星空の刃 (鮫牙社長)
しおりを挟む

1章 最終選別
序章


初めまして、鮫牙社長です。
アニメから入り、原作を読み始めて、鬼滅の刃の世界観にどっぷりハマってしまいました。

そしていつしか『二次創作が書きたいな』と思うようになり、この度、筆を取りました。

何分初心者かつ文才が乏しいので、設定との矛盾及びその他失敗が多々あると思いますが、その際は指摘して頂けると幸いです。

それでもいいよ、という方は、どうぞこのまま先に進んでください。

そして、楽しみながら読んでいただけると嬉しいです。


「……君ならなれるよっ、鬼殺隊に。」

 

なんだ? これは。

 

「そうかな……」

「もちろんだよ、だってこんなに強くなったじゃない。」

 

ああそうだ……これは……。

 

……――

 

「……んっ」

 

襖から除く朝日の光と、私のいる小屋の屋根にいる雀の鳴き声で目が覚める。はぁ、と溜息を一つついた後、立ち上がり勢いよく襖を開ける。そして朝日を今度は直に浴び、重い眼を回復させる。

 

「……懐かしい夢を見ちゃったな。」

 

私はパンパンと頬を叩き、気持ちを整える。そして、クルっと振り返る、そして師匠から託された"刀"を手に取り、外へと駆け出し、長らくお世話になった小屋を後にする。……そう、今日は"鬼殺隊"の最終選別が、藤襲山にて行われる。その試練に生き残ることが出来たなら、晴れて鬼殺隊となれる。

 

「師匠、私、頑張ります。」

 

腰につけられた日輪刀……これは、私の師匠が死ぬ間際に託した物、本当は卒業時に譲り受ける物だったのだけれど……。

 

野を走る、単なる移動時間だ、でもこの一時、この瞬間、ありとあらゆる行動全てが、懐かしく思える。私は師匠の元で修行をする前、非常に軟弱であった。

 

親が謎の死を遂げ、途方に暮れていた時に、私は人生で初めて、鬼という存在を知った。深き森の奥で、私は鬼に身体を掴まれ、喰われそうになっていた。

 

その時の事は、今でも時々夢に見る。恐怖以外の何物でもなかった、目の前に広がる大きな口、そこから()()()()()数々の怨念、とても良い心地はしなかった。

 

その時、初めて私は家族が鬼に食われ、死んだのだと知った。なぜなら、()()()からだ。その数々の怨念の中に、うっすらと、私の家族の温もりが。

 

私は生まれつき、眼がよかった。だから、普段見ることのできない物も見える。それが、私の唯一の取り柄だった。

 

その温もりを感じながら、鬼に食われる時を待っていた時に助けてくれたのが、師匠だった。今は私の腰につけている日輪刀で、その鬼の頸を切り裂いた。それも一瞬であり、私の眼でさえ、追うことはできなかった。

 

それからと言うものの、私は師匠に付き纏った。師匠は、私の存在に当然気づいてはいた物の、嫌な顔は一つもしなかった。むしろ、照れている様な感じがした。

 

そして私は、師匠に『強くなりたい』と申し出た。師匠は笑い、その申し出を受けた。それが、私と師匠の関係が生まれた瞬間だった。

 

「……着いた。」

 

数々の希望者と思われる者達が、ここ藤襲山に集結していた。ここで行われる最終選別……それを突破する事が出来れば、晴れて鬼殺隊となれる。

 

「よし。」

 

私は腰の日輪刀の柄を強く握りしめ、藤襲山の中へと入っていった。

 

――……

 

静かな山の中だ、先程まで咲き誇っていた藤花の臭いは、完全に拭いさっていた。

 

――この鬼殺隊士が生け捕りにした鬼が蔓延っている藤襲山で7日間生き延びる。

 

これが、この最終選別の試練だった。なるほど、確かに鬼殺隊らしい試練だ。

 

「確か鬼は陽の光に弱い……。まずはこの夜を乗り切らないと。……でも、簡単には乗り切らせてくれないみたいだ。」

 

私は眼を研ぎ澄ませる、辺りで聞こえる悲鳴と鋼と"何か"がぶつかり合う音。それらの方向に向かって眼を向ける、鋭く……そして、あらゆる先を見透す眼を。

 

「……見えた。」

 

青き袴と狐のお面をつけた少年……それは私のいる場所よりやや北東の位置、そこで鬼2体と交戦。そして、私よりやや南西の位置で、黄色の髪色をした少年の悲鳴……そして。

 

「……私の後ろ。」

 

私はガバッと前に回転し、素早く振り向く。後一秒程遅れていたら、完全に頭をやられていた所だろう。

 

「ヴェへへへ……!! 女だ、女の肉だ!! 女は男より上手いんだ……!!」

「……鬼にも()()()()奴はいるんだね。」

「ヴェへへへ……へァ!!」

 

飛びかかる、師匠より遅い。師匠より遅ければ、なんてことは無い。『敵の攻撃を避けるためには、相手の"位置" "視点" "攻撃の軌道" それらを先読みすればいい。』師匠はそういってくれた、確かに……避けるのは簡単だ、でも……。

 

「へァ!!」

「うわっ……」

 

私は力が弱い、一発鬼の攻撃を刀で受ければ、確実に私が押し負ける。鬼は力が強い……最悪、あの鬼は私の力の2倍以上は持っているのかもしれない。

 

「ヴェへへへ……さぁて、そろそろ餌になってもらうぞ!!」

 

師匠は言った。『力が弱くても関係ないよ。先に頸を斬った方が勝つんだから。力がダメなら……"速さ"で勝て』と。

 

でもどうしたらいいのか……そんな時、師匠は()()という物を教えてくれた。でも、実際の使い方は教えてくれなかった、教えてくれたのは原理だけ、あとは修行あるのみ、だと。

 

しかし、結局は"速さ"だ。いくら呼吸を使えた所で、頸を斬れなきゃ意味が無い。だから私は、"速さ"だけを磨いた。あの憧れた、師匠の持つ"斬る速さ"を目指して。

 

そしてこれが、その修行の成果だ。

 

「師匠……ありがとうございました。この呼吸は……私と、師匠二人で編み出した呼吸です。」

 

――全集中……

 

――()の呼吸……

 

――壱ノ型……

 

「……"彗星"」

 

一閃。気がつくと私は、鬼の頸を斬っていた。綺麗に輝く彗星の如く駆け出し、その"速さ"で頸を斬ったのだ。

 

「グェ……ェ……」

 

やがて、鬼の頸は地面に落ち、身体共々塵となり、消え去った。

夜空を光速の速さで駆け走る彗星、そして夜空を輝く星々の光のように鋭く鬼の頸を斬る剣技の呼吸。

 

――それが、星の呼吸だ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話 上には上が

2話です。やっと鬼滅の刃全巻揃いました。
やっぱ善逸大好き、すこ……。

それではどうぞ。

注 お気に入り登録してくれた方、ありがとうございます!! これからも頑張ります!!


「はぁ……朝日はまだ!?」

 

さっきの戦闘から1時間が経過する。私が決めた作戦が『朝日までとにかく走り、時折木の影に身を隠して休みながら、別の場所に移動する』といった物だ。

 

走る事で"速さ"が増せば、その分日輪刀にかかる力は桁違いに上がる、それが力が弱い私の最も得意とする戦法だった、そしてそこから生まれたのが、先程の"星の呼吸"だ。速さを武器に、星の如く敵を切り裂く。元より星が大好きだった私にピッタリな呼吸だった。

 

「……でもさすがに、呼吸1発分使うと体力がかなり消耗するな。このまま何も無ければいいけど。」

 

走ってくる鬼は、とにかく避ける、避けるのが難しい時は勢いに身を任せ頸を斬る。この師匠の日輪刀なら、走ってる時だけなら斬れる、その分の体力消費は否めないが、ずっと立ち止まって殺されるぐらいなら断然マシな方だろう。

 

「あんだけいた最終選別希望者……今何人くらいだろう。悲鳴の数から推測して、既に5、6人は減ってるかな、結構早いね。」

 

「でも選別希望するくらいなら、私より絶対に力強い人が多いはずだよね。というか、ここにいる鬼って確か2、3人しか食ってない鬼ばかりじゃ……」

 

そんな時だった、私のいる場所より少し先の方から一人の希望者が逆方向から走ってきた。先程の青い袴と狐のお面の少年でもなく、金髪の少年でもない、ただの緑色の袴を着た少年だった、私はザッと立ち止まり、話を聞いた。

 

「な、何かあったの?」

 

「し、知らねぇし聞いてねぇよ。でけぇ鬼がいたんだ。2体だ、1体は狐の面をした少年が対峙してるけど、いずれ死んじまうし……後の1体は訳わかんねえよ。まるで狼だ、鬼なんかじゃないような……そいつに皆食われちまった。お、お前も逃げた方がいいぞ!!」

 

「大きい……鬼?」

 

言うだけ言って少年は去っていった。そういえば避けてきた鬼は私を追いかけてるのだろうか?となれば何れ彼が見つかってやられてしまうだろう、ちょっと申し訳ない気持ちになった。

 

「大きな鬼、ねえ。出会わなかったら御の字だけど、後の1体が、放棄されっぱじゃあねえ。」

 

私は溜息を着き、身体を整える。いつでも戦える準備を整え、私は再び走りだした。とにかく1時間は安全に過ごせそうな場所……せめて大木の裏だ。あるか分からないが、まずはそこを目指そう。

 

走る度に悲鳴の数が酷くなっていく、やはりおかしい。弱い鬼しかいないのなら、そんなに悲鳴は少なくない筈だ。てことは、先程の少年が言っていた事は真実なのだろうか。

 

「狐のお面をした少年は多分生きてると思うけど、あの時、鬼と対峙してたし……。最終的に生き残るにはその鬼とも対峙しないと行けない。つまり誰かが斬らないと行けないわけだ……っあ!!」

 

私は立ち止まり、日輪刀の柄に手をかける。……見えたんだ、ここから十数メートルといった辺りで、希望者が数名が食われていた。眼が悪かったら突撃していたところだ。でも気配がない、足音もない。さっき彼処で希望者を食っていた筈だ。

 

「どこだ……? どこにいる?」

 

刹那……後ろ直ぐから声が唸った。

 

「……二ヒ、可愛い少女。」

 

「!?」

 

私は前方に飛び跳ね、振り返った。しかし、姿が見えない。いや、いたんだ、いたはずなんだ。でもいない。まさか、先程少年が言っていた、大きな鬼の残り1体か?

 

「どこにいるの? 出てきなよ!!」

 

「ニヒ、じゃあ要望通り出てやるよ、お前は食われるだろうがな!!」

 

「後ろか!!」

 

日輪刀を引き抜き、後ろで開かれていた牙をいなす。しかし力が弱いため、私はすぐに奥へと吹き飛ばされた。

 

「うっ……」

 

「いいねえ、反射神経がいい……。欲しいなあ、その反射神経、その眼、その顔……。」

 

「……っ」

 

私は初めて鬼の姿を見た。身体は本当に犬……いや、狼のようだった。でも違うのは、身体中至る所に人の顔が埋められている事だった、明らかな異型、鬼の共通点だ。

 

「ここには色んな人がやってくる。腕試しに丁度いい……二ヒヒ、そして俺は気に入った顔や運動能力を持つ者がいたら、真っ先に欲しくなる。狼は群れで行動するからなあ、仲間は多い方がいいのさ!!」

 

「そう、でも私は仲間入りなんて御免だね。」

 

「二ヒヒヒ、嫌でも仲間になってもらう、ゼェ!!」

 

鬼はすぐ眼前から消え去る。速い……助けてくれた時の師匠程ではないが、それでも凄く速い。修行していた頃の師匠は、こんな速さは出さなかった。

 

(集中するんだ……"眼"で追えば、いつか隙が見える……)

 

敵の足跡……軌道……呼吸……それら全てを追う。そして此処ぞという所で"彗星"を打つ、これに尽きる。

 

「オイオイ、来ねえのかぁ。だったら、もう食っちまうぞ!!」

 

「……ここだ!!」

 

敵がくる、その寸前のタイミング……相手の速さを予測するんだ。

 

――全集中 星の呼吸 壱ノ型 "彗星"

 

私は敵の頸目掛けて彗星の如く日輪刀を奮った……が、その刃は頸を斬ることなく、その寸前で止まった。

 

「……え?」

 

「おおっ、今のは早かった……すごい早かった。でもなぁ、足りない、まだ足りない、ナァ!!」

 

「ぐっ!!」

 

食われる、その寸前私は牙に足をかけ、それを勢いよく蹴り飛ばして後ろに後退する。

 

「"彗星"が……止められた?」

 

「二ヒヒヒ、お前さん、少しは上を見た方がいい……もしかして、自分より速いやつを見たことがなかったのかぁ?」

 

「……」

 

確かにそうだ……。私は師匠以外に速い存在を見た事がなかった。

 

――私は目の前には今……上がいるんだ。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話 その身は共に歩んで培った。

早めに書きたくなりました、許してください……

それではどうぞ


「ニヒヒッ、ほれほれどうした、さっきまでの威勢はっ」

 

「う……」

 

痛い、逃げようと地を蹴りあげ駆け抜けようとしても、すぐに追い抜かれ、蹴りの一撃がくる。こればかりは避けようがなかった、単純に私が弱いだけの話だ。蹴りをくらい、その隙に手の日輪刀を振るおうにも、直ぐに鬼の拳が私の腹や顔に振り下ろされ、無力化される。この一連の行為で私はすぐにわかった、こいつは人間を喰らい、人間を殺すのに慣れている。強さと身体に植え付けられた顔の数が、それを物語っていた。

 

「さぁて……そろそろ動けなくなってきた頃かなあ、ニヒヒ。」

 

「……」

 

「お前さんは、今まで戦ってきた奴らの中で1番強かった……でも結局は俺に殺される……そういう運命だ。俺はな、これ以上鬼殺隊を生み出さないって誓ったんだ……ニヒヒッ、そうすれば、今いる鬼殺隊だけを殺せば、俺ら鬼が支配する世界の完成だ……ニヒヒ」

 

「なんで、傲慢な。」

 

「そういう存在だ、俺ら鬼っていう物は、それじゃ、さようなら、二ヒヒ」

 

食われる、私の目の前で奴は大きな口を開いた。身体が動かない、既に1日に呼吸を2回も使った、しかも短期間に。

 

終わるのか?

 

こんなにあっさりと?

 

師匠と共に歩んできた時間はなんだったのだろうか。

 

「嫌だ、私は……」

 

「最期まで威勢がいいなあ、でも無駄だ、ほら、身体、動かないだろう」

 

私を掴む腕はさらに強くなる。身体が軋み、骨が折れる音がする。……私はナメていた、こんなにも鬼が強い物だなんて。

 

鬼の口の中に足が入る、ああ、もう無理だ。日輪刀もさっきの痛みで落としてしまった、今の私は奴に対抗する力なんて物はもっていない。

 

「……ごめんなさい、師匠。」

 

そうして、私の身体は奴の口の中へ、すっぽりとハマっていった。

 

……――

 

「し、師匠、もう、無理です」

 

なんだ? 私の声だ。

 

「ちょっとちょっと!! こんなんでへこたれてんの? あんた、今まで運動とかしてこなかったの?」

 

「す……すいません。」

 

走馬灯って奴だろうか?

 

「まったく、ほら、手貸すから、立ちなさい。そんなんじゃ、鬼一体の頸すら斬れないよ。」

 

「うう……」

 

そうだ、師匠はいつも厳しかった。私が修行中に限界が来て、膝をついた時も、師匠は私を叱りながら、立ち上がらせた。それでも疲れた時は、水をくれたり、空を見上げて星を見せてくれたりした。何時も修行は深夜の山奥でやっていたから、修行中は何時どんな時も星を見る事が出来た。そんな時、師匠は言ったんだ。『ここから見る星が一番好きなんだ』と。

 

「星が見えるから、修行はいつも夜にやるんですか? あれ、そういえば師匠、昼間は外出たりしませんよね。」

 

「ああ、うん。昼間はやる事がないからねえ、ホラ、鬼って夜に活動するでしょ? だから、昼間に探したりすると無意味だから、夜まで身を休めて、そして夜に鬼を探しに行くのさ。」

 

まあ、そんな事はもうどうだっていい。私は食われたんだ、もう……どうでもいいんだ。

 

……

 

「……諦めるのかい?」

 

師匠……。

 

「君は事ある事に『もう無理ですー』って、言ってたねえ。」

 

ごめんなさい、というか何しに? ていうか、何処にいるの? 確か、師匠はあの時……。

 

「何処に、か。ふふん、内緒。」

 

そんな……。

 

「でも大丈夫。私は君の近くに必ずいるよ。ほら、言ってたじゃないか。『私はずっと傍にいる』って、何時どんな時も……。」

 

何時……どんな時も……。

 

「そう、だから心配いらないよ。私と君は、いつ、どんな時も……」

 

――同じ星空を見ているよ。

 

――……

 

「ニヒヒ、あー噛まずに丸呑みっていうのも、案外いい物があるなあ、さあて、これであいつも俺のなか……ん?」

 

……言ったはずだ。

 

「私"達"は、仲間になるつもりはないって!!」

 

口を素手で切り裂き、その一瞬開いた隙間を潜り抜ける。呼吸というのは、身体向上のための最終手段のような物だ、決して、剣技だけの物ではない、ならば、それを応用すればいいだけの話だ。

 

「俺の口からっ、なんなんだこれは。ま、まあいい、どうやら完膚なきに潰してやらないと、気が済まないようだ、ナァ!!」

 

敵が来る、眼前から一瞬で消える。またこれだ、どこから襲いかかってくるか分からない、高速の一撃。でも、斬らなければならない。これ以上、ほかの希望者が犠牲にならないためにも、そしてなにより……。

 

「師匠が、見ているから。」

 

改めて夜空を見上げる、ああ、綺麗な星空だ。師匠も、何処かでこの星空を見ているのだろうか、何処かは教えてくれなかったけど。

 

「ニヒヒ、終いにしてやる!!」

 

私は目を閉じ、師匠の速さを想像する。本当に、光速その物だった、決して捕らえる事の出来ない、光速の斬撃。

 

敵は()()だ。なら、私はそれを越え、()()になればいい。集中しろ、私はここで死んでは行けない。それでは、師匠にあの世で顔立て出来やしない。

 

「だからここで、お前を斬る!!」

 

「ニヒヒ、出来るかなあ、お前さんは俺の頸を斬れなかった、遅いからだ!! 遅い剣なんて、俺に届く筈がない!!」

 

「だったら、それを越えるまでだ!!」

 

くりだせ……奴に見せつけるんだ。

 

師匠の……師匠と共に歩んで培った……師匠の光速を!!

 

――全集中っ!!

 

――星の呼吸っ!!

 

――惨ノ型っ!!

 

「"天刑(てんけい)"!!」

 

果てどない轟音を轟かし、私は奴の頸を斬った。惨ノ型 "天刑"は、星々の神が下す刑罰の様に、直線上にいる敵に避ける事の許さない斬撃をくりだす。

 

――必殺の剣技。

 

「あれ、俺、斬られたのか? 地面が、逆さになっている、嘘だろ? あいつの剣を……俺は捌けなかった。遅い筈の、あいつの剣を……!!」

 

鬼は罵倒の声を上げながら、塵と化していく。私は振り返り、それを見届ける。それと同時に私はドッと疲れが押し寄せてきた、膝から崩れ落ちる。

 

「あ、あれ、どうしてだろう、身体が、動かないや。」

 

そうして、私は昇ってくる朝日を目にしながら、眠りについた。

 

目覚めた頃には、『星の呼吸 惨ノ型 天刑』の事も、すっかり忘れていた。

 

この剣技は恐らく、師匠が私に与えてくれた、全力の力を振り絞りくりだす、奇跡の様なものなんだろう……。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話 目覚めと出会い

目指せ、お気に入り登録10人。

やっぱ原作キャラは口調とか考えながら、書かなきゃ行けないから難しい。


――……

「君は頑張り屋さんだなあ」

 

「え?」

 

「朝も昼も『やりましょう、やりましょう』っていうでしょ? そんなに修行積んでたら、本当に身体壊しちゃうでしょ。」

 

「つ、強くなりたいから。」

 

「うんうん、わかるよ。でもさ、疲れた身体じゃ、何事も覚えられないよ。」

 

「ご……ごめんなさい。」

 

「いや謝らなくていいから、ほら、手休めない」

 

――……

 

「……師匠。」

 

「え? なんか言った?」

 

「!?」

 

私はガバッと身を起こした。身体中の激痛と共に、空を見上げると、青空の周り一面が藤の花で蔓延っていた。

 

「こ、ここは……。って、痛った!!」

 

「ああ、まだ休んでいた方がいいと思うよ、骨折ってるから。」

 

「き、君は?」

 

「俺は竈門炭治郎。君と同じ、最終選別の希望者だ」

 

「あ、あの、狐のお面の子……」

 

「え? 会った事ありました!!? ごめん!!」

 

「いやっ、大丈夫!! 初対面だから!!」

 

やはり師匠以外の人と会話するのは苦手だ。毎回言葉選びを間違える。毎回他者から変に誤解されて距離を置かれてしまう。師匠は、他者との会話に失敗した私を見ると、溜息をつきながらも苦笑いをした。あれは多分"呆れ"と"笑い"のコンボから生まれた表情だろう、直さないとは思ってはいるが、いささか難しいのである。

 

「ここは?確か最終選別の範囲に、藤の花は無いはずじゃ。」

 

「ここは範囲の最東端だ。ここなら朝日もすぐに拝めるし、藤の花が近いから、鬼も少ないんだ。」

 

「……なるほど、頭がいいね。」

 

「いや、そこまで頭良くないと思うけど……」

 

あれ、若干煽られてる? と思いつつも不思議と苦笑いをしてしまった。この少年には、不思議な力があるのかもしれない……何となくだが、そう思った。

 

「その……つまりは、運んでくれたって事?」

 

「そうなるかな、あの場所で骨折れて寝てたら、いつ食われるか、分からないからね。」

 

「放っておいてもよかったのに。」

 

「そうはいかないよ、なるべく、皆で合格したいからね。」

 

「君はお人好しだね。」

 

少年と雑談を交わしていると、次第に身体も癒えてきた。そういえば、今この場に少年がいるという事は、あの大きな鬼は倒したのだろうか。

 

「あの……さっき、大きな鬼と対峙してたのよね。あれって、倒したの?」

 

「え、見てたの?」

 

「私、眼はいいんだよね。」

 

「そっか、うん、倒したよ。本当にギリギリだったけど、倒したんだ。」

 

身体を見ると、私以上に傷を受けていない。凄い少年だ、あの状況から、その程度の傷だけで済んだのか。やっぱり、まだ私は弱いと改めて痛感した。

 

「そういえば、相当な傷負ってたけど、そっちでも何かあったのか?」

 

「……こっちにも、大きな鬼が出た、速い奴。」

 

「そっちにも出たのか!!? それを、君一人で?」

 

「いや……あ、うん、そう。」

 

「凄いなあ、君にもいい育てがいたんだろうね」

 

「師匠……ってこと?」

 

「まあ、そうなるね。」

 

「うん、いい師匠だった。」

 

私はボロボロになった手で、横に置かれていた師匠の日輪刀を手に取る。こうやって静かに持つと、師匠の温もりを感じる。いつも師匠は、この日輪刀を優しく磨いていた。理由を聞いたら『内緒』と言われてしまった。でも、今なら何となくわかる。恐らく私に託すために、綺麗に磨いていたのだろう。そう思うと、不思議と涙が零れてきた。

 

「あれ、どうかした? 傷が痛むのか?」

 

「いや、大丈夫……ちょっと、師匠が恋しくなっただけ、私の師匠、最終選別の1週間前に殺されちゃったから。」

 

「そ、そうだったのか、ごめんよ」

 

「いや、いいよ。もう慣れたから。」

 

「ちなみに、どんな師匠だったんだい?」

 

「……ちょっと厳しくて、日常生活はあまり頼りない感じだったけど、弱い私を見限ったりしない、いい師匠だったなあ。」

 

「やっぱり、強かったの?」

 

「うん、とにかく速かったんだ。」

 

「へえ、会ってみたかったなあ」

 

「師匠も喜んだだろうね。」

 

私とこの少年、竈門炭治郎との雑談はその日が暮れるまで続いた。そして、その後も懲りずに鬼はやってきたが、二人で切り抜け、無事長かった7日間が終了した。

 

――私は、最終選別を乗り切ったんだ。




後書きには現段階で登場したオリジナル呼吸の一覧をのしておきます。

・星の呼吸 使用者:宵待 阿坐彌
* 壱ノ型 "彗星"
* 弐ノ型 ???
* 惨ノ型 "天刑"


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話 新たな鬼殺隊、そして任務へ

お気に入り登録が9人になりました。
一歩づつ目標に近づいてきました。

是非とも感想や評価をしていただけると、励みになったりします、よろしくお願いします。

それではどうぞ。


7日間が終わり、私達は集合場所へと戻ってきた。

 

あれだけ集まっていた希望者も今は私含め5人だけになっていた。やはり、炭治郎君と私が対峙した鬼で殆どやられてしまったのだろうか。

 

周りを見渡してると、集合時の案内人を務めていた2人の少女がまた訪れた。

 

『「皆様、お疲れ様でした」』

 

『「まずは、隊服を支給させていただきます。」』

 

――

 

隊服、当然鬼殺隊にも制服のような物は存在する、それがこの黒を基調とした隊服だ。そして、隊服には階級も刻まれており、階級は10段階まであるとの事。当然、合格したばかりの私達は、全員一番下の階級である"(みずのと)"が刻まれる。私は上の階級は、あまり望んではいない。死んだ師匠に、自分が強くなった事を証明できれば、それでいい。

 

そして次に配られたのは鎹烏、これは連絡用の人語を喋る烏。

 

そして、日輪刀の材料となる猩々緋鉱石と猩々緋砂鉄、いわば"たまはがね"だ。どうやら私達自身が選ぶ物らしい。

 

『「では、お選びください。」』

 

卓上に並べられた石塊を見る、眼を集中させてみても、まったく見分けがつかなかった。日の光にあてられ、煌びやかに輝く石塊、どれも美しかった。

 

「……あ。」

 

でもただ一つだけ、柱の影にかくれて、見事に日の光をうけてない石塊を見つけた。まるで、太陽を忌み嫌っているかのように、ひっそりと置かれていた。そういえば、師匠も夜以外は外に出ようとしなかった、そう思うと、この石塊が、不思議と師匠見たいに思えてきた、不思議な事だが。

 

「こ、これ、これにしますっ」

 

私は迷わず、それに決めた。

 

――……

 

「師匠、帰って来ましたよ。」

 

私は腰につけた師匠の日輪刀を高らかにかざし、小屋に向かって、帰還の報告をした。そうだ、私は師匠に向かって、これがやりたかったのだ、それはもう叶わぬ願いとなってしまったが。

 

「私の日輪刀が届くのは早くて5日間、それまでは休息か、まあ試練すぐに任務が来ちゃ、やってられないか。」

 

私は小屋の中へと入り、中心に位置する座布団に腰掛ける、目の前の囲炉裏に火をつけ、傷ついた傷を癒す。私はこれから、今回出会った鬼よりさらに強い鬼と戦うことになる。私は不安と同時に、早く戦いたいという好奇心に打ちひしがれた。

 

「日輪刀……確か持ち主によって色が変わるんだっけ。師匠の日輪刀、薄い緑色、青と黄色が混ざりあったような、そんな感じの色だ。」

 

私は何色になるんだろう、期待に胸を高鳴らせながら、私は眠りについた。

 

――……

 

「師匠の刀って、色がついてるんですね」

 

「うん? ああ、日輪刀はね、その持ち主が使える……いや、適正のある呼吸の流派によって、色が変わるんだ。私の場合は、うーん、薄い緑色だから、風の適正か、もしくは青と黄色が混ざったってことで、水と雷の適正かな。自分でもよく分からないんだ。」

 

「え? 師匠、呼吸使ったことないんですか?」

 

「うん、無いよ。今まで呼吸無しで鬼斬ったりしてたからね。使っては見たかったけど、無理に使おうとして、身体が死んだら元も子もないしね。だから、是非とも、君には呼吸を使えるようになってほしいなあ、へへっ」

 

「で、でも、鬼殺隊って呼吸が使えること前提のはずじゃ。」

 

「んー、しーらないっと(笑)」

 

師匠は呼吸を一切使わなかった、ただ自分の、力量と速さだけで鬼を切り伏せていた。私は、呼吸を使えるようになってほしいという師匠の願いに必死になり答えるべく、師匠の速さを習い、星の呼吸を編み出した。初めて壱ノ型を使った時、師匠は泣きながら喜んだっけ、私も師匠に褒められて、嬉しかった。

 

それから私は、もっと師匠に認めてもらえるべく、星の呼吸を極めた。でも、現段階で編み出せたのは、壱ノ型と弐ノ型だけだった。

 

私は、もっと強くならなければ……そう、思ったのだった。

 

――……

 

ドンドンッと鳴る扉の音で目が覚める。朝日が昇り、雀が著しくないている。

 

ドンドンッ ドンッ ドンドンドドドドドッ

 

次第に扉の叩く音がヒステリー地味てくる、私は急いで扉を開けようとした、が。

 

ドガンッ

 

倒れた、いや、蹴り倒されたといった方が正しいか。

 

「扉が!!?」

 

すると、倒れた扉の奥から、ズカズカと一人の人間が入ってきた。

 

「……出るのが遅いぞ、貴様ァ!!」

 

「だ……誰でしょうか……」

 

顔はひょっとこのお面で隠されているが、声からして男性であることはすぐに分かった。

 

「私は時鋼 珠莉(トキコウ シュリ)。今回、貴様の刀を打った者だ、それなのに、出るのが遅いとは何事だ!!」

 

「ち、ちょっとまって、確か完成は5日後の筈じゃ」

 

「もうたったわ、ボケェ!!」

 

2発蹴られた。

 

「……すいません、まさか5日間丸々寝てしまうとは。」

 

「ふん、疲れていたのなら仕方ねえ。ほら、おめえの刀だ。」

 

「……ありがとう、ございます。」

 

私はそっと受け取り、マジマジと見つめる。青黒く染った柄が非常に美しく思えた。

 

「これが、私の刀……。」

 

「おう、抜いてみな。いい刀だと思うぜ。」

 

私はゆっくりと刀を引き抜く。スラリとした刀身が太陽の光を浴び、煌びやかに輝く。そして、抜いてから少し経つと、段々と色が変化し、黄緑色の刀に変化した。

 

「黄緑色だ。」

 

「ほお、緑と黄の混色か、つーことは、雷と風の適性者ってわけかい? お前さん、足が速いのか?」

 

「えっと、師匠と、一緒に修行して、それで多少は早くなったかと。」

 

「ふーん、あれが師匠の刀かい、今は居ないようだが、ま、深くは聞かねえ、そっちも中々いい刀じゃねえか、打った鍛冶師がいい腕してたんだろうな。」

 

すると、時鋼さんは立ち上がり、背を向けた。

 

「……お前さんはこれから、色んな鬼と出会う。負けんじゃねえぞ、負けたら、俺と刀が許さねえ」

 

そういい残して立ち去った。

 

――負けてなるものか。

 

――師匠を殺した鬼……そいつを斬るために、そして、師匠に強さを見せつけるために。




オリジナル呼吸

星の呼吸

壱ノ型 彗星
弐ノ型 ???
惨ノ型 天刑


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2章 南雲の森編
6話 最初の任務へ


「……行くのか。」

 

時鋼さんは今日も私の小屋を訪れた、どうやら私のことが心配でならないらしい、まるで師匠が生まれ変わって面倒を見にきてくれたような感覚だ、『めんどくさいなあ』と最初は思っていたが、今では『よく来たね』と出迎える程の関係となっている。

 

――……

 

任務が来たのは、時鋼さんから刀をもらってから、2日後の時だった、小屋の窓から私の鎹烏が飛んできて、任務を託した。

 

『ヨイマチ アザミ。今スグ、南ニ位置スル、"南雲の森"ヘト行ケ。』

 

「南雲の森、確かかなり大規模な果樹園だったような。」

 

『ソコノ、果樹ノ上デ、人間ガ殺サレル事件ガ起キテイル。既ニ我妻善逸トイウ新人鬼殺隊士モ向カッタ、サッサト行ケ。』

 

「……仲間もいるのか、それは心強いね、了解。でも今日は準備させて、急なんだもん。」

 

――……

 

「はい、私は鬼殺隊です、行かなければなりません。」

 

「……へっ、いいねえ、肝が座っている。お前なら、柱にもなれるかもしれねえな。」

 

「柱……い、いえ、確か一番上の鬼殺隊士の事ですよね、無理ですよ、私なんて」

 

「うるせえ、鬼殺隊が謙虚になるな!!」

 

「あ、はい。」

 

私は時鋼さんからもらった刀……そして、師匠の刀を腰につける、やはり刀をもらったとはいえ、師匠の刀は置いていけない。

 

「やっぱり、持っていくんだな。」

 

「当たり前です、鬼を斬る時は、もらった刀を使いますよ。」

 

私は隊服を身に纏い、時鋼さんと同時に小屋を後にした。腰に薄い緑色をした師匠の日輪刀、そして黄緑色をした私の日輪刀、二本の刀を背負って。

 

目指すは、南雲の森。

 

――……

 

南雲の森は、小屋から歩いて数時間という所に位置している、私も何度か訪れたことはあるが、敷地内は非常に入り組んでいて、ひとたび足を踏み入れたら、案内板頼りには、入口を探すことが出来ないという、かなり恐怖感をそそらせる果樹園だ、そこを根城にする程だ、面倒臭い罠等を仕掛けてくるに決まっている。

 

「……そういえば、我妻、えっと、善逸だったかな。私の他にもう一人いるはずだったような。」

 

確かあの場に残っていたのは私含め五人、私が呼ばれる任務に先輩を呼ぶはずがないと推測すると、その我妻善逸という人は、私以外の四人の中の誰かという事になる。きっと、力は私以上に強い人なんだろう。

 

「……はぁ、いや、落ち込んじゃダメだ、師匠と時鋼さんにシバかれる。……ん?」

 

南雲の森まで後少しといった所だろうか、その道端に一人の男が蹲っていた、金髪に黄色い袴、あれ、この人って確か最終選別の時に残っていた人だったような……もしかして。

 

「あ、あの、もしかして、我妻善逸さんですか?」

 

「ヴゥヴェ!? 来た!? 来たの!? 助けてくれ!! 死にたくない!! 死にたくないんだ、俺は!!」

 

「うおあ!!」

 

声をかけるなり、突如私に泣きながら飛び込んできた。私はその衝撃で後ろに押し倒され、大きく尻もちをついた。

 

その少年は白と黄を基調としたような刀を腰にかけており、押し倒す力もそれなりに強かった。やはり、鬼殺隊だ。でも、なんでこんなに怯えてるんだろう?

 

「お、落ち着いて、いったい何が……」

 

「聞けよ!! 俺はな!! 弱いんだ!! だから、この任務で俺は死ぬ!! 最初の任務で死ぬんだぞ!! 嫌なんだ!!」

 

「え、で、でも、最終選別生き残ったんでしょ? なら大丈夫だって。」

 

「いーや!! 最終選別に残ったのも、なんかの不運だ!! 俺は気づいたら生き残っていた、何言ってるかわからないだろうけどな!!」

 

「ええ……」

 

私は困り果てた、この子を放っておくわけにもいかないし、というより、多分この子が今回一緒に任務をこなす鬼殺隊士だろうから、ここは一緒に行くべきだろう。

 

「私は宵待 阿坐彌。鎹烏から言われたと思うけど、今回一緒に任務を行う鬼殺隊士だ。ほら、最終選別の時に私もいたでしょう? だから、行こう、大丈夫だから。」

 

「エ゙ェェエ゙エェ!!!! 守れよ!! ぜってー守れよ!!」

 

「約束は出来ない、何が起こるかわからないから。でも、私に出来るなら、でも君も一応鬼殺隊でしょ? だから、少しは頑張ってほしい。」

 

「うぅ……うぅ……」

 

私はふぅとため息をついて、善逸を無理やり起こす。何度も説得を試み、落ち着かせることに成功した。南雲の森は目の前だ、きっと今頃、あの場にいた鬼殺隊には、全員任務が与えられているだろう、あの炭治郎って子も。だから、私も頑張らないと。

 

「よし、行こう」

 

「ま、まってくれよおおお……ってはや!! まって!! まって!!」

 

私は駆け出す、これ以上鬼の被害を出さないために。

 

――……

 

程なくして、南雲の森にたどり着いた。確かにここは薄暗い、そしてもう時期夜になる、つまり鬼が活発に動き出すってことだ。私は周囲に注意の眼をこらす、いつどこからやってきても、倒せるように。

 

「気をつけて、善逸君」

 

「ま、守ってくれるんじゃなかったのかあ!?」

 

「さ、最小限の回避とかは出来るでしょ?」

 

本当にこの子は鬼殺隊なのだろうか、と私は呆れ返ってしまう、この状態なら今回の任務、私だけで達成しろと言われているような物じゃないか。

 

南雲の森は本当に入り組んでいる、迷わないようにしなければ。

 

「日が沈む……来るよ。」

 

「いやぁぁぁ!! 沈むな!! 沈むなああああ!!」

 

「ちょ、ちょっとは静かに……っ!!」

 

その時だった、果樹園の奥から大木の幹がこちら目掛けて襲いかかって来た。大木にしては軌道がおかしい。私は善逸をグイっと、身に寄せ、端に避ける。木が曲がるなんて、普通じゃ考えられない。

 

「ぎゃああああ!! 木が!! 飛んでるうう!!」

 

「落ちついて!! っ!!」

 

上、右、左と次から次へと大木が曲がる。明らかに私達を狙ってきている、上なら左右、右なら下、左なら上と、法則性を紐解くように避ければ、案外大したことは無いが、何分善逸君をかばっての避けだ、非常にやりにくい。

 

「くっ、どんだけ来るの!!」

 

「無理無理無理無理!!」

 

「……くそっ、あっ!!」

 

ラチが開かないと踏んだのか、今度は四方から大木が飛んできた、避けれない、くそっ、こればかりは斬るしかない。

 

「善逸、ごめん!!」

 

「ぎゃああああ!! 投げたよこいつ!!」

 

善逸を安全な上へ投げ飛ばし、時鋼さんに打ってもらった日輪刀の柄に手を取る。四方八方からくるなら、"彗星"は使えない、でも、それならこちらも四方八方から斬りかかればいいだけだ。

 

――全集中……

 

――星の呼吸……

 

――弐ノ型……

 

「……"流れ星"!!」

 

空中を勢いよく蹴りあげ、四方八方を辻斬る。飛んできた大木をバラバラに朽ち果て、地面へと落ちていった。

 

星の呼吸 弐の型"流れ星"は、願いを持つ人達のために、星空を縦横無尽に駆け巡る流れ星の如く、辺り一面を素早く辻斬る。

 

――総当りの剣技

 

「よっと。」

 

「うおああ!! す、すげえよ、姉ちゃん、強いじゃん!!」

 

「い、いや、別にそこまでじゃ」

 

善逸のべた褒めは止まらない、私のため息はさらに深くなった。きっとこの先に元凶の鬼がいるだろう。私は服の袖を掴む善逸を引きずりながら、先へと進んでいった。




・星の呼吸 使用者:宵待 阿坐彌
星の如く素早くなるために鍛えあげられた呼吸。

壱の型 "彗星"
弐の型 "流れ星" NEW
惨の型 "天刑"


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話 果樹戦線

お気に入り登録10人達成 ありがとうございます!!

少ないですが、へこたれません。
登録してくれただけでも、感謝です。
執筆のモチベーションが上がります。

それではどうぞ。


森の奥へと進む、時折大木がまた飛んでくる。私は善逸を引きずりながら走り、飛んでくる大木を、避けては斬り捨てる。しかし、善逸を連れているから、いつもの速さは出ない。まさか、最初の任務で思わぬ障害が出るとは思わなかった。

 

「善逸、お願いだから自分で走ってよ……。」

 

「無理無理無ー理!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死んじゃうよお!!」

 

「ああもうっ」

 

師匠の刀と善逸、自分の身に重みがかなり伸し掛る、そのせいで先程から数回、大木の屑が皮膚を掠めている、あと少しズレていたら、眼もやられていた所だ、眼はやられちゃダメだ、私の唯一の取り柄だから。

 

「手を離したら死ぬ、離したら死ぬ、さっきから、嫌な音がばっか聞こえるんだ!! 四方八方からカナキリ音の様な嫌な音がさあ!!」

 

「カナキリ音?」

 

私は走りながら耳をすませる、そんな音は一切聞こえない、善逸は耳がいいのだろうか?

 

なら私も自分の取り柄である眼で、周囲の様子を伺う。薄暗くても、私の眼なら周囲の状況を理解できる。この大木を飛ばしている鬼を見つけることが出来れば、御の字だろう、私の眼は強いんだ。

 

「よく凝らしてみるんだ……きっと何処かにいる。」

 

前……後ろ……右……左、注意深く状況を探れ。森の奥、さらに奥、気配のする方へ……。

 

……

 

「……見えた!!」

 

「何!! 何が!!」

 

「走るよ!!」

 

「待って、あ!! 離れた、まって!! まってえええ!!」

 

私は鬼が見えた方向に全力疾走で走り抜く、善逸の腕が離れてしまったが、この際関係ない、言っちゃ悪いが、身体の重みが消えて清々する。これなら、大木の屑が皮膚をかすめることは無いはずだ。

 

足を進める事に、大木の速度が早くなっていく、相手も勢いよく後退しながら、大木を飛ばしているのだろう。だったら、こっちが出迎えてやるしかないようだ。

 

「全集中……。星の呼吸 壱の型!! "彗星・加速"!!」

 

地面を"彗星"と同様に蹴りあげ、速度を上げる。通常の"彗星"とは違い、攻めを捨て、速度を上げることだけに改変した壱の型だ。非常に万能で使い勝手もいい。するとついに、鬼の顔を捕らえることが出来た。

 

「ぬお!?」

 

「頸をもらうぞ!!」

 

「させない……!!」

 

鬼は左腕をバッと右に広げる、すると私から見て左方向から右方向に向かって近くの大木が曲がり、迸った。私はガバッと刀で受け流す物の、やはり力で押し負け、逆方向の大木に激突する。

 

「大木は俺の思うがままだ。」

 

今度は激突した大木が曲がり、私の頭上目掛けて飛んできた、私は柔軟に身を任せ、身体をギリギリまで曲げながら、前方に後退する。大木はそのまま地面に激突した物の、すぐに私めがけて軌道修正した、その速さは尋常じゃない。

 

「……っこの!! 壱ノ型!!」

 

私はあらぬ体制から"彗星"を使い、飛んでくる大木を切り裂いた。大木は真っ二つに折れ、地面に落下した。でも、今回これで3回目の呼吸だ、かなり身体に負担がかかる。

 

「痛……、完全に折れたかなあ。」

 

「よく避ける、だが何時までもつかな。」

 

――血鬼術 硬血大木(こうけつたいぼく)

 

「血鬼術……!? おあっ!!」

 

地面から赤きに大木が飛び出してくる、私は高くジャンプしたが、判断が少し遅れていたのか、間に合わずそのまま大木に捕まってしまった。

 

「こんなもの……!!」

 

私は被害を免れた右腕で師匠の日輪刀を抜き、大木に突き刺した。しかし……

 

「……!? 硬い。」

 

「硬血大木はな、我が血を纏った特別な大木だ、そう簡単に傷つくわけなかろう……さて、身体が潰れるのは何時ごろだろうな……。」

 

「うぎっ……」

 

最終選別の時の鬼以上の力強さだ。これが、鬼。私は改めて痛感した。これが鬼の強さなんだと、最終選別の時にいた鬼は、本当にただの端くれなのだと。

 

「このままじゃ。」

 

「この果樹園は、俺の血鬼術を最大限に生かせる、良い場所だ。押し潰してやる。」

 

締め付ける大木の強さが段々増していく、最初の任務でこれか、さすがは鬼殺隊、殆ど容赦は情けはなしだ。常に本気で戦い、よわければ死ぬ。まさに、弱肉強食の世界だ。

 

「負ける……っ」

 

――……

 

「宵待さぁぁん、どこにいったんだよお……」

 

なんなんだよ、守ってくれるんじゃなかったのか? 俺はどうしたらいいんだよ。滞ることの無い怒りと不安が込み上げてくる、ここは暗いし鬼が出る。即ち、死の場所だ。

 

「どうしたらいいんだよっ、1人じゃ死ぬ死ぬ死ぬ!!」

 

1人で叫ぶ。答えなんてものは帰ってこない、そりゃ宵待さんどっかいったからな、クソっ、クソクソクソっ。

 

ガザ…… その時、草むらが揺れた

 

「ぎゃあああああああああ!! 何、何、何!!」

 

恐怖のあまり、今にも失神しそうだが、俺は恐る恐る振り返った。そこにいたのは……

 

「……あぁん? 金髪のガキィ?」

 

鬼だった。

 

「ぎゃああああ!! 鬼ィィイ!!!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!! 死ぬ!!」

 

「はぁ、てめぇ、誰が鬼だ、顔見ろ!! 顔!!」

 

「鬼じゃん、鬼の形相じゃん!!」

 

「な……っち、てめぇ、斬り捨て……いや、てめぇ鬼殺隊か、っち、斬れねぇじゃねぇか。隊律違反だ。」

 

その鬼の形相をした野郎は背中、腰、足とありとあらゆる所に刃関連の武器を担いでいた。動きにくいだろうが、そいつは軽やかにこちらに、距離を詰めてきた。

 

「オイ、鬼はどこだ、さっさと吐け、こちとらなぁ、上からお前らの監視役を言い渡されてよお。まったく、面倒だよなあ、オイ、吐けよ、吐かなきゃ斬る。」

 

「今隊律違反っつったよなあ!! 自分のいうことに責任もてよぉ!! あっち、あっち、さっき宵待さんっていう鬼殺隊士も向かったよ!!」

 

「ほーん、一人で向かうたぁ、中々骨のある奴じゃねえか。わかった、一応礼はいっておく、そして俺の名は鬼じゃねえ、実蔵 源三(さねぐら げんぞう)だ。いずれ、柱となる男だ。」

 

そう名乗ると、男は辻斬りの如く去っていった。

 

「お、俺も向かったほうがいいよな……うう、行きたくねえよお……」

 

俺も駆け出し、男の後を追った。元凶とはいえ、女の子一人でいかせたのは、やはり罪悪感がすごいからだ。




・星の呼吸 使用者:宵待 阿坐彌
星の如く素早くなるために鍛えあげられた呼吸。

壱の型 "彗星"
弐の型 "流れ星"
惨の型 "天刑"


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話 果樹戦線 弐

「うあっ……」

 

呼吸を3回使い、善逸を庇いながら走っていたのが仇となったのか、大木にしめつけられる度に、身体にかかる痛みに拍車がかかる。この感じは絶対に肋骨の骨何本か折れているな……。

 

「空中を蹴るんだ……まずは、この状況から抜け出すんだ……星の呼吸、弐ノ型!!」

 

空中を蹴りあげ、流れ星の如く加速を試みた。しかし、 大木は離れる事はなかった。赤き大木の色の濃さが次第に増していく。こいつ、どれだけ血を送るつもりなんだ?

 

「離れろ、この、離れろって、うっ……」

 

「無駄な足掻きだなあ、私はこの時の表情が一番好きなんだ。ほれ、どうだ。もう喋ることもできないだろう?」

 

「ぁ……ぅ……」

 

心臓が押し潰されそうだ、あと少し縛られたら完全に破裂する。その前に抜け出さなければ、抜け出す、でも、どうやって? "流れ星"も"彗星"も通じない、この大木は硬いんだ、硬いものでも斬れる刃があれば……。

 

「さあて、そろそろ終わらせようか。果樹園の肥やしとなるがいい。」

 

「ぁ……」

 

縛り付ける強さがさらに増す、もう、無理……。

 

「オイオイッ!! やっぱりあぶねえ所じゃねぇか!!」

 

誰だ? 善逸か?

 

「硬そうだな、だが、硬ければ硬いほど、それは俺の獲物だ!!」

 

――全集中!!

 

――()の呼吸!!

 

――肆ノ型!!

 

桃太郎討鬼伝(ももたろうとうきでん)!!」

 

「何っ!!」

 

「あ……」

 

突如現れた黒色の髪をした青年は背中の太刀と足に着けた小さい鎌の2本を両手に持ち、大木目掛けてそれらを振り下ろした。濃い血色に包まれた大木は真っ二つに切り裂かれ、私は解放された。

 

「ゲホッ……ケホッ……あ、あの、ありがとうございます。」

 

「あん? 礼なら鬼を狩って返せよ、ホラ、そこにいるだろうが」

 

「俺の大木を斬りやがったなあ!!」

 

「くっ……」

 

鬼は再び四方八方から大木を飛ばす。解放されたはいいが、縛りつけられた事で、かなり肋骨を折ってしまった、走ると折れた箇所が痛む。

 

「くっ、呼吸が出せないっ」

 

「ああん? 呼吸が出ないだあ? 出ないなら素の力で斬れ、腰につけてんだろ? 日輪刀がよお」

 

「でも私、力弱いし。」

 

「二刀あるだろうが、今片手で日輪刀持ったろ、短時間でいい、頸を斬るときだけ、二刀に持ち変えろ、それで斬るんだ。」

 

二刀に……。私は片方の腰に付けた師匠の日輪刀に目をやる、私と師匠の日輪刀は普通片手で持つようには、出来ていない。おそらく、時鋼さんも想定すらしていないだろう。そんなこと、本当に出来るのだろうか?

 

「……物は試し?」

 

敵の間合いに詰めるには、まずこの大木をどうにかしなければならない。でも、うっと惜しいなら斬ればいい、この大木は赤くない。

 

――全集中 星の呼吸 弐ノ型 流れ星

 

さっき善逸を守った時の感覚で、大木を辻斬る。本当は、赤い大木も斬ることができれば、御の字だが今の私にはそんな力はない。

 

「クソっ、やっぱり普通の大木じゃダメだな。」

 

――血鬼術 硬血大木(こうけつたいぼく)(いばら)!!

 

(来た、赤い大木、今度は四方から!!)

 

赤い大木は斬れない、そのため避けながら間合いを詰めなければならない。難しいが、それで何とかするしかない。幸い敵の腕の動きで、大木が飛んでくる位置は予測できる、眼がいい分、その動きは遠くからでも判断できる。

 

(右!! 上!! 左!! 右……!!)

 

「おいおい、斬らねぇのか!!?」

 

「力が無いから、赤い大木は斬れない!!」

 

「はァ!!? てめぇ、そんなんで鬼殺隊になったのか? っち、運のいい奴だな。しゃぁねえ、一人でここに突っ込んでいった意気を見込んで、少し手ェ貸してやる。」

 

――全集中!!

 

――刃の呼吸!!

 

――肆の型・五月雨!!

 

「桃太郎討鬼伝・三獣(みけもの)!!」

 

「……凄い。」

 

「何だと……?」

 

わたしの目の前にあった大木が次々に消えていく。動きひとつは決して早くは無いものの、足の速さを捨て、振り下ろす刃一つ一つに渾身の威力を叩き込んでいる。これなら、行ける!!

 

「ありがとう、さあお前もこれで最後だ。」

 

「うぬっ……」

 

私は師匠の日輪刀に手をかざす。引き抜こうとすると、片手にかかる刀の重さと相まってかなりの負担がかかる。でも、柄に手をかざすと、まるで横に師匠がいるかの様な感覚に陥る、師匠と一緒に戦っているんだっていう錯覚にも……。

 

「行くよ、師匠!!」

 

――全集中

 

――星の呼吸

 

――肆ノ型!!

 

七夕演舞(たなばたえんぶ)!!」

 

師匠と私、二つの日輪刀が()()()()()()()()()()()()()振り下ろされ、奴の頸を斬り裂いた。七夕の日にしか会うことの出来ない織姫と彦星の二人が舞う演舞のように、優雅に舞い、相手を二刀で切り裂く今考えた……

 

――師弟の剣技

 

「大木が……大木が、ふざけるな!! ここで人をたくさん食えば、あのお方に認められた筈なのにぃぃぃ!!」

 

「はぁはぁ、待ってよ、二人ともぉ……ん? ぎゃああああああ!! 鬼!! 鬼がいる!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死んじゃううう!! あっ……。」

 

鬼が塵となり消え、遅れてやってきた善逸が突如気絶する。

 

「……こいつ、本当に鬼殺隊か?」

 

「分からない……。」

 

とりあえず、私は日輪刀を腰につけ直して、善逸を背負った。

 

「私が背負うから、とりあえず外に出よう」

 

「だな。まったく、監視役も楽じゃねえな」

 

「え? 監視役!!?」

 

「名乗ってなかったか、俺は実蔵 源三。階級"(かのえ)"の鬼殺隊だ、よろしくなっ」

 

「は、はい、よろしくお願いします。」

 

私と源三は、外に向かって歩みだした。しかし、実蔵さんはこの時、謎の違和感を覚えているのであった。




・星の呼吸 使用者:宵待 阿坐彌
星の如く素早くなるために鍛えあげられた呼吸。
派生先:雷の呼吸

壱ノ型 "彗星"
(壱ノ型 "彗星・加速")
弐ノ型 "流れ星"
惨ノ型 "天刑"
肆ノ型 "七夕演舞" NEW

・刃の呼吸 使用者:実蔵 源三
あらゆる刃の力に身を任せ、怒涛の威力で相手を斬るために編み出された呼吸。
派生先:岩の呼吸

壱ノ型 ????
弐ノ型 ????
惨ノ型 ????
肆ノ型 "桃太郎討鬼伝" NEW
(肆ノ型・五月雨 "桃太郎討鬼伝・三獣") NEW


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話 師匠は……

お気に入り登録が2人増えてるー。

嬉しいー


「お前、なんで鬼殺隊に入ったんだ?」

 

「私ですか?」

 

「ああ、こいつ今寝てんだろ」

 

「私には大好きな師匠がいました、でも最終選別の一週間前に鬼に殺されちゃって……。その鬼を斬るためです。」

 

「はっ、復讐ってわけかい? 俺も同じだ、かなり昔の話だがな。俺の育て親がな? 数字が書かれた眼を持った日輪刀を担ぐ鬼に斬られた上に食われちまった。そいつを斬るためだよ。」

 

「お、鬼にも日輪刀を持つ奴がいるんですか?」

 

「知らねえ、元は鬼殺隊だったとかそんなんじゃねえか?」

 

彼の眼は私と同じ決意の眼をしていた、そしてあの大木を斬った時の立ち姿、かなり歴戦を詰んでいる鬼殺隊だ。その強さもきっと、復讐を誓った相手を殺すために鍛えて得た物なんだろう。

 

「その、眼に数字というのは……」

 

「鬼の長から認められた鬼の集団。十二鬼月と呼ばれてる、そいつらは自分の階級となる数字を眼に刻んでいる、その事だ」

 

「鬼の長から、認められた……」

 

「おそらく、お前の師匠をやったのも、十二鬼月だろうよ。」

 

師匠を殺せるほどの鬼……十二鬼月……私は今、とてつもない鬼を殺そうとしているんだ、と改めて再確認した。それでも、倒さなければならない、師匠に託されたんだ、その鬼を、殺して欲しいって。

 

「その師匠って、どんな奴だったんだ?」

 

「なんか、良く聞かれますね。師匠は、私に対して優しくしてくれたり、辛い時があったら、綺麗な星空を見せてくれたりしたんだ、戦闘面も、とにかく凄かった。でも、昼間は小屋でゴロゴロしてるダメ人間ですけどね、外には出ない!! っていって、夜にしか、修行してくれなかったり……」

 

「……夜にしか?」

 

「はい、ダメ人間でしょう?」

 

「……あ、ああ。その師匠ってさ、お前の師匠を担う前、何やってたかとか、覚えてるか?」

 

「え? んー、そういえば、知りませんね。」

 

「……」

 

突然、源三さんは黙ってしまった。源三さんは、私が師匠は、夜にしか外に出ないって言葉を言った途端に、表情が変わった。夜にしか外に出れない、師匠が昼間外に出ないのには、何か理由があったのだろうか……昼間、昼、明るい……っあ

 

「もしかして……源三さんは、私の師匠が……」

 

「何だ?言っていい奴か?」

 

「……鬼だったって、言いたいんですか。」

 

「……ああ、でも鬼が人間を襲わないなんて、普通じゃ考えられねえ、ましてや、人間を育て鬼殺隊に入れさせるなんてな。」

 

「嫌、そんなわけないですよ、た、ただのダメ人間なだけですから……多分。」

 

師匠が鬼だった……? いや、そんなはずは無い。もし、師匠が鬼なら、私は今頃殺されてるはず、それに鬼に殺される事も、普通じゃ考えられない。

 

「鬼に殺されたっていったな? 確かに鬼が鬼を殺すことはある、共食いだな、でもお前は()()()()としか言ってない、つまり食われてないって事だろう? ましてや、お前の育てだ、共食い目的の鬼なんかに、殺されるはずも無い、なら、別の目的があった、ということになる……例えば、だ。」

 

「げ、源三さん!?」

 

源三さんは立ち止まり、私の頸に向かって背中の太刀を突きつけた。私は驚き思わず、頸に剣が刺さるところだった。冷や汗の量が次第に増していく。

 

「お前の師匠、俺の育て親殺さなかったか?」

 

「そ、そんな、師匠の過去なんて知りませんよっ、それに、師匠の眼には、数字なんて有りませんでした。」

 

「……二つのパターンが考えられる。俺の育て親は十二鬼月に詳しかったからな、色々話は聞いている。一つは数字が書いてあるパターンでお前の師匠が十二鬼月の上弦という階級に属していた場合だ。殺される理由は主に下弦という階級に属している鬼からの下克上だ。上弦を倒すことで、上弦となれる可能性がある、それが十二鬼月のルールだ。もう一つは数字が書かれていなかった場合、それは何らかの理由で、十二鬼月の奴に、長からの命令が下った上で殺されたかだ。数字がない場合、基本は十二鬼月でもなんでもないか、もしくは数字剥奪を食らった鬼か……。十二鬼月から下ろされる場合は基本、長に殺される筈だが、まだ見限られてなかったんだろう、それが殺されたってことは……長に見限られた。理由はそうだな、簡単に思いつくのはお前だ、お前を育ててしまったから……。」

 

「……!!」

 

師匠が元・十二鬼月で、見限られた……? 私は絶望のあまり、膝から崩れ落ちた。そんな、そんな筈はない、だって……師匠は……

 

――……

 

「師匠っ。もう少し、日常生活直したらどうですかっ、普段壁にかけてある干し肉しか食べないし……」

 

「んー? 嫌だって、干し肉が大好きだもん……ほかの食べ物はあまり食う気になれなくてねえ。」

 

「まったく、今度私が何か作りますから、それ食べてくださいっ」

 

「えー……」

 

――……

 

そういえば、師匠は他の食べ物をあまり食べようとはしなかった……あの時はちゃんと食べていたけど、結局は干し肉に落ちついていた。鬼は人肉から栄養を得る……まさか。

 

「そん、な。」

 

「……でも、お前を殺しても、何も解決はしねえ、というか、まだお前の師匠が鬼とも限らねえ、ここは一つ……」

 

「嘘だっ!! 違う!!」

 

「は!!? おい待て!!」

 

私は善逸を地面に起き、一目散に走り出した。行く場所なんてない、とにかく一人になって、落ち着きたかった。

 

師匠が元・十二鬼月で、殺されたのは見限られたから? そんなの、信じられるわけないじゃないか。

 

その日、私は久しぶりに、眼から涙を流した。




・星の呼吸 使用者:宵待 阿坐彌
星の如く素早くなるために鍛えあげられた呼吸。
派生先:雷の呼吸

壱ノ型 "彗星"
(壱ノ型 "彗星・加速")
弐ノ型 "流れ星"
惨ノ型 "天刑"
肆ノ型 "七夕演舞"

・刃の呼吸 使用者:実蔵 源三
あらゆる刃の力に身を任せ、怒涛の威力で相手を斬るために編み出された呼吸。
派生先:岩の呼吸

壱ノ型 ????
弐ノ型 ????
惨ノ型 ????
肆ノ型 "桃太郎討鬼伝"
(肆ノ型・五月雨 "桃太郎討鬼伝・三獣")


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。