仮面ライダーオーズ 15 GREEDS (ラズベアー)
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第一章 ミラーワールド
第1話


「ハァ…、ハァ…。これで、終わる…。」

 

一見すると何の他愛のない世界。ビル等の建物が乱立し、木々も茂る街並み。しかし、本来ならば人で賑わっているはずの街には、人の気配がない。それどころか野鳥や野良犬、野良猫、虫といった生き物の気配すら感じない。さらに、その建物や看板、道路標識に印字されている文字も、どこかおかしい。まるで鏡写しのように、文字が反転しているのだ。

 

そう。ここは、現実世界と鏡写しの世界・ミラーワールド。

このミラーワールドにて、赤い身体に西洋の騎士を彷彿させるような鎧と仮面を着けた人物がいた。彼の頭部には龍騎のシンボルが印されており、さしずめ赤い龍の騎士といった所か。その赤い龍の騎士は、同様に茶色の身体に金の鎧を持つ不死鳥の騎士と対面していた。

 

『無駄だ。貴様は私には勝てない。』

 

まるで脳に直接語りかけるように、龍の騎士の頭に不死鳥の騎士の言葉が響く。

龍の騎士は、この不死鳥の騎士を倒す為に、戦い続けてきた。

 

こいつさえ倒せば、すべてが終わる。

 

龍の騎士はそう強く思いながら、腰に装着された龍のクレストのついたホルダーからカードを引抜き、左腕に備えられた龍を模したガントレットに装填した。

 

SWORD VENT!

 

ガントレットから機械音が鳴ると、間もなく、龍の騎士の手には柳葉刀のような剣が召喚された。

「ハイイイイ!!」

龍の騎士は、それを手にすると不死鳥の騎士に立ち向かった。

 

SWORD VENT!

 

不死鳥の騎士も同様にカードを左手に持つステッキに装填し、鳥の尾羽のような細身の剣、二振りを召喚した。

「ハイ!何!?」

龍の騎士が不死鳥の騎士に向かって剣を振り下ろす。が、そこにいるはずの不死鳥の騎士は姿を眩まし、剣は宙を切った。

次の瞬間、龍の騎士は背後から斬撃を受けた。

「うわっ!くそっ!」

よろめく脚に力をいれ、自身の背後にいる敵に向けて剣を振るった。しかし、それも空を切るものの、不死鳥の騎士には当たらなかった。

そして、再び背後から斬撃が襲い掛かる。

 

『言ったはずだ。貴様に私は倒せない。』

 

不死鳥の騎士の言葉が頭に響く。不死鳥の騎士は瞬間移動をすることができ、剣が届く前にかわしているのだ。それからも、龍の騎士は諦めずに剣を振り続けるが、いずれも不死鳥の騎士には届かず、むしろ不死鳥の騎士から一方的に攻撃を受け続けていた。

 

ADVENT!

 

龍の騎士は、新たにカードを装填した。

 

「グオオオオオオ!!」

 

どこからともなく赤い龍が現れ、不死鳥の騎士に向かっていった。そして、目元まで割けた大きな口を開き、火球を吐き出した。

不規則に飛んでくる火球に、さすがの不死鳥の騎士も瞬間移動をせず、両手の剣で火球を防ぎ始めた。

 

ADVENT!

 

赤い龍が火球を吐きやめた隙に、不死鳥の騎士もカードを装填した。

その後、金色の炎纏った不死鳥が現れ、赤い龍を牽制し始めた。

「もらった!」

龍の騎士は再び剣を振りかざしたが、今度は不死鳥の騎士は片方の剣でそれを受け流し、もう片方の剣で不死鳥の騎士を切り伏せた。

「くはっ!」

ついに、龍の騎士は膝をついてしまった。

 

『ここまでよく戦ってきた。それは褒めてやろう。しかし、ここが貴様の最後となるのだ。』

 

そう言いながら、不死鳥の騎士は止めを刺すべく剣を振り上げた。

だが、龍の騎士はこのタイミングを待っていた。

 

STRIKE VENT!

 

「ハイィ!!」

龍の騎士は、右腕に先ほどの赤い龍の頭部を模したガントレットを装備すると、近づいてきた不死鳥の騎士に叩きつけた。

 

『何!?』

 

突然のことで不死鳥の騎士は避けることができず、赤い騎士の攻撃を受けてしまった。

ガントレットから放たれた火炎が金の騎士の身体を焼き、今度は不死鳥の騎士が膝を着いた。

「今だ!」

 

FINAL VENT!

 

龍の騎士は、龍のクレストが印字されたカードを装填した。

「はああああ…!」

龍の騎士は、最後の攻撃の為に構える。そして、先ほど召喚された赤い龍が騎士の周りを一回りした。

「ハッ!」

龍の騎士は高く跳躍した。

そして、赤い龍が騎士に火炎を吐く。

「ハイイイイイイイイ!!!!」

炎を纏った龍の騎士は不死鳥の騎士に向け、蹴りを放った。そして、それは不死鳥の騎士の身体を突き抜けた。

 

『ば…、ばかな…。こ、の…、私が…。』

 

不死鳥の騎士は火炎に焼かれ、消滅した。

「ハァ…、ハァ…。お、終わった…。」

龍の騎士は勝利を確信した。

 

これで、出られる。

 

現実世界とは異なる世界。自分の命を狙ってくる化け物や自分と同じ騎士がいる異常な世界から、解放される。解放されるには、不死鳥の騎士を倒す必要があった。その騎士は今、自分の手で倒した。これで、こんな世界から出られる。龍の騎士は、そう信じていた。

 

しかし、何も起こらない。

自分の姿は、依然として鎧を纏っている。世界が動く訳でもない。

「おい…。どうなってる…?俺は、オーディンを倒した!!この世界から解放されるはずだ!!そうだろ!?」

龍の騎士が叫んだ。

「ネグ、ネグ!どこだ!!」

「おめでとう!龍騎君!!」

龍の騎士・龍騎が呼ぶとネグと呼ばれる者が姿を表した。全身銀色だが、身体に刻まれた模様から道化師のような姿をしている。

「ネグ、オーディンを倒したら、ここから解放されるんじゃないのか!?」

龍騎がネグに問い詰めた。

「んんん??あー、確かにネグはそんなこと言ったね。」

ネグはわざとらしく言った。

「でもねー…。残念!まだまだ足りないのよ。」

「足りない?何の話だ?」

龍騎が尋ねた。

「こっちの話。でも、足りないから、申し訳ないけど、もっかいかな。」

ネグが人差し指を立てて言った。

「もっかい?どういうことだ!話と違うじゃないか!!」

「そんなこと言われても、足りないものは足りないのよ。だから…。」

ネグは指をパチッと鳴らした。すると、今倒したはずの不死鳥の騎士・オーディンを含めた15人の騎士がどこからともなく現れた。

「そんな…!」

龍騎は次の言葉が出てこなかった。

「じゃ、もっかい、よろしく!」

ネグが再び指を鳴らすと、龍騎は意識が無くなった。戦いの記憶と共に…。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「何でヤミーが!?」

火野映司は、目の前で暴れている化物・ヤミーを見て驚いていた。

ヤミーとは、コアメダルを内包する異形の生命体・グリードによって生み出される化物である。ヤミーは、産みの親のグリードの為にセルメダルを増殖させることを目的に活動しており、その行動は様々である。また、グリードは各生態系の王でもあり、ヤミーの姿もまたそれに準じている。例えば、昆虫系のグリードの場合、産まれるヤミーもまた昆虫の姿をしている。

そして、今目の前で暴れているヤミーも蜂の様な姿をしていた。

しかし、映司が驚いているのは"ヤミーが暴れていること"ではない。産みの親のグリードは、数年前にその全てが映司の手によって倒された。既に存在しないはずなのである。にも関わらずヤミーが暴れている。そう、"存在しないはずのヤミー"に驚いていたのだ。

だが、あり得ない訳でもない。謎の集団・財団Xの手によって、グリードのコピー体が何度か生み出されている。その度に、ヤミーも産まれる訳だ。つまり、今目の前で暴れているヤミーは、そのグリードコピー体から産み出された存在、そして、映司が倒し損ねた個体と思えば不思議ではない。

ただ、妙なのはこのヤミーの体色が全身銀色なのである。異形とはいえ、ヤミーには彩りがあり、どこか生き物らしさはあった。しかし、このヤミーにはそれがない。まるでこの世の生物ではないかのように…。

「って、考えてる場合じゃないか!」

映司は、長方形の物体・オーズドライバーを自身の腰にあてる。するとドライバーからベルト状の物が腰に巻き付き、右側に円形の物体・オースキャナーが現れた。次に、赤、黄、緑色の、金色の縁取りがされた小さなメダル・コアメダルを手に取り、ドライバーに装填した。そして、ドライバーを右上がりに傾けると同時に、右手に持ったオースキャナーでドライバーをスキャンした。

「変身!」

映司はオースキャナーを胸元にあてた。

 

タカ!トラ!バッタ!

 

タ・ト・バ!

タトバ!タ!ト!!バ!!!

 

映司の肉体は、ドライバーに装填したコアメダルの力で変異し、黒いボディ、鷹の力を宿した緑の複眼を持つ赤いタカヘッド、虎の力を宿した黄色いトラアーム、飛蝗の力を宿した緑のバッタレッグにに姿が変わる。そして胸元のサークル・オーラングサークルの中に上から赤い鷹、黄色い虎、緑の飛蝗のクレストが現れた。映司は、仮面ライダーオーズ・タトバコンボに変身した。

「!?」

蜂ヤミーがオーズに気づいた。そして、蜂ヤミーは両手に持った蜂の針のような武器を構え、オーズに襲いかかった。

オーズは、両腕に備えられた三本の爪・トラクローを展開させ、蜂ヤミーの針を弾きながら、爪で切り裂いた。

 

シャリンシャリンシャリン

 

オーズが蜂ヤミーに攻撃を当てる度に、蜂ヤミーの身体から血飛沫の代わりにセルメダルが散らばっていく。そして、オーズは散ったセルメダルを掴むと、自身の専用武器・メダジャリバーを持ち出し、それにセルメダルを三枚装填した。

「いくぞ!」

オーズは再びオースキャナーを持つとセルメダルを装填したメダジャリバーをスキャンした。

 

スキャニングチャージ!

 

「せいやああああ!!!!」

エネルギーが蓄積されたメダジャリバーを横に振り切る。メダジャリバーから発せられた斬撃波が空間ごと蜂ヤミーを切り裂いた。

「ギ!?」

間もなく空間は元に戻ったが、蜂ヤミーは切り裂かれたままとなり爆散した。

「ふぅ…。」

戦いが終わったオーズは一息着くとオーズドライバーを外そうとした。

その時だ。

「…ん?」

オーズは自身の首に違和感を感じていた。首もとを触ると粘着性の強い何かが首に巻き付いていたのだ。触った感触からそれは自身の後方に伸びているようだった。

オーズが振り向くと、蜘蛛の糸の様なものが、建物の硝子から伸びていることに気づいた。

「何だ、これ?」

オーズは糸を手で引っ張りながら辿った。

その瞬間、硝子の向こうから力強く引っ張られた。

「おわっ!?」

硝子に引き寄せられるようにオーズの身体は引っ張られた。そして硝子に衝突する、はずが硝子の中に吸い込まれてしまった。

 

「うわぁ!いてっ!」

オーズは地面に叩きつけられるように倒れこんだ。オーズは起き上がると、辺りを見回した。

「あれ…?」

そこは、先ほど蜂ヤミーと戦った場所だった。直後に硝子から蜘蛛の糸の様なもので引っ張られたと思ったのだが。それでも、オーズには違和感を感じていた。先ほど、ヤミーと戦っていたときは、それから逃げ惑う人々の姿があった。しかし、同じ場所にいるにも関わらず、人の気配が一切感じられない。

それだけではなかった。

「…ん?ええ!?」

オーズは、町の看板等の文字を見て驚愕していた。そこら中の文字が反転していた。オーズは、さらに辺りを見回した。やはり眼に映る文字、その全てが反転していた。まるで鏡に映されているかのように…。




仮面ライダーオーズをメインとした二次創作ものです。

今回はオーズに加え、仮面ライダージオウ スピンオフ作品『RIDER TIME 仮面ライダー龍騎』配信記念として、仮面ライダー龍騎とのクロスオーバーものとして執筆しました。

オーズの作品テーマの一つは"欲望"が挙げられ、龍騎もまた"願いを叶える"ことがテーマの一つとなっています。二つの似たテーマを混ぜるとどんな超反応になるのか、怖いものみたさでやってみました。

前作同様長編となります。
拙い文章になるかと思いますが、暖かい目で見守っていただけたらと思います。


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第2話

「どうなってるんだ?ここ…。」

その時、オーズは何か殺意を感じて咄嗟に回避行動を取った。先ほどまでオーズが立っていた場所に、巨大な鎌が突き付けられていた。

「またヤミーか!?」

オーズは鎌の持ち主を見上げた。そこにいたのは、灰色の巨大な蜘蛛だ。

先ほどの蜂ヤミーはまだ人型ではあったが、今度の蜘蛛の化物は完全に蜘蛛の姿をしていた。

再び、蜘蛛の化物が前肢を持ち上げ、その先にある鎌をオーズに向けて振り下ろした。

「ふっ!」

オーズは後ろに跳躍して鎌をかわした。

「これでどうだ!」

オーズは、二枚のコアメダルを取り出し、オーズドライバーに装填した。

 

タカ!カマキリ!チーター!

 

スキャンすると、腕が蟷螂の力を宿した緑のカマキリアームに、下半身がチーターの力を宿した黄色いチーターレッグに変わった。

そして、両腕に備わっていた緑の剣・カマキリソードを逆手に持ち、構えた。

「ギギ!」

蜘蛛の化物が前肢を振り下ろす。しかし、チーターの脚力の恩恵を受けているオーズは、その脚力から生まれる走力で蜘蛛の化物の攻撃をかわした。

「ハッ!」

オーズは駆け抜けながら、両腕の剣で蜘蛛の化物を何度も切りつけた。

しかし、先の蜂ヤミーとは異なり耐久力があるのか、決定打にはならなかった。

「なら今度は…、うわっ!?」

オーズがメダルを入れ替えようとしたとき、蜘蛛の化物が蜘蛛の糸をオーズの身体を縛り付けるように吐き出し、その動きを封じたのだ。

「まずい…!」

蜘蛛の化物の引っぱる力は凄まじく、オーズの身体は徐々に蜘蛛の化物に引き寄せられていく。

「カチっカチっ」

蜘蛛の化物が牙を鳴らす。

こいつ、俺を食べる気か!?

そう理解したオーズは、何とかして脱出を試みるも、蜘蛛の糸は千切れる様子を見せなかった。

 

STRIKE VENT!

 

突然、どこからか電子音が聞こえた。

その途端、大量の水流が蜘蛛の化物を襲いかかった。

その膨大な水圧に負けた蜘蛛の化物はバランスを大きく崩した。

「うわっ!」

蜘蛛の化物がバランスを崩したことで蜘蛛の糸が切れ、オーズの身体は解放された。

オーズは水流が飛んできた方向に視線を向ける。その先には青い身体に鎧を身につけた人の姿があった。甲冑のような頭部の形はまるで…。

「鮫?」

 

FINAL VENT!

 

鮫の騎士は腰部のベルトからカードを引き抜き、左腕の鮫のような手甲に装填した。

すると、右腕に、左腕のものより一回り大きい鮫型の手甲が装着される。それと同時に、上空に巨大な青い鮫型のモンスターが現れた。

鮫の騎士は、蜘蛛の化物に向かって駆け出した。

「ハアッ!!」

鮫の騎士は、右腕の手甲を蜘蛛の化物の懐に叩き込んだ。そして手甲から膨大な量の水が発生し、その圧倒的な水圧で蜘蛛の化物を宙に飛ばした。

そして、飛んでいく蜘蛛の化物の直線上に青い鮫型モンスターが移動し、頭部に備えられた鋸状の刃を展開し、大きく振りかざし蜘蛛の化物を両断した。

「ギギャアアア!!」

倒された蜘蛛の化物から光る球体が現れたかと思うと、青い鮫型モンスター・アビソドンがそれを食べるように吸収した。

「あ、ありがとうございます。」

オーズは、今起きた状況を上手く飲み込めないでいたが、鮫の騎士に礼を言った。

「あの、貴方も仮面ライダーですよ…!」

「ふん!」

「うわっ!?」

オーズが鮫の騎士に近づいた時、鮫の騎士が急に手甲を打ち込んできた。突然のことで、オーズはかわせず直撃してしまった。

「な、何で!?」

「何故?理由は簡単だ。お前もライダーだからだ!」

そう言うと、鮫の騎士・仮面ライダーアビスがオーズに攻撃を仕掛けた。

「ちょ、ちょっと!?」

オーズは、アビスの攻撃をかわす。何故、仮面ライダーが攻撃を?オーズは理解できなかった。それに正体不明のこのライダーと戦う理由がわからなかった。

 

SWORD VENT!

 

アビスは左腕に装着された手甲・鮫召機甲・アビスバイザーにカードを装填すると両手に鋸状の剣・アビスセイバーを二振り手にした。

「くっ!」

オーズはメダジャリバーでアビスの剣を受け止めた。

その時、後方から別の気配を感じた。

「え!?」

オーズが振り向くとその視線の先に、橙色の蟹のような姿をした騎士がいた。

「またライダー?」

「鎌田さん、貴方だけズルいですよ?そんな獲物を独り占めして。」

「須藤か。お前には関係ない!」

アビスが蟹の騎士・仮面ライダーシザースに言った。

「私も混ぜて貰いますよ!」

 

STRIKE VENT!

 

シザースも左腕の手甲・甲召鋏シザースバイザーにカードを装填。右腕に巨大な蟹の鋏・シザースピンチが装着され、身動きの取れないオーズに迫った。

「え、嘘!?」

 

タカ!ゴリラ!チーター!

 

オーズはメダルを装填し、ゴリラの力を宿した白いゴリラアームに変化させた。ゴリラの腕力を生かし、アビスの剣を弾き返した。

「何!?」

そして、オーズは迫りくるシザースに向け、構えた。

 

ADVENT!

 

今度は、鋼の犀型モンスターが突進してきた。

「うわあっ!」

猪突猛進。文字通り犀型モンスターの突進を受け、オーズは大きく吹き跳んだ。

「おいおい…。そいつ、何だよ?」

続いて鋼色の犀の騎士・仮面ライダーガイが現れた。

「芝浦…!ええい、俺の獲物を!」

アビスが悪態ついた。

「そんな寂しい事言わないで下さい。我々は"一応"チームなんですから。」

シザースが言った。

「ま、ライバルには早々に退場して貰わないとね!」

 

STRIKE VENT!

 

ガイは左肩の装甲・突召機鎧にカードを装填、先ほど現れた鋼の犀型モンスター・メタルゲラスの頭部を模した手甲・メタルホーンを装備した。

タトバコンボにチェンジしたオーズはメダジャリバーを用いてガイの攻撃を何とかやり過ごす。が、シザース、アビスも加わり、オーズは追い詰められていった。

「どうして!仮面ライダー同士が戦わなきゃいけないんだ!」

オーズは叫ぶように訴えた。

「あん?おたく、もしかしてライダーバトルの初心者?」

ガイが怪訝そうに言った。

「ライダー、バトル?」

オーズは問い返した。

「…ふぅん。だったら、何も知らないうちに消してやるよ!」

 

FINAL VENT!

 

再びメタルゲラスが現れると、ガイはメタルゲラスの肩に飛び乗った。そして、メタルホーンを前に突きだし、メタルゲラスの走力をエネルギーに変え突っ込んで来た。

 

ADVENT!

 

再び電子音が聞こえた。

「うわっ!」

次の瞬間、白鳥型のモンスターと紅色のエイ型モンスターが飛翔し、突進してきたガイを逆に突き飛ばした。

「貴様ら!」

アビスがモンスター達が飛来した方を見て言った。

そして、オーズの前に、白い白鳥の騎士と紅のエイの騎士が立った。

「ファム、ライア…!こんな時に!」

 

SWORD VENT!

 

SWING VENT!

 

白鳥の騎士・仮面ライダーファムとエイの騎士・仮面ライダーライアは、それぞれカードを装填するとファムは薙刀状の剣・ウイングスラッシャーを、ライアは鞭状の武器・エビルウィップを手にし、オーズをそっちのけでアビス、シザース、ガイに攻撃を仕掛けた。

「ちっ、邪魔すんなよ!」

ガイが言った。

「これ以上の戦いは無意味だ!」

ライアが訴えた。

「意味はありますよ?勝ち残った者にだけですがね!」

シザースが言った。

「死んだ者の思いも知らずに!」

ファムが言った。

「甘いな!そんな認識で生き残れると思っているのか!」

アビスが言った。

「ちょっと、何がどーなってんの!?もう何だこれ…。」

完全にオーズは置いてきぼりだった。

 

トン…。

 

ふとオーズの肩に何者かの手が置かれた。

「訳がわからねぇか?」

「え?」

オーズが振り向くと、蛇柄の革ジャンを着た男がいた。金髪で目つきが異様に鋭く、赤く充血していた。

「簡単な話だ。やつらはな。己の願いを叶える為に命を掛けて戦っている。」

蛇柄の革ジャン男が言った。

「願いを叶える?でも、その為に戦い合うなんて…。」

「おかしいか?だが、そんな単純な理由だから戦える。俺も願いを叶える為に戦っているからなぁ。」

蛇柄の革ジャン男が言った。

「貴方の、願いって…?」

「…戦いだ!」

そう言うなり、蛇柄の革ジャン男はオーズをいきなり蹴飛ばした。

「うっ!」

「ははは!俺を楽しませろ…!」

そして蛇柄の革ジャン男・浅倉威はコブラのクレストのある紫色の四角い物を前にかざした。すると、どこからともなく銀色のバックルが現れ浅倉の腰に装着された。

「変身!」

浅倉はバックルに紫色のカードデッキを装着した。幾重にも鎧の幻影が浅倉の身体に重なり、やがて紫のコブラの騎士・仮面ライダー王蛇に変身した。

「あ゙ぁ~…。」

 

SWORD VENT!

 

王蛇は変身するなり、コブラを模したステッキ・牙召杖ベノバイザーにカードを装填。コブラの尻尾を模した剣・ベノサーベルを手にし、オーズに向けて振り回した。

「うわぁ!!」

王蛇の乱れ切りに対応しきれず、オーズを刃が襲った。

「っ!?浅倉!!」

シザースが反応した。

「今度は、お前が遊んでくれるのか!」

続いて王蛇は、シザース達の戦いに乱入していった。

「浅倉!!」

ファムも反応し、攻撃をしようとしていたが、ライアに止められた。

「止せ、今はやつと戦う時じゃない。一旦退くぞ。」

ライアがファムに言った。

「…くっ!」

ファムは恨めしそうに王蛇を見たが、ライアの意向に則った。

「…来い!」

ライアがオーズの手を取った。

「え!?」

「話は後!」

ファムもそう言い、ライア、ファム、オーズはその場を後にした。

「凶悪な犯罪者が!」

アビスが二振りのアビスセイバーを振りかざす。が、片手にベノサーベル、片手にベノバイザーを持っていた王蛇は、それぞれの武器でアビスの剣を力任せに弾いていく。

「そんなもんか!もっと俺を楽しませろ!」

「この戦闘狂が!」

シザースがシザースピンチを手に王蛇に迫る。

 

SHOOT VENT!

 

ズドオオオオン!

王蛇に目掛けて、砲弾が飛んできた。

王蛇は辛うじて避けたが、先ほどまで王蛇がいた場所はコンクリートが砕け、大きな穴を作った。

「やれやれ…。戻ってくるのが遅いかと思えば、何めんどくさいのに捕まってんの。」

砲撃の斜線上には、緑色のメカニカルな騎士が長大なバズーカ砲を構えて言った。

「北岡か…。会えて嬉しいぜ。」

王蛇が言った。

「俺は全然嬉しかないよ!」

 

ズドオオオオン!

 

メカニカルな騎士・仮面ライダーゾルダは再び砲撃した。

「はははははは!!」

王蛇は恐れる素振りを見せず、笑いながら砲撃から逃げていた。

「何突っ立ってんの!撤退だよ撤退!」

ゾルダがそう言うと、アビス達もその場から離れていった。

「まだだ…。まだ全然満たされねぇ!!どこ行きやがった!!俺と戦え!!」

王蛇は悲鳴とも取れるように叫んで言ったが、虚しくも何も返事はなかった。




第2話、いかがでしたでしょうか。

ミラーワールドに取り込まれたオーズに襲い掛かる巨大な蜘蛛の化物。龍騎本編第1話に登場した蜘蛛型モンスター・ディスパイダーです。
龍騎本編第1話をオマージュして、オーズの相手として戦わせました。

そして、その戦いに乱入してきた、オーズが初めて遭遇するライダー。
仮面ライダーアビスです。まさかのアビスです。笑
ディケイド本編で初登場したミラーワールド由来の仮面ライダーです。『RIDER TIME』において、ファムを差し置いて13RIDERの一人として登場したことで、龍騎公式の公認(?)を得ました。
故に、今作に置いても例外なく登場させました。

だからといって、ファムを省くなんてことは、私はしません。笑

オーズに突然襲い掛かる、アビス、シザース、ガイ。
オーズを助けた(?)、ライア、ファム。
いつも通り乱入してきた、王蛇。
アビス達を助けたゾルダ。

この戦いは、一体どうなっていくのか。

第3話、お楽しみに。


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第3話

「助けて頂いて、ありがとうございました。」

オーズは、傾いていたベルトを元の位置に戻すと、映司の姿に戻り、二人のライダーに礼を言った。

ファムとライアも自身のバックルからカードデッキを抜き取り、人の姿になった。

「貴方、見ない顔ね。」

ファムだったファー付きの灰色のロングコートを着た女性が、映司をまじまじと見て言った。

「だが、他のライダーにやられる前に助けることが出来てよかった。」

ライアだった赤いジャケットを着た男が、安堵の表情を見せた。

「あ、俺は火野映司って言います!仮面ライダーオーズです!」

映司は取り敢えず自己紹介をした。

「俺は手塚。こっちは霧島だ。」

「よろしく。」

物腰の柔らかそうな手塚に対して、霧島はそっけなく言った。

「でも良かった~…。ようやく、ちゃんと話ができそうな人達と出会えて。」

はぁ、と溜め息を突きながら映司ら言った。

「いや。それはどうかな?」

手塚が言った。

「…え?」

映司は恐る恐る顔を上げた。

「貴方の返答次第では、私達は貴方の敵になるかもしれない。」

霧島は言った。

「お前の願いは何だ?何の為に戦う?」

手塚が尋ねた。

「俺の、願い…?」

「ヤァァァァァ!!!!」

映司が答えかけた時、再びモンスターが現れた。それも同種のものが複数だ。

「ヤミーか!?」

「違う、あれはミラーモンスター!」

霧島が答えた。

「ミラー、モンスター?」

「レイヨウ型が複数…、という事は!」

手塚がそう言った時、レイヨウ型モンスターの群れの中から、やはり一人の騎士が姿を現わした。茶色いレイヨウの騎士・仮面ライダーインペラーだ。

「いやぁ、さすがは占い師!察しがいいねぇ。」

インペラーが言った。

「あれって、アビスとかいうやつらの仲間なんですか?」

映司も状況がわからないとはいえ、流石に構えながら言った。

「あんな野蛮なやつらと一緒にしないでもらえるかなぁ?」

映司達の後方から声がした。

振り向くと、銀の鎧に群青色が差し色で入っている虎の騎士・仮面ライダータイガがいた。

「僕達は、こんな馬鹿げた戦いを止めたいだけさ。英雄になる為にねぇ。」

タイガが言った。

「そーゆーこと!ま、俺は幸せな生活が手に入ればそれでいいんだけどね。」

インペラーが同意して言った。

「え?てことは敵じゃない?」

「騙されるな!」

映司が気を許そうとしたが、手塚が言い放った。

「はぁ?嘘なんかついてないよ!」

インペラーが反論した。

「そう…。嘘じゃない。だけど、戦いを終わらせるには、君達は邪魔なんだ。」

 

STRIKE VENT!

 

タイガが斧状の武器・白召斧デストバイザーにカードを装填。虎の爪を模した手甲を両手に装着した。

「ごめんね。そーゆーことなんで!」

 

SPIN VENT!

 

インペラーもまた、右脛に装備されている羚召膝甲ガゼルバイザーにカードを装填し、レイヨウ型モンスター・ギガゼールの頭部を模した二本のドリルを備えた手甲ガゼルスタッブを装備した。

「結局そうなるのか!」

手塚と霧島はそれぞれカードデッキをかざす。瞬く間に彼らの腰にバックルが召還された。

 

「「変身!!」」

 

手塚と霧島はそれぞれライア、ファムに変身した。

 

「やるしかないのか!変身!」

 

映司もオーズ タトバコンボとなりインペラーとタイガの行動に備えた。

「鷹、虎、飛蝗?何だそれ?」

インペラーが笑って言った。

「デッキで変身しない…?あんた何者?」

タイガが言った。

「俺はオーズだ。」

オーズが名乗った。

「…それで、貴方は結局敵なの?味方なの?」

ファムがオーズに尋ねた。

「敵か味方か、それはわからない。でも、自分の夢を叶える為に、誰かの命を奪うだなんて間違ってる!」

先程の戦いで、王蛇が言った言葉を思い出しながら、オーズが答えた。

「…ふっ。似ているな、あいつに。」

ライアが言った。

「…そうね。」

ファムも、ふふっと笑いながら言った。

「何楽しそうにしてんだよ!」

インペラーが先に迫った。少し遅れてタイガも続いた。

「来るぞ!」

ライアの合図で三人はタイガ、インペラーを迎え打った。

その内、ライア、オーズはインペラーと、ファムはタイガと戦っていた。

 

「おらっ!」

インペラーがガゼルスタッブを振るう。ライアは左腕に備えた飛召盾エビルバイザーを盾代わりにし、それを防いだ。

「ハッ!」

「うわっ!」

そして、オーズが拳をインペラーに突きだした。

 

STRIKE VENT!

 

ライアがエビルバイザーにカードを装填すると、エイの尾のような鋭い棘付きの手甲・エビルニードルを装備した。

「おっと!」

インペラーはその武器の危険性を察し、大きく跳躍しながら退いた。インペラーの予測通り、エビルニードルから数本の針が射出された。

「だったら、これでどぉ?」

 

SPEAR VENT!

 

インペラーの手に長槍・ガゼルスピアを手にした。

「この距離なら近づけないだろ!そぉらそぉら!」

インペラーは棒術の如く、ガゼルスピアを振り回した。インペラーに向けて放たれた針は、ガゼルスピアにより弾かれてしまう。また、その先端は二股に分かれドリル状の刃が付いており、オーズとライアは迂闊に近づけなかった。

 

「そうでもないさ!」

ライアはそう言って新たにカードを装填した。

 

COPY VENT!

 

すると、新たにガゼルスピアが現れライアの手に収まった。

「え!そんなのアリ!?」

インペラーは驚いていった。

「ハッ!」

 

カキィン!

 

二本の槍が交差する。そして、ライアの槍がインペラーの槍を地面に押さえつけた。

「今だ!」

オーズは両腕の爪を展開し、インペラーに迫った。

「やらせるかよ!」

 

ADVENT!

 

「ヤァァァァァ!!」

ギガゼールを始め、複数のレイヨウ型モンスターがオーズとライアに襲いかかった。

「うわ!」

「火野!うわ!」

モンスターの猛攻で、ライアとオーズが押し飛ばされてしまった。

「数なら、こっちだって!」

立ち上がったオーズは、二枚の緑色のコアメダルを取り出した。

 

クワガタ!カマキリ!バッタ!

 

ガータ!ガタガタキリッバ!!

ガタキリバ!!!

 

オーズは緑の昆虫系コンボ・ガタキリバコンボに姿を変えた。

「姿が変わった!?」

ライアが驚いて言った。

「いくぞ!」

するとオーズは、複数のガタキリバの分身を生み出し、モンスター達と交戦させた。

「マジかよ!?」

インペラーにも、ガタキリバ分身体が攻撃しかけた。

 

FREEZE VENT!

 

突然、オーズの足元を冷気が襲い、両脚を氷付けにされてしまった。

「おおわ!」

オーズは突然動けなくなったため、つんのめってしまった。

「何してんだよ、全く。」

タイガがデストバイザーを手に迫ってきた。

「おお、東條さんきゅー!」

インペラーが言った。

「凍ってる!ラトラータで溶かせるか…って、ええ!?」

オーズが視線を下にやると、なんとオーズドライバーごと凍っていた。これではメダルを装填することができない。

「まずい!」

オーズ本体の危機に気づいたガタキリバの分身体が、迫るタイガに向かって攻撃を仕掛けた。

「邪魔!」

 

BLIZZARD VENT!

 

タイガは、カードの効力で冷気を纏ったデストバイザーを振り、ガタキリバ分身体を切り伏せた。

「じゃあね。」

そして、タイガがオーズ本体に斧を振り下ろした。

 

ガッ!

 

しかし、タイガの斧はファムの剣・ウイングバイザーによって弾かれた。

「ハッ!」

ファムは軽快な足取りで、しかし鋭い剣さばきでタイガを押していく。

「くそ、邪魔しないでよ!」

 

ROA VENT!

 

「ウオアアアアア!!」

タイガが虎のような咆哮を上げた。

その衝撃は凄まじく、空気が揺れたかと思うと、瞬く間に超振動波としてファムを襲った。

「あ、ぐぅ…!」

ファムはその咆哮を直接受けてしまい、身体全身に凄まじい振動が走った。それは痺れとしてファムの身体に残り、ファムは足腰に力を入れられず、膝を付いてしまった。

 

FINAL VENT!

 

電子音と共に虎型モンスター・デストワイルダーがファムに飛びかかった。

「あぐっ!」

デストワイルダーはファムの身体を仰向けの状態で地面に押さえつけ、そのままデストクローを装備したタイガの方へ引き摺り始めた。

「美穂!!」

ライアが事態に気づき、ファムの元へ駆け寄ろうとした。

「おっと、行かせないよ!」

しかし、インペラーとレイヨウ型モンスターがライアの前に立ち塞がった。

「霧島さん!く、動け!」

オーズも身体を力ませたり捻ったりしたが、凍った身体はびくともしなかった。

「ハァァ…!」

タイガとファムの距離はどんどん短くなっていく。

その時だ。

 

NASTY VENT!

 

「キィィィ!!!!」

黒い蝙蝠型のモンスターが超音波を上げながら飛来した。

「ゔっ!!」

超音波によって、今度はタイガが苦しみ出した。

「ガル!?」

同じく、ファムを引き摺っていたデストワイルダーも苦しみ出した。そして僅かながら、デストワイルダーの押さえつけている力が弛んだ。

「ハッ!」

その瞬間を逃さず、麻痺から回復したファムは脚でデストワイルダーを蹴飛ばした。

バランスを崩したデストワイルダーは、ファムから腕を放した。

 

STRIKE VENT!

 

続いて、火炎弾がオーズに向かって飛んできた。

「うわっ!」

オーズは動ける腕で身体を庇おうとした。が、火炎弾は足元に着弾し、オーズの氷を溶かした。

「手塚、霧島!二人とも大丈夫か!?」

火炎弾の飛んできた先に、赤い龍の騎士がいた。

「全く、世話を焼かせる。」

続いて、黒い蝙蝠の騎士が現れた。

「ちっ…。次から次へと。」

タイガが悪態ついた。

「どうする?まだ続けるか?」

龍の騎士が言った。

「…いや。今はやめておくよ。行こう。」

「…またね。」

タイガはそう言うとインペラーと共に去った。

 

「…ふぅ。無事で良かった。」

龍の騎士が、力んだ身体を緩めながら言った。

「手塚、こいつがそうなのか?」

蝙蝠の騎士が、オーズを指して言った。

「ああ。俺の占いからすればな。」

ライアが言った。

「えー…と?」

オーズは状況が飲み込めないでいた。

「ああ、すまない。こちらの話ばかりになってしまって。」

そう言うと、龍の騎士はバックルからカードデッキを抜き取った。変身を解くと、黒のアンダーシャツに白いワイシャツ、暗めのデニムを身につけた男の姿が現れた。

「俺は、榊原耕一。仮面ライダー龍騎だ。」




第3話、いかがでしたでしょうか。

前回、アビス達や王蛇の攻撃を掻い潜って離脱したオーズ達。
次に、待ち構えていたのは、仮面ライダーインペラーと仮面ライダータイガ。龍騎本編後半組の登場です。

タイガ達は、アビス達を"野蛮な輩"と断じながらも、オーズ達に襲い掛かります。その真意とは。

今作のミラーワールドのライダー達には、原作にはないオリジナルアドベントカードを所持させました。
各ライダーの戦力差がけっこうまちまちだったので、イーブンに戦えるように設定した次第です。
もちろん、前回登場したライダー達や、今後登場するライダー達にも新カードが備わっています。

書き忘れてしまいましたが、今作の時系列としては、オーズサイドは『平ジェネFINAL』後、かつ『MOVIE対戦MEGAMAX』後の設定です。つまり、映司は恐竜系以外のメダルを全て所持している状態です。
一方の龍騎サイドも、本編終了後の設定。なお、ライダー達の変身者も原作通りの設定です。(アビスも。)

龍騎が本編終了後の設定ならば、何故、本来原作(映画・13RIDERS含め)で既に死んだはずの彼らが復活し、再びライダーバトルが勃発しているのか。
そして何故、仮面ライダー龍騎の変身者が、龍騎本編の主人公・城戸真司ではなく、榊原耕一なのか。

これらは物語における一つの謎として、いずれ明かされます。

次回をお楽しみに!


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第4話

「俺は、榊原耕一。仮面ライダー龍騎だ。」

黒のアンダーシャツに白いワイシャツを着た男・榊原が言った。

「で、このぶっきらぼうが仮面ライダーナイト、秋山蓮だ。」

榊原が黒いロングコートを着た男を指して言った。

「…で、お前は?」

秋山がオーズに言った。

オーズもまたオーズドライバーからメダルを抜き取り、映司の姿に戻った。

「火野映司、仮面ライダーオーズです。さっきは助けて頂いてありがとうございました!」

映司が言った。

「気にするな。俺達は君と戦うつもりもなければ、何だったら仲間になってもらいたいくらいだからね。」

榊原が優しく言った。

「おい、簡単に信じていいのか?」

一方の秋山は映司を警戒していた。

「俺は手塚の占いを信じる。だって彼の占いは…。」

「当たる。からね。」

榊原の言葉に被せるように霧島が言った。

「俺の占いが示した通りなら、彼がこの戦いの運命を変えてくれるはずさ。」

手塚が、ジャケットの懐から一枚のタロットカードを取り出して言った。

「あの、俺には何が起きているのか、全然わからないんです。ここが、いつもの世界とどこかおかしいことくらいしか…。」

映司が言うと榊原が険しい表情になった。

「ここは、決して出ることの出来ない狂気の世界・ミラーワールドだ。」

「ミラー、ワールド?」

映司が問い返した。

「現実世界の、鏡写しの世界と言えば理解してもらえるかな。」

榊原は言うと、適当な所を指差して言った。その指先を辿ると、建物に備えられた看板があるが、映司が初めて目にしたものと同じく文字が反転していた。

「鏡の世界?」

映司が言った。

「そうだ。この世界には、現実世界のように一般人もいなければ動物も昆虫もいない。かわりに、俺達を餌と見るミラーモンスターと、仮面ライダーしか存在しないんだ。」

榊原が言った。

「その、仮面ライダーがどうして戦いあっているんですか?」

映司が言ったとき、秋山が鼻で笑って言った。

「お前はバカか?ライダー達は己の願いを叶える為に殺し合っているんだ。」

「それってどういう…?」

映司が言った。

「…ライダーバトルに勝ち抜き、生き残った一人にだけ、願いが叶い、現実世界へ帰還出来る。それが、この戦いの根底にある。」

榊原が言った。

「そんな…。でも、貴方達は違う。」

映司は言った。

「そう。この戦いを終わらせるのに、二つの条件がある。」

「条件?」

「一つは、今言った一人になるまで生き残ること。もう一つは、オーディンを倒すこと。」

榊原が言った。

「オーディン?」

「仮面ライダーオーディン。やつがこの戦いを仕組んだ元凶だ。」

手塚が言った。

「オーディンを倒せば、自動的に戦いは終わる。倒した者にはその者の願いを叶え、この世界で、それまでに生き残った者はそのまま現実世界に帰ることができるだ。」

榊原が言った。

「なるほど…。じゃあ、そのオーディンってライダーを倒せば…。」

「だが、話はそう簡単じゃない。」

映司の言葉を遮り秋山が言った。

「オーディンは、戦いの元凶だけあって強いんだ。それは俺達、いや、ライダー全員それを思い知らされているんだ。」

榊原が言った。

「そして、やつはこう言った。勝ちたければ強くなれ。他のライダーを倒せば、それだけ強くなれる。とな。」

秋山が言った。

「最後の一人になって願いを叶えるためには、どの道オーディンとも戦うことになる。だから、ライダー達は躍起になって殺し合っている。という訳だ。」

「そんな…。」

映司は、胸が締め付けられる思いをしていた。無理もない。映司の信念の一つには"ライダーは助け合うもの"だと信じていたからだ。だが、この世界は違う。互いに潰し合い、残った者に願いを叶えるという狂った世界だ。

「…でも。やっぱり間違ってます!誰かの命を奪ってまで願いを叶えるなんて!」

映司は言った。

それを聞いた榊原は微笑んだ。

「やはり、君は俺達の仲間だ!」

「ああ!」

「…。」

「…。」

榊原と手塚は喜んだが、秋山と霧島は仏頂面だった。

「俺達も、色々あったがライダー同士戦い合うことを望んじゃいない。力を合わせて、オーディンを倒そうとしているんだ。」

榊原が言った。

「そうなんですね!俺も協力します!」

映司が言った。

「…でも、それでもたった5人よ。それでどうにかなるの?」

霧島が言った。

「ちなみ、この世界には何人ライダーがいるんですか?」

映司が尋ねた。

「お前を除き、俺達を含めたら16人だ。」

秋山が答えた。

「そんなに!?」

映司は驚いた。

「ああ。まずは、君にこの世界のライダーについて、説明する必要がありそうだな。」

そう言うと、手塚がミラーワールドのライダーについて、映司に説明した。カードデッキを用いて変身すること、そのカードがライダー達の武器であること、ライダー達は、一人に対して一体のミラーモンスターと契約しており、ライダーの力の根底にモンスターが関わっていること。そして…。

「…そして、今は大きく三つの派閥に分かれている。」

手塚が説明を続けた。

「まず、俺達4人。いわゆる非戦派だ。リーダーは榊原。」

「リーダーって器じゃないんだけどな。」

榊原が頭をかきながら言った。

 

「次に、さっき戦ったタイガ、インペラーがいる派閥。彼らも俺達同様、戦いを終わらせようとオーディンをターゲットで動いている。」

「でも、俺達を襲ってきた。」

映司が言うと榊原も苦い顔をして言った。

「あそこが厄介なのは、自分達の派閥"だけ"生き残ることを考えている。それ以外は敵って考え方だ。さっき話した通り、ライダーを倒せば強くなると信じているからな。障害と見なしたら遠慮なく攻撃してくる。幸いなことに、そこまで好戦的ではないがな。」

「その派閥のリーダーは香川英行。かなりの切れ者だが、まだ話し合いの余地がある方だがな。」

手塚が言った。

 

「三つ目の派閥。最初に戦ったアビス達がいる派閥だ。ここは、俺達と違い欲望のままに戦う集団だ。今でこそ徒党を組んではいるが、仮にその派閥だけ生き残ったら、その中で最後の一人を決めようとする輩だ。」

「単純だが、故に質が悪い。特にリーダーの高見沢逸郎は、欲望の権化とも言えるな。」

手塚の言葉に続けて秋山が言った。

「ただ、これらに属さないライダーもいるわ。」

霧島が怯えるように言った。

「浅倉威…。仮面ライダー王蛇。やつは戦うことに快楽を感じている戦闘狂だ。誰彼構わず戦いを仕掛けてくる。」

手塚が続けて言った。

「神出鬼没な上に、元凶悪犯罪者だけあってかなり強い。仮にライダーの力関係をヒエラルキーで表すとしたら、上位に位置づけできる程だ。」

「そして…。」

榊原が静かに口を開いた。

「黒き龍のライダー・仮面ライダーリュウガ。」

「リュウガ?」

映司が言った。

「やつも、全ライダーを潰そうとしているが、やつの行動原理が一切不明な上に、一切のコミュニケーションが取れない。はっきり言って人なのかすらわからないんだ。」

手塚が伏し目がちに言った。

「それに、やつからはオーディンとは異なる得たいの知れない異様さも感じられる。それだけに、リュウガはかなり危険な存在だと言える。」

秋山が言った。

「ただ、あれからは明確な殺意を感じられるの…。」

霧島も怯えていた。

「あの…、何者なんですか。リュウガに変身している人って。」

映司が尋ねた。

「…さぁな。」

榊原が言った。

 

 

「とにかく、俺達は一刻も早くオーディンを見つけて倒す必要がある。手分けして探そう。」

榊原の言葉で、映司達は、映司と榊原の二人と秋山、手塚、霧島の三人に分かれてオーディンを探し始めた。

「オーディンって、そもそも何処にいるんですか?」

映司が榊原に尋ねた。

「正直、何処にいるかわからない。ある話では、やつを除く全てのライダーを倒したときに現れるらしい。だが、俺達はそんな状況は望んじゃいない。」

「それじゃ、見つけようがないじゃないですか?」

「もう一つの説があるんだ。」

「もう一つ?」

「オーディンは戦いの元凶。いわばこの世界を造り出した存在とも言える。だから、この世界の中心にやつがいる。ということさ。」

「そこは一体どこに?」

「さあね。それを俺達は探しているんだ。」

榊原がため息をつきながら言った。

「そうですか…。」

「ただ、やつに近づけば何かしらアクションはあるはずだ。」

暫く歩いていると、ふと榊原は足を止めた。

「火野君。君は、どうやってこの世界に来た?」

「えっと…。この世界にいるヤミ…じゃないミラーモンスターに引き摺りこまれて…。」

映司が答えると、榊原が続けて言った。

「それじゃ君は、ここに来る前の記憶があるんだね?」

榊原の問いに映司は違和感を覚えた。

「どういうことですか?」

「俺達ライダーには、記憶の一部が欠けているんだ。」

「え?」

「自分自身のこと、ライダー達のこと、ミラーワールドのこと、戦いの記憶。それは覚えているんだけど、いつどうやってこの世界に来てしまったのか、ここに来る前はどこで何をしていたのか、わからないんだ。」

榊原が言った。

「皮肉なもんだね。戦いを止めたいのに、自分の願いくらいしか記憶にないなんてな。」

「榊原さんの願いって何ですか?」

映司が尋ねると榊原は少し考えて言った。

「…俺もライダーとして戦い始めた頃、何がなんだかわからないまま戦っていたんだ。ただ、誰かの命を奪ってまで叶える願いに意味なんてあるのかなって考えたんだ。意味なんてあるはずがない。人の願いを利用した殺し合いなんて間違ってる。だから、俺の願いは、この戦いそのものを止めること、かな。」

榊原の言葉に、映司は感銘を受けた。

誰かの命を奪ってまで、自分の願いを叶える。そんなことが正しいはずがない。いくつもの国を歩き渡ってきた映司は、それを嫌と言う程経験していた。

こんな狂気に満ちた世界から、脱出する為にも、元凶とされるオーディンを倒さないと。

 

「戦いに意味がないなんて、ずいぶんなことを言うねぇ。榊原。」

再び歩みだそうとした時に、映司達の目の前に二人の男が立っていた。

二人とも高級そうなスーツ姿で、一人は飄々とした優男風の男、もう一人は優男風の男よりも年を重ねているようだが、不敵な笑みを浮かべていた。

「高見沢、北岡!」

榊原が構えた。

「よぉ。どうやらまた一人、同志を見つけたようだな。」

不敵な笑みを浮かべた男・高見沢が映司を見て言った。

「高見沢。いい加減戦うのを止めよう!オーディンさえ倒せば、全てが終わるんだ!」

榊原が言った。

「みんなで仲良く倒してハッピーエンドってか?相変わらず甘ちゃんだなぁ。」

優男風の男・北岡がやれやれというように言った

「オーディンは倒す。この俺がな!俺がライダーの頂点に立つ為になぁ!」

高見沢はそう言うとカードデッキをかざした。北岡もそれに倣い、二人の腰にVバックルが現れた。

「とにかく、お前達は邪魔だ。ここで消してやる。」

 

「「変身!!」」

 

それぞれがカードデッキを装填すると、高見沢はライトグリーンのカメレオンの騎士・仮面ライダーベルデに、北岡はゾルダに変身した。

「やっぱり、戦うしかないんですか…!」

映司が言った。

「仕方がない…!」

 

「「変身!!」」

 

タ・ト・バ!

タトバ!タ!ト!!バ!!!

 

映司達もまた、それぞれ龍騎とオーズタトバコンボに変身した。

「映司君!あくまでも、俺達はライダーの命を奪ったりはしない!戦闘不能にさせるんだ!行けるか!?」

「…はい!」

龍騎の問いにオーズは答えた。




第4話、いかがでしたでしょうか。

今作における、ライダーバトルは原作をリスペクトしつつ、『RIDER TIME』のチーム戦もオマージュしました。
そして、オーディンの存在がミラーワールド誕生の原因となっています。
そして、ライダーのメンバーと派閥も少しお披露目しました。
ほぼ客演で不遇(?)の疑似ライダー。安心してください。ちゃんとライダーとして出ますよ!

また、今作のライダー達は、一部記憶が欠落した状態です。これも、『RIDER TIME』オマージュです。

オーディンを探す榊原、映司の前に現れたのは、北岡と高見沢。
彼らとの戦いの行く末とは。

次回もお楽しみに!


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第二章 ライダーバトル
第5話


「はっ…。嘗めるな!」

ベルデが龍騎に迫った。

ベルデは左股に備えられた舌召糸・バイオバイザーからカードキャッチャーを引き伸ばし、カードを装着した。

 

HOLD VENT!

 

キャッチャーがバイザーに戻り、カードが装填された。

ベルデは、右手にヨーヨーのような武器・バイドワインダーを持つと、ワインダー本体を龍騎に投げつけた。

 

SWORD VENT!

 

「ハイっ!」

龍騎はドラグセイバーを手にすると、バイドワインダーを弾き返す。

「やるな!」

しかし、ベルデは幾度もバイドワインダーを投げつける。ピアノ線のような細いワイヤーによって操られるバイドワインダーは、直線移動だけでなく、様々な角度からワインダーが龍騎を襲いかかる。

「うわっ!」

初めは剣で弾いていた龍騎だったが、数回に一度は攻撃を受けてしまっていた。

「くそっ!」

 

STRIKE VENT!

 

龍騎は赤い龍型モンスター・ドラグレッダーの頭部を模した手甲・ドラグクローを召還した。

「もらった!」

 

STEAL VENT!

 

所が、ベルデが右腕をかざすと手のひらから紫のロープが飛び出し、ドラグクローを捕らえた。そして、それをそのまま自分の腕に装着した。

「何!?」

「自分の炎で焼かれろ!ハア!!」

ベルデはドラグクローを突き出し、火球を発射した。

「うわああ!!」

 

「榊原さん!」

オーズがベルデに迫った。

 

SHOOT VENT!

 

「お前の相手は俺がしてやるよ!」

ベルデに迫るオーズに向けて、ゾルダのバズーカ砲・ギガランチャーから砲弾が放たれた。

「うわっ!」

直撃こそしなかったが、近くで着弾した強烈な爆風がオーズを襲った。

 

ライオン!トラ!チーター!

 

ラタ!ラター!!

ラトラータ!!!

 

爆煙の中から獅子の頭部を持つ黄色の猫系コンボ、オーズ ラトラータコンボが高速で飛び出した。

「姿が変わった?何だヤツは!?」

ゾルダはギガランチャーで砲撃する。しかし、高速で動きまわるオーズには着弾しなかった。また、長大な大砲であるが故に、取り回しが悪く、照準が定まらない。

「ちっ!」

ゾルダは、軽く舌打ちすると、ギガランチャーを投げ捨て、ハンドガンタイプの機召銃・マグナバイザーで射撃した。しかし、やはりオーズの高速移動を捉えられず、オーズの攻撃が襲いかかる。

「ハッ!」

高速でゾルダの横を通り過ぎる。それと同時に展開したトラクローでゾルダを引っ掻きつけた。

「うわっ!」

「くらえ!」

オーズは頭部の鬣を太陽の如く発光させた。

「うっ、目が!!」

ゾルダは、眩い閃光により視界を奪われてしまった。

「あのデッキを狙えば…!」

オーズは、カードデッキがライダーの力の根源であるという手塚の話を思いだし、狙いを定めた。

 

スキャニングチャージ!

 

オーズはオースキャナーでメダルをスキャンし、一撃に備えた。

「ハァァァァァ!!!!」

オーズが再び高速でゾルダに駆け迫る。

「見えないからって!」

ゾルダはカードを引き抜き、マグナバイザーに装填した。

 

HOMING VENT!

 

再びマグナバイザーから火が吹く。放たれた弾丸は、今度は、オーズの後を追うように着弾した。

「うっ!」

それからもオーズは高速移動をするも、カードの効力で追尾性を得た弾が、次から次へとオーズに吸い込まれていくように着弾していった。

「うわっ!」

オーズは攻撃を中断させられてしまった。

「小賢しいマネをしちゃって!」

視界が戻ったゾルダは再びカードをマグナバイザーに装填した。

 

SPLIT VENT!

 

「ぐっ…、うわっ!!」

さらに、マグナバイザーから散弾が飛び散り、オーズを追い詰めていく。

そして、完全に足を止めたオーズに対し、ゾルダは自身のクレストが描かれたカードを引き抜いた。

 

FINAL VENT!

 

ゾルダの前にロボットのような巨大な牛型モンスター・マグナギガが召還された。

そして、ゾルダはマグナギガの背中にあるコネクタにマグナバイザーを連結させる。

「じゃあな!」

ゾルダがトリガーを引く。マグナギガの胸部装甲が左右に展開し、数十発のミサイルが放たれた。それと同時に、マグナギガの頭部、両腕、両膝、全身に備えられた砲から射撃が始まった。その全ての弾道がオーズに向かっていた。

 

ドオオオオオオオオオオオン!!!!

 

ゾルダのファイナルベントが、射線上にあるありとあらゆるものを灰に変えた。

「火野君!!」

「余所見してる場合か!?」

ベルデが龍騎を襲った。

 

ター!ジャー!!ドルー!!!

 

「はあああ!!」

赤い鳥系コンボ・オーズ タジャドルコンボが上空からゾルダに迫った。

「あの状態から逃げた!?」

飛翔してくるオーズを避けきれず、ゾルダはオーズの突進をかわせなかった。

「うおっ!?」

そして、オーズとゾルダはそのまま組み付いた状態になった。

 

 

「あのライダー、一体何なんだ!?」

ベルデはゾルダが圧されていることに驚いていた。

現在徒党を組んでいる中で、ゾルダ、北岡は特に頭の切れる男だ。ある弱点さえなければ、自分と張り合えるくらいの実力の持ち主なのだ。そんな男を追い詰めるオーズの存在に、ベルデは少し興味が沸いていた。

「榊原!!」

ナイト、ライア、ファムが駆けつけた。

「みんな!」

龍騎が息を切らせながら言った。

「あっれぇ?あんまり戦局変わって無ぇじゃん。」

ガイ、シザース、アビスも続いて現れた。

「いいねぇ、両陣営ともに総出か。」

ベルデが楽しそうに言った。

「ならば、我々も出場権があると考えていいですね?」

さらにタイガ、インペラー、黒いコオロギの騎士・オルタナティブ、そして、眼鏡をかけた男性が現れた。

「香川陣営…!こんな時に!!」

龍騎が言った。

「ほう。まさか貴様まで現れるとはな。」

ベルデが眼鏡の男・香川英行に向かって言った。

「こちらもあまり時間をかけたくないものでね。ましてや、榊原君の所に新たなライダーが加わったとなれば…。」

香川が言った。

「香川。俺達はあんた達と戦いたくない!俺達もこんな戦いを止めたい!それはあんた達も同じだろ?」

榊原が訴えた。

「確かに、我々もこんな馬鹿げた戦いは止めるべきと考えていますよ。しかし、その為には不確定要素は排除せねばなりませんからね!」

香川はそう言うと、カードデッキをかざし、真上に高く投げた。

「変身!」

投げたカードデッキを掴み、バックルに装填すると、香川もまた黒いコオロギの騎士・オルタナティブ・ゼロに変身した。

「どうする、榊原!?」

ライアが龍騎に言った。

「…俺達は、絶対にライダーを殺さない。生き延びることを考えるんだ!」

「この状況で、まだそんなことを!」

ナイトが言った。

「はん!結局は、戦わなければ生き延びられねぇんだよぉ!」

ベルデの一言で、シザース、ガイ、アビスが動いた。

「初めてですよ。貴方と意見が合うのは!」

オルタナティブ・ゼロの言葉でタイガ、インペラー、オルタナティブも動いた。

「く…、何とか突破口を開くぞ!」

そして、龍騎、ナイト、ライア、ファムも動き出した。

 

 

「あー、あー。向こうも始めちゃって。どっちかっていうと、あーゆうごちゃごちゃした戦いは好きじゃないんだよ、俺は。」

12人のライダーが戦い始めたことを横目にゾルダが言った。

「なら、何で戦うんだ!」

オーズは、迫り来るゾルダの攻撃を受け流しながら言った。

「そんなの簡単だ。自分の願いを叶える為さ!」

 

STRIKE VENT!

 

マグナギガの頭部を模した手甲を装備したゾルダは、手甲に付いた二本の鋭い角をオーズに向けて振りかざした。

「うわっ!」

オーズは左腕に装備された円形の盾・タジャスピナーで受け止めるも、勢いの付いた攻撃によって、大きく弾かれてしまった。

「…だからって、誰かの命を奪ってまで願いを叶えるなんて…。」

「可笑しいか?」

ゾルダが遮るように言った。

「お前、ライダーバトルの意味を本当に知らないんだな。そうじゃなきゃ、ただの馬鹿だ。」

ゾルダが呆れるように言った。

「どういうことだ。」

オーズが言った。

「…俺の願いは、永遠の命だ。」

「え?」

「俺は現実世界じゃ、スーパー弁護士・北岡秀一として名を馳せていた。どんなに黒い判決だとしても白に変える男としてな。」

ゾルダは言葉を続けた。

「だが、そんな才能に神様が嫉妬したのか知らないが、俺は難病にかかった。それも現代医療じゃどうすることもできないレベルのな。」

「!?」

「まだ倒れる訳には行かないんだよ。俺の弁護を待つ人の為にもな。どうせ何もしなくたって俺の命は近い内に、いや、下手すれば今日明日にでも尽きるんだ。だったら、この戦いで永遠の命を手にするしか解決しないじゃないか…!」

動揺しているオーズに対し、ゾルダは銃弾を撃ち込んだ。

「ぐっ…!」

「まぁ、中には、ライダーの頂点を目指すとか、英雄になりたいとか、そんなくだらない願いを掲げてるヤツもいるけどな。一方で、死んでしまった大切な人間を生き返らせたいって願うヤツもいる。そいつらの意思を無視してでも戦いを止めたいのか?」

「っ…、それは…。」

オーズはすぐに答えを出せなかった。

「…ふん。」

 

LAUNCH VENT!

 

ゾルダの肩にキャノン砲が二門装備された。

「結局、お前も甘ちゃんなんだよ!」

「うわあああ!!!!」

キャノン砲が火を吹く。オーズは回避を試みるも、砲撃の爆風に吹き飛ばされてしまった。そして、地面に叩きつけられる直前に映司の姿に戻ってしまった。

 

ザッ、ザッ、ザッ…。

カチャ…。

 

ゾルダは、倒れている映司に近づき、マグナバイザーの銃口を向けた。

「じゃあな。」

ゾルダは引き金に指を掛けた。映司は息を呑んだ。しかし、マグナバイザーから銃弾は放たれることは無かった。

何かの気配を察知したゾルダが視線を上げた。

「…おいおいおい。今お前はお呼びじゃないんだよ…!」

ゾルダは怖じ気づいたように言った。

映司は何とか身体を持ち上げゾルダと同じ方向に目線を送った。

 

所々、金の縁取りがされた全身漆黒の鎧を纏う、色以外龍騎に良く似た黒い龍の騎士。それが、ゾルダと映司の方にゆっくりと近づいていたのだ。

「…。」

マスクから覗く赤く発光した複眼は、目に映るもの全てを睨み付けるようにつり上がっていた。

 

SWORD VENT!

 

黒い龍の騎士が左腕の黒いドラグバイザーにカードを装填すると、黒いドラグセイバーが右手に収まるように現れた。

「ちぃ!」

ゾルダはマグナバイザーを発砲した。しかし、黒い龍の騎士はその弾道を見極め、小さな動きで剣を振るいながら弾丸を弾き落とした。

「はぁぁ…!!」

低い唸り声を出しながら黒い龍の騎士はゾルダめがけて駆け出した。

「くそっ!」

「ゔっ!」

ゾルダは映司を蹴り飛ばして退けると、黒い龍の騎士に立ち向かった。

ゾルダは素手による肉弾戦を仕掛けた。そして隙あらばマグナバイザーによる射撃を交えていく。しかし、黒い龍の騎士は、向けられる銃口を手にした剣で払いのけながら受け流していた。

「うわっ!」

そして、一閃、また一閃と、ゾルダに斬撃を与えていた。

 

STRIKE VENT!

 

ゾルダから距離が離れた黒い龍の騎士は、黒いドラグクローを装備し、最後の一撃に備えた。

「まずい…!」

 

GUARD VENT!

 

体制を整えたゾルダはマグナギガの胸部を模した盾・ギガアーマーを呼び出し構えた。

「はぁぁぁぁ…、ハアっ!!」

黒い龍の騎士が黒いドラグクローを正面に突き出す。それと同時にドラグクローから放たれた黒炎の火球がゾルダに襲いかかった。

「うわっ!!」

ゾルダはギガアーマーごと吹き飛ばされた。しかし、何とか身体を起こし黒い龍の騎士を睨み付けていた。

「はぁ…、はぁ…。ここらが潮時か。ここで殺られるわけにはいかないんでね。」

ゾルダはそう言うとこの場を後にした。

リュウガはゾルダを追わず、倒れている映司へゆっくりと振り向いた。

「あれが…、リュウ、ガ…。」

映司の目に、こちらに近づく黒い龍の騎士・仮面ライダーリュウガの姿を捉えていた。しかし、体力の限界に達した映司は、リュウガが近づいて来ているにも関わらず、意識を手放してしまった。




第5話、いかがでしたでしょうか。

前半、龍騎VSベルデ、オーズVSゾルダの戦いを描きました。ベルデは新たにSTEAL VENT、ゾルダはHOMING VENTとSPLIT VENTを所持しています。

今回で、オーズは、ライダー達の叶えたい願いについて、改めて知ることとなります。死ぬ運命に抗う為に、永遠の命を求めるゾルダこと北岡。他者の命を奪ってまで叶える願いに意味はないと信じる映司が、それを知ったことで動揺してしまいます。そこへ畳み掛けるように攻撃を加えていくゾルダ。絶体絶命のピンチの所に現れたのは、変身者不明のライダー・リュウガ。ゾルダを圧倒し、さらに映司にも近づいていく。映司の運命は…。

そして、龍騎とベルデの所に、両陣営のライダー達、さらに香川英行の一派も現れました。ちゃっかりオルタナティブもいます。仲村君です。笑
ついに出揃う三陣営。

次回、ライダー達による三つ巴の激戦が繰り広げられます。お楽しみに!


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第6話

「ふっ!」

 

「はっ!」

 

「ぐっ!」

 

「はあ!」

 

もはや誰が敵なのか味方なのかわからない程、ライダー同士の戦いは混迷を極めていた。

 

DIVE VENT!

 

DIVE VENT!

 

ライアとアビスは、陸に面していた海面に向かって飛び込んだ。ライアの背にエビルダイバーのヒレを身につけ、一方のアビスの両足はアビソドンの尾鰭の様に変化した。

海洋性モンスターの恩恵を受けた二人の騎士は、水中を高速で移動しながら戦い始めた。

 

STRIKE VENT!

 

COPY VENT!

 

アビスがアビスクローを召還すると、それと同じものをライアは装備した。

「はっ!」

「はっ!」

アビスとライアは、それぞれのアビスクローから水弾を相手に向け打ち出した。

互いに攻撃し合い、また、それをかわしていく。

アビスの水弾がライアに着弾したかと思うと、エビルバイザーを盾代わりに使い、それを防いだ。

 

STRIKE VENT!

 

ライアはアビスの攻撃を防ぐと同時にカードを装填。エビルニードルを装備した。

「ちぃっ!」

エビルニードルから放たれる針は、その構造から水弾以上の速度でアビスに向かった。

アビスは、回避を余儀なくされ攻撃を中断した。

「そこだ!」

ライアは、エビルニードルを正面に構え、アビスに向かって高速で水中を進んだ。

「なめるな!」

 

SWORD VENT!

 

しかし、アビスはアビスセイバーを手にすると、突進してきたライアの攻撃を受け止めた。

「くっ!」

「はあっ!」

アビスは、エビルニードルを剣で弾くと身体を大きく捻り、回し蹴りの要領でライアに尾鰭を叩きつけた。

「うわっ!」

 

ADVENT!

 

バランスを崩したライアに追い討ちをかけるように、アビソドンがライアに迫った。

 

ADVENT!

 

だが、ライアもまたエビルダイバーを呼び出し、アビソドンと交戦し始めた。

「こんな戦いは無駄だ!」

「無駄な訳がない!この戦いに勝利し、私が唯一の法となるのだ!!」

 

 

「いいねぇ。おたく、中々強そうじゃん!」

ガイはタイガを指して言った。

「ごめん…。ガキには興味ないんだ。」

タイガは冷徹に言い放った。

「…。言ってくれるじゃねぇか!」

 

STRIKE VENT!

 

「邪魔をするなら…。消えてもらうね。」

 

STRIKE VENT!

 

「消えんのはそれだ!」

 

CONFINE VENT!

 

ガイが左肩のメタルバイザーにカードを投げ入れると、タイガが呼び出したデストクローが消滅した。

「何!?」

「行くぜぇ!」

ガイはメタルホーンを掲げ、タイガに迫った。

「くっ!」

タイガはデストバイザーを手に、ガイの攻撃に備えた。

「興味ないって言ったけど、撤回するね。」

タイガがガイに言った。

「へぇ、それは光栄だね。あんたにとっての強敵になれたか?」

「まさか…。ただただ、目障りなだけだよ!」

タイガは、デストバイザーを大きく振るい上げた。

「くそっ!でも、それくらいじゃねぇと殺りがいがないよな!」

 

 

シザースの体術にファムはやや押され気味だった。

相手は警察官。いくらライダーになったからといっても、戦いについては素人であるファムは苦戦を強いられていた。

「女性といえど、容赦しませんよ。詐欺師ならば尚更ねぇ!」

 

SHOOT VENT!

 

シザースの右腕に、契約モンスター・ボルキャンサーの頭部を模した手甲・シザースシューターが装着された。

「はっ!」

シューターから水弾が飛ばされた。

 

GUARD VENT!

 

ファムは契約モンスター・ブランウイングの翼を象った盾・ウイングシールドを召還し、シザースから放たれた水弾を防いだ。

「汚職刑事が!」

ファムはウイングシールドを正面に突き出した。するとシールドから無数の白い羽が噴き出された。

「目眩ましですか、小賢しい真似を!」

シザースは構わずシューターでファムを狙う。しかし、さっきまでそこにいたはずのファムの姿が見当たらない。

「どこへ消えた!?」

依然として羽が舞っていた。次の瞬間、シザースの背後に斬撃が走った。

「ぐはっ!何!?」

シザースは振り替えるも、やはりファムの姿がない。

しかし、何度も斬撃が繰り出されシザースにダメージを与えていた。

「くそ!」

 

BABBLE VENT!

 

シザースは再びシザースシューターを構え、自信を中心に円を描くようにシューターを振り回した。それと同時にシューターからはシャボン玉のような泡が振り撒かれた。

「うわっ!」

そのシャボン玉は機雷のごとく爆発を繰り返し、羽に紛れていたファムを捉えた。また爆発により白い羽も消えていった。

「ようやく見つけましたよ!」

「くっそおおお!!」

 

 

SWORD VENT!

 

SPEAR VENT!

 

ガキィン!

 

ナイトとインペラーはそれぞれの武器を交えた。

「あのさぁ、俺達と組もうよ。お金あげるからさ、ね?」

インペラーがナイトに言った。

「ほぅ。いくらだ。」

「あんたが欲しいだけ!ね?いい条件でしょ?」

「ああ。確かに魅力的だ。だが!」

ナイトは力づくでインペラーを押し返した。

「この世界じゃ、金なんて無意味だ。」

 

TRICK VENT!

 

ナイトはカードをダークバイザーに装填した。するとナイトの分身が4体姿を表した。

「まぁ確かに!俺が大金手にするのだって、この戦いに勝たないとだしね!」

 

TRICK VENT!

 

同じくインペラーも自身の分身体を生み出した。

「はあ!」

複数のナイトと複数のインペラー。それぞれが武器を、拳を交えて戦い始めた。

「くそっ!でも、数ならこっちが有利!」

 

ADVENT!

 

「ギギャー!!」

インペラーの契約モンスターであるギガゼール。そしてその同族の複数のモンスター達も戦いに加わった。

「ちぃ!」

今度はナイトが数で押されていき、一体、また一体と分身体が消えていった。

「勝負ありだな!」

「決めつけるには、まだ早い!」

 

NASTY VENT!

 

「キィィィィィ!!!!」

「ゔっ!?」

ダークウイングから発せられる超音波により、インペラー、モンスター達の動きが止まる。

 

BLOW VENT!

 

「はあ!!」

ウイングランサーに風の力を纏わせ、横一閃、斬撃を飛ばした。

「!?」

インペラーとギガゼールは何とかかわしたが、分身体と他のモンスター達は直撃し爆散した。

「くっそ、マジかよ!」

「覚悟しろ。」

 

 

「もう止めろ!ライダー同士、戦うことはないはずだ!」

龍騎がオルタナティブに訴えかける。

「黙れ!」

しかし、オルタナティブは聞く耳を持たず、龍騎に迫った。

 

SWORD VENT!

 

オルタナティブは右腕に装備されたカードスキャナー・スラッシュバイザーにカードをスキャンした。

カードが青い炎を上げて消滅すると共に大型の剣・スラッシュダガーを召還した。それを手にしたオルタナティブが龍騎に斬りかかる。

 

GUARD VENT!

 

龍騎はドラグレッダーの腹部を模した盾・ドラグシールドを手にし、オルタナティブの斬撃を防いだ。

「くっ!」

「ぐっ!はぁ!!」

オルタナティブは力任せに剣を盾に叩き付けた。

一撃一撃、その衝撃が盾から伝わる。

「うわっ!」

やがて龍騎の手からドラグシールドが弾き飛ばされてしまった。

 

ACCEL VENT!

 

オルタナティブはカードの効力により、動きが超高速になった。そして、その速度から生まれる力で龍騎を刻みつけた。

「こ、この…!」

 

ADVENT!

 

「グオオオオオオ!!!!」

ドラグレッダーが飛来すると、大きな口から火球を吐き出した。それは高速で動くオルタナティブを直接狙わず、辺りにばら蒔くように火球が降り注いだ。

「うわ!!」

火球の雨に晒されたオルタナティブは、そのいくつかが直撃し高速の世界から姿を表した。

「お前は、何の為に戦うんだ!」

「貴様に話す気はない!!」

オルタナティブは、尚も龍騎に迫りかかった。

 

 

ベルデとオルタナティブ・ゼロは睨み合っていた。

「ここで決着を着けようか。香川!」

「決着など…、くだらない。私は、この戦いを止める為に戦っている。」

「はん!その為の邪魔者を潰しているんだろうが!」

ベルデが先に動いた。

「はっ!」

ベルデは拳や脚を振り上げながら体術を繰り出す。それに合わせ、オルタナティブ・ゼロはベルデの攻撃を受け流す。また、オルタナティブ・ゼロも攻撃を加えるが、ベルデも見切ってかわした。

オルタナティブ・ゼロは戦局を変えるべく、デッキからカード引き抜く。

 

SWORD VENT!

 

右腕のスラッシュバイザーにカードを通す。オルタナティブと同じく、スキャンされたカードが青い炎を上げて消えると同時にスラッシュダガーが召還された。

「もらった!」

 

STEAL VENT!

 

ところが、ベルデの右手から出た紫のワイヤーが剣を捕らえ、ベルデの手に収まった。

「デッキがリセットされたか!」

「はあ!」

ベルデが剣を振り下ろした。

 

SWORD VENT!

 

オルタナティブ・ゼロは再びカードをスキャンさせ、今度は二振りの短剣・スラッシュショートダガーを呼び出した。

そして短剣二本を交差させると、ベルデの剣を受け止めた。

「ちっ!」

「あなたの動きなど、"読めていますよ"!」

「いつまで意気がってられるか!」

 

CLEAR VENT!

 

「ふん…。」

カードを装填したベルデが空気に溶け込むように姿を消した。

「く…。うわっ!」

オルタナティブ・ゼロに突然衝撃が走る。それも様々な方向からだ。しかし、攻撃の先を見てもベルデの姿はなかった。

オルタナティブ・ゼロは攻撃されながらもカードを引き抜いた。

 

SENSITIVE VENT!

 

カードの効力で超感覚を得たオルタナティブ・ゼロは神経を研ぎ澄ませ、消えたベルデの気配を探した。

「…そこか!」

オルタナティブ・ゼロが何もない所に剣を振り下ろす。

「ぐはっ!」

予期せぬ斬撃を受けたベルデが姿を表した。

「言ったはずですよ、高見沢さん。あなたの動きは読めていると!」

「香川ぁ!」

オルタナティブ・ゼロが再びカードを引き抜こうとしたときだった。

「うるぁ!!」

「!?」

オルタナティブ・ゼロの目の前に、突如剣が振り下ろされた。間一髪かわしたオルタナティブ・ゼロが斬撃の方を見た。

「ここか、祭りの場所は…!」

斬撃の主、王蛇が乱入してきたのだ。

「浅倉!?こんなときに!」

「あぁ、もっと楽しもうじゃないか!!」

警戒するオルタナティブ・ゼロとは別にベルデの気持ちは昂っていた。

そして、王蛇の乱入によって、戦局は大きく変わった。




第6話、いかがでしたでしょうか。

榊原率いる非戦派、高見沢率いる武闘派、香川率いる効率戦闘派(?)による三つ巴のライダーバトルが始まりました。
対戦カードを整理すると
ライアVSアビス
タイガVSガイ
ファムVSシザース
ナイトVSインペラー
龍騎VSオルタナティブ
ベルデVSオルタナティブ・ゼロ
といった具合です。
これらの理由は、龍騎本編で為し得なかった対決をさせたかったからです。
特にファム、ベルデ、アビスはそれぞれ登場メディアが異なるため、その辺りを意識してみました。

また、彼らにもそれぞれ新アドベントカードが実装されています。
カニ刑事、強くなってますよ!笑

本作オリジナル設定として、カードデッキのリセット機能を付随しました。カードを全て使い切るか一定時間経過すると、カードを再使用できる。というものです。
一種類のカードを複数所持(ガイのコンファインベントのような)にしてもよかったのですが、筆者が使用回数忘れてとんでもなくチート化しそうだったので、リセットとしました。リセットされない限り、一度使用したカードの再使用は不可能という具合です。言い訳です、はい。

そんな混沌を極めた戦いに、王蛇も乱入しました。
ライダーバトルの行く末は…。

次回をお楽しみに!


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第7話

「っ!?浅倉ぁ!!」

シザースと戦っていたファムが、王蛇に挑んだ。

 

SWORD VENT!

 

ウイングスラッシャーを手に、ファムは王蛇に迫る。が、王蛇はベノサーベルで弾き返した。

「その程度か?」

「お姉ちゃんの仇!はあ!!」

ファムは剣を振るうが、力任せで大振り故に、王蛇にかわされてしまう。

 

ザバァーン!

 

「うわぁ!!うっ…!」

海中で戦っていたライアが陸に投げ出された。

「ふん…!雑魚が!」

同じく陸に上がったアビスが言った。

「アビスか、どけ!」

「うっ!」

アビスを見つけたオルタナティブは、戦っていた龍騎を押し退けアビスに迫った。

「はっ!」

「何!?」

オルタナティブはスラッシュダガーをアビスに向け振り下ろした。

咄嗟のことでアビスはかわせず、斬撃を受けてしまった。

「小癪な真似を!」

アビスは、二本のアビスセイバーでオルタナティブに応戦した。

 

「仲村君!」

「余所見すんなよ!」

タイガがオルタナティブに加勢しようとしたが、ガイがその行く手を遮ろうとした。

「邪魔。」

 

ADVENT!

 

タイガは契約モンスター・デストワイルダーを呼び出し、ガイの相手をさせた。

「ちっ!」

突如現れたモンスターに対し、ガイはやむ無く応戦した。

 

BLIZZARD VENT!

 

タイガはデストバイザーに冷気を纏わせ、それをアビス目掛けて投げつけた。

 

GUARD VENT!

 

「ふん!」

しかし、シザースが間に入り、デストバイザーを弾き返した。

「いけないですね。学生は学生らしく、学習室にでも籠ってなさい!」

シザースはタイガに迫った。

 

「邪魔すんな!」

 

SONIC VENT!

 

「ガルっ!?」

ガイは装備していたメタルホーンをデストワイルダーに突きつけた。それと同時に衝撃波が発せられ、デストワイルダーを大きく吹き飛ばした。

「大将がら空き!」

ガイは、ベルデと戦うオルタナティブ・ゼロに迫った。

「!?」

オルタナティブ・ゼロは何とか避けるが、ガイの猛攻が続いた。

「邪魔を…!」

 

ACCEL VENT!

 

「させないよ!」

 

CONFINE VENT!

 

加速しかけたオルタナティブ・ゼロだったが、ガイのカードの効果により、その効力を奪われてしまった。

 

「いいぞ、芝浦。さて…。」

 

COPY VENT!

 

ベルデの姿がオルタナティブ・ゼロに変わった。そして、アビスと戦うオルタナティブに迫った。

「先生!うわっ!?」

加勢に喜ぶオルタナティブだったが、ベルデが化けたオルタナティブ・ゼロの斬撃に襲われた。

「先生、なぜ…!?」

「仲村、君は落第だ!」

オルタナティブ・ゼロは執拗にオルタナティブに攻撃を加えていった。突然の恩師の裏切りに理解できないオルタナティブはついに膝をついてしまった。

「無様だな…ハッハッハッ!!」

元の姿に戻ったベルデが高笑いをした。

「貴様、だったのか…!」

オルタナティブは何とか立ち上がろうとした。が、今度はアビスが投げつけた剣を受けてしまい、地に伏せてしまった。

「まだ、だ…。俺は、この戦いに勝利し…、最強になる…。」

「それは無理だ。何故なら、頂点に立つのは、この俺だからなぁ!」

ベルデはそう言うと、自身のデッキと同じクレストが描かれたカードを引き抜いた。

 

FINAL VENT!

 

カードを装填したベルデは高く跳躍した。すると、どこからともなく、契約モンスター・バイオグリーザが現れ、口から長い舌を伸ばし、ベルデの足に巻き付いた。空中で逆さまになったベルデは、振り子の要領でオルタナティブを捕らえると、再び空中で体の上下を変え、地面へと急降下。オルタナティブを頭部から地面に叩き付けた。

「うっ…。」

オルタナティブは、振り子の要領で得た力で地面に叩きつけられたことで頚椎は折られ、そのまま立ち上がることなく絶命した。そして、吹き上げられた砂のように、オルタナティブの姿は消えていった。

 

「そんなっ…!」

龍騎は、オルタナティブが消えた場面を目撃し、絶句した。

「榊原!どけ!」

インペラーを押し退け、ナイトが龍騎に駆け寄った。

「手塚も危険な状態だ。引くぞ!」

「…ああ。」

龍騎は、ぐったりしているライアの肩を担いだ。

「霧島、撤退だ!!」

ナイトがファムに呼び掛ける。

「はっ!!」

「はははっ!!」

しかし、ファムは依然として王蛇と戦っていた。

「こいつだけは!!」

「まだ満ち足りねぇ!!」

 

STRIKE VENT!

 

王蛇は契約モンスター・ベノスネーカーを模した手甲・ベノバイトを右腕に装着した。

「はっ!」

ファムは剣を王蛇に振り下ろす。が、王蛇はベノバイトの口吻部でそれを噛み付いて受け止めた。

「はん!」

「あっ!?」

そのままファムの剣を取り上げた王蛇は、ファムの剣を手に取りファムを切り付けた。

「きゃあ!」

「美穂!!」

「手塚、よせ!!」

ライアは、龍騎の腕を振り払い、ファムの元へ駆けつけた。

「今だ、須藤!」

 

STRIKE VENT!

 

アビスは、王蛇の攻撃で怯んだファムに向け、水流を発射した。

「ダメだ!!」

ファムに直撃する寸前、ライアはファムの体を突き飛ばした。

「っ!?海之!!」

ライアはアビスの水流により体が宙に投げ出された。

 

FINAL VENT!

 

シザースが自身のクレストが描かれたカードをバイザーに装填すると、シザースの背後に契約モンスター・ボルキャンサーが現れた。

「はぁっ!!」

シザースはボルキャンサーの腕に飛び乗る。そして、ボルキャンサーはライアに向けてシザースを投げ飛ばした。ボルキャンサーから得られた力を乗せ、シザースは空中で高速で前転しながらライアに突進した。

「うわああああ!!!!」

ライアは成す術もなくシザースの突進を受け、地に伏せた。

「海之いいい!!」

ファムは力尽きたライアに駆け寄り体を起こした。

「海之、ダメ…!」

「み…美穂…。俺は、君、を…。」

言葉の途中でライアは息絶えた。そしてファムの腕の中で消えていった。

「手塚…。」

ナイトが声にならない言葉を言った。

「ふふふ、あはははは!!やはり力ある者のみが生き残るんですよ!」

シザースが高笑いした。

「次こそ、覚悟しろ!」

アビスが呆然としているファムに迫った。

しかし。

 

FINAL VENT!

 

ベノスネーカーの強力な酸を纏った王蛇が、アビス目掛けて飛んできた。

「何!?」

アビスは咄嗟に二本の剣を交差させ防御の構えをとった。しかし、王蛇は脚で二本の剣を強引に蹴り飛ばし、何度もアビスを蹴り続けた。

「ぐわああああ!!!!」

そして、最後に大きく蹴り上げられたアビスは地面に着く直前で爆散した。

「俺の獲物の邪魔をするな!」

王蛇が塵と化したアビスを見て言った。

「鎌田さん!貴様ぁ!!」

シザースが王蛇に迫った。

 

FINAL VENT!

 

「グルアアア!!」

シザースの横からデストワイルダーが飛び付いてきた。

「うぐっ…!?」

デストワイルダーがシザースを地面に叩きつけ、そのままタイガの元へ引き摺り出す。

そして、タイガはデストクローをシザースの背中に突き立てた。

「ぐはぁ!!」

「はああああ!!!!」

タイガがシザースを高々と持ち上げると、結晶爆発が起こりそれと共にシザースも爆散した。

「鎌田!須藤!」

仲間二人を同時に失い、ベルデは狼狽した。

「くそが!」

 

FINAL VENT!

 

ガイはメタルゲラスと共にオルタナティブ・ゼロに突っ込む。

「ええい!!」

「うわっ!」

ところが、オルタナティブ・ゼロは、ガイの突進を見切り、二本の剣で受け流すようにしてガイの軌道を変えた。軌道を変えられたガイはそのままコンクリートの壁に激突した。

「残念ですが、貴方には消えてもらいます!」

 

FINAL VENT!

 

どこからともなく契約モンスター・サイコローグが駆けつける。それと同時にサイコローグはバイクのような姿に変わり、オルタナティブ・ゼロはそれに乗った。

そして、バイクを独楽の要領で高速回転させ、そのままガイに向かって突進した。

「させるかよ…!」

 

METAL VENT!

 

ガイはカードを装填した直後にオルタナティブ・ゼロのファイナルベントを受けた。が、無傷の状態でガイは立ち上がった。

「まだ負ける訳にはいかねぇよ!」

「芝浦、退くぞ!」

ベルデが言った。

「…ちっ!」

ガイはその言葉に続き、ベルデとガイはその場から立ち去った。

「東條君、佐野君、我々も退きましょう。」

オルタナティブ・ゼロの言葉でタイガ、インペラーもまたその場を後にした。

「何だ?もう終わりか!?」

王蛇が撤退していくライダー達を見て言った。

「悪いが終わりだ!」

 

BLIND VENT!

 

ナイトの背にダークウイングが取りつき、防御用マント・ウイングウォールに変化した。そして、ナイトがマントを広げると、小型のダークウイングが何十匹も現れ、王蛇の視界を遮るように襲いかかった。

「邪魔だ!」

王蛇は小型モンスターを追い払うように剣を振り回した。

ようやく追い払うことが出来たが、既に龍騎達の姿もなかった。

「…るぁ!!」

 

バチィン

 

王蛇は、満ち足りないイライラから、剣を地面に叩きつけた。

「ずいぶんと苛立っているんだねぇ。」

王蛇の背後から声がした。

「誰だ!」

王蛇は、振り向きざまに声の主を切りつけようとした。しかし、その姿を見た瞬間、王蛇はそれをやめた。

「何だ、お前か。…お前が俺の相手をしてくれるのか?」

王蛇は声の主に言った。

「それよりも、もぉーっと面白いやつがいるよ!」

「そいつは誰だ?」

「…オーズだよ。」

「…くっ。ハハハ!!ハハハハハハぁ!!」

その名を聞いた王蛇は高らかに笑った。

 

 

「グオオオオオオオ!!!!」

 

突然の咆哮により、映司は目を覚ました。

大きな植樹の陰で横たわっていた映司は体を起こし、辺りを見渡した。

「っ…!?」

映司は目の前にいる黒い龍型モンスターを見て、目を見開いた。

 

「グオオオオオオオ!!!!」

 

黒い龍は再び咆哮をあげると、大きな口を開け、映司に迫った。

喰われる。

映司は腕を前に出して構えた。が、黒い龍は映司を襲うことなく頭上を過ぎていき、上空へ姿を消していった。

「何だったんだ…。」

映司は改めて自身の身に起こったことを振り返った。

 

ライダー同士の戦い。

命をかけてでも叶えたい願い。

ゾルダこと北岡秀一。

そして、漆黒の龍のライダー、リュウガ。

 

「…そうだ!」

映司は、思い出したようにライダー達が争っていた現場へ向かった。

着いた頃には、既に誰一人として姿を確認することができなかった。戦いによって生まれた傷痕が、あちこちに残されていた。生々しく残された傷痕が、戦いの熾烈さを物語っていた。

「…ん?」

そんな傷痕だらけの場所に、煌めく何かが落ちていることに、映司は気づいた。近づいて拾ってみると、それは映司にとっては見覚えのある物だった。

「何で、こんな所にセルメダルが…?ヤミーやグリードはこの場にいなかったはず。」

それも一枚どころではない。至る所にセルメダルが散らばっていたのだった。

映司は不信に感じながら幾つか拾うと、榊原達を探し始めた。

その様子を伺う一つの人影があったことに、映司は気づいていなかった。




第7話、いかがでしたでしょうか。

浅倉の乱入により、戦況が大きく変わった結果、榊原サイドの手塚が犠牲となってしまいました。
殺ったのは、なんとシザース(まぁアビスの援護もありましたが)。
続いて、香川サイドのオルタナティブ、そして高見沢サイドのアビス、シザース。
計4人のライダーが、脱落しました。

倒したライダーの選定としては、基本的に龍騎本編では為し得なかったことをさせたかったという理由です。
特にシザースは、本編においてナイトを競り負かす程の威力をもつFVだったので、一人くらい倒させたかったこと、王蛇は、ライダーのトータルキルカウントを上げたかったことが大きいです。

戦いが終わり、何とか無事だった映司が現場に戻ると、そこには何故か幾つものセルメダルが。
これは一体どういうことなのか。

残るライダーは、オーズ含め13人。

次回をお楽しみに!


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第8話

「貴様ぁ!!」

高見沢は、力任せに北岡の顔を殴りつけた。

高見沢、北岡、そしてガイ=芝浦淳の三人は彼らの拠点である高見沢グループのビルの中にいた。無機質で綺麗に内装された建物だが、もちろん社員など存在しない。

その大会議室の中で、高見沢と北岡は揉めていた。

「ったぁ…。顔は止めろよ顔は!」

北岡は、殴られた所を軽く擦りながら言った。

「ふざけんな!」

高見沢は北岡の胸倉を両手で掴んだ。

「おい、俺の一張羅がシワになるだろ!」

北岡は尚も自身のペースを崩さなかった。

「黙れ!貴様がどこの馬の骨とも知らねぇ奴を相手に手こずってる間に、貴重な戦力を失った!二人もだ!どうしてくれんだよぉ!!」

高見沢は北岡を投げ捨てた。床に叩きつけられた北岡は、それでもやれやれと言わんばかりに口を開いた。

「しょうがないでしょ。あんたも言った通り、どこの馬とも知れないライダーは、明らかに俺達とは根本が違う。それを相手に生きて帰ってきたんだから、良いとこ及第点でしょうが。」

北岡はスーツの皺を伸ばしながら言った。

「もう良いじゃないっすか、高見沢さん。」

芝浦が高見沢を制するように言った。

「何だと?」

「確かに仲間は…、なんて言えるかわかんねぇけど、二人消えたが、榊原陣営の手塚を潰すことはできた。それに高見沢さんだって、香川陣営のオルタナティブっての殺ったじゃないすか。」

芝浦が言った。

それを聞いた高見沢は、やや冷静さを取り戻したが、近くにある椅子にドスンと座り尚も感情的に言った。

「…だが、数でのアドバンテージはなくなった。むしろ榊原陣営はあの得たいの知れないライダーを含めると優位に立った。楽観視などできる訳ねぇだろ!」

「…わかったよ。」

北岡が口を開いた。

「そんなに言うんだったら、俺が責任を取るさ。」

「何…?」

「へえ…。何すんの、北岡さん?」

高見沢と芝浦が興味を示した。

「なぁに。既に種は蒔いてきたさ…。」

 

 

一方、香川とタイガ=東條悟は、自分達が籍を置いていた清明院大学の研究室にいた。大学とは名はついているものの、やはり勉学に励む学生や教職員といった人の気配はない。

研究室も、割れた鏡の破片や研究資料と思われる紙が無造作に散らばっており、落ち着ける場所とは、お世辞にも言えない場所だった。

その中で、香川は自身のデスクの椅子に腰掛け、東條も椅子の背もたれに身体を預けるように、深々と座っていた。

「仲村君、非常に残念ですね。…佐野君は、やはり戻って来ませんね…。」

香川が言うと、東條は、ふんと鼻で笑った。

「他のライダーに殺られたか、モンスターに喰われたか…。どっちにしろ、彼は英雄になる資格がなかったんだ。」

そう答える東條に対し、香川は眉間に皺を寄せた。

「いけませんよ、東條君…。彼も、我々が英雄になるために必要な仲間なんですから。」

香川は東條に言った。

「でも…!」

「東條君。」

東條が何か言いかけたが、それを遮るように、香川は教え子の名を呼んだ。

「英雄は、決して一人でなれるものでもありません。そして、"英雄になろう"と思っている内は、"真の英雄"にはなれません。ですが…。」

香川は言葉を続けた。

「我々は、間違いなく英雄になれます。そのためには、民衆の協力が不可欠です。そういった意味でも、佐野君の力は必要なんですよ。わかりますね?」

「…はい。」

表情が曇る東條に、香川はさらに声をかけた。

「少なくとも私は、君が英雄になれることを信じています。それは、佐野君も同じでしょう。」

「ほんとですか?」

東條は、途端に明るい表情を作った。香川は、微笑みながら静かに頷いてみせた。

「ところで、東條君。」

香川は、再び気難しそうな顔になって言った。

「君は、この戦いをどう思う?」

「どう…って。こんなくだらない戦いは直ぐに止めるべき。ですよね?そして、僕らが英雄になる。」

東條は、当たり前のように答えたが、香川は片眉をくいっとあげて言った。

「それだけ、ですか?」

「それ以外、何かありますか?」

東條はきょとんとしていた。

「…いえ、そうですよね。」

香川は、自身が求めていた答えが得られず、肩をすくめた。

「あ~、やっと着いた。良かった、皆さんご無事なようで!」

研究室の戸をくぐり、インペラー=佐野満が戻ってきた。

「佐野君!無事だったんだね!」

東條が佐野に言った。

「今まで、どこで何をしていたんです?」

香川は逆に、佐野を問い詰めた。

「あー…、まぁ、ちょっと野暮用というか…。それより!」

佐野はへらへらしながらも、すっと無表情になった。

「オーディンの場所。わかっちゃったんだなぁ、これが。」

 

 

「…榊原さん!」

街から離れた場合にあった、廃虚と化した倉庫の中で、映司は、榊原と秋山を見つけた。

「火野君!無事だったか!」

榊原が安堵の表情で映司に言った。

「はい!皆さんも無事で…。」

そう言いかけた映司は、手塚と霧島がいないことに気づいた。

「手塚さんと霧島さんは…?」

「…。」

榊原が言葉を詰まらせると、秋山が変わって答えた。

「手塚は死んだ。霧島とも途中まで一緒だったが、はぐれてしまった。」

「そんな…!?」

僅かな関わりではあったものの、物腰の柔らかい手塚の喪失に、映司は胸が締め付けられる感覚を覚えた。

そして、その言葉を聞いた映司は街の広場の惨劇を思い出した。

「他に、何人やられたんですか…?」

「手塚を含め4人だ。高見沢のとこのシザースとアビス、香川のとこのオルタナティブだ。これで、残りのライダーは、お前も合わせて13人だ。」

4人も死んだ。自分の願いを叶えたいが為に、同じライダーの、人間の命を奪ったというのか。映司は到底信じられなかった。

「俺のせいだ…。」

榊原が口を開いた。

「俺が、無闇にオーディンを探そうとしたから。」

榊原がそう言ったとたん、秋山が榊原の胸倉を片手で掴んだ。

「ああ、そうだ!」

「秋山さん!?」

映司は動きだそうとしたが、榊原が手を挙げてそれを止めた。

「ライダーを殺すな。無駄に命を奪うな。そうだったな?これがその結果だ!」

秋山が声を荒らげて言った。

「…秋山。」

「このままじゃ、俺達が死ぬことになるぞ!」

秋山はそう言って榊原を突き飛ばした。

「…わかってるさ。だが、それでも殺すな!」

榊原も言葉を強く言った。

「殺したら、もうまともではいられなくなる!只でさえ、狂気に満ちた世界に閉じ込められているのに、これ以上、人でなくなりたいのか!?」

「…ちっ!」

榊原の言葉に秋山は言葉を返せなかった。そして、秋山は無造作に置かれてある木箱に腰を掛けた。

「…けど、人をやめてまで叶えたい願いがあるんですよね…?」

映司は呟くように言った。それを聞いた榊原と秋山が映司を見つめた。

「俺が戦った相手。北岡さんは、病気で死ぬ運命に抗うために、永遠の命を望んでいます。理由は違えど、ライダーは命を擲ってまで自分の願いのために戦っているって…。」

映司は言った。

「…そうだ。」

秋山が言った。

「俺も、恵里の命を救うためにライダーとして戦っていた。」

秋山は言葉を続けた。

「現実世界で恵里はモンスターに襲われ、意識不明のままだ。だから、彼女を救うために、俺は…!」

秋山は拳を握りしめながら言った。

「だったら、何で俺と一緒にいるんだ。」

榊原が秋山に尋ねた。

「…火野の言っていることと、同じことを言っていたヤツがいてな。こんな馬鹿げた戦いをやめろ、と。その言葉が俺の中で響くんだ。ただ、誰がそんなこと言ったのかは覚えてないんだがな。」

秋山は、ため息をつきながら言った。

「そもそも…、何で最後の一人にならないと願いが叶わないんですか?いや、オーディンを倒さないと現実世界に帰れないって、どういうことなんですか?それに、この世界に来るまでの記憶もないとも…。」

映司は、心に引っ掛かっていたことを言った。

「『ネグ』だ。」

榊原が言った。

「ネグ?」

「全身銀色で道化師のような姿をしたヤツだ。鏡の世界の住人、と言っていたが、俺達もヤツの全貌はわからない。ただ、ヤツがオーディンのこと、願いのことを話したんだ。」

秋山が答えた。

「彼も、どこか怪しげな雰囲気を漂わせていたが…。しかし、彼の導きのお陰で、俺達は巡り会えた。敵ではないと信じたい。」

榊原が言った。

「ネグ…。そのネグに会うことはできませんか?」

映司が言ったが、榊原は首を横に振った。

「残念だけど、それは出来ない。こちらからはコンタクトを取ることが出来ないみたいなんだ。」

榊原が言った。

「そうですか…。」

映司は、ネグと呼ばれる存在に何か引っ掛かりを感じていたが、映司自身それが何なのかは分かっていなかった。

 

ザッ、ザッ、ザッ…。

 

倉庫の外で足音がした。映司達三人は構えたが、姿を表したのは霧島だった。

「霧島、無事だったか!」

秋山が呼び掛けた。

「…うん、なんとかね。」

そう言う霧島の表情には影がみられた。

「大丈夫、ですか?」

「ええ…。貴方も生きていたのね。」

映司の言葉に対し、霧島は左腕を擦りながら言った。

「美穂、手塚のことは…。」

霧島は、榊原の言葉に首を振って答えた。

「…それよりも、榊原。オーディンの居場所がわかったかもしれないわ。」

「何だって!?」

榊原が驚いて言った。

「…ついてきて。」

霧島の言葉に促され、映司達三人は倉庫を出た。

 

 

暫く歩いていくと、森の中に入り、巨大な洞窟のような所に着いた。

「ここに、オーディンが…?」

確かに、いかにもな場所ではあるが、映司は霧島に尋ねた。

「ええ…、おそらくね。」

榊原一行は、洞窟の中を進んだ。

入口が大きい為、外からの光を受け入れ、視界はそこまで悪くなかった。しかし、外界と違い音も無く不気味さを醸し出していた。

「霧島、ここが何故オーディンの居場所だとわかった?」

秋山が霧島に尋ねた。

「それは…。」

霧島が答えかけたときだった。

 

「キエエエエエ!!!!」

 

耳をつんざくようなけたたましい鳴き声と共に鳥を人型にしたようなモンスターが数体姿を表し、映司達に襲いかかった。モンスター達の攻撃を避けた映司達は構えた。

「あれらが答えよ!」

霧島がカードデッキを持って言った。

「鳳凰型のモンスター…。間違いない、ヤツがいる!」

榊原も言った。

「行きましょう!」

 

「「「「変身!!!!」」」」

 

タ!ト!バ!

タトバ!タ!ト!!バ!!!

 

映司達はそれぞれライダーになり、鳳凰型モンスターと交戦し始めた。

 

「ヤアアアアア!!!!」

 

暫くすると、別のモンスターも乱入してきた。レイヨウ型モンスターだ。

「あっれ~?皆さん奇遇だね。」

インペラーが現れた。

「インペラーだと?何でこんな所に!」

「それはこちらの台詞ですよ。」

ナイトの問いに対し、オルタナティブ・ゼロが武器を手に現れ、言った。その後にタイガも続けて現れると、オルタナティブ・ゼロ達もモンスターの討伐を始めた。

やがて、鳳凰型モンスター達は、ライダー達によって駆逐された。そして、龍騎達とオルタナティブ・ゼロ達は睨み合った。

「お前達も、オーディンが狙いか!」

「愚問ですね。」

龍騎の問いに対し、オルタナティブ・ゼロが答えた。

「あのさ、邪魔しないでくれる?僕達はオーディンを倒して英雄になるんだからさ。」

タイガが言った。

「狙いが同じなら、戦い合う必要なんてないはずです!」

オーズも訴えたが、オルタナティブ・ゼロは首を横に振った。

「残念ながら、それは有り得ませんよ。何故なら…。」

「オーディンを倒すのは、俺だ。」

オルタナティブ・ゼロの言葉に被せて、別の声がした。

声がした方を見ると、そこには高見沢、北岡、芝浦がいた。

「高見沢!」

「それに、お前達にはオーディンは倒せないよ。」

北岡が言った。

「どういう意味です?」

オルタナティブ・ゼロが聞いた。

「ふん、こういうことだ!」

 

パチンっ

 

高見沢が指を鳴らした。

「はあああ!!!!」

「はあっ!!」

高見沢の合図を受けたかのように、ファムとインペラーが自分達のいた陣営に牙を剥いた。




第8話、いかがでしたでしょうか。

北岡が仕掛けた何か。
香川の感じている違和感。
オーディンの巣とおぼしき場所。
そこで対峙する三陣営。

しかし、インペラーとファムがそれぞれ自分がいた陣営に牙を剥きました。一体、彼らに何が…。

次回もお楽しみに!


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第9話

「うわっ!?」

「何っ!?」

オーズとタイガは、突然のファムとインペラーの攻撃を避けきれず、その身を晒してしまった。

「霧島、どういうつもりだ!」

ナイトが言った。

「私のやるべき事を思い出したの。悪く思わないでね…!」

ファムが言った。

「ごめんね、先生。あの弁護士さんが示してくれた条件良くてさぁ~。」

インペラーもまた言った。

「くくく…、ハーッハッハッハ!!ざまぁねぇな!」

高見沢は高笑いしながらカードデッキを掲げた。それにならい、北岡と芝浦もデッキを構えた。

 

「「「変身!!!」」」

 

高見沢達もそれぞれライダーの姿に変わった。

「行けっ!」

ベルデの指示でライダー達は龍騎達やオルタナティブ・ゼロ達へ襲いかかった。

 

「霧島、よせっ!戦いを止めるんじゃなかったのか!?」

龍騎はファムの猛攻を凌ぎながら言った。

「言ったでしょ!私のやるべき事を思い出したって!」

「…君の姉さんのことか。」

「ええ、そうよ!」

龍騎とファムは距離を取った。

「姉ちゃんは、浅倉に殺された。だから、この戦いでヤツを討って姉ちゃんを生き返らせる!」

ファムが言った。

「でも、それは無意味だって、手塚が気づかせてくれたじゃないか!お前が愛した男が。」

龍騎はファムに訴えかけた。

「…そうね。私は、彼を愛してた。彼がいることで復讐心なんて忘れてたの。一緒に生き残ることが出来れば…。でも現実はそう甘くない!それを気づかせてくれたのも海之なのよ!」

 

SWORD VENT!

 

ファムはウイングスラッシャーを呼び出した。

「結局は、生き残った者の願いが叶うのよ。だったら、私は私の願いの為に戦う!」

ファムが龍騎に迫った。

「血迷ったか!」

 

SWORD VENT!

 

「ハイぃ!!」

龍騎はドラグセイバーを呼び出し、ファムに向け剣を振るった。

 

 

STRIKE VENT!

 

SPIN VENT!

 

タイガはデストクローを、インペラーはガゼルスタッブを手に、交戦し始めた。

「東條、お前もこっちにどお?なかなか悪くない条件だったぜ?」

インペラーがタイガを誘ったが、タイガはフンと鼻を鳴らした。

「先生を裏切る?それは英雄に程遠い行為だよ!」

「ですよね。言うと思った!」

インペラーはタイガから距離を取り、カードを引いた。

 

TRICK VENT!

 

数体に分身したインペラーが一斉にタイガに襲いかかった。

「ちぃ!」

 

 

「榊原!」

ナイトが龍騎の援護に動こうとした。

「させるかよ!」

しかし、ガイがナイトの行く手を阻んだ。

「邪魔をするなら、容赦はしない!」

 

SWORD VENT!

 

「おっと、そうはさせねぇよ!」

 

CONFINE VENT!

 

「ちっ!」

ナイトが武器を呼び出そうとしたが、ガイのカードの効果により、無効化されてしまった。

 

STRIKE VENT!

 

「行くぜぇ!」

ガイはメタルホーンを手に、ナイトに迫った。

「はっ!」

ナイトはダークバイザーを手に取り、応戦した。

 

 

「全く…。迷える子羊くんは、まだ戦うって?」

ゾルダはマグナバイザーを撃ちながらオーズに迫った。

「くっ…。」

オーズはゾルダの射撃に耐えながら、青いコアメダルを装填した。

 

タカ!ウナギ!バッタ!

 

オーズの胸と両腕が青いウナギアームに変化し、その両手に鰻を模したムチ・ウナギウィップを持った。

「また姿を変えた所で!」

 

HOMING VENT!

 

ゾルダは追尾性能を付与した弾丸をオーズに撃ち込む。

「はっ!はっ!!」

しかし、オーズは両手のムチを振り回し、銃弾を弾き落とす。

「チッ!」

 

SPLIT VENT!

 

続いて散弾をオーズに浴びせようとした。が、オーズはムチを円を描くように振り回しその全てを防いでみせた。

「マジかよ!」

「はっ!」

オーズはゾルダに攻撃をしかける。しかし、ゾルダに攻撃は届かない。むしろ…。

「…お前、まさか!」

 

LAUNCH VENT!

 

ゾルダはオーズに向けキャノン砲を撃ち込んだ。さすがのオーズもゾルダから距離を取って攻撃を避けた。

「北岡さん…。戦うのは止めましょう!貴方とは戦いたくない!」

オーズはゾルダに訴えかけた。

それを聞いたゾルダは、頭に血が昇るような苛立ちを覚えた。

「それは、余命幾ばくもない哀れな弁護士への情けってやつ?ふざけんな!」

ゾルダは再びキャノン砲を撃つ。

「そうじゃない!」

オーズは攻撃を避けながら言った。

「貴方は、人を殺めてはいけないんだ!」

「はぁ?」

「貴方は、何の為に弁護士になったんですか!?」

オーズは言った。

「何言って…。」

ゾルダはふと、攻撃の手を止めた。

 

ー俺は、何で弁護士になったんだ…?

 

ゾルダは突然、思考の渦に飲まれてしまった。

「貴方の弁護を待つ人がいるんでしょう?」

「ああ…、そうだ!だから、ここで死ぬ訳には…、永遠の命を…!」

「それは、誰かが助けを求めて差し出した手を掴む為。それなのに、その人達の為に誰かの命を奪っていいはずがない!」

「…っ!?」

ゾルダは、オーズに向けていたマグナバイザーを下ろした。

 

 

「っ!?北岡ぁ!」

ゾルダの様子が変化したのを見たベルデが怒りを露にした。そんなベルデにオルタナティブ・ゼロの大剣が振り下ろされる。

「ちっ!」

ベルデは迫りくる斬撃を辛うじて避け、カードを装填した。

 

HOLD VENT!

 

ベルデはバイオワインダーをオルタナティブ・ゼロに投げつける。オルタナティブ・ゼロはそれを剣で弾き返した。

「おや。先程の威勢はどこへ行きましたか。」

オルタナティブ・ゼロが挑発するように言った。

「はん、戦いはまだ終わってねぇ。お前を倒して、北岡には相応の裁きを下してやる!それに、変わらず劣勢なのはお前達の方だ!全滅も時間の問題なんだよ!」

確かに、ファムとインペラーが裏切り、三陣営のパワーバランスとしては、高見沢陣営に歩がある。しかし。

「それはどうでしょうねぇ。」

「何?」

 

 

「はっ!」

「そらっ!」

「ふっ!」

三体のインペラーの攻撃にタイガは圧されていた。

「くっ、本体はどれだ!」

 

FREEZE VENT!

 

タイガのカードが発動されると、インペラーの分身の動きが止まった。

「ちっ、バレたか。」

「逃がさないよ!」

タイガが本物のインペラーに迫る。

「ちっ!これでもくらえ!」

インペラーは迫るタイガに向けて、ガゼルスピアを投げつけた。すると、タイガはそれを待っていたかのようにスピアを避けた。

 

 

メタルホーンを振りかざすガイに対し、ナイトは剣裁きで攻撃をあしらう。

「こんの…!」

 

SONIC VENT!

 

ガイはメタルホーンをもう一度振りかざした。ナイトは、ダークバイザーでそれを受け止めたが、その瞬間、メタルホーンから凄まじい衝撃波が発せられた。

「うわっ!」

衝撃波により、ナイトは大きく吹き飛ばされてしまった。また、ダークバイザーも手から離れてしまい、最早丸腰状態だった。

「覚悟しな。おたくは、これでリタイアだ!」

ガイは、自身のクレストが描かれたカードを引いた。

その時だった。

「ぐはっ!?」

ガイが突然苦しみだした。

「…何だ!?」

ナイトは、ガイの背中に何かが突き刺さっているのを確認した。それは、インペラーがタイガに向けて投げたガゼルスピアだった。

「あれ。当たっちゃった?ごめーん。」

インペラーはガイに平謝りをした。

「ふ、ざけんな…。どういうつもりだ…!」

ガイは背に刺さったスピアを引き抜こうとした。しかし、それは深く刺さっており、抜き取ることができなかった。

「いやだって、東條が避けるから。」

「ははっ。君だって、僕を狙った訳じゃないじゃないか。」

タイガが笑って言った。

「な、に…!?」

「じゃ、お前はもう消えていいよ。」

タイガが、自身のクレストと同じカードを引き抜いた。

 

FINAL VENT!

 

「させるか…!」

ガイは手の感覚が鈍くなりながらも、カードを引き抜きバイザーに装填した。

 

CONFINE VENT!

 

デストワイルダーがガイに飛びかかろうとしたが、カードの効力により、寸での所で姿が消された。

「今ので二枚目だよね!」

 

FINAL VENT!

 

インペラーも同じくカードを装填した。すると、ギガゼールを筆頭に無数のレイヨウ型モンスターがガイに迫っていった。

「ちくしょう…!」

 

METAL VENT!

 

ガイはインペラーの攻撃に備えた。

そして、無数のレイヨウ型モンスター達が、それぞれガイに向かって飛びかかった。

「ぐっ、うっ…!」

次々と飛び交う攻撃にガイは耐えた。が、攻撃は止まる様子を見せず、むしろ激しさが増していった。

「ま、ずい…!」

間もなくカードの効力が薄れ、モンスター達の攻撃によってガイの装甲が砕けていく。

「はぁ!!!!」

そして、モンスター達の猛攻の最後に、インペラーが飛び膝蹴りをガイに放った。

「うわああああ!!!!」

大きく蹴り上げられたガイは地面に叩きつけられた。そして、再び起き上がることなく、砂のように消えていった。

 

 

「どういうことだ、佐野!!」

ベルデがインペラーに言った。

「ごめんねぇ、高見沢さん。向こうの方がさらに良い条件で雇ってくれちゃってさぁ!」

インペラーがヘラヘラと言った。

「そう言うことですよ、高見沢さん。貴方に勝ち目はありません!」

オルタナティブ・ゼロが言った。

「裏切り者がぁ!!」

今度はファムが龍騎との戦いを切り上げ、自身のクレストと同じカードを引き抜いた。

 

FINAL VENT!

 

「ファァァァン!!!!」

ファムが契約した白い鳥形モンスター・ブランウイングが飛翔し、インペラーの前に現れた。

「え?」

ブランウイングが翼を大きく扇ぐ。

「うわっ!?」

すると、そこから凄まじい突風が生まれ、レイヨウ型モンスターもろともインペラーをファムの方へ吹き飛ばした。

「はあああ!!!!」

ウイングスラッシャーを手にしたファムは飛ばされてきたレイヨウ型モンスターを次々と斬り伏せて行った。

「霧島、よせ!!」

龍騎がファムに言った。しかし、ファムは聞く耳を持たず、最後に飛んできたインペラーに刃を向けた。

「はあ!!!!」

「ぐはぁ!!」

インペラーはファムによって身体を二つに切り裂かれた。そしてモンスター達の爆発に飲み込まれ、その姿を消した。

「佐野君!!このぉ!!」

タイガがファムに迫った。

「邪魔しないで!」

ファムは手にした武器でタイガの攻撃を弾いていく。

「もう誰も、何も信じられない。私は、私の願いの為に…!」

 

ACCEL VENT!

 

ファムが言葉を言い切る前に、加速したオルタナティブ・ゼロの攻撃を受けてしまった。

「うっ!」

「結局、貴方も欲望に捕らわれた道化ですね…!」

オルタナティブ・ゼロが言った。

そして、カードを引き抜きリードさせようとした。

「やめろ、香川!!」

龍騎がオルタナティブ・ゼロを止めようと迫った。

しかし、オルタナティブ・ゼロは龍騎の攻撃を簡単に避け、カードをリードさせた。

 

FINAL VENT!

 

契約モンスター・サイコローグがバイク形態となって現れ、オルタナティブ・ゼロはそれに跨がった。

「させるか!」

ナイトもまた、オルタナティブ・ゼロの攻撃を阻止する為に迫るがタイガがその行く手を阻んだ。

オルタナティブ・ゼロは駒のようにバイクを高速回転させ、そのままファムに突撃した。

「ああ!!」

ファムは、成す術もなくオルタナティブ・ゼロの攻撃を受け、大きく吹き飛ばされた。やがて、軽く弾みつつ、地面に伏せてしまった。

「霧島ぁ!!」

龍騎が叫んだ。

「ご、め…。ね、ちゃ…。」

ファムの言葉は、最後まで言い終えることはなかった。

「そんな…。どうして、こんな…!」

全てを目の当たりにしたオーズは絶句した。

「バカな…。こんなはずが…!!」

ベルデもまた、自身の計画が打ち砕かれてしまい、言葉を失っていた。

 

しかし、戦いはまだ終わらなかった。

「でやぁ!!」

黒い影が呆然としている龍騎に襲いかかった。

「何!?」

龍騎は間一髪でそれをかわした。

「お前は…!」

ナイトがその正体を見抜いた。

「リュウガ…!」

オーズもまた、その名を口にした。

 

SWORD VENT!

 

リュウガは黒いドラグセイバーを手にすると、オーズに目をくれず、龍騎に襲いかかった。

「ちぃ!」

龍騎もまた、手にした剣でリュウガの斬撃を受け止める。が、リュウガによって押し込まれ、洞窟の外に追いやられた。

「榊原!」

「榊原さん!!」

ナイトとオーズは龍騎とリュウガの後を追った。

「こちらもそろそろ退き時ですか。」

オルタナティブ・ゼロの合図でタイガもその場から離れて言った。

「…で、どうするの?」

ゾルダがベルデに言った。

「…このまま終わらせやしない!」

ベルデは、洞窟の奥に進んでいった。




第9話、いかがでしたでしょうか。

ファムとインペラーの裏切り。それは、彼らが各陣営に戻る前に、北岡が接触し、裏切るように図った為です。これにより、再び高見沢陣営にパワーバランスが傾いた。かと思いきや。
実際にインペラーは裏切っておらず、隙を見せていたガイを倒しました。が、ファムによりインペラーもまたやられ、因果報応か、ファムもオルタナティブ・ゼロにより倒されてしまいました。これにより、生き残ったライダーは、オーズを含め10人。

裏切りが裏切りを呼び、混沌とする戦いを描きたかったですが、そう上手くは表現できませんでした。難しい…。

そして、最後にリュウガが乱入し龍騎、ナイト、オーズがこれと交戦していきます。

残されたベルデとゾルダが取る行動とは…。

次回をお楽しみに!


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第10話

「おい、どこ行くんだよ!」

ゾルダが言った。

「ここはオーディンの巣だ。やつはここにいる。やつをここで消す!そして、俺がこの戦いの頂点に…。」

 

『貴様では、私に勝てない。』

 

まるで頭の中に響くような声が、ベルデとゾルダに聞こえた。

「誰だ!」

ベルデが叫ぶように言った。

すると暗闇だった洞窟の中を眩い光が広がり始めた。

「うっ!」

ベルデとゾルダは、眩しさのあまり思わず目を背けた。

その輝きの中から、金色の鎧を纏うライダーが現れた。その鎧の装飾は不死鳥を彷彿させるものだった。

「オーディン…!」

ゾルダは、オーディンの放つ凄まじいプレッシャーを感じ、無意識で後退った。

「出たな、オーディン!」

ベルデは、迷わずオーディンに迫った。

「お前を倒し、俺がライダーの頂点に立つ!」

『無駄だ。』

ベルデは拳を前に突き出す。しかし、オーディンは簡単にそれを払い退ける。今度は蹴りをするも、同じく防がれてしまった。

 

SWORD VENT!

 

オーディンは、手に持っていた鳳凰召錫・ゴルトバイザーにカードを装填した。

そして、金色の二振りの剣・ゴルトセイバーが召還された。

「そいつは頂く!」

 

STEAL VENT!

 

ベルデのカードにより、ゴルトセイバーはベルデの手の内に収まった。

「はぁ!」

ベルデは剣をオーディンに振り下ろす。

『返して貰おうか。』

 

STEAL VENT!

 

オーディンに剣が当たる直前に、それはベルデの手から失われていた。

「何ぃ!?」

『ふん!』

オーディンは、元に戻った剣で代わりにベルデを斬りつける。

「うわっ!?」

ベルデが顔を上げると、そこにオーディンの姿が無かった。

「くそっ!どこだ!」

次の瞬間、背後に斬撃が走った。

「ぐはっ!」

ベルデが振り替えるとそこには誰もいない。しかし、またしても斬撃が背後より襲いかかる。

『言ったはずだ。貴様に私は倒せないと。』

オーディンが剣を持つ腕を広げる。すると、全身から黄金の羽根が飛び出し、ベルデに降りかかった。それは、ベルデの身体に触れると爆発した。それも数えきれないほどに。爆発が止むと、ベルデは地に伏せていた。

「ば、かな…。」

「あ~ぁ。」

様子を見ていたゾルダがベルデを見下ろした。

「北岡…、た、助けてくれ…。」

ベルデが身体を起こし、ゾルダの身体に寄りかかるように、肩に手を置いた。

「…全く。」

 

バァン!

 

「ぐふっ!?」

ベルデは視線を下ろすと、自身の腹部にマグナバイザーが突き付けられていた。ゼロ距離の射撃により、弾丸はベルデの身体を易々と貫いていた。

「情けないよ。あれだけ豪語してたあんたが。所詮、あんたも小者ってことだ。」

ゾルダは、脚でベルデを押し返した。

『貴様は戦わないのか?』

オーディンがゾルダに言った。

「ああ、そうさ。まだその時じゃないからね。」

ゾルダはそう言うとその場から去ろうとした。

「ま、て…。」

ベルデがゾルダに呼び掛けたが、ゾルダは聞く耳を持たず、そのまま去っていった。

『…賢明な判断だ。』

 

FINAL VENT!

 

オーディンの背後に金色の不死鳥型モンスター・ゴルトフェニックスが現れた。オーディンはその場から浮遊すると、ゴルトフェニックスが放つ七色の炎を身に纏った。

『さらばだ、仮面ライダーベルデ。』

ゴルトフェニックスと一体化し、オーディンはベルデに向かって蹴りを放った。

「ま…。」

ベルデは叫び声すら上げられず、炎に焼かれ、そして消えた。

 

 

「はい!」

「はっ!」

龍騎とナイトは連携しながらリュウガに攻撃をしていく。しかし、リュウガはそれをあしらい、一方的に攻撃を加えていく。

「くっ、なんて強さなんだ!」

「はぁ…はぁ…!」

「…。」

息も絶え絶えな二人に対し、リュウガは一切息の乱れがなかった。

「おおおお!!」

タトバコンボに戻ったオーズが、メダジャリバーをリュウガに振り下ろした。

「…!?」

リュウガは黒いドラグセイバーでそれを弾き返す。

「まだだ!」

 

ライオン!ゴリラ!バッタ!

 

「うおおおお!!!!」

オーズはライオンヘッドを輝かせた。

「うっ…!?」

突如放たれた眩い光を受け、リュウガの動きが一瞬止まった。

 

スキャニングチャージ!!

 

それを見たオーズは、バッタレッグを変異させ、大きく跳躍した。

「せいやああああ!!!!」

ゴリラアームに力を乗せ、巨大な拳をリュウガに向けて打ち付けようとした。

 

ADVENT!

 

「グオオオオオオオ!!!!」

「うわっ!?」

リュウガが呼び出した黒い龍型モンスター・ドラグブラッカーが飛来し、オーズに突進し攻撃を阻止した。オーズは地面に叩きつけられた。

「グオオオオオオオ!!!!」

ドラグブラッカーはオーズに向け黒い火球を吐き出した。

「うわぁ!!」

幾つもの火球がオーズに襲いかかった。幸いにも直撃しなかったとはいえ、周囲にばらまくように火球が降り注ぐため、オーズは身動きが取れなくなってしまった。

 

「火野君!!」

龍騎がドラグレッターを呼び出すべく、カードを引いた。

「…はっ!」

しかし、それを阻止せんとリュウガが再び龍騎に襲いかかった。

「ちぃ!」

ナイトもまた参戦し、龍騎と共にリュウガに攻撃していく。

 

FLAME VENT!

 

BLOW VENT!

 

龍騎とナイトはそれぞれの武器に炎や風の力を纏わせた。

 

FLAME VENT!

 

リュウガも同じく、剣に黒炎を纏わせた。

「はあああああ!!!!」

「うおおおおお!!!!」

龍騎とナイト、そしてリュウガらそれぞれの武器を振り下ろした。

 

ズドオオオオオオオン!!!!

 

大きな爆音と共にライダー達は大きく吹き飛ばされた。

「うわっ!…まだだ!!」

龍騎は、すぐさま体勢を立て直し、再びリュウガに迫った。

 

STRIKE VENT!

 

ところが、リュウガは龍騎が振り下ろした剣を自身の剣で弾き落とすと、呼び出した黒いドラグクローを龍騎に突き立てた。その瞬間、黒炎が吹き出され、龍騎は再び大きく飛ばされてしまった。

「うぅ…、かはっ…!」

ゼロ距離で火炎を浴びた龍騎は地面に伏せ、もがき苦しんでいた。

「榊原!うおおおお!!」

 

FINAL VENT!

 

「キィィィィィ!!!!」

ダークウイングが飛翔するとナイトの背にしがみついた。

「はっ!!」

ナイトは大きく跳躍した。そしてウイングランサーの切っ先を下方に構えた。

「うおおおお!!!!」

ダークウイングの羽根がナイトの全身を覆い、ドリル状となってナイトはリュウガ目掛け急降下した。

リュウガは、龍騎が落としたドラグセイバーを拾い、二本の剣でナイトを迎えうった。

 

ガキィィン!!!!

 

大きな衝撃音が上がる。

「うわっ!!」

ナイトが地面に投げ出された。

「まさか、たかが二本の剣で軌道を変えたのか…!」

ナイトは信じられないと言わんばかりに言った。

「はぁ…、はぁ…。」

しかし、流石のリュウガもまた、膝を着き息を荒くしていた。

「今だ…!」

ナイトは再びウイングランサーを手に迫った。

「覚悟しろ、リュウガ!!」

ナイトがリュウガにウイングランサーを突き出した。

 

ドスッ!

 

「ぐっ…!?」

「秋山…!?」

龍騎を全身から血の気が引く感覚が襲った。

ナイトは視線を落とした。

ウイングランサーは、リュウガの腹を貫かず、寸での所でかわされていた。そして自身のバックルに、黒いドラグセイバーが深々と刺さっていた。クレストの描かれたカードデッキも貫いて。

「…お前は、蓮じゃない…!」

リュウガが一言呟くと、ナイトから剣を引き抜き、脚で押し返した。そして、黒い龍のクレストの描かれたカードを黒いドラグバイザーに装填した。

 

FINAL VENT!

 

オーズと戦っていたドラグブラッカーがリュウガの側に現れた。ドラグブラッカーは瀕死のナイトに黒い火球を浴びせた。

「ぐっ…!?」

黒い炎はまるで氷のように硬化し、ナイトの動きを止めた。

そして、リュウガは跳躍のために構える。

「はっ!」

リュウガが空中で身体を捻り、瀕死のナイトに向け右脚を出した。

「はあああああ!!!!」

ドラグブラッカーがリュウガに向け黒い炎を吐き出す。それを纏ったリュウガがナイト目掛けて、跳び蹴りを放った。

「うわああああ!!!!」

リュウガの蹴りがナイトを貫いた。貫かれたナイトに追い討ちをかけるように黒い炎が燃え上がり、やがてナイトを灰に変えていった。

「あ、秋山ああああ!!!!」

龍騎は叫んだ。そして、その場で崩れ落ちるように膝を着いた。

「秋山さん…!!」

オーズもまた、ナイトの消失に絶句した。

「…次はお前だ。」

リュウガが龍騎を指しながら言った。

「榊原さんは、やらせない!」

オーズが龍騎の前に立った。

「お前は関係ない。」

リュウガが言った。

「関係ないって…、ライダーバトルなら俺も倒すべき敵じゃないのか!!」

「…。」

リュウガはつり上がった赤い目でオーズを睨み付けていた。

 

SHOOT VENT!

 

ズドオオオオオオオン!!!!

 

突如、リュウガに砲弾が襲いかかった。

「くっ…。」

爆風に煽られ、リュウガは怯んだ。

「こっちだ!」

射線上を辿るとゾルダがギガランチャーを構えていた。

「北岡さん!!」

「火野!榊原連れてそこから離れろ!」

再び、ギガランチャーの砲口から火を吹き出した。

 

ズドオオオオオオオン!

 

リュウガは砲弾をかわすが、お陰でオーズ達に近づけないでいた。

やがて、砲撃が収まると、オーズ達の姿は無くなっていた。

 

 

映司、榊原、北岡は地下駐車場に逃げ込んだ。

「やれやれ、何とか生き延びたか。」

北岡が言った。

「北岡、高見沢はどうした…?」

榊原が言った。

「…死んだよ。」

「そんな!?」

映司は思わず声にしてしまっていた。

「あのまま、オーディンと戦ったんだ。けど、成す術なく…、あっという間にな。」

北岡は伏し目がちに言った。

「それで、逃げてきたのか。」

榊原が尋ねた。

「高見沢には悪いけど、俺はまだ死にたくないんでね。…それより、秋山は?」

北岡が榊原に尋ねた。

「…。」

「秋山さんも、リュウガに殺られました。」

榊原に変わって映司が答えた。

「…御愁傷様だな。」

北岡が言った。

「俺がもっと上手くやれば、秋山さんは…!」

映司は自分の拳を強く握りしめていた。自身の情けなさからくる苛立ちを込めて。

「いや。」

榊原が口を開いた。

「秋山は、最後まで相手を殺すことに戸惑っていた。俺が…、俺が殺すなって…。人で無くなるって…。俺のせいだ…。」

榊原の声は震えていた。そして、両手で顔を覆った。すべてを拒絶するように。

「榊原さん…。」

そんな榊原を見た映司は何と声を掛ければいいのか、わからなかった。

「…すまない。少し一人にさせてくれ。」

榊原は静かに行った。

「でも…。」

映司が言いかけたとき、北岡が映司の肩に手を置いた。映司が北岡を見ると、北岡は静かに首を横に振った。

「わかった。榊原、変な事考えんなよ?行くよ。」

北岡に促され、映司は外に出た。

 

「さて…。俺は、俺の事務所に戻って少し休むことにするよ。お前はどうする?」

北岡が映司に尋ねた。

「…確かめたい事があるんです。だから、俺も一人で行きます。」

映司がそう言うと、北岡は、わかった。と言い、事務所へ脚を運ばせた。

「ゲフっ…!かはっ!」

事務所へ戻る途中、北岡の身体を悪寒が急に襲いかかり、大きく咳き込んでしまった。口を手で塞いだのだが、その手のひらには血に染まった痰が広がっていた。

「コフっ!コフっ…!俺も、長くは持ちそうにないか。」




第10話、いかがでしたでしょうか。

序盤、オーディンの元にたどり着いたベルデでしたが、圧倒的な力の前に成す術がなく、ゾルダの裏切りにもあい、ついにリタイアしてしまいました。
オーディンのエターナルカオス。様々な媒体で様々な技を披露されていましたが、まぁ、せっかくなのでライダーキックにしてみました。

そして、中盤。
龍騎、ナイト、オーズVSリュウガ
3対1の戦いでも優位に立つリュウガ。
そして、なんと。
ナイトがリュウガの手によりリタイアしてしまいます。
龍騎2号ライダー、ここでまさかの退場です。
しかし

「…お前は、連じゃない…!」

リュウガの放った一言。これの意味する所とは?

ナイトを失った2人のピンチを救ったのは、ベルデを裏切ったゾルダ。
ゾルダの手によりリュウガから何とか逃げ切った3人だったが、解散した後、北岡に病魔が襲いかかる。彼のリタイアも近いのでしょうか。

残るライダーは、オーズ含め8人。

次回、どうなるのか。お楽しみに!


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第三章 真偽
第11話


映司は、先程まで激戦を繰り広げられたオーディンの洞窟に戻っていた。

暗がりの中を見渡すと、暗いにも関わらず小さく煌めく物を、映司は見つけた。

「…やっぱり。」

映司は拾い上げたそれを見つめた。セルメダル。多くの数が地面にちりばめられていた。

「あの戦いの中に、グリードやヤミーはいなかったはず…。だとするならば…。」

映司は、改めてこの世界の仮面ライダーを思い浮かべた。

ミラーワールドに存在する仮面ライダー達。彼らは皆クレストの描かれたカードデッキを用いて変身し戦う。そしてライダー達の力の根源であるミラーモンスター。それらもまた異形の存在。もし、そのミラーモンスターがセルメダルを生み出しているとしたら。ミラーモンスターそのものがセルメダルで出来ているとしたら…。

ライダーが倒されると、ミラーモンスターもまた消滅する。であるならば、ミラーモンスターの消滅と共にセルメダルが飛散するのにも説明がつく。そして、ライダー達の願いが、ミラーモンスターの中でセルメダルを増やしているのも分からなくはない。

「やっぱり、ミラーモンスターはヤミー。けど…。」

しかし、新たな疑問が残る。セルメダルは、人の欲望で増殖するものであっても、セルメダルそのものが単独で生み出されることはあり得ない。必ずそれらを生み出すグリードが存在するはず。では、このミラーワールドの中にグリードが?

「…うーん。」

そこまで考えた上で、映司は再び首をかしげた。

グリードは、オーズが変身に用いるコアメダルを内包する怪物である。鳥類系、陸棲系、昆虫系、水棲系、重量系の五種、そしてイレギュラーである恐竜系を含めれば、六種のグリードが存在していた。そして、鴻上ファウンデーションの会長であり、メダルを研究していた男、鴻上光正によれば、この六種以外のグリードの存在は確認されていない。しかし、彼らは数年前にオーズとの戦いに破れ、消滅したはず。

 

ならば、死の商人・財団Xが複製したグリードか?

しかし、映司の中で再び否定的な考えが過った。

グリードとヤミーの関係は至って単純である。例えば昆虫系のグリードがヤミーを生み出せば、そのヤミーもまた昆虫型となる。つまりヤミーのカテゴリーさえ分かれば、それを使役しているグリードも突き止めることができる。ということになる。

ただし、仮にミラーモンスターがヤミーだとすれば、その種類は多種多様であり、カテゴリー分けをするには難し過ぎる。故に生みの親であるグリードを特定するのは非常に困難であり、それが複製されたグリードなのかも疑わしいのだ。となると、ミラーモンスターを生み出した存在は何なのか。新たなグリードなのか、全く別の存在によるものなのか。

メダルの考察が浮かんでは消え浮かんでは消え。映司はだんだんと混乱し始めてしまった。

 

 

「やはり現れましたね。火野君、と言いましたか。」

そんな映司を現実に引き戻すかのように、後ろから声がした。

振り替えると眼鏡をかけた男性がいた。

「貴方は…、確か!」

映司は構えた。ファムを倒したライダーである男。やはり、同じくライダーである自分を潰しに現れたのか。

ところが、その男は困った表情を作っていた。

「成る程。概ね察しはついているようですが、私は貴方と戦う気はありませんよ。」

眼鏡の男・香川英行はそう言うと両手を開いて見せた。

「え…。でも、貴方も自分の願いの為に戦っているんじゃないんですか?」

「確かに。私は、こんな下らない戦いを止めたいと考えています。その邪魔をする者は排除しますが。だが、"貴方"と戦う理由にはならないんですよ。」

香川が含みのあるような言い方をした。

「どういうことですか?」

映司は香川に尋ねた。

香川は、地面に落ちていたセルメダルを手に取った。

「自慢じゃないんですが、私は一度見たものは決して忘れることはないんですよ。つまり、私の記憶の中に、こんなものは存在しなかった。」

セルメダルを映司に見せつけながら香川は言った。

「それに、"君という存在"もね。」

「え…?」

香川の言い方に、映司は違和感を覚えた。そんな映司を無視して、香川が言葉を続けた。

「"本来"のライダーバトルは、神崎士郎という男が、死んでしまった自身の妹に新たな命を与える為に仕組んだものでした。その新たな命を得る為に、ライダー達に願いを叶えさせると唆し、神崎の切り札であるオーディンをライダーバトルの勝者に仕立てようとしたのです。」

「じゃあ…、この戦いは、その神崎士郎が引き起こしたっていうことなんですか?」

映司が尋ねると、香川は首を横に振った。

「いえ…、"今回"の戦いに神崎士郎は関与していません。もっと別の、何者かの思惑が働いていると言っても過言ではないでしょう。その証拠がこれです。」

香川は、再びセルメダルを映司に見せつけながら言った。

「これは一体何なんです?君は何者なんですか?」

香川は改めて映司に尋ねた。

「それは、セルメダル…。グリードと呼ばれる生命体から生み出されたものです。」

映司は、オーメダル、グリード、ヤミーについて、そして、それらと深い関わりがあるのが仮面ライダーオーズであることを香川に話した。

「なるほど…。やはりそういうことか…。」

映司の話を聞いた香川は、何か腑に落ちたような様子を見せた。そこで、映司も自身が抱えた疑問を香川に投げ掛けた。

「あの…。貴方は何を知っているんですか?まるで、一度全てを経験しているような素振りがみられます。」

映司の言葉を聞き、香川は考えるように黙ったが、静かに口を開いた。

「…しかし、まだ確証を得た訳ではありません。」

香川はそう言うと、洞窟を後にしようとした。

「え、ちょっと待って!」

映司は香川を呼び止めようとした。

「用事を思い出したので、これで失礼させてもらいます。貴方は貴方のやるべきことをするといい。…ああ、そうそう。」

香川は思い出した様に、映司に言った。

「榊原耕一。彼に気をつけた方がいい。私の記憶、そして仮説が正しければ、彼もまた、かつての戦いには存在していませんからねぇ。」

「え!?それって、どういうことですか!?」

映司は再び尋ねたが、香川は振りかえることもなく、洞窟を後にした。

映司は香川の後を追いかけようとした。

「バルルルルル!!」

しかし、映司の行く手を阻むかのように、猪型のモンスターが襲い

かかってきた。

「モンスター!こんなときに!!」

映司は、白いコアメダルを三枚取り出し、オーズドライバーに装填した。

「変身!」

 

サイ!ゴリラ!!ゾウ!!!

 

don don サゴーゾ!

DON DON!!サゴーゾ!!!

 

サイヘッド、ゴリラアーム、ゾウレッグを持ち、オーラングサークルには重量系が描かれた白亜のコンボ・サゴーゾコンボに変身したオーズは、現れたミラーモンスターと交戦した。

 

 

洞窟を出た香川は、映司とのやり取りを整理しながら、自分の仮説と照らし合わせた。

「…かつての戦いは、神崎士郎が仕組んだもの。そこで、私は死んだ。彼の裏切りに遭って…。しかし、今回の戦いは、別の何かの思惑によって再び始められてしまった…。私達もまた、"ある意味"ではイレギュラーな存在として、ここにいる。そして、私の記憶には無いオーメダルと呼ばれるメダル。人の欲望によって増殖す…。」

そこまで考えた香川はあることに気がついた。

「そうか…。この戦いもまた、何者かの欲望を満たすためのもの。それは、ライダー達の願いではない。ライダー達の欲望を利用し、メダルの増殖させている者。数え切れぬ程の莫大な数のメダルを欲する者。そして、メダルを求めるはグリード。グリードはライダーと異なる存在。ならば、この戦いを引き起こした元凶は…!」

その時、香川の背後に気配を感じた。香川が振り向くと、そこにいたのは、黒いスーツに紫のネクタイを身につけた青年だった。

「誰ですか。」

スーツの青年にそう言った所で、香川は青年が誰か気づいた。

「あぁ…。また貴方ですか。さっきも言ったはずです。私には用があります。貴方は貴方のやるべきことをしなさい、と。」

「…ああ。だから、"それ"をやらせてもらうよ。」

青年は、オーズドライバーを身につけ、三枚の紫のコアメダルを装填した。

「変身!」

 

プテラ!トリケラ!ティラノ!

 

プ!ト!ティラーノ!!

ザウルース!!!

 

青年は、銀の身体に紫の頭、腕、脚を持ち、胸部のオーラングサークルに恐竜が描かれたオーズ・プトティラオーズに変身した。

「…残念です。君とは戦いたくなかったのですが…。変身!」

香川もまた、オルタナティブ・ゼロに変身した。

「うおああああああああ!!!!」

プトティラオーズは、けたたましい雄叫びを上げる。その直後、右腕を地面に叩きつけた。地盤を砕き、深々と突き刺した右腕を引き抜くと、手には大斧型の武器・メダガブリューが収まっていた。

 

SWORD VENT!

 

オルタナティブ・ゼロもスラッシュダガーを呼び出した。

 

ACCEL VENT!

 

続いて、カードの効力を得たオルタナティブ・ゼロが大剣を構えた。

「はっ!」

オルタナティブ・ゼロは加速しながらプトティラオーズに迫った。

「はあああ!!」

プトティラオーズは頭部・プテラヘッドから翼竜の羽を模したスタビライザーを展開し、オルタナティブ・ゼロに向けて大きく羽ばたいた。その瞬間、絶対零度の冷気が発生し、迫り来るオルタナティブ・ゼロに襲いかかった。

「何…!?」

突然の出来事に対処しきれなかったオルタナティブ・ゼロは、プトティラオーズが放った冷気に捕らわれ、身動きを止められてしまった。

 

ゴックン!

 

プトティラオーズは、メダガブリューにセルメダルを装填した。

 

プ!ト!ティラーノ!!

ヒッサーツ!!!

 

「はああああ!!!!」

プトティラオーズは、セルメダルをエネルギーに転化させ、剛刃と化したメダガブリューをオルタナティブ・ゼロのバックルに向け振り下ろした。

 

バキィン!!

 

「がはっ…!?」

メダガブリューはバックルを砕き、肉体をも大きく斬り裂いた。

「何、故…?」

オルタナティブ・ゼロは、プトティラオーズに言った。

「…全てを破壊したい!」

プトティラオーズは言った。

「もう、少…し…、で…。」

オルタナティブ・ゼロは言葉を言い切る前に消滅した。

プトティラオーズは、自身の変身を解いた。そして、黒いスーツに身を包んだ火野映司は口角を上げていた。

 




第11話、いかがでしたでしょうか。

乱戦の後に散らばるセルメダル。それを見つけた映司は、様々に思考を働かせます。そこに現れたのは、オルタナティブ・ゼロこと香川英行。全てを覚えていた彼は、映司の話を元に本作の黒幕に気づきました。

しかし、直後に現れたプトティラオーズにより、答えにたどり着く前にリタイアしてしまいました。

既に失われているはずの恐竜系コアメダルを手にしている、黒スーツの火野映司。彼は何者なのか。

次回をお楽しみに!


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第12話

いつまでも塞ぎこんでいても仕方がない。

そう思い立った榊原は、北岡がいるであろう『北岡秀一法律事務所』へ向かった。

 

事務所前に着くと、榊原は玄関の戸に手を掛けた。すると、簡単に戸は開き、中に入った。

外観こそ無機質であるが、高級車が数台駐車され、庭園も丁寧に整えられ、いかにも最高級の内装が施されていた。そして、広々とした執務室に入ると、大きなソファーに北岡が横たわっているのを見つけた。

「北岡?」

榊原は一言呼び掛けたが、北岡は眼を瞑ったまま動かない。

まさか…。

北岡が永遠の命を求める理由。それは、自身が不治の病に犯されたと聞いていた。死からも逃れられないとも…。

ガラス製の机の上には、緑色をしたゾルダのカードデッキが無造作に置かれていた。

「北岡…、おい、北岡!!」

榊原は、北岡の肩に手を掛け、身体を揺すった。

「おい、何だよ…!」

「おわっ!?」

北岡は、ガバッと起き上がった。突然起き上がった事に榊原は大きく驚いてしまった。

「榊原…?人の安眠を妨げるなんて、一体何の了見だ!?」

北岡は悪態をつきながら立ち上がった。

「何だ驚かすなよ。俺は、てっきり…。」

榊原は驚きつつも胸を撫で下ろした。

「何だって?」

しかし、北岡は榊原の言葉が聞こえてないようだ。

「お前、聞こえないのか?」

安心したのも束の間、再び榊原に不安感が押し寄せた。

「は?…あ。」

北岡は何かに気づいた様子を見せた。すると、自身の両耳から耳栓を取ってみせた。

「おい、勘弁してくれよ…。」

榊原は、ふうと息を着くと、その場にしゃがみこんだ。

「何がだよ?てか、何しに来たんだ?」

北岡が榊原に尋ねた。

「…さあな。俺も何で来たんだか。けど、仲間の死をいつまでも嘆いていたんじゃ、何も解決しやしない。」

榊原が言った。

「それで、仲間の仇である高見沢サイドにいた俺を殺りに来たってわけか?」

北岡が言ったが、榊原は首を横に振った。

「そうじゃない。お前も俺達をリュウガから救ってくれた。だから、お前も信じたい。そう思ったんだ。」

「…全く。お人好しの馬鹿だな。」

北岡は、はあ、と肩を落とすものの、その表情は穏やかだった。

「俺も、こんな所で死にたかないさ。そりゃ、永遠の命を捨てる訳じゃない。ただ、最悪この戦いを生き延びられれば、それでいい。」

その言葉を聞いた榊原の眼に、活気がみられた。

「…オーディンを倒して、全てを終わらそう!」

「ああ。んじゃ、火野を探しに行きますか。」

そう言うと、榊原と北岡は事務所を後にした。

 

出発して間もなく、榊原と北岡をミラーモンスター達が襲いかかってきた。

「全く、早いとここんな世界からオサラバしたいね。」

北岡が、ため息を付きながら言った。

「ライダーの数が減ったことで、モンスター達が必然的に俺達を襲ってくるんだ。」

榊原が言った。

「「変身!!」」

榊原と北岡は、それぞれ龍騎とゾルダに変身した。

「一気に突破するぞ!」

 

STRIKE VENT!

 

LAUNCH VENT!

 

龍騎はドラグクローを、ゾルダはギガキャノンを装備した。

「はぁ~、はいいいい!!!!」

「ふん!!」

ドラグクローから発せられた火炎弾とギガキャノンから放たれた砲弾により、モンスター達は瞬時に灰となった。

「全く、手間をかけさせやがって…。」

ゾルダが、デッキを外そうとしたときだった。

「う、うぅ…。」

誰かの呻き声が、建物の陰から聞こえてきた。

「うん?」

ゾルダは声の方を警戒した。

「誰かいるのか?」

龍騎も陰に向かって言った。

「うぅ…。あ、あぁ…。」

呻き声は段々と近づいていた。そして、建物の陰から姿を現した人物を見て、ゾルダは絶句した。

「お前…!?」

北岡は、自分の眼を信じられなかった。それもそのはず。今、龍騎とゾルダの目の前に現れた者は、オーディンの手によって倒され、消滅したはずだからだ。

陰から現れた人物、それは、ベルデだった。

ベルデは、苦しそうに頭を抱え、おぼつかない足取りで歩いてきた。

「ベルデ…!?オーディンに倒されたんじゃなかったのか!?」

龍騎がゾルダに言った。

「ああ、間違いなくオーディンに殺られた。」

ゾルダは答えた。

ベルデは尚も、二人に寄ってきた。

「ちっ…。」

痺れを切らしたゾルダが前に出て、ベルデを押した。そして、そのままコンクリートの壁に押さえつけた。

「うぁ…。」

「おい、北岡!」

龍騎はゾルダに呼び掛けたが、ゾルダは聞く耳を持っていなかった。

「高見沢!そんな気持ち悪い演技は止めろ!」

「高、見…沢…?」

ゾルダの問いにベルデは問い返した。

「そういうの止せって言ってんだよ!」

そう言うと、ゾルダはベルデのデッキを掴み、バックルから引き抜いた。

「…あぁ?」

「これは…!?」

ベルデの変身は解かれたが、その姿を見て、ゾルダと龍騎は驚いていた。ベルデから姿の戻った人物は、高見沢ではなかったからだ。ベージュのトレンチコートに身を包んだ青年。その顔は、酷く憔悴しきっていた。

「お前、誰だ?」

ゾルダが青年に尋ねた。

「俺は…、木村…。仮面ライダー、ベルデだ。」

 

 

ミラーモンスターを倒した映司は、香川の後を追うように洞窟を抜けたが、香川の姿はどこにも見当たらなかった。

「いったいどこに…。それにしても…。」

映司は香川の言った言葉が引っかかっていた。

 

『榊原耕一。彼に気をつけた方がいい。』

『彼もまた、かつての戦いには存在していませんからねぇ。』

 

あれは一体、どういう意味なのだろうか。

榊原耕一。彼は、ライダー同士の殺し合いを嫌い、手塚や秋山と言った仲間の死にも、酷く打ちひしがれる程の心優しい人だ。それに、新参者である自分を疑うことなく受け入れる懐の深さも持っている。そんな彼に"何か"があるなんて、映司は到底信じられなかった。

では、香川の虚言なのだろうか。いや、そうとは言い切れない自分がいることを映司は自覚していた。香川は、間違いないなく"何か"を知っていた。まるで、全てを一度経験しているかのように。映司を欺ける為の嘘をついていた可能性も無い訳ではない。だが、ライダーバトルにおいて相当の実力者でもある男が、身一つで映司に接触してきた。その潔さから、彼も適当な事を言っていた訳ではないだろう。

ならば、何を信じたら…?

「…アンク。」

映司はふいに、親友の名を呟いていた。

 

鳥系グリード・アンク。他のグリード同様、自身の完全復活の為に、映司の仲間である泉比奈の兄・信吾に取り憑き、映司達と行動を共にしていた。しかし、グリードでありながらも、映司達と関わることで、アンクは単なるグリードでは得ることのなかった満足感を感じ、最後まで映司達と共にグリードと戦ってきた。しかし、戦いの中で自身の意思を内包するコアメダルにヒビが入ってしまい、最終決戦直後に、メダルは割れ、アンクは消えてしまった。その戦い以来、映司は割れたアンクのコアメダルを直す為に、割れたアンクのコアメダルを所持し、鴻上ファウンデーションの研究員として研究を続けたり旅を続けたりしてきた。今までに、二度、アンクに再会することは出来たものの、それはコアメダルが直ったことによるものではなかった。いつか必ず直してみせる。映司の願いを敢えて言うとすれば、"アンクとの再会"なのだろう。

 

映司は、ある場所へと向かった。それは、映司が初めてミラーワールドに捕らわれた場所だ。ここへ来れば何か分かるんじゃないか。そんな思いから、足を運ばせた。理由はそれだけではなかった。

「…俺は、火野映司。仮面ライダーオーズだ!」

映司は一人言のように、自己紹介を始めた。

「俺は、この場所でこの世界に誘われた。俺の願い。それは、親友との再会。どうしたら俺の願いは叶う?教えてくれ!ネグ!!」

映司の叫びに近い言葉は、反転した空に空しく響くだけだった。

「…やっぱダメか。」

その時だった。

「やぁーっと、君の願いがわかったよ。」

突如、何者かの甲高い声がした。

「こっち、こっち。」

映司は声の方を向いた。それは宙に浮いていて、全身銀色をしていた。銀色ながらも、その模様から道化師のような風貌だった。間違いない。今、目の前にいる者が"ネグ"だ。

「はじめまして!ネグの名前はネグだよ!」

ネグは、自身の名を名乗った。

「あなたが…。」

「それで、君の願い。えーっと、しんゆうとさいかいする?で、あってる?」

ネグは、とぼけるように言った。

「ああ、そうだ!どうすれば叶う?」

映司は言った。

「簡単だよ!オーディンを倒せばいい!こんな世界にしてしまった総ての元凶!彼のせいで、穏和だったこのミラーワールドは、化物まみれさ…。」

ネグは肩を落として言った。

「…なんで、オーディンを倒すと願いが叶うんだ?」

映司はネグに尋ねた。

「え?」

ネグは声を漏らすように言った。

「いや…、オーディンには願いを叶える力があるから…。もちろん、ただではないさ。代わりにオーディンを倒す。そうすると、オーディンが持つ願いを叶える力が他のライダーに移るんだ。だから、倒すと願いが叶う。ていうより、願いが叶えられる力が手に入る。が正しい言い方かなぁ。」

ネグはそう言った。

「…違う。オーディンは元凶じゃない!」

映司はネグの話を否定するように言った。

「オーディンだって、他のライダーと変わらないはずだ。オーディン。いや、神崎士郎が自分の妹を甦らせたいという願いを持って。」

黙るネグに向けて映司は言葉を続けた。

「お前は何だ?何が目的でライダー達を戦わせているんだ!?」

しばらく黙っていたネグだったが、にんまりと大きく口角を上げて言った。

「ライダー達の願いを叶えることさ。」

ネグの言う声色は、先ほどまでの甲高いものと変わりひどく低いものだった。

「ネグは、何も嘘を言っていない。オーディンを倒せば願いが叶う。そして現実世界に帰れる。願いを叶えようが、現実世界に帰りたいと願おうが、全ては"願い"となる。そして、願いは…。」

「…欲望となる。」

映司は、自然とネグの言葉の続きを言い当てた。その瞬間、映司はネグの正体を察した。

「お前、やっぱり…!」

「あー、でも残ね~ん。君の願いは叶えられそうにないや。」

ネグは再び甲高い声になってそう言った。

「どういう意味だ!?」

映司はネグに聞いた。

「ふふ…。君には、その"資格"がないからねぇ。」

「何…っ?」

その時、映司とネグに近づく人影があった。蛇柄のジャケットを着た男、浅倉威だ。

「こいつか、オーズってのは?」

浅倉はネグに聞いた。

「そうそう!このライダーは、他のライダーと一味違うよ!きっと楽しめると思うよ~?」

「ほう…。なら、俺と遊ぼうぜ。変身!」

浅倉は王蛇に変身した。

「あぁ~…。」

 

SWORD VENT!

 

ベノサーベルを召還した王蛇は、映司に剣を振りかざした。




第12話いかがでしたでしょうか。

北岡と合流した榊原達の前に現れた、死んだはずのベルデ。その正体は高見沢、ではなく木村という青年でした。
『RIDER TIME』にて登場した、綺麗なベルデこと木村。まさかの参戦となりました。
しかし、再び現れた仮面ライダーベルデ。一体何故なのか…。

映司は、香川の言葉から何が真実なのか混乱してしまいます。その答えを求める為に、ネグと接触を果たします。そして、ネグの言動から、映司はネグの正体に気づきました。

しかし、直後に現れた王蛇こと浅倉威が、映司に襲いかかります。この戦いの行く末は…。

次回もお楽しみに!


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第13話

「うわっ!」

映司は大きく後ろに後退し、王蛇の攻撃を避けた。

「どうした、変身しないのか?」

王蛇が変身を促した。

「くっ…!」

映司は宙に浮かぶネグを睨んだ。

「ほらほら、君に資格がなくても、ライダー達は血眼になって君を殺しにかかってくるよ~?死にたくなかったら戦わないと!じゃあね~!」

そう言うと、ネグはスッと姿を消した。

「あ、待て!!」

「俺は待たねぇぞ!!」

王蛇は再びベノサーベルを振り降ろす。

「やるしかないのか…。俺、蛇苦手なんだけど…!」

映司は王蛇の攻撃を避けると、三枚の橙色のコアメダルを取り出し、オーズドライバーに装填した。

「変身!」

 

コブラ!カメ!ワニ!

 

ブラカー!!ワニ!!!

 

映司は、紫の複眼を持つコブラヘッド、亀の甲羅を両手に持つカメアーム、鰐の力を宿したワニレッグに変異したオーズ・ブラカワニコンボに変身した。

「面白ぇ…!」

王蛇はオーズに向け、ベノサーベルを振り降ろす。オーズは、両腕に備えられた、亀の甲羅を半分に割ったような形の盾・ゴウラガードナーで、王蛇の剣を弾き返した。さらに、オーズは縦笛・ブラーンギーを取り出すと、それを吹いて見せた。

「ふざけてるつもりか!!」

王蛇は、尚も剣を振り回すが、オーズの頭部にターバン状に巻き付いていたコブラが動きだした。

「シュルルルルルル…。」

オーズのコブラは、王蛇まで伸び、噛みつきや頭突きを繰り出した。

王蛇は、迫りくるコブラを剣で振り払おうとするも、ブラーンギーの音色で踊るコブラの動きは不規則で、くねくねと王蛇の斬撃をかわしていった。

「チッ…!」

 

STRIKE VENT!

 

剣が効かないと分かると、王蛇はベノバイトを装備した。

「はっ!」

王蛇がベノバイトをつき出すと、口吻部から黄色い霧が吹き出された。

毒、もしくは強力な酸だと判断したオーズは、両腕のゴウラガードナーを合体させた。

「はあっ!」

合わせたシールドから、エネルギー状のバリアが発せられ、酸を弾き返した。

「まだだぁ!」

「シャァァァァァァァ!!」

王蛇が叫ぶと、オーズの後方にベノスネーカーが現れた。そして、ベノスネーカーが大口を開くと、黄色い強酸を吐き出した。

「うわあ!!」

突然のベノスネーカーの奇襲により、オーズは強酸を避けることが出来ず、全身に浴びてしまった。

「ハハハハハハ!」

王蛇は、もがき苦しむオーズを見て高らかに笑った。そして、苦しむオーズめがけ、ベノサーベルを振り下ろした。

 

ガキィン!

 

しかし、王蛇は妙な手応えを感じた。

「…あぁ?」

王蛇の剣は、オーズのゴウラガードナーによって防がれていた。

「何ぃ!?」

「はあっ!」

オーズは、ベノサーベルを弾き、両腕の甲羅を王蛇に打ち付けた。

「がふっ…!何で動ける…?」

「このコンボは、あらゆる毒を打ち消し、傷も超回復で治せる力があるんだ!」

 

スキャニング・チャージ!

 

オーズは、ドライバーをスキャンさせると、王蛇目掛けてスライディングして飛び込んだ。

オーズの両足を鰐のようなオーラが纏っていた。

「うおおおおお!!!!」

「…くっ。ハハハ、ハハハハハハ!!そうだ、俺をもっと楽しませろぉ!!」

最後の一撃を放つオーズに対し、王蛇は焦ることもなく、カードを引き抜いた。

 

SONIC VENT!

 

「ふん!」

王蛇は、地面にベノサーベルを突き刺す。その瞬間、凄まじい衝撃波が発せられた。

「うおあ!?」

その衝撃波は、王蛇に接近していたオーズを簡単に吹き飛ばした。

「…!今のは、確かガイの!?」

オーズは、王蛇が今使ったカードの力に疑問を持った。

「もっと見せてやるぜ。」

 

ADVENT!

 

今度は、上空から赤い影が現れ、オーズに体当たりをした。

「うぐっ!?あれは!?」

その正体は、ライアの契約モンスターであるエビルダイバーだった。

「どういうことなんだ!?」

オーズが王蛇に言った。

「知らねぇなぁ。ただ、これだから戦いはやめられねぇ!」

 

UNITE VENT!

 

ベノスネーカーを中心に、エビルダイバー、そして、ガイの契約モンスターだったメタルゲラスが並んだ。

その時、三体のモンスターが融合し始め、新たなモンスターに姿を変えた。頭部装甲と胴体がメタルゲラスであり、エビルダイバーのヒレが背に生える翼となり、頭部から尾にかけてがベノスネーカーの身体をしていた。

「ギシャァァァァァ!!!!」

キメラのようなモンスター・ジェノサイダーが雄叫びをあげる。

「まだ、祭りは終わらねぇ!」

 

STRIKE VENT!

 

王蛇は、ジェノサイダーの頭部を模した手甲・ジェノスホーンを装備し、オーズに迫った。

「くっ!」

オーズは、ゴウラガードナーを構え、王蛇の攻撃に備えた。

振り下ろされるジェノスホーンを盾で防ぐが、今までの攻撃とは比べ物にならない程、重い衝撃が走った。

「うわっ!!」

ついに、王蛇の猛攻に耐えきれず、オーズは体勢を大きく崩してしまった。

「はっ!」

王蛇は、その隙を見逃さず、ジェノスホーンを前に突き出した。ジェノスホーンの口吻部が開くと、そこから強酸が吹き出した。それと同時にジェノスホーンの角が数本射出され、酸と共にオーズを襲った。

「うわああああ!!」

酸と針の同時攻撃に、ブラカワニコンボの超回復が追いつかず、オーズはその場で膝をついてしまった。それと同時に、オーズの変身が解除され映司の姿に戻ってしまった。

「ハァ…、ハァ…。くっ…。」

「何だ、もう終わりか!?」

王蛇は、そう言いながらも、自身のものの他に、ガイとライアの三つのクレストが描かれたカードを引き抜いた。

 

FINAL VENT!

 

「ギシャァァァァァ!!」

ジェノサイダーが一度大きく咆哮を上げると、腹部が裂かれ大穴が開いた。

「ふん!!」

王蛇は高く跳躍し、映司に両足を向けた。さらに王蛇は、宙で身体を捻り、回転させながら映司目掛けて突っ込んでいく。

 

FINAL VENT!

 

「グオオオオオオオオ!!!!」

その時、ドラグブラッカーが飛来し、ジェノサイダーに突進した。

「はああああ!!」

さらに、映司の頭上をリュウガが跳び越えると、ドラグブラッカーがリュウガに向け黒炎を吐く。黒炎を纏ったリュウガが、迫る王蛇に向け跳び蹴りを放つ。

 

ドオオオオオオオン!!!!

 

王蛇とリュウガの蹴りがぶつかり、大きな爆発音を立てる。それと共に、王蛇とリュウガは地面に叩きつけられた。

「リュウガ…!?」

映司は、立ち上がるリュウガを見た。

リュウガの行動。それは、間違いなく映司を助ける行いだった。

「邪魔をするな…!!」

王蛇も立ち上がると、ベノサーベルを手にリュウガに迫った。リュウガもまた黒いドラグセイバーを手に応戦した。

 

FLAME VENT!

 

リュウガは黒いドラグセイバーに黒炎を纏わせると、大きく横に振り切った。

すると、黒炎は斬撃波となり、王蛇に飛ばされた。

「ぐぁっ!!」

王蛇はベノサーベルで耐えようとするも叶わず、手から剣が弾き飛んだ。

丸腰になった王蛇に、リュウガは尚も攻め依る。しかし、どこからともなく光弾が撃ち込まれ、リュウガは回避を余儀なくされた。

「まぁだ、王蛇君を倒される訳にはいかないのよ。」

再びネグが現れた。

「お前も…、俺の邪魔するな!」

王蛇がネグに食って掛かった。

「あれぇ?そんなこと言ってたら、君は殺されちゃうよ?いいのかなぁ?君が死んじゃったら、楽しいたのし~戦いが出来なくなっちゃうよ?」

「…チッ!」

ネグに説得された王蛇は、渋々だが、その場を去った。

「それにしても…、リュウガ君もなんだかヘンだねぇ?なんでオーズ君を庇うようなことするの?いずれはオーズも倒さなきゃいけないんだよ?わかる?」

ネグがリュウガに言ったが、リュウガは黙ったままだった。

「…まぁいいや。今回は命拾いしたねぇオーズ君。次会ったときは…。」

ここまで言って、ネグは鋭い目付きになった。

「生き残れるといいねぇ…。」

そして、ひどく低い声色で一言言うと、ネグも姿を消した。

「…。」

リュウガは、またどこかへ立ち去ろうとした。

「待って!」

映司は、思わずリュウガを呼び止めようとした。リュウガはそれに応じたのか歩みを止めた。

「リュウガ…、あなたは何者なんだ!?何で、俺を助けた?ネグの言う通り、ライダーは戦い合うんだろ?だったら、俺もその一人のはずだ。」

映司はリュウガの背に向かって言った。

「あの時だってそうだ。俺が北岡さんに殺られそうになったとき、あなたが現れた。あれも俺を助けようとしたんだろ?一体、何が目的なんだ?」

「…今はまだ、話す時じゃない。」

リュウガは答えた。

「どうして!?」

映司はリュウガに問いかけたが、リュウガは答えることはなく、その場を立ち去った。




王蛇は、龍騎本編同様、エビルダイバーとメタルゲラスの二体を手中に収めており、ライア、ガイのアドベントカードが扱えるようになっています。また、ユナイトベントも健在で、ジェノサイダーも召還できます。
なお、ジェノサイダー由来の新たなアドベントカードを設定しました。

オーズも、劇場版に登場した爬虫類系コンボ・ブラカワニコンボで応戦するも、強化された王蛇の前に太刀打ちできず、追い詰められてしまいます。

いよいよ仕留められそうになったとき、再びリュウガが乱入。王蛇を撃退しました。

リュウガの行動に理解できない映司が、その真意を問うものの、リュウガは答えず去ってしまいます。

物語の行く末は…。


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第14話

映司は、広場の噴水の縁に腰かけた。

先の戦いで、映司はある確信を得た。

ネグ。やつは、グリードだ。ライダー達の叶えたい願い、言い換えれば、それは欲望だ。その欲望をミラーモンスターを通して増幅させ、自身の糧にしている。

そう考えれば、この世界にセルメダルが散らばっていることの説明が着く。

 

しかし、それではいくつか説明が出来ない点があった。

まず、ネグをグリードとするならば、ネグのコアメダルが存在するはすだ。グリードは全6種。映司は、その全てを倒した。つまり、現時点で把握している種類のコアメダルからグリードが誕生することはあり得ない。

映司は一応手元に残されているコアメダルを確認した。コンボが成立する為に、全系統3枚ずつ(頭部、腕部、脚部各1枚)所持している。それとアンクの割れたメダルが1枚。それが全てだ。強いて言えば、唯一恐竜系のメダルだけは所持していない。

では、ネグは恐竜系のグリードか。いや、恐竜グリードは既に倒したし、恐竜系コアメダルは、かつて仮面ライダーポセイドンと戦った時や、財団Xが生み出したグリードコピー体と戦った時には手に入らなかった。

つまり、映司が把握しているコアメダルからは、やはりグリードが誕生する可能性は無いと言える。

では、ネグを形成するコアメダルは何なのか…。

 

それと、ミラーワールドの仮面ライダー。彼らはミラーモンスターと契約することで力を得ている。もし、ミラーモンスター=ヤミーとするならば、ライダーは、ネグが生み出したヤミーと契約していることになる。ヤミーの誕生の仕方は様々であるが、母体の人間にセルメダルを取り込ませることで、人間から分離してヤミーが誕生することはある。そう考えれば、ある意味自然ではあるが…。

では、あの王蛇の件はどう説明するのか。

母体を失ったヤミーが別の人間に従うなんて有り得るのだろうか。

これは考えても答えが出るものではないだろう。

 

ライダー達の願いを利用し、メダルを貯えた後、ネグは何をしようとするのか。これも、現時点では答えは出ない。

 

もし、映司の仮説通りならば、人命を守りつつ、ライダーバトルを止めるとするならば、ミラーモンスターを排除すれば良い。結果、ネグはメダルを得ることは出来なくなる。そして、最終的にネグを倒せば、全て解決するのではないか。

 

ともかく、映司は榊原にネグのことを伝えようと考えた。

しかし、香川の一言を思い出したことで、その考えを改めた。

 

『榊原耕一。彼に気をつけた方がいい。』

『彼もまた、かつての戦いには存在していませんからねぇ。』

 

香川の言った言葉。

やはり、榊原には何かあるというのか。

それに。

 

『仮面ライダーリュウガ。やつも、全ライダーを潰そうとしている。』

『やつからはオーディンとは異なる得たいの知れない異様さも感じられる。それだけに、リュウガはかなり危険な存在だと言える。』

『あれからは明確な殺意を感じられるの…。』

 

本当にそうなのだろうか。

確かに、リュウガから感じられる殺意は凄まじいものだ。事実、ナイト・秋山を殺した。ただ、映司にその殺意を向けられることは今まで無かった。むしろ、自身の危機に、リュウガは何度も助けてくれた。故に、リュウガという存在が果たして危険なのか、映司には分からないでいた。

 

『今はまだ、話す時じゃない。』

 

リュウガの言った言葉。あれはどういう意味だったのだろうか。リュウガもまた、何かを隠しているに違いない。映司はそう思った。

 

映司は頭を抱えた。一体何を信じればいい?自問自答した所で答えが得られる訳ではない。が、今の映司には、それしかできなかった。

「どうしたらいいんだ…。」

映司の口から言葉が溢れた。

 

「簡単さ。」

ふと、何者かの声が聞こえた。

「え…?」

「何も信じることはない。何も信じず、全てを壊せばいい。」

「誰だ!?」

映司は立ち上がり、回りを見回した。その時、映司の瞳に信じ難い光景がとんできた。

「映司、君の願いはなんだ?」

そう問い掛けるのは、なんと映司自身だった。しかし、自身が身に付けている服とは違い、上下とも黒いスーツに、紫のネクタイをしている。

「何なんだ、お前は…!?」

映司は目の前に立つ黒スーツの映司に向かって言った。

「俺はお前だよ。映司。」

黒スーツの映司は答えた。

「ほら、答えなよ。君の願いはなんだ?」

黒スーツの映司は、映司に答えるように促した。

「俺の願い。それは…、アンクに会うこと。」

「いいや、違う。」

黒スーツの映司は、映司の答えを否定した。

「何…?」

「確かに、俺はかつての友、アンクに会いたいが為に、鴻上ファウンデーションの研究員となった。だが、それは戦う理由じゃない。君は何を願って戦っているんだ?」

黒スーツの映司の問いに、映司は言葉を一瞬詰まらせた。

「…誰かが助けを求めているなら、その手は絶対に離さない…。どこまでも届いて掴む腕。無限の、絆…。」

映司は、自身の右手を見つめながら、言った。

それを聞いた黒スーツの映司は、ふふっと笑った。

「何が可笑しい!」

「フフ…、その通りさ!俺の願いは、どこまでも届く腕。それは、助けを求める者を救う為の腕!でも、こうとも言えないか?」

黒スーツの映司がニヤリとして言った。

「助けが必要な状態や場面、それを生み出した元凶を破壊する力…。つまり、俺の願いは、いや、君の願いは、全てを破壊することさ!」

「違う…!そんなんじゃない!」

映司は、黒スーツの映司の言葉を否定した。

「違かないさ。君は、今まで破壊し続けてきたじゃないか。人の命を脅かす異形の存在を。その、オーズの力で!」

黒スーツの映司は、言葉を続けた。

「そして、その破壊の力を君は一度受け入れている。"真のオーズと成る"ことで。否定のできない事実だろう?」

「違う…、そんなんじゃない…!」

確かに、映司は人々を守る為に、オーズの力を行使してきた。そして、ヤミーを倒し続け、グリードを倒す為に、真のオーズと成った。しかし、それは決して破壊したいが為ではなかった。

「どこまでも届く腕?無限の絆?まだ、そんな綺麗事を言っているのかい?綺麗事を並べた結果、どうなったか、忘れた訳じゃないだろう。」

「っ!?」

黒スーツの映司の言葉が、映司の心に刺さった。

忘れもしない。かつて、自分の身勝手な善意のせいで、一つの命が失われたあの日を。それは、黒スーツの映司が言うように、自身が並べた綺麗事の結果だった。

「違う…!」

しかし、映司は反論する術を持っておらず、ただ否定するしか出来なかった。

そんな映司に構わず、黒スーツの映司は言葉で攻め続ける。

「自分を偽るな。己の欲望に従えばいい。破壊という、本能のままに…!」

 

タカ!ゴリラ!ワニ!

 

「違う!!」

映司は、自分でも無意識の内にオーズに変身していた。そして、黒スーツの映司に肥大化した拳を振るった。しかし、それは空を切るだけだった。

「ほら、今のは破壊衝動に駆られた行動だ。自分でさえ、否定できないじゃないか!」

黒スーツの映司は、笑いながら言った。

その瞬間、映司自身も我に返り、自分の行いに驚いてしまった。

「そんな…。」

「でも、それでいい。強がらなくていいよ。君は俺だから。」

黒スーツの映司は言った。

「お前は…、お前は、何なんだ!?」

「俺は…。」

黒スーツの映司が答えかけた時だった。

 

「見つけた…、オーズ!!」

別の方から、声が聞こえた。

オーズが声の方向を向くと、そこには東條がいた。

「よくも、先生を…!」

「え?」

東條は、カードデッキを構えた。

「変身!」

現れたVバックルにデッキをセットすると、東條はタイガに変身した。

 

BLIZZARD VENT!

 

デストバイザーに冷気を纏わせたタイガが、オーズに迫った。

 

タカ!カマキリ!ワニ!

 

ゴリラアームからカマキリアームに変えると、腕に備わるカマキリソードで、オーズはタイガの攻撃を受け止めた。

「急に何を!?」

「しらばっくれて!!」

タイガは、強引にオーズを押し切った。

「くっ…。あいつは!?」

オーズは、周りに視線を送る。が、さっきまでいたもう一人の映司の姿がなかった。

そんなことに構わず、タイガは迫る。

ワニレッグから生まれる剛脚力で 、迫るタイガに回し蹴りを放った。

「ちっ!」

タイガは、蹴りを受け少し怯んだが、とっさにカードをデストバイザーに装填した。

 

STRIKE VENT!

 

タイガは両腕にデストクローを装備し、尚もオーズに迫った。

オーズはタトバコンボになり、トラクローを展開、デストクローを受け止めた。

「あなたも、自分の願いの為に…!」

「今は、そんなことどうでもいい!」

「え!?」

「先生の、仇を取る…!」

タイガの答えに、オーズは驚いた。

「どういうことだ!?」

「だから、しらばっくれるな!」

タイガが、デストクローでオーズのトラクローを弾く。オーズの懐が空いた所をデストクローが引っ裂く。

「うわっ!」

「殺してやる…!」

タイガの猛攻が続く中、突然、振り下ろされるはずのデストクローの動きが止まった。

「何だ!?」

タイガが右腕に視線をやると、ワイヤー状の何かが絡み付いていた。

「あなたは!?」

オーズはワイヤーの主を見て驚いた。

そこにいたのは、ベルデだった。

しかし、北岡の話通りなら、ベルデはオーディンに敗れたはず。

「高見沢!?」

タイガもまた、ベルデの姿を見て言った。

「俺は、高見沢じゃない!」

ベルデが答えた。

「はぁ?…うっ!?」

突然、タイガに銃弾が襲いかかった。

「やれやれ、珍しく殺意全開にしちゃって。英雄になるんじゃなかったのか、坊や?」

ベルデの後に、龍騎とゾルダが駆けつけ、ゾルダがタイガに言った。

「そんなこと…、どうでもいいんだよ!」

タイガは右腕のデストクローを手放し、ベルデのバイオワインダーから逃れた。

「何があった?」

龍騎がタイガに聞いた。

「それは、この人殺しに聞いたらいいよ。」

タイガがオーズを指して言った。

「何?」

「え!?」

ゾルダとオーズが言った。

「僕は見たんだ…。こいつが、先生を殺ったのを!!」

「俺が香川さんを!?」

タイガの言葉に、オーズは驚きを隠せなかった。

しかし、タイガの言葉を聞いた龍騎、ゾルダ、ベルデの三人はオーズを見つめた。

「そんな、俺は殺ってない!」

オーズは必死にタイガの言葉を否定した。

「…必ずお前を殺す。志半ばに倒れた先生の為にも…!」

タイガは吐き捨てるように言うと、その場を立ち去った。




第14話、いかがでしたでしょうか。
香川の言葉、榊原の言葉、そしてリュウガの言動。
すべてが噛み合わないことに気づいた映司は、何を信じたらいいのか、わからなくなってしまいます。

そこに現れたのは、香川を殺害した張本人である黒スーツ姿のもう一人の映司。
まるで、すべてを破壊するように映司を唆す黒スーツ映司。その真意、そしてその正体とは。

奇襲をかけてきたタイガに対し、救援に現れた榊原達。
そして、香川殺害の疑惑をかけられた映司。

彼の運命とは。

次回もお楽しみに!


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第15話

「君が、香川を殺ったのか…?」

龍騎がオーズに聞いた。

「違います…。俺には、香川さんを倒す理由がありません。」

オーズは否定した。

「理由?この世界じゃ、生き残ることが戦う理由なんじゃないのか?」

ベルデが詰めるように言った。

「返答次第じゃ、俺は、君を倒さないといけない…。どうなんだ火野君!」

龍騎は、デッキからカードを引き、ドラグバイザーに装填しようとした。しかし。

「止せ。」

その手をゾルダが掴んで止めた。

「北岡!?」

「お互いこんな姿じゃ、冷静に話し合うなんて無理だろう。それに、香川を殺ったって話、東條のデマかもしれないだろ?」

自身のカードデッキを抜き取り、元の姿に戻った北岡が言った。

「…北岡さん。」

オーズもまた、映司の姿に戻った。

そして、それに倣い、龍騎は榊原へ、ベルデは高見沢ではない、コートの青年の姿に戻った。

「んじゃ、まぁ。俺の事務所にでも戻るか。」

北岡に促され、一向は北岡法律事務所へ向かった。

 

 

「木村、さん?」

北岡法律事務所に戻った映司は、コートの青年・木村大地に言った。

「ああ。二人の言葉を借りて言うなら、"もう一人のベルデ"らしいがな。」

木村は、腑に落ちない様子ではあるものの、そう言った。

「あの…、二人の人物がそれぞれ同じライダーになることなんてあるんですか?」

「いや…。デッキはそれぞれ一つしかないから、少なくとも同じ時間の中で変身は出来ないはずだ。デッキの引き継ぎの可能性もあるが、前例がないはず。」

映司は、素朴に思った疑問を北岡にぶつけたが、北岡は首を横に降って答えた。

「もちろん、その高見沢ってやつとも合ったことはない。…多分な。」

木村は言ったが、その様子から、彼もまた記憶が混濁しているようにも見えた。

「多分?」

「みんなもそうらしいが、俺も記憶が曖昧なんだ。覚えていることと言ったら、誰かと一緒にビールを飲む、なんて平凡な願いくらいさ。」

木村は肩を落として言った。

「…まぁ、願いがそんなもんだったし、敵意もないしで、取り敢えず一緒に行動してるって訳だ。」

北岡が言った。

「…ところで。」

暫く黙っていた榊原が口を開いた。

「火野君…。香川を殺ったのか?」

「…確かに、僕は香川さんと会いました。」

映司は素直に答えた。

「じゃあ、やっぱり…!」

「でも、俺じゃありません!…けど、心当たりはあります。」

映司は強く否定したものの、認めるような言い方をした。それは仮に、"映司が殺った"とするならば、一つの可能性を見つけていたからだ。

「どういうことだ?」

木村が映司に尋ねた。

「信じてもらえないかもしれないですけど、この世界には、"もう一人の俺"がいます。」

映司は、先程突如現れたスーツ姿の自分を思い浮かべて言った。

「…はぁ?もう一人の火野だって?」

北岡は、理解出来ないと言わんばかりの態度を見せた。

「詳しくは、俺もわかりません。ただ、タイガに襲われる直前まで、もう一人の俺といましたから。」

「…本当なのか?」

榊原が疑うように言ったが、映司は強く頷いた。

「…まぁ、"もう一人のベルデ"なら、ここにもいるから、火野の話も強くは否定できないな。」

北岡が言った。

「…はぁ、わかった。火野君、疑ってすまなかった。」

榊原は映司に謝った。

そんな。と、映司は言ったが、内心ほっとしていた。

 

「それで、これからどうするんだ?」

木村が尋ねた。

「一度、現状を整理しようか。」

北岡はそう言うと、一同をソファに座るよう促した。

「今、生き残りは俺たち4人。そこに、東條、浅倉。リュウガに、オーディンか。」

「東條の言った事が正しければ、"もう一人のオーズ"を入れると、9人か。」

北岡の後に榊原が続いた。

「17人居たのに、半分近くまで…。」

映司は、信じられないといった様子だった。

「まだわからないぞ。自分で言うのも何だが、死んでいったライダーも別人ライダーとして復活しているかも知れない。」

「おいおいおい、そんなことになってたら、振り出しに戻るぞ!」

木村の言葉を聞き、北岡は言った。

「もしそうだとしたら、確かにキリがないな。こうなったら…、何としてでも、オーディンを倒して全てを終わらせよう!」

榊原が、決意を新たに言った。

しかし。

「待ってください。オーディンじゃない。」

映司の言葉に、三人は自身の耳を疑った。

「何言ってんの?この戦いを引き起こしたのはオーディンなんだぜ?」

北岡が言った。

「オーディンも、皆さんと同じライダーなんですよね?だったら、オーディンにも叶えたい願いがあるんじゃないんですか?」

「何が言いたいんだ?」

映司の問いに対し、木村が問い返した。

「オーディンも、一ライダーに過ぎないと思います。確かに、オーディンの存在がライダーバトルのきっかけとなったのかもしれません。でも、そのオーディンという存在を"生み出した"ものは何ですか?」

映司の問いに、三人はすぐに答えられなかったが、榊原が口を開いた。

「…オーディンを隠れ蓑に、別の存在が暗躍しているってことなのか?」

「はい。」

映司は短く答えた。

「そうだとして…、火野は何があると思ってんだ?」

北岡が映司に尋ねた。

「…ネグです!」

「まさか!?」

榊原が声を上げて言った。

「ネグ、やつはグリードです!」

「グリード?」

木村が言った。

「グリードとは、永遠に満たされない、己の欲望を満たそうとする怪物です。」

映司は、グリードの存在とオーズについて改めて説明した。

「ネグが、その…グリード?っていうやつだという根拠は?」

北岡が映司に尋ねた。

それを聞いた映司は、自身の服のポケットからセルメダルを取り出してみせた。

「この世界に、セルメダルがありました。これがあるということは、グリードがいるということにも繋がります。それに、ミラーモンスター以外の異形と言われて思い付くものって何です?」

映司の問いに、再び黙った三人だったが、今度は木村が答えた。

「ネグか。俺がこの世界で気がついた時に、この世界について教えてくれたのがネグだったが、冷静に考えれば、あれだって人とは呼べないよな。」

「しかし、彼の導きがあって、俺達は秋山等と巡りあえたんだぞ。」

榊原が否定しようとするが、映司は退かなかった。

「それも、自身の欲望を満たすために仕組まれたことだとしたら?」

「…っ。」

「…もし、火野の話が本当だとしたら、俺達の"願いを叶えたいという欲望"を利用して、意図的に潰し合いさせているということなのか?」

木村の問いに対し、映司は頷いて答えた。

「それで、ネグを叩くって?俺達で?」

北岡が言った。

「はい!そうすれば、全て終わるはずです!」

それを聞いた北岡が鼻で笑った。

「お断りだ。」

「え?」

北岡の答えに、映司は思わず声を漏らした。

「仮に、この戦いの元凶がネグだとして、倒したら全てが終わるかもしれない。けどな、俺の"願い"はどうなる?俺は永遠の命が欲しいんだよ。」

そう主張する北岡に対し、木村が反論した。

「火野の言っていたことが確かなら、それこそネグの思う壷だぞ!そんなに願いが大事か?」

「ああ、大事だね!途中参戦したお前には、所詮分からねぇよ!戦おうが戦うまいが、俺の命は幾ばくかしかねぇんだよ!」

北岡が声を荒げて言った。

「けど…!」

「わかってるよ!だから、こっちについたんだ。」

映司が言い切る前に北岡が答えた。

「無闇に命を奪わないお前らにつけば、誰とも戦わずにオーディンに辿り着ける。後は、どさくさに紛れて俺がオーディンを討てば良かったんだ。」

「北岡さん…。」

「だが、オーディンを討たないってなら話は別だ。どうしてもって言うなら、俺は降りるぜ。」

北岡が映司に言った。

「…。」

映司は、直ぐに答えられなかった。

確かに、ネグがグリードというのは状況証拠でしかない。無論、映司自身、その推測は間違いじゃないと確信している。しかし、これまで"オーディンを倒せば願いが叶う"と信じてきたライダー達にとって、映司の話など到底信じられないだろう。

それに、北岡の命が僅かしかないとなれば、彼が永遠の命を渇望することも理解できる。

「…じゃあな。」

北岡は一言言うと、事務所を後にした。

「待て!」

「行かせてやれ。」

暫く沈黙していた榊原が、北岡を追いかけようとした木村を止めた。

「何でだ、榊原!あのままじゃ、あいつ死ぬぞ!」

木村が声を荒げて言った。

「分かっているさ。」

「なら、何で止めたんですか?」

映司も榊原に尋ねた。

「ああなったら、あいつは止まらない。スーパー弁護士の癖して、誰よりも頑固だからな。…火野君。」

榊原は映司を見て言った。

「悪いが、俺達はオーディンを倒す。」

「え、でも…!」

「俺達は、オーディンを倒せば全て終わると信じて戦ってきた。それが、黒幕がネグだと言われても、どうしても納得できない自分がいる。」

榊原は続けて言った。

「…かといって、君が嘘を付いているとも思えない。もしかしたら、ネグが元凶なのかもしれない。でも、確証がない。なら、オーディンを倒せばそれがわかるんじゃないか?」

「それは…、そうかもしれないですけど。」

「しかし、三人だけでオーディンを倒せるのか?」

木村が榊原に尋ねた。

「正直、やれる自信はない。でも。」

榊原は、再び映司を見て言った。

「彼が、オーズがいるなら倒せる気がする。手塚が見出だした希望。それを信じる!」

榊原が言った。

「…君はどうなんだ?」

木村が映司に尋ねた。

「…わかりました。行きましょう!」

榊原の言う通り、オーディンを倒す。いや、会えれば何か分かるかもしれない。そう思った映司は、榊原の案に乗った。

「…行こう!」

そして、榊原の合図で、三人は再びオーディンのいる洞窟を目指した。




第15話、いかがでしょうか。

ベルデの二代目変身者、役者のお名前をお借りして木村大地とさせて頂きました。

ネグが黒幕であることを伝えた映司でしたが、それに反発するように出ていってしまう北岡。
また、映司の言葉を懐疑的に捉えた榊原達もまた、オーディンを倒すために行動をします。

次回、ライダーバトルはいよいよ終局を迎えます!
お楽しみに!


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第16話

北岡は、オーディンの洞窟に着くなり、大きくため息をついた。

「よぉ、北岡…。待ってたぜ。」

「はぁ…。全く…、よりによってお前かよ。一番乗りは。」

北岡は、目の前にいる浅倉に言った。

「あの時果たせなかった決着。今度こそ、ここで着けようぜぇ。」

浅倉がデッキを前にかざす。するとVバックルが現れ、腰に装着された。

「あの時?何言ってんのか知らないけど、いい加減退場してもらうぜ。」

北岡もまた、デッキを構えた。

「…僕が英雄になる。」

暗がりから声がしたかと思うと、東條が姿を現した。

「何だ、まだ生きていたのか…。」

浅倉が東條に言った。

「僕が英雄になる…。僕が、英雄に…。」

しかし、東條は何かに取り憑かれたかのように、同じ言葉を連呼していた。

「はっ…。ついに気でも狂ったか?」

北岡が鼻で笑いながら言うと、東條は鋭い目付きになって言った。

「狂った?僕が?狂っているのは、お前達だろ。ライダーは潰す。僕が全員を。オーディンもね。そして、僕が真の英雄になるんだ!」

東條も、デッキを前にかざした。

「やれやれ…、そう簡単にはオーディンまで辿り着けないか。」

 

「「「変身!!!」」」

 

三人は、それぞれバックルにデッキを装填。ゾルダ、王蛇、タイガに変身した。

 

SWING VENT!

 

王蛇は、ライアが使っていた鞭・エビルウィップを手にし、ゾルダに向かって駆け出した。

タイガもデストバイザーを手に、駆け出した。

「ふん!」

ゾルダは、マグナバイザーで二人のライダーを牽制した。

「ちっ!」

タイガは避けたが、王蛇は構わず近づいた。

「おらっ!」

王蛇は、力任せに鞭を振るった。

「くっ!」

ゾルダは大きく後退し、王蛇の攻撃を避けた。

 

BLIZZARD VENT!

 

「こっちだよ!」

「何っ、ぐあ!」

ゾルダが後退した先に、タイガが先回りしていた。そして、冷気を纏わせた斧でゾルダを切りつけた。

不意打ちに近い攻撃に、ゾルダはかわせず、タイガの斬撃を受けてしまった。

「邪魔するなぁ!」

 

ADVENT!

 

「邪魔しないでくれる?」

 

FREEZE VENT!

 

王蛇がメタルゲラスを召還するも、タイガのカードの効力により動きを止められてしまった。

「ちぃ!」

 

STRIKE VENT!

 

王蛇は、武器をメタルホーンに持ち替え、タイガに迫った。

 

STRIKE VENT!

 

タイガもまた、デストクローを装備し、応戦した。

王蛇はもタイガも、互いに一歩も退かずに戦っていた。

「この…!」

 

LAUNCH VENT!

 

「二人仲良く、あの世に送ってやるよ。ハッ!」

ゾルダは、交戦しているライダー達に向け、ギガキャノンを発射した。

「っ!おらっ!」

「うわっ!?」

それに気づいた王蛇は、左手でタイガの襟元を掴むと、ギガキャノンの射線上にタイガを脚で押し出した。

「うわああああ!!!!」

結果的に王蛇を庇う形となり、タイガはギガキャノンの砲撃を浴びてしまい、地に伏せてしまった。

 

FINAL VENT!

 

ゾルダは、すかさず自身のクレストの描かれたカードを装填。

ゾルダの前にマグナギガが現れると、ゾルダは、マグナギガの背中にあるコネクタに、マグナバイザーを連結させた。

「僕が、英雄に…。」

「…じゃあな。」

ゾルダは、引き金を引いた。

マグナギガの胸部装甲や両膝の砲門が展開されると、全身ありとあらゆる所から射撃が始まった。

そして、その全ての弾がタイガに吸い込まれていった。

 

ドガァァァァァァァァァン!!!!

 

恐らく、タイガの断末魔が上がったであろうが、それは着弾時の爆音に掻き消された。そして爆煙が収まる中、そこにタイガの姿は無かった。

「あ~ぁ…。これでもう、あいつらの所には戻れないな…。」

ゾルダは、爆破により生まれた大きなクレーターを見て呟いた。

「感傷に浸ってる場合か。」

王蛇が、ベノサーベルを振り回した。

ゾルダは、マグナバイザーで受け止めた。

「くっ…。後、お前さえ殺れば…!」

その時、ゾルダの身体を物凄い悪寒が走った。

「ぐふっ…、げふっげふっ!」

ゾルダのマスクの隙間から、赤い飛沫が吹き出された。

「そんな身体で!」

王蛇は、ゾルダを蹴り倒した。

「ぐっ…、けふ、けふ…。こんな時に限って…!」

「辛いか?今楽にしてやる…!」

王蛇がベノサーベルをゾルダに突き付けた。

 

STEAL VENT!

 

しかし、王蛇の手からベノサーベルが離れ、ゾルダに剣が振るわれることはなかった。

 

STRIKE VENT!

 

さらに、王蛇めがけ火球が飛んできた。王蛇は横に飛び込みかわした。

「お、お前ら…!」

「北岡、無事か!?」

龍騎は、ゾルダの元へ駆けつけた。

「北岡さん!」

オーズもまた、ゾルダの元へ近づき、身体を起こした。

「ハッ!」

「ちっ!」

 

STRIKE VENT!

 

また、ベルデはベノサーベルを手に、王蛇へ剣を振るったが、王蛇はエビルニードルを装備し、それを防いだ。

「お前ら、何で!?」

ゾルダが龍騎に言った。

「こんなとこで、お前に死なれちゃ後味が悪いからさ!」

龍騎が言った。

「はっ…、やっぱ甘ちゃんだな、お前。」

ゾルダは、フッと笑って言った。

「火野君、北岡を頼む!」

「はい!」

龍騎は、王蛇と交戦中のベルデへの支援へ向かおうとした。

しかし、龍騎の前に立ち塞がるように黒いライダーが現れた。

「っ!?リュウガ!!」

「…。」

 

SWORD VENT!

 

リュウガは、何も話さず、黒いドラグセイバーを召還した。

「…どうやら、お前だけは倒さなければならないらしい。覚悟しろ!」

 

SWORD VENT!

 

龍騎もドラグセイバーを呼び出し、リュウガへ向かった。

「ハイ!」

龍騎はドラグセイバーを振り下ろす。リュウガは、それを黒いドラグセイバーで弾き返す。

しかし、リュウガが剣を振るっても、同じく龍騎もそれを弾く。

お互い一歩も退かずに戦い続けた。

「このっ!」

「…!?」

リュウガが振り下ろした剣を、龍騎はその腕を掴み阻止した。

「捕らえた!」

そして龍騎がリュウガへ剣を振るう。しかし、リュウガも同じく龍騎の腕を掴み、それを阻止した。

「くっ…!」

お互い掴んだ手を離さずにいたが、リュウガが脚を動かした。

「ハイっ!」

龍騎も同じく脚を上げ、互いが互いの腹を蹴り押した。

「ぐっ!」

 

 

「うわっ!」

ベルデは、王蛇の猛攻に圧されていた。

「…火野、お前はあいつを助けてやれ!」

「でも…!」

「俺を気にかけて、他のヤツは見殺しなのか!?」

ゾルダが言った言葉に、一瞬言葉を詰まらせたが、オーズは頷き、ベルデに加勢しに行った。

「何だ。お前、いつからそんな弱くなった?全然足りねぇ!!」

 

UNITE VENT!

 

王蛇は、三体のモンスターを融合させ、ジェノサイダーを呼び出した。

 

STRIKE VENT!

 

「死ねぇ!」

ジェノスホーンを手に、ベルデに迫った。

「ハッ!」

 

ガキィン!

 

王蛇のジェノスホーンとオーズのメダジャリバーが、強い衝突音と共に切り結ぶ。

「オーズか…。お前は、最後の獲物だ。」

王蛇は、左手の拳をオーズに叩きつけようとした。

「そんなに戦いたいのか!?それで満足なのか!?」

オーズは、王蛇の拳を掴んで止めた。

「そうじゃない。イライラがずっと治まらねぇんだよ。」

王蛇は、オーズの顔面に向け頭突きを放った。

「ぐぁっ!」

それにより、オーズは大きく怯み王蛇との間に距離が生まれた。

一瞬視界がぐらついたオーズだったが、すぐに元に戻った。

「だが、戦ってるとそれを忘れられる。むしろ、快楽すら感じられる。だからぁ!!」

王蛇は再びジェノスホーンを構え、オーズに迫った。

「北岡!何か武器を呼べ!」

ベルデはゾルダに言った。

「俺に指図すんな!」

 

STRIKE VENT!

 

悪態をつきながらも、ゾルダはギガホーンを召還し、自身に装備した。

 

COPY VENT!

 

ゾルダがギガホーンを手にするところを確認したベルデは、新たにカードをバイザーに装填した。

そして、カードの効力により、ベルデの姿はギガホーンを装備したゾルダに変わった。そして、ベルデは、王蛇にギガホーンを突き立てた。

「そんな理由で殺すのか!」

ベルデは、王蛇の戦う動機に憤りを感じながら言った。

「じゃあ、お前は俺のイライラをどうにかできんのか?」

王蛇は、オーズとベルデを相手に戦い続けた。

 

 

その時だった。

『戦え。戦い続けろ。』

ライダー達の頭の中に直接響くように、声が聞こえた。

「何だ!?」

オーズは声のする方を探した。

すると洞窟の奥から眩い光が発せられた。

そして、光の中から一つの人影が歩いてきた。

「マジかよ。ここでご登場か…!」

ゾルダは、その姿を見て言った。

「オーディン…!」

龍騎もその正体を口にしていた。

「あれが、オーディン!」

オーズは、目の前に現れた仮面ライダーオーディンを見て言った。

茶色の身体に黄金の鎧を纏う不死鳥の騎士。そして、ライダーバトルにおける全ての元凶とされる存在。そのオーディンが、龍騎達の前に姿を現したのだ。

『残されたライダーは、お前達だけだ。そのまま戦え。最後の一人となった者の願いが叶う。そして、現実世界へと帰還できる。』

オーディンが、ライダー達に語りかけた。

「いや、ここでお前を倒す。そして、全てを終わらせる!!」

龍騎がオーディンに言ったが、オーディンは小さく首を横に振った。

『無駄だ。貴様に私は倒せない。』

「…倒す!うおおおお!!」

龍騎は、ドラグセイバーを手にオーディンに迫った。

「…!」

リュウガは、その後を追うように動き出した。

「させるか!」

元の姿に戻ったベルデが、リュウガの前に出た。

「オーディン、あんただって一人のライダーじゃないのか!?」

オーズも、オーディンの元へ行こうとしたが、王蛇が邪魔に入った。

「ハッ…、ハハハ!ハハハハハハハッ!!これだから戦いは辞められねぇ!!」

王蛇は、狂ったような笑い声を上げ、再びオーズに迫った。




第16話、いかがでしたでしょうか。

ライダーバトルもいよいよ大詰め。香川陣営最後の一人、タイガはゾルダにより撃破されてしまいました。
しかし、そんなゾルダもまた、戦いの中で病魔に教われてしまいます。
龍騎達が駆けつけるも、リュウガ、そしてオーディンも現れます。

このライダーバトルの勝者は一体誰に決まるのか。

次回もお楽しみに!


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第17話

HOLD VENT!

 

ベルデは、バイオワイルダーを装備し、リュウガへ投げつける。リュウガは、小さな剣捌きで弾き返していく。

「お前は、一体何なんだ!」

ベルデが叫ぶと、リュウガの動きが僅かに止まった。

「…、何で…?」

リュウガは小さく呟いた。

その瞬間、ベルデのバイオワイルダーがリュウガの右腕に絡み付いた。

「捉えたぜ!」

バイオワイルダーがどんどんきつく締め付けていく。その度、リュウガの右腕の装甲がミシミシと悲鳴を上げていた。

リュウガは、剣を左手に持ち変え、ワイヤーを断ち切った。

「くっ…、このぉ!」

ベルデは、リュウガに肉薄した。

リュウガもそれに応じるが、何故か先程までの動きの鋭さが無くなっていた。

「…っ!!」

「これで、終わりだ!」

 

FINAL VENT!

 

ベルデは、自身のクレストが描かれたカードをバイザーに装填した。

姿を現したバイオグリーザの口から舌が飛び出すと同時にベルデは高く跳躍した。そして、バイオグリーザの舌がベルデの足に括られると、振り子の要領でリュウガに迫った。

 

STRIKE VENT!

 

ところが、リュウガは黒いドラグクローを装備すると、迫り来るベルデの勢いを逆手に取り、クローをベルデの胴体に叩き込んだ。

「ぐはぁ!!」

予期せぬ攻撃が直撃し、ベルデは大きく後方へ吹き飛んだ。

「うぐっ…。」

マスクの下で、ベルデは堪らず嘔吐してしまった。

続く吐き気を堪えながら、何とか立ち上がろうとしたベルデだったが、足腰に力が入らず、膝を着くのがやっとだった。

その時、ベルデは突然頭痛に襲われた。

「ぐっ…あ゙…!何、だ…?」

意識が朦朧とするなか、ベルデは丸でフラッシュバックしたかのように、ある光景が頭を過った。

「リュウ、ガ…。お前、もしかして…。」

 

FLAME VENT!

 

ベルデが何か気づいたようだったが、リュウガは既に最後の一撃に備えていた。

「…はああああ!!!!」

リュウガは、正面にドラグクローを突き出した。放たれたのは、火球ではなく、カードの効力で威力が増した黒い火焔。その炎は、逃げることすら出来ないベルデを容赦なく焼き払った。

ドラグクローから火が収まると、リュウガは脱力したのか崩れるように膝を着いた。

 

 

「木村さん!!」

オーズは、焼かれていくベルデを見て叫んだ。

「お前の相手は俺だ!」

 

ADVENT!

 

王蛇は、三枚のカードを続けて装填した。すると、ジェノサイダーが三体のモンスターに分離し、それぞれがオーズに襲いかかった。

「ぐっ、うわぁ!!」

陸と空中からモンスターの突進、そして大蛇から吐き出される強酸。立て続けに迫るモンスターを相手にオーズは対応しきれず、攻撃を受けてしまった。

「ハハハハッ!!…いい加減飽きてきたぜ…。」

 

FINAL VENT!

 

ベノスネーカーが王蛇の背後に回った。

「ふん!」

王蛇は高く跳躍した。そして、王蛇に向かってベノスネーカーが強酸を吐きつけた。その勢いを乗せ、王蛇がオーズに向かって脚を向けた。

 

ADVENT!

 

オーズと王蛇の間にマグナギガが現れた。

「邪魔だぁ!!」

王蛇は構わず、マグナギガに何度も蹴りを打ち付けた。強酸を纏った攻撃を受けたマグナギガは、全身が焼け爛れ、とうとう倒れこんでしまった。

「喰らえ。」

三体のモンスターがマグナギガに襲いかかり、喰らい始めた。やがて、マグナギガの姿は無くなっていった。

「うぅっ!!」

オーズの後方で、ゾルダの呻き声が聞こえた。

オーズはゾルダの方へ振り向いた。ゾルダの姿は、緑色から色が抜け落ち、灰色になっていた。また、腰に装着されたカードデッキも、ゾルダのクレストが消えていた。

「バカなやつだ…。こんなやつの為に、自分のモンスターを犠牲にするとはな。」

王蛇が鼻で笑って言った。

しかし、同じくゾルダも笑って言った。

「ハハっ…。俺も、まさかここまでバカなだとは思ってなかったよ。けどな。」

ゾルダは、マグナバイザーだった灰色の銃を王蛇に向け、言葉を続けた。

「それでも、あいつを殺らせる訳にはいかないんだよ!浅倉ぁ!!」

ゾルダは、王蛇に弾丸を撃ち込む。しかし、マグナギガを失ったせいか、威力が落ちたのか、王蛇は弾丸をもろともせず、ゾルダに迫った。

「だったら、お前をここで殺す!」

王蛇は、ゾルダから放たれる弾丸の雨の中を駆け、ベノバイザーの柄の先をゾルダに突き刺した。それは、ゾルダの背中まで貫いていた。

「がはっ!?」

「北岡さん!!」

「ハハハッ…、これで俺とお前の決着が着いたなぁ、北岡。」

「…それは、どう、かな!」

ゾルダは声を捻り出すように言った。

 

BULLET VENT!

 

ゾルダは、バイザーにカードを装填すると、銃口を王蛇の胸元に突きつけた。

 

バァン!

 

「ぐっ…!?」

王蛇の背中からカードによって強化された弾丸が突き抜けた。

 

バァン、バン、バン!

 

弾丸がいくつも王蛇から突き抜けて行った。

「ぐふっ…。これが、お前との、決着か…?」

ゾルダに突き刺したベノバイザーから王蛇の手が離れ、仰向けに倒れ込んだ。

「…ハハ、ハハハハッ…!!」

王蛇は、尚も笑い続け、やがて消えていった。

「北岡さん!」

オーズは、同じく倒れこみかけたゾルダを受け止めた。

「…火野。思い、出したぜ…。俺の…本当の、願い。」

「え?」

「俺が、欲しかったのは…、永遠の命じゃ、ない…。お前や、榊原みたいな…、と…」

しかし、ゾルダは言葉を言い切れず、力尽きた。そして、王蛇と同じく消えていった。

「北岡、さん…!」

 

 

『お前の仲間はいなくなった。ライダーを倒さずに来たお前に、私は倒せない。』

オーディンは、勝ち誇るように龍騎に言った。

「ハァ…、ハァ…。北岡…、木村…!まだ終わりじゃない!」

 

FLAME VENT!

 

「はぁぁぁ…、ハイっ!!」

龍騎は、ドラグセイバーに炎を纏わせ、縦に振り下ろした。それは炎の斬撃波となり、オーディンへ迫った。

 

GUARD VENT!

 

オーディンは大きな盾を呼び出し、炎の斬撃波を防いだ。

そして、一歩、また一歩と龍騎に近づいていく。

「くそぉ!」

龍騎は、まだ刀身に炎が残っていたドラグセイバーで、直接オーディンに斬りかかった。

『ふん!』

オーディンは盾を大きく振り、ドラグセイバーを強引に弾いた。その勢いに負け、龍騎はドラグセイバーを手放してしまった。

『ここまでのようだな。』

オーディンは、ゴルトセイバーを振りかざした。

「榊原さん!」

その時、オーズはメダジャリバーを龍騎に投げた。

「うおおおお!!」

龍騎はメダジャリバーを振るった。

『バカな!?』

オーディンは、剣を振り上げていた為に懐が無防備な状態となっていた。そこに、龍騎の斬撃が直撃した。

『ぐっ…!』

「これで最後だ!」

 

FINAL VENT!

 

龍騎は、大きく跳躍した。

 

FINAL VENT!

 

しかし、我に返ったリュウガもまた、龍騎目掛けて跳躍していた。

「リュウガ、ダメだ!」

 

スキャニングチャージ!!

 

リュウガの攻撃を止める為に、オーズもまた跳躍した。

『まだ負けん!』

 

FINAL VENT!

 

ゴルトフェニックスと合体したオーディンも、炎を纏い龍騎に向かって跳んだ。

 

「はあああああああ!!!!」

「せいやあああああ!!!!」

 

 

ズドオオオオオオオオン!!!!

 

 

四人のライダーキックが交差し、大きな爆発を生み出した。

「うっ…!」

オーズは地面に叩きつけられると同時に、元の姿に戻ってしまった。

「うわっ…!」

「ぐっ…!」

龍騎とリュウガもまた、地面に落ちた。

唯一、オーディンだけが着地していた。しかし、オーディンの身体から赤い炎が吹き上げていた。

『こ、の…、私が…。』

オーディンはそう呟くと、地面に倒れ込んだ。そして、炎に焼かれ消えていった。

「…終わった。」

龍騎が呟いた。

 

もし、榊原の言葉が正しければ、オーディンを倒したことで、現実世界へ帰還できるはず。

しかし。

「何も、起こらない…?」

映司は辺りを見回して言った。それらしい兆候も見られなかった。

「おい…。どうなってる…?俺は、オーディンを倒した!!この世界から解放されるはずだ!!そうだろ!?」

龍騎が叫んだ。

「ネグ、ネグ!どこだ!!」

「おめでとう!龍騎君!!」

龍騎が呼ぶとネグが姿を表した。

「ネグ!」

映司が言った。

「おやぁ?お前も生き残ったの?良かったねぇ。」

ネグが映司を見て言った。

「ネグ、オーディンを倒したら、ここから解放されるんじゃないよか!?」

龍騎がネグに問い詰めた。

「んんん??あー、確かにネグはそんなこと言ったね。」

ネグはわざとらしく言った。

「でもねー…。残念!まだまだ足りないのよ。」

「何の話だ?」

龍騎が尋ねた。

「こっちの話。でも、足りないから、申し訳ないけど、もっかいかな。」

ネグが言った。

「もっかい?どういうことだ!話と違うじゃないか!!」

「そんなこと言われても、足りないものは足りないのよ。だから…。」

「足りないのは、セルメダルのことか!?」

映司が言った。

「セルメダル…?えぇっと…。何のことかなぁ?」

ネグがシラを切るように言ったが、映司が畳み掛けるように言った。

「ライダー達の欲望、それをミラーモンスター、いやヤミーを通してセルメダルを増やし、自分の糧にしていく。そうだろ?グリード!!」

「グリード…!?じゃあ、やっぱり火野君の言ったことが?」

龍騎が言った。

「…フフ。フフフフ、うひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

ネグは、大げさに笑い出した。

「さっすがだねぇ、オーズ君!その通り、ネグはグリードだよ!」

ネグは、その正体を認めた。

「けど、グリードは全員倒された。何なんだ、お前は!」

「そ、れ、はぁ。簡単には教えられないなぁ。第一、君は一つ勘違いをしているよ?」

ネグが言った。

「どういうことだ?」

映司が言った時だった。

「…ぷっ。フフ、フフフ…!!」

龍騎が笑い出した。

「榊原、さん…?」

「うひゃひゃひゃひゃ!!ミラーモンスターは、ヤミーじゃあないのよ。」

龍騎が言った。しかし、その口調はネグと同じものだった。

「え…?」

「ヤミーは、彼らさ!」

ネグが指をパチンっと鳴らした。

すると、どこからともなくセルメダルが無数に現れたかと思うと、12の纏まりを作っていった。

「そんな…!」

12のメダルの纏まりはやがて人型になっていくと、一瞬素体ヤミーの姿となり、間もなく、仮面ライダーの姿に変わった。

「ヤミーは、俺達ライダーだよ!」

龍騎が言った。




第17話、いかがでしたでしょうか。

前半、リュウガの手により木村ベルデが、そして相討ちという形でゾルダと王者が消滅しました。
ゾルダは退場直前にブランク態を勝手に設定しました。

そして、龍騎とオーディンの戦いは、見事に龍騎の勝利。
リュウガを残して、ライダーバトルが終了し、龍騎は現実世界へと帰還する…はずが。


ネグの登場により、事態は急変。
自身の正体を明かすと共に、ライダー達がヤミーであることをカミングアウト。それには、戦いに勝ったはずの龍騎も含まれていました。

そして、今まで倒されていったはずのライダー達も復活。


一体何がどうなっているのか。

次回をお楽しみに!


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第四章 鏡の中の欲望(グリード)
第18話


龍騎の背後には、始めに倒されたライアからオーディンまでのライダーが並んでいた。しかし、何故かナイトとオルタナティブ・ゼロの姿だけがなかった。

「うひゃひゃ、驚いたでしょ?」

ネグが、ケタケタ笑いながら言った。

「この世界に蔓延する欲望ってのが凄まじいのよ。志半ばに死んでいったライダー達の欲望が。」

龍騎が言った。

「そのライダー達の残留思念をセルメダルに封じ込め、それをコアとしてライダーを作り出し、お互いに欲望のまま戦わせたって訳!まぁ、ヤミーっていうか、グリードに近いかもねぇ。」

ベルデが言った。

「すると、もうメダルが増えるわ増えるわ。で、足りないままバトルが終われば、もう一度、一からやり直しさせれば、また増える。その繰り返しよ。」

タイガが言った。

「…!」

映司の拳が震えていた。これ程、凄まじい怒りを感じていたことに、映司は身に覚えがなかった。かつて自身の願いを叶えたいが為に戦い、散っていったライダー達の思い。良し悪しはあれど、その願いの為に戦ったライダーの意思を、自分の欲望の為に利用したネグが許せなかったからだ。

「…ふざけるな!」

その時、声を発したのは映司ではなかった。

「ライダー達が…、どんな思いで戦ってきたか!それをお前みたいなやつに利用されてたまるか!!」

リュウガが、ネグやライダー達の前に立って言った。

「リュウガ…?」

映司は、リュウガを見て言った。

「…おかしいなぁ。何で"今回の"君だけ、ネグの言うことが聞けないの?」

ネグが、リュウガを見て言った。

 

SWORD VENT!

 

「はああああ!!」

リュウガは、リセットされたデッキからカードを装填、黒いドラグセイバーを手に、ネグに向かって駆け出した。

「ネグの言うことが聞けない人形は…、いらねぇよ!」

最後の一言をドスの効いた声で言うと同時に13人のライダー達が動き出した。

「はあ!」

各々武器を手にしたライダー達が、リュウガを迎え打った。

あれだけ強いリュウガだったが、先の戦いの疲労からか、数に圧されていった。

「死ねぇ!」

「うっ、ぐっ…!うわっ!!」

王蛇の一撃を受けたリュウガが大きく吹き飛ばされた。

そして、地面に伏せると同時に、とうとう変身が解け、青いジャケットを着た男の姿になった。

「大丈夫ですか!?」

映司も傷ついた身体を押して、倒れ込んだ男の元へ駆けつけた。

「…なるほどねぇ。よくこの世界に紛れ込めたね。」

ネグが、リュウガだった男性を見て言った。

「く、そっ…!」

男は、身体を起こしてネグを睨み付けた。

「まぁ、いいや!オーズ君!さっき聞いたよね?お前は何なんだ?って。ここにいるライダー全員倒したら、教えて上げるよ!だから…。」

「死なないでねぇ!」

甲高い声から、再びドスの効いた声で言うと、ライダー達はゆっくりと映司達に迫った。

「…逃げましょう!」

映司は、男の肩を担いで、洞窟を出ていった。

 

 

「もう、大丈夫だ。ありがとう。」

洞窟のある森を抜け、街の中にあった噴水広場まで辿り着くと、男性が言った。

二人は、噴水の縁に腰を掛けた。

「あなたは、人間…ですか?」

映司は、男に尋ねた。

「あれをみたら、疑いたくもなるよな。でも、君と同じで俺は人間だ。」

男は、弱々しくも笑顔を作ってみせた。

「俺、火野映司って言います。」

映司は、とりあえず名乗った。

「映司か。俺は、城戸。城戸真司。よろしくな。」

リュウガだった男、城戸真司は名乗った。

「城戸さんは、知っていたんですか?榊原さん達、ライダーがヤミーであったことを。」

映司は、真司に尋ねた。

「…ああ。その、"ヤミー"ってのは知らなかったけど。でも、彼らが人じゃないのは、最初から分かっていた。」

真司は答えた。

「話せば長くなるんだ。この世界で起こった異変。そして、再びこの世界に入ったきっかけ。」

「教えてください。」

「それは…。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

時は遡ること、数ヶ月前。

 

ある激戦の中、ミラーワールドから生還した城戸真司は、かつて自分が籍を置いていた職場、OREジャーナルのビルに向かった。

到着したものの、真司の瞳には、OREジャーナルの標識が映らなかった。既に退去していたらしく、建家だけが静かに佇んでいた。

「…だよなぁ。」

肩を落とし、ポリポリと頭を掻いた真司は、その場を去ろうとした。

「真司?お前なのか…?」

自分の名を呼ぶ声がした。それは、聞き覚えのある懐かしい声だった。

振り向くと、だいぶやつれた顔をした男が、そこにいた。

「編集長…!」

かつての上司であり、学生時代の先輩でもある男、大久保大介だった。

「お久し振りです、編集…。」

「馬鹿野郎!!」

いきなり飛んできた大久保の拳が、真司の頬を捉えた。

「いったぁ…。な、何すんスか、編集長!?」

真司は頬を擦りながら言った。

しかし、大久保の瞳には涙が浮かんでいた。

「お前、お前…。死んだかと思ったんだぞ!!真司…!」

大久保は、涙を流しながら真司に抱きついた。

「編集長…。」

真司もまた、涙目になりながらも、大久保の背をポンポンと叩いた。

 

 

そうか。俺は一度死んだんだった。

 

 

真司は、あの日のことを思い出していた。言われてみれば、あの場で死んでいたのだから、自分が死んだ後のことなんて考えもしなかった。

大久保や桃井、島田、浅野といった、かつての仲間達が自分の死を知ってどうなっていたのか。

少なくとも、今の大久保のそれが、全てを物語っているようだと、真司は悟った。

「心配かけました。その…、上手く説明できないんですけど、何とか帰ってきました。」

「そうか…、よかった。本当に!」

 

近くのカフェに場所を移した二人は、あの戦いの後のことを話した。

時代の移り変わりに対応できず、OREジャーナルは閉鎖を余儀なくされたそうだ。仲間はその後、それぞれの道を進んだらしい。

 

桃井は、今も独身でフリーのジャーナリストを続けているそうだ。そして、月に一度、不定期ながらも北岡の墓参りをしているのだと。

島田は、その才能から別の会社に就職し直したという。しかし、そこで何故か彼女の美貌が評価し直されたらしく、その会社のイメージキャラに抜擢されたらしい。大久保曰く、もはや別人レベルで変わったそうだ。しかし、中身は変わっていないそうで、今でも大久保とは連絡を取り合っているらしく、元気でやっているそうだ。

浅野は、ジャーナリストを続けていくはずだったのだが、今は何故か空手の師範代を勤めているらしい。本人曰く「間違えた」ということだが、どこでどう間違えたのか、大久保は未だに分からないそうだ。

そして、大久保自身は、年甲斐もなく現代の情報ツールについて猛勉強しているらしく、OREジャーナルの魂を引き継ぐ新たな情報ネットを作ろうと模索中だと言う。

 

「真司、お前もジャーナリストの魂が消えてなきゃ、俺と一緒にやらないか?」

「…はい!」

真司は、即答した。正直、難しいことは分からない。ただ、みんなが前向きになっている中で、自分も何かをしたい。そう思ったのだ。

 

 

それから暫く経った時だった。

ネタ探しと言って、街を歩いていた時に、それは聞こえてきた。

 

キィーン…、キィーン…。

 

まるでガラスを爪で引っ掻くような、不快な音。しかし、真司は別の意味で不快に、そして、不穏に感じていた。

「…何で…?」

この音が聞こえるなんて有り得ない。真司はそう思っていた。その音を発する世界は、既に消滅したものだと思っていたからだ。

 

キィーン…、キィーン…。

 

しかし、それは一向に鳴り止まない。

そして、真司は近くのビルのガラスを見た。そこに写っているのは紛れもなく真司だった。が、そのガラスに写った真司が、口を開いた。

『ミラーワールドが、再び開かれた。』

ガラスに写った真司、虚像の真司が、真司にそう告げた。

「そんな…。どうして!」

真司は、目の前にいるもう一人の自分に、今さら驚かず、むしろ問いかけていた。

『それは分からない。だが、開かれたミラーワールドは、本来のものとは違う、別の思惑が動いている。』

「別の?」

『何か巨大な闇。それが、かつてミラーワールドの中で散っていったライダー達の残留思念を取り込んで、再びライダーバトルを始めた。』

「何だって?」

真司は、虚像の真司の言葉が信じられなかった。

『お前の力を借りたい。ライダーバトルを止め、ミラーワールドを再び閉じる為に。』

虚像の真司が言った言葉に、真司は首を横に振った。

「断る。そうやって、俺をまた取り込むつもりだろ!それに、止めるなら、お前が止めればいいだろ!リュウガとして!」

真司は、虚像の真司を怒鳴り付けた。

『あのミラーワールドでは、俺は俺としていられなくなる。他のライダー同様、何者かのコマとして動かされてしまう…。いいのか?ミラーワールドで甦ったのは、何もライダーだけじゃない。』

その言葉を聞いて、真司はあることに気づいた。

「ミラーモンスター…!やつらが、現実世界に?」

真司が言うと、虚像の真司は頷いた。

『本来のミラーモンスターは、自分が生きる為に他の生命のエネルギーを求めていた。極端な話をすれば、共食いをして生き延びることだってできる。だが、あの世界のモンスター達は違う。"人を襲うモンスターとしての記憶"が利用されている。このままじゃ、"あの日"のように、現実世界を喰らい尽くすぞ。』

あの日。神埼士郎ですら制御出来なかった、ミラーワールドの秩序の崩壊によって、ミラーモンスターが現実世界に溢れだした日。あの日、一番多くの命が失われていった。自分を含めて。それが、再び繰り返されるというのか。

それだけは阻止したい。真司は、そう思った。しかし。

「…俺には無理だ。龍騎のデッキも、この世界に戻った直後の戦いで失った。俺は、ライダーとして戦えない。」

真司はそう言ったが、虚像の真司は、にやっと口角上げて言った。

『お前には、こいつがあるだろ。』

虚像の真司は、自身のジャケットのポケットから黒いデッキを取り出した。再びそれをポケットにしまうと、真司のポケットに突然重みが生まれた。まさかと思い、自身のポケットを探ると、そこにはリュウガの黒いデッキがあった。

「お前…。」

『俺は、お前の"裏の存在"。俺は俺として存在する為に、お前を取り込もうとした。だが、お前は、裏の自分を受け入れた。結果、俺はお前の中で生きることが出来た。今度は、俺がお前を受け入れる。』

「っ!?」

虚像の真司は、自分の言葉に動揺した真司を見て、言葉を続けた。

『心配するな。今さら、お前を取り込もうなんて思わない。俺も言わばミラーモンスター。自分のいる世界を守りたいだけだ。』

虚像の真司の言葉に嘘はない。根拠はないのだが、真司はそう感じた。

『あまり時間はない。決めるなら早くしろ。覚悟を決めたら、それでミラーワールドに飛び込め。』

そう言うと、虚像の真司は黙り、リュウガのデッキを握りしめながら戸惑う真司の顔になった。




第18話、いかがでしたでしょうか。

ネグの思惑、そしてライダー達の正体が明かされました。
以下がその設定です。

<グリード・ネグ>
ミラーワールドの中で誕生したグリード。誕生の経緯、行動目的は未だ不明。"願う"という言葉をもじって設定しました。

<ライダーヤミー>
ミラーワールドに漂っていたかつての戦いで散っていったライダー達の残留思念をセルメダルに封じ込めた結果、誕生したヤミー。
原点のヤミーとは異なり、ライダー達の残留思念が封じ込められたセルメダルがコアメダルのような役割を果たしており、それが核となっている。その為このコアが破壊されない限り、何度でも復活をする。
ライダーヤミーの意思は、ネグと共有している。その為、ネグの思惑によりかつてのライダー達の記憶を再現させられている。また、グリードに近い存在ではあるものの、ネグに意思を掌握されているので、結果的にネグの為にメダルを集める道具とされている。
完全に倒す為には、コアとなるセルメダルを破壊する必要があり、それが可能なのがコアメダルすら破壊できる恐竜系(幻獣系)の力のみ。(ナイトとオルタナティブ・ゼロが復活出来なかったのはその為)

つまり、第17話までのライダーバトルは、"自身の願いを叶えたい"という欲望によって戦っていたが、叶うどころか、その欲望から生まれるメダルを搾取しようとしたネグによって仕組まれた、いわば出来レースなのです。

そのライダー達の中で、唯一ネグに立ち向かったのが、仮面ライダーリュウガ。

薄々気づいていた方が多くいらっしゃるかと思いますが、その正体は、なんと龍騎本編主人公の城戸真司。

ここにきて、ようやく登場しました。

この真司は、『RIDER TIME』から生還した存在であり、彼が戻った世界は、リセットされなかった世界。つまり、『秋山蓮が恵里を助けるもそのまま力尽きてしまった』世界であります。

故に、真司と大久保の再開は、龍騎本編最終回以来ということになります。

真司が帰還するまでのOREジャーナルの仲間の顛末については、筆者の妄想です。
※島田さんのは、とある作品を思わせるような感じですが、シチュエーションが似てるだけの別物です。笑

そして、虚像の真司との接触。
『RIDER TIME』やジオウリュウガ編における経歴から、虚像の真司は、真司に受け入れられており、丸く(?)なっています。虚像の真司は、ミラーワールドを閉じるよう、龍騎に変身出来なくなった真司に、リュウガのデッキを渡しました。それに戸惑う真司。彼はどう決意を固めるのか。

ちなみに、真司がリュウガとなって戦う設定は、『DRAGON KNIGHT』をオマージュしたものです。


新たに行動を共にすることになった映司と真司。
物語はどう展開していくのか。
次回もお楽しみに!


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第19話

真司は、リュウガのデッキを握りしめながら、それを見つめていた。

 

再びミラーワールドが開かれた。

 

信じたくはなかった。しかし、もう一人の自分が現れた時点で認めざるを得なかった。それに、そのミラーワールドの中でライダーバトルが行われている。それも、かつてライダーとして戦い、自身の願いの為に命を散らした彼らの残留思念を利用して。確かに、録でもない願いの為に戦う奴らもいた。しかし、それでも命を掛けてまで叶えたいものがあったことは、真司も理解しているつもりだった。蓮の恋人を起こすという願い、北岡の永遠の命の渇望…。そして、妹を助けたいという、神崎士郎の願い。そんな彼らの願いを利用しようとしている存在がいる。それは決して許せることではなかった。

しかし、再びミラーワールドに突入するのか?今、この現実世界にいられるのも、蓮の犠牲があってこそだった。本当なら、あの時死ぬのは自分だった。恋人の為にも、蓮を帰還させる為に。だが、蓮は違った。恋人の安否もそうだったが、それよりもかつての仲間の命を優先したのだ。蓮が命を賭してまで救ってくれた命を、再び危険にさらしていいのだろうか。それは蓮の犠牲を無駄にしてしまうのではないか。

真司は迷っていた。そして、気がついた頃には、大久保が新たに用意した小さな事務所へ帰った。

 

「…戻りました。」

「おぅ、何かいいネタ掴んで来たか?」

大久保は揚々と声を掛けた。しかし、真司が何かを悩んでいることに気づいた大久保は、静かに声を掛けた。

「何かあったか?」

「いえ…、何も。」

そう答える真司だったが、大久保は大きくため息をついて言った。

「はぁ~…。分かりやすいな、相変わらず。馬鹿正直というかよ。」

「へへ、すいません。」

「…悩むくらいなら、行動しちまった方がいいぞ。真司。」

大久保は言った。

「えっ…。」

「悩んだ挙げ句、行動しなかった結果、後悔しか生まれなかったら、何の為に悩んだのか意味がなくなっちまう。行動して、それで後悔したとしても、悩んだことに価値が生まれる。」

大久保は続けて言った。

「ジャーナリストだってそうだろ?仕入れたネタを果たして使っていいものなのか悩んで、使わなかったら、他のとこがそのネタ使って儲けられたら面白くない。だったら使えばいい。例えバッシングを受けようが、それが世間の反応として受け入れれば、そこにまた新しい価値が生まれる。人生ってのは、それの積み重ねだろ?だから、悩むなら行動しろ。例え、戦うことだとしてもな。」

「編集長…!?」

大久保の眼差しは鋭くも信念を含んだものだった。

「行ってこい。ただし、ぜっっったいに帰ってこい!お前がいなきゃ、新しいOREジャーナルが進まないからな。」

「…はい!必ず帰って来ます!」

真司はそう言うなり、事務所を飛び出して行った。

そうだ。もう後悔したくない。自分が今まで戦ってきたことだって、人を守りたいという想いがあったから。それはたとえ自分の命を狙うライダーもそうだった。彼らは何者かによって利用されている。ならば、彼らを助ける為に戦えばいい。そして、必ず帰る。それだけだ。

そして、近くの建物のガラスに向け、リュウガのデッキをかざした。すると、ガラスの中からVバックルが浮かびあがり、真司の腰に装着された。

「変身!」

デッキをバックルに装填すると、鎧の幻影が真司の身体に幾重にも重なり合い、やがて黒き龍の騎士・仮面ライダーリュウガになった。今まで龍騎としての姿に慣れていたこと、そして自分が何度も戦ってきたライダーの姿に違和感を感じながらも、一度、深呼吸して落ち着かせた。

「…しゃあ!」

リュウガは、そのままガラスを通ってミラーワールドに突入した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…それで、俺はリュウガとして戦い続けていたんだ。」

真司は、映司に言った。

「そうだったんですね…。でも、だったらすぐに俺に教えてくれれば。」

映司は、今までのリュウガ、もとい真司の行動を思い返しながら言った。

「ごめん。それはもう一人の俺との約束だったんだ。」

「約束?」

「リュウガに成りきる。でないと、あのネグとかいうヤツに正体がバレる。早い段階からバレると後が面倒になる。ってね。それに…。」

「それに?」

「早い段階で、君に打ち明けていれば一緒に戦うこともできたけど、逆を言えば二人だけで15人のライダーを相手取ることになる。流石にキツいだろ?だから…。」

「ライダーバトルを忠実に戦い抜くことで、正体を隠すと共に、自然とライダーを倒せる。」

映司が、真司の言葉を続けて言った。

「そう言うこと。ただ、偽者だって分かってても、やっぱりライダーを倒すのはキツかったなぁ。正直、蓮や木村の偽者を倒した瞬間、自分がリュウガであることブレたしな。」

そう言って、真司は少し俯いた。

「そう、何ですか?」

「あの時。俺が、初めて龍騎として戦ってたあの時も、ライダー同士戦い合うことは反対だったんだ。この力は人を守る為に使いたい。その人ってのは、ライダーも同じだってね。」

「俺も、そうだと思っています!ライダー同士、助け合うべきだって!」

映司は強く頷いた。

「だよな!やっとそう言ってくれる人に会えたよ。ははは。」

真司は笑いながら言った。

 

「さて…、これからどうするか。ネグを倒すにしても、ライダー達を倒さないことには、ヤツの元にはたどり着けないだろうな。」

真司は立ち上がって言った。

「そうですね。でも、ライダーヤミーを倒した所で、ああやって復活されたんじゃ…。」

映司も立ち上がって言った。

「ん…?でも、さっきライダー、ヤミー?てのが復活した時、ナイトとオルタナティブ・ゼロは復活しなかったな…。何でだ?」

「確かに…。」

真司の問いに、映司は考えた。そして一つの考察が、映司の頭に浮かんだ。

「そうか…。城戸さんの、リュウガの力が関係あるのかも!」

「え…、どういうこと?」

真司が尋ねた。

「グリードを倒すには、グリードの核にあたるコアメダルを破壊しなければなりません。そのコアメダルを壊せるのは、恐竜系の力。恐竜系には幻想の生物も含まれますから、リュウガの龍の力が、ライダーヤミーを形成しているコアを破壊することが出来たんです!」

思えば、ナイトを倒したのはリュウガだった。それが一つの根拠として言える。映司はそう思っていた。

「なるほどな…。けど、ナイトはともかく、オルタナティブ・ゼロは倒してないぜ?それに、ベルデは倒したのに復活したぞ?」

真司が言った。

「オルタナティブ・ゼロは、俺もわかりませんが…。ベルデに関しては、"もう一人のベルデ"の存在がありましたから、そちらを倒したってことなんじゃないかと。」

「てことは、俺が倒したのは木村の方で復活したのが高見沢の方か…。何か、分かったようなそうじゃないような…。」

真司は頭を掻きながら言った。

「残念ですが、俺には恐竜系のメダルは持っていません…。城戸さんが要になります。」

「…よぅし、分かった!とりあえずニセライダー達を倒そう!あんなヤツに取り込まれてしまった彼らの意思を解放する為に!」

「はい!」

映司と真司は、ライダーヤミーを倒すために歩みだした。

 

 

同時刻

「うーん、どこに隠れちゃったのかなぁ。」

シザースとアビスは、逃げた映司と真司の行方を追っていた。その口調は、須藤や鎌田のものではなく、やはりネグのそれと同じだった。

「…うん?」

アビスは、一つの黒い人影を見つけた。

それは、二人のライダーヤミーに近づいていた。遠目からでも、それが仮面ライダーであることがわかった。そして、その姿が判明すると二人のライダーヤミーはすぐさまカードを装填した。

 

STRIKE VENT!

 

STRIKE VENT!

 

シザースはシザースピンチを、アビスはアビスクローを装備し、黒いライダーへ向かっていった。

黒いライダーは、一枚のカードを引き抜いた。そのカードには、青い背景に金色の片翼が描かれていた。カードを引き抜くと同時に、携えていた剣が大きな盾に変化した。

黒いライダーは、片翼のカードを盾に装填すると、盾から剣を抜いた。

 

SURVIVE!

 

「うっ!?」

黒いライダーを中心に、突風が吹き上がった。突然の突風に、ライダーヤミーは怯んだ。

突風の中、黒いライダーの姿が、黒から青色に変化。マスクには金の装飾が施された。そして、背中に黒い一対のマントが装着された。

「はあっ!」

青くなったライダーは、抜刀した剣で、ライダーヤミーを切り刻む。

「うっ…、何で!?君は消滅したはずだよ??」

アビスが、青いライダーに言った。しかし、青いライダーは答えず、何度も切りかかった。

 

BLOW VENT!

 

剣に風の力を上乗せさせると、青いライダーは、ライダーヤミーに向け大きく振り切った。

「はああああ!!!!」

「うげゃあ!!」

胴を切り裂かれた二体のライダーヤミーは、そのまま爆散した。

青いライダーは、変身を解くと黒いロングコートの男の姿になった。

「…。」

黒コートの男は、黙って足を進めていった。




第19話、前回の真司の話の続きとなります。

戦うことに悩む真司を後押しした大久保。彼の言葉がなければ、真司は、再びミラーワールドへ突入することは出来なかったでしょう。

そして、ナイトとオルタナティブ・ゼロらが復活出来なかった理由にリュウガの龍の力、つまり幻獣系による破壊の力によるものであると再認識した二人は、リュウガを軸に戦うことを決意しました。

そんな中、シザースとアビスを倒した謎のライダー。
描写から想像がつくかと思いますが、リュウガによって死んだはずの彼が何故…?

次回もお楽しみに!


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第20話

「ハッ!」

「ふっ!」

オーズとリュウガは、タイガ、ファム、ガイに化けたライダーヤミーと交戦していた。

 

クワガタ!カマキリ!バッタ!

 

ガータガタガタ!キリッバ!!

ガタキリバ!!!

 

オーズはガタキリバコンボとなると、ライダーヤミーの数に合わせて分身した。

そして、ガタキリバ分身体に翻弄されるライダーヤミーを、リュウガが攻撃していく。

 

SWORD VENT!

 

STRIKE VENT!

 

リュウガは、右手に黒いドラグクローを、左手に黒いドラグセイバーを手にし、ライダーヤミーに立ち向かった。

とても明るく気さくな印象を受けた真司だったが、リュウガとなると、動きに無駄のない精錬された戦いを繰り広げていた。

「はああああ!!!!」

リュウガは、ガイに黒いドラグクローを向ける。クローから黒い火球が放たれるとガイに直撃、瞬時に灰へと変えた。

「うっとおしい!!」

 

FINAL VENT!

 

ファムは、ブランウイングを召還した。

「させるか!」

 

サイ!ゴリラ!ゾウ!

 

don!don!サゴーゾ!!

DON!DON!サゴーゾ!!!

 

オーズは、ファムの技を懸念し、サゴーゾコンボへ変身した。

 

スキャニングチャージ!!

 

オーズを中心に強力な重力場が生まれた。

「ぴぎっ!?」

オーズの目の前に飛翔したブランウイングは、その重力場に捕らわれ、地面に落ちた。そして、そのままオーズの方へ引き寄せられる。

「はあああ…、せいやああああ!!!!」

オーズは、引き寄せたブランウイングに頭部の角と両腕を突きだした。それらがブランウイングに直撃すると同時に強力な衝撃波が発せられ、ブランウイングを粉々に砕いた。

「うっ…、こ…ぼっ!」

ファムが何かを言い切る前に、ファムのバックルからドラグセイバーが突き出した。

引き抜かれると同時に、ファムはセルメダルの塊に変わった。

「後は…!」

 

ザバーン!!

 

オーズ達が戦っている近くの海辺から何かが飛び出した。

ライアのエビルダイバーだ。

「おわっ!?」

「映司!!」

エビルダイバーの奇襲を受けたオーズは、そのまま海水に落とされてしまった。

 

「うひゃひゃ!流石のオーズも海じゃ何もできないでしょお!」

 

STRIKE VENT!

 

海中でオーズを待ち受けていたライアが、エビルニードルを装備して迫ってきた。

「俺の占いはあたる…。お前はここで死ぬんだよ!」

「まさか!」

 

シャチ!ウナギ!タコ!

 

シャ・シャ・シャウタ!!

シャ・シャ・シャウタ!!!

 

シャチヘッド、ウナギアーム、タコレッグを持つ、青い水棲系コンボ・シャウタコンボに変身したオーズは特攻するライアを、水を得た魚のように素早くかわした。

「嘘!?」

ライアは驚いていた。

「はっ!!」

オーズは、ウナギウィップをライアに振るった。鞭は、ライアの腕を捕らえた。そして鞭から強力な電気が発せられた。

「うぐっ…が…!」

 

スキャニングチャージ!

 

オーズの足が、蛸の足のように8本に分裂し、足先をライアに向けた。

「せいやああああ!!」

「ぎっ…!」

感電したライアは身動きが取れず、オーズの8脚による蹴りをかわせなかった。

蹴りの勢いによって、ライアは海面から押し出され、宙を舞った。

「はあああ!!」

それを狙うように、リュウガの手甲から黒炎弾が放たれ、ライアに直撃。灰となった。

「背中ががら空きだよお!!」

リュウガの背後から、タイガが飛び掛かった。

しかし、リュウガは手にしている剣の切っ先を背面に向けた。

「がふっ!?」

タイガは、吸い込まれるように剣先に身体を預け、自重により深々と身体に刺さってしまった。

間もなく、タイガもメダルの塊となり沈黙した。

 

「ハァ…、ハァ…。これで4体…。」

オーズは、陸に上がるとタトバコンボに戻った。立て続けのコンボにより、体力を消耗してしまった映司は息が上がっていた。

「大丈夫か、映司?」

「はい…、何とか。」

心配するリュウガに対し、オーズは答えた。

「そうか。まだ、厄介なのが現れていないのが恐いな。」

リュウガは静かに言った。

残るは9体。ヤミーといえど、仮面ライダーの力を持つため、その力はグリードに匹敵する。優位に立ち回る為には、亜種コンボも含めオーズのコンボを多用かつ適格に使っていく必要がある。しかし、純正コンボの使用は、タトバコンボ以上に映司の身体へ負担をかけてしまう。純正コンボを複数回多用するなど、持っての他である。このままのペースで戦い続けるには、苦しいものがあった。

「どこか、休める所を探そ…。」

リュウガが言いかけた時、リュウガは瞬時にカードを黒いドラグバイザーに装填した。

 

GUARD VENT!

 

SHOOT VENT!

 

「うわぁ!!」

「うおわ!!」

オーズ達に砲弾が襲いかかった。

リュウガは龍の腹部を模した黒い盾を両手に装備し、砲弾を防いだが、勢いに負け、二人は大きく吹き飛ばされてしまった。

「あ~ぁ。一発であの世に送ってやろうと思ったんだけどな。」

聞き覚えのある声に、オーズとリュウガは顔を上げた。

「北岡さん…!」

オーズ達の視線の先には、ベルデ、オルタナティブ、インペラー、そしてギガランチャーを構えるゾルダの姿があった。

「あれぇ?大分疲れてるみたいだねぇ?」

インペラーが、ネグと同じ口調で言った。

「じゃ、死ね!」

オルタナティブのかけ声と共に、ライダーヤミー達がオーズ達に迫った。

「うっ!」

ベルデとゾルダがオーズに、オルタナティブとインペラーがリュウガに攻撃を加えていく。

次第に、オーズとリュウガは分断されてしまった。

 

「くっ…。は、早くブラカワニにならないと…。」

オーズは、超回復能力があるブラカワニコンボへ変化するためにも、コアメダルを手に取ろうとした。

「させないよぉ!」

 

HOLD VENT!

 

ベルデは、バイオワインダーをオーズに投げつけた。それは、メダルを持つ手に直撃し、オーズの手からメダルが弾きとんでしまった。

「このっ!」

オーズは、メダジャリバーを持ち、ベルデに応戦した。

「うひゃひゃひゃ!」

ベルデは高笑いしながら攻撃を続ける。オーズも、ベルデの投げるバイオワインダーを弾きながら戦う。が。

 

HOMING VENT!

 

「うわっ!」

ベルデと戦うオーズに、ゾルダの放った追尾弾が襲いかかる。

そして、怯んだオーズに対し、ベルデが執拗に攻撃を加えていった。

「はぁ…、はぁ…、うおお!!」

オーズは、再びベルデに剣を振り下ろす。

 

CLEAR VENT!

 

しかし、ベルデはカードの効力により姿を消し、目標を見失ったメダジャリバーは空を掠めた。

「消えた!うわっ!!」

ゾルダは、オーズの隙を逃さず、さらに射撃していく。

「うっ…。北岡さん、止めてください!」

オーズはゾルダに訴えかけた。

「北岡ぁ?…クククっ」

ゾルダは、馬鹿にするような笑い方をした。

「んな訳ないじゃぁん。ばーか!!」

「…このっ!」

オーズは、激しい憤りを抱いていた。かつてライダー達が戦いの中で散っていった命。そして、叶わぬ願い。ネグはそれを、己の欲望を満たす為に利用している。しかも、己のヤミーを生前の彼等に成りすまさせ、丸で人として生きようと、願いを叶えようと演じていた。その行いは、死者への冒涜と言っても過言ではない。映司は、それを平然とできるネグが許せなかった。

そして、目の前にいる仮面ライダーゾルダもまた、北岡ではない。頭では分かっているが、敵として割り切れない自分がいることも自覚していた。

「その声で、しゃべるな!!」

オーズは気力を振り絞り、ゾルダに迫る。

その時、オーズとゾルダの間にリュウガが入って現れた。

「城戸さん!?」

突然現れたリュウガに、オーズは戸惑ってしまった。

「…はぁ!!」

突如、リュウガがオーズに襲いかかった。

「うわっ!城戸さん、どうして!!」

オーズは、リュウガの攻撃を受け流しながら言った。

「死ね、火野ぉ!!」

リュウガの重い蹴りを受けたオーズが大きく仰け反った。

 

SPLIT VENT!

 

そこに、ゾルダの散弾がオーズに襲いかかった。

「うっ…。くっ…。」

とうとうオーズは膝をついてしまい、映司の姿に戻ってしまった。

「そんな…。」

結局、城戸真司もライダーヤミーだったということなのか。

映司は、絶望に打ち拉がれていた。

「くくく…。」

リュウガが笑いながらオーズに迫る。その時だ。

「ぐあっ!?」

リュウガに何かがぶつかった。それと同時に、リュウガの鎧が消え、ベルデが姿を現した。

「今のは…!?」

映司は、リュウガにぶつかった後、地面に刺さった物を見た。

「メダガブリュー!?なんで!?」

「くっ、だぁれ!?」

ベルデは、メダガブリューが飛んできた方向を見た。

そこにいたのは、黒スーツの映司だった。

「まだ、俺に死なれちゃ困るからね。どのみち、俺が俺を破壊するけど。でも、まずはお前達だ。」

そう言う黒スーツの映司の手にあるものを見て、映司は驚いた。

「オーズドライバー!?」

黒スーツの映司は、腰にオーズドライバーを装着。そして、紫の3枚のコアメダルを装填した。

「変身。」

 

プテラ!トリケラ!ティラノ!

 

プ!ト!ティラーノ!!

ザウルース!!!

 

黒スーツの映司は、プトティラオーズに変身した。

「恐竜コンボ!?そんな、どうして!?」

失われていた恐竜系コアメダル。なぜ、黒スーツの映司が持っているのか。映司は理解できないでいた。

「もう一人のオーズぅ!?」

ゾルダも、突如現れたプトティラオーズに驚きを隠せないでいた。

「ぐぅおおおああああ!!!!」

プトティラオーズは雄叫びをあげると、ゾルダとベルデに迫っていった。

「お前も死んじゃえ!」

 

LAUNCH VENT!

 

ゾルダはギガキャノンを装備し、プトティラオーズへと砲撃を始めた。しかし、プトティラオーズは、砲撃に臆することなく距離を詰めていく。

 

HOLD VENT!

 

ベルデは、再びバイオワインダーを装備し、地面に刺さっていたメダガブリューへ投げつけた。バイオワインダーがメダガブリューに絡み付くと、それを引き抜き、ベルデの手に収まった。

「お返しだぁ!」

ベルデは、迫るプトティラオーズに向け、メダガブリューを振るった。プトティラオーズは、それをかわすが、ベルデは再び振るう。が、プトティラオーズは、メダガブリューを素手で掴み、受け止めた。

「ぐわぅ!!」

プトティラオーズは、ベルデからメダガブリューを強引に奪い取った。そして、それを使ってベルデを切りつけた。

「ぐあ!!」

「何なんだよ、お前!」

ゾルダは、尚も迫るプトティラオーズに砲撃を続けた。

「はぁっ!!」

プトティラオーズは、ゾルダの砲弾をも斧で両断した。

「破壊してやる!!」

 

スキャニングチャージ!

 

プトティラオーズは、オースキャナーでコアメダルをスキャンした。

「ぐっ!?」

プトティラオーズの両肩から映えている角が、触手のように伸びたかと思うと、ベルデとゾルダそれぞれに突き刺さった。

「ふん!」

プトティラオーズ頭部の羽根が大きく広がり羽ばたく。すると羽ばたきから冷気が発生し、身動きの取れなくなった2体のライダーヤミーに直撃、氷付けにした。

「ぐおおおおお!!!!」

そして、プトティラオーズの腰から恐竜の尾のような物が伸び、凍った2体のライダーヤミーに大きく振るった。それは凍ったライダーヤミー達を粉々に砕いた。

「お前は…、一体。」

映司は、プトティラオーズの戦いを見終え、無意識に呟いていた。

プトティラオーズがゆっくりと映司の方を向いた。

「次は、俺だよ。」

「…っ!?」

プトティラオーズは、メダガブリューを振りかざしながら、映司に迫った。

「はぁ!!」

プトティラオーズが、メダガブリューを大きく振り下ろした。




第20話、いかがでしたでしょうか。

リュウガと共闘し、次々とライダーヤミー達を撃破していくオーズ。

続くゾルダ達の登場に苛立ちを覚えたオーズの元に、それに呼応するかのように現れたもう一人の映司・プトティラオーズにより、ゾルダ達ライダーヤミーも粉砕。

そして、プトティラオーズは映司に刃を振るいます。
映司の運命は…。

次回もお楽しみに!


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第21話

ガキィン!!

 

しかし、プトティラオーズの斧は横から入ってきた剣によって阻まれていた。

「城戸さん…!」

映司とプトティラオーズの間に割って入ったのは、リュウガだった。

「おりゃあ!!」

リュウガは、プトティラオーズを押し返した。

「邪魔するな!」

プトティラオーズは、メダガブリューを持ち直し、リュウガに迫った。

「火野の声!?」

リュウガは、プトティラオーズの声を聞いて驚いていたが、プトティラオーズの攻撃に、冷静に対応していた。

 

FLAME VENT!

 

「はっ!」

リュウガは、剣に黒炎を纏わせ、それを斬撃波としてプトティラオーズに放つ。

「はぁ!」

しかし、プトティラオーズもまた、メダガブリューを横に振り切り、冷気を帯びた斬撃波を飛ばした。

 

バァァァァン!!!!

 

炎と冷気がぶつかり合い、大きな水蒸気爆発が生じた。

リュウガとプトティラオーズ。互いに一歩も退かず、互角の戦いを繰り広げていた。

「…まぁいいや。」

プトティラオーズが言うと、オーズドライバーからメダルを取り外し、黒スーツの映司の姿に戻った。

「俺を破壊するのは、後でもいい。まずはこの世界の全てを破壊することにするよ。」

黒スーツの映司は、踵を返し何処へと行こうとした。

「待て!」

「うっ…。」

リュウガが黒スーツの映司の後を追おうとしたが、体力の限界によって膝を付いた映司を確認し、そっちに寄った。

「一旦休もう。」

リュウガは映司の肩を担いで歩き出した。

 

「みぃつけた。」

何処かの高層ビルの屋上で寛いでいたネグがにんまりと笑顔を作って言った。

「やっぱり、ネグの思った通りだ。ライダーヤミーも何体か潰されたけど、君さえ手に入ればどうでもいいよ。」

ネグは、遠く地上でリュウガと戦うプトティラオーズを見ながら言った。

「ただ…。あいつは何なんだ?」

シザースとアビス、二体のライダーヤミーがやられた。幸い、メダルを破壊する力がなかったのか、破壊まではされていないようだ。しかし、ライダーヤミーを倒した存在は、紛れもなくミラーワールド由来のライダーだった。

「う~ん…。リュウガもそうだけど、どこから紛れ込んだのか…。まぁ、いいや。」

そう言ってネグは再びごろんと身体を横にした。そして、空に右手をかざした。

「もうすぐで、全てが手に入るよ…。うひゃ、うひゃひゃひゃ!」

 

 

真司に連れられて来たのは、小さなカフェだった。

「ここは、俺が世話になった所だ。ある意味、始まりの場所とも言えるのかな。」

カフェの2階、客室に入り、真司は映司をベッドの上に座らせた。

「ありがとう、ございました。」

映司は礼を言った。

「良いってことよ。連戦で疲れただろうしな。」

真司が言った。

「…残りのライダーは?」

映司が真司に尋ねた。

「新たに現れた4体も倒した。あと5体か?」

真司は、言うと深いため息をついた。

「はぁ~…、残りが、龍騎、王蛇、オーディン、シザースにアビスか。シザースとアビスはともかく、あの3体が厄介だな。」

「そうですね…。」

一瞬の間が空いた後、再び真司が話しだした。

「そういえば、あの黒いスーツを着た火野。あれに心当たりはないか?」

「もう一人の俺、ですか?」

真司の問いに、映司は直ぐには答えられなかった。黒スーツの映司。何者なのか、考えはしたが明確な答えは見つけられないでいた。しかし一つだけ、思う所はあった。

「俺も、良くはわからないんですけど…。あれは俺の、もう一つのたどり着いた結果。な気がします。」

「え?どういうこと?」

真司は、映司に尋ねた。

「…俺、実は親が政治家なんです。ある出来事から、実家に帰る選択肢を捨て、旅をしていたんです。もし、実家に戻っていたのなら、俺も政治家になってたんじゃないかなって。」

「…それで、スーツ姿ってことか。だとしたら…。」

真司は納得した様子だった。

「あれは、お前の裏の部分。なのかもな。」

「俺の…、裏?」

「…さっきも話したけど、リュウガの力は、元々もう一人の俺が持っていたものなんだ。そのもう一人の俺ってのは、まさしく俺の裏の姿、心の闇を映したものだったんだ。まぁ、未だに自分の闇って言われても、ピンと来ないんだけどね。」

真司は言った。

「その、もう一人の城戸さんはどうなったんですか?」

映司が尋ねた。

「あいつは、俺を取り込もうとした。そうすることで、鏡の世界でしか存在できない自分を現実世界での存在となろうとしたんだ。でも、そんなことされたら、俺が俺でいられなくなっちまう。だから、俺は何度もあいつと戦った。」

真司は一呼吸置いて、言葉を続けた。

「けど、倒してもあいつは何度も現れた。そりゃそうだ。あいつは俺だからな。極端な話、あいつを消すには自分が死ぬしかない。だから、気づいたんだ。抗うんじゃなくて、もう一つの自分の一面と向き合う必要がある。てね。そしたら、あいつは消えた。いや、俺の中に戻ってきた。て言った方が正しいかもな。」

「つまり…。あのもう一人の俺と戦う為に、自分の闇と向き合えってことですか?」

「多分な。もう一人のお前は、やたらと破壊しようとしていた。それについて、何か思い当たる節はないか?」

真司の問いに、映司は再び考えた。そして、黒スーツの自分が投げ掛けてきた言葉を思い出した。

 

『助けが必要な状態や場面、それを生み出した元凶を破壊する力…。つまり、俺の願いは、いや、君の願いは、全てを破壊することさ!』

 

『どこまでも届く腕?無限の絆?まだ、そんな綺麗事を言っているのかい?綺麗事を並べた結果、どうなったか、忘れた訳じゃないだろう。』

 

『自分を偽るな。己の欲望に従えばいい。破壊という、本能のままに…!』

 

「俺は…、恐いのかもしれません。」

映司は呟くように言った。

「恐い?」

「昔、良かれと思ってやった俺のある行いのせいで、一つの村が消えてしまいました。そして、自分もまた命の危機にありました。でも、俺が政治家の息子だという理由で、簡単に助けられ、メディアにも良いように報道されました。」

映司は続けて言った。

「その日から、俺は生きる意味も、自分の欲も無くしました。だから、欲望の王・オーズになれた訳なんですけど…。そして、俺の無欲に呼応して、あの紫のオーズの力を手にしてしまいました。あれは全てを無に帰す力…。目に映るもの全てを破壊する危険なものでした。でも、仲間のおかげで、俺は、ある欲望を手にしたんです。」

「欲望?」

「はい。誰かが助けを求めて手を伸ばしていたならば、その手は絶対に離さない。どこまでも届く腕、無限の絆。それが、俺の望んだものでした。その欲望が破壊の力を抑えていたんです。ただ…。」

映司は、自分の手のひらを見ながら言葉を続けた。

「もし…。もし、俺の手が届かなかったら…。また、目の前で誰かが傷つくことになってしまったら…。そう思うと、恐いんです。今まで、意識して来なかったから、余計に。」

「…その恐怖の表れが、もう一人の火野だって言うのか?」

「多分…。あいつは、助けが必要な状況を破壊することが、俺の願いだと言いました。」

「そういうことか…。」

真司は、映司の話を聞いて納得した様子をみせた。

「…。そんな自分と向き合えと?」

映司は、改めて真司に尋ねた。

「それしか、やつを消す方法はない。ただ、それを乗り越えられれば、映司は本当の自分を知ることができるはずさ。」

真司が答えた。

「本当の自分…?」

「今の映司とあの黒スーツの映司。どっちが本当の自分なのかな。戦って向き合わないことにはわからないんだよ。自分のことなんて、自分じゃよくわかんねぇしな。ははっ」

真司は笑いながら言った。

映司も笑いかけたとき、目眩が映司を襲った。

「大丈夫か!?」

「大丈夫、です…。ちょっと横になってもいいですか…?」

「…ああ。休んだ方がいいな。」

真司がそう言うと、映司は倒れ込むように、ベッドに横たわった。

「…これ以上、無茶はさせられないな。」

真司は一言呟くと、部屋を出ていった。

 

 

真司は、再び噴水広場へ足を運ばせていた。これが最後の戦いだという決意と共に。

「まさか、自分から死にに来るとはねぇ。」

広場には、榊原が待っていた。

「俺は、この戦いを終わらせに来た!」

真司が榊原に向かって言った。

「そう言う割には、火野の姿が見えないけど?」

榊原は挑発するように言った。

「あいつがいなくても、俺は戦う。」

真司はそう言うと、ジャケットのポケットからリュウガのデッキを取り出した。

「あ、そう。でも、悪いけどこっちは手加減しないで行かせてもらうねぇ?」

榊原が気味の悪い笑顔を作ると同時に、アビスとシザースが姿を現した。

「関係ない…!これで終わりにする!」

真司は、リュウガのデッキを前に突き出した。

「うひゃひゃ!じゃあお望み通り、終わりにさせてやるよ!」

榊原もまた、龍騎のデッキを掲げた。

 

「「変身!!」」

 

真司と榊原、それぞれ黒と赤の龍の鎧を纏った。




第21話、いかがでしたでしょうか。

間一髪の所、リュウガの介入により、映司は助かりました。ちなみに後の描写はありませんが、インペラー(ヤミー)は、リュウガがさくっと倒しました。

カフェ・花鶏にて、真司は自身の経験から黒スーツの映司と向き合うことを諭します。映司は、もう一人の自分と向き合うことができるのでしょうか。

そして、休む映司に代わり、真司は最後の戦いに望みます。対するは、榊原の龍騎、シザース、アビス。

戦いの行く末は。

次回もお楽しみに!


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第22話

「さっさと死んじゃえ!」

アビスはアビスセイバーを両手にし、リュウガに迫った。

同じく、シザースピンチを装備したシザースも迫った。

 

SWORD VENT!

 

リュウガは黒いドラグセイバーを手に、応戦した。

 

STRIKE VENT!

 

「手加減しないって言っただろ!」

龍騎はドラグクローを装備すると、二体のライダーヤミーと戦う龍騎に向けて火球を放った。

「はあ!!」

リュウガは、ライダーヤミー達をあしらい、飛んできた火球を剣で薙ぎ払った。

 

FLAME VENT!

 

「はぁぁ~、はあああ!!!!」

リュウガは黒炎を纏わせた剣を大きく振るった。

「ぐぎゃあ!!」

アビスとシザースは、黒炎の一閃を受け、消滅した。

「ちぃ!」

龍騎は、大きく跳躍、後退して黒炎の一閃から逃れた。

 

SWORD VENT!

 

龍騎もまたドラグセイバーを手にし、リュウガに迫った。

「はっ!」

「ハイッ!」

振り下ろされた剣を弾いては弾かれ、体術を交えてもお互い相殺し合う。両者とも一歩も引かずに戦い続けた。

気がつけば、召還していないはずのドラグブラッガーとドラグレッダーも現れ、互いに牙を向けながら戦い始めた。

「うひゃひゃ!お前じゃ、俺に勝てないよ!」

龍騎がリュウガに言った。

「どういう意味だ!」

「俺は、お前を良く知っているからな!」

「何!?」

リュウガに一瞬の隙が生まれた。龍騎はそれを逃さず、自身の剣で相手の剣を弾き、懐に一撃の重い蹴りを放った。

「ぐっ!?」

「なぁ、城戸。お前は俺を知っているのか?」

龍騎がリュウガに問うた。

「榊原…、あんたが元々龍騎だったことぐらい知ってるよ!」

リュウガが答えた。

「…それだけか?」

龍騎がさらに問い詰めた。

「何が言いたいんだ!」

 

FLAME VENT!

 

「もういい、死んじゃえよ!」

龍騎は、炎を纏った剣を振るった。それは炎の斬撃波となり、リュウガへ飛ばされた。

 

STRIKE VENT!

 

リュウガは、黒いドラグクローを装備し、黒炎弾をもって、これに対応した。

 

ズドオオオオン!!!!

 

黒と赤の炎がぶつかり合い、巨大な火柱を立てた。

「るぁ!!」

「うわっ!?」

火柱の中から、王蛇が飛び出し、リュウガへベノサーベルを振るった。予想していなかった王蛇の出現に、リュウガは対処できずに斬撃を受けてしまった。

「言ったでしょお?手加減はしないって!」

龍騎が笑いながら言った。

「もう諦めたら?お前でも勝ち目ないよ?」

龍騎が言った。

「俺は、諦めない…。また、世界が壊されることはさせないし、この世界を閉じて、ライダーバトルで死んでいったあいつらの命を二度と馬鹿にさせない為にも!」

リュウガは立ち上がった。

「なら…、なぜ戦いを止めなかった…!」

龍騎は呟くように小さく言った。

「は…?」

 

FINAL VENT!

 

FINAL VENT!

 

龍騎と王蛇が、それぞれカードを装填した。

「ここで散れ、城戸真司いいいい!!」

龍騎と王蛇、二人のライダーが高く跳躍した。

その時だった。

 

NASTY VENT!

 

「キイイイイイイイ!!!!」

耳をつんざくような超音波がライダー達を襲った。

「うぐっ!?」

超音波により、空中でバランスを崩した龍騎と王蛇がそのまま地面に堕ちた。

「っ!」

リュウガは何かの殺気を感じ取り、飛び退いた。それは龍騎も同じだった。

 

FINAL VENT!

 

「ぐあああああ!!!!」

王蛇は何かに身体を貫かれ、爆散した。

「ちぃ、何だ!?」

「火野か!?」

龍騎とリュウガは王蛇を貫いた者の正体を探った。それは二人にとって予想にしていなかった存在だった。

「…バカな!お前のコアは城戸に砕かれたはずだ!」

龍騎が言った。

「ナイト…!?」

そう。その正体は、仮面ライダーナイトだった。

しかし、ナイトは、龍騎の言った通りリュウガによって倒されたはずである。

「知らないな、そんなこと。」

ナイトはそう言うと、一枚のカードを引き抜いた。

その瞬間、ダークバイザーが青い盾状の召喚機・ダークバイザーツヴァイに変化した。

 

SURVIVE!

 

カードを盾に装填、盾から剣を抜刀すると、ナイトの姿が青く変化、ナイトサバイヴになった。

「覚悟しろ!」

ナイトサバイヴが、リュウガと龍騎に斬りかかった。

「ちぃ!」

龍騎がドラグセイバーで迎える。

「ハッ!」

ナイトサバイヴは、左腕に備えたダークシールドで龍騎の剣を防ぎ、自身の剣を振り切る。直前で龍騎が飛び退き、ナイトサバイヴの斬撃が届くことはなかった。

「逃がさん!」

 

SHOOT VENT!

 

剣を盾に納刀すると、盾の縁がボウガンのように展開。剣の柄の部分が銃口となり、光弾を撃ち出した。

「ちっ、うわっ!」

龍騎が剣で光弾を切り落とそうとするが、幾つかの光弾が龍騎に直撃した。

再び抜刀すると、ナイトサバイヴはリュウガに剣を振り降ろした。

「ちょっと待って!?」

リュウガも同じく黒いドラグセイバーで応戦する。目の前のナイトサバイヴは、以前戦ったヤミーが化けたナイトと比べ物にならない程、凄まじい剣裁きをみせていた。リュウガも負けじと応戦する中で、あることに気づいた。

「ハッ!」

「うわっ!」

斬撃の中、ナイトサバイヴの蹴りにより、リュウガは大きく怯んだ。

「これで終わりだ。」

 

BLOW VENT!

 

剣に風の力を上乗せさせたナイトサバイヴが、リュウガに剣を振り下ろそうとした。

「待てって!」

その時、リュウガが一枚のカードを引き抜き、ナイトサバイヴに見せつけた。

それを確認したナイトサバイヴが、振り下ろしかけた剣を止めた。

「…なぜ、お前がそのカードを…?」

一瞬、考える素振りを見せたナイトサバイヴだったが、確認するかのように言葉を言った。

「お前…、城戸なのか?」

その問いを聞いた真司は、リュウガの仮面の下で目を見開いた。

「やっぱり…、蓮なんだよな!?」

リュウガがナイトサバイヴに言った。しかし、リュウガには信じられなかった。何故なら…。

「でも、蓮…。お前は、あの時死んだ…。死んだんだよ、蓮!」

リュウガはまるで自分を納得させるように、ナイトサバイヴに言った。

所が、ナイトサバイヴから、不可解な返事が返ってきた。

「俺が、死んだ?死んだのはお前の方だろ、城戸!」

ナイトサバイヴも信じられないといったように言った。

「何だって…?」

「お前はあの日…、現実世界に溢れ出たモンスターから少女を庇って死んだ!」

ナイトサバイヴが言うが、リュウガは未だに納得出来なかった。

「…ああ、そうだ。俺はそれで一度死んだ…。けど、またライダーバトルが起きて、お前に救われた!浅倉から俺を庇って…!それで俺は現実世界に返ってこれたんだ!」

リュウガが言ったが、ナイトサバイヴもまた納得出来ていない様子だった。

「再び、ライダーバトルが起こっただと?そんな馬鹿な話があるか!」

「蓮、何で覚えてないんだ!?」

リュウガとナイトサバイヴ。二人のライダーは、目の前の存在に理解が追い付いていなかった。

だが、一人のライダーの襲撃が、二人の思考を止めた。

「ふん!」

リュウガとナイトサバイヴの間に、オーディンが割って現れた。

「オーディン…!」

ナイトサバイヴが言った。

「ライダーバトルにおける、最強のライダー。お前らに勝てるか!?」

龍騎は吐き捨てるように言うと、その場から立ち去った。

「くっ…、話しは後だ!城戸、そのカード使えるか!?」

ナイトサバイヴがリュウガに言った。

「…やってみる!」

リュウガがナイトサバイヴに見せたカード。それに描かれていたのは、ナイトがサバイヴになる為に使ったカードを鏡写しにした、炎と翼のカードだった。

リュウガが、ダークドラグバイザーをつき出す。それは龍の頭を象った銃器のように変化した。銃口が龍の顎のように展開すると、そこにカードを装填した。

 

SURVIVE!

 

突然、リュウガの回りに黒炎が吹き上がった。そして、黒炎がリュウガの身体を嘗めるように触れると、そこから装甲が変化していった。

リュウガの胸部装甲が分厚くなり、肩口まで装甲が反り上がった。

そして、黒いフェイスガードも側面から後頭部まで延長し、眉間部が金色に縁取られ、龍の髭のような二本の触角も伸びる。

リュウガは、リュウガサバイヴへと姿を変えた。

 

SWORD VENT!

 

リュウガサバイヴが、ダークドラグバイザーツヴァイにカードを装填すると、バイザーから剣が展開された。

「行くぞ!」

「っしゃあ!」

リュウガサバイヴとナイトサバイヴがオーディンに向かって行った。

 

 

どれくらい眠っていたのだろうか。

映司が目を覚ますと、真司の姿が無かった。

「どこに…。」

映司は身体を起こす。まだ重い感覚があったが、いくらか回復したようだった。

「…まさか、一人で!」

映司は、すぐさま喫茶店を出た。

 

「どこに行ったんだ…!」

映司は、街中を探し回った。

そして、映司はある人物に出会ってしまった。

「…やぁ。」

「もう一人の、俺…!」

「全快、とはいかなそうだけど、大分元気になったみたいだね。」

黒スーツの映司がにやっと笑って言った。

「お陰さまでな。」

「…何だ、ついに覚悟を決めた感じか。」

映司の鋭い目付きを見た黒スーツの映司が言った。

「ああ。お前が俺である以上、いつまでも逃げてはいられないからな!」

映司はそう言うと、オーズドライバーを装着した。

「…くくくっ。ようやく本当の自分を認めたか?後は、お前が俺になれば上出来さ!」

黒スーツの映司も、同じくオーズドライバーを装着した。

「違う。俺は破壊なんて望んでいない!」

映司は、三枚のコアメダルを装填する。

「まだ否定するのか?自分を。それでオーズなんて、笑わせるなよ。」

黒スーツの映司も、紫のコアメダルを装填した。

「この力だって、助けを求める誰かの腕を掴む為の力なんだ!欲望の力なんてものじゃない!」

「なら、俺を倒して証明してみせろよ!」

 

「「変身!!」」

 

タカ!トラ!!バッタ!!!

 

プテラ!トリケラ!!ティラノ!!!

 

タ・ト・バ!タトバ!!

タ!ト!!バ!!!

 

プ!ト!ティラーノ!!

ザウルース!!!

 

オーズ・タトバコンボ、プトティラオーズにそれぞれ変身すると、互いに武器を持って戦い始めた。




第22話、いかがでしたでしょうか。

戦いの中、榊原は真司に何度か声をかけます。
「なぁ、城戸。お前は俺を知っているのか?」
「なら…、なぜ戦いを止めなかった…!」

これの意味するところとは。

その時現れたのが、仮面ライダーナイト・秋山蓮。
サバイヴとなり、龍騎を撃退。続いてリュウガと戦闘となるも、リュウガの示したサバイヴー烈火ーを確認しリュウガ=真司と認めました。
真司にとって最期の蓮というのは、『RIDER TIME』にて自分を庇い死んでしまった蓮。その蓮が生きていたことに、真司は驚きました。

しかし、蓮は
「俺が、死んだ?死んだのはお前の方だろ、城戸!」
と言います。
蓮の記憶は、丸で本編最終回後の様子。

この蓮は一体何者なのか。

そして、現れたオーディンに二人のライダーが立ち向かいます。そこで、リュウガはサバイヴー烈火ーを用いてリュウガサバイヴへと変身しました。
見た目・能力等はSIC準拠ということで。

最後に、回復した映司は、裏の存在とも呼べる黒スーツの映司と対峙します。
もう一人の自分との戦い。決着はつくのでしょうか。

次回もお楽しみに!


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第23話

オーズは、プトティラオーズにメダジャリバーを振り下ろす。が、プトティラオーズは、メダガブリューで力任せにそれを弾く。

「ぐっ…。おお!!」

勢いよく弾かれたメダジャリバーを手放さんと、オーズは柄を強く握り、再び振り下ろした。

「ぐぁっ!」

それは、プトティラオーズの胸を捉えた。しかし、プトティラオーズは怯まず、左拳をオーズの顔面に叩きつけてきた。

「おわっ!」

オーズの視界が大きくぐらついた。

 

ゴックン!

 

プ!ト!ティラーノ!!

ヒッサーツ!!!

 

怯むオーズに向け、プトティラオーズは、銃型に変形させたメダガブリューから光弾を発射した。

「させるか…!!」

 

スキャニングチャージ!!

 

視界が揺らぐ中、オーズはメダジャリバーをスキャンし、光弾を切り裂いた。

「ははっ!いいねぇ!!」

プトティラオーズは、笑いながら尚もオーズに迫った。

 

 

 

BLAST VENT!

 

ナイトサバイヴがカードを装填すると、契約モンスターであるダークウイングがダークレイダーへ変身。両翼に仕込まれたタイヤのような部分から竜巻が産み出され、オーディンへ放った。

 

SHOOT VENT!

 

リュウガサバイヴもまた、カードを装填。細身のドラグブラッカーがさらに体格の良くなったドラグシュバルツァーへ変身。同じく、オーディンへ火球を放った。

オーディンへ直撃する前に、竜巻と火球が合わさり、炎の竜巻となりオーディンへ襲いかかった。

 

HOLLY VENT!

 

オーディンがカードを装填すると同時に、炎の竜巻が直撃した。

「やった!?」

「…いや、まだだ。」

リュウガサバイヴが声を漏らしたが、ナイトサバイヴが炎を見据えて言った。

赤い炎の色が金を伴う七色に変わった。そして、丸で大きな翼が羽ばたく為に大きく広げたように火柱が立ったかと思うと、中から無傷のオーディンが現れた。

 

ADVENT!

 

オーディンがカードを装填すると、ゴルトフェニックスが飛翔。ダークレイダーとドラグシュバルツァー2体を相手取った。

「ちぃ!!」

 

SHOOT VENT!

 

ナイトサバイヴは、ボウガン状に変形させたダークバイザーツヴァイから、オーディンに向けエネルギー弾を放った。

 

『無駄だよぉ。』

 

エネルギー弾が直撃する寸前、オーディンが姿を消した。

「何!うわっ!?」

「蓮!うわっ!?」

ナイトサバイヴとリュウガサバイヴに突然斬撃が襲いかかった。

「くそっ、十八番なやつが来たか!」

リュウガサバイヴは、オーディンの能力を熟知していた。

 

STRANGE VENT!

 

リュウガサバイヴは、新たにカードを装填。しかし、装填された直後、バイザーからカードが戻された。だが、カードに描かれた絵柄が変化しており、リュウガサバイヴは、再びカードを装填した。

 

BABBLE VENT!

 

「はっ!」

リュウガサバイヴは、黒いドラグバイザーツヴァイを振り回した。それと同時に、バイザーから泡が吹き出された。

 

『ぐっ!?』

 

泡状の機雷の爆発とともに、オーディンが姿を現した。

 

TRICK VENT!

 

ナイトサバイヴから、数体の分身態が現れ、それぞれがオーディンに剣を振り下ろそうとした。

 

CONFINE VENT!

 

しかし、オーディンのカードの効力により、ナイトサバイヴの分身態が消えてしまった。

 

『ぐはっ!?何で!?』

 

が、それとは別の存在により、オーディンは斬撃を受けてしまった。

そこには、数体のリュウガサバイヴ分身態がいた。

「へん!こっちにも同じのがあるからな!」

リュウガサバイヴが言った。

 

『ちきしょう!』

 

オーディンは徐々に押されていたが、カードを装填しようと、バイザーのカバーを降ろした。

「今だ!」

ナイトサバイヴがオーディンの元へ一気に距離を詰めた。

 

『何!?』

 

「これは手土産だ。」

ナイトサバイヴはそう言うと、時計のような絵が描かれた一枚のカードを、ゴルトバイザーに強引に読み込ませた。

 

TIME VENT!

 

『うっぐ…。な、何を…!?』

 

オーディンが苦しみ出した。

「おい蓮!今の…!?」

「話は後だ。一気に片付けるぞ!」

何かを言いたげなリュウガサバイヴを余所に、ナイトサバイヴは自身のクレストの描かれたカードをバイザーに装填した。

「…わかった!」

リュウガサバイヴもそれに倣った。

 

FINAL VENT!

FINAL VENT!

 

ダークレイダーとドラグシュバルツァーが飛来すると、それぞれバイクのように変形した。二人のライダーはそれぞれのバイクに股がった。

ダークレイダーから一筋の閃光が走り、オーディンに直撃した。すると、オーディンの身体は硬直してしまった。

「うおおおおお!!!!」

「はあああああ!!!!」

オーディンを挟むように、二台のバイクがオーディン目掛け突進。そして、オーディンを粉砕した。

「やったのか…。」

「ああ…。」

リュウガサバイヴの言葉に、ナイトサバイヴが一言返した。

「…。」

二人のライダーは、黙ったまま向かい合っていた。しかし、先に動いたのは、デッキを抜き元の姿に戻った真司の方だった。

そして、それに倣いナイトサバイヴも黒いコートを着た男の姿に戻った。

「蓮…!」

真司の瞳に映った男。それは、やはり秋山蓮そのものだった。ただ、ライダーヤミーが化けた姿よりも歳を重ねた顔立ちだった。

「城戸…。」

蓮は、真司の顔を見るなり、喜びとも困惑したとも取れる複雑な表情をしていた。

「お前は、城戸なのか?」

蓮が言った。

「ああ!」

真司は強く頷いた。

「…この世界のライダーは、人間じゃないはずだ。」

「え…、どうしてそれを!?」

蓮の言葉に、真司が問い返した。

「神崎士郎だ。」

「神崎…!?」

「ああ…。俺が再びミラーワールドに突入できたのも、やつのお陰だ。再びミラーワールドが開かれた。ナイトとなって、閉じろ。とな。」

「それって、あいつと同じことを…。」

蓮の話は、真司が虚像の真司から聞いたことと同じだった。しかし、何故神崎士郎が蓮に接触したのか。真司は疑問に思ったが、考えてもその答えは見つかりそうもなかった。

「それより、死んだはずのお前が…、何故リュウガとして戦っているんだ!?」

「それは…。」

真司が、蓮の問いに答えかけた時だった。

 

 

ドオオオオン…。

 

 

遠くの方で爆発音が聞こえてきた。

「何だ!?」

「まさか…!」

真司達とは別の何かが戦っている。考えられることは一つだ。真司は、蓮に答える前に走り出していた。

「おい、城戸!!」

蓮もまた、真司に続いた。

 

 

「はぁ…、はぁ…。」

オーズは膝を着いていた。

「そろそろ認めなよ。」

プトティラオーズが呆れるように言った。

「認めない…。俺は、お前を!」

オーズは立ち上がると、トラクローを展開させ、再びプトティラオーズへ迫った。

オーズは両腕の爪を振るうも、プトティラオーズには届かず、メダガブリューの刃に襲われてしまう。

「ぐっ…!うわっ!!」

とうとう、映司は元の姿に戻ってしまった。

「お前に、俺の恐怖心に、潰されてたまるか…!」

映司は、歯を食い縛りながら言った。

「恐怖心…?違うだろ。俺は恐怖なんて感じてない。」

プトティラオーズが言った。

「何を…!」

「恐怖心があれば、今までみたいな無鉄砲な戦いなんて出来ないよ。」

「それは…。」

映司は言葉を詰まらせた。言われてみれば、今まで自分の命を捨てる覚悟で戦ってきた。伊達や後藤にも指摘され自覚はしていた。でも、誰かの命が奪われることも恐れている。それが、目の前の自分ではないのか?

「俺は、俺の恐怖心なんかじゃない。自覚がなさそうだから、教えてあげるよ。」

プトティラオーズは言葉を続けた。

「俺は、ライダーバトルというシステムに怒りを感じたよね?だから、俺が、一人葬った。」

「え!?」

「それに、ライダー達がヤミーだとわかり、命を馬鹿にされたことにも怒りを覚えてたよね?だから…。」

「また、ライダーヤミー達を倒したのか?」

確かに、映司はライダー同士が命を奪い合う状況に憤りを感じていた。そして、ライダー達の正体が分かると怒りを感じていたことも事実だった。

「じゃあ…、お前は!?」

「そうさ。俺は俺の怒りや憤りを体現しているのさ。それが、俺の本性だからね!」

「そんな…!」

「だから破壊する!全てを破壊し、俺は本当の俺になる!」

プトティラオーズが、斧を振り下ろす。映司は、力を振り絞り、何とかかわした。

「それが、本当の俺…?」

破壊を望む自分。それは、怒りの感情。怒りのまま、本能のままに暴れすべてを破壊する。それが目の前の自分だというのか。

思えば、欲を無くしたあの日に感じた感情は"怒り"だった。

貧困に苛まれていた村へ、良かれと思って行った自分の愚かな行為への怒り。

その結果、一つの小さな命を失わせてしまった怒り。

政治の力で自分だけが生き残ってしまった自分の情けなさに対する怒り。

そして、それを美談としてしまった、父親への怒り。

その怒りの行く末が無欲。果ては欲望の王・オーズという力の会得。それが本当の自分だというのなら、今の自分は何だ…?それを受け止める。どうすればいい。映司は、答えを見つけられないでいた。そして、力んでいた身体から力を抜いた。

「…覚悟を決めたかい?」

様子を見ていたプトティラオーズが言った。

「…。」

映司は答えなかった。いや、答える術を持っていなかった。

「さようなら、偽りの俺。」

プトティラオーズが再び斧を手に、映司に迫った。

 

『しっかりしろ、映司!!』

 

「っ!?」

映司は、誰かに呼び掛けられたことで、プトティラオーズの一撃から咄嗟にかわした。

「何?」

「今の、声は?」

映司を呼ぶ声。それは聞き覚えのある、懐かしいものだった。

 




第23話、いかがでしたでしょうか。

前半、リュウガサバイヴとナイトサバイヴが、オーディンとの戦いに決着をつけます。
オーディンのみ所有しているはずの"TIME VENT"を所持していたナイトサバイヴ。何故彼が持っていたのか。

オーディンを倒し、互いに姿を現した真司と蓮。蓮は、神崎士郎の手により、再びライダーの力を得たと語ります。消滅したはずの神崎士郎。再び蓮の前に現れた真相とは…。
こちらの蓮は、『RIDER TIME』の蓮の様相と思って頂ければと思います。

余談ですが、リュウガサバイヴに伴いドラグブラッカーも変化する訳ですが、『SIC』に準ずるとダークドラグランザーと変貌します。が、一応ドラグレッターの別個体であるのに"ダーク"はどうかと思ったので、ドラグシュバルツァー(シュバルツ=黒)としました。名前のみの変更で、見た目はドラグランザーそのものですが。笑

後半、オーズとプトティラオーズ戦。
ここで、プトティラオーズ・もう一人の火野映司の正体が明らかとなりました。
破壊を求める彼の原動力、それは"怒り"。
映司本人もあまり自覚していなかった感情が、プトティラオーズとして現れたということになります。
無欲となった切っ掛けの事件についての心情は、勝手な妄想ですが、あり得なくはないかと思い設定しました。

そんな事実を突きつけられてしまった映司。彼を呼ぶ声の正体は。

次回もお楽しみに!


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第24話

「本当の自分を見失うな!」

声の方を見ると、そこには真司の姿があった。

「城戸、さん?」

「お前の過去に何があったかは、俺は知らない。けどあいつは、過去の自分に囚われたままなんじゃないか!?今のお前は違う。オーズの力を使って得たもので、どれだけの命を救ってきた!?」

真司が映司に檄を飛ばした。

「あいつは、破壊することしか知らない。でも、今のお前は絆を繋いでいけるんだろ!?そんな簡単に諦めるな!!」

「…。」

そうだ。オーズの力で救ってきた命もあれば、繋いできた絆だってあった。比奈や慎吾や知世子、後藤に伊達、鴻上会長。そして…。

「…アンク。」

映司は、無意識の内に呟いていた。

「いちいちうるさいな…。邪魔するなよ!」

プトティラオーズが真司へ迫ろうとした。しかし、映司はその行く手を遮った。

「お前の言う通りかもしれない。」

映司は、プトティラオーズに言った。

「ん?」

「あの時、俺は自分に対して怒りを感じたし、この戦いでも感じた。それが、本当の俺かもしれない。でも、今の自分が偽りのものだなんてことはない!」

映司は言った。

「オーズの力が破壊する力だとしても、その力で繋いできた絆だってあるし、これからも繋いでいく!それは簡単には壊させやしない!!」

映司は、赤いコアメダルを手に取った。

「俺はオーズ(欲望)の器だ。破壊を求めるお前も受け入れる!」

そして、映司はオーズドライバーに赤いコアメダルを装填した。

「馬鹿な…!」

プトティラオーズが攻撃を仕掛ける。

「変身!!」

 

タカ!クジャク!!コンドル!!!

 

「ぐわっ!?」

映司なら現れたオーラングサークルの幻影に、プトティラオーズは弾き飛ばされた。

 

ター!ジャー!!ドルー!!!

 

映司は、オーズ・タジャドルコンボに変身した。

 

「あれは…?」

真司に追い付いた蓮が言った。

「あいつは、ここを閉じる為の鍵だ。」

真司は答えた。

「はっ!」

オーズは、プトティラオーズへ迫った。

「ちぃ!」

プトティラオーズが斧を振るうが、オーズはそれを受け流し、大振りによって生まれた隙を狙って攻撃を加えた。

「負けない!」

オーズは、背中の羽を広げ空へ飛んだ。プトティラオーズも、それに倣う。

「こんの!」

プトティラオーズが、メダガブリューをバズーカモードにし、エネルギー弾を放った。

オーズは、エネルギー弾をかわしながら、左腕のタジャスピナーから同じくエネルギー弾を撃ち込む。プトティラオーズもまた、エネルギー弾をかわしていく。

飛翔しながら、お互いが近づけば、プトティラオーズは斧を、オーズは拳を振りかざす。両者とも一歩も退かずに戦い続けた。

「破壊してやる!」

 

スキャニングチャージ!

 

プトティラオーズが、コアメダルをスキャン。両肩から触手状の爪を伸ばした。

「させるか!」

オーズはプトティラオーズの爪を掴み、振り下ろした。

「うがっ!!」

振り下ろされたことで、プトティラオーズは地上へ叩き落とされてしまった。

 

スキャニングチャージ!

 

オーズもコアメダルをスキャン。両足を猛禽類の脚のように展開させ、その鋭い爪を地上のプトティラオーズへ向けた。

「おおおおお!!!!」

「うおあああ!!!!」

オーズはプトティラオーズへ向かって急降下をするも、プトティラオーズは、腰から伸びた冷気を帯びた尻尾を降り、迫るオーズを叩き落とした。

「うわっ!?」

「ぐっ…!」

オーズとプトティラオーズは、よろよろと立ち上がった。

「そうやって、結局破壊するだけじゃないか…!」

「はぁ…、はぁ…、違う!」

オーズは、プトティラオーズの言葉を否定した。

「お前は過去に囚われたまま、氷の中に閉ざされているんだ。」

オーズは、プトティラオーズの様相を見て言った。

「その氷を溶かして、受け入れる!」

オーズは、ドライバーからコアメダルを取り出し、タジャスピナーへ装填した。さらに、セルメダルも装填し、オースキャナーでスキャンした。

 

タカ!クジャク!コンドル!

ギン!ギン!ギン!ギガスキャン!!

 

オーズの背中に羽が展開されたかと思うと、さらに全身を眩い輝きを放つ炎に包まれた。

「ふざけたことを!!」

 

ゴックン!

 

プ!ト!ティラーノ!!

ヒッサーツ!!!

 

プトティラオーズも、メダガブリューにセルメダルを装填し、バズーカモードを構えた。

「はああああ!!!!」

炎を纏ったオーズは、プトティラオーズへ突進した。その炎はやがて火の鳥のようになった。

プトティラオーズは、迫るオーズへエネルギー光線を放った。

それは火の鳥に直撃した。

「うおおおおおおお!!!!」

押し返されそうになるオーズは、雄叫びを挙げて進んだ。そして、ついに光線を弾き、火の鳥はプトティラオーズを貫いた。

「ぐああああああ!!!!」

炎に焼かれたプトティラオーズは、膝を着くと同時に黒スーツの映司の姿に戻った。

「…。」

オーズは、黒スーツの映司へ振り向いた。

「おっしゃ!」

その様子を見ていた真司も声を挙げていた。

「…さすが、俺だね。」

黒スーツの映司は立ち上がって言った。

「俺も、気づかなかったよ。俺の中にある陰なんて。」

オーズは黒スーツの映司に言った。

「けど、その陰にお前は勝ったんだ。もう俺は消えるしかない。」

「そんなことはないさ。」

真司が黒スーツの映司に言った。

「お前は消えやしない。映司の中で生き続ける。」

「そうか…。」

黒スーツの映司は、オーズを見て言った。

「俺は…、うぐっ!?」

黒スーツの映司が何か言いかけた時だった。

「え!?」

オーズは、黒スーツの映司の背後に何かがいることを捉えた。

「これで、手に入った…!」

黒スーツの映司の背後にいたのは、龍騎だった。

「榊原!!」

真司が言った。

龍騎は、黒スーツの映司の背中に突き刺した腕を引き抜いた。

「とうとう手にいれた。現実世界のコアメダル!!」

龍騎の手に、三枚の紫のコアメダルが握られていた。

「くぁ…。」

黒スーツの映司は地面に伏せてしまい、やがて消えてしまった。

「そんな!?」

オーズが声を漏らした。

「それで何をするつもりだ!!」

真司が龍騎に言った。

「それは、ネグが教えてあげるよぉ!!」

甲高い声と共に、グリード・ネグが現れた。

「ネグ!!」

オーズが言った。

「ここまで、よく生き残れたねぇ?ご褒美って訳じゃないけど、せっかくだからネグのことを話してあげるよ。」

ネグが言葉を続けた。

「ネグはねぇ。鏡の中で生まれたの。」

「何?」

オーズが言った。

「いつかは忘れちゃったけど、一枚のセルメダルが、このミラーワールドに紛れ込んだ。そしてそのメダルが辿り着いた先は、ミラーワールドを形成するコアミラー。そのコアミラーから放たれるライダー達の残留思念に共鳴したセルメダルは、コアミラーを取り込み、鏡のコアメダルとなった。それがネグって訳!」

「なら、お前がこの世界の中心なのか!?」

蓮が言った。

「そうそう!この世界はネグそのものなのよ!」

「お前の慾望はなんだ!なんでライダーの残留思念を利用してまでセルメダルを集めたんだ!」

オーズが言った。

「…この姿をみて、何とも思わねぇの?」

ネグの声色が低くなった。

「こんな、全身色の抜け落ちたような姿。これって生きているって言える?」

ネグが自分を指して言った。

「ネグは、この世界でしか生きられない。こんな閉鎖された世界にいてもつまらないんだよ。でも、現実世界は違う。とてもキラキラしていて、そこに住まう生物はみんな生き生きとしている。なんでネグはそこへは行けないの?」

「…まさか、外に出たいのか?」

真司がネグに言った。

「鏡のコアメダルじゃ、現実世界で身体を維持できない。だから、欲しかったんだ。君のコアメダルが。」

ネグがオーズを指して言った。

「もしかして、俺がこの世界に引き摺り込まれたのは、お前の仕業だったのか!?」

「そうだよ!」

オーズの問いに、ネグは答えた。

「現実世界のコアメダルを取り込めば、ネグは現実世界に行ける。それに、ここは鏡写しの世界。君をこの中に引き込めば、君が失った恐竜系のコアメダルも手に入ると思ったの。上手くいったよ!」

オーズはそれを聞いて、心底腹が立っていた。

「お前…、もう一人の俺まで利用したのか!」

「なんてやつだ…お前!!」

真司の言葉からも憤りを感じた。

「後はコアメダルだけ持っててもしょうがないから、強い身体を作る為にライダーの残留思念を使ってセルメダルを増やしたって訳。頭いいでしょお?」

ネグはそう言うと、龍騎から紫のコアメダルを受け取った。

「あらよっと!」

そして、ネグは紫のコアメダルを取り込んだ。

「うう…。わかる、わかるよ。ネグのコアメダルが現実世界のコアメダルと共鳴してるよ…、あがががが!!」

すると、ネグの身体の中を何かが這っているように、身体をが膨れあがって言った。

それは三倍、四倍に膨れあがり徐々に人としての姿からかけ離れていった。

「何だあれは!」

さらに、ミラーワールド各所から無数のセルメダルが飛来し、ネグの身体に取り込まれていった。

「うぅ…あぁ…!!」

「榊原!?」

真司達の目の前で、龍騎もまたメダルの塊になったかと思うと、同じくネグに取り込まれていった。

「丸で全てのミラーモンスターをひとつにしたようだぞ!」

蓮が言った通り、巨大化していくネグの身体の各所は、それまで見たミラーモンスターの特徴が現れていた。やがて、ネグの変異は止まった。八足に長大な三股の尻尾を持ち、辛うじて人型を保っている胴体から4対の翼のようなものが生えていた。鋭い爪を備えたものと、鋏を備えたものの2対の腕をもっていた。

そして、鮫のような頭から3本の角と六つの目を備えた、開いた口から長い舌が垂れ下がっていた。異形。それが当てはまるその姿だが、全身は人型のネグの時と同じように、銀色だった。

「ドーダイ!?コレガ ネグノ 力ダヨ!」

甲高い声と低い声が混ざった、気持ちの悪い声色で、ネグは言った。




第24話、いかがでしたでしょうか。

前回、映司に声を掛けたのは真司でした。"彼"の声とダブってしまったのは何故でしょうか。

プトティラオーズを打ち破る為に、タジャドルコンボで決戦に望みました。奇しくもオーズ本編最終回、タジャドルVS恐竜グリード(Dr.真木)戦を彷彿させるよう。狙いましたが。

そして、オーズは無事にプトティラオーズに勝利。裏の自分を受け入れることができました。

が、そこへ龍騎が奇襲。黒スーツの映司から恐竜系コアメダルを奪取し、ネグの手中に収まってしまいます。
鏡の中のグリード・ネグ。その正体は、偶然にもミラーワールドに紛れ込んだセルメダルが、ミラーワールドの心臓部コアミラーを取り込んで誕生した"鏡のコアメダル"を媒介に誕生したグリード。
そして、ネグの行動原理は、生き物として生きる為に現実世界へ出ること。現実世界へ出る為には現実世界のコアメダルが必要となり、その為、ミラーワールドのライダー達の残留思念、映司、そして黒スーツの映司を利用してきた。ということです。

そして、恐竜系コアメダルを取り込み怪物となったネグ。
映司、真司、そして蓮。三人はネグの野望を打ち砕くことが出来るのか。

次回、最終章開始。
お楽しみに!


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終章 儚き欲望の果てに
第25話


「こんなのが、現実世界に出たら…!」

真司は呆然としていたが、蓮は素早くデッキを構えた。

「ぼさっとするな、城戸!!」

「あ、ああ!!」

「サセナイヨォ!!」

変身しようとする真司と蓮に、ネグは巨大な尻尾を振るった。

「あぶなっ!?」

真司と蓮は、回避を余儀なくされてしまった。

「アトハ…。」

ネグは、オーズに向け長い舌を飛ばした。

「しまった!!」

ネグの舌は素早く巻きつき、オーズの身体を持ち上げ締め付けた。

「ぐっ…、何を…!」

オーズは脱出を試みようとするも、固く締め付けられていてそれが叶わない。

「オマエノ コアメダルモ モラウヨ!ソレデ 完成スルンダ!」

ネグの口の中に小さなブラックホールのような穴が開いた。すると、凄まじい吸引力がオーズを襲った。

「うわっ!!」

すると、オーズの持つメダルが次々とネグに吸収されていってしまった。オーズドライバーに装填されている鳥類系も含め。そして。

「あ、アンク!!」

割れたアンクのメダルも同じく取り込まれてしまった。

ついに、全てのコアメダルが吸い取られ、映司も元の姿に戻ってしまった。そして、ネグは締め付けていた舌を緩め、映司を解放した。

「火野!!」

真司が駆け寄り、落ちる映司を受け止めた。

「まだ変わるのか!?」

蓮が言った。

映司のコアメダルを取り込んだネグの身体は、姿形こそ変わらなかったが、それまで銀色だった身体に彩りが生まれた。

「グヒャヒャヒャ!!コレデ ネグハ 外ニ出ラレル!!…ウッ。」

ネグは苦しみ出したが、直ぐに持ち直した。

「ウゥ…。イモタレカナ…。急激ナ変化ニ、身体ガ追イ付イテナイヤ。チョット休憩!」

ネグは八足で大きく跳躍した。その巨体からは想像もつかない程、高く跳躍して、どこかへ跳んでいってしまった。

「待て…!」

映司は駆け出そうとした。

「ちょっと待て!」

蓮がそれを止めた。

「え、秋山さん!?」

映司は、蓮の姿を見て驚いた。

「…お前の思う秋山とは別人だ。それは忘れろ。お前が今更何なのかは聞かない。だが、ライダーとして変身出来ないなら、ついて来るな。」

蓮は、映司に言った。

「でも…、あいつはコアメダルを取り込んだ。取り返さないと、取り返しのつかないことになります!」

映司が言った。

「何が起きようとしてるんだ?」

真司が映司に尋ねた。

「前にも、現実世界でグリードが多くのコアメダルを取り込んで暴走したことがあります。今のネグはメダルの器。あれが現実世界に出たら、世界がネグに飲み込まれて消滅してしまいます!」

「マジかよ…!」

映司の答えを聞いて、真司は驚きを隠せないでいた。

「だったら、尚更やつを何とかして倒すぞ!」

蓮は、ネグが跳んで行った方向へ駆け出そうとした。

「俺も行きます!」

映司も続こうとした。

「危険だ!ライダーになれないのなら、足手まといだ!」

「蓮!連れていこう。こいつなら大丈夫だ。」

真司が言った。

「正気か城戸!今やただの人間なら、死ににいくようなものだ!」

そう訴える蓮に、真司は微笑んだ。

「…何笑ってる。気持ち悪い。」

「お前、いつから他人を心配出来るようになったんだ?」

真司がにやつきながら言った。

「…もう、失いたくないんだ。誰かさんのせいでな。」

蓮は静かに言った。

「蓮…。」

「…火野って言ったな。あれだけの相手をするから、悪いが庇ってやれる余裕はない。それでも来るのか?」

「はい!ネグの誕生には、俺の戦いが関係していたのがわかったんです。だから、戦います。願いを利用された、ライダー達の想いの為にも!」

映司は毅然とした態度で言った。

「…行くぞ。」

蓮はそう言うと、再び駆け出した。映司と真司もそれに続いた。

 

 

映司達が辿り着いた先は、映司が鏡の世界に初めて取り込まれた場所だった。

「…ウゥっ!」

そこで、ネグはえずくように声を漏らしていた。すると、ネグの背からメダルの塊が生まれると鏡の外へ出ていっていた。

「ネグ!何してんだ!」

真司が言った。

「鏡ノ外ニ、ヤミーヲ 送ッテルンダヨ。」

ネグが言った。

「何だと!?」

蓮が言った。

「外デ アバレテ モラッテ、ソノ間ニ ネグガ 外ニ 出ルッテ訳。」

ネグが言った。

「これ以上させない!!俺達は、現実世界を守る為に戦った!また、あの日みたいなことを起こしてたまるか!」

真司は、デッキをかざしながらいった。

「もうこんな馬鹿げた戦いを繰り返してはいけない。ここで止める!」

蓮も同じくデッキをかざした。

「「変身!!」」

真司と蓮は、それぞれリュウガとナイトに変わった。

 

SWORD VENT!

SWORD VENT!

 

二人のライダーは、それぞれ武器を手にし、ネグに迫った。それに呼応するかのように!ドラグブラッカーとダークウイングも飛来し、ライダーの援護に回った。

「邪魔スルナ!!」

ネグは、腕の爪や鋏を降り、二人のライダーをはね除ける。

「くっ!」

「まだ!!」

 

STRIKE VENT!

 

「はあああ!!」

リュウガは、ネグに向け黒いドラグクローを突き出す。クローから黒炎が放たれ、ネグに直撃した。

「アチッ!クソガ!!」

しかし、ネグはものともしていなかった。

「はっ!!」

ナイトの背にダークウイングがしがみつくと、そのまま空に飛んだ。そして、ネグに向かって飛ぶと、すれ違い様にウイングランサーを振るった。

「グッ!」

切り口から、セルメダルが吹き出した。また、セルメダルとは別に何かが落ちた。

「あれは!」

映司は、落ちた物の所へ向かった。それは、メダガブリューだった。

ネグは、4対の翼を広げると、大きく羽ばたいた。

「うわっ!?」

羽ばたきから、強烈なソニックブームが発せられ、空中を飛ぶナイトに直撃、地面に叩き落とした。

「蓮!!」

 

FINAL VENT!

 

「はああああ!!!!」

リュウガは、黒炎を纏いながら、ネグに飛び蹴りを放った。

「邪魔!!」

ネグの胸の甲殻が開いたかと思うと、胸から無数のミサイルが発射された。

「うわあ!!」

予期せぬ攻撃に、リュウガは成す術無く直撃してしまい、地面に落ちてしまった。

「城戸さん、秋山さん!!」

映司は、メダガブリューにセルメダルを装填した。

 

ゴックン!

 

プ!ト!ティラーノ!!

ヒッサーツ!!!

 

「うわっ!!」

メダガブリューから光線が放たれるも、生身の身体で使った為か、反動で映司は大きく飛ばされてしまった。

「ギャッ!?」

しかし、光線はネグの一本の足に直撃し、吹き飛ばした。

「ヤッテクレタナ!人間ゴトキガ!!」

ネグは、映司に向け、鋏を振るった。

メダガブリューを使った反動で地面に打ち付けられていた映司は、体勢を立て直せずにいた。

「しまった!」

「火野ぉ!!」

ナイトとリュウガが叫ぶ。

映司には、成す術がなかった。

しかし。

 

「ピィィィィィィ!!!!」

 

耳をつんざくような鳴き声と共に、何かがネグに突撃した。

「グエッ!?」

突撃されたネグは、体勢を大きく崩し、振り下ろした鋏は映司に届かなかった。

「何だ!?」

やがて、映司の目の前に、金色に輝く一人のライダーが降り立った。

「オー…、ディン?」

それは、ナイトとリュウガに倒されたはずの仮面ライダー、オーディンだった。

「何でオーディンが!?」

リュウガが言った。

『…全ては、優衣の為だ。』

オーディンが答えた。

「優衣、ちゃん!?」

リュウガは、オーディンの発した言葉に耳を疑った。

「オ前、何ダァ?」

ネグがオーディンに言った。

 

SWORD VENT!

 

オーディンは答えなかったが、その代わりに二振りのゴルトセイバーを手にし、ネグに迫った。

「どういうことだ?」

リュウガが言った。

「上手くいったか。」

ナイトが言った。

「え?」

「タイムベント。あれは、神崎から託されたカードだった。それをオーディンに装填させることで、神崎とオーディンは繋がる。そういう算段だったということだ。」

ナイトが言った。

「じゃあ…、あのオーディンは!」

「俺たちが今まで戦ってきた、"神崎士郎の切り札"だ。」

オーディン、ナイト、リュウガ。三人のライダーが攻撃を加えていく。しかし、押されてはいるものの、ネグは追い詰められている様には見られなかった。

「チッ…。ドイツモ コイツモ、邪魔ナンダヨ!!」

「攻撃が効かないのか!?」

ナイトは少し焦りを見せていた。

「リュウガの力なら、お前のコアだって壊せるはずだ!」

 

FINAL VENT!

 

リュウガは、再び自身のクレストが描かれたカードをバイザーに装填した。

 

FINAL VENT!

FINAL VENT!

 

ナイトとオーディンも、リュウガに倣った。

「はあああああ!!!!」

「うおおおおお!!!!」

『ふん!!』

 

 

ズドオオオオオオオン!!!!

 

 

三人のライダーの一撃が、ネグに直撃した。

しかし。

「グッヒャヒャヒャヒャア!!!!」

爆煙の中、ネグは傷だらけになりながも、その姿を現した。その傷は、ミラーワールド各地から現れたセルメダルを吸収することで回復していった。

「そんな!?」

リュウガは無傷となったネグを見て声を漏らした。

「三人のライダーの攻撃を受けて、まだ倒れないのか!?」

映司も驚きを隠せないでいた。

「馬鹿ダナァ。リュウガノ力、確カニ、メダルヲ砕ク力ハ アルケド、アクマデモ セルメダルヲ媒介ニ誕生シタ ライダーノ メダルニ限ラレルノサ!コアメダルヲ 砕クニハ 恐竜系コアメダルノミ!ソレヲ取リ込ンダ ネグニ、勝テル訳ガ無イデショオ!?」

「このままじゃ…!」

ライダー達の攻撃も効かず、コアメダルを持たない映司達に、もはや成す術がなかった。

「サァテ、ネグハ コノ世界ソノモノダカラネ。ネグガ外ニ出レバ、君タチハ コノ世界ト共ニ消エルヨ。何モ出来ナイママ、ココデ消エチャエ。」

ネグはそう言うと、その巨体をビルのガラスへ向けた。そのまま、現実世界へ出ようというのだ。

「…まだだ!」

リュウガが、ネグの前に立ちはだかった。

「マダモ何モ、君ニハ ネグヲ倒セナインダヨ?」

ネグが嘲笑いながら言った。

「仮にそうだとしても、お前をここで食い止めることは出来る!」

しかし、リュウガは退かなかった。

「何ィ?」

「言ったはずだ。現実世界を守る。倒せなくても、お前をここで食い止める!例え死ぬとしても、戦い続ける!!」

リュウガは、そのつり上がった複眼をネグに向けて言った。

「…ふっ。相変わらずの馬鹿だな。」

そして、ナイトもリュウガの横に立ち、ネグを見据えた。

「はぁ?その馬鹿と今まで一緒に戦ってきたのは、どこのお馬鹿さんですか!?」

リュウガはナイトに向かって反論した。

「悔しいが自覚してるさ。もう誰も、恵里や優衣のような思いはさせない!」

ナイトが構えながら言った。

リュウガとナイト。この二人が、今までどの様な戦いを経験してきたのか、映司は知らない。ただ、彼らの敵に向かう姿勢は、ある決意を表しているように見えた。それを見た映司は、メダガブリューを手に、彼らの側に立った。

「まだこの手が届く可能性があるのなら、最後まで伸ばしてみせる。ここで諦めたら、俺は、死んでも一生後悔する。だから、お前に世界を壊させない!」

映司も構えて言った。

「皆バカダネェ。ワカッタ、コノママ消シテヤル!」

ネグが攻撃の構えを取った時だった。

「ウグッ…、ガッ…。」

ネグが再び苦しみ出した。

「ウェッ!」

すると、ネグの口から何かが吐き出された。

「あれは!?」

映司はそれを見て呟いた。

赤く光る二つの小さなもの。吐き出されたそれは、そのままオーディンの胸に飛び込み、吸収された。

『うっ!?』

「ウェ…。スッキリシタ。死ネェ!」

ネグの口から火炎弾が映司達に向かって吐き出された。

しかし、間にオーディンが飛翔し、手にした剣で凪ぎ払った。

「オーディン!?」

「…いや、オーディンじゃない?」

リュウガの言葉をナイトが否定した。

オーディンの背から、再び翼のようなオーラが吹き出た。しかしそれは、先に映司に見せた金色のものではなく、紅蓮に、しかし七色に染まったものだった。

『おい映司!お前はその程度で終わるようなやつだったか?』

オーディンが映司に向かって言った。しかし、その声はオーディンのものとは異なっていた。

そして、良く見るとオーディンの右腕が変化していた。赤い腕。映司が今まで何度も見てきた腕だった。




第25話、いかがでしたでしょうか。

変身できない映司に代わり、リュウガとナイトが奮戦します。そして、絶体絶命のピンチにオーディンが降臨しました。このオーディンも、リュウガとナイトと同じくオリジナルのオーディン。

しかし、オーディンを加えてもなお、無敵を誇るネグ。それでも諦めない映司達。その意思に呼応するかのように、割れたアンクのコアメダルがネグから現れ、なんとオーディンの身体を乗っ取る形で"彼"が復活します。

いよいよ最終決戦!
次回もお楽しみに!


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第26話

しばらく更新が滞ってしまいすみませんでした。
単純に忙しくなってしまっただけで、筆者は至って元気であります。


「…アンク!?」

映司が、オーディンに向かって言った。

「現実世界ノ グリードォ!?」

ネグも驚いていた。

『泉信吾の身体より違和感はあるが…、鳥類系の身体なら悪くはないか。』

オーディン(アンク)は、自身の身体をまじまじと見ながら言った。

「…アンク!」

映司がオーディン(アンク)に言った。

「ネグを倒すには、鏡のコアメダルを壊さないといけない!それも同じ鏡の世界の恐竜系のメダルで!それを…取り返してほしい!」

『恐竜系コンボか…。』

オーディン(アンク)が考えるように言った。

『…おい、お前ら!俺がメダルを取り返す。アイツの気を逸らして隙を作れ!』

オーディン(アンク)が、リュウガとナイトに言った。

「はあ?なんでお前の指図を受けなきゃいけないんだよ!」

「いいから、行くぞ。」

突然人格が変わったオーディンからの指示に、反感を持つリュウガだったが、それをナイトがなだめた。

 

SURVIVE!

SURVIVE!

 

リュウガとナイトは、それぞれサバイヴ形態へ変わった。

 

ADVENT!

ADVENT!

 

さらに、それぞれモンスターを呼び出すと、二人のライダーはその背に飛び乗った。

「行け!」

リュウガサバイヴの掛け声に応じたドラグシュバルツァーは、火球を吐きながらネグに迫った。

 

SHOOT VENT!

 

ナイトサバイヴも、ダークバイザーツバイから同じく、光弾をネグに放つ。

「グウウウ!!邪魔邪魔邪魔ァ!!」

ネグは、胸部から無数のミサイルをライダー達に向け撃ち出した。

 

「グオオオオオオオ!!」

「キィィィィィィィ!!」

 

ライダー達を乗せたモンスター達は、ネグの攻撃を避ける。直撃しそうなものは、ライダー達が処理していた。

『それでいい…、はっ!!』

オーディン(アンク)は、ネグの首元を狙って飛翔した。

「!?来ルナァ!!」

ネグは、三股の尾を振りかざし、刃のような先をオーディン(アンク)へ振るった。

『ちぃ!!』

オーディン(アンク)は、刃状の尾から避ける為にネグから大きく距離を取ってしまった。

「こんの!!」

それを見かねたリュウガサバイヴは、ドラグシュバルツァーでネグに突進した。

「グェッ!!」

 

BLAST VENT!

 

ナイトサバイヴもまた、ダークレイダーから竜巻を発生させ、ネグを攻撃した。

『その調子だ!』

オーディン(アンク)は、再びネグに迫る。

「おわっ!!」

しかし、ネグは頭の角をドラグシュバルツァーへ飛ばし、ドラグシュバルツァーごとリュウガサバイヴを撃ち落とした。

「城戸!!うわっ!!」

ナイトサバイヴも、リュウガサバイヴに気を取られた隙を狙われ、ネグの尾により叩き落とされてしまった。

『くそっ!!』

オーディン(アンク) は、それでもネグに迫る。ネグから再びミサイルや火球が放たれるも、それを掻い潜りながら。

『届けぇ!!』

オーディン(アンク)は、赤い右腕を伸ばす。

「サセネェヨ!!」

ネグが、鋏状の腕を振るった。それは、間違いなくオーディン(アンク)に直撃するものだった。

「やめろぉ!」

 

プ!ト!ティラーノ!!

 

ヒッサーツ!!!

 

映司は、再びメダガブリューを構えてネグの鋏を狙った。そしてそれは命中し、鋏を砕いた。

「グフッ!?」

とうとうオーディン(アンク)の腕がネグの喉元を捉えた。オーディン(アンク)の腕は深々と刺さっていた。

『受け取れ、映司ぃ!!』

オーディン(アンク)は、ネグの喉元から腕を引き抜くと同時に、映司に向けコアメダルを投げた。

「っ!!」

映司は、投げられたコアメダルを掴んだ。が、それは恐竜系ではなく、タカコアたった一枚だった。

『ぐあっ!!』

次の瞬間、ネグの腕の爪がオーディン(アンク)の身体を捉えていた。

「アンク!?」

ネグの爪はオーディン(アンク)の身体を易々と貫いていた。

『そいつ…を、使…え、映司…。』

そして、オーディン(アンク)は砂のような粒子となって消えてしまった。

「アンクうううう!!!!」

映司は、戦友の名を叫んでいた。

「コレデ、邪魔者ハ消エタ!!タカガ コアメダル一枚。ソレモ、恐竜系ジャナイカラ ドウスルコトモ出来ナイダロォ?」

ネグは勝ち誇るように言っていた。

確かに、映司がアンクに頼んだのは恐竜系コアメダルの奪還。しかし、アンクはタカコアを使えと言った。アンクは何故これを映司に託したのか。

だが、映司はタカコアを強く握りしめ、ネグを睨んだ。

「何ダ?何デ諦メヨウト シナイ!無駄ジャン、ソンナノ!!」

「…っ!」

その時だった。オーディンが消え、粒子となったはずのものが、二つの塊に変わっていった。それは、アンクの割れたコアメダルだった。そして、割れたコアメダルは、二人のライダーの元へ、それぞれ落ちていった。

「これは…。」

リュウガとナイトは、割れたコアメダルを掴んだ。すると、割れたメダルは強い輝きを放った。

「うっ…!」

二人のライダーは、輝きから目を逸らした。そして、気がつくと二人は人の姿に戻っていた。やがて輝きが失われると、二人の手のひらには、先ほどの割れたコアメダルではないものが乗っていた。

「新しい…、コアメダル?」

映司が言った。

「…火野!!」

真司は、映司に向かって握られたコアメダルを投げた。蓮もそれに倣った。

映司は、投げられたコアメダルを掴み、それを見た。紅蓮のコアメダルと紺碧のコアメダル。それぞれ龍騎のクレストとナイトのクレストが描かれていた。

そして、映司は先に渡されたタカコアを見て、アンクの意図を理解した。

「…わかったよ、アンク!」

映司は、オーズドライバーを腰にあてる。そして、ドライバーにタカコア、ナイトのコアメダル、そして龍騎のコアメダルをセットし、それをスキャンした。

 

タカ!ナイト!!龍騎!!!

 

「…変身!!」

 

タ!タ!カエ!!

イキノ!コ!レ!!

 

タカナァ!リィ!!キィ!!!

 

映司はオーズへ姿を変えた。

頭部はタカヘッドに、胴体は紺色の身体に、鋼鉄の篭手を纏い、背にコウモリのようなマントを備えたナイトアーム、そして、下半身は深紅の身体に、龍の頭部を模したレガースを備えたリュウキレッグとなっていた。

そう。映司は、ナイトと龍騎の力を持つ、オーズ・タカナリキコンボとなったのだ。

「ソレガ何ダァ!」

ネグは、巨大な爪をオーズへ振り下ろした。

「はっ!!」

オーズは、振り下ろされる爪に対し、蹴りを放った。オーズの脚は紅蓮の炎に包まれ、焼き払うようにネグの爪を蹴り崩した。

「ギャッ…コノ力ハ!!」

ネグが痛みに悶えた。

「いけるぞ!」

オーズの手には、ウイングランサーが握られていた。

「ギエエエエエッ!!!!」

ネグは奇声を上げながら、刃状の三股に別れた尾を振るった。

それが直撃する寸前、オーズは高く跳躍してかわした。オーズの背のマントが広がり、滑空するように空を飛んでいた。

「コノォ!!」

ネグはオーズを叩き落とそうと、羽根を広げた。

「はっ!」

オーズはウイングランサーに炎を纏わせると、迫るネグの羽根を切り落とした。

「はぁぁぁ…、はあ!!」

さらに、オーズは炎を纏ったランスをネグに向け投げつけ、ネグの左肩を貫いた。

「イ゙ッ…!!オ前ェ!!」

浮力を失ったオーズは、地面に降り立つと、オースキャナーを手に取った。

「ネグ!お前だけは許さない!ライダー達の命や願いを利用したお前を!!」

 

スキャニングチャージ!!

 

オーズは一度両手を前に突き出した後、跳躍の為に腰を落とした。

「はぁぁぁ、はっ!!」

そして、ネグの頭頂を遥かに越えて飛び上がった。

オーズは空中で一度身体を大きく捻り、両脚をネグに向けた。

「はぁ!!」

背中の羽根が羽ばたき、生まれた力を乗せネグに迫った。

「ホザケェエエエ!!!!」

ネグは胸の装甲を展開し、ミサイルを撃ち出した。さらに頭部の角や口からも火球を放った。しかし、オーズの背中の羽根がオーズの身体を螺旋状に包み込んだ。ミサイルや火球など、オーズに直撃するも、螺旋状の羽根がネグの攻撃を防いだ。

「来ルナ、来ルナァ!!」

そして、すべての攻撃を防ぎ切った後、再び羽根が展開。オーズの両脚は紅蓮の炎を纏っていた。

「せいやあああああ!!!!」

オーズの両脚は、ネグの胸を捉え、貫いた。貫く中、オーズは、ネグのコアメダルを砕いた感触を得ていた。

オーズは着地し、ネグの方を向いた。

コアメダルを砕かれたネグの身体は、徐々にセルメダルに変わっていっていた。

「ソン…、ナ…。ネ、グは、ただ…、外に、出たカッタ…、ダケ…、なの、に…。」

ネグは、悲痛とも取れる願いを呟くと、やがてただのセルメダルの塊に変わっていった。

セルメダルの塊の中に、ネグに奪われたコアメダルを見つけたオーズは、変身を解いた後全て回収した。

「これで、終わったんだよな。」

オーズとネグの戦いを見届けていた真司が映司に言った。

「…はい!」

映司は、力強く頷いて見せた。

それを聞いた真司が微笑みかけた時だった。

 

パリィン!!

 

突如、ガラスの割れる音が町中に響いた。それも大きな音を立てて。それは一度だけでなく、何度も続いていた。良く見ると、建物の硝子ではなく、建物そのものが丸でガラスのように砕けていた。さらに、空も砕け始め、ガラスの欠片のように天から降り注ぎ始めた。

「ネグを倒したということは、この世界も消える!急いで出るぞ!!」

事態を把握した蓮が二人を促した。

「出るったって、どこから!?」

真司が言った。

「さっき、ネグが出ようとしたビルのガラス!あそこから出られるんじゃないですか!?」

映司が言った。

「行くぞ!」

蓮の言葉に続き、映司達は走り出した。

走る最中も、上空から空の欠片が降り注ぐ。三人は何とかかわしながら走り続けた。さらに追い討ちをかけるように、地面も同じく硝子のように砕け始めた。

「急げぇ…!!」

真司は叫びながら走り続けた。

そして、ついに出口と思われるビルの硝子にたどり着いた。

「ハァ…ハァ…。…なぁ。」

真司が息を小さくつきながら、蓮を見て言った。

「…何だ?」

「ここから出たら、俺たち…。また会えるのかな。」

真司が言った。

「…。」

蓮は、答える代わりとでもいうのか、黙ったまま視線を落とした。

「それって、どういう…?」

映司が尋ねかけた時だった。

「待て…!」

映司達を呼び止める声がした。




第26話、いかがでしたでしょうか。

オーディンの身体を半ば乗っ取るようにして、アンクが復活しました。
当初からアンクの復活を模索していました。あんまり安易に復活もさせたくなかったため、どうしようかと思っていたところ、「オーディンがいるじゃないか!」と気づき彼には犠牲になってもらいました。

そんなアンクの働きにより、映司はタカメダルと、さらにナイトの力を宿したナイトメダル、龍騎の力を宿した龍騎メダルを入手。本作オリジナルフォーム、タカナリキコンボの登場です。

ナイトの力は、武器や飛行能力といったもの。龍騎の力は炎と龍(幻獣)の破壊する力といったものを秘めています。鏡の世界で誕生したコアメダルを破壊する為に、同じく鏡の世界で誕生した龍騎の力が必要であり、ネグを撃破する為のフォームといえます。

龍騎とクロスオーバーするに辺り、始めから設定していたもので、これをどのように誕生させようか。ここから物語は始まっていきました。

コアミラーを取り込んだネグを撃破したことで、ミラーワールドが崩壊を始め、映司達は脱出を試みます。が、その映司達を呼び止める、最後の敵が現れます。その正体とは…。

次回、最終回。
お楽しみに!


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最終話

「っ!?あんたは!」

真司が声の主を見て言った。

そこにいたのは、ネグに吸収されたはずの榊原だった。

「榊原…さん!」

映司は驚きのあまり相手の名を口にしていた。

「城戸…、お前だけは許さない…!お前も、ここで道連れだぁ!!」

榊原は物凄い形相で真司を睨んで言った。そして、龍騎のカードデッキを取り出し、バックルに装填、龍騎に変身した。

「…城戸!構うな、行くぞ!」

蓮が促すように言った。しかし、真司は動こうとしなかった。

「…蓮、火野を連れて先に行ってくれ。」

「城戸さん、何を!」

真司の思わぬ言葉を聞いた映司が言った。

「あいつは、俺が止める!」

「よせ!お前にはもう、戦う力はないんだぞ!!」

蓮が言ったが、真司は既に龍騎を正面に据えていた。

「ふん…。ライダーの力のないお前に何が出来る!」

龍騎が言った。

「あんたに何があったか俺は知らない…。でも、俺はあんたを倒さなくちゃいけない。そんな気がするんだ。だから戦う!!例え、ライダーの力が無くったって!!」

真司が言った。

その時。

 

「グオオオオオオ!!!!」

 

「ドラグレッター!?」

赤い龍・ドラグレッターが雄叫びを上げて飛来した。そして、真司の元へ飛翔していった。

「城戸!!」

「城戸さん!!」

蓮と映司は叫ぶように言ったが、真司はむしろ迎え入れるように腕を広げた。

「来い!!」

そして、ドラグレッターは真司の胸に飛び込んだ。

「何ぃ!?」

龍騎が驚いて言ったと同時に、変身が解除され榊原の姿に戻っていた。

一方の真司は、特に変わった様子が無かった。が、いつの間にか、真司の左手に龍騎のカードデッキが握られていた。

「そんな、バカな!…だが、まだだ!!」

榊原は、セルメダルを一枚手に取り、自身の額にあてた。するとセルメダルは榊原の額に飲み込まれていった。

「うおおおあああ!!!!」

やがて、榊原の身体から溢れんばかりのセルメダルが涌き出ると、新たな鎧を構成していった。

一見すると、龍騎に似た姿をしていた。しかし、それはあまりにも禍々しく、榊原の真司を憎む思いが現れているかのようだった。

真司は、迷わず龍騎のカードデッキを前に突き出した。

「変身!!」

真司は、龍騎のデッキをバックルに装填した。そして、真司の身体に鎧の幻影が幾重にも重なり合い、仮面ライダー龍騎に変身した。

「城戸おおおおお!!!!」

榊原が変異したもう一つ龍騎・アナザー龍騎は、真司の名を叫びながら龍の頭部を模した左腕を突き出し、火炎を放った。

「っ!!」

龍騎は、咄嗟に映司と蓮の方を振り向くと、二人を硝子の方に押した。

「うっ!?」

映司と蓮は、そのまま硝子の中に入ってしまった。

「城戸ぉ!!」

「城戸さん!!」

間もなく、アナザー龍騎の火炎により硝子は割れてしまい、映司と蓮の眼前から龍騎の姿が消えてしまった。

 

 

「おわっ!!」

龍騎は、アナザー龍騎の火炎から映司と蓮を守る為に、咄嗟に二人を硝子の中へ押し込んだが、自身は火炎を受けてしまった。そして、火炎によって硝子が割れてしまった。

「フハハハハ!!これでお前の帰る術は無くなったな!!」

アナザー龍騎は、笑いながら言った。

「くっそ…!!」

龍騎は立ち上がり、アナザー龍騎へ構えた。

「はあああ!!」

アナザー龍騎は右手に持つドラグセイバーに似た柳葉刀を振りかざし、龍騎に迫った。

「榊原!」

 

SWORD VENT!

 

龍騎はドラグセイバーを手に迎えうった。

龍騎とアナザー龍騎はお互いに一歩も引かずに剣戟を交わしていた。時折、上空から落ちてくる空やビルの破片を弾きながら。

アナザー龍騎の攻撃には、憎しみが込められていた。龍騎はそれに気づいていたが、その憎しみが何なのか、理解できないでいた。

「本気で戦え、城戸!!」

アナザー龍騎が言った。

「あんた、なんでそこまで!」

「…覚えていないんだな。だからぁ!!」

アナザー龍騎は再び左腕の龍の頭を突き出し、火炎弾を放った。

「くっ!」

 

GUARD VENT!

 

龍騎は、ドラグレッターの腹部を模した盾・ドラグシールドを両肩に装着し、火炎弾を凌いだ。しかし、反動により大きく後ろに飛んでしまった。

「うわっ…、うっ!?」

龍騎に一瞬、頭痛が走った。その時、ある光景がまるでフラッシュバックしたかのように見えていた。

 

 

『一度、ミラーワールドに引き込まれたら…、二度と戻ることは出来ない…。ライダーに、ならない限り…。お前が、使え…!』

 

 

『おい…、おい!!』

 

 

『お前は…、ライダーの戦いに、巻き込まれるな…!』

 

 

「…そうか。」

龍騎は、アナザー龍騎を見て呟いた。

「俺は一度、あんたに助けられてたんだ。」

龍騎の言葉に、アナザー龍騎は足を止めた。

「…思い出したか、城戸。」

アナザー龍騎が言った。

「俺は元々、ライダーバトルを止めるため、コアミラーを破壊するために戦っていた。そこにただの人間だったお前が現れた。俺は、ミラーワールドに取り込まれたお前を助けようと、デッキを託した。そして、ライダーバトルを止めて欲しかった。」

アナザー龍騎は言葉を続けた。

「だが…、お前は!!戦うことを選んだんだ!!他のライダー達と、欲にまみれた奴等と同じように!!」

「違う…、そんなんじゃない!!」

龍騎は、アナザー龍騎の言葉を否定した。

「だったら、何で戦い続けることを選んだ!!」

アナザー龍騎は、再び剣を振るった。

「俺だって、戦いを止めようとした!だけど、俺は託されたんだ。あいつの想いを!だから!!」

龍騎は、手にした剣でアナザー龍騎の斬撃を弾きながら言った。

「俺の想いはどうなる!?何のために俺はぁ!!」

アナザー龍騎は、力任せに龍騎の剣を弾き飛ばした。

「こんのっ!!」

しかし、大振りとなってしまい隙が生まれ、龍騎は無防備になった胸元に蹴りを入れた。

「ぐっ!」

「…わかったよ。あんたは榊原じゃない。」

龍騎は言った。

「何?」

「あんたは、もう一人の俺と同じ。ミラーワールドで生まれた存在なんだ。」

「…っ!?」

「俺は、あんただけじゃない、蓮や優衣ちゃん、手塚、色んな仲間から色んな想いを託された。だから俺は戦った。俺の為にも、みんなを守る為にも!」

龍騎は、デッキから自身のクレストの描かれたカードを引き抜いた。

「あんたもそうだったはずだ!誰かを守るために、ライダーとして戦っていた。でも、今のあんたは、違う…。あんたはただ、自分自身の憎しみに囚われているだけだ。だから今度は、俺があんたを助ける!」

 

FINAL VENT!

 

「はぁぁぁ…!」

龍騎は、腰を深く落とし、構えた。

「ふざけたことを!!」

アナザー龍騎もまた同じく構えた。

やがて、龍騎の回りにドラグレッターが飛翔した。

「はっ!!」

龍騎とアナザー龍騎は同時に跳躍した。

ドラグレッターは龍騎を守るように回りを旋回していた。

「はあああああ!!!!」

龍騎は、空中で身体を一度捻り、アナザー龍騎に脚を向けた。

「グオオオオオオ!!!!」

そして、ドラグレッターが龍騎に向け、火炎を浴びせる。龍騎は火炎を纏いながら、アナザー龍騎へ迫った。

アナザー龍騎もまた、脚に炎を纏わせ龍騎に迫っていった。

 

 

 

 

 

 

 

爆発の中で、榊原はある光景が見えていた。それは、城戸真司が龍騎と異なる姿となり、コアミラーを破壊する光景が見えた。ミラーワールドは破壊された。が、真司の手の中には、龍騎のデッキが握られていて、再びライダーバトルが始まってしまっていた。

場面が変わると、今度は真司は崩壊寸前のビルの中に立っていた。真司の後ろには力尽きたようにピクリとも動かない女性が机に突っ伏していた。真司ともう一人がライダーに変身すると、モンスターの群れに向かっていった。

再び場面が変わり、現実世界に溢れ出たモンスターと龍騎は戦っていた。しかし、女の子を守る為にモンスターに襲われ、そして死んだ。

『これが、城戸の戦い…?』

彼は、最後まで人を守る為に戦っていた。

そして、記憶を無くしながらも、生き延びようと戦う真司の姿が見えた。リュウガとなり、そこで終わろうとしていた。しかし、もう一人の犠牲により生還を果たしていた。仲間の分まで生きる為に…。

『そうか…、あいつは…。』

榊原は、何かに気づいたが最後までその答えには辿りつけなかった。しかし、何か納得したかのように、榊原の表情は朗らかであり、炎に焼かれる最後までそれが崩れることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…ん』

 

どこか遠くの方で、微かに何かが聞こえてきた。

 

『…んじ…ん』

 

誰かを呼ぶ声。どこか懐かしい声。

 

『しんじくん』

 

俺を呼んでる…。懐かしい女性の声。でもどこか悲しくなるような声だった。

 

『真司くん!』

 

真司は、声の方へ目を向けた。光が強すぎて、視界がぼやけていた。しかし、声の方には、人影が見えた。小柄な女性のような人影。はっきりと見えないが、真司は、声の主が誰なのかが分かった。

「優衣…ちゃん?」

女性の人影は、真司に向けた手を差し出していた。真司は、手を取ろうと自身の手を伸ばした。

かつての大切な仲間、しかし助けることができなかった。叶うことなら助けたい。そんな思いで、真司は手を伸ばしていた。

そして、真司はその手を掴んだ。その瞬間、真司は強く引っ張られた。

 

 

 

 

「うわっ!」

「城戸さん!!」

映司が真司に言った。

「…火野?」

真司が顔をあげると、そこには映司と蓮がいた。

真司は、立ち上がって辺りを見渡した。暗闇の中、あちこちできらきらと輝く小さな何かが光っていた。一見すると、夜空、もしくは宇宙空間にでもいるように思えた。しかし、輝いているものをよく見ると、細かく砕かれた硝子や鏡の破片だった。

「…ここは?」

真司が尋ねた。

「さぁな。まだミラーワールドの中なのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。いずれにしても、俺たちはまだ現実世界には戻れていないらしいな。」

蓮が答えた。

「そっか…。あ、優衣ちゃんは?」

「優衣、ちゃん?」

映司は、真司が口にした女性のものであろう名前が誰を指しているのかわからなかった。

「優衣…?あいつと戦って頭でも打ったか?」

一瞬だけ蓮は目を見開いたが、呆れたように答えた。

「おっかしいなぁ…。俺、優衣ちゃんに手を引っ張られた気がしたんだけど…。」

「あ、それ俺です!」

映司が言った。

「え?」

「城戸さんの姿が見えなくなって、しばらくしたら光が現れて、そこから城戸さんの腕が現れたんです。それを俺が掴んで引っ張ったんです。」

「…まさか、優衣がお前を導いたのかもな。」

蓮が言った。

「かもな…。けど、これからどうすんだ?」

真司が回りを見渡しながら言った。

「ですよね…。俺たち、このまま現実世界に帰れないんですかね。」

映司が溜め息をつきながら言った時だった。

「…誰だ!」

蓮は、何者かの気配を察し、暗闇に向かって言った。

やがて、一際大きな硝子の破片が現れると、その硝子越しに一人の男が立っているのがわかった。

その男の顔は、まるで病に犯されているように頬が痩けていて、髪もボサボサであった。その細身にロングのトレンチコートを纏っていた。

「神崎士郎…!」

真司がその男の名を口にした。

「あの人が…?」

映司は、香川が言ったことを思い出した。かつてのライダーバトルの元凶であり、云わばゲームマスターである男。

『間もなく、ミラーワールドは閉ざされる。』

神崎が言った。

「何?」

蓮が聞き返した。

『ここは、ミラーワールドと現実世界を繋ぐ橋の役割を持った空間だ。お前たちがミラーワールドの異物を破壊したおかげで、ミラーワールドが不安定になった。だから、一時的にここに導いたということだ。』

神崎が言った。

「じゃあ、ここから帰れるのか!?」

真司が神崎に聞いた。

神崎は答える代わりに視線を横に送った。すると、再び大きな硝子の破片が、今度は二つ現れた。それは何かを映し出す訳ではなく、白く輝きを放っていた。

「あそこが、出口か。」

蓮が言った。

「でも…、何で二つ?」

映司が言った。

『城戸真司、秋山蓮。お前たちは、それぞれの世界に帰る。』

神崎が言った。

「どういうことですか?」

映司が神崎に尋ねた。

『ミラーワールドに異物が混入したことで、ミラーワールドそのものがその異物を排除しようとした。その結果、ミラーワールドはいくつもの世界と繋がり始めた。繋がった世界から異物を排除する力を引き寄せる為に。』

神崎が答えた。

「…それって。」

「…やっぱりな。」

映司が言う前に、真司が言った。

「おかしいと思ったんだ。蓮…、お前は俺を庇って死んだ。そのお陰で、俺は現実世界に帰ってこれたんだ。それなのに、蓮が現れた。死んだはずのお前がさ。」

真司が蓮を見て言った。

「…俺も同じだ。城戸は、モンスターから少女を庇って死んだ。そして、俺は最後のライダーとしてオーディンと戦って勝った。それで全て終わったはずだったんだ。だが、神崎士郎に導かれ、再びミラーワールドへ向かえば、そこに死んだはずのお前がいた。」

蓮もまた真司を見て言った。

『そうだ。つまり、今目の前にいるお前たちは、お前たち自身が知っているかつての存在とは異なるものだ。だが、それも一つの可能性の結果だ。悲観することはない。』

神崎が言った。

『…そろそろ、この空間も閉ざされる。お前は秋山蓮と同じ道から帰れ。』

神崎は、映司に言った。

「え?」

『お前の世界は、現実世界の方で秋山蓮の生きる世界と繋がっているようだ。何者かによってな。』

「そんな、じゃあ城戸さんとは、もう…。」

「…そんな顔するなよ。」

真司が笑ってみせた。

「帰る場所は違っても、いつかまた会えるかもしれないだろ?そのときは、また一緒に戦おうぜ!誰かを守るために、な。」

真司はそう言って手を差し出した。

「…はい!」

映司もまた、笑ってみせ手を掴んだ。

「…あ、そうだ、蓮!」

「何だ。」

「恵里さん、元気そうだった。」

「…そうか。」

蓮は、少しだけ微笑んだ。

「…じゃあな。蓮、火野。」

「…あぁ。」

真司、蓮、映司は、それぞれの出口を通っていった。

『…良かったのか、彼らに会わなくて。』

神崎は、いつの間にか傍らに立っていた女性、神崎優衣に言った。優衣は、穏やかな表情を作り、頷いて答えるだけだった。

 

 

映司が気がつくと、目の前には見慣れた世界が広がっていた。

「…帰ってこれたのか?」

「そうらしいな。」

映司の側には蓮がいた。

しかし、やはり真司の姿はなかった。神崎の言った通り、真司は真司の世界に帰ったのだろう。

「火野!」

「映司くん!」

映司を呼ぶ声。それは、後藤慎太郎と泉比奈だった。

「比奈ちゃん、後藤さん!?」

「良かった、無事で!」

比奈が言った。

「蓮さん。」

「裕太か。」

蓮が後藤の後ろにいる人物に向かって言った。後藤の後ろには、白衣を羽織った眼鏡の男と、青年がいた。どちらも映司には見覚えのない人物だった。

「これで俺の役割は終わったようだ。」

白衣の男がそう言った。

すると、映司、比奈、後藤の三人と蓮、裕太と呼ばれた青年、そして白衣の男の三人を分断するかのように、銀色のオーロラのようなものが現れた。

「帰るんだな。」

後藤が白衣の男に言った。

「…さぁな。だが、少なくともこの二人は帰るべき世界に帰るさ。」

白衣の男が答えた。

「火野、世話になったな。」

蓮が映司に言った。

「また、会いましょう!」

映司は頷きながら言った。

やがて銀色のオーロラが消えると同時に、蓮たちの姿も見えなくなっていった。

 

映司が経験してきたことは、果たして現実のことだったのだろうか。しかし、映司の手には、城戸真司と繋がった感触が確かに残っていた。例え、住む世界が違ったとしても、いつか互いが互いの為に力を合わせる時が来る。そう信じて、映司は仲間たちと共に帰るべき場所へ向かって行った。

 

 

真司は、ふと振り返り、今出てきた硝子を見つめた。そこに当たり前のように映されていたのは、真司本人だった。その真司が勝手に動くことはない。つまり、もう一人の真司もまた、帰るべき場所へ帰ったのだろう。しかし、真司の手には何故か龍騎のデッキが握られていた。まだ、戦いは終わらないのだろうか。いや、使うべき時に使う。それは誰かを、何かを守るために。

「…。俺は戦う。火野や蓮、優衣ちゃんや、皆の為に。」

真司は、デッキを見つめながら呟いた。そして、帰ると約束した男の元へ、足を運ばせた。それを見届けた後、硝子に写し出されたもう一人の真司は、どこか満足そうにし、硝子の奥へと姿を消していった。

 

 




最終話、いかがでしたでしょうか。

映司たちが帰還する直前に立ちはだかった最後の敵。それは、榊原耕一でした。
彼の正体は、後に真司が言うように虚像の榊原。ヤミーとして存在していた14のライダーとは一人だけ異なる存在だったのです。
そして彼が真司を恨む原因、それが『13RIDERS』の一件が関与していました。ミラーワールドに取り込まれてしまった真司を助ける為に自身を犠牲にした榊原。デッキを託したことで、ライダーバトルを止めて欲しいと願っていました。
しかし、TVで放送された結末は、蓮の意思を継いで戦い続けるというものでした。これが、榊原の闇となっていたのです。
仮面ライダー龍騎は、平成ライダーシリーズにおいて、唯一のマルチエンディング(という表現が正しいかは別として)を持った作品であり、それらを統合させるため、鏡の世界のグリード・ネグが舞台装置として設定した部分もありました。榊原は、セルメダルを用いてもう一つの龍騎・アナザー龍騎へと変貌します。そう、『ジオウ』のアナザー龍騎です。しかし、こちらはウォッチではなくセルメダル由来の存在なので、『ジオウ』のそれとはまた異なる存在です。そんな榊原でしたが、ついに龍騎となって撃破した真司。そして、神崎士郎によって明かされた、真司と蓮の存在の真実。

真実の設定は、前にも示した通り『RIDER TIME』直後の『秋山蓮が恵里を助けるもそのまま力尽きてしまった』世界の真司。
では、蓮の設定は?
こちらの蓮は、TV最終回直後の平行世界の存在。つまり『真司が死に、オーディンを倒したが蓮は死ななかった』世界の蓮という設定です。こちらは本作オリジナルの設定です。
せっかく『RIDER TIME』があったにも関わらず、蓮は真司を庇って死んでしまいました。ならば!と思い、龍騎の1、2号ライダーを並ばさせたいという思いで、設定しました。しかし、最後は結局離れ離れとなる結末としましたが。

以上を持ちまして、本作本編は終了いたします。


が。
現実世界に帰還した時に、比奈、後藤と共にいた『「役目は終わった」と話す眼鏡の白衣の男』と『裕太と呼ばれた青年』。彼は一体何者なのか。
そもそも、秋山蓮はどうやって再びライダーとなったのか。

近日、サイドストーリーとして明かしていきますので、お楽しみ下さい。

最後までお付き合い頂きありがとうございました。今後もどうぞよろしくお願いいたします!


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EPISODE BIRTH KNIGHT
第1話


「火野が消えたって、一体何があったっていうんですか!?」

後藤慎太郎は、巨大企業鴻上ファウンデーションの会長・鴻上光生からある連絡を受けた。

 

『我が研究員・火野映司君の消息が途絶えた!』

 

警察官としての任務中に、かつての雇い主からそう告げられた。

それを聞いた後藤は考えるよりも先に動いていた。そして鴻上ファウンデーションの会長室を蹴飛ばして入室するや否や、全身金色のスーツを纏った恰幅の良い男に向かって言っていた。

「久し振りだねぇ、後藤君!!バースへの復帰を記念して、まずは祝おうじゃないか!!」

「お持ちしましたー。」

慌てる様子の後藤に対し、鴻上はニコニコと笑いながら言った。間もなく、同じくかつての同僚である女性・里中エリカがワゴンに大きな長方形型のケーキを運んで来た。それには、ご丁寧に後藤が変身する仮面ライダー、バースのイラストデコレーションが成されていた。

「ありがとうございま…って、そんな場合じゃないでしょう!!里中も!!」

相変わらずのマイペースである鴻上に飲まれそうになったが、我に返った後藤が怒鳴った。

「火野が消えたとは、どういうことなんですか!?」

まるで親に怒鳴られた子どものように悲しげな表情をした鴻上は、肩をすくめながら口を開いた。

「…再びヤミーが現れた。」

「やはり…。」

後藤は任務に当たっている最中、ヤミーと思われる怪物と戦っていた。しかし、ヤミーは欲望の化身・グリード無くしては存在できなければ、そもそもグリードは数年前にオーズとの激闘の末、全て撃破されている。したがってヤミーが単独で現れることはまずあり得ないのである。しかし、後藤はヤミーと実際に遭遇した上、鴻上の口からも語られたことを踏まえると、ヤミー、ひいてはグリードが存在しているという事実を受け入れざるを得なかった。

「しかし、グリードはオーズ…、火野によって倒されました。ヤミーが現れたと言うことは、新たなグリードが誕生したということなんですか?」

「詳しいことは、残念ながら私にもわからない!しかし、我が研究によれば、かつて火野君が破壊したグリード以外の存在は確認されていないのは確かだ!故に、火野君に新たなグリードの調査を命じたのだ!」

鴻上が言った。

「つまり、その調査の途中で火野さんが消えたってことになりますね。」

里中が言った。

「そういうことだ!」

「状況はわかりました…。しかし、火野の行方を探す、何か手立ては無いんですか?」

後藤が鴻上に聞いた。

「そこでだ!君に紹介したい人物がいる!入りたまえ!」

「どーぞぉ。」

鴻上と里中の合図を受け、研究員と思われる一人の男が入室してきた。

「っ!?お前は!?」

その男は、研究員らしく丈の長い白衣を纏い、黒縁の眼鏡をかけていた。しかし、白衣の下は眼に刺さるような鮮やかなピンク色のシャツと、黒いスラックスを身につけていた。取り分け眼につくのが、首から下げているカメラであった。

その研究員らしからぬ格好の男に、後藤は見覚えがあった。

「何だ、既に知った顔か!彼は我が財閥の研究員・門矢士君だ!」

「また会ったな、お巡りさん。」

門矢士と紹介された男が言った。

「会長、こいつは…!」

「そう!彼もまたオーズだ!」

鴻上が、後藤の言葉に被せるように言った。

「えっ…?」

「ただし!火野君のそれとは異なる、"偽のオーズ"だがな!」

鴻上は言った。

「偽の…?」

「オーズ!?」

里中と後藤が言った。

「偽のオーズではあるが、その力はかつてのオーズと同等のもの!火野君の捜査と共に新たなグリードの調査にも役立てられるだろう!後藤君!君はこの門矢君と共に事態の解明に務めてくれ!!」

「よろしくな。」

士が言った。

「ちょ…、待ってください!第一、何者なのかもわからないこの男と急に組めと言われても!」

後藤は強く反対した。

「俺は大体分かっているがな。」

一方の士は飄々とした態度で言った。

「はっきりと言おう!もし、新たなグリードと遭遇したとして、君一人で対処出来るのかね?」

鴻上が言った。

「…!」

後藤は言葉を詰まらせてしまった。グリードは自身のコアメダルが破壊されない限り倒すことは出来ない。そのコアメダルそのものが恐竜系の力を用いないと破壊出来ない上に、後藤が変身するバースにそのような力は無い。もっとも、火野映司と言えども現時点で恐竜系のコアを所有していないためグリードの撃破は叶わないとも思われるが。しかし、鴻上の言い様。裏を返せば、この門矢士のオーズならそれが可能ということを示していると言えるのだろうか。だとしたら、益々この男が何者なのか引っ掛かってしまう。

「彼は研究員としても優秀だ!それに、彼が何者なのかは問わない!彼にもまた、すばらしい欲望を持っている!それだけで十分だ!!」

鴻上が自信たっぷりに言った。

「そんな滅茶苦茶な…。」

後藤は呆れつつ言った。

鴻上は、人類が抱く欲望を一種の美として捉えている。この欲望こそが、人類の新たな進化に繋がる、と。その欲望の研究の過程で、グリードとオーズの存在を突き止めた。結果、鴻上の欲望で世界は破滅しかけたが、それでもグリード撃破の一役を担ったのも確かだ。

掴み所のない男。喰えない男。だが、この男の近くにいれば、世界を守る力が手にすることができるかもしれない。後藤はそう思ったから、鴻上ファウンデーションのライドベンター部隊の隊長を務め、バースの力を手にした。それ故に、後藤は鴻上の依頼を無碍にするつもりは無かった。

「…わかりました。何とかして、火野を見つけ、グリードの正体を突き止めます。」

「よろしく頼むよ、後藤君!!」

鴻上は満面の笑みで言った。

 

 

 

「おい…、どこへ向かってるんだ。」

すたすたと歩いていく士の後を追うように、後藤が歩きながら言った。

しかし、士は答えることなく、ただ歩いていった。

「大体わかっているって、あれもどういう意味なんだ?」

後藤は再度問いかけた。

「大体は大体だ。」

士は歩みを止めず、一言そう答えた。

「それに!俺たちは、お前のせいで戦隊とかいうよくわからない存在と戦わされて、散々な目に遭わされているんだ。信用なんか出来るか!」

「結果的に世界の平和は守れただろ。」

後藤は、数年前の出来事を思い出しながら言ったが、士は気にせんとばかりに答えた。

しかし、結局どこへ向かってるのか、後藤は皆目見当がつかなかった。

「おい!」

いよいよ苛立ちに耐えられず、後藤は口調を強めて士に言った。

すると、士はふと足を止めた。

そこは何の変哲もない、ただの商社ビルだった。目の前には硝子があり、オフィスのロビーを見ることができる。

「この中だ。」

士が言った。

「は…?」

「火野映司、仮面ライダーオーズは、この中にいる。」

「このビルの中に?」

後藤はビルを見上げて言った。

「違う。」

士が呆れるように言った。

「"この"中だ。」

士は硝子を指でコンコンと叩きながら言った。

「何を言ってるんだ?」

後藤が士に尋ねた。

「火野映司は、現実世界と鏡写しの世界、鏡の世界ミラーワールドに囚われている。」

士が言った。

「ミラー、ワールド?」

聞き慣れない言葉に、後藤は士に尋ねた。

「本来、ミラーワールドはこの世界に存在しない。元々は"龍騎の世界"に存在していた世界だ。」

「りゅう、き?の世界?」

困惑する後藤を余所に、士は言葉を続けた。

「だが、どういう訳かミラーワールドがオーズの世界と繋がった。そもそも、ミラーワールド自体もはや存在してないはずのもの。それが復活したことも気掛かりだな。」

士は、硝子を見つめながら言った。

「その、ミラーワールドの中に火野が囚われているとして、どうやって助け出すんだ?」

後藤が士に尋ねた。

「さあな。」

しかし、士の答えは後藤の期待したものではなかった。

「さあなって、大体わかっているんじゃないのか!?」

後藤が言った。

「状況は大体わかっているだけだ。それ以外のことはまだわからん。」

士はそう言うと、ピンク色をしたバックルを取り出した。

「ミラーワールドに突入するためには、龍騎の世界のライダーの力が必要だ。もっとも、俺ならそんなもの必要ないはずなんだが…。」

士はそう言いながらカードを一枚取り出した。

「変身。」

 

カメンライド・龍騎!

 

士は、カードをバックルに装填した。すると鎧の幻影が士の身体に幾重にも重なり合い、赤い身体のライダーに変身した。

「ちょっと見てろ。」

赤いライダーが言うと、硝子の中に吸い込まれるように突入していった。

「なっ!?」

後藤は何が起きたのか理解できなかった。しかし、間もなく硝子から赤いライダーが現れた。というより、硝子から弾き飛ばされたようにも見えた。

「うっ…く。」

赤いライダーは、軽やかに受け身を取って立ち上がると、直ちに変身を解いた。

「今のは?」

後藤が士に尋ねた。

「本来なら、あのままミラーワールドに突入できるはずだ。だが、行けても現実世界とミラーワールドを繋ぐ中継地点までで、そこから先へ行こうとすると今みたいに拒絶される。明らかに、何者かの意思によるものだ。」

ぱんぱんと手を払いながら士は言った。

「火野の居所はわかっても、そこへ行く手段がわからないんじゃ、どうすることも…。」

「そうとも限らないさ。」

諦めかけた後藤に士は言った。

「火野映司を救う手段はまだ残されている。」

そう士が言った時だった。

「映司君に、何かあったんですか?」

二人に声をかける女性の姿があった。

「泉比奈さん!?」

長い黒髪の女性・泉比奈だ。買い物の途中の所、後藤と士のやり取りに気づいたようだ。

「後藤さん、何が起きたんですか?」

「火野映司がこの世界から消えた。それだけの話だ。」

後藤の代わりに士が答えた。

「映司君が…、消えた!?」

士の答えを聞き、比奈は目を見開いた。

「ていうか、あなたもしかして海東さんのお友達の!」

「そんなんじゃない。」

やめろと言わんばかりに、士は言った。

「とにかく、何があったのか教えてください!」

そう言うと比奈は、後藤と士の腕を取って引いて行こうとした。

「ちょ、離せ!お前に関係ないだろ!てか、なんだこのバカ力!?」

「無駄だ。比奈さんの力には抗えない。」

抵抗しようとする士を傍目に、後藤は諦めて言った。

そして、後藤と士は比奈に引き摺られるように連れていかれてしまった。




サイドストーリー編
EPISODE BIRTH KNIGHT第1話、いかがでしたでしょうか。

本編に現れなかったものの、こちらで姿を現した世界の破壊者さん。彼と共に仮面ライダーバースこと後藤慎太郎、そして『オーズ』ヒロインの泉比奈がサイドストーリーの主役キャラとなります。

バックボーンとして、オーズ組と士は『スーパーヒーロー大戦』で既に面識があることになっています。
また、冒頭のやり取りは、筆者の前作『W&ドライブ』のエピローグから繋がっていますが、特別物語に関わることは無いので、そこまで意識していただくことはありません。

また、今後オリキャラも登場していきます。
次回もお楽しみに!


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第2話

比奈は、後藤と士を多国籍料理店クスクシエへ連れて行った。

「それで、教えてください。映司君に何があったんですか?」

店内のテーブルに二人を付かせた後、比奈は身を乗り出して言った。

「なぁに?映司くん、どこか行っちゃったの?」

女性の店主・白石知世子が丸で中世の貴婦人のような姿で尋ねてきた。

「あ、いや…。あいつ、またどこか旅に出たみたいで。実は、友達の誕生日祝いをしようって約束してたのにも関わらず勝手に行ってしまうもんですから、これから探しに行こうって話しです。」

後藤は適当な嘘を言った。すぐさま答えた後藤に、比奈は目を丸くしていた。

「まぁそうだったの~。映司君、旅するの大好きだものねぇ。あ!もしパーティーするなら、是非うちでやってちょうだい!貸し切りにしとくからねぇ。」

「あ、ありがとうございます。」

比奈が答えると、知世子は店の支度の為に厨房の奥へと行った。

「…彼女は、世界から何かの役割を与えられているのか?」

厨房の奥を見つめながら、士が言った。

「役割…?どういう意味ですか?」

比奈が士に尋ねたが、何でもないと言って、本題に戻った。

「火野映司が消えたのには、ミラーワールドが存在していた世界・龍騎の世界を探る必要がある。だから、これから龍騎の世界へ向かう。」

士が言った。

「その、りゅうきの世界っていうのは、どうやって行くんですか?」

「ついて来るつもりか?」

「え、はい。」

丸で当たり前だと言うように比奈は答えた。

士は溜め息を一つつくも、何かを察したように口を開いた。

「簡単だ。」

士は、どこを指すでもなく手をかざした。すると、店内に銀色のオーロラのようなものが現れた。

「これは!?」

後藤が驚いて言った。

「それって海東さんと同じ。」

一方の比奈は、一度見たことがあるためか特別驚く様子はなかった。

「一々海東を引き合いに出すな。調子が狂う。」

士が言った。

「このオーロラの先は、龍騎の世界になっている。こいつをただ潜るだけだ。」

「そんな簡単な。」

後藤が言った。

「…だが、いいのか?お前もライダーなら、ここを離れると都合が悪いんじゃないのか?」

士が後藤に尋ねた。

「…他にも仲間がいるから、心配はない。」

後藤が答えた。

「行きましょう!映司君を助けに!」

比奈が促すように言った。

「…行くぞ。」

士は、二人に先んじてオーロラの奥へ進んで行った。後藤と比奈もそれに続くようにオーロラの奥へと進んだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ある場所で、二人の騎士が戦っていた。一人は巨大な鋏を持つ橙色の騎士、もう一人は槍のような剣を持つ紺色の騎士だ。それぞれカードのようなものを使って戦っていた。カードの力でお互いが強く衝突する。橙色の騎士は、腰に装着された四角い物体が壊され、間もなく消滅した。

場面が変わった。今度は赤い騎士と対面していた。その騎士とは敵対しているハズなのに、どこかそれを望まない気持ちがあった。

 

『俺は絶対に死ねない!一つでも命を奪ったら、お前はもう後戻りできなくなる!』

 

赤い騎士が紺色の騎士に向かってそう言った。

また場面が変わる。今度は血を流し今にも息絶えそうな男が車に寄りかかっている。

 

『おい…!○○!!死ぬな!○○!!』

 

目の前の男に向かって叫んでいる。既に息絶えているにも関わらず。いつかはこうなることはわかっていたが、それを望んでいない自分がいた。しかし、この男は誰なんだ?

そして、金色に輝く騎士が目の前にいた。突如飛来した不死鳥と一体化し、強い光を発しながら脚を向けてきた。

それでも、紺色の騎士は剣を手にそれに応じた。そして…。

 

 

「うわあっ!!!!」

男は勢いよく体を起こした。全身汗に濡れていた。

「はぁっ…はぁっ…!」

「…蓮?」

男の名を呼ぶ女性の声がした。

男が振り向くと一緒に寝ていた女性が心配そうに見つめていた。

「どうしたの?」

彼女も寝ていたようだが、男の叫び声を聞いて起きてしまったようだ。少し眠そうな声で蓮に尋ねた。

「…すまない、嫌な夢を見たみたいでな…。」

蓮はそう答えると、再び身体を横にした。

「そう…。おやすみなさい、蓮。」

彼女も身体を横にして、眠りについた。

「…おやすみ、恵里。」

 

 

「さぁ…、大切なものを取り返したくば、我が身を斬ってみろ!」

黒衣を纏い、長大な剣を構える蓮。彼の目の前には、白い衣を纏う戦士が、同じく剣を携えていた。

「行くぞ!!」

戦士は剣を振りかざし、黒衣の蓮に迫る。

白い戦士の剣さばきは凄まじく、隙をみせれば瞬く間に切り刻まれるだろう。しかし、黒衣の蓮は焦ることなく白い戦士の剣戟をあしらっていく。

「その程度か!?」

黒衣の蓮は、斬撃を繰り出しつつ前に前にと詰めていく。

「くっ…!」

白い戦士は、黒衣の蓮の剣さばきに対応するも徐々に押されていた。

「ふんっ!!」

「あっ…!」

ついに白衣の戦士の手から剣が弾け落ち、地面に腰を落としてしまった。気がつけば、黒衣の蓮の剣先は、白い戦士の喉元を捉えていた。

「…あ。」

ここまで来て蓮はあることに気がついた。

「はい、カットカットカットぉぉ!!!!」

突然、怒声に近い声が響いた。

「ちょっとやり過ぎだよ秋山君~!!」

サングラスをつけた小太りの男が蓮の元へ近づいた。蓮は、白衣の戦士に扮していた青年の手を取り身体を起した。

「すみません…。」

「確かに秋山君の身体能力の高さは認めるよ~。でも、主役を喰っちゃうまでやらないでいいんだよ~。」

「いやでも、秋山さんいつにもまして演技凄かったですよ、監督!」

頭にタオルを巻いた男が小太りの男に言った。

「全く…。おーい、ちょっと休憩~!」

小太りの男の合図で回りにいた人たちが動き出した。

蓮は、俳優として活動していた。以前、街中を逃走する引っ手繰りを捕まえた時、その身体能力の高さが映画監督の目に留まりスカウトされたのだ。その時までは、特別定職に就いていた訳ではなかったため、蓮は二つ返事で承諾した。それからは今のように、主にアクション関係の作品に出演するようになっていた。

「秋山さん!」

休憩していた蓮の所へ、白い戦士役の青年が寄ってきた。

「さっきは済まなかった。気がついたら、やり過ぎてしまって。怪我は無かったか?」

蓮は青年に謝りながら言った。

「大丈夫です!でも、秋山さんのあの剣さばき、凄いです!どこで教わったんですか?良かったら僕にもアドバイスして頂きたいです。」

青年は目を輝かせながら言った。

「あ…あぁ。まぁ、そんな大したことじゃ、ないんだがな。」

蓮は少し戸惑いを見せたが、青年は気づいていなかった。

「おーい、そろそろ始めるぞぉ!!」

「はーい!じゃあ、行きましょうか。」

監督の合図を受け、蓮と青年は撮影に臨んだ。

 

「お疲れ様でした!今度は教えてくださいね!」

「あぁ…。」

撮影の仕事が終わり、蓮は帰路についた。

「教えろ、か。」

蓮は、ふとぼやいた。

先程の青年や監督は認めてくれてはいるものの、当の本人は、何故こんなにも動けるのか分からないでいた。自然と身体が動いていただけで、特別何かスポーツをやっていた記憶はない。

そう、記憶がないのだ。

蓮は、いつの日かの記憶が無かった。妻である恵里のことは覚えている。どこで出会ったのか。何がきっかけで付き合うようになり結婚に至ったのか。

しかし、恵里と出会い、結婚するまでの間の記憶が曖昧だった。

それまで、蓮はどこで何をしていたのか。まるで穴が空いたように、ぽっかりと抜け落ちているかのように。

何気なく生活していた蓮だったが、先の仕事からどうにも気になってしまっていた。

「俺は、何なんだろうな…。」

蓮がまた呟いた時だった。

ふと、蓮は視線を動かした。その視線の先には、建物の窓硝子があった。

「…。」

蓮は、硝子に近づいていく。そこに映し出されていたのは、紛れもなく自分だった。

「今、誰か俺を見ていたか…。」

蓮は硝子に手を当てながら言った。しかし、仕事の疲れだろうと思い、そそくさとその場から去った。

硝子の中から蓮の様子を疑っていた男の存在に気づかないまま…。

 

 

「ねぇ、蓮。天気もいいし、今日はお出かけしない?」

しばらく経ったある日、仕事が休みだった蓮に恵里が言った。

恵里の言う通り、晴れ晴れとした天候の下、公園には多くの人で賑わっていた。

「こうしてのんびり出来るのも久しぶりだね。」

恵里が言った。

「そういやそうだな。恵里は看護師で、俺は役者。中々休みも合わなかったからな。」

蓮が答えた。

「んん!出店がある!待ってて、何か買ってくるから!」

恵里はそう言うと、せかせかと出店の方へ向かっていった。

全く。蓮はそう思いつつ、近くのベンチに腰掛けた。

公園には、色々な人達が過ごしていた。家族連れや恋人同士、老夫婦。皆にこやかにしていた。蓮もまた、彼らの様子を見ながら自然と笑みがこぼれていた。

蓮は、空を見上げた。雲も少なく、快晴であった。しかし、蓮は空を見ながら、どこか違和感を感じていた。その瞬間、蓮は、突然何かが空を覆う景色が見えた。まるで蜻蛉のような化物がビルというビルから吹き出されるように現れ、町を破壊する場面。その化物に立ち向かう二つの人影。いや、人の形はしているが、人間には見えない何か。そして、その内の一人が車に寄りかかり、力尽きようとしていた。

「おい、◯◯!死ぬな、◯◯!」

 

「蓮!?」

「…っ!?」

蓮の目の前に、心配そうに見つめる恵里の顔があった。

「どうしたの?ずっとぼうっとして。」

恵里が言った。

「いや…、すまない。」

蓮は辺りを見渡した。何も変化はなく、人々が楽しげに過ごしていた。

「疲れてるの?だったら、帰ろうよ?」

恵里が言った。

「大丈夫だ。何ともない。」

蓮が言った。

「でも…」

「大丈夫だって!」

蓮は立ち上がって思わず声を上げてしまった。

「あ…、すまない、恵里。」

「最近、何だか変よ?どうしちゃったの?蓮。」

恵里が再び心配そうに言った。

その時だ。

「秋山蓮さん、ですね?」

蓮と恵里に近づいてくる、白いシャツに黒のスラックスを纏う青年がいた。

「そう、だが?」

蓮は突然声をかけられ驚きつつも答えた。

「香川英行をご存知ですか?」

青年が言った。




サイドストーリー編
第2話いかがでしたでしょうか。

序盤、士の説明を受け、後藤と比奈は龍騎の世界へ旅立つことを決意します。ちょっとだけ知世子さんも登場しました。

場面が変わり、記憶を失った秋山蓮の物語が始まりました。
本作本編でも示した通り、この蓮がいる龍騎の世界は、『龍騎こと城戸真司が死に、蓮がオーディンに勝利した』世界となっております。
龍騎本編最終回にて、蓮はオーディンとの戦いに辛くも勝利し、恋人恵里の元へ辿り着くも、その場で力尽きてしまいました。
ここでは、そのifストーリーとして、恵里の元へ辿り着き、何とか一命を取り留めたという設定を立てています。しかし、オーディンとの熾烈な戦いの代償として、蓮はライダーとして戦ってきた記憶を失ってしまっています。

ライダーとしての記憶を失った蓮は、日時生活において役者としての道を歩んでいます。
俳優として活躍する場面。某特撮作品をオマージュして設定しました。
ちなみに、恋人(本作においては妻)の恵里は看護師と設定しましたが、こちらは『RIDER TIME』の設定を拝借させて頂きました。

久し振りの休暇を蓮と恵里は共に過ごすも、蓮は失った過去を少しずつ思い出していきます。そんな彼に近づく一人の青年。

「香川英行をご存知ですか?」

彼の正体とは。


我ながら、龍騎の際どい設定を引っ張ってみました。次回、その正体が判明しますので、どうぞお楽しみに!


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第3話

前回お伝えした、蓮の前に現れた青年の正体。

明かされませんでしたm(__)m


「香川…?悪いが…。」

蓮は青年が口にした人物の名を呟いた。そして、知らない。と答えるつもりだった。しかし、蓮はその名を知っているような気がしていて言葉を詰まらせた。俳優業界の人間だろうか。

「わからないな。俳優の誰かか、制作関係の誰かか?すまない、俺もこの業界に入ってまだ…。」

「そうじゃありません。」

青年がきっぱりと言った。

「貴方はご存知のはずです。香川英行と貴方は、以前お会いしている。」

「何…?」

しかし、やはり蓮は香川という人物と会っている気がしていた。そんな記憶がないはずなのに。

「あの…。もしかしてどなたかとうちの主人と間違われているのでは?」

恵里が青年に言った。

「は…?そんなはずは…。本当にご存知ないんですか?」

青年は少し戸惑いを見せた。

「…そもそも、誰なんだ君は。」

蓮が青年に尋ねた。

「僕は…。」

青年が答えようとした時だった。

 

きゃあああああ!!!!

うわあああああ!!!!

 

突然、辺りが騒々しくなった。

「っ!!」

「何だ!?…あ、おい!!」

青年は、悲鳴が上がった方向へ走り出していた。

「ちょっと、蓮!?」

蓮もまた、青年の後を追って駆け出した。

「何だこれは!?」

蓮の眼にあり得ない光景が飛び込んできた。

「キシャァァァァ!!」

全身銀色をした、得たいの知れない化物が人々を襲っていた。それも1体だけでなく複数体も。

「逃げて、早く!!」

青年が逃げ惑う人達に叫びながら行った。しかし、青年は、逃げる人達とは逆方向、銀色の化物の元へ向かっていた。

「何を考えて!!」

蓮も同じく青年の方へ向かった。

「うわああ!!」

蓮は、子供が化物に襲われそうになっている所を見つけた。

「止せ!!」

蓮は走った勢いのまま、化物に体当たりをした。

「ンギッ!?」

「早く行け!!」

子供を逃がした蓮は、化物の方に身体を向けた。得たいの知れない存在。恐怖を感じるはずだが、不思議と蓮はそれを感じていなかった。

「ギギャ!」

化物が蓮に襲いかかる。

「はっ!」

蓮は、化物の攻撃をかわし、蹴りを浴びせた。しかし、化物の身体は堅くまともに蹴りが入った感触は無かった。

「ギィ!!」

「うわっ!?」

化物は、蓮の蹴りを何とも思っていないようですぐさま蓮に反撃した。

「秋山さん!!何故変身しないんです!?」

青年が蓮に言った。

「何を言っている!?」

蓮は青年に聞き返した。

「っ!」

青年は近くにあった建物の硝子に身体を向けた。

その時、蓮は再び不可解な現象を目撃した。

青年は懐から四角い何かを取り出し、硝子に向け突き出した。すると、硝子からバックルのようなものが現れ、青年の腰に装着された。青年は化物の方へ身体を向け、そして、四角い物体を宙に投げた。

「変身!!」

青年は投げた四角い物体を手に取り、バックルへ装着した。

すると硝子から鎧の幻影が幾つも現れ青年の身体に重なっていった。そして、青年は藍色に銀のラインが入った鎧を纏った。

「…あれは!?」

蓮は青年が変身した姿に見覚えがあった。しかし、それが何なのかは、未だに思い出せないでいた。

鎧を纏った青年はバックルに装填した四角いものからカードを一枚引き抜き、右腕の手甲へリードさせた。

 

SWORD VENT!

 

女性の音声と共に、硝子から刀身の細い剣が現れた。鎧を纏った青年は、剣を手に取り化物へ攻撃し始めた。

鎧を纏った青年は、化物を次々と切り伏せていく。

 

シャリンシャリン。

 

時折、化物からはメダルのようなものが血飛沫のように吹き上がる。

「数が多い!」

鎧を纏った青年は、再びカードを二枚のカードを引き抜いた。

 

SHOOT VENT!

 

TRICK VENT!

 

硝子の中から、拳銃に似た銃器が現れ、鎧を纏った青年の手に納まった。その瞬間、鎧を纏った青年から5体の分身体が生み出された。

「はっ!!」

「ンギッ!」

剣と銃を使い、分身体が敵を次々と撃破していく。

化物の数は、ついに最後の一体となった。

「逃がしません!」

鎧を纏った青年は、何かのクレストの描かれたカードを引き抜いた。

 

FINAL VENT!

 

硝子から、今度はバイクが一台飛び出した。

青年は、それに跨がると化物に向け、銃を放った。

「ギ!?」

銃弾は、まるで投網されたようにネットとして広がり、化物を捕らえた。

「はああああ!!!!」

青年は剣をバイクの外に向けながら、バイクを独楽の要領で高速回転させた。そして、速度の乗った刃が、すれ違い様に化物を両断した。

「よし…。て、あれ?」

青年は、安全を確認しながら元の姿に戻った。その時既に、蓮達の姿は無かった。

「しまった。せっかく見つけたのに。」

青年は肩を落としながらも、蓮達を探しにその場を後にした。

 

 

「今のは一体?」

遠くで戦闘を見届けていた比奈が、士に尋ねた。

「あれは、オルタナティブ。疑似ライダーだな。」

士が答えた。しかし、どこか曇った表情になっていた。

「…どうかしたのか?」

後藤が士に言った。

「…。龍騎の世界は、かつてライダーが存在していた世界。今となっては、ライダーバトルの果てにその全てが消滅した…。」

士が答えた。

「ライダーが消滅した?だが、あの疑似ライダーとかいうのは?」

後藤がさらに尋ねた。

「そればかりか、死んだはずの秋山蓮も、ここでは生きている。」

士は、妙だと言わんばかりに言った。

「それに…。さっきの化物。あれってヤミー、ですよね?」

比奈が士に言った。

「しかし、あの見てくれ。龍騎の世界の化物・ミラーモンスターそのものだ。何がどうなっている…?」

士が言った。

「…これからどうするんだ?」

後藤が言った。

「ともかく、この世界を調査する必要がありそうだ。まずは、聞き込みだな。」

士はそう言うと歩き始めた。

「聞き込みって…。というか、士さんのその格好は?」

比奈が士の姿を見て言った。

士はこの世界を訪れる前まで白衣を着ていた。しかし、今は背広にピンクの腕章を着けていた。

「どうやら、この世界ではATASHIジャーナルのジャーナリストらしい。この世界は、中々粋な計らいをしてくれる。いくぞ。」

「…どういう意味です?」

「…さぁ?」

士に促され、比奈と後藤は疑問を持ちつつも行動し始めた。

 

 

「行くのか、恵里?」

「うん。さっきの騒動で、人手が必要だから。」

公園での一件から逃れた蓮と恵里は自宅へ帰っていた。それから間もなく、恵里の勤める病院から連絡が入り、やむを得ず職場へ向かうこととなってしまったのだ。

「そうか。送っていくよ。」

蓮は黒いロング丈のジャケットを羽織りながら言った。

「いいよ、蓮だって怪我してるじゃない!」

「大丈夫だ。幸い掠り傷程度だからな。それに、恵里の身に何か起こった方が、俺は辛い。」

「…ごめんね、ありがとう。」

蓮はバイクに跨がり、恵里を自身の後ろに乗せ、走り出した。

「ありがとう、行ってくる。」

「ああ。行ってらっしゃい。」

病院に着き、恵里を降ろした蓮は、再びバイクを走らせた。

「せっかくの休暇だったのにな…。」

蓮は、バイクを走らせながら、ぼそっと呟いた。

ごく当たり前の日常が、突如現れた化物のせいで壊されてしまった。そもそも、あれは一体何だったのだろうか。それに、自身の前に現れた青年。彼は何かの力で鎧を纏い、化物と戦った。あの鎧。蓮は既視感があった。結局、それが何なのかはわからない。

ただ。

 

『何で変身しないんです!?』

 

青年は、蓮にそう言った。

変身。もし、青年が鎧を纏ったことを指すとしたら、自分にもそんな力があるのだろうか。だが、そんな記憶、蓮は持ち合わせていなかった。しかし、確かに記憶の欠落があるのは承知していた。それに、自分では説明できない身体能力の高さも、説明できるのではないか。だとするならば…。

「…まさかな。」

蓮は馬鹿馬鹿しいと思い、考えることを止めた。

仮に自分が鎧を纏って戦っていたとして、何のために戦うというのか。あんな化物相手に、危険過ぎる。正義のヒーローをしていたとでもいうのか。

やはり、自分も鎧を纏って戦っていたなど、到底信じられなかった。

暫くバイクを走らせていると、ある喫茶店が眼に入った。

せっかくの休日だ。そう思った蓮は、その喫茶店にバイクを停めた。

 

『TEA 花鶏』

看板に刻まれた文字に既視感を感じながらも、蓮は入店した。

店内はあまり広いとはいえない。しかし、それが返ってアットホームさを醸し出していた。どこか落ち着く店内には、男女3人の客がテーブルに着いている程度で、他に客はいなかった。

蓮は、目の前のカウンター席に着いた。

「すみません。」

蓮は、店の奥へ声をかけた。

「はーい。」

奥から、若い男の声が聞こえてきた。

「お待たせしてすみません。ご注文は?」

店員と思われる青年が尋ねてきた。

「珈琲は置いてないのか?」

「あ、お客さん初めてのご来店ですね?うちは紅茶専門店でして、珈琲は置いてないんですよ。」

店員が答えた。

「そうだったのか。すまない。」

「いえいえ。もしよろしければ、こちらで紅茶を用意しても?うちの店長が直接作るものでして、オススメですよ?」

店員がにこっと笑いながら言った。

「じゃあ、それを。」

「ミルクとシュガーは?」

「ストレートで頼む。」

「かしこまりました。」

店員は、厨房の奥へ向かった。

「母さん、紅茶頼まれたよ。え?違うよ、母さん。男の方だよ。まったく…。」

奥の方で店員が言っていた。

暫くすると、店員が紅茶をもって現れた。

「お待たせ致しました。」

「店長って、君のお母さんなんだな。」

蓮が尋ねた。

「え…、聞こえてましたか?お恥ずかしい。」

また店員がニコニコしながら言った。

「この程度の規模ですから、昔は僕の母が切り盛りしていたんです。最初は一人で頑張っていたみたいなんですけど、従姉妹の姉さんや、何人かバイトの方がお手伝いしていたらしいんです。」

「そうか。」

「ただ、いつしかそのバイトの方も従姉妹の姉さんも姿をくらましちゃいまして…。」

「姿を?」

蓮が言った。

「はい…。特に、従姉妹の姉さんが消えてしまったことが、かなりのショックだったみたいで、それから何だか生きようとする気力というか、弱々しくなってしまったんです。お店を閉じようとしたんですけど、それを聞いて、僕がお店を続けようとこうして何とかやってるって訳です。」

店員が言った。

「そうだったのか。すまない、聞くべき話じゃなかったな。」

蓮は店員に謝った。

「あ、いえいえ。僕が勝手に話しただけですから。それにお陰さまで繁盛とはいかないですが、お客さんも来てもらえて、お店が続けられてますし。母さんも、紅茶を作ることで、ある種の気晴らしにしてるところもありますから、今さら閉じようとは思いませんよ。」

「そうか。」

蓮は微笑んだ。

「…あ、すみません。ずっとべらべらと喋ってしまいまして。ささ、当店自慢の紅茶をお楽しみください。」

店員はペコッと頭を下げると、再び厨房の奥へ消えていった。

蓮は、紅茶をポットからティーカップへ注いだ。紅茶独特の香りが鼻を通っていった。なるほど、香りだけでもとても美味しそうだ。

蓮は一口、紅茶を口に含んだ。程よい温度のせいか、口の中を紅茶の風味が広がっていく。糖類を入れた訳ではないのに、この紅茶の特徴なのか、仄かな甘味が舌の上を通っていく。喉を通り過ぎると、幸福感が身体全身に広がっていくのを感じられた。店内の雰囲気と合わさり、穏やかな気持ちになった。

そして、どこか懐かしさも感じていた。

 

「あのぅ…。」

暫く紅茶を楽しんでいる蓮に、先程テーブルに着いていた女性が声をかけた。

「何か?」

蓮が言った。

「俳優の、秋山蓮さんですよね?」

女性が言った。

「そうだが、君は?」

「あ、えと…。私は…。」

ガタッ!

女性が答えたかけたとき、さらにテーブルに着いていた男が立ち上がり、蓮の元へやってきた。

「やはり秋山蓮さんでしたかぁ!失礼、わたくしATASHIジャーナル編集部の、門矢士です。」

男はそう言いながら、名刺を蓮に渡してきた。名刺には男の名前と所属、そして、バーコードのようなマークが記されていた。




サイドストーリー編
第3話、いかがでしたでしょうか。

前回、蓮に接触してきた謎の青年。突如、出現した化物を相手に、鎧を纏って戦い始めます。それは、後に士が言い当てた、疑似ライダー・オルタナティブ。その発展型・オルタナティブ・セカンドです。設定は以下の通りです。

〈オルタナティブ・セカンド〉
かつて香川英行と仲村創が変身した疑似ライダー・オルタナティブシリーズの発展型。香川の死亡と教え子東條悟の暴挙により、香川がまとめていたミラーワールド関連の資料は殆ど消されてしまった。しかし、研究室とは別の場所で保管されていた『香川の手記』に記されたものを元に、新たに開発されたのがオルタナティブ・セカンドである。今までのオルタナティブシリーズの黒い体色に金のラインが入っていたものと違い、体色はネイビーブルーで銀のラインが入っている。
基本スペックはオルタナティブ、オルタナティブ・ゼロと同等であるが、アドベントカードの種類が増えていて多彩な攻撃を繰り出すことが可能となっている。しかし、オルタナティブ・セカンドが開発された時点では、既にミラーワールドは閉ざされていた為、ミラーモンスターと契約してはおらず、FINAL VENTも独自のものになっている。また、ミラーワールドへ突入する機能も備わっていない。

このオルタナティブ・セカンドを纏う青年の正体とは。

また、龍騎の世界へ訪れた士一向でしたが、既にライダーのいない世界となっているにも関わらず、疑似ライダーの存在や死亡したはずの蓮の存在から、士は違和感を覚えます。
今回、士に与えられた役割は『ATASHIジャーナルのジャーナリスト』。ディケイド本編における龍騎の世界に存在していた出版社です。

終盤、ついに蓮と士が対面します。
物語の行く末は。

次回もお楽しみに!


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第4話

数時間前

 

 

士達は、あるビルの前に立っていた。そのビルの表札にはいくつか企業名が連なっていたが、一つだけ空白となっていた。

「ここに何かあるんですか?」

比奈が士に尋ねた。

「…。」

しかし、士は難しい顔をしながら黙っていた。

「聞いているのか?」

後藤が苛立ちながら言った。

「ああ。」

と、士は答えるもそれ以外に言葉を発しなかった。

「あの…。」

士達に声がかけられた。振り向くと、そこにはビジネススーツに身を包んだ女性が立っていた。

「このビルの関係者か?」

士は女性に尋ねた。

「昔はそうでした。でも、今は違います。」

女性が答えた。

「今は?」

後藤が言った。

「はい。…えっと、あなた方こそ、ここの関係者ですか?」

女性が言った。

「いや、違うが。あることを調べていてな。」

士はそう言いながら、懐から名刺を取り出し、女性に渡した。

「申し遅れたな。俺たちは、ATASHIジャーナルの記者だ。俺は門矢士だ。」

「アタシジャーナル…?」

女性が名刺を見ながら言った。

「以前、ここにはOREジャーナルが存在していたな?俺たちは、そこに勤めていた城戸真司について調べているんだが…。」

「城戸真司…!?」

女性は目を丸くしていた。

「何か、ご存知なんですか?」

比奈が女性に尋ねた。

「…場所を変えて話しましょう。」

女性に促され、士達は移動した。

 

しばらく歩いた後、士達は街中のカフェに案内された。

「それで、あんたは何か知っているのか?城戸真司について。」

士は女性に催促するように言った。

「…えぇ。城戸真司は、元々うちのジャーナリストでしたから。」

「うちの、というのは?」

後藤が言った。

「あ…、ごめんなさいね。まだ私も名前言ってなかったわ。」

そう言いながら、女性も士達に名刺を渡した。

「フリージャーナリスト、桃井令子さん?」

比奈が言った。

「私は元々、OREジャーナルに勤めていたの。あなた方がさっきいたビルの一角にあったのよ。時代の移り変わりに耐えられず倒産しちゃったけどね。」

令子が言った。

「なるほど…。」

後藤が頷いた。

「それで、城戸真司さんは…。」

「…死んだわ。」

「え?」

比奈が言い切る前に令子が言った。

「覚えているでしょ?10年前にあった、化物の襲撃事件。それで真司君は死んだの。」

令子はコーヒーを啜って言った。

「ミラーワールドの崩壊による、ミラーモンスター達の現実世界への進撃、か。」

士が言った。

「そんなことまで、よく知っているわね?」

令子が怪訝そうに言った。

「ま、これがATASHIジャーナルの力ってやつだ。」

士が言った。

「そう…。それで、あなた方はどうして真司君のことを調べているの?」

令子が尋ねた。

「ジャーナリストの先輩として聞きたいことがあったからな。ただ、その事故で死んだのなら、それも叶わなくなってしまったがな。」

士が言った。

「…もう一つ、お伺いしてもよろしいですか?」

今度は後藤が言った。

「何かしら。」

「秋山蓮という男について、何かご存知ではないですか?」

「秋山…。彼、確か俳優よね?」

令子が言った。

「ええ。秋山蓮は、城戸真司とも繋がりがあったと聞いたことがありまして。」

「あ~…、そういえばそうね。」

令子が言った。

「確かに、城戸君、蓮蓮ってうるさかったことあったわね。彼が何か?」

「秋山蓮にも会いたいのですが、有名人ですから、中々簡単にはお会いできないもので。」

後藤が言った時、令子はさらに眉間に皺を寄せた。

「…何か彼の弱味でも掴もうとしているの?」

令子が言った。

「え?いや、そういう訳では…。」

しかし、何かスイッチが入ったのか、令子は口火を切ったかのように言葉を続けた。

「最近、そういうのが流行りなのかしらね。著名人の弱味を掴んでスキャンダルにするの。確かに、人ってそういうスキャンダラスな話は大好きですし、そうすればお金儲けにもなるからね。でも、人を陥れてまで儲けたいのかしら。それとも偽善?」

黙る3人に対し、令子はお構い無く言葉を続けた。

「私たちの仕事って、真実を突き止めて皆に知らせること。大きなことから小さなことまで。いいのよ。どこかの誰かみたいに、金のザリガニを真相を暴くでも。それで誰かが楽しんでもらえればね。それに、この仕事ってある種の人助けにも繋がるわ。悪事を働く人を成敗するという意味でね。でも、最近は儲かればネタは何でもいいって感じがして、自分たちのことしか考えてない、そんなような情報しかないの。」

令子はため息をつきながら言い続けた。

「あなた達もそうなんでしょ?だったら、仮に秋山蓮のことを知っていたとしても、あなた達に話すことはないわ。じゃあ、私はこれで失礼するわね。」

令子は話すだけ話して立ち去ろうとしていた。

「待て。あんたは勘違いしている。」

士は令子を呼び止めた。

「勘違い?」

「俺達は、秋山蓮のプライベートなんてどうでもいい。」

士が言った。

「なら、何で秋山蓮に会おうとしているのかしら?」

令子が言うと、士は懐から再びカードを取り出した。

「これが答えだ。」

そのカードには、龍騎の世界に突入する前に、後藤の前で変身した赤い龍の仮面ライダーの絵柄があった。

「これって…!」

令子は再び目を丸くした。

「見覚えがないか?」

「直接は見たことないわ。でも…、これって城戸君よね?」

令子が言った。

「そうだ。仮面ライダー龍騎。城戸真司が変身し、ミラーワールドで戦っていた姿だ。」

士が言った。

「そして…、そのミラーワールドが再び開かれたかもしれない。」

「え…?」

「10年前の惨劇が、また繰り返される可能性がある。」

士が言った。

「そんな…。」

「だから、城戸真司、そして秋山蓮を探しているんだ。もっとも、城戸真司はもうこの世にいないらしいがな。」

士が言った。

「…。」

令子は暫く黙っていたが、やがて口を開いて言った。

「花鶏。」

「花鶏?」

後藤が聞き返した。

「ごめんなさい。私も、秋山蓮のこと詳しくは知らないの。ただ、真司君はいつもカフェ花鶏に行ってたわ。暫くそこに住み込みでアルバイトしてたことも。もしかしたら、そこに行けば何かわかるかもしれないわ。」

令子が答えた。

「そうか。大体わかった。」

士はそう言うと、席を立った。

「あなたは一体…?」

令子が尋ねた。

「俺は、通りすがりの仮面ライダーだ。じゃあな。」

士はそう言うと、カフェを出ていった。

「あ…、ちょっと。あのこれお代置いときますから!」

比奈もお金を置いて士の後を追った。

「全く…。一応これお貸しします。何かあったら使ってください!失礼します!」

後藤はそう言いながら小さな缶のようなものを令子に渡して、同じく士の後を追った。

 

 

「大体わかったって言っているが、結局何がわかったんだ?」

令子の示した場所、カフェ花鶏に着いた士達は、各々紅茶を頼み席についた。そして後藤が士に尋ねた。

「お前達に、龍騎の世界について、詳しく話してなかったな。」

士が言った。

「ライダーバトルの果てに、ライダーがいなくなった世界、でしたっけ。」

比奈が言った。

「手っ取り早く伝える為、そうは言ったが、正確に言えばそれは間違ってはいる。」

士が言った。

「龍騎の世界。それは、ミラーワールドの中で13ものライダー達が、己の願いを賭けて戦っていた世界だ。」

「願いを賭けて?」

後藤が言った。

「ああ。だがその実態は、神崎士郎という男が、不慮の事故で死ぬ運命にあった妹を助けようと、自分で作り上げた最強のライダーに勝たせるという、仕組まれたゲームだったがな。」

士は言葉を続けた。

「だが結局、神崎士郎の思うように戦いは終わらず、その都度ゲームをやり直していたらしい。果てには全ライダーの消滅と、肝心の妹が兄の暴挙を止めようと働きかけた為、ライダーバトルは"最初から無かった"ことになったはずだった。」

そこまで話して、士は再び顔をしかめた。

「無かったことに?でも、あの桃井令子さんは、そのミラーワールドのこと覚えていましたよ?」

比奈が言った。

「それで確信を得た。」

士が言った。

「戦いの末、死んでいったライダー達も、バトルが無かったことになった為一般人として生活しているはずだ。しかし、この世界では龍騎だった城戸真司は死んだことになっている。さらには、存在しないはずの疑似ライダーの存在、死んだはずのライダー秋山蓮、そして、覚えていないはずの桃井令子の記憶…。どうやらこの世界は、"俺の知る"龍騎の世界とは違うようだ。」

「何だと?」

後藤が聞き返した。

「ここはおそらく、秋山蓮が仮面ライダーナイトとして最後に勝ち残った、もう一つの龍騎の世界。言わば"ナイトの世界"と呼べるのかもな。」

士が言った。

「ナイトの世界…。でも、私達は龍騎の世界へ向かったはずです。間違えて来てしまったのなら、早く龍騎の世界へ行かないと!」

比奈が言ったが士は首を横に振った。

「いや…。俺も始めから龍騎の世界を目指していた。だが、ナイトの世界にたどり着き、こうして世界から役割を与えられたのなら、俺達がこの世界へ訪れたのは正解であるはずだ。」

「つまり、俺達の認識がそもそも間違っていたというのか?」

後藤が言った。

「え?」

比奈が後藤に聞き返した。

「俺達は、火野を助ける為の手がかりが龍騎の世界にあると踏んでいた。だが、そうじゃなかった。その手がかりは、このナイトの世界にある。そういうことでいいんだよな、門矢士?」

後藤は士に言った。

「そういうことだ。中々冴えているな。」

ふんと鼻を鳴らして、士が言った。

「そして、ここに秋山蓮が現れるはず。そうすれば、ミラーワールドや火野映司のことも、何か手がかりが掴めるかもしれない。」

「なるほど…。」

比奈が頷いた。

 

ガチャっ…。

 

店のドアが開き、黒いロングコートを羽織った男が入ってきた。

「ほら、来たぞ。」

士が男を見て言った。後藤と比奈も男を見た。それは数時間前にヤミーが現れた公園にいた秋山蓮だった。

「珈琲は置いてないのか。」

蓮が店員とやり取りを始めた。

「さて…。おい、先にコンタクトしてこい。」

士が比奈に言った。

「え、私!?」

「まずはあいつが本当に秋山蓮かどうかを確認してこい。確定した時点で俺も動く。」

「で、でも…。」

「ほら、行け。」

比奈が躊躇していると、士は比奈の背中を押した。そして、比奈は転ばんと踏ん張った所、いよいよ蓮の側まで行ってしまった。

「(行けっ)」

士は、顔をくいっと動かし、比奈を促した。

比奈は後藤に視線を送るも、後藤も諦めたかのように首を横に振っていた。

「あのぅ…。」

観念した比奈が蓮に声をかけた。

「何か?」

蓮が言った。

「俳優の、秋山蓮さんですよね?」

比奈が言った。

「そうだが、君は?」

「あ、えと…。私は…。」

 

ガタッ!

 

比奈が答えたかけたとき、士がテーブルから立ち上がり、蓮の元へやってきた。

「やはり秋山蓮さんでしたかぁ!失礼、わたくしATASHIジャーナル編集部の、門矢士です。」

士は、蓮に名刺を渡した。




サイドストーリー編
第4話いかがでしたでしょうか。

第3話の裏での出来事でした。
本作本編にて、OREジャーナルの大久保編集長が搭乗しましたので、今回は元OREジャーナルジャーナリスト桃井さんを登場させていただきました。

桃井さんと接触したことで、士達は自分達が目指していた世界が龍騎の世界ではなく、龍騎のパラレルワールドにあたる"ナイトの世界"に訪れていたことを認識しました。
龍騎の設定は、神崎士郎が優衣に新たな命を授ける為、何度も戦いを繰り返したことになっています。この設定を活かし、可能性の一つとしてナイトが勝利した世界を設定しました。こちらは本作本編でも触れています。

そして、いよいよ士達と蓮の対面。
どうなるのか。

次回もお楽しみに!


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第5話

「門矢…士?ジャーナリストか。悪いが取材は事務所を通して…。」

「事務所からの許可は頂いていますから、ご心配なく。」

士はそう言いながら、懐から許諾書のような紙を一枚、蓮に見せた。

「いつの間に…。」

後藤はぼそっと呟いた。

「事務所からそんな話聞いてないが…。店の迷惑にならないか?」

「お構い無くぅ!」

厨房から店員の声が響いた。

「…はぁ。わかった、何が聞きたい?」

蓮は取材にしぶしぶ承諾した。

「では、さっそく。…ほら。」

士は、突然後藤に促した。

「は?何で俺が?」

「いいから。」

士はピンクのカメラを構え、写真を撮り始めた。

「…じゃあ、まず俳優になったキッカケを…。」

「おい。何を真面目に取材しようとしてるんだ?」

後藤が言い出した途端、士が口を挟んだ。

「くっ…、だったらお前がやれよ!」

後藤が言った。

「全く…、出来の悪いアシスタントだな。」

士がはぁ、と溜め息をついた。

「こんの…。」

「後藤さん、堪えて!」

比奈が後藤を宥めるように言った。

「…コントを見せる積もりなら他を当たってくれ。じゃあな。」

3人の様子を見ていた蓮は、大きな溜め息をつきながら言った。そして、席を立ち店を出ようとしていた。

 

ガチャっ

 

再び店の扉が開いた。

「見つけましたよ、秋山さん。」

「!?お前は…!」

店に入ってきたのは、あの時オルタナティブと呼ばれる疑似ライダーに変身した青年だった。

「よく思い出してください!貴方は間違いなく、香川英行をご存知のはずです!」

青年が蓮に詰め寄りながら言った。

「知らないものは、知らない!そう言っただろう!」

「いいや、あんたは知ってるはずだ。」

蓮が青年に答えた瞬間、士が口を挟んだ。

「…何だと?」

蓮が言った。

「あなたは…?」

青年もまた士達の存在に気づいた。

「その青年がいう香川英行。いや、オルタナティブ・ゼロをあんたは知っている。それは、あんたもライダーとして戦っていたからだ。」

「俺が…、ライダー?…うっ!?」

蓮は、突然頭痛が走ったことで頭を抱えた。

その瞬間、黒い鎧を纏った二体の騎士が戦っている光景が浮かび上がった。

「…あり得ない。そんな筈はない!!」

蓮はそう言うと足早に店を出ていってしまった。

「あ…、いいんですか?」

比奈は、蓮が出ていった扉を見つめながら士に言った。

「良くはないが…、あの様子なら、失われた記憶を刺激したようだし、まぁ問題はない。」

士はそう言うと再びテーブルに着いた。

「あの…、あなた方は一体…?」

青年が士達に尋ねた。

「あ、私は…。」

「お前こそ何者だ?ライダーは全て消滅したはずだが、何故オルタナティブに変身できる?」

比奈が名乗ろうとしたが、士が遮り青年に聞いた。

「何故、オルタナティブ・セカンドをご存知なんですか?」

青年は目を丸くして言った。

「まぁ…こちらも色々と訳ありでな。」

士が言った。

「…失礼しました。確かにこちらから名乗るべきでしたね。僕は、香川裕太といいます。」

青年・香川裕太はそう名乗った。

「香川…?香川英行の…。」

「はい。息子です。」

士の問いに裕太は答えた。

「父を知っているのですか?」

「大体な。」

「それに、あなたは秋山さんについても何かご存知の様子…。あなたも、もしかしてライダーなのですか?」

裕太が士に尋ねた。

「通りすがりのな。ただ、俺とこいつは、この世界のライダーじゃない。」

士は後藤を指しながら言った。

「どういうことです?」

裕太の問いに対し、士は、後藤達に説明したことと同じことを裕太に話した。

「にわかには信じがたいお話ではありますが…。では、あなた方は、仲間のライダーである火野映司さんを探しにこの世界へ来た。ということですか?」

裕太は士の話したことを確認した。

「そういうことだ。」

「今度はこちらの番だ。君は何故秋山蓮にコンタクトを取ろうとしているんだ?」

後藤が裕太に尋ねた。

「…父を探しているんです。」

「父を?」

後藤が言った。

「父は、僕がまだ小さい頃に姿を消しました。警察にも遭難届けを出したのですが、結局見つからず…。母も、父が行方不明になったことで憔悴しきってしまい…、数年前に亡くなりました…。」

裕太がうつむきながら言った。

「それから、父は死んだことになり、遺品整理をしている中で、これを見つけたんです。」

裕太はスラックスのポケットから古びた手帳を取り出した。

「それは?」

後藤が尋ねた。

「父が残した日記です。ここに、ライダーバトルのことが事細かく書かれていました。それで、父がこのライダーとして戦っていた事を知りました。」

「…だったら、察しがついているんじゃないのか。」

士が言った。

「それは…。分かっているつもりです。正直、この日記を見つけるまでは生きていてほしいと願っていました。でも…。ただ。」

「ただ?」

比奈が言った。

「ライダーバトルは、ライダー達が己の願いを掛けて戦うと、これには記されています。馬鹿げたことだとも書かれていましたが。それでも、父は疑似ライダーとなって戦う事を選んだ。父が何を掛けて戦ったのか。それを知りたいんです。」

裕太が言った。

「知ってどうする?」

士が言った。

「分かりません…。でも、もし父がライダーとして戦い、志半ばで倒れたのなら、その意思を僕は継がなくちゃいけないと思うんです。だから、僕もライダーとなる道を選んだんです。」

裕太は、デッキを見せて言った。

「父の日記には、オルタナティブの開発データも遺されていました。それを基に、次世代型オルタナティブシリーズ、セカンドを開発しました。残念ながら、ミラーワールドへの突入機能までは再現できませんでしたが。」

「しかし、この世界のライダーは皆死んだのだろう?今更ライダーとなる理由は何だ?」

後藤が裕太に尋ねた。

「セカンドは、対ライダー戦を想定していません。強いて言うならば、これが僕の正義なんです。」

裕太が言った。

「正義、ねぇ。」

士がぼそっと言った。

「でも、その力でさっきはヤミーを倒せましたよ!凄いですね。」

比奈が感心して言った。

「あ…、いえ、そんな大したことでは…。ええっと…。」

裕太は何故かたじろぐ様子を見せた。

「えへん…。そうそう、秋山さんですが、父の日記に記されていたライダーの中で、彼だけは生きていたんです。だから、父の最期を知っているのではないかと思って…。」

裕太は咳払いをしながら言った。

「だが、肝心の秋山はライダーだった頃の記憶を無くしている。骨が折れるな。」

士が言った。

「…手を組みませんか?」

裕太が言った。

「何?」

士が言った。

「目的は違えど、秋山さんを目標としていることは同じなのですから。一緒に秋山の記憶を取り戻すのは、どうでしょう。」

「そんなことをして、何のメリットが…。」

「いいじゃないですか!そうしましょうよ!」

後藤が言う前に比奈が提案に乗った。

「映司くんを見つける為にも、ね!」

「あ、えと…。い、いかがでしょうか?」

裕太が、比奈から視線を反らして言った。

「…まぁ、早いとこ何とかしないと、お前らオーズの世界の消滅も早まってしまうからな。仕方がないか。」

士が言った。

「…分かりました。」

後藤もやれやれと言わんばかりに言った。

「じゃあ、日を改めて、秋山さんを探しに行きましょう!」

「そうだな、今日の所は休んで、秋山蓮を探すのは明日だな。」

裕太の提案に後藤と比奈は承諾した。

「それでは、また。」

裕太は、そう言って店を出ていった。

「私たちも、宿を探しましょうか。」

「そうだな。」

比奈と後藤も店を出ようとした。

「…。」

「どうかしたか?」

後藤は、鏡を見つめている士に言った。

「…先に行け。後から追い付く。」

士が後藤に言った。

わかった。と一言言い残し、後藤は店を出た。

 

「…こそこそ隠れていないで、さっさと出てきたらどうだ?まぁもっとも、"そこ"からは出られないようだがな。」

士が鏡に向かって言った。

すると、鏡の縁から、ベージュのロングコートを着た細身の男が姿を現した。士の後ろに立っているのだが、士が振り返ってもそこには誰も立っていなかった。

「神崎士郎、だな?」

『…お前が世界の破壊者・ディケイドか。』

細身の男・神崎士郎が言った。

「光栄だな。ミラーワールドの創造主様にも周知して頂けていたとはな。」

士は大袈裟に言った。

「…だが、本来ならあんたはとっくの昔に消滅しているはずだ。それが、何故…?」

『この世界の俺は、な。』

士の問いに、神崎が答えた。

「どういうことだ?」

『ミラーワールドが、いくつもの世界と繋がった。ミラーワールドを再び開いた、異物を排除する為に。俺は、その繋がった世界から来た。』

神崎が言った。

「なるほどな。あんたは、妹を助けたいが為に何度もゲームをやり直したらしいからな。その数だけ、平行世界がいくつも生まれたという訳か。それで、平行世界にいたあんたが、ここに現れた理由は何だ?」

士は、神崎に尋ねた。

『門矢士。秋山蓮の、ライダーとしての記憶を取り戻せ。偽りのライダーバトルを終わらせ、ミラーワールドを閉ざす為にも。それが、お前達の望みを叶えることにも繋がる。』

「ミラーワールドを閉ざす?」

士は、神崎の言葉に違和感を感じた。

「ミラーワールドはあんたが作り出した世界だろ?妹に新たな命を授ける為に。秋山蓮をライダーとして送り出し、世界を閉ざす。それに何の意味がある?寧ろ、ライダーバトルを継続させる方が、あんたにとって都合がいいんじゃないのか?」

「…優衣は、それを望んでいない。」

士の問いに、神崎は一言答えた。

「…そうか。」

士もまた、それ以上追及しなかった。

『余り時間はない。急げ。秋山蓮の記憶を取り戻せ。』

神崎は士にそう言うと、鏡の額縁の外へ消えていった。

「誰かに指図されるのは好きじゃないが、仕方がないか。」

士もまた、店の外へ出ていった。

 

 

俺が、ライダーだった?

蓮は士とかいう男の話が信じられなかった。しかし、ライダーだったという話を聞いた瞬間、ライダーと思われるビジョンが見えた。前に夢に見た光景にそっくりな。

やはり、自分はライダーなのか。だとするならば、何故、自分にライダーとしての記憶がないのか。

「俺は、一体何なんだ。」

自宅へ戻った蓮は、洗面台の鏡を見つめて言った。すると、一瞬だが、蓮の顔を仮面が覆い被さった。

「!?」

蓮はすぐさま水を流し、顔を洗った。何度も何度も。

「はぁ…、はぁ…。」

蓮は再び鏡を見た。そこには、水が滴りながらも困惑している蓮の顔をが映っていた。




第5話、いかがでしたでしょうか。

ようやくオルタナティブ・セカンドに変身する青年の正体が明かされました。

香川裕太。龍騎本編でもちょろっと出てきた、香川英行の息子です。
前回明かされたナイトの世界において、唯一ライダーの肉親として残されていたのが彼だったので、一種の舞台装置として登場させました。
そして、裕太が蓮を探す理由。それは、父・英行の最期と彼の遺志を知る為でした。
目的は違えど、蓮を探す裕太と士達一行は協力することを約束しました。

そして後半、士の前に、龍騎の世界での全ての元凶である男・神崎士郎が現れました。彼の望まない形で開かれてしまったミラーワールドを閉ざす為に、神崎もまた蓮を追っていました。

そんな蓮も、徐々にライダーとしての記憶を取り戻しつつあります。蓮は、再びライダーとして、ナイトとして立ち上がることができるのでしょうか。

次回もお楽しみに!


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第6話

翌日になっても、恵里は仕事が終わらず帰って来なかった。蓮は、撮影の為現場へ赴き、自身の仕事に務めた。この日は、自信が出るシーンが短い為、仕事も昼前に終わった。

蓮は昼食を取るべく、適当にバイクを走らせ、街の中にある広場へ向かった。そこでお昼の店を探している時、それは聞こえてきた。

 

 

 

キィーン…キィーン…。

 

 

 

「うっ!?」

突然、硝子を爪で引っ掻くような不快な音が響き始めた。

「な、何だ!?」

蓮は辺りを見渡した。音の方へ視線を向けると、そこには窓硝子があった。一枚だけではなかった。至る所にある硝子や鏡から音が響いていた。

そして、鏡の中から全身銀色の化物が現れた。それも複数も。それは先日に見た化物に似ていた。

「キャアアアア!!」

「わああああ!!」

化物による突然の破壊行為に、人々は逃げ惑っていた。

「くそっ!」

蓮は、考えるより先に走り出していた。

前に挑んだ時も、化物に敵わなかった。しかし、だからといって襲われる人を見過ごす訳にもいかなかった。

「はっ!!」

蓮は、化物に体当たりをした。

「逃げろ!!」

襲われていた人を逃がした蓮は、再び化物を前に構えた。

蓮の回りには、化物によって破壊されたテーブルのパラソルの柄が落ちていた。蓮はそれを拾った。

「ギイイイイ!!」

化物が蓮に迫る。

「ふん!」

蓮は手にしたパラソルの柄を振るい、化物に関節を狙って打ち込んだ。

「ギッ!」

関節を攻撃されたことで、化物は一瞬怯んだ。

「はっ!」

怯んだ化物に、蓮は回し蹴りを放った。

「うおおおお!!」

蓮は再び傘の柄を振るった。しかし、化物が腕で柄を弾いた。

「くっ!?」

「グワゥ!!」

「うわっ!!」

別の化物が蓮に襲いかかり、蓮は吹き飛ばされてしまった。気が付けば、蓮は複数の化物に囲まれていた。

「まずい…!」

蓮は立ち上がって構えるも、一体でようやく対応できるような化物が複数いることで、半ば諦めかけていた。

その時だ。

蓮と化物達の間に銀色のオーロラが現れた。突然現れたオーロラに、化物達は怯み、一歩後退した。

「お前は!?」

オーロラから、先ほどカフェにいた男・門矢士が現れた。

「危ない所だったな。秋山蓮。」

士が言った。

「門矢さん!?」

遅れて裕太、後藤、比奈が現れた。

「遅かったな。」

士が後藤達に言った。

「というか、夕べは結局帰って来なかったが、どこに行っていたんだ!?」

後藤が士に言った。

「そんなことはどうでもいい。いくぞ!」

士はピンク色のバックルを取り出し腰にあてた。

「比奈さん、さがって!」

裕太は比奈に言った後、オルタナティブのデッキを構えた。

後藤もまた、緑色の球体の付いたバックルを腰にあてた。

「「「変身!!!」」」

 

カメンライド・オーズ!

 

タ!ト!バ!

タトバ!

タ!ト!!バ!!!

 

士はカードを、後藤はセルメダルを、そして裕太はデッキをそれぞれバックルへ装填した。

三人は、それぞれ姿の異なる仮面ライダーへ姿を変えた。

「オーズ!?」

比奈は、士が変身した姿に驚いていた。

「ふん!!」

オーズは、左腰に携えた白い四方状のもの・ライドブッカーを剣状に形を変え、それを化物へ振るった。

 

Drill Arm!

 

「うおおお!!」

後藤が変身した仮面ライダー・バースはメダルを装填しドリルを右腕に装着すると、化物にドリルを向けた。

 

SWORD VENT!

 

オルタナティブ・セカンドもまた、カードの力で剣を召喚し、化物に応戦した。

「父の日記には記されていないライダー…。やはり、別の世界からやってきたというのは本当のようですね。」

オルタナティブ・セカンドが、オーズとバースを見て言った。

「何だ?信じてなかったのか?」

オーズが言った。

「申し訳ありません。」

「まぁ、無理もないか。」

謝るオルタナティブ・セカンドに対し、バースが言った。

ライダー達は、次々と化物を倒していったが、鏡から再び何体か化物が現れた。

「キリがないぞ!」

バースは、バースバスターを構えながら言った。

「くっ…、以前より強くなってます!」

オルタナティブ・セカンドが言った。

「おそらく、ミラーワールドの異物とやらが力を増しているんだろうな。」

オーズが言った。

「異物!?」

バースが言った。

「そういうことらしい。」

オーズが答えた。

「ちっ…、キリがないか。とっとと片付けるぞ。おい!」

オーズは、蓮の呼んだ。

「よく見てろ。これがお前がライダーとして戦っていた証しだ。」

オーズはそう言うと、ライドブッカーからカードを引き抜いた。そのカードには、赤い龍のライダーが描かれていた。

「変身!」

 

カメンライド・龍騎!

 

オーズの身体に鎧の幻影が幾重にも重なっていき、やがて赤い身体に鎧を纏った龍のライダー・龍騎に変身した。

「龍騎に二段変身した!?」

オルタナティブ・セカンドが驚いて言った。

「龍、騎!?」

蓮は再び頭痛に襲われていた。

そして、蓮の脳裏に夢に見た光景が再び浮かんでいた。

 

 

車に寄りかかり、虫の息の状態の男。蓮は、その男にこう呼び掛けていた。

 

『おい、◯戸!死ぬな城戸ぉ!!』

 

 

場面が変わり、金色のライダーを倒した蓮は、恵里の家にいた。

そして、恵里の穏やかな寝顔を見て、側の壁に寄りかかっていた。眠かったのか、蓮はそのまま瞳を閉じた。

 

『そんな所で寝たら、風邪引くよ?』

 

目を瞑りながらも、恵里の優しい声が聞こえた瞬間、蓮はほっとしていた。

 

ー良かった。これで、俺は…。

 

 

 

「比奈さん!!」

オルタナティブ・セカンドの声に、蓮は我に返った。

化物に襲われかけていた比奈の元へ、オルタナティブ・セカンドは駆けていった。しかし。

「ふんにゅ~!!えいっ!!」

「えええ!?」

比奈は、化物によって破壊させられた建物の巨大な欠片を軽々と持ち上げ、化物に投げつけた。

それを見たオルタナティブ・セカンドは思わず声を漏らし、動きが止まった。

「ンギャ!?」

化物はコンクリートの塊の下敷きになった。

「ああ。その女のことなら心配するな。持ち前の馬鹿力でどうとでもできる。」

オーズが、片手間に化物達を蹴散らしながら、オルタナティブ・セカンドに言った。

「ちょっと、失礼ですよそれ!後藤さんも何か言ってください!」

比奈が憤慨しながら言った。

「え…?いや、その…、すまない。」

「ちょっと!!」

バースはフォロー出来る言葉が見つからず、一言謝った。

「そんな…。僕の力が必要無かったなんて…。」

オルタナティブ・セカンドは、何故か打ち拉がれたように膝を着いた。

「ふん。何だ?比奈のこと、惚れていたのか?」

オーズが鼻で笑いながら言った。

「え!?」

比奈がオルタナティブ・セカンドを見た。

「ええ!?いや、そんなんじゃ、あ…ありませんよ!!えと、その…。」

オルタナティブ・セカンドが慌てる仕草をした。

「ギギャー!!」

「うわっ!?」

オルタナティブ・セカンドの隙を突いて、化物が襲いかかった。化物の攻撃が急所にあたったのか、オルタナティブ・セカンドは吹き飛び、裕太の姿に戻ってしまった。

「裕太君!!」

バースが裕太の元へ駆けつけようとした。

「ダメだ、比奈さんを!!」

裕太と同時に、比奈にも化物が迫っていた。

「ちぃっ!」

龍騎は比奈を助ける為に化物を蹴散らしていくが、敵が未だに龍騎の行く手を阻んでいた。

「はっ!」

ところが、蓮が比奈の方へ飛び込んで行った。

「秋山さん!?」

比奈の前に立った蓮の手には、裕太のデッキが握られていた。

「まさか!」

龍騎は何かに気づいた。

そして、蓮はデッキを前に掲げると、右腕を身体の前でL字に構えた。

「変身!」

蓮の腰に現れたバックルにデッキを装填すると、蓮はオルタナティブ・セカンドに変身した。

「ふん!」

「グギィ!?」

オルタナティブ・セカンドは、迫る化物を正拳突きで吹き飛ばした。

 

SWORD VENT!

 

TRICK VENT!

 

オルタナティブ・セカンドは、慣れた手順でカードを右腕のスラッシュバイザーへリードさせていく。

召喚された剣を手にしたオルタナティブ・セカンドは3体に分身した。

「とっとと片付けるか!」

 

アタックライド・ストライクベント!

 

「了解した!」

 

Brest Canon!

 

龍騎は右腕に赤い龍の頭部を模したガントレットを、バースは胸部にキャノン砲を装備した。

「はぁ~…、はあああ!!!!」

「はあああ!!!!」

「はっ!!」

三人のライダーは、最後の一撃を放ち、化物達を一掃した。

「…終わったか。」

龍騎はバックルを外し、士の姿に戻った。それに倣い、バースもまた後藤の姿に戻った。しかし、オルタナティブ・セカンドは手にした剣を士の胸元に突き付けた。

「おい…!」

後藤がオルタナティブ・セカンドを止めようとしたが、士がそれを手で合図しそれを止めさせた。

「何故貴様が龍騎の力を持っている!説明しろ。それは城戸のもののはずだ!」

オルタナティブ・セカンドが言った。

「ふん。その様子じゃ記憶が戻ったようだな。」

士は突き付けられた剣をそっと下ろさせながら言った。

「お陰様でな。それで?何者だお前は。」

オルタナティブ・セカンドは、デッキを取り外し、蓮の姿に戻りながら言った。

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ。」

士が言った。

「秋山さん!」

裕太が蓮を呼んだ。

「君は?」

「僕は、香川裕太です。香川英行の息子です!」

「香川の!?」

蓮は裕太を見て言った。

「場所を変えよう。人集りが出来始めたぞ。」

辺りを見渡した後藤が士達に言った。

「だったら、落ち着いて話せる良い場所があります。」

裕太が提案すると、士達一行は裕太に案内され移動した。




サイドストーリー編
第6話いかがでしたでしょうか。

ついに蓮の記憶が甦りました。
士が龍騎に変身したことで、蓮がライダーだったときの記憶が戻り、さらにオルタナティブ・セカンドのデッキで一度だけ変身し、ライダーとして復活を果たしました。

余談ですが、裕太くんは比奈ちゃんに一目惚れしてました。カッコいいとこ見せようにも比奈ちゃんの怪力を目の当たりにし違う意味でのショックを受けてしまいました。
当時の裕太を演じた方の年齢を活用すると、現在24歳。まぁまぁ良いお年頃ですね?笑

記憶の戻った蓮を求め、集う士達。
ここから物語はどのように展開されていくのか。
サイドストーリー編、早くも最終章突入です。

お楽しみに!


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第7話

「なるほどな。確かに、ここなら人の目に付きにくいか。」

蓮は、その場所に着くとそう言った。

「ここは、一体?」

後藤が辺りを見渡して言った。

士達は、ある建物の一室にいた。

何かがあったのか、部屋全体が騒然としていた。床には割れた鏡の破片が大小様々に散らばっており、天井や壁も何かの衝撃を受けてか、ボロボロになっていた。

「ここは、清明院大学の、父の研究室です。」

裕太が言った。

「研究室とは、到底思えないがな。」

士が言った。

「一体、ここで何が?」

「ここから、全てが始まった。」

比奈の問いに、蓮が答えた。

「はい…。ここは父の研究室である前に、別の方の研究室だったんです。当時、その研究生だった神崎士郎がミラーワールドとライダーの力を確かなものとするために、ここで実験をしていたのです。」

裕太が言った。

「その実験に、恵里も巻き込まれ、そして俺は、恵里を守る為にここで最初のライダーとなった。」

蓮が苦い顔をしながら言った。

「なるほど。ここが龍騎の始まりの場所ということか。」

士はそう言いながら、ピンクのトイカメラを構え、辺りを撮り始めた。

「それで、裕太って言ったな?俺に言いたいことがあったんじゃないのか?」

蓮が裕太に向かって言った。

「…。」

裕太は直ぐには答えなかったが、真っ直ぐな眼差しを蓮に向け、口を開いた。

「僕は、知りたいんです。香川英行が、父さんが、何を懸けて戦っていたのか。」

裕太の表情は明らかに強張っていた。どんな結末であろうと受け入れようとする自分と、それに対し恐怖する自分が戦っているかのようだ。

それを見た蓮は一度目を瞑った後、鋭い目付きになって、口を開いた。

「香川は、お前の父親は、世界を守る為に戦っていた。例え、少ない犠牲があっても、大勢を救う為に容赦はしなかった。家族を見殺しにしかけたとしてもな。」

蓮が冷たく言った。

「家族を…?」

比奈が呟いて言った。

「…記憶にあります。」

裕太が静かに言った。

「幼い時、母と出掛けていた時、ミラーモンスターに襲われかけました。でも、その時助けてくれたのは、父ではなく龍騎・城戸真司さんでした。」

「良く覚えている…。父親譲りの瞬間記憶能力か。あの時も、香川は自身の目的の為に戦っていた。家族を人質に取られてもな。」

蓮が言った。

「あんなに優しかった父が、そこまでして世界を守ろうとしたのですか?神崎士郎の計画から。」

裕太が言った。

「ああ。そして、俺がその邪魔をした。」

蓮は静かにそう言った。

「ほぅ…?」

写真を撮っていた士がその手を止め、蓮の方を見た。

「…どういう、ことですか?」

裕太は声を震わせながら蓮に尋ねた。

「その香川の日記に、ライダーと神崎士朗以外の名前が記されて無かったか?」

「えぇ…。神崎優衣。父によれば、彼女を消せば全てが終わる、と…。」

蓮の問いに裕太が答えた。

「そうだな。そもそも、神崎士郎がライダーバトルを始めた切っ掛けが、優衣に新たな命を授ける為だからな。」

「それを知っていながら、何故!?」

裕太が声を荒げた。

「最初から知ってた訳じゃない。だから、神崎士郎の思惑を知っても俺達には、優衣を消すという選択肢を取ることが出来なかった。」

蓮が静かに言った。

「もしかして、その優衣さんって方、秋山さんの…。」

比奈が蓮に尋ねた。

「そうだ。優衣は俺の、いや俺達の大事な仲間だった。」

「仲間…。」

裕太は蓮の言葉を繰り返した。

「おかしな話しだがな…。優衣は、恵里を危険に晒した男の妹だから、ライダーバトルを有利に戦おうとあいつに近づいただけのはずだった。だが、そこに城戸が現れ、気がつけば、城戸も優衣も大事な仲間と思うようになってしまっていた。」

蓮は静かに言った。

「香川の選択は、正しかったと思っている。だが、俺達はそれを否定した。優衣も助けたい。他に選択があると信じて…。だが、結局優衣は消え、城戸も死んだ…。俺に残された選択は、恵里の命を救うことだけとなり、最期にオーディンを倒して全てを終わらせたんだ。」

「…。」

裕太は黙ったままだった。

「…確かに、香川英行って人が取った選択が正しかったのかもしれないな。しかし…。」

「…僕には、出来ません。」

後藤の言葉の後に、裕太がそう言った。

「秋山さんの話を聞いていなければ、僕は父の遺志を継いで戦うだけだったかもしれません。でも、誰かの犠牲の上に成り立つ平和は、正しいとは思えない。それは、僕の目指す正義とは言えません。」

裕太は言った。

「誰かの犠牲の上に成り立つ平和は、正しいとは思えない、か。お前、案外甘ちゃんなんだな。」

士がつまらなそうに裕太に言った。

「どういう意味です?」

裕太が士に尋ねた。

「何かの犠牲があるから世界は存在している。特に、この世界はそうだろ?」

士が答えた。

「それは…。」

裕太は言い淀んでしまった。

「それに、お前の父親はそれを十分に理解していた。その上で、神崎優衣を…。それでも、犠牲無い世界が理想と言うのか?」

士は畳み掛けるように言った。

「…。」

裕太は暫く黙っていた。

「裕太くん…。」

比奈が呟くように言った。

「そうですね。」

裕太が口を開いた。

「門矢さんのおっしゃる通り、この世界は秋山さん等ライダー達の、多くの犠牲があって成り立っています。…だからこそ、これ以上の犠牲は生み出してはいけないんです。」

俯いていた裕太が顔を上げて言った。

「不必要な犠牲を無くす。その為に、僕は戦います!だから僕はライダーとしての道を選んだんです!」

「…そうか。」

裕太の答えを聞いた士は、どこか満足げな笑みを浮かべた。

「…門矢!?」

突然、後藤が声を上げた。

 

キィーン…、キィーン…。

 

それと同時に、硝子を爪で引っ掻くような不快な音が室内に鳴り響いた。

「何故、お前が…!?」

蓮が、部屋にあるヒビの入った鏡を見て言った。

「え…?」

比奈は鏡に映された存在を見て、自身の眼を疑っていた。

鏡には、比奈達の他にもう一人男の姿が映し出されていたからだ。しかし、比奈が見回してもその人物が見当たらない。まるで鏡の中でしか存在していないかのようだ。

「神崎士郎…!」

そして、蓮がその男の名を口にした。

「貴方が神崎…!確か消滅したはずでは…。」

「こいつはこの世界の神崎士郎じゃないらしい。」

裕太の疑問に、士が答えた。

「何…?」

蓮は鏡の中の神崎を睨んでいた。

『準備は整った。秋山蓮、再びライダーとなりミラーワールドを閉じろ。』

神崎が蓮に向かって言った。

「何だと?」

『ミラーワールドに侵入した異物の手により、偽りのライダーバトルが始まってしまった。それを止められるのは、オリジナルのライダーだったお前しかいない。』

神崎は淡々と話を進めた。

「…断ったら?」

蓮は挑発するように神崎に言った。

『お前自身に何が起きるということはない。だが…、現状がどうなっているか、身を持って理解しているはずだ。』

「ミラーワールドから、現実世界への総攻撃が始まる…!?」

裕太が代わりに言った。

『その結果、お前が大事に思っている存在もまた、危険に遭うことになる。それでもいいのか?』

「…。」

蓮は、苦虫を噛むかのような表情になった。神崎が、誰のことを指して言っているのか、蓮は悟っていたからだ。

「…俺達からも、頼む!」

後藤が蓮に言った。

「どういう意味だ?」

蓮が後藤に尋ねた。

「その、ミラーワールドの中に俺達の仲間が取り込まれている。あいつを助けられるのは、この世界のライダーの力が必要なんだ。だから、頼む。」

「お願いします!」

後藤の後に続き、比奈も蓮に向け頭を下げた。

「俺達があんたに接触したのも、こいつらの仲間を救うためでもあったからな。」

士が言った。

「…。」

蓮は二人を見て黙った。

 

仲間のために。

さっきはああ言ったが、自分は本当に仲間のために戦っていたのだろうか。

初めは恵里を救うためにライダーの力を手にした。そして、優衣に近づき戦い続けた。しかし、城戸に会い、戦う意義が分からなくなっていった。そうこうしているうちに、気がつけば恵里だけでない、誰かのために戦っていた。

全ては成り行きだった。しかし、城戸が死に、優衣が消え…。結局、仲間のために戦えていなかった。

だが、もしかしたら。

もし、あの時城戸の側に居たら。

城戸を助けるために動いていたかもしれない。そうなっていたら、俺は…。

彼らは、仲間のために戦っている。俺に、その仲間を助けることが出来るのなら、責めて、あいつのためになるだろうか。

 

「…それで、俺はどうすればいい?」

蓮は、神崎に尋ねた。

「秋山さん…。」

裕太が安堵の声を漏らした。

『ライダーになるためには、もう一つ条件がある。』

そう言いながら、神崎は裕太を指差した。

『お前の持つデッキが必要だ。』

「え!?」

裕太は驚きを隠せないでいた。

「何故、裕太のデッキがいる?」

士が神崎に尋ねた。

『ライダーの力は、既に異物の手の内にある。それ故、俺にデッキを生み出すことができない。だが、さっきナイトの紛い物が倒されたことで、ナイトの力が一時的に解放された状態にある。その力を、そのデッキに封じ込めナイトのデッキを生成する。そうすれば、お前は再びナイトとして戦える。』

神崎が答えた。

「でも…、それじゃあ裕太くんは。」

比奈が言った。

「…わかりました。」

あまり間を開けず、裕太はデッキを差し出しながら答えた。

「いいのか?それはお前の正義なんだろ?」

後藤が裕太に言った。

「良いんです。これで誰かが救われるのなら、僕は構いません。」

裕太は眼に戸惑いは無かった。

『…。』

差し出されたデッキを、神崎は鏡の中から手を出し黙って受け取った。その時だった。

 

「キイイイイイイイ!!!!」

 

耳をつんざくような高い鳴き声が、蓮達を襲った。

「うっ!!何だ!?」

後藤は悶えながら言った。

すると、部屋の鏡や硝子の中を大きな黒い影が翔ぶ姿が見えた。

神崎は、臆すること無くその影を捉えていた。そして、裕太のデッキを黒い影にかざした。

 

「キイイイイイイイ!!!!」

 

黒い影が再び甲高い鳴き声を上げたかと思うと、神崎がかざしたデッキに一直線に向かった。そして、デッキに吸い込まれるように姿を消した。

その瞬間、裕太のデッキが強く輝き、蓮達は思わず眼を逸らした。

やがて光が収まると、蓮達は再び神崎の持つデッキを確認した。

神崎が握っていたデッキはオルタナティブのデッキではなく、別のクレストが描かれたデッキになっていた。

そして、神崎は、鏡の中から蓮に向けデッキを投げ渡した。

『そいつを使え。そして、ミラーワールドへ行け。』

神崎はそう言うと、鏡の奥へ姿を消した。

「…。」

蓮は握ったデッキを見つめていた。

「それが、ナイトのデッキ。」

裕太が言った。

「ああ…。すまなかったな、裕太。」

蓮は裕太に謝った。

「良いんです。さぁ、行ってください。」

裕太が言った。

「…。いいか?」

蓮は携帯を取り出しながら士達に聞いた。士達は黙って頷くと、蓮は電話を掛け始めた。

「…。恵里か?すまない仕事中に。…その、仕事で何日か家を空けることになってな。それで…、あぁ。…ん?まぁ、いるけど…。わかった、終わったら切っていい。それじゃあ、行ってくる。」

蓮は通話を切らず、士に自身の携帯を差し出した。

「スタッフの人間として、出てくれないか?恵里が話したいことあるらしい。」

士は、何も言わずに携帯を受け取った。

「…何だ?」

士は、ぶっきらぼうに尋ねた。

『蓮のこと…、お願いします。』

電話越しの恵里は一言そう言った。しかし、その声色はただ仕事へ行く旦那を気遣うようなものでは無かった。丸で何かを覚悟したかのような、静かで、しかし芯の通ったような一言だった。

「わかった。旦那さんはこちらで任せてもらおう。」

士はそう言うと携帯を切った。

「…何て言っていた?」

「それを聞くのは野暮ってやつだ。」

蓮は士に尋ねたが、士はそれをはぐらかした。

「秋山さん。お願いします。」

比奈と後藤がまた頭を下げた。

「…。」

蓮は静かに頷いた。そして、デッキを鏡の前に付き出した。すると、鏡の中からバックルが現れ、蓮の腰に装着された。

「…変身!」

蓮はデッキをバックルに装着した。鏡の中から鎧の幻影が現れ、蓮の身体を幾重にも重なっていった。やがて、黒い鎧を身に纏い、蓮は仮面ライダーナイトに変身した。

「…。」

ナイトは、士達を一瞥すると、鏡の中へ飛び込んで行った。

 

 

ナイトがたどり着いた場所は、視界一面が丸で硝子の欠片が輝いているように煌めく世界だった。

「来たか。」

ナイトの背面から声がした。振り向くと、そこには神崎士郎が立っていた。

「偽りのミラーワールドに行く前に、これを持っていけ。」

神崎は二枚のカードをナイトに渡した。その内の一枚は蓮も使ったことのあるカードだった。しかし。

「…何故これを?」

ナイトはもう一枚のカードを見ながら神崎に尋ねた。

「これは、俺とオーディンを繋ぐ鍵だ。これをオーディンに使わせろ。」

「…わかった。」

そして、ナイトは神崎が示す偽りのミラーワールドへ突入していった。

 




サイドストーリー編
第7話いかがでしたでしょうか。

裕太は、蓮から父親の話を聞き、事の顛末を知ることに。そして、自分の目指すものが何なのか、再確認することが出来ました。
しかし、そこに現れた別世界の神崎士郎により、蓮がライダーとして復活するために、裕太にとって正義の象徴たるオルタナティブのデッキが必要になることがわかってしまい、裕太はデッキを手放すことに決めました。
そして、いよいよ蓮は、再び仮面ライダーナイトに変身し、本作本編の物語を歩むことになりました。

次回、残された士達の物語が進みます。
お楽しみに!


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