架空戦記~東洋海戦争1941~ (鈴木颯手)
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国家紹介(ネタバレ注意)

イハワ王国:本作の舞台。東洋海中央部に存在する小大陸を領有する海洋国家。様々な資源が豊富に存在するが唯一次元石だけ産出出来ないため次元石のみアビン合衆国に依存している。東洋海戦争に置いて海軍のベテラン勢の大半を失う。

 

神星ルドワ帝国:世界の北部に存在する神星大陸を領土とする大国。神聖ルドワ帝国に住む人々は自尊心が高く自らを神星人と呼び多民族を等しく見下している。ルドワ神話では創世神ルドワが神星大陸と共に世界に降り立ったのが始まりとされており今まで神の血を直接引く皇族が代々国を治めてきた。当初は民族差別はなかったが時と共に発生しこれまでの鎖国政策から一転して拡大政策をとるようになる。イハワ王国と同じく次元石以外の全ての資源が産出される。東洋海ではアビン合衆国と葦原中国と、大陸では帝政シナとブリテンタニア領インディア及びブリテンタニア領ペルシアと戦争中である。多民族を見下しているがその一方で技術面に関しては認めており同時に他国より優れた技術開発に余念がない。国内は区で分けられており特等から劣等区まで存在する。上の者は制限が少ないが下の者は制限が多い。四等区以下は大陸外にのみ存在する。

特等神星人:皇族のみ。全ての神星人を従える由緒正しき者たち。

一等神星人:神星大陸に元々いた人達。純潔のみなれる。特等区を除く全ての区に出入りできる。

二等神星人:帝国の歴史に名を残す偉業を残した他民族及び他民族と交わり出来た子及び配偶者がなる。区別はされているが特に制限はない。特等区及び一部大陸内の一等区以外の全てに出入りできる。

三等神星人:二等神星人の子及び配偶者がなる。一部では見下されるが制限は比較的少ない。二等区まで出入りできる。

四等神星人:神星人の犯罪者がなる。四等区以下しか出入りできない。

劣等人:神星人及びその名誉を貰えない全ての人種がなる。あらゆる制限が付き大陸では生きていく事すら出来ない程。四等区以下しか出入りできない。

 

葦原中国(あしはらなかつくに)/葦原皇国:イハワ王国の東に存在する島国。アビン合衆国を除けばブリテンタニアに唯一対抗できる海軍を保有している。アビン合衆国と共に神聖ルドワ帝国と交戦している。

 

ブリテンタニア連合王国:世界最大の国家。神聖ルドワ帝国が鎖国体制を維持していたら間違いなく世界を支配していたと言われるほどの国力を持っている。植民地ごとにある程度の自治が許されており独立する勢力には武力を持って制圧している。植民地の一つブリテンタニア領インディアに攻め込まれたため神聖ルドワ帝国と交戦。陸では押されているが海上からの支援砲撃で戦線は保たれている。

 

帝政シナ:葦原中国の東に位置する陸軍国家。海軍は沿岸防衛用の艦隊しか保有していない。神聖ルドワ帝国とは圧倒的な人海戦術で戦線を膠着させているが技術や練度では大きく劣っている。

 

フラスィア共和国:ブリテンタニア連合王国以外で唯一植民地を持つ国。元は広大な植民地を有していたがブリテンタニア連合王国との戦争で半分を取られる。

 



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第一章【東洋海戦争】
第一話「ホノルル奇襲」


統合歴1941・4/16・12:00東洋海北部

~???side~

「…司令、時間です」

 

「うむ。全艦隊に通達。これよりステルス航行を解除。一気に目標への打撃任務を遂行する!全速前進!」

 

「全速前進!」

 

「見張り員は引き続き警戒を厳とせよ」

 

「了解!」

 

「司令、可能性は低いですが航行中の敵艦隊が存在した場合は?」

 

「その場合は任務の遂行は諦めるしかあるまい。その代りその艦隊の規模にもよるが任務中止の鬱憤を晴らすとしよう」

 

「了解しました」

 

「よし、行くぞ。目標イハワ王国オワフ小大陸パールハーバー!」

 

 

 

 

 

統合歴1941・4/16・13:00

~イハワ王国side~

「それではここにイハワ王国、葦原中国、アビン合衆国の三国同盟の締結を正式に発表します」

 

イハワ王国特等外交官フィリップの言葉を受けフラッシュで照らされる。フィリップの前にはたくさんの記者と思わしき人たちがおりこれが会見の場であることが伺えた。

 

「…何か質問はありますか?」

 

「王国中央新聞の者です。この同盟は北の脅威である神星ルドワ帝国に対抗する為の同盟と受け取ってよろしいのでしょうか?」

 

「はい。その通りです。ご存じの通りかの国は世界の敵(パブリック・エネミー)であり今回同盟を結んだアビン合衆国、葦原中国を含む複数の国と戦線を開いています。にも拘わらず国々は押され神星ルドワ帝国の優勢が続いている状況です。このままでは世界はかの国の支配下に入ってしまいます。それを防ぐために我が国も神星ルドワ帝国に抵抗する為に同盟を結びました」

 

「地方新聞です。この同盟は神星ルドワ帝国を刺激するという意見もありますがそれについてはどのように考えておりますか?」

 

「かの国は自らを神星人と自称し他民族を見下しております。我々イハワ王国も彼の国から見れば他民族の国家です。この時点で刺激していると考えています」

 

「国外新聞です。海軍が航行準備に入っていますがこれについては?」

 

「はい、機密により詳しくは離せませんが現在第二、第三主力艦隊が葦原中国との合同演習の為の出港準備に入っています」

 

各新聞社やラジオ機関からの質問に答えていると突然、部屋の扉が乱暴に開かれた。入って来たのはイハワ王国の軍服に身を包んだ一人の兵士だった。その顔は真っ青であり今にも倒れそうな程であった。

 

その兵士は「会見中に失礼します!」と敬礼をしながら言う。兵士はフィリップの言葉を待つことなく叫ぶように言う。

 

「先ほど王国領海を超え神星ルドワ帝国の艦隊が侵入しました!その艦隊は真っすぐここに向かってきています!到着予想時刻は今から二時間弱です!皆さんは今すぐに避難をお願いします!」

 

兵士の言葉に部屋は一気に阿鼻叫喚となる。ある者は我先にと部屋を出て行こうとして他の記者とぶつかったり倒れこんだりしておりまた、ある者は神に祈っている者もいた。

 

護衛に守られフィリップが退出したのをきっかけに記者たちはカメラや会見の詳しいことがかかれた手帳のみを持ち一斉に部屋から外へと出始めた。

 



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第二話「艦砲射撃」

統合歴1941・4/16・15:42

~神星ルドワ帝国side~

イハワ王国王都ホノルルに到着した神星ルドワ帝国第三東洋艦隊。その旗艦バグナ級第二戦艦の艦橋にいる司令長官は手に持った双眼鏡からホノルルの様子を見る。ホノルルは大混乱となっており逃げようとする人々で一杯であった。無論、第三東洋艦隊がやって来る沿岸部には誰もいなかった。

 

「…どうやら敵はこちらの奇襲に全く対応できていないようだ」

 

「しかし宜しかったのですか?このような卑しいともとれる奇襲を取って…」

 

「問題ないだろう。我々は既に全国家(・・・)に対し宣戦布告している。その中で準備を怠ると言うのは怠慢でしかない。無論、これがヨーロッパなら話は変わるがここは東洋海。それも神星大陸に尤も近い位置に存在する国家だ。まさに自業自得と言えるだろう」

 

「成程、わかりました」

 

司令の言葉に不安に思っていた艦長は肩の力を抜く。そうしている内に全艦隊がホノルルを射程距離内に収める。

 

「司令、全艦隊準備完了しました」

 

「よろしい。敵航空機が来ないうちに素早く終わらせるぞ。全艦、砲撃用意」

 

「砲撃用意!」

 

司令の言葉に従い準備が行われる。準備自体は直ぐに終わり司令の命令待ちとなった。

 

「司令、全艦準備完了しました」

 

「うむ。…放て!」

 

「撃ち方始め!」

 

司令の命令と共に第三東洋艦隊の全ての砲が火を噴く。戦艦2、重巡洋艦1、軽巡洋艦5、駆逐艦10からなる第三東洋艦隊はまるで弾丸の嵐を降らすようにホノルルへと打ち込み始める。艦砲射撃を食らったホノルルはあっという間に炎と破壊に包まれる。更には身動きが取れず港に籠っていたイハワ王国の第二、第三主力艦隊にも降り注ぎ船員の努力も空しくただの的と化していった。

 

数十分にも渡る艦砲射撃が終わる頃にはホノルルは廃墟と化し港に停泊していた船は全て海の藻屑となって海中へと沈んでいた。

 

それを確認した司令は満足げに頷く。

 

「うむ、これで敵の海軍戦力を大幅に削る事に成功したな。艦長、全艦隊に通達。現時刻を持って作戦を終了する。速やかに退避行動に移れ、とな」

 

「はっ!」

 

燃え盛る廃墟のホノルルを背に第三東洋艦隊は自国へと帰っていく。そして、ホノルル奇襲の報を受け戦闘機が到着したのはそれから三十分以上経過した頃であった。

 

王都ホノルル及び主力艦隊を失ったイハワ王国は神星ルドワ帝国と正式に戦争状態に入った事を国民に報告。徴兵が行われると同時に生き残った第一主力艦隊による反攻作戦「カメハメハ作戦」の準備がひそかに行われ始めていた。

 



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第三話「再会」

統合歴1941・5/28・10:00

日系二世であるナカハラ・タツミは神星ルドワ帝国による【ホノルル奇襲】を受け徴兵された。とは言えイハワ王国では20歳までに最低でも一年の兵役義務が課せられている。タツミは今年の3月に兵役を終えたばかりであった。

 

「今年で十九の俺まで徴兵対象とか。イハワ王国はどんだけ人材不足なんだよ」

 

【ホノルル奇襲】に置いてイハワ王国はベテランの大半を失っていた。これは軍人が最後までホノルルに残り逃げ遅れた人の保護ややってきた第三東洋艦隊に一矢でも報いようとした結果であった。とは言えそのせいで人材不足に悩まされる事になるのは皮肉な話である。

 

「俺が乗艦するのは駆逐艦ギャリー…。その対空砲員か」

 

駆逐艦ギャリー。イハワ王国では標準的な能力を有する駆逐艦であったが葦原中国やアビン合衆国と比べると一歩劣っているといわれている。

 

「…あれ?タツミじゃんか!」

 

「え?マイケル!」

 

タツミはやってきた白人の軍人、同時期に兵役義務について知り合ったマイケルと抱き合う。兵役期間の中で手に入れた数少ない友人であった。

 

「まさかお前も呼び出されてるなんてな。いや、俺が呼び出されているんだから当然か」

 

マイケルは今年で21になる。ギリギリまで兵役義務につかなかったのは病弱な母を助けるためであった。幸い、隣人の方々の助けで兵役に違反する事は無かった。

 

「お前は何処に配属になったんだ?」

 

「俺は軽巡洋艦リフエの魚雷員だ。一応第一主力艦隊所属だな」

 

「そうなのか!俺は駆逐艦ギャリーの対空砲員だから次に会うときは帰投後になるのか」

 

折角再会できたのに残念と、マイケルの顔にはそう書いてあった。そんなマイケルにタツミは励ますように声をかける。

 

「なら、次の再会をより良い物にするためにも今度の作戦は成功させようぜ」

 

「成程、確かにそうだな。その時は一緒に飲みに行こうぜ!この前良い店を見つけたからな」

 

「へぇ、それは楽しみだな」

 

「おう!次の再会まで取って置け!きっと驚くぞ!」

 

二人は別れるまで話し続けた。そして14:00。第一主力艦隊は司令長官の挨拶の後に出撃する。戦艦3、重巡洋艦3、軽巡洋艦5、駆逐隊10からなる第一主力艦隊は反攻作戦である「カメハメハ作戦」完遂の為、葦原中国の援軍と共に一気に北上した。

 

そして、復興中のホノルルに帰投したのは傷つき今にも沈んでしまいそうな駆逐艦のみであった。

 

反攻作戦「カメハメハ作戦」は失敗したのである。

 



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第四話「第一主力艦隊」

第一主力艦隊の旗艦「オワフ」はイハワ王国の中では最新鋭の戦艦であった。全長205mのこの艦は海軍大国である葦原中国やアビン合衆国、ブリテンタニア連合王国に比べれば見劣りはするものの互角に叩ける自身があった。

 

しかし、世界を敵に回して尚優勢に進んでいる神星ルドワ帝国に勝てるかと言われれば別問題であったが。

 

それほどまでに神星ルドワ帝国の技術力は進んでいるのだ。イハワ王国はそれを身をもって知る事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

統合歴1941・5/29・9:00

「司令、葦原中国の艦を発見しました!」

 

「よろしい」

 

見張り員の言葉に司令は頷く。実際、良くは見えないが司令の持つ双眼鏡からも見ることが出来た。

 

今回の作戦、「カメハメハ作戦」は神星ルドワ帝国に占領されているオセアニア諸島の開放を目的としている。第一段階に第一主力艦隊と今合流した葦原中国の重巡洋艦愛宕を旗艦とした第三戦隊の連合艦隊でオセアニア周辺の制海権を奪うと同時に諸島にある飛行場の破壊、第二段階に輸送船で兵を送り諸島に橋頭堡を作るというものである。

 

この作戦の要は第一段階の制海権の奪取である。これが成功しなければ今頃港から出ている輸送艦は引き換えせざるを追えないだろう。第一主力艦隊の船員たちは無意識のうちに力がこもっていた。

 

しかし、

 

「今回の作戦、ぬる過ぎる。我が無敵の艦隊で敵本島を攻撃すればいい物を」

 

「全くです。一々こんな島々を占領しなければいけないとは…、やる気が出ませんな」

 

司令の言葉に艦長が返す。二人は第一主力艦隊の力を絶対視していた。自分たちは無敵にして世界に通用する艦隊と思っている。実際は今援軍としてきた葦原中国の第三戦隊と同等の戦力でしかなかった。

 

しかし、その事をここで指摘するものはいない。皆司令と同じくこの艦隊の力を絶対視しているからだ。

 

無論、それに気づく者もいるがそう言う者は非国民と罵られ知らず知らずのうちに艦を降りる羽目になっていた。とは言えこの危ないともとれる艦に乗り続けるよりはマシとみんなが思っていたが。

 

そんなわけで司令達は今回の作戦に対する愚痴や不満を航海した時、いや、その前から漏らしていた。

 

曰く、

 

「軍上層部日和見ばかりの腰抜けだ」

 

「神星ルドワ帝国と言う何処の馬の骨とも知れぬ奴らにビビっている」

 

「第一主力艦隊の力を見誤り挙句その栄えある艦隊を雑用に使っている」

 

等である。

 

「とは言え我々がいる限り今回の作戦は失敗しません」

 

「その通りだ艦長。我が第一主力艦隊の力を思い知らせてやろう」

 

「もしかしたら我々を見ただけで降伏するかもしれませんよ?」

 

「ははは!それはあり得るな」

 

艦長たちは話し続ける。この後、己に降りかかる災厄に気付かずに。

 



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第五話「カメハメハ作戦」

統合歴1941・4/29・14:00

「!敵航空機の大編隊を探知!距離凡そ60!」

 

「!?」

 

「何だと!?」

 

その報が届いたのはオセアニア諸島を目前とした時であった。ここまでくると流石の第一主力艦隊の司令や戦艦オワフの艦長も警戒を厳にしていた。しかし、その報告は信じられない者だった。

 

オセアニア諸島には飛行場は無かった。あったとしても合計五百機配備できればいい位の物だった。しかし、見張り員の報告からは空を埋め尽くすほど、つまり千機以上の航空機が近づいてきていると言う事であった。

 

「全艦隊に通達!対空戦闘用意!急がせろ!」

 

「は、はっ!」

 

司令の怒鳴り声に通信士が慌てて各艦に指示を送る。それと同時に艦内に敵機の襲来と対空戦闘の用意を命令する。

 

外では対空砲員が弾丸の装填や敵機の来る方向に銃口を向け備えていた。その中の一人、タツミも対空砲員の一人として慌ただしく動いていた。

 

そして、全ての準備が完了するのと敵機の大編隊がやって来るのはほぼ同時であった。

 

「対空戦闘始め!」

 

「対空戦闘始め!」

 

司令の命令で真っ先に主砲の38.5cm連装砲二基が火を噴く。それらは敵に当たる事は無かったがそれを皮切りに全ての砲が一斉に火を噴きやって来る敵機に襲いかかる。他の艦も同じであり葦原中国も対空戦闘を行った。

 

しかし、それらの弾幕を物ともせずに敵機は近づいてくる。そして、

 

「敵機上空!急降下!」

 

「衝撃に備えろ!」

 

戦艦オワフの上空から攻撃機から切り離された爆弾が落ちてくる。空を切る独特な音と共にオワフの左側面に命中する。

 

「ぎゃぁっ!」

 

「衛生兵!」

 

「消火しろ!誘爆するぞ!」

 

爆弾の命中部分はまさに地獄絵図と言ってよく大混乱に陥っていた。そんな彼らに更なる悲劇がやって来る。

 

「!側面部に雷撃機多数!」

 

「回避行動を取れ!」

 

悲報、それは左から垂直にやって来る雷撃機の部隊。そして、既に魚雷は発射され離脱する直前であった。

 

見張り員が気付いたころには遅く、十を超える魚雷が無防備なオワフの側面部に突き進んでくる。しかし、

 

「!?駆逐艦ウィリアムス魚雷と本艦の間に…!」

 

「何だとっ!?」

 

司令が左側を見ればオワフより小柄な艦、駆逐艦ウィリアムスと言う艦が真横についていた。そしてそれと同時に複数、決して片手では数えきれない程の水柱が出る。

 

駆逐艦の艦橋ではオワフの艦橋に向かって敬礼しているのが見えた。しかし、それは直ぐに見えなくなった。大量の魚雷を受けた駆逐隊ウィリアムスは大爆発を起こし海にあっという間に沈んでいったのである。

 

「…駆逐隊、ウィリアムス。撃沈…」

 

見張り員の悲痛な言葉に誰も声を出せない。彼らはオワフの盾となり沈んでいったのである。

 

そして、駆逐隊ウィリアムスの撃沈を機に沈む船が出てきた。

 

「軽巡洋艦マナ爆沈!」

 

「駆逐艦チャールズ撃沈!」

 

「戦艦マウイ魚雷が複数命中!航行不能!」

 

「軽巡洋艦ワヒアワとの通信途絶!敵の攻撃が艦橋に命中した模様!」

 

通信士から伝えられる内容はどれも劣勢、いや敗北を告げる内容であった。司令達が数時間前まで話していた第一主力艦隊は無敵。その内容はいとも容易く、千機の攻撃機によって粉々に砕かれた。

 

そして、悲劇はまだ続く。

 

「!敵機直上!急降下!」

 

艦橋の上、対空用の見張り塔から伝えられる内容に艦橋は一気に騒がしくなる。しかし、司令や艦長が指示を出す前に艦橋に向かって爆弾が切り離された。

 





【挿絵表示】

紫:神星ルドワ帝国と占領地
黄:イハワ王国
青:葦原中国
淡青:アビン合衆国
桃:ブリテンタニア連合王国
薄紫:フラスィア共和国


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第六話「撤退」

統合歴1941・4/29・15:30

~駆逐艦ギャリー~

「艦長!戦艦オワフの艦橋に敵の爆弾が命中しました!」

 

「何!?」

 

駆逐艦ギャリーの艦長は見張り員の報告に双眼鏡で確認する。駆逐艦ギャリーのいる位置は後方であり艦隊の中心部にいた戦艦オワフの右斜め後方にいた。

 

艦長が双眼鏡で確認すれば艦橋部分から煙を上げるオワフの姿があった。直上の見張り塔も吹き飛んだらしく天井部分は見当たらなかった。

 

「通信士!戦艦オワフに通信をせよ!」

 

「は、はい!」

 

「敵雷撃機接近!」

 

「っ!回避行動!」

 

決して休ませてはくれない敵の大編隊に艦長は生きて帰れない可能性を脳裏で考えていた。

 

敵の雷撃をどうにか躱しきった時であった。

 

「!敵の大編隊が戦場を離脱していきます!」

 

「それは本当か!?」

 

離脱、それが意味するのは敵が引いたと言う事。一時間を超える敵の猛攻を防ぎきったのである。この事実に艦橋は一気に喜びで溢れるが艦長は気を引き締めるように言う。今は敵の大編隊のみの攻撃でありここへ艦隊が来る可能性もあった。第一主力艦隊の被害も大きくここは引くべきだがそれを指示するべき司令長官はオワフの艦橋に当たった爆弾のせいで生死不明の状態であった。

 

「戦艦カウアイより通信!司令長官の安否が確認できないためカウアイ艦長を臨時司令として指示をする。全艦隊は作戦を中止しイハワ王国へと帰還せよ。との事です」

 

「願ってもない指令だな。航海士、我々は殿を務めるぞ」

 

「了解しました」

 

カメハメハ作戦の事実上の中止に艦長は安堵の息をつくと同時に来る可能性のある敵艦隊に備えるために殿として前にでる。願わくば、敵の猛攻はこれで終わってくれと願いながら。

 

「!敵艦隊発見!急速接近中!」

 

しかし、それは見張り員の報告で呆気なく崩れ去るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~神星ルドワ帝国side~

「艦長、敵艦隊を発見しました」

 

「ご苦労」

 

約二週間前にホノルルを奇襲した第三東洋艦隊は瀕死の第一主力艦隊に止めを刺すべく急速接近していた。戦艦5、重巡洋艦6、軽巡洋艦5、駆逐艦10からなる第三東洋艦隊は旗艦であるバグナ級第三艦を含め全てが最新鋭の軍艦であった。その実力は高く世界最強の艦隊を保有するブリテンタニア連合王国にすら真っ当に戦えるほどであった。ブリテンタニア連合王国に一歩どころか二歩も三歩も劣るイハワ王国海軍との差は明白であった。

 

「これより砲雷撃戦に入る。主砲撃ち方用意!」

 

「主砲撃ち方用意!」

 

「主砲発射用意完了!」

 

奇襲を受け、司令を失い大混乱の第一主力艦隊と入念な準備に艦載機が撃ち漏らした敵の掃討を行う第三東洋艦隊とでは明らかに行動に差があった。

 

「てぇっ!」

 

司令の言葉と共に41cm連装砲が火を噴き圧倒的な力が第一主力艦隊へと降り注いだ。

 



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第七話「帰還」

~イハワ王国side~

「回避しろ!決して直線的に艦を動かすな!」

 

戦艦カウアイ艦長、第一主力艦隊臨時司令は怒鳴り声をあげながら指示をしていく。本来ならうるさいと思うその声量も先ほどから降り注いでいる敵艦隊の砲弾の雨でかき消されていた。

 

敵の大編隊が撤退としたとおもったら新たに現れた艦隊。撤退行動に移っていた第一主力艦隊は満足な反撃も出来ず今は戦線の離脱を急いで行っているところであった。しかし、敵は執拗に追いかけてきており軽、重巡洋艦が一隻ずつ沈んでいた。戦艦カウアイも被弾しており速度も低下していた。それでも逃げ切れると信じて指示を出し続ける。

 

その一方で葦原中国の第三戦隊はイハワ王国海軍を守るように殿を務めていた。戦艦がいない第三戦隊だが重巡洋艦愛宕を中心に大口径の主砲を持つ重巡洋艦が中心となって敵にダメージを与えたりこちら側に攻撃を誘導してくれていたりした。

 

しかし、そんな第三戦隊を無視するような形で一部の艦がイハワ王国へと追撃を行っていた。

 

「くっ!(敵との距離が近すぎる!これでは振り切る事など…)全艦隊に通達!回避航行を止めて全速で離脱するのだ!」

 

遂に臨時司令はこの決断を下した。現状回避航行をしているせいで距離は開かずこのままでは引きはがす事は不可能と判断したからである。この命令を受け第一主力艦隊は全速離脱を図る。

 

そんな第一主力艦隊を逃がすまいと第三東洋艦隊は執拗なまでの砲撃を行ってくる。艦の脇に着弾する度に当たらないでくれと船員たちは願っていた。しかし、彼らの願いは新たな艦隊の出現と言う方により叶う事は無かった。

 

「新たな敵艦隊を発見!巡洋艦10!駆逐艦15!…その後方に空母5!敵の機動艦隊です!」

 

「何だと!?」

 

その報告に臨時司令は驚く。なぜならここにいないはずの空母機動艦隊が出現したのだから。

 

現在神星ルドワ帝国の空母は全て侵略している中央海に展開していた。ブリテンタニア連合王国の植民地であるインディアに攻め入ったためブリテンタニア連合王国が誇る国王の艦隊(ロイヤル・ネイビー)に対処する為に全て中央海に配置されたからである。

 

その為敵の空母機動艦隊の出現に驚いたのである。

 

「くそっ!どおりで敵の大編隊が来たわけだ!空母がいるなら我らは三次元で攻撃を受ける事になる…」

 

臨時司令の額を汗が流れる。

 

「ここから離脱するのに一体何隻が沈むのか…」

 

臨時司令は自分たちの生存確率が低いと薄々感じながらも必死で離脱する。そうしている間にも空母からは艦載機が出てくる。そして二度目の敵航空機による攻撃を第一主力艦隊は受ける事になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

統合歴1941・4/30・17:00

陽が沈み始めた頃第一主力艦隊は真珠湾(パールハーバー)へと帰還した。しかし、その規模は艦隊と呼べるほどではなくなっていた。戦艦3、重巡洋艦3、軽巡洋艦5、駆逐艦5。これらは沈められた艦の数である。結局敵艦載機の猛攻の前に戦艦オワフ、カウアイは撃沈、巡洋艦も防ぎきれず残ったのは足の速く一番先頭にいた五隻のみだった。その五隻も小破以上のダメージを受けておりドックで修理しなければいけない状況にあった。ここにイハワ王国は主力艦隊の全てを失い海軍戦力を大幅に低下させるのであった。

 



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第八話「他戦線」

次元石。それは全ての機械を動かすのに欠かせない結晶体である。透き通るような白色をしており何も知らない人が見れば奇麗な石にしか見えない。しかし、これは高エネルギーを持っており握り拳一つで船を動かせるほどである。

 

この世界の全ての機械はこれをエネルギー元にしている。故にそれに伴い船や飛行機、戦車は史実と比べ大きく発展していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

統合歴1941・6/18・14:00

~帝政シナside~

「突撃!」

 

「「「「「「「「「「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」」」」」」」」」」

 

指揮官の言葉にを受け大量の兵士が塹壕を出て敵、神星ルドワ帝国の塹壕戦に突撃する。瞬間、神星ルドワ帝国から大量の砲弾や銃弾が降り注いでくる。その弾幕は濃く一番先頭を走っていた兵士は数秒も経たずに原形を留めない肉片へと姿を変えたほどであった。

 

しかし、兵士は誰一人として後退も立ち止まる事もせずに塹壕めがけて走る。そこしか助かる道はないからだ。

 

帝政シナは大陸最大の陸軍国家であった。ブリテンタニア連合王国より質は劣るもののそれを補う数多くの人海戦術で対抗していた。神星ルドワ帝国がやって来るまでは。

 

オセアニア諸島から侵略を開始した神星ルドワ帝国は帝政シナの領土であるシナ半島に複数箇所から強襲上陸を行った。当初は人海戦術で対応しようとしたが敵の濃厚な質の前に屍を築くだけで終わっていた。現在では広西州のほぼ全域を失い塹壕で作った防衛線で防いでいる状況であった。

 

そして、今日二回目の戦争開始から数えきれない程の大量突撃は全滅と言う結果で終了した。最初の頃は神星ルドワ帝国からの反撃があったが塹壕にいる大量の兵士に押し切られ現在は膠着していた。

 

「…将軍、今日も戦線は膠着したままですね」

 

塹壕の一番奥にある指揮官所から戦線の様子をみていた副官は隣に座る将軍にそう声をかけた。既に帝政シナの死傷者数は他国より位が一つ高い程いた。そのほとんどが今日の様な大量突撃による死者でありこの戦線に膠着してから死者以外は出ていない状況が続いていた。

 

「ああ、だが我が国は他国より技術は低い。質で対抗できない以上我々の十八番である大量突撃を行うしかない」

 

「しかし、このままではいずれ兵がいなくなってしまいます。現在ですらルーシ帝国の国境線から引き抜いているのですし」

 

ルーシ帝国は神星ルドワ帝国に宣戦布告を受けていたがそれでは間には葦原中国や帝政シナがいる事で危機感はなくヨーロッパ方面で領土拡大の機を狙っている状況だった。

 

「かの国が兵を送ってくれるだけでも違うのだがな」

 

神星ルドワ帝国の脅威を理解していないルーシ帝国に将軍は苦笑する。どちらにせよ将軍は最初からルーシ帝国を期待していなかった。元々領土をめぐって争ってきた間柄であり敵に回らないだけ良いと考えていた。

 

「…さて、そろそろ実りある戦いをせねばな。副官よ、山などを通って敵の塹壕の裏側に行けないか確認せよ」

 

「はっ!」

 

「決して悟られてはならぬぞ。シナの領土は我らで守らなければ」

 

将軍は力強くそう言うのであった。

 



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第二章【平均年齢二十三歳の新設艦隊】
第九話「軽巡洋艦カイルア」


統合歴1941・7/22・8:00

~イハワ王国side~

「マジかよ」

 

駆逐艦ギャリーの対空砲員となったタツミは第一主力艦隊壊滅後は駆逐艦ギャリーの船員と訓練の日々だった。しかし、先週突然軍上層部の使者がやってきてこう言ってきたのである。

 

『ナカハラ・タツミ准尉は本日をもって大尉に昇進し軽巡洋艦カイルアの船長を命じる』

 

はっきり言って無茶苦茶であった。しかし、同時にタツミはイハワ王国はここまで被害が大きかったのかと初めて感じた。

 

第一主力艦隊が壊滅した事で一番の損害は艦艇ではなかった。来週にはアビン合衆国や葦原中国に本当(・・)に劣らない戦艦や巡洋艦、駆逐艦が竣工する。故に第一主力艦隊が壊滅しても一番ではなかった。では何か?

 

「ベテラン勢の喪失、か」

 

そう、ホノルル奇襲でベテラン勢は軒並み戦死。第一主力艦隊も敵の執拗なまでの艦橋攻撃により艦長の戦死が相次いていた。これが第一主力艦隊が壊滅した理由である。

 

よって佐官はほぼ全滅と言ってよく将官は完全に全滅していた。階級が上の者で残っているのは一度は引退をした元帥のみでハワイのワイキキビーチでくつろいでいたところを無理やり戻されていた。

 

「十九歳の俺に頼まなきゃいけない程イハワ王国はやばいのか…」

 

最近まで友の戦死で暗くなっていたところにこれ(・・)はかなり強烈であった。とは言えタツミはイハワ王国の海軍兵士であるため断るという返事はなかった。

 

そして、今タツミは新たに開発された軽巡洋艦カイルアの前にいる。全長156mのこの艦は当然ながら今まで乗っていた駆逐艦ギャリーよりも大きかった。その分この艦の艦長になると言う事はそれだけ多くの兵の命を預かると言う事でありタツミは自然と身が引き締まっていた。

 

「初めまして。軽巡洋艦カイルアの副艦長のジョージ・カハブロク中尉です」

 

艦橋に来たタツミを迎えたのは副艦長になるジョージであった。二十代後半を思わせるジョージもやはり若かった。そんなジョージにタツミは敬礼を返す。

 

「初めまして。私は艦長に就任したナカハラ・タツミ大尉です。よろしく」

 

「こちらこそ」

 

二人は握手を交わし挨拶を済ませると直ぐに艦の事についての話になる。

 

「カイルアは今後シーレーン防衛を目的とした第二巡洋艦隊の配属となります」

 

「例の新設される艦隊の一つか」

 

「その通りです」

 

タツミの言葉にジョージは頷く。全ての主力艦隊を失ったイハワ王国は新たに四つの艦隊を作っていた。その一つがタツミが所属する事になる第二巡洋艦隊であった。重巡洋艦1、軽巡洋艦8、駆逐艦6のこの艦隊は今後アビン合衆国からの輸送経路の防衛を担当する事となっていた。様々な資源が取れるイハワ小大陸だったが唯一次元石だけ盗れないためアビン合衆国からの輸入に依存していた。

 

しかし、主力艦隊の喪失により付近まで敵艦隊が出没するようになったためシーレーン防衛用の戦力を引き抜いていた。

 

「絶対にアビン合衆国とのシーレーンは死守しなければなりません。これを封鎖されればイハワ王国は機械を動かす事は出来なくなり無防備になります」

 

「絶対に守り切らなければいけないな」

 

自分の役目が想像以上に重いことが分かったタツミの顔は険しくなるのであった。

 



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第十話「第二巡洋艦隊」

統合歴1941・8/4・12:00

「エンジン始動!」

 

「エンジン始動。稼働率10パーセント」

 

「各部異常なし」

 

軽巡洋艦カイルアは現在真珠湾(パールハーバー)の港にて出港準備を行っていた。理由はカイルアが所属する事に第二巡洋艦隊に合流するためである。現在第二巡洋艦隊はシーレーン防衛の任についておりそこで合流する事となる。それまでは同じく第二巡洋艦隊に所属する予定の駆逐艦アーノルドと一緒に航行する予定である。

 

「…艦長、駆逐艦アーノルドの準備が完了したとの通信が入りました」

 

「艦長、エンジンの稼働率60を超えました。何時でも出航できます」

 

「分かった。軽巡洋艦カイルア出航!」

 

タツミは自ら動かす事となる軽巡洋艦カイルアの出向を高らかに宣言する。ゆっくりと動き出す軍艦に港にいた人々が手を振って来る。残念ながら艦橋からその姿を確認する事は出来なかったが外にいた海兵たちは手の空いている者に限るも手を振り返していく。

 

カイルアと駆逐艦アーノルドはカイルアを先頭に一列で海を突き進んでいく。やがて湾外へと出た事により波が高くなり軍艦を大きく揺らすが二隻の新造艦はそんな波をものともせずに進んでいく。

 

この二隻だけの航海は特に何の障害もなく終えた。航行から半日もせずに合流地点に到着し第二巡洋艦隊の指揮下へと入っていった。

 

「これらが第二巡洋艦隊…」

 

「別名【平均年齢二十三歳の新設艦隊】です。カメハメハ作戦でベテラン勢をほぼ失いましたからね。自然と若者が昇進しやすくなっていると言う事でしょう」

 

タツミの呟きに副艦長のジョージは返す。半日近くを共に航海した駆逐艦アーノルドの艦長ですらタツミより二つ年上程度だったのだ。この艦隊の艦長も同じなのだろうと考える。因みに駆逐艦アーノルドの艦長は気さくで話しやすい性格であった。

 

「艦長、どうやらお迎えが来るようです。直ぐに下に降りてください」

 

「分かった」

 

ジョージにそう言われて遠くを見ればうっすらと旗艦から小型艇がこちらに向かってくるのが見える。タツミは艦橋を離れ下へと降りていく。

 

「ナカハラ・タツミ大尉ですね。第二巡洋艦隊司令の元に案内します」

 

小型艇で向かってきた兵はそういって敬礼する。タツミも敬礼を返し小型艇に乗り込む。タツミが乗り込んだのを確認した小型艇はエンジン音をふかしながら旗艦の元へと運んでいく。

 

第二巡洋艦隊の旗艦である重巡洋艦カフルイは第二巡洋艦隊唯一の重巡洋艦でありイハワ王国の最新鋭の新造艦であった。とは言え海軍大国の葦原中国や神聖ルドワ帝国から見れば中古品程度の実力しか持っていなかった。

 

それでも、この同型艦は既に三隻が竣工しており数をそろえたいイハワ王国の上層部からすれば中古品程度の性能でも構わなかったのであった。

 



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第十一話「防衛戦1」

統合歴1941・8・16・13:00

軽巡洋艦カイルアが第二巡洋艦と合流してから既に二週間近くが経過していた。その間に二度ほど船団護衛につき最後まで任務を果たすことが出来ていた。今までシーレーン防衛は簡単であった。

 

しかし、前線となるイハワ王国北部の海域は別であった。頻繁に神聖ルドワ帝国の艦隊が姿を現すようになっており二日前には新たに新設された主力艦隊と海戦を行ったいる。その際にこちらの被害が大きかったのは言うまでもないだろう。

 

つい最近もアビン合衆国がある新大陸北部の海域が神聖ルドワ帝国の手に落ちてしまっていた。これによりアビン合衆国は西洋海と東洋海を事実上分断されたことになる。もしどちらかの艦隊がもう一つの海に行きたいなら神聖ルドワ帝国の支配する海域を無事をいのり突破するかブリテンタニア連合王国に軍事通行券を貰い南から回るしかなくなっていた。

 

挿絵挿入

 

一方で葦原中国は神星ルドワ帝国と同等の実力を持つため一進一退の攻防が続いていた。先月に行われた台湾付近の海戦ではお互い戦艦を合計十三隻も出しての大海戦をやっており神聖ルドワ帝国の一艦隊を壊滅させている。無論、葦原中国の被害も大きく新造艦の建設に力を注いでいる状況であった。

 

 

 

 

 

 

 

そんな中にあってシーレーン防衛が暇と言うのは一抹の不安を覚えさせるものであった。カイルアの艦長、ナカハラ・タツミは艦橋から何処までも続く大海原を見て考えていた。

 

「シーレーンが敵に襲われないのは良い事だがここまで何もないと逆に不安を感じるものだな」

 

「仕方ありません。敵は全世界を敵に回しています。これ以上艦隊を割く余裕がないのでしょう」

 

「そうだと良いけどな」

 

副艦長のジョージの言葉にタツミはそう返した。ジョージの言った通り敵の海軍がこれ以上の拡張が出来ていないならそれでいいがもしそうでなければ…。

 

そんなことを思っていたからであろうか?艦橋に通信士が血相を変えて入って来た。

 

「旗艦カフルイより入電!現在この先の海域で我が国の輸送船団が襲撃を受けているとの事!直ちに駆け付ける!と!」

 

「…副艦長。いやな事は考えているとどうやら呼び込んでしまうようだな。総員戦闘態勢を取れ!」

 

「はっ!総員戦闘態勢!これは演習ではない!」

 

副艦長が伝声管を使い船内に連絡を行う。少しして船内が慌ただしくなる。外では対空砲員がそれぞれの持ち場に付き敵の航空機の来襲に備えている。艦橋にも離れていた者たちがやってきて持ち場について行く。

 

数隻の駆逐艦を先頭に第二巡洋艦隊は速度を上げて突き進む。通信ではニ十隻のうち四隻が沈められており護衛についていた駆逐艦二隻は瞬く間に沈んでしまったという。一国の猶予も残されていなかった。

 

そして、この輸送船団が運んでいるのは次元石である。イハワ王国は資源大国だが唯一次元石だけ取れないためアビン合衆国からの輸入に依存していた。これを沈められてはイハワ王国は大幅に海軍の動きを制限されてしまう。なんとしても守り切らなければいけなかった。

 



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第十二話「防衛戦2」

「艦長!このままでは全滅してしまいます!」

 

「今は耐えるんだ!既にこちらに艦隊が向かってきているという!今は少しでも被害を抑える事に集中するんだ!」

 

イハワ王国の輸送船団は現在神聖ルドワ帝国の攻撃にさらされていた。既に護衛として随伴した駆逐艦二隻は沈められ残ったのは僅かな武装、対空砲数基ほどしかない輸送船団のみであった。

 

通信を行った時には四隻が沈められ必死に逃げている現在は新たに二隻が沈み三隻が敵の砲弾が命中し大破となっていた。他の艦帝は幸いにも敵の砲撃を躱して無傷であったがこのままでは全滅するのは時間の問題であった。

 

「艦長!こちらに砲撃が!」

 

「回避しろ!なんとしても回避するんだ!」

 

艦長の叫び声も空しく砲弾の一つが輸送艦の中央部に当たった。その際の衝撃で艦長は倒れ頭をぶつけてしまう。

 

「ぐっ…!」

 

「艦長!?ご無事ですか!?」

 

「ああ、私は問題ない。それより被害は…?」

 

「幸い浸水や火災はありません。ですが輸送中の次元石に激突し一部は使い物にならなくなっています…」

 

「何と言う事だ。…いや、沈まなかっただけマシと考えるべきか」

 

艦長は輸送中の次元石の消耗に一瞬頭が真っ白になったが直ぐにポジティブに考え気を持つ。今も敵の砲火にさらされているのだ。現実逃避などしている時ではなかった。

 

「くそっ!このままでは通らぬうちに…」

 

艦長が最悪の想定をした時であった。通信士から希望が届く。

 

「艦長!イハワ王国の艦隊が到着しました!」

 

 

 

 

 

 

~神聖ルドワ帝国side~

「司令、イハワ王国の艦隊が到着。重巡1、軽巡8、駆逐6」

 

「ふむ、戦艦はいないか」

 

神聖ルドワ帝国の第二通商破壊艦隊を指揮する司令は報告を聞いて顎に手を当てる。その眼には慢心も油断もなかった。

 

第二通商破壊艦隊の目的は敵のシーレーンの破壊であり敵艦隊撃破が目的ではない。だが、イハワ王国の海軍は相当な打撃を受けている。ここで武功を稼ぐべきか。否か。

 

「…通信士、全艦に伝えろ。これより対水上戦闘を開始する。とな」

 

「はっ!各艦に通達!全艦対水上戦闘用意!繰り返す!対水上戦闘用意!」

 

司令より伝えられた命を受け艦隊が一斉に動き出す。

 

…先に砲撃を仕掛けたのは第二巡洋艦隊であった。重巡洋艦カフルイの主砲20.3cm連装砲から放たれた弾丸は自他ともに動いていたため当たる事は無かった。しかし、それが海戦の狼煙となり両艦隊激しい砲雷撃戦を繰り広げる。第二通商破壊艦隊は重巡3、軽巡6、駆逐10とほとんど数では変わらなかった。しかし、神聖ルドワ帝国の艦はイハワ王国より高性能であった。

 

「敵軽巡洋艦に着弾!推定被害中破!」

 

「よし、このまま敵を海の藻屑へと変えろ。…それと援軍の存在だけは常に注意しろ」

 

司令は油断なく、淡々と第二巡洋艦隊に被害を与えていった。

 



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第十三話「防衛戦3」

「軽巡洋艦ヒロ轟沈!」

 

「駆逐艦ハリー被弾!被害推定中破!」

 

軽巡洋艦カイルアの艦長を務めるナカハラ・タツミは通信士から入って来る報告に悩ませていた。艦橋からは黒煙を上げ沈みつつある第二巡洋艦隊の軽巡洋艦が見えていた。

 

「っと」

 

「至近弾!」

 

タツミの乗艦するカイルアを揺れが襲う。近くに砲弾が飛んできたためだ。幸い被害はなくお返しとばかりに主砲である14.1cm連装砲二基が火を噴く。しかし、敵も味方も移動しているため当たる事は無かった。

 

「このままじゃ被害が増えるばかりだな…。よし」

 

タツミはこの状況を打開する為に大胆な手をうつ。

 

「全速前進!敵艦隊に割り込む形で突っ込め!」

 

タツミの命令に艦橋は騒然となる。突然の自爆攻撃ともとれる命令に誰もが反対する。

 

「艦長!それはあまりにも危険です!艦隊を離れれば我々が標的に…!」

 

「このままでもいずれは沈められる。なら、一か八か賭けに出るしかないだろう」

 

副官のジョージは必死に食い下がるがタツミは断固たる意志で聞く耳を持たなかった。

 

「…私は、この船の副艦長です。この艦を危険には晒せません。

 

「…そうか」

 

「…ですが、このままではジリ貧というのも事実。私は艦長の提案に従います」

 

ジョージが折れた事で艦橋の思いは一つとなった。直ぐにタツミの命令が実行されその趣旨を旗艦に伝える。突然の行動に第二巡洋艦隊司令は怒鳴る形で命令違反を咎めるも既に艦隊から離れ単艦で第二通商破壊艦隊へと突撃していた。

 

当然のことながらカイルアに砲火が集中するも運がいいのかカイルアに当たることなく距離を詰めていく。

 

 

 

 

 

 

 

~神星ルドワ帝国side~

「敵軽巡洋艦なおも接近!このままでは艦隊の中央部に侵入されます!」

 

通信士の悲鳴が混じった報告が司令長官の元に届く。敵軽巡洋艦、カイルアは既に両艦隊の中間地点まで来ていた。万が一艦隊の中に入られては艦隊行動を阻害されるだろう。それだけは防がなければいけなかった。

 

「…前砲塔を目の前の軽巡洋艦に向けろ。多少の被害は無視しろ。敵軽巡洋艦を鎮めるために全力を注ぐのだ」

 

「はっ!」

 

司令の命令を受けカイルアに降り注ぐ砲弾が一層強くなる。流石のカイルアもこの砲弾を全て避ける事は適わず少しづつ被害を受けていく。しかし、それでもカイルアが止まる事は無かった。むしろ

 

「軽巡洋艦ヴィレ被弾!」

 

「駆逐艦ミューバ轟沈!」

 

「て、敵軽巡洋艦がまもなく侵入しますっ!」

 

第二巡洋艦隊からカイルアの支援砲撃が行われる。それによりほぼ無傷だった第二通商破壊艦隊に被害が出始める。

 

「くっ!敵にはまだこの様な大胆な手を、そしてそれを成し遂げる実力を有していたのか…!」

 

司令は艦隊へと侵入したカイルアを見ながらそのように呟くのであった。

 



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第十四話「戦いの後」

統合歴1941・8・22・10:00

~イハワ王国side~

「…副艦長」

 

「何ですか?」

 

「生き残れたな。俺たち」

 

「そうですね」

 

パールハーバーのドック、修復が行われている軽巡洋艦カイルアの前でタツミは副艦長のジョージにそう言った。

 

第二通商破壊艦隊との海戦から約一週間が経過した。当初は第二巡洋艦隊が劣勢であったがタツミの無謀ともとれる行動のおかげで危機は脱するどころか軽巡1、駆逐3を沈めるという被害を敵艦隊に与える戦果まで得ていた。しかし、こちらの被害も大きく軽巡2、駆逐3が沈み期間であるカフルイを除く全ての艦がドック入りとなっていた。

 

その中でも一番無理をしたカイルアの損傷は酷くしばらくの間はドックから出す事は適わない状況であった。

 

「しかし…、上層部も結構カツカツなんだな」

 

タツミは今回の戦果を受けて大尉から少佐へと昇進していた。昇格するのは純粋に嬉しいがこうも簡単に階級が上がる事に不安を抱いていた。

 

「それだけベテラン勢の不足が大きいと言う事でしょう。今は簡単に上がる階級に感謝していればいいと思いますよ?それに階級に見合う功績をあげれば誰も文句は言わないでしょうし」

 

「それもそうなんだがな~」

 

「それより、カイルアの修復はしばらくかかるので別の軽巡洋艦に乗船せよとの事です」

 

「流石に遊ばせておくことはしないか。…その軽巡は?」

 

「カイルアと同型艦です。暫くは軽巡洋艦の全てはこの同型艦で固定されると思います」

 

「神星ルドワ帝国相手じゃ全てにおいて劣っていると思うけどこれがうち(イハワ王国)の限界か」

 

タツミの言葉にジョージの目が細くなる。今の言葉は少し不謹慎であった。もし誰かに聞かれて密告でもされれば…。

 

幸い近くにはカイルアの修復で忙しそうな作業員しかおらず呟いたタツミの声が聞こえている者はいなさそうであった。

 

ジョージはタツミの何気ない一言に溜息を吐くのであった。

 

 

 

 

 

 

~神星ルドワ帝国side~

神星ルドワ帝国の神話には面白い話がある。曰く自分たちは別の世界の住人で神聖ルドワ帝国の唯一神が神星大陸と共にこの地にやってきたというものであった。これを信じている神星人は多く他民族を見下す要因にもなっていた。

 

そんな不思議な神話がある神星ルドワ帝国、その特等区には唯一神のちを引くと言われている皇族が住んでいた。そんな特等区の一角、皇帝の直系のみが住むことを許された城にて一人の女性が歩いていた。

 

神星ルドワ帝国の海軍将校の軍服に身を包んだ長身の女性は余計な物音がしない城内でコツ、コツと小気味良い靴音を立ててある場所へと向かっていた。

 

暫くして目的の場所、謁見の間に到着した女性は扉の前に立つ近衛兵に視線を向け開けろと合図する。近衛兵は視線を受け扉を開け女性の入室を知らせる。

 

第三皇女(・・・・)ミリア・ヴァン・ケシャル・デッセンダーグ様のご入場!」

 

近衛兵の言葉と共に扉は開かれ巨大な謁見の間が姿を現した。女性、第三皇女ミリアは一呼吸すると堂々と謁見の前へと足を進めていった。

 



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第十五話「謁見」

「ミリアよ。待っていたぞ」

 

謁見の間の中央までくるとそのまま片膝をつき頭を垂れたミリアに年老いた、だが強烈な覇気を纏った声がかけられる。

 

「はっ!お久しぶりです。父上」

 

「うむ、そなたも壮健でなによりだ」

 

ミリアの父、第百六十二代皇帝モルドガ・ヴァン・ヴェイル・デッセンダーグは皇帝としての顔の中に僅かな父性を混ぜて接する。ここが公式の場であることを理解しているミリアは少し不用心と思いつつも不器用な父の態度に心の中で笑みを浮かべる。幸い幼少期から礼儀作法を叩きこまれたミリアはその感情を表に出す事は無かった。

 

「…陛下、私はこれより第二東洋艦隊、第三東洋艦隊、第一西洋艦隊、第四空母機動艦隊を率いてイハワ王国へと進軍いたします」

 

「うむ、仔細は聞いている。許可しよう。勝てとは言わん。これだけの大艦隊だ。葦原皇国やアビン合衆国も出てこよう。その中でいかに敵に打撃を与えるかを考えよ」

 

「はっ!」

 

皇帝の言葉にミリアは深々と頭を垂れる。

 

神星ルドワ帝国では敵を侮る事は愚か者と劣等人のやる事と思われている。自らを神星人と呼び他種族を見下しているがそこに侮りはない。

 

「見下しはすれど侮りはせず」。これを実際に実行し機能させているからこそ神星ルドワ帝国は世界の敵(パブリック・エネミー)となりながらも互角以上に戦えている所以であった。

 

「情報局は敵の戦力をどの程度と判断している?」

 

皇帝の言葉に左右に控えていた者の中から一人が中央に出て最上位の礼をする。

 

「情報局のカイル・リデリーです。今回の目標はイハワ王国です。なので距離のある葦原皇国は多くても一艦隊、距離が近いアビン合衆国は空母機動艦隊も含めた主力艦隊を、イハワ王国は全艦隊を投入してくると考えています」

 

「ふむ。…ミリアよ」

 

「はっ!」

 

「情報局はそう言っているが我が軍は敵に勝てるのか?」

 

皇帝はそう言う。暗に策はあるのであろうな?という圧をミリアは感じていた。

 

「勿論です。空母機動艦隊には例の艦載機を運用させます」

 

「ほう、あれ(・・)か」

 

皇帝は一月前に見た艦載機を思い出す。

 

「更に主力艦のみですが最新鋭の機器を詰め込んでいます。その運用も乗員に叩き込みました。被害は出れど負ける事はありません」

 

「作用か。ならば良し」

 

皇帝はミリアの言葉を信じ作戦の実行の許可を出すのであった。

 

この数日後、第三皇女ミリアを司令とした連合艦隊が神星大陸を出航。イハワ王国へ向けて南進を開始した。時に統合歴1941年9月10日の事であった。

 



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第十六話「ルーシア=ゲルマニア戦争」

統合歴1941・8・24・9:00

~ルーシ帝国side~

「ふう、最近熱くなってきたな」

 

数か月前に軍に志願したばかりの新人であるニコライは要塞線に建てられた見張り台にいた。現在彼がいるのは隣国オスト=ゲルマニア帝国との国境線である。神星ルドワ帝国という世界の敵(パブリック・エネミー)がいる中この国はブリテンタニアが戦争中な事をいいことに隣国に攻め入っては次々と併合していた。中には抵抗を試みた国もいたが結局併合されてしまっていた。

 

そんなオスト=ゲルマニア帝国にルーシ帝国は非難、するどころか手を組んで南方にある半島へと侵略していた。西からの脅威がない。それがオスト=ゲルマニア帝国がここまで強気に行動で来ている所以であった。

 

「にしてもこうも刺激のない日々じゃ体が可笑しくなっちゃうよ」

 

ニコライは新人と言う事もあり南方半島への侵略作戦に従軍することなくずっと攻めてくるはずのない隣国の要塞線の見張りについていた。

 

「はぁ、何かこう、面白い事でも起きないかな?」

 

オスト=ゲルマニア帝国が攻めてきたりとか。と冗談を考えていた時であった。ニコライの視界に一瞬何かが光って見えた。

 

「何だ?今一瞬光が…」

 

ニコライはその正体を掴むことは出来なかった。何故なら彼がいた見張り台は光の正体、戦車から放たれた砲弾によって粉微塵に吹き飛んだのだから。当然そこにいたニコライは即死であった。

 

「敵襲!敵襲!」

 

数瞬遅れで要塞線のあちこちから悲鳴の如き叫び声が聞こえてくる。そんな叫びをかき消すように彼らの頭上に砲弾の嵐が降り注いだ。

 

 

 

 

 

~オスト=ゲルマニア帝国side~

帝都ベルリンの中央にあるブランデンブルク城。それはこの国の皇帝が住む家であった。しかし、時にはそこは参謀本部としても活用されていた。

 

「報告します!先ほど第一装甲戦車師団が敵要塞線の突破に成功しました!」

 

その報告に参謀本部から歓声があがる。そんな彼らに交じる形でルートヴィヒ中将が笑みを浮かべる。

 

「ふむ、第一段階は成功したな。後はあけた穴を何処まで広げられるかだな」

 

「その通りですな」

 

ルートヴィヒ中将の言葉に付近の将校が相槌を打つ。ルートヴィヒ中将は吸っていた葉巻を吸い殻に置き改めて将校たちを見る。将校たちも視線に気づきルートヴィヒ中将へと顔を向けた。

 

「諸君、我らがオスト=ゲルマニア帝国はヨーロッパを統一し世界を牛耳るブリテンタニアに鉄槌を降すぞ。これはその前段階だ。なんとしてでも成功させ勝利を、繁栄を、陛下へと送ろうではないか」

 

「「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」」」」

 

ルートヴィヒ中将の言葉に将校は再び完成を上げるのであった。

 

後にルーシ=ゲルマニア戦争と呼ばれることになる内輪(・・)揉め(・・)戦争(・・)はオスト=ゲルマニア帝国の宣戦(・・)布告(・・)なし(・・)のいきなりの侵攻で幕を開けたのであった。

 



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第三章【東洋海海戦】
第十七話「大艦隊」


1941・9・11・11:00

~イハワ王国side~

「その情報は本当なのか!?」

 

「は、はい。上層部もかなり慌てている様でしたが確かなものと思われます」

 

軽巡洋艦ワイアルアに乗艦しシーレーン防衛の任についていたナカハラ・タツミの元に届いたのは信じられない報告であった。

 

【神星ルドワ帝国の大艦隊を確認、その後方に多数の揚陸艦を視認。大艦隊は真っすぐ我が国へと向かってきている。大至急パールハーバーへと帰航せよ】

 

暗号化されやってきた内容はこの様な物であった。一瞬タツミはそれほどの艦隊なのかと疑問を持つも神星ルドワ帝国は大陸でもこの東洋海でも戦線は膠着し決定打を打てないでいた。今回の大艦隊は戦況を一気に変えるための行動だとタツミは予想した。

 

「副長、旗艦は何と?」

 

「上層部の指示に従い帰航するとの通信が」

 

「分かった。これより我が艦はパールハーバーへと帰航する」

 

「はっ!」

 

タツミの指示に従いワイアルアはゆっくりとパールハーバーへと引き返し始める。タツミは腕時計を確認しながら考える。

 

「(今から戻ってもきっと内の国だけじゃ負けるのは確定している。ならアビン合衆国にも援軍を?いや、葦原中国にも援軍を頼んでいるだろう。だが、距離を考えれば到着するのはかなりギリギリだろうな)」

 

タツミは一瞬王都ホノルルに神聖ルドワ帝国の帝旗が掲げられるのを想像してしまう。復興が進みつつあるホノルルを行進する神星ルドワ帝国の軍隊。降伏文書を読む国王。そのどれもが最悪の想定であった。

 

「(…それだけは、避けないとな)」

 

タツミは心の中でそう決意をするのであった。

 

 

 

 

~アビン合衆国side~

「イハワ王国に神聖ルドワ帝国の大艦隊が向かってきている。直ぐに援軍を送るべきです」

 

ホワイトハウスにて大統領に詰め寄る一人の軍人がいた。彼は元帥の地位にいるマイケル・リーガンであった。合衆国東洋艦隊を指揮する彼は東洋海中央部のイハワ王国がどれだけ重要かを理解していた。

 

「あそこが神聖ルドワ帝国に落ちれば我が国と葦原中国は分断されます。そうなれば今までの様な連携した作戦行動は不可能になります。それに合衆国への強襲上陸の可能性も出てきます」

 

神星大陸からアビン合衆国まで距離がありすぎるためこれまで強襲上陸はないと判断していたがイハワ王国が神星ルドワ帝国の手に落ちれば強襲上陸の可能性が出てくる。それは防衛戦略的にも無視できない者であった。

 

「大統領!今すぐに援軍の許可を!」

 

「…勿論許可するとも」

 

リーガン元帥の言葉に大統領は頷く。大統領とて隣国の友人を見捨てるつもりはなかった。そのうえで、

 

「リーガン元帥、君には頼みたいことがある」

 

大統領は自らの秘策をリーガン元帥へと話した。

 

翌日、海軍大将キンメルを司令長官とした連合艦隊がイハワ王国へと向かい始めた。と、同時期に葦原中国も戦艦長門等の艦隊を向かわせていた。

 

彼らの激突は近くまで迫ってきていた。

 



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第十八話「行動開始」

1941・9・11・22:00

「まさか、これほどとはな」

 

パールハーバーへと帰航したタツミ達は敵艦隊の編成を聞かされ軽い絶望感を味わっていた。

 

「戦艦11、空母6、重巡16、軽巡23、駆逐多数…。それに加えて揚陸艦」

 

「対するこっちは戦艦3、重巡10、軽巡22、駆逐40。話になりませんね」

 

圧倒的な敵の数にタツミは天を仰ぎ副艦長のジョージは祈りをささげ始めた。他の者たちも似たような者で中には脱走を企てようとするものまでいた。

 

「これでこちらが一騎当千の船ならまだよかったんだけど…」

 

「全ての分野において圧倒的に敵の方が上ですね。唯一互角なのは速度でしょう」

 

「そこは現状役に立たないな」

 

明らかに摘みな状況にタツミはため息をつく。

 

「それで?敵の到着予想時刻は?」

 

「大船団の為か速度は遅めなので…大体明後日の昼くらいでしょう」

 

「はぁ、アビン合衆国はともかく葦原中国は無理だな」

 

せめてもう少し早く見つかっていれば、とタツミは嘆くも敵の制海権内で見つけられただけマシかと思いなおす。

 

「そう言えばアビン合衆国はどの位の援軍だっけ?」

 

「確かキンメル大将を司令長官とした連合艦隊だと聞いています。確か戦艦7、空母4、重巡12、軽巡18、駆逐22だったかと。合わせれば数では(・・・)勝ることが出来ます」

 

「葦原中国も間に合えばいいんだがな」

 

ジョージの言葉にタツミはため息をつくのであった。

 

そうこうしている内にイハワ王国連合艦隊は敵艦隊殲滅の為出発した。一方アビン合衆国連合艦隊は接敵予想地点で合流する事になった。葦原中国も長門を旗艦とした聯合艦隊が向かっていたが間に合うかどうかは分からなかった。

 

 

 

 

~神星ルドワ帝国side~

「これほどの大艦隊が一度に動くとはな」

 

神星ルドワ帝国の連合艦隊、その旗艦バグナ級第四戦艦の艦橋にてミリアは眼前に広がる連合艦隊を見て笑みを浮かべていた。

 

ミリアの耳にはイハワ王国が艦隊を率いて向かってきているという情報が入っていた。そしてその中に空母の姿がない事も。この艦の隣を並走する空母では戦闘機や爆撃機、雷撃機などが飛び立つのを今か今かと待ち望んでいる様であった。

 

「最初の作戦まであと一時間か」

 

ミリアは左腕の腕時計で時間を確認する。時刻は日を跨いだところであった。

 

神星ルドワ帝国では夜間離着陸の訓練が盛んであった。夜間奇襲を行うことが出来れば大きな奇襲が期待できたからだ。そしてそれを補佐するための艦載機の研究にも力を入れており簡易的な電子計算機を作り搭載する艦載機を試作ながら作り上げていた。

 

残念ながら試作の域を出ないため今回の作戦には組み込んでいないがパイロット達はそんなもの関係ないとばかりに極めて高い成功率を出していた。

 

「さて、この奇襲が敵に、我々にどんな効果を与えるのか。神よ、願わくばパイロット達に祝福を与えたまえ」

 

ミリアは創世神たる自らの祖先にそう祈るのであった。

 



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第十九話「夜間奇襲」

1941・9/12・2:30

「敵機来襲!」

 

タツミは伝声管から聞こえてきた怒声ともとれる声ではね起きた。時計を見ればまだ三時であり伝声管の声で艦が一気に慌ただしくなった。

 

「何処からだ!?」

 

「はっ!12時の方向からです!恐らく敵艦隊の空母からだと思われます!」

 

「夜間奇襲か。これはかなり痛いな。早く持ち場に付かせるんだ」

 

「はっ!」

 

タツミは艦橋に来るとそこにいた兵に命令し双眼鏡を覗き込む。陽はまだ上っておらず辛うじて明るくなって来たか?程度のものだった。そして正面から確かに闇に紛れる形で複数の敵機が向かってきているのが確認できた。

 

少しして前方の駆逐艦から対空砲火が行われる。しかし、夜間と言う事もあり当たっている様子はなかった。

 

比較的に近づいてくると一部の艦載機が降下を始める。その機の下部には細長い鉄上の物、魚雷が積まれていた。神星ルドワ帝国の雷撃機であった。

 

雷撃機の編隊は前にいた重巡洋艦に狙いを定めたようでフェイントをかけつつ向かって行く。それを落とそうと必死に対空砲火を行うも夜間と言う事で全く当たらなかった。

 

そしてついに雷撃機と魚雷が切り離された。飛ぶ力のない魚雷は重力に従い海中へと沈む。しかし、直ぐに魚雷は艦載機と同等の早さでもって重巡洋艦へと進んでいく。

 

重巡洋艦は必死に回避、魚雷の進路と平行になろうとするがそれは適わず重巡洋艦の左舷に水柱を生成していく。それは五本近く当たり重巡洋艦を火が包み込む。

 

「味方重巡洋艦大破!浸水も始まっている様で傾斜が止まりません!」

 

見張り員の言葉の通り重巡洋艦はこの僅かの時間に大きく傾いており回復は絶望的な状況にあった。退艦命令が出たのか飛び降りる様に乗員たちが海へと飛び込んでいく。

 

そんな中遂にタツミの乗るワイアルアにも爆撃機がやって来る。幸いなのは雷撃機がワイアルアに来ていない事か。

 

タツミは回避運動を命じつつ迎撃の指示を出すが無理だろうと心の中で思っていた。

 

「(夜間に加えて突然の奇襲。まだ対空砲員の中には自分の持ち場にすら到着していない者もいるだろう。そんな中で100%の力が発揮できるとは思えない)」

 

タツミの予想通り対空砲の砲火を避け爆撃機が急降下爆撃を仕掛けてくる。そしてある程度の距離を詰め一気に爆弾を落としてくる。その数は四。

 

一発目、軌道が逸れて左舷に落ちた。

 

二発目、対空砲が偶々当たり空中で爆発。当たっていなければそのまま右舷の対空砲を直撃していただろう。

 

三発目、海中に落ちたが艦すれすれであったため着水と同時に爆発。右舷の船尾に被害を与えた。

 

そして四発目、前方の主砲に直撃し主砲にいた兵と共に手法を吹き飛ばした。幸い誘爆の心配はないようで直ぐに消化が行われ始める。

 

「我が艦は何とか耐えたが他はダメだったようだな」

 

タツミがそう言いながら右を見れば大爆発を起こし夜の海を照らしている軽巡洋艦の姿があった。他にも火が付いた艦や沈んでいる艦もありタツミは敵の大艦隊を止めることが出来るのか不安になっていた。

 

結局敵艦載機が引いて行ったのはそれから暫くした後で既に薄っすらと日が昇り始めていた。

 



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第二十話「海戦前」

1941・9/12・10:00

「報告します。夜間奇襲の被害は重巡2、軽巡1、駆逐3が沈没若しくは撃沈。戦艦1、重巡1、軽巡3、駆逐1が大破です。これらの艦は下がらせるとの事」

 

「そうか、ご苦労。持ち場に戻ってくれ」

 

夜間奇襲から六時間近くが経過した。夜間奇襲の被害は想像以上に大きくタツミは報告に頭を抱えていた。被害総数は戦艦1、重巡3、軽巡4、駆逐4でありかなりの艦が戦闘不能若しくは撃沈されたことになる。そしてこれは大破や撃沈の総数であり中破や小破した艦は含まれていない。これらも含まれれば無事な艦の方が少なくなるだろう。実際、タツミの乗艦するワイアルアも中破相当のダメージを受けている。前方の主砲は破壊され右舷船尾には軽く穴が開いた。今は応急修理が行われたが完全に治っている訳ではなかった。特に手法を失ったのは痛く今後ワイアルアの攻撃力は低下するだろう。

 

本来であればここは直ぐに撤退し艦を修復するべきであった。しかし、今ここで艦隊が引けばやって来るのは揚陸艦を引き連れた敵の大艦隊。その先にあるのはイハワ王国の滅亡及び占領だろう。

 

「(引けば滅亡、進めば全滅…。どうやらこの国の滅亡も本当に近いな。頼みの綱はアビン合衆国と葦原中国だが…)」

 

タツミは自国の想像以上に厳しい現実に頭を悩ませるのであった。

 

 

 

 

 

~神星ルドワ帝国side~

「皇女殿下、戻ってきたパイロットの情報が整いましたので報告します」

 

「いいでしょう。敵に与えた被害は?」

 

「確認できるだけで大型艦2隻、小型艦5、6隻ほどです。その後沈んだ艦もあるようで最大で大型艦3、4隻、小型艦8隻ほどかと思われます」

 

同時刻、タツミが国の将来を思っている時連合艦隊では会議が行われていた。内容は夜間奇襲についてである。

 

「これで敵の戦力を大幅に削ったと判断できます。後はアビン合衆国と葦原皇国の動向ですが、アビン合衆国は接敵の前後に葦原皇国は同日中に来る可能性があります」

 

「こればかりはしょうがないでしょう。接敵前にイハワ王国の戦力を削れたのです。今はこれで良しとしましょう」

 

部下の報告にミリアはそう言った。功を急ぎ過ぎて足元を救われてはどうしようもない。ミリアは今回の戦果に満足する事にした。

 

「幸い敵の新たな増援は確認できていません。つまり今向かってきている艦隊を潰せば後はイハワ王国まで直ぐです。各員手を抜かず最大限の警戒をして怠けないように」

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

ミリアの言葉に部下たちは威勢よく答えるのであった。

 

神星ルドワ帝国とイハワ王国の艦隊の接敵は近い。

 



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第二十一話「東洋海海戦・1」

1941・9/14・10:00

~イハワ王国side~

「見ろ!合衆国海軍だ!」

 

その報告を聞いた誰もが笑みを浮かべた。アビン合衆国は神星ルドワ帝国を除けばブリテンタニア連合王国、葦原中国に続く海軍大国であり神星ルドワ帝国海軍を真っ向から倒す事の出来る数少ない海軍であった。とは言え世界一の海軍保有数を誇るブリテンタニア連合王国と世界最強の海軍を保有する葦原中国に比べれば質、数の両方で及ばない。だがブリテンタニア連合王国より強い海軍、葦原中国より数のおおい海軍を保有するのがアビン合衆国であった。

 

「あれが合衆国海軍ですか。我々(イハワ王国海軍)では逆立ちしても勝てそうにないですね」

 

「だが、神星ルドワ帝国よりは楽だろう…。今からでも寝返るか?」

 

「冗談はやめてください。それ、笑えないですよ?」

 

タツミは双眼鏡を使い遠くにいる合衆国海軍を見ながら冗談を言うが状況が状況なだけに誰もが苦笑いを浮かべる。唯一隣にいたジョージが突っ込みを入れる程度だった。

 

「さて、冗談はここまでだ。我が艦は合衆国と並行して進むぞ」

 

「はっ!」

 

タツミの命令を聞いて慌ただしく動く乗員の気配を背中に感じながら前方の大海原に視線を向ける。今だ敵艦隊の姿形も見えないが確実にこちらへと向かってきているのだろう。タツミは自然と気が引き締まっていた。

 

 

 

 

 

~神星ルドワ帝国side~

「!レーダーに多数の影!敵艦隊と思われます!」

 

アビン合衆国とイハワ王国が合流した頃神星ルドワ帝国の連合艦隊ではその影を既に捕えていた。他国より一歩、分野によっては二歩も三歩も進んでいる神星ルドワ帝国にかかればこの位造作のない事であった。

 

「接敵はいつごろか?」

 

「互いの速度からして恐らく一時間後には」

 

「よし、艦長。各空母に通達。艦載機を発艦し敵艦隊へと攻撃に向かわせろと」

 

「はっ!」

 

「その後空母は後方に待機、艦載機で翻弄し一気に敵艦隊を叩く!」

 

「了解しました」

 

ミリアの命令に従い空母から艦載機が飛び立っていく。流石に夜間奇襲の時の様な戦果は揚げる事は出来ないだろう。アビン合衆国には空母がおり艦載機も同等に戦える程度には技術とパイロットの練度が高かった。

 

 

 

 

 

 

 

~アビン合衆国side~

「レーダーに多数の機影!敵の艦載機と思われます!」

 

アビン合衆国艦隊の司令長官を務めるキンメル大将の元に敵機襲来の報が入る。既にミリアの命令によって艦載機が飛び立ってそれなりの時間が経っていた。

 

「空母に通達!急ぎ戦闘機を上げさせろ!今展開している護衛戦闘機だけでは足りないぞ!」

 

「はっ!」

 

アビン合衆国とイハワ王国の艦隊を守るように護衛戦闘機が展開していたが燃料の消費を避けるためにそこまで飛んでいる訳ではなかった。キンメル大将の指示に従い護衛戦闘機隊が次々と発艦していく。そして、全ての機が飛び立ち編隊を組んだところで敵機を目視で視認するのであった。

 



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第二十二話「東洋海海戦・2」

~アビン合衆国side~

「来たぞ!敵艦載機のご到着だ!しっかりとお出迎えしてやれ!」

 

「「「了解!」」」

 

護衛戦闘機、F4F=ワイルドキャットの編隊は神星ルドワ帝国の艦載機に向かって行く。それを受け神星ルドワ帝国の艦載機、A=XXⅡの編隊は迎えうつ。両者近づくにつれ機銃による撃ち合いが行われる。空に幾つもの黒煙の花が開く。そのほとんどの機は、ワイルドキャットの物であった。

 

「くそっ!後ろに付かれた!…うわぁっ!」

 

「これでもくらえ!」

 

「隊長機がやられた!次の隊長は…ぐぁっ!」

 

通信にはいくつもの悲鳴が聞こえてくる。あっという間に護衛戦闘機隊は半分以下になりそれを確認したのちに神星ルドワ帝国の爆撃機や攻撃機が空より降りてくる。

 

「敵の攻撃が来るぞ!対空攻撃開始!」

 

キンメル大将の命令で一斉に艦隊から対空砲火が行われる。そして少し遅れてイハワ王国も対空攻撃を行っていく。濃厚な対空弾幕の前に一機、また一機と艦載機が落ちていくがそれでも対空攻撃を切りぬけて攻撃を加える機もあった。

 

「右舷前方より雷跡2!」

 

「取り舵急げ!」

 

キンメル大将の乗艦する艦隊旗艦である戦艦ノースカロライナは魚雷の進行方向を平行にする事で回避しようとする。そんなノースカロライナに急降下爆撃機が迫る。

 

「敵機直上!」

 

「撃ち落とせ!」

 

幸い爆撃機は全て破壊され脇に墜落していく。その間に魚雷も回避され今のところノースカロライナに被害はなかった。しかし、他の艦はそうでもなかった。

 

「空母ヨークタウン被弾!」

 

「何だと!?」

 

キンメル大将は急いでヨークタウンを見る。そこには甲板から煙を上げるヨークタウンの姿があった。

 

「見た限り誘爆はしていないだろうが艦載機の発着陸は不可能になったな」

 

ヨークタウンの被弾を皮切りに合衆国海軍の被害は報告される。

 

「駆逐艦グリーブス被弾!」

 

「戦艦ワシントン被弾!」

 

少しづつだが被害が増えてきていたがイハワ王国はそれ以上の被害を受けていた。

 

「司令!イハワ王国の旗艦が!」

 

「っ!?」

 

イハワ王国海軍は面白いように攻撃が当たっており部下の報告の通りイハワ王国の戦艦モロカイが少しづつ傾いていた。更に黒煙も上がっており魚雷だけでなく爆撃も受けたという様子がうかがえた。

 

二回目の航空機の攻撃もイハワ王国のみならずアビン合衆国にも被害を与えていた。更に悲報は続く。

 

「水平線に敵艦隊!」

 

「このタイミングでか!?」

 

キンメルは双眼鏡で遥か彼方を除けば確かに艦隊の姿があった。敵艦隊は陣形を組み堂々とこちらに向かってきている。一方のアビン合衆国とイハワ王国の連合艦隊は航空機から逃れるために陣形もぐちゃぐちゃになっていた。

 

「今からやっても間に合わないな」

 

キンメルは敗北の可能性も考え冷や汗をかくのであった。

 



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第二十三話「東洋海海戦・3」

~神星ルドワ帝国side~

「敵艦隊を視認!数は戦艦10、空母4、重巡19、軽巡30以上、駆逐多数!内数隻が大破の模様!」

 

神星ルドワ帝国の連合艦隊司令長官にして第三皇女ミリアは見張り員の報告に漸くか、と心の中で呟く。

 

航空機による打撃を与え続けていたが敵を葬るには艦隊決戦が一番早い。しかし、それは同時にこちらにも被害が出る可能性があり場合によっては全滅するかもしれない。

 

「…全艦隊に通達!これより砲雷撃戦を開始する各々の判断で敵を葬れ」

 

「了解!」

 

ミリアの指示に従い神星ルドワ帝国の連合艦隊が一斉に動き出す。神星ルドワ帝国の最新鋭戦艦バグナ級がその主砲41cm連装砲三基をアビン合衆国とイハワ王国艦隊へと向け放った。

 

しかし、初弾と言う事とお互いが移動していたと言う事もあり当たる事は無かったが前方を航行中の駆逐艦の極めて至近に着弾した。その駆逐艦は爆発の影響で横へと押し出され大きく傾いてしまう。幸い直ぐに立て直したが神星ルドワ帝国の実力を見せつけていた。

 

対するアビン合衆国もキンメル大将が乗艦する戦艦ノースカロライナを筆頭に砲撃を開始する。駆逐艦や軽巡洋艦は敵艦隊に接近し魚雷攻撃を目指し行動する。それをさせまいと神星ルドワ帝国の艦載機がまとわりつく。両軍入り乱れる海戦へとなりつつあった。

 

「メルバ級第三駆逐艦大破!」

 

「ルベルトス級第一巡洋艦被弾!」

 

「ジャッグトス級第五巡洋艦撃沈!」

 

神星ルドワ帝国の艦艇の被害も増えていきミリアの元に様々な被害状況が来るがそのどれもが小型艦艇でありルベルトス級の重巡洋艦の被弾報告以外は大型艦の被害は今のところなかった。しかし、アビン合衆国やイハワ王国は明らかに大型艦も沈んでおりどちらが優勢であるかは火を見るよりも明らかであった。

 

 

 

 

~イハワ王国side~

「くそっ!このままじゃ全滅だぞ!」

 

タツミは砲撃で揺れるワイアルアの中で必死に物に掴まり耐えていた。イハワ王国の艦隊は悲惨な事になっていた。唯一生き残った戦艦も沈み重巡洋艦も大半が大破や撃沈した。残ったのは非力な軽巡洋艦や駆逐艦のみ。幸い、敵艦載機はアビン合衆国の船にまとわりついているためにこちらには少数しかいない。それでも少しづつ被弾し沈む感が増えてくる。

 

「…艦長、我々に出来るのは三つです。一つ目は継戦し撃沈される。二つ目は味方を見捨てて撤退する。最後は降伏する事ですね」

 

「二と三はないな。かと言って一もあり得ない。死にたくないし売国奴になるのもな」

 

「しかし、このままではいずれ…」

 

副艦長のジョージの言葉にタツミは返事できなかった。タツミもこのままではいずれ砲弾があたり乗艦するワイアルアが沈むであろう事は予想できた。しかし、降伏など出来るはずもなく、

 

「…我が艦は最後まで戦「艦長!」」

 

タツミが命令を下そうとした時、見張り員から突然の報告が響く。

 

「…どうした?」

 

「四時の方角より多数の艦が近づいてきています!」

 

「何だと!?何処の国の物か分かるか!?」

 

タツミは一体何処の国なのか分からなかった。いや、一つだけあった。今なおこちらに向かってきている東の島国が。

 

「!船首に菊の紋様!葦原中国です!」

 

それはまさにこの劣勢の状況における福音であった。

 



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第二十四話「東洋海海戦・4」

~葦原中国side~

「どうやら間に合ったようだな」

 

聯合艦隊司令長官山本五十六は劣勢であるアビン合衆国とイハワ王国の艦隊を見て安堵の息をつく。山本五十六は聯合艦隊旗艦長門に乗艦していた。長門は葦原中国のある最新鋭艦(・・・・)を除けば世界最強の戦艦であった。

 

「この様子なら空母は連れてくるべきだったか?」

 

「かもしれませんね。敵艦載機の性能はここからだと分かりづらいですが恐らく零戦と同等かそれ以上でしょうね」

 

山本五十六の言葉に長門の艦長が答える。空母赤城、加賀、飛龍、蒼龍等の空母を全て置いてきていた。理由は単純に出航する時には合流できなかったからである。空母は現在フィリピン方面に展開しておりブリテンタニアや帝政シナを間接的に支援していた。

 

その為空母は全て今回の援軍には連れてきていなかった。尤も、連れてきたところで敵艦載機相手に何処まで戦えるかは不明であった。

 

「まあ、よい。砲雷撃戦用意!」

 

「はっ!砲雷撃戦用意!」

 

山本五十六の命令に従い一気に聯合艦隊に緊張感が増す。

 

「!司令長官、敵の一部がこちらに向かってきます。数は戦艦1、重巡1、軽巡2、駆逐4」

 

「ほう、我らをそれだけの数で止めようとは舐められたものだな」

 

聯合艦隊は今回の援軍に戦艦6、重巡7、軽巡12、駆逐20を連れてきていた。聯合艦隊の全体を見れば一部でしかないがその分精鋭で固めていた。

 

「よし、目の前の敵を倒し敵に動揺を与えようではないか。通信士、大和(・・)に連絡を」

 

 

 

 

 

~神星ルドワ帝国side~

バグナ級第六戦艦艦長のバイスタは一部の艦を引き連れて葦原皇国に向かっていた。これは司令長官のミリアの指示ではなく彼の独断であった。その証拠に再起程からミリアの怒声が通信越しに聞こえてくるが全て無視していた。

 

「ふん!葦原皇国など我々だけで十分だ!一気に敵を叩きのめすのだ!」

 

バイスタはその様に部下を激励し独断行動を取っていた。

 

バイスタは向上心が異様に高く自らの実力は神星ルドワ帝国でも一、二を争う実力者だと信じて疑っていなかった。

 

故に皇族というだけで司令長官になった(とバイスタは思っている)ミリアに対し異様な嫌悪感を示していた。そしてこの機会を利用しようと考えていた。

 

引き連れた艦で葦原皇国を撃退しその勢いのままアビン合衆国とイハワ王国を殲滅し英雄になろうというものであった。実際は大型艦二隻のみで敵の何十倍もいる敵大型艦を相手に出来るほどの実力はなかったがバイスタはそんな事を気にしていなかった。

 

「艦長!主砲の射程距離にまもなく到着します」

 

「うむ、我が41cmの実力を敵に見せるのだ!」

 

瞬間、敵の艦が砲撃した。一瞬、脅しか?とバイスタは感じた。しかし、自分の艦の右舷に着弾してその考えは吹き飛んだ。

 

「ば、馬鹿な!?我々ですら届かないのだぞ!」

 

「しかも着弾の様子を見るに41cmより大きい可能性が…」

 

「そんなことあるわけないだろう!?急いで近づくのだ!」

 

そんな風にバイスタが怒鳴った時であった。バイスタの乗艦するバグナ級第六戦艦の戦闘指揮所に砲弾が直撃しバイスタ以下複数名がこの世から消え去った。

 



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第二十五話「東洋海海戦・5」

~神星ルドワ帝国side~

「司令!命令違反した艦全てが撃沈しました!」

 

「何っ!?」

 

見張り員の報告にミリアは驚愕する。当初こそ命令違反を犯したバイスタを怒りこそしたがそれで葦原皇国を足止め(バイスタは倒すつもりでいた)してくれるなら、と怒りを沈めた矢先の事であった。

 

「まだ離脱してから数分しか経っていないぞ!?」

 

「そ、それが…。敵の砲撃の命中率が異様でして…。最初の数発は外れていたのですがその後はほとんど命中しそのまま…」

 

見張り員の報告にミリアは絶句する。神星ルドワ帝国の海軍とてそこまでの命中率はない。精々が敵と自身が動いていない時のみである。そんな事はまずないので意味はないが。

 

「…」

 

「司令、このままでは…」

 

ミリアに艦長がおずおずと言う。葦原皇国が海戦に参戦した事によって数の優位は覆った。質の面でも葦原皇国は神星ルドワ帝国を上回っているのは明白であった。

 

「…葦原皇国が間に合うのは想定外であった」

 

「はい」

 

「本来ならアビン合衆国とイハワ王国を相手するだけでよかった」

 

「はい」

 

「そのために持てる戦力の全てを投入したはずだった」

 

「はい」

 

「…撤退する。前方に展開する艦を殿にする」

 

「了解しました」

 

撤退の命令をするミリアは手を握り唇を噛みしめて悔しそうにしていた。しかし、ミリアには悔しさを噛みしめている時間はない。ミリアの乗艦するバグナ級第四戦艦の近くに水柱が立つ。葦原皇国が放った砲撃であった。

 

「葦原皇国海軍が急速接近中!」

 

「急ぎ反転し撤退するぞ!後方の揚陸艦にも通信を入れて置け!」

 

「はっ!」

 

「しかし…葦原皇国は一体どれだけの戦艦を作り上げたのだ…?」

 

「水柱の勢いから明らかに41cmは超えていますな。最悪研究中の48cmすら超える可能性も…」

 

「いや、48cmの試射を見た事があるが明らかにそれ以上だ」

 

「なら50cm越え…?」

 

艦長はミリアの推測に顔を青ざめる。最新鋭戦艦であるバグナ級ですら積んでいるのは41cm連装砲三基であり葦原皇国は最悪の可能性として自分たちよりも一回りも大きい砲を実践配備している可能性があるのだ。

 

「あくまで可能性の話だがな。とは言えこれではっきりした。葦原皇国は我々(・・)より(・・)優れた(・・・)戦艦を(・・・)持って(・・・)いる(・・)

 

その事実は今後の計画を左右する程強烈であった。今まで葦原皇国は神星ルドワ帝国と同等若しくは僅かに下回っている程度と判断されていた。しかし、実際は神星ルドワ帝国を上回っている。これでは前提そのものが崩れるのだから。

 

「これは直ぐにでも陛下に報告するべきです!」

 

「分かっている。その為にも生きて帰らなければ…」

 

ミリアは殿となって敵艦隊を阻止する前衛を反転しつつあるバグナ級第四戦艦の戦闘指揮所から見ながらそう呟くのであった。

 



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