SAOメインメニュー縛りRTA (アルシャ)
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第1話 メインメニュー縛り

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 計測開始です。

 

 どうも皆さん初めまして、お馬鹿百階位と申します。

 今回はこの世界初のフルダイブ型オンラインゲーム、ソードアート・オンライン、通称SAOの縛りプレイを行います。

 

 縛りの内容は、メインメニューを開かない縛りという、たったこれだけのいたって単純な縛りプレイです。

 

 たった1つしか縛らないなんて簡単だな! 

 

 と、思うかもしれませんが、正直かなり厳しいです。

 では、その厳しい理由を軽く説明します。

 

 まず、メインメニューを開けないという事は、スキルスロットが使えないという事です。

 つまり、必然的にソードスキルが使えません。

 ソードスキルは、その装備の種類、片手用直剣なら、片手用直剣のスキルをスキルスロットに登録しておかなければ使用できないためです。

 

 防具も金属系はスキルスロットが必要なので、皮装備とかしか出来ません。

 

 アイテムストレージも開けないため、一度アイテムストレージに収められたアイテムのオブジェクト化や使用も出来ません。

 

 今自分がいくらお金、コルを持っているかも確認できません。

 

 マップも開けません。

 

 プレイヤー同士の取引も出来ません。

 

 フレンド申請やデュエルの申請も行えません。

 

 レベルアップ時のステータスの割り振りが出来ません。

 つまり、敏捷と筋力を上げられません。

 

 倫理コード解除が出来ません。

 倫理コード解除が出来ません。

 倫理コード解除が出来ません。

 

 ……おのれ茅場ぁ! 

 

 このほかにもまだまだ出来ない事、気をつけなければならない事はありますが、メインメニューをたった一つ縛るだけで、難易度が地獄になる事は皆さんも分かっていただけたかと思います。

 

 この状態で、目標タイムより早くSAOをクリアしなければなりません。

 

 とりあえず細かい説明は後回しにして、名前をつけましょう。

 名前はなんでも構わないので、お馬鹿百階位としましょう。

 

 次にアバター生成なのですが、まず性別を男に設定します。

 女性でやると色々と不都合が生じてタイムがとても伸びてしまったりするので、ここは男性一択です。

 

 そして、身長を130センチに変えます。

 その後、出来るだけその身長にあったリアリティーのある顔にします。

 そして、出来るだけイケメンすぎず、さりとて不細工ではなく、中間より上、もしくは上の下あたりの顔立ちに整えます。

 

 チュートリアルの手鏡以降アバターはリアルの体に変わるんだから意味がないだろ! 

 

 と思われるかもしれませんが、これはとても大切なことです。

 理由はまた後ほど、そのチュートリアルで時間の余っている時に説明します。

 そのほかの本格的な説明もその時に。

 

 今回はランダム生成されたデフォルトがかなりよかったため、いじる部分を少なくして、顔立ちは上の中程度になりましたが、多分大丈夫です。

 もう少し時間を使えば、顔立ちを悪く出来ます。

 ですが、当然ながらここでアバターをいじる時間は少なければ少ないほどいいですから、このまま行きます。

 

 さて、これでゲーム開始です。

 ここ、始まりの街中央広場がスタート地点となります。

 

 このゲームの利点として、最初に長ったらしい説明やチュートリアル、オープニングムービーがないため、リセットが遠慮なく行なえる点が挙げられます。

 RTA勢としては、とてもありがたいことです。

 ただし、チュートリアルは後ほど、とても長ったらしいものがあるのですが。

 

 それはひとまず置いておいて、まず武器屋に猛ダッシュします。

 

 アバターの生成に少し時間を使っているため、すでにクラインはキリトを捕まえており、ここで呼び止められる事はありません。

 

 武器屋に入ったら、まずはスモールソードを購入します。

 ここで原作主人公であるキリトと、後にギルド風林火山のリーダーになるクラインとすれ違いますが、気にしなくても構いません。

 

 スモールソードを買ったら、即時装備するかしないかの選択肢が出るので、ここで装備を選びます。

 

 この縛り、メインメニューを開けない、という関係上アイテムストレージも開く事ができないため、装備の付け替えができません。

 

 なので、即時装備しないを選択して武器がアイテムストレージにしまわれてしまったら、もう2度とその武器は使用できません。

 

 気をつけましょう。

 

 さて、後はポーチを買ったら、直ぐに北西のゲートから街を出ます。

 

 あまり時間に余裕はありません。

 チュートリアルが始まるのが5時半過ぎであり、SAOの正式サービス開始時間が午後1時からなので、たった4時間半しかチュートリアルまで時間がありません。

 

 それまでにクエストを一つクリアします。

 もしクリアできなければ基本的にはリセットです。

 

 さて、街を出たら当然モンスターがいます。

 このモンスター達は、倒したいところではあるのですが、時間がないので全て無視します。

 

 ソードスキルを使えるのなら、1撃で倒せるモンスターもいるため、走りながら見つけたモンスターを狩っていきたいのですが、残念ながらソードスキルが使えないため、倒すのに2撃以上かかってしまい、クエストクリアが間に合わなくなる可能性が高まるため、全て無視です。

 

 なので、この広い草原をただただ北西に走ります。

 

 この間に少し説明を。

 スキルスロットが使えないという事は、ソロの必須スキルである索敵と隠蔽が使用不可能という事です。

 システムに頼ることができないので、薄暗い森の中での敵の索敵や、隠れるのは、全て自分の腕次第、プレイヤースキル次第ということです。

 

 ですが、少なくとも低階層では問題ありません。

 何度も何度も繰り返してきているので、そうそうミスは起こりませんから。

 

 そして、今からやろうとしているクエストは、森の秘薬というクエストです。

 

 このクエストは、クリアすると報酬として強い武器が貰えます。

 

 序盤は本当にやることが多すぎて、火力不足が深刻なので、早く強い武器を手に入れる必要があります。

 ソードスキルが使えない分の火力を埋めるために。

 

 この近辺で、しかも4時間半以内に手に入る武器は当然ながら限りがあり、検証の結果、レベル1でも倒しやすいリトルペネントを乱獲してレベルを上げながら武器も手に入れるこの方法が最も効率が良いと判断したため、森の秘薬クエストを進行します。

 

 さて、平原を抜けたらその先には深い森があるのですが、その迷路じみた小道を抜けると、目的の村があります。

 

 当然、村に向かう道中の森の中にもモンスターが出ますが全て無視、見つかっても木々を利用しながら走って逃げます。

 

 さて、着きました、ここがホルンカの村です。

 のどかですね。

 さて、早速この村の一番奥にある民家に向かいます。

 

 武器屋にはいきません。

 

 ここにはスモールソードよりも攻撃力の高いブロンズソードが売っているのですが、耐久度の消耗が早いため、今から行う3時間の狩には耐えられません。

 それに、攻撃力が高いとは言っても、攻撃回数はそう変わりません。

 

 アイテムストレージが使えるのならば、予備のブロンズソードを持って行くこともできるのですが、使えないですし、即時装備ボタンを押すと、今まで装備していたものがアイテムストレージ内に勝手に収納されるため、2本腰に下げておくこともできません。

 

 何より、道中の敵を一切倒していないためコルが足りません。

 なのでここはスモールソードのままで行きます。

 

 さて、民家に着きました。

 

 ここには二人のNPCが居ます。

 1人は鍋をかき混ぜており、もう1人は奥の部屋で寝込んで居ます。

 

 この鍋をかき混ぜて居るNPCから、森の秘薬クエストを受けられます。

 

「こんばんは、旅の剣士さん。お疲れでしょう、しょくじをさしあげたいのだけれど、今は何もないの。出せるのは一杯のお水くらいのもの「いいえ」」

 

 ここで絶対に肯定してはいけません。

 いいよ、や、イエスなどと言ってしまうと、このNPCは水を汲んでこちらに差し出してきます。

 

 つまり時間のロスです。

 

 椅子に座ってクエストが発生するのを待ちます。

 

 来ました。NPCの頭上に金色のはてなマーク、クエスト発生の証が現れました。

 

「なに?」

 

「旅の剣士さん、実は私の娘が……」

 

 長いので要約すると、西の森のモンスターを倒して薬の材料を取って来てくれ、頭に赤い花が咲いた奴が薬の材料を落とすから、という事です。

 

 基本的に、クエストの話は全て聞かなければフラグが立たないため、どれだけ長い話でも聞かなければなりません。

 スキップ機能はありません。

 

 おのれ茅場ぁ! 融通のきかない奴め! 

 

 そう、ここでフラグを回収しておかなければ、リトルペネントの花つきを倒したところで胚珠が入手できません。

 

 なので、わざわざ先にこの村に立ち寄った次第です。

 先に胚珠が入手できるなら、わざわざ村には寄らなくて済んだものを。

 

 まあ、仕方ない事です。

 

「……お礼に先祖代々の長剣を差し上げましょう「はい」」

 

 これでクエストの受諾完了です。

 

 これも、出来るだけロスを減らすために、システムが認識できるギリギリの速度で、はっきり言う必要があります。

 

 さて、西の森に向かいましょう。

 

 やって参りました西の森。

 

 初の戦闘が始まります。

 この森には、リトルペネントという植物型のモンスターが出ます。

 

 リトルとついていますが、身の丈1メートル半の自走植物です。

 姿ははっきり言って気持ち悪いです。

 

 見つけました。カーソルの色はマゼンダ色、強敵ということです。

 この赤色の濃淡で、敵の相対的な強さを大まかに測ることができます。

 圧倒的レベル差のある敵は、血よりも濃いダーククリムゾン。

 雑魚は白に近いペールピンク。

 適正な敵がピュアレッド。

 

 そして、クエストのターゲットには、狭いイエローの縁取りがあります。

 

 まあ、ターゲットとは言っても目の前のリトルペネントの頭には花がないので、倒しても胚珠は手に入りませんが。

 

 それでも倒します。

 

 倒していけば、花つきの出現率が上昇しますし、それにリトルペネントは経験値効率がいいですから。

 経験値効率が良い理由は、能力面が攻撃に偏っており、防御力がとても低いため、攻撃を受けなければ短時間で数を狩れるからです。

 

 リトルペネントの攻撃パターンは、先端が短剣状になったツタによる切り払いと突き、そして口からの腐蝕液噴射です。

 

 この腐蝕液に当たると、粘着力によって動きが阻害され、HPと、そして耐久値が激減します。

 

 耐久値が激減するという事は、当然、武器に当たれば武器がすぐにダメになり、服に当たれば破れます。

 

 そう、破れます、服が。

 だから別にどうってことはありませんが。

 

 少し話は変わりますが、以前自分、もうクリア不可能となった時、リセットする前に何度かこの腐蝕液を持ち帰れないものかと、かなり長時間、約1年ほど実験を行ったことがあります。

 

 勿論目的は攻略のためです。

 敵の持つ武器や防具の耐久値を減らして、敵の弱体化をするためです。

 それ以外の目的なんてありませんよ? 本当ですよ? 

 

 因みに、圏内でも装備品の耐久値は減らすことができます。

 だからどう、ということはありませんが。

 

 しかし、何をしようとも長時間の保存が不可能でした。

 瓶に入れて持ち帰ろうにも、瓶の耐久値が持ちませんし、何より時間が経てば勝手に消えていますし。

 もういっそリトルペネントごと持ち帰ろうと思い、無理やり連れて行ったのですが、圏内にリトルペネントを入れることは何度やっても、何をやっても不可能でした。

 

 ……くそぅ、おのれ茅場ぁ! 許さんぞぉぉ! 

 

 この怒り、目の前のリトルペネントにぶつけましょう。

 因みに、花つきの出現率は1%以下です。

 なので、とにかく早くここに来て敵を倒し続ける必要があったということです。

 

 さて、では戦闘を始めましょう。

 

「シュウウウウ!」

 

 リトルペネントは、右のツルを突き込んできたので左に回避して、側面に回りこみ、リトルペネントのウツボ部分と太い茎の結合部、弱点に横切りを叩き込み、その勢いのまま体を回転させます。

 

 こちらのレベルは1で、リトルペネントのレベルは3ですが、防御力が低いのでこれだけでHPを3割近く削れます。

 これにより、リトルペネントは怒りの声を上げて腐蝕液発射の予備動作を行いましたが、発射前にギリギリもう一撃入れる事が出来るので、回転した勢いのまま、再度同じ場所を切りつけます。

 

 これによって、大体リトルペネントはスタンするのですが、ごく稀にスタンしない場合があるので、回転の勢いを緩めないまま敵の捕食器ををちらっと確認します。

 

 スタンして居れば、捕食器の周りを黄色いエフェクトが取り巻いています。

 

 スタン確認、オーケー。

 ならば、回転速度を緩めないままもう一撃同じ場所に当てます。

 

 これで戦闘終了。

 勝利です。

 

 回転によって速度が増しているため、最初より2撃目、2撃目より3撃目の方が威力が上がっているため、今回は3発で倒せました。

 

 もし、2撃目の後で敵がスタンしていなければ、すぐさま横に飛ぶ必要があります。

 そのままでいると腐蝕液を食らうためです。

 女性アバターでやっている時ならいざ知らず、今は男性ですからね。

 

 いや、それ以前にRTAですから食らうわけにはいきませんが。

 

 リトルペネントとの戦い方は、かなり練習しているため、よっぽどの事態が起きなければ全て対応できます。

 数も3体までなら無傷で倒せます。

 4体になってくると少し厳しいものがありますが。

 

 なので、基本的には1〜3体までのリトルペネントを相手にしていきます。

 

 勿論、実を割って周囲を囲まれればどうしようもありません。

 

 説明していませんでしたが、リトルペネントには、花つきの他にも実付きがいます。

 

 この実付きの実を割ると、周囲一帯のリトルペネントが大量に押し寄せてくるため、お気をつけください。

 

 最初はそれを利用してレベル上げをしようかとも考えたのですが、全方位を囲まれて攻撃されたら、避けられるはずがありませんので、簡単に死にます。

 一応、デスゲームが始まる前の今は死んでも黒鉄宮で蘇生されるのですが、当然大幅なロスの為リセットです。

 あんなものを生き残れるのは化け物か主人公くらいですよ本当。

 

 まあもっとも、実付きの出現率も花付きと同様の1パーセント以下なので、それほど心配しなくとも大丈夫です。

 

 では、しばらくは単調な狩のお時間です。




他の作品も書いているのに、設定と決着が思い浮かんでしまったので、衝動で書いてしまいました。
当然ながら過程が浮かんでいない為、決着はどうせ変わって行くでしょうが。

最近忙しくなってきてしまったのと、他の作品も書いている為、更新速度は遅いです。

それと、自分はbiim兄貴を知らないです。
そんな自分がRTA小説を書くことに不快な思いを感じる方がいらっしゃったらすみません。


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第2話 チュートリアル

前回で武器の強化できないと書いてしまいましたが、出来ます。
自分のリサーチ不足です、すみません。修正しました。


 さて、レベルが上がりました。

 レベル2です、やったー! 

 レベルアップすると、軽やかなファンファーレが響いて、同時に金色のライトエフェクトが全身を包みます。

 とってもわかりやすい演出ですよね。これは初心者でもレベルアップしたとわかるでしょう。

 

 さて、レベルが上がると、ステータスが上昇します。

 そしてさらにステータスアップポイントが3も貰えます! 

 この3つは筋力か敏捷力に振ることができるので、力を強くしたければ筋力に、動きを早くしたければ敏捷力に振ってください。

 タンクなんかをやるなら力を多めにあげたほうが良いですよ。

 

 ちなみに自分は上げられません。メインメニューを開けないので。

 

 これが終盤かなりきつくなって行く理由ですね。

 だって75層に行く頃にはもう他のレベルが高い方々は96レベルやら94レベルやらになっているので、だいたい300ポイントくらいの差が出来てしまうわけですよ。

 59層くらいまで進んでいても敏捷力20アップする指輪とかは最前線でも手に入らないくらい、といえば、その数値のデカさは分かると思います。

 まあ、その指輪が手に入るのはもうちょっと下の階層のレアモンスターからなのですが。

 

 と、そんなことを考えていたら、遠くのリトルペネントの頭上に赤色が見えました。

 

 幸先がかなりいいですね! 今もかなりペースがいいですし、これはようやく第1階層を久しぶりに抜けられそうですかね。

 

 って、実つきかーい! 花じゃないんかーい! 

 

 近寄って見たら、花つきのリトルペネントではなく、実つきの方でした。

 

 ……ま、まあ、実つきが出たってことは、要するに自分は1%未満を引けたわけですから、これはすぐにでも花つきも出て来ますね! 間違いない! 

 

 じゃあサクッと実つきを倒して次を探しましょう。

 

 実つきは、ほんの少しでも実にダメージを与えてしまった瞬間に割れてしまい、その瞬間沢山のリトルペネントがやってくるので、気を付けましょう。

 

 まあ、リトルペネントの弱点はだいぶ下なのであまり関係ありませんがね。

 

 はい終わり。

 では次に行って見ましょう。

 

 はい、またレベルアップ来ました。

 やったね! 今回はかなり運がいいぞ! リトルペネントも三匹以上固まっていないですし、遭遇率もなかり高いです! 

 

 これはいい、これは運が向いて来た予感がしますね! 

 

 お! またもや遠くにリトルペネントが、おっと! 頭上が赤く輝いて見えます! あれは花つきだ! 間違いない! 

 

 実つきでした。

 

 期待させやがって。

 

 でも、実つきが2連続で来るとは、ちょっとレアですね。

 まあ、流石に3連続実つきが来ることなんてよっぽどないので、次に頭上に赤色が見えたら花つき確定でしょう。

 

 さて、またレベルアップしました。今のレベルは4です。

 

 前回前々回と、レベルアップ後に実つきが現れましたからね、そろそろ花つきが出てもいいのでは? 

 

 ……花つきどころかリトルペネントすら周囲に居ませんね。

 

 ま、まあ、こういう偶然は連続では起こらないものですから。

 

 次、行って見ましょう。

 

 はい、レベルアップー! もう5レベです。

 しかし、このあたりからもうレベルが上がりにくくなって来るんですよね。それに時間も結構差し迫って来ていますし。

 もうそろそろ、花つきが出て来てもいいんやで? 

 

 お! 来た! 遠くのリトルペネントの頭上に赤色が! 

 

 また実つきじゃないかって? そんな訳ないじゃ実つきでした。

 

 ……確率狂っとんのか! おい茅場ぁ! 調整不足ですよー! このゲームバグってますよー! 

 

 実つき3連続とか、茅場は俺にリトルペネントの群れに囲まれて死ねといってるんだ。

 そうに違いない。

 

 はい、レベルアップおめでとう! レベル6です。

 チュートリアル前にレベル6まで行くのはよっぽどありませんから、今回本当にかなり運がいいです。

 あとは花つきから胚珠をゲットできればもう文句なしの最高の出だしですね! 

 

 ですが、もうあまり時間は残されていません。

 ここから村に帰ってクエストを完了する必要がありますから。

 

 最悪クエストクリアはチュートリアル後でもいいのですが、せめて胚珠だけでも、胚珠だけでも手に入れなければ! 

 

 お! 来た! やっと久しぶりに頭上に赤色! 実つき! ゴミ! 

 

 くっそー! 最高のペースなのに! いい加減にしろ! もう時間ないって! あとちょっとではじまりの街へ強制転移されちゃうって! ヤバイって! 

 

 お! 来た! でもどうせ期待だけさせておいて実つきなんでし花つきキタァァァァァァァァァォォォォオオオオオオオ!!! 死にさらせ茅場ぁぁぁぁ!! 

 

 これで、胚珠がゲットできますね。間に合った。

 

 因みになのですが、イベントアイテムは通常ドロップ品と違い、敵を倒したらアイテムストレージに勝手に収納されるわけではなく、敵の足元にそのアイテムが落ちます。

 このリトルペネントの場合、ポリゴン片となって四散する前に頭頂部の花がはらりと散って、中から仄かに光る拳大の球体が転がり出ます。

 

 そう、イベントアイテムが出て来るクエストのみ、メインメニュー縛りでもクリアできるのです。

 茅場はこの縛りを想定していた……? 

 

 流石に今から村に戻る時間は無さそうなので、強制転移まではそのままここで狩ですかね。

 さて、では早く花つきのリトルペネントを倒してしまいましょう。

 

 花つきも別に普通のリトルペネントと変わらないので、今のレベルならもう2撃で余裕で倒せます。

 まだギリギリ1撃では倒せないんですよね。

 

 はい撃破。これで、

 

 リンゴーン、リンゴーン。

 

 あ、待って、転移待って、まだ花びら散ってない、胚珠出て来てない、待ってお願いあと数秒だけだからもうちょっとだからぁぁぁぁ、ああああああ!!! 俺の胚珠ぅぅぅ!!! 茅場ぁぁぁぁぁ!!!!! 

 

 はい、はじまりの街に強制転移させられました。

 キレそうです。ブチ切れそうです。今すぐ茅場をブチ殺してやりたくなりました。

 

 因みに、アイテムの耐久度は地面に放置されて入れば徐々に減少して、やがて消えてしまいます。

 一応数時間は残り続けますので、チュートリアル後、ダッシュで行けば間に合うのですが、残念ながら森は広く、どこで狩をしていたかは覚えていません。

 

 マップが使えたら! ぁぁぁぁぁぁ!!! 

 

 それに、リトルペネントに踏まれでもしたら当然耐久度は消え失せます。

 現に何回か花つき倒したあと、通常のリトルペネント倒していたら、いつのまにか胚珠がリトルペネントに踏まれていてダメになった時がありました。

 

 ブチ切れました。

 

 今回も、かなり望み薄ですが、まだ見つけられる可能性が残っているので、チュートリアル後直ぐに探しに戻りましょう。

 

 リセットはしません。今回かなり経験稼ぎがうまくいったので、このまま続けます。

 最悪見つからなくても確定入手イベントがあるので大丈夫です。

 

 現在中央広場からは出られなくなっていますがチュートリアルが始まる前に、この中央広場の一番北西まで移動しておきましょう。

 

 現在地は……南東ですね、キレそうです。

 

 何故こうも運が悪いのか。

 リトルペネントが効率良く狩れた反動でしょうか? 

 

 これ、早く移動しておかないとまずいです。

 チュートリアルが始まってから、茅場に注目していないなんて目立ち過ぎます。悪目立ちです。

 それと、とあるイベントまでには確実に最北西に居る必要があるので。

 だから急がないと。

 

 人が多い! こんな狭い広場に1万人詰め込むな! 移動し辛いじゃないか! 

 

 はい、到着です。ギリギリ間に合いましたね。

 

 丁度2階層の底が真紅の市松模様に変わり始めました。

 このあと茅場が出て来てチュートリアルを行います。

 

 簡単に言えば。

 デスゲームになったよー

 死んだらリアルでも死ぬよー

 帰りたかったら100層まで攻略してねー

 

 という事です。

 では、この間に今回の縛りについて説明を。

 

 メインメニューが使えない関係上、ソードスキルやスキルスロット、レベルアップボーナスが使えないので、どうしても攻撃力が足りません。

 なので、レベルを上げて物理で殴るしか道はありません。

 勿論、かなり強力なドロップ品とかの場所はほぼ全て覚えているので、装備も強くはなりますが、それだけでは当然足りません。

 

 レベルを上げて物理で殴るしかないため、必然的に24時間365日休みはありません。

 食事も1日0食おやつ無しの素晴らしい職場です。

 どうですか? 皆さんもこの素晴らしい職場で働いてみませんか? 

 大丈夫です! 食事は取らなくてもここは仮想世界、死ぬことはありません! 睡眠だって必要はありません! 大丈夫です! 眠っている間に行なっている脳の作業を起きている間に自分が肩代わりして仕舞えばいいのですから! 

 記憶の整理やら何やらを。

 そのやり方は数千年経てば自ずと出来るようになりますから! 

 

 皆さんも、この素晴らしい職場で働きましょう! 

 

 因みに、このメインメニュー縛り、決して他人にバレてはいけません。

 だって、デスゲームで縛りプレイなんてやっている奴がいたら、どう思いますか? 

 しかもそいつが攻略組の最前線で戦っているとすれば。

 

 いい印象を抱かれないどころの話ではありません。たとえどれだけ好感度を稼いでいようとも、攻略組から追放されます。

 そんな奴に背中を預けるわけにはいかないと言われました。

 

 そうなってしまうと、どうしてもタイムが伸びてしまうため、バレてはいけないのです。

 

 もし縛りプレイをしていることがバレたら口封じしましょう。

 もしくはリセットです。

 

 自分初めの方は、結婚システムを使ってアイテムストレージの中のものを使おうと考えたことがあったんですよ。

 でも、自分は基本街に帰らずに迷宮区や最前線に篭りっぱなしなので、相方にあんまり構っていられないんですよね。

 

 それでいつのまにか情報が漏れていて、攻略組追放。

 リセットです。

 

 あ、言い忘れていましたが、このゲームセーブ&ロード有りません。

 取り返しのつかないミスをしたり、キリトが死んでしまったら即リセットです。

 当然自分が死んでも強制リセットです。

 

 何故キリトが死んだらリセットかと言いますと、キリトしか途中で茅場を殺せないからです。

 

 実力の問題では有りません。挑戦権の問題です。

 

 自分、当然ヒースクリフが茅場ということは知っています。

 なので、ヒースクリフが出現したタイミングで直ぐに正体を見破ったとして、

 

「お前、茅場だな?」

 

 と言ったことがあったんですよ。

 そしたら問答無用で強制的に削除されました。

 

 訳がわからなかったです。

 

 私の正体を看破したリワードを与えなくてはな。チャンスを上げよう。今この場で私と一対一で戦うチャンスを。無論、不死属性は解除する。私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウトできる……どうかな? 

 

 とはなりませんでした。

 

「おまえ、茅場だな?」スパーン! 

 

 と消し飛ばされました。

 

 は? となりましたね。

 

 次に、他のプレイヤー数名に茅場の正体を話しておいて、茅場にその話をしながら、

 

「お前、茅場だな?」

 

 と言ったら、事前に話した他のプレイヤーが消しとばされた後に、すぐに自分も消し飛ばされました。

 

 今度はプレイヤー全体にヒースクリフは茅場だ! と触れ回ったら、ヒースクリフ、いつのまにか黒鉄宮に横線が引かれていて、その数日後くらいにスパーンと消し飛ばされました。

 

 その後、理由や根拠が必要なのかと思って、徹底的に監視して、根拠を持ってその理由を話しながら、

 

「お前、茅場だな?」スパーン! 

 

 でした。酷い。



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第3話 確定入手イベント

 茅場が挑戦させてくれない件について。

 

 色々と考えてみたんですよ。

 それで、やっぱり正体を見破るのが早すぎたのでは? と思ったのですよ。

 茅場だってデスゲームが始まってすぐに終わらせるのは本意では無いでしょうからね。

 なので、第75層まで待って、

 

「お前、茅場だな」スパーン! 

 

 むしろキリトくんの邪魔をして、85層まで待って、

 

「お前、茅場だな」スパーン! 

 

 正体をバラす予定の95層まで待って、茅場が正体を明かす直前に、

 

「お前、茅場だな」

 

 その後、茅場の姿を見たものは、(第100層まで)誰も居なかった。

 

 となってリワード渡してくれないんですよね。

 なんでや! なんで俺は挑めないんや! 

 

 まあ、だいたい予想はつくんですけどね。

 

 茅場はキリトに対して、魔王に対する勇者の役割を担うと、要するにキリトが勇者であると言っているんですよね。

 

 つまり、俺は勇者たり得ないと。

 

 昔、それでも挑みたくてキリトの真似をしようとしたんですよ。

 なんとかヒースクリフ団長にギルドに誘ってもらって、そこでの決闘でオーバーアシストを使わせて、75層で不死属性を看破して、と。

 

 でも、茅場、俺のことをギルドに誘ってくれないんですよね。

 一向に、何をしようとも。

 

 だからもうアスナをキリトから寝取るしかねぇ! そうすればギルドに誘われるだろう! って考えて、第1層でもアスナを助けて、第2層でも、3層でも、とにかくずっと一緒にいて、悩みも聞いて、キリトと会わせないようにして、なんとか彼女にしてやるぜ! 

 ってことをやったことがあったんですよね。

 

 不可能です。

 

「ごめんなさい、あなたのことは、その、いい人としか思えなくて……」

 

 ……リセットー

 

 絶望した。やっぱアスナはキリトしか眼中にないんだ! 俺じゃ例えどれだけ容姿が良くてもダメなんだぁぁぁぁ!!!! 

 

 とにかく、自分では茅場に挑むことができませんでした。

 なのでキリトに、そしてアスナに倒してもらうしかないわけです。

 

 なら、キリトとアスナをもっと早くくっつけて、ヒースクリフと決闘をやらせて、キリトくんに茅場の正体を早めに看破させよう! って50層くらいでやったら、残念ながら茅場100層に行ってキリトくんにすらリワード渡さなかったんですよね。

 

 恐らく、勇者が育つのを待ったのでしょうね。

 

 因みに、自分が何もしなかった場合の75層でのキリトくんのステータスがこちら。

 

 キリト 年齢16

 レベル96

 主武装 エリュシデータ、ダークリパルサー

 スキルロット 12

 装備スキル

 ・片手用直剣(1000)

 ・二刀流(1000)

 ・投剣(967)

 ・武器防御(1000)

 ・戦闘時回復(944)

 ・索敵(1000)

 ・追跡(963)

 ・隠蔽(1000)

 ・暗視(908)

 ・限界重量拡張(949)

 ・疾走(870)

 ・釣り(604)

 

 はい最強。

 

 当然もっと待てばまだ強くはなりますが、もうこれだけ完成されていればいいと判断したのではないでしょうか。

 

 対して、自分のステータス。

 

 お馬鹿百階位 年齢15歳(推定)

 レベル110

 主武装 アストグリフ

 スキルスロット 14

 装備スキル

 空白

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 空白

 空白

 

 これは勇者じゃありませんね。

 しかも相手は茅場、絶対縛りプレイしていること知ってますもんね。

 

 そりゃ勇者とは認めませんわ。

 リワードも渡してくれませんわ。

 

 あ、ちなみにアスナはキリトと結ばれた後なら死んでも大丈夫です。

 

 その場合、キリトくんはジ・イクリプスの技後硬直を無視して茅場を刺し殺しますから。

 

 チートや、チーターや! いやベーターや、ビーターや! 

 

 まあ、これはよっぽど無いのですが。

 

 たまたま75層のボス戦の時、自分が転んだ拍子に武器を投げてしまって、それがたまたまアスナさんの背中に当たって、そのせいでアスナ、ボスの攻撃を避けられずにスパーンと。

 

 その時は、あ、キリトに殺される、と思っていたのですが、ボスのアスナをスパーンとやった攻撃でアスナの背中に当たった武器が弾かれて自分の手元に戻って来てくれたんですよね。

 そのおかげか、どうやらキリトは俺の失態に気がついていなくて、その怒りを全て茅場にぶつけて倒してました。

 

 あの鬼気迫る顔、トラウマものですわ。

 

 因みに、その時は時間がオーバーしてました。残念。

 

 なので、目標としては、全体の攻略速度を上げること。

 縛りプレイをしていることが絶対にバレないようにすること。

 キリトとアスナを特定の時期までくっつけないこと。

 特定の時期が来たらくっつけること。

 よく死ぬキリトとアスナを死なせないこと。

 キリトを他の女性とくっつけさせないこと。

 

 これですね。

 これしかありません。

 これで75層までうまく行けば、そのままキリトが茅場を倒してくれるはずです。

 

 一番最後のキリトを他の女性とくっつけさせないことなのですが、キリトはとてもモテます。

 やばいです。

 ちょっと目を離した隙にアスナでは無い彼女が出来てます。

 

 そうなって仕舞えば、ヒースクリフのギルド勧誘がなくなり、キリトは正体に気づけません。

 自分がこっそりヒントやほぼ答えのようなことを告げても、キリトは動きません。

 

 リセットです。

 このせいで、何度リセットしたことか。

 

『──君達のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ給え』

 

 お、やっと手鏡イベント来ましたね。

 

 この手鏡、アイテムストレージを開くと自動的にリアルな姿に戻されるんですよね。

 

 原理としては、ナーヴギアの初期設定で、キャリブレーションというのがありましてね、ナーヴギアを被ったまま、体を触るんですよ。

 

 それによって、手の止まった位置が、体のサイズということになるわけです。

 顔はナーヴギアが流線型のヘッドギアで、頭を覆うように作られているので、スキャンしてリアルの顔立ちにします。

 

 それによって、ここをもう一つの現実世界と、よりデスゲームをリアリティあるものにしようという茅場さんの粋な計らいというやつです。

 

 因みに、アスナは兄、浩一のナーヴギアを使っています。

 全ての初期設定がしてあって、後は被ってリンクスタートというだけの状態で放置してあったものを。

 

 顔はナーヴギアがスキャンするので本物のアスナの顔でしょう。

 

 ……体は? 実はあの体は、兄、浩一さんの体? 

 

 ……あ、もしかして、どうしても女性になりたくてキャリブレーションを偽った? 

 

 事前に女装とかしていて、胸とか詰めていて、それでキャリブレーションを行なった? 

 つまりもともと兄の浩一さんは女性アバターでやるつもりだったのでしょう。

 浩一さんは女装癖、頭のいい浩一さんはキャリブレーションの意味を理解していて、万全の体制で初期設定を行なったのですね! 

 

 ……オロロロロロロ

 

 さて、お気付きの方もいらっしゃるでしょうが、アイテムストレージを確認することが手鏡の発動条件です。

 

 ……あいてむすとれーじ??? なにそれ? どうやって開くの? 

 

 と言うわけで、自分はリアルの体になりません、なれません。

 結婚システムを使って、結婚した人に手鏡を取り出させようにも、その取り出そうとした方に効果が及んでしまうため、リアルの体には絶対になれません。

 

 ここで、アバターの初期設定が生きて来ます。

 

 なぜ身長を130センチにしたのか? 

 それは敵の攻撃を避けやすくするためです。

 

 現実世界の場合、大きい体の利点はなんでしょう? 

 大まかに言えば、小さい体より力が強いこと、素早く動けること、リーチが長いことです。

 

 しかしここは仮想世界、力や速さはステータスによって決まるため、体格は何の関係もありません。

 

 つまり、リーチを除けば当たり判定の少ない小さな体の方が都合がいいのです。

 対人戦ではまた違ってきますが、基本的には巨大なモンスターが相手ですからね。敵の足元とか潜り抜けやすい方がいいんですよ。

 

 そして、顔をできるだけリアルっぽくしたのは、他のプレイヤーに違和感を持たれないためです。

 これを適当にやってしまうと、不味いです。

 物凄く勘のいい人がいるんですよね、イキリ何とかさんとか。

 

 そこで疑いを持たれると、メインメニュー縛りに気付かれるんですよ。

 そして攻略組から追い出されてタイムがサヨナラバイバイ。

 はー、やってられませんわー。

 

 そして、SAOは13歳未満がやってはいけません。

 なので13歳の中でも背の小さい方と言う言い訳がギリギリ通じる身長まで小さくしました。

 当然体もできるだけ細くしてあります。

 

 リアルでは、親に虐待を……設定です。

 

 説明はこれくらいですかね。

 

 みなさんお気付きの通り、この縛りの最大の障害は味方のはずのキリ何とかさんです。

 

 え? キリュウ? 霧ヶ峰藤五郎? 残念、どちらも違います。

 

 はい、チュートリアル終了です。

 ダッシュで森に戻ります。

 いえ、その前に一度鍛冶屋により、武器の耐久を直してもらいましょう。

 

 胚珠が見つかれば武器の修理は必要ありませんが、見つからなければまだ武器を使う必要があるためです。

 恐らくもうすでに耐久値は限界ギリギリ、今回はかなり効率が良かった、逆に言えば敵とかなり遭遇したと言うことですからね。

 危ない危ない。

 

 武器を差し出して、修理を頼み、イエスボタンを押す。

 はい、完了。

 では森に戻りましょう。

 

 俺は、俺は諦めない! 可能性を信じてる! まだ、まだリトルペネントの胚珠は森のどこかにあるはずだ! 

 

 あ! ここ! ここ見覚えがある! 多分こっちだ! 間違いない! 

 ……あれ? いや、こっちのはず、いや、こっちだったかな? 逆にこっちなのでは? 

 

 ……残念、見つかりませんでした。

 

 はぁ、今回は運が微妙ですね。

 ですが胚珠を探しながら、リトルペネントを倒してレベルが7まで上がりました。

 

 レベルはいいんですけどねぇ、残念、新たな花つきは現れず。

 

 何故実つき、花つきは来ず、運悪し。

 

 はい、もう確定入手イベントがすぐなので、花つきさんは諦めますよ。

 

 しかし、やはりレベルはいいですね。ここで7、そして恐らく8間近なんて今まで殆ど、いや、もしかしたら初めてくらいのハイペースです。

 それだけにあそこで胚珠を取れなかったのは痛いですね。

 

 時間はすでにチュートリアルから数時間経過しております。

 

 さて、胚珠確定入手イベントとはなんぞや? と思われる方もいらっしゃるでしょうが、それは、キリトに関係があります。

 

 自分が今いる場所は、ホルンカの西の森の奥の奥のさらに奥、エリアの隅の方です。ここで戦っていました。

 

 なぜ真ん中で狩をしないかと言いますと、キリトの邪魔をしないためです。

 もし、真ん中で狩をしてキリトともう1人の少年の邪魔をすると、最悪キリトここで死ぬんですよね。

 リトルペネントに囲まれて。

 

 ですが、邪魔をしなければ、中央ではなく隅の方で狩をしているだけなら確定でキリトが生き残ります。

 

 もう1人の方はさよならですが。

 もう1人、名前はコペル君と言います。

 

 簡単な流れを説明しますと。

 

 コペル君は、キリトと一時共闘してリトルペネントを倒すことに。

 花つきが現れる、それと同時に実つきも。

 キリト花つきを倒す。コペル実つきの実を割る。

 キリト大量のリトルペネントに囲まれる。

 コペルは隠蔽を発動してリトルペネントにキリトだけを殺させて逃れようとするも、リトルペネントには隠蔽が効きづらく、バレて囲まれる。

 コペル死亡キリト生存。

 

 こんな所です。

 

 なんで周囲を囲まれて生き残れるんですかねぇ、さすが主人公、格が違います。

 

 この時、何故か自分が干渉していなければ、彼らの前にもう一体の花つきが現れるんですよね。

 俺の前には現れないのに。

 

 は? キレそう。

 

 そして、生き残ったキリトは、そのもう一個の胚珠とコペルの装備を、コペルの墓代わりとして地面に置いて行くんですよね。

 

 はい、確定入手イベントです。

 

 因みに、コペル君を助けるメリットは少ないです。

 彼、攻略組にはなりません。

 勿論、自分が色々と干渉して無理やり攻略組にすることはできます。

 ですが、ほっといたらドロップアウトしてます。

 まあ、もし攻略組になるとしても、かなりの戦力にでもならない限りよっぽど助けませんが。

 恩を盾にして舎弟にも出来ますが、別段必要ないので。

 

 コペル<胚珠、これは確定。

 

 はい胚珠ゲット。

 

 因みに、ここに早く来すぎると、キリトに存在がバレるため、キリトが立ち去ってからゆっくり取りに来ましょう。

 

 ここで確定で手に入るなら他の場所でレベル上げだったりしといたほうがいいんでないの? 

 

 と思われる方もいらっしゃるでしょうが、移動の関係や、その後の予定を鑑みると、近辺で一番レベル上げの効率がいいのがここです。

 そして、確定入手イベントで胚珠を手に入れると言うのは、実はかなりのロスになるのです。

 

 何故かって? これもキリトのせいです。

 

 キリトが受けているクエストは、自分と同じ森の秘薬クエストです。

 そして、森の秘薬クエストは、誰かがホルンカの一番奥の民家でクエストを進行している最中、民家の扉が閉まっていて入れません。

 つまり、自分はキリトがイベントを終了させて家から出て行くまでクエストの進行ができないのです。

 そしてキリトはかなりの時間、あの民家を占領しています。

 

 確定入手イベントで入手した場合、自分の敏捷力では何をどうしようともキリトを抜き去ることはできませんでした。

 

 つまり多大なるロスになるのです。

 だからチュートリアル前までに入手したかったです。

 それが間に合わなくとも、確定入手イベント前までには手に入れておきたかったです。

 なので本来ならリセットですが、今回はレベルがいいので続けます。

 

 ここでレベルを8までは上げられそうですね。

 それ以上は流石にレベル差がありすぎて効率が悪すぎますが。

 

 ……は? 目の前に花つきがいるんですが? 何? なんで今出てくるの? 物欲センサーさんなの? 仕事しすぎでは? 

 

 つい憂さ晴らしに弱点じゃないツタや根っこを切ってギリギリまで弱らせてから弱点を一閃してトドメを刺してしまいました。

 

 効率が悪い? 許して、これだけは本当に許して。

 だって許せますか!? 今までもう5、6時間以上倒し続けていたのに一体しか現れなかったんですよ! しかもその一体は最悪のタイミングで出て来ますし! そしてもう必要なくなってから現れるとか、は!? ふざけてんのかワレェ! 茅場ぁ! テメェ! 覚えてろよ! 絶対テメェ

 

 レベル8ですね。では、ホルンカに行きましょう。

 

 はい、到着、とっとと渡してクエストクリアです。

 報酬は、アニールブレードです。

 

 序盤にしてはなかなかの性能なので、第一層の内はソードマンには必須クエストですね。

 剣を手渡された時点でこの村にはもう用はないので速攻で民家を出て次の目的地に向かいます。

 

 次の目的地は、始まりの街の北東にある湖沼地帯です。

 

 何をするかと言いますと、人助けです。

 

 いやー、自分、聖人君子ですから、死にそうな人を助けないわけにはいかないんですよねー。

 いやー、まあ、人として当然のことをするだけですよ。

 そんな死ぬことを知ってて見捨てるなんて、この私がするわけないじゃないですか! 嫌だなーもう。

 

 ……コペルェ



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第4話 人助け

 はい、では今からとある作業を行なっていきたいと思います。

 何をやるかって? 

 

 それはですね、沢山の引き篭もりを製造する作業です。その数約500人以上。

 

 SAOで、最初にどれだけの人間が死ぬか分かりますか? 

 自分が何もしなければ、3週間で1800人、第一層攻略までの1ヶ月間で2000人死にます。

 

 多いですねぇ、全体の5分の1が死んでしまうわけですから。

 いやー、悲しいですねぇ。

 この1ヶ月で2000人もの人間が望まぬデスゲームに巻き込まれて死んでしまう、実に理不尽です。

 

 そんな理不尽に巻き込まれた人間は、救いたくなりますよね? 

 

 自分の場合はまぁ、半分、ほんの少し、いや、指先一つ程度は自業自得のところもなきにしもあらずな可能性があるかもしれませんが、この2000人は完全に無罪ですからね。

 

 と言うわけで、この1ヶ月間で死ぬ予定だった2000人の内、何割かを自分の超絶テクニックで引き篭もりに変えながら救って行きましょう。

 

 ただし、チュートリアルまでに剣を手に入れられなかった関係上、救いたかった人間が既に死んでおります。

 

 現在、既にチュートリアルから3時間半経過してしまっています。

 胚珠の確定入手イベントはチュートリアルから3時間後の午後9時に発生します。

 そしてそれとほぼ同時にこのSAOでのはじめての死者が出ます。

 

 そのはじめての死者は、モンスターや人間に殺されたわけではありません。

 自殺です。

 

 アインクラッドの外縁部から身投げして、死んでしまいます。

 

 その人間は正直どうでもいいどころか、死んでいないとまずいので無理やりに止めることはしませんが、その後、その人間を追うように自殺する人間が散発的に存在してしまいます。

 

 その中に、自殺を止めるとかなり攻略に役立つ、攻略組の中でもトップ10の実力を将来持つことになる人間、有能がいます。

 しかもその有能、声が大きく、その有能に気に入られているだけでかなり攻略組内の自分に対する評判が良くなるという、とても役に立つ有能です。

 出来れば助けてください。

 

 ちなみにこの有能が死ぬ時間はチュートリアルから3時間15分後です。

 

 現在3時間半以上経過しています。

 

 ……あれ? 

 

 と言うわけで、胚珠の確定入手イベントを行なった場合この有能は確実に救えません。

 先に助けてから、胚珠を拾いに来るのも不可能です。

 

 まず、その自殺をする有能を助けるのは、とても時間がかかります。

 最低でも説得に3時間はかかってしまいます。

 なので、例え拾われていなくとも、時間的に胚珠は耐久度が無くなって消えてしまっています。

 

 そして、確定入手イベントの胚珠はチュートリアルから3時間後、午後9時少し前から9時半までしか拾えません。

 

 何故なら9時半に、キリト達の後からやってきた他のβテスターがその胚珠を見つけて持ち去ってしまうからです。

 

 泥棒だ! 墓場泥棒だ! 人としての尊厳はないのか! やっぱりβテスターは最低だな! このビーターどもが! 

 

 ……え? その人達はそれがコペルの墓だと知らない? 

 むしろ知ってて泥棒をした、いや、助けられるのに見殺しにして泥棒をした俺に言われたくない? 

 

 記憶にございません。

 

 はい、皆さんも疑問に思っていますよね。

 そんな重要な有能が死んでしまっていいのか? リセット案件では? 

 と。

 大丈夫です、その有能は替えが利きますので。

 

 勿論、助けられるのなら助けるべき価値がある人ではあるのですが、その有能の説得にかかる3時間の内に、当然他にもたくさんの人が死んでしまっています。

 

 その中に、生きていれば攻略組の中でもトップ7には確実に入る実力を持つ人がいるんですよね。

 でもこの人、声が大きいどころか引っ込み思案なせいで、有能とは違って自分の評判を良くしてはくれないです。

 

 だから評判的に、いつもは有能の自殺を止めていました。

 評判はタイムを縮めるのに必須ですから。

 でも今回は別のチャートで行きます。

 

 当然、その有能以外の自殺も止められるだけは止めますが、どうしても自殺を止めるには説得に時間がかかってしまうので、死ぬ時間が被っている場合は主にモンスターに殺される人間を助けます。

 

 ここで気をつけなければならないのが、必要な人間以外の攻略組になり得る人間を助ける際はしっかりトラウマが残るように助けることです。

 攻略組になってもらっては困るので。

 

 何故かって? 効率のためです。

 

 ボスに挑める人数の上限は、6人パーティ×8の48人です。

 これがフルレイド。ボスを死者0で確実に倒したいなら2つ交代制の96人攻略組がいた方がいいのですが、これだと経験値やボス攻略によるスキル熟練度ブーストがかなり分散されてしまい、攻略組の育ちが悪くなるせいで攻略ペースがかなり落ちてしまいます。

 

 昔、出来るだけ死ぬ人を助けて、数の力で素早くボスを突破してやるぜ! 

 って考えて、ただひたすらに人を助け続けたことがあったんですよ。

 人が増えれば当然攻略速度も上がるよな! という単純な理論です。

 

 しかし、逆に速度がかなり落ちてとても効率が悪かったです。

 

 ボスの経験値もそうですが、狩り場のポップにも限りがあります。

 その限りある経験値がかなり分散されてしまい、攻略組の皆が適正レベルになるのがとても遅く、そのせいで攻略が遅れに遅れ、2年で75層どころか、50層にも到達しませんでした。

 まあ、その時は25層の双頭の巨人相手でも死者0人で行けましたが。

 

 しかし、自分が行わなければならないのは死者を減らすことではありません。

 タイムを縮めることです。

 目標タイム以内にクリア出来るのなら、例え何人死のうが、最後に9900人くらい死んでいようがもう今更どうだっていいのです。

 

 攻略組の数は殆ど増やしません。

 

 攻略組になり得る可能性のある人間は、後一撃で死ぬまでは絶対に助けません。

 

 大体の人間は最初に一度死にかけると、もう心が折れてモンスターがトラウマになって街から出なくなる、所謂引き籠もりになりますから。

 

 しかし、それでもまだ攻略組を目指そうとしている人間はいます。

 

 しかし大丈夫です。

 そういった人達は、未だに死がうまく認識出来ていない人間がほとんどなので首にアニールブレードをあてがって、しっかりと自分の死を認識させてあげましょう。

 

 モンスターに殺される、では皆さんも現実感を抱けないようですが、剣が首元にあてがって、ゆっくりと分かりやすくおはなし(・・・・)をすると皆さんわかっていただけるようで、引き篭もりになっていただけます。

 

 まあ、この方法を取ると一部の人間からの評判は落ちますが、全体的には上がるのであまり気にしなくてもいいです。

 

 引き籠もりを増やすメリットは沢山あります。

 

 第一に、もうその人間を助けずに済むようになります。

 引き篭もりにしなかった場合、一度助けるだけで、もうそれ以降その人が死ななくなるかと言われれば、違いますよね。

 

 でも引き篭もりにすればたった一度助けるだけでいいのです。

 

 第二に、先ほども説明しましたが、引き篭もりに持って行かれる経験値が無くなって、攻略組のレベルアップが早まります。

 

 第三に、当然評判が高まります。

 一部の人間には悪いように解釈されたりしますが、大体はいいように解釈してくれます。

 見た目が子供なのも手伝ってね。

 

 第四に、引き篭もりにするとはいえ、ニートにするわけではありません。

 これがまた攻略速度の上昇につながってきたりします。

 

 加減間違えると、というより自分の評判が足りていないと、みんな堕落して速度落ちるのですが。

 

 他にもありますが、とりあえずはこんなところで。

 

 ふっ、自分ほど他人を引き篭もりにするのが上手い人間はいないな。

 

 あ、あと、この2000人の中にも、当然女性プレイヤーはいます。

 しかし女性を助ける気はありません。

 

 なんで数少ない女性を救わないんだ! と思われるでしょう? 自分だってヒーローになりたいですよ。

 

 でも、ここで救った女性、いつのまにかキリトの彼女になってたりするんですよね……

 

 は? 自分容姿いいじゃないですか! 

 確かに、自分休憩時間なんてかけらもないんで、デートとかそう言ったことできませんよ? 

 常に最前線に籠っているんで、会える機会もほぼないですし。

 

 でも! こんなにいい容姿をしているんですよ! カッコいいんですよ! 顔だけは! 

 ……身長130センチですが。

 

 あ、これ子供に思われていて恋愛対象になってないやつや。

 

 別にアバターの身長とか変えられるんですが、アスナを攻略してやるぜ! と意気込んでいた時以外は感覚を変えないためにずっと身長130センチでやってるんですよね。

 

 ……はい。

 

 あと、攻略組にならない人間も出来るだけ命の危機に助けます。

 評判のために。

 これはおまけではありません、むしろ本命といっても過言ではありません。

 

 このRTAにおいて最重要なのは当然スピードです。

 そして、スピードを上げる鍵となってくるのが評判というわけです。

 

 その説明はまた後ほど。

 

 では、どんどん助けて、どんどん引き篭もりにして行きましょう。

 

 自分、いつ誰がどこで死ぬかは、少なくとも最初の1回目は全て確認済みです。

 伊達に長生きしてないってね。

 

 はい、早速遠くに1人目が見えます。

 そして、その一人目を囲むように3体のモンスターの姿も。

 彼はβテスターですが攻略組にはなりませんので、評判稼ぎを優先します。

 

 アバターネームはカーノレ、リアルネームはかのうれいじさん32歳です。妻と子供が2人いるそうです。

 因みに寝取られ好きの変態です。

 

 よく、

 

「きっと今頃妻は俺のことを忘れて、いや、俺の体の上で別の男に無理やり……はぁ、はぁ」

 

 と聞かされました。

 ドン引きです。

 

 さて、丁度自分が着いたところでカーノレさんが死にそうになっています。

 調整完璧ですね。

 

 自分は隠蔽や索敵のスキルが取れないので、完璧なタイミングを近くで隠れながら測る事ができないんですよね。

 

 その為、いつ死ぬかを暗記して、その時間のギリギリ少し前に到着するように調節する必要があるのですが、これがなかなかに難しいです。

 早すぎると単なる獲物泥棒、遅すぎると死んでしまいますからね。

 

 序盤のリセットの大半は人助けの失敗による評判不足ですから、頑張りましょう。

 

 因みにこの人、自殺する有能を助けるなら死にます。

 

「ひ、ヒィィィ!」

 

「……シッ」

 

 一匹、二匹、はい三匹。

 モンスター撃破と。やっぱりレベルが高いといいですね。

 もともとカーノレさんがだいぶHPを減らしていたのでしょうが。

 

 さて、評判稼ぎのお時間です。キャラクターは崩さないように気をつけましょう。

 

「大丈夫か」

 

「……え、あれ、いき、てる?」

 

「しっかりしろ」

 

「っ、こ、子供?」

 

「……子供かなんて関係ないだろ」

 

 子供というのを気にしてますよアピール。

 

「あ、いや、すまなかった、助かったよ、もうダメだと、ははっ、おじさん、今更になって体が震えてきちゃった」

 

「……それでいいんだよ」

 

「……え?」

 

「体が震えるってことは、キチンと死を見詰める事ができているってことだ、死ぬのは誰だって怖い、でもその死から目を逸らしてると、死を避けられなくなる」

 

「……」

 

「もう、これはただのゲームじゃないんだ」

 

「……そう、だね」

 

「自分の命を、大切にな」

 

 カーノレさんは一人で無事に街までつけるので、ここで立ち去って構いません。

 さて、次の場所に行きましょう。



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第5話 厨二病

本日2話目です。


 はい、次の方はこちら、サイキョウさんです。

 本名はさいとうきょうすけ、24歳独身です。

 趣味は音楽活動で、歌ったり音楽を作ったりしていたそうです。

 

 そして、彼はただ助けるだけだと攻略組になります。

 ですが、言葉で説得できるタイプなので楽ではあります。

 

 彼、とっても怖がりで、臆病で、とても街から出られる人間ではないのですが、責任感が強すぎるんですよね。

 βテスターの自分が攻略組になってみんなを解放しなければならないと、それがβテスターの、大人の、そして強い者の責任だと真面目に信じてますから。

 

 なので、その自信をまず粉々に変えて、サイキョウさんよりも自分の方が強いことをしっかりと分からせて、俺が攻略するから安心して待っていろ、最前線で戦うことだけが全てじゃない、後ろで支えるプレイヤーの存在も必要不可欠だよー、的なことを言ってあげると見事、サイキョウさんは引きこもりにクラスチェンジしてくれます。

 

 はい完了。

 

 次の人は、アヤノさんです。

 彼もβテスターです。本名はあやさきのりといい、チャラい男です。

 女性アバターを選択した、男です。

 きっと浩一さんと趣味が合うのではないでしょうか。

 

 本人は、別に女装癖なんて無い! と強く、それはもうとても強く言っていました。

 ただ何と無く女性にしただけなんだ、と。

 今では後悔していると。

 

 何と無く女性にした、と。

 それはもう本能的に女装を求めているのでは? 

 

 今では後悔している? 

 男性に戻されてしまいましたからね。

 

 ふむ、やはり女装癖が。

 

 見た目は目の毒ですが、こんななりでも彼はトラウマを植え付けなければ攻略組となります。

 

 はいモンスター撃破と。

 

「いやー、あーぶねぇあぶねぇ、あんがとよ、助かったぜ、おお! それアニールブレードだろ!? はぇーな! ガキのくせにやるじゃん!」

 

「俺はガキじゃ無い」

 

「いやいや、どっからどう見ても、っと、まあいいか、あんがとよ、じゃーな」

 

「待て、どこに行くんだ」

 

「へ? そりゃ次の街だけど?」

 

「やめておけ、今のお前には、次の街にはたどり着け無い」

 

「……へぇ、随分なこと言ってくれんじゃん、何? 俺を助けたからってイキッてんの? ガキが生意気に忠告ですかー? さっきは油断しただけだし、俺の実力ならこの辺の雑魚どもなんて一網打尽、よゆうのよっちゃんだってーの!」

 

「事実だ、お前は現状をまるで理解できていないじゃないか」

 

「は? なんだよ」

 

「これはもう、ゲームであっても遊びじゃ無い、本物の命がかかった、デスゲームだ」

 

「はっはっは! 何? お前あんなイベント信じてんの? ブゥァァァアカ! あんなのオープニングイベントに決まってんだろ! ここで死んだらリアルでも死ぬ!? ありえねえって! そんなのリアルでやったら殺人じゃん! そんな狂ったことするやついねぇって!」

 

「そうか」

 

 なら証明してあげましょう。目の前に殺人に一切躊躇がない人間がいることを。

 はい、ではアヤノさんの首に剣を押し当てましょう。

 彼、実はこう見えて外側を取り繕っているだけの外見ヤンキーで、内面は結構怖がりなんですよね。

 死ぬことをきちんと認識すると、もう街から出てこなくなります。

 

 いや、まあ、死ぬことを認識しておいて街の外に出るやつの方が狂っていると思うので、正常な心を持っている証といえばそうですが。

 

「な……なんの、真似だよ?」

 

「……世の中には、そう言った狂った人間も、いるんだよ」

 

 この時、しっかりと相手の目を見て話しましょう。

 しーっかりとね。

 

「ひ、ヒィ!」

 

「分かるか? この剣の命を刈り取る冷たさが」

 

「じょ、冗談、だろ? そ、そんなことしたら!」

 

「今お前が感じているその恐怖心、それが、死の恐怖だ、それは本来初めに持たなければならない、だけどそれを持たなかったから、お前は慎重になりきれず、先ほど命を落としかけた、同じだ、モンスターに殺されるのも、剣で首を切られるのも、同じ死だ」

 

「ぅ……あ、ぁぁ」

 

「それを認識してなお、その恐怖を乗り越えて立ち向かえるものだけが生き残る、お前に、この恐怖を超えられるか?」

 

「……」

 

 無理です。

 はい、これで引き篭もりの完成です。

 この人もほっておいても勝手に街まで帰って、ゲームクリアまで死ぬことはありません。

 

「安心しろ、必ずゲームはクリアしてみせる、だから、お前はお前の出来ることをやって欲しい、最前線で戦うことだけが全てではない、後ろから支えるプレイヤーの存在も、必要不可欠だ」

 

 では次、行ってみましょー。

 

 ここからペースアップです。そろそろはじまりの街にいた一部の人間だけではなく、ほぼ全ての人間が狂乱状態から混乱状態程度まで落ち着くので、街のそとにモンスターを狩りに行く人間が多発します。

 

 今まではβテスターばかりでしたが、これからはニュービーも沢山やってきます。

 

 この人達、どんどんどんどん死んでいきます。

 毎日100人とか、多い日は200人とか。

 

 なので、出来るだけ頑張っていきましょう。

 

 ……はい、3週間が経ちました。

 自分がなにもしなかった場合、この時点で1800人死んでいるのですが、現在の死者は500人程度です。

 

 まあまあですかね、悪くはありませんが、よくもありません。

 

 あ、それと女性は助けるつもりはないと言っていましたが、必要になったのでちょっと一部助けておきました。

 

 今回何故か、評判をかなり上げてくれる、要するに自分に助けられたことを沢山の人に触れ回ってくれる方々をうまく助けられませんでした。

 

 その為、少し評価の部分が足りなくなりそうだったので、一部女性を助けた次第です。

 

 キリトに寝取られるんじゃ、と心配の方、安心してください。

 

 今回助けた女性達の中で、その可能性が高いのは1人だけです。

 他の人達も一応可能性はありますが、その人達は今回助けた男達の一部が勝手に食ってくれるのでほぼ大丈夫です。

 

 その食ってくれる、主にカーノレさんやサイキョウさんなのですが、その人達を助けて無いといつのまにかキリトと付き合ってしまっていたりします。

 そのため、有能を助けてカーノレさんやサイキョウさんが死んでしまっていたら、女性は助け無いほうがいいです。

 

 ……あれ? カーノレさん、寝取られ好きの妻子持ちでは? 

 

 ……ん? 

 

 で、可能性が高い一人なのですが、この女性、攻略組に入れます。

 

 ちょっと一番大切な攻略組内の評判が足りそうになかったので、この女性に有能の代わりをしてもらう予定です。

 

 気をつけるのは、絶対にキリトと二人っきりにさせてはいけないことです。

 

 キリト、2人っきりになるといつの間にかバンバンフラグを立てていきますからね。

 

 有能なら男なので、その辺りの心配はありませんが、有能は死んでしまったので。

 

 さて、今頃はキリトがアスナを助けている頃ですね。

 この頃になってくると、ようやく死人が少なくなってきます。

 なので、自由に動き回れる時間ができたので、ようやく本格的なレベル上げと野暮用を済ませます。

 

 野暮用はすぐにすみます。

 何をするかというと、2階層での経験値ドロボウを事前に潰させるだけです。

 

 あ、プーは潰しません。

 デメリットしか無いので。

 

 彼、何かと役に立つんですよね。

 ゴミどもを纏めておいてくれたり、何気にいい刺激になったりと。

 勿論邪魔はしてきますが、その邪魔のおかげでキリトが大きく成長しますから、それは許容範囲内です。

 

 死人は当然増えますが、関係ないので。

 

 経験値ドロボウを潰すのは、情報屋のアルゴさんに任せましょう。

 自分で潰すより早く終わるので。

 

 しかもアルゴさん、ちょうど暇になってきたこのタイミングで、いつもピッタリ現れるんですよね。助かります。

 

 基本的にアルゴさんは背後からこっそりと隠蔽を使って近寄って来ます。

 

 なので、今自分の後ろにいることでしょう。

 では、カッコ良く行きましょうか。

 アルゴさんは情報屋なのでね、かっこ悪いところを見せたらすぐに他のプレイヤー達に広まってしまうので。

 

「誰だ」

 

 ……

 

「隠れて無いで出てこいよ」

 

 ……

 

「そこにいるのは分かってる」

 

 ……

 

 アルゴさんはイタズラ好きな所があるので、これだけでは反応してくれません。

 

「用がないならもう行くが?」

 

 しかし、こういうと、出て来てくれます。

 

 ……

 

「……」

 

 ……あれ? 

 

 ………………

 

 ふ、ふふふ。

 やらかした。

 

 背後に誰もいねーや。

 

 ……はっず! やば! うわぁぁぁぁぁあああ!!! 

 

 何だよ! 誰も居ないのに、隠れて無いで出てこいよ、とか、そこにいるのは分かってる、とか! 

 ばっかじゃねぇの! 何も分かってねぇじゃねぇかよぉ! 厨二病かよ! いたい! イタタタタ! 

 

 誰も見て無いよな! いないよな! 

 

 あ、あの遠くにいる人、こっち見てない? 

 なんか、笑いこらえてない? 口元引きつってない!? 

 

 ヤベェェェェエ! 評判が! 超かっこいい自分の評判が! 

 厨二病のクソガキに早変わりしてしまうぅぅぅぅぅ!!! 

 

 早くこの場を離れよう。

 

 ゴホン。

 さて、仕切り直します、そろそろいるでしょう。

 

「誰だ」

 

 ……

 

「隠れてないで出てこいよ」

 

 ……

 

「そこにいるのは分かってる」

 

 ……今度こそ、いる、よね? 

 大丈夫、大丈夫だ、自分を信じろ! 

 

「用がないならもう行くが?」

 

 ……

 

「……」

 

 ……

 

 だーめだこりゃ。



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第6話 第一層フロアボス攻略会議

「用がないならもう行くが?」

 

「よく分かったナー」

 

 やっと出てきてくれた! 

 ただひたすら回数を繰り返しただけとは言えない。

 

「誰だ?」

 

 因みに、まだ今回は会ったことがないので自己紹介を聞いておきましょう。

 鼠のアルゴもキリトとほぼ同等の洞察力を持ってるので、気を付けなければ縛りプレイがバレてしまいます。

 

「オレっちはアルゴ、情報屋だナ」

 

「……俺のことはヒャッカとでも呼べ」

 

 名前はコンプレックスというキャラで行きます。

 いや、だって馬鹿正直に、お馬鹿百階位だ、なんて名乗って見てくださいよ。

 評判ガタ落ち、間違いなしですよ。

 

「そーか、英雄ヒー坊、よろしくナ」

 

「……待て、何だそれは」

 

「ヒー坊に助けられた人達が広めてるのサ、ヒー坊を英雄だってナ」

 

「違う」

 

「ん?」

 

「俺は坊やじゃない」

 

「そっちなのカ!? ヒー坊はどこからどう見ても坊やじゃないカ!」

 

「違う! 俺は大人だ!」

 

「……そうだナ、ヒー坊は大人だヨ」

 

「ふっ、分かればいい」

 

 恥なんて捨ててキチンとキャラクターになりきりましょう。

 

「それで、何の用だ?」

 

「ヒー坊、おっと、ヒャッカは第一層フロアボス攻略会議のことを知ってるカ?」

 

「知らん」

 

 ここで知っていると答えると、誰から聞いたのか聞かれて、色々と疑惑を持たれるので気をつけてください。

 アルゴはマジで情報のスペシャリストです。

 かなりの情報網を持っていて、容易な嘘をつくとすぐにはバレずとも数日後にはバレています。

 そして、ある程度の疑惑を持たれると、ずーっと隠蔽を使ってついてきたり、よく泊まる宿に張り込んでいたりと、色々ヤバイです。

 

 当然自分は宿には泊まらず基本的に最前線にいる、つまりどの街にも一切帰らないのですが、そのせいでアルゴに疑惑を持たれていると、変な方向に勘違いされてしまい大変な事になります。

 

 気をつけてください。

 

 これまでで、一番縛りプレイを見破って来たのはキリトで、2番目にアルゴ、3番目にキバオウです。

 

「今日の夕方、迷宮区最寄りのトールバーナの町で開かれるんだがナ、行って見たらどうダ」

 

「……そうか、分かった、アルゴは情報屋だったな」

 

「そうだヨ?」

 

「ならこちらも情報を渡そう」

 

「なんダ?」

 

「強化詐欺についてだ」

 

 ここで、事前にアルゴに強化詐欺のやり方を説明しましょう。

 クイックチェンジとベンダーズ・カーペットを使って、預かった武器をすり替える手法をね。

 

 強化詐欺というのは簡単に言うと、とある鍛治屋が武器を強化しますと言っておいて、客から預かった武器を見た目の同じエンド品の武器にすり替えて、騙し取るという詐欺です。

 エンド品とは、武器にはそれぞれ強化可能回数が定められており、これを最大まで強化し終わった武器のことを言います。

 

 このエンド品を強化すると、武器は破壊されます。

 

 つまり、強化したら貴方の武器が壊れました。

 ごめんなさいねぇ。

 

 と言って武器を騙し取る、と言う詐欺です。

 

 これをアルゴに対して、たまたま思い浮かんでしまって、絶対にやる気はないが、自分が思い浮かんでしまうと言うことは、他の人間でも考えつく可能性があるから、もし他の悪意を持った誰かがその武器強化詐欺をやろうとしていたら止めてくれ、と言うようなことを言います。

 

 これで経験値ドロボウはアルゴが勝手に潰してくれます。

 

「これは、また随分な情報だナ」

 

 ここでアルゴは情報料を払おうとしてきますが、メインメニューを開けないので、お金を貰ってしまっても、そのまま手で持っているしか無くなります。

 

 別に構わないといえば構わないのですが、それでアルゴに何故コルをアイテムストレージに入れないんだ? などと疑問に思われると嫌なので、受け取りは拒否です。

 

「金はいらない、俺も情報を受け取ったからな」

 

「……明らかに情報の価値が違うんだけどナー」

 

「こっちは手間まで押し付けるんだ、対等な取引だ、じゃあ、頼んだ」

 

「うーん、ま、いいカ、今度借りは返すヨ、じゃあナ、ヒー坊」

 

「俺は坊やじゃない!」

 

 さて、では夕方までは迷宮区に潜って経験値稼ぎといきましょう。

 

 今は12月2日です。

 

 もうすぐ1ヶ月が経とうとしています。

 この第1階層なのですが、攻略を早めるのがかなり難しいです。

 勿論、可能ではあるのですが、ここを早めすぎると、攻略組内の死者が激増します。

 というより、第1層のボスに壊滅させられたりします。

 

 ここは言ってしまえばチュートリアル。

 

 ここでキチンとソードスキルの使い方や敵との戦い方、味方との連携などを時間かけて学ばないと、攻略組の皆さんはよく死んでしまいます。

 あと、心の問題もこの1ヶ月で色々整理しているのでしょう。

 

 それでも早くしないと、と思われるかもしれませんが、安心してください。

 自分のチャートが完全にハマれば、これからどんどん攻略ペースが早くなって行き、目標タイムを超えられますから。

 

 当然、スピードが上がるということはレベルは低くなりがちなので、かなりボス戦が厳しくはなります。

 ですが、上手く立ち回ればそれでも25層や50層、75層以外は死者0人に抑えることも可能です。

 基礎が出来ているのと出来ていないのではかなり差があると言うことですかね。

 

 はい、レベリング終了。

 

 さて、攻略組が集まるトールバーナの広場に着きました。

 ここで、第一層フロアボス会議が始まります。

 

 今現在ここにいる人数は47人、完璧です。

 

 自分が何もしなければ44人なのですが、今回は3人増えています。

 

 まずは自分。

 次に将来トップ7には入る実力を持つことになる引っ込み思案な人。

 そして、攻略組に入れることにした女性が1人。

 

 計3人です。

 

 少し、女性と話しておきましょう。

 彼女は普通に助けただけなら、フロントランナーにはならずに、攻略組の少し下、カテゴリー的には中層プレイヤーになります。

 

 なので、彼女を攻略組に入れるために、人助けの合間の少しの時間を使って色々と仕込んでおきました。

 

 自分の武器や体の使い方、そう言ったテクニックを。

 

 そういう話じゃないよ? 

 攻略組は大半が男ですし、彼女は巨乳という武器を持っていますが。

 

 攻略組に入れるために体の使い方や己の武器の使い方を仕込んだ、とは言いましたが、そういう話じゃないよ? 

 

 だってメインメニューが使えないから倫理コード解除設定をいじれないんですもの。

 

 それに、ぼく13しゃい! (外見年齢)

 子供だからなんのことかよくわからないや。

 あ、あと、好感度も出来るだけあげてあります。

 

 基本的に、みんな死ぬのは朝から夕方過ぎ、夜になって少ししたくらいで、夜遅くまで圏外でレベリングしている人間は極少数なんですよね。

 そのため、夜は死ぬ人が少ないです。

 なので、夜にレベリングを、それ以外で人助けを行なってきたのですが、人助けの合間にも暇な時間というのは出てきます。

 その助ける必要がない人以外が死なない時間帯で、彼女に技術を教えたり、好感度を稼いだりしてきました。

 

 彼女の好感度、めっちゃ大事です。

 

 今回はかなりうまく稼げたので、完璧ですね。

 

「あ、ヒー君! ヒー君もボス攻略に参加されるのですか!」

 

「ああ」

 

 彼女のプレイヤーネームはサツキ、本名はさつきゆり、24歳、どこかの大企業のお嬢様らしいです。

 容姿は黒髪ロングで清楚系の大和撫子なお姉さん、と言った感じですかね。

 あ、サツキさんとは付き合うことが出来ません。

 かなり昔、青年のイケメンアバターにしてかなり好感度を上げて、何度か口説いてみたりしたのですが、リアルに許嫁がいるそうで、駄目でした。

 

 ……あれ? キリト? 

 

 チートや! ビーターや! 

 

 なんでこの人はじまりの街の外に出てるの? 明らかに守られる側の人間ですよね? 

 そしてなんで割と戦闘の才能があるんですかね? 

 大企業のお嬢様ってことは護身術とか習っているんでしょうか? 

 

 それで、サツキさんの自分に対する現時点での評価は、命の恩人兼可愛い弟と言った感じになっています。

 

 まあ、自分の見た目的には年が2倍近く離れているわけですからね。

 と、言うよりも、なんかリアルに自分と同じくらいの弟がいるそうです。

 その弟と自分を重ねているんですかね? 

 

「一緒にボスと戦えるのですね! では、その記念にフレンド登録を」

 

「断る」

 

「そうですか……」

 

 自分は誰ともフレンド登録しません。

 一応登録は可能です。

 ですがフレンドにメッセージとかは送れないですし、送られて来たメッセージも読めません。

 そうなると流石に違和感を抱かれるので、誰ともフレンドになりません。

 

 つまり自分は永遠にぼっちです。

 キリトはソロプレイヤーですが、自分はぼっちプレイヤーです。

 キリトはフレンドがいますが、自分は誰ともフレンドになれませんから。

 

 ぼっちです。

 

 ぼっち焼肉、ぼっちカラオケ、ぼっち遊園地、ぼっちBBQ、ぼっちじゃんけん、ぼっちファミレス、ぼっち居酒屋、ぼっちオンライン、ぼっち会話、ぼっち映画、ぼっちバイキング、ぼっちコンサート、ぼっち旅、ぼっちキャンプ……っは! 

 

 いま、何か変なことを……気のせいですね。

 

「俺は、どうせ長くはないからな」

 

「え?」

 

「はーい! それじゃ、5分遅れたけどそろそろ始めさせてもらいます! みんな、もうちょっと前に……そこ、あと3歩こっち来ようか!」

 

 来ました! イケメン! ディアベルさん! 

 きゃー! 踏み台ディアベルさーん! 

 

 彼、かなり有能なので、死んでしまうと面倒臭いです。

 まず第一に攻略組が分裂します。

 まあ、そのおかげで競争意識が生まれて結果的にいい方向に働いたりはしますが、今回のチャートでは彼は生存させます。

 

 いいタイミングで助けると評判も高まりますしね。

 

「今日は、俺の呼びかけに応じてくれてありがとう! 知ってる人もいると思うけど、改めて自己紹介しとくな! オレはディアベル、職業は気持ち的にナイトやってます!」

 

 ヒューヒュー! 

 

「ほんとは勇者って言いてーんだろ!」

 

 だが、残念、ディアベルさんには勇者の資格はありません! 

 

 試しにキリト以外に茅場に挑ませようと、ディアベルを75層まで生かしてボス戦後にヒースクリフの不死属性を暴かせたのですが、そのままヒースクリフは100層に帰ってしまいました。

 

 やっぱ勇者は二刀流のキリトさんなんやなって。

 

「さて、こうして最前線で活動している……」

 

 さて、では今のうちに、自分の評判と攻略速度がどうして関わってくるのかを説明していきます。

 

 その前に、自分の容姿を思い出してください。

 身長130センチ。

 顔立ちは上の中くらい。

 そして、体はかなり細いです。

 

 13歳の平均身長は、大体156センチくらいです。

 低くても140くらいです。

 9歳の平均身長が130センチくらいです。

 

 つまり、130という数値はかなり小さいということです。

 そりゃみんな子供と言いますよね。

 

 そのために、リアルでは親に虐待を……設定があるのですが、この設定がとても重要なキーとなってきます。

 

 さて、今プレイヤー達のリアルの体はどうなっていると思いますか? 

 

 そう、みんな病院でたくさんのコードを繋がれて生きながらえています。

 なら、どれだけの時間生きられると思いますか? 

 健康的な人間なら、2年は余裕で、とはいかなくても生きられるでしょう。

 

 ではでは、問題です! 

 親に虐待を受けており、体が全然成長しておらず、体もとても細い子供は、何年生きられるでしょーか? 

 

 はい、そういうことです。

 

 評判が悪ければ、勝手に死ねば? となりますが、評判が良ければ、なんとか助けなければ! となります。

 

 ここで重要になってくるのが、サツキさんです。

 

 サツキさんは、自分のことを弟のように思っています。

 今はまだ虐待や、リアルの体の時間制限には気づいていませんが、少しずつ伏線めいたものを撒いているので、あとは自分の体がどれだけ細いかを確認させれば、自ずと自ら気がついてくださいます。

 

 あ、フレンド登録を断ってきたのは、誰かとパーティを組まないでソロで戦っているのは、自分の命が長くないから、親しい人を作らないためなの? 的な感じでいい方向に勘違いしてくれます。

 

 そうなると、攻略組の皆さんを説得してくれるんですよね。

 もし自分がサツキさんから弟のように思われているのではなく、恋人のように思われていた場合、勝手に死ね! リーア充ばーくはぁぁぁあ!! となりますが、弟の場合、彼らは全力の下心を持って攻略速度を上げてくれます。

 

 弟さんの危機、救わないわけにはいかないよな! 

 おおおおお!!!! 

 

 となります。

 サツキさん美人ですからね。

 

 因みに、有能でも似たようなことになります。

 下心ではありませんが、有能には人を惹きつける何かがありますので。

 

 ですが、サツキさんがもし誰か、キリトはそもそもリセットなので、他の攻略組と付き合うことになった瞬間、攻略ペースはガクッと落ちます。

 あれ? 許嫁は? 

 

 そういった点では、速度は多少落ちますが、有能の方がリスクが少ないので、いつもは有能を使ってました。

 

 さて、ディアベルさんの話もそろそろ終わりですね。

 次に話すのはあのお方。



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第7話 キバオウ

「ちょお待ってんか、ナイトはん」

 

 キタ──────!!! 

 キバオウさ────ん!!! サボテン頭のキバオウさ────ん!! 

 

「そん前に、こいつだけは言わしてもらわんと、仲間ごっこはでけへんな」

 

「こいつっていうのは何かな? まあなんにせよ、意見は大歓迎さ、でも、発言するなら一応名乗ってもらいたいな」

 

「……フン、わいは」

 

 長いのでカット。

 

 簡単に言うと、

 βテスターは今まで死んだ500人に詫び入れろ! 

 9000人の初心者を見捨てて自分達だけ上手い狩り場やボロいクエスト独り占めしやがって! 

 土下座して溜め込んだ金やらアイテムをこの作戦の為に吐き出せ! 

 

 という事です。

 

 ではでは、キバオウさんの前に行きましょう。

 

「君は……」

 

 あ、ディアベルさんお久しぶりです。

 軽く頭を下げておきましょう。

 

 自分、実はディアベルさんと20日ほど前に会ってるんですよね。

 いやー、あの時はマジでやらかしました。

 

 あのやらかしのせいで攻略組内の評判が足りなさそうになったから、もういっそのことサツキさんを入れよう、と言うことにしたんですよね。

 

 元々本来は、攻略組の人を無理矢理危機に陥らせて、そこに助けに入ると言うマッチポンプで攻略組全体からの評判を稼ぐ予定でした。

 

 それなのに、一番初めのターゲット、しかも一番重要なディアベルさんでマッチポンプ失敗するというやらかしをしてしまったので、急遽サツキさんと言うジョーカーを使うことにしたわけです。

 

 サツキさんを使わなければ、本来ならあと1レベルは確実に上げれていたんですがね。

 後攻略組の経験値分散も1人分抑えられましたし。

 

 まあ、士気の面では圧倒的にサツキさんがいた方がいいので、サツキさんに恋人さえできなければ大丈夫でしょう。

 

 やらかしの件の詳しい話はまたいずれ。

 

「ん? 何や? 何でガキがここに混ざっとんのや?」

 

「俺はガキじゃない、βテスターだ」

 

 どストレートに正体をバラしましょう。

 あたりがざわつき始めましたね。

 

 因みに今、嘘をつきました。

 自分、βテスターではありません。

 でも、βテスターと言っておいた方が不自然ではない為、自分はβテスターを名乗ります。

 

 βテストは、何をどうしようがやれませんでした。

 応募時期をずらそうが、何度応募しようが、何度リセットしようが絶対に当選しませんでした。

 もし近くにβテストに当選した人がいたら、最悪盗んででもやろうとしたのですが、残念ながら誰一人として当選していませんでしたので、不可能です。

 

 ズルはダメという事ですね。

 

「こ、こないなガキが、βテスターやって!?」

 

「ガキじゃない……すまなかった、その500人が死んだのは、助けられなかったのは、俺のせいだ、謝罪する、ボス攻略のために、コルやアイテムも渡そう」

 

 orz

 

 ここでしっかりと土下座して、キチンと形だけの謝罪をしましょう。

 心底後悔しているように、しっかりと見せかけましょう。

 

 因みに、アイテムとコルは吐き出せません。

 アイテムストレージが開けませんから。

 

 でも大丈夫です。

 

 このままこうしていれば、周りの人達が、

 

「あんな小さな子から奪うのは」「子供をいじめて……」「おいおい」「いや、ガキ相手にそれは無いだろう」

 

 とか、そんな空気になるので、流石のキバオウさんでも、空気を読んで勝手に引き下がってくれます。

 

 これは、別にやらなくても構いません、様子見しているだけでもいいです。

 でも、やると少しだけ評判が高まり、βテスターとビギナーの溝が少し縮まります。

 なので、やれる時はやった方がいいです。

 

 ……ん? やれる時? あれ、やれない時ってあったっけ? 

 

「待ってください!」

 

 ……あ、やば、忘れてた! そうじゃん、今回サツキさんいるじゃん! 

 やべぇぇぇぇ!!! 

 完全に忘れてた! 

 

「彼は、ヒー君は誰も見捨ててなんていません!」

 

 すみません、沢山の人を見捨ててます。

 

「むしろヒー君おかげで助かった人は沢山います!」

 

 やば、どうしよう。

 これが有能だったら、

 

 止めに入ろうとはしたが、周りの空気が明らかにヒャッカの味方だったからな! 少し様子を見させて貰った! 勿論これでもキバオウが引かなければ割って入る予定だったぞ! 

 

 って感じで見守ってくれてたんですよね。

 

 サツキさんも好感度が低ければある程度様子見に徹しているのですが、今回高かったから! 

 

「な、なんや、いきなり、誰やあんた」

 

「私はサツキと申します、そして、ヒー君はあの、小さな英雄です!」

 

 ざわざわ

 

「あれが」「おい、まじかよ」「思ってたよりちっさ」「え? あんなガキが? マジで?」「嘘だろ、おい」

 

「本当です、現に私も一度、ヒー君によって命を救われました」

 

 待って、ねぇ待って、大丈夫だから! このまま行けばキバオウさん空気読んで勝手に引き下がってくれるから! やめて! 余計なことしないで! 

 

「余計なことは」

 

「ヒー君は少し黙っていてください」

 

 くっ、やばい、もう止められる気がしない、マジどうしよう。

 

 このままだとキバオウ敵対ルート入っちゃうよ! 

 キバオウさん、縛りバレ発覚第3位の実力を遺憾なく発揮してきちゃうよ! 

 

 いや、落ち着け、まだ巻き返せる。

 

 確かこの後サツキさんは、「ヒー君は私の可愛い弟のようなものです」的なことを言うはずなので、そこでなんとか割って入ってキバオウさんの意見を肯定しましょう。

 

 それ以上先を言わせるとキバオウさんも引くに引けなくなってしまいますから。

 

 味方をしてくれるのは嬉しいが、自分がはじまりの街からすぐにいなくなったのは事実だから、キバオウさんの言っていることは正しい。

 悪いのは俺で、キバオウさんは当然のことを言っているだけだ。

 現にキバオウさんはアイテムを寄越せではなく、ボス攻略のために吐き出せと言っているではないか。

 私利私欲のためではなく、SAO攻略の事を真に考えている証拠だ。

 

 的な事を言って、何とか誤魔化そう! 

 

「ヒー君は私の可愛い弟です」

 

 ……あれ? 今何かセリフが変じゃなかったか? 

 

 ……え? なんで? いつの間に自分、サツキさんの弟になったの? 

 弟のようなものでしょ!? ようなものが抜けてるよ!? 

 

「私の大切な家族に手を出すなら、誰であろうと容赦いたしません、全勢力を以て叩き潰して差し上げます」

 

 ってかもう先のセリフまで言ってるってかまた少し変わってるよ! 

 驚きのあまり割って入れなかったよ! 

 

「せ、せやかて、こいつがβテスターやって事実は変わらへん! こいつらがビギナーを見捨てへんかったら死なずに済んだ500人や! しかもただの500ちゃうで、ほとんど全部が、他のMMOじゃトップ張ってたベテランやったんやぞ! こいつらがちゃんと情報やらアイテムやら金やら分け合うとったら、今頃ここにはこの十倍の人数が……ちゃう、今頃は2層やら3層まで突破できとったに違いないんや!!」

 

 ぎゃー! もうダメだー! 絶対に目の敵にされたー! 

 

 因みに、キバオウさんの言っていることも一応間違いではないです。

 死んだ500の中には、脅そうが、死を間近にしようが心が折れず、攻略組を目指し続ける、他のMMOではトップクラスのベテランも結構います。

 

 正直邪魔です。

 と言うか攻略組はもう人数がいっぱいいっぱいなので助けませんでした。

 人が増えると経験値が分散されますからね。

 

 いらないです。

 

「発言いいか?」

 

 デカァァァァイ! 

 エギルさん、デカイよ、デカすぎるよ。

 エギルさんが座っていても目線が合うくらいデカイよ。

 

 エギルさんはスキンヘッドでチョコレート色の肌をした筋肉ゴリゴリマッチョマンです。

 そんな人が立ち上がるとね、もう、威圧感がね。

 

 身長も190ほどもありますから、何と自分との身長差60センチ以上! 

 60センチって分かりますか? 

 30センチものさし2本、じゃ分かりづらいですね。

 

 京都に売ってるお土産の木刀って長いのと短いのがあるじゃないですか。

 あの短い木刀が56センチです。

 それを頭の上に乗せてみれば、約60センチ差の身長がどれだけあるかわかると思います。

 長い方は100センチくらいですね。

 

「俺の名前はエギルだ、キバオウさん、あんたはそう言うが、金やアイテムはともかく、情報はあったと思うぞ」

 

 あの情報、当然全て覚えているので貰ってないんですよね。

 道具屋さんで0コルで買えるので、買えはするのですが、その時間が勿体無いので。

 

「このガイドブック、あんただって貰っただろう。ホルンカやメダイの道具屋で無料配布して……」

 

 いやー、エギルさん助かりますわー。

 でも、もうキバオウさんに目の敵にされている事実は変わらないんですよね……

 

 ま、まあ、バレなければ何の問題もありませんからね。

 

 確かに、キバオウさんはこれから色々としつこく付きまとってくるようになって、縛りバレの危険性がクッソ高くはなりましたが、言ってしまえばそれだけですから。

 

 大丈夫、大丈夫です。

 

「……オレは思っているんだがな、少なくとも、こんな小さな子供を吊るし上げるために集まったわけじゃないだろう」

 

 エギルさんカッケー! 

 頭は丸いけど、エギル△! 

 

「俺は子供じゃない」

 

「キバオウさん、君の言うことも理解はできるよ」

 

 ディアベルさんにスルーされました。

 

「オレだって右も左も解らないフィールドを、何度も死にそうになりながらここまで辿り着いたわけだからさ……」

 

 はいダウト。

 

 オレ……オレ知ってる!! こいつは、元ベータテスターだ!! だから旨いクエとか狩場とか全部知ってるんだ!! 知ってて隠してるんだ!! 

 

 ボスの攻撃パターンは知らなかったようですが。

 

「……どうしても元テスターとは一緒に戦えない、って人は、残念だけど抜けてくれて構わないよ、ボス戦ではチームワークが何より大事だからさ」

 

「……ええわ、ここはあんさんに従うといたる、でもな、ボス戦が終わったら、キッチリ白黒つけさしてもらうで」

 

 キバオウさん、そんな強面な顔で、こんないたいけな少年を睨まないでくださいよ。

 怖くて泣いちゃうよ? 子供の涙は強いよ? 

 

 周囲をみんな味方にできますからね。

 子供と戦うと痛い目を見るよー? 

 

 まあ、キバオウさんには何度も痛い目にあわされているんですが。

 

 やっばいなー、まだリセットするほどではありませんが、リセットの危険性が今回かなり高いですね。

 

 いつもはもう少し安全なんですがねぇ。

 でも、まだリカバリーが効くやらかししかしてませんから、全然大丈夫です。

 何の問題もありません。

 

 この後は、あんたはβテスターなんだから、ボスについて話せと言われます。

 

 ですが、ベータ時代と変更があった場合、ここでの話が無駄になるから、せめてボス部屋を発見して、ボスの容貌が変わっていなければ、その時にベータ時代の話はする、現に、細かいところが既にベータ時代とは違っているからボスが変わっていないとは言い切れない、的なことを言いました。

 

 ベータ時代からボスが丸ごと、乃至は細部が変更されている可能性もあり、ベータ時代の情報を元に作戦を立てて、いざ突入したらボスの外見も攻撃パターンも違っていました。

 となると、混乱のあまり壊滅の恐れがあるから、と。

 

 まぁ実際は時間の無駄なので語りたくないだけですが。

 

 それに、その頃にはアルゴが攻略本を作ってくださいますから。



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第8話 正義!

 さて、とりあえず解散になりました。

 

 ではでは、街の外に向かいましょう。

 

 ここでサツキさんの好感度が高ければ、真っ直ぐ街の外に向かった場合、街を出る直前で呼び止められてイベントがあるので、鍛冶屋や道具屋にはフロアボス攻略会議が始まる前に寄っておきましょう。

 

 アイテムストレージ内のアイテムは、唯一NPCのお店にだけは、売却ボタンでメインメニューを開かなくとも売ることができます。

 手鏡は売却画面だと発動しません。

 そして、もう売っぱらっちゃってます。

 

 お値段なんと0コル! ゴミ! 

 重量も大してないので持っていてもいいんですが、まとめて売る時に邪魔なので売りました。

 

 持てるアイテムには重量制限があります。

 限界重量拡張のスキルで持てるアイテムの重量を増やすことは可能ですが、メインメニュー縛りの関係上スキルスロットを使えないので不可能です。

 その所持限界を超えると、敵のドロップは足元にオブジェクト化されます。

 これ、地面に置かれているので、放置してると数時間で耐久値がなくなって勝手に消えはしますが、その数時間のうちに他のプレイヤーに見つかると、ちょっと面倒なことになります。

 

 なので、街に寄ることがあるなら定期的にアイテムストレージ内は基本的に全て空にして、鍛冶屋で武器の耐久値を回復させましょう。

 

 サブ武器とかは持ってないです。アイテムストレージ使えないんで。

 予備を腰にさしているだけでも現状では筋力が足りませんから、動きがかなり鈍りますので、1本です。

 それに、武器屋で剣を購入して、即時装備ボタンを押すと、現在装備されているアニールブレードがアイテムストレージにしまわれてしまうので、他の方法を使わなければ2本武器は持てません。

 

「ヒー君! 待ってください!」

 

 はい、来ましたね。サツキさんです。

 

「なんだ?」

 

「……どこに、行くのですか? まさか、今から迷宮区に行くつもりでは、ありませんよね?」

 

 フロアボス攻略会議が開かれたのが夕方なので、もう直ぐ夜です。

 

「そうだが?」

 

「キバオウから言われた事を気にしていらっしゃるのですか?」

 

 ん? キバオウさんから言われたこと? 

 こんなセリフあったっけ? 

 まあいいか。

 

「関係ない」

 

「なら、私も連れて行ってください! 必ずお役に立ちますから!」

 

 効率が悪いのでノーセンキューです。

 と、素直に言うわけにもいかないので、遠回しに断りましょう。

 

「夜は危険だ、疲れや眠気で集中力が落ちるし、昼よりも暗いから敵を発見しづらくなる、ほんの少しの油断やミスで命が失われる現状、夜に圏外に出るのは良くないと教えたはずだ」

 

 ま、自分にだけは言われたくないですよねー。

 

「ヒー君は今から圏外に出ようとなさっているではありませんか!」

 

「俺はいい、俺の場合、死ぬのが早いか遅いかの違いしかないからな」

 

「なんで、そのような悲しいことを言われるのですか……」

 

「俺が死ぬのは変えられない、もう定まった未来なんだよ」

 

 ここで立ち去りましょう。

 

「っ! 待ってください! ……ぇ」

 

 そうすると、サツキさんは自分の腕を掴んで来ます。

 

 ぶかぶかの長袖に隠れた細い腕を。

 

 これによってどれだけ自分の体が細いかがサツキさんに伝わります。

 勿論、自分の体が小さいことは見た目からでもある程度は分かっていたでしょうが、実際に掴んで見るとまた違いますよね。

 

 これで仕込みは完了ですね。

 

 ではでは、さようなら〜。

 

 さて、ではレベリングして行きましょう。

 

 因みに、現在自分の武器、アニールブレードは+3(2S1D)です。

 

 NPC鍛冶屋に武器を渡して、強化素材は鍛冶屋が高い金で取り扱っているので、それを買って4回強化を行いました。

 

 プレイヤーの鍛冶屋の場合、メインメニューを開けない関係上そのプレイヤーにコルを払う方法がありませんが、NPC鍛冶屋は強化を依頼すると自動でコルが支払われますので、プレイヤーに比べると後半はどうしても熟練度が劣ってしまいますが、武器強化自体は可能ではあります。

 

 強化素材は、自分で持ち込むことも可能です。

 しかし、自分で持ち込もうと思った場合、まずアイテムストレージを一杯にして、ドロップアイテムがその場にオブジェクト化するようにしてから集めなければダメなので、少なくとも今はそんなことをしている時間はありません。

 

 Sは鋭さ、Dは丈夫さです。

 他にも速さ、正確さ、重さがありますが、やっぱりどうしても攻撃力が足りないので、上げるのは鋭さ一択です。

 

 アニールブレードは強化限界値が8回、つまり8回しか強化出来ないので、鋭さ+8を目指しましょう。

 

 まあ、この武器はそこまで強化しませんが。

 

 因みに、自分は4回強化して+3になりました。

 しかも、武器強化失敗のペナルティで、+数値の内容が入れ替わってしまいまして、2S1Dになってしまいました。

 

 でも、悪くはないんです、悪くはないはずです。

 プラス値が下がるよりはよっぽど良いですし、変わった内容も丈夫さという実質耐久値が上がるプロパティですから、悪くはないんです。

 

 武器強化は+4までは結構な確率で成功しますが。

 

 ……悪くないよね? 

 

 これはリセットでは? と思われるかもしれませんが、2層でアニールブレードより良い武器が手に入るので、今回はそこでもうアニールブレードはお役御免です。

 なので、これは致命的ではありません。

 

 プラス4まで行っていたらその武器の入手はしなくても良かったのですが、許容範囲内です。

 

 当然武器は溶かしてインゴットにするとか、アイテムストレージ内に取っておくとか、そんな無駄なことはしません。

 NPCに売ります。

 

 剣を己の分身と見立てたり、深く思い入れして、時には手入れしながら話しかけたりは、時間の無駄です。

 所詮単なるデータです。信頼すれば武器が答えてくれるなんてことはないので、場合によっては耐久値を全て使い切って使い捨てても構いません。

 

 武器の魂を一緒に連れていく? それでタイムが縮まりますか? 間に合いますか? 

 

 勿論、そんなことを言うと評判が下がるので、口には出しませんが。

 

 さて、今はもうそろそろ12月3日の昼ごろになります。

 

 このくらいでディアベルさんたちパーティがボス部屋を発見します。

 

 はい、そろそろ夕方なので、第2回第一層フロアボス攻略会議が始まります。

 

 では、街に戻って武器の修理とストレージ内の物の売却を済ませてから広場に向かいましょう。

 

 はい、時間ぴったり、この広場に到着したのは、自分が最後です。

 

 最初はディアベルさんの話から始まります。

 ボス部屋を発見したこと、ボスを覗いたこと、ボスの名前、武器、取り巻きについて。

 

 そこで、βテスターの自分にβテスト時代とそれらが変わりがあるか等を聞かれます。

 

 しかし、その直後にアルゴの攻略本が同じ広場の隅で店を広げていたNPC露天商に売られていることが発見されるので、自分はその攻略本の情報は間違っていないと言うだけで良くなります。

 

 ありがとう! アルゴさん! 

 

 自分が説明しようとすると、一々質問が飛んできて時間がかかりますが、攻略本にまとめられていると質問が飛んでこないので早いです。

 

 因みに、

 

【この情報はSAOベータテスト時代のものです。現行版では変更されている可能性があります】

 

 と言う文が裏表紙に赤く書かれています。

 これによってアルゴさんはβテスターと疑われます。

 

「おい、このアルゴって奴はβテスターなのか?」

 

 攻略組の一人が自分に聞いてきました。

 

「知らん、βテスト時代とは容姿も違うし名前も違う可能性があるんだから、判断は不可能だ」

 

 オレ……オレ知ってる!! アルゴは、元ベータテスターだ!! だから、ボスの攻撃パターンとか、旨いクエとか狩場とか全部知ってるんだ!! 知ってて隠してるんだ!! 

 

 うーん、隠しているって言うより売っている、ですかね? 

 いや、0コルで売っているってことは隠していないですね。

 

 まあ、そんなこと言いませんが。

 もし言うと、アルゴさんとも敵対してしまうので、絶対にやめましょう。

 

 アルゴさん敵対ルートはマジで不可能です。

 

「──みんな、今は、この情報に感謝しよう!」

 

 ざわざわ、みんなディアベルさんの発言にざわついています。

 ディアベルさんのこの発言は、βテスターとの融和を目指すと言っているようなものですからね。

 

 でも、否定的な意見は飛び出してきません。

 これを見ると、βテスターとビギナーの間にはそれほど溝がなさそうに見えますよね。

 

 でもそんなことはありません。

 プレイヤーの中には一部、βテスターを本気で憎んでいる人達がいます。

 500人の死はβテスターが悪いと本気で信じている人達の中でも、その死んでしまった人と縁があった人達ですね。

 

 そのプレイヤーたちは、まだ先の話ですが、しばらくすると街中で自分に絡んで来るようになります。

 いくら子供の外見をしているとはいえ、現状唯一βテスターと判明しており、怨みをぶつけられる唯一の相手ですからね。

 

「出所はともかく、このガイドの……」

 

 当然ですが、その方々の相手をしている時間は無駄です。

 しかも、その方々、一度だけではなく、何度も何度も何度も何度も現れます。

 

 マジで邪魔です。

 なので、時間に余裕ができたあたりで、その方々が今後一切目の前に現れることがなくなるようにします。

 

 話は変わりますが、皆さんは睡眠PKというものをご存知でしょうか? 

 

 完全に熟睡しているプレイヤーに完全決着モードのデュエルを申し込み、そのプレイヤーの指を動かしてYesを押させて寝首を掻いたり、もしくは眠っているプレイヤーをストレッチャーで圏外に運んで殺したり、モンスターに殺させたりするのが睡眠PKです。

 

 別にこれ、PKにだけ使える手法ではありません。

 完全に眠っている相手の指を動かして、メインメニューを操作して相手のアイテムを全て奪い取ったり、相手のフレンドに変なメッセージを送り込んだりも出来るわけです。

 

 例えばキリトを例に挙げると、キリトが熟睡している間に勝手にキリトの指を動かして、メインメニューのフレンド欄を開いて、クラインに対して愛の告白のメッセージを送ることだって可能なわけです。

 

 それを真剣に受け取ったクラインが……

 あれはとても楽しかったです。

 

 でも、何故かその後、キリトの超感覚で自分の犯行だということがバレてしまいましたが。

 いや、目の前で大笑いしてしまったのが原因でしょうか? 

 

 その他にも、相手の倫理コードを解げふんげふん、何でもありません。

 

 この手法が広まるのはゲーム開始から約11ヶ月後、つまりあと10ヶ月後になります。

 それまでは、バレなければ何度でも使用可能な手段というわけですね。

 当然アイテムを奪ってそのままではバレてしまいますから、攻略組などの口封じをしてはいけない相手からは、そんなことはしません。

 

 それに、口封じをするとは言っても、完璧に疑われないタイミングはとても少なく、限られているので多用できる手でもありません。

 

 そして、いくらやれるとは言っても、その相手が欲しいアイテムを持っていなければ単なる小遣い稼ぎにしかなりません。

 コルは第7層にモンスター闘技場があって、そこでかなり稼げるので、その程度の小遣い稼ぎは時間の無駄です。

 

 なので、あまり使いません。

 

 因みに、βテスターを恨んでいる方々は、同じものを憎んでいるもの同士だからなのか、横の繋がりがあり、フレンド登録されています。

 

 まあ、別にだからどうというではありませんが。

 

 何故βテスターを恨んでいる方々同士がフレンドなのを知っているんだ? とかは聞かないでください。

 

 ……皆さん、自分のこと、何か変な勘違いしていませんか? 

 自分のこと、極悪非道のガチクズとか、人間性がかけらも存在しないとか、そんなこと思っていませんよね? 

 

 そんなわけないじゃないですか! 

 自分、サツキさんからどのように思われているか知ってますよね? 

 可愛い弟です、分かりますよね! 可愛い、弟、そう、可愛い、です。

 

 可愛いは正義、つまり自分は正義ということです。

 自分は正義! 正義です! 

 つまりクズではありません。

 自分の正義が完璧に証明されてしまいましたね。

 

 それにほら、プーは悪でしょう? 

 

 可愛いが正義なら、可愛いの反対は正義の反対、悪ということになります。

 プーは可愛いですか? いいえ、可愛いとは正反対の位置にいますよね。

 つまりプーは悪! 

 

 完璧な理論だ! 

 

 いや、待てよ? 正義の反対はまた別の正義って言葉があるよな? 

 ということは、可愛いの正反対のプーは正義の反対、正義なのでは? 

 

 つまりプーは正義! 逆説的にプーは可愛い! 

 

 完璧な理論だ? 

 

「……みんな、まずは仲間や近くにいる人と、パーティを組んでみてくれ!」

 

 お、ついに来ましたね、小学校の体育の授業とかでよくある、ぼっちに辛いやつ。



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第9話 右手のひら

 パーティを組んでみてくれ、でパーティが組める奴はコミュ力の塊だけだ! 

 コミュ障やソロ、ぼっちプレイヤー達には不可能だ! 

 

 ま、まあ、別に? 自分、作ろうと思えば友達10000人作るとか余裕だし? 

 でも、あえて、そう、あえて友達作らないだけだし? 

 ……負け惜しみじゃ、ないよ? 

 

「ヒー君、一緒にパーティを組みませんか?」

 

 あ、珍しい。

 ここでサツキさんがすぐに声をかけてくることは稀です。

 

「……」

 

 サツキさんは現状、攻略組唯一の女性プレイヤーだと周りからは思われています。

 なので、当然男どもが放っておくはずも無く、いつもは沢山の男達に囲まれていました。

 

 今、アスナさんはフードを被っていて女性と気づかれていませんからね。

 

 なので、すぐに声をかけられることは稀なのですが、少しすればサツキさんの周りに人が集まるので、ここは無視しておきましょう。

 

「ヒー君?」

 

「……」

 

 ……あれ? 

 

「大丈夫ですか?」

 

「……ああ、大丈夫だ」

 

 サツキさんの周りに人が集まってきません。

 んん? なぜ皆さん、遠巻きにこちらを眺めているのでしょう? 

 

 ……ま、いっか、別に大した影響は無いでしょう。

 

「パーティか……」

 

 今回の第1層フロアボス戦のパーティは、他の方々が1分足らずで6人7チームを作ります。

 レイドは8パーティまでなので、あと1チーム、余った5人がパーティを組むことになります。

 つまり、自分とサツキさん、コミュ障、そして、キリトさんと、アスナさんの5人で1パーティです。

 なので、全員揃ってからパーティを組みましょう。

 

 さて、もう他の人達はパーティを作ったので、あぶれた5人で固まりましょう。

 

「分かった、だが」

 

「本当ですか!? 申請送りました!」

 

 はや!? パーティ申請送ってくるの早! 

 まあいいか、先にサツキさんとパーティを組みましょう。

 その前に。

 

「……名前、名前は、その、気にしないでくれ、頼む」

 

「はい?」

 

 では、OKボタンを押してパーティを組みましょう。

 

 パーティを組むと、視界の左側にパーティメンバーのHPと名前が表示されます。

 

 つまり今、サツキさんの視界左端には、Obakahyakkaiiという文字が浮かんでいるはずです。

 

「え? おばかひゃむぐっ」

 

「や、やめろ! 口に出すな!」

 

 ここで、サツキさんの口を右手のひらで塞ぎます。

 

 この行いはハラスメント防止コードに引っかかるため、今、サツキさんの視界にはコード発動を促すシステムメッセージが表示されており、彼女がOKボタンに触れれば、自分は一瞬で黒鉄宮の監獄エリアに転送されます。

 

 ですが、ここでサツキさんがそのボタンを押すことはありません。

 

「あ、ごめんなさ! ……すまなかった」

 

「い、いいえ、その、私も悪かったですし……あ、だからヒャッカなのですね!」

 

「……笑いたければ、笑えばいいじゃないか……」

 

「笑いませんよ、いい名前ですね」

 

 皮肉かな? 

 いや、気を使ってくれているのでしょう。

 ええ人やで。

 

「そ、そうか? そうだよな! ……あ、いや、うん」

 

 因みに、今回の名前の由来は、某VRMMOゲームの最終日に主人公のギルドが丸ごと異世界に転移する超過剰労働の、魔法が元ネタです。

 

 その超過剰労働には、第何々階位魔法というのが、1から10まであるのですが、自分は100という数字が好きなので、自分のバカさ加減は、百階位級だ! 

 ということで、お馬鹿百階位という名前にしました。

 

「ふふっ」

 

「だ、誰にも言わないでくれよ!」

 

「分かりましたわ、ヒー君」

 

 はい、では5人でパーティを組みましょう。

 

 組みました。

 

「よろしく頼む、名前は、その、気にしないでくれ、俺のことはヒャッカと呼んでほしい」

 

「よろしくお願いしますね」

 

「よろしく」

 

「……」

 

「……」

 

 あれ? コミュ障が黙っているのはいつものことだけど、なんでキリトさんも黙ってるの? 

 

 目だけ左を見ているから、誰かの名前を見ているっぽいけど。

 

「あれ? アスナさん? もしかして……」

 

「どうした?」

 

「あ、いいえ、なんでもありません」

 

 サツキさんはリアルのアスナさんを知っているようです。

 

 とは言っても、それほど関わりがあるわけではなく、一応名前と顔を知っているくらいだそうです。

 会話も特にしたことがないとか。

 それはアスナさんも同様で、顔と名前がわかれば、あれ? もしかして? 程度にはサツキさんを知っているそうです。

 

 ただ、この時のアスナさんは、視界の左端にパーティメンバーの名前が表示されることにすら気がついていないので、サツキさんには気がついていないです。

 

 そして、コミュ障、彼はネット弁慶です。

 フレンド登録すると、メッセージにとてつもない超長文が、多数送られてきます。

 本名は知りません、リアルネームを知ることができるほど仲良くなるには、コミュ障の場合、フレンド登録は必須なのでしょう。

 

 元々はそのコミュ障を治したくてこのゲームを始めたそうです。

 まあ、リアルの体と顔になっているんでね、いくらネット弁慶であろうともコミュ障はコミュ障ですから。

 

 で、コミュ障の名前はクリンプさんです。

 

 では、パーティが定まったので、ディアベルさんがパーティを検分して、最小限の人数を入れ替えて、7つを目的別の部隊へと編成します。

 

 重装甲のタンク部隊が2つ、高機動高火力のアタッカー部隊が3つ、長モノ装備のサポート部隊が2つ。

 そして、最後に我らが寄せ集め部隊。

 

 キリトとアスナは高機動高火力アタッカーで、サツキさんは筋力ガン振りの盾を持たせればタンクができる女性、コミュ障は敏捷ガン振りでナイフを使う暗殺者といった感じです。

 

 自分? 低機動低火力サクリファイスですね。

 

 サツキさんは現時点ではまだソロでやっているようです。

 でも、サツキさんがソロでいるのは1層までです。

 基本的には1層の途中から1層のボス戦前まで、遅くともボス攻略後にはだいたい他のパーティに入っています。

 

 サツキさんの戦い方は、自分が何もしなければ、外見からは想像もつきませんが、攻撃全振りか、防御全振りしかしないバーサーカーです。

 敵の攻撃は、一切避けません。

 自分のHPが0になれば本当に死んでしまうかもしれないというのに、敵の攻撃を一切怖がる様子もなく、ヒールポーションを常時飲み続けながら、ただひたすらに敵を攻撃し続けます。

 

 とても胆力がありますよね。

 

 なので、自分が教えたのは、相手の攻撃の出を潰す方法です。

 下手に避ける方法を教えても、サツキさんはうまく敵の攻撃を避けられません。

 

 攻撃を避けるというのは、自己防衛本能が、恐怖心が無ければ単なる付け焼き刃にしかなりませんから。

 

 なので、相手の動きを見て、敵の攻撃を出来るだけ潰すように行動する方法を教えました。

 

 それによって、かなり強くなります。

 

 ですが、ヒールポーションの消費がとても早いですし、今後麻痺とかの状態異常を引き起こす相手と戦う場合、サツキさんの戦い方ではすぐに死ぬので、ボス戦と、少なくとも第2層からはどこかのパーティでメイン盾をやっていてもらいます。

 

 サツキさんの装備は、今はまだ両手剣ですが、後々は巨大な盾のみか、巨大なハンマーを振るうようになります。

 

 そして、コミュ障は当然ソロプレイヤーです。

 

 コミュ障がパーティを組むのは、自分が無理やり組む以外では基本的にボス戦だけです。

 それ以外はずっとソロです。

 

 で、ボス戦での役割なのですが、基本的にはキバオウたちパーティのサポート、つまり取り巻きコボルドの殲滅、そして、何か不測の事態があった時の予備部隊といった役割です。

 

 その後はAからGまでナンバリングされた部隊のリーダーの挨拶とコルの分配方針を確認して終わりです。

 

 コルはレイドの47人で自動均等割、アイテムはゲットした人の物という、縛りプレイが露見する危険性がない、とてもありがたいものです。

 

「頑張ろうぜ!」

 

「おー!」

 

 はい解散です。

 では、早速迷宮区に戻りましょう、と言いたいところではあるのですが、もうパーティを組まされているので、迷宮区には行きません。

 

 この時点でレベルが足りなければ、もうボス戦での評判上昇は諦めて、迷宮区に行ってもいいのですが、もうレベルはギリギリ足りているので、大丈夫です。

 

 あとは防具を新調すれば、準備は完璧に整うので、この時間で防具を新調しに行きます。

 

 その防具は、今回のボス戦専用防具です。

 それ以外では使いません、というより使えません。

 

 今装備している防具は、防御力も耐久力も第1層にしてはそれなりの防具です。

 

 そして、今から買いに行く防具は防御力は第1層で手に入る皮系防具の中では最大防御力を誇り、敏捷もほんの少し上昇します。

 

 ただし、耐久値は紙です。

 ボスの攻撃1コンボで消し飛びます。

 

 防具の耐久値が消えれば、当然それ以降は服のみという、危険度MAXな状態になってしまうため、普段から使うことはオススメできません。

 

 そして、その防具はこのトールバーナの街には売っておらず、ここからかなり離れた場所に売っています。

 

 なので、今夜はマラソンです。

 明日の集合時間までには間に合うので、大丈夫です。

 

 では、さようなら。

 

 っと、その前に、周囲に誰もいなくなったのを確認したら、右手のひらを舐め回しましょう。

 とても気分が高揚しますから。

 

 はい、出発。

 

 はい、戻りました。

 

 今現在の時刻は12月4日、午後10時くらいです。

 今日、ボス戦を行います。

 なので、今はトールバーナの広場にいます、集合時間ですね。

 とりあえず、今はパーティメンバー5人で固まっています。

 

「おい」

 

 あ、キバオウさん! キバオウさんが話しかけてきてくれました! 

 これは、もしかして敵対ルートを回避できるのでは? 

 

「ええか、今日はずっと後ろに引っ込んどれよ、ジブンらは、わいのパーティのサポ役なんやからな」

 

 つまり、危ないからお前達はわいが守ったる! ってことですか!? 

 

「大人しく、わいらが狩り漏らした雑魚コボルドの相手だけしとれや」

 

 え? やだなー、キバオウさんが雑魚コボルドを狩り漏らすことなんてあるわけないじゃないですかー。

 つまり、自分達が暇にならないように、安全な数だけをこっちに回してくれるってことですか!? 

 

 優しい! これはキバオウ敵対ルートじゃありませんね! 

 気遣いが出来るキバオウさん、流石です! ヒューヒュー! 

 

 ……はい。

 

 では、ディアベルさんの前口上は適当に聞き流して、47人で迷宮区に向かいましょう。



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第10話 ボス戦

本日2話目です。


 さて、では迷宮区を登って行きましょう。

 

 ここで気をつけなければならないのは、絶対にダメージを受けてはならないことです。

 もし、一度でもダメージを受けた場合、ボス戦での評判稼ぎが不可能になります。

 

 気をつけましょう。

 

 それと、今キリトとアスナは2人で色々会話しているので、邪魔しないであげましょう。

 

「おい、なんでソードスキルを使わへんのや! 今のソードスキル使うとったらもう少し早う終わってたやないかい!」

 

 はい、キバオウさんに早速絡まれてしまいました。

 敵対ルート不可避ですね。残念。

 

「今のはソードスキルを使うより、使わないほうが早い」

 

「そんなわけあらへんやろ!」

 

「確かに、ソードスキルは強力だ、だがそれと同時に技後硬直やソードスキル発動のためのモーションは隙だらけだ、敵の目の前でそんな隙を晒すより、その時間でもう一撃を叩き込んだほうがいい」

 

「ちゃうわ! 今はパーティ組んどんのやろ! ならスイッチすればいいだけの話やないか!」

 

「新たな敵が現れる等で意識がそれて、スイッチするパーティメンバーがとっさに反応できなければどうする? それに、周囲を囲まれた時にそんな隙を晒していたら生き残れない」

 

「だから今はパーティ組んどるやろが! 周囲を囲まれることなんかよっぽどあらへんわ!」

 

「ヒー君にはヒー君の考えがあるのです!」

 

「こんガキが適当やってると、わいらが危険に晒されるやろがい!」

 

「俺はガキじゃない!」

 

「ガキやろが!」

 

「ヒー君はガキではありません! 立派な大人です!」

 

「立派な大人なら、ソードスキル使えや!」

 

「大人子供にソードスキルを使う使わないは関係ありません!」

 

 サツキさんがとてもヒートアップしていますね。

 さて、この辺りで謝りましょうか。

 

「……すまない、分かっては、いるんだ、ソードスキルは使わないといけないと、だけど……」

 

「な、なんやいきなり?」

 

「あの、ソードスキルを使った時に体が勝手に動かされる感覚が、どうしても……茅場に体を無理やり操られているような気がして、拒絶感が出て、うまく発動できないんだ」

 

「……それは、せやけど!」

 

「分かってる、使えるものはなんだって使わなければいけないことは、そうしなければ生きられないと言うことは、分かっているんだ……だけどっ! ……だから、もし俺が本格的に足手まといになったら、容赦無く切り捨ててくれ、でも、それまでは! 攻略の手伝いをさせてほしい! 皆が生きている間にこのゲームを攻略するために!」

 

「……足手まといになったら、容赦無く出てってもらうで! 分かったな!」

 

「……ありがとう!」

 

「……そのみんなの中に、ヒー君は入っているのですか? 

 

 はい、なんとかとりあえずは乗り切りましたね。

 とりあえず、ソードスキルを使わないのはこういったことが原因ですと言っておけば、とりあえずは大丈夫です。

 

 もうすでに自分の戦闘力の高さは目の前で見せつけたので、キバオウさんも分かっています。

 

 なので、あとは置いてかれないようにするだけですね。

 

私が、私がヒー君を守らないと

 

 はい、ボス部屋の前にやってまいりました。

 もうすでに5人でどのようにルインコボルドセンチネル、ボスの取り巻きと戦うかは話し合ってあるので、最初はそのように動きましょう。

 

「行くぞ!」

 

 ディアベルさんの掛け声とともに、皆でボス部屋に突入します。

 

 では、しばらくは取り巻き相手に遊んでおきましょう。

 ここでも攻撃は受けてはいけません。

 

 さて、無傷で戦えていますね。

 戦線もだいぶ安定していますし、今回は上手くいきそうです。

 

 それにしても、キリトさんとアスナさんはやっぱり強いですね。

 5人パーティなのに2人で倒してしまった取り巻きもいるくらいですから。

 

 サツキさんは今装備を盾に持ち替えてもらっているので、キリトアスナコンビが少し下がった際に前に出て取り巻きの攻撃を盾で受け止めています。

 て言うか、盾で攻撃しています。

 盾に攻撃判定はありませんので、ダメージは入らないのですが、取り巻きが攻撃する瞬間に、盾で攻撃して相手の体勢を崩して、攻撃自体を潰しています。

 

 あれ? サツキさんこの時期、こんなに強かったっけ? 

 まあいいか。

 で、その隙ができた時にコミュ障と自分が攻撃するって感じで、完全に安定していますね。

 

 はい、もうボスのHPも、4ゲージの内2ゲージ半削れています。

 あと1ゲージ半ですね。

 

 あ、キバオウさんがこちらに近づいて来ます。

 今回用があるのは自分ではなくキリトさんのようですが。

 何やら会話をしている様子です。

 

 皆が必死に頑張っているのに、何を呑気に喋っている! ボス戦の最中だぞ! 

 まあ、もう取り巻きは倒し終わって暇ですからいいんですがね。

 

 もうすぐボスのHPゲージが残り1本になります。

 ゲージが1本消費されるごとに取り巻きが3体現れるので、もうすぐ新たな3体が湧いて出て来ます。

 

 はい、出てきました。

 

 そして、ボス、イルファングザコボルドロードは、ゲージが1本になると武装を変えます。

 

 イルファング・ザコ・ボルトロードではありません。イルファング・ザ・コボルドロードです。

 雑魚ボルトと言ってはいけません。

 

 今までは右手に骨斧、左手に皮盾の装備で戦っていましたが、これから刀に切り替わります。

 βテスト時代ではタルワールを使っていましたが、製品版では変更されて、武装が刀に変わります。

 

 別に同じようなものでしょ? と思うかもしれませんが、武装が変わるとソードスキルが変わるので、動きが全く違ってきます。

 

 それで、武装を変えている間はボスが無敵なのですが、それが終わったら戦闘が再開されます。

 このまま放置してると戦線が壊滅しかけて、ディアベルさんが死んでしまいます。

 ディアベルさんは死なせるわけにはいきませんので、助けましょう。

 

 今ここで、ボスの武器が違うと叫べばディアベルさんは一度下がり、助かります。

 

 ですが今回は、レベル、防具、そしてノーダメージという条件を満たしているので、評判稼ぎを優先しましょう。

 あと、キリトも強化したいですし。

 

 なので、少し待ちます。

 3、2、1、はい、このタイミング。

 

「ディアベル下がれ! ボスの武器が違う!」

 

「なに!?」

 

 このタイミングでいうと、ボスのソードスキルの発生音に阻まれることなく、きちんと全員に自分の警告が届きます。

 

 しかし、回避は間に合いません。

 

 ボスは飛び上がり、地面につくと同時に360度の回転切りを行います。

 

 これによって、ボスを取り囲んでいたディアベルさんパーティ6人の平均HPは5割を下回ります。

 そして、6人全員スタンしてしまいます。

 

 ここで自分は、ボスに向かって突撃をっ! やば! 

 

 目の前に取り巻きコボルドが立ちはだかりました!? 

 やっば! 邪魔! ディアベル死んじゃうって! まずいって! 

 

「ヒー君!」

 

 っ! サツキさんが取り巻きコボルドを筋力と盾で無理やり押しのけてくださいました! 

 

 神! サツキさんマジ神! 

 

 急いでボスに向かいましょう。

 

 これ、間に合うか? 間に合え! 間に合ってくれ! 

 

「ウグルオッ!!」

 

 ボスが、カタナのソードスキルを発動しました。

 両手で持った刀を床すれすれの軌道から高く切り上げる浮舟というソードスキルです。

 

 ここで、床に倒れているディアベルさんにタックルをします。

 

 身長が低いので、高身長よりはタックルしやすくはありますが、ディアベルさんは床に倒れているので結構難しいです。

 なので本来は手で押しのけるのですが、今回取り巻きに一瞬時間を取られたので、タックルしかありません。

 

 ここで、ボスの攻撃を受けます。

 これでもしディアベルさんも攻撃に巻き込まれていたら、リセットです。

 

 どうだ!? よし! 攻撃されたのは自分だけ! 

 

 完璧だ! 完璧なタイミングだ! 

 

 さて、ボスのこの攻撃、コンボ技です。この後3連撃がきます。

 なので、浮舟で自分の体を浮かされた場合、空中で体を丸めて最大防御姿勢をとらなければなりません。

 

 ですが、その体勢をとった場合、キリトに疑われる一因となります。

 

 ここで体を丸めることが出来るのは、刀のソードスキルを知っているものだけです。

 知らなければそんなこと咄嗟にできません。

 

 確かに自分はベータテスターを名乗っています。

 ですが、刀スキルを知っているとなると、相当最前線にいたプレイヤーとなってしまい、キリトと会っていなければおかしくなってしまいます。

 

 もちろん、キリトも最前線の他のβテスターを全て知っているわけではありませんが、ボス戦などで顔合わせする機会はありますから。

 

 アバターも変更され、名前も変わっている可能性があるとはいえ、キリトからは出来るだけ疑われない方がいいので、ここでその姿勢はとりません。

 

 ただし、3連クリティカルだとHPが消し飛ぶので、クリティカルだけは無理やり体を動かしてギリギリ避けましょう。

 

 これで、レベルが足りており、あの防具をしていて、ノーダメージなら、ギリギリHPがレッドゾーンで残ります。

 

 はい、完璧。

 そのまま20メートル吹き飛ばされて、キリトやサツキさんの前に落ちます。

 これで、防具の耐久が無くなって、ポリゴン片となって粉砕、四散しました。

 HPも残り数ドット。どんな攻撃でも後1撃で余裕で消し飛びます。

 

 ですが、ここでのんびり寝ている時間も、HPを回復している時間もありません。

 

 すぐにボスに向かって

 

「ひ、ヒー君? ……い、いや、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!!!!」

 

 うっるさ!? ビックリした! いきなり間近で叫ばないでくださいよ! 

 

 とりあえず、その叫び声は無視してとっととボスのところに戻りましょう。

 

「ボサッとするな! 死にたいのか!? ディアベル! すぐに隊を下がらせろ! サツキ! クリンプ! 取り巻きは任せる! キリト! アスナ! 来い!」

 

 ここでキリトとアスナを呼びます。

 

 ボスのラストアタックは出来るだけキリトに取らせていきます。

 とにかくキリトを強化しないといけないのでね。

 

「おい! ガキィ! 早うHP回復せんかい! 戻れやぁ!」

 

 キバオウさんの気遣いは、ここでは無視をします。

 

 ここからが本当の戦いです。

 軽く蹴り飛ばされるだけで死にますし、武器で敵の攻撃を防いでも、うまく防がなければダメージが少し通ってしまうことがあるので、敵の攻撃は全て避けます。

 

 敏捷は少ないですが、それでも体の小ささを生かして全てかわしていきましょう。



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第11話 ボス攻略

 さて、ボスに対するダメージは、最初はあまり与えなくとも構いません。

 キリトさんとアスナさんが来るまでは回避優先です。

 その後も、攻撃は最低限与えれば大丈夫です。

 

 ボスを攻撃することによるスキル熟練度ブーストは、自分には関係ありません、スキルを習得できないのでね。

 経験値は、まあ欲しくはありますが、キリトが経験値を稼ぐことの方が大切です。

 あとアスナも。

 

 強くなれば当然死ににくくなりますからね。

 

 あと、ラストアタックボーナスはキリトが取るように調節頑張りましょう。

 

 敵の攻撃の避け方ですが、このザコ・ボルト、あ、いいえ、イルファング・ザコボルドロードなのですが、AIがそれなりに賢いです。

 

 なので、フェイントを織り交ぜながら回避しましょう。

 初めのうちは結構引っかかってくれます。

 

 直ぐに対応してきますが、最初の数発を避けさえすれば、キリトさんとアスナさんが来ます。

 そこから本格的な攻撃の始まりです。

 

 それで、エギルさん以外の他の隊が衝撃から立ち直る前に決着を決めます。

 

 彼らは今まで楽勝モードだったので、ここでいきなりの大ピンチ、一人は死にかけ、リーダーも危うかったという状況に陥って、立ち直るのにしばらく時間がかかります。

 

 立ち直っても、事前の話し合いとは違う動きをするボスを前にして戸惑ってしまい、なかなか応援には来ません。

 彼らはまだこの非日常は1ヶ月ですからね。

 命の危険がかかっている状況で、しかも一人のHPをほぼ削りきった攻撃を持っているボス、そりゃ、平和な日本に住んでいる彼らは二の足を踏みますよね。

 

 リーダーからの指示があれば、まだ直ぐ立ち直れたかもしれませんが、ディアベルさんも死にかけた衝撃がなかなか抜けず、ボスから離れはしますが、立ち直るのには時間がかかります。

 

 HPも何気に結構減っていますからね。ポーションで回復するのにも、ある程度時間はかかりますから。

 

 あと、この段階になると、取り巻きのポップ回数も追加されています。

 ここからは常に4体が常時湧き続けますので、応援に来たくても来れない部隊も存在します。

 

 ここで比較的早く立ち直り、戦線に加わるのがエギルさん達の部隊です。

 

 ボスはこの9人、自分、キリト、アスナ、エギルさんパーティ6人で倒し切ります。

 まあ自分はほぼ攻撃しませんが。

 

 まずは避けましょう。

 

 ザコ・ボルトが構えた刀が緑色に輝きます。

 あの構えは、カタナ直線遠距離技、辻風ですね。

 居合系の技で、高速で突っ込んで来てかなりの速度の斬撃を放つ技です。

 

 これは一度右にステップを踏んでから、左前方に転がって避けましょう。

 タイミングを誤ると死にます。

 早すぎると軌道を修正して来て、遅すぎると首が飛びます。

 

 はい、ここ。

 

 この時、正面に転がるとザコボルトに蹴られて死にます。

 本当にそれだけで死ぬ体力と防御力しかないので、気をつけましょう。

 

 直ぐに立ち上がりましょう。

 攻撃はまだしません。

 

 攻撃に意識を割くと避けられる確率が減りますので。

 

 次、これは、幻月ですね。

 同じモーションから上下ランダムに発動する技です。

 これは左ステップ後の右転がりで避けられます。

 

 ここからAIが学習して、同じようなステップを使ったフェイントには対応して来ます。

 

 次、これは秘奥義、じゃない、緋扇ですね。

 これは、今、かなりザコボルトと距離が近いので、足の間を抜けて裏に回り込んで避けます。

 

 この時、足にも気をつけなければいけませんが、もう一つ、尻尾にも気をつけましょう。

 当たると、ほとんどダメージは入りませんが、死にます。

 尻尾は割と不規則に動くのでとても危険です。

 

 でも、裏に抜けると時間を稼げるのでね。

 

 とりあえず、他の人を狙われるとまずいので、股の下を通る時に軽く足を切っておきましょう。

 

 このとき、基本的にザコボルトは右回転して振り返ります。なので、裏に回り込んだら速攻で右に、裏を取り続けるように行動します。

 

 さて、ようやく真打ち登場、キリトさんとアスナさんが到着します。

 

「ヒャッカ! 一度下がれ! ここは俺たちが抑える! アスナ!」

 

「セアアッ!!」

 

 まずは2人が横からソードスキルによる攻撃を加えてくれます。

 

 これによって、キリトにヘイトが向くので、ここからはキリトにタンクを任せて、一度少し下がりましょう。

 

 にしても神業だよなー、さすが主人公。

 

 相手の超高速ソードスキルに、自分のソードスキルを合わせるなんていう曲芸、本当にすごいです。

 アスナさんも、いやー、すごい威力のリニアーですね。

 

 じゃあ、2人とも、頑張ってください。

 

 さて、とりあえず腰のポーチからポーションを飲みましょう。

 ここで飲まないのは不自然なので。

 先程まではボスを相手できる人が誰もいなかったから、という言い訳が通用しますが、ここではもう無理です。

 

 さて、ではタイミングを見て前線に戻りましょうか。

 もう体を張って庇うのはHPや防御力的に無理なので、庇うのは無理ですね。

 

 なので、あとはHPの調整が終わったら、一つだけ仕事をしておしまいです。

 

 はい、キリトくん幻月に引っかかって吹き飛ばされました。

 

 幻月は技後硬直が少ないので、アスナが危険ですが、ここでエギルさんが助けに入ってくれるので、ボーッと眺めておきましょう。

 

 はい来ました。

 

 これからは吹き飛ばされてHPを回復しているキリトがボスの行動パターンを伝えて、指示を出しながらエギルさん達パーティとアスナが頑張ります。

 

 ここで戦線に復帰します。

 またHPは全然回復していませんが、当たらなければどうということはありません。

 

 さて、しばらくこの状態が続きます。

 HP調整完了。

 あとは、ここでタンクの一人が足をもつれせてくれたら勝ち確です。

 

 たまにそのまんまの時があるんですよね。

 そうなるとこの後の一斉攻撃が無くなって、時間がかかるため、他の隊が応援にきてしまいます。

 

 そうするとキリトにラストアタックボーナスを獲得させるのがほぼ不可能となります。

 

 なので、最悪自分から敵の回転斬りを誘発させなければいけませんが、それをすると評判が下がるので、頼むからもつれさせてください。

 

 今回は……よし、大丈夫です。

 

 1人が足をもつれさせてくれたおかげで、ボスが取り囲まれた状態を感知し、ソードスキル、全方位攻撃、旋車を発動させます。

 

 これで、キリトくんが飛び上がったザコボルトを空中で迎撃して、ザコボルトが転倒して、一斉攻撃で勝利です。

 

 この時、稀にキリトくん迎撃失敗して、エギルさん達が死ぬことがあるので、ここで武器を空中のザコボルトの軌道を予測して顔に投げつけます。

 これで確定で勝利です。

 

 はい勝利。ラストアタックはキリトさんです! わーパチパチ! 

 

 完璧か? 

 

 今回のボス戦かなりうまくいきましたね。

 これはいい! 流れが来てます! 今回こそ行けるのでは? 

 

 ディアベルさんをタックルで助けられたのもかなりいいですね。

 あの助け方をするとディアベルさんからの評価がかなり高まります。

 

 あー、ここでディアベルさん完璧に助けられるんだったら、サツキさんいらなかったな。

 

 これ、恐らくサツキさんがいなくとも攻略組の評判足りていましたね。

 

 サツキさんがいる場合、この後自分が先に第2層に上がった後で、このボス部屋で攻略組の皆さんを説得してくださいます。

 

 ヒー君はとても体が細くて、この世界に長くとらわれると、リアルの体がもたないから、云々かんぬんと。

 あれだけの身長しかないのは、とか、自分の命を惜しまないあの行動は、とか、色々と言って、早く攻略してリアルに返してあげなければ、体がもたないなどなど。

 そして、どうかお願いします的なことを言うそうです。

 

 これによって攻略速度はとても早くなりますが、このイベントがなくとも、つまりサツキさんがいなくとも、これだけ評判が高ければ、ディアベルさんがアルゴから色々聞いて、

 

 攻略速度を上げようぜ! 

 

 的なことになるので、サツキさん要らなかったですね。

 

 まあ、サツキさんがいた方が、確かに士気は高まり、有能やディアベルさんよりは攻略がスムーズに進んではいきますが、サツキさんが死ぬ、もしくは恋人ができるとペースが死んで、絶対に目標時間内に間に合わなくなるので、ちょっとリスクが大きすぎます。

 

 でも、今さらサツキさんを処分しても、士気が下がるだけなのでやりませんが、うーん、サツキさん要らなかったか。

 

 まあ、結果論ですよね。

 

 さて、では武器を拾って、このまま先に進んでいきましょう。

 

「ヒー君!」

 

 バチン! 

 

 ……はい? なんで自分サツキさんに張り倒されたの? 

 

 因みに、SAOにはフレンドリーファイヤはありません。

 PTメンバーに剣や槍が当たっても、障害物扱いになって、HPは減らされません。

 でも、障害物判定なので、ソードスキル等を当てるとそこでスキルが中断されてしまいます。

 

 そのため、大きな敵以外では、取り囲むのではなく、攻撃やソードスキルの邪魔をしないようにスイッチで入れ替わりながら戦うわけです。

 

 ところで、なんで今こんなこと考えているんでしょうね? 

 ちょっとあまりの衝撃で思考が現実逃避していました。

 

「……なんで、なんでこんな無茶をしたのですか!」

 

「……無茶?」

 

「っ! 無茶、無茶です! ボスの目の前に、自ら躍り出て! ……私、ヒー君が目の前に降って来たとき、ポリゴン片が散らばって、それで、し、死んでしまったかと……それに、あれほどHPが減っていたのに、そのままボスに向かわれて! ……いつ死んでもおかしくなかったじゃないですか! なんで! なんでもっと自分の命を大切にしてくださらないのですか!」

 

 あれれれれ? おっかしいぞー? ここ、確か誰も自分を呼び止めなかったはずなんですけどねぇー? 

 

 と、とりあえず受け答えしましょうか。

 

「あの状況で、すぐに動けたのは不測の事態に対応するように言われていた俺たちだけだった、それに、ディアベルはこのレイドのリーダーだ、リーダーが死ぬより、どうせ死ぬ俺が死んだ方が」

 

 バチンッ!! 

 

 ……パチン、ではなく、バチンッ!! です。

 サツキさんの張り手で数メートル吹き飛ばされたような気がします。

 さすが筋力ガン振りですね。

 

「なんで! そんな悲しいことを言うのですか!」

 

 あ、サツキさん、目にゴミが入ったのか、目から水が出てますよ。

 ……涙? 

 なんで? ねぇなんでサツキさん泣いてるん? 

 誰か玉ねぎとか剥いたん? 

 

 え? 自分? 自分が原因? そんなこと知りませんよ。

 

 ……なんで自分サツキさんから泣かれながら怒られているんでしょうね? 

 

「事実だからだ」

 

 と、とりあえず早くこの場を離れましょう。

 

「うっ、ううう、なんで、なんでそんなに自分の命を粗末に扱うのですか、どうして……」

 

 これ、大丈夫かな? サツキさん、ちゃんと攻略組説得してくれますかね? 

 リセットもありうるのでは? 

 いや、ディアベルさんがいるから行けるか? 

 

 ちょっと真面目に考察してみますか。

 えっと、現状では、サツキさんの好感度は結構高いはずです。

 

 うーん、好感度が高いから、自分の身を心配して、あんなことになったのでしょうか? 

 

 でも、今まではこんなことなかったんですがねぇ。

 

 確かに好感度が結構高い時はサツキさん、自分に対して何か言いたそうな、悲しそうな表情をしていましたが、直接張り倒されるのは初めてです。

 

 これタイムにどう影響して来ますかね? 

 とりあえず少し様子見しますか。

 

 階段を登って、みんなが見えなくなったあたりで、一度戻って、こっそりボス部屋の様子を確認しましょう。

 

 今までのサツキさんルートの場合、ここでサツキさんが頭を下げながら攻略組の皆さんを説得してくださるのですが、どうでしょうか。

 ちゃんと説得してくれているかな? 

 

 ん? サツキさん、土下座してません? あれ? 

 

「お願いします!」

 

 あ、サツキさんの声がここまで聞こえて来ましたね。

 サツキさん、何気に声量あるんだなぁー、いつもお淑やかな感じなので、あんなに怒ったところを見るのも初めてでしたし、色々まだまだ知らない面がありますねぇ。

 

おおおおおおお!!!! 

 

 おお、この雄叫びが上がるってことは、攻略ペースは早まりますね。

 あー良かった。

 

 想定外のことはおきましたが、想定内ですね。

 

 では、第2層に行きましょう。

 お遊び回以外では久々の第1層突破ですね。

 よーし、なんか色々チャートが狂ってはいますが、想定内だ、想定内! このまま目標時間以内にキリトに茅場を倒させるぞー! 

 オー!



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第12話 多分これが一番早いと思います。

本日2話目です。


 サツキさんがどこのパーティにも入らない件について。

 

 今は第2層です。

 今までは少なくとも、もう他のパーティに入っていたのですが、なぜか今回、サツキさんはまだソロのままです。

 

 ちょっと流石にまずいので、サツキさんを説得に行きましょう。

 

「早くパーティを見つけて入れ」

 

「嫌です」

 

 むぅぅ、とサツキさんは顔を膨らませています。

 不機嫌です、不愉快ですとサツキさんの顔に書いてあるようです。

 可愛い。

 つまりサツキさんは正義と。

 

「ソロは危険だらけだ、今はまだなんとかなっているかもしれないが、すぐに死ぬぞ、だからすぐにどこかのパーティに入れと、前も言っただろう」

 

「嫌です、ヒー君がソロでいる間は、私もソロプレイいたします」

 

「駄目だ、ソロプレイは危険すぎる、サツキの戦い方では今後スタンなどの状態異常を付与してくる敵が現れたら、死ぬしかなくなる、だからどこかのパーティに入ってくれ」

 

「ヒー君のパーティになら入ります」

 

「駄目だ」

 

 ここまではっきり断ったら、基本的には別のパーティ組んでくれるんですけど、今回は頑なですね。

 どうしましょうか? 

 

「頼む、俺は、心配なんだ」

 

 タイムが。

 

「……え?」

 

「サツキが死んだら、俺は……」

 

 もうリセットするしかなくなるじゃないですか。

 

「サツキがソロで戦っていると、安心できない、いつ死んでしまうか、……気が気じゃないんだ」

 

「あ、あの、そ、それは」

 

 本当、心臓に悪いです。

 せっかく久しぶりに第2層までこれたのに、即リセットは辛すぎます。

 

「だから、頼む、どこかのパーティに入ってくれ」

 

「……ずるいです、自分だけ、私だって、ヒー君の事が!」

 

「おーい! ヒャッカー!」

 

 あ、エギルさんですね。

 

「どうした」

 

「呼ばれてるぞ、早くはじまりの街に行ってくれ」

 

「そうか、すまない」

 

「ったく、誰でもいいからフレンド登録しろよな、そうすれば連絡が容易に取れるようになるんだからよ」

 

「それは、すまない」

 

「ま、いいさ、ヒャッカにはヒャッカの事情があるって事だからな、っと、すまなかったな、サツキさん、話の邪魔してよ」

 

「いいえ、大丈夫です」

 

「そうか、じゃあな! お二人さん! 姉弟仲良くな!」

 

 その後、サツキさんは他のパーティに入ってくれました。

 

 いやー、良かった良かった。

 

 では、はじまりの街に向かって、軽く用事を済ませましょう。

 

 はい、では次にコミュ障に働いてもらいましょう。

 ここのボス戦なのですが、迷宮区近くの密林に開始イベントがある連続お使いクエストをクリアすれば真のボスモンスターの情報と、ボスの弱点や攻撃パターンの情報が手に入ります。

 

 そうすると攻略がかなり楽になりますので、このクエストのクリア情報だけは必要です。

 いや、楽になるというより、もうすでに強化詐欺を潰している関係上、自分が何もしなければこのボス戦で大活躍するレジェンド・ブレイブスがいません。

 その為、この情報がなければここで攻略組は壊滅します。

 つまり必須イベントですね。

 

 ではコミュ障にクエストクリアで得た情報をアルゴさんに送ってもらいましょう。

 

 はい第2層クリア。

 

 いいですねぇ、順調ですねぇ。

 

 第2層ボス戦でも、自分は不測の事態に備えて全体を見ながらたまに大声で叫んでいました。

 

 そのお陰で、これ以降のボス戦では、自分は基本的に不測の事態に対応できるようにフリーな立場を与えられます。

 

 このお陰で、攻略組を出来るだけ死なないように誘導できるようになりました。

 

 それと、レベルが全体的に低いので、ボス戦後、βテスターということを生かして、次の層での注意点を皆に伝えましょう。

 

 これをしないと、死ぬ人が出てきます。

 なんどもやりなおしながら、なんて言えば誰も死なないかの検証はすでに済んでいるので大丈夫です。

 

 さて、ではまたはじまりの街に用があるので、そちらに行ってから

 この第3層の攻略頑張りましょう。

 

 はい攻略。

 

 第4層なのですが、ここは

 

 はい攻略。

 

 とりあえず、現時点ではかなりうまく行っているのではないでしょうか? 

 

 時々はじまりの街に向かっていたのは、とあるギルドを作ってもらう為です。

 

 攻略ペースは今、かなり高いですが、何もしなければ当然どんどん攻略ペースが落ちていきます。

 

 なので、攻略ペースが落ちないよう、昔助けた1000人以上の方の中から協力的な人間を集めて、本格的な職人プレイヤー育成ギルドや、アルゴを中心とした情報屋ギルドを立ち上げさせます。

 

 この職人プレイヤー育成ギルドは、はじまりの街で何もしていないゴ……一般プレイヤーどもを働かせるためのギルドです。

 

 ギルドメンバーに素材を中層で集めさせ、その集めたものをはじまりの街にいる人に料理させたり裁縫させたり、もしくは釣りをさせたり、歌を歌わせたりと、色々やらせます。

 

 それらを、攻略に役立てます。

 SAOの食事は、何もしなければ不味いです。

 

 でも、スキル熟練度の高い料理人がしっかり料理したものは美味いです。

 そう行ったものを攻略組に優先的に提供させて、士気をあげさせます。

 

 例えば、料理屋でいうと、一般プレイヤーは順番待ちがありますが、攻略組には一切順番待ちはありません。

 たとえ一般プレイヤーで席が埋まっていても、その一般プレイヤーが食事中であろうとも、強制的に退かされ、攻略組の方が座り、最優先で料理が作られます。

 

 と言った感じに。

 

 裁縫スキルをあげさせているプレイヤーたちも、先に依頼されていた一般プレイヤーの仕事よりも、誰よりも攻略組を優先するように伝えます。

 そして、いくらでも一般プレイヤーは待たせて良いと。

 

 歌を歌うプレイヤーも、ライブチケットは攻略組が最前列優先権が与えられると。

 

 これらは、ちゃんとゴミげふんげふん、一般プレイヤーの方々も納得させています。

 ある程度不満はありましたが、不満を言うなら攻略組になればいい、と言います。

 

 彼らが最前線で戦っているのはプレイヤーを解放する為だと、それなのに、彼らの邪魔をするということは、このゲームを長引かせたいということか? 

 

 我々プレイヤーが一丸となって当たる問題であるべきなのに、現状はプレイヤーの中の一部、攻略組にすべてを委ねてしまっている。

 だから我々は最大限彼らを支援しなければならないと。

 

 そうやって、攻略組を全力で特別扱いさせています。

 

 これらをやると、かなり攻略組の士気が高まります。

 みんなから応援され、誰よりも早く飯が食え、良い服を作ってもらえて、娯楽も最前列で楽しめる。

 最高の優越感を感じられますからね。

 

 あと、中層プレイヤーの育成にも力を入れていきます。

 

 効率の良い狩場の情報、良いクエスト、そういったものをしっかりと

 アルゴさんをメインとした情報屋ギルドを作って、全体に発信させます。

 

 これをやると、攻略組はますます力を出します。

 下から追い抜かされて、攻略組から脱落すれば、攻略組優先権が使えなくなってしまいますし、それに何より彼らのプライド、数千人のプレイヤーの頂点に立つ最強の剣士でありたいという執着心が刺激されて大いに頑張ってくださいます。

 

 それに、攻略組はかなり攻略速度を上げているので、中層プレイヤー達にこれくらいの支援をしないと、とあるイベントが発生しなくなってしまいます。

 

 それが発生しないとキリトくんが強くなりません。

 でも、そのイベント発生させると、昔は半分の確率でリセットとかいう最悪なイベントだったので、かなり辛かったです。

 

 しかし昔、遊びのプレイの時に、なんとか女性の着替えを覗けないものかと、いや、むしろ着替えの最中にその部屋に無断で進入できないものかと必死で考えて、1年くらい壁抜けバグとか出来ないかと永遠に壁に向かって走り続けたり、あと、転移結晶を使う直前でキャンセルしたら体だけ転移して意識はその場に残る透明人間状態とかなれないかな、と考えて、何個も何個も無駄に転移結晶を使ったりと、そういった真摯な実験をしていた時に思いついた方法をつかえば、その半分の確率を潰せました。

 

 なので、中層プレイヤーの育成も頑張りましょう。

 とは言っても、頑張りすぎてはダメです。

 

 攻略組は、もう人数制限を定めてあります。

 

 48人のフルレイド、これ以上はいらないので、中層プレイヤーには、攻略組の中で堕落したものが出てくるまでは、攻略組に追いつかせません。

 

 まあ、これは何もしなくとも攻略組のペースの速さは異常なので大丈夫なのですが。

 

 攻略組の方々なのですが、確率によって、一部堕落してしまう方がいます。

 そういった方々は、残念ながら、もう攻略組ではありません。

 そして、それ以降、見ることはなくなります。

 

 その方々の装備やアイテムは自分が有効活用させていただいて、こっそり退場していただきます。

 まあ、これは条件が上手く合わなければ出来ないので、最悪退場だけしていただきます。

 意図的に情報を伏せたり、やばい場所に誘導したりと、いくらでも方法はあるので、退場だけなら案外簡単ですよ? 

 

 そして、予備の中層プレイヤーを攻略組に入れていきます。

 

 まあ、誰も堕落しないことが一番なんですがね。

 でもそんなことはできないので。

 

 多分このやり方が一番早いと思います。

 

 まだ完全にはこの形まで進められてはいませんが、もう少ししたら良い感じになるでしょう。

 とりあえずは、この形を早く完成させることと、とあるキリトさん強化イベントまでにアイテムを入手していなければ半分の確率でリセットなため、そのアイテムが出る確率がある宝箱は全て開けます。

 

 そのアイテム、かなりレアで、基本的に低階層ではほとんど出てきません。

 

 出てくる可能性があるのは、とってもわかりづらい隠し部屋の宝箱です。

 

 それらから、そのレアアイテムが出てきてくれれば、とてもありがたいです。

 もしキリト強化イベントで使わなくても、いくらでも使い道のある神アイテムなので、大量に入手できるならしたいですね。

 

 因みに、バグ等はこのゲームほとんどありません。

 あってもすぐにカーディナルか誰かに修正されてしまいます。悔しい。



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第13話 子供(変態)

本日3話目です。


 さて、第5層になりました。

 

 良い感じです。かなり良い感じです。

 とりあえずギルドの方はある程度形になってきました。

 とは言っても、当然ギルドには所属しません。

 ただ単に、助けた恩を盾に言うことを聞いてもらっているだけです。

 

 さて、今レベルもレベルキャップがきて、もうこの階層ではほとんどレベルがあげられなくなってしまいました。

 それでも戦い続ければ、いつかはレベルがさらに上がりますが、今回は他のことをしましょう。

 

 とは言っても、現状は上手くいきすぎて逆に何もやることがないんですよね。

 驚きです。

 武器も防具も既に新調されていますし、ギルドの方も今自分がやれることは何も無いですし。

 

 まさか遊び回では無くRTA中に、上手くいきすぎて逆にやる事が無い、なんてことになるとは。

 

 いつもは、武器の新調にかなり時間がかかっていました。

 でも、今回何と、たった3時間程度でレアドロップを引いたんですよね。

 

 その武器の新調方法が、事前にアイテムストレージに限界重量までアイテムを入れた状態で、敵が落とすレアドロップを粘るというものです。

 レアドロップもアイテムストレージがいっぱいじゃなければ、勝手にアイテムストレージに収められてしまって使えなくなってしまうのでね。

 

 これ、当然のことですが、通常アイテムも敵が落とすので、そのアイテムを一々処分していかないと、誰かが通りがかった時に、

 

「アイテムが落ちてる?」

 

 となって変に疑われる原因となる可能性があるので、毎回処分するのですが、それに少し時間を取られるので、いつもはもっと時間がかかります。

 

 でも今回は3時間。

 

 来てる! マジで今回流れがきてます! 

 完璧かな? 

 

 そのおかげで、また後ほどやろうとしていたことも済ませられました。

 

 で、今現在はもう完全にやることが無いので、時間が余ったと言うわけです。

 余った時間は1夜分くらいですかね? 

 

 さて、では何をしましょうか? 

 

 で5階層までで出来ること、となるとかなり限られてきますよね。

 コル稼ぎ、経験値、武器防具、評判、好感度……うーん。

 

 あ、そうだ! 

 丁度一夜分余ってるし、サツキさんがいて、5階層ってことは、あれが出来るか! 

 

 いやー、でも今回は遊びプレイじゃ無いしなー。

 真剣にタイム目指しているからなー。

 

 いや、違いますね、そう、これはサツキさんの好感度を上げるためのことです。

 決して自分の欲望を満たすためにやる訳ではありません。

 

 何? 今現状サツキさんの好感度は高いから大丈夫だろって? 

 

 何を言いますか! 良いですか! 人は忘れる生き物です。

 攻略会議やボス戦の時に会っているし、いつもよりかなり自分のことを気にかけては来ますが、もしかしたらもう自分のことを忘れてしまっているかもしれないじゃないですか! 

 

 そうなったらタイムが終わりです。

 なので、これはタイムのため。

 タイムのためにサツキさんの好感度を上げるだけです。

 

 別に好感度がいくら高まろうが、サツキさんとは付き合えないので大丈夫です。

 

 サツキさんの好感度を上げる以外の意味は一切ありません。

 サツキさんの好感度を上げる以外の意味は一切ありません。

 

 まさか、いやまさかね! RTA中に自分の欲望を満たすためだけにタイムを使う馬鹿なんて、いるはずありませんから! 

 

 では、サツキさんのいる宿に向かいましょう。

 

 サツキさんがいる宿を知っている理由は、一々サツキさんが教えてくるからです。

 

 ヒー君、私はどこどこで寝泊まりしていますから、何かあったらいらしてくださいね、と。

 

 では、サツキさんのいる宿に枕を持って向かいましょう! 

 

 コンコン

 

「はい、どちら様でしょうか」

 

「……お、俺だ、入っても、いいか?」

 

 声は少し震わせておきましょう。

 

「ヒー君? どうぞ、今開けました」

 

 さて、サツキさんの部屋にやって参りました! 

 と言っても、プレイヤーホームではなく、単なる仮宿ですが。

 それでも女性の部屋! いやー、何度来てもいいものですね! 

 

 とりあえず、内心はよそに、しっかり怖がっている演技をしましょう。

 

「ヒー君、どうしたのですか?」

 

「……その、誰にも、言わないで欲しいんだが……いや、やっぱり何でも無い、悪かった」

 

 ここで一度引きましょう。

 ちゃんとサツキさんは止めてくれますから。

 

「ヒー君、なんでもなくは無いでしょう? 私に話してみて? 大丈夫、絶対誰にも言わないから」

 

「……本当、か? 笑わないか?」

 

「ヒー君のことを笑ったりなんてしませんよ」

 

「……その、だな、この第5層、ゆ、幽霊が出る、よな、いや! 怖がってない! 俺は怖がってないぞ! だけど、その! ……そう! サツキが怖がってるかもしれないと思って! それで! あの」

 

「ヒー君……クスッ、そう、私、実はとっても怖かったの、怖くて夜も眠れないから、誰かが一緒に寝てくれると嬉しいかな?」

 

「そ、そうか! サツキも! っん、んん、サツキが怖がっているなら仕方ない! 一緒に、その、寝ても、いい?」

 

「もちろんです! さあ、ヒー君、いらっしゃい」

 

 はい勝利。

 

……その、ありがとう

 

 これで、サツキさんと一緒のベッドで眠れます。

 いやー、子供って最高ですわー! 

 

 さて、今自分、サツキさんのいつも寝ているサツキさんの汗が染み込んだサツキさんの布団に包まれています。

 

 神! 

 

 では、早速寝入ったふりをしましょう。

 

「ヒー君、よしよし、怖く無いですからね、大丈夫ですよ、そうだ、子守唄を歌ってあげますね、〜♪ 〜♪♪ ……ヒー君? あらら、寝ちゃいましたね」

 

 はい完璧。

 

 いま、自分は眠っています。なので、今から何をしようが単なる寝相。

 

 とりあえず、サツキさんの2つの巨大な枕に飛び込みましょう。

 

「キャッ! ひ、ヒー君?」

 

 やばい! 突然すぎたか! 

 でも大丈夫。

 

「……おねぇちゃん」

 

「……」

 

 こういうと、サツキさんは受け入れてくれます。

 

 いやー、サツキさん、弟さんがいらっしゃるようですからね。

 その弟と重ねてしまっているのでしょう。

 なので、今は何をしようが無碍にはされません。

 

「……お姉ちゃん、お姉ちゃん、ふ、フフフ」

 

 ん? サツキさんの様子が? まあいいか。

 

 当然のことですが、今、サツキさんの視界にはコード発動を促すシステムメッセージが表示されており、彼女がOKボタンに触れれば、自分は一瞬で黒鉄宮の監獄エリアに転送されます。

 

 ですが、サツキさんがここで押すことはないので安心して堪能しましょう。

 

「……はぁ、本当に無粋なシステムです、ただヒー君はお姉ちゃんに甘えているだけなのに、それすらシステムは許さないなんて……」

 

 違います、それシステムが正しいです。

 自分ただ欲望のためだけにサツキさんの胸に顔を埋めております。

 タイム? 効率? しらねぇなぁ! 自分は自分がやりたいようにやるんだよぉ! 

 

 いやーさいっこう! これで後1000年は戦えますわー! 

 

「お姉ちゃんは何があってもヒー君の味方です、例えどんなことがあっても、誰が相手でも、世界が、システムが敵になったとしても、私が、お姉ちゃんが必ずヒー君を守ります、だから、安心して私の胸の中で眠っていてくださいね」

 

 ん? なんか不穏な気配が、まあ今はいいか! 

 最高! ヒャッハァー! ヒャッフー! ウィィィィィ!!!



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第14話 VSキバオウ1

 はい、今自分、沢山の人に囲まれています。

 攻略組の皆さんは勿論のこと、その他のプレイヤーも多数います。

 これは、逃げられませんね。

 

「何でや!」

 

 キバオウさんが、真っ直ぐこちらを睨みつけてきます。

 

「何でこないなことしたんや!」

 

「……それは、すまない」

 

「何が目的や!? 金か! 金なんか!」

 

 そうです。

 あ、いや。

 

「違う」

 

 勿論お金もありますが、お金だけの為にこんなことしませんよ。

 もっと色々あります。

 

「ジブン、許されると思っとるんか? わいが許すと、本気で思っとるんか!?」

 

「それは」

 

「やってええことと、悪いことがあるやろがい!」

 

「本当に、すまない」

 

「っ、なぁ、何でや、返答次第によっちゃ、許さへんで」

 

 キバオウさん、ガチギレです。

 

「それは……」

 

「っ! もうええわ!」

 

 キバオウさんが武器を抜きました。

 

「やったる、やったろうやないかい! 覚悟しいや!」

 

 キバオウさんからデュエルの申請が送られてきました。

 キバオウさん、完全にこちらを殺る気で睨んできています。

 間違いありません、目を見ればわかります。

 

 これは、あれですあれ。

 

 おこなの? 激おこなの? 激おこぷんぷん丸なの? ムカ着火ファイヤーなの? カム着火インフェルノォォォォオオウなの? 激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームなの? 

 

 ってやつですね。

 何でしたっけ、これ? 何かの6段活用でしたっけ? 

 

「早よしんかい!」

 

「ああ」

 

 キバオウさんからのデュエル申請を受けましょう。

 デュエルは受けると開始前に60秒の猶予時間があります。

 

「弁明すんなら今のうちやで」

 

「すなまかった」

 

「すまなかったやないやろ! わいの気持ち、考えたことあるんか!?」

 

 ないです。

 

「っ! まあええわ、うだうだ言うててもしゃーない、ヤるで」

 

 殺る気満々ですね。

 

 キバオウさん敵対ルートはこれがあるから嫌なんですよね。

 

「やっちまえ! キバオウ!」

 

「負けんじゃねぇぞ!」

 

 キバオウさんに、野太い声援が送られています。

 

「俺はあんたに1万コルかけてんだからなー!」

 

「俺は3万コルだ!」

 

「俺は全財産かけてんだ! 負けんじゃねぇぞ! ……10コルだが

 

 キバオウさん、なかなか応援されてますね。

 

「ヒー君! がんばってくださーい!」

 

「さあ! 遂にこの時がやって参りました! みなさんお待ちかね、第一回キバオウvsヒャッカ君の決闘です! 司会は私、ドラゴンテイマーのシリカと!」

 

「鼠のアルゴがお送りするヨ」

 

「そして! 何と今回! あの攻略組の中でもNo.1の実力を持っていると噂の、あの方が解説席に来てくださっています! ブラッキーこと、キリトさんです! どうぞ!」

 

「……何で俺がこんなこと」

 

「キー坊、早く自己紹介しナ」

 

「……キリトです、よろしく」

 

「「「「「おおおおおお!!!!!」」」」」

 

「な、なんだ!?」

 

「みなさん知っての通り! キリトさんは第一層フロアボス攻略の際、βテスターに対する風当たりがとても強かったにもかかわらず、崩壊しかけた戦線を支える為、βテスト時代の知識を惜しみなく披露して見事ボス攻略を死者ゼロに抑えた立役者です!」

 

「いや、俺はそんな」

 

「またまた御謙遜を〜、サツキ様がおっしゃっていましたよ、キリトさんがいなければ、ヒャッカ君は危なかったと、ヒャッカ君もキリトさんのことを命の恩人と言っていましたし」

 

「え?」

 

「おおっと! もう直ぐ決闘が始まります! 解説のキリトさん! どちらが勝つと思いますか! やっぱり、キバオウさんでしょうか? いくらヒャッカ君が小さな英雄とはいえ、あれだけの体格差がありますし、何より、ヒャッカ君はソードスキルを使えないようですからね」

 

「いや、勝つのはヒャッカだ」

 

「おおっと!? 解説のキリトさん、まさかの断言! その根拠は?」

 

「実際にヒャッカの実力を知っている攻略組の奴らは、ほぼ全員ヒャッカに賭けている、それが根拠じゃ薄いか?」

 

「そうなのですか!? 因みに、もう賭ける対象の変更はできませんので、ご容赦くださいね!」

 

「キバオウに賭けた奴ハ、残念だったナ」

 

「さぁ! デュエルが今始まりました! おおっと!? どう言うことでしょう? 両者全く動きません! これは、素人にはわからない高度な駆け引きというやつなのでしょうか!? 解説のキリトさん!」

 

「いや、あれは単にヒャッカがいまだに武器を抜いていないから、キバオウが攻めていないだけだろう、キバオウはプライドが高いからな」

 

 はい、キバオウさんとの決闘です。

 キバオウさん敵対ルートに入ると、キバオウさんから決闘をふっかけられます。

 

 その時の様子がこちら。

 

「おいガキ! ジブンいつまでソードスキル使わん気や!」

 

「それは……俺は」

 

「事情があるのは分かっとる」

 

「……ああ、そうだ」

 

「ジブンの気持ちが分かるとは言わへん、わいにはその感覚がわからへんからな、せやけど、ソードスキルが強力なことはジブンも分かっとる事やろ」

 

「そうだ」

 

「なら、いつまでも逃げてへんで、克服せなあかんのとちゃうんか! いつか、ジブンがソードスキル使えへんかったから誰かが死んだ、なんて事になったらどないするんや! 誰よりも後悔するのはジブンやで! 使えるものは何だって使わへんと、このゲームの攻略なんて夢のまた夢やぞ!」

 

「……だが、俺はまだ戦えている」

 

「分かっとるわ、ジブンが強いっちゅうことくらい、せやけどな! ……やめや、もうええわ、言葉での説得なんてわいには似合わへん、はぁ……決闘や」

 

「何?」

 

「わいと決闘しぃ! そんで、ジブンにソードスキルの強さっちゅうもんを叩き込んだるわ! もしわいが勝ったら、無理やりにでもソードスキル使うてもらうで!」

 

 ってことがありまして、その日は決闘の日付と場所を伝えて別れました。

 

 で、キバオウさんに何も告げずにその場所に人を呼び込んでおおごとにしたら、キバオウさんにキレられたわけです。

 

 このデュエル、負けたらリセットです。

 縛りプレイがキバオウにバレてしまうので。

 しかも、これ以降自分が負けるか、キバオウさんが攻略組からいなくなるまで週に1回必ずデュエルをやることになります。

 

 はじめの1年は、ギリギリ勝てます。

 ですが、2年目になるとかなり厳しくなってきます。

 

 因みに、キバオウさんには、敵対ルートともう一つ、通常ルートがあって、それぞれ能力が特化する方向が違います。

 

 通常ルートキバオウさんは、全体指揮特化型キバオウさんです。

 

 キバオウさんは、ディアベルさんのギルドの副リーダーなのですが、ディアベルさんがボス戦では前線で戦いたい人、というよりラストアタックが欲しいざむらい、あ、ナイトか、ラストアタックボーナス取らナイトです。

 

 なのでディアベルさんは、ボスを攻撃している最中の全体指揮を任せられる人間を育てようとします。

 それで、白羽の矢が立つのがキバオウさんです。

 

 ま、ディアベルさんにはラストアタックボーナスは一切取らせませんが。

 

 そして後々は、リーダーのディアベルさんは指揮ではなくアタッカーメインになって、副リーダーのキバオウさんが完全に指揮官になります。

 

 それが全体指揮特化型キバオウさん。

 

 そして、今回の敵対ルートのキバオウさんは、対人戦特化型キバオウさんです。

 

 この対人戦特化型キバオウさんは、対人戦闘の鬼、いや、王です、マジヤバイです。

 どれぐらいヤバイかと言いますと、二刀流キリトにも、神聖剣ヒースクリフにも片手剣で勝った、といえば分かるでしょうか。

 

 流石に正体がバレた超本気ヒースクリフを相手にしたらわかりませんが、強くなりすぎます。

 

 そしてこの対人戦特化型キバオウさんは、ソードスキルを使ってくるボスにもかなり強いです。

 

 ずっと自分と決闘しているせいで、そんな化け物になります。

 

 キバオウさんは隠れた努力家です。

 

 全体指揮特化型キバオウさんの時は、ディアベルさんから指揮の取り方等を直接指導してもらって、夜パーティメンバーが寝静まった後に、アルゴさんから取り寄せた指揮に関する本をずっと読んでいます。

 

 対人特化型キバオウさんの時は、夜、パーティメンバーが寝静まった後、アルゴさんから取り寄せた今現在判明しているソードスキルの技名、モーションの起こり、軌道、威力、基本的な硬直時間などを全て頭に叩き込んで、日夜イメージトレーニングを欠かしません。

 相手がこのソードスキルを使ってきたら、どう対応するか、どうすれば有利を取れるかを日夜研究し続けています。

 

 自分はソードスキルを使わないんだから無駄じゃない? とは思うかもしれませんが、ソードスキルの強さを自分に教えることを目標にしているため、ソードスキルは全て知っとかなあかん! って感じで頑張っているんですよね。

 

 そのおかげで後々は対人戦の王に。

 

 どちらのルートにも、メリットデメリットが存在します。

 

 まず、敵対ルートキバオウさんのメリットは、亜人型ボスの攻略がかなり楽になることですね。

 ソードスキルを使ってくるボスはかなり辛いです。

 でもその辛さが、このキバオウさんがいるだけでだいぶ楽になるという大きなメリットが存在します。

 

 次にデメリットなのですが、毎週1決闘分の時間が奪われることと、縛りバレの危険性がかなり高まる事です。

 

 これ以降、迷宮区でキバオウさんと会うと、もともといたパーティから離れて自分の後ろをずっと付いてくるようになります。

 そして、自分の一挙手一投足をずぅーっと観察して来ます。

 

 自分がどうやって体を動かしているのか、剣を振る時はどうやって振っているのか、武器に体重を乗せるやり方や、体勢を崩した状態からの攻撃方法などなど、つぶさに観察されます。

 

 そして、それを生かして決闘の時、自分の動きを読もうとしたり、キバオウさんが自らの動きに取り入れたりしてきます。

 

 もう分かっているとは思いますが、ずーっと観察されるので、これと、決闘での敗北によって、何度も縛りバレが起こりました。

 

 次、全体特化型キバオウさんのメリットは、まず決闘をふっかけてこないので、時間が奪われることがありません。

 それに縛りバレの危険性も少なくなります。

 

 デメリットは、ソードスキルを使うボスが厳しくなることです。

 

「いつまでぼーっとしとるんや! はよ剣抜かんかい! もう決闘は始まっとるで!」

 

「こないのか? 先手は譲るぞ? どこからでもかかってこい」



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第15話 VSキバオウ2

「……これでわいが勝っても、文句言わせへんからな!」

 

「さあ、こい」

 

 最初期のキバオウさんには負ける要素がありません。

 いきなりキバオウさんは突進系のソードスキルで攻撃してくるのですが、軌道が分かっている攻撃にわざわざ当たりにいく訳がありません。

 

 容易なソードスキルはすぐに咎めましょう。

 

 キバオウさんは今後、ソードスキルの扱い方がかなりうまくなっていきます。

 

 ソードスキルは、何もしなくともシステムアシストが勝手にスキルモーション通りに体を動かしてくれます。

 ですが、ソードスキルを発動時、ある程度は意図的に体を動かせます。

 スキルのモーションに逆らわないように体を動かせば、軌道を変えたり、技の威力と速度をブーストすることも出来ます。

 ですが、少しでも動きをミスると、逆にシステムアシストを阻害して、最悪の場合ソードスキルが途中で止まって、技後硬直が課せられます。

 

 これは基礎的な事なので、少なくとも攻略組は全員知っていて、ソードスキルの技の威力や速度を意図的にブースト出来ない人間はもう既に攻略組には自分以外いません。

 

 そして、キバオウさんは対人戦特化型キバオウさんまで進化すると、どこまで軌道を変えられるのか、どれだけ速度を速く、そして遅く出来るのか、そういったことを全て試しており、頭に叩き込んでいます。

 

 つまり、4連続技のバーチカルスクエアという技があるのですが、キリトさんが使うと、超高速の4連撃が飛んでくるだけなのですが、キバオウさんが使うと緩急おりまぜた4連撃が飛んできます。

 

 最初の一撃目が緩い斬撃で、その速度を見た次の瞬間には超高速の3連撃が飛んできたりするということです。

 

 他にも技後硬直というのは使用者の技量如何では短縮されます。

 そして、ホリゾンタルやスラント、バーチカルなどの基礎技はスキルの技後硬直が元々少なく、当然対人戦特化型キバオウさんには、単体技の技後硬直は無いです。

 

 つまり、突進技のレイジスパイクで10メートル先から突っ込んできて、その途中でソードスキルを無理やり発動を止めて、次の瞬間には連続技を発動していたりします。

 

 つまり、レイジスパイクだと思って受け止めようとしたら、ノヴァ・アセンションという片手剣の10連撃最上位ソードスキルが飛んできたり、とか普通にやってきます。

 そんなん初見で防げるかい! 

 

 他にも連続技の超高速の斬撃の途中で急に速度を緩め、軌道をほんの少し変えることで相手の防御する瞬間と位置をずらして防御をブチ抜いたりします。

 これによって神聖剣は敗れました。

 超高速の戦闘でタイミングをずらすとかマジでやばすぎます。

 

 強すぎます、ソードスキルの扱いガチ勢です。

 自分よりRTA勢の動きしてますもん。

 

 そんなソードスキルガチ勢の対人戦特化型キバオウさんが完成してしまったらデュエルに負けるので、なんとか完成前にゲームをクリアしなければなりません。

 頑張りましょう。

 

 因みに、公平を期すために、と色々こじつけして、キバオウさんとの決闘は全て半減決着モードで行います。

 初撃決着モードでは、ソードスキルの強みである攻撃力という点が全く活かされないためと、無理やりキバオウさんを説得しました。

 

 実際は負ける確率を減らすためですが。

 初撃決着モードの場合、一度のミスでこれまで積み上げてきたものが全て崩れ落ちる可能性がありますが、半減決着モードなら、そこからでも十分巻き返せるので。

 

 自分、レベルだけはかなり高いです。

 レベルアップボーナスポイントは筋力にも敏捷にも振れませんが、少なくともHPはキバオウさんより高いです。

 防御力も金属と皮装備という違いはあれど、レアリティが違いますのでこちらの方が上です。

 なので、半減決着モードのほうが、初撃決着モードより有利です。

 

 なので、無理やり押し切りました。

 

 確かに初撃決着モードの方が早く終わりはしますが、マジでリスクが高まりすぎて辛すぎますから。

 

「行くで! おおおおおお!」

 

 来るタイミング教えてくれるとか、今のキバオウさんマジ天使。

 対人戦特化型キバオウさんマジ悪魔。

 

 はい勝利。

 

「おおっと! 一瞬! 一瞬で勝負が決まってしまいましたー! 今何があったのでしょうか!? キバオウさんがソードスキルで突撃していったのは見えましたが……キリトさん!」

 

「キバオウは片手剣の基本突進技ソードスキル、レイジスパイクでヒャッカに突撃していったが、ヒャッカは完全にキバオウの斬撃の軌道を読み切って、最小限の動きでかわした後、キバオウがソードスキルの技後硬直で動けない一瞬の間に、居合斬りで1発、返す刀で1発、その後の1発、計3発斬撃をキバオウに完全にクリーンヒットさせていた」

 

「圧倒的! まさに圧倒的な試合でした! 勝者はヒャッカ君です!」

 

「……くぅぅ、わいは、わいは!」

 

 キバオウさん、フェードアウトしていきました。

 めちゃめちゃ悔しがっています。

 キバオウさん、この悔しさをバネにめちゃくちゃ強くなって行くんですよねー。

 強くなってくれるのは攻略速度的には嬉しいですが、難易度的には辛いです。

 

「では、勝者にインタビューをしましょう! ヒャッカ君! 今回のデュエル、どうでしたか? 今の心境をどうぞ!」

 

「その、こ、こういうのには、慣れてないんだが、なんて言えばいいんだ?」

 

「えっと、勝って嬉しいとか、安心したとか、いい試合だったとか! そういった素直な感想で大丈夫ですよ」

 

「えっと、勝って嬉しい、安心した、いい試合だった」

 

「あ、うーん、まあいいです! それにしても、ヒャッカ君は強いですね! 何か強さの秘訣とかあるのでしょうか?」

 

「それは……幼い頃から、リアルで……無理やりやらされていただけだ」

 

 ここでちょろっと設定を暴露しましょう。

 子供なのにどうしてここまで強いのかの設定付けですね。

 これしとかないとちょっと怪しまれるので。

 でもリアルの方はみんな暗黙の了解であまり話さないようにしてますから、これを言っておけばこれ以上追求されることはなくなります。

 

 でもぼく、こどもだからあんもくのりょうかいとかわかんないや! 

 

「あっ……えっと」

 

「何度も何度も打ち倒されて、動けなくなるまで」

 

「ああっと! 大丈夫です! もういいですよ!」

 

「そうか?」

 

「はい!」

 

 しかも、この話をここでしておくと、今後勝利者インタビューをカット出来るので、しっかりと話しましょう。

 

……許さない、許さない、……絶対に、ヒー君を傷つけた……全権力で……必ず……

 

 さて、ではレベリングに行きましょうか。

 

 効率のいいレベリング方法は、アラームトラップなどを使って沢山の敵をよび集めることなのでしょうが、アイテムストレージが使えない関係上、腰につけているポーチの中にある、ポーションと回復結晶しか回復手段がないため、そんなことをやって大量にダメージを受けると、回復が足りなくなります。

 

 そんなところをキバオウさんやキリトさんに見つかったら、何でHPを回復しないで戦っているんだ? となります。

 

 1回2回なら、たまたまポーションが切れたのか? と思われるかもしれませんが、それが続くと流石にアウトです。

 

 特に、キリトはソロでの効率のいい狩場によく現れるため、よくフィールドで会います。

 

 気をつけましょう。

 

 はい。

 

 さて、レベリングもひと段落したので、今回は隠しダンジョンに向かう準備をしましょう。

 レアアイテムがいまだに引けていませんのでね。

 

 ここの隠しダンジョンは、後々、かなり上の階層でここのヒントが聞けて、そのヒントがなければ絶対に来れないような設計になっているダンジョンなのですが、自分は当然知っているので、すでに中を探索可能です。

 

 しかし、敵は激烈に強いため、絶対に倒せません。

 

 今の攻略組のフルレイドで挑んでも、雑魚敵1体すら倒せないで壊滅確定です。

 しかもそんな奴らが群れでわらわらと。

 当然、1撃食らえば即リセットなので、オワタ式SAOのはじまりです。

 

 まあ、本来はかなり上まで上がった後でくるダンジョンなので、当然ですが。

 でも、レアアイテムがどうしても必要なので、宝箱だけ開けて行きます。

 

 残念ながらこのダンジョン、宝箱から武器や防具、アクセサリーは出ないため、バランスブレイカーは起こせません。

 

 敵からのレアドロップの中には装備品がありますが、ここの敵が倒せるようになっている頃には、もっといい装備を落とす敵が出てきているので使いません。

 

 残念。

 こういうところ、なんか変な対策が施されている感じがするんですよね。

 バランスブレイカーして最強の武器防具を序盤でゲットして無双したいのに。

 

 本当に残念。

 

 因みに、このダンジョンの敵は中から出てこない、つまりMPKは起こりえないので、最終的にはいつも沢山の敵を背に走って逃げています。

 

 敏捷値はこのレベルならギリギリ少しだけ余裕がありますから。

 基本的にここの隠しダンジョンのモンスターはほとんど全て敏捷値が低いです。

超パワー型、脳筋モンスターたちです。

 

しかし、一種類だけ今の自分より敏捷値がかなり早い敵がいます。

でもその敵は、近くの村の大連続クエストの途中で手に入る聖人のお札という神アイテムを持っているとノンアクティブモンスター、つまりこちらが攻撃するまで攻撃してこないモンスターに変わります。

 

 なので、隠しダンジョンに行くための準備、聖人のお札を入手するために、その大連続クエストを途中まで進めましょう。

 

 聖人のお札が入手できるイベントなのですが、

 

 この聖人のお札を持っていると、村の近くにいるモンスターの主と会話できるようになるから、どうか主の怒りを鎮めてください、お願いします。

 

 的な事をいわれて、モンスターの主にあう直前にNPCから聖人のお札を渡されまして、モンスターの主に会うと自動で消費されるイベントアイテムなのですが、自分聖人君子なので、聖人のお札という名前が気に入ったんですよね。

 

 なので、そのまま怒り狂った主とか、村の危機とかを全て放置して札だけを持って帰った時があったんですよ。

 

 その時に発見しました。

 

 聖人のお札は、この階層にいる主と同系統のモンスターがノンアクティブモンスターになるという効果を持つ神アイテムです。

 

 多分主と会話できる的な設定が変に作用して、その隠しダンジョンにいる、主と色違いの同系統モンスターにも効果が及んでしまったのでしょう。

 しかし残念ながらこの階層のモンスター限定です。

 

 他の階層でも効果を及ぼしてくれたらな正にチートアイテムだったんですがね。

 

 ではでは、早速村の危機に颯爽と駆けつけて、危機をなんとかすると口先だけの約束をした後に、重要アイテムだけ奪ってとって帰りましょう。



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第16話 レアアイテム

 もうゲームが始まって4ヶ月が経ちました。

 

 この頃からもう既に対人戦闘特化型キバオウさんの片鱗が見え隠れして来出します。

 

 まだ余裕ですがね。

 

 そんなことよりも、今、かなりマズイ問題を抱えています。

 それは、

 

 レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない、レアアイテムが出ない。

 

 やばいです。もうキリト強化イベント始まってます。

 攻略速度を上げていて、中層プレイヤーの強化もしているのでイベントが始まるのが早いんですよね。

 

 ぎゃあー! 半分の確率でリセットー! いやだー! 助けてー! 

 今めっちゃいいペースなんです! リセットはいやぁぁぁぁぁぁ!! 

 なんか色々やらかしている気もしますが、ペースだけはいいんですから! お願い! レアアイテムきて! 

 

 こういう上手く行ってる時って、絶対に半分のリセットの方引くじゃないですか! 何度も何度もありましたよ! 

 なんで出ないの!? もう普通出てるよ! あれだけ宝箱開けたんだよ!? おかしいよ!? 確率狂ってるよ! 茅場ぁ! なんとかしろぉ! 

 

 助けてください茅場様お願いします何でもしますから! 

 

 いやー、茅場様は素晴らしい! この素晴らしい世界を作り上げてくれやがったのですから! とっても恨ん……尊敬しております! ですからどうか確率の茅場様! 憐れなプレイヤーに慈悲をお恵みください! 

 こい! これでこい! パカッ

 

 レアアイテムが出ないぜ……ちっ、やっぱ茅場はダメだな。

 

 そうだ、たった今思いついたのですが、神ってあるじゃないですか。

 あれ英語だとゴッドですよね? 

 ゴッドと、かみ、あわせてゴッみ、やっぱゴッみはゴッみですよね。

 

 死んでくれ、マジで。

 

 なら何に祈ればいいんだ! 俺は何に縋ればいいんだ! 

 

 キリトさん! たすけてー! パカッ

 レアアイテムが出ないぜ。

 

 アスナさーん! たすけてー! パカッ

 レアアイテムが出ないぜ。

 

 サツキさーん! たすけてー! パカッ

 レアアイテムが出ないぜ。

 

 キバオウさーん! たすけてー! パカッ

 レアアイテムが出たぜ。

 

 ヒースクリフー! たすけてー! パカッ

 レアアイテムが出ないぜ。

 

 コミュしょー! たすけてー! パカッ

 レアアイテムが出たぜ。

 

 アルゴさーん! たすけてー! パカッ

 レアアイテムが出ないぜ。

 

 クラインさー……ん? 

 

 あれ? ……きてるー!!?!??!??!! レアアイテムがきてるー!!?!??!??!! しかも2つもキタァァァァァ!!!! 

 

 やばい! 今回クリアしろって言われてるんや! これはいける! 運が良すぎる! 

 これでクリアできないとかあり得ないでしょ。

 

 勝ったな。

 

 では、このレアアイテムの説明をします。

 

 このレアアイテム、回廊結晶と言いまして、トレジャーボックスか、強力なモンスターのドロップでしか出現しないとってもレアリティの高いアイテムです。

 

 通常の転移結晶は、指定した町の転移門まで使用者1人を転送することができるだけなのですが、この回廊結晶は、任意の地点を記録して、そこに向かって瞬間転移ゲートを開くことができるという神アイテムです。

 

 いやー、よかったよかった。

 しかも2つも出ました。

 これどうしましょうね? このイベントに2つ使えば、なんの危険性もなくリセット回避が出来るのですが、2つ使うのはもったいないかな? 

 一つでもある程度危険性はありますが全然可能なんで、悩みますね。

 ハイリスクハイリターンを取るか、ローリスクローリターンを取るか。

 

 ま、とりあえず、もうイベント自体は始まってますが、まだ結果がわかるのは先なので保留しておきましょう。

 一番いいのは勝手に死んでくれて回廊結晶を使わなくていいことですからね。

 

 いやー、間に合って良かった、本当に。

 

 この回廊結晶、どうやって使うのかと言いますと、回廊結晶の転移場所を事前にとある宿屋の部屋に登録しておくんですよ。

 

 で、とあるフロアのボス戦中の夜にその場所に転移すると、何故か人が眠っているんですよね。

 いやー不思議だなー、そんな事が起こるなんて。

 

 で、せっかくなんで右手を勝手に動かして、1人を除いて、ギルドメンバーがSAOから退場するように誘導するメッセージを送ったり、倫理コードを解除させてオレンジプレイヤーの群れに放り込んだり、欲しいアイテムがあったらオブジェクト化させて盗んだり、ストレッチャーを使って眠っている人をモンスター達のはびこる圏外に放り込んだり、まあ色々できるわけなんですよね。

 

 いやー、すごい便利なアイテムですよね。

 そりゃこんな希少価値にも納得の効果ですわ。

 

 ……え? 製作者が考えていた使用方法と違う? 何を言ってるんですか? これ以外に回廊結晶をどう使えと? 

 この使い方以外に何か回廊結晶の使い道があるって? 

 

 ああ、すみません、忘れてました。

 

 眠っている相手に、コンプリートリィ・オール・アイテム・オブジェクタイズという所持アイテムを全てオブジェクト化させるコマンドを使わせた後に超高難易度隠しダンジョンの奥深くに回廊結晶で放り込む使い方もできますね。

 

 すみません、ポータルPKのこと忘れてました。

 いや、殺しませんよ? ちゃんと超高難易度隠しダンジョンのボス近くのセーフティエリアに送りますから。

 

 ゲームクリアされるまで一生そこから出られませんが。

 大丈夫ですよ、食料とか一切ありませんから、自分と同じ飢餓の苦しみを永遠と味わい続けることにはなりますが、自分がやってるんですから、大丈夫です。

 

 ……え? それ以外の回廊結晶の使い道? ありませんよそんなもの。

 

 さて、ではイベントで回廊結晶を使わざるをえなくなった場合のことを考えて、もう少し攻略速度をあげましょうか。

 

 あと3層先が、イベントで使いやすいちょうどいいボスなんですよね。

 

 そのタイミングにピッタリ合うように頑張りましょう。

 

 そのボス、攻撃力は低いのですが、耐久値がクッソ高くて、倒すのに丸2日かかる、RTAの天敵のようなボスなのですが、逆に言えば攻略組を全員2日間その場所に釘付けにできるってことなのでね、使わない手はありませんよね。

 

 交代で仮眠をとりながら戦うのですが、その仮眠の時間に、はじまりの街に用事があるから少し抜ける、仮眠時間が終わる頃には戻ってくる等と言えば転移結晶で抜け出せるので。

 

 自分ソロなんで、迷宮区を踏破してボス部屋まで戻るのも容易ですから。

 

 今はキリトさん一時的に最前線から離れてますが、きちんと無自覚を装った脅しと言う名のお願い(強制)をすればボス攻略には参加してくれます。

 

 キリトの力が必要だからボス攻略の間だけでも協力して欲しい。

 勿論キリトのギルドメンバーには、俺から伝える。

 一時的にキリトを攻略組に返して欲しい、ボス攻略にはキリトの力が必要だから、と。

 

 的なことをキリトさんに対して言うと、快く協力してくれます。

 

 キリトさん、ある程度有名人ですが、局所的な有名人ですから、全プレイヤーが知っているわけじゃ無いんですよね。

 で、キリトさん、攻略組だということはギルドメンバーには黙っていますから。

 

 まあ、回廊結晶を使うことになるかどうかは、もう少し先の結果次第なので、とりあえず今は他のことを頑張りましょう。

 

 さて、つらーいつらーいレベリングのお時間です。

 今ここ、レベリングがとてもしづらい階層なんですよね。

 

 何故かと言いますと、敵の一体が隠蔽を使って、自分の背後から近寄ってきて攻撃してくるんですよ。

 索敵スキルを持っていたり、パーティで行動していたり、キリトさんのようなハイパーセンス持ちの方なら大丈夫なのですが、ぼっちで索敵は使えなく、ハイパーセンスなんていうチート、いつまでたっても身につけられない自分にこの不意打ちは辛すぎます。

 

 一応隠蔽した敵は背後からしか近寄ってこない優しい設計なので、定期的に後ろを振り返って、剣を構えれば対処は可能です。

 

 こうすると、敵が背後にいた場合、こっちは一切見つけていなくとも、敵のAIが勝手に見つかったと判定して隠蔽を解除して襲いかかってきてくれますから。

 ですが、ちょっとそれをやり忘れていたり、他の敵との戦闘が長引いて振り返れないと、すーぐ背後から攻撃されるんですよね。

 

 アイテムストレージが使えないんだからポーチに入るアイテムにも限りがありますし、しかも今ポーチは回廊結晶が2つあるせいで無理やり詰め込んでも2、3個程度しかアイテム入らないって言うのに、全く。

 この敵のせいで何度街とダンジョンを往復していることか。

 

 ああー! ジェ◯サイドの巻物が欲しい! 投げて当てたい! この敵今後一切出てこなくなってくれ! 

 

 だって今の自分、少し進んで、振り返って剣を構えて3秒たっても敵が出てこなかったら、また少し進んで、また振り返って剣を構えて、

 

 と言うのを延々とやってるんですよ? 不審者ですよ。

 

 一応他にも、ぐるぐる回転しながら進んでいくと、その敵は背後からしかこない性質上、近寄ってくることはなくなりますが、他の敵と戦闘になると、流石に戦闘中も回転するわけにはいかないので、自分が回っているせいで近寄れなかった敵がわらわらと背後から隠蔽使って強襲しかけてくるんですよね。

 

 マジで害悪です。

 

 ただ先に進むだけなら、回転しながら敵を全部無視すればいいだけなのですが、このエリアの敵は全体的に防御力が低いので、ここが一番この階層まででレベリングがしやすいと言うね。

 

 こんな手間がかかるやり方でも十分他の場所より経験値効率のいい稼ぎ場というね。

 もうちょっと楽な場所で稼がせて欲しいです。

 

 はぁ、気が滅入りますが、頑張りましょう。



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第17話 回廊結晶

お気に入り登録が、994件も行っていてビックリしました!
そんなにもたくさんの方が見てくださっているとは思っていませんでした!
ありがとうございます!とてもモチベーションが高まりました!
評価もなぜか高いですし、感謝感激です!
あと、誤字報告とても助かります、ありがとうこざいました!

これからも頑張りますので、よろしくお願いします。


 さてさてー結果はどうなったかなー? 

 果たして回廊結晶を使うことになるのか!? それとも勝手に死んでいてくれるのか!? 

 

 どっちだ!? 

 

 ……生きていますね、残念。

 

 まあ仕方ないです。だって自分が何もしなかった時とはレベルも階層も場所も何もかも違っていますからね。

 仕方ないです。

 

 ……勿体無いなー、回廊結晶。

 

 まあ、切り替えていきましょう。

 

 それにしても、生きていますね、残念って、まるでやばい人の発言みたいですよね。

 人が生きていることを残念がるなんて。

 

 ヒースクリフさんが、まだ言ってませんが、

 

「仲間の命が助かる確率が1パーセントでもあるなら全力でその可能性を追え、それが出来ないものにパーティを組む資格はない」

 

 ってことをいずれ言うんですよね。

 

 いやー、いい言葉ですね。まさにその通り! 

 だから自分はパーティ組めないんですかね……。

 

 はい。

 さて、このまま何もしなければ、いつのまにかキリトさんはアスナさんとは別の女性と付き合ってしまうため、リセットです。

 

 では、まずはとある宿屋を借りて、回廊結晶の転移場所を登録しましょう。

 で、キリトさんをボス戦に誘います。

 

 はい。オッケー。

 

 これで、キリトさんは本日、ギルドホームではなく最前線のとある宿屋に泊まるのですが、ここでギルドの人間が1人付いて来ます。

 

 今日は2人で一緒のベッドで寝るそうです。

 

 は? なんでキリトだけ? リア充爆破! 

 

 しかし、明日はボス戦。

 すぐに帰ってくる的なことをキリトさんが言ったのかどうかは定かではありませんが、ギルドの人、ギルドホームには帰らず、明日もこの宿屋に泊まるんですよね。

 キリトはボス部屋で仮眠ですが。

 

 うーん、ここで2個回廊結晶使うなら、超高難易度ダンジョンの奥深くにもう一つの回廊結晶を登録しておくのですが、ま、今回は1個で行きましょうか。

 

 きっと大丈夫です。

 宿屋からストレッチャーで連れ出す時とか、他のプレイヤーに見つかったらお終いですが、大丈夫です。

 だいたいどのルートを通れば人に見つかりにくいかは分かってるのでね。

 オレンジプレイヤーの生息地も大体把握していますし、彼らをコロっとしても自分のカーソルがオレンジになることはありませんから。

 

 彼ら、自分を見ると、アイテムよこせや! って言って取り囲んで来るのですが、1人コロっとヤっちゃえば、言うことを聞いてくれるようになりますからね。

 オレンジプレイヤー、ゲットだぜ! 的な。

 まあ、その日のうちに処分しないと変な噂が立つかもしれないので、使い捨てですが。

 

 オレンジプレイヤーのゲットは、ボス部屋から抜けた後に行います。

 時間に余裕はあるのでね。

 

 ……いや、もしオレンジプレイヤーがうまく見つからなかったらリセットか。

 ちょっと怖いかなぁ、一応念のため隠しダンジョンの奥深くに回廊結晶登録しておきましょうか。

 

 別にここで使わなくとも、処分したい相手がいるときに容易に処分できる札にはなるので、保険でやっておきますか。

 

 ちょっと上手くいきすぎてるいるんで、リスクが怖くなってきましたね。

 さて、これが吉と出るか凶と出るか。

 

 はい、登録完了です。

 

 ……え? やっていることが外道? クズ? ゴミの所業? 

 何を言ってるんですか! 

 

 ここはネトゲの中ですよ? やっちゃいけないことは、最初っからシステム的に出来ないようになってるに決まっているでしょう? ってことは、やれることはなんでもやっていい……そう思いませんか? 

 

 某プーさんの言葉です。

 いやー! 実にいい言葉ですね! まさにその通り! 

 それに、HPバーがゼロになったプレイヤーを殺すのは殺人装置たるナーヴギアと計画者たる茅場晶彦であって、自分じゃありませんから。

 

 全て茅場が悪いのです。

 

 さて、ではボス戦に参りましょう。

 

「頑張りましょうね、ヒー君!」

 

「ああ」

 

 さーて、頑張りましょう。

 

 はい、ボスの体力が全然減っていかないですね。

 では、ここで提案をしましょう。

 

 おそらく、このペースだと1日、いや2日間ほどかかる可能性があるから、隊を4つに分けて1班ずつ6時間の仮眠を取りながら戦おう、と。

 

 ここで提案すると、ディアベルさんが隊を分けた後、自分のいる隊がいつ休憩を取れるかを選択できるので、ギルドの人が確実に宿屋で眠っている時間、夜はずっと寝ないでキリトさんの帰りを待っているのですが、朝になると眠気に負けてぐっすり眠ってしまいますので、それに仮眠の時間を合わせましょう。

 

「ヒー君と私は一緒の隊ですよね、ディアベルさん?」

 

「いや、サツキさんは」

 

「一緒の隊、ですよね?」

 

「だが」

 

「で・す・よ・ね?」

 

「わ、わかった、分かったから」

 

「やった! ヒー君! 私とヒー君は一緒の隊みたいですよ!」

 

 ん? あれ? サツキさんって、確かC隊だった気がしたんですが、今回は自分と同じD隊なんですね。

 

 珍しい。

 いや、むしろここで同じ隊になることは初めてなのでは? 

 

 ま、たいして関係ありませんがね。

 

これでまたヒー君と一緒に眠れます、ふ、ふふふ、また、呼んでくれますか、お姉ちゃんって

 

 では、提案者特権で時間を勝ち取りましょう。

 はい、オッケーです。

 

 では、時間までボス戦を頑張りましょうか。

 

「C隊が戻って来たな、じゃあD隊は休憩に入ってくれ!」

 

 では、ディアベルさんに伝えにいきましょう。

 

「すまないが、今日、はじまりの街に用事があるんだ、仮眠が終わる時間までには戻ってくるから、少し抜けていいか? 本当にすまない、まさかここまでボス戦に時間がかかるとは思っていなかったから」

 

「そうか、いや、誰もここまでボス戦が長引くとは思っていなかったからな、仕方ないさ、行っていいぞ、だけどヒャッカ、仮眠を取らないで大丈夫か? もし辛かったら、俺の仮眠時間で眠ってくれ」

 

「いや、しかし」

 

「眠たい状態で戦って、もしミスしたら自分だけじゃなく味方だって危険に晒すことになるんだ、だから俺の仮眠時間でゆっくり休め」

 

 まだこのゲームが始まって一睡もしていないんですがね。

 

「だが、それだとディアベルが」

 

「大丈夫だ、俺は3徹までなら余裕だからな」

 

 自分は千徹までなら余裕ですよ。

 

 ディアベルさんの好感度が高いと、こういったことがあるので嬉しいですね。

 しかし、この時間をレベリングに、とかは出来ませんので、ボス部屋に帰ってきたら久し振りにゆっくり眠りますか。

 

「ヒー君! 今から一緒に寝ましょう?」

 

 サツキさんに誘われてしまいましたね。

 でも今はやることがあるのでお断りです。

 

「いや、すまないが俺は今から少し抜ける、はじまりの街に用事があるから」

 

「では、一緒に行きましょう?」

 

 ……はい? いま、なんて? 

 一緒に行く、と聞こえたような気がしましたが、気のせいですよね。

 だって今までこんなこと、1度だってありはしませんでしたから。

 

「私もヒー君と一緒に行きます、いいですよね、ディアベルさん?」

 

「いや、だがそうなると、サツキさんの仮眠時間が」

 

 お! そうだ、言ってやれディアベルさん! ここでサツキさんについて来られると不味いんですよ! 

 

「いいですよね? ディアベルさん?」

 

「いや、だがなぁ」

 

「い・い・で・す・よ・ね? あのこと、皆さんにお教えいたしますよ? 

 

「そうだな! いいぞ! 行ってきてくれ! ボスは俺に任せろ!」

 

 えぇぇ!!? なんで!? なんでディアベルさん許可してるの!? 

 なんでサツキさんついてくるの!? 

 

「やった! では、参りましょう? ヒー君」

 

 ぎゃぁぁぁぁ!!! リセットになるぅぅぅぅ!! いやぁぁぁぁぁぁ!! 

 やばい! やばいよ! なんでぇ!?!? 

 

 今までこんなこと一度もなかったヨォオォォ!!!!! 

 どうする!? どうすればいい!? 

 

 そうだ、はじまりの街に着いたら速攻でサツキさんを撒けばいいんだ! 

 まだオレンジプレイヤーの生息地に行ってオレンジプレイヤーゲットしてないけど、ある程度は時間に余裕があるし、すぐに撒くことが出来れば大丈夫なはず。

 

 落ち着いて急ぎましょう。

 最悪保険がありますしね。

 

「「転移! はじまりの街!」」

 

 さて、一応アリバイ作りのために、本当に少しだけはじまりの街に用事を作っているので、先にそれをすませましょうか。

 

 はじまりの街で人に会ってアリバイを作っていないと、キリトに疑われる原因になりますから。

 キリトは今回の件、超高額を払ってアルゴに情報収集を依頼します。

 そして、アルゴの情報収集能力は、今回はギルドを作らせたので強化してしまいましたから、気をつけましょう。

 

「ヒー君、どこに行くのですか?」

 

「ちょっと人と会う約束をしていてな」

 

「……女性ですか?」

 

「ん? よく分かったな」

 

 今回会うのは、あのドラゴンテイマーのシリカさんです。

 シリカさんには毎週行われるキバオウさんとの決闘で司会をやってもらっているので、その打ち合わせを行います。

 

 因みに、キバオウさんが決闘で負け続けているので、勝ち負けでは賭けにならない、ということで最近は自分のHPがどれだけ減らされるか、もしくは決闘の時間はどれだけかかるか、という賭けに変更されています。

 

「……ボス戦を抜けてまで会いに来る女性、ヒー君がボス攻略より大切に思っている、女性……ふ、ふふふ」

 

 ん? おかしいですね、もうすぐ4月なのに寒気を感じます。

 確かに朝早くはありますが、えっと、こういうのってなんて言いましたっけ? 春なのに冬を感じること。

 ……忘れました。

 

「おはようございます! ヒャッカ君! あ、サツキ様! おはようございます!」

 

「あらあら〜、シリカちゃん、おはようございます、ふ、ふふふ貴女が……

 

 サツキさんとシリカさんはお知り合いなんですよね。

 

 あ! 閃いた! サツキさんをシリカさんに押し付けよう! 

 それしか無い! 

 

 とりあえず、まずはシリカさんと今後の段取り等を軽く話し合いましょう。

 

「で、ここで、こうすると良くないか?」

 

「いいですね! ヒャッカ君! 凄いです!」

 

 シリカさんに手を握られてブンブン振り回されています。

 

 ああ、やわらけぇ。

 

「……(ピキッ、ピキピキッ)」

 

「で、だ、ここでこれをすると、さらに、ほら」

 

「わー! 凄いです! ヒャッカ君!」

 

 シリカさんに頭を撫でられました。

 

「こ、子供扱いはやめてくれ!」

 

「私よりヒャッカ君は子供です!」

 

「お、俺は13歳だ! シリカより大人だ!」

 

……シリカ、呼び捨て、ふ、ふふふ……

 

「嘘です! だってヒャッカ君はこんなに小さいんだもん、私の方がお姉ちゃんですー!」

 

「……(ピギッブチッ)」

 

 ん? 今何かが切れるような音が聞こえたような? 

 

……ヒー君のお姉ちゃんは、私だけ

 

 気のせいですね。

 

「私のこと、お姉ちゃんって呼んでくれてもいいんですよ?」

 

 シリカさんが無い胸を張っていますね。

 微笑ましい。

 

「……シリカちゃーん? ちょっとお姉さんと、お話し(・・・)しませんか?」

 

 お! マジで!? やったー!!! サツキさんがいなくなったぁぁぁぁ!!! ナイスー! ありがとうシリカ! マジで助かった! 

 

「はい! サツキ様!」

 

「じゃあ、俺は他にも用事があるからもう行く、2人ともゆっくり話し合っていてくれ」

 

「では、また後程、はじまりの街の転移門前で集合しましょう?」

 

 えー、ま、いっか。

 

「分かった」

 

 さて、ではまずは、オレンジプレイヤーをゲットしに参りましょう。

 

 ……

 

「シリカちゃんは、ヒー君のことが、(異性として)好きなんですか?」

 

「え? ヒャッカ君のことですか? 当然(弟として)大好きですよ!」

 

「……へぇ」

 

「サツキ様? どうしました?」

 

「いいえ、なんでもありませんよ?」

 

「ヒャッカ君、可愛いですよね! あの背伸びしている感じとか特に、あ、そうだ! この間あたし、ヒャッカ君と一緒に……」

 

……へぇ……一緒に、私はまだ……そうなんですね……ふ、ふふふ



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第18話 ギルド崩壊

某、超過剰労働の魔法は何々階位ではなく、何々位階魔法でした。
本当にすみません。
ですが、名前を変えることはしません。
主人公も、作者と同じ覚え間違いをしていたという設定で許してください。
その作品のファンの方、本当に申し訳ありません。


 とりあえず、オレンジプレイヤーを捕まえに行きましょう。

 

 因みに、まだレッドプレイヤーは1人しかいません。

 自分が何もしなければゲーム開始から1年間はレッドプレイヤーは出て来ませんからね。

 今回は攻略を早めているので、レッドが出てくるのが早くなってはいますが、出現するのは1人を除いてまだ先です。

 

 遅いですよね、プーさんもっと早く仕事してくださいよ。

 

 このゲーム、圏外で他のグリーンカーソルのプレイヤーを攻撃すると自身のカーソルがグリーンからオレンジに変わります。

 

 プレイヤーをキルしても、カーソルの色が赤になるわけではありませんが、今後PK、プレイヤーキルをする奴らはまとめてレッドプレイヤーと呼ばれるようになります。

 

 まぁ、まだレッドプレイヤーは1人しかいませんし、第一そのレッドプレイヤーはグリーンカーソルで誰からもPKだって思われていませんから、まだレッドプレイヤーという名前すらありませんが。

 

 え? その1人は誰だって? さぁ? 誰でしょうね。

 しかし、酷い人もいたものですねー、ここで死んだらリアルでも死ぬって言うのに、人殺しですよ人殺し、全く、怖くて夜も眠れませんよ。

 そのレッドプレイヤーは眠っている相手をよくPKしていますので、皆さんはお気をつけてくださいね。

 自分はそのプレイヤーにPKされることはないので。

 

 さて、この辺りがオレンジプレイヤーの生息地なので、適当にうろついておけば、っと早速人がいますね。

 

 ……あ、取り込み中の様子です、うわっ、最悪だ。

 

 子供4人を大人が、えっと……16人で取り囲んでいますね。

 この状況、マジで最悪です。

 特に子供達、害悪です。

 

 大人16人のうち13人はオレンジプレイヤーで、3人グリーンがいます。

 恐らく、この3人のグリーンが街で獲物を見つけて連れて来たり、情報を集めたり、アイテムや食料を買って来たりする役割を持っているのでしょうが、このグリーンカーソルの3人も邪魔です。

 

 オレンジプレイヤーに対しては、たとえ攻撃しようがPKしようが麻痺毒で麻痺させた後に右手を無理やり動かしてアイテム全部吐き出させた後に処分しようが、自分のカーソルがオレンジになることはありません。

 

 オレンジプレイヤーには人権がないのでね。

 攻撃しようがPKしようが物を盗もうが麻痺毒後倫理コード解除させようが許されるんですよ。

 

 でも、グリーンカーソルのプレイヤーを攻撃すると、自分のカーソルがオレンジになってしまいます。

 

 それはかなりマズイです。

 

 なので、ここはスルーして他のオレンジプレイヤーを探したいのですが、あの20人のうちの2人、子供と大人が1人づつ、こちらをガン見しているんですよね。

 自分、すでに見つかっています。

 多分索敵スキル持ちか、もしくはたまたま自分を見つけてしまったのでしょう。

 

 ここで、子供4人がいなければ、そのまま踵を返して逃げても問題ないです。

 オレンジプレイヤーを見て逃げ出すのは普通の考えですからね。

 いい餌とか、利用価値のあるいい奴らと思っている人は極少数でしょう。

 

 いくらボーナスポイントを割り振れなくとも、ここにいるプレイヤー達とは圧倒的レベル差によって敏捷はこちらの方が上ですから、余裕で逃げきれます。

 

 ですが、自分、しっかりと見られているんですよ。

 で、自分身長が130センチじゃないですか。

 それってかなり特徴的ですよね。

 しかも結構自分有名ですからね、特定余裕でされます。

 

 なので見捨てたら評判が、せっかくうまく回っているギルド関連や攻略速度が。

 

 となってしまいますので、見捨てられません。

 助けるしか無いです。

 で、彼らを助けていると、当然時間に余裕が無くなるので、オレンジプレイヤーを捕まえる時間がなくなります。

 

 なんでこんなタイミング悪いんですかねぇ。

 

 一応、保険を用意しておいてマジで正解でしたね。

 こんな事よっぽどないんですけどね。

 危ない危ない。

 

 では、サクッと助けましょう。

 

 どうやって子供達を助けるかと言いますと、軽く脅してあげるだけです。

 

 ではまず、彼らより高い敏捷値を活かして、明らかにリーダーっぽいオレンジプレイヤーにサッと近寄って拳で一発。

 で、HPの減少量を確認して、それでそのプレイヤーの防御力が大体分かるので、剣でHPが赤くなるようにザクッと。

 

 でも、これだけでは逃げてくれるかわからないので、念のため後オレンジプレイヤーを2、3人、同じように殴って防御力を推測してから剣でざっくざっくやってあげましょう。

 

 伊達にSAOをやり込んでいるわけではありませんからね、これくらい余裕ですよ。

 

 で、こうすると大体逃げてくれます。

 まあ、HPがレッドゾーンまで落ちるなんてマージンをしっかり取っておけば攻略組でもない限りよっぽどありませんし、彼らはまだ殺しをしておらず、命を大切に思っている一般人なので、容赦無く斬って来る自分に対してとても恐怖心を抱くんですよね。

 

 それに、誰だって死にたくはないでしょうしね。

 

 はい、オレンジプレイヤーの皆さんさようならー。

 

 子供達から感謝されました。

 そんなことはどうでもいいので、早く子供達を街に帰しましょう。

 時間がないのでね。

 

 この子供達、はじまりの街の教会に住んでいる子供達です。

 サーシャさんが拾い集めた子供達ですね。

 

 この子供達に、自分が攻略組だと言うことを告げるのはやめましょう。

 めちゃくちゃひっついてくるようになりますから。

 

 ただでさえ、つ、つぇえええ!!! とか、その剣くれよ! とか、わーい! たかーい! とか、……あっ、う、うう、とか、最後の1人以外鬱陶しい事この上ないのに、さらに鬱陶しくなります。

 

 てか邪魔! 早く歩け! おい3番目! なんで自分より背が低いやつに乗っている! 4番目を見習え! 

 

 このタイムロスがあるから子供は助けたくないんですよね。

 

 街までは連れて行かないと、流石に評判に響きますからね。

 はあ、不幸だ。

 今日ちょっと厄日ですね。

 

 はい、はじまりの街に到着。

 

 教会まで来て欲しいと子供達に頼まれますが、自分教会大っ嫌いなので、用事がある時以外は絶対に行きません。

 

 教会で、アンデッド系モンスターに大ダメージを与えられるように祝福してもらうこととか出来ますが、それ以外では近寄りたくもありません。

 

 では、子供達と別れて、すぐに回廊結晶を使いましょう。

 

 コリドー・オープンっと。

 

 あれれー? おっかしーぞー? 宿屋に転移したら、女性が眠っているぞー? 

 

 はい、茶番はいいのでさっさとやりましょうか。

 自分、他人が目を覚まさないように指を勝手に動かしたり、運んだりするプロフェッショナルです。

 このSAO、いや、全人類の中で一番の腕を持っていると断言できます。

 

 自分の誇れる特技の一つですね。

 

 では、まずはこの女性のウィンドウを可視モードに、他人からでも内容が見えるようにします。

 そして、この女性のキリト以外のギルドメンバーにメッセージを送りましょうか。

 

 えっと、俺様の名前はPoh、お前達の大切なギルドメンバーは俺様が預かった、返して欲しければ今すぐ第21層、主街区から北西にある遺跡の地下3階、座標13・24の北側、緑の壁を押し込むことで入れる隠し部屋の中の宝を取ってこい。それとこいつを交換だ、交換場所は追って知らせる。

 もしお前達がこのことをキリトや他の人間に漏らしたら、こいつの命はないと思え。

 俺様はいつでも貴様らを監視しているぞ、っと。

 

 で、この文章を送る前に、もう2つ文章を書きます。

 

 当然この文章だけだと信用されないのでね。

 

 で、文章を送ったちょうど1分後にテツオが何かのいたずらだろ、というので、

 

 いたずらじゃないぜ、テツオ。

 

 と、送って、10秒後に、

 

 どうしても信用できねぇなら、今すぐ最前線の主街区にある月の涙っつう宿屋の103号室に来な、扉は開けといてやる。

 そこにあるものを見れば、自ずと理解できるはずさ。

 

 という文章を送りましょう。

 

 これで彼らはよっぽどのことがない限り他人に知らせません。

 たまたま他人と一緒にいた等でメッセージの内容を見られても、全てプーがやったことになりますから。

 自分は何にも関係ありません。

 

 で、隠し部屋の宝を取ってこいと言いましたが、その部屋には宝箱はありますが宝はありません。

 宝箱はアラームトラップです。

 これを開けると、大量のモンスターがやって来ます。

 

 しかもそこは結晶無効化エリアという、転移結晶当の結晶系が使えないエリアですから。

 彼らはこれで勝手にいなくなるので、あとは放置しましょう。

 

 で、メッセージ履歴を削除します。

 

 次に、ストレージ・タブに移動して、セッティングボタン、サーチボタン、マニュピレート・ストレージ、さらに4つボタンを押して、コンプリートリィ・オール・アイテム・オブジェクタイズというボタンを押し、イエスボタンを押します。

 

 すると、この女性の持っている所持アイテムが全てオブジェクト化されます。

 

 はい、今この女性はなんのアイテムも持っていません。

 

 ではでは、別にこの女性のアイテムには興味ないので、この月の涙という宿屋の103号室に放置して、回廊結晶で超高難易度隠しダンジョンの奥深く、セーフティエリアに送りましょう。

 

 回廊結晶は自分だけでなく他人も転移させられますからね。

 

 コリドー・オープンっと。

 

 はい完了。

 これでこの女性はもうゲームクリアまでその場所から出られません。

 アイテム持ってないですし、そのダンジョンの宝箱は全て開けましたし、ギルドストレージにもアクセスできませんし、メッセージも届かなければ、位置追跡もできませんから。

 

 で、この宿のアイテムは、キリトが宿に帰って来る前にギルドの方々が回収してくれるので、このままさようならで大丈夫です。

 このギルドの女性のアイテム群を見て、彼らは理解してくれますからね。本当に女性がさらわれているということを。

 では、誰にも見られるわけにはいかないため、転移結晶ではじまりの街に移動しましょう。

 

 もうポーチにアイテムが何もなくなったので、はじまりの街で補充しなければいけませんね。

 結晶系はNPCは売ってないですが、ポーションは売っていますので。

 

 プレイヤー取引はできませんのでね。

 

 にしても、結晶系の消費が厳しいですね。

 オレンジプレイヤーをうまく使えば、回廊結晶1つ節約できたのですが、まあいいでしょう。

 

 さーて、何食わぬ顔ではじまりの街に戻りましょうか。



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第19話 トラウマ(演技)

 さて、ではサツキさんと合流して、ボス戦に戻りましょう。

 

 はい、戻ってまいりました。

 

 では、ディアベルさんに頑張って働いてもらって、自分はゆっくり休ませてもらいましょう。

 

 いやー、他人が頑張っているのを横目に惰眠をむさぼる、これほどの贅沢はありませんね! 

 頑張ってください! ディアベルさん! 

 

 では、お休みなさい。

 

 ……は、い、あ、たまが、まわら、ない、です。

 

 ね、おき、つら、い。

 

 う、ああ。

 

 バシン! 

 

 ……はい、目が覚めました。

 

 ボスに強烈な一撃をもらいました。

 このボス攻撃力が低いので、助かりましたね。

 

 では、ポーションを飲んで戦闘再開です。

 

 はい勝利。

 

 時間はかかりますが、このボス戦で負けることはありませんからね。

 

 はい、では、ここから、キリトさんの動向に気をつけましょう。

 キリトさんのギルド、キリトさんがボス攻略中に崩壊してしまっていますからね。

 でもこのイベントをやっているのとやっていないのとでは、キリトさんの最終的な強さがかなり違ってしまいます。

 なので必要なイベントです。

 波乱万丈なほうが成長する、さすが主人公って感じですね。

 

 死んでいない人が1人いますが、1ヶ月以上アルゴの情報屋ギルドが全勢力をかけても見つけられないとなると、もう何かしらのバグで線が引かれてないだけだとか、変な次元の裂け目に落ちたとか、とにかく諦めろと、周囲から言われるようになります。

 でも、キリトだけは諦めません。

 探し続けることはしませんが、最前線で戦いながらも、彼女の生存を信じています。

 しかしそれも次のクリスマスまでです。

 そこでしっかりと心の中で決別してくれるので、なんの問題もありません。

 

 で、ここなんですけど、今現在キリトさんにどれだけ疑われているかがわかるポイントでもあります。

 

 ボス戦後、ギルドメンバーがほとんど死んでいるとわかった時、キリトが真っ先に自分に、先ほどのボス戦の途中で部屋を抜けだした時に、何をしていたかを確認に来た場合、もうかなり何かしら疑われています。

 マジでギリギリです。

 で、数時間後に確認して来たら、ある程度疑われています。

 で、1日後以降確認された場合、ほぼ疑われていません。

 

 今回は大丈夫です。

 

 キリトに疑われる致命的なミスは何一つやっていませんから。

 ボス戦とかでいい動きをしていますが、最初っから変に疑われてさえいなければ、その程度の違和感は問題ありません。

 その違和感を解消するための自分のキャラクター設定はちょいちょい小出しにしていますからね。

 アバターも作り物って感じではないですし、今回は完璧です。

 

 なので、キリトと会うのは1日後以降に、

 

「ヒャッカ!」

 

 ……あれ? キリトさん? うっそだろおい!? 

 速攻話しかけて来たよ! 

 疑われてる!? めっちゃ疑われてるやん!? なんで!? 

 

 ま、まて、落ち着け、他の用事かもしれない。

 そうだよ、何か用事があったんだ、疑われているわけじゃない。

 落ち着こう、大丈夫だ。

 

「どうしたんだ、そんなに慌てて?」

 

「さっきのボス戦を抜け出した時、何をしていた?」

 

 ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!!! 完っ全に疑われてるぅぅぅぅぅ!! 

 なんで!? あり得ないって!? どういうことだってばよ!? 

 

 なんでいつの間にこんなに疑われているんだって!? なんも今回悪くなかったでしょ!? どうして!? 

 やっべっぞ! 

 

 ……さて、本気で行きますか。

 なぜか疑われていますが、ここ、まだ挽回できます。

 ですが全力の演技が必要です。

 キリトのハイパーセンスを完全に騙しきる演技が。

 

 ここはふざけられる場所じゃありません、マジでいきましょう。

 

「なにって、はじまりの街に戻ってシリカと打ち合わせをしていただけだが? 週一で行なっているキバオウとの決闘の打ち合わせだ」

 

「それ以外には?」

 

「それ以外? あとはポーションを買ったりしたが……えっと、なにが聞きたいんだ?」

 

「……いや、なんでもない」

 

「待て!」

 

 キリトはこれで帰ろうとしますが、ここは絶対に帰してはなりません。

 疑われたままですと、どこかで見かけられたら必ず隠蔽してついてくるようになります。

 

 その時の、キリトの高度な隠蔽には絶対に気づけないので、もしそこでオレンジプレイヤーを餌にしていたり、堕落した攻略組をちょめちょめするとお終いです。

 

 ……ほんと隠蔽大っ嫌いです。

 アルゴもキリトもこれがあるから辛いんですよね。

 なのでこの2人には絶対に疑われたらダメなのに。

 

 話が逸れましたね。

 

「キリト、何があった?」

 

「……」

 

「いつもと明らかに様子が違うぞ、キリト、何があったのか俺に話してくれないか?」

 

「お前に話すことじゃない」

 

「俺たちは、同じ攻略組の仲間だろう?」

 

「お前は! ……すまない」

 

 ひゃぁぁぁあ!!!! めっちゃ疑われてるやん! 

 

「……俺に出来ることがあれば全力で協力する、今のお前を、放っては置けない、頼む、教えてくれ」

 

「……」

 

 とりあえず、ここからは黙っておきます。

 

「……」

 

「……ギルドの、みんなが……」

 

「……」

 

「ボス戦の後、誰も、いなかったんだ、宿にも、ギルドホームにも、何処にも」

 

「……」

 

「メッセージすら、返信がなくて……はじめはみんなで迷宮区に行っているんだと思った、だけど、強烈に嫌な予感がして、黒鉄宮の石碑を見に行ったんだ……そしたら、ケイタも、テツオも、ササマルも、ダッカーも……横線が」

 

「……まさ、か」

 

「ああ、俺たちが、ボス戦をしている最中に……」

 

「……ぁ、ぁぁ」

 

「死・は・・・だから・・くモ・・タ・・・・」

 

「……ぁ、ぉ、俺の、俺、俺が」

 

「俺・・・な・だ・・て・・か・・・れ・せ・だ、でも! ・・・ま・生き・・・」

 

「……お、れの、せいで……」

 

「だか・・・ッカ! ヒャ・・ど・し・?」

 

「俺が、俺がキリトをボス戦に誘ったから、ぁ、あああ! ぼく、僕のせいで……ひ、人が、しん、だ、あ、ぁぁぁ」

 

「ヒ・・・、おいヒャッカ!」

 

「僕は、また人を、ぁぁぁ!」

 

「……また?」

 

「……ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「お、おい! どうしたヒャッカ! 落ち着けって!」

 

「ヒッ! ごめんなさいおとうさんおかあさんごめんなさいごめんなさいふできなこどもでごめんなさいのぞまれていなくてごめんなさいいうことまもれなくてごめんなさいよわくてごめんなさいすぐできなくてごめんなさいないてごめんなさいうるさくてごめんなさいすぐたてなくてごめんなさいうでがおれてごめんなさいあしがはずれてごめんなさいめでおえなくてごめんなさいいらないこでごめんなさいうまれてきてごめんなさいしんでいなくてごめんなさいいきていてごめんなさい」

 

「おいヒャッカ!」

 

「おとうさんおかあさんを、ころしちゃって、ごめんなさい」

 

「っ!?」

 

「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 

 ……

 

 はい。

 ふぅー、疲れました。

 多分これで騙せたと思います。

 これによって、キリトさんからの疑いはかなり晴れます。

 

 さて、ここからは死んだ目をして自分の命なんてどうでもいいという演技をしながら攻略を頑張っていきましょう。

 

 死んだ目はずっと練習してきましたから、もうバッチリです。

 たとえ叫びながらでも、笑いながらでも、ずっと死んだ目をしていられます。

 世界死んだ目大会とかあったら間違いなく優勝できる自信があります。

 

 自分の誇れる特技の一つですね。

 

 当然のことですが自分の命は大切です。死んだらリセットなので。

 

 でも、疑いを晴らすにはこれくらいやらないといけないので、HPが赤くなってもこれ以降はボスに突撃したり、HPを回復しないで戦ったりします。

 他人に指摘されたら、ああ、見ていなかった等と言い、ポーションを飲んですぐ突撃したりしましょう。

 ポーションはじわじわとゆっくり回復していくので、飲んですぐにはそれほどHPは回復しません。

 

 でもだからこそ、自分の命をどうとも思っていない演技ができるわけです。

 

 それにしても、なんでここまでキリトさんに疑われていたのでしょうか? 

 誰かをちょめちょめしている最中などの致命的なものを見られていたら、もうすでに攻略組から追い出されるか、周囲から断罪されているはずなので、まだ何かしらの疑惑という段階なのですが。

 

 縛りプレイをしているんじゃないか疑惑ではないです。

 縛りプレイをしているかもしれないからお前がケイタたちを殺したのか!? 

 とはなりませんからね。

 恐らくレッドプレイヤー疑惑を持たれているのでしょう。

 

 まずいですね、ある程度疑惑は晴れたとはいえ、これ以降容易にそれらを行うのはリスクが高そうです。

 残念。

 ま、まだやるんですがね。

 

 さて、そろそろ25層が近づいてきましたね。

 今、攻略速度は少し落ちてきています。

 とはいえほんの少し程度なので、現状はまだ大丈夫ですが。

 

 現状、攻略組はディアベルさんのギルド1強状態です。

 ここまではこの状態の方が早いのですが、これ以降このままの状態ではペースは下がる一方となります。

 

 そろそろもう一つ、ヒースクリフのギルド、血盟騎士団に頑張ってもらいましょうか。

 

 この段階で2強状態にすれば、落ちてきているペースが戻るのでね。

 で、ディアベルさんの支持基盤は現状かなり盤石なのですが、25層のボス戦で何人か死ぬので、そこで支持基盤がかなり揺らぎます。

 

 そこに、実はディアベルさんはβテスターだったとか、指揮を他人に任せて攻撃に出てるのはラストアタックボーナスが欲しいからで、現にボスのHPがかなり低い時によくボスを攻撃しに行っているとか、ディアベルさん、実はリアルでは禿げているらしいとか、実はあの顔リアルで整形したらしいぞ、とか、外見は爽やかだけど、部屋の中はゴミ屋敷らしいとか、とにかく色々な噂を流しまして、ディアベルさんのネガティブキャンペーンを開始いたします。

 

 噂を流してくれるのは、最初に助けた人の中で、かなり自分のことを神格化していて、とっても口が軽い人に任せます。

 その人に、俺が言ったことは内緒にして欲しいが、どうやらディアベルさんは……とかの話をすると、すぐにプレイヤー全体に伝わって、しかも自分が噂の発生源ということを決して話さないでくれます。いい人ですね。

 

 もちろん、もう時間が経っているせいで、βテスターとの確執とかはほとんどのプレイヤーは抱えていませんし、実際に禿げているかなんて全く知りませんが、これを行うとディアベルさんのギルドの数名がギルドを抜けてフリーになります。

 

 そこをすかさずヒースクリフがギルドに勧誘するので、これで血盟騎士団とディアベルのギルドの戦力が、だいたい横並びになります。

 ディアベルさんのギルドの主力の1人、キバオウさんも血盟騎士団に所属することになりますからね。

 

 キバオウさんが赤と白の派手な制服を着ているのは、ちょっと面白いです。

 

 この状態だと、落ちて来るペースが回復します。

 

 ではでは、25層のボス戦が終わったら、有る事無い事たくさん話しましょうか。

 これ、とっても楽しいです。

 なので時が来たら、死んだ目をしながら楽しみましょうか。



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第20話 デュエル

 はい、現在自分死んだ目状態です。

 

 死んだ目状態はそれほど長くは続けません。少しずつ元に戻していく予定です。

 あまり長くやりすぎると攻略組から追い出されるのでね。

 勿論短すぎればキリトさんに疑われることになるので、適度な長さで元に戻ります。

 

 さて、こんな時でもキバオウさんとの週に一度の決闘からは逃れられません。

 

 もう結構キバオウさんと敏捷筋力共に差を付けられていますが、キバオウさんの攻撃の癖や思考回路、とっさの行動等は完全に理解できているので、まだまだ対応は余裕です。

 

 これがさらに後半になってくると、敏捷筋力がもっと離されて、完全に動きを先読みしなければ対応できなくなります。

 そしてその頃にはもう対人戦特化型キバオウさんはほぼ完成しているのでね、ヤバイです。

 

 基本的に、対人戦を行うときは、敵の全身を見ていますが、特に足と表情を意識して確認しています。

 

 上下で離れてはいますが、もう慣れました。

 敵との距離が近すぎたり、体勢的にそのままでは足か顔の片方しか見えない場合は左目を上に、右目を下に向けて無理やり全身を見ています。

 

 人間が動くときには必ず足に力を込めなければならないため、足の向き、力の入り方等で、相手が実際に動き出す前に、どこにどう動くのかは予測できます。

 これをしないと敏捷で劣っているので攻撃を避けるとか、追撃を仕掛けるとか夢のまた夢です。

 

 そして、人間は感情や考えが顔に浮かぶものです。

 焦り、驚き、恐怖などなど。

 で、それらを心に抱いた場合の咄嗟の行動というのは思考しての動きではなく反射的な動きになるので、その人物のデータさえ揃っていればそこから相手がどのように行動するかの先読みが可能となります。

 

 キバオウさんとは戦いすぎているほど戦っているので、頭の中にデータは完璧にそろっています。

 

 さて、今回は死んだ目状態なので、いつもとは違った戦い方をします。

 

「今日こそわいが勝つで!」

 

 いつもは攻撃を避けたり、武器で攻撃を受け流したりして、ダメージをできるだけ貰わないようにしながら、隙をついて攻撃をしていました。

 

 因みに、相手の攻撃を武器で受け止めることはしません。

 筋力が足りていないというのもあるのですが、何より武器防御のスキルが無いため、武器で防御してもダメージがかなり入ってしまいます。

 なので、真っ向から剣をぶつけることはしません。できません。

 

「ん? どないしたんや? いつもと雰囲気ちゃうで?」

 

 で、今回はスタイルを変えます。

 作戦、ガンガンいこうぜ! 

 自分死んだ目してますが。

 

「えーっと、ではでは! 今週もやって参りました! キバオウ選手vsヒャッカ選手のデュエル賭博! さあ、今日の試合時間は一体何分間かかることになるのでしょうか!?」

 

 賭博の内容はどちらが勝つかではなく、自分がキバオウさんに勝つまで何分かかるか、というものです。

 あらかじめ自分が今日の対戦時間の予想を告げ、その時間より早く終わるか、遅く終わるかを賭ける単純なものです。

 あ、あと一応キバオウさん勝利にかけることもできます。

 

 これは、八百長し放題です。

 しかしキバオウさんは八百長等を好まないので、自分が全力で戦っているように見せかけながら時間を稼いだり、早く終わらせたりとバレないように調節して儲けさせていただいております。

 

 儲ける、とは言っても、ここで稼いだお金は自分の懐には一切入ってきません。

 全額全て、自分が作らせた職人プレイヤーへの支援ギルドに寄付されています。

 

 これ、このギルドにお金を振り込めば振り込むほど、職人プレイヤーの成長が早くなって、攻略組の士気向上や武器防具が強くなるので、積極的に時間調節して稼いでいます。

 

 自分の懐にコルは入らないので、よっぽどあからさまでない限り、観客から八百長は疑われません。

 

 賭ける人たちも、勝ったら大儲け、負けても職人プレイヤーたちへ支援したという事になるため、皆さん結構大金を落としてくれます。

 職人プレイヤーの支援は、美味しい食事が食べれるようになったり、いい服が着れるようになったりと、賭けに負けても結果的に巡り巡ってその人の利益にはなったりしますからね。

 

 自分の評判も高まりますし、どうせ敵対ルートでは決闘は避けられませんから、積極的に活用していきましょう。

 

 これ、一石何鳥でしょうか? 

 

「司会進行は、私リズベットと!」

 

「アルゴがお送りするヨ」

 

 ん? リズベットさん何やってるの? 

 

「えー、シリカさんは諸事情で来れなくなったとのことで、急遽私が代役で司会することになりました、よろしくお願いします!」

 

 はぁ、そうなんですか? 

 まあいいか。

 

「そして! 今回の解説役は攻略組の、このお方! クリンプさんです!」

 

「……」

 

 え? なんで解説にコミュ障呼ばれてるの? 人選ミスすぎない? 

 コミュ障がこんな場所で話せるわけないじゃないですか! 鬼ですか! 

 

「クリンプさんは今回の試合時間はどれくらいぐらいかかると予想しますか?」

 

「……」

 

 やっぱり話さないですよね。

 

「えー、はい! では、ヒャッカ選手に本日の時間を決めてもらいましょう! どうぞ!」

 

 コミュ障、流されましたね、かわいそうに。

 

 さて、最近は大体3、4分、長い場合は5分くらい試合時間がかかっています。

 基本的にヒットアンドアウェイ戦法で確実に勝つために、HPを少しずつ削っているのでね。

 

 ですが今回はそれほど時間はかからないので、手を上げて指を2本立てましょう。

 

「指が2本、ということは2分で」

 

「20秒」

 

「……へ?」

 

「20秒だ」

 

「な、な、なんやと? ……ジブンふざけとるんか!!」

 

「おお! なんとー! ヒャッカ選手大胆にもキバオウ選手を20秒で倒すと宣言! これにはキバオウ選手も怒りをあらわにしております!」

 

「わいを20秒で倒すやと!? 舐めんのも大概にしろや!」

 

 キバオウさん、怒りが爆発しかけてますね。

 爆発したらあの頭のトゲトゲが飛んできたりするのでしょうか? 

 

「その慢心、絶対後悔させたるで! わいは今までのわいとは違う! 今日勝つのはわいや!」

 

 スーパーわいや人キバオウ。

 なぜか今この単語が頭の中に浮かんできました。

 強そう、いや弱そう? 

 頭もトゲトゲとしてるし、あの茶髪が金髪になってくれれば、スーパーわいや人になるかもしれない。

 

 今度遊びプレイの時に金髪の髪染めアイテムをキバオウさんにプレゼントしようかな? 

 アイテムストレージは使えませんので面倒ではありますが、遊びプレイの時は時間が有り余っていますのでね。

 

「さあさあ! 皆さん! 試合時間が20秒未満だと思う方はこちらに! 20秒以上だと思う方はあちらに賭けてください!」

 

「大穴も大穴、ブラックホール、キバオウさんに賭けたい方はこちらにどうぞ!」

 

 いやー、皆さん20秒以上に賭けますね。

 ま、当然ですね。

 だって皆さんは毎週キバオウさんの成長を、強さを見てきていますから。

 流石に20秒以内は不可能だと思ってしまいますよね。

 これは20秒以内の倍率やばいことになりそうですね。

 

 いーなー、自分20秒以内に賭けたいなー。

 もし賭けることが出来たらコルが山のように手に入るのに。

 ま、それは縛り的にも不可能ですし、八百長案件になりかねないのでやれませんが。

 

 因みに、ブラックホールキバオウさんにかける方は、まだ1人か2人くらいいます。

 倍率がかなり高いですからね、夢がありますよね。

 でも、ブラックホールキバオウさんに賭けた彼らが、賭けに勝っても、自分負けたら即リセットするので、そのお金は使えませんがね。

 どんまい。

 

 さて、ではキバオウさんがデュエルを申し込んできたので受けましょう。

 決着方法は変わらずに半減決着モード。

 HPが半分減るか、もしくは制限時間の超過で終了するデュエルです。

 

 さて、デュエル開始前には、60秒の猶予時間があります。

 

 この時間帯は、まだデュエルが始まっていない判定なので、圏内では相手に攻撃してもダメージは入らず、圏外ではダメージは入りますが、グリーンカーソルのプレイヤーを攻撃したと言うことで自身のカーソルがオレンジに変わってしまいます。

 

 そして、今ここは圏内、犯罪防止コード圏内です。

 

 つまり今ここ攻撃しても障壁に阻まれてキバオウさんにダメージを与えることはできません。

 

 なので攻撃します。

 

 残り猶予時間は10秒です。

 

 突撃ー! 

 

「な!?」

 

 体全体を使って、全力で剣を振ります。

 

 この攻撃にキバオウさんは対応しません。

 なぜならまだデュエルは始まっていませんから。

 デュエル開始前に襲いかかられるなんて、キバオウさんは初体験でしょうし、それに今攻撃されてもHPは減らないと言う思考があるからか、キバオウさんはこの時棒立ちしています。

 いい的ですね。

 

 デュエル開始前に攻撃したところで、圏内なら障壁に阻まれてダメージは与えられません。

 でも、武器が障壁にぶつかった時の閃光や軽い衝撃はキバオウさんに届きます。

 そして、今の自分のステータスで、全力の攻撃なら、軽くノックバックさせることも可能です。

 

 ばしーんっと。

 

 はいデュエル開始。

 

 驚きと、衝撃によりノックバックしている隙だらけなキバオウさんに、1撃2撃、はい3撃っと。

 

 ここまで攻撃を加えると、キバオウさんは反撃をしてきます。

 しかし、この反撃は咄嗟に、反射的に行ったことです。

 予想外の事が多すぎて、この時のキバオウさんは思考がうまく回っていないのでしょう。

 つまり、一番使い慣れたソードスキルを反射的に使ってくると言う事です。

 

 ソードスキルの名は、サベージ・フルクラム、この時期のキバオウさんが好んで使っている3連撃技です。

 

 で、ここで距離をとって避けてもいいのですが、そうなると20秒以内が達成できないため、距離を取らず、1、2撃目は体さばきと剣での受け流しで対応します。

 そして3撃目は、あえて受けます。

 

 サベージ・フルクラムの3撃目は突きです。

 その突きをまっすぐ受け止めます。

 この時、吹き飛ばされないように全体重を前に乗せ、両足でしっかり踏ん張りましょう。

 これをすると、自分は金属鎧などではなく、皮防具なので、キバオウさんの剣に突き飛ばされる事なく、そのまま貫かれます。

 

 これにより、大ダメージは入りますが、この1撃だけではHP半減までは行きません。

 当然大ダメージを受けたためノックバックはしますが、キバオウさんの技後硬直時間の方が長いため、問題ないです。

 

 で、キバオウさんの技後硬直時間が解ける前に攻撃をします。

 

 攻撃攻撃ー! 

 

 これでもまだHPは半分まで削りきれませんが、大丈夫です。

 いま、キバオウさんの片手剣は、自分の体に埋まってますから。

 

 剣が体に埋まった状態で普通に剣を振っても、勢いが乗らないため、大したダメージは入りません。

 

 なのでキバオウさんはここで剣を手放して下がるか、剣を抜く必要があります。

 当然、剣を手放せば、キバオウさんは丸腰になってしまうので、剣を抜こうと引っ張ります。

 

 で、素直に剣を自分の体から抜かせる必要はないので、キバオウさんが剣を引っ張った瞬間、右手の剣を引きながらキバオウさんに近づきます。

 そして、その勢いのまま隙だらけなキバオウさんの顔に剣を突き刺せば、終了です。

 

 はい勝利。20秒以内なんて余裕ですね。

 

 あ! キバオウさんの頭にもう一つトゲが生えた! 

 頭に剣が刺さっても生きているって、軽くホラーですよね。

 

「な! なんとなんと!? ヒャッカ選手! 宣言通りの20秒以内達成!!! 早い! 早すぎる決着だぁぁぁぁ!!!」

 

 因みに、完成した対人戦特化型キバオウさんの突きを体で受け止めるのはやめましょう。

 その状態からでも発動出来るソードスキルのモーションを起こして攻撃してきますから。

 

 普通に剣を振るだけなら勢いは乗りませんが、ソードスキルはシステムアシストと言うブーストがありますのでね。大ダメージをくらいます。

 昔負けました。

 

 この戦法が通用するのは対人戦特化型キバオウさんに成長しきる前までです。

 成長前でも、2回目からは対応してくるので、やれるのは一度きりです。

 

 あと、この戦法は、自分の体を犠牲にして攻撃をしていますから、死んだ目状態の時に行うのが自然です。

 

「強くならなきゃ、強く、もっと、もっと、誰も死ななくていいように、みんなを助けられるように、強く、ならなきゃ」

 

 と言う心無い言葉を言って立ち去りましょう。

 死んだ目アピールしておかなきゃね。



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第21話 指輪

 さて、キバオウさんとの決闘が終わったので、とりあえず確認いたしましょう。

 何をって? アルゴさんのことをですよ。

 

 今、十中八九アルゴさんにつけられています。

 なぜかと言うと、あれだけキリトさんに疑われていたからです。

 

 キリトさんはある一定以上自分を疑ってきた場合、アルゴさんに条件付きの調査依頼を出します。

 その条件とは、自分の情報を欲しがっていることを誰にも知らせないで欲しいと言うものです。

 

 通常のアルゴさんなら、自分に対して、

 

「ヒー坊の情報を欲しがっている奴がいるけど名前を買うカ?」

 

 的なことを知らせてくれます。まあ、自分はコル払えないので、元々その情報を買うことはできませんが、誰かが自分を探っていると言うことはわかるわけです。

 

 ですがキリトさんや一部のかなりお得意様に対してだけ、アルゴは商売のルールを曲げます。

 売れる情報はなんでも売るアルゴさんでも、友人は売らないわけです。

 

 で、この状態の場合、自分の場所を特定された後はしばらく追跡されることになります。

 だいたい街中に3時間いると、ほとんどの確率でアルゴさんに情報が伝わって追跡されます。

 で、今回はデュエルで居場所が分かっているので、キリトさんからの依頼がある場合や疑われている場合はほぼ確定で追跡してきます。

 

 一応転移門を使って、すぐに2度転移したり、転移結晶を無駄遣いすれば撒くことは可能ですが、今回は一応追跡されているか確認したいため、振り切ることなく砂漠のある層に転移して、現在つけられているかを確認しておきましょう。

 

 はい、現在砂漠マップです。

 ここ、隠蔽をしていても足跡がしばらく残るため、誰かに追跡されているかを確認するのに使えます。

 

 もちろん、アルゴさんではない他のプレイヤーもうろついていますので、足跡が複数あるのですが、自分はアルゴさんとキリトさんの歩幅と足の大きさは完全に覚えているので、無数の足跡からでも見つけられます。

 

 さて、つけられているかなー? 

 

 最初に通ったところを数時間後にもう一度通りがかり、増えている足跡の中からアルゴさんかキリトさんの足跡に当てはまるものがあるか確認しましょう。

 これ、足跡をガン見して調べてはいけません。

 そうするとそれ以降、アルゴさんは靴のサイズを変えて、歩幅を意図的にずらしてきます。

 

 どうしてもアルゴさんが付いてきていてはまずい時に、またこの方法でつけられているかを確認するので、ここで警戒はさせてはいけません。

 

 ふむ、やっぱりアルゴさん、隠蔽でついてきていますね、アルゴさんの足跡が残っています。

 

 これはしばらく悪いことを控えましょうか。

 まあ、だいたい必要な処理などはもう終わってるので、しばらくは大丈夫ですかね。

 

 では、しばらくはおとなしく通常プレイを頑張りましょう。

 

 はい、現在40層までやって参りました。

 当然もう死んだ目状態は解除しています。

 死んだ目状態の時にサツキさんに絡まれたりはしましたが、他には何事もなかったので、ここしばらくはずーっとぼーっとプレイしていました。

 

 特に大きな変化はなかったのでね。

 あー、でもなぜか今回キバオウさんの成長速度がいつもよりほんの少し早いんですよね。

 それと、キリトさんのレベルもすこし低いです。

 まあ、誤差の範囲内なので、あまり気にしなくてもいいですが。

 

 キリトさんのレベルが低いのは攻略ペースがかなりいいからっていうのもありますしね。

 それにしても、いつもより低いようなって気はしますが、まあ大丈夫でしょう。

 

 現在はまだレッドギルド、ラフィンコフィン、ラフコフは結成されていません。

 あー違うな、ラフコフのメンバーはだいぶ集まってきてはいますが、まだ表には出てきていません。

 

 彼らのギルドは、自分が何もしなければゲーム開始1年後の大晦日に表に出てきます。

 階層でいうとちょうど50層あたりですね。

 ラフコフは、フィールドの観光スポットで野外パーティ楽しんでいた小規模ギルドを全滅させる劇的デビューを果たします。

 

 しかし、それ以前からレッドプレイヤーというのは現れます。

 睡眠PKは、大晦日の数ヶ月前、秋口あたりで手口が一般にも広がります。

 階層でいうとちょうどこの40層を少し過ぎたくらいですね。

 

 今回は攻略ペースが早く、まだ夏場ではありますが、もう40層なので、そろそろ睡眠PKでの被害者が表に出てき始めます。

 

 で、この40層が解放されて4日後、つまり今日、体感9割くらいでとあるレアアイテムが手に入るイベントが起こります。

 そのレアアイテムは、もう既に手に入る可能性があるため、自力で2つ入手できていれば回廊結晶が手に入るのですが、今回は1つしか手に入らなかったので、レアアイテムをとります。

 

 今回、そのレアアイテムをドロップするレアモンスターが全然目の前に現れてくれませんでした。

 すこし離れたところに出てきたことは何度かあったのですが、そのモンスター、小さくて全身真っ黒で、なによりとにかく素早くて、自分の敏捷では接近して倒すことは不可能なので、いつも武器を投げて倒しているのですが、今回は投げた武器が一度しか当たらず、他は全て逃げられてしまったため、必須級レアアイテムが今だに1つしか手に入っていません。

 

 なので、このイベントに期待しています。

 絶対に2つ欲しいアイテムですから。

 

 ほんと、あのレアモンスター嫌なんですよね。

 かなりいいアイテム落とすのに、全然攻撃が当たらずに逃げられますから。

 HPも耐久もまるでないので、1度でも攻撃が当たりさえすれば倒せるのですがね。

 

 まあ、9割くらいの確率でここでもう一つ手に入るので、今回はかなりそれに期待しています。

 

 因みに、小さくて黒くて素早い、で、Gを連想された方がいるかもしれませんが、そのモンスターはトカゲです。

 

 では、まずは誰にもつけられていないかを確認した後、圏外のとある場所で待ちます。

 

 さーて、今回は来てくれるかな? 

 

 ……来ましたね。よし! 良かった! マジで! ぁぁぁぁ良かったぁぁぁぁ! 

 9割引けましたね。

 

 目の前に1人のオレンジプレイヤーが現れました。

 もうすでにそのレアアイテムを2つ手に入れている場合は、ここでこの男をコロッとします。

 

 何故なら回廊結晶が手に入るのでね。

 その回廊結晶は、既に転移地点が登録されてしまっています。

 ですが、その転移地点はとある宿屋の一室に登録されているので、そこに不要なプレイヤーを誘導すればまだ使えますから。

 

「コリドー・オープン」

 

 いーなー回廊結晶、ほんと回廊結晶はいくらでも欲しいですよ。

 

 で、そのゲートにオレンジプレイヤーが入っていきました。

 そして、数十秒後男女2人の人間が戻って来ました。

 1人は眠ったままストレッチャーで運ばれていますがね。

 彼女の名前はグリセルダさん、ギルド黄金林檎のギルドマスターです。

 

 はい、今自分が隠れている近くでオレンジプレイヤーはグリセルダさんをストレッチャーから降ろしました。

 そして、武器を取り出して、サクッと突き立てようとしています。

 

 では、止めに入りましょう。

 自分、聖人君子ですから。

 目の前で人が殺されそうになっているのに、見捨てるなんて出来るはずもありません。

 助けないわけにはいきませんよね? 

 

 ではでは、できるだけ音を立てずにオレンジプレイヤーの背後に速攻で近寄って、首チョンパっと。

 圧倒的レベル差によるクリティカル大ダメージ、まあレベルの低いこのオレンジプレイヤーが自分の攻撃に耐えられるはずがありませんよね。

 

 一撃でさようならーとなります。

 オレンジプレイヤーには人権がありませんから、コロッとされても文句はありませんよね? 

 

 いやー、人を守るのは気持ちいいですね! 

 

 じゃあ、グリセルダさんを守った報酬として、彼女からとあるレアアイテムを頂きましょう。

 

 彼女の指を動かしてウィンドウの可視化、そしてアイテムストレージからとある指輪をオブジェクト化っと。

 

 はいゲット! いやっふー! 

 

 なんと! この指輪、敏捷が20も上がる素晴らしい装備品です! 

 いやー、人助けして、いい装備品も手に入って、今日はいいことずくめですね! 

 

 指輪は片手に1つずつ、つまり2つしか装備できません。

 もし、10本全ての指に指輪を装備できるのなら、この指輪をあと8個粘って、敏捷を200上げるのですがね、残念。

 まあ、これで合計敏捷40上昇なので、いいですがね。

 

 さて、もうグリセルダさんは用済みなので、そのままさよならします。

 他のアイテムやコルも欲しいところではあるのですが、昔それをやっていて目を覚まされた時があったので、ここでさよならします。

 

 彼女はわざわざコロッとする必要はありません。

 ここのモンスターに殺されるか生き残るかとかは、もうどうでもいいです。

 何故なら、もう直ぐに睡眠PKが自然と一般に広まってしまうので、ここで彼女が生きていても死んでも自分には関係ありませんから。

 

 いやー、敏捷がここまで早くなるといいですね。なかなかに楽しいです。

 

 今! 自分は風になっている! ヒュー! 

 

 因みに、何故グリセルダさんが殺されそうになっていたかと言いますと、まあ痴情のもつれ的なやつです。

 

 彼女と結婚しているグリムロックさんという方がいるのですが、その方がオレンジプレイヤーに依頼してグリセルダさんを殺してもらおうとしていました。

 回廊結晶はギルドメンバーに頼んで宿屋の部屋に転移地点を登録してもらって、それをオレンジプレイヤーに渡したそうです。

 

 グリセルダさんとグリムロックさんは、リアルでも夫婦らしいのですが、グリセルダさんはこのゲームをやって変わっていき、その変化に耐えられなかったグリムロックさんが、彼女は永遠に私のものだ! 的な感じで殺してもらおうとしていたそうです。

 

 ヤンデレかな? 男のヤンデレとか、興味ないですね。

 

 まあ、リア充には是非とも爆発してもらいたいものですが。



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第22話 アストグリフ

本日2話目です。


 はい、現在56層まで進んでおります。

 攻略ペースはまあまあで、悪くありません。

 このまま何事もなくキリトがヒースクリフを倒してくれれば目標タイムは十分狙えるペースです。

 

 このペースでここまで上がってこれたのは随分と久しぶりです。

 自分、今回運はまあまあです。

 良かったり、悪かったり。

 

 だから今回はいけるかもしれません。

 運が極端にいいと、自分どこかで大失敗とか致命的なミスをやらかしてしまいますし、運が悪いとリセットですから。

 やっぱり運はほどほどがいいんですよ。

 

 さて、いま最優先で行なっているのは、自分の最終メイン武器、アストグリフ入手のためのレアモンスター狩りです。

 この武器は、50層にいるレアモンスターがレアドロップで落とす武器です。

 

 これ、かなり運ゲーです。

 まずこのレアモンスターは、一度倒すと24時間後、エリアのどこかに再ポップするモンスターなので、最高でも一日1度しか倒すことが出来ません。

 

 そして、このレアモンスターに結構似ている通常モンスターがいるため、その判別が結構面倒臭いです。

 何よりエリアがかなり広いです。

 さらに、このレアモンスターがアストグリフを落とす可能性、体感1%くらいです。

 

 この武器、勿論直ぐにでも欲しくはありますが、まあ、ある程度猶予はあります。

 60層までには欲しいですが、最悪65層までに出てくれればまだ大丈夫です。

 そこまでで出なければほぼリセットとなります。

 

 現在56層、まだ出てきてくれていませんが、大丈夫かな? 

 まあ、信じましょう。

 

 お、レアモンスター見つけました。

 

 ざしゅっ! 

 

 赤い宝玉、はいハズレ、今日も落としませんでしたね。残念。

 視界の端にドロップアイテムの名前が出てくるので、そこを確認していれば、足元を見なくとも何が出たかはわかります。

 

 赤い宝玉というのは、このレアモンスターの通常ドロップです。換金アイテムでそれなりに高く売れます。

 

 では、今日はもうここに用はないので、赤い宝玉を持って一度街に戻りましょう。

 で、今からフィールドボスの攻略会議があるので、もう先に武器の耐久度を直したり、赤い宝玉や、アイテムストレージ内のアイテムを売り払いましょう。

 団体行動の時にはアイテムストレージを空にしておいた方が縛りバレのリスクを減らせますからね。

 

 では、会議場所に向かいましょう。

 

 ここのフィールドボス、かなり強いです。

 まあ、当然のことながら50階層のフロアボスよりは弱いのですが、それでも強いです。

 既に一度ボスに挑んで撤退しています。

 

 普通に強いんですよね、ここのフィールドボス。正直この階層のフロアボスより強いです。

 

 一応、一度も撤退せずにそのまま倒すことは可能ですが、ここでフィールドボスにそのまま勝つと、アスナさんのキリトさんに対するフラグが立たないので、一度負ける必要があります。

 

 ここで負けておかなければキリトvsアスナのデュエルが起こりませんからね。

 

 はい、会議が始まりました。

 

 今回の会議の主題は、どうやってボスを倒すかです。

 

 アスナさんは、そのフィールドボスモンスターを圏外の村の中におびき寄せて、ボスモンスターが村人NPCを襲っているところをまとめて攻撃しようと言っています。

 NPCなんて所詮いくらでもリポップしてきますからね、こういった囮役には適任です。

 

 いやーいいですねぇ、アスナさん素晴らしい意見です! 大賛成! 

 使えるものはなんだって使う、そうで無くては! 

 アスナさん、RTAの才能ありますよ? よかったら攻略組からRTA走者に転職しませんか? 

 

 これを阻むのはキリトさんです。

 

 絶対にダメだ、と。

 アスナをRTA走者にするわけにはいかない! 

 と言うことではありません。

 

 NPCだって生きている、他に何か方法があるはずだ、と言っています。

 

 何か方法があるはずだ、じゃ無いんですよ、代案出してください。

 

 まあ、自分は内心ではアスナさん派ですが、評判や自分のキャラクター的にはキリトさん派にいなければいけないので、キリトさんの意見に追従しましょう。

 

「そうだ、NPCだって生きているんだ! 囮なら、俺がやれば「ダメです」」

 

 サツキさんに速攻却下されました。

 

「ヒー君、自分の命を粗末に扱ってはいけませんよ」

 

 サツキさんから数え切れないほど何度も言われている言葉ですね。

 

「だがそれでも誰かが死んでしまうくらいなら、俺がおと「ダメです」」

 

 早い。

 

「……お「ダメです」」

 

 酷いです、サツキさんが喋らせてくれません。

 

 まあ、いっか、さっき発言できたし。

 では、あとは成り行きを見守りましょうか。

 

 会議は平行線で全く進みません。

 

 と、言うわけでやって参りました、キリトvsアスナさんのデュエルです! 

 このデュエルで勝った方の意見を取り入れると言うことになりました。

 この勝負、キリトさんが勝たなければ、アスナルートフラグが立たないため、リセットになります。

 

 キリトさんは毎回ギリギリでアスナさんに勝利します。

 

 初めはかなりいい勝負をします。

 そして最後キリトさんが、装備していない2本目の剣を背中から抜き打ちすると言う、あまりにも真に迫ったフェイントモーションを行い、それを反射的にアスナさんが迎撃しようとして生まれた隙をキリトさんがついて終了というのが、大体の流れです。

 

 まあ、ここでよっぽどキリトさんが負けることはありませんが、今回ちょっとキリトさんのレベルが低いのが不安点ですかね。

 

 さあ! このデュエル、一体結末はどうなるのでしょうか!? 

 

 デュエル自体は見ませんが。

 このデュエルは見ても見なくてもどちらでもいいので、見ないです。

 この間にレベリングしましょう。

 

 ではでは、さようならー。

 

 はい、戻ってきました。

 さてさて、緊張の瞬間です! 結果はどうなったのでしょうか!? 

 

 ……え? 聞き違いかな? 

 お、おかしいな、思ってた結果と違うぞ? あれ? 

 

 ほ、本当に? マジで!? え!? 

 

 ……キリトさんの圧勝? 

 ……なんで? 

 

 試合を見ていた人に聞いたら、どうやら、2本目の剣を抜くフェイントすら無く、キリトさんがアスナさんを圧倒したそうです。

 いつもよりレベルが低いのに。

 

 ……あれ? 

 

 ま、まあいいか、大丈夫大丈夫、キリトさんが勝ったことは何にも変わらないんですから。

 これでキリトさんには、アスナさんルートのフラグが立ちます。

 このイベントは取り逃がさないようにしましょう。

 

 では、キリトさんの意見が取り入れられて、村人を囮にすることなくフィールドボスとの戦となります。

 

 はい勝利。

 

 時間はかかりましたが、無事勝利です。

 はあ、つかれた。

 

 さて、会議やらデュエルやらボス戦やらで、1日経過していますので、またアストグリフ入手のために、今からレアモンスターを狩に行きましょう。

 

 ……あれ? 何か忘れているような、まあいいか。

 

 さて、どーこっかなー? どーこにレアモンスターいーるっかなー。

 

 あ、いました。

 

 ザシュッと撃破。

 

 アストグリフ、はい、ハズ……ん? お!? おおおおおおおお!?!?!? マジで!?!? うっそだろおい! きたぁぁぁぁぁぁ!! アストグリフキタァァァァ!! メインウェポンひゃっはーい! 

 やばい! 神がかってる! いい! 今回運がかなりいい! 

 

 ほどほどの運がいい? ばっかじゃねぇのぉぉぉぉぉぉ!!! 

 運はいい方がいいに決まってんだろうがヨォォォォ!!!! 

 

 勝った! これは勝った! 今回こそ行ける! クリア行けるぜ! っしゃおらぁぁぁ!!!! 

 

 さて、ではアストグリフを……ん? 足元に落ちていませんね? 

 あれ、あまりのテンションでいつの間にか蹴っ飛ばしてた? 

 

 でも、周囲にはアストグリフは見当たりません。

 

 ……ん? え? あれ? もしかして見間違い? は? 

 確かに視界の隅にアストグリフの文字が浮かんでいたはずなんですけど? 

 

 あれ? あれあれ? 

 あまりにも欲しすぎて幻覚を見ていた? 

 

 でもアストグリフ、間違いなくドロップしてたように見えたんだけどなぁ。

 気のせい? いや、そんなはずは、うーん。

 

 まあ、周囲に落ちてないってことはドロップしていないってことですね。

 

 ……はぁ、なんだよ、ぬか喜びさせやがって。

 

 まあ、まだ60層、最悪65層までは時間がありますからね、大丈夫です。

 

 さてさて、もうここには用事がないので、また街に帰って、今日はレベリングしますかね。

 とりあえず、レベリングするとき、アイテムストレージがいっぱいだと不便なので、またストレージ内のアイテムを一度売り払いましょう。

 

 ……あれ? そういえば自分、ここに来る前にストレージ埋めてたっけ? 

 

 ……あ、

 

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!! 嘘だぁぁぁぁぁぁ!!!! やらかした!? 自分やらかしてた!? 今アストグリフ自分のストレージ内に入ってね!? マジで!?!? ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!! 

 

 やっぱり運がいいとダメなんだ! あああああああああああ!!! 

 

 自分、稀によくこんなミスするんですよね。

 気をつけてはいるんですよ? 本当ですよ? 

 でも治らない、悲しい。

 

 これクリア行けてたかもしれないのに。

 ああ! どうしましょう! 

 

 ……あ、大丈夫だ。これ全然致命的なやらかしじゃないですね。

 よかった。ちょうど1人使いやすい人がいますし。

 あー、焦りました。

 メインウェポンゲットですね。



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第23話 告白?

 はい、アストグリフゲットです。

 よかったよかった。

 

 え? どうやったかですって? 

 

 今回は食料で釣ればなんでもいうことを聞いてくれる女性がいますからね。

 

 具体的には、まず軽い食事を渡して、会話が出来るようになったら、彼女が閉じ込められる原因となった黒幕の話をして、3日間放置して、食料を持って彼女に会って、食事が欲しければ俺の言うことを聞け、と言って、ここでは断られますが、食料を渡さずに帰って、5日間あけてまた来れば結婚してくれます。

 

 いやー、優しい人です、こんな自分と結婚してくれるプレイヤーがいるとは! 感謝ですね、全く。

 

 結婚するとその相手と自分のアイテムストレージが共有化されます。

 なので、自分のアイテムストレージ内にあるアストグリフを彼女は取り出せるわけです。

 

 で、その女性にアストグリフを取り出してもらって、即離婚してからアストグリフと食料を交換しました。

 

 この時、アイテムストレージ内に転移結晶があったら逃げられるので、絶対に持ち込まないようにしましょう。

 

 自分はアストグリフが欲しい、彼女は食料が欲しい、まさにwin-winの関係ですね。

 

 この女性は普通に口説いても攻略不可能でしたが、こうやって、脅して、餌を与えて、ゆっくり調教していくと攻略できます。

 まあ、攻略後も油断してると逃げられてしまいますが。

 

 勿論今回はそんな時間はないので攻略しません、このまま放置です。

 

 よかったよかった。

 

 アストグリフの性能は、とても自分に合っています。自分の専用装備といっても過言ではないレベルです。

 

 まず、長さは少し長めの片手剣といっても通じる長さで、重さは性能の割にはかなり軽いです。

 一応今の自分でもギリギリ扱い切れる程度の重さです。

 

 自分レベルアップボーナスが振れないので、例えばキリトさんのエリュシデータとかダークリパルサーとか手に入れても全く筋力値が足りず扱いきれません。

 

 それなのにもかかわらず、アストグリフは他の75層までで手に入るどの片手剣よりも攻撃力が高いです。

 

 まあ、アストグリフはカテゴリー的には両手剣ですし、レアモンスターのレアドロップで出てくる武器なので当然ですね。

 

 リーチが短いのは両手剣にしてはデメリットでしょうが、それが逆に自分が片手剣として扱っていても違和感をいだかせません。

 他人からはアストグリフは片手剣と見てもらえます。

 自分ソードスキル使えないので、両手剣を片手剣として扱ってもなんの問題もないわけです。

 

 つまりこの武器が75層までで自分が扱える最強装備ということです。

 

 勝ったな。

 さて、街に帰りましょうか。

 

 あー! いける! これは絶対行ける! やっと! やっとクリアが見えてきた! 

 よし! 今回もう行けるだろこれ! 逆に行けない可能性ある? 無いよな!? 

 うっし! 気合い入れ直しましょう! 

 

 はい、街まで戻ってきました。

 

 話は変わりますが、最近、ふと思うことがあるんですよ。

 

 自分、サツキさんに好かれてね? って。

 

 弟としてじゃなくて、異性として。

 

 これは仮説なのですが、自分今までよりもサツキさんの好感度は稼げている気がするんですよ。

 で、サツキさん行動が結構変化してるじゃ無いですか。

 それって自分を好きだから、とかなんじゃないかなーって。

 

 だってめちゃくちゃ心配してきますし、お化けが出る階層では必ず一緒に寝ようと誘ってきますし、その時一緒にお風呂に入ろうって誘ってきましたからね。

 これは誘ってるのかな? 

 

 え? その時はどうしたかって? そりゃ自分RTA中ですから、ね。RTA中にタイムの無駄遣いなんてする奴いるはずないじゃないですか。

 皆さんのご想像にお任せします。

 

 いやでも、自分絶対サツキさんに好かれてるよ! 間違いないってこれ! 

 

 ……いや、わかる落ち着け、分かってるから! それは自分の勘違いだって分かってるから! 

 思春期とかとうの昔に通り過ぎてるけど、思春期特有のイタい勘違いってのは分かってるから! 

 サツキさんは自分のことを単なる弟としか思ってないなんてよく理解できてるから! 

 

 でもたまには夢見たって良いじゃないですか!? 悪いですか!? 

 

 いやー、本当に好かれてたらどうしよっかなー! だってサツキさんと付き合ったら攻略ペースが落ちるしなー! 

 仕方ないから断るしかないか! いやー、モテる男は辛いねぇ! 

 

 さて、で、サツキさんの位置を知るのは案外簡単です。

 

 サツキさんは女性で美人で攻略組で巨乳でと、そりゃもう超有名人ですよ。

 アスナさんと同等くらいの知名度を持っていますからね。

 サツキさんを知らない人とかもうプレイヤーにはいないんじゃないかってレベルです。

 

 なので、サツキさんが住んでいる街を適当にうろついておけば、色々な人がサツキさんについて話しているので、それで大体どこにいるかが分かったりします。

 

 さーて、サツキさんはどこにいるかなー? 

 

「おいおい! 聞いてくれよ! サツキさんが! さっき!」

 

「何だ? そんなに慌てて、どうした?」

 

 お、いきなりサツキさんの話をしている2人組を発見しました。

 ちょっと聞いていきましょう。

 

「俺、俺見ちまったんだよ!」

 

「何見たんだよ?」

 

「俺、さっきアイツがやってる雑貨屋で、サツキさんを見たんだよ!」

 

 お、サツキさんは今どこかの雑貨屋にいると。

 情報が出てくるのが早いですね。

 

 さっきって言ってるぐらいですから、恐らくこの街の雑貨屋ですかね? 

 で、アイツがやってるっていう発言から、NPCではなく、プレイヤーの雑貨屋ということはわかります。

 

 ですが、確か今の時期は、この街にはプレイヤーの雑貨は2つあったはずです。どっちですかね? 

 

 えっと、今話している彼等は、確かクロードさんとメフィストさんでしたっけ? 

 で、この街の雑貨屋さんは、たしかカミュさんとフレデリックさんがやっていたはずで、この2人の関係者となると、……えっと、カミュさんかな? 

 

 てことは、恐らく西の雑貨屋ですね。

 では、まだサツキさんがその雑貨屋にいるかもしれないので、そこに向かいますか。

 

「それがどうした? 何も慌てることじゃないだろう?」

 

「そ、それがな! 1人じゃなかったんだって!」

 

 ん? 

 

「男連れてたんだよ! しかも結構仲よさそうなのな!」

 

 ……え? 

 

「お前そういう話好きだよな、どうせあれだろ、その男は同じギルメンとかなんだろ?」

 

「違うって! ……良いか、よく聞け、相手の男はな、あのブラッキーさんなんだよ!」

 

 ……え? ブラッキー? ……キリト? 

 え? ……ええええええええええ!!??!?!? 

 ちょちょちょちょちょちょちょちょ、ちょっ待てよ! き、キリトと2人で買い物? デート? 親しそうだった? 

 

 ギャァァァァァァァ!!!! 

 

 ダメだって! それだけはダメだって! キリトと2人っきりとか、すぐにサツキさんキリトに攻略されちゃうって! サツキさん付き合ったら攻略速度落ちるし! キリトさんがアスナさん以外と付き合ったら茅場倒してくれなくなって、ギャァァァァァァァ!!! 

 

「い、いや、でもよ? ブラッキーさんも攻略組だろ? だから攻略に必要なものを買いに来てたって可能性の方が高いだろう?」

 

 そ、そうだ! それだれそれに違いない! 

 

「いーや違うね! だってサツキさんがあの雑貨屋で買ってたのは補正がほとんど何もないネックレスだぜ? そんなもの攻略には必要ないだろう? しかもサツキさん、そのネックレスを見ながら微笑んでたんだが、あれ、完全に惚れた女の顔だったぜ?」

 

 ギャァァァァァァァ! 

 なんで!? いつの間に!? サツキさん、自分に惚れてたんとちゃうんか!? 

 

 キリトォォォォ!! 勝手にフラグ立ててんジャネェェェェ!! オメェにはアスナさんっていう嫁がいんだろうが! おいやめろくださいお願いしますからキリト様ぁ! 今回こそいけそうやって言ったばかりじゃないですか! 

 

 サツキさんが自分に惚れるわけなかったんや、自意識過剰、勘違い乙? 

 ああそうですよ! 自分の痛い勘違いでしたよ! 悪かったですね! 

 

 お、おおおおお、おち、おつ、落ち着け、だ、だだだだい、大丈夫、ま、まだ付き合ってると、き、決まったわけでは、な、ないは、無いはず、だ。

 

 い、いい、急いで、か、かく、に、確認を。

 

 はい、今西の雑貨屋に向かっている途中です。

 自分、信じてたんです、さっきの彼等の話は何かの間違いで、サツキさんはキリトと付き合ってはいないって。

 

 でも、今自分の目の前にサツキさんとキリトさんがいるんですよねぇ。

 

 しかもまあ随分と楽しそうに話していますね。

 

「・・くんのプ・ゼン・え・び、・つだ・てくれ・ありが・うござ・ました」

 

 うーん、ここからでは会話はよく聞こえませんね。

 

「いや、・・ちこそ」

 

 もう少し近寄りますかね? 

 でもキリトにバレそう、むしろもうバレてそう。

 一応周りにはたくさん人はいますし、目線も視界の隅ギリギリで2人の姿を捉えるようにしているのでバレてはいないと思うのですが。

 

「・・くん、き・いっ・て・・ます・・?」

 

「ああ、きっと・・いる・ずさ」

 

 うーん、なんの話をしているのでしょうか? 

 

「サツキさんは・・・・のこと・好き・・か?」

 

 お? 今何かキリトさんがサツキさんに聞いていましたね。

 何かのことが好きかと。

 

「もち・ん、・・くん・こと・、大好きです、キ・トくんは・・く・のこと、嫌いな・ですか?」

 

「いや、あー、なんていうか」

 

 ……ん? 

 ちょっと待ってね、さっきの会話……もしかして、

 

「サツキさんは俺のことが好きなのか?」

 

「もちろん、キリトくんのことが大好きです、キリトくんはわたくしのこと、嫌いなのですか」

 

 って話してた? 

 

 ……え? 今の告白イベント? 

 まって、ねぇ待って! 待ってヨォォォオォ!!! ちょっとマジで勘弁してくださいって! 

 

 これキリトさんに返事させたらおしまいじゃね!? 待て待て待て待て待て! 

 

「サツキ!」

 

「え!? ひ、ヒー君!? ど、どうしたのですか?」

 

 と、とりあえず、サツキさんをキリトさんから引き離さないと! 

 

「ちょっとこい!」

 

 と、とりあえず人気のない路地裏に連れ込みました。

 

「あ、あの、ヒー君? もしかして、先ほどの話、き、聞いていたのでしょうか」

 

 サツキさんは顔を赤らめています。

 あー、これはキリトさんへの告白を聞かれていて気恥ずかしく思ってるやつだ。

 

 サツキさんが自分を好きかもしれないというのは、完全な自分の妄想ということが証明されてしまいました。

 ……ちくしょう、いやそんなことより! 

 

「ああ、聞いていた」

 

 バッチリ、キリトさんへの告白は聞かせていただきました。

 でも、まだ2人は付き合ってはいないかもしれない! 

 だってさっきのキリトさんの反応は、煮え切らないものでしたから! 

 

「そ、そう、ですか、あ、あの!」

 

 きっと、まだサツキさんの一方通行なんだ! そうに違いない! 頼む! そうであってくれ! 

 

「キリトとは、その、どう言う、関係だ?」

 

「……え?」

 

「キリトのことをどう、思っているんだ?」

 

「えっと?」

 

 遠回しに言っても伝わりませんか。

 なら直で聞きましょう。

 

「キリトと、付き合っているのか?」

 

「えっと? 私が、ですか?」

 

 ん? なぜかサツキさんは困惑していますね? 

 どう言うことでしょうか? 

 

「さっき、キリトと楽しそうに一緒に話していただろう? だから、付き合っているのか、と」

 

「いいえ? なぜ私がキリト君とお付き合いしなければならないのでしょうか?」

 

 ……え? マジで? 

 

「ほ、本当か!? キリトとは付き合ってないんだな!?」

 

「ええ、私は好きでもない殿方とお付き合いする気はありませんから」

 

「……そう、か、良かった、本当に」

 

 ああああああああ!!! 良かったぁぁぁぁぁ!!! 気のせいだったよぉおおおおおお!!! 

 

 マジで焦った! マジでリセット覚悟した! あー! こっわ! マジこわっ! そこらのホラーよりよっぽど肝が冷えましたよ! マジで! 

 これだからサツキさんルートは怖いんですよ! あっぶねぇぇぇ!! 

 

 セーフ! ギリギリセーフ! 

 

「それだけだ、じゃあな」

 

 セーフセーフ! 

 

「嫉妬して、くださったのですか? ……ふふ」



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第24話 ラフコフ

 アストグリフは迷宮区のトレジャーボックスから入手したと情報屋には伝えてあります。

 そう言っておけば疑われませんし、他人がアストグリフを入手することもありません。

 

 迷宮区のトレジャーボックスは復活しないので、この世界でたった一本しかない武器とかが普通に存在します。

 アストグリフもそういう設定で情報屋に伝えました。

 

 本当の入手手段を伝えて、他の人にアストグリフを入手されると、アストグリフが両手剣だということがバレてしまいますからね。

 

 でも大丈夫、自分が伝えなければ、アストグリフを他人が入手することはほぼあり得ません。

 

 何故なら、超低確率というのもありますが、あのレアモンスター、通常モンスターと外見が殆ど同じで、普通はレアモンスターだということにすら気がつきませんからね。

 たまたまレアモンスターを倒して赤い宝石を手に入れたとしても、それが通常モンスターのレアドロップと勘違いしますから。

 

 あそこ経験値効率も対して良くないですし、コルの稼ぎも悪いので狩場としてはかなり不人気です。

 

 なのでバレる心配はありません。

 

「待ってください! ヒー君!」

 

 ん? 

 

「なんだ?」

 

「あの、もしよろしければ、これ、受け取ってください!」

 

 えっと、なぜかサツキさんからネックレスを渡されました。

 なんでしょうか? これ? また知らないイベントですね。

 もしかしてこのネックレス、すごく性能が良かったりするのでしょうか? 

 

「実用性はあまりありませんが、その、ヒー君に似合うと思いまして」

 

 あらら、性能は良くないみたいですね。

 でも誰かから物をもらうなんて、アイツのせいであまりありませんでしたからね。

 いや、あったんでしょうが、なくされ、あーまあいいや。

 

 素直に嬉しいですね。

 

「ありがとう、大切に使わせてもらう」

 

「はい!」

 

 では、今からはコル稼ぎをしていきたいと思います。

 アストグリフの強化にかなりのコルを使用するので、たくさん稼いでいきましょう。

 

 とりあえずまずはNPCの店に行きます。

 そして、アイテムストレージ内の物と、先ほどもらったゴミを売り払います。

 

 サツキさん、大切に使わせていただきました。ありがとうございます。

 

 で、今からラフコフを使ってコルを稼いで行きたいと思います。

 

 ラフコフの、主な活用方法は2つあります。

 一つは先ほどあげたコル稼ぎ。

 もう一つはキリト達攻略組の信頼度回復手段です。

 

 もし仮に、現状でかなりキリトや攻略組の面々から変な疑惑を持たれていた場合は、この信頼度回復イベントを起こします。

 

 どんなイベントかと言いますと、しばらくラフコフを放置しておきますと、中層プレイヤーが多大なる被害を被るので、流石に無視できない、となり攻略組でラフコフを討伐に行くイベントが発生します。

 

 で、ラフコフのアジトが発見されたあと、攻略組で作戦会議があります。

 作戦としては、ラフコフのメンバーのHPを減らして、降参させて、回廊結晶で黒鉄宮の牢獄に放り込む、降参しなければ、最悪殺すしかない、という決定がされる会議なのですが、この場所でまず顔を真っ青にして、震えておきます。

 

「怖がってんのかー?」「この作戦から降りたっていいんだぜ?」

 

 等言われますが、無視しましょう。

 

 で、ラフコフとの戦闘になりまして、初めは待ち伏せ、奇襲を受けラフコフに一瞬優位を取られますが、攻略組はラフコフより結構強いので、すぐに優位を取り返して、ラフコフを全員追い詰めます。

 

 でも、ラフコフのメンバーはHPが残り少なくなっても誰1人投降しません。

 

 事前の作戦では、こういった場合殺すしかないとなっていましたが、攻略組の皆さんは誰も本当に人を殺す覚悟をしてきていないので、何もできなくなってしまった攻略組のメンバーはラフコフに殺されてしまいます。

 自分が何もしなければ。

 

 当然攻略組の人間が死んだらロスなので、ここで、

 

「全員下がれ! お、俺が、俺がやる! あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 とやってラフコフのメンバーをほとんど殺します。

 そうすると降参する人が現れるので、その人は殺さないようにしましょう。

 

 で、その戦闘後。

 

「お、おれ、俺は、ひ、ひとを、あ、ああ、うああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 と、やると、疑いが消えて、攻略組の皆さんはみーんな自責の念にかられます。

 

「俺たちは考えが甘かった、本当にあの作戦で殺人を決意していたのは、ヒャッカだけだった、そのせいで、俺たちは責任を全てあいつに背負わせちまった」

 

 となります。

 信頼度回復イベントですね。

 

 でも今回は、それほど疑われてはいません。

 確かにいっとき、キリトにかなり疑われていて危なかった時がありましたが、あれからしばらくおとなしくしていたので、もう疑いは晴れていることでしょう。

 

 なので、ラフコフや他のレッド、オレンジプレイヤーはコル稼ぎに使います。

 

 ではでは、コル稼ぎのためのアイテムを取りに行きましょう。

 

 はい、ナイフをゲットしました。

 このナイフ、ただのナイフではありません、レベル5麻痺毒付きナイフです。

 レベル5麻痺毒とは、事前に耐毒耐麻痺ポーションを飲んでいたり、ポーションやクリスタルで回復しなければ、だいたい10分程体の殆どが動かなくなる状態異常です。

 一応この状態でも、右手はゆっくりと動きますし、囁き声なら出せますが、逆に言えばそれしか出来ないということです。

 

 これを使って、ラフコフなどのレッドギルドやオレンジプレイヤー達からコルを巻き上げて行きます。

 

 オレンジ、レッドプレイヤーの諸君、本当にありがとう! 

 自分の為にグリーンカーソルのプレイヤー達からコルを稼いでくれて! 

 全て有効活用させていただきます! 

 

 さて、ではもう一つ準備を済ませましょう。

 なんの準備かと言えば、釣り餌の準備です。

 わざわざ自分からオレンジプレイヤーやレッドプレイヤーを探すのは面倒なので、餌で釣ります。

 

 まず、記録結晶という映像を記録できるクリスタルと、食料と縄を持って超高難易度隠しダンジョンに向かいまして、そこに倒れている女性に、まず会話ができるようになるくらいまで食料を渡します。

 

 それで、残りの食料が欲しければ倫理コードを解除して、俺に協力をしろと伝えます。

 当然、彼女はとても親切な人なので、協力してくれます。

 で、まずは倫理コードを解除させて、彼女を縄で縛り上げて、それを記録結晶で撮ります。

 

 倫理コードを解除させていないと、女性を縛っている時にハラスメントコードで自分が牢獄に飛ばされるので、気をつけてください。

 そんなんでリセットとか、マジ辛すぎました。

 

 で、その映像を持ってとあるオレンジプレイヤーがいる場所に向かいます。

 

 そして、まずはそこにいるオレンジを全員麻痺毒で麻痺させます。

 次に、麻痺毒を回復されたり、逃げられたりしないようにポーチなどから、オブジェクト化されている全てのアイテムを没収します。

 その後、麻痺しているオレンジプレイヤーの右手を無理やり動かして、オレンジプレイヤーのコルと高価なアイテムだけを自分に送り、1人を残してコロコロします。

 麻痺している相手の右腕を無理やり動かすのは結構簡単です。

 

 で、オレンジプレイヤーやレッドプレイヤーは大体横のつながりが広いので、残しておいた1人を使って、そのオレンジプレイヤーのフレンドに先ほどの記録映像をつけて、

 

 いい女をゲットしたぜ、お前もどうだ? このことは誰にもいうなよ。場所は──

 

 的なものを送るとみんなホイホイ釣られてきます。

 親切な女性はとても綺麗ですからね。そりゃ溜まっている彼らは釣られて来ますよね。

 

 彼らのフレンドにメッセージと映像を送るときに気をつけなければいけないのは、オレンジやレッドだけではなく、一般プレイヤーもフレンド欄に混じっていることがあるということです。

 なので、一般プレイヤーにこの映像を送ってしまうと、キリトさん関連で非常にまずいことになりリセットとなります。

 

 大体誰がレッド、オレンジかと言うのは経験上わかっていますが、確率で犯罪者にならないプレイヤーというのがいるので、確実に犯罪者になるプレイヤーだけを対象にしましょう。

 

 で、釣られてきたレッドやオレンジプレイヤーからアイテムとコルを奪って、その人達のフレンド欄からオレンジやレッドプレイヤーを釣って、用が済んだらコロコロして、というのを繰り返していけば、ここにいるだけでSAO内にいる殆どのレッド、オレンジプレイヤーからコルとアイテムを奪えます。

 

 で、オレンジやレッドギルドの中にもグリーンカーソルのプレイヤーは混じっています。

 そう言った人はどうするかと言いますと、最初に残しておいた1人を使います。

 

 彼、名前をマッコリーと言いまして、とりあえず軽くHPをレッドゾーンまでサクッと削った後にしっかりお話しをすれば自分に協力してくれます。

 

 彼、なかなかに敏捷値が高くてですね、不意打ちがかなり得意なんですよね。だから麻痺毒ナイフを渡しておけばグリーンを不意打ちで初めに麻痺させてくれます。

 そうなって仕舞えばあとは余裕ですよ。

 

 マッコリーさん、最初は自分に協力するふりをしていて、隙をついて自分を攻撃してこようとしますが、それを3回ほど防いで、HPをまたレッドゾーンまで削って、しっかりとお話すればそれ以降は従順な駒になってくれます。

 

 さー、どんどん稼ぎましょう! 

 

 はい、いいですねぇ、どんどん釣れますねぇ。大漁だぁ! 

 

 流石にプーさんは釣りません。というよりこれでは釣れません。

 でもジョニーブラックさんとかの、ラフコフの幹部メンバーの一部はこれで釣れます。

 

 いやー、アイテムがっぽがっぽ、コル大量ゲット! やっぱりレッドやオレンジプレイヤーは最高だぜ! 

 

 一般プレイヤーをこうやってコロコロすると、結構まずい事になるのですが、オレンジやレッドプレイヤーはいくらコロコロして黒鉄宮の石碑に横線が引かれてもなんの問題もありません。

 

 いやー、社会のゴミ掃除、たーのしーいなー!! 

 当然ですが、大体ゴミ掃除が終わったらマッコリーさんもコロコロします。

 口封じです。

 

 やっぱりこう言ったゴミ掃除とかは、聖人君子の自分にふさわしいボランティア活動ですよね。

 いいことするって、気持ちいいなー! 

 

 

 

 ────────────────────

 

 

 

「つまり、嘘、だな」

 

「まだ決まった訳じゃないけどナ」

 

「だが、可能性は高いはずだ、調査、頼めるか?」

 

「オネーサンに任せナ」



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第25話 74層

「ん? ヒャッカ君、武器を両手剣に変えたのかい?」

 

「は? いや変えていないが?」

 

「だがその武器は両手剣だろう?」

 

「何言ってるんだ? ヒースクリフ、これは片手剣だぞ?」

 

「……そう、なのか?」

 

「ああ、そうだが? 誰かがこの武器を両手剣だとでも言っていたのか?」

 

「……いや、そうじゃない、すまなかった、君が今まで持っていた武器よりも長く見えたのでね、てっきり両手剣かと」

 

 ヒースクリフさんはアストグリフが両手剣だと知っていますからね。

 でも、しっかりしらを切り通しましょう。

 自分が片手剣だといえば、ヒースクリフさんはそれ以上何も言って来ませんからね。

 だって現にアストグリフを入手しているプレイヤーは自分だけ、その自分がアストグリフを片手剣だといえば、他のプレイヤーは片手剣だと思いますから。

 

 はい73層突破ぁ! やった! 勝ったぁ! ここまできたらもうほぼ勝ちだ! 

 これはいける! 今回クリアできる! キバオウさんにさえ負けなければ、キリトさんがヒースクリフ倒してくれる! 間違いない! 

 

 キバオウさんなのですが、もう対人特化型キバオウさん完全形態にまで進化しました。

 でも、まだギリギリ勝てています。

 基本的に自分のHPが6割以下まで削られはしますが、アストグリフの強化がだいぶ上手く行ったお陰でギリギリ勝てています。

 

 でもこれ、ちょっとおかしいんですよね。

 キバオウさんが対人戦特化キバオウさん完全形態になるのは、今までは最速でもゲーム開始から1年半が過ぎてからだったんですよ。

 

 で、今は4月で、ゲーム開始からまだ1年と5ヶ月未満しか経過していません。

 1ヶ月分キバオウさんの成長が早いんですよね。流石にそれは早すぎます。

 

 で、目標タイムはゲーム開始から1年半以内なので、遊びプレイ以外でキバオウさんが完全形態になることはないはずだったんですけどねぇ。

 

 まるで自分にクリアして欲しくないかのような意思を、運命を感じます。

 マジで死んでくれ。

 

 いや、まあきっと自分が把握できていない何かが起こっているだけなんでしょうけどね。

 でも、あと数回キバオウさんに負けなければいいだけの話ですから、大丈夫大丈夫。

 

 さて、で、74層なのですが、ここで自分が何もしていなければ、74層のフロアボスはキリトさんではなく、攻略組が倒してしまいます。

 そうなるとマズイです。

 

 自分が最初から何もしていなければ、フロアボスに軍が勝手に突っ込んでくれて、キリトさん達が彼らを助けるためにボスに挑んで、キリトさんが二刀流を解禁するのですが、今回はそう言った無茶なことをしてくれる人がいないため、このままですとキリトさんの二刀流バレが起こらず、アスナさんを賭けたキリトvsヒースクリフの決闘イベントで、キリトさんは二刀流ではなく片手剣を使ってしまいます。

 

 そうなると、キリトさんはその決闘でヒースクリフを追い詰めることができず、追い詰められたヒースクリフがシステムのオーバーアシストをついつい使ってしまった、というイベントがなくなり、キリトさんの中でヒースクリフ=茅場という方程式が成り立たなくなります。

 

 そうなってしまうと75層のボス戦後、キリトさんがヒースクリフに斬りかかることがなくなるのでリセットとなります。

 

 と、言うわけで、今回は中層プレイヤーを焚きつけましょう。

 

 どうやるかと言いますと、たらたらったらー、回廊結晶ー。

 恒例のやつですね。

 回廊結晶は、低階層ではかなり出にくくはありますが、ここまで階層が上がっていると比較的容易に手に入るようになります。

 それでも貴重品であることは変わりありませんが。

 

 さて、今回のターゲットは、とある小規模の情報屋のギルドマスターです。

 アルゴさんではありません。アルゴさんとは別の情報屋ギルドのギルドマスターです。

 

 アルゴさんに手を出すと、本当に後悔することになるので、やめましょう。

 

 で、その情報屋のギルマスはフットワークがとても軽く、自分の目で見たもの以外は決して売り出さないというスタンスで活動している為、ギルドホームにこもっているということはほぼありません。

 

 彼は基本的に宿止まりです。

 自分、彼のお気に入りの宿は全て知っています。

 ですが、彼の活動範囲は全域で、どこにいるかはほぼランダムな為、このままでは彼の泊まる宿を特定できません。

 

 なので、情報で釣ります。

 その情報屋さんのギルドに、ギルマスが食いつく情報をタレコミ、ギルマスが71層のとある街に来るように誘導します。

 

 そこまでいったら、彼のお気に入りの宿に回廊結晶の転移地点を登録しておくだけで、大丈夫です。

 彼はその宿に吸い込まれるように泊まってくれますから。

 

 はい、宿屋の一室に転移してきました。

 現在早朝です。

 

 どーもー、おはようございまーす、寝起きドッキリのお時間でーす。

 

 おやおやー、ぐーっすり眠っていますねー、きっと夜遅くまで、情報収集を頑張っていたのでしょうねー。

 

 では、ドッキリの前に、下準備とまいりましょう。

 

 まず、ギルマスの彼が寝入っている間に指を勝手に動かし、彼のフレンド欄の中から、中層プレイヤーの中の攻略組予備軍の方たちにチョロチョロっと情報をリークします。

 彼は情報屋なので顔が広いですからね。彼のフレンド人数は千人を超えています。

 自分は0人。

 

 ……俺は悪くねぇ! 俺は悪くねぇ! 

 因みに、自分が悪くないのは本当のことです。

 

 で、攻略組予備軍の方々にどんな情報を流すかと言いますと、

 

 74層のフロアボスは今までのボスとは比べ物にならないほど、かなり弱いボスだった。

 見かけは怖いが、攻撃力、防御力共に低く、まさしく見掛け倒しなボスだ。

 中層プレイヤー達でも束になれば誰一人として死ぬことなく余裕で倒せるだろう。

 

 だが、攻略組は明日にはこのボスに挑むようだ。

 だからチャンスは今日しかない。

 中層プレイヤーの皆が、このボス戦を通して、新たな攻略組の一員になってくれることを願っている。

 

 というような情報です。

 

 他の方がこんなことを言っても眉唾な噂だと流されますが、この情報屋のギルマスの彼がいうと少し説得力が増します。

 

 彼は、先程も言いましたが、自分の目で見た真実以外は決して売り出さないというスタンスで活動しているため、少し情報は遅くなりがちなのですが、情報の精度に関してはプレイヤー達からの信頼が厚い方です。

 なので、それを利用させていただきます。

 

 でも、普通ならこんな情報、いくら信頼が厚い情報屋さんの情報でも信じられませんよね? 

 

 しかし、大丈夫です。

 

 この情報を伝える方々は、全力で攻略組を目指していながらも、実力が後一歩攻略組に追いついていない攻略組予備軍の方々ですから。

 

 彼らはみんな、とても攻略組を羨んでいます。

 攻略組はみんなからもてはやされて、様々な優先権が与えられていますからね。

 

 で、攻略組予備軍の方々は後一歩で攻略組にまで届くのに、その一歩がどうしても届かない、そのせいで自分達は攻略組ではなく、中層プレイヤーとして一括りにされてしまっている、そんなことは我慢ならない! 俺は攻略組に絶対になってやる! という状況です。

 

 そんな彼らだからこそ、この偽物のチャンスを掴みとってしまいます。

 彼らの攻略組への羨望、渇望などの思いはとても強いですからね。

 

 一時期攻略組のメンバーがよくお亡くなりになっていた時期があったのですが、その時、巷にこんな噂が流れました。

 攻略組予備軍の人が攻略組に入りたいがために攻略組のメンバーを暗殺しているんじゃないか、というね。

 要するに、そんな噂を立てられるくらい彼らは攻略組になりたがっているということです。

 

 ああ、もちろん単なる噂ですよ。攻略組予備軍の方々はそんなことはしていません。

 でも、いいスケープゴートだったので、攻略組予備軍のとある一人に責任を全て押し付けて処分したりしましたが。

 

 話を戻しましょうか。

 当然ですが、74層のボスが弱いなんてことはありません。

 むしろ今までよりも難易度が桁違いに高くなります。

 

 つまり、攻略組予備軍の彼らが何の偵察もなく、対策も積まずに挑めば余裕で壊滅します。

 

 74層のボス部屋は結晶無効化空間という、転移結晶や回復結晶などの、一瞬で効果を及ぼすクリスタルが使えない空間という鬼畜仕様となっています。

 

 HPは、ポーションでゆっくり回復していくしかなく、転移結晶による緊急離脱も出来ないため、彼らが勝つのは不可能ですし、ボスから逃げることもままなりません。

 でもなんの問題もありません。

 

 今までは攻略組で欠員が出た時の予備として、攻略組予備軍の方々を取っておきましたが、74層までくればもう必要ないので、攻略組予備軍の方はここで使い捨てて構いません。

 

 で、彼らは情報の違いや、結晶無効化空間などにより大ピンチに陥ります。

 

 そこに颯爽と現れるキリトさんとアスナさん! そしてクラインさんのギルド風林火山! 

 彼らは攻略組予備軍達を助けるため、ボスに挑みます! 

 そして、みんなを助けるために、キリトさんは二刀流を解禁してくれます! 

 いやー素晴らしい! さすがキリトさん! 

 

 そのキリトさんのお陰で、攻略組予備軍の方々は大体約4分の1程度生き残るはずです。

 まあ、もう使い道はないので、何人生き残ろうが、何人死のうがどうでもいいことですがね。

 

 はい、情報を攻略組予備軍の方々に送信っと。

 

 ではもう一つ、彼の指を操作して、デュエル申請を自分に対して送りましょう。

 

 モードは完全決着モードです。

 

 はい、ではー、いまからー、寝起きドッキリをー、行いたいと思いまーす。

 

 では、せぇーの! 

 

 おやすみなさい。

 

 はい。

 

 74層のボス戦はキリトさんに任せておけば問題ありません。

 攻略組予備軍は壊滅するとは言っても、それなりには強いので、ある程度ボスのHPを減らしてくれます。

 そのお陰で、たとえ少しキリトさんのレベルが低くとも、ギリギリ倒してくれます。

 

 はい、75層解放、っキタァぁぁぁぁぁぁ!!! 

 ああ、久しぶりの75層! 遊びプレイ以外でここまでくるのは何年振りでしょうか? 千? 万は行ってないと思いますが、あー! やっと! やっと! 今回クリア行ける! 間違いない! 

 

 勝ったな。



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第26話 二刀流

本日2話目です。
すみません、とても短いですが、キリが良かったので投稿します。


 さて、今現在75層なのですが、まず、ヒースクリフとキリトさんの、アスナさんを賭けたデュエルがあります。

 女性を賭けて争う2人の男。あ、違うか。

 キリトさんはアスナさんを欲していますが、ヒースクリフはキリトさんを欲していますからね。

 で、現状アスナさんはヒースクリフさんのもの(ギルド的な意味で)。

 

 完全に三角関係というやつですね。

 修羅場や! だからデュエルするんやな。

 

 ……あれ? 三角関係ってこんなのでしたっけ? 

 

 ま、まあいいか。

 

 デュエルの結果は、ヒースクリフがキリトさんの二刀流に押されて、負けそうになった瞬間に、システムのオーバーアシストを使用して、ヒースクリフが勝利します。

 

 ここでキリトさんはヒースクリフに疑惑を抱くわけです。

 今の、明らかに動きが早すぎる、と。

 

 因みに、このデュエルは見ません。

分かり切った試合なんて見る必要ありませんからね。

 

 一応、もしキバオウさん敵対ルートでは無ければ、もうほとんどやることがないので、観戦していてもいいのですが、キバオウさんに負けるわけにはいかないので、負ける確率を少しでも減らすためにレベル上げをします。

 

 なので、キリトさんとヒースクリフのデュエルの結果は後で確認しましょう。

 ま、確認するまでもなく結果は目に見えていますがね。

 

 はい、一度街に戻ってきました。レベル上げもひと段落しましたし、一応デュエルの結果を確認しておきましょうか。

 

 ここは、キリトが二刀流ならよっぽどこちらが干渉でもしていない限り結果は変化しません。

 ヒースクリフがオーバーアシストを使用しての勝利です。

 

 さてさて結果は、キリトの勝利、と。

 

 当然ですよね。だってキリトさんが負けるはず……ん? あれ? 

 見間違いかな? 何故か勝利したのがキリトさんと書いてある気が。

 ああ、この記事が間違っているんですね。

 

 ここでキリトさんがヒースクリフさんに勝利するなんてこと、今までなかったので、ありえません。

 きっと書き間違いでしょう。

 だってキリトとヒースクリフって名前が似てますからね。

 そりゃ書き間違えても仕方ないですよ、ええ。

 それにキリトさんとヒースクリフって、よく見ると同じ人間という種族で男じゃないですか、そりゃ間違えますよね! 

 だって顔も似ていますからね! 目と耳と鼻が付いていますから! うん! そう! そうとしか考えられません! 

 

 では、街の人たちに話を聞きましょうか。

 

「っぱ二刀流っしょ! キリッ!」

 

「くらえ! スターバーストストリーム! キリッ!」

 

「俺はキリト、神聖剣を打ち倒し、新政権を立てる男だ! キリッ!」

 

「神聖剣? そんな過去の遺物なんてどうでもいいでしょ、そんな古臭いものより、今の時代は二刀流よ!二刀流!キリッ!」

 

「盾は臆病者が持つ武器だ! 真の勇者は二刀流! キリッ!」

 

 みんなバグってますね。



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第27話 ピンポンダッシュ

 お、おお、落ち、落ち着いた。

 

 誰に確認しても、キリトさんがヒースクリフに勝利したと言っていますね。

 どうやらデュエルの勝者は間違いなくキリトさんのようです。

 

 ……ふぁーふぁーふぁーふぁーふぁーぶぁーぶぁーぶぁーぶぁーぶぁ、フゥァァァァァァァァァア!?!?!?!? 

 

 自分の親分自分の英雄、懐かしいですね。

 あれ? ボスって親分でいいですよね? 

 ヒーローって英雄ですよね? 勇者かな? 

 

 って、いや今そんなこと考えている場合じゃないから! マジで! 

 え? 勝ったの? キリトさん? ヒースクリフに!? なんでぇ!? 

 ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。

 

 これ、終わったのでは? 

 ここまで来たのに、リセットなのでは? 

 

 だってここでヒースクリフのアバターがブレる程の超高速で動く、システムのオーバーアシストをキリトさんが見ていないと、ヒースクリフ=茅場という正体見破りのフラグが立たなくなってしまって、キリトさんがヒースクリフを倒してくれない、つまりタイムが、ひゃぁぁぁあ!!! 

 

 一応後1ヶ月間時間的に猶予があると言っても、誰にも抜かれないために当然タイムは短い方がいいですし、まず第一にキリトさんがヒースクリフを倒してくれないとクリアすら出来ないですよね、このままでは。

 ヤバすぎでは? 

 

 えっと、キリトさんが勝ったってことは、ヒースクリフがクリティカル貰ったってことですよね? だってヒースクリフのHPは半減しませんもの。

 初撃決着モードの場合、クリティカルが入るか、HPが半減したら決着なので、クリティカルを入れるしかヒースクリフに勝つ方法無いですし。

 

 えぇ、うっそだぁ、対人戦特化型キバオウさんじゃないんですから、普通あの堅固な神聖剣の守りを破るなんて無理ですって。

 

 ……まさかヒースクリフ、デュエルの時うっかり躓いて転んだりして、特大のガバをやらかしたの? うっかりさんなの? ドジっ子ヒースクリフなの? 

 

 えー、何やってんのヒースクリフー! ちょっとー! 大事な場面で転ぶとかありえませんって! 自分じゃないんですから! 

 

 あ、でもヒースクリフはもしかしたら、躓いた拍子にシステムのオーバーアシストを使って態勢を立て直そうとしたかも知れない! 

 もしくは、システムのオーバーアシストを使ったけど、それでもキリトさんに負けたという可能性は一応ありますよね? 

 

 ま、まだ希望は捨ててはいけない、可能性が残っている可能性がある確率が存在するかもしれない! 

 

 と、言うわけで、ヒースクリフのオーバーアシストをキリトさんが見ている前提で、ここからのリカバリー策を考えていきましょう。

 

 いつもなら、キリトさんが負けて血盟騎士団に入って、その後クラディールさんによって殺されかけて、そこをギリギリでアスナさんが助けることによって、2人は結婚する訳ですが、ここで勝った場合どうなるんでしたっけ? 

 それは流石にもう覚えていないですね。

 

 えーっと、あー、確か、もともとアスナさんが休暇申請のようなものをヒースクリフに出して、キリトくんが私とのデュエルで勝てば申請を通すよ、的な感じで2人がデュエルすることになっていたはずなので、キリトさんが勝ったということは、アスナさんの休暇申請が通ったということですよね。

 

 つまりしばらく2人はコンビになる訳ですか。

 

 これ、自分が何もしなくとも2人は付き合いそうですが、すぐに結婚するかと言われると、微妙ですよね。

 

 つまり、早く結婚してもらうために、何かしらこちらで危機を演出した方がいいですね。

 

 回廊結晶でアスナさんをさらう? 

 

 無理ですね。

 キリトさんもアスナさんも、もうプレイヤーホームを持っているので、宿屋に泊まることはまず無いですし、当然のことながら、基本的にはプレイヤーホームには無断で入れないので、回廊結晶の転移地点を登録できません、不可能です。

 一応他人のプレイヤーホームに無断で入る方法はありますが、アスナさんはものぐさではないですし、キリトさんは直感が優れ過ぎているので無理です。

 

 仮に、2人が今日だけ宿屋で泊まったとしても、キリトさんが勝った場合の彼らの行動パターンを覚えていないので、宿屋の特定ができません。

 回廊結晶での誘拐は難しそうです。

 

 あ、なら親切な女性を使えばいいのでは? 

 

 いや、それは悪手ですかね? 

 せっかくキリトさんは、クリスマスに親切な女性に対して折り合いをつけたはずなのに、ここで掘り返すと最悪アスナさんと付き合わない可能性すら出てきかねませんし。

 

 いや、でもやらないより、やったほうがいいですかね? 

 だいぶ賭けにはなりますが。

 

 他に案がなければやりますか。

 でも、とりあえずこれは保留にしておきましょう。

 

 他には、レッドプレイヤーを使おうにも、コル稼ぎのためにだいたい処分してしまいましたので、残っているのが少ないんですよね。

 プーさんとかザザさんとか、一応残っていますが、自分が彼らの仲間を狩り過ぎたせいで、生き残っているラフコフの方々はかなり深く裏に潜ってしまっているんですよね。

 つまり居場所の特定が難しいです。

 だから直ぐに使うのは困難ですね。

 

 ならクラディールさんを焚きつける? 

 クラディールさんの居場所はわかりますし。

 いや、でもクラディールさんなぁ、弱いしなぁ。

 

 自分にはクラディールさんがキリトさんとアスナさんを追い詰める未来が見えません。

 

 でもやらないよりはマシですかね? 

 いや、そのままクラディールさんにキリトさんアスナさんに挑ませても返り討ちに合う未来しか見えないので、ちょっと搦め手を使わせますか。

 うーん、クラディールさんには、親切な女性の名前だけ使わせましょうか。

 

 で、親切な女性を使う準備も整えておきましょう。

 

 よし、では先ずはクラディールさんに働いてもらいましょうか。

 

 ではでは、今クラディールさんは自宅にいるはずなので、準備をしてからクラディールさんのプレイヤーホームに向かいましょう。

 

 はい、準備完了です。

 

 皆さんは、ピンポンダッシュというものを知っていますか? 

 ピンポンを押して、家の人間が出てくる前に走り去る事により、家の人間が出て来たときには誰もいない、というイタズラです。

 

 ピーンポーン! 

 

 ささっ! 

 

 小さな体を生かして、扉の近くに隠れました。

 

 ガチャ

 

「だれだ、あぁ? ちっ、イタズラか、クソが」

 

 クラディールさん、イライラしてますね。

 ピンポンダッシュ、やられたことはないのですが、やられたらイライラしそうですよね。

 

 で、そのままクラディールさんは扉から手を離して部屋の中に戻って行きました。

 

 扉は手を離せば勝手に閉まって行くので、基本的にはそれでも問題ないのですが、自分みたいな人がいると、それが致命的になるんですよねぇ。

 

 では、扉が閉まる前に、物音を立てずに素早く近寄って扉を掴みます。

 で、ギリギリ扉が閉まっていない状態でしばらく保ちます。

 

 扉が完全に閉まってしまうと、もう開けられませんが、まだギリギリ開いている状態なので、この状態なら無断でプレイヤーホームに侵入可能というわけです。

 

 でもこの方法では、アスナさんの部屋には侵入できません。

 なぜなら、アスナさんは、というより女性プレイヤーの殆どは、そのまま手を離すのではなく、きちんと最後まで扉を閉めてしまいます。

 

 この方法を発見したのは、どぉーしても女性プレイヤーの部屋に無断で侵入したい! 部屋を漁りたい! いや、むしろこっそり家具になっていたい! と思っていた時期がありまして、そのときに考えついた方法です。

 でも、この方法が使えるのは女性ではなく主に男性というね。

 ちげーよ! 男の部屋なんて漁ったって楽しくもなんともないんだよ! 

 

 では、クラディールさんが扉から離れてから侵入いたしましょうか。

 

 はい、ここがクラディールさんのプレイヤーホームです。

 内装とか詳しく説明しますか? いらないですよね。

 男の部屋がどうなっているかなんて、心底どうでもいい事ですから。

 

 では、机の上に回廊結晶とメモを乗せておきましょう。

 

 この回廊結晶の転移地点には、とある隠しダンジョンのボス部屋が設定してあります。

 親切な女性がいる隠しダンジョンとは別です。

 

 で、メモには、

 

 この回廊結晶の転移地点には、とある超高難易度隠しダンジョンのボス部屋前が設定されている。このボスに挑んだものは、たとえ攻略組でも生きて帰れはしない。

 これをどう使うかは、クラディールに任せる、有効活用してくれたまえ。

 因みに、キリト少年には、アスナ様以外で執着している女性がいる。

 その女性は、死んでいないのに、ずっと行方知れずになっている。

 その女性が回廊結晶のボスの先にいるといえば、いやが応にもキリトはボスと戦うだろう。

 その女性の名は────

 そして、隠しダンジョンの位置は────

 

 的なことを書いています。

 

 これ、家の外に置いておくより、家の中に置いて置く方が信じてもらえる確率が上がります。

 

 家の外にあれば、単なるイタズラと思われますが、勝手に家の中に入れるような奴なら、隠しダンジョンの存在を知っていてもおかしくはない、的な感じで思ってくれるはずです。

 

 もしくは、回廊結晶をイタズラで使うとは思えないとか、憎いキリトを処分できるならなんだっていい、とか。

 

 なので、家に侵入しました。

 

 まあ、これで動かなかったら動かなかったで、また次の策をやればいいのでね。

 

 あ、回廊結晶の出口は、確かに隠しダンジョンのボス前ですが、キリトさん単独でもなんとか勝てるボスです。

 キリトさんが行くならアスナさんも無理やりついて行くと思うので、2人いれば死ぬなんてことはないでしょう。

 

 で、隠しダンジョンの位置を紙に書いたので、クラディールさんが隠しダンジョンの入り口でキリトさん達を出待ちしてくれて、弱ったキリトさん達をいい感じに追い詰めてくれることを祈りましょう。

 

 では、次ですね。

 

 食料と記録結晶を持って、親切な女性のところに行きましょうか。



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第28話 連鎖ガバガバクハツ

更新が遅れてすみません。
仕事が長すぎて書く時間が睡眠時間を削るか、仕事の休憩時間しかなかったので、時間がかかりました。

出来るだけ早く更新できるように頑張ります。



 はい、今、親切な女性がいる隠しダンジョンに向かっているところなのですが、何か頭の片隅に引っかかっている感じがするんですよね。

 

 この感覚は、そう、何かとても重要なものを忘れているような感じです。

 絶対に忘れてはいけない何かを。

 

 なんでしたっけ? こう、頭の隅にまでは出かかっているんですが、あー、忘れちゃダメなもの、忘れちゃダメなもの。

 

 ……分かりません、ダメですね、全然思い出せません。

 

 うーん、ま、いっか。

 忘れるということは、どうせ大したことじゃないのでしょう。

 

 では、急いで親切な女性がいるところまで向かいましょうか。

 

 で、着いたら食料で釣って、記録結晶で映像を撮りましょうか。

 

 撮る映像は既に大体頭の中で固まっています。

 楽しみですね。超大作映像を作り上げるつもりで頑張りましょう! 

 

 もうタイトルまで考えてあります。

 これから撮る超大作映像のタイトルは、[君の

 

 ……あ! 思い出しました! ああ! そうだそうだ! これを忘れていたんでした! 

 

 絶対に忘れてはいけないもの、ずっと頭の隅に引っかかっていたもの、あー、全然大したことありました、これがないと何も始まらないのに、危ない危ない。

 思い出せてよかったです。

 

 超大作映像、[君の縄]を撮るのに、縄を忘れるなんて、あってはいけないことですから。

 

 食料と記録結晶だけ持って、肝心の縄を忘れるとか、何しに行くのって話ですからね、セーフ。

 

 じゃ、1度街に戻りましょうか。

 

 ……ん? 気のせいか。

 

 はい、縄も持って親切な女性がいるところまで来ました。

 

 とりあえず食料を渡しましょう。

 

 いい食べっぷりですねぇ。

 今の気分は家畜に餌を与えている感じです。

 豚とか牛とかに餌をやったことありますか? 自分はあったはずです。

 正直本当にやったことがあるのかは定かではありませんが。

 

 さて、これで話せるように……ん? 今、あれ? 

 

 何故か、親切な女性が自分見たとき、一瞬顔を綻ばせていました。

 すぐに表情を消しましたが、間違いなく親切な女性の顔には笑顔が浮かんでいました。

 

 えっと、何故自分を見て笑顔を? 

 いくら食事を持ってきたとは言っても、自分が親切な女性をここに閉じ込めた犯人というのは伝えていますから、かなりの恨みを持っているはずなんですけど。

 

 だって親切な女性、食事を渡す前は毎回精神崩壊してますからね。

 何度も何度も精神崩壊に追い込む相手に、笑顔を浮かべるなんてありえませんよね? 

 

 しばらく寝ていないから、幻覚を見たのでしょうか? 

 

 でも、まだ幻覚を見るほどではないと思っていたのですが。

 ちょっと休憩が必要、ですかね? 

 自分的にはまだまだいけますが、まあ、少しやりたいことが溜まってきたので、次回は遊び回にしますか。

 そこでゆっくり寝ましょう。

 

 あ、でも今回クリアしちゃうから、次回なんてないですね。

 次回のこととか、そんな無駄なこと考える必要ないか! はっはー! 

 ちょっと想定外のことは起こっていますが、余裕余裕、今回クリア間違いなし! 

 

 そう思っておきましょう。

 

 そういえば、先程親切な女性が浮かべた表情、どこかで見覚えがあったような、気がします。

 あれは、確かちょうっと、考え事に耽っていたら親切な女性に呼ばれました。

 はいはい、さて、では今から超大作映像、[君の縄]を撮りましょう! 

 ではでは、倫理コード解除してくださいねー。

 

 はい、いい映像が撮れました。

 

 これはいい! 自分の才能に惚れ惚れしますわー。

 あー、またやりたいことが増えて来ました。

 今度、[縄と雪の女王]とか、[風の谷の縄シカ]とか撮りたくなりました。

 雪山とか、谷とかはSAO内にありますから、きっといいものが取れるでしょう! 

 

 次回は遊び回決定ですね。

 

 ……え? いや、まだ今回諦めてませんよ? 本当ですよ? 自分諦めが悪いっすから。

 

 でも、こういう映像取るのって面白いですよね。

 主演女優、親切な女性、監督、演出、作家、自分。

 

 こう書くと、なんだかゴミ作品だと思われそうですが、これでも男どもに売り出したら超高額取引されること間違いなしです。

 

 だって、彼らは基本的に溜まってますからね。

 まあこれが合うかどうかは人それぞれ趣味趣向が違いますから分かりませんが。

 

 さて、ではクラディールさんの動向を確認しに行きますかね。

 [君の縄]を撮るのに結構時間を使いましたので、何かしら動きがあったらいいなー。

 

 ……え? そんな無駄な時間を使っている暇があったらすこしでもレベル上げしろよ、それをしないってことは諦めた証拠だろう、って? 

 

 そんな、違いますって! 冤罪です冤罪! まだ諦めてないですよ! 

 いけるいける! 

 

 ん? 親切な女性に呼び止められました。

 食事がもっと欲しいのでしょうか? 

 残念ながら今回はそれしか持ってきていないので、諦めてください。

 

 さて、では街に戻りましょう。

 

 転移結晶でワープ、と行きたくはありますが、今一個しか持ってないんですよね、転移結晶。

 その一個は緊急用にとっておきたいので、今回は歩いて帰ります。

 

 さて、隠しダンジョンを抜けて普通のエリアに戻ってきまし……ん? モンスターの声が聞こえて来ました。

 近くに人がいるのでしょうか? 

 

 自分は索敵を持っていないので、誰かが隠蔽していても発見できないのですが、モンスターの中には隠蔽が効きづらいやつがいます。

 で、自分が見つかったわけではないのに、その隠蔽が効きづらいモンスターの声が聞こえてきましたので、近くに誰かが……アルゴさんがいました。

 

 ……ふぁ? 

 

 今、アルゴさんとバッチリ目が合いました。

 

 ……ふぇ? 

 

 その後、アルゴさんはモンスターを一瞬で倒しました。

 まあ、この辺りの敵はもうかなり弱いですからね。

 

 ……まって、ちょっと落ち着きましょうか。

 

 ……ねえ、なんでここにアルゴさんがいるの? 

 え? 自分、もしかして付けられていた? なんで? 

 あれ? 自分いつの間にか結構アルゴさんに疑われていたりしたの? 

 いや、そんなことないと思うのですが。

 もうだいぶ前に疑い晴れてなかったっけ? あれ? 自分の気のせいでしたか? 

 

「ようヒー坊、こんなところでどうしたんダ?」

 

 それは自分が聞きたいんですけどねぇ。

 

「俺は坊やじゃない」

 

 ここでひと睨み。

 

「にひひ、悪かったヨ、ヒャッカ」

 

 ……あー、そういう事。

 なるほど最悪だ、運が悪いですねぇ。

 

 今のアルゴさんの顔と反応は、たまたま自分を見かけたから隠蔽でこっそり付いてきた時の反応です。

 

 疑い度的には低くはありませんが、高くもありません、中間程度です。

 この中間疑い度アルゴさんは、自分に常に張り付いている訳ではなく、自分の位置情報等が分かったり、街でたまたま見かけられた時に、アルゴさんに急ぎの用事がなければ隠蔽して付いてくる状態です。

 

 正直、もうアルゴさんからの疑いはほぼ晴れていると思っていたのですが。

 いつの間にそんな疑われていたんじゃい! 

 

 え? マジでいつ? 

 

 こういうのがあるから隠蔽持ちのキリトさんとアルゴさんは辛いんですよね、ほんと。

 

 ……あ、れ? ねぇ、アルゴさんがここにいるってことは、隠しダンジョンの存在がアルゴさんにバレたってことですよね? 

 ヤバイのでは? いや、待って、隠しダンジョンがバレただけ? 本当にそれだけ? 自分いつからアルゴさんに付けられていました? 

 

 もしかして、クラディールさん宅にお邪魔したのも、見られていた可能性、ありますねぇ。

 で、クラディールさんかキリトさんに、これが家の中にいつの間にか置いてあったんだよぉ〜とか言っていたら。

 

 そしてその2人の情報が合わさったら? 

 

 ……あっ、しゅーりょー。

 

 別にバレて攻略組を追い出されても、あとはキリトがヒースクリフを倒しておしまいだろ? 問題ないな! 

 と思いますよね? 

 残念、まだ攻略組にいないとまずいことが1つあるんですよ。

 

 それは、75層のボス戦です。

 あのボス、クッソ強いです。

 で、攻略速度を上げているので、キリトさんとアスナさんのレベルが足りず、自分が手助けをしないと、このボスで2人は死んでしまいます。

 手助けしてもよく死にますが。

 

 一応キリトさんアスナさんの新婚休暇のため、2週間ほど攻略が止まる予定なので、その時にほかの攻略組の方々のレベルはまあまあ上がって良くなるのですが、その間キリトさんとアスナさんは、モンスターを少し倒しはしますが、レベル上げはしませんからね。

 

 で、75層のボスの攻撃を受け止めるのは、ヒースクリフさんと、キリトアスナさんなので、キリトアスナさんが弱いとボスの攻撃を受け止められる人がおらず、攻略組が半壊します。

 アスナさんが死ぬだけならいいのですが、自分が干渉しない限り基本的に死ぬときは2人一緒に死んでいますからね。

 

 だから自分が手助けしないといけないんですよね。

 その為、決して他のプレイヤーに、今まで自分がやってきたことや縛りプレイしている事などがバレてはいけないのです。

 

 でも、今アルゴさんに見つかりました。

 

 終わり! 

 

 それじゃあまた次回、さようならー。

 

 ……とは、しません。

 落ち着きましょうか、まだいける、自分はそう信じてる! 

 

 もう最悪を想定しましょう。

 アルゴさんは自分がクラディール宅に侵入したところを見ている前提で。

 頑張るぞい! 

 

「アルゴ、ちょうどよかった、キリトに……いや、アイツはもう区切りをつけていたんだったな、それに、今のキリトにはアスナがいる、……俺が見つければいいだけの話だ」

 

「なんの話ダ?」

 

「・・・頼む、今から話す事は、キリトには黙っていてほしい、俺が必ず見つけ出すから……かつてキリトが所属していた月夜の黒猫団、その滅んだギルドの、キリト以外の最後の一人、行方不明だった女性の手がかりをさっき見つけたんだ」

 

「は、本当カ!?」

 

「ああ、本当だ、俺がクラディールのプレイヤーホームに侵入して、そこで見つけて来た」

 

「ちょ、ちょっと待ってヨ、なんでクラディールの名前が出てくるんダ? それと、プレイヤーホームに侵入?」

 

 ん? あれ? この反応、クラディールさんの家に入ったところ見られていないのでは? 

 

 自分、墓穴掘ったのでは? 

 余計な事をしたのではー? 

 

 ……だ、大丈夫、まだ大丈夫……か? 

 

「待て、質問はとりあえず最後にしてくれ」

 

「わかったヨ」

 

 親切な女性をアルゴさんの情報屋ギルド総員で捜索しても見つけられなかったと言う事は、もしかして彼女はレッドプレイヤーに攫われていたのでは!? 

実は月夜の黒猫団が壊滅したあの時から、もう既にレッドプレイヤーがいて、そのレッドの標的に月夜の黒猫団がなってしまい、男は始末して、何らかの方法で女を攫った、という可能性、あり得るのでは!?

 で、少し前に偶々クラディールさんの腕にラフコフのエンブレムが見えたから、何かしらの手がかりがあるかもと思い、ちょっと前に思いついたプレイヤーホーム侵入方法でクラディールさんの家に侵入して家の中を漁ったら、親切な女性はやっぱりレッドプレイヤーに攫われていて、今親切な女性は隠しダンジョンの奥にいると言う情報が見つかった、というわけです!

 

 でも、その隠しダンジョンがどこにあるかまでは分からなかったから、自分が知っている隠しダンジョンに親切な女性がいないか探しに来ました!

 

 でも、ここはもう自分がかなり探索していたので、多分違うだろうとは思いましたが、一応確認を、ね。

 

 的なことを話しました。

 

 で、その後、アルゴさんにプレイヤーホーム侵入方法を伝えて、全プレイヤーに扉をしっかりしめることを周知させてほしい、と言うことを伝えました。

 

 殆ど嘘は言ってないですよ?

 

「ふぅン、なんでヒャッカはオレっちに黙ってたんダ? 情報の独占カ?」

 

「プレイヤーホーム侵入方法は、少し前に思い浮かんだばかりなんだ、勿論、アルゴに会ったらすぐに伝えるつもりだった」

 

 勿論嘘です。

ずっと前から思い浮かんでいましたし、アルゴさんに会っても伝える気は微塵もありませんでした。

 

「正直この方法ではうまくいくとは思っていなかった、それでも、目の前に手がかりがあるかもしれないと思って、試してみたら成功しただけだ」

 

「なら、隠しダンジョンはどうなんダ? ずっと前から知っていたんだロ?」

 

「ダンジョンについては、そう取られても仕方ないが、頼むアルゴ、このダンジョンのことはまだ触れ回らないでほしい」

 

「どうしてダ?」

 

「このダンジョン、こんな低層にあるのに、レベル的には恐らく最前線から2、いや3層上、78層クラスの敵しかいない危険な隠しダンジョンなんだ、時が来たら伝えようとは思っていたが、もし今情報を伝えて誰かが死んだら、俺のせいで……だから、もう少しだけ待ってほしい、せめてあと3層、いや、2層、77層に上がるまではこの情報を伏せておいてくれないか! 頼む!」

 

「ん〜……ンン〜、ま、いっカ、プレイヤーホーム侵入方法と、有力な手がかりの情報料として、77層までは黙っていてあげるヨ」

 

 っしゃぁぁ!! 

 

「それと、行方不明の女性のことは」

 

「わかったヨ、キー坊はもう既にだいぶ立ち直ってるからナ、今はアーちゃんもいるし、見つけられるまでは黙っておくサ、その代わり、オレっちは協力するからナ」

 

オルァァァァア!!!勝ったぁぁ! 

 

 単なる時間稼ぎにしかならないけど、もう少し時間を稼げればキリトさんがヒースクリフさんを倒してくれるから! 

 ここまで来たら多少不自然でも時間稼ぎあるのみ! 

 

 例えアルゴさんが親切な女性を見つけても、少しの間だけなら時間を稼げる方法はあるから! 行ける! 

 

 アルゴさん騙すとか楽勝すぎー! 余裕のよっちゃん! 

 勝ったな。

 

「・・・ン? ヒャッカ、さっき大量の食料をアイテムストレージに入れずに持ち歩いていたのはなんでダ?」

 

 あー終わりだよー。

 

 もうダメだー! 連鎖ガバガバクハツしてるよー! 

 

 しゅーりょー、また次回をお楽しみに。




まだ終わりません。


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第29話 仕込み

評価が黄色くなったから更新速度落としても大丈夫ですよね!
と、思っていたらオレンジになりました。
これは、更新速度落とすなって言われてるんやな。

頑張ります!


 おーわったーよー、おーわったーよー。

 

 とでもいうと思ったか! 諦めません、勝つまでは。

 

 いや正直もう色々と手遅れっぽくはありますが、まだ行ける、自分はそう信じています。

 まあ、リセットになったとしても、今後こう言った状況になった際、どうすればいいかの予行練習にはなりますから、今ここでリセットはありえませんがね。

 

 一応案は1つあるので、今回はそれを試して見ましょう。

 無理だろうけどなぁ。

 

「俺が食料を持っていたのは、中のモンスター対策だ」

 

「食料がカ?」

 

「ああ、この隠しダンジョンの中のモンスター、1種類だけ食料で釣れる奴がいるんだが、実際に見てもらったほうが早いか、付いて来い、っと、もうこんな時間か、すまないが、このあと予定があるんだ、明日でも大丈夫か?」

 

「……ふーん、ま、いいヨ」

 

 やったー!! 時間稼ぎ成功! 

 

「今日はナ」

 

 はい、これ完全に疑われましたね。

 

 では、明日の集合時間を伝えてとりあえずさよならしましょう。

 

 これ以降、ずっとアルゴさん、もしくはアルゴさんの情報屋ギルドの方が交代しながら24時間365日隠蔽しながら自分の後ろをついてくるようになります。

 一度ここまで疑われると、もう修正はほぼ不可能です。

 

 一応、撒くことは出来ます。

 強引にもいけますし、最前線に行っても、モンスターのレベルが高いので、情報屋の方は一部を除いてついてこれませんから。

 

 ですが、たとえ撒いたとしても、アルゴさんの情報屋ギルドの方々は全転移門を見張っていますし、大きな街の入り口辺りにも、だいたい人員を配置しています。

 

 つまり、大きな街によるか、転移結晶や転移門を使えば、アルゴさんたちに位置がバレてしまうということです。

 で、位置を掴まれたら、待機組がすぐに動員されて、後を付けられます。

 

 で、ほぼ間違いなくこの隠しダンジョンの入り口も見張りが立つこととなるでしょう。

 

 めちゃくちゃ動きづらくなります。

 

 でも、もう疑われてもある程度時間を稼がなければどうしようもない状況だったので、割り切って行きましょう。

 

 因みに、アルゴさんを殺すのは自分のカーソルをオレンジにしなければ無理です。

 

 基本的に自分は眠っていたり、麻痺していて動けない相手しかカーソルを変えずに処理出来ないので、いつも眠っている相手の寝床に侵入して事に及ぶわけですが、アルゴさんは、たとえギルドホームでも、宿屋でも、眠っている間は常に索敵スキルによる接近警報をセットしているため、近寄ったら起きてしまいます。

 

 で、寝床に侵入してきた自分を見て、はいリセットーとなるわけです。

 

 麻痺毒を持つモンスターの前に連れて行ったとしても、そう行ったモンスターが出る場所にはアルゴさんは必ず耐毒ポーションを飲んでから行くので、麻痺毒によって麻痺しているアルゴさんの腕を無理やり動かしてどうのこうのも出来ません。

 

 誘導をして、レッドにやってもらおうにも、アルゴさんの敏捷はかなり高いので簡単に逃げられてしまいます。

 

 一応信頼している同じギルド員の裏切りだけは警戒していないので、誰かを抱き込んでアルゴさんをヤってもらえば、カーソルがグリーンのままでもいけますが、アルゴさん、部下にはめちゃくちゃ慕われています。

 いいオネーサンですから。

 

 だから抱き込もうと思ったら、かなりの時間がかかります。

 少なくとも1ヶ月以内とかは不可能です。

 

 RTA中にそんなことをしている暇はないので、実質アルゴさんの排除は序盤でやるしかないのですが、アルゴさんがいないと攻略ペースがかなり下がるので、排除できないんですよね。

 

 それに、アルゴさんは情報屋ギルドの側近に対して常に情報を送り続けています。

 

 で、今からヒー坊の追跡するヨ、を最後にアルゴさんが連絡をたったら、そりゃ自分が犯人だと思われますよね? 

 

 なので、アルゴさんの排除はできません。

 そして、もうこの状況では、親切な女性の排除もやめたほうがいいでしょう。

 

 だって、アルゴさんのギルド員が常に自分を監視しているわけで、たとえ監視を撒いて、隠しダンジョンの入り口に配置されている人間の目をかいくぐって親切な女性のところに行き、処分したとしても、石碑に死亡時間と死因が書かれてしまうので、その少し前の時間に監視を撒いていて、アリバイがない自分、アウトですね。

 

 それに、親切な女性が死んだらアルゴさんはキリトさんに絶対に知らせに行くのでね。

 だからもう処分できません。

 

 さて、では今から明日のアルゴさんへの準備と、親切な女性が見つかった時の為の時間稼ぎと、後、誤捜査誘導をしましょうか。

 

 まず、NPCからフーデッドケープを購入します。

 これは装備品の上から羽織るだけのもので、防御力はありません。

 ですが、防具を外さなくてもいいので、この縛り的にはとても助かります。

 

 これは、今からやることに必要なので、とりあえず装備しておきます。

 

 これで顔を隠したいわけではありません。

 自分には身長という、とても目立つものがあるので、たとえこれで顔を隠していても背を見れば自分が誰かなんて一目瞭然ですから。

 

 でも今、後を付けているであろう情報屋の方に対して、顔を隠して何かやましいことでもやるつもりなのか? と思わせることは可能です。

 

 さて、では次に、親切な女性がいる隠しダンジョンから3層離れた階層に転移門で転移します。

 

 で、今からこの階層にある隠しダンジョンに向かいます。

 

 情報屋の方からしたら、疑っている相手が顔を隠して、情報屋の自分ですら知らない隠しダンジョンに入った、となれば、もう、ね。

 

 疑われていることを利用して、捜査の目をこのダンジョンに向けさせます。

 もしアルゴさんたちが自分を犯人だと疑っていた場合、そこに親切な女性がいるかもと思わせる事ができますから。

 

 で、このダンジョン、出口がもう一つあります。

 いや、出口というより、転移罠で外に飛ばされるだけなのですが。

 その転移罠は、この隠しダンジョンの入り口とは違う場所に飛ばされるので、これで情報屋の方を撒けます。

 

 情報屋の方は隠しダンジョンの中にまでは付いてきません。

 なぜならそのダンジョンのレベルがわかりませんからね。

 そんな危険地帯に、なんの準備もなく入る事はしない為、情報屋の方は入り口で自分が出てくるのを見張っていることでしょう。

 

 このおかげで、アルゴさんの情報屋ギルドの方々には、自分がこの隠しダンジョンに籠っていると思わせられます。

 転移門は全部見張っていますからね、アルゴさんの情報屋ギルドは。

 なので転移で抜け出したとも思わないわけです。

 

 よし、誤捜査誘導完了です。

 次ですね。

 

 では、ここから転移門を通らず、迷宮区の階段を通って、親切な女性がいる隠しダンジョンのある階層に向かいます。

 

 はーしれー! 自分は! 風になっている! 

 

 モンスターは全無視です。いちいち構っていたらキリがありませんから。

 

 さて、では、親切な女性がいる隠しダンジョンの近くの村に向かいます。

 そこで、とあるクエストを最初からまたやり直します。このクエストの途中で、アルゴさんを騙す為のアイテムが手に入るのでね。

 

 もう分かりますよね? そう、聖人のお札が手に入るクエストです。

 これをうまく使って、アルゴさんを騙しましょう。

 

 さて、次ですね、親切な女性に会いに行きましょう。

 

 でも、この隠しダンジョンの入り口は、見張りがいるはずなので、ちょっと近場のモンスターを石ころを投げながらかき集めて、石ころで誘導しながら、誰かが隠れていそうな場所に送りましょう。

 

 ここだ! ……違ったか。

 ならここだ! ……ふむ、いないな。

 こっちか!? ……あるぇ? 

 ここで間違いない! ……ことはない。

 

 う、ううん? あれ? いないぞ? 

 ちょうど交代のタイミングだったりしたのか? それとも、見張りを用意していない? いや、うーん。

 

 ま、いっか! ラッキー! 

 

 はい、いま親切な女性がいるセーフティエリアの直前までやって参りました。

 

 ここで仕込みをします。

 

 今から、親切な女性には自分が死んだと思ってもらいます。

 

 まず、周りにモンスターがいないことを確認します。

 はい、いません。

 

 次に、自分のHPを限界まで減らします。

 自分の頭上に見えるHPゲージがもう残っていないように見えるようにしましょう。

 ゲージではみえなくなっていても、実際はまだHPが1残っている、というような状態にします。

 

 えっと、今のレベルと、自分の防具、アストグリフの性能から考えて、こことここを切ると、だいたいこのくらいまで減る、うん、間違っていないですね、ならあとは、こうして、こうして、うーん、こっちかな、で、ここを刺して、よし、HP調整完璧! 

 

 当然ですが、ミスると死にます。気をつけましょう。

 

 では、セーフティエリアに入って、今羽織っているフーデッドケープを脱いで、耐久値を減らします。

 セーフティエリアでは、HPは減りませんが、防具等の耐久値は減らす事ができます。

 

 はい、ボロッボロー。

 

 では、それを羽織って、行きましょうか。



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第30話 親切な女性

 はい、親切な女性がいるところまでやって参りました。

 では、親切な女性には、自分が死んだと思ってもらいましょう。

 

 親切な女性は、今回は精神崩壊していません。

 ま、それほど時間も経っていないので、当然ですね。

 

 おお、親切な女性、驚いていますね。

 まあ、こんなボロボロでHPゲージも見た目上は無くなっているんですから、驚きますか。

 

 では、バタンキュー! 

 

 で、ここでフーデッドケープの下に隠し持っている麻痺毒付きナイフで耐久度がもうほとんどないフーデッドケープを切り裂きます。

 

 そうすると、フーデッドケープはポリゴン片を撒き散らしながら爆散します。

 

 で、その瞬間に反対側の手に持っている転移結晶でどこかに転移すれば、ポリゴン片を撒き散らしながら青い光を放って居なくなることが出来ます。

 

 この現象は、かなり死亡エフェクトに似ているんですよね。

 なので、親切な女性はこれにより、自分が死んだように思うわけです。

 

 まあ、ここはセーフティゾーンなので、HPは減りませんから死ぬはずないんですが、たとえ圏内であろうとも、これをやると初見では大体みんな騙されてくれます。

 あのキリトさんですら騙される訳ですから、相当でしょう? 

 

 圏内殺人!? キャァァア!! やめてケロー、死にたくなーい! とかみんな大騒ぎしてくれます。

 

 昔、適当なメンバーを集めて劇団を作ったことがあったのですが、その時の寸劇で、よりリアリティを出すために、戦闘シーンで負ける奴にこの方法で死んだフリをしてもらったら面白くね!? って感じでやってみたら、観客の皆さんは役者が本当に死んだと勘違いして大混乱してました。

 

 そのせいで、クライマックスで大活躍する筈だった自分の役が回ってくる前に劇が中断になったことがあったくらいに、みんな死んだと信じ込んでしまいます。

 

 ……大活躍、したかったなぁ。

 

 っと、話が逸れましたね。

 

 ここで死んだフリをしておくと、親切な女性は、例えアルゴさんやキリトさん辺りに救出されたとしても、

 

 犯人は私の目の前で死にました。

 

 的な感じになって、その後、自分が親切な女性に直接会ってしまわなければ、少しだけ時間を稼げます。

 まあ、犯人の特徴とかを聞かれたら、真っ先に背の低い子供という話が出てくるでしょうから、一瞬でバレたこともありましたが。

 

 ですが、これをやると結構な確率で少しだけ時間を稼げます。

 あとほんの少し時間を稼げればいいので、時間稼ぎを頑張りましょう。

 

 因みに、親切な女性には、自分が犯人だということは伝えてありますが、自分の名前は伝えていません。

 で、自分は親切な女性の名前を聞いていません。

 

 互いに名前を名乗っていない訳です。

 当然自分は親切な女性の名前を知っていますが。

 

 まあ、ある程度自分は有名ですから、親切な女性にどこかでヒャッカという自分の名前を知られている可能性はありますが、今まで親切な女性から名前で呼ばれたことがないので、恐らくバレていないでしょう。

 

 じゃあ、さっそく死んだフリを、

 

 ……ん? 親切な女性が走って近寄ってくる足音が聞こえてきました。

 

 ああ、これは恨みをぶつける絶好のチャンス! とか思っているんでしょうね。

 

 自分をこんなところに閉じ込めて、精神崩壊にまで追い込んできた相手が、目の前でボロ雑巾のようになって地面に這いつくばっている、そんな状況になったら、どうしますか? 

 

 当然トドメの一撃を加えますよね。

 

 まあ、他人からの攻撃は、セーフティゾーンや圏内の場合、障壁に弾かれるので、HPや防具の耐久が減ることはありませんが。

 

 自分の攻撃でも弾かれますが、服の内側から外側に刺す分には障壁が発動しないので、フーデッドケープの耐久値は削れます。

 

「う、嘘……はやく回復、回復させないと」

 

 ……ん? 回復? 

 回復って、自分をでしょうか? 

 ……なんで? 

 

 ああ、勝手に死なれて、恨みをぶつける相手がいなくなるのは嫌、という奴ですかね? 

 

 まあいいや、気にせず死にましょう。

 

「いや! 死なないで!」

 

 うぉ、ビックリしました。

 

 なんか心を読まれたような感じになりましたね。

 ていうか親切な女性の声色が完全に自分のことを心配している的な……あれ? 恨まれてないん? 

 

 いや、目の前で人が死ぬのは嫌、ということでしょうか? 

 例えそれが恨み真髄の相手であろうとも。

 

 いやー、親切な女性は、親切な女性ですね! 

 

「貴方が死んだら、私……もう……」

 

 ん? なんだか雲行きがあやしいような。

 

「いや、いやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ……これ、自分が死んだら、親切な女性も後を追って死ぬのでは? 

 

 いや、流石にそれは自意識過剰ですよね? 

 

 大丈夫ですよね? 

 今ここで親切な女性に死なれると、完全にアウトなのですが? 

 

 え? なに、自分いつのまにか親切な女性にとって大切な存在的なものになってたの? 

 

 いやいやいやいや、ありえません、よね? 

 でも、完全に大切な人が死にそうになっている時の態度ですよね、これ? 

 

 ええ、嘘だぁ、あり得ませんって。

 こんな仕打ちをした相手、普通なら殺したいほど憎むものですよね? それが大切な存在になるなんて、でも、現に……えぇ。

 

 自分は絶対にそんなことならないんですがねぇ。

 大切な存在になるなんて、考えただけでも、うっ、吐き気と頭痛とめまいと殺意と憎悪と……ははは。

 今でも殺したいですから。

 

 一体親切な女性の心境に何があったんでしょうか? 

 

 ……どうしよう? 

 

 これそのまま死んだフリをしたら不味いですよね。

 後を追って死んでしまいそうですもの。

 

 なら、希望を与えて生き残ってもらいましょう。

 

「……ぅぅ、ぁ」

 

「っ! 大丈夫!?」

 

「……すまな、かった」

 

「え?」

 

「君を、ここに閉じ、込めて……こうするしか……君を……本当に、すま、ない」

 

「な、なにを」

 

「……きり、とが、あと、2週間で、このゲームを、終わらせて、くれる、だから、君は、生きて、く、れ……」

 

「っ!?」

 

 キリトの名前を出して、あと2週間でこのゲームから解放される、これだけの希望があれば自分の後を追って死にませんよね。

 

 うーん、どうしましょう、このまま死んだフリするのも味気ないですかね? そんなことない? 

 でもなんかいいこと言いたい気分。

 死ぬ直前に、かっこいいことをいう、そういうのって憧れますよね。

 

「……最後に、君に会えて、よかっ、た……」

 

 全然思い浮かばなかったです。

 

 だっさ。

 ま、いいや。

 

 では、フーデッドケープをザクっと。

 で、親切な女性に聞こえないように小さな声で転移しましょう。

 

……i、あr・g・ど

 

 転移、アルゲードっと。

 さて、これで、

 

「オー君! いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 ……誰? 

 

 ……いま、転移する瞬間、親切な女性の口からオー君って聞こえませんでした? 

 

 ん? なんか知らない人の名前が出てきたんですが? 

 

 あれ? これいいのか? 

 訳がわからないのですが? 

 

 ま、まあいいか。いや、よくないよな? え? 何? 

 

 だ、大丈夫か? ダメじゃね? あれ? 

 

 そういえば、自分フードとってたっけ? 被ってたよな? 

 ……え? もしかして、そのせいで自分、オー君とやらと勘違いされた!? 

 いやいや、自分声出していたでしょ!? え? 何、そのオー君とやらと自分、声が似てるの? 背格好も似てるの!? 

 

 誰だよオー君って! 自分知らないって! ここ来てるの!? 親切な女性とあってるの!? ならなんでまだ親切な女性が隠しダンジョンの奥にいるんですか!? 

 

 訳がわからないよ。

 

 でもおかしいと思ってたんですよ! やっぱり親切な女性が自分に好意を抱くはずなかったんや! 

 自分をそのオー君とやらと勘違いしていたんだ! だからあんなにも自分を心配してたんだ! 

 

 なんでそんな勘違いするんですか!? ふぁー!? 

 

 ……ま、まぁ、何事にも失敗はつきものです。

 ここからどうリカバリーするかが大切なんですよ。

 ……どうやって? 

 

 はい、ムーリー、どうしょうもないね。

 

 ……ま、まあ、親切な女性がアルゴさんに見つからなければいいだけですからね! うん! 

 だってそのオー君とやらは自分と同じように親切な女性をあの場から出す気がないようですから! 

 

 そ、そうですよ! 別にこれやらなくてもいいことだから! なんの問題もなし! 

 

 今のことは無かったことにしましょうか。

 気にしない気にしない。はい、忘れました。

 

 あーもーいーよー、しーらね。

 

 で、アルゲードに来たのは、ここでエギルさんが店をやっている為です。

 エギルさんは、キリトさんとアスナさんがくっついた際に報告される人なので、エギルさんから情報を聞けば今どうなっているかがわかります。

 

 ま、正直クラディールさんには微塵も期待していませんが、一応ね。

 

 なーんか罷り間違ってクラディールさんがうまくやってくれてキリトさんとアスナさんが付き合ってないかなぁ、無理だよなぁ。

 いくら自分が有益な情報と回廊結晶を提供したとは言っても、キリトさんとアスナさんが相手ですから、クラディールさん風情じゃあ役者不足がすぎますよね。

 

 クラディールさんなんてミジンコですよミジンコ。

 プチっと潰されておしまいですよね。

 

 まあそれでも、少しでもキリトさんとアスナさんの仲が深まってくれてればそれだけでもいいんで、少しの中も進展せず、ただ自分がリスクを背負っただけとかはマジで勘弁してください。

 

 でも、こういう期待ってよく裏切られるので、上手くいかないどころか大きなマイナスにしかならなかった、みたいなことになってそう。

 

 怖いなぁ。

 

 あ、エギルさんチッスチッス、冷やかしに来たっすよー。

 今キリトさんアスナさん、どこにいるか知ってるっすか? 

 

 ……え? 今なんて? も、もう一度お願いします! 

 

 ……さ、最前線から離れた……? 二人は、結婚した……? 

 

 クラディールさん神! 貴方様こそ偉大なる至高の御方だ! 

 いやー! さすがクラディールさん! 自分信じてました! 貴方様ならやってくださるって! 

 

 っしゃおらぁぁぁ!!!!! 見たか自分のリカバリー能力! 勝った! 想定外のことは多々ありましたが、全て計算通り! 

 

 何事も多少の危機があったほうが面白いから、敢えてこう、危機を演出しただけなんすよ! 

 余裕余裕! 自分を阻むものなし! 今回クリア行ったな。

 

 アルゴさん? 楽勝だね! 所詮2位の女ですから、自分に敵う訳ないんですよ! 

 楽々騙して時間稼ぎ余裕ー! 

 

 いやっは〜! 

 

 ───────────────────────

 

 最近仕事がとても忙しくて、更新が滞っていました。すみません。

 仕事を言い訳にするのは良くないとは思いますが、先週80時間も働かされたので、小説を書く時間がありませんでした。

 流石に睡眠時間を削ったり、仕事の休憩中に書いたりは出来ませんのでね。

 事故ったりすると怖いので。

 

 でも1週間で80時間労働って聞くと、一般的なブラック企業よりは仕事が少なそうですね。

 だから先週1話も更新できなかったのは、仕事だけのせいじゃないんでしょうね。

 

 2週間ぶりくらいの更新ですかね? 皆さんはまだ内容を覚えていますか? 

 

 自分はこれ以上間を開けると内容とか伏線とか全部忘れそうなので、まだまだ仕事は忙しい時期ではありますが、出来るだけ早く更新していけるように頑張ります。

 

 …………

 

 ふぅ、寝るか、……いや。

 

 …………

 

「2年、か、羨ましいなぁ」



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第31話 アルゴ

本日1話目です。


 さて、アルゴさんとの待ち合わせ場所に食料を持って向かいましょう。

 

 到着っと。

 アルゴさん一人ですね。

 と、思わせておいて、一人じゃないんですよね。

 

 アルゴさんの疑い度が高まで行くと、自分と2人きりで会う時は、必ずアルゴさんのギルド員が陰ながらこっちを見張っているんですよね。

 

 ま、いいですがね。

 もう自分何もやましいことをする必要がありませんから。

 あとは時間さえ稼げば、キリトさんがヒースクリフさんを倒してくれるのでね。

 

 ……多分。

 

「ヒャッカ、昨日の用事ってのは、なんだったんダ?」

 

 うわぁ、いきなり嫌な質問をしてきますねぇ。

 

「……それは、悪いがアルゴには話せない」

 

 とりあえずケムに巻いておきましょう。

 

「人に言えないようナ、何かをしてたのカ? ヒー坊はオマセさんダナ!」

 

 アルゴさんはニヤニヤしながらおどけたようにいっていますが、目は微塵も笑っていません。

 こわっ。

 

「俺はそんなことをしていない」

 

 さて、どうやって追及をかわしていくものか。

 

「ふーん……そっカ、ま、いいヨ」

 

 ……あれ? 案外あっさり引き下がりましたね。

 もっとこう、グイグイくると思っていたのですが。

 少なくとも昨日行った隠しダンジョンのことは絶対に聞かれると思っていたので、言い逃れのすべを用意していたんですが、ま、いっか。

 

 では、アルゴさんを伴って、隠しダンジョンに入りましょう。

 

 はい、まず、先程近くの村のクエストを途中まで進めて手に入れた聖人のお札の効果で、ノンアクティブモンスターに変わるモンスターを探しましょう。

 

 はい、いました。

 

 では、そのモンスターに食料を投げます。

 このモンスターは、ノンアクティブ状態なら、近くに食料を置けば食べてくれます。

 

 これも聖人のお札が手に入るクエスト関連でのことが、この隠しダンジョンのモンスターに影響を与えているため、こんな事になっているのだと思われます。

 

 あのクエストのことは話すと長いので、詳しくはご自身でお確かめください。

 え? 方法がないですって? 神にでも祈ればいいんじゃないですか? 

 

 で、食料を持ってきたのは、あのモンスター対策のため、と偽ります。

 

 でも正直キッツイ言い訳ですよね。

 ストレージに入りきらないほどの食料を持ってくる理由としては弱いですし。

 まあ一応、このモンスターは大食らいではあるので、たくさん投げても食べ残すことはいたしませんが。

 

「そうカ、情報提供感謝するヨ」

 

 ……あれ? 追求ゆるくない? 

 え? こんなの信じるの? アルゴさんどうしたの? いつものアルゴさんじゃないよ? 悪いものでも食べた? 

 

 あ、もしかして、実はまだそれほど疑われていない? 

 高くらいまで疑われていると思っていましたが、これ全然疑われてないのでは!? 

 マジで!? 

 

 だって追求が緩いし! これは間違いなく疑われていないな! 

 来てる! 流れが自分に向いて来てる! 

 

 今回クリアしろって言われているんやな! 

 

 いける! 勝った! 

 

「じゃあ、そういう訳だ」

 

 なんか最近悪いことばかり起こってたから、これからはいいことばかりが起こるんだな! 

 

 ヒャッホーイ! 

 

 …………

 

「隠しダンジョン内の情報はフーデッドケープを付けたヒャッカ氏を途中まで追跡出来たため、ヒャッカ氏が向かった大まかな方向だけはわかっております、そして、その時のヒャッカ氏は食料を保持しておりませんでした」

 

「そうカ、さぁみんナ、ヒャッカに囚われた女性を救出しに行くヨ、準備は出来てるナ?」

 

「当然です」

 

「さて、いいカ、この中の敵の攻撃を一度でも食らえば恐らくオイラ達は誰も耐えられナイ、だから気をつけるんだヨ」

 

「「「「「はい」」」」」

 

「ヒャッカの化けの皮を剥がす時間ダ、彼女の証言さえあればどんな言い訳も無駄だからナ」

 

 …………

 

 さて、では今からキバオウさんとの決闘です。

 ここまで流れが完璧に自分に来ていると、もう負ける気がしないですね! 

 来週は最悪負けても、大丈夫です。

 

 もうすぐクォーターポイントのボス戦だろう? だからソードスキルの練習は75層が終わってからでいいか? 

 

 と聞くと、ええで! と言ってくれるので、ここで勝てばもう後はどうでもいいです。

 

「さぁー! やって参りました! 毎週恒例、キバオウ選手VSヒャッカ選手の決闘です! 司会はお馴染みリズベット武具店のリズベットがお送りします!」

 

 あれ? アルゴさんがいませんね。

 

「えー、アルゴさんは急遽予定が入ったとのことで、今回は欠席です、そして! 今回の解説は! なんと! あのHPがイエローゾーンまだ下がったところを誰も見たことがないという、古き伝説を立ち上げた! 絶対防御のあのお方! 神聖剣ヒースクリフさんです!」

 

「……古き、か」

 

「あ、あのー、ヒースクリフさん、自己紹介をお願いします」

 

「……どうも、古き伝説の、ヒースクリフだ、今回はよろしく頼むよ」

 

 うわぁー、めっちゃ古いこと気にしてるー。

 

「まあ、古いよな、いや、俺たちが逆立ちしたって敵わないことはわかってるんだが」

 

「うん、今は二刀流の時代だもんな」

 

「そうよね、正直おじさまじゃなくてキリト様が来てくださったら良かったのに」

 

「いや、ヒースクリフもすごいだろ!? あの、なんていうか、何かがよう!」

 

 観客にめっちゃ失礼なこと言われてる。

 ヒースクリフさん、顔が引きつってますよ。

 

「シリカちゃんのことじゃが」

 

「うん、最近誰も見ないって噂だねぇ」

 

「確かに姿を見なくなった、風邪かなぁ」

 

「風邪なんか引くやつじゃない」

 

「死んだんじゃないの〜☆」

 

 ん? 今オレンジのサイコパスコックがいたような? 

 気のせいですね。

 

 さて、キバオウさんとのデュエルは、もう正直言ってかなり厳し

 

 はい勝利。

 

 ま、余裕ってやつかな! 

 キバオウさん? 縛りバレ3位? 楽勝だねぇ! だってもうすでにアルゴさんという縛りバレ2位を完全に騙し切ったわけですからぁ! 今更三位のキバオウさんなんかには負けませんよ! 

 

 ふ、ふはは、ふはははは! 自分最強! 

 

 ……うわ、あっぶな、なんでこれでHP半減してないんだろう? 完全にゲージ上では半減してるように見えるんですが。

 

 ま、でも勝ちは勝ちなんでね! 

 今いい! すごくいい流れ! 

 この流れは誰も止められない! 

 

 このまま最後まで突っ走ってやるぜ! 

 

 さて、で、後気をつけなければいけないのは、ユイちゃんに会わないようにする事ですね。

 ユイちゃん、知っていますか? メンタルヘルスカウンセリングプログラムというNPCです。

 

 まだキリトさん達とは会ってないでしょうが、キリトさんとアスナさんが前線から離れている2週間の間に2人の子供になるNPCです。

 

 このユイちゃんに会うと、とても怯えられます。

 いつからだったかは忘れましたが、もうだいぶ昔からずっとそうです。

 例えその回は小さな女の子に怯えられるような事を一切しておらず、完全なる聖人君子プレイをしていても、どんな可愛らしい容姿であろうとも、会ったら必ず怯えられます。

 

 何故なのか。

 無条件で子供に怯えられる、悲しいですね。

 

 ま、でも大丈夫です。

 22層か、はじまりの街に行かなければ、ユイちゃんとは会うことはないので、彼らの行動範囲には、近寄らなければなんの問題もありません。

 

 そして、後はボス戦でキリトさんが生き残れば、ワンチャン! 

 

 いや! この流れなら確定で行ってくれるでしょう! 

 頼む! 行ってくれ! 

 

 はい、あれから1日が経過しました。

 今目の前にアルゴさんがいます。

 どうやら自分を探していた様子です。

 

 どうしたのでしょうか? アルゴさんの顔が怖いです。

 

「アルゴ、どうした? 何かあったのか?」

 

「ヒャッカは、昨日教えてくれた食料で釣れるモンスターがいる例の隠しダンジョンは探索したんだよナ」

 

「ん? ああ、敵が強くてボスの奥や細かいところまでは確認する余裕はなかったが、大体は探したはずだ」

 

「そうカ、見つかったヨ」

 

 ……ん? 

 

「何がだ?」

 

「囚われていた女性がサ」

 

 へぇ、囚われた女性が見つかったらしいです。

 

 ……はあ? はぁ……はぁぁぁあああああ!?!?!? 

 え、えぇぇぇ!? まだ隠しダンジョンが見つかって2日しか経ってないよ!? 嘘だろおい! 

 

「アルゴ! 本当か!?」

 

 嘘だと言ってくれ! 

 

「ホントだヨ、例の隠しダンジョンに彼女は囚われていたサ」

 

 ……で、でもまだ見つかっただけだから! 

 自分のことを話していないかもしれないから! 

 今自分の流れが来てるから! バレてないバレてない! 

 

「そうか! 見つかったのか! ……良かった、本当に良かった!」

 

 あれ? 目から水が……。

 嘘泣きって、案外簡単ですよね。

 

 やったことありますか? 自分はあります。

 でも、やり過ぎると、本当に涙が出て来た時も、泣けばいいと思ってるだろ! とか言われるので多用は禁物です。

 

「探し漏らしがあったのか、すまない、ありがとうアルゴ!」

 

「ふーん、あんな目立つ場所に居たんだがナ、見つけられなかったのカ?」

 

「そうか、目立つ場所にいたのか、すまない、見落としていた、アルゴがいてくれて、本当に助かった」

 

「……ふゥン、でダ、彼女に聞いたんダ、誰に囚われていたのかをナ」

 

 あっ……

 

「っ! 犯人がわかったのか! 誰だ!」

 

 なんか罷り間違ってオー君とやらが攫ったことになっていてくれ! 頼む! 

 

「彼女は言ってたゾ、ヒャッカに攫われた、ってな」

 

 しゅーりょー。

 

「ヒャッカ、何か申し開きはあるカ?」

 

「……は?」

 

 ないです。

 

 ……ん? あれ? そういえば、おかしくね? 

 

 ……おかしいな。

 

「俺が、攫っただと? ……ふざけるなよアルゴ、いくらなんでも言っていい嘘と悪い嘘があるだろ!」

 

「なら、どうしてフーデッドケープなんか被ってコッソリ例の隠しダンジョンに入って行ったんダ?」

 

「なに?」

 

「ヒャッカは一昨日用事があるって言って別の隠しダンジョンに入った後、例の隠しダンジョンに戻って来ていたダロ!」

 

 あー、入り口見張られていないと思いましたが、自分が発見できなかっただけですか、そうですか。

 

「まさか、俺をつけていたのか?」

 

「今はそんなことどうでもいいダロ、答えろヨ」

 

「……まあいい、確かに一昨日、俺はアルゴと別れた後、他の危険な隠しダンジョンに女性を探しに入った、あの隠しダンジョンには、一歩間違えれば今の俺ですら危ないほどの殺意に満ちた罠が多い、だからアルゴに知らせず、その隠しダンジョンだけは先に探索しておこうと思ったんだ、この場所を知られると、絶対に死者が多数出る確信があったからな、それで一昨日はそこを隈なく調べるためにその隠しダンジョンに篭っていた、ほかの場所には行っていない」

 

「嘘だナ、コッチはヒャッカが例の隠しダンジョンに戻って来たのを見てるんだヨ、それに、囚われていた女性の証言もあるんダ、下手な言い訳はやめナ」

 

「言い訳だと? ……アルゴは、俺が本当に女性を攫ったと信じているのか? 俺が! そんな外道なことをするやつだと! 本気で思っているのか!」

 

「……」

 

「……そうか、疑いたければ勝手に疑ってろ、後をつけたければ勝手につけてこればいい、俺が犯人だと広めたければ勝手に広めるんだな、俺はこれ以上同じ被害者が出ないように犯人を捜す、邪魔だけはするな」

 

 アルゴさんは親切な女性から犯人を聞いたと言っていましたが、これ嘘です。

 だって今まで、既に犯人を聞いていたのなら、自分を問い詰めることなく全プレイヤーに情報を発信していましたから。

 

 だけど、今回それをしておらず、自分に問い詰めに来たということは、親切な女性から話を聞き出せなかったのでしょう。

 

 何故親切な女性が自分のことを話さなかったのかは全くわかりませんが。

 

 で、確信を持たれていない以上、アルゴさんは情報屋として嘘の情報は流せません。

 だから自分に自白させようとしていたのでしょうね。

 あれ、恐らく記録結晶をどこかに忍ばせていたはずです。

 

 それで言い逃れできないようにしようとした、と言ったところでしょうか。

 なのでシラを切り通せば大丈夫。

 それに、ああやってブチギレれば、細かい追及はしにくくなりますからね。

 

 ……あっぶねぇぇぇぇぇ!!!! 

 めっちゃ疑われてた! 親切な女性見つかった! 

 もう絶対ダメだと思ったぁ──!! 

 

 でもセーフ! なんかこればっかり言っているかはしますが、セーフ! 

 

 もう自分を阻む壁は無し! 

 

 ──────────────────────

 

 皆さんお久しぶりです。

 また前回の更新からしばらく日にちが開いてしまい、誠に申し訳ありません。皆さんはまだ内容を覚えていますか? 

 自分は忘れかけてます。

 

 あー仕事が辛いです。

 本当、14時間労働後の5時間後に18時間労働、さらに次の日がまた仕事っていうのは流石に勘弁して欲しいです。

 体力がもう無いです。

 家に帰ったら即眠ってしまっています。

 やめたいなぁ、仕事。でも、やめたら生活できませんからね。

 

 次の仕事を探すのも面倒ですし。

 

 まあ、頑張るしかありませんので、頑張りますが。

 

 …………

 

 読むか。

 

 …………

 

「……本当、羨ましいなぁ」



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第32話 ヤンデル

本日2話目です。


 あれほど求めていた食事は、何故か味気なかった。

 あれほど求めていた外に出ても、微塵も心が動かなかった。

 あれほど求めていた暖かいベッドでは、眠れなかった。

 

 どこ、どこにいるの? オー君。

 

 ……

 

 私はあの場所から救出された。

 でも、私の心は一切晴れなかった。

 だって、もうオー君は……私の目の前で。

 

 あれほど憎んでいたはずなのに、あれほどの仕打ちを受けたのに、何故、私はオー君を求め続けるのだろうか? 

 私はどこか壊れてしまったのかもしれない。

 

 私をあの場所から連れ出した女性は、柔らかいベッドや、暖かい食事を用意してくれて、私に優しくしてくれた。

 それと、何かを聞かれたような気がする。

 

 誰に囚われていたのか、とか、確か、ひゃ、ひゃ、がどうのとか。

 

 なのに、私はオー君のことが頭から離れなくて、まともに聞いておらず、受け答えができなかった。

 

 オー君、本当に死んだの? 嘘だよね? 私を置いて死んだりしないよね? オー君は強いんだもの、死ぬはずがない。だってオー君は私をこんなにしたんだから、私を置いていくなんて、オー君、無責任なことなんて、だってオー君は、オー君、オー君を殺すのは私なのに、どこにいるの? あの場所で待っていたらまた来てくれた? オー君、勝手に抜け出して、よかったのかな、ごめんなさいオー君、またあの場所に戻りたい、だってそうすればきっとオー君がまた食料を持ってやって来てくれるから。でも、あの場所がどこにあるのは私は知らない。オー君、どこ? 私はここだよ? あの場所に戻りたい、あの暗くてジメジメした場所に、オー君、オー君。そこでオー君を縛り付けたい。

 

 私が何の返事もしないからか、女性は私への質問をやめて外に出て行った。

 

 でもそんなことはどうでもいいの、どこにいるの? オー君。

 探さないと。オー君を探さないと。死んだなんて嘘、絶対にオー君は生きている。生きていないとおかしい。だって私が殺すのに。そんな、オー君がいなければ生きてる意味なんてないのに、なんで? オー君はどこ? 生きてる意味ってなんだろう? オー君だよね、うん。オー君。

 

 どこにいるのかな、いつもはオー君が来てくれた。なら私から探しに行かないとね。

 オー君のせいで私は苦しい思いをした。でもオー君は私を飢餓から救ってくれた。

 オー君を思うだけで私の心は憎しみと愛情に満たされる。

 今度はオー君を私が監禁してあの地獄を味あわせてあげたい。

 またオー君に監禁されて、もっとひどい目にあいたい。

 

 オー君の苦しむ顔が見たい、荒縄で縛り上げたい、また縛られたい、歪んだ顔が見たい、笑った顔が見たい、愛したい、憎まれたい、殺したい、殺されたい。

 

 私はオー君の全てが欲しい。

 私がオー君の全てを奪って、全てを奪われたい。

 オー君だけでいい、オー君だけがいれば。

 

 でも、オー君は、私の目の前で。

 うそ、そんなことありえない。オー君は、オー君は。

 

 私が気がつけば、黒鉄宮の石碑の前に来ていた。

 ここを見たら終わってしまう。オー君の名前に横線が引かれていたら、多分私はもう生きれない。

 こんなにも狂わされてしまったのだから。

 確認なんてしたくない。でも確認したい。

 

 ……

 

「Obakahyakkaii……生き、てる」

 

 オー君の名前に横線は、引かれていなかった。

 彼と結婚した時に見た名前、間違いない。

 

 生きてる、生きてる生きてる生きてる生きてる生きてる! 

 探さなきゃ、探して、見つけて、捕らえて、嬲って、愛して、殺して、殺されて、二人で地獄に落ちなきゃ。

 

「待ってて、オー君、今イクヨ?」

 

 ……………………

 

 いやー、今回完璧だな! もう不安要素なんてキリトさんがヒースクリフのシステムのオーバーアシストを見ているかどうかだけですよ! 

 

 いや、それが一番大切なことかもしれませんが、他はもう完璧すぎるくらいなんで! きっと見ていますね! 

 

 さーて、じゃあこれからどこに行こうかなー。

 今現在の自分のレベルはもう109レベルで、この残り時間だとどう頑張ってもあと1レベルしか上げられませんので、少し時間があまりましたね。

 

 さて、なら後は

 

「ヒー君!」

 

 おや、サツキさんです。どうしたのでしょうか? 

 

「どうした?」

 

「いえ、たまたま見かけましたので、声をかけさせていただきました、ご迷惑でしたか?」

 

「いや、そんなことはない、少し時間が余ってな、何をしようか考えていたところだ」

 

「でしたら、私と一緒に食事でもいかがですか?」

 

 食事、ねぇ、まあ、75層のボス戦のために英気を養う的な意味では、この余った時間で食事と睡眠を取るのは悪くないですね。

 そうしますか。

 

 あー、いや、起床時間をセット等が出来ないので、一度眠ったら誰かに起こされなければ数ヶ月くらい眠っている自信があります。

 人がいる場所で眠ると睡眠PKが怖いですし、眠るのはいいか。

 

 食事だけ取りましょうか。

 

「わかった」

 

「……え? ほ、本当ですか!? やった!」

 

 めっちゃ驚かれてる。

 まあ、今までこういった誘いはほぼ全て断って来ましたからね。

 

「あぁ、すみません、あまりの嬉しさについはしたない真似を」

 

「気にするな」

 

「はい、じゃあ何を食べますか?」

 

「任せる」

 

 別に今は好き嫌いありませんからね。

 

「分かりました、ヒー君は嫌いなものとかありますか?」

 

 嫌いなもの? えっと、この世界を作った茅場と、自分と、神ですね。

 茅場は完全に八つ当たりですが。

 

「特にない」

 

「そうですか、分かりました、お任せください!」

 

 ……

 

「美味しかったな」

 

「そういってもらえて、嬉しいです」

 

 久しぶりに食べる食事は、ほんと何でも美味しく感じられますから。

 昔は野菜とか甲殻類とか苦手でしたが、誰でも暫く絶食した後に食べる食事は大概美味しく感じられるでしょうから。

 

「……ヒー君、私の話を、聞いてくださらないでしょうか?」

 

 ん? 

 

「何だ?」

 

「私が元々このゲーム、ソードアート・オンラインをやろうと思ったキッカケは、私の弟、サツキ ヒギリ君、ひーちゃんがSAOに興味を示していることを知ったからです」

 

 何か始まりましたね、長そう。

 

「でもひーちゃんはまだ11歳で、レーティングの関係上このゲームができませんでした」

 

 ってか、ヒギリ君? サツキさんの弟の名前は初めて聞きました。

 へぇー、なんかレアイベントっぽい。

 

「だから私がそのゲームをプレイして、ひーちゃんにSAOの話をしてあげればひーちゃんが喜んでくれると思い、ゲームを購入していた方に数百万程積んで譲っていただいたのです」

 

 ん? 数百万積んで? なんかおかしな言葉が聞こえてきたような? 

 

「しかし、その時の私は、まさかこのゲームがデスゲーム化して、ひーちゃんと長い間離れ離れになってしまう事になるとは微塵も思っていませんでした」

 

 遊び回だとこういうイベント収集って楽しいですよね。

 まあ、今は時間に余裕があるのでいいのですが。

 

「私はチュートリアルで人々が嘆き悲しむ姿を見て、この方々を救うのは名家に生まれた私の責務であるという責任感と、早くまたリアルに帰り、ひーちゃんに会いたいという思いから、ゲームを攻略する為に街を出ました。

 

 しかし、私はヒー君も知っての通り器用ではありません。

 他の方々が容易に避けられるような敵の攻撃も、私には避けることが叶わず、視界の端のHPを減らしながら敵を倒し、HPが減ったら街に戻りHPを回復して、また街を出てHPを減らしながら敵を倒して、ということをひたすら繰り返していました。

 

 そのせいで、私は数日が経過してもはじまりの街周辺から次の場所に進むことすら出来ませんでした。

 

 そして私は、遅々として進めない焦りから引き際を見誤ってしまい、もうすでにHPも少なく、ポーションも使い切り目の前には数体のモンスターという、まさに絶体絶命の危機を迎えてしまいました。

 

 そんな時に私の目の前に颯爽と現れ、助けてくれたのが、ひーちゃんによく似た男の子、ヒー君でした」

 

 ん? 待って、ひーちゃんによく似た? 

 

「その時の私は、まるで夢でも見ているかのようでした。

 だって、私の大切な、大好きなひーちゃんが私を助ける為にゲームの中に飛び込んできて、まるで白馬に乗った王子様が如く私を救い出してくれたようでしたから。

 

 勿論、そうでないことはすぐに分かりました、ひーちゃんがこのゲーム内にあることなんてありえませんし、何より、ヒー君とひーちゃんは似ているだけで、別人です。

 それでも、たくさん重なるところがあって、初め、私はヒー君とひーちゃんを重ねていました」

 

 えっと、このアバターは、ランダム生成されたものを少しいじっただけなので、それがたまたまサツキさんの弟に似ていた、と? 

 

 えぇ、何その確率。

 

 あぁ、だからか。

 だからなんか今までとサツキさんの行動が違っていたのか! 

 いやいや、こんなの気づけるかい! 

 知らんわ! サツキさんの弟の容姿なんて! 

 

「でも、それなのに、いいえ、だからこそ私は、いつしか貴方に惹かれていました」

 

 だからこそって何? どういう意味? 弟と似てるから惹かれた? ん? 

 あれ、なんかこれ、雲行きがあやしいような? 

 

「そしていつの間にか、私の頭からヒー君の存在が離れなくなってしまっていたのです、食事をしていても、眠っていても、戦闘中でも、レベリング中でも、ボス戦でも、入浴中でも、何をしていても、常にヒー君のことが頭の中にありました」

 

 ……え? 

 

「昔はヒー君のことを思うだけで胸が高鳴り、ヒー君が今何をしているのかを考えるだけで退屈な時間でも楽しく感じられ、ヒー君と共にボスと戦った日の夜は体が火照って眠れなくなり、ヒー君と少し話すだけで、もう私はとても幸福な気持ちになりました」

 

 ……ん? 

 

「でも、私はもうそれだけでは満足できなくなってしまったのです、今の関係のままでは、もう、だから、ヒー君!」

 

 あれ? あれれ? おやぁ? 

 

 こんなの知らない。

 

「私と、けっこ」

 

「待て!」

 

 待って! ねぇ待ってよ! 何!? 急展開すぎて色々ついていけないって! 

 ちょっと落ち着かせて、ねぇ、何? よく理解できなかったんですけど? 

 

 自分にはサツキさんの思考回路が理解できなかったんですけど? 

 あれ? 自分ってサツキさんの弟に似ていたそうですよね? 

 それなのに? いや、だから好きになった? ん? どういうこと? 

 

 えっと、何? 

 

 と、とりあえず断りましょう。

 

「俺は、もう長くはない」

 

「私が、必ず救ってみせます!」

 

「無理だ、自分の体のことは、自分が一番よくわかっている、もう、時間がない」

 

「……そんな」

 

「もうすぐ一年半だ、本当自分でもよくここまで持ってくれたと思っている、だが、もう限界だ」

 

「……でも、それでも私は!」

 

「ダメだ、その好意は受け取れない、その思いは、死にゆく人に捧げるものじゃない、胸の内にしまって、時間と共に風化させていけ」

 

 じゃあ、立ち去りましょうか。

 

 ふぅ、危ない危ない、サツキさんと付き合ったらタイムが……あれ? もう攻略速度上げる必要ないですよね? 

 じゃあ、付き合っても良かったんじゃ……? 

 

 いや、なんかこう、付き合ったら変な不確定要素が増えそうですので、いっか。

 

 でも覚えておかないといけませんね、次回とかの遊び回のために、今回の自分のアバターを。

 

 あ、でも今回クリア行けるからな! 

 このセリフ何回目だろうか? 

 ま、いいや。

 

 ………………

 

「死なせない、ヒー君は私が必ず守ってみせます、どんなことがあっても、何があっても、必ず」

 

 ───────────────────────

 

 皆さんあけましておめでとうございます。

 久しぶりの更新です。

 

 皆さんは年末年始どのように過ごされたのでしょうか? 

 こたつでテレビを見ていましたか? 友達と遊んでいましたか? 親戚で集まったりしましたか? 寝正月ですか? 初詣には行きましたか? 

 

 自分は仕事です。

 ……仕事です。

 うわぁぁぁぁ!!! 仕事だぁぁぁぁぁぁ!! 

 

 皆さんは毎日が楽しいでしょうか? 明日が来るのを楽しみに、ワクワクしてますか? 

 自分はワークワークしています。

 

 はぁ。すみません、こんな愚痴ってしまって、許して欲しいです。

 まあでも、楽しみがないわけじゃないんですよ? 

 この作品とは全く関係ない別の作品の話になってしまうのですが、最近自分○AOにはまっています。

 

 そのS○Oは、とあるデスゲームの中に1万人の人間が捕らえられて、ゲームクリアを目指すという物語なのですが、とっても面白いです。

 SA○、もし読んでいない方がいらっしゃったら、ぜひ読んでみてください。

 最近、仕事から帰った後とか、小説を更新後とか、少し時間があるときはもうずっと読んでいます。

 

 いいですよね、だってSA○に囚われたら、仕事を2年間も休めるんですよ!? 

 まあ、リアルに帰ったらどうせクビになっているでしょうし、本当に命の危険があるかもしれませんが、それでも仕事を休めるのが本当に羨ましいです。

 

 ……え? この作品とは何の関係もない別作品を読んでいる暇があったら、早く続きを書け? ですか? 

 

 ……まさにその通りですね。頑張ります。

 

 …………

 

「はぁ、いいよなぁ、SAO」



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第33話 ユイ

 自分、分かっちゃったんですよね。これからの行動で何が最善の選択なのかと言うのが。

 

 人と関わるから、想定外のことが沢山起こるんですよ。

 だから、人と会わなければいいんです! 

 つまり、ダンジョンに引きこもって仕舞えばいいと言うことですよ! 

 

 そうすれば、アルゴさんに会って、変に追求されることもありませんし、ユイちゃんとも絶対会いません。

 

 完璧だ! 

 

 ユイちゃんは、キリトさんとアスナさんが75層でボス戦をする際も、75層まで見送りに来るなんてことはなく、22層の家でお留守番しているので、下の階層に行かなければ会うことはありません。

 ですが、今回想定外のことが起きすぎてるので、もしかしたら、ユイちゃんが何らかの理由で上の階層に上がって来ることがあるかもしれません。

 

 でも、ダンジョンに引きこもっておけば確実に会うことはありませんので、安心ですね。

 

 ユイちゃんに会うと、すっごい怯えられて、キリトさんたちに変な疑いを向けられる可能性がありますからね。

 

 だからこれが最善の選択! 

 人と関わるのは怖いですしね、引きこもりになるのは仕方ないね。

 

 一人が一番! ぼっち最高!! 引きこもり最高! 

 友達? 恋人? いらねぇよー! 

 

 ……嘘ですごめんなさい友達恋人超欲しいです自分お金はあるので誰か友達になってくださいお願いします! 

 他にも他人からお金をだまし取る方法とか効率的でバレないPKのやり方とか色々教えますから! SAO内の知識だけなら茅場さん以外に負ける気はないくらい沢山ありますから! 誰かぁ!! 友達になってー! 

 

 自分、昔の友達はLIN○のアプリが消えた時に一緒に消えたらしいです。

 線の切れ目が縁の切れ目ってね。

 

 で、でも逆に言えば昔は自分に友達がいたってことですから! 自分はぼっちじゃなかった! 

 

 SAO内でフレンド登録は出来ませんが、一応、ある程度時間をさいて特定の人と関わりつづければ、自分のことを友達と言ってくれる人はいるんですよ。

 

 でも、

 自分の友達はオンラインゲームにしかいません! 

 

 って、なんか寂しいですよね。

 リアルに友達が欲しい。でも誰も友達がいない。

 

 リアルの友達って、どんな感じなんでしょうか? 

 自分のイメージでは、お金を払えば友達ができるってイメージです。

 

 あ、違う、友達は女性に告白すればできるんだ! 

 告白して断られる時に、お友達からで、と言われたら、自分にも友達ができる! というわけですから! 

 

 友達が欲しいと思っている方は、女性に告白しまくりましょう。

 きっと何人かは友達になってくれると思いますから。

 

 今度やってみよっと。

 

 さて、後レベルを1つあげたら、キバオウさんとの決闘の時以外は親切な女性のように、どこかのダンジョンのセーフティゾーンで暮らしましょう。

 

 はい。装備品の耐久がやばくなりましたが、キバオウさんとの決闘がもうすぐなので、その時ついでに修理します。

 レベルアップは余裕で間に合うので、焦る必要はありません。

 ここで街に帰って、誰かとばったり出くわして変なことになる方が嫌なので。

 

 今からダンジョン暮らしですね。

 

 ポケーッ

 

 っとしてると眠くなって来ますよね。でもメインメニューを開けないので、起床時間を設定することができないんですよ。

 だからここで眠ったら、いつのまにか2.3ヶ月が経過していた、とかなりそうなので、寝るわけには行きません。

 

 ポケーッ

 

 さて、多分そろそろ最後のキバオウさんとの決闘の時間ですね。

 

 では、街に行って、装備の耐久値を戻しましょう。

 

 …………

 

「私、キバオウさんとヒャッカ君の決闘、初めて見るかも、キリト君はある?」

 

「俺は暇さえあれば大体見てるぞ」

 

「そうなんだ」

 

「よう、お二人さん、元気だった……か?」

 

「エギル、固まってどうしたんだ? ラグってんのか?」

 

「……アスナさん、ご出産おめでとう! ったくキリト! いつの間にこんなでっけえ子供こしらえてやがったんだ! この野郎!」

 

「ち、ちげーよ!」

 

「ち、ちがいます! この子は!」

 

「パパ? ママ?」

 

「……お、おいおい、マジか? ネタで言ったつもりだったんだが……お嬢ちゃん、俺の名前はエギルっていうんだ、よろしくな」

 

「……えぎう」

 

「おお! 可愛い嬢ちゃんだ! キリト、どこで攫って来たんだ?」

 

「攫ってない! ……迷子だよ」

 

「迷子? このSAOでか?」

 

「ああ、22層の森の中で彷徨っているところを見つけて保護したんだ、それで、はじまりの街にこの子の親とか兄弟とかがいないかを探しに行ったんだが、見つけられなくてな」

 

「はじまりの街の教会に子供達が生活していたんですけど、その子たちも保護者の方も誰も知らないって」

 

「で、どこから来たのかを聞かれた時に、上からやって来たって言ったら、子供達からヒャッカの話題が上がってな、昔助けられたとか、デュエルは毎回見ているぜ! だとか、ヒャッカの方がお前たちよりも強いんだぞー、とか色々な」

 

「それで、もしかしたらヒャッカ君なら何か知ってるかもって思って、だって背の高さもヒャッカ君と同じくらいだし、色々博識だし」

 

「背の高さは関係ないんじゃないか?」

 

「そうかも知れないが、こっちは何の手がかりもないんだ、時間も有り余ってるし、可能性があるなら聞いてみようと思ってな」

 

「そうか、だがこういったことはアルゴにでも頼むべきじゃないか?」

 

「アルゴにはもう頼んである、「キー坊は人使いが荒いナー」って小言を言われたが、快く引き受けてくれたよ、だがヒャッカには自分で聞けってさ」

 

「ほぉ、だからデュエルを見に来たって訳か、普段ヒャッカがどこにいるかってのは誰も把握していないが、この時だけはヒャッカの居場所が分かっているからな、お、噂をすれば、来たぞ」

 

「さあ! 無敗の絶対王者! ヒャッカ選手の入場です!」

 

「じゃあ、俺はもっと前に行くから、親子仲良くな! はっはっは!」

 

「おい! ったくエギルの野郎、まあいいか、ユイ、あのちっこいのがヒャッカだ、見覚えはないか? ……ユイ?」

 

「うあ……あ……あああ!」

 

「ユイ! どうしたんだ! ユイ!!」

 

 ザ、ザッ

 

「……!?」

 

「ゆ……ユイちゃん……!」

 

「ママ……こわい……ママ……!!」

 

「なんだよ……今の」

 

 …………

 

 はい、キバオウさんとの決闘も終わり! 

 さて、では装備品の耐久値だけ直して、またダンジョンに行きましょう。

 

 はいレベルアップ! 

 

 やることないから、ダンジョン暮らしー! いぇぃ! 

 ダンジョン暮らしもなかなか悪くないですね! 

 

 ダンジョンに暮らしを求めるのは間違っているだろうか? 

 

 出会いを求めるなら、隠しダンジョンに行ったら親切な女性が……っと思いましたが、もう救出されたんでしたね。

 

 残念! 

 

 ポケーッ。

 

 はい、では、そろそろ街に戻りましょう。

 

 攻略会議ー、偵察隊10名が全滅ー、一度ボス部屋入ると扉しまって開かないー、結晶無効化空間のボスー、強そうー。

 大変だー、10も死んでしまうなんてー。

 

 どうでもいいです。

 

 はい、キリトさんとアスナさん、戦線復帰です。

 

 さあ! もうすぐボス戦! もうちょっとだ! あと少しでクリアだ! 

 このボスさえ突破できればキリトさんがヒースクリフを倒してくれるに違いないから! 大丈夫だから! 心配しないで! 

 

 キリトさんならいける! 例えヒースクリフのシステムのオーバーアシストを見てなくても、なんかこう、ハイパーセンスで見破ってくれるって信じてる! 

 

「ん? ……そうか!」

 

「わっ! キリト君、どうしたのいきなり?」

 

 お? もしかして自分の信頼が届いちゃいました? ハイパーセンスで感じ取っちゃいましたか!? 

 

「ああ、悪い、ずっと探していたものが、ようやく見つかったんだ」

 

 違いますね、関係なかったです。

 

「探し物?」

 

「ああ」

 

 探し物、ですか? キリトさん、何かを無くしていたのでしょうか? 

 っ! まさか、エリュシデータを無くした、とか言わないですよね!? 

 

 ああ、大丈夫だ、ちゃんとキリトさん持っていますね。

 ふう、良かった。

 

 さて、75層コリニア市のゲート広場には、すでに攻略組プレイヤーが大体揃っています。

 あと、血盟騎士団の方々が揃えば48人! フルレイドです。

 

 このうち半数くらいがここで死にますが、もう何人死んでもキリトさんさえ生き残ってくれれば何の問題もないので、気にしなくて問題ありません。

 

 はい、今転移門から血盟騎士団の方々がやって来ました! 

 

「欠員はないようだな、よく集まってくれた、状況はすでに知っていると思う、厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。──解放の日のために!」

 

 おおー!! 解放の日のためにー! 死んでくれヒースクリフー! 

 

「キリト君、今日は頼りにしているよ、二刀流、存分に揮ってくれたまえ」

 

 信じてるよ! キリトさん! 二刀流を存分にヒースクリフに揮ってくれ! 

 

「では、出発しよう、目標のボスモンスタールーム直前の場所までコリドーを開く、コリドーオープン」

 

 うわ、ヒースクリフさん、回廊結晶の使い方間違ってますよ? 何でそんな無駄な使い方してるんですか? 宿屋に仕掛けたり、隠しダンジョンの奥深くに設定したりしないなんて、製作者としてどうなの? ありえなくないですか? 

 

「では皆、ついてきてくれたまえ」

 

 でも時間短縮ありがとう! 無駄に歩かないでいいのって楽ですよね! 

 しかもボス戦前のこういった集団でゆっくり歩くのが、毎度毎度本当イライラタイムなので、それを削ってくれた茅場様マジ神なんですがぁ!? 

 

 ありがとう! 死んでくれヒースクリフ! マジでありがとう! 

 

 さて、行きましょう。

 

 …………

 

「キー坊! コレ!」

 

「ナイスだアルゴ!」

 

「ちゃんと武器種を見ろヨ! それとボス戦頑張れヨ!」

 

「ああ! アスナ、行くぞ」

 

「え? ……キリト君、三刀流でもやるのかな?」




第32話を更新直後、たくさんの方々から作者を心配する声と、後書きが、後書きが・・・という感想をいただきました。
皆さん、ご心配をおかけして申し訳ありません。

でも、後書きが、って、それじゃあまるで、









第32話に、後書きが書いてあったみたいじゃないですか。

不思議ですね。


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第34話 第75層ボス戦

本日2話目です。


 はい、では、ボス部屋に突撃ー! 

 

 はい、背後の扉が勝手に締まりました。

 ほ、ホラーだぁぁぁぁぁぁ!! ギャァァァァァァァ!! 

 なんて、遊んでいる暇はありません。

 

「待て!」

 

 ここで声をかけないと、最初で沢山死者が出ます。

 そうすると、キリトさんの死亡確率が上がってしまいます。

 しかし、ここでボスの攻撃力を知らしめておいた方が何かと都合がいいため、タイミングを調整します。

 

「どうした?」

 

 3、2、1、はい。

 

「上だ!」

 

 初め、ボスは天井に張り付いています。

 はい、落下してきました。

 

「固まるな! 距離を取れ!」

 

 ヒースクリフの鋭い叫びでみなさん四方八方に逃げます。

 ですが、逃げ遅れる方がいますので、すぐに呼びましょう。

 

「こっちに来い!」

 

 これで、1人だけ逃げ遅れます。

 

 その一人は、落ちてきたボスの右腕、長大な骨の鎌に薙ぎ払われました。

 

 ばしゃあっ! 

 

 一撃死です。

 さあ! やって参りました! 75層ボス、The Skullreaper、骸骨の刈り手さんです。骨の百足ですね。左右に巨大な鎌状の骨があり、足の一本一本にも、尾の先についた槍状の骨にも、全てに攻撃判定があるクッソ強いボスです。

 

 今までのボスとは攻撃力が桁違いにあり、クリティカル1発でこの場にいるメンバーの大体が消し飛びます。

 今までのボスは数発の連携技くらいなら持ちこたえられる、と言えば、このボスの攻撃力がどれほどのものかはわかりますよね? 

 

 結晶無効化空間、背後の扉が閉まることによる逃走禁止、偵察が不可能、超攻撃力のボス。

 ここからはもうほぼ全てのボスが、こちらを完全に殺しにかかってきます。

 なので、第100層までクリアしようと思ったら、ゆっくり時間をかけて攻略していくか、攻略組の残弾数がかなり必要です。

 

 ゆっくり時間をかけすぎると強制リセットが発動しますし、レベルが足りないからと、いくら残弾数を確保していても毎回95層くらいまでで攻略組の残りが数名になり、ほぼ攻略不可となるため、自分実は未だに第100層まで行ったことがないんですよね。

 

 自分の最高到達数は98階層です。

 

 ほんと、ここからの難易度上がりすぎです。

 

 でもまあ、第100層に行ったところで何があるってわけでもありませんし、今回はここでキリトさんがヒースクリフさんを倒してくれるのでね。

 これ以降なんてないんでね! 攻略組の方々がいくら死んでもなんの問題もありません。

 お願いしますよキリトさん! 

 

 さて、で、左側の鎌はヒースクリフさんが受け止めてくれるので安心です。

 そして、右側の鎌はキリトさんとアスナさんが完全に息を合わせ、心までシンクロさせて、キリトさんの二刀流、アスナさんの細剣、合計3本の剣で受け止めようとします。

 

 ですが、残念ながらレベル不足によって、筋力値が微妙に足りずにギリギリ押し負けるんですよね。

 

 一応、辛うじて受け止められはしますが、あくまで辛うじてです。

 割とすぐに2人は限界がきます。

 その時に自分が敵の攻撃を引き付けます。

 当然受け止められるわけがないので、基本回避一択です。

 

 自分、体小さいんで、適宜攻撃してヘイトを稼ぎながら頑張って避け続けましょう。

 

 で、この両鎌をヒースクリフさんと、キリトアスナさんと、自分で受け持っている間に、他のプレイヤーが側面から攻撃してくれます。

 

 ただし、尾の槍状の骨でだいぶ死者が出ますが。

 でも、前面の2本の鎌を受け止める人がいなければ、もっと死者が出ますので、この戦い方が安定ですね。

 

 さぁ、最後の戦い、頑張りますか。

 

 はい、今キリトアスナさんが防御の上から吹き飛ばされました。

 先程、側面から攻撃していたプレイヤー達が尾についた槍状の骨で殺られて、悲鳴が上がったのですが、その悲鳴に一瞬心を乱されましたね。

 

 さて、では行きましょう。

 まずは体を地面すれすれまで近づけながら走って行きます。

 そして、

 

「ヒー君下がって! はぁぁぁあ!!」

 

 ガキィィィン! 

 

 ……え? 

 

 ガッキィーン! ガキィィン! 

 

 ……あれ? サツキさん? 

 

 ガキィィィン! キィィン! 

 

 ……うわっ、すご、サツキさんが1人でボスの攻撃受け止めちゃってますよ。

 えぇ。

 

 確かにサツキさんは筋力全振りで巨大な盾のみという、完全にタンク装備、ステ振りではありますが、それでも1人でこのボスの攻撃を受け止めるのは厳しかったはずなんですが……

 

「キリトさん! アスナさん! ここは私が受け持ちます! だから2人は攻撃へ!」

 

「「分かった(わ)!」」

 

「ヒー君は! 私が! 守ります!」

 

 うわっ、サツキさん強っよ、これ、チャートに組み込むべきでは? 

 有能なんかより、サツキさんの方がいいのでは? 

 でもこんな強いサツキさんは初めて見るんですよね。

 なんで今回こんなに強化されているのでしょうか? 

 

 ……偶々っぽいですよね、安定しなさそう。

 ま、次回のことは次回考えましょう。

 

 とりあえず、自分も攻撃に回りますか。

 

「ヒー君はそこにいてください! 私が、私が必ず守りますから!」

 

 あ、はい。

 

 ……迫力がすごすぎて思わず従ってしまいました。

 

 その後、約1時間ほどボス戦がありましたが、サツキさんは1度のミスをすることもなく、ボスの攻撃を全て受け止めてしまいました。

 HPは、レッドゾーンまで落ちていますが、サツキさんはボスの攻撃を受け止めた後の一瞬の間隔の間に、ポーチからポーションを飲んだり、ポーチにポーションを補充したりと、通常、戦闘しながらは行えない動作もこなしていました。

 

 メインメニューを開き、見向きもせずに高速選択、アイテムストレージを開いて、ポーションのオブジェクト化、そのポーションをすぐに飲んだりポーチに入れたりする様は、まるで手品のような早業でした。

 だから盾のみ装備なんですかね? 

 

 普通タンクは、ボスのヘイトを稼がなければいけない為、片手に武器、片手に盾といった感じなのですが、サツキさんは咆哮などのヘイト稼ぎスキルのみでボスのヘイトを稼いでいました。

 

 そんなこと1人だけじゃ無理なはずなんですけどね。

 普通ヘイトが足りずにダメージディーラーにボスの攻撃が行ってしまうものなのですが。

 

 サツキさんの咆哮の圧力に、ボスは無視できなかったのでしょうか? 

 

 いや、ヒースクリフさんがヘイト稼ぎスキルを併用しながらダメージも結構与えていたため、その近辺で立ち回っていたサツキさんをボスが無視しなかった、ということでしょうか? 

 

 立ち回りうっま。

 つっよ! ふぁー!? 

 

 これ、有能とかいう無能は捨ててサツキさんメインチャートに据えるべきでは!? 

 

 やった! ボスに勝った! 自分は何もしていないですけど! 勝った! やったぁ!! キリトさんも生き残ってる! 

 しゃぁぁぁぁ!!! あとはキリトさんがヒースクリフを倒してくれるだけ! 

 

 長かった。ここまで来るのが、本当に長かった。

 でも、やっと終わるんやなって。これで終われるんやなって。

 

 キリトさんがヒースクリフを倒してくれれば! 

 

 ……いや、分かってますよ、どぉぉぉせ! 無理なんでしょ! デュエルでシステムのオーバーアシスト見てないんでしょ! 分かってますよ! 

 でも! 信じたっていいじゃないですか! 希望を持って何が悪いんですか! 

 

 やってくれる! キリトさんなら! 

 

「何人──やられた…………?」

 

「──21人、死んだ」

 

 へー。

 どーぉでーもいーいでーすよ。

 

 攻略組の方々はもうここで用済みなので、キリトさんが生き残ってボスさえ倒してしまえれば、30人死のうが40人死のうがどうだっていいんですよね。

 

 彼らは言ってしまえば駒です。

 

 チェスで、いくら駒がやられても、相手のキングさえ倒せばこちらの勝ちでしょう? 

 駒がいくらやられても勝ちは勝ちですから。

 

 例えば国取りとかの場合、敵の王を倒しても、その後、復興やら統治やらなんやらがあって、自軍の死者は少ない方がいいですが、チェスなどは、その後というものがありません。

 今回もそれと同様ですから。

 

 相手のキング、75層のボスさえ倒せば、彼らは用済みです。

 

 では、キリトさんの様子を確認して見ましょう。

 

 もしここで、もうすでに武器をしまっている場合、ダメです。

 ですが、武器をしまっておらず、ヒースクリフを眺めていた場合、キリトさんはやってくれます! 

 

 どうだ!? 

 

 ……一瞬、自分と目があったような? あ、今位置関係的に、キリトさんとヒースクリフの間に自分がいますので、キリトさんは自分の後ろのヒースクリフを見ていたんですね。

 

 武器は、しまってないですね。

 

 お!? きたのでは!? 

 あら? キリトさんはメニュー画面を開いてしまいました。

 武器しまっちゃうの!? ダメだよ! しまわないで! 

 

 ……武器をしまう様子はないですね、どうしたのでしょう? レベルでも上がったのでしょうか? 

 

 ……お! またこっちを見ました! これはキリトさんは自分の後ろのヒースクリフさんを見てます! 

 

 武器をしまっておらず、ヒースクリフさんを見ている! 

 まさか!? これは!? 来たのではぁ!? 

 

 ちょっと自分位置関係的にキリトさんの邪魔ですね。

 どきましょうか。

 

「ヒャッカ」

 

 ん? キリトさんに声をかけられました。

 ちょっと待ってくださいね、すぐに退きますから。

 

 

 ───────────────────────

 

 

 最近暖かくなって参りましたね。

 数ヶ月ぶりの更新です。

 大変長らくお待たせいたしました。

 

 自分の職場の近くに大きな桜の木があるのですが、昨日から満開しています。

 春、ですねぇ。

 

 とりあえず皆さんもう話の内容はお忘れでしょうから、これまでの簡単なあらすじを書いておきますね。

 

 ……

 

 悪意の塊のような人間に転生した主人公は、正義感の強い人間だった。

 そのため、正義と悪意に満たされた心を持ってしまった主人公は、悩み、苦しんだ。

 

 他人を不幸にしたい、絶望に落としたいと心の底から願いながらも、前世の正義感が邪魔をして行動に移せず、さりとて人助けは今生の悪意が邪魔をして行えない。

 

 相反する二つの思いを持った主人公は、一つの解決策を見いだした。

 

 自己犠牲をすれば良いんだ、と。

 それなら人助けをしながら、他者の心を傷つけられる、これしかない、と。

 

 その後、主人公は家に封印された悪魔をその身に宿し、堕ちた炎の精霊、イグナイトに襲われていた子供達4人を身を呈して庇い、身に宿した悪魔の力で堕ちた炎の精霊を飲み込んだ。

 

 そして時は過ぎ去り、主人公はとある学園へと入学する。

 そこで、様々な人間と出会う。

 

「私はね、ただただ勝ちたいのだよ、卑怯なことをしてでも、手加減をされてでも、脅しでも実力でも賄賂でも不正でも、なんでもいい、ただ勝ちたいのだ、勝つことだけが、私の存在意義なのだから」

 

 勝つことにのみ執着する人。

 

「その昔はさぁ、魔王っていう魔物を操るやつがいたしいのさぁ、でもさぁ、その魔王は勇者に2つに分かたれて封印されたらしいのさぁ、でさぁ、その魔王には悪意を操る力があったそうなのさぁ、ちょうど、今の君みたいにさぁ……貴様、何者だ」

 

 歴史学者。

 

「お前は原作じゃ、沢山の人を不幸にしてきたんだ! だから誰かを不幸にされる前に、主人公である俺が止める! ……え? ……その仕草、嘘、だろう? あり得ない、だって、お前は、俺の目の前で……あ、あああ、あああああああ!!!」

 

 狂人。

 

 様々な人と出会い、主人公は体験したことのないはずの不思議な記憶を思い出していく。

 

「傑作だ! まさかなんの関係もない奴を殺すなんてなぁ! フハハハハ! だって、お前の両親を殺したのは、こいつじゃない、俺様なのだから! つまり! お前は復讐の矛先を誤ったんだよ! ふ、ふはは、ふはははは!!」

 

「お前の相手は俺じゃない、来たれ、堕ちたる炎の精霊、イグナイト」

 

「お前の妻と娘か? 今頃は元気にオーク牧場で働いていることだろうさ! ふ、ふはは、ふはははは!」

 

 そして、主人公は自己犠牲を行いながら、己の存在に疑問を覚える。

 

「俺は……本当に転生者なのか?」

 

 ……

 

 では、続きからどうぞ。

 

 ───────────────────────

 

 あ、やっべ! 桜って確か地域によって満開の時期が違ってくるから、更新日時と桜の満開時期を照らし合わされれば、自分の住む地域が特定されちゃう! 

 

 ま、まあ、こんな作者のリアルを特定しようとする方なんて、いらっしゃらないですよね。

 

 仕事、多いなぁ。

 今、明らかに仕事量に対して人員が足りてないんですよね。

 

 去年のこの時期は大して忙しくなかったのですが、今年はやばいです。

 

 先月の残業時間が92時間行きました。

 うーん、どうなんでしょうか? 自分では結構頑張ったつもりなのですが、ブラック企業にお勤めの方はもっとやばいんでしょうねぇ。

 でも辛い、体がボロボロです。

 

 次回の更新も数ヶ月後になるかもしれません。

 

 …………

 

 読むか。

 

 ……

 

「はぁ、本当、羨ましいなぁ、SAO、やりたいなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

その願い、僕が叶えてあげよっか? 

 

 

 

 

 

 

 

「……寝るか」

 

……え? 



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第35話 キリト

職場の人に、この小説の投稿者が自分ということがバレてしまい、作中でうちの会社の商品の宣伝を書け!と言われ、
 
「うちの商品を買ってください!お願いします!お願いします!買ってくれないなら更新頻度は不定期更新、つまり今のままですが、もし、もし!買っていただけるのなら!なんと!更新頻度を週1にします!だから買ってください!お願いします!」
 
と書いている夢を見ました。
 
買わなければ今の更新頻度、38÷35・・・約1.09日に1話更新、買ったら7日に1度更新、ああ、皆さんが買ったら更新速度落とします、ってことですね。
商品が売れると自分の仕事が増えるから。

夢の中でも仕事を減らそうと頑張ってて笑いました。

では続きをどうぞ。


「随分、平然としているな」

 

 ん? 今キリトさん、自分に話しかけてました? 

 

「何がだ?」

 

「いや、いつものお前らしくないと思ってな」

 

 自分らしさ? 何でしょう? 正義感溢れる好少年って感じですかね? 

 

「いつものお前なら、24人も死んだことに大して、もっと後悔とやるせなさを感じていないといけないんじゃないのか? それなのに、他人を盤上の駒のような目で見ているなんて、随分とヒャッカらしくないな」

 

 ……うっわ、めっちゃ見られてるやん。

 完全に気が抜けてました。

 

 ちょうどヒースクリフさんとの間にいたから、たまたま目に入ってしまったということでしょうか。

 

「後悔ならしてるさ、死にたいほどな」

 

 マジで後悔してます。

 あとちょっとなのに、こんなところで気を抜いて全てがご破算とか、笑い事にもなりませんからね。

 

 さあキリトさん! 自分のことはどうでもいいんで! ヒースクリフさんをズバッとやっちゃってください! 

 

「なら、さっきボス戦で、ただ見守っていただけなのは何でだ? たとえサツキさんに止められていたとしても、いつものお前なら、多数の死者が出てる状態で黙って見ているなんてありえない、振り切ってでも戦闘に参加していたはずだ」

 

 い、いや、別に何人死んだって今更関係ありませんし、キリトさんさえ生きてれば別にいっかなーって。

 

 なんて言えませんよねぇ、どうしましょうか? 

 

「キリトさん、ヒー君を悪くいうのはやめていただけますか?」

 

「いや、そんなつもりはないさ、ただ、もう演技は飽きたのかって思ってな、ヒャッカ…………いや、茅場晶彦!」

 

 ……え? ん? ふぁ? 

 

 カヤバ、アキヒコ? ダレネ? ワタシ、カヤバ、チガウネ。

 茅場さんは自分の後ろにいらっしゃいますよー? 

 ヒースクリフさーん、呼ばれてますよー? 

 

「何を、言っているのですか?」

 

「そ、そうだよキリト君! ヒャッカ君が茅場晶彦だなんて」

 

「証拠ならある」

 

 え、えええええ!?!? 自分、茅場晶彦だったの!?!? そんないつの間に!!? 知らないですよ自分!?!? 

 

 って、キリトさんなんて勘違いしてるんじゃぁぁぁぁ!!!! ぶぁあああああかなのかなぁぁぁぁあああ!?????!? 

 何をどう勘違いしたらこの場面で自分を茅場だと思うんじゃい! 

 

 え、え、待って、ねぇ、待って、これ、終わったのでは? 完全に、完膚なきまでにクリア不可能を突きつけられたのでは? 

 

 だって例えここで上手く言い逃れが出来たとしても、その後でキリトさんが、ヒースクリフは茅場だ! って言って斬りかかったりはしないでしょ? どう考えても。

 

 あれれれれー? 終わったのではー? 

 

「ふざけないでください、ヒー君が茅場晶彦? 言っていい冗談と、悪い冗談が」

 

「冗談でこんなことは言わないさ、俺には、確信がある」

 

 何でそんな確信を持たれてるんですかねぇ? 

 ほんといつの間に? 

 

 ワケわかめ、ワケわかがしら、ワケわかな。

 ヒャッカ。

 

「なら、その確信とやらを聞かせてくれ」

 

 分からないなら、聞いてみましょう。

 また次回に活かすためにもね。

 

「ヒー君! こんなことにまともに取り合う必要はありません!」

 

「いや、こう言った誤解は早めに解いておくべきだ、だからキリト、その証拠とやらを教えてくれ」

 

「いいぜ、まず俺が最初に引っかかったのは、お前の名前だよ」

 

「名前?」

 

 ヒャッカ? ヒャッカに何か茅場要素があると? 茅場のファンじゃないんですから、そんなの知らないですって。

 

「ああ、Obakahyakkaii、初めてお前の名前を見たとき、俺はほんの少し違和感を感じたんだ」

 

 ……ああ、お馬鹿百階位、うん、そうですね、自分お馬鹿百階位でした。

 

 べ、別に、忘れていたワケじゃないんですよ? 本当ですよ!? 

 ただ今回は適当につけた名前ですし、みんなヒャッカヒャッカ呼ぶから、普通に忘れていましたすみません! 

 

「初めは分からなかった、だが、しばらくしてから気づいた、お前の名前は、茅場晶彦のアナグラムになってたんだ!」

 

 ……アナグラム? 確か、文字を並び替えて別の言葉にするってやつですよね? 

 

 おばかひゃっかいい。

 かやばあきひこ。

 

 全然違うじゃないですか!? 

 まず文字数から違うっていうね。

 どう考えても間違ってます。

 

「あ、ホントだ! Obakahyakkaiiを並び替えると、Kayabaakihikoになる!」

 

「うぉ!? マジじゃねぇか!?」

 

「そ、そんなの、単なる偶然です!」

 

 ……え? なに? なんでみんな納得してるの? 嘘でしょ!? 全然アナグラムなってないじゃないですか!? 

 え、もしかして、わかってないの自分だけ? 

 

「なんでや? なんで、おばかひゃっかいい、が、かやばあきひこ、になるんや? 文字数からして違うやないかい!」

 

 あ、同類発見! 

 

「キバオウさん、ローマ字で考えて見てくれ」

 

「ローマ字やと?」

 

 えっと? 

 

 Obakahyakkaii

 Kayabaakihiko

 

 ……あ。

 ……嘘でしょ? 

 

「ほ、ホンマや! 茅場晶彦になっとるで!?」

 

 いや、いやいやいやいや! ありえないでしょ!? なんで!? なんでこんな変な名前が茅場晶彦になるんですか!? ふぁぁぁぁぁー!?!? 

 

 名前はなんでも構わないので、お馬鹿百階位としましょう。

 

 じゃねぇんだよぉぉぉぉ!!! お馬鹿百階位はピンポイントにダメじゃねぇかぁぁぁあ!!!! 

 

 ブァァァァカ! 約1年半前の自分ぶぁぁぁ──か!!! 

 

 よくこんなものキリトさん発見できましたね、ああ、だから何故か知らぬ間に疑われてたんですね。

 

 ……うっそだろ。

 

「それだけなら、単なる偶然とも考えられた、でも、これがヒャッカを疑い始めたきっかけでもあった」

 

 あー、なんか1年半前、第1層フロアボス攻略会議でキリトさんとパーティを組んだとき、挨拶しないで誰かの名前を見てるなーってことが、あったような、なかったような。

 

「だが疑い始めてみると、色々見えてくるものがあった、ヒャッカはこのゲームのことを知り過ぎてるんだ、ボス戦での動きも、ヒャッカは初めての動きじゃなく、まるで相手の行動パターンがわかっているかのような動きをする時があった」

 

「それは勘だ、キリトだって、感じたことがあるんじゃないか? 理屈じゃ説明できない超感覚ってやつを、隠れている誰かの視線だったり、次の相手の行動が感覚的にわかる、と言ったことが」

 

「なら、装備品はどうだ? お前はいつも、攻略組の俺たちですらほとんど見たことがないようなレア装備をしていた、1個2個なら偶然とも言えるかもしれないが、お前の場合はいつも、ほぼ全身がレアドロップ品だ、そんなこと、製作者である茅場でもなければ、不可能なんじゃないのか?」

 

「俺は、運がいいんでな」

 

「苦しい言い訳だな?」

 

「そう思いたければ思っておけばいい、それだけか?」

 

 多分これだけならキリトさんは動かないはず。

 まだ何かあるのでしょうね。

 

「なら、今お前が持っている武器、それはどこで入手したものだ?」

 

「アストグリフは迷宮区のトレジャーボックスから手に入った武器だ」

 

「そうか……おかしいな?」

 

「何がだ?」

 

「この武器は、50層のレアモンスターからのレアドロップで出たんだがな?」

 

 そう言って、キリトさんはメインメニューを操作して、とある武器を取り出しました。

 

 ……アストグリフ、ですね、どう見ても。

 

「それは!?」

 

 

 ……え? えええええええ!?!? なーんでキリトさんも持ってるんですかぁぁぁ!?!? 

 ぇぇぇぇ!?!? 入手経路まで特定されてるしぃぃぃ!! 

 

「お前は一時期、とある場所に通い詰めていた、だがその武器、アストグリフを持ち始めたとほぼ同時くらいから、その場所には行かなくなった、つまりアストグリフはトレジャーボックスではなく、その場所で手に入ったものだと俺とアルゴは考えた、だからアルゴに依頼してたんだ」

 

 ……えっと、50層から56層までの間は毎日アストグリフ入手のためにとある場所に通っていましたが、それを見られていた? 

 

「どうして嘘をついてたんだ?」

 

 ぐっ、ま、回れ! 自分の灰色の脳みそ! 

 なんで脳みそが灰色なんでしょうか? 

 って、別のこと考えてる余裕ないって! 

 

「……そうか、なるほど、あの場所でも手に入るんだな」

 

「なに?」

 

「俺がアストグリフを手に入れたのは、確実に迷宮区のトレジャーボックスだ、だがそれまでは、あの場所でいい武器が手に入る予感がしていた、だから通っていたんだよ、そして、アストグリフ入手とともにその予感が消えたから、俺はあそこには行かなくなったという訳だ」

 

「……そうかよ、なら何故この武器を片手剣だと偽った?」

 

「それは……」

 

 パッと言い訳が思い浮かばねぇぇ!! 

 

「キリト君、片手剣だと偽ったって、どういうこと?」

 

「この武器、アストグリフは片手剣じゃない、両手剣なんだよ、さあヒャッカ! 何故偽った!」

 

「……悪いが、話せない」

 

「まだまだあるぜ」

 

 どんだけあんのー!? 

 

「ヒャッカ、お前が誰ともフレンド登録しないのは何故だ?」

 

 メインメニューが使えないからです! 

 自分は悪くありません! 

 

 あーあ、使えてたら友達1万人くらい作ってたんだけどなぁー、使えないからなー、仕方ないよなー。

 

「フレンド登録だけじゃない、他人とのパーティすら極力組まないようにしているのは、何故だ?」

 

 別にパーティを組まないようにしてるなんてことはありませんが? 

 でもどうしてもパーティプレイだと経験値効率が悪いですし、何より他の人は夜眠るとか、食事とかで時間の無駄遣いをしてますからね。

 

 そんな人たちに合わせてたら、圧倒的にレベルが足りなくなりますから。

 

「俺は、クリアまでは生きられない、そんな奴が人と深く関われば、関わった人が不幸になるだけだ、だから俺はフレンドを作らないんだよ」

 

「違うな、お前はフレンドを作らないんじゃない、作れないんだよな」

 

 グサッ! 

 

 作れない、作れない、友達を作れない。

 

 そ、そんなことないやい! 

 ふ、フレンドなんていつだって、つ、作ろうと思えば作れる! はず! だと、いいなぁ。

 

「フレンドを作って、マップでフレンド追跡されたり、常にパーティと共にいると、お前は困るからな、なあ茅場晶彦」

 

 ん? 

 

「なにが困るんだ?」

 

「俺たちのリアルの体が今どうなってるか、考えたことはあるか? 恐らく、ほぼ全員が病院で手厚い介護を受けているはずだ、だが、絶対に病院で介護を受けられない奴が1人だけいる」

 

 あー、そういうこと。

 

「茅場晶彦だな」

 

「そうだ、茅場だけは、自分の体を自分で介護しなければならないはずなんだ、だから茅場は定期的に、リアルに帰らなければならない、いつまでもゲームにログインしているわけには行かないんだよ、そのため、パーティを組んでそいつらと四六時中一緒にいたり、フレンドを作ったりしたら、リアルに帰るのが難しくなる、だからフレンドを作れないんだろう? なあ、茅場晶彦!」

 

「言いたいことはそれだけですか?」

 

「ああ」

 

 なるほど、なるほど、では、今回の敗因は、名前! 

 

 ……くっそぅ。こんなことなら、いつも通り昔から使ってるRKZとかシャアルとかにしとけばよかった。

 

 名前にそんな深い意味なんてないから! そんなことしたらリアルを特定してくださいって言ってるようなものでしょ!? 

 リアルネームのアナグラムとか絶対にやらないって! 

 

 リアルバレ怖いじゃん! 昔小説書いたりしてたけどさぁ、そんなんでリアル特定されたらヤバイじゃん! 圧倒的黒歴史だよ!? 怖いよ!? だからリアルネームをもじったりしないって!! 

 

 ……えっと、キリト、キリガヤカズト、アスナ、ユウキアスナ、サツキ、サツキユリ。

 

 あーだめだー、こいつらバリバリリアルネームから取ってきてらぁ! 

 自分の常識は通用しないんやな。

 

 とにかく、キリトさんに変な言いがかりをつけられないように、茅場晶彦からかなり遠い名前で次回はやりますか。

 

 はぁ、今回行ったと思ったのになぁー。

 

 まあいいやー、あーそぼっと。

 

「そのようなこじつけで、ヒー君を」

 

「……ふ、ふふふ」

 

「……ヒー君?」

 

「ふ、ふはははは、ふっはっはっはっは!! ……よくぞ見破ったね、さすがはキリト君だ」

 

「な、何を言って……」

 

「サツキさん下がれ! ……認めるんだな?」

 

「ああ、そうだとも、私が、茅場晶彦だ」

 

 ふっはっはっはっはー! 私が大魔王! カヤバーンだ! 

 さーて、あっそぶぞー! 

 どうだヒースクリフ! 偽物が出てきたぞー! 本物として、複雑な心境なのではー!? 

 あっはっはっはっは! 

 

 ……あれ? まだいける? 

 

 ……材料は、一応、自分の体力、ヒースクリフとアスナさんの位置、自分の所持品……

 

 いや、無理でしょ。



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第36話 デュエル

 いや無理でしょ。

 ……いや……無理でしょ。

 無理でしょ。

 

 あ〜無理無理〜無理だよ〜。

 遊ぶよ〜。

 

 まあ、遊ぶついでに、出来たら儲けもの程度で。

 

「元々、第百層のボス部屋で正体を明かし、私がこのゲームのラスボスとして君臨する予定だったのだが、まさかこんなにも早く正体を見破られるとはね」

 

 ヒースクリフさんは95層で正体を明かして、100層で待つ予定だったそうです。

 

「何言うとるんや! ヒャッカが茅場やと!? ……嘘や! ありえへん! 確かに名前は茅場かも知れへん、怪しいところもあったんかもしらん、けどな! ヒャッカが茅場な訳ないっちゅうことは、ずっと戦い続けたワイが一番ようわかっとるんや! ヒャッカ! 悪ふざけもええ加減にせぇや!」

 

 おお、まさかキバオウさんからこんな発言が飛び出してくるとは。

 

「キバオウ君、君には感謝しているよ、君のお陰で、私は強くなれた、ラスボスの強化、今までお疲れ様」

 

「……何、ゆうとるんや」

 

「ゲームクリアはさらに難しくなったと言っているのだよ。君のお陰で、対人戦闘のデータがたくさん集まったからね、私の掌の上で踊っていてくれて、ありがとう、キバオウ君」

 

「……嘘です、嘘、何かの間違いです、だってヒー君は、ヒー君が茅場のはず、そんな、ありえません、嘘、嘘! ウソ! ヒー君は、ヒー君は! ……ヒー君、冗談、ですよね?」

 

 サツキさん、その顔、いいですねぇ。

 多分他の人に何を言われようとも、サツキさんは自分のことを信じたかもしれませんが、その信じている自分が茅場晶彦を名乗りましたからね。かわいそうに。

 

 信じているものに裏切られて、それでもいまだに信じたがっているような、今にも涙がこぼれ落ちそうな顔、素晴らしい! 

 

 そんな顔されると、実にそそりませんか? もっと追い詰めてあげたくなりませんか? 

 自分はなります。

 

 と、言うわけで、今からやることは完全に自分の趣味です。

 先ほど考えたリカバリー策とはなんの関係もございません。

 ま、どうせ今回無理だし、何やってもいいよね! 

 

「サツキ君」

 

「っ!」

 

「君は実にいい働きをしてくれた、とても感謝しているよ」

 

「……え?」

 

「私はね、ゲーム開始から1ヶ月も過ぎ去ってなお、第一層すら攻略できなかった皆に失望していたのだよ」

 

 本当のところあの時茅場さんはどう思ってたのでしょうね? 

 

「だから少々テコ入れをすることにしたのだ、それがサツキくんのおかげで上手くハマってね、第2層からの攻略速度が一気に早まっただろう? そのおかげで、実にスリルあふれる攻略になった、安全マージンを十分にとった攻略、それも悪くはないが、人が死んでこそのデスゲーム、そうは思わないかい?」

 

「ふざけるな!」

 

 キリトさんに怒られました。

 

「ふざけてなどいないとも、サツキくんが攻略速度を上げてくれたこと、私は実に感謝しているんだよ、サツキ君がいなければ、もっと攻略ペースは下がっていて、安全で確実な攻略になり、沢山の命が助かっていただろうからね」

 

 つまり。

 

「サツキ君のおかげで、沢山の命が潰えたんだ、デスゲームの製作者としては、実にありがたかったとも」

 

「……わ、わたくし、は、そ、そんな」

 

「お前は! 人の命をなんだと思ってやがる!」

 

「単なるデータ、これで満足かい?」

 

「きっ! ……貴様ぁぁぁ!!! よくも! よくもおおおお!!」

 

 あ、血盟騎士団の一人が雄叫びを上げて襲いかかってきました。

 

「お、おい! 落ち着けって!」

 

「はなせ! はなせよ! あああ!! 茅場ぁぁぁ!!」

 

「私を殺したいかい? 構わないとも、ただ自分の欲を満たす為だけに」

 

 血盟騎士団の一人は、抑えを振り払って自分めがけて走って来ました。

 

「ゲームクリアのチャンスを、逃すというのなら、な、さあ! やるがいい」

 

 では、手を広げて無抵抗で迎えて上げましょう。

 おやぁ? 直前で剣を止めてしまいましたねぇ? 

 

「どうした? やらないのか? 私が憎いのだろう? ここで私を殺せば、ゲームクリアのチャンスは失われるが、いっときの激情に身を任せるのもいいんじゃないか?」

 

「ぐっ、ぅ、ぁ、ぁぁ! ああああ! っぐぐ」

 

 めっちゃ必死にこらえてるぅー! 

 

「お、お前を、ここで殺さなければ! ……ゲームは、クリア、されるんだな!!」

 

「言っただろう? チャンスを与えると、キリトくん」

 

「……何だ」

 

「私の正体を看破した君には、リワードを与えよう、私とここで、1対1のデュエルをする権利を、勿論、完全決着モードだ、私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウトできる……どうかな? 嫌ならそれでも構わない、私は第100層にて、君達を待ち構えることにするさ」

 

 いやー、我ながら、いい悪役っぷりですねぇ! 

 楽しィィィ!!! 

 

「ああ、そうだ、キリト君に伝えようと思っていたことがあったんだ、その二刀流はね、私の前に立つ、勇者に与えられるスキルなんだ」

 

「……勇者?」

 

「私はね、初めから、いや、βテストでキリト君を見たときから、君が、君こそが、二刀流スキルを獲得し、勇者になってくれると思っていた、だが君は一度、攻略組から逃げ出そうとしただろう?」

 

「……」

 

「確か、月夜の黒猫団、だったかな? ただの弱小ギルド、到底君がいるべき場所じゃなかった」

 

「……何が、言いたい?」

 

「しばらくは見守ったさ、君はいつか必ず、攻略組に帰ってきてくれると信じていたからね、だが、君は一向にそのギルドから抜け出そうとはしなかった……だからね、少々手を加えさせてもらったよ」

 

「……ま、さか」

 

「そう、君のギルド員が死んだ原因は、そして、そのギルド唯一の女性を攫ったのは……私さ」

 

「っ!?」

 

「このままじゃ、キリト君が最前線に戻ってきてくれないと思ってね、キリト君が悪いんだよ? いつか私と対峙する勇者になってくれると期待させておきながら、逃げ出そうとするんだから、やっぱり、あの時弱小ギルドを壊滅させておいて正解だったよ」

 

「か、茅場ぁぁぁ!!」

 

 茅場さんに対する熱い風評被害。

 たーのしぃぃぃ!! 

 せっきにーんてーんかー! たっのしーいなー! 

 

「もし君が最前線に戻らなかった時のことを考えて、念のため女性を一人攫っておいたんだが、君は無事攻略組に戻ってきてくれた、無用な心配だったね、だが彼女をただで返すと、またキリト君が攻略組を抜けるかもしれないと思ってね? 少々遊んであげていたんだが……彼女は実にいい悲鳴を聞かせてくれたよ、ああそうだ、この記録結晶に、その時の映像が残っているんだ、確認してくれたまえ」

 

 キリトさんに親切な女性が映っている記録結晶を投げ渡しました。

 別に悲鳴はあげてなかったですがね。

 

 うっはー、キリトさん、鬼の形相でこちらを睨みつけています。

 威圧感マックスですよ。怖いですねぇー。

 

「おっと、ここは結晶無効化空間だったね、すまなかった、また後で確認を、とはいかないか、まあいい、さあどうする? 私と1対1のデュエルをするかい? デュエルをするなら私に申請を送ってきたまえ」

 

「……いいだろう、決着をつけよう」

 

「キリト君っ……!」

 

「なら、他の人たちは下がっていたまえ、もしデュエルの邪魔をするようなら、勝負は無効だ、私は第百層で君たちを待つことにするよ」

 

「みんな、頼む! 俺に決着をつけさせてくれ! こいつを、こいつだけは絶対に許すわけにはいかない! だから、ここで逃げるわけにはいかないんだ!」

 

「死ぬつもりじゃ……ないんだよね……?」

 

「ああ、必ず勝つ! 勝ってこの世界を終わらせる!」

 

「解った、信じてる」

 

「アスナさん! いいのかよ!?」

 

「……いいの、キリト君なら……きっと!」

 

「……アスナさんが、そう言ってんのに、俺たちが邪魔できるわけ! ねぇじゃねぇか! おいキリト! 負けたら許さねぇぞ! 絶対許さねえからな!」

 

「クライン……いや、次は、向こう側で会おうぜ」

 

「っ、ぜってぇ勝ってこいよ!」

 

「ああ!」

 

 うわぁ、キリトさんめっちゃ主人公してるー、主人公相手に勝てるわけないだろ! いい加減にしてくださいお願いします! 

 

 はい、今キリトさんからデュエル申請が送られてきました。

 

 当然了承です。

 

 はい、とりあえず第一条件クリアですね。

 ここからですよ、本番は。

 あと60秒でデュエルが始まります。

 

 このキリトさん、デュエルでヒースクリフを打ち破った訳のわからない超強化キリトさんです。

 この謎に強化されたキリトさんを、自分は条件付きで倒さなければなりません。

 

 いや、なんとなくは強化の理由は察しがついているんですよ? 

 

 キリトさん、多分早々にラスボスは自分、プレイヤーに紛れ込んだ茅場だと仮定していたと思うんですよ。

 だから、通常レベルアップに費やしていた時間を少し、対人戦闘訓練に当てていたんじゃないかなーと。

 

 で、自分以外で、誰が一番デュエルしているか、といえば、キバオウさんですよね。

 つまり、キリトさんは、キバオウさんとともに対人戦闘訓練を行っていたのではないかと思うんです。

 

 だからキリトさんは今回レベルが低めですし、キバオウさんは強くなるのが早かったんじゃないかなーと。

 これ、なんとなく繋がってそうじゃありませんか? 

 

 キバオウさんはかつてヒースクリフを打ち破った伝説を持ってますからね。

 そのキバオウさんとの特訓の成果で、キリトさんはヒースクリフを倒したんじゃないかと。

 

 だから目の前のキリトさんはおそらく、超本気モードプラス対人戦特化型キリトさんと言うことになります。

 

 はい絶望。

 

 ……頑張ろ。

 

「キリト君、私が何故、たった一度たりともソードスキルを使ってこなかったのか、わかるかい?」

 

「……」

 

 無視された、悲しい。

 

「それはね、SAO内最強の、ユニークスキルの発現条件だからだよ」

 

「……なに?」

 

「君がユニークスキルを持っていて、私が持っていないとでも思っていたのかい? では、見せてあげよう、ラスボスの圧倒的な力というものを、絶望的な、絶対的な力の差を、ね」

 

 当然、そんな都合のいいスキルはありません。

 あったとしても、メインメニューを開けないのでスキルスロットにセットできません。

 

 ユニークスキルとかいうチート、自分も使いたいなぁ。

 

 さあ、頑張りますか。



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第37話 VSキリト

 さて、なぜユニークスキルを持っているなどという嘘をついたかと言いますと、短期決戦を誘うためです。

 

 まず、キリトさん相手に普通に戦っても勝てるわけがありません。

 敏捷と、特に筋力値が違いすぎますからね。

 

 なので、武器で防御などができません。

 一応完璧にタイミングを掴めば1本ならある程度軌道をそらすことはできますが、キリトさんは二刀流なんでね。

 

 つまり攻撃を避けながら戦うしかないのですが、二刀流を無作為に振られ続けたら、避けられるはずがありません。

 

 だからと言って、まともに戦わず、卑怯な不意打ちなどで勝ったとしても、おそらく条件を満たせないでしょう。

 

 だからこその、先ほどのハッタリです。

 

 キリトさんの知らない、強力なユニークスキルを持っていると言っておけば、キリトさんの選択肢は狭まります。

 様子見か、短期決戦か。

 

 で、今現在自分のHPはマックスです。

 先程のボス戦で何もしてませんからね。

 で、キリトさんはポーションで少し回復したため、イエローゾーン、と言った具合です。

 

 既にキリトさんのHPは半分以下です。

 なので、様子見をしてくることはないと読みます。

 あれだけ挑発もしましたし、自分に対して怒り心頭のはずですから。

 

 だからこそ、キリトさんが短期決戦を挑もうとしてくるはずです。

 

 では、何をしてくるか。

 当然、自分が一番自信を持っていることをやってくるに違いありません。

 それにより、VSキリト戦での条件を満たせるはずです。

 なので、とにかく先ずはそれを誘うことから始めます。

 

 それをやってくれなければ、条件付きでの勝利確率なんて数パーセント、いや、ほぼ0です。

 

 ……頼むよー、キリトさーん。

 

 はい、あと5秒でデュエルが開始です。

 

 なので、それを誘う意味も込めて、 右手で持ったアストグリフを天高く真上にあげ、棒立ちしておきます。

 

 はい、デュエル開始です。

 

「……殺す!」

 

 おー、怖っ。

 キリトさんが一直線に近寄ってきましたが、まだ自分は動きません。アストグリフを天高く持ち上げながらの棒立ちです。

 

 まだです、まだ。

 完全に今自分は無防備です。

 

 はい、ここで、ニヤッと笑いながら、

 

「私の勝ちだ」

 

 と言えば、頼む! こい! 

 

 キタッ! キリトさんの最終奥義! 二刀流48連撃技、ジ・イクリプス! 

 

 キリトさんは戦闘中でも相手の表情をよく見ています。

 だから、あそこでニヤッと笑い、意味深なセリフを呟いた自分が、キリトさんの知らないヤバいことをやると、キリトさんは錯覚したはずです。

 

 なので、キリトさんの思考を、

 

 何かをやらせる前に押し切る! 

 

 と言った風に誘導して、自分が一番自信を持っているであろうソードスキルを使わせるように誘導しました。

 

 よし! 第一関門突破ぁ! 

 

 キリトさんはおそらく、キバオウさんとの訓練で、緩急やら軌道変化を身につけているはずですから、たとえ自分にスキルの軌道を知られていても、押し切れると判断したのではないでしょうか。

 

 ヒースクリフの絶対防御もそれでおそらく押し切ったのでしょうからね。

 

 さあ、いまからキリトさんの緩急やらスキル範囲内での軌道変化を織り交ぜた48連撃を、全てかわします。

 

 これ、一撃でもクリンヒットしてしまえば、大体その後の攻撃もまとめて当たるため、簡単にHPが消し飛びます。

 なので、クリンヒットだけは避けて、カスあたりは許容して、HPが0にならなければ、自分の勝利、クリンヒットを受ける、もしくはカスあたりでもHPを削り切られれば、自分の敗北です。

 

 ここからは全て先読み、キリトさんの思考をトレースしていきます。

 

 ジ・イクリプスの軌道は当然全て覚えていますが、見てからの回避は間に合いません。

 キリトさんは超反応持ちなので、見てから回避しようとしても、それに合わせてくることでしょう。

 

 なので完全に、軌道変化と緩急、速度の緩むタイミング、急速に速度を上げるタイミング、そして、キリトさんの超反応をまとめて織り込んで、キリトさんの思考を完全に読み切らなければ負けです。

 

 48連撃って……長すぎでは? 無理ゲーが過ぎますね。

 

 はい、……次……よし……んん……こっちか!? ……セーフ……後ろに……追ってくるから……はい……ここで違和感を……はい……表情が強張った……キリトさん自分のブラフに気づいて……ここで……っ!? ヤバっ! ……あっぶっ! ……大丈夫、……よし……よし! 

 

 避け切ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! あーぶねぇぇぇぇぇ!! HPギリッギリー! レッドゾーンまで削られたぁぁぁ!! でも勝ったぁぁ!? うっそだろ!? 

 え!? まじ!? 嘘だろおい!? リセットなってない!? 避けきったの!? まじでぇ!? 

 

 途中何度か危ない場面はありましたが、ギリギリクリンヒットにはならずノックバックが発生しなかったので、助かりました。

 

 キリトさんは途中で、自分の意図に気がついていました。

 おそらく、自分がユニークスキルを持っていないこと、もしくは持っていてもこの戦いでは使う気がなかった、ということにすら気づいていたでしょう。

 

 だって、キリトさんがジ・イクリプスを発動した後はもう自分、ユニークスキルを使用するそぶりすら一切見せず、超真剣に避け続けていただけですからね。

 

 だからキリトさんは、自分の狙いがキリトさんの大技のスキルを誘って、スキルの技後硬直で確実に勝負を決める、というものだと途中で気がついたと思います。

 

 その時、自分はキリトさんが焦って、斬撃の速度を速くすると思ったのですが、そこでまさか低速にするとは、あの時完全に裏をかかれました。

 

 でもギリギリクリンヒットにはならなかったです。

 

 多分後数ミリズレていればクリンヒット判定になっていたと思います。

 あと、読み違えたのが、低速で本当に助かりました。

 

 高速を読み違えたなら、気がついたら既に切られていた、という状況になりますからね。

 あっぶなかったー、完全に今回は運がこちらの味方をしてくれていましたね。

 

 でも? 勝ちは勝ちですから? まっ、自分にかかればこの程度、余裕だったかなー? ラークショォォー! これも自分の実力ってやつ? 対人戦特化型キリトさん? 大したことないねぇ! っぱ自分が最強っしょ! 

 

 と、油断してると死にかねません、マジで。

 ここで、キリトさんがもしかしたらジ・イクリプスの技後硬直無視なんていうチートをしてくる可能性があるのでね。

 

 では、早々に腰につけたナイフをキリトさんに突き刺します。

 

 このナイフ、例のレベル5麻痺毒のナイフです。

 

 今回のボス戦は麻痺や毒などの状態異常にしてくるボスではなかったので、耐毒、耐麻痺ポーションをキリトさんは事前に飲んでいません。

 初めに飲んでいたとしても、既に効果は切れています。

 

 なので、麻痺毒が入ります。

 はい、キリトさんは麻痺により、地面に倒れました。

 

 よっしゃぁぁぁぁああー!!!! 

 

 正直無理だと思ってました。

 でもこれで第2関門突破! 

 

 しゃあー! 多分100回やって1回くらいの成功率引いてやったぜオラァ! 

 

 でも、本当の本番はここからです! 

 ……なんで本番前から難易度ベリーハードなんですかねぇ? 

 

 さて、では、みんなを誘うために、アストグリフを振り上げましょう。

 そして、

 

「さようなら、キリト君」

 

 こうすると、

 

「だめぇぇぇー!!」

 

「「「「「キリトォォ────!!」」」」」

 

 周りで見ていた方々が、一斉に武器を抜いてこちらに走ってきました。

 

 当然ですよね、皆さんは麻痺しているわけでもありませんし、もうキリトさんが麻痺った段階で、キリトさんの勝利の確率はほぼ消えましたから。

 

 キリトさんの勝利が消えたということは、もうここでゲームクリアにはならないということです。

 つまり、デュエルの邪魔をしたらゲームクリアにはならない、という自分が言った脅しの効果がここで消えます。

 

 だからこそ、キリトさんを助けるために殆どの攻略組の方々は飛び込んできます。

 

 今回、攻略組のメンバーをほぼ固定しており、ここにいる攻略組の団結力はかなり高いです。

 そしてキリトさんは、沢山の危機を救って来ています。

 

 つまり、実際にキリトさんに命を救われたことがある方が大半を占めるこの攻略組で、ベータテスターとの確執が薄い今回、キリトさんがみんなから慕われていないわけがないんです。

 

 だからこそ、キリトさんが自分とのデュエルを受けるといった時、強烈な反対がなかったということでもあります。

 キリトさんならやってくれると、みんな信じていたのでしょう。

 

 少し話がずれましたが、まあ、簡潔に言えば、攻略組からキリトさんへの信頼度、好感度はかなりのもの、ここで助けに入らないわけがないんですよね。

 

 一部を除いて、ね。

 

 まあ、サツキさんは自我崩壊しているっぽいんで来ないとは思いますが。

 あともう一人は……。

 

 さて、で、誰が一番最初に来るかと言えば、当然アスナさんです。

 

 アスナさんは、自分とキリトさんの間に入る、ではなく、自分を攻撃して来るでしょう。

 キリトさんと同様に、ボス戦後武器をしまっていないのは見ていますし、何より、攻撃して自分を吹き飛ばした方が体を自分とキリトさんとの間に入れるより早いですから。

 

 計画通り! 

 

「っ! アスナ、だめだ!」

 

 あ、キリトさん、自分の狙いが初めからアスナさんだということに思い至ったっぽいですね、さすがの直感力。

 

 でも、キリトさんは麻痺していて、囁き声しか出せませんし、何より、キリトさんが止めても、キリトさんの危機にアスナさんが飛び込んで来ないはずがありません。

 

 さて! ここで現在の立ち位置を確認しましょう。

 

 始め、自分はキリトさんとヒースクリフの間にいました。

 で、アスナさんはキリトさんのそばにいました。

 

 つまり、現在、アスナさんとヒースクリフの間に自分がいることになります。

 

 で、アスナさんの武器は細剣、攻撃は突き。

 

 だから、自分を突いて来たアスナさんの攻撃を避け、アスナさんの腕を切り飛ばせば? 

 

 ザシュッと。

 

 はい、その腕は、細剣と共にヒースクリフさんの方向に飛んでいきます。

 細剣は要求筋力値が低く設定されている武器です。

 つまり、自分にも扱える武器、ということになります。

 

 ここに、全ての条件が揃いました。

 

 キリトさんという勇者に、完全勝利をして! 一部の攻略組以外がキリトさんを助けに動く状況を作り出し! アスナさんの腕をヒースクリフの方向に飛ばし! その細剣を掴み! 攻略組を掻い潜り! 

 

 擬似的な二刀流で! ヒースクリフの守りを貫く! 

 

「見つけたぁぁぁ!!! 茅場ぁぁぁぁ!!!」

 

 キリトさんの動きを思い出せ! 

 

 一度でいい、ヒースクリフの鉄壁の守りを超える! 

 

 キィィーン! 

 

 [Immortal Object]

 

 ……超えた、第3関門突破! 

 

 次!



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第38話 茅場

「やっと、やっと見つけたぞ! 茅場晶彦!」

 

 勿論最初から分かっていましたがね。

 でもあくまで今見つけた感を出しておきましょう。

 

「な、何を言ってやがる! 茅場はお前じゃ……え?」「システム的不死、ど、どういうことだよ?」「なんだよ、あれ?」「茅場が、団長を茅場って」「どういうことですか……団長……?」

 

 みんな、困惑していますね。

 斬られなくてよかったです。

 

 ここで後ろからバッサリ斬られて自分が死んだら、この場の空気やばいことになりそうですよね。

 うわ、見たい! でも死んだらリセットだから見れない、悲しい。

 

「……」

 

 ヒースクリフさん、無言です。

 あまりの急展開に戸惑いを隠せないのか、それとも驚いてるのか、言い訳を探しているのか。

 

 ここで、もし、

 

「いや、私にも何が何だか、まさか、私にシステム的不死を付与して、私を茅場と見たてようとしているのか?」

 

 的なことを言われるとお終いですが、まさかそんな、ラスボスたるヒースクリフさんが見苦しい言い訳なんてするはずありませんからね。

 

 自分じゃないんですからー。

 

「不死属性を持つ可能性があるのは、NPCでもなければシステム管理者以外あり得ない、つまりそういうことだ」

 

 ヒースクリフさん、ボス戦後、油断してポーション飲まないからこんなことになるんですよ。

 まあ、ボス戦後にいきなり攻撃されるなんて思いませんから、仕方ありませんね。

 

「ずっと、ずっと探していた、他人のやってるRPGを傍から眺めるほどつまらないものはないだろう? だからこそ、必ずプレイヤーに、攻略組に紛れ込んでいると思っていた、やっと尻尾を見せたな? 茅場晶彦!」

 

 因みに自分、他人のRPG見てるの普通に好きです。

 

 自分が操作しないで済むっていうことは労力の削減ですし。

 

 サクサク進むなら見てて面白いし、グダグダならザッコ、苦労してんな、はっ、てなるし、単調なレベル上げしてるなら、大変そうだなー、ドンマイ! ってなるし、大体なんでも楽しめますよ? 

 

 敵が強くて、死んだ仲間をおいて逃げ出す様を見て、あーあ、あのあと捨て置かれた仲間はきっと……とか。

 考えてるだけで楽しくなりません? 

 

 何事においても楽しみ方さえ分かっていれば大概のものは楽しめますよ? 

 

 え? 自分は他人のゲームを見ているのが一番楽しいのか? ですって? 何言ってるんですかー。

 

 自分がゲームしている瞬間が一番楽しいに決まってるじゃないですかー! 

 他人のやってるゲームを見る? 時間のムダだねぇ! 

 

 ……でも楽しい。

 

「……なぜ気付いたのか参考までに教えてもらえるかな……?」

 

 きたっ、問答タイム! 

 ここで何でもいいんで、ひたすらにヒースクリフが茅場だと言うことを証明していきます。

 

「俺が何のために、アストグリフを両手剣ではなく、片手剣だと偽っていたと思う?」

 

「……やはり、か」

 

「俺がアストグリフを手に入れたのは、キリトの言う通りレアモンスターのレアドロップからだった、そして、アストグリフは両手剣にしては短かった、その時、俺はアストグリフを片手剣と偽ることを思いついたんだ」

 

 こーじっつけー! むーりやーりむーりやーりこーじっつけー! 

 

「アストグリフは入手難易度的に情報を伏せれば、誰も入手できないはずと考えた、だからこの武器のことを知っているのは、この世界では自分と、開発者たる茅場だけになる、つまり! 俺以外でこの武器が両手剣だと知っている奴が限りなく怪しくなる、そしてこの武器を両手剣だと言ったのは、ヒースクリフ、お前だけだった」

 

 まるで最初からこれを狙っていたかのように言っておりますが、

 

 全て偶然です。

 単なる自己保身を考えての行動が、何故か茅場を追い詰める材料になっていたでござる! 

 ラッキー! 

 

「俺は聞いたよな? 誰かがこの武器を両手剣だとでも言っていたのか? と、その時お前は誰かに聞いたわけじゃない、と答えていた、つまり! お前はアストグリフを両手剣だと知っていたから、ボロが出たんだ! 勿論、これだけなら偶然と言う可能性もあるさ、だがな、これだけじゃないぜ?」

 

 まだ俺の問答フェイズは終了してないぜ! 

 

「まず第一に、ユニークスキルなんて持ってるやつは怪しいんだよ、人っていうのはな、特別を求めるものなんだ、誰かの特別になりたい、自分だけの特別を持ちたい、そう言った願望を捨てきれない、だからこそ、この世界の全てを自由に出来る茅場は、何かしら目立つ存在だと考えていた」

 

 ずっと自分のターン! 

 

「ヒースクリフは特別な力を持って、人々を救う攻略組の希望の星として君臨していた、まさに、人の願望って感じだろう? ま、その点で言えば、キリトも怪しくなるが、キリトとお前では、気迫が違ったんだよ、キリトは真剣に、命をかけてボスを攻略していた、仲間を助けるときも、命をかけて! だがヒースクリフ、お前は、その冷静な仮面の裏側で、どこか楽しんでいるようだった、当然だよな? お前が願っていた願望が、叶い続けているんだからな」

 

 え? 無理やりが過ぎるって? 

 いいんですよ! なんかそれっぽいこと言っておけば! 

 

「だが、それでも決定的な証拠だけは見つけられなかった、だからこそ、ここで賭けに出ることにしたんだ」

 

 すぅ、

 

「俺が、茅場を名乗るという、賭けに」

 

 キリッ! と! 

 

 決まった。

 

 勿論賭けてなんていません。

 自分が茅場を名乗ったのは、完全に遊ぶつもりででした。

 それがまさかこんなことになるとは、人生わからないものですね。

 

「勿論、俺の推理が外れていて攻略組に茅場がいなければ、全ての責任を取って死ぬつもりだった」

 

「……それは、君の残り命が少ないから、かい?」

 

 ……ん? 今の発言、おかしくありませんでしたか? 

 ……あれ? 

 ま、いっか。

 

「……もう、限界なんだ、分かるんだよ、俺のリアルの体がどうなっているか、後何日生きられるのかがな、俺は、あと持って数日の命だ、だからこそ、ここで茅場を引きずり出すか、茅場を名乗って死ぬつもりだった、茅場を名乗った俺が死んだところで、ゲームクリアはされないだろうが、誰かが俺の死を悲しむ、なんてことは無くなるからな」

 

 自分のアバターは130センチでとても細く、虐待を受けていた設定ですからね、1年半近くも生きられたこと自体が奇跡なんですよ。

 という設定……あ、

 

 ……あ! やっば! これまずった! やらかした! ここにきて痛恨のやらかし! ああああ!!! 

 

 茅場は自分のアバターがリアルのアバターじゃないことを把握してるじゃん! 嘘ついてるのバレたじゃん! 

 

 やっべぇぇぇぇぇ!! 

 うっはぁぁぁあ!!?!? 

 

 あーあ、なんかせっかく流れが来てたのに。

 

 いったいミスだなぁー。

 これリカバリー効くか? 無理じゃね? 

 

「それに関しては、申し訳ないとは思っているよ、SAOを販売時、体の弱い人はゲームを行なってはいけないという文言を付け加えておくべきだった、途中退場というのは、悲しいからね」

 

 ……ん? あれ? 思ってたのと違う。

 おや? ゲームマスターである茅場さんは、自分のアバターがリアルの体じゃないってことは把握してます、よね? 

 

 してないの? え? 嘘でしょ? 

 

 じ、自分を騙そうとしているんだな!? そうなんだろう!? 分かってるんだからな! 

 ……本当にわかってないの? 

 

 ……やったー! ラッキー! 

 

「ああ、だからこそ、攻略組に紛れ込んでいる茅場を炙り出すために、俺は茅場を名乗ったんだ、勿論、ただ茅場を名乗るだけなら信憑性が薄いが、キリトが協力してくれたからな」

 

 キリトさんあざっす! 

 

 いや、元々キリトさんが茅場を倒してくれればそれで終わってたんで、あざっすじゃないのか? 

 まあいいや、協力感謝っす! 

 

「もともと、キリトは俺の協力者だ、俺が茅場を名乗ることの信憑性を上げるために、2人で演技してたんだ、お前を炙り出すためにな!」

 

「……演技だと?」

 

 つまり! 先ほどキリトさんに問い詰められたことや、自分が茅場を名乗ってからの発言は、全て演技! 事実無根! 

 キリトさんと共同の演劇というわけだったのさぁ! 

 

 ということにします。

 

 キリトさんは今麻痺しています。つまり囁き声しか出せません。

 レベル5麻痺なら、ポーションを飲んでもすぐに回復するわけじゃないので、この問答の間くらいは麻痺していてくれることでしょう。

 

 つまり! 今は何を言ってもキリトさんに反論されない! 

 何を言っても許される! ひゃっほぉーい! 

 

「茅場を名乗れば、絶対に一人だけ反応が違う奴が現れる、何故ならたった一人、そいつだけは本物の茅場が誰かを知っているんだからな!」

 

 実際はちょっとよくわかりませんでしたが、こう自信満々に言い切れば、少しでもボロが出た自覚があったら、否定しきれませんからね。

 

 言ったもん勝ち! 

 

「勿論、キリトとのデュエルは互いに全力でやった、どちらが死んでも恨みっこなしの、遊びでも演技でもない、本当の命をかけた全力のデュエルをな、茅場を炙り出すにはそれくらいしなければ無理だろうとキリトと二人で結論づけた、だからこそ、最後の最後で化けの皮が剥がれたな、茅場!」

 

 言ったもん勝ち! 

 何度でもいうぜ! 言ったもん勝ち! 

 

 世の中声がでかい奴が勝つんだよぉー! 

 

「デュエルの最後、何故キリトを助けに動かなかった? おかしいよな? お前は、お前だけは必ず動かなければならなかった」

 

 何故なら。

 

「お前は言っていたよな? 「仲間の命が助かる確率が1パーセントでもあるなら全力でその可能性を追え、それが出来ないものにパーティを組む資格はない」ってな、だからあの場面で、ヒースクリフが動かないはずがないんだよ……だが、お前は動かなかった! ……それが答えだ!」

 

 先ほど茅場は、演技だと? と驚いていましたよね? つまりあの反応が演技だと見破れていなかった証明なので、演技だと見破ったから動かなかった、という言い訳は無効です。

 まあ、キリトさんは演技なんてしてませんでしたからね。

 

 さあ! どうだ!? 

 

「……なるほど、君の策にまんまとハマってしまったというわけ、か」

 

 認めましたね。

 

「そうだとも、私が真の、茅場晶彦だ」

 

 さあ、ここからどうなるか! 

 

「貴様……貴様が……俺たちの忠誠──希望を……よくも……よくも……」

 

 お!? 動いてくれるの!? 結構周りはまだ混乱してますが、彼は巨大なハルバードを握りしめ、

 

「よくも────ッ!!」

 

 茅場に襲いかかってくれました! 

 ナイッスー! いいね! 

 

 ここで茅場さんは左手を振り、出現したウインドウを素早く操作して、いつもはキリトさん以外の全員を麻痺状態にします。

 

 でも今回は、自分以外を麻痺状態にしました。

 ……いーなー、チートずるい、自分もやりたい。

 ……自分も左手だったらなー。

 

 というか、この流れ、もしかして来たのでは? 

 

「……全員、口封じでもするつもりか?」

 

「いいや、そんな理不尽な真似はしないさ、元々の予定では攻略が95層に達するまでは正体を明かさないつもりだったが、こうなってしまっては致し方ない、予定を早めて、私は最上層の紅玉宮にて君たちの訪れを待つことにするよ、90層以上の強力なモンスター軍に対抗し得る力として育てて来た血盟騎士団、そして攻略組プレイヤーの諸君を途中で放り出すのは不本意だが、何、君たちの力ならきっとたどり着けるさ、だが……その前に……」

 

 き、き、き、

 

「ヒャッカ君、君には私の正体を看破したリワードを与えなくてはな、チャンスを与えよう、今この場で私と一対一で戦うチャンスを、君がキリト君に言っていたのと同じようにね」

 

 キタァァァァァァァァァァ!!!!! 

 

「無論、不死属性は解除する、私に勝てば本当にゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウトできる……どうかな?」

 

 やりますやりますやりますやります! 

 

「いいだろう、決着をつけよう」

 

 っしゃぁぁぁ!! 第4関門突破ぁぁ! 

 ここで勝てばクリア! ここで勝てばクリア! 

 見えて来た! ついに目の前にクリアが見えて来た! 

 

 でも、相手はゲームマスターの茅場。

 

 これは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 余裕っしょ! もうクリア行ったな! 

 だって? 自分超本気モード対人戦特化型キリトさん倒してますから? 

 

 ヒースクリフを倒したキリトさんを倒した自分、つまり既に自分、ヒースクリフを倒したことになってるわけだから? ま、結果は見えてますよね! 

 

 自分最強! 自分最強! 

 

 茅場? 余裕ー! 楽勝楽勝! 

 戦えさえすれば余裕なんすわ! 

 

 勝ったな。



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第39話 VS茅場

 いやー、勝ったな、ここで負ける要素が何もないですよ! 

 この流れでどうやったら負けるのか逆に知りたいくらいですわー! 

 

 じゃあ、勝った後のこととかも考えておきましょうか! 

 とは言っても、勝てば終了なんですがね! 

 

 でも茅場さんは魔王で、自分が勇者な訳ですから、ちょっと勇者らしい行動を心がけておいたほうがいいかもしれませんね。

 やっぱり茅場さんは勇者を求めていると思うんですよ。

 

 で、もしかしたら、茅場さんは、自分が親切な女性に対して行なっていたことや、レッド、オレンジプレイヤーからコルを強制徴収して口封じしていたことを知られていない可能性だってあるわけですよ。

 

 なので、ここで油断して自分の本性を見抜かれて、やっぱりゲームクリア無しねー、君は勇者っぽくないからー、とか言われて第100層に茅場さんが引きこもってしまったら最悪ですから、勇者らしい行動を心がけましょう。

 

 ま、勝ちは確定なんでね! 

 でも勇者らしい行動? 

 

 ……キリトさんの真似をすればいいのか! 

 よし! 

 

「キバオウ、さっきはすまなかった」

 

「っ! 謝る必要あらへん! わいは信じてたで! ヒャッカはヒャッカやって!」

 

「お前がデュエルを挑んで来てくれたおかげで俺は強くなれた、その恩はここでの勝利で、ゲームクリアで必ず返す……本当にありがとう」

 

「そうや! ヒャッカの実力はわいが一番よう知っとるんや! 負けへん! 負けるはずがあらへん! 勝って来いや!」

 

「ああ、勝つよ……サツキさん、さっきは……サツキさん?」

 

「ヒー君は、ヒー君、嘘、あれは偽物、偽物……なら、本物は? ヒー君? どこ? ヒー君? いや、私が、人を、こ、ころ、違う、でも、ヒー君……助けて……ヒー君……あ、ああ、ヒー君、嫌っ、ヒー君ヒー君」

 

 サツキさんこれまでの話なーんにも聞いてねぇーやー。

 まーだ精神崩壊して完全に上の空ですよこれ。

 

 放置してぇ、もうそのまま茅場と戦ってエンディング行きたいなぁ。

 

 でも茅場さん、こっち見てるんすよ。

 だからここで放置して、

「なるほど君には勇者の資格はないな、では、第100層でまた会おう」

 とか言われたら最悪だから、声かけないとなぁ。

 

 とりあえずまずは正気に戻しましょう。

 

「サツキ!」

 

 肩を掴んで無理やりこちらに振り向かせます。

 女性にこんなことをすれば当然……あれ? 

 

 ……ハラスメントコード押さないよね? 

 そんな空気の読めない真似、しないよね? 

 

 やらかした? 自分? 

 

 さ、サツキさんが、そ、そんな真似しないでしょ! 

 でも今サツキさん、精神的に不安定な状態ですよね? しかも多分サツキさんの認識では、自分=茅場になってるっぽいですし。

 

 ここでハラスメントコード食らって黒鉄宮に強制転移させられたら……うっわ、この場の空気すごいことになりそうですね。

 

 見たい! でもやったら自分黒鉄宮に送られるから見れない! 

 残念! 

 

「聞いてくれ、俺はいつも、サツキに助けられて来た、体も、心も、サツキがいなかったら、俺はもうとっくに死んでいたか、心が折れて立ち上がれなくなっていた、本当に、ここまで来れたのはサツキがいてくれたからだ、だからこそサツキだけはなんとしてでもリアルに返す、ここで茅場を倒してな……サツキ、ここで見守っていてくれ」

 

「……え? ……ヒー、君?」

 

「さようなら、お姉ちゃん」

 

「……本、物? あ、れ? 体が、動かな、い?」

 

「さぁ、やろうか」

 

「ああ」

 

 茅場さんは、ここで二人のHP残量をレッドゾーンギリギリ手前、強攻撃のクリンヒット1発で決着がつく量に調節してくれます。

 

 そして、不死属性を解除して床に突き立てた長剣を抜き、十字盾の後ろに構えました。

 

 いやー、HPゲージを調整してくれる茅場さんマジ公平ですよ。

 自分はキリトさんとHP差が2倍以上の状態で戦いましたからね。

 

 自分との格の違いを見せていくぅー! 

 

「最後に一ついいかな?」

 

「……なんだ?」

 

「君は何故、レベルアップボーナスの割り振りをしていないんだい?」

 

 ああ、当然それは茅場さん分かってますよねぇー。

 他人のステータスを無断で覗き見るなんて! キャー! 

 

 大変だ大変だ大変だー! 

 変態だ変態だ変態だー! 

 

「ソードスキルを使わない理由は聞かせてもらったよ、だけど、レベルアップボーナスを割り振らない理由が何度考えても分からなくてね、何か理由があるのかい?」

 

「……割り振らない? 違う、割り振れ無いんだよ!」

 

 ほんとふざけやがって、メインメニューさえ使えたらこんな苦労することなんてなかったのに! 

 

「割り振れ無い? どういうことだい?」

 

「いいだろう、そんな些細なこと、さぁ、やるぞ……ただ、どうしても知りたいっていうのなら、きっと」

 

 お前が知りたいと願うなら。

 

「優しい優しい、運命と時の女神が教えてくれるさ!」

 

 戦闘開始! 

 

 何故ここまで自分が勝利を確信していたと思いますか? 

 自分がただ油断していただけとか思っていませんか? 

 

 違うんですよねぇ、この戦いで、自分が負ける訳がないんですよ。

 

 確かに? 自分はマジモードの茅場さんとは戦ったことはありません、ですが、ヒースクリフとは何度も戦ったことがあります。

 

 それに、キリトさんと茅場さんの本気バトルは数え切れないほど見てきました。

 

 だから動きのくせとかは完全に把握してるんですよ。

 

 それに、今の自分の装備、わかりますか? 

 アストグリフとアスナさんの細剣、つまり二刀流です。

 

 自分が一番得意なのは、二刀流です。

 普段使いは縛りバレが怖いので出来ませんが、何度でも言いましょう! 自分の一番得意なものは二刀流です! 

 

 この世界に来て二刀流を練習しない訳がないんだよなぁ。

 まぁ、すぐにメインメニューが使えなくて絶望しましたが。

 

 でも、二刀流はロマンですよね! 

 だからキリトさんより二刀流の扱いはギリギリ上手い自信があります。

 自分とキリトさんとでは、練習年数が桁違いですからね! 

 ……それで何でギリギリなんですかねぇ? 

 ま、いいや。

 

 そして! 茅場さんは舐めプなのか公平性を重んじているのかは分かりませんが、両者のHPを毎回必ずレッドゾーンギリギリ手前に調整します。

 

 つまり1撃か2撃与えればいいだけの簡単なデュエルです! 

 この勝負、負けるわけないんだよなぁ。

 というわけで! さっさと終わらせましょう! 

 

 おぅるぁ!! こ・れ・で! 終わり! 

 

 キィーン! 

 

 ……あれ? 

 防がれました。

 

 ……ま、まあ、たまにはこういったことも起こり得ますよね。

 ふ、偶然自分の攻撃を防いだからって、いい気になるなよ茅場ぁ! 

 

 右、左から、ここで! 

 

 キィーン! 

 

 防がれました、

 

 シュッ! 

 

 危な! 今死にかけた! 目の前を剣が掠めて行ったよ!? 本当に死にかけたよ!? 

 

 こ、これがダメなら! これならどうだ! 

 

 キィーン! キィーン! 

 

 シュッ! シュッ! 

 

 キィーン! 

 

 シュッ! シュッ! 

 

 シュッ! シュッ! 

 

 シュッ! シュッ! 

 

 ……強っ。

 

 ば、馬鹿な!? ありえない!? 自分は勇者だぞ!? 勇者が魔王に負ける訳ないんだ! 何かの間違いだ! 

 てか動きが違うし!? いつもよりめっちゃ強くなってるし!? 

 何この茅場!? 

 

 神聖剣は盾にも攻撃判定があるため、攻撃を防がれるたびに自分のHPがどんどん減っていってます。

 自分には武器防御スキルありませんからね。

 

 ……やっば、これ勝てなくね? え!? なんでこんなに強いの!? おかしいよ! ゲームバランス狂ってるよ! こんなラスボス誰も倒せないよ!? 

 なんで茅場も強化されてるんだよぉぉぉぉ!!! 

 

 ……あ、キリトさんが茅場を倒したからか。

 

 それでみんなが古い伝説古い伝説、って煽ったから、キリトさんに勝つため、そして新たな伝説を築き上げるために、茅場さん、隠れて猛特訓とかしてたのかな? 

 

 めっちゃ古いこと気にしてましたからね、茅場さん。

 

 ……うっそだろ。

 キリトォォォォォ!! 本当なんてことしてくれてんだぁぁぁぁぁぁ!!! 

 

 やめて! 殺さないで! もうすぐクリアなのに! 

 こんな希望を持たせておいて絶望に叩き落とすなんて趣味が悪いぞ! 茅場ぁ! リセットは嫌だぁぁぁぁぁぁ!! 

 

 お願いします! 茅場様ぁ! どうか手加減してください! 親切な女性が主演女優の超大作映像、[君の縄]をあげますから! どうか! 

 って、ああああああああ!!! 挑発のためにキリトさんに投げ渡してたぁぁぁぁぁ!!!! 

 

 終わりだよー。

 

 

 ………………

 

 

 ヒー君が、戦っている、本物のヒー君が。

 私のために、私だけのために。

 

 なのに、私は何をしているの? 

 なんで、私の体は床に寝転がったまま、動かないの? 

 

 私は誓ったのに、何があっても、どんなことがあっても、ヒー君だけは必ず守ると。

 それなのに私は、また守られている。

 私はお姉ちゃんなんだから、ヒー君を守らないといけないのに。

 

 ……でも、体が動きません。

 

 私が強くなったのは、必死にレベルを上げたのは、ヒー君を、どんな脅威からでも必ず守り抜くためなのに。

 

 それなのに、それなのに! 私は! 

 

 ……動かない。動かない、私の体は、動かない。

 

 ……本当にそれでいいの? 

 

 ヒー君が、だんだんと、茅場に追い詰められて来ています。

 このままでは、このままでは! ヒー君は! 

 

 いや! 嫌! 絶対に嫌!! ここで寝ているわけには、いきません! 

 

 動いて! ヒー君を! ヒー君を守らなきゃ! 私が! どんな脅威からも! 必ず! 

 動いて、動いて! 動けぇぇぇぇ!!!! 

 

 ヒー君!!!!! 

 

 ヒー君を守れるなら、ヒー君を守ることができるのなら、この命! 惜しくはありません! 

 

 私は、茅場の凶刃にその身を晒し、そして……

 

 ザクッ! 

 

 ……私は、ヒー君を、まもれた、で、しょ……う、か……

 

「ヒー、君」

 

 ……………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、盾ラッキー! 

 

 オラァ! 死ね茅場ぁ! 

 

 ザクッ! 

 

 っしゃぁぁぁ!!!!! 勝利ぃぃ!!! 自分の勝ちぃぃぃい!!!! 

 

 自分最強! 自分最強! 

 強化された茅場? よゆぅぅぅぅ──!! 

 

 いやー、ラスボス弱かったですねぇ、バランス調整ミスってますよ! ラスボス名乗るなら、もっと強くないと! ゲームマスター、しっかりしてくださいよ! 全く! 

 

 ……え? サツキさんがいなければ負けていたのは自分だろうって? 

 何言ってるんですか? 

 

 全て込み込みで自分の実力なんですから、自分が茅場に勝ったことは間違いないじゃないですか? 

 アストグリフがあったから勝ったとか、レア防具してるから勝ったとか、そう言った変な難癖と同じですよ? 

 

 勝ちは勝ち! 勝ったものが正義! 自分が正義! 

 

 正義! 正義! 正義は自分! フゥー! 

 

 っと、危ない危ない、ここで素直に喜ぶのは勇者らしくないですね。

 もしここではしゃいで、勇者にふさわしくない、と茅場さんに思われてゲームクリアを無効にされたら最悪ですから、形だけでも整えておきましょう。

 

「……何で、何で俺を庇ったんだ! サツキィィィ!!! あああああああああああああああああ!!!!」

 

 しゃぁぁぁああああああああああ!!! 勝ったああああああああああ!!! 

 

 ゲームはクリアされました──ゲームはクリアされました──ゲームは……



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第0話 神様転生

 シャアルです、珍しく連続更新です。

 

 皆さんに聞いて欲しいことがあります。

 最近自分、仕事のしすぎで幻覚が見えるようになりました。

 幽霊かな? 透明ですし。

 自分にこんな霊感があったのか……

 

 しかし美少女! いいね! 

 仕事の疲れから変なものを見ているというのはわかっていますが! 美少女が見えるなら何だっていいですよね!! 

 

ぼ、僕が美少女だなんて、そんな当たり前のことわざわざ言わなくてもいいんだよ?  

 

 でも、どうせ見えるなら自分好みの幽霊が見えて欲しかったですよねぇ、じぶん、SA○のシノンとかみたいにクールなキャラが好きなんですよ、だからシノンが見えて欲しかった。

 

 全く、分かってないなぁ。

 

……ふぅーん

 

 え? ボクっ娘が嫌いか、ですって? 

 

 当然大好きです! 

 いいですよねボクっ娘! 良くないですか? 

 大好きです! 大好きです!! 大事なことなので2回言いました! あれ、3回? まあいいや、最高! 

 幻覚? 幽霊? 大いに結構! こんな美少女が見えるなら自分勝ち組だぜ! 

 

……ふ、ふーん、そうなんだ

 

 という自慢がしたかったから、連続更新しました。

 では、本編をどうぞ。

 

 ───────────────────────

 

「……ん? ここどこ?」

 

 確か、小説を更新して、それでベッドで眠ったはずだったんだけど? 

 辺りは見渡す限りの白、なんか凄い。

 

 ……夢か。

 

「やぁ、こんにちは」

 

「ん? おはよう……? あ、幽霊だ!」

 

 あれ? でも幽霊が透明じゃない? 実体化? おお!? 

 

「ううん、僕は幽霊じゃないよ、神だよ」

 

「おお! 自分のこと神って言うボクっ娘幽霊だ!」

 

「僕は幽霊じゃないよ! 神だよ!」

 

「透明じゃなくなったからって、幽霊は幽霊じゃないの?」

 

「だから! もともと僕は神なの! 幽霊じゃないの!」

 

「頑なに自分を神だと思い込んでる幽霊だ!」

 

「幽霊じゃないよ! 神だよ!」

 

「透明だったのに? 幽霊だったのに?」

 

「透明=幽霊じゃないよ! ただ現世への接続を最低限にしていたから姿が透明だったの! 他の人に見られたら面倒だったし!」

 

「現世への接続、死者の国からの接続? やっぱり幽霊じゃないか!」

 

「違うよ! 僕は神だよ!」

 

 ………………

 

「神!」

 

「幽霊!」

 

「神!」

 

「幽霊神!」

 

「幽霊外してよ!」

 

「神!」

 

「そう!」

 

「神幽霊!」

 

「違う!」

 

 ………………

 

「神!」

 

「神!」

 

「神!」

 

「神!」

 

「神!」

 

「神!」

 

「……あれ? いいんだよね?」

 

「神!」

 

「うん、僕は神だよ」

 

「おお! 神!」

 

「大神じゃないよ、神だよ」

 

「狼?」

 

「獣じゃないよ、神だよ」

 

「神!」

 

「……ふふっ、そう、僕は神だよ」

 

「神!」

 

「今僕は気分がいいんだ、だからね、君の願いを叶えてあげようと思ってね」

 

「神!」

 

「そのついでに、僕のお願いも、聞いて欲しいなって」

 

「神! なになに? 迷子? 安心して! 自分も迷子だから! ここどこか知らないし!」

 

「それのどこに安心できる要素があるのかな?」

 

「ほら、自分だけじゃないって思えば、なんか頑張れる気がするでしょう?」

 

「そう? ……そっか、じゃあ、他の人も……」

 

「どうしたの? 神?」

 

「ううん、君、昨日願ってたでしょ? SAOやりたいなーって、だから僕がSAOのある世界に転生させてあげるよ!」

 

「おお! まるで夢みたいな話だ! ……あ、夢か」

 

「夢じゃないよ?」

 

「え? だって頬をつねったら……痛いよ? うん、夢だ」

 

「夢なら痛くないんじゃないの?」

 

「あ、そっかぁ……うん、夢だな」

 

「現実逃避はやめようね」

 

「はーい」

 

「僕は世界の創造は専門外だから出来ないけど、デッドコピーくらいなら出来るから、SAOのコピー世界に君を転生させてあげる、しかも! 特典もつけてあげるよ!」

 

「おお! 特典! なになに!?」

 

「そうだね、まず君はずっとSAOを遊んでいたいって言ってたでしょ? だから、ずっと遊べるように時間を巻き戻すリセット能力を上げるよ! 僕は運命と時の女神だからね」

 

「おお! 凄い!」

 

「で、君はSAOをやるなら、なんの武器種を使いたい?」

 

「二刀流!」

 

「そう、じゃあ二刀流のスキルを強化しておいてあげるね」

 

「神!」

 

「うん、僕は神だよ」

 

「ああ、さっきの神は、褒め言葉の神だから」

 

「そう? ありがと! じゃあ、あと2つ! なんでも好きな特典をあげるよ!」

 

「最強になりたい! あと超絶イケメンになりたい!」

 

「うん、じゃあ、肉体を最強にしておいてあげるね、あと容姿もイケメンに……うーん、でも、美醜の感覚は人それぞれだから……そうだ、リアルの体は僕の好みにしておいて、彼のSAO内でのアバターを自由にクリエイトできるようにしてあげよっかな、茅場のアバターの強制変更措置を僕の力で割り込んで、彼だけはゲーム内アバターのまま遊べるように、うん超絶イケメンにしてあげるね」

 

「やったー!」

 

「あと、長時間プレイに耐えられるように、魂の保護もしてあげるよ!」

 

「やったー!」

 

「その代わり、君にはRTAをやって貰いたいんだ」

 

「RTA? なんだっけ? リアルタイムアタックだっけ?」

 

「そう! 最近僕、それにハマっちゃってね、SAOにリアルに入ってタイムアタックして欲しいんだ! あ、勿論十分SAOの世界を楽しんだ後とかで構わないよ?」

 

「ん? それRTAじゃなくない? まあいいか……うーん、だけどなぁ」

 

「あれ? 何か嫌なことがあった? こんなにもサービスしてあげているんだよ?」

 

「いや、なんか夢とかじゃなくてマジっぽい話だし、真面目に考えてみたんだけど、やっぱり転生はいいかな、ごめんな」

 

「……なんで、ねぇなんで? なんでなの? ねぇ?」

 

「確かにSAOやりたいなーって思ったりはしたけど、実際に転生してSAOやるってなると、家族と離れ離れになるんだろ? かと言って家族も一緒に転生させるなんて嫌だし、まあ、こう言うのは妄想だから楽しいんであって、現実になったらあれだろうからな、悪いけど」

 

「……君に、家族がいるから、現世に繋がりがあるから、ダメ、なんだよね? ……なら」

 

 パチン! 

 

「SAO、やってくれるよね?」

 

「だから自分には……自分には……家族……が……?」

 

「何を言っているの? 君には元々」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「家族なんていないじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、だったな」

 

「うん! 君には現世に、家族どころか、友人も、恋人も、誰一人いないじゃないか! だから、いいよね? SAO、やってくれるよね?」

 

「あ、ああ」

 

「はい決まり! じゃあ、細かいことを説明していくね、まず、RTAをやってもらうんだから、目標時間を決めないとね! うーん、そうだね……何もしなくとも2年間でクリアされるから……1年半以内! どう?」

 

「え? 楽勝じゃね?」

 

 だってヒースクリフ倒せばいいだけでしょ? 1年半なんてかかりようがないよな? 

 

「君には簡単だったかな? まあ、とりあえず目標時間は1年半! これ以内にクリアを目指してね!」

 

「はーい」

 

「じゃあ次に、時間を巻き戻すリセット能力の説明をするね、この力は、SAOの正式サービス開始の6ヶ月前から、SAOの正式サービスのチュートリアルが始まる前までの間の好きな時間まで時を巻き戻せる力なんだ」

 

「え? その間だけなの? ゲーム中に1時間だけ巻き戻すとかはできないの?」

 

「出来ないよ、だってそれはセーブ&ロードみたいなものじゃないか、SAOはオンラインゲームだよ? オンラインゲームでセーブ&ロードは出来ないでしょ?」

 

「う、うん、まあそうだけど、ああ、だからリセット能力ってことか」

 

「そう、で、この能力が発動する条件は、任意発動の他に、チュートリアルまでにSAOをプレイしないこと、RTAの目標タイムまでにクリアできず、SAO開始から2年半が経過すること、目標タイムを過ぎてからゲームをクリアすること、そして死ぬことだよ」

 

「……えっと、なんか色々条件があるな、で、任意発動の方法は?」

 

「とある動作を、まあ、やってみればわかるよ、あと君の他にも走者を用意するね」

 

「走者?」

 

「うん! 君の現世から適当に誰か選んで、君を送る世界とは別の世界で、同じようにSAOでRTAをしてもらおうと思うんだ! それで、他の人にタイムが抜かれたら再走ね」

 

「さいそう?」

 

「さあ! 僕の手を取って! SAOの世界に連れて行ってあげるよ!」

 

「あ、ああ……っ、……」

 

 本当に、いいのか? 

 

「どうしたの?」

 

 ……

 

「違う」

 

「え?」

 

「……違う違う違う! 自分には……自分には、家族が、っぐっ」

 

「……へぇ」

 

「がぁぁぁぁぁ!!!!! ……自分には……家族がいたはずだ!」

 

「……すごいね! まさか僕の強制運命改変に抗うなんて! ますます君を気に入っちゃったよ!」

 

「自分に、何をした!」

 

「君の運命を、現世に誰との繋がりもない人生を歩んできた運命に書き換えただけだよ?」

 

「何だと? ……ふざけるな! 勝手に自分の人生を書き換えやがって! 自分には家族がいたはずだったのに! 家族だけじゃない! 自分には、友人も沢山いて! 恋人だっていたはずなんだ!」

 

「……え? 君には元々、友人も恋人もいないよ?」

 

「……え? そうなの?」

 

「うん」

 

「……そっかぁ」

 

「じゃあ、行こっか?」

 

「……うん」

 

「あ、因みに、昔は君にも友人がいたらしいよ? LIN○と一緒に消えたみたいだけど」

 

「……え?」

 

「まあ君の運命は、昔にも誰一人友人がいなかった運命に書き換えちゃったけどね! じゃあ、行ってらっしゃーい!」

 

「……おいこらまてこのくされ」

 

 

 ……………………

 

 

 ついに、SAOの正式サービスが始まる。

 

「楽しみだなぁ、あの神は許せないけど、SAOはずっとやりたかったからな! よし! リンクスタート!」

 

 

 ……………………

 

 

 よし! 遊ぶぜー! 

 なんせ神から最強の体をもらってるからな! 

 

 ……って! リアルの体が最強でもゲームには何の反映もされねぇじゃねーかよぉぉぉぉぉ!!!! 

 

 違うんだよ! リアルの体を最強にして欲しかったんじゃないんだよ! ゲームで最強になりたかったの! 

 この平和な日本で! リアルで最強でも何の意味もないだろ! 

 

 ……ま、まあいい、超絶イケメンにはしてくれていたからな。

 許してやらないこともないかな? 

 

 ……いや、許せないなぁ。

 

 まあ、あんな神のこと考えるのなんて時間の無駄だ! 

 遊ぶぞー! 

 

 えっと、まずスキルスロットにスキルを入れるから、メインメニューを開いて

 

 

 ………………

 

 

 ん? あれ? 何でログアウトしてるんだ? ん? バグ? 

 

 まあいいや、もう一回SAOやるか。

 

 

 ………………

 

 

 さて、まずメインメニューを開いて

 

 

 ………………

 

 

 あ? またログアウト……違う、これ、時間戻ってる? 

 

 ……は? ……あ。

 

「任意発動の条件は?」

 

「とある動作を、まあ、やってみればわかるよ」

 

 ……あの神、リセット能力の任意発動とメインメニューを開く動作を被らせやがったぁぁぁぁ!!!!! 

 

 ざっけんなぁあああああああ!!!!! 



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最終話 終わり!

 ……ん? ここはどこでしょうか? 

 確か、茅場を倒して、ゲームクリアしたはずだったのですが……

 

 この世界にやってきて恐らく数万年くらいは経っているとおもいますが、この場所は見覚えないですね。

 

 透明な床、赤く染まった雲、そして、遠くに見えるアインクラッドの外観。

 自分の体を見てみると、最終装備のままの姿ですが、体がわずかに透き通っています。

 

 ……あれ? これ、何だったか、確か、ゲームクリア後にキリトさんとアスナさんがきた場所、でしたっけ? 

 

 やっぱりクリアしてるのか。

 

 ……やったぁぁぁぁぁぁ!!!! ついにクリアしたぞー!!! 

 

「ヒー君!」

 

 あ、サツキシールドさ……サツキさんだ。

 サツキさんの体もわずかに透き通っています。

 

 幽霊かな? 

 

「……ヒー君も、死んでしまったのですか?」

 

「いや、違う、俺は茅場を倒した、サツキのおかげで、ゲームをクリアできた」

 

「そう、なのですね、良かった」

 

「……なんで、なんで俺を庇った? ……俺は」

 

「例え私が死んでも、ヒー君を守れたのなら、私はそれだけで満足です」

 

 あ、そう? じゃあ成仏してね。

 

 とは言っても、アスナさんはここにきて生きていたわけですから、サツキさんもきっと生きているんでしょうね。

 

「なかなかに絶景だな」

 

 サツキさんをとある部分を見ての発言だったら、なかなかに危ない発言ですよ、茅場さん。

 いや、別にサツキさんは際どい格好をしているわけではありませんが。

 

 茅場さんは、ヒースクリフのアバターではなく、リアルの茅場の姿です。彼の体も透き通っています。

 

 他所から見たら半透明の三人、幽霊の集会に見えなくもないかもしれませんね。

 

 遠くに見えるアインクラッドは、現在崩壊し続けています。

 

 アインクラッドの崩壊を見ていると、やっと終わったんだなって思えますよね。

 達成感が半端ないです。

 でも、正直なところ、かなり寂しいです。

 

 現実よりも長い間SAOで生活していましたからね、言ってしまえばもう自分の故郷といっても過言ではありませんから。

 

 ……あれだけ遊んだのにも関わらず、ほんの少しだけ、まだ遊びたかったという思いもあります。

 まあでも、十分遊んだので、いいですがね。

 

まだ、やりたい? 

 

 

 ……………………

 

 

 いつのまにか辺り一面、真っ白な景色が広がっていました。

 

 この、景色は……この、場所は……

 

「やぁ!」

 

「神ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」

 

「やだなぁー、そんなに褒めないでよ」

 

「褒めてねぇよ! 今の神は褒め言葉の神じゃねぇよ! ゴッみ!」

 

「照れなくてもいいんだよ?」

 

「照れ隠しじゃねぇ! ゴッみが! 死ね!」

 

「酷いなぁ、僕は君の願いを叶えて上げて、特典までつけて上げたじゃないか、最強の肉体に、超絶イケメン、二刀流の強化に、リセット能力、こんなにもサービスしてあげたんだから、感謝してくれていてもいいのに、何が不満なの?」

 

「全部だ全部! 何もかもだよ! まずリアルの体を最強にしてんじゃねぇ! いくら最強の肉体があってもゲームじゃなんの意味もないんだよ!」

 

「でも、そのおかげで記憶力も良くなったし、眠らなくても大丈夫だったんだよ? 普通の体だったら、眠らないと死んじゃうからね、それに、君は手鏡の効果でアバターがリアルの体型になるって勘違いしていたけど、あれは茅場の強制措置だから、あの手鏡にはなんの効果もないんだよ? 僕がそこに割り込んで、君だけはアバターが変化しないようにしてあげていたんじゃないか」

 

「知るか! それに俺が使えねぇ二刀流スキルを強化してんじゃねぇ! なんだよジ・イクリプスが48連撃って! ジ・イクリプスは27連撃だろうがよ! 難易度あげてんじゃねぇよ!」

 

「それは自業自得だよね?」

 

「なにより任意リセットと、メインメニューを開く動作を被らせてんじゃねぇ! わざとか!? わざとなのか!?」

 

「うん! 勿論!」

 

「ざっけんなぁぁぁぁぁあ──!!!」

 

 左手でメインメニューを開けたらリセットにならなかったのに、とか思ってたけど、ゴッみが被らせてきてたんならどうせ無理じゃん! 

 

「SAOでメインメニューが使えないとか鬼かよ! しかもそんな簡単な動作をリセットにするんじゃねぇ! もっと複雑にしろよ! 誤って使っちまうだろうがよぉぉぉ!!」

 

「え? 右手の人差し指と中指を突き出して、合わせながら縦に振るなんてよっぽどしないよね? ……君みたいにカッコつけたりしなければ、ね」

 

「……は? ……っ!? てめ! あれ見てたのかよ!?」

 

「うん! お腹を抱えて笑ったよ! じゃあな、あばよ、でリセットだもん!」

 

「そんな昔の話を掘り返してくるんじゃねぇぇぇ!!! 死ねぇぇぇ!!!」

 

 って、剣がない!? なんでぇ!? 

 でもそんなのかんけぇねぇ! 

 剣がないなら拳で殴ればいいじゃない! 

 

「いいよ、僕を殴りたいなら君の気がすむまで殴ってもね、だって、それだけ君に想われているって証明になるから!」

 

「ならお望み通り殴り散らかしてやるよぉぉぉ!!!」

 

 ボコッ、バキッ、グチャッ、グチャグチャ。

 

 ふぅ、原型も残らないほどの肉の塊にしてやったぜ! スッキリ! 

 

 というか今の体、ゲーム内アバターじゃなくてリアルの最強の体になっていますね。

 

 ゲーム内アバターじゃ流石にここまでの力は出ませんからね。

 

「酷いなぁ、こんないたいけな美少女を容赦なく殴るなんて、人間としてどうなの?」

 

 うっわ、再生しやがった。

 

「こんないたいけな好青年を無限ループに閉じ込めるなんて、神としてどうなの?」

 

「無限じゃないよ? たった数万年、正確には3万1415年9ヶ月26日5時間35分8秒9だけじゃないか」

 

「おっπ! おっπ! おっπ! おっπ!」

 

「ん? 急にどうしたの??」

 

「あ、いや、なんでも……って! 神の感覚で計ってんじゃねぇよ! 人間には十分長いんだよ!」

 

「あはは、まあいいじゃないか、無事にクリアしたんだから、ゲームクリアおめでとう! 君が現状唯一のゲーム攻略者だ!」

 

「ん? 他の走者は?」

 

「みーんな廃人になっちゃった」

 

「は?」

 

「魂の保護はしてあげたけど、精神を保護しているわけじゃないからね、色々あって精神が壊れちゃった、だからもう消しちゃった」

 

「おおぅ」

 

「君以外の人たちも、頑張ってはいたんだよ? 例えば、SAOをやらずに、ゲーム開始前の6ヶ月前の猶予期間をループし続けて、ハッキングの勉強をずっとし続けていた人がいたんだ、でね? 彼は数千年の時をかけて超一流のハッカーになったんだ、そして彼はSAOの正式サービス開始からチュートリアルが行われるまでの間にSAOを外からハッキングで強制的にクリアにしようとしたんだよ」

 

「……え? そんなのアリ?」

 

「勿論、でもね、僕がハッキングによる強制クリアに対して、なんの対策も施してないと思う? 言ったでしょ? 僕はRTAが見たいんだって、でも彼がやろうとしていることは、ゲームを書き換えてクリアするようなことでしょ? これって僕の見たいRTAじゃないんだよね、だからシステムの保護を僕の力でやってたんだ」

 

「そんなの突破とか無理ゲーやん」

 

「うん、でも彼は諦めずに、なんとかシステムの改変までは行うことができたんだ! ゲームのクリアはならなかったけど、デスゲーム化を阻止して、それによって、SAOのチュートリアルを無くしたんだよ! 君は僕が伝えたリセット条件を覚えてる?」

 

「任意発動の他に、チュートリアルまでにSAOをプレイしないこと、RTAの目標タイムまでにクリアできず、SAO開始から2年半が経過すること、目標タイムを過ぎてからゲームをクリアすること、そして死ぬことだったよな?」

 

「うん! で、チュートリアルまでにSAOをプレイしないことがリセット条件だから、チュートリアルがなくなったらSAOをプレイしなくていいんだよね、だから彼はその後リアルで、恋人を作って結婚して、幸せな時間を2年半過ごしたんだ」

 

「2年半?」

 

「そう、2年半、だって彼はゲームクリアしてないからね、RTAの目標タイムまでにクリアできずSAO開始から2年半が経過することもリセットの条件なんだから! 終わったと思ったループが実は終わってなかったことを知って、そして何よりリセットしたことにより恋人を失った彼の絶望の表情は、 ……ああ、最高だったね! わざわざチュートリアル関連のセキュリティを緩くしてあげた甲斐があったよ!」

 

「……最低だな、人の絶望する様を見て喜ぶなんて、人格腐ってんじゃねえのか?」

 

 自分も見たかったなぁ。

 

「他にも、茅場を殺してSAO自体をなくせばいいって考えて実行した人はいたんだけどね? たとえリアルで茅場を殺しても、SAO自体は必ず開始されるような運命にしてるから、無駄なんだよねー、彼らの無駄な努力は、見てて本当に楽しかったよ! これが見たかったからわざわざ6ヶ月前までリセットできるようにしたようなものだからね!」

 

「本当、性根がねじ曲がってんな」

 

 ずるい、自分も見たかったなぁ。

 

「まあ、何はともあれ、とりあえず現状は走者が残っていないから、タイムを抜きつ抜かれつとなって無限ループしてくれることはなさそうなんだよね、残念、ちょっと難易度高かったかな?」

 

「高すぎだ!」

 

「あ、そうだ! ゲームをクリアした特典として、君の願いをなんでも一つ叶えてあげるよ!」

 

「マジで!?」

 

「うん! 何がいい? 元の世界に帰りたい? 君の知らない君の家族がいる、元の世界に、それとももっとSAOで遊びたい? それとも友達や恋人が欲しい? 僕がなって上げてもいいよ? さあ! なんでも言って!」

 

「じゃあ死ね」

 

「うん、いいよ」

 

「っ! やったぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!」

 

「僕の死にそこまで喜んでくれるなんて、僕は君にとても想われているね!」

 

「さあ死ね! とっとと死ね! 今すぐ死ね!」

 

「うん!」

 

 スパーン! 

 

「はい死んだよ」

 

「……は?」

 

「あーあ、残機が一つ減っちゃった、あと数億回しか死ねないや」

 

「……ちげーよ! 一回死ねってことじゃなくて! 存在自体を跡形もなく消滅させろってことだよ!」

 

「残念、それならそうと先に言わないと、もう君の願いは叶えたから、その願いは無効ね、じゃあ、バイバイ」

 

「ざっけんなぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 ………………

 

 

「ヒー君!」

 

 ぐえっ、サツキさんの筋力高すぎ! 

 

「良かった! 本当に良かったです!」

 

「な、なんだいきなり?」

 

「あっ! すみません! ヒー君が急にいなくなってしまわれたので、その、もしかしたら、と……ヒー君が無事で本当に良かったです!」

 

 辺りを見回すと、あの白い空間ではなくなっています。

 元の場所に戻されたようですね。

 

 ……あれ? 茅場さんが地面に伏していますね、どうしたのでしょうか? 

 

 あ、立ち上がりました。

 

「やれやれ、恋する女性は怖いものだな、しかし、まさかこの空間に干渉してくる存在がいるとは……もしかしたら本当に、君の言っていた神というものが存在するのかもしれないな……ふっ、何はともあれ、ゲームクリアおめでとう、ヒャッカ君、サツキ君」

 

 やったぁぁぁぁぁあ!! 

 

「では、僕はもう行くとするよ」

 

 さよならー、じゃーねー! 

 もう一生会わないことを願っておきましょう。

 

 このあと茅場さん、自分の脳を高出力マイクロウェーブか何かで焼くんでしたっけ? 

 それで電脳世界の住人になる、みたいな感じだったような? 

 

 でも、確か成功確率もかなり低いみたいですし、そのまま死んでくれないかなぁ。

 

「……お別れ、ですね」

 

「ああ」

 

 サツキさんとも、もう会うことはなさそうですね。

 だってリアルの体とこのアバターの容姿は別物ですから。

 

 偶然会ったとしても、サツキさんは自分には気がつかないでしょう。

 

「ヒー君、私は、あなたの事が大好きです」

 

「俺は、b」

 

 サツキさんに口を塞がれました。

 

「……それ以上は言わないでください、私は、もうヒー君とは会えませんから、だから、私の気持ちだけ、受け取ってください」

 

「……ああ」

 

 サツキさんはこのあと、自分が死ぬと勘違いしてますね。

 

「では、ヒー君、お元気で」

 

 サツキさん、いい笑顔ですねぇ。

 

 さっき、俺は別に、とか言わなくて良かったですね。

 まあ、言ったら言ったで面白いことになったでしょうが。

 

 そして、あたりは暗闇に包まれました。

 

 ……

 

 

 長かったSAOも終わりですね。

 これから何をしようかなぁ。

 ずっとSAOで生活してましたので、というか、まだループを抜け出せる気がしていなかったので、特にこれから何がやりたいとか、思い浮かばないんですよねぇ。

 

 あー、でも、時間が進むということは、小説とかアニメとかも新しいものがあるってことですよね。

 

 それは楽しみですね! 

 

 ……しかし、いつになったらリアルに戻るのでしょうか? ロード長すぎでは? 

 あたり一面真っ黒で、何にもないですし、体とかも動かせる様子もありません。

 

 というより、体の感覚がありません。

 

 ロード長すぎんよー。

 

 ……ん? なに、か、へん、な、……あ、あた、ま、ががががががががががががががががガガガがががががががガガガががががががが

 

 

 ………………

 

 彼の物語はこれにて完結! 

 

 みんなもリアルに疲れていないかい? 仕事、学校、人間関係、現実に、嫌気がさしていないかい? 大丈夫! 安心して、僕がゲームだけしていればいい夢の世界に連れて行ってあげるよ! 

 

 

 

 

 

 

 

 次は、君が走者だ




今回、本編の話は本文にしか書いていません。

30、31、32、34話にある後書きのように見えるものや、第0話の前書きのように見えるものは、本文に横線を引いただけで、あれも本文の中に書いてあります。

確認方法は、ドラッグや、線の太さ、あとPCなどの大きな画面で見ている人は線の長さも違うと思います。
それと、誤字報告画面でも、確認できます。
後書きや前書きは誤字報告ができませんからね。

時系列は、後書きに偽装した、30、31、32、34話の後に、第0話が来ます。

ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。


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ALO編
第1話 願い


ゲームはクリアされたのに、続きを望むのかい? 

 ……どうしても、と願うのなら、僕が願いを叶えてあげるよ! 

 

僕は神様だからね、人の願いは叶えてあげたくなるのさ。

 

さあ、僕の手を取って。

 

 

 

 

 

 

 

続きから始めよう。

 

 

 

 

 

 

ついでに、一つサービスだ。

 

 

 ───────────────────────

 

 

「種族を選択してください」

 

 ……え? ここは、どこでしょうか? 

 自分は確か、SAOをクリアして、それで……あれ? 

 

 それで……それで……何があったんでしょうか? 

 なにも、思い出せません。

 でもこの感覚、昔、どこかで……ま、いっか。

 

 今、何か変な合成音声に選択を促されています。

 なんの話をしているのでしょうか? 

 

 えーっと、なになに? 

 種族の選択? 

 容姿は無数のパラメータからランダム生成され、キャンセル不可? 

 どうしても気に入らない場合は、追加料金を支払って再作成するしかないそうです。

 

 ……追加? 自分何かお金払ったんでしょうか? 

 別にお金ならいくらでもあるので、勝手に支払われていてもどうでも良いのですが。

 リセットできるのに馬券や宝くじを買わない奴なんているはずありませんよね? 

 

 そんなことより、えっと、サラマンダー、シルフ、ノーム、ケットシー、レプラコーン、スプリガン、ウンディーネ、インプ、プーカ。

 この誰かから選べと言われていますが、何が何だか。

 

さあ、始めようか。

 

 っ! この声、まさか!? 

 

「おいゴッみ! どういうことだよ! 何を始める気だ! 自分はもうSAOをクリアしただろ!」

 

簡単に説明するね、ここはVRMMOのアルブヘイムオンライン、通称ALOだ。

それで、君はこのクリア不可能なゲームを終わらせるんだ。

 

「はぁ!? なに言ってんだ!?」

 

そうすれば、君の願いは叶うから。

 

「願いなんてもう叶わなくて良いから! 漫画やアニメの続きが気になるんだよ! リアルに返せって!」

 

期限は1日、でも安心して、強力な助っ人を用意しておいたから。

きっと彼がなんとかしてくれるよ。

 

「おい! 聞いてんのか! ゴッみ! ってかALO1日でクリアとかマジで馬鹿じゃねぇのか!? 難易度狂ってるだろ!?」

 

じゃあ、頑張ってね、僕は君を応援してるから。

 

「ざっけんなぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 ……

 

 ゴッみの声が聞こえなくなりました。

 

 ……いや、え? 待ってよ、ねぇ、どういうこと? ALOを1日でクリアしないといけないの? 

 え? だってALOってあれですよね? ユイちゃんがいなければ絶対に攻略できないとかいうゴミゲーですよね? 

 

 確か、ALOをクリアするためには世界樹の中から上に行かなければいけません。

 で、そのためにはサービス開始して1年経過してもクリアされていない超高難易度のグランドクエストをクリアしなければいけなかったはずです。

 でもそのグランドクエストは、ゴールの扉がシステム的に絶対に開かないように出来ていて、プレイヤーは絶対にクリア不可能とかいうクソゲーじゃなかったでしたっけ? 

 

 ゲームとして終わってますよね。

 

 キリトさんは確か、ユイちゃんというチートキャラクターと、アスナさんからの援護で先に進んでいましたが……

 

 あ、確かゴッみが強力な助っ人を用意してくれているんでしたっけ? 

 彼がなんとかしてくれるって言ってましたよね? 

 

 なら自分はなにもしなくて良いんですね! 

 よかった。

 ならあそぼーっと。

 

 ……とは、行かないよなぁ。

 

 あのゴッみのことだから、強力な助っ人に全部任せておけば1日以内に勝手にクリア、なんてありえないよなぁ。

 というか、強力な助っ人って誰のことでしょう? 

 

 キリトさんかな? 主人公ですし、多分キリトさんっぽいですよね。

 もしくはキバオウさん? ディアベルさん? クラインさん? エギルさん? 

 いや、まさか茅場さん!? 

 

 茅場さんだったら勝ちですね。

 お願いします茅場さん! 化けて出て来てください! 

 

 ……ないよなぁ。

 ……今回も長くなりそうだよなぁ。

 

 ま、いいや。

 せっかくALOをやれるんだから、とりあえず先ずは飽きるまで思う存分に遊びましょうか! 

 

 人生楽しんだもの勝ちですからね、

 全てが新しいことのなんと素晴らしいことか! 

 あーそーぶーぞー! 

 

 とりあえず、種族とか何が何だか分からないので、プーカでも選択しておきましょう。

 

 さぁ! ゲームの始まりです! 

 

 お、チュートリアルを聞くか聞かないか、選択できるようですね。

 まあ、はじめなんで聞きましょうか。

 

「今からチュートリアルを開始します、先ずはメインメニューを開きましょう」

 

 ……ん? 今なんて? 

 

「メインメニューの開き方は」

 

 ……あれ? 詰んだ?




お久しぶりです。アルシャです。

第0話と最終話でだいぶハードルが下がったようなので、安心して続きをかけます。
でも、まだ仕事が忙しいので更新頻度はゆっくりです。
今年はもう更新することはないかもしれません。

というわけで、皆さん良いお年を。


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第2話 ループ

検証回を書くとかなり長くなりますので、一気に飛ばします。
なので、次回からが本格的なALOの攻略開始です。

それと、思っていたよりも沢山の人が見てくださっていたようでしたので、早めに更新することにしました。
少なくとも第3話までは年内に更新できるように頑張ります。


 最初っからデストラップを用意してくるとか、須郷さんめっちゃ性格悪いですね、マジで。

 ほんと性根が腐ってらぁ! 

 

「左手の人差し指と中指を突き出し、揃えて縦に振るだけです」

 

 ……え? 左手? 右手じゃない? 

 ……え? 大丈夫? 

 

 よかったぁぁぁあ!!! 

 

 さすが須郷さん! よく左手にメインメニューの操作をやってくれました! どこかの茅場とは大違いですね! ナイス! マジで! ほんと神! 

 いやー、前から須郷さんは、いや! 須郷様はやれば出来るって思ってたんですよ! 

 

 よっ! 日本一! 茅場なんて目じゃありませんね! 

 

 でも、本当に左手で良かったです。右手だった場合、リセットするしかありませんでしたからね。

 

 多分大丈夫だとは思いますが、あのゴッみのことですから、もしかしたらリセットするとSAOの開始前まで戻される可能性もありますからね。

 

 SAO再走とか、死んでもやりたくありませんから。

 ……あれ? もしかして、死んだらSAO再走させられる? 

 いやいや、まさかそんな、そんな鬼みたいなことあるはず、……まさか、ね、……否定しきれない! 

 

 試せねぇ! 絶対に右手振れないじゃん! 死ぬわけにもいかないじゃん! 

 やばいよなぁ。

 まあでも今回はメインメニューが使えるってことですよね! 

 

 っしゃぁぁぁ!!!! 

 イィィヤッフゥゥゥゥ!!! 

 

 さてじゃあ左手でメインメニューを開き

 

 ……

 

「種族を選択してください」

 

 は? 

 

 ……え? あれ、これ戻った? リセットされた? よな? 

 

 ……ゴッみ! マジゴッみ! またメインメニューにリセット被せやがった! 

 自分には何が何でもメインメニューを使わせない気か!? ざっけんなぁ! 

 しかも今回なんの説明もされてないし! ちゃんと説明しろや! 

 

 ……まあ、でもSAO開始前に戻されないだけマシですね。

 いや、左手だからALO開始前に戻されたけど、右手だったり死んだりしたら、SAO開始前に戻されたとかはやめてよ、マジで。

 

 ……確証を持てない限り試すべきではありませんね。

 

さあ、始めようか。

 

 うわっ、また出てきた。

 

「おーい、なんで左手もリセットにしてるんだー? 自分には何が何でもメインメニューを使わせない気かー?」

 

簡単に説明するね、ここはVRMMOのアルブヘイムオンライン、通称ALOだ。

 

 ……ん? あれ? 

 

それで、君はこのクリア不可能なゲームを終わらせるんだ。

 

「それもう聞いたぞ? なんで同じ話しをしてるんだ?」

 

そうすれば、君の願いは叶うから。

 

「おーい、聞いてるかー?」

 

期限は1日、でも安心して、強力な助っ人を用意しておいたから。

 

「おーい、ゴッみー! ゴーミゴミ、ゴッみー!」

 

きっと彼がなんとかしてくれるよ。

 

 反応がありませんね? 

 ……まさか、ゴッみもループしてる? 

 

じゃあ、頑張ってね、僕は君を応援してるから。

 

 ゴッみも巻き戻った? いやいや、この力はゴッみの力だし、ゴッみには効かないですよね? 

 え? なに? どういうこと? 

 

 ……ま、いいや、あとで考えましょう。

 

 とりあえず、死なないようにすることと、右手でのリセットをしないことだけ注意しながらしばらく遊びましょうか。

 死にそうになっても左手でリセットすれば、間違いなくALO開始前までは戻れますからね。

 

 さて、では種族を選びましょうか。

 

 もうプーカは満足したので、次はシルフでもやりますか。

 ……開始0秒、いやむしろなにも始まっていなかったのに満足したとは? 

 

 まあ、でも今はもうシルフの気分なんで、とりあえずシルフで! 

 

 チュートリアル? 聞くわけないよなぁ! 時間の無駄だよなぁ! 

 

 さて、全ての初期設定が終わりました。

 

 はい、やって参りました! えっと? スイルベーン! シルフのホームタウンですね! 

 

 ふむふむ、今回の自分のアバターは、結構デカイですね。

 顔は渋いおじさまって感じですかね? 

 今までずっと小さな体でやってきたので、ちょっと慣れるまで時間がかかりそうです。

 でも新鮮。

 

 ええっと、確かこの世界飛べるんでしたよね? どうやって飛ぶのでしょうか? 

 ちょっとその辺の人に話を聞きましょう。

 

 なになに、左手を立てて握るような形を作ると補助コントローラーが出てくる? 

 

 おおー、これで、ふむふむ、なるほどー、ありがとナス! 

 

 よし、飛ぶぜー! ヒャッフー! 

 

 たぁぁぁぁぁぁのしいぃぃぃぃぃぃい!! 

 

 もっと! もっと早くなれよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!! 

 

 ……あれ、止まり方ってどうやるんでしたっけ? 

 

 確か、ボタンを離せば減速で、ってやばっ! 

 

 ドォーン! 

 

 地面に頭から突き刺さりかけました。

 危ない危ない、なんとか受け身を取れました。

 

 受け身が取れた音じゃなかった気が……まあいいか。

 

 うわっ、HP結構減ってますね。これ減速しないでそのまま地面に激突していたら、最悪死んでいたのでは? 

 

 ……飛ぶのは慎重にやりましょう。

 

「……えっ」

 

 ん? 今自分、地面に大の字で寝転がっているのですが、顔を上げると女性がいました。

 その女性はめっちゃ驚いた顔でこちらを見ています。

 

 まあ、空からいきなり大きな人が降ってきたら驚きますよね。

 なんとなく気まずいので、さっさとこの場を離れましょうか。

 

 あーでも、地面に激突って相手の意表をつく意味ではいいんですかね? 

 

 空から飛んできて相手の近くの地面に激突! 

 そして、相手が驚いている間に攻撃! みたいな。

 

 もしくは激突の衝撃で上がった土煙を目くらましにして、相手の首を狩る、とか。

 

 ……HP持つかなぁ? そもそも、激突した直後に動き出せるかっていわれると、うーん、隙だらけですし、難しそうですかね。

 まあ、組み込めたらALOでの戦術の一つに組み込みますか。

 

 ………………

 

 いやー、遊んだ遊んだ! と言ってもまだ1日目なんですがね。

 もうすぐ2日目になります。

 ゴッみは、期限は1日と言っていましたが、1日経ったら強制リセットになるのか、それとも1ヶ月くらいはそのまま遊べるのか、一応調べておきましょうか。

 

 ……それにしても、強力な助っ人とは、誰のことなのでしょうか? 

 

 ちょっと探しては見ましたが、それらしい人は見つけられませんでした。

 まあ、しばらく遊んでいれば、勝手に見つかるでしょう。

 

 さて、では一度ス イルベーンに戻っ……て? あれ? 

 

 HPが急速に減って……っ! 体になんか突き刺さって!? 

 ちょっ! なに!? はぁ!? やば! っ! 左手! 

 

「────」

 

 ……

 

「種族を選択してください」

 

 ……あっぶねぇぇぇ!!!! リセット間に合ったぁぁぁ!!! 

 何今の!? はぁ!? 

 あと1秒リセットが遅れてたら死んでたんですがぁぁぁ!? 

 

 え? なに? いつの間に自分刺されてたの? 

 え? 刺されたことに気づかないなんてあります? 

 

 そこまで油断してた気はしなかったのですが。

 

 ……もしかして、期限が1日って、これのことですか? 

 

 1日過ぎると、強制的に、死ぬ、とか? 

 

 ……マジ? つまり遊び回ですら1日ってこと? 酷くね? 

 

 ……お、おおお、おち、おお、おおお落ち着いた。

 

 まあ、なるようになりますよ。

 なんとかなるなる! 

 というわけで、しばらくは遊び回ですね、楽しんでいきましょう! 

 

 考えることは全部あとあと!




A「さあ!やって参りました!第一回後書きクイズのお時間です!」
 
B「え?何いきなり?」
 
A「では早速第1問!」
 
B「説明はないの!?」
 
A「何故、ALO編がはじまったのでしょうか!お答えください!」
 
B「え?えっと、読者の人に続きを望まれていたからですか?」
 
A「答えはまた次回!ではでは、バイバイ!」
 
B「ええ!?次回まで引っ張るの!?」
 
A「あ、因みに、読者に答えを求めているわけではありませんので、全てを分かった方がいらっしゃっても、そっと胸の内にしまっておいてくださいね」


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第3話 開始

「種族を選択してください」

 

 計測開始です。

 

 どうも皆さんこんにちは、お馬鹿百階位と申します。

 今回はこのフルダイブ型オンラインゲーム、アルヴヘイム・オンライン、通称ALOの縛りプレイを行います。

 

 縛りの内容は、メインメニューを開かない縛りという、たったこれだけのいたって単純な縛りプレイです。

 

 たった1つしか縛らないなんて簡単だな! 

 

 と、思うかもしれませんが、正直かなり厳しいです。

 では、その理由を、と、説明するのは後回しにして、どんどん進めていきましょう。

 

 まず、種族はシルフを選択します。

 

 まだそれほど検証できてないので、他の種族の方がいいのかもしれませんが、とりあえずはシルフで。

 

 今回、このALOは、正直リサーチ不足感が否めません。

 SAOの知識なら誰にも負ける気はありませんが、ALOでは少し荒が目立つかもしれません。

 ご容赦を。

 

 ……え? SAOでも荒が目立ちまくってたじゃねえか? 

 

 そ、そんなことありませんよ? 全て計算です! そう! 完璧な自分の計算です! 荒なんて何一つありませんでした! 

 っと、こんな無駄なことを考えている時間はないので、とっとと進めます。

 

さあ、始めようか。

 

 雑音は無視して初期設定を進めていきましょう。

 チュートリアルは当然見ません、見るわけがありません。

 

簡単に説明するね、ここはVRMMOのアルブヘイムオンライン、通称ALOだ。

 

 今回はアバターが完全ランダムなので、ここでの引きが悪ければ即終了、即リセットです。

 説明してませんでしたが、このゲーム、運ゲーです。

 運ゲーに無理やり持ち込みました。

 現時点ではこれしか方法が思い浮かばなかったので。

 まあ、この方法がダメならまた別の方法をじっくり考えます。

 

それで、君はこのクリア不可能なゲームを終わらせるんだ。

 

 はい、ではスタートです。

 

そうすれば、君の願

 

 で、スイルベーンの街に降り立ったら、直ぐに容姿を確認します。

 大きな体、はいオッケーです。

 まず第一の運ゲーを突破しましたね。

 では直ぐに飛びます。

 

 もし小さな体や普通の体格を引いたら即リセットです。

 理由はまた後ほど説明します。

 

 で、いまから向かう場所は、スイルベーンから東にある古森を超えた砂漠地帯です。

 

 では、この時間に軽くこのゲームの説明を。

 

 このALOは、背中に妖精の翼が生えているため、空を自由にとびまわれます。

 タケコプターはいらないです。

 

 でも、タケコプターと同様に飛行時間には制限があります。

 滞空制限というやつですね。

 これのせいで、どんな種族でも連続して飛べるのはせいぜい10分が限界です。

 

 一応、世界樹の上にある空中都市に最初に到達して、妖精王オベイロンに謁見した種族は全員アルフという高位種族に生まれ変わるといわれていますが、ほとんど嘘なので信じないでくださいね。

 

 世界樹の上には旧SAOプレイヤーの脳髄があるだけですから。

 

 さて、このゲーム、実はクリア不可能なゲームです。

 何故なら厳密に何をしたらクリア、というものがありませんから。

 SAOでは第100層のボスを倒すことがクリアの条件でしたが、ALOでは何かを倒せばクリア、といった明確なものがありません。

 

 世界樹の上に行くことは、グランドクエストのクリア条件ではありますが、このALOのクリア条件じゃありませんからね。

 

 でも、世界樹には行かなければならないですし、かなり強い方を倒さなければならないので、まずは装備品を集めます。

 

 はい、古森を超えて砂漠地帯に到着しました。

 では羽を休めるために地面に降り立ちます。

 

 で、ここまで素早く飛んでくると、砂漠地帯に入って直ぐのところにちょうどサラマンダーの方が3名ほどいらっしゃいます。

 用事があるのは真ん中のサラマンダーです。

 彼は近、中、遠距離に攻撃手段を持つ器用貧乏な方です。

 彼らはそれなりに強くはありますが、まだエンジョイ勢を抜け出しきれていないくらいの、いや、エンジョイ勢なのでしょう。

 

 さて、ではまずは彼らと元気に挨拶をしましょう! 

 

「よう! 兄弟! 元気だったか? 俺は元気だ! はっはー!」

 

 とりあえず友好的な声をかけながら堂々と歩いて接近します。

 ALOは異種族同士なら戦闘可能ですが、あからさまに追い剥ぎめいたことをするプレイヤーは少数派です。

 

 なので、敵意を見せず、武器も持たず、堂々と接近すれば警戒心の薄い人なら、肩を組めるまで近づけます。

 

 まあ、こちらは一人、装備も大したことなく、友好的に話しかけながら近寄ってくるんですから、異種族同士でも即座に攻撃するのはためらいますよね。油断するな、という方が難しいですよ。

 

「ん? 誰だ? お前の知り合いか?」

 

「いや? 俺じゃないぜ?」

 

「俺も違うぞ?」

 

「なーにいってんだ兄弟? 俺とお前の仲だろう?」

 

 と言い、真ん中のプレイヤーの肩に左手を回します。

 そして、右手で相手の腰から剣を抜いて、肩から手を離し、自分の初期装備の剣も抜いて、まず右にいるサラマンダーに切り掛かりましょう。

 

 流れるように相手の武器を奪い、即座に攻撃、綺麗な流れですね。

 

「んな!?」

 

「よう兄弟! 元気でな!」

 

 ALOにおいて、攻撃ダメージの算出式は、武器自体の威力、ヒット位置、攻撃スピード、被ダメージ側の装甲だけです。

 

 キャラクターに筋力値や敏捷値は設定されていません。

 要するに、プレイヤースキルがモノを言うゲームというわけです。

 ソードスキルもありませんしね。

 

 なのでメインメニューが使えなくとも、十分戦えます。

 ほんと、須郷様マジ神! 茅場も見習えよー? 

 

 当然今の自分のHP、MPはかなり少ないですが、HPは当たらなければどうということはありませんし、MPはそもそもメインメニューを使えない関係上、スキルスロットに魔法をセットできないので関係ありません。

 

 よく考えたら、シルフの強みである魔法を使えないとかいうゴミ構成ですね、シルフやめたら? 

 

 とはいったものの、諸々の事情を加味すると、シルフが一番良さそうなんですよね、残念ながら。

 

 さて、何故最初に右のサラマンダーから倒す必要があるかと言いますと、このサラマンダーがホーミング性能のいい魔法を使ってくるので、先に処理しないと負けるからです。

 

 当たらなければどうということはないと言いましたが、範囲攻撃やホーミング性能のいい魔法は避けられません。

 

 つまり使われたら負けです。

 

 だから最初に倒します。

 

 ザシュザシュッと。

 

 はい勝利。

 

 彼は遠距離型だからか、装備の防御力が低いんですよね。

 なので渾身の力を込めれば2撃で消し飛ばせます。

 

「っ! てめ!」

 

「よくも!」

 

 彼らはもう油断してなさそうですね。まだ油断してくれているなら楽なんですがね。

 まあ、仲間が一瞬で殺されたのに油断してる方がおかしいですよね。

 

「はっはー! 俺たちは兄弟だ!」

 

「黙れ! このイカレ野郎が!」

 

 はい、ここで先ほど左にいたプレイヤーが剣を抜いて襲いかかってきます。

 そして、武器を奪った真ん中のプレイヤーは一度距離をとって魔法を唱え始めるか、弓で攻撃してきます。

 今回は魔法を唱えてきましたね。

 

 この魔法は直線型の高威力魔法なので、頑張れば避けられます。

 当然魔法には詠唱時間がありますので、しばらくは接近してきた人を相手にしましょうか。

 

 わざわざ1対1にしてくれるなんて、優しいサラマンダーさん達だなぁー。

 

 ま、自分が最初に真ん中にいたサラマンダーの剣を奪ったため、彼はすぐに接近戦はできないから当然の構成かもしれませんが。

 

「らぁぁぁ!!!」

 

「おお! いい声だ! 俺も負けねぇぜ! 兄弟! うぉあぁぁあぁ!!!」

 

 このプレイヤー、スピードは悪くないんですが、いかんせん太刀筋が素直すぎるので簡単に避けられます。

 

 で、隙だらけなんでザシュザシュッっと。

 

「大丈夫か!? 兄弟!」

 

「っ! ふざけてんじゃねぇ!」

 

 彼は防具の性能が他の人よりもいいので2撃じゃ全然足りません。

 まあ、自分の武器の片方は初期装備の剣ということを考えれば、これくらいでも十分すぎるほど削れてますかね。

 

 では、一気に畳み掛けましょう。

 

「死ぬな! 死ぬんじゃない! 生きるんだ兄弟!」

 

 ザシュザシュッ! 

 

「きょうだぁぁぁい!!」

 

「くそっ! なんだこいつ! 言動の割にめちゃつぇぇ!」

 

 ザシュザシュッと。

 

「がはっ!」

 

 はい勝利。

 

 はい、ここで武器を奪ったサラマンダーの魔法の詠唱が終わりそうですね。

 

 で、今から詠唱を阻止しようにも間に合いませんので、魔法が発動する直前までゆっくり相手の方に歩いていきましょう。

 

「さあ兄弟、ゆっくりと語り合おうや!」

 

 3、2、1、はいここ。

 

 この瞬間に、羽を使って前方右斜め上に向かって急加速します。

 

「っな!?」

 

 はい回避と。

 いやー、翼の扱いにも慣れたものですね。

 もう手足のように自由に扱えますよ。

 

 さて、では急旋回して、相手の近くの地面に、ある程度速度を落としながら勢いよく着地します。

 下が砂なので、割と勢いよく着地してもダメージを負いません。

 しかも砂漠の砂がかなり舞い上がって目隠し状態になります。

 

 さて、当然彼の位置は覚えていますので、直ぐに近寄り、シルエットが見えたらタックルを仕掛けます。

 

「おわっ!? このっ、くそ!」

 

 下は砂、踏ん張りが利きづらいので不意打ちでタックルを仕掛けると倒れてくれます。

 はい、おーけー。

 

 ではその後、倒れた彼の肩に初期装備の方の剣を突き立てます。

 逃さないようにする必要はありますが、彼が今死んでもらうとまずいのでね。

 で、彼の腰に下げられた弓と矢をいただき、すぐに彼に射かけます。

 

 はい、実はこの矢、毒矢です。

 なんの毒かって? 当然麻痺毒ですよ。

 

 いやー、ほんと探すの苦労しましたよ。

 毒矢を持ってるプレイヤーって案外少ないんですよね。

 

 相手プレイヤーを倒すと、そのプレイヤーが所持している非装備アイテムのうち、ランダムに三十パーセントほど奪えます。

 

 でもそれらは勝手にアイテムストレージに仕舞われてしまうので、自分が他のプレイヤーを倒す意味、ほとんどないんですよね。

 メインメニューが使えない関係上、アイテムストレージが開けないのでね。

 

 だからこそ初めに相手を麻痺させる毒矢を持つこのプレイヤー達を襲ったわけです。

 

 毒矢があれば装備回収ができますから。

 どうやってかって? そりゃ麻痺で痺れてほとんど動けない相手の左手を無理やり動かして、メインメニューを操作させて、ねぇ。

 

 SAOではよく眠っているプレイヤーを活用してきましたが、ALOでは眠ってから少し時間が経つと直ぐにログアウトされてしまいますので、眠っている方を活用するのはかなり難しいです。

 だから必然的にこの方法をとります。

 

 今回は評判なんてどうでもいいです。

 だって1日しか期限がありませんからね、悪評が広まる前に終わりますから。

 だからやれる事は全てやって行きましょう。

 

 え? やり方が外道? 相手の装備を奪うなんて酷すぎる、ですか? 

 

 何言ってるんですか、ここはネトゲの中ですよ? やっちゃいけない事は最初っからシステム的に出来ないようになってるに決まっているでしょう? つまり、やれる事はなんでもやっていい、そう思いませんか? 

 

 これ、実にいい言葉ですよね。




A「では、皆さんお待ちかね!答え合わせのお時間です!」
 
B「誰も待ってないと思いますがね」
 
A「答えは!なんと!ゴニョゴニョゴニョ」
 
B「やっぱり続きを望「あーあ」・・・え?」
 
A「あーあ、やっちゃった」
 
B「えっと、何が?」
 
A「ネタバレしちゃった、あーあー、何のために貴方にだけ教えたと思ってるんですか、あーあ、今のネタバレで読者の大半がこの物語の展開を悟っちゃった、あーあ、ネタバレされました、見るのやめますって人が大量に出て来ちゃった、あーあ、」
 
B「今のがそんなにネタバレなんですか!?というか、これだけで展開予想できるって凄すぎませんか!?」
 
A「ほぼノーヒントでお馬鹿百階位を茅場晶彦のアナグラムと見抜いた人がいるんですよ、そりゃ展開予想なんて余裕でしょ、あーあ、あーあ・・・謝れよ」
 
B「・・・え?」
 
A「読者の皆さんに、ネタバレしてすみませんでしたって謝れよ」
 
B「えっ、私がですか?」
 
A「は?他に誰がいるの?お前何様のつもり?ふざけるのも大概にしろよ?」
 
B「・・・あ、あの、」
 
A「落とし前つけてあげようか?消す?処す?」
 
B「・・・その、ネタバレを・・・」

A「なに?聞こえないんだけど?」

B「・・・ネタバレしてしまい!読者の皆さんの楽しみを奪ってしまって!本当にすみませんでした!」
 
A「はい、というわけで第1問の答えは!続きを望む人がいたから、でした!」
 
B「っておい!全部言っちゃったよ!?ネタバレじゃないの!?」
 
A「こんなのがネタバレになると本気で思ってたんですかぁ?」
 
B「うぜぇ、めっちゃうぜぇ、でもまあ、前回私は正解だったってことですね!」
 
A「そう思いたければそう思っておけばいいんじゃないですか」
 
B「え?」
 
A「さぁ!続いて第2問!ALO編第1話の後書きで作者が、「第0話と最終話でだいぶハードルが下がったようなので、安心して続きをかけます。」と書いていますが、何に安心したのでしょうか?」
 
B「え?えっと、そのまんまの意味なのでは?みなさんからの期待値が下がったから、ある程度下手なこと書いても許されるんじゃないか、的な感じなのでは?」
 
A「では!また次回お会いしましょう!バイバイ!」
 
B「いや、これ別に次回に引っ張らなくてもいいのでは?」


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第4話 シルフ領

インフルエンザにかかりました。
なので、時間に余裕ができた為、久しぶりに更新できました。
待っていた方がいらっしゃったらすみませんでした。
皆さんも気をつけてください。


 さて、今から装備の収集に行きます。

 とは言っても、全ての装備をこの周辺で揃えるわけではありません。

 この周辺で手に入る装備よりも、世界樹近くのプレイヤーから手に入る装備品の方が強いものが多いのでね。

 

 ですが、今のうちに手に入れておかなければならない装備もありますのでそれだけとっておきます。

 どっくやー! どっくやー! るんるんるーん! 

 うーれしーいねー、たのしいねー。

 

「ぐっ、な、なに? ……や、やめろ! やめろぉぉぉぉ!!」

 

「お、おい! ふざけんな! そんなのってありかよ!? GMにいいつけてやるならな!?」

 

「ふ、今ならまだ許してやろう、それはこの高貴なる俺様が数ヶ月の時をかけてようやく手に入れた伝説武具だ、貴様のような下賎な輩には到底似合わん、だから今すぐその伝説武具を返してくださいお願いしますなんでもしますからぁ!」

 

 装備品、ゲットだぜ! 

 

 はい、皆さんありがとうございました。

 もう時間がないので直ぐにシルフの街、スイルベーンに戻りましょう。

 

 ちょっとここの時間がギリギリなんですよね。

 だからとっとと戻ります。

 

 この間に説明を。

 

 ……なにを説明すればいいんでしたっけ? 

 

 あれ? ……えっと、何かを説明……

 あー、初めの、えっと。

 

 ま、いいや、ここでの説明はまた後で考え直しますか。

 

 うーん、なら、とりあえず暇ですし、今自分が疑問に思ってることでも考えましょうか。

 

 まずは時間ですね。

 自分SAOを1年半以内にクリアしました。

 SAOの開始時間は、2022年11月6日です。

 なので普通に考えたら、今は2024年5月6日以内であるはずなんですよ。

 

 なのに今は2024年7月7日です。

 ……明らかにおかしいですよね。

 

 なぜ2ヶ月以上の時間が空いているのでしょうか? 

 自分、SAOをクリア直後にALOのキャラクタークリエイト画面にいたはずですのに。

 この2ヶ月の空白はなんなんでしょう? 

 時間が飛んだ? どうして? 

 

 これ、いくら考えてもわからないんですよね。

 ……分からないものを考えていても仕方ないですか。

 

 じゃあ次の疑問です。

 強力な助っ人キャラって誰ですか? まっっっっったく見つからないんですがぁぁ!? 

 

 ほんと、自分かなり探し回ったんですよ? 

 なのに一切それらしい人が見つかりません。

 

 キリトさんらしき人も一切見かけませんし。

 ほんとどこにいるんでしょうね? 

 

 ……これ、あくまで仮説なのですが、もしかしたらその強力な助っ人って、須郷さんに囚われて脳みそだけになってるんじゃないですかね? 

 

 どれだけ強力でも、脳みそだけになってたらなんの役にも立ちませんからね。

 

 ……マジゴッみ! 

 あ、ゴッみで思い出したのですが、ゴッみはなぜかリセットするたび毎回同じことを繰り返し言ってるんですよね。

 

 あのキャラクター作成画面を抜けるとゴッみの声は聞こえなくなりますが、ほんとあれなんなんでしょうね? 

 意味のないことをゴッみがやるとは思えませんし……うーん。

 

 他にも、1日経つといつのまにか身体に槍が刺さった状態になるから、それが強制リセットなのかなーと初めは思ってたのですが、どうやらそうでは無さそうでした。

 

 1日経つと勝手に種族を選択してください、というキャラクター作成画面に戻されましたから。

 あ、この1日っていうのは、ゲーム内時間のことではなく、リアルタイムで1日経過時点で、でした。

 このALOは16時間で1日が経過します。

 

 じゃあ、体から槍が生えたあれはなんだったんでしょうか? 

 ゲーム開始から数時間後にはもう身体に槍が生えたこともありましたし、稀によく体から槍が生えてくるのは、何かのバグなんでしょうか? 

 いや、流石にそのバグは酷すぎませんかねぇ? 

 体感ではシルフでやってる時がバグ発生率が多いですね。

 勿論、他の種族でもなるときはなりますが。

 

 はい、スイルベーンに帰ってきました。

 では、今からやることを簡単に説明すると自分の評判をとことん下げます。

 SAOでは評判を上げることに尽力してきましたが、ALOでは評判を下げることに尽力していきます。

 なぜかと言いますと、転移するためです。

 

 このALOには、街から街への転移手段というものがありません。

 と、いうよりも、ALOでは瞬間移動手段というものがかなり限られています。

 

 死んでリスポーン地点に瞬間移動することと、あと一つくらいしか通常のプレイヤーは転移する方法がありません。

 で、そのもう一つの瞬間移動手段を使用するために、評判を落とす必要があるわけです。

 

 では、剣を抜いて街行く人々を襲いましょう! 

 

 ヒャッハー! 楽しい楽しい狩りの時間ダァー! 

 

 当然シルフ領ですし自分もシルフなので、シルフに攻撃しても障壁に阻まれてダメージは与えられません。

 でも、武器が障壁にぶつかった時の閃光や軽い衝撃は相手に届きます。

 

 なので、街中だからと安心して呑気に歩いているシルフどもに衝撃をお届けしましょう! 

 

 はいドーン! 

 

「きゃっ!? なに!?」

 

 ド──ン! 

 

「ぐっ! なんだお前!」

 

 どどどーん! 

 

「っぐ、お、おい! 何をしている!」

 

 オルァ! 

 

「……ん? なんだ? 今の?」

 

 オラオラオラオラ! 

 

「今夜は君のうぎゃっ! なんだ!?」

 

 リア充死すべし! 慈悲はない! 

 

「ちょっと! ダーリンになんてきゃっ!」

 

 クッソ迷惑行為です。

 あ、ちなみにこのくらいではGMによるアカウント停止措置は喰らいません。

 なのでどんどん自分の評判を下げて行きましょう。

 

 ですが、ハラスメントコードに引っかかるようなことをするとなぜかリセットされています。

 

 アカウント停止措置を喰らえばリアルに帰れるのでは! と思って近くにいた金髪のシルフにダイブして柔らかい感触を味わおうとした瞬間リセットされてしまいましたからね。

 

 もうちょっと楽しみたかったです。

 

「きゃー!」

 

「あっちに行ったぞ!」

 

「止まれ! っぐっ、なんだこいつ!」

 

「つえぇ!」

 

 オラオラ! どんどん来いや! 

 これ、なかなかに楽しいです。

 SAOのプレイヤーほど強い人はあんまりいないので、言ってしまえば無双ゲームですね。

 たーのしーいなー! 

 

「……えっ」

 

 っと、危ない危ない。危うく、えっ、の女性を攻撃しかけてしまいました。

 この、えっ、の女性、見た目はシルフなのですが、なぜか攻撃が入ります。

 

 街中でも、街の外でも。

 しかも、えっ、の女性を倒すと、強制リセットされます。

 

 訳がわかりません。

 これも何かのバグなんでしょうね。

 

 おそらくなのですが、シルフがシルフを攻撃して倒すのはゲームシステム上出来ないにも関わらずそれができてしまって、そのバグを即座にカーディナルに発見され、自分がアカウント停止措置をくらい、リセットになっているのではないかと予想してます。

 

 どうして攻撃が通るのかは、まあ、なんでしょう? 

 シルフの見た目をしていますが、実はシルフではない、とかですかね? 

 いや、それならカーディナルさんも自分をアカウント停止措置にはしないと思うのですが、うーん? 

 

 こっちはチートなんて使っていませんのに。

 ちょっとALOバグが多すぎません? 須郷マジでゴミですね。

 アスナさんをペロペロしてる暇があったらバグ修正したください。

 

 え? 自分が須郷さんの立場だったら? 

 そりゃもう修正なんてそっちのけでアスナさんをピ────────────────

 

 っと、そんなことよりも、そろそろですね。

 

 では、領主の館に突撃ぃ! 

 

 はい、ではこの辺りで捕らえられましょう。

 

 わー、捕まったー。

 

「何事だ!」

 

 お、領主様ご降臨です。

 まだいましたね、良かったです。

 

 このALOは、SAOと違ってログアウトが可能なゲームです。

 その為、時間帯によってはプレイヤーがゲーム内に居ないなんてこともあるんですよ。

 

 勿論自分はメインメニューを開けませんのでログアウトできませんが。

 

 で、この領主は後数分くらいでログアウトしてしまいます。

 なので、それまでにここに来る必要があった訳ですね。

 

「それが、このものが街中で大暴れをしておりまして」

 

「あ? 何か文句あんのかゴルァ! 俺はゲームを楽しんでんだよ! 悪ぃか? なんも悪くねぇよなぁ!?」

 

 悪くねぇよなぁ!? 

 

「黙れ! 街行く人々に無差別に切り掛かりやがって! ALOはそういうゲームじゃないんだよ!」

 

「うるせぇ! ゲームの楽しみ方は人それぞれだろうが!」

 

「それでも他人に迷惑をかけたらダメに決まってるでしょ!」

 

「今が楽しけりゃ他人なんざどうだっていいんだよ!」

 

 それに他のプレイヤーがどうなろうが知ったことじゃありませんし。

 

「最低!」

 

「ははっ! なんとでも言えや! どうせシルフのお前らはシルフの俺に何にもできねえからな! はっはー!」

 

 っていうと。

 

「いや、貴様はこれからシルフではない」

 

「……は?」

 

「レネゲイドとして中立地帯を彷徨うがいい」

 

 と、なる訳ですね。

 

 ここにきた目的はこれです。

 これがもう一つの転移手段ですね。

 領主によってシルフ領を追放されると、アルンを除くどこかの中立都市にランダム転送されます。

 

 そう、ランダム転送です、超絶運ゲーです。

 

 ここでアルンに行ける可能性があるならそれが一番だったのですが、シルフ領からアルンに行くよりも、アルンの近くの中立都市に転送されてからアルンに向かったほうが早い為、この方法を取ってます。

 

 というより、この方法を取って時間を短縮しないと、アルンに着くまでにとある方がアルンから離れてしまう為、アルンから一番近い中立都市に転送されるまでリセットを繰り返します。

 

 何気にここまでそれなりに長いので、ちょっと辛いんですよね。

 

「う……訴えるぞ! 権力の不当行使でGMに訴えてやるぞ!!」

 

 自分メインメニューが開けないのでGMに訴えれないんですがね。

 

「好きにしろ」

 

 はーい。




A「さあ!第3問!」
 
B「え!?まず第2問の答えの発表じゃないんですか!?」
 
A「次回お会いしましょうとは言いましたが、次回答えを言うなんて言ってませんよ?」
 
B「え、あ、ほんとだ、いやでも!」
 
A「仕方ないなぁ、特別に貴方にだけ教えますよ、正解は、ゴニョゴニョゴニョ」
 
B「ん?えっと、何がバレ「ネタバレは禁止です」あ、はい」
 
A「君も学ばないねぇ、前回あれだけネタバレ禁止と言いましたのに」
 
B「いやでも、全然意味がわからないのですが、問題文なんでしたっけ?」

A「第2問は、ALO編第1話の後書きで作者が、「第0話と最終話でだいぶハードルが下がったようなので、安心して続きをかけます。」と書いていますが、何に安心したのでしょうか?ですよ」

B「なんで第0話と最終話でハードルが下がったらバレ「ネタバレは禁止です」・・・はい」
 
A「ま、誰も神の言葉なんて興味ありませんからね、では続いて第3問!」
 
B「これ、第何問まであるんですか?」
 
A「強力な助っ人とは、誰のことでしょう?」
 
B「無視ですか、えっと、もう作中に登場してますか?」
 
A「それ言ったらもう答えですよ」

B「それ言ったら答え、うーん、それもヒントっぽいですよね、怪しい人はいたような気もしますが、彼、と言われていたので、男ですよね?」

A「そうですね」

B「うーん・・・えっと」
 
A「では、また次回!バイバイ!」
 
B「まだ答え言ってないよ!」


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第5話 ユージーン

2020/4/3 最後の方を書き換えました。


 はい、領主からシルフ領を追放されて、アルンに一番近い中立都市にやっと、やっと久しぶりに飛んでくることができました。

 

 よし! 今回はいい流れですね。

 では、サクサクっと装備品回収を終わらせます。

 

 ここで気をつけなければ行けないのが、回収する人です。

 

 装備品を回収した方がアルンにやってきてしまうと、ちょっと計画が狂ってしまうので、装備品を回収するプレイヤーはアルンにやってこないプレイヤーに限定します。

 

 はい完了。

 現在装備品がフル装備になりました。

 古参って感じのいい装備品達です。

 

 では、アルンに向かいます。

 

 はい到着。

 

 どんどん進んでいきますね。

 やばい、今回何もミスしてませんよね? 

 SAOであれだけミスしまくっていたのが嘘のようですよ! 

 

 いやー、まあ、これが自分の実力ってやつですね! 

 自分が本気を出せばガバなんて起こりえないんですよ! 

 ALO楽勝ですね! 

 勝ったな。

 

 では、サクサクっといきましょう。

 

 先ずは速攻でアルンの西側に向かいます。

 そして、大きなハンマーが書かれた看板を左に行き、ここをしばらくまっすぐ進むと、いました。

 

 ユージーンさんです。

 この方も後しばらくすると街から離れてしまいます。

 

 そのせいで、ユージーンさんとここで戦おうと思った場合、かなり時間がシビアなんですよね。

 最低限装備品も集めないと、何を言っても戦ってもらえませんし。

 

 ……ユージーンさんはサラマンダー領の方ですよね? 

 なんでアルンにいるんでしょうか? 

 ……まっ、いいか、その辺りは。

 もし攻略に詰まったら、またお遊びも兼ねてその辺りのことも情報収集しますかね。

 

 とりあえず呼び止めましょう。

 

「そこのサラマンダー、待ってくれないか?」

 

「ん? なんだ貴様は?」

 

「なに、一つ手合わせを願いたいと思ってな、ユージーン将軍」

 

 あ、勿論ここで、

 よう兄弟! 

 なんてやったら普通に無視されますので、真面目に話しかけましょう。

 

「……ふ、悪いが俺はこれから用事があるのでな、他を当たれ」

 

「勿論、タダでとは言わないさ、とある情報と交換だ」

 

「悪いが、貴様に構っている時間はない」

 

 ユージーンさんは自分に背を向けて歩き出してしまいました。

 いやー、去り際もかっこいいですね。

 でもこのまま見逃すわけには行きません。

 

 世界樹を登らなければならないので、どうしてもユージーンさんとのデュエルは必要なんですよね、自分の計画では。

 

別に他に方法なんていくらでもありそうではありますが、この方法が不可能、もしくは飽きるまではやります。

 

 では、ここで一つ札を切りましょう。

 確実に興味を持ってもらえる、最高の札をね。

 

「それが、聖剣エクスキャリバーを入手する方法についての情報でも、か?」

 

 はい、ユージーンさん、足を止めました。

 

「ほう? なんの冗談だ?」

 

 ヒェッ。

 めっちゃ眼光鋭いですね。

 大男がいかつい顔で睨んでくるなんて、もし自分がSAOみたいに小柄なアバターだったらもう警察呼ばれてますよ、間違いなく。

 

「冗談なんかじゃないさ、俺は聖剣エクスキャリバーの位置も、その場所に行く方法も知っている」

 

「ふん、馬鹿馬鹿しい、ならなぜ貴様が聖剣エクスキャリバーを取らない? あのレジェンダリーウェポンはサーバーに1本しかない激レアアイテムだ、そんな貴重な情報をわざわざ他人に明かすメリットが無いだろう」

 

「それ以上に、やりたいことがあるんでな、ま、先に場所だけは教えておいてやるよ、あそこには特別な方法じゃなければ行けないからな」

 

「なら、その場所だけは聞いておいてやろう」

 

 食いついたぁ。

 

「知ってるか? 地下世界ヨツンヘイム中央に空いている巨大な大穴、グレートボイドの存在は?」

 

「当然だ」

 

「そのグレートボイドの上方に、逆ピラミッド型の空中迷宮がある、そしてその空中迷宮の先端に聖剣エクスキャリバーが封印されている」

 

「……」

 

「つまり、空中迷宮をクリアしなければ聖剣エクスキャリバーは入手出来ないわけだが、俺とデュエルをすれば、その空中迷宮に行く方法も教えてやるよ」

 

「……ますますわからんな、貴様、一体何が目的だ? その情報が嘘か誠かは知らんが、ただ俺とデュエルがしたいがためだけにその情報を明かした、というわけでもあるまい」

 

「ああ、そうだ、もし俺がお前にデュエルで勝ったなら、一つ協力してほしいことがある」

 

「……ふ、それが目的か、この俺が負けることなどあり得ないが、俺にも立場というものがある、そう安請け合いは」

 

「別に俺が勝ったとしても、内容を聞いて嫌なら協力しなくとも構わない」

 

「……なんだと?」

 

「だが、聞けばお前は必ず協力してくれるはずだ」

 

「……」

 

「勿論、デュエルを受けてくれるなら勝敗に関わらず空中迷宮への行き方を教えよう、どうする? デュエルをやるか? やらないか?」

 

「……まあ、いい、ちょうどこの剣の試し切りもしたかったところだ、相手になってやろう」

 

 と、いうわけで、ユージーン戦です。

 とは言っても、今すぐここで戦うわけではありません。

 

「だが、少し待て、先に他の奴らと、兄者に報告せねばならんことがあるからな」

 

「わかった、なら、30分後アルンの北側のテラスでいいか?」

 

「ああ、それだけあれば十分だ……貴様、名前は」

 

「……」

 

 名乗りたくねぇー! この名前大っ嫌いだから、もう名乗りたくねぇー! でも名乗らないのはあり得ないですし、はぁ。

 

「お馬鹿百階位だ」

 

「は?」

 

「それが俺の名前だ、ヒャッカとでも呼べ」

 

 この名前変更できないんですよね。

 多分キャラクター作成画面で最初に名前の選択があって、その後に種族の選択があると思うんですけど、リセットしても種族の選択から始まるので名前が変更できません! 

 

 この名前のせいでSAOでは無駄に苦労を背負ったんですからマジで変えたいです。

 もしまた誰かにお馬鹿百階位……茅場晶彦!? なんて勘違いされて変なガバに繋がったらたまったものじゃありませんから。

 いや、まあこのゲームの開発者は須郷さんなんで大丈夫だとは思うんですがね。

 

 それでもこの名前は大嫌いです。

 

「……ふ、ふはは貴様の名前、覚えたぞ」

 

 それは馬鹿みたいな名前だから覚えたのでしょうか? 

 

「貴様は俺のことを知っているようだが、一応名乗っておこう、俺の名前はユージーン、いずれ、いや、すぐにこのALOで最強のプレイヤーになる男だ!」

 

 ユージーンさんには本当に用事があるようなので、少し時間を開けます。

 その方がこちらとしても都合がいいので、無理して今戦う必要はありません。

 

 もっと広いところで、多くの観客を集めて戦います。

 

 何故ユージーンさんと戦うのか? その理由は、また後で。

 世界樹を登るのには、この方法が一番だと思いますのでね。

 

 さて、ユージーンさんの最強宣言を適当に聞き流したら早速この30分でできるだけ観客を集めましょう。

 

 さぁー! さぁー! みなさん! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! これより30分後、アルンの北側で凄いデュエルが始まりますよ! 

 なんとあの魔剣グラムを持つユージーン将軍がデュエルします! 

 

 知ってますか!? 魔剣グラム! このALOサーバーにたった一本しか存在しないと言われているあのレジェンダリーウェポンの魔剣グラムですよ! 

 

 その魔剣グラムを持つサラマンダーのユージーン将軍が、これより30分後にアルンの北側のテラスでデュエルを行います! 

 

 このデュエルを見逃すなんてあり得ない! 

 きっと見逃した方は生涯後悔することになるでしょう! 

 

 アルンの北側のテラス! アルンの北側のテラスです! 

 

 さあ! さあ! 是非とも観戦してくださいねー! 

 

 と言った感じでアルンの街中を走り回りながら叫び続けましょう。

 

 はい、というわけでやって参りましたユージーン戦です。

 

「……ずいぶん観客が多いな、まあいい、ヒャッカ、一瞬で終わってくれるなよ?」

 

「いらない心配だな、勝つのは俺だ」

 

「貴様では俺には勝てん、さあ、ゆくぞ!」

 

 ユージーン戦なのですが、ユージーンさんの剣の技量自体は大したことないです。

ユージーンさんよりも剣が強い方なんてSAOにはいくらでもいらっしゃいましたから。

 

SAOという本物の命をかけた戦いで磨き抜かれた剣技を超える技量をユージーンさんが持っていたら、マジでユージーンさん何者!?ってなりますからね。

 

ならば弱いかと言いますと、全然そんなことありません。

 

なぜかと言いますと、このALOの主戦場は空、空中戦です。

 

確かに自分も羽の扱いには慣れて、もう手足のように動かせはしますが、ユージーンさんはそれ以上に空中戦が上手いですからね。

 

なので、まだ一度も勝利したことがありません、

 

そんなユージーンさんとの空中戦を初見で制したキリトさんマジで半端ないっす。

 

自分は、やり直してやり直してやり直してやり直してやり直してやり直してやり直してやり直してやり直してやり直してやり直してやり直してやり直してやり直してやり直してやり直してやり直してやり直してやり直してやり直してやり直して、そうやって何度も挑み続けて、技術を磨いて、相手を観察し、行動を、思考を把握して、失敗して、失敗して失敗して失敗して失敗して失敗して、トライアンドエラーひたすらに繰り返して、それでやっと勝つのが基本的な戦い方ですから、初見で倒していくキリトさんはほんと主人公してますよね。

 

っと、そんな無駄な思考はとりあえずおいておきましょう。

 

さあ、戦闘開始です。




A「で、強力な助っ人とは誰のことだと思いますか?」
 
B「うーん、さっぱりわからないのですが」
 
A「頑張って!」
 
B「他人事だなぁ、ヒントくれたりは・・・ないですね・・・えーっと、敢えてのユージーンさんとか?」
 
A「では!気になる正解は!ゴニョゴニョゴニョ」
 
B「・・・は?何言ってるんですか?」
 
A「予想通りでしたか?」
 
B「いや、まって、は?なんの話をしているのですか?え?これって、強力な助っ人の話ですよね?」
 
A「ええ、強力な助っ人の話ですよ?」
 
B「いや、おかしいでしょ!何言ってるんですか!」
 
A「何も、おかしくありませんよ?」
 
B「いや、助っ人じゃないじゃないですか!彼は「ネタバレは禁止です」いや、でも、は?どういうことですか?わけがわからないんですが?」
 
A「何も、おかしくなんてありませんよ?貴方」





A「変な勘違いをしているのでは?」




 
B「・・・え?」

A「ちゃんと本文を読んでますか?つまらない神の言葉を読み飛ばしてませんでしたか?」

B「いや、読んでましたけど・・・」

A「・・・では、第6問、第1話のサブタイトル、願いとは、誰の願いでしょう?」
 
B「え?これ第1問でやりませんでしたか?読者の願いですよね?」

A「・・・本当に?」
 
 
 







 
A「誰よりもSAOの続きを願う人、SAOでやり残したことがある人・・・思い当たりませんか?」


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第6話

お久しぶりです。読んでくださっている方には申し訳ないですが、既に心が折れてます。
自分がここまで豆腐メンタルだと思ってませんでした。
面白いものを書けない自分が悪いのですが、やっぱり批判の声はキツイですね。
それを誤魔化すように変な強がり書いてましたが。
SAOの最終話らへんは自分も悪い出来だなーと今になったら思いますが、当時はあれでも真剣でした。
黒歴史としてそのまま変えてませんが、小説書くのはやっぱり難しいです。
それでも、未だにたまーに続きを書いてほしいという方がいらっしゃり、そういう温かい言葉で続きを書く気力がほんの少し戻ったので更新しますが、次の更新がいつになるか分かりません、すみません。



 ふらふら、ふらふら。

 

 まるで幽鬼のように、ふらふら、ふらふらと歩いていた。

 

 探していた。

 

 ずっと探していた。

 

 何処にいるのだろうか? 何をしているのだろうか? 

 

 探そう、見つけよう、捕まえよう。

 

 ふらふら、ふらふらと、私はひたすら探し求めて只々歩き続けた。

 

 そして、

 

 パタッ

 

「……あ、れ?」

 

 気がつけば、地面を舐めていた。

 不思議と足に、手に、体に力が入らない。

 何故だろう? 体が起き上がらない。

 

「……あぁ」

 

 そういえば、

 

 最後に食事を食べたのは、いつだったかな? 

 最後に水分を取ったのは、いつだったかな? 

 最後に眠りについたのは、いつだったかな? 

 最後に言葉を発したのは、いつだったかな? 

 最後に歩みを止めたのは、いつだったかな? 

 

 急に、強烈な飢餓、渇き、眠気、疲労が襲ってきた。

 

 ……だから何? 

 

 私は、何をしているんだろう? 

 何で、こんなところで寝ているんだろう? 

 飢餓? 渇き? 眠気? 疲労? この程度、なんて事はない。

 探さなきゃ、見つけなきゃ、捕まえなきゃ……殺さなきゃ。

 

 ゆっくりと起き上がる。

 そして、私はまた歩き続ける。

 

 彼を、彼を捕まえるまで、私は止まらない。

 

「……オー君」

 

 必ず、私が、

 

「ゲームはクリアされました──ゲームはクリアされました──ゲームは……」

 

 ……ふと、不思議な音が聞こえてきた。

 

「……え?」

 

 次の瞬間、私の体が少しづつ消えていった。

 

「……何で?」

 

 ……ゲームは、クリアされた? 

 

「……え」

 

 この世界から、追い出される? 

 

「……待って」

 

 リアルに、帰される? 

 

「……い、いや、待って! 私はまだ!」

 

 オー君に! 

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

 

 

 ………………………………

 

 

 

 体が全く動かない。今すぐにでも死んでしまいそうな老人よりも体に力が入らず、私の体はほんの少しの衝撃で簡単に折れてしまうほどに細くなっていた。

 

 ゲームが、クリアされた? SAOが、終わった? どうして? なんで? 

 

「幸恵! 起きたのか! 良かった! 無事に帰って来れたんだな!」

 

「良かったわ! 本当に、よく頑張ったわね! 幸恵!」

 

「……お、とーさん? おかー、さ、ん?」

 

 声が掠れる。

 

「良く、良く帰ってきてくれた! うっ、うっ、良かった! 本当によかった!」

 

「そうね、本当に、っ、本当よね、っ良かったわ!」

 

 久しぶりに見たお父さんと、お母さんが泣いている。

 

「な……ん」

 

「幸恵、無理して話さなくていい、今はゆっくり休んでくれ」

 

「そうよ、疲れたでしょう? 大丈夫、ここは安全よ」

 

 私は、現実世界に帰ってきていた。

 

「どう、て、……な、んで」

 

 なんで、終わってしまったの? 

 

 

 

 ──────────────────────────

 

 

 

 その後、私は病院で生活をしていた。

 いや、生活はしていなかったのかもしれない。

 間違いなく、人らしい生活はしていなかった。

 

 私はただただ、窓の外を見てぼーっとしていた。

 

 何に対してもやる気が起きない。

 リハビリをする気も、勉強をする気も、ゲームをする気も、本を読む気も、音楽を聴く気も起きなかった。

 

 分かってる、お父さんとお母さんが心配をしているってことは。

 

 せっかく帰ってきた一人娘が、抜け殻のようになっているのを見るのは辛いだろう。

 だからもう大丈夫だと、元気な姿を見せるべき、なんてことはわかってる。

 

 でもダメ。

 

 ここ1ヶ月でよく分かった。

 私は心が完全に壊れてしまっているということに。

 

 彼以外の事には殆ど興味を惹かれない。

 家族との会話や食事が楽しいと思えない。

 長い、永遠に思えるほどに長い孤独の後、話す彼との会話以上に心が動かされるものはなかったから。

 彼から貰った飢餓の極限で味わう食事より美味しいものはなかったから。

 

 リハビリが苦しいとも思えない。

 細い体を無理やり動かす苦痛よりも、私はもっと辛い思いを彼に貰ったから。

 

 何もかもが彼との思い出以下。

 何をやっても彼と比べてしまう。

 

 だから、私はもうオー君がいなければダメになってしまっていた。

 

 でも、もう会えない。

 あの狭いSAO内ですら見つけることができなかったオー君を、この広い世界で名前も分からない状態で見つけられるわけがない。

 

 こんなこと、思っちゃいけないことだって分かってる。

 だけど、私は思わずにはいられなかった。

 

 SAOが続いてくれていれば。

 彼を、オー君を見つけられたはずなのに。

 

 まだ私はオー君を見つけていなかったのに。

 まだ彼を殺していない。まだ彼を苦しめていない。まだ私は殺されていない。まだ、まだまだまだまだ! 

 何もかも、やり残したことばかり。

 どうして、SAOは終わってしまったの? 

 

「……キリト」

 

 あの時、オー君が言っていた。

 2週間後にキリトがSAOを終わらせるって。

 そして、SAOが終わった。

 

 だからきっと、キリトがSAOを終わらせたんだ。

 

 正直なところ、私はキリトのことを忘れていた。

 

 強烈な飢餓、すぐ外には凶悪なモンスター、薄暗い静かな洞窟、ながい、永い孤独。

 極限状態が永遠に続いて、もう他のことを考える余裕もなかった。

 

 むしろ、初めの方は恨みもした。

 助けて、助けてキリト、ケイタ、ササマル、ダッカー、テツオ、助けてギルドのみんな、誰か、誰か。

 

 そう願っても、何も変わらなかった。

 

 どうして助けてくれないの? 何で? どうして私だけこんな目に、苦しいよ。

 そして、そんな無意味な恨みなんて極限の中にいれば直ぐに消えた。

 

 私の元に来たのは、私をさらったオー君だけ。

 私の苦痛を、飢餓を、孤独を、不安を癒してくれたのはオー君だけ。

 私があれだけ苦しんだのは全てオー君のせい。

 

 だからプラスもマイナスも全てオー君に向いてしまっている、狂おしいほど私の心を支配している。

 

 一年以上をあの場所で過ごして、精神が壊れないわけがなかった。

 だから、本当にオー君に言われるまで名前すら忘れてしまっていた。

 

 キリト、かつて私が依存していた相手。

 キリトに対してだけは、今でも僅かに心が動く。

 でもそれは、好意とか、そんな綺麗な感情じゃない。

 本当はこんなこと、絶対に思っちゃいけないことなのに。

 なのに私は思ってしまう。

 

 

 

 余計なことを、と。

 

 

 

 

 ──────────────────

 

 

 

 SAOが終わって、2ヶ月が経過した。

 

 私は何も変わらない。何も変われない。

 壊れたまま、人形のように、置物のように病院のベッドで生活していた。

 

 私は壊れている、そのことを自覚出来たのは、パソコン研究会のみんなのおかげだった。

 

 パソコン研究会のみんな、佐々木啓太(ケイタ)笹野丸男(ササマル)斎藤大輝(ダッカー)佐藤哲夫(テツオ)のみんなの死を聞いた時だった。

 

 SAOが終わって、私が抜け殻のようになっているときにお父さんから聞いた。

 

「パソコン研究会のみんなのことは、残念だった、でも、別れがあれば出会いもある、前を向いて、進んでみないか?」

 

「……え?」

 

「あなた、サチに辛いことを思い出させないで! 今はまだ帰ってきたばかりなんだから、ゆっくりさせてあげましょう?」

 

「あ、ああ、すまなかった」

 

 どうやらお父さんとお母さんは、私が壊れたのがパソコン研究会のみんなが死んだからだと思っているみたいだった。

 

 私は知らなかった。

 殆ど忘れていたと言っても過言ではないが、パソコン研究会のみんなが死んだとは思っていなかったと思う。

 

 だって、みんなの死を知った時、私は動揺したから。

 

 

 

 何も、心が動かなかった事に。

 ああ、そういえば、そんな人たちもいたな、と。

 

 

 

 その時、私は壊れてしまっていることを自覚できた。

 あれだけ親しかった人たちの死が、全く心に響かなかった私は、もう壊れているとしか言いようがなかった。

 

 でも、壊れていると自覚したところで、もう戻ることなんて出来ない。

 オー君を忘れることなんて出来ない。

 オー君のいない生活が耐えられない。

 

 だから私はいつも思う。

 

 何で、どうして、SAOは終わってしまったの? 

 

 クリアなんてされなければ良かったのに。

 終わりなんてこなければ良かったのに。

 

「ずっと、ずっと続けば、私は見つけられたのに!」

 

 続きを、続きがあれば、続いてくれれば! 私は!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲームはクリアされたのに、続きを望むのかい?  

 

 ……ああ、ついに幻聴まで聞こえてきてしまった。

 でも、そんなことはどうでもいい。

 続きを望む? 当然に決まってる……まだ何も終わってないんだから。

 

……どうしても、と願うのなら、僕が願いを叶えてあげるよ!  

 

 ……幻聴が変なことを言っている。やっぱり私は壊れてしまった。

 

僕は神様だからね、人の願いは叶えてあげたくなるのさ。 

 

 でも、夢でもいい、神だろうがなんだろうが構わない。

 また、オー君に会えるのなら。

 

さあ、僕の手を取って。

 

 悪魔にだって、縋っても構わない。

 

 

 

 

 

続きから始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 __________________________________________________

 

 

 

 

 

 さあ、やって参りましょうユージーンさん戦。

 

 まず、一番気をつけなければいけないのは言わずもがな、ユージーンさんの魔剣グラムです。

 

 あの剣はエアリアルシフト、攻撃が一度だけ相手の防御をすり抜けるとかいうチート性能を持っていて、剣としての性能も抜群。

 チート武器とはまさにこの武器のことを言いますね。

 

 

 では、こんな武器を持っているユージーンさん相手に、どうやって戦うかと言いますと、ヒットアンドアウェイ戦法しかありませんよね。

 ま、エアリアルシフトとか? 避ければ無意味ですし? ただの性能の良い武器ってだけでしょ? 余裕! 

 

 だったら良かったんですがね。

 まあ実際、ユージーンさんが使っていなければ大した脅威ではないんですがね。

 

 さて、空中戦での剣戟で重要になってくるのは相手との距離感、衝突経路、そして飛行速度です。

 

 距離感は言わずもがなかもしれませんが、遠ければ相手に攻撃が当たりませんし、近ければ剣が振れません。

 つまりタイミングがかなり重要になってきます。

 地上戦なら足運びですが、空中戦の場合、これは衝突経路と飛行速度が関わってきます。

 衝突経路、これは簡単にいえば3つに分けられます。

 

 まず、一番想像しやすいのが別方向からの正面衝突。

 装甲悪○村正を知っている方なら空中戦闘、双輪懸を想像して貰えば分かりやすいですかね? 

 空中で♾の軌道を描いて戦うと言った感じです。

 まあ劔冑のように重たい鎧を付けているわけではないのであそこまで旋回が遅くなることはありませんが、空中戦での高所有利は変わりませんので、スピードを落とさず旋回して高所を取りながら正面衝突を繰り返すという衝突経路が1つ。

 

 次に同一方向に飛びながら戦い続ける平行飛行戦闘。

 剣がぶつかって弾かれて少し離れることはありますが、基本的にインファイトでの戦いなので、ステータスが高い方が基本有利ですね。

 

 最後に停止戦闘、空中で留まりながらの戦闘。

 空中で正面衝突からの鍔迫り合いとかになると一時的にこの状態になりますね。

 

 今回はどうしようかなー? 

 

 うーん、ヨシ! 

 

「うおおおおおお!!!!!」

 

 やっぱり何も考えず正面からのゴリ押し、これしかねぇよなぁ! 

 エアリアルシフト? 攻撃が一度だけ相手の防御をすり抜ける? 

 

 無駄無駄無駄ァ! 

 攻撃なんてそもそもSAOじゃあまともに防御したことねぇんだよぉ! 

 当たらなければどうということはなぁぁい! 

 

 必殺! 

 

 ただ真っ直ぐ行って切る! 

 

「っ! くっ、ぬん!」

 

 っ、やば! 

 

「ぐはっ!」

 

 いってー、攻撃の一瞬の隙間に攻撃挟んでくるとか、マジ? 

 攻撃食らったんだが? 体力もう僅かなんだがぁ? 

 やっぱエアリアルシフトはゴミ。

 そもそも戦場が空中とか、これまで地上戦しかしたことのないロートルにはきついんすわ、マジで地上戦にしてくれないかな。

 

 って泣き言も言ってられないなっ! 

 

 押せ押せ押せ押せ! もうゴリゴリのゴリ押しだぁー! 

 

「うおぉぉぉお!!」

 

「くっ! ふんぬ!」

 

「まだまだぁー!」

 

 何も考えず、とは余計なことを考えないってこと。

 これまでの長い経験を元に、反射的に、体が勝手に動く、その状態で戦い続ける。

 つまり! 

 

 無我の境地! ってやつですね! 

 

 まあ、空中戦の経験なんてまだまだですがね! 

 

「うおー!」

 

「グハー!」

 

 ……あれ? 

 

 ん? 勝った? え? ユージーンさん撃破? まじ? 

 

 なんかヌルッと勝っちゃった……ま、いいか! 

 

 ついに勝ったぞー! 

 っしゃぁ! ここ越えたらもうゴールよ! 

 

 SAO攻略した自分にとっては所詮劣化コピーのALO攻略なんて余裕なんすわ! 

 楽勝楽勝!



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