胡蝶家の長男 (@naru)
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序章 幸せの崩壊

キャラ紹介
・胡蝶優月(こちょうゆづき)
この物語の主な主人公。胡蝶家の長男。
上には姉が2人いる。
容姿は姉2人に似た美形。
黒髪で、その髪は肩にかかるぐらいまでに長い。
その容姿から、女性に間違われることがしばしば。
自分は男として見られたいが故、女性に間違われると悲しくなる。
姉のカナエ同様呼吸は花の呼吸を主に使用。
普段は温厚で優しい口調だが、戦いになると少し口調が荒くなる。
鬼とは仲良くできるという、カナエと同じ考えを持ち、それを尊重している。







このお話はもしも胡蝶家に長男がいたらというお話です。

というにも、その長男が結構重要な役割というていで話が進みます。

なるべく原作に沿って話は進めますが、一部原作死亡キャラを生存させたいと思っています。まあ、それはおいおいに‥‥。

・オリジナル技

・ストーリー改変

・キャラ崩壊

が含まれます。

以上の事が大丈夫な方はどうぞご視聴ください。

 

 

 

 

 

 

キャラ紹介

・胡蝶優月(こちょうゆづき)

この物語の主な主人公。胡蝶家の長男。姉が2人いる。

容姿は姉2人に似た美形。

黒髪で、その髪は肩にかかるぐらいまでに長い。

その容姿から、女性に間違われることがしばしば。

自分は男として見られたいが故、女性に間違われると悲しくなる。

姉のカナエ同様呼吸は花の呼吸を主に使用。

普段は温厚で優しい口調だが、戦いになると少し口調が荒くなる。

鬼とは仲良くできるという、カナエと同じ考えを持つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は大正ーー

 

 

 

 

僕の名は[[rb:胡蝶優月 > こちょうゆづき]]。

名前だけ見たら女性とも思うかもしれないが正真正銘の男だ。

 

 

僕は胡蝶家の長男で、上には姉が2人いる。

カナエ姉さんと、しのぶ姉さんだ。

カナエ姉さんは明るく、しのぶ姉さんは常に僕を気にかけてくれる。

姉さん達はとても優しかった。

 

父さん、母さんも常に明るく接してくれる。

僕はこの家族が好きだった。

一緒に過ごす日々、何気ない会話。

この幸せがずっと続く、僕はそう思っていた。

 

 

だが、その幸せはある日、突然崩れるのだったーー

 

 

 

僕はある日、姉さん達と買い物に出かけていた。

姉さん達との買い物は楽しかった。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、気付けば日が落ち始めていた。

 

日が落ちる前に早く帰らないと行けない。

 

姉さん達はそう言い、少し小走りで家へと向かった。

 

 

いつもの家。家族が居るとても幸せな空間。

とても心地よいと思える場所。

 

 

だが、その場所は今、残酷な空間へと変化していた。

 

 

 

家に着いた時にはもう空は暗くなってしまった。

母さんに怒られるかなと、少し不安な気持ちで居ながら、ただいま。と、声を上げ、戸を開けたその時、目の前には気味の悪い生物が父さん達を食べている様子が目に映った。

 

 

後ろにいた姉さん達は大きな悲鳴を上げた。

僕は何が何だか理解が出来なかった。

 

 

目の前に血塗れの父さんと母さんがいる。

父さん達はピクリとも動かない。

 

 

これは‥‥'''死んでいる'''。

 

 

あまりにも残酷な光景を目の当たりにして、僕は理解するのに随分時間がかかった。

 

 

そんな僕達を見た血塗れの生物が、僕らの方へと向かって来た。

 

 

ああ、僕もここで死ぬのかな‥‥。

 

 

 

そう悟った瞬間ーー。

 

 

僕の目の前に誰かが来た。

 

 

背丈はとても大きく、僕の2倍ぐらいはある、男の人だった。

 

その人は

 

 

「嗚呼‥‥遅かったか」

 

 

と呟いた。

そして、次の瞬間。

血まみれの生物の首が落とされた。

 

その生物は何か言っているようだった。

だが、僕には聞こえなかった。

その生物はチリとなって消え、何も残らない。

残ったのは、無残にも手足が無い血塗れの両親だけ。

 

 

そして、後ろに居たカナエ姉さんが僕を抱き寄せた。

 

 

姉さんは頭をそっと撫でてくれた。

しのぶ姉さんも同様にカナエ姉さんに撫でられていた。

しのぶ姉さんの目からは大粒の涙が伝っていた。

 

 

そうすると、突然、さっきの生物の首を落とした男の人が話した。

 

 

僕はしっかりと聞くことができなかったが、断片的には理解することが出来た。

 

 

この人の名前は悲鳴嶼行冥。今消えて無くなった生物は鬼と言われ、人を食べているのだと言う。

この人は鬼殺隊という物に所属していて、鬼を殲滅するという目標でこの部隊はあるのだと言った。

 

 

この話を聞いたカナエ姉さんは何か決心した様子で僕たちの方を見た。

 

 

「しのぶ、優月。私達も鬼殺隊に入りましょう」

 

 

僕は目を丸くし、姉さんの方を見た。

僕達が鬼殺隊に入る? 多分、いや、きっとそれは危険なことになるのだろう。

僕はそう思い、賛成しようとは思えなかった。

 

 

だが、しのぶ姉さんの方も、カナエ姉さんと同様に決心したようだった。

 

 

「うん、姉さん。私も決めた」

 

 

しのぶ姉さんはそう言った。まだ涙が目から流れているしのぶ姉さんからは強い意志が感じられた。

 

 

僕はまだ決断出来なかった。

確かに、両親が殺されたということに関しては非常に怒りを覚えた。

 

でも、危険な目に合うのではないか、という不安が僕の中から断ち切れなかった。

 

 

そんな僕を見て察した姉さんが言った。

 

 

「優月は無理しなくても大丈夫なのよ。優月が無理なら私達が頑張るから」

 

 

姉さんは励ますつもりで言ったのかもしれない。

だが、僕からしたらそんなことは絶対にして欲しくない。

両親が居なくなった今、僕の家族はこの2人だけだ。

この2人が居なくなったら、僕は1人。

 

 

そんなの‥‥耐えられない。

 

 

 

こうして、僕は決断した。

 

 

「‥‥僕も、僕も入る。その鬼殺隊に」

 

 

そして、この日から僕達は鬼殺隊に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼殺隊に入ってからの訓練は凄く大変だった。

呼吸を習得する。これがとても難しい。

姉さん達は難なく習得していたが、僕は姉さん達の2倍ぐらい時間がかかった。

それもそう、僕の年齢はまだ12歳。

しのぶ姉さんとは3歳離れていて、カナエ姉さんとは5歳も離れている。

さらに、僕は一般的に見て身長が低く、力もあまりなかった。

だが、それでも僕は諦めようとはしない。

 

 

僕はカナエ姉さんに聞いた。

どうして鬼殺隊に入ろうと思ったのか。

姉さんはこう言った。

 

 

「優月、それはね、自分達と同じ思いを他の人にはさせたくないからよ」

 

 

その考えは、姉さんらしい優しい考えだった。

姉さんは鬼とも仲良く出来る、なんて考えを持っていた。

しのぶ姉さんはその考えを否定はしないものの、肯定もできないという様子だった。

僕は姉さんの考えを許容した。

 

 

鬼とも仲良く出来れば、犠牲者なんて出ない。

みんな平和に暮らせる。だが、そんなことは夢幻に過ぎない。

という考えの人が多かった。

 

 

でも、僕はいつかその夢を叶えたい。

その一心で血反吐を吐くような訓練にも挑んだ。

 

 

そして、鬼殺隊に入ってから数年が経過し、僕も姉さん達も相当の実力をつけた。

カナエ姉さんに至っては、鬼殺隊の中でも上の位の柱になるほどに。

 

そんな中、僕は休憩時間ということもあって家の縁側でお茶を啜り、寛いでいた。

そうしていると、入口の方から姉さん達の声が聞こえてくる。

 

何かしのぶ姉さんの気の強い声が聞こえてくるが、何かあったのだろうか。

 

 

そう考えていると、僕を見つけたカナエ姉さんが小さな少女を連れて僕の方へと向かってきた。

 

 

「優月。今日から新しく家族が増えるわよ」

 

 

「え?新しい家族?もしかしてその子の事?」

 

 

「そうよ。この子はカナヲ」

 

僕はいきなり家族が増えると言われ、少し驚いたが、姉さんの事だ。

事情のあった子を連れてきたのだろう。

 

 

そう考えて、僕はカナヲと言う少女に近づいた。

 

 

「僕は優月。これから家族として宜しくね、カナヲ」

 

 

僕はカナヲに向けて微笑みながら挨拶をした。

カナヲの方は僕の事をじっと見て何も話さない。

 

 

「カ、カナヲ?どうかしたの?」

 

 

何も話さないことに少し焦りながら、僕はカナヲに問いかける。

だが、それでもカナヲは何も喋らず、僕の方をじっと見ている。

僕はカナヲの視線に耐えきれず、カナエ姉さんの方に視線を送り、助けを求める。

 

 

「ごめんね〜まだカナヲは上手く話せないのよ。後でもう一度来るから」

 

 

「う、うん。わかったよ」

 

 

そうして、カナヲを姉さんが連れて行こうとした時、ようやくカナヲは口を開けた。

 

 

「お、女‥‥?」

 

 

瞬間、僕は思わず脳に電気が伝わったようにハッとなる。

カナエ姉さんは苦笑いをしていた。

 

最近間違えられる事は無くなったので、久し振りに間違われた事に少し悲しくなった。

確かに、僕の容姿は初めて会う人から見ると女性に見えてもおかしくない‥‥のかもしれない。

 

そして、僕は訂正する。

 

 

「ぼ、僕は‥‥男だよ」

 

 

カナヲは目を丸くして驚いたような表情をしたが、すぐに戻ってしまった。

姉さんは僕の心の中を察したのか、早々とカナヲの手を引き、家の中へと入っていった。

 

 

 

1人となった暖かい風が吹く縁側で、僕は落ち込んでいた。

 

 

僕には昔から悩みがあった。

そう、この容姿だ。

 

 

昔から姉さん達と町を出歩くと、店の人から

 

『可愛い姉妹だね』

『姉妹揃って美人とは凄いなあ』

 

などと、僕達姉弟は姉妹に見られ、僕は女に見られることがとても多かった。

 

 

確かに僕の容姿は一般的に見て普通の男の人よりも低いし、髪も少し長い。

顔は姉さん達と似ていることもあるからか、男だと知った人たちからは美少年と言われるぐらいだった。

 

 

僕はこの容姿に悩んでいた。

だって、僕は男に見られたかったから。

か弱い男よりも、かっこいい男の方がいいだ

ろう。

誰しもがそう思うと僕は思う。

僕は格好の良い男になりたい。

 

 

だが、現実は非情だ。

今の所、僕と初対面で会って男だと判断できたのは、お館様ぐらいだった。

僕達を助けてくれた悲鳴嶼さんでさえ、僕を女だと思っていたそうだ。

 

 

僕は女として見られることに嫌悪感は無いが、少し悲しくなってしまう。

でも、これからしっかり鬼殺隊で鍛えればいつか男としてみてもらえるようになるかもしれない。そう期待する僕がいた。

 

 

しかし、これからまた一つ、絶望的な事件が起きる事を、僕はまだ知らなかったーー。

 

 

 

 

そして、カナヲが来てから数ヶ月の月日が経過した。

僕は今日、カナエ姉さんとの合同の任務についていた。

 

 

今回の任務は最近ここらで女性が居なくなるという事で、見回りにつく仕事だ。

 

 

鬼が活動する時間は夜。

僕と姉さんは警戒しながら、夜の町へ歩みを進める。

 

 

すると、奥の暗い道から、何やらバキッ、ボキッという何かを踏む様な音がした。

僕と姉さんの警戒心はさらに強まる。

 

 

そして、奥の方からこちらに音が近づき、

姿が現れる。

 

 

「あれ〜こんな所に女の子が2人。今日はついてるなあ〜本当にいい夜だ」

 

 

現れたのは鬼。その鬼は呑気にも悠長な口ぶりで話す。

腑抜けた様な口調をしているが、僕と姉さんは感じ取った。

 

この鬼は強いーー。

 

体にビリビリと伝わる圧。この張り詰めた空気。

静かな夜が、ここを戦場だと改めて理解させる。

 

 

この鬼の目には上弦の弐と書かれている。

おそらく十二鬼月だろう。それも上弦だ。

黄金の地に蓮の文様が描かれた鋭い対の扇を持ち、こちらを見ている。

 

 

そんな中、姉さんが口を開く。

 

 

「ここで女性が居なくなっているのはあなたの仕業ですか」

 

すると鬼はヒラヒラと扇を振りながら言葉を返してくる。

 

 

「うん、そうだよ。ここら一帯の女の子は俺が喰べたからね」

 

 

「くっ!やっぱり‥‥」

 

僕は目の前の鬼を睨み、刀の鞘に手を掛ける。

 

 

「そっちの女の子は気が荒いみたいだね。さっきは落ち着いてたみたいだけど。もしかして、鬼に恨みでもあるのかな?」

 

 

「っ‥‥僕は女じゃない」

 

 

「ええっ!そうなのかい?可愛い女の子に見えるのだけどね。でも、君は美味しそうだ。

僕が喰べてあげるよ」

 

 

「そんな事はさせないわ」

 

 

「ああ、安心してよ。君も後で喰べてあげるからさ」

 

 

そう言い、鬼は扇を振りかぶろうとする。

僕はそれよりも早く身体を動かした。

 

 

「花の呼吸 伍ノ型 [[rb:徒の芍薬> あだのしゃくやく]]」

 

 

鬼の首を目掛けて、斬撃を放つ。

 

 

「血鬼術 粉凍り」

 

 

相手の鬼は霧を周囲に発生させた。

 

 

「おっと、君、速いね。いつのまにか片腕を落とされていたよ。でもね‥‥」

 

 

「‥‥‥っ!ゴホッ!ゴホッ!」

 

 

僕は思わず座り込んだ。

何故だ、あの凍えるほど冷たい氷が直撃した訳ではないのに呼吸が出来ない。

 

 

「苦しいだろう?まあ、俺の術を吸っちゃったからね。肺が壊死してるだろうし」

 

 

そういう事か‥‥あの技は吸っただけで肺が壊死するほどの技なのだろう。

 

 

「それにしても不憫だなあ。俺を倒すにはやっぱり頸を狙わなくちゃ。君、俺の腕と脚しか狙ってないでしょ?」

 

 

まさにその通りだ。僕は相手の頸は狙わず、手足だけを狙った。

その理由?

だって、僕は1人で戦ってないから。

僕には姉さんがいる。

 

 

「花の呼吸 肆ノ型 [[rb:紅花衣> べにはなごろも]]」

 

 

 

 

下から上にかけて、捻れる特殊な軌道をした斬撃が鬼に襲い掛かる。

 

 

そう、僕は相手の注意を引いたに過ぎない。

カナエ姉さんが相手の隙を伺い、頸に斬撃を入れる。

 

 

これを狙っていたのだ。

だが、これが通用する。という確証は無い。

結果はどうなったのか、呼吸ができない苦しさを我慢しながらただ待った。

 

 

「うんうん。二人揃って速いのはすごいけど力不足かなあ。そんな力じゃ俺の頸は斬れないよ」

 

 

鬼の声を聞くだけでわかった。

失敗したのだと。

でも、これが通用しなかったからといって負けたわけではない。

僕はもう一度姉さんと連携を取るために合図を送ろうとする。

 

 

 

「かはっ‥‥‥」ゴホッ

 

 

だが、姉さんの身体からは多くの血が出血していた。

 

 

 

「姉さん!!」

 

 

僕はとても大きな声で姉さんを呼ぶ。

よく見ると斬撃を食らった跡がある。

 

 

恐らく、相手の鬼の攻撃だろう。

いつの間に斬撃を放ったのか、僕には見えなかった。

 

 

最初の攻撃で両腕を落としていれば‥‥相手は扇を振ることができなかっただろう。

僕は失敗したと心の中でものすごく後悔した。

 

 

だが、その後悔している時間が今は命取りだ。切り替えるんだと自分に言い聞かせる。

この状況でどうすればいいか僕は脳をフル回転させて考えた。

姉さんは多分動けない状態だ。

僕も肺を壊されている。呼吸の連発はできない。

 

 

なら、これを使うしかない。

 

もう後悔はしたくない。

このままじゃ、姉さんも僕も死ぬ。

 

 

そんなの、絶対嫌だ。

 

 

だから、精一杯の力を込めて放つ。

この、僕だけの技。

刀を握り、僕は立つ。

 

 

「わあ!?君、立つのかい?肺が壊れて苦しいだろう?今俺がすぐ楽にさせてあげるからね。無理しないで!」

 

 

「っ‥‥僕は負けない!絶対に負けない!」

 

 

「‥‥素晴らしいよ、君は。姉の為にそこまで頑張るなんて‥‥素晴らしいよ!君は僕が喰うべきに相応しい人だ。男だとしてもね。来なよ!君の全力で!」

 

 

僕は苦しい中でも、大きく呼吸する。

 

 

「 全集中 花の呼吸 拾ノ型

[[rb:乱れ咲> みだれざき]] [[rb:百花繚乱 > ひゃっかりょうらん]]」

 

 

 

僕は相手の頸目掛けて、最大限の速さで飛び込む。

目にも留まらぬ速さで何百発の突きを打ち込んでいく。

 

「(速い!攻撃が読めない‥‥)」

 

 

 

脚、胴体、手、頭、そして首を切り落としに行く。

 

 

「これで終わりだ!」

 

 

この一太刀が通れば切れる!

そう確信した時、

 

 

『キーーーーン!』

 

扇と刀がぶつかり合う。

鋼が折れた時に聞こえる甲高い音。

それは僕を絶望に陥れる音だった。

 

 

「う、嘘で‥しょ‥‥」ドサッ

 

 

僕は身体に力が入らず倒れ込む。

 

 

「いや〜危なかった危なかった。刀が折れなかったら、今頃頸が跳ねられてたよ」

 

 

「ん〜君達を喰べたいところだったけど、朝日が昇ってきそうだから仕方ないね」

 

 

「それじゃあ、苦しそうな君は可哀想だから、今楽にしてあげるよ」

 

そう言って、鬼は扇を振りかぶる。

 

 

僕はもう無理だなと、諦めていた。

 

 

でも、これならカナエ姉さんは生き残れる。

カナエ姉さんならきっとこの鬼を次こそ倒してくれる。

そう信じて、僕はそっと目をつぶった。

 

 

「血鬼術 枯園垂ーーー」

 

 

「花の呼吸! 陸ノ型 渦桃!」

 

 

「なっ‥‥」

 

 

 

一瞬、僕は何が起きたのかわからなかった。

助かった?何故?

僕は恐る恐る目を開ける。

そこには、血塗れになりながらも僕の前に立ち、鬼の両腕を落としていた姉の姿だった。

 

 

「君も動けたなんてねえ〜これは盲点だったよ。でも、見た感じだともう助からなそうだね。肋、肋骨、肺も壊れてるし、弟くんよりも酷い状態だ」

 

 

「さてさて、もう朝日が昇りそうだ。今日は帰るとするよ。それじゃあね」

 

 

「あ、そういや名前を聞いてなかった。俺は童磨。君達は‥‥」

 

 

「確かそっちの可愛い弟君は優月君だっけ?そして、お姉さんの方は‥‥」

 

 

「っとと、もう帰らないとね!じゃあね、もう会うことはないかもしれないけど」

 

そう言い、鬼は瞬く間に姿を消した。

 

 

 

 

「‥‥‥ゴホッ!ゴホッ!」

 

 

「‥ね、姉さん。だい、じょうぶ‥‥」

 

 

僕は何とか立ち上がり、姉さんの近くへ行く。

 

 

あの鬼の言葉なんて一言も聞いていなかった。

それよりも、姉さんの方が大切だ。

僕は姉さんを壁に寄りかけさせる。

 

 

「ね‥‥姉さん、姉さん!しっかり!」

 

 

僕は必死に姉さんを呼ぶ。

姉さんは掠れた声で僕に言葉をかけた。

 

 

「優月‥‥ごめん‥ね」

 

 

「姉さん!!死んじゃ嫌だ!お願いだよ!姉さん!」

 

 

壊れている肺を何とか呼吸で補い、大きい声で姉さんに言葉をかける。

 

 

「‥‥‥姉さん、優月‥?」

 

 

突然、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

その正体はしのぶ姉さんだった。

 

 

「っ‥‥!どうしたのその怪我!?まさか鬼にやられたの!?」

 

 

「しのぶ姉さん‥‥僕よりもカナエ姉さんが‥‥」

 

 

「姉さんが!?‥‥姉さん!しっかりして!」

 

 

カナエ姉さんは涙を流しながら僕としのぶ姉さんの頭を撫でた。

そして、小さい声で言った。

 

 

「しのぶ、優月‥‥鬼殺隊を‥やめなさい」

 

 

「「っ‥‥!」」

 

 

「しのぶと優月には‥‥お爺ちゃん、お婆ちゃんになるまで‥‥幸せに暮らして欲しいから‥‥」

 

 

 

「そんなの、無理だよ‥‥姉さんが居ない所で‥‥幸せになんてなれない」

 

 

「私もよ‥‥姉さんが居なくなるなんて耐えられない!」

 

 

「‥‥‥大丈夫。貴方達なら私が居なくても、きっと‥‥」

 

 

姉さんは優しく微笑む。

これが最後の姉さんの笑顔だった。

 

 

そして、姉さんの大事なものがプツンと切れた。

 

 

「姉さん‥?姉さん!?姉さんってば!」

 

 

「っ‥‥ゴホッゴホッ!」

 

 

僕がなんとか呼吸で補っていた肺も補いきれなくなり、口から吐血する。

 

 

「優月!?‥‥待ってて!今家に連れてくから!」

 

 

そうしのぶ姉さんは言い、僕をおんぶし、カナエ姉さんの羽織を取って走り出した。

 

 

僕はどんどん離れていくカナエ姉さんの方を見て思いっきり叫ぶ。

 

 

 

「嫌だ‥嫌だ‥‥姉さーーーん!!!!!」

 

 

 

僕の意識はここで途切れた。

 

 

 

 

 

「‥‥き!‥‥づき!」

 

 

誰だろう。どこからか声が聞こえる。

でも、視界は真っ暗。何も見えない。

 

 

そんな時、一箇所に光が射した。

その光からは1つの姿が浮かび上がる。

 

 

カナエ姉さんだった。

 

 

「優月、貴方はここで亡くなってはいけない。起きなさい、胡蝶優月」

 

 

起きる?そんなこと言われたってどうやって‥‥。

 

 

「優月。お願い。貴方が起きてくれないと‥‥しのぶは独りぼっちになってしまうわ。お願い‥‥優月」

 

 

全体が光り輝く。

先程の真っ暗な視界が嘘のように辺りが煌めく。

 

そうだ、起きなくちゃ。

僕はまだここに居るべきじゃない。

やる事があるんだ。夢を叶える為に。

 

 

みんなが平和に暮らす。

その夢を叶える為にーー。

 

 

 

「ありがとう‥‥優月。貴方ならきっと出来るわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

薄らと視界が開ける。

見覚えのある天井だ。

辺りを見回すと、何やら物を落としているしのぶ姉さんがいた。

僕は小さい声で姉さんを呼ぶ。

 

 

「しのぶ‥‥姉さん」

 

 

「‥‥優月。起きたのね‥‥良かった、本当に良かった」

 

 

しのぶ姉さんが僕を抱擁する。しのぶ姉さんの温もりが体全体に伝わる。とても暖かい。

しのぶ姉さんは涙を流している。それほど長く眠っていたのだろうか‥‥少し申し訳ない気持ちが残る。

そして、僕はもう一度辺りを見回す。

 

 

「姉さん‥‥‥‥」

 

 

辺りにはしのぶ姉さんだけ。

カナエ姉さんは‥‥そう言葉にしようとした時、僕は姉さんが亡くなったことを理解した。

 

 

「うっ‥‥ぐっ‥‥ごめん、しのぶ姉さん。僕が、僕が力不足だったばっかりに‥‥」

 

 

僕は嗚咽を吐きながらしのぶ姉さんに謝る。

僕にもっと力があれば、鬼の頸を斬れていれば、姉さんを助けれたかもしれない。

そんな自分の非力さを実感しながら、涙を流した。

 

 

「‥‥大丈夫。優月は頑張ったわ。貴方のせいじゃない。悪いのはあいつらよ‥‥」

 

 

あいつら‥‥鬼のことだろう。

またしても大切な人を亡くした。

今回は自分の力の無さをも実感し、大きな絶望感に覆われた。

そんな中、しのぶ姉さんは言った。

 

 

「優月。これからは2人で、姉さんの夢を叶えましょう。姉さんの想いを私達が引き継ぐのよ」

 

 

姉さんの想い。

そうだ、僕達が姉さんの分の願いを叶えなくてはいけない。

僕は決心する。

 

 

「うん。絶対に‥姉さんの夢を叶える。絶対に‥‥」

 

 

僕は絶対に叶える。

姉さんの夢‥‥いや、"僕の夢"を。平穏な日々を取り戻すために。

 

 

 

そう、誓ったのだからーー。

 



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一話 那田蜘蛛山と鬼を連れた少年

だいぶ期間が空いていしまい申し訳ありません。
できるだけ早く執筆できるよう努めております‥‥。


さて、話は変わって、今回は那田蜘蛛山のお話です。なるべく原作沿いにはしていますが、少しストーリーを変えています。
それと、まだ判明していない花の呼吸の型はオリジナルとして自分が考えたものです。
自分がオリジナルとして考えたものは☆印をつけていますのでご了承ください。
それでもまだ出切って無いものは後々出して行くつもりなので不明とさせていただきました。
それと、少しネタバレを含みます。アニメ勢、単行本勢の方はご注意ください。



そして、最初から長男のところを三男と表記していたりと、欠陥だらけな作品ですが引き続き見ていただけると嬉しいです。
誤字、脱字等があった場合、報告していただけると嬉しいです。


さて、長い話もここらにして、本編をどうぞ!





キャラ紹介

○胡蝶優月(前回載せ忘れた技、特徴など)

階級は乙(今の所)。花の呼吸を使用する。

力は一般男性と比べると少ない。だが、その分とてつもない速さと機動力を備えている。

しのぶと色違いである薄い紫色の羽織を着用し、頭には蝶の飾り、腰には紫色の日輪刀を差している。

鬼とは仲良く出来るという姉であるカナエと同じ考えを受け継ぎ、それを実現させようとしているが、いざ鬼と戦うと、両親、姉を殺された怒りが募り、鬼は絶対斬るという思考に至ってしまう。

それ故か、鬼に挑発されたりすると、すぐに乗ってしまう癖がある。

 

 

好物

菊の生姜和え

 

嫌いな物

怪談話、幽霊

 

 

型一覧(花の呼吸)

 

☆壱ノ型 金盞花(きんせんか) 花言葉 ・失望

一瞬にして相手に近づき、鋭い一太刀で斬りかかる。

 

 

弐ノ型 御影"梅" 花言葉 ・高潔

自分を中心とした周囲に向けて無数の連撃を放つ。

 

 

☆参ノ型 天香国色(てんこうこくしょく)(牡丹の異名)花言葉 ・王者の風格

ただ立っているように相手に見せかけ、相手がこちらに向かってきた瞬間、斬撃を放つ。

自分のダメージが少ない程威力が増す。

 

 

肆ノ型 "紅花"衣 花言葉 ・化粧

前方に向けて大きな円を描くかの様に斬り付ける。

 

 

伍ノ型 徒の"芍薬" 花言葉 ・恥じらい

最大で九連撃の攻撃を放つ。

 

 

陸ノ型 渦"桃" 花言葉 ・天下無敵

空中で体を大きく捻りながら斬り付ける。

 

 

漆ノ型

不明

 

 

捌ノ型 

不明

 

 

玖ノ型

不明

 

 

☆拾ノ型 乱れ咲 百花繚乱(はなやかに美しく、いろいろな花が咲き乱れること)

優月だけが使用可能。

左右に激しく移動を繰り返し、目に見えない速さで相手に多くの斬撃をお見舞いする。

 

 

 

終ノ型 彼岸朱眼(カナヲが使用可能)

使用すると失明する可能性すらある強力な技。目がいいカナヲだからこそ使用できる技。

 

__________________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カナエ姉さんが亡くなってから数ヶ月が経った。

 

 

 

姉さんが亡くなってから、しのぶ姉さんは変わった。

今までのしのぶ姉さんは少し気が強く、元気に喋る人だったのに、今はゆったりとしたカナエ姉さんの様な口調で喋る。

そして、一時も笑顔を絶やさない。これだけを聞いたら、別に良いじゃないかと思うかもしれない。

 

 

でも、そのしのぶ姉さんの笑顔は多分本心じゃない。

あの笑顔は自分で作っている、仮面のように貼り付けた笑顔だ。

 

きっと、カナエ姉さんみたいに笑顔を絶やさないようにしているのだろう。

 

 

僕はその笑顔が痛々しく見えた。

しのぶ姉さんには前のように戻って欲しいと思う自分がいる。

でも、カナエ姉さんが死んだ重みは相当なものだった。

最愛の両親、姉を殺されて平常心でいられるほど、僕達は優秀じゃない。

 

 

僕だって、鬼にはとてつもない大きな怒りの感情がある。

だが、僕はその感情だけでは動きたくない。

いや、怒りだけでは動いちゃダメだ。

 

 

僕は誓ったんだ。

みんなで平和に暮らせる世界。

その夢を叶えるために、姉さんの思いを受け継ぐために、そう誓ったのだから。

しかし、カナエ姉さんが死んだ悲しみはとてつもなく大きかった。

 

 

そして、姉さんが死んだ悲しみを大きく感じたのは僕達だけじゃない。カナヲも同じだろう。

 

 

カナヲにも姉さんが死んだと伝えた時は、口を半開きにし、

 

「嘘‥‥嘘、ですよね‥‥」

 

と瞳から涙を流しながら小声で言っていた。

僕達も嘘であって欲しかった。

だが、これは紛れも無い現実。受け入れるしかないのだ。

 

 

僕達は姉さんが死んだ悲しみを引きつりながら各々過ごしていた。

 

 

 

 

 

そしてある日、僕は縁側で座り、緑が深まってきた木々達を見つめ、休息を取っていた。そうしていると、自分の鴉が空から飛んで来る。何やら伝言があるようだ。

 

 

僕は鴉の伝言を耳に通す。

鴉によると、お館様がお呼びだという事だった。要件は分からないが、お館様がお呼びなのだ、行くに決まっている。

僕はお館様の居る産屋敷邸に向かうために歩き出した。

 

 

 

__________________________________

 

何分か歩き続け、産屋敷邸に到着した。

門をくぐり、庭に入る。

そうすると、奥に誰かが居るのを発見した。

右半分が無地・左半分が亀甲柄の特徴的な羽織を着用した人物だ。

 

 

僕は誰だか把握し、呼びかける。

 

「冨岡さん、お久しぶりです。お元気でしたでしょうか」

 

 

「‥‥‥‥胡蝶か」

 

 

少し無愛想な口調で言葉を返すこの人。

この人は冨岡義勇さんだ。

冨岡さんはしのぶ姉さんと同じ柱でもあり、姉さんとは意外と接点が多いのか、何度か家に訪れて来ていた。

僕は姉さん達が柱ということもあり、他の柱の人達とは何かと話す機会があった。そのため、柱の人達とは接点がある。

そのなかでも、冨岡さんは柱の中では一番接点がある人なのだ。

そして、冨岡さんは姉さんから天然ドジっ子

と認識されている。その事からか、姉さんからは

 

「良いですか?この人と喋ろうとするとろくに会話にならないので注意してくださいね」

 

という、もはや悪口と言えるものを間近で言われる程だった。

そんな冨岡さんを僕は少しかわいそうだとと思ったりしている。

だが、その冨岡さんはよく感情の起伏がわからないので、確かに困った人‥‥なのかもしれない。

 

 

 

 

そう言えば、冨岡さんもここにいると言うことはお館様に呼ばれたのだろうか。

そう考えていると、冨岡さんが口を開いた。

 

 

「‥‥胡蝶はどうしてここに来たんだ」

 

 

「へっ?あ、いえ、お館様に呼ばれて来たのですが‥‥冨岡さんは違うんですか?」

 

 

「‥‥俺はただ考え事をしていただけだ」

 

 

「は、はあ、そうですか。ちなみにその考え事とは?」

 

 

「‥‥何処の店で鮭大根を食べようかと考えていた」

 

 

「へえ、鮭大根を‥‥‥って、え!?そんなことですか!?」

 

 

思わず、僕は声を大きくしてしまった。

しかし、それだけ衝撃的な事だった。

柱の人が屋敷にいると言うなら、てっきり任務のことでも考えていると思っていたのだが、まさかそれが鮭大根の事とは予想だにしなかった。

 

 

でもまあ、それが冨岡さんだ。

と言えば納得できることかもしれない‥‥。

 

 

「ああ、そうだ‥‥」

 

 

「そ、そうですか」

 

僕は若干苦笑いをしながら言葉を返す。

すると、冨岡さんが閃いたのか、ハッと立ち上がる。

 

 

「‥‥よし、決まった」

 

 

と言い、冨岡さんは、ヒュン、という音が聞こえるほど素早く移動し、あっという間に姿が見えなくなった。

 

 

「さ、流石冨岡さんと言ったところ‥‥なのかな?」

 

僕は冨岡さんの行動に困惑しながら、屋敷の庭に立っていた。

 

 

 

すると、突然障子が開く音がする。

 

 

僕は瞬時に跪き、顔を下げる。

 

 

「やあ、優月。久しぶりだね。元気にしてたかな」

 

 

この、心が安らぐ声。お館様の声だ。

僕は顔を上げ、言葉を発する。

 

 

「はい。お館様も御健康の様でなによりです」

 

 

お館様の顔には上半分が焼けただれたような痕が見られる。

以前よりも広がっているように見られた。

 

 

「うん、そうだね。さて、それじゃあ早速だけど本題に入るよ」

 

 

「優月には今日から那田蜘蛛山に向かって欲しいんだ。前から隊士を送っているのだけど全然帰ってこなくてね。恐らく十二鬼月がいるかもしれない。そこで優月にも行って欲しいんだ」

 

 

「御意。‥‥ですが十二鬼月がいる可能性があるのに柱じゃなく、僕で良いのでしょうか」

 

 

「うん。もし、それでも状況が悪化し続けるようなら柱を送る予定だよ。でもね、優月はもう柱と言って良いほどの実力がある。だから私は優月で大丈夫だと思ったんだ」

 

 

「たしか、優月の階級は乙だったかな。もし、今回の任務で十二鬼月を倒してきたら甲にあげようと思っているんだ。優月はもう鬼を50体以上倒しているようだしね。と言ったところで、改めて優月、行ってくれるかな」

 

 

「御意。必ずやご期待に応えてみせます」

 

 

「ありがとう。期待しているよ」

 

 

そして、お館様は中に戻られた。

 

 

那田蜘蛛山、一体どのような鬼がいるのだろう。

中には十二鬼月が居る可能性が大きいのだ。もしかしたら、あの鬼が居るかもしれない。

僕は気を引き締める。お館様の期待に応えるためにも。

僕は那田蜘蛛山に行く準備を進めるため、一度、家に戻るのだった。

 

 

 

 

____________________________________

 

家に戻り、那田蜘蛛山に行く準備を進める。

姉さんと色違いの紫の羽織を着用し、刀を腰にかける。

 

 

「あ‥‥兄さん。任務に出かけられるのですか」

 

そう準備をしていると声をかけられる。

その声の主はカナヲだった。

 

 

「ああ、カナヲ。うん、これから任務なんだ」

 

 

「そうですか。お気をつけて」

 

 

「ありがとう。カナヲも留守番よろしくね」

 

 

「はい、お任せください」

 

 

「それじゃあ、行ってくるね」

 

 

そうカナヲに言い、家の庭に出て歩き出す。

カナヲはこちらをじっと見つめていた。

その瞳は何処か、心配しているような瞳だった。

僕はそれを把握し、カナヲに向けて言った。

 

 

「カナヲー!大丈夫!絶対に帰ってくるから安心してー!」

 

 

僕は笑顔でカナヲに手を振りながら言った。

すると、カナヲも微笑み、手を振り返してくれた。

 

 

僕は安心して、前を向く。

 

 

 

カナヲは最初と比べると、随分話してくれるようになった。

今では兄さんと呼んでくれるほど仲が深まり、信頼できる家族としてカナヲは居る。

 

 

カナヲはいつも物事を判断する時に姉さんからもらったコインを使う。

姉さんと僕に話すときは使わないが、僕ら以外と話す時にはいつも使う。

僕はそんなカナヲを咎めはしなかった。

 

 

カナヲはカナヲらしく生きていけばいい。

物事の判断をコインで決めても構わない。

でも、いつかカナヲも自分で判断できる時が来るだろう。

カナヲが必ず守りたい物。それが出来れば、コインでなんて決めてる暇はない。

カナヲは自分で動くことができる。

そう願って、僕はカナヲにずっとそう言ってきた。

 

 

カナヲが成長する日。それは必ず来る。

だってカナヲは強い子だから。

そう信じ、僕は那田蜘蛛山に向けて歩を進めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

<那田蜘蛛山>

那田蜘蛛山に到着し、僕は森の中へと進んでいた。

此処は外からでもわかるぐらい、禍々しい雰囲気が伝わってくる。

森の中にはいくつもの蜘蛛の巣が張ってあり、とても邪魔臭い。

 

 

お館様が言うには、先に隊士も数人きているようだ。

隊士を助ける為にも、僕はさらに奥へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

「た、助けてくれーー!!」

 

 

森の中へと進んでいる途中、助けを求める叫び声が聞こえた。

恐らく隊士が襲われている。

僕は鬼の気配が感じる場所に近づく。

そこには男の隊士と鬼がいた。僕は刀を鞘から抜き、刀に手を掛ける。

 

 

「花の呼吸 肆ノ型 紅花衣」

 

 

 

鬼の首はスパッと切れた。

襲われそうになっていた隊士は僕を見て固まっていた。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

僕は心配になり、声をかける。

 

 

「は、はい‥‥あ、貴方は‥‥」

 

 

「僕は階級(きのと)。胡蝶優月です。応援に来ました」

 

 

「乙の方ですか‥‥。今のを見ると乙の強さではないような気がするのですが‥‥」

 

 

「いえ、僕は乙ですよ。っと、それよりも、ここら辺には貴方しかいないのですか?」

 

 

「い、いえ‥‥さっき額に傷のある奴と猪の皮を被った奴が居て‥‥」

 

 

「ふむ、その人達は何処へ?」

 

 

「‥‥あっちの奥に」

 

 

「そうですか。ありがとうございます。貴方はここで休んでいてください。怪我もしているようですし、薬を置いときますね」

 

 

「は、はい!ありがとうございます!」

 

 

「いえいえ、礼には及びません。そう言えば貴方の名前は?」

 

 

「あ‥‥村田です」

 

 

「村田さんですね。それでお気をつけて、僕は奥の方へ行ってきます」

 

 

 

「わ、わかりました。優月さんもお気をつけて‥‥」

 

 

僕は隊士に別れを告げ、さらに深くへと進む。

隊士によると、まだ奥に人が居るようだ。

それに、大きい圧が奥から伝わってくる。

早く行かなければ。

僕はスピードを上げ、さらに奥深くへと進んで行く。

 

 

 

 

 

 

「(さ、さっきの女の人綺麗だったな‥‥それに強かったし‥‥)」

 

 

 

 

 

 

 

「はあ‥‥はあ‥‥」

 

 

苦しい、体が動かない‥‥。

もう、駄目だ‥‥‥。

 

 

 

 

諦めるな!!

 

 

 

 

「(っ‥‥そうだ、諦めるな)」

 

 

痛くても、苦しくても、楽な方へ逃げるな。

爺ちゃんにも、炭治郎にも怒られる。

 

 

「(少しでも呼吸を使って毒の巡りを遅らせるんだ)」

 

 

 

「‥‥‥‥すか」

 

 

 

「‥‥‥‥じょうぶですか」

 

 

 

「(誰‥‥誰かの声が聞こえる‥‥)」

 

 

「大丈夫ですか」ヒョコッ

 

 

「(お‥女の人‥‥?)」

 

 

「酷い傷‥‥しかも毒を喰らっているのですね。では‥‥」キュポッ

 

 

「(んぐっ!?何か飲まされてる!?)」

 

 

「ああ、安心してください。これは毒を抑える薬ですから。ですが、まだ安静にしてくださいね。僕の鴉に救援を頼みましたので、恐らくもう少しで人が来ますから」

 

 

「それでは」ヒュン

 

 

「(あっ‥‥行ってしまった)」

 

 

「(それに、さっきより身体が動かせる。本当にあの人の薬が効いたんだ‥‥)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「獣の呼吸 参ノ牙 喰い裂き」

 

 

バキン!

 

 

なっ、刀が折れっ‥‥

 

 

ヒュン

 

 

「ごふっ!」ドガァ

 

 

しまった、呼吸で受け身を取り損ねた。

 

 

グッ

 

 

首を掴まれた‥!

 

 

「オ"レの家族に"近づくな"アァア!!」メキメキ

 

 

「俺は、俺は死なねええぇぇえ!!」

 

 

 

「獣の呼吸 壱ノ牙 穿ち抜き!!」グッ

 

 

 

ゲッ!刀が刺さっちまった!

硬ェェェ!

刃が動かねえ‥‥畜生!

 

 

 

ミシッ

 

 

「ゴフッ‥‥」

 

 

 

タッタッタッ

 

キンッ

 

 

「花の呼吸 壱ノ型 金盞花(きんせんか)

 

 

ヒュン!

 

 

「ギャウ!」

 

 

な、何だ?

斬ったのか?アイツが?

 

 

「グガアァァ!!」ドッ

 

 

速ェッ‥‥。

 

 

「花の呼吸 参ノ型 天香国色(てんこうこくしょく)

 

 

バラッ

 

 

 

 

「ハア‥‥ハア‥‥ハア」

 

 

す、すげぇ。

一太刀の威力が違う。そんでもって滅茶苦茶速い。目で見えなかった。

しかも、あの硬い化け物を豆腐みたいに斬っちまった。

 

 

すげぇ‥‥すげぇ、すげぇ!!

何なんだコイツ!!

わくわくが止まらねえぞオイ!!

 

 

「あ、大丈夫ですkーー」

 

 

「おい!俺と戦え!そこの女!」

 

 

「は、はい‥‥?」

 

 

「あの十二鬼月にお前は勝った。そのお前に俺が勝つ!そういう計算だ!そうすれば、一番強いのは俺っていう寸法だ!!」ババ-ン

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!俺と戦え!そこの女!」

 

 

「は、はい‥‥?」

 

 

襲われていた人がいて助けた途端、何故かいきなり勝負を挑まれた。

 

 

その勝負を挑んできた人は頭に猪の皮を被った人‥‥。

あっ、さっき村田さんが言っていたのはこの人の事かな?

 

 

「あの十二鬼月にお前は勝った。そのお前に俺が勝つ!そういう計算だ!そうすれば、一番強いのは俺っていう寸法だ!!」ババ-ン

 

 

な、何を言っているんだ‥‥。

そんな大きな傷を負って戦う?しかも人間同士で?いやいや、そんな事をするよりも早く鬼を倒さなくちゃいけないでしょ。

しかも、考え方が頭の悪い人の考えだ。

 

 

後ね、大事なことが1つ。

僕、女じゃない!僕女じゃないから!

というか、今の十二鬼月でもなんでもないよね?

 

 

「あのー‥‥今の十二鬼月じゃないですよ。後、僕、男ですから」

 

 

「はあっ!?男!?嘘つけ!どう見ても女じゃねえか!」

 

 

イラッ

 

 

「男です!貴方なんなんですか。失礼ですよ、初対面の人に向かって」

 

 

「そんなん知ったこっちゃねえ!それよりも俺と戦え!」ブンブン

 

 

「はあ‥‥‥」

 

そんな酷い怪我で戦えるわけないでしょう。

仕方がない。黙ってもらう為にも‥‥。

 

 

「おいっ!聞いてんのーー」

 

 

ヒュンヒュン

 

 

「か‥‥‥なっ!?」

 

 

「すいませんが縛らせてもらいました。怪我が悪化すると悪いですし、ここに置いていきますね」

 

 

「はあっ!?何言ってんだ!早く解け!」

 

 

「その口の利き方、どうにかならないでしょうか‥‥まあ仕方がないですね。さて、もう一人の隊士を探しに行きますか」ザッ

 

 

「おい待て!待てって言ってんだろ!おい!待ちやがれ!クソ女ー!」

 

 

く、クソ女ー!?

女でもないしクソでもないですから!!

もう聞こえないふりをしてさっさと行きましょう。

 

 

 

 

 

 

森の中が騒めいている。

しかも、先程なかった大きな圧が身体に伝わる。

鬼の気配から感じるに、もう少しで対面出来る距離まで来た。

 

 

 

すると、1人の少年と鬼を見つけた。

少年は倒れている。

 

まずい、鬼が少年を攻撃している。糸のようなもので囲まれそうだ。

僕は全速力で駆け抜け、刀を鞘から抜く。

 

 

「花の呼吸 陸ノ型 渦桃」

 

 

少年を囲おうとしていた糸を全て斬る。

そして、僕は少年の前に立った。

 

 

 

 

「花の呼吸 陸ノ型 渦桃」

 

 

パサッパサッ

 

 

「(な、何だ‥‥誰か来たのか‥‥もしかして、善逸か‥?)」

 

 

俺はそう考え、顔を上げる。

すると、そこには紫の羽織に、蝶の飾りを頭につけた女の人が居た。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

「は、はい!あ、貴女は‥‥」

 

 

「僕は胡蝶優月。応援に来ました」

 

 

「お、応援‥‥」

 

 

「次から次へと僕の邪魔ばかり‥!」バッ

 

 

「血鬼術 刻糸輪転」

 

 

ま、まずい。あの硬さの糸を切るのは‥‥。

 

 

「全集中・花の呼吸 拾ノ型

乱れ咲 百花繚乱」バッ

 

 

は、速い‥!速すぎて何処に行ったのか‥‥

 

 

 

「なっ!?何処だ!どこに行った!」

 

 

「(あの速度の糸を避けたと言うのか?‥‥そんなはずはない!)」

 

 

ヒュン!

 

 

「がっ‥‥(何だ‥いきなり手が‥‥斬られたのか?)」

 

 

ヒュンヒュン

 

 

「(えっ‥‥首が‥‥落とされた?)」

 

 

「(くそっ、くそっ‥‥!殺す、殺す。あの兄弟は必ず‥‥殺す!)」

 

アイツは必ず‥‥。

‥‥アイツ、妹に覆い被さっている。

そこまで妹の事を‥‥。

 

 

「ッ‥‥‥‥‥」

 

 

 

 

 

『累は何がしたいの?』

 

 

答えられなかった。

人間の頃の記憶がなかったから。

 

本物の家族の絆に触れたら記憶が戻ると思った。

自分の欲しいものがわかると思った。

 

 

そうだ、俺は‥‥俺はーー

 

 

 

 

 

 

__________________________________

 

俺は体が弱かった。生まれつきだ。

走ったことがなかった。

歩くのでさえも苦しかった。

 

 

無惨様が現れるまでは。

 

「可哀想に。私が救ってあげよう」

 

 

だけど、両親は喜ばなかった。

それは、強い体を手に入れた俺が、日の光に当たれず、人を喰わねばならないから。

 

 

 

「何てことをしたんだ‥‥累‥‥!!」

 

 

昔、素晴らしい話を聞いた。

川で溺れた我が子を助ける為に死んだ親がいたそうだ。

 

俺は感動した。

何という親の愛、そして絆。

川で死んだその親は、見事に"親の役目"を果たしたのだ。

 

 

それなのに、何故俺の親は俺を殺そうとするのか。

母は泣くばかりで、殺されそうな俺を庇ってもくれない。

 

 

偽物だったのだろう。

きっと、俺たちの絆は。

 

 

本物じゃなかったーー

 

 

だから俺は両親を殺した。

 

 

 

「‥‥‥‥‥」プツプツ

 

 

何か言っている。

まだ生きてるのか‥‥。

 

 

「丈夫な体に産んであげられなくて‥‥ごめんね‥‥」

 

 

「っ‥‥‥‥‥」

 

その言葉を最後に母は事切れた。

死んだ。

 

 

『大丈夫だ、累。一緒に死んでやるから‥‥』

 

 

殺されそうになった怒りで理解できなかった言葉だったが、父は俺が人を殺した罪を共に背負って死のうとしてくれていたのだと。

 

その瞬間。

唐突に理解した。

 

本物の絆を、俺はあの夜。

俺自身の手で切ってしまった。

 

 

無惨様は俺を励ましてくださった。

 

「全てはお前を受け入れなかった親が悪いのだ。己の強さを誇れ」

 

俺はそう思うより他、どうしようもなかった。自分のしてしまったことに耐えられなくて。

たとえ自分が悪いのだとわかっていても。

 

 

 

俺は‥‥毎日毎日、"父と母"が恋しくてたまらなかった。

 

 

偽りの家族を作っても虚しさが止まない。

結局俺が一番強いから、誰も俺を守れない。庇えない。

 

強くなればなる程、人間の頃の記憶も消えていく。

自分が何をしたいのかわからなくなっていく。

 

俺は何がしたかった?

 

どうやってももう手に入らない絆を求めて。

必死で手を伸ばしてみようが届きもしないのに。

 

 

「(っ‥‥小さな体から抱えきれない程、大きな悲しみの匂いがする‥‥)」

 

スッ

 

ポスッ

 

 

「(っ‥‥温かい。陽の光のような優しい手。思い出した、はっきりと。)」

 

「(僕は、謝りたかった)」

 

ごめんなさい。全部全部俺が悪かったんだ。

どうか許して欲しい。

 

 

「でも‥‥山ほど人を殺した僕は‥‥地獄に行くよね‥‥父さんと母さんと‥同じところへは行けないよね‥‥」パキパキ

 

 

 

 

 

スッ

 

 

『一緒に行くよ。地獄でも』

 

 

『えっ‥‥・』

 

 

『父さんと母さんは累と同じところに行くよ』

 

 

『っ‥‥‥‥‥』ポロポロ

 

 

『全部僕が‥‥僕が悪かったよう‥‥ごめんなさい』ダキッ

 

 

 

『ごめんなさい、ごめんなさい‥‥ごめんなさい‥‥!』

 

 

 

 

ザッザッザッ

 

 

僕は少年に近づく。

 

 

「君は‥‥鬼に情けをかけてくれるんですね。‥‥君は鬼が醜いとは思わないのですか?」

 

 

「鬼は‥‥人間だったから。俺と同じ人間だったんだから、鬼は醜い化け物なんかじゃない。鬼は虚しい生き物だ。悲しい生き物だ」

 

 

「そうですか‥‥。僕はそう思えない時がありますがね‥‥」

 

 

「えっ‥‥‥」

 

 

「でもね、気になることが1つ」

 

 

気になること、それは、少年の下にいるのが鬼ということ。

 

「その下にいる鬼はどういうことですか」チャキッ

 

 

「い、いえ!違うくて!あ、違うくは無いんですが‥‥これは、俺の妹なんです!」

 

 

「そうですか‥‥それは可哀想に」

 

 

確かに可哀想だ。

しかし、鬼は斬らなければいけない。

 

「では、早く解放してあげなくてはね」

 

 

「くっ‥‥‥‥」ガバッ

 

 

タッタッタッ

 

 

キンッ

 

 

ヒュン!

 

 

 

「っ‥‥‥‥!?」バッ

 

 

どうしてこの人が‥‥。

しかも、この人‥‥この2人。いや、鬼を庇っている?

何故だ‥‥。

 

 

「(冨岡‥‥さん?)」

 

 

「‥‥冨岡さんがどうしてここに‥‥というのはまず良いでしょう。大事な事は何故鬼をかばうのか、ということです」

 

 

僕は冨岡さんに刀を向け、威嚇するように言葉をかける。

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

 

「‥‥ここでだんまりですか。というかこれ、隊律違反では無いのでしょうか。鬼殺の妨害、ですからね」

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

まただんまりか。

本当にこの人は口下手というか‥‥。

 

まあ、そんな事よりも。

 

 

「まあ、良いです。冨岡さんが鬼殺の邪魔をしようが僕は必ずそこの鬼を斬りますから」

 

 

「‥‥それは無理な話だ。胡蝶1人では俺を倒せない」

 

 

「確かにそうですね。‥‥ですが、僕1人だけでは、ですよね?」

 

 

「‥‥‥?っ‥‥!」チャキッ

 

 

タッタッタッ

 

ヒュン

 

 

キーーーン!!!

 

 

「あら?」ザッ

 

 

「(だ、誰だ‥‥?)」

 

 

「冨岡さんと優月が鬼の目の前で何をしているかと思えば、これはどういうことですか?冨岡さん?そんなんだからみんなに嫌われるんですよ?」

 

 

ゆったりとした口調で喋るこの人。

そう、僕の姉、しのぶ姉さんだ。

 

 

「胡蝶か‥‥」

 

 

「あのですね‥‥胡蝶は2人いるんですから名前で呼んでくださらないと」

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥」

 

まただんまりですか‥‥。

この人耳あるんですかね?

 

 

「まあ、まずそれは置いといて。鬼を庇うとはどういう事ですか?しかも、見た感じ優月の邪魔をしているようですし?」ゴゴゴ

 

 

あ、これやばいやつだ。

なんか姉さん怒ってる‥‥。

怖いとは言えない‥‥というか言ったら殺されそう‥‥。

 

 

「走れるか。いや、走れなくても根性で走れ。ここは俺がやる」

 

 

「は、はいっ!ありがとうございます。冨岡さん」ダッ

 

 

むっ、逃げてしまった。

 

 

「優月、貴方は追ってください。ここは私が

食い止めますから」

 

 

「わ、分かりました‥‥」ダッ

 

何故か敬語で返し、僕はあの少年達を追おうとする。

 

 

「‥‥行かせない」キンッ

 

 

ヒュン!

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥」ダッ

 

 

「貴方の相手は私ですよ?冨岡さん。無視しないでもらえるでしょうか。そんなんだから嫌われーー」

 

 

「俺は嫌われてない」

 

 

えっ‥‥。

少し聞こえたけど、嫌われてる自覚なかったんですか‥‥。

 

 

「ああ、それ‥‥ごめんなさい。嫌われている自覚がなかったのですね。申し訳ないです」

 

 

う、うわあ‥‥。流石姉さん‥‥。

っと、そんな事よりも早くあの人達を追わないと。

 

 

 

 

 

 

何処だろう。

結構進んで来たのだが、見つからない。

っと、奥から声が聞こえてくる。

 

 

「‥‥‥げろ!禰豆子!!」

 

ガッ

 

 

「がふっ!」

 

 

あれは‥‥さっきの少年と、カナヲ?

カナヲも来ていたのか。

 

 

「カナヲ!」

 

 

「あ‥‥兄さん」

 

 

「カナヲも来ていたんだね。そ、それと一回立とうか。下の少年が可哀想だから‥‥」

 

 

「は、はい」

 

 

「っと、あの鬼が逃げてしまう。俺は左から追うよ。カナヲは右から」

 

 

「はい、わかりました」

 

 

「うん、それじゃあ行こうか」ダッ

 

 

それにしもあの少年も気の毒だ。

カナヲに思いっきり踵で頭を打たれるという‥‥。

 

 

そして、あの少年‥‥鬼を連れているということは何か事情があるのだろう。

先程は感情が先に出てしまって、全然考えていなかったが。

それに、あの少年は妹だと言っていた。

妹が鬼になった。

そんな辛い事があってもなお、鬼殺隊として戦っている。

 

 

本当にそんな子の妹を殺して良いのだろうか‥‥。

そう、迷いが出てしまう。

いや、迷っている暇はない。鬼は斬らなければならない。例えどんなことがあっても。

僕はそう決断し、鬼を追う。

 

 

「っ‥‥‥しかし、この鬼‥‥」

 

この鬼は姿が小さくなったりして、なかなか攻撃が通らない。

それなら、僕かカナヲのどちらかが抑え、そこを斬るしかない。

 

 

そう考え、僕は鬼を取り押さえる。

 

 

「カナヲ、今だ!」

 

そう言い、カナヲが斬りかかろうとした瞬間ーー

 

 

「伝令ー!伝令ー!炭治郎及び、禰豆子両名を拘束し、屋敷へと連れ帰れ!」

 

 

「炭治郎、額に傷あり!禰豆子竹を咥えた鬼!」

 

 

鴉の甲高い声が森一帯に響き渡る。

 

竹を咥えた鬼‥‥もしかして、この鬼のこと?

 

 

カナヲと僕は見つめあい、ポカンとしていた。

そして僕は聞いてみる。

 

 

「君、禰豆子?」

 

そう聞くと、この鬼はフンフンと鼻を鳴らしながら、頷いたのだった。

 

 

 

そして、僕らはこの禰豆子という鬼を伝令ということもあり、連れ帰ることにした。

 

 

 

やっぱり、この2人には何かがあるようだ。

屋敷に連れ帰るということは、お館様も知っているということだろう。

それに、この2人からは何かを変えてくれるような感じがする。

そんな感覚を持ち、僕は

 

 

「此処には、あの鬼はいなかったな‥‥。

絶対、絶対にあの鬼は‥‥あの鬼だけは‥‥」

 

 

満月が照らす夜の下、そう呟いたのだった。

 



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二話 胡蝶姉弟の想い、蝶屋敷と少年達

那田蜘蛛山の一件が終わり、僕は自分の屋敷へと戻っていた。

 

 

僕の階級は甲に上がり、一番の気がかりであるあの少年は柱合会議によって話し合われるようだ。

 

 

あの少年達はどうなるのだろうか。

鬼を連れた隊士、これは前代未聞のことだろう。普通なら処罰されてもおかしくない。

しかし、あの2人からは何か‥‥何か違うものを感じる。

 

 

一体何故なのだろう‥‥。

 

 

そんな疑問を持ちながら、僕は任務終わりということもあり、休息を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

___________________________________

 

 

「優月様、しのぶ様がお呼びです」

 

 

庭で蝶と戯れていたところ、アオイに声をかけられた。

どうやら姉さんが僕を呼んでいるらしい。

 

 

「姉さんが?‥‥うん、わかった。ありがとうね、アオイ」ニコッ

 

 

「い、いえ、ご命令ですから‥‥//」

 

 

ご命令、何だよね‥‥?

ただそれだけなのにどうして顔が赤いんだろう‥‥。

もしかして風邪とか?そんなことになったら大変だ。

風邪の恐れもあると思った僕は体を動かす。

 

 

「ごめん、ちょっと良い?」

 

 

「えっ?どうしたのですーー」

 

 

僕はアオイのおでこに手を当てた。

 

 

「っ‥‥!?」

 

 

「う〜ん、熱はないね」

 

 

「い、いい、いきなりどうしたのですか!?」

 

 

「あ、ごめん。顔が赤かったから熱でもあるのかと思ったんだけど‥‥」

 

 

もしかして触られるの嫌だったのかな。

だとしたら申し訳ないことしたな‥‥。

 

 

「い、いえ!お気遣いありがとうございます!わ、私はあちらへ戻ります!」ピュ-

 

 

あ、行ってしまった。

あとでアオイに謝らないと‥‥。

そう考えていると背後から声が聞こえてくる。

 

 

「まったく‥‥優月は何故こういうところが抜けているのでしょうか」

 

その声には呆れたという含みが感じられた。

 

 

「姉さんか‥‥抜けているって何が?」

 

僕はその呆れに対して問いかけた。

 

 

「あのですね、優月。貴方はまだ15歳ですがもう少し色恋に興味を示したりはしないのですか?」

 

 

「色恋、か‥‥」

 

 

何故いきなり色恋の話をしてきたのはわからないが、確かに僕は色恋といったものに興味を示したことはない。

というか色恋と言われても僕にはあまり理解ができない。

好きという感情はある。姉さん達や蝶屋敷のみんなは大好きだ。

だけどその好きは恋愛としての好きじゃないと思う。だから、まだ恋愛としての好きという感情がよくわかっていない。

それが僕の色恋に興味を示さない理由だ。

 

 

そして、もう一つ理由がある。

これが問題なのだ。

別に僕が色恋にうつつを抜かしたくないわけではない。この問題があるから僕は色恋にうつつを抜かせないのだ。

 

 

 

前に一度、鬼に襲われそうになっていた女の人を助けた時、また性別を間違えられたのでしっかり男と訂正した時があった。

そうすると、何故か家に来ないですか?どこに住んでいるんですか?など、挙句のあてに、好みな女性は?なんて聞かれたりして大変だった。

そう困っていた時、その女の人は少し怪我をしているようだったので、取り敢えず蝶屋敷へと連れて行くことにした。

 

 

 

連れて行くときにも、夜だったからなのか、ずっと僕の腕を掴んできた。

しかもその時の顔が何故かにやけていた。

僕はその時はあまり気にせず鬼のことばかり考えていたけど。

 

 

 

そして屋敷に着き、手当てを行う。

その女性は何かそわそわしてたけど僕は気に留めず治療を続けた。

 

 

その時、いきなり姉さんが凄い圧を放ちながら治療をしていた部屋に入って来た。

その時の圧といったら、体が震え、鬼なんて一太刀で殺してしまうのではないかと思うほどだ。

そんな姉さんは、黒い笑顔を浮かべながら話した。

 

 

『私が変わりに手当てをしますよ。優月は早く部屋に戻ってください。』ゴゴゴ

 

その圧力に僕は負け、そそくさと退散した。

あの女の人はすごく怯えている‥‥。

 

 

『何でそんなに怒ってるの?』

 

と言いたかったが、あの姉さんには‥‥無理だ。

 

 

その後、無事女の人は帰ったようだ。

姉さんはその日はずっと怖いままだった‥。

 

 

こんな事が起きるのは、何もこの日だけではない。

何故か女の人と居ると、姉さんは豹変するのだ。

挙げ句の果てには治療すら僕はさせてもらえない。というか、その時の笑顔が怖すぎて眠れないほどだ‥‥。

 

 

姉さん自身は、今色恋に興味を示さないのかと言っているが、色恋どころか女性と話すことすらままならないのだ。

姉さんの所為で‥‥姉さんの所為でね!

 

 

と言ったところで、これが僕の色恋に興味を示さない理由だ。

そして僕は姉さんをジト目で見ながら言葉を返す。

 

 

「と言うか、姉さんはどうなの?姉さんだって色恋なんて興味なさそうじゃないか」

 

 

「あら、別に興味がないとは言っていませんよ。ただ好ましいと思う男性が余り居ないのは事実ですが」

 

 

確かに姉さんがあまり男性と喋っているところを見たことがない。

見たことがあると言ったら柱の人達だけだ。

 

 

ん?柱‥‥?柱と言ったら‥‥冨岡さんとはよく話しているじゃないか。

 

 

「冨岡さんはどうなの?よく話しているようだけど」

 

 

「はあ‥‥優月。あの冨岡さんの事を私が好いているとでも?あの超が付くほどのド天然さんなんてただの困らせやな人じゃないですか」

 

 

「た、確かにそうかもしれないけれど‥‥じゃあ、姉さんは冨岡さんの事嫌いなの?」

 

 

「‥‥嫌いと言うわけではありません。そして好きというわけでもありません」

 

 

「そうなんだ。僕はお似合いだと思うけど」

 

 

「な、何を言ってるんですか。あの冨岡さんが私と?そんなの‥ありえないですよ」ボソッ

 

 

そうかなあ?僕は2人が話しているのを見ると、姉さんの笑顔が一際多く目立つと思うのだけど。

対して冨岡さんは何を考えているのかわからないけど、実は結構優しい。

冨岡さんとなら姉さんも良いのかなと思っていたのだけど、どうやら違うみたいだ。

 

 

「まあ、良いよ。というか本題を忘れてない?」

 

 

まあ、大方予想はついているが。

多分あの少年のことだろう。

 

 

「ええ、そうですね。優月と話をしていると楽しくて時間を忘れてしまいました。さて、本題ですが‥‥優月はあの男の子と鬼の子については知っていますよね?」

 

 

やはりあの少年のことだ。

 

 

「うん、柱合会議で話し合ったんだよね?まあ、大方その結果ってところでしょ?」

 

 

「はい、当たりです。結果としては、あの2人はお館様の意思という事もあり、容認されることになりました」

 

 

「そうなんだ‥‥うん、特に不平不満も無いし‥‥分かったよ」

 

 

「そうですか、それは良かったです。それともう1つ、あの男の子は家で引き取ることになりました」

 

 

「‥‥へ?そ、そうなの?」

 

僕は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

まあ、怪我人はこの蝶屋敷で預かっているのだ。

あの子も怪我をしていたようだし、考えたら当然かもしれない。

 

 

「ええ、多分もう少しでくると思いますよ。それに、那田蜘蛛山での怪我人も多くいるのでね。頼みましたよ、優月」

 

 

「はあ‥‥分かった。頑張るよ」

 

 

 

 

「ありがとうございます。優月」ニコッ

 

 

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

 

僕は姉さんの偽物の笑顔を見ると何度も胸が締め付けられる様な感覚に襲われる。

この口調、笑顔、全てがカナエ姉さんの様に似せた偽善なもの。

やはり姉さんには前の様に元気に喋って欲しいと思う自分がいた。

そのせいか、思わず姉さんを呼んでしまった。

 

 

 

「‥‥‥姉さん。いや、しのぶ姉さん」

 

 

「‥‥何でしょうか」

 

 

姉さんは僕が姉さんを名前で呼んだ事に驚いたのか、先程より、真剣な目つきで僕の方を見た。

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

僕は自分で姉さんを呼んだのに、言葉が出てこなかった。いや、言っていいのかと考えていたのだ。

 

 

『前の様に戻って欲しい。』

 

 

この一言を言うのに、僕は躊躇していた。

この一言で、昔の出来事を掘り返すことになる。言わば、カナエ姉さんが死んだことを思い出させることになるのだ。

 

きっと、姉さんは顔には出さない。また、取り繕った笑顔で僕に話す。

その分、心の中でどんな思いを持って葛藤しているのか、僕には測りきれないだろう。

 

 

姉さんが悲しい思いをする。そんなことはさせたくない。

だけど、姉さんには前の様に戻って欲しい。

この矛盾した考えを、僕は何度も思考してどうしようかと考えた。

 

 

そして、僕はこう言葉を出した。

 

 

「僕は‥‥姉さんの本当の笑顔が見たい」

 

 

「えっ‥‥‥‥」

 

 

"本当の笑顔"

 

 

姉さんの本当の笑顔はあれから一度も見ていない。

だから前の様に笑った顔が見たいという、ただ遠回しに言った事にしか過ぎないが、そう言葉にした。

 

 

姉さんはいきなり言葉にされた驚きなのか、貼り付けた笑顔がバレた事に対する驚きなのかはわからないが、明らかにいつもとは違う表情をしていた。

 

 

そんな口籠った姉さんは、重々しい様に口を開けた。

 

 

「‥‥貴方にはやっぱりバレていましたか。私が姉さんを演じようとして、貼り付けた笑顔で生活していたこと‥‥口調を似せるように喋っていたこと、全てがバレていた様ですね」

 

 

「当たり前だよ。だって僕達は姉弟だから」

 

 

「ふふっ‥‥そうですね」

 

 

姉さんの顔は心なしか少し昔の様に戻った感じがした。

だが、そう思ったのも束の間、姉さんは暗い表情へと変化した。

 

 

「優月。貴方は、姉さんの"夢"についてどう思いますか」

 

 

「姉さんの夢‥‥」

 

 

カナエ姉さんの夢は鬼と仲良くすることだ。

他者から見れば、そんな事は無理だと思う人が大半だろう。

僕だって最初は納得出来なかった。

だけどカナエ姉さんは、否定されようがその夢を諦めることはなかった。ずっとその夢を目指して進んでいた。

次第に、いつしか僕もその夢を応援しようと思った。叶えたいと思った。

だから僕はカナエ姉さんの夢を引き継ぎたい。そして、その志を忘れないように過ごしている。

だからこそーー

 

 

「僕はカナエ姉さんの夢を肯定する。そして、引き継いでいく。そう決めたんだ。

だから、カナエ姉さんの夢は実現させたいと思う」

 

 

「そうですか‥‥私もそれを尊重したく思います。‥‥しかし」

 

 

 

「私がそれを叶える事は出来なさそうです」

 

 

「えっ‥‥?それはどうして?」

 

 

「‥‥今は答えられません。ですが、その答えはきっと、優月自身の目で見てわかると思います」

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

 

「訳がわからない、という顔をしていますね。‥‥大丈夫です。そのうち分かりますから」

 

 

「‥‥分かった」

 

 

僕は若干腑に落ちない感情でいたが、姉さんの言葉に従うほかなかった。

 

 

 

姉さんが夢を叶えることができない理由とは何なのだろうか。

それは鬼とは仲良くできないという考えから?

それとも‥‥‥‥いや、そんなことはあり得ない。

僕は最悪の考えを即座に否定した。

 

 

だが、その謎は深まるばかりで、僕の思考は毒に侵される様にどんどん蝕まれるのであった。

 

 

 

 

 

 

_________________________________

炭治郎視点

 

 

「体中が痛い‥‥」

 

 

「お前自分出歩けよな」

 

 

「すみません‥ほんともう体が痛くて痛くて」

 

 

「お爺さんかよ」テクテク

 

 

 

「あっ、人がいる‥‥」

 

 

「あれは‥2人いるな。えーと継子の方と、あれは‥‥っ!優月様だ!」

 

 

「え、えーと‥‥ツグコ?ツグコって何です‥‥か?」

 

 

「あの方は栗花落カナヲ様だ。それと隣にいるのが胡蝶様の弟の優月様だ」

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥」

 

 

「継子ってのは柱が育てる隊士だよ。相当才能がないと選ばれない。女の子なのにすげぇよなあ」

 

 

あっ、最終選別の時の子だ‥‥それとあの人は‥‥前に助けてくれた人だ。(この前踏んづけられたことに気づいていない様子)

 

 

 

「しのぶ様の申し付けにより参りました。お屋敷に上がってもよろしいですか?」ペコッ

 

 

「‥‥ん。ああ、はい。(かくし)の方ですね。それと例のその子も‥‥」ジッ

 

 

ん?俺の事かな‥‥?

 

 

「中へどうぞ。多分アオイが案内してくれると思いますので」ニコッ

 

 

「は、はい!失礼します!」スタスタ

 

 

 

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」ジ--

 

 

「カナヲ?どうかしたの?」

 

 

「あっ、いえ。何でも‥‥ないです」

 

 

「そう?なら良いけど。それじゃあ僕も中に行ってくるよ」

 

 

「はい、分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

___________________________________

 

 

「五回!?五回飲むの?一日に!?」

 

 

「三ヶ月間飲み続けるのこの薬!?これ飲んだら飯食えないよ!!すげぇ苦いんだけど!辛いんだけど!ていうか薬飲むだけで俺の腕と足治るわけ!?ほんと!?」イヤアアァァアアア

 

 

「し、静かにしてください〜」アセアセ

 

 

廊下に響くぐらいの高音。耳がキーンと痛くなるぐらいだ。またあの人が騒いでるいるのか。

なるべく早く行ったほうがいいかもしれない。

 

 

 

「もっと説明して誰かあ!!一回でも飲み損ねたらどうなるの!?ねえ!」

 

 

「また騒いでるあの人‥‥」タッ

 

 

「善逸‥‥!!」

 

 

「静かになさってください!!」グワァ

 

 

「ヒヤァァァ!?」

 

 

「説明は何度もしましたでしょう!良い加減にしないと縛りますからね!」ガミガミ

 

 

「ううっ‥‥‥」シクシク

 

 

「まったくもう‥‥」テクテク

 

 

 

「善逸!!」

 

 

「ギャーーーッ!!」

 

 

「大丈夫か!?怪我したのか!?山に入って来てくれたんだな‥‥!!」

 

 

「た、炭治郎‥‥」

 

 

「う、うわぁぁ!炭治郎聞いてくれよーーっ!臭い蜘蛛に刺されるし、毒ですごい痛かったんだよーーっ!!さっきからあの女の子にガミガミ怒られるし最悪なーー」

 

 

フワッ

 

 

「「「えっ‥‥」」」

 

 

「静かにして頂けませんか?ここは病室なので」シ--

 

 

「ゆ、優月様!も、申し訳ありません!」

 

 

「大丈夫ですよアオイ。それと、(かくし)の方、きよちゃんとアオイも一度下がってもらえるかな」

 

 

「は、はい。失礼します」スタスタ

 

 

「(いつここに来たんだこの人‥‥‥速すぎて見えなかった‥‥‥)」

 

 

 

さてと、あの人達も退席したようだし、話していいかな。

 

 

 

「さて、初めまして、では無いですね。まあ、自己紹介からいきましょうか。僕は胡蝶優月と申します。炭治郎君、よろしくお願いしますね」

 

 

「は、はい!あの時は助けていただきありがとうございました!」

 

 

「いえ、気にしないでください。それと善逸君?次騒いだら分かっていますよね?」

 

 

「はっ、はいっ‥‥」ビクッ

 

 

 

「‥‥ふふっ、話を戻しますね。この前、那田蜘蛛山の時には申し訳ありませんでした‥‥。貴方の妹さんに斬りかかろうとしてしまい‥‥」

 

 

「い、いえ!優月さんには助けて頂いたわけですし大丈夫です!」

 

 

‥‥優しい子だな。妹に斬りかかった僕をこんなにもあっさりと許してくれるなんて。

 

 

「ありがとうございます。貴方は優しいですね」ニコッ

 

 

「い、いえ。そんなことは‥‥//」

 

 

「(何良い雰囲気になってんだよおぉぉ!!)」

 

 

「‥‥話は変わりますが、貴方達の怪我がもう少し治ってきた所で機能回復訓練に入って頂きます」ニコッ

 

 

「‥‥機能回復訓練?」

 

 

「(何か始まるようだぞ‥‥)」

 

 

「はい、詳しい内容は当日に体験してもらいますので。先ずは体を治すことに専念して貰えると嬉しいです」

 

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

 

「いえ、善逸君も早く治せるよう薬を飲むの頑張ってくださいね」

 

 

「は、はい‥‥‥!///」

 

 

 

「それでは、僕は一旦‥‥」

 

 

「あ、待ってください!」

 

 

……ん。何か嫌な予感が‥‥

 

 

「どうかしましたか?」

 

 

僕は恐る恐る問いかける。

 

 

「あの、この前の技を見て‥‥"女性なのに"そこまで綺麗な太刀筋になるためには‥‥何が必要なのでしょうか。やはり相当な鍛錬を‥‥」

 

 

ピクッ

 

 

ああ、やはりか‥‥。

なんか想像できたんだよなあ。

悲しいなあ‥‥。

 

 

「炭治郎君‥‥」

 

 

「は、はい。(な、何だろう。何故か悲しい匂いがする)」

 

 

あのね、僕はねーー

 

 

 

「僕はね‥‥"女性ではないんですよ"‥‥」

 

 

 

 

「えっ‥‥」

「ええぇぇ!!??」

 

 

 

『ええええぇぇぇぇぇえええ!!??』

 

 

 

何度見慣れた光景なんだか‥‥。

 

 

 

僕はまた、勘違いされることに改めて悲しさを感じ、それと同時に驚かれる事に見慣れすぎて、無の感情になりかけそうなのであった‥‥‥。

 

 

 

 

 

 



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三話 蝶の苦悩、確かな暖かさ

最近投稿ペースが遅くて申し訳ありません‥‥。
そして今回はいつもより文字数が少ないです。すいません‥‥。
今月は多忙な時期が続くので、来月からはバンバン投稿できるように頑張ります!









キャラ紹介

○胡蝶しのぶ

胡蝶家の次女。結構なブラコンを持っている。優月に色恋に興味を示した方がいいと享受しているが、自分が優月に女性を近づけさせないようにしている。

姉に続き、柱であり、薬学に精通した知識を持つ。同僚である冨岡とよく任務に当たっている。冨岡に好意がないわけではないのだが、自分があの冨岡に恋していると認めたくない故、少々きつく当たっている。

 

 

 

 

 

 

 

_________________________________

 

「お、男ぉ!?嘘だ!嘘だぁ!どう見たって女の人だよ!?どう考えたら男だって思うの!?もう意味わかんないよ!!どうなってんの!?」

 

 

「お、落ち着け善逸!確かに俺も驚いたが、何もそこまで取り乱すことはないだろ!?」

 

 

「はあ!?炭治郎は逆に何でそんなに落ち着いてんの!?普通もっと驚くだろ!!」

 

 

「そんな驚くっていったって優月さんに失礼だろ!見ろ!優月さんだって困ってるじゃないか!」

 

 

「(はあ‥‥‥もう泣きそう)」シュン

 

 

そんなに僕は女の人に見えるのかなぁ‥‥。

僕だって男に見られる様頑張ってるんだけどなぁ‥‥。

 

 

「ほら見ろ!善逸が騒ぐから優月さんが悲しんでいるじゃないか!」

 

 

「ええ!?俺の所為なの!?何で俺が悪いことになってんだよ!大体なあ!炭治郎だってーー」

 

 

フワッ

 

「何騒いでるのですか?ここは病室ですよ」

 

 

「んげっ!しのぶさん!」

 

 

「えっ‥‥!?」

 

 

「っ‥‥姉さん、ごめん。僕がいながら‥‥」

 

 

「いえ、大丈夫です。私が言いたいのは静かにして欲しい、と言うことですからね。

ねえ、善逸君?」ゴゴゴ

 

 

「ひ、ひゃい!」ガクガク

 

 

さ、流石姉さん。一瞬で黙らせるなんて‥‥。

 

 

「はあ‥‥それで、何故騒いでいたのですか?」

 

 

「あ、あ〜‥‥それは‥‥あ、あの、優月さんがお、男だということを今知って‥‥」

 

 

「ああ、そういう事ですか。確かに皆さんは驚きますよね。ねえ?優月」

 

 

「姉さん‥‥それを僕に言わないでよ。僕を弄るつもりで言われても困るんだけど」

 

 

「あら、私は弄るつもりで言ったわけではありませんよ。だって優月は本当に女の子見たいですし」

 

 

「だから!それを弄ってるって言うんだよ!」

 

 

「ふふっ、ごめんなさい、怒らないでくださいね。私は怒ってる優月も好きですけど」

 

 

「なっ‥‥!もういいよ!///」ヒュン

 

 

 

「「(可愛い‥‥)」」

 

 

 

「あら、つい弄りすぎてしまいました。これは後で謝らないといけませんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、全く姉さんは!すぐ平気であんな事言うから‥‥」

 

 

僕は恥ずかしくて思わず部屋から出てきてしまった。

姉さんはいつも僕をからかってくるので困る。平気ですぐ好きとか言うし‥‥色恋がわからない僕でも、急に好きと言われるとすごく恥ずかしい‥‥。

しかも、あの善逸君達が居る前で‥‥。

 

 

っ‥‥本当に恥ずかしい‥‥///。

 

 

僕は思わず赤くなる顔を手で覆った。

また女だと思われるし、善逸君達の前で取り乱すし、もう今日は厄日だ‥‥。

 

 

「はあ‥‥‥」

 

 

僕は何度目か分からない溜め息をつき、藤の花が見える縁側に腰を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

「あの‥‥しのぶさん。もう一度お聞きしますが優月さんは本当に男の人なんですか?」

 

 

炭治郎君はまだ信じきれないのか、もう一度質問を返して来た。

 

 

「はい。先程も言いましたが男ですよ。隠の方も"私の弟"と言っていませんでしたか?」

 

 

「え〜っと‥‥‥」

 

 

 

 

『あれが胡蝶様の弟の優月様だ』

 

 

 

 

「あっ‥‥確かに言っていました」

 

 

「そうでしょう?正真正銘私の可愛い弟ですよ」フフッ

 

少し"可愛い"というところを強調して言葉にする。

だって本当のことだから。本当に可愛い弟だから。

私は微笑み、そう返した。

 

 

「っ‥‥そ、そうですか」

 

炭治郎君は少し顔を(しか)めたが、私はそれに構わず次の話題へ移す。

 

 

「さて、話を変えますが体の具合はどうですか?」

 

 

「ええと‥‥まだ十分には動かせませんが先程飲んだ薬が少し効いてきたようです」

 

 

「そうですか。それは良かったです。一番症状が酷いのは善逸君ですが、炭治郎君の方も怪我が酷いので安静にしてくださいね」

 

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 

この調子なら明後日には機能回復訓練に移れるだろう。

怪我の治りが現れた事に少し安堵した。

そんな時、黙り込んでいた善逸君が口を開いた。

 

 

「‥‥‥そう言えば優月さんの階級って何なの?」

 

 

「いきなりどうしたんだ?善逸?」

 

 

私もいきなりの質問に疑問を覚える。

 

 

「い、いや、ただ気になっただけだけど‥‥」

 

 

「優月の階級は甲ですよ」

 

 

私は善逸君の疑問に対して答えを言った。

 

 

「甲‥‥甲なんですか!?そんなに階級が高かったなんて‥‥」

 

 

「そうなのか‥‥俺はてっきりもっと高い柱なのかと‥‥」

 

 

「あら、そんな事はないですよ。柱が全員いた時に優月の姿はなかったでしょう?‥‥しかしですね、優月は確かに柱並みの実力があると言っても過言じゃないですよ」

 

 

「えぇぇええ!?優月さんってそんなに強いの!?」

 

 

善逸君はとても響く高音を発しながら驚く。

私はまたうるさくなったことに少し怒りたくなったが、その気持ちを抑えて次の言葉を発した。

 

 

「はい。普通に下弦の鬼くらいなら簡単に倒せるでしょうね」

 

 

「(そう言えばあの時、簡単に十二鬼月を倒してたな‥‥)」

 

 

「ですので、とても頼りになる弟ですよ。見た目は女の子みたいで可愛らしいですし」

 

 

「(確かに‥‥しのぶさんと同等ぐらいに可愛い‥‥男だけど)」

 

 

「は、はあ‥‥俺も優月さんのように強くなりたいなあ‥‥(その為には早く訓練しなくちゃ!)」キラキラ

 

 

「‥‥炭治郎君?まず訓練をしたいのはわかりますが体を治すことを第一として考えてくださいね?」

 

 

「(なっ!心が読まれてる!?)」

 

 

「(いやいや、顔にほぼ書いてたよ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥‥今日は月が綺麗だな」

 

時間は過ぎ、もう夜になった。お風呂にも入り、僕は縁側に座って月を眺めていた。

静かな闇の空間に一際存在感を放つ月。今日は満月でより一層綺麗に見える。

 

 

「‥‥確かに今日は月が綺麗ですね」

 

 

「うわっ!?」

 

 

いきなり耳元で囁かれたと思ったら、後ろに姉さんがいた。姉さんは僕の隣に座る。

僕は昼間のことを思い出し、姉さんを見てムッとする。

 

 

「ふふっ、拗ねないでください。お昼はすいませんでした。少々弄りすぎてしまいました」

 

 

「‥‥全く、姉さんはいっつも僕を弄るんだから‥‥まあ、もう許すけど!」

 

姉さんは驚いたように目をパッと開く。

 

 

「あら、今日はすぐ許してくれるんですね。いつもはすぐ許してくれないのに‥‥」

 

確かに、姉さんから弄られると毎回拗ねてしまうのが僕なのだが、いつもはすぐ許さない。

 

 

でも、今日は何故かそんなに腹が立ったわけでもない。

この綺麗な月を見ると、そんな事がどうでもよく感じ、勝手に許せてしまう。

 

 

「‥‥今日は綺麗な月が出ているから。なんか怒る気分にもならないんだ」

 

 

「ふふっ、では今日はこの月に感謝しなくてはいけませんね」

 

 

「‥‥そんな事しなくても姉さんが僕にちょっかいを出さなければいい話なんだけどね」

 

 

「それは無理な話ですね。優月の可愛い反応が見れませんから」

 

 

「むっ‥‥また可愛いとか言って‥‥」

 

 

「ああ、すいません。やっぱり思ったことはすぐ口に出てしまうものなんですよ。というか優月が可愛すぎるのがいけません」

 

どういう理由なんだ‥‥。

それ僕悪くないよね‥‥?

 

 

「何それ‥‥僕が悪いわけじゃないじゃん。僕は可愛いより格好が良いって言われたいのだけど‥‥」

 

 

姉さんからかっこいいなんて一言も言われたことがない。

僕を褒める?時はいつも可愛いの一言だけだ。

 

 

「優月が格好良くなる、ですか‥‥想像もつきませんね。ああ、でも戦いの時は可愛さより凛々しさが目立ってますね」

 

 

凛々しさか‥‥まあ、可愛いと言われるよりはこっちの方がいいかもしれない。いや、こっちの方が断然いい。

褒められている感じがしっかりと来る感じ。

少し気恥ずかしくなるが、僕は不思議と笑みが溢れた。

 

 

「ありがとう、姉さん」ニコッ

 

 

「‥‥ふふっ、やっぱり優月は可愛いという方が似合ってます」

 

 

「なっ‥‥っ、もういい!」

 

 

「あーあー、すいません。拗ねないでくださいよ」フフッ

 

 

せっかくお礼を言ったのに‥‥また直ぐに揶揄うのだから。

本当に困った姉さんだ。

 

 

だけど、こういう他愛のない話を姉さんとする時間はとても心地よく感じる。

"家族と過ごす時間"という安心感が僕の心を癒してくれる。

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

 

スッ

 

 

瞬間、姉さんが僕と手を重ね合わせる。

その温もりがさらに心に染み渡る。心も体も安らぐ優しい暖かさ。家族だからこそ、近くにいるという事を改めて理解させてくれる。

その暖かさが僕は好ましく思う。

 

 

だが、その一方で、この温もりがいつか消えてしまうのではないかという感情が僕の心の不安要素として出てくる。一度、家族を亡くした感情を味わった。あんな感情など、二度と味わいたくない。

 

 

僕は思わず姉さんの手を強く握った。

その行動の理由を姉さんは察したのか、姉さんも手を握り返してくれた。

 

 

「優月、大丈夫。此処には皆が居ます。蝶屋敷の皆、柱の方達、お館様、全てが貴方を拒むことはないでしょう。だから安心して。優月」

 

 

「‥‥‥うん」

 

 

この姉さんの言葉が、僕の不安要素を一気に掻き消してくれた。

そうだ、此処には蝶屋敷の皆や沢山の仲間がいる。姉さんだっているんだ。何も不安になることはない。

僕は皆を信じて進むだけ。

夢を叶える為にーー

 

 

「‥‥ありがとう、姉さん。いつも‥‥側にいてくれて。‥‥それじゃあ、僕はそろそろ寝るよ」

 

 

「分かりました。お休みなさい、優月」

 

 

「うん、お休み。姉さん」

 

 

姉さんに手を振り、夜空に輝く満月を背にし、僕は自分の部屋と向かった。

 

 

 

 

今日はとても良い気分で眠りにつける。そう思い、僕は安堵した気持ちで布団に入るのだった。

 

 

 

だが、僕は重要なある事に気づいていなかった。姉さんの言葉が僕を安堵させた。これに嘘偽りはない。

しかし、姉さんの言葉を改めて思い返すと、

 

 

『蝶屋敷の皆、柱の方達、お館様、全てが貴方を拒むことはないでしょう。だから安心してーー』

 

 

この言葉の中には"姉さん"が入っていない。

何故、姉さんがその中に入っていないのか。

それは単に忘れただけなのか、はたまた、絶望の道への一歩なのか、それを理解する時、それはずっと先になってからのことであったーー

 



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四話 蝶との地獄の訓練

今回はほぼ原作通りのストーリーになっています。ご了承ください。
誤字脱字がありましたら、ご報告いただける嬉しいです!










 

「さて!それでは機能回復訓練に入りましょう!」

 

 

姉さんの明るい声が部屋に響く。

炭治郎君達が来てから三日の月日が経った。

炭治郎君達の怪我はほぼ完治と言って良いほど治り、予定通り機能回復訓練に移れる状態になった。

 

 

「はい!よろしくお願いします!」キラキラ

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

 

炭治郎君は動けることがよほど嬉しいのか、目を輝かせてこちらを見ている。

一方、伊之助君は何も喋らず、ただ黙り込んでいる様子だ。

 

 

「それと、善逸君はまだ動いてはダメですよ?早くて明日、遅くて三日は掛かるので安静にしてくださいね」

 

 

「は、はい!分かりました!」

 

 

「それでは優月、後は頼みましたよ」

 

 

「うん、わかった。それじゃあ行こうか、付いてきてね二人とも」

 

 

僕は姉さんに頼まれた通りに動く。

さて、この二人はどれほどこの地獄の訓練に耐えられるか‥ぶっ倒れないだろうか‥‥。

僕はそう心配し、同時に可哀想だという感情を2人に向けた。

 

 

「(ワクワク)」キラキラ

 

 

「‥‥‥‥」

 

 

しかし、当の本人達には僕の感情が届いていないようだ‥‥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました‥‥」ドヨ--ン

 

 

「ざした‥‥‥‥‥‥‥」ズ--ン

 

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 

一日目の訓練が終了した。

‥‥こうなると僕も予想できていたのだが、二人の気の落とし様は大きな物だった。

最初のキラキラした目はどこに行ったのやら、炭治郎君はげっそりし、伊之助君も同様に気を落としている様子だ。

 

 

まあ、こうなるのも無理もない。

ほぼ一方的にボコボコにされていたようなものだった‥‥。

最初の方なんて特に酷かったのだから。

それは訓練を開始してから数分のことだーー

 

 

 

 

 

 

「さて、それじゃあ訓練の内容について説明しますね」

 

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 

「よ゛ろじぐ‥‥」

 

 

 

「ふふっ、良い返事ですね。‥‥さて、先ずはあちらの三人に身体をほぐしてもらいます」

 

 

「私達に!」

「お任せ!」

「ください!」

 

 

準備しているきよちゃん達が元気に返事をしてくれた。

あの三人の身体ほぐしは凄く痛いので注意するんだよ。とは言わないけどね。どっちにしろこの後体験するのだし。

 

 

「そして、身体をほぐしてもらったら、次は全身訓練で鬼ごっこをしてもらいます。鬼は君達で僕とそこにいるカナヲが逃げる役になるので、時間内で僕たちに指一本でも触れることができたら君達の勝ち。触れることができなかったら僕達の勝ちとなります」

 

 

「はい!分かりました!」

 

 

「鬼ごっこが終わったら次は‥‥あれです。あの湯呑みが見えるでしょうか?

反射訓練として中に入っている薬湯をかけ合います。湯呑みを持ち上げる前に相手から湯呑みを抑えられた場合は湯呑みを動かせないから注意してください。さて、これで説明は終わりです。後は実際にやってみて慣れていってくださいね」

 

 

「はい!よしっ、それじゃあ早速‥‥」

 

 

炭治郎君は早速きよちゃん達の方へ行き、体ほぐしを受けるようだ。伊之助君も同様だ。

やる気があるのは良い事だ。だが、やる気だけではどうにも出来ないこともある。それを今、炭治郎君は実感するだろう‥‥。

 

 

 

「ぐあっ‥!い、いだだだだだだ!!」

 

 

「こ、これ、物凄く痛いですっ‥‥!」

 

 

案の定炭治郎君は唸り声を上げた。

まあ、それはそうだよね。寝たきりだった体をほぐすわけなのだから相当の激痛が走るだろう。

 

 

それにしても、人の唸り声を聞いて良い気分になるわけがない‥‥。

少々可哀想だが、これも訓練だ。

炭治郎君達には頑張ってもらおう。

そう心にし、僕は両手で耳を塞いだ。

 

 

 

 

 

 

「「‥‥‥‥‥‥‥‥」」ドヨ-ン

 

 

二人にとって地獄の体ほぐしが終わり、二人は既に気が落ちている様子だ。

本当はこれからが本番なんだけどね。

僕はそう心で呟き、次の訓練へと移る。

 

 

「さて、それじゃあ次は鬼ごっこですね。最初はカナヲに逃げてもらうから‥‥鬼の順番はどちらが先でも構わないですよ」

 

 

「わ、分かりました‥‥。それじゃあ先ずは俺がやるよ」

 

 

最初の鬼は炭治郎君の様だ。

ふむ、カナヲ相手に何処まで行けるか‥‥。

 

 

「それでは、始め!」パン

 

 

バッ!

 

 

炭治郎君は勢い良くカナヲの方に目掛けて走り出した。

反応速度はそこそこと言った感じだろうか。

しかし、速さが圧倒的に遅い。

まだ病み上がりということもあるだろうが、これではカナヲを捕まえることは無理だろう。

 

 

「っ‥‥‥!」ダッ

 

 

「‥‥‥‥‥‥」スッ

 

 

何とか手を伸ばして捕まえようとはしている。それでもカナヲには全然届かない。

カナヲのスピードに追いつけていない様子だ。

まあ、最初はこんなものだろう。

僕はそう思い、終わりの合図を出す。

 

 

「はい、ここまで。二人ともお疲れ様です」

 

 

「は、はいぃ。あ、ありがとうございました」ハアハア

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」ペコッ

 

 

「次はお゛れだ!」

 

 

炭治郎君の番が終了し、次は伊之助君だ。

意気込みはバッチリそうだが、果たして結果ばどうなることやら。まあ、ほぼ予想はできているのだが。

 

 

 

 

 

「く、く゛ぞぉぉぉぉ」

 

 

結果は勿論カナヲの勝ち。伊之助君も同様にカナヲのスピードに追いつけていない様子だ。

まあ、全身訓練はここらで良いだろう。

次は反射訓練だ。

 

 

「はい、それじゃあ次は反射訓練です。相手はどうしようか‥‥カナヲ、もう一度いける?」

 

 

「はい、大丈夫です」

 

 

「うん、それじゃあカナヲに次も相手をしてもらいます。二人とも準備はいいですか?」

 

 

「は、はい!お願いします!」スッ

 

 

炭治郎君とカナヲが向かい合いながら座り、準備は完了したようだ。

先程の鬼ごっこでは反射神経は良かった方だが、この勝負ではどうなるだろうか。

一瞬で終わるようならばこの二人はまだまだということになる。

僕はそう考えながら、始めの合図を出す。

 

 

「始めっ!」パン

 

 

スッ

 

バシャ!

 

 

「うわっ!」

 

 

は、速いっ‥‥。

勝負の結果は一瞬だった。炭治郎君が取ろうとした湯呑みを即座にカナヲが抑え、もう一方の手で湯呑みを取り、即座に薬湯をかけた。

その秒数僅か1秒と言ったところか‥‥。

まさかこんな一瞬で終わるとは思っていなかった。炭治郎君もあまりの速さに何が何だかわかっていないようだった。

 

 

「次はお゛れ!」

 

 

さて、次は伊之助君の様だ。

結果は一体どうなるだろうか‥‥。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシャッ!

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥」ビショォ

 

 

結果はカナヲの圧勝だった。

やはり伊之助君も速さが足りない。

すぐ湯呑みを撮ろうと手を動かすが、カナヲの方が一枚上手だ。即座に塞がれる。

‥‥カナヲに対してこの負けようなら僕とやる必要はないかもしれない。

 

 

「もっがいだ!お゛れはまだみどめねぇ!そこの奴!あいてじろ!」

 

 

伊之助君に指名されてしまった。

やる必要はないと思っていたのだが、本人はやる気があるようだ。やるしかないだろう。

 

 

「それは構いませんが、手加減はしないですからね」

 

 

これは勝負だ。やる時に手加減は無用。本気でやらねば相手に失礼だろう。

 

 

「あ゛っだりめぇだ!」

 

 

それに伊之助君は手加減なんてしてほしくないだろうしね。

 

 

僕は湯飲みの前に座り、伊之助君と対面した状態になる。

 

 

「それじゃあカナヲ、合図を頼むよ」

 

 

「はい、分かりました‥‥‥始め」

 

 

開始の合図が出る。伊之助君は先程同様に真っ先に湯呑みを取ろうと手を伸ばす。

でも、そのスピードじゃ遅い。

 

 

 

僕は瞬時に伊之助君が掴もうとする湯呑みを抑える。

 

 

「っ‥‥‥!」ゴクッ

 

 

あまりの早さに驚いたのか、伊之助君は思わず息を飲んだ。湯呑みから手をすぐ離さない。

僕はその隙を見逃さず、もう一方の手で湯呑みを取り、伊之助君目掛けて薬湯をかけた。

 

 

バシャッ!

 

 

勢いよく水のかかる音が耳に入る。

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥」ビショ

 

 

伊之助君は全身ビショビショの状態になった。

実践してさらに分かったが、やはりスピード

が遅い。それと、集中力が足りないのも一つだ。

この点を踏まえて考えて見ると、この二人は"全集中・常中"を習得していないように見える。

 

 

全集中・常中と言うのは、全集中の呼吸を四六時中やり続けるものだ。これにより、基礎体力が飛躍的に向上する。

これはまあ‥‥基本の技なのだが、会得するには相当な努力が必要になる。

 

それに、"全集中・常中"を会得しているかしていないかでは、戦いの場で天と地ほどの差が出る。

この事を炭治郎君達に伝えても問題ないと思うのだが、それよりもまずは体を動かす感覚を取り戻すのが先決だ。

その後に常中の事は伝えておけば良いだろう。

 

 

「それじゃあ、次は‥‥炭治郎君ですね?一緒に頑張りましょう?」

 

 

二人にとっての地獄の訓練が始まった。

果たして二人はこの訓練を乗り越えることができるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました‥‥」ドヨ--ン

 

 

「ざした‥‥‥‥‥‥‥」ズ--ン

 

 

そして最初に戻る。

あの後、カナヲと十回ほど繰り返しやったのだが二人は(ことごと)く連敗を重ね、全身びしょ濡れで訓練が終わった。

これが二人が気を落としている理由だ。

 

 

まだこれも一日目だ。

これから二人がどれほど努力出来るか、これにかかっている。

強くなりたいのなら、努力を重ねなければいけないのだからーー。

 

 

 

 

 

 

 

○三日後

 

 

どうも、我妻善逸です。誰に挨拶をしているのかわからないけど、俺、今すごい手足が短いの。

 

蜘蛛になりかけたからね。

薬をたくさん飲んで、お日様の光たくさん浴びて治療中。

 

後遺症は残らないって。

完全に蜘蛛にされちゃった人達は人間に戻れても後遺症が残るかもしれないみたい。

悲しい‥‥。

 

 

そういや、しのぶさんと優月さんって言う人達の音は独特なんだよな。

今まで一度も聞いたことのない音だ。

規則性がなくてちょっと怖い。

 

 

でも、あの二人めちゃくちゃ可愛いんだよ。

しのぶさんは女神のようだし、優月さんは男だけど女として顔だけで飯食っていけそう。

もう優月さんが男って忘れそうだ。

 

 

そんな可愛い二人に、体力を元に戻すための"機能回復訓練"へと連れて行かれた炭治郎達が‥‥

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥」ゲッソリ

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥」フラフラ

 

 

こんな感じで帰ってくるんだけど‥‥。

 

 

「なあ炭治郎。何があったの?どうしたの‥‥?ねえ」

 

 

「‥‥‥ごめん」ズ--ン

 

 

教えてくれよぉ!!明日から俺も少し遅れて訓練に参加するんだからさぁ!!

 

 

 

 

 

 

 

〈次の日〉

 

 

機能回復訓練三日目。三日経った今でも炭治郎君達の成長は見られないが、体を動かす感覚は戻ってきているようだ。

今日は善逸君も参加する。一番状態が酷かった善逸君だが、体は動かせるようになったようだ。

僕は怪我が治った事に安堵感を覚える。だが、これからは善逸君もこの"地獄の訓練"を受けなければならない。

可哀想にと心で呟くが、当然、善逸君に僕の言葉は届かない。

 

 

 

「さて、今日から善逸君も参加ですね。善逸君は初めてですし、大まかに内容を説明致します。まず最初にきよちゃん達に体をほぐしてもらってください」

 

 

「「「お任せください!」」」

 

 

「次に全身訓練として鬼ごっこをしてもらいます。鬼は善逸君達で、逃げるのが僕とカナヲ。制限時間内に僕達に指一本でも触れることができたら君達の勝ち。逆に触れることができなかったら君らの負け。ここまで大丈夫ですか?」

 

 

「‥‥‥‥はい」ワナワナ

 

「‥‥‥‥‥‥」ガックリ

 

「‥‥‥‥‥‥」ズ--ン

 

 

「そして最後に反射訓練。あの湯呑みに入った薬湯を相手にかけ合います。詳しいルールはやっているところを見て理解して貰えるでしょうか?」

 

 

「わかりました‥‥」

 

 

「それでは‥‥何か質問などはありますか?」

 

 

「‥‥いえ、特に」

 

 

「そうですか。では始めましょーー」

 

 

「あの、すいません‥‥少し良いですか」

 

 

訓練を始めようと思っていたら、突然善逸君が発言する。

 

 

「どうしたのですか?何か問題でも‥‥」

 

 

「いえ、そういうことではないんですけど‥‥おいお前らちょっと来い」

 

 

そう言い、善逸君は炭治郎達二人を連れて外に行ってしまった。

 

 

一体どうしたのだろうかと思い、僕は心配していた。だが、その心配はある声により、違うものに変わるのであった。

 

 

 

「お前が謝れ!!お前らが詫びれ!!!天国にいたのに地獄にいたような顔してんじゃねぇえええ!!女の子と毎日キャッキャッキャッキャッしてただけのくせに何をやつれた顔をして見せたんだよ!土下座して謝れよ!切腹しろ!!」

 

 

 

 

な、何なんだこの耳にキーンと響くような高音は‥‥しかも中に全部筒抜け‥‥。

 

 

 

「なんてこと言うんだ!!」

 

 

「黙れこの堅物デコ真面目が!!黙って聞け!いいか!?」

 

 

「優月さんと女の子に触れるんだぞ!!体揉んでもらえて!湯飲みで遊んでる時は手を!!鬼ごっこの時は体触れるだろうがアア!!優月さんには無いけど女の子一人につきおっ○い二つ!お尻二つ!太もも二つついてんだよ!!すれ違えば良い匂いがするし見てるだけでも楽しいじゃろがい!!」

 

 

「ああ幸せ!!うわああ幸せ!!」

 

 

 

馬鹿でかい声の所為で部屋に筒抜けな善逸君の言葉を聞き、僕は『う、うわあ』という言葉が真っ先に出た。

何言ってるんだか善逸君は‥‥ただの変人なのか‥‥これは一層目を厳しくしないといけないな。

僕は善逸君に少し嫌悪感を抱いたが、それに伴い、善逸君には"地獄の訓練"という事を身を以て知ってもらわなければと、気を引き締めた。

 

 

 

 

 

その後、善逸君達は部屋に戻って来た。

何故か炭治郎君以外の二人は士気が上がっている。

まあ、気合いがあるのは良い事だけど。

その邪な気持ちで訓練に挑むのはいただけないな。

 

 

 

そうして、僕達は訓練に入る。

いつもの柔軟から始まり、炭治郎君と伊之助君は最初の頃の様に絶叫する事はなくなったが、まだ唸り声を上げている。

そんな中、善逸君は‥‥

 

 

「うふふ、あははは」キラキラ

 

 

結構な痛みを伴う柔軟を受けても終始笑顔だった。

‥‥只者じゃない。

 

 

 

そして次に全身訓練として鬼ごっこだ。

ここはカナヲに任せようかな。僕は次の反射訓練でやるとしよう。

 

 

「カナヲ、次良いかな?」

 

 

「分かりました」

 

 

「ああ、それとね、あの黄色い髪をした人には絶対捕まらないで欲しいんだ」

 

 

「‥‥?分かりました」

 

 

カナヲは首を傾げ何故と思ったのだろうが、詳しくは聞かずに行ってしまった。

 

 

ちっとも興味を示さないカナヲに少し悲しくなるけど、まあ、それがカナヲらしいもんね。僕はあまり気に留めずカナヲを見送る。

 

 

さて、鬼の方は‥‥善逸君か。

なんかもう考えてることが見え見えだ。

妙にキラキラした顔で構えているし。

でもカナヲには捕まらないようにと注意もしたし、まず捕まることはないだろう。

 

 

 

そうこう考えているうちに終了の時間を迎えた。

 

 

「はあ‥‥はあ‥‥」

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥」ペコッ

 

 

予想通りカナヲの勝ちのようだ。

これで少しくらい善逸君も気を落としたり‥‥

 

 

「‥‥‥‥‥」キラキラ

 

 

していなかった‥‥。

何なのだろうかその精神。

姉さんにビクビク怯えている時の善逸君とは全くと言って良いほど違うのだが‥‥。

 

 

ま、まあ、良いや。次の反射訓練ではその表情は変わるだろう。流石にね‥‥。

 

 

 

「さて、次は反射訓練です。今日は僕が相手を致します。誰が最初にやりますか?」

 

 

「はい!!俺がやります!」

 

 

おっと、最初から善逸君か。

別に構わないけどね。

 

 

「ふふ、元気があって良いですね。それでは始めましょうか」スタッ

 

 

「‥‥‥‥‥‥」フッ

 

 

なんか今一瞬善逸君がこっちを見てかっこつけたのだけど‥‥。

‥‥今回だけちょっと試合を長引かせよう。

決して手加減はしないからね。本当だからね。

 

 

「それじゃあ、カナヲ。頼むね」

 

 

僕はカナヲに合図を頼み、湯飲みを目の前にする。

 

 

「始め」

 

短い言葉の合図で訓練が始まる。

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥」ジッ

 

 

おっと、善逸君はあの二人みたいに最初から攻めて来ないようだ。

こちらの様子を見て動くようにしているのだろう。少しあの二人とは違うものを持っているように思うが、果たして僕のスピードについてこれるのだろうか。

そう思い、僕は自分から攻撃に出ようと湯飲みに手を伸ばす。

 

 

しかし、湯飲みが動かせない。それもそうだ。善逸君が湯飲みを抑えたのだから。

 

 

少しスピードを緩てみたのだが、流石にこのくらいのスピードには対応出来たみたいだ。

善逸君は湯飲みを抑えたことが自信になったのか、

 

「‥‥‥‥」ドヤァ

 

凄く自慢げな顔で僕の顔を見た。

その顔を見てイラッと来たのは内緒だ。

 

 

すると、善逸君が攻勢に出るためにもう一方の手で湯飲みを掴もうとする。

僕はそれに瞬時に対応し、同じくもう一方の手で押さえる。

善逸君は防がれたことに驚いたのか、口を開けている。

 

 

そろそろ頃合いかな。

僕はそう思い、勝負を終わらせる為にさっきよりもスピードを上げて湯飲みを掴む。

 

 

ヒュン、と音がなり、結構な速さで動いているのが自分でも実感できた。

そして、湯飲みを掴んだ感覚が手に伝わる。

僕は思い切り善逸君目掛けて薬湯をかけた。

 

 

バシャッ!

 

「え‥‥‥?」ビショビショ

 

 

一瞬にして善逸君は全身びしょびしょになった。当の本人は僕の速さに驚いたのか、いまだに自分が負けたことを理解できていない様子だ。

まあ何はともあれ、勝負はついたのだ。僕は立ち上がり、礼をする。

 

 

「ありがとうございました」ニコッ

 

 

「あっ‥‥えっと‥‥っ」

 

 

 

さて、善逸君はこれで気づいただろうか。

これは邪な気持ちを持って挑めるほどの楽しい訓練ではない。

そう、これは"地獄の訓練"なのだから。

 

 

そう心で言いながら、僕は善逸君の方を見て微笑んだ。

 

 

「ふふっ、これから頑張りましょう。この"訓練"を、ね」

 

 

その微笑みを善逸君はどう感じ取ったのか、それは、善逸君自身しかわからないーー。

 

 

 

 



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五話 蝶の本音、弟の想い

まさかの二日連続投稿です笑
この調子で投稿できたらね‥‥(遠い目)

今回は急いで書き上げたので、誤字脱字があるかもしれません。
申し訳ないですが、見つけたら報告していただけると幸いです。


 

 

「ありがとうございました‥‥」ズ-ン

「‥‥‥‥‥‥‥」ズ-ン

「‥‥‥‥‥‥‥」ズ-ン

 

 

善逸君が来ての初めての訓練が終了した。

結局あの後、数十回皆が僕とカナヲに挑み、結果は惨敗。

また皆ずぶ濡れで訓練を終えるのであった。

 

 

あれほどやる気があった善逸君も見る影が無く、気が落ちているようだ。

 

 

それにしても、善逸君はともかく炭治郎君と伊之助君の成長が全然見られない。

体も動いてきた頃だろうし、そろそろ全集中・常中について教えた方がいいだろうか。

教えても良いのだが、これを自分で見つけられることが出来たら、教えられてやるよりもさらに成長できるかもしれない。

 

 

でも、いつまでも気づくことができなければ意味がない。やはり教えるべきであろうか。

僕がそう考えていると、ふと思いついた。

カナヲはどう思っているのだろうか。

もしかしたらカナヲから何か有益な事を教えてもらえるかもしれない。

そう思い、僕はカナヲに聞いた。

 

 

「ねえ、カナヲ。あの三人をどう思う?」

 

 

カナヲはきょとんとした顔でこちらを見た。

 

 

「‥‥‥分かりません」

 

 

わ、分からないか‥‥。

まあ、カナヲがそう思うのなら仕方がないけど。

うーん、カナヲも特に何もないのならどうしたものか‥‥。

僕は頭を回転させ、何かないか考える。

そうすると、一つある事を思いついた。

 

 

「そうだ。カナヲ、その銅貨貸してくれない?」

 

 

「‥‥‥‥?分かりました」パッ

 

 

「ありがとう。‥‥ふふっ、どうしてって顔してるね。まあ、ただの占いみたいなものだよ」

 

 

ピンッ!

 

 

僕は勢いよく銅貨を上に弾く。

部屋の中であるため、あまり上に飛ばすことはできないが、それでも天井すれすれにまで飛ばした。

 

 

さて、どうしようかな。

‥‥よし、それじゃあ表が出たら炭治郎君達に常中の事を伝えよう。裏が出たら伝えないでおく、これにしよう。

 

 

僕はそう考えながら空中に浮遊する薄茶色の銅貨を見上げる。

その時間は長く感じ、まるで鳥のように空に滞在しているように感じた。

しかし、銅貨が空に滞在する訳もなく、落下し始める。

 

 

パシッ!

 

 

手の甲に銅貨が着地した。

左手で抑えられた銅貨はどちらの面を向いているだろうか。

僕はドキドキしながらも、好奇心と期待感が混ざる中で左手を退かした。

 

 

 

「裏の文字‥‥裏か」

 

 

そこには裏の文字があった。

そう、結果は裏だった。ということは常中のことは伝えないでおくという事になる。

 

 

「あの‥‥どうして銅貨を‥‥」

 

何故銅貨を投げたのか不思議に思ったのか、カナヲが僕に問いかけてきた。

 

 

「いやね、炭治郎君達に常中の事を伝えようか迷っていたんだ。だからこれを使って決めたの」

 

 

「そうですか‥‥」

 

 

「そういえば‥‥最近良く炭治郎君の事をじっと見ている時があるようだけれどどうかしたの?」

 

 

「‥‥‥‥?」

 

 

「あ、あー、あの耳飾りをつけた子だよ。額に大きな傷がある子」

 

 

「っ‥‥いえ、特に何も」

 

 

「そう?」

 

その割には何か最初の言葉が詰まってたような気がしたのだけど。

まあ、特にないと言ってるのだからいいだろう。

 

 

「まあ、特に何もないなら大丈夫だね。あ、それと、あの三人の名前くらい覚えようね」アハハ

 

 

「‥‥‥‥はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練開始から一週間。

ここでまさかの事態に陥るとは思いもしなかった。

 

 

「はい?訓練に参加しに来たのは炭治郎君だけですか?」

 

 

「はい‥‥すいません」

 

 

なんと、あの二人が訓練に参加しなくなってしまったのだ。

 

 

「はあ、そうですか‥‥分かりました。あの二人が訓練に参加する気が無いなら仕方ありません」

 

 

「本当にすいません‥‥」

 

 

「何も炭治郎君が謝る必要なんてありませんよ。それでは訓練を始めましょうか」

 

 

「はい‥‥」

 

 

そうして、この日からあの二人が訓練に参加することはなくなった。

 

 

「‥‥お疲れ様でした」ビショビショ

 

 

そして、訓練終了後には、毎回炭治郎君がずぶ濡れで帰って行く姿だけが映るのであった。

 

 

 

それは来る日も来る日もーー

 

 

 

「‥‥‥‥れ様でした」ビショビショ

 

 

 

だが、ここから炭治郎君が急激に成長するとは、まだ誰も知らなかった。

 

 

 

 

 

○三日後

 

 

 

いつもの様に訓練が終了し、全身びしょ濡れで帰って行く炭治郎君だが、最近、炭治郎君の基礎体力がどんどん上がってきたように感じる。いや、これは確実に上がってきているのだろう。

 

 

それもそのはず、炭治郎君は訓練が終わった後も自分でコツコツと努力しているからだ。

それと、後から聞いたのだが、きよちゃん達が炭治郎君に全集中・常中のことを伝えたらしい。

僕は伝えない気でいたのだが、まあ結果的にに良しとしよう。

 

 

 

 

そしてさらに二日後。

ここで炭治郎君の成長ぶりを僕は実感することになるのであった。

全身訓練での鬼ごっこで、遂にカナヲの腕をつかむことができたのだ。

炭治郎君がカナヲに追いつけるようになってきた。これを確立させた出来事はこれだけではない。

 

 

反射訓練でもそれは起きた。

以前まで追いつけていなかったカナヲの速さに対応しているのだ。

目まぐるしく動く手が成長していると実感させた。

ついには反射訓練でカナヲに勝ったのだから。

これにより、炭治郎君の全集中・常中の会得が近づいているということを感じさせた。

僕は素直に嬉しかった。

こんなに努力している人を見るのは初めてだから。善逸君達が居なくても自分で努力し続けるこの姿勢が僕はとてもすごいと思ったし、とても応援したくなった。

だから、素直に炭治郎君の成長が嬉しかった。

 

 

「炭治郎君、君の努力は素晴らしいです。それはみんながみんな出来るわけではない。例え善逸君達が居なくても努力する姿勢、僕はとても好ましく思います。その努力は必ず実るでしょう」ニコッ

 

 

「はい!ありがとうございます!俺も優月さんの様に強くなりたいので!ですが、俺はまだまだです。これからもっと努力していくつもりです!」

 

 

「‥‥ふふっ、そうですか。頑張ってくださいね」

 

 

炭治郎君の努力する姿を見ると、不思議と笑みが溢れてくる。

その笑みはきっと僕の本心から出てくるもの。綺麗な努力が僕を笑顔にさせたのだ。

 

 

 

人を笑顔にさせる力‥‥これを持っている人はもう一人、僕の身近に居た。

そう、カナエ姉さんだ。

姉さんもいつも明るく、笑顔を絶やさず前向きでいる。

その明るさが故、周りも不思議と笑顔が溢れる。

姉さんも人を笑顔にさせる力を持っていた。

 

 

僕はその力が凄いと思ったし、同時に僕も欲しいと思った。

周りで悲しんでいる人や泣いている人を笑顔にさせる力。この力があればどんなに人を救えるだろうか。

それ故、姉さんの様になりたいと思った。

多分、こんなふうに思ったのは僕だけじゃない。しのぶ姉さんもだろう。

 

 

でも、僕達はカナエ姉さんじゃない。

カナエ姉さんのようにはなれない。僕はそう思っていた。

それなら、せめて姉さんの夢を引き継ぎたい。そう思ったのだ。

いつか皆が幸せに暮らせる様な世界に、それを姉さんと目指して歩んでいる。

だが、僕のその気持ちに雲がかかるような不安要素がある。

 

 

しのぶ姉さんの言葉。あの時の事がずっと心に引っかかっている。

言葉の中に姉さんが含まれていないのはただの言葉の綾かもしれない。

それでも、僕を不安にさせる何かがあった。

まだその不安が確信したわけではない。

しかし、その不安を確信させる出来事がこの後起こるなど、僕はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

ある夜、僕はまた外で月を眺めようと思い、縁側に出ようとしたその時。話し声が聞こえた。

僕は咄嗟に襖の後ろは隠れた。

どうやら話している人は炭治郎君と姉さんのようだ。

こんな夜に一体何を話しているのだろうかと疑問に思い、僕は話に耳を傾ける。

 

 

「炭治郎君、君には‥‥私の夢を託そうと思って」

 

 

「えっ‥‥‥っ!」バッ

 

 

僕はその言葉に驚き、つい声を出してしまい、思わず口を押さえた。

隠れていることがバレてしまっただろうか。

僕の心臓の鼓動は騒がしいほどに鳴り響く。

 

 

「夢ですか‥‥?」

 

 

「‥‥‥そう。鬼と仲良くする夢です。きっと君ならできますから」

 

 

 

‥‥良かった。

どうやら気づかれていないようだ。

でも、何故姉さんは炭治郎君に自分の、いや、カナエ姉さんの夢を託そうとしたのだろうか。僕はただただそれを疑問に思った。

 

 

「‥‥怒ってますか?」

 

 

「っ‥‥!」

 

 

炭治郎君のいきなりの言葉に僕は驚いた。

姉さんも同様に驚いたのか、息を飲んだような音が聞こえた。

 

 

「何だかいつも起こっている匂いがしていて‥‥いっつも笑顔なのに‥‥」

 

 

‥‥‥炭治郎君がいきなりそう口にしたのはそういう事だったのか。

炭治郎君は姉さんが偽りの笑顔を取り繕っている事を遠回しに気づいたようなものだ。

炭治郎君の鼻はよほど効くのだろう。

姉さんが怒っていることがわかるなど、普通の人なら気づかない。

そんな中、姉さんは淡々と言葉を告げる。

 

 

「そうですね‥‥私はいつも怒っているのかもしれない。最愛の姉を惨殺された時から」

 

 

「‥‥鬼に大切な人を奪われた人々の涙を見る度に、絶望の叫びを聞く度に、私の中には怒りが蓄積され続け膨らんでいく」

 

 

「体の一番深いところにどうしようもない嫌悪感がある。他の柱達もきっと似たようなものです」

 

 

「‥‥私の姉も君のように優しい人だった。親に同情していた。自分が死ぬ間際でさえ鬼を哀れんでいました。でも、私はそんな風に思えなかった。人を殺しておいて可哀想?そんな馬鹿な話はないです。現に、姉は殺され、弟も殺されかけました。もし、優月も死んでいたら、私はより一層鬼に対して強い恨みを持ったでしょう。それも、我を忘れるくらいに」

 

 

「‥‥でも、それが姉の想いだったなら、私が引き継がなければ‥‥哀れな鬼を斬らなくて済む方法があるなら、考え続けなければいけない。姉が好きだと言ってくれた笑顔を絶やすことなく‥‥」

 

 

「だけど少し‥‥疲れまして。だから貴方に、私の夢を託そうと思ったのです」

 

 

「‥‥それはしのぶさん自身が叶えなくて良いんですか?」

 

 

「私はきっと、その夢を叶えることが出来ません。でも、優月やカナヲ、優しい君ならきっと叶えられます。頑張って下さいね」ヒュン

 

 

「あっ‥‥行ってしまった‥‥(でも、分かりました、しのぶさん‥‥俺、頑張ります!)」グッ

 

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥」

 

僕はただ、今の姉さんの言葉を聞いて俯いていた。

先程の姉さんの言葉を否定は出来ない。

僕だって鬼には強い恨みがある。それも計り知れないほどに。

だけど、その恨みだけでは動いては行けないという、カナエ姉さんの想いがあったからこそ僕は今進み続けられる。

 

 

ただ、しのぶ姉さんはどうなのか僕は知らない。姉さんはカナエ姉さんの夢をどう思っているのか。それは今の言葉を聞くに、完全に許容できてはいないだろう。

だから、その夢を炭治郎君に託したのかもしれない。

でも、本当にそれだけなのだろうか‥‥。

何故か僕にはとてつもない不安感が募っている。まるで、姉さんが居なくなるような、そんな不安が僕を襲っている。

 

 

姉さんが居なくなる‥‥そんな事は絶対に嫌だ。家族を失う絶望感は痛いほど知った。

もう味わいたくない。絶対に。

 

 

だからこそ、僕はもっと強くならなくてはいけない。あの鬼を、鬼舞辻無惨を倒せるくらいに。

そして、カナエ姉さんの夢を実現させる為に‥‥。

誰1人失わず、姉さんと一緒に、平和な世界を目指していくのだ。

 

 

 

 

だって、蝶の羽(姉さん)がなくなってしまったら蝶自身()も生きてはいけないのだからーー。

 

 



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六話 姉からの贈り物

新年明けましておめでとう御座います。
今年もよろしくお願い申し上げます。




 

 

やっぱり努力するのは苦手です。

地道にコツコツやるのが一番しんどいです。

 

炭治郎に置いていかれてしまった焦りなのか、丁寧に教えてもらっても覚えられません。

 

俺たちって本当にダメだなって思います。

 

 

「あ、あはは‥‥大丈夫ですよ。一緒に頑張りましょう」

 

それでも優しく教えてくれる優月さんが天使に思えてきました。

だけど、やっぱり覚えることが出来ません。

 

本当に俺たちってダメダメだよね‥‥。

 

 

 

 

 

炭治郎君が遂に習得した全集中・常中。

この習得により、格段に訓練でカナヲに勝つ確率が増えた。

僕も一度鬼ごっこで腕に触れられてしまった。

これにより、炭治郎君の成長ぶりがわかる。

 

それに危機を感じたのか、善逸君達も訓練に参加するようになった。

炭治郎君も、やる気になった二人に常中を教えようとしてくれている。

 

だが、二人は常中の習得に苦戦しているようだった。

それもそのはず、炭治郎君の教え方があまりにも酷いのだから。

 

「こうして、こう。それでこうやれば‥‥」

 

現に、訳のわからないポーズをしながら教えている炭治郎君を見ると思わずため息が出てしまう。

それも、逆に善逸君達が可哀想に思えて来てしまうほど‥‥。

 

 

「苦戦しているようですね。優月」

 

突如後ろから聞こえる声。

まあ、誰かは分かりきっているのだが。

 

 

「姉さんか‥‥うん、僕もどうすれば良いかわからなくて」

 

 

「ふふっ、一つ良い方法がありますよ」

 

 

「えっ‥‥?」

 

姉さんは屈託のない笑顔でそう言った。

ちょうど困っていることだし、是非とも聞きたいところだ。

 

 

「ちょっと耳を貸してください」

 

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥」ゴニョゴニョ

 

 

「え?そんなことで良いの?」

 

僕はやや疑問に思いながら問い返す。

 

 

「はい。今から私が伊之助君に実践しますので、今言ったことを善逸君にやってみてください」

 

 

「うん、分かった‥‥」

 

僕は本当にそんな事で二人の役に立てるのか疑問でしかなかったが、姉さんの言葉通り、一度見ることにした。

 

 

「三人とも、成果はどうでしょうか」

 

 

「あっ、しのぶさん。実はちょうど今二人が苦戦していて‥‥」

 

 

「「‥‥‥‥‥‥‥」」ズ-ン

 

 

「そうですか‥‥まあ、常中は基本、というか初歩的な技術なので、できて当然ですけれども。会得するには相当な努力が必要ですよね」

 

そう言い、姉さんは伊之助君の方に近づく。

 

「まあ、出来て当然ですけども。仕方ないです。出来ないなら。しょうがないしょうがない」ポン

 

 

「は、はあーーん!!?できてやるっつーの当然に!舐めんじゃねぇよ!乳もぎ取るぞコラ!」

 

そして、姉さんはこちらに視線を送ってきた。

多分、さっき言っていたことをやれということだろう。

 

あれをやるのは少し恥ずかしいが仕方がない。

僕は善逸君の方に近づく。

 

「が、頑張ってください。善逸君。一番応援していますからね」ギュッ

 

僕は姉さんに言われた通り、善逸君の手を握り、精一杯の笑顔でそう伝えた。

すると、善逸君の顔は見る見る真っ赤になった。

 

「私も応援していますよ。善逸君」ニコッ

 

さらに姉さんの一言も重なる。

 

「ハイッ!」

 

善逸君は顔から湯気が出そうなほど真っ赤にさせて、元気に返事をした。

 

本当にこれで二人は常中を習得出来るのか僕は不安にしか思えなかったが、姉さんはまるで、よくやりました。とでも言いたげな顔をしてこちらを見ている。

果たして、これで良かったのだろうか‥‥?

 

 

○九日後

 

「やってやったぞゴラァ!!」

 

「俺は誰よりも応援された男!」

 

二人の怒声の様な声が響く中、何と善逸君達は九日で常中を習得した。

三人は歓喜の声を上げて喜んでいる。

 

 

「優月、大丈夫だったでしょう?」

 

僕が少し困惑している中、姉さんが話しかけてきた。

 

「う、うん。僕も流石に驚いたけどね。姉さんは人に教えるのが上手いよ」

 

 

「ふふっ、嬉しいですね。ですが、優月の可愛い応援があったからだと私は思いますよ」

 

 

「っ‥‥何さ!可愛い応援って!」

 

 

「あら、可愛かったですよ。善逸君の手を握って少し顔を赤くしている優月が」

 

 

「顔なんて赤くしてないってば!それと、可愛いとか言うのやめて欲しいんだけど‥‥」

 

 

「無理ですね。それと、私にもやってくださいよ。手を握って『姉さん、一番応援してるからね』と言ってくれたら私はもう無敵ですので」

 

 

「い、いやだ‥‥姉さんには絶対やらない」

 

 

「良いじゃないですか〜」ジリジリ

 

 

「ち、ちょっと!こっち来ないで!」

 

 

「ふふっ、このままでは壁に追い詰められてしまいますよ?そうしたらもっとすごいことやってもらいますから」

 

 

姉さんの言う通り、後ろはもう壁。逃げ場なんてない。

姉さんはさらに距離を詰めて近づいてくる。この状況はまさに絶体絶命だ。

というか、此処には炭治郎君達もいるんですが‥‥。

炭治郎君達は一向に気づかなさそうだけど。

 

「あ、あのさ。炭治郎君達も居るわけだし‥‥」

 

 

「‥‥確かにそうですね。仕方ありません。また今度やってもらいましょうか‥‥」

 

姉さんが僕から離れていく。

な、何とか助かったようだ。

炭治郎君達が居なかったら一体どうなっていたことやら‥‥。

 

まあ、そんなことより、今は三人の全集中・常中の会得を喜ばなくちゃね。

 

 

 

 

「姉さん、見送りは良いの?」

 

 

「はい、きよちゃん達がしてくれていますので」

 

今日は炭治郎君達がついに出発する日。

僕は今、姉さんの自室にいる。

その理由は姉さんから呼ばれたからだ。

理由はまだ聞かされてないが、僕は炭治郎君達の見送りをするつもりだった。

しかし、僕は姉さんの方を優先した。

 

「それで、どうしたの?急に呼んで」

 

 

「実はこれを渡そうかと」

 

そう言い、姉さんは袋に包まれたものを出した。

 

「これは?」

 

「取り敢えず開けてみてください」

 

僕は姉さんの言われるがまま袋を開ける。

すると、中には簪が入っていた。

 

「えっと‥‥これは簪?」

 

 

「ええ、そうです。優月に似合うと思って買いました」

 

 

姉さんからの贈り物。そう考えるととても嬉しいのだが、なんせ簪は女性用だ。

それを僕がつけるとなると、少し抵抗がある。

 

「ありがとう、姉さん。でも、何で簪?」

 

「優月なら女物でも似合いますからね。それに髪が長いですし、たまには髪を留めた優月が見たくて」

 

「はあ‥‥それが本音か。まあ、嬉しいから良いよ。でも、いきなりどうしたの?」

 

 

「いえ、たまたま町を歩いていたらこの簪を見つけたんです。それで優月に似合うと思ったから買ったんですよ」

 

 

「それはまた、いきなり‥‥」

 

僕は手元にある簪をもう一度見る。

すると、簪に花の蕾の柄があることに気づく。

僕は疑問に思い、姉さんに問いかけた。

 

「この柄、花の蕾?何の花なの?」

 

「ああ、それは薔薇の蕾らしいですよ」

 

「薔薇の蕾‥‥そうなんだ」

 

 

何故蕾の柄が入ったのを選んだのかは分からないが、姉さんの贈り物は毎回その人に合ったものを選んでくれるから嬉しい。

前は櫛を貰った。なんか髪に関しての贈り物ばっかな気がするけど。

でも、やっぱり嬉しい。この感情が僕の中で溢れる。

 

「本当にありがとう。姉さん」ニコッ

 

感謝の気持ちを精一杯の笑顔で伝える。

対価としては割に合わないと思うけど、姉さんは満足したようだ。

 

 

「はい、喜んでくれたようで何よりです」

 

 

姉さんも微笑みながら言葉を返す。

家族からの贈り物。

それは心が暖まる不思議な感覚。

幸せと実感させるこの感情はとても心地良い。

僕は改めて家族の暖かさを知った気がしたーー。

 




薔薇の蕾の花言葉って色によって異なるんですよね。
良かったら調べてみてください。



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七話 霞に消える炎

今回はシリアス。
題名の様に煉獄さんについてのお話。
煉獄さんかっこいいけど、悲しいよね‥‥。





「いつ見ても此処は富士の花が綺麗だな‥‥」

 

 炭治郎君達が屋敷を出てから数日。僕はお館様の居る産屋敷邸に来ていた。

 

 それには理由が一つ。冨岡さんに薬を届ける為だ。

 冨岡さんはいつも姉さんが作る傷の治癒効果がある薬を服用している。

 柱であるが故、強い鬼と会う事も珍しくない。鬼と戦闘をした後、その度に冨岡さんは傷を負いながら蝶屋敷に訪れてくる。

 極め付けには、

 

『胡蝶、いつものをくれ』

 

そう言って薬をせがむ。

 常連さんか!と、言いたくなるが、もう常連さんなので何も言うことはない。

 

「胡蝶、いつものあるか」

 

そうそう、こんな感じでーー。

 

「っ!?冨岡さん!?」

 

いきなり背後に現れた冨岡さんに驚き、僕は思いっきり後ろに後退る。

 

「‥‥なんで後ろに下がる」

 

「い、いやいや。普通は驚くでしょう?いきなり後ろに現れたら」

 

 平然とした冨岡さんに少し怒りたくなる気持ちを抑えながら会話する。

 というか、本当いつの間に居たのか‥‥。

これで普通に近づいてきたとか言ったら‥‥ね。

 

「俺は普通に近づいて来ただけだ」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 まるで僕の心を読んでいたかの様に冨岡さんは言葉を発した。相変わらず何というか‥‥冨岡さんらしいな。慣れすぎて嫌悪感すら感じない。

 そう思った僕は、一旦この話を打ち切り、本題である薬を渡す。

 

「まあ、もう良いですよ。はい、いつもの薬です」

 

「ああ」

 

 あまりにも短い返答に少し癪だが、無事に薬は冨岡さんの元へ届いた。

 これにより、姉さんのお願いは達成。今日は任務も無い為、特にする事はない。

 

「‥‥そろそろ俺は行く」

 

「え?ああ、もしかして任務ですか?」

 

「‥‥ああ、町の周辺の聞き込みだ」

 

「そうですか。朝とはいえ、お気をつけて」

 

「‥‥ああ」

 

 そう言い、冨岡さんは屋敷の出口へと向かう。僕はその後ろ姿が消えるまで見送る。

 今更だが、今日、珍しく冨岡さんは屋敷に居た。いつもは探すのにとても苦労しているのだが。

 まあ、ただ珍しいっていうだけなのだけど。

 

 

「むっ、胡蝶少年!屋敷に来てどうしたのだ」

 

 いきなり後ろから聞こえる元気な声。

 後ろを振り向くと、そこには特徴的な炎を思わせる髪色と双眸を見開いた人物が一人。

 その人物の正体は、柱の一角、炎柱の煉獄さんだった。

 

「あ、煉獄さん。いえ、冨岡さんに薬を届けに来まして」

 

「そうか。いつも胡蝶の薬には俺も世話になっている」

 

「あ、あはは。ありがとうございます」

 

 煉獄さんは何というか、明朗快活な人だ。

 実は、柱の中で二番目に接点がある人だったりする。勿論一番は冨岡さんだ。

 冨岡さんと対照的な煉獄さんは、明るく活発で、鬼殺隊の中でも信頼が高い。

 そんな煉獄さんを僕も強く信頼している。

 

「‥‥煉獄さんは、もしかしてこれから任務ですか?」

 

 煉獄さんをよく見ると、キチッとした隊服に羽織、腰には刀を差していたため、そう問いかけた。

 

「うむ。実は鬼の新しい情報が出たのでな。向かわせた隊士がやられたらしい。一般大衆にも被害が出ている。放ってはおけまい」

 

「十二鬼月でしょうか‥‥‥どちらにせよ、気をつけてくださいね」

 

「ああ、心得ている。では、俺は行く」

 

「はい、厳しい任務かもしれませんが、頑張って下さい」

 

 煉獄さんの背中を見送り、僕は呟く。

 

「本当に、お気をつけて‥‥」

 

だが、向かうのはあの煉獄さんだ。心配などいらないだろう。

 

 

 でも、何故だろうか。妙な胸騒ぎがする。

自分の心臓が誰かに掴まれている様な感覚。

 この感覚は初めてじゃない。一度経験した事がある。

 

大切な人が亡くなる時のーー嫌な悪感情。

 

 僕の心には重い不安要素が取り巻いた。その不安は落ちない泥の様にへばりつく。

 

まさか、また大切な人が居なくなる‥‥?

 

 その考えを僕は瞬時に否定した。そんな事、あってはならない。

 カナエ姉さんを亡くしてから、僕は誓った。

みんなが平和に暮らす。この夢を目指して。

 

 その為に、僕は鬼殺隊に入った。今度は誰も失いたくない。いや、僕が失わせない。

 そう、決めたのだから。

 

 

 

だが、僕は忘れていた。

鬼殺隊に所属していること。

それは、常に身に危険が襲いかかって来る。

例え守りたくても、それが叶わないことだってある。

それ故に、後悔し、自分の力の無さを実感する。

 

 

いつもそうだ。

僕は大事なところを見落とす。

だから、僕は大切な人を亡くすのだーー。

 

 

 

 

 薬を届け数日。僕は暇を持て余していた。屋敷の縁側に座り、ただ庭の花々達を見つめいてる。

 蝶の羽、一枚一枚が揺らめくいつもの何気ない空間。

 指に止まる一匹の蝶を見て微笑む。そう、いつもと何も変わらない日常の筈だった。

だが、それは急激に変化することを今の僕は知らないーー。

 

 

「カァー!カァー!」

 

 そんな所に、突如聞こえる甲高い鴉の声。

空を見ると、慌ただしく飛ぶ鴉の様子が目に映る。それは僕の鎹鴉だった。

 僕の鎹鴉は、いつも比較的に温厚で、口調も優しげのある鴉だ。それなのに、この慌てよう。

 その光景を目にし、僕は不穏な空気を感じ取る。

 

「そんなに慌ててどうしーー」

 

「カァー!死亡!煉獄杏寿郎死亡!上弦ノ参ト格闘ノ末、死亡ーーッ!」

 

「っーーー」

 

 僕の言葉を遮って発せられた訃報は僕に衝撃を与えた。

 また、信頼していた人が亡くなった。あの苦しみをもう味わいたくないのに。

 また‥‥‥‥僕の周りから人がいなくなった。

 受け入れ難い現実。だが、これは紛れもない現実。それを理解させる時間は遅くなかった。

 

『胡蝶少年!』

 

 聞こえないはずの声が耳の中で反響する。走馬灯の様に蘇るこの記憶が、さらに僕の心を締め付けた。

 

「煉獄、さん‥‥‥」

 

 

数日前に会った筈の煉獄さんはもうこの世には居ない。

 

 

煉獄さんは、霞の様に消えてしまったのだからーー。

 

 



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八話 不安と安堵

遅れて本当にすいません。

これからも執筆を続けますので何卒よろしくお願いします‥‥。





 

 煉獄さんの訃報から約四ヶ月の月日が経過した。

 蝶屋敷には上弦との戦いで重傷を負った炭治郎君達が訪れ、治療された。そして安静状態からも解放。

 

 三人は既に任務を受けれる状態まで回復し、炭治郎君達は屋敷で鍛錬に取り組んでいる。

 きよちゃん達を背中に乗せ、声を出しながら腕立てを行う三人組。

 その表情には、何処か落ち込み様が見て取れた。

 

 それもその筈、炭治郎君達は煉獄さんと一緒の任務についてたらしい。

 そこで、上弦との戦闘。つまり、煉獄さんの死を目の前にしたのだ。

 

 きっと、己の非力さを恨んだ事だろう。

 大切な人が目の前で亡くなる辛さは嫌と言うほど分かる。

 

 更に鬼への憎悪が増え、力をつけようと努力した日々。

 それが、僕の歩んで来た道なのだから。

 

「兄さん。師範が呼んでます」

 

 突如、後ろから発せられた言葉に振り返る。その声の主はカナヲだった。

 

「ああ、カナヲ。‥‥姉さんがか。‥‥うん、分かった。今行くよ」

 

 今日は特に任務は無く、僕は待機命令。故に、姉さんが僕を呼ぶ事に少し嫌な予感を覚える。

 悪い用事では無い事を祈りながら、姉さんの自室へ足を運ぼうとしたその時。

 

「あ、あの‥‥」

 

 カナヲから裾を掴まれ、僕は歩みを止める。

 その裾を掴むカナヲは何処かもじもじとしながら俯いていた。

 

「どうかしたの? カナヲ」

 

「え、えっと‥‥私、これから任務で。そ、その‥‥」

 

 ぽつぽつと呟きながら言葉を繋ぐカナヲ。

 少し顔を赤らめ、中々言葉を発さない事に少し困ってしまう。

 

 そんなカナヲに視線を送り続ける中、よく見るとカナヲの手が震えている事に気が付いた。

 一度寒いのだろうかと考えたが、そんな馬鹿な考えは打ち消し、先程のカナヲの言葉を思い出す。

 

 カナヲはこれから任務に行くと言っていた。

 

 もしかしたら、不安なのだろうか。

 

 煉獄さんの訃報を耳にした時、カナヲがどう思ったのかは正直分からない。

 だが、親しい人が亡くなった事で不安に思ったのだろう。

 

 カナヲも一度大切な人が亡くなる悲しみを知っている筈だ。

 それ故、不安になっても何ら可笑しくない。

 

 僕は未だ俯き続けるカナヲの頭へ手を伸ばす。

 笑顔で、カナヲを少しでも安心させられるように。

 

「大丈夫だよ。カナヲ。カナヲは強い子だからね。例え不安になっても、僕や姉さん、皆が居る。カナヲには仲間が沢山いるんだから、何も不安になる事なんて無いよ」

 

 なるべく優しく、カナヲの不安を取り除けるよう僕はカナヲの頭を撫でた。

 

「ぁ‥‥‥は、はい。ありがとう‥‥ございます」

 

「うん、頑張ってね」

 

 カナヲは小さく返事を返し、出口へと足を進める。

 気の所為か、そのカナヲの表情は先程よりも柔らかくなったように見えた。

 

 僕はその姿に安堵しながら、姉さんが呼ぶ自室へと改めて歩みを進めた。

 

 

 

 

「来ましたね、優月」

 

「一体何の用事かな。姉さん」

 

 僕の言葉を聞き、少し微笑む姉さん。

 その微笑みからは、予感が的中したように何処からと嫌悪感を匂わせた。

 

「実は、宇髄さんからお願いされまして。女性の隊員を貸して欲しいと」

 

「女性の隊員? それはまたどうして?」

 

「次の任務に必要らしいみたいなんですよ。目的はよくわかりませんが、そう言われました」

 

 宇髄さんと言うと、姉さんと同じ柱に位置する人物だ。まあ、接点が無い訳では無い。

 ウチの屋敷が怪我人を治療する場所故、どうやっても接する機会はある。何が言いたいかというと、宇髄さんは少し苦手なのだ。

 

 それに関して理由は多々あるが、取り敢えずその目的が分からないというのは怖い。

 まず、姉さんの性格からして、そんな事に隊員を貸すなんて事は無いと思うのだけど。

 

「勿論私は拒否しましたよ。屋敷の隊員は貸し借り出来る物では無いですから」

 

 僕の思っていた通りの答えを出す姉さん。

 

「そうだよね。‥‥でも、この話と僕に何の関係が?」

 

「ふふっ、よくぞ聞いてくれました」

 

 更に深い笑みを浮かべ、姉さんは僕に視線を送る。

 待ってましたと言わんばかりな言葉の含みに、思わず息を飲んだ。

 

「実は、この件に関して優月を貸す事になったんですよ」

 

「‥‥え?」

 

 先程の笑みとは変わり、にこにこしながら言葉を発する姉さんの姿。

 その表情は一切の悪びれも無く、口角の上がった明るい笑顔だった。

 

 というか、今、なんて言いました?

 

「い、いやいや、何で僕なの? 宇髄さんは女性の隊員を探してるんでしょ?」

 

「ええ、それに関して宇髄さんに言ったんですよ。女性ではなく、"女性のような人"ならばどうかと」

 

「‥‥へ?」

 

 訳の分からない言葉に、思わず素っ頓狂な言葉を出してしまった。

 女性ではなく、女性のような人? 正直、理解出来ない。

 いや、理解したく無い。

 

「‥‥それは、僕が女性みたいだからって言うこと?」

 

 僕の言葉を聞き、ニヤリと姉さんは笑う。

 

「そういう事です」

 

 キッパリと言い切った一言。

 僕はその言葉を聞いて、溜息を隠せなかった。

 

「おやおや、優月は嫌なんですか?」

 

 今度はニヤニヤとした表情に変わり、先程から変化し続ける姉さんの表情に憤慨を覚える。

 勿論、その質問に回答するならば。

 

「当たり前でしょ‥‥嫌に決まってるじゃ無いか‥‥」

 

 僕は拒否したい気持ちでいっぱいだった。

 その理由としては、まず宇髄さんが苦手という点。

 傲岸不遜というか、癖のある性格に少し苦手意識がある。

 故に、二人で任務となると息が詰まってしまうのだ。

 

 二つ目は、言わずもがな僕が選抜された事。

 女性の様な人とは何なんだ。腑に落ちない理由に納得しかねる。

 というか、宇髄さんはそれで良いのだろうか。

 女性の隊員を貸して欲しいと言っているのに、僕なんかで代用出来るのかが分からない。

 

「‥‥宇髄さんはそれで承諾したの?」

 

「ええ、しっかり承諾してくれましたよ」

 

 宇髄さんめ‥‥何で承諾してしまうんだ‥‥。

 僕は女性じゃないのですがね!

 

「‥‥ですが、流石に私の弟と言えども理由を聞かずに貸すわけにもいかないので、宇髄さんに理由をお聞きしたのです。何故女性の隊員が必要なのかと」

 

 流石がというか、姉さんもそれなりに僕の事を気にかけてくれているみたいだ。

 確かに、その理由は僕も気になる。

 

「そうしたら‥‥‥遊郭に、鬼が居るかもしれないとの事で」

 

「っ————それは、一体‥‥」

 

「宇髄さんには三人の奥さんが居るんです。その人達は鬼の情報を探る為、遊郭に潜入していたそうで、最近連絡が途絶えたらしいのです」

 

「つまり、そこに鬼が居るのはほぼ確定って事だよね‥‥」

 

「そうですね。男性隊員となると中まで探る事も出来ないでしょうし、その為に女性隊員が必要だったんでしょう」

 

「なるほどね‥‥」

 

 道理で女性隊員が必要だったのか。理由は把握する事ができた。

 ただ、宇髄さんの奥さんが連絡不詳になったという事は安否はどうなったのだろう。 

 

 ‥‥だからこそ、宇髄さんは早急に進めたい筈。

 それなら、僕がどうこう言っている暇はない。

 この間にも、鬼は人を襲い続けるのだから。

 そうして、僕は決心する。 

 

「‥‥うん、早く行かなきゃ。どうこう言っている暇はないからね」

 

「ありがとうございます、優月。いきなり伝えた事ですから、迷惑だったでしょうに」

 

 先程とは打って変わって、しおらしい表情で申し訳なさそうにする姉さん。

 その表情を見て思わず笑みが溢れてしまった。

 

「ふふっ、大丈夫だよ、姉さん。僕は迷惑なんて思ってないから」

 

「‥‥相変わらずですね、優月は。でも、良かったです。そう思っていてくれていたなら」

 

 姉さんと向かい合い、微笑みを交わし合う。

 

 きっと、これは姉弟の特権だろう。

 姉弟だからこそ、気軽に話し合い、笑顔を交わせる。

 

 そんな小さな姉弟の特権を実感しながら、僕は一つ、質問を落とす。

 

 

「そう言えば、その日時とかはいつになっているの?」

 

「ああ、実は今日なんですよ」

 

「え?」

 

「今日なんですよ」

 

「‥‥‥‥‥はい?」

 

 

 

 

 こういう姉さんの性格は、きっといつまでも変わらない事だろう。

 それすらも、姉弟だから理解できる。

 

 改めて、僕と姉さんは姉弟なのだと実感しながら、少しの安堵感に包まれた。

 

 だが、それと同時にこれからの任務に僕は強い不安を覚えるのであった。

 

 

 

 

そして、僕は大事な事を一つ見落とす。

 

 

遊郭に潜入するには、女性の隊員では無いといけない。

 

 

では、男性が潜入するには、どうするのだろうか———。

 

 

 

 

 



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