わなければならないし、どんな危険が含まれているかわからない。

 

 しかし、太陽エネルギーはクリーンなものであり、危険はないと力説していた。

 

 それだけ太陽エネルギーに無限の可能性があると信じているのだろう。

 

 直後、事件が起きた。

 

 パソコンの画面に【緊急事態発生】という文字が映る。

 

「博士!」

 

「どうしたんだ!?」

 

「熱交換器が異常です!」

 

「集熱盤の温度が急激に上昇しています!原因は、まるで、わかりません!」

 

 フッと室内の明りが消えた。

 

「きゃあああああ!」

 

「な、なんだよ!?」

 

「ヤバイんじゃないのか!?」

 

 突然のことに多く者達、特に総武高校の生徒達がパニックを起こす。

 

「危険だ!みんな、ここから避難するんだ!梶!」

 

 真っ先に動いたのはウルトラ警備隊の古橋隊長だ。

 

 彼は学生や政府の役員たちをすぐに避難口へ誘導する。

 

「博士、早くここから避難しないと!」

 

「危険はない!太陽エネルギーはクリーンなエネルギーなんだ!事故じゃない!これは事故じゃありませんよ!」

 

 少し遅れて、隊長に同行していた梶隊員がやってきた。

 

「比企谷!逃げないと!」

 

「あ、あぁ」

 

 川崎に言われて後を追う様に外へ逃走する。

 

 隙を見計らって俺はある方向へ駆け出す。

 

 偶然だが、ハイパーソーラーシステムの傍を高速で走る人間を発見していた。

 

 あれは人間じゃない。

 

 宇宙人と融合した影響なのかはわからないが、人の姿をしていようと宇宙人としての本質のようなものが感じられるようになっていた。

 

 先回りするようにハイパーソーラーシステムから少し離れたところにある倉庫エリアの前に向かう。

 

「待て!」

 

 高速で走っていた女性が止まる。

 

 青い服で少し外側に伸びている髪、男性たちを虜にしそうな笑顔を浮かべた。

 

 だが、それはあくまで宇宙人が変身している姿であり、本当の姿ではない。

 

「お前は何者だ」

 

「ただの女の子よ?」

 

「ウソをつくな」

 

「怖い顔ね……そういう貴方は人間じゃないわね」

 

 ニコリと笑みを浮かべていたが、その笑みは見る者を凍り付かせるほど、底知れない闇が広がっていた。

 

 俺は右手に力を込める。

 

 直後、周囲に赤いガスが広がっていく。

 

「ゲホッ!な、なんだ!?」

 

「じゃあね?」

 

 突然のガスに視界が塞がれた隙を突かれて女に逃げられてしまった。

 

「くそっ、逃げられたか……それにしても、今のガスは一体」

 

 赤いガスを超能力で払いのけた俺は振り返る。

 

 あの宇宙人によって破壊されたハイパーソーラーシステムの姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方、侵略者よね?どうして、ライバルの手助けをしたのかしら?」

 

 ハイパーソーラーシステムの襲撃犯である女性は手助けしてくれた黒衣の男へ問いかける。

 

「ライバルなんてとんでもない。俺はあるお方の使いであんたらに敵意はない。手助けといったが、邪魔者がいてねぇ、そいつに嫌がらせをしただけさ」

 

「あの男の子ね……何者なのかしら?」

 

「噂くらいは聞いたことがあるだろう?この星を守るために戦う自己満足の宇宙人」

 

「……ウルトラセブン」

 

 忌々しいという表情で少女は顔を歪める。

 

 既に地球の守護者ウルトラセブンの名前は宇宙に広まり始めていた。

 

 多くの侵略者から青き惑星を守る者。

 

 強大な相手として、青き星、テラを狙う者達にとっては忌々しい存在として名が広まり始めていた。

 

「だけど、ウルトラセブンといえど、我々の邪魔をすることは出来ない。こちらには最恐の切札があるんだから」

 

 にやりと笑みを浮かべる少女。

 

「まぁ、どんな切札なのか知らないが、これからの活躍に期待しているよ……」

 

 男はそういって歩き出す。

 

「そう、あの方が復活するまでの間の短い支配を夢見ていると良い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「古橋さんから連絡があった時は心臓が止まるかと思ったわぁ」

 

 楠原家。

 

 その玄関で友里アンヌは楠原に安堵の声をかける。

 

 ハイパーソーラーシステム爆発事件の後、楠原博士をウルトラ警備隊の東郷とリサの二人が家まで送り届けたのである。

 

 そこで意外な人物と二人は出会う。

 

「アンヌ先輩!お会いできて光栄です!」

 

 敬礼する東郷とリサ。

 

 

 楠原家に連絡を受けてやって来た女性の名前は友里アンヌ。

 

 第一期ウルトラ警備隊として侵略者と戦ってきた女性であり、今は宇宙飛行士の男性と結婚して一児の母親である。

 

「これから我々が二十四時間警護任務につきます」

 

「そのことなんだが、アンヌさん。ウルトラ警備隊が護衛につくことになるし、周りが騒がしくなるから家へ帰った方がいい。キミに何かあれば、火星探査へ向かっている弟に申し訳ない」

 

 アンヌの旦那は宇宙飛行士であり、火星調査の為、宇宙にいる。その間、楠原家でお世話になっていたのだが、今回の事件から再び楠原が狙われる危険性もある為、家へ帰るようにと提案したのである。

 

 しかし。

 

「あら、私だって元はウルトラ警備隊よ!大丈夫よ!ねぇ?」

 

 問いかけられた東郷とリサは苦笑するしかない。

 

「だけど」

 

「それにおばさんがいてくれた方が安心よ!」

 

 楠原の言葉を遮ったのは彼の娘であるトシコだ。

 

 母親のいない楠原家で家事を担っている彼女にとってアンヌがいると何かと助かるのである。

 

「そうかなら、お願いしようかな、ところで、ダン君は?」

 

「森よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンヌの息子 ダンは森の中で写真を撮っていた。

 

 ウルトラ警備隊として戦ってきた母親と宇宙飛行士の父親の影響か、ダンは空を見上げる事や自然の中に住まう生き物を撮影することが趣味になっている。

 

 薄暗い森の中で彼がカメラを覗き込んでいた時、小さな光が目に入った。

 

 それがわからず、カメラから顔を離すダン。

 

「怪獣よ」

 

 彼の前に一人の女の子が現れる。

 

 青い衣服を身に纏う彼女は小さな笑顔を浮かべて森の奥を指さす。

 

「怪獣がでたわ」

 

「怪獣?」

 

 十代のダンは好奇心旺盛だ。

 

 怪獣が出たというのならその姿を一目見ようと思い、カメラの機材などを担ぐ。

 

「危ないわよ」

 

「大丈夫、大丈夫!」

 

 笑顔を浮かべながらダンは森の奥に入る。

 

 季節は春を過ぎたばかりなのだが、ダンの歩く森の中は異様に暑かった。

 

 まるでサウナの中にいるような暑さで、風邪をひかないように温かい格好をしているからか、余計に汗が額を流れていく。

 

 ふと、奥で何かが動く姿をダンは捉える。

 

 正体が何なのか確かめるために彼は脚立を置いて、カメラを覗き込む。

 

 遠目でわかりにくかった姿はカメラを覗き込んだ時、白い怪獣の姿を映しこむ。

 

「うわぁああああああああ!」

 

 悲鳴を上げながらダンは走る。

 

「怪獣が出たよ!」

 

 森の中にたたずんでいる少女の手を掴んで逃げた。

 

 逃げる際、少女が何かを見上げていることは気づかない。

 

 必死に森の中を走り抜けたところで眩いライトに照らされる。

 

「うわぁああああああ!」

 

 悲鳴を上げるダンの前でポインターが急停車した。

 

「キミ!大丈夫!?」

 

「危ないじゃないか!」

 

 ダンは車から出てきた人たちがウルトラ警備隊であることに気付くと叫ぶ。

 

「ウルトラ警備隊のおじさん!怪獣が出たよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ、この唸るような暑さは」

 

 ダンの話を聞いた東郷とリサの二人は懐中電灯を片手に森の中を突き進む。

 

 二人の後ろには目撃者のダンと一緒にいた少女がいる。

 

 ウルトラガンを片手に森の中を探索していた東郷は真夏を超えるような暑さに顔をしかめていた。

 

 ウルトラ警備隊の隊員服はどんな環境でも活動できるように特殊繊維で出来ていて、多少の熱さで参るようなものではない。

 

 だが、隊員服を着ていても突き抜けてくる暑さに東郷は額から流れる汗を拭う。

 

「ねぇ、僕、怪獣なんてどこにもいないじゃない」

 

 リサはウルトラガンをホルダーにしまいながらダンへ目線を合わせる。

 

「本当にみたもん!」

 

「でも、いないじゃない」

 

 ダンは後ろにいた少女へ尋ねようとした。

 

 しかし、いつの間にかダンと共にいた少女は消えている。

 

「あれ?」

 

「あの女の子は?」

 

 リサの問いかけにダンは首を振る。

 

 その間に東郷は足元の地面へ触れていた。

 

 唸るような暑さの影響なのか地面は酷く乾燥している。

 

「何で、ここだけ、こんな乾燥しているんだ?」

 

 森全体が乾燥していれば気にしなかっただろう。

 

 しかし、東郷達のいる一角だけが酷く乾燥していた。

 

 東郷はそれが酷く気になりつつも、ウルトラガンをホルダーに仕舞う。

 

「こんな時間だ、怪獣がいる、いないにしても、子供は家に帰らないとな。うちはどこだ?」

 

 肩を叩かれたダンは家の住所を伝える。

 

 それは楠原博士の自宅であることにリサと東郷は互いの顔を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルトラ警備隊はハイパーソーラーシステム破壊の原因を探るべく、施設の監視カメラなどを調べていた。

 

「ちょっと待った!今のところをもう一度、みせてくれ!」

 

 司令室で監視カメラの映像を見ていた古橋はユキに止める様に指示をする。

 

 ハイパーソーラーシステムから少し離れたところにある設備の一角。

 

 そこに青い服を着た女の子が映っている。

 

「なんだ、女の子か、遊びに来ていたのかな?」

 

「バカ!カウンターをよくみろ!六十分の一しか映っていないんだぞ!マラソン選手でもこんな速く走ることは出来ねぇ」

 

「つまり?」

 

「梶隊員、貴方はそれでもウルトラ警備隊なのか?」

 

「なっ、どういう意味だよ!?」

 

 呆れるユキ隊員の言葉に梶が顔を赤くした。

 

「古橋隊長の見立てでは、この少女は人間ではない、おそらくエイリアンと考えているんですよね?」

 

「その通りだ」

 

「怪獣とエイリアンのデータを調べます!」

 

「頼む……それにしても、宇宙人と太陽エネルギーか……一体、どういう繋がりがあるんだ?」

 

 考え込む古橋の横でユキはハイパーソーラーシステムの映像をみていた。

 

 梶はパソコンのモンスター&エイリアンを立ち上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 楠原博士はハイパーソーラーシステムの爆破の原因を探るべく、自室のパソコンでシステムのチェックをしていた。

 

 既に時間は夜の十時を過ぎている。

 

 食い入るように画面をみている楠原博士。

 

 その時、彼の部屋のドアの下から侵入してくる白い煙に気付かなかった。

 

 徐々に楠原の室内を包み込んでいく。

 

 煙を吸い込んだ楠原は急に眠気へ襲われる。

 

 眠気に必死で抗おうとしていたが次第にキーボードの上へ突っ伏してしまう。

 

 暗くなる室内。

 

 そんな空間に現れるのは森でダン達と一緒にいた少女である。

 

 彼女は寝ている楠原博士を退かせるとそのままキーボードを叩いて地球防衛軍のネットへ侵入した。

 

 本来なら何重ものプロテクトがされているネットに侵入を果たした少女はそのまま過去の出現した怪獣や宇宙人のデータが収められている【モンスター&エイリアン】のファイルへアクセス。

 

 検索エンジンを用いて「エレキング」を検索した。

 

 少しして表示されたエレキングのデータを少女はそのまま削除する。

 

 削除を終えるとロープを取り出して寝ている楠原博士の首へ巻き付けた。

 

 そのまま首を絞めようとした時、少女の耳は接近してくる車のエンジン音に気付く。

 

 外を見るとウルトラ警備隊のポインターが停車している。

 

 ため息を吐いて少女はそのまま屋上へ出て、そのまま姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キミが楠原博士の甥っ子さんだったんだ!みんな、心配していたんだよ?」

 

 森で保護したダンへリサがいう。

 

「本当はすぐに帰るつもりだったんだよ」

 

 しょんぼりしているダンの肩へ東郷は手を置いた。

 

「森でターザンごっこをするのも良いが、夜遅くまで遊んで迷惑をかけるのは感心しないな」

 

「うん……ターザンって?」

 

「ターザン、知らないのか?」

 

 東郷は固まる。

 

 頷いたダンの姿を見て、東郷はリサをみた。

 

「よ、よし!ターザンっていうのはぁ!森の王者で、えっと、あと、なんだっけ?リサ」

 

「えぇ!?そこで私に振らないで」

 

「あぁあああ!」

 

 ダンが家の屋上を指さす。

 

 その声を勘違いした東郷は手を叩く。

 

「なんだぁ!知っているんじゃないか!そう!あぁああああ!って雄叫びをあげるのが……って、どうしたんだ?」

 

「屋上に女の子がいた」

 

「なに?」

 

 東郷やリサが屋上を見るがそこに誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「義兄さん!ウルトラ警備隊の人達が迎えに来たわよ?」

 

 朝、楠原博士の自室へ入ってきたアンヌに体を揺らされて目を覚ます。

 

「ん、あぁ、すまない。すぐに準備をするよ」

 

 アンヌに揺らされて起きた楠原博士は着替えなどの準備に入る。

 

 着替えを終えて、パソコンの画面をみた。

 

 そこには【削除しました】と書かれて空白になっている何かのファイルがある。

 

 首を傾げながら楠原博士は準備を始めた。

 

 しばらくして、アタッシュケースを片手に楠原博士とウルトラ警備隊の二人はポインターでハイパーソーラーシステム研究所へ向かうことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昨夜のダン少年が写真撮影をしていた森。

 

 そこに宇宙人の円盤が隠されている。

 

 円盤の中に二人の少女がいた。

 

 少女の一人は緑色の液体の詰まったカプセルを眺めている。

 

「エレキング、さぁ、暴れなさい」

 

 にこりと少女がほほ笑んだ直後、カプセルの中で激しいスパークが起こっていく。

 

 光が収まるとカプセルの中にいた“エレキング”の姿が消える。

 

 カプセルの中のエレキングが消えたことで笑みを浮かべていた時、もう一人の少女が声をかけた。

 

「あの子が来るよ!」

 

「処分して」

 

 片方の少女へもう片方の少女は冷たい声で告げる。

 

 応えない少女へ念を押すように少女は伝えた。

 

「処分して!」

 

 頷いた少女は宇宙船の外へ出ていく。

 

 宇宙船から少し離れた場所でダンはカメラを片手に森の中を歩いていた。

 

 昨夜、見た物の正体を確かめるため、何よりウルトラ警備隊の役に立ちたいという気持ちがあった。

 

 楠原博士の迎えにやって来た東郷隊員からもらったウルトラ警備隊のマークのバッジをポケットの中で握り締めながら森の中を歩く。

 

「随分と好奇心旺盛なのね」

 

 森の中で木霊する声。

 

 その声は森でダンが聞いた少女のもの。

 

「キミなのか?昨日の女の子だろう?」

 

 確かめる様に森の中で叫ぶダン。

 

 後ろから現れた少女によって視界が塞がれてしまう。

「明日、この世界は真っ暗闇になるのよ」

 

「やめろよ」

 

 少女の手を払いのける。

 

「急にいなくなって心配したんだよ?」

 

 揶揄う笑みを浮かべる少女の姿にダンは少し怒りながら訴える。

 

「優しいのね……」

 

 少女から笑みが消える。

 

「でも、優しさは何の役にも立たないわ。優しい心はね、身を滅ぼすのよ」

 

「早く森から出ないと怪獣から食べられちゃうよ、ほら、行こう」

 

 腕を掴んだダン。

 

 直後、腕から流れた電気がダンを襲う。

 

 体を焼かれるような痛みに悲鳴を上げながら後ろへ吹き飛ぶ。

 

 吹き飛んだ際に手からカメラの機材などが地面へ落ちる。

 

「あぁ、うわぁああ」

 

 怯えた声を出しながら後ろへ下がろうとするダン。

 

 にこりと笑みを浮かべながら少女が近づいていく。

 

 下がろうとするが痺れて、動きが鈍っているダンの顔へ覆いかぶさるように手を伸ばしていく少女。

 

「やめろ!」

 

 視界がぼやける中で響く声を聴きながらダンは瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、お前か」

 

 冷笑を浮かべる少女を前に八幡は無表情で対峙する。

 

 侵略者がハイパーソーラーシステムを破壊して終わりとは考えられない。

 

 本来ならこういう社畜みたいなことは嫌いな八幡だが、興味のある施設が破壊されて侵略者が関わっている場合、無視することは出来ない。何より、彼の中にいる宇宙人が許さないだろう。

 

 対峙している相手が人間ではないことは既に理解している。

 

 ちらりと八幡は横を見た。

 

 先ほど、少女によって電撃を受けた少年が倒れている。

 

「お前達は何を企んでいる」

 

「あら、言わなくても理解していると思っているけれど?ウルトラセブン」

 

 自らの正体がばれていることに八幡は驚かない。

 

 あの時の遭遇した時のやりとりで自分がただの地球人ではないことがバレていてもおかしくはなかった。

 

「俺の正体を知っているならそちらも名乗るべきじゃないのか?」

 

「ふふふ、無駄よ。貴方はここで死ぬのだから」

 

「?」

 

 少女の言葉の意味を理解しようとした直後、八幡の足元で爆発が起こる。

 

 土煙で視界が覆われる中、隙を突いた少女がダンを確保して消え去ってしまう。

 

 あっという間の出来事に八幡は追跡することすらできない。

 

「くそっ……」

 

 周囲に漂う赤いガス。

 

 見上げると赤いガスを放つ怪獣の姿がそこにあった。

 

 唸り声を上げながら襲い掛かって来る怪獣。

 

 八幡は走りながらウルトラアイを取り出そうとした。

 

 それよりも早く怪獣の放った息吹によって八幡は地面を転がる。

 

 転がっていた時にウルトラアイが手から離れてしまう。

 

「仕方ない……」

 

 八幡は腰のベルトに下げているピルケースから一つのカプセルを取り出す。

 

「行け!ミクラス!」

 

 放り投げたカプセルから閃光と爆発を起こしながら姿を現すのは巨大な角に筋肉の塊ともいえるボディを持つ怪獣、ウルトラセブンの頼れる仲間の一体、カプセル怪獣ミクラスだ。

 

 ミクラスは雄叫びを上げながら赤いガスを放つ怪獣へ突撃する。

 

 突撃を受けた怪獣は正面から受け止めながらミクラスを押し戻そうとした。

 

 しかし、ミクラスのパワーの方が怪獣よりも上だったことから角によって宙へ持ち上げられる。

 

 投げ飛ばされた怪獣は悲鳴を漏らしながら体中から赤いガスを出し始めた。

 

 警戒を強めるミクラスの前で赤いガスに包まれて姿を消す怪獣。

 

 ガスの中へ突撃するミクラス。

 

 煙が晴れた時、そこに怪獣の姿はなく、ミクラスは勢いよく地面へ体を打ち付けた。

 

「ミクラス!戻れ!」

 

 八幡が手を伸ばすとミクラスは光の渦に包まれてカプセルの中に戻って八幡の手の中へ戻る。

 

「逃げられたか……しかし、あの怪獣は一体」

 

 カプセルをケースの中に戻しながら八幡は警戒を強める。

 

 同時刻、ウルトラ警備隊がエレキングと戦っていることなど、八幡は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 閃光と共に現れるエレキング。

 

「か、怪獣だ!」

 

「逃げろ!」

 

 森の中に現れたエレキングにキャンプをしていた人間達が悲鳴を上げて逃げようとする。

 

 腕を前に構えたエレキング。

 

 その先端から放たれた白いガスのようなものが噴出された。

 

 ガスは周囲へ広まり、逃げようとしていた人間達は激しくせき込みながら倒れて動かなくなる。

 

「エレキングだ!」

 

 ポインターでハイパーソーラーシステム施設へ向かっていた東郷とリサ隊員の二人はエレキングの出現に気付いた。

 

「エレキングだ!」

 

「隊長!T167地区にエレキングが出現しました!」

 

 VCでエレキング出現の報告をしたリサ隊員。

 

 隊員の連絡を受けた古橋と梶隊員はウルトラホーク1号で現場へ急行した。

 

「隊長!」

 

「うん」

 

 ホーク1号の中でエレキングの姿を目撃した古橋隊長は梶隊員へ攻撃の指示を出そうとした。

 

 エレキングがホーク1号に向かって白いガスを放つ。

 

 ガスを回避したホーク1号だが、機内はかなりの高温だった。

 

「あぁ、くそっ、何だこりゃぁ」

 

「隊長、こりゃ、耐えられないっすよ」

 

「ホーク1号の中がこれだけの熱さだと、地上の人間達が心配だ」

 

「ピット星人が盗んだんだ!エレキングのデータを!隊長!これじゃあ、作戦をたてられません!」

 

 過去の怪獣のデータはピット星人によって削除されている。

 

 そのため、エレキングの対策は過去に戦った古橋隊長の頭の中にしかないのだ。

 

「そうか!」

 

 地上。

 

 安全な場所まで離れている楠原博士は声を漏らす。

 

「バリアの正体がわかったんですか?」

 

 エレキングから周囲へ広がるバリアのようなものを楠原博士は調べていた。

 

「あぁ、エレキングの発射しているものの正体が分かった」

 

「なんです?」

 

「エレキングが放出しているのは高熱と二酸化炭素です」

 

「「なんですって!?」」

 

 東郷とリサが驚きの声を上げる。

 

 VCの蓋を開けて東郷は慌ててウルトラホーク1号の古橋隊長へ連絡を繋ぐ。

 

『なにぃ、高熱と二酸化炭素だとぉ?』

 

「古橋隊長、あのバリアの中こそ、三十年、いや、二十年後の地球の姿です。化石燃料を燃やし続けて、地球を温暖化させた未来があそこにあるのです」

 

 侵略を狙うピット星人が送り込んだ怪獣エレキングは地球の環境悪化を促進させるため、改造したエレキングが放つ高熱と二酸化炭素の増加によって地球温暖化を加速させようとしている。

 

 その状況下で飛行するウルトラホーク1号の機内もかなりの熱気に包まれていた。

 

「参ったなぁ、このままじゃ、俺はエレキングに倒される前に肉まんになっちまう」

 

 古橋隊長は額から流れる汗を拭いながら悪態をついた。

 

「隊長!攻撃の指示を!」

 

「あぁ、うるせぇ、いま、考えている!」

 

「エレキングの弱点は!」

 

「うっせぇっての!」

 

 暑さで苛立ちながら古橋はエレキングをみる。

 

 エレキングの腕、尻尾、口元、そして回転する頭部の角。

 

「あぁ、思い出したぞぉ!角だ!角を狙えぇ!」

 

「了解!」

 

 エレキングが体を回転させながら尻尾を振るう。

 

 ウルトラホーク1号は上昇して尾を回避した。

 

 空中で旋回しながらウルトラホーク1号は回転するエレキングの角へ狙いを定める。

 

「今だ!ブレイカーナックル、発射!」

 

「了解!」

 

 梶は発射スイッチを押す。

 

 ウルトラホーク1号から放たれたブレイカーナックルミサイルがエレキングの角へ命中。

 

 角が爆発を起こして火花を起こす。

 

 悲鳴のような鳴き声を上げるエレキング。

 

 片側の角を狙ってミサイルを放とうとした時、エレキングの姿が消える。

 

「くそう!逃げやがったなぁ!」

 

 姿を消したエレキングに古橋は顔をしかめた。

 

 地上では荒廃した大地の侵攻が止まっていない。

 

「エレキングがいなくなったのにバリアが消えない!」

 

「二酸化炭素が生んだ温暖化現象を戻すには並々ならぬ努力が必要なのです」

 

「エレキングめ……また、現れるな」

 

 リサはエレキングの放ったガスによって荒廃した大地をみて困惑する。

 

 楠原はあることに気付いてパソコンで計算を始めた。

 

「そうか、そういうことか?」

 

「何か良い方法が?」

 

「ハイパーソーラーシステムですよ」

 

「ハイパーソーラーシステムでエレキングの熱を吸収できるんですか?」

 

「おそらく」

 

「ピット星人はそれを知っていて……」

 

「だからハイパーソーラーシステムが狙われたのか」

 

「えぇ、そしてピット星人に教えてもらいましたよ。ハイパーソーラーシステムのもう一つの使い方を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「可哀そうにぃ」

 

 ピット星人の宇宙船。

 

 カプセル型の水槽の中で傷だらけのエレキング。

 

 頭部の角が破壊されて痛々しい姿にピット星人の少女は悲しい声を出す。

 

「本当に地球人って乱暴なんだから」

 

 呆れているピット星人の少女。

 

 その時、船内にもう一人のピット星人の少女がやってきた。

 

 片手にダンを抱えている。

 

「何で処分しなかったの!?」

 

 ダンが生きていることに気付くと片方のピット星人が咎めた。

 

「だって、可愛い子なんだもん、ペットとして買おうと思って」

 

「……まったく」

 

 片方の少女の趣味に呆れてしまう。

 

 こうして他所の星で興味を示したものを何でも収集しようとする。

 

 コレクターのような趣味に相方は辟易していた。

 

「エレキングは治療しないといけないから、まずは太陽おじさんの抹殺をはじめましょう」

 

「わかったわ」

 

 宇宙船からハイパーソーラーシステム研究所へ小型のスパイカメラが飛び立った。

 

 二人のピット星人の少女は中央に設置されているシステムを起動する。

 

 システムからエレキングのカプセル型の水槽へエネルギーが注がれていく。

 

 眩い光と音にダンが目を覚ます。

 

「あら、お目覚め?今、エレキングに太陽エネルギーを与えているところよ」

 

「太陽?」

 

「エレキングだけじゃないわ、私達も、この宇宙船もすべてのエネルギーが太陽なのよ。そして」

 

「ウルトラセブンを倒すために用意した必殺兵器もね」

 

「何だって!?」

 

 眩い光を放ちながらカプセルの中のエレキングの角が修復される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハイパーソーラーシステム研究所。

 

 その入口に二台のポインターが停車している。

 

 ピット星人の侵略兵器として用意されたエレキングの対策としてハイパーソーラーシステムの必要は不可欠ということで昼夜問わず修理が急がれているため、渋川とユキの二人も応援として施設に来ていた。

 

 ふわぁぁと欠伸を漏らす渋川隊員を無言でユキが咎める視線を向ける。

 

「あ、こりゃ、失礼……しかし、立ったままっていうのもなぁ」

 

「侵略者はどんな手段で攻めてくるのかわからない。我々も警戒はしておくべきだ」

 

「まぁな、しかし、何でこうも眠いのか……」

 

「昼にあれだけカツ丼を食べたからでしょう」

 

 地球防衛軍の食堂で渋川隊員がどんぶり五杯くらい食べている姿を偶然にもユキは目撃していたのである。

 

 しかし、今の呟きは渋川に聞こえていなかった。

 

 そんな彼らの頭上を静かにピット星人のスパイカメラが通過していく。

 

 施設内に侵入したスパイカメラはゆっくりと進んでいた。

 

 目的は太陽おじさんこと、楠原博士の抹殺。

 

 スパイカメラが通路を過ぎ去った時、別の部屋のドアが開く。

 

 資料をまとめていた大滝主任は視界の片隅を何かが通過したことに気付いて、通路の方へ向かう。

 

 電子音と共にスパイカメラが大滝主任の方へ向けられるとともにエネルギー弾が放たれた。

 

 エネルギー弾が大滝主任を撃ちぬいて爆発を起こす。

 

 資料をまき散らしながら床に倒れる大滝主任。

 

 大滝主任を抹殺したことを確認したスパイカメラはそのまま目的の部屋に侵入する。

 

 天井に浮遊しているスパイカメラはゆっくりと周囲を調べた。

 

 室内には楠原博士と職員数名、そしてウルトラ警備隊の東郷とリサの二人がいる。

 

 楠原博士はリサのVCを通して極東基地の古橋隊長と話をしていた。

 

「そうです、ハイパーソーラーシステムは明日になれば修理が完了します」

 

『一刻も早くハイパーソーラーシステムの復旧を急いでください。敵は環境破壊という力を利用して地球を支配しようとしています。唯一の対抗策はハイパーソーラーシステムということになります』

 

「わかっています。ですが、こういう形でハイパーソーラーシステムの力を利用することになるというのは酷く残念で仕方ありません」

 

『博士の仰ることは理解できます。今回の事件が解決した時に再び平和利用としての研究を進めましょう』

 

「そうですね、古橋さん」

 

「大変です!大滝主任が倒れています!」

 

 通信が終わった室内に職員が慌てた様子で入って来る。

 

「なにあれぇ!」

 

 リサは天井に浮いているスパイカメラに気付いた。

 

「伏せろぉぉお」

 

 怪しい音を放ちながらスパイカメラから光線が放たれる。

 

 東郷の叫びで伏せた直後、光線が床に炸裂して爆発を起こす。

 

 光線の二発目を躱しながら東郷とリサの二人がホルダーからウルトラガンを抜いた。

 

 二発の光弾がスパイカメラに直撃。

 

 爆発を起こしたスパイカメラが地面へ落ちた。

 

 スパイカメラがバラバラに砕け散る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「太陽おじさんの抹殺に失敗したみたい」

 

「大丈夫……エレキングが全てを破壊してくれるわ」

 

 ピット星人の少女が修復を終えたエレキングのカプセルに触れる。

 

「それに万が一、ウルトラセブンが現れたとしても最強の兵器が抹殺してくれるわ」

 

 にこりとほほ笑みながらピット星人はエレキングへ指示を出す。

 

「エレキング、ハイパーソーラーシステムを粉々に破壊してくるのよ」

 

 カプセルの中から閃光が迸り、地上にエレキングが姿を現す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウルトラ警備隊の司令室で待機していた古橋のところへ梶が報告へやって来る。

 

「隊長、東郷隊員達が破壊したのはピット星人のスパイカメラだったようです」

 

「つまり、我々の作戦が奴らにバレたということか」

「連中、エレキングを使ってハイパーソーラーシステムを破壊しにくるかもしれませんよ!」

 

「それは十分にありえるな。ウルトラホークで現地へ飛ぼう」

 

「了解です!」

 

『フォースゲートオープン、フォースゲートオープン』

 

 誘導アナウンスと共に管制塔の窓に特殊合金の金網が下りていくのと同調して、カタパルトの漆黒の天井が細く割れて青い空が見えてくる。

 

 巨大なレールに載って、二子山の斜面がスライドされてウルトラホーク1号が地下からその姿を現す。

 

『オーケー!レッツゴー!』

 

 管制塔からゴーサインが出たことを確認してウルトラホーク1号のエンジンが点火して夜空へ飛び立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古橋達の予見した通り、早朝にエレキングが姿を現す。

 

 エレキングは修復中のハイパーソーラーシステムを破壊しようと徐々に近づいていた。

 

 施設内で待機していたリサや渋川、ユキの三人が屋上でウルトラガンを構える。

 

 三人のウルトラガンから放たれた光弾がエレキングへ命中した。

 

 しかし、エレキングは止まる様子を見せない。

 

 リサはVCを開く。

 

「隊長!もう間もなくエレキングにハイパーソーラーシステムが破壊されます!誰も、避難しようとしないんです!」

 

『わかった!梶、ホーク1号でエレキングをけん制しろ!』

 

『了解!』

 

 上空からウルトラホーク1号がエレキングへ攻撃を仕掛ける。

 

 しかし、エレキングは与えられた指示を忠実に果たすべくウルトラホーク1号など眼中になかった。

 

 もう間もなく、エレキングがハイパーソーラーシステムへ到達するという瞬間、上空からウルトラセブンがキックを放つ。

 

 攻撃を受けたエレキングはハイパーソーラーシステムから遠ざかった。

 

 着地したウルトラセブンはエレキングへ突進するように攻撃を仕掛ける。

 

 エレキングの自慢の尾による打撃を躱しながら懐へ入り込み、アッパーを放った。

 

 仰け反るエレキング。

 

 追撃しようとした瞬間、エレキングの両手から二酸化炭素のガスが放たれる。

 

 眼前で二酸化炭素ガスを受けたセブンの動きが鈍った。

 

 動きが鈍ったところでエレキングに殴られる。

 

 連続して殴られてふらふらになるウルトラセブン。

 

 仰け反ったところでエレキングの尾によってウルトラセブンは上空へ投げ飛ばされる。

 

 地面に倒れたウルトラセブンがふらふらと起き上がろうとしたところで再びガスを吹きかけられた。

 

 ガスによって動きが完全に鈍ってしまったウルトラセブンをエレキングは長い尾で捕獲する。

 

 動きを完全に封じ込まれたウルトラセブンへエレキングは尾から電流を流す。

 

 全身を覆う電流にセブンは苦悶の声を上げて膝をついた。

 

 ウルトラホーク1号が援護しようとした時、上空からピット星人の円盤が現れる。

 

 ピット星人の円盤から放たれた光線によってウルトラホーク1号が爆発を起こして緊急着陸した。

 

 円盤の中でウルトラセブンがエレキングによって追い詰められているところを見ていたピット星人は彼を抹殺するために用意した必殺兵器の準備に入る。

 

 大気圏外に設置している衛星から太陽エネルギーを吸収、そのエネルギーを円盤の上部に設置されている吸収装置へ集めていく。

 

 膨大なエネルギーが注入されたことを確認してピット星人が船内の装置を動かす。

 

 その光景を見ていたダンは気づかれないように手錠を後ろから前へもっていこうとしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『博士、修理が完了しました』

 

 報告を聞いていた東郷が博士をみる。

 

「博士!」

 

「準備が整いました」

 

「では!太陽エネルギー作戦の開始ですね!」

 

「はい、ハイパーソーラーシステムを起動」

 

 楠原博士の指示でパソコンを操作している職員がハイパーソーラーシステムを起動させる。

 

「エネルギー変換ブースター作動!」

 

「集熱盤角度を南南西へ修正」

 

「ハイパーソーラーシステム作動!」

 

 楠原博士の指示と共にハイパーソーラーシステムがエレキングのエネルギーを吸収する。

 

 エレキングは自らの力が抜けていく感覚に気付いてハイパーソーラーシステムを睨む。

 

 ウルトラセブンがエレキングの尾から脱出しようとした直後、背後から膨大なエネルギーの奔流が襲い掛かる。

 

 ピット星人の必殺兵器による光線だ。

 

「あぁ!」

 

 ウルトラセブンが光線に飲み込まれる姿を屋上でみていたリサ達が悲鳴の声を漏らす。

 

「このぉお!」

 

 その頃、ピット星人の円盤内では小さな反抗が起こっていた。

 

 手錠を胸元まで移動させたダンが装置を操作していたピット星人の少女を突き飛ばす。

 

「何しているの!」

 

「やめろぉ!離せぇ!」

 

 もう一人が後ろから羽交い絞めしようとするがダンのタックルを受けて壁にぶつかる。

 

 その間にダンは船内の中央のシステムを操作する。

 

 今はウルトラセブンを撃退するために操作されているがダンはエレキングにエネルギーを補充していた機能へ切り替えたのだ。

 

 ウルトラセブンを襲っていた膨大なエネルギーが攻撃ではなくなる。

 

 直後、爆発にウルトラセブンが包まれる。

 

 ウルトラ警備隊や大勢の人達が目を開く中で煙の中からウルトラセブンが姿を現す。

 

「よし!」

 

 ウルトラセブンが復活した姿に東郷たちが歓喜する。

 

 復活したウルトラセブンはエレキングの振るう尾を回避しながら頭頂のアイスラッガーを投げた。

 

 光に包まれたアイスラッガーがエレキングの尾を切り裂く。

 

 アイスラッガーを戻したウルトラセブンはエメリウム光線を放つ。

 

 光線を受けたエレキングは爆発を起こす。

 

 ウルトラセブンは構えをとくと宙に浮いている宇宙船へ視線を向ける。

 

 両目が輝いて二人のピット星人によってダンが電撃を流されている姿をみつけた。

 

「デュワ!」

 

 ウルトラセブンは瞬時に人型サイズまで縮小するとピット星人の円盤内に出現する。

 

『ピット星人、エレキングは倒した。お前達の侵略もここまでだ』

 

「ふふふっ」

 

 不敵に笑う少女。

 

 その姿がピット星人へ変わる。

 

「うわぁああ!?」

 

 少女がピット星人へ変わったことに悲鳴を上げるダン。

 

 もう一人の少女も笑いながらピット星人本来の姿へ戻った。

 

 ダンを突き飛ばして二人のピット星人がウルトラセブンへ襲い掛かる。

 

 ウルトラセブンは一人を殴り飛ばす。もう一人が後ろから攻撃を仕掛けてくるけれどもいなしながらキックで脇を狙う。

 

 戦闘能力がないに等しいピット星人達が動けないことを確認したところでダンのところへ近づく。

 

『ダン、大丈夫か?』

 

 テレパシーでダンに安否を尋ねるウルトラセブン。

 

 ダンは頷いたところで後ろをみた。

 

 ふらふらと起き上がったピット星人の姿に気付く。

 

「セブン!後ろ!」

 

 振り返ると同時にウルトラセブンは念動力を放つ。

 

 念動力は船内の中央に置かれていたシステムを破壊して大爆発を起こす。

 

 爆発の余波で吹き飛ぶピット星人達。

 

 炎からダンを守りながらウルトラセブンは円盤から脱出した。

 

 地面へ降り立ったウルトラセブンは掌の中にいるダンを下す。

 

「ダン君!」

 

「お姉ちゃん!」

 

 リサ隊員がダンを保護したことを確認してウルトラセブンはワイドショットでピット星人の円盤を破壊した。

 

 ウルトラセブンはそのまま大空の中へ消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一昨日の職場見学した場所、あの後、怪獣が現れたらしいね」

 

 事件が解決した翌日、八幡は総武高校の教室で戸塚や川崎達と話をしていた。

 

「けど、ウルトラ警備隊とウルトラセブンが撃退したってニュースで言っていた」

 

 携帯端末をみて、川崎が言う。

 

 端末から目を離して川崎が思っていた疑問をぶつけることにした。

 

「アンタ、今日はやけに元気よくない?」

 

「そうか?」

 

「うん!八幡、何かいつもより生き生きしているようにみえるよ」

 

「心なしか、肌がツヤツヤしていない?」

 

「そんなことはないって」

 首を振る八幡だが、いつもより生き生きした様子である。

 

 昨日の戦いでかなりの太陽エネルギーを取り込んだおかげなのか、いつもの気怠さがウソのようにない。

 

 肩をすくめながら八幡は空を見る。

 

 青空の向こうで太陽がキラキラと輝いていた。

 

 

 




次回は続けて、職場見学。
遅れた理由としては前書きに書いてあったことと、別の小説を熱心に書いていたことが原因である。

次回からは気をつけようと思います。

感想欲しいなぁ。


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第九話:職場見学(由比ヶ浜ルート)

遅くなって申し訳ない。

この先の展開を考えて、書いては消して、書いては消してを繰り返し、帰ってきたウルトラマンやウルトラマンタロウをみていたり、ウルトラマンをみたり、そして、ウルトラセブンをみて、ゴジラをみたりと色々やっていました。

今回の話は二番目にアンケート回答が多かった回、果たしてうまくいっているだろうか、

あ、連載形式に変更しました。
よろしくお願いします。



――アイゼンテック社。

 

 愛染誠が社長として経営する大企業。

 

 町工場だった愛染鉄鋼を社長一代で大企業までなりあがった。

 

 愛染マコトが社長であることから愛染テックと呼ぶ者もいた。

 

 昔の鉄工業などから宇宙開発や新エネルギーの研究などで世界中から注目を集めている企業。

 

 今回、職場見学の許可が下りたことから総武高校の生徒達がこぞってやってきていた。

 

 その中に由比ヶ浜や三浦優美子、そして海老名姫菜達の姿もある。

 

「大きなタワーだし」

 

「アイゼンテックのシンボルともいえる愛染タワーらしいよ?」

 

「へぇ~」

 

 三人がタワーを見上げていた時、何かが光った。

 

「あれ?何か光った?」

 

 由比ヶ浜が首をかしげている中で空から白い影がゆっくりと彼らの前に現れる。

 

 背中に飛行ユニットを背負い、ヘルメットを被り、白いスーツの上下を纏った男性がゆっくりと降り立つ。

 

「皆さん、ようこそ!アイゼンテックへ!私が「愛と善意の伝道師」であり、社長の愛染誠です!」

 

 ヘルメットを脱いで爽やかな笑顔を浮かべる彼こそが一代で町工場だった愛染鉄鋼をアイゼンテックへと進化させた社長である。

 

 彼の登場に生徒達が興奮していた。

 

 戸部が訳の分からない言葉を叫び、葉山も苦笑している。

 

 三浦や海老名も彼の登場に興奮していた。

 

 中にはサインを求める者達もいる。

 

 ただし、由比ヶ浜は普通の反応をしている。

 

 今までにインパクトある宇宙人や怪獣を見てきた影響だろうか?空から人が降ってきても平然としてしまっていた。

 

 愛染社長の登場と共にアイゼンテックの社内案内が始まる。

 

 生徒達の誰もがアイゼンテックで開発されている様々なものに目を輝かせた。

 

 愛染社長が登場する際に背負っていた飛行ユニット。

 

 黒いボディスーツを着る事で体操選手のように自由自在に動ける特殊スーツ。

 

 何よりも生徒が興奮したのはジェットブーツである。

 

 見た目は普通のシューズだが、スイッチを起動するだけで反重力システムによって宙に浮くことができた。

 

 このシューズを体験として生徒達のほとんどが試す。

 

 スカートをはいていた三浦や由比ヶ浜女性陣は遠慮したが戸部達はまるで無重力の中を無邪気な子供のみたいにはしゃいでいた。

 

「あーし、驚いてばかりなんだけど」

 

「アタシも、まぁ、姫ちゃんがさっきから鼻血出しているのはどうなのかな?」

 

「擬態の失敗だし」

 

 幸せそうな表情をしている海老名の視線は愛染社長と共に飛行ユニットで町内を一周している葉山と愛染社長へ向けられている。

 

 彼女の中にある腐女子本能が騒ぎ出していた。

 

 苦笑しながら由比ヶ浜は空を舞う彼らの姿を見ている。

 

「(ヒッキーも来ればよかったのになぁ)」

 

 ヒッキーこと、比企谷八幡はアイゼンテックではなくて地球環境保全委員会が推進しているハイパーソーラーシステム研究所の方を選んでおり、そのために由比ヶ浜達と別行動である。

 

 彼がいればもう少し楽しめただろうと由比ヶ浜は心の中で思っていた。

 

 そんな彼女の姿を見つめている者がいると知らず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休憩時間になって、アイゼンテックの社員食堂で生徒達は集まっていた。

 

 皆、先ほどまでの空中散歩の熱が冷めていないのだろう。がやがやと騒がしい。社員の人達は気にしていないどころかニコニコと見守るような目を向けている。

 

 空を飛んだ生徒達が談笑している中で由比ヶ浜がアイゼンテックのパンフレットを眺めていた時だ。

 

「隣はよろしいかなぁ?」

 

 対面へにこにこと座りながら腰かけたのは社長の愛染誠である。

 

 突然のことに目を丸くする由比ヶ浜。

 

「どうも、愛と善意の伝道師!愛染誠です!」

 

「あ、それは、さっき」

 

「いやぁ、若者は良いねぇ。元気と若さがあって素晴らしい!その熱意で宇宙進出も夢じゃないと思うんだよ!」

 

「宇宙進出ですかぁ」

 

「おやおや、キミはあまり興味ないかい?」

 

「いえ、その、突拍子無さ過ぎて」

 

 実のところ、宇宙へ出て、旅をしていたことがあるなどと口が裂けてもいえるわけがない。

 

 話したところで信じてもらえるかわからないところだろうけれど、由比ヶ浜は心の中で苦笑してしまう。

 

「愛染社長はどうして、アイゼンテックを立ち上げたんですか?」

 

「憧れがあるのさ」

 

 先ほどまで笑顔を浮かべていた愛染誠は何かを思い出すように目元を緩める。

 

「憧れ?」

 

「そうとも!宇宙は夢が詰まっている!冒険、恋愛、まだみぬ未知の惑星!それを探索することが私の夢なのだとも!そして、いつかは……光の巨人に会いたいとね」

 

「光の巨人?それって、今、話題になっているウルトラセブンですか?」

 

「ウルトラセブンかぁ……確かに、それもあるだろう、だが、私が敬愛する光の巨人は別にいる!輝きの聖剣を携えた」

 

「へ?」

 

「コホン!キミは歴史に興味があるかな?」

 

 まるで話題を切り替える様に愛染誠尋ねる。

 

「いいえ、あんまり」

 

 そもそもあまり成績が良くない由比ヶ浜である。

 

 歴史においても少し前に全力で暗記して赤点回避をしていた。

 

 今は雪ノ下雪乃や八幡のおかげでなんとかなっている。

 

「まぁ、ききたまえ!私は世界中を旅したんだがね?どこの国においても古き時代、まだ科学が華を咲かせる前の時代に悪魔や怪物から人々を守ったという光の巨人の伝説がある」

 

 光の巨人と聞いて、由比ヶ浜の脳裏にはウルトラセブンと酷似した赤と銀の巨人の姿が過ぎった。

 

「人類がどうしょうもないくらいのピンチに襲われた時、どこからともなく光の巨人が現れて怪獣や様々な脅威から人類を守る。そんな素敵な存在に私はいずれ」

 

「いずれ?」

 

「あぁ、何でもないよ」

 

 首を振っていた愛染誠だが、ある方向を見て目を見開く。

 

「あれは……」

 

 ダッと走り出した愛染社長の姿に由比ヶ浜はポカンと口を開けてしまう。

 

 愛染社長はカウボーイのような帽子をかぶっている生徒へ話しかけるとどこかへ連れていく。

 

「変な人」

 

 それが由比ヶ浜の抱いた愛染誠に対するイメージである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイゼンテックの社長室。

 

 隠し部屋に愛染誠はいた。

 

「あれがo-50の力を受け継いだ子か」

 

 目の前に投影された映像には友達と楽しくしゃべっている由比ヶ浜結衣の姿がある。

 

「ふざけんなよぉ!なんであんな奴が戦士の頂で力を認められるんだよ!?ありえぬ!認められるかぁあああああああああああ!」

 

 ひとしきり暴れた後、愛染誠は不気味な笑顔を浮かべる。

 

「まずは小手調べ!その力がどれほどのものかぁ、みせてもらおう!」

 

 懐から愛染誠が取り出したのは由比ヶ浜が使う【ジャイロ】と酷く酷似しているもの。

その名もAZジャイロ。愛染誠お手製のアイテムだ。

 

 彼の手の中には二つのクリスタル。

 

「まずはお手並み拝見!」

 

 AZジャイロの中心にクリスタルをはめこんで左右へ引っ張る。

 

【アーストロン!】

 

 眩い閃光と共に町中に怪獣が姿を現す。

 

 爬虫類を連想させる姿に黄色い瞳、そして、頭部へ伸びる角。

 

 怪獣 アーストロンが出現した。

 

 マグマ光線によってビルは倒壊。

 

 街の人達は悲鳴を上げて逃げ惑う。

 

 そして、アイゼンテックも職員や生徒達も避難指示が出ていた。

 

「落ち着くんだ!アイゼンテックには頑丈で安全!そして、大勢の人たちが収容できるシェルターが完備されている!あぁわてずに避難をするのだぁあ!」

 

 悲鳴を上げる生徒達だが、颯爽と現れた愛染誠の言葉に安心した表情を浮かべて慌てることなく進んでいく。

 

 逃げる生徒達から少し離れた場所で由比ヶ浜は鞄からジャイロを取り出す。

 

 此処のところ、連続して発生している事件からもしかしたら必要になるかもしれないと念を入れて持ってきていた。

 

「ヒッキーやゆきのんがいないんだ。だから、私が」

 

 ジャイロを構えて中心へクリスタルをはめ込む。

 

【グルジオキング】

 

 クリスタルの輝きと共に由比ヶ浜はグルジオキングへ変身する。

 

『わっ、ととぉ!?』

 

 変身したものの、アーストロンの目の前へ出現してしまったことで正面からぶつかりあってしまう。額を押さえるグルジオキング。

 

『いったいなぁ、もう!』

 

 頭をぶつけたアーストロンは悲鳴を上げながらマグマ光線を放つ。

 

 光線はグルジオキングの強固な皮膚に直撃。

 

『わわって、あれ?そんなに熱くない』

 

 ぺちぺちと手で皮膚を叩くグルジオキング。

 

 アーストロンは今の攻撃が通用していないことに目を丸くしている。

 

 慌てながらも近くの瓦礫を次々とグルジオキングへ投げていく。

 

『わっ、こら!いい加減にしないと怒るよぉ!』

 

 隙を突いて近距離で熱戦を放つアーストロンの体を掴みながらそのまま投げ飛ばす。

 

 アーストロンは頭から地面へ落下しながらもふらふらとその体を起こす。

 

 哀れ、アーストロンとグルジオキングには圧倒的な力の差が存在していた。

 

『行くよ!ギガキングキャノン!』

 

 グルジオキングに搭載されている砲台から必殺の光線が放たれた。

 

 光線を受けたアーストロンは爆発を起こして消滅する。

 

 怪獣が消滅したことを確認してグルジオキングは一息つこうとする。

 

 その時、上空から怪獣出現の報告を受けた防衛軍の空軍部隊が向かってきていた。

 

 ウルトラ警備隊がハイパーソーラーシステムの護衛で不在であったため、スクランブルしたのである。

 

『わっ、ヤバッ!』

 

 不用意な争いを避けるためにグルジオキングは光に包まれる。

 

 光が消えるとアイゼンテックの建物の近くに由比ヶ浜が降り立った。

 

「ふぅ、びっくりしたぁ……みんな、大丈夫かな?」

 

 由比ヶ浜は鞄の中にジャイロを仕舞うと避難所にいる三浦たちのところへ向かう。

 

「結衣!アンタ、どこにいたし!?」

 

「あははは、道に迷っちゃって」

 

「もう!心配かけるなし!」

 

「良かったよぉ~、現れた怪獣も後から現れた怪獣に倒されたみたいで、その怪獣もどっかいっちゃったし」

 

「うん、ごめんね、二人とも」

 

 心配してくれている三浦と海老名の二人に由比ヶ浜は謝罪する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い闇の部屋。

 

 そこで愛染誠は地団駄を踏んでいた。

 

「何で怪獣なんだよ!O-50で戦士の頂に触れたんだろう!?光の力を手にしたんだろう!?それなら怪獣のクリスタルじゃなくてウルトラマンのクリスタルだろう!しかも何だい何だい!登場から怪獣と激突するとかふざけている!カッコよく登場するものだろう!キメワザはともかく!もっと苦戦して苦戦して苦戦してぇ、最後の逆転劇だろう!?平然と怪獣を倒しやがってぇ!」

 

 地団駄を踏みながら机に拳を叩きつけた。

 

 その拍子に机に置かれている複数のクリスタルが地面へ落ちる。

 

 クリスタルが落ちたというのに愛染は気にしない。

 

 荒い息を吐きながら彼は懐から取り出した一つのクリスタルを眺める。

 

 聖剣を構えている光の巨人のクリスタル。

 

 にやりと愛染誠は不気味な笑顔を浮かべる。

 

「必ずなるんだ。私が光の巨人に、ウルトラマンオーブに!!」

 

 不気味な表情を浮かべながら愛染誠は自らの企みを実行へ移すためにクリスタルを握り締めた。

 

「だからこそ、利用させてもらうぞ?お前を」

 

 愛染は机に置かれている街中に設置された監視カメラ。

 

 ノイズ交じりの中に映されている黒衣の男の姿がそこにあった。

 

「私がウルトラマンオーブとなって人類を導く栄光ある伝説のはじまりだぁああああああ!」

 

 

 

 

 

 



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第十話:ウルトラマンという名前の意味(前編)

今回、かなりのアンチ・ヘイトが含まれています。

前後編なので、次回はしばらく待ってください。





 その日、温かく、とても昼寝に適した素敵な日。

 

 突如、街中に怪獣が出現した。

 

 地底怪獣デットンは叫び声を上げながら建物を破壊する。

 

 昼間、怪獣の出現という事で街の人達は悲鳴を上げて逃げ惑う。

 

 他人を助ける余裕もなく、自分が助かろうと先に、先へ逃げていく。

 

 混沌が広まる中で突如、上空から眩い光が降り注ぐ。

 

 突然の光に人間はおろか現れた地底怪獣デットンすら歩みを止める。

 

 光は地面へ降り立ち、衝撃を放ちながらゆらりと姿を見せた。

 

 漆黒と銀の体、胸の中心はOを象った赤いクリスタル。

 

 赤く光る瞳、片手に巨大な剣を握り締めた巨人は低い体勢をとりながら聖剣を構える。

 

 地底怪獣デットンは涎を垂らしながら巨人へ襲い掛かった。

 

 突進を回避しながらがら空きのデットンの背中へ剣を振るう。

 

 悲鳴を上げるデットン、巨人はそのまま足蹴にしてビルへ叩きつけた。

 

 剣を振り下ろしてデットンへダメージを与え続ける。

 

 デットンは巨人から逃げようとした。

 

 直後、体が緑色の発光と共に不気味な触手を生やす。

 

 巨人は驚きのそぶりを見せたと同時に攻撃を避ける。標的を失った触手は次々とビルを破壊していく。

 

 隙を突いて逃れた巨人は構えている剣の側面を回す。

 

 すると剣の中心にある四つの丸い部分の一つが赤く輝いた。

 

 炎を纏いながら巨人はデットンへ突撃する。

 

 デットンは逃げる暇も抵抗できずに炎に包まれてその体を焼かれてしまう。

 

 爆発が起こった直後、光と共に巨人が現れた。

 

 巨人が姿を見せたことで人間達は驚き、歓声をあげる。

 

 腰に手を当てて胸を張る巨人の姿に誰もが興奮した。

 

 通報を受けてウルトラ警備隊が駆け付けた時には巨人も怪獣の姿もまるでなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 比企谷八幡は盛大に欠伸をしながら教室へ入る。

 

 教室へ入るとボッチとしての経験から室内の雰囲気が何かおかしいことに気付いた。

 

 いつもより遅れた時間に来た八幡はみんながざわついている空気に疑問を抱きながらも自分の席へ向かう。

 

 そして、机に突っ伏して眠りにつく。

 

 HRがはじまって、授業があり、昼休み。

 

「やっぱ、カッコイイっしょ!ウルトラマンオーブ!」

 

 昼休みに大きな声が聞こえたのは葉山グループだ。

 

 由比ヶ浜や三浦達は混ざっておらず、視線を向けるだけだ。

 

 普段なら気にしない八幡なのだが、聞こえた『ウルトラマン』という単語に視線を向けてしまう。

 

「やべーし!葉山君もそう思うっしょ!颯爽と現れて苦戦しながらも怪獣と戦う剣を持つ巨人!」

 

「そうだね……俺も、そう思うよ?」

 

「でもさぁ、真っ黒だし、赤い目なんだから不気味だろ?」

 

「なーにいってんべ!颯爽と現れて怪獣と戦ってくれんだべ?ウルトラセブンと違って、俺らの為に戦ってくれるんだから悪い奴じゃねーって!」

 

「まぁ、ウルトラセブンと比べたらなぁ、ウルトラマンオーブは怪獣が現れてすぐ来て戦ってくれるから助かるよなぁ……ウルトラセブンなんか、街が壊れてヤバイってなった時にしかきてくれねぇし」

 

「そうだよなぁ!これからもウルトラマンオーブなら安心じゃね?」

 

「あのさぁ、あんまり、ウルトラセブンのことを悪く言うのは」

 

「あれぇ、もしかして、葉山君はウルトラセブン派?」

 

「そういうわけじゃ、ただ、何でもウルトラマンに任せるっていうのは」

 

「えぇ~~、怪獣と戦ってくれるんだし、いいじゃん」

 

「そーそー、困った時はウルトラマンオーブって感じでいいだろうし!ウルトラセブンより頼りになるって」

 

 彼らの中でウルトラマンオーブは自分達の為に戦ってくれる最高のヒーローというイメージ図になっているらしい。

 

 八幡は興味ないという様子でマッカンを買いに外へ出る。

 

「ヒッキー……」

 

 購入を終えて教室へ戻ろうとしたところで、由比ヶ浜に声をかけられた。

 

 何か言いたそうに手を合わせながら視線をさ迷わせる彼女の姿に八幡は何かを感じて、自販機に戻って紅茶を購入する。

 

「ほらよ」

 

「え、ありがと」

 

「何か話したいことあるんだろ?」

 

「うん」

 

 二人でベンチに座る。

 

 由比ヶ浜が距離を詰めようとしたところで横へずれるが、すぐに端へ追いやられてしまう。

 

 諦めた八幡はマッカンを飲む。

 

「あの巨人のこと、ヒッキーはどうするの?」

 

「別に、なにも」

 

「え?」

 

「あれがどういう意図で怪獣と戦っているのか知らないが、こちらへ特に悪意を振りまいていないというのなら今は放っておく」

 

「え、でも、あのウルトラマンが賞賛されているんだよ?ウルトラセブンなんか、悪口まで」

 

「由比ヶ浜」

 

 八幡は飲みかけのマッカンを地面へ置いて彼女をみる。

 

「“ウルトラマン”は賞賛されるために戦っているわけじゃない。俺が知る“ウルトラマン”はどこまでもお人好しで賞賛が欲しくて戦っているわけじゃない。どこまでも善意の心に応えようとする……あの黒いウルトラマンがそういう気持ちでやっているのかはわからないが、俺は自分から進んで賞賛欲しさに動くなんてことしない」

 

「ヒッキー……」

 

「何より、面倒だし」

 

「最後ので台無しだしぃ!」

 

 叫ぶ由比ヶ浜を置いて、八幡はマッカンを手に取って立ち上がる。

 

「眠たいから教室戻るわ」

 

「うん……ヒッキー、ありがとう」

 

 笑みを浮かべる由比ヶ浜を直視するのが恥ずかしくて視線をそらす。

 

「お礼言われるようなことはしてねぇし」

 

 八幡は通路を歩きながらあることを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウルトラマンオーブっていう名前は誰がつけたのかしらね」

 

「さぁな」

 

「ネットで誰かがそう呼んだらしいよ?」

 

 放課後の奉仕部。

 

 いつものような時間を満喫していたところで、雪ノ下が漏らした疑問に由比ヶ浜が答える。

 

「あれは、この世界のウルトラマンなのかしら?」

 

「さぁな、そもそも、この世界にウルトラマンがいるかどうかはわかっていねぇからな」

 

「もし、この世界のウルトラマンだとしたら、彼はどうして、このタイミングで現れたのかしらね」

 

「ゆきのん、どういう意味?」

 

 首をかしげる由比ヶ浜。

 

 雪ノ下は読んでいた小説を閉じる。

 

「今までに人類は数多くの怪獣や侵略者に狙われてきたわ。その脅威から戦ってきたのは誰?ウルトラマン?違うわ、人類自らの手で守ってきている。今になって、人間が大好きな別宇宙のM78星雲の宇宙人さんが助けてくれるけれど、もし、そういう侵略行為を許せない者達がいるというのなら」

 

「地球へ現れていてもおかしくはない、か」

 

「じゃあ、あれは演技?」

 

「なんともいえないわ、そもそも、あの黒い奴が何の意図をもって地球へ現れたなんてわからないのだから」

 

「……そう、だよね」

 

「?」

 

 由比ヶ浜の様子がおかしいことに気付いて首をかしげる雪ノ下。

 

 フォローする形で八幡が説明する。

 

「オーブとやらの登場でセブンの悪口をいわれることが我慢できないみたいだぞ」

 

「そういうことね。仕方ないわ。人というものは自分にとって都合の良いものを信じてしまう傾向にある……怪獣出現に颯爽と現れたウルトラマンオーブ、人類が限界まで努力した時に現れるウルトラセブン。これだけで新たに出現した巨人へ好意を向けるなんて愚かに思えるわ……もし」

 

 雪ノ下は先の言葉を飲み込む。

 

 続きを予想できた八幡は何も言わずに手にしている新聞へ意識を向ける。

 

 静かになった奉仕部。

 

 それからいつものように彼らは家へ帰る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから一週間に一回、どこぞの特撮番組のように怪獣が姿を現す。

 

 怪獣が現れて人が逃げ惑う時に颯爽と現れるのはウルトラマンオーブ。

 

 輝く剣を振るい、時に光線技を使いながら怪獣を次々と倒していく。

 

 その姿を人々はヒーローへ向ける羨望の眼差しとなっていく。

 

 ニュースにおいても、ウルトラマンオーブは地球の味方!と大々的に騒ぐ人間も出てきている。

 

 子供たちの話題も主にウルトラマンオーブになっていた。

 

 薄暗い部屋の中、愛染誠は空間に投影されているニュースへ向けられている。

 

「いいぞぉ、いいぞぉ!私の望む展開になってきたじゃないかぁ!これから、私、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツの活躍は続いていくのだぁ」

 

 ニュースはウルトラマンオーブが怪獣を撃退したということで戦闘の一部映像が映されている。

 

 聖剣を振るうウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツと倒されるデマーガの姿が表示されていた。

 

「あん?」

 

 映像が切り替わって別の戦いが流れる。

 

 そう、ウルトラセブンとキリエロイドの戦いだ。

 

 ある評論家がウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツについて好評する中で一部の人間がウルトラセブンについて話をしているのである。

 

 ウルトラセブンこそが地球の守護神であると語っている姿に愛染は歪んだ笑みを浮かべた。

 

「これは、まだ、修正が必要なようですなぁ」

 

 机に置かれている一つのクリスタルを愛染誠は手に取る。

 

 クリスタルの表面にはウルトラセブンと酷似した存在が描かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か、嫌だなぁ」

 

 比企谷家の食卓。

 

 小町お手製の料理を味わっていた八幡は妹の言葉に顔を上げる。

 

「何が?」

 

「街の雰囲気……どこもかしこも、新しく出てきたウルトラマンのことばっかり」

 

「まぁ、怪獣被害がほとんどないからな」

 

「代わりに怪獣の出現頻度が増えたでしょう?」

 

「まぁ、な」

 

 ひょこっとダークゾーンからペガが顔を出す。

 

「地球人は楽な方を望むんだね。自分達だけで努力して、限界を超えた時に助けてくれるウルトラセブンよりも怪獣と戦ってくれるウルトラマンオーブを望むんだからねぇ」

 

「楽な方を望んでしまうのは仕方のないことだよ。苦しむことを進んでやりたがる人間はいないからねぇ。でも、ペガちゃん、人間が楽な道ばかりを選ぶバカな生き物じゃないって、小町は思いたいんだよねぇ」

 

「小町は強いねぇ」

 

「そりゃ、兄や居候の子達の分の食生活などをも考えていますから!」

 

 えっへんと胸を張る小町の姿に八幡とペガは癒されつつも、もう少し家事を手伝おうと心の中で誓い合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカな生き物じゃない、か」

 

 食事を食べ終えた八幡は自室のベッドへ横になる。

 

 手の中にあるウルトラアイを天井へ掲げた。

 

 別宇宙で八幡が出会ったウルトラマン達は誰もが地球人を愛して、地球人の善性を信じている。

 

 ウルトラマンオーブとやらは怪獣が出ると颯爽と現れて倒すことは人々にとって良いことでもあるのだろう。だが、ウルトラマンという存在に甘えて頼り切るという事はまた違うのだと八幡は感じていた。

 

「この世界の地球人を見て、M78星雲のお人好し達はそれでも守ろうとするのだろうか?」

 

 八幡の呟きに応えてくれる者はいない。

 

 一番に応えてほしい相手は八幡の精神に干渉することなく自らの意識を奥深くに閉じ込めている。

 

「こんなことで迷うことになるとはなぁ……本当に、人生ってハードゲームだ」

 

 ウルトラアイを仕舞って八幡は眠りにつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、街の中心地に突如、ウルトラセブンが出現した。

 

 怪獣や宇宙人が出現していないのに突然、現れたことに住民は戸惑いの表情を浮かべる。

 

 誰もが困惑している中、ウルトラセブンは信じられない行動を起こす。

 

 拳を振り上げて、ビルの一角を壊した。

 

 自らの力を誇示するように両手を広げながら次々と破壊活動を行うウルトラセブン。

 

 突然の事態に誰もが悲鳴を上げて逃げ惑う。

 

 ウルトラセブンが街を破壊しているという連絡はすぐにウルトラ警備隊へ届いていた。

 

 二子山のゲートを展開して緊急出動するウルトラホーク1号。

 

 ウルトラホーク1号が現場へ急行すると悠然と進むウルトラセブンの姿があった。

 

「隊長!」

 

「こりゃひでぇ……攻撃準備!」

 

「でも、隊長!ウルトラセブンは」

 

「バカ!俺達が悩んでいる間に次々と街は壊されて住民に被害が出るんだ!攻撃開始!」

 

 納得していないリサは席へ戻る。

 

 操縦桿を握る梶は照準をウルトラセブンへ向けた。

 

 放たれる大量のミサイル弾。

 

 ミサイル弾を体に受けたウルトラセブンだが、その動きは止まることがない。

 

 それどころか、ウルトラホークへ瓦礫の一部を掴んで投擲する。

 

 間一髪のところでウルトラホーク1号は上昇して回避した。

 

 ウルトラセブンは両手を広げながら再び街の破壊活動を開始しようとする。

 

「くそっ、こっちのことはお構いなしかよ!」

 

「仕方ない、ホルバスターミサイル!発射準備!」

 

「了解!」

 

 ウルトラホーク1号の下部から特殊ミサイル、ホルバスターミサイルが発射態勢に入った。

 

「よく、狙え……発射!」

 

 古橋の合図でウルトラホーク1号からホルバスターミサイルが発射。

 

 ミサイルはウルトラセブンへ直撃して大爆発を起こす。

 

 直撃を受けて地面に倒れるウルトラセブン。

 

 しかし、すぐに起き上がって光線を放つ。

 

 光線はウルトラホーク1号に右翼に直撃、黒煙をあげながら安全な場所へ緊急着陸をとる。

 

 ウルトラセブンは避難誘導をしている東郷とユキ隊員の方へ視線を向けた。

 

「マズイ、急げ!」

 

「!」

 

 東郷が避難を急がせる中、ユキ隊員がホルダーからウルトラガンを取り出して構えた時。

 

 上空から眩い光を放ちながらウルトラマンオーブが姿を現す。

 

 横薙ぎに聖剣の一撃を受けたウルトラセブンは近くのビルへ倒れこむ。

 

「ジュワァッ」

 

 ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツは聖剣オーブダークカリバーの刃から光輪を放つ。

 

 カリバースラッシャーを受けたウルトラセブンはのけ反りながらも額から光線を繰り出す。

 

「フン!」

 

 ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツはひらりと光線を回避する。

 

 光線は後ろのビルに直撃して火災が起こった。

 

 オーブダークカリバーを手に駆け出すウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツはオーブダークカリバーの岩と記されている紋章を起動。

 

 カリバーを地面へ突き立てて衝撃で生じた岩石を放つ。

 

 次々と飛来する岩石は周囲のビルや建物、地面に大きな穴を作りながらウルトラセブンにダメージを与える。

 

 ふらふらになっているウルトラセブンの姿を見て、ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツはカリバーを地面に突き立てて、両手を十字に構えた。

 

 必殺の【ダークオリジウム光線】がウルトラセブンに直撃。

 

 大爆発を起こしてウルトラセブンが消失する。

 

 胸を張っているウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツの姿はまるで大笑いをしている風にみえた。

 

 地面に突き刺さっている聖剣を引き抜いてウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツはそのまま大空の中へ消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、新聞の一面にはこの一言が大きく記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【ウルトラセブンは人類の敵だった!?】

 

 

 

 



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第十一話:ウルトラマンという名前の意味(後編)

時間が掛かりました。

てなわけで後編です。




 

「いい加減にしてよ!」

 

 昼休み、昼寝を満喫しようと考えていた八幡は大きな怒鳴り声にびっくりする。

 

 室内の喧騒は静まり返り、大勢の視線が一点へ向けられていた。

 

 拳を握り締めて怒った表情をしている由比ヶ浜結衣の目は葉山グループへ向けられている。

 

「戸塚、これはどういう状況だ?」

 

「え、あぁ……その、彼らがウルトラマンオーブについて、話をしていて、その、前のウルトラセブンの悪口になったところで、由比ヶ浜さんが怒りだしたんだ」

 

「そういうことか」

 

 戸塚の説明で状況は理解できた。

 

 先日、街中でウルトラセブンが街を破壊するというとんでもない事件が起こった、ウルトラ警備隊が苦戦する中で破壊の限りを尽くす巨人から人類を守ったのはウルトラマンオーブ。

 

 ネットでもその姿は拡散されて、今やウルトラマンオーブは地球人にとっての新たなヒーローとしてたたえられている。

 

 片やウルトラセブンは人類の敵という触れ込みが広まりつつあった。

 

 八幡の推測でしかないが、由比ヶ浜はウルトラセブンの悪口を言う彼らのことに我慢ができなかったのだろう。

 

「なんだよ、悪い奴を悪く言って何がいけないんだよ」

 

「それをいい加減にしてって言っているの!」

 

「わけわかんないって、ウルトラマンオーブがいるから今の俺らの生活あるんだぜ?ウルトラセブンが何をしてくれたよ?怪獣が暴れる前に颯爽と倒してくれるわけじゃない。俺らが困った時にしか来てくれない、結局、街を壊してウルトラマンに倒されている。そんな奴を悪くいう事の何が悪いっていうんだよ」

 

 ほとんどの者が同意する。

 

 ウルトラマンオーブの実績は今までの戦いで証明されてきた。

 

 

 怪獣出現と同時にどこからか現れて聖剣を振るい、時に光線を撃って怪獣を倒す。

 

「それにこの前なんか女の子が飛ばした風船を取って渡したってニュースもあったじゃん!」

 

「そーそー!あれ、カッコイイし、ヤベーッショ!」

 

 誰もがウルトラマンオーブ良い者説に傾いている。

 

 ほとんどは傍観している者ばかり。

 

 どちらにも味方する気はないというものだろう。

 

 ウルトラセブン側についているのは由比ヶ浜だけだ。

 

「それだけのことで皆はアレをヒーローっていうの?」

 

「あぁ、あれはマズイ」

 

 拳を握り締めてぶるぶると震えている姿を見て八幡は察する。

 

 宇宙で共に旅をしてきたことで由比ヶ浜のことは多少、理解しているつもりだ。

 

 今の彼女は本気で怒っている。

 

「確かに街を壊される前に怪獣を倒してくれるのは助かるかもしれない。そもそも、怪獣が現れるのはなんで?あたし達が色々やって来たことのツケが回ってきているからじゃん!怪獣出現を招いているのはあたし達人間なんだよ?そのツケを他人に払ってもらって満足するの!?」

 

「それは……」

 

「話が違うだろ!?」

 

「違わないよ!怪獣を倒してくれるからって、わかっていないのかもしれないけれど、オーブが戦った後の惨状は怪獣が暴れた時よりもひどいことってわかっている!?」

 

「それは怪獣と戦うために仕方なく」

 

「仕方ない?それを本気で言っているんだったら間違いだよ!ウルトラセブンだって、セブンの方は街を壊されないように注意しながら戦っているんだよ!あたし達が傷つかないように……今まであたし達に手を貸してくれたウルトラセブンにこんなこといったら、掌を返されても文句なんかいえないよ!」

 

「何の騒ぎかね?」

 

 教室内に平塚先生や他の教師たちが入ってくる。

 

「行こうぜ」

 

「すいません、何でもないでーす」

 

 逃げる様に去っていく葉山グループの男子達。

 

 残った葉山が教師たちへ頭を下げる。

 

 由比ヶ浜は三浦に付き添われる形で平塚先生と話をしていた。

 

「何か、嫌だね」

 

「……戸塚?」

 

「僕はどっちが正しいとか、そういうのはわからないけれど……少し前まで、僕達の為に戦ってくれていたウルトラセブンの悪口を言われるのは嫌だな……でも、あんなことがあったからさ」

 

「ウルトラセブンが街を破壊した、か」

 

 静まり返っていた教室に再び喧騒が戻ってくる中、八幡はぽつりと呟く。

 

「話し合うか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら順調のようだな」

 

 愛染誠のいる薄暗い部屋。

 

 踏み入れた黒衣の男の姿を見ると愛染誠は笑みを浮かべる。

 

「キミかぁ!いやぁ、あの提案は素晴らしいね!一気にウルトラセブンが悪者!そして、私のウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツこそが正義の味方という展開になったよう!これ、お礼の品」

 

 男の手を取って愛染誠が渡したのはウルトラマンオーブダークノワールブラッスシュバルツのソフビ人形(愛染お手製)である。

 

「しかしぃ、まさか、このクリスタルの力を使って偽物を用意してそれを私が倒す作戦とは、キミはどうして、私に協力してくれたのかな?」

 

「利害の一致だ」

 

 愛染のテンションに対して男は淡々と話す。

 

「ウルトラセブンは私にとって邪魔だ。お前にとってもお前の活躍を阻む可能性がある。お前はより人間達から支持を、私の目的の為に邪魔者の排除、地球人は奴が訴えたところで耳を貸すことがない。噂のウルトラ警備隊も次からはウルトラセブンを攻撃してくれるだろう、ほら、利害の一致だ」

 

「そういうことかぁ!利害の一致とはすばらしいねぇ!それで、キミはこれから何を?」

 

「我らの主を蘇らせること」

 

「……主?」

 

「お前も名前は聞いたことがないか?宇宙で悪魔と恐れられる存在のことを」

 

「悪魔?あぁ、ゴーデスのことか」

 

 愛染は思い出したように手を叩く。

 

「だが、その存在は遠い昔に宇宙の正義の手によって滅ぼされたと聞くが?」

 

「確かに肉体は滅ぼされた、だが、完全に消滅させられる瞬間、自らの肉体を細胞レベルまで分解して宇宙へ逃げた」

 

「そのゴーデスが地球にいると?」

 

「復活の苗床として地球を選ばれた」

 

「ふーん(待てよ、つまりはそのゴーデスとやらを復活させたところで、私事ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツが華麗に倒せば、地球上で私を崇拝しない者は誰もいないという事だ……おぉ、これは良い展開だぞぉ)」

 

「(コイツのことだ、ゴーデス様を利用して自分の地位をより確固たるものにしようと企むだろう……それでいい、闇が混ざっているとはいえ、光の力で倒されれば倒されるほど、ゴーデス様の力はより強くなっていく。今回の騒動でかなりの細胞が集まってきている。もう少しすれば、ゴーデス様は完全復活させることができる)だが、今のままではダメだろうな」

 

「なぬ?」

 

 男の言葉に愛染が驚きの声を漏らす。

 

「気付いていないのか?未だにウルトラセブンを信じる者がいる。そいつらを完全になくさない限り、お前の地位は揺らぐ危険があるぞ」

 

「しかし、ウルトラセブンをこれ以上、貶すことはあまりなぁ」

 

 ウルトラマンを尊敬している愛染誠としてはこれ以上、ウルトラセブンを貶すような真似はしたくなかった。

 

 いくら、自分の地位を確固たるものにするとはいえ、流石にやりすぎちゃったかなぁ?と心配になってきたのである。

 

「―――ウルトラマンオーブになりたいのだろう?」

 

 そこで悪魔が囁く。

 

 悪魔の配下である男にとって、愛染誠が何を求めているのか調べることくらい造作もないことだった。それこそ、ミュー粒子を介する必要もない。

 

「お前は憧れだったウルトラマンになりたい、いや、なるのだろう?お前の気持ちはその程度のものだったのか?」

 

「なにをう!?バカにするんじゃない!私はウルトラマンになる!いや、必ず、なるんだ」

 

 愛染の脳裏をよぎるのは輝きの聖剣から放つ光で巨大な怪獣を倒した光の巨人。

 

 彼の尊敬するウルトラマンオーブ。

 

 幼かった彼は心の底から誓った。

 

 ウルトラマンになりたい。

 

 ウルトラマンになるのだ、とその為にここまで頑張ってきたのだ。

 

 邪魔する存在は許さない。

 

 敵対するものはどんなことをしても倒すのだ。

 

 愛染は悪人のような黒い笑みを浮かべる。

 

「グググ!よぉし、ならば、もう一つ、手を打ってやろうじゃああありませんかぁ!」

 

 両手を叩く愛染。

 

 彼の手の中に二つのクリスタルが握られていた。

 

 悪魔はにやりとほほ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「怪獣出現の兆候がない?」

 

 その頃、ウルトラ警備隊の司令室では最近、多発している怪獣騒動について議論がされていた。

 

「はい」

 

 全員の視線が集まる中でユキ隊員が頷く。

 

「あの黒いウルトラマンが姿を現した時から、今日まで、各部署のデータを調べたのですが、怪獣出現の兆しが全くありませんでした」

 

「ま、全く?」

 

 驚きの声を漏らす渋川にユキは頷く。

 

「しかし、そんなことを調べて何になるというんだ?」

 

「おかしいとは思わないのか?」

 

 質問を質問へ返す形になっているがユキは梶へ問いかける。

 

「いくら少し前の怪獣頻出期といわれるような状態になりつつあるからといって、一週間に一回、テレビ番組のように怪獣が何の前触れもなく現れるというのはおかしい。何か切欠がなければ怪獣が現れるなんて考えられない」

 

「待ってくれ、ユキ隊員は今回の怪獣騒動に何か裏があるとみているのか?」

 

「えぇ」

 

「待ってよ!裏があるって、まさか宇宙人の企みか何かってこと?」

 

「そこまでははっきりとはいえないが……だが、考えてみてほしい」

 

 戸惑う東郷やリサにユキは問いかける。

 

「怪獣が出現する場合、何か異変が起こる、それか侵略者が連れてきた怪獣兵器の可能性がある……今回のケースはそのどれにも該当しない、いや、一つだけ、可能性はある」

 

「あの黒いウルトラマンのことだな?」

 

 腕を組んで目を閉じていた古橋の言葉にユキは頷いた。

 

「そうです。最近の怪獣は現れるとすべてが黒いウルトラマンに倒されています。偶然と片付けるには回数が多すぎると思いませんか?」

 

「しかし、あのセブンについてはどう説明する」

 

「まだ、わかりません、ですが、あのウルトラセブンに生命反応が感知されていません。そこに謎を解くカギがあると私は思います」

 

「調査をしたいということだな?」

 

 目を開けて古橋は手を叩く。

 

「よし、ユキ、満足するまで調べろ。そして、はっきりとした結果を報告するように、梶、お前もついていけ」

 

「隊長!?」

 

「お前、前の任務でホークを墜落させていたな?始末書は免除してやるから、代わりにユキに付き合え」

 

「そりゃないっすょ!?」

 

「ハハッ、まぁ、レディをエスコートしてやるんだな!優男さんよ」

 

 渋川の言葉に梶は嫌そうな顔をして、ユキは小さなため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「綺麗な場所だな」

 

 俺はどこまでも澄み切った青空、キラキラと輝く湖、そして風を受けて揺れる緑。

 

 天辺に輝く太陽。

 

 自然の中を八幡は歩いていき、やがて、一人の人物を見つける。

 

 バラ色の頬を持つ美青年。

 

 纏っている衣服がウルトラ警備隊の隊員服でなければ、街中で女性を虜にさせていただろう。

 

 彼こそが、恒点観測員として地球に訪れて、地球人を愛し、身を犠牲しながら戦い続けた。

 

 ウルトラセブン本人だ。

 

 今は地球人の姿をコピーしたモロボシ・ダンとしての姿で俺の前にいる。

 

「珍しいね。キミがこちら側に踏み込んでくるなんて」

 

 にこりとほほ笑む青年の横へ俺は腰かける。

 

 ここは地球のどこかにある自然、というわけではない。

 

「アンタに話があったんだよ。ウルトラセブン、いや、モロボシ・ダン」

 

 俺と一心同体になっているウルトラセブンの心象風景が具現化した場所。

 

 大自然の一角をくりぬいたような素敵な場所で俺とダンさんは大きな岩へ腰かける。

 

「綺麗な場所だな」

 

「私が訪れた地球の緑豊かな場所だ。不思議とこの景色を見ていると心が現れるような気分になる……こういう美しいものを私は、私達は守りたいと思っている」

 

「ダンさん、貴方に相談があります」

 

 ちらりとダンさんが俺を見た。

 

 融合はしているものの、俺の心の中に彼が踏み込んでくることはない、まして、干渉することなく。どうしても必要な時に俺の人格は沈んで、彼が表に出てくる。

 

 だが、絶対というわけではない。

 

 こうやって俺が望めば話しかけてくるし、警告なども飛ばしてくる。

 

 どこまでもこの人は優しいのだ。

 

 この人だけじゃない、あの星に住まう人たちは。

 

「いいとも、教えてくれ」

 

 俺はダンさんにできる限りのことを話す。

 

 多発する怪獣、それを倒すウルトラマンオーブという存在。

 

 少し前に現れたニセウルトラセブン。

 

 そして、由比ヶ浜の訴え。

 

 全てを話し終えて一息ついたところで、ダンさんは静かに告げる。

 

「キミは私にどうしてほしいんだい?」

 

「え?」

 

 予想外の返しに俺は固まってしまう。

 

「あの黒いウルトラマンがどういう意図で怪獣と戦っているのか知らない。もしかしたら地球平和のためかもしれない。それと偽物の私と繋がりがあるのかどうかもわかっていない」

 

「だけど、あの偽物のせいでウルトラセブンは悪者だって」

 

「私は私の信じた者達の為に戦う。私の決意は揺るがない、たとえ、愛する地球人から石を投げられたとしてもね」

 

「それは……いや、アンタは本当に地球人を愛しているんだな」

 

「勿論」

 

 彼は頷いた。

 

 どこまでも澄み切った、ウソ偽りのない笑顔を浮かべられ、俺は言葉を詰まらせる。

 

 この人や他のウルトラマン達と話していると心の中のすべてをさらけだされそうになる。そんな気分になってしまう。

 

「正直、黒いウルトラマンがどういう意図で戦っているのか、偽セブンが現れたことに関係があるのかもわからない。けれど、俺は許せないんだと思う、ウルトラセブンを……俺の命を助けてくれた恩人を侮辱するようなことを」

 

「八幡君、キミはとても優しく、そして、誰かが傷つくくらいなら自分が傷ついてでも解決しようとする子だ。もし、キミが大切な者の為に力を使うというのなら躊躇わないことだ」

 

「俺は……」

 

「キミは正しいことに力を使える。少なくとも私はそう信じている」

 

 段々と景色が白くなっていく。

 

 目の前にいたはずのダンさんがどんどん遠のいていた。

 

「待ってくれ!」

 

 まだ、話したいことが、聞きたいことが沢山、あるのに!

 

「これ以上の接触はキミの精神へ良くない影響を与えてしまうだろう。八幡君、戦う決意を決めたのなら、迷うな。キミは大切なものの為に戦える」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セブン!」

 

 ガバッと俺は体を起こす。

 

「俺の部屋……」

 

 周りを見ると、俺の部屋だ。

 

「大丈夫?魘されていたけど」

 

 俺が目を覚ましたことに気付いてペガがダークゾーンから顔を出す。

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

「汗がびっしょりだ、もう一度、風呂に入ってきたら?」

 

「……そうする」

 

 ペガに言われて八幡は浴室へ入る。

 

 服のポケットから隠しているウルトラアイを取り出す。

 

 ウルトラアイを覗き込みながら八幡は、ため息を吐いた。

 

「過大評価しすぎなんだよ……はぁ」

 

 そういって八幡はウルトラアイを置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で街中に出るんだよ?」

 

「調べたいことがある」

 

 梶とユキの両隊員は私服姿で街中へ来ていた。

 

「どこもかしこも、例のウルトラマンオーブの話題ばかりだな」

 

「新たな人類の守護者といっている連中もいるようね」

 

 淡々と答えるユキに梶は前から気になっていたことを尋ねる。

 

「なぁ、ユキはウルトラマンやウルトラセブンについて、どう思っているんだ?」

 

「別に」

 

 ユキは静かに答える。

 

「地球は人類の手で守るべきだと私は考えている。ただ、手を貸してくれるウルトラセブンはともかく、怪獣を颯爽と倒すあの黒いウルトラマンとやらはあまり好きになれないな」

 

「ふーん」

 

 彼女の話を横で聞きながら歩いていた梶はある少女に気付いた。

 

「おい、あの子じゃないか?黒いウルトラマンに風船を取ってもらったっていう少女」

 

 梶の言葉にユキは視線を向ける。

 

 公園で遊んでいる少女は梶の言うとおり、少し前にウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツに風船をとってもらった人物だろう。

 

 何気なしにみていたユキはある一点に気付くと真剣な表情を浮かべて駆け出す。

 

「おい!?」

 

 慌てて追いかける梶。

 

 ユキは少女へ話しかけていた。

 

「ねぇ、その人形、どうしたの?」

 

「もらったの!」

 

 少女は笑顔でユキにある人形を見せる。

 

「これって……」

 

 手の中にあったのはウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツの人形だった。

 

 小さいながらも精巧にできている人形をみたユキは尋ねる。

 

「誰からもらえたの?お姉さんも欲しいな」

 

「あそこのビルの社長さん!大人の人に、私がウルトラマンオー、えっとぉ?なんとかに風船を取ってもらったってことを伝えてほしいって」

 

「そうなんだぁ、ありがとうね」

 

 手を振りながら去っていく少女。

 

 

 ユキは少女の指さした建物をみる。

 

「やはり、アイゼンテック社か」

 

「どういうことだよ?人形がどうかしたのか?」

 

「早すぎないか?いくら、ヒーローと言われているとはいえ、あの黒い奴の商品が出ているなんて」

 

「どこかの企業が売れると見込んで投資したという可能性もあるだろう?」

 

「それだけじゃない、この街中、やけに黒いウルトラマンの広告宣伝が多いと思わないか?」

 

「言われて、みれば……」

 

 指摘されて梶はようやく気付く。

 

 黒いウルトラマンが出現して、一カ月が経っているが、彼がヒーローと言われだしたのは街を破壊したウルトラセブンを倒した時だ。その日から考えると流石に流布されているものが早いという疑問が生まれる。

 

「じゃあ、アイゼンテックが怪しいと思うのか?」

 

「そこはわからない、だが、何かを知っている可能性は高いと私は思っている」

 

「……調べるか?」

 

「あぁ」

 

 頷いたユキと梶はアイゼンテックのタワーをみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて、そろそろ、次の段階へ進むとしようか」

 

 愛染誠はタワーの屋上で街中を見渡していた。

 

 アイゼンテックのおかげで繁栄した街をこれから破壊することになるが、愛染自身、否、彼の変身するウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツの栄光の一歩と思えば、多少の破壊など必要経費と思えばいい。

 

「そう、私はなるんだ……ウルトラマンオーブに」

 

 昔を思いだしている愛染誠、否、彼に寄生している宇宙人は手の中のウルトラマンオーブが描かれているクリスタルを握り締める。

 

「まずは、彼から、出番です!」

 

 AZジャイロにクリスタルをはめ込んで、左右のレバーを引っ張る。

 

 眩い光と共に街中にウルトラセブンが現れた。

 

「では、続けて」

 

 ジャイロに怪獣のクリスタルをはめ込もうとした時、まばゆい光と共にグルジオキングが出現する。

 

「え?」

 

 呆然としている愛染の前で現れたグルジオキングは雄叫びを上げながらニセウルトラセブンへタックルした。

 

 攻撃を受けて派手に吹き飛ぶニセウルトラセブン。

 

 背部の砲塔から砲撃を行う。

 

 攻撃を受けて仰け反るニセウルトラセブンを終始、グルジオキングが圧倒していた。

 

「えぇい!なんてタイミングで邪魔をぉ!」

 

 呆然としていた愛染誠だが、すぐにカッ!と目を見開くと怪獣クリスタルを放り投げて彼が開発したオーブリングNEOをジャイロにはめ込む。

 

 レバーを左右に広げながら愛染は叫ぶ。

 

「絆の力ぁ!お借りします!」

 

 叫びと共に光の中からハートのポーズをとりながらウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツが姿を現す。

 

「銀河の光が我も呼ぶ!」

 

 現れた姿こそ愛染誠の変身したウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ。

 

「と、同時に攻撃ぃぃぃぃ!」

 

 現れるとともにオーブダークカリバーを振るってグルジオキングの背中を切り裂く。

 

『あぐぅ!』

 

 背中にダメージを受けてグルジオキングに変身している由比ヶ浜が苦悶の声を上げる。

 

『ほう、キミかぁ!』

 

『愛染社長!?貴方が真っ黒マンの正体だったの!?』

 

『誰が真っ黒マンだぁあああああ!私の姿はウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ!』

 

『えっと、オダブ?』

 

『変な略し方をするなぁ!』

 

 首をかしげた由比ヶ浜に激昂した愛染はオーブダークカリバーを操作して【オーブダークロックカリバー】を放つ。

 

 怒りと共に放たれる技だが、グルジオキングは自慢の装甲で防ぎきり、口からネオボーンブレスターを撃った。

 

 火炎を受けたオーブダークは焼けている箇所を手で払う。

 

『どうして、どうしてこんなことをするの!?』

 

『決まっているだろう!私の夢のためだ!私はウルトラマンになる!ただのウルトラマンじゃない!惑星O-50、そこにある戦士の頂に触れて光の巨人になったウルトラマンオーブ!』

 

『戦士の頂……それって』

 

『そう、お前も触れて資格を得たはず、しかぁし!お前はウルトラマンになるどころか怪獣の姿でストォップ!加えて、ヒーローとしての自覚もまるでなし!だからこそ、私がなるんだ!人々に危機が迫った時、銀河の光と共に現れる巨人、それこそがウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ!』

 

『だったら、何でセブンを悪者にするの!こんな偽物なんか使って』

 

『いやぁ、本当はそういうことするつもりなかったんだけどねぇ、ほら、違うとはいえ、一応、ウルトラマンだしさぁ、でも、私の邪魔になるなら仕方ない!正義のヒーローと見せかけて実は悪でした計画は成功したということだよ!なっはっはっ!』

 

 笑う愛染の姿に由比ヶ浜のぶるぶるとジャイロを握り締めている手が震えていた。

 

『最っ低!』

 

『なぬぅ!?』

 

 叫びと共に放たれた雷撃がオーブダークを捉える。

 

 ビリビリと痺れて剣を手放してしまう。

 

 瞳に涙を溜めながら由比ヶ浜は攻撃を続ける。

 

『貴方に……』

 

 ボーンショッキングを続けながら由比ヶ浜は叫ぶ。

 

『貴方にウルトラマンを名乗る資格はないよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別宇宙、M78星雲、光の国。

 

「由比ヶ浜結衣君、ウルトラマンという名前がどうして付けられたか知っているかな?」

 

 由比ヶ浜結衣は茶色いベストに黒いシャツにズボンという姿の青年、ハヤタ・シンの言葉に首をかしげる。

 

「え、それが名前じゃないの?」

 

 由比ヶ浜の言葉にハヤタは苦笑する。

 

「ウルトラマンという名前は、私が一体化していた地球人がつけてくれた名前なのさ。ウルトラ作戦第一号の協力者、ウルトラマンと……最初はただの呼称だったけれど、いつからか、この名前を私は愛するようになった地球人がくれた大事な名前だと」

 

「へぇ」

 

「だが、いつからか、地球人にとってウルトラマンという名前は別の意味をもつようになった」

 

「別の意味?」

 

「私の後に弟達が地球を守ってきた。地球人と共に怪獣や侵略者と戦う私達をいつからか、地球人は友と、大事な仲間として迎えてくれる。ウルトラマンとは地球に、地球人にとって大切な存在になっている。それが嬉しくもあり、彼らの成長を見守る理由なのだと、私は思うようになった」

 

 昔を懐かしむハヤタの姿を見ながら由比ヶ浜は感嘆の声を漏らす。

 

 O-50の戦士の頂に触れて力を手にした為に宇宙を旅することになった由比ヶ浜はウルトラマンという名前を耳にすることがあった。

 

 M78星雲、光の国に存在する宇宙警備隊の一人の名前。

 

 侵略者を許さず、正義の為に戦う者の名前。

 

 地球のことを愛する者の名前。

 

 侵略者が恐れる正義の味方。

 

 名前の意味を由比ヶ浜ははじめて、知った。

 

「私は、どうすればいいのかな?」

 

 由比ヶ浜は自身の手の中にあるジャイロをみる。

 

 O-50の指示でミッションをいくつもこなしてきた彼女はいつか、光の巨人の力を手にすることができるかもしれない。

 

 その時、自分は目の前の人達のような強い存在になれるだろうか?

 

「由比ヶ浜君、我々、ウルトラマンは神ではない。どんなに頑張っても届かない思いもあれば、救えない命もあるということを忘れないでほしい」

 

「神じゃない……か」

 

「大きな力を使う事はおおいなる責任が伴う。それを忘れないでほしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハヤタとの言葉を思い出しながら由比ヶ浜――グルジオキングは唸り声を上げながらオーブダークへ爪を振り上げようとした時。

 

 背後からニセウルトラセブンがキックを放つ。

 

 不意打ちにグルジオキングの動きが鈍る。

 

 その隙を突くようにウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツが全身に炎を纏った必殺技【ダークストビュームダイナマイト】を繰り出す。

 

 繰り出された攻撃をグルジオキングは防ぐ暇もないまま受けてしまい、近くのビルにその巨体を倒してしまう。

 

『ふん!所詮はウルトラマンになりきれない小娘だったということだ!とっとと倒して、私の壮大な計画を実行に……』

 

『負けない……』

 

 傷だらけになりながら起き上がるグルジオキング。

 

 由比ヶ浜はダメージと疲労で倒れそうになる体を必死に起こしながらオーブダークをまっすぐにみる。

 

 握り締めているジャイロを構えた。

 

『貴方をウルトラマンなんてあたしは認めない!ヒッキー……ウルトラセブンを侮辱した……許さないから!』

 

 ギラリとグルジオキングの瞳が輝く。

 

『生意気なぁ!大人しくしていたら優しく倒してあげようと思っていたものをぉ……まぁいい、貴様はこいつに倒されるがいい!いけぇ!ニセウルトラセブン、いや、ウルトラセブンよ!』

 

 ウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツがニセウルトラセブンへ指示を飛ばす。

 

 ニセウルトラセブンは起動すると満身創痍のグルジオキングの頭部を掴むと腹部へパンチを叩き込む。

 

 攻撃を受けて仰け反ったグルジオキングへキックを放ち、地面へ押し倒す。

 

 グルジオキングは反撃しようとするがその腕を掴んでニセウルトラセブンが額のビームランプから光線を放つ。

 

『こんな、こんな奴に』

 

 近距離から光線を受けて苦しみの声を上げるグルジオキング。

 

 当然、変身している由比ヶ浜自身もダメージを受けている。

 

 起き上がることのできないグルジオキングの上にのしかかり、一方的な暴力を振るう。

 

 あまりの光景だというのにウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツは満足しているような態度をとっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、比企谷八幡は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「由比ヶ浜……」

 

 グルジオキングに変身している由比ヶ浜が偽物とはいえウルトラセブンによって一方的になぶり倒されている姿を見ているのはとても気分が悪かった。

 

 気付けば強く拳を握り締めている。

 

 握り締めた個所からポタポタと血が零れていた。

 

 かつての自分ならどう思っていただろうか?

 

 疑って何もしなかった?

 

 見て見ぬふりをしていただろうか?

 

 少なくとも今は。

 

 八幡は胸ポケットの奥からウルトラアイを取り出す。

 

 彼はウルトラアイを見つめる。

 

「俺が由比ヶ浜を助けるために力を使うことがエゴだと言われても、俺が本物だと、失いたくない者を守るためにこの、力を使う」

 

 八幡は覚悟を決めてウルトラアイを装着する。

 

 眩い閃光と共に八幡の体がウルトラセブンへ変身した。

 

 ニセウルトラセブンへウルトラセブンはアイスラッガーを投擲する。

 

 光に包まれたアイスラッガーがニセウルトラセブンの胴体へ直撃。その体を吹き飛ばす。

 

『なぬぅ!?本物をぉ!?』

 

 倒れたニセウルトラセブンをみて、現れたウルトラセブンに気付いたウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツは驚く。

 

 ウルトラセブンは倒れているグルジオキングへ手を差し伸べる。

 

『由比ヶ浜、大丈夫か?』

 

 テレパシーを使ってグルジオキングへ問いかけるウルトラセブン。

 

『ヒッキー、なの?』

 

『あぁ、俺だ』

 

『ごめん、あたし……あの偽物がヒッキーじゃないってわかっていたんだけど、、我慢できなくて、ヒッキーがバカにされていると思って、悔しくて、だから、こんなこと、きっと、間違っていると思っていたんだけど、だけど』

 

『大丈夫だ』

 

 彼女が必死に涙をこらえている姿をミュー粒子が教えてくれる。

 

 ウルトラセブンはグルジオキングを起こしながらその頭を撫でた。

 

『お前が俺の為に怒って、泣いてくれていることはわかった。だから』

 

 振り返るウルトラセブン。

 

 迸るエネルギーは怒りで体中からあふれ出している。

 

 まるでウルトラセブンが燃えていると錯覚するほどに怒っていた。

 

『ここからは俺が身の潔白を証明する』

 

 本来、比企谷八幡が変身する時、彼の人格は精神の奥深くに沈み、ウルトラセブンの人格が表に現れて戦闘をする。

 

 しかし、今は比企谷八幡がウルトラセブンとして戦っていた。

 

 冷静な戦い方をするウルトラセブンと異なって比企谷八幡の戦い方は若くも荒々しい戦い方をする。

 

 それは遠く離れた宇宙、独りぼっちで生き残るために戦ってきたゆえのスタイル。

 

 ニセウルトラセブンはウルトラセブンの攻撃を冷静に対処しようとする。

 

 しかし、次々と繰り出されるウルトラセブンの猛攻に圧倒されていた。

 

『えぇい、本物が出てきたことは驚いたが、邪魔はさせんぞぉ!』

 

 ウルトラセブンとニセウルトラセブンの戦い。

 

 横から乱入してくるオーブダーク。

 

 振るわれるオーブダークカリバーをウルトラセブンはアイスラッガーを逆手に構えて受け止める。

 

『お前、ウルトラマンじゃないな!』

 

『いいや!私こそがウルトラマン!真のウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツなのだ!』

 

『略してオダブだな』

 

『やめんかぁあああああああああああああああああ!』

 

 激昂したオーブダークが袈裟切りに振り下ろしたカリバーを躱しながら後ろへ回り込んだウルトラセブン。

 

 蹴り飛ばされたオーブダークは頭から地面に倒れる。

 

『ヒッキー!』

 

 グルジオキングが背後から光線を撃とうとしていたニセウルトラセブンへタックルする。

 

 光線技を放つことに失敗したニセウルトラセブンは倒れて、オーブダークの近くの地面へ倒れた。

 

『由比ヶ浜……』

 

『あたしだって、いるから、ヒッキーは一人じゃないよ!』

 

 頷いたウルトラセブン。

 

 横に並ぶグルジオキング。

 

 ふらふらになりながらオーブダークは叫ぶ。

 

『なぁに、アツアツカップルみたいなことをやってんだよ!お前ら、ウルトラマンとしての自覚を』

 

『『うるさい!お前がウルトラマンを語るな!』』

 

 ウルトラセブンは【ワイドショット】を、グルジオキングは【ギガキングキャノン】を。

 

 二つの必殺技がウルトラマンオーブダークノワールブラックシュバルツ、ニセウルトラセブンへ直撃。

 

 大爆発を起こす。

 

 ウルトラセブンは横にいたグルジオキングをみて、空へ飛び去る。

 

 グルジオキングは光の粒子に包まれてその姿が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、いつもの奉仕部。

 

「街の人達はどちらを信じたのかしらね」

 

 一定の距離を開けながら読書をしていた八幡へ雪ノ下が話しかける。

 

「いきなりなんだ?」

 

「今朝のニュース、街を破壊したのは偽物のウルトラセブンではないかという報道がされていたわ」

 

「そうか……」

 

「ウルトラセブンは正義の味方っていうことかしら?」

 

「ハッ、人の主観はそれぞれ異なる。片方が正義と言ったところで、相手も正義という、人の数だけ語る正義があるんだよ。ウルトラセブンは正義の味方っていうわけじゃない」

 

「じゃあ、何かしら?」

 

 微笑みながら問いかけてくる雪ノ下の言葉に八幡が告げようとした時。

 

「ヒッキー!」

 

 部室のドアが開いて笑顔の由比ヶ浜が八幡の腕を掴む。

 

「ほら、行くよ!」

 

「え?どこにだよ」

 

「ハニトー!」

 

「は?」

 

 頬を膨らませながら由比ヶ浜は八幡を引っ張る。

 

 グルジオキングになり二対一という不利な戦いをしていた少女とは思えないタフさだ。

 

「食べに行くって、約束!」

 

「そんな約束したか?」

 

「ほら、行こう!」

 

「わかった、わかったから引っ張るなって!」

 

「今日の部活はここまでにしましょうか」

 

 二人の姿を見て雪ノ下は部活終了を告げる。

 

「じゃあ、ゆきのんも行こうよ!」

 

「え、私も?」

 

「うん!ほら、三人で食べるって約束していたし!」

 

 そこでようやく八幡は思い出す。

 

「あぁ、惑星ボリスで約束していたことか」

 

「ほら!」

 

 由比ヶ浜に引っ張られながら八幡は部室を出る。

 

 少し遅れて雪ノ下も部室を出て鍵を閉めた。

 

 いつもと少し違う光景だが、これも悪くないと三人は思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇい!これで終わりだと思うなよぉぉぉぉ!私にはまだこれがあるのだからなぁ!」

 

 薄暗い部屋の中、ボロボロの愛染誠は怒りで顔を染めながら手の中にあるAZジャイロとオーブリングNEOを握り締める。

 

「これにはまだ、奥の手があるのだ……それに」

 

 愛染の視線は壁に設置されている計測器へ向けられる。

 

 計測器は上昇していく数値が表示されていた。

 

「最大の悪魔、そこに恐怖する人類を救う事こそ、ウルトラマンの意味……悪魔、お前を利用させてもらうぞぉぉぉぉぉぉぉ」

 

 雄叫びを上げる愛染誠だが、彼は知らない。

 

 自身の力が悪魔によって利用されていることを。

 

 彼の体からうっすらと緑色の粒子のようなものがちらついていたことを。

 



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第十二話:亡霊のレイオニクス

ピカチュウ版をやって以来のポケモン盾をやっていて、遅れたわけじゃないです。

今回、ゆきのんメイン?の話です。

かなり設定が捏造されている可能性があります。さらりと平成セブンネタが入っています。

アンケートの協力ありがとうございます。

結果については、あとがきで伝えます!


 

 

 闇の中、ソレは渇望していた。

 

 

 

――モット、だ、モット!

 

 

 

 肉体が消滅しながらもソレは望んでいる。

 

 自らの目的、自らの欲を果たすという事を。

 

 正常な判断をできる思考力を長い年月の間に失い、ただ、己の目的、野望の為だけを渇望している姿は怨念のようなものに捉えてしまうだろう。

 

「そうか、ならば、取引しないか?」

 

 暗闇の中、悪魔の使者が姿を現す。

 

 

――オマエハ、ナンダ?

 

 

「俺が誰だって、どうでもいいだろう?」

 

 悪魔の使者はささやく。

 

「お前は蘇りたいのだろう?」

 

 

――ソウダ、ヨミガエリタイ!オレハ、オレノモクテキノタメニ!

 

 

「肉体を失っても己の野望の為に生存を望むとは、面白い、あのお方が気に入るわけだ」

 

 にやりと悪魔の使者は笑う。

 

 彼の体から緑色の液体が零れ落ちる。

 

 液体は生き物のようにソレにまとわりついて、体を形成していく。

 

「器は出来上がった。後はお前次第ということだ、期待しているぞ?お前の執念を」

 

 満足したように去っていく悪魔。

 

 残された器に入っていく黒いモヤモヤしたもの。

 

 瞳が輝き、ソレは動き出す。

 

「さぁ、はじめよう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、奇遇ね」

 

「奇遇だな」

 

 ショッピングモールの本屋。

 

 偶然にも比企谷八幡は雪ノ下雪乃と遭遇する。

 

「貴方も本屋へ用事?」

 

「あぁ、小さな本屋だと見つからなくてな」

 

 八幡の手の中には本があった。

 

 生物図鑑である。

 

「貴方、そんな趣味があったの?」

 

「まさか……ペガが家にあった図鑑を珈琲で汚しちまったから新しいのを小町に買ってくるように言われたのさ」

 

「体の良いパシリじゃない」

 

「おつかいといってくれ。そういう雪ノ下は何を買ったんだ」

 

「これ」

 

 雪ノ下が取り出したのは分厚いハードカバーの冊子だった。

 

「辺見芳哉というSF作家の新作よ……十年ぶりに出たという事で買いに来たの」

 

「十年って……お前、七歳の時からそんな分厚い本を読んでいたのか?」

 

「そうね、小さい頃から頭はよかったから」

 

 互いにレジで支払いを済ませて解散……にならなかった。

 

「どうせだから、近くの喫茶店でお茶でもしない?」

 

「俺は別に、帰って」

 

「お茶でもしない?」

 

 雪ノ下さん、NPCになる。

 

 同じ言葉を繰り返しながら絶対零度の眼差しでこちらへ向けてきた。

 

 断れば、凍らされてしまう。

 

 そんな恐怖に八幡は勝てなかった。

 

「わかったよ、お茶にしよう」

 

「美少女とお茶ができてよかったわね、幸福谷君」

 

「そのやり取り、久しぶりに感じるわ」

 

 呆れながら八幡と雪ノ下が喫茶店へ向かうとがやがやと楽しく談笑している若者たちと遭遇する。

 

「(おいおい、何だ、あれ?)」

 

 ボッチとしての観察眼で八幡は中心にいる女性が仮面をかぶっていることに気付いた。

 

 楽しそうに会話をして、皆から好かれてはいる。

 

 しかし、本心が全く見えない。

 

 ある意味、魔王のような存在感に八幡は驚きの表情を浮かべてしまう。

 

 その女性がこちらに気付くと笑みを浮かべて輪の中から抜け出してくる。

 

「雪乃ちゃん、久しぶりじゃん~」

 

「……姉さん」

 

「雪ノ下の姉か?」

 

「隣の人は彼氏かなぁ?妹がお世話になっています。雪ノ下陽乃でぇす。よろしくね?」

 

 笑顔を浮かべているがその目の奥は全くの光を映していない。

 

 こんな人間がいるのかと言葉が出ない八幡。

 

「行きましょう、比企谷君」

 

「へぇ、比企谷君っていうんだぁ、ねぇ、比企谷君、雪乃ちゃんのこと、よろしくね?姉として妹のことが心配だからさぁ」

 

「大丈夫よ、姉さん。そっちにも予定があるでしょうから私達はこれで失礼するわ」

 

「久しぶりの姉妹再会なのに、つれないなぁ、じぁあね?比企谷君」

 

 笑顔を浮かべて集団の中へ戻っていく雪ノ下陽乃。

 

 八幡は隣の彼女へ声をかけようとする。

 

 その時、八幡の肩へ雪ノ下は頭を乗せて、そのまま彼の手を掴んできた。

 

「ごめんなさい、しばらく、こうさせて」

 

 そういう雪ノ下の声は震えている。

 

「(俺の柄じゃないが……仕方ないか)あぁ、とにかく、近くの喫茶店へ行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい」

 

 雪ノ下雪乃は未だに過去に怯えている。

 

 姉という存在を語った宇宙人の為に本当の姉を前にしても震えてしまうのだという。

 

 それほどまでに姉の姿を模したゼットン星人の存在が心の奥深くに刻まれている。

 

 最後の戦いの直前に拒絶したとはいえ、長い時間行動していたことと、偽物とはいえ、姉として生活していたという事実と向き合うことが難しいのだろう。

 

「お前が悪いわけじゃない、あんなことがあったんだ。傷が癒えるのも時間がかかるだろう」

 

「本当は、私も前に進まないといけないと思っているの……でも、ダメね……」

 

 俯きながら彼女は紅茶に映る自分の顔を見た。

 

「貴方や由比ヶ浜さんが羨ましい」

 

「そんなことないぞ」

 

 雪ノ下の漏らした言葉を八幡は否定する。

 

「俺なんて、水をぶっかけられて目を覚ます、由比ヶ浜なんか、難民みたいな状態からのスタートだ。それに比べたら温かい食事などがでてきただけマシといえる」

 

「……慰めてくれているのかしら?」

 

「どうだろうな……ただ、出会い一つですべてが決まるってわけじゃないだろう」

 

「そうね。あれと出会って、その後に貴方達と知り合ったおかげで私は変わる切欠を得られた……」

 

「ほらな?一つの出会いですべてが決まらないだろう」

 

「屁理屈よ」

 

 苦笑している雪ノ下。

 

 先ほどまでの震えていた彼女ではなかった。

 

「でも、そうね」

 

 紅茶を一口、飲んで雪ノ下は微笑む。

 

「許されるなら、この幸せな時間を大切にしたいわ」

 

「それぐらい許せるさ」

 

 

 

――この広い宇宙で小さな時間を奪う権利など、誰にもない。

 

 

 続けて口から紡がれた言葉に雪ノ下は目を開く。

 

「その言葉、まるで彼みたいね」

 

「え?」

 

「何でもないわ」

 

 首を振りながら雪ノ下は紅茶を飲む。

 

 さっきまで感じていなかった苦さが雪ノ下の口の中に広がっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ」

 

 雪ノ下雪乃は借りているアパートのベッドの上へ腰かける。

 

 あの戦いの後、元の地球へ戻ってきた雪ノ下は家を出ていった。

 

 出ていく際に持っていた少ない金を色々な手段で稼いで安いアパートだが、雪ノ下はそこで生活をしている。

 

 贅沢さえしなければ、生活はできた。

 

 ベッドの上に置かれているぬいぐるみを手に取る。

 

 彼女が自分のお金で買って、大事にしているぬいぐるみ。

 

 少し目つきの悪いネコのぬいぐるみを抱きしめた。

 

「私は、恋をしているのかしら?」

 

 ネコのぬいぐるみに顔をうずめながら雪ノ下は今日の出来事を思い出す。

 

 姉に会うという予想外のことがありながらも彼とお茶をしたのは良き思い出の一ページ。

 

 学校では対して気にならないのに外へ出ると妙にドキドキしてしまっていたのは秘密だ。

 

 緊張を悟られないようにしながら彼に誘いをかけてひと時の時間を楽しめた。

 

 しかし、途中で生まれた些細な疑問が雪ノ下の中に生まれている。

 

「私は、どっちを好きなのかしら」

 

 彼が漏らした言葉。

 

 あれと似たような言葉を雪ノ下は聞いたことがあった。

 

 緑豊かな惑星で自分よりも年上でありながら人間よりも純粋だった人。

 

「私は、彼を好きなの?それとも、あの人を好きなの?」

 

 生れた疑問に答えてくれるものはいない。

 

 そんな雪ノ下の不安に揺れる様に机に置かれているバトルナイザーが小さく明滅していることに気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、学校にオバケが出るって話、知っていますぅ?」

 

 いつもの奉仕部……といわうけではなく、その日、一色いろはが来客していた。

 

 気の向くままに部室へやってきては色々な話をしてくる彼女に八幡はマッカンを飲みながら応対する。

 

「オバケ?進学校でオバケってどうなんだよ?」

 

「いやぁ、私もそう思ったんですけどぉ、何か、一年生の間で結構、噂になっているんですよ!」

 

 一色の言葉に由比ヶ浜が反応した。

 

「あ、それ優美子から聞いた!夜の学校に現れる鎧のお化けでしょ?」

 

「アホらし」

 

 八幡は呆れた声を漏らす。

 

「あのな、ここは日本、加えて科学が発展している時代だぞ?一昔前の木造建築の学校でオバケというのなら納得できるが……しかも、鎧?落ち武者じゃあるまいし」

 

「あれ、先輩は幽霊否定ですか?」

 

「……否定はしない、ただ、チグハグな話は信じない主義なだけだ」

 

 実際、肉体を失いながらも怨念だけで生き続けているヤプール人を目撃したことのある八幡は完全に存在しないと否定することは出来ない……ただし、この話があまりに信憑性がなさすぎるため、否定しているだけである。

 

「失礼するぞ!」

 

 その時、部室のドアが開いて平塚先生が入ってきた。

 

「平塚先生、ノックをしてくださいと何度言えば、わかってもらえるのですか?」

 

 小説を読んで我関せず貫いていた彼女の言葉に平塚先生は苦笑するだけで謝罪をしない。

 

 あ、改めるつもりないなぁと雪ノ下、八幡、一色は理解した。

 

「さて、奉仕部に私から頼みがある」

 

「先生からですか?」

 

 平塚先生からの提案に雪ノ下が疑問を浮かべる。

 

「そうだ、近頃、一年生の間でオバケという不確かな存在の噂が広まっている。なんでも夜の学校に現れるというそうじゃないか、一つ、調べてもらえないだろうか?」

 

「……それはこの部と無関係の話ではありませんか?」

 

「おや、雪ノ下は幽霊の類がダメな口か?」

 

「……バカなことを言わないでください。私はそんなものを信じていません」

 

「ほう、では、この幽霊騒動も何かしら理由があるということだな?」

 

「そうに決まっています」

 

「では、調べてもらおう!なぁに、学校の方の許可は私がとっておこう!」

 

「望むところです!」

 

「お、おい」

 

「では、頼んだぞ!」

 

 八幡が意見する暇もないままに奉仕部が幽霊騒動の調査をすることが決定してしまった。

 

「フフッ、お膳立てはしたからな?」

 

 部室を出た平塚先生が不気味な笑顔を浮かべたことに誰も気づかないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で、こうなるかなぁ」

 

「うわぁ、夜の学校って不気味だねぇ、ヒッキー」

 

「どうして、ペガも?」

 

「諦めろ、一蓮托生だ」

 

 部屋で寛いでいたペガを無理やり参加させながら八幡は夜の総武高校の前へ来ていた。

 

「何だ?宇宙人なのに、夜が怖いのか?」

 

「そんなことないよう、お化けが怖いだけだよぅ」

 

 八幡の揶揄う言葉にペガは懐中電灯をブンブンと振り回す。

 

「何をしているの?行くわよ」

 

 三人が振り返ると巨大な懐中電灯を持っている雪ノ下がいた。

 

 しかも、ヘッドライトタイプのものまで装着している。

 

「ま、まぁ、そろそろ」

 

「先輩~~」

 

「まず、ペガ、隠れろ!」

 

「はわわ!」

 

 慌ててペガが八幡の影へ隠れる。

 

 少し遅れて、彼らの前に一色が現れた。

 

「一色さん、貴方、どうしてここに?」

 

「え?だってぇ、私も話を聞いていたし、参加する流れかなぁって」

 

「いや、そんなわけないだろ」

 

「えぇええ!でも、夜の学校って少し興味あるんですよ!それに夜道を女の子に帰らせるというのは危ないので先輩、送ってください。あ、これは告白とかそういうものではなくて、男子として必要な義務だと私は思いますので、ごめんなさい」

 

「え、何で俺、告白されたみたいになって振られているの?」

 

 呆然としている間に一色も参加メンバーとして学校へ入ることが決まった。

 

 四人プラスαという状態で彼らが足を踏み入れた瞬間。

 

 視界が歪み、彼らの意識は一時的に闇の中へ消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッキー!起きて、ヒッキー!」

 

「あん?」

 

 体を揺らされて意識を取り戻す。

 

 目を覚ますと心配そうにこちらをみている由比ヶ浜の姿があった。

 

 体を起こす。

 

「俺は……」

 

「あたし達、校舎へ入ったと思ったら……ここにいたみたい」

 

 周りを見渡すとごつごつした岩で構成された場所にいた。

 

「どこだろう、ここ」

 

「少なくとも校舎でないことは確かだな……」

 

 空を見上げる。

 

「携帯は?」

 

「ゆきのん達に連絡を取ろうとしたんだけど、ダメみたい」

 

「ペガ……もいないな、どうやら完全に分断されたか」

 

「どうしょう?」

 

「ここにいたって仕方ない……移動するか」

 

 幸いにも鞄の中に簡単なペットボトルとスナック菓子があるので少しはなんとかなるだろう。

 

「持ってきておいてよかった非常食ってか」

 

 しかし。

 

 八幡は鋭い目で周囲を睨む。

 

 何者かの悪意が絡んでいる。

 

 他の皆の安否を気遣いつつも八幡と由比ヶ浜は歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅぅぅ、八幡~、どこいったのさぁ」

 

「私、宇宙人と一緒に歩いているなんて」

 

 その頃、ペガと一色は一緒に行動していた。

 

 目を覚ました一色は傍に転がっているペガに警戒していたのだが「あ、キミがあざとい後輩ちゃん?」という最初の言葉から笑顔でお話が始まり、今は“一応の友好関係”が築かれている。

 

 戸惑いながら懐中電灯を構えているペガの姿を見ながら一色はペガの後姿をみていた。

 

「(先輩が何かを隠しているとは思っていたけれど、まさか、宇宙人と一緒に生活していたなんて、由比ヶ浜先輩や雪ノ下先輩は知っているのかな?それにしても、宇宙人と一緒にいる先輩って、何者?)」

 

「あれ、いろは、どうしたの?」

 

「うわ、気安いなぁ」

 

「え?駄目だった?」

 

「まぁ、良しとしますか、ペガ君、なに?」

 

「えっと、こういう事態でやけに冷静だなぁって思って」

 

「うーん、前に魚眼の化け物に襲われたからかなぁ」

 

「魚眼って、ダダのことだよね?」

 

「そういうの?あれ、何でペガがダダのこと知っているの」

 

「だって、僕も一緒にいたんだよ?八幡の影の中に」

 

「えぇ!?」

 

 ペガの告白に驚きの声を上げる一色。

 

 ダークゾーンの力をみせるペガ。

 

「うわぁ、何か根暗が入っていそう」

 

「……」

 

 さり気ない一色の一言に傷ついたペガだった。

 

「さ、どこかにいるはずの先輩を探しに行きましょう!色々と教えてもらわないと!」

 

「うぅ、八幡~」

 

 先を歩く一色に続く形でペガも岩場から移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここはどこなのかしら」

 

 独りだけ岩場のような場所から移動をする雪ノ下。

 

 校舎へ入ろうとしてこんな場所に転移されたということで警戒をしている。

 

「こんなことをできるのは地球人じゃない……そう考えると」

 

「その通り、私がキミをここへ呼び寄せたのさ」

 

 聞こえた声に雪ノ下は振り返り、目を見開く。

 

「貴方は……」

 

 不気味に輝く瞳を揺らしながらにやりと相手は笑う。

 

「また会えたな、ゼットン星人の右腕ぇ」

 

「バット星人……」

 

 触覚宇宙人 バット星人。

 

 別宇宙の征服を狙う邪悪な宇宙人であり、そのために邪魔な光の国の宇宙警備隊を潰すべく最強艦隊を率いて、長期戦争を起こしたほどの野望を秘めた宇宙人。

 

 尤も光の国へ侵略する計画はウルトラマンやゾフィーをはじめとするウルトラ兄弟によって失敗に終わった。

 

 そして、雪ノ下の目の前にいるバット星人。

 

「貴方、レイオニクスのバット星人ね」

 

「覚えていたかぁ、じゃあ、コイツのことは覚えているかぁ!」

 

 バット星人の背後から大きな音を立てて現れる巨大な影。

 

 灰色の体にゆらゆら揺れる銀の角、顔らしき部分は黄色い光が点滅を繰り返している。

 

「ゼットン……」

 

「そう、俺様が用意した最強のゼットン!いや、そのはずだった」

 怨念の言葉を吐きながら目を見開いて動かない雪ノ下の周りをバット星人が歩く。

 

「あの時、小惑星で最強のレイオニクスになるために邪魔なお前とゼットン星人を抹殺しようとした。しかし、俺とこのゼットンは負けた!ありえるか!バット星の誇る科学技術こそが宇宙で一番ゼットン育成に適しているのだ!なのに、野生のゼットンに俺の作り出した最強のゼットンが負けたことが信じられない!だが、俺は悪魔と取引をした」

 

「何を言っているの……」

 

 狂った笑いをするバット星人に雪ノ下は恐怖して後ろへ下がる。

 

 元から侵略者であり宇宙のすべてを支配すると妄語していた連中の一人。だが、明らかに前出会った時よりも狂気が増しているように感じられた。

 

「さぁ、戦おうじゃないか!お前の怪獣を出せぇ!」

 

 瞳をギラつかせながら手の中の刃物を振り回すバット星人。

 

 いきなりのことで座り込む雪ノ下。

 

 それが彼女を救った。

 

 振るわれた刃が空を切る。

 

 座り込んだ雪ノ下へ緑色のオーラのようなものを放ちながらバット星人が刃を振り下ろす。

 

 瞬間。

 

「なにぃぃ!?」

 

 音を立てて折れる刃。

 

 雪ノ下の前にオーラを放ちながら浮いているバトルナイザーの姿がそこにあった。

 

「バトルナイザー……」

 

 鞄から飛び出したバトルナイザーが雪ノ下を守ったのである。

 

「えぇい!忌々しい!ゼットン!こいつらを踏みつぶせ!」

 

「ブモォォォォォ!」

 

 牛のような唸り声を上げながらゼットンがゆっくりと雪ノ下を踏みつぶそうと迫る。

 

 何かが飛び出そうとするように震えるバトルナイザーをみて、雪ノ下は咄嗟に掴んだ。

 

「駄目!」

 

 必死に押さえつけるようにしながら逃げるために走り出す。

 

 そんな彼女を笑う様にゼットンが踏みつぶそうと迫った時。

 

「行け!ウインダム!」

 

 眩いスパークと共に銀色の鳥類を連想させる怪獣が出現してゼットンへタックルする。

 

 突然のことにゼットンは対応できずに地面へ倒れた。

 

 大きな衝撃と揺れが近くにいた雪ノ下とバット星人を襲う。

 

「ぬぐわぁ!?」

 

 衝撃で派手に地面へ倒れるバット星人。

 

 不意打ちしたカプセル怪獣 ウインダムは倒れたゼットンへ圧し掛かる。

 

「頼んだぞ!ウインダム!」

 

 どこからか聞こえた声、間違えるわけがない。

 

 雪ノ下は宙に浮くバトルナイザーを掴んだまま走り出す。

 

「逃がすかぁああああああああ!」

 

 怨念の籠った声を上げながら追いかけようとするバット星人。

 

 ゼットンと戦っていたウインダムが上半身を回転させながらレーザーショットを放つ。

 

「ぬぉう!?」

 

 乱射されたレーザーショットの一つがバット星人へ直撃する。

 

 体の半分を焼かれるバット星人だが、緑色の光と共に体が復活した。

 

「逃がしたかぁああああ」

 

 再生した体で雪ノ下を追いかけようとした時、彼女の姿はどこにもなかった。

 

 怒りに染まりながらバット星人は暗い空に怨念の声をあげる。

 

 ゼットンに不意打ちしたウインダムはいつの間にか姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッキー!ほら、急がないと!」

 

「慌てるなって、転ぶぞ?」

 

「子供じゃないし!わっとと」

 

「ほら、言わんこっちゃない」

 

 倒れそうになる由比ヶ浜の腕を掴んで引き戻す八幡。

 

「ミュー粒子を通して困惑、悲哀の感情が伝わってくる。おそらく、あっちに雪ノ下がいる」

 

「それを先に言うし!」

 

――それを話す前に飛び出したのはお前なのだが、といいそうになる口を必死に抑える。

 

「あぁ(だが、雪ノ下の近くに漂う激しい憎悪のようなものはんだ?背筋が凍り付いてしまうような)」

 

 体が震えたような気がして八幡は両腕をさする。

 

 彼女の身を案じながら自然と足早に岩場を進んでいく。

 

「由比ヶ浜、下がれ!」

 

「え、きゃああ!」

 

 由比ヶ浜の腕を掴んで下がる八幡。

 

 呆然としている目の前で起こる爆発。

 

 咄嗟に由比ヶ浜の頭を抱えるようにして岩の上を転がり落ちていく。

 

 勢いが衰えたところで八幡は抱きしめている由比ヶ浜へ声をかけようとする。

 

 その前にものすごい勢いで離れる由比ヶ浜。

 

 顔が真っ赤だった。

 

「由比ヶ浜、大丈夫か?」

 

「うん……一体、何が」

 

 その時、二人の周囲を赤いガスが漂い始める。

 

「奴だ」

 

 八幡の視線は岩場から顔を出している赤い体皮の怪獣へ向けられていた。

 

 怪獣は口から赤いガスを吐き出す。

 

「吸い込むな」

 

 由比ヶ浜の口を咄嗟に抑えながら八幡は腰のピルケースから小さなカプセルを一つ手に取る。

 

「行け!ウインダム!」

 

 カプセルを空に向かって投げる。

 

 爆発と閃光が起こりながら赤い怪獣の目の前にカプセル怪獣 ウインダムが姿を現した。

 

「頼んだぞ、ウインダム!」

 

 駆け出したウインダムの姿が消える。

 

「なに?」

 

 戸惑う八幡。

 

 しかし、どこからかウインダムの声が聞こえていた。

 

「どういうことだ……ウインダム、戻れ!」

 

 光と共に八幡の掌の上にカプセル怪獣の入ったカプセルが戻って来る。

 

 ピルケースへ戻した時、八幡は気づく。

 

「そうか、四次元空間だ」

 

「へ?」

 

「忘れたのか?俺達は、一度、経験をしているぞ」

 

「……あぁ!」

 

 由比ヶ浜は思い出す。

 

 とある惑星で遭遇した怪獣のことを思い出す。

 

「え、じゃあ……」

 

「前に使った方法で脱出するぞ、手伝ってくれ」

 

「手伝う……うん!」

 

 由比ヶ浜はポケットからクリスタルとジャイロを取り出す。

 

 八幡はウルトラアイを取り出して装着する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪ノ下は呼吸を整えるために立ち止まる。

 

 後ろを見るもバット星人の姿はない。

 

「あれは比企谷君のカプセル怪獣……光はあっちへ向かっていったから、そこへ行けば」

 

 ふと、雪ノ下は立ち止まる。

 

「そこへ行って、どうするというの?」

 

 何かあれば、彼に頼ればいい。

 

 当たり前のようにそう考えていた自分に気付いてしまう。

 

「いつから、こんなに私は弱くなったの?」

 

 今まで誰かに甘えるという事をしてこなかった。

 

 姉のように何でもできるようになりたい。

 

 必死に頑張ってあの背中に追いつこうとしていた自分が誰かに頼る、否、すがろうとしていた事実に雪ノ下は気づいてしまう。

 

 頼るのはまだわかる。しかし、縋ってしまうのは違う。

 

 それは弱さだ。

 

 雪ノ下は彼に縋ろうとしていたことに酷く嫌悪した。

 

 

――俺は本物が欲しい。

 

 最後の戦いの前の日の夜。

 

 語り合っていた時の彼の言葉を思い出す。

 

 あの時、自分は何を望んだ?

 

「そうだ、私は」

 

「見つけたぞぉォぉ」

 

 地面の底から響くような声に雪ノ下は振り返る。

 

 ブンブンと刃を振り回しながら近付いてくるバット星人。

 

「何だぁ、逃げるのをやめたのか」

 

「逃げない……いいえ、本当は逃げたいわ」

 

 恐怖に震えそうになる手を抑えながら雪ノ下は顔を上げる。

 

「でも、決めたの……私は強くなる。強くなって彼や由比ヶ浜さん、大切に思える人たちの為に力を使えるようになりたい……私は、そう決めたの」

 

「フン、下らん。ゼットォン!叩き潰してしまえ!」

 

 唸り声を上げながら現れるゼットン。

 

 雪ノ下を踏みつぶそうと迫るゼットン。

 

『させない!』

 

 横からグルジオキングに変身している由比ヶ浜がタックルした。

 

「由比ヶ浜さん!」

 

『ゆきのん!大丈夫!?』

 

 雪ノ下の姿を見つけて手を振るグルジオキング。

 

「ブモォォォォォ!」

 

 殴られて怒ったゼットンが唸りながらグルジオキングの腹を蹴り飛ばす。

 

『うわっ!もう痛いじゃない!』

 

 戦いをはじめるゼットンとグルジオキング。

 

 バット星人は乱入してきたグルジオキングの姿にいら立ちの声を上げる。

 

「えぇい、こんなところで……だが、ここにはまだ」

 

 バチンと空に亀裂が入る。

 

「ま、まさか!」

 

 割れた空の向こうから青と赤の奇抜なデザインをした物体が地面へ落下した。

 

 続けて、降り立つのはウルトラセブン。

 

 四次元怪獣ブルトンはバチバチと体から火花を散らして瀕死の状態だった。

 

「バカな!どうやってブルトンを」

 

「そういうことね、ブルトンが相手だとわかったのなら対処法は簡単よ」

 

 動揺を隠せないバット星人へ雪ノ下が冷静に告げる。

 

 雪ノ下達はブルトンに遭遇したことがあった。その時、ウルトラマンの超能力によってブルトンの四次元空間から脱出したことを思い出した八幡はウルトラセブンに変身。

 

 ウルトラセブンの超能力によってブルトンへ大ダメージを与えたのである。

 

 一目で理解した雪ノ下にバット星人は苛立った声を上げた。

 

「えぇい、ならば、直接、俺が貴様を潰せばよいだけのことだぁああああ!」

 

 怒りの声を上げながら雪ノ下へ迫るバット星人。

 

「舐めないで」

 

 直後、雪ノ下の瞳が輝いた。

 

 衝撃を受けて地面に倒れるバット星人。

 

「なっ、何が……」

 

 ふらふらと起き上がったバット星人がみたのは雪ノ下の傍を浮遊している【バトルナイザー】。

 

 浮遊しているバトルナイザーを雪ノ下は掴む。

 

「思い出したの、私は向き合うと……だから、貴方とも向き合いたい」

 

 バトルナイザーは雪ノ下の感情に応える様に胎動する。

 

「だから、お願い、力を貸して」

 

【バトルナイザー!モンスロード!】

 

 バトルナイザーが輝き、そこから光が空へ飛び立ち、やがて、雪ノ下の傍に黒い巨体が降り立つ。

 

 宇宙恐竜 ゼットンである。

 

 バット星人が用意したゼットンよりも少しスリムで余分な改造をされていないシンプルな個体。

 

 しかも、ただのゼットンではない。

 

 別宇宙で初代ウルトラマンを倒したといわれる“あのゼットン”である。

 

 怪獣墓場で漂っていた魂をゼットン星人が回収、新たな肉体を与えて生み出した最強の個体だ。

 

「貴方に教えてあげる。ゼットン使いの実力っていうものを」

 

 赤い瞳を輝かせながら雪ノ下雪乃はバトルナイザーを握り締める。

 

「えぇい、バット星人の生み出したゼットンこそが最強なのだ!こんな個体など!」

 

 怒りに体を震わせながらゼットン(初代)へ攻撃を仕掛ける。

 

 瞬間移動してバット星人の目の前から消えた。

 

「ぬぅ!?」

 

 背後に回り込んだゼットン(初代)に肩を掴まれて宙に持ち上げられる。

 

 足をジタバタさせるバット星人を地面へ叩き落す。

 

「うぅぅぅ、おい!俺を助けろぉぉぉぉぉ!」

 

 バット星人の指示を受けて瞬間移動したゼットン(二代目)がゼットン(初代)へ襲い掛かる。

 

「ブモォォォォォ!」

 

「ゼットォォォォン!」

 

 瞬間移動を繰り返す二体のゼットン。

 

 しかし、僅かな差で二代目が初代の後ろへ回り込んで背後から右腕に装着されているゼットンナパームを放つ。

 

 攻撃を受けたゼットン(初代)は地面へ倒れる。

 

「うっ!」

 

 雪ノ下は背中を抑える。

 

 彼女はゼットンとリンクしており、命と痛みを共有している。そのため、ゼットンがダメージを受ければ雪ノ下もダメージを受けてしまう。最悪、命を落とす危険性もあるのだ。

 

「ふはははは!所詮はどこにでもいるゼットンの個体よ!我がバット星の科学力で強化されたゼットンにかなうものか!」

 

「舐めないでもらえるかしら」

 

 冷めた声で雪ノ下がバット星人を見上げる。

 

「私と共に戦ってきたゼットンがたかが“科学力で強化”された程度で負けるなんて思わない事ね」

 

 直後、音を立ててゼットン(二代目)が地面へ叩きつけられる。

 

 ぶるぶると体を揺らしながら見下ろすゼットン(初代)

 

 見下したような姿にバット星人は怒りで震える。

 

「ふざけ――」

 

「お遊びはここまで、ゼットン」

 

 雪ノ下は指示を下す。

 

「焼き払いなさい」

 

「ゼットォォォン」

 

 彼女の指示を受けたゼットンは両手を前に伸ばして一兆度の火球が放たれる。

 

 咄嗟にゼットン(二代目)がバリアを展開した。

 

 ウルトラマンの八つ裂き後輪を粉砕するほどの強度を持つバリアならば、どのような攻撃であろうと耐えられる。

 

 そう、普通の攻撃であれば。

 

「バカな……」

 

 信じられない、と言葉を漏らすバット星人。

 

 数えきれないレイオニクスの使役する怪獣を倒した雪ノ下のゼットンの技は本来のゼットンのスペックを圧倒的に上回っている。いくらバット星の科学力で強化されているとはいえ、大きな差があるのは当然といえる。

 

 バリアごと消滅するゼットン(二代目)

 

「こんなことが」

 

 動揺を隠せないバット星人。

 

 戦意喪失していることは明白だった。

 

 バット星人をどうするか雪ノ下が考えていた時、バット星人に異変が起こる。

 

「ググゥゥゥゥゥゥ!」

 

 苦悶の声を上げたバット星人。

 

 体から緑色の粒子を吹き出しながら体が変貌する。

 

「グルルルルルルルル!」

 

 不気味な異形といえる姿になったバット星人。

 

 唸り声を上げながら雪ノ下へ襲い掛かろうとするが。

 

 左右からウルトラセブン、グルジオキングが攻撃を仕掛ける。

 

 阻まれたバット星人が暴れる中、ウルトラセブンがエメリウム光線を撃つ。

 

 バット星人の体をエメリウム光線で貫かれる。

 

 続けてグルジオキングの放ったギガキングキャノンがバット星人の体を粉々に砕く。

 

 肉片すら残さないという風にゼットンが波状光線を放つ。

 

「戻って……いいえ、戻りなさい、ゼットン」

 

 バトルナイザーを向けて告げる雪ノ下。

 

 ゼットンはカード状の光に包まれてバトルナイザーへ収納される。

 

 雪ノ下は小さく息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の奉仕部。

 

「昨日のアレ、何だったのかなぁ?」

 

「平塚先生は何も覚えがないそうよ」

 

「まぁ、考えられるならあのバット星人の仕業だろう」

 

 奉仕部に集まっている三人。

 

 話の内容は当然のことながら昨日のバット星人の陰謀。

 

 由比ヶ浜は隣の雪ノ下へ問いかける。

 

「ゆきのん、大丈夫?」

 

「……少し、怖いけれど……大丈夫よ」

 

 震える声で雪ノ下は鞄の中にあるバトルナイザーをみた。

 

 久しぶりにバトルナイザーを解放した際に雪ノ下はほんのわずかだが、レイオニクスの闘争本能に支配されかけたという。

 

 同時に嘗ての冷酷なゼットン星人の右腕に戻っていたらしい。

 

 あの時は色々な感情の流れの末にバトルナイザーを使用することを決めたそうだが、向き合うことはまだまだ時間がかかりそうであるというのが本人談だ。

 

「さて、問題がそろそろ来るぞ」

 

 八幡がぽつりと漏らした時。

 

「先輩ィィィィィ!失礼します!」

 

 ドアを乱暴に開けて入ってきたのは一色いろは。

 

 あの後の騒動でペガと共に元の世界へ戻ってきたのだが、疲れていて話をいなしながら三人は帰宅したのである。

 

「(やはり、諦めなかったみたいだな)」

 

「さぁ、先輩!昨日はうやむやにされましたけど、そうはいきませんよ!ペガのやりとりはスマホに録画していますし!遠くですが、由比ヶ浜先輩が怪獣になったところを見ています!ですから、隠していることを話してください!」

 

「……っていっているが、どうする。二人とも?」

 

 八幡は雪ノ下や由比ヶ浜へ問いかける。

 

 ここで惚けたところで変な事に首を突っ込まれても困るので八幡は話すことを二人へ提案した。

 

 あの時の話は八幡一人が勝手に話してよいものではない。

 

「あたしは、別に大丈夫かな」

 

「……一色さん」

 

 鋭い目でみられて一色は身構える。

 

「これから話す話はウソ偽り、そういうものではないわ。他言無用してほしくない話もあるし、何かあれば私が徹底的に貴方を潰すから、その覚悟があるのなら、座ってもらえるかしら」

 

「……別に、あの時のことは些細な夢のようなものだと思って出ていくこともできるぞ」

 

 フォローするつもりで八幡は一色へいう。

 

 彼なりに一色を気遣っての言葉だった。

 

「聞きます!私、先輩達が隠していることを知りたいです」

 

 真剣な表情で一色は椅子を取って座る。

 

「話を聞くってことだな?」

 

「はい!」

 

「そう……じゃあ、教えてあげるわ」

 

「あたし達が体験した、ギャラクシークライシスを」

 

 




アンケートの結果、過去話を書くことになりました。

次回から三人のそれぞれのはじまりを書きます。

そこまで長くはならない。




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過去編:宇宙のぼっち

過去編第一弾、一回目は彼からです。


 

「(俺、死ぬのかな?)」

 

 体の全身が凍り付いていく。

 

 徐々に体温が奪われていくことが俺に死というものを明確に意識させた。

 

 何でこんなことになったのだろうか?

 

 今日は高校の入学式。

 

 少し早めに家を出たことが悪かったのかわからない。

 

 車道に飛び出した犬を助けようとしてリムジンに激突したと思った直後、空に黒い渦のようなものが現れた。

 

 事態を理解する暇もないまま、その黒い渦に俺と他の人達が吸い込まれた。

 

 途中でバラバラになった後、俺はこの闇の空間に放り出される。

 

 呼吸も出来ず、体の体温が奪われていく。

 

 この黒い世界でぼっち一人が死んだとして、誰が気付くだろうか?

 

 いいや、気付くわけがない。

 

 こんな闇の中で俺の意識など、小さすぎる。

 

 誰にも気付かれないまま死ぬのだ。

 

「(嫌だ)」

 

 死にたくない。

 

 俺がいなくなっても小町や家族以外に悲しむ奴はいない。むしろ、俺が死んだとしても覚えてくれる人などいないだろう。

 

 だが、俺は死にたくない。

 

 まだ、何もできていない。

 

 何も見つけていない。

 

 やりたいことも、

 

 好きだといえることも、

 

 何も見つけていないのに、こんなわけのわからないところで死にたくない。

 

 そうだ、俺は死にたくないんだ!

 

「ぁ……ぁああ」

 

 突如、目の前で赤い光が現れる。

 

 視界一杯に広がる赤い光はこちらにやってくるとそのまま俺を包み込んだ。

 

「(温かい)」

 

 赤い光の中に包まれて、俺は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――キミの願いは通じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブッ!」

 

 再び意識を取り戻した時、顔いっぱいに水をかけられた。

 

「ベッ、べっ!」

 

「あ、目を覚ました」

 

「一体、何が……」

 

 戸惑いながら俺が周りを見ると、白い衣服を纏った少女と目が合う。

 

「お兄ちゃん、目を覚ましたよう~!」

 

 金髪の少女は笑顔を浮かべる。

 

 近くで波の音が聞こえた。

 

 体を起こすとどうやら海岸近くの岩場の上で寝ていたらしい。

 

「って、うぉぉおおおお!?」

 

 目の前でこちらをみている巨大な生き物の姿に気付いた。

 

「な、なんだ、これ!?」

 

「ティグリスだよ?私の友達!」

 

 少女が笑顔を浮かべて手を振ると嬉しそうな鳴き声を上げてティグリスという怪獣が応える。

 

 見た目は獅子の姿をしていて恐怖しそうになったが、少女の言葉に目を細めて嬉しそうにしていた。

 

「か、怪獣!?」

 

「もしかして、お兄さん、旅人?怪獣を見るのはじめて?」

 

「そ、そんなの当たり前だろう、地球で怪獣がいたなんて、聞いたことがない」

 

「チーキュ?なにそれ?」

 

 きょとんと首をかしげる少女。

 

 その仕草で俺の頭に嫌な考えが過ぎる。

 

「ウソ、だろ」

 

 何気なしに空を見上げた俺は気づいた。

 

 太陽が二つ、宙に浮いている。

 

 これが夢とかそういうもでないというのなら。

 

「ここ、地球じゃないのか?」

 

 宙に浮かぶ二つの太陽を見ながら俺は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、じゃあ、お兄ちゃん、ここがどこだか知らないんだ?」

 

「あぁ、気付いたらここにいた」

 

 あの後、少女と一緒に海岸から移動して森の中を歩いていた。

 

 何でも彼女の住む村が近くにあるのだという。

 

 歩きながら話を聞いている。

 

「旅人さんにしては服装が身軽だからおかしいと思ったけど、じゃあ、お兄ちゃん、迷子?」

 

「うぐっ、この年で迷子とっていわれると色々とクルものがあるが、そうなるだろうな」

 

「ふぅん」

 

 抱えている荷物を背負いなおしながら少女は相槌を浮く。

 

 森に生える植物は地球に育つものと似ているが、異なるものばかりだ。

 

 空に浮かぶ二つの太陽からして、地球ではないだろう。

 

 何より、この少女が纏っている衣服。

 

 ギリシャ神話の映画とかでみるような白い衣服を着ている。

 

 確か、ヒマティオンだったか、トーガっていうものに似ていた。

 

「こっちだよ!」

 

「なぁ、さっきから歩いてばかりだが、どこへ向かっているんだ?」

 

「私の住まい!」

 

「あの怪獣は?」

 

「ティグリス?ティグリスは森が住まいなの」

 

「ふぅん」

 

 彼女の話を聞きながらたどり着いた場所。

 

 それは。

 

「円盤?」

 

 目の前にあるのは朽ちた円盤。

 

 何十年もそこに放置されてきたのだろうか?とこどころさび付いてボロボロである。

 

「ようこそ!私の住まいへ!」

 

 笑顔を浮かべる少女を前に、俺は何も言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、お兄ちゃんの名前は?」

 

「比企谷八幡だ」

 

「長い名前だね!私、イエリ」

 

「比企谷が名字で八幡が名前だ」

 

「ミョージ?それ、なに?」

 

「家族の名前みたいなものだ」

 

「カゾク?それ、なぁに?」

 

「知らないのか?お前、育ててくれた人はいないのかよ」

 

「ティグリスが教えてくれた!」

 

「ティグリスって、あのでかい怪獣か?」

 

「ティグリスはこの星の守り神!私、この容器の中にいたんだけど、ティグリスが色々と教えてくれたの」

 

 イエリが後ろにある小さなカプセルのようなものを指す。

 

「よくわからないけれど、カプセルの中にいた私をティグリスがみつけて、それから色々と教えてくれたんだ!」

 

「そうか」

 

 あの怪獣、見た目と違って、優しいということなのだろうか。

 

「ヒキガヤハチマンはどうして、ここに?」

 

「八幡でいい。俺は、そうだな……気づいたらここにいた。元々は地球という星に住む学生だ」

 

「ガクセイ?」

 

「毎日、集団で勉強をしたり団体行動という面倒なことを強いられるところだよ」

 

「楽しそう!」

 

 俺の言葉にイエリは目を輝かせる。

 

 そういえば、ティグリスに教えられたといっていたが、他に人間はいないのだろうか?

 

「なぁ、イエリ」

 

「なに?」

 

「ここにお前以外の人っていないのか?」

 

「うーん、いるよ?いるけど、戦ってばっかり」

 

「戦って?」

 

「うん、りょうどとか、そういうものをとりあっていて、戦っているの」

 

「そうか」

 

 どういう世界なのかわからないが、イエリ以外の人間と接触する時は注意した方がいいのかもしれない。

 

 争ってばかりの野蛮人みたいなのに遭遇したら俺の身が危なくなる。

 

「そろそろ、寝よう?明日も早いから」

 

 イエリは毛布みたいなものを取り出して横になる。

 

 そのまま寝るのかと思うと小さなスペースを作ってぽんぽんと叩く。

 

「?」

 

「ほら、ハチマンも寝よう?夜は冷えるよ」

 

「あ、いや、俺は」

 

「ほら!」

 

 腕を掴まれて毛布の中に押し込まれてしまう。

 

「暖かいねぇ」

 

 小さな毛布に子供と高校生になり立ての男が二人っきり。

 

 日本なら問題になる案件だ。

 

 しかし。

 

「スゥ……スゥ……」

 

 目の前で気持ちよさそうに寝ているイエリを前にしているとそんな考えがバカらしく思ってしまう。

 

 それだけ、イエリが俺に心を開いてくれているからだろうか?

 

 勘違いだと判断してそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、早朝と同時に海へ潜ることになるなんて」

 

 イエリは朝に漁をして食事を確保しておくらしい。

 

「うわぁ、カラフルな魚、食えるのか?」

 

「食べられるよ!おいしいんだから」

 

 俺の横で片手に数匹のカラフルな魚を捕まえている少女がいた。

 

 無人島でも生活できるぞ、この子。

 

 俺は岩の上に脱いでいる服を手に取った。

 

「あん?」

 

 胸ポケットから赤い何かが落ちた。

 

 手に取るとそれは赤いメガネのようなもの。

 

 不思議と太陽のようなポカポカした温かいものを感じる。

 

「これはウルトラアイ、太陽エネルギーを吸収したアイテム」

 

 驚いた顔をして、俺は周りを見た。

 

 頭の中にすらすらあと浮かんできた言葉に戸惑う。

 

 何で、俺はこれを知っているのだろうか?

 

 はじめてみた筈のものなのに。

 

「ハチマン~?どうしたの?」

 

「あぁ、いや、何でもない」

 

 上着の胸ポケットへアイテムを仕舞う。

 

「何かあったの?」

 

「いいや、何もない」

 

 浮かび上がった不安を消し飛ばすようにしながら俺はイエリの傍へ戻っていく。

 

 こうした生活が数日、続けていると人間というのは慣れてしまうらしい。

 

 イエリと一緒の毛布の中に入ることすら当たり前になっていた。

 

 小町以外の異性とここまで触れ合う事がなかったから戸惑いもあったのだが、いつの間にか慣れていく。

 

 慣れって怖いなぁと心から思う。

 

 今日くらいは変な夢をみずに眠りたい。

 

 そう考えながら俺は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、夢を見ていた。

 

 夢の中で俺は別人になっていて、昆虫の姿をした怪物や獣のような怪獣と戦っている。

 

 ただ、ただ、流れるのは戦いの記録。

 

 しかも、自分ではない別の人間からの視点からのものである為にまるでTVドラマをみているような気分だ。

 

 しかも、結末は決まって同じ。

 

 満身創痍の状態で赤い双頭の怪獣と戦って勝利する。

 

 そこで俺の夢は終わるのだ。

 

 一体、俺はどうしたというのだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 広い宇宙。

 

 人類が住む地球以外にも多くの星系が存在し、未だ遭遇したことのない多くの知的生命体が存在する。

 

 中に友好的な存在もいるだろう、しかし、高度な科学力で他の惑星を支配しようともくろむ者達、いわゆる“侵略者”がいた。

 

「文明レベルは……フン、とても低いな」

 

 ある一隻の宇宙船が青い惑星へ近づいていた。

 

 船の中で宇宙人はその星の文明レベルを調べて、表示された結果は彼らの文明よりもとても低いことがわかる。

 

 自分達よりも劣る文明レベルであることに宇宙人は見下した笑いを漏らす。

 

「まぁ、ここならレベル上げにもってこいだろうな」

 

 不敵な笑いを漏らしながら宇宙人の視線は机に置かれた一つのアイテムへ向けられる。

 

 青と白の長方形のアイテム。

 

 これから起こることを想像しながら宇宙人は笑みを浮かべながら目の前に広がる星を見下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん?」

 

 いつものように海岸で漁を手伝っていた俺は奇妙な気配のようなものを感じて周りを見る。

 

「ハチマン、どうしたの?」

 

「あぁ、何でもねぇよ、多分っぅ!」

 

 頭痛がして額を抑える。

 

 何だ?

 

「大丈夫!?」

 

 イエリが慌てた様子でこちらへやってくる。

 

「気分が悪いなら帰る?」

 

「そうだな、どちらにしても、漁は終わったし、帰る方向で」

 

「お?こんなところに人がいるぞ?」

 

 森の方から武装した集団が現れる。

 

 映画とかでみるような甲冑姿で腰に剣をぶら下げていた。

 

「あ、ガキかよ」

 

「よくみろよ。まだ幼いが育ちゃ、良い線いくんじゃねぇか」

 

 あぁ、これはよくないパターンだ。

 

 武装した連中は邪な目でイエリをみている。

 

 イエリは見た目の年齢(多分だが、十歳未満?)でも美少女に分類されるだろう。

 

 この連中がどういう考えを持っているかわからないが、少なくとも良くない事が起こりそうなことは嫌でも分かる。

 

「イエリ、すぐに」

 

「お前は邪魔だな、死ね」

 

 え、躊躇いとかなし?

 

 腰の剣を抜いて近付いてくる男達。

 

 逃げようにも足が震えて動かない。

 

「ハチマン!」

 

 イエリの悲鳴が後ろから聞こえる。

 

 男が下劣な笑みを浮かべながら剣を振り下ろしてきた。

 

 あれ?

 

 目の前でゆっくりと振り下ろされる剣、死ぬ間際は何もかもスローモーションになると聞いたことがあるけれども、ここまで遅いものなのか?

 

 躱すことができるぞ。

 

 ひょいと横に避けるけれども、まだスローモーションが続いていた。

 

 これ、殴ったら効くんじゃない?

 

 そう考えた俺は拳を作って殴る。

 

 喧嘩などしたことがないからへなちょこパンチだが。

 

「へ?」

 

 繰り出した拳を受けた男が数メートルほど吹き飛んだ。

 

 文字通り、吹き飛んだのだ。

 

「は?」

 

 間抜けな声を漏らしたのは俺だけではなかったようだ。

 

 吹き飛んだ仲間もぽかんとした表情で後ろを見ている。

 

「ぐ、ふぅ」

 

 殴られた男の兜はどこかに吹き飛び、鼻からドバドバとおびただしい量の血が流れていた。鼻、折れていませんよね?

 

 拳を突き出した状態で呆然としていた俺の前で他の仲間達は恐れをなしたのか、倒れている仲間を連れて森の中へ消えていく。

 

「えっとぉ」

 

「ハチマン!大丈夫!?」

 

 呆然としていた俺の腰にイエリが抱き着いてくる。

 

 衝撃で倒れた俺の上にのしかかるようにしてイエリが頬や鼻をぺたぺたと触ってきた。

 

「おい、大丈夫だって、てか、重たい、離れろって」

 

「心配した!ハチマンが死ぬんじゃないかって!」

 

「いや、俺も死ぬかなぁって思ったんだが……どうなっているんだ?」

 

 驚きながら自分の手に触れる。

 

 見た目は何ら変わらない、普通の手だった。

 

「おい、いつまで泣いているんだ?」

 

 服の上で泣きじゃくるイエリへ問いかける。

 

 俺の服、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってんだけど。

 

「だって、だって、ハチマンが死んじゃったら、死んだら……」

 

「死にたくねぇよ、俺だってやりたいことがあるからな」

 

「本当?」

 

 涙で目を腫らしているイエリの頭を俺は撫でる。

 

 小町にしていたように優しく撫で続けた。

 

 泣きじゃくっていたイエリだが、落ち着いたのか俺から離れる。

 

「帰るか」

 

「うん」

 

 歩き出そうとした俺の手をイエリは掴む。

 

 とても小さな手、まだ、さっきのショックが抜けていないようだ。

 

 小町にしていたように俺はイエリを抱きかかえる。

 

 最初は驚いていたがいつものように無邪気な笑顔のイエリをみて、俺は安堵の表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、何なんだよう!これはぁ!」

 

 その日の夜。

 

 森の中で八幡達を襲撃した鎧の集団達は逃げていた。

 

 彼らは戦場から逃げ出した脱走兵で、山賊として活動しようと拠点を探して、ここまで訪れたのである。

 

 八幡のパンチを受けて一人がダウンしたことで逃げてしまった彼らは森の中で復讐の機会を狙うため、打ち合わせをしていた。

 

 そんな彼らを信じられないものが襲い掛かる。

 

「ぎゃあああああああ」

 

 後ろから聞こえる悲鳴に男達は恐怖する。

 

 振り返れば、闇夜から伸びる赤い舌のようなものが最後尾にいた仲間を包み込む。

 

 ベキバキバキィ。

 

 最後尾の仲間の骨という骨の砕ける音が木霊する。

 

「ひいぃぃぃぃ、何だよ、なんなんだよ!」

 

「知るか!走れ!」

 

 そう言っている間に伸びてくる舌が次々と仲間達を捕食していく。

 

「くそう!くそう!くそぉぉぉおおおおお!」

 

 やがて最後の一人が長い舌に包まれる。

 

 涙、鼻水を垂らしながら腰の剣を舌へ振るうも音を立てて折れる。

 

 悔し涙を流しながら男は全身の骨を砕かれ、そして舌の先、涎を垂らしている怪獣の口の中へ放り込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、これ、なんだろうな」

 

 岩場で俺は胸ポケットの中から例のアイテムを取り出す。

 

 本来なら冷たいもののはずなのに、まるで太陽へ手を向けたような温もりを感じる。

 

「これ、本当に何なんだろうなぁ」

 

 疑問が浮かぶけれども答えるものはいない。

 

 いや、想像はできるのだ。

 

 けれども、確証がない。

 

「はぁ、どうするか」

 

「ハチマーン!」

 

 聞こえた声に顔を上げる。

 

 海水から顔を出して元気に手を振って来るイエリ。

 

 手にはカラフルな魚が二匹だ。

 

「あれ、今日は少ないな」

 

「結構、もぐってみたんだけど……なんか、少なかったんだよねぇ」

 

「少ない?」

 

「うん、大きな魚でもきたのかなぁ」

 

 首をかしげるイエリ。

 

 俺はそろそろ気になっていたことを告げる。

 

「おい、そろそろ服を着なさい」

 

「なんで?」

 不思議そうに首をかしげるイエリ。

 

 さっきから黙っていたんだが、お前、裸なんだよ?男の前で裸をさらしているってこと理解している?俺は気にしないけれど、人によってはビーストへトランスフォームする危険性だってあるんだからね?

 

 ため息を零しながら用意しているタオルみたいな布でイエリの頭を拭く。

 

 嬉しそうにきゃーきゃー騒いでいるイエリを着替えさせる。

 

「うん!?」

 

 その時、視界の片隅で変なものを見た気がした。

 

 慌てて、海面をみる。

 

「気のせいか?」

 

 海水の表面にでっかい目玉のようなものがあったような?

 

 疑問を浮かべながらイエリを着替えさせる。

 

 最初は苦戦していた白い布なども慣れれば造作もないことだった。

 

 イエリを着替えさせた俺は家?へ戻ろうとする。

 

 嫌な予感が体中を駆け巡る。

 

 ゾクゾクと体が震えた。

 

「ハチマン、どうしたの?」

 

「いや、何でも……走るぞ、イエリ!」

 

 俺はイエリを抱えて走り出す。

 

 少し遅れて、俺達のいた場所を赤い舌のようなものが通り過ぎた。

 

 標的を失った赤い舌は少し離れたところにあった木を引っこ抜く。

 

「きゃああ!」

 

 悲鳴を上げるイエリを抱えながら俺は振り返る。

 

 海水から音を立てて現れるのは青色?の体皮をした怪獣だ。

 

 頭部と口らしき部分の先端に角を生やしている。

 

 怪獣は舌で捉えた木を投げ捨てるとこちらをみた。

 

 ボタボタと口の端から大量の涎が零れていく。

 

 うへぇ、気持ち悪い。

 

 俺の気持ちが伝わったのか怪獣は唸り声を上げながらこちらへ迫って来る。

 

「逃げるぞ!イエリ!」

 

「う、うん」

 

 イエリを抱えながら俺は走り出す。

 

 怪獣はボタボタと涎を垂らして追いかけてくる。

 

 逃げようとするが相手は数十メートルのある怪獣。

 

 どれだけ走っても距離が縮まっている気がしない。

 

 怒りに染まった怪獣が長い舌を地面へ叩きつけた。

 

「うぉっ!?」

 

 衝撃で俺とイエリは宙を舞う。

 

「あぁ、くそぉ!」

 

 悲鳴を上げるイエリを守るようにしながら傍にある瓦礫を踏み台にして跳ぶ。

 

 不思議と体が軽い。

 

 まるで超人になったみたいに体が軽くて、やろうと思っていることができてしまう。

 

 俺は一体、どうしたというのだろうか?

 

 無事に地面へ降り立った俺はイエリを抱えて逃走をしようとするも、怪獣が手を伸ばしてくる。

 

「くそっ!」

 

 イエリだけでも守ろうとした時、地面が揺れる。

 

 雄叫びを上げながら森林の中からティグリスが姿を見せた。

 

「ティグリス!」

 

 ティグリスの姿を見てイエリが喜びの声を上げる。

 

 怪獣は現れたティグリスに驚きながらも長い舌を伸ばそうとしてきた。

 

 ティグリスは前足で舌を地面へ叩きつける。

 

 悲鳴を漏らす怪獣の隙をついて、ティグリスが体当たりをした。

 

 体当たりを受けて海面へ倒れる怪獣。

 

 ティグリスは雄叫びをあげて怪獣を睨む。

 

「へぇ、やるじゃん、あの怪獣」

 

 俺とイエリがティグリスと怪獣の戦いを見ていた後ろから声が聞こえた。

 

 振り返ると宇宙人がいた。

 

「何だ、お前」

 

「俺はゴドラ星人のレイオニクスだ」

 

「ゴドラ星人?レイオニクス?」

 

 向こうの告げた言葉に困惑する俺の前でゴドラ星人は怪獣とティグリスの戦いを見ていた。

 

「この星の文明レベルは低いと思っていたのだが、まさか、あそこまで強い怪獣を発見できるとは思わなかった。これは良い収穫とレベルあげになりそうだ」

 

 ゴドラ星人と名乗る存在の目的はわからないが、気になる言葉があった。

 

「レベルあげ?」

 

「その通り、俺達レイオニクスは戦えば戦うほど強くなる。怪獣のスペックというのもあるが、成長すればするほど、より強い怪獣になる……あの怪獣は強そうだなぁ」

 

 興味深そうにティグリスを見上げるゴドラ星人。

 

 イエリは怯えた様子で俺の服にしがみついている。

 

 その間に怪獣とティグリスの戦いに進展があった。

 

 ティグリスの角が怪獣によってへし折られてしまう。

 

 悲鳴を上げるティグリスへ攻撃の手を緩めない怪獣。

 

「フン、見込みがあると思ったが俺のコスモリキッドの敵ではないらしい。さて、お前達はコスモリキッドの餌にでもなってもらおうか」

 

 ゴドラ星人が右腕をこちらへ向けた。

 

 

――避けろ!

 

 

 頭の中に響いた声。

 

 俺は咄嗟に横へずれる。

 

 一発目の光弾は回避したが二つ目が地面へ着弾して、イエリと一緒に後ろへ倒れた。

 

 その際に胸ポケットに入れていたウルトラアイが地面へ落ちた。

 

「フン……ん!?」

 

 右腕の銃口を向けながらこちらをみていたゴドラ星人は俺が落としたウルトラアイをみて、驚きの声を漏らす。

 

「そのアイテム、まさか、お前は!?」

 

 信じられない表情でこちらをみてくるゴドラ星人。

 

 ウルトラアイのことを知っている?

 

「何故、貴様がこんなところにいるのかは知らん、だが、我々の邪魔になることは明白だ。ここで貴様を排除させてもらう!」

 

「ハチマン!」

 

 倒れている俺を守ろうとイエリが前へ出た。

 

「イエリ!寄せ!」

 

「愚かな小娘だ」

 

 ゴドラ星人が腕の光弾を撃とうとした時、背後から眩い光が降り注ぐ。

 

「ぐはぁ!?」

 

 背後から蹴りを受けて地面へ倒れるゴドラ星人。

 

「な、なんだぁ!?」

 

「ゴドラ星人、俺が相手だ」

 

 起き上がったゴドラ星人が振り返ると、人が立っていた。

 

 金髪で特殊な繊維で出来たスーツを纏った人。

 

 背中に【ASUKA】と記されている。

 

 ゴドラ星人が腕の光弾を放つも回避して、近距離の拳のぶつけあい、拳を払いのけて、蹴りをいれた。

 

 がら空きになった胴体へとどめを刺すようにハイキックを繰り出す。

 

 攻撃を受けたゴドラ星人は地面を転がりながら森の中へ逃げる。

 

「みたか!俺の超ファインプレー!」

 

 ビシッとポーズをとる男性に俺は呆然とするしかない。

 

「ハチマン!大丈夫!?」

 

「バカ!」

 

 気付けば俺はイエリに叫んでいた。

 

「お前、一歩間違えたら死んでいたんだぞ!?」

 

「ひう!」

 

「頼むから、あんな無謀なことはもうしないでくれ」

 

 自分の無力感を覚えながら泣きそうになるイエリの頭を撫でる。

 

 最低だ。

 

 命を張って守ろうとしてくれたイエリを俺は叱った。

 

 大事な命を無駄にしないでくれと叫ぶことで守られたという事実を有耶無耶にしようとしている。

 

「ごめん、なさい」

 

「助けようとしてくれて、ありがとうな……」

 

「いやぁ、良い場面だなぁ」

 

「あの……貴方は?」

 

 この人がこなければ、イエリは最悪、命を落としていたかもしれない。

 

 見たところ、人間のようだが?

 

「俺はアスカ・シン、地球人じゃあ、ウルトラマンダイナっていう方がいいかな?」

 

「地球人だけど、ウルトラマンダイナって、知らない」

 

「え、そうなの!?」

 

 ドンと地震が起こる。

 

 倒れそうになる俺達だが、視線を向けるとティグリスが怪獣コスモリキッドによって地面へ投げ飛ばされていた。

 

「まずはあっちを何とかした方がよさそうだな!本当の戦いはこれからだぜ!」

 

 アスカという人は懐から顔を模した奇妙なアイテムを取り出すと空へ掲げる。

 

「ダイナァァ!」

 

 眩い光がアスカを包み込み、大地に光の巨人が降り立つ。

 

 赤、青、銀の三色、胸部に青く輝いているクリスタルのようなものがあるけれども、俺が夢でみた巨人の姿とどことなく雰囲気が似ていた。

 

 あれが、ウルトラマンダイナなのだろう。

 

 ウルトラマンダイナはティグリスへとどめを刺そうとしていたコスモリキッドへハイキックを放つ。

 

 コスモリキッドは唸りながら長い尾をダイナへ伸ばす。

 

 ダイナは長い尾を払いのけながらパンチを放った。

 

 パンチを受けたコスモリキッドは悲鳴を上げる。

 

 ウルトラマンダイナが優位だったが、背後から光弾がダイナを襲う。

 

「このままでは終わらんぞ!」

 

 巨大化したゴドラ星人が腕の光弾をウルトラマンダイナに放ったのか。

 

 二対一になりながらもダイナは戦う。

 

「イエリ、ここにいるんだ」

 

「え、ハチマンは?」

 

「……行ってくる」

 

「ハチマン!」

 

 イエリが後ろで叫ぶ中で俺は拾っておいたウルトラアイを取り出す。

 

 あの夢と関係があるのかわからない。

 

 だが、このままみているだけでいられない。

 

 自分の中の何かが訴えてくる。

 

 

――戦えと。

 

 

 ウルトラアイを構えて装着する。

 

 眩い閃光と全身を包み込む膨大なエネルギー。

 

 全身を切り裂かれるような痛みを感じながら体が巨大化していく。

 

 比企谷八幡だった存在が形を変えていく。

 

 赤く、肩と胸部に銀色のプロテクター、銀の兜のような顔、そして頭頂に装着されているアイスラッガーというアイテム。

 

 額の緑色に輝くビームランプ。

 

 俺はウルトラマンダイナと同じくらいの巨人に変身していた。

 

「ウルトラセブン!」

 

 ゴドラ星人が俺を見て驚きの声を上げる。

 

 俺は自分の体を見る。

 

 四十メートルくらいはある体、一歩踏み出すだけで大地が揺れていると錯覚しそうになった。

 

 ぺたぺたと自分の体や腕に触れる。

 

 超人。

 

 夢の中でみていた存在に俺は変身していた。

 

 ゴドラ星人がこちらへ光弾を放つ体制になっていることに気付いて、俺は駆け出す。

 

 よくよく考えれば、こいつはイエリを殺そうとしていた。

 

 その事実を思い出した俺は怒りを感じながら赤く染まった拳を振るう。

 

 拳はゴドラ星人へ直撃して相手はのけ反る。

 

 戦い方がわからない俺だが、ゴドラ星人の武器は腕についている武器。

 

 それを使わせないように近距離で戦えばいい。

 

 喧嘩なんてしたことのない俺だが、そういう知恵くらいはまわる。

 

「グッ!」

 

 ゴドラ星人ばかりに意識を向けたことが原因だろう、背後から伸びてきたコスモリキッドの舌に気付かなかった。

 

 首に巻き付いた舌はものすごい力で締め付けてくる。

 

 ゴドラ星人から距離が開いたことで、光弾を撃たれてしまう。

 

「ぐぅ、ハァ!」

 

 体を襲う痛み。

 

 痛みに膝をついたところで背後のコスモリキッドが顔を近づけてくる。

 

 食われる!

 

 恐怖にかられた俺は頭部についていた武器、アイスラッガーを手に取った。

 

 アイスラッガーをそのままコスモリキッドの首へ突き立てる。

 

 悲鳴を上げるコスモリキッドを前にそのまま深くアイスラッガーを刺す。

 

 首を絞めつける力から解放されたことで呼吸を整えようとしたが背後からゴドラ星人が次々と光弾を撃ってくる。

 

「俺を忘れるんじゃねぇ!」

 

 ゴドラ星人にウルトラマンダイナがタックルを仕掛ける。

 

 ウルトラマンダイナがゴドラ星人の相手をしているので俺は後ろを見た。

 

 首からどくどくと緑色の液体を垂れ流しながらこちらをみてくるコスモリキッド。

 

 血走った瞳がこちらをみている。

 

 気付けば、俺は両腕をL字に構えていた。

 

 夢の通りならワイドショットという技が撃てるはず。

 

 俺の思った通り、腕から光線が発射される。

 

「っ!」

 

 衝撃と威力に後ろへ倒れてしまうが光線はコスモリキッドへ直撃した。

 

 コスモリキッドは大爆発を起こした。

 

 べちゃべちゃと海へ落ちていくコスモリキッドだった肉片。

 

「なぁ!俺のコスモリキッドが!」

 

 驚きを隠せない声を上げるゴドラ星人。

 

 ゴドラ星人は拳を握り締めながら姿を消した。

 

 敵がいなくなったことで緊張の糸が切れた俺はそのまま倒れる。

 

 ウルトラセブンの姿から比企谷八幡の姿へ戻り、死んだように眠りについた。

 

 




小さなネタバレ。

ゴールド星人 イエリ(I-erI)
ある惑星で八幡が出会った少女。
本人は自覚がないが、別の星系の宇宙人であり、不時着した宇宙船の冷凍カプセルの中で眠りについていた。
自身が別の星系の宇宙人だと知らず、そこに住むティグリスに色々と教えてもらいながら生活している。
八幡と出会って彼のことを家族と思うようになった。
外見の見た目は十歳程度だが、実年齢は驚くことに100歳である。




ゴドラ星人
ウルトラセブンで登場した宇宙人と同種族。
レイオニクスでレベル上げの為、八幡のいる惑星へやって来た。
所持しているバトルナイザーにはコスモリキッドがいる。
些細な裏設定ですが、マックス号の生き残り、そのため、ウルトラセブンのアイテムのことを知っていた。
後にウルトラマンダイナによって倒される。

コスモリキッド
ウルトラマンタロウに登場した怪獣と同種族。
かなりの暴食で、初登場した際にに人間を三人ほど長い舌で捕まえて食べている。


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過去編:戦士の頂に選ばれた少女

なんとか、今日に更新できた。

今日のウルトラマンタイガ、色々とネタ満載で笑ってしまいました。

BGMも良いし、マンダリン草がらみの自販機もみれて、幸せですなぁ。

今回は戦士の頂に選ばれた少女の話。

話はボイスドラマを参考にしています。


「おーい、ユイ、そろそろ休憩しよう」

 

「は、はい!」

 

 重たい荷物を倉庫へ入れながらあたしは外に出る。

 

 倉庫を出て、店内へ戻るとファントン星人、ミシュラさんが手を振っていた。

 

「いつも思うけれど、ミシュラさん、どれだけ食べるの?」

 

「うん?これくらいファントン星人では普通だ。わしよりもっと食べる奴だっているぞ」

 

 目の前に広がる様々な料理。

 

 このあたりの果実や他の星の食べ物など様々で、見た目はとにかくアウトだけれど、食べられないわけじゃない。

 

 最初は拒絶しちゃったけれど、今はなんとか食べられるようになっていた。

 

 あたしがここ―惑星O-50へ訪れて一カ月が過ぎようとしている。

 

「サブレもほら、食べて」

 

 愛犬のサブレと一緒に散歩をしていて、あたしのミスでサブレが車道へ出てしまった際に起こったわーむほーる?という現象であたしはこの惑星へ飛ばされた。

 

 右も左もわからず、ならず者達に襲われそうになったところをファントン星人 ミシュラさんに助けてもらった。

 

 それから、色々なことをミシュラさんに教えてもらっている。

 

 宇宙共通言語も、今は普通に話せる。

 

 今、あたしはファントン星人 ミシュラさんが経営しているジャンク屋で働いていた。

 

 ジャンク屋というのがよくわからないけれど、この星へ訪れた宇宙人たちからするとそこそこの知名度はあるらしい。

 

「そーいえば、あたし、何でこの星に色々な宇宙人が来るのか知らないや」

 

 食事を終えて睡眠に入っているミシュラさんの姿を見ながらあたしはふと、呟いた。

 

 この惑星、O-50というらしいけれど、そこにある唯一の村は必ずと言っていいほど、宇宙人がやって来る。

 

 どうしてくるのか、そういった理由をあたしは知らない。

 

「サブレ……って、寝ているし」

 

 あたしと同じようにやってきた愛犬のサブレは幸せそうにミシュラさんの膝の上で寝ている。

 

 飼い主のあたし以上にミシュラさんに懐いているんじゃないかな。

 

 そんなことを思いながらあたしは食器を片付けることを始めた。

 

 料理は、その、できないけれど、それ以外のことは不器用ながらになんとかできるようになったし。

 

 閉店と宇宙共通言語で書かれている看板を裏返して空を見る。

 

 薄暗い夜空なのに、どこか幻想的な輝きに見えるのはここが地球じゃないと思うからなのかな?

 

 そんなことを思いながらジャンク屋の中へ戻る。

 

 けれど、あたしは知らなかった。

 

 運命の日がすぐそこに近づいていることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か、街が騒がしいね」

 

 あたしはいつものように店の前にジャンクパーツを並べていた。

 

 大きな機械で、ミシュラさんの話によると宇宙船の心臓部に当たるパーツらしい。

 

 宇宙船なんてまだみたことないからわからないけれど、宇宙人によって技術が異なるんだって。

 

「すまない」

 

 機材を置いていたところで、声をかけられる。

 

「うわっ!」

 

 驚きの声をあたしはあげてしまう。

 

 そこにいたのは二メートルくらいの長身の大男だった。

 

「すまない、驚かせただろうか?」

 

「あ、ごめんなさい、えっと、何か買い物?」

 

「戦士の頂を探しているんだが、知らないだろうか」

 

「戦士の頂?知らないなぁ」

 

「そうか。手を止めさせて申し訳ない」

 

「いえいえ!大丈夫ですから!」

 

 大男は手を振ると去っていった。

 

 あたしは残りの作業を行うことにする。

 

 これを終わらせないと休めないんだから。

 

「失礼」

 

 振り返ると宇宙人の少年が立っていた。

 

 見た目はあたしより下くらいだろうけれど、気をつけないといけない。宇宙では外見は判断材料にならない。見た目が子供に見えてあたしより年上なんてごまんといるらしい。

 

「何でしょうか?ジャンクパーツを探しですか?」

 

「いえ、そんなガラクタに興味はありません。失礼ですが、戦士の頂がある山はどちらでしょうか?」

 

「戦士の頂?さっきも聞いたなぁ」

 

 名前に首をかしげる。

 

「知りませんか?」

 

「うーん、知らないかも、あ、でも」

 

 あたしはある方向を指す。

 

「この村へ来た人達は大体、あっちへ行くよ」

 

 ジャンク屋の手伝いをはじめて少し過ぎるけれど、この星へやってきた人たちは何故か、ある方向をいつも目指す。

 

 ここにいる人もあっちの方へ行くのだろう。

 

「あぁ、あちらですか、ありがとうございます」

 

「ねぇ、戦士の頂?そこを目指してどうするの?」

 

 あたしの質問に青年の宇宙人は笑みを浮かべる。

 

 人を小馬鹿にしたような笑みで好きじゃないなぁ。

 

「決まっています。人を導く光になるんですよ」

 

「光?」

 

「えぇ、それでは時間が惜しいので」

 

 そういって、青年の宇宙人は去っていった。

 

 残されたあたしはジャンクパーツの片づけを終えて店内へ戻る。

 

「何だ?いつもより時間が掛かっていたみたいだが?」

 

 店内でくつろいでいたミシュラさんにあたしはさっきのことを話した。

 

「はぁ、また、戦士の頂へ挑戦する者がでてきたのか」

 

「そういえば、さっきの子も話していたけれど、戦士の頂ってなんなの?」

 

「あぁ、まだ話していなかったかな?」

 

「うん」

 

 サブレといちゃついているミシュラさんにあたしは頷いた。

 

 近くの椅子へ腰かけたあたしはミシュラさんの話に耳を傾ける。

 

 この惑星 O-50に切り立った崖の上に青白く燃え上がる光の輪がある。そこを戦士の頂といい、たどり着き、輪に選ばれた者に強大な力を与えてくれるらしい。

 

「強大な力?さっきの人は光といっていたけれど?」

 

「どうだろうな、戦士の頂へたどり着いた者はいるそうだが、輪に選ばれた者は未だにいないと聞いている。眉唾という話もあるからなぁ」

 

「ふーん」

 

「そもそも、ここは戦士の頂に挑戦して失敗した者達が集まってできた村という話らしいぞ」

 

「そうなの?じゃあ、ミシュラさんも?」

 

「いいや、わしは各地を旅して落ち着ける場所を探していただけだ」

 

「落ち着ける場所がここってこと?」

 

「どうだろうな、もしかしたら資金集めでここにいるのかもしれん」

 

「そっかぁ」

 

 落ち着ける場所、ミシュラさんは目的があって行動をしているってことだよねぇ。

 

 じゃあ、あたしは?

 

 あたしはどうしたいのだろう。

 

 元の場所へ戻りたい。

 

 それだけの為にここでお金を稼ぐ?

 

 何も定まっていないあたしが少しだけ嫌になった。

 

「ここ、宇宙なんだよね」

 

 その日の夜、あたしは部屋の外からみえる空を眺めていた。

 

 宇宙飛行士が地球を出ていくけれど、行ける距離に限りがあるって聞く。

 

 あたしみたいに地球から遠く離れた場所へやってきたのは一人だけだろう。

 

「そーいえば、あの場にいた人達はどうなったのかな?」

 

 わーむほーるに飲み込まれる瞬間、一緒にいた人達はどうなったのだろうか?

 

 サブレを助けようとしてくれた男の子、リムジンに乗っていた女の子。

 

 二人はどうなったのだろう?

 

 そんなことを考えながらあたしは横になる。

 

 明日も一応、慣れてきた日常が続くはず。

 

 あたしはそう考えていた。

 

 間違いだとすぐに思い知ることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 O-50の村は突如、襲撃を受けた。

 

 村を蹂躙するのは人の形をしたロボット。

 

 人たちは悲鳴を上げながら逃げ惑う。

 

「ミシュラさん!」

 

「ユイ!すぐに逃げるんだ!」

 

「何なの、あれ!」

 

「星間連盟の兵器だ!連中、ここを破壊するつもりだ」

 

 星間連盟?

 

 破壊?

 

 どういうこと!?

 

 戸惑いながらもあたしは逃げるしかない。

 

 サブレはミシュラさんが抱えて逃げてくれていた。

 

 村の近くにいると人型兵器に踏みつぶされてしまう危険があるから、あたしは山の方へ逃げることにする。

 

「ぎゃぁあああ!」

 

 近くの岩場で一息ついたところで悲鳴が聞こえてびくぅと体が震えた。

 

 おそるおそる岩場の角から顔を出す。

 

 近未来的なデザインの銃らしきものを構えた集団が逃げる人たちを次々と撃っていく。

 

 あたしは恐ろしくて一歩も動けない。

 

 勇敢な人なら飛び出して一人でも助けようとするだろう。

 

 その勇気があたしにはない。

 

 死ぬかもしれないという恐怖に一歩も動けなかった。

 

 集団が去ったことを確認して由比ヶ浜はゆっくりと岩から出ようとする。

 

「むぐ!」

 

 後ろから伸びてきた手によって再び岩陰へ戻されてしまう。

 

「静かに……連中は離れたがまだ索敵の範囲内だ。動けばすぐにバレてしまう」

 

 冷静な声で言われてあたしは頷く。

 

 しばらくして、手が離れて振り返る。

 

「貴方……」

 

 後ろにいたのは以前、道を聞いてきた人だ。

 

 戦士の頂へ挑戦しようとしていたことを考えると実力はあるはず。

 

「お願い!村の人を助けて!」

 

「そうしたいのは山々なのだが、いかんせん、星間連盟の人型兵器の数が多すぎる」

 

「人型兵器?」

 

「あれは人の形をしているがその本質はロボットだ。ただインプットされた指示を行う為に作られた兵器」

 

「全然、そんな風にみえない」

 

「それだけ連中の技術が上ということだ」

 

 しばらくして、もう大丈夫だと言われてあたしは岩陰から出る。

 

 人型兵器が出てこないことを確認して振り返った。

 

 手が四本、足が四本という姿で見た目がおそろしいと思ったけれど、さっきの会話のやりとりから、不思議と恐怖心のようなものはない。

 

「キミは」

 

 向こうもあたしのことを覚えていたのか目を見開いている。

 

「えっと、村で会いましたよね?」

 

「あぁ、覚えている。私はジークルトだ」

 

「由比ヶ浜結衣です。えっと、由比ヶ浜が苗字で名前は結衣です」

 

「キミはテラ人だな」

 

「テラ?」

 

「キミ達の星の言葉でいうなら、地球人だったかな?」

 

「地球のこと知っているんですか!?」

 

「昔、とても昔だが、地球へ行ったことがある」

 

 あたしは驚いた。

 

 地球のことを知っている人がいるなんて。

 

「このあたりに人型兵器が来るかもしれない、上の方へ行こう」

 

「あ、はい」

 

 あたしが頷いたことを確認してジークルトさんと一緒に山頂に向かう。

 

 山頂は険しいから人型兵器も上がって来ることが難しいというのはジークルトさんの言葉だ。

 

 ジークルトさんは地球から何万光年も離れた星の出身(星の名前は宇宙共通言語でも訳すことが難しいらしいからわからない)で戦士の頂へ挑戦するために惑星 O-50へやってきたのだという。

 

「どうして、戦士の頂へ?」

 

「光の力を求めて……ユイ、キミはどうして、この星へ?私の記憶が確かならテラはこの星まで航行する技術を有していない筈だ」

 

「えっと、実は」

 

 あたしはジークルトさんにファントン星人 ミシュラさんに話したようなことを伝える。

 

「ワームホールか、それは災難だったな」

 

「うん、でも、ミシュラさんとか、村の人達のおかげで生活できているから」

 

「キミは強いな」

 

「え、そんなことないよ、あたし、逃げるだけで精いっぱいだったし」

 

 さっきのことを思い出して体が震えそうになって腕で抱きしめる。

 

「……どうして、こんなことになったのだろう」

 

 ぽつりとあたしは呟く。

 

 わーむほーるに巻き込まれて、村で静かに暮らしていたのに、星間連盟とかいう訳の分からない人たちに襲われるなんて。

 

「理不尽な事というのは広い宇宙で当たり前のことだ。どれだけ足掻いても手に入らない者もあれば、絶望感というのは当たり前のようにやって来る。だから、私は光を求めている」

 

「光って……何なのかな?」

 

「キミは知らないのか?」

 

 ジークルトさんの言葉にあたしは頷いた。

 

「では、キミはウルトラマンのことも知らないのか?」

 

「ウルトラマン?」

 

 何だろうか?

 

 あたしの言葉にジークルトさんは苦笑しながら話してくれる。

 

 ウルトラマンとは、ここより遠い場所M78星雲にある光の国に存在する超人のことを言うらしい。

 

 彼らは宇宙警備隊という組織で平和の為に自らの超人的な力を使っている。

 

「そして、戦士の頂に認められた者は強大な光の力を手にすることができるという言い伝えだ」

 

「言い伝え?」

 

「戦士の頂が発見されて長い時間、光を手にした者がいないからな」

 

「そうなんだ」

 

 あたしが驚いているとジークルドさんの長い腕が伸びてきて地面へ伏せさせる。

 

「な、なに!?」

 

「追手だ!」

 

 赤い瞳で後ろを睨むジークルドさん。

 

 ぞろぞろと人型兵器が武器を構えてやってくる。

 

「このままだと」

 

 ちらりとジークルドさんは山頂を見る。

 

「ユイ」

 

「な、なに?」

 

「すまん」

 

「え、きゃあああああああああああああああああああ!?」

 

 ジークルドさんによってあたしは思いっきり空に向かって投げ飛ばされる。

 

 突然の事態に混乱しながらもあたしはスカートだけは抑えた。

 

 女の子だもん、これくらい当たり前でしょ!?

 

 悲鳴を上げて、あたしは暗雲を一時的に突き抜けると、そのまま重力引かれて、落ちていく。

 

「い、いったい」

 

 何とか着地は成功しました。

 

 けれど、足や腕とか滅茶苦茶痛いぃ。

 

 服についた土や汚れなどを払い落としてまわりをみる。

 

 薄暗い空の下、宙に輝く丸いわっか。

 

 輪は炎のように白い輝きをゆらゆらと放っている。

 

「何だろう?あれ?」

 

 魅入られる様にあたしは光の輪へ手を伸ばす。

 

 手を伸ばした時、輪が強い輝きを放つ。

 

 驚いて下がるあたしの前で輪の中心から光り輝く何かが形成される。

 

 光で作られたアイテムがあたしの手の中に握られた。

 

「えっと、どういうこと?」

 

 突然の事態に困惑しているあたしの前で光の輪がまた輝く。

 

 輪から小さな光があたしの手の中に入る。

 

 握った手を開くと複数の丸いメダルのようなものがあった。

 

「そうだ、ジークルドさんは」

 

「動かないでもらいましょうか」

 

 いつの間にか後ろに一人の青年の姿をした宇宙人が立っていた。

 

「おや、村の生き残りですか」

 

「貴方、戦士の頂へ挑戦しようとしていた」

 

 あたしの言葉に男の子の顔が歪んだ。

 

 浮かび上がる感情は怒り。

 

 手の中にある光線銃をあたしの足元へ向ける。

 

「何するの!?」

 

「うるさい!拒絶するものなどいらない!邪魔する奴も、こんな風になぁ」

 

 彼が指を鳴らすと人型兵器がどさりと何かを投げ捨てる。

 

 目の前に転がっているものをみて、あたしは目を見開く。

 

「ウソ……まさか、ジークルドさん!」

 

 すぐに駆け出したかったが、光線銃を向けられて動けない。

 

「ここを破壊しようとしたら邪魔をしてきましてねぇ、コイツのせいで数体の兵器が破壊されましたが、所詮、一人だ。できることなど限られている」

 

 倒れているジークルドさんを蹴り飛ばす。

 

「やめて、そんなこと!」

 

「うるさい!」

 

 足もとに光線が直撃して石の破片が飛び散る。

 

 びくっと怯えて後ろへ下がってしまう。

 

「どいつもこいつもバカにしやがって!僕が星間連盟のトップの子なのに、見下したような目をしやがって!戦士の頂の力を手にしようとしたら、弾かれた。ふざけんなよ!どいつもこいつも!」

 

 げしげしとジークルドさんの体を蹴り飛ばして悪態をつく姿はとても恐ろしく思える。

 

 出会った時は笑顔を浮かべていたけれど、これが本性なんだろう。

 

「さて、貴方を排除して、ここを破壊する。まぁ、可能ならこの星を丸ごと爆破することくらいしたいのですがねぇ、持ってきた超獣で星を破壊することができないのが酷く残念ですよ」

 

 青年が指を鳴らすと目の前で武器を構える兵器たち。

 

「ユイ!!」

 

 倒れていた筈のジークルドさんが起き上がり、両手を広げてあたしの前に立つ。

 

 放たれる光線が次々と彼を撃ちぬいていく。

 

 あたしはそれを見ていることしかできない。

 

「グフッ」

 

 口から血を吐いて膝をついたジークルドさんの姿を見て、ようやくあたしは走り出した。

 

「ジークルドさん!ウソ、えっと、これは」

 

「ユイ!」

 

 伸びてきた手があたしの肩を掴む。

 

「ジークルドさん、血、血がぁ」

 

「私は戦士の頂へ挑戦した。けれど、認められることがなかった。この醜い容姿のせいなのかはわからない……だが」

 

 ジークルドさんの目があたしの手の中にあるクリスタルとアイテム、ジャイロへ向けられる。

 

「キミは、とても優しい子だ。それでいて、強い……その強さをなくさないでくれ、そして、出来れば、出来れば」

 

 ゴフッと吐いた血があたしの服にかかる。

 

「すまない、私をキミの重荷にしたくはなかった。だが、叶うなら……もし、キミがいつか、私の故郷へいったら仲間に伝えてほしい――」

 

 

――力は手にできなかった、だが、光は正しい者の手に渡るだろう。

 

 

「え、なに?」

 

 聞こえないよ、ジークルドさん?

 

 何を言おうとしたの?

 

 ねぇ、聞こえないよ?お願いだからもう一度、教えてよ。

 

 あたしに、何を伝えようとしたの?

 

「ねぇ、ジーク」

 

「死んだか、まぁいい」

 

 あたしの声を遮って青年が冷めた目であたしとジークルドさんをみる。

 

「このまま銃殺してやってもいいかもしれないが、これだとつまらない、どうせだから」

 

 青年が指を鳴らすと唸り声をあげて巨大な怪獣が現れる。

 

「ミサイル超獣 ベロクロン。全身ミサイルの怪獣に戦士の頂諸共、存在を消し去るがいい」

 

 唸りながら口や体の突起物から無数のミサイルが放たれる。

 

「消え去れ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミサイルが由比ヶ浜へ迫る中、彼女は手の中に握り締めていたクリスタルの一つ、強い輝きを放つものを握り締める。

 

 片手に持っている【ジャイロ】の中心へクリスタルをはめ込む。

 

 そのまま由比ヶ浜は左右のハンドルを掴んで横へ引っ張る。

 

 数回、引っ張るとジャイロの中心から輝きが広まっていく。

 

【グルジオボーン】

 

 由比ヶ浜は光に包まれて、赤い骨のようなものに全身を覆われた怪獣【グルジオボーン】へ変身する。

 

 全てのミサイルを叩き落したグルジオボーンはそのままミサイル超獣 ベロクロンへ拳を振るう。

 

 ミサイル超獣 ベロクロンは宇宙怪獣と珊瑚によって作られた生命体であり、その力は自然発生する怪獣よりも強力でおそろしいものになっていた。

 

 今は亡きヤプールの手によって体の至る所にミサイルが存在しており、地球の防衛軍の戦闘機部隊を全滅させたほどの威力を持っている。

 

 その相手にグルジオボーンは尾のボーンテイルを振るう。

 

 連続で繰り出されるボーンテイルによってミサイルを撃つ暇がないベロクロン。

 

 振るわれる攻撃の隙をついて、ベロクロンが口から火炎放射を放つ。

 

 攻撃を受けて怯んだグルジオボーンへ両手からリングを放って体を拘束する。

 

 両手の自由を奪われたグルジオボーンへ次々とミサイルを発射する。

 

 とどめとばかりに口からカタパルト式中型ミサイルを放った。

 

 二発のミサイルがグルジオボーンへ直撃して、地面へ倒れる。

 

『セレクト!クリスタル!』

 

 叫びながら由比ヶ浜はジャイロの中心のクリスタルを入れ替える。

 

【ホロボロス!】

 

 グルジオボーンが光に包まれて、その中から青い体皮、白い毛皮に覆われたライオンを連想させる怪獣、豪烈暴獣 ホロボロスが現れる。

 

 姿が変わったことに動揺したベロクロンの口の中へ爪を押し込む。

 

 唸りながらホロボロスは力任せにベロクロンの口からミサイルのカタパルトを引き剥がす。

 

 悲鳴を上げて逃げようとするベロクロン。

 

 追撃するホロボロス。

 

 不意を突くように背中からミサイルが迫る。

 

 だが、既にホロボロスはその場にいなかった。

 

 ベロクロンの前に回り込んだホロボロスの両手の爪がエネルギーに包まれる。

 

『メガンテクラッシャー!』

 

 頭の中に浮かんだ必殺技を叫びながらホロボロスがベロクロンを細切れにする。

 

「ば、バカな!超獣だぞ!?ベロクロンだぞ!それが、あんなわけのわからない怪獣に倒される!?そんなことがあっていいわけが、あ、あぁあああああああああああああ」

 

 ベロクロンが倒されて動揺する青年。目の前に迫る爆風によって崖から真っ逆さまに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジークルドさん……」

 

 ホロボロスから人の姿へ戻った由比ヶ浜はふらふらと彼の亡骸を探す。

 

 さっきの爆風によって彼の亡骸もどこかへ姿を消していた。

 

「なんで……何でなの」

 

 由比ヶ浜は戦士の頂の中心で輝く光の輪へ叫ぶ。

 

「なんで、あたしなの!?どうして、あたしがこんなものを手にしているの!?これなら、ジークルドさんにあげてよ、どうして、どうして、こんなことに……最低だよ!」

 

 光の輪が強い輝きを放つ。

 

 手の中にあるジャイロが共鳴して由比ヶ浜の前に光の文字を形作った。

 

 指令である。

 

「知らない!」

 

 由比ヶ浜はその手で文字を払いのける。

 

「あたしはこんな力、欲しくなんかなかったよ!」

 

 ジャイロを地面へ叩きつけようとしたところで彼女は地面へ座り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ、ユイ!無事だったか!」

 

 あの後、由比ヶ浜はどうやって戦士の頂から村へ戻ってきたのか覚えていない。

 

 彼女が気付いた時、目の前に笑顔で手を振ってやってくるミシュラとサブレの姿があった。

 

「うぅ、うえぇえええええええん!」

 

「お、おぉ!?どうした!一体、どうしたんだ!?」

 

 恥も外聞もない由比ヶ浜の泣いている姿にミシュラは戸惑いながらあやすことにする。

 

 しばらくして、落ち着いた由比ヶ浜を連れて、店の地下深くに隠されている格納庫へ移動していた。

 

「ここに、何があるの?」

 

「宇宙船だ!といっても……地球人が事故か何かで捨て去ったものを改造したものだがな!」

 

 バチンと照明が灯ると目の前に黄色の巨大な飛行機型の宇宙船がそこにあった。

 

「ジャンクドラゴン!元はなんとかドラゴンっていう名前だったのを改造したんでな!なぁに、ジャンクパーツの寄せ集めとはいえ、この星を脱出することくらい造作もないぞ」

 

「脱出?」

 

 戸惑う由比ヶ浜へミシュラが真剣な表情で見つめてくる。

 

「ユイ、お前さんがO-50の戦士の頂の力を手にしたことと、星間連盟が関わっている以上、この星へ長居することは危険につながる……」

 

「だったら、あたしだけが出ていけば」

 

「宇宙のことに詳しくないお前さん一人を放り出す?そんな無責任なことができるか、ここであったのも何かの縁……安全な場所にたどり着くまで手助けするとも」

 

 ミシュラの力強い言葉に由比ヶ浜は少しだけ救われた気持ちになった。

 

「さぁ、出発だ!コイツの運転をする日がくるとはわくわくしてきたぞ!」

 

 騒ぐミシュラに同意するように吠えるサブレ。

 

「ありがとう、ミシュラさん」

 

 彼らに感謝の気持ちを由比ヶ浜は呟いた。

 

 




ファントン星人 ミシュラ
惑星 O-50にあった村で宇宙船関係のジャンク屋を営んでいる宇宙人。
元々は各惑星を放浪していたらしい。
ファントン星人らしく食欲旺盛である。
由比ヶ浜が戦士の頂に選ばれてからは地下に隠していた宇宙船ジャンクドラゴンで光の輪からの指示と彼女の帰るための方法模索に協力した。
噂では、ファントン星人グルマンと友人の関係にあるとか、ないとか。


ジークルド
人の形をしているが昆虫の特性を備えた宇宙人。
戦士の頂へ挑戦するべくO-50へやってきた。
彼の住まう惑星は巨大昆虫が生息しており、弱肉強食の世界。
平和を望み、光の力を求めるも拒絶されてしまう。
出会った由比ヶ浜が光に選ばれたことを知り、彼女を守るために奮闘するも星間連盟の人型兵器の攻撃によって命を落とす。
裏設定で、地球へ訪れたことがあり、坂田という男性と出会い、救われたことがあるという。


星間連盟
宇宙人によって作られている連盟。
きな臭い噂が絶えず、裏で侵略の為に各惑星を掌握しようとしているのではと囁かれている。

青年
星間連盟トップの息子。
見た目は優しく、人を導くといっているが、それは偽りであり、本性は自分を見下す全てを支配することを考えている。
戦士の頂へ挑戦、失敗後、その事実を抹消するために村を襲撃。
ミサイル超獣ベロクロンと人型兵器を連れていくも、グルジオボーンに変身した由比ヶ浜の手によって失敗。
生き残ることに成功するものの、自分に辛酸を舐めさせた由比ヶ浜を狙って、行動を起こす。
最終的にある宇宙人によって怪獣に改造されて、倒されてしまう。



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過去編:レイオニクスの美少女

今回でひとまず、最初の過去編は終了です。

次回から本編へ戻ります。


 

「おや、おいしくなかったかな?」

 

 宇宙船の中で雪ノ下雪乃は丸いテーブルに置かれている紅茶をみていた。

 

 そんな彼女に女性の姿をしている宇宙人が問いかける。

 

「いえ、味わったことのない素晴らしいものです」

 

 置かれているカップの中の紅茶を味わいながら雪ノ下は頷いた。

 

「それは良かった、地球にはないものなのでキミの口に合うか不安だったのだよ」

 

「はい……」

 

「不安かな?」

 

「いえ、その」

 

「怯えることはない。キミ達の星はまだ宇宙へ進出していないからね……広大な宇宙で一人だけというのは辛いものだろう」

 

 優しく諭してくる宇宙人の言葉に雪ノ下は戸惑うばかりだ。

 

 ワームホールに飲み込まれた彼女はゼットン星人と名乗る目の前の宇宙人に助けられた。

 

 最初に彼女の本来の姿をみて、気絶してしまったことは申し訳ないと思う。

 

 置かれているカップに口を含む。

 

 飲んだことのない味だが、不思議と気持ちが落ち着いた。

 

 目の前の彼女の話では地球にない茶葉らしい。

 

 雪ノ下は自身を落ち着かせながら記憶を手繰る。

 

 リムジンで移動していた途中に車道へ飛び出してきた犬と少年を運転手が急ブレーキを踏んで止めたところまでは良い。

 

 その後、空に現れた黒い渦に雪ノ下と犬と飼い主の少女、そして、少年が吸い込まれた。

 

 宇宙の空間に放り出されたと思ったところで彼女の宇宙船に助けられて今に至る。

 

「それで、どうして、助けてくれたんですか?」

 

 落ち着いたところで雪ノ下は尋ねる。

 

 助けてくれたことに感謝はしているが、助けたことに何か裏があるのではないかと考えていた。

 

 人というのは打算的な生き物だ。

 

 雪ノ下が知る限り、無償の善意で行動することはない。

 

 今までに汚い大人たちをみてきたからだろう。

 

 それ故に目の前の宇宙人が助けてくれたことにも何か裏があるのだろうと考えている。

 

「警戒しないでほしいな、別にとって食べるとか、実験動物としてビーカーに入れるような真似はしないよ」

 

「不安にさせるようなことを言わないでもらえるかしら」

 

 ため息を雪ノ下に宇宙人は笑う。

 

「安心してくれ、乱暴な宇宙人もいるが、私は紳士、いや、淑女であるつもりでいるよ。一応、キミを助けたことに理由はある。それが聞ければ満足かな?」

 

「えぇ」

 

 雪ノ下が頷いたことを確認してゼットン星人は笑みを浮かべる。

 

「キミは冷静だね。普通の人間ならパニックを起こして混乱や悪ければ、自我が崩壊することもありえるというのに、益々、気に入ったよ」

 

 理由はわからないがこの宇宙人は自分のことをいたく気に入ったらしい。

 

 警戒を強めるかどうするか悩んでいたところで宇宙人は話を切り出す。

 

「キミには怪獣使いになってもらいたい」

 

「怪獣使い?」

 

「……これを」

 

 宇宙人が机の上に青と黒い長方形のアイテムを置いた。

 

「バトルナイザー、怪獣を操ることができるアイテムだ」

 

「……バトルナイザー」

 

 雪ノ下は置かれたバトルナイザーへ視線が離れない。

 

 彼女の姿に宇宙人は満足したような笑みを浮かべる。

 

「どうして、このアイテムを私へ?」

 

「残念なことに私では使うことができなくてね、適合するための条件があるのさ」

 

「その条件に私が合致しているというの?」

 

「嬉しいことにね。キミにはそのバトルナイザーを使って怪獣使いとして戦ってほしいのさ」

 

「私は普通の生活をしていた女の子よ?いきなりこんなアイテムを渡されて怪獣を操れと言われても出来ないわ」

 

「そんなことはない」

 

 雪ノ下の言葉を宇宙人は否定する。

 

「キミがこのバトルナイザーを手にして、戦う覚悟を持てば、これが自然と教えて、導いてくれる……なぜなら、キミはレイオニクスなのだから」

 

 ゼットン星人は語る。

 

 レイオニクスとはバトルナイザーを使って怪獣を使役することができる存在であるとゼットン星人が説明する。

 

 説明を聞きながら雪ノ下はバトルナイザーをみた。

 

「これはただの機械でしょう?」

 

「見た目はね?これは普通のアイテムじゃあない。ナノマシンと有機体で構成されているハイブリッドだ」

 

「……そんなもの、どうやって」

 

「さぁね?生まれた経緯を説明しても良いけれど、時間がない」

 

「え?」

 

 直後、室内が衝撃と揺れに襲われる。

 

「何が……!?」

 

「どうやら来てしまったようだ」

 

「来た?」

 

「黙っていたんだが、私は今、野蛮な宇宙人達に追われていてねぇ」

 

「………………え?」

 

 ぽかんとしてしまう雪ノ下だった。

 

 暗黒に広がる宇宙。

 

 ゼットン星人の宇宙船を三隻の宇宙船が追跡していた。

 

 自動操縦にしていたが、追跡の宇宙船から放たれる光線が掠める。

 

 正面スクリーンで三隻の宇宙船を見ているゼットン星人は冷静であった。

 

「しつこいねぇ、近くの小惑星へ着陸するよ」

 

「え、待って」

 

「無理だね」

 

 戸惑う雪ノ下を置いてゼットン星人の円盤は近くを浮遊している小惑星の一つへ着陸する。

 

 少し離れたところで着陸する三隻の宇宙船。

 

 そこから姿を見せるのはサーペント星人、ナックル星人、ギロン人だ。

 

「やい、ゼットン星人!星間連盟から奪ったバトルナイザーを返してもらおうか!」

 

 光線銃を構えながらゼットン星人の宇宙船へ叫ぶサーペント星人。

 

「応答がなければ破壊する!」

 

「そんなちまちましていで、とっとと爆破して残骸から探せばいいだろう?」

 

「いいや、無傷で回収するように指示がでてくる」

 

 宇宙船の爆破を提案するナックル星人だが、ギロン人に止められて、渋々、下がる。

 

 ゼットン星人の宇宙船が開いて、そこからゼットン星人がゆっくりと降りてくる。

 

 その後ろに続くのは雪ノ下雪乃だ。

 

「ゼットン星人、返答を聞かせてもらおうか?」

 

 サーペント星人の言葉にゼットン星人は考えるそぶりをみせる。

 

「悪いが、断るよ。これを星間連盟へ渡すと面倒なことになるからねぇ……それに、レイブラッド星人の野望に協力するっていうのも嫌だしねぇ」

 

「そうか、ならば、死ね」

 

「嫌だよ」

 

 光弾がサーペント星人の体を貫いた。

 

 ゼットン星人の手に光線銃が握られている。

 

「てめっ」

 

 武器を構える暇もないまま、ナックル星人の頭部を光弾が射抜いた。

 

「流石はゼットン星人ということか、知能だけで戦闘能力は低いと思っていたのだが?」

 

「ふむ、普通のゼットン星人ならそうだろう、だが、私は少々、変わり者でねぇ、肉体も少しばかり鍛えているのさ」

 

「ふむ」

 

 銃口を向けられているというのにギロン人は冷静だった。

 

「キミはさっきの二人よりいくらか冷静みたいだからねぇ、大人しく引き下がってくれないかなぁ?私、無駄な殺生は好きじゃないんだ。ほら、汚れるし」

 

 

「確かに、今の戦闘能力を見せられたら引き下がるしかないだろう、だが」

 

 ギロン人は手に持っていた光線銃を捨てる。

 

 片手に握られているのはバトルナイザー。

 

「こちらのレベルアップに協力してもらおうじゃないか、いけ、アリブンタ!」

 

【バトルナイザー!モンスロード!】

 

 輝くバトルナイザーから現れるのは大蟻超獣 アリブンタ。

 

 肉食のアリと宇宙怪獣で合成された超獣。

 

 両手の爪を鳴らしながらアリブンタはゆっくりとゼットン星人の円盤へ近づいてくる。

 

「驚いた。そちらにレイオニクスがいたとは」

 

「偶々、星間連盟にいた方が情報を入手しやすいのでね」

 

 ギロン人はバトルナイザーを構えた。

 

 指示を受けたアリブンタが動き出す。

 

 ゼットン星人は光線銃で迎撃を試みるがやはり超獣、光線銃を受けても平然としていた。

 

「さて、こうなっては仕方ない。戦ってもらえるかな?」

 

 ゼットン星人の視線は後ろにいる雪ノ下へ向けられている。

 

「このままでは私とキミはあの超獣に潰されてしまう。何もできないまま、何かを見つけることもできないまま、そして、元の世界へ帰る方法を探す機会も失われる」

 

「それは……」

 

「戦わなければ、目的を果たせない」

 

 差し出されるバトルナイザー。

 

 真剣なゼットン星人の言葉に雪ノ下は震える手でバトルナイザーへ手を伸ばす。

 

 バトルナイザーへ雪ノ下が振れた刹那。

 

 眩い輝きを放つ。

 

 あまりの輝きにゼットン星人は目を閉じる。

 

【バトルナイザー!モンスロード!】

 

 青と黒のバトルナイザーから輝きが放たれる。

 

 揺れと共にアリブンタの前に現れるのは漆黒の怪獣。

 

「あれは!」

 

 ギロン人もその姿に驚きを隠せない。

 

 全身が黒く、頭部と胸部の部分に黄色く発光する器官をもつ、頭部にある二つの角。

 

「ゼットォォォォン」

 

 低い声と共に宇宙恐竜ゼットンがアリブンタと対峙する。

 

 アリブンタは現れたゼットンに驚きながらも走り出す。

 

 対してゼットンは冷静に両手を前に突き飛ばす。

 

 攻撃しようと爪を振るおうとしていたアリブンタは吹き飛び、地面へ倒れる。

 

 ゆっくりと近づいていくゼットン。

 

 アリブンタは両手から火炎を放つ。

 

 不意打ちにゼットンは少しばかり仰け反りながらもゆっくりとアリブンタへ近づこうとしている。

 

「潜れ!アリブンタ!」

 

 ギロン人の指示で地面へ潜る。

 

「そのまま、四次元蟻地獄へ落としてしまえ!」

 

 地面から姿を見せないまま、ゼットンの足元が突如、蟻地獄のように沈んでいく。

 

「ゼットォォォォン」

 

 飛翔しようとするゼットンの足を現れたアリブンタが捕まえる。

 

 アリブンタの口から溶解液が放たれた。

 

 溶解液をかけられたゼットンが苦悶の声を漏らす。

 

「ゼットン……!」

 

 雪ノ下は苦しみの声を上げるゼットンをみて、バトルナイザーを握り締める。

 

「(そろそろ、か)」

 

 不安そうに揺れる雪ノ下をみて、ゼットン星人は小さな笑みを浮かべる。

 

「どうすれば、どうしたら」

 

「戦えばいい」

 

 戸惑う雪ノ下へゼットン星人が近づく。

 

「戦う?」

 

「そうだ、キミは怪獣使い……キミ自身が戦うことを望めば、ゼットンは応える」

 

 段々と雪ノ下の意識がぼんやりと沈んでいく。

 

 同時にバトルナイザーの輝きが強くなる。

 

「さぁ、願うんだ。ゼットンに勝利することを」

 

 ゼットン星人が雪ノ下へ囁く。

 

 その姿は悪魔が人へ企みを教えようとする姿と酷似していた。

 

「ゼットンへキミが勝利するために祈れば、どんな敵だって倒せるさ。なぜなら」

 

――ゼットンは最強なのだから。

 

 ゼットン星人が囁いた言葉がトリガーになったのかはわからない。

 

 雪ノ下雪乃の瞳が真っ赤に輝く。

 

「ゼットン!」

 

 バトルナイザーを握り締めて、ゼットンへ叫ぶ。

 

「テレポートして、抜け出しなさい」

 

 指示を受けたゼットンがテレポートする。

 

 アリブンタの拘束から抜け出したゼットンは地面へ降り立つ。

 

「ゼットン」

 

 赤く輝いた瞳の雪ノ下は次の指示を出す。

 

「燃やしなさい」

 

「ゼットォォォン」

 

 一兆度の火球をアリブンタへ放った。

 

 アリブンタは逃げることも四次元の蟻地獄へ潜ることも叶わずに炎によって焼き尽くされる。

 

「バカな、アリブンタが、超獣だぞ!?」

 

 動揺を隠せないギロン人にゆっくりとゼットンが近づいていく。

 

「おい、何を」

 

「おやおや?わかっていないのかい」

 

 ギロン人へゼットン星人は呆れたように告げる。

 

「この宇宙は弱肉強食、レイオニクスであるのなら、尚更だろう?つまり、弱者は消え去るといい」

 

 ぞっとするほどの低い声と共にギロン人の眼前に現れるゼットン。

 

「な、なぁ、助けてくれ!アンタ!」

 

 ギロン人はバトルナイザーを握り締めている雪ノ下へ訴える。

 

 雪ノ下は柔和な笑みを浮かべた。

 

 ギロン人は希望を見出したような表情になる。

 

「ゼットン、潰しなさい」

 

 冷酷な少女の言葉と共にゼットンがギロン人を踏みつぶした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、素晴らしい初陣だったよ」

 

「そう、だったかしら?」

 

「勿論だとも、晴れてキミはゼットンを操る怪獣使いになったのだからね」

 

「少し、疲れたわ」

 

「初の戦闘で疲労がたまっているのかもしれないね。部屋でゆっくり休むといい」

 

「そうさせてもらうわ」

 

「……お休み、雪乃ちゃん」

 

「えぇ、姉さん」

 

 ぽつりと漏らして雪ノ下は部屋に消える。

 

「まぁ、計画通りかな」

 

 雪ノ下の姿が見えなくなってゼットン星人は女性の姿から本来のほっそりとした一つ目の姿へ戻った。

 

「それにしても、姉さんか、彼女の心象の中にある憧れの姿をしてみたものだが、まさか、実際に姉と”また”呼ばれることになると感慨深いものだ」

 

 そういいながらゼットン星人は空中に映像を表示する。

 

「宇宙恐竜ゼットン、特別に調整したとはいえ、まさかあれほどの性能を発揮したことは、彼女が特別なのか、しかし」

 

 ちらりとゼットン星人は別室、雪ノ下雪乃が眠る部屋へ視線を向けた。

 

「ソリチュランの葉を潰して紅茶に混ぜてみたら、想像以上に精神へ影響を与えてしまった……まぁ、これから怪獣使いとしての成長を期待しよう、強くなれば、忌々しい光の国へ攻め込むこともできるだろう」

 

 計画を練りながらゼットン星人はこれからのことを思案する。

 

 雪ノ下雪乃をどのように自分を手駒、否、右腕として利用できるかどうか。

 

 

 

 

 

 

 ゼットン星人の計画は順調に進み始めていた。

 

 しかし、小さなイレギュラーが起こり始めていたことに気付いていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪ノ下雪乃の寝室。

 

 疲れたように眠っている彼女の傍、置かれているバトルナイザーが小さく輝いた。

 

「ゼットォン」

 

 ポンと音を立てて現れるのはミニサイズの宇宙恐竜ゼットン。

 

 ゼットンはピポパポと音を鳴らしながら雪ノ下を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現代。

 

「以上が俺達のはじまりってところなんだが」

 

 奉仕部の部室で八幡が半眼で一色をみる。

 

「お前、なんでポップコーン食っているの?」

 

「え?ペガが勧めてきたんですけど?」

 

「話を聞くなら必要かなって」

 

 八幡の影からひょこと出てきながら一色の手の中にあるポップコーンを掴む。

 

「一応、確認なんですけれど、先輩がウルトラセブンなんですよね?」

 

「まぁな、他言無用だからな」

 

 釘を刺す八幡に一色は頷いた。

 

「絶対に言いません!」

 

「とにかく、今日はここまでだ」

 

「えぇ!?」

 

「残念だけど、一色さん、下校の時間よ」

 

 本を閉じて雪ノ下が時間を確認する。

 

「ちぇ~、続きを聞きたかったのに」

 

「機会があれば、また話してやるよ」

 

「絶対ですよ!?約束ですからね!」

 

「はいはい」

 

「じゃあ、帰ろうか!」

 

 由比ヶ浜の言葉で八幡と雪ノ下も鞄を手に取る。

 

「あ、私、鞄を取りに教室へ戻るので、先に帰っていてください」

 

「そう……気を付けてね」

 

 雪ノ下に言われて一色は頷きながら奉仕部の部室を出ていく。

 

「少し、わかったかなぁ?」

 

 ぽつりと漏らしながら一色は奉仕部の部室をみた。

 

「(あの人たちの関係って、一体、何なんだろうなぁ)」

 

 彼女の疑問はおそらく過去の出来事にある。

 

 話の続きが気になりながらもまたの機会ということで一色は廊下を歩いていく。

 

 






ゼットン星人
ワームホールに飲み込まれた雪ノ下雪乃を助けた人物であり、過去に地球へ部隊を率いて科学特捜隊の本部の破壊工作を行ったゼットン星人の姉である。
星間連盟が入手したバトルナイザーを奪取して、自身の計画の為に雪ノ下を抱き込んだ。
雪ノ下を手駒として利用するべく、彼女の心象の中にあった最愛の人物の姿を利用している。


サーペント星人、ナックル星人、ギロン人
星間連盟の配下、ギロン人はレイオニクスであった。


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番外編:小町とみんなのお父さん

唐突に思いついた短編です。

ウルトラマンタイガが終わりましたねぇ、次回は総集編だけれど、次からはどうするのかな?

ちなみにこの番外編は本編からそれなりに時間が経過しています。

クリスマスを楽しんでください。




クリスマス。

 

 比企谷小町は家で寛いでいた。

 

 季節はクリスマスなのだが、両親は仕事で不在。

 

 兄は最近、多発している怪事件の為にペガッサ星人のペガを連れて奔放中。

 

 家には小町一人だけだったのである。

 

「さて、何の料理を作ろうかなぁ?」

 

 夜ご飯をどうするか考えていた小町、兄からの連絡があって一人だけになってしまうのでダラダラと手抜き料理でもしようかと考えている。

 

 テレビをつけるとアイドルの印南ミコが歌って踊っている姿があった。

 

 他にチャンネルを変えてみる。

 

 ウルトラ●やら、マイティ●ャック、特番の一つにリモコンを持つ手を止めた。

 

 特集は少し前に現れたウルトラセブン達の戦いの記録。

 

 地球を丸ごと飲み込もうとする怪獣から地球を守ったウルトラセブン。

 

 批判なども投げられたウルトラセブンは人類の友、英雄としてみられていた。

 

 

「ウルトラセブンかぁ、そういえば、お兄ちゃんの中にいるんだよね?」

 

 

 最初に話を聞いた時は兄がおかしくなったと疑ってしまったものだ。

 

 実際にペガをみて、いくつかの怪事件に遭遇したことで小町は理解したのである。

 

 

ピーンポーン。

 

 

 ぼんやりし始めたところで鳴り響くドアホン。

 

 小町はうとうとしていたタイミングだったことで急な音で意識が覚醒してしまう。

 

「荷物かな?」

 

 立ち上がった小町は玄関へ向かう。

 

「はーい、どなた、です」

 

「ほっほっほっ、メリークリスマス」

 

 ドアの向こうにいたのは赤い服に白い髭を生やした老人。

 

 肩から腰に向かって白い袋を下げている。

 

 サンタクロースがそこにいた。

 

「え、あの、家間違えていません?うち、サンタクロースは呼んでいませんけど?」

 

「いいや、間違ってはいないよ?比企谷小町さん」

 

「えぇ?」

 

 何か怪しい気がしてドアを閉めようかと考えた小町。

 

 老人が手を顔で隠す。

 

「私はこういうものだよ」

 

 手をどけてあったのは人の顔ではない。

 

 少し前に地球へ現れた【ウルトラマン】と似たような顔。

 

 違いあるとすれば髭があり、左右の側面に大きな角『ウルトラホーン』があることだろう。

 

「はじめまして、新たなる息子の妹よ。私はウルトラマンケン、別の地球ではウルトラの父と呼ばれている」

 

 そういってウルトラの父は手を差し出す。

 

「よろしく」

 

「……ウソォ」

 

 いつもの笑顔は驚きで固まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「粗茶、ですが」

 

 ウルトラの父をリビングへ上げる小町。

 

 中に入ったところでウルトラマンの姿から人間の姿になっていた。

 

「ありがとう」

 

 受け取ったお茶を飲む。

 

「うん、とてもおいしいよ」

 

 笑顔になり、小町へ感謝を告げる。

 

「えっと、さっきの姿が本当の姿なんですよね?どうして、人の姿に?」

 

「私達の姿はこの世界の地球人の前で晒すと余計な混乱を招く可能性があるのでね。キミ達の生活を荒らすつもりはないよ」

 

「えっと、ありがとうございます」

 

 小町はペコリと頭を下げる。

 

「それで、えっと、さっき、お兄ちゃんのことを息子って」

 

「あぁ、すまない。私と妻は彼と雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣達を息子、娘と大事に思っていてね」

 

「じゃあ、小町にとってもお父さんってわけですね!おぉ!社畜のお父さんの他にもう一人お父さんができたよ!」

 

「迷惑だったかな?」

 

「とんでもありません、お兄ちゃんのことをちゃんとみてくれる人がいて嬉しいです!あ、両親がちゃんとみていないっていうわけじゃないですよ?家族以外に、あぁ、いや、ちょっと違うかなぁ?まぁ、理解者がいて小町は嬉しいのです!」

 

 小町の言葉にウルトラの父は笑みを浮かべる。

 

「キミは兄のことが大好きなんだね」

 

「当然です!小町達は兄妹ですから!あ、できれば、義姉ができることが嬉しいですね!今のところ、候補は二人なんですけれど、どっちも素敵で」

 

 兄の義姉候補のことを話す小町は信じられないくらいのマシンガントークになっていた。

 

「ほっほっほっ、素直な子だ」

 

 少し考えて小町は尋ねることにした。

 

「あのぉ、教えてほしいことがあるんですけど」

 

「何かな?」

 

「その、兄が体験した話は聞いているんですけれど、ウルトラマンっていうんですか?その人たちはどうして地球のことを守るのかなって」

 

「……はじまりは事故だったのだよ」

 

「事故?」

 

「私の息子、あぁ、息子といっても血のつながりはないんだ。だが、同じ、いや、それ以上に大事に思っているんだ。その一人、ウルトラマンが逃走した怪獣を追いかけて地球へやってきた時にその星の人間を殺してしまった。その命を救うためにウルトラマンは地球人と一心同体となり、星を守るために戦い続けた。長男のゾフィーが迎えに言った時、彼は地球、地球人が大好きになっていた。そして、他の戦士たちが地球へ訪れて、同じように地球人を好きになった」

 

 楽しそうに語るウルトラの父。

 

「そして、私も、いつの間にか彼らのことを好きになっていたのさ」

 

「ウルトラマンって、みんな優しいんですね?」

 

「優しい、そうだね。優しいというのもあるのだろう」

 

「?」

 

「キミは聞いたことがないのかな?ウルトラマンも元は人だったのだよ」

 

「えぇ!?」

 

 初耳の内容に小町は目を開く。

 

「今日はクリスマスだ。特別にキミへ教えてあげようか、ウルトラの歴史を」

 

 パチンとウルトラの父が指を鳴らす。

 

 すると周囲の景色が変わっていく。

 

 やがて、綺麗な都市へ変わる。

 

 地球よりもはるかに発展した文明、争いも貧困もなく、誰もが幸せそうに暮らす理想郷。

 

 道行く人たちは笑顔で話し合っていた。

 

 突如、太陽が爆発する。

 

「え、太陽が!?」

 

「……太陽の消失によって星は光のない世界へ変わってしまった。だが、この星の科学者達は長い時間を費やした研究の末、人工太陽を打ち上げた」

 

 暗闇の空の中へ登っていく一つの光。

 

 光はやがて太陽となり闇の世界を照らし始める。

 

 澄み切った綺麗な空が広がっていく。

 

「同時に人工太陽は私達へ超人的な力を与えた」

 

 一人の男が光に包まれた途端、超人へ姿を変えていく。

 

「私達は自らの力を正しいこと、平和の為に使うことを決めたのだ。それが今のM78星雲、光の国と呼ばれる場所だ」

 

 ウルトラの父が指を鳴らすと今の光の国へ姿を変える。

 

 反射して輝くクリスタルのような建物達。

 

 空を飛ぶウルトラ戦士たち。

 

 コロシアムでは宇宙警備隊の訓練生たちがウルトラマンタロウ指導のもと、日夜、研鑽を積んでいる。

 

 普通の生活をしている者達もいる中、光の国を照らすプラズマスパークタワー。

 

 宇宙の、平和の為に戦うウルトラ戦士たちが所属している宇宙警備隊本部。

 

 そこでは宇宙警備隊隊長 ゾフィー、ウルトラマン、ウルトラマンジャック、ウルトラマンエース、ウルトラマンレオ、ウルトラマン80、ユリアン、ウルトラマンメビウス、ウルトラマンヒカリといった多くのウルトラ戦士、そして、ウルトラセブン。

 

 小町が光の国の景色に見惚れていると周囲が比企谷家へ戻る。

 

「さて、そろそろ行かねば」

 

 椅子から立ち上がったウルトラの父。

 

「え、もうですか?」

 

「すまないね、こうみえて、仕事が山積みなんだ」

 

 苦笑しながら立ち上がったウルトラの父を見送るために玄関へ向かう小町。

 

 外に出ようとしたところで立ち止まる。

 

「おっと、忘れるところだった」

 

 ウルトラの父は背負っていた袋からラッピングされた包みを取り出す。

 

 包みを小町へ差し出す。

 

「あの、これは?」

 

「今日はクリスマスだよ?そして、私はサンタクロース。真面目に頑張っている大事な“娘”のプレゼントだよ」

 

 ウィンクするウルトラの父。

 

 袋を背負ったまま彼は空へ飛んでいく。

 

「うわ、飛んで行っちゃった」

 

 呆然とサンタクロース姿のウルトラの父を見送っていた小町。

 

 彼の姿が完全に見えなくなってから家の中に入る。

 

「新しいお父さんが貰ったプレゼント、お父さんからもプレゼントがもらえるし、小町的に嬉しいことだね!あとは、お兄ちゃんもかな?」

 

 笑顔を浮かべながら小町は家の中へ入っていった。

 

 そこから二時間ほどして兄が戻ってくる。

 

 夕飯は外で食べてこなかったことで小町は不機嫌になりながら兄へ説教することになることを知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら、この星はまだまだ問題を抱えているようだ」

 

 宇宙空間にウルトラの父はいた。

 

 本来の姿へ戻った彼は赤いマントを揺らしながら地球をみる。

 

 今、新たな家族になった三人達が戦おうとしている敵は強大だ。

 

 少し前に戦った悪魔よりも厄介な相手だろう。

 

 だが、彼らならきっと乗り越えられる。

 

「セブンよ」

 

 声は届かないがウルトラの父は血のつながりはないものの強い絆で結ばれている愛しい息子の名前を呼ぶ。

 

「これから先、彼らに大きな脅威や選択が訪れるだろう、彼らを導いてあげてほしい。我々も信じている。彼らなら、きっと」

 

 ウルトラの父はマントを翻して元の宇宙、光の国へ戻っていく。

 



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第十三話:侵入、アイゼンテック!

年内最後の投稿になります。

来年はもう少しペースをあげたいなぁと思います。

ウルトラマンタイガの映画、楽しみだなぁ。

ニュージェネレーションヒーローズも終わったし……年明けにウルトラマンの映画とかやらないかなぁ?


 M78星雲、そこにウルトラマン達の故郷がある。

 

 その国は光り輝く美しい場所であることから“光の国”とも言われていた。

 

 宇宙警備隊本部のタワーから地球人からウルトラの父と呼ばれる者がぽつりと呟く。

 

 彼は宇宙警備隊の大隊長であり、初代ウルトラマンをはじめとするウルトラ兄弟と呼ばれる者達と血のつながりはないものの、それ以上の固い絆を持っている。

 

 宇宙を見渡すことができるという力を持っている彼は宇宙のある一点を見つめていた。

 

「あなた……」

 

 そんな彼に声をかけるのは妻であり、ウルトラの母と呼ばれる女性である。

 

 彼女は治癒の力を持つ特殊な部隊銀十字軍の隊長を務めており、ウルトラの父と夫婦の関係だ。

 

「宇宙に漂っていた奴の思念が一か所に集まり始めている」

 

「まさか、蘇ろうとしているのでしょうか」

 

「そうだろう、しかも、別の宇宙、セブンと彼らがいる地球にそのエネルギーが集まり始めている」

 

「まさか」

 

 不安の声を漏らすウルトラの母。

 

「そんなことになれば、あの子達の地球は」

 

「最悪、滅びるかもしれん」

 

「では、誰かを地球へ?」

 

「いや、まだ早い」

 

 ウルトラの父は首を振る。

 

「それに、地球にはセブンや勇敢な三人の地球人がいる」

 

 脳裏をよぎるのは三人の地球人。

 

 ワームホールによって数奇な運命のめぐりあわせに巻き込まれた三人。

 

 最後は強大な敵を退けるほどまでに成長した彼らは自分達の息子、娘のように大事に思っている。

 

「彼らを信じよう、大丈夫だ」

 

「えぇ、そうですね」

 

 二人は頷きあう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅぬぅ!あの一件からウルトラセブンに対する評価がすこーしよくなっている!これはよくない!ひっじょうにぃよくない!」

 

 アイゼンテックのタワーの一室。

 

 そこで愛染誠は唸っていた。

 

「では、何か策があるのか?」

 

「うぉう!?びっくりしたぁ、いつからそこにいたの?」

 

「(最初からいたのだが、まぁいい)で?計画はあるのか」

 

「勿論!偽物作戦は失敗した。ならば、こちらの株をあげればよいだけのこと!これらを使ってねぇ!」

 

 机に置かれている複数のクリスタルを愛染誠は手に取る。

 

 描かれている怪獣の姿を見て笑みを浮かべる。

 

「そうか」

 

 ちらりと男は愛染誠から視線を外す。

 

 その目は壁、ビルの外、こちらの様子を伺っている一台の車へ向けられていた。

 

「(そろそろ、計画を次の段階へ移すか)」

 

「まっていろぉぉぉぉぉ!今こそ、我の出番なのだぁああああああ、だっはっはっあ!」

 

 クリスタルを掲げて楽しそうに笑っている愛染誠へ男は冷めた目を向けていた。

 

 悪魔が動き出す時は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、本当に何かあるのか?」

 

 アイゼンテック社から少し離れたところに停車した官給品の小型自動車の中から梶が隣のユキへ尋ねる。

 

「例の黒いウルトラマンが出なくなって一週間、こうして監視を続けているが、怪しい動きはないぜ?」

 

「何か起こるとすれば今日だろう」

 

「え?」

 

 驚きの声を漏らす梶へユキは車に内蔵されている時計の時刻を見る。

 

「もし、黒いウルトラマンが現われるとすれば、そろそろだ」

 

 ユキが告げた直後、彼らの腕に装着されているVCから緊急通信が入る。

 

 通信はウルトラ警備隊司令室からであり、内容は「怪獣が出現した」というものだった。

 

 

 街を破壊する数体の怪獣。

 

 メカゴモラ、

 

 ザタンシルバー、

 

 レギオノイド

 

 ロボット怪獣である。

 

 彼らは己の武装で次々と建物を破壊していく。

 

 逃げ惑う人達、ロボット怪獣達が破壊の限りを尽くしていた。

 

 直後、光と共に振るわれた聖剣によって吹き飛ぶ三体のロボット怪獣たち。

 

「デュワッ!」

 

 輝く聖剣を空へ掲げながらウルトラマンオーブダークが現れる。

 

 ウルトラマンオーブダークが現れたことに街の人達は喜びの姿をみせた。

 

 オーブダークがオーブダークカリバーを振るうだけで吹き飛ぶ三体のロボット怪獣。

 

 本来よりもスペックダウンしているからこそ、ウルトラマンオーブダーク一人で圧倒できるのであった。

 

「(ふっふっふっ、順調だ。このままいけば、私の力がさらに)」

 

 自らの計画が上手くいっていることに笑みを浮かべていた愛染誠。

 

 その背後からグルジオキングがタックルしてきた。

 

『いったぁ!?背後からなんて卑怯だぞぉ、こらぁ!?』

 

『何が卑怯よ!こんなじさくじえんなことをしてぇ!』

 

 怒り心頭な様子でグルジオキングに変身している由比ヶ浜が叫ぶ。

 

『この前のことで懲りていないわけ!?』

 

『我はウルトラマンオーブダーク-』

 

『うっさい、オダブ』

 

『だから、変な略し方をするでない!』

 

 叫ぶオーブダークと戦い始めるグルジオキング。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まったわね」

 

「あぁ」

 

 オーブダークと戦うグルジオキングの姿を離れたところで雪ノ下と八幡はみていた。

 

「それじゃあ、手はず通りに、俺達も行くか」

 

「えぇ」

 

 頷いた雪ノ下と一緒に向かうのはアイゼンテックのタワー。

 

 二人は由比ヶ浜がオーブダークをひきつけている間に敵地へ乗り込むことにした。

 

 前のオーブダークのふざけた計画を叩き潰したけれども、どのようにウルトラマンへ変身する力を手に入れたのか、その理由を調べる必要があると雪ノ下が判断したことで今回の計画を思い付いた。

 

 アイゼンテックへ乗り込んで愛染誠の秘密を暴く事。

 

 幸いなことにアイゼンテックは怪獣避難の為に誰もいない。

 

 二人はビルの中へ侵入する。

 

「あら?」

 

「あれ?」

 

 社長室へ入ろうとしたところで反対側の通路に現れる二人がいた。

 

 呆然とする雪ノ下とユキ。

 

 八幡と梶も動きを止める。

 

「キミ達、どうして」

 

「えっと」

 

「俺達、行方不明の友達を探しているんです」

 

 咄嗟に八幡は思いついたウソを述べる。

 

「友達を?」

 

 梶が疑う様に八幡へ尋ねる。

 

「そ、そうなんです。私達の友達がアイゼンテックの職場見学へ行ってから、戻ってこなくて、ここに手がかりがあるんじゃないかと思って」

 

「だからといって勝手に入り込むことは感心しないな」

 

 梶の言葉に八幡は頭を下げる。

 

「(咄嗟とはいえ、よくあんなウソが思いついたわね)」

 

「(ウソじゃねぇよ。職場見学の後に行方不明になっている生徒が数名いる。探している理由としてはあっているだろう?)」

 

「とにかく、危険だからすぐに」

 

「いや、追い払って変な事に首を突っ込まれても困る。しばらく、我々と一緒に行動をしてもらおう」

 

「ユキ隊員」

 

 咎める声を出す梶。

 

 ユキが顔を近づける。

 

「我々も時間がない。あの社長の秘密を探るにしても人手は必要だろう」

 

「……そうだが」

 

「我々が護衛をすればいい、時間がない。行こう」

 

「全く」

 

 ユキの後に続いていく雪ノ下と八幡を追いかけていく。

 

 社長室は驚くほどに物が置かれていなかった。

 

 四人は手分けして探し始める。

 

「なぁ、雪ノ下」

 

「何かしら?」

 

「社長室はこんなにも物がないのか」

 

「確かに」

 

 八幡の言葉に同意するユキ。

 

 彼女は壁を叩き始める。

 

 梶も床を調べていく。

 

 彼らに気付かれないように八幡の瞳が輝いた。

 

 透視能力を発動して周囲を調べる。

 

「(おかしい)」

 

 壁の一部が八幡の透視能力をもってしてもみえないところがあった。

 

 八幡は周りの様子を伺いながら机に置かれているボールを転がしていく。

 

 ボールは壁にぶつかる。

 

 ガタンと壁がスライドして暗い部屋へ繋がる通路となった。

 

「隠し通路か」

 

 ユキは持ってきた道具から懐中電灯を取り出す。

 

 ライトを照らしながらゆっくりと室内に入る。

 

 その後を八幡が追いかけた。

 

 雪ノ下も続こうとしたが梶に止められてしまう。

 

 ユキと八幡の二人は暗い室内で立ったまま動かない複数の人達を発見する。

 

「大丈夫か!」

 

 駆け寄ったユキに体を揺らされるも男達は反応する様子を見せない。

 

 八幡はすぐそばに置かれている机に気付く。

 

 ユキが男達へ意識を向けていることを確認して机を覗き込む。

 

 机には複数の怪獣クリスタルが置かれている。

 

 いくつかを八幡は手に取った。

 

 そして、机に置かれている奇妙な文字の石板や文献のようなものをみつける。

 

「(これは、地球のものではない。宇宙のどこかの惑星で作られた文献のようだ……だが、これをどこで?)」

 

 疑問に思っていた時、室内に警報が鳴り出す。

 

『シンニュウシャ!シンニュウシャ!テキヲハイジョシマス!』

 

 天井がスライドして小さな白い円盤のようなものが続々と現れる。

 

「どうやら気付かれたらしい、逃げるぞ!」

 

 円盤から放たれる光線を躱しながら叫ぶユキは八幡の腕を掴んで走り出す。

 

「ユキ隊員!」

 

「ひとまず避難だ!」

 

 梶が懐からウルトラガンを取り出す。

 

 円盤の一つを撃ち落とすが補填するように天井から現れる。

 

「これはキリがない!」

 

 逃げることを選んだ彼女達はアイゼンテックのビルの外へ走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、ウルトラマンオーブダークとグルジオキングの戦いに異変が起こっていた。

グルジオキングのタックルで吹き飛ぶオーブダーク。

 

 オーブダークが用意していた怪獣へ指示を出そうとした時だ。

 

 地面から無数の緑色の触手が現れた。

 

『あら?』

 

 驚くオーブダークの前で現れた触手がメカゴモラ、ザタンシルバー、レギオノイドを貫いた。

 

 貫かれた三体は瞳が赤くなり、緑色の光を放つ。

 

『あ、あれ、制御が効かない!?』

 

 愛染誠が驚いている間に三体の怪獣はオーブダークへ襲い掛かる。

 

 オーブダークはオーブダークカリバーで応戦しようとするがメカゴモラの拳で剣は弾き飛ばされて、ザタンシルバーとレギオノイドによって手足の動きを封じ込められてしまう。

 

『な、なんだ!?何をするつもりだ!?離せ!』

 

『お前はもう用済みなんだよ』

 

 戸惑う愛染誠へテレパシーで囁く声。

 

 その声は自分に接近してきた男の声だった。

 

『お、お前!?どういうことだ!』

 

『本当に愚かな男だな、愛染誠、いや、憑依生命体チェレーザ』

 

 悪魔の使者の言葉に愛染は動揺する。

 

『お前は本当に愚かだ。このような巨大な力をしょうもないことに使っていて、ふふふ、だが、お前がむやみやたらと暴れてくれたおかげでゴーデス細胞は揃い始めている』

 

『なぬぅ!?』

 

『だが、足りないのだ』

 

 嫌な予感が愛染誠の背中を駆け抜ける。

 

 その理由を理解する暇もないまま、地面から突き抜けてきた複数の触手がオーブダークを貫く。

 

『うぐぉう!?』

 

『まだ完全に復活するための細胞が揃っていない。そこで、お前だ。お前の力を使ってゴーデス細胞を集める。そうすることで完全復活するのだ』

 

『ふ、ふざけるなぁ!私は、わ、わ、私は、ウルトラマンに』

 

 触手から注ぎ込まれるゴーデス細胞がオーブダークを犯していく。

 

 同時にオーブダークの体に異変が起こる。

 

 赤い瞳はさらに禍々しい光を放ち、目元に青いラインが入っていく。

 

『や、めろぉ、私の意識が、き、き、きえ――』

 

 頭を不規則に揺らしながらオーブダークが雄叫びをあげる。

 

 放たれた咆哮は衝撃波となって周囲の建物を壊す。

 

 グルジオキングは構える。

 

 先に動き出したのはザタンシルバー。

 

 ザタンシルバーは口から【リアーズレーザー】を放つ。

 

『あ、あれ、動け、動けない!?』

 

 降り注いだ糸状の粘液はグルジオキングの体を覆うと動きを封じ込めてしまう。

 

 動こうと足掻くグルジオキングへメカゴモラのナックルチェーンが発射された。

 

 ナックルチェーンを受けて地面に倒れこむグルジオキング。

 

 そこへレギオノイドが次々と光弾を撃っていく。

 

 攻撃を受けて動きが鈍っているグルジオキングへとどめを刺そうとオーブダークがカリバーを構える。

 

 

――やられる!

 

 

 由比ヶ浜が来る攻撃に身構えた時。

 

【バトルナイザー!モンスロード!】

 

 眩い光と共に現れたゼットンとウルトラセブンがそれぞれバリアを展開して攻撃を防いだ。

 

『ゆきのん!ヒッキー!』

 

『大丈夫か?』

 

『由比ヶ浜さん、大丈夫?』

 

 テレパシーで由比ヶ浜と会話をする八幡と雪ノ下。

 

 ウルトラセブンはオーブダークをみる。

 

 禍々しいオーラを放ちながらオーブダークがカリバーを構えて走り出す。

 

『行くぞ!』

 

『ゼットン、行きなさい!』

 

『よぉし!頑張るぞ!』

 

 無理矢理、拘束の糸を引きちぎって立ち上がるグルジオキング。

 

 ゼットンはテレポートして、糸を再び吐こうとしたザタンシルバーの頭上へ現れる。

 

 見上げるザタンシルバーの頭部を上からゼットンが拳で叩きつける。

 

 頭から火花を散らしながら地面へ倒れるザタンシルバー。

 

 外からはわからないがゼットンの一撃によって体内の回路のいくつかがショートして一時的な機能停止に陥る。

 

 グルジオキングは地面を揺らしながらメカゴモラと正面からぶつかりある。

 

 指や体からミサイルや光弾を放つがグルジオキングを押し戻すほどの力はない。

 

 再びナックルチェーンを放つ体勢に入ったが。

 

『その手は通用しないんだから!ギガキングキャノン!』

 

 背部に搭載されているギガキングキャノンを放つ。

 

 必殺の一撃がナックルチェーンを放つ体勢になっていたメカゴモラの体ごと貫く。

 

「デュワ!」

 

 ウルトラセブンは地面を蹴り、オーブダークとレギオノイドと戦う。

 

 オーブダークの振るう刃を躱して、近づこうとしてくるレギオノイドへ拳を繰り出す。

 

 距離が開いたところでオーブダークがカリバーのエネルギーを解き放つ体勢になった。

 

 その動きを見切っていたウルトラセブンは振り返ると同時にエメリウム光線を放つ。

 

 光線を受けたオーブダークはカリバーで防ぐも接近を許してしまい、ウルトラセブンからハイキックを受けた。

 

 レギオノイドが両手から光弾を放つよりも早く、頭頂のアイスラッガーを投擲する。

 

 高速で回転するアイスラッガーがレギオノイドの両腕を切断した。

 

 切断箇所からバチバチと火花を散らしながら後退するレギオノイド。

 

 下がっていた時に機能停止していたザタンシルバーに足がもつれて後ろへ倒れこむ。

 

「ゼットォォォンン」

 

 倒れこんだ二体へゼットンが一兆度の火球を放つ。

 

 火球は瞬く間にザタンシルバーとレギオノイドの体を溶かし、中のエネルギーが暴走して爆発を起こした。

 

 ウルトラセブン、ゼットン、グルジオキングがオーブダークへ向き直る。

 

 オーブダークは自らが不利になると察したのか姿を消してしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆきのん!ありがとう!」

 

「由比ヶ浜さん、苦しいわ」

 

 八幡の目の前で由比ヶ浜と雪ノ下が抱き合う。

 

 美女は何をしても絵になるなぁと八幡は思った。

 

「ところで、二人とも、アイゼンテックへの侵入だったけど、良かったの?」

 

「まぁ、ドタバタで逃げ出したけれど、後はウルトラ警備隊がなんとかしてくれるわ」

 

 雪ノ下の視線はアイゼンテックへ突入していくウルトラ警備隊と防衛軍の隊員達の姿があった。

 

「それに成果ならあったぞ」

 

 八幡はポケットから複数の怪獣クリスタルと隠し撮りしていた携帯端末をみせる。

 

「ヒッキー、それ犯罪じゃ」

 

「人を拉致しているような悪人のところでやっているんだ。問題ない。向こうも訴えることはできねぇからな」

 

「目が悪人臭いわよ、囚人谷君」

 

 それ、逮捕されているよね?と心の中で思いながら八幡は端末の写真を見せた。

 

「これ、どこの国の言葉?」

 

「地球上の言語ではないわ。おそらく宇宙のどこかの言葉ね」

 

「そうなると」

 

「えぇ、あそこへ行った方がいいでしょうね」

 

「あそこ?」

 

「あそこだよ」

 

 その名前を聞いた由比ヶ浜は成程と納得して手を叩いた。

 

「さて、行くか」

 

 携帯端末をポケットに入れて八幡達は歩き出す。

 

 そんな彼らの姿を一人の男がみていた。

 

「ウルトラセブン、お前達がどうあがこうと、この星は終わりだ」

 

 にやりと男の体が緑色の光に包まれて姿を消す。

 

 

 




ザタンシルバー、
出典はウルトラマン80から、見た目も銀色の怪獣。
UGMの化学兵器も寄せ付けないほどの強さをみせるがウルトラマンによって体を凍らせて倒される。ちなみに、登場エピソードは切ない話である。

メカゴモラ
ウルトラマンゼロVSダークロプスゼロで登場。
別宇宙のレイが所持していたバトルナイザーのゴモラを解析して生まれたロボット怪獣。
とても強い。

レギオノイド
詳しくはウルトラマンゼロの映画をみるべし。

今回、ザタンシルバー以外はウルトラマンゼロ関係で固まってしまったなぁ、ロボット怪獣事態がそんなに思いつかなかったからなぁ。

次回の投稿は来年になると思います。

良いお年を!


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第十四話:崩壊の序曲

今更ながらあけましておめでとうございます。

体調崩したり、プラモデルを作ったり、映画をみてきたり、色々やっていて遅れました。

申し訳ありません!




「ここって、いつの時間もやっているよね?」

 

 八幡達は繁華街の片隅にある小さなお店へやってきていた。

 

 普通の人なら気付かないような薄暗い場所だが、八幡は超能力を用いて目的の店を発見する。

 

「いつも、いつも店の場所変えているよね?」

 

「あの人は気まぐれだからな」

 

 肩をすくめながら八幡は店の扉を開ける。

 

 さび付いた音を立てながら開くドア。

 

 薄暗い室内へ八幡達は足を踏み入れる。

 

 階段を降りるとそこはバーカウンターと小さなテーブルが設置されているお店だった。

 

 室内は薄暗く、静かな音楽が室内を包み込んでいる。

 

「おや、珍しい来客ですな」

 

 バーテンダーのような格好をした強面の男が八幡達の姿を見つけると笑みを浮かべた。

 

「久しぶり、マスター」

 

 男はこの喫茶店の店主であり、客からはマスターと呼ばれている。

 

 室内には読書をしている女性やタバコを吸っている男性など、ちらほらと客の姿があった。

 

 客は八幡達の姿を見るもすぐに興味を無くしたように視線を外す。

 

 カウンター席へ八幡が座ると左右に由比ヶ浜と雪ノ下が腰かける。

 

「相変わらず両手に花ですな」

 

「揶揄うのはやめてくれ」

 

「あら、美少女が一緒じゃ不満かしら?」

 

 にこりと女王のような笑みを浮かべる雪ノ下。

 

 その姿に男性客たちの体がぶるりと震えだす。

 

「お前までやめてくんない?俺を揶揄って楽しい?」

 

「(楽しいけれど、ここで照れてくれないのは悔しいわね)」

 

「どうやら、相変わらずのようですな。ところで、何にします?」

 

「コーヒーを三つ、他のメニューはないのでしょう?」

 

「いいえ、実は最近、ピラフに懲りまして」

 

「アンタ、どこに向かおうとしているんだ?」

 

 このマスター、元々はコーヒーだけしかメニューになかったのだが、少し前の騒動からラーメンやらお茶漬けやら、わけのわからないメニューの幅を広げ始めているのだった。

 

 お客からは好評であるのだから、八幡の感性からすれば、よくわからない話である。

 

「じゃあ、そのピラフ下さい!」

 

 ここで迷わずにチョイスするのが由比ヶ浜結衣である。

 

 八幡がため息を零す中、マスターが準備を始めた。

 

「マスター、前よりもお客が減っているような気がするのだけれど」

 

「あれ、言われると……」

 

 三人は周りを見る。

 

 記憶が確かなら、もう少し客がいたはずだ。

 

 この店は場所をころころ変えているが常連が変動することはなかった。その常連の数が減っているのである。

 

「みんな、出て行ってしまわれたのですよ」

 

「え?」

 

「出ていった?」

 

「出来ましたよ」

 

 マスターは笑みを浮かべながらコーヒーの入ったカップを八幡達へ差し出す。

 

 本来なら砂糖を沢山いれるところなのだが、我慢してコーヒーを飲む。

 

「「「うまい」」」

 

 飲んだ三人は感嘆とした声を上げる。

 

 ここのコーヒーは砂糖といったものを不要としている。地球産ではない豆を使っているのだが、とてもおしいのだ。

 

 MAXコーヒーしか飲まない八幡でも大好きである。

 

 子ども舌であるペガはまだここへきていないが気に入るかもしれない。

 

 マスターが作ったピラフを由比ヶ浜はおいしそうに食べている。

 

 さっきの戦いで余程、お腹が減ったのだろう。

 

 山盛りのピラフがどんどん減っていた。

 

「マスター、常連が出ていったという話だけれど、それはこの星からという事?」

 

「えぇ、この星から逃げ出している者達が日々、増えていっています」

 

「それは、どうして?」

 

 雪ノ下の問いかけにマスターは告げる。

 

「悪魔がこの星にいるからですよ」

 

「……悪魔?マスター、それはなんなんだ?ザム星人も悪魔によって星を滅ぼされたと言っていた」

 

「そういえば、貴方はザム星人と出会っていたのでしたね……悪魔、奴の名前を我々が恐れて、その名前を言うことを避けているからです。奴、ゴーデスはとても恐ろしい存在です」

 

「ゴーデス……」

 

 マスターは小さく体を震わせる。

 

「奴がどこの星で生まれて、なぜ、あぁなったのかは誰も知りません。ただ、誰もが共通で理解しているのはゴーデスの細胞がばらまかれた惑星の生態系はおかしくなり、やがて、ゴーデスの一部になるという事です」

 

「まるでウィルスね」

 

「一部の者達はゴーデスを惑星ウィルスともいいます」

 

「なぁ、マスター」

 

 八幡は携帯端末を取り出す。

 

 画面の中に撮影した石板などをみせる。

 

「これ、何かわかるか?」

 

 マスターは胸ポケットからメガネを取り出して覗き込む。

 

「これは既に滅んだ惑星の文献ですな」

 

「滅んだ?」

 

「先ほど話したゴーデスに食われたのですよ。その時の記録です」

 

「詳しい内容はメールで送っておきます。申し訳ありませんが悪魔の話はあまり他のお客様の迷惑になるので」

 

「わかりました、すいません、無理を言って」

 

「大丈夫ですよ。お三方には助けてもらった借りがありますから」

 

 にこりとほほ笑むマスターに感謝を告げて、八幡達は“喫茶 ブラックスター”を後にした。

 

 店の外に出たところで由比ヶ浜が安堵の息を吐く。

 

「ふぅ、緊張したぁ」

 

「そこまでか?」

 

「由比ヶ浜さんが緊張しているのはオーナーではなく、周りの人達よ」

 

「あぁ、そういうことか」

 

 雪ノ下の言葉で八幡は理解する。

 

 地球における宇宙人たちの憩いの場といわれる“喫茶 ブラックスター”。

 

 そこは侵略者であろうと争いの場にしてはならないといわれる一種の不可侵条約の場所。

 

 光や闇の勢力を問わず、誰もそこを攻めること、侵略に利用することは許されない。

 

 仮にそんなことを実行に移したバカがいたとすれば、店の名前になっている惑星が総力を挙げて、そこの星を滅ぼすだろう。

 

 その時の勢力の一端を思い出して八幡は自身の体を震わせる。

 

「お、オーナーからだ」

 

 端末にメールが届いた音が鳴り響く。

 

 画面を操作してメールの内容を確認する。

 

「そういうことか……」

 

「何かしら?」

 

「みせて、みせて!」

 

 八幡は二人へ端末の画面をみせる。

 

 彼が撮影した石板などは既に滅んだ惑星の記録。

 

 ゴーデスは自らの細胞を惑星に落とした。

 

 細胞は時に雨、流星群へ形を変えてその惑星へ降り注いで住まう生物の体内へ侵入。急速的な進化を促す。

 

 その進化は生物の理性を奪い、怪獣として生まれ変わらせる。

 

 暴れる怪獣によってその星の文明は滅ぶ。

 

 だが、その惑星は光を生み出した。

 

 生み出された光はその星に住まう者達へ力を与えてゴーデスと抗おうとする。

 

 結局のところ、その星はゴーデスに食われた。

 

「ここからは愛染誠の推測らしいな」

 

 文献の下に書き足された言葉があったらしい。

 

 敗北した光は本来の姿を失い、力はクリスタルとなって宇宙へ散った。

 

 その力の一つを手に入れて、オリジナルと酷似した存在を集めてデータを収集して、器を用意すれば、ウルトラマンに変身できる可能性がある。

 

「だから、あの人は黒いウルトラマンへ変身できたのね。凄まじい執念だわ」

 

「何か、キモイ」

 

 さらっと毒を吐いた由比ヶ浜。

 

 愛染誠が聞けば目を見開いて文句を言っていただろう。

 

「問題はどうやってゴーデスを倒すかという事よ。この文献の通りなら、この星を食らおうと怪獣を生み出していることになる」

 

「じゃあ、地球防衛軍にこのことを伝えるとか!」

 

「まず無理だな、俺達は一介の高校生だ。話をしたとしても信じてもらえるかわからない。何より、事実を理解した途端、超兵器を用いてこの星を逆に壊すなんて最悪な結末もありえる」

 

 ウルトラセブンの記憶を一度だけ見た時に、そのような結末になりかけたことが何度かあった。この星がそうなるとは限らないが強大な力を持っている組織へ事実を伝えるタイミングは色々と気をつけないといけない。

 

「そうなると……あたし達がなんとかしないといけないってことかな?」

 

「絶対というわけではないかもしれないけれど……」

 

「はぁ、何でこういうことばっかり起きるんだか」

 

 だが、事態は八幡達が想定していた以上に進んでいた。

 

 その日、世界各地にゴーデス細胞に侵された怪獣が大量発生する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大変なことになっているねぇ」

 

 比企谷家。

 

 リビングで放送されている怪獣出現のニュースをみていた小町の言葉に八幡は鋭い目でテレビの画面を見ている。

 

「はわわ、大騒動だ!」

 

 右往左往するペガ。

 

 小町は平常通りに見えるが、その目は不安そうに揺れていた。

 

 テレビでは防衛空軍が暴れている怪獣と戦っている場面が映される。

 

 映像の一部にはウルトラ警備隊のウルトラホークの姿もあった。

 

「(これで、ゴーデスの復活はより確実になったということなのか?)」

 

 これからのことを考えるためにどうするかと携帯端末を取り出した時。

 

「は?」

 

 八幡が困惑の声を漏らすと同時に窓ガラスが割れ、中へ入って来る武装した集団達。

 

 悲鳴を上げる小町。

 

 何かを言う前に後頭部を殴られて八幡の意識は落ちていく。

 

「ようやく会えたな?ウルトラセブン」

 

 意識を失う直前、囁かれるような声を聴きながら。

 

 

 

 

 

 

 




喫茶ブラックスター

ウルトラマンオーブに出てきた喫茶店、オーナーは勿論、あの人。
あの役者さん、大好きなので出てもらいました。
次回でゴーデスの使者と対決予定、その次でゴーデス編を終わらせる予定です。
時間かからないように頑張ります。

それでは。


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第十五話:囚われの八幡

ゴーデス編は書きあがりました。

訂正は入れていくかもしれませんが、近いうちにのせます。




「いっつぅ……くそっ、気分が悪い」

 

 意識が覚醒すると同時に後頭部が痛みを訴えてくる。

 

「(手足を縛られているな。顔に何かで固定されている。調べることができるのは目がみえる範囲、だが、周りが真っ暗じゃなぁ)」

 

 顔をしかめながら八幡は自身の状況を確認した。

 

 体を動かそうとするが特殊な拘束具を使われているのか目だけしか動かせない。

 

 余計な情報を与えない為だろう、目の見える範囲の全てが暗闇に包まれていた。

 

「(ご丁寧にチルソナイトの素材を用いているのか、これじゃあ、セブンの透視能力も使えそうにないなぁ)」

 

 どこまでも徹底した措置。

 

 ただの誘拐犯ではないことはわかった。

 

 問題は。

 

「目が覚めたかな?」

 

 コツコツと靴音が響く。

 

 いきなり現れたかのように男が八幡の前に立っていた。

 

 黒いスーツと手袋。

 

 柔和な笑みを浮かべているがその目はとても冷たい。

 

 人形のように感情が読み取れない。

 

 不気味な男だと八幡は思った。

 

 

 そして、コイツこそが。

 

 

「その通り、私がゴーデスの使者だ。はじめまして、私はスタンレー・ハガードだ」

 

「あっさりばらすんだな」

 

「隠す必要がもうないからな」

 

 スタンレーの言葉に八幡の表情が険しくなる。

 

「大分、ゴーデスのことを調べたようだな。比企谷八幡、いや、ウルトラセブン」

 

「俺の正体についても当然のことながら知っているわけか」

 

「キミが一番、危険な存在だ。故にこうして手元に捕えておけばいい」

 

 見せびらかすようにスタンレーの手の中にあるウルトラアイをみせる。

 

 奪われたことに八幡は内心、舌打ちを零す。

 

 ウルトラアイはウルトラセブンに変身するためのアイテムであり、ウルトラセブンにとって命よりも大事な秘密だ。

 

 それを奪われてしまった時は何としても取り戻さなければならない。

 

 アナザースペースにおいて、一度、ウルトラアイを盗まれた事のある八幡は奪われないように気を付けている。

 

 ウルトラアイがなければ、八幡はウルトラセブンに変身できない。

 

「おい、一つ、聞かせろ」

 

「何かな?」

 

「俺の妹はどうした?」

 

 ウルトラアイが奪われたことはとても悔しいが、八幡が一番に心配したのは妹の小町の安否だ。

 

「もし、小町に何かあれば、俺はてめぇを許さない。傷つけてみろ……ぶっ殺すぞ?」

 

「ぶっ殺す……か、ウルトラ戦士の発言とは思えないな」

 

「千葉の兄妹を舐めるなよ?妹を傷つける奴は許さねぇからな」

 

 苦笑しながらスタンレーは置かれているパイプ椅子へ腰かける。

 

「キミはウルトラマンというよりかは我々よりの思考らしい、少し、興味が出てきたよ。どうだい?こちら側につくというのは」

 

「冗談、細胞に犯されて怪物になる未来なんて御免だね」

 

「そこまで調べていたのか、成程、意外と地球人、いや、キミ達は侮れないらしい」

 

 情報を引き出すための誘導だったことを八幡は見抜いていた。

 

 相手の反応を見るため、あえてのったのである。

 

「(しっかし、小町を利用したことは許せん。ま、今の反応で、おそらくだが、小町は捕まっていない。ペガと一緒にどっかへ避難しているのだろう……後は小町がどこへ駆け込むかってところだが、雪ノ下の方へいってくれれば、安全、かなぁ?)」

 

「しかし、それのどこがいけないのだ?」

 

「あ?」

 

 スタンレーの言葉に八幡は怪訝な声を漏らした。

 

「ゴーデス細胞に犯された者は確かに本来の姿から変異する。だが、それは進化であり、ゴーデスがもたらす祝福と考えられるのではないか?」

 

「仮に祝福だとして、進化の代償が星を滅ぼすというのは酷すぎるだろう」

 

「それは進化に至るために必要なことだと考えればいい。進化とはその姿から一段階あがることを意味する。その時に何か犠牲が起こり得るのは仕方のないことだ。地球においても、哺乳類が進化する代償として恐竜が滅びたように」

 

「極論過ぎるだろ」

 

「だが、それも一つの道だ」

 

 自らの言葉を信じて疑わないスタンレーの目をみて、八幡はため息を零す。

 

「お前みたいなタイプをよく知っているよ。力に溺れて、最終的に自分を見失う奴だ」

 

「ほう?なら、キミの推測は外れだ。私は力に溺れない。ゴーデスの為に進化するのだから」

 

 酔いしれたような表情のスタンレーを八幡は冷めた目でみる。

 

 

――いやいや、俺の見立ては当たっているよ。アンタ、ゴーデスっていう大きな力に酔っているじゃないか。

 

 

 己の推測が当たっていることを理解しながら八幡は小町の身を案じつつ、これからのことについて考えを練っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

 

 ペガと一緒に逃走した比企谷小町は助けを求めるために公衆電話を使って雪ノ下雪乃へSOSを発信。

 

 自身の携帯電話を使わなかったのは逆探知される危険性を考慮したのである。

 

「小町さんやペガが無事でよかったわ」

 

「雪ノ下さん、お兄ちゃんが」

 

「大丈夫よ。彼はしぶといから大丈夫よ。それより、公衆電話から電話してきたから驚いたわ」

 

「えへへへ、前にドラマで公衆電話なら安全みたいなことを言っていたので……」

 

「そ、そう」

 

 ドラマからの知識ということに雪ノ下は若干、口の端をひきつらせながら彼女と一緒にファミレスへ来ていた。

 

 人の多い場所なら身を隠せるだろうという判断である。

 

「さて、あの男を拉致したのは誰なのかしら?」

 

 帽子とサングラスで変装した小町と合流した雪ノ下は話を聞いて、疑問を漏らす。

 

「わかりません、小町とペガは逃げるのに必死だったから、お兄ちゃんが逃がしてくれたんだけど」

 

「……代わりに比企谷君が捕まってしまったというわけね」

 

「あの、これ……」

 

 小町はポケットから小さなピルケースを取り出す。

 

 それはウルトラセブンの頼りになる相棒、カプセル怪獣が入っているケース。

 

 力を悪用されることを考えていた八幡は小町へ預けていたのである。

 

「咄嗟のこととはいえ、そこまでやるなんて、相変わらずね」

 

「ごめん!遅くなった!」

 

 店のドアが開いて、息を切らせた由比ヶ浜がやってくる。

 

 慌ててやってきた彼女は席に座ると雪ノ下が差し出した水を一気に飲み干す。

 

「小町ちゃん、大丈夫?」

 

「由比ヶ浜さん、はい、大丈夫、です」

 

「良かったぁ!」

 

「(できれば、ペガの心配もしてほしいなぁ)」

 

 小町の影の中でペガがしくしく泣いていることに誰も気づかない。

 

「それで、ヒッキーが誘拐されたってホント?」

 

「由比ヶ浜さん、声を小さく、事実よ……この状況で誰がと考えると推測はできるけれど」

 

「え!?ホント!」

 

 驚く由比ヶ浜の姿に雪ノ下はため息を零す。

 

「由比ヶ浜さん、今度、勉強会ね」

 

「ゆきのん、ほら、その話を置いておくとして、続き、続き!」

 

 今時のギャルという見た目をしている由比ヶ浜、アナザースペースにおける冒険をして、成長をしているが勉強は苦手なのは変らない。

 

 いつもギリギリの成績を維持している。

 

 知っている雪ノ下は定期的に勉強会を開いて、彼女の手助けをしていた。

 

 ただし、スパルタ式のため、終わると由比ヶ浜はいつもヘロヘロになっている。

 

「(勉強会は必ず行うことにしましょう)おそらく犯人はゴーデスの配下、もしくは一部の可能性が高いわね」

 

「ゴーデス……それって、ヒッキーを」

 

「少なくともウルトラセブンの力を警戒しているってことはあると考えられる。だとすれば、どうやって彼を助けるか、助けようにも、彼の居場所がわからないといけないわ。小町さん、比企谷君は携帯とか、所持しているのかしら?」

 

「多分、持っているとは思います」

 

「それなら携帯の電波を探知すればいけるかもしれないわね、でも、方法が」

 

「あ、それならなんとかなるかも」

 

 由比ヶ浜の言葉に全員の視線が集まった。

 

 ポケットから彼女は携帯を取り出す。

 

「前に、ヒッキーの携帯に追跡アプリを入れたの。ほら、ヒッキーって、何かと単独行動して無茶ばかりするじゃん?だから、何かあった時に駆けつけられるようにって……あれ?」

 

 話をしていたところで由比ヶ浜は周りを見る。

 

 雪ノ下も小町も、そしてダークゾーンで話を聞いていたペガも信じられないものをみるような目を由比ヶ浜へ向けていた。

 

 不思議そうに彼女は首をかしげる。

 

「どうしたの?」

 

「え、もしかして本当にわかっていないんですか?由比ヶ浜さん」

 

「反応からして、そうみたいね……これは何と言えばいいかわからないわ」

 

「八幡、大丈夫か、心配だよ」

 

 由比ヶ浜は三人の不安を気にせずに端末のアプリを起動する。

 

 幸いにも八幡の携帯の電源は落ちていなかったのか追跡アプリはすぐに場所を表示した。

 

「あ、ここみたいだね」

 

「少し離れてはいるけれど、いけない距離ではないわね」

 

「でも、あたし達で大丈夫?一応、護身術はできるにしても、相手は男で宇宙人の可能性もあるし」

 

「仕方ないわね……頼りたくはないけれど、非常時だから」

 

 雪ノ下はため息を吐きながら携帯の電話ボタンを押す。

 

 しばらくして、相手が電話に出たことを確認して雪ノ下はすぐに言葉を紡ぐ。

 

「非常事態よ。奥底で寝転がっていないですぐに起き上がって目を覚ましなさい。そうでないと、超高温度の火球をくらわせるわよ?」

 

『物騒な女だ』

 

 電話の向こうから聞こえた低い声に雪ノ下はにこりと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?ゴーデスとやらは何をしたいんだ?」

 

「さらなる進化さ」

 

 囚われている間に情報を収集することを考えた八幡はスタンレーへ自らの疑問をぶつけることにした。

 

「ゴーデスは自らを進化させている。今よりもさらなる進化。誰も到達したことのない先さ」

 

「そのためなら、いくつもの星を滅ぼしても構わないと?」

 

「誰もが自分を大事にするだろう?他人のことを気にする奴というのはメリットがあるから、もしくは自身に余裕があるから気に掛ける。そういうものだろう?人間というのは」

 

「そういう人間もいる。だが、そうでない人間もいるぞ」

 

「しばらく、キミという人間を観察していたのだが、そういう前向きな思考ではないと思っていたんだがね?」

 

 スタンレーは不思議そうに首をかしげる。

 

 彼の目は何も映さない。

 

 違う、映すことができないほどに黒く濁っていたのだ。

 

「人の過去を調べることが前職だったんだが、比企谷八幡君、キミの過去は非常に興味深い、あれだけのことがあったのならよりねじれて犯罪に走ってもおかしくはないだろう。だが、キミは堕ちなかった。それどころか、光の側にいる。何故かな?キミは何が原因で堕ちなかったのだろうか?」

 

「そういうアンタはどうして“堕ちた”んだ?」

 

 八幡とスタンレーの視線が交差する。

 

「スタンレー・ハガード、貴方は人間だ。どうして貴方は悪魔であるゴーデスの細胞をその身に宿した?どうして、貴方は人類の敵になった?」

 

「フフッ、ハハッ」

 

 スタンレーが笑い出す。

 

 笑いながら体が痙攣を始める。

 

『ここから出たいのさ!』

 

 雰囲気が突然変わる。

 

 まるで別人のように顔から表情が抜け落ち、激しい苦悶と苛立ちに満ちた感情へ染まった。

 

『このちっぽけな体からでたい。より大きな存在になりたいのだ!』

 

 変貌は一瞬ですぐにスタンレーは笑顔を浮かべる。

 

「楽しい談笑を続けたいところだが、予定が詰まっていてね、キミにはここで消えてもらうよ」

 

 拳銃を取り出して弾丸を装填する。

 

 動作が緩慢にみえるのはじわじわと恐怖を与えるつもりなのだろう。

 

 超能力は使用できないように封じ込まれている。

 

 銃口が八幡の額へ押し付けられた。

 

「じゃあ、さようなら」

 

 スタンレーがトリガーに指をかけた瞬間。

 

 外から銃声が聞こえた。

 

「なん――」

 

 事態を理解する暇もないまま、壁の向こうから武装した男が室内に転がってきた。

 

「フン、歯応えのない相手ばかりだ」

 

 土煙が舞い上がる中からゆっくりと現れる小太りの少年。

 

 材木座義輝がメガネを外して眉間へ皺を寄せながら中に入って来る。

 

「何者かな?といっても既に死んでいるかな?」

 

 隠れていたスタンレーの部下たちが一斉に発砲する。

 

「宇宙剣豪を愚弄するのもほどほどにしてもらおうか」

 

 両断された弾丸がパラパラと地面へ落ちていく。

 

 材木座の手の中には包丁が握られている。

 

「星斬丸ではないのがとても歯がゆい」

 

 さらに眉間へ皺を寄せながら材木座ことザムシャーが歩いていく。

 

 スタンレーが拳銃を向けるが材木座の方が速い。

 

 振るわれた刃がスタンレーの右腕と左腕を切り落とす。

 

「フッ」

 

「っ!」

 

 材木座が後ろへ跳ぶ。

 

 斬られた箇所から赤いガスが噴き出す。

 

 赤いガスに全身が包まれて姿が消える。

 

「ヒッキー!」

 

「お兄ちゃん!」

 

 穴が開いたところから由比ヶ浜と小町がやってくる。

 

「えっと、これ、どうやって」

 

「ちょっと剣豪さん!早くお兄ちゃんを助けてよ!」

 

「煩い奴らだ。全く」

 

 ため息を吐きながらザムシャーは包丁で八幡の拘束を壊す。

 

「悪いな、助かった」

 

「ならば、これも貸しだな」

 

 手足を動かしながら感謝の言葉を告げる八幡。

 

 ザムシャーは鼻音を鳴らしながら回収しておいたウルトラアイを八幡へ渡す。

 

「悪いな」

 

「すまんが限界だ。帰るぞ」

 

 材木座義輝の中にいる宇宙剣豪ザムシャー。

 

 彼は材木座義輝の体を借りており、表面へ出るためには材木座本人の人格を眠らせる必要がある。

 

 材木座の意識が表に出ようとしている為にザムシャーはこの場を早々に離れた。

 

「小町、行ってくる。由比ヶ浜、小町を頼む」

 

「任せて!」

 

「お兄ちゃん!」

 

 小町が八幡をみる。

 

「いってらっしゃい!」

 

「おう」

 

 頷いた八幡は取り戻したウルトラアイを装着する。

 

 眩い閃光と共に彼はウルトラセブンへ変身した。

 

 怪獣 バランガスへその姿を変えたスタンレーと対峙するウルトラセブン。

 

 地面を蹴りぶつかりあうウルトラセブンとバランガス。

 

 何度か対峙したバランガスだが、今までと姿が異なり四足歩行から二足歩行へ、体に様々な突起物を生やしている。

 

 ぶつかりあい互いに後ろへ倒れるもすぐに起き上がったウルトラセブンがウェッジ光線を放つ。

 

 光線を受けたバランガスだが、口から赤いガスを吐き出す。

 

『スタンレー、キミにまだ人間の意識があるのなら聞くんだ!ゴーデスに抗え、戦うんだ』

 

 ガスから離れながらウルトラセブンはテレパシーでスタンレーへ呼びかける。

 

 ゴーデス細胞に犯されているスタンレーにまだ人間としての自我が残っているかもしれないと思っているのだ。

 

 しかし、バランガスは唸り声をあげてウルトラセブンへタックルした。

 

『スタンレー!』

 

『無駄だ、ウルトラセブン』

 

 聞こえてきたのはスタンレーではない。別の者の声。

 

『スタンレー・ハガードはどこにも存在しない。俺と一つになったのだ』

 

 タックルを受けて地面に倒れたウルトラセブンの顔へ赤いガスを吹きかける。

 

 ガスを浴びたウルトラセブンが苦悶の声を上げる中、バランガスは笑い声のようなものをあげながらウルトラセブンの首を絞めた。

 

 バランガスの腕を掴んで払いのけようとするがあまりの力に拘束から逃れられない。

 

 セブンの首をへし折ろうとするバランガス。

 

 首を絞められていたウルトラセブンは咄嗟にアイビームを放つ。

 

 目から撃たれた光線がバランガスの両目を貫いた。

 

 セブンの上から退きながら地面を転がるバランガス。

 

 起き上がったウルトラセブンはウルトラショットを放つ。

 

 光線がバランガスを撃ちぬいた。

 

 さらに攻撃を続けようとしたところでバランガスの体からガスが噴き出す。

 

 体の至る所から噴き出したガスに身構えるウルトラセブン。

 

 ガスでバランガスの体が包まれていく中、何者かの不気味な笑い声が夜空に響いていく。

 

 警戒しているウルトラセブンの前でガスが消えていき、対峙していたバランガスの姿はどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん!」

 

 ウルトラセブンから比企谷八幡の姿へ戻ると小町が嬉しそうに抱き着いてきた。

 

「小町、無事でよかった」

 

「心配したんだよ。もう!お兄ちゃんを心配する小町ってポイント高くない?」

 

「高い高い、できれば、もう少し再会を喜んでから言ってくれたらよかったなぁ」

 

「ヒッキー!無視すんなし!」

 

 ぷんぷんと怒りながら由比ヶ浜がポカポカと叩いてくる。

 

「あぁ、はいはい、感謝しているよ」

 

「扱いが雑!」

 

 怒る由比ヶ浜。

 

 八幡は小町をゆっくりと離すと真剣な表情になる。

 

「小町、悪いが兄ちゃんは行かなければならない」

 

「え?」

 

「ヒッキー?」

 

「この星を滅ぼそうとする悪魔が本格的に動き出そうとしている。私は奴を止めなければならない」

 

 突然のことに戸惑う小町。

 

 由比ヶ浜はゴーデスとの決戦のことだと察して、沈黙していた。

 

「すぐに、帰って、くるよね?」

 

「約束する」

 

「じゃあ、お兄ちゃんの大好きなご飯を用意して帰りを待っているね!」

 

 笑顔を浮かべている小町だが、その肩が僅かに震えていることを八幡は見逃さない。

 

 千葉の兄妹の絆は深い。

 

 何より癖のある八幡を今まで支えてきた妹だ。

 

 不安はあるものの兄が帰って来ると約束したのだから信じて待つ。

 

 そういう約束は絶対に破らないのが比企谷八幡である。

 

「いってくる」

 

 八幡はそういって歩き出す。

 

「大丈夫だよ!」

 

 由比ヶ浜が心配そうにみている小町の肩を叩く。

 

「ヒッキーは必ず連れて帰るから!あたしが守る……から」

 

「よろしくお願いします」

 

 ぺこりと頭を下げる小町に微笑みながら由比ヶ浜は後を追いかけていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、オーストラリアの砂漠地帯。

 

 異変はそこで起こっていた。

 

 砂漠地帯で盛り上がるように出現した火山は地中のエネルギーを全て吸収するように活動を始める。

 

 火山の中で悪魔が復活しようとしていることを知る者はごくわずかだった。

 

 

 

――悪魔の復活は近い。

 



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第十六話:悪魔の決着

アンケート実施しています。

アンケートの結果でさらに登場人物が出てきます。

感想、もっと欲しいなぁ。


 地球防衛軍オーストラリア基地は突如、出現した火山地帯に航空部隊がスクランブル。

編隊が火山地帯へ爆撃することを決定した。

 

 爆撃する理由は火山の中心地に強大な生命体反応を検知したからであり、新たな怪獣出現を危惧したオーストラリア基地の参謀の判断によって新型爆弾で殲滅することになったのである。

 

 出撃した航空部隊が火山地帯へ次々と爆弾を投下していく。

 

 爆破によって火山地帯は形を変えていった。

 

 そして、恐ろしいことが起こる。

 

 爆発によって割れた地面から火柱が噴き出し次々と上空を飛行している戦闘機を焼き尽くす。

 

 怪獣の炎でも多少、耐えることができる設計の航空機が一瞬で溶けて爆発する。

 

 危険を感じた現場の隊長が即座に爆撃の中止を命令するも割れた地面から次々と噴き出した炎が航空機を飲み込んでいく。

 

 数十分も経たずに地球防衛軍オーストラリア基地の航空部隊は全滅した。

 

 全てはゴーデスが復活するためのエネルギーとなる。

 

 火山の中でゆっくりとゴーデスの体が形作られていく。

 

 復活の時間は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雪ノ下がいないと思っていたが、まさか、宇宙船を用意していたとは思わなかったぞ?」

 

「地球の危機と伝えたら中古だけれどとブラックスターのマスターが用意してくれたのよ」

 

 千葉のどこかにある工場。

 

 そこに円盤が置かれていた。

 

「これ、飛ぶんだよな?」

 

「大丈夫よ。マスターから設計図を貰ったから、話によるとペダン星のものを改造したとか」

 

「まぁ、あそこの船なら頑丈だろうな」

 

「ゆきのんが飛ばすの?」

 

「操縦はマスターしているから大丈夫よ」

 

「じゃあ、安心だね!」

 

「(前に雪ノ下が宇宙船でスピード狂みたいなことになっていたのは黙っていよう、俺の安全のためにも)」

 

「安心して、ペガもちゃんとサポートするから」

 

「それなら安心だな」

 

「愚者谷君、何かいったかしら?」

 

「いいえ、気のせいです」

 

 絶対零度の視線を向けられたような気がして首を振る八幡。

 

 誰だって命は惜しいのだ。

 

 準備が終わり、四人は宇宙船へ乗り込む。

 

「それで、目的地はオーストラリアでよいのね?」

 

「あぁ、そこから強大で邪悪な生命の波動を感じる」

 

「ゴーデスが、そこにいるんだよね?」

 

 由比ヶ浜の言葉に八幡は頷く。

 

「一応、確認だが」

 

 八幡は雪ノ下と由比ヶ浜をみる。

 

「これから行く先はとても危険な場所だ。もし、怖いと感じているなら」

 

「ヒッキー!」

 

 話を遮るように由比ヶ浜が八幡の手を握った。

 

「一人だけで行くっていうのはナシ!あたし達だって、戦えるし!」

 

「だが」

 

「それに!」

 

 真剣な表情で由比ヶ浜は八幡の手を握り締める。

 

「この星はあたし達の大事な場所だし!守りたいという気持ちは一緒だよ!」

 

「由比ヶ浜さんの言うとおりよ」

 

 重ねている手の上へ雪ノ下自身の手をのせてくる。

 

「私達は自らの意思と覚悟でここにいるわ。今更、貴方一人を行かせるなんてことはしない……それに」

 

 少し言葉を止めながら雪ノ下は視線をそらす。

 

「大事な友達を放っておくほど、私は冷たくないわ」

 

「ゆきのん!」

 

 嬉しそうに由比ヶ浜が笑みを浮かべた。

 

 彼女達の目に迷いはない。

 

「ペガも!友達の八幡を放っておけないし!」

 

「悪かった、もう言わねぇよ」

 

 八幡が頷き、雪ノ下が操縦席に腰かけて円盤を起動させる。

 

「行くわよ」

 

「エンジン起動!」

 

「あぁ」

 

「レッツゴー!」

 

 千葉の倉庫から一隻の宇宙船が飛び立つ、場所はオーストラリア。

 

 ゴーデスのいる大地。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全滅!?」

 

 地球防衛軍極東基地のウルトラ警備隊の司令室。

 

 梶が信じられないという表情を浮かべる中、古橋隊長は頷いた。

 

「オーストラリア基地の精鋭部隊は一時間前に緊急出動して全滅したという報告を受けている」

 

「何てこった」

 

「でも、一体、どうして?」

 

 驚きを隠せない渋川、東郷は疑問を漏らす。

 

「原因はわからん、だが、オーストラリアの大地で異変が起こっている。各基地は怪獣退治の処理で動けないという事で異例だが、我々、ウルトラ警備隊が出動することが参謀会議で決定した。リサ、現地の映像を」

 

「了解」

 

 リサが司令室の正面スクリーンに映像を表示する。

 

「これは……」

 

「火山地帯か?いや、この地域にそんなものはなかったはずだぞ?」

 

「異常事態はこれか」

 

 ユキの言葉に古橋は頷いた。

 

「現状、この地域は緊急避難勧告が出されている。そして、オーストラリア基地の所有していた新型爆弾のエネルギーによって酷く不安定になっている。この事態をまずは沈静化させることを第一と」

 

「古橋隊長!オーストラリア基地から緊急連絡です!」

 

 司令室に勤務している通信隊員が慌てた様子で報告してくる。

 

 話の内容を聞いた古橋は驚きの表情を浮かべつつも真剣な表情で隊員達へ告げた。

 

「オーストラリアで巨大な怪獣が出現という連絡があった」

 

「すぐに行きましょう!」

 

「待て、話にまだ続きがある。今、その場にウルトラセブンと二体の怪獣が現れ、共に巨大な怪獣と戦っているという報告がきた。リサ、正面スクリーン!」

 

「はい!」

 

 スクリーンには巨大な蛸のような触手を生やした怪獣と対峙するウルトラセブン、グルジオキング、ゼットンが映される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間は少し遡る。

 

 中古の宇宙船でオーストラリアの目的地へやって来た比企谷八幡、雪ノ下雪乃、由比ヶ浜結衣、そしてペガの四人はゴーデスによって犯されている大地をみて、息をのむ。

 

「酷い……」

 

「はわわ、凄いことになっているよぉ」

 

「これがゴーデスに滅ぼされるということなんだよね?」

 

「そうだ……」

 

 八幡はある方向へ視線を向ける。

 

「どうしたの?ヒッキー」

 

「ゴーデスが呼んでいる」

 

「どういうこと?」

 

 怪訝な表情を浮かべる雪ノ下。

 

 ペガは震えながら由比ヶ浜にしがみついていた。

 

「み、ミュー粒子だよ。ゴーデスはミュー粒子を操っているんだ。はわわ、ミュー粒子を操作して、八幡と、八幡の中にいるウルトラセブンを呼んでいる……倒すって」

 

 震える声で告げるペガの言葉に八幡は静かに頷く。

 

「奴が復活する」

 

 オーストラリアの大地が大きく揺れる。

 

 あまりに巨大な振動に立っていられるのがやっとだ。

 

 火山が割れてそこから丸い突起物が姿を見せる。

 

 それが何であるかを理解するのに八幡達は時間を要した。

 

 しばらくして、現れたものが巨大なゴーデスの頭だと八幡達は理解する。

 

 不気味に輝く瞳は八幡達を見ていた。

 

 八幡は胸ポケットからウルトラアイを取り出す。

 

 一瞬、ウルトラアイをみてから深呼吸して、意識を集中させ装着する。

 

 由比ヶ浜はジャイロを取り出してグルジオキングのクリスタルを中心にはめ込んでグリップを左右に引っ張った。

 

 雪ノ下はバトルナイザーを取り出して空へ掲げる。

 

「デュア!」

 

【グルジオキング!】

 

【バトルナイザー!モンスロード】

 

 閃光と共に姿を現すウルトラセブン、グルジオキング、ゼットンの三体。

 

 ゴーデスは地面から無数の触手を出現させる。

 

 グルジオキングが前に出て背中のギガキングキャノンを放とうとするも地面の中からオーブダークが現れた。

 

 オーブダークがカリバーの周りに火の塊を形成して全てを放つ。

 

 グルジオキングの砲撃とオーブダークの技がぶつかって相殺される。

 

 煙の中から姿を現したオーブダークの刃がグルジオキングの体を切った。

 

『このオダブ、邪魔!』

 

 雄叫びを上げながらグルジオキングはオーブダークへ突撃する。

 

「由比ヶ浜さん!セブン、あいつは私と彼女が相手をするわ。貴方はゴーデスを!」

 

 ゼットンの肩にいる雪ノ下の言葉にウルトラセブンは頷いてゴーデスの方へ単身、向かう。

 

 雪ノ下はバトルナイザーを握り締めて、ゼットンへ指示を出す。

 

「ゼットン、テレポートしてオーブダークの背後へ回り込みなさい」

 

「ゼットォォン」

 

 瞬時にテレポートしたゼットン。

 

 背後に現れたことに驚くオーブダーク。

 

 カリバーを振るおうとするがゼットンに刃を掴まれて、そのまま放り投げられてしまう。

 

 刃を奪われたオーブダークを背後からグルジオキングの爪が切り裂く。

 

 既に愛染誠の意識がないのか攻撃を受けても苦悶の声をあげることもない。

 

「貴方みたいな雑魚に構っている暇はないの。すぐに終わらせるわ」

 

『ここで、決着をつける!』

 

 ゼットンの一兆度の火球。

 

 そして、グルジオキングのギガキングキャノンがオーブダークを貫いた。

 

 二つの必殺技を受けたオーブダークはだらんと動きを止めて、そのまま光の粒子となって消滅する。

 

 グルジオキングとゼットンはゴーデスと対峙しているウルトラセブンの方へ向かう。

 

『ゴーデス!今すぐこの星を去れ』

 

『去る?この星を俺が救ってやろうというのに』

 

『救うだって?』

 

 ウルトラセブンとゴーデスはテレパシーで会話をしていた。

 

 ゴーデスの言葉にウルトラセブンは疑問の声を漏らす。

 

『多くの生命を歪め、怪獣へ変えていることが進化だというのか?』

 

『ウルトラセブン、貴様らもそうだったようにこの宇宙は弱肉強食だ。弱きものは潰され、強い者が生き残る。それが摂理であり真実だ。この事実を覆すにはどうすればいいか?すべてが平等になればいい。つまるところ、俺は宇宙の均衡を保とうとしているのだ!』

 

『それは違う。お前が支配者として頂点に君臨しているだけに過ぎない。お前の介入によって命が消滅した星もある』

 

『俺の進化の祝福に耐えられなかったのだ!だが、耐えることができれば、その星は弱肉強食の宿命から解放されるのだ。そのためにさらなる進化が必要なのだ!』

 

『ゴーデス、そんな考えは間違っている。お前の考えはより多くの悲劇を生み出すだけだ!』

 

『黙れ!貴様ら光の巨人は大きな変化をいつも恐れる!そして、俺のような存在を悪だと断罪する!悲劇の運命を変えようとしない、大きな力を持っていながら、何もしないお前達は罪だ!』

 

 ゴーデスが目から怪光線を放つ。

 

 ウルトラセブンは拳で光線を弾き飛ばす。

 

『貴様を取り込んでやる!光を取り込んで俺はさらに進化するのだ!』

 

 怒りの感情を振りまきながら地面から出現した触手がセブンを狙う。

 

 横、斜め、正面から出現する無数の触手を拳や光線で弾き飛ばしながらゴーデスへ接近する。

 

 ゴーデスの顔へパンチを放つ。

 

 ウルトラセブンの拳を受けるもダメージを負った様子のないゴーデス。

 

 近距離で光線を受けて後ろへ下がったところで四方八方からゴーデスの触手が繰り出される。

 

 鞭のように次々と振るわれる攻撃で地面へ膝を突いたウルトラセブン。

 

「セブン!」

 

『ヒッキー!』

 

 そこへ、オーブダークを倒したグルジオキングとゼットンが触手を爪と力任せに引きちぎる。

 

『お前達まとめて、取り込んでくれよう!』

 

 突如、地面に巨大な穴が開かれる。

 

 それがゴーデスの口という事に彼女達は気づく。

 

 ウルトラセブンは一つの案があった。

 

 光線などを受け付けないゴーデス相手に勝つための手段は一つしかない。

 

 だが、それは自身の存在が消失する危険性がある。

 

 自身が消滅するという事は同化している少年の命の危険もあるということ。

 

――行こう。

 

 ウルトラセブンの中にいる八幡の声が言う。

 

 

――俺は約束したんだ。小町のところへ帰るって。奴を倒さないと小町だって危ないんだ。その方法があるなら俺はそれを選ぶ。

 

 ウルトラセブンはしばし、悩む。

 

『ヒッキー!ここは任せて!』

 

 グルジオキングからホロボロスへクリスタルを変えた由比ヶ浜が叫ぶ。

 

『何か考えがあるんでしょ!だったら、あたし達がここで頑張るから行って!』

 

 ホロボロクローでゴーデスの触手を切り裂きながら駆け回る。

 

「ゼットォォォン」

 

 由比ヶ浜を狙うゴーデスの触手をゼットンが力業で引きちぎっていく。

 

 ウルトラセブンとゼットンの肩に乗っている雪ノ下と目が合う。

 

 雪ノ下は小さく頷いた。

 

「ゼットン、由比ヶ浜さんを守るわよ!タコの怪物をこれ以上、進ませない!」

 

「ゼットォォォン!」

 

 体を揺らしながら驚異的な力とテレポート、火球などで次々とゴーデスの体を焼き尽くす。

 

 ウルトラセブンは覚悟を決めて、ゴーデスの体内へ飛び込んだ。

 

 ゴーデスの体内は不気味で、邪悪なエネルギーに満ち溢れていた。

 

 嵐のように吹き荒れるゴーデスのエネルギーにウルトラセブンは翻弄される。

 

『このまま、俺の一部になれ!そうして、貴様のエネルギーを基に俺はさらなる進化を遂げるのだ!』

 

 高笑いするゴーデスの声。

 

 声すらもエネルギーの波となってウルトラセブンの体へダメージを与えていく。

 

 ゴーデスは徐々にウルトラセブンの体を溶かし、自らの糧にしようとする。

 

 苦しむウルトラセブンの額に輝くビームランプの点滅がはじまった。

 

『進化を続けてもお前は一生、ボッチだけどな』

 

 苦しむウルトラセブンと意識を入れ替えるようにして八幡の声がゴーデスの体内で響く。

 

『ボッチはボッチを察することができる。お前は自分だけが進化を続けて、いつも独りぼっちだ。俺のように望んでそうなったわけでもなく、生まれた時から正真正銘のボッチだ』

 

 響く声にゴーデスは戸惑う。

 

 ボッチという意味がわからない。

 

 だというのに、その言葉が酷くゴーデスをイラつかせる。

 

 小さな棘のように刺さって離れず、段々と怒りの感情が強くなっていく。

 

『さっき、お前がウルトラセブンへ語っていたのは表向きの理由だ。だが、真実、本当の理由としてはお前、嫉妬しているんだろう?』

 

『黙れ!』

 

『周囲を見れば、自分以外は仲間がいる。似たようなものがいる。だというのに、お前はどうだ?たった一人だ。どれだけ進化しようと姿を変えようとしてもお前が一人であるという事実はなくならない』

 

『黙れぇえええ!』

 

『お前は大義名分を抱えているようだが、その実態は自己中心的な考えなんだよ。そんなお前がウルトラセブンや光の国の連中を糾弾する権利なんかどこにもない。お前は我儘で暴れている子供に過ぎない』

 

『貴様ぁあああああああああああああああああああ!』

 

 怒りで暴走するゴーデス。

 

 そこが勝機だった。

 

 ウルトラセブンはギリギリまで溜めていた残りのエネルギーを使ってワイドショットを撃つ。

 

 八幡の言葉で不安定になっていたゴーデスのエネルギーはワイドショットによる一撃が導火線となって大爆発を起こす。

 

 外で戦っていたホロボロスとゼットンはゴーデスの触手が動きを止めたことに気付く。

 

「これは……」

 

『ヒッキーがやったんだ!』

 

 直後、ゴーデスの頭部からウルトラセブンが脱出する。

 

 爆発を起こすゴーデスの体から飛び出したウルトラセブンへホロボロスとゼットンが駆け寄っていく。

 

 ゴーデスの体内でかなりのエネルギーを使ったウルトラセブンの額のビームランプが激しく点滅している。

 

『ヒッキー!大丈夫?』

 

『まぁな』

 

「ヒヤヒヤさせないで」

 

 ウルトラセブンは胸の前で両手を構える。

 

 光に包まれてウルトラセブンから比企谷八幡へ姿を戻す。

 

 雪ノ下はバトルナイザーにゼットンを戻し、ホロボロスから由比ヶ浜も八幡のところへ駆け寄る。

 

「ゴーデスはどうなったの?」

 

「消滅した。体内で超新星並の太陽エネルギーを浴びたんだ。細胞は一つ残らず焼き尽くされた」

 

「じゃあ、終わったのね」

 

 雪ノ下の言葉に八幡は頷いた。

 

 由比ヶ浜は大爆発によって更地となった場所を見る。

 

「でも、何か、可愛そうだね」

 

「由比ヶ浜さん?」

 

「自分を進化させ続けた結果がこれって、なんか悲しいなって思って」

 

「進化はいつか訪れるものだ。だが、無理やり進化させることが正しいとは限らない」

 

「比企谷君?」

 

 遠くを見るような表情の比企谷八幡の姿が雪ノ下は一瞬だけ、彼に重なる。

 

 何かを言おうとした雪ノ下だが、遠くから手を振って来るペガの姿が見えてきた。

 

「帰りましょう」

 

 八幡と由比ヶ浜をみて、雪ノ下は手を伸ばす。

 

「戦いは終わった。帰ってゆっくり休みましょう」

 

「そうだな、俺は帰って小町の温かいご飯が食べたい」

 

「ヒッキーのシスコン!」

 

「妹大好き谷君らしいわね」

 

 呆れる由比ヶ浜と小さく笑う雪ノ下。

 

 戦いが終わって彼女達はやってくるペガと一緒に日本へ戻る。

 

 ゴーデスとの戦いは終わった。

 

 

 



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第十七話:液体人間の恐怖

今回、ある映画をモデルにしています。


そして、八幡達の出番はありません。


なるべくホラーテイストを目指しました。


 その日は激しい雨が降っていた。

 

 ある街中の一角。

 

 停車している一台の車の中で男はしきりに時間を気にしていた。

 

「くそっ、何やっているんだ?」

 

 男は苛立ちながら腕時計の時間を何度も確認している。

 

 コンコンと車の窓がノックされた。

 

 外を見ると警官がこちらを覗き込んでいる。

 

 深呼吸しながら男は窓を開けた。

 

「どうしました?」

 

「いえ、友達を待っているんです、何か問題でも?」

 

「一応、免許証を」

 

 警官に言われて男は懐から用意していた免許証(偽造)を取り出す。

 

 免許証を覗き込んだ警官は照明で男の顔と免許証を交互にみた。

 

「何か騒ぎでも?」

 

 警官は首を振る。

 

 免許証を返却して警官は去っていく。

 

 姿が完全に見えなくなったのを確認して悪態をついた。

 

「あのバカ、どこで何していやがる?」

 

 警官が去って少しして、路地裏からずぶ濡れになりなgら一人の男がアタッシュケースを片手にやってくる。

 

 バックミラーをみて、男は窓から顔を出す。

 

「後ろに乗せて早く来い!」

 

「ごめん、ごめん」

 

「ちゃんと二重底に入れるんだぞ」

 

 雨の中でありながらも小声で指示を出す。

 

「大丈夫だって」

 

 苛立つ男に対して後から来た男は呑気な言葉を返す。

 

「まったく、何て奴」

 

 背後から銃声。

 

 慌てて振り返ると仲間が拳銃を地面に向けて乱射している。

 

「あのバカ!」

 

 音に気付いて警官が戻ってくるかもしれない。

 

 このままでは自分も逮捕される危険がある。

 

 男は車のアクセルを踏んでその場から逃走した。

 

 走り出した車に手をついていた男はふらふらとそのまま車道へ飛び出す。

 

「っ!」

 

 車道へ飛び出した男に気付いたタクシーの運転手が慌ててブレーキを踏むもそのまま車の下敷きになった。

 

「っうぅあぁ」

 

 なんてことしてしまったのだろうと思いながら運転者はドアを開けて外に出る。

 

「大丈夫ですか!」

 

 異変に気付いて懐中電灯を片手に警官がやってくる。

 

 運転手は呆然とした表情に車の先端を指さす。

 

 雨が降り注ぐ中、車の下敷きになったはずの男はそこにおらず、衣服だけが地面にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、坂本!坂本ってば!」

 

 面倒だなぁと思いながらコーヒーの入った缶を机に置きながら坂本剛一はデスクの方へ向かう。

 

 島田デスクは眉間へ皺を寄せながら手招きしていた。

 

「何ですか?」

 

「お前、仮にも上司である俺にする態度かぁ?」

 

「だから、聞いているじゃないですか、何です?」

 

 態度を改める気のない坂本の姿に呆れながら島田は話を切り出す。

 

「この一面、知っているな?」

 

「ん?」

 

 デスクの太い指が示しているのは数日前に発生した不思議な事故と書かれている小さな部分。

 

 雑誌の一ページ端っこの方に書かれているものだ。

 

「車と人が激突したっていうのに遺体がないっていう奴でしたよね?」

 

「そう、それ!お前、これ、書いたよな?」

 

「まぁ、デスクが書け、書けって、うるさかったですからね」

 

「お前ねぇ、まぁいい、この記事のことでどこぞの有名大学の先生が話を聞きたいとかいっているから、お前、行ってこい」

 

「はいぃ?」

 

 ぽかんとする坂本の前でデスクは手書きで書いた住所のメモを渡す。

 

 渋っていた坂本の手に無理やりメモ用紙を握らせて「しっしっ!」と早くいくように促した。

 

 このまま逆らって減俸なんて言われても堪らないので坂本は上着を羽織って目的の大学、城東大学を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、何やってんの?」

 

 城東大学の受付で坂本は意外な人物と遭遇する。

 

「取材よ、取材!」

 

 笑顔を浮かべながらショートカットで笑みを浮かべながら楠木涼が愛用している銀板カメラをみせてきた。

 

「あ、そう」

 

 興味なしという風に受付で来客用のプレートを手に取って中に入る。

 

「ちょっとぉ!そっちは?」

 

 既に首元でプレートを下げていた楠木が坂本を追いかけてくる。

 

「呼び出しだよ。どっかのお偉いさんが俺の書いた特ダネに興味があるんだってぇ」

 

 片手でハンバーガーを食べながら坂本は目的の場所を目指す。

 

 二人がやって来たのは生化学学科。

 

 驚きながら坂本はノックする。

 

 少しして、ドアが開かれて白衣を着た男性が顔を出す。

 

「あれ、政田!?」

 

「久しぶりだなぁ!坂本!」

 

 出迎えたのは坂本の高校時代の知り合いである政田だった。

 

「二人は知り合い?」

 

「高校時代の知り合いですよ!そうか、お前があの記事を書いたのだ」

 

「まぁな、ん?ってことは呼んだのはお前か?」

 

「そうだ、そちらは?」

 

「あ、助手の楠木涼です!」

 

「誰の助手だ!」

 

 横で叫ぶ坂本だが、政田は笑顔で迎え入れる。

 

「それで、三流も良いところ雑誌に書かれていた記事の何が知りたいんだ?」

 

「自分で三流っていうの?」

 

 呟いた楠木を坂本は脇で突く。

 

「確認なんだけど、記事に書かれている内容は事実なんだね?」

 

「当たり前だって、ちゃんと目撃者に話を何度も聞いたから」

 

「本当にぃ?」

 

 睨んで楠木を黙らせる。

 

「そんなことの確認を取りたかったのか?」

 

「大事な確認なんだ」

 

 政田の真剣な表情に坂本は何かを感じ取ったのか続きを促す。

 

「それで、生化学学科の教授が興味を示す内容ってなんだ?」

 

「まだ確証がないんだ……」

 

「確証がないからって沈黙は辛いなぁ、ちゃんと情報を教えてくれないとなぁ」

 

 坂本の言葉に立ち上がった政田は机に置かれているいくつかの資料を応接用の机の上へ広げる。

 

「これって」

 

「あ、これ、見たことある。少し前に現れた円盤のニュース?」

 

「確か……紀伊半島の方に現れてウルトラ警備隊によって撃墜されたって」

 

 政田は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 警視庁組織犯罪対策第五課の刑事たちは先日、発生した麻薬組織のメンバーである御崎が事故死した件について調べていた。

 

 彼らが重点を置いたのは御崎と同棲していたジャズバーで歌う新井千賀子が御崎の居場所を知っているかもしれないと考え、取り調べを行う。

 

 御崎が大量の麻薬を持っていたことであり、彼女に検査を行うけれど、反応がなかった。

 

 二日間かけて取り調べを行ったが彼女は御崎のやっている犯罪に関与していないことが分かったために釈放される。

 

 しかし、御崎が接触する可能性があることを判断した富永課長は部下の田口と坂田の両刑事に尾行を命じた。

 

 新井千賀子はクラブ「ホムラ」で歌手として活動しており多くのファンがいる。

その中で御崎と繋がりのある者いがいないか二人の刑事は目を光らせていたがそれらしき者はみつけられなかった。

 

 楽屋で休憩していた千賀子はドアがノックされて立ち上がる。

 

 ドアを開けると柔和な笑みを浮かべる坂本剛一と政田がいた。

 

 千賀子は二人を室内へ入れると鞄から万札を数枚取り出して、政田のポケットに押し込む。

 

「私が出せるのはこれだけだから……これ以上はもう面倒、見切れないって伝えてくださる」

 

「えっと」

 

「あのぉ、何か勘違いを」

 

 困惑する政田に坂本が事情を説明しようとしたところでドアが開いて田口と坂田の刑事達が入って来る。

 

 二人は警察手帳を見せて、坂田と政田の身体検査を行う。

 

「これはなんだ?」

 

「えっ、それは」

 

 政田のポケットから出てきた万札と手紙をみて二人の肩を掴む。

 

「一緒にきてもらおうか」

 

 有無を言わせぬ雰囲気の刑事たちに二人はあっというまに警察署に連行されてしまう。

 

 取調室に二人とも座らされて、坂本がため息を吐いた。

 

「お前、何ですぐに説明しないんだよ」

 

「いや、いきなりのことで困惑したんだ」

 

「はぁ、こりゃ、しばらく拘束されるかもなぁ」

 

「え、それは困る!?」

 

「残念ながらそうはならないよ」

 

 通された部屋のドアが開いてスーツ姿の刑事がやって来る。

 

「キミ達は何をやっているんだ?」

 

 呆れた表情でやって来た男を二人は知っていた。

 

「富永!」

 

「先輩!やった、助かった」

 

「まだそうとは限らないぞ?三流雑誌記者と生化学学科の教授がなんであんなところにいたのか教えてもらおうか」

 

 富永は二人へ名刺を見せながら説明を求める。

 

 少し悩みながら坂本は御崎の記事を書いたこと、政田がその記事で消失したというところで気になるところがあり、新井千賀子へ話を聞こうと思っていた所で警察に連行された経緯を伝えた。

 

 話を聞いた富永は苦笑しつつ“今回は”釈放するという旨を伝えて、後日、新井千賀子に話を聞けるタイミングを作るといって、解放される。

 

「悪いが警察もピリピリしているからね、不用意に彼女へ近づかないように次は助けてあげられないかもしれないぞ?」

 

「何だよ?警察はそんなピリピリするようなヤマを抱えているのか」

 

 坂本の問いかけに富永は頷く。

 

「この町に新種の薬物が持ち込まれている。その摘発で俺達はピリピリしているんだよ。そして、キミ達が接触した新井千賀子が重要人物なんだよ。わかったら不用意な接触は控える様に」

 

「じゃあ、富永先輩!話が聞けるタイミングになったら教えてくださいよ!そうすれば、俺達も大人しくしていますから」

 

「おい、坂本」

 

「仕方ない。約束しよう」

 

「うし!じゃあ、政田、行こうぜ」

 

「お、おい」

 

 留まろうとする政田の背中を押しながら坂本は部屋を出る。

 

 ため息を零しながら富永はその背中を見送った。

 

「あ、ようやく出てきた」

 

 警察署の外に出るとハンバーガーの入った袋を持った楠木が出迎える。

 

「涼、お前、待っていたのか?」

 

「これ貸しですからねぇ」

 

 楠木はそういいながら坂本へハンバーガーの入った袋を差し出す。

 

 袋を受け取った坂本はハンバーガーを味わう。

 

「キミは相変わらずハンバーガー中毒か」

 

「まぁね!食べていなかったから手が震えてきたよ」

 

 他愛のない話をしながら三人は場所を変える。

 

「ところで、警察がなんで彼女をマークしているの?」

 

「俺が記事にした行方不明の遺体の男は麻薬組織のメンバーだったらしい。そいつと恋人関係にあったのが新井千賀子さんだったってことだ」

 

「うへぇ、最悪なタイミングなんだ」

 

「うん、そうなんだ。しかし、困ったなぁ」

 

「そんなに疑惑の女性に興味があるのか?」

 

「彼女が知っているかどうかで変わって来るんだよ」

 

「何が?」

 

 戸惑う楠木だが、政田は応えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(疲れた)」

 

 新井千賀子は店を出て自宅のアパートに帰宅しようとしていた。

 

 振り返れば尾行している私服警官。

 

 家のアパートの近くにも警察が張り込んでいるだろう。

 

 

――最悪だ。

 

 

 御崎が何か悪事に手を染めていることは予想がついていた。

 

 しかし、麻薬だったことは衝撃だった。

 

 麻薬組織のメンバーであり、その麻薬を巡っていくつものヤクザや危ない組織が行方不明の御崎を探しているという。

 

 そして、警察だ。

 

 警察も御崎の行方を追っている。

 

 警察と麻薬組織の大バトルに巻き込まれた自分の立ち位置に辟易してしまう。

 

 いつの間にか振ってきた雨が余計に彼女の気持ちを沈ませる。

 

 アパートへ戻ってきた彼女は鍵でドアを開けて中に入った。

 

「待っていたぞ」

 

 部屋の中には先客がいた。

 

 光の加減で素顔がみえないが男は自分へ拳銃を突き付けている。

 

 動けない彼女の腕を引いて寝室のベッドへ押し倒す。

 

 起き上がろうとした彼女へ銃を突きつけながら男は土足で近づいてくる。

 

「御崎はどこだ?」

 

「し、知らない」

 

 拳銃を突き付けられて震えながら彼女は首を振る。

 

 男は笑みを浮かべるとそのまま彼女の頬を殴った。

 

 殴られた彼女はベッドの上に倒れる。

 

「お前に御崎が入れ込んでいるのはわかっているんだよ。あんだけ入れ込んでいる奴が見捨てて逃げるわけがねぇ、必ずお前に接近してくる!いいか、逃げられると思うんじゃねぇぞ?」

 

 拳銃を突き付けながら男は窓へ向かう。

 

「俺がきたことはサツに黙っていろよ?でなければ、てめぇを撃つからな」

 

 脅して男は窓から外に出ていく。

 

 窓が開くとザーザーと雨音がしている。

 

 恐怖のあまり動けない新井千賀子。

 

 すぐに外から発砲音が聞こえてきた。

 

 びくりと体を震わせながら彼女は外をみる。

 

 彼女を脅してきた男の姿はなくなり、衣服だけが濡れた地面に転がっていた。

 

 悲鳴を上げながら彼女は外へ飛び出す。

 

 異変を察知した刑事がやってくるまで彼女はドアの前で座り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 富永は頭を痛めていた。

 

 新井千賀子を刑事がマークしていたのだが、その包囲網を抜けて麻薬組織の一人が接触してしまう。

 

 どんな情報を吐いたのか坂田刑事が取り調べをしているが新井千賀子はぐったりしている。

 

 問題は接触してきた男の行方がわからないということ。

 

 男はすべての衣服と拳銃を残して消失している。

 

 果たしてどこにいったのか。

 

 新たな謎に頭を痛めていた時、政田と坂本がやってきた。

 

 このタイミングで彼らがやってきたことで余計に苛立ってしまう。

 

「キミ達、もう来るなといったよな!」

 

「ある情報を聞いたんだ。彼女に接触しようとした男が消えたって」

 

「それがなんだ?三流雑誌と教授さんは関係ないだろ?」

 

「関係あるんだよ。確認をするために新井千賀子さんと話をしたいんだ!」

 

 政田の言葉にため息を吐きながら富永は内線を使って坂田刑事に新井千賀子を連れてくるように伝える。

 

 尋問を受けていた新井千賀子は酷く焦燥していた。

 

 政田が寄り添う形でいくつか質問を行う。

 

 質問の内容に富永は怪訝な表情を浮かべた。

 

 御崎はマグロ漁船に乗っていたかどうか、長い期間、外出をしていたかどうか。

 

 事件に関係があるのかどうかわからない内容に富永は困惑するしかない。

 

 しばらくして質問を終えた政田へ富永は視線を向ける。

 

「わかっている。富永先輩が知りたいことについて、これから教えます」

 

 坂本の言葉に政田が頷く。

 

「ついてきてくれ、彼女のように人が消えるところを見た人達がいる」

 

「え?」

 

「何だって?」

 

 驚く彼女と富永を連れて政田と坂本はある病院へやってきた。

 

 病院では体中に包帯を巻いた男が二人、ぐったりしたように寝ている。

 

「彼らは富永刑事と坂田刑事、すまないけれど、キミ達が遭遇したことについて、話してもらえるかな?」

 

「はい」

 

 政田の言葉に男の一人が体を起こそうとする。

 

「あぁ、無理はしなくてよいんだよ」

 

「いえ……今日は気分が良いんで」

 

 起き上がった男はぽつぽつと話を始める。

 

 それは富永と坂田にとって、否、常識的に考えて信じられない話だった。

 

 彼らの乗る漁船は夜中にふらふらと漂っている船を発見する。

 

 予定している航路で他の船と遭遇する予定はない。では、何なのか?

 

 船長の指示で数人の仲間と共に調査の為、船の中へ乗り込んだ彼らだが、船内には誰もいなかった。

 

 探していると人が着ていたと思える服が乱雑している。

 

 薄暗い中でようやく「船長室」へたどり着いたところで、航海日誌を発見した。

 

 航海日誌を船長が書いていたと思える状況で人の姿がまるでない。

 

 不気味さにすぐに帰ろうという二人に対して、仲間の一人が船長室にあった服を着ていた。

 

 楽しんでいる仲間を放置して帰ろうとしたところで悲鳴があがる。

 

 二人が慌てて船長室へ飛び込むとそこには信じられない光景があった。

 

 仲間がドロドロに溶けていく。

 

 体中から液体を垂れ流していく光景に悲鳴を上げながら船内を走り出す。

 

 他の仲間が駆け付けると通路から人の形をした緑色の液体が現れて仲間を次々と飲み込んでいく。

 

 満身創痍になった二人が元の船へ戻ってきたところで漂流船から複数のナニカが彼らを覗いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キミ達は彼らの話を信じているのか?」

 

 病院を後にした三人。

 

 坂田は新井千賀子を家へ送り届けている。

 

 富永と坂本、政田の三人は先ほどの話について議論していた。

 

「それを裏付ける話が一つだけあるんですよ。数か月前に紀伊半島で円盤が地球防衛軍に撃退されたって話がありますよね?」

 

「まさか円盤の影響で船の乗組員がおかしくなったというのかな?」

 

「ありえない話じゃない。防衛軍の報道によると戦ったあたりで強い放射能反応がでていたと」

 

「バカバカしい、放射能を人が浴びてドロドロになったというのか?」

 

「放射能を馬鹿にすることはできないよ!僕達の研究でもそれは確認されているんだ」

 

 議論をする富永と政田だが、富永は納得する様子を見せない。

 

「でも、それならば雨の中で人が消えた理由についても説明がつくんじゃないですか?」

 

「あのね?誰もが雨を浴びているんだ。人間一人をピンポイントに狙えるものかね?」

 

 坂本や政田がどれだけいっても富永は信じない。

 

「とにかく、キミ達の話が本当だという確固たる証拠を持ってきてくれ!それがあれば、我々も本腰を入れるよ!」

 

 富永は捜査会議があるといって去っていった。

 

「どうするよ?」

 

「どうするったって」

 

 問われた政田は困惑した表情を浮かべる。

 

「どうしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 富永達の捜査は行き詰っていた。

 

 御崎の行方はわからず、彼を追っていたと思われる男の行方もわからない。

 

 偶然にも監視カメラに男が映っており、身元が判明。

 

 身元を調べていくうちに拳銃を入手した先がわかり、部下を連れて売人の家へ突撃するも売人は心臓を拳銃で撃たれて息絶えていた。

 

 完全に手詰まり。

 

 富永の上司も捜査を白紙に戻してやり直してみてはという始末。

 

 捜査の切り口は意外なところから持ち込まれた。

 

 悩んでいた富永のところへやってきたのは政田と新井千賀子、そして坂本と楠木の四人。

 

 

 政田と坂本は漂流していた例の船“第二竜神丸”が発見されたことを伝える。

 

 第二竜神丸はかなりの放射能を含んでおり、航海日誌などの情報からおそらく六人は体に異変をきたして怪物になっている可能性があることを話す。

 

 彼らの話を冷たくあしらおうとした富永だったが新井千賀子から彼女の通う店のスタッフの中に麻薬組織同士を繋ぐパイプ役になっているという情報を得て、彼女が歌でお店に出ている時を狙って一斉摘発をすることにした。

 

「うわぁ、大捕り物の予感!」

 

「そんな日に限って雨だしなぁ」

 

 雨具を着ながらカメラを構える楠木の傍でうんざりしながら坂本は店の周囲を包囲している警官隊の姿を見ている。

 

 彼らは気づかない。

 

 店の傍の川から浮き上がるように店へ向かおうとしている水の塊があったことに。

 

 富永が店内で部下へ指示して外に出ていく麻薬組織のメンバーが次々と逮捕されていく。

 

 しかし、メンバーの一人が発砲したことで島崎が異変に気付いた。

 

 島崎はメンバーのトップ内田を連れて店の裏口へ向かう。

 

 外には多くの警官達が待機している。

 

 島崎は舌打ちしながら控室のドアを開けた。

 

 控室には暇をしている女性が一人、寛いでいる。

 

「あら、どうしたの?」

 

 寛いでいる女性の足を退かして島崎は窓を開ける。

 

 窓の向こうは雨が降っていた。

 

 雨水が入ってきたことで女性は顔をしかめながら入口の方へ向かう。

 

 外を見た島崎は警官の姿がないことに笑みを浮かべた。

 

「よし、ここから」

 

 振り返った島崎は内田と女性の顔を見て不思議な表情を浮かべる。

 

 二人とも信じられないものをみたという表情で窓をみていた。

 

「うわっ!?」

 

 窓から這うようにやってきた液体を見て、島崎はバランスを崩す。

 

 ぶら下がっている衣装を巻き込みながら倒れた島崎は拳銃で液体へ発砲する。

 

 弾丸を受けても液体の速度は止まらず、やがて人の形をして島崎を覆い隠す。

 

 液体に包まれた島崎の体はあっという間に溶けだした。

 

 やがて、人の形をした液体は次の獲物へ狙いを定める。

 

「きゃああああああああああああ!」

 

 島崎が襲われている間に逃げ出した内田。

 

 女性は腰が抜けて座り込んでしまっていた。

 

 抵抗する暇もないまま、液体に女性は飲み込まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どんどん逮捕されていくねぇ?」

 

「富永先輩もほくほく顔だろうな」

 

「やぁ!」

 

 雨の中、傘をさして慌てた様子の政田がやってきた。

 

「あれ、研究室だったんじゃ?」

 

「千賀子さんから電話があったんだ!現れたらしい!」

 

「何だって!?」

 

 慌てて走り出す政田と坂本。

 

 少し遅れて楠木も追いかけていく。

 

 店内は捕り物のほとんどが終わり、店長と警官隊の誘導で普通に来客していた者達が帰っていく。

 

 入れ替わる形で入ってきた三人へ富永が出迎える。

 

「ありがとう、キミ達のおかげで摘発はほとんど完了だ。後はボスらしき人物を捕まえれば」

 

「富永!大変だ!千賀子さんが危ない!」

 

「何だって?」

 

 驚きの声を漏らす富永。

 

 その時、店内のホールへ慌てた様子の田口刑事がやってくる。

 

「大変です!坂田さんが!」

 

 逃げたメンバーがいないか探していた坂田と田口の両刑事は更衣室の傍を流れている液体を発見。

 

 生き物のように動く液体へ拳銃を発砲すると相手は人の形をとった。

 

 坂田が拳銃を鈍器として殴りかかろうとするも液体に包まれた途端、体がドロドロに溶けだしていく。

 

 その光景を見た田口は腰を抜かしそうになりながら慌てて救援を求めに来た。

 

 田口からの話を聞いた政田達は坂田刑事たちのいる場所へやってくる。

 

 坂田刑事の服が濡れた状態で散らかっており、彼の姿はどこにもない。

 

「触らないで!放射能反応が出ている!」

 

 触ろうとした坂本へ政田が制する。

 

「きゃっ!」

 

 楠木が悲鳴を漏らす。

 

 更衣室のドアが開いてふらふらと新井千賀子が出てくる。

 

「千賀子さん!」

 

 政田が慌てて倒れそうになる彼女を抱きかかえた。

 

「あそこ!」

 

 楠木が叫び指さす。

 

 坂本達がみると人の形をした液体が川の方へ逃げていく。

 

「撃て!」

 

 富永の指示で警官達が発砲するも液体は川に逃げ込んだ。

 

 翌日、全てのニュースが“液体人間”の存在について報道している。

 

 坂本の属している雑誌も“液体人間”のことが話題にあがっていた。

 

 そして、政田の城東大学の研究施設に大量のマスコミが集まっている。

 

 誰もが液体人間について情報を求めていた。

 

 警察上層部、政田、そして液体人間を目撃した坂本と楠木の二人も放射能の実験を見ている。

 

 放射能を浴びたカエルが液体になり、そのまま実験用のカエルを取り込んだ。

 

「何てことだ……」

 

「このように放射能を浴びて液体になっても生物としての精神が残るんです」

 

 息をのむ警察上層部に政田が説明する。

 

 その話を聞いて、坂本はある仮説が浮かんだ。

 

「なぁ、政田、新井千賀子さんの周りで起こった不思議な出来事って」

 

 警察上層部が帰った後、坂本は自らの仮説を政田へ話す。

 

「彼女の周りで不思議なことが起こっている原因、それは最初に液体人間へ取り込まれた御崎の意識が影響を与えているんじゃないか?キミの話では液体人間は元々の意識が残っているという、その意識があるから彼らは東京へやってきたという。もしかしたら取り込まれた側の意識も」

 

「そうなんだ。僕もそのことを考えていた。富永の話では御崎は執着というレベルで彼女にのめり込んでいた。液体人間になった後も彼女を思って、現れていたと」

 

「これで彼女の周りで起こる不可解な出来事の謎が判明したわけだ」

 

 政田は頷いた。

 

「後は液体人間をどうするかってことだが」

 

 話し込んでいると政田の研究室に富永がやってくる。

 

「やぁ、警察上層部も液体人間についての対策に本腰を入れることとなった。防衛軍も参加してくれる」

 

「それは心強い!」

 

「富永、地下室で発見された主犯の男だがね。彼はおそらく生きている」

 

「何だって?」

 

 液体人間の目撃の後、店の地下室で濡れた男の衣服がみつかった。

 

 その男こそが組織のトップのものであると判断される。

 

 トップが液体人間の犠牲になったことで事件の幕引きとなることに悔しがっていた富永は驚く。

 

「男の濡れた衣服を調べたが放射能反応はない。頭の良い奴だよ」

 

「奴を捕まえないと麻薬組織を潰せたとは言えないんだ」

 

「え、じゃあ、その男を追いかけるの?」

 

「いいや、まずは目先の問題、液体人間の対処だ。その対策会議が開かれる。政田、そして、キミ達も参加してくれ」

 

「え、俺達も!?」

 

 驚く坂本。

 

「当然だ、液体人間の存在を真っ先に信じた者達だしね」

 

「やったぁ~」

 

「何でお前が喜ぶんだよ」

 

 楠木の横で坂本は呆れながらも少しばかり興味が出てきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 対策会議では警察上層部、地球防衛軍の参謀、そしてウルトラ警備隊の古橋隊長が参加している。

 

 政田が代表として液体人間の構造についての仮説を話す。

 

「対策としては?」

 

「思いつく限りは炎で焼き尽くすことが最善かと」

 

「しかし、どうして、東京へ現れたのだ?」

 

「そのことですが」

 

 坂本が立ち上がる。

 

「最初、宇宙人の放射能を浴びて液体人間となった者達の出身は全員が東京、おそらく液体人間となった後も帰郷本能のようなものが残っていて、第二竜神丸を使って東京へ戻ってきたのだと考えられます」

 

「体が人でなくなっても故郷へ、か」

 

 古橋の言葉が酷く重たいもののように坂本は感じられた。

 

 液体人間殲滅作戦はウルトラ警備隊と警察の機動部隊が協力して行うことになる。

 

 幸いにも液体人間は町の一角にしか姿を現しておらず、川の流れなどの関係から移動したとは考えられないことからガソリンを川に流して炎で退路を断ちながらじわじわと炎で焼き殺すという計画になった。

 

「でも、悲しいよねぇ」

 

「何が?」

 

 楠木の言葉に坂本は尋ねる。

 

「液体人間のことよ。元は人間なのに人を襲うから怪物と判断されて殺されるって、可哀想」

 

「まぁ、人間に戻るための方法を探ろうにもあっちは俺達を襲う。何もしなければ人間が全滅だ……正体がわからないものを恐れるっていうのは人間の本質なのかもなぁ」

 

「あれ?政田さんは」

 

 楠木は政田の姿がないことに気付く。

 

「お前、気付かなかったのか?」

 

「え?」

 

「アイツなら新井千賀子さんのところだよ」

 

「……どうして?」

 

「はぁ」

 

 政田と新井千賀子は事件を通して恋愛関係を築き始めていた。

 

 液体人間の存在を人類が認知した日、彼女は液体人間に襲われて更衣室へ逃げ込み、政田へ助けを求めていたのだった。

 

 首をかしげる楠木の姿に坂本はため息しか出ない。

 

「お前、そんなんで大丈夫かねぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

液体人間殲滅作戦当日。

 

 ウルトラ警備隊のリサとユキ隊員の二人は高性能火薬放射器ストラグル7000を装着して警官隊と共に下水道の中へ入っていく。

 

「こちら梶、ルートAの封鎖完了」

 

「こちら東郷!ルートBの封鎖を完了しました!」

 

「えぇ、こちら渋川!ルートCの封鎖完了、隊長、全てのルートの封鎖を完了しました」

 

 水路の入口は梶と東郷、渋川がそれぞれガソリンで流した炎で退路を塞ぐことで準備完了をVCで報告する。

 

 仮設テントでは警察上層部とウルトラ警備隊隊長の古橋隊長が待機している。

 

「準備完了しました!」

 

 警官の一人が敬礼をして準備完了を告げた。

 

「了解!では……」

 

「現時刻をもって液体人間殲滅作戦を開始する!」

 

 古橋の合図とともに仮設テントから通信が発信される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。

 

 

 頭に包帯を巻いた政田と共に坂本と富永、そして楠木の四人は水路の近くを歩いていた。

 

 数時間前、新井千賀子とデートをするつもりだったのだが、麻薬組織の内田によって拉致されてしまう。

 

 必死に追跡したのだが途中で事故にあい彼女を見失ってしまう。

 

「このあたりで見失ったんだ」

 

「でも、政田さん、勇敢~。一人で麻薬組織のトップを追いかけるなんて」

 

「大学の教授が無茶するんじゃない。すぐに我々へ通報すべきだったんだよ」

 

「まぁまぁ……って、そろそろ殲滅作戦開始の時刻だな」

 

「……あれは?」

 

 楠木が下水路から流れてくる白いシャツを指さす。

 

 シャツには新井千賀子のイニシャルが記されていた。

 

「まさか、この中か!」

 

「まずいぞ、殲滅作戦の開始時刻だ!」

 

 富永が腕時計の時刻を見て慌てた声を上げる。

 

「あ、おい!」

 

 話をしている間に政田が下水路の中に入ってしまう。

 

「え、政田さん!?」

 

「アイツ!」

 

「先輩はすぐに対策本部へ!俺がアイツを追いかけますから!」

 

「あ、私も」

 

「バカ!お前はここにいろ!」

 

 富永は頷いた。

 

「仕方ない。すぐに応援を連れて戻る!無茶をするんじゃないぞ!」

 

「大丈夫ですって」

 

 坂本はサムズアップしながら政田を追いかけて下水路の中へ向かう。

 

 濡れているシャツを握り締めて楠木は下水路の中に飛び込んだ坂本の姿をみるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっ、ひっ」

 

 新井千賀子は恐怖で体が竦んで動けない。

 

 呼吸が口から洩れているが酷く乱れていた。

 

 内田に拉致された彼女は衣服を脱がされて下水路の中を歩かされる。

 

 拳銃を突き付けられて先頭を歩かされた彼女を内田は口説きながら、拉致した理由を話す。

 

 彼女を前から狙っていたこと、御崎には勿体ない等。

 

 恐怖と水で体温が奪われながら壁の中に隠されていた麻薬を取り出して、逃走しようというタイミングで液体人間が現れる。

 

 マンホールから脱出しようとしたが包囲網の準備を始めていた警官の姿を見て予定を変更。

 

 別の出口を見つけようというところで上から液体人間が降りかかって内田は溶けた。

 

 御崎の意思を宿している液体人間がふらふらと新井千賀子へ接近してくる。

 

 次は自分が狙われる。

 

 ドロドロと溶かされる内田や男達の姿が過ぎっていく。

 

 そして、次は自分という事で脳裏に政田の顔が浮かぶ。

 

「千賀子さん!」

 

 政田の声に千賀子は朦朧としていた意識が戻っていく。

 

 暗闇に慣れていた目が頭に包帯を巻いた政田の姿がみえた。

 

「政田さん!」

 

 近付こうとした政田を阻むように液体人間が阻む。

 

 政田を標的にして近づこうとする液体人間。

 

「このやろう!」

 

 坂本が追いかけている道中で拾った鉄パイプを振り下ろす。

 

 鉄パイプは液体人間の中に沈んで抜けなくなる。

 

「くそっ!」

 

 液体が鉄パイプを伝って坂本へ接近したので慌てて離れた。

 

 鉄パイプから離れて人の形をした液体人間が三人を狙おうとする。

 

 政田は新井千賀子を抱き寄せて守ろうとした。

 

 その時、下水通路の中で一斉に光が灯る。

 

「離れて!!」

 

 坂本は咄嗟に政田と新井を庇うようにして隅へ移動した。

 

 直後、火炎が液体人間を包み込む。

 

 ストラグル7000を装備したリサ隊員が液体人間に火炎をぶつけていた。

 

 火炎を受けた液体人間は逃げる様に下がっていく。

 

「キミ達!大丈夫か!」

 

 座り込んでいる三人へ防護服に身を包んだ富永が駆け寄って来る。

 

「本部に直談判してきた!キミ達の救援をね!」

 

「助かりました!」

 

「要救助者を保護!後退してください!」

 

 続けてやって来たウルトラ警備隊の梶と機動隊員らの誘導を受けて政田達は光が差し込んでくる方へ向かう。

 

 外に出たところで待機していた警官達から坂本、政田、新井は毛布を掛けられる。

 

 警官と一緒に楠木が笑顔で出迎えた。

 

 坂本は隣にいる政田に喜びの声をかけようとして止まる。

 

 目の前で政田と新井が嬉しそうに抱き合っていた。

 

 富永は責任者として席を外している。

 

 野次馬のようにカメラを構えようとしていた楠木の手を止めてその場を離れていく。

 

「酷く疲れた」

 

 隣でまだカメラを構えようとしている楠木を止めながら無事に生還できたことを坂本はようやく実感する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、警察の記者発表によって液体人間が撃退されたことが報道される。

 

 多くの人達が自分達の脅威になる怪物が倒されたということで安堵しただろう。

 

 だが、実際に液体人間と遭遇した者達は思う。

 

 

――あれで本当に終わったのだろうか?

 

 

 液体人間が宇宙人の円盤が撃墜された時に起こった放射能が原因で生まれた。

 

 ならば、もし似たようなことが起こった時、第二、第三の液体人間が出現するのではないだろうか?

 

 この事件はその未来を予期させる警鐘だったのではないか。

 

 その一言を書き残して坂本は記事をデスクへ送信した。

 

 




知っている人は知っていると思いますが、この映画は美女と液体人間です。

出ているキャストが素晴らしいんですよねぇ、見ていない人はオススメします。

アンケートに協力ありがとうございます。

結果、ウルトラQのシリーズからあの二人がでてきました。好きなんですよねぇ。

新キャラの彼らですが、またどこかで登場させようとは思います。

次回はオレガイル編の話。林間学校を予定しています。

ルミルミ登場予定ですよ?



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第十八話:林間学校の騒動(前編)

タイガの映画、待ち遠しいです。

林間学校編です。

意外と長くなったので、わけました。

続きは書きあがっているのですが、その次が出来上がっていないので、話ができ次第、進めていきます。


あと、一言、作者は葉山アンチではありませんので。それだけ伝えておきます。




 林間学校、それは休みの日などを使って学生が自然に囲まれて、カレーを作ったり、色々なことをする行事の一つ。

 

 都会から離れ、自然のマイナスイオンを沢山、浴びて色々なことを学ぶ。

 

 学校によっては自然に囲まれながらもエアコンのない学校で勉学に費やすという事もあり得る。

 

 そして、ボッチには地獄の行事でもある。

 

「はぁ、まさかなぁ」

 

 ため息を零す。

 

 目の前で楽しそうに会話をするワンピースに麦わら帽子姿の小町。

 

 ラフな格好をしている雪ノ下や由比ヶ浜。

 

 あと、川、あぁ、川崎もいる。

 

 そして、笑顔の戸塚。

 

 もう一度言おう、笑顔の戸塚(←これ大事)

 

 この日、奉仕部+アルファは平塚先生からの依頼で小学校の林間学校の応援要員として呼ばれていた。

 

 長期休暇でのんびりと休むことを考えていた俺だったが、平塚先生から脅迫という名前のお願いがきた為に仕方なく参加を応じたのである。

 

『ごきげんよう、比企谷君。今日も気持ち良い天気ですね。実のところ、貴方に先ほどから三十回ほど、電話をしているのですが繋がる気配がありません。寝ているの?寝ているのかな?もし、寝ているのだったら休みだからと不摂生な生活を送らずにそろそろ起きるべきだと思います。起きている?ねぇ、寝たふりなんてしていないよね?メールだから既読が付かないと思って安心していないかな?さて、先日からお伝えしていた通り、奉仕部は近隣小学校の林間学校の手伝いに参加してもらいます。忘れたとは言わないよね?そんなことを言う口は針で塗っちゃうよ?可愛い小学生が沢山います。そこでイケメン教師がいればぜひともお付き合いしたところです。ねぇ、なんで私は独身なのかな?運命的な出会いがないだけなのかな?それとも、既に売れ残りの籠へ片足を突っ込んでいるのだろうか?まだ若いし、まだまだいけるし、そりゃ二十代前半のピチピチには負けるかもしれないですけれど、私は売れ残りではありません、決してそんなことはないのです。話が脱線しましたが林間学校に参加してもらうことに比企谷君は渋々ながら承諾をしました。拒否しようとしたことは忘れていませんよ?学生だからって家で一日寝ているなんて許しません。さて、未だに連絡しても反応がないので迎えに行こうと思います。もし、このメールを見て、逃走を考えたのなら容赦しません。具体的に言えば私に見合った男性を探してもらうまで卒業させないという暴挙に出ようと思います。だから、ニ、ゲ、ル、ナ、ヨ?』

 

 前日の夜に空で謎の怪電波が漂っていて、それを調べる為にウルトラセブンとして宇宙を飛び回ったせいでくたくたで寝ていた俺は小町にたたき起こされて携帯を起動した際にこの一文を見た。

 

 背筋が凍るというのはまさにこのことだろう。

 

 氷の惑星に落下して氷漬けになる瞬間を思い出してしまった程だ。

 

 まぁ、目覚ましのセットを忘れた俺にも落ち度はあるのだが。

 

「しかし、何で戸塚達がいるんだ?」

 

「あたしが誘ったの!」

 

 にこにこと笑顔で手を挙げる由比ヶ浜。

 

「みんなで旅行みたいで楽しいじゃん!」

 

「旅行とは違うけれど、由比ヶ浜さんらしいわね」

 

「アンタ、いつもこんなのに振り回されているんだね」

 

 哀れみの目でこちらをみてくる川崎さん。

 

 やめろ、被害者だが、そんな目を向けられると本当に哀れな気分になるから。

 

 哀れみの目を向けられていることに気付かない由比ヶ浜。

 

 平塚先生が宿泊施設について説明をする。

 

 俺達は用意されている宿泊用のコテージ。

 

 幸運なことに俺だけ一人用の場所を利用という事になった。

 

 他のボランティア男子の数が多く参加したということで部屋が足りなくなったらしい。

 

 これは幸いだ。

 

 俺の影には居候の宇宙人がいる。

 

 宇宙人の食事を確保する点においてもこれは助かるのだ。

 

 問題は。

 

「あれ、ユイ達も来ているのね」

 

「優美子!」

 

 こういう偶然というのはあるのだろうか?

 

 ぞろぞろとやってきたのは俺の通う学校のクラスメイト達、付け加えるとトップカーストのメンバー達である。

 

 喜ぶ由比ヶ浜、雪ノ下はいつもより目つきが険しく思えた。

 

 前途多難、そんな文字が頭に浮かんで消える。

 

 ボランティア活動に参加することで生徒の内申点がもらえるということでスポーツ関係の部活に属している生徒はこういう行事に良く参加するらしい。

 

 トップカーストの葉山隼人の爽やかな笑顔付きの説明を聞き流しながら八幡達は川岸の岩に腰かけていた。

 

 既に小学生たちとの挨拶は終わっており、今は川で楽しく遊んでいる。

 

 水着姿で。

 

 生徒達や小町も水着を持参しており楽しそうに川で遊んでいた。

 

 葉山達トップカースト組はきゃーきゃーと小学生女子たちに囲まれている。

 

 イケメンは氏ねばいいのに。

 

「視線谷君はロリコンなのかしら?」

 

「誰がロリコンだ、誰が」

 

 俺の隣に雪ノ下が腰かける。

 

 当然のことながら雪ノ下も水着姿だ。

 

 長い髪を左右に結ってビキニタイプの水着。

 

 自身が美少女であることを自覚しているからこそ、どうすれば自分が可愛く見えるかということがわかっているのだが、雪ノ下は自分の好みの水着を着ている。

 

「ネコ好きは変らずか」

 

「悪いかしら?」

 

 可愛いネコのプリントがされている水着だ。

 

「別に、良いんじゃねぇか?」

 

「あら、褒めてくれるのね。ありがとう」

 

「べ、別に」

 

 小さく微笑む雪ノ下の言葉に八幡はそっぽを向く。

 

「はぁ、ペガも遊びたいよぉ」

 

 俺の足元からペガが顔を出す。

 

「バカ、見つかるだろ」

 

「うわふん」

 

 無理矢理、ペガを影の中に押し戻す。

 

「いつかは当たり前のように地球人と宇宙人が仲よく遊ぶ日が来るのかしら?」

 

「唐突だな」

 

 雪ノ下は流れる川を眺めている。

 

「だって、別宇宙では共存をはじめている場所があるのに、この星は未だに多くの宇宙人から狙われているのよ?きっと、夢の又夢と思ってしまうかも」

 

「そうだとしても」

 

 俺は自然と空を見上げる。

 

 どこまでも澄み切った青空。

 

 その向こうに無数の惑星があり多くの命があることを俺達は知っていた。

 

 だが、今の人類の実態はどうだろうか?

 

 防衛のため、兵力を増強、侵略者がやってくる日常。

 

 別宇宙でみたような共存は遠いだろう。

 

「だけど、信じなきゃ何も進まないってことを俺達は知った」

 

「……そうね、前と今じゃ、違うわ」

 

 流れる川の景色を見ながら雪ノ下は頷く。

 

「貴方のひねくれ具合もね」

 

「むむ」

 

 微笑みながら雪ノ下雪乃は立ち上がる。

 

「貴方も少しは楽しむべきよ?」

 

「あー、はいはい、小町達をみて癒されることにしますよ」

 

「シスコン谷君ね」

 

 呆れながら雪ノ下雪乃は立ち上がって川の中へ足を踏み入れる。

 

 雪ノ下へ由比ヶ浜や小町が駆け寄ってきた。

 

 小町や由比ヶ浜もビキニ姿。

 

 離れたところでボランティアに参加している男子(総武のトップカースト一部)が鼻の下を伸ばしている。

 

 そりゃ、美少女が水着姿で遊んでいれば絵になるというものだ。

 

「どうして、男っていうのはあぁもバカなんだし?」

 

「まぁ、仕方ないのでは」

 

 気付けばすぐそばに三浦がいた。

 

 三浦は水着姿だが、上着を羽織っている。

 

「遊ばないのか?」

 

「少し休憩、ユイの体力が信じられないくらいあって」

 

「あぁ」

 

 無邪気に遊んでいる由比ヶ浜は俺達の中で一番の体力がある。

 

 サバイバル技術を宇宙人から学んだだけあるというものだ。

 

「アンタは変っているし」

 

 いきなりディスられたんだが?

 

「おーい、比企」

 

「あ?」

 

 何やら不穏な空気が漂い始める。

 

 俺を呼びにやって来たのは川崎さん、

 

 黒いワンピース水着という姿が余計にスタイルの良さを引き出している。

 

 出しているのだが。

 

「(どうして、ここで二人は火花を散らすのやら!?)」

 

 影の中でペガも小さく怯えている。

 

 近距離でガンを飛ばしあう二人から俺はこそこそと逃げることにした。

 

 逃げた先で川に足をつけている小学生がいた。

 

 長い髪で、雰囲気が少し雪ノ下と似ている気がする。

 

「なに?」

 

「いや、そこで休んでいるのか?」

 

「悪い?」

 

「別に、良い場所を見つけたなと思って」

 

 少し離れて横へ腰かける。

 

 うん、岩の具合から昼寝にも最適かもしれぬ。

 

 

「怒らないの?」

 

「今は自由時間だ。独りでのんびりすることも問題はないだろうよ」

 

「……教師とかなら怒るのに」

 

「ボランティア、ただのお手伝いさんでそこまで干渉する気はない。ただ、言われたことをやることが今の仕事だ」

 

「変なの」

 

 小さく笑いながら少女はぶらぶらと足を川の中で遊ばせる。

 

「どうして、貴方はこのボランティアに来たの?」

 

「頼まれたから」

 

「そうなの?」

 

「それ以外に理由があるか?あ、小学生と遊びたいとかそんな欲望はないから安心しろ」

 

「聞いていないんだけど」

 

「保険だ。後になって性犯罪者として疑われないように」

 

「やっぱり、変」

 

 しばらく沈黙が続いた。

 

 のんびりしていたいがカレー作りの時間となったため、俺達は渋々、炊事場へ向かうこととなる。

 

「はわわ、カレー、いいなぁ」

 

「後で食べさせてやるから影から出るんじゃない」

 

 頭をひょこっと出してくるペガを押し戻す。

 

 これなら家でレトルトを食べさせていた方がよかったかもしれない。

 

 俺の目の前では雪ノ下、小町によって由比ヶ浜、川崎、三浦が料理の指導を受けている。

 

 小町、雪ノ下の指導によって由比ヶ浜も料理も技術もメキメキ上達していくことだろう。

 

 川崎さんと三浦が火花を散らして料理対決みたいなことが勃発しているけれど、まぁ、そこは良い思い出になると信じておこう。

 

 多分。

 

「……あん?」

 

 終わった道具を片付けようとしていた時、片隅でぽつんと座っている少女を見つける。

 

 川で俺が話していた子だ。

 

 

「あの子」

 

 

 ボッチとしての経験からあの子も同類であることを察知する。

 

 駄目だな、出会った時に気付かないとは、レーダーが鈍っている可能性がある。今度、特訓すべきだろうか?

 

「八幡、変な事を考えていない?」

 

「だから、影から出るんじゃないって!」

 

 ひょこと顔を出すペガを無理やり押し戻す。

 

「一人で何をしゃべっているの?」

 

 あっぶねぇ。

 

 少女がこっちへやって来る。

 

 あと少し遅かったらばれていたかもしれない。

 

「独り言だ、お前こそボッチか?」

 

「お前じゃない鶴見留美って名前がある」

 

「そうか、俺は比企谷八幡だ」

 

「……手伝おうか?」

 

「暇なら」

 

「じゃあ、やる」

 

 そういって鶴見は手伝い始める。

 

 無言の作業。

 

 一人だと少しは時間が掛かると思っていたのだが、二人だとあっという間に作業が完了してしまう。

 

「助かった」

 

「どういたしまして」

 

 それから俺と鶴見は近くのベンチに腰掛ける。

 

 他の班は楽しそうに片づけを始めていた。

 

 本来なら鶴見も班に交じって作業をしているはずなのだが、していない。

 

 導き出される結論は―。

 

「ま、いいか」

 

「なに?」

 

「何でもない」

 

 鶴見留美という少女がどういう状況であれ、この場限りの関係である俺達が手助けをするのが正しいとは思えない。

 

 そんなことを考えていた時だ。

 

 

『比企谷八幡』

 

 

 俺の脳裏にテレパシーで話しかけてくる者がいた。

 

 慌てて周囲を確認してみるが怪しい姿はみられない。

 

『キミと一対一で話をしたいことがある。今夜、川の近くで待っている。キミ一人で来てくれ』

 

 そういうと相手は一方的にテレパシーを打ち切った。

 

 こちらから問いかけても相手から応答することはない。

 

「何かいるの?」

 

 俺の見ている方を鶴見が眺めていた。

 

「いや、変な鳥を見たような気がして、見間違いだったみたいだ」

 

「ふーん」

 

 どうやらうまくごまかせたらしい。

 

 この時、鶴見留美がジッと俺を見ていることに気付いていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕方になるとこのあたり一帯は薄暗くなる。

 

 渡された林間学校のしおりによると早い時間に就寝となるらしい。

 

 俺達は割り振られたコテージでゆっくり休むということになるのだが。

 

「相談がある、少し良いかな?」

 

 コテージで呼び出した奴のための準備をしようとしたところで葉山に呼び止められる。

 

 渋ろうと思ったのだが、変なところでやってこられても面倒なのでついていくことにする。

 

 焚火を囲む形で奉仕部と川崎、戸塚、そして葉山グループのメンバーと話し合うことになった。

 

「今日、みていてなんだけど」

 

 葉山の話は予想していたというべきか、鶴見留美のことだった。

 

 小学生のグループの中で一人だけ孤立しており、それを何とかしたいという話である。

 

 三浦を除いた葉山グループは何とかしてやろうとやる気になっている。というより、葉山がなんとかしたいからという感じで自分の考えは放棄しているみたいに思える。

 

 何とか用意しておいたマッカンを一口。

 

「キミ達はどうしたいのかね?」

 

 話を聞いていた平塚先生が尋ねてくる。

 

「俺は、何とかしてあげたいと思っています」

 

 葉山の言葉に賛同する三浦を除くグループ。

 

「俺は反対です」

 

 俺の言葉に全員の視線が集まる。

 

「比企谷、なぜだ?」

 

「なぜって、俺達は何の為に此処へ来ているんだよ?ボランティアだろ。向こうと日常的に関わるというのならなんとかしたいというのはわかる。だが、俺達はあくまで部外者であり、今回、なんとかしたとしても、それは一時的な効果しかないかもしれない。そもそも、前提として、大事なことをお前は忘れていないか?」

 

「何を」

 

「その少女が助けを求めているかどうかということね?」

 

 雪ノ下の言葉に俺は頷く。

 

「葉山君、貴方はそれを確認しているのかしら?」

 

「いや、それは……」

 

「まずはそこを確認するべきよ。あくまで私達は部外者、本人が望んでもいないことをするのは偽善であり、ただの自己満足にすぎない」

 

「けど」

 

「そうやって、貴方はまた同じことを繰り返すのかしら?」

 

 絶対零度の眼差しで雪ノ下が淡々と告げると葉山は沈黙してしまう。

 

 今のやり取りでなんとなくだが、葉山と雪ノ下の間に何かがあった様子だ。

 

 葉山の取り巻きも雪ノ下の剣幕で沈黙している。

 

「じゃあ、この話はひとまず終わりってことでいいんじゃない?あーし、喉が渇いた、ユイ!何か買いに行こうよ!」

 

「いいよ!あ、サキサキとサイちゃん、ゆきのんも行こうよ」

 

 そういって女性陣?が離れようとしていることに気付いて俺も立ち上がる。

 

「俺も疲れたからコテージに戻るわ」

 

 平塚先生からも許可をもらったので俺達は離れる。

 

 コテージに戻ったところで影からひょことペガが顔を出す。

 

 用意しておいたカレーをペガに差し出した。

 

「はわわ!おいしい!」

 

 カレーをダークゾーンの中で放り込んで味わうペガ。

 

 俺はペガに出かけることを伝える。

 

「わかっていると思うが俺はこれから出かける。三時間くらいして戻ってこなければ、雪ノ下達にも知らせてくれるか?」

 

「うん、でも、大丈夫?」

 

「何ともいえないな、向こうは俺を名指ししてきたことから少なくとも周りを調べている可能性もある。まぁ、対策はいくつか用意しておくかな」

 

「無理しないでね?何かあればペガもすぐに駆け付けるから!」

 

 力強く答えるペガ。

 

「頼りにしているよ」

 

「任せて!」

 

 コテージを出て、俺は約束の場所へ向かう。

 

 現代の技術がない為、川の周囲は薄暗い。

 

 川の水が流れる音、月の光だけが俺を照らしている。

 

「待っていたよ。比企谷八幡君」

 

 川の向こう岸、そこからゆっくりと俺を呼びだした人物が現れる。

 

 夜闇に溶け込む様な黒衣とフードで素顔を隠していた。

 

 しかし、ウルトラセブンと融合してからの経験から相手が普通の人間ではないことを感じ取る。

 

「それとも、話題の赤い巨人、ウルトラセブンと呼べばいいかな?」

 

 そういって相手はフードを取る。

 

 フードの中から現れたのは黒い髪に白いミイラのような顔。黒い瞳がこちらをみていた。

 

「アンタ、メイツ星人か?」

 

「あぁ、そして、宇宙Gメンでもある」

 

 メイツ星人が身分証明書のように宇宙Gメンの証を見せる。

 

 宇宙Gメンとは、M78星雲、光の国の宇宙警備隊とは別に宇宙の平和を守る団体だ。

 

 今は亡きL85星人のように宇宙怪獣を専門としている者もいれば、密売人や犯罪者等、様々な犯罪分野を追いかけている組織。

 

 しかし、ウルトラセブンの知識としてある宇宙Gメンのマークとしては少し形が違う。それに、ウルトラセブンを知らない様子からして、おそらくこの宇宙に存在する宇宙Gメンなのだろう。

 

「その宇宙Gメンがこんな太陽系第三惑星へ何の用事なんだ?」

 

「凶悪怪獣を追いかけて私は第三惑星テラ、地球へやってきた」

 

「……凶悪怪獣?」

 

「そうだ、その怪獣を捕縛することでキミに協力を要請したい、ウルトラセブン」

 

 どうやら林間学校でも厄介ごとが起こるようだ。

 

 メイツ星人からの要請を聞いて、俺はため息を漏らしそうになった。

 

 

 

 




軽い説明

宇宙Gメン

出典はウルトラマン80から。
本文の説明であったように怪獣などを捕まえるお仕事。
細かいことはわからないが、M78星雲のウルトラマンも知っているからかなり有名な組織だと思える。
この世界での役割も同じようなものだが、未開拓惑星に関しては不用意な接触は控えることが原則と鳴っている。(←この分に関してはオリジナル設定)

メイツ星人ビオ
出典は帰ってきたウルトラマン&ウルトラマンメビウス
内容は原典と同じ、唯一の違いは宇宙Gメンという役割があるということ。


キャラクター情報、更新しました。

林間学校が終わったら何をしようかなぁ?




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第十九話:林間学校の騒動(後編)

「協力だって?」

 

 夜空の下、俺と対峙しているメイツ星人に俺は尋ねた。

 

「そうだ」

 

「いくらここが辺境だからといって優秀な人材が集まっていると言われている宇宙Gメンが正体不明な相手の手助けを借りるのか?」

 

「見知らぬ存在なら力を借りる事は考えないだろう。だが、キミの噂はこの宇宙に広まっているよ。あの邪悪な悪魔を倒した英雄だとね。第三惑星テラ、いや、地球のウルトラセブンと聞けば、知らぬものはいないと言われるだろうね」

 

「……仮に有名だとして、そんな俺に協力を要請するほど、宇宙Gメンは人手不足なのか?」

 

「そうではない。本来なら応援を求めるところだが、時間がないのだよ。緊急を要する。そこでキミに協力を求めたのさ。同じ宇宙人の手助けをしてもらえないだろうか」

 

「勿論、本当に困っているのなら手助けをするのは当然だ。しかし、キミのいう凶悪な生物というのは何だろうか?」

 

 思考が混ざりそうになる。

 

 一瞬、顔をしかめながらメイツ星人と目を合わせた。

 

「そうだな、協力を要請するなら伝えなければならないだろう。この星にギャビッシュが侵入している」

 

「ギャビッシュ……」

 

「キミも聞いたことがあるだろう?凶悪な生物だ」

 

「話だけなら聞いたことはある。見た目は可愛いが、その実態は凶悪で残忍。成長すれば多くの命を食らうと」

 

 俺自身はギャビッシュをみたことがない。

 

 だが、ギャラクシークライシスで俺を助けてくれたアスカ・シンさんから話を聞いたことがある。

 

 別の地球にやってきたギャビッシュはダイス星で大暴れして、多くの命を奪ったという。

 

「凶悪なギャビッシュが三体、地球へ侵入した」

 

「三体だと?なんで、そんなに」

 

「こちらの恥をさらすようで申し訳ないが……」

 

 メイツ星人の話によるとある惑星に現れたギャビッシュ三体を捕縛してブラックホールへ輸送していた時、何者かの襲撃を受けたという。

 

 襲撃によってギャビッシュは奪われ、彼以外の宇宙Gメンは負傷してしまった。

 

「事態は急を要することだ。故に私だけがギャビッシュを追いかけてきた」

 

 メイツ星人が俺へ流してくるミュー粒子の情報にウソはみられない。

 

 緊急性を要することはわかった。

 

「わかった、キミ達の手助けをしよう」

 

「感謝する。ウルトラセブン」

 

「今の俺は比企谷八幡だ。八幡と呼んでくれ」

 

「八幡か、では私のことはビオと」

 

 協力関係であることから握手をしようとする。

 

 しかし、ビオは動かない。

 

「握手は今回の事態が無事に解決してからにしてもらえるだろうか?」

 

「……わかった」

 

 急にビオの感情が伝わなくなったことに疑問を抱きつつも俺は頷いた。

 

「わかった、それで、ギャビッシュの情報は…」

 

「この地まで反応はキャッチできた。私の追跡に気付いたのか、今は身を潜めている。キミにはギャビッシュをみつけたらすぐに私へ連絡してほしい」

 

「あぁ」

 

「では、また、何かあればこちらから連絡しよう」

 

 そういってビオは闇の中へ消えていく。

 

 俺はビオの姿がみえなくなるまでその背中を見続けた。

 

 宇宙Gメンの追跡する凶悪生物、だが、それと別に何か問題が起こりそうな予感が俺の中で燻っている。

 

 そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャビッシュ」

 

 翌日、朝食の席で八幡は由比ヶ浜、雪ノ下、小町を交えてメイツ星人ビオが持ってきた情報を伝えていた。

 

「ゆきのん、知っているの?」

 

「一度だけ、ゼットン星人が教えてくれたわ……見た目で人を騙す凶悪な生物、最初は小さいけれど、その環境がギャビッシュに適応していれば瞬く間に成長して様々な能力を持つと」

 

「雪ノ下の話が事実だとして、時間はあまりないかもしれないな」

 

「ねぇねぇ、お兄ちゃんもギャビッシュをみたことがあるの?」

 

「ない、だが、知り合いから教えてもらったことがある」

 

「えぇ!?お兄ちゃんに知り合いがいるの!?」

 

 小町、ここでディスるのやめてもらえない?

 

 視線で訴えるが口から舌をちょろりと出すだけだ。

 

 可愛いけれど、このタイミングでやってほしくなかったなぁ。

 

「小町、話の腰が折れるから勘弁してくれ」

 

「てへ!」

 

 笑顔を浮かべる小町に癒されるけれど、真面目な話の途中なんだよなぁ。

 

「こそこそ、何を話しているし?」

 

「おはよう!八幡!」

 

「おはよう」

 

 話し合っていると三浦や戸塚、川崎たちがやって来る。

 

 どうやら俺達が話しているのは少しばかり目立っていたらしい。

 

 離れたところでこちらをみている葉山グループの姿があった。

 

「なぁ、このあたりで変な生き物、みなかったか?」

 

「ヒッキー!?」

 

「変な生き物って、どんな?」

 

 三浦が川崎を睨む。

 

 え、話しかけたらいけないの?

 

 視線を気にしていない様子の川崎が続きを促す。

 

 この空気を気にしていないって、ある意味、尊敬ものだな。

 

「えっと、ふさふさしていて、青い生き物だな」

 

「え、そんな生き物いるし?」

 

「比企谷君が話をしているのは未確認生物よ。なんでも、このあたりで目撃されたことがあるっていうのを本気にしているみたいなの」

 

「へぇ、八幡ってそういうものを信じるんだ!」

 

 雪ノ下のフォロー?は助けるけれども!

 

 幻想性物がいることを夢見ている男子みたいな感じになっているじゃねぇか。

 

 戸塚から可愛いと言われたことは嬉しいけれども!?

 

 平塚先生や小学校の教師がやってきて、この話し合いはなしになった。

 

 時間を見て、ギャビッシュ探しをするしかないだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「電波の反応は?」

 

 その頃、ウルトラ警備隊は謎の怪電波の調査をしていた。

 

「相変わらず微弱ですが、問題ありません。今度は逃しませんよ」

 

 古橋の問いかけに通信隊員が力強く答える。

 

 梶やユキも加わりながら昨日から発進されている謎の電波の場所を追っていた。

 

 しばらくして、怪電波は千葉の山林地帯であることがわかる。

 

「怪電波の調査を行う。東郷!リサ!ポインターで出動!」

 

「「了解」」

 

 東郷とリサの二人はヘルメットを手にポインターに乗って怪電波の調査の為、出動する。

 

 比企谷八幡達がいる林間学校の場所へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしているの?」

 

 昼の食事時、隅っこでチビチビと食べていた俺のところへ鶴見留美がやってきた。

 

 その手にはトレーにのった昼食がある。

 

「一人か?」

 

「みんな、子供なんだもん」

 

 鶴見はそういって対面側へ座る。

 

「俺ならいいのか?」

 

「他の人となんか違う」

 

 そういって鶴見留美はこちらをみてくる。

 

 目は俺に対する興味などの感情が込められていた。

 

「違えばいいのか?」

 

「そういうんじゃないけれど、昨日から貴方達をみていて、普通と違うなと感じた」

 

「なぁ、お前は今の状況に対してどう思う?」

 

「お前じゃない、鶴見留美」

 

「わかった、鶴見、じゃあ、お前は今のハブられている状態をどう思う?」

 

「別にどうでもいい……私が受けているのは唯のスルー、バカみたいなことをしている人達と一緒にいたいとは思わないかな。一緒にいても絶対にうまくいかないと思うし……八幡は周りが餓鬼だって思ったことない?その中にいたくないって感じたことは?」

 

 随分と心を開いてくれているな。

 

 渋るかと思ったら本心をぶつけてきたことに驚いてしまう。

 

 問われている俺は首を振る。

 

「ないな」

 

「他人や周りの餓鬼みたいな考えよりも、やりたいことを見つけた」

 

「やりたいこと?」

 

 不思議そうにこちらをみてくる彼女に今の俺はどう映っているのだろう。

 

「お前も周りが餓鬼とか、居たくないと思うよりも、自分が本気でやってみたいことを探してみるといいかもな。そうしたら新たな発見というのがあるかもしれないぞ」

 

「……わからない」

 

「すぐにどうこうは難しいかもな。だが、周りを気にせずに探してみれば、みつかるはずだ」

 

「経験談?」

 

「ま、そんなところ」

 

 肩をすくめながら昼食をとる。

 

 しばらくちびちびと食事をしていた。

 

「八幡」

 

「なんだ?」

 

「あの騒ぎなんだろう」

 

 彼女の視線に振り返る。

 

 多くの小学生たちは何かを取り囲んでいた。

 

 何だ?

 

 気になり立ち上がる。

 

「なっ!」

 

 絶句してしまう。

 

 可愛いといいながら小学生たちが手を伸ばして撫でている青と白の可愛らしい姿をした生き物がいる。

 

 キラキラした瞳を浮かべているが、どこか演技めいた姿は本性を隠していることをより強調させているようにみえた。

 

「こんなところで見つかるのか」

 

 目の前にギャビッシュがいた。

 

 探している対象が見つかったことに驚くとともに小学生たちに囲まれているという問題にどうすればいいか、新たな問題が浮かび上がる。

 

「おいおい」

 

 茂みの中から現れて光線銃を突き付けているメイツ星人ビオの姿がそこにあった。

 

 現れたメイツ星人の姿を見て小学生たちは悲鳴を上げて逃げようとする。

 

 女の子の何人かがギャビッシュを抱えていた。

 

「そいつらを渡せ」

 

 光線銃を子供たちへ突きつけながらギャビッシュを差し出すように要求するメイツ星人。

 

 悲鳴を聞いて、葉山や平塚先生、そして、雪ノ下達がやってくる。

 

 生でみる宇宙人の姿に誰もが動きを止めていた。

 

 怯えている小学生たちに近づくメイツ星人ビオ。

 

『おい、どういうつもりだ。余計な誤解を与えてしまうぞ』

 

 テレパシーでビオへ問いかける。

 

『時間がないのだ。この星の大気はギャビッシュの成長を促進させてしまう。もう間もなく奴らは巨大化してしまう。その前に捕縛するのだ!』

 

 焦りがテレパシーを通して伝わってくる。

 

 メイツ星人は自らを巨大化させる術を持たない。

 

 巨大化したギャビッシュを捕まえるための手段がないのだ。そのために彼が焦っていることはわかる。

 

 だが、

 

「子供たちに手を出すな!」

 

 ビオの焦りを隙とみたのだろう。

 

 葉山が駆け出して足で持っていた光線銃を蹴り飛ばす。

 

 武器が無くなったことと葉山が勇敢な先陣をきったことで彼のグループの男子達もビオへとびかかっていく。

 

「やめろ!離せ!」

 

「うるさい!悪者め!」

 

「いいぜ!隼人君!」

 

「やっべーしょっ!隼人君、まじカッケー!」

 

 子どもたちや事情を知らない者からすれば、勇敢な男子高校生が銃をつきつけている宇宙人を捕縛しようとしているようにみえるだろう。

 

 だが、より事態を悪化させていることを彼らは知らない。

 

「まずい、そいつを捨てろ!」

 

 異変はすぐに起こった。

 

 小学生の手の中にいたギャビッシュがぶるりと体を震わせると徐々に体が大きくなり始めている。

 

 異変を察した俺は走りながら小学生の腕の中にいるギャビッシュ達を突き飛ばす。

 

「何するの!」

 

 抱えていた女の子が大きな声を上げる。

 

「グルァァァァァァ!」

 

 雄叫びをあげて二メートルサイズになったギャビッシュが生えた爪を振り下ろしてくる。

 

 咄嗟に女の子を突き飛ばしたが、背中に熱が走った。

 

「お兄ちゃん!」

 

「ヒッキー!」

 

「八幡!」

 

 小町や由比ヶ浜、戸塚の悲鳴が聞こえた。

 

「邪魔だ」

 

「うわっ!」

 

 葉山達の拘束を振り切ったビオが指先にエネルギーを集めてギャビッシュへ放つ。

 

 念動力による衝撃波がギャビッシュの一体を吹き飛ばす。

 

 しかし、残り二体のギャビッシュが口の端から涎を垂らしながらこちらへ跳びかかろうとしていた。

 

「大丈夫か!」

 

 なんという偶然だろうか。

 

 ウルトラガンを構えたウルトラ警備隊の二人がこちらへやってきている。

 

 彼らはギャビッシュの姿を見るとウルトラガンを殺傷モードにして撃っていた。

 

 光弾を受けたギャビッシュはそれが自らを滅ぼす危険があると察したのだろう。

 

 振り返らずに山の中へ消えていく。

 

「良かった……」

 

 それを確認して、俺の意識は闇の中に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ、あの怪物は」

 

 ウルトラガンを構えながらギャビッシュの去っていった方向をみながら東郷はぽつりと漏らす。

 

「東郷隊員!」

 

 リサの声に東郷が振り返るとギャビッシュによって負傷した八幡の姿があった。

 

「すぐに手当てを」

 

「こ、こちらで!」

 

 東郷の言葉に小学校教師の一人が慌てて救護スペースを確保する。

 

 戸塚や平塚が八幡を抱えて運んでいく姿を鶴見留美や小町はみているしかない。

 

「どうして、ウルトラ警備隊がここに?」

 

 周りを警戒している東郷へ雪ノ下が話しかけてきた。

 

 幾分か冷静にみえた雪ノ下へ東郷は事情を話す。

 

 この地域で謎の怪電波が発生していたこと、その調査の為にポインターでやってきたところにモンスターレーダーに反応と悲鳴が聞こえて彼らはかけつけてきたのだ。

 

「怪電波?」

 

「ギャビッシュのものだろう」

 

 メイツ星人ビオがゆらりと立ち上がったことで東郷がウルトラガンを構える。

 

 銃口を向けられているというのにビオは平然としていた。

 

「どういうことかしら?」

 

 東郷の横に立ちながら雪ノ下は問いかける。

 

「ギャビッシュはずるがしこい生き物だ。自らを助けてくれるだろう存在をみつけると弱者のふりをする。その怪電波は自らを助けてくれるだろう愚か者を呼び寄せるための餌だ」

 

「餌だって……」

 

「もう守ってもらう必要もないから、電波の発信も止めているはずだ」

 

 肩をすくめていたメイツ星人がぐらりとバランスを崩した。

 

 身構える東郷だが、メイツ星人ビオは弱っているようにみえる。

 

「貴方、体の調子が悪いの?」

 

「この星の大気は穢れている。その穢れが我々メイツ星人とは合わない。それだけのことだ」

 

 顔をしかめながら告げるビオ。

 

 どうするかと悩んでいた時、一人の少女が前に出る。

 

 鶴見留美である。

 

「キミ!危ないぞ!」

 

 東郷が叫ぶも留美は振り返ることなく膝をついているビオへ近づいた。

 

 留美はビオの額から流れている汗を持っていたハンカチで拭う。

 

「何の真似だ」

 

「八幡を助けてくれてありがとう……それと体調が悪いなら休んだ方がいいよ」

 

「……」

 

「キミ!危ないから」

 

「どうして?どうして、助けたらダメなの?彼は八幡を助けてくれたよ?助けたらお礼をしなさいといつも大人は言うのに宇宙人じゃ、やってはダメなの?」

 

 振り返る留美は疑問を東郷や大人たちへぶつける。

 

 そこから先の言葉を東郷たちは何も言えなかった。

 

 しかし、彼は無言でウルトラガンをホルダーへ戻す。

 

 それが答えだというように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東郷隊員からの報告を聞いた古橋隊長はキャンプ地周辺の人達を避難させてギャビッシュ捜索のため、防衛軍の部隊を出動。

 

 古橋、渋川、梶、ユキの四名もウルトラホーク1号で現地へ急行する。

 

「いってぇ」

 

 意識を取り戻した八幡だが、背中に走った痛みに顔をしかめる。

 

「目を覚ましたか」

 

「うぉ!?」

 

 横を見るとベッドで寝ているビオの姿があり、驚きの声を漏らす。

 

「何で寝ているんだよ」

 

「この星の大気が体に合わなかったのさ……父と同じように」

 

「父?」

 

 ビオの言葉に八幡は怪訝な表情を浮かべる。

 

「今より二十数年前の話だ」

 

 メイツ星人ビオの話によると、恒点観測員であった彼の父親は地球へ訪れたことがあった。

 

 その際に超能力で暴れていた怪獣を封印したが、環境破壊が進んでいた時代であった為にビオの父親の体は病魔に襲われ、母星へ戻ることができなくなり、地球にとどまり、そして、命を落としたという。

 

「そして、私は調べた。父は、私の父は、地球人の手によって殺されたのだ」

 

 感情を押し殺そうとしているが強い憎悪が沸き上がっていた。

 

「そうか」

 

「驚かないのか?」

 

「キミがいうのなら事実だろう」

 

 融合しているウルトラセブンの記憶が八幡の中で浮き上がる。

 

 別宇宙においてもメイツ星人は地球へ来ていた。

 

 メイツ星人は老人の姿で地球人の子供と一緒に暮らしていた。

 

 しかし、彼を宇宙人恐れる民衆の手によって暴動が勃発。

 

 静観しようとしていた当時の防衛チームMATの前でメイツ星人は民衆によって命を落とした。

 

 それと似たような出来事がこの地球において起こったのだと推測できる。

 

「ビオ」

 

 八幡は静かに問いかける。

 

「今のお前は宇宙Gメンのビオか?それとも、地球人を恨むメイツ星人ビオか?それだけは答えてくれ」

 

 見つめられたビオは小さく首を振る。

 

「今の私は宇宙Gメンとしてギャビッシュを追っている。復讐などは考えていない」

 

「その言葉を信じるぞ」

 

 ビオから返事はなかった。

 

「ところで、ここはどこだ?」

 

「近くの仮設テントだ。お前はギャビッシュの攻撃を受けた為に手当てを受けていた。私は大気が肌に合わなかった為に、ここで休んでいた」

 

「説明ありがとうよ」

 

「……あ、八幡、起きたの」

 

「お前、何でここにいるんだ?」

 

「お前じゃない、留美!」

 

 頬を膨らませながら八幡へ水を差しだしてくる鶴見留美。

 

 感謝しながら容器を手に取った。

 

「そっちの人も大丈夫?」

 

「あぁ、少し良くなった」

 

 水を受け取ったビオも留美へ返す。

 

「キミ達、いつの間にか仲良くなっている?」

 

「その子は私達から離れないとダダをこねたのだ」

 

「ダダじゃないし、心配だったもの」

 

 留美からの話によると葉山達や小学生たちは教師と共に避難。

 

 この場に残っているのは身内の小町、平塚先生、それと奉仕部の二人だという。

 

「……ねぇ、八幡」

 

「なんだ?」

 

「八幡は何者なの?」

 

 探るように見上げてくる留美。

 

 その目はウソをついたら許さないと語っていた。

 

「はぁ……ペガ、出て来い」

 

「えっと、はーい」

 

「うわっ」

 

 八幡の足元の影からひょこっと顔を出すのはペガッサ星人のペガだ。

 

 現れたペガに留美は驚く。

 

 ペガは八幡の後ろへ隠れて僅かに顔を出す。

 

「えっと、はじめまして、鶴見留美ちゃん、僕はペガ、八幡の家で居候させてもらっている宇宙人なんだ」

 

「よろしく」

 

 差し出された手を留美はおずおずと握り締める。

 

「まぁ、こういうわけで宇宙人と接点があってな、ビオもそれが関係で俺に協力を申し込んできたんだよ」

 

「……すごい」

 

 留美は目を見開いて、八幡をみつめる。

 

「そんなすごいことじゃねぇよ、偶然と奇跡が合わさった結果に過ぎない」

 

「でも、凄い」

 

 キラキラした眼差しを向けられて居心地が悪そうな顔を浮かべる八幡。

 

 おろおろしているペガ。

 

 その光景を見てビオは笑みを浮かべる。

 

「お兄ちゃん!」

 

 変な空気が漂い始めていた時、小町が慌てた様子でテントの中にやって来る。

 

「怪獣が出たって!」

 

 小町の言葉に痛む背中を押しながら外に出る。

 

 すぐそばで防衛軍隊員がライフルで発砲していた。

 

 ギャビッシュは巨大な怪獣へ変貌している。

 

 小さかった時の可愛い姿はどこへいったのかというほどに瞳は鋭く、口からは数本の鋭い牙、手の爪も鋭くなっていた。

 

「退避だ!キミ達もすぐにここから逃げるんだ!」

 

 やって来た防衛軍隊員に言われて八幡達は避難を始める。

 

 今のままでは防衛軍が全滅してしまうだろう。

 

「仕方ないか」

 

 体が癒えないままウルトラセブンへ変身しても万全に戦えない。

 

 もう少し傷が癒えるのに時間がかかる。

 

 腰のピルケースから一つのカプセルを取り出した。

 

「行け!アギラ!」

 

 眩い閃光と共にギャビッシュの前に現れるのはカプセル怪獣アギラ。

 

 アギラは唸り声をあげてギャビッシュへタックルする。

 

 タックルを受けたギャビッシュは標的をアギラへ向けた。

 

 口の端から涎を垂らしながら襲い掛かる。

 

 アギラは逃げる様に躱してがら空きの胴体へ自らの角を突き立てた。

 

 悲鳴をあげるギャビッシュ。

 

 そのまま、アギラが優勢になると思っていた瞬間。

 

 山を飛び越えてもう一体のギャビッシュが現れる。

 

 現れたギャビッシュはアギラの尻尾を掴む。

 

 抵抗する暇もないまま、ギャビッシュによって振り回されるアギラ。

 

 もう一体のギャビッシュが口から光の針をアギラへ放つ。

 

 体に針が突き刺さり、悲鳴を漏らすアギラ。

 

「アギラ、戻れ!」

 

 このままではアギラが倒されてしまう。

 

 そう判断した八幡はカプセルへアギラを戻す。

 

 避難しようとした時。

 

「やめて!」

 

「やめてよ!」

 

 下がる防衛軍隊員と入れ替わるように避難したはずの小学生の少女達がギャビッシュへ訴えていた。

 

 少女達をみて、ギャビッシュが動きを止める。

 

「マズイな」

 

「あぁ」

 

「え?」

 

 ビオと八幡は鋭い目でギャビッシュを睨む。

 

 留美が理解できず戸惑いの声を漏らした。

 

 ギャビッシュは見た目に反して狡猾でずる賢い。

 

 今、動きを止めているのは彼女達の有用性を考えているのだろう。

 

「すぐに彼女達を下げるんだ!」

 

 防衛軍の部隊長の指示で隊員達が駆け出そうとする。

 

 その姿を見てギャビッシュが不気味に笑う。

 

 直後、少女達はギャビッシュの瞳の中へ吸い込まれる。

 

 悲鳴を上げる暇もないまま少女達はギャビッシュの手に落ちた。

 

「状況は悪化したな」

 

「そうだな、ギャビッシュの瞳の中には囚われた子供がいる。今のままだと防衛軍はおろか、ウルトラ警備隊も手を出せないだろう」

 

 その時になってギャビッシュの頭上をウルトラホーク1号が通過する。

 

 ギャビッシュ出現の報告を受けたのだろう。

 

 しかし、少女達が囚われている以上、迂闊に攻撃できない。

 

「ビオ」

 

「なんだ?」

 

「お前の超能力で子供たちを助け出すことは可能か?」

 

「出来る」

 

「俺が気を引くから助けてくれないか?」

 

「私の任務はギャビッシュを捕縛することだ。現地人の救助は任務にない」

 

 冷たいビオの言葉に小町やペガは何とも言えない声を漏らす。

 

 ビオは地球人を憎んでいる。

 

 だが、彼は宇宙Gメン。

 

 任務という鉄格子を作ることで彼の中にある復讐心を必死に抑え込んでいるのだ。

 

 彼の判断を八幡は責めるつもりはない。

 

「わかった」

 

 八幡はそういうと懐からウルトラアイを取り出す。

 

「キミの地球人を憎む気持ちはわかる。だが、いつまでも憎しみに囚われないでほしい」

 

 

 ウルトラアイを装着して眩いスパークと光を放ちながらウルトラセブンへ変身する。

 

 ウルトラセブンは不意を突く形で一体のギャビッシュをなぎ倒して、少女達を捉えているギャビッシュへ迫ろうとした。

 

「っ!?」

 

 手を伸ばそうとしたところで地面から手が現れてウルトラセブンの足を捕まえた。

 

 三体目のギャビッシュが現れたのだ。

 

 動きを封じられたウルトラセブンへ二体目のギャビッシュが尻尾から雷撃を放つ。

 

 雷撃によってダメージを受けるウルトラセブン。

 

 少女を閉じ込めているギャビッシュが口から針状の光線を放つ。

 

 動きを封じられているウルトラセブンは攻撃を受けるしかない。

 

 ウルトラホーク1号が二体目のギャビッシュへミサイルを発射する。

 

 ミサイルを受けたギャビッシュの動きが鈍った隙をついてウルトラセブンはエメリウム光線を撃つ。

 

 光線を口に受けたギャビッシュ。

 

 直後、ギャビッシュが笑みを浮かべて、口から光線を返した。

 

 倍の威力になった光線を返されて地面に倒れるウルトラセブン。

 

 地面から出現したギャビッシュが笑いながら倒れたウルトラセブンを足蹴にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷い……」

 

「はわわ、一方的だよう」

 

「お兄ちゃん……」

 

 小町達はギャビッシュによって一方的にやられるウルトラセブンの姿を見ているしかできない。

 

「そうだ、雪ノ下さん達に連絡を」

 

 避難させられた雪ノ下や由比ヶ浜へ伝えることができれば手助けしてもらえるかもしれない。

 

 小町が携帯を見た時、画面には「圏外」という表示。

 

「えぇ!?さっきまで」

 

「ギャビッシュだよ!アイツがきっと、連絡できないように邪魔をしているんだ!」

 

「そんな……」

 

 鶴見留美はギャビッシュ三体に足蹴されているウルトラセブンをみる。

 

 拳を握り締めていた留美はビオへ振り返った。

 

「お願い!」

 

 ビオの服の裾を掴んで留美は訴える。

 

「お願い、お願いします!ウルトラセブンを助けて!」

 

「……私の任務はギャビッシュの捕縛だ」

 

「もう、捕縛はできないんじゃないの?」

 

 留美の指摘にビオは言葉を詰まらせる。

 

 実際、彼一人だけでギャビッシュの捕縛という任務の完遂は不可能だ。

 

 今の彼にできるのは他のGメンの応援を待つこと、そして。

 

「お願い、ウルトラセブンを助けて」

 

「……お前は同じ地球人を助けてと言わないのだな」

 

「わからない、本当はクラスメイトだし、助けてって言わないといけないと思うんだけれど、それより、それよりも、ウルトラセブンを、彼を助けてほしいと思っているの」

 

「私は地球人を憎んでいる。助けると見せかけて殺すかもしれないぞ?」

 

「貴方はそんなことをしない」

 

「なぜ?」

 

 留美の断言するような言葉にビオは尋ねる。

 

「貴方は宇宙Gメンなんでしょ?さっき八幡に聞いた。宇宙の平和を守るために戦っている人だって、そういう人はとてもお人好しだって、だから、信じる。私達を憎んでいるのだとしても……目の前で困っている人を見捨てるなんてことをしないんじゃないかって」

 

 真剣な留美の言葉にビオはため息を吐く。

 

「地球人は憎い……だが、そのすべてを憎んでいるわけではない」

 

 ビオは歩き出す。

 

 テレポートでビオの姿が消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『聞こえるか?ウルトラセブン』

 

 倒れているウルトラセブンへビオがテレパシーで語り掛けてくる。

 

 ギャビッシュ達の攻撃で動けないウルトラセブンはぴくりと反応した。

 

『私が今からテレポートして、ギャビッシュの瞳の中の地球人を助ける。キミは奴らを引き付けてほしい。五分で彼らを助けて見せよう』

 

『信じていいのか?お前は地球人を憎んでいるのだろう?』

 

『憎んでいる。だが、それ以前に私は宇宙Gメンとしての使命を果たさなければならない。そのついでに地球人を助けるだけだ』

 

『……わかった、攻撃に耐え続ける』

 

 ウルトラセブンの言葉にビオは頷いた。

 

 ギャビッシュ達は自らの勝利を信じて疑わないのか、動かないウルトラセブンを踏みつけていた。

 

『今だ!』

 

 合図とともにウルトラセブンはギャビッシュ達から抜け出して頭頂のアイスラッガーを投げる。

 

 超能力で回転しながら二体目のギャビッシュを真っ二つにした。

 

 驚く残りのギャビッシュの隙をついて、ビオはテレポートで目の中に囚われていた小学生たちを救出する。

 

『地球人は助けた』

 

 ビオからのテレパシーに頷きながら戻ってきたアイスラッガーを構えて走る。

 

 三体目のギャビッシュが振るう尻尾を躱して懐へ入り込み、アイスラッガーを心臓部へ深く突き立てた。

 

 悲鳴を上げるギャビッシュへさらにアイスラッガーを突き立てて、とどめを刺す。

 

 仲間が倒されたことで怒りに染まるギャビッシュは口から針の光弾を放った。

 

 光弾を躱しながら迫る電撃を纏った尻尾をアイスラッガーで切り落とす。

 

 尻尾を切り落とされたことで悲鳴を上げるギャビッシュ。

 

 両腕をL字に組んでワイドショットが発射される。

 

 ワイドショットを吸収する暇もないまま、ギャビッシュは全身を光線で焼き尽くされて消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の役目は終えた。地球を去る」

 

「いっちゃうの?」

 

 クラスメイトの女子たちを助けたビオはそういって留美の前に現れる。

 

 別れを惜しむ様な留美の言葉に彼は小さく笑みを浮かべた。

 

「地球人というのは全て悪いというわけではないのだな」

 

「え?」

 

 ビオの呟いた言葉が聞き取れず、留美が尋ねようとするが一陣の風が吹いた時。

 

 そこに、ビオの姿はない。

 

「行っちゃったのか」

 

 留美は寂しそうな表情でビオが居続けた場所を見つめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前はツンデレか何か?」

 

「言葉の意味はわからないが、失礼なことだというのは理解できるぞ」

 

 離れた森の中で俺とビオは向き合っている。

 

 今の彼は宇宙Gメンとしての役目を終えている。つまり、メイツ星人ビオとして地球へ復讐をするかもしれない。

 

 まぁ、昔の俺ならそういうことで警戒をしていただろう。

 

「どうだった?地球人と話をしてみて」

 

「少し」

 

 ぽつりと呟いてビオは視線を逸らす。

 

「少しだけだが、父がなぜ、地球人を助けるなんてことをしたのか、わかった気がする」

 

 メイツ星人ビオの父親は地球人に殺された。

 

 憎しみの炎はまだ彼の中にあるのだろう。

 

 だが、それと別の感情が彼の中に宿った。

 

 そんな気がするのだ。

 

「これからどうするつもりだ?」

 

「私は宇宙Gメンとしての使命を果たす。次の任務がある」

 

 ビオはそういって自らの宇宙船を呼び出す。

 

 宇宙船の光が彼へ降り注ぐ中、思い出したようにビオが振り返った。

 

「忠告しておこう。ウルトラセブン、ゴーデスを倒して脅威が去ったと思っているようならそれは間違いだ。厄介な奴が地球へ向かっているぞ」

 

「厄介な奴?」

 

「まぁ、お前達ならなんとかできるかもしれないな。では、これで失礼するよ。比企谷八幡」

 

 ビオはそういって宇宙船に乗って去っていった。

 

 俺は宇宙船の姿が完全に見えなくなったことを確認して森を抜け出す。

 

 森を抜けたところで俺は葉山に出会う。

 

「比企谷、ここで何を?」

 

「帰る前に周辺の散歩だよ」

 

「そうか」

 

「ところで、葉山」

  

 俺は一つ確認したいことがあって葉山へ視線を向ける。

 

「お前、何であの子達をギャビッシュへ向かわせた」

 

「それは」

 

 今の反応でわかった。

 

 葉山はギャビッシュと関わっていた子達に何かを話した。

 

 話を聞いたあの子達はギャビッシュを説得しようと思ったのだろう。

 

「それは、あの生き物が悪くないと思ったから」

 

「無知は罪だ。お前が何も考えずにあの子達を促したから怪獣に囚われて、事態は悪化した」

 

「それは結果論に過ぎない。もしかしたら暴れることをやめた可能性だってある」

 

「だが、暴れるという危険性をお前は考慮していなかった。もし、宇宙人が助けてくれなかったらあの子達は今頃、怪獣に殺されていたかもな」

 

「そんなことは!」

 

 俺の言葉を認められないのだろう。

 

 葉山は顔を歪めていた。

 

「しかし、結果は出た。あの怪獣は凶悪で防衛軍に倒されたってな、ただ、善性を信じればいいってことじゃない」

 

 そういって俺は葉山と別れる。

 

 後ろで葉山がどんな表情をしていたのか知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、八幡」

 

 帰りのバスへ小学生たちがぞろぞろと乗っている中で鶴見留美がこちらへ気付いてやってくる。

 

「帰るんだな」

 

「うん、そっちは?」

 

「俺達も、まぁ、あれの事情聴取が終わったらだけど」

 

 本来ならすぐに帰る予定だったのだが、ウルトラ警備隊から事情聴取を受ける必要がある為、もう少し残らなければならない。

 

「そっか、じゃあ、お別れだね」

 

「まぁな」

 

「……そうだ、八幡の連絡先、教えてよ」

 

「なんで?」

 

 メモ帳を差し出してきた留美に俺は首をかしげる。

 

「何かあったらすぐに相談できるから」

 

「相談?」

 

「宇宙人とかおかしな出来事に遭遇したら」

 

「そうそうあるかよ」

 

 今回の事件は偶々、巻き込まれただけに過ぎない。

 

 そうそう、厄介な出来事に巻き込まれることなどないのだ……それを考えると今の俺の状態でかなり異常ではあるんだよなぁ。

 

「そんなことわからないじゃない。何かあったために連絡したいの。それ以外でも話をしたいし」

 

 留美の目は梃子でも動かない。

 

 そんな強さが感じられた。

 

「はぁ、わかったよ」

 

 渡されたメモに連絡先を書く。

 

 まぁ、小学生だし、いずれ無くしたとか捨てたとかで忘れるだろう。

 

 一回限りの出会いだ。

 

「ありがとう」

 

 それなのに、メモを受け取った留美は嬉しそうにほほ笑んでいる。

 

「あ、それと、八幡のおかげでやりたいこと、見つかったかも」

 

「そうか」

 

「そろそろ、行かないと……ペガも元気でね」

 

「うん!」

 

 だから、影から出るんじゃない!

 

 無理矢理、押し戻している間に留美はバスへ向かった。

 

「ったく、散々な林間学校だったな」

 

「でも、お兄ちゃん、満更でもなさそうな顔をしているよ?」

 

 やってきた小町からの指摘に俺は何とも言えない表情を浮かべた。

 

 え、マジですか?

 



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第二十話:風来坊

次の話が出来上がりましたので投稿します。

今回の話は三篇構成になるかもしれません。




休日。

 

 由比ヶ浜結衣はある悩みを抱えていた。

 

「うーん、これ、どうしょう?」

 

 由比ヶ浜は自室であるアイテムを見ていた。

 

 オーブリングNEO。

 

 愛染誠が拉致した人間の意識を集めて生み出したアイテムであり、ウルトラマンオーブダークに変身する際に使っていたもの。

 

 それがなぜ、由比ヶ浜の手元にあるのか。

 

 ゴーデスに操られて先兵となっていたオーブダークをゼットンと共に倒した時、なぜか由比ヶ浜のところへやってきた。

 

 本当は八幡や雪ノ下へ相談をすべきなのだが、悪いものにも思えなくて悩んでいる。

 

 悩んでいた由比ヶ浜は机に置いていた端末からの着信音に顔を上げた。

 

「あれ、優美子からだ」

 

 親友の三浦優美子からの着信のため、ボタンをタップする。

 

「優美子?」

 

『あ、ユイ?今、いい?』

 

「うん!どうしたの?」

 

『昼さ、暇ならあーしと食べない?暇でさぁ』

 

「良いよ!どこいく?」

 

 話し合いの末、無難にジャンクフードの店に決まった。

 

「ってわけでさぁ」

 

 お手頃価格のセットを食べながら由比ヶ浜は優美子と談笑をしていた。

 

 ありふれた話だが、平穏以外の世界を知っている由比ヶ浜からすれば、この時間はとても大事なものだということを知っている。

 

「そういえば、ユイはヒキオとの関係はどうなったし?」

 

「へ?」

 

 突然のことに目を丸くする由比ヶ浜。

 

「な、ななななな、何を言いだすの!?」

 

「そこまで動揺することないでしょ?」

 

「いや、え、何で!?」

 

「カマをかけてみただけなのに、その反応でバレバレでしょう」

 

 呆れた表情でため息を吐く優美子。

 

 真っ赤になった顔をドリンクで冷やしながら諦めたように肩をすくめる。

 

「隠しているつもりだったのになぁ」

 

「あーしも半信半疑だったけどねぇ」

 

 ニコニコと笑みを浮かべる優美子。

 

 由比ヶ浜が何か言ってやろうとした時。

 

「ねぇ、ユイ、アンタの鞄、何か、光っていない?」

 

「へ?」

 

 優美子に言われて由比ヶ浜は鞄を見る。

 

 鞄から光が漏れていた。

 

 戸惑いを隠せないまま、鞄を開ける由比ヶ浜。

 

 眩い光が鞄からあふれ出して二人を包んだ直後。

 

 店内から由比ヶ浜結衣と三浦優美子の姿が消える。

 

 しかし、誰もそのことに気付かないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

「あれ」

 

 光が収まると由比ヶ浜と優美子の二人は岩山が並ぶ山岳地帯にいた。

 

「え、あーしたち、何で、こんなところに?」

 

 戸惑いを隠せない優美子と比べて由比ヶ浜は冷静だ。

 

「(えぇ、また、ワームホールか何かぁ?でも、そんな感じなかったし、二回目にもなると冷静になるって、どうなんだろう)」

 

 無言で考えている由比ヶ浜が呆然としていると勘違いしたのだろう。

 

 優美子が肩を揺らしてくる。

 

「ユイ!ユイってば」

 

「あ、ごめん……あ、あれ」

 

 叩かれてハッとした表情を浮かべた由比ヶ浜は空を見た。

 

 空に浮かぶ二つの衛星。

 

「なに、あれ」

 

 震える声で優美子が呟く。

 

 見上げて由比ヶ浜は理解する。

 

 ここは地球じゃない、どこか別の惑星だと。

 

 別の惑星に来たことを理解した時、何かが近づいてくる音を由比ヶ浜の耳は捉える。

 

 音の方へ視線を向けると武装したロボット兵士達がやってきた。

 

 

「優美子、隠れるよ!」

 

「え、なん」

 

 戸惑う優美子を連れて近くの岩の蔭へ隠れる。

 

 やってきたロボットは光線銃を構えながら周囲を警戒していた。

 

「あれ、なん」

 

 

 

「静かに、音を立てると気付かれちゃうよ」

 

「ユイ……あれが、何なのか、知っているの?」

 

「多分」

 

 小さく由比ヶ浜は頷いた。

 

 だが、頭の中に疑問が浮かんでいる。

 

「(星間連盟はもうないのに……)」

 

 かつて惑星O-50で由比ヶ浜やそこに住む村人たちを襲った星間連盟の人型兵器。

 

 彼らは星間連盟が消滅したと同時に全てが機能停止していたはずなのだ。

 

 どういうことなのだろうか?

 

「ユイィ」

 

 不安に震える優美子が一歩踏み出した時、石がぶつかる音が響いた。

 

 人型兵器が一斉に音の方へ光線を撃つ。

 

「きゃああああああ!」

 

「優美子!」

 

 光線が周囲に次々と直撃して悲鳴を上げながら飛び出す優美子。

 

 少し遅れて岩陰から由比ヶ浜が顔を出す。

 

 二人へ光線銃を突きつける人型兵器。

 

 どうすれば、良いのか?

 

 由比ヶ浜と怯える優美子。

 

 その時、どこからか綺麗な音色が聞こえてくる。

 

 音色に戸惑い、銃を周囲へ向ける人型兵器。

 

 やがて、オーブニカを奏でながら一人の男性が現れた。

 

 テンガロンハットに革のジャケットを纏っている。

 

「感心しないな。レディーにそんなものを向けるなんて」

 

 オーブニカを仕舞うと同時に人型兵器たちの中へ飛び込む。

 

 人型兵器が近接用の武器を取り出すが、男の手によって次々と機能停止させられていく。

 

「凄い、あと、何かカッコイイ」

 

 ぽつりと漏らす優美子。

 

 その頬はうっすらと赤くなっている。

 

 戦っている男性がイケメンということもあるのだろうか?その姿なお姫様を助けるためにやって来た騎士かはたまた王子様か。

 

 しかし、由比ヶ浜はその男性に奇妙な既視感があった。

 

 出会ったことがないはずなのに、まるで何年も共にいたような感覚。

 

 そう、この感覚は似ている。

 

「(あの人、そう、ウルトラマン、ハヤタさんと出会った時と似ているんだ)」

 

 あっという間に人型兵器を無力化させた男は服についた汚れを払う。

 

「驚いたな。こんなところで人に会うなんて」

 

「貴方は?」

 

 オーブニカを懐へ仕舞いながら微笑む。

 

「クレナイ・ガイ、風来坊だ」

 

 にこりとほほ笑みながらガイは挨拶をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「侵入者ですか?」

 

「はい、一人は前から我々の計画を邪魔しているのですが、新たに二人」

 

「どうなっているのですか?侵入できないようにバリアーを展開していた筈なのですが」

 

「そうなのですが……」

 

「侵入者は?」

 

「山岳地帯の方へ逃げているようです。人型兵器を向かわせますか」

 

『待て』

 

 暗闇の中に聞こえた声に響く声。

 

 青いレディーススーツとタイトスカート姿の少女が顔を上げる。

 

 スーツとスカートの隙間からわずかながら臍が覗いていた。

 

 整った顔立ちと青いメッシュが入った髪の美女だが、顔の筋肉は全く動かない。

 

『奴らを向かわせろ』

 

「よろしいのですか?」

 

『外に気付かれるのは面倒だ』

 

 一瞬の沈黙。

 

 何かを含んだ感情の声に少女は頷いた。

 

「わかりました。出動させてください」

 

「わかりました」

 

 青いスーツ姿の男は頷くと暗闇の中へ消えていく。

 

『忌々しい光め』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、ここ、地球じゃない!?」

 

「そうだ……本当なら戻してやりたいところだが、この惑星は今、特殊なバリアーが展開されていて、中から出ることも、入ることもできない」

 

「何で」

 

 ガイから話を聞いてへなへなと座り込んでしまう優美子。

 

 隣で由比ヶ浜が支えながらガイへ尋ねる。

 

「あの、さっきの人型兵器は」

 

「あっちの方向」

 

 ガイはある方向を指さす。

 

「連中の基地がある。あのロボットはそこの護衛だ」

 

「じゃあ、その基地って、ペダン星人?」

 

「いいや、サロメ星人のものだ。ん?」

 

「アンタ達、何の話をしているの」

 

 困惑している優美子の前で由比ヶ浜とガイ同時にある方向をみた。

 

「え、なに?」

 

 轟音と共に地面へ降り立つ複数の影。

 

 その姿を見て、由比ヶ浜は目を限界まで見開く。

 

「サロメ星人め、やはりというべきか、なんていうものを!」

 

 ガイが怒りで顔を歪める中、現れた存在を睨む。

 

 赤と銀の人の姿をした巨人。

 

 その数五人。

 

「ウルトラ兄弟」

 

 銀河の平和を守るために戦い続けているM78星雲の光の戦士。

 

 それを模したロボットが彼女達を見下ろしている。

 

「ちょっと、何なの、一体、何なのよ!」

 

 ウルトラ兄弟のロボット達に見下ろされて悲鳴に近い声を上げる優美子。

 

「お前達は隠れていろ!ここは俺が」

 

「ガイさん!」

 

 駆け出していくガイへニセウルトラマンエースが己の拳を振り下ろす。

 

 衝撃と爆発で彼の姿が消える。

 

「オーブ!」

 

 暗闇の中でガイが叫ぶ。

 

 眩い光と共にニセウルトラマンエースを弾き飛ばすようにして一人のウルトラマンが現れた。

 

 胸にアルファベットのOを象ったカラータイマー

 

 額に縦長のクリスタルがあり、紫色の輝きを放っていた。

 

『俺の名前はオーブ。闇を照らして悪を撃つ!』

 

 現れた者はウルトラマンオーブ。

 

「オーブ、でも、前に見たのと何か違う」

 

「ううん」

 

 優美子の言葉を由比ヶ浜は首を振る。

 

「きっと、あれが、本物のオーブなんだ」

 

 ほとんど直感的なものだが、光の輝きを放つあのオーブこそが、本物のウルトラマンオーブなのだと、察する。

 

「優美子、隠れるよ!」

 

「あ、ユイ!」

 

 二人が岩陰に隠れると同時にウルトラマンオーブとニセウルトラ兄弟の戦闘が始まる。

 

 多対一だというのにオーブは光線技を使いながら互角の戦いを行っている。

 

 ニセウルトラマンジャックがウルトラランスを使えば、持ち前の速度で回避して、反撃を試みる。

 

 ニセウルトラマンが八つ裂き光輪を使えば、スペリオン光輪で相殺させた。

 

 ニセウルトラセブンとは正面からぶつかりあう。

 

 しかし、ニセウルトラマンエースのウルトラギロチンで視界が隠れた直後、ニセゾフィーのM78光線がオーブを捉える。

 

 光線を受けたオーブは近くの岩山へ体を打ち付けた。

 

「不利だし!あんな大勢いたら!」

 

「……優美子、ここにいて!」

 

「え、ちょっ、ユイ!?」

 

 驚く優美子を置いて、由比ヶ浜は鞄からジャイロを取り出す。

 

 ジャイロにクリスタルをはめ込む。

 

 眩い光と共に由比ヶ浜はグルジオキングへ変身する。

 

 雄叫びをあげながらグルジオキングがオーブに攻撃しようとしたニセゾフィーとニセセブンをなぎ倒す。

 

『キミは……』

 

 驚くオーブだが、ニセジャックとニセウルトラマンの攻撃で考えることを後回しにして戦いに意識を向ける。

 

 グルジオキングへニセウルトラマン達は攻撃を仕掛けるが強固な体皮と力技によって圧倒されていく。

 

 五体のウルトラマンを一か所にまとめたところで二人は必殺技を放つ。

 

『スペリオン光線!』

 

『ギガキングキャノン!』

 

 光線技と砲撃によって五体のニセウルトラマン達は大爆発を起こした。

 

 周囲へ飛び散るロボットの残骸。

 

 それを前にウルトラマンオーブとグルジオキングが向かい合いながら光に包まれる。

 

「キミは……」

 

 ガイは由比ヶ浜へ問いかけた。

 

「あたしは……どこにでもいる女子高生です!」

 

 由比ヶ浜は笑顔を浮かべる。

 

 

 

 



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第二十一話:過去からの憎悪

今回、過去編の壮大な?ネタバレあり。

個人的にこういう展開があったかもしれないとにおわせるような話大好きなんですよねぇ。


皆さんはどうです?もしかして、自分だけだろうか?


「送った部隊は全滅したようです」

 

『そうか』

 

 少女の報告に声の主は頷いた。

 

「破壊される最後の映像です」

 

 タブレットを操作しながら暗闇の中に映像が投影される。

 

 ウルトラマンオーブとグルジオキングの技が迫るところで映像が消えた。

 

「侵入者はウルトラマンのようです。怪獣がいるということは噂の怪獣使いの可能性が」

 

『違う』

 

 少女の報告を声の主は遮る。

 

『因縁か』

 

「どうしますか?」

 

 声の主が漏らした言葉に反応しないまま、少女は問いかける。

 

『捨てておけ』

 

「計画の障害になる可能性が」

 

『無駄に兵を消耗するつもりもない。なぁに、奴らは正義の味方だ。我々のような悪い事をしているような連中を放っておくようなことはしない。つまり、向こうからおのずとやって来る。その時まで準備をしておけばいい』

 

「わかりました」

 

『あぁ、それと、あれの起動準備をしておけ』

 

 少女が頷いたことを確認して、声の主から応答がなくなる。

 

「もうすぐ、果たせます」

 

 無表情だった少女が懐からあるものを取り出す。

 

「貴方の悲願を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、いや!!」

 

 ぺたんと座り込んでしまう優美子。

 

「わけのわからない場所に来て、襲われるし、ユイが怪獣に変身するし!もう頭いっぱいだし!」

 

「優美子……」

 

「今はひとしきり吐き出さした方がいい……そうすれば、多少は楽になる」

 

「わかりました」

 

 二人は気持ちを吐き出している優美子から少しだけ離れる。

 

 彼女の危機へすぐかけつけられるようにしておく為だ。

 

「キミのその力は」

 

「まぁ、話せば長くなるんですけど」

 

 優美子が落ち着くまでの間、二人はお互いのことについて話し合うことになる。

 

 話して分かったことだが、ガイは別宇宙の惑星O-50にある戦士の頂でオーブの光を手にしたという。

 

 今まで別宇宙の地球で戦っていたが突如、その地球をニセウルトラマンの軍団が襲撃した。

 

 調査の為にガイは別宇宙へやってきたという。

 

「そっちは?」

 

 問われた由比ヶ浜は鞄の中からあるものを取り出す。

 

「これは……」

 

「あたし達の世界で、ウルトラマンオーブのパチモンを生み出した奴が所持していたアイテム、です」

 

 今、思えば、由比ヶ浜達をこの世界へ呼び込んだのはおそらくオーブリングNEOが原因かもしれない。

 

「これはオーブリングと似たような力を感じる」

 

「やっぱり……じゃあ、これが惹かれて呼び合ったっていう可能性は」

 

「あるだろう、だが、そういうケースに遭遇した例はないからなぁ、何ともいえない」

 

 ガイもはっきりといえないことから由比ヶ浜は「そうですか」と短く呟く。

 

「ガイさんは、これから?」

 

「敵の本拠地へ向かう。あのニセウルトラマン軍団は各宇宙へ転送されている。それを阻止しなければならない」

 

「あたしも手伝います」

 

「いいや、キミ達はここで」

 

「ここも安全とはいえないじゃないですか。それに、戦える力は多い方がいいでしょう?それとも怪獣に変身する地球人は信用できない?」

 

「わかった、ただし、危険なことはしないでくれ」

 

「大丈夫です!無茶なんてたくさんしてきましたから!」

 

 力拳を作りながら笑顔を浮かべる由比ヶ浜の言葉にガイは苦笑するしかない。

 

 話し合っているとふらふらと優美子がやってくる。

 

 優美子は大きな音を立てながら由比ヶ浜の横へ座った。

 

「優美子、大丈夫?」

 

「少しはすっきりした。けれど、頭はまだぐちゃぐちゃしている」

 

「さっきよりかは顔色がよくなっている。吐き出したおかげだな。これを飲むと良い」

 

 いつの間にか用意したコーヒーの入ったマグカップを差し出す。

 

 受け取った優美子はコーヒーを飲んで顔をしかめる。

 

「美味いけれど、苦い……てか、何この味?」

 

「特別な豆だ。とてもうまいだろう?」

 

 そういいながらガイはラムネの瓶を取り出す。

 

「そっちがあるなら、そっち出すし!!」

 

 我慢できずに叫んだ優美子の姿に由比ヶ浜は笑みを浮かべるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユイ、隣、いい?」

 

 ぼーっと、空を見上げるあたしの傍に優美子がやってくる。

 

「いいよ」

 

 笑顔を浮かべると優美子は隣へ腰かけてくる。

 

 小さな岩の上だから、あたし達はぴったりと寄り添う形になった。

 

「なーんか、信じられないなぁ。あーしたち、宇宙へ来ているなんて」

 

「そうだねぇ」

 

「何か、ユイは落ち着いている」

 

「まぁ、その、申し訳ないけど、宇宙へ来たのは二回目だからねぇ」

 

「へ?」

 

 ぽかんとする優美子へあたしは話すことにした。

 

 一年前に体験した出来事。

 

 ギャラクシークライシスの話を。

 

 最初は信じられないと言っていた優美子だけれど、あたしがジャイロとクリスタル、それと旅の途中でみつけた綺麗な石などをみせた。

 

「いいなぁ」

 

 話を終えたところで優美子が空を見上げる。

 

「色々な星をみてきたんでしょ?あーしは地球しか知らないし、羨ましいと思うし」

 

「まぁ、優美子の気持ちはわかるよ。でも、まぁ、色々と苦労も絶えなかったけど」

 

 苦笑しながら思い出すのは出会いと別れ。

 

 彼らのことを思い出しながら手の中のクリスタルを握り締めた。

 

「ユイは何か夢ってあるの?」

 

「あるよ」

 

 優美子の言葉にあたしは迷わずに答える。

 

 夢はある。

 

 けれど、それは長くとても時間がかかるものだ。

 

「あたしを助けてくれた人の星へ行きたい。そこは酷く危険で命を落とすかもしれないと言われている……でも、そこへ行って声を高らかに伝えたいんだ」

 

「何を?」

 

「……内緒」

 

「えぇ、教えろし」

 

「だーめ」

 

 これだけはヒッキーやゆきのんにも伝えたことがない。

 

 あたしだけの胸の内に秘めて、いつか伝えたいもの。

 

 それは、色々なものがあるし、すぐに話したいこともある。

 

 でも、今は、まだ。

 

「自分にできることを精一杯やるから」

 

――今は優美子と一緒に地球へ帰る。

 

 自然とあたしはクリスタルを握り締めた。

 

 鞄の中にあるオーブリングNEOが小さな輝きを放っていたことにあたしは気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、あたし達は敵地へ乗り込むための準備を終える。

 

 ジャイロとクリスタルを確認する、あたしの横で優美子は髪の毛を一まとめにしていた。

 

「変かな?」

 

「そんなことないよ!似合っている。ね、ガイさん!」

 

「ん?あぁ、確かに活発なイメージになるな」

 

「!!」

 

 ガイさんに言われると嬉しそうな顔をしている優美子。

 

 あれれ?

 

 何か気になりつつも、あたし達は移動を開始する。

 

「一応、これを持っておくんだ」

 

 ガイさんは人間の姿でも人型兵器と戦えるほどの力を持っているらしい。

 

 あたしも出来るけれど、優美子はそうはいかない。

 

 だから、ガイさんが優美子へ人型兵器から奪った光線銃を渡すことは当然と思える。

 

 生きて地球に帰るため、自衛の手段として優美子はガイさんに銃の扱い方を教わりながら目的地へたどり着く。

 

「やはり、サロメ星人か」

 

「サロ、なに?」

 

「科学技術が発展した宇宙人だっけ?確か、ミシュラさんの話だと、ウルトラマンの偽物を作れるほどのロボット技術が発展していたとか、なんとか」

 

「どうでもいいけど、みしゅなんだって?」

 

「あたしの友達!」

 

「駄目だ、これ以上、驚くことがありそうで、混乱するし」

 

 ため息を吐く横でガイさんがどう突入しようか考えていた時。

 

「奇遇だな、こんなところで出会うとは」

 

「お前……」

 

 あたし達の横になんというか、こうチャラそうで悪そうな人が肩に刀をのせて立っていた。

 

 うん、この人、悪そうだ。

 

「うわぁ、ワイルドなイケメンだし」

 

 優美子ぉ?

 

 ガイさんが気になるような態度を取っておいて、反対側のタイプが現れたら反応するって、えっと、そういうのをぉ、ハーミーっていうんだっけ?

 

「ところで、そちらの可愛いお嬢さんたちはどちらかなぁ?」

 

「はい!あーしは三浦優美子っていいます!こっちは由比ヶ浜結衣!あの、ワイルドな貴方は?」

 

「俺はジャグラス・ジャグラー、いつかオーブを倒す男だ」

 

 笑みを浮かべながら手の中にある刀をいきなり振り下ろす。

 

 驚く暇もないまま、優美子を狙っていた人型兵器が両断される。

 

「ここは敵地だ。油断したら命を落とすぜ?」

 

 耳元で囁きながらジャグジャグさんは基地の方へ向かっていく。

 

「アイツ、おい、大丈夫か?」

 

「優美子?」

 

 ガイさんとあたしが呼んでも反応しない優美子。

 

 もしかして、どこかケガを。

 

「ヤバイ、惚れたかも」

 

「「え?」」

 

 優美子ぉぉぉぉ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガイさんとジャグジャグは悪態を叩きながら次々と人型兵器を無力化させていく。

 

 二人の関係はよくわからないけれど、ガイさんは「腐れ縁」ジャグジャグは「倒すべき敵」といっている。

 

 どこか似た者同士のようにも思えるなぁ。

 

「ねぇ、ジャグジャグ」

 

「待て、それは俺の事か?」

 

 あたしが気になっている疑問をぶつけようとすると信じられないという表情でこちらをみてくる。

 

「変かな?ジャグラス・ジャグラーなんでしょ?だったらジャグジャグじゃん」

 

「……お前、変な女だな」

 

「ジャグジャグもでしょ?」

 

 呆れたようなため息を吐きながらジャグジャグがこちらをみてくる。

 

「まぁいい、それで?」

 

「ジャグジャグは何の目的でこの基地へ来たの?」

 

「アイツを超えるためだ」

 

 ジャグジャグは先を歩くガイさんをみている。

 

 その目は嫉妬?のようなものから色々な感情が含まれている様にみえた。

 

「お前、そのアイテム、十分に使いこなせていないだろ?」

 

「え、まぁ、そうかな」

 

 ジャグジャグの指摘は事実だ。

 

 あたしはジャイロの力を使いこなせていない。

 

 ウルトラマンのクリスタルを使ってもウルトラマンに変身できないことや、怪獣クリスタルを使っても長く戦えないという事。

 

「あたしが最後にミッションを拒絶したからなんだけどね」

 

「拒絶?」

 

 何か尋ねようとするジャグジャグだったが、正面から人型兵器を前に刀を抜いて構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら、ここが心臓部らしいな」

 

 敵地へ潜入したあたし達は薄暗い空間にたどり着いた。

 

「気をつけろ、こういう場合、よくないことが起こる」

 

「奇遇だな、俺も同じ意見だ」

 

 身構える四人の前で一部に照明が灯る。

 

「お待ちしておりました。侵入者の皆様」

 

 現れたのはサロメ星人の少女。

 

 見た目はあたし達より幼い少女。けれど、相手は宇宙人、見た目は幼く見えても実年齢は上というのはありふれていること。

 

 けれど、何だろう。

 

 あの子の目は何も映していないようにみえる。

 

 まるで、人形のような。

 

『待っていたぞ』

 

 暗闇の中から響く声。

 

 機械で合成されているようなもので男なのか女なのかも判断できない。

 

 バッと少女の背後の照明が灯る。

 

「あれは」

 

「ほぉ」

 

「な、何だし、あれ」

 

 誰もが現れた存在に息をのむ。

 

 かくいうあたしも目を限界まで見開いていた。

 

 光に照らされている円筒形のカプセル。

 

 そのカプセルの中心で浮いている不気味な影。

 

 影はどことなく人の形をしている。

 

 乳白色の瞳、鉄色のような体。

 

 ヒッキーの知り合いであるアスカ・シンさんが変身していたウルトラマンダイナと酷似している姿。

 

 あぁ、間違いない。

 

 あれは、

 

 あれを、あたしは知っている!!

 

「ゼルガノイドⅡ」

 

 あたしが倒した怪獣。

 

『あぁ、間違いない』

 

 暗闇の中から聞こえる声はおそらくあたしだけへ向けられている。

 

『また、会えたな、下等生物』

 

「あなた」

 

「え、ユイ……知っている、の?」

 

 震えた声で尋ねる優美子へあたしは静かに頷く。

 

「あるよ、覚えている。アイツは星間連盟トップの息子で、あたしが、あたしが倒した宇宙人だった存在だよ」

 

――怪獣になってまで憎しみに囚われた哀れな存在。

 

 

 過去に倒したはずの存在とあたしは対面している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前が憎い!』

 

 あれはギャラクシークライシスが終わりに近づいていた頃。

 

 あたしはミシュラさん達とあるポイントを目指していた。

 

 ゆきのんともう一度、話をするため、彼女と友達になりたいと思ったあたしの前に彼は三度、現れた。

 

 一度目は惑星O-50、二度目はペダン星、そして、小さな惑星で。

 

 彼は会うたびにあたしへの憎悪を深め、そして自らの存在を歪めていった。

 

 二度目はエボリュウ細胞を。そして、三度目は。

 

 人造ウルトラマンの力であたしを倒そうとした。

 

 けれど、そこを利用されて、彼はゼルガノイドⅡという禍々しい存在になってしまう。

 

 その彼をあたしは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――××した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そう、お前によって私は体をずたずたにされた。だが、死ぬことはなかった!なぜか、わかるか?それは貴様に対する憎しみだ!』

 

 憎悪に染まった声でゼルガノイドⅡは叫ぶ。

 

 声に込められている憎しみは昔よりも増えているように感じられた。

 

『そして、運が良いことに私はサロメ星人の一体を操ることに成功した』

 

「操るだって?」

 

「そうか、そこの小娘を操って、あんな偽物のウルトラマンを用意したのか」

 

『あぁ、そうだとも、全てはそこにいる小娘と小娘の故郷である第三惑星テラを破壊する為さ!』

 

「だったら、どうして、別の宇宙へロボットを送り込む!」

 

『残念なことに、そこの小娘がどこの並行宇宙なのかわからなくてねぇ、私の体が復活した時にはギャラクシークライシスは終わっていた。そこの小娘も本来の星へ戻っていたというじゃないか。だから、探すために手あたり次第、送り込んだのさ』

 

「そのために多くの命が失われているんだぞ!」

 

 ガイさんの叫びはゼルガノイドⅡに届かない。

 

『目的の為の小さな犠牲だ。どうでもいい』

 

「なんだと!」

 

「やめとけ、ガイ。こいつに俺達の言葉は届かない。既に、狂気に染まっているからなぁ」

 

「ジャグラー……」

 

 ジャグジャグさんの言うとおりだ。

 

 彼はもう狂っている。

 

 話が通じているようにみえて、目的のためだけに命を伸ばしているだけ。

 

 あたしはジャイロを取り出す。

 

「ユイ?」

 

「ごめん、優美子、あたしは、あたしのやり残したことをやるよ」

 

「え?何言って」

 

 あたしは正面のカプセルを睨む。

 

 ゼルガノイドⅡはあたしをみて笑う。

 

『あぁ、待っていたぞ。この瞬間を、さぁ、電気を回せ!そして、新たな肉体を!』

 

「わかりました」

 

 カプセルの傍にいる少女が手元のスイッチを押した。

 

 すると、ゼルガノイドⅡの体へ次々と機械の手足が装着される。

 

 地面が揺れて上昇するカプセル。

 

 あたしはジャイロにクリスタルをはめ込む。

 

「ユイちゃん!」

 

「ガイさん、ごめんなさい」

 

 ごめんなさいといって、あたしはガイさんへお願いする。

 

「優美子を守ってください。必ず戻ってきますから」

 

 そういってあたしはグルジオキングへ変身する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地上に出現するゼルガノイドⅡ。

 

 続けて現れるグルジオキング。

 

 笑いのような奇声をあげるゼルガノイドⅡとグルジオキングの拳と爪がぶつかる。

 

 押し負けたのはグルジオキングだった。

 

『どうしたぁ?その程度かぁ?』

 

 ゼルガノイドⅡは笑い声を上げながら仰け反ったグルジオキングの頭部を掴んで膝を繰り出す。

 

 攻撃を受けて仰け反るグルジオキングへ両脚のキックを受けて近くの岩山へその体をぶつけてしまう。

 

 一方的ともいえるゼルガノイドⅡの攻撃にグルジオキングが反撃するようにネオボーンブレスターを放つ。

 

『無駄だ』

 

 ゼルガノイドⅡの左腕が輝く。

 

 同時にウルトラディフェンダーが展開されてネオボーンブレスターがはじき返される。

 

『ウソ!?』

 

 咄嗟に両手で防ぐが自らの攻撃が帰ってきたことに驚きを隠せない。

 

 怯んだグルジオキングを前にゼルガノイドⅡは腕を十字に構える。

 

 

――ソルジェント光線。

 

 

 咄嗟に地面へ伏せるグルジオキング。

 

 ゼルガノイドⅡが放った必殺技を回避することは出来たものの、次の攻撃の対応が遅れてしまった。

 

 

――エメリウム光線。

 

 

『なんで……』

 

 光線を受けたグルジオキングは地面を転がる。

 

 どうして、敵はウルトラマン達の必殺技を使えるのか。

 

 その謎はすぐに解けた。

 

『そっか、手足』

 

 ゼルガノイドに装着されたパーツはサロメ星人の技術によって作られたニセウルトラ兄弟のパーツ。

 

 四人のウルトラマンのパーツがつけられているから、それぞれの技が使えるのかもしれない。

 

 由比ヶ浜の推測を裏付けるかのようにゼルガノイドⅡはウルトラマンエースの技を放つ。

 

 切断技を自らの爪で弾き飛ばしながらグルジオキングの中で由比ヶ浜はポケットから一つのクリスタルを取り出す。

 

 思案していた時、ゼルガノイドⅡの周りからニセウルトラ兄弟のロボットが現れた。

 

『こんなんで終わり、なんてことはないぞ?俺の恨みを思い知れ!』

 

 ニセウルトラ兄弟が構える中でゼルガノイドⅡが不敵に笑う。

 

 

 

 




ゼルガノイドⅡ

ウルトラマンダイナ最終章に登場した怪獣。
元はテラノイドという人類が作ったウルトラマンだったが、スフィアに倒され、奇声された誕生した存在。
ちなみに、このゼルガノイド、テラノイドとスフィア、そして星間連盟の息子が色々なものを取り込んだ結果、誕生した存在。
ギャラクシークライシスの中盤において、由比ヶ浜結衣と死闘、その末に××された存在。
肉体の八割を失ったが、別宇宙で生存。
サロメ星人の作ったウルトラマンパーツの義手義足を用いて復活。



サロメ星人
ウルトラセブンで登場した宇宙人。
ウルトラセブンをコピーしたニセウルトラセブンを作れるほどの技術を持つ。
ギャラクシークライシスの後、別のサロメ星人がニセウルトラ兄弟を作成。
計画はダークロプスゼロによってとん挫したものの、新たに引き継いだ者によって三度、ニセウルトラ兄弟が製造された。


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第二十二話:オーブの輝き

本当は土曜日に更新予定だったのですが、色々なことがあり、遅れました。

次回の更新は時間がかかるかもしれません。

アンケートは今のところ、やはりというべきか、ウルトラマンティガに投票が入っていますね。

その次にジード、次の話の投稿までの結果で決めます。




「一方的だな」

 

「当然です。ゼルガノイドには最高傑作のパーツが取り付けられているのですから」

 

 ジャグラーの言葉にサロメ星人の少女が伝える。

 

「そして、貴方達もここで消えてもらいます」

 

 三人を包囲するように現れる人型兵器。

 

「ふっ、面白い」

 

 ジャグラーは不敵に笑いながらその体が黒いモヤに包まれる。

 

 モヤを切り裂いて、魔人態と呼ばれる姿になると蛇心剣で赤黒い斬撃を放った。

 

 斬撃によって人型兵器のすべてが破壊される。

 

「さぁ、終わりだ」

 

 表情を変えないサロメ星人の少女へ刃を突き付けるジャグラー。

 

「ちょ、ちょっと、待ってよ!」

 

「なんだ?」

 

 刃を振り上げたところで優美子に止められて振り返る。

 

「何をするつもりだし!?」

 

「あ?邪魔者は斬る、当然のことだろう」

 

「その前に、あーし、聞きたいことがあるから!」

 

 優美子はこれから殺されるというのに平然としている少女へ問いかけた。

 

「アンタ、何でこんなことしたの」

 

「何で、とは?」

 

 問われた意味が理解できないのか尋ね返す。

 

「こんな偽物のロボットをたくさん作って、あんな訳の分からない奴の下でなんでアンタはいるのかって、聞いているの。アイツに利用されているって、わかっているでしょ?」

 

 優美子の見た目はギャルそのものだが、他人を思いやれる優しい人物。

 

 そんな彼女からみて、サロメ星人の少女が何を考えているのかわからないのだ。

 

「そうですね、利用されていることはわかっています」

 

「だったら」

 

「だとしても、私は果たさなければならないことがあります」

 

「何をしようというの?」

 

「……姉の悲願の達成です」

 

「姉?」

 

 ガイが尋ね返す。

 

「私の姉は、回収した兵器を用いて、大量のニセウルトラマンを作成しました。そして、宇宙を支配しようとして失敗した」

 

 今でも鮮明に思い出せる。

 

 姉が計画の途中で死亡したという事。

 

 サロメ星の上層部自身が、これ以上の計画続行を放棄したという話を聞いた時、彼女は激怒した。

 

 姉の死が無駄ではないか。

 

 その時に悪魔が囁いた。

 

「だから、私は」

 

「バッカじゃないの!」

 

 冷たい目で優美子が少女へ叫んだ。

 

 大きな声に少女が目を見開く。

 

「姉の計画の為に自らを犠牲にしたってこと?本当にバッカじゃない。自分の意思はどこにいったのよ!意思がないものなんて、無意味じゃない!」

 

「そんなことは……」

 

「じゃあ、アンタは姉の計画とやらが完遂したらどうするつもりよ?征服した星をどうするとか、そういうことは考えているわけ?」

 

「え、あ」

 

 優美子に言われて続けて言葉が出てこない少女。

 

「あっきれた!姉の為っていうので、するのが素敵だと思っているわけ?そんなこと考える前に自分のやりたいことくらいしっかり考えてからにしなさいよ!」

 

 驚いて座り込んでしまう少女。

 

 優美子は腰に手を当ててフンスと息を吐く。

 

「すっげぇ、女だな」

 

「……あぁ」

 

 言葉だけで少女を圧倒した優美子に驚くジャグラーとガイ。

 

 直後、基地が大きく揺れる。

 

 映像の一つが表示されてゼルガノイドⅡが基地の壁を壊していくところだった。

 

 離れたところでグルジオキングがニセウルトラ兄弟と戦っている。

 

「行ってこい」

 

 映像を見ていたガイへジャグラーが言う。

 

「ジャグラー」

 

「勘違いするなよ。お前を倒すのはこの俺だ」

 

 入口からぞろぞろと現れる人型兵器の前に立つジャグラー。

 

 ガイは振り返り、オーブリングを取り出す。

 

「ウルトラマンさん!」

 

【ウルトラマン!】

 

「ティガさん!」

 

【ウルトラマンティガ!】

 

「光の力、お借りします!」

 

【ウルトラマンオーブ!スペシウムゼペリオン!】

 

 眩い光と共に現れるウルトラマンオーブは基地を破壊しようとしていたゼルガノイドⅡの前に現れる。

 

『邪魔だ!』

 

 ゼルガノイドⅡが振るおうとした拳を受け流すオーブ。

 

 高速移動でゼルガノイドⅡを翻弄しながらスペリオン光輪を放つ。

 

 回転する光輪をウルトラディフェンダーで弾き飛ばす。

 

 弾き飛ばされた光輪を移動して掴んで投げ飛ばす。

 

『ちぃ!』

 

 ゼルガノイドⅡは背中の触覚からバリアーを展開して光輪を防いだ。

 

【ウルトラマンオーブ!バーンマイト!】

 

 炎を纏いながら繰り出した拳がゼルガノイドⅡの顔を打ちぬいた。

 

 続けて繰り出される炎の拳に押され始める。

 

『舐めるなよぉおぉ』

 

 苛立ちの声を放ちながらゼルガノイドⅡはオーブの繰り出す攻撃を躱して基地の中へ手を突っ込む。

 

「あ、きゃっ!」

 

「ちっ」

 

 上から落ちてくる瓦礫をジャグラーが蛇心剣で切り裂いた。

 

「あ」

 

「駄目!」

 

 ゼルガノイドⅡの手が少女を捕まえる。

 

 優美子が助けようと手を伸ばすが、届かない。

 

 捕えられた少女をオーブの眼前へみせるゼルガノイドⅡ。

 

 人質を取られて動けないオーブの周りに新たなニセウルトラマン達が現れる。

 

 ニセウルトラマン達の光線を受けて地面へ倒れるオーブ。

 

 ゼルガノイドⅡが圧倒されているグルジオキングとウルトラマンオーブの姿を見て笑う。

 

 楽しそうに笑っていたゼルガノイドⅡの顔に光線が直撃する。

 

 とても小さな威力の光線。

 

 しかし、ゼルガノイドⅡにとっては不愉快だったらしく、視線を向ける。

 

 瓦礫の近くで光線銃を構えている優美子の姿があった。

 

「ふざけんな!この卑怯者!」

 

 怒りに顔を染めながら光線銃を撃つ優美子。

 

 その姿を見て苛立ちを感じたのか、ゼルガノイドⅡが足を振り上げる。

 

 足が優美子を踏みつぶそうとした時。

 

【グルジオレギーナ!】

 

 女性の悲鳴のような金切り声をあげて、現れたグルジオレギーナがゼルガノイドⅡを突き飛ばす。

 

 その際に手から零れ落ちた少女をキャッチした。

 

 呆然と見上げる少女とグルジオレギーナの目が合う。

 

 グルジオレギーナはゆっくりと少女を優美子の傍へ下ろす。

 

 優美子は光線銃を投げ捨てて、少女を抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『優美子、お願い』

 

 

 抱きしめあっている優美子と少女の姿を見て、グルジオキングの進化形態ともいえるグルジオレギーナは起き上がったゼルガノイドⅡと対峙する。

 

 ゼルガノイドは雄叫びをあげてソルジェント光線を放つ。

 

 グルジオレギーナは正面から光線を受け止めて突き進む。

 

 距離が縮まったところで肩と胸部に搭載されている【エルガトリオキャノン】を放つ。

 

 攻撃を受けて吹き飛ぶゼルガノイドⅡ。

 

 続けて攻撃を仕掛けようとしたところで、背後から光線に直撃する。

 

『なんで』

 

 背後から現れたのはウルトラマンダイナを模した巨人。

 

 人造ウルトラマン、テラノイドが光線を撃った状態で立っている。

 

『どうだ!俺は進化したのだ!エボリュウ細胞、スフィアの力によって、こうして模造品をいくらでも生み出せる!』

 

 ゼルガノイドの体からテラノイドが生み出された。

 

『そんな……』

 

 さらに現れるニセウルトラマン達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てこずっているようだな」

 

 苦戦しているオーブの前に現れるジャグラー魔人態。

 

 巨大化している彼の一撃によって破壊されるニセウルトラセブン。

 

『ジャグラー……』

 

『この調子でいくと、全て破壊するぞ?俺の手柄になるなぁ、お前はそこで寝ていろ』

 

『バカをいうな。こんなところで立ち止まっている暇はない』

 

――銀河の光が我を呼ぶ!

 

 眩い輝きと共に立ち上がると同時にオーブ・オリジンへその姿を変えて、聖剣 オーブカリバーを構える。

 

『オーブスプリームカリバー!』

 

 虹色の輝きを放つ必殺光線がニセウルトラセブン達を貫いた。

 

 蛇心剣を構えるジャグラーとオーブカリバーを構えるオーブ・オリジン。

 

 彼らを包囲するニセウルトラマン達と戦う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ニセウルトラマン達とテラノイド、そして、ゼルガノイドⅡの猛攻にグルジオレギーナは圧倒される。

 

 反撃で光弾を撃つも、それ以上の光線や技が返ってきて、グルジオレギーナの体を傷つける。

 

 蓄積されていくダメージに由比ヶ浜の意識も朦朧としていく。

 

 

――もし、自分がウルトラマンだったら。

 

 

 ふと、頭をよぎったのは過去に何度か自身が思ったこと。

 

 救えない命、救えなかった命。

 

 届きそうで届かなった手。

 

 何度、涙を零しただろう。

 

 何度、諦めそうになっただろう。

 

 何度、全てを放り出して逃げたくなっただろう。

 

 由比ヶ浜はそれでも足掻いて、頑張って、そして、今がある。

 

「――んな」

 

 朦朧としていた由比ヶ浜の耳が何かを捉える。

 

 小さくて聞き取りにくかったが、なぜかそれが由比ヶ浜の意識を奪わせることを許さない。

 

「あ――め――」

 

 体が痛い。

 

 酷く眠たい。

 

 そんな状態だというのに、倒れることをこの声が許さなかった。

 

 閉じかけていた目を開ける。

 

 瓦礫の中で少女を抱きしめながら由比ヶ浜へ叫ぶ優美子の、親友の姿がそこにあった。

 

 彼女の姿を見た途端、朦朧としていた意識が覚醒する。

 

 それと同時に強い輝きを放ちながら彼女の前にオーブリングNEOが現れた。

 

 咄嗟にリングを掴んで中央のボタンを押す。

 

『スペリオン光線!』

 

 叫びと共にグルジオレギーナの腕から光線が発射される。

 

 スペリオン光線を受けて数体のニセウルトラマン達が破壊された。

 

 グルジオレギーナを包囲しようとするニセウルトラマンとテラノイドだが。

 

【ストビュームダイナマイト!】

 

 近付こうとしたところでグルジオレギーナが炎に包まれて、大爆発を起こす。

 

 その爆発によって半数以上のニセウルトラマン達が吹き飛ぶ。

 

『なんだ、何だっていうんだ!?』

 

 炎の中から現れるグルジオレギーナの姿に後ろへ下がるゼルガノイドⅡ.

 

『ここで、全ての因縁に決着をつける!』

 

 叫ぶ由比ヶ浜はジャイロにオーブリングNEOをセットした。

 

【オリジウム光線】

 

 グルジオレギーナの両腕に集まるエネルギー。

 

 その後ろからオーブ・オリジンの姿が投影されている。

 

『また、負けるというのか!?この俺が!』

 

『また、じゃない、これで終わり!』

 

 叫びと共に放たれる必殺の光線。

 

 抵抗しようと光線を飲み込もうとするゼルガノイドⅡ。

 

 しかし、あまりの威力と光の奔流に飲み込まれた。

 

 巨大な爆発が起こる。

 

 爆炎の中からゆっくりグルジオレギーナが姿を現した。

 

「やった!」

 

 グルジオレギーナの姿を見て優美子はガッツポーズする。

 

 彼女の傍にオーブとジャグラーがやってきた。

 

 光と共に優美子たちのところへガイ、由比ヶ浜、ジャグラーがやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、あーし」

 

 ガバッと体を起こすとファーストフードの店内だった。

 

「優美子、急に寝ちゃうんだからびっくりしちゃったよ」

 

「え?あれ?」

 

 驚いて周りを見たり、自分の服をみてみるが汚れている様子もない。

 

 ぺたぺたと服を触る。

 

「夢ぇ?」

 

 ぽかんとする優美子。

 

「どうしたの?」

 

「え、うーん、何でもない」

 

「ね、ね、この後、服でも見に行かない?」

 

「いーよ!」

 

 笑顔で話してくる由比ヶ浜へ優美子は頷く。

 

 立ち上がってトレーを返却して二人は店を出る。

 

 そんな二人の姿をガイとサロメ星人の少女が遠くからみていた。

 

「本当に良かったのか?あのまま記憶を残しておくことも」

 

「この星の文明や技術レベルはまだ低いです。不用意に進んだ文明の技術をみせることは悪影響を及ぼす可能性もあります」

 

「確かに必要かもしれない、だが、お前自身はどうなんだ?」

 

「私、自身?」

 

「短い期間とはいえ、あの子のこと、気になっていたみたいだが?」

 

 ガイに言われて少女は由比ヶ浜と楽しそうに話している優美子をみた。

 

「別に、大丈夫です。それに、私はこれから罰を受ける者ですから」

 

「そうか、じゃあ、行くか」

 

「はい」

 

 ガイに頷いてから少女は優美子をみた。

 

「ありがとう」

 

 小さく呟いて胸元のペンダントを握り締める。

 

 サロメ星人の少女はウルトラマンオーブと共に光へ包まれて空へ去っていく。

 

「行くか」

 

 去っていくオーブの光を見ながらジャグラーは人ごみの中へ消えた。

 



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第二十三話:明日の行方

書きあがりました。

色々やっていて遅くなり申し訳ありません。

友達と旅行して、千葉でマッカンを飲んだり、ウルトラセブンを見直したり、色々と嫌なことがあったり、とりあえずこの話が書きあがったので投稿します。





 

「そっち、行かない方がいいよ」

 

 放課後、一色いろはが学校の廊下を歩いていると、呼び止められる。

 

 振り返ると女子生徒が立っていた。

 

 片手にスケッチブックを持っている。

 

「え?」

 

 ぽかんとする一色だが、女子生徒は行こうとしていた先を指さす。

 

「その先、スプリンクラーが壊れるから行くと濡れちゃうよ」

 

「へ?」

 

 女子生徒の言葉の意味がわからずに反応が遅れる一色。

 

 表情を変えずに一色の先にあるスプリンクラーを指さす。

 

「そのまま行ったらずぶ濡れになるよ」

 

「えっとぉ……」

 

「伝えたから」

 

 そういうと少女はスケッチブックを片手に持ったまま、反対側の通路へ去っていく。

 

 去っていく際に一枚の絵がはらりと落ちた。

 

 少女は気づかないまま、歩き去っていった。

 

 残された一色は首を傾げたまま目的地へ行こうとしたが、足元に落ちてきた一枚の絵に気付く。

 

 手に取って、絵をみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の奉仕部。

 

「東京都内にある倉庫が爆発か……原因は不明、物騒な話だな」

 

「ニュースによれば、廃倉庫ということらしいわ」

 

「へー、物騒だなぁ」

 

 新聞を見る八幡。

 

 小説を読む雪乃。

 

 ごくごくと紅茶を味わう結衣。

 

 いつものように三人でだらだらとした時間を過ごしていく。

 

 そこにやってくる者がいた。

 

「先輩!先輩!大事件です!」

 

 ガララ!とドアを乱暴に開けてやってきたのは一色いろは。

 

 一色の姿を見ると八幡は目を細めた。

 

「一色さん、入室する時はノックをしなさい。マナー違反よ」

 

「あ、ごめんなさぁい、雪ノ下先輩」

 

「よし、わかったら帰れ」

 

「酷いですよ!先輩!」

 

 頬を膨らませながら一色は隅に置かれている椅子を手に取って八幡の傍へ置く。

 

 触れ合えそうな距離に置かれたことで離れる。

 

 すぐに椅子を動かして近づく。

 

 離れる、近づく、を数分ほど繰り返して、八幡は折れた。

 

「何なんだ」

 

「照れ屋ですねぇ、先輩~」

 

「はいはい、あざとい、あざとい」

 

 からかう一色に八幡は呆れた息を吐く。

 

「あ、そうそう、いろはちゃん、何か用事があったんじゃないの?ヒッキーに」

 

「(こいつぅ、逃げようとした時に話題を戻しやがってぇ)」

 

 八幡が心の中で悪態をつく中で一色が思い出したように手を叩く。

 

「そうなんですよ!私!超能力者に出会ったんです!!」

 

「は?」

 

「ちょーのうりょくしゃ?」

 

「なぜ、そこで伸ばしたのかしら……超常現象といえるような力を操る者の事ね。例えば、手を触れずに物を動かす。人の心読み取るといったことがあるわね。超能力を題材としたSF映画が多いように、人々の関心が寄せられている分野でもある。ただ、実際に超能力者と呼ばれているものがいるけれど、本当にそうなのかどうか、はっきりとわかっていないわ」

 

 こういう時に役立つ雪ノ下辞書の説明に由比ヶ浜や一色は「へぇー」と感嘆とした声をだしている。

 

 一色はともかく、由比ヶ浜は別宇宙でサイコキノ星人に出会っているだろうに、と八幡は心の中で呟く。

 

「それで、お前のいう超能力者っていうのはなんだ?」

 

「予知能力です!」

 

 力説する一色に三人はなんともいえない表情を浮かべる。

 

 一色の話は昨日、一年生の女子からここから先へ行かない方がいいと言われた。

 

 最初は気にせずに向かおうとした一色だったが、やめたところ、数分後にスプリンクラーが誤作動を起こして廊下を水浸しにしたという。

 

 もし、一色が気にせずに歩いていたら全身ずぶ濡れになっていた所だった。

 

「それだけで、予知夢というのはどうかと思うわ。偶然という可能性もあるし」

 

 雪ノ下の言葉も尤もであり、八幡も心の内で同意した。

 

「後、これをみてください!」

 

 一色はポケットの中から一枚の絵を取り出す。

 

 絵はスケッチされたものだろう。

 

 どことなくリアリティのようなものが感じられた。

 

「これ、セブン?」

 

「そのようね、もう片方は……怪獣ね」

 

 八幡は絵を見て、一瞬、目を見開く。

 

 だが、そのことに雪乃や由比ヶ浜は気づかない。

 

「先輩?」

 

「あ、なんだ?」

 

「どうかしたんですか」

 

 一色だけは八幡の一瞬の変化に気付いた。

 

 不思議そうに尋ねてくる一色に八幡は首を振る。

 

「別に、絵が上手いなぁと思っただけだ」

 

「そうだね!」

 

「一色さん、この絵を描いた人が超能力者だというの?」

 

「多分、ですけれど、えっと、確かぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は夢を見る。

 

 都会の中で暴れる怪獣。

 

 水の中で漂うような感覚の中で少女は街が壊れる光景をみている。

 

 人々は逃げ惑い、ウルトラホークが出動して戦うも、怪獣に効果はない。

 

 一人の少年が眩い光と共に巨人、ウルトラセブンへ変身。

 

 戦いを始める。

 

 必殺技を放つ。

 

 その瞬間、怪獣の光線とぶつかり、大爆発が起こった。

 

 眩い光の中に少女は消える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また、か」

 

 壁にもたれて寝ていた少女は目を覚ます。

 

 額から流れる汗を拭いながらスケッチブックを開く。

 

 スケッチブックに絵を描く。

 

 描くのはウルトラセブンと怪獣。

 

 ウルトラセブンと怪獣が互いに光線を放つところを描き切る。

 

「安井さん」

 

 呼ばれて顔を上げる。

 

 クラスメイトの一人が声をかけてきた。

 

 名前は、知らない。

 

 自己紹介の時に名乗っていたかもしれないが、安井は覚えていなかった。

 

「なに?」

 

「えっと、外で呼んでいる子がいるよ?キミに用事があるって、友達じゃない」

 

「そ、ありがとう」

 

 友達なんていない。

 

 少なくともそう呼べる関係の人間は生まれてから一度もいないという自負がある。

 

 “こんなもの”さえなければ。

 

『こんな変わり者にあんな可愛い子がどんな用事なんだろう?』

 

 聞こえてきた声に安井は顔を歪めた。

 

「え、なに?」

 

「別に、どうも」

 

 気持ちの籠っていない感謝をして安井は教室の外へ出る。

 

 外に出て、待っていた人物を見て、舌打ちしそうになった。

 

 昨日の余計なお節介のツケが回って来たらしい。

 

「えっと、安井ハルカさんだよね?」

 

「そうだけど、貴方は?」

 

 誰かはわかる。

 

 しかし、そこはちゃんと口で名乗ってほしかった。

 

「私は一色いろは、同じ一年生だよ」

 

「そう、それで、一色いろはさんは私に何の用事?」

 

「昨日のお礼!あと、聞きたいことがあって」

 

「お礼ならいらない。あれは、偶然、聞きたいことに関しては私、興味ないから、これでいい?」

 

「駄目」

 

 ばっさりと拒絶しようとしたが相手も引き下がるつもりはないらしい。

 

 苛立ちを隠さずに睨んだのだが、相手は平然としている。

 

 

 どうやら意外とタフらしい。

 

 ここで話をして、余計な注目を浴び続けるのもよくはないだろう。

 

「場所を変えるからついてきて」

 

 主導権を握っておく。

 

 安井の言葉に一色は頷いて、彼女に続いた。

 

 やってきた場所は人気の少ない部室棟。

 

 昼休み時間帯ならば、余計な騒動も起きないだろう。

 

「それで、脅迫でもするの?」

 

「え?」

 

 先手を取ったのは安井だ。

 

 警戒するように一色へ尋ねる。

 

「何のこと?」

 

「惚けないでよ。考えていることなんてわかるんだから」

 

「あ、本当に超能力者なんだ!」

 

 驚いたような表情を浮かべる一色。

 

 心を読んでいた安井はため息を吐いた。

 

「そうやって、素直に認めたの、貴方がはじめてかな?大体は、何かトリックがあるんじゃないかと疑うから」

 

「多分、少し前なら疑ったかもしれないですね」

 

「そう、宇宙人に誘拐されて、不思議なことがあると思うようになったわけだ」

 

「凄い!」

 

「話は終わり?帰るよ」

 

「あ、待って!言いたいことがあるの」

 

 目を見開いて笑顔を浮かべる一色。

 

 だが、それもここまでだ。

 

 次からいよいよ、来るぞ。

 

 これから来る言葉に内心、身構える。

 

「昨日はスプリンクラーのこと、教えてくれてありがとう!」

 

「え?」

 

 驚いたように目を瞬く安井。

 

「何で」

 

「だって、安井さんが教えてくれなかったら私、ずぶ濡れになっていたんだよ?流石にずぶ濡れで帰るって最悪だもん!」

 

「まぁ、そうだけど」

 

「だから、ありがとうって感謝の気持ちを伝えるのは当然でしょ?」

 

「そうだけど……え、本当にそれだけ?」

 

「うん」

 

 笑みを浮かべた一色の心を咄嗟に読み込むがウソの類はない。

 

 本当にその気持ちだけ?何か利用しようとしているのではないか?

 

 疑いの目を向けられていることに気付いたのだろう。

 

「えっと、本当はその、色々と助けてもらえたら嬉しいなぁって思ったのですが、先輩に怒られちゃって」

 

「先輩?」

 

 ここで、安井の頭の中にあるイメージが浮かぶ。

 

 一色いろはが安井ハルカの超能力を羨ましいと呟いていたところで空き教室らしき場所で話している他の三人の人間が映った。

 

「二年の先輩!超能力を隠しているのは理由があるはずだから、自分勝手な都合で振り回すのやめろって、釘を刺されちゃいました」

 

「そう」

 

 どちらにしろ、誰かに言われなければ、自分の都合の良い風に利用を考えたわけだ。

 

 ならば、あまり深入りしない方がいいだろう。

 

 何の切欠で企みを起こすかわかったものではない。

 

 距離を取ろうと考えていた時。

 

「あ、危ない!」

 

 一色が手を伸ばして安井を引き寄せる。

 

 驚いてバランスを崩しながら居た場所から離れた安井。

 

 直後、椅子が落ちてきた。

 

 落下の衝撃で形が歪んだ椅子。

 

「だ、大丈夫?安井さん」

 

「えぇ」

 

 安井は上をみる。

 

 一瞬、こちらをみていた黒い影と目が合う。

 

 脳裏に人ではない存在の姿が映る。

 

「宇宙人……」

 

「え?」

 

 その呟きは偶然にも一色の耳へ届いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こりゃ、酷いな」

 

 都内の工場。

 

 原因不明の爆発を起こしたとして周囲は防衛軍の手によって封鎖されており、誰も立ち入ることができない。

 

 その施設内にウルトラ警備隊がいた。

 

 彼らは破壊されて工場として見る影もない施設を調査している。

 

「東郷隊員、どう?」

 

「駄目だな、火薬の反応がない。地球外の物質による襲撃だ」

 

 調査器具を手にしている東郷が首を振る。

 

「設置されているカメラは何者の姿も映していない。敵はどうやって攻撃を」

 

「……それもそうだが、問題はこの場所を防衛軍の秘密施設であることを知っての襲撃かどうかってことも問題だな」

 

 渋川の言葉に全員が同意する。

 

 破壊された工場。

 

 ここは地球防衛軍の秘密施設の一つである。

 

 侵略者がいつ、どのような攻撃を仕掛けてくるか、そういった対策の為に日本の各地にこういった秘密施設が存在していた。

 

 そして、この施設は過去に星人が引き連れてきた怪獣等の研究を目的とした施設である。

 

「滅茶苦茶に施設が破壊されているために、保管されていたデータのほとんどが消失しているらしい」

 

 やってきた梶が端末を片手にやってきた。

 

 瓦礫の残骸を調べていたユキが立ち上がる。

 

「この事件、シャドー星人の仕業じゃないだろうか?」

 

「シャドー星人?」

 

「そういや、過去のデータベースでみたことがあるなぁ、姿を隠す力を持っていて、その力で防衛軍の秘密倉庫を破壊した星人だ」

 

「今回もその、シャドー星人の仕業だって、ユキ隊員は考えるの?」

 

「あくまで類似性による話だが、過去も秘匿されていた秘密施設を連中は突き止めて爆破した……」

 

「否定はできないな。それも視野に入れて調査すべきだろう」

 

 渋川の言葉に全員が頷いた。

 

「そういえば、この施設って何の研究をしていたのかな?」

 

「極秘だってさ。上層部が独自に何かを調査していたらしいが、今回の事件でデータのすべてがおじゃんってわけさ」

 

 リサの言葉に東郷が話す。

 

「極秘、か」

 

 ぽつりとユキが漏らした言葉は誰も気づかなかった。

 

 地球防衛軍の地下に広がる一室。

 

 真鍋参謀の部屋で古橋隊長はある録音を聞いていた。

 

『今日の十時、〇〇工場が爆破されるよ』

 

『爆破?キミ、それはどういうことだい?』

 

『伝えたからね、どうなっても後は知らないから』

 

『キミ!おい!キミ!』

 

 真鍋参謀は録音のスイッチを切る。

 

「倉庫が破壊される三十分前にこの通報が防衛軍に届いていた」

 

「参謀、これは」

 

「そう、これと似たような話を我々は過去に体験している」

 

「ですが、安井君は予知能力を失っています。それにこれは……」

 

「女の子の声だ。計算機によれば、年齢は十代後半くらいだろうと推測されている。通報が送られてきた場所も特定できたが、残念なことに監視カメラの類がなくみつけられはしなかった」

 

「参謀は安井君のような超能力者の可能性を考えているのですか?」

 

「前例がある以上、否定はできない。何より星人の動きを我々は把握することができていなかった以上、この声の主しか、我々は手がかりがない」

 

 真鍋参謀の言葉に古橋は否定することができない。

 

「そこで、ウルトラ警備隊は倉庫の調査と共にこの声の主の行方を追ってもらう」

 

「わかりました」

 

 古橋は頷いて参謀室を後にする。

 

 部屋の中で真鍋参謀は小さく声を漏らす。

 

「キリヤマ君がいれば、またこういうだろうな。明日を探すと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 安井ハルカは一色いろはと共に事情を聴かれた。

 

 しかし、いきなり椅子が落ちてきたことを伝えても教師たちは信じられないという表情をするだけだ。

 

 実際、事件の後に屋上へ向かったが、誰もいなかったらしい。

 

 自作自演ではないかと彼らは疑っているのだ。

 

 何も言わない自分と比べて一色が真剣に訴えたことで一応、解放はされる。

 

「ありがとう」

 

「え?」

 

「貴方のおかげで解放されたから」

 

「別に、だって、本当のことだったし」

 

 感謝の言葉を告げると一色は笑みを浮かべる。

 

 男受けしそうな笑みだ。

 

 同性は嫌悪してしまいそう。

 

 通学路、偶然にも同じ方向だったので二人は歩いていた。

 

「でも、あの椅子、何だったんだろう」

 

「知らない」

 

――ウソだ。

 

 本当は知っている。

 

 あれは自分を狙ったもので、一色いろはは巻き込まれただけに過ぎない。

 

 遠ざけるつもりで悪い態度をとっているのに、離れない。

 

「はぁ」

 

「どうしたの?」

 

「貴方、何で普通に私と接するの?怖くないの?」

 

「怖い?どうして」

 

「普通の人にはない力があるんだよ。そんなの、恐れるでしょ」

 

「そうかな?私は嬉しいけどなぁ」

 

 一色の言葉に安井は目を丸くした。

 

「だって、他人にないってことは自慢できることでしょ?私はそういうのがあるって誇れると思う」

 

「……それは」

 

――持っていないから言えることだ。

 

 冷たくあしらおうと思えば、この言葉を投げればいい。

 

 しかし、安井ハルカという少女は不思議と二の句がでなかった。

 

 戸惑っていた安井へ迫って来る一台の車。

 

「危ない!」

 

 慌てて隅へ寄る二人。

 

 猛スピードで去っていく車は路上に転がっていた空缶をすりつぶすようにして消えた。

 

「この!危ないじゃないかぁ!」

 

 一色が車の方へ叫ぶ中。

 

 安井は腕を抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜から安井の身の回りで異変が起こった。

 

 異変といっても、物が宙に浮かんだり、ケタケタ笑う桃色の猿のような怪物が現れたとかそういう話ではない。

 

 視線を感じる。

 

 それも、一つや二つではない。

 

 数多くの視線が自分へ向けられている。

 

 だけど、周りに人影はない。

 

 こちらをみている気配だけが感じていた。

 

 そして、正体を彼女は知っている。

 

「(侵略者が私を見張っている)」

 

 侵略者たちは過去に予知能力を持つ人間によって計画が失敗したらしい。

 

 そのために似たような人間によって再び計画が邪魔されないように監視をしている。

 

 考えを読める安井はウルトラ警備隊へ通報することも考えたけれど、信じてもらえないとやめた。

 

 例の倉庫襲撃も事前に伝えていたというのに対策がされていない。

 

 つまるところ、悪戯と判断されてしまったのである。

 

 故に自分が助けを求めたところで門前払いされてしまうのだ。

 

 そのためにできることは。

 

「仕方ない、か」

 

 明日から早速、行動に移そう。

 

「あの人なら知っているかな?奉仕部って噂のこと」

 

 そんな期待を抱きながら安井は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後。

 

 安井は一色いろはを呼び止める。

 

「一色さん」

 

「あれ、安井さん?どうしたの」

 

「実は」

 

「どうしたんだい?」

 

 話を切り出そうとしタイミングで嫌な奴がきた。

 

 安井が振り返ると葉山隼人がやってくる。

 

 部活の途中なのだろう、スポーツウェアを着ていた。

 

「葉山先輩!あれ、部活中じゃ?」

 

「休憩時間なんだ。その間に飲み物を買ってこようとね、そっちは」

 

「行こう」

 

「え、あ、また後で!」

 

 一色の腕を引きながら安井ハルカはその場から離れる。

 

 はっきりって安井は葉山隼人が嫌いだ。

 

 彼の心の中を偶然にも読み込んで酷く嫌悪の感情を抱いた。

 

 あの男は自分で何かを切り開くことはしない。

 

 ほとんどが現状維持、もしくは場の流れに任せているばかり。

 

 正直言って、この話を彼に聞かれることは避けたかった。

 

 だから、見落としていたのだろう。

 

 彼の心を読まなかったからこそ、本人かどうか見抜けなかった。

 

 ニヤリと不気味な笑顔を浮かべている葉山隼人の姿に安井は気づけなかったのだ。

 

 手を引かれて廊下を歩く一色はおそるおそる、尋ねた。

 

「えっと、安井さんは葉山先輩と何かあった?」

 

「別に、ただ、嫌いなだけ」

 

 ぽつりと呟きながら安井は立ち止まる。

 

「話がずれたけれど、一色さん、奉仕部の部室ってどこにあるか知っている?」

 

「奉仕部?え、何で」

 

「相談したいことがあるの……奉仕部の人に」

 

「えっと、どんな」

 

「それは困るな」

 

 聞こえた声に安井は振り返る。

 

 そこにいたのは、葉山隼人。

 

 しかし、葉山隼人の表情は今まで一色いろはがみたことのない邪悪な表情を浮かべている。

 

「違う、葉山隼人じゃない」

 

 安井は自身の超能力で相手が葉山隼人ではないことを見抜く。

 

 目の前にいるのは。

 

「シャドー星人」

 

「あぁ、やはり見抜かれてしまうか」

 

 葉山隼人は笑みを浮かべながら手で顔を隠す。

 

 手を退けた時、彼の顔はシャドー星人の顔である金色で白い瞳の姿へ変わっている。

 

「安井の血というものは恐ろしいものだ。どこまでも我々の計画を読み取るか」

 

 カツカツと近づいてくるシャドー星人。

 

 一色は悲鳴を上げるけれど、誰かがやってくる気配がない。

 

「無駄だ、このあたりは誰もやってこられないように特殊フィールドに包んである。普通の人間が気付くことはない」

 

 シャドー星人は懐から光線銃を取り出す。

 

 光線銃を突きつけられて怯える一色。

 

 安井は平然としている。

 

「なぜ、怯えない?」

 

 彼女の様子が気になったのだろう。

 

 シャドー星人が疑問の声をぶつける。

 

 その時になって一色もようやく安井が平然としていることに気付いた。

 

 なぜ?

 

 その疑問をぶつけようとした瞬間。

 

 空気の塊がシャドー星人に直撃する。

 

 事態を理解する暇もないまま体を壁に打ち付けて、光線銃を地面へ落としてしまう。

 

「そこまでよ」

 

 落とした光線銃を拾い上げて雪ノ下雪乃がシャドー星人へ向ける。

 

「一色、大丈夫か?」

 

「先輩ぃぃぃぃぃ!」

 

 いつの間にか一色いろはの傍に比企谷八幡が来ていた。

 

 彼の登場に破顔して、喜びを表す一色いろは。

 

 シャドー星人は自らが不利であることを察すると窓を壊して外に飛び出していく。

 

「逃げたわね」

 

「追いかけない方がいい。おそらく仲間がいるはずだ」

 

「そのようね」

 

 雪ノ下は持っていた光線銃をそのまま懐へ仕舞う。

 

 これは昨日、“みた”光景だ。

 

 だが、次の言葉は流石に予想外だった。

 

「安井与太郎さんの孫娘の安井ハルカさんだな?」

 

 比企谷八幡から告げられた言葉に安井ハルカは目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奉仕部の部室。

 

 残りの部員、由比ヶ浜結衣が出迎える。

 

 椅子を用意されて一色と安井は座った。

 

 雪ノ下が紅茶を入れて二人へ差し出す。

 

「リラックスできるわよ?」

 

「ありがとうございます!」

 

「どーも」

 

 感謝する一色、

 

 安井は短く会釈して紅茶を飲む。

 

 紅茶を飲んで安井は目を見開く。

 

「おいしい」

 

「超能力で紅茶を飲むことは予知できても、味は予知できないでしょう?」

 

 雪ノ下の言葉に安井は目を見開く。

 

「どうして……」

 

「前に超能力で人の心や未来がわかる人と出会ったことがあるのよ」

 

 驚く安井へ雪ノ下が優しく話す。

 

「(人ではなくて、宇宙人だけれど)」

 

 安井が心を読もうとしていたが、雪ノ下の考えていることはわからなかった。

 

「いやぁ、先輩達が来てくれて助かりました!あ、でもでも、これで惚れるとかは絶対ないので勘違いしないでくださいね。吊り橋効果みたいなことで堕ちるほど、私は軽い女ではないのでごめんなさい」

 

「感謝されて告白していないのにふられるって、どういうことだよ」

 

 興奮が冷めきっていない中で一色が感謝して、それから振ってくることに八幡はぽつりと言葉を漏らしながら机に置かれているマックスコーヒーを飲む。

 

 安井ハルカから向けられる視線に八幡は気づく。

 

「(きっと、すぐに聞きたいんだろうなぁ……安井与太郎さんのこと)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――安井与太郎。

 

 その名前は俺と融合しているウルトラセブン、モロボシ・ダンがM78ワールドのウルトラ警備隊に属していた時の事件に出会った人物だ。

 

 彼は超能力を有しており、侵略者の計画をことごとく当てた。

 

 しかし、それは未来の話で、当時のウルトラ警備隊は腫れものを扱うような対応をしていた。唯一、キリヤマ隊長だけが彼を気にかけてはいたのだ。

 

 

――明日を捜せ。

 

 

 明日を捜せばいい。

 

 その言葉を信じて、キリヤマ隊長は街へ繰り出した。

 

 おそらく目の前の安井ハルカという少女は安井与太郎の親族、もしくは関係者だろう。

 

 彼が最後に失った超能力をどうして、彼女が発揮したのかわからない。

 

 だが、その能力をシャドー星人は警戒して、手を出してきたのはわかる。

 

 もしかしたら、彼女は俺達のことをなんとなく予知できているかもしれない。

 

「何で」

 

 安井ハルカは紅茶の入った紙コップを机へ置いて尋ねる。

 

「どうして、私を助けてくれたんですか?こんな怪物」

 

「怪物なんて」

 

「自分を卑下することないわ」

 

「そうだよ!」

 

 雪ノ下と由比ヶ浜の言葉は安井へ届かない。

 

「それは、貴方達が正当な評価を受けているからじゃないですか?雪ノ下先輩、由比ヶ浜先輩」

 

 それから安井は俺をみてくる。

 

「比企谷先輩はどうなんですか?いや、こういえばいいですか……赤い巨人、ウルトラセブン」

 

 成程。

 

「気付いているわけか」

 

「驚かないんですね」

 

「まぁ」

 

 態度を見ていれば、なんとなく予想できる。

 

「じゃあ、私の能力も本物だって」

 

「信じる」

 

 言い切ると安井は驚いた表情からすぐに冷めた表情になった。

 

「流石は宇宙人ってところですか」

 

「そんなんじゃねぇよ。第一、宇宙人だからって、万能ってわけじゃないぞ」

 

 彼女はどう思っているかわからないが宇宙人だからって神様のように万能というわけでも、ましてや全知全能というわけでもないのだ。

 

 彼らの技術がただ地球人よりも上だったというわけで、その技術が地球人からみれば神がかっているようにみえているだけに過ぎない。

 

 最も、彼らからすれば自分達よりも下の筈の人類に計画を次々と看破されていれば、警戒されるのは当然だろう。

 

 あと、宇宙人と融合しているが俺は地球人だ。

 

「だから、シャドー星人はアンタを狙った」

 

「こんな能力に恐怖しているなんて、随分と慎重な宇宙人だね」

 

「それほど、キミの力が強いということだ」

 

「どうかな?こんな根拠も何もない力をおそれるなんてどうかしている。人と変わらないじゃない」

 

「何を言っているんだ?宇宙人だって、地球人と変わらない。何より地球人も他の惑星に住む者達からすれば宇宙人と言われても仕方ない。誰もが同じようなものなんだよ」

 

「屁理屈だね」

 

 安井は俺を睨む。

 

「先輩は知らないから言えるんだ。こんな欲しくもない、望んでもいない力なんかあって辛いか、苦しいか……アンタは英雄扱いだから!」

 

 そういう風に俺のことを見ているわけか。

 

 こりゃ、俺の言葉が通じるかどうかわからないなぁ。

 

「もし、私が他と変わらないというのなら、明日、街中に怪獣が現れる。その怪獣を貴方がちゃんと倒したら信じてあげる……どうせ無理だと思うけど」

 

 試すような言葉を残して安井は出ていく。

 

「あ、安井さん、えっと、先輩、その」

 

「一色」

 

 俺は一色へ尋ねる。

 

「お前はどう思っているんだ?あの子の超能力」

 

「よくわからないです。まー、私からすれば便利だろうなぁと思いますけど。先輩達の姿を見ていると、それだけじゃないんだろうなぁと」

 

 流石、一色。

 

 一度、宇宙人の事件に巻き込まれているから色々と考える視野が広がっているようだ。

 

 俺達と比べるとまだまだだけどな。

 

「それだけ気付いているなら、後は一色がどうしたいかだな」

 

「私が?」

 

「一色さん、貴方は安井さんとどうありたいの?ただ同じ学年の生徒?それとも、彼女の能力を恐れず寄り添ってあげられる友達かしら」

 

 横から試すように雪ノ下が問いかける。

 

「私……」

 

「決められるのはいろはちゃんだけだよ?」

 

 踏ん切りがつかないのか、悩んでいる一色へ由比ヶ浜が優しく後押しする。

 

 考える様に目を閉じる事、数分。

 

 目を開けた時の一色の決意は固まっていた。

 

「いってきます!」

 

 奉仕部の部室を出ていく一色。

 

「お節介だな」

 

「それは貴方もでしょう?」

 

「ヒッキーが一番、お節介だよ」

 

 からかわれるように二人へ言われて俺は無言でマッカンを飲む。

 

 その日、安井と一色が戻ってくることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行方不明だって?」

 

 古橋が私服で街に繰り出して安井与太郎の孫娘、安井ハルカについての除法を発見した時、彼女は行方不明という事で警察に通報が届いていることをリサ隊員から告げられる。

 

 通報者は同じ学校に通う女子高生で「宇宙人に誘拐された」という内容だったのだが、

悪戯と判断されてしまったらしい。

 

 その通報者の少女の行方不明になり、親が警察へ連絡したことで発覚する。

 

「警戒態勢でホークの発進準備を進めてくれ!俺もすぐに本部へ戻る」

 

『り、了解です』

 

「星人の攻撃が始まるぞ」

 

 古橋は車に乗り込んで極東基地へ戻るためのシークレットハイウェイを目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、古橋の予想していた通り、街中に怪獣が出現した。

 

 現れたのはかつてシャドー星人が操っていた猛毒怪獣 ガブラではなく、青い体皮、鋭い爪を持つガブラとは異なる怪獣だった。

 

 その姿はシャチや甲殻類などの水生生物が融合したような姿をしている。

 

 背中には魚の鱗のようなもの形状の翼があり、水生生物だった生物に手を加えた可能性が考えられた。

 

 怪獣出現を察知した地球防衛軍極東基地からウルトラホーク1号が発進する。

 

 ウルトラホーク1号はミサイルや光線で怪獣へ攻撃を仕掛けていた。

 

 攻撃を受けながらも怪獣は都市の破壊を止めない。

 

 地上ではシークレットハイウェイを通ってポインターが現場へ先行していた。

 

 ポインターから降りた東郷とリサの二人はかつてシャドー星人を探索するために使われた放射線透視装置の改良型を使ってシャドー星人の円盤を探していた。

 

 何の前触れもなく怪獣が出現することはありえない。

 

 近くに姿を消した円盤が存在しているはず。

 

「発見したぞ」

 

「円盤ですか?」

 

「あぁ!」

 

 東郷の持つ放射線透視装置は当時の機材よりも改良を重ねていたことからシャドー星人の円盤を発見することは問題なかった。

 

 円盤は街のはずれに着陸していた。

 

 ポインターを離れたところへ停車させて、二人は円盤へ近づいていく。

 

 円盤に安井ハルカが囚われている可能性があり、救出するためである。

 

 怪獣の操作で人員を割けないのか、円盤の周囲にシャドー星人の姿がなかった。

 

 東郷からの連絡を受けて増援としてユキと渋川の二人と合流する。

 

 ウルトラガンをホルダーから抜いて殺傷モードの確認をして円盤へ侵入した。

 

 円盤内には当然というべきかシャドー星人達がおりウルトラ警備隊を発見すると光線銃で攻撃してくる。

 

 光線を回避しながら渋川やユキが東郷とリサの二人を支援するようにウルトラガンで応戦していく。

 

 リサは一人のシャドー星人の腕を掴むとそのまま投げ飛ばす。

 

 頭から地面へ崩れ落ちたシャドー星人の体が消滅する。

 

 東郷は振るわれる拳を躱しながら腹部に一撃を入れた。

 

 倒れたシャドー星人がしがみつこうとしてくるのを避けて顔を蹴り飛ばして気絶させる。

 

 奥に近づいた時、少女の悲鳴が聞こえた。

 

 動きを止めて、ゆっくりと入口の方へユキが向かう。

 

 ユキの後に続いて渋川が反対側に立つ。

 

 中の様子を伺うと、薄暗い室内の中央、鉄の椅子のようなものに拘束されて何かの装置を頭に着けられている少女の姿がある。

 

 少女の様子を伺っているシャドー星人達の姿があった。

 

 ユキが懐から催涙ガスが詰まった容器を取り出す。

 

 渋川が頷いて「カウント3で突入」とハンドサインで後ろの東郷とリサに指示を伝える。

 

 二人が頷いたことを確認してリサが容器を投げた。

 

「突入!」

 

 室内に充満する催涙ガスがシャドー星人に効果があるのかわからない。

 

 だが、相手の気を逸らすことは成功しており、突入してきたウルトラ警備隊の対応が遅れて瞬く間に制圧される。

 

「キミ!大丈夫か!」

 

 装置を外して呼吸の荒い少女へ問いかける。

 

 せき込みながら少女が頷いたことを確認して、リサが尋ねた。

 

「貴方は安井ハルカさん?」

 

「ち、違います!安井さんはか、怪獣の中に」

 

「何だってぇ!?」

 

「貴方の名前は?」

 

「い、一色いろはです」

 

 囚われていた一色いろはの言葉に渋川が驚きの声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見たことのない怪獣だな」

 

 その頃、暴れているゼガンの様子を比企谷八幡はみていた。

 

 八幡と融合しているウルトラセブンの記憶では全身が金色で猛毒を持った怪獣と戦っている。

 

 同じタイプを連れてきたと思っていたのだが、どうやら今回は異なる侵略兵器を用意したと考えるべきだろう。

 

「さて、約束をしたからな」

 

 安井ハルカがみた未来というものがどういうものかわからない。

 

 しかし、地球を守るためにウルトラセブンは戦わないといけないのだ。

 

 八幡はポケットからウルトラアイを取り出す。

 

「デュワ!」

 

 ウルトラアイを装着。

 

 眩い閃光と共に登場するウルトラセブン。

 

 対峙するゼガンはハサミを構えてセブンを睨む。

 

 駆け出すウルトラセブンへゼガンはハサミから赤い稲妻状の光線を撃ってくる。

 

 地面を転がるように回転しながらセブンは光線を回避してゼガンの懐へ入り込み、拳を叩き込む。

 

 痛みを感じるのか悲鳴のような叫びを上げながらゼガンがハサミを繰り出してきた。

 

 ハサミを躱して、下がるウルトラセブンをゼガンが追いかけてくる。

 

 振るわれるハサミを躱しながらパンチやキックでゼガンを攻めていく。

 

 その光景をウルトラホーク1号の中で梶と古橋はみていた。

 

「セブンが優位みたいですね」

 

「どうも、妙だ」

 

「え?」

 

 シートに座りながら古橋はウルトラセブンとゼガンの戦いを見ていた。

 

「何が妙なんです?」

 

「敵の動きだ。連中は前に痛い目をみている。だというのに、それらしい対策が全く見られない。それどころか前と同じといってもいい」

 

「何か、裏があると?」

 

 梶の疑問に古橋は沈黙で肯定する。

 

『大変です!隊長!』

 

 ウルトラホーク1号に設置されている通信機から渋川の焦った声が響く。

 

『保護した少女からの情報で怪獣の中に安井ハルカちゃんが囚われている模様!』

 

「なんだとぉ!?」

 

「も、もし、ウルトラセブンが怪獣を倒すために光線を撃ったら……囚われている少女が!」

 

 渋川からの報告に梶達が驚きを隠せていない中、ゼガンと対峙しているウルトラセブンが光線を放つ体勢に入っていた。

 

 

 ゼガンの胸部にエネルギーが集まっていく。

 

 相手が必殺の光線を放つ体勢であることに気付いたウルトラセブンも静かに構えを取る。

 

 ウルトラ警備隊に保護された一色が円盤の外へでると今まさにウルトラセブンが光線を撃つ体勢に入っていた。

 

「ダメ!」

 

 リサに支えられていた一色がウルトラセブンへ叫ぶ。

 

――先輩。

 

「撃たない、で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼガンの胸部の水晶、その中に安井ハルカはいた。

 

 ゆらゆらと景色が揺れているような感覚の中で、彼女は夢に見たとおりに流れる光景に諦めの表情を浮かべている。

 

 このままいけば、ゼガンの光線とウルトラセブンの光線がぶつかってこの都市は消滅する。

 

 そう、全て、安井ハルカが予知夢としてみてきた通り。

 

 ゼガンが光線を放つ体勢になっている。

 

 ウルトラセブンも光線を撃って全てが終わる。

 

 そう、全て。

 

 安井ハルカの命もここで燃え尽きるのだ。

 

 これで、みたくもないものを見ないで済む。

 

 終わると思っていた時、ウルトラセブンが信じられない行動をとった。

 

 光線を撃たずにゼガンの間合いへ入り込むと同時にエネルギーが集まっている光線を突破して、安井ハルカが閉じ込められている水晶を掴んだ。

 

 無理矢理、ゼガンから引きはがしたウルトラセブンへハサミを振り上げようとする。

 

 頭頂のアイスラッガーをウルトラセブンは掴んで振り抜く。

 

 ゼガンの首をアイスラッガーが切り裂いた。

 

 悲鳴を上げるゼガンは執念のように水晶を取り戻そうとする。

 

 ウルトラセブンは片手に水晶を握り締めたまま、アイスラッガーをゼガンへ深く突き立てた。

 

 断末魔と鮮血をまき散らしながらゼガンは後ろへ大きな音を立てて倒れる。

 

 ウルトラセブンはアイスラッガーを戻しながら手の中の水晶をみた。

 

 

――なんで。

 

 

 意識が朦朧としている中で戸惑う安井ハルカ。

 

 そんな彼女の脳裏に優しそうな男の声が響く。

 

『明日を諦めないでくれ、私はキミの明日を掴んだ』

 

 その声の主がウルトラセブンであると安井ハルカは理解するのにさほどの時間を要しなかった。

 

 

――どうして?

 

 

 疑問の言葉がぐるぐると頭の中で沸き上がっていく。

 

『キミの祖父が明日を求めたように、明日を見つけてほしい』

 

 温もりに包まれているからか段々と意識が薄れていた。

 

 視界が段々と閉じていく中で安井ハルカは真っ直ぐに見つめているウルトラセブンをみる。

 

 不思議と、今まで感じていたドロドロしていた感情が洗い流されていくような気分だ。

 

 

――あぁ、もしかしたら。

 

 

 ふと、安井ハルカは昔を思い出す。

 

 超能力で悩んでいた自分に優しそうな笑顔を浮かべて祖父が話した言葉。

 

「明日をさがしなさい」

 

 

――そういうこと、なのかなぁ?

 

 

 優しかった祖父の顔を思い出しながら安井ハルカは意識を手放す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷、先輩」

 

 翌日、俺はいつものように奉仕部の部室に向かっていた時に後ろから声をかけられる。

 

 振り返ると安井が立っていた。

 

「安井か」

 

「はい」

 

 昨日のつんけんとした態度はどこにいったのか、目の前の少女はどこか大人しい。

 

「一つ、聞きたいことがあって」

 

「なんだ?」

 

「どうして、撃たなかったの?」

 

 質問は昨日の怪獣との戦いのことを言っているのだろう。

 

「私はみた。光線同士がぶつかって街が消滅するところを……でも、貴方は撃たなかった。どうして?」

 

 まぁ、この質問はくるだろうと思っていたし、丁度いいのかもしれないなぁ。

 

「答えは簡単だ。お前と似たようなことをしようとした奴がいたんだよ」

 

「私、と?」

 

 ギャラクシークライシスで超能力を持つ宇宙人と出会い、その宇宙人は最悪の未来をみて、その通りに行動した。

 

 その時の出来事を俺は覚えていただけ、

 

 覚えていただけなんだ。

 

「お前とあの宇宙人は同じ目をしていた。未来は変わらない、決して変えることはできないって諦めた目だ。怪獣の中にいたお前の目を察して、撃たなかった。それだけだ」

 

 十分か?

 

 目で問いかけると安井は頷いた。

 

「ありがとう」

 

「お礼を言われるようなことはしていないぞ?」

 

 俺がやったのは侵略者と戦っただけ。

 

 いつものことをしただけだ。

 

 まぁ、あの人は何か話していたようだけれど。

 

「ううん、貴方のおかげで、私は変われるかもって、思えたから、その感謝……」

 

 微笑みながら安井ハルカは手を振って去っていく。

 

 残された俺はぽつりと呟く。

 

「どこまでもお節介な宇宙人だな、アンタは」

 

 聞こえることはないだろうけれど、俺の中にいる宇宙人へ呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫、きっとあの人達なら」

 

 八幡と別れた後、安井ハルカは少しの不安を感じながらも廊下を歩いていた。

 

「安井さん!」

 

「一色さん、もう大丈夫なんだ」

 

「まぁねぇ~、ウルトラ警備隊に助けてもらうって貴重な体験でもできたしぃ、自慢になるかも」

 

「なるだろうけれど、変な噂がでるかもよ?」

 

「あ、そっかぁ、残念~」

 

 あの事件の後、一色いろはと安井ハルカは友人のような関係を築いている。

 

 果たして友人かと言われると答えるのが難しい距離感。

 

 だが、今はそれでいい。

 

 自身が持つ、この能力とちゃんと向き合えるようになってから、関係に決着をつけよう。

 

「(きっと、彼らなら大丈夫)」

 

 最後にみえた映像。

 

 あれがどういうことを意味しているのか、安井ハルカはわからない。

 

 だが、彼らなら立ち向かえるだろう。

 

 自分の見てきた未来を塗り替えたあの人なら、きっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どこまで広がる闇。

 

 闇は何もかも飲み込んでいく。

 

 広がる闇の中でウルトラセブンと対峙するのは黒い巨人。

 

 光を拒絶して、世界を滅ぼそうとする邪悪な巨人たち。

 

 そして、最後は――。

 




今回の話、ウルトラセブンのエピソードをモデルにしています。

安井ハルカというキャラもそのエピソードに出てきた人物の孫娘という設定で登場させたオリキャラです。

安井与太郎と比べて、能力を嫌悪しており、誰も信じていないところはウルトラマンティガの超能力者であったキリノマキオのような人物になっています。違いがあるとすれば、一色が歩み寄り、超能力を失っていないという事でしょう。

最後にアンケートに協力ありがとうございます。アンケートの結果、ぶっちぎりの一位でウルトラマンティガになりました。
自分もそうですけれど、平成世代はティガが大好きですよねぇ。

その次でジードでした。まぁ、ペガが出ているからというのもありますけれど。

ティガの絡むエピソードはこれからはじまっていく予定です。

次回も楽しみにしていてください。


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第二十四話:小さな英雄、再び

精神的なダメージとか、色々ありまして、遅くなりました。

タイトルだけでネタバレしている感がありますけれど、彼が出てきます。

ちなみに、今回のメインはウルトラ警備隊の為、八幡達の出番はありません。




 その日、千葉のショッピングモールで騒動が起こった。

 

 買い物に来ていた人達は逃げ惑い、店員たちは店の隅っこで震えて縮こまる。

 

 通報を受けた警備員が人の波に逆らいながらおもちゃエリアへやってきた。

 

「あぁっ!?」

 

 やってきた警備員の一人が慌てて止まったので後続の人がぶつかりそうになる。

 

 おもちゃエリア、そこのボールをポンポンと興味深そうに蹴っている怪獣がいた。

 

 そう、怪獣である。

 

 休日の昼間、何の前触れもなく現れた怪獣は細い二本脚、赤い岩のような体皮膚、紫色の唇、細いつぶらな瞳。

 

 小さいけれど怪獣という存在に人々は恐怖する。

 

 大きなものならより恐怖の象徴としてわかりやすいだろう。だが、小さいものであれば自分達ならばなんとかできるのではないかと考えてしまう。

 

 もしかしたら、自分達で怪獣を倒せるのではという愚かな思考を持つ者もでてきてくるだろう。

 

 そうならなかったのは警備員が優秀だったおかげといえる。

 

「すぐに、ウルトラ警備隊へ通報だ!」

 

 この事態は自分達の手に余ると判断した警備員は野次馬を近づかせないようにしてすぐにウルトラ警備隊に怪獣が現れたという通報をした。

 

 通報を受けたウルトラ警備隊の梶隊員とユキ隊員、東郷隊員とリサ隊員の四人はポインターで現場へ急行する。

 

「怪獣は!」

 

 先陣を切った梶。

 

 警備員の誘導で人ごみをかき分けてやってきたウルトラ警備隊がみたものははしゃぎ疲れて寝ている怪獣の姿である。

 

「呑気に寝やがって」

 

 怪獣の姿にホルダーからウルトラガンを抜いて、その銃口を怪獣へ向ける。

 

「待て」

 

 ウルトラガンを上から抑える形でユキ隊員が止めた。

 

「何で止めるんだよ。相手は怪獣だぞ!?」

 

「怪獣だからといって無暗に撃っていいとは限らない。爆発してその細胞から複数の怪獣が生まれたという例もある」

 

「まずは分析と照合ってことです!」

 

「そういうことだ」

 

 リサと東郷にまで言われて渋々という形でウルトラガンをホルダーへ戻す梶。

 

 ユキは持ってきた端末で目の前の怪獣とのデータを照合した。

 

 しばらくして、ヒットしたデートを他のメンバーへみせる。

 

「どうやら敵意ある怪獣じゃない用だ」

 

「データ、成程、ピグモンかぁ」

 

「ピグモンなら大丈夫ね!」

 

「そうかぁ?怪獣だぞ」

 

 渋る梶。

 

 話し合っている間、人の気配に気づいてむくりと体を起こすピグモン。

 

 ピグモンはウルトラ警備隊の姿を見ると両手を動かして慌てた様子をアピールする。

 

「どうしたのかな?」

 

「慌てているな」

 

「そういえば、御殿山の科学センターに怪獣翻訳機があったはずだ」

 

 思い出した東郷の言葉の傍でリサはユキと梶は現れた怪獣について古橋へ報告をしていた。

 

『よし、科学センターの方は俺が連絡をしよう。その怪獣を連れて向かってくれ』

 

「了解」

 

 VCの通信を終えて、周りの人達へ叫ぶ。

 

「皆さん!この怪獣は危険な存在ではありません!我々に危害を与えませんので安心してください!」

 

 ウルトラ警備隊からの言葉で緊張した様子の野次馬達は安心した様子を見せる。

 

 東郷とリサに手を引かれる形で歩き出すピグモン。

 

 納得していない様子の梶の肩を叩きながらユキもその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピグモンをポインターに乗せる際に小さな騒動があったものの、彼らは御殿山の科学センターへやってきていた。

 

 科学センターは科学特捜隊と共に多くの怪獣や侵略者を撃退するために協力してきた日本の頭脳と言われる優秀な科学者たちが集まっている場所である。

 

 宇宙船や様々な物質などを開発、調査など、その分野は多岐にわたっている。過去に出現したピグモンと意思疎通を図ろうとした時に開発された翻訳機がセンターに保管されていたのだ。

 

 待っていたセンターのスタッフは古橋隊長から話が通っていたおかげですんなりとウルトラ警備隊とピグモンを施設内へ案内する。

 

 一室にピグモンを通すとセンターのスタッフが怪獣用のヘッドホンとマイクを用意した。

 

「さ、いくらでも喋ってくれ」

 

 センターのスタッフに言われてピグモンは「フガ!モガガ!アガー!」とマイクに向けて訴えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間にすれば、数分に満たないもので、喋り切ったと判断したスタッフによってヘッドホンが外される。

 

 外に出たピグモンをリサが出迎えた。

 

「ピグモン!お疲れ様!」

 

「解析に数十分を要しますので少しお待ちください」

 

「わかりました」

 

 スタッフからの報告を待つまでの間、四人とピグモンは待合室で時間を潰すことになる。

 

 用意された茶菓子を興味深そうにみるピグモン。

 

「袋、取ってあげるわ」

 

 リサが饅頭の包みをとってピグモンへ差し出す。

 

 嬉しそうに饅頭を手に取って口の中で咀嚼する。

 

 その姿が可愛いというリサとユキは興味なさそうに茶を飲んでいた。

 

 東郷は離れたところで様子を伺っている梶へ話しかける。

 

「まだ、疑っているのか?」

 

「皆さんが信じすぎなんですよ。相手は怪獣なんだ。小さいとはいえ、油断しちゃいけないはずです」

 

「梶の考えていることも間違ってはいないけれど、まずは歩み寄ることも大事なんじゃないか?」

 

「歩み寄る?」

 

 東郷の言葉に梶は不思議そうに尋ね返す。

 

「確かに怪獣は危険だ。過去に出現した怪獣のどれもが狂暴だとデータは残されている。だが、ピグモンは違う。敵意を持たず、友好的。本当に敵なのかどうかは歩み寄って、話をして決めてもいいはずだ。俺達はそれくらいの知能はあるんだからな」

 

「……」

 

 思案する梶。

 

 その時、ドアが開いてスタッフがレコーダーを片手にやってくる。

 

 ピグモンの翻訳が終わったという事だ。

 

 話すタイミングを逃した梶は立ち上がってスタッフの方へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ピグモンの告げた内容はウルトラ警備隊にとって衝撃の事実だった。

 

 かつて、多くの怪獣を蘇らせて人類を滅ぼそうとした怪獣酋長ジェロニモンが復活するのだという。

 

 前回と異なり、まだジェロニモンは完全復活していないが、その力は前よりも比べ物にならないほどになっている。

 

 偶然、復活したピグモンは異変を再び伝えるために現れたのだ。

 

 ウルトラ警備隊は怪獣酋長復活という事態に気を引き締める。

 

 緊急の参謀会議が開かれる中、極東基地へ戻ってきていた梶隊員は食堂で夜食を食べていた。

 

 本物の煮干しだしが売りの味噌汁をすすっていたところで対面に腰かける者がいる。

 

「顔をしかめてどうしたの?」

 

「ミクか」

 

「どうしたの?」

 

「別に」

 

 梶はそっぽを向く。

 

 その姿が面白く感じたのか、彼女は小さく笑った。

 

「何で笑うんだよ」

 

 怒る梶だが、本気で怒っていないことを彼女は知っているからより笑う。

 

 しばらくして満足したのか、彼女は梶と向き合った。

 

「それで、何を悩んでいるの?」

 

「悩んでなんか……」

 

 渋る梶にミクは口を尖らせる。

 

「ウソ、梶君は何かに悩んでいる」

 

「何でもお見通しみたいに言うなよなぁ」

 

「お見通しだよ?だって、私、彼女だもん」

 

 自慢するように話すミクの姿に梶は両手を上げる。

 

「降参だ。お前にはかなわらないなぁ」

 

「当然です。それで、天下のウルトラ警備隊の隊員は何に悩んでいたの?」

 

 ミクに問われて梶は手元の茶碗へ視線を向けてから尋ねる。

 

「ミクは、怪獣ってどう思う?」

 

「どういう意味?」

 

「怪獣は危険な存在だ。いるだけで多くの人が苦しむ、絶対に倒さないといけない害獣だと俺は思っていた」

 

「今は違うの?」

 

 問われて梶は悩む。

 

「わからない、今まで怪獣は撃退してきた人類の為に……だが、あの怪獣、ピグモンは違う。暴れるだけの怪獣じゃないんだ」

 

 ウルトラ警備隊員として梶は何度も怪獣と戦ってきた。

 

 そのほとんどが人を食らい、建物を壊す、そういった危険な存在ばかり。

 

 ピグモンのような善意の塊ともいえる怪獣と出会ったことがなくて梶は戸惑っている。

 

 彼の心情に気付いたのか、ミクは笑みを浮かべながら梶の頬を突く。

 

「おい、何だよ!」

 

「可愛いなぁ、もう~」

 

「やめろって、おい、やめろ、やめなさいって!」

 

 傍からみればいちゃついているような光景に周りの職員たちはブラックコーヒーを飲み始める。

 

「いいんじゃない?一匹くらい善良な怪獣がいても」

 

「え?」

 

「だって、世の中の怪獣すべてが悪い奴なんて、悲しいじゃない。一匹、たった一匹だけでも良い怪獣がいれば、いつかは終わるかもしれないって信じられる」

 

「何を?」

 

 ミクはにこりとほほ笑む。

 

「平和って奴」

 

 梶よりも先に食べ終えたミクは立ち上がる。

 

「じゃあ、私は訓練があるから行くね!」

 

「あぁ、頑張れよ」

 

「勿論!将来の目標はウルトラ警備隊だからね!」

 

 ピースサインをしてミクは食堂を後にする。

 

 この後、梶はブラックコーヒーを飲んでいたTDF職員に絡まれたことは言うまでもない。

 

 

 

 参謀会議の結果、ウルトラ警備隊の総力を挙げて怪獣酋長ジェロニモン及び復活する怪獣の撃滅が決定した。

 

 地球防衛軍極東基地からウルトラホーク1号、及びウルトラホーク3号が緊急発進する。

 

 ウルトラホーク1号にはジェロニモンの居場所を特定するという役割の為に搭乗していた。

 

 ウルトラホーク3号の操縦席で梶はピグモンが乗っているホーク1号をみている。

 

「ピグモンのことが気になるのか?」

 

「別に……」

 

 隣のユキからの言葉に梶は首を振る。

 

「お前は怪獣に対して攻撃的なことが多かった。ピグモンも我々に敵意を剥くと感じているのではないか?」

 

「そうだったよ」

 

「今は違うのか?」

 

「わからない」

 

 短く答える梶にユキは沈黙する。

 

「何も言わないのか?」

 

「それはお前が解決しなければならない問題だ。私が言えば、納得するのか?」

 

「優しくない奴」

 

 そういう梶の横でユキがレーダーを指す。

 

「みろ、モンスターレーダーに反応だ!」

 

「あそこだ!」

 

 ホーク3号の操縦席から梶は指さす。

 

 山岳地帯、地面が盛り上がり、そこからムルチが姿を見せる。

 

「ムルチだ!」

 

 別の場所ではサドラが現れて、ムルチへ襲い掛かっていた。

 

『ホーク3号、怪獣酋長ジェロニモンは確認できず、他の怪獣が集まって来ると厄介だ。確認できる怪獣を優先的に撃滅する』

 

「了解!」

 

 ユキが了承し、ホーク3号を急降下させる。

 

 ムルチを捕食したサドラが気付いた時には眼前に無数のミサイルが放たれた時だった。

 

 攻撃を受けて派手に転倒するサドラ。

 

 起き上がろうとしているサドラへ大量のナパームが投下される。

 

 威力あるナパームが次々と投下されていき、サドラの強硬な皮膚を次々と焼き尽くしていく。

 

「おい!ナパームが尽きるぞ!」

 

「問題ない。奴が先に耐えられない」

 

 ユキの言葉通り投下されていくナパームに耐え切れずサドラの体は痙攣をおこすとやがて動かなくなる。

 

「怪獣の撃退、確認!」

 

『こちらも確認した、ホーク3号は上空から新たな怪獣が現れないか偵察を続行、こちらは地上からジェロニモンの行方を追う』

 

「了解」

 

 ユキと古橋の会話を聞きながら梶は操縦席から外を見る。

 

 ウルトラホーク1号が着陸していくところだった。

 

「よし、行くぞ」

 

 武器を担いでいる古橋を先頭に東郷、渋川、そして、リサが下りる。

 

 続こうとしたピグモンをリサが止めた。

 

「駄目よ、ピグモンはここで待機。どんな怪獣が現れるかわからないから」

 

「!!」

 

 ショックを受けたような驚いた様子のピグモンをホーク1号に残して四人はジェロニモン探索へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あそこをみろ」

 

 梶の視線は近くの山が崩れて、そこから白い雪男のような姿をした怪獣が現れる。

 

「ギガスか!」

 

 かつて日本アルプスに姿をみせた雪男のような怪獣。

 

 体の土を払い落としながらのそのそと周囲を探るギガスはジェロニモンを探っている古橋達の姿を見つけた。

 

 唸り声を上げながらギガスは古橋達へ近づこうとしている。

 

「いかせるか!」

 

 ウルトラホーク3号を操る梶はギガスへミサイルを発射する。

 

 ミサイルを受けたギガスは驚きつつも、近くの岩を掴むと投擲してきた。

 

 ひらりと躱しながらギガスの上空へ飛翔するホーク3号。

 

「強力乾燥ミサイル改準備!」

 

「了解」

 

 ユキが機械を操作してミサイルの発射準備をはじめる。

 

 準備が入る前に下降していくホーク3号からレーザー光線が撃たれた。

 

 機首から発射されたレーザー光線をまともに受けたギガスは爆発と共に大の字で地面に倒れこむ。

 

「今だ!」

 

「投下!」

 

 ギガスの上を通過するタイミングでホーク3号からかつてギガスを倒した時に使用された武器の強化型 強力乾燥ミサイル改が落とされる。

 

 ミサイルを受けたギガスの体は瞬時に固まるとともに大爆発を起こす。

 

「よし!」

 

 ギガスを倒して笑みを浮かべる梶。

 

 その時、ホーク3号の中でアラートが鳴り出して、不気味な振動が起こる。

 

「どうした!?」

 

「システムトラブルだな、このままでは飛行不能になる危険がある」

 

「緊急着陸だ!」

 

 梶はホーク3号を地上へ緊急着陸させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、ジェロニモンを探索していた古橋達の前で地面が揺れ始めた。

 

 地割れと共に現れるのは赤いトサカのような羽。

 

 続いて現れるのは無数の羽根。

 

 顎の下に生えている白い髭。

 

 そして、鋭い爪などをもつ凶悪な怪獣。

 

「くしょう!こんなところに隠れていやがったな!」

 

「隊長、どうします?」

 

「ここで奴を撃退する!攻撃開始!」

 

 古橋の合図でスパイダーを構える東郷、スパイナーガンを構える渋川。

 

 ウルトラガンを構えるリサ。

 

「撃て!」

 

 古橋の合図で一斉に光線や砲弾が発射される。

 

 起き上がったばかりのジェロニモンは突然の攻撃に驚くが、手で攻撃を防ぐ。

 

 攻撃の雨が一時的に弱まったところでジェロニモンがウルトラ警備隊のメンバーを睨む。

 

「いかん!退避!」

 

 古橋が避難の指示をだすも一足遅く。

 

 ジェロニモンの口から反重力ガスが放たれた。

 

「うわぁ!」

 

「きゃああ!」

 

 悲鳴を上げて一気に高高度へ舞い上がる四人。

 

 何もすることができず後は地面へ落ちるのみ、というところで空から飛来したウルトラセブンが四人を両手でキャッチする。

 

 スライドするように地面へ降り立ちながらセブンは両手で守った四人を地面へおろす。

 

 ウルトラセブンは構えを取るとジェロニモンと対峙した。

 

 ジェロニモンは唸り声を上げながら突撃してくる。

 

 正面から受け止めようとしたセブンだが、向こうの威力が強すぎて後方へ吹き飛ばされてしまう。

 

 倒れたウルトラセブンへ近くの岩を投げるジェロニモン。

 

 岩を回避してジェロニモンへ近づこうとするが、既に体を揺らして生やしている毒針羽根を宙へ放っていた。

 

 異変に気付いた時には無数の毒針羽根がセブンへ迫る。

 

 横へ躱すも意思を持っているかのように毒針羽根は反転してセブンを狙う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長!大丈夫ですか!」

 

 梶はセブンに助けられた古橋達のところへ向かう。

 

 古橋が応えようとしたところで、地面が揺れてゴメスが現れる。

 

 ゴメスは起き上がるとジェロニモンと戦っているウルトラセブンへ近づいていく。

 

 セブンへ攻撃しようとしていたが、急に向きを変える。

 

「なんだ?」

 

 梶はジェロニモンの向かう先をみる。

 

 そこには大きな声を上げながら騒いでいるピグモンの姿があった。

 

「いかん!梶!すぐにピグモンを避難させるんだ!」

 

「え、ですが……」

 

 突然の指示に戸惑う梶。

 

 その間にゴメスがピグモンへ接近している。

 

「何をやっている!いけ!いくんだ梶!」

 

「で、でも」

 

 梶の中で怪獣を助けるのか?という疑問が浮かび上がっていた。

 

 梶と目が合うピグモン。

 

 その際にバランスを崩してしまう。

 

「フガァアアアアア!」

 

 倒れたピグモンへ片手を振りあげるゴメス。

 

「やめろぉ!」

 

 気付けば梶はエレクトロHガンを構えて発射していた。

 

 攻撃を受けたゴメスの手元が狂い、ピグモンのすぐ傍に叩きつけられる。

 

「おらぁ!こっちだ!こっち来い!」

 

 ホルダーからウルトラガンを抜いて撃つ。

 

 攻撃を受けたゴメスはピグモンから梶へ標的をかえた。

 

 雄叫びを上げながら梶を狙うゴメス。

 

 エレクトロHガンを連射するもゴメスは止まる様子を見せない。

 

 ゴメスが段々と距離を詰めてくる中、上空から聞こえるエンジン音。

 

 梶が見上げるとウルトラホーク1号がゴメスへブレイカーナックルミサイルを発射する。

 

 

 通過するウルトラホーク1号の中の如月ユキ隊員と目が合う。

 

 かなり遠目だったが、ウルトラ警備隊として体を鍛えていた梶にとってハンドサインを見間違えることはない。

 

 エレクトロHガンを構える梶。

 

 狙いはゴメスの頭部。

 

 そこで全弾発射する。

 

 戻ってきたホーク1号から発射されるミサイル。

 

 全ての攻撃を受けたゴメスは断末魔をあげることなく地面に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「デュワ!」

 

 その頃、ジェロニモンとウルトラセブンの戦いは佳境を迎えていた。

 

 飛来する毒針羽根を前にウルトラセブンは手裏剣光線を放つ。

 

 セブンを狙っていた毒針羽根は手裏剣光線とぶつかって爆発していく。

 

 ジェロニモンが体を揺らして次々と毒針羽根を発射していくもウルトラセブンの光線によってすべてが落とされた。

 

 唸りながらセブンに無重力ガスを発射する。

 

 動きを読んでいたウルトラセブンはウルトラバリヤーを展開。

 

 無重力ガスを浴びたジェロニモンの体が宙に浮かんでいく。

 

 ウルトラセブンはワイドショットを放つ。

 

 空中で防ぐこともできないまま、ワイドショットを浴びたジェロニモンは大爆発を起こした。

 

 ジェロニモンの撃破を確認したウルトラセブンは青い空の向こうへ飛んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「乾杯~!」」」」」」

 

 地球防衛軍の食堂。

 

 入口には「本日貸し切り!ウルトラ警備隊」と書かれた札がぶら下がっていて、室内でオレンジジュースの入った瓶で乾杯を行う。

 

「ファッ!ファッ!」

 

「おい、そんな慌てて食うなよ!腹壊しちまうぞ」

 

 ウルトラ警備隊の六人と一緒に参加しているのは小さな英雄ことピグモン。

 

 今回の事件の貢献者として、ウルトラ警備隊名誉隊員の称号が与えられ、今後は御殿山の科学センターで厄介になることが決定する。

 

 今日の打ち上げに特例として極東基地の入室が許されたピグモンは並べられている料理をおいしそうに食べている。

 

 その傍で楽しそうに梶はピグモンと接していた。

 

「一番、ピグモンのことを警戒していたのに」

 

「ま、戦友になったってことじゃないか?」

 

 からかうリサと微笑みを浮かべる東郷。

 

 怪獣に対して強い警戒心を持っていた彼はどこへいったのやら、そんな姿が微塵も感じられない梶となついているピグモンの姿に誰もが笑みを浮かべている。

 

「ユキ隊員、こういう時くらい笑顔を浮かべたらどうだい?」

 

 少し離れたところにいるユキへドリンクを持った渋川が声をかける。

 

「すいません、あまり笑うことが得意ではなくて」

 

「無理にとはいわないけれど、こういう楽しい時は本当に楽しんでおかないと損するぜ?」

 

「勉強になります」

 

「それで?何を悩んでいたんだ」

 

 渋川にユキは自らの中で燻っている疑問を話した。

 

「ジェロニモンのことです」

 

「怪獣酋長かぁ?確かにアレは厄介だったな。ウルトラセブンが来てくれなけりゃ」

 

「いえ、それもそうなんですが……ジェロニモンはどうやって復活したのかと」

 

「え?」

 

 ジュースを飲みながらユキは考えていた。

 

 ジェロニモンはどうして復活したのか。

 

 以前、復活した個体が子供を残していたのか?

 

 それとも別の復活の要因があったのか。

 

 理由がはっきりとしていないところがユキは気になっていた。

 

 同じ考えに至ったのか、渋川は体をぶるりと震わせる。

 

「ま、あの地域は科学班とか、他の防衛軍隊員が調べているから、その結果待ちだな」

 

「そう、ですね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らは知らない。

 

 既に異変ははじまっているのだ。

 

 地球防衛軍、ウルトラ警備隊、そして、ウルトラセブンすら知らない遠く、そして、不気味な暗闇の中でそれは静かに胎動を始めている。

 

 新たな戦いの時は近い。

 

 

 

 




ミクさんに関しては情報が少ないので、ある女優さんをモデルにして書いています。
特に描写もしていないから、わかりにくいかもしれませんが。


ジェロニモンが蘇らせた怪獣ですが、好みでいきました。



次回についてはなるべく早く頑張ります。




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第二十五話:2020年の挑戦者

新章を書くといったが予定を変えました。

唐突に思いついた話をのせます。

何より、今更ながら気付いたことにいち特撮ファンとして酷く情けない気持ちです。

コロナウィルスで皆さん、暗い気持ちになってばかりでしょうですけれど、楽しんでいただけると幸いです。

話は明るいものではないですけど……

そういえば、新ウルトラマン発表されましたねぇ。

何か、あのウルトラマンの目をなぜか、自分はメガヌロンだと思ってしまった。


 その日、地球防衛軍の二機の戦闘機は哨戒中、正体不明の存在を発見した。

 

「こちらクーガ1!地球防衛軍極東基地!応答せよ!応答せよ!!

 

『こちら地球防衛軍極東基地、どうした?』

 

「日本海で正体不明の発光体を確認!クーガ2と共に目標を追尾中」

 

『こちらも高感度レーダーで確認している……姿形はわかるか?』

 

「駄目です!光が強すぎて、姿形がわかりません!」

 

『向こうに通信で呼びかけは?』

 

「行っています。ですが、応答ありません、そのため、迎撃の――」

 

 それがパイロットが告げた最後の言葉だった。

 

 通信が途絶えた直後、レーダーから戦闘機、そして未確認発光体が消える。

 

 消失の事態に極東基地の偽装滝からウルトラホーク3号が緊急発進するも、戦闘機、そして正体不明の存在は影も形もない。

 

 真相は不明のまま事件は終わった。

 

 はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 川崎沙希は弟達と一緒に小さな遊園地へ来ていた。

 

 ゴーカートに乗っている弟と妹に向かって嬉しそうに手を振る。

 

 キリエル人事件の際に家族に迷惑をかけてしまったお詫び。

 

 そういう形で貯金していたバイト代の一部を崩して、小さくて安い遊園地へ来ていた。

 

 弟達の乗るゴーカートを後からきた女性の乗るゴーカートが通過していく。

 

「危ないな」

 

「遊園地でテンションあげあげなんだろうねぇ」

 

 川崎の傍には付き添いでやってきている楠木涼がいる。

 

 両親は急な仕事で参加できず、泣きながら謝罪しているところを偶然、目撃していた彼女が保護者代理として同行を申し出たのだ。

 

「涼さん、すいません」

 

「いいの!いいの!川崎家にはご飯のお世話とかなっているからこれくらいお安い御用!」

 

 笑顔を浮かべながら楠木は写真を撮る。

 

「あのぉ、その写真、後で……」

 

「いいよ!本当に沙希ちゃんは家族が大好きなんだねぇ」

 

 そういいながらカメラを構える楠木。

 

 ただ、彼女達のいる場所がゴール地点であったことから先を走る女性のゴーカートがどうしてもカメラの中に入ってしまう。

 

「まぁ、仕方ないか」

 

 カメラを構える。

 

「え?」

 

 ゴール地点にゴーカートがやってきた。

 

 だが、そこに乗っていた筈の女性は影も形もない。

 

「消えた……?」

 

 後ろから走っていた大志達も信じられないものをみたという表情をしている。

 

 その日、楠木涼と川崎沙希は人間消失事件を目撃するも警察も信じず、見間違いということで処理されてしまう。

 

 しかし、彼女達は気づいていなかった。

 

 事件に巻き込まれてしまっていることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――休み明けの学校というのは酷く面倒だ。

 

 比企谷八幡は妹の小町を中学校まで送り届けた時にそんなことを思っていた。

 

 自転車を総武高校の駐輪場へ置いて教室に向かう。

 

 休み明けというのは酷くだるい。

 

 自分のペースで土日を過ごしてしまうと、規則正しい生活ということに酷く抵抗感がある。

 

 特に、ここ数日のおかしなことを調べていた時など。

 

「遅かったね」

 

 教室に向かうために校舎へ入ったところで出迎える人物が一人。

 

 髪をポニーテールにして、制服を少しばかり着崩している少女。

 

「川崎?どうしたんだ」

 

「ちょっと、相談したいことがあって」

 

「相談?」

 

「昼休みの時でいいからさ」

 

「……わかった」

 

 戸惑いと必死さが伝わってきたので八幡は了承する。

 

 何かが起こった。

 

 そう八幡は感じ取る。

 

「(さようなら普通の平日、ようこそ奇妙奇天烈の世界へ)」

 

 心の中でふざけながら八幡はそんなことを思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み、誰もいない校舎裏にやってきた八幡と川崎の二人。

 

 傍から見れば不良女子が目が腐った男子生徒へカツアゲをしようとしていると勘違いされるかもしれないが実際は違う。

 

「それで、休みの間に何かあったのか」

 

 小町お手製の弁当の蓋を開けて問いかける。

 

 川崎も弁当を取り出しながら数枚の写真を取り出す。

 

「これは……」

 

 受け取った写真を八幡は覗き込む。

 

 一枚目はゴーカートに乗っている女性の写真。

 

 二枚目、上半身が消えている状態で走るゴーカート。

 

 三枚目をみた八幡は表情が険しくなる。

 

「アンタなら、こういうこと詳しいかなって思って……」

 

 三枚目の写真には地面へ落ちていく不気味な液体のようなものがあった。

 

「これ、消えた人は?」

 

「行方不明ってことになっている……一緒にいたカメラマンの人が撮影した写真をみせても信じなかったから」

 

「そうだろうな、警察は合成写真とか悪戯だって考えるかもしれない」

 

「アンタはどうみるの?」

 

「今はまだ、これが悪戯かそうでないのか判断は難しいな……」

 

「だよねぇ……」

 

「でも、川崎の話がウソや悪戯のものでないことはわかる。まずは調べてみてからだな、学生だからできることは限られるけど」

 

 八幡は立ち上がって振り返る。

 

 ほんの一瞬だが、彼は視線を感じた。

 

 まるで自分達をみているようなねっとりとした視線。

 

「(誰かが俺達を見ている。けれど、これは地球人のものじゃない。ウルトラセブンのような姿を隠してひっそりと活動をしている宇宙人の視線)」

 

「どうしたの?」

 

「川崎!」

 

 八幡は壁にもたれていた川崎をその場から引き離す。

 

 突然のことに動揺を隠せない川崎。

 

 しかし、彼女は知らない。

 

 八幡の目は壁から垂れていく常人に捉えることのできない液体をみていた。

 

 その液体は元から存在しないかのように消えていく。

 

 周囲を探るも襲撃者の姿はどこにもない。

 

 警鐘が八幡の中で鳴っている。

 

 それは彼の経験からくるものなのか、ウルトラセブンが発している物なのかわからない。

 

 だが、確実に異変は起きていることだけはわかった。

 

 狙われているのが川崎沙希であることも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて、よくできているかなぁ?」

 

 その頃、楠木涼は仕事を引き受けた新聞社で写真の現像をしようとしていた。

 

 ついでに先日の遊園地の残りの写真の現像もしてしまおうと考えていたのだ。あの時はドタバタして他の遊園地の写真を忘れていることを思い出す。

 

 道具を片手にはじめようとしていた彼女の机の傍に不気味な液体が近づいていく。

 

 しかし、涼は気づかない。

 

「失礼!」

 

「うわっ!」

 

 後ろから手が伸びて、楠木が後ろへ追いやられる。

 

「ごめんね、こっちが緊急なのさ」

 

「もう!乱暴だなぁ」

 

 文句を言いながら楠木は部屋の外に出ようとした時、小さな悲鳴が聞こえた。

 

「え?」

 

 振り返った先、室内にいた男が消えている。

 

 奥の部屋にいるのか、どこにいるのか。

 

 元から存在していないように誰もいない室内が怖くなって楠木は大慌てで外へ飛び出す。

 

 そして、彼女は携帯で坂本剛一へ連絡したのである。

 

 こういう時は一応、頼りになるであろう男に話をしよう。

 

 不思議な事件ばかりに遭遇する彼女の経験則だった。

 

「人が消えたぁ?おいおい、SF小説じゃあるまいし」

 

「……だってぇ!本当に消えたんだよ!それに二人目!」

 

「あぁ、遊園地の消失?そんなの目を離したすきにパパッとだろう?」

 

「もう!」

 

 相手にしてくれない坂本に苛立ちを感じながら楠木は尋ねる。

 

「ところで、何を読んでいるの?」

 

「ん?あぁ、昔に出版された本だよ……知らないか?“2020年の呪縛”」

 

「何それ?SF小説か何か」

 

 顔をしかめる楠木に坂本は話をする。

 

「昔、神田っていう科学者が書いたSF小説を宇田川っていう人が書いた話だよ……2020年の挑戦っていう話の後に起こったかもしれない出来事をベースにしているらしい」

 

「らしい?」

 

 意味深な発言に首を傾げる楠木に坂本は本を閉じる。

 

「この本の時代背景、今なんだよ」

 

「え?でも、まだ2020年じゃないじゃん」

 

「そうなんだけどなぁ、ほら、ここ」

 

 坂本はあるページを開けて内容を楠木へみせる。

 

 それはゴーカートに乗っていた女性が消失するという内容、主人公の少女がクラスメイトに相談したところで危機に陥るという内容。

 

「お前の話をしているところと少し似ているだろうって、どうした?顔真っ青だぞ」

 

「大変!沙希ちゃんが大変!」

 

「あ、おい!」

 

 突然、走り出した楠木に坂本は驚きながらも荷物をまとめて、大慌てで追いかける。

 

 楠木が向かう先は川崎沙希が通っている総武高校。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に良いの?」

 

「非常事態だから大丈夫だ」

 

 放課後、部活を休む旨の内容を由比ヶ浜に伝えて八幡は川崎と一緒に帰宅する。

 

 由比ヶ浜に伝えた時に頬を膨らませていたが、その理由はわからない。

 

 ボッチ同士で帰宅することは滅多にない。だが、川崎は何かに狙われている。

 

 守るためということで八幡は川崎を家まで送り届けることにしていた。尤も、それで防げるかと言われると怪しい。

 

 しかし、何もしないというわけにいかなかった。

 

「いた!沙希ちゃん!」

 

「ん?」

 

 大きな声に八幡が視線を向けると校門から物凄い速度で走って来る女性がいる。

 

 あまりの勢いに八幡は後ろへ下がった。

 

「大丈夫!?何もされていない!まだ綺麗!?」

 

「え、あの、涼さん……何が……」

 

 ぺたぺたと川崎の体を触って心配している様子の女性。

 

 敵意は感じない。

 

 必死さに周りの生徒達も何事かという視線を向けている。

 

「あのぉ、ここだと騒ぎに」

 

「キミは誰!」

 

 ぐるんと凄まじい眼力で睨まれて八幡は後ろへ下がってしまう。

 

「ひ、比企谷八幡でしゅ」

 

 あまりの気迫にカミカミで答えてしまった。

 

「おい、落ち着けって周りから視線を集めているぞ。どうも、すいません~」

 

 周りに何でもないという風に言いながらやってきた男が女性を引き剥がす。

 

 突然のことに呆然としている川崎。

 

「場所を変えよう」

 

「(あれ、俺も?)」

 

 気付けば八幡も含めた四人は高校から少し離れたところにある喫茶店へ来ていた。

 

 いつの間にか連れてこられたことに驚きを隠せない。

 

「まずは自己紹介からしとこうか、俺は坂本剛一、雑誌の記者で隣のコイツとは腐れ縁」

 

「腐れ縁って何ですか!二人で色々な怪事件を解決したでしょう」

 

「正確には巻き込まれたが正しい」

 

「もう!あ、楠木涼です。フリーのカメラマン、沙希ちゃんと近所で仲良くしています!」

 

「川崎沙希です。涼さんには色々お世話になっています。総武高校の二年生です」

 

「ひ、比企谷八幡。か、川崎さんとは同じクラスです」

 

 一通り自己紹介が終わったところで川崎が八幡を指さす。

 

「コイツ、人見知り激しく見えますけれど、こういう怪しい事件とかによく遭遇しているので頼りになると思います」

 

「おぉい、何でそういうこというのぉ」

 

 八幡は川崎の言葉にあたふたしてしまう。

 

 いきなり何を言いだすのだろうかと、戸惑う中で坂本が手を叩く。

 

「ま、これも何かの縁だ、情報交換しておこうか……念のため」

 

 坂本の言葉と共に情報の交換がはじまった。

 

 楠木は写真を現像しようとした部屋で人が消失したということを聞いてもしかしたら川崎が狙われるかもしれないと駆けつけてきたらしい。

 

 本気で川崎を心配していることが伝わってくる。

 

「(それにしても、既に消失事件が既に起こっているのか)」

 

「あの、これだけ起こっているのに警察はどうして動かないんですか?」

 

「それは」

 

「はっきりと関係性があるとわかっていないからだよ」

 

 説明しようとした坂本の声を遮る形にはなるが八幡が説明を始める。

 

「この時代、行方不明なんていうものは当たり前だ。借金、人との関係、犯罪、様々な理由で人は今ある生活を投げ出して逃げ出してしまうことがある。そんな人たちすべてを捜せるほど警察は万能じゃない。この事件も普通じゃないものが紛れている可能性があるだけではっきりとわからない……警察が対応するには材料が足らない」

 

「そ、そういうことだよ」

 

「カッコつけようとして失敗している」

 

「うるさいなぁ……ところで、キミ、比企谷君だよね?前にどこかで会ったことない?」

 

「え、男をナンパ?」

 

「違うわ!」

 

 揶揄う楠木に坂本は叫ぶ。

 

 二人のやり取りに呆れた表情を浮かべていた八幡だが、ある冊子に目が行く。

 

「坂本さん、その本は?」

 

「あぁ、これか」

 

「うわ、持ってきていたの?」

 

 坂本が取り出したのは“2020年の呪縛”と書かれている本。

 

 拍子に描かれているのは観覧車を壊している巨大な怪物。

 

「2020年の挑戦の続編って言われている奴ですよね?」

 

「お、知っているのか?」

 

「前に知り合いが読んでいたので」

 

 八幡へ本を差し出す坂本。

 

 本のページをめくる。

 

「そこまで興味を持ったか?」

 

「違います。そうか、これか……」

 

 本を一通り読んで八幡は納得した表情を浮かべる。

 

「何か、わかったの?」

 

「坂本さん、この本の作者さんって、どこにいるかわかりますか?」

 

「あー、調べることはできるけど」

 

「お願いします」

 

「一体、どうしたの?」

 

 戸惑う楠木に八幡は本を閉じる。

 

「2020年の挑戦は続いている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから、頼みますよ!え、部署が違う?前の事件で手助けしたじゃないですか!知らない?惚けないでください!魚人事件!あれで俺、危うく殺されかけたんですよ!?そのお礼ということで、え?違いますよ!悪用はしませんよ!絶対!ウソなら逮捕してくれたって構いません!え、あ、はい!」

 

 少し離れた所で電話をしている坂本を置いて、楠木と川崎、八幡の三人はベンチに腰かけている。

 

 八幡は2020年の呪縛という本を読んでいた。

 

「比企谷、本当にその本が事件の糸口になるの?」

 

「そうだよ、ただのSF小説でしょ?」

 

「話の展開はSF小説ですよ。でも、これはあくまでそうみえるだけで未来予知に近い話のようなものです」

 

 普通の人が読めばただの空想科学小説と思うだろう。

 

 だが、八幡は違う。

 

 彼の中のウルトラセブンの人格が疑えと、これが鍵だと伝えている。

 

 小説を読んでいた所で坂本がやって来た。

 

「わかったぞ。作家宇田川さんの住所、意外と近くだ」

 

「じゃあ、すぐに」

 

 ピロロと不気味な音が聞こえた。

 

 しかし、常人に聞こえない特殊な音。

 

 八幡は周りを見る。

 

 楠木と川崎のいる木の上からドロドロと垂れている液体。

 

「川崎!」

 

 八幡が気付いて駆け出すも間に合わない。

 

 目の前で楠木と川崎の二人が消えた。

 

「ウソ、だろ!?」

 

 驚いてベンチへ手を伸ばそうとする坂本の腕を掴む。

 

「あれ……」

 

 八幡の視線はベンチに垂れている液体。

 

 液体は生き物のようにうねりながら近くの木の上へあがっていく。

 

「あ!」

 

 木の上をみた坂本が声を上げる。

 

 枝の上にしがみつくような形で立っている人のような者がいた。

 

 ギラギラしている丸い瞳、不気味な笑い声。

 

 頭部に生えている触覚。

 

 アンバランスな瞳、黒い体はふさふさした体毛のようなものがある。

 

 人の形をしているが明らかに人ではない。

 

「ケムール人」

 

 八幡が正体を明かす。

 

「フォッフォッフォッ」

 

 不気味な笑い声をあげて走り出すケムール人。

 

 追いかけるよりも早くその姿は消えてしまう。

 

「な、何が、もしかして、本の通りに!?」

 

「宇田川さんのところへ行きましょう。手がかりがあるはずです」

 

「よし」

 

 八幡は坂本と共に宇田川の自宅へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、一足遅かったか!」

 

 宇田川家は離れにある閑静な住宅だった。

 

 中へ入った坂本と八幡だが、室内は荒らされた後のように家具や様々なものが散在している。

 

 坂本は荒れた家具などを退かしながら室内の電気を点けようと手を伸ばす。

 

「動くな!」

 

 暗闇の中、坂本は背中に固い何かを突き付けられたことに気付く。

 

 両手を挙げて抵抗の意思がないことをアピールする。

 

「坂本さん!」

 

「来ちゃダメだ!」

 

 暗闇の中、聞こえた八幡の声に坂本は叫ぶ。

 

「仲間がいるな?動けば容赦なく撃つぞ」

 

 やってきた八幡に声の主は低い声で固いものを坂本へ強く押し付けた。

 

「ショットガンを構えるのは良いですけれど、弾が装填されていなかったら撃てないんじゃないですか?」

 

「なに!?」

 

 八幡の言葉に声の主が慌てて動き出した隙をついて、振り返った坂本が相手を殴り飛ばす。

 

 上から覆いかぶさる形でショットガンを奪い取った。

 

「コイツぅ!一体、何のつもりで」

 

 坂本が電気を点ける。

 

 室内が明るくなり、白衣を纏った初老の男性が床に倒れていた。

 

「お前ら、人間なのか?」

 

 殴られた男が目を細めながら尋ねる。

 

「見た目でわかるだろう、俺は人間だよ」

 

「このご時世、見た目ですべてがわかるなんてありえないことだよ。人の皮を被った怪物なんてザラだ!」

 

 ショットガンを触って坂本は呆れた声を上げる。

 

「これ、モデルガンじゃないか!くそっ、ふざけやがって!」

 

 怒りながらショットガンを放り投げる。

 

「貴方……宇田川さんですか?2020年の呪縛を執筆した」

 

「そうだったら?」

 

 八幡の言葉に坂本は目を剥く。

 

「教えてくれ!アンタの執筆したこの話は本当なんだよな」

 

「だったらなんだ?」

 

「消失した人達を元に戻す方法はあるんですか」

 

 八幡の問いかけに宇田川は興味なさげに座り込む。

 

 置いてあるペットボトルの茶を飲んだ。

 

「そんなことをしてどうする?」

 

「え?」

 

「助ける方法があったとして、それが何だ?所詮、焼け石に水の行為だ。連中は日本だけじゃない世界中から多くの人間を消失させている。ほんの一握りでも助けた所で何の意味がある?」

 

「そんなこと……ただ、消失されるのを待てっていうんですか?」

 

「もう手遅れだ。連中は時が来るのを待っていたんだよ」

 

「時?」

 

「連中は2020年の挑戦で諦めたわけじゃない、ただ、時が来るのを待っていたのさ……人が消えても誰が気にしない時代。人同士の繋がりが薄れた瞬間を待っていたのさ」

 

 置いてある書類を放り投げる。

 

「辛抱強く待っていた連中の勝利。何の対策もしてこなかった愚かな人類の敗北さ」

 

「な、なに諦めているんだよ!」

 

 彼だけが希望と考えていた坂本だが、何もかも諦めたような態度に動揺を隠せない。

 

「アンタだけが頼りなんだよ!唯一、連中のことを知っているアンタだけが助ける方法を知っているかもしれないって、俺達は」

 

「他に方法があるか?今、この段階で連中は多くの肉体を確保している。今更、助け出したところでどうこうなるわけが」

 

「少なくとも!」

 

 床を叩いて坂本は叫ぶ。

 

「今、何かできるならやるべきだ。やらなくて後悔するよりはマシだと俺は思っている」

 

「そんなこと」

 

「貴方だって」

 

 坂本は置かれている冊子を手に取る。

 

「貴方だって、何とかしたいからこの本を出したんじゃないんですか!警告だって、俺達に、地球はまだ狙われているってことを発するために」

 

「だとしても、手遅れだ」

 

「まだだ」

 

 本を強く握りしめて首を振る。

 

「まだ、人類は完全に敗北したわけじゃない。それに、諦めない限り、助けてくれる奴らだっている。知っているだろう!アンタだって」

 

 宇田川は坂本の真剣な言葉に何も言わない。

 

 目を閉じると飲んでいたペットボトルの蓋を閉じて机へ置いて立ち上がる。

 

「宇田川さん!」

 

「俺の親父は刑事だった」

 

 顔を見られたくないのか坂本達へ振り返らずに話始める。

 

「親父は優秀だったが、ヨボヨボでボロボロ、定年間際っていうところで2020年の挑戦事件に関わった。形はどうあれ、親父は事件解決に貢献した。けれど、最後に消えた」

 

「……消えた?」

 

「連中の液体を不用意に浴びてしまい、帰ってこなかった。事件は解決したと世間は言うが俺は違う!まだ終わっていないのさ!奴らはまだ地球を狙っている。そのために俺は連中と交信した博士のところで徹底的に勉強した、同じように実験装置を使って奴らと交信も試みた!そして警告の意味を込めて本を書いた。しかし、結果はどうだ?ただの空想科学小説?ふざけるな!お前達は終わったと安心したいだけだろう!俺は違う!俺はまだ、終わっていない!奴らを」

 

「宇田川さん、貴方は2020年の時間に囚われているんですね」

 

 八幡の言葉に宇田川は座り込む。

 

「囚われているなら終わらせるべきだ。すべてに決着をつけるべきだと私は思う」

 

「……比企谷君」

 

「これを持っていけ」

 

 金庫を解錠して宇田川はケースを取り出す。

 

 受け取った坂本はケースを眺める。

 

「これは……」

 

「Kミニオードの改造版……連中は一回目の失敗から対策を施している可能性がある。これを防衛軍が管理している光波装置へ搭載すれば、奴の脳神経を狂わせて消失した人達を取り戻せる」

 

「本当ですか!」

 

「さぁな、だが、これで終わらせてくれ」

 

「だったら、貴方が」

 

「坂本さん!」

 

 八幡が坂本の腕を掴んで下がらせる。

 

「無理だ」

 

 宇田川の頭上にケムール人がいた。

 

 ケムール人の頭部から消去エネルギー源のゼリーが落とされる。

 

「頼む」

 

 ゼリーが落ちて消失していく宇田川は坂本へ言う。

 

「俺の代わりに終わらせてくれ」

 

 その言葉を最後に宇田川の姿は消失する。

 

「フォフォフォフォフォ」

 

 不気味に笑いながらケムール人は坂本の持っているケースへ手を伸ばそうとした。

 

 坂本の後ろから八幡が念動力を放つ。

 

 念動力を受けて壁にぶつかるケムール人。

 

「フォフォフォフォフォ」

 

 笑いながらケムール人は外へ飛び出す。

 

「比企谷君!」

 

「俺は奴を追いかけます!坂本さんはその装置をウルトラ警備隊に!」

 

「でも」

 

「貴方は託されたんです!宇田川さんから……2020年の呪縛を終わらせるために」

 

「っ、くそっ!」

 

 逃げ出したケムール人は夜闇の中へ溶け込もうとするように走り出していく。

 

 坂本の姿がみえなくなったことを確認する。

 

 八幡は胸ポケットからウルトラアイを取り出す。

 

「デュワ!」

 

 ウルトラアイを装着した八幡はウルトラセブンに変身する。

 

 眩い光と共に人サイズのウルトラセブンは空を飛んで逃走するケムール人を追跡する。

 

 ケムール人は誰もいない廃墟へ疾走していく。

 

 飛行していたウルトラセブンは空中でビームランプの前で構える。

 

 エメリウム光線がケムール人の体を直撃した。

 

 光線を受けたケムール人は膝をつくが、両手の前で体を構えるとその体がみるみる巨大化していく。

 

 あっという間に巨大化してウルトラセブンを見下ろすケムール人。

 

「デュワ!」

 

 胸の前で腕を交差させて巨大化する。

 

 ウルトラセブンはケムール人と対峙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、ケムール人が巨大化したことで事態を把握した防衛軍。

 

 ウルトラ警備隊の東郷隊員へ坂本が通報したことでケムール人を撃退、消失した人々を救出するための光波装置が用意される。

 

「本当に確かなんだな?」

 

 用意された光波装置をウルトラホーク1号へ搭載しながら東郷は確認するように尋ねる。

 

「間違いないです!この装置にKミニオードを搭載して起動させれば、奴の脳神経を狂わせることができる……と、奴を調べた科学者の見解です」

 

 2020年の呪縛と書かれた本をみせながら坂本は訴える。

 

 東郷は頷くとウルトラホーク1号へ搭乗した。

 

 上昇するウルトラホークの姿を見ながら坂本は離れた所で戦うウルトラセブンとケムール人の戦いを見る。

 

 ウルトラセブンは光線技を使わず肉弾戦でケムール人と戦っていた。

 

 光線技を使わずということになるとケムール人は中々の実力者である。

 

 肉体を改造していることだけあってその身体能力は高い。

 

 能力を制限していることからケムール人が終始、圧倒しているように見えた。

 

 ウルトラセブンは待っていた。

 

 ケムール人が笑いながら両手の拳をウルトラセブンへ振り下ろす。

 

 両手でガードしながら拳を防ぐ。

 

 ウルトラホークのエンジン音をセブンは捉える。

 

「デュワ!」

 

「フォフォフォフォ!」

 

 ケムール人の足を掴んで動きを封じ込める。

 

 必死にセブンの拘束から逃れようと暴れた。

 

 ウルトラホーク1号から強化されたXチャンネル光波が発射される。

 

 光波を受けたケムール人は苦悶の声をあげた。

 

「フォフォフォフォフォ!」

 

 頭を抑えながら地面へ倒れこむケムール人。

 

 光波を受けて脳神経が狂っているのだろう。

 

 頭部からゴボゴボと消去エネルギー源のゼリーが噴き出していく。

 

 ウルトラセブンが腕から光線を放つ。

 

 螺旋状の光線を受けたケムール人は体から白い煙に包まれて炎上を起こす。

 

 ブクブクと泡状の崩壊を起こしてケムール人は倒された。

 

 ウルトラセブンは空へ視線を向ける。

 

 両目から光線が発射されて宇宙に眩い発光体が現れた。

 

 L字に組んでワイドショットを発光体へ放つ。

 

 光線を受けた発光体が大爆発を起こす。

 

 発光体が爆発を起こした真下に広がっていく白い煙。

 

 煙が地面へ広がって消えると、消失した人達が地面へ倒れている。

 

 消失した人たちが戻ってきたことを確認してウルトラセブンは夜空の中へ消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前は遠慮って言葉を知らないのか?」

 

 ファミレスの中で坂本はハンバーガーを食べながら呆れている。

 

「だってぇ、何も覚えていないし、気付いたら腹減っちゃったんだよねぇ。それにこんな特ダネを引っ張り出したんだからボーナスくらい出ているでしょう?」

 

「あまり嬉しくはねぇけどな」

 

 坂本の手の中には一連の事件を記した雑誌。

 

 他のマスメディアを出し抜いたことで発行部数はトップだという。

 

「まぁ、唯一、許せるというのは一人の男が2020年の呪縛から解き放たれたってことかな」

 

「どういうこと?」

 

「さぁね」

 

 坂本はそういいながらハンバーガーを食べる。

 

 机には今回の事件が記された雑誌ともう一つ2020年の呪縛の本が入っていた。

 

 どこからか風が吹いて本のページが捲れていく。

 

 

 

 最後のページにある言葉が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

―【今回ですべての事件が解決したかはわからない。我々は狙われている。人類が団結しない限りケムール人は隙あらば人の肉体を得ようとするだろう。もしかしたら、既に貴方の身近の人が消えているかもしれない】

 

 

 

 

 




今回の解説

2020年の挑戦

ウルトラQの話の一つ。
ホラーテイストでありながら、ところどころにギャグみたいな話もあるお話。
最後の結末については、ホラーと捉えるかギャグとみるかは人それぞれ、ちなみに自分はホラーだと感じました。

ケムール人
同じくウルトラQに登場した宇宙人。
2020年からきた宇宙人ということらしいが、一説では地球人の未来の姿かもと語られている。
最近だと、ウルトラマンギンガの人を追いかけるケムール人ですかねぇ?


この話を書こうと思いついたのは2020年の挑戦を偶然にも視聴したということと、今年が2020年であることを今更ながらに気付いたんですよねぇ。

果たして自分達の2020年はどうなるのか、今回の話みたいなことが起こり得るのかと考えながら書きました。

次回からは新章の予定です。


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第二十六話:闇の胎動

ようやくパソコン買い換えが終わりました。

これから更新をゆっくりとですが、進めていくつもりです。

待たせてしまったユーザーさんには申し訳ありませんでした。

今回はあくまで新しい話の繋ぎみたいなところです。

一部というか、六割ほど、ある映画をモデルにしています。




 ソレは密かに地球へ降り立った。

 

 地球は宇宙人からの侵略に備えていくつかの宇宙ステーションや地上からのレーダー設備で目を光らせている。

 

 だが、ソレは生命体であり、残滓とでも呼ぶべき存在だ。

 

 それ故に防衛軍の監視の目を通り抜けることなど造作もない。

 

 地球へ侵入したソレは迷わずに目的の地を目指す。

 

 何百光年も離れていたのに関わらず、ソレを呼び寄せるほどに深く、そしてどす黒いものを感じさせられる。

 

 海の奥深く、さらにその奥まで侵入していく。

 

 人間や普通の生き物ならたどり着くことの出来ないその場所へ入り込んでいった。

 

『何者だ?』

 

 入り込んだソレへ語り掛ける者がいた。

 

『何者でもない、ただ、お前達の放つマイナスエネルギーに引き寄せられた』

 

『目的はなんだ?』

 

『目的か、復活であろうか』

 

『復活?』

 

『余は肉体を失った。だが、奴らへの恨みだけは消えない。奴らへ復讐するのだ』

 

 ソレは肉体を失っても決して消えない炎があった。

 

 復讐の炎とでも呼ぶべきそれは決して消えることなく今も燃え続けている。

 

 奴らへ復讐すること。

 

『復讐、か……我らはそんなものを望まぬ』

 

『では、何を求める?』

 

 問いかけてくるソレの言葉に間を置きながら彼らは答える。

 

『人間共の恐怖と絶望をその身に浴びる事』

 

 ソレは笑う。

 

『面白い、お前達の封印を解いてやろう。どれだけこの星を恐怖と絶望で叩き落すのか、楽しみだ』

 

 笑いながら目の前の壁をソレは壊す。

 

 壁の向こうは広く、そして、闇だけが広がっていた。

 

 その中で六つの光が灯る。

 

 一週間後、闇の力によって怪獣酋長ジェロニモンは復活した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ、島の調査へ同行してほしい!?」

 

 その日、坂本剛一のところへ来客者があった。

 

「はいぃ」

 

 やってきたのは刑事であり、どこか頼りなさそうな印象を持つ越永刑事。

 

 彼の話では九州にある無神島で島民が「怪獣!」という無線を最後に消息を絶つという事件が発生したらしい。

 

「そういうのって、本来なら防衛軍とかウルトラ警備隊の仕事じゃないんですか?」

 

「はぁ、本来なら、そうなんですが、向こうの話によりますとねぇ?当日、怪獣らしき反応は検知されなかったということらしいんです」

 

「でも、その日って」

 

「はい、台風が接近していて……」

 

「けれど、何で、俺なんかに?頼りになる人なんか沢山いるでしょう?」

 

「いえいえいえ!坂本さんほど頼りになる人間はいませんよ!本庁の富永課長と貴方は液体人間事件や電送人間事件を解決に導いていると!……怪奇事件なら貴方が頼りになります」

 

「ちょっと微妙だけれど、確か無神島は知り合いの先生がいたはずだし、行きますよ」

 

「本当ですか!ありがとうございます!」

 

 坂本が了承したことで越永刑事は何度も頭を下げながら喜んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日後、越永刑事と坂本は調査隊と共に無神島へ訪れる。

 

 島は台風の後ということを除いてもひどい状態だった、家屋のすべてが倒壊して、人はおろか犬など生き物の姿が一つもない。

 

「これ、本当に台風だけですか?ありえないですよ」

 

 制服警官達が生存者を捜す中で坂本も半壊している民家へ足を踏み入れる。

 

 いつ、倒壊してもおかしくはない危険があるものの、生存者がいないか調べる必要があった。

 

「って、これ……」

 

 民家の中を調べ終えて、外に出たところで腐臭を放つ物体をみつける。数日の時間が経過していることで害虫が集まっていた。

 

「何ですか、これ?」

 

 ハンカチで口元を抑えながら越永刑事が尋ねる。

 

 ゴム手袋を装着した坂本が物体へ手を入れた。

 

「未消化物、ペリットとかいう鳥類とかが出すものに似ているけれど、ここまでデカイものは早々……」

 

 坂本はあるものを掴んで取り出す。

 

 手の中にあったものはぐちゃぐちゃに潰れたボールペン。

 

「これ……南方先生のものだ」

 

 イニシャルは坂本の知り合いの学者のものだった。

 

 ドロドロと崩れる中から壊れたメガネのフレームが流れていく。

 

 島民の住む場所から移動をして、坂本達は森の中を歩いていた。

 

 もしかしたら、森の中に生存者が逃げているかもしれない。そんな淡い期待を抱きながら警官達と共に坂本達は歩いている。

 

「森の中にいるでしょうか?」

 

「どうでしょうね?もしかしたら、この島を襲撃した存在とかち合う危険もありますけど」

 

「えぇ!?」

 

 越永が驚きの声を上げるも森の中を探した結果、生存者はなしということでヘリに乗って本島へ一時、戻ることが決まる。

 

 ヘリの中で坂本は知り合いが死んだことにわずかながらのショックを受けていた。

 

「大丈夫、ですか?」

 

「少し、ですけど」

 

 越永の身を案じる言葉に大丈夫と答えながら坂本は鞄からハンバーガーを取り出す。

 

 よくよく考えれば、今日一日ハンバーガーを食べていなかった。

 

「そりゃ、手も震え……え?」

 

 視界の片隅に何かが映った。

 

 その何かを認識するのが信じられず、確認するように二度見する。

 

「どうしました?」

 

「あ、あれ」

 

 坂本は震える声で後ろを指さす。

 

 前の席に座っていた越永もゆっくりと振り返る。

 

 そして、悲鳴をあげた。

 

 ヘリの後ろから翼を動かしながらこちらへ迫ってくる怪鳥

 

 赤い瞳と目が合う。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 ヘリの中であるということを忘れながら叫ぶ越永。

 

 坂本も機内の端へ寄る。

 

 パイロットがヘリを操作して距離を取ろうとするが怪鳥はお構いなしに近づいていた。

 

 越永が無線機で連絡を取っている。

 

 おそらく空港だろう。

 

 坂本は相手の姿を見る。

 

 全長は約二メートルから三メートルくらい。

 

 嘴に鋭い牙が並んでいることからおそらく肉食。

 

 もし、あの島にいたというのなら、島を全滅させたのは。

 

「え、空軍って……防衛軍?」

 

 結論へ至ろうとしていた坂本の耳に越永の安堵した声が聞こえてくる。

 

 同時に聞こえてくるエンジン音。

 

 ヘリを襲撃しようとした怪鳥の背後にウルトラホーク1号が現れた。

 

「た、助かった……」

 

 座席にもたれこむ越永だった。

 

 怪鳥は現れたウルトラホークによって撃退される。

 

 これで、事件は終わった。

 

 そのはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球防衛軍極東基地。

 

 施設の中で300名以上の隊員が勤務している極秘施設。

 

 地下にある部屋の一室。

 

 そこで一人の男がパソコンを起動していた。

 

 画面に【極秘】と表示されている。

 

「これが、我々人類の救済になることを」

 

 男はぽつりと呟くとキーボードを打つ。

 

 表示されている書類は調査部隊の設立。

 

 調査日程、人員、目的のところをぼかしつつ、資料を作成していく。

 

 そして、最後に調査場所が書かれる。

 

【調査地:ルルイエ】と

 

 

 




次回から八幡達がでてきます。

失踪されているかもと心配してくれていた方もいますが、これから更新は頑張っていきますのでよろしくお願いします。


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第二十七話:文化祭、ただし不穏なモノがある様子

文化祭編突入です。

合間、合間に別のエピソードを挟んでいく予定です。




 

「先輩~、先輩は文化祭、何をするんですかぁ?」

 

 いつもの奉仕部……ではなかった。

 

 マッカンを飲もうとしていたタイミングで部室へやってきたのは一色いろは。

 

 笑顔を浮かべながら空いている椅子を八幡の近くへ置いた。

 

「あれ、由比ヶ浜先輩達は?」

 

「あいつらなら用事だ……」

 

「ふーん、ところでところで!文化祭は」

 

「あー、うちのクラスは演劇らしいな」

 

「演劇ぃ?先輩も何かの役をやるんですか?」

 

「まさか」

 

 八幡は笑みを浮かべる。

 

「俺は裏方作業だ。演劇なんて柄じゃない」

 

「えぇ~、先輩が演劇する姿を見てみたかったなぁ」

 

「はいはい、あざといあざとい」

 

 呆れながらマッカンを飲んでいた時、部室のドアが開かれた。

 

 ノックもせずに入ってくるのは数人の女子生徒。

 

 当然のことながら八幡は誰かわからない。

 

「ねぇ、ここって奉仕部よね?」

 

「あぁ、悪いが部長今日こない。何か依頼か?」

 

「ふーん、じゃあ、明日はいるの?」

 

「その予定だな」

 

「そ」

 

 短く答えると仲間を連れて出ていく。

 

「あれ、相模先輩ですねぇ」

 

「有名か?」

 

「うわぁ、同じ学年なのに知らないんですかぁ?ごめんなさい、無知って罪ですよねぇ」

 

「なんで俺謝られているの?まぁいい、有名なんだな?」

 

「メチャクチャってわけじゃないですよ?」

 

 一色の話によると相模を含めたグループは上位カーストにあるらしい。

 

 尤もトップは葉山グループで相模グループは二番手ということ。

 

「そんな人達が奉仕部へ何の用事だったんでしょう?」

 

「さぁな、ただまぁ」

 

「ただ?」

 

「面倒ごとが舞い込んでくる。そんな予感はあるな」

 

 ぽつりと八幡は呟いた。

 

「文化祭って、何なの?」

 

 ひょこっとダークゾーンからペガが現れる。

 

「お前、学校では顔を出すなよ」

 

「えぇ~、でも、今はいろはちゃんしかいないじゃん」

 

「ほかに人がくるかもしれないだろ」

 

「まーまー。文化祭をペガは知らないの?」

 

 八幡を宥めながら一色はペガに尋ねる。

 

「うん」

 

「文化祭っていうのはねぇ、学生がやる祭りだよ」

 

「お祭りかぁ、楽しそうだね!」

 

「んなわけないだろう、事前準備とか、夜まで集まって作業とか面倒でしかない」

 

 ぽつりと漏らしながら八幡はマッカンを飲み干す。

 

 一年生の時はいろいろあって、文化祭は参加していなかったものの、中学の時にトップカーストが決めたことに巻き込まれて、いろいろと手伝ったことは苦い思い出、もとい黒歴史のようなものだ。

 

 八幡として文化祭は面倒なものだと考えている。

 

「あ、じゃあ、先輩、文化祭、一緒にみてまわりませんか?」

 

「なんで?」

 

「いいじゃないですかぁ…………貴重な財布になりそうだし」

 

「聞こえているんだけど?まぁ、いいか」

 

「やった~!」

 

 嬉しそうな一色の表情を見ていると自然と八幡も笑顔になった。

 

 そんな彼らの様子をペガも眺める。

 

 下校時間まで一色は騒がしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……」

 

 どこまでも広がる闇。

 

 宇宙の空は不気味な闇に覆われて、地面の生命は次々と枯れ果てる。

 

 命の存在しない場所。

 

 そんなところに俺はいた。

 

 周りのものが色を失い、すべてが闇へ飲まれてしまう。

 

「キャアアアアアアアア!」

 

 悲鳴に八幡が振り返ると生き残りの星人達が闇に飲み込まれる。

 

 靄のような闇は生き物のようにうねりながらゆっくりと逃げようとしていた星人達を捉える。

 

「やめろ!」

 

 八幡が手を伸ばすも彼らは闇の中に消えた。

 

 閉ざされた闇の世界に取り残された者達が次々と消えていく。

 

 そんな光景を笑うような声が響いた。

 

「あれは…………」

 

 闇の中心地。

 

 そこで笑うように鳴き声を出すもの。

 

「大いなる黒き者、そうだ、あれは」

 

『暗黒の支配者』

 

 眩い輝きとともに八幡の前に一人の光の戦士が現れる。

 

「セブン……これはアンタが俺にみせているのか?」

 

 八幡の前に現れるウルトラセブン。

 

「セブン?」

 

 しかし、ウルトラセブンは何も答えない。

 

 セブンの額にあるビームランプから緑色の粒子が八幡に向かって降り注いでいく。

 

「セブン!なぁ、セブン!」

 

 遠ざかっていくウルトラセブンを追いかけようとする八幡。

 

 段々とセブンの姿が遠ざかる中で八幡は必死に手を伸ばして。

 

「変な夢を見た」

 

 自分の部屋であることを確認して、八幡は上半身を起こす。

 

 変な夢をみた影響なのか着ているパジャマは汗でぐしゃぐしゃになっていた。

 

「不吉なことの起こる前兆じゃないだろうな」

 

 ぽつりと呟きながら八幡は机の引き出しをあける。

 

 カプセル怪獣達の入っているピルケース、そして、ウルトラアイ

 

 八幡は引き出しの中からウルトラアイを取り出す。

 

「アンタは俺に何を伝えようとしたんだ?セブン」

 

 ウルトラアイを見つめていた八幡は少ししてベッドの中へ戻る。

 

 すぐに答えの出ないことは後回しにしよう。

 

 妹がフライパンとお玉を手にしてやってくるまで八幡は睡眠をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八幡、文化祭はどうするの?」

 

 昼休み、戸塚が八幡へ尋ねてくる。

 

 文化祭の実行委員を午前中に決めたかったのだが、葉山隼人が遅刻するということで、昼から話し合おうということに決定していた。

 

「どうするもなにも、俺は何もせずにのんびりしていたい」

 

「アンタ、そればっかりだね」

 

 呆れた表情を浮かべて、川崎沙希が話に入ってくる。

 

「でも、実行委員だけは勘弁してほしいかな。帰りが遅くなるし」

 

「あぁ、そうだなぁ……帰りが遅くなると小町が心配する」

 

「八幡は妹さんのことが大好きなんだね」

 

 微笑む戸塚に八幡が話そうとした時だ。

 

「ヒキオ」

 

 呼ばれて振り返ると、三浦が立っていた。

 

「その、少し話があるんだけど、いい?」

 

 普段なら川崎といがみ合うのだが、今日は何やら様子がおかしい。

 

 異変に川崎も気づいているらしく、沈黙していた。

 

「悪い、席を外すわ」

 

 二人へ謝罪を入れながら八幡と三浦の二人は廊下に出て、歩いていく。

 

「その、ごめん、呼び出して」

 

「別に、気にしていないぞ」

 

「ありがと、その、こういう相談をアンタにすべきかどうかってところもあるんだけど」

 

「いいぞ、一人で溜め込むよりも誰かに話したほうがいいらしい」

 

「ありがと、その話したい内容は隼人のことなの」

 

「葉山?」

 

 三浦の相談内容は葉山隼人の様子がおかしいということ。

 

 メフィラス星人が起こした人間生物X事件からぎくしゃくした関係のままだったが、八幡達と接していく中で歩み寄ることを決めたのだが、葉山隼人の異変に気付いたという。

 

「その、どこがおかしいとか、言えないんだけどさ……いつも浮かべている表情に影というか、なんか肌寒いものを感じる」

 

「肌寒いもの?」

 

 その時のことを思い出したのか三浦は自分の体を抱きしめる。

 

「あーしの勘違いかもしれないけど。今の隼人はなんか、怖い」

 

「それ、由比ヶ浜に相談とかは?」

 

「ユイに相談しようと思ったんだけど、その時に限って隼人にみられている気がして」

 

 八幡は思考する。

 

 三浦優美子の話にうその類は感じられない。

 

 自分は気づいていないがもしかしたら、葉山隼人が何か悩みを抱えているとかそういうものだろうか?

 

「とりあえず、俺のほうでそれとなく確認してみる……もし、三浦の方で何か気づいたこと、感じたことがあったら教えてくれるか?」

 

「まかせろし!」

 

 いつもの調子の三浦の言葉に八幡は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼過ぎ、文化祭実行委員も決まって八幡はいつものように奉仕部の部室へ足を運ぶ。

 

「遅かったわね。遅刻谷君」

 

「挨拶代わりに軽いパンチってどうなの?」

 

 いつものやりとりを行いながら距離を開けて八幡は椅子へ腰かける。

 

「ゆきのん!ひっきー!」

 

 最後にやってきたのは由比ヶ浜だった。これで奉仕部のメンツがそろったわけだが。

 

「そういえば」

 

 八幡が思い出したように話そうとしたところで、教室のドアが開いた。

 

「今日はいるみたいだね」

 

 入ってきたのは先日、部室へやってきた女子生徒達だった。

 

「貴方、相模さんね」

 

「へぇ、知っているんだ?」

 

「名前と顔だけよ。他は全く知らないわ」

 

 淡々とけれど、ばっさりと雪ノ下は告げる。

 

 一瞬、相模という女子生徒の顔が歪んだことを八幡は見逃さなかった。

 

「ここへ来たということは奉仕部へ依頼に来たということでよろしいのかしら?」

 

「うん、私さぁ、文化祭の実行委員に立候補したの、それで、実行委員長もやるつもりでさぁ、雪ノ下さんに手助けしてほしくて」

 

「手助けといっても、どこまでのレベルを求めるのかしら?」

 

「手助けは手助けだよ、困っているときに助けてほしくてさぁ」

 

「……一応、私も文化祭の実行委員に選ばれているから協力はできる」

 

「本当!」

 

「でも」

 

 喜ぶ相模へくぎを刺すように雪ノ下は嬉しそうにしている相模とその取り巻きへくぎを刺す。

 

「あくまで手助けは手助け……最後は相模さん。貴方がきちんと終わらせること、それが条件よ」

 

「えぇ、まぁ、手助けしてくれるんだし楽勝だよね!、じゃあ、会議の時によろしくぅ」

 

 ひらひらと手を振って嬉しそうに去っていく。

 

「さがみん、相変わらずだなぁ」

 

「知り合いか?」

 

「前に同じグループだったんだ」

 

「ふーん」

 

 由比ヶ浜に八幡は短く答えた。

 

「ねぇ、ゆきのん、さっきの依頼。引き受けるの?」

 

「えぇ」

 

「大丈夫か?さっきの相模とかいう奴、明らかにお前を利用するつもりでいたみたいだが」

 

 彼女達は明らかに雪ノ下を利用するつもりで奉仕部へやってきている。

 

 魂胆がわかりきっていることに協力するべきではないだろう。

 

「そうね、でも、私としても少し挑戦したいことでもあったの」

 

「挑戦?」

 

「……気持ちに整理がついたら話すわ、ごめんなさい」

 

「謝ることないよ!あたし、ゆきのんのこと応援するから!」

 

「由比ヶ浜さん、ありがとう」

 

 由比ヶ浜は嬉しそうに雪ノ下へ抱き着いた。

 

 驚きながらも雪ノ下は彼女を受け入れている。

 

「あ、でも、あたし達、手伝えないねぇ」

 

「そうだな、俺たちは文化祭の実行委員じゃねぇからな」

 

 八幡達のクラスの実行委員、女子は先ほどの相模、男子はなんと葉山隼人である。

 

 葉山隼人が文化祭実行委員になった為、やる予定だった演劇の内容も変わるらしい。

 

 海老名が血の涙を流していたことを八幡は今になって思い出す。

 

「そう、残念だわ。比企谷君をこき使えると思っていたのに」

 

「おいおい、こき使う前提かよ」

 

 呆れながらも話をしている彼らの表情は笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これ」

 薄暗いところで、顔を隠している人物へ一人の女性があるものを差し出す。

 

室内が薄暗いため、全貌はわからないが片手でもてる何かであることはわかった。

 

「これは?」

 

「闇のアイテム、といえば信じるかな?」

 

 手の中でもてあそびながら静かに尋ねる。

 

「なぜ、こんなものを?」

 

「それは時が教えてくれる。まぁ、慌てなくていいよ。それよりぃ、キミのところで文化祭があるんだよね」

 

「はい」

 

「それさぁ」

 

 女性は笑みを広げる。

 

「ぶっ壊してやりたいと思わない?」

 

 微笑んだ女性の言葉に彼は笑みを浮かべた。

 

 



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第二十八話:魔王の来訪

執筆意欲がマジでわかなくて更新が止まるという情けなさ。

次の話もなるべく早く頑張ります。


 

「演劇の題目だけど、話し合いの末、ウルトラQをやることになりました!」

 

海老名の宣言にクラスメイトががやがやと騒ぐ。

 

教室の隅で八幡は話を聞いていた。

 

「ウルトラ、なんだって?」

 

「ほら、最近、映画になっていた奴だろ?」

 

「えぇ、あれって、子供向け番組じゃないの?」

 

「いやいや!あれは子供向け番組じゃないよ!実際に起こった話を基にしているんだから、それに、最近は宇宙人とか怪事件が起こっているから話題を呼ぶこと間違いなし!」

 

力説する海老名の姿に三浦は呆れながらもフォローをする。

 

「主役候補が文化祭実行委員で不在なんだし、急がないといけないから丁度いいんじゃないの?」

 

「やべーし、いいんじゃない?」

 

「だな」

 

「俺たちのクラスだけ何もしないなんて嫌だしな」

 

三浦のフォローが入った影響かあっという間に星の王子様からウルトラQに内容の変更が決定した。

 

それから八幡達のクラスは大忙しだった。

 

予定していた星の王子様のセットなどをいくつか変更しなければならなかったし台本を新しく用意しなければならない事態になった。

 

裏方の八幡も慌ただしくなり、放課後も文化祭のために大忙しな日々。

同じ裏方の由比ヶ浜も忙しく、そして、演じる側にいる三浦のフォローもあった為に話をする暇もない。

 

「はぁ、疲れたぁ」

 

ウルトラQの為に奔放させられていた八幡は自販機で愛用のマッカンを購入して、一口。

 

ようやく休憩ができるほどに落ち着いてきたので裏方の八幡はマッカンを味わう。

 

「これが社畜なのか……」

 

文化祭の準備の忙しさを両親の社畜としての忙しさに当てはめた八幡。

 

ますます、社畜になることを嫌がる。

 

「あれぇ、キミ、そこで何をしているの?」

 

ベンチに座ってマッカンでも味わうかぁと思っていた八幡へ声をかけてくる人物がいた。

 

「はろはろ~」

 

「…………誰ですか」

 

「え、ひっどーい。前にあったじゃないかぁ」

 

「……」

 

少し記憶を探る。

 

「え、もしかして、本当に覚えていない?雪乃ちゃんの彼氏ってかなりドライ?」

 

「……俺は雪ノ下の彼氏じゃないんですが?雪ノ下のお姉さん」

 

「もう、覚えているじゃないかぁ、お姉さんをからかうなんて感心しないなぁ」

 

バシバシと八幡の肩をたたくのは雪ノ下の姉、雪ノ下陽乃だった。

 

彼女に手を引かれて拒否する暇もないまま。八幡はベンチに座らされてしまう。

 

「改めて自己紹介、私は雪ノ下陽乃、雪乃ちゃんのお姉ちゃんでここのOGなんだぁ」

 

「そうですか」

 

ふと、八幡は思い出す。

 

――私は姉の背中を追いかけているだけなのかもしれない。

 

ギャラクシークライシス時に雪ノ下が漏らしていた事を思い出す。

 

「(何でもできるお姉さんって話だったか?)」

 

「もう~、私が名乗ったんだからキミもちゃんと名乗ってよう~」

 

「…………比企谷八幡です」

 

「比企谷君かぁ、覚えたよ」

 

笑顔を浮かべている彼女だが、八幡は警戒を緩めない。

 

大げさに言えば、魔王と対峙している勇者の気持ちというところだろうか?

 

目の前の女性は美しく、そして、気を許せるような空気を出している。けれど、目の奥、心の奥底といえばいいのだろうか?その部分はどす黒く……本心を決して見せない姿を八幡は感じ取っていた。

 

今までの八幡なら気付けないほどに巧妙に隠されている。

 

「それで、雪ノ下のお姉さんが俺に話って何ですか?」

 

「実は、キミに興味があるんだ」

 

「興味?」

 

「そう、あの誰も信じようとしなかった雪乃ちゃんが信じている、いや、信じようとしている子がいて、どんな子で。どんなふうに雪乃ちゃんを絆したのか」

 

ぞくりと背中が震える。

 

ただ、みられただけだというのに寒気が止まらなかった。

 

まるで心臓をわしづかみされたような気分に八幡は唾を飲み込む。

 

「言い方が誤解を招きそうですね。邪推されるようなことはありませんよ。ただ、アイツとは意見を重ねていってあぁいう関係になっただけです」

 

「ふーん、本当に?」

 

探るように覗き込んでくるから下がろうとするも腕を掴まれた。

 

「嘘なんてつきませんよ。まぁ、俺の主観なんで正しいかといわれると怪しいですが」

 

それからしばらく彼女は八幡を見つめる。

 

女性、外見は恐ろしいほど美しい人に見つめられること数分。

 

「キミ、面白いね」

 

「は?」

 

笑みをさらに深めた表情で告げる彼女の言葉に八幡は一瞬だけ、理解が遅れてしまう。

 

「雪乃ちゃんが一緒にいようとする気持ちがわかった気がする……比企谷君、また、会いましょうねぇ?」

 

ひらひらと手を振って彼女はベンチから立ち上がる。

 

去っていく雪ノ下陽乃の姿を目で追いながら八幡はベンチに置いていたマッカンを手に取ろうとした。

 

「あれ?」

 

しかし、その手は空を切る。

 

置いていたマッカンがない。

 

「落とした?いや、ない……?マジか」

 

マッカン紛失事件に八幡はショックを受けながら足元の影をにらむ。

 

「まさかと思うが」

 

「えぇ、ペガじゃないよ!ペガは欲しかったらちゃんと言うからね!」

 

「……じゃあ、どこいったんだ?本当」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、暴れて頂戴」

 

黒いローブ姿の人物が笑いながら総武高校の男子生徒へあるアイテムを渡す。

 

渡された男子生徒は虚ろな表情でこくこくと頷く。

 

「じゃあ、よろしくぅ」

 

頷きながら男子生徒は細長いアイテムにソフビ人形のようなものをスキャンさせる。

 

【モンスライド!ゴメス!】

 

どす黒いもやもやしたものに男子生徒は包まれて上空へ浮上する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれは……」

 

街中に出現した怪獣の姿に人々は恐れて逃げ惑う。

 

怪獣が出現した場所は総武高校に近く、窓から怪獣を一目見ようと野次馬が集まっている。

 

現れたゴメスは雄叫びを上げながら破壊活動を起こす。

 

事態を察知した地球防衛軍やウルトラ警備隊が行動を起こすのは時間の問題。

 

八幡の瞳が輝いてゴメスを透視する。

 

超能力によってゴメスの中で叫んでいる総武高校男子生徒の姿が映された。

 

「……」

 

このままでは男子生徒が危ない。

 

八幡の意識が切り替わって伸ばした手は懐からウルトラアイを取り出した。

 

ウルトラアイを八幡は装着する。

 

眩い閃光と共に比企谷八幡はウルトラセブンに変身する。

 

ウルトラセブンは破壊活動を起こそうとしていたゴメスに正面からぶつかりあう。

 

ゴメスは出現したウルトラセブンを敵と認識したのか、唸り声をあげて鋭い爪を振り上げる。

 

振るわれる爪を躱して距離をとる。

 

「(膨大なマイナスエネルギーだ。このままではあの少年が危ない)」

 

ウルトラセブンは短期決着を試みる。

 

ゴメスは地面を揺らしながらウルトラセブンへタックルした。

 

勢いを利用してウルトラセブンはゴメスを投げ飛ばす。

 

宙に投げ飛ばされたゴメスに向かってワイドショットを放つ。

 

ワイドショットを受けて空中でゴメスは大爆発を起こす。

 

ウルトラセブンは超能力で球体を作って呼び寄せた。

 

掌を覗き込むとモンスライドしていた少年が倒れている。

 

「ガハッ、うぅ……あぁ」

 

戦闘によるダメージが体に残ってしまったのだろう、苦悶の表情を浮かべていた。

 

ウルトラセブンは掌にエネルギーを集めて少年の治療を行う。

 

ヒーリング能力によって苦悶の表情を浮かべていた少年の呼吸が落ち着いていく。

 

様態が落ち着いたことを確認してウルトラセブンは少年を地面へそっと下す。

 

ウルトラ警備隊が駆け付けた時、既に怪獣もウルトラセブンもいなくなった後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッキー!」

 

「由比ヶ浜か」

 

「さっきの話、本当?」

 

八幡は手配した救急車に搬送されるのを見送りながら頷いた。

 

「あぁ、ゴメスに俺たちの学校の生徒が変身していた」

 

「どういうこと?もしかして、オダブのアイテムとか?」

 

「わからない……だが、マイナスエネルギーのような邪悪さを感じた」

 

ふと、八幡は雪ノ下の姿がないことに気付く。

 

「雪ノ下は?連絡するように頼んでおいただろう?」

 

「あ、それなんだけどぉ」

 

ばつが悪そうに由比ヶ浜は話す。

 

怪獣騒動で文化祭の実行委員会が混乱しており、すぐに迎えそうにないということだった。

 

「文化祭どうなるかなぁ?」

 

「怪獣出現で現場検証、原因究明がありえるだろう……そこは学校と防衛軍で相談して判断ということになるだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何があろうと文化祭は実行するよ……そう、絶対に中止はさせない」

 

八幡達の姿を遠くからみている者が呟く。

 

「あぁ、その日がとても待ち遠しいぃ、なぜなら、その日が」

 

風が揺れてその人物の手の中に漆黒のクリスタル状の装置が握られていた。

 

 



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第二十九話:危険なレストラン

今回のメインは彼女です。

新キャラが二人ほどでます。




 

鶴見留美はボッチになっていた。

 

別段、彼女が何かをしたというわけではない。どこかのボッチだといっている少年と違って何かをしでかしたというわけでもない。

 

ただ、周りの連中が勝手に鶴見留美をハブった。

 

留美自身はそれを受け入れただけである。

 

それから彼女はボッチ生活が始まった。

 

 

 

 

ボッチ生活に変化が起こったのは林間学校の時。

 

鶴見留美は一人の少年と宇宙人に出会った。

 

それから色々あって命の危機も潜り抜けて、少しばかり成長したと思う。

 

成長したといっても心の話であって、身長や体は変わっていない。

 

付け加えると留美の周りも変化が起こっていた。

 

「(またか)」

 

周りから向けられる視線。

 

毎日のように突き刺さってくる視線に留美はため息を吐く。

 

ギャビッシュの事件以降、鶴見留美は宇宙人だという変な噂が広がっていた。

 

それは根も葉もない噂。

 

少し前なら皆がバカにして終わっていただろう。

 

しかし、現在、多発する宇宙人による怪事件や怪獣騒動。それらによって鶴見留美が宇宙人だという根も葉もない噂は様々な尾ひれがつきまくり、教室内で腫物を扱うような状況になっている。

 

留美自身は正直いって気にしておらず、ポケットの中のものを握りしめる。

 

自分が宇宙人でないことはわかっていることだし、何より本物の宇宙人の目でみたことで噂など全く信じていなかった。

 

嫌なことがあるといえば、奇異の視線を向けられることくらい。

 

それも数ヵ月数か月続いてしまえば、慣れてしまうけれど。

 

「あ、留美ちゃーん!」

 

 

 教室ではボッチの鶴見留美だが、そんな彼女と一緒にいてくれる変わり者達がいた。

 

「留美ちゃーん」

 

 やってきた男の帽子から覗いている額を小突く。

 

「名前で呼ばないで、私は年上、鶴見さんって呼びなさい」

 

「ごめんね、留美ちゃん」

 

「……はぁ」

 

留美はため息をこぼす。

 

「悟、早すぎるんだよう。あ、鶴見さん!」

 

もう一人、活発な笑顔を浮かべる男子。

 

帽子の少年が梅宮悟、もう一人が新星勉。

 

二人は留美の年下の小学四年生。

 

最初は留美の噂を知らなかったが、知っても離れることのなかった年下の男子達。

 

彼らと一緒にいると林間学校で出会った目が独特の男子高校生と彼女達のことを思い出す。

 

毎日、留美は彼らと一緒に行動していた。

 

公園で遊ぶこともあれば、市立図書館で宇宙の本を読むこともあれば、勉強を留美が教えるなど。

 

「ねぇ、鶴見さん。入ったら誰も出てこないレストランって知っている?」

 

「何それ?」

 

「最近、学校で噂になっているんだ。商店街の片隅にできた小さなレストラン。そこはとてもおいしいらしいんだけど、一度入った客は外に出てこないって話、その場所を見つけたんだ!」

 

「なにそれ?おいしい料理が毎日たくさん食べられること?」

 

首を傾げる悟に勉や留美は沈黙する。

 

「そのレストランっていつからあるの?」

 

「さぁ?」

 

留美の問いに勉は首を傾げる。

 

「いってみようか」

 

「うん!」

 

「おいしいもの食べられるかな?」

 

ズレた発言をする悟の言葉に留美は苦笑して、勉は呆れながら噂のレストランへ向かうことにした。

 

彼女達はもう一つ、都市伝説や噂の類があればそれを見に行く、三人は探検と称した行動をしている。

 

危ないことはしないように注意はしているも、ドキドキワクワクを求めるように留美達は噂のあるところへ向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――一度、入ったら二度と出てこないレストラン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

噂の真相は定かではないが、小さな商店街の片隅にあるレストラン。

 

洋食をメインとしているらしいが値段や味についての評価は不明。

 

噂なのはとてもおいしくて入ったら二度と店の外へ出なくなってしまうということ。

 

店の名前や詳細が定かではない為、もし、そんな店があるのならば、一度は訪問してみたいところ。

 

ネットの雑誌記者が書いたと思われる小さな記事。

 

留美がみつけた内容を繰り返して読むもわかる情報は少なすぎた。

 

「ねぇ、新星君、本当に向うところが噂のレストランなの?」

 

「間違いないよ!僕、レストランの近くで待機して時間を数えたんだけど、一時間過ぎても出てこなかったんだ」

 

「(一時間もそのレストランを見張っていたって、色々と問題があるような?)」

 

願うならその努力を勉強へ向けるべきではないだろうか?

 

彼女達の保護者のような気分に留美はなった。

 

目的のレストランはすぐにみつかる。

 

確かに商店街の片隅に佇むように存在していた。

 

「えっと、なんてよむんだろう?」

 

悟がレストランの名前を読もうとして首を傾げた。

 

「うえぇ、読めないや」

 

「レストラン……ホープレス?だと思う」

 

「「すっげぇ」」

 

店の名前を読んだ留美に二人は目をキラキラさせる。

 

二人からすれば年上で英語を読める人はすごいという認識がある様子。

 

話をしているといちゃつきいながらカップルが店の中へ入る。

 

数分ほどしてサラリーマンの男性。

 

続けてわいわい楽しそうに買い物帰りの主婦達が店へ入った。

 

「どうするの?」

 

「中へ……入ってみよう」

 

「でも、お金がないと入れないんじゃないかな?」

 

悟の言葉に留美と勉は財布の中を開ける。

 

「二人合わせて二千円」

 

「この前、ゲーム買ったからなぁ」

 

「でも、これなら何か一品は食べられるんじゃないかな」

 

悟の言葉で調査という名目で留美達は店内へ入る。

 

尚、悟の所持金は五円だった。

 

おそるおそるといった様子で三人は店の中へ足を踏み入れる。

 

「いらっしゃいませ」

 

店内へ入ると長身の男性店員が出迎えた。

 

留美達よりも一回り、二回り大きい男性の姿に気圧されながら「子供三人です」と告げる。

 

「かしこまりました」

 

ニィィィと笑みを浮かべながら男は留美達を円卓のテーブルへ案内する。

 

用意された椅子へ三人が腰かけると男がメニュー表を渡してきた。

 

受け取ってメニューを見ているふりをしながら留美は周りを見る。

 

店内は外観と比べて思った以上に広く、留美達の他に八組の客の姿が確認できた。

 

「何にする?僕、お腹ペコペコだよ」

 

「いや、何しに来たのか忘れたの悟?」

 

呆れる勉だが、少し空腹だったようで仲良くメニューを見る。

 

夕飯が近いということで留美達は三百円のフライドポテトを注文することにした。

 

男はオーダーを承ると笑みを浮かべて離れていく。

 

留美は先ほどから男の浮かべる笑みに嫌なものを感じていた。

 

理科の実験でボーフラをズタズタにしている男子生徒のような嫌な笑み。

 

それと同じものを留美は感じて寒気を覚えた。

 

「やっぱり、外に出る?」

 

「え、どうして?」

 

「だって、なんか嫌な感じがして」

 

留美の言葉に勉や悟も周りを見たが、皆、楽しそうに談笑している。

 

嫌な感じはまったくしないという。

 

やがて、料理が運ばれてくるも留美は絶句した。

 

やってきた料理はゴミだった。

 

頼んだフライドポテトではない、紙くずや食べかすや千切れた枝などたくさんのゴミが皿の上に載っている。

 

周りは何も思わないのか?留美は周りを見るも同じように皿の上へのっている沢山のゴミが他のお客のところに出されていた。

 

誰も、目の前の料理をゴミだと思っていない。

 

皆がおいしそうにゴミを口にしていた。

 

「おいしそう!」

 

「お腹ペコペコ!」

 

絶句している留美の前で二人がゴミへ手を伸ばそうとした。

 

「ダメ!」

 

二人の手をたたく留美。

 

このゴミは食べていけない。

 

留美は二人の手を掴んで机の下に隠れる。

 

「え、なになに?」

 

「鶴見さん?どうしたのさ」

 

「しっ!」

 

静かにするように促してゆっくりとテーブルの下から顔を出す。

 

ゴミを食べていた人達の顔がドロドロと崩れていく。

 

ドロドロ崩れていき、やがて肉塊となる。

 

その光景に息を飲む。

 

――ここは本当に危険な場所だ。

 

顔をひっこめた留美はポケットの中から携帯端末を取り出す。

 

震える手であるアドレスを選び、メールを送る。

 

「つ、鶴見さん?」

 

戸惑う勉へ静かにと口を動かしいながらメールを送信した。

 

後は助けが来るまで大人しく。

 

「みぃつけた」

 

その時だ。

 

頭上から留美達を覗き込む男の姿があった。

 

「逃げろ!」

 

勉が叫んで留美達は走り出す。

 

目指すは出口。

 

それだけを考えていた留美達だが壁にぶつかる。

 

「え、あれ!?」

 

「出口、出口がない!」

 

「嘘、本当に出られないの!?」

 

壁をぺちぺちと叩く。

 

さっきまであったドアが綺麗になくなっていた。

 

噂の通り入ったら出られないレストラン。

 

「勉!」

 

留美は背後から近づいてくる男に気付いて勉の腕を引っ張る。

 

つられて悟の腕も引っ張られて背後から男の襲撃を逃れた。

 

男は勢いのまま壁に激突してしまう。

 

バランスを崩した男から視線を外して留美は厨房への入口を見つける。

 

扉がないのなら探すしかない。

 

「あっちに行く!」

 

留美の言葉に二人は頷いて厨房へ逃げ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに、ここ……」

 

「僕達、厨房に飛び込んだよね」

 

「ここ、どこ?」

 

男から逃げるために厨房へ飛び込んだ留美達だったが、目の前に広がるのは無機質な倉庫ともいうべき場所。

 

その部屋は無造作に並んだ箱の山がある。

 

箱は留美達の読めない数字か言語のようなものが刻印されていた。

 

「おやおや、困りましたねぇ」

 

「ひっ!」

 

現れた存在に留美は息を飲む。

 

倉庫の奥から現れたのは宇宙人だった。

 

昆虫型宇宙人はランランと瞳の部分を発光しながらゆっくりと三人へ近づいてくる。

 

「あぁ、そう怯えずに別にとって食おうというわけではありませんよ。こうみえて、私、この星でいうところのベジタリアンなので」

 

ふざけたような態度をとる宇宙人に三人は後ろへ下がろうとした。

 

しかし、入ったはずの扉はいつの間にか消えている。

 

「私はビジネスマンなので、金にならないような殺人は致しませんよ。まぁ、今回は致し方ないかもしれませんが」

 

怪しく笑いながら光線銃を突きつける宇宙人。

 

留美は後ろの二人を守るように前へ出る。

 

「おやおや、勇敢なお嬢様だ。そういえば、一つ気になっていたことがありましてね?」

 

銃を突きつけたまま宇宙人は留美へ尋ねた。

 

「この施設には人の視覚や味覚を狂わせるシステムがあったのですが、なぜ、貴方はその影響を受けなかったんですかね?」

 

宇宙人は気になっていた。

 

なぜ、目の前の少女はシステムの影響を受けなかったのか。

 

その原因を探っておかねば後々、厄介なことになるかもしれない。

 

銃を突き付けられながら留美は首を振る。

 

「そんなことを知って、どうするの?」

 

「今後の為ですよ。今はこういう小さなところですが、他の惑星でも似たようなビジネスを行おうと考えているので」

 

「ビジネス?」

 

「お前、さっきから何を言っているんだよ!」

 

「おや、わかりませんか?私、ビジネスマンなんですよ。ここにあるのは顧客が求める食材。私はそれを用意して届けるというビジネスです」

 

「ビジネスって、人間じゃないか!」

 

「そうですね。ですが、他の惑星では食材としての価値もありまして」

 

勉や悟の言葉にも宇宙人は意を貸さない。

 

「さて、原因はわかりませんがこれ以上の会話は時間の無駄です。あぁ、安心してください。始末して使える部位は顧客へ特別サービスとして提供しますので」

 

どこに安心する要素があるのか!

 

叫びたくなる留美だったが、後ろの二人を守るように両手を広げた。

 

その時。

 

天井を破壊して眩い閃光が降り注ぐ。

 

あまりの光に留美は一瞬、目を閉じてしまう。

 

瞬きを繰り返して、前を見る。

 

「あ……」

 

留美の目の前に立つのは赤い戦士。

 

視線に気づいたのか彼はゆっくりと振り返る。

 

「もう、大丈夫だ」

 

温かい手が留美の頭を優しくなでる。

 

彼女達を守るためにやってきた戦士(ヒーロー)がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!」

 

天井を壊して現れた赤い戦士にマーキンド星人は息を飲む。

 

光線銃を構えているもその手はぶるぶると震えていた。

 

地球人の少女たちをみていた戦士が振り返った。

 

ウルトラセブンの瞳がマーキンド星人を捉える。

 

「く、この!」

 

マーキンド星人が指を鳴らすと周囲からロボット兵士が現れた。

 

「奴を殺せ!」

 

指示を受けたロボット兵士がウルトラセブンへ襲い掛かる。

 

セブンは一体目の攻撃をかわして懐へパンチを放つ。

 

一撃でロボット兵士のボディはバラバラに飛び散る。

 

「デュワ!」

 

額のビームランプからエメリウム光線が発射される。

 

光線は次々とロボット兵士のボディを貫く。

瞬く間にマーキンド星人の用意したロボット兵士が破壊されてしまう。

 

「このぉ!」

 

マーキンド星人が光線銃を撃つ。

 

放たれた光線をウルトラセブンは片手で受け止めた。

 

マーキンド星人はセブンが侵入するために開けた穴から飛翔して逃走する。

 

ウルトラセブンも同じように後を追いかけた。

 

建物の上で対峙するウルトラセブンとマーキンド星人。

 

「くそっ、よくも私のビジネスを!」

 

「ビジネスだと?」

 

「そうだ!地球人を美味とする他の星系へ売買するための事業もお前のためにオジャンだ!この損失をどうしてくれる!」

 

「お前のやっていることは星の生態系を乱すことだ!」

 

「何を言う、増えすぎというくらいにうじゃうじゃいるじゃないか!ほんの少しいなくなったとしても誰が気にする?気にする奴らなどいない!そんな奴らを有効活用してなんの問題がある?」

 

マーキンド星人の言葉にセブンは怒りで拳を握りしめた。

 

「お前のやっていることは命を踏みにじる行為だ!」

 

叫びと共にウルトラセブンは頭頂のアイスラッガーを投げる。

 

「ハハッ!命だと?周りに興味を示さないような奴らに――」

 

最後までマーキンド星人が言葉を紡ぐことなくアイスラッガーがその体を両断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、なんていう無茶をしているんだ?ルミルミ」

 

「ルミルミっていうな、留美って呼んで!」

 

比企谷八幡は公園のベンチへ腰かける。

 

隣のベンチでココアを飲んでいる留美と気絶している勉と悟の姿がそこにあった。

 

鶴見留美がメールを送った相手は比企谷八幡だった。

 

八幡はメールの内容を見るとすぐに情報を調べてレストランへ向かう。

 

レストランが特殊なバリアで守られていることに気付き、彼はウルトラセブンに変身して強引に突入。

 

間一髪のタイミングで留美達を助けることができたのである。

 

「あのお店、どうなるの?」

 

「防衛軍に通報したから調査が入るだろう……残っている情報から星人の侵略拠点って判断されるだろうな」

 

「……あの店の人達は?」

 

留美の質問に八幡は静かに首を振る。

 

「俺がメールをみるのが少しでも遅かったら危ないところだったんだからな」

 

「……それは、ごめんなさい。でも」

 

「あん?」

 

「助けてくれてありがとう」

 

ココアを飲む手を止めて留美は笑顔を浮かべる。

 

その笑顔を直視するのが恥ずかしい気持ちになって八幡は視線を逸らした。

 

しかし、危ないことをしていたのは事実なので三人にお説教をする八幡であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

 

 家の中で鶴見留美は思い出したようにポケットの中を探る。

 

「八幡にこれのことを聞くの、忘れていたなぁ」

 

 ポケットの中から出てきたのは赤い石。

 

 光で反射する石は宝石のように赤い輝きを放っている。

 

 掌にのせている石は太陽の様にぽかぽかして温かい。

 

「ま、今度、聞けばいいかな?」

 

 留美は石を大事な宝箱の中へしまった。

 




今回の話ですが、昔読んだ絵本をベースにしています。

タイトルは忘れてしまいましたが、昆虫の経営するレストランで出される食事はゴミ、ゴミを食べた人たちは虫になり、経営者の虫たちに食べられるという話、だったと思います。

尚、ルミルミ達の話は今後も、展開される可能性があります。

次回は文化祭編へもどります。

急展開になるかもしれませんがお付き合いしていただけると嬉しいです。

それでは。


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第三十話:闇の足音

年内最後の投稿です。

つぎの投稿は頑張ります。

今回はガチの賛否両論ありきだと思っています。

文化祭が短い理由?あまり自分が楽しい経験がなくてびょうしゃがきびしいから。


 ルルイエという小さな島がある。

 

 もともと、その島に名前はなく、近海を航行する船乗り達がそう呼んでいる場所だ。

 

 小さな島に一隻の船が近づこうとしていた。

 

 地球防衛軍の所有する調査船【ゆうなぎ】である。

 

 調査船はルルイエへまっすぐに向う。

 

 やがて、島から一定の距離というところで停船。

 

 そこから数隻の輸送機がルルイエへ発進する。

 

 ルルイエへ着陸した輸送機から武装した防衛軍隊員、そして作業スタッフが下りていく。

 

 その中に坂本剛一の姿があった。

 

 彼は少し前に発生した無神島の島民を食い殺したレジストコード:ゾイガーの調査の巣があるかもしれないということで地球防衛軍の調査隊と一緒に訪れる。

 

 本来なら民間人である坂本は参加できないのだが、ゾイガーの第一発見者ということや怪事件に遭遇率から何か役に立つかもしれないということで参加させられたのである。

 

「しかし、皆、表情が険しいよな」

 

「それはそうでしょう?人食い怪獣の調査なんですから」

 

 坂本へ声をかけるのは調査隊の隊長である佐伯。

 

 彼は柔和な笑みを浮かべながら防衛軍の軍服の腰にぶら下げている通信機で「これより調査を開始する」と告げていた。

 

 調査を開始して二時間。

 

「まったく現れないなぁ」

 

 島の周辺をぐるりと調査をしてみるもゾイガーの姿はどこにもない。

 

「どっかに飛び立ったのか?」

 

「それはないな。ゾイガーが発見されてから防衛軍が空と海から監視を続けていた。考えられるなら」

 

 佐伯は島をみる。

 

「洞窟の中か」

 

 坂本は知らなかったが地球防衛軍はある計画のためにルルイエへやってきていた。

 

 表向き、ルルイエは何もない無人島とされているが謎の遺跡があることを地球防衛軍のタカ派は秘匿していた。

 

 彼らはある目的のためにルルイエへ訪れたのである。

 

 ゾイガーが島にいないことは謎だが、目的を達成するために次の段階へ調査場所を変えることにした。

 

 調査班の隊長である佐伯は部下達を伴って地下へ繋がる通路を真っすぐに進む。

 

「相変わらず、嫌な場所だ」

 

 何度か調査で訪れた佐伯だが、ルルイエの放つ独特な空気が好きになれなかった。

 

 薄暗い闇の中を手の中の懐中電灯で突き進む調査班。

 

 やがて、彼らの前に広がる壁画。

 

「なんですか、これ」

 

「さぁな、だが、この奥にゾイガーがいるかもしれない。爆破準備!」

 

「え!?」

 

 驚く坂本を他所に作業を開始する防衛軍。

 

 壁画には【四体の巨人】、【巨大な怪鳥】、【暗黒を支配する者】などが刻まれているが佐伯はそれらを目にしない。

 

 気になりつつ、坂本は壁画を携帯端末のカメラで撮影する。

 

 部下に指示をだしてドリルで壁画を削り、爆薬を設置していく。

 

「爆破、開始!」

 

 指示と共に吹き飛ぶ壁画。

 

 土煙を払いながら奥へ用意したライトが一斉に点灯する。

 

「……間違いない、これだ!」

 

 興奮を隠さずに佐伯は叫ぶ。

 

「これって……」

 

 調査班の目の前に広がるそれは石でできた三体の巨人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ」

 

 奉仕部の部室で雪ノ下雪乃が小さなあくびを漏らす。

 

「ゆきのん、眠たそうだね?」

 

「えぇ、文化祭実行委員のサポートのつもりだったのだけれど、色々と問題があって」

 

「問題?」

 

 マッカンを飲んでいた八幡は尋ねる。

 

「相模さんのことよ」

 

「さがみん?」

 

「数日経過した時かしら、予定通りに進んでいるから委員達へ自分のクラスの出し物に集中しようかと言い出したのよ」

 

「マジか」

 

「え?問題あるの?」

 

 瞬時に理解した八幡に比べて由比ヶ浜はわからず首を傾げる。

 

「委員としての活動を始めたっても、まだ数日だ。これから何が起こるかわからない。そこでクラスに集中なんてことしてみろ、これ幸いとサボる奴が現れる。人が少なくなったら苦労するのは委員の方だ」

 

「比企谷君の言う通りよ。だから、止めたのよ。少し油断したら楽な方へ進もうとするからとても苦労するわ」

 

 実際、苦労することが多々あったのだろう。

 

 珍しく雪ノ下が遠い目をしていた。

 

「昔なら彼女がトップだからと遠慮していたかもしれないけれど、あれはダメだわ。徹底的に管理しないと」

 

「ゆきのん、怖いよ?」

 

「冷酷雪ノ下さんは恐ろしいからな」

 

「何か、いったかしら?」

 

「「いいえ!!」」

 

 二人同時に首を振る。

 

 今の雪ノ下に不用意な発言をすれば自分の命が危ない。

 

 それがわからないほど、八幡や由比ヶ浜はバカではなかった。

 

 溜息を吐きながら雪ノ下は外を見る。

 

 先ほどまで明るかった空に分厚い雲が広がっていく。

 

「嫌な天気」

 

 ぽつりと彼女は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルルイエの遺跡。

 

 広がる遺跡内部にクレーンや運搬用の機材が運び込まれていた。

 

「作業は順調か?」

 

「予定通りに運び出し可能です」

 

 待機している防衛隊員の言葉に佐伯は頷いた。

 

「ちょ、ちょっと、佐伯さん、これは一体、どういうことですか!?」

 

 目の前で進んでいく状況にさすがの坂本も様子がおかしいことに気付いて尋ねる。

 

「俺達はゾイガーの調査できたんですよね?」

 

「計画は順調だ」

 

「え、計画?」

 

 戸惑う坂本に佐伯は話す。

 

「我々は確かにゾイガー探索の任を受けている。同時にもう一つ、ここの調査も目的なのだよ」

 

「まさか、狙いはあの石像?」

 

「鋭いな。その通り、防衛戦力として我々はあの巨人の力を手に入れる」

 

 笑みを浮かべて、見上げる。

 

 地球防衛軍上層部タカ派は最強の地球防衛兵器を求めていた。

 

 侵略者による攻撃は後を絶たない。

 

 少しばかりの休息期間を置けばまた侵略が始まっていく。

 

 地球は防衛のために最強の兵器が必要、そのために今回の計画だ。

 

 タカ派の参謀が密かにはじめたこの計画が成功すれば、人類は最強の力を手に入れても同然。

 

 ウルトラ警備隊やウルトラセブン、あの謎の怪獣の力を借りる必要もなくなるのだ。

 

「無茶苦茶だ、あれが人類の味方になるかどうかもわからないっていうのに!」

 

「輸送船と連絡を取る」

 

 通信機を取り出す佐伯は坂本の話に耳を貸さない。

 

 止めようとするが傍にいた防衛軍隊員に銃口を突き付けられてしまう。

 

「水先案内御苦労、だが、ここからは邪魔をするなら容赦はしない。キミも理解したまえ、我々のこの行動はすべて人類の為に繋がるのだ」

 

「正体が何かわからないものが本当に人類のためになると思いますか!?佐伯さん、あんた、本気でそう思っているというのなら間違いだ!正体不明の存在へ容易に手を出すべきじゃない!」

 

 鼻で笑いながら通信機を起動した佐伯の頭の中では小さな疑問が浮かんでいた。

 

――参謀はこの遺跡の在処をどうやって調べたのだろうか?

 

 佐伯が知る限り、今回の計画を立案した参謀は武闘派で有名で古代遺跡やそういった類に興味はなかった。

 

 では?

 

 そんな疑問を片隅へ残しながら佐伯は通信機を起動する。

 

「こちら調査班、輸送船聞こえるか?もうまもなく輸送機が到着する。受け入れの準備を」

 

 返答がない。

 

 通信機に雑音が響いている。

 

「通信状況が悪いのか?まぁいい、輸送機は」

 

「うわぁあああああああああああああああ」

 

 聞こえた悲鳴に佐伯は顔を上げる。

 

 目の前にこちらをみている、巨人の姿があった。

 

 佐伯の頭が一瞬、真っ白に染まる。

 

 なぜ、巨人が動いている?

 

「そ、そんなバカなぁ!」

 

 情報によれば器がない限り石像のままだ。

 

 どうして?

 

 戸惑う佐伯の前で巨人の体が闇に包まれていく。

 

 闇が佐伯の顔や目、いたるところへ入り込む。

 

 抵抗することができず佐伯の意識は闇の中に消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルルイエの遺跡内は阿鼻叫喚だった。

 

 突如、蘇った闇の巨人達。

 

 巨人達に調査隊は発砲を試みるも、蘇った巨人達に通用しない。

 

 拳や足で踏みつけられる隊員達。

 

 ルルイエから脱出しようとする隊員達だが、そんな彼らを巨人達の配下であるシビトゾイガーが襲い掛かる。

 

 ゾイガーの群れによって遺跡の出口を目指していた隊員達は貪りつくされた。

 

 暗闇の中であがる悲鳴の三体の巨人の一人、カミーラが楽しそうに笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八幡、どう似合うかな?」

 

「すっげぇ似合う」

 

 八幡は目の前で星空航空のコスプレをしている戸塚に感想を言う。

 

 クラスの劇、ウルトラQの準備は順調だった。

 

 主役をまさかの男装した川崎という事実に驚きつつも、後輩戸塚。女性カメラマンを三浦という構成になっている。

 

「てか、あっちはなんでメンチきってんの?」

 

 互いににらみ合っている三浦と川崎。

 

 元から仲が悪いことを知っているがここのところ悪化しているように思える。

 

 ちなみに、彼らの衣装は海老名さんが仕立てたらしい。

 

 三日三晩でやりあげたそうなので目元のクマがすごいことになっている。

 

 劇は当日を迎えるのみだ。

 

「っていいつつ、当日なんだけどな」

 

 文化祭ということで外からの来客が始まっている。

 

 準備までが担当の八幡にとって後は舞台で活躍する面々の頑張り次第。

 

 八幡はのんびりと文化祭を過ごすのみだったのだが。

 

「失礼、比企谷はいるかな?」

 

 教室のドアを開けてやってきたのは葉山隼人。

 

 笑みを浮かべながら呼びかける姿に八幡は不思議と嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何の用だよ?学校の屋上で告白でもするのか?」

 

 呼び出された八幡は場所を変えようと言われて教室から学校の屋上へ場所を変えていた。

 

 男に屋上へ呼びされるということに辟易としながらも応じた八幡は珍しく冗談を交えながら尋ねる。

 

「告白、そうかもしれないね」

 

 振り返らずに答える葉山はいつも通りに見える。

 

 しかし。

 

「告白と言えば、告白かもな、比企谷、いや、ウルトラセブン」

 

 振り返ると同時にクリスタル型のデバイスをみせる葉山。

 

 それをみた八幡は目を細める。

 

「お前、それをどこで手に入れた?」

 

「……手に入れたというか、渡されたということが正しいかな」

 

 いつもの柔和な笑みを浮かべている葉山だが、その目は全く笑っていない。

 

「なぁ、比企谷、お前は思ったことがないか?人間が醜いって」

 

「結構、思っているが?」

 

「その割には人間を信じるようなことばかりしているじゃないか、俺も人間を信じている……でも、俺はそういう醜いものを見て見ぬふりをしてきた。けど、これが教えてくれるんだ」

 

 デバイスを触りながら葉山は笑みを深める。

 

 その目を八幡は知っていた。

 

「闇に魅入られてもよいことはないぞ?」

 

「そうかな?魅入られたことのない癖に……」

 

 デバイスを強く握りしめて葉山は八幡を睨む。

 

――ダメ。

 

 葉山がデバイスを前に突き出そうとした時、白い手が腕を掴んだ。

 

「ま、た、かぁ!」

 

 顔を歪めながら葉山はデバイスを握りしめている腕を睨む。

 

 伸びている手は幻想的で素顔は見えない。

 

「あぁ、くそっ!」

 

 葉山はその腕を振り払うと指を鳴らす。

 

 直後、空が暗雲に覆われていく。

 

「これは……」

 

 暗雲の中から翼を広げた怪獣が現れた。

 

「ゾイガー、壊せ!文化祭を台無しにしろ!」

 

 葉山の叫びに現れたゾイガーは雄叫びを上げて高校へ迫る。

 

「お前、自分が何をしようとしているのかわかっているのか!」

 

「あぁ、文化祭を壊す、そうしたらたくさんの人が絶望する。今までの努力が水の泡になるって、どんな絶望だろうなぁ?」

 

 狂気に顔を歪め叫ぶ葉山。

 

 八幡はポケットからウルトラアイを取り出そうとする。

 

「葉山君?呼ばれたけど、一体」

 

 その時、屋上のドアが開く。

 

 八幡が振り返ると相模南が書類を手にやってきた。

 

 正体を知られるわけにいかず、ウルトラアイを隠す。

 

 ニタァとデバイスをしまって葉山は怪しい笑みを浮かべる。

 

 彼は懐から別のデバイスを取り出して、相模へ投げた。

 

 デバイスは吸い込まれるように相模の中へ吸い込まれる。

 

 虚ろな表情になった相模の右手にデバイスが出現。

 

 もう片方の手に現れるのは怪獣の人形。

 

「モンスライブ!クレッセント!」

 

 首元に三日月の模様を持つ怪獣 クレッセントへ姿を変える。

 

「どうする?比企谷!ゾイガーとクレッセント相手に文化祭を守れるか?お前は何もできないことを知って絶望してしまえ!」

 

 スポーツ万能、成績優秀のイケメンとは思えない葉山隼人の叫び。

 

 見るものがみれば驚くだろう。

 

 だが、八幡は既に葉山から意識を外して二体の怪獣をどうするか考えていた。

 

 ゾイガーが校舎へ腕を振り下ろそうとしていた。

 

「ゼットォォォォォン」

 

 ゼットンがゾイガーの腕を掴んで投げ飛ばす。

 

 クレッセントは地面から出現したグルジオキングに驚いて後退する。

 

「何をしているのかしら?」

 

 屋上のドアが開いてバトルバイザーを構えた雪ノ下が現れる。

 

「雪乃ちゃん……」

 

 雪ノ下の姿に葉山は動揺していた。

 

「どうして」

 

「相模さんを探していたのよ。文化祭の資料を持ち出してどこかにいっていたから由比ヶ浜さんと一緒に……そうしたら、怪獣騒ぎ、元凶は葉山君といったところかしら?」

 

「それは……」

 

 淡々と告げられる言葉に葉山の目が泳ぐ。

 

「(雪ノ下の姿に動揺している?どういうことだ)」

 

 八幡が戸惑っている間にゼットンとグルジオキングによって追い込まれるゾイガーとクレッセット。

 

「ゼットン、とどめを刺しなさい!」

 

 ゼットンが一兆度の火球を放ち、グルジオキングが必殺の砲撃を放つ。

 

 必殺の攻撃を受けて大爆発を起こす二体。

 

 ゾイガーは消滅して、クレッセントがいた場所に倒れる相模の姿。

 

「バカ、な」

 

 信じられないという表情で葉山が目の前の光景を見た。

 

「さて、こんなふざけたことの説明をしてもらおうかしら?」

 

 バトルナイザーを構えたまま、雪ノ下が静かに問いかける。

 

 近づこうとした雪ノ下の足元に光弾が直撃した。

 

「その必要はないわ」

 

 葉山を守るように現れたのは黒衣を纏った女性。

 

 光を映さない漆黒の瞳は雪ノ下へ敵意を向けていた。

 

「貴方……」

 

「私のハヤトはお前に渡さない」

 

 カミーラが手を動かすと闇色のオーロラが現れてそのまま葉山ごと包み込む。

 

 オーロラが消えると二人の姿はどこにもなかった。

 

「雪ノ下……すまん、助かった」

 

「いいえ、もう少し早く来られれば」

 

 雪ノ下の視線は地面に倒れている相模へ向けられていた。

 

 彼女は文化祭の実行委員長としての役割がまだ残っている。

 

 気絶して目を覚ますまでに少しばかりの時間がかかるだろう。

 

「プランを考えないといけないわね」

 

「あー、俺にできることがあれば、少しなら手伝うぞ」

 

 八幡の言葉に雪ノ下は小さく笑う。

 

「そうね、頼りにさせてもらおうかしら?」

 

 尚、気絶していた相模を抱えて戻ってきた由比ヶ浜は二人の様子を見て不機嫌になり、八幡へ「二人でハニトーを食べる」という約束を取り付けた。

 




闇落ち葉山ですが、このまま救済なしということはしません。



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第三十一話:ルルイエの超古代遺跡

久方ぶりの更新、ちびちびとストックは書いていたけども、終わりの方向性が決まらず困難になり、あるユーザーさんのウルトラを呼んで方向性が確定。



 

 深い闇の空間、そこでカミーラは優しく葉山隼人の頭をなでていた。

 

「ハヤト、貴方は素晴らしい闇の力を秘めている」

 

 優しく頭をなでる姿は慈愛の女神を連想させるだろう。

 

 そこが幸せな楽園ならば、という前置きがつく。

 

 二人がいるのは大量の屍が並ぶ場所。

 

 葉山は意識がもうろうとしているのか周りの屍に気付かない。

 

「だからこそ、貴方の力を私達へ見せてほしいの」

 

「あぁ、もちろん……だけど、いつも邪魔が入るんだ」

 

 朦朧としている葉山はいつもの葉山と思えないほど、無防備で瞳がトロンとしている。

 

「いつも、いつも、これを使おうとすると白い手が伸びてきて止めてしまう」

 

 葉山は手の中にあるクリスタルのデバイスをみせる。

 

 一瞬、カミーラのなでる手が止まりながらも優しく声をかけた。

 

「大丈夫よ、貴方の邪魔をするものは私が排除してあげる。いずれ、貴方の闇の戦士としての力をみせて」

 

 葉山は静かに瞼を閉じる。

 

 彼が寝たことを確認したカミーラは笑みを消す。

 

 冷たい瞳の中では激しい感情の炎が渦巻いていた。

 

「いつまで私達の邪魔をすれば、気が済むの……本当に嫌な女」

 

 嫉妬という感情をカミーラは燃やしながらゆっくりと立ち上がる。

 

「そして、アイツ」

 

 カミーラの目は先日、遭遇した雪ノ下を思い出す。

 

 彼や自分へ敵意を向けてきた目。

 

“あの女”と違うということはわかっていても、激しい怒りと憎しみの感情がカミーラの中で湧き上がってしまう。

 

「不愉快だわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうするつもりだ?」

 

 岩に座って待機していた巨漢の男、ダーラムは静かに問いかける。

 

「彼の心が闇に染まるのを待つ」

 

「ヒヒッ、本当にそうなるのか?アイツも同じかもしれないぜぇ?」

 

 カミーラの言葉に沈黙したダーラムだが、ヒュドラがいらぬ茶々をいれてきた。

 

「わかっているはずよ?」

 

 ヒュドラと一応の納得を見せたダーラムへカミーラは告げる。

 

「私達が本当の意味でここから外へ出るために彼が、彼の強力な闇の力が必要であるということ……そのためには彼の心を本当の意味で闇へ染める必要があるのよ」

 

――もう、二度と裏切らないように。

 

「けれどよぉ、あんな手段で大丈夫なのかぁ?いっそ、この俺が」

 

 尚も言葉を発しようとしたヒュドラはそこでやめる。

 

 カミーラから膨大な闇の力が迸っていた。

 

 それは殺気となってヒュドラへ降り注ぐ。

 

「わ、わかったって、俺らだって外に出て人間たちの悲鳴を体いっぱいに浴びたい、従うって」

 

 超古代の文明を滅ぼしたナンバー2の殺意に己の命が惜しいヒュドラは首を振る。

 

 去っていくカミーラ。

 

 面白くなさそうに舌打ちするヒュドラを横目に再びダーラムは目を閉じて沈黙を保つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球防衛軍参謀室。

 

 先の人事再編によりウルトラ警備隊隊長から防衛軍参謀に昇格した古橋の部屋に一人の男が入る。

 

「失礼します」

 

 部屋に入ると古橋参謀は笑みを浮かべる。

 

「やぁ、白銀君。待っていたよ!」

 

「古橋参謀、どうされましたか?」

 

 白銀は地球防衛軍の人事再編によって新たにウルトラ警備隊隊長へ就任した人物だ。

 

 人望も厚く、冷静な判断で部下を率いることができる。元ウルトラ警備隊隊長である古橋もそうだが稲垣参謀も彼のことを認めている。

 

 もっとも、白銀本人は突然の大任に目を白黒させ、妻に家で笑われてしまったことは秘密だ。

 

「実はウルトラ警備隊にある調査を引き受けてもらいたい」

 

「調査……といいますと?」

 

 古橋は極秘と書かれたファイルを白銀へ差し出す。

 

「ルルイエの調査?」

 

 ファイルを開いた白銀は内容に目を通す。

 

「あぁ、一部の参謀達によって主導されていた計画なのだが、どうも数日前から調査隊と連絡がとれないらしい。一つ、原因究明のために向かってもらえないか?」

 

 白銀は少し考えてファイルを閉じて敬礼する。

 

「了解しました。これよりウルトラ警備隊はルルイエ調査隊の行方を捜索します」

微笑みながら古橋も敬礼をとる。

 

「すまんねぇ、頼むよ!」

 

 参謀室から出る際、白銀は古橋の後ろに立てかけられている制服を見る。

 

 彼がウルトラ警備隊隊長として着ていた隊員服がかけられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 白銀がファイルを片手にウルトラ警備隊作戦指令室へ入ると他の隊員達が敬礼して出迎える。

 

「楽にしてくれ」

 

 白銀の言葉で敬礼を解く隊員達。

 

「早速だが、任務だ」

 

「よっし!やる気がでるぜ」

 

「こらこら、まだ任務の内容を説明していないよ?」

 

 やる気を出す梶隊員に対して渋川隊員が落ち着かせる。

 

 その様子を東郷隊員は苦笑していた。

 

「これよりウルトラ警備隊はルルイエに調査へ向かい消息を絶ったチームの捜索を行う」

 

「なんだよ。人探しですか」

 

「これも立派な任務だ」

 

 呆れる梶隊員にユキ隊員が冷静に告げる。

 

「これが調査隊のリストだ」

 

 隊員達がリストをみる。

 

「しかし、これだけの人数を動かして何の調査をしていたんですか?」

 

「細かいことは極秘ということでわからない。だが、これだけの人数が行方不明ということで何かが起こったということで我々に調査命令が下されたということだ」

 

「じゃあ、早速、ルルイエの調査へいきますか!」

 

 手をたたく梶がヘルメットを手に取るが白銀が待ったをかける。

 

「梶隊員は基地で待機だ」

 

「えぇ!?隊長!なんで」

 

「この始末書の山を片付けろ」

 

 白銀が指をさすのは机に置かれている始末書。

 

 始末書の山を見て梶はしまったという表情を浮かべる。

 

「そういや、この前ホーク3号を緊急着陸させたときに建設途中のビルに突っ込んだんだっけ?」

 

「乱暴な操縦をするからだ」

 

「その時の始末書、まだ片付けていなかったのね」

 

 上から渋川、ユキ、リサの順番に投げられる言葉に梶は力なく椅子に座り込む。

 

「ルルイエの調査は渋川、ユキ、東郷の三人でいってもらう」

 

 白銀の前で三人が敬礼する。

 

「ウルトラホーク、出動!」

 

「「「了解!」」」

 

 地球防衛軍極東基地の二子山が左右に割れてウルトラホーク1号が出動する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、いっててぇ、え、どこだここ?」

 

 ルルイエの地下。

 

 薄暗い洞窟の中で坂本は目を覚ます。

 

 体を起こそうとすると背中に痛みが走り、顔を歪める。

 

 坂本は気絶する直前の記憶をたどる。

 

「そうだった」

 

 朧気だった記憶を取り戻す。

 

 佐伯を説得しようとしていたところで復活した三体の巨人。

 

 その中の一体に踏みつぶされるというところで運よく岩の裂け目に落ちた。

 

「あそこから一気に落ちたのか……運がよかった……いや、悪いのか?」

 

 持っていた通信機などは失っており、外に連絡する方法がない。

 

 そして、食事もないことからこのままでは餓死してしまうこともありえる。

 

「……どうするかな、おや?」

 

 立ち上がって周囲を見ていた坂本はあるものを発見する。

 

 彼は崖の方へゆっくりと向かう。

 

「なんだ、これ」

 

 崖の先から広がる光景に息を飲む。

 

 眼下に広がるのは崩壊した街。

 

 もともとは繁栄を築いたであろう街。そのすべてが燃え尽きた廃墟。

 

「これはかつて繁栄したルルイエの都市」

 

「誰だ!」

 

 坂本が振り返ると白を基調とした着物姿の女性が立っていた。

 

「貴方は……」

 

「私は記録者……超古代の出来事を記録した者です」

 

「……超古代?」

 

「貴方は今の人類ですね」

 

 笑顔を浮かべる女性に坂本は小さく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「渋川隊員、ルルイエの島の奥から強力なエネルギー反応です」

 

 

「エネルギー反応?」

 

 ウルトラホーク1号を操縦する渋川に東郷が報告する。

 

「この島に何かある……まさか、調査隊もそのことをしっていて?」

 

「そこの判断は後だ。まずは輸送船の方へ着陸する」

 

「了解」

 

「輸送船のハッチをこちらからの通信でオープンします」

 

 ユキがホークの受信装置を使って輸送船のハッチを開ける。

 

 ウルトラホーク1号が輸送船の中へ着陸した。

 

 ホーク1号に渋川が待機して、東郷とユキの二人が船内の調査をはじめる。

 

 ウルトラガンと懐中電灯を手にした東郷はゆっくりと貨物エリアへ立ち入る。貨物エリアは防衛軍が用意した調査に必要な物資が置かれていた。

 

「ここにいた連中は本当に……調査をしているのか?」

 

 置かれている物は銃器。

 

 弾薬や爆薬の数も調査で使用する量を超えていた。

 

「ユキ隊員、こちら東郷……」

 

 VCを起動した東郷だがユキから応答はなく激しいノイズが響くだけだった。

 

「電波状況は最悪……か」

 

「本当に最悪なところですよ」

 

 聞こえた声に東郷はウルトラガンを構える。

 

 懐中電灯の光に照らされてゆっくりと現れるのは防衛軍の隊員服をまとった男だった。

 

「生存者か!一体、ここで何が――」

 

「貴方もなりませんか」

 

「え?」

 

「この、私みたいにぃぃぃぃぃ」

 

 男の体が変化し翼竜の怪獣へ姿を変える。

 

 一瞬のことに驚きながらも東郷はウルトラガンを発砲。

 

 ウルトラガンを躱して怪獣 シビトゾイガーが東郷へ飛び掛かる。

 

「だぁぁぁ、くそっ!」

 

 振るわれる嘴を咄嗟にウルトラガンで防ぐ。

 

 ガチガチと格闘をしながらシビトゾイガーの喉元を殴る。

 

 バキィ!という音がして東郷は右手をみた。

 

 ウルトラガンのグリップから先がシビトゾイガーによって食いちぎられる。

 

 目を見開いている東郷へシビトゾイガーが再び迫った。

 

 懐中電灯を武器代わりにして戦おうとするもあっさりとシビトゾイガーによって破壊される。

 

 武器がなくなった東郷を今度こそ食らおうと迫るゾイガー。

 

 悲鳴を上げる東郷だが、シビトゾイガーが奇声を上げて地面に崩れる。

 

「大丈夫か?」

 

 スペースレーザーガンを構えたユキが東郷へ声をかけた。

 

「す、すまない。大丈夫だ」

 

 壊れたウルトラガンを投げ捨てて東郷は立ち上がる。

 

 ユキは武器を構えたままゆっくりとシビトゾイガーへ近づく。

 

 シビトゾイガーは急所を撃ち抜かれて死ぬ寸前だった。

 

「コイツ……」

 

 ユキと東郷が覗き込んでいるとシビトゾイガーの胸部に人の顔が浮き上がる。

 

「滅亡の闇が………すべてを終わらせる」

 

「食べたのか……調査隊を」

 

 息を飲んでいる東郷の前でユキは傍に置かれているブルーシートでシビトゾイガーを覆い隠した。

 

「どうやら、ここは危険な場所らしい、すぐにホーク1号へ戻ろう」

 

「あぁ」

 

 頷いた東郷へユキは腰のホルダーからウルトラガンを渡す。

 

「丸腰だと厳しいだろう」

 

「すまない」

 

 ウルトラガンを受け取った東郷とユキはホークが待機している発着エリアを目指す。

 

 ホークのあるエリアを通るために外に出た二人だが、上空はたくさんのシビトゾイガーが飛び交っている。

 

「こいつら、こんなたくさん、どこから」

 

「ホークを目指そう」

 

「危ない!」

 

 東郷がユキを突き飛ばして横に隠れる。

 

 背後からシビトゾイガーの一匹が襲い掛かろうとした。

 

 襲い掛かった一匹へ武器を構えるユキだが、東郷が止める。

 

「一匹殺したら、他の奴らが襲ってくる!それよりもホークに」

 

『遅いから様子をみにきたぞ!』

 

 シビトゾイガーを蹴散らしながらウルトラホーク1号が二人の方へ接近してくる。

 

 ホークのコクピット内で必死に操縦桿を握りしめてシビトゾイガー達を睨んでいる渋川は通信機で二人へ呼びかけた。

 

「ここは危険だ。本部へ戻るぞ」

 

『『了解』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、そいつ、どうするんだよ?」

 

 地下空洞で暇をしているヒュドラの前でダーラムが手に入れた“人形”へダークダミースパークを持たせていた。

 

「悲鳴を集める。そうすれば、マイフレンドも力を使うだろう」

 

「お前はアイツに納得しているのかぁ?」

 

「……マイフレンドはマイフレンドだ。俺達以上に闇の力を持っている」

 

「お前もカミーラと同意見ということかよ」

 

 面白くないという風に傍の石を蹴り飛ばすヒュドラ。

 

 ふと、ヒュドラは人形が持っているダークダミースパークとスパークドールズをみて、疑問を漏らす。

 

「そういや、アレについては、どう思う?」

 

「信用、信頼はなし」

 

「だよなぁ、俺ら以上にぶっこわれている」

 

 自分達を目覚めさせたアレを思い出してヒュドラは笑みを深めた。

 

 闇の巨人と言える自分達以上に恐ろしく、対峙した時に逃げるべきと検討した存在が今後、どのように絡んでくるのかわからない。

 

「だからこそ、マイフレンドの力は必要だ」

 

「……ちっ」

 

 ダーラムの言葉にヒュドラは顔を歪める。

 

「さぁ、暴れてこい」

 

 指示を受けて人形が動きだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは、ゾイガーなのか?」

 

 地球防衛軍極東基地。

 

 参謀達が集まっている円卓会議。

 

 壁に設置されているスクリーンにウルトラ警備隊が撮影したシビトゾイガーが映っている。

 

「ルルイエは今やゾイガーの巣窟となっています」

 

 報告のために参加している白銀が竹中長官へ答える。

 

「今は島で大人しくしています」

 

 参謀達が集って、息苦しい空気の中で気を張り詰めながら白銀が報告を続けた。

 

「調査隊の安否については――」

 

 ダン!と机をたたく音が響いた。

 

 沈黙に包まれて一人の男が立ち上がる。

 

「これは人類の危機だということを皆さんは理解されているんですか?」

 

 立ち上がったのは鷲山と呼ばれる参謀だ。

 

「このままでは人類が滅んでしまう。直ちに防衛軍の全戦力を用いてこの遺跡の殲滅を」

 

「待ってください」

 

 鷲山参謀の話を遮るのは古橋参謀だ。

 

「確かにゾイガーは危険です。だが、防衛軍の全戦力を投入するべきではない」

 

「ならば、古橋参謀、貴方はどうするつもりですか?歴戦の英雄といわれたウルトラ警備隊も撤退するしかない事態……よもや、ウルトラセブンや黒い怪獣達に頼るなんていいだしませんよね?あんな得体のしれない存在に頼るなんてことはあってはならない!」

 

「この話は慎重に事を進めなければならない」

 

 熱が入り始めた鷲山を竹中が止める。

 

「きっかけが何であれ、ゾイガーが危険であることは変わらない。慎重に会議を重ねたうえで結果を出そうと思う」

 

 他の参謀達も頷いていたが鷲山は鋭い目でまわりをみていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の人類……それって」

 

「すべては三千万年前から続いています」

 

「は?」

 

 いきなり三千万年前といわれて面食らう坂本。

 

 助かったと思いきやいきなりそんな話を振られれば誰だって戸惑ってしまう。

 

「それは一体」

 

「ここはルルイエの超古代遺跡。そして、滅んでしまった場所」

 

 

 

 

 



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第三十二話:悩みの行方

ウルトラマントリガーの告知がはじまって、色々と楽しみになってきている。




「単刀直入に聞こう、調査隊の安否についてだ」

 

 長官室。

 

 腕を組みながら竹中は白銀に尋ねる。

 

「コンピューターの計算では絶望的だと……隊員達の報告でゾイガーは人を食らうということから、おそらく」

 

 調査隊は全滅しているという言葉を白銀は飲み込んだ。

 

 これを告げることに少しの抵抗がある。

 

「地球防衛軍内部に不穏な動きがある」

 

「不穏な動きですか?」

 

「一部のタカ派が過激な計画を申請、受諾させようとしている」

 

「それと、ルルイエの関係は」

 

「わからない、だが、人事編成のどさくさに紛れて一部のタカ派がルルイエの遺跡調査を強行していることはわかった」

 

「……まさか、今回の事態は」

 

「調査隊の安否については絶望的とみて、早急に動く必要があるかもしれない……今回の事態は我々、地球防衛軍が引き起こしたものかもしれん」

 

 竹中参謀の言葉に白銀は息を飲む。

 

「今は古橋やほかの参謀が慎重に考えてくれているがそれもいつまで続くかはわからない。ウルトラ警備隊はルルイエのゾイガー殲滅作戦を立案、実行してもらいたい」

 

「……わかりました」

 

 白銀は敬礼して長官室を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「由比ヶ浜さん、どうだった?」

 

「だめ、優美子やみんなに聞いてみたけど。隼人君の姿を見てないって」

 

「一応調べたけれど、家にも帰宅していないそうだわ」

 

 雪ノ下と由比ヶ浜は文化祭翌日から葉山隼人の行方を捜していたのだが、みつからない。

 

 八幡から告げられた彼の手にしていたデバイス、そして相模南を怪獣化させた事件の真相を調べるためでもある。

 

「隼人君、一体、どうしたんだろ?それに、さがみんにあんなことをするなんて」

 

「さぁ……彼に何があったか、それを知るには彼をみつけないと」

 

 ふと、雪ノ下は視界の片隅に何かを見た気がして立ち止まる。

 

「ゆきのん?」

 

「いえ、なんでもないわ」

 

 嫌なものを感じながらも雪ノ下は葉山隼人を捜索するために歩みを始める。

 

「人間の、悲鳴を」

 

 ふらふらと二人の後を男が尾行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、先輩~、探していたんですよ!」

 

 二人と同じように葉山隼人を探していた比企谷八幡。

 

 彼の前に笑顔を浮かべてやってくる一色いろは。

 

 そんな彼女を八幡は無視して歩き去る。

 

「待ってくださぁい!無視していかないでくださいよう!」

 

 問屋はおろさないというように去ろうとした八幡の腕に抱き着く一色。

 

 八幡はため息を零しながらいつも以上に濁った目で一色をみる。

 

「何の用だ?一色、俺は忙しい」

 

「うわ、いつも以上に濁った目をしていますね。何かあったんですか?」

 

「まぁな、酷く面倒で本当に嫌なことだ」

 

 雪ノ下と由比ヶ浜と別れ、葉山隼人の行方を探っているものの千葉にいるかとても怪しい。

 

 もしかしたら日本にすらいないという可能性も。

 

「せんぱーい?無視しないでくださいよぉ」

 

 ブンブンと腕を振りまわしながら一色が抗議してくる。

 

「急いでいるんだが?遊びの誘いなら断るしこれ以上の面倒ごとなら断固拒否したい」

 

「いろは!」

 

 一色を呼ぶ声に八幡は視線を向ける。

 

 手を振りながら笑顔で天真爛漫な笑顔を振りまきながらやってくる女性。

 

 その女性を見た瞬間、八幡の表情がさらに険しくなる。

 

「おい、一色」

 

「実は先輩、相談したいことが」

 

「比企谷」

 

 一色の声を遮って目の前に現れるのは葉山隼人。

 

「葉山……先輩?」

 

 目の前に現れた葉山は一色の知る爽やかなスポーツマンという印象から百八十度反転したように別人だった。

 

「うわ、先輩みたいに濁った目」

 

「俺と同じは余計だ……葉山、お前は何をするつもりだ?」

 

「……俺は世界を滅ぼしたいだが、それを許さないものがいる」

 

「なぜ、世界を滅ぼそうとする?」

 

「なぁ、比企谷、お前はどうしても欲しいものが手に入らないとき、どうする?」

 

「手に入らないとき?悪いが俺の場合、確実に手はいることしかしない」

 

「ハハッ。よく言うよ……お前は俺の欲しいものを手に入れてしまう、だから、憎い!」

 

 叫ぶ葉山に八幡は沈黙して一色は戸惑いを浮かべる。

 

「キミ、どうして嘘をつくんだい?」

 

 沈黙を切り裂くように一色の傍にいた女性が尋ねる。

 

「嘘?嘘といったのか?」

 

「うん。キミは自分の心に嘘をついている。そんなことをしたら苦しむだけだ」

 

 女性の言葉に葉山は怒りで顔を歪めた。

 

「違う!俺は、嘘なんかついていない!」

 

 懐から黒いデバイスを取り出した葉山だが、その手は動かない。

 

「くそっ!また!」

 

 葉山は腕を動かそうとして顔を歪めている。

 

 様子のおかしい葉山に近づくことを試みた。

 

「葉山……」

 

「やめろ、俺をそんな目でみるな!」

 

「危ない!」

 

 女性が八幡の腕を掴む。

 

 衝撃と揺れで八幡はバランスを崩す。

 

 もし、女性が手を引かなければ飛来した怪獣の手によって八幡はぺしゃんこにされていただろう。

 

「コイツ……」

 

 見上げる八幡の前に現れるのは翼竜のような怪獣。

 

 赤い瞳は敵意に満ち溢れている。

 

 こちらを見下ろす怪獣は八幡達を潰そうとしていた。

 

「逃げるぞ!」

 

「あ、先輩!でも、葉山先輩が」

 

「アイツは大丈夫だ!」

 

「え、でも!?」

 

「あぁ、もう、説明は後だ!」

 

 一色の手を引いて走る八幡。

 

 女性は怪獣、ゾイガーの攻撃を躱すと葉山の手を掴む。

 

「逃げるよ」

 

「お、おい」

 

 戸惑う葉山の手を引いて走る女性。

 

「くそっ、どこまでも追いかけてくる気だな」

 

 八幡はポケットからピルケースを取り出す。

 

 そこから一つのカプセルを手に取るとそのまま空に向かって投げる。

 

「頼むぞ!アギラ!」

 

 眩い閃光と爆発が起こり、ゾイガーの前にカプセル怪獣のアギラが現れた。

 

 アギラは地面を蹴り、ゾイガーの腹へ突撃する。

 

 不意打ちにゾイガーは後ろへ転倒。

 

 覆いかぶさるようにアギラが攻撃を仕掛けようとしたが足蹴によって地面を転がるアギラ。

 

「離せ!」

 

 葉山が叫んで女性の手を振り払う。

 

「俺は敵だぞ!なぜ、助ける!」

 

「違う、キミは自分に嘘をついている」

 

「何を根拠に!!」

 

 葉山は苛立ちながら懐から再びデバイスを取り出すもそこから動かない。

 

「くそっ、なんで!」

 

 苛立ちながら腕を振るうもまるで金縛りにあったように動かない。そのことに葉山は顔を歪める。

 

「キミは闇に誘惑されている。でも、光の立場にありたいと相反する感情がぶつかりあっている」

 

「うるさい、何を根拠に」

 

「私はわかる。私には人の感情がみえるんだ」

 

 女性の姿が緑色の光に包まれる。

 

 光が消えて現れるのは人型の宇宙人。

 

 銀と金の姿をしている宇宙人は葉山へ手を伸ばす。

 

 手が優しくデバイスを握りしめている葉山へ触れる。

 

 その瞬間、葉山の意識がクリアになった。

 

 どこか別の場所、どこかの世界。

 

 金色に輝くピラミッドの中に眠る三体の巨人。

 

 現れる二体の怪獣。

 

 破壊される二体の巨人。

 

 最後の一体が破壊されようとした時、一人の青年が光となって巨人と一体化する。

 

 巨人は光を取り戻した。

 

 光の巨人は怪獣や侵略者と戦う。

 

 そして、最後は強大な闇の支配者と。

 

「っ!」

 

 強烈な吐き気を催して葉山は地面へ座り込む。

 

「俺に、何を、何をしたぁああああああ!」

 

「キミは自身の心と向き合わなければならない。そうしなければ、キミはいつまでも」

 

「知ったような……俺の何を知っているぅぅぅぅううううう!」

 

「わかるとも、ミュー粒子が教えてくれる。葉山隼人、キミは後悔ばかりをしてきた。だからこそ、正しくありたいと願うもうまくいかず、キミは悩み、苦しみ、選ぶことができない」

 

「うるさい、違う!俺は!」

 

 女性の言葉に激昂しながらデバイスを構える葉山。

 

「なら、どうして闇の力を解放しない?」

 

「それは、雪乃ちゃんが……」

 

「違う。キミは本能的に闇の力を拒絶しようとしているんだ。危険な力であることをわかっているから拒んでいる」

 

「違う、違う違う違う!」

 

 頭を振りながら叫ぶ葉山の姿に遅れてやってきた八幡はゆっくりと声をかける。

 

「葉山、お前は何をしたいんだ」

 

「なんだと……」

 

「俺からみるとお前は大きな力を前にしてどうすればいいのかわからない子供にみえる」

 

「子供だって!?俺は違う!この力があれば、なんだってできる!この世界を好きにだって!大暴れすることも」

 

「……本当にそう思っているのか?俺はそうみえない」

 

「黙れ!お前にだけは、お前にだけはぁ」

 

 葉山の叫びと共にアギラを圧倒したゾイガーが現れる。

 

 ゾイガーは口から火球を放つ。

 

 火球は一色と女性を飲み込もうとする。

 

「きゃああああ!」

 

 悲鳴を上げる一色。

 

 一色を守ろうと葉山から視線を外して庇う女性。

 

 迫る火球だが、横から伸びた赤い手が掴む。

 

 ウルトラセブンはゾイガーの放った火球を掴むと投げ返す。

 

 火球を受けたゾイガーが地面に倒れる。

 

「デュア!」

 

 ウルトラセブンは指を伸ばす。

 

 地面に倒れているアギラが光に包まれてセブンの掌に吸い込まれる。

 

 カプセルを収納しているセブンへ起き上がり翼を広げたゾイガーが奇襲を仕掛けた。

 

 頭頂のアイスラッガーを抜いて振り下ろす。

 

 アイスラッガーはゾイガーの片翼を切り落とした。

 

 ゾイガーは片翼が切り落とされた事で地面に頭から突っ込む。

 

 ウルトラセブンは一色と女性の無事を確認する。

 

 片翼を切り落とされたゾイガーは怒りに染まった雄叫びを上げると切り落とされた翼へ手を伸ばして引っ張る。

 

 苦悶の声を上げながら翼を引き抜く。

 

 驚くセブンの前でゾイガーはもう片方の翼を引き抜いて投げ飛ばし、鋭い爪を構える。

 

 飛行能力を奪われた事で邪魔になった翼をなくすことで地上における戦いの不利をなくしたのだ。

 

 地面を揺らしながら走るゾイガーと正面からぶつかりあう。

 

 振るわれる爪を躱しながらパンチを放つ。

 

 固い皮膚にセブンのパンチを受けたゾイガーだが攻撃の手を緩めない。

 

 連続で繰り出される爪の一撃がとうとうセブンの肩を切り裂いた。

 

 苦悶の声を上げるセブンの体は次々と降り注ぐゾイガーの火球を受けてしまう。

 

 地面に倒れたセブンへとどめを刺そうと迫るゾイガー。

 

 その時になってスクランブルした地球防衛空軍の戦闘機が攻撃する。

 

 地球防衛空軍の攻撃によってゾイガーの動きが鈍った。

 

 怒りの声を上げながらゾイガーは口から火球を放とうとする。

 

【ホロボロス!】

 

 光と共に出現したホロボスの爪がゾイガーの背中を切り裂く。

 

 攻撃を受けてバランスを崩したゾイガーの火球が地面を焼いた。

 

『ヒッキー!大丈夫!?』

 

『あぁ、後は任せてくれ』

 

 頷いたセブンはドロップキックをゾイガーへ放ち、距離を取る。

 

 ゾイガーは地面を蹴り、セブンヘ接近しながら鋭い爪を繰り出す。

 

「デュア!」

 

 雄叫びと共に繰りだした正面から拳でゾイガーの爪を砕いた。

 

 驚き、仰け反るゾイガーへセブンは額のビームランプからエメリウム光線を放つ。

 

 光線を受けたゾイガーは炎に包まれて消失する。

 

 ウルトラセブンが一色達の方を見るも、そこに葉山隼人の姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう一度、いってくれ」

 

 地下の洞窟。

 

 坂本は記録者の告げた言葉に目を見開いていた。

 

「頼む、もう一度!」

 

 震える声で坂本は尋ねる。

 

「何度でもお伝えしましょう」

 

 記録者は静かにうなずいた。

 

「この世界は一度、滅んでいます。闇の巨人達によって。そして、あなた方の世界も同じ運命をたどる」

 

 告げられた言葉に坂本は目を見開いて言葉を失ってしまう。

 

 

 




ギャラクシークライシス編って、やった方がいいかな?

一応、話の筋はまとまっているから、ところどころとばしなら書けるとは思うけど。


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第三十三話:三千万年前の秘密

「それで、そちらは……」

 

「えっと、そのう」

 

「いや、ソイツが宇宙人ってことはわかっている。俺が言いたいのはお前がどうして宇宙人と一緒に行動しているのかという事だ」

 

 葉山隼人を見失った八幡は一色と一緒にいる宇宙人との関係について尋ねることにした。

 

 場所は喫茶ブラックスター。

 

 厄介な話などをするにおいてとっておきの場所である。

 

 今回はカウンター席ではなくテーブル席で八幡は正面にいる一色と宇宙人をみる。

 

「えっとぉ」

 

「いろは、私が話そう」

 

 一色を止めて緑色の光に包まれると銀と金の姿をした人型エイリアンへ姿を変えた。

 

「私はネリル星人」

 

 自らをそう名乗って八幡へ挨拶をする。

 

「キミがあの赤い巨人……ウルトラセブンだったんだね。いろはが会わせようとすることに納得だ」

 

「ネリル星は科学が発展していた素晴らしい惑星だと聞いている。その星に住まう者がどうして地球へ?」

 

「実は」

 

 ネリル星人が告げた話はとても悲しいものだった。

 

 故郷のネリル星が寿命を迎えようとしていたので宇宙飛行士である彼は新天地を求めるために各惑星を飛び回っていた。

 

 しかし、新天地は見つからず、一度、故郷へ戻ったのだがネリル星は既に滅びてしまっていたのだ。

 

 新天地を探すためにワープを何回も繰り返している間にかなりの時間が過ぎてしまっていた。

 

 ネリル星は滅びてしまったが同胞が別の惑星にいるかもしれない。

 

 そう判断した彼は様々な星を旅した。

 

 旅の途中に彼は地球へ訪れたのだ。

 

「第三惑星テラ、うわさでは聞いていたけれど、とても美しい星だ。宇宙のオアシスと呼ばれている事にも納得してしまう」

 

「(純心な奴だな)」

 

 ネリル星の話をしている彼に嘘はない。

 

 信じてほしいという気持ちがミュー粒子を通して伝わってくるのだ。

 

「いろはのところへ訪れたのは本当に偶然なんだ。私は彼女と話をして地球の案内を頼んだ」

 

「そのぉ、先輩達のおかげで耐性がついたといいますか、慣れたといいますか、最初は驚きましたよ!きゃーこわい!って、でも、悪い奴じゃなさそうだしってことで先輩に相談を」

 

「あざといな、まぁ、その選択肢は正解だが」

 

 いや、正解なのだろうか?

 

 葉山隼人を見失って新たな問題がやってきただけなのかもしれない。

 

「ウルトラセブン。彼は迷っている。私は彼を放っておくことができないんだ」

 

「放っておけない?」

 

「彼は闇の誘惑を受けている。だが、心の奥底まで染まっているわけじゃない。できるなら彼を正しい道へ導いてあげたい」

 

「……葉山がまだ戻れると?」

 

「可能性はある。だから私はルルイエへ向かおうと思う」

 

「!!」

 

「え、葉山先輩の居場所、わかるの?」

 

「ミュー粒子を通して彼の中を覗き込んだ。その際に、ね」

 

 あまりそういうことをしてはいけないんだけど、と言葉を濁すネリル星人。

 

「ルルイエか……」

 

 場所については少し調べないといけないだろう。

 

 八幡はポケットから携帯端末を取り出す。

 

 メールを簡単に打ち込んで送信する。

 

 送り先は雪ノ下と由比ヶ浜だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルトラ警備隊作戦室。

 

 資料を手にした古橋参謀が作戦室へ入ってくる。

 

 作戦室で緊張した様子で敬礼するウルトラ警備隊のメンバー達。

 

「作戦を伝える。ウルトラ警備隊はマックス号改でルルイエへ出動。島のゾイガーを含めた敵対生物を殲滅せよ!」

 

「参謀!調査隊の生き残りは……」

 

「会議の結果、生存者はなしと判断された」

 

「そんな!」

 

 息を飲む東郷。

 

 白銀は静かに古橋へ尋ねる。

 

「マックス号とはかつて侵略者によって破壊された筈では?」

 

「竹中長官立案でマックス号を改造した最新鋭艦として新造されたものだ。ルルイエで跋扈しているゾイガーを殲滅できる威力を有している」

 

「これは凄いな」

 

「参謀、作戦開始時間は?」

 

 ユキが感心して、渋川が尋ねる。

 

「今から七時間後だ」

 

「では、0600ですね」

 

 白銀の言葉に古橋は頷いた。

 

「ゾイガーどもめ、殲滅してやるぞ!」

 

 バシンと拳を鳴らす梶達。

 

 隊員達は出撃までの時間、準備とマックス号改の性能について渡された資料の内容を読むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、話に聞いていたルルイエがこの世界に存在するなんてね」

 

 合流した八幡は雪ノ下達へ事情を説明してネリル星人と共に敵地であるルルイエへ向かうことになった。

 

「ルルイエかぁ、ダイゴさんに聞いたときは物語みたいと思っていたけれど、そんなことにあたし達が行くんだね」

 

 ギャラクシークライシスの時に出会ったダイゴという青年から聞かされたことを思い出している由比ヶ浜達の傍にはブラックスターのマスターが用意してくれた円盤がある。

 

「ところで比企谷君。本当に彼女を連れて行くの?」

 

 雪ノ下の視線は後ろでネリル星人と一緒にいる一色へ向けられている。

 

 一色は目の前に鎮座している円盤を見てぽかんと目を丸くしていた。

 

「いろはちゃん、大丈夫?」

 

 八幡の影から現れたペガが一色へ声をかける。

 

「はっ!一瞬、思考停止していました……先輩、円盤ですよ!?円盤が!」

 

「落ち着け一色」

 

「落ち着けないです!円盤なんて!?え、円盤に乗っていくんですか!?」

 

「この円盤、造りはピット星のものだ……旧式か」

 

 驚いている一色に対してネリル星人は平然としている。

 

「さて、行くぞ。ウルトラ警備隊もルルイエに向かっているみたいだし」

 

「え、先輩。なんでわかるんですか!?」

 

「ヒッキー、また、ハッキングしたね?」

 

 驚いている一色の横で由比ヶ浜が呆れた声をだす。

 

 彼らの言葉を聞きながら一足先に円盤へ乗り込んだ雪ノ下が操作をはじめる。

ハッチが閉じて円盤がルルイエに向かって飛び立つ。

 

 その姿をみている者はいない。

 

「飛んでいるのに浮遊感みたいなのないんですね」

 

「旧式とはいえ、テラの技術と比べると何倍もの差があるから」

 

 驚いている一色の横でネリル星人が説明する。

 

 一色は周りを見る。

 

 円盤を操縦している雪ノ下。

 

 由比ヶ浜は端末を操作している八幡と話をしている。

 

「八幡が気になるの?」

 

「へ!?」

 

 一色の傍へ不思議そうにペガが尋ねる。

 

「いろは、ずっと八幡をみているね?」

 

「そ、そ、そ、そ、そんなことあるわけないじゃないですか!」

 

「いろは、顔が赤い。嘘はよくないよ」

 

「ちょっとぉ!」

 

「お前らうるさいぞ」

 

「先輩!なんでもありません、お願いですからこないでください、ごめんなさい!」

 

「なんで俺が振られたみたいになっているんだ。それより一色、お前に渡しておくものがある」

 

 八幡はポケットからあるものを取り出す。

 

「先輩、それ、銃ですか!?」

 

 驚いた顔をしている一色に八幡が渡したのは銃だった。

 

 近未来的なデザインをしている銃に一色は驚いている。

 

「なんでそんな物騒なものを」

 

「これから行く場所は危険なところだ。お前の身を守れるように……といってもコイツに殺傷能力はない。バリアシステムが搭載されていて、身を守るための手段ってことだ。一応、ペガやネリル星人がいるとはいえ、何が起こるかわからない。そんな場所へ行くってことをわかっておけ」

 

「わかりました~」

 

「比企谷君、間もなくルルイエへ到着するわ」

 

「ゾイガーは?」

 

「影も形もない……隠れているのかしら」

 

「もしくは誘導しているか……海岸に着陸してくれ」

 

「わかったわ」

 

 円盤がゆっくりとルルイエの海岸へ着陸する。

 

 ゆっくりと円盤が着水した。

 

 ハッチをあけてゆっくりと海岸へ降りる。

 

 周囲を確認して危険なものがないか確認してから八幡は降りるように促す。

 

「マスターが偽装装置を搭載してくれているおかげで見つかる心配はないな」

 

 全員が降りた後、円盤は設置されていた偽装システムによって周囲の景色に溶け込んだ。

 

 ペガは念の為、円盤へ残り何かあれば操縦して迎えに来るように頼む。

 

「それで、これからどうするのかしら?」

 

「向こうからやってきたから気にすることはないだろ」

 

「え?」

 

 八幡が遺跡の続く入口を指す。

 

 入口の前に葉山が立っていた。

 

「葉山先輩……」

 

「葉山君」

 

「比企谷、それに……雪乃ちゃん」

 

 葉山は懐からクリスタルのデバイスを取り出す。

 

 その目はどす黒い闇色に染まっていた。

 

「葉山、お前……」

 

「俺はもう幻影に惑わされない。お前を倒すためにこの力を使ってやる」

 

「ダメだ!そんなことをすればキミの心が完全に壊れてしまう!」

 

 ネリル星人が葉山に叫んで近づく。

 

 何かに気付いた八幡がネリル星人を突き飛ばす。

 

 少し遅れて巨漢の男が拳を放った。

 

「ぐっ!」

 

 攻撃を受けた八幡はそのまま近くの裂け目へ落ちていく。

 

「ヒッキー!?」

 

「比企谷君!」

 

「ひっひっひっ!」

 

 助けに行こうとした雪ノ下と由比ヶ浜だが、その前に細身の男が現れて阻む。

 

「本当に忌々しい女」

 

 遺跡の奥から黒衣の女が現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 裂け目に落ちた八幡だが、彼は慌てずに側面を蹴りながら落下する速度を下げていく。

 

 落下して体感としては三十分ほどだろうようやく裂け目の底へ辿り着いた。

 

「……かなり深いところまで落とされたみたいだな」

 

 問題はどうやって戻るべきか。

 

 あの二人がいるから大丈夫だろうけれど、ここはよくない感じがする。

 

 一色とネリル星人の事が心配だ。

 

 八幡は出口を探すために歩みを始める。

 

「……誰か呼んでいる?」

 

 ミュー粒子を通して何者かが八幡を呼んでいる。相手はネリル星人ではない。

 

 別の者が八幡、否、ウルトラセブンを呼んでいた。

 

「わかった」

 

 頷いた八幡。

 

 彼が再び顔を上げた時、その顔は別のものになっていた。

 

 モロボシ・ダン。

 

 別宇宙にて、命がけで地球の平和の為に戦ったウルトラセブンの地球人としての姿。

 

 彼はミュー粒子を通して呼びかけてくる者の正体を探るために暗い洞窟の中を進んでいく。

 

「(何者かが私を呼んでいる。この世界にいる比企谷八幡ではない。ウルトラセブン、モロボシ・ダンとしての私を……だが、一体、何者が私を呼ぶのだろうか?)」

 

 己を呼ぶ者の正体を探るために彼へ頼み込み、表へ姿を現す。

 

 この姿になるのは久しぶりだった。

 

 体の感覚を懐かしみながらも警戒してダンは奥地へ進む。

 

 しばらくして、ダンは開けた場所へ辿り着いた。

 

「これは……街か」

 

 目の前に広がる滅びた街。

 

 今の地球人類が築いたものと大きく異なる文明。

 

 だが、どことなく今の人類と似通った起源をダンは感じた。

 

「お待ちしておりました」

 

 聞こえた声にダンが振り返る。

 

「キミだね。私を呼んだのは」

 

「はい。お待ちしておりました。別宇宙の英雄様」

 

 自らを記録者と名乗り、彼女は微笑む。

 

「ここは……」

 

「はい、貴方の予想している通り、ここはかつて栄えた文明の慣れの果て。闇の巨人達によってすべてが滅ぶことになったはじまりの場所」

 

「教えてくれ、なぜ、滅んだんだ?そして、葉山隼人はなぜ、闇に魅入られている?」

 

 ダンは記録者へ問いかける。

 

「お話します。すべては三千万年前、一つの願いからはじまったのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三千万年前。

 

 人が地球上に君臨してそれなりの時が過ぎた頃。

 

 発達した科学や文明へ警鐘を鳴らすように最大の脅威が姿を現す。

 

 怪獣である。

 

 次々と現れる怪獣達を撃退しようとする人々だったが強固な皮膚や炎によって滅びの一途をたどるばかりだった。

 

 誰もが絶望に染まっていく中で、諦めない者がいた。

 

 一人の少年が最後まで絶望せずに立ち向かおうとする。

 

 そんな少年の願いに応えるように遠い宇宙の彼方から光が現れた。

 

 光と少年が一つになり、巨人となった。

 

 巨人は怪獣と戦う。

 

 少年に続くように諦めない意志を持った者達が光と一体になって巨人となる。

 

 多くの巨人達によって怪獣という災害は撃退された。

 

「ですが、それで、終わりではないのです」

 

「終わりではない?」

 

「巨人が現れたことで人類は怪獣という災害から乗り切ることができました。ですが、滅びの前兆がはじまってしまったのです」

 

「滅びの前兆だって?」

 

 記録者は告げる。

 

 滅びの前兆、それは一つの花だった。

 

 花がまき散らす花粉は人々を夢の世界へ誘う。

 

 幸せな夢の世界に訪れた人間達はその世界から抜け出す事ができなくなる。

 

 やがて、花粉は世界中に広がり人々から争いが消えた。

 

 怪獣がいなくなり、争いがなくなったことから光は役目を終えたと判断して、自らの故郷である星雲へ去っていく。

 

 残された者達は夢の世界でそのまま朽ちるはずだった。

 

 しかし、強い意志を持つ人間はいる。

 

 支配欲、野心、言い方は様々だがそういう強い意志を持つ者達が巨人の力を手に入れていた。

 

 巨人の力を用いて支配をしようとする者達同士によって争いが始まった。

 

 その中で闇に魅入られた巨人達が現れる。

 

 彼らはほかの巨人達を滅ぼし、最後は世界すべてを闇へ包み込んだ。

 

 こうして、文明は滅び、わずかばかりの生き残りは星を去った。

 

 これが三千万年前に起こった滅びの記録。

 

「今は別の文明が生まれている……ですが、彼らも同じ道をたどるでしょう」

 

「人間はそこまで愚かではない」

 

 記録者の言葉をダンは否定する。

 

「キミの言う通り、人間は楽をして、力に溺れてしまう弱い生き物だ。だが、他者を労り、愛することもできる素晴らしい生き物だ。過去に失敗をしたからと同じ過ちを繰り返すほど人間は愚かでないと私は信じている」

 

「…………本当に過ちを繰り返さないと思いますか?あの少年は闇の誘惑を払いきれない。おそらく、彼は闇の力を解き放つでしょう。そして、このルルイエを覆っている結界は解除され、世界は闇に包まれる」

 

「私は葉山隼人という人間を詳しくは知らない。だが、彼のすべてが闇ではない。悩み葛藤している彼の中にほんの僅かばかりでも光があるのならば、闇を払いのけることだって不可能ではない」

 

 ダンは知っている。

 

 自分達の世界の人間たちの強さを。

 

 強い意志で光を手にした者達を。

 

 この世界の人間だってきっと、他人を労り、手を取り合って困難を乗り越えられる。

 

 今、融合している少年のように。

 

「……貴方の言葉を聞いているとまだ、可能性があるかもしれないと思えます」

 

「信じてほしい。人間を、彼らを」

 

「わかりません。ですが、私は記録します。この出来事も、すべての事を、そして、いずれはア――」

 

 大きな音が洞窟内に響いた。

 

 音を立てて地面に崩れ落ちる記録者。

 

 目を見開いて駆け寄るダン。

 

 しかし、襲撃者の姿はどこにもない。

 

「大丈夫か!」

 

 倒れた記録者を抱きかかえるダン。

 

 しかし、記録者の体にぽっかりと穴ができていた。

 

「…………この先に人間が一人います」

 

「喋るんじゃない」

 

 手当を施そうとするダンの手を記録者が掴む。

 

「彼も、貴方ほどではありませんが人間を信じてほしいといっていました。三千万年前とは違う結果が待っているかもしれない……ですが、その記録を私はできそうにない」

 

 震える記録者。

 

「ですから、彼に託しました……そして、葉山隼人は完全に闇へ堕ちたわけではありません。ですが、彼は受け継いでいるのです。三千万年前、世界を滅ぼした闇のティガの……超古代の英雄戦士のDNAを」

 

「そうか。だから、彼に」

 

「もし、彼が超古代の英雄戦士のような強さがなければ、闇に堕ちる……ティガは世界を闇へ染めました。ですが、ユザレと出会い、光へ戻った……別宇宙の英雄様、彼を、導いてあげてほしいのです。闇の戦士ではない、光をつぐものへ」

 

「……わかった」

 

 ダンが頷くと記録者は小さな笑みを浮かべる。

 

「これで、ユザレ様との約束を果たすことができそうです。貴方ならきっと……」

 

 記録者は瞳を閉じる。

 

 直後、スパークが起こりダンの腕の中には銀色の土偶のような存在が横たわっていた。

 

 本当の姿だろう。ダンの手の中で灰となって散っていく。

 

 ダンは僅かばかりに残った手の中の灰をみる。

 

「約束するとも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に忌々しい女」

 

 カミーラは冷たい瞳を雪ノ下へ向ける。

 

「私の記憶では初対面のハズだけど?」

 

「そうでしょうね。貴方は受け継いでいない。地球星警備団団長ユザレの遺伝子を」

 

「それは……」

 

 告げられた名前に雪ノ下は驚く。

 

 その存在を知っていた。

 

 一度、たった一度だけ、雪ノ下はユザレと会っている。

 

 ここではない別の宇宙。

 

 ギャラクシークライシス時に。

 

「受け継いでいなくても知ってはいるのね。だとしても、私はお前が気に入らない。お前の顔はあの女と同じ顔をしている。邪魔だ」

 

 ユザレが電撃を放つ。

 

 電撃が雪ノ下へ直撃する瞬間、懐から飛び出したバトルナイザーが守る。

 

 バトルナイザーから放たれた衝撃波が雷撃を打ち消す。

 

 舌打ちをするカミーラ。

 

「本当に忌々しい女……まぁいい、ハヤ~ト」

 

 今までと別の笑みを浮かべてカミーラは葉山の腕へ抱き着いた。

 

「貴方の強大な闇の力をあの二人へみせてあげて」

 

「……それは」

 

「大丈夫よ。貴方を阻むものはここですべて消える。ユザレも、貴方を認めず受け入れることをしなかったユキノシタユキノも」

 

 見つめられた葉山は懐からクリスタル型のデバイスを取り出す。

 

「ダメだ!」

 

 デバイスを構える葉山へネリル星人が叫ぶ。

 

「なんだ、お前?」

 

 カミーラはそこでようやく雪ノ下以外の存在、ネリル星人達に気付く。

 

「お前、地球人じゃないな?宇宙から来た者か」

 

 葉山へ声をかける存在が気に入らないのかネリル星人をみて目を細める。

 

「そうだ」

 

「他所の星の者がなぜ、この星の問題へ肩入れする?」

 

「確かに、私は他所の星からきた。だが、苦しんでいる者を放っておくことはできない。私のしていることを宇宙正義も許すだろう」

 

「フン、お前なんかにハヤトのことを理解できるものか、彼は誰よりも素敵な闇の力を宿している。私達と同じ闇の戦士になるのよ。それがハヤトの運命」

 

「運命?それは違う。彼に闇の戦士へなるように誘導をしているんじゃないか」

 

 ネリル星人はカミーラが原因であることを見抜いていた。

 

 葉山隼人の心を歪めて闇の力を求めるように誘導しているカミーラ。

 

 そんな彼女の行動をネリル星人は許せない。

 

「彼は正しくあろうと」

 

 ネリル星人は最後まで言葉を紡ぐことができなかった。

 

 カミーラの放ったエネルギー弾がネリル星人の体を貫く。

 

「あぁ!」

 

 一色が悲鳴を上げる。

 

「うるさい奴ね。お前みたいなよそ者にとやかくいわれはない!」

 

 叫びと共に続けて闇色の雷撃が迫る。

 

 一色が前に出て光線銃を構えた。

 

 トリガーを押した瞬間、銃口から傘状のエネルギーバリアが展開されてカミーラの雷撃を防いだ。

 

 しかし、衝撃までは殺しきれず一色はネリル星人の傍に倒れてしまう。

 

「いろはちゃん!」

 

「葉山君、貴方はこんな連中と共にいるというの?」

 

 雪ノ下はデバイスを握りしめている葉山へ叫ぶ。

 

「俺は、俺は……」

 

「ハヤト、あんな女の言葉なんか気にすることはない。貴方は誰よりも強い闇の力を持っているの。さぁ、その力を解き放つのよ!」

 

「ダメだ、そんなことをすれば」

 

 叫ぶカミーラ。

 

 止めようとするネリル星人。

 

 二つの声に葉山は顔を歪め、そして、デバイスを空に向けて掲げた。

 

 眩い光、直後に広がる巨大な闇。

 

 闇は葉山隼人を包み込み。

 

 闇を切り裂くように漆黒の巨人が現れる。

 

「あぁ」

 

 悲観の声を零すネリル星人。

 

 雪ノ下は自分を見下ろしている巨人を見て呟いた。

 

「ティガ」

 

 

 



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第三十四話:復活する者

本日はウルトラマンの日。

トリガーがはじまりましたねぇ。

土曜が楽しみです。




「ティガ」

 

雪ノ下はぽつりと呟く。

 

ギャラクシークライシス事件の時に自分達と共に戦った光の巨人。

 

その中の一人、ウルトラマンティガ。

 

自分を見下ろす漆黒の巨人はウルトラマンティガにとても酷似している。

 

違いがあるとすれば、全身から発しているマイナスエネルギーだろう。

 

嘗て遭遇した邪神、ガタノゾーアに匹敵する力を感じた。

 

漆黒の巨人が拳を作る。

 

見上げている雪ノ下目掛けて拳を振り下ろす。

 

『ゆきのん!』

 

拳が迫るもグルジオキングのタックルによって雪ノ下をそれて地面にめり込んだ。

 

『隼人君!何を考えているの!!』

 

鋭い爪を振り下ろすグルジオキング。

 

漆黒の巨人は両手で爪を受け止める。

 

体から噴き出す漆黒の闇。

 

『きゃああ!』

 

パワーで優っていたグルジオキングは巨人に押し戻されて地面に倒れる。

 

漆黒の巨人は自身の放つ力に酔いしれるように手を不気味に動かす。

 

倒れているグルジオキングへ圧し掛かると拳を放つ。

 

「ダメ、ゼットン!」

 

雪ノ下は鞄からバトルナイザーを取り出して掲げる。

 

閃光と共に現れたゼットンは後ろから巨人を掴むと引きはがす。

 

巨人は首元を抑え込んでいるゼットンへ肘鉄をいれると振り返ると同時に拳を繰り出す。

 

ゼットンは迫る拳をテレポーテーションで回避する。

 

標的を失った拳は衝撃を放ってルルイエの一角をえぐり取った。

 

「素晴らしいわ」

 

うっとりと魅入るカミーラだがその表情が歪む。

 

彼女はルルイエへ迫る一隻の戦艦に気付いた。

 

「愚かな人間ども、お前たちに用はない!」

 

カミーラの思念と共にルルイエの各地に眠っているシビトゾイガーが一斉に飛び立つ。

 

シビトゾイガー達はマックス号改に迫る。

 

「ゾイガー接近!」

 

マックス号改の艦内で防衛軍隊員が叫ぶ。

 

「迎撃準備!」

 

艦長が叫び、傍にいる白銀へ視線を向ける。

 

「ホークの発進準備を同時に行います。よろしいですね?」

 

「はい」

 

再確認する艦長へ白銀は頷く。

 

当初はマックス号改の火力によって遠距離からルルイエを崩壊させることが目的だった。

 

しかし、生存者を諦めきれないウルトラ警備隊の面々は一部の作戦を変更。

 

マックス号改を一定の距離で待機させて一時間だけウルトラホーク1号でルルイエを調査。一時間経過して後にマックス号の最大火力で殲滅するというもの。

 

「かなりの数です。状況によっては一時間、もたないかもしれません」

 

「危険を感じたら撤退してください。我々の無茶に付き合わせて申し訳ない」

 

「アンタの無茶に何度付き合っただろうな。今回以上に死の危険を感じたことは何度あったか」

 

「そんなことないだろう」

 

艦長は肩をすくめる。

 

「ご武運を」

 

白銀は敬礼して発進ゲートへ向かう。

 

艦長は腐れ縁の友人の後姿を見てため息を零しながら戦況を観察する。

 

 

「気を抜くなよ!一匹でも接近させれば俺達の命が危ないぞ!」

 

隊員達が叫ぶのを聞きながら艦長はため息を気付かれないように零す。

 

「まったく、楽に退職はさせてもらえそうにないなぁ」

 

迫るシビトゾイガーの群れを前に艦長は迎撃の指示を出した。

 

マックス号後部のゲート。

 

そこが左右に開いてゆっくりとウルトラホーク1号が姿を見せる。

 

発進許可が下りたウルトラホークのエンジンに火が入った。

 

「隊長、発進準備完了です」

 

操縦席にいる渋川が遅れてやってきた白銀に声をかける。

 

「よし、ウルトラホーク1号発進!」

 

合図と共にマックス号改からウルトラホーク1号が発進した。

 

同時にマックス号改へゾイガーが迫る。

 

マックス号の砲身がゾイガーへ向けられて次々と発射された。

 

放たれた砲弾を受けてゾイガーが次々と海面へ落ちていく。

 

それらの光景を見ながら白銀は人命救助の為、ウルトラホーク1号はルルイエへ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

漆黒の巨人の拳を受けて倒れるグルジオキング。

 

ゼットンが火球を放つ。

 

巨人は横へ転がるようにしながら火球を回避して闇色の光弾を発射する。

 

バリアで光弾を防ぐも衝撃を殺しきれずに地面へ倒れた。

 

自らに湧き上がる力に酔いしれるように空へ叫ぶ漆黒の巨人。

 

「素晴らしいわ」

 

カミーラは満足している様子だ。

 

ダーラム、ヒュドラも同じように笑みを浮かべている。

 

葉山隼人が闇の力を使ったことで既にルルイエの結界は破壊され、三人は自由の身になっている。だが、そのことを忘れてしまえるほどに目の前の光景は彼らにとって素晴らしいものだった。

 

「やはり、彼は素晴らしい闇の力を持っている」

 

「マァイフレンド」

 

「ヒヒッ」

 

このまま漆黒の巨人があの二体の怪獣を倒せば、彼は本当の意味で三人の仲間入りになる。

 

――そう、彼は私のものになる。あの女じゃない。今度こそ。

 

笑みを浮かべるカミーラ。

 

その時、眩い閃光と共に巨人と怪獣の間に現れる者がいた。

 

ウルトラセブン。

 

「別宇宙の光」

 

カミーラは笑みを深める。

 

「でも、手遅れよ」

 

現れたウルトラセブンを見て、漆黒の巨人は拳を握りしめて襲い掛かる。

 

『こんなことはやめるんだ』

 

振るわれる拳をいなしながらウルトラセブンはミュー粒子を使って呼びかけていた。

 

ミュー粒子を受けた巨人はより憎悪を深めていた。

 

『やめるんだ!』

 

叫ぶセブンに巨人は拳で返す。

 

振るわれる拳を正面から受け止めながら必死に呼びかける。

 

ウルトラセブンは彼がまだ戻れると信じていた。

 

だからこそ、彼に呼びかける。

 

まだ、彼は完全に闇へ落ちていないと信じて。

 

それ故にウルトラセブンは全力で彼に挑まない。

 

『…………………ふざけるな!』

 

激しい憎悪が闇の力となって巨人から噴き出す。

 

『お前が、お前なんかが俺の何を知っている?!理解したように語るんじゃない!』

 

叫びと共に放たれる光線をセブンは受け止める。

 

『ヒッキー!』

 

「比企谷君!」

 

『動くんじゃない!』

 

起き上がろうとしたグルジオキング達へ視線を向けるセブン。

 

その一瞬の隙をついて、接近した巨人の拳がセブンを捉える。

 

攻撃を受けて地面に倒れるウルトラセブンへ上から圧し掛かり拳を振り下ろす。

 

『隼人君!やめて!』

 

グルジオキングがギガキングキャノンを放とうとする。

 

そんな彼女へゾイガーが襲う。

 

「邪魔!」

 

『どいて!』

 

雪ノ下の指示を受けたゼットンの火球とギガキングキャノンがゾイガーを瞬殺する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだ……」

 

ネリル星人はふらふらと漆黒の巨人の方へ歩みを向ける。

 

近付こうとしたネリル星人にヒュドラがいつの間にか傍にいた。

 

ヒュドラの拳が体を貫通する。

 

「ネリル!」

 

悲鳴を上げる一色。

 

ヒュドラは舌なめずりしながらとどめを刺そうとした。

 

「邪魔よ」

 

雪ノ下がヒュドラに向かって拳を振り上げる。

 

「おっと」

 

避けるヒュドラだが、続けて繰り出されたハイキックによって地面を転がった。

 

「この女ぁ」

 

「そこまでだ」

 

口から零れる血を拭い、苛立ちの表情を浮かべるヒュドラだが、ダーラムに止められる。

 

「ちぃっ」

 

苛立ちで顔を歪めながらヒュドラは後ろへ下がる。

 

「ネリル!」

 

悲鳴を上げながらネリルへ駆け寄る一色。

 

体の一部が徐々に欠損を始めている。

 

「ゆ、雪ノ下先輩!ネリルが、ネリルがぁああ」

 

「落ち着いて、これなら応急手当をすれば」

 

「いいや」

 

雪ノ下の手を止めてネリル星人はゆっくりと立ち上がる。

 

「彼を止めないと……あのままでは心が死んでしまう」

 

「貴方、何をするつもり?」

 

嫌な予感がして雪ノ下は尋ねる。

 

ネリル星人はふと、雪ノ下をみた。

 

表情がわからないが不思議と笑ったようにみえる。

 

「いろは、キミに出会えてよかった。ありがとう」

 

「え」

 

ネリル星人は一色の頬へ手を触れた。

 

「私がこの星で最初に出会えたテラ人がキミでよかった」

 

立ち上がったネリル星人は一色と向き合う。

 

「キエテ・コシ・キレキレテ」

 

「え?今の何?ネリル!!」

 

光に包まれるとネリル星人は巨大な緑色の粒子になると対峙しているウルトラセブンと巨人の間に立つ。

 

『ネリル星人!』

 

ウルトラセブンが驚いて動きを止めたのに対して巨人は腕をL字に構える。

 

光線が粒子に直撃して爆発が起こった。

 

動揺しているウルトラセブンの前で煙の中から飛び出した緑色の粒子が巨人を包み込む。

 

粒子を浴びた巨人は苦しむように頭を押さえて地面に座り込んだ。

 

苦しんでいる巨人の胸元のタイマーが激しく明滅する。

 

やがて、巨人の姿が消えてその場に横たわる葉山隼人の姿がそこにあった。

 

ウルトラセブンはゆっくりと手を伸ばして葉山隼人を拾い上げる。

 

『返せ!』

 

眩いスパークと共にカミーラ、ダーラム、ヒュドラの三人が現れた。

 

カミーラが憎悪の声を上げながら氷の鞭を振るう。

 

振るわれる鞭を躱しながらウルトラセブンは頭頂のアイスラッガーを握りしめる。

 

迫る鞭を二度、三度、アイスラッガーで弾き飛ばす。

 

ウルトラセブンへダーラムとヒュドラが左右から攻め込む。

 

『させない!』

 

「ゼットォォン」

 

ダーラムの前にグルジオキング。

 

ヒュドラへゼットンが立ちはだかる。

 

最強のパワーを誇るダーラムのパンチとグルジオキングの爪がぶつかり、グルジオキングが弾き飛ばされた。

 

『きゃああ!』

 

『お前、弱い。この程度、敵ではない』

 

拳をぶつけながらダーラムは余裕の態度を崩さない。

 

『ヒヒヒ!こっちだ!』

 

ヒュドラは持ち前の俊敏さを用いてゼットンを翻弄する。

 

ゼットンはヒュドラを捕まえようと周囲へ火球を放つ。

 

「ゼットン!奴のスピードに追い付こうと考えないで!攻撃する瞬間を狙いなさい!」

 

「ゼットォォン」

 

雪ノ下の指示に動きを止めるゼットン。

 

『くらえぇええ!』

 

腕の武器を使って背後から襲撃するヒュドラ。

 

ゼットンはくるりと回転してパンチを放つ。

 

ヒュドラは顔面にパンチを受けて派手に地面を転がる。

 

倒れたヒュドラへ火球を放つ。

 

しかし、そこは俊敏戦士ヒュドラ。

 

起き上がると同時に高速で移動して火球を躱す。

 

『返せ!返せ!かえせええええええええ!』

 

憎悪の声を放ちながらカミーラは氷の剣を構えてウルトラセブンへ迫る。

 

『お前は、なぜ、葉山隼人に固執する!?』

 

振るわれる剣をアイスラッガーで受け流してセブンは問いかけた。

 

片手に包むように守っている葉山がいるため、全力を出せない。

 

『うるさい、お前らのような光の勢力に彼は渡さない!彼は誰よりも強い闇の勢力を持っている!返せぇええええええ!』

 

叫びと共に氷の剣を振り上げる。

 

カミーラの背中にミサイルが直撃した。

 

『あれは』

 

ウルトラセブンはカミーラへ攻撃を仕掛けるウルトラホーク1号に気付く。

 

旋回して再度、攻撃をしようとするウルトラセブンへカミーラは鞭を振り下ろす。

 

『くそっ!』

 

ウルトラセブンは鞭からウルトラホークを守るためにその身で攻撃を受ける。

 

『ぐっ!』

 

『あぁ、その姿!苛立たしい!』

 

次々とセブンの背中へ鞭を叩きつけるカミーラ。

 

その間にウルトラホークは離脱する。

 

離脱したことを確認して振り返ると同時にウルトラセブンはエメリウム光線を放つ。

 

鞭で防ぐも距離が開いたところで大きく腕を振るってアイスラッガーを投げる。

 

アイスラッガーを受けてカミーラはのけ反る。

 

『腹立たしい……でも、いいわ。彼が闇の力を解き放ったことで結界は消えた。後はルルイエに存在する闇の力を――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――時は満ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カミーラとウルトラセブンは動きを止める。

 

ルルイエの上空。

 

漂い始めていた闇が一か所に集まりはじめた。

 

『これは……』

 

『貴様!』

 

カミーラも事態を把握していないのか動揺している。

 

上空に集まった闇が徐に地上へ降り立つ。

 

闇が形作っていく。

 

その姿を見たウルトラセブンは驚いた。

 

八幡の意識が前面に出ていたが奥深くに寝ていた本来の人格が表へ現れる。

 

『お前は』

 

『余はエンペラ星人!』

 

黒い鎧とリフレクターマントを纏い、その姿はどことなくウルトラ族と似通った部分を持つ存在。

 

――暗黒宇宙大皇帝エンペラ星人。

 

別宇宙で怪獣や宇宙人を率いてウルトラセブンの故郷、光の国を襲撃して宇宙警備隊発足の原因を作った張本人。

 

しかし、エンペラ星人は地球でウルトラマンメビウスとヒカリ、当時の防衛チーム。そして、ゾフィーの手によって倒された筈。

 

『感謝するぞ。闇の巨人ども、お前達の持つ強大な闇の力で失われた余の肉体は取り戻せた』

 

リフレクターマントを翻して笑うエンペラ星人。

 

『お前、邪魔』

 

『ふざけんな!これから人間を殺して体いっぱいに悲鳴を浴びるつもりだー』

 

右手からレゾリューム光線、左手から念動波が放たれてダーラムとヒュドラに直撃。

 

二体の闇の巨人は傍にいたグルジオキングとゼットンを巻き込んで転倒する。

 

エンペラ星人の放つ攻撃にウルトラセブンとカミーラも距離をとった。

 

『お前達に感謝はしている。宇宙を漂っていた余が感知できるほどの闇の力。デラシオンによって滅ぼされた肉体を取り戻すことができた。よって、今回は見逃してやろう』

 

エンペラ星人はそこで視線を向ける。

 

セブンの掌の中で気絶している葉山隼人。

 

正確にいえば、葉山の胸ポケットの中にあるデバイスを見つめていた。

 

『だが、この星は破壊する。それは絶対だ』

 

リフレクターマントを翻してエンペラ星人はそのまま闇の中へ消える。

 

エンペラ星人が消えると同時に空が明るさを取り戻していた。

 

ウルトラセブンが周囲を見るとカミーラ、ダーラム、ヒュドラの三巨人も姿を消している。

 

『どうやら、奴らも利用されていたようだ』

 

その時、地面が揺れ始める。

 

「はわわ、大変だよ!ルルイエが沈んでいるよ!」

 

偽装を解除して円盤から顔を出してペガが雪ノ下と一色の傍へやってくる。

 

「一色さん、ここから脱出するわ」

 

「え、でも、先輩や由比ヶ浜さんが」

 

「二人は大丈夫……ゼットン。戻って!」

 

バトルナイザーを掲げるとゼットンは光に包まれて消える。

 

島の揺れが激しくなってきた為、雪ノ下は一色の手を掴んで円盤まで走る。

 

少し離れたところではウルトラセブンが気絶した際に変身が解除された由比ヶ浜を左手で優しく掴む。

 

そして、もう一人がウルトラホークに運び込まれた事を確認すると沈み始めていたルルイエからウルトラセブンは飛び立つ。

 

ルルイエから離脱する円盤へ進路を取り、そのまま光となって円盤の中へ入り込んだ。

 

「危機一髪だな」

 

変身を解除してウルトラセブンから比企谷八幡へその身が戻る。

 

彼の足元で気絶をしている葉山隼人。

 

右手で意識を失っている由比ヶ浜を抱きかかえるようにしていた。

 

「先輩!」

 

「八幡!」

 

操縦しているペガは喜びの声を上げて一色はそのまま八幡の腕を掴む。

 

「どうした、い一――」

 

続きを言おうとした八幡は気づいた。

 

一色いろはは泣いていた。

 

声を漏らさないように噛みしめながらも八幡の手を強く握りしめている。

 

状況を察した雪ノ下とペガは八幡が腕に抱えている由比ヶ浜を優しく抱き寄せ、葉山を運ぶ。

 

「今は……」

 

小さく告げた雪ノ下の言葉の意味を察した八幡は頷く。

 

「泣きたいときはその、なんだ?泣いていいんだ。一色、悲しい時は声を大にして泣くんだ。たくさん泣いた後はいつものお前になれればいい。それをネリル星人は望んでいる」

 

「先輩……うわぁああああああああああああああああん!」

 

八幡の手を強く握りしめて一色は大きな声で泣いた。

 

宇宙人の友達が死んだことを悲しむ。

 

何より、みているだけだった自分が許せなくて、辛くてとにかく泣く。

 

そんな一色いろはの姿に八幡達は何も言わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球防衛軍極東基地。

 

白銀は自室のパソコンで報告書を作成していた。

 

ルルイエのゾイガー殲滅作戦は形としては成功したといえるだろう。

 

マックス号改の火力とウルトラホークを用いた迎撃作戦でルルイエのゾイガーが殲滅完了した。

 

但し、エンペラ星人や三体の巨人の行方については明らかになっていない。

 

調査隊に参加していた唯一の生き残りである坂本剛一は念の為、防衛軍傘下の病院でしばらく入院。一部の記憶の欠損等はあるものの、彼の証言によって三体の巨人は人類にとって敵であることがわかった。

 

竹中長官は今回の事態を重くとらえてルルイエの遺跡を永久的に調査、立ち入りを禁止。

 

特殊な電磁バリアでルルイエを封じ込めることで今回の事件は幕が引かれることになった。

 

作業を止めて白銀は傍に置いてあるマグカップの中のコーヒーを一口。

 

これでルルイエの事件は終わったがそれで何もかもが終了したというわけではない。

 

防衛軍内でタカ派とハト派の争いがより激化していくことだろう。

 

タカ派は三体の巨人について徹底抗戦の構えをとりより強力な武器を求め、ハト派はより強力な兵器を持つことに異議を唱える。

 

これからどうなるのか白銀はわからない。

 

とにかく今は就任してすぐに地球存亡の危機を解決するなんてことに酷く疲れてしまった。

 

帰ったら妻に愚痴ってしまいそうになるなぁと白銀はコーヒーを飲み干して報告書の作成を完了する。

 

「これから大変だな。全く」

 

白髪増えないかなぁと心配しながら白銀は立ち上がって、作戦室を後にした。

 

 

 




今回で第一章がひとまず終了です。

いやぁ、当初のプロットより長くなってしまった。

第二章はぼちぼち書いています。


ウルトラマントリガー、楽しみです!


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