転生特典が自爆技ばかりなんだが? (風馬)
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第一章 転生編
第一話 転生特典が自爆技ばかりなんだが!?


俺がふと気が付いた時には白い部屋の中心に立っていた

 

・・・は?

 

「いやいやいやいや、ちょっと待てここはどこだ!?」

 

俺は普通に部屋でインターネットをしていたはずだ

 

だから寝ている間に拉致とかそんなんじゃないはずだ!

 

いや、そもそも拉致られるだけの財も地位も持ってはいない一般人だし・・・適当に選ばれたと言われたらそれまでだけどさ

 

というか拉致じゃこの状況の説明になってないしな・・・一瞬で意識を奪うとか何処ぞの体は子供で頭脳は大人な名探偵の麻酔銃並みのアイテムは必要だろう

 

さて、未だに心臓がどくどく鳴ってる気がするが冷静になろう

 

まずは現状の確認だ

 

白い部屋の大きさ自体はそんなに広くはない。8畳から10畳くらいでアパートの一部屋くらいの大きさだ

 

そして扉や窓の類は無し・・・いやこれ詰んでないか?それに自分の前にこれ見よがしに案内板っぽい立て札がある

 

これを読まないと始まらないだろう

 

「え~と、なになに?」

 

 

 

★ 転生の間

 

おめでとうございます。あなたは死にましたが抽選により記憶を持って新しい人生を得るチャンスを得ました。

 

これを読み終えたら赤い扉と青い扉が出現します。

 

赤い扉は記憶を持って漫画やゲームの世界に特典を持って転生します。

 

転生する世界・特典はあなたの知識の中からランダムで決まります。

 

青い扉は通常の輪廻転生となります。

 

なお、この部屋には一時間まで滞在でき、それを過ぎると自動的に青い扉に送られます。

 

 よくお考えの上、良い来世を

 

 P.S. あなたの死因は隕石でした

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

P.S.~~~~!!!!!!!

 

色々と重要な要素があったけどP.S.の方が気になっていまいち頭が働かない!!

 

隕石ってなんだよ隕石って!!いや隕石は分るけどさ!!!

 

デカい隕石?それとも小さい隕石?せめて降って来たのは小さい隕石で死んだのは俺だけってオチであって欲しい!!

 

博愛主義とかじゃないけどそれくらいの良心は・・・ね?

 

さて・・・次に行こう次に!考えても仕方がない

 

案内板を読み終えてからその上にタイマーが空中に出現し、二つの色の扉が出現した。此処までファンタジックなSF要素が目の前に現れると自分が恐らく死んだ・・・兎も角特殊な状況に陥ったのは理解出来た

 

残り時間は57分と少し、これがなくなるまでに決める必要があるようだ

 

赤い扉か青い扉か・・・

 

青いほうは特に考えることもない―――通常の輪廻転生ということは記憶も消えるのだから来世が何であれ関係はないからだ

 

・・・黒く艶やかに輝くGとかにはなりたくないけど記憶が消えるなら結局一緒だ。知る由もないからな

 

ならば問題はと言えば赤いほうだ。記憶を維持したまま特典とやらも貰えるといえば直ぐにでも飛びつきたいと思う

 

だが転生先の世界がランダムというのが一番気がかりだ

 

俺の知識の中からということだから知らない世界ではないが幸せな世界とは限らない、ウルトラルナティックモードな世界かもしれないのだ。

 

バイオでハザードしてる世界とかDODで女神様や赤ちゃん天使に満面の笑みで美味しくイタダカレル世界・・・

 

「うん、ないわ、自決するわ」

 

さて、どうしたものか・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付けば残り10分ほどになっていた。

 

これってもし気付かないまま時間が過ぎてたらどうなっていたことか・・・いやまぁ普通に輪廻転生してたんだろうけど

 

だが決めた!

 

いや、本当は最初から決まっていた!

 

「ヨッシャッ!!赤の扉にしよう!」

 

そうして俺は無駄に気合を入れて赤い扉を開いて入っていった

 

赤い扉の奥の部屋、俺の目の前には巨大なスロットが一つ鎮座しており、上のほうに【転生先】と書いてある

 

「ランダムってスロットかよ!!!」

 

可笑しい、いやランダムを謳っている以上可笑しくはないのか?現状が可笑しいことだらけだからよく分からなくなってきた

 

痛む頭を振って改めてスロットをよくよく見てみるとスタートと書かれたボタンとストップと書かれたボタンがあった

 

「これを押せってことね」

 

早速スタートを押せば回転が始まる。ってか高速すぎて目で追えない

 

目押し防止か・・・当然といえば当然だな

 

さて、次はストップのボタンだ

 

ここが俺の次の人生を分ける最大の関門である

 

最悪特典はクズでもほのぼの系や日常系の世界なら一般人として第二の人生を送ることもできるからだ

 

だがそうでなかったら?最初の部屋でずっと決心が持てなかったのはその可能性があったから

 

「ええい!ここまで来たんだから覚悟を決めろ俺!!」

 

ポチっとストップのボタンを押して俺の来世が決定した

 

 

 

【ハイスクールDxD】

 

 

 

おおぅ、これは当たりと見るべきか?はずれと見るべきか?

 

ハイスクールDxDは色々なタイプの美少女と仲良くなれるチャンスがある世界

 

そういう意味ではかなり当たりの世界だ

 

だが主人公がいつもおっぱいでピンチを切り抜けるからいまいちシリアスになりきれないが割とバトル方面はシビアな世界でもある

 

あとドラゴンが可哀そうだったり残念だったりする世界・・・

 

一般人としてならともかく裏側に関わるなら最上級悪魔クラスの戦闘力がないと最低限の安心も得られなさそうな世界なんだよな・・・

 

いや考えるのは特典を貰ってからでもいいだろう

 

だがどこで貰えるんだ?スロットは一つでほかに扉もないし・・・?

 

すると上から"ウィィィィィン"と機械音がしたので見てみると【転生先】と書いてあったところが回転して次の文字が下りてきた

 

               

 

【転生特典≪チャンスは三回≫】

 

 

 

おお!特典は三つも貰えるのか!?

 

これは期待してもいいんじゃないか!

 

どれか一つだけでも当たれば御の字だし、高望みするぐらいなら許されるよね?

 

ゲート・オブ・バ〇ロン(中身入り)とか!聖杯問答の時の酒とかを飲んでみたいと思ったのは決して俺だけじゃないはず!!

 

早速スタートを押して回転開始!

 

最初の一つに期待を膨らませながらボタンを押すと出てきたのは!?

 

 

【1.一刀修羅(落第騎士の英雄譚(キャバルリィ))】

 

 

一刀修羅!一分間だけ自分の能力を数十倍に引き上げる技だ

 

ここだけ聞くと素晴らしいが当然デメリットもあり、もともと文字どおりに『全力』を振り絞る技であるため使用時間を過ぎると疲労で動けなくなる超が付く決戦仕様である

 

上位互換に一刀羅刹があり、一秒に全てを込めることで数百倍の強化ができる

 

しかし、肉体がその強化に耐え切れないため『疲労+全身ボロボロ』で瀕死となってしまう

 

「使いどころは難しいけど主人公の技だしロマンに溢れているし、良しとするか。次にいこう」

 

そして二つ目の特典を決めるためにルーレットを回しボタンを押す!一つ目がそれなりだったからついつい期待してしまうその二つ目の特典は!?

 

 

【2.偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター/神器枠)】

 

 

ンンン?

 

これはどっちからツッコミを入れたらいいんだ?

 

本来の持ち主たるFateのアンリ・マユさんいわく「くそったれな三流宝具」なところか?

 

それとも(神器枠)のところか?

 

いや、何を言いたいのかは大体わかるんだが・・・

 

もう少しましな特典はなかったのだろうか?

 

偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)は自分が受けた傷をそのまま相手に返す『報復』の呪いだ

 

同じ相手には一回しか発動できないうえに効果的に使おうとすれば致命傷を受けなければいけない(当然相手は殺す気で攻撃してくる)

 

発動は任意なので凄く痛いであろう状況に耐えながら発動しなくてはいけないし、自分の傷が治れば相手の傷も治ってしまうため例えば能力発動後すぐにフェニックスの涙を使うとかもできない

 

それを神器として貰えるらしいがあれか?禁手に期待しろってか?FGO仕様なら確かにそこそこ使えたはずである

 

受けたダメージを倍にして返し、同じ相手でも何度も使える。複数対象に効果ありと・・・『報復』?あれか敵対するやつは皆まとめて始末するって意味か?

 

でもなぁ~作中ではポンポンと禁手してたけど本来そんな簡単なものじゃないし、結局大ダメージを受けないとダメだから【一刀修羅】以上に使いどころが難しいんだよな

 

「しょうがない、三つ目に期待をかけよう。せめて一つは普通に使えるやつが来るように」

 

そして最後のスロットを回すことにした

 

「こい!コイ!!来い!!!バビ〇ン!!!!」

 

未練がましく英雄王の財宝スキルを願った俺だが数舜後に表示された特典に絶句する事になった

 

 

 

【じばく(ポケットモンスター)】

 

 

 

「・・・・・・・・・・えっ?ちょっ!ハァっ!??」

 

 

待て待て待て待て!?そもそもこれは特典として組み込んでもいいやつなのか!?

 

【じばく】(使えばひんしになる)ってうるせぇよ!!

 

どこの誰がこれを組み込んだのか知らねぇけど!多分神様的なやつだろうけど絶対コイツ性格ひねくれてるね!

 

仮に神なら邪神や悪神のたぐいだと思う

 

ポケモンじゃ(ひんし)と可愛くひらがなで書いてあるけど(瀕死)だからね!?マジでくたばる5秒前的な意味だからね!?

 

つーか【じばく】なのかよ!せめて同じひんし否、瀕死になるなら【だいばくはつ】でもよかったんじゃね!?

 

・・・いや何にも良くないけど、これ下手したら特典のうち一つは【じばく】でもう一つは【だいばくはつ】とかって可能性もあるんじゃ・・・いや深く考えないようにしよう

 

これで三つ目の特典も(不本意ながら)決まってしまったが次はどうするんだ?

 

最初に来た時の扉もいつの間にか消えてるし・・・

 

そう思っていたらいきなり足元が落とし穴になった。

 

「どぅわ!!!」

 

そして落ちていく最中、確かに思った

 

やっぱりこの部屋造った奴、ひねくれてやがる。と



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第二話 初の原作キャラ?

最初に思ったことは目が痛いということだ。目を細めても少しの光がまるでスポットライトを覗き込むような感じがした

 

次に思ったのは赤ん坊の泣き声がどこか遠くから聞こえる気がするということ

 

すぐに自分が泣いているのだと気づいた

 

よかった、前世の記憶の影響で生まれたときに無表情で親に心配されるというような事はなかったようだ

 

感情に左右されずにこの赤ちゃんボディは勝手に泣いてくれるみたいだ

 

そして少しすると毛布で包まれて母親らしき人に抱かれる。まだよく目が見えないので至近距離でも顔がぼやけているが笑っていることは分かる

 

そして次には男の人に抱かれた。この人が父親なのだろう、こちらも笑ってくれているようだ

 

色々と話しかけてくれているようだがまだ耳も上手く機能していないのと、そもそも自分の泣き声がうるさくてよく聞き取れないまま眠くなり、そのまま眠ることとなった

 

 

どうやらこの世界での自分の名前は『有間一輝≪ありまいっき≫』と言うらしい

 

名前は親が何度もイッキと呼んでくれたし、抱っこ紐で外に出かけたときなんかはご近所さんが親のことを有間さんと呼んでいるので苗字も判明した

 

ちなみに漢字については玄関先で話しているときに表札に書いてあったのでそこから判明した

 

【一刀修羅】の使い手である黒鉄一輝から一輝、有間は・・・アンリ・マユから取られてるのか?

 

まぁキラキラネームという訳でもないし気にせずにいこう

 

兄弟姉妹は今のところ居ないようだ

 

オムツやハイスクールDxDの代名詞たるおっぱい(母親の)については語るのは控えよう・・・ただ一言、複雑だったとだけ

 

さて次に転生特典について確認したいのだがまず【じばく】は論外だ。赤ちゃんが突然爆発したなんていったら両親がショック死しかねない。というか大人ならともかく赤ん坊の身で瀕死になったらそのままあの世に舞い戻ることになる可能性大だ

 

次に【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】の確認だ。幸い原作で神器を発現させる方法については書かれていたし覚えてもいる

 

左手を掲げておろし、自分のもっとも強いもののイメージを作る!!

 

「あうんあ~(螺旋丸)!!」

 

異論は認める!確かに威力などではいろんな作品の中では弱いほうだろう!!

 

しかし、俺にとって中二病発症時代にイメージトレーニングを何よりも積んだのは螺旋丸だったのだから反論は認めない!!

 

単純な威力じゃない!当人にとってカッコいいかどうかだ!!

 

 

 

”カッ!!!”

 

 

 

 

一瞬光輝いてから俺の両手に歪な刃が握られていた

 

『右歯噛咬(ザリチェ)』と『左歯噛咬(タルウィ)』、Fateのアンリ・マユの持つ奇形の双剣である―――紅葉の葉のように見えなくもない・・・と思う

 

赤ん坊では持ち上げることもできないが能力については頭に、いや魂に?使い方が流れ込んできたので神器は消しておいた

 

あっ、もちろん検証は両親の目が少なからず離れたときにやってます

 

さて最後に【一刀修羅】だがこれは両親が寝た後にベビーベッドの毛布にくるまって試すしかないだろう

 

昼間にやったらぐったりしてるのがバレてしまうからな

 

という訳で夜。いよいよ【一刀修羅】を試そうと思います!いやー長かった。この赤ちゃんボディ速攻で夢の国に旅立ってしまうからこれで実は十数度目のチャレンジなのよ!

 

だがなんとか今日という日を迎え、両親は寝ている!いざ、【一刀修羅】!!

 

瞬間、すごい力が湧き上がってくるのを感じた。さすがに動き回ることはできない、というかやったらいけないが今ならベビーベッドの柵を一足飛びで飛び越えれそうだ

 

さらに全身の感覚も鋭敏化しているのが解る。時計の針も暗闇の中でもよく見えるし秒針がひとつ進むのがやたらと遅い!!主観だと10秒以上は経ってるだろう

 

眼を閉じて耳を澄ませば心臓の鼓動やさらには血流の音も聞こえてくる

 

ヤバいこれはすごい!恐れるものなどなにも無い!!もう、なにも怖くない!!!!

 

 

 

 

・・・ぷすんっ

 

 

 

 

・・・っあ?あれ?なんか体が・・だるくて・・意識が遠の・・・く・・

 

 

 

 

朝、まだ体がだるかった。赤ちゃんライフ万歳、これで学校とか仕事とか行きたくないわ

 

 

 

 

 

さて、あれからひと月ほどたって何度か夜の【一刀修羅】(比喩ではなく)を発動させた

 

理由?あの全能感が忘れられz・・・・ゲフンッゲフンッ!!

 

ではなくあの鋭敏化された感覚の中で瞑想でもすれば何か掴めそうな感じがしたからだ

 

そう!即ち仙術の習得である

 

仙術は世界の気と一体化して自他の生命エネルギーを操る術である

 

探知能力及び隠密能力に優れ、生命体が相手なら相手の気を乱して猛毒を流し込むに等しいダメージを与えることもできる

 

物理的な攻撃力に乏しいとされるが気を操り闘気を身に纏えば物理面も補える優れものだ

 

本来、仙術⇒闘気の順に覚えるのを筋肉に全てをささげた結果、闘気だけを習得したサイラオーグ・バアルのような例もあるが・・・

 

だがそれだけの利点に見合った欠点もある

 

世界に漂う邪気を取り込み暴走してしまう可能性があるのだ

 

おそらく相手が憎いとか、倒した相手を必要以上にいたぶりたいなどの感情が増幅されるのだろう

 

つまりは世界に満ちる気のうち邪気だけをより分けて操らないといけないのだ

 

落ち着いて瞑想でもしながらなら兎も角、戦闘中にそれをしなければならない上に目の前にあるより強くなれる手段に手を出さない精神力も必要となる

 

良い気と邪気、単純に考えても両方取り込めば出力2倍だしな・・・

 

少しだけなら大丈夫、あと少しだけ取り込もう。あと一回だけ取り込もう・・・と、なんか麻薬みたいだな

 

うん、上手い事仙術を覚えることができても一度だって邪気には手を出さないでおこう

 

前世でも一度でも手を出したら抑えが効かないだろうとタバコとかにも手は出さなかったしいけるだろう(楽観)

 

【一刀修羅】を発動し、明鏡止水の心を意識して呼吸と一緒に気を体の隅々まで取り込むイメージで深呼吸を続けていく

 

両親は一般人みたいだし、そもそもこの世界でも仙術の使い手は少ないようなので師を見つけることも難しいだろう

 

この修行のやり方で本当にあっているのか疑念はあるが、その疑念すらも払しょくできるように努力していこうと思う

 

 

 

あれからミルクと睡眠と瞑想を繰り返し早くも半年が過ぎた

 

その間の成果としてはおすわりとハイハイをマスターし、つかまり立ちはもう少しハイハイの練度を上げてから挑戦していこうと思っている。あと離乳食になりました

 

え?仙術はどうしたって?成果無しですよ悪いですか!?まだ半年でやり方も手探りなんだからそんなもんでしょう!

 

だが他にやることのない(できない)赤ちゃんライフ、このまま続けていくしかないんですよ

 

 

 

 

 

 

時は流れて1歳になり、ついに!ついに!!二本足で立つことができました!

 

え?仙術ですか?ふっふっふっ!

 

こちらもなんと気の流れを感じ取ることができるようになりました

 

まだ感じ取れるのはせいぜい半径3メートルくらいが限界だけど、慣れ親しんだ気である両親の気であれば家の中くらいであればどこにいるのか判るようになりました

 

いやー、こういうファンタジーな力を身に着けられるとテンション上がりますね♪とりあえずこの探知能力を中心に鍛えていきたいと思います

 

 

 

 

 

6歳になりました。なに?時間が経つのが早いって?

 

いや、お分かりいただけると思うが小さい子には基本親が付きそうもの。地味な修行しかできんのですよ

 

【じばく】は論外だし右歯噛咬(ザリチェ)と左歯噛咬(タルウィ)みたいな禍々しい刃物を振り回す訳にもいかないし

 

というか将来的な話だけど右歯噛咬(ザリチェ)と左歯噛咬(タルウィ)の扱い方とかどこで習えっていうんだよ?

 

普通に剣道習ってなんとかなるとも思えないし・・・ハァ、やっぱりほぼ独学になるのかな?

 

インターネットの動画でバトルナイフの扱い方あたりを参考にしていくしかないのか?

 

まぁ【じばく】と【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】に関しては今後の課題として仙術の方はと云えば気配察知に重点を置いて修行したから範囲も精度もかなり上がっている

 

半径で50メートル前後とハン〇ーハンターのカイトさん並みの範囲を探れるようになったし、昔はそこに誰かがいるのがわかる程度だったのもどういう動きをしているのかとか、気配の強弱なども感じ取れるようになった

 

そして、だからこそ気付いてしまったこともあるのだ・・・家の近くのアパートに覇王が住んでいることに・・・

 

最初にその気配を感じ取ったときは冷や汗が止まらなかった

 

いきなり体調を崩したと思った母親に病院に連れていかれたほどだ(あながち間違いではないが)

 

家に帰ってからもギリギリ探知の網に引っかかる距離にいる覇王の気配をじっくりと探ってみた

 

あれだな―――多分この覇王は富士山を5秒で更地にできると思う

 

ここ駒王町(ちゃんと駒王町でした)に住んでいるそれこそ小国を数分で滅ぼせそうな圧倒的なオーラの持ち主・・・

 

多分あの人なんだろうな。ハイスクールDxD屈指のバグキャラ、『ミル☆たん』さん!

 

孫悟空の末裔と魔王の血筋の白龍皇の背後を自然と取り、魔王少女様の魔法(魔力)をはねのける一般人もとい逸般人!

 

見てみたいような見てみたくないような・・・いや、ミルキーのアニメがすでに放送されているのは知ってたけど

 

しかしまだ二作目だったはず、この短期間ですでに魔法(物理)を習得していたとは驚きだ。

 

これ原作始まるまでにはもっと強くなってるんじゃね?勝手に魔王級かもう少し上だと思ってたけど現時点でこれってことは・・・ミルたん原作時には超越者クラスはあったんじゃ?もしかしたらそれ以上、全盛期の二天龍やクロウ・クルワッハと闘りあえたり?

 

・・・ミルたんならやってくれそうだな

 

しかし、会うとしてもどうする?

 

ミルたん(暫定)からしてみれば俺は出会ったこともない近所の子供だ

 

偶然を装っての接触しかないか?ミルたんは魔法の力を手に入れるために日々トレーニングを行っているのだろう

 

おそらくランニングなどで外に出る一定周期のタイミングがあるはず

 

その時間を仙術探知で把握して自分もランニングを始めるとか?そろそろ基礎体力をつける練習もしていきたいし、丁度いいのかもしれない

 

・・・・・・・・・あれっ?これ下手したらストーカー行為じゃね?

 

誰が?⇒俺が

 

誰に?⇒ミルたんに

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやいや待て待て、大丈夫だちょっと一度挨拶を交わす程度のことだ!」

 

それにそのあとは時間をずらすなりランニングのルートを変更するなりしたらミルたんとエンカウントすることもないだろう!!

 

ミルたんヒロインルートなんて断じて認めねぇ!!!!

 

大丈夫、俺にもミルたんにもそっちのケは無いんだから

 

ちょっと原作キャラと出会うだけ、そうだ!アイドルに会いに行くようなもんだ!!(錯乱)

 

よし!そうと決まればいつもの仙術探知の修行にプラスして家にいる時間、出かける時間をメモっておこう!(ストーカー行為)

 

それから仙術探知の鍛錬をしつつ1週間ほどミルたん(暫定)の気配を追ってみたが、午前と午後の6時にランニングに行くようだ・・・多分

 

なぜ多分なのかって?アパートの前でストレッチをしたと思ったら次の瞬間には索敵範囲から居なくなっているからだ

 

いや、居なくなる瞬間自動車並みの速さで動いてるのは感じ取れるから多分アレがあの人のランニングなのだろう

 

もうね、この世界に来てから、もとい来る前から色々ツッコミを入れてきた気がするけれど段々疲れてきた・・・

 

時速60kmは軽く超えてたと思うから、ランニングはいつも30分ほどで帰ってくるけどあなたその間にフルマラソン走ってますよね?

 

そして両親にランニングしたいと説得。説得内容?「幼稚園の友達がやってるっていってたから」と「なんかカッコイイから」で押し通しました

 

いや子供が自分から運動をしたいというのを両親としては反対する理由も特に無かっただろうから要望はあっさり通ったけど

 

まぁ近くに在る大きめの公園兼グラウンドのトラックを走る事と、少なくとも初めのうちは親が付きそう事という条件は付いたがそれはしょうがないだろう

 

むしろその条件でよく許可が出たと思ったくらいだ

 

こちらで生まれてから自然と我が儘も特に言わないし、幼稚園でも主にケンカの仲裁をしたりしていたからか「一輝なら大丈夫だろう」ということになったようだ

 

いざランニング当日となったが今から覇王とエンカウントすると思うと変に緊張してきた

 

あっ、ちなみに今は午後5時で運動終わりにさりげなくミルたんの前を通過するつもりです

 

子供が午後6時を超えて外にいるのも変だし、体裁も悪いですし、あと母親も夕飯の仕込み等をしなければいけないですしね

 

というわけでやってきました駒王公園!駒王町の名を冠するだけあって立派です

 

グラウンドと遊具などがある公園が隣接した感じ?

 

家にいたときも柔軟くらいはしていたし、【一刀修羅】の深呼吸瞑想も続けていたからか基礎体力はともかく肺活量の強化と体中の筋肉やら血流やらを常に感じ取れるようにはなっている

 

感じ取れるということはコントロールもできるということ!

 

そのうち落第騎士原作でもあったように心臓すらも制御下におけるかも知れないな

 

実際に【一刀修羅】を用いなくても脳のリミッターを外していわゆる『火事場の底力』を意図して出せるようにはなっているし

 

・・・なんだか仙術のコントロールよりも変な方向で成果が上がってきている気がするのは気のせいだろうか?

 

「よし!走るか!」

 

ストレッチの後、いざランニング!

 

しかしランニングといっても折角なのでちゃんと体力が付くようにしていきたいと思う

 

なのでここでも某落第騎士さんを参考にしよう

 

彼は毎日20km全力疾走とジョギングの組み合わせで走ることがメニューのひとつであった

 

やったことがある人はご理解いただけるとは思うが滅茶苦茶キツいのだ。俺も前世の体育の授業で体験・・・という意味だったのだろうが一度だけやらされた事がある

 

素人であれば50mダッシュ+ジョギングを3・4回も繰り返したら大いに息が乱れ、足がパンパンになること請け合いである

 

・・・20kmとか狂ってやがる

 

まぁ当然今日初めて尚且つ今年の春からランドセル装備の俺がそこまで出来ないので今の自分の限界がどのあたりなのか知るところから始めるとしようか

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・」

 

「いっくん、大丈夫?」

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・だいじょう・・・ぶはぁぁ・・・はぁ・・」

 

いや、息こそ乱れているが精神的にはまだまだ大丈夫ではあるのだ

 

毎夜行っている【一刀修羅】の方が疲労感が上というのもあるのだろう

 

あと意外だったのは全力ダッシュを連続で30回も出来てしまったことだな

 

なぜかとも思ったがやはりこれも【一刀修羅】の影響なのでは?と思う

 

【一刀修羅】の最中は基本的に動いてはいないが【一刀修羅】中は常に『全力』なのである

 

それ相応に体全体に負荷がかかっていて当然だ

 

いわば『全力で動かない(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)』のである

 

さて、自分の体力についての考察はこの辺にしていよいよ本日のメインイベントがやって来た

 

ただ今の時刻は午後5時55分・・・うん、キリがいいな

 

家までは子供の足で徒歩3分ほどだ。辿り着く頃にはちょうどストレッチでもしていることだろう

 

多くの期待感と一抹の不安感を胸に抱きながら家路につく。仙術にてアパートの前に居ることは既に感知済み!

 

そしてついにその姿を視界に捉えることに成功した!

 

ライフルさえもはじき返しそうな分厚い胸板、決して折れない巨木を彷彿させる手足、ビームさえ撃てそうな鋭い眼光、はち切れんばかりのゴスロリ服

 

それらを見て最初に思ったのはアニメのミルたんの着ていたゴスロリ服とはまた別なんだなということだった

 

・・・うん、まだこの時代のミルキー2作目だもんね、そういうこともあるさ!!

 

これも一種の現実逃避なのかもしれない・・・一瞬母さんの方から「ヒッ!!」と聞こえた気もするが、心の中で母さんに謝りながら

 

「こ・・・・こんばんは~、今から運動ですか?」と声をかけた

 

というかミルたん・・・トレーニング(魔法の)中もミルたんなんだな

 

「にょ?こんばんはにょ、ミルたんはこれからファンタジーな力を手に入れるために頑張るところだにょ」

 

アンタの存在がもうファンタジーだよ!

 

「そ・・・そうですか、頑張ってくださいね・・・・」

 

「にょ!!信じていれば精霊さんたちはきっとミルたんの心に応えてくれるんだにょ!!!」

 

いや、精霊さんと意思疎通する前に逃げられると思う

 

「応援ありがとにょ!!行ってくるんだにょ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ブゥゥゥゥォォォォォラァァァァァァァァァァァァ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・あっという間に見えなくなった。あれがミルたんクオリティなのか(遠い目)

 

因みに家に帰ってから「挨拶は大事だけど、ああいうあからさまに怪しい人にはあまり声をかけないように」と叱られた

 

まぁたしかに知らない人からすれば怪しさ核兵器クラスだからな、いや物理でもそのレベルだったっけあの人は

 

ともあれこうして初めての原作キャラとの会合は果たせた

 

親が付き添う間はミルたんとエンカウントしないように運動して帰宅するタイミングを調整すればいいだろう・・・

 

 

 

 

 

 

 

何故か以降、ちょくちょく軽い挨拶は交わすようになった




適当にキャラを動かしてただけなんだがどうしてこうなった?
先々の展開は作者にも不明です


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第三話 会敵

ミルたんと出会ってから6年と少し経ち、今年の春で小学生を卒業し、晴れて中学生になる

 

一応小学生になってから原作主人公たる兵藤一誠を探してはみたのだがどうにも違う学校のようだった。・・・中学時代に期待だな

 

ちなみに原作に介入するかしないかなどは成り行きでいいと思っている

 

原作でも駒王学園はグレモリー眷属やシトリー眷属以外にも異能者自体はそれなりに居たのだし

 

そもそも原作知識も二次小説とアニメを見た程度で原作は読んでなかったりするから邪龍戦役くらいまでの大まかな流れしか知らないのだ

 

先々の展開を細かく知っていれば色々と手も打てるのだろうが自分にはそんな器用なことは無理なのである

 

・・・原作通りにいくとも限らないしね

 

さて、それ以外の話をしよう。まず仙術だが体力増強にともない自身の生命力・活力が上昇してより気を練りやすくなった

 

探知範囲は駒王町ならば射程距離であるし、世界の気を取り込み自身の活力を核にして混ぜ合わせることにより闘気を纏うことも出来るようになった

 

今なら木を相手にスパーリングすれば程なくへし折ることもできるだろう

 

次に身体操作だが今なら心臓も止められると思う。さすがに止めたことはないが、少なくとも鼓動の強弱はつけられるようになったな

 

あと昔は脳のリミッターを外した際、筋肉の力を引き出すだけだったが、今では走馬灯のように思考加速もできるようになった

 

つまりは魔法少女リリ狩るなのは・戦闘民族高町家の『神速』みたいな感じである・・・あのアニメは何処か可笑しい

 

【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】及び右歯噛咬(ザリチェ)と左歯噛咬(タルウィ)については近場の林の中の少し拓けた場所で周りに人がいないことを確認しつつ素振りをしている

 

剣筋がぶれないようには振れるようにはなってきたが練習相手が欲しいところである・・・流石に無理か

 

『報復』の能力に関しては野良猫を捕まえて引っ掻かせてから発動してみたが、発動する瞬間全身に青白く光る紋様が浮かび上がったのにはびっくりしたな

 

「あれ、もしも傷が癒えるまで紋様も消えませんとかだったらアウトだったよな・・・すぐに消えたから良かったけど」

 

あとは駒王町を仙術で探れるようになったため気付いたことだが明らかに人間じゃない異質なオーラの持ち主がチラホラと感じ取れたことだ

 

最初はグレモリー眷属との対面か!と思ったのだが、どうにも気配の向かう先が『町はずれの廃棄された教会』だったりする

 

おそらく感じ取った人外の気配は堕天使のものなのだろう

 

よくよく考えてみたが前任者であり悪魔の陰謀と教会の粛清によって滅ぼされたとされているクレーリア・ベリアルの死後、紫藤イリナはすぐ海外に引っ越している

 

そしてリアス・グレモリーが初代バアルと会談したときは前任者から引き継ぎを行ったがそれは替え玉だったと言っていた

 

つまり今この駒王町はバアル家の持ち物ではあるものの悪魔も天使も手をひいているのだ

 

その間にこっそりと堕天使サイドが潜入していてもなにもおかしくはないのである

 

この気配を堕天使の気配とするなら別種の気配は特に感じない

 

おそらくリアス・グレモリーはまだこの町の管理を任されてはいないのだろう

 

ならばその堕天使に接触を図ってみるか?・・・考えるまでもなく却下である

 

自分は今すでに神器を発現させている

 

原作主人公たるイッセーは『もしかしたら神器を持ってるかも知れない』というだけの理由で腹に穴が開いたのである

 

堕天使全員が悪い人なんて言わないけれど俺が知っている堕天使でまともなのはアザゼル、シェムハザ、バラキエルだけだ

 

それ以外全員ブラックに近いグレーゾーンの堕天使に挨拶を交わす?自殺志願者ですか?

 

感じ取れるオーラの強さは自分と大差無い、むしろ俺のほうが強いだろうが向こうがもし問答無用で殺しに来たら多分負ける

 

実戦経験ゼロの俺が(おそらくは)何人も殺してきている空も飛べるうえに遠距離技まで持ってる堕天使に勝てる訳がない

 

奇襲をかければいけるかもしれないが、悪い堕天使と決まっている訳でもなく、狙われている訳でもない―――闘う理由がそもそもないのだ

 

「うん、今しばらくは無視する方向で!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様、その身に神器を宿しているな?この地を管理する悪魔たちが戻ってきた時に下僕にされても面倒だ。ここで死んでもらおう。恨むのなら神と悪魔を恨むことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おぅふ!マジですか!!




初めてのバトルパート
上手く書けるか不安ですww


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第四話 初戦闘①

「貴様、その身に神器を宿しているな?この地を管理する悪魔たちが戻ってきた時に下僕にされても面倒だ。ここで死んでもらおう。恨むのなら神と悪魔を恨むことだ」

 

目の前の男がそういった途端に世界がズレた感じがした

 

おそらくは認識阻害の結界の類なのだろう。・・・この中であれば多少派手に暴れても問題ないという訳だ、くそったれめ!

 

今俺達が居るのはグラウンドだから遮蔽物もないし、背中を見せたら後ろから刺されること請け合いだ

 

仙術で感知が出来るからって油断してた!感知できても別に常に感知し続けている訳ではない(・・・・・・・・・・・・・・・)のだ

 

ハ〇ター〇ンターのクロロさんも言っていたではないか―――『凝』を怠るなと!

 

完全にこっちの油断が招いた事態だ・・・とりあえず少しでも時間を稼ごうと思い、目の前の男に話しかける事にする

 

「何の用でしょうかお兄さん。神とか悪魔とか・・・宗教の勧誘ですか?」

 

「・・・いいや勧誘ではない。どちらかと言えば解放だ。貴様には忌々しい我らが父の作った玩具がその魂にへばりついている。崇めてもいない神に押し付けられた物など不要だろう?ゆえに貴様の魂を堕天使という至高の種族である我が直々に解放してやろうというのだ。存分に我を賛美してもよいのだぞ?」

 

そう言いながら男はこれ見よがしに黒い翼を広げてきた

 

どうやらおしゃべりで且つ自分に酔っている奴のようだ

 

天使が堕天する理由は色々あるけどこいつはアザゼルさんのようにおっぱいつついて堕天したんじゃなくて高慢が原因で堕天したんだろう・・・

 

俺は今の間に仙術で辺りを探知してみたがあまり状況は芳しくはないな

 

結界は半径100mほどでその内側は感知できるのだが外側にはうまく力が働かないのである

 

フィルターを通して外を見るようでコイツ以外の堕天使が結界の内側にいないのは分かるが外側のどのあたりにいるのかが感じ取れないのだ

 

事前に感じ取っていた堕天使の気配は三つ、目の前の奴を倒して結界が解けたらすぐに気配を消して(自然の気に近くなるよう自分の気を調整して)距離をとることができたらベストだろう

 

そうと決めたらすぐに行動だ。相手はいつ光の槍を投げつけてくるか判らないのだから

 

「ふっっっ!!」

 

今の自分の最速で闘気を練り上げ、真正面から距離を詰めて顕現させた神器の右歯噛咬(ザリチェ)で渾身の力で斬りつける

 

 

 

 

“ギィン!”

 

 

 

光の槍で先手を防がれた!天を仰いでまで自己陶酔してやがったくせに!!

 

 

 

攻撃を防がれた上にその反動を利用して距離を取られ、上空に避難されてしまった。とはいえノーダメージではなかったようで奇形の剣であることが幸いし、槍で防がれたところ以外の刃は届いていたようだ。奴は斬られた左腕を右腕で押さえながら憤怒の形相でこちらを見ている

 

「キッサマァァァッァぁぁぁ!!下等種族の分際でこの俺様に傷を付けるなど許されるとでも思っているのか!このクッソガキがぁぁぁぁぁ!!ぶっ殺してやるぞぉぉぉ!!!!」

 

よほどお気に召さなかったようで瞬間沸騰している。・・・電気ポットにでも転職すればいいのにと頭の片隅で考えてしまうのはこれも一種の現実逃避なのだろうか?

 

幸い初めて『人型』に対して刃を振るったことに対する動揺は今のところ感じない

 

むしろ頭が熱く感じているのはアドレナリンでも分泌されてるのだろう。精神的に動けなくなるということは避けられ、手傷も負わせたが状況は最初よりも悪くなったといえる。何しろ攻撃が届かないのだ。気弾などを習得していない自分では割と詰みに近く、このままでは光の槍で一方的になぶられて終わってしまう

 

「どうしようか、【一刀修羅】はできれば使いたくないんだが・・・」

 

つい言葉が漏れてしまう

 

事実として【一刀修羅】を使えば敵がコイツ『一人』であれば問題ない。攻撃を見切って今度は逃げられないように背中にでも強化されたジャンプで張り付き、首を掻っ切ってやれば終わりだ。【一刀修羅】ならそれができる。しかし、後が続かない。・・・そこで異変を察知した残りの堕天使がやってきたら

 

『1.死んだ同胞 2.近くにいる満身創痍の神器持ちの男』これら二つを関連付けて答えを出しなさいとなる訳だ・・・俺が堕天使ならとりあえずぶっ殺すね!!!

 

クソッ!今まで何かと役に立って重宝してきた【一刀修羅】が実戦になった瞬間一気にダメな子になった!!

 

落ち着け!自分の手札を今一度確認しろ!

 

【特典その1.一刀修羅】この場は勝てるが追撃されたら死ぬ

 

【特典その2.偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】上手く攻撃を受けなければそのまま死ぬ。発動しても互いに動けなくなりあちらは援軍2人に対しこちらは0人

 

【特典その3.じばく】おそらく【一刀修羅】以上に動けなくなり、爆発の範囲は未確認なのでうまく巻き込める保障無し

 

!!!Fuck You!!!どうしろってんだよ!!もう殆ど詰みじゃねぇか!

 

「なにをぶつくさと言っている!!さっさと死ねぇぇぇぇっ!!!」

 

「うおっと!」

 

脳のリミッターを外しているから攻撃は遅いので避けることはできるが、コレも長くは続かない。脳に負担がいくから使い続けるとドンドンと頭痛がひどくなっていくのだ。それで動きが止まれば結局いい的だ!

 

チッ!バカみたいに光の槍を投げてきやがって、羨ましい!こちとら武器は二本だけなんだぞ!手放したら槍を受け流すことができなくなるし、だからと云って全てを避けるのは難しい。某赤い弓兵さんや原作のイケメン王子みたいに武器を複製して使い捨てることができるなら兎も角、俺の武器はこの2本だけなんだから

 

・・・いや待てよ?右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)が投擲武器でないと誰が決めた?

 

確かに普通武器は投げたらそこまでだ。グングニルやゲイボルグのように投げた後で手元に戻ってくるといった能力は右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)にもない

 

相手の堕天使も投げた槍を再利用しているわけでもなく使い捨て方式だ

 

しかし、【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】という神器(・・)として手にした今、ぶん投げた武器を消して手元に再出現させれば疑似的に遠距離技が手に入る!

 

 

 

 

 

 

 

そこまで思考したところで左肩を光の槍が貫いた

 

 

 

 

 

「あ゛っ!?あ゛ぐぅぅぅぅぅっ!!」

 

熱い、熱い、熱い、熱い、熱い!痛いんじゃなくて熱い!!

 

「フゥワハハハハ!ようやく当たったか!!だがまだ終わりではないぞ!!!」

 

光の槍が漸く当たった事で上機嫌になった奴は少しのタメをつくり右手の先に5本の槍を生み出してそのまま投げつけてきた

 

なんとか4本は躱したが残りの1本が今度は右足の太ももを深く切り裂き、俺はその場で四つん這いになってしまった

 

「クックックック!いい姿だなぁ、そうだ、俺様に対し貴様ら下等種族はそうやってこうべを垂れている姿がもっとも似合うのだ。もっともその程度ではまだ許さん!貴様の犯した罪の重さをじっくりとその体に刻み付けてやらねばなぁ」

 

ああ畜生!俺のバカ野郎!!少し光明が見えたくらいで集中切らして一気に追い込まれてるじゃねぇか!!

 

【一刀修羅】を使っておけば良かったのか?いや、答えは分からないままだ。それにここで仮に【一刀修羅】を使っても手札を2枚失うことになる

 

偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】が『報復』という自分にダメージを与えた相手にのみダメージを返す技である以上これ以上のダメージは看過できない、他の堕天使がもし来てもそいつには何の効果も及ぼせないのだ

 

幸か不幸かそれなりのダメージは受けたんだ、ここは意地でも【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】だけで乗り切る必要がある!

 




一話で決着つくかと思ったけど最後まで書いてたら夜が明けそうだったので今のぶんだけ上げることにしました。


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第五話 初戦闘②

既に【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】の発動条件は整っている

 

しかし、ただ闇雲に『報復』の能力を発動させても意味がない。相手は依然として空を飛んでいるのだから、今の自分の傷を相手に『写した』としてもそれでは落とすことはできないのだ―――――自分が『翼を引き裂かれる』的なダメージを受けていれば話は別だったが、あいにくと人間として生まれた身だ・・・というかこちらも空を飛べていればここまで追い込まれていない!「空を飛んでる奴はそれだけでほとんど最強」とは誰のセリフだったか・・・

 

こちらは左腕はほとんど動かず、移動は『できなくはない』というレベルだ。あいつに届く攻撃といったら右歯噛咬(ザリチェ)をぶん投げるくらいだが、ただ投げても当然躱されるか弾かれるだろう

 

しかし、今ならば真正面から相手のスキを作り出すことができる。目には目を歯には歯を!たっぷりと『報復』してやる!

 

一つ一つではダメならば組み合わせればいい!!

 

立ち上がり、全身を強化しながら右腕を引き絞る。それを見た奴はボロボロの俺を嘲る

 

「ふん、苦し紛れにその無様な剣でも投げつけるのか?そんなもので俺様をどうにか出来るとでも本気で思っているのか?どうやら頭の巡りまで下等だったようだな」

 

それを聞いた俺は痛みを我慢して如何にも自信があるかのような笑みを浮かべる

 

「そうでもないさ。お前にはこの神器の能力をまだ見せていなかったよな?いくぞ、この一撃は絶対に避けられない(・・・・・・・・・)

 

そう言いながら全身に怪しい青白い紋様を浮かび上がらせた

 

分かりやすいハッタリだがこれで相手が回避よりも迎撃を意識してくれたらいい。動く的に当てられる自信なんて持ち合わせていないからな・・・それに『【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】の一撃』を避けられないという所には嘘などないのだ。嘘をつくなら真実で騙すのが一番ってね!

 

「逆しまに死ね!【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】!!」

 

紋様を浮かび上がらせた俺と投げられた右歯噛咬(ザリチェ)を注視していた奴は突如として奔った右足と左肩の激痛に顔を歪ませ思わず動きが止まってしまう

 

特に左肩は穴が空いてるしな、アホみたいに痛いのは体感済み(・・・・)だ!

 

「ぐぅぅぅぅっ!!」

 

奴は痛みで呻いているが既に投げられた右歯噛咬(ザリチェ)はそのまま向かっていき、その額に深く突き刺さった

 

即死だったのだろう。堕天使は地面に落ちてピクリとも動かない

 

一撃で死ぬとは限らなかったので息つく間もなく右歯噛咬(ザリチェ)を投げ続けることも想定していたがその必要はなかったようだ。・・・とにかく当たるようにと体の中心、腹のあたりをめがけてぶん投げたはずなんだけどな

 

「・・・っぐ!・・・はぁ・・はぁ・・・さっさとここを離れないと・・・」

 

“パアァァァッ!!”

 

そうして踵を返そうとした時、斃れた堕天使のすぐ横に魔法陣のようなものが展開され、そこに別の男が現れた

 

「突然気配が消えたので何事かと思ってきてみれば、よもや人間、それも子供などに殺されているとはな。堕天使の面汚しが」

 

クソッ!新手が来るのが早すぎだろう!?今のは転移魔法陣か!!この世界の人外は空を飛ぶのとかテレポートとかよく言われる『使えたら最強』系の力をポンポン気軽に使いやがって!!!

 

内心毒づいていると新手の堕天使の耳元に小さな魔法陣が現れた。そしてこちらに視線を向けながら喋り始める

 

≪ああ、おまえか。どうやらあのバカは神器持ちの人間に殺されたようだ≫

 

≪・・・・・・・・・≫

 

≪いや、お前は来なくてもいい、この人間は既に満身創痍だ。すぐに殺して後始末をしたらそちらに合流しよう≫

 

≪・・・・・・・・・≫

 

≪ではな≫

 

「さて、後始末が面倒なのだ。さっさと殺すとしよう。神器持ちを相手に慢心してこのバカの二の舞などゴメンだからな」

 

来るんだったら二人まとめて来いよ!そうしたら二人まとめて【一刀修羅】で倒せるのに!!

 

「もう一人も呼んだらどうですか?どうせなら二人まとめて潰してやりますよ?」

 

「立っているのがやっとの貴様にか?その必要はない。先も言った通り、さっさと死ね!」

 

そう言って手元に光の槍を生み出しつつ投げつけてきた―――考えるヒマも無しかよ!このままじゃ死ぬ!!

 

「【一刀修羅!!】」

 

瞬間、世界がスローモーションと化した。ただ脳のリミッターを外した時とは比べ物にならないレベルで全てがゆっくりに見える

 

右足にはいまいち力が入らないが左足は健在だ。そして文字通り一足飛びで光の槍の真横を通過しながら堕天使に接近しその首を半ば切断した

 

「・・・ごぼっ

 

堕天使は少しだけ声のような音が漏れて首から血を吹き出して倒れた

 

そしてそのまま俺は剣を構えて周囲を窺う。二人目のこいつは一人目を倒してすぐに現れたのだ。【一刀修羅】の効力がまだ残っているうちにまた転移して来たらあちらがこちらを認識する前にぶった切ってやる!!

 

だが意気込み虚しく数十秒経っても誰も現れなかった。警戒しているのか?ならばさっさとこの場を去ろう

 

こいつらの張っていた結界は消えているようだから堕天使の死体二人分は見つかったら騒ぎになるだろうがどっかの勢力が後始末してくれるだろう。記憶改ざんという手もあるようだし、今の俺に出来ることも無いしな

 

そうして足を引きずりながらもその場から離れようとしたら丁度【一刀修羅】の効力が切れてしまい、能力の反動で一気に体が鉛のように重たくなる

 

怪我も相まって右足なんて足かせ鉄球でも付いているかのようだ。そのせいで足がもつれて倒れてしまった

 

「ぐっ!」

 

倒れている場合ではない。今はとにかくこの場から距離を取らなければ!

 

しかし、やっぱりこの世界はモブには優しくないようだ

 

 

 

 

「まったく、二人とも殺られてるじゃない。これだから男どもは口先ばかりで役に立たないのよ」

 

今度は女性の堕天使がグラウンドの入り口から歩いて入ってきた

 

二人目がすぐに死んだから距離をとって転移して様子を見つつこっちに来たってことか!

 

変に頭回すんじゃねぇよ畜生!慢心してさっさと来ればよかったのに!

 

「と言っても完全に役立たずのまま死んだ訳でもなさそうね。ふふふっ♪ボーヤ、お姉さんが相手をするまでもなくもう足腰立たなくなっているようね。すでに蟲の息じゃない」

 

そのままこちらに近づいてくる。そして光の槍を出して俺の首に押し当ててきた

 

「言い残す言葉はあるかしら?」

 

 

それに対して俺は口の端を無理やり引き上げて笑みを浮かべる

 

「ああ、あんた達3人ともなんだかんだで慢心してくれてありがとう。ここまで近づいてくれるとは思わなかったよ」

 

そう言った瞬間そいつは顔色を変えてすぐに槍を振りかぶり・・・

 

 

「【じばく】」

 

瞬間、ものすごい轟音と衝撃が全身を叩いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・カフっ!

 

耳がキーンとなってうまく聞こえないし、全身をデカいハンマーでぶっ叩かれたように痛い。衝撃が体の内側に響いてる感じだ。骨も折れているか最低ヒビくらいは入っているんじゃないか?

 

砂埃が舞うなか周囲を見渡してみると自分を中心に半径15から20mほどのクレーターができていた

 

「・・・おおぅ

 

流石は【じばく】、一瞬で全てを使い果たす威力200%はダテではなかったようだ

 

あの女堕天使は・・・仙術もまともに発動できない今確認は取れないが流石に倒せただろう―――と云うかそうでなくては困る。具体的に言えば死ぬ

 

終わった・・・クレーターの中心でヤムチャのごとく倒れているのを他人に見つかったら確実に面倒になると思うがもう動けない

 

考えるのも億劫になってそのまま意識を落としそうになったとき声が聞こえてきた

 

「クソが!『這いつくばってる人間1人だけだからアンタ達は後始末の準備をしていなさい』とかいって出て行った上にあっさり殺されやがって!」

 

「お前ら、取り囲め!クレーターの内側には入るなよ!死にかけだからって油断するな。光銃の一斉射撃で始末しろ!!」

 

・・・クソが!はこっちのセリフだ!!目も霞んでいるけど黒い服を着た奴らが10人くらいは見える。はぐれエクソシストか!!

 

畜生!実戦経験の無さがどこまでも足を引っ張ってくれるな!『人外』が3人だけだからって『敵』が3人だけとは限らないってのに!!

 

 

 

・・・あぁ、クソッ

 

・・・・ここで終わりか

 

・・・・・もう打つ手がない

 

でも、だからって死にたくはない。悪あがきですらないが、もしも望みが叶うなら・・・

 

・・・助けて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミルキィィィィィィィィ・サンダァァァァァァァァァクラッシャァァァァァァァァァァッッーー!!」

 

 

 

 

 

気絶する寸前、なにか聞こえた気がした




最初は堕天使倒して終わりのつもりだったのに気が付いたらミルたんぶち込んでました。


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第六話 反省点

大きい・・・とても大きくて雄々しい力の波動を感じる

 

時に荒々しい父なる大地のような、時に全てを包み込む母なる海のような・・・そう、これは世界だ。いつも仙術で感じ取っていたのは世界の一部でしかないと俺は唐突に理解した。まるで世界、この星そのものの生命エネルギーに体を包まれているような感覚。自分は世界の一部であり世界は自分の一部。疲れ果てているはずの体が活力を取り戻しているのを感じる

 

・・・そして俺はゆっくりと目を開いた

 

 

 

 

 

 

 

「にょ?イーたん起きたんだにょ!?良かったんだにょ~!!」

 

幾千幾万もの戦場を渡り歩いて来た歴戦のナース巨人が目の前にいた・・・というか同じふとんの中にいた

 

ぉおおおおおおおおおおわああああああああああぁぁぁ!!!!

 

「にょっ!素早い反応だにょ!意識がハッキリしているみたいで何よりなんだにょ!!」

 

「近い!近い!近い!近い!近い!近いっ!!」

 

えっ!?なにこれ!ナニコレ!!どういう状況?どういうことなの!?

 

訳も分からないままとにかくミルたんと距離をとる。壁に勢いよく背中をぶつけ、かなりの衝撃が走ったが何にも気にならなかった

 

「えっと・・・ミルたん・・・さん・・その・・・あの・・・」

 

どうやら俺はまだ混乱しているのか言葉が続かない。聴くべきことは沢山あるはずなのに思考がまるで纏まらない

 

「ど・・・どういうこと・・・ですか?」

 

何とか絞り出した言葉はそれだけだった。それに対しミルたんは話し始めた

 

「にょっ!ミルたんは近くのデパートの屋上でやっていたミルキーのステージを見に行ってたんだにょ!やっぱりテレビのミルキーだけでなく同じ場所でミルキーを直接見るのはまた違った良さがあるんだにょ!」

 

「はぁ・・・」

 

つい生返事をしてしまう

 

「いかなる悪にも屈しないミルキーの偉大さを胸に刻みながら家に帰っていると遠くのほうからすごく嫌な感じがしたんだにょ!平和を愛する魔法少女を志すものとして悪がそこに居るのなら放ってはおけないと向かっていったら悪の軍団にイジメられているイーたんを見つけたから練習中のミルキー魔法で悪の軍団を倒したんだにょ!」

 

ミルたんだからはぐれエクソシストを倒せるのは不思議じゃないのかも知れないけど普通に考えれば一般人が勝てる相手じゃないよね!?10くらいは居たし・・・まぁ今更だけどさぁ!!

 

「そ・・・そうですか。それで?そのあとは?」

 

「イーたんの怪我が酷かったから治療のためにこのアパートに連れて来たんだにょ!前に異世界に行ったとき、とある王国のお姫様を連れ去った悪いスッポンさんを倒した時にその生き血を手に入れたんだにょ!一緒に戦った配達業のお兄さんの話だと怪我も治るし万病にも効くみたいなんだにょ!怪我が治って本当によかったにょ!!」

 

・・・・ダメだ。もう理解できない、というか理解したくない

 

ミルたんもうすでに異世界に行ってたんだね。大冒険してんじゃん!色々と細部が違うけどスーパーマ〇オ的な世界だよねそれ!!つーかおれスッポンの生き血で再生したの!?よく見たら肩の傷も塞がってるし、フェニックスの涙かよ!いや!万病も治るってことはそれ以上だよね!?

 

「次に悪の軍団のお兄さん達もイーたんと一緒に連れてきてたんだけど、ミルたんはどうしてお兄さん達は悪いことをしてしまったのか考えたんだにょ!でもすぐに分かったんだにょ!きっと彼らは愛と勇気、夢や希望と云ったものに触れてこなかったからってミルたんは気づいたんだにょ!だからミルたんは悪いお兄さん達にそれらすべてが詰まっているミルキーの素晴らしさを一生懸命語ってあげたんだにょ!すぐにお兄さん達は涙を流して震えるほど自分たちが悪いことをしたことに気がついてくれたんだにょ!」

 

涙も震えも絶対に別の理由だと思うんだが・・・

 

「・・・改心したそのお兄さん達は今どこに?」

 

この部屋のどこにもいないようだが?

 

「お兄さん達は自分たちのやったことの責任を取りたいと願い出てくれたんだにょ!グラウンドの穴を埋めてくると言ってたんだにょ!」

 

・・・逃げたな。早急な後始末は必要なことではあるし、自ら反省を示すのも大切だけど理由としてはソコじゃないよね?絶対に

 

「最後に・・・同じふとんに入ってたのは?」

 

そう!あえて後回しにしたがソコが一番重要だ。場合によっては今この場でこの世に別れを告げなければならないだろう

 

「すっぽんさんの血で怪我は治ったけどまだイーたんの顔色は悪かったんだにょ!それを見たお兄さん達の1人が人肌のぬくもりが効果的だって教えてくれたんだにょ!実際イーたんの顔色もドンドンよくなっていったんだにょ!」

 

っっっっあんのクソはぐれエクソシスト共~!!どうやら反省(ミルたんのミルキー講座)の足りない奴が混じっていたようだな!!

 

次に会ったら俺が引導を与えてくれる!!!

 

 

 

 

 

その後ミルたんにお礼を言ってから帰路についた

 

助けてもらった上にフェニックスの涙的なレアアイテムまで使ってくれたのだ

 

・・・目覚めた瞬間トラウマが刻まれた気もするがそれとは別に感謝はしなければならない

 

あと破れた服も速攻で縫い合わせてくれました———なんでも『なぜか』着ているミルキーの衣装が破れることが多いらしく、直している間に裁縫の腕が上がったとかなんとか・・・そこまで裁縫の腕が有るならもう自作すれば良いのに

 

「・・・はぁ」

 

幸いすぐに怪我も体力も回復したからか気絶している時間は大した事がなかったようで、門限である18時になる前に帰ることができた

 

しかし、今回の一件は色々と自分の課題が浮き彫りになる事件だったと云えるだろう。そんなことを考えながらも玄関を開ける

 

「ただいま~」

 

「一輝、お帰りなさい。もうすぐご飯はできるから先にお風呂入って汗を流してらっしゃい」

 

台所の方から母さんの声が聞こえる———あ、ちなみに呼び名は『いっくん』から『一輝』になりました。さすがにいつまでも『いっくん』は流石に恥ずかしいので・・・

 

「は~い」

 

その後、お風呂と晩ご飯を食べてから自室に戻り、改めて今日の戦闘の反省点を洗い出す

 

まず最初に堕天使の接近を許してしまったことだ。相手がこちらを見つけたのはおそらく偶然なのだろうが、だからといって『偶然なら仕方ない』で済ませていい問題でもない

 

あの場では仙術探知を怠った自分に対して毒づいていたが冷静に考えると仙術探知を常に続けるというのは無理に近い

 

なぜなら探知の範囲が広ければ広いほど当然大量の情報が頭に流れ込んでくるからだ

 

狭い範囲でならそれなりに持続できるとは思うがそれではあまり意味がない

 

ならば逆のアプローチをするべきだろう。すなわち『探る』のではなく『隠す』のだ

 

気配遮断ならば基本的に意識するのは自分の気配だけでいい。持続性という点では比べ物にならないだろう

 

アザゼルさんだって兵藤家のみんなに気づかれることなく普通に玄関から入っているし、グレイフィアさんだって鋭い感覚を持っているであろう木場祐斗に部室の扉の前まで気配を悟らせなかった。魔王級のオーラを持つあの方々がである

 

上級者なら自然と気配を消したり抑えたりしているのだろう

 

それを考えると堕天使の奴らの気配は駄々洩れだったしな

 

「いや、それは俺もか・・・」

 

兎に角、常日頃から気配を隠蔽することを無意識下にできるようになることが課題その1と言えるだろう

 

次に右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)の投擲技だ

 

これも思い返せば課題だらけだ。そもそもあの場では反撃の糸口が見えたと喜んだが、別にその直後に光の槍の攻撃を受けなくてもじり貧で追い込まれていただろう

 

慣れてない初めての投擲、こちらは地面であちらは空、この二つならまだ何とかなったかもしれないが、相手にとってみれば態々攻撃を見切って避けるだの槍で弾くだのリスクの高いことをする必要なんてない。光力でバリアを張ればそれで解決だ———バリアを砕くほどの投擲があの場で出来たとも思えないしな・・・

 

とはいえ止めを刺したのも事実、投擲の練習と防御面に課題が残るといったところか・・・

 

【じばく】は・・・今回その威力はおおよそ分かったけどこれ意味あるのか?なにも判ってなかった時に比べたら遥かにましだが、今後修行で基礎能力を向上させていったら絶対に【じばく】の範囲広がるよね?なに?定期的にどこかで【じばく】して検証しろってか?

 

「うん、却下だな」

 

どれぐらい痛いのかが判った・・・今はコレで良しとしよう

 

最後に想定の甘さだ。敵の戦力を見誤った。もっと最悪を想定していたなら二人目を倒した後、十秒ほどたっても現れなかった時点で身を隠すことに専念すべきだったんだろう

 

それで隠れられたのかは兎も角、選択肢としてはそっちにすべきだったはずだ。

 

「カーッ!自分の未熟さがとことん浮き彫りになったなぁ、ほんと誰かに師事できれば良かったんだけど、こればっかりはなぁ・・・」

 

そしてその日は精神的な疲れから早めに就寝した

 

 

 

 

 

 

少し時が流れ3月、小学校の卒業式は昨日で終わり、後10日程経てば晴れて中学生になる

 

「っ疾!!」

 

早朝、いつもの林の中で神器を出して剣の練習をしていく。木に向かって時に切りつけ、蹴りつけ、距離をとって投擲していく

 

因みに今の俺はその身に闘気を纏っていない。堕天使の一件でミルたんの部屋で目を覚ますとき、図らずも世界と一体化する心理にして真理のようなものを感じてしまい、仙術の練度が上昇してしまったのである・・・誠に遺憾だ

 

今の自分が闘気を纏って切りつければ技術が伴っていなくとも木を切り倒してしまうだろう

 

それではただの自然破壊だ・・・だがまぁ基礎能力が向上する事自体は良いことだ。実力差があれば多少の相性の悪さは覆せるのだから

 

剣の練習を一度止めて今度は闘気を纏いながら空手の型を参考にして練習を始める

 

・・・次の瞬間には後ろから組み伏せられていた

 

「ぐぁっ!」

 

そんな!この林の範囲内なら仙術で常に探知してたのに!!

 

「動かないでね」

 

そう言いながら何か鋭利なものを首に押し当てられた。声は女性のものだ

 

「まったく、もうすぐ此処に来るっていうから先に下見に来たけどあんたみたいな奴がいるだなんてね。答えなさいその仙術、どこで習ったの?どこの勢力がバックに居るのかしら?」

 

なんか知らないけど盛大に勘違いしていらっしゃる~!?

 

「いや、俺はどこの勢力にも着いてないですよ?」

 

「嘘おっしゃい。あんたみたいなただの人間が仙術を誰の師事もなく会得できる訳がないでしょう?さっさと吐いた方が身の為よ?」

 

そうか!この世界の裏側でも仙術は特異で希少な力だ。誰かの師事を仰いでいると考えるのが自然だしそれだけの仙術使いなら大なり小なりどこかの勢力に所属しているのが普通だろう!!

 

「そう言われてもこの力は俺が独学で身に着けたものです。証拠は出せませんがこれ以上の答えもまた出せません。むしろどうしたら信用してくれますか?」

 

それにしてもどうしようかこの状況?話し合いでなんとかできれば良いが煙に巻くような話術は持ってないし、完全に抑え込まれてるこの体勢から抜け出すには【一刀修羅】を使うしかない。【じばく】?知らない子ですね~

 

そう答えてから十秒ほど経ってから息を吐く音が聞こえてきた

 

「・・・いいわ、あんたからは邪気もなければ己を偽るような気の流れも感じない。ひとまずは信用してあげる」

 

そう言って背中からどいてくれた

 

気の流れと言っていたのでおそらく彼女も仙術の使い手なのだろう。それも格上の、であれば探知をすり抜けて簡単に背後を取られたことにも納得がいく

 

仙術の練度が上がったと舞い上がっていたらさっそく鼻っ柱をへし折られた気分だ

 

そう思いながら立ち上がり、後ろを振り向く

 

「・・・あっ」

 

視線の先にいたのは自分もよく知っている顔だった

 

着崩した黒い着物、結い上げた黒い髪と猫耳、黄金の瞳の超絶美少女・・・猫又でも上位の猫魈(ねこしょう)にしてSSランクのはぐれ悪魔――――黒歌であった

 

「にゃ?ポカンとしてどうかしたのかにゃ?」

 

まだ頭がちゃんと回っていなかったのかつい言葉が漏れてしまう

 

「あっ・・いや、可愛くて、綺麗な人だなって・・・」

 

「にゃ?」

 

どうやら今度は向こうがポカンとしてしまったようだ―――そして少しすると

 

「・・・・っぷっくっクック・・・ニャーはっはっはっはっは♪」

 

そうして盛大に笑い始めた

 

「純粋に容姿を褒められたのって久しぶりだったにゃ。うん、悪い気はしないわね。でもこの状況で普通そんなこと言う?キミって実は結構おマヌケくんだったりするのかにゃ?」

 

・・・悪い印象は与えずに済んだようだがマヌケという言葉がわりと突き刺さる。最近未熟なところを自覚したばかりだし、さっきのセリフも今にして思い返せば恥ずかしい。自分の顔が赤くなってるのが判る

 

「にゃ?にゃにゃにゃにゃにゃっ?顔を真っ赤にしちゃってどうしたのかにゃ?お姉さんに教えてほしいにゃ~♪」

 

畜生!この人苦手だ!!誤魔化しても追撃されるだろうし、いいよ!開き直ってやる!!

 

 

 

 

 

 

 

っっっっあなたが可愛くて綺麗だっていいましたーーーっ!!!

 

 

 

 

 

前世でも今世でもお目にかかったことのない超級の美少女兼原作キャラに出会って妙なテンションになっていたのか渾身の力で叫んでやった

 

流石にそれには面食らったのか少し顔を赤くしながらも「にゃはははは、チョットからかい過ぎたかしら?」と言葉をこぼした。それを聞いてやっと自分も頭が働いてくる

 

まず第一にどうあれ彼女と別れた後、頭を抱えて転げまわることは確定的に明らかだ―――正直今もすごく恥ずかしい

 

次に彼女の言った言葉『もうすぐ此処に来るっていうから先に下見に来た』というのは十中八九彼女の妹の塔城小猫及びグレモリー眷属のことだろう

 

春の入学・始業式に合わせて駒王町の管理者になるということだ。・・・前日に引っ越してくるということもないだろうし、数日中には来ると思うべきだ

 

妹のためにはぐれ悪魔になることを選んだ彼女のことだ、グレモリーに妹が引き取られた後も動向を探っていたとしてもおかしくない。いくらグレモリーが情愛に深い悪魔だといわれていても『はいそうですか』となる訳もないのだ。どうあれ真偽を確かめる必要はあったはずである

 

最後に仙術使いを警戒していた理由だが、これもやはり妹のためなのだろう

 

今の塔城小猫は姉の黒歌が仙術の暴走で主を殺し、はぐれ悪魔となり自分を捨てて逃げたと思い込んでいるはずだ

 

仙術に対して忌避感を持っている今の彼女は下手に仙術に手を出したら自滅しかねないのだ

 

だが仙術は元々希少な力、彼女としても今回の下見は『一応』というものだったはずだ。そしたらものの見事に自分が釣れた・・・と。ならば彼女がこちらに要求するだろうことも予測はできる

 

「・・・アンタ、その力を他の誰かに教えちゃダメよ」

 

彼女は先ほどまでと違った鋭い目つきでこちらを見てくる

 

「それは・・・制御出来ないと邪気が体に入ってくるからですか?」

 

「そう、分かっているみたいで何よりね・・・特にあなたは独学なんでしょう?あなたが誰かに下手に仙術を教えればその誰かさんは破滅することになるわよ」

 

「はい。自分もできれば師事できる人がいれば良いと思っていたのですが伝手もなくて・・・宜しければどこか紹介していただけませんか?」

 

ダメ元で聞いてみるが彼女は首を横に振った

 

「残念だけど私から紹介できるところはないわね」

 

「・・・そうですか」

 

少し気落ちしていると彼女から思ってもない提案がなされた

 

「ねぇ、よかったら私が修行を見てあげましょうか?」

 

「それは・・・有り難いですが、どういう意味でしょうか?」

 

「理由は二つにゃ、一つ目はキミのことをまだ完全に信用できてないから監視がしたい。二つ目はこの町での拠点が欲しいから協力してほしいのにゃ―――その見返りとして修業を見てあげてもいいってことよ」

 

なるほど、出会ったばかりで完全に信用を置けないのは当然のことだ。しかし、二つ目は・・・

 

「理由は分かりました。監視は問題ありません。ですが私は生まれはただの一般人です。財力もなければ権力もありません―――拠点の確保と言われると難しいのですが・・・」

 

「君の部屋で良いにゃ♪」

 

とんでもないこと言ってきたぞ、この美少女!

 

「いや!良くありませんよ!!」

 

「ん~?何を想像しているのかにゃ~?まぁ問題ないにゃ。キミなら寝込みを襲われても返り討ちにできるし、寝ぼけて殺s・・・手加減し損ねる心配があるくらいだにゃ♪」

 

大問題だよ!!と云うか今貴女明らかに『殺す』って言い掛けましたよね!?

 

「いえ、それ以前に俺が不眠症になります!」

 

だがそんな俺の答えを聞いているのかいないのか。彼女はサクサクと話を進める

 

「じゃあ、早速案内するにゃ♪それと、慣れない敬語は必要ないわよ、堅苦しいしさっきから一人称コロコロ変わってるわよ?」

 

「えっ!!マジですか!?」

 

そりゃあ敬語なんて十数年ぶりだったけど

 

「っとぉ、そういえば自己紹介もまだだったわね。私は黒歌、よろしくにゃん♪」

 

「・・・有間一輝です。よろしくお願いします。黒歌さん」

 

「け・い・ご!―――あと、さん付けも要らないわ。肩がこっちゃうし・・・キミのことは『イッキ』って呼ばせてもらうにゃん♪」

 

「はぁ、了解だ。黒歌」

 

中学は波乱の年になるかもな・・・そんな思いを感じつつ帰宅するのだった




という訳でヒロイン枠は黒歌となりました。ヒロインが今後増えるかは未定です。というか自分は行き当たりばったりで書いているのでヒロインがもし増えるなら自分の筆が自然と乗った時となります。

まだ黒歌は主人公を大して意識してないですし、主人公も黒歌をかわいいとは思っても恋愛感情までは発展していません。・・・どうやってこの二人くっつけようか?


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第二章 中学編
第一話 原作主人公との出会い


黒歌と出会い、晴れて中学生になってから1月ほど経った

 

クラス内でも初めのうちは皆どこかぎこちなかったが、それも少しずつ解消されていき大体の人がそれぞれ馬が合う奴とでグループを作っている

 

そして俺はと云えば窓際一番後ろという素晴らしい席を獲得した———のだが・・・

 

「見ろよ。現像してきたぜ、前の休日の戦果だ。この子とか可愛いうえにおっぱいも大きいぞ!元浜!この子のスリーサイズはいくつだ?」

 

「上から83、60、82!!うおぉぉぉぉナイスバディ!!どこだ松田!どこでこのお姉さんとエンカウントしたんだ!?」

 

「なぁにぃ~?その写真俺にも見せろ!脳内保存して今夜さっそく使用する!!!」

 

「うるっせぇぞこのエロ馬鹿どもがっ!!!」

 

俺の席の右側に原作主人公、【おっぱいドラゴン(予定)】『兵藤一誠』

 

前の席には【エロメガネ】、【スリーサイズスカウター】、【ロリコン】の『元浜』

 

右斜め前には写真部であり【エロ坊主】、【セクハラパパラッチ】の『松田』

 

という天の采配ともいえる席となっていた・・・原作キャラと出会えたとはいえ、ここまでになると欠片も嬉しくない

 

クラスメイトの憐みの視線が痛いし、女子たちのエロ馬鹿3人組に向ける気持ち悪いものを見る視線が自分にも向けられるような錯覚すらするのだ

 

「なんだよイッキ、我慢することなんてねぇんだよ。見ろよこのおっぱいを!今月号の『THE☆おっぱい山脈~アルプス山脈をも超えて~』は素敵なおっぱいが盛りだくさんだぜ!」

 

などと言いつつ雑誌をこちらに向けてくる。それに対して目を逸らしながら怒鳴る

 

「見せつけて来んな!何度も言ってるだろうが!エロ談義をするのは構わないからせめて女子たちの居ないところでやれ!!」

 

つーか何だ!アルプス山脈を越えるおっぱいってそれもうただの巨人族じゃねぇか!

 

「何言ってやがる!!エロこそ至高!エロこそ正義!!エロによって人類は存続してきたんだぞ、誰にはばかることがある!!!」

 

もうヤダこいつら・・・エロ以外の話題はないのか?いやまぁ漫画やゲームの話もするけれどいつの間にかそれもエロい目線で語られるんだよな。まじで勘弁してくれ・・・

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほらどうしたの?気弾の制御が乱れてるにゃ。ちゃんと集中して」

 

学校が終わり(精神的に)疲れながらも帰宅。体を動かすトレーニングを終えて今は自分の部屋で黒歌に仙術の気弾の修行を見てもらっている・・・のだが学校ではずっと『おっぱい』という言葉に囲まれているからかどうにも目の前の彼女を意識してしまっていまいち集中できない———あのエロ馬鹿どもが!

 

気弾を掌の上に浮かべるくらいなら部屋でも出来るし、俺の部屋は認識阻害や防音、黒歌や家族以外が入ってきた時の迎撃トラップなどで軽く要塞化している・・・ついでにベッドも占拠されたので俺は毛布にくるまって床で寝ているし、美少女が同じ部屋ということで意識して眠れないかもという懸念も在ったが寝る前の【一刀修羅】瞑想で体力を使い果たしてすぐに眠ってしまうため幸い問題にならなかった

 

修行の方は付きっ切りという訳でもなく、時々アドバイスを貰えたり、分からない部分を質問したりするくらいだ―――彼女としてもそこまで俺に世話を焼く必要もないと思っているのだろう

 

今修行しているこの気弾は仙術よろしく直接的な破壊力には乏しいものの遠隔で相手の気を乱すことができる

 

ちなみに黒歌は原作のように仙術・妖術・魔力をミックスしているそうで、なんでも仙術で相手の気を乱し、妖術で毒や呪いを流しこみ、魔力で破壊力も持たせている三点セットでお得な術だそうだ・・・えげつない、さすが最上級悪魔クラスは格が違った

 

修行も一息ついた後、ふと気になったことを聞いてみた

 

「そういえば今更何だけど、この町の拠点はなんで俺の部屋だったんだ?認識阻害や人避けの結界を張れるなら廃墟とかアパートの空き部屋とかを根城にするってイメージがあるんだけど・・・」

 

実際、原作でもはぐれ悪魔なんかは廃墟とか洞窟とかにいた気もするし、監視するためってだけじゃ理由としては弱い気がするんだよな

 

「にゃ?それは当然監視以外の理由もあるにゃ―――イッキの思った通り秘密裏に拠点を築くときは基本はそうするけれど、その土地の管理者たちもそれは当然わかっているのにゃ。そういう人の住まない場所は時々パトロールされるし、精度の高い隠蔽を施せば同業者が気付かずに入ってくる場合もあるのにゃ」

 

なるほど、権力を大っぴらに使えない場合は仕方ないから廃墟などで『妥協』しているのか・・・

 

ああ、それと黒歌は自分のことを『元妖怪のフリーの悪魔』という風に言っていた。さすがに最初から『指名手配犯で追われる身です』とは言わなかったが、『面倒な連中に追われている』とは聞いている

 

まぁ彼女であれば早々見つかったりはしないだろう

 

ともあれ今は何が起きてもなんとかできる実力が重要だ。そう思いながらも一日の締めくくりの【一刀修羅】を行い、そのまま疲労感に任せて眠りについた・・・完全に眠りにつく前に少し寂しげな声が聞こえた気がした

 

 

 

 

[黒歌 side]

 

 

「やっと眠ったようね・・・」

 

この少年『イッキ』と出会って一ヵ月と少し、拠点が確保出来ればそれで良かったから最初に提示した仙術の修行を見るというのも、ちゃんとするつもりもなかった

 

間違ったことを教えるつもりはなくとも時折口をはさむ程度のもので、仙術という危ない力を見るというには些か以上にいい加減といえるだろう

 

だが彼は驚くほどの精度で気の流れ、特に自分自身の気を制御することに長けていた

 

なぜなのかと思ったが最初の日の夜にその理由が明らかになった———彼が「【一刀修羅】」と呟いた瞬間に彼の力が爆発的に膨れ上がったのだ

 

もし先に【一刀修羅】とやらの説明を受けていなかったら思わず一帯を吹き飛ばすような攻撃を加えていたかもしれない

 

最初に見つけたときに振っていた神器の能力なのかとも思ったが、どうにも違うようで気が付いた時には自然とできていた能力らしい

 

一分とはいえ自身の能力や感覚を何十倍にも引き上げることができるらしく、その『感覚を引き上げる』という能力の副産物として自分の体の状態を鋭敏に感じ取れるようになり、仙術に目覚めたのもそのお陰らしい

 

もっとも一分を過ぎれば疲れ果てて動けなくなり、途中で発動を止めることもできないと聞いたときはそのリスクの大きさに呆れもしたが

 

相手の気を乱したり整えたりするような修行は今までやっていなかったらしいが生命の気の流れを感じ取るという下地はしっかりしていたため、私の少しのアドバイスでグングンと仙術の練度が増していってるのが分かる

 

白音のほうも昼間の学校から夜の悪魔の活動まで探ってみたけど特に大きな問題はないようだ

 

もっとも昔はよく笑う子だったのに今はほとんど感情を表に出さない様子なのは見ていて悲しいものがある

 

「いつか、私の事なんか忘れて昔みたいに笑えるようになってくれないかにゃ~?」

 

そういって彼女は寂し気な言葉をこぼした

 

 

[黒歌 side out]



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第二話 参曲(まがり)

中学に入学してから早くも一年半ほどたった

 

黒歌ともそれなりに気安い間柄にはなれたし、今では偶になら模擬戦の相手もしてくれる―――ベッドは占拠されたままだし部屋に置いてあるゲームもほとんど黒歌の方がプレイ時間が多かったりするけどね

 

でも自分としては実力が上がることよりも嬉しいと感じた成長がある。2年生になる頃に黒歌の身長を追い越すことができたのだ!!

 

初めて彼女に会ったときは小学生の時だった(卒業はしたけどまだ籍は小学生だったはず)ので彼女より身長が低いのは仕方なかったといえるが、俺も中身は成人しているためか割と気になっていたのだ・・・自然と牛乳を飲む頻度は増えたしな

 

学校の方はと云えば2年生になってもエロ馬鹿3人組とは同じクラスだった。多分あの3人組に関しては先生たちが問題児を一か所に集めるために同じクラスにしたのだと思うが、うちのクラスの女子達にとってはいい迷惑だろう

 

2年のクラス替えの発表があった時にその場で泣き崩れる女子がいた気もするが別の理由だったと思いたい・・・それはそれで問題か

 

そんな中俺はというと3バカをとっ捕まえる役だ。主にクラスの女子達から同情の視線を向けられつつも『あの3人を何とかしてほしい』と頼まれている・・・というか頭まで下げられたくらいだ

 

これでも鍛えているのであの3人を同時に制圧することもできるし、仙術で相手の位置も探れるのでどこぞの更衣室を覗いていれば分かるのだ―――どうやらその功績が女子生徒に認められたらしい・・・余り嬉しくないな

 

仙術は隠密・偵察にも向いている力だがこんな使い方で良かったのか?疑問は尽きないがあの三人を放置するのは良心の呵責が疼くので割り切る事にした

 

当の3人組からは隠れて覗きや盗撮を繰り返す自分たちをすぐに見つけて来るため最初のうちは逆ギレされたりもしたが、今では少し態度が軟化していたりもする

 

というのも周りに迷惑を掛けそうにない時なら、多少はエロトークに付き合っているのだ。流石にこいつらのような熱いリビドーで語るわけではないが俺の部屋には黒歌がいるため、『そっち系のもの』には手が出せないのである・・・そんな度胸は俺にはないのだ

 

ある時「ならお前の求める(エロの)神秘はなんだっ!!」と聞かれたとき、何を思ったのか黒歌が頭をよぎり、「見えそうで見えないチラリズム」と返してしまった

 

以来3人からは『公私は分けているが自分の芯(エロの)を持っているやつ』、『むっつり野郎』、『チラリスト』と言われている・・・あの時の俺はどうかしていたと思う

 

ともあれここ一年半、俺と黒歌もグレモリー眷属も特に大きな出来事も無かった。はぐれ悪魔が入ってきたこともあったがグレモリー眷属の方で対処していたので問題なしといえるだろう

 

そして明日からはついに修学旅行だ。行先は京都!原作の舞台の一つということもあるし、前世でも修学旅行で行ったのだがその時は正真正銘の子供だったため『古都の良さ』がいまいち理解できなかったのだ

 

精神的には大人となり、2回目だからこその楽しみを満喫したいものである

 

「黒歌、前にも言ったように二泊三日で帰ってくるけど、何か土産で欲しいものとかあるか?なければ適当に買ってくるけど」

 

ベッドの上にうつ伏せに近い形で寝転がって足をパタパタさせながら漫画を読んでいる黒歌に問う

 

「う~ん、八つ橋があればそれでいいにゃ、それ以外はそっちに任せるにゃん♪」

 

「了解」

 

明日の旅行に思いを馳せながらも、そうしてその日は眠りについた

 

 

 

 

 

 

 

 

修学旅行当日、一度学校に集まってからバスで新幹線のある駅に移動、そこから京都に向かう手はずとなっている

 

班分けはいつものグループで基本班は男女混合となっているのだが俺たち四人組と一緒の班になりたいという奇特な女子は居なかった

 

松田なんかは担任の先生に「先生!俺達の班だけ女の子が居ないとかコレは差別です!」などと猛抗議していたが終ぞ望みは叶わなかった様だ

 

 

 

「革命!」

 

「この時を待っていたぞ!革命返し!!ふっふっふっふ、お前らはもう強い手札しか残ってないだろう?この勝負は俺が貰う!」

 

俺達は移動中の新幹線の中で前後の席を向かい合わせて大貧民の真っ最中だ。なんか付録として『旅館で女子風呂を覗く順番』を賭けているようで一誠たちは凄まじい熱意を放ちながら手札を切っている

 

実際今の元浜の革命で一誠と松田は絶望したような表情を浮かべた

 

「ほれっ、階段革命」

 

「おんぎゃ~~~!!!」

 

元浜の絶叫が新幹線の中に響く―――うるせぇよ

 

「よし!よくやったイッキ!」

 

「うむ、これで元浜は堕ちたな。イッキは覗きはしないだろうし実質、一誠との一騎打ちだ!負けんぞ!!」

 

「望むところだ!!」

 

・・・ホテルでは絶対にこいつ等の覗きを阻止しよう。そう思いながらも無事に(?)京都へ向かっていくのだった

 

 

 

 

 

 

≪間もなく京都に到着致します。お降りの際は足元に注意して、お荷物のお忘れ物を・・・≫

 

車内にアナウンスが流れた―――いよいよ京都に到着のようだ

 

着替えなどが入った荷物を持ち、新幹線が停車したので外に出る

 

「京都のお姉さま方~~!待っててくださいね~~~!!」

 

「うむ!着物美人を!輝くうなじを!このカメラに収めるのだ!!」

 

「フッ、我がスカウターは着物を着ていても問題なく作動する。気になるあの子の腰回りまで正確に知りたかったらこの元浜をいつでも頼るがいい」

 

「ほら、さっさと行くぞ3馬鹿ども」

 

流石に修学旅行の定番の一つである京都。周りを見渡せば他の学校の学生たちの姿もチラホラ見られる・・・もたもたしていたらうちの学校の生徒たちも見失ってしまいそうだ

 

そして俺たちは改札を潜りぬけ、その場で一度点呼を取り、先生の引率のもと今日泊まるホテルに歩いていく

 

20分ほど歩いて目的のホテルに辿り着く―――普通のホテルだ。決して『サーゼクスホテル』や『セラフォルーホテル』ではない。というか和平の前にそれらのホテルって在ったのかな?

 

ホテルのロビーで先生から夜中にバカ騒ぎしたり、非常ボタンを無意味に押したりといった行動をしたら、ぶちのめして縛り上げるぞ・・・との言葉をオブラートに包んで注意された

 

「では各自部屋に荷物を置いたら5時まで班ごとに自由行動。観光した場所の写真は最低でも一枚は撮れよ、写真を撮り忘れたらさぼって変なところに行ったとみなしてその場所のレポートを旅行が終わったら提出してもらうからな」

 

一部の生徒からのブーイングを受けながらも先生から注意事項は終わり、それぞれに割り当てられた部屋に向かう

 

「よし!他の班は荷物を置いたらすぐに神社・仏閣を巡るために動き出すだろう。その間に俺たちは女子部屋や女子風呂の最適な覗きスポットを下調べにいくぞ!!」

 

「ああ!」

 

「オウ!」

 

一瞬この場で止めようかと思ったがこの段階では被害が出ないのだし、実行に移す時だけ動けばいいと思い

 

「先にホテルの前で待ってるぞ。気が済んだならさっさと来いよ、これで予定通り回れなかったら俺の分のレポートお前らに書かすからな」

 

と言いつつ一人で外に向かった。流石に全部には付き合いきれん

 

「安心しろイッキ、時間は掛けん。京都のお姉さま方との素敵な出会いが俺たちを待っているのだからな!」

 

そんな叶わぬ望みを背に受けながらホテルの前に行くと黒い着物を着た女性が一人立っている

 

「にゃん♪」

 

なぜかそこに黒歌が居た

 

 

 

 

 

 

「はっ?え・・・えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

なんでここに居るの!?今朝別れたばっかじゃん!!

 

「にゃーっはっはっは!期待通りの反応で嬉しいにゃ♪」

 

どうにも期待通りらしいが、こっちは完全に予想外の想定外だ!

 

「ゴメン訳が分からないっ、マジで何で居るの!?」

 

思わず詰め寄ると黒歌はイタズラっぽい笑顔を浮かべて説明してくれた

 

「あの町を拠点にした調べものは大体は問題なさそうって結論になっているのにゃ♪でも何かが起きた時の為にもあの拠点は確保しておきたいし・・・かと言ってずっとあそこに居続けるっていうのも性に合わないのにゃん♪」

 

「・・・つまり、一言でいうと?」

 

「遊びに来たにゃん♪」

 

・・・なるほど、遊びに来たと

 

「いや納得できるかよ!俺今修学旅行中なの分かってるよね!?」

 

「勿論イッキを揶揄うために決まってるにゃん♪」

 

畜生、無駄にいい笑顔しやがって!!可愛いなぁこの野郎!!

 

「一人でブラブラしていてもいいけど、折角目の前に面白そうなイベントがあるなら便乗しようと思ったのにゃ♪」

 

・・・黒歌と出会ってから約一年と半年、我が儘や気まぐれは何度もあったけど今回のは輪をかけて酷い、というか

 

「それなら朝からついて来ればよかったんじゃ・・?」

 

という俺の言葉は

 

「それじゃあツマラナイにゃん♪」

 

一言で切って捨てられた———そうこうしているうちに遠くから声が聞こえてきた

 

「「「ぅぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

 

一誠達が粉塵を巻き上げながらダッシュしてくる

 

「イッキ!!てめぇ俺たちを差し置いてこんなおっぱいの大きい着物美人さんと楽しそうにおしゃべりしやがって!!」

 

一誠、お前は往来で『おっぱいの大きい』とか叫ぶな

 

「上から98.57.86!これほどの戦闘力(スリーサイズ)を現実で目にするのは初めてだ!!」

 

元浜、せめてその数値は脳内だけで叫んでろ―――でもありがとう、良い(すうち)が聞けた

 

「しかし良くやった!後のことは俺たちに任せてお前はもう先に行ってていいぞ!!」

 

誰が任せるかバカ松田!!

 

「あ~、イッキがいつも言ってる3人組ってこいつらの事なのね。話半分に聞いてたけど実際目にすると色々酷いわね」

 

流石に表の人間相手には語尾に『にゃん』を付けないようにはしているようだ―――よく見れば他にも猫耳やしっぽも無いし、普段有り得ないほどはだけている着物も肩まで掛かっている

 

とはいえ肩も胸も半分位は露出してしまっているが、まだ『着崩している』の範疇だろう。というかいつもの恰好だったらそれだけで警察がやってくること間違いなしだ

 

だがそこで黒歌の胸の谷間を凝視しながらも彼女のセリフに敏感に反応するやつがいた

 

「なぁにぃ~!?『いつも言っている』だと~!?イッキ!!この人とは今知り合った訳じゃないのか!!」

 

「もしも彼女なんて言おうものなら俺たちはお前を末代まで祟るぞ。否!末代まで待たないで今ここで引導を渡してくれる!」

 

「こんな素敵なおっぱいの持ち主が知り合いに居るなんて聞いてねぇぞ!この裏切り者が!!あと紹介してください、お願いします!!!」

 

最後の一誠のセリフと共にホテルの前で土下座をかます3人組、胃のあたりが痛くなりながらも黒歌の方を見るとこの珍妙な光景が面白いのか腹を抱えて笑っている―――どうやら俺とは別の理由で腹が痛くなっているようだ

 

「おい、どうするんだよこの状況」

 

そう聞くと「ん~」と顎に手を当てて少し考え・・・一瞬薄く笑みを浮かべて

 

「イッキ~♡折角だからデートしましょう?」

 

といいつつ右腕に引っ付いて来た。当然俺の右腕は柔らかな山脈に挟まれる事となる

 

「「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」」」

 

俺達の様子を五体投地から頭を上げて垣間見た三人は絶叫を上げる

 

「くっ、黒歌!!」

 

「どうしたの?」

 

判ってて言ってるだろう!確かに今までスキンシップがない訳でもなかったが他人の前でやられるのは恥ずかしさのベクトルが違う!!

 

「そんな・・・お・・・お・・・俺たちだって・・・俺たちだって着物美人とデートしてやるぅぅぅぅぅぅ!!」

 

「死ねぇ!この裏切り者ぉぉぉぉぉ!!」

 

「悔しくなんて無いんだからなぁぁぁぁぁぁ!!」

 

一誠・松田・元浜の順に叫びながら京の都に消えていった―――最初は近場の東本願寺の予定のはずだが明後日の方向に走っていきやがったな

 

幸い各班に支給された使い捨てカメラは自分が持っているし、定刻の5時になる前に仙術で3人を補足してホテルに連れ帰ればそれでいいだろう

 

「ほどほどにしてくれよ、後のことを考えるだけで頭痛くなってくるから・・・」

 

「私としてはイッキと付き合ってあげてもいいのよ?鍛えてるから体つきは逞しいし、実力も上級悪魔位はあるし、神性も持ってるし、少し幼いけどそれもあと数年も経てば問題なしだにゃん♪」

 

そう、どうやら自分には神性が少しとはいえあるらしい。最初に黒歌にそう言われたときは訳が分からなかったが考えてみれば思い当たる節はある

 

『おっぱいドラゴン』こと『兵藤一誠』はドラゴン系の神器『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を持つことでその身に龍の因子を宿していた―――おそらくはそれと同じなのだろう

 

俺の神器である【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】は別に神が封じられている訳ではないし、そもそもFateの『アンリ・マユ』は本物のゾロアスター教の悪神の『アンリ・マユ』ではない

 

区別する為にも俺は一応本物の神様の方は『アンラ・マンユ』と呼ぶ事にしている

 

そして、Fate時空では神霊は元からいる神以外に人々の願い(信仰心)によって神となったものもいる

 

俺の神器の元となった『アンリ・マユ』も人々によって悪(神)であれと願われた存在であり、神性の一つや二つ持っていても不思議はないのだ・・・本物ではなくとも同質の力は持っているといったところか

 

あれだな、Fate風にいうなら【神性:E】みたいなものだろう。それはさておき

 

「それって魅力はあっても惚れてはないって言ってるように聞こえるんだけど?」

 

「遺伝子を提供してくれればそれでいいにゃん♪」

 

「・・・意地でも惚れさせてやる」

 

「まぁ期待しておくにゃん♪でも我慢できなくなったら何時でもいってね♪」

 

マジでそういう事を言うのはやめて欲しい。理性がゴリゴリ削れるから・・・

 

そうして予定の観光コースを回り終え、時刻は4時と少し早めだがこれからどこぞでナンパでもしているのであろう3馬鹿を見つけてホテルに連れ帰らないといけないと思えば丁度良かったのかもしれないな

 

そう思っていたところで突如として世界が区切られた

 

「結界!?」

 

「そんな!?何も感じなかったにゃ!!」

 

仙術使いが二人、しかも片方は最上級クラスでも予兆すら感じなかったことに戦慄しつつ臨戦態勢に移ると何処からか声が聞こえてきた

 

「以前よりは強くなっているみたいだけど、猫魈(ねこしょう)としては今一歩足りてないようだねぇ」

 

その声に対して黒歌は珍しく動揺を顕わにしていた

 

「にゃっ!まさか三毛ばあさん!?」

 

そうしているうちに目の前に七尾の三毛猫が降り立った

 

「『三毛ばあさん』呼びは変わらずかい?まったく、そっちの方でも少しは成長を見せて欲しいもんだよ」

 

すると黒歌は苦虫を噛み潰したような表情で「なんで三毛ばあさんがここに居るのにゃ?」と問いかける

 

「答えてやってもいいけど、まずはそっちの少年に私の事を紹介してくれないかい。随分と匂いが混ざってるし、一緒に住んでるんだろう?」

 

凄いな、匂いでそこまで分かるのか・・・恐るべし、獣系妖怪

 

「はぁ、分かったにゃ。イッキ、こちらは参曲(まがり)様。猫妖怪の長老にゃ」

 

「この黒猫みたいに素行の良くない悪猫たちからは『三毛ばあさん』なんて呼ばれているさね」

 

どうやら思った以上の大物のようだ

 

「初めまして、有間一輝(ありまいっき)と申します。縁あって黒歌・・さんからは仙術の指導を受けております。宜しくお願い致します」

 

やはり敬語は慣れない。咄嗟に『黒歌さん』なんて言ったけど自分の中では違和感が凄い

 

「ああ、宜しくね。礼儀がちゃんとしてるとは言い難いけど、礼を尽くそうとする姿勢は評価できるね。どこぞの黒猫も見習って欲しいもんだよ」

 

結構な言われようだ。端々の細かい所作などでかなり減点されていると見た・・・黒歌は黒歌でそっぽを向いているな

 

「それで、なんでここに居るのかだったね。あんたを見つけた事自体はただの偶然でね。京都には仕事で来たのさ」

 

「仕事?三毛ばあさんが直々に?」

 

「ああ、そうさね。実は京都には今かなり面倒なのが入り込んでいるのさ・・・『土蜘蛛』の名は聞いたことはあるかい?」

 

「・・・強いうえに誰彼構わずケンカを売る戦闘狂だって聞いてるにゃ。でも確か何処かの山に封じられているはずだったにゃ」

 

強いうえに戦闘狂って邪龍みたいなやつだな

 

「その封印がどうにも破られちまったみたいでね。関東の妖の里をいくつか襲いながら移動して今まさにこの都に入り込んでるのさ」

 

ヤレヤレといった感じで首を振る参曲(まがり)

 

「幸いにも土蜘蛛は強敵にしか興味を示さないから表の京都は平穏だけど、裏の京都はピリピリしてるんだよ―――仮にも関東地方で取り逃がしたこともあって京都にはあたし以外にも数匹手練れを派遣して八坂の姫と共同で対処に当たっているところなのさ」

 

成程、その『土蜘蛛』とやらが勝手に暴れているのであって別に関東の妖怪にコレといった罪はないのだろうが、要するに面子の問題で精鋭が派遣されたという事か・・・

 

参曲(まがり)様がいま此処にいるという事はその土蜘蛛の行方が分かっていないという事ですか?」

 

そうでなければ今此処でこうして雑談何てしてないよな?

 

「その通りさね、土蜘蛛は『土隠(つちごもり)』という特性を持っていてね、あたしら猫又の『火車(かしゃ)』みたいなもんだが霊脈に隠れることができるんだよ。京に来て既に一度ひと暴れしたから今頃どっかの霊脈で眠ってんじゃないのかい?」

 

好きに寝て、好きに起きて、好きに暴れる妖怪(超強い)という事か―――本当に質が悪いな

 

「それで?偶然私を見つけたからちょっかいを掛けたって事?」

 

「忠告も含めてね。今のあんたじゃ土蜘蛛と一対一(さし)でやり合うのは避けたほうがいいね。常時三尾でいられる位じゃないと厳しいよ」

 

「・・・素で七尾でいられる三毛ばあさんと一緒にしないで欲しいにゃん」

 

「とまぁそういう訳で、忠告はしたからね。逢引の邪魔をして悪かったね。ちゃんとその雄、堕とすんだよ」

 

そう言い残し消えていった―――目の前に居たのに消えた瞬間が判らなかったぞ

 

「すごい方だったな・・・」

 

「今の私じゃ逆立ちしたって勝てないにゃん・・・」

 

最上級悪魔クラスの黒歌が白旗挙げるレベルか下手な魔王クラスより強いんじゃないか?

 

「黒歌はどうする?今の話を聞いて」

 

「別にどうもしないにゃん、そんな危ない奴を相手に態々手助けするほどの義理も無いし、向こうで対処するというなら任せるだけにゃ」

 

「そんなもんか」

 

その後一旦黒歌と別れて5時までにナンパの代償に頬っぺに紅葉を浮かべた3馬鹿を回収してホテルに戻った

 

どうやら黒歌も一般客として同じホテルにチェックインしてるらしいが一緒にいると3馬鹿のブレーキが効かなくなるので別れて入ってもらった。———レストランの奢りと引き換えに・・・

 

ホテルに帰ってからは案の定というか黒歌について怒涛の質問攻めがあったが適当にぼかして(最後は物理で黙らせた)女子風呂の覗きを阻止し(物理)夜中に大声でエロトークするやつらを眠らせて(物理)修学旅行の一日目は終了した




参曲(まがり)様の口調が判りません;つД`)

黒歌と白音の猫魈というのがどうにも調べてみると三尾の猫らしいので今回ぶち込んでみました。・・・原作でもいつか三尾になったりするのかな?


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第三話 土蜘蛛

修学旅行二日目の朝、朝食を食べた後ホテルを出てから早速とばかりに3人組に釘を刺す

 

「お前ら旅行三日目はお土産屋に少し寄ったらそのまま帰ることになるんだし、今日くらいは真面目に巡れよ。一日ナンパに費やしたとか聞いたことねぇぞ」

 

「「うるせぇ!死ね!裏切り者!!」」

 

ハモるなよ松・浜コンビ

 

「ていうか昨日の黒歌さんだっけ?はどうしたんだよ?少なくとも彼女じゃねぇんだろ?なら俺たちに紹介してもいいじゃねぇか―――なっ?俺たち親友だろ?」

 

一誠もだらしないスケベ面でそんなことを言ってくる

 

「そんな欲望に塗れた顔で『親友』とは言って欲しくなかったな・・・黒歌は知らん。その気があるならそのうち合流するんじゃないか?」

 

気で探ってみたが今はまだホテルの部屋にいるようだ。まぁ彼女は悪魔でもあるから朝に無理して早く起きたくはないのだろう

 

「ヨッシッ!合流するってんならその時是非お近づきになってやる!」

 

「待て待て一誠、抜け駆けは許さんぞ。それに俺たちの夢を忘れたか?俺たちの夢はハーレムだ!昨日のリベンジマッチをしようじゃないか!」

 

「うむ!彼女と合流する時までに両手に花くらいには持っていきたいものだな」

 

合流すると明言した訳ではないのに既にその気になっているようだ―――というか松田、その自信は何処からくるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉおおおおおおお!ここで俺は神様に可愛い女の子との縁を結んでもらうんだぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「待ちやがれ一誠!俺が先に結ぶ!より可愛い子を彼女にぃぃぃぃぃ!!」

 

「ロリっ子の優先権は絶対に渡さんぞぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

飛び降りることで有名な清水寺を巡った後、すぐ近くにある縁結びで有名な地主(じしゅ)神社に来たのだが三人は欲望丸出しで突っ走っていった―――神様のいる世界だし絶対に神罰落ちると思うんだが・・・いや、スケベな神様とかも普通に居るし、もしかしたらワンチャンあるのか?

 

あと元浜、発言が犯罪だぞ

 

最初の二人に対しては周囲の観光客は苦笑といった感じだったが最後のロリっ子発現で一気に侮蔑の色が強くなったんだからな?

 

そんな事は露知らず、まずは異性との運気を上昇させんとばかりに三人は無駄に綺麗な所作で参拝し、一心不乱に祈りを捧げている

 

そして参拝が終わってから境内にある名物の『恋占いの石』に挑戦する様だ

 

『恋占いの石』とは一対の石で約10mの距離を石から石へ目を閉じてたどり着いたら恋が叶うとされている石の事だ。だが、3人は何もないところで転ぶ、通行人とぶつかる、あと少しでたどり着きそうという時に他の二人が邪魔をするなどで10回以上はチャレンジしたが終ぞたどり着けなかった様だ―――足の引っ張り合いしてたらそりゃ辿り着けないだろうよ

 

「ならばおみくじだ!大吉を当ててやる!!『今日中に彼女ができて貴方は勝ち組になれます』と書かれたおみくじをな!!」

 

松田よ、そこまで具体的な内容のおみくじなんて無いと思うぞ・・・

 

そう思いながら4人でくじを引いていくが、案の定直ぐに嘆きの声に変わる

 

「そ・・・そんな・・・」

 

「馬鹿な!あり得ない!あんなに祈ったのに!!」

 

「くそっ!お前らも大凶か!?」

 

案の定というべきか3人は大凶だったようだ―――で、俺はというと

 

「末吉・・・だな」

 

なんとも微妙な・・・まぁ『少しずつ良くなる』と書いてあるからいいのかな?

 

「末吉でもいい!俺のおみくじと交換してくれ!!」

 

うるせぇ一誠!どうせお前は3年後には大吉ハーレムを形成してるんだから同情の余地はねぇ!

 

「つーか交換しても意味ないだろ。あと、大凶のおみくじはちゃんと結んで行けよ」

 

その後、いくつか名所を巡り昼食を食べたあたりで黒歌が合流した

 

そして『両手に花』なんて夢は当然叶っているはずもなく、3人はここぞとばかりに黒歌に自分を売り込むが当の黒歌は「う~ん、彼氏にするなら君たちよりはイッキの方がいいわね」と辛辣な言葉を浴びせていた

 

「なんでですか!こんなむっつり野郎の何処が良いって言うんですか!!」

 

よし一誠、お前あとで覚えておけよ!

 

「女って云うのは多かれ少なかれ強い男に惹かれるものよ?イッキは今はそこそこだけど将来性はバッチリね♪」

 

「ケンカですか!?筋肉なんですか!?お・・・俺たちだってそれなりに強いですよ!イッキに殴られ、蹴られ、投げられ、追い回されてる内に強くなりました!!」

 

「そうですよ!初めのうちは俺たちの覗きを邪魔する奴はイッキ以外にも居ましたが、今じゃイッキ以外は返り討ちにできるんですからね!!」

 

一誠と松田が割と最低な事を言っている―――だがそうなのだ。俺はこの3人のエロに対する思いの強さを少々甘く見ていた

 

こいつらは覗きがしたい!エロトークがしたい!だがその前に俺という障害が立ちはだかるならエロへの熱意・集中力を持って殴りかかってくるのだ

 

元浜は元々運動が苦手なだけあってそこそこだったが一誠と松田、特に松田の成長がヤバい

 

アニメじゃひょろっとしたイメージだったがコイツは意外とスポーツ万能なのだ

 

体育の授業とかでは普通に大会記録をいくつか抜いてるし・・・先生が兼任でいいから陸上部に入ってくれと言ってたっけな

 

コイツ絶対に『兵士』一個じゃ転生できないと思う

 

図らずも原作キャラを強化しつつ何かとんでもない間違いを犯してしまっている気がする・・・駒王学園で匙が生徒会に入ったら丸投げしようとひっそりと心の中で誓うことにした

 

そうこうしているうちに時刻は夕刻、残すは伏見稲荷大社を最後に回ってから電車で京都駅まで帰ろうという時、突然晴れているのに雨が降ってきた

 

「あー、雨かよ」

 

俺が愚痴を溢すと一誠は不思議そうな顔をして聞いてくる

 

「雨?雨なんて降ってないぞ?何を言ってるんだイッキ?」

 

「え?」

 

そこで俺と黒歌以外の人々が視界から消えた

 

「結界!?またかよ!?」

 

「コレは!異空間に転移させられてるにゃ!」

 

俺と黒歌が驚愕しているうちにさらに変化があった

 

前方の地面の下から莫大で荒々しいオーラが吹き上がっているのだ

 

「おいおいおい!アレってまさか!?」

 

「にゃ~!思いっきり巻き込まれてるにゃ!!多分さっきの雨は『狐の嫁入り』っていう神隠しの一種にゃ!」

 

隠密型の転移魔法みたいなもんか!?

 

「俺たちが巻き込まれてる理由は!?」

 

「多分土蜘蛛を見つけて霊脈に逃げられないように周辺を封じたのにゃ。この結界、一定以上のオーラを持つものなら外から入れるようになってるみたいにゃ!」

 

成程、下っ端じゃ役に立たないから手練れだけを結界の中に取り込めるようになっている・・・と

 

そして土蜘蛛が姿を現した―――デカい、12~13m位はありそうだ。蜘蛛の顔をした6本腕の鬼といったような様相だ。その土蜘蛛は近くに居た俺達に視線を向ける

 

「あっ?お前ら二人だけか?まぁいい、そっちの雌はやりがいはありそうだ。死ね!」

 

そう言いつついきなり殴りかかってきた。問答無用かよ!援軍はどうした!?特殊な結界みたいだから入るのに時間がかかるのか!?

 

黒歌と左右に分かれて回避したがギリギリだった。黒歌を狙った攻撃でなかったら当たってたかもしれん!

 

土蜘蛛は俺なんか眼中ないとばかりに黒歌に向かって駆けていく

 

「っあんまり舐めないで欲しいにゃ!」

 

黒歌が一瞬で20を超える分身を作り出し仙術・妖術・魔力・魔法まで含めた攻撃を弾幕のように打ち込んでいく。本物の攻撃はあの中の一部なのだろうが一発一発が凶悪極まりない攻撃だ―――しかし

 

「小賢しいわっ!!」

 

多少の怪我はあるようだが土蜘蛛はそんなの関係ないとばかりに正面から弾幕を突破し大量の妖力を腕に纏わせて高速でぶん回した

 

周りの建物ごと丸ごと吹き飛ばす衝撃波が生まれ分身がかき消され、障壁を展開した黒歌の動きが一瞬止まってしまう

 

「フンッ!!」

 

土蜘蛛の拳が黒歌の障壁を突き破り遠くまで吹き飛ばしてしまった―――それを見た瞬間俺の頭の中が真っ赤に染まった

 

「【一刀修羅】!!」

 

作戦も何もない、我武者羅に【一刀修羅】を発動させ右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)で背中を切りつけるが、土蜘蛛はそれでも黒歌の方に走っていく

 

「待ちやがれっ!!」

 

土蜘蛛を追い抜きざまに切りつけながら正面に立つ―――そこでようやく此方に気づいたのか俺の方に視線・・・いや、興味を移した

 

「あん?さっきよりは骨がありそうじゃねぇか。ならテメェから潰してやるよ」

 

次の瞬間には土蜘蛛の拳が目の前迫ってきていた。速い!最初の攻撃は寝起きの一発でしかなかったって事か!!

 

「っぐ!」

 

完全に避けたはずなのに衝撃波だけで20m以上は吹き飛んでしまった

 

クソッあんなのかすりでもしたら周辺の肉ごとはじけ飛ぶぞ!

 

だが吹き飛ばされて落ちた先のすぐ近くに倒れている黒歌が視界に映った。どうやら彼女の近くに落ちてしまったようだ

 

頭を切ったのか血が流れているがそれ以外には目立った外傷はない。障壁を張っていたからだろう―――しかし気絶してしまっているようだ

 

引き延ばされた時間の中で土蜘蛛はすぐにでもこちらに走りだそうとしているのが見える

 

どうする!?【一刀修羅】は残り約40秒、【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】は恐らく数センチ単位で受け損なえば即死する。【じばく】は前回よりどれだけ範囲が広がっているか判らないし、距離を取ろうしたら先に黒歌を始末するかもしれない

 

援軍を待つなんて状況はとっくに通り過ぎている

 

それにあの土蜘蛛の硬さ!最初ほとんど切れてなかった―――残り時間土蜘蛛が棒立ちしていても倒しきれないだろう・・・だがここで一人だけ逃げるなんて選択肢はあり得ない!

 

ならば答えは決まっている。【一刀修羅】の残り時間を全て、ただ一刀に込めて放つ!!そう思いながら立ち上がり、右歯噛咬(ザリチェ)を土蜘蛛に向けて殺気を叩きつける

 

「いくぞ土蜘蛛!この一撃でテメェをたたっ切る!!」

 

「よく言った!向けてこい、その刃!!」

 

「【一刀羅刹】!!」

 

吠えると同時に右足で踏み込み弾丸のように土蜘蛛に向かって跳ぶ!今の踏み込みで右足が壊れたが問題はない。問題なのは俺をとらえてカウンターを繰り出している土蜘蛛の拳だ!

 

全身から血が噴き出るほどの強化をしているのにコイツ多分勘だけで合わせてきやがった!!視線が俺を捉えていない!

 

ここは既に空中だし仮にコイツの腕を切り落としたとしてもそれで俺の両腕は使い物にならなくなってしまう!

 

だから俺は空中でもう一歩踏み込んだ(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)

 

今ので左足もイカレてしまったようだが関係ない!俺は両腕を交差させ、挟み込むように土蜘蛛の首を切り落とした

 

 

 

 

 

「ガッ!!」

 

首を切った勢いのまま土蜘蛛の背後に飛んでいき地面に落ちる。気弾を足場(・ ・ ・ ・ ・)にした2段ジャンプは上手くいったようだ

 

すると数舜後に目の前に土蜘蛛の首が落ちてきた

 

「っひぅ!」

 

ホラーである。しかし、ようやくコレで勝ったのだと思っていると「よぉ!面白かったぜ。俺は土蜘蛛、おめぇなんてぇ名だ?」と首だけで語りかけてきた・・・ホラーである

 

「安心しろ、流石にもう戦えねぇよ・・・もっとも()るってんなら構わねぇぞ?」

 

「構えよ、・・・有間一輝(ありまいっき)だ」

 

「そうかい。じゃ、数百年後くらいにまた()ろうや」

 

そう言いつつ消滅していった・・・えっ!?あいつ復活するタイプ!?そうじゃん!最初に『邪龍みたい』って自分で言ったんじゃねぇか!

 

でも数百年後なら俺は生きてないか?いや悪魔に転生したならまた戦うの?・・・転生するって決まったわけじゃないけど・・・まぁいい結界が解けても参曲(まがり)様が居るなら悪いようにはならないだろうし今は眠ろう

 

そうしてさり気に後始末を参曲(まがり)様にぶん投げながら気絶した




土蜘蛛は外見は鬼滅の刃の蜘蛛のお父さんを性格はぬらりひょんの孫の土蜘蛛をモデルにしました

というか今回の戦闘って黒歌も含めて実質30秒くらいしか戦ってないんですよねww


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第四話 八坂の姫たち

日の光が瞼の奥に差し込んでくる―――ボンヤリとした頭で朝なんだなと思いながらも『とてもいい匂いのする柔らかい枕』に顔をうずめる。もう少し寝ていたい・・・と

 

「ぅにゃ・・・にゃ~ん」

 

すると直ぐ耳元で脳髄を焼くような甘い声がした

 

「・・・・・・はぇ!?」

 

すごくマヌケな声を上げながらも顔を離し目を開けるとそこには黒歌がいた。白くて薄い生地の肌色が透けて見える白装束であり、位置的に彼女の胸の谷間に思いっきり埋もれていたらしい

 

それを意識した瞬間頭の中まで真っ赤になって思考が停止した。土蜘蛛戦で黒歌が殴り飛ばされた時とは違う血の昇り方だ・・・えっナニコレどうしたらいいの!?

 

ああそうだよ!前世でも彼女いなかったよ!こういう時にどうしたらいいのか分からないんだよ!いや違うよ!?告白はされた事もあったから完全にモテなかった訳じゃないからね?って誰に言い訳してんだ俺は!?

 

思考が明後日の方向に飛んでいきながらも体の方は金縛りにあったかのように動かない

 

全力で目を見開きながらも視線は黒歌の顔と胸を行ったり来たりしながらも、どうすればいいのかと思っていると部屋の扉が開いて参曲(まがり)様が入ってきた

 

そうして俺と黒歌の様子を観ると呆れたように息を吐く

 

「なんだい、いきなり気が乱れたから何かと思ってきてみれば発情してただけかい―――とはいえこっちも話があるからね。1時間後にまた来るからその時までに終わらせておいてくれ」

 

そう言いつつさっさと部屋から出ていこうとする参曲(まがり)

 

「待ったぁぁぁぁぁぁぁっ!待ってください参曲(まがり)様!そのお話今スグにお願いします!この状況の説明諸々全部含めて!!」

 

「うう~ん、うるさいにゃっ!」

 

思いっきり叫んだせいで黒歌も起きてしまったようで、そんな彼女の様子を改めて見る

 

普段と違う下ろしている髪!はだけ掛けてる着物!寝ぼけ目を猫手で擦る仕草!ヤバいナニコレ最終兵器か!?

 

「く・・・黒歌さん?なにゆえ同じ布団で寝ていらっしゃったのでしょうか?」

 

思わず敬語が出てしまった―――どうやらまだ混乱しているらしい

 

「うにゃ~?イッキったらそんなに赤くなりながら顔を逸らしちゃってどうしたのかにゃ?人と話すときは相手を見て話しなさいって教わらなかったのかにゃ~?」

 

そう言いつつ前屈みに近寄ってくる―――畜生!どんな時も悪戯心を忘れない奴だな!

 

「黒歌、誘惑するのもいいけど後にしな。起きたんなら朝食を用意させるからね。その後で八坂の姫が今回の一件であんたらを巻き込んだ事に対して話があるみたいだから、そのつもりで準備しとくんだよ」

 

そう言い残し参曲(まがり)様は部屋を出て行った

 

「う~ん、ちょっと白けちゃったにゃ」

 

「うん、それはいいからちゃんとした服着てくれない?」

 

まぁ何時もの服も『ちゃんとした』とは言い難いけど流石に見慣れたしな・・・

 

そして黒歌が着替えてから(全力で部屋の外に退避した)もう一度一緒に寝ていた件を聞いてみたら「イッキの治療のためだにゃん♪」と返された

 

「私も結界が解けて直ぐに起きたんだけど、イッキは両腕両足の骨折の上全身の出血に筋肉断裂で血まみれだったにゃ。それで三毛ばあさんも居たから直ぐにこの屋敷に連れてきてもらって薬湯を飲ませたんだにゃ」

 

成程、薬湯ですか。まぁこの世界の薬湯なら十二分にすごいものなんだろうけど・・・

 

「でも薬湯だけじゃ完全回復に二日はかかりそうだったから私の仙術の治療も合わせてやる事にしたのにゃ♪」

 

あの薄い白装束の理由はそれか!アニメで塔城小猫が一誠を仙術で治療していた時もあんな恰好だった気がする

 

「でも、私からも聞きたいことがあるにゃ。何であんなにボロボロだったのかにゃ?到底普通の怪我とは思えなかったにゃ」

 

あ~、そうだよな。体の内側から破裂しかけてるような怪我だったはずだし、土蜘蛛にやられたとは流石に考えづらいか・・・

 

「あれは【一刀修羅】の応用技の反動だよ。前に【一刀修羅】の事は話したよな?」

 

「うん、『一分で全力を出し切る』能力だって聞いたにゃ」

 

「黒歌が殴り飛ばされて最初は【一刀修羅】を使ったんだけど土蜘蛛にはほとんどダメージを与えられなくてね、黒歌を見捨てて逃げるなんてできないから一か八か【一刀修羅】の残り時間を一撃に込めたんだ」

 

「・・・それで、ああなったのかにゃ?」

 

「【一刀羅刹】、肉体の耐久力の強化と筋力の強化を上手くすればあんなダメージは負わない・・・と思うんだけど、今回使ってみて分かった。『アレ』にそんな細かい制御は無理だ」

 

修行すればいけるかもしれないが何百回と発動しなければならないだろう―――怪我も体力・魔力も回復できるフェニックスの涙を1000本用意しろって話である・・・不可能だな

 

「そう・・・・・まぁ何はともあれお礼を言っておくにゃん♪私だけだったら確実に死んでたと思うしね」

 

「こっちこそ有難う、ああして寝てたって事はほとんど一晩掛けて治療してくれたんだろう?」

 

そうこうしているうちに朝食の用意が出来たと侍女の方(狐耳)がやってきたので一旦切り上げて朝食をとり、その後八坂の姫が待つという部屋に案内された

 

朝ではあるが屋敷の奥で締め切っているため部屋は暗く、蒼く光る行灯(あんどん)が妖しく部屋を照らしている・・・あれは狐火か?

 

そしてその部屋の奥に九本の尾を持った狐耳の美女がいた。アニメでも見たがあの方が八坂姫だろう・・・しかし黒歌のように大胆に肩や胸元を露出させてるのはどうなんだ?妖怪の女性のなかではあの格好(花魁スタイル)が今のトレンドなのだろうか?

 

他にも参曲(まがり)様や八坂姫のお付きであろう天狗の人もいる

 

だが何気に一番驚いたのは八坂姫のとなりにいる子供だ。八坂姫と同じ金髪狐耳に尻尾が六本生えている―――どう見ても『九重(くのう)』です、本当にありがとうございました!

 

小学校低学年くらいか?此方に興味深々といった感じだ。そんなことを思っていると八坂姫が話を切り出した

 

「よくお出で下さいました。私が裏の京都を取り纏めている八坂と申します。こちらは娘の九重(くのう)、以後お見知りおきを」

 

「は・・・初めましてなのじゃ!九重(くのう)と申す」 

 

原作の3年前とあって九重(くのう)もまだ少々不慣れな感じだ。まぁ見ていて微笑ましいという感情が先立つけどな

 

「初めまして、有間一輝(ありまいっき)と申します。今回は怪我の治療をしていただき、感謝いたします」

 

「黒歌にゃ、まっ、元々そっちが巻き込んだんだけどね」

 

く・・・黒歌さ~ん!?そのセリフと態度は今ここで必要だった!?黒歌が誰かに頭を下げてへりくだる姿は想像できないけどせめて無難な対応をして!ほらっ!お付きの天狗の人とかすごく睨んでるから!

 

「黒歌、あんまり失礼な態度を取るなら『ぬらりひょん』を呼ぼうか?」

 

参曲(まがり)様がそう言うと黒歌は凄くイヤそうな顔をした

 

「うげっ!そんなことで関東の総大将を呼ばないで欲しいにゃん―――分かったにゃ」

 

黒歌が理解を示しただと!すげーな『ぬらりひょん』、ていうか知り合いだったのか!

 

「良いのですよ、今回は私共がお礼と謝罪をする側です。礼儀を求める気はありません」

 

八坂姫がそういうと天狗の人も睨むのはやめてくれた・・・もっともまだ目つきは鋭いが

 

「ハァ、あんまりこの黒猫を甘やかさないで欲しいね」

 

ため息を吐きつつも参曲(まがり)様も八坂姫が許可を出したため、諦めてくれたようだ

 

「それでは改めて有間一輝(ありまいっき)殿、そして黒歌殿、今回は私共妖怪の事情にあなた方を巻き込み危険な目に合わせてしまい、誠に申し訳ありませんでした。そして『土蜘蛛』を討伐してくださった事、感謝いたします」

 

そう言って八坂姫とそれにつられて九重(くのう)が頭を下げてきた

 

「いいえ、巻き込まれたのは事故のようなものでしたし、参曲(まがり)様の忠告を軽んじてしまった此方にも落ち度はありますので―――ただその言葉は有り難く受け取らせていただきます」

 

というか一般人としてはお偉いさん(美女&美少女)に頭を下げられる方が心臓に悪いと心の中で思っていると「有難うございます」と二人は頭を上げてきた

 

「とは言え感謝の意を伝えてそれで終わりという訳にもございません。あなた自身の大怪我もそうですが、もしも『土蜘蛛』があのまま暴れていたらどれだけの被害が出たか分かりませんでした。精鋭を送り込むはずだったとはいえ、それで確実に勝てると言えるほど甘い相手ではありませんでしたから・・・」

 

「そうだねぇ、うち(関東)としても此方の不手際を人間に清算してもらった形になるからね。八坂の姫とは別にこっちも謝礼を出さないとメンツが立たないんだよ」

 

二人はそう言ってくるがつまりは関東と関西の妖怪組織から土蜘蛛討伐の報酬が貰えるって事か?・・・やばくね!?

 

「一応聞いておくけど謝礼と言われて何か欲しいものとか思いつくかい?無ければ此方で決めたものになるけどね」

 

謝礼・・・といきなり言われてもな・・・

 

「自分は特に・・・黒歌はどうだ?」

 

「別にこれといったものは無いかにゃ~?」

 

そう答えると参曲(まがり)様は「なら関東からだけどあんた達、あたしの下で修業してみる気はないかい?」などと衝撃的な提案をしてきた

 

「な・・・なにいってるのにゃ!?」

 

驚く黒歌をよそに参曲(まがり)様は話を続ける

 

「あんたが一般人なのはそこの黒猫から聞いて知ってるからね。時間をみて転移の術で出向いてもらう事になるけど・・・どうだい?勿論そこの黒猫も一緒に鍛えてやるよ」

 

これは・・・願ってもない機会じゃないか?参曲(まがり)様の実力は今の俺では到底計れないけど恐らくは原作の仙術を扱う最強格の初代孫悟空に近いものはあるだろう―――なら、迷う必要はない

 

「是非ともお願いします」

 

「そうかい、で?あんたはどうするね?」

 

参曲(まがり)様が黒歌にも問いかける

 

「・・・いいにゃ、私もあの『土蜘蛛』ってのにやられっぱなしは性に合わないにゃ」

 

「なら、決まりだね」

 

黒歌も了承したようだ。次にそれを見ていた八坂姫が話し始める

 

「では次に京からの謝礼として・・・」

 

八坂姫はそこで一旦言葉を区切り若干目を細めた・・・ヤバい、あの目は黒歌が悪戯をする時と同じ種類の目だ。そう思っていると隣に座っていた九重(くのう)の肩を抱き寄せ、「うちの娘の婿になりませんか?」などと言ってきた

 

「なっ!?」

 

「に゛ゃっ!?」

 

「八坂様!?」

 

「母上!?」

 

「おやまぁ」

 

待て待て待て!九重(くのう)は見た感じ8歳か9歳くらいに見える。どう考えても犯罪ですよ!5~6歳の年の差なんて普通だって?子供にとってその年齢差は富士山よりもデカいからね!?

 

「母上!?何を!?」

 

突然の婚約話に九重(くのう)が母親に食って掛かるが当の八坂姫はどこ吹く風だ

 

「人の身で『土蜘蛛』を倒した人間に興味があるから会ってみたいと言ったのはお主じゃろう?参曲(まがり)殿が修行を付けるというならさらに強くなるであろうし『青田買い』と言うやつじゃよ、今回は婚約を結んで将来問題なければ籍を入れればよい」

 

「そ・・・そ・・・そういうものなのか?人となりについてはこれから知っていけばよいのか?」

 

「そうそう、先も言ったようにあくまでも婚約じゃ。そこまで難しく考える必要はないぞ?」

 

「う・・・うむ・・・」

 

なんか向こうで勝手にすごいことが決まりかけてるぅぅぅ!?いや!?これは八坂姫の悪戯のはずだ!悪戯で終わらせなければいけない話だ!

 

「や・・・八坂様?娘さんを揶揄うのはそのあt・・・ムグっ!」

 

この人妖術で俺の口をふさぎやがったな!

 

「ほれ、九重(くのう)

 

八坂姫は娘をこちらに向けてその背中を"トンっ"と押しやった

 

トテトテと九重(くのう)が俺の目の前にやってきて顔を赤らめながらも「こ・・・此度お主と婚約することとなった九重(くのう)と申す!まだ幼い私では至らぬ点もあろうが宜しくお願いいたす!婿殿!!」

 

そう言って緊張と気恥ずかしさを誤魔化す為か勢いよく頭を下げてきた

 

口はもう動くようになっている・・・がどうするんだコレ、この雰囲気で「その報酬は無しで」って言うの!?どんな鬼畜だよ!?そう思い助けを求めるように周囲を見渡す

 

参曲(まがり)様・・・そっぽを向いている

 

八坂姫・・・すごく楽しそうだ

 

天狗の人・・・『うちの大事な姫様に恥かかすなよ、あぁん!?』的な目で見てくる

 

黒歌・・・ジト目でこっちを見てくる―――少し不機嫌そうに見えるのは俺の気のせいか?

 

ダメだ、この状況を何とかしてくれそうな人がいない!そう思っていると頭を下げたままだった九重(くのう)が泣きそうになりながら此方をみて「わ・・・私ではダメなのか?」と言ってきた

 

「だ・・・ダメじゃないよ?宜しく九重(くのう)

 

気が付けば上ずった声でそう答えていた

 

そうすると九重(くのう)は"パァっ"と満面の笑みを浮かべて「宜しくなのじゃ!」と言ってきた。なんだろう・・・彼女の笑顔は守れたし八坂姫もあくまでも婚約と言っていたが、なにか大きな間違いをしてしまった気がする

 

―――どうしてこうなった?

 

 

 

 

 

その後一度九重(くのう)に退出してもらい改めて話し合いをしている。八坂姫曰く「流石にあのような詐欺まがいの事で報酬をうやむやにはしない」との事だった

 

・・・俺としてはもうどうでもいいから早く話を終わらせてくれという気分だ

 

「報酬はこちらじゃ」

 

八坂姫がそう言いつつ竹筒を渡してきたのでそれを受け取る

 

「これは?」

 

「それは管狐の竹筒じゃ、管狐は知っておるかの?」

 

「陰陽師などが使役する低級霊の使い魔のようなもの・・・という程度ですが」

 

「うむ、大体あっておる。だがその管狐は少し特別性でな。通常の管狐は低級霊の域をでないのじゃが、それは持ち主の生命力(オーラ)の力強さに呼応して力が高まるのじゃ―――今のお主でも十分通常の使い魔よりは強くなるはずじゃ」

 

おお!なるほど、これはいいものだ。しかし、気になることもある

 

「あの、管狐って大量にいるってイメージなんですがエサとかどうすればいいんでしょうか?」

 

そう!俺の知識が正しければ管狐とは勝手に増えて増えて増えまくって最終的に術者の富を食い荒らす妖怪だったはずだ

 

「心配は無用じゃ、特別性というたじゃろ?その中に居るのは一匹だけ、それが最大75匹までに分身するのじゃ、エサも術者の気でも普通のエサでも何でもよい雑食性じゃ」

 

雑食って・・・いやまぁ有り難いけど

 

「有り難く頂戴いたします」

 

術者の気でも良いと言うなら俺の財布を圧迫する事も無いだろう・・・ただでさえ黒歌に貢がされてるってのにこれ以上の出費は普通に無理だ

 

「うむ、早速なのじゃが良ければ一匹分身を置いていかんか?何かあれば連絡も取れるしの」

 

そう提案され断る理由もなかったのでその場で竹筒の蓋を開ける

 

すると掌より少し大きいくらいの狐が現れた・・・管狐よろしく手足は無い様だな

 

「えっと名前は・・・安直だけど『イヅナ』で!よし!イヅナ一匹分身してくれ、あとの指示は八坂様に従ってくれ・・・変な命令は聞かなくていいからな?」

 

そう言うと「くぉっ!」と鳴いて分身し八坂姫の掌の上に降り立った

 

「これで話はひと段落じゃな、後はお主をホテルに送るとしよう」

 

八坂姫がそう言うと俺の中に一気に焦りが生まれてきた

 

「そうじゃん!学校!どうすんの!?俺途中から行方不明になってんじゃん!?」

 

下手したらコレ警察沙汰とかに発展してない!?

 

「心配しなくともよい。すでに手を回してあるでの―――"京都で偶然出会った知り合いの家に泊まった"と暗示をかけておいたから普通に戻ればよい」

 

おおう・・・暗示すげぇな。無茶苦茶言ってるけど原作でも一誠の両親に『裸で抱き合って添い寝するのは普通の文化』とかやってたし、それに比べたらましなのか?

 

そうして八坂様達にホテルの近くに転移で送られ黒歌と一緒にホテルに帰った

 

途中までは不機嫌な様子だった黒歌だが別れ際に八坂姫になにやら耳打ちされてから機嫌は直ったみたいだ。それと幸い学校のみんなは朝食を食べている最中だったみたいで黒歌と一緒だったところは見られなかったようだ

 

部屋に戻って待機していると3人組が部屋に帰ってきた・・・全身ボッコボコにされて・・・

 

「ようお前ら・・・一応聞くけどその怪我どうした?」

 

「ふっ!名誉の負傷さ」

 

そんな気高いものであればいいな松田

 

「俺たちは女子風呂(アヴァロン)に至ろうとしただけだ!」

 

元浜が女子風呂(アヴァロン)に至ったらお前のメガネ曇るんじゃねぇのか?

 

「ああ、その後桃源郷(女子部屋)も夢見たが終ぞたどりつけなかった。しかし!後悔はない!!」

 

後悔は無くとも反省しろよ一誠

 

後で女子達には「あの変態3人組を抑えられる君がどうして知り合いの家に泊まったりしたの!?」と涙ながらに訴えられたが・・・解せぬ

 

その後ホテルを出てお土産屋で適当に買い物をし、そこで男子の皆で仲良く木刀を買った(元々買う気はなかったが『洞爺湖』と書かれた木刀を見て衝動買いした)

 

それを最後に新幹線に乗り込み家路につき、初めての修学旅行を終えたのだった




作中でもいいましたが「どうしてこうなった?」

ダメですね。最初は九重は軽く挨拶をしてそれでお終いのチョイ役で出したはずだったのに書いてるうちに婚約者となりました。・・・マジでどうしてこうなった?

行き当たりばったりで書いてると何時かどこかでどん詰まるんじゃないかと不安です


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第五話 黒歌の過去

修学旅行が終わってから俺と黒歌の二人は基本的に週末に参曲(まがり)様のもとへ赴き、修行を付けてもらう事となった

 

俺の仙術の練度だが、参曲(まがり)様から見ても俺は自分自身の気を操ることに関しては基礎がしっかりしていると褒められたが、それ以外の他の生物の気を感じるのはそこそこで自然そのものの気を感じるのはまだまだと言われたな

 

「まったく、どんな歪な修行をしたらそうなるんだい?」

 

そんな事を言われたので教えを受ける以上は必要な事だと思い、【一刀修羅】を実演付きで説明することなった。なぜかますます呆れられた気がするが・・・

 

「まぁいい、歪とはいったけど間違った修行をしている訳じゃないようだからね―――とは言え、バランスが良いに越したことは無い。あんたはその【一刀修羅】とやらの修行は続けな。その代わりあたしは自然の気を感じ、操るための修行を中心に見てやるさね」

 

「はい!宜しくお願いします!」

 

・・・とそんな風に元気よく返事した初日の自分をぶん殴ってやりたい―――その後俺は自然を感じるという修行のために滝に打たれ(冬)、寒中水泳をし、土に埋められ、岩を抱き、マグマのそばで焚火をしながら座禅をし、ノーパラシュートスカイダイビングをさせられた・・・マジであの方容赦ねぇ!

 

黒歌の方はまだ覚えたてだったらしい空間を操る術の練度を高めつつ、時間を操る術の修行をしているようだ

 

空間は結界術の応用で何とかなったようだが時間の方は数段と難易度が上がるようで「『4次元時空は、重力だけが伝播できる5次元時空中の膜のような4次元断面である』って何を言ってるのにゃ~!?」というように頭を抱えている光景がしばしば見られた。うん、俺も解らん!

 

修行の方はそんな感じで順調?に進んでいった

 

 

 

 

 

「・・・とまぁ、こっちはそんな感じで今日も参曲(まがり)様に上空5000mから突き落とされたよ」

 

≪う・・・うむ、イッキも黒歌殿も頑張っているようで何よりじゃの―――しかし参曲(まがり)殿はそれほどまでに厳しいお方であったとは・・・≫

 

所変わって今は自分の部屋で管狐のイヅナに向かって話しかけている処だ

 

イヅナの分身はあくまでも同一体という特性から瞬時に他の分身と情報を共有でき、その応用で電話の真似事もできるのだ

 

京都に置いて来たイヅナの分身は基本的に九重(くのう)が持っているようで週に何度か他愛のない内容のやり取りをしている

 

≪ではイッキ、また今度なのじゃ!≫

 

九重(くのう)の俺の呼び方は『イッキ』となったようだ。何でも「今の時代『ふれんどり~』が大事」と八坂さんに言われたらしい・・・もしかしてあの人愉悦部の素質あるんじゃないか?

 

「うん、またな。お休み、九重」

 

そう言ってからイヅナの通信を切る

 

「やっと終わったかにゃ?」

 

すると黒歌が後ろから首に手を回して抱き着いて来た!

 

修学旅行が終わってからこうして黒歌のスキンシップが増えてきた気がする

 

すごく柔らかいものが頭に当たってる!しかし土蜘蛛の一件で黒歌の好感度は上がったと思うのだが「遺伝子を提供してくれ」というスタンスは変わってなかったのでコレでは手が出せない

 

黒歌としては構わないのだろうが、やっぱり男としてまずは好きになって欲しいと思うのだ―――黒歌との体を求めるだけの爛れた男女の関係・・・うん。言葉に表して想像するとヤバいぐらいに淫靡に聞こえる

 

・・・そんな彼女の誘惑を耐える生活を続けて一年ほどたった

 

正月やお盆、節分など、イベントのある時などは九重(くのう)の所にも遊びに行った・・・と云うか『えんきょりれんあいは破局するしかないのか?』などと涙声で言われたら会いに行かない選択肢はなかった。てか子供になに教えてんだ!あの愉悦部!

 

そんな中、ふと黒歌が思い出したように聞いて来た

 

「そういえばイッキってどこの学校を受験したのかにゃ?」

 

「駒王学園」

 

「に゛ゃっ!?」

 

そう答えると黒歌はプレイしていたモンスターをハントするゲームのコントローラーを落としてしまった―――あっ、ラージ○ンに殺された・・・

 

「な・・・何であんな悪魔や人外の巣窟を受験しているのにゃ!?」

 

「いや何でって家から一番近いし、学力も問題ないし、悪魔たちがいるって言っても特に問題は起きてないって言ったのは黒歌自身じゃないか」

 

はい、嘘です、すみません―――いや、言ったことに嘘はないけど原作の舞台に憧れてというのが一番の理由です

 

「うにゃ~、そんな事も言ったっけ私?ねぇ、今からでも志望校変える気はないのかにゃ?」

 

「いやいや急になんで?」

 

「か・・・勘・・・かにゃ?」

 

すごく目が泳いでる・・・今まで見た中で一番動揺してるかもしれん

 

理由は十中八九妹の事だと分かるが思わずジト目になってしまった。それを見た彼女が何を勘違いしたのか「うう、分かったにゃ、もうここまで来たら白状するにゃ・・・」とこの町に来た詳しい理由を語り始めた

 

両親(特に父親)は問題のある人達で早くに亡くした事

 

白音という名の妹を守り育てるために父親と関係のあった上級悪魔ナベリウスの眷属に『妹には手を出さない』との契約の元転生悪魔となった事

 

周囲の眷属やその家族が妙な実験に付き合わされて不審死を繰り返していたこと

 

主となった上級悪魔がまだ幼かった彼女の妹に死の危険と契約を無視して仙術を無理やり覚えさせようとした事

 

主を殺し、妹を連れて逃げようとしたけど不自然なほどに早く追手が差し向けられ妹と離れ離れになった事

 

自分と別れた後で妹は迫害を受け処分されそうになったと知り、負い目を感じている事

 

この町に来たのはグレモリー眷属となった妹が危険な目に合わないか、無体を強いられていないか確認のために来た事

 

妹が今は塔城小猫と名乗り、駒王学園の中等部に通っているので妹が高校に進学したら何処かから自分の存在がばれてしまうのではないかと危惧した事

 

・・・確かに自分はその事実を知っていた。だがやはり本人が何処か暗い顔をしながら告げるその言葉は文章だけでは伝わらない“重み”があった

 

「にゃははは、私も大概色々と空回ってるにゃ。そもそもがろくでなしの父親が所属していた組織を頼ってしまったのが間違いの始まりだったにゃ」

 

彼女は何処か渇いた笑みを浮かべてそう自嘲する

 

「でも、それは仕方ない部分も有るんじゃないか?子供のころなら何であれ周囲の大人に頼ろうとするのは当然と言えるし、常に最良の選択肢を選んで生きるなんて神様や魔王にも不可能だろう」

 

「そうかもね・・・それでも私が白音を守れなかった事には変わりないにゃ・・・」

 

「それは違う!」

 

そう、それは違うのだ

 

「何が違うって言うにゃ?」

 

「だって黒歌は今もこうして妹さんの事を守ってるじゃないか」

 

「にゃ?」

 

ああもう!本気で分かってないかのように首を傾げてやがるな!

 

「確かに望んだ通りとはいかなかったのかも知れないけど、黒歌がその主を殺さなかったら妹さんは仙術で死んでたか、怪しい実験で死んでたかも知れないし、妹さんを引き取ったグレモリー眷属がもしも最低な人たちだったらと考えれば黒歌がこの町に来た意味は十分にあったと言える!」

 

「けど!結局意味は無かったにゃ!」

 

「それは結果論だろう?絶対に意味はあったさ!」

 

そうしてしばらくお互いに睨み合っていると黒歌の方が先にこれ以上は不毛と思ったのか「はぁ、もう分かったにゃ降参するから今日はもう寝るにゃ」と言いつつベッドに包まってしまった

 

「黒歌~?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

呼んでも返事をしない。如何やらふて寝を決め込むようなので仕方なく自分も床で毛布に包まって眠りについた―――意識が落ちる寸前小さく「ありがとにゃ」と聞こえた気がした

 

 

 

 

 

 

そうこうしている内に年も明け(京都の神社で合格祈願もした)駒王学園に関しては妹の白音が高等部に入学するのに合わせて黒歌の気配を消す術を掛けるということで話をまとめた

 

エロ馬鹿3人組は鬼気迫る形相で受験勉強をしている―――女子の比率が高い駒王学園なら夢のハーレムが待っていると信じているらしい

 

エロに飢えているのかエロトークしつつも勉強をしている・・・器用な事だ

 

そうして受験勉強しつつも修行も行い晴れて念願の駒王学園に合格!

 

4月に入り、ついに駒王学園に入学してから数日がたった。どれだけ関わるかは分からないが来年は大変な年になるだろう・・・そう思っていると後ろから声を掛けられた

 

「いきなりすみません。貴方はひょっとして猫を飼ってたり『黒歌』という人の知り合いだったりしませんか?」

 

塔城小猫がそこにいた―――何でここ(高等部)にいるの!?

 

どうやら俺を取り巻く波乱は一年も待ってはくれなかったらしい




そろそろ原作に入れそうですね。ここまで長かったような短かったような不思議な感じです


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第六話 そして原作へ

章が中学編となってるのに若干高校に食い込んでしまいましたww


塔城小猫が目の前に現れていきなり核心を突いて来た

 

これもう完全に確信をもってるよね!?多分だけど匂いでバレバレなんだよね!?

 

ていうか何でここに居るのかって思ったけど彼女の主であるリアス・グレモリーは高等部のオカルト研究部を拠点としているのだ―――放課後になれば中学生の彼女でもここに居るのは何ら不思議ではない!

 

ていうか黒歌も妹がオカ研(高等部)に居るの知ってたはずだよね!?うっかりか!?うっかりなのか!?トオ〇カの呪いか!?って俺も人の事言えねぇし!!

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・ナンノコトカナ?」

 

とりあえず誤魔化すことにした

 

「誤魔化さないでください!」

 

おおぅ、秒で切って捨てられてしまった

 

どうする!?どうするのが一番波風が立たないのだ!?彼女が黒歌を売るような真似をするとも思えないが今は姉に裏切られたと思っているのだ

 

そんな中で出会った姉の匂いが染みついた俺という存在。混乱して深く考えずにリアス・グレモリーに報告しないとも限らない。それはまずい!どういう経緯にせよ今の黒歌はSSランクのはぐれ悪魔なのだから!

 

俺の知るリアス・グレモリーなら討伐隊は派遣しなくとも捕縛部隊の派遣位はするかもしれない・・・小猫に黙っているよう何とか説得できても後々バレれば『指名手配犯をかくまった』として彼女も主のリアスも非常に面倒な事になるかもしれん・・・考えろ俺!

 

いつの間にか汗ばんでいた手をズボンで拭ったとき、手に硬い感触がした―――もしかしてコレならいけるんじゃないか?大根芝居でも構わない、今はこっちのペースに持ち込もう

 

「・・・何のことか分からないな。それよりも仕事の話をしようじゃないか」

 

無駄に不敵なラスボス(アザゼル先生をイメージ)を演じつつそう切り出す

 

「・・・仕事?」

 

「そう、仕事だよ、悪魔クン?」

 

そういった途端一気に距離を取られた

 

「そう警戒しなさんな、俺は見ての通りただの人間だよ―――君と契約を結びたい」

 

そう言いつつポケットの中にあった一枚のカードを取り出す―――そう、悪魔召喚用のカードだ。先日貰ったのだが記念にポケットに入れてあったのだ

 

「・・・契約?」

 

「その通り、俺は今夜このカードで君を呼び出そう。勿論一人で来てくれよ。もしかしたらお前さんの知りたいことが知れるかもしれないぜ―――おっと主に告げ口するのは禁止だ。お前さんだけなら兎も角リアス・グレモリーまで来たら話がこじれるかも知れないからな・・・」

 

そして全力で身体強化して一瞬で彼女の背後に回りこみ

 

「戦いになればどちらが有利なのかは理解できるな?もう一度言うぞ。誰にも知らせず一人で来い。そうすれば全ては丸く収まるかも知れないぜ」

 

そう言い残し瞬時に消えていった

 

 

 

 

「・・・で?言い訳は?」

 

所変わって俺の部屋、今現在全力で土下座を披露しています

 

「てんぱってました。あの時の俺はどうかしていたんです。ごめんなさい!」

 

途中からはノリノリで演技(アザゼル風)をしていた気がする

 

そんな俺の姿を見た黒歌はかなり脱力感が漂っている

 

やってられないとでも感じているのだろう

 

「はぁ、私のうっかりも原因だし、時間もない中、過ぎたことを言ってても始まらないにゃ。それで?どうするつもりだったのかにゃ?」

 

「妹さんにも言ったけど俺と契約を結んで貰おうと思ってる。契約内容はただの雑談、ただし第三者に話の内容を直接的及び間接的に伝えることを禁止するという条件を付ける」

 

全力で怪しまれてるだろうが黒歌がいるという証拠はまだ見せていないのだ。何とか先に契約を結ぶことができれば丸く?収まるのである

 

「そう、じゃぁ私は遠くに行っておくから上手い事まとめておいてにゃ」

 

そのまま彼女は足元に魔法陣を展開し転移する

 

「待ったぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

・・・前になんとか魔法陣を破壊できた。そしてそのまま黒歌に抱き着く、何気に自分から抱き着くのは初めてだがなりふり構っていられない!・・・いや、でも柔らかいし腰細っそ!そう思いつつ必死に引き留める

 

「無理だから!黒歌抜きで俺だけで話を収めるとか絶対に無理だから!妹さんと仲直りするチャンスなんだから!」

 

「にゃ~!離すにゃ~!今更どんな顔して会えばいいっていうのかにゃ~!!」

 

「どんな顔でも真実を話せばいいって!後はアドリブでいいから!」

 

「それって丸投げっていうのにゃ!」

 

そんな攻防を繰り返しているうちに外はすっかり暗くなっていた。もう呼び出してもいい頃だろう

 

「・・・分かった、白音に会うにゃ。ただしイッキ!もし白音に嫌われたら私はこの町を出ていくけど、イッキも一緒に来るにゃ!逃亡先で一滴残らず搾り取ってやるにゃ!」

 

・・・一瞬それもいいかなとヨコシマな考えが頭をよぎってしまったが、きっとそうはならないだろう

 

「分かったから一度隠れて!今から呼び出すから!」

 

そういって抱き付いてた黒歌を離し、彼女が部屋の外に出たのを確認してから召喚のカードで塔城小猫の事を強く思い浮かべながら召喚する

 

部屋の真ん中に魔法陣が浮かび上がり塔城小猫が現れ、俺の姿を確認するや距離を取り部屋の中を鋭い目つきで見渡す

 

「・・・あなただけですか?」

 

完全に警戒している・・・当たり前か、そして俺もラスボスモード(アザゼル風)で相対する―――俺は割と冷静なのかもしれん(錯乱)

 

両腕を組み不敵な笑みを浮かべる

 

「そう警戒するなよ悪魔クン?平和的に話し合いをしようじゃないか」

 

「話し合い?」

 

「その通りだ。悪魔は人間の願いを叶えてくれるんだろう?俺の要求は『この部屋で行われる』ただの雑談だ。ただしここで見たり聞いたりした内容はいかなる手段を用いたとしても第三者に伝えることを禁じさせてもらう」

 

「・・・・・」

 

彼女は黙ったまま険しい表情を崩さない―――よく見れば頬に汗が伝っているのが見える

 

焦燥・不安・恐怖などを同時に強く感じているのだろう

 

「この条件を呑むのであれば俺はキミのいかなる質問にも誠意を持って答えてやろう・・・どうかな?キミにも何か知りたいことがあるんじゃないのか?それなら、俺と契約しろ」

 

やべぇ、もはやどっちが契約を迫る側なのか分からないし演技が止まらない!誰か俺の暴走を止めてくれ!

 

「・・・分かりました。その条件で契約を結びます」

 

彼女が絞り出すようにそう言った直後、部屋の扉が開け放たれて黒歌に強烈なボディーブローを叩き込まれた

 

「何をやってるのにゃ!白音を怖がらせるなんて万死に値するにゃ!『知識が欲しければ契約しろ』ってどこのメフィスト・フェレスにゃ!」

 

そうか・・・ラスボス先生のつもりがメフィストになっていたのか―――俺の演技はどうやらまだまだだったようだ

 

「ね・・・姉さま?」

 

「にゃ!白音!これはえっとその・・・」

 

こうして猫又姉妹は再会を果たしたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・という訳で私があのバカ主を殺したのはそういう理由だったにゃ」

 

今は姉妹で黒歌の知る限りの真相を妹に伝えている

 

「そう・・・ですか・・・なら、黒歌姉さまが今この町にいる理由は何なんですか?」

 

「いや~偶々流れ着いたこの町が居心地よくて・・・」

 

「黒歌姉さま?さっさと話してください」

 

俺と出会った時もそうだけど冗談の類はバッサリと切り捨てるな・・・

 

「う゛ぅ・・・」

 

「いや、そこまで話して何で口ごもるんだよ」

 

「うるさいにゃ!」

 

そんなやり取りをしていると小猫がこちらに対して「あなたはご存じなのですか?」と尋ねてきた

 

「知ってるけど、どうする?黒歌が黙ってるなら俺から言うけど?」

 

「・・・そうですね、お聞きします―――それと先ほどまでと随分印象が違うようですが?」

 

「あれは話の主導権を握ろうとしてちょっと暴走していただけなんだ・・・ゴメン」

 

できれば掘り返さないで欲しい。俺の新たな黒歴史の1ページになりそうだから

 

「分かりました・・・それで?」

 

「妹が主になったグレモリー及びその眷属にイジメられたりしてないか心配になって3年前からこの町にいるみたいです。いつだったか『私の事なんか忘れて昔みたいに笑えるようになってくれないかにゃ~?』って言ってました!」

 

「うにゃ~!?聞いてたのかにゃ!」

 

うるせぇ!この姉妹が仲直りするためならシリアスなんてぶち壊してやる!

 

そんなやり取りをしていると小猫はうつ向いてしまい、少しすると涙と一緒に嗚咽が漏れてきた

 

「にゃにゃ!白音!?なんで泣いてるのにゃ!え・・・えっとやっぱり私居なくなった方が・・・」

 

小猫ちゃんは黒歌がそこまで言いかけたところで彼女に正面から抱き着いた

 

「にゃ!白音!?」

 

黒歌も初めは両手をわたわたさせていたが次第に抱き合う形になった―――これなら大丈夫かな

 

「あー白音ちゃん。俺はとりあえず30分ほど席を外すから、黒歌もまだてんぱってると思うからその間お姉さんが逃げないようにお願いするよ」

 

「に゛ゃ!ちょっと待つにゃイッキ!!」

 

黒歌を無視して小猫に話しかける

 

「お願いできるかな?」

 

それに対して彼女は小さく頷いた。それを見た俺は黒歌の「おいてかないで欲しいにゃ~」という声をしり目に部屋から外に出て行った

 

 

 

 

 

 

 

30分後、また自分の部屋に戻ると猫又姉妹は二人そろってベッドに腰かけているようだ

 

小猫はとてもご機嫌なのが分かる―――何故なら猫耳としっぽを出して(リラックスモード?)満面の笑みなのだ・・・うん、可愛い

 

しかし、こうして二人そろって見てみるとよく似ている。猫耳という分かりやすい特徴に加えて顔立ちもそっくりだ。今は少し小猫の方が幼い感じだがそれも当然と言えるし、髪型を一緒にしたら完璧じゃないか?もっとも、スリーサイズは今はまだまだd

 

“ボフッ!!”

 

「今何か考えましたか?」

 

流れるような動作で枕が飛んできた

 

どうやら勘の鋭さは天下一品のようだ―――彼女は黒歌とは別のベクトルで十分に可愛いと思うけど深く考えるのはよそう

 

「・・・取り合えず仲直りは出来たみたいで何よりだ。そう言えば自己紹介もまだだったな、俺は有間一輝(ありまいっき)、駒王学園高等部1年C組の仙術使いだ。宜しく」

 

「私は・・・」

 

彼女はそこで言葉が詰まってしまった。おそらく『白音』と『小猫』のどちらを名乗るべきかと思っているのだろう・・・ここは助け舟を出すか

 

「キミが『白音』と『小猫』の二つの名前を持ってる事は知ってる。今はまだキミは中等部だから学校で早々会うような事はないだろうけど来年からは違うだろう?俺としては出来れば『小猫』の名前で呼びたいな」

 

「何でですか?」

 

「普段が『白音』呼びだと何処かでうっかりそう呼んじゃいそうだからね。確実に面倒になるし、それでなし崩し的に黒歌の事までバレでもしたら目も当てられない」

 

「確かにそうですね。では私の事は『小猫』と呼んでください―――私も貴方の事はイッキ先輩とお呼びしても?」

 

「了解。宜しく、小猫ちゃん」

 

「宜しくお願いします」

 

そうしてお互いに挨拶を交わし合った―――すると彼女は「それで、イッキ先輩は結局何者なんですか?」と聞いて来た

 

「何者と言われても・・・一般人?」

 

「イッキ、その説明は厳しいにゃ」

 

「いやでも黒歌、俺は生まれは一般家庭だし何処かの組織に所属もしてないし、フリーの仙術使いとして何処かで働いたこともないし・・・一応一般人なんじゃ?」

 

俺がそう言うと黒歌はそれを否定する

 

「イッキは今関西を統べる大妖怪の娘の婚約者にゃ。正式に所属してるとは言えないけど一般人ともまた言えないにゃ」

 

そうか・・・いつの間にか俺は一般人という称号を失っていたのか

 

「イッキ先輩、婚約者がいらっしゃるんですか!?」

 

小猫ちゃんが驚きつつも興味深々といった感じで聞いてくる・・・やっぱり女の子はこういう色恋に発展しそうな話題に食いつくんだな―――しかしどう答えたものか

 

「9歳にゃ♪」

 

って黒歌さん!?いや間違ってないけどせめて『コレコレこういう事情で』って感じで言い訳ぐらいさせてくれ!

 

ほら!小猫ちゃんが全力で部屋の隅に移動して蔑んだ目でこっち見てるから!

 

「ペド野郎とか最低です」

 

小猫ちゃん『ペド野郎』なんてスラングよく知ってたな!

 

「小猫ちゃん!やましい事など何もないから!やむにやまれぬ事情が有ったんだって!」

 

「その通りにゃ白音、今から婚約が決まった時の事とか私とイッキが初めて出会った時にイッキが叫んだ恥ずかしい事とか全て余さず教えてくれるにゃ」

 

とんでも無い事言うなこの性悪猫!

 

「言いたきゃ言えばいいさ!その間俺は部屋を出てる!俺から言う気はない!」

 

「ふふん!そう言う思ったにゃ♪白音、ちょっと・・・」

 

そう言って何やら耳打ちしている。今のうちに逃げたほうがいいか?そう思っていると小猫ちゃんが話し掛けてきた

 

「イッキ先輩、質問があります」

 

「質問?」

 

「はい。先輩が叫んだ恥ずかしい事を詳しく教えてください」

 

「はっ!?そんなの答える訳が・・・」

 

「『俺はキミのいかなる質問にも誠意を持って答えてやろう』・・・契約を結ぶ条件として先輩が言い出した事です」

 

「私が質問内容を考えて白音が質問をする、そしてイッキは誠意を持ってそれに答える・・・何も問題は無いにゃん♪」

 

・・・そうだった!小猫ちゃんは大人しい印象だったけど原作でも吸血鬼のギャスパー・ヴラディにニンニクフルコースをしたり、事あるごとに毒舌を吐いたりするキャラだった!?姉妹がそろった事でえげつない事になってやがる!

 

 

 

・・・そして約1時間後赤面しつつも魂の抜けかけた俺がそこにいた―――どうしてこうなった?

 

それから一年間、仙術や姉に対する忌避感を払しょくした小猫ちゃんが黒歌に修行を付けてくれないか?というお願いもあり、召喚カードで他言無用の条件をいちいち結びなおしながらも部屋での雑談という名目の仙術・妖術の解説や瞑想、他にも運動を一緒にするという名目の実戦的な修行を行っていった

 

流石に猫妖怪最強の戦闘種族だけあって彼女もメキメキと力をつけていった

 

主のリアス・グレモリーは彼女が新学期に伴い迷いが吹っ切れたと思っているらしく、優しい主に『姉と和解できた』と報告できない事は心苦しく思っているようだが、話せない事は理解しているので時々落ち込んでいるようだ

 

 

 

そして季節は廻り駒王学園の2年生となり、ついに原作の季節がやってきた




次回から原作!小猫ちゃんも強化しちゃったし今からライザーが勝てる未来が見えないww


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第3章 旧校舎のディアボロス
第一話 『原作』主人公、覚醒します!


最近思ったのは主人公はいじられキャラの方が筆が進むという事・・・


新学期から少し経ち、2年B組となった―――エロ馬鹿3人組とはこれで5年連続の付き合いと思うと妙に感慨深いものがある。

 

そして今は放課後となり、部活にも入っていない(松田も中学の写真部から無所属となった)俺たちはそのまま下校しようとしている

 

「あ~、おっぱい揉みてぇ~」

 

「イッセーに同意!ハーレムを創って色んなおっぱいを揉むのだ!」

 

「うむ!早くおっぱいソムリエにならねばな!我がスカウターも新たな進化を遂げた。今ではスリーサイズに加えて乳輪や乳首のサイズまでも測れるぞ!」

 

「お前らそういう話はせめて生徒が散らばる校門を出てからやれ!そういった少しの気づかいが出来ないのもお前らがモテない理由の一つなんだぞ!」

 

高校生になってもこいつらとの付き合いは特に変わっていない・・・俺が事あるごとにこいつ等の覗き行為を阻止してきたせいなのか元浜が禁欲?により想像力が刺激され、スリーサイズスカウターが新たな段階に進んだようだ―――こいつは何処に向かって進化してるのだろうか?

 

そんな事を考えながらも校門の方を見て若干目を細める―――多少は隠してるようだがそれでもこの気配は堕天使のものだ。恐らくは『そういう事』なのだろう

 

そして俺たちが学園の敷地の外に出てから少し歩くと他校の制服を着た女の子(堕天使)が近づいて来て声を掛けて来る

 

「あ・・・あの・・・兵藤一誠君・・・ですよね?」

 

顔を赤らめながら気恥ずかし気にそう言うとイッセーも狼狽えながらも応対する

 

「えっ!?あ・・・ああ、そうだけど、俺に何か用?」

 

「あの!わ・・・私、天野夕麻と言います!それで私今まで下校中に何度か兵藤君を見かけてて・・・それで・・・わ、私と付き合ってください!」

 

「「「なぁ~にぃ~!!」」」

 

突如として齎されたその告白に当の本人も含めて絶叫を上げている

 

「何故だ!何故だイッセー!なんでお前がこんな可愛い子に告白されてるんだ!!」

 

「あり得ない!こんな事があっていいはずが無い!」

 

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」」

 

現実を受け入れられないのか二人はそのまま走り去って行ってしまった・・・

 

イッセーは松田の『告白』というセリフにようやく認識が追い付いて来たのか口元がにやけてきている。そして「勿論OKだよ!!宜しく!夕麻ちゃん!」と返し「イッキ、俺は今から夕麻ちゃんと話があるから先に帰ってていいぞ」と言ってきた

 

週末のデートで殺されるとは露ほども考えていないのだろうが、それも当然と言えるな。実際さっきの演技は見事だったし・・・まぁ原作を知ってようが知らなかろうが堕天使の気配を感じ取った以上は警戒すべきだろう。友達が殺されるのを黙ってみているなんて選択肢はない

 

しかしだからと云ってこのレイナーレ(暫定)を即刻敵と見なして処分する事はできない

 

原作知識はあくまでも参考でしかないのだ

 

敵の可能性は凄く高いものの万が一違ってたら目も当てられない

 

疑いはしても明確に敵対するまでは手を出さないのは原作知識を持つものとしての最低限の責務だろう

 

「じゃあ先に帰るけど初めての彼女だからってがっついたりすんなよ」

 

そう釘を刺して俺は家路についた

 

悪いがイッセー、デートは監視させてもらうぞ

 

 

 

 

 

 

 

[イッセー side]

 

 

拝啓、天国のおじいちゃん

 

俺、今日人生で初めて彼女が出来ました!可愛らしい顔立ちの黒髪ロング美少女!アメジストの瞳が光るスタイル抜群の彼女が!!

 

俺がいつかそっちに行った時、また一緒にエロについて語り合いましょう・・・

 

今は彼女となった夕麻ちゃんと近場の公園のベンチに座って一緒に話している。連絡先を聞いたり簡単な自己紹介をしている

 

「でさ!今度の土曜か日曜にデートに行こう!やっぱり二人で色んな所を回ってこそ見えてくるものもあると思うし、絶対に楽しい思い出になれるようにリードするからさ!」

 

絶対に失敗しないためにも今日家に帰ったら直ぐにでもデートの構想を練らなきゃいけないな!

 

それで・・・デートの終わりにキ・・・キ・・・キスまでいければ最高だ!そう思っているとジッと此方を見つめていた夕麻ちゃんが「ええ、それも楽しそうだけどその必要はないかな」と言いながら立ち上がり俺の正面に立つ

 

「え?・・・それはどういう意味?あ・・・もしかして週末は予定入ってた?」

 

そう言いながらつられて自分も立ち上がる

 

「最初は確信が持てなかったから時間をかけて調べようと思ってたけど、あなたもう目覚めかけてるみたいね。お陰で直ぐに分かったわ」

 

「夕麻ちゃん?何を?」

 

「ねぇ、イッセー君一つお願いがあるんだけど・・・」

 

そう言うとさっきまでと違い冷たい目つきでこっちを見ながら「死んでくれないかな?」と言いながら光でできた槍のようなものを出してそのままこっちに突き込んできた!

 

「うわっ!!」

 

混乱しながらも咄嗟に体が『何時も取っている回避行動』をしてくれたようで避けることが出来、そのまま走って距離をとって振り返る。

 

しかし、そこに夕麻ちゃんは居なかった―――何処だと思ってると上から声が聞こえてきた

 

「へぇ、咄嗟に私の槍を避けるなんてね。いい反応じゃない、さっきは帰宅部だって言ってたけど・・・実はケンカに明け暮れる不良生徒だったりしたのかしら?怖いわね~」

 

くすくすと笑いながら背中から黒い翼を生やして空を飛んでいる。それに飛んでいる夕麻ちゃんを見て気付いたが空が紺色を基調にしたマーブル模様になっている。なんだコレは!?

 

あと夕麻ちゃんミニスカートで空飛んでるから白く輝くパンツが見える!いいの!?俺ガン見しちゃうよ!?そんな場合じゃないって判ってるし、まるで状況に付いて行けて無いけどそこに美少女のパンツがあるなら見ちゃうからね!?

 

「この公園に結界を張ったわ、もう逃げられないから大人しくしてるならせめて一撃で殺してあげるわよ?」

 

そう言いながら光の槍を今度は投げてきたのでまた辛くも避ける。

 

“ズドンッ”

 

槍が突き刺さった地面に大穴が空いている!こんなの食らったら即死だ!まだおっぱいを揉んだ事すら無いのに!!

 

「ぅ・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

自分でも情けないと思う悲鳴を上げながら公園の外を目指す。しかし公園の端まで来た所で壁のようなものにぶつかってしまった。

 

「ぶっ!?な・・・なんだコレ!?」

 

壁を叩いていると後ろから地面に降り立った夕麻ちゃんが「結界を張ったって言ったでしょう?ここが終着って事でいいかしら?恨むならその身に神器を宿した神を恨んで頂戴」そう言いつつ槍を手に近づいてくる

 

それを見て死を意識したからか走馬灯のように今まで見てきたたくさんのおっぱいが頭の中を駆け巡る。巨乳、貧乳、美乳それぞれのおっぱいに違った魅力があるけれど、やはり俺の中で一番なのは3年のリアス・グレモリー先輩のおっぱいだ!死ぬならせめてリアス先輩の生乳を拝んでからでないと死んでも死にきれない!絶対に生き延びてあの生乳を拝むんだ!

 

“パアァッ”

 

な!?俺の胸が紅く光ってる!?違う!俺が見たいのはリアス先輩のおっぱいであって俺自身の雄っぱいではないのだ!

 

いや、よく見ると光ってるのは胸ポケットに入れた『あなたの願いを叶えます』という文言と怪しい魔法陣の書いてあるカードだ!いつだったか貰ってそのまま生徒手帳に挟んであったんだっけ?これは一体!?

 

そうしている内に魔法陣が俺と夕麻ちゃんの間に現れそこからたった今考えていた紅い髪の美女。リアス・グレモリー先輩が現れた。

 

「堕天使・・・ね・・・それで?私を呼んだのはあなたかしら?その制服、うちの生徒よね?」

 

そう問われるが俺が答える前に夕麻ちゃんが「悪魔ごときが出しゃばってくるんじゃないわよ!」と言いつつ俺に向かってまた光の槍を投げてきた

 

“バシュン!”

 

今度はなんだ!?リアス先輩から赤黒い光が放たれたと思ったら光の槍が消失してしまった!もう展開についていけねぇよ!

 

「悪いけど目の前で依頼主を殺される訳にはいかないわ。ここは引いて貰えないかしら?堕ちた天使さん?」

 

「・・・・・・・」

 

二人が睨み合っていると直ぐ近くの壁、『結界』って言ったっけ・・・が壊されそこからイッキが入ってきた

 

「イッセー、無事か!?」

 

イッキ!?今度はお前かよ!?

 

「乱入が多すぎるわね・・・いいわ、ここは引きましょう。そこのガキの神器が確実に脅威になるとも限らないし、その紅い髪・・・グレモリーの者と敵対するにはリスクが高いからね」

 

「ご理解いただけたようでなにより。でもこの町は私の管轄なの、あんまり勝手が過ぎると次は容赦なく消し飛ばすからそのつもりで!」

 

「ふんっ!」

 

そうして夕麻ちゃんは何処かに飛んで行ってしまい、マーブル模様だった空も元に戻った。

 

何だってんだよ、一体・・・

 

 

 

[イッセー side out]

 

 

 

 

 

 

イッセーと別れた後、一度家に帰り部屋にいた黒歌には一応堕天使がイッセーに接触した事を言っておいた

 

「そんな訳でイッセーに堕天使が告白という名の接触を図ってたからもしも何かあれば強引にでも介入すると思う・・・」

 

「ふ~ん、でもそれって十中八九神器を狙ってるんでしょ?今も放っておいていいのかにゃ?」

 

「まだ確定的な動きは見せてないし、告白してきたって事はイッセーの目覚めてない神器を相手に確証が持ててないんだろう。近いうちにデートにでも行くんじゃないか?そこを監視しとこうと思う・・・万が一、普通の告白と言う可能性もあるし」

 

「・・・でも今のあの子って神器が半ば目覚めかけてるにゃ。多分近くで観察してたら直ぐに気づくと思うにゃ」

 

衝撃的な事を言われた気がする

 

「うぇ!?」

 

は!?何で!?

 

「イッキよく愚痴ってたじゃないかにゃ。あの3人組が無駄に強くなってるって、校舎と渡り廊下の壁で三角跳びして2階の教室で女子達が着替えるのを覗いてたって。戦いに由来する神器なら宿主のスペックが上がれば自然と目覚めても可笑しくはないにゃ」

 

マジか!?そんな事でも目覚めるの!?でもそう言えばヒロインの一人であるアーシア・アルジェントは傷ついた子犬を助けたいという祈りで神器が目覚めたって描写があったな!迂闊だった!

 

咄嗟に仙術の探知を飛ばすとイッセーとレイナーレ(暫定)は学校の近くの公園に居るようだ。

 

今からでも向かった方がいいか?そう思っているとレイナーレ(暫定)の力が跳ねてその直後結界が張られた。遅かったか!自分の想定の甘さに歯噛みしながらも「黒歌!行ってくる!」と家を飛び出していった。

 

気配を消しつつ車以上の速さで現地に向かう。

 

結界のせいで中の様子が分からないが逆に張られたままって事はまだ大丈夫なはずだ。既に原作から乖離している以上リアス・グレモリーが確実に現れる保証はないと内心焦りながらも結界の端に着き結界を殴り壊して中に入る

 

「イッセー、無事か!?」

 

そう言いつつ中を見渡すがどうやらイッセーは無事なようだ。

 

見た感じだとリアス・グレモリーがイッセーを背にして庇うような振る舞いをしている。

 

レイナーレ(暫定)を睨みつつ視界の端で突然現れた俺も警戒している感じだ。その後すぐにレイナーレ(暫定)は飛び立っていった。

 

さて、イッセーは無事だったがこれからどうするべきか・・・先輩はこっちを睨んでるし、取り合えず敵意が無い事を示しておくか

 

「3年のリアス・グレモリー先輩ですね?俺はそこに居る兵藤一誠の友人で2年B組に所属しているフリーの仙術使いの有間一輝と言います。今回は彼の危機を察知して駆けつけたのですが一足遅かったようで、彼を助けて頂いた事感謝いたします」

 

そう言って頭を下げる。少し間をおいて彼女のピリピリとした気配が多少和らぐのを感じた。完全な敵認定からは外して貰えたようだ

 

「そう・・・仙術使いなんて希少な存在がこんなに近くに居たなんてね。もしかせずとも私の正体も知ってるのかしら?」

 

「先輩が『グレモリー家』の方だという程度には・・・」

 

「なるほど、ちゃんと分かってるようね」

 

「ただ、そこのイッセーは完全に一般人です。でも巻き込まれた以上は説明するべきとも思うのですが」

 

「そうね、なら今から二人とも一緒に来てもらえるかしら?」

 

「はい、イッセー、混乱してるだろうが説明してやるから一緒に来い」

 

イッセーは困惑を隠しきれない感じだがそれでも「分かったよ」と返事をしてくれた。

 

そして、先輩は学校のオカルト研究部への道順を教えるという意味も兼ねているのだろう、魔法陣では無く歩いて旧校舎に向かっていく。

 

しかし、コレは好都合だ。気配を隠してこっそりと管狐のイヅナを出して俺自身に憑依させる。すると少しして≪イッキ先輩?どうかしましたか?≫と頭の中に小猫ちゃんの声が聞こえてきた。

 

管狐は霊体であるために他者に憑依することが出来る。勿論自分よりも強い相手に憑依するには相手の承認が必須だが・・・この憑依と情報共有の力を使って声に出さずとも念話のように話せるのだ―――小猫ちゃんに一匹渡しておいてよかった。

 

≪友達が堕天使に襲われてね、駆け付けた時には召喚されたであろうグレモリー先輩が居て、友達は無事だったけど結界を破壊して登場したから一般人とは言えなくてね、フリーの仙術使いって自己紹介して今そっちに向かってるんだよ≫

 

≪そうでしたか。それで?此方に連絡したのは私に初対面のように振舞って欲しいという事で良かったですか?≫

 

≪うん、黒歌に繋がる糸は出来るだけ断ち切っておきたいからね≫

 

≪・・・分かりました≫

 

連絡が終わってから程無くしてオカルト研究部の部室にたどり着いた。

 

「さぁ此処よ、入ってちょうだい」

 

グレモリー先輩が扉を開け中に入り、俺とイッセーも続けて入る。

 

無駄に高級そうな家具の数々、怪しい像や所々に刻まれた魔法陣、何故かあるシャワールーム、蝋燭の明かりがそれらをさらに引き立てている。

 

そして部屋のソファーでは小猫ちゃんが羊羹を食べている・・・一本丸ごととは相変わらずの健啖家ぶりだ。姉の黒歌も結構食べるんだよな。

 

その向かい側に黒髪ポニーテールの姫島朱乃先輩が紅茶を飲んでいて、壁際では木場祐斗が本を読んでいた。

 

おお!改めてこういう主要人物たちと出会うと感動だな

 

「みんな、紹介するわ。この二人は二年生の兵藤一誠君と有間一輝君、今回私はこっちの兵藤君に召喚されたんだけど丁度堕天使に殺される寸前でね、私が助けたの」

 

「ど・・・どうも・・・兵藤一誠です・・・って堕天使?」

 

「兵藤君、その話は後で―――そしてこっちの有間君は裏の関係者らしくて兵藤君とも友達みたいでね。私が召喚されてから直ぐに堕天使の結界を壊して乗り込んできたの」

 

「皆さん、初めまして有間一輝です。宜しくお願いします」

 

「それで兵藤君は一般人みたいだから状況の説明と有間君がどの辺りまで知っているのかの確認を兼ねてここに連れてきたのよ―――みんな、まずは挨拶なさい」

 

グレモリー先輩がそう言うと3人が近寄ってきて順に挨拶をしてくれる。

 

「あらあら、うふふ、3年の姫島朱乃と申しますわ。このオカルト研究部の副部長でもありますの、どうぞ以後お見知りおきを」

 

「2年の木場祐斗、宜しくね二人とも」

 

「1年、塔城小猫です。よろしくお願いします」

 

3人の挨拶が済み全員が部室の真ん中にあるソファーにテーブルを囲う形で座る

 

「さて説明に入る前に何時までも他人行儀なのもなんだしね、二人の事は『イッセー』と『イッキ』と呼んでもいいかしら?」

 

グレモリー先輩がそう切り出すと隣に座っていたイッセーが超絶美人の彼女に名前呼びして貰えるからかウッキウキで背筋を伸ばして了承する

 

「は・・・はい!名前で呼んでいただけるなんて光栄です!」

 

「俺も構いません・・・先輩方の事はなんとお呼びしたらいいでしょうか?」

 

「名前の方で構わないわ、朱乃もいいわよね?」

 

「うふふ、ええ、それで構いませんわ」

 

「ではリアス先輩と朱乃先輩と呼ばせていただきます」

 

「なら、本題に入らせてもらうわ」

 

そう言ってリアス先輩は真剣な表情に変わり、それを見たイッセーも姿勢を正す。

 

「確認するけど今回の一件、イッセーは何も理解出来ていない・・・そう捉えていいのよね?」

 

「は・・・はい、いろんな事があり過ぎて正直何が何だか・・・」

 

「そうね、まずあなたを殺そうとしたあの黒い翼を持った存在、あれは堕天使なの―――元は神に仕える天使だったのが欲望のまま罪を犯し冥界、地獄とも言うわね、そこに堕ちた存在よ」

 

「あの・・・リアス先輩?そういう冗談は・・・」

 

「冗談と言う事にしてもいいけれど、その場合あなたがあそこで黒い翼を持った少女に殺されかけたという事実を、あなた自身が否定しなくてはならないわよ」

 

リアス先輩がそういうとイッセーも押し黙ってしまった。

 

そしてリアス先輩が「続けていいかしら?」と言うと諦めたように「はい」と答えた

 

「では次にあなたの命が狙われた理由だけど、あの堕天使が神器(セイクリッド・ギア)と言っていたのを覚えてるかしら?」

 

「セ・・・セイクリッド・・・」

 

神器(セイクリッド・ギア)、聖書の神の生み出した人間に宿る規格外の力。それほど強力な物は多くはないけど中にはあの堕天使や『私達』のような存在にとっても脅威となるものがあるわ。あの堕天使は万が一あなたの持つ神器が強力な物である事を危惧してあなたに近づき、可能性から潰すために殺そうとしたの」

 

「そ・・・そんな事で?・・・それに『私達』?」

 

それを聞いてリアス先輩は立ち上がり、他の3人も立ち上がる

 

「ええそうよ、私達は『悪魔』なの」

 

そう言いながら全員がその場で悪魔の翼を広げて見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後、「少し整理する時間を与えましょうか」との事で一旦小休止を入れる事になった。

 

「うふふ、お茶がはいりましたわよ」

 

おお!これが美味しいと評判の朱乃先輩の淹れたお茶!

 

「このお茶!凄く美味しいです!朱乃さん!」

 

「そうだな!俺今までコーヒー派だったのに紅茶派に鞍替えしちゃいそうです!」

 

この芳醇な香り、ほのかな苦み、素晴らしい!

 

「あらあら、有難うございます。良ろしければ今度コーヒーも淹れてさしあげますわ」

 

「本当ですか!有難うございます!」

 

「あっ、イッキずるいぞ!朱乃さん!俺にもお願いします!」

 

「うふふ♪そうして喜ばれると此方も淹れる甲斐がありますわ」

 

そうしてリラックスしているとリアス先輩が「それじゃあ、そろそろ説明に戻りましょうか」と言ってきた。

 

「イッセー、今までの説明は理解できたかしら?」

 

「はい・・・いまいち実感が湧いてないですけど翼も見せられましたし・・・」

 

「そう、なによりね。イッキは問題ないかしら?」

 

「はい、大丈夫です」

 

それを聞いたリアス先輩は「なら続けるわね」と言い

 

「あなたが身に宿す神器だけど今ここで出してみましょうか。イッセー、そこに立って左腕を掲げなさい」

 

「は・・・はい!」

 

イッセーが立ち上がり腕を掲げる。

 

「次にあなたが思い描く最強の姿を強く思い浮かべるの。何なら真似してもいいわ」

 

「え!此処でですか!」

 

イッセーが顔を赤らめて躊躇するがリアス先輩が「そうよ。早くなさい」と急かす。

 

「え・・・ええい!ままよ!・・・ド~ラ~ゴ~ン~破!!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・っぷ!」

 

「テメェ!イッキ!今笑いやがったな!!」

 

”カッ!!”

 

イッセーが俺に詰め寄るよりも早くその左腕が輝き紅く輝く籠手が装着された。

 

あれが神滅具(ロンギヌス)の一つ、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)か・・・

 

「うぉ!籠手!?これが神器ってやつなのか・・・こんな物が俺に・・・」

 

「上手くいったみたいね。それがあなたの神器・・・見たところ龍の手(トゥワイス・クリティカル)のようね。所有者の力を一定時間2倍にする、残念だけどありふれた物よ。これを持っていたせいで堕天使に狙われるなんてついてなかったわね」

 

それを聞いたイッセーはがっくり項垂れてしまった。どうしよう・・・既にレイナーレ(暫定)から狙われているならさっさと強くなってもらった方が危険は少ないのかもしれない―――なら少し突いてみるか

 

「イッセー、物は試しだ。一回使ってみたらどうだ?構いませんか?リアス先輩」

 

「ええ、構わないわよ」

 

「でもこれ・・・どうやって使えばいいんですか?」

 

「強く願うのよ。神器は宿主の願いに応じて力を出すものだから」

 

「強く・・・よし!」

 

そしてイッセーは今度は某仮面なライダーの変身ポーズをとっていく

 

「トゥワイス!クリティーーーー!カルゥゥゥゥゥ!!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・っぷ!」

 

「テメェ!イッキ!今度という今度は許さねぇぞ!!」

 

イッセーが憤怒の形相で詰め寄ってくる

 

「いや!悪かったって!その代わりほらあれだ、アドバイスしてやるから!」

 

「アドバイス?」

 

「おう!ちょっとこっちに来い」

 

そうして部屋の隅に移動し、これだけだと悪魔の皆には声を抑えても聞こえてしまうため仙術で空気の流れを乱して聞こえないようにしてイッセーが覚醒できるように囁く

 

「いいかイッセー。強い思いってのは別に怒りとか憎しみとかお前がさっきイメージしたような戦闘力における強さへの憧れでなくてもいいんだ」

 

「・・・というと?」

 

「お前の一番強い想いはなんだ?おっぱいなんだろ?前に言ってたじゃないか―――おっぱいへの想いは宇宙よりも重いんだって!その想いをここで爆発させて見せろ!」

 

「!!!!!!」

 

イッセーは驚愕した顔でこっちを見てくる―――うん、俺は一体何を言ってるんだろう?どうしよう?開き直った方がいいのかな?

 

「・・・分かったぜイッキ、そこまで言われちゃ引き下がれない!それとイッキ!やっぱりお前は『むっつり野郎』だ!!」

 

そう言って勢いよく立ち上がり

 

「リアス先輩!もう大丈夫です!もう一度やらせてください!」

 

「え・・・ええ、構わないわ」

 

それを聞いたイッセーはそのまま血走った目でリアス先輩を凝視しだした。恐らく最高のおっぱいを目に焼け付けながらも頭の中で様々な煩悩が駆け巡っているのだろう。

 

そして30秒ほどたった頃イッセーの鼻から鼻血が垂れてきた―――妄想でそこまでいくのか!?

 

「イッ・・・イッセー!?大丈夫!?あなた鼻血が・・・」

 

「大丈夫です!今ならいけます!うおぉぉぉぉぉぉ!輝けおっぱぁぁぁぁぁい!!」

 

『Welsh Dragon!! Dragon Booster!!』

 

「ウェルシュ・ドラゴン!?まさかそれは!13種の神滅具(ロンギヌス)の一つ、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)だというの!?」

 

リアス先輩が驚いている―――いや、他のみんなも同様だ・・・当然か、神をも滅ぼす力が目の前に現れたのだから

 

こうして『赤龍帝の兵藤一誠』がついに覚醒したのだった。

 




原作を絡めたら一気に文字数が増えました。というか流石に説明回は書くの面倒ですね

タイピングが早くなりたいです。


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第二話 オカルト研究部、入部します!

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)・・・ですか?コレって確か龍の手(トゥワイス・クリティカル)って名前じゃなかったんですか?あと神滅具(ロンギヌス)って?」

 

いきなり知らない単語を列挙されながら驚かれた為かイッセーも混乱している。

 

「ああ、御免なさいね、余りにも衝撃的だったものだから―――神器には極めれば神や魔王ですら打ち倒せるとされている特別な物が全部で13個存在しているの。それらを指して神滅具(ロンギヌス)と呼んでいるのよ」

 

神滅具(ロンギヌス)・・・」

 

「籠手が発動した時、ウェルシュ・ドラゴンと言ったわ。それが指し示すものは地上最強と謳われた二天龍の片割れ、赤龍帝ドライグの事よ。そしてその赤龍帝の力と魂を宿したそれこそが神滅具(ロンギヌス)の一つ、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)よ―――正直、私も驚いているわ」

 

その説明を聴いてイッセーはマジマジと左腕の赤い籠手を見つめる

 

「これが龍の手(トゥワイス・クリティカル)じゃないとしたら、コイツの能力って何なんですか?」

 

「そうね・・・私が説明してもいいんだけど・・・」

 

リアス先輩が此方に目線を向け、「イッキに説明をお願いできるかしら?」と言ってきた

 

「え!?何でですか!?」

 

何でいきなり!?

 

「あなたを此処に連れてきた理由の一つにあなたが裏の世界の事情にどの程度精通しているのか確かめる意味合いがあると言ったでしょう?私がイッセーに全て説明してしまっては、その後で『全部知ってました』と言われたらそこまでじゃない」

 

まぁ一理あるか・・・

 

「勿論神滅具(ロンギヌス)の詳細を知らなくても不思議という程ではないし、その時は適当に裏の事で知ってる事を話してくれればいいわ。深く聞くつもりは無いし・・・さわりだけで構わないわ」

 

「いえ、大丈夫です。イッセー、よく聞けよ、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の能力は主に二つだ。一つは所有者の能力を十秒ごとに倍化していく事、2倍→4倍→8倍→16倍って感じだな。もう一つはその倍化した力を何か別のモノに譲渡する力だ」

 

「別のモノって例えば?」

 

「それこそ色々だ。人物だったり、武器だったりだな―――詳細は俺も(この世界では)聞いた事は無いから詳しく知りたいならその籠手に宿るドラゴンに直接聞くのがいいと思うぞ」

 

「え!?コイツ喋れんの!?」

 

心底驚いている感じだな・・・

 

「リアス先輩もさっき言ってただろ?『赤龍帝の力と魂を宿した』って神器には魔獣や幻獣を宿した物もあってそういうのは喋ることができる物もあるんだ」

 

「へぇ~、よし!赤龍帝さんよ、話を聞かせてくれよ!」

 

そうしてイッセーは早速赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)に語り掛ける。ドラゴンと喋れると聞いたからか心なしかワクワクした表情だ

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

「・・・お~い?聞いてる?」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

「・・・もしも~し」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

「おいイッキ!喋れるんじゃなかったのかよ!うんともすんとも言わねぇぞ!」

 

あ~流石にそこまでは無理だったか・・・

 

「多分だが赤龍帝の魂がまだ眠ったまま何だろう―――イッセーが強くなるなり赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を使いこなせるようになれば自然と目覚めると思うぞ?」

 

「・・・それって詰まりは俺が弱いからか?」

 

「身も蓋も無い事を言えばそうだな」

 

「マジですか・・・」

 

龍の手(トゥワイス・クリティカル)の能力の詳細を聴いた時以上にうなだれてるな・・・

 

「リアス先輩、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の説明は以上となりますが、今ので大丈夫でしたか?」

 

「ええ、問題ないわ。むしろ私よりも詳しいんじゃないかしら?何処で知ったのか聞いてもいいかしら?」

 

まぁそうなるよな・・・しかし隠す程の事でもないか

 

「自分は何処かに所属している訳では無いのですが、妖怪の方に少し伝手がありまして、仙術の修行を付けてくれた方に一通りの概要は教えて頂いたんです」

 

参曲(まがり)様が『仮にも私の教え子があんまりにも無知なのは許さないよ』と有り難い授業をしてくれたのだ―――修行中にも拘らず・・・

 

「あなた、妖怪に伝手があったのね」

 

「はい、出会いは偶然でしたが・・・生まれは一般人なので」

 

「なるほど、あなたの事は一先ず分かったわ。なら最後の話をしましょうか」

 

「「最後?」」

 

俺とイッセーの声が重なる

 

「イッセー、あなたが私を呼び出した例の魔法陣の書かれたカードになんて書いてあったか覚えてるかしら?」

 

「えっと確か、『あなたの願いを叶えます』と書いてありました」

 

「その通りよ、私達悪魔は人間の願いを叶えるの。でもね当然無償で叶える訳では無いのよ。願いを叶えるにはそれに見合った対価が必要だわ」

 

それを聞いたイッセーが顔を青くする

 

「あの・・・悪魔の対価と言うと命とか?」

 

「命を助けた対価に命を貰ったら本末転倒じゃない」

 

リアス先輩はそう言ってクスクスと笑った。それを聞いたイッセーは一瞬ホッとした様子だったがそれもつかの間。なにかに思い至ったのかさっき以上に顔を青くする

 

「あの、俺たいしてお小遣いも貯めこんで無くて・・・いや、そもそも命を救ってもらった対価がお小遣い程度で賄えるとも思えないのですが・・・お・・・俺、頑張って働きますので両親に借金を押し付けたりするような事だけはどうか!」

 

そう言って土下座するがリアス先輩は静かに首を横に振る

 

「別にそんな事を要求するつもりなんて無いわ」

 

「え?」

 

「とは言え、軽いもので無いのも事実。イッセーあなた、悪魔になってみる気はない?」

 

懐から紅い兵士(ポーン)の駒を取り出しつつそう口にした

 

「それはどういう意味ですか?って言うか悪魔ってなれるもん何ですか!?」

 

「ええ、このチェスの駒は私のような上級悪魔が持つ悪魔の駒(イーヴィルピース)と呼ばれる物でね、これを用いる事で他種族を悪魔に転生させる事ができるの」

 

「転生?」

 

「そう、つまりあなたはこのリアス・グレモリーの下僕、眷属悪魔として生まれ変わるの。此処に居る朱乃や祐斗、小猫も私の眷属なのよ」

 

「皆が!?」

 

イッセーは驚きながら3人を見渡している。種族が変わるってリアス先輩は軽く言ってるけど、実際凄い事だからな

 

「勿論悪魔に転生するという事は少なからず今日のような戦闘に出向いてもらう必要も出てくるわ―――でも、神器を持っているあなたはまた何時今日みたいに襲われるか分からない。私の下僕となれば私が直接守ってあげられるわ。後は寿命が延びるというのもあるわね、悪魔は一万年は生きるの・・・どうかしら?」

 

「一万年ですか!?・・・因みにですが、断った場合はどうなるんですかね?」

 

「安心して、その時は出来るだけ条件のいい仕事先を斡旋してあげるから。真面目に働けば苦しい人生にはならないはずよ」

 

そう言ってリアス先輩はニッコリとほほ笑んだ―――チョットあの笑顔が怖いな・・・凄くいい話のはずなんだが

 

「・・・イッキ、この話どう思う?第三者のお前の意見が聞きたい」

 

アレ?イッセーならリアス先輩の下で働けるという事なら飛びつくと思ったけんだけど・・・まぁ知らない間に悪魔になってた原作と違って『人間辞めますか』という選択肢に躊躇なく飛びついたりはしないか・・・

 

「そうだな、結論から言えば受けてもいいと思うぞ」

 

「なんでだ?」

 

「理由は二つだな。一つはリアス先輩の実家である『グレモリー家』の影響力、つまりは後ろ盾だな。グレモリー家ってのは悪魔の貴族の中でも名門だから、お前が例え神滅具(ロンギヌス)という特大の力を持っていたと知れ渡ったとしてもちょっかいを出すことも難しいという事」

 

「成程、二つ目は?」

 

「そうだな、イッセーは今回リアス先輩の下僕にならないかと誘われてるけど、主となるリアス先輩や眷属の皆と直接話してみてどう感じた?リアス先輩は一般的に人間が悪魔に抱くイメージのような鬼畜外道に見えたか?その下僕の皆は虐げられているように感じたか?」

 

「いや、そんな事は無い!!」

 

「なら、それが理由だ」

 

するとイッセーは少し天を仰いで息を吐きリアス先輩を正面から見据える

 

「リアス先輩!俺!先輩の悪魔になります!」

 

「ええ、宜しくね、イッセー」

 

 

 

 

 

 

部室の少し拓けた所の床に魔法陣が輝きその中心にイッセーが立ち、期待と不安が入り混じったような表情をしている

 

「イッセー、もっとリラックスしてもいいのよ?転生するのは一瞬だし別に痛みを伴ったりもしないから」

 

リアス先輩がそう言うが当の本人はと言えば―――

 

「は・・・はい!」

 

ガッチガチに緊張しているな・・・まぁこれはしょうがないか

 

「じゃあイッセー、両手を出して」

 

「はい!どうぞ!!」

 

緊張し過ぎだイッセー、そしてリアス先輩が差し出された掌の上に『兵士』の駒を一つ置く、少しして二つ目、三つ目と駒を置いていき、最後の八つ目を置いた時に悪魔の駒(イーヴィルピース)が淡い光を放った

 

「流石は神滅具(ロンギヌス)ね。『兵士』の駒を全て消費する事になるなんて、一瞬転生できないんじゃないかと焦っちゃったわ」

 

うん、俺も焦りました、でも何でだ?原作でもギリギリだったはずだが―――そう思いながらも儀式は続く

 

イッセーは魔法陣の真ん中に立ったままで対してリアス先輩は魔法陣の外、イッセーの正面に立ち詠唱をする

 

「我、リアス・グレモリーの名において命ず。汝、兵藤一誠よ。我が下僕悪魔と成れ。汝、我が『兵士』として新たな生に歓喜せよ!」

 

すると『兵士』の駒が光りながら空中に浮かびあがりイッセーの胸に吸い込まれていき、光が収まった直後

 

“バサッ!”

 

おお!悪魔の翼か!ぶっちゃけ禁手(バランス・ブレイカー)で飛んでばかりいるからほとんど出番が無いんだよな

 

「うぉ!翼が」

 

「フフッ無事に転生できたみたいね。これから宜しくね、イッセー」

 

「はい!よろしくお願いします、リアス先輩!!」

 

そうして元気よく挨拶した所でイッセーの顔が歪んだ

 

「ぐっ!?なん・・・だコレ!?」

 

イッセーの突然の変化にその場の全員が驚きをあらわす

 

「イッセー!どうしたの!?」

 

「リアス先輩、なんか体全体が内側から軋んでるように痛いんですが・・・」

 

イッセーがそのまま膝を付く、どういう事だ!?

 

「リアス先輩!俺が仙術でイッセーの体を診ます!」

 

そう言いつつイッセーの額に手を当て気の流れを精査していく―――直ぐに原因は見つかった。成程、確かにそんな設定もあったか・・・

 

「リアス先輩!どうやらイッセーの体が駒八つ分の力に耐えられてないみたいです・・・この感じからして4つほど封印を施せば何とかなると思います!」

 

「分かったわ。皆、少し離れて!」

 

イッセーをリアス先輩に預けつつ全員で距離をとる。そしてリアス先輩が掌に魔法陣を浮かび上がらせてイッセーの胸に押し当てる。少々風が室内に吹き荒れたがそれもすぐに収まっていった

 

「・・・これでもう大丈夫なはずよ。イッセー、体の調子はどう?」

 

問われたイッセーが至近距離でリアス先輩に見つめられて顔を赤くしながらも"パタパタ"と体の各所を触って調子を確認していく

 

「は、はい、もう大丈夫です」

 

「そう、よかったわ!イッセー!」

 

リアス先輩がイッセーを胸に抱く―――ここからじゃ見えないけど絶対にだらしない顔してるんだろうな

 

それにしても、確かに原作のイッセーはリアス先輩に駒の力を封印されていた

 

『兵士』の駒は一つでも当然『女王』へのプロモーションが可能なはずだが最初は『戦車』がせいぜいだったほどだ

 

最初のうちは転生したばかりで『女王』になれない的な事を言ってたがアレって多分嘘だよな

 

悪魔になって朝からの修行を行いライザー戦に向けた集中特訓、その上で封印を解いてようやく『女王』になれるってどれだけガチガチの封印をしてたんだって話だし・・・

 

流石は才能という一点では歴代最弱の宿主。原作より強くなってるとは言え元が低すぎるからか駒価値八つを超えるには至らなかったようだな―――良かった、こんな物語序盤で主人公が人間のまま借金返済ルートとか笑えないぞ

 

そうこうしている内にイッセーも起き上がり体に異常が無い事をアピールしている

 

リアス先輩が微笑ましそうにイッセーを見た後、此方に目線を向けた

 

「イッキ、有難う。あなたのお陰よ」

 

「おうそうだな。ありがとよ!イッキ!」

 

「いえ、多分アレならリアス先輩でも直ぐに原因は分かったと思いますよ?むしろ出しゃばってしまったかもしれません」

 

「そんな事は無いわ、助けようという意思が重要だし、必要無かったなんて結果論よ」

 

結果論・・・まぁ確かにそうなのかな?

 

「ねぇ、もし良かったらイッキも私の下僕にならないかしら?今回の件といい、仙術使いのあなたの力は是非とも欲しい所だわ・・・」

 

勧誘か・・・まぁそう来る可能性は高いと思ってたし、グレモリー眷属かもしくはシトリー眷属になるというのは何度も考えた事はある―――転生したてなら『はい!』と答えていたと思うが今は事情が異なる

 

「すみませんが、遠慮させていただきます」

 

「そう・・・理由を聞いてもいいかしら?」

 

「はい、詳しく言う事はできないのですが今俺はとある案件を抱えてまして、その問題に取り組むには人間である方が何かと都合がいいからです―――他にも理由はありますが、一番の理由はそれですね」

 

「・・・悪魔ではダメなのかしら?」

 

「ダメとまでは言いませんが、少しでも勝算は上げておきたいので・・・」

 

そういうと少し残念そうにしながらも引いてくれた

 

「そういう事なら仕方ないわね。明確な目標を持ってる人の邪魔になるような真似は本意じゃないもの―――でも、その問題が解決した時、その気があるなら声をかけてね」

 

「予約ですか?そこまで評価していただけるのは嬉しいですね」

 

「その時までに私の眷属の枠が埋まっていなければね」

 

そう言ってウィンクする―――現実にウィンクがサマになる人って初めて見た・・・悪魔だったか

 

「さて!今日の所はこれ位にして解散しようと思うけどイッセーはコレを書いて明日の放課後持ってきなさい」

 

そう言ってイッセーに一枚の紙を渡す

 

「これは、入部届?」

 

「その通り、私が悪魔の活動の拠点としているこのオカルト研究部に入って貰うわ。眷属になった以上コレは強制よ―――それで、イッキはどうする?折角知り合ったんだし、オカルト研究部の表の活動を一緒にやってみない?」

 

「オカルト研究って何をやってるんですか?」

 

何だったっけ?

 

「基本的には未確認生命体やUFOなどを調査してその調査報告を展示したりしているの、河童にインタビューしたり、ネッシーを探しにネス湖に直接赴いたりといった感じね。暇なときはお茶やお菓子を楽しんでるわ」

 

「入ります!」

 

迷う必要などない!

 

「なら、あなたもコレを書いてイッセーと一緒に明日持ってきなさい」

 

そして俺も入部届を受け取りその日は解散となった。




そんなこんなで悪魔にはなりませんでした。寿命の問題は追々に・・・


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第三話 ドライグ、そしてはぐれ悪魔です!

入部届を貰った次の日の放課後

 

「なぁにぃ~!?イッセー!イッキ!貴様らこの学園の二大お姉様に加えて無敵のロリフェイスのマスコットキャラまでいる美少女集団、オカルト研究部に入部するだと~!!」

 

「何故だ!黒歌さんがいるイッキは元々裏切り者だったがイッセーまでもが俺たちを裏切ると言うのか!?何があったというのだ!?」

 

松田と元浜が涙ながらに詰め寄ってくるのに対しイッセーは「フッ!お前らおっぱいに埋もれた事はあるか?」と無駄にキメ顔を晒して二人に問いかける

 

「「なっ!!」」

 

そのまま二人は石化してしまったようだ

 

「ほらイッセー、リアス先輩に呼ばれてるんだしさっさと行くぞ」

 

「おう!」

 

そうして二人で教室を出ていく―――途中クラスの女子から『カップリングが別れた』『イッセー×イッキ』『イッキ×イッセー』『松田×元浜』『元浜×松田』などと聞こえてきた気がするが気のせいである。気のせいと言ったら気のせいなのである

 

旧校舎に歩いていく途中でイッセーが「松田と元浜、本当に夕麻ちゃんの事覚えていなかったな」と複雑そうな顔で小さく呟いた

 

「言ったろ?悪魔にしろ堕天使にしろ人外は事が済んだら自分の活動の痕跡を消すものだって」

 

「そりゃ昨日の帰り際にお前に言われた時は信じられなかったけど、ああして綺麗さっぱり忘れてる所を実際に目にするとな・・・」

 

「慣れろよ、今はお前も悪魔なんだから」

 

「・・・分かってるよ」

 

二人で話している内に部室の前にたどり着きそのまま中に入る

 

「失礼しま~す」

 

「入部届持ってきました」

 

既に全員揃ってるみたいだな

 

「ええ、ならこっちに渡して頂戴」

 

そして入部届をリアス先輩の座っていた机に提出し、リアス先輩がサインを書き込む

 

「これで晴れて二人ともオカルト研究部の部員よ、歓迎するわね」

 

ついにこれでオカルト研究部か・・・昨日の夜は黒歌に『ふ~ん、白音と同じ部活に入るんだ』と言われながらほっぺを抓られてしまったけど―――姉としてか女性としてか、アレはどっちの意味での嫉妬だったんだろう?個人的には後者であって欲しいものだ

 

リアス先輩の言葉を皮切りに朱乃先輩達に入部祝いの挨拶をされた後、イッセーが「実は皆に紹介したい奴がいるんです」と言ってきた・・・なに?

 

「紹介?一体誰の事かしら?」

 

リアス先輩も心底不思議そうにしている。そしてイッセーが左腕を突き出しながら「『ドライグ』、頼むぜ!」と言いながら手の甲に緑色の宝玉を浮かび上がらせ、そこから音声が発せられた

 

『ハァ、仲間に自己紹介しろなどと言う宿主はお前が初めてだ。俺の名は赤龍帝ドライグ、相棒共々宜しく頼む』

 

「「「「「!!!!!」」」」」

 

流石にコレは驚いたな、昨日の今日でもうドライグと会話出来ているのか

 

「・・・ええ宜しく、私がイッセーの主であるリアス・グレモリーよ。まさかかの赤龍帝とこんな風に挨拶を交わすなんてね・・・でも、そうして喋れるなら何故昨日はイッセーの問いかけに黙っていたの?」

 

『黙っていた訳では無い。相棒が神器を発現させた時点で俺の意識は目覚めていた。だが、相棒が弱すぎたために俺の声が届かなかっただけの事だ』

 

「では、今こうして話せているのは悪魔に転生したからかしら?」

 

『ああ、その通りだ。元々人間の時でも神器は目覚めかけていたからな』

 

成程、だがドライグの意識が目覚めるというのも重要な意味があるしな

 

「良かったじゃないかイッセー。昨日聞こうとしてた譲渡の力については聞けたのか?」

 

元々はその為に声掛けしたんだしよ

 

「いや、昨日は夜も遅かったしな。ドライグともう一匹が大昔に暴れまくって最後には封印されたって話くらいしか聞いてないな」

 

贈り物(ギフト)の力か、相棒のスペックは足りているから少しの切っ掛けさえあれば発現すると思うぞ?もっと俺を使いこなしてみせる事だ』

 

「使いこなすって、いきなり言われてもな・・・」

 

困ってるようだし、少しアドバイスするか・・・

 

「イッセー、神器を使いこなすのに重要な要素は三つあるんだ」

 

「何だいきなり?それに三つ?」

 

「ああ、一つ目は想いの強さ、二つ目は宿主のスペック、そして三つめは神器との対話だ」

 

「神器との対話?」

 

「ああ、親和性と言い換えてもいいのかもしれないな。それらが高い程、神器はより高い力を発揮するんだ」

 

だからドライグとは仲良くしろよ?例えドライグが『かわいそう』になろうとも!!

 

「ふ~ん、アレ?でもよ!龍の手(トゥワイス・クリティカル)って力を2倍にする神器だったよな?それ以上の力なんて発動できるものなのか?」

 

おお!そこに気づくか!

 

「勿論だ。俺も仙術を教えてくれた方に同じ質問をぶつけた事があってな。その場合確かに2倍以上の力は出せないけど、能力発動までの時間や持続性、肉体にかかる負荷の軽減とか細かい所ではかなり違いが出るらしいぞ」

 

流石年の功、参曲(まがり)様は中々に詳しかったよ

 

俺が色々と知っていても可笑しく無いように参曲(まがり)様の授業でもこれ幸いとばかりに突っ込んだ質問をしたからな―――答えられない質問をしたら次回の修行の時までに調べてくれたりしたしな・・・マジであの方には頭が上がらないかもしれない

 

俺の【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】も瞑想の一環として神器を持ったままとか膝の上に置いて座禅したりして少しずつだが右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)に気を巡らせ易くなったり【神性:E】が【神性:E+】になったりといった変化が起きている・・・微妙な変化だが俺は堕天使式の鉄球など受けたくは無い!そういうのは匙君にどうぞ!

 

まぁだが神器に親しみを感じるためには会話ができるというのはそれだけ大きいのだ。勿論神器に封じられている奴とそりが合わないと悲惨な事になるだろうが・・・

 

「へぇ~、まぁいいさ!改めて宜しくな!ドライグ!」

 

『ああ、偶にはこういう関係もいいのかもしれん。宜しく頼むぞ相棒!』

 

 

 

 

 

 

あれから十日ほどたった。イッセーはリアス先輩に『上級悪魔になれば自分のハーレムも作れる』と言う悪魔の囁きの元、今日も元気にチャリでチラシ配りに励んでいる

 

オカルト研究部としては一度池袋に赴き『首無しのデュラハン』にインタビューしに行った―――最近のデュラハンってバイクに乗ってるんだね。その後直ぐに無点灯運転で警察に追い回されてたけど・・・

 

後リアス先輩の呼び方はリアス部長に変更になった―――なにやら拘りがあるようだ

 

「兵藤一誠、ただいま帰りました~」

 

「ご苦労様一誠、早速だけどそろそろ貴方にも契約を取ってきて欲しいのよ」

 

おお!ついにか!

 

「え!?ついに俺もチラシ配りから卒業ですか!?」

 

「ええ、元々こういう仕事があるという事を知ってもらうためにやってる事だからね。もういいでしょう」

 

「やった!ついに俺にも契約が!」

 

「丁度今小猫の召喚が2件重なってしまってね。1件を貴方にお願いしたいの―――召喚時のマニュアルは頭に入ってるわね?」

 

「はい!大丈夫です!」

 

「よろしい、朱乃!」

 

「はい部長」

 

朱乃先輩が答えると同時に床に転移用の魔法陣が現れ、イッセーが魔法陣の真ん中に立つ

 

「では部長!行ってきます!」

 

その掛け声と同時に魔法陣が光を増し・・・何も起こらなかった

 

マジか・・・『兵士』の駒の封印は原作よりも緩いからいけると思ったんだが、どれだけ魔力の才能がないんだよ

 

するとリアス部長が困ったように苦笑しながら言う

 

「どうやらあなたの魔力が低すぎて転移出来ないようね。でも依頼人を待たせる訳にもいかないわ。前代未聞だけど依頼人の所までは足で行ってちょうだい」

 

「・・・無様」

 

辛辣だな。小猫ちゃん

 

「そ・・・そんな・・・追い返されませんか?俺なら悪魔がチャイム鳴らしてきたら『帰れ!』って言うかもしれませんよ!?」

 

まぁ確かに、でも依頼人を待たせちゃいけないのも確かだろう

 

「リアス部長、ちょっといいですか?これってイッセーが赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を使えば魔力の不足を補えるんじゃないですか?」

 

チャリで召喚されるイッセーも見てみたいが、正直誰も得しない案件だしな

 

「そうね、それは盲点だったわ。ではイッセー、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)で力を高めて改めて魔法陣で転移しなさい」

 

「はい!来い!ドライグ!」

 

『Boost!』

 

「朱乃!」

 

「はい部長!」

 

朱乃先輩が再度魔法陣を展開し、無事イッセーは依頼人のもとに転移していった

 

・・・契約は取れなかったようだが

 

 

 

 

 

 

[イッセー side]

 

 

ハァ、先日はまずったな。召喚してくれた森沢さんに見た瞬間「チェンジ!」と言われたのは仕方ないにしても、その後夜遅くまで只管ドラグ・ソボールについて語って結局契約は取れずじまい

 

・・・森沢さんとは意気投合したけど成功と言うには程遠いからな

 

森沢さんにも「何か特技は?」と聞かれて何も答えられなかったし、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を使えば力持ちにはなれるだろうけどそれだけじゃな

 

そんな事を考えながらも今日は休日、マニアックな物まで揃えている隠れた名店で『紳士の円盤』の予約を入れたりしながらも町を散策していく、すると

 

「あう!いたたー!何で私は何も無い所で転んでしまうんでしょうか?」

 

そんな声が聞こえてきてそちら目を向けると輝く純白のパンツが見えた。

 

そして倒れている女の子がこちら側に向き直る。

 

おお!金髪美少女シスター!それに足の間からまだまだパンツがよく見える!閃光と聖光の協奏曲《ブレイザー・シャイニング・オア・ホーリーライト・コンチェルト》とでも名付けようか!っく!悪魔の俺にはきつ過ぎて目が焼かれそうだぜ!

 

『何を言ってるのだ相棒』

 

ドライグのツッコミが入るが、目の前には女の子が倒れているのだという事を思い出し、近づきながら声をかける

 

「あの!大丈夫っすか?」

 

そう言いつつ声をかけると「はい、有難うございます」と俺の差し伸べた手を握ってくれた。こんな美少女と手を握ることができるなんて、今日はいい日だ!

 

すると強い風が吹いてその子のベールが飛ばされてしまい、咄嗟にキャッチする

 

ベールの下から現れたのはブロンドでエメラルドグリーンの瞳の美少女!改めて見るがやはり可愛い!理想的だと言っていいだろう!

 

そうして思わず見惚れていると「あ・・・あの」と声をかけてきた。しまったな、ベールを握ったままだった。

 

「ああ、御免!はいコレ!」

 

「いえ、有難うございますぅ」

 

そう言ってベールを被り直す―――それにしてもデカい荷物だな

 

「かなりの荷物だけど旅行?それとも引っ越し?」

 

「はい、実は私今日この町の教会に赴任してきまして―――ただ道に迷ってしまい道を聞こうにもまだ日本語に不慣れなもので・・・こうしてちゃんと会話できる方がいて少しホッとしました。」

 

そうか・・・俺には彼女は日本語で話してるように聞こえるけどそうじゃないんだよな

 

悪魔になれば様々な人間と契約する関係上、言語限定とはいえ世界中の言葉を話せるようになるんだよな―――悪魔に転生して素直に素晴らしいと思った力だよ

 

「良かったら俺が教会まで案内しようか?今は暇だし、この町の教会は一つのはずだから多分あそこだと思うし・・・」

 

「本当ですか?ああ!こうして優しい方にお会いできたのも主のお導きなんですね」

 

そう言って彼女は祈りを捧げる―――う~ん、悪魔と出会ったのは主のお陰では無いと思うんだけど・・・まぁいいか

 

そうして協会に向かう途中でとある公園に差し掛かった時、小さな男の子が泣いてるのが見えた。

 

どうやら転んで膝を擦りむいてしまったらしく、血が流れている

 

するとシスターさんがその子のもとに駆け寄って「大丈夫ですか?男の子がこれくらいで泣いてはいけませんよ?」そう言いながら掌からどこか優しい感じのする緑の光を発し、怪我に当てる

 

するとみるみる内に怪我が治ってしまった。

 

『ドライグ、今のって・・・』

 

心の中でドライグに語り掛ける

 

『ああ、神器だな。回復系の神器は珍しい部類に入るが、シスターが持つにはピッタリともいえる神器だな』

 

『確かに、まだ少し話しただけだがこの子が優しくて信心深いのは伝わってくるしな』

 

「ありがとう!お姉ちゃん!」

 

そう言って男の子は走り去って行ってしまった。日本語が苦手とは言っていたが「ありがとう」は分かったみたいで嬉しそうにその子に手を振っていた

 

そしてその公園を後にして再び教会に向けて歩く

 

「やっぱり、驚きましたよね?」

 

彼女が問いかけてきた

 

「確かに驚いたけど、でも優しい力なんだなって思ったよ」

 

「はい、神様が下さった素晴らしい力なんです」

 

俺はこの時彼女が何処か寂しげな表情をしていた理由を聞くことができなかった。

 

 

 

 

 

少し町から離れたところに教会が見えてきたがソコを見た途端体に悪寒が走った。

 

「あの、どうかしましたか?」

 

彼女に問われて「ハッ!」となり慌てて取り繕う

 

「ゴメン、何でもないよ、それよりあそこに見えるのがこの町の教会だよ」

 

小さいときは近所の男の子と一緒に何度か行ったりしたっけ、その子が引っ越してから行かなくなったけど・・・悪魔となった今じゃますます行けないな

 

「わぁ!良かったですぅ。本当に助かりました。あの、宜しければお礼がしたいので一緒に教会に来ていただけませんか?と言ってもお茶くらいしか出せませんが・・・」

 

ブロンド美少女からのお茶のお誘い!これはもう行くしか・・・

 

『やめておいた方がいい』

 

『なんでだよドライグ!美少女からのお誘いなんだぞ!』

 

『お前・・・先ほど感じた悪寒をもう忘れたのか?あそこは教会、悪魔のお前にとっては敵地だ。不用意に踏み込めば殺されても文句は言えんぞ』

 

そうだった!畜生、諦めるしかないのか!?

 

「ゴメン、実はさっき一つ用を思い出してさ。お礼はまた今度って事でいいかな?」

 

「そうですか・・・分かりました。あの!私、アーシア・アルジェントと言います。アーシアと呼んでください!」

 

内心泣きながらお茶のお誘いを断ると少し残念そうな顔をしながらも直ぐに笑顔に変わって自己紹介してくれた

 

「そっか、俺は兵藤一誠、イッセーって呼んでくれ。じゃあ今日は帰るけどまた今度な」

 

「はい!イッセーさん!またお会いしましょう!」

 

そうしてアーシアは俺の姿が見えなくなるまで手を振ってくれた・・・本当にいい子なんだな

 

悪魔とかそういうのは抜きにしてお近づきになりたいもんだぜ・・・

 

 

 

 

[イッセー side out]

 

 

「二度と教会に近づいてはダメよ」

 

イッセーがリアス部長に説教をされている。という事はアーシアが来たのか堕天使が4名この町に居るのは気配で分かってるけど流石に会った事も無い上に神器以外は基本は普通の彼女の事までは分からなかったからな

 

「悪魔にとって教会は敵地、何時光の槍が飛んできても可笑しくなかったのよ?」

 

「はい・・・ドライグにも同じ事を言われました」

 

「そう・・・不用意に教会に踏み込めば悪魔側と神側の問題に発展しかねなかったのだからね」

 

リアス部長はそう言うが今ならそれは違うと言える

 

「リアス部長、どうして神側との問題になるんですか?あの教会に居るのって堕天使ですよね?」

 

「教会に堕天使ですって!?それはどういう事!?」

 

「仙術で探知したんです。教会そのものは結界が張ってあるせいで内部の様子は分かりませんが、教会の結界を出入りしている堕天使が4人、その他に人間の気配が正確には分かりませんが最低でも20人ほどは感じられます―――結界の中に引きこもってる奴がいれば流石にそこまでは分かりませんが・・・」

 

そう言うとリアス部長は途端に険しい表情で顎に手をやって思案する

 

「教会に堕天使?状況からみてその人間たちははぐれエクソシストの類でしょうね・・・そんな所に神器もちのシスターが赴任?きな臭いわね。いいわ、私の方で詳しく調べてみるわね」

 

それを聞いたイッセーは当然黙っていられなかったようでリアス部長に詰め寄った

 

「そんな!じゃああの子が危ないんじゃ!?部長!俺今スグにでも助けに行ってきます!」

 

「それはダメよイッセー!まだその子が危ないとも、堕天使の陣営では無いとも決まってないんだから―――前に説明したでしょう?今、三大勢力は危うい均衡を保っているの。下手に突いたら戦争にだって繋がるかもしれないのよ?」

 

「それは・・・」

 

悔しそうな表情で拳を握りしめている

 

流石に戦争と言われたらイッセーとしても思うところが有るのだろう・・・とは云え今まで平和な日本の一般人として過ごしてきたイッセーにどれだけ抑制効果が有るかと聞かれたら微妙なところだがな

 

「出来るだけ早く調査をしてあげるから、今日の所はそれで納得してちょうだい」

 

なだめるように声をかけてイッセーも「・・・はい」と小さく返事をする

 

「あらあら、お話は終わりましたかしら?」

 

今まで席を外していた朱乃先輩がやってきて表情を真剣なものに変え、「大公からはぐれ悪魔討伐の任が下りました」と告げた

 

 

 

 

 

所変わってとある廃墟。最初はオカルト研究部員ではあっても眷属悪魔では無い自分は帰った方がいいとも言われたが、やはり今現在のグレモリー眷属の力を直接見ておきたかったので「実戦経験はあります」と何とか説得してついて来た。

 

実戦経験と言っても堕天使と土蜘蛛の二つだけなんだけどな・・・あとは全て模擬戦だし

 

廃墟の中に入りつつリアス部長が説明を始める

 

「イッセー、あなた、チェスは分かるかしら?」

 

「はい、少しならプレイした事もあります」

 

知ってて損はないだろうと何度か学校の放課後とかに対戦したからな・・・家でやれって?こいつらの家に行ったら『そんな事よりおっぱいだ!』になるに決まってる

 

「なら私があなたを悪魔の駒(イーヴィルピース)で転生した時に使った駒とそれ以外の駒は?」

 

「『兵士(ポーン)』ですよね、それ以外だと『(キング)』、『女王(クイーン)』、『戦車(ルーク)』、『騎士(ナイト)』、『僧侶(ビショップ)』です」

 

「よろしい、上級悪魔は自分を『王』に見立てて眷属にそれぞれに駒に見合った特性を持たせて転生させているの。そしてチェスのルールを下地に置いた『レーティングゲーム』という貴族悪魔の遊戯が冥界では流行っているのよ」

 

「え!?悪魔同士で戦うんですか!?」

 

「命の危険が無い訳じゃないけど安全策は色々と考慮されているわ―――人間界でいうなら剣道とかボクシングとかの試合を団体戦や集団戦でやるって感じかしら」

 

「な・・・なるほど」

 

「今日は悪魔として新人のイッセーに悪魔の戦い方というのをその目で見てもらう、いい機会とも言えるわね」

 

すると建物の奥の方から声が響いて来た

 

「旨そうな匂いがするぞ?不味そうな匂いもするぞ?甘いのかしら?苦いのかしら?」

 

ケタケタと笑いながら姿を現したのは怪物だった。蛇の頭部が尻尾として生えた巨人の頭部の部分に女性の上半身がくっ付いているような正しく異形の化け物だ―――まぁ九重に会いにちょくちょく京都に行ってるから妖怪は見慣れてるので異形な姿とかは今更だが・・・

 

「はぐれ悪魔バイザー。主を裏切り、己の欲を満たすために暴れまわるその罪万死に値するわ。グレモリー公爵の名においてあなたを消し飛ばしてあげる!」

 

リアス部長がそう言うとバイザーは一層笑いながら自分の胸を揉み始めた・・・こいつは何がしたいんだ?

 

するとバイザーの両胸の乳首に魔法陣が展開され始め魔力が高まっていき、そこから溶解液が発射された!!

 

「ち・・・ちくビーム!」

 

つい声が漏れてしまった。気のせいか小猫ちゃんからの目線が痛い。しかし、まさかアレは伝説の『ちくビーム』だと!効果は違うようだが(未来の)リアス部長以外に使い手がいたなんて!!内心戦慄しながらも全員が攻撃を避ける。イッセーは部長に庇われた形だが・・・

 

「では始めましょうか、祐斗!」

 

「はい!」

 

リアス部長の命令で祐斗がその場から飛び出しバイザーの攻撃を避けながら縦横無尽に駆け回りバイザーを翻弄する―――一撃で首を落とせるだろうにそれをしないのはイッセーの勉強のためだな

 

「イッセー、良く見ておきなさい。祐斗の駒は『騎士』。騎士になった悪魔は速度が増すの。そして祐斗の最大の武器は剣」

 

素早く跳躍した佑斗は抜刀した剣でバイザーの下半身・・・と云うか巨人っぽい体の方の太い両腕を瞬時に切り落とした

 

「ギャアアアアア!!」

 

バイザーの悲鳴が工場内に木霊する―――そこで祐斗は一旦後ろに下がり次に小猫ちゃんがバイザーに普通に歩いて近づいて行く

 

バイザーはそれを見て巨大な足を振り上げ踏みつぶそうとする

 

「小猫ちゃん危ない!!」

 

「問題ないわ。小猫の駒は『戦車』その特性はバカげた力と耐久力」

 

"ズシンッ!!"

 

轟音が響くがその踏み付けを微動だにせず片手で受け止めそのままアッパー気味に殴り飛ばした。

 

バイザーが天井付近まで飛ばされてから重力に従い落ちてくる―――本気なら天井を突き破ってただろうけどな

 

「あらあら、最後は私ですわね。どう甚振って差し上げましょうかしら?」

 

「朱乃の駒は『女王』よ。『王』を除いた全ての駒の特性を合わせ持った最強の駒よ」

 

そして朱乃先輩はバイザーに魔力で構築した雷を落とす。死なないように調節した雷を浴びせ、バイザーの絶叫が響き渡る中で朱乃先輩が軽くこちらを振り返る

 

「ですが部長?情けない話ですが私は『最強の駒』ではありますが『最強の眷属』ではありませんのよ?」

 

するとリアス部長も少し困った顔をしながら「それはあなただけでなく主である私にも言える事だわ」と返す

 

「あの・・・部長?朱乃さんもそれはどういう意味ですか?」

 

イッセーが困惑しながら二人に尋ねると今度は祐斗がそれに答える

 

「部長の眷属で部長も含めて最強なのは実は小猫ちゃんなんだよ」

 

「小猫ちゃんが!?」

 

「ええ、小猫は元々猫魈(ねこしょう)と呼ばれる猫又の上位種族でね。イッキが扱うのと同じ仙術という力に長けているの」

 

「今から一年ほど前から小猫ちゃんの才能が一気に開花しましてね。半年も経つ頃には私も部長も追い抜かれてしまいましたの」

 

リアス部長の言葉にバイザーに浴びせる電撃に緩急を付けつつ朱乃先輩が補足する・・・何気にバイザーの絶叫が五月蠅いんだが・・・

 

「私も朱乃も、このままじゃいけないと修行に身を入れてるんだけど中々追いつけなくてね」

 

「はははっ、実は僕もなんだよ」

 

「ま・・・マジですか」

 

イッセーが驚いているが確かに小猫ちゃんは強くなった。今は出してないが猫耳としっぽを出しているときは『常時二又』なのだ。姉の黒歌も参曲(まがり)様の修行で時間を操る術を覚えて『常時三又』となっているし、依頼で呼び出すときだけだからガッツリと修行できている訳ではないが十分強くなっている。

 

原作の『猫又モードレベル2』で一時的に能力を底上げする技も使えるし、低めに見積もっても『吸血鬼騒動』の時よりは強いんじゃないか?

 

・・・『猫又モードレベル2』を初めて発動させた時は鏡の前で自分の胸を掴みながら静かに涙を流していたのは印象的だったな

 

“バガンッ!”

 

「ぐぁ!!」

 

小猫ちゃんが近くに落ちてたブロック片を投げてきた!これ普通の人間相手なら下手したら死んでるぞ!

 

「変なことを考えた気がしたので・・・」

 

そしてリアス部長に「イッキ、変なことを考えたの?」と問われ咄嗟の答えに窮していると「なら、仕方ないわね」と言われてしまった。ジーザス

 

「朱乃、そろそろ止めておきなさい」

 

リアス部長がそう言って絶叫を上げ続けてたバイザーに向き直る

 

「あらあら、もう少し楽しみたかったのですが、仕方ありませんわね」

 

ようやく雷から解放されたバイザーに部長が声をかける

 

「何か言い残すことはあるかしら?」

 

「こ・・・殺してください」

 

「そう、なら消し飛びなさい」

 

その言葉を最後に部長の『消滅の魔力』でバイザーは塵も残さず消滅した

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

「・・・言い忘れていたけれど、朱乃は究極のSよ」

 

「「はい、解ってます!」」

 

今の時点で戦って負けるとは思えないけど、朱乃先輩のSっ気が発揮されるとしたらそういう状況ではないだろうしな・・・勝てる気がしない

 

「それとイッセー、明日から朝の5時前にはあなたの家に迎えに行くから」

 

「へ!?何でですか!?それに5時前!?」

 

「悪魔の世界は力がものを言う世界よ。はっきり言ってあなたには魔力の才能が無い。あなたの最大の武器である赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を使いこなすためには体を鍛えるのが一番だからよ」

 

おや?朝練が始まるのはレイナーレ(暫定)編が終わってからだと思ってたけど、むしろ赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の方が重要な要素だったか・・・

 

「う゛っ!やっぱ俺魔力の才能が無いですか・・・」

 

「それに今はこの町で堕天使が不穏な動きを見せている。力を持つことは大切よ」

 

「そうか!アーシアを助けるためにも!」

 

「私はその子と会った事が無いからなんとも言えないけど、教会の信徒と悪魔は相容れないわ。でも、もしもその子が酷い目に合ってるなら、堕天使たちを倒した時に偶然にもその子が助かる結果になる分には何も言わないわ」

 

「はい!有難うございます!頑張ります!」

 

「なら、今日は解散しましょうか。朱乃、祐斗、小猫、ご苦労様」

 

そうしてその日は解散となった。




ぶっちゃけ何もしてない主人公と黒歌、しょうがないんです。堕天使編で下手に出張らせる要素がほぼ無いんです。


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第四話 はぐれ神父、遭遇します!

前回アレっと思った方もいると思いますが、本作では小猫が『常時二又』なため『猫又モードレベル2』が原作の成長技の『白音モード』に対応しています。

『白音モード』はまた別に出せたらと思ってます。


はぐれ悪魔を倒した次の日の早朝、家の近くの公園で日課のランニング及び各種体操を行っていると見知った気配が二つ近づいて来た

 

「イッセー、次はこの公園で柔軟や腕立てなどをやって貰うわ。一通り熟したら貴方の家までまたランニングで戻るわよ」

 

「は・・・はぃ~!」

 

やはりこの二人だったか。早朝特訓で使ってた公園って此処だったんだな

 

「アレ!?イッキ!お前も特訓してたのか!?」

 

「あら、おはようイッキ、貴方もこの時間に特訓を?」

 

此方に気づいた二人が声をかけてくる

 

「はい、今までは基本放課後に特訓してたんですがオカ研に入ってからは朝にやるようになりました。・・・部室で運動を始める訳にもいきませんしね」

 

今まで朝は柔軟や瞑想と言った比較的負荷の低い物を中心にしてたけどそうも言ってられなくなったしな

 

そう説明するとリアス部長が特訓のお誘いを掛けてきた

 

「そうだったの。折角だし一緒にやりましょうか」

 

「はい!」

 

やはり一人でやるより気心の知れた相手と一緒の方が楽しいもんだしね

 

 

 

 

 

 

「イッキ・・・お前本当に人間か?何で悪魔になった俺よりも体力あるんだよ・・・」

 

一緒に運動してから暫く、イッセーが信じられないものを見るように見てくる

 

悪魔になって基礎能力は飛躍的に向上してるはずなのに負ければそうも思うか

 

「一応こっちは小学生に上がる前から運動は続けてたんだよ。悪魔になったと言っても、本格的に運動をし始めて数十分の奴に負けてられるかってんだ」

 

いくら基本性能が上の悪魔と言ってもアッサリ追い抜かれたら泣きたくなるわ!こちとら十年以上は運動してるんだからな!

 

「うへぇ、お前そんなに運動してたのかよ!?つーか放課後の付き合いがイマイチ悪かったのって特訓してたからなんだな・・・」

 

「・・・悪かったな、付き合いが悪くて」

 

「いや!非難してる訳じゃねぇよ」

 

「イッセー!負けてられないわね!これは予定よりも厳しくいく必要があるわね!」

 

おお!リアス部長が燃えている!

 

「か・・・勘弁してください・・・」

 

そしてイッセーは項垂れた・・・まぁ頑張れ!

 

 

 

 

 

[イッセー side]

 

あ゛あ゛~、ここ数日の朝の特訓が滅茶苦茶きつい!何だよ全力ダッシュ&ジョギングの組み合わせって?何でもHIIT(高強度インターバルトレーニング)とか言うらしいけど、イッキの訓練メニューを聞いた部長が早速取り入れて公園までの行き帰りはそれで行う事になった・・・死ぬわ!正直舐めてたわあのキツさ!

 

というかアレを毎日20kmと他の運動もやってるというイッキは絶対に同じ人類じゃねぇ・・・今の俺は悪魔だったか

 

・・・アーシアの件については堕天使たちの独断で動いてる線が濃厚らしく、あと少しでハッキリしそうなんだとか

 

そうと確定したらリアス部長の管理する駒王町で勝手をやってる堕天使を問題なく倒す事ができるらしい・・・アーシア、その時が来たら絶対に助けるからな!

 

悪魔の仕事に関しては進展は無しで今だ契約の一つも取れていない。昨日も自分を『ミルたん』と名乗る世紀末覇者とミルキーとやらのアニメを一緒に見て終わってしまった

 

そして今日、もう日は沈んで人間のイッキは既に帰宅しているが悪魔の活動としてどうやら小猫ちゃんにまた依頼が重複して入ってしまったらしく、片方を俺が受け持つ事になった。今日こそは部長の期待に応えて見せるぜ!

 

 

 

 

 

予約された時間となり、魔法陣で転移したがなぜか(・ ・ ・)家の前に転移してしまった。一瞬転移失敗か?と思ったけど表札を見ると依頼人の家で間違いは無いみたいだ・・・少し不思議に思いながらも特に問題は無いと思い直しチャイムを押す

 

「こんちは~!グレモリー眷属の悪魔のモノですけど~」

 

しばらく待っても返事が無い・・・どうしようと思いながらも玄関の戸に手を掛けると

 

”ガチャッ”

 

「うわ!扉開いてんじゃん!不用心だな・・・」

 

このまま帰る訳にもいかないと「お邪魔しますよ~?」と声を掛けつつ家の中に入る

 

基本的にどの部屋にも照明が灯っていないようだが廊下の奥の部屋から蝋燭の灯りが漏れているのが分かる

 

「まったく、雰囲気作っちゃって・・・」

 

苦笑しながらもその部屋に入り「ちわ~っす。グレモリー眷属の悪魔ですけど~」と、中に入った瞬間足元にあった何かヌルッとした液体を踏んでしまった

 

「うわ!何だコレ!?」

 

暗くても悪魔と為った今の俺には床に落ちていたモノが昼間のようによく見える

 

赤い液体のようでかなりの量が床に広がっている。そしてその元を辿っていくとそこには全身をズタズタに切り裂かれた男の人が壁に此方に背を向けながら十字架のように打ち付けられていた

 

よく見れば背中には刻まれた傷で何か文字が書いてあるようだ

 

「う゛ぶっ!」

 

あまりの凄惨さに直ぐに耐えられなくなって吐き出しそうになるのを何とか堪える。夕飯喰ってたら絶対に吐いてたな・・・

 

「な・・・なんだよコレは!?」

 

戦慄していると後ろから陽気な声が聞こえてきた

 

「『悪い子にはお仕置きよ』って聖なるお方のお言葉を借りてみました~!」

 

ソファーに座っていた白い髪の男がそう言いながら此方を向きつつ立ち上がる。そしてそのまま他人を小馬鹿にしたような態度で話しかけてきた。

 

「んん~?これはこれは、あ~くま君ではあ~りませんか~。俺の名はフリード・セルゼン、とある悪魔祓いの組織に所属する末端で~ございます!」

 

悪魔祓い?確かによく見れば着ている服は神父服のようだ―――だけど

 

「お前がコレをやったのか?悪魔だってこんな事やらねぇぞ!」

 

激しく問い詰めるがこのフリードとか云う神父は意にも介した様子がない

 

「いやだってソイツ、悪魔を呼び出す常習犯だったみたいですし?エンドですよ!エンド!だから殺して上げたんです~!」

 

ダメだ・・・此奴とは出会ったばかりだが、絶対に此奴とは相いれない!

 

「そして君も悪魔みたいですし~!今からこの素敵な剣をお前のハートにおっ立てて、このイカす銃でそのドタマをぶち抜いて必殺☆必中フォーリンラブ!しちゃいます~!」

 

ヤバい!コイツが武器を取り出した事もそうだけどコイツのイカれた思考回路に俺の中の危機感が最大限の警報を鳴らした

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)!!」

 

『Boost!!』

 

「おお!?何々?やっちゃう?抵抗しちゃう?いいね~!その方が俺も気分が乗りますからな~」

 

そのまま「ひゃっほぉう!」と奇声を上げながら光の剣で切りつけてきたので辛くも避ける

 

「バッキューン!」

 

回避先を読まれたのか奴の銃で足を撃ち抜かれた!何だコレ!?内側から焼けるような痛みがするし、その痛みがどんどん全身に広がってくる!

 

「エクソシスト謹製!祓魔弾(ふつまだん)!俺様の身を焦がすような熱い想い!受け取ってくれた?」

 

剣だけでなくあの銃も光の武器なのか!光は悪魔にとって忌避すべき猛毒だって部長が言ってたけどここまでだなんて!?

 

『Boost!!』

 

・・・アレ?打たれた足は痛いけど焼けるような痛みは幾分かましになった?

 

『当然だ。悪魔にとって光は猛毒だが、悪魔としての力が高ければ高いほど抵抗力も高まるのも道理。だが光は中和できても撃たれた傷は治らん。さっさと逃げるか、戦うならば時間を稼いで相棒の力を高める事に専念した方がいい』

 

疑問に感じていると左腕に宿ったドライグが俺にだけ聞こえる脳内に響く声で説明してくれた

 

成程ね。でもこのイカレ神父は到底俺を逃がしてくれそうにない

 

「だったら、戦うしかねぇだろ!」

 

『Boost!!』

 

よし!さっきよりも痛みが引いた。このまま・・・そう思った時、

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

「あん?」

 

「えっ!?」

 

何処か聞き覚えのある声が部屋に響き渡った

 

俺もフリードも思わずそっちに目を向けると惨殺死体となった男の人を信じられない様子で凝視しているアーシアがここに居た―――何で彼女がこんな所に!!

 

「おんやぁ~?助手のアーシアちゃん。もう結界は張り終えたのかな~?」

 

助手だって!?アーシアは本当に堕天使の一味だったのか!?でも何で彼女が!?

 

「フ・・・フリード神父・・・これは一体・・・?」

 

「おやおや。アーシアちゃんはこの手の死体を見るのは初めてでしたかな~?悪魔に魅入られたダメ人間を罰して上げるのが俺たちのお仕事なんですよ☆」

 

「そ・・・そんな・・・!」

 

悲痛な声を上げた所でアーシアの瞳が俺を捉え、その瞳が見開かれる

 

「イ・・・イッセーさん・・・?」

 

「アーシア・・・」

 

信じられないものを見るように此方を見ているアーシア・・・俺もこんな形で再会したくは無かったよ・・・

 

「おっほ~!もしかして君たち知り合い!?悪魔とシスターの禁断の恋ってやつですか~!?やめてよ、そんな鳥肌オッ立つような事!君の事は傷つけないようにって堕天使の姉さんに言われてるけど、思わずぶっ殺したくなっちゃうからさ!」

 

「悪魔?・・・イッセーさんが?」

 

「イエス!YES!な~んだ気付いて無かったのか。そのと~り!そこの彼はクソ以下のクソ蟲!あ~くま君ですよ!」

 

楽しそうに笑いながらフリードは続ける

 

「残念ながら我々人間と悪魔は相容れません☆それに俺たち、堕天使の庇護を受けなきゃ生きていけない半端者じゃ~あ~りませんか~」

 

フリードは兎も角、アーシアが?

 

「ん~さてさて☆そろそろこの悪魔くんを解体する作業に戻るとしますかねぇ?」

 

フリードが再び此方に向かって光の剣を構えてくる。今の話の間に何度か倍化したから光のダメージは殆ど無い。撃たれた足はまだガクガク言ってるが今なら多分撃たれても目とかに当たらない限りは大丈夫だろう

 

そして俺もフリードに向かって拳を構えようとしたらアーシアが俺を庇う形で両手を広げて立ちふさがった

 

「マジですか。アーシアちゃん、自分が今何してるのか分かってるの?」

 

「おやめください。フリード神父!悪魔にだって良い人はいます!悪魔という理由だけで殺そうとするなんて間違っています!」

 

「はぁっ!?いねぇよバ~カ!悪魔にいい奴なんてよ!あいつらは殺しても殺しても湧いて出てくる蛆虫みてぇなクソなんだよ!さっさとそこを退きやがれ!!」

 

「退きません!何度だって言います!悪魔にだっていい人はいます!」

 

アーシアが強い口調で言うと途端にフリードの顔から表情が抜け落ちた

 

「・・・あっそ、傷つけんなって言われてたけどもう我慢できねぇ、死ななきゃいいだろ・・・」

 

そう言ってフリードは手にした光の剣でアーシアを切りつける

 

”ガキンッ!!”

 

「テメェ!今何しようとしやがった?」

 

アーシアの後ろから彼女を右腕で抱き寄せつつ、左手の籠手で光の剣を受け止めてフリードに問いかける

 

だいぶ力が溜まっていたから今の一撃にも反応する事ができた。ドライグ様様だな

 

今すぐにでも此奴の面をぶん殴ってやりたい所だが今はアーシアの安全が最優先だ

 

アーシアを抱えて距離を取り、彼女を後ろに庇う・・・再びにらみ合う形になった所で部屋の一角に魔法陣が展開され、そこから木場が剣を手に現れた

 

「イッセー君、助けに来たよ」

 

「木場!」

 

「あらあら、大変な状況ですわね」

 

「エクソシスト・・・」

 

朱乃さんと小猫ちゃんも続けて出て来て最後に部長も転移してきた

 

「御免なさいねイッセー、まさか依頼主の所にはぐれエクソシストが居るなんて・・・それで?その子が例のアーシアという子で合ってるのかしら?」

 

「部長・・・はい、この子がアーシアです・・・」

 

俺がそう答えるとフリードが話に割って入ってきた

 

「ひょぉう!悪魔の団体ご到着!なになに?もしかしてお宅らうちのアーシアちゃんを誑かそうって言うの?ノンノン☆そんな事許しませんの事よ」

 

フリードが全体を見渡せる位置に移動しながら言葉を続ける

 

コイツは終始ふざけた感じだが戦闘においてはかなり場慣れしてるみたいだな

 

「ほら、アーシアちゃんもそんなクソ蟲からさっさと離れてこっちにきなちゃい☆教会から追放されて、今度は堕天使を裏切って悪魔に着こうって言うの?君がそんなに尻の軽い女だったなんてね~お兄さんショック!!」

 

この数に囲まれながらもフザケた調子は崩さない。しかし、

 

「教会から追放?」

 

つい聞き返してしまった

 

こんなに優しい子が追放された?彼女が何か悪い事をするとは微塵も思えない。そうして疑問に思ったのが伝ったのかフリードが一層楽しそうに笑みを歪めた

 

「おお!聞いちゃう?いいよいいよ話してあげるよ☆俺様も最初に聞いた時は笑いが止まらなかったからね~!!」

 

そうしてフリードは語り始めた

 

幼いころに癒しの力に目覚め、多くの人を癒し、救い、聖女として崇められた少女がいた事

 

ある時傷ついた悪魔を敵であるにも拘わらず癒し、それが切っ掛けで掌を返したように教会の者から異端として追放された事

 

「クククククっ!神様って無責任だと思わない?『汝、汝の敵を愛せよ』、な~んて言葉もある割には彼女を教会から追放して知らん顔決め込むんだからさ~」

 

そう言ってまたフリードは笑い始める・・・なんだソレは・・・?そんな事があっていいのか?アーシアの方を振り向くと彼女も俯いてしまっている

 

他の部員の皆も不機嫌そうな顔を隠してない

 

「さてさてさ~て!キミ、イッセー君とか言ったっけ?さっきはなかなか良い表情を見せてくれたねぇ。それだけでもご飯3杯はイケちゃう☆でもって!メインディッシュにキミの悲鳴を聞かせてちょ~だい☆」

 

どっちが悪魔か分からない邪悪で下品な笑みを浮かべたフリードが斬り掛かって来たのを見てアーシアの過去とフリードの態度に俺の怒りが爆発する

 

「ふっざけんなよ!このクソ野郎!」

 

『Explosion!!』

 

ドライグの新しい掛け声と共に全身に力が満ちる

 

今まで何処か不安定だった力が一気に安定した―――これならイケる!

 

フリードが剣を振りぬくよりも速く、俺の拳が奴の顔面を捉えて吹き飛ばす

 

遠くの家具に突っ込んで埋もれたようだが、うめき声は聞こえるから死んじゃいないだろう・・・一瞬身を引いたようにも感じたし

 

「っぐ!」

 

フリードを倒して気が抜けたからか撃たれた足の痛みが一気にぶり返してきた

 

「イッセーさん!足を怪我されてるんですか!?」

 

アーシアが俺の足の怪我に気が付いて、手から癒しのオーラを発し、足に当ててくる・・・凄いな、貫通していたはずだけど数秒で治ってしまった

 

『ああ、これほどの回復力は裏の世界でも中々お目にかかれないぞ』

 

ドライグが驚くほどの回復力って事か

 

「有難う。アーシア、もう大丈夫だ。」

 

「はい、イッセーさんが無事で良かったですぅ」

 

そう言って笑顔を向けてくれる・・・畜生!神様とやらは何でこの子を助けてあげないんだよ!

 

内心憤ってると小猫ちゃんが不意に顔を上げ「堕天使の気配が近づいてます」と言った

 

ここに来て増援か!

 

「仕方ないわね。皆、一度戻るわよ」

 

床に魔法陣を展開した部長がそう言った

 

「まって下さい、部長!それならアーシアも一緒に!」

 

「残念だけどそれは無理よ。この魔法陣は私の眷属しか転移出来ないの―――それに経緯はどうあれその子は今は堕天使の組織の一員よ。重要そうな位置にいる彼女を堕天使たちもあんまり無体な扱いはしないでしょう」

 

「でも!そこのフリードとか言う神父はアーシアを切りつけようとしたんですよ!」

 

部長に抗議していると後ろから魔法陣の方に押し出されてしまった。慌てて振り向くとアーシアが俺を心配させまいとしているのだろう―――少し無理した笑顔で「大丈夫です」と言ってきた

 

「フリード神父も仰ってました。堕天使の方たちに『私を傷つけるな』と言われていると・・・」

 

「だから大丈夫です」と彼女は言ったが、そんなの!

 

「アーシアァァァァァ!!」

 

床の魔法陣の輝きが一層強くなり、咄嗟にアーシアの元に駆け寄ろうとしたが、一瞬転移の方が早く彼女の涙を浮かべた笑顔を最後に部室へと転移してしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

「今すぐ、アーシアを助けに行かせてください!」

 

部室に転移した後、必死に部長に頼み込むが逆に怒られてしまう

 

「ダメよ!前にも言ったでしょう?下手をしたら戦争にだって繋がり兼ねないのよ!どうして分かってくれないの!?」

 

そうだ。本当は頭の中では分かっている―――今言ってるのは後先の事を考えてない我が儘だって事ぐらいは・・・

 

それに、部長が俺の事を本気で心配してくれているのが伝わってくる―――この人にこれ以上迷惑を掛ける訳にはいかないだろう

 

『すみません、部長』そう心の中で謝りながら「なら、俺を眷属から外してください。俺一人でも、助けに行きます!」そう宣言する

 

「あなたは!・・・」

 

部長が激昂しかけた時、部室の扉が開いてイッキが入ってきた

 

おいおい、何で学校に居るんだよ?今は夜8時回ってるし、お前は家に帰ったはずだろう?これには部長も虚を突かれたみたいで「イッキ!?何故あなたが此処に?」と問い詰める

 

「イッセーが赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を使って荒々しいオーラを発してるのが伝わってきたんですよ。初めはその場所に行こうとしてたんですが、途中で皆の気配が此方に移ったので何があったのか確かめるために此処に来ました」

 

そうだったのか・・・そう言えば小猫ちゃんも堕天使の気配にいち早く気づいていたし仙術ってすごいんだな

 

そう思っていると部室の奥から朱乃さんが歩いてきた

 

「あらあら皆さん、堕天使の件ですがちょうど今、裏が取れましたよ」

 

「そう、それで?どうだったのかしら?」

 

「黒ですわね。あの堕天使たちはこの地で独断で何やら企んでいるみたいですわ」

 

「分かったわ。そう言う事なら、遠慮なく潰せると言う訳ね」

 

「部長!」

 

「イッセー、私も彼女の話を聞いて内心穏やかと言う訳でも無かったのよ?さぁ皆!一緒に行きましょうか!目指すは教会!好き勝手やっている不逞の輩を退治しにいくわよ!!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

待ってろよ!アーシア!直ぐに助けに行くからな!

 

 

[イッセー side out]



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第五話 救出、そして洗脳です?

俺たちは教会には結界が張ってあるため直接中には転移出来ないので近くの林の中に転移した

 

転移魔法陣で運べるのはグレモリー眷属の皆だけって話があったから大丈夫なのかと思ったけど(ダメなら走ってた)リアス部長が時間経過で消滅するグレモリーの紋章を付けてくれて一緒に転移出来た

 

それにしても様子を見に来て良かった

 

戦いの気配から恐らくフリードと戦ったのだとは思ったから順当に行けば確か決戦は明日の夜だったはずだ

 

既に原作から色々とずれているから一応とばかりに部室に顔を出したら決戦のタイミングだったとは・・・何が変化してるか判らないものだ

 

「皆、準備はいいわね?それとイッセー、貴方に一つ伝えておく事があるわ。『兵士』の駒の特性についてよ」

 

「特性?」

 

「ええ、『兵士』の最大の特性はプロモーションよ。『兵士』の駒は『王』である私が敵地の重要拠点と見定めた場所に侵入した際に『王』以外のすべての駒に変化出来るの」

 

「マジですか!?なら俺も朱乃さんと同じ『女王』に・・・!」

 

イッセーが意気込んだ所でリアス部長からストップがかかる

 

「今回は『女王』になるのは止めておきなさい」

 

「な・・・何でですか!?」

 

「あなたの最大の武器である赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)は際限無く力を加算させていくことが出来る。でもそれは、それだけ貴方の肉体に負荷を掛けてるって事よ。そしてそれはプロモーションにも同じことが言えるの、短期決戦ならば『女王』でも構わないけど、貴方の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)とプロモーションの組み合わせをどれだけ持続できるか分からないわ―――途中で動けなくなるなんて嫌でしょう?だから今回は『戦車』までにしておきなさい」

 

あ~、予想はしてたけどやっぱりそんな感じなんだな。実際のチェスだと『兵士』の駒をプロモーションさせる時は『女王』か特殊な動きを出来る『騎士』の二択だけど駒によって体力の消耗具合が変わるなら『女王』の駒以外に為る意味が生まれて来るな・・・実際のチェスだと『戦車』や『僧侶』へのプロモーションとか先ずされない死に設定だからね

 

「・・・はい」

 

「大丈夫よ。貴方はまだまだ悪魔になったばかり、今の自分を弱いと思うならこれから強くなればいいわ」

 

「はい!」

 

 

 

 

そうして全員で教会の敷地の中に侵入する

 

「小猫、イッキ、堕天使とはぐれエクソシストの気配はどう?」

 

「基本は事前に探知した通りです。堕天使は4名、ただはぐれエクソシストは30名はいますね―――俺は会った事が無いのでアーシアって子の気配までは分かりませんが・・・」

 

「あのシスターの気配は私が覚えてます・・・どうやら教会の地下に居るみたいです」

 

「分かったわ。敵の配置は?」

 

「結界で侵入を察知したんだと思います。大部分が礼拝堂に集まってます」

 

戦力が集まってると聞いたリアス部長は凛とした顔に僅かに笑みを浮かべて活を入れる

 

「なら、小細工無しのぶつかり合いね。行くわよ!」

 

 

 

 

 

小猫ちゃんが教会の扉を蹴破って自分たちもそれに続く

 

中に居た皆さんは殺気と得物を手に歓迎ムードのようだ

 

「あらあら、野蛮な悪魔さん達はどうやらノックの仕方も知らないのかしら?」

 

「無理もあるまい。所詮、薄汚れた蝙蝠どもよ」

 

「ドーナシークのおっさんも辛辣っすね。まぁでも確かにこの人数の敵地に正面から入ってくるとか馬鹿なんじゃねぇっすか?」

 

「ミッテルト、当たり前の事をあんまり口に出してると貴方にまで馬鹿が移るわよ?」

 

「うげっ!カーラワーナ、そりゃぁ勘弁願うっすよぉ!」

 

堕天使四人を最奥にしてはぐれエクソシスト達が俺たちの周囲を取り囲む

 

その中から一人の青年が前に出てきた

 

「おやおや~?まさかこんなに早く皆さんと再会出来るなんて!僕ちん感激!なんか人間も混じってるみたいだけど悪魔と一緒にいるなら同罪だよね☆特にそこの俺様をぶん殴ってくれたイッセー君!キミは指先から少しずつみじん切りにしてあげるから、後でゆ~っくりと楽しもうね☆」

 

「フリード!!」

 

イッセーが怒りの声を上げ、後はぶつかるだけという時、何か相手のはぐれエクソシストの一部がこっちを見ながらひそひそと会話している。と言うか俺をを見てるし、指さしている?なんだ?

 

なぁ、アイツってやっぱり・・・

 

ぷぷっ!間違いねぇと思うぞ!

 

そうして十人(・・)程が微妙に体を震わせながら腹を押さえている・・・何か嫌な予感がする

 

そう思っているとその中の一人が俺に語り掛けてきた

 

「お~い!そこのお前!あの後猫耳ゴスロリクリーチャーと添い寝した時の感想を聞かせてくれよ~!新しい扉でも開けたか~?」

 

・・・ああ、そうか、お前ら前回堕天使と戦った時にいたあのはぐれエクソシスト共か!

 

「・・・部長・・・皆・・・俺はあの神父共に個人的な・・・非常に個人的な恨みがあるので、アイツらは俺が受け持ちます」

 

いかんな・・・全身から闘気が漏れ出てしまっているようだ

 

「イ・・・イッキ?貴方どうしたの?」

 

「部長、イッキ君、僕もやるよ」

 

何時もより幾分声のトーンの下がった祐斗が追従する

 

「祐斗!貴方まで!・・・まぁいいわ二人で問題ないのね?」

 

「「はい!」」

 

絶対に許さん!地獄を見せてやらねばな!

 

「なら、私と朱乃で奥の堕天使を相手にするわ。イッセーは地下に向かいなさい―――小猫はイッセーのサポートに回ってあげて・・・朱乃!戦いが始まったら礼拝堂の前後を結界で区切っておいて!堕天使とはぐれエクソシストを分断するわ!」

 

「はい部長!」

 

「はい」

 

「了解です部長!」

 

そして各々が自分の標的に向かって駆けだしてく、俺と祐斗がスピードを生かしてはぐれエクソシスト共の背後に回り彼らが堕天使の方に近づけないように立ち回り、部長たちが小猫ちゃんを先頭に人垣を突破して礼拝堂の奥に進んでいく

 

「はっ!」

 

朱乃先輩の掛け声と共に礼拝堂が結界で二分された―――確かにこれなら役割がハッキリ別れてて分かりやすくていい

 

レイナーレ(暫定)達がイッセー達を祭壇の近くに見えていた地下に向かわせないように光の槍を投げるが、小猫ちゃんの拳で粉砕されそのまま二人は地下に降りて行った。

 

「っち!ドーナシーク!カーラワーナ!ミッテルト!私はあのシスターを確保しに行くわ!連れ出される訳にはいかない。此処は任せたわよ!」

 

転移魔法陣を展開しそのまま転移していった。そうか俺たちは教会の結界で転移出来ないけどあいつ等が出来るのは当たり前だよな!

 

こっちは既に雑魚のはぐれエクソシストは半数以上は倒した。

 

例のはぐれエクソシスト共は拳でぶん殴ってやりたかったため基本徒手で戦っている。

 

フリードの方は祐斗が相手をしているが、まだ残ってるはぐれエクソシストが邪魔で決め手に欠けているようだ

 

「ひゃっはははは!どうしたの?イケメン君?さっきから戦い方に思い切りの良さってのが感じられないぜ☆俺ってばさっさとあのクソ悪魔君を追っかけて、悪魔に魅入られたクソシスターの前で解体ショーを披露してやらなきゃならないからよ!そろそろ死んでちょ~だい☆」

 

「・・・教会を追放されるのも納得の下劣さだね。いいだろう、もう他のはぐれエクソシスト達は片付いたようだしね。決着を付けようか」

 

「マジですか!?」

 

フリードが驚いて辺りを見渡すが先ほどのフリードの長ったらしいセリフの間に残りも倒させてもらった―――後は祐斗がフリードを倒せば此方は片付くという時

 

 

“ドォォォン!”

 

 

眩い光と共に轟音が響き渡り、思わずそっちを見ると3人の堕天使が煙を上げつつ地に落ちようとしていたが

 

「消し飛びなさい!!」

 

それよりも早くリアス部長の消滅の魔力で数枚の羽根を残して消滅してしまった。

 

どうやら、此方よりも少しだけ早く向こうの決着が付いたようだ―――そう思い視線を祐斗とフリードの方に戻すがそこには佑斗しか居なかった

 

「あれっ!?フリードは?」

 

「ゴメン、イッキ君。あのはぐれ神父は朱乃さんが堕天使を攻撃した時に一目散に逃げて行ってしまったよ・・・」

 

「はぁ!?マジで!?あの時点では一応まだ決着じゃ無かったし、それなのに助けようという素振りすら無し!?」

 

「うん、あんまりにもアッサリと仲間を見捨てるものだから僕も虚を突かれちゃってね。逃げられちゃったよ」

 

うわ~!流石フリード、状況判断が早くて的確と言えばいいのか、薄情と言えばいいのか・・・

 

決着がついたからか朱乃先輩の張っていた結界が解除され、二人が此方に歩いてくる

 

「そちらも終わったようね」

 

「すみません部長。敵の一人を取り逃がしてしまいました・・・」

 

祐斗がリアス部長に頭を下げて謝罪する

 

「一人くらいなら問題ないわ。それにあの神父は明らかに別格だったしね―――逃げに徹されれば追うのも難しいでしょう」

 

「あらあら、それでは残るは地下の方ですわね」

 

「そうね。小猫が付いてるから問題ないと思うけど様子を見に行きましょうか」

 

朱乃先輩の言葉にリアス部長が続くがその必要は無い

 

「いえ、どうやら丁度今決着が付いたみたいです・・・」

 

レイナーレ(暫定)の気が小さくなっていく、どうやら戦いはこれで終わりのようだ。

 

 

 

 

 

―――少し時間を遡り、地下通路

 

[イッセー side]

 

小猫ちゃんと一緒に祭壇の奥にあった階段で地下に潜りアーシアの気配を追える小猫ちゃんを先頭に走ってついていく

 

途中何度か「死ねぇ!悪魔!」とか「此処は通さん!」とか言って襲ってくる奴らがチラホラ居たけど、俺が身構える前に全員小猫ちゃんの拳一発で吹き飛んでいった

 

小猫ちゃんを怒らせるのだけは止めとこう。壁という額縁に飾られた愉快なオブジェになっちまう

 

「もうすぐ・・・あの奥の扉の向こうです。」

 

「よっしゃ!」

 

「ッツ!堕天使の一人が転移してきました」

 

何?成程・・・どういう理由か知らねぇが、よっぽどアーシアを渡したく無いみたいだな!

 

小猫ちゃんの「えい!」という掛け声と共に大きな扉が粉砕され二人で中に入る

 

扉が壊れる時、一瞬魔法陣のようなものが展開されたみたいだが関係ないとばかりに壊してしまった、アレは何だったんだろう?

 

兎も角そこは結構大きな部屋で、一番奥に巨大な十字架が在るのだが到底普通の十字架には見えない。人ひとりを磔にできそうな大きさで各所に手足を固定するような手枷や鎖が巻かれていた

 

その十字架の前にアーシアと堕天使の夕麻ちゃんが立っている

 

「アーシア!無事か!?」

 

「イッセーさん!?何で此処に!?」

 

「っく!もう追い付いて来るなんてね!扉には結界を張っていたはずなのに!」

 

成程、さっき小猫ちゃんが扉と一緒に破壊したのは結界だったのか・・・多分だけど俺たちの侵入に対してアーシアは結界の張ってあるこの部屋に隠されたって所か?

 

「・・・夕麻ちゃん」

 

「あら?貴方は・・・最悪ね。まさかあの後悪魔に転生していたなんて―――それと言っておくけど私の名前は夕麻じゃないわよ。アレは一時的に適当に考えた仮の名、私の名前はレイナーレよ」

 

そっか・・・そりゃ悪魔の管理地で本名名乗って調査活動とかしないよな

 

「ならレイナーレ、この地で何を企んでやがる!それにアーシアをどうする気だ!この時期に彼女を呼び寄せて、こんな部屋に隠しておきながら今更それらが無関係なんて言わないよな!」

 

そうだ!戦力を分断してまで彼女を確保に動いたのはこいつ等の企てにアーシアが必要と考える方が普通だろう

 

「下級悪魔風情が気安く私の名を呼ぶな!・・・別に悪い事じゃ無いわよ?この子、アーシアの持つ神器、聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を私が貰って上げるだけ・・・」

 

「なに?」

 

「えっ!?」

 

あの様子だとアーシアもその事は知らなかったみたいだな・・・

 

「この子はね、神の祝福を受けられないはずの堕天使や悪魔なんかにも治癒の力を及ぼせられるの・・・でも異端とされる神器のせいで教会から追放されてしまった。そんなの可哀そうだと思わないかしら?」

 

アーシアを抱きしめながら此方に嘲笑とも取れる笑みを浮かべながら夕麻ちゃん・・・レイナーレは続ける

 

「だから私が貰って上げようと思ったのよ。この子は神器から解放される。私はその神器を使って堕天使として確固たる地位を築き上げる・・・貴方はアーシアを助けに来たのでしょう?ならさっさと帰りなさい。私が用があるのはこの子の神器だけ、事が済んだらこの子は無傷でそっちに引き渡してもいいのよ?」

 

話を聞く分にはそう悪い話では無いように思える。

 

アーシアの力を目の前の堕天使が使うというのは業腹だが、アーシアが神器から解放されるというのは悪い事では無いだろう

 

『ふん!甘言に惑わされるな相棒。あの堕天使は重要な事を喋っていないぞ』

 

ドライグの声が頭に響いて来た。かなり不機嫌な声音だ

 

『なんだよ?重要な事って?』

 

『なに単純な話だ。神器は宿主の魂と一体化している物だ。それを取り出すという事は魂を引き裂く行為に等しい・・・つまりは死ぬという事だ』

 

「なっ!?」

 

つい現実に声が漏れてしまった―――死ぬ?死ぬだって!?咄嗟にレイナーレに問い詰める

 

「おいレイナーレ!神器を抜き取ったら宿主は死んじまうんだろう!?アーシアを解放して無傷で引き渡すってのは嘘なのか!?」

 

「っち!悪魔に転生したての割にはよく知ってるのね―――別に嘘はついていないわよ。この子は神器から解放されるし、神器を抜き取る儀式は肉体には傷はつかないから無傷の死体を引き渡してあげたわ」

 

レイナーレの腕の中に居たアーシアも今の話を聞いて絶句している。

 

ああそうかよ!レイナーレ!例え嘘でも俺の初めての彼女だったから、少しくらい手加減をとか頭の隅で考えてた自分が心底バカだったようだな!!

 

「・・・小猫ちゃん。ゴメン、此処は俺に行かせてくれないか?」

 

小猫ちゃんが戦えば多分直ぐに終わるんだろうけど、それじゃあ俺が納得できない!

 

「・・・分かりました。でも、危なくなったら助けます―――イッセー先輩が一人で終わらせたいなら・・・」

 

「大丈夫、有難う小猫ちゃん」

 

そう言ってレイナーレの所に歩み寄る

 

どうやら彼女も交戦は避けられないと悟ったようで、アーシアを後ろにあった十字架の手枷に彼女の片腕を繋ぎ此方に向き直る

 

「転生したばかりの下級悪魔、それに魔力も殆ど感じない―――貴方のようなクズが堕天使として至高の頂に昇り詰める私と一人で戦おうと言うの?貴方もそれを許す貴方のお仲間も愚かとしか言いようがないわね」

 

「御託はそれでいいか?それじゃあ、とっとと始めようぜ堕天使さんよ!プロモーション『戦車』!来い、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)!!」

 

『Boost!!』

 

そこで初めてレイナーレの顔が驚愕に彩られた

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)!?神や魔王すらも滅ぼすとされる忌まわしき神器がお前のような小僧に!?」

 

「どうした?堕天使様よ?転生したての下級悪魔相手に狼狽しちまってよ。アーシアを置いて二度とこの町に来ないってんなら見逃してやってもいいんだぜ?」

 

「下級ごときが!」

 

俺の挑発にレイナーレは顔を憤怒に染めて光の槍を投げてきた

 

何とか避けるが槍が爆発して吹き飛ばされてしまう

 

それに爆風自体にも光の力が混ざってたのか全身がビリビリする

 

あのフリードって奴の使ってた光の武器より光の密度が濃いのか!?今はまだ直撃するのは拙い!

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)は力が溜まるまでに時間が掛かる!―――貴方の力が私の力を上回る前に殺して上げるわ!!」

 

今度は質より量とばかりに十数本の光の槍を作り出し一斉に投げてきた!

 

「今の俺ならこの程度!」

 

避けられそうには無かったが『戦車』の防御力と溜まった倍化の力も相まって防ぐ事が出来た!俺に当たらなかった分の光の槍の爆発で周囲に粉塵が舞い、視界が鈍る―――直後に両足に野太い光の槍が突き刺さった

 

「ぐぁぁぁぁ!!?」

 

「イッセーさん!?」

 

痛てぇ!痛てぇ!!痛てぇ!!!マジでフリードの銃弾とはモノが違う!素のまま受けてたら今ので意識が飛んでたかもな!

 

それにアーシアにも心配掛けちまったか・・・ゴメンな今すぐコイツぶっ飛ばすからよぉ!

 

「痛いかしら?いくら力が上昇しようとももう動けないでしょう?それにしても戦い方がなってないわ。相手の虚を突くのは戦術の基本よ?」

 

「・・・舐めんなよ!この程度何でもねぇよ!」

 

「そんなに脂汗を滲ませながら言っても説得力ないわよ?でも確かに光によるダメージはもう殆ど緩和しているようね・・・本当に忌まわしい力だこと・・・ならご褒美にその刺さってる槍を消して上げましょう」

 

レイナーレがそう言いながら指を鳴らすと次の瞬間本当に足に刺さっていた槍が消えた

 

“ブシュゥゥゥ!!”

 

槍の傷口から大量の血が噴き出て来やがった!これは!?

 

「刃物が刺さったりした大きな怪我はね、適切な処置が出来ない所じゃ抜かない方がいいのよ。そんな風に血が流れて失血死してしまうからね」

 

クソッ!痛みで頭が焼けそうだったけど、それに加えて今は血と一緒にドンドン体力・気力も流れていくみたいだ!

 

「もうまともに歩けもしないでしょう?確実に死ぬように頭を貫いてあげるわ」

 

レイナーレが今までで一番の力を込めた槍を顔面に投擲してくる―――それを俺は前のめりに倒れ込む形で避ける

 

「はっ!一度倒れたら起き上がる事すら容易じゃ無いわよ!」

 

レイナーレの俺を小馬鹿にした声が聞こえる。ああその通りだ!倒れたら終わりなんだろう―――だから倒れない!!

 

“ガギッ!!”

 

倒れる寸前、左腕で地面を掴む―――腕と足では数倍の力の差があるとされているけど、『戦車』の膂力を倍化で高めた今の俺なら、腕一本で数メートルの距離を跳ぶ位出来るんだよ!!

 

頭からロケットのようにまっすぐレイナーレに突っ込んでいく

 

「馬鹿な!!?」

 

慣れないと云うか生まれて初めての片腕跳びは幾ら膂力がブーストされていると言っても驚くほどの速度が出ている訳じゃない。それでもレイナーレは驚愕から防御も回避も中途半端な状態となってしまっている。確か相手の虚を突くのが戦術の基本だったよな?ご教授有難うよレイナーレ!―――今なら決まる!!

 

「グッバイ俺の初恋!吹き飛びやがれ!」

 

硬く握り締めた拳が彼女の顔面を捉え、部屋の奥の壁にめり込ませた

 

「イッセーさん!大丈夫ですか!?」

 

やり切ったという感情に浸っていると繋がれてたはずのアーシアが駆け寄ってきた

 

手枷はどうやら小猫ちゃんが(力任せに)外したみたいだ・・・そういえば知恵の輪ならぬ力の輪と言うのがあって、小猫ちゃんなら知恵の輪もパワーで解決・・・

 

“ゴチッ!!”

 

小猫ちゃんが外した手錠の残骸を投げつけてきた!痛てぇ!こっちは怪我人なんだしもう少し優しくしてくれても・・・

 

「イ・・・イッセーさんを虐めないでください!」

 

足の怪我を治してくれていたアーシアがそんな事を言う

 

「大丈夫だからアーシア!今のは余計な事を考えた俺の方が悪かっただけだから!」

 

「そ・・・そうなんですか?でも、イッセーさんが無事で良かったです。私のためにこんな大怪我までして・・・何で此処までしてくれたんですか?」

 

なんでってそりゃあ・・・

 

「泣いてたからだよ」

 

「え!?」

 

「最後の別れ際にさ、アーシア泣いてただろ?理由ならそれで十分だ」

 

「イッセーさん・・・有難うございますぅ」

 

そう言ってアーシアが俺を胸に抱き寄せてくれた

 

部長・・・皆・・・俺は勝ったよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・部長のような大きさは無いけどアーシアのおっぱいも柔らかくて最高だ!

 

「・・・イヤらしい顔」

 

ゴメンね、小猫ちゃん、俺がスケベで・・・

 

[イッセー side out]

 

 

 

 

地下での戦いの気配が収まったので、はぐれエクソシスト達を武装を解除させつつ朱乃さんが魔力で拘束していく

 

堕天使は消し飛ばしたのにこいつ等はどうするのかとリアス部長に聞いてみたらどうやら冥界の専門機関に送られて死ぬか服従するかの二択を迫られるのだそうだ

 

どうせ一部の悪魔が処刑を選んだ奴をすっぱ抜いて違法研究の材料にでもしているんだろうけどな

 

全員を拘束し終わった辺りで数名のはぐれエクソシストと堕天使を担いだ小猫ちゃんとイッセー、それに俺は初めて出会うがアーシアが現れる

 

「部長!ただいま戻りました!」

 

イッセーの挨拶と共に小猫ちゃんも担いでいた奴らを床に放り投げる・・・うわっ!顔面から落ちたぞ!

 

朱乃先輩が素早くはぐれエクソシスト達を拘束していき部長は気絶しているレイナーレ(暫定)の顔面に魔力で作った水をぶっかける

 

「ゴボボッ!?ガバッ!?」

 

「さて、お目覚めの気分はいかがかしら?堕ちた天使さん。こうして会うのは二度目ね、私はグレモリー公爵次期当主のリアス・グレモリーよ。短いお付き合いでしょうけど貴女の名前を聞いておきましょうか」

 

「っく!グレモリーの縁者だとは思っていたが、まさか次期当主だったとはね!・・・私はレイナーレよ・・・」

 

おお!やっと俺の中でレイナーレ(暫定)の(暫定)が取れた!このまま名前も分からないまま消滅するのかと思ったぜ!

 

「ではレイナーレ、貴方がこの町で何をしようと企んでいたのかを話してもらいましょうか・・・別に話さなくてもいいけど、その場合は冥府の専門機関に送るからとっても痛い死に方をすると思うわよ?」

 

「・・・・・」

 

おお恐い!昔ながらの貴族社会だし拷問くらい普通にあるのか・・・

 

「部長、そいつはどうやらアーシアから神器を抜き出そうとしていたみたいです」

 

「・・・そう、成程ね、回復系の神器は珍しいけどそこまで希少と言う程でもない。でも彼女の神器のような悪魔でさえも癒す事ができるものなんて聞いた事も無い・・・でも神器を抜き出すというのは・・・」

 

「はい、アーシアを殺して抜き出そうとしていたみたいです・・・」

 

「そう・・・残念だけど堕天使レイナーレ、聞きたいことは全部聞けたから貴女にもう用は無いわ―――最後の慈悲よ、せめて一瞬で消し飛びなさい!」

 

「ま・・・待っ!!」

 

“バシュン!!”

 

そうしてリアス部長の滅びの魔力でレイナーレはあっさりと消滅した

 

「さて後は、はぐれエクソシスト達を冥界送りにして彼女・・・アーシアの今後も考えないとね」

 

「あの部長・・・アーシアはどうなるんでしょうか?」

 

「そうね・・・彼女が教会から追放されている以上、教会に戻るのは却下。堕天使の組織も今回の一件がある以上はそちらに送り返す訳にもいかないわね。私の所で保護してもいいけど、その場合シスターとしての活動は謹んで貰わなければいけないわ」

 

悪魔が保護した者が教会としての活動をする訳にもいかないか・・・

 

「アーシアはどうしたいんだ?」

 

「イ・・・イッセーさんと・・・その・・・い・・・一緒に居たいですぅ

 

最後は消え入りそうな声だったが全員にちゃんと聞こえたようだ

 

「お・・・俺と!?」

 

イッセーが驚いている・・・本当にハーレム目指してる割には鈍いからなコイツは・・・

 

「ふふふっ、そういう事ね・・・ねぇアーシアさん、人間と悪魔では寿命が違うわ。一緒に居られると言っても悪魔の時間からしたら一瞬の事、そこで貴女さえ良ければ私の眷属として悪魔になってみない?貴方自身の人格も、神器の力も両方魅力的だしね」

 

「部長!?」

 

「悪魔に・・・ですか?」

 

「ええ、ただし分かってるとは思うけど悪魔になれば聖書を読む事も神に祈る事も出来なくなる・・・それでも貴女は悪魔になる?」

 

「・・・・・・はい!」

 

少し迷っていたようだが、強い眼差しで返事をする

 

「アーシア!?」

 

「私は今まで教会で沢山の方々と接してきました。中には私の事を本当に大切にして下さる方々もいました。でも、私個人が一緒に居たいと心から思える人はイッセーさんが初めてなんです!離れたくありません!」

 

何かもう愛の告白みたいになってるな、イッセーも顔を赤らめて目が泳いでるし・・・

 

「最後にもう一度だけ確認するわ・・・悪魔になってもいいのね?」

 

「はい!」

 

そうしてアーシアさんはその場でリアス部長の『僧侶』として転生した

 

そしてオカルト研究部の皆と自己紹介を交わして晴れて彼女はグレモリー眷属の一員となった

 

「ではイッセー、アーシアの面倒は貴方が見るのよ?少しとはいえ先輩なんだからね」

 

「はい!部長!」

 

「後はそこのはぐれエクソシスト達を冥界に送れば終了ね。朱乃!」

 

「ちょっと待ってください!」

 

咄嗟に待ったをかける

 

「イッキ?どうしたのかしら?」

 

「すみません。このエクソシスト達の処遇は俺に任せていただけませんか?」

 

そう言いながらあの時の十人(・・・・・・)を引っ張り出す

 

「そう言えば個人的な恨みとか言ってたわね・・・どうするつもりなの?」

 

「そうですね・・・多分口で言っても中々伝わらないと思うので一緒に確認しますか?問題があるようならその場で冥界送りにしてもらって構わないので・・・」

 

リアス部長が少し考える仕草をした後「はぐれエクソシスト達を殆ど倒したのはイッキだものね。多少の我が儘は許しましょう」と了承してくれた

 

そうと決まれば早速連絡を取らなくては!少し遅い時間だがしょうがない

 

そして直ぐに連絡を入れてみた所問題なく受け入れてくれるそうだ。今は友達を四人招いていたらしく、その人達も事情を聴き、快く協力を願い出てくれたみたいだ。重畳、重畳!

 

そして十人を除いたはぐれエクソシスト達は朱乃先輩が冥界に送り、俺たちは丁度目的地が俺の家の近くだったので朱乃先輩の転移でそちらに移動した

 

辺りを見渡し、とあるアパートが視界に入って暴れるはぐれエクソシスト達を朱乃先輩の作った魔力の縄で引っ張って行く

 

「嫌だぁ!」とか「殺せぇ!」とか「おお!神よ!」とか追放された身で神に祈る奴もいたがそのままそのアパートの206号室の前に着く、するとイッセーが「おいイッキ・・・本当にここで合ってんのか?」と聞いて来た。

 

「何だ、知ってんのか?」

 

「ああ、ちょっと前に召喚されたばっかだからな―――召喚された瞬間、思わず外まで逃げちまったからこの扉には覚えがあるぜ・・・」

 

そうか、既に彼とは遭遇済みか。そしてそのままチャイムを押す

 

“ピンポーン!”

 

「開いてますにょ~」

 

アパートの薄い扉の向こうから野太い声が聞こえてくる

 

「今・・・「にょ」って言ったのかしら?」

 

リアス部長も困惑しているようだ。はぐれエクソシスト達はもはや体がちぎれる勢いで拘束から逃れようとしている

 

「お邪魔しま~す」

 

そうして扉を開けた先にはミルたんが、そしてミルたんの後ろに四人のミルたんの魔法少女の夢を共に志す友達たちがいた・・・当然ミルたん仕様である

 

全員タッパ2mを超える逆三角形のゴスロリ集団・・・ミルたんの友達は初めて見たけど色々な意味で纏ってるオーラがヤバい

 

俺と同じく仙術を使える小猫ちゃんなんか仕舞ってたはずの猫耳としっぽが飛び出て一瞬で総毛だっているし・・・

 

「こんばんはだにょ!アレ?先日の悪魔さんも居るのだにょ?」

 

「ど・・・どうも、こんばんは・・・」

 

「イ・・・イッセー・・・ひょっとして此方の方は依頼主の一人なのかしら?」

 

「はい、部長・・・先日のアンケートにもあったミルたんさんです・・・」

 

「ああ、あの・・・」

 

「ゆっくり挨拶をしたい所だけど今日はあの時の悪いお兄さん達が改心しきれず、また悪さをしてるって聞いたにょ!修行中の身とはいえミルキーの素晴らしさを伝えきれなかったなんてショックだったにょ!でももう大丈夫にょ!友達の助けも借りて今度は心の底からミルキーの愛を知るまで―――絶対逃がさないに゛ょぉぉぉぉ!!

 

うん!どうやらミルたんのやる気はバッチリのようだ。部屋の奥に見える漢の娘たちもしきりに頷いている―――これなら安心だな

 

「ではミルたんさん。今度こそ彼らに夢と希望と愛を教えてあげてください」

 

「任せてだにょ!」

 

“バタンッ!!”

 

これで彼らもきっと二度と悪さをしようとは思わないだろう

 

「う~ん!スッキリしたなぁ~!」

 

積年の『報復』という悲願を果たせた俺は思わず伸びをするが皆の無言の視線が突き刺さる

 

「「「「「・・・・・・・」」」」」

 

「イッキ・・・お前は悪魔か?」

 

は?何を馬鹿な事を言ってるんだこいつは?

 

「何言ってんだ?悪魔はお前だろう?」

 

「イッキ先輩は時々頭のネジが外れるんです・・・」

 

小猫ちゃんも何言ってんだ?『報復』するのなんて当たり前だろう?

 

「リアス部長、普通に引き渡しちゃいましたけど問題無かったですか?」

 

「・・・え・・・ええ、それじゃあ皆、今日は解散しましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

堕天使の一件は幕を閉じたが、家に帰った時黒歌にまたボディーブローを入れられた

 

「グレモリー眷属とか他にも知らない気配がいきなり家の前に現れたから討伐隊でも来たのかと思ったにゃ!!」

 

・・・次の休日に俺のお小遣いの限界まで黒歌に奢ることが決定した

 

 

 

例のはぐれエクソシスト達は数日にも及ぶ洗脳、愛の語らいの末、全員が真実の愛(ミルキー)に目覚めたようだ

 

後日、オカルト研究部にアポをとって来校し、誠心誠意の謝罪をし愛(ミルキー)を語り帰って行った

 

アーシアさんは「愛の力は偉大ですね!ああ、主よ!」と祈っていた・・・直後に頭痛のダメージを受けていたが

 

・・・あいつらを恐怖(ミルキー)に落とし入れるためにミルたんに引き渡したんだけど、どうやらミルキーに目覚めさせてしまったようだ。十五人にも及ぶミルキー軍団(漢女)がここに結成した・・・どうしてこうなった?




はぐれエクソシスト達はこれからどんどんミルキー魔法(物理)の練習をしてマッチョになっていく予定です。


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第六話 使い魔、そして贈り物です!

レイナーレ達を倒してから十日ほど経った

 

その間にアーシアさんがイッセーの家にホームステイしたり駒王学園に転入してきたり、イッセーと一緒にチラシ配りをしたりしていたある日の放課後

 

「チラシ配りは卒業・・・ですか?」

 

「ええ、イッセーにも言ったけどチラシ配りは本来使い魔の仕事なの。他にも調査や追跡などにも有用よ、そこで新人の二人にはそろそろ使い魔を手に入れて貰おうと思ってね」

 

そういえば原作のイッセーはここでは使い魔を手に入れられなかったみたいだけどチラシ配りはどうしてたんだろうか?やっぱり部長たちの使い魔が代行してたのかな?

 

「使い魔と言っても・・・具体的にどんな奴が居るんですか?」

 

イッセーの質問に対し、皆がそれぞれの使い魔を紹介する

 

「コレが私の使い魔よ」

 

リアス部長の使い魔はクレーンゲームで手に入りそうなデフォルメされた蝙蝠だった

 

「あらあら、私のはこの子ですわ」

 

緑色の小鬼が床の魔法陣に召喚された

 

「・・・シロです」

 

小猫ちゃんも何時の間にか白い子猫を抱いている

 

「僕のは・・・」

 

祐斗が紹介しようとした所でイッセーが「ああ、お前のはいいから」と紹介を断ったが祐斗も「つれないな」と苦笑しつつ肩に小鳥を止まらせていた

 

これで全部だと思っていると学生服の内側に吊るしてあった竹筒が"カタカタ"と暴れ出す・・・お前も紹介して欲しい訳ね

 

竹筒の蓋を開けると中から細長く黄色い影が飛び出し首の辺りに巻き付く

 

「管狐のイヅナだ」

 

「イッキまで使い魔が居るのかよ!?」

 

「イッセー、裏の世界の住人は大抵使い魔を持っているものなのよ」

 

「あのー、それで使い魔さん達というのは何処で手に入れれば良いのでしょうか?」

 

アーシアさんの疑問にリアス部長が「ああ、それはね」と続けようとした時、扉がノックされた

 

朱乃先輩が返事をし、部室の扉が開かれ生徒会長及びその役員が入室してきた

 

「失礼します」

 

先頭に会長の支取蒼那先輩が、それに続いて女子6名と男子1名が入室する

 

「生徒会メンバーお揃いで、どうしたの?」

 

「お互いに下僕も増えた事ですし、一度挨拶をと思いましてね」

 

「え!?下僕って事はまさか!?」

 

部長と会長の会話にイッセーも察したのか驚いているのに対し、朱乃先輩から説明が入る

 

「このお方は上級悪魔、シトリー家の次期当主であらせられるソーナ・シトリー様ですわ。生徒会の方々は皆、ソーナ会長の眷属ですのよ」

 

「この学園に他に悪魔が!?まさかそれ以外にも!?」

 

「いいや、イッセー、この学園に通う悪魔はこの場に居るので全てだぞ」

 

本当はギャスパーも居るんだろうけど、かなりキツイ封印を施された部屋に居るからか気配が分からんのだよな・・・一度試しに「ガッチリと封印されているあの部屋って何ですか?」とリアス部長に聞いてみた事もあったけどはぐらかされちゃったし・・・

 

「・・・リアス、彼が前に言っていた?」

 

「ええ、下僕では無いけれど裏の事情を知っていてオカルト研究部に入った有間一輝よ。そしてこの二人が私の新しい眷属『兵士』の兵藤一誠と『僧侶』のアーシア・アルジェントよ」

 

「新しく私の『兵士』となった二年の匙 元士郎(サジ ゲンシロウ)です」

 

ソーナ会長に紹介されたサジが前に出てくる

 

「初めまして。この度、ソーナ・シトリー様の『兵士』となりました2年の匙 元士郎(サジ ゲンシロウ)です。よろしくお願いします」

 

「おお!同級生でしかも同じ『兵士』か!俺は兵藤一誠だ。よろしくな!」

 

イッセーが嬉しそうに自己紹介をするがサジはあからさまに溜息を吐く

 

「俺としては変態三人組の一人のお前と同じなんてのは酷くプライドが傷つくんだけどな」

 

「何~!?折角、人が友好的に挨拶してんのに随分とけんか腰だなぁ!」

 

「おっ!闘るか?俺は駒4つ消費の『兵士』だぜ。同じ新人同士だってんなら俺が負ける道理はねぇよ!」

 

「はっ!それを言うなら俺は駒8つの『兵士』だぜ!」

 

「はぁ!?駒8つ!?嘘つくんじゃねぇよ!お前のような変態がよ!」

 

「変態は関係無いだろうが!!」

 

二人の口喧嘩にソーナ会長が待ったを掛ける

 

「サジ、お止めなさい。今日は挨拶に来たと言ったはずですよ。兵藤君も御免なさいね、宜しければこれから仲良くしてやってください」

 

美人の会長に少し困ったように笑いかけられながらそう言われたイッセーも「い・・・いえ、自分もつい反発してしまいましたし・・・」と一気に勢いを無くす

 

「あの私、アーシア・アルジェントと言います。宜しくお願いします!」

 

次にアーシアさんが差し出した手をサジは両手で掴み「勿論だよ!此方こそ宜しくね!アーシアさん!」とニヤケ面で返事をする

 

「有間一輝だ。宜しく」

 

俺が手を差し出したからサジもアーシアさんの手を名残惜しそうに手放しながらも「ああ、宜しくな」と普通に握手してくれた・・・目の奥では『手を出すのが20秒早ぇえよ。もっと金髪美少女(アーシアさん)の手を揉んでたかった』と語っていたけどな

 

だが!俺はキミに会いたかったのだよ!サジ君!

 

「じゃあサジ、早速だが生徒会の男子メンバーのキミに頼みがある」

 

「頼み?」

 

いきなりだからかキョトンとしてるな・・・

 

「校内の風紀を乱す変態三人組を何とかしてくれ!今までは生徒会は女子しか居なかったから頼みづらかったけど男子が居るというなら是非もない!・・・という訳で頑張ってくれ!」

 

「はぁ!?何で俺がそんな事を!」

 

「ほら、お前生徒会じゃん。それに変態共の覗き行為などを追っかけまわすのって時々無性に虚しくなるんだよ・・・」

 

何処か遠くを見つめながらそう言う

 

「それにほら・・・あれだ。イッセーは悪魔だし?か弱い人間の俺が頑張るより同じ悪魔のサジの方がいいかなって!」

 

「何がか弱いだ!悪魔になった俺を変わらずにぶっ飛ばしてるお前が言うな!!」

 

いいんだよ!あの曹操ですら言ってたんだから、人間は弱っちいんだって!

 

「有間君、申し訳ありませんがサジを出向かせる訳にはいきません。」

 

まさかの生徒会長からのストップが掛かった!?

 

「生徒会でも例の三人組の事は時々議題には上がっていました。ですが、軽業師とも言える動きで何時どこで行われるか分からない覗き行為を止められる人材が今の生徒会に居ないのです。初めは貴方を生徒会に迎えるという意見もありましたが、生徒会の仕事をしつつ彼らを抑えるのは不可能であるとの結論が出まして・・・」

 

マジですか!シトリー眷属からのオファーが掛かる所だったの!?と言うか殆ど未遂とは言え『殆ど』だからか生徒会の議題にも上がってたんですね!

 

「サジィィィ!!今から仙術を極めてみる気はないか!?俺がお前を魔改造してやるぞ!」

 

「魔改造と言われて誰がやるか!!」

 

なんだよ。グリゴリ怪人よりはマシだと思うんだけどな・・・

 

「そういう訳なので女子生徒の平穏の為にも今しばらく頑張って頂けませんか?」

 

畜生!丸投げされた!

 

「・・・おい、イッセー、当事者としての意見は無いのか?」

 

「愚問だな。俺が!否!俺たちが!覗きをやめる事などない!!」

 

お前、生徒会長の目の前でよく胸を張れるな・・・

 

「イ・・・イッセーさんが女の子の着替えを見たいなら私が脱ぎますぅぅぅぅ」

 

「なぁにぃ!!イッセー貴様、金髪美少女にそんな事を要求してるのか!?どれだけエロで鬼畜なんだ貴様はぁぁぁ!」

 

かなり混沌としてきたな

 

「そっちも大変ね。ソーナ」

 

「ええ、そちらも、リアス」

 

イッセーとサジはその後それぞれの主にシバかれて一旦沈黙

 

生徒会メンバーとの顔合わせは無事?に終了した

 

 

 

 

生徒会メンバーと別れてから程無く俺たちは何処かの森の中に転移してきた

 

「ここは使い魔の森と言われている場所よ。使い魔にするのに適した生物が多く生息しているの」

 

ここが使い魔の森・・・新人悪魔は一度正式ルートで登録しなければ基本的に冥界に行けないって事はここは人間界の何処かなんだろうか?・・・特別保護区域的な?

 

疑問に思っていると頭上から声を掛けられた

 

「ゲットだぜぃ!」

 

「っひぅぅぅ!」

 

「誰だ!!」

 

イッセーは辺りを見渡し、アーシアさんはイッセーの後ろに隠れてしまった

 

「俺様はマダラタウンのザトゥージ。使い魔マスターに俺はなるんだぜぃ!」

 

木の枝に立っている使い魔マスターその人!・・・どう見てもそこいらに居るラフな格好のオッサンである。俺がもしポ〇モンファンだったら物申してたんだろうか?

 

「ザトゥージさん、お久し振りです。今日は事前に連絡した通り、新しく眷属にした此方の二人の使い魔を見繕うのを手伝っていただきたいのです」

 

イッセーとアーシアさんの肩に部長が手を置く

 

「あの・・・此方の方は誰なんですか?」

 

「うふふ。彼はザトゥージさんと言いまして、使い魔に関するプロフェッショナルなのですわ」

 

「今日は彼の意見を参考にしつつ、二人に合った使い魔を手に入れようという訳」

 

イッセーの質問に先輩二人が答える

 

「さ~て!お二人はどんな使い魔をご所望なんだぜぃ?強いの?速いの?それとも毒持ちとか?」

 

「はい!可愛くってエッチな事も許容してくれる子がいいです!」

 

欲望だだ漏れだな。此奴のそういう願望を素直に吐露できるのは凄いと思うよ・・・見習いたくは無いけど

 

「これだから素人はダメなんだぜぃ。使い魔は主人の足りない所を補えるのが理想、外見なんて二の次なんだぜぃ!」

 

ザトゥージさんは呆れたように言うがアーシアさんが「私も可愛い使い魔がいいです」と言うとコロッと意見を変えた・・・それで良いのか使い魔マスター

 

 

 

 

 

最初の転移先から少し歩いた先にある湖でザトゥージさんが立ち止まる。

 

「この湖にはウンディーネという水の精霊が住み着いてるんだぜぃ」

 

「おお!ウンディーネ!」

 

イッセーが瞳を輝かせているが恐らくこの後現れるのは・・・

 

そして直ぐに湖が光だし、筋肉の鎧を纏ったウンディーネが現れた

 

「良かったな少年!アレはレア度が高い!打撃に秀でたウンディーネも悪くないんだぜぃ」

 

「悪いよ!どう見ても水浴びに来た格闘家じゃねぇか!!」

 

可愛く儚げな乙女を想像していたであろうイッセーが涙ながらに訴える

 

俺もあんなウンディーネは見たく無かったが他にも気になる事がある

 

「あの・・・ザトゥージさん。ザトゥージさんはあのウンディーネを可愛いと思ったんですか?」

 

「・・・?。当然だぜぃ?使い魔マスターを目指す俺っちは全ての使い魔が可愛いんだぜぃ!」

 

「・・・そうですか」

 

素晴らしい博愛精神だけどアレか?ポケ〇ンならゴー〇キーやルージュ〇とかを可愛がるみたいな感じか?

 

結局ウンディーネを使い魔にするのは諦めて一行は森の奥に進む

 

「待った。上を見てみるんだぜぃ」

 

皆で上を見ると枝の上に蒼いぬいぐるみのようなドラゴンがいた

 

「アレは蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)の子供なんだぜぃ。成体になったら捕まえるのはまず無理、試すなら今しか無いんだぜぃ」

 

「うわぁ!可愛らしいですぅ!」

 

「ドラゴンか!俺もドラゴンな訳だしあいつを使い魔にしてやるぜ!」

 

イッセーが意気込んで前に出た所で後ろの女性陣から悲鳴が聞こえた

 

「何だ!?」

 

『Boost!!』

 

おお!イッセーが素早く臨戦態勢に入っている。やっぱり実戦を経ると成長するもんだな

 

しかしコレは!?頭上から緑色のスライムが落ちてきて皆の服を溶かし出した。

 

俺や小猫ちゃんの仙術の探知にも引っ掛からなかったのは何故だと思い、目の前のスライムをよくよく観察してみると、どうやら生物と言うよりも半ば自然そのものみたいな感じだ

 

「ぐはっ!」

 

「ぐえっ!」

 

俺とイッセーが二人そろって小猫ちゃんの拳で殴り飛ばされた!

 

「スケベ死すべし」

 

違うんだって小猫ちゃん!俺はあくまでスライムの分析をしてただけでその際、偶々視界に肌色成分が多く映っただけなんだって!・・・だから俺は悪くない!悪いのはイッセーという事でお願いします!

 

「此奴は女性の衣服を主食とするスライムなんだぜぃ。大抵は女性の体液を狙う触手と一緒に行動するんだが今回はこいつ等だけみたいだぜぃ」

 

ザトゥージさんはそう説明しながらもスライムが目に張り付いてて視界が塞がっているようだ・・・鼻血が垂れてるから多分見たんだとは思うが

 

祐斗も同じく視界が塞がってるらしく、少し離れた場所で適当に剣を振り回している・・・危ないなコイツ!

 

そうこうしている内にリアス部長たちがスライムの拘束を解き、朱乃先輩の雷撃が広範囲のスライムを焼いて炭にする

 

「待ってください朱乃さん!部長!俺、このスライムを使い魔にします!俺と此奴が・・・スラ太郎と出会ったのは、もはや運命なんです!」

 

「イッセー、もっと良い使い魔を見つける事にしなさい・・・朱乃!」

 

「はい部長!」

 

イッセーの懇願虚しく朱乃先輩が残るスライムに雷撃を浴びせようとする

 

「ダメだ、スラ太郎!俺は・・・俺はお前を失いたくないんだぁぁぁぁぁ!!」

 

『Doragon Booster Second Revelation!!』

 

イッセーの力が跳ねあがり赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の形状が変化する・・・ここで進化するのかよ!?

 

驚いて一瞬動きが止まった朱乃先輩が雷撃を放つよりも早くイッセーが吼える

 

赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)!!」

 

『Transfer!!』

 

緑色の光がスライムを包み込み、直後にその場に雷撃が放たれるが、スライムは健在だった

 

「はっはぁぁぁ!やったぜ!俺の高めた力を雷の耐性に変換してスラ太郎に送り込んだ!もう朱乃さんの雷は効きませんよ!!」

 

“バシュン!!”

 

・・・あ、リアス部長の消滅の魔力で残りが消え去った

 

「スラ太郎ぉぉぉぉぉぉ!!」

 

イッセーの慟哭が森に響き渡る

 

『こんなマヌケなレベルアップをした宿主は初めてだ・・・』

 

ドライグの呆れた声も聞こえてくる

 

因みに蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)はイッセーがアホな事をしている間にアーシアさんに懐いたらしく『ラッセー』と名付けられ、晴れて彼女の使い魔となったようだ

 

結局イッセーはスラ太郎との涙の別れのショックから立ち直れず、その日は使い魔ゲットには至らなかった

 

「畜生!いつか皆をアッ!と驚かす凄い使い魔をゲットしてやるからな!」

 

「・・・どんな奴だ?」

 

「エロいのだ!!」

 

また消し飛ばされるのがオチだと思うんだけどな・・・




やっとライザー編です


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第4章 戦闘校舎のフェニックス
第一話 喧嘩、売ります!


使い魔の森から帰って来てからしばらく経ったある日の昼食、イッセーが松田と元浜に至近距離でメンチを切られながら詰め寄られている

 

「おいイッセー、いまだに納得できないが、お前がアーシアちゃんと一緒に暮らしているから弁当の中身が一緒なのは分かる。しかしだ!今日のお前の弁当、何時もよりかなりトッピングが可愛らしくないか?」

 

「ああ、その通りだ!怒らないから誰が作ったのか言ってみろ!!」

 

「フッ、松田、元浜、知ってるか?アーシアのエプロン姿ってのは見ているだけで心からの安らぎを得られるんだぜ」

 

イッセーが何かを思い出すように告げる

 

それを聴いた二人は険しい目尻の端から瞬間的に涙を溢れさせながら勢いよく立ち上がった

 

「貴っ様!イッセー!もう許さんぞぉぉぉぉ」

 

「おい!怒らないって言ったのは何だったんだよ!?」

 

「そんな過去の事は忘れたな!それよりも貴様まさか、他にも色々してもらってるんじゃあるまいな!朝に起こしてもらったりとか!朝食の時に、あ・・・ア~ンしてもらったりとか!!」

 

するとイッセーは二人に対してヤレヤレといった感じで「何だお前ら?そんな事すらして貰った事も無いのか?遅れてるな」と挑発する

 

「ぬぅぅうん!やはり許せん!何故貴様らの周りに美少女が集まってるんだ!」

 

「イッセー!イッキ!俺たちにも一人くらい紹介してくれたって罰は当たらないと思うぞ!というか誰か紹介してください。お願いします!」

 

二人が涙を流しながら頭を下げてくるがバッサリと切って捨てる

 

「いや無理だろ。お前ら自分たちの評判が地の底で尚且つ有名だって事忘れてないか?」

 

そんなお前らでも問題ないとしてくれる女の子を紹介するとか難易度高すぎだろ

 

「勿論タダとは言わん!紹介してくれたら激レアな紳士の円盤を3点セットで貸し出そう!」

 

「分かった!ちょっと待ってろ!」

 

イッセーが即座に喰い付き、そして携帯で連絡を取る事少し・・・

 

「松田、元浜、一人今日にでも会ってくれるってよ。お友達も呼んでくれるとさ」

 

「おお!本当かイッセー!やはり持つべきものは頼れる友人だな!」

 

「それで?その子は何て名前の子なんだ?」

 

「・・・ミルたん」

 

おいイッセー、ちゃんと二人の目を見て答えてやれよ・・・

 

 

 

 

 

 

放課後、オカルト研究部は今日は表も裏もコレといった活動は無いようでまったりと過ごしている

 

そして今は部室に置いてあったチェスでイッセーと対戦中だ

 

朱乃先輩には負けて、祐斗とは引き分けに終わった―――せめて一勝はしたいな

 

俺とイッセーの隣にはそれぞれ小猫ちゃんとアーシアさんが座ってチェスの行方を見守っている。アーシアさんはイッセーを応援して小猫ちゃんは観戦しているといった感じだが・・・

 

「チェック!」

 

「だあぁぁぁ!負けた!」

 

コレで0勝2敗1分け。負け越した!

 

「イッセーさん凄いですぅ」

 

「フッフッフ!これでも最近は家で暇な時にチェスをやる頻度が増えたからな!以前までの俺と同じだと思って貰っちゃぁ困るぜ」

 

この野郎、天狗でもないのに鼻高々になってやがる

 

「ん?家でって事はアーシアさんとチェスしてんのか?それともパソコンで?」

 

「いや、ドライグを誘ってな」

 

「ドライグと!!?」

 

赤龍帝とチェス打ってんのコイツ!?

 

「はい。私もドライグさんと何度か打たせて頂いたんですが、とってもお強いんですよ!」

 

アーシアさんも!?―――驚いているとイッセーの左手の甲に緑色の宝玉が出現して当のドライグが会話に入ってきた

 

『チェスを実際にやる事になるとは思わなかったが、コレでも歴代の赤龍帝の中にはボードゲームにのめり込む奴も居たからな。自然と俺も詳しくなったりしたものだ』

 

「へぇ。そんな宿主も居たのか」

 

『最後には負けが続いてスランプに陥った時、全てを破壊し自滅したがな・・・』

 

「大迷惑掛けてんじゃねぇか!!」

 

イッセーが驚いているが、多分その人覇龍(ジャガーノート・ドライブ)使ったな!大迷惑なんてレベルじゃねぇ!何?ゲームで負けたからその相手を『紅蓮の煉獄』に沈めちゃったの!?

 

そんな風に戦慄していると、小猫ちゃんが左腕に頭を預けてきた

 

「小猫ちゃん?」

 

軽く声を掛けてみるが、どうやら寝てしまっているみたいだ。昨日は例のごとく小猫ちゃんを召喚して遅くまで修行していたからな、疲れが溜まってたのかもしれん

 

因みに俺が小猫ちゃんを召喚している事は当然リアス部長にもばれていない

 

イッセーのお得意様でもあるミルたんだってアンケートの名前の欄に【ミルたん】と記入しているのだから偽名でも問題ないだろう

 

「あらあら、小猫ちゃんが殿方に寄りかかって寝息を立ててるなんて珍しい光景ですわね」

 

まぁ、これでも黒歌と一緒に一年の付き合いはありますしね

 

「くぅぅぅ!ガードの堅い小猫ちゃんにそんな風に寄りかかられるなんて、羨ましいぞイッキ!」

 

「あらあら、でしたら私が今度寄りかかって・・・いえ、何でしたら膝枕でもして差し上げましょうか?」

 

「本当ですか!?朱乃さん!?」

 

イッセーが驚き、その後すぐにその光景を想像したのかデレッとした顔をする

 

「朱乃、眷属を可愛がるのは私の役目よ。でもそうね、イッセーも初陣で堕天使を倒した事だし、ご褒美を上げなくちゃね」

 

「ご褒美!?」

 

イッセーのニヤケ面がより一層深まるが、そこでアーシアさんがイッセーの頬を引っ張る

 

「もうイッセーさん!私イッセーさんの緩んだ顔はあんまり好きじゃありません!部長さんも朱乃さんもイッセーさんを誘惑しないでください!」

 

「ふふっ、ならイッセー、さっきの話は無しね。私のご褒美は契約を一件でも取れるまではお預けにしましょうか」

 

「そ・・・そんなぁ!」

 

イッセーの嘆きと共にその日はお開きとなった

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、教室に行くと松田と元浜が既に教室に来ていてどす黒い怒りのオーラを纏いながら待機していた

 

その後、程無くイッセーが教室に入ってきた瞬間に二人は息を合わせた全力のドロップキックを見舞い、イッセーを教室の外に吹き飛ばす

 

「なに?どうしたの?二人とも、随分と過激な挨拶の仕方だねぇ?」

 

イッセーも半ば原因は予想が付いているのか引き攣ったような笑みで返す

 

「ふざけるなよ、貴様!お前って奴は!なぁにがミルたんだ。どう見てもヘビー級の格闘家じゃねぇか!しかもそれがゴスロリ装備って何処の最終兵器だ!!」

 

「ほらでも、心は乙女だったろ?」

 

「心が乙女だろうが『漢女』と合コンできるかぁ!待ち合わせ場所に行った時、別格なのが5人、さらには追加で10人のピッチピチのゴスロリ集団に囲まれた俺たちの心境が貴様には分かるというのか!逃げ道なんて何処にも無かったんだぞ!!」

 

「延々とミルキーやら『魔法世界セラピニア』について語られるし!最近新しく入隊した魔法少女グループには欠かせないマスコットも紹介するとか言って近くの川に連れていかれて自分の事を『水の精霊、ウンディーネ』とか名乗る水浴びしてる格闘家とも引き合わされて、日付が変わるまで16人の変態共から逃げ出せなかったんだぞ!」

 

・・・ウンディーネさん、あの後ミルキー軍団のマスコットキャラクターになったの!?松田、元浜良かったな。気づけなかった様だし、知りたくも無いだろうがその水の精霊は女性型だぞ!

 

・・・黙っておこう

 

 

 

 

そんな朝の騒動も終わり放課後となった。廊下で同じ二年の祐斗が出てくるのを待ち、丁度彼が合流した際に旧校舎から強大な気配が漂ってきた

 

同じ場所にリアス部長と朱乃先輩に小猫ちゃんが居て特に気も乱れてないから敵という訳では無いのだろう・・・とすればあの人か

 

思わず旧校舎の方を見て固まってしまった俺をみて祐斗が声を掛けてくる

 

「イッキ君。急に固まっちゃったけど、どうしたんだい?」

 

「たった今、旧校舎に強大な気配が現れたんだ。部長たちも居るみたいだけど落ち着いてるみたいだし・・・祐斗、お前何か心当たり無いか?」

 

俺が知ってても可笑しいしな。俺の言葉に佑斗も旧校舎に視線を向けて気配を感じ取ろうと集中したみたいだが特に何も感じなかったようで首を軽く横に振っている

 

「凄いね、僕も感覚は鋭い方だけどこの距離では何も感じないよ。・・・それだけの気配の持ち主でこの学園にわざわざ来るという事は多分あの人だと思う。兎に角、僕らも部室に急ごうか」

 

そうして俺たちは少し小走りになりながらも部室に着きそのまま中に入る

 

そこにはやはりと言うべきか銀髪美人のメイドさんが居た

 

「グレイフィアさん!」

 

イッセーが既に彼女の事を知ってるという事はリアス部長は昨日の夜にイッセーの部屋に突撃かました後ですか・・・

 

「皆、揃ったわね。今日は部活を始める前に皆に話したい事があるの」

 

「お嬢様、宜しければ私からご説明いたしますが・・・」

 

「いいえ、私から話すわ。実はね・・・」

 

そこまで言いかけた所で部室の一角に突如として魔法陣が展開された

 

「・・・フェニックス」

 

祐斗が険しい表情でそう呟く

 

そして魔法陣に炎が巻き上がり一人のちょい悪系ホスト的な男が現れた

 

召喚されるたびに炎が出るなら乾燥した冬場とかに埃っぽい所に現れたら、粉塵爆発で吹っ飛んだりとかするんじゃないかな?・・・悪魔を召喚するなら人目のない所でって人もいるだろうし

 

変な方向に思考が寄っている内にキザッたらしく髪をかき上げたその男が話し始めた

 

「ふぅ、人間界に来るのは久しぶりだ。会いに来たぜ、愛しのリ~アス!」

 

コ〇スボイス!生〇ヤスボイスFOOOOOOO!!

 

「あの、此奴は誰なんですか?」

 

「兵藤一誠様。この方は純血の上級悪魔であるフェニックス家の御三男、ライザー・フェニックス様です」

 

俺が内心身悶えてる内にグレイフィアさんがイッセーの質問に答えている

 

「フェニックス家?」

 

「そして、グレモリー家の次期当主の婿殿。即ちリアスお嬢様の婚約者であらせられます」

 

「こ・・・婚約者ぁぁぁ!?」

 

イッセーの絶叫が部室内に木霊し当のリアス部長は嫌そうにため息を溢すのだった

 

 

 

 

アポなし突撃訪問だろうが無礼だろうが上級悪魔且つ婚約者が訪ねてきた以上は最低限でもおもてなししなくてはならないのが貴族社会

 

眷属と客人枠の俺は部室の隅の方で待機して部室の中央のソファーでリアス部長たちのやり取りを眺めている

 

「お茶ですわ」

 

「う~ん、いい香りだ。リアスの『女王』の淹れたお茶は美味しいなぁ」

 

ライザーはそう言うが朱乃先輩はニッコリと笑うだけで返事もしない・・・絶対に怒ってるな

 

当のライザーはリアス部長の隣に座り部長の不機嫌そうな顔を堪能しつつ体の各所を触りまくっているが、とうとうリアス部長も我慢の限界が来たようで「いい加減にして頂戴!」と立ち上がり一歩距離を取る

 

「前にも言ったでしょう。私は貴方と結婚する気は無いわ。自分の結婚相手は自分で決める!」

 

それに対しライザーも立ち上がりヤレヤレといった風に答える

 

「それは前にも聞いたがな。君の所のお家事情は意外と切羽詰まってるんだろう?俺もフェニックスの看板を背負って此処に来てるんだ。はい、そうですかと簡単に帰る訳にはいかないんだよ」

 

そう言いつつリアス部長の顎をクイッと掴んで顔を近づける・・・伝説の顎クイだが両者の間にあるのは桃色空間とは程遠い雰囲気だ

 

だがそれらを見ていたイッセーもついに切れたようで「おい、あんた!貴族だか何だか知らねぇがそれが婚約者のする態度かよ!」と噛み付く

 

確かに、俺にも仮にも九重という婚約者がいる身だし、目の前の男を同じとは思いたくはないな

 

ライザー戦に参加しやすいように俺も挑発しておくか―――小猫ちゃんは仙術を身に着けているとは言ってもそれで絶対に勝てると言える程ライザーは弱くない

 

殆ど一番最初のやられ役みたいな立ち位置だがプロのレーティングゲームでほぼワンマンプレイをしながらも実質無敗と能力は高い。もしも小猫ちゃんが仙術を使うという情報が入っていれば距離をとった砲撃戦になるだろうし向こうには魔力も回復できるフェニックスの涙もある

 

向こうが小猫ちゃんの事を知らなければ畳みかけるようにぼこぼこに(仙術で)殴ればリアス部長の勝利、そうでなければ向こうの勝利と今はまだ勝率は5割と言っていいからな

 

「イッセー、そう言ってやるな。今のやり取りで分かるだろう?あいつは誇り高いフェニックスなんかじゃなくて、ただの焼き鳥野郎だ。それに見てみろよ。あいつの前髪、何かひよこが乗ってるようにも見えないか?アレが本当の鳥頭ってな!」

 

挑発は効果抜群だったようで此方に殺気を飛ばしてくる

 

「何だ貴様らは!下級悪魔に下等な人間が上級悪魔同士の会話に入ってくるな!特にそこの人間!焼き殺されたいのか貴様は!」

 

やはり下等と見下す人間程度に馬鹿にされるのは許せなかったようでこの程度の挑発に容易く乗ってきた。ふむ・・・もう少し煽っておくか

 

「イッセー、祐斗、今日部活が終わったらオカ研男子部員で焼き鳥食べに行かねぇ?ほら、駅前に新しくオープンした、やき〇り貴族って店でさ」

 

あえてライザーを無視して会話を進める。ひよこの(さえず)りなど聞こえやしない

 

「お!いいねぇ!あ~、腹減ってきた」

 

イッセーも乗ってきたな。祐斗は流石に苦笑しているだけだが

 

「・・・いいだろう。如何やらよっぽど俺様をコケにしたいようだな!この場でリアス以外全員焼き殺してやろう!」

 

「そんな事はさせないわ!もし私の可愛い下僕や部員に手を出すと言うなら、その前に貴方を消し飛ばして上げる!」

 

二人の魔力が高まり、あわや衝突するかと思われた時グレイフィアさんからストップが掛かった

 

「お納めくださいませ」

 

特にプレッシャーを放ったわけでも無いのにその一言で二人の魔力が鎮まる

 

「リアスお嬢様、ライザー様。私はサーゼクス様の命を受け此処に居りますゆえ、一切の遠慮はいたしません」

 

「最強の『女王』と名高い貴女に言われたら、流石の俺も怖いですな」

 

肩をすくめながらライザーが言う・・・恐がってるようには見えんがな

 

フェニックスの不死身を突破する方法の一つに魔王級の攻撃ってのが有るがグレイフィアさんはその魔王級だぞ?―――まぁ大戦後に生まれたであろうライザーはそんな規模の攻撃を受けたことも無いだろうから実感もなにも無いだけなのかも知れないが

 

「旦那様方もこうなる事は予想しておられました。よって決裂した場合の最終手段も仰せつかっております」

 

「最終手段?」

 

リアス部長が首を傾げながら言う

 

「お嬢様、あくまでもご自分の意思を貫きたいと仰るのでしたら、レーティングゲームで決着をお付けください」

 

「!!」

 

「フッ、そう言う事か、リアス!俺はもう何度も公式戦で戦ってるし勝ち星も多い。対して君はゲームに参加する資格すら持っていない・・・それでも俺と闘うのか?結果は見えてるがな」

 

ライザーの言葉に朱乃先輩からレーティングゲームに参加できるのは本来、成熟した悪魔だけと注釈が入る

 

「そう・・・そこまで私の人生を弄びたいっていうのね!いいわライザー!ゲームで貴方を消し飛ばして上げるわ!!」

 

リアス部長の返事にライザーはニマニマした笑みを浮かべた後で部室を見渡す

 

「リアス、確認しておくがお前の下僕はこの場にいる奴らで全てなのか?」

 

「だとしたらどうなの?」

 

「そこに居る人間は下僕にしないのか?」

 

「誘った事もあるのだけどね。人間としてやりたい事があるそうよ」

 

「フム・・・よしリアス!ソイツもゲームに参加させろ」

 

「な!?・・・何を言ってるのライザー!!」

 

「知っているだろう?俺の方は駒がフルに揃っている上に君はゲーム未経験。多少のハンデは付けてもいいだろう。それにその人間には俺様の事を馬鹿にした事を後悔させてやらなきゃいかん」

 

「ライザー!貴方は!」

 

心配してくれるリアス部長には申し訳ないが内心いい流れと思っているとライザーから先に声を掛けられた

 

「とは言え無理に出場させて直ぐに自主的にリタイアされても詰まらん。本人の意思確認は必要だろう―――で?貴様はどうする?しっぽを巻いて逃げるのか?」

 

「いいでしょう。戦ってやりますよ」

 

「イッキ!?」

 

「問題ありません部長。後は貴女の承認だけです。やらせてください!」

 

「部長!俺からもお願いします。此奴の強さは俺が保証します!」

 

イッセー、気持ちは嬉しいがお前にはせいぜい変態三人を撃退する程度の力しか見せてないぞ?

 

「・・・危険だと私が判断したら強制的にリタイアさせるわ。それでも良い?」

 

「はい!」

 

婚約パーティーで婚約破棄なんて不名誉な称号なんて要らないんですよ!

 

「話は纏まったようですね。ではレーティングゲームにて決着をつける。お二方、異存はございませんね?」

 

「ええ」

 

「ああ」

 

「では、ゲームの期日は十日後と致します。ライザー様も仰いましたが、その程度のハンデは有ってしかるべきかと―――ライザー様も本格的な修行をするのはお控え願います」

 

「バージン相手にそこまで大人げない真似はしないさ。経験者として優しく甚振ってやるよ、リ~アス♪」

 

「相変わらず品が無いわね。いいでしょう、その余裕、戦いが始まっても何時まで続いていられるか見ものだわ」

 

リアス部長の返事にライザーは小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。自分が敗北する展開など欠片たりとも考えてないのだろう

 

「じゃあなリアス。次はゲームで会おう」

 

ライザーは転移で帰って行った・・・ライザーの眷属来てねぇじゃん!問題はないけどさ!

 

「では皆、私と朱乃はグレイフィアと詳細を詰めておくから解散して頂戴。追って連絡するわ」

 

そこで解散となったが英気を養うという意味も込めて家に夕飯は要らないと断りを入れ、イッセーや祐斗と共にや〇とり貴族に食べに行った・・・イッセーは親の仇に噛み付くようにして食べていたのは少し呆れたが―――そこまでしなくても良いのに

 

 

 

 

「そういう訳で明日から十日間ほどは連絡が取りづらくなると思うから終わったらこっちから連絡するよ」

 

あれから家に戻って今は黒歌と二人でイヅナに向かって語り掛けている

 

修行がどんな感じのスケジュール構成になるかは判らないし、今回のゲームはリアス部長の将来が掛かった試合でもあるからな

 

通信先の九重には悪いが暫くこちらを優先すると話してるところだ

 

≪うむ。そういう事では仕方が無いの。それに話を聞いているだけでもそのライザーという奴はいけ好かんのじゃ!イッキと同じ婚約者とは思えん!私は関係無いかもしれんが、私の分も含めてやっつけてやるのじゃ!≫

 

「そうねぇ、私も白音の恩人ではあるみたいだし?白音自身も戦うって言うなら応援位はしてやってもいいにゃ」

 

「応!じゃぁそろそろ切るな。お休み九重」

 

≪お休みなのじゃイッキ!それに黒歌殿!≫

 

「お休みにゃん」

 

明日からの修行でどれだけ皆がレベルアップするだろうか?

 

「まぁ頑張るしか無いんだけどな。お休み黒歌」

 

「ええ、お休みにゃん♪」

 

明日からの修行に備えてその日は少し早めに床に就く事にしたのだった

 

 

[Boss side]

 

冥界を治める四大魔王。現ルシファーの住まう魔王城の玉座にてその椅子に座れる唯一の人物であるサーゼクス・ルシファーは自らの眷属であり右腕たる『女王』のグレイフィア・ルキフグスからの報告を耳にしていた

 

「―――そうか。やはり思った通りになったようだね。全く、父上にも困ったものだ。リアスが大学を卒業するまでは婚約の話に口を挟まないと言っていたのに、それを強引に婚約者を決めればリアスが反発するのは目に見えていただろうに」

 

サーゼクス・ルシファーの元々の名前はサーゼクス・グレモリー。リアス・グレモリーとは血の繋がった実の兄妹だ。これは彼がルシファー家に婿入りしたという意味ではなく、現在の四大魔王は初代四大魔王の家名から取った襲名制の為に名乗っているものである。それ故に初代四大魔王の直系の子孫の家名と現四大魔王の役職としての名前が混在している形となっている

 

四大魔王と書けばそれぞれの立場は対等のように聞こえるし実際ほぼその通りだがルシファーはその中でも代表として扱われる事が多い。日本で例えるなら総理大臣のようなものだ

 

好き勝手に強権を振るえる訳ではないが誰が一番かと問われればルシファーという事になる

 

「まぁ父上は早くリアスの子供の姿を見たかっただけなんだろうけどね。リーアたんの子供かぁ・・・生まれてくるのは姪っ子かな?それとも甥っ子かな?―――うむ。父上が急くその気持ちはよく判r"スパァアアンッ!!"」

 

冥界の代表たる魔王ルシファーの頭にハリセンが振り抜かれたかのような小気味の良い音が響く。常人ならば目にも映らぬ速さだったがこの場には現在サーゼクスとグレイフィアの二人しか居ないので下手人の特定は容易だ。というかサーゼクスの目にはちゃんと見えていた

 

一瞬だけ影がブレながらも先ほどから変わらぬ位置で鉄面皮を張り付けている自身の『女王』の様子に冷や汗を流しつつ"ゴホンッ"と一つ咳を吐く

 

「だがそれもリアスの幸せ有ってこそだ。しかし今の私は魔王だからね。リアスには自分の力で望む未来を勝ち取って貰わなくてはならない―――だが、ライザー君相手では正直厳しいところがある。新たにリアスが眷属にした赤龍帝も今はまだその力を扱い始めたばかりだと言うしね。グレイフィアから見てリアスの眷属はどうだい?直接その目で見たキミの意見を聞きたいのだが」

 

サーゼクスは魔王となった以上は実家との繋がりを不用意に強調出来ない立場だ。それ故にリアスの眷属の実力などもほとんど書類上でしか判別が出来ない

 

リアスの眷属の中で一番フェニックスの不死身に対抗出来るであろう小猫の実力にしたって以前出会ってからそれなりに時間も経過している有様だ

 

そこで腹心たるグレイフィアの意見を聞きたかった・・・なんだかんだ言って妹が心配なのである

 

「はい。リアスお嬢様のご眷属は皆、順調に実力を伸ばしているようです。私見ですが現状では正面からぶつかれば勝率3割未満。作戦次第で5割に近づけると言ったところでしょう」

 

「ふむ。予想以上に強くなっているようだね。私の見立てではそこから更に2割を引いた程度だと思っていたが、良いことだ。これは純粋に応援したくなってしまうね・・・無論、表立っての贔屓は出来ないが」

 

純粋でない応援として何をするつもりだったのか―――最悪婚約パーティーをぶち壊そうと考えていた(シスコン)は嬉しそうな笑みを浮かべている

 

長年の付き合いから妹の為なら魔王の立場だって投げうちそうな主の考えをぼんやりと捉えながらもグレイフィアは報告の続きを行う

 

「しかしそれはリアスお嬢様の眷属のみの話です。リアスお嬢様のチームに助っ人として入った彼が居ればまた違ってくるかと」

 

「ああ、仙術使いの有間一輝という少年の事だね?リアスからの報告書でも優秀な術者と記載されていたが、グレイフィアの意見は少し違うようだね」

 

「はい。かの青年の力は最上級悪魔にも匹敵するものかと思われます」

 

その報告にサーゼクスは僅かに眉が上がる。人間より基礎能力が優れている悪魔であっても最上級に分類される力の持ち主は決して多いわけではない。それを人間のそれもまだ高校生がその領域に達しているというのは十分驚きに値する情報だ

 

イッキは普段は自身の気をコントロールして気配を抑えているが歴戦の魔王クラスである彼女に初対面という事もあって至近距離で観察されれば内に秘めた実力を完全に隠し通す事は難しかった

 

「リアスお嬢様の報告を見る限りでは実力を隠しているのかそもそも実力を出すだけの機会が無かったのかは判断し兼ねますが、今回の試合では態とライザー様を挑発している様子が見受けられました。少なくともリアスお嬢様の不利になるような真似はしないかと思われます」

 

「そうか。ならば今回の件で彼の事も少しは判るかも知れないね―――願わくばただの良き友人であって欲しいものだよ」

 

 

[Boss side out]

 




ライザーって本当にまじめに考えれば弱くは無いんですよね

あとミルキー軍団にマスコットです。やっぱり魔法少女には使い魔ですよねw


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第二話 修行、そして開幕の一撃です!

翌日、俺たちは修行のためにグレモリー家が所有する別荘に向かって山を登っていた

 

山の麓辺りまでは転移してきたが山登りの修行とやっぱり登山を転移で済ませてしまうのは風情が無いという事で地道に歩いて登っているのだ

 

周辺一帯は既に都会の喧騒を忘れさせてくれる大自然に包まれていて、今は道の途中にある湧き水を飲んでいる

 

「あ゛あぁぁ!やっぱりこういった場所で飲む水は普段の何倍も美味しいですね」

 

「うふふ、そうですわね。イッセー君も早くいらっしゃいな。美味しいですわよ」

 

今だ坂の下で汗だくになりながら山を登っているイッセーは「はい~!」と精一杯の返事をする

 

今回は原作で小猫ちゃんが背負っていた荷物を俺が代行して、男子達が全員の荷物を受け持っている状態だ

 

一歩一歩踏締めるように前進するイッセーの隣を麓のコンビニで軽く買い物をした祐斗が悠々と追い抜いていく

 

その光景にアーシアさんが「私も荷物を持った方が・・・」と言うがリアス部長が「必要ないわ」と切って捨てる―――頑張れよイッセー、応援程度ならしてやらんでも無いからさ

 

 

 

 

 

数十分後、ようやくグレモリー家の別荘に到着したが・・・デカい!湖畔に建てられた気品ある洋館。どう考えても7人じゃ使い切れない大きさだ

 

「デ・・・デケェェェェ!」

 

「うわー!綺麗ですぅ!」

 

イッセーとアーシアさんも驚いてるな

 

「ここがグレモリー家の所有する別荘よ。中に入って着替えたら早速修行を始めましょうか」

 

「直ぐに修行!俺もう此処に来るだけでヘトヘト何ですけど!?」

 

「弱音を吐かないの。修行はもっと厳しいのだからね」

 

「もっと!?そんなぁ!」

 

項垂れるイッセーを後にして一行は別荘の中に入っていった

 

山盛りの荷物を仕分けしてから男女で別々の寝室に入ってジャージに着替える。季節はほぼ夏だが山の上という事もあって長袖である

 

この洋館の大きさならそれぞれ個室という手もあるのだろうが、親睦をより深める意味合いも有ってか全員同じ部屋だ

 

着替え終わってから別荘の外に出て皆と合流し、手始めにイッセーと祐斗が木刀で手合わせをする事になった

 

「いくぞ!木場ぁぁぁぁ!」

 

イッセーは真っすぐ突っ込んでいって剣を振り回すが全て祐斗に軽く受け流されている

 

まぁイッセーは学校の授業位でしか剣を握ってないはずだし、仕方ない部分はあるのだろうが殆ど腕の力だけで無理やり振り回しているような感じだ

 

「そうじゃない!剣士を相手取る時でも剣だけじゃなく、全体を見るんだ。でないと・・・」

 

祐斗が即座に足払いを掛けてイッセーを転ばせて眼前に木刀を突き付ける

 

「こんな風にやられちゃうからね」

 

「ま・・・参った。」

 

一旦決着が付いたのでイッセーに代わるように祐斗の前に出る

 

「アレ?イッキ君は自前の木刀があるって言ってなかったっけ?何も持ってないようだけど?」

 

「ん?ああ、ちゃんと持ってるよ。さぁ来い!『星砕き』!」

 

空中に梵字を仙術の気で描き一本の木刀を顕現させる

 

アニメの黒歌が梵字を描いていたシーンがあったけど、どうやらアレは仙術の領分だったようで今のは【タラーク】と呼ばれる『蔵』の意味を内包する字でちょっとした荷物を『だいじなもの』として仕舞ってあったのだ

 

梵字も仙術の一種と言う事で簡単な物といくつか便利そうな物は教えてもらっていたりする

 

「・・・『洞爺湖』って書いてあるみたいだけど?」

 

「フッ!これは俺が洞爺湖の仙人から譲り受けた我が相棒!その真の名が『星砕き』と言うだけさ。此奴の力はその身をもって味わうといい!」

 

祐斗に向かって木刀を突き付けて渾身のドヤ顔を見せる。今の俺はさぞかし自信に満ちているように見えるだろう

 

「ッツ!君が仙術を扱い、妖怪にも伝手があるのは知っていたけれど、まさか仙人にまで知り合いが居るとはね」

 

皆と一緒に観戦に回っていたイッセーが「それタダのお土産屋の木刀じゃねぇか!」と言ってるのが聞こえるが、幸い驚愕していた祐斗は気が付かなかったみたいだ

 

これでも一応右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)の素振り以外にもこの『洞爺湖』の素振りはメニューに加えてたんだよ!

 

「行くぞ祐斗ぉぉぉ!」

 

流石にそのまま叩き付けたらポッキリと折れてしまうので、木刀にも気を巡らし大上段からの唐竹割りを見舞う

 

分かり易い一撃をまずは様子を見ようとした祐斗が防御では無く回避を選択したのでそのまま地面に向かって振り下ろした

 

“ドッゴォォォン!!”

 

轟音と粉塵が舞い20m級のクレーターが出来上がる。昔は必殺技の【じばく】を使ってこの威力だった事を考えると成長したものだ

 

サイラオーグ・バアルよりも長く、彼並みの修行はしたと自負しているからコレぐらいはね

 

回避した先の地面も陥没した影響も相まって、倒れてしまっていた祐斗に近づき木刀を突き付ける

 

「はははっ、降参だよ。それにしても凄まじい力だね『星砕き』と言うのは・・・」

 

・・・うん!取り合えず祐斗にはこのまま『星砕き』の真相は黙っておくか!

 

「イッキ、貴方こんなに強かったのね」

 

「それなりの力をリアス部長に見せておかないと『敵に囲まれた瞬間強制リタイア』なんて事にもなるかなと思ったのでパフォーマンスを含めて・・・」

 

「・・・分かったわ。必要以上に心配するのは止めておくわね」

 

そう言うと深くため息を吐いた

 

「おいおいおい!地形変わってんじゃねぇか!お前本当に人間かよ!?後イッキ、その木刀っておみy「シャラップ!!」」

 

イッセーが余計な事(真実)を言おうとしたので途中で言葉を遮る

 

「いいかイッセー、コレは『洞爺湖の仙人』から貰った木刀であってお前が見るのは初めてだ!そう言う事なんだ!分かったか!」

 

「お・・・おぅ」

 

「ならば良し!」

 

折角だからこの設定を貫いてやろう!

 

「イッキ先輩、また暴走してます・・・」

 

はっはっは!遊び心は重要だよ小猫ちゃん!

 

 

 

 

あれから各自修行に打ち込む中、何度か闘気の出力を抑えて純粋な剣技で祐斗やイッセーと闘ったのだが祐斗には勝てなかった

 

剣筋では勝っているし脳のリミッターを解除する技を使えば勝てるだろうが、やはり今まで練習相手が全く居なかったのが響いてるようだ・・・小猫ちゃんは徒手空拳だし参曲(まがり)様や黒歌も遠距離タイプだったからな

 

その点祐斗は一説では新選組最強とも謳われる『沖田総司』を師に持つだけあるようだ―――型や技同士の繋ぎが上手い

 

我流でしかも練習相手が居ないとやはり限界があるな・・・Fateの佐々木小次郎?あんな暇つぶしで次元を捻じ曲げる人と一緒にしないでくれ

 

その後イッセーとアーシアさんは別荘の中で朱乃先輩から魔力の扱いについて指導を受けている―――その間に俺と小猫ちゃんが体術の練習で、リアス部長も眷属最強の小猫ちゃんと俺との戦闘力を把握しておきたいみたいで見学している・・・『王』の一番の役割は指揮官だからね

 

しかし、あくまで体術の練習なので身体強化のみ、気弾や相手の気を乱すといった攻撃は無しだ

 

消耗の大きい『猫又モードレベル2』も修行を始めたばかりの今は使えないので通常モードの小猫ちゃんとの組手だ―――組手と言っても既に此処一帯は紛争地帯みたいになってしまっているが

 

暫く戦っているとリアス部長からストップが掛かった

 

「小猫!イッキ!一旦戻って昼食にしましょうか、朱乃からもうすぐ出来上がると連絡が来たわ」

 

「はい!」

 

「・・・お昼」

 

朱乃先輩の料理か!お茶やちょっとしたお菓子なら食べた事があるけど、本格的な料理をいただくのは初めてだな

 

別荘に戻り皆で昼食を食べる。朱乃先輩の料理は和食でどの料理もそれなりに凝った作りをしているようだ・・・魔力で下ごしらえすれば時間も節約できるのかな?

 

「美味しい!どれもとても美味しいですよ朱乃先輩!」

 

「確かに!朱乃さんは絶対に良いお嫁さんになれますよ!」

 

「うぅぅ!私もイッセーさんに喜んでもらえるようにもっとお料理を頑張らないといけません」

 

「あらあら、でしたらアーシアちゃん。今度私と一緒にお料理いたしましょうか?アーシアちゃんはイッセー君のお母さまからお料理を習っているようですが、私からも別の視点でアドバイスできる事があると思いますわよ?」

 

「いいんですか!?是非お願いします!」

 

微笑ましいとも言える光景を見ながらも昼食を食べ終わり、各員其々の基礎修行や模擬戦に戻っていき日が暮れた所でその日の修行は打ち止めとなった

 

晩飯はイッセーとアーシアさんが魔力のコントロールの修行も兼ねて作り、コレでもかという程のマッシュポテトやポテトスープ、ポテトサラダが出された

 

イッセー、やはりポテトを魔力でひん剥きやがったな・・・

 

「イッセー、今日一日修行をしてみてどうだったかしら?」

 

「・・・はい。俺が一番弱かったです」

 

リアス部長の問いかけにイッセーが気落ちしたように答える・・・と云うか物理的にガックリと肩が落ち込んでいるな

 

「そうね、それは確かだけど貴方の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)やアーシアの聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)も勿論貴重な戦力よ。敵と遭遇した時に逃げるか、もしくは味方が到着するまで耐え忍ぶ位の力はこの合宿中に付けて欲しいの」

 

「りょ・・・了解っす」

 

「はいぃ」

 

「さて!食事が終わったらお風呂にしましょうか。此処は露天風呂でとっても気持ちがいいのよ」

 

おお!あれだけテンコ盛りだったポテトたちがもう殆ど無くなってる!まぁ大半は小猫ちゃんが食べたみたいだけど・・・よく胃に入るな

 

「露天風呂ぉ!?それはまさか・・・こ・・・混浴ですか!?」

 

「混浴じゃないわよ。でも、イッセーは私たちと一緒に入りたいの?私は構わないけど朱乃はどうかしら?」

 

「うふふ。一度殿方の背中を流してみたいですわね」

 

イッセーがもはや『ふぉぉぉぉぉ!』と奇声を発してるな

 

「アーシアもイッセーとなら構わないでしょ?」

 

アーシアさんも顔を赤らめながらも小さく頷き、イッセーのテンションが最高潮に昇り詰める

 

「小猫はどうかしら?」

 

「嫌です」

 

その一言で一気に撃沈したな

 

「なら、イッキとはどうかしら?小猫は中々気を許してるみたいだけど?」

 

「・・・ダメです―――私は三番目なので

 

なにかボソッと聞こえた気もするが全員ちゃんと聞こえなかったようで結局男子と女子で其々に露天風呂に入る事になった

 

 

 

 

 

「はぁ!・・・はぁ!・・・はぁ!・・・はぁ!・・・はぁ!・・・はぁ!・・・」

 

風呂に入ってからイッセーの奴は分厚い壁を凝視しながら息を荒げている。恐らくその先にある女子風呂(アヴァロン)を覗こうと必死なのだろう

 

「イッセー君、そんな事をして一体何になるって言うんだい?」

 

「黙ってろイケメン!これも大事な修行の内だ!」

 

「イッセー君、透視能力でも身に着けたいのかな?」

 

「覚えれば戦略の幅がグッと広がる能力ではあるけど、イッセーに覚えさせたらダメな力だろ」

 

此奴がそんな能力を身に付けたら魔力を完全に封じるか目を潰すくらいしないと覗きを阻止できないぞ

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!頑張れ俺の煩悩ぅぅぅぉぉぉぉぉ!」

 

一生やってろと言いたい所だがコイツの場合3日も続けたら恐らく習得してしまうのだろうな

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 

―――その頃の女子風呂

 

 

「ふぅ、癒されますわねぇ」

 

「これで一日の疲れが取れれば良いのだけれど・・・」

 

「取れますわよぉ」

 

駒王学園の二大お姉様と称される二人はたわわに実った果実を二つ、合計四つの果実を湯に浮かべながら談笑している

 

それを横目に見ながら教会の元シスターは視線を下に落として溜息を吐いた

 

「大丈夫です。アーシア先輩もきっと大きくなりますから・・・」

 

「小猫ちゃんはその・・・気にならないんですか?」

 

「私は絶対に(・・・)大きくなるので気になりません」

 

昔は気にしただろうが未来の自分を垣間見た猫又娘は心に大きなゆとりを持つに至ったのだ

 

「はぅぅ!私もそれだけの自信を持てるように頑張りますぅ!牛乳を沢山飲みますぅ!」

 

 

―――その頃の女子風呂 【完】

 

 

 

 

修行五日目、今までは基礎修行と模擬戦を繰り返すような形で鍛錬に励んでいる

 

アーシアさんもそろそろ簡単な障壁を張ったりできるように練習を始める予定で、イッセーも夜中にアーシアさんのところに出向いているみたいだからあの必殺技の練習でもしているのだろう

 

そして今日は午後の修行を早めに切り上げて体を休めると共に悪魔社会の講義をリアス部長が行っている

 

「・・・これが悪魔が人間を転生させる最大の理由よ」

 

リアス部長はそこで一旦息を吐いた

 

「私の方からは此処までにしておきましょうか。折角此処にはアーシアも居るのだし、彼女の話も聞きたいわ」

 

「は・・・はいぃ!」

 

アーシアさんは事前に話を聞いていたみたいで聖水と聖書を持ち皆の前で講義を始める

 

ライザー戦と言えばやっぱり聖水を赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)で強化してぶっかけるシーンが印象的だよな。フェニックスには仙術が有効とはよく聞くけれど本当にその通りなのかは実際に試してみるまでは分からないし、もしもの時のために俺も聖水や十字架を持っておいた方が良いか?

 

でもなぁ、相手はドラゴンの鱗にも傷を付ける業火を身にまとっているから人間の俺では闘気を纏ってもサイラオーグほどの防御力は期待できないから出来るだけ接近はしたく無いんだよな

 

アーシアさんが聖書の一節を読もうとして頭痛を繰り返しているのを見ながら考える。やっぱり強者と闘う人間と言えば曹操が思い浮かぶ。外道な立ち回りではあったが弱点を突くという一点は共感できる

 

ルールに則った方法でならそういうのもありだろうし、何かいい方法はないかと思っていると一つ思い当たる事があった

 

原作ではその戦法こそ存在していたが結局使われなかったものが一つ・・・なら別に俺が使ってもいいよね?

 

「あの、リアス部長。ライザーとの戦いで一つ作戦を思いついたのですが」

 

「あら?何かしらイッキ?話して頂戴」

 

「はい!この作戦の実行時にはイッセーと朱乃先輩、あと下準備にはアーシアさんの力を借りたいんです。その方法ですが・・・」

 

そして一通りの説明が終わった時、全員が大なり小なり苦い顔をしていた

 

「イッキ・・・お前は悪魔か?」

 

「何言ってんだ?悪魔はお前だろう?」

 

ん?このやり取り前にもしなかったっけ?

 

「人間の心にこそ本当の悪魔は住むのかもね・・・」

 

「聞いてるだけでも酷い作戦だよ。とても悪魔には思いつかない作戦だね」

 

「鬼畜」

 

「あらあら、何だか想像するだけで、どうなるのか楽しくなりますわね」

 

何だか皆辛辣だな・・・朱乃先輩は肯定派か?でもいう程酷くはないと思うんだよな

 

はぐれ神父は使わないかもしれないけど普通の神父は使ってると思うし・・・

 

「皆、そうは言いますけどこの試合でもし負けたらリアス部長があのライザーのお嫁に行くんですよ?なら勝つための最善手を打ちたいじゃないですか」

 

「ああ、そうだったな。部長!別にルール違反じゃ無いんですよね?なら俺はやりたいです!もしも採用しないで結果負けたりしたら悔やんでも悔やみきれません!」

 

イッセーの言葉に少し瞑目していたリアス部長だったが「分かったわ。私も幾つか作戦のパターンは考えていたけど修正する必要があるかしら」と了承の意を示してくれた

 

それから期日が来るまでにイッセーが赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)で高めた魔力砲で山の山頂ではなく、山の大半を吹き飛ばしたりといった成果を披露したりしながらも修行は無事に終わり決戦の日がやってきた

 

 

 

 

 

決戦当日の夜の11時過ぎ。オカルト研究部のメンバーは思い思いの方法でリラックスしながら試合の時間が来るのを待っていた

 

そして11時半の少し前、グレイフィアさんが転移陣で現れる

 

「皆様、お揃いですね。準備のほどは宜しいでしょうか」

 

「ええ、何時でも行けるわ。グレイフィア」

 

「では時間になりましたら此方の魔法陣から戦闘用フィールドに転送されます。そしてこの戦いはグレモリー家、フェニックス家の御当主様方の他に魔王ルシファー様もご覧になられます」

 

「そう・・・お兄様も」

 

「ええっ!お兄様ぁぁぁ!?」

 

リアス部長の呟きにイッセーが驚きの声を上げ祐斗からリアス部長の兄こそが死んだ先代魔王ルシファーの名を受け継いだ現魔王の一人であると説明が入る

 

そう・・・この試合は魔王が見る。俺という人間が敵対者に容赦しないと言った印象を抱かせる事が出来れば今後の布石の一つになるかもしれない・・・ってそうじゃん!この試合魔王や貴族の当主も見るんだった!

 

「あ・・・あの!グレイフィアさん・・・いや・・・様?」

 

「さん付けで構いませんよ。それで、何か問題でも御座いましたか?」

 

「はい。大問題が・・・」

 

「イッキ!一体何があると言うの!?」

 

俺の硬い声にリアス部長やほかの皆も不安げな表情だ

 

「リアス部長、俺たちの最初の作戦をグレイフィアさんに伝えるべきだと思うんです。だってこの試合、魔王様方『悪魔が観戦』するんですよ!」

 

「ッ!!そうだったわね。危ない所だったわ・・・」

 

そしてグレイフィアさんに俺達の開幕の作戦を伝えた所なんとも言えない表情はされたが「分かりました。それについては私の方で対策を講じておきます」と言われ、グレイフィアさんは転移していった

 

その後すぐ時間となり、俺たちは転移陣でバトルフィールドに転移した

 

 

 

 

転移した先は一見何も変わらないように見える何時もの部室だ。イッセーも「転送失敗か?」と首を傾げていると校内アナウンスが走った

 

 

≪皆様、この度、フェニックス家とグレモリー家の試合に置いて、審判役を仰せつかったグレモリー家の使用人、グレイフィアでございます。今回のバトルフィールドはリアス・グレモリー様方の通う駒王学園のレプリカを用意させていただきました。≫

 

「レプリカ?」と驚くイッセーにリアス部長が窓を開けるように促し、開け放たれた窓からは緑の空とオーロラが見えた

 

「これがレプリカって悪魔の技術はどんだけ凄まじいんだよ!」

 

まぁ同意だな。やってる事って殆ど天地創造の域だもんな

 

≪両陣営、転移された先が『本陣』でございます。リアス様の本陣は旧校舎オカルト研究部部室。ライザー様の本陣は新校舎校長室。『兵士』の方はプロモーションを行う際、相手本陣の周囲まで赴いてください。作戦時間及び本陣の防衛ラインを築くための時間は30分、深夜0時と共に戦闘開始のチャイムを鳴らせて頂きます。それでは作戦時間です≫

 

それからはおおよそ事前の打ち合わせ通り、『特殊な能力を付加した魔力の通信機』を耳に着けて祐斗と小猫ちゃん、朱乃先輩が旧校舎周辺にトラップや結界を設置していく

 

イッセーはその間にリアス部長の膝枕・・・もとい悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の封印をもう少し解いてもらい、皆が戻ってきた所で再びアナウンスが流れた

 

≪それでは開始の時刻となりましたのでゲームスタートです≫

 

その言葉と共に学校のチャイムが鳴り響く

 

作戦開始だ。速攻で決めるぞ!

 

「行くぞイッセー!」

 

「応!来いドライグ!」

 

『Boost!!』

 

「朱乃!」

 

「はい部長!私は屋上で待機しておりますわ」

 

「皆、相手は不死のフェニックス家の中でも有望視されているライザー・フェニックス。でも戦う以上は負けるなんて許されないわ!遠慮も容赦もなく、叩き潰して上げましょう!」

 

リアス部長が檄を飛ばす中、直ぐにその時は訪れた

 

「来た!行くぞイッキ!赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)!」

 

イッセーが自分の力を限界まで引き上げ俺に譲渡する

 

『Transfer!!』

 

「朱乃先輩!」

 

俺の中のとある力(・・・・)が増大したのを感じ取った俺は魔力インカム越しに屋上に赴いた朱乃先輩に確認を取ると楽し気な声が返ってきた

 

≪うふふ、感度良好♪学校中に響き渡りますわよ≫

 

「では、始めます」

 

俺の口元に魔法陣が展開された。そして効果を確かめる為にリアス部長を見る

 

「大丈夫、何も聞こえないわ(・・・・・・・・)

 

良し!じゃあやりますか!

 

朱乃先輩が新旧校舎の上空に展開した巨大な魔法陣からとある効果を強化した俺の声が響き渡る

 

 

 

 

≪私が殺す。私が生かす。私が傷つけ私が癒す。我が手を逃れうる者は一人もいない。我が目の届かぬ者は一人もいない≫

 

≪打ち砕かれよ。

  敗れた者、老いた者を私が招く。私に委ね、私に学び、私に従え。

  休息を。唄を忘れず、祈りを忘れず、私を忘れず、私は軽く、あらゆる重みを忘れさせる≫

 

≪装うなかれ。

  許しには報復を、信頼には裏切りを、希望には絶望を、光あるものには闇を、生あるものには暗い死を≫

 

≪休息は私の手に。貴方の罪に油を注ぎ印を記そう。

  永遠の命は、死の中でこそ与えられる。

  ――――許しはここに。受肉した私が誓う≫

 

≪―――”この魂に憐みを”≫

 

 

 

 

リアス部長にサインを送り、朱乃先輩に拡声と耳栓の魔法を解除してもらう

 

≪・・・ライザー・フェニックス様の『兵士』8名、『騎士』2名、『僧侶』1名、『戦車』2名リタイア≫




やっちまったぜww

後ゲーム開始前に作戦時間を設けました。アニメを見てて思ったんですけど新校舎と旧校舎の距離だと悪魔の足なら十数秒で衝突しかねないですし、部室で木場が『地図持ってきました』とやってる内に相手の『兵士』全員突撃してプロモーションとか余裕に見えたので


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第三話 決着、付けます!

フェニックスは不死身だ!何度でも蘇るさ!


「「「・・・・・・・・・」」」

 

グレイフィアさんのライザー・チームのリタイアアナウンスが流れてイッセーに佑斗とアーシアさんは虚無の瞳になっている。小猫ちゃんもやれやれとばかりに首を横に振っているな

 

「そ・・・想定通りの結果(リタイア)で想像以上の戦果(リタイア数)だったわね・・・」

 

大丈夫ですかリアス部長?口元引くついてますけど・・・

 

今回の作戦は神のシステムと親和性の高いであろう俺の持つ【神性】を赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)で高めて聖書に記された一節を読む事だ

 

【神性】を何故持ってるかの説明のために【偽り写し記す万象(ヴェルク・アヴェスター)】を見せたりもしたし、仮にそれが無かったら単純に神のシステムの『祝福』をブーストさせたら良かったんだけどね

 

原作における最強の元エクスカリバー使いとされるエヴァルド・クリスタルディが『祝福の聖剣で高めた力で聖書の朗読を聞かせてやってもいい』と言っていたのを参考にさせてもらったのだ

 

ライザーの『女王』は生き残ったみたいだし、もしも【神性】ではなく『祝福』の強化だったら『戦車』位は生き残ってたかもしれないな

 

「では、次の一手はどうしますか?部長?」

 

佑斗たちが稼働するのにまだ少し掛かりそうだったので俺の方からリアス部長に今後の行動の指示を仰ぐ事にする

 

「そうね・・・ライザーはリタイアしなかったとはいえライザー自身も残りの眷属も今はかなり消耗しているはずよ。此処は一気に攻め入りましょう。時間を掛けてライザーに回復される方が厄介だわ」

 

「全員でですか?リアス部長は結界のある本陣に待機した方がいいのでは?」

 

「いいえ、私も出るわ。あまり認めたくはないけれど今の私よりライザーの方が地力が上。下手に距離を置いた所でライザーが不死性を活かして貴方たちを振り切って決死の特攻を仕掛けないとも限らない。なら、お互いをカバーできる同じ戦場で後衛と指揮に徹した方がまだ安全と言えるわ」

 

あらら、敷設した結界やトラップが無駄になっちゃったかな?

 

「基本は祐斗と小猫が前衛、朱乃が中衛、私とアーシアは後衛でイッキは私とアーシアの護衛に着きなさい」

 

「あの部長・・・俺は?」

 

「イッセーは力を限界まで引き上げたばかりだから最初は後方で待機、状況を見てから改めて指示を出すわ」

 

「了解しました!」

 

リアス部長の指揮の下、朱乃先輩と合流しつつ全員で新校舎を目指す。すると新校舎と旧校舎の間にあるグラウンドに当のライザーとその眷属が顔を青くしながらも待っていた

 

「驚いたわねライザー。そんな状態なのだから守りを固めてある本陣で待ち構えているものだと思っていたのだけれど・・・」

 

確かに、今は少しでも回復するのを待ちたいはずだよな?何故ここに?

 

「フンッ!お前のようなバージン相手に本陣にトラップなんて態々仕掛けるまでもあるまい?これは余裕と言うものだよ!・・・うっぷ!!」

 

吐きそうになってんじゃねぇか!本当に何で出てきた!?

 

「ああ、なるほどね。トラップも結界も張ってないから正直時間稼ぎにもならない。だからせめて此処を決戦の地とすることでイッセーのプロモーションを阻止するのが狙いね?」

 

「これでも俺様はプロなんだ!貴様の考えなどお見通しなんだよ!」

 

おお!凄いな!最悪の体調不良の中でそこまで頭を回したのか!?

 

「こちらの初手は読めなかったみたいだけど?」

 

「あんなものを読める悪魔が居てたまるかぁぁぁ!!」

 

ライザーが渾身の力で叫び、その場に居る殆ど全員が頷いた

 

「もういい!ユーベルーナ!レイヴェル!さっさとこのガキどもを叩き潰すぞ!」

 

「了解ですわ、ライザー様」

 

「私も今日は早く帰って眠りたい気分ですわ・・・」

 

ライザーたちがそれぞれ身構える

 

「朱乃は『女王』、祐斗とイッセーは『僧侶』、小猫はライザーを相手にして、ただし深入りは避ける事!私は小猫のサポート。それぞれ自分の敵を倒したらライザーとの戦いに参戦しなさい!」

 

「「「了解!」」」

 

お互いに邪魔にならないように少々距離を取り、戦いが始まった

 

 

[イッセー side]

 

 

俺と木場の相手の『僧侶』は如何にもお嬢様といった淡いピンクのドレスを着たブロンドの髪を左右で巻いている美少女だった

 

ライザーの公式戦の試合はいくつか部長が入手できたものを見せてもらったが正直この子が戦ってる姿を見た事がない。後、他に分かった事といったらあの焼き鳥野郎は俺の敵であり、俺の目指すハーレムを作ってる奴だって事だ!

 

だって眷属全員美女、美少女なんだぞ!?俺もハーレムを目指しちゃいるが、他人のハーレムなんか見たくないんだよ!あいつ余裕ある時なんてゲーム中でも眷属のおっぱい揉んでるんだからな!・・・やはりあの焼き鳥野郎は俺の敵だ!間違いない!

 

「イッセー君、気合が入ってるね。キミなら女の子相手に戦うのは遣り辛いんじゃないかとも思ったんだけど・・・」

 

木場が剣を構えつつ俺に問うてくる

 

「ああ、確かに遣り辛いけど、俺はどうしてもその後に控えるライザーの野郎をぶっ飛ばして遣りたいんだよ!」

 

「そうだね・・・僕も同じ気持ちだよ」

 

何!?木場もライザーの野郎のハーレムを妬んで?・・・いや、流石に違うか

 

「ああ!さっさと終わらせようぜ!」

 

意気込んで改めて相手の『僧侶』と向き合った所で呆れたように声を掛けられた

 

「確かに今の私は万全とは言い難いですが、それでも貴方方二人相手に負ける程、私は弱くありませんのよ?」

 

凄い自信だな・・・それともハッタリか?訝しんでいるとその子はライザーの物と同じ炎の翼を纏って浮かび上がった―――これは!?

 

「私の名はレイヴェル・フェニックス。ライザー・フェニックスは私の兄ですの。当然私も不死、負ける道理はありませんわ」

 

不死だって!?いや!それも驚きだけどそれよりも!

 

「あいつ!自分の妹を眷属にしたのかよ!?」

 

「『世間には近親相姦に憧れる奴もいる。俺様は妹萌えじゃないけど、形だけでもハーレムに加える事に意義がある』・・・だそうですわ」

 

私にはよく分かりませんわとヤレヤレと言った風に首を振るレイヴェル

 

「あの焼き鳥野郎本当に変態で馬鹿なのかよ!?・・・妹をハーレムに加えたいってのは理解できるけど!」

 

「出来るんだ・・・」

 

「・・・気持ち悪いですわね」

 

うるせぇ木場!あと君もそのセリフは遠回しに兄の事をディスってるからね!?気づいてる!?

 

「しかし不味いね・・・フェニックスを倒すには魔王級の攻撃を加えるか何度も倒して相手の精神をへし折る必要があるとされている。僕もイッセー君も基本的には地上戦タイプ。空中戦も出来なくはないけど空を戦場とするフェニックスでしかも『僧侶』となれば遠距離タイプだろうし、短時間で倒しきるのは難しいかな?」

 

・・・確かに木場の言う通りだ。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)で限界まで力を高めても今の俺じゃ魔王級の力は出せない

 

合宿で山の大半を吹き飛ばした時も上級悪魔でも上位の攻撃力といった評価だったしそれでは彼女は倒せないかもしれない・・・しかしそうか、精神をへし折る・・・ね

 

「イッセー君、僕らの目的はあくまでもライザー・フェニックスを倒す事だ。彼女を倒すのに時間が掛かってしまうというなら僕が彼女の足止め、君は小猫ちゃんの援護に回った方がいいと思う・・・部長の了承を得よう」

 

「いや、待ってくれ木場。その前に一つ試したい技がある。合宿中に俺が編み出した必殺技だ。木場、たった一撃で良い、俺があの子に触れられる隙を作ってくれないか?」

 

「へぇ、あのフェニックスにも通用するかもしれない技となると興味があるね。了解したよ、なら挟み込む形で動いてくれるかい?」

 

「おうよ!ヨッシャ!早速行くぜぇ!」

 

二手に分かれてレイヴェルって子を中心に左右に陣取るとそこで木場は持っていた剣を投げ捨ててしまった

 

「おい木場ぁぁぁ!いきなり何やってんだ!?」

 

「あら、もう降参ですの?潔いのは良い事ですが少々せっかち過ぎるのでは?」

 

「なに、今すぐ見せてあげるよ。魔剣創造(ソード・バース)!」

 

木場が地面に手を置いてそう叫ぶと木場の前の地面に大量の剣が咲き誇り、その剣の先端部分にある穴が物凄い勢いで空気を吸収し始めた。これは一体!?

 

「コレが僕の神器(セイクリッド・ギア)魔剣創造(ソード・バース)。僕の意思通りに魔剣を自在に創る事ができるのさ!」

 

木場も神器(セイクリッド・ギア)を!?それに聞くだけでも強力な能力だ。レイヴェルって子を標的にして風を吸収しているからあの子も空中に留まるのに精いっぱいらしい、今ならイケる!

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

叫びながら跳躍し、彼女に手を突き出す

 

「しまっ・・・!」

 

此方に気づいたようだがもう遅い!俺の掌底は彼女の肩を捉え彼女に魔法陣が浮かび上がった。一瞬でしかも小さかったから彼女は気づいていないようだが・・・

 

「・・・?何ですの?今ので攻撃のつもりだったのかしら?だとしたらお笑い種ですわ」

 

訝しんでいるみたいだが直ぐに見せて、もとい!見てやるよ!

 

「っふ!今ので条件は整った。魅せてやるぜ、俺の必殺技!洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!」

 

俺が指を鳴らすのを合図にして彼女の着ている服が全て粉々にはじけ飛んだ

 

おお!この子着やせするタイプか!俺と同じくらいか少し年下に見えるが何とも豊満なお胸!

 

「有難うございました!!」

 

つい現実で叫んじまったぜ。今の内に最高画質で脳内保存、脳内保存!

 

「い・・嫌ぁぁぁぁぁ!」

 

何が起こったのか分からずに数秒ほど固まっていた彼女も段々と理解が追い付いて来たのか顔だけでなく全身を真っ赤に染め、叫びながらも体を出来るだけ隠して戦場から遠ざかって行った

 

≪ライザー・フェニックス様の『僧侶』リタイア≫

 

ふむ。どうやら自主的にリタイアしたみたいだな。戦線離脱してくれれば御の字と思っていたんだけど、貴族のお嬢様には少し刺激が強かったかな?何はともあれ

 

「やったな、木場!」

 

苦笑しながら此方に歩いてくる木場にそう言うと「イッセー君はもう少し自重を覚えた方が良いと思うよ」と返されてしまった・・・良いじゃないか、勝ったんだから

 

”ドドオォォォン!!”

 

何であれ勝利は勝利。小猫ちゃんの加勢に向かおうとした所で二つの爆発音が聞こえてきた

 

≪ライザー・フェニックス様の『女王』、リタイア≫

 

良し!朱乃さんも丁度相手の『女王』を倒したみたいだ。爆発の片方は朱乃さんか!これで残るはライザーだけだとそちらの戦場に目を向けると少々疲弊している様子のライザーとそれ以上にダメージを受けている小猫ちゃんが居た

 

どういう事だ!?ライザーの奴は戦う前から吐きそうにしている位体調が悪かったのにグレモリー眷属最強の小猫ちゃんを相手取って何で寧ろ体力が回復しているんだよ!?

 

「行こう!イッセー君」

 

「ああ!」

 

そうして俺と木場、朱乃さんがライザーとの戦場に集結した

 

 

 

 

「部長!」

 

俺たちが集まると部長も気が付いたようで「皆、無事だったのね!」と声を掛けてくれた。しかし、今はそれより気になる事がある

 

「部長、何でライザーの奴があんなにピンピンしてるんですか?正直、小猫ちゃんだけでも勝てそうと思ってたんですけど・・・」

 

早速だが部長に疑問を投げかける

 

「それは・・・アレよ」

 

そう言って部長が指さす先に地面に落ちた小さな小瓶が目に入った。蓋が開けられ、中身はもう無いみたいだ・・・アレは一体?

 

「アレは『フェニックスの涙』と呼ばれるフェニックス家が製造しているどんな傷も体力も瞬時に回復するという秘薬よ」

 

「なっ!!?そんな物ゲームに持ち込んでいいんですか!?」

 

俺の叫びに返事をしたのは小猫ちゃんと砲撃戦をしていたライザーだ。小猫ちゃんは近接タイプだしライザーとは相性が悪いのだろう、攻めあぐねているように見える

 

「はっはっは、リアス!フェニックスであるこの俺と戦うと言うのに自分の下僕に『涙』の事を伝えていなかったのか?まったく想定が甘いなぁ!これだから貴様はバージンだと言うのだ!」

 

「そうね・・・確かにこれは私の想定ミスよ。でもこれで貴方の眷属は全員リタイア、対して此方は一人も欠けていないわ。貴方こそ観念したらどうなの?」

 

そうだ。今のこの状況、ライザーは圧倒的に不利なはずだ。それなのに奴はまだ余裕な様を崩さないのは何でだ?

 

「観念?この俺様が?もっと状況をちゃんと見るんだな。俺様に有効打を与えられるのはそこの猫又娘だけ。リアス、お前も時々援護していたが俺様にとっては少々鬱陶しいという域を出ない。それが3人増えた所で戦局に大きな違いは出ないさ。貴様らが全滅するのが早いか遅いかの違いでしか無い」

 

ッチ!言ってくれるぜライザーの野郎!小猫ちゃん以外は眼中に無いってか・・・いや、イッキも仙術使いだよな?ばれてないって事は温存してるのか?―――そうか!俺たちが合流するのを待ってたのか、状況が見えてないのはどっちだろうなライザー!

 

「小猫!一旦下がってアーシアの回復を!朱乃と祐斗でライザーを牽制して頂戴。イッセーは力を溜めて、皆プランBで行くわよ!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

事前に幾つか決めていた作戦の一つ、俺の『譲渡』の力を皆に分け与えるプランB!その時が来たら一気に決めさせてもらうぜ!

 

それから朱乃さんは雷と氷の魔力、木場は氷の魔剣や空気を吸い込む魔剣で炎も吸収したりとライザーの技や動きを封じるタイプの攻撃で時間を稼いでいく

 

すると俺の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の宝玉が光り出した。これは何だと思っているとドライグの声が聞こえてきた

 

『これは戦闘中の適正な倍化が完了したという合図だ』

 

「そんな便利機能があるのかよ!?」

 

『お前も神器も日々成長している。お前の望みを実現してくれたのさ』

 

成程な。確かにこれなら倍化の時間の短縮にもなるし俺の体に掛かる負荷も軽減される訳だ

 

小猫ちゃんも既に回復し終わったみたいだしこれならイケる!

 

「皆、行けるぜ!」

 

「イッキ!貴方は気弾でライザーが近寄らないように弾幕を張りなさい!イッセーはその間に皆に『譲渡』を!」

 

「はい!」

 

部長の指示の下イッキがライザーに気弾を大量に放っていく

 

ライザーも仙術使いは小猫ちゃんだけと思っていたのか面食らって数発くらい、その後はバリアを張って凌いでいるみたいだ

 

赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)!」

 

『Transfer!!』

 

すれ違いざまに朱乃さんと小猫ちゃん、木場に赤龍帝の力を譲渡する

 

複数に譲渡する時は一つ一つの効果は8割に落ち込んでしまうが複数という事を考えれば決して悪い数値じゃない!

 

力を譲渡された朱乃さんがイッキの気弾で動けなくなっていたライザーに極大の雷撃を放ち、堪らず地面に落ちる

 

そこにすかさず木場が縦横無尽にライザーの周りを走り回り斬撃を放つ・・・よく見えなかったけど氷や雷、爆発などあの一瞬で様々な属性の魔剣で切りつけたらしい

 

「ガッハッ!!」

 

ライザーも流石にあの連続攻撃は効いたようで堪らずに膝を付く、そこに止めとばかりに懐に入った小猫ちゃんの仙術を纏った渾身のボディーブローが突き刺さった

 

小猫ちゃんの渾身の一撃が決まり、ライザーが倒れ伏す

 

もう動けないようだがまだリタイアはしていない。近くにいた小猫ちゃんの他に木場と朱乃さんがダメ押しの攻撃を加えるべくライザーに近づいて行く

 

「部長。勝ちましたね!これで婚約は破棄ですよ!」

 

俺がそう言うと部長も勝利を確信したのか少しホッとした様子で「ええ、そうね」と返してくれた・・・しかし次の瞬間極大の『炎』が吹き荒れ、3人が吹き飛ばされてしまった

 

「朱乃!?祐斗!?小猫!?」

 

「・・・ッ!何でだよ!?何んでお前がまたピンピンしてるんだよ、ライザー!」

 

それに対しライザーの野郎は懐から空となった小瓶を取り出した―――アレは!?

 

「先ほどは想定が甘いと言ったが、今度は詰めが甘いぞリアス。フェニックスの涙は一試合の中で二つまでの使用が認められている事くらい、お前も知っているだろうに。一体いつから俺の持つ『涙』が一つだけだと錯覚していた?本当はユーベルーナとレイヴェルに『涙』を持たせていたのだが、あの二人が最初にリタイアしなかったのは僥倖だったぞ」

 

「そんな!?」

 

「皆さん!今、回復します!」

 

部長の驚愕と同時に吹き飛ばされた三人の所へアーシアが走っていくが、それをみすみす見逃す程ライザーは甘くなかったようだ

 

「させるかぁぁぁぁ!!」

 

ライザーの叫びと共にまた炎の塊が倒れている三人に放たれ、炎の柱に包まれる

 

「ッちぃ!雷の巫女め、まだ動けたか!咄嗟に障壁を張ったようだな!」

 

ライザーが忌々しそうに言うが確かに炎に包まれながらも三人のリタイアアナウンスは流れない。良かった!一先ずは無事か!でもこのままじゃ駄目だ

 

疲弊している朱乃さんと回復したばかりのライザーでは先に朱乃さんの魔力が尽きてしまう!

 

「やいライザー!テメェの相手はこの俺だ!」

 

「んん?貴様か。最初に出会った時は魔力も殆ど感じないただのクズだと思っていたが、まさか赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の使い手だとはな・・・それに随分と戦場を引っ掻き回してくれたものだ。貴様には妹を辱めた事に対する礼もしてやらんとなぁ!」

 

・・・妹萌えじゃ無いってあの子は言ってたけど、流石に怒ってたか?

 

だけどなライザー!そこに可愛い女の子のおっぱいが在るならば!漢にはやらなきゃいけない時ってのがあるんだよ!

 

「そんな事関係ねぇ!俺があの洋服崩壊(ドレス・ブレイク)を開発するのにどれだけの努力を費やしたと思ってんだ!来る日も来る日も目の前の女の子を、妄想の中の女の子を裸にするイメージを幾千幾万と繰り返してやっと完成させた必殺技なんだ!なら、使うしかないだろう!?」

 

胸張って言えるね!間違いない!!

 

「ハッ!下級悪魔の貴様には似合いの下賤な技だ!」

 

「何!?」

 

「態々自分でひん剥かないと女の裸を見れないのか?俺様クラスともなれば女の方から自主的に脱いでくるし、触らせて来るのだぞ!」

 

「なん・・・だと!?」

 

そんな・・・そんな羨ましい事をしてやがるのか此奴は!?

 

「それにもうすぐだ。このゲームが終わればリアスのあのデカい乳を俺の物にできる!貴様は精々指を銜えて見てるんだなぁ!」

 

「ふっざけんなぁ!リアス・グレモリーのお乳は俺のもんだぁあああ!!何時か絶対にあの素敵なおっぱいを揉んで!摘まんで!弾いてやるんだよぉぉぉ!!」

 

「ハッ!そこで終いか赤龍帝!俺様はそこに加えてリアスの胸を吸って!捏ねて!突いてやるぞぉぉぉ!俺様は勝てばそれが叶うが貴様はどうだ?下級悪魔が主の胸を好きにできると本気で思っているのか?リアスだって貴様のような奴には触らせたくは無いだろうよ。なぁ!そうだよなぁリアス!」

 

「え!・・・えええ!!此処で私に振るのかしら!?」

 

部長が驚いてるし、直ぐ隣ではイッキが呆れている上にアーシアはオロオロしているがそんな事今は関係ない!!

 

「部っ長ぉぉぉぉぉ!此処で曖昧な返事なんて要らないです!俺とライザー、どっちに部長のおっぱい指定席、ミューチケットもとい(ニュー)チケットは有りますか!?」

 

俺とライザーの盤外の一手(問いかけ)に部長は顔を赤らめて暫く黙ってしまったがやがてキッと顔を上げて「イッセー!もしも貴方がライザーを倒せたら、色々してあげるわよ!」と返してくれた

 

色々してあげる?そんな胸湧きたつ日本語が在っただなんて!?俺が戦慄しているとアーシアまでもが叫んできた

 

「部・・・部長さんばっかりズルいですぅ!私もイッセーさんが勝ったら色々しますぅ!」

 

な!?まさかの倍プッシュだと!?アーシアがそんな事言うなんて、一体何時からそんな大胆な子になったんだ!?

 

俺の脳裏に二人のおっぱいを筆頭に様々なおっぱいが駆け巡る

 

もう少しで手が届くんだ。俺の未来には夢と希望とおっぱいが光輝いているのが見えるぜ!

 

『Boost!!』

 

するとライザーと言い争っている間に俺の引き上げられる力の限界値で停止していた赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が再び倍化し始めた

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)その物からも緑の輝くオーラが迸り神器(セイクリッド・ギア)の各所がよりゴツく、大きさも一回り増した・・・そうかドライグ、お前も俺のおっぱいへの想いを応援してくれるんだな

 

神器(セイクリッド・ギア)の機能がお前の想いに反応したに過ぎんさ。だがまぁどんな形であれパワーアップだ。あの不死鳥の小僧にドラゴンの力を見せつけてやるがいい』

 

「応!いくぞライザー!」

 

『Explosion!!』

 

パワーアップの限界まで高めた力を固定させた!単純に戦うだけならば赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の特性上、今の俺は前にドライグに聞いた神器(セイクリッド・ギア)の『更に先の力』に手が届いてる事になる。ドライグ!このまま戦ったとしてどれ位持つ?

 

『そうだな、相棒はパワーアップしたばかり・・・30秒程で力を使い果たすと思え』

 

「それだけ有れば十分だぁぁぁ!!」

 

俺の拳がライザーの顔面を捉えて遥か後方に吹き飛ばす。しかし今の俺には此奴が吹き飛びきるのを待ってやれるだけの余裕が無いんだ!

 

吹き飛んでるライザーに走って追い付き鳩尾に今度は飛び蹴りをかますと建物の中に壁を破壊して中に入っていく

 

「しめた!!」

 

更に後を追ってライザーが壊した壁の穴から中に入り宣言する

 

「プロモーション『女王』!」

 

吹き飛んだ先が『新校舎の中』だった事を恨むんだなライザー!

 

フラフラと立ち上がろうとしていたライザーに反撃のスキを与えないためにも呼吸すらも忘れて殴りまくる!

 

全力のアッパーカットをみまったライザーが再び壁を突き破り天高く浮かび上がる。俺はそのライザーのさらに上空を陣取り、下に居るライザーに左手を突き出す

 

「これで終わりだライザー!ドライグ、残りの力全部持っていけ!ドラゴン波ならぬドラゴンショットォ!!」

 

俺の放った魔力砲がライザーを地面に叩きつける

 

土煙が立ち込めてライザーの姿は視認できないが少しするとライザーの姿が見えてきた

 

手足をプルプルと震わせながらも確かに立ち上がろうとしている 

 

・・・いいぜ。こうなりゃとことん戦ってやる!そう思い近づき再び倍化しようとすると『Burst!!』と今まで聞いた事のない音声が聞こえ、全身の力が抜け血まで吐いてしまった

 

「いっ痛・・・なん、だこりゃ?」

 

『お前の体が限界を超えたのさ。元々限界まで高めていた所にプロモーションの力を加えただろう?こうなるのも必然と言える』

 

そんな!?ここまで来て!?

 

『止めを刺せなかったのは残念かも知れんがもうあの小僧は戦えんだろう。対してお前の仲間は健在、これはお前の勝利だ』

 

「ち・・・がう!」

 

何とか声を絞り出しライザーと同じようにふらつきながらも立ち上がる

 

部長が言ったんだ。『俺が』ライザーを倒せたなら色々してあげるって!

 

「イッセー!!」

 

部長が血相を変えて近寄ってくる・・・そうか、よく見れば部長たちが居た場所の近くまで戻ってたみたいだ

 

「部長、大丈夫です。今、ライザーの野郎をぶっ飛ばしますから」

 

「そんな体で何を言ってるの!?待ってて!私が今すぐにライザーを消し飛ばして」

 

そこまで言った部長の腕を掴みとめる

 

「やらせてください!!」

 

俺の熱い想いが伝わったのか部長も魔力を仕舞い「分かったわ」と返してくれた

 

一歩ずつライザーに近づいて拳を振り上げていく。ライザーの方は立ったは良いもののそれで精一杯らしく防御の姿勢も見せない

 

「お・・・お前!分かっているのか?この婚約は悪魔の未来のために必要で、重要な事なんだぞ!お前のような下級悪魔がどうこうして良い物じゃないんだ!」

 

「・・・政治だとか血筋だとか、難しい事は分からねぇよ。でも、一つ確かな事がある!お前と一緒に居たら部長が笑えないんだよ!俺はリアス・グレモリーの笑顔を守る!お前を殴る理由はそれだけで十分だぁぁぁ!!」

 

放たれた拳がライザーの顔面を捉え、仰向けに倒れた奴の全身が光に包まれる

 

≪ライザー・フェニックス様、リタイア。よってこのゲーム、リアス・グレモリー様の勝利です≫

 

そうか・・・勝ったのか

 

ライザーと同じように仰向けに倒れかけたところを部長が支え、抱きかかえてくれる

 

ボンヤリした目で周囲を見渡すと朱乃さん達も居る。良かったライザーを倒した時、いや、その前からか?朱乃さん達を包んでいた炎の檻は消えていたみたいだ

 

「有難う。有難うイッセー」

 

そう言って笑いかけてくれた部長の笑顔は確かに俺の見たかった笑顔だった

 

「・・・私、イッセーの家に住むわ!」

 

んん?今なんと?

 

「アーシア!負けないわよ!」

 

「部・・・部長さんが相手でも私も負けるつもりはありません!」

 

何か二人の間に火花が散ってる!?でもまぁ良いか。そんな風に感じながら意識を落としていった

 

 

[イッセー side out]

 

 

 

 

・・・終わったか。途中何度か介入しなくちゃいけないかと危惧したけど、そうならずに済んで良かったと言えるかな

 

今回の戦いはあくまでもグレモリー家とフェニックス家のお家騒動だし、実戦という訳でも無いのだから眷属でもない俺が全部片づけるのはそれはそれでリアス部長の体裁に傷を付けるからな

 

実戦ならば、出だしの一発(聖言)も一節だけ唱えるなんて事しないで聖書の初め、第一章第一節から順番に敵が全滅するまで朗読してやれば良かった事を考えればアレでもかなり手加減した訳だしな・・・

 

まぁライザーが『涙』で二度目の復活を果たした時はダメかと思ったが・・・いつの間にか婚約を掛けた戦いと言うよりはおっぱいを掛けた戦いになってた気がするけど

 

でも今回は余裕を持って半ば観戦に回ってたけど順当に行けば次はコカビエルとの戦い

 

流石に次からは余裕なんて無くなるだろう・・・というかここら辺からこの世界はインフレが酷いしな

 

「まぁ今は勝利を喜ぼうか!」

 

先は先、今は今と割り切って行こう

 

・・・というかイッセー、結局リアス部長にフラグは立てるんだな

 

リアス部長もスイッチ姫の道を今、歩み始めたんですね・・・頑張ってください!!

 

 




リアスの性格的にイッキを前面に押し出した指揮を執るとはどうしても思えなかったので後半は大人しくして貰いました

というかイッセーのギフトの効果が尽きるまで延々と聖書を読めばそれで全滅だから本当に手加減したんですよ?ライザー達には感謝して欲しい位ですねww

次はやっとコカビエルという強者らしい強者が出てくるから特典も使っていけそうです。此処まで長かった!


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番外編 はぐれ悪魔、そして使い魔です!

何とか今年中の投稿が間に合いました!


ライザーを倒してから数日。俺たちは今、夜の廃棄された工場跡にいた

 

「待ちやがれ!」

 

「イッセー、意気揚々と『俺が捕まえてやるぜ』とか言って出て行ったくせに華麗に躱されて逃亡許してんじゃねぇか!」

 

「それを言うな!ちょっとしたミスだよ。ミス!」

 

俺とイッセーは俺たちが合宿している間にリアス部長の縄張りに住み着いたはぐれ悪魔を追いかけている

 

はぐれ悪魔以外にも魔獣らしき気配が在ったのでそちらには朱乃先輩とアーシアさんに小猫ちゃんが向かっていて、外ではリアス部長と祐斗が待ち構えているという布陣だ

 

≪リアス部長。はぐれ悪魔は3階の非常階段に向かって逃走中です≫

 

≪分かったわ。そのまま追い込んで頂戴≫

 

≪了解≫

 

通信機でやり取りをしながら追いかけ、気弾を放って非常階段から逃げるように追い込んでいくとはぐれ悪魔は目論見通り非常階段から外に出た

 

「ック!これは!?」

 

「無駄よ、此処には結界を張らせてもらったわ。はぐれ悪魔さん」

 

カツンカツンと足音を響かせながらリアス部長が階段の上から降りてくる

 

「主の元を逃げ、己の欲求を満たすために暴れ回る不逞の輩。その罪万死に値するわ。グレモリー公爵の名において貴方を消し飛ばして上げる」

 

階段の上からはリアス部長が、下からは祐斗が距離を詰め非常口は俺とイッセーで固めてある

 

しかし諦めの悪いはぐれ悪魔はどうにかその場から逃走する為に結界を破壊しようと魔法陣を展開させたがリアス部長がみすみすそれを見逃す理由もなく

 

「無駄よ!」

 

その一声と共に放たれた滅びの魔力で魔法陣は砕かれてしまった―――それでもまだ逃亡の隙を探そうとするはぐれ悪魔に対しリアス部長が目線で祐斗に命令を下して死なない程度に切り伏せる

 

「あらあら、もう終わりましたの?」

 

「弱かったです」

 

非常口を陣取っていた俺とイッセーの後ろから朱乃先輩とアーシアさんに小猫ちゃんが歩いてきて小猫ちゃんは手に握っていたソフトボール位の茶色い物体を投げ捨てる・・・蝉みたいな奴で程無く全身が泡となって溶けていった

 

イッセーもそれを見て「気持ち悪いな・・・コレが此奴の使い魔かよ」とこぼしていた・・・まぁ確かに進んで掴みたいとは思わんな

 

「この蟲さん。何故か私の胸ばかり執拗に狙ってきましたわ」

 

は?胸を?それって

 

「「イッセー(先輩)みたいな蟲だな(です)」」

 

「そんなハモらんでも・・・・すみませんねぇ!蟲みたいで!」

 

イッセーも自分の事だと自覚出来てるようで何よりだ

 

「さて、はぐれ悪魔さん。リザインする?それともまだ挑みかかってくる気概はあるのかしら?」

 

「・・・いや、止めておきましょう。名高いグレモリーの姫君が相手では流石に分が悪い。しかし、フフフ!良いお乳をしておられる」

 

ああ、此奴もdxdの特産品のHENTAIの一人なのか・・・今の発言に冷静に考えられる時点で俺も大分染まってきた感じがするな・・・と言うか

 

「「イッセー(先輩)みたいな悪魔だな(です)」」

 

「天丼!?仲いいな!二人とも!」

 

「朱乃。彼を拘束後、冥界に転送して頂戴」

 

「はい。了解しましたわ」

 

リアス部長は今のはぐれ悪魔の発言はスルーする事にしたのか淡々と指示を出す

 

「冥界の裁きに身をゆだねなさい」

 

「ええ。やるべき事は済ませたのでね」

 

魔力で拘束され魔法陣で転送される直前そう呟いて消えていった

 

「リアス部長。今の言葉は・・・」

 

「何か厄介ごとが残ってるかもしれないわね。皆で手分けして此処と周囲に何か怪しい痕跡が残ってないか一通り調べていきましょうか」

 

「うげ!マジですか」

 

「ほらイッセー。文句を言わないの」

 

その後建物の地下にはぐれ悪魔の物と思しき研究室のような所をリアス部長とイッセーが見つけ出し、重要そうなデータだけ冥界に送りその場所は破壊した。一先ずはその研究データを解読してから問題が残っているようならその時対処するという事でその日は解散となった

 

 

 

 

「なぁイッキ。昨日のアイツの事だけどよ・・・」

 

「何だイッセー。同類の行く末が気になるのか?」

 

「そのネタはもういいよ!そうじゃなくって、ほら昨日のアイツやたらと胸の事を「胸ぇ!?それに昨日!?なんだ?まさか貴様ら昨日素敵なお胸様との出会いでも果たしたとか言うんじゃあるまいな!?」」

 

「いやいや、それも重要だがそれよりもイッセー!貴様は最近リアス先輩と登下校を共にする事が多くないか!?あまつさえベンチでひ・・・ひ・・・膝枕をしている姿を見たなどという目撃情報まで上がっている始末!何かの間違いか嘘だと言え貴様ぁ!!」

 

松田に元浜。そんな滝のように涙を流しながら迫らんでもいいのに

 

「まぁ『俺の』お姉様だからな!」

 

イッセーもやたらと『俺の』を強調してふんぞり返る。煽ってんのか?・・・煽ってんだろうな

 

「それはそうとイッセー、イッキ。胸と言えばお前ら知ってるか?最近我が学園の女子が欠席や早退する事が多いらしい」

 

「それは初めて聞いたけどそれと胸がどう関係あるんだよ?」

 

「うむ。どうにも休んでいる女子達には一つの共通点があるのだ・・・休んでいる女子達は皆、胸の大きな子たちばかりなのだ!駒王学園全女子生徒のスリーサイズのデータが頭の中にある俺が言うのだ。間違いない!」

 

元浜お前、そのデータが頭に入ってる事にも驚きだが他学年含めてそれぞれのクラスの女子が休んだかどうかまでリサーチしてるのか・・・引くわ!?

 

「そう!このままでは学園の巨乳美女達が居なくなってしまうかもしれんのだ!どうだ、大問題だろう!?」

 

「問題視する所はそこかよ!?ちょっとで良いから女子達を純粋に心配しようという気持ちは無いのかお前ら!?」

 

女の子を心配できんような奴にハーレムへの道は開けんぞ・・・まぁ言ってやるつもりも無いし、俗な事を言えば金で買う上っ面なハーレムもあるだろうが

 

「性欲しか頭に無い3馬鹿に説法した所で無駄よ有間君」

 

丁度そこに声が掛かった。先ほどまで他の女子達と会話をしていたアーシアさんともう一人の三つ編みメガネの女子『桐生藍華(きりゅうあいか)』・・・見た目は委員長キャラと言えなくはないがイッセー達並みにエロネタを盛り込んでくる奴だったりする

 

「アーシア。兵藤なんかよりもっと良い男は沢山居るのに態々こんな奴を彼氏にしなくても」

 

「かっ・・・かかか、彼氏ぃ!?」

 

いきなり話題を振られたアーシアさんが見事に動揺しているな

 

「こんなのとはなんだ!アーシアはまだ日本に来たばかりだから色々面倒見てやってるんだ!」

 

「それに桐生!我々が性欲しか頭に無いなどとは言ってくれるな!俺たちは性欲しか頭に無い訳ではない!単に性欲が頭の中を占める割合が圧倒的に多いだけだ!!」

 

いやそれ何の弁明にもなってねぇよ松田

 

「ふーん。でもあんた達いつも二人一緒で仲睦まじいし、親公認で同居してるんでしょ?周りからしたら毎晩合体しているカップルにしか見えないわよ?年頃の男女が一つ屋根の下と言ったら後は・・・ねぇ?」

 

「「合体!?」」

 

「お前は何言ってんだ!そんな巨大ロボじゃあるまいし!!」

 

大丈夫だよイッセー。お前は多分将来巨大ロボにもなるし(使い魔と)合体技も使ったりすると思うからさ・・・

 

「というかイッキ!俺たちの紳士の社交界(エロトーク)にはいつもストップを掛けるくせに桐生には何も言わないとはどういう事だ!?女子相手だからって日和ったのか!?」

 

「そうじゃねぇよ元浜。桐生さんは相手を選んで周りに迷惑を掛けないように空気を読んだうえで発言してるんだ。お前らの所かまわず大音量で垂れ流す騒音(エロトーク)や視覚の暴力(エロ雑誌やDVD)とは違うんだよ」

 

「ふっふ~ん!分かってるじゃないの。でも、貴方も大変よね。中学からずっとこのエロ馬鹿どもの面倒見てるんでしょ?」

 

「まぁな・・・この間何て生徒会長に申し訳なさげに頭を下げられたし」

 

思わず遠い目になり掛けたのをグッと堪えると桐生さんに『うわぁ・・・』と声を漏らされた

 

「ご愁傷様。お礼替わりに一つ忠告して上げるわ。有間君、最近あのイケメン王子様とのホモ疑惑が上がって来てるわよ?」

 

「・・・っぷ!何だそりゃイッキ!お前らそんな噂流れてんのかよ!?」

 

「因みに兵藤にも同じ噂が流れ始めたわよ。それに加えて兵藤は最近グレモリー先輩とよく一緒にいる所が目撃されてるからオカルト研究部の美少女達の弱みを握ってエロエロ鬼畜な命令を下している悪魔だって言われてるわね」

 

「お・・・お・・・ぉおお俺が悪魔な訳ねぇだろうがよ!?」

 

動揺し過ぎだ馬鹿野郎。話の流れでそういう意味の悪魔じゃ無いって分かるだろうが・・・

 

しかし、オカルト研究部に入った以上祐斗との『そういう噂』が流れるのは予想できたけど実際に聞かされるのは結構クルな・・・この学園の女子は中々腐ってる人が多いな

 

「それで?有間君、兵藤。どっちが攻めでどっちが受け?」

 

「「知るか!!」」

 

 

 

 

 

放課後、小猫ちゃんと祐斗を除いたオカルト研究部のメンバーがテーブルを囲みテーブルの上に映し出された立体映像のグレイフィアさんの通信を聞いていた

 

どうにも昨日のはぐれ悪魔の事で報告があるらしい

 

「では、あのはぐれ悪魔は魔物関連の錬金術師だったという訳ね?」

 

≪はい。その件で一つ問題が発覚致しまして・・・錬金術で造り上げた冥界の食獣植物とドラゴンの合成獣(キメラ)を駒王町に放ったというのです≫

 

合成獣(キメラ)か・・・確か原作ではフリードがそう成ってたっけ?祐斗に瞬殺されてたけど

 

「あの・・・合成獣(キメラ)と言うのは?」

 

「いくつもの生物の特徴を合成した怪物ですわ」

 

「か・・・怪物!?」

 

「食獣植物は兎も角、ドラゴンは厄介ね・・・」

 

≪報告は以上となります。調査が進みましたら、また改めてご連絡致します≫

 

「ええ。お願いねグレイフィア」

 

そうしてグレイフィアさんとの通信が切れた直ぐ後に小猫ちゃんと祐斗が部室に入ってきた

 

「部長。帰還しました」

 

「ただいまです」

 

「お疲れ様二人とも、その様子だと何か収穫が在ったようね」

 

「はい、見つけました。恐らくこの学園の女子を狙うものを」

 

女子?合成獣(キメラ)の件とは別件で変質者でも出てたのか?

 

 

 

 

 

 

そう思っていた時期が俺にはありました

 

俺たちは今人気のない森の奥に向かって歩いているけど、進行方向の先に植物と生物の気配がこんがらがってるとても自然に生まれたものではない気配が漂ってきている

 

「じゃあ、沢山の女子が急に体調を崩したりって言うのは・・・」

 

「ええ、事実よ。私のクラスの子にも早退する子が居たのだけれど、その子に魔力の波動が残っていたから気になってね、祐斗と小猫に調査をお願いしてたの」

 

そこで漸く森の奥の少し拓けたような場所に鎮座する巨大な薔薇のような物を目にする事ができた

 

「植物の魔物・・・ですか?」

 

アーシアさんがつい疑問を口にするが俺たちの接近を察知したのか蕾状態だった花が咲いてその中からドラゴンの首が出てきた

 

「あらあら、グレイフィア様が仰っていたのはコレで間違いなさそうですね」

 

「手間が省けたわね。これを消してしまえば一件落着よ」

 

「・・・森の奥から誰か来ます」

 

おっと!合成獣(キメラ)の方に気を取られ過ぎてたか。この気配は・・・

 

「これは・・・二人居ますね」

 

「皆、一旦隠れて」

 

皆で茂みに隠れて少し待っていると同じクラスの村山さんと片瀬さんが寝間着のまま明らかに虚ろな表情で歩いて来た。そして合成獣(キメラ)の前に並んで立つと合成獣(キメラ)から伸びたツタのような物の先端が開いて二人の胸に張り付き何かをゴキュゴキュと吸い取っている・・・アレは、生気を吸い取ってるのか。しかしまた何で胸からなんだ?というか二人とも意識が無いはずなのになんか顔を赤らめていないか?

 

そして朱乃先輩の「生気を吸い取ってる」との言葉に反応してイッセーが思わず飛び出そうとしたのをリアス部長が止める

 

「待ちなさいイッセー。今までの事例からしても命までは奪わないようだし、もう少し様子を見るわ。それに問題があるようなら小猫とイッキが察知するでしょう」

 

「はい・・・アレくらいなら明日起きた時、体が怠い位で済みます」

 

小猫ちゃんが言い終わるのとほぼ同時に触手が二人から離れてそのまま二人は家に帰っていく

 

「フラフラしてるけど、どうやら大丈夫そうだな」

 

「狙った女生徒に術を掛け、夜な夜なここに来るようにしていたみたいだね」

 

「そして女生徒の生気を吸い取って養分にしていたと?」

 

「それでも私たちにこうして見つかったのが運の尽きよ」

 

リアス部長が単身前に出る。その全身に真っ赤なオーラを静かに滾らせてやる気は十分のようだ

 

「無理やり造られた貴方に罪は無いでしょうけれど、学園の、引いてはこの町の平穏を脅かす者を野放しにする訳にはいかないわ。グレモリー公爵の名において貴方を消し飛ばして上げる!!」

 

“ズボォァアッ!!”

 

「キャアァァァ!!」

 

「部・・・部長ぉぉぉ!!?」

 

宣言と同時にリアス部長の足元から根っこの触手が飛び出て部長の体を拘束してしまった

 

堂々と出て行った上に出オチ2コマでやられちゃったよあの人!

 

「キャアァァァ!!」

 

直ぐに助けようと駆けだそうとした時に後ろから今度は朱乃先輩の声が聞こえてきた

 

「あ・・・あらあら、困りましたわねぇ」

 

「朱乃さんまで!?この野郎!!」

 

「祐斗!俺が朱乃先輩を、お前はリアス部長の触手を切ってくれ!」

 

「了解だよ!」

 

右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)を顕現させ朱乃先輩を拘束している触手を切ろうとした時、触手が朱乃先輩を盾にするように動いた

 

「な!?コイツ、人質とは味な真似を!?」

 

「褒めてる場合かイッキ!」

 

イッセーのツッコミを聞き流している間に朱乃先輩を拘束していた触手が移動しリアス部長の横に並ぶ

 

「祐斗、そっちもか?」

 

「うん。切りかかろうとすると部長を盾にされてしまうよ。それに周りの触手の再生が早くて切れたとしてもあれでは殆ど意味をなさない」

 

「人間界の空気と土、それに女子生徒の生気が余程合っていたみたいね。本来以上の性能が引き出されているのよ」

 

「でも、それならどうしてアーシアや小猫ちゃんは狙われないんだ?コイツ二人には襲い掛かる素振りすら見せないけど?」

 

「それは・・・多分アレだろう。松田や元浜も言ってたじゃないか学園の胸の大きな子ばかりが体調不良になってるって。それに思い出せよ。此奴はある意味あのはぐれ悪魔の使い魔みたいなものだろう?それで実際その使い魔は朱乃先輩の胸ばかり狙ってたって話だったし・・・」

 

しかしそうか・・・胸ばかり狙うドラゴン

 

「つまり此奴は『おっぱいドラゴン』と言える訳だな」

 

まさかイッセー以外にも『おっぱいドラゴン』と呼べる奴がいるなんて・・・世界は広いな

 

「おっぱいドラゴン!?なんていう素敵な響き!俺も是非とも名乗って行かねばな!」

 

『やめろ!例え宿主の事でもそんな風に呼ばれるのは我慢ならん!絶対に認めんぞ!!』

 

「貴方たち!ふざけてないで早く何とかして頂戴!・・・ってキャッ!コレは!?」

 

「あらあらこのヌメヌメ、服を溶かしてしまう効果がある見たいですわね。はしたない困った触手さんですわ」

 

ハァ!?なんで溶けるの!?村山さんと片瀬さんの服は溶けて無かったじゃん!?

 

「部長。魔力で触手を吹き飛ばせないんですか?」

 

祐斗が問うがどうやらリアス部長も朱乃先輩も上手く魔力が煉れないみたいで自力での脱出は無理みたいだ

 

「そうだわ!小猫はどうなの!?」

 

そう言えば小猫ちゃんもアーシアさんもさっきから大人しいような

 

そう思って二人の方を見てみると―――

 

「うぅ、どうせ私は部長さんや朱乃さんのように胸が大きくはありませんよ。合成獣(キメラ)さんに視線すら向けられないのもしょうがない事なんです」

 

「元気出してください。アーシア先輩もきっと大きくなりますから」

 

アーシアさんが体育座りで煤けた背中を見せているぅぅぅ!

 

小猫ちゃんが何とか慰めようとしているみたいだけどあまり効果が得られないみたいだ

 

「リアス部長・・・ピンチなのは分かってますが、今はそっとしておいてあげませんか?」

 

「え・・・ええ、そうね。何とか私達だけで切り抜けましょう」

 

そうこうしている内に大分服が溶かされてしまったようで正直目のやり場に困る

 

「こ・・・これは何とも素晴らs・・・いやいや、何ともいやらs・・・ではなくて、何とも困った状況だぁぁぁ!」

 

思いっきり鼻息荒くしてガン見しながら言うセリフじゃねぇなぁ!

 

「イッセー!貴方も見てないで戦いなさい!」

 

リアス部長に怒られイッセーも参戦しようとした時、触手の動きに変化が現れた

 

あの形状はさっき村山さんと片瀬さんの胸から生気を吸収した時の!!

 

そして思った通りと言うべきか捕らわれている二人の胸の先端に張り付き、”ゴキュゴキュ♡”と音を立てながら生気を吸い取っていく

 

「この触手、執拗に胸を弄ってくるわ。なんてイヤらしい動き!あぁん♡」

 

「そこはいけませんわ!あん♡」

 

「やい!この合成獣(キメラ)野郎!部長と朱乃さんのおっぱいに吸い付くのは俺の役目だ!いい加減にしないと消し炭にしてやるぞ!」

 

「変なところで対抗心燃やしてんじゃねぇよ!」

 

イッセーにツッコミを入れているとリアス部長の前に魔法陣が現れそこからグレイフィアさんが映し出された

 

≪上級悪魔の淑女たるものが、いつまでもそんな卑猥な声を漏らしていてはいけません≫

 

「グレイフィア、それよりも何か新しい情報が、いやぁあぁはぁん♡」

 

≪はい。例の合成獣(キメラ)ですが、胸の大きな女性から生気を吸う習性が・・・≫

 

「それは分かってるわよ!今まさにそうなってるんだから、あはぁん♡」

 

≪さらにもう1つ、特殊な能力を与えられているようでして≫

 

「うぅん♡特殊な?」

 

≪この合成獣(キメラ)が実らせた実を口にすると、どんな胸の小さな女性でもたちまち豊満な胸に変わるそうです≫

 

「「はいぃぃぃ!?」」

 

なにそれ!?何でそんな能力が付与されてるんだよ!?

 

≪はぐれ悪魔いわく、「世の女性が巨乳になれば、女性の心は豊かになり、男性も夢を持って羽ばたける。貧乳は罪であり、残酷だ! 世界を巨乳に! 乳&ピース!!」・・・との事です≫

 

スゲェ!そのアホ極まる思考もそうだけど今のセリフを顔色一つ変えずに言い放ったグレイフィアさんにも戦慄を覚えるぜ!

 

そして確かに先ほどまでは無かったはずの果実が実っているのが見える!しかしアレは・・・うん、どう見てもおっぱいだ。おっぱいが実ってると言う表現が一番的確と言わんばかりの形状の果実が生っているのが見える

 

「おっぱいの実・・・略してパ〇の実か?」

 

「イッキ君。その名称は商法に引っかかりそうだから止めておきなよ・・・」

 

確かに、LOT〇E辺りから抗議が来るかもしれんな・・・

 

「なんて・・・」

 

「ん?」

 

後ろからイッセーの呟きが聞こえてきたので振り返ると滂沱のごとく涙を流すイッセーが居た

 

「なんて素晴らしい夢なんだ!乳&ピース!!まさしく貧乳に悩む世の女性たちの救世主(メシア)たる存在!俺は今、猛烈に感動している!あのはぐれ悪魔は主を裏切ってまでここまでの執着と成果を見せた!主を裏切った事は確かに悪い事だが彼の夢を!世の多くの女性たちの夢を!此処で潰えさせる訳にはいかない!!部長!お願いします。どうか此奴を見逃してやって下さい!」

 

「何を言ってるのよ。もう!こんな時にイッセーのエッチなスイッチが入るなんて、んぁ♡」

 

「あらあら、困りましたわねぇ、くぅん♡」

 

「ダメよ!っあ♡確かに一部の女性の悩みを解消できるかもしれないけれども、その為に犠牲者を出す事を認める訳にはいかないわ、んぁああ♡」

 

「そ・・・そんな!?」

 

まぁそうなるよな。合成獣(キメラ)という事で分かりにくかった此奴の気の流れも掴めてきたし、何発か入れれば此奴の再生力も阻害出来るだろうからさっさと終わらせるか

 

「イッキィィィ!!」

 

「い゛!?」

 

いざ行動に移そうとした所で目の前にイッセーが割り込み両肩を掴んできた

 

「イッキ!頼む!部長を説得してくれ!本来なら俺が説得すべきなのかもしれないが部長をこの場で納得させるには理論だった説得こそが必要だ。俺ではこの胸に宿る情熱を語る事しかできない!あのはぐれ悪魔の夢見た世界を俺はどうしても守ってやりたいんだぁぁぁ!」

 

ええぇぇぇ!この合成獣(キメラ)を擁護しろって?まぁ確かに貧乳に悩む女性たちが居るのも事実だし、このまま消し飛ばすのは簡単だけど利益をもって考えるならそうだなぁ

 

頭の中で理論(ロジック)を組み立ててみるが何時の世も女性は美にお金を掛けるもの・・・そう考えると案外悪く無いのかもしれない

 

「分かった。取り合えずリアス部長を説得してみよう。ただしダメと言われたら俺はその場で引き下がるからな」

 

「ああ!有難う親友!お前でダメなら後は俺が誠心誠意俺の想いを伝えるだけだ!」

 

そしてリアス部長たちの前に歩いて行き一つの提案をする

 

「リアス部長、この合成獣(キメラ)をイッセーの使い魔にしませんか?」

 

「イッキ!?貴方何言ってるのよ!?っん♡」

 

「此奴をイッセーの、というよりグレモリー眷属の管理下に置くんです。犠牲が出るのがダメだと言うなら人間界・・・では無理でしょうが冥界で仕事と言う形で有志を募るんです。古来より女性は美にお金を掛けるもの―――グレモリー家の特産品として売り出せばかなりの利益を望めると思います」

 

「そ・・・それは・・・でも!あぅ♡ただ巨乳であれば良いというものでも無いでしょう!?」

 

ふむ、確かにそうだ。バランスと言うものは大切だろう。こう言っては何だが巨乳のソーナ会長には違和感を覚えるな・・・ソーナ会長・・・ね

 

「ではシトリー家にも協力を要請するのはどうですか?シトリー家は冥界でも医学の名門でもあると聞いてます。そこであの『実』の成分を解析し研究を重ねれば本人の望むサイズの胸を得るのも不可能ではないかと」

 

「ソーナの家まで巻き込むの!?で・・・でも確かにソーナと一緒にお風呂に入ったりすると時々鋭い視線を向けられていたような・・・ぃやん♡」

 

「あらあら、確かに部長と私、ソーナ会長と椿姫副会長でお風呂に入ると時折溜息を吐かれますわね。あっはぁん♡」

 

うん。なんか御免なさいソーナ会長。多分聞いちゃいけない情報聞いちゃった気がする

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・っんぁ♡」

 

リアス部長も大分悩んでるみたいだな・・・きっと親友であるソーナ会長が頭をちらついているのだろう

 

「分かったわ。イッセー、聞いた通りよ!この子を使い魔にしなさい。ただし!貴方が制御できずにまた一般人に襲い掛かるような事があれば今度は消し飛ばすわよ!はぅぅうあぁぁん♡」

 

「はい部長!任せてください!!」

 

イッセー、まずは鼻血をどうにかしろ・・・

 

そしてイッセーは見事合成獣(キメラ)を使い魔にし、リアス部長と朱乃先輩も無事?に開放されたのだった

 

「さて、お前の名前は花だし、花子?いや、ドラゴンでもあるんだから竜子(たつこ)だ!」

 

イッセーお前、スラ太郎といい、触手丸といい、龍帝丸といい、竜子といい、ネーミングセンス無いよな・・・

 

後日、竜子は小さくなってもらい、オカルト研究部の一角に大きめの植木鉢に植えられた

 

人間界の空気と土が合っていたため少量のエサでも問題ないようで『食獣』植物でもある事から肉や牛乳などで問題なかったようだ

 

以来時折大きな花に牛乳を撒くという一種異様な光景が見られるようになった

 

グレモリー家やシトリー家も実の品種改良に意欲的な姿勢を見せており直ぐにでも両家合同の研究グループが立ち上がるらしい

 

後、アーシアさんを慰めていた小猫ちゃんも俺の部長の説得自体は聞こえていたみたいで若干白い目で見られたし、黒歌には大笑いされた後「そんなにおっぱいの事が気になってたなんて、私のを触ってみるかにゃ?」と頭が沸騰するような提案はなされたが耐えた・・・というか小猫ちゃんが「はしたないですよ、黒歌姉様」と頭をひっぱたいてくれた

 

九重?冗談でも伝えられるかこんな話!!




それでは皆様良いお年を


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第5章 月光校庭のエクスカリバー
第一話 聖剣、そして厄介ごとです!


ちょっと年末年始の休みからだらけてしまってました

今年もよろしくお願いします


「では、次に今月の契約件数ね。今月の契約件数は朱乃11件、小猫10件、祐斗8件、そしてアーシア3件よ」

 

「凄いじゃないか、アーシアさん」

 

「あらあら、うふふ、やりましたわねぇ」

 

「新人さんにしては良い成績です」

 

「有難うございますぅ」

 

今はオカルト研究部のと言うよりはグレモリー眷属としての活動をリアス部長が報告している

 

それだけなら何時もの光景だが明らかに何時もと違うところが一つ

 

此処がオカルト研究部の部室では無く、イッセーの家だと言う事だ

 

何でもオカルト研究部のある旧校舎が大掃除で使えない為リアス部長がイッセーの御両親に許可を取り、イッセーの部屋で活動する事になったらしい・・・ギャスパ―の部屋はどうするんだろう?

 

「最後にイッセー・・・0件」

 

優雅に紅茶を飲みながらもリアス部長が無慈悲な現実を突きつける

 

「め・・・面目ありません・・・」

 

「ハハハ!上級悪魔への道は遠ざかるばかりだなイッセー」

 

とは言え此奴はハーレム王への道は驀進するんだろうし、揶揄える内に揶揄っておかんとな!

 

「うっせー!来月こそはトップを取ってやるぜ!」

 

「その意気よイッセー。と言うより契約件数が0件のままだと貴方にご褒美をあげられないわ」

 

「ごっ褒美!?」

 

イッセーが驚愕の声を上げながらもリアス部長の胸を凝視する

 

どんなご褒美を期待しているのか丸わかりだ

 

「ええ、ご褒美よ。イッセーは何が良いかしら?」

 

リアス部長はそう言いながらも腕を前で組み、その胸を強調する・・・絶対に分かってやっていらっしゃる

 

「ご褒美が貰えるというならどっちにする!?右か!?左か!?それとももしや両方という事なんですか!?部長!!」

 

「ふふ、もしもトップを取れたら両方でも良いわよ?」

 

「FOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

イッセーがリアス部長に発破?を掛けられて奇声を上げているところで部屋の扉が開かれた

 

「お邪魔しますよ。クッキーを持ってきましたわ。それとイッセー、ご近所さんにご迷惑だから大声出すのはよしなさい」

 

どうやらイッセーのお母さんがクッキーを持って来てくれたようだ

 

「あぁ!お手伝いもせずにすみませんお義母さま!」

 

「いいのよアーシアちゃん。今日はオカルト研究会の会合なのでしょう?」

 

「はいお義母さま。オカルトと口にすると怪しい感じがしますが、オカルトの多くはその土地や国の宗教や伝承に密接に絡み合っています。当時の人々が何を敬い、何に恐怖したのかなどを調べるのにも大きな一助となるのです」

 

おおスゲェ!何かそう聞くとオカルト研究部がまともな部活に思えてくる!

 

そうか、対外的にはそんな感じに紹介しているのか・・・この前宇宙人は人型かタコ型かで朱乃先輩と熱い議論を交わしていた人と同一人物とは思えないな!後リアス先輩とアーシアさんの『おかあさま』の呼び方に若干違和感があったような・・・気のせいか?

 

「うぅ!性欲しか頭に無かったイッセーが歴史や文化にも興味を持ってくれる日が来るなんて、そういう事ならコレはまたの機会にしましょうか・・・」

 

そう言って脇に抱えていた本のような物を持ってそのまま部屋を出ていこうとするイッセーのお母さん。それを見たリアス部長は小首を傾げて訊ねた

 

「お義母さま、それは?」

 

「ああコレはね、イッセーの小さい時の写真よ」

 

次の瞬間リアス部長がイッセーのお母さんの目の前に現れた―――恐ろしく速い移動、俺でなきゃ見逃しちまうね!と言うか実際ギリギリだったし、どんだけブースト掛かってんですか!?

 

「是非!見せてください!!」

 

リアス部長が全力で瞳を輝かせてそう頼み込むのだった

 

 

 

 

「これが、小学生の時のイッセーよ」

 

「あらあら、全裸で。小っちゃくて可愛らしいですわ」

 

「イッセー先輩の赤裸々な過去」

 

「このイッセーさんも可愛いです!幼稚園のかけっこですか?」

 

「ええ、でもこの頃から女の子のお尻ばっかり追いかけてて」

 

アルバムを見て女性陣の皆さんは大変盛り上がっているようだ。俺もイッセーの中学以前の写真は見た事が無かったから楽しませて貰っているがイッセーとしては気恥ずかしいのだろう「最悪だぁ」と小さく声を溢している

 

「幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー、幼いイッセー」

 

「小さいイッセーさん、小さいイッセーさん、小さいイッセーさん、小さいイッセーさん、小さいイッセーさん、小さいイッセーさん、小さいイッセーさん、小さいイッセーさん、小さいイッセーさん、小さいイッセーさん、小さいイッセーさん、小さいイッセーさん」

 

おおっと!?リアス部長だけでなくアーシアさんまで微ヤンデレ臭を漂わせてきているぞ!・・・つーか恐えぇよ二人とも!!アルバム食い入るように見ながら瞳孔開いてない?マジで!

 

まぁそんな二人に比べたら朱乃先輩と小猫ちゃんはまともな反応だよな?

 

そう思って二人の方を見てみる

 

「うふふふふ♡」

 

・・・朱乃先輩?玩具壊して泣いてしまっている小さいイッセーの写真を見ながら何で舌なめずりしてるんですか!?

 

「中学生のイッキ先輩・・・」

 

小猫ちゃん?確かに中学は大抵は例の3人組と一緒にいたから俺の姿もそれなりに写ってるけど主旨がずれてない?

 

そうして暫くワイワイとアルバムを見ていると祐斗がイッセーに声を掛ける

 

「ねぇ、イッセー君。この写真なんだけど、この剣に見覚えは?」

 

何時もの佑斗と違ってどこか平坦な声音だ。だが気恥ずかしさにまいってしまっていたイッセーはその僅かな変化には気付かなかった

 

「ん?どれどれ?ああ、この写真か。この子は俺が小さい時に仕事の都合とかで海外に引っ越しちまったから正直あんまり覚えて無いんだよなぁ。この剣も・・・まぁ普通の家は真剣なんて持ってる訳無いし、模造刀かなんかじゃないか?」

 

だが祐斗はイッセーの説明を聞いているのかいないのか「こんな事もあるんだね・・・これは、聖剣だよ」と独り言のように呟いた

 

 

 

 

 

その日の夜にリアス部長からとある廃工場への呼び出しの連絡が来た

 

どうにも危険性の高いはぐれ悪魔がこの町に侵入したため、直ぐにでも討伐するように要請が下ったようだ

 

ちなみに俺はオカルト研究部ではあるがグレモリー眷属では無いため、はぐれ悪魔討伐に参加する義務は無いのでこういう時はアルバイト感覚というか形としては傭兵として雇われている感じになっている

 

とは言え流石に仲間内で大金をせびる気はしないので割のいいアルバイトの域を出ないのだが

 

それとまだ和平前と言う事もあるので八坂さんにはそういった事をしても問題ないかは確認済みだ

 

「すみません。遅くなりました」

 

アレコレ考えている内に依頼に出ていたらしいイッセーも合流しメンバー全員が揃った

 

「依頼が終わったばかりで呼び出してしまって御免なさいね」

 

「いえ、それは全然いいんですが・・・あの工場の中に?」

 

「間違いなく居ます。はぐれ悪魔の匂いと気配です」

 

イッセーの問いかけに小猫ちゃんが答える

 

「今晩中に討伐するように大公から命が下ってしまいまして」

 

「それだけ危険な相手と言う事よ。長引かせるのは危険だわ。アーシアは後方待機、朱乃と私は外で待ち構えるから小猫と祐斗とイッセーで敵を外におびき出して頂戴。イッキはアーシアの護衛、万が一はぐれ悪魔が逃走したらすぐに追えるようにしておいて」

 

「はい」

 

「了解です」

 

「はい部長」

 

「「了解!」」

 

まぁリアス部長の性格・・・というよりプライド故か人間の俺は予備戦力的な立ち位置になる場合が多いのだが、それは仕方ないだろう

 

「・・・・・・・・」

 

「祐斗?」

 

ボンヤリとして返事をしない祐斗を変に感じたのかリアス部長が声を掛ける

 

「・・・っああ、分かりました」

 

「良し!じゃあ行くか木場、小猫ちゃん!」

 

「はい」

 

「ああ」

 

祐斗の状態に心当たりのある俺と違ってまだ付き合いの短いイッセーは今の段階では特に違和感を感じなかったのか廃工場に向かって走っていき、祐斗と小猫ちゃんもそれに続く

 

“バッガァァァン”

 

小猫ちゃんがパンチ一発で扉を吹き飛ばし3人は中に入って行った

 

 

 

[三人称 side]

 

 

3人が入った先は廃棄の際、ほとんどの物は持ち出された後のようで空間的にはかなりゆとりのある場所だった

 

「何も居ないような・・・ひょっとしてもう逃げちゃった後だったりして?」

 

隠れられそうな場所が殆ど無い場所で周囲を見渡してもはぐれ悪魔の姿が見えなかったのでイッセーが疑問を溢すが小猫がそれを否定する

 

「いいえ、奥の物陰に隠れています」

 

小猫の声が聞こえていたのか奥のパイプの陰から見た目は儚げな銀髪美人が姿を現す

 

「おお!儚げ系美人!そうだよ、俺の求めるウンディーネの理想像はあんな感じだったんだよ!」

 

「馬鹿言ってないで集中してくださいイッセー先輩、来ます!」

 

はぐれ悪魔の力の高まりを感じていた小猫が警告を飛ばし、次の瞬間にははぐれ悪魔の見た目が変貌する。今にも消え入りそうな儚げな表情は裂けた口に鋭い牙といった凶暴性しか感じないものに変化し、下半身の部分はまるで蜘蛛のような様相だ

 

上半身が人間で下半身が蜘蛛といった感じである

 

「うわぁ!蜘蛛の化け物!?アラクネって奴か!!」

 

『Boost!!』

 

イッセーが驚きつつも倍化で力を溜め始めるが、対してはぐれ悪魔は蜘蛛宜しく壁や天井を高速で動き回り翻弄するつもりのようだ

 

イッセーはこういう場合初めは力が溜まるまでは後方で待ちつつ状況に合わせて動き、『騎士』の祐斗が相手の機動力を削ぎ落し『戦車』の小猫が止めを刺すのが定石(セオリー)となっている

 

「祐斗先輩、お願いします」

 

「・・・・・・」

 

しかし祐斗は戦闘が始まり、声を掛けられてもボンヤリしたままだった

 

「祐斗先輩!」

 

「・・・あ!ごめん」

 

小猫の鋭い声を聞いて漸く反応を示す祐斗。そんな格好の的をみすみすはぐれ悪魔が見逃す訳もなく本来蜘蛛の糸が出る場所から溶解液を祐斗に向かって噴き出す

 

何時もの彼なら苦も無く回避できたであろう攻撃だが注意散漫な祐斗は避ける素振りすら見せない

 

「祐斗先輩!危ない!!」

 

小猫が祐斗を庇うために突き飛ばしたが代わりに溶解液が左腕に直撃してしまった

 

『戦車』の防御力で深刻なダメージは受けなかったが一瞬動けなくなってしまい、そこにすかさず追撃のためにはぐれ悪魔が直接襲い掛かる

 

「させるかぁ!!」

 

『Explosion!!』

 

「ドラゴンショットォ!!」

 

力が溜まり切っていなかったとはいえ、イッセーの放った魔力砲に頭から突っ込んだはぐれ悪魔は思わずたたらを踏む

 

「おい木場ぁぁぁ!なにボサっとしてやがる!!」

 

はぐれ悪魔の後ろを陣取りながらも明確な隙を狙わない祐斗にイッセーが声を荒げる

 

イッセーに叱咤された祐斗が後ろから切りかかり、はぐれ悪魔の片腕を切り落とすが着地する足元の確認を怠った祐斗が廃材につまづき転倒してしまう

 

片腕を切り落とされて激昂したはぐれ悪魔が祐斗に襲い掛かり、転倒していて回避行動が遅れてしまった彼はその場に組み伏せられてしまった

 

「木場ぁぁぁ!!」

 

そしてそのまま噛み付かれそうになった所で小猫が復活し、祐斗を掴んでいた片腕をへし折りながら引きはがし「ふっとべ!」の一言と共に廃工場の外までその怪力で投げ飛ばした

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

“ガシャーン!!”

 

リアス部長たちと外で待機していると工場の天窓を突き破ったのだろう、ガラスが割れる音と共に蜘蛛のような形のはぐれ悪魔が空中に投げ出された

 

「朱乃」

 

「はい部長!」

 

それを見たリアス部長がたった一言の指示を出し、廃工場全体を見渡せるように上空で待機していた朱乃先輩が予め練っておいた雷の魔力で痛烈な一撃を叩き込む

 

一瞬で全身が黒焦げになったはぐれ悪魔が俺たちの前に落ちてきた

 

ピクリとも動かないが一応生きてはいるようだ・・・とはいえ文字通り虫の息なのだが

 

「主の元を逃げ、己の欲求を満たすために暴れまわる不逞の輩、その罪万死に値するわ。グレモリー公爵の名においてあなたを消し飛ばしてあげる!」

 

「ギャァァァァ!!」

 

止めにリアス部長の滅びの魔力で塵も残らず消滅させられて一先ずはぐれ悪魔討伐は終了した

 

「やった!」

 

廃工場内から3人も外に出てきて朱乃先輩もその場に降り立つ

 

「自我を完全に失っていました。もはや悪魔とも呼べませんわね」

 

「あんな風には成りたくないなぁ」

 

イッセーが怪物になった自分を想像したのか身震いする

 

「緊急の討伐命令が下る訳ですわね」

 

「小猫ちゃん。傷を見せてください!」

 

「すみません」

 

アーシアさんが小猫ちゃんの怪我に気が付いたようですぐに駆け寄って傷を癒す

 

傷自体は大した事が無いみたいで数秒で完治したようだ

 

 

“パシンッ”

 

 

乾いた音が響いたのでそちらを見るとリアス部長が祐斗の頬を叩いたようだ

 

「少しは目が覚めたかしら?小猫が貴方を庇わなかったら大怪我していた所よ。そしてそれは仲間の危機を煽る行為でもあるわ」

 

そうか、俺の立ち位置じゃ見えなかったけどリアス部長からは戦場が見えていたみたいだ

 

今の小猫ちゃんがアレくらいのはぐれ悪魔の攻撃を貰う訳が無いからどうしてなのかとは思ったが祐斗がボンヤリしていたのが原因らしい・・・なんかそう思うとイライラしてきた

 

イヤまて落ち着け俺!直接聞いた訳じゃないけど祐斗の状態は知ってるだろう?リアス部長も叱っているのだし、此処で俺が怒るのは筋違いだろう

 

「すみませんでした。調子が悪いみたいなので今日はこれで失礼します。小猫ちゃんも庇ってくれて有難う」

 

心ここに在らずといった調子でその場から去る祐斗だがイッセーが直ぐに追いかけその肩を掴む

 

「おい木場!お前今日マジで変だぞ。部長にあんな態度何て!」

 

「君には関係ない」

 

「心配してんだろうが!」

 

「心配?君が?僕に?悪魔と云うのは本来利己的なものだよ・・・まぁ今日は僕が悪かったと思っているよ」

 

「お前・・・何を?」

 

そこで漸く祐斗がイッセーの方に向き直る

 

祐斗が此方に向けるその視線は今まで見た事が無いほどに薄暗い光を放っていた

 

「僕は一つ、基本的な事を思い出したんだ。僕の生きる意味を・・・」

 

「生きる意味?」

 

「そう、聖剣エクスカリバー。それを破壊する事こそが僕の生きる意味だ」

 

 

 

 

昨日はそのまま少々後味の悪い感じのまま解散して今は朝の7時前、自室で学校の持ち物のチェックをしていると黒歌が急にしかめっ面になった

 

「にゃにゃ?この嫌な気配は、聖剣かにゃ?」

 

「聖剣?」

 

俺も気配を探知してみると教会に漂っている気を濃縮して鋭く尖らせたような気配がした

 

この方角は町はずれの教会から来ているようだ

 

朝の修行で探知できなかったのは恐らく教会の結界の内側に居たから気配が掴みづらかったからだろう

 

「そうにゃ。しかもかなり格の高い感じの聖剣が2本、厄介ごとの匂いしかしないにゃん」

 

大正解ですよ黒歌さん。恐らくはコカビエルが攻めてくるという準戦争行為の幕開けだ

 

その後暫く聖剣の気配を追ってみたが駒王学園の門の前で立ち止まり、ソーナ会長と椿姫副会長の気配と接触した後でまた教会の方に遠ざかって行った

 

いくら教会関係者が昼間の学校で騒ぎを起こすことは無いと言っても知り合いの悪魔と聖剣使いが接触するのを見る(感じる)のは緊張するな

 

「どう思う?」

 

「教会がらみの厄介ごとがこの町で起ころうとしているって所じゃないか?」

 

う~ん。黒歌に意見を求められたけど何だかカンニングをしている気分だ

 

「ハァ。こっちの平穏を乱さないで欲しい所にゃ」

 

今の黒歌は派手に動けないのだし問題は・・・小猫ちゃんが巻き込まれる時点でアウトか

 

「まぁ、何が起きても何とかするさ」

 

とは言え、あんまり想定外の事は起きないで欲しいがな

 

「へぇ、言うようになったわね。期待しておくにゃん♪」

 




コカビーからは出番が増えるといった主人公。多分決戦までは空気ですww

コカビー!さっさと主人公を引き立ててくれぇ!!



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第二話 白龍皇、来襲です!?

コカビー戦まで空気と言ったな!アレは嘘だ!


放課後、部室に行くと小猫ちゃんが今朝の聖剣使いの気配の事をリアス部長に報告していた

 

黒歌といい小猫ちゃんといい、仙術使いでその上聖剣の気配となれば悪魔の二人にはより鋭敏に感じ取れるのだろう

 

「そう・・・聖剣使いが二人、ソーナ達に接触したと言うのね。イッキも小猫と同じようにその聖剣の気配を感じたのかしら?」

 

「はい。それと聖剣の気配は今は町中を徒歩で移動中みたいですね・・・流石に行先までは分かりませんが」

 

戦場となるかもしれない場所の下見位はするよな・・・

 

「しかし困ったわね。イッセーの家にあった写真を見てから祐斗は今聖剣の事で頭が一杯のはず、街中でその聖剣使いとバッタリ出くわしでもしたら下手をすればそのまま戦いになりかねないわ」

 

「部長。その木場は何処に居るんですか?」

 

「祐斗先輩は学校をお休みしているそうです」

 

「木場が?」

 

「ええ、此方から連絡を入れても返事も無いし、祐斗も小猫とイッキが居るのは分かっているからか気配を隠してしまっているみたいなのよ」

 

ムッ?確かに祐斗の気配がしない。近くにいれば隠していてもある程度は分かるだろうが今はそれなりに遠くに居るのだろう

 

「部長。木場と聖剣に過去に何があったんですか?昨日から木場の奴、あまりに態度が可笑しいです!軽々しく踏み込んでいい話じゃないって分かってますけど、今は聖剣使いまでこの町に居るんでしょう!?どうか聞かせてください!」

 

「・・・・・・そうね。話しておきましょうか」

 

そうしてリアス部長から語られた祐斗と聖剣の因縁

 

聖剣は悪魔や魔物などを始めとした魔に属する者たちに対して絶大な効力を発揮する事。しかし、聖剣を扱える素質を持つ者は極まれにしか居ないが為に教会が極秘裏に一つの実験計画を打ち立てた事

 

「それが、聖剣計画よ」

 

「聖剣計画・・・なら、木場は聖剣を?」

 

イッセーが問うがリアス部長は首を横に振る

 

「いいえ、その計画では祐斗だけでなく他にも何人もの被験者が居たそうだけど、誰一人として聖剣に適合する事は無かったそうよ・・・そして、彼らが聖剣に適合できないと結論づけた計画の主導者たちは祐斗たちを"不良品"と決めつけて処分する事を決定したの」

 

「そんな!教会がそんな事を!?私が教会に居た頃はそんな話聞いた事も・・・」

 

驚愕を浮かべるアーシアさん。今でも神と教会の教えを大切にしている彼女としてみればとても信じたくはない事なのだろう

 

「当然でしょうね。聖剣、それもエクスカリバーを扱える者を増やす計画ともなればまず間違いなく教会でもトップシークレット。教会が主導で行ったのか一部の狂信者が暴走した結果なのかまでは悪魔の情報網では拾えなかったけど、聖女として活動していたアーシアが知らないのは無理からぬ事よ」

 

「・・・・・・・・」

 

「・・・・・・私が祐斗を見つけた時は既に瀕死の状態だったわ。でも、そんな状態でも彼は強烈な復讐心を持っていたのよ。教会の、人々の為になると信じて辛い実験を共に耐えてきた仲間たちが毒ガスに倒れていく中、どうにか祐斗だけでも助けようと背中を押してくれた彼らの無念を晴らす為にね」

 

「クソ!アーシアの件といい、木場の件といい、教会は余計な事しかしないのかよ!神様って奴は何を考えてんだ!」

 

イッセーが憤りを現すように膝の上を強く叩く

 

「まぁアレだな、神は決して万能でも全能でも無いって事だろう」

 

「・・・どういう意味だよ?」

 

「どういう意味も何もそのままだよ。仮に神がアーシアさんが尊敬する通りの素晴らしい人格の持ち主だったとしても、神の手を逃れる者も神の目の届かない者も居るって事だろうさ。そもそもの話、神が本当に万能なら堕天使なんて生まれてすらいないはずだし・・・」

 

「・・・はい。そのような非道な教会の在り方を主が許すとは思えません」

 

アーシアさんが些か気落ちした様子でいる所にこれ以上教会への不満を口をするのはダメだと思ったのかイッセーも口を噤み、部室にしばしの静寂が訪れる

 

「あらあら、皆さんお揃いですね」

 

そんな静寂を打ち破ったのは意外にも遅れてきた朱乃先輩だった

 

「朱乃、遅かったのね。何かあったの?」

 

「ええ、お客様をお連れしましたので」

 

その言葉に続き外に待機していた二人が挨拶と共に入室してくる

 

「生徒会長と副会長?」

 

「部長に緊急のお話があるそうですわ」

 

「・・・ソーナ。それは貴方たちに今朝接触してきた二人の聖剣使いと関りがあるのかしら?」

 

「知っていたのですか?」

 

ソーナ会長が僅かに眉根を上げる

 

「私もついさっき小猫からの報告を受けた所ですけどね。イッキも感知していたと言うし、間違いは無いでしょう」

 

「二人は仙術使いでしたね、道理で・・・しかし、それなら話が早いです。リアス、教会所属の聖剣使いが貴女との会談を希望しています」

 

「な!?」

 

「え!?」

 

「まぁ!?」

 

これには流石にリアス部長だけでなく皆が驚きを露にする

 

「教会が悪魔に?一体何の冗談よ―――それで?なんて答えたの?」

 

「受けておきました。明日の放課後、この部室に訪れるそうです」

 

「確かに、相当な面倒ごとが起きてるのでしょうし、少しでも情報が欲しい所ではあるわね」

 

「では、確かに伝えましたよ」

 

「ええ、有難うソーナ」

 

そうしてソーナ会長と椿姫副会長は部室を後にした

 

「部長。一体どうして教会関係者がここに来るんでしょうか?」

 

そんなイッセーの疑問にリアス部長も首を横に振りながら「流石に分からないわね」と返す

 

「兎に角、今日は特に契約の予約も入ってないし、明日に備えて早く帰りましょうか―――それとイッキ。貴方は明日は部活はお休みよ」

 

「え゛ぇ!!」

 

この重要そうな場面で蚊帳の外ですか!?

 

「明日は恐らく悪魔と教会の勢力図や政治にすら食い込むような話合いになる可能性があるわ。一人だけ仲間外れにするようで心苦しいのだけど、悪魔にも教会にも所属していない貴方を同席させる訳にはいかないの。分かって頂戴」

 

おぉぉ落ち着け俺!クールになれ!確かにその理屈では俺は同席できない。じゃあ同席できない場合何か不都合があるのか?原作知識も既に15年以上前だから細かい所は曖昧だが、明日の会談は何かあるとすれば確か祐斗が模擬戦で敗ける位のものだったよな?・・・つまり、何の問題も無い?まぁ模擬戦にいちいち出しゃばるのもなんだしな

 

「・・・分かりました。でも良ければ会談の内容で聞かせても大丈夫なところが在れば教えていただけると嬉しいです」

 

「そうね。ダメならダメと伝える事にするわ」

 

「それって暗に期待するなって言ってません?」

 

「ふふ。どうかしら?じゃあ皆、今日は解散よ」

 

リアス部長の号令の下、全員が帰路についた

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後、オカルト研究部には顔を出せない事になっている俺はそのまま帰宅する・・・という訳にもいかないので、図書館で暇を潰しながら会談に模擬戦以上の気配が流れないか気を配る

 

結果としては杞憂だったようで教会の二人は帰っていき、他の皆は旧校舎の方へ戻っていったみたいだ

 

「うん。何事も無かったみたいだし、俺も今日は帰るか」

 

そうして図書館を後にし、学校からの帰り道、不意に正面から夕焼けを背にして歩いてくる男が気にかかった

 

ホストともバンドグループとも取れる出で立ちの祐斗と同レベルの銀髪イケメン・・・あれ?ヴァーリじゃね?白龍皇じゃね?

 

何で此処に!?いや、そうか。アザゼルさんもヴァーリもコカビエルの企みを察知して少し前から駒王町に潜伏してるんだった!

 

ヴァーリがコカビエル戦の終盤まで姿を現さなかったのはコカビエルや赤龍帝を含め、面白い対戦相手が居ないかどうかを観察するためだったし・・・イヤ!それよりもどうする!?此処は一本道で脇道も無し、いくら気配を隠していると言ってもこの距離ですれ違ったら気づかれるんじゃ!?

 

“スタスタスタ”

 

“トコトコトコ”

 

・・・・・・セェェェフ!!気づかれなかった。良かった!そうだよな、ヴァーリクラスに注視されたら流石に気づかれたかもしれないけど、すれ違う一般人一人一人をいちいち観察するほど此奴も暇じゃないよな!良し、さっさと此処を離れよう!

 

 

“ズドドドドドドドドドドド!!”

 

 

ん?なんだこの連続で鳴り響く重低音は?そう思いヴァーリが歩いて行った方に振り向くと

 

 

 

 

 

「ブゥゥゥゥォォォォォラァァァァァァァァァァァァ」

 

 

 

 

一陣の風(ミルたん)が駆け抜けていった・・・ああ、ジョギングコース変えたのかな?

 

頭の片隅で思考していた所でハタと気づく、ヴァーリがメッチャこっち見てる!どうやら彼は過ぎ去っていった風(ミルたん)を目で追ったようで結果として俺と見つめ合う形になったようだ・・・こっち見んな!!

 

「ホゥ、先ほどは気が付かなかったがその身の内に隠した洗練された濃密なオーラ。これは楽しめそうだな」

 

止めてくれぇ!そんな『ニィィ!!』って言う効果音が似合いそうな笑みをこっちに向けないで!

 

「君は・・・確かリアス・グレモリーの所属している部活とかいうグループの一人だったな。この町に潜伏してまだまだ資料が揃っていなかったが君みたいな奴に出会えるとは、偶にはあいつの言う事を聞くのも悪く無い。さて、折角だから手合わせ願おう。コカビエル以外とは戦うのは問題があるが、君は一応一般人だ。どうとでも言い訳は立つからね」

 

はい来たよこの戦闘狂!!ですよねぇ、この世界幹部クラス未満の地位だといくらでも隠蔽や言い訳が立っちゃう世界ですよねww

 

・・・笑えねぇ

 

「こんな町中でお前ほどの力の持ち主が暴れたらそれこそ言い訳が立たないと思うけど?」

 

だから帰ってくれ!切実に!!

 

「それならば心配は要らない。世の中、こんな物もある」

 

そう言いながら丸い装置のような物を二人が立っている場所の間に投げ、それが地面に着いた瞬間魔法陣が展開された

 

「これは!転移魔法陣!?」

 

不味いと思った次の瞬間には景色が切り替わった

 

此処は、駒王学園?いや違う。あの空はライザーと戦った時と同じ、なら此処はレーティングゲームの会場?どうなってるんだ?

 

「ようこそ」

 

「・・・此処はレーティングゲームの会場か?」

 

目の前にいる今となっては無駄にむかつくイケメンフェイスに対して疑問を投げかける

 

「ホゥ、よく分かったな。悪魔の世界で行われるレーティングゲームの会場が次元の狭間に使い捨てられているのは知っているか?先ほど投げた装置は近場にある放置された会場に転移する物だ。俺が今所属している場所では修業のたびに訓練場が壊れてしまうのを何とかしてくれと言われてな―――俺としてはどうでも良かったのだが、俺の保護者を気取る奴がこの装置を作ってくれたのさ。確か今の世の中ではリサイクルとやらが流行っているのだろう?それに乗っかってみたと言っていた」

 

アザゼルさぁぁぁん!?お宅の子供が与えられた玩具を使ってイケナイ遊びをし出しちゃってますよ!?

 

「さっきコカビエルとか言ってただろ?そっちで遊んでくれない?俺みたいなただの人間相手にしてないで」

 

「いや、そっちはまだ手を出す気は無いのでね。俺の宿命のライバル君がどの程度の者なのか、せめてこの目で直接戦う所を見ておきたいのさ」

 

此奴のゴーイングマイウェイっぷりはまさにドラゴン級だな

 

そういう意味ではイッセーも似たようなもんだけど・・・

 

「さて、お喋りはここまでにして、そろそろ始めようか」

 

「俺は戦わなくて済むなら別に朝までお喋りしててもいいんだけど?」

 

本気でそう思う。一対一(サシ)の勝負で白龍皇とバトルとか苛めとしか思えないからな!

 

「そう言うな。折角の一戦なんだ。楽しもうじゃないか」

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!』

 

白銀の鎧に蒼いエナジーウィング、やっぱりあの翼のせいでガン〇ム的な感じがビンビンしてくるデザインだ―――ついでにドラゴンのオーラもビンビンしてくる・・・帰りたい

 

だが、愚痴ばかり考えてても状況は好転しない。

 

右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)を顕現させて一気に距離を取る

 

ヴァーリの、というより白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)の能力は『半減』と『吸収』。そしてその力を行使するには対象に直接触れる必要がある

 

・・・つまり何が言いたいのかと言えば一発でも殴る蹴るの攻撃を受ければその場で敗けが確定するえげつないデバフ押しな能力という事だ。気弾で攻撃しつつ、相手の直接攻撃は右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)で何とかするしかないな

 

【一刀修羅】は初手で切るのは下策だ。アレは相手の力を把握したうえで発動して一番の効果を発揮するもの。明らかに不自然なパワーアップを前にしたら普通は距離を取るし、強化技なんて何かしら制限があると考えるのが妥当だろうしね・・・

 

まずは初手!相手は大きめの魔力弾を数発、此方は十数発の気弾を放つ。例え一発でもまともには食らいたく無いレベルの魔力が煉り込まれた攻撃だったが、数は少なかったので余裕を持って避ける事ができた

 

対して彼方は数がある分、数発被弾したようだがドラゴンの鎧に阻まれて殆ど効いていない

 

「どうした?その程度の攻撃では俺のドラゴンの鎧を貫く事などできんぞ?」

 

「そっちこそどうした?あんなトロい攻撃が当たるとでも思ってるのか?」

 

「フッ!いいだろう。ならばキミの期待に応えてやろう」

 

数十発の青白い魔力弾が展開された・・・別に期待した訳じゃないんだけどな

 

そうして始まる弾幕ゲーム(安全装置なし)迫りくる魔力弾をギリギリのところで避けまくる

 

グレイズ!グレイズ!グレイズ!グレイズ!!

 

「フム、回避に関してはキミの方が上らしい、よくもまあ避け続けられるものだ」

 

あれから既に何発か被弾した彼が話しかけてくる

 

「こっちはか弱い人間でね。攻撃一発一発に対する危機感が違うのさ。ましてやそんな御立派な鎧を着てる奴なんかとは特にね!」

 

「ハハハハハ!そういえばあの男も自分の事を「か弱い人間」と言っていたな。どうやらキミとの戦いは思った以上に楽しめそうだ!」

 

あー、既に曹操とはバトッた後ですか。まぁ二人ともバトルジャンキーっぽいし、どっかで戦ってても可笑しくは無いよな

 

「では次だ。その剣が飾りじゃない所を見せてくれよ!」

 

突如として身に纏うオーラを跳ね上げて多少の被弾を無視して突っ込んでくる!

 

此方はそれに対応する為脳のリミッターを解除し、スローモーションの世界に飛び込む

 

ヴァーリの全身の動きに気を配る

 

突き出してきた右腕を内側から掬い上げるように左歯噛咬(タルウィ)で手首の辺りを絡めとり、右歯噛咬(ザリチェ)を左腕の脇下の隙間に差し込みそのまま背負い投げに近い形でヴァーリを遥か遠くへぶん投げる

 

 

 

“ドガァァァン”

 

 

校舎の壁を破壊し埋もれている間に追撃で気弾を叩き込みながら距離を取り、脳のリミッター解除を解く

 

リミッター解除は脳に負担が掛かる技ではあるが今のように小出しに使っていく分にはそこまで影響は出ないからな。白龍皇と近距離でガチバトルとか負けフラグしか立たないので兎に角距離を置いてちまちま削っていくしかない

 

「クックックック!いいぞ!此処まで完璧に攻撃をいなされたのは久しぶりだ。キミの名前を聞いておこうか」

 

「・・・?知ってるんじゃないのか?」

 

さっき資料がどうとか言ってたし・・・

 

「ああ、知っているとも、だが、直接キミの口から聞いておきたいと思ってね」

 

成程。そういう熱いノリなアレですか・・・それなら、こう返すべきだろう

 

「そういう時は、まず自分から名乗るもんだぞ。何処かの誰かさん?」

 

お約束的なセリフを現実に言えた事からちょっと口元が歪んでしまう。向こうからしてみれば不敵な笑みにも見えただろう

 

「それもそうだな。俺の名はヴァーリ。白龍皇、バニシング・ドラゴンだ」

 

「有間一輝、仙術使いだ。以後よろしく出来たらいいな」

 

「フム、ではまず死闘を尽くすとしよう」

 

「まず」じゃねぇよ!「まず」じゃ!!そんな戦いの果てに得られる友情(多分そんなの得られない)とかじゃなくてほのぼの日常系を希望します!!

 

「行くぞ!有間一輝!!」

 

「ああもう!掛かってこい!ヴァーリ!!」

 

 

 

 

 

そうして針の穴に糸を通すような集中力を常に要求される戦いが最低でも数時間は続いた。今の所お互いに大きなダメージは無し、この空間の正確な座標が分からない為隙をついて転移の術で逃げる事も出来ない。ヴァーリも俺がたやすく逃げられないというのが分かっている為か長期戦に付き合っている形だ

 

ずっと向かい合って戦い続けるのではなく、ちょくちょく物陰に身を隠して小休止が挟まる感じなんだが流石に喉が渇いてきた

 

それとリミッター解除無しで避けている魔力弾は流石に全弾避け切るというのは無理だったみたいで、今は体中痣だらけで地味に痛い

 

後、この空間から自力で脱出するのが難しいとなると【一刀修羅】はやはり却下だ。ヴァーリを動けないくらいに痛めつける事が出来ても止めは刺せない、その後すぐ俺もぶっ倒れるので、大怪我のヴァーリと体力ゼロの俺がどっちが先に動けるようになるかというチキンレースになる・・・仲間が居ない時のこの【一刀修羅】の扱い辛さよ!

 

「ハァ・・・ハァ・・・いいね!偶にはこんな風に長引く戦いというのも悪く無い。俺の能力を警戒しているのだろう?懐に入ろうとすると途端に動きが冴えわたるな・・・一体どういうカラクリなのかな?」

 

「お前が二度と俺にケンカを売らないって誓うなら、教えてもいいけど?」

 

「では諦めて自分でその謎を解くとしよう」

 

「なぁ、マジでもう俺たち帰らない?正直腹減ったし、喉渇いたんだけど・・・」

 

軽口を叩くがそれで引き下がるような奴なら最初からこんな苦労はしてないだろう

 

「フム、楽しませてくれた礼だ。そういう事ならこれをやろう」

 

ヴァーリが突然鎧の兜とマスクの部分を収納し、魔法陣からなにやら二つの物体を取り出し片方を此方に投げてくるので受け取り何なのか見てみると

 

"5秒で完全栄養補給!鬼〇薬グレート!!(ゼリー飲料)"

 

鬼人〇グレートかよ!!

 

「それもあの転移装置を作った男が開発した物でな、どうしても食事を素早く取らなければいけない時には重宝している」

 

またアザゼル印かよ!あの人(堕天使)間接的にジワジワと俺の首を絞めてきやがるな!別に喉が渇いたってそういう意味で言ったんじゃねぇんだよ!後、この名称、絶対あの人モ〇ハンやってたな!ヴァーリがゴクゴクと鬼人薬〇レートを飲み干す様子を想像して笑ってたに違いない!

 

““パキッ””

 

““ズゴォォォォ””

 

ボロボロの戦場でお互い向かい合って最低限の警戒は残したまま無言で『鬼〇薬グレート』を飲む野郎二人・・・コレはたから見たらかなりシュールなんじゃ?

 

「では、再開しようか」

 

ああ、またあの絶対に相手に触れてはいけないというイライラ棒じみた戦いが始まるのか・・・

 

そう思った矢先に俺とヴァーリの少し離れた場所で魔法陣が輝き始めた

 

「なに?」

 

ヴァーリが訝しんでるって事は少なくともソイツが此処に来る事を知らなかったって事だよな?ならアザゼルさんか?あの人なら来ても可笑しくはないだろうし、話も通じるだろう

 

そうして魔法陣から現れたのは黒い着物の猫耳美女だった

 

「やぁっと見つけたにゃ、イッキ。それで?今は一体どういう状況なのかしら?」

 

「くr!」

 

・・・っと危ない。姿を見せた以上どれだけ効果があるかは分からないが態々名前まで明かす必要はないだろうしな

 

「あ~、そうだな・・・」

 

1.戦闘狂の白龍皇とバッタリ遭遇

 

2.ケンカを売られてこの空間に引きずり込まれてガチバトル

 

3.黒歌が助けに来た←いまココ

 

「・・・という感じだな」

 

「はぁ全く、ドラゴンってのはどいつもこいつも周りの迷惑考えない奴らばかりにゃ」

 

あっ、やっぱりドラゴンってそういう認識なのね

 

「どうやら彼女はキミの知り合いのようだが、彼女も中々の実力者のようだな。まったく今日は最高の日だ!それでどうする?このまま戦うか?それとも二対一で挑んでくるか?俺はどちらでも構わないぞ。君たち二人掛かりともなれば苦戦は必至だが、だからこそ滾ると言うもの!」

 

逆境はむしろご褒美ですかそうですか、黒歌もウンザリした顔してるし

 

だがまぁ、二対一で援軍が本体を捉える事が難しい黒歌ともなれば覇龍(ジャガーノート・ドライブ)でも使われない限りは勝てるだろう・・・が!此処まで好き勝手やってくれたヴァーリには手痛い一発をくれてやりたい!後、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)が恐い!!

 

良し!ならばアレで行こう!何はともあれ此奴を速攻で絞める!

 

「俺が白龍皇の動きを封じるから後宜しく」

 

黒歌に向かって話しかけ、態とヴァーリに対して隙を見せる。気づかれないように出した隙は少しだけ、でもその隙を突けるレベルなのがコイツなのだ

 

「戦闘中によそ見とは感心しないな。彼女も戦うというのであればこの隙を見逃す程俺もお人好しじゃなくてね」

 

“ズドンッ”

 

「ぐはっ!!」

 

一瞬で間合いを詰めたヴァーリの拳が『ギリギリまで闘気を弱めた』俺の腹に突き刺さる

 

自分自身の気を操る事である程度は痛みを抑える事ができるけど、それを踏まえても痛い!

 

「気を逸らしたキミが悪い。自業自得というものだよ」

 

だが殴られた腹を抱え込み、口から血を流しながらもそれを聞いた俺は顔だけ上を向いて笑みを浮かべる

 

「知らないみたいだから教えてやるよ。自業自得ってのはこういう事を言うんだ!【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】!!」

 

全身に紋様を浮かび上がらせ神器を解放する

 

「ぐはっ!!?」

 

痛いだろ?主に魔力弾による全身の痣に加えて態と大ダメージを負った腹パンの痛みは!特にお前は仙術使いじゃ無いから痛みを緩和も出来ないだろうし、俺から受けたダメージもあるしな!

 

それとヴァーリも今の衝撃で禁手(バランス・ブレイク)が解けたようだ

 

そうして至近距離で腹を抱えて悶絶する野郎二人という絵が完成した

 

「まったく、何をやっているのかにゃ」

 

呆れたような、可愛そうなものを見るような目でこっちに歩いて来た黒歌が俺と黒歌を包み込むサイズの転移魔法陣を展開する

 

「キミも随分好きにやってくれたみたいね」

 

そういって魔法陣の端、ヴァーリの目の前でしゃがみ込みその顔を覗き込む

 

「にゃ!!」

 

“シャッ”

 

「!?〇△□×!!!!」

 

黒歌の『ひっかく』!ヴァーリの顔に縦の5本線が走った。アレは痛い!

 

そしてそんなヴァーリを置き去りにしたまま転移で駒王町に帰ってきた

 

「助かったよ黒歌。白龍皇とタイマン張るとかレイドボスをノーダメクリアする位の鬼畜仕様だから本当に勝てたかどうか自信が持てなかったし・・・」

 

「ふ~ん。「何が起きても何とかする」って言ってたのは誰だったかにゃ~?」

 

「勘弁してくれ。今思えばアレはフラグだったよ・・・」

 

あ・・・ヤベェ、緊張の糸が解けたからか一気に眠気が・・・

 

「後は私に任せておくにゃん♪イッキの両親の方もこっちで軽く暗示をかけておくわね」

 

俺は黒歌の言葉に甘えてその場で意識を手放す事にした

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、全身の、特に腹の鈍痛で目が覚めた

 

なんだか何時もの毛布より寝心地が良いような・・・そう思った所で此処が(黒歌に占拠された)俺のベッドだと気づいた

 

そうか、流石に彼女も怪我人を床に寝かせるなんて事は無かったようだ。そう思い首を横に動かすと黒歌の寝顔がドアップで視界に入ってきた

 

!!おおっとぉ、落ち着け俺。似たような状況は前にもあったはずだ。人間は学習する生き物だし、今回はその二つの枕(おっぱい)に顔を埋めたわけでも無いのだ。クールになれ

 

まず黒歌が同じベッドで寝ているのは分かる。俺を此処に寝かせた所で彼女が態々よそで寝るとは思えないし、というか大分前から「一緒に寝ましょう」という誘いは在ったのだ。ただその場合理性が本能に負けて【夜の一刀修羅】を発動しかねないと思ったので(泣く泣く)却下したが

 

次に体が綺麗になってるのは魔力で浄化してくれたのだろう。ちゃんとお風呂に入って寝たみたいな感じだ

 

最後に全身に巻かれた包帯と昨日と殆ど変わってない怪我の度合い。此処が可笑しい!黒歌ほどの仙術使いが回復してくれたならとっくに回復していても可笑しくないはずなのだが?

 

「うにゃぁぁぁ」

 

疑問に思っていると俺が起きたのを察知したのか黒歌も目を覚ます。至近距離で見る彼女の無防備な挙動に内心ドギマギしながらも疑問に思った所を確認する

 

「おはよう黒歌。早速で悪いんだけど俺の怪我ってどうなってるの?もしかして何か治療に支障があったりした?」

 

「おはようにゃイッキ。怪我を治さなかったのはイッキと後はあの白トカゲへの罰なのにゃ」

 

「へ?」

 

罰?

 

「昨日はイッキの気配がいきなり警戒状態になったと思ったら次の瞬間には消えちゃうし、気配が消えた場所にあった僅かな痕跡から転移先を割り出すのはかなり苦労したのにゃ。だからその間心配を掛けた分の罰———後は、イッキの神器の能力で付けた傷ってイッキ自身がその傷を治さない限り相手も治らないんでしょ?あの白トカゲも何をしても治らないダメージに精々気を揉めばいいのにゃ!」

 

うぅ!心配掛けたと言われると何も言い返せない

 

「でも黒歌、今この町は聖剣絡みの厄介ごともあるから、俺も出来れば怪我は治しておきたいんだけど・・・」

 

「・・・分かってるにゃ。だから今日は学校は休んで自己回復に当てる事。有事が起こりそうなら治してあげるけど、そうでないなら自力で治すにゃ」

 

「了解です」

 

今にして思い返せば態と闘気を弱めて腹パンくらうとか馬鹿やったもんだ。うん、この罰は甘んじて受けよう

 

その後、ちょっと楽しそうな黒歌に看病され、放課の合間に電話を掛けてきたイッセーや小猫ちゃんに心配ないと返事をして丸一日掛けて傷を全快させる事ができた




アザゼルの発明品がジワジワと被害を拡大していくスタイル・・・


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第三話 堕天使、現れます!

新発売の龍が如くが面白くて中々ゲームから抜け出せない

素材アイテムのG(テラテラヒカルあいつ)が沢山欲しいと思う今日この頃


「おはよ~」

 

「あ!おはようございます。イッキさん」

 

「おう!イッキ。おはよう!昨日なんかこの時期にいきなり休むもんだから心配したんだぞ」

 

教室に入って挨拶するとイッセーとアーシアさんが返事を返してくれる

 

「悪いな。ちょっと急な腹痛に襲われてよ」

 

「腹痛?お前がそんなんで学校休むなんてな」

 

「少し位なら俺も休まないけど、ちょっと重たいヤツ(腹パン)貰っちまってな」

 

「そっか、なら良いんだ。イヤ、良くは無いんだけどアレだ、お前が教会か堕天使にでも襲われたのかと思っちまってよ・・・」

 

「別に教会にも堕天使にも襲われたりしてないよ」

 

襲ってきたのはお前のライバルの白龍皇様だったけどな・・・

 

「と言うか教会は兎も角堕天使ってのは?」

 

「ああ。その事でお前にも協力して貰いたい事があるんだ。実は・・・」

 

そうしてイッセーからおおよその経緯を聞いた

 

「成程。つまりは祐斗がはぐれに成らないように教会の戦士には堕天使に盗まれた聖剣の破壊と言う形で協力を持ちかけてイッセーとついでに匙もそれぞれの主にバレて折檻されたと・・・でも昨日フリードとか言うはぐれエクソシストと戦った時、小猫ちゃんも居たんだろ?それでも取り逃がしたのか?」

 

正直、エクスカリバー込みで考えても小猫ちゃんの方に分があると思ってたけど・・・

 

「やっぱりコレは木場の戦いだからな。最初は木場だけでフリードの相手をしてたんだけど・・・フリードの奴、明らかに木場より速くなってたんだよ。それで徐々に劣勢に追い込まれてな。イリナとゼノヴィアが合流して加勢してやっと互角、そしたら木場の仇のバルパーが出てきて撤退するって言ってフリードの閃光弾で姿を消したんだ。小猫ちゃんによるとその閃光弾に通信妨害とか探知妨害とか色々含まれてたみたいで気配で追う事は出来なかったって言ってたよ・・・それで後はさっき言ったようにリアス部長と生徒会長にバレてサジと一緒にお尻叩きの刑って訳さ」

 

アレ?フリードってそんなに強かったっけ?う~ん。流石に聞く分だけじゃ判らんな

 

「それで?俺もエクスカリバーの破壊に協力して欲しいって事か?」

 

「ああ、早急にこの件を終わらせねぇと木場の奴、無茶しかねないからな・・・」

 

「・・・と言うかそんな重要そうな話、俺に話しても良かったのか?」

 

リアス部長にまた折檻されるんじゃ?

 

「部長はイッキにも話して良いって言ってたぞ。フリードだけなら兎も角、堕天使の幹部まで居るなら注意を促した方が良いってな―――協力を求めろとは言われなかったけど・・・」

 

ダメじゃん・・・下手したらまた折檻されるぞ

 

「まぁ協力するのは良いけどその後、祐斗やその教会の二人から連絡は・・・っと、話は此処までみたいだな」

 

「ん?どういう意味d「「な~に難しい顔して話し込んでんだよ」」松田!元浜!」

 

「おはよう、アーシアちゃん!後イッセーとイッキ」

 

「ああ、おはよう」

 

「おはようございます!松田さん。元浜さん」

 

「おはよう。つーか俺らは添え物かなんかかよ!」

 

確かに、完全についで扱いだったな

 

「何を言うイッセー!アーシアちゃんと言う超絶金髪美少女を前にしたら世の男どもなんか全員添え物だろう」

 

「うむ、元浜の言う通りだ。むしろアーシアちゃんに(たか)る害虫としてでは無く、添え物として扱っているという所に俺らの友情を感じ取ってもらいたいものだな」

 

「どうやってそんな所に友情を感じろってんだよ!?難解過ぎんだろ!!」

 

何でそんな"ヤレヤレまったく"みたいな雰囲気出してんだよ

 

「それで結局真剣な顔して何の話をしてたんだ?イッセーがあんなに真剣に悩むとなるとおっぱい関係か?」

 

「・・・ああ。実は最近よく悩んでる事が在ってな。リアス部長のおっぱいと朱乃さんのおっぱいと何方か片方と言われたならばどっちを揉むべきなのかってな」

 

見事な話題逸らし・・・じゃないな、おっぱいと言うワードに反応して素で答えてるだけだコイツ

 

「イッセー貴様ぁ!なんて贅沢な悩みなんだ!」

 

「因みに、張りと形はリアス部長が、柔軟性と大きさは朱乃さんが上だ。特に朱乃さんは先端の輪のバランスが大和撫子って感じでな」

 

「先端!?」

 

「輪!?」

 

いやいや、大和撫子な先端って意味が分からんぞ

 

「むぅぅぅぅ!イッセーさん!部長さんや朱乃さんばっかりズルいですぅ!私、大きさではお二人には勝てませんがそれ以外では負けません。私の胸も揉んで下さい!」

 

 

「「「「「キャァァァァァァァァァァ!!」」」」」

 

 

アーシアさんが大胆発言をした瞬間教室内の女子生徒にも聞こえてたみたいで黄色い声が木霊する

 

「兵藤殺す。兵藤殺す。兵藤殺す。兵藤殺す。兵藤殺す。兵藤殺す」

 

「兵藤モゲロ。兵藤モゲロ。兵藤モゲロ。兵藤モゲロ。兵藤モゲロ。兵藤モゲロ」

 

同時に響いてくる男子達からの呪怨が酷いけど

 

そうしてアーシアさんは女子達のグループに引き取られ(拉致とも言う)根掘り葉掘り質問される事となった 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・そう。やはりイッセー達にも祐斗からの連絡は無かったのね?」

 

「俺たちも・・・と言う事はそちらも?」

 

「はい・・・今まで一切の連絡は在りませんでしたわ」

 

「あの手練れの二人も一緒だし、はぐれ神父の一人位ならと思っていたのだけれど・・・聞いたところによるとそのはぐれ神父は聖剣の影響なのかかなり強化されていたみたいね」

 

「それにまだ姿を見せない堕天使の件もありますので、あの後から町中に使い魔を放って捜索させているのですけど発見には至っていませんわ」

 

朱乃先輩がそこまで話したところで噂をすればと言うべきか、リアス部長の耳元に魔法陣が展開された

 

「・・・・・・そう、直ぐに向かうわ。皆、私の使い魔が高台の公園で聖剣使いの一人が倒れている所を発見したわ。朱乃はソーナに連絡を入れて、その間に私は転移陣の用意をするわ」

 

「はい、部長」

 

そして朱乃先輩がソーナ会長に連絡を取り、すぐさま全員で転移していった

 

 

 

 

 

 

 

夜の帳が落ちかけた高台の公園に転移してまず目に入ったのはボロボロの服に全身を切り裂かれた栗色の髪のツインテールの女の子だった

 

「イリナ!」

 

ボロボロの彼女を認識した瞬間イッセーが走り寄り抱きかかえる

 

「誰がこんな酷い事を!」

 

アーシアさんが少し遅れて追い付き直ぐに聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)による治療を行う

 

流石の回復速度であり、それに加えて幸いあまり深い傷は無かったみたいで10秒と経たずに傷自体は完治した

 

そこで彼女はイッセーに気が付いたらしく、弱弱しくも声を掛ける

 

「イッセー君・・・来て・・・・くれたんだ・・・」

 

「当たり前だろ!イリナ、お前ひとりか?木場とゼノヴィアは!?」

 

「二人は・・・・逃げたわ・・・アイツから私だけ・・逃げ遅れて・・・」

 

「アイツ?」

 

「気を・・・付け・・・て・・・」

 

そこで彼女は意識を落とし、同時にソーナ会長と椿姫副会長、サジが転移してきた

 

「来てくれたのね、ソーナ」

 

「連絡を貰って来ない訳にもいかないでしょう。アルジェントさん、治療の方はもう?」

 

ソーナ会長がイリナさんの傍に座り、治療の経過を訪ねる

 

「はい怪我は既に完治させています・・・ただ私の聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)は失った体力までは回復出来ませんので・・・」

 

「確かに・・・顔色が良くありませんね。それならば私の家に運びましょう。あそこは治療用の設備も充実していますので―――椿姫!」

 

「はい」

 

椿姫副会長がイッセーからイリナさんを受け取り転移魔法陣を展開する

 

「頼みましたよ」

 

「了解しました。会長」

 

椿姫副会長が転移していったのを見届けたイッセーが一息ついたのか緊張を解いて立ち上がる

 

「イリナが言うには木場とゼノヴィアは無事みたいだな」

 

「悪いがイッセー、安心するのはまだ早いみたいだ」

 

「はい。隠しているみたいですが、そこの木陰から僅かに聖剣の気配が漂って来ています」

 

小猫ちゃんの言葉を聞いて全員が一気に臨戦態勢に入る

 

「ありゃりゃ?バレつった?隠れん坊には結構自身があったんだけどなぁ、僕チンしょっく☆」

 

相変わらずのふざけた口調でフリードが現れた

 

「フリード!てめぇがイリナをあんなにしたのか!!」

 

「はいな~!あのツインテールのお嬢さんの事でしたら俺様が切り刻ませていただきましたよ♪それと、およおよ?昨日は居なかったあの時の人間のお兄さんも今日は一緒なのかな」

 

「悪いな、昨日はちょっと腹痛起こしててよ。小説の半分は埋まるような激闘だったんでね―――それさえ無ければお前をぶっ飛ばしてやれたんだが・・・」

 

「いやイッキお前、腹痛でどんな壮絶なストーリー展開する気だよ」

 

魔王とタイマン張る位?

 

「そっかそっか!そりゃお大事に。まぁ俺っちとしては直ぐにでもテメェらクソ悪魔どもをこのエクスカリバーちゃんで切り殺してやりたい所なんだけど・・・今回はそちらの赤毛のお嬢さんにお話があるのさ」

 

「話?一体何だと言うの?」

 

「いやいや、俺じゃなくて―――うちのボスがさ!!」

 

フリードがそう言った瞬間俺たちの上空に堕天使が現れた

 

凄くタイミングの良い登場、ずっとスタンバってたんだと思うと遊び心を大切にする奴なんだろうな・・・余興好きみたいだし

 

「堕天使・・・それも翼が十枚、幹部クラスですわ」

 

「じゃあ彼奴が!?」

 

「初めましてかな?グレモリー家の娘よ。我が名はコカビエル」

 

その名乗りと共に皆の緊張が一気に高まる

 

「御機嫌よう、堕ちた天使の幹部さん。私はリアス・グレモリー、生憎貴方に淹れるお茶の一つも無いけれど、用件は此処で聞かせて貰うわ」

 

「構わんさ、お前の兄貴そっくりのその忌々しい紅髪を見ながらではどんな美味い茶も楽しめそうには無いのでね」

 

二人は軽く皮肉を織り交ぜながらも会話を続けていく

 

「お前の根城である駒王学園を中心にして、この町で暴れさせて貰おうと思ってね」

 

「私たちの学園を!?」

 

「そうすれば、あのサーゼクスの事だ。間違いなくお前を助けに現れるだろう―――グレモリー家の者は情愛が深い事で有名だからな」

 

「そんな事をすれば、三大勢力の均衡が崩れて再び戦争が勃発するわよ!」

 

「フッフッフ!それこそが俺の目的でね。初めはエクスカリバーを奪えばミカエルが動くと思ったのだが、寄越したのは雑魚ばかり―――だから今度はお前らに標的を移しただけの事」

 

コカビエルは教会と悪魔の両方に同時にケンカを売った訳だけど、でもそれって教会と悪魔が堕天使を倒すまで結託はしなくとも休戦位はしてまず堕天使を倒しましょうって事にも成り兼ねないんじゃ?———まぁその場合も漁夫の利を狙うような奴とか水面下でのドロドロのにらみ合いとかになりそうだけど・・・

 

「随分と戦争にご執心みたいだけど、そんな事をして何に成るって言うの?」

 

「・・・暇つぶしだよ。三つ巴の戦争が終わってからというもの、俺は退屈で退屈で仕方なかったんだ!アザゼルもシェムハザも二度目の戦争には消極的でな―――挙句の果てには神器なんてもんの研究に没頭し始める始末だ」

 

「へぇ、ならあんたも神器の研究をしてみたらどうだ?案外ハマるかもしれないぜ?」

 

「フン!人間ごときが舐めた口を利くじゃないか、そしてそんな事はあり得ない。武闘派の俺様が今更研究職に就く気などさらさら無いからな―――同じ武闘派のバラキエルは研究にも協力しているが・・・俺にはあんな趣味は無いのでね」

 

「趣味?」

 

イッセーが聞き返すがコカビエルは何も語らない

 

バラキエルさんが磔にされた上で鉄球をくらい『むほぉぉぉぉ♡』と叫んでいる姿を想像していると思うと少しだけ同情してしまう

 

「・・・戦争がしたいのさ。ルシファーの妹にレヴィアタンの妹、それらが通う学園ならばさぞや魔の波動が立ち込めている事だろう。戦場としては悪く無い」

 

「此奴!そんな事の為に俺たちの学園を!」

 

「マジで頭のネジが飛んでやがるぜ!」

 

「そうだな・・・主にブレーキ部分のネジがな」

 

仮に三つ巴の戦争で堕天使が勝利したとしても絶対に壊滅に近い状態になると思うし、その後他の神話勢力に潰されて全滅だと思うんだよな・・・その辺りどう考えてんだろ?

 

「戦争をしよう!リアス・グレモリーよ!!」

 

コカビエルがそう言いながら光の槍を複数放ってきた

 

大した力が込められていない所を見るに此処で仕留める気がまるで無いのが分かる

 

光の槍が地面に当たり粉塵が立ち込めている内にコカビエルはフリードを連れて高速で飛び去って行った

 

「野郎!何処に消えやがった!?」

 

「あの二人は学校に向かいました」

 

「学校に!?あいつらマジで俺たちの学校を破壊する気かよ!!」

 

「皆、直ぐに学園に向かうわよ!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駒王学園の門の前に転移してからすぐさまソーナ会長が残りの眷属全員をその場に招集し、シトリー眷属が結界を受け持つ事を提案した

 

「私の眷属の方がウィザードタイプが多いですし此方で被害を抑えるための結界を担当しましょう。リアス、貴女はサーゼクス様に援軍の要請を・・・」

 

「大丈夫よ。今、朱乃が連絡を入れているわ・・・本当なら私達だけで何とかしたい所なのだけどね。情けない限りだわ」

 

「仕方がありません。現状、他に打つ手がないのですから・・・」

 

ソーナ会長が若干瞳に暗い影を落としながらもシトリー眷属が学園全てを覆う結界を展開する

 

へぇ!この結界、外からの衝撃を殆ど度外視して兎に角『閉じ込める』事に重点を置いてるのか

 

確かにコカビエルとの戦力差を考えれば妥当な判断と言えるけどやっぱりまだチョット心許無いし、一応強化しておくか

 

「ソーナ会長。俺の使い魔を結界の補助に回します―――イヅナ!」

 

懐の竹筒からイヅナを出し、そのまま60匹ほど分身させる―――一応手元に10匹分程残しておけばいいだろう

 

「うお!メッチャ増えた!?」

 

「あらあら、それにこのオーラ、一匹一匹が下級悪魔位の力がありますわね」

 

「朱乃、お兄様との連絡は取れたの?」

 

「はい。サーゼクス様の軍勢はあと1時間程で到着する予定ですわ」

 

やっぱり1時間か、確かそれだと間に合わなかったんだっけか?

 

「1時間ですか、有間君の使い魔の力を借りればコカビエルの攻撃も流れ弾くらいは完全に防げるでしょう」

 

「でもよぉ有間、お前の使い魔って分身したって事は元は一匹なんだろ?なら、力を分散させずにコカビエルとの戦いで共闘した方が良くないか?」

 

サジが疑問に思ったのか質問をぶつけるてくる

 

「それがそういう訳にもいかないんだよ。イヅナは力の最大許容量は大きいけど一匹における瞬間放出量は小さいんだ―――アレだ、巨大貯水タンクに小さい蛇口が沢山付いてる感じ?」

 

「あ~、何となく言いたい事は分かった」

 

「まぁ、そういう訳なんで遠慮なく使ってやって下さい」

 

「ええ、感謝します」

 

「じゃぁ俺らはもう行くけどさ、お前も結界張るの気張っていけよ!サジ!」

 

“スパーン!!”

 

イッセーが小気味いい音を鳴らしてサジのケツをぶっ叩く

 

「ぶぉああ!?お前、兵藤!!俺のケツが死んでんのお前も良く知ってるだろうが!つーかお前のケツはどうした!?」

 

「へっへっへ!俺のはとっくにアーシアに治してもらったもんね!」

 

「ずりぃぞテメェ!!」

 

「まぁまぁ、そう怒るなってサジ。此処は一つ、俺からもエールを送らせて貰うから・・・よ!」

 

“スパーン!!”

 

「ふんぬぉぉぉぉぉ!!?お前まで便乗すんな有間!」

 

「あはは、悪い悪い、此処は空気を読むべきだと思ってさ」

 

「その空気の読み方は絶対に間違ってるぞ!!」

 

本気で痛かったのだろう、サジが涙目で訴えてくる

 

「貴方たち、遊んでないでそろそろ行くわよ」

 

「はい、部長!」

 

「了解です」

 

「サジ、この大事な時にふざけるなど反省が足りなかったようですね。後でお尻叩き500回追加です」

 

「今の俺が悪いんですか!?冗談ですよね会長!?」

 

「さて、どうでしょうね」

 

「会長ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

サジの魂の叫びを背にして俺たちは決戦の地へ赴いていった



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第四話 3本?、いいえ50本です!?

校舎を抜けてグラウンドまで歩いて行くと濃密な聖なる波動を放つ魔法陣が鎮座していた

 

「あの光は一体何なんだ!?」

 

イッセーが自分の学び舎にある得体の知れない魔法陣に疑問を溢し、それに答えたのは俺たちの上空に浮かんでいる巨大な椅子に座ったコカビエルだ

 

「4本のエクスカリバーを一つにするのだそうだ。あの男の宿願らしくてな。エクスカリバーが統合される時に生じる莫大なエネルギーを使ってこの町を崩壊させる術を掛けるのさ」

 

「先ほどぶりだな、リアス・グレモリー。それでいったい誰が来るんだ?サーゼクスか?それともセラフォルーか?」

 

「お兄様たちに代わって私たちが・・・」

 

リアス部長がそこまで言った所でコカビエルが無造作に光の槍を体育館に投げつけ跡形も無く消滅させた

 

「詰まらんな。まぁ余興にはなるか、それにお前とセラフォルーの妹を殺せば遠く無いうちに出てくるだろうしな」

 

コカビエルの投げた光の槍の威力を見て皆は冷や汗を流す

 

光の攻撃は悪魔の皆には単純な威力以上の脅威があるからな

 

「さて、折角俺様のパーティーにご出席頂いたのだ。丁重にもてなしてやらんとな―――まずは、俺様のペットと遊んで貰おうか!」

 

コカビエルの座っている椅子の下から光が打ち出されそれが当たった地面から天に向かって噴き出る炎が渦巻き、三つの首を持つ凶悪な顔つきの犬が現れた

 

「あれは!冥界の門の付近に生息する地獄の番犬ケルベロス!!人間界に連れて来るなんて!!」

 

アレがケルベロス。地獄の番犬から運動会の障害物役まで手広くこなす犬っころ・・・そう思うとチョット可愛く思えてきた

 

「リアス部長!あのワン公ペットにしてもいいですか!?」

 

「何トチ狂ってんだよイッキ!見てみろよあの獰猛な顔つきを!あいつ絶対に『俺様の牙で貴様ら全員の(はらわた)を食い散らかしてやる』って意気込んでるぞ!正気に戻れイッキ!」

 

イッセーにツッコミを入れられて俺も思い直す

 

「そうか・・・確かに俺じゃああのサイズの犬のエサ代は賄えないかな?」

 

「そこじゃねぇ!・・・けどまぁ納得したなら今はいいか」

 

イッセーが力なく不承不承といった感じで納得するがそこで反対側から袖を引っ張られた

 

「小猫ちゃん?」

 

「イッキ先輩・・・既に猫も狐も居るんですから犬は要らないです」

 

「・・・もしかして、犬嫌い?」

 

「嫌いと言う訳ではありませんが・・・何となく負けたく無いです」

 

無意識に対抗意識があるのかね?

 

「皆!気を引き締めていくわよ!!」

 

リアス部長が気合を入れるが正直ケルベロス相手に時間を掛ける必要はないだろう

 

「リアス部長、此処は俺がいきます」

 

「な!?何を言ってるのイッキ!ケルベロスが5匹も居るのよ!此処は時間を稼いでイッセーのギフトの力が溜まるのを待ってから・・・」

 

まぁ今まで一度も本気で戦った事も無いからリアス部長の反応は当然だと思うけど流石にここで問答しても仕方がない。心配してくれるリアス部長には悪いと思いつつケルベロスに向かって駆けだしていく

 

「イッキ!」

 

リアス部長の声を背後に置き去りにして一番近くに居たケルベロスの首元辺りまで走り顕現させた神器で一閃、三つの首を同時に切り落とす

 

「な!?」

 

「速い!?」

 

イッセーとリアス部長の驚く声が聞こえてくる頃には既に2匹目の下に潜り込み1匹目と同じように首を斬り飛ばす

 

こいつ等では俺の動きに反応できないみたいなので後は同じ事を繰り返すだけの作業だ

 

「此奴でラスト!!」

 

5匹目も変わる事無く切り殺しコカビエルを注意しつつ一旦バックステップで皆の下に帰る

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

皆の視線が少し痛いが(小猫ちゃんは俺と黒歌の模擬戦とかを見てて耐性が有るため除外)誰かが口を開く前にコカビエルの笑い声が聞こえてきた

 

「クックックックック!コレは何とも予想外だ。成程、リアス・グレモリーが魔王に代わって相手をすると言った時には力の差も分からんままに突っかかってきたのだと思ったが、その人間がお前たちの切り札だったと言う事か―――これは一本取られたよ」

 

「いえ、別にそういう訳でh「小僧!大変面白いものを見せてもらったぞ。ケルベロスでは些か役者不足だったようだな」」

 

「イッキもケルベr「ケルベロス何て伝説の魔獣と言われている割には大したこと無かったな」・・・もういいわ」

 

すみません、リアス部長。セリフ思いっきり被っちゃいました

 

「ククククク!楽しませてくれた礼だ。一つケルベロスについて教えてやろう。ケルベロスは魔神テュポーンと魔獣の母エキドナの間に生まれた。どちらも強大な神や怪物だ・・・その子供と言うには弱すぎると思わないか?いや、そもそもが地獄の門の付近に『群生』していると言う時点で可笑しな話だ」

 

「一体何が言いたいの!?」

 

「今、地獄の門周辺に居るケルベロスは冥府の神ハーデスが作り出した量産型なのだよ。そして、紹介しよう。本当はサーゼクスかセラフォルーが来てから呼び出すつもりだったコイツこそが原種のケルベロスだ!」

 

次の瞬間再び地面から炎が噴き出した

 

そこから姿を現したケルベロスは先ほどのケルベロス達とはプレッシャーが桁外れだ。それに何よりも違うのはその姿だろう

 

「首が!一体何本在るんだよ!!」

 

イッセーが俺の、と言うより皆の心の声を代弁してくれた

 

「・・・聞いた事があります。ケルベロスは三つ首が有名ですが、一番古い叙事詩では50の頭を持っていると書かれていると」

 

アーシアさんが答えてくれた―――成程、数える気も起きないけど確かにそれ位ありそうだ

 

それに、体つきもデカい。三つ首と比べて倍はあるだろう

 

「普通のケルベロスでも正気を疑うレベルなのに、こんなトンデモナイものを呼ぶなんて!」

 

「俺様は戦争を仕掛けようとしているのだぞ?それにもう直ぐ魔王とその眷属がやって来るのだ。そいつらをたった一人で相手にできると思う程俺も思い上がっちゃいないさ。此奴も生まれたはいいがハーデスの作った量産型のお陰でやる事も無く退屈していたみたいでな、『それなら俺と一緒に暴れてみないか?』と問いかけたら直ぐに乗ってくれたよ」

 

成程な、五大龍王の一角、ミドガルズオルムみたいなもんか

 

アイツもロキに量産型作られてたし、ずっと暇こいてたみたいだし・・・唯一違うのは唆された位で人間界で暴れちゃうような気性の持ち主だったって事だけかな

 

それにしてもコカビエルだけで(フリードは戦力外)魔王とその配下をどうやって相手取るつもりだったのかとは思ってはいたけどこんな隠し玉があったなんて!

 

・・・と言うかこの状況ってもしかして俺のせい?原作ではイッセー達相手にナメプしてたから出してなかっただけって事?―――いやいやいや!流石に俺のせいって事にはならないだろう

 

うん!全部は襲ってきたコカビエルが悪い!(確信)

 

しかしこの状況はどうしたものか・・・俺と此奴が戦ったら余波だけでも皆死にかねないし、本当ならコカビエルとの戦いの為に力は取っときたかったんだけどな

 

取り敢えず、様子見を兼ねてぶつかってみるか!

 

「全員下がってくれ!先ずは一当てしてみる!!」

 

そう言って全力で気を巡らせケルベロスに向かって駆けだす

 

顔は犬だが首は蛇のように長い此奴の自分から見て一番左側の首の根本に狙いを定めて突進するが複数の首が一斉に炎を吐き出してきた

 

それを回避するために脳のリミッター、今回は筋肉のリミッターを解除し一気に懐に入り込む事で躱し、そのまま狙い定めた首を全力で切りつける

 

「クソ!」

 

半分以上は切断できたけど直ぐにでも首の傷が元に戻ろうとしているのが仙術の気配から伝わってくる

 

「もう一発!!」

 

それを待つ義理も無いので残り半分を繋がり掛けの肉もろともに切り飛ばし50在るケルベロスの首の一つを落とし、他の首たちが此方にまた炎を吐こうとしていたのでまた距離を取る

 

「いっ痛ぅぅ!!」

 

火事場の馬鹿力を発揮しつつ剣を振り回したから今のだけでも体が全身ギシギシと軋む

 

今はまだ大丈夫だが俺に対して警戒度を上げたであろうコイツの首をあと49本も落とすのは厳しいかな?―――俺の戦闘力は恐らくサイラオーグ・バアルより少し上くらいだと思うし、要は最上級悪魔クラスだ

 

黒歌にもそれぐらいはあると言われたからな・・・三尾となった彼女には模擬戦ではまぐれ勝ち以外は連敗を喫してるけど

 

対して相手は魔王級。首を落としたと言えば聞こえはいいがこのままではジリ貧でやられてしまうだろう―――そう思った辺りで切り落とした首の断面がボコボコと泡立ち始めた

 

 

“ズボォォォォァァァァァ!!”

 

 

な!?首が生え変わった!再生早過ぎだろ!!

 

「ククククク!ソイツの再生力を甘く見てはいかんぞ。かのヒュドラの兄弟でもあるソイツは首が一つでも残っていれば即座に他の首も再生するのだからな。元来、冥界の門を守る門番だ。しぶとさは折り紙付きと言う訳さ―――さぁ!次はどうする?それとももう万策尽きてしまったのかな?」

 

へぇ―。ケルベロスとヒュドラって兄弟だったんだ・・・って、そんな豆知識に関心してる場合じゃない!コイツ、強さは魔王級だけど、しぶとさは邪龍級かよ!

 

「イッキ!一旦戻ってきなさい!策も無しに倒せる相手じゃないわ!」

 

リアス部長の呼ぶ声が聞こえる―――確かに、あの再生速度では【一刀修羅】でも全てを切り落とす前に再生されるかもしれない

 

ただ【一刀修羅】を発動させただけでは良くて勝率5割の鼬ごっこ(倒しきれなければ相手は全回復)では少しばかり博打が過ぎるし・・・

 

そう思い開幕のブレスから避難していた皆の所に合流する

 

ケルベロスはと言えば心なしかニヤニヤとした顔つきでこっちを見ている―――恐らく久しぶりの戦いで獲物をじっくりと甚振りたいのだろう・・・反撃の企てもこいつにとってはスパイスってか

 

「イッキ。体は大丈夫!?」

 

「怪我は無いですが、ちょっと無理な身体強化したので少し全身が軋んでます」

 

気丈に振舞っても仕方がないので正直に報告する

 

「分かったわ。アーシア、治療を」

 

「はい!」

 

アーシアさんが駆け寄り治癒の力で体の軋みが消えていく

 

「有難う、もう大丈夫」

 

本当に凄いな。大したダメージで無かったとはいえ回復に3秒も掛からなかったぞ

 

「それでイッキ。あのケルベロスを倒しえる手立てを貴方は持っているのかしら?」

 

「・・・無い訳ではないです。ただ、倒しきれると胸を張っては言えないですね」

 

この局面で隠す意味も無いので皆に【一刀修羅】について説明する

 

「そういう訳で、発動時間内に奴の首を落としきれるかどうかって所ですね・・・後、それでケルベロスを倒せてもコカビエルとの戦いでは役立たずになります」

 

「そこまで貴方に負担を掛ける訳にもいかないわ。コカビエルは私達で何とかする・・・でも、その前にまずはあの化け物からね。コカビエルの言うようにあのヒュドラの兄弟だと言うのであれば弱点も似通ってる可能性は高いわ」

 

「あの部長・・・ヒュドラの弱点って?」

 

イッセーがリアス部長に尋ねる

 

「英雄ヘラクレスの『12の試練』は日本でもそれなりに有名だと思うけど、伝説ではヒュドラの首を潰して回る中、仲間が再生できないように傷口を焼いて塞いだそうよ。イッセー、赤龍帝の力は溜まってる?」

 

「はい!あと少しで限界まで倍化できます!」

 

「では倍化が溜まり切った時に作戦開始よ。イッセーはアーシア以外の全員に力を譲渡してアーシアを連れて下がりなさい。私と朱乃は炎の魔力で、小猫は火車で、イッキが切り落とした首の断面を塞いでいくわよ!」

 

「「はい!」」

 

「はい部長」

 

「了解です」

 

成程、伝説相手には伝承で対抗策を練るって事ですか

 

『Boost!!』

 

「来た!いきます!赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)!!」

 

『Transfer!!』

 

イッセーが俺たち4人にタッチして力を譲渡してくれる

 

おお!流石はドラゴンのオーラ!中々に力強い波動だな

 

「それでは行きます!【一刀修羅】!!」

 

能力を発動しケルベロスを上回るオーラが迸る・・・思えば俺の【一刀修羅】って完全に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の下位互換だよな。数十倍、ともすれば数百倍の強化をポンポンと連発して『ギフト』以外にも便利機能が幾つも付いている―――やっぱりチートだな!改めて思うと酷いぶっ壊れ性能だ!

 

少し思考が逸れながらもケルベロスに向かって駆けだしていく

 

「私たちも続くわよ!」

 

「はい部長!」

 

「はい」

 

リアス部長と朱乃先輩が掌に炎の魔力を溜めながら、小猫ちゃんは白い炎を纏った車輪を左右に展開して追従する

 

ちなみに小猫ちゃんは猫又モードレベル2(大人モード)には成らずに火車だけを展開している・・・今必要なのは文字通りの火力だけだからな

 

ケルベロスの首たちが今度は直接かみ砕かんとばかりに迫ってくるが、それらを避けざまに切り落としていく

 

直ぐにリアス部長と朱乃先輩の炎の合わせ技と小猫ちゃんの二つの火車が切り落とした首の断面に蓋をするように押し付けて焼く事で傷口を塞いだ―――良し!再生する気配が無い!

 

ただしそれでケルベロスもリアス部長たちも明確に敵と認識したのか攻撃を仕掛けようとするが今の俺なら攻撃のモーションに入った時点でその首を落とす事ができる

 

多くの首は再生してしまったがまた切り落とすと言うのを繰り返していき、着実に焼き潰す首の割合が増えていく

 

中には焼かれた部分を食いちぎって再生を図る個体もいたのには驚いたがギリギリそれも阻止する事ができ、そうして遂に全部の首を同時に切り落とした状態を作り出した

 

「念には念だ!喰らっとけ!!」

 

最後に残った胴体部分を十字に切り裂いた・・・流石に死んだよな?まったく安心できないのが恐い所だと思いつつ警戒し、相手の気を探るが復活の兆候は見られない

 

どうにか倒しきれたみたいだ

 

そう思った辺りで【一刀修羅】の効力が切れる

 

「ぅあ・・・」

 

その場で倒れそうになったのをどうにか堪えた所で小猫ちゃんの鋭い声が聞こえてきた

 

「イッキ先輩!」

 

ギリギリ視界の端で捉えたのは此方に迫ってくるコカビエルの光の槍だった

 

「させないです!」

 

その光の槍の側面に小猫ちゃんが火車をぶち当てる事で軌道が逸れる・・・でもコレ死にはしないだろうけど爆発の余波だけで大ダメージ必至だな

 

【一刀修羅】の後遺症で霞みがかった頭でそう考えた直後、誰かに抱きかかえられて瞬時にその場を離脱する

 

「皆、遅くなってゴメン」

 

「祐斗!」

 

「祐斗先輩!」

 

「木場!」

 

皆の喜悦に満ちた声が聞こえてくる

 

どうやら祐斗が騎士のスピードで俺を助けてくれたようだ――うん、それは大変ありがたいのだが・・・

 

「あ~、助けてくれたのには感謝するけど、そろそろ下ろしてくれない?流石にお姫様抱っこはちょっと・・・」

 

うん!今は自分で立つのも億劫だけど学園の女子達が(いろんな意味で)悲鳴を上げそうな構図は遠慮願いたいのだが・・・

 

「え?どうしてだい?」

 

そんな心底不思議そうな顔すんなよ!学園の女子達に腐女子が湧いてるのって原因の何割かはコイツに在るんじゃないか!?このイケメン王子様がきっと男子女子関係なく爽やか紳士っぷりを振りまいてるに違いない!!

 

「祐斗先輩。仙術で回復しますのでイッキ先輩を渡してください」

 

「うん、分かったよ小猫ちゃん」

 

そうして祐斗から小猫ちゃんに俺が引き渡される。お姫様抱っこで・・・

 

「小猫ちゃん!この構図(お姫様抱っこ)は何とかならないかなぁ!?」

 

「・・・男女でお姫様抱っこするのは別に可笑しい事ではありませんよ?」

 

「いや可笑しいから!普通男がする側で女の子がされる側だから!!」

 

「そうなのですか?私の依頼主には何時もこうしていたのですが・・・」

 

何を頼んでるの!?その依頼主は!!

 

「こんな時だと言うのにグレモリー眷属とは随分と呑気なのだな」

 

「ゼノヴィア!来てくれたのか!」

 

イッセーが驚きの声を上げる

 

まぁ現時点では三大勢力はギスギスにいがみ合ってるんだからゼノヴィアとしては悪魔と堕天使が正面からつぶし合ってる状況は漁夫の利を狙った高みの見物をしてても可笑しくないはずだからな

 

「ああ、どうやら少しばかり遅れてしまったようだが此処からは私も戦わせてもらおう」

 

そう言いつつ破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)を構え、いまだ空中の椅子に座っているコカビエルを睨みつける

 

「まさか人間ごときにケルベロスが殺られるとはな。全くもって予想外!だが面白い!これだから闘争は止められないのだ!」

 

そう言いつつ立ち上がり椅子を消して自らの翼で宙に浮かぶ

 

皆の意識がコカビエルに浮いた時、別の方向から喜びに満ちた声が聞こえてきた

 

「―――完成だぁ!」

 

グラウンドに展開してあった魔法陣から立ち上っていた4つの光の帯が中心で一つに混ざり合い一本の剣が現れる

 

「4本の剣が統合される時に生まれる莫大な力を俺が頂く。奴とはそういう取引をしてな」

 

「その力を使って、天地崩壊の術を掛けたと言うの!?」

 

「フフフフフ!此処から逃げるがいい。魔法陣の中で力を反響させ、あと20分もあれば聖剣のオーラは臨界点に達するぞ」

 

司教の姿をした小太りの男、バルパー・ガリレイが凶悪な顔を浮かべながら心にも無い忠告をする

 

そんなバルパーに祐斗がその殺気を隠すことも無く剣を手に近づいて行く

 

「バルパー・ガリレイ。僕は聖剣計画の生き残り、いや、正確には貴方に殺された身だ。悪魔に転生することでこうして生きながらえている。僕は死ぬわけにはいかなかったからね、死んでいった同志たちの為にも諸悪の根源である貴様を此処で倒す!」

 

手にした剣を振りかぶりバルパーに向かって駆けていく

 

「ダメです!祐斗先輩!」

 

コカビエルが祐斗に光の槍を投げようとしているのを察知した小猫ちゃんが警告を発し、祐斗が僅かに減速した直後、彼の目の前に光の槍が突き刺さり爆発で祐斗を吹き飛ばしてしまう

 

「フン!直撃は避けたか。仲間に感謝するのだな・・・フリード!」

 

「はいなボス!」

 

「統合されたエクスカリバーの力、お前の思うままに振るうがいい!」

 

「了解でござます☆うちのボスは人使いが荒いけど、こんな素敵に改悪されたエクスなカリバーちゃんなんて報酬が貰えると考えると悪く無いって思えてくるっスねぇ!!」

 

そう言って魔法陣の中央に浮かんでいたエクスカリバーを手に取る

 

「う~ん。皆殺しは確定だけどどいつから切り刻んで上げるべきか、僕チン迷っちゃう♪」

 

そうしてフリードが最低な順番決めを行っている中、バルパーが祐斗に向かって歩いて行く

 

爆発だけでなく光の余波まで受けた祐斗は直ぐには動けないようで、悠々と近づいて行った

 

「あの実験の生き残りか、卑しくも悪魔に堕ちていたとはな。お前は私を恨んでいるようだが、逆に私はお前たちに感謝しているのだぞ?お前たちの犠牲のお陰で実験は成功したのだからな」

 

「・・・成・・・功?」

 

「あの時集めた被験者たちは皆、聖剣を扱う為の因子を保有していた・・・正確には人間は誰しも多かれ少なかれその因子を持っている。しかし実験では因子を強化する事は叶わなかった。そこで私は一つの結論に達したのだ!被験者から因子だけを抜き出し、纏めてしまえば良いと!」

 

そうしてバルパーは懐から一つの輝く結晶を取り出した

 

「これはあの時の実験で貴様らから抜き出した聖剣の因子の結晶だ!最後の一つとなってしまったがね!」

 

「!!?」

 

祐斗が驚愕の眼差しでその結晶を見つめる

 

「ひゃはははははは!最初は俺様以外にも夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)の使い手として因子を入れられた奴らが居たんだけどよ!そいつらは聖剣の因子に体がついて行かずに死んじまったんだぜェ☆」

 

「バルパーって野郎!自分の仲間まで実験で死なせたってのか!」

 

「ちょい待ち、ちょい待ちイッセー君!話には続きが在るのさ♪その死んだクソ雑魚どもに入れた因子、もったいないと思わない?だから俺様はバルパーのじいさんに頼んでそいつらの因子を俺に入れ直してもらったんだよね☆流石に暫くは死ぬかと思ったけど、まぁその程度の耐久実験なんて昔から腐るほどやってるし☆今回も俺様はスペシャルな俺様になる事で生き延びたのさ♪」

 

おおぅ!なんだかさり気に別口で教会の闇が見えた気がする

 

そしてそうか、フリードがなんか強くなっているのは因子を3つも体に取り込んだからか!

 

「欲しければくれてやろう。もはやさらに純度の高い結晶を作り出せる段階まで私の研究は進んでいるのでね」

 

そう言ってその結晶を祐斗の前に無造作に放り投げる

 

「そうか。我ら聖剣使いが着任の命を授かる時、あのような物を体に入れられるが、アレは因子の不足分を補っていたという事か」

 

「偽善者どもめが、私を異端として追放しながらも、私の研究成果だけは利用しよって・・・どうせあのミカエルの事だ。因子を抜き出した者たちも殺してはいないのだろうがな」

 

「なら、僕たちの事も殺す必要は無かったはずだ―――研究が成功したと言うのなら、僕らはそれを称賛だってしたはずだ!それなのに、どうして!!」

 

「ハッ!貴様らは所詮は極秘実験の研究材料に過ぎん。用済みとなれば廃棄するのは当然であろう?事実、聖剣の因子を抜き出した後の貴様らはなんの価値も無くなった実験の素材の搾りカスだ。生かしておく理由など何処にも無かったのだよ」

 

邪悪な笑みを浮かべるバルパー。コイツ!本当に聖剣の事しか頭に無ぇ!

 

バルパーの話を聞いていた俺たち全員が奴の醜悪さに苦虫を噛んだような表情を浮かべる

 

特にアーシアさんは目に涙を浮かべて「そんな酷い事を!」と声を上げていた

 

結晶を拾い上げた祐斗がふらつきながらも立ち上がる

 

「僕たちは主の為、教会の為、人々の為になると信じて辛い実験にも耐えてきた・・・それを、搾りカス?廃棄?そんな事の為に僕たちは頑張ってきたんじゃ無いんだ!!」

 

祐斗が結晶を胸に掻き抱いて涙を流しながら叫ぶ

 

そしてその祐斗の想いと呼応するように結晶から暖かい意思を感じる光が溢れ出し、戦場を優しく照らし出した




dxdのケルベロスって意外とモフモフしてそうに見えたんですよねww(錯乱)


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第五話 じばくと、巻き添えです!

「光が・・・」

 

「アレは恐らく結晶に眠っていた祐斗君の同志たちの魂でしょう。この戦場に漂っている様々な力の波動と祐斗君自身の心の震えが彼らの魂を解き放ったのですわ」

 

朱乃先輩の説明が入る中、徐々に光は形を変え人の姿となっていく

 

「皆・・・」

 

祐斗が自分の周りに現れた人たちに唖然としながら声を溢す

 

「皆、僕はあの日からずっと思っていたんだ。僕だけが生き残ってしまって良いのかって!僕だけが日常を謳歌して良いのかって!・・・でも今、君たちの想いが伝わってくる。君たちは・・・ただ僕に・・・幸せに・・・」

 

先ほどまでの悲しみや絶望からの涙では無く、喜びや感動から祐斗は涙を流す

 

そして彼の同志たちの口から歌が聞こえ始める―――決して大きくはないのに、それでも確かに戦場の全てに確かに響き渡る歌だった

 

「聖歌・・・」

 

あの様子を見て涙してしまったであろうアーシアさんがポツリと溢す

 

本来、悪魔が聖歌を聞けば酷い頭痛に苛まれるはずだが、誰一人としてそんな物は感じていないようだった

 

「・・・よう、どうしたイッセー?そんなに涙流して?」

 

「うっせぇイッキ!テメェも泣いてんじゃねぇか!」

 

「お前程滝みたいに流してねぇよ」

 

原作知識で既に知っていたはずの光景?そんな小さな事がどうでも良くなる位には今の祐斗たちはとても暖かなものに満ちていた

 

そして、祐斗の同志たちの声が此方にも聞こえてくる

 

『聖剣を受け入れよう』

 

『僕らは一人ではダメだった』

 

『でも、皆が一緒なら大丈夫』

 

『例え、神様が見ていなくたって』

 

『例え、神様が居なくたって』

 

『僕たちの心は何時までも』

 

「『ひとつだ』」

 

彼らの言葉が重なった瞬間、今まで感じた事の無い特異な波動が放たれた

 

「暖かいです」

 

小猫ちゃんの感じたようにとても暖かく、それでいて静かで且つ力強い波動だ

 

暖かな光に包まれていた祐斗がゆっくりと瞼を上げる

 

「・・・バルパー・ガリレイ。同志たちは僕に復讐なんて望んではいなかった。だけど!ここで貴方と言う悪意を打倒しなければ第二、第三の僕たちが生まれてしまうだろう。あの悲劇を経験した者として、この場で貴方を見過ごす事など出来はしない!」

 

祐斗の宣言を聞いたイッセーが木場の想いを後押しする為に声を上げる

 

「木場ァァァァァ!!アイツらの想いを!願いを!無駄にするんじゃねぇぞぉぉぉ!!」

 

「やりなさい祐斗。貴方はこのリアス・グレモリーの眷属。たかだかエクスカリバー如きに負ける事など許さないわよ!」

 

「木場さん!」

 

「祐斗君。貴方なら大丈夫ですわ」

 

「祐斗!勝てよ!」

 

「ファイトです。祐斗先輩」

 

イッセーの叫びに触発されて皆で祐斗に呼びかける―――俺だけ未だにお姫様抱っこなのでイマイチ恰好がつかないけど・・・少しは回復したし、小猫ちゃんもそろそろ降ろしてくれないかなぁ?

 

「・・・もう少しだけ、このままで」

 

何か言う前に答えるのやめて!!

 

「皆・・・有難う。僕は主の、そして仲間たちの剣となる。同志たちよ!あの時果たせなかった願いを、想いを今こそ果たそう!僕たちの想いに応えろ!魔剣創造(ソード・バース)!!」

 

片手を天に突き上げ、そこから聖なる波動と魔の波動が噴き出し、一つに混じり合う

 

双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)。同志たちから受け取りし聖の力と僕自身の持つの魔の力。その双方を有するこの力、受け止めてもらう!」

 

「聖魔剣だと?馬鹿な!?相反する二つの要素が混じり合う事など起きようはずが無い!!・・・フリードォ!!」

 

聖魔剣という現象に驚愕しながらも自らの危機を察したのかフリードを呼ぶ

 

「呼ばれて飛び出て僕チン参上☆つーか、さっきからお宅らが展開していた反吐が出そうな感動シーンのお陰で(さぶ)いぼアレルギーで頓死しちゃいそう!さっさとテメェらズタズタに切り刻んでェ★気分爽快リフレッシュ♪しちゃいますぅぅぅ!!」

 

「・・・キミの中に在る同志たちの力も、これ以上悪用される訳にはいかない。バルパーと同じく、君もここで倒れてもらう」

 

そう言いつつ祐斗がゆっくりした足取りでフリードに向かって歩いて行き、その横にゼノヴィアが並ぶ

 

「リアス・グレモリーの騎士よ、まだ共同戦線は生きているか?」

 

「そうだと思いたいね」

 

「ならば共に破壊しよう。あのエクスカリバーを・・・」

 

「良いのかい?教会の戦士であるキミがそんな事を言ってしまっても?」

 

「もはやアレは聖剣でも何でも無い―――エクスカリバーも、もしも意思が在るならバルパーの手が加わったなんて過去は消して欲しいだろうさ」

 

「・・・判った」

 

「おやぁ?お宅ら二人だけでこの俺様と戦うつもりなのぉ?ひゃっはははは!あんたら二人にあのツインテールっ子を加えて、改悪前のエクスカリバーちゃんを使ってた俺様にやっと互角だったあんたらが!?OK.OK♪自殺志願だって言うなら俺様も丁寧に三枚おろしにして差し上げますよ☆」

 

「そちらがエクスカリバーを強化したと言うのであれば、此方はそれ以上の物を用意するまでのことさ」

 

ゼノヴィアは手にした破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)を地面に突き刺し、右手を真横に向ける

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」

 

その詠唱と共に空間に黄金の光と波紋が生まれ、そこから鎖で雁字搦めにされた蒼く美しい幅広の剣が現れる―――黄金の波紋から出てくる鎖や聖剣ってもしかしなくとも凄くバビ〇ンっぽいな

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する!聖剣、デュランダル!!」

 

ゼノヴィアが空中に浮かぶ聖剣の柄を握りしめ、力強く宣言する事によってデュランダルを拘束していた鎖が荒々しいデュランダルのオーラに中てられて粉砕し、完全に聖剣を引き抜いた

 

「馬鹿な!デュランダルはエクスカリバーに並ぶ聖剣!私の研究ですらまだそれを扱える領域まで達していないというのに、貴様!一体何所で調整を受けた個体だ!!」

 

「調整とは言ってくれるな―――私はそいつやイリナとは違う、数少ない原石というやつだよ」

 

「真の聖剣使いという訳か―――そういった素体を調べた事は無かったな。その体を調べれば私の研究もまた1歩進むかもしれん。フリード!そいつの死体は可能な限り綺麗に手に入れろ。死体の状態に応じて追加報酬をくれてやる!」

 

「わぁお!頑張った分だけボーナスが貰えるんすか☆ボスといい、バルパーのじいさんといい、僕チンってば本当に上司に恵まれとりますなぁ♪」

 

フリードがエクスカリバーのオーラを高めて二人に切りかかろうとした時、聖剣のオーラが目に見えて弱くなった

 

「あ・・・?おいおいおい!何で聖剣にオーラが流れていかねぇんだよ!折角コレからって時にどうなってんだコレは!!?」

 

フリードの体を巡っていた聖剣のオーラが急激に力を減少させた事により奴も目に見えて狼狽し始める

 

「フリード。因子の結晶を三つも体に入れた事がアダとなったようだね―――今、この戦場では同志たちの魂が目覚めている。そしてキミの中にある因子は元は僕の同志たちの力、三つも因子を入れた事により彼らの意思の影響をより強く受けるようになったんだろう。この場でキミに刃を向けているのは決して僕と彼女だけじゃ無いって事さ!」

 

祐斗が聖魔剣をフリードに突き付ける

 

「ここに来ての超展開!そんな怖気が走る設定いらねぇんだよ!クソ共が!!」

 

フリードが憤怒の形相を隠す事も無くエクスカリバーの刃先を枝分かれさせながら伸ばし、二人を串刺しにしようとする―――しかし、聖剣のオーラが不安定なせいか技に切れが無い

 

辺りに金属音が響き、伸ばされた刃先がデュランダルの一撃で粉砕された

 

「所詮は折れた聖剣。このデュランダルの相手にはならない!」

 

フリードがエクスカリバーを元の形に戻すが刃先の辺りには大きくヒビが入っていた

 

同時に祐斗が駆けだし、フリードはそれに対応するため天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)の力を発動させ高速戦闘に入る

 

「そんな剣で!僕たちの想いには勝てない!!」

 

縦横無尽に動き回りながらも互いの剣をぶつけていくが、一合、また一合と剣が衝突する度にフリードの持つ剣が欠けていく

 

そして遂に祐斗の斬撃がフリードをエクスカリバーごと切り裂いた

 

「マジ・・・ですか・・・」

 

フリードは奇しくもエクスカリバーが盾となったようで、派手に切り裂かれながらも致命傷には至らなかったようだ―――とは言え、もう動けないだろう

 

「皆、見ていてくれたかい?僕たちの想いはエクスカリバーを超えたよ」

 

静かに、しかし力強く勝利の宣言をした

 

祐斗はその場で深く息を吐き、"キッ"と残るバルパーを睨みつける

 

「バルパー・ガリレイ。今こそ覚悟を決めて貰おう!」

 

しかし、当のバルパーは祐斗の言葉など耳に届いてないと言う風情でブツブツと呟いている

 

「あのような特異な現象・・・聖と魔、それが混じり合うとしたらそれは・・・そうか!そう言う事なのか!聖と魔、片方だけでなく双方のバランスを司るものが居ないのであれば説明はつく!つまり、魔王だけでなく対となる神―――」

 

 

“ズドン!”

 

 

バルパーの言葉が終わる前にその腹に光の槍が突き刺さり、バルパーの肉体を文字通り塵に変えた

 

「バルパー、お前は優秀だったよ。そこに思考が至ったのも優れているが故だろうな」

 

バルパーを消滅させた張本人であるコカビエルがゆっくりとその高度を落としてくる

 

「小猫ちゃん、マジでそろそろ・・・」

 

「はい、これ以上の回復は望めそうにありませんね」

 

漸くお姫様抱っこから解放された―――途中から皆の俺を見る目が生暖かった気がする・・・

 

「コカビエル、仲間を殺すとは一体どういうつもりだったのかしら?」

 

「なに、用済みになったから始末したまでの事だ。ここから先は俺様自ら相手をしてやろう。リアス・グレモリー」

 

そのままコカビエルが地面に降り立った

 

「エクスカリバーは折れ、貴方の切り札だったケルベロスも既に死んでいるわ。そろそろ尻尾を巻いてお帰りいただいても良いのだけど?」

 

「フン!その程度では俺様が引き下がる理由にはならんなぁ!」

 

コカビエルはそう言い、未だにこちらを見下した表情で戦意を高めていく

 

可笑しい。なぜあそこ迄余裕があるんだ?リアス部長は魔王たちの代わりに自分たちが戦うと言ったが額面通り受け取ってはいないだろうし、そもそも自分一人で魔王と配下を相手どるのは無理とハッキリ言っていた

 

何時魔王たちが現れるかも分からない中、切り札も無いなら俺なら逃げるね!

 

過去の大戦を生き延びたコイツがその辺りの引き際を見誤るものか?

 

ならば今すぐ魔王が現れても何とかなる何かがコイツには在る?

 

正気を失ってるだけと思うのは簡単だけどそこで思考を止めたらダメだろう―――だけどそれならアイツの次の手は?ケルベロスのようなトンデモ魔獣がそうホイホイ出てくるとは思えないし、他に何か・・・

 

そこまで考えた所である物が視界に入った

 

「リアス部長!コカビエルの次の狙いは天地崩壊の術式です!」

 

「どういう事!?」

 

「あの術式はコカビエルと繋がっています。オーラが臨界点に達した後は奴の意思一つで起爆できる・・・もしも俺が奴の立場なら、町一つ軽く吹き飛ばす聖剣のオーラを高めた一撃。この場に魔王が転移してくる瞬間を狙って作動させますね!」

 

「それでは!あの魔法陣は町を狙ったものではなく!?」

 

「フハハハハ!その通りだとも!折角溜まりに溜まったエネルギーなんだ。出来るだけ有効利用してやらんとなぁ!・・・まぁ俺様の読みが外れてサーゼクスどもが来なかったとしても、お前らを殺せば戦争は起きる。新たな大戦の幕開けを告げる盛大な花火の代わりにでもしていたさ」

 

「・・・ッ!私達だけでなく、我らが魔王まで標的として数えていたなんて、その傲慢、万死に値するわ!」

 

激昂したリアス部長が魔の波動を纏い、周囲に風が吹き荒れる

 

「ならば滅ぼしてみろ!リアス・グレモリーよ!!お前らの前に立っているのは怨敵にして仇敵!ここで尻込みするようでは、お前の程度が知れると言うもの!」

 

コカビエルは光で形作られた剣を握り此方に突き付ける―――まさに一触即発と言った感じだ

 

「・・・イッキ、小猫の回復を受けたみたいだけどどの程度動けるのかしら?」

 

「正直神器無しのイッセーに毛が生えた程度ですかね?気絶するほどでは無くなりましたが、仙術に回せる余力は殆ど無いです・・・」

 

ほぼ枯渇状態だったし、小猫ちゃんの仙術と言ってもコカビエルの奇襲を警戒しながらだったから回復速度は大した事無かったしね

 

「分かったわ。予定通り、コカビエルは私達で相手をする。イッキはアーシアの傍にいてあげて」

 

「・・・了解です」

 

「イッセーは譲渡の用意を!折を見て仲間を強化しなさい!他の皆は時間を稼ぐわよ!!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

 

 

 

 

[イッセー side]

 

 

部長の指揮の下、すぐさま倍化で力を溜め始める

 

それと同時に小猫ちゃんが前に出る―――戦闘中の小猫ちゃんって猫耳と尻尾を生やしてるから何時にも増してラブリーなんだよな!

 

「出し惜しみして良い相手ではありません。最初から全力で行かせてもらいます!」

 

小猫ちゃんの力強い宣言と共にその体が真っ白い光に包まれた

 

数舜の後、光に小猫ちゃんのもので無いシルエットが浮かび上がる

 

『仙術と妖怪変化の応用で一時的に肉体を成長させました』

 

光の中から現れたのは少し小柄ながらも部長や朱乃さんにも決して劣らないスタイルの白を基調にした丈の短い着物に青いミニスカ・・・いや、もしかして袴の一種か?それを着た美女!まさかこれが小猫ちゃんの大人の姿!?小猫ちゃんが将来こんなボンッキュッボンッなスタイルに成長するなんてお兄さん感激だよ!普段の小猫ちゃんは十分ラブリ―だけど擬音で表すならキュッキュッキュッだったからな!

 

 

“ズビシィィィ!!”

 

 

「目が痛い!!」

 

小猫ちゃん(大人モード)の水平チョップが俺の目を捉えた

 

「うぅぉぉぉ!眼球が潰れるぅぅ!!」

 

「自業自得です」

 

俺何も言って無かったよね!?イッキにも時々小猫ちゃんのツッコミが入るけど、何で分かるの!?勘良すぎじゃない!?

 

う~む。それにしても改めてみると凄く良いおっぱい!遠くの方で小猫ちゃんを見たアーシアが崩れ落ちる姿が見られたけど小猫ちゃんがここまで大きく成長するんだからアーシアもきっと大丈夫さ!仮に成長しなくともアーシアのおっぱいの柔らかさは俺が一番分かってるって!

 

「戦端は僕が開かせてもらうよ!」

 

そうこうしている内に木場が一直線にコカビエルに向かって駆けだし、少し遅れてゼノヴィアと小猫ちゃんがそれに続く

 

木場が斬りつけ、反対側からゼノヴィアも斬りかかるが一本は既に手にしていた光の剣で、もう一本も反対の手に新たに作り出した光の剣で受け止めてしまう

 

「聖剣と聖魔剣の同時攻撃か!面白い!!」

 

「そこです!」

 

木場とゼノヴィアがコカビエルの前後を抑えている隙に小猫ちゃんの火車が左右から、そして小猫ちゃん自身は奴の上空からの奇襲を行う

 

前後左右に加えて上からの攻撃だ!逃げ場はないだろう!

 

「素晴らしい!・・・が!一歩足りない!!」

 

コカビエルは背中から堕天使の翼を生やし奴を中心に黒い竜巻でも吹き荒れたのかと思う程に翼を振り回し皆を吹き飛ばしてしまった―――あんなの翼がしていい動きじゃないだろ!

 

「皆!大丈夫か!?」

 

「・・・心配いらないよ、イッセー君。僕と彼女は直前で小猫ちゃんの火車が間に入ってくれたからそれほどダメージは受けなかったからね」

 

「私も大丈夫です、イッセー先輩。幻覚で打撃位置をずらしていたので重い攻撃は受けてません」

 

そうか、良かった!流石は眷属最強の小猫ちゃん!あの一瞬で自分を含めて3人を守るなんて今の俺には到底出来ない芸当だ!

 

「朱乃!」

 

「はい部長!」

 

3人がコカビエルから離れたので間髪入れずにオカ研のお姉様コンビが攻撃を仕掛ける

 

朱乃先輩の放った雷撃を部長の展開した魔法陣を通り抜ける事により増大させ、極大の雷となって降り注ぐ

 

「やったか!?」

 

「馬鹿野郎イッセー!それはフラグだ!」

 

未だに力が回復しておらず、少しフラフラしているイッキが渾身の力で俺にツッコミを入れる・・・お前は大人しくしておけよ、今のツッコミだけで息が切れてんじゃねぇか!

 

だが、イッキの心配(ツッコミ)は的中だったみたいで、落雷で白い煙に包まれていた奴の姿が見えてくる

 

翼を繭のようにして自分を包み込み雷撃を防いでいたみたいだ

 

あの翼、飛んだり攻撃したりだけでなく防御にもつかえるのか!随分と便利だな!堕天使って奴らは皆そうなのか!?

 

「その年にしては中々いい雷だったぞ。流石はバラキエルの娘と言っておこうか」

 

「私は!あの者の娘などでは無い!!」

 

普段の温厚な朱乃さんからは考えられない程の怒気が発せられ、コカビエルに喰って掛かった

 

「木場、バラキエルってのは?」

 

「『雷光』の二つ名を持つ、堕天使の幹部の名前だよ」

 

近くにした木場に聞くと衝撃的な事実を教えてくれた―――朱乃さんが堕天使の娘!?

 

「疎遠とは聞いていたが、まさか悪魔に堕ちていたとはなぁ―――しかし、敵だと言うのであれば是非もない。此処で死んでもらうまでだ!」

 

そう言って奴は光を練り込んだ衝撃波のようなものを放って俺たち全員を吹き飛ばした

 

「ぐぅぅぅ!」

 

クソ!とんでもねぇ威力に加えて光のせいで体が硬直してやがる!

 

「ほら!どうしたぁ!ドンドン行くぞ!」

 

コカビエルが近くに居た木場に濃密な光の弾を放つが木場も俺と同じで光の影響からか、まだ体が動かず倒れたままだ!

 

「させるか!」

 

だがそこでゼノヴィアが間に入ってくれてコカビエルの光球をデュランダルで切り裂いた

 

助かった!けど、何でゼノヴィアが動けるんだ!?あいつも木場と同じくらい奴の近くであの攻撃を食らったのに?―――そうか!ゼノヴィアは人間、それも聖剣使いだ!光が弱点じゃないだけでなく耐性を持ってても可笑しくはない!

 

「教会の者が仮にも悪魔を助けるとはな。主の居ないお前らにとって、その程度の矛盾は許容すると言う訳か?」

 

「コカビエル!主が居ないとはどういう意味だ!!」

 

「おっと!口が滑ったか・・・」

 

「答えろ!!」

 

ゼノヴィアはコカビエルの言葉を無視できないのかキツく問いただす

 

すると程無くしてコカビエルは何が可笑しいのか盛大に笑い始めた

 

「そうか!そうだったな!これから戦争をしようと言う時に、今更隠す意味など無いのだったな!まったく、染みついた習慣というのは簡単には変えられないものだ。良いだろう。未だに神を拝む哀れな信者に教授してやろう―――先の三つ巴の戦争で四大魔王と共に神も死んだのさ!」

 

これにはその場にいた全員が驚愕を露にした

 

「ふざけるな!バカも休み休み言え!我らが主が既に身罷られているなどと、そんな戯言が真実のはずが無い!!」

 

特に教会の戦士であるゼノヴィアは信じられないのか叫ぶように否定する

 

「あの大戦では神だけでなく悪魔は魔王全員と上級悪魔の多くを失い、天使や堕天使も幹部以外の殆どを失った。もはや純粋な天使は増える事すらできず、悪魔とて純血種は希少なはずだ。どの勢力も人間に頼らなければ生きてはいけない程に落ちぶれた。三大勢力のトップ共は神を信じる人間を存続させるためにこの事実を隠蔽したのさ」

 

アーシアとゼノヴィアはコカビエルの話を受け入れられず、その場に崩れ落ちてしまった

 

ゼノヴィアは戦闘中だというのにデュランダルすらも手放してしまい、うわ言のように「嘘だ・・・嘘だ・・・」と繰り返している

 

「主はもういらっしゃらない。では!私達に与えられる愛は!?」

 

「ふっ、実際ミカエルは良くやっているよ。神に代わって天使と人間どもを纏めているのだからな―――祝福を司る『システム』さえ機能していれば、神への祈りも悪魔祓いも、ある程度動作はするさ。最も、(やつ)が居た頃とは比べられんがな」

 

それを聞いたアーシアは精神の防衛本能なのかその場で気絶してしまった

 

傍にいたイッキがアーシアの体を支え、近くの木を背にするように座らせる

 

「だが!俺が気に喰わないのは神も魔王も死んだ以上、戦争継続は無意味だと判断した事だ!一度振り上げた拳を収めろだと!?それで死んでいった同胞たちが報われるとでも言うのか!?アザゼルの野郎も2度目の戦争は無いと宣言する始末だ・・・誰も戦争を起こす気が無いと言うのであれば俺がこの手で戦争を引き起こしてやる!!」

 

コカビエルの独白を聞いていた俺は段々腹が立ってきた

 

「ふざけるなよコカビエル!死んだ同胞が報われない?それで戦争を起こしたら今生きてる仲間まで死なせる事になるだろうが!そんな事の為に俺たちの町を壊させてたまるか!―――俺の野望の為にテメェは邪魔だ!!」

 

「ほぉ?野望か。なんだ?金銀財宝でも欲しいのか?」

 

金銀財宝?ハッ!こいつは長年生きてるくせにそんな事すら分かんねぇのか。男の野望と言えば石器時代よりも前から何一つ変わらない一つの真理!

 

「聞いて驚き、そして慄けコカビエル!俺の夢!俺の野望!!ハーレム王に俺はなる!!」

 

・・・ッフ!皆この俺の壮大過ぎる野望を聞いて声も出ないみたいだな

 

「クックック!赤龍帝はそれがお望みか、ならば俺と来るがいい。お前の望む様々な美女を宛がってやろう―――明日にはハーレム王にしてやるぞ?」

 

明日!?こいつに付いて行けば明日にはハーレム王!?

 

いやいやダメだ!俺は部長の眷属なんだ!あんな奴の甘言に騙されるなんて事があっていいはずが・・・はずが・・・・はず・・・が・・・・

 

「イッセー!」

 

「はい部長!何でもありません!!」

 

危ない危ない!部長に百面相している所を見られちまったぜ

 

「イッセー、そんなに女の子が良いなら、コカビエルに勝てば私が奉仕して上げるわよ」

 

奉仕・・・して上げる!?まさかそんな想像力が刺激される日本語が在ったなんて!?

 

「うふふふふ!宜しければ私も参加いたしますわ」

 

朱乃さんまで!?前回のライザーとの戦いの時はアーシアだったけど今度は朱乃さんによる倍プッシュですか!?

 

「ちょっと朱乃!どう言うつもりよ!?」

 

「あらあらリアス。コレで堕天使の幹部に勝てる確率が上がると言うのであれば安いものではありませんか・・・それとも、別の心配をしているのかしら?私と一緒に迫ったらイッセー君が貴女なんて放っておいて私に夢中になってしまうと?」

 

「・・・いい度胸しているじゃないの朱乃。コカビエルより先に貴女を倒して上げましょうか?」

 

部長ぉぉぉ!?激しい怒りのオーラ(魔力)が全身から噴き出てますよ!?

 

「あらあら、イッセー君が盗られてしまうと言う所は否定しないのかしら?まぁ仕方ありませんわね。イッセー君の大好きなおっぱいは貴女より私の方が大きいですしねぇ?」

 

そう言って“チャポン”と水風船のような音でも聞こえてきそうな感じに自らのおっぱいを主張する朱乃さん―――と言うか二人とも何やってんの!?

 

「フン!私の方が張りもあるし形も良いわ!ただ大きいだけの貴女とは違うのよ!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、部長にも負けない怒りのオーラが朱乃さんの周囲を渦巻き、漏れ出た雷撃が辺りを焦がす

 

「あらあら、うふふ!何時もアーシアちゃんとのイッセー君の取り合いで『イッセーはやっぱり胸の大きい方が良いわよね!』と言っていた貴女のセリフとは思えませんわね」

 

二人が言葉の応酬をするたびに怒りに呼応して魔力がどんどん高まってる!!どうすんのコレ!?怖いよ二人とも!?何時もの優しいお姉さま方に戻って!!

 

何時もからは考えられない二人の様子に戦慄しているといつの間にか近づいてた小猫ちゃんに袖を引っ張られた

 

「小猫ちゃん?どうしたの?」

 

「多分、そう遠くないうちにコカビエルが痺れを切らすと思います。その時に・・・」

 

「・・・成程、分かったよ小猫ちゃん」

 

小猫ちゃんから作戦を伝えられ俺も『その時』を待つ事にする

 

この作戦はタイミングが命になりそうだからしっかり集中しないとな

 

そうして案の定と言うべきかコカビエルが戦いそっちのけで口喧嘩を続ける二人に怒声を浴びせる

 

「貴様らぁぁぁ!!俺様を無視して何時まで下らん言い合いをするつもりだ!!」

 

「「うるさい!!」」

 

喧嘩をしていた二人はコカビエルに見向きもせずに高まり切った圧倒的な魔の波動を無造作に手を振るう事で解き放つ―――荒々しい雷と滅びの二つのオーラが空中で混じり合い一つとなった・・・此処だ!!

 

赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)!!」

 

『Transfer!!』

 

飛距離は短いけどギフトの力はドラゴンショットのように打ち出す事もできるんだ!

 

空中で混ざり合っていた雷と消滅の魔力にギフトの力がぶつかりコカビエルの体を容易く飲み込む極大の魔力砲となる

 

「コレは!!」

 

コカビエルも怒りから驚愕へ瞬時に表情を変貌させ全力で防御する

 

莫大な二つのオーラがぶつかり合い、余波だけで戦場が破壊されていく

 

「うぉお!あぶねぇ!」

 

兎に角全力で距離を取るが、自分のすぐ近くの地面が爆ぜるのを見て冷や汗を流しながら何とか逃げ切った

 

「・・・どうやら少しばかり甘く見過ぎていたようだな」

 

コカビエルが居た場所は戦塵で見えなくなっていたが、そこから奴の声が響いて来た

 

少しずつ煙が晴れ、姿を現したコカビエルは全身の服がボロボロで至る所から血が流れている

 

しかし奴は未だ平然とした面持ちで立っている・・・多分大きな怪我はしなかったのだろう

 

コイツはあれだけ高められた部長たちの攻撃を殆ど相殺してみせたって言うのか!

 

「この後魔王が控えているのだ。これ以上のダメージは看過できんな。この一撃を手向けとし、余興に幕を下ろそうか!!」

 

奴は空中高く飛び上がり両手を上にあげてそれこそ消えた体育館と同じくらいの大きさの光の槍を創りだした

 

あんなもん防ぎきれる訳がねぇ!クソ!どうすりゃ良いんだ!?

 

 

[イッセー side out]

 

 

 

 

 

コカビエルが空中で創り出した光の槍がどんどんと大きさを増している

 

その攻撃から身を守るため皆が一か所に集まりリアス部長と朱乃先輩を筆頭に防御結界を張ろうとしているけど、正直防ぎきれないだろう。それに戦闘狂のヴァーリがコカビエルを止めてくれるのを期待するのはちょっと怖い。この世界はあくまでもDxDによく似た世界でしかないのだから・・・なら、やれる事をしますかね―――都合よくコカビエルも上空に居る事だし

 

「小猫ちゃん、頼みがあるんだけど・・・」

 

「何ですか?イッキ先輩?」

 

「俺をコカビエルの真上辺りにぶん投げて欲しいんだ!」

 

・・・小猫ちゃん?その不可解な物を見るような眼はやめて欲しいなぁ!

 

「イッキ先輩、恐怖で可笑しくなっちゃったんですか?でも大丈夫です。少しくらい情けない所を見せた位で私は見捨てたりなんかしませんから・・・」

 

止めて!?小猫ちゃんの妙な優しさが凄く心に来るから!

 

「違う違う!ちゃんと奥の手が在るんだって!」

 

「でも・・・」

 

「もう時間無いから!お願い!俺を信じてぶん投げてくれ!!」

 

渋る小猫ちゃんの気づかいを今度は素直に嬉しいと思いつつ頼み込む

 

「・・・分かりました。もしもコレで死んだらあの世まで追いかけて殴りますからね―――大丈夫です。あの世(冥界)なんて転移魔法一つで行けますから」

 

仮に俺が死んでも聖書陣営の冥界に魂が行き付く事は無いんじゃないかなぁ?

 

「・・・了解。リアス部長!朱乃先輩!小猫ちゃんが俺を投げたら盾型ではなくドーム状の結界を張って下さい!」

 

「分かったわ・・・託したわよ!」

 

「いきますイッキ先輩!」

 

小猫ちゃんの「ヤァァ!」と言う掛け声と共に俺が打ち出される・・・大砲で空を跳ぶ人ってもし居るならこんな感覚なのかな?

 

風を切りながらもコカビエルのさらに上を陣取ると奴は掲げていた槍を下に降ろし此方を睨みつけてくる

 

やはり殆ど力を無くしていると言ってもケルベロスを倒した俺は十分な警戒対象なのだろう―――だけどもっと警戒して欲しいな

 

「これで終わりにしよう―――切り札ってのは最後まで取っておく物だぞ?コカビエル」

 

そう言いつつ全身に【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】の紋様を浮かび上がらせると目に見えて警戒度を上げた―――やっぱり初見の相手にこの紋様はハッタリとしても機能するよな!

 

後もう一押しだ。優しさが服を着ている俺は親切にも次の俺の行動を教えてやるとしよう

 

コカビエルの方に落下しつつ奴に問いかける

 

「なぁコカビエル。こんなセリフを聞いた事はないか?『爆発は漢のロマン』だって!」

 

「まさか貴様!アザゼルの!?」

 

何か盛大に勘違いしたコカビエルが目論見通り全力の防御結界を張り巡らせる

 

どうやら堕天使の総督殿はサブカルチャーの布教にも余念がないみたいだ

 

「【じばく】!!」

 

人生二度目の【じばく】、コカビエルの結界のお陰で爆発の殆どは上空に向けて立ち上った

 

指向性を持った爆発の破壊力はシトリー眷属の張っていた結界を一瞬で抜き、爆炎は天空高く立ち上る

 

・・・実は【じばく】には単純な破壊力だけでなくもう一つの特性がある

 

それは『相手の防御力を半減させる』と言うものだ――だから俺はコカビエルに警戒を促させて全力で防御して貰った

 

俺の【じばく】の威力がどれくらい上がっているか分からない為、コカビエルの結界を皆に対するシールドの代わりにしたのだ・・・防御力半減の上、至近距離なら倒せると踏んで―――名付けて『コカビエルの盾』!!

 

俺とコカビエルは二人そろって地面に向かって落ちていくが、俺の方は懐からイヅナ達が現れ体の各所に巻き付いてゆっくり地面に降ろしてくれる

 

全身から煙を上げて普通に落ちていったコカビエルはそのまま地面に激突し、グラウンドに広がっていた天地崩壊の術式も消え去った

 

「イッキ!生きてるか!?」

 

「イッキ先輩!」

 

「イッキさん!今治します!」

 

そこで皆が駆け寄ってくれた―――ドーム状に展開した2重の結界は爆風などの余波をちゃんと防ぎきってくれたみたいだ

 

ポケモン由来の【じばく】は自分自身にはそこまで馬鹿みたいにダメージを受けない為(欠損等)アーシアさんの治療で直ぐに回復していく―――と言うかアーシアさん気絶してなかったっけ?いやまぁあの爆発なら跳び起きるか・・・

 

アーシアさんの回復速度はポケモンセンターに匹敵するだろう“テンテンテレテン♪”の効果音で全回復だ―――体力は回復しないけど・・・

 

「イッキ先輩。爆発するなんて聞いてないです!心臓止まるかと思ったんですよ!!」

 

アーシアさんとは逆側で俺に手を翳して体力を回復してくれていた小猫ちゃんが涙ながらに怒ってきた。う゛ぅ!罪悪感が!此処は素直に謝ろう!

 

「御免なさい、すみません!許してください!!」

 

「・・・許しません。許して欲しければ今度駅前の喫茶店の新メニュ―『イカ墨イチゴパフェ・マンゴーDX』を奢ってください」

 

「それは良いけど・・・そんなの食べるの!?」

 

イカ墨が全てを台無しにしてない!?

 

「意外と美味しいと好評みたいなので気になってしまって・・・」

 

あぁ、そうなんだ・・・マジで!?

 

そう思った所で俺たちの直ぐ近くに何かが落下して来るのが見えた

 

 

“ズドォォォォォン!!”

 

 

「なんだこりゃ!?新手か!?」

 

「一体なんなの!?」

 

イッセーとリアス部長が驚きの声を上げる中グラウンドに軽いクレーターを造ったそいつは土煙でシルエットしか見えないが、四足歩行のようで尻尾も生えている。背中に見えるのは・・・アレは翼か?小型のドラゴンのような形をしているソイツを皆が注視していると段々煙が晴れてきた

 

「・・・グッ!クソ!介入しようとした時のあの爆発は一体何だったんだ!?雲の上まで吹き飛ばされてしまったぞ!」

 

『無事かヴァーリ!?まだ動けるか!?』

 

「ああ、アルビオン、何とかと言った所だが動けそうだ。だが流石に今コカビエルとは闘り合えんだろう―――いや、そもそも奴はどうした?」

 

鎧の各所をボロボロと崩れさせながらも何とか立ち上がろうとしているヴァーリの姿だった

 

ああ、四足歩行じゃなくて爆発と落ちた衝撃で這いつくばってたのか!

 

それにちゃんと介入してコカビエルを止めようとしてくれてたんだね!・・・で、シトリー眷属の結界を破壊して乗り込もうとした直前に火山の噴火の如き爆発に頭から突っ込んじゃったと・・・うん!なんかゴメン!

 

ヴァーリはふらつきながらも周囲を見渡し未だに細い煙を上げているコカビエルと【じばく】の爆風に煽られて全身ボロボロになったフリードを発見した

 

「成程、少々観戦が過ぎたか―――もう少し早く介入するべきだったな」

 

「貴方は一体何者なのかしら?」

 

そんな突然の乱入者であるヴァーリをリアス部長は問いただす

 

「リアス・グレモリーか、何、そこのコカビエルが勝手をしようとしているのを止めてくれとアザゼルに頼まれてね。まさかあそこから逆転するとは思わなかったよ」

 

そう言いながらヴァーリはボロボロになっていた鎧を修復させていく

 

「さて、俺としてはそこのコカビエルとついでにはぐれ神父も回収していきたい。仮にも幹部だ。色んな情報を持っているからね―――もしも邪魔すると言うのであれば此処で白龍皇たる俺と戦う事になるが・・・どうする?」

 

そう言ってヴァーリはプレッシャーを跳ね上げる。白龍皇の名を出したのも俺たちの中から戦いの選択肢を無くす為だろう・・・微かに両膝がプルプル震えているのは気付かないのが優しさだろう

 

リアス部長も分が悪いと感じたのか「いいわ。連れて行きなさい」と許可を出す

 

リアス部長は普通に気付かなかったみたいだ・・・いや、戦ったら敗けるんだけど

 

そうしてコカビエルとフリードの襟首を掴んだ所でイッセーの神器の宝玉が点滅し声が発せられた

 

『無視か?白いの』

 

『生きていたか。赤いの』

 

ヴァーリの方は翼が点滅し返答する

 

『折角出会ってもこの状況ではな』

 

『なに、こういう事もあるさ。次の機会を待てば良い』

 

『ああ、ではなアルビオン』

 

『また会おう、ドライグ』

 

二天龍の会話の終わりと共にヴァーリは飛び去って行った

 

その後、シトリー眷属が合流して荒れ果てた学校の修復を請け負い、オカルト研究部員は解散となった・・・祐斗は心配かけた罰としてお尻叩きの刑が待っていたけど

 

帰宅は小猫ちゃんが俺を家まで送ってくれると言うのでお言葉に甘えて転移魔法で俺の部屋に直接帰宅

 

ベッドに居た黒歌を小猫ちゃんが放り投げ、俺を寝かせる

 

黒歌の抗議を受け流しながら俺の額に手を乗せて仙術で回復を図り「今日はもうゆっくり眠って下さい」と言う事なので疲労と仙術の暖かさに直ぐに眠気が襲い掛かりそのまま意識を落とした

 

 

 

 

朝、目を覚ますと両腕に違和感があった。何か重い物が乗っかっているような・・・ぼんやりとした頭で左腕の方を見ると俺の腕を枕代わりにしている黒歌の寝顔が在った。ヤバい、可愛い。至近距離での不意打ちは何度でもドギマギしてしまう

 

でもそれなら右腕の違和感は何なのかと思って反対側を向くと黒歌と同じ構図で小猫ちゃんが眠っていた―――スヤスヤと寝息を立てるあどけない表情。うん、可愛い・・・って!何で小猫ちゃんが!?黒歌は俺と部屋を共有してるけど、小猫ちゃんは自分の部屋(アパート)が在るよね!?昨日帰らなかったの!?一人用ベッドに3人ってかなり狭いよね!?なんで態々!?

 

後、黒歌も小猫ちゃんもすっげぇ柔らかいし、すっげぇ良い匂いする!

 

「ふぁ・・・お早うございます。イッキ先輩」

 

「ああ、うん。お早う―――それで、何で小猫ちゃんが此処に居るの?」

 

正直腕を長時間枕代わりにされていたせいかジンジンと感覚が無くなってるんだけど?

 

「・・・ご迷惑でしたか?」

 

「迷惑なんかじゃないから!決して迷惑なんかじゃないから!!」

 

だからそんな寂しそうな瞳を向けないで!昨日に引き続き罪悪感半端ないから!!

 

「白音が此処に居るのは仙術の治療の為にゃん♪」

 

騒がしくしていた為か黒歌の方も起きたみたいで説明を入れてくれる

 

「あの後、別に眠ってるだけでもイッキは十分回復するから帰っても良いって白音にも言ったんだけど、ちゃんとイッキを回復して上げたいって言うし、それなら二人でやればいいって私と白音でイッキをサンドイッチにして回復させたのにゃ♪」

 

「それで黒歌姉様が昨晩何が起こったのかを聞いて来たので先輩を挟んで話している内に私も眠たくなってきてしまいまして・・・」

 

「・・・それで二人が俺を挟んで眠っていたと」

 

と言うかこの猫又姉妹にサンドイッチされてたの!?何で昨晩の俺はあそこでぐっすり眠っちまったんだよ!?欠片も覚えてねぇよ!!

 

ああでも意識が在ったら在ったで天国(じごく)だったかもな・・・生殺し的な意味で

 

そんな嬉しいのか残念なのか分からない心持のまま学校に行き、小猫ちゃんと一緒に登校したのを元浜に見られて怨嗟の声と共に一日中問い詰められる事になった・・・勘弁してくれ!




コカビエルの尊い犠牲!

ヴァ―リ、星になる!

猫又姉妹サンドイッチ!の三本でお送りしました!


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第6章 停止教室のヴァンパイア
第一話 夏です!水着です!買い物です!!


今回は本編と過去話の混合です


コカビエル襲撃から数日、放課後のオカルト研究部に何時ものメンバーとは違う人物が立っていた

 

「ゼノヴィア!?何で此処に!?それにその制服はどうしたんだよ!?」

 

教会の聖剣使いであるゼノヴィアだ・・・まぁ編入試験だか学力把握テストだかで昨日から学校には居たんだけどね

 

「私の新しい眷属、『騎士』のゼノヴィアよ」

 

「うふふ、皆さん仲良くして上げてくださいね」

 

リアス部長と朱乃先輩が紹介し、俺と小猫ちゃんも仙術で察知していたのでこの場で驚いているのはイッセーと祐斗とアーシアさんだけだ

 

「神が居ないと知ってしまったんでね。破れかぶれで『悪魔にしてくれ』と頼み込んだんだ」

 

「ふふ♪聖剣・・・それもデュランダル使いが眷属となるなんて頼もしいわ。これで私の眷属も『騎士』の両翼が誕生したわね♪」

 

「『したわね♪』って部長ぉぉぉ!」

 

豪胆な性格の主の器の大きさに付いて行けてないのかイッセーが情けない声を溢す

 

そんなイッセーの反応をよそにゼノヴィアがアーシアさんに語り掛ける

 

「アーシア・アルジェント。私はキミに謝らなければならない―――以前キミが悪魔となったのは信仰心が足りないからだと言ったが、そもそも主がいらっしゃらないと言うのであれば、救いも愛も・・・当然無かった訳だからね」

 

神が居ない・・・改めてそう口にするのも辛そうだ

 

「私も今回の一件で悪魔になる前から、神の不在を知ってしまった事で教会から追放されてしまってね。きっとキミもあの時の私と似たような心持だったんだろう―――本当に済まなかった。なんなら、気が済むまで殴ってくれても構わない・・・」

 

そう言って頭を下げるゼノヴィアをアーシアさんは何の蟠りも籠ってないような優しい瞳で見つめて「それなら、一つお願いをしても良いですか?」と問いかけた

 

「ああ、何だい?何でも言ってくれ」

 

「ゼノヴィアさん。私のお友達になって頂けませんか?」

 

彼女としては意外なお願いだったのか目をパチクリとさせている

 

「それは・・・私なんかで良いのかい?」

 

「私は教会から追放されて、今は悪魔です。辛い事も沢山ありました。でも今は、沢山の大切な人たちが増えたんです!だから、今の私は十分幸せです―――でも、前に部長さんが言ってたんです。『悪魔とは欲を持ち、欲を望み、欲に生きる者』なんだって・・・だから私も、少しだけ欲張ってみようと思います。ゼノヴィアさん。私の大切な人に・・・なって頂けませんか?」

 

「・・・『悪魔とは』・・・か。実は私も先日部長に同じ事を言われたよ。なら、友達としての最初の頼みだ―――今度、この学園を案内してくれないか?」

 

「はい!喜んで!!」

 

アーシアさんは花が咲くような笑みを浮かべ、ゼノヴィアの手を取る。手を握られて至近距離で笑顔を向けられたゼノヴィアも自然と笑みを浮かべていた

 

「うんうん!やっぱり可愛い女の子同士の友情は絵になるよな!」

 

「同意はするけど、口に出すのは野暮ってもんだぞイッセー」

 

他の皆も新しい友情を芽生えさせようとしている二人に暖かい視線を向けている

 

「そういやゼノヴィア。イリナはどうしたんだ?」

 

「・・・エクスカリバーを回収して本部に帰ったよ。彼女は幸い、神の不在を知ることは無かったからね―――それを伝えたら彼女まで異端の烙印を押されてしまう・・・それに、イリナは私よりも信仰心が強いから、真実を知ってしまった時に心の均衡が崩れてしまうかもしれない。だから、彼女に伝えられる事は何もなかったよ」

 

「でも、それじゃあイリナは・・・」

 

「裏切り者・・・去り際にそう言われてしまったよ。まぁ悪魔に転生したのだから今となっては返す言葉も無いのだがね―――しかし、改めて思い返すと敵だった悪魔になると言うのはどうだったんだろう?あの時は深く考えずに転生してしまったが私の選択に間違いは無かったのか?う~む。ああ!お教えください主よ!ッはう!!」

 

沈んでると思ったら、悩みだして祈りだして痛がってるぞ―――本当に忙しないな

 

「あはははは!まぁゼノヴィアももう俺たちの仲間だ。アーシアもそうだったけど最初は色々と不慣れな事もあるだろうし、悩みとか、頼み事があるなら聞くぜ?これから宜しくな!」

 

「そうか、そう言ってくれると私も有難い。それではキミにも早速だが一つ頼み事をしてもいいだろうか?」

 

「応!何でも言ってくれ!」

 

「では・・・私と子作りしてくれないか?」

 

瞬間、リアス部長が紅茶をむせ、朱乃先輩が用意していたお茶菓子を床に落としかける

 

小猫ちゃんは食べていたドーナツの手が止まり、祐斗とアーシアさんは笑顔のまま固まっていた

 

当のイッセーは・・・フリーズしてるな

 

「あ~、ゼノヴィア。すまん、何か聞き違えたのかもしれん・・・もう一度言ってくれるか?」

 

ぎこちなくも再起動を果たしたイッセーがもう一度ゼノヴィアに尋ねる

 

「私と子作りしてくれないか?」

 

そうして再びフリーズするイッセー・・・認めろよ、聞き間違いなんかじゃないって

 

「私は今まで教会の為に尽くす事が人生の全てだった。だが、今の私は悪魔だ。なので悪魔としての目標を持つ事に決めたんだ」

 

彼女はフリーズするイッセーを余所に経緯を説明し始める

 

「先ほどのアーシアとの話にも出てきたが悪魔とは己の欲に従う者。そう考えた時、教会に居た頃に孤児院の赤ん坊や幼子を抱かせて貰った事を思い出してね。アレは良いものだった―――だから私は女としての喜び・・・子供を作りたいと思ったんだ」

 

「はぁ~。まさかそんな答えに帰結するなんて思わなかったわ・・・でも、何故イッセーなの?」

 

頭痛が痛い(誤字にあらず)とでも言いたげな面持ちのリアス部長が何とか話を進めようとする

 

「子供を作る以上、どうせなら強い子に育って欲しいと思ってね。兵藤一誠はその身にドラゴンの因子を宿している。私に子供が出来たならドラゴンのオーラが子供に受け継がれるからね―――初めは神性を持つ有間一輝と何方が良いか悩んだのだが、兵藤一誠は神すらも恐れたとされるドラゴン。赤龍帝の力を宿している・・・潜在的な力では彼の方が上かなと思ったのでね」

 

二天龍だしね・・・世界の強者トップ10でもアルビオンと並んで同列4位には入るだろうしな

 

「いやいや!子作りってのは多分そんな合理性だけを求めたものじゃ無くてだなぁ!」

 

ハーレム王を目指すわりに迫られるとタジタジになってしまうイッセーが何とかゼノヴィアを諭そうとするが「良し!思い立ったが吉日と言うやつだ。旧校舎は基本的には使われていないらしいからね。何処か適当な教室で早速実践するとしよう」と首根っこを掴まれて連れていかれそうになってしまう

 

「なにぃぃぃ!?・・・いやでも、両者合意なら良いのか!?夕暮れの誰もいない教室と言うシュチュエーションで俺は『漢』になっちまうのか!?」

 

驚愕から一転。どんどんとスケベ顔になっていくイッセーだが当然それを看過するはずもない人たちが居る

 

「イッセー!私というものがありながらそんな簡単に他の女に靡かないで頂戴!」

 

「イッセーさんには私が居ますぅ!こ・・・子供だってイッセーさんが望むならすぐにでも!!」

 

リアス部長とアーシアさんがそれぞれイッセーの片腕を掴み引き留める

 

その後はゼノヴィアの「ならば3人で」発言からリアス部長の「もっと慎みと常識を学びなさい」から「そんな事より子作りだ」といった感じに混沌としながら泥沼化していった・・・次の日、イッセーの朝の様子は特に変わりないので『漢』には結局なれなかったみたいだ

 

 

 

ゼノヴィアが転入して来たその週末の日曜日、俺たちオカルト研究部は学校のプールの前に居た

 

去年の夏場が終わってもずっと張ってあった水は濁り切っていて藻が生えており、少なからず異臭も立ち込めている

 

「うっへぇ!汚ねぇ!これを掃除すんのかよ!?ていうかこんなに水が濁るのを放置するくらいならプールの水抜けばいいのに!」

 

「イッセー、プールの水は万一火事が起きた際の消火用として張ったままにしてあるんだよ・・・知っとけ!」

 

「うふふ、付け加えるならプールの塗装が剥がれてしまわない為という理由もありますわ」

 

へぇ、そんな理由もあるのか。そっちは知らなかったな

 

「しかし、何故オカルト研究部がプールの掃除などをするんだ?」

 

「本来は生徒会の担当なのだけれどコカビエルの一件の時、ソーナ達生徒会メンバーが事後処理を全て引き受けてくれたからね。せめてものお礼に今年は私たちがプール掃除をする事になったの―――その代わり、プール掃除が終わったらオカルト研究部で一足早いプール開きよ♪」

 

 

 

 

それから約1時間と少し。この少人数なら本来もっと時間が掛かりそうだがそこは悪魔の身体能力。それにイッセーが早く女の子たちの水着が見たいと言う願望でフルスロットルで動き回った事によりもうプールはピカピカに磨かれている

 

今はもう全員既に水着に着替えて後はプールに水を張るだけだ

 

「朱乃、頼めるかしら?」

 

「うふふ。了解ですわ」

 

朱乃先輩が上空に手を翻すとプールにすっぽりと収まる大きさの魔法陣が出現し、そこから大量の水を出てものの一分程で水を張り終えた

 

凄いよな、この水どっから来てるんだろう?

 

「さぁ!ここからはお楽しみの時間よ。思う存分泳ぎましょうか!・・・所でイッセー、私の水着姿はどうかしら?」

 

白いビキニでイッセーにアピールするリアス部長

 

「はい!とってもエッチで最高です!今の部長はもはや女神かと!!」

 

悪魔のリアス部長に女神の表現はどうなんだ?実際・・・

 

まぁリアス部長もその辺りは気にしないのか普通に嬉しそうだ

 

「イッセーさん!私も着替えてきました」

 

今度はアーシアさんがスクール水着をイッセーにアピールする・・・胸元に大きく『あ~しあ』と書いてあるのは多分まだ日本に来たばかりの彼女が不慣れな日本語を自分で書いた為なんだろう

 

「うんうん!アーシアも可愛いぞ!お兄さんご機嫌になっちゃうよ!」

 

イッセーの評価に顔を赤らめるアーシアさん

 

「イッキ先輩・・・私も・・・どうですか?」

 

そして小猫ちゃんもアーシアさんと同じくスクール水着!・・・・では無く、オレンジと黄色を基本にしたビキニタイプの水着にパレオを巻いてる感じだ

 

無理に布面積を減らした感じではなく、『幼い』とか『エロい』と言うよりは純粋に『可愛い』と言った風だな

 

小猫ちゃんに今思った事を『幼い』、『エロい』のワードは省いてそう伝えると小さく「有難うございます」と返してくれた

 

それから恐らくは教会時代に『泳ぐ』と言う事をして来なかったアーシアさんの泳ぎをイッセーが面倒を見たり(アーシアさんは申し訳なさげと同時に嬉しそうだった)、俺と小猫ちゃんに祐斗とゼノヴィアで水泳勝負をしたり、リアス部長と朱乃先輩が魔力球バレーボール(被害甚大)をしたりした

 

そして今はお昼時。高級ビーチのバカンスのような装備一式で昼飯を食べて、皆今は思い思いに寛いでいる・・・ここって学校のプールだったよな?

 

 

“ドボォォォン!!”

 

 

「うわぁ!祐斗とゼノヴィア、午前あれだけ泳いだのにまだ競争する気かよ?」

 

「・・・同じ『騎士』として速さ勝負で負けたくないんじゃないですか?」

 

イッセーは今リアス部長に午後の日差し対策にオイルを(スケベ顔で)塗ってそこに朱乃先輩とアーシアさんが突撃するという戦場になっているので小猫ちゃんと一緒に少し離れたプールの淵に腰かけてそれらの喧騒を眺めている

 

「あはははっ、それを言ったら小猫ちゃんなんて去年とは雲泥の差じゃないか―――もう少し休んだらまた俺たちもレースに参加する?」

 

「望むところです。今度は負けませんから・・・」

 

でもほんとに小猫ちゃんは泳ぎが成長したよな・・・去年の丁度今ぐらいの時期だっけ?

 

小猫ちゃんのカナヅチが発覚したのって・・・

 

 

 

▽―――約1年前―――

 

 

小猫ちゃんに黒歌の事がばれて、悪魔の契約を使い≪黒歌の事を誰にも伝えない≫と口止めをしてから少し経ち、ちょっと前から小猫ちゃんのお願いで彼女に修行を付けていたのだ

 

内訳としては黒歌が仙術と妖術、俺は体術に仙術(身体操作系)といった感じだ

 

学校が終わって夜の帳が落ち始めた頃に召喚カードで小猫ちゃんを呼び出したら本日の修行内容を黒歌が発表する

 

「じゃあ今日は滝行をするにゃん♪」

 

「はい!黒歌姉様!」

 

気合の入った返事をする小猫ちゃん

 

黒歌との蟠りが解消された事で黒歌に純粋に追いつきたいといった思いが強いのだろう

 

そして本日の課目である滝行・・・これは自然の気の中でも水の気を感じるのと、急速に変化する体温や体に掛かる滝の水圧から自身の気をより鮮明に感じ取りやすくする為の修行だ

 

生物は多量の水分を伴って構成されているので生命エネルギーを扱う仙術を覚えるのに水という要素は中々に重要だと参曲(まがり)様に教わった

 

そして人里離れたそこそこ大きな滝のある修行スポットに黒歌の魔法陣で転移し、軽く人避けの結界を張ってから行衣(滝行の際に着る白い着物)に着替える―――黒歌はその場で服を脱ぎだすから俺は急いで岩場の陰に隠れて着替えた・・・普通逆じゃないかなぁ?

 

「準備できたにゃん♪」

 

「私も着替え終わりました」

 

二人の声を受けて俺も出ていき滝の方に向かう

 

黒歌も小猫ちゃんも白くて薄手の着物だからほんのり肌色が透けて見える気がするし二人の尻尾が丈の短い裾を微妙に捲っているのが非常ぉぉぉぉに!目のやり場に困るが・・・

 

此処の滝つぼ辺りは意外と深い為、ほんの10メートル程とはいえ泳いで滝下の足場にたどり着くが小猫ちゃんは川の膝下くらいまで浸かっている所で立ち止まってしまっていた

 

「小猫ちゃん。どうかした?」

 

「ほら白音、早く来るにゃん」

 

俺と黒歌が呼びかけると何か妙にカクカクとした動きで「いえ・・・私は・・・そう!私はそっちの壁沿いにそちらに行きますね!」と語気を強めて言ってきた・・・何で?

 

確かに滝つぼを迂回して滝の裏側の壁伝いに来れば此処にたどり着く事は出来るけど態々そんな事をする必要があるか?どうせ、すぐさまびしょ濡れになるのだから泳いだ方が断然早いのに・・・

 

だがそんな妹の不審な態度を見て黒歌は一つの可能性にたどり着く

 

「白音・・・もしかして泳げないのにゃん?」

 

「え゛!マジで!?」

 

驚き、小猫ちゃんの方を向くとサッと顔を逸らされてしまった・・・マジなのか

 

「はぁ~。確かに私達があのバカ主の下に居た時は白音も半ば軟禁状態に近かったし、父親も研究馬鹿のロクデナシだったから海やプールに行ったことも無かったけど・・・」

 

妹の意外な弱点を知ってしまって頭が痛そうだ

 

「・・・でも、中学生なら大抵の場合プールの授業って必須だと思うんだけど、小猫ちゃんってその辺りどうしてたの?ひょっとして駒王学園の中等部にはプールの授業が無いとか?」

 

それとも授業で習ってなおカナヅチなのかな?

 

「・・・その、プールはありますが・・・泳いだことは無いんです」

 

「へ?」

 

「にゃん?」

 

泳いだことが無い?

 

「駒王学園の中等部では生徒の多様性を伸ばすと言う名目で体育の授業は内容の選択が出来る時が在るんです・・・テニスとか少ない人数で大きな面積を取るスポーツなんかがそれですね。それで私は泳ぐのに苦手意識が在ったのでプールの授業は避けていたんです・・・」

 

成程、サボっていたのとは違うのか

 

「それじゃあグレモリー眷属としてはどうなんだ?小猫ちゃんの話に聞くグレモリー先輩なら夏休みとかに眷属を連れてプール(貸し切り)なり海(貸し切り)なり行きそうな感じがするんだけど・・・?」

 

「はい。部長には何度か海に連れて行っていただきました―――でも私は大抵眺めている事が多かったですし、部長に促されて海に出る時も浮き輪でプカプカと浮いてるだけでしたから・・・」

 

「でも浮き輪でって言っても沖に行ったり岸に戻ったりする事は出来てたって訳だよね?」

 

浮き輪で泳ぐのって地味に大変だし、それが出来るならすぐにどうにか出来そうかな?

 

「・・・行き帰りは悪魔の翼で飛んでいました」

 

さいですか・・・

 

「う~ん。なら今日は滝行は諦めて泳ぎの練習をするかにゃ。この先泳げないと寒中水泳の修行とか出来ないし、まさか冬場に泳ぎの練習から入るのは私も勘弁して欲しいにゃん」

 

「・・・すみません」

 

自分が苦手をそのまま放置した事で俺たちに迷惑を掛けていると思っているのかしょんぼりとした感じで視線を下に落としてしまった

 

「落ち込まなくてもいいよ小猫ちゃん。苦手なものを率先してやりたい!って人の方が少数派だと思うしね」

 

必要性を感じなければ尚更だ

 

「幸い全然時間は立ってないし、一度家に戻って水着を用意して、それなりに泳げそうな所に転移しようか―――流石に水泳初心者にいきなり着衣泳でスタートさせるのはどうかと思うしね」

 

幾ら薄手の服と言っても水着には敵わないだろう

 

「分かりました。有難うございます・・・ただ・・・」

 

ただ・・・なんだ?

 

「黒歌姉様は水着は持っているのですか?」

 

そうじゃん!仮にも賞金首で逃亡生活を送ってた彼女が水着を持ってるとは思えない

 

「ん?別にこのままでも・・・なんなら裸でも良いんじゃないかにゃ?」

 

良くねぇぇぇぇ!流石に最初の練習で小猫ちゃんが泳ぎをマスターするとは思えないし、黒歌の事だからやってる内に「煩わしいからもう裸でいいにゃ!」とかやりそうだ!

 

そう思ってる中、同じ事を考えていたらしい小猫ちゃんと視線が絡み合い同時に頷く

 

「「黒歌(姉様)!水着を買いに行こう(ましょう)!!」」

 

「・・・なんだか、そこはかとなく貶められた気がするにゃん」

 

何となく不満げな黒歌をよそに俺たちは再び着替えて駒王町に転移して、グレモリー眷属を始めとした人外の気配に気を配りつつ近場の大型デパートの水着売り場に向かっている

 

勿論、黒歌はいつぞやの修学旅行の時の人間モードだ

 

「そう言えば黒歌ってその服と寝間着の着物以外のは持ってないのか?何時も魔力で浄化してたから問題自体は無いんだろうけど・・・」

 

女の子は沢山の服を持っている!(偏見)というイメージがあるのだが・・・

 

「ん~、私は元々そんなに着る物に拘りは無かったわね。昔はレーティングゲームの試合があるたびに割と服は傷んでいたし・・・私以外の眷属は実験の後遺症でボロボロの奴が多かったから大抵私の所にしわ寄せが来たからにゃ~」

 

後遺症でボロボロとかって普通に闇が深い発言捻じ込まないでくれませんかね?

 

「なら、この際水着だけじゃなくて現代風の服も幾つか見繕ってく?魔法陣に収納すれば邪魔にもならないだろうしさ」

 

というか美少女の着物姿が目立って結構視線を向けられるし、小猫ちゃんも相まって周囲の男たちから心の舌打ちの音が聞こえてくるようだ

 

それに何時もと違う衣装に身を包んだ黒歌を見てみたいという俺自身の願望も入ってるけどね

 

「そうねぇ、折角の機会だしそうしようかしら?」

 

そんなやり取りをしている間に女性ものの水着コーナーにたどり着いた

 

「・・・じゃあ俺は適当にこの辺りで時間を潰しているから終わったら連絡してくれ」

 

そう言ってその場で踵を返しその場を立ち去る

 

 

“ガシィ!!”

 

 

・・・前に猫又姉妹に両腕をそれぞれガッシリと掴まれてしまった!

 

「イッキ~?そんなヘタレな選択を私が許すと思ってるのかにゃ?」

 

「イッキ先輩、ここまで来てまさか逃げるなんてしませんよね?」

 

おいぃぃぃ!黒歌は思いっきりニヤニヤしてるけど小猫ちゃんも無表情のようで少し口角上がってるよね!?流石姉妹!絶対にこの状況を楽しんでやがる!!

 

そうして男の敵地(水着コーナー)に引きずり込まれた―――せめて一緒に居るのがどちらか一人なら逆に堂々としてればいいのかもしれないけど、二人の美少女に挟まれた野郎一人に対して男女問わず周りの視線が痛いんですけど!?

 

今回は黒歌の水着選びという事なので小猫ちゃんも俺と一緒に選ぶ側に加わり意見を出していく―――まぁ男の俺の出せる意見なんてビキニタイプ、シンプル過ぎない、あんまり露出が過ぎないようにする(確信!!)くらいしかないのだが・・・

 

「イッキ先輩、何故最後の意見だけ力強く言うんですか?」

 

「にゃはは♪イッキは直接的なエロより間接的なエロの方がお好みなのよね。例えば・・・こういう水着は逆に苦手なんじゃないかにゃ?」

 

そう言って黒歌が俺の方に突き出してきたのは所謂スリングショットの水着だ。それももはやそれは紐だろうと言える細さの・・・

 

「うん。無いな」

 

「・・・イッキ先輩が真顔です」

 

「・・・迷うことなく即答したにゃ」

 

うっせぇ!これでもイッセー達に『チラリスト』なんて不名誉な称号貰ってるんだよコッチは!肌色成分が多ければ男が皆無条件で絶賛すると思うなよ!

 

その後結局黒歌が選んだのは緑を基本に南国の花が描かれたビキニタイプの水着だった

 

会計を済ませて今度は普通の服が売ってるコーナーに3人で向かう

 

「これで水着はよしとして次は現代風の服だったわね・・・あんまり着ないと思うけどそれでもいいのにゃ?」

 

「良いと思うけど?それに案外着てみたら好きになるかもしれないし、試す価値は十分有るんじゃないか?」

 

「なら、今度はさっきよりもちゃんとした意見を考える事にゃ!いきなり水着は難易度高かったとしても、それ以外なら問題ないでしょ?」

 

まぁ水着コーナーでは若干上の空だったからな・・・

 

「了解。今度はしっかり吟味させて頂きますよ」

 

「それならいいにゃ♪」

 

黒歌はそう言ってとあるコーナーの前で立ち止まった・・・ランジェリーショップの前で

 

 

“ガシィ!!”

 

 

「ハッハッハ!イッキ♪何処へ行こうというのかにゃ?」

 

すかさず踵を返した俺を黒歌が捕まえる。おい、今のセリフ何処の大佐だよ!?

 

「いやいやいや!舌の根も乾かない内からアレだけど!勘弁してくれ!さっきの水着コーナーより数段難易度高いじゃねぇか!?と言うか黒歌・・・下着は?」

 

「こんな公衆の面前で女性に下着の事を尋ねられるイッキなら大丈夫にゃ♪・・・それとイッキ。女性の着物は下には何も着ないのが普通よ?」

 

マジで!?そもそも持ってないの!?そりゃあブラジャーをしているようには見えなかったけど下もかよ!?

 

「現代風の服を着るなら下着を付けないと言うのは逆に変でしょ?ねぇ♪白音♪」

 

「・・・確かに、黒歌姉様を『スカートの下に何も穿いていない人』にする訳にはいきませんね・・・という訳なのでイッキ先輩。しっかりと黒歌姉様の下着を『吟味』して『意見』を言って下さいね」

 

ああ・・・そうだよな。水着コーナーで敵に回った小猫ちゃんが今回は味方に付いてくれるなんて事は無いよな・・・

 

そして俺は再び猫又姉妹に男の死地(ランジェリーショップ)に引きずり込まれ、何とか最後まで戦い抜く事が出来たのである

 

その後ファッション雑誌の女子大生風の衣装を参考に黒歌の服を選び(試着の際は髪を降ろしていた。曰く、あの髪型は着物系だからこそ映えるもの)買い物は終了したが未だに『じっくりと吟味』させられた俺が今日は使い物にならないという事でその日は解散の運びとなったのだ

 

 

△―――現在―――

 

 

「―――あの時のイッキ先輩を揶揄うのはとっても楽しかったですよ?」

 

「うん。小猫ちゃんが実は黒歌にも劣らない悪戯好きなのはよく分かったよ・・・だからその聖母の微笑みたいな笑顔は止めてくれない?」

 

はたから見たらそれがSっ気顔とは誰も気づかないんじゃないか?

 

聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を持っているのはアーシア先輩ですよ?」

 

「確かにアーシアさんは二重の意味でそれを持ってるけど、そうじゃなくてさぁ!」

 

「ふふ♪冗談です。でもその後イッキ先輩と黒歌姉様が私の泳ぎの練習に付き合って下さって私も泳げるようになりましたから、感謝しています」

 

「悪魔の身体能力があれば最初は多少強引なフォームでも泳げるようになったのは嬉しい誤算だったけどね。泳ぐという事自体に抵抗がなくなれば後はちょっとの修正で何とかなったし・・・」

 

その代わり初めのうちはバタ足のたびに水中で手榴弾が破裂するような水しぶきだったけどね

 

「よし!それじゃあそろそろ俺たちも泳ぎに行きますか!」

 

そうして俺と小猫ちゃん、祐斗とゼノヴィアは泳ぎで、リアス部長と朱乃先輩は殺人水中バレーボールで、イッセーとアーシアさんはそんな二人に挟まれて紛争地帯ばりの命の危機を感じてそれぞれヘトヘトになるまでその日は遊び倒したのだった




黒歌と小猫の水着は画像検索でヒットしたやつを採用しました



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第二話 カオスな、授業参観です!

「冗談ではないわ!」

 

プール掃除をした日の翌日の放課後、オカルト研究部の部室にてリアス部長が苛立ちを隠しもせずに吐き捨てていた

 

「堕天使の総督が私の管理する町に潜入して、あまつさえ営業妨害していただなんて!それに、私の可愛いイッセーに手を出すなんて・・・万死に値するわ!!」

 

どうにも昨日はあの後イッセーのお得意様から呼び出しが掛かり、そこでイッセーにアザゼルさんが自分の正体をばらしたようだ。ついでに三大勢力のトップによる会談がこの町で執り行われる事を告げたらしい

 

「部長。この町でトップ会談と言うのは本当なんですか?」

 

「ええ。私も先ほど聞いたばかりだけど、間違いないそうよ」

 

「コカビエルの一件は三大勢力のトップを動かすには十分な刺激があったと言う事か・・・」

 

祐斗にリアス部長、ゼノヴィアはそれぞれ難しい顔で今後事態がどう動くのか考えている

 

「それにしてもアイツ・・・俺に態々接触してきたって事はやっぱり、俺の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を狙って来たのかな?」

 

「大丈夫よイッセー。例え堕天使の総督にだって貴方の事は絶対に渡さないわ」

 

リアス部長が不安そうにしていたイッセーをその胸に抱きかかえる

 

「ぶ・・・部長ぉぉぉ♡」

 

先ほどまでの不安な様子は何処へやら、今のイッセーの頭は煩悩(おっぱい)で埋まっているようだ・・・というかおっぱいに埋まっている・・・か?

 

「随分と賑やかみたいだね。何かのイベントかな?」

 

そんな中突如として部屋に響いた第三者の声と共に部室に転移魔法陣が展開され、そこからグレイフィアさんともう一人、リアス部長によく似た顔立ちの紅い髪の美丈夫が現れた

 

「な!?お・・・お兄様!?」

 

「え!?部長のお兄様って事はこの方が魔王様!?」

 

いきなり現れた悪魔のトップの一人に驚愕を表すもリアス部長に朱乃先輩、祐斗と小猫ちゃんはその場で膝を突き、イッセーも慌てて見様見真似で同じく膝を突く

 

しかし、未だに魔王の前で立ったままの俺とアーシアさんとゼノヴィアにイッセーが声を掛ける

 

「3人とも!魔王様だぞ!まずは部長たちに倣った方が良いって!」

 

「いいやイッセー。アーシアさんとゼノヴィアは兎も角、俺は人間だからその必要性は無いんじゃないか?此処が冥界だって言うなら兎も角、日本だしね・・・」

 

俺の言葉を聞いて、アーシアさんは慌てて、ゼノヴィアは取り合えずといった感じで膝を突こうとしたがその前に待ったが掛かった

 

「彼の言う通りだよ。それに、今の私はプライベートで来ているんだ。皆、楽にしてくれたまえ」

 

そうしてサーゼクスさんは直接の面識の無かった新眷属のイッセー、アーシアさん、ゼノヴィアと順番に挨拶を交わしていった

 

「・・・そして、キミが有間一輝君だね。コカビエルの一件ではキミには特に世話になったようだね。それに、ライザー君とのレーティングゲームもそうだ。あの作戦を考えたのはキミなんだって?リアスにも良い勉強になっただろう。兄として礼を言わせてもらうよ」

 

現代日本人の一人として彼の在り方は親しみを感じやすくて良いな・・・それにしてもあの作戦(冒涜的な聖書の朗読)を純粋?に褒められるとは思わなかったよ

 

「この町に住まう者の一人として、彼らの友人として、出来る事をしたまでです」

 

「うむ。それは心強い限りだ。これからもリアスたちと仲良くしてくれると私も嬉しい」

 

「はい!」

 

「・・・それよりもお兄様、どうして此処へ?」

 

一通りの挨拶の終わりを見計らってリアス部長がサーゼクスさんに疑問を呈す

 

「リアス・・・私はこの学園の理事も務めている。当然このような物も私の下へ届くという訳だ」

 

そう言って彼は懐から一枚の安っぽい紙を取り出した。そこには『授業参観のお知らせ』とデカデカと書かれている

 

「な!?まさかお兄様!?」

 

「安心しなさいリアス。父上もこの日の予定を空けるため当主の仕事は最優先で処理したと仰っていたよ」

 

「お父様まで!?・・・お父様はまだしもお兄様は魔王なのですよ?私のような一悪魔を特別視するような事が在ってはなりません!それに、お仕事はどうなさるおつもりですか!?」

 

暗に仕事を盾にサーゼクスさんの授業参観参加を拒否しようとするリアス部長

 

「はっはっは!可愛い妹の為ならば私も父上と同じく先に済ませて置ける魔王の職務など敵ではないと言う事さ!それに、一応コレは仕事でもあるのだよ!」

 

コレがdxd名物の一つのシスコンか―――激務と言われる魔王の仕事を前倒すって色々大変だったろうに・・・主にグレイフィアさんが

 

「仕事?・・・ですか?」

 

「うむ。この町で行われる三大勢力のトップ会談をこの駒王学園で執り行おうと思ってね、その下見も兼ねているのだよ」

 

皆が驚愕に彩られるが当然だよな―――普通、学校でトップ会談とか訳分からんし・・・

 

「な・・・何故この学園なのですか?」

 

リアス部長がサーゼクスさんに当然と言える疑問を溢す

 

「この学園には様々な『力』が渦巻いている。魔王の妹であるリアスやシトリー嬢、赤龍帝に聖魔剣使いにデュランダル使い。更にはエクスカリバーに白龍皇、コカビエルに原種のケルベロスにそれを倒した人間の有間君。これらは決して『偶然その場に集いました』で片づけていいものではないのだよ。何かしらの強い因果が有るのではないか?・・・とね。まぁその辺りはその内答えが出るだろう」

 

そこで一旦言葉を切り、その後少しだけ困ったような笑みを浮かべた

 

「しかし、今は少し別の問題があってね」

 

「問題・・・ですか?」

 

「ああ、魔王の仕事を終わらせたとは言っても、それもつい先ほどの事でね。本当はもっと早くこちらに来たかったのだが、こんな遅い時間になってしまったのだよ。人間界のホテルというのは今からでもチェックイン出来るものなのかな?」

 

・・・そんな心配をするくらいならリアス部長に連絡を入れて明日の朝早くにでも来れば良かったのに・・・一刻も早く妹に会いたかったんですね

 

「そう言う事でしたら良かったら俺の家に来ませんか?部長もいらっしゃる事ですし・・・」

 

「イッセー!?」

 

「それは素晴らしい!是非ともお邪魔させてもらうよ」

 

その後、反対しようにも仮にも魔王で兄のサーゼクスさんを拒否する理由など思いつかなかったリアス部長が憂鬱そうな顔を浮かべながらその日は解散となった

 

これからイッセーの家で『リーアたん自慢』が炸裂するかもと考えると・・・ご愁傷様です

 

 

 

 

 

 

翌日の早朝、仙術の鍛錬をしていると学校からとある奴の気配が漂ってきた

 

「うげっ!!」

 

「・・・急に変な声を出して、どうしたのかにゃ?イッキ?」

 

「黒歌も学校の方の気配を探知してみれば分かるさ」

 

何事かと声を掛けてくる彼女にそう返し、少しして黒歌も「うへぇぇ」といった感じの反応を返す

 

「あの白トカゲ、何であんな所に居るのかにゃ?」

 

戦闘狂(バトルジャンキー)みたいだし、赤龍帝のイッセーにでも会いに来たんだろ・・・」

 

先日戦ったからって俺にも興味を持ったなんて事は無いよね?

 

「ふ~ん。それならイッキは今日は少し早めに学校に行くにゃ!」

 

「は!?」

 

何で態々自分からエンカウントしに行かないといけないんだよ!?

 

「あの白トカゲは堕天使の首輪付きなんでしょ?流石に今の時期の早朝の学校で事を起こすとは考えづらいけど、万が一赤龍帝ちんと話が拗れたら恐らくはその場に駆けつけてるグレモリー眷属・・・白音にも危害が及ぶかも知れないにゃ!だ・か・ら!行ってくるのにゃ♪」

 

「いやいや!俺この間戦ったばかりだぞ!?むしろ俺が行くことで話が拗れたりしない!?」

 

「その場合、被害を被るのはイッキだけで済むにゃ♪転移の術式は忘れないようにね♪」

 

万が一の場合はヴァーリを連れて何処ぞでバトれと仰いますか・・・

 

信頼・・・されてると取って良いのかな?色んな意味で涙が出そうだけど・・・

 

そんなこんなで黒歌にさっさと学校に送り出された―――恐らく大丈夫だとは思うけど、胃がキリキリと痛い感じがする

 

 

 

 

 

 

学校まで歩いて行くと校門の所に案の定ヴァーリが居た・・・分かってたけどね

 

「やあ、有間一輝」

 

「応、ヴァーリ。一応聞くけど何で此処に居るの?」

 

「くっくっく!そんな嫌そうな顔をしないでくれよ。今日は戦いに来た訳じゃない。アザゼルにも暫くは大人しくしろと言われているしね・・・今日はキミじゃなく、俺の宿敵たる兵藤一誠に会いに来たのさ」

 

「そうかよ・・・朝から熱烈なラブコールだなイッセー」

 

そう言いながら僅かに首を後ろに向けると左腕を抑えているイッセーが居た。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)がアルビオンに反応しているのだろう

 

「気持ち悪い事言うんじゃねぇよイッキ!それでそいつは何なんだ?」

 

「こうして会うのは二度目だな兵藤一誠。俺の名はヴァーリ。白龍皇、バニシング・ドラゴンだ」

 

「テメェが!?あの時の!?」

 

そして未だに神器の力の高まりを抑えきれないイッセーが痛みに顔をしかめ、気が逸れた瞬間にヴァーリはイッセーの額に指を突き付ける

 

この状況で俺もただ見ているだけという訳にもいかないのでヴァーリの後ろから彼がイッセーに何かした瞬間にその隙を突いてその首を飛ばすといった感じにその首筋に殺気を向ける

 

一瞬視線がこちらを向いたが最初から言ってるように戦う気は無いのかそのままイッセーに語り掛ける

 

「無防備だな。今のキミは守られている事にすら気づいていないのだろう・・・例えば俺がキミを魔術的なもので操った場合・・・」

 

ヴァーリの物騒な言葉でイッセーが大きく後ろに下がり、同時にヴァーリの首に聖魔剣とデュランダルが突き付けられる

 

「冗談はその辺りにして貰おうか」

 

「ここで二天龍の戦いを始めさせる訳には行かないんだ」

 

体勢だけを見れば圧倒的に有利なはずの祐斗とゼノヴィアだが間近でヴァーリのオーラに中てられた二人は緊張で汗が滴っている

 

「ふっ、止めておいた方が良い。恐怖から剣先が震えているぞ?だがそれを恥じる事は無い。実力差を感じ取れるのは強い証拠だよ」

 

二人の顔を交互に見ながら言葉を続ける

 

「今日は戦いに来た訳じゃない。いくら認識阻害を掛けていてもそんな剣を持ち続けていれば効果も薄まるぞ?表の人間の騒ぎになっても良いのなら、そうして居てもらっても構わないが?」

 

祐斗とゼノヴィアは不利と悟ったのか剣を仕舞い、イッセーを庇う形で前に立つ

 

そして丁度その後ろにオカルト研究部の残りのメンバーも出そろった

 

「兵藤一誠。キミは世界で何番目に強いと思う?」

 

「なに?」

 

「俺たちに宿る赤い龍と白い龍は世界の中でもトップ10に入る強者だった。キミがその身に宿しているのは本来それだけの力を秘めている・・・兵藤一誠は貴重な存在だ。十分に育てた方がいいぞ?リアス・グレモリー?」

 

「・・・白龍皇。貴方が堕天使と繋がりを持つ以上、必要以上の接触は・・・」

 

今は一応冷戦状態に近いとは云え三大勢力は数千年規模で争い合ってきた間柄だ。それ故に本人たちにその気が無くとも実力・知名度の有る者達の接触は周囲が勝手に騒ぎ立てて大きな諍いにすら発展し兼ねない。リアス部長がヴァーリに苦言を呈そうとするが当のヴァーリは気にする素振りもなくリアス部長の言葉を途中でぶった切った

 

「過去。二天龍に関わった者はろくな生き方をしなかったらしい。貴女はどうなるんだろうな?」

 

「私はイッセーと一緒に居て、不幸と思った事は一度も無いわ!」

 

「それは結構、しかしドラゴンは力を引き寄せる。その奔流に浸かりながらもそう言い続けたいのであれば力を付ける事だ。今のキミたちは余りにも弱いからね。そこの塔城小猫でも、ギリギリ足りてないだろう」

 

あ・・・やべ!真正面から愛する眷属全員弱い認定されたリアス部長がブチ切れてる!!

 

「・・・言ってくれるじゃないの。今という時期で無かったら消し飛ばしていた所だわ!」

 

「それは楽しそうだ。是非とも心躍る戦いがしたいものだね。だが、今のキミたちでは無理だ。キミたちは今後の成長を期待するとして、今一番興味があるのはキミだよ、有間一輝」

 

リアス部長たちから視線をこちらに投げてくるヴァーリ

 

「あの日。俺たち二人きりで過ごした、長くも熱く燃え滾るようなあの夜をもう一度味わいたいものだ・・・今度こそは最後までコトを進められるといいな・・・」

 

・・・言い方ぁぁぁぁぁ!!コイツ態とか!?態となのか!?いや多分天然なんだとは思うけど!後、返事を待ってるのか俺の方をジッと見つめるの止めて!?ほら!さっきまで怒りと不快感で一杯だったリアス部長がもはや表現し難い目でこっちを見てるから!!

 

思わずフリーズしてしまった俺を返事をする気が無いと思ったのかヴァーリは「またヤり合える日を楽しみにしている」と言い残し去って行ってしまった

 

恐る恐る皆の方へ顔を向けると・・・

 

「イッキ・・・貴方そんな趣味が・・・?」

 

「イッキお前、もう俺に近づくなよ・・・」

 

「あらあら」

 

「・・・不潔です」

 

ほら皆じりじりと俺から距離を取ってんじゃん!

 

「「「・・・・・・?」」」

 

アーシアさん、ゼノヴィア、祐斗の教会出身者は分かってないみたいだけど・・・有難う。キミたちの無垢な魂は今の俺の癒しだよ・・・染まらないでくれよ?

 

それから何とかヴァーリとは如何わしいアレコレがあった訳では無くてコカビエルの時に襲われてガチバトルしただけと弁明した

 

何故その事を今まで言わなかったのかと聞かれたが、コカビエルの一件のせいですっかり忘れていたと少々苦しいながらも言い訳をした

 

一応俺には特にコレと言った報告義務的なものは無い為その日の部活終わりまでずっと正座で居続けるという罰で済んだけど・・・特にやる事が無くなっても家に帰るでもなくチェスのトーナメント戦とかやり始めた時にはやっぱり結構怒ってるんだなとは思ったが

 

「自業自得です」

 

返す言葉もありません・・・・

 

 

 

 

 

授業参観当日、既に教室の後ろには親御さんたちが立っていて、中には高級そうなカメラやビデオを撮っている人もいる・・・俺の両親も居るな―――父さんもこの日の為に有休を取ったらしい

 

気恥ずかしいが邪険にする事も無いので良しとしよう・・・今日の授業参観は英語の授業だったが多分アレなんだろう・・・今でもハッキリ覚えている作中屈指の迷シーンの一つだったからな

 

そして授業が始まり、皆にある物が配られて先生が説明に入る

 

「え~、では今配った紙粘土でそれぞれ好きな物を作ってください。生物でも人工物でも自然でも何でも結構です。そういう英会話も在るのです」

 

・・・ねーよ!どう聞いても可笑しいわ!!

 

多分この可笑しな状況ってこの学園に満ちる『力』による誤作動かなんかなんだろうな・・・

 

グレモリー眷属やシトリー眷属以外にもチラホラとこの学園には異能者とか人外とかの気配がするし、今日が特に可笑しいのって多分そこに加えてグレモリー家当主(恐らく最上級悪魔クラス)、グレイフィアさん(魔王クラス)、セラフォルーさん(魔王クラス)、サーゼクスさん(超越者クラス)が集ったせいじゃないか?

 

改めて思うとこの保護者一覧がヤベェ!他勢力にケンカを売るには十分過ぎる戦力だよね!?

 

そんな中で皆工作を開始する。『力』の影響を受けてないはずのアーシアさんやゼノヴィアなんかは「日本の英会話は奥が深いな」「はいぃ!」とか言ってたけどそうじゃ無いからね!?・・・これは後で訂正しておくべきなんだろうか?

 

だが、理由はどうあれ今はこの紙粘土こそが俺たちの英会話なのだ!折角の機会と思って全力で取り組む事にしよう!

 

始めは猫や狐にしようかとも思ったが紙粘土では白猫黒猫の差を付けられないし、狐だけというのも少しアレかなという事で一つ、先日破れた俺の願望を形作る事にした

 

今や集中すれば筋肉の筋1本1本にまで意識を巡らせる事の出来る俺は記憶を頼りに素早くかつ正確に紙粘土を変形させていく

 

暫くして出来上がった作品に満足して手を止めると周りから驚きの声が聞こえてきた

 

「イッキ、それはもしかしてケルベロスか!?」

 

「何コレ!?毛先の1本1本まで作り込んでない!?口から洩れ出る炎に今にも飛び掛かりそうなこの躍動感!!」

 

ふぅ!思わず本気を出してしまったな・・・さらばペットのケルベロスよ。俺の未練をここに置いて行こう

 

妙な達成感に浸っていると別の場所からも声が上がった

 

「イッセー!お前のそれグレモリー先輩の裸体だと!?」

 

「うそ!リアスお姉様!?すっごいソックリ!!」

 

イッセーも目を閉じてこねくり回している内にリアス部長を再現したらしい・・・こっちは全神経集中してやっとだったのにコイツは無意識に創りやがったんだよな・・・

 

その後、もはや授業そっちのけで競りが始まりそうになったが授業終了のチャイムが鳴り、その場はお流れとなった

 

 

 

 

 

どの学年も授業参観は午前に日程が組まれていたので昼休みの今はオカルト研究部でそれぞれどんな感じだったのか軽く報告し合っている

 

「へぇ!モデルが私というのは少し気恥ずかしいけど、よく出来ているわね」

 

「あらあら、細部まで拘り抜いて作られていますわね・・・今度私のも作って貰おうかしら?」

 

「・・・イッキ先輩。まだあの犬の事諦めて無かったんですか?」

 

小猫ちゃんがジト目だ

 

「いや・・・何方かと言えばコレは・・・決別の意思表示?」

 

「・・・なら良いです」

 

・・・どうにか許しは貰えたみたいだ

 

因みにアーシアさんは使い魔のラッセーを、ゼノヴィアはデュランダルを作っていた

 

祐斗の教室は英語では無く数学だったようで先生がルービックキューブを配り、その解き方を解説していたらしい・・・紙粘土英会話より関連性があると言えるのかな?(混乱)

 

「先生はパフォーマンスとして9x9面のルービックキューブを凄い早さで解いていってたよ」

 

それは・・・地味に凄いな

 

 

 

♪~♬~♬~♫~♩~♪

 

『ぅぉぉぉぉぉぉ!』

 

 

そんな中、遠くの方から明るくリズムの良い曲のようなものと腹の底に響くような重低音が聞こえてきた

 

「あら?なんだか騒がしいわね・・・?」

 

「これは・・・体育館の方でしょうか」

 

言われて体育館の方に仙術の探知を飛ばすと既に百人規模の人たちが集まっているようだ

 

気になったので皆で体育館に向かって歩いて行くと中の人たちの熱気がドンドン高まっているのが感じられる

 

そしていざ中を覗くと、遮光カーテンは全て締め切られており薄暗く、集まっている多くの男子が時に奇声を上げ、時にカメラのフラッシュを焚き、壇上の一人の美少女に熱い視線を送っている

 

そんな大衆の視線を独り占めしているアイドルさながらの美少女は七色のスポットライトをその身に浴び、足元にはこれまた七色のスモークが立ち込めている

 

「みんな~♪応援ありがとね~♡それじゃあサービスでもう一曲♪歌っちゃうぞ♬」

 

『うおおおおおおおおお!!』

 

・・・直接見るのは初めてだけどアレってセラフォルーさんだよね!?魔王少女様だよね!?アレ?原作ってこんな感じだったっけ?もう17年も前の記憶だから細部が曖昧な部分も結構あるけどもう少し控えめじゃなかったっけ?―――少なくともこんなゲリラライブじゃなかったはずだと思うんだけど・・・?

 

しかし彼女が歌い出す前に騒ぎを聞きつけたのか生徒会のサジが現れステージの上にズカズカと歩を進める

 

「お前ら何を騒いどるんだぁぁぁ!!ライブは終わりだ!解散しろ!!解散!!」

 

そんなサジに対して観客と化していた生徒たちがブーイングを飛ばすがサジも引く訳にはいかないのだろう、そんな生徒たちを叱り飛ばす

 

「公開授業の日にいらん騒ぎを起こすな!まだ父兄の方々はいらっしゃるんだぞ!こんな所見られたら我が駒王学園の品位が疑われるわ!!分かったら解散しろ!!」

 

だがもはやそんな正論では収まらないのか先ほどよりもブーイングの圧が増していく

 

だがそこに新たな人物がやって来た

 

「サジ。何事ですか?問題は速やかに解決するよう言っておいたはずですが?」

 

「会長!」

 

「ソーナちゃん☆」

 

生徒会長の登場に流石に一瞬静まり返った体育館に壇上の二人から声が掛かる

 

「お・・・お姉様!何で此処に!?いえ!何をやっているんですか!?」

 

普段から冷静沈着な生徒会長の混乱する様に加え『お姉様』発言に群衆が騒めく

 

『(お姉様?・・・って事はあの魔法少女は会長の!?)』

 

『(でも確かに言われてみれば方向性こそ違うものの顔立ちは似ているような・・・?)』

 

『(ハァ・・・ハァ・・・巨乳の姉と虚乳の妹の姉妹丼・・・イイ!!)』

 

『(会長があんなに取り乱しているの初めて見た)』

 

・・・一部なんか凄くダメな発言も混ざってた気がするが

 

「もう☆ソーたんは私が前々から魔法少女に憧れてるって知ってるでしょ?何でも最近この駒王町を中心に日本全国・・・時折海外でも魔法少女の集団の目撃情報が入っているのよ♪その人たちは溢れるミルキーパワーで困ってる人たちが居れば颯爽と現れて人助けをしているんだって☆」

 

何だか凄く頭を過ぎる集団が居るんだけど気のせいだよね?ミルたん達が既にワールドワイドで活躍しているなんて事は無いよね?・・・ミルたんは既に異世界に進出してたか

 

「私も魔法少女を志す者として負けてられないって言うのと、是非とも一度交流を深めてみたいからこうして布教活動に勤しんでいれば何時か会えるんじゃないかな?って思ってね☆」

 

「お姉様。私はこの学園の生徒会長を任されているのです。身内だとしても・・・いえ、身内だからこそ余計にそのような活動も格好も、容認できません!!」

 

「そんな!ソーナちゃん☆もし上手くいけばそのまま『魔法少女 マジカル☆レヴィアたん』に特別ゲストとして招こうと思ってたんだよ!?ソーナちゃんにそんな事言われたらお姉ちゃん悲しい!私の夢なんだから!!」

 

「知りません!それもこんな生徒たちの前で!もう!お姉様のおたんこなすぅぅぅ!!」

 

「あ!待ってぇぇぇソーナちゃぁぁぁん!!」

 

「か・・・会長ぉぉぉ!お待ちください!!」

 

そうして消えていったシトリー姉妹・・・とサジ

 

体育館に集まっていた生徒たちも主役(ミルキー)も特別ゲスト(生徒会長)も居なくなった為、自動で解散していった・・・というか

 

「晒しものにされたソーナ会長が不憫すぎるんだけど・・・」

 

「あの部長。確か会長のお姉さんもサーゼクス様と同じく・・・」

 

「ええ。先ほどの方が現四大魔王の一人、セラフォルー・レヴィアタン様よ・・・ソーナの事も心配だし、一度追いかけましょうか。小猫、二人はどっちに行ったか分かるかしら?」

 

「はい。今は旧校舎の前に居ますね」

 

「成程。あそこは授業でも使ってないから人気も無いしね・・・では行きましょうか」

 

なんというか、サーゼクスさんは一応場を弁えている節があったけど、セラフォルーさんは完全にシスコンを天元突破させているんだな・・・実際見るとマジでソーナ会長の苦労がしのばれる

 

 

 

 

 

旧校舎の前に着いた頃には進行方向の先からソーナ会長の声が聞こえてきた

 

「本当にお姉様は!授業参観の時もそうです!応援団旗なんて教室に持ち込もうとしないで下さい!!それにあの時は恰好はまともだったではありませんか!―――それなのに少し目を離しただけでそんなコスプレなどをして!」

 

「・・・ソーナの所も大変だったようね」

 

確かに、団旗って狭い教室内で持つ物じゃないだろうに・・・いや待てよ?ソーナ『も』?

 

「因みにリアス部長の所はどんな感じだったんですか?」

 

「・・・お父様はグレモリーの粋を集めて作ったとかいうバズーカみたいなビデオを、お兄様は同じくカメラを回していたわ」

 

開発費に軽く億単位で金が飛んでそうだな

 

「グレイフィアさんは?」

 

あの人ならそんな二人を諫めそうな感じがするんだけど?

 

「・・・グレイフィアはお兄様の隣でレフ板を構えていたわ―――彼女、何時もお兄様やその周囲(四大魔王)のボケに振り回されている反動なのか時折突拍子も無くボケに回るのよ」

 

それは・・・グレイフィアさん流の心の休息なのだろうか?

 

そしてリアス部長はソーナ会長をフォローする為に「お久し振りです。セラフォルー様」と声を掛ける―――サジ?姉妹の間でオロオロしてただけですよ?・・・まぁこの件でサジに出来る事は多分無いだろうし、仕方が無いんだけどね?

 

「あ!リアスちゃん☆おひさ~!元気してましたか☆」

 

「はい。お陰様で、セラフォルー様もお変わりないようですね」

 

「うん☆あ!でもでもリアスちゃん☆聞いて聞いて!ソーナちゃんったら今日の事黙ってたんだよ!もう、お姉ちゃんショックでぇ!思わず天界を滅ぼそうとしちゃったんだよ!」

 

冗談だとしても少なくとも頭を過ぎるくらいはしたんだろうな・・・イッセーも「本気か嘘か全く分からん」と呟いてるし

 

「!  ねぇリアスちゃん☆あの子がドライグ君?赤龍帝が悪魔の側に付くだけなら兎も角、悪魔に為ったっていうのは初めて聞くわ☆」

 

「はい。私も彼が赤龍帝だと分かった時は驚いたものです。イッセー、ご挨拶なさい」

 

「は、はい!!初めまして。兵藤一誠と申します。リアス・グレモリー様の『兵士』をやらせて頂いて貰っております。―――ほら、ドライグ!お前も挨拶しろ!」

 

『・・・相棒。昨日もそうだったが何故俺様が魔王如きに一々挨拶しなければならないんだ。二天龍の名はそう安くは無いのだぞ?』

 

「わ!馬鹿お前!ドライグが前に「偶にはこういう関係も悪く無い」って言ってたから態々気を利かせてやってたのに!・・・すみません魔王様。コイツ恥ずかしがってるみたいで」

 

『適当な事を言うな!!』

 

「うんうん。よろしくね二人とも☆私は魔王のセラフォルー・レヴィアタン。『レヴィアたん』って呼んでね☆」

 

キメポーズをキメる彼女の圧に押されながらもイッセーも何とか返事を返す

 

そしてイッセーに向けられていた視線が次は此方を向いた

 

「この【神性】、キミが例の仙術使い君だね☆キミが居なかったらソーナちゃんも怪我しちゃってたかも、助けてくれて有難う☆」

 

セラフォルーさんはそうお礼を言ってきた。それに対して「どういたしまして」と返すがもし本当にソーナ会長が怪我なり最悪死亡なりしていたらどうなってたんだろう?

 

「―――その時はコカビエルちゃんはこの世からもあの世からも居なくなってんだから☆」

 

・・・シスコンパワーで心を読まないでくれませんか!?後、満面の笑みなのに目が笑ってないですよ!絶対零度ですよ!!

 

「あ!イケナイ☆もう直ぐサーゼクスちゃんとこの町の観k・・・下見を兼ねた軽い打ち合わせが有るんだった!むぅぅぅ。ソーナちゃん☆名残惜しいけどお姉ちゃんもう行くね!」

 

その言葉に希望を見出したのか精神力が切れていたソーナ会長に僅かに活力が戻る

 

「いえ、お姉様。私の事はお気になさらず。仕事ならば仕方ありません・・・ええ!これは仕方のない事です!」

 

「うん☆お姉ちゃん頑張ってくるよ♪また後でね(・・・・・)ソーナちゃん☆」

 

「はい。行ってらっしゃいませ・・・後で?」

 

「大丈夫☆ソーナちゃんの雄姿はバッチリ撮ってあるから☆仕事が終わったらソーナちゃんのお家で上映会だよ☆」

 

その言葉が止めになりソーナ会長に僅かに戻った活力は吹き消えてしまった

 

「じゃ~ね~☆ソーナちゃぁぁぁん♡」

 

「会長!?戻ってきて下さい会長ぉぉぉぉ!!」

 

フリーズしてしまったソーナ会長だったが同じ苦しみ(リーアたん上映会)がこの後に控えているリアス部長が「大丈夫よソーナ。貴女は一人じゃないわ」と言って抱きしめ、事情を察したソーナ会長が無言で抱きしめ返す・・・多分この二人は今まで幾度となくこうして友情を深めていったんだろうな

 

 

 

 

リアス部長とソーナ会長がまた一歩友情を深めた翌日、リアス部長が部員たちに一つの連絡事項を告げた

 

「皆、昨夜に魔王ルシファー様より命が下ったわ。私の最後の眷属にしてもう一人の『僧侶』の封印を解くわよ」

 

どうやらギャスパー・ヴラディとのご対面らしい




実際、セラフォルーって授業参観はどんな感じに『参観』してたんでしょうね?やっぱりミルキー?


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第三話 後輩は、男の娘です!

前話は昼に書き終えたので予約投稿して2話連続UPを目指して頑張りましたがちょっと時間オーバーしちゃいましたww


旧校舎の一角、KEEP OUT の黄色いテープがコレでもかと張ってある扉の前に俺たち全員が揃っていた

 

「この部屋に部長の最後の『僧侶』が居るんですか?」

 

「ええ。その能力の危険性から、私の力では扱いきれないとして此処に封印されていたの」

 

「でも実は、此処にいる子が部長の眷属の中でも一番の稼ぎ頭なんだよ」

 

「ええ!でも封印されているんですよね!?それで一体どうやって契約を結ぶんですか!?」

 

「うふふ。その子はパソコンを介した変則的な契約を結んでいるのですわ。依頼人の中には私たち悪魔と直接会うのが恐いという方もいらっしゃいますので」

 

「いやそんな恐いなんて言われても・・・」

 

「イッセー・・・考えてもみろ。大半の人たちは悪魔の事はよく知らないんだから『私達は信用と信頼の良い悪魔です!』なんて宣伝したとしてもそれを信じられると思うか?・・・まぁ結局悪魔と契約を結んでるんだから大差ないとも思うけど、どの辺りに心のボーダーラインを引くかは個人個人で異なるからな、そうした人たちには需要があるんだろう」

 

仮にそんな謳い文句の悪魔が居たら逆に恐いわ!

 

「そんなもんか?」

 

そんなもんなんだろ―――そうこうしている間にリアス部長が扉に掛かった封印を大凡解き終わったみたいだ

 

「それでは、封印を解くわよ」

 

すぐ横でイッセーが”ゴクリ”と喉を鳴らす

 

リアス部長が扱いきれず、魔王が封印を指示するほどの存在がどんな恐ろしい姿をしているのかと想像しているのだろう

 

扉に掛かっていた封印が消え去り、ゆっくりと扉が開かれていく

 

 

「いやあああああああああああああ!!」

 

 

扉が半ば開きかけたあたりで甲高い悲鳴が響き渡る

 

部屋の中に入るとそれはもうメルヘンチックな部屋だった

 

机や椅子、クッションなんかはハートの形だったり若しくはそれに準じた装飾があしらわれていたり、部屋に飾ってある服とかもゴスロリだ。逆に乙女感を感じさせないような物などただ一点を除いてこの部屋には無いと言っていいだろう

 

そのただ一点。部屋の中央に鎮座する巨大な棺桶だ・・・多分中で寝返りを打つ事が出来るように設計されている為か本当にデカいな

 

「な・・・何事ですかぁぁぁ!?」

 

「魔王様の許しで封印が解けたのですわ。さぁ、私たちと一緒にこの部屋から出ましょう?」

 

「嫌ですぅぅぅ!この部屋が良いですぅぅぅ!!お外は恐いから出たくないですぅぅぅ!!」

 

朱乃先輩が棺桶の蓋を外し、中に居る人物に優しく語り掛けるが、帰ってきたのは拒絶の声

 

「おお!金髪美少女!くぅぅぅ!やっぱり部長の眷属になって良かったぜ!これで木場以外は全員美少女だ!!部長の眷属最高ぉぉぉ!!」

 

だがそんなイッセーの幻想にリアス部長が無慈悲な現実を突きつける

 

「イッセー、この子は男の子よ」

 

「・・・はい?———っああ!冗談ですか!あはははは!部長もそんな冗談を「イッセー、この子は紛れもなく男の子よ」」

 

「うふふ。女装の趣味が有るのですわ」

 

リアス部長が彼を後ろから優しく抱きしめながら紹介する

 

「この子はギャスパー・ヴラディ。私のもう一人の『僧侶』。悪魔に転生する前は人間と吸血鬼のハーフだったのよ」

 

「吸血鬼!?いやいや、そんな事よりもおいお前!今まで封印されてたんだろ?その女装を一体誰に見せるつもりだったってんだ!?たった一人で女装趣味とかレベル高すぎだろう!?」

 

「ひぃぃ!ぼ・・・僕は女装が趣味とは少し違うんですぅ!可愛いのが好きだからコレを着てるんですぅ!こっちの方が男の制服より可愛いんだもん!」

 

ああ、確かに残酷な程似合ってるよな。普通にヒロインを張れるレベルだ・・・

 

「『もん!』じゃねぇぇぇ!!一瞬でもアーシアとお前のダブル金髪美少女『僧侶』を俺は夢見たんだぞ!俺のこの行き場を無くした想いをどうしてくれるんだ!!」

 

「人の夢と書いて・・・『儚い』」

 

「いや、悪魔なんだし悪魔の夢で『悪夢』でいいんじゃね?」

 

「あはは、小猫ちゃんもイッキ君も容赦ないね」

 

「しかし、いくら何でもコレは恐がり過ぎじゃないか?」

 

「それは、この子が封印されていたのとは別に引きこもりでもあるからなの―――ギャスパー?お願いだから外に出ましょう?」

 

「嫌ですぅぅぅ!人と関わり合いたくないですぅぅぅ!」

 

そんなギャスパーの態度に業を煮やしたイッセーが強めに肩を掴み「ほら、我儘言うな!」と外に連れ出そうとするが、その瞬間彼から神器の力の急激な高まりを感じ取る

 

数舜遅れて部屋の中の時間が停止した―――神器と術式の違いこそあれど確かにこの感覚は黒歌の扱う時間操作と同じ種類の力だ・・・あの黒歌が参曲(まがり)様の修行を受けて漸く扱えるようになった時間操作(停止)を感情の高ぶり程度で発動できるって改めて考えると神器・・・というかこれを創った聖書の神ヤベェな

 

「イッキ先輩。止まってませんよね?」

 

考察していたら後ろから小猫ちゃんから声が掛かった

 

「ああ、御免。大丈夫、動けるよ」

 

小猫ちゃんを見ると猫又状態で全身を仙術の気で覆っている

 

俺と同じく神器が発動する前兆を感じ取り強めのオーラを身に纏う事で時間停止を防いだのだろう

 

ただ・・・何でだろう?以前模擬戦で黒歌の時間停止を食らった時より俺自身の抵抗力が増しているような?———再び考え込んでしまった俺に小猫ちゃんが「どうかしたんですか?」と聞くので素直に答える

 

「何だか気で防ぐまでもなく時間停止が効かなかったような感じがしたからさ。何でだろう?」

 

「それは・・・多分ですけどイッキ先輩の【神性】が高まってるせいじゃないですか?この短期間で大きな変化があるとしたらそれ位しか思い浮かびませんが・・・」

 

「ああ~。成程ね」

 

確かにここ最近ケルベロスにコカビエルにヴァーリと強敵続きだったからな・・・特にヴァーリ!あいつは神滅具(ロンギヌス)所持者なんだから俺の神器が共鳴して力が引きあがったんだよな―――前までは【神性 E+】だったのが今や【神性 D-】飛んで【神性 D】までいってるし・・・【神性 D】って誰が居たっけ?

 

確か神にはヴァーリの『半減』も効きにくいとかあったはずだし、それと似たような物なんだろう

 

さて、考えるのはこれ位にして今はギャスパーだな

 

止まってしまったイッセーの手から逃れて今は部屋の隅で泣いてしまっている

 

「御免なさい。御免なさい!また皆止まっちゃった!僕はどうしてこう何だ!」

 

鳴いて謝り続ける彼の下に小猫ちゃんが歩み寄りしゃがんで声を掛ける

 

「ギャーくん。落ち着いて」

 

「うぅ、小猫ちゃん?・・・アレ?何で小猫ちゃんが動いてるの?」

 

「俺も動けるぞ」

 

「ひぃぃ!小猫ちゃんだけでなく知らない人まで動いてるぅぅぅ!!?」

 

知らない人って・・・まぁその通りなんだけど・・・

 

「あの人はイッキ先輩。部長の眷属じゃないけど、オカルト研究部の一員で私と同じ仙術使い。ギャーくんの力を察知して仙術でその力を防いだの」

 

「初めまして、2年の有間一輝。人間だけど宜しくな」

 

「は・・・初めまして・・・ギャスパー・ヴラディって言います。よろしくお願いします」

 

自己紹介した辺りでギャスパーの感情も落ち着いて来たのか自然と時間が動き出す

 

「あ・・・アレ!?俺は今確かに肩を掴んで・・・って何で3人が部屋の隅に移動してるんだ!?」

 

「はいぃ・・・いきなり消えてしまったように見えました」

 

「ああ、何かされたのは確かだね」

 

詳細を知らない3人が不思議がっていると朱乃先輩から説明が入る

 

「今のはギャスパー君の持つ神器、『停止世界の邪眼(フォービドウン・バロール・ビュー)』。視界に映したものを一定時間停止させることが出来るのですわ」

 

「停止させる対象が強い場合は効果が薄いみたいだけどね。イッキなら防げるかもとは思っていたけれど小猫も防げるようになったのね。成長したわね、私ももっと頑張らないと―――イッキはもうギャスパーと自己紹介はしたのかしら?」

 

「はい。自分は既に・・・」

 

「分かったわ。ギャスパー。まずは新しく私の眷属になった子たちを紹介するわね。イッセー、アーシア、ゼノヴィア」

 

リアス部長に呼ばれた3人が順番に挨拶をする

 

「俺は兵藤一誠!時間を止められるとかってスゲェな!階級は『兵士』。これから宜しくな!!」

 

「初めまして、アーシア・アルジェントと申します。貴方と同じ『僧侶』です。仲良くしてくださいね」

 

「ゼノヴィアだ。先日悪魔になったばかりだが『騎士』をやらせてもらっている。宜しく頼む」

 

「あわわわわ!何だか一気に人が増えてますぅ!ギャ・・・ギャスパー・ヴラディです。宜しくお願いしますぅ。———でも出来れば放っておいてくれると嬉しいですぅぅぅ!」

 

重症だな。味方と分かっていてもここまで恐がるなんてな

 

「この子の力は強力だけど、自分では制御できないみたいなの。だから今まではお兄様の命でこの部屋に封じられていたのよ―――その上、無意識に神器の能力が高まっていくみたいで自然と禁手(バランス・ブレイカー)に至るかも知れないとまで言われているのよ」

 

普通に言ってるけど自然と禁手(バランス・ブレイカー)に至るってそれはそれで規格外だよな

 

「それでね、皆にお願いが有るの。私と朱乃はこれからトップ会談の打ち合わせが有るの。だからその間皆にはギャスパーの事をお願いしたいのよ―――それと祐斗、お兄様が貴方の禁手(バランス・ブレイカー)について詳しく聞きたいそうだから、私達と一緒に来て頂戴」

 

「はい。分かりました」

 

「他の皆もいいかしら?」

 

「はい!任せてください部長!」

 

そうしてリアス部長と朱乃先輩と祐斗は魔法陣で転移していった

 

「張り切ってるなイッセー」

 

「部長のお願いを張り切らない理由なんて無いね!・・・とは言ったもののどうするかな?」

 

ノープランかよ!マジで勢いだけで言ったな!

 

「ならば、まずは私に任せてくれないか?」

 

「ゼノヴィア?なんか案が有るのか?」

 

「うむ。まずはやはり体を動かす事だ。外で走り回る解放感は引きこもりにとって大きな刺激となるだろう―――そういう訳だ。ほら行くぞ!」

 

そう言ってギャスパーの首根っこを引っ掴んで外にズルズルと連れ出して行ってしまった

 

幸いというか、時間は止まらなかったみたいだ

 

 

 

 

 

「いいいやああああああああああああ!!」

 

所変わって旧校舎の裏庭では今、吸血鬼狩りが執行されている

 

「ほらほらどうした!もっと早く逃げなければこのデュランダルの餌食になるぞ!」

 

「びえええん!そんな物で切られたら消滅しちゃいますぅぅぅ!!」

 

ギャスパーの後ろからデュランダルを振り回しながらゼノヴィアが嬉々として追い掛け回し、少し離れた所でその様子を見ながら俺たちは苦笑を溢す

 

「ゼノヴィア・・・楽しそうだな」

 

「ああいうノリがお好きなんでしょう」

 

「でもアレだと引きこもりに加えて運動まで嫌いにならないか?」

 

「・・・ギャーくんは出来る子」

 

小猫ちゃん?かなり適当言ってない?

 

暫く走り回ってからギャスパーは可憐な乙女の仕草でその場にへたり込む

 

「な・・・何でこんな事するんですかぁ?」

 

上気させた頬に瞳に涙を浮かべる様に隣のイッセーがまだ諦め切れないのか「畜生!見た目だけはあんなに可愛いのに!」とこっちはこっちで涙ぐんでいる

 

「健全なる魂は健全なる肉体に宿ると言うからな。そもそも、お前が最初からちゃんと走っていれば私もデュランダルを出したりはしなかったぞ!」

 

うん。多分それ違う。恐らく最初から走ってたとしてもさらに走らせる為にデュランダルを抜いてたと思うぞ

 

そのままへたり込んでいるギャスパーに小猫ちゃんが近づいて行く

 

「ギャーくん。疲れたならコレを食べればすぐに元気になるよ?」

 

その手で差し出したのは吸血鬼の弱点とされるニンニク・・・アレはどっから出したの?何時も生のニンニクを持ち歩いてるのか?

 

「いやあああ!!ニンニクぅぅぅ!小猫ちゃんがイジメるよぉぉぉ!!」

 

ギャスパーが今度は小猫ちゃんに追い回されて悲鳴を上げる中ひょっこりとサジがその場に現れた

 

「お!居たな!どうにも解禁された引きこもり眷属が居るって聞いたから巡回ついでに見に来ちまったぜ!・・・って金髪美少女か!うひょぉぉぉ!可愛いじゃん!!」

 

「女装野郎だけどな」

 

テンションの上がるサジにイッセーが先程自分も突き付けられた真実を告げるとサジはその場で四つん這いになって泣き出してしまった

 

「マジか・・・こんな事が在って良いのか!?何でこんなに世界は残酷なんだ!?」

 

俺がもしサジの立場だったら確かに世界すら恨んだかもな・・・

 

「ん?」

 

そんな時、ふと近くの茂みの方から此方に近づいてくる気配を感じた・・・巧妙に隠されてるな。下手したら気づかなかったかも知れない

 

「っ!皆さん!下がってください!!」

 

小猫ちゃんの上げた緊迫した声に皆が警戒を露にする

 

「おっとっと!バレちまったか。へぇ、悪魔さん方はこんな所でお遊戯かい?」

 

「アザゼル!」

 

イッセーが彼の名を呼ぶ事でその場の全員が目の前の人物の正体を知り、一気に臨戦態勢に入る

 

「止めとけ止めとけ。そこの人間以外じゃ束になっても勝負にすらならんぞ?むしろお前らが足かせになるだろうな。こっちの方から気配を感じたんで散歩ついでに見学に来たんだが、聖魔剣使いは居ねぇのか?」

 

「木場なら居ねぇよ!用がそれならとっとと帰りやがれ!」

 

「そっか。そりゃあ残念だ。だが俺は聖魔剣使い以外にも興味が在ってな・・・お前さんが有間一輝だな?」

 

俺ですか!?別にアザゼルさんに興味を持たれるような事なんて・・・考えてみれば結構あるな。コカビエルとかヴァーリとか・・・

 

「お前さんの持つ神器、『偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)』は中々謎が多くてな。過去に存在したという記述だけは有るんだが滅多に世に出ない為かどんな能力なのかも、どんな禁手(バランス・ブレイカー)に至るのかも分かってないんだ。良かったら俺ん所の研究所に来ないか?特別待遇で迎えてやるぜ?」

 

特別待遇(SAN値チェック)ですね。分かります

 

「俺の仲間は渡さねぇぞ!」

 

「イッキ先輩は渡しません!」

 

「はは!こりゃ警戒されたもんだな。別に引き抜こうとかって訳じゃあ無いんだが・・・で?どうなんだ?」

 

「見ての通りですよ。と言うか万一ここで貴方に付いて行って無事に戻ってきたとしても、後で心配掛けた皆に袋叩きにあう未来が見えるんですけど、その辺りの事は保証してくれるんですか?」

 

皆に加えて小猫ちゃんが黒歌に愚痴を溢しでもしたら俺の私生活が死ぬわ!

 

「そいつは流石に保障出来んな。しゃーない、お前さんの事も今は諦めるか―――さて後はそこのヴァンパイア」

 

「ひぃ!」

 

急に声を掛けられたギャスパーが木の後ろに隠れるけど、流石にそれじゃあ下級堕天使の一撃も防げないんじゃないか?

 

「お前さんが持つのは『停止世界の邪眼(フォービドウン・バロール・ビュー)』だな?五感から発動するタイプの神器は持ち主の能力が低いと暴走の可能性が高く、危険なんだ」

 

次にアザゼルさんの視線がサジに移り、堕天使の親玉に見られた事で少なからず委縮してしまう

 

「丁度いい。お前さんの持つそれは『黒い龍脈(アブソーション・ライン)』だな?鍛錬ならそいつをヴァンパイアに接続して余分な力を吸い取ってやれば良い。暴走もしづらいだろう」

 

「コイツにそんな機能が?」

 

サジが興味深そうに自分の神器を見つめる

 

「なんだ知らなかったのか?ったく悪魔って奴は神器持ちの人間を転生のステータスとして扱うクセに神器そのものに興味が無い奴らが多すぎるぜ。そいつは五大龍王の一角、黒邪の龍王『ヴリトラ』の力を宿していてな。力を吸い取ったり、短時間なら自分以外のモノに接続する事もできるんだ―――そうそう、もっと手っ取り早い方法が有るぞ。赤龍帝の血を飲む事だ。ドラゴンってのはその血液にまで力が強く宿っている。ヴァンパイアなんだろ?試してみると良い」

 

そしてそのまま「後は自分たちで何とかしろ」と立ち去って行った

 

「アレが堕天使の総督か・・・何とも掴みどころの無い男だったな」

 

ゼノヴィアがそう言うが確かに終始飄々としてたけど内容だけ振り返ればアドバイスするだけして帰って行ったよな、あの人

 

 

 

 

 

その後、サジも協力しながらギャスパーの神器を制御する特訓を行ったが上手くは行かずに終にはまた自分の部屋に閉じこもってしまった

 

「ギャスパー!出てきて頂戴!無理に外に出そうとした私も悪かったわ!」

 

しかし部屋の中からはギャスパーの泣き声しか返ってこない

 

「すみません部長。大事な会議の最中に呼び出してしまって・・・」

 

「いいえ、貴方たちはギャスパーの為を想って頑張ってくれたのだし、謝る事じゃないわ」

 

「あの、部長。ギャスパーは何で引きこもりになったんですか?正直あの恐がり方は尋常じゃないと思うんですけど」

 

「そうね。確かにそこから話しておかなければいけなかったわね」

 

それからのリアス部長の話を纏めると

 

1.吸血鬼は悪魔以上に血統を重んじる種族である

 

2.ハーフである彼は周囲の大人たちから差別・迫害を受けていた

 

3.神器を無意識に発動させてしまう為、そういった思想に染まり切っていない周囲の子供たちからも大人たちと同様の扱いを受けていた

 

と言った感じだ・・・子供のころからそんな環境で育てば他人が恐くもなるよな

 

「折角お兄様にも封印を解く許可を頂いたというのに・・・これでは『王』失格ね」

 

「部長!大丈夫です!ギャスパーの事は俺に任せてください!折角俺にも初めて出来た後輩男子なんですから、何とかしてみせます!おうイッキ!お前もイヤなんて言わないよな!?」

 

「ここに来てそんな薄情な事言う気は流石にないよ。とことん付き合ってやるさ!」

 

ここで見捨てたりしたら後味悪すぎるしな!

 

「あ、イッキはダメよ」

 

ホワイ!?

 

「何でですかリアス部長!?俺今、結構内心燃えてたんですよ!?」

 

「そうですよ部長!何でイッキがダメ何ですか!?」

 

「御免なさい、言い方が悪かったわね。実は魔王様方が貴方にも聞きたいことが出てきたと仰ってね。祐斗の話もそろそろ区切りがつく頃だったから出来れば貴方も連れてきて欲しいと言われているの・・・人間の貴方には一応拒否する権利も有るけれど、どうする?」

 

まさかの魔王の連名ですか!?やっぱりコカビエル倒したせいかな?

 

「あ~、イッセー。付き合うって言ったばっかで悪いんだがギャスパーの事は任せていいか?トップ会談を間近に控えたこの時期の魔王二人の呼び出しを断る勇気はちょっと無いわ」

 

「いやいや、お前は何も悪くねぇだろ。まぁそういう事ならこっちは任せとけ!・・・逆にお前の方が大変なんじゃないか?魔王様からの質疑応答とか俺なら想像するだけで胃が痛くなるね!」

 

それを言うなよ・・・でもまぁノリの軽い魔王を実際に見た後だからに大丈夫だと思うがな

 

「ふふ、大丈夫よ。そんなに時間は取らせないそうだから―――ではイッセー、私とイッキはもう行くからギャスパーの事はお願いね」

 

「はい!絶対にギャスパーと打ち解けて見せます!」

 

イッセーの返事を聞き俺とリアス部長は打ち合わせ場所に向かう

 

転移していった先は悪魔の管理する高級ホテルで、本来そこの客でなければそのフロアに近づくことも出来ないVIPルームだった。扉の前には両隣にSP(悪魔)まで居る

 

「失礼します」

 

ノックして先に部屋に入ったリアス部長に続いて部屋に入る

 

「よく来てくれたね。急な呼び出しだったのに来てくれて礼を言うよ」

 

「こんばんわ☆ゴメンねぇ♪ビックリしたでしょ?」

 

ホテルの部屋のくせに2階建てとか庶民の俺には意味が分からないんだけど!?もはや屋敷とも言える内装でその中の応接室的な所にサーゼクスさんとセラフォルーさんが座り、机を挟んで祐斗と朱乃先輩が立っていた。机の上には聖魔剣が置かれている

 

「丁度彼との話も終わった所でね。さぁ席に着いてくれたまえ」

 

促されてリアス部長と一緒に魔王さん達の対面に座る

 

「さて、早速だが今からする話に入るに当たってキミに先に謝っておこう。実は我々はコカビエルとの戦いの顛末を聞いてから秘密裡にイッキ君の事を調べさせてもらっていた」

 

「はい」

 

魔王という立場上当然と言えるからな。でも俺も黒歌も暫く警戒していてもそれらしい気配は特に感じなかったんだよな?

 

「キミレベルの仙術使いともなれば下手に探りを入れれば逆に気づかれてしまうからね。間接的にキミの情報を探っていたんだ」

 

「そしたらキミがここ数年、京都でよく目撃されているって分かってね☆そっちから調べてみたらなんと京都を中心に関西を取り仕切る九尾のお姫様の娘さんの婚約者って情報が上がってきたのがついさっきなの☆」

 

そっちかぁぁぁぁ!!そっちから来るか!!婚約者と言うワードにリアス部長達が驚愕してるのが見なくても伝わってくる!

 

「我々も魔王という立場である以上ハッキリと裏は取らなくてはならなくてね。今回の一件に置けるキミの立ち位置と言うものをキミの自身の口から明言してもらいたいのだよ」

 

そりゃ下手したら日本の妖怪とか日本神話まで会談に食い込んでしまいかねないからな

 

「・・・今回の一件はコカビエルが町ごと破壊しようとした所に偶然にも居合わせただけであって、関西の妖怪の意向は一切関わり有りません———まさか降りかかる火の粉を払うなとも友人を助けるなとも言いませんよね?」

 

「はっはっは!安心したまえ。そんな狭量な事は言わないさ―――キミの立ち位置は理解した。トップ会談にあたり今言った事は教会側、堕天使側にも伝える事になるが、構わないね?」

 

悪魔側にもバレてるなら残りの勢力にも多分バレてるだろうしな

 

「はい、問題ありません」

 

「有難う。では、話はこれで終わりだ。有間一輝君、木場祐斗君。二人は退席してくれたまえ」

 

「「失礼します」」

 

祐斗と二人で頭を下げ退室する。そしてそのフロアから出た辺りで祐斗から声が掛かった

 

「それにしても、まさかイッキ君に婚約者がいるとは思わなかったよ。それも九尾の狐と言えば僕でも知ってる大妖怪じゃないか」

 

「九尾の八坂さんには何時も振り回されてるよ・・・娘の九重は素直な子なんだけどな」

 

九重はどうかそのまま真っ直ぐに育って欲しいものだ。黒歌も小猫ちゃんも八坂さんも弄ってくるキャラだから唯一の癒しキャラなんだから・・・

 

話している内にVIPフロアを抜けて転移の術式が使えるようになったので学園に転移して祐斗とギャスパーの部屋に入ると楽しそうに話している二人を見つける

 

「流石だねイッセー君。もうギャスパー君と打ち解けているのかい?」

 

「おう!二人とも話は済んだのか?丁度良かった。実は今オカルト研究部男子チームの連携を考えていたんだ!」

 

「へぇ!それは興味があるね」

 

そしてイッセーは拳を握り熱く語る

 

「まずは俺が溜めた力をギャスパーに譲渡し、時間を止める!そして止まった時間の中で俺は女の子の胸を触り放題だぁ!」

 

「・・・それ、俺たち要るのか?」

 

「・・・うん、僕たちは必要ないよね?」

 

「そんな事はない!まず木場はもしかしたら停止した時間の中でも襲ってくる敵が居るかもしれないからその時はおさわりタイム中の俺を命がけで守ってくれ!そしてイッキは仙術の探知で停止世界の女の子たちの居場所を把握して俺が最大効率でおっぱいを揉みまくれるルートを割り出すんだ!・・・完璧な連携だろう?」

 

ああ、完璧過ぎて文句の付け所『しか』ねぇよ!

 

「イッセー君。僕はあの時、仲間たちの剣となると誓ったけど・・・一度、今後の事を真剣に話し合おうよ」

 

「ハッキリ言ってやれよ。そんな事の為に剣を振るいたくは無いって」

 

「うっせぇ!俺なんか女子と話してるだけで汚れるとか毒が回るとか言われてんだ!こうでもしないと女の子に触れられないんだよぉぉぉ!!」

 

何時もリアス部長やアーシアさんに抱き着かれておいて何を言うかこいつは!

 

「やぁ。仲良く話しているみたいじゃないか」

 

イッセーが泣きながら最低な事を喋ってる間に部室の扉が開いてゼノヴィア、アーシアさん、小猫ちゃんが入ってきた

 

「どうしたんだ皆?家に帰ったはずだよな?」

 

イッセーが疑問を呈す

 

「あの後、やはりイッセーにだけギャスパーの事を任せるのは違うと思ったものでね。何か良い方法は無いか3人で色々と考えたんだ」

 

「ギャーくんも大切な仲間だから、コレ、お土産」

 

投げられたのはニンニク。座っていたギャスパーが驚いて思わず飛び跳ねる・・・と同時にゼノヴィアがギャスパーに紙袋を頭から被せた

 

「アーシアのアイディアなのだが、被り心地はどうだい?」

 

「え?・・・アレ?なんかコレ、落ち着きます」

 

「ギャスパー君がパソコンで契約していると仰ってたので、相手の方とハッキリ顔を合わせなければ大丈夫なのかもと思いまして」

 

「な・・・成程。だけどコレは得も言われぬ威圧感があるな・・・変人的な意味で」

 

「確かにな。でも効果は実証されたんだし・・・ギャスパーの女装と合わせるなら濃いめのベール付きの帽子を被ればいいんじゃね?深窓の令嬢的な感じで」

 

「いやイッキ!なに無駄に的確なアドバイス入れてんだよ!」

 

悪いイッセー、俺も一瞬想像しちまった自分を殴りたくなったわ

 

「皆さん僕なんかの為にここまでしてくれて有難うございますぅ!でも僕この被り物があれば悪魔としても吸血鬼としても1歩前に進める気がします!」

 

そうか、頑張れよ。・・・そうとしか言えんわ




やっとトップ会談ですね色々と駆け引きしないといけません

後オリ主の神器は過去存在したけど記録はろくに残ってないという形にしておきました。でないとアザゼルさんがマジで目の色変えそうだったので・・・


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第四話 褒賞と、トップ会談です!

翌日、イッセーは朱乃先輩に連れられて神社に行きその後、迎えに行ったリアス部長も含めて3人で部室に戻ってきた

 

「うふふふ♡」

 

朱乃先輩をその腕に引っ付けて・・・あの様子からして朱乃先輩とのフラグを完全な物としたようだ。この一級フラグ建築士め!

 

「朱乃、もう行くわよ!イッセーから離れなさい!」

 

「あらあら、残念ですわぁ。またねイッセー君。今度は二人っきりになりたいですわね」

 

中々離れようとしない朱乃先輩をリアス部長が引っぺがし、最後の会談の打ち合わせに向かっていった―――新たなライバルにリアス部長の嫉妬の炎が揺らめいてるな

 

「むぅぅぅぅ!!」

 

「痛たたたた!アーシア!何で俺は抓られてるの!?」

 

うん。ここにもう一人嫉妬する人が居たな。アーシアさんが可愛らしく頬を膨らませている

 

「う~む。アーシアは何を怒ってたんだろう?あ!そうだ!イッキ、木場、ゼノヴィア。お前らに見て欲しい物があるんだよ!」

 

見て欲しいもの?

 

「コレなんだけど。来い!『アスカロン』!」

 

『Brade!!』

 

イッセーが赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を呼び出し、籠手の先から刃が飛び出る。それに真っ先に反応したのはゼノヴィアだ

 

「『アスカロン』だと!?かの聖ジョージが扱ったとされる龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の聖剣じゃないか!何故イッセーがこれを!?」

 

「実は今日朱乃さんに連れられて行った先で天使長のミカエルさんに出会ってな。そこでこの剣を貰ったんだよ―――何でも過去に一度三大勢力が手を結んだ切っ掛けとなった二天龍の俺への願掛けとか言ってたな」

 

願掛けって・・・考えてみればまだトップ会談前だってのに豪胆だな。もし和平とならなかったら聖剣がそのまま悪魔の手に堕ちるってのに・・・

 

「それで俺も折角こんなの貰ったんだし、これからは剣術の鍛錬も増やしていきたいと思ったからよ。剣を扱うお前らに相談しておきたくてな」

 

そういう事か。でも俺の場合はな・・・

 

「俺の剣って形状がアレだし、完全に我流だから指導は無理だな・・・模擬戦なら付き合うぞ」

 

「フム。私は前に教会の他の剣士に戦い方を聞かれた時『斬れる距離まで近づいて斬れ!』と言った事ならあるな。後は只管素振りと実戦あるのみだ!」

 

イッセーが何とも言えないといった顔で此方を見てくる———悪いな指導の役には立ちそうにない

 

「・・・あはは、基礎なら僕が教えて上げられるよ」

 

「木場!良かった!まともな剣士が一人は居た!!」

 

悪かったな。まともじゃなくて・・・と言うか俺は兎も角ゼノヴィアはそれは如何なんだ?仮にも教会で正式に指導を受けたんだよな?

 

その後は今日もギャスパーの神器の特訓を行った

 

ギャスパーが制御を誤って全体時間停止を発動させた時に思い付きの実験を手伝って貰ったりしてその日は過ぎていった

 

 

 

 

 

 

トップ会談当日、オカルト研究部員の内ギャスパーと小猫ちゃんは留守番となった

 

「御免なさいねギャスパー。まだ力を制御できていない貴方がもし神器を発動させてしまったら大変な事になるわ。今日の所は此処で私達の帰りを待っていて頂戴・・・小猫、ギャスパーと一緒に居てあげてね」

 

「はい、部長。ギャーくん、お菓子も沢山用意したから」

 

そう言って小猫ちゃんは机の下から明らかにそこに収まるレベルじゃない大きさのお菓子が山のように積まれて入っている段ボールを机の上に置く

 

あのお菓子は9割小猫ちゃんが食べるんだろうな・・・そして如何やって仕舞ってたんだアレ?

 

「ギャスパー。紙袋もここに置いとくからな。寂しくなったら何時でも被れ!」

 

「はい!有難うございますイッセー先輩!」

 

それで良いのかギャスパー?

 

「それでは、行くわよ皆!」

 

リアス部長が声を掛け、全員で新校舎の会議室に向かって歩いて行く

 

既にこの学園には侵入も脱出も阻む三大勢力の共同結界が張られていた―――お互いがお互いの術式を監視できる為、手を抜けば直ぐに分かるという訳だ

 

『サボったら即糾弾するぞオラァン!』という結界担当者の熱意が伝わるようだな

 

それとは別に各勢力それぞれ20人程が思いっきり臨戦態勢で新校舎の上空で警護をしている

 

殺気半歩手前のギスギスした感情をぶつけ合ってるみたいだ

 

そしてそんな威圧が方々で飛び交う居心地の悪い空気にイッセーやアーシアさんがソワソワしたりしながらも俺たちは無事に会議室に到着し、代表のリアス部長が扉をノックする

 

「失礼します」

 

中に入ると今回のトップ会談の為に持ち込んだであろう豪華な円卓と椅子が部屋の中央にあり、そこには既にサーゼクスさんとセラフォルーさんにアザゼルさん、後は初めて見るけどミカエルさんが座っており、それぞれの後ろにグレイフィアさんにヴァーリ、イリナさんが控えている・・・こう言ったら失礼だけどイリナさんだけレベルが低いな

 

まぁミカエルさんは既にイッセーにアスカロンも渡してるみたいだし、彼としては自分から和平を切り出すつもりだったのかもな

 

そして壁際にはソーナ会長と椿姫副会長が立っており、俺たちもそこに並ぶ

 

「紹介しよう。私の妹とその眷属たちにその友人だ。先日のコカビエルの一件では彼女達が前線で活躍してくれた」

 

「お疲れ様でした。教会代表としてお礼を申し上げます」

 

「悪かったな。うちのもんが迷惑を掛けた」

 

アザゼル総督の頬杖を突いて此方に視線すら向けずに出る謝罪の言葉にイッセーを筆頭に皆が不満の表情を浮かべている

 

「では、会議を始める前に此処に居る全員は秘匿事項である『神の不在』を認知しているものとする。異論のある者は?」

 

サーゼクスさんの言葉に当然と言うべきか誰も口を挟まない

 

「よろしい。では会議を始めよう」

 

そうしてトップ会談の幕がゆっくりと開かれた

 

「・・・以上が私、リアス・グレモリーとその眷属が関与した事件の全容です」

 

「私ソーナ・シトリーも彼女の説明に偽りが無い事を証言いたします」

 

「ご苦労。下がってくれ」

 

リアス部長とソーナ会長から事件のあらましが語られ会談が本格的に動いていく

 

「それでは、今の報告を受けて堕天使総督殿の意見を伺いたい」

 

「意見も何もコカビエルの奴が勝手にやった事だからな。だから白龍皇に頼んで最悪の事態が起こらないように陰で動いて貰ってたのさ・・・まぁその前にそっちの有間一輝が片づけちまったんだがね」

 

「コカビエルが戦争を起こそうとしていた事自体はあずかり知らぬ事だと?」

 

「ああ、俺は今更戦争になんざ興味はねぇんだよ。今の報告にも有ったろ?コカビエルがさんざっぱら俺の事をこき下ろしていたってよ」

 

「不満分子って事ね」

 

「ハッ!不満分子なんざ何処の勢力でも一緒だろ?悪魔も教会も、きな臭え噂なんざ耳を塞いでても聞こえてくるぜ?」

 

「それは今回の一件とは関係の無い事だ」

 

「だろうな―――だからもう回りくどい事は無しだ・・・とっとと和平を結ぼうぜ」

 

その言葉にイッセーたちは驚きを示すが他の三大勢力のトップたちはどうあれ和平という流れになる事自体は決めていた為か静かなものだ

 

「ええ、和平を否定する気はありません。神も魔王も既に居ないのですから・・・」

 

「『神が居ない』か・・・昔ならその言葉だけで堕ちてたぜ?さて、サーゼクスたちは和平は賛成か?それとも反対なのかな?」

 

「これ以上今の危うい均衡のままでは、遠からず我らは共倒れとなるだろう。我々も和平に賛同しよう」

 

「そいつは結構。問題は三すくみの外側に居ながら世界を動かせる程の存在である二天龍。お前らの意見を聞きたい―――先ずはヴァーリ、お前からだ」

 

「俺は強い奴と戦いたい、それだけだ」

 

「心配するな。戦争が無くても強い奴なんてわんさか居るさ―――次はお前だ兵藤一誠」

 

「うえぇ!そんな小難しい事いきなり言われても・・・」

 

トップ会談で自分の意見を求められると思ってなかったイッセーが面白いほどに慌て始める

 

「なら、お前さんにも分かり易く伝えてやろう―――和平が成れば毎日子作りだ!」

 

「はぇ?」

 

予想外かつ簡潔過ぎる事を言われたイッセーがまた止まってしまう

 

「戦争が終われば、数の少ない俺たちの次に目指すところは種の繁栄。すなわち子作り!だが逆に戦争ともなればそんな暇も無く戦場に送り出される事だろう・・・それで?どうなんだ赤龍帝。和平か・・・それとも戦争か」

 

「是非とも和平でお願いします!俺は部長とエッチがしたいです!!和平最高!!」

 

世界の行く末を左右しかねないトップ会談でそんな事叫ぶとはお前は本当に大物だよイッセー。見習いたくはないけどね。リアス部長が顔を真っ赤に染めてるし、これ他の人が議事録読んだ時とかどんな反応するんだろう?

 

「イッセー君?此処にはサーゼクス様も居られるんだよ?」

 

「あ゛!」

 

当のサーゼクスさんは笑いを堪え切れないみたいで机に半ば突っ伏してしまっている

 

「じゃあ次の議題ね☆今まで小競り合いは数あれど、コカビエルが起こしたのは特に危険性が高かったの☆だから今回の一件を収めた功労者には褒賞を出す事にしたのよ☆」

 

「それに該当するのは3名―――兵藤一誠君。木場祐斗君。有間一輝君の3名だ。理由としてはまずイッセー君は事件の全容が見えない中でも自らの危険を顧みずに聖剣の破壊を申し出た仲間を想うその実行力と、戦いでは赤龍帝の力で常に全体をサポートしてくれた事が上げられる」

 

「もっともドライグ君の褒賞は一足先にミカエルちゃんが渡しちゃったんだけどね☆流石にそれに加えて私達からも出したら過剰になっちゃうから我慢してね☆」

 

セラフォルーさんにウィンク付きでそう言われたイッセーは「は、はい!」と返事をする。そりゃ伝説の聖剣の価値が低い訳がないか

 

「次に祐斗君だが、禁手(バランス・ブレイカー)へ至り、実際にエクスカリバーを破壊した事が高く評価された。何か希望はあるかね?」

 

サーゼクスさんに問われた祐斗は少し考えた後、ミカエルさんの方に向き直った

 

「ご存知でしょうが僕は聖剣計画の生き残りです。今後二度とあのような非人道的な実験が行われないように組織の引き締めをお願いします―――その為ならば僕の聖魔剣のデータをそちらに渡しても良いと考えています」

 

「分かりました。確かに聖魔剣のデータがあれば・・・聖剣だけが絶対の武器で無くなればあのような無謀な実験の抑えとなるでしょう。貴方の聖魔剣に誓い、尽力すると約束しましょう」

 

「有難うございます。ミカエル様」

 

頭を下げる祐斗にイッセーが「やったな!」と肩を組む

 

最後にサーゼクスさんが此方を向く

 

「では最後にイッキ君。キミの希望は?」

 

その言葉に一度深く息を吐き、サーゼクスさんを見つめ返す。もしもこれで失敗したら逃亡生活かも知れないな。京都にも迷惑は掛けたくは無いし・・・

 

「恩赦をお願いします」

 

「・・・恩赦?それは一体誰の事だい?」

 

流石に俺の要求が予想外だったのか若干困惑しながらも問い掛けてくる

 

「はい。リアス・グレモリーの眷属、塔城小猫の実の姉であるSS級はぐれ悪魔、黒歌の恩赦をお願いします」

 

・・・さて、ここからが正念場だな

 

「ちょっと待てよイッキ!黒歌ってあの黒歌さんの事か?それが小猫ちゃんのお姉さん!?」

 

「イッキ!それはどういう事!?説明しなさい!!」

 

イッセーは兎も角リアス部長も冷静さを欠いてるな。自分の眷属である小猫ちゃんが絡む事なんだから当然といえば当然なんだけど

 

「ふむ。私も詳しく聞きたいね。流石に事情も聴かずに恩赦を出す事は出来ない」

 

サーゼクスさんの言う事はもっともなので先ずは黒歌から聞いた当時の状況を説明する

 

ナベリウス家で眷属及びその親類縁者が非道な実験を受けていた事や黒歌が眷属入りする時に結んだ『妹には手を出さない』という契約を破り、小猫ちゃんに無理やり力を使わせる事を画策していた事などだ

 

「そも契約を重んじる悪魔が一方的に契約を破棄し、家族に手を出すというのは悪魔側の失態です・・・昔の貴族制なら『貴い血』の為ならばそれ以外の血などいくら流そうとも許されるなんて時代もあったみたいですが、サーゼクス様、セラフォルー様、お二人はどちらの側ですか?」

 

この場で重要なのは黒歌が言った事が本当に有ったのかどうかかも知れないが、ぶっちゃけ無実の証拠と言える物なんてないから先ずは反対しにくい所から攻めさせてもらいますかね

 

「・・・私も『貴族だから』で許されるような事は在ってはならないと思っている」

 

でしょうね。だからこそ貴方は魔王になったはずですし・・・

 

「だが、今の話には証拠と言えるものが無い。その辺りの事はどう考えているのかね?」

 

「確かに証拠は無いですね。ですがそれはそちらも同じでしょう?ナベリウス家の不正が無かったという証拠も無い・・・いえ、無さ過ぎたんじゃないですか?」

 

この切り返しにはサーゼクスさんも眉を上げる

 

「小猫ちゃんをグレモリー家が引き取る際、ナベリウス家の事件は調べましたか?当時、ナベリウス家がレーティングゲームに出場する時は突き抜けて優秀だった黒歌以外の眷属は薬や実験の後遺症でやつれてボロボロだったはずです。実際黒歌も眷属のしわ寄せがよく自分の所に来たと言っていましたからね。レーティングゲームなら記録映像が残っているはずです。それを専門家に見せればある程度の証拠にはなるはずですよ?」

 

流石にレーティングゲームの公式記録までは手が回ってないだろう

 

「では、ナベリウス家に特にめぼしい資料が無いとされていたのは・・・」

 

「それだけ見られたら不味い実験内容が有ったと考えるべきでしょうね。だからこそ証拠を消した―――捜索される前に消したのか、捜索隊こそが息の掛かった者たちだったのかまでは分かりませんが、仮に後者ならナベリウス家以外も関わっている可能性が高くなりますね」

 

具体的には元祖ルシファーに仕えてた悪徳研究者のネビロス家とかね

 

「ふむ。確かにその可能性は無いとは言えないね」

 

「俺から言える事は以上です」

 

暫く考えを纏めていたサーゼクスさんが此方を向く

 

「流石に今すぐに結論を出す事は出来ない。当時のレーティングゲームの様子の解析を秘密裡に行いそれ次第で恩赦の有無を決めよう」

 

「それでは追加で、もしも恩赦が成らなかったらこの会談で黒歌の名前が出た事は忘れると誓って下さいますか?」

 

万が一の時の保険は掛けておきたいしな

 

「分かった、そうしよう。セラフォルーも構わないかな?」

 

「うん☆私も大丈夫!」

 

しかしそんな二人の返答に茶々を入れる人物が居た

 

「だが良いのかい?有間一輝。その黒歌って奴はどういう経緯にせよ今は犯罪者なんだろう?お前さんの頼みなんて無視してこっそり討伐隊が組まれるかも知れないぜ?」

 

意地の悪い質問だけど、そんな事は無いって分かって言ってるだろこの人・・・凄くニヤニヤしているし

 

「先ほど和平をなすと決まりました。そんな中で三大勢力のトップの決めた功労者の一人の願い事をそんな形で破れば天使・堕天使に付け入る隙を与えますし、仮にそうなったら黒歌と一緒に逃避行しながら色んな神話体系の関係者に三大勢力は信用ならないと大声で宣伝して回る事にでもしますよ―――三大勢力が和平を結んだとなれば他の勢力も無視できない。戦争回避の為にも和平交渉を続けていくつもりでしょう?そんな中で俺たちが騒ぎ立てるというのはとっても面倒くさいと思いますよ?」

 

だからこそトップが集うこの場で恩赦の話を持ち出したのだし・・・もしも先日呼び出された時に褒賞の話が出ていたら「会談までには決めておく」と先延ばしにしていただろう

 

そう答えるとアザゼルさんは心なしか詰まらなさそうな面持ちだ・・・狼狽える様子が見たかったんですね

 

「ったく詰まんねぇ野郎だな」

 

・・・真正面から言われちゃったよ―――いいだろう、ならば少し脇道に逸れてくれる!

 

「因みにソーナ会長。逃亡する時はイッセーの使い魔、竜子を拉致って行きますね」

 

「お姉様!絶対に恩赦を成功させて下さい」

 

メガネをクイっとかけ直しながら圧を込めたソーナ会長の声が響き渡る

 

「お前、イッキ!俺の竜子を!ソーナ会長のおっぱいを人質に取る気か!」

 

「酷いわイッキ!最近漸くソーナが私の胸を恐い目で見なくなってきたのに!そんな事をすればソーナが希望(おっぱい)を無くした反動で塞ぎ込んでしまうわ!」

 

「・・・お二人とも、後でお話があります」

 

「大丈夫よソーナちゃん☆ソーナちゃんのお胸なら、例えどんな大きさでもお姉ちゃんが愛して上げるんだから☆」

 

お姉様(巨乳)は黙っていて下さい!」

 

チラッとアザゼルさんの方を見ると爆笑していた。やっぱりDxDにはこういうノリが必要だよな

 

「まぁそう心配しないでくれたまえ、私やセラフォルーもこれでも魔王だ。その上当時のナベリウス家の不審な状況に加え、キミの功績を合わせれば何とかなるだろう」

 

「有難うございます」

 

取り敢えずはこんな所だろうか?そう思っていると今度はミカエルさんからの提案がなされた

 

「しかし彼は今回の一件では一番の功労者です。追加で褒賞を出しても良いのでは?」

 

「ったく、ミカエル。お前さんのお人好しは神が居なくなっても変わらねぇな。少しは俺にもその優しさを分けて欲しいもんだよ・・・やっぱいいわ。俺に優しいお前とか鳥肌が立つわ!」

 

顔を青くさせて"ブルリ"と背筋を震わすアザゼルさん・・・凄い拒否反応出てるな

 

しかし追加報酬ね・・・そこら辺は何も考えて無かったな。流石は和平後のアザゼルさんに「天界のバックアップ体制は超が付くお人好し」と言われる組織の長だわ

 

何かないかと周囲を見渡しているとその中の一人に目が留まる―――思い付きだけどコレでいいか

 

「アザゼル総督。フリード・セルゼンは今どうしていますか?」

 

「あ?フリード?お前があの神父に何の用が有るんだよ?まぁ答えると今は俺の所の神の子を見張る者(グリゴリ)で拘束してある。一応だがアイツも今回の会談に無関係では無いんでな。和平が成ったのなら後は適当に放り出そうかと思ってたんだが、そいつがどうかしたか?」

 

良かった。まだ手元に置いてたか

 

「はい。フリードには祐斗の同志から抜き取った聖剣の因子が三つ入っています。天界側と協力して因子を抜き取り、彼に返して上げてください」

 

すると祐斗の方から息を呑むような音が聞こえてきた

 

「そういう話でしたら喜んで協力しましょう。アザゼルも良いですね?」

 

「分かったよ。・・・つっても俺はそのフリードの奴を引き渡すだけだがな」

 

「イッキ君・・・有難う」

 

「気にすんな・・・今のは本当にただの思い付きだからな」

 

だがそこでここ最近何度も味わった神器の力の高まりを感じ取った

 

 

 

 

 

 

停止の力がこの部屋だけでなく学園全土を覆いつくしている

 

小猫ちゃんがギャスパーの護衛に付いている以上テロは起こってもギャスパーの神器が利用される事はないと思っていたんだけど、今はどういう状況だ?

 

取り敢えず朱乃先輩にアーシアさん、ソーナ会長と椿姫副会長以外は動けるみたいだな

 

いや、やはりと言うべきか外の警護の人たちも軒並み止まっているな

 

「さて、時代の節目には何時だって反乱が起きるもんだ。この状況もその一環だろう。上位の力を持った俺たちは兎も角、そっちの連中は聖剣が力を防いだみたいだな。兵藤一誠は赤龍帝の力、リアス・グレモリーは停止の瞬間そいつに触れていたからだな」

 

「停止能力を持ったものは滅多に居ない。ギャスパー君は敵の手に堕ちたと見るべきだろう」

 

「そんな!小猫ちゃんだって居たんですよ!?そんな簡単にギャスパーが利用されるなんて!」

 

「赤龍帝の疑問の答えはアレだろう・・・外を見てみろよ」

 

イッセーの、と言うより俺たちの疑問に答えたのは窓際に移動していたアザゼルさんだった

 

言われて外を見てみると学園を薄っすらと霧のようなものが覆っているのが見えた

 

「厄介なモンが敵に回ったみたいだな―――あの霧は神滅具(ロンギヌス)の一つ『絶霧(ディメンション・ロスト)』の霧で間違いないだろう。あの霧は触れたものを強制的に任意の場所に飛ばせる力がある。あのヴァンパイアを護衛から引き離すくらい訳ないだろうさ―――おっと!言ってるそばから次が来たみたいだぞ」

 

ここで神滅具(ロンギヌス)が出てくるか!確かに仮にも同じ『禍の団(カオス・ブリゲード)』なんだから特段に可笑しくは無いのか!・・・ディオドラの時も一応の協力はしてた訳だし

 

そしてその『次』とは上空に現れた巨大な転移魔法陣だ

 

あそこから直ぐにでもはぐれ魔法使いたちがわんさかと出て来るに違いない―――だが、上空の魔法陣が展開されたのと同時に学園に充満していた霧が晴れていった

 

「ん?『絶霧(ディメンション・ロスト)』が晴れていくな・・・あのヴァンパイアを拘束した時点でお役御免って訳か?事情は分からんが、どうやら敵さんも一枚岩って訳じゃないみたいだな」

 

確かに、あのプライドの塊(笑)の旧魔王派なら必要以上に『人間(下等種族)』が活躍するのなんて許せないって事なのかな?

 

だがそこで上空の魔法陣から多数のはぐれ魔法使い達が湧いて出てきた

 

小猫ちゃんが居るからギャスパーは大丈夫だとは思っていたけど、やっぱりこういう時の為に対策を立てなかった訳じゃ無いんだ―――昨日、ギャスパーの時間停止に対して色々試したからな

 

「イヅナ!!」

 

俺のオーラに守られて無事だったイヅナが飛び出し、そのまま一気に分身して本体のイヅナは仙術で俺のオーラと同調させる―――ここで重要なのは俺のオーラ『を』合わせるのではなく、俺のオーラ『に』合わせる事だ

 

そうする事でイヅナに一時的に俺のオーラ、【神性】を付与できるのだ

 

更にはイヅナは基本的に全てが同一個体、最大数まで分身したイヅナ達にも同じく【神性】が反映される事となる

 

そしてイヅナ達は止まってしまっている人たち全員の下に飛び立ち憑依する

 

本来は自分よりも力の強い相手には同意が必要だが時間停止と言う無意識の抵抗すらも無い今なら憑依が可能だ―――そして止まってしまっていた警護の人たちを【神性】の恩恵で再び動かす

 

彼らもいきなり目の前に魔法使いたちが現れた事に驚いたみたいだが、魔法使いたちもまたいきなり時間停止が解けた彼らに驚きそのまま乱戦に入っていった

 

「取り敢えずはこんな所ですね。混乱しているであろう彼らに状況の説明をお願いします」

 

「大丈夫。今、全体通信で軽く状況を伝えたよ」

 

「私の所もです」

 

「俺の所もだ。成程、味方が止まってしまったなら、また動かしてやれば良いって事か」

 

もう連絡済みだった・・・流石に切り替えが早いな

 

 

≪部長!聞こえますか?≫

 

そして朱乃先輩たちに軽く説明がなされる中、リアス部長の下に小猫ちゃんからの通信が入った

 

リアス部長も直ぐに情報共有の為に通信を全員に聞こえるようにする

 

「小猫!無事だったのね!?貴女は今どこに居るの!?」

 

≪私は今、体育館で魔法使いの集団と交戦中です。部室に霧が立ち込めてきたと思ったら急にこちらに飛ばされました。霧が晴れたと同時に通信が回復したので今連絡をいれた所です≫

 

「体育館ね。小猫の方に援軍は必要かしら?」

 

≪魔法使いは数は多いですが、大した事はありません。それよりもギャーくんが!≫

 

「ええ、分かっているわ。ギャスパーの事はこちらに任せて貴女は新校舎の方に合流して頂戴」

 

≪・・・分かりました。ギャーくんの事をお願いします≫

 

そうして通信は切れた

 

「部長。小猫ちゃんは・・・」

 

「通信しながら戦っていたくらいだから小猫の方は問題ないでしょう。今はギャスパーが優先よ」

 

「確かに、ギャスパー君の力が徐々に増していってるようだ。このままでは我々とて止まりかねん。それに、それ程の力を無理やり引き出されればギャスパー君自身もどうなってしまうか」

 

「なら!早くギャスパーを助けに行かないと!」

 

「リアス部長、ギャスパーは恐らくオカルト研究部に居ると思います。小猫ちゃんを引き離したならギャスパー自身は移動させる必要無いですし、それに部室にはどうにも結界が重ね掛けされている気配が有ります。お陰でギャスパーの気配は感じないですけど、あそこまで堅牢にしているなら間違いないでしょう。ただ、あの結界を破壊できる規模の攻撃を加えたら中に居るギャスパー諸共吹き飛びかねませんね」

 

せめて部屋の中のどの辺りに居るのかが分かれば、そこ以外を結界ごと壊せば良いんだろうけど消滅の魔力で扉を消し飛ばした余波でギャスパーの体の一部が抉れるとかシャレにならんしな・・・

 

「それなら大丈夫よ。部室には私の未使用の『戦車』の駒が保管されてるの」

 

「成程『キャスリング』か。それならば直接結界の中にも転移が可能だが、リアス一人を行かせるのは危険だな。私の魔力を使いたまえ、力業だがもう一人くらいは一緒に転移させられるだろう」

 

『キャスリング』

 

チェスにおいて『王』の駒と『戦車』の駒を一手で互いの位置を入れ替える特殊ギミックだ

 

敵の張った結界の中じゃ普通の転移は封じられてるだろうから部室に描かれてる魔法陣に転移とかは出来ないけど、持ち主とおそらくは魂レベルで強い繋がりを持つ悪魔の駒(イーヴィル・ピース)ならば敵方のセキュリティも突破可能って訳だ

 

「サーゼクス様!それなら俺に行かせて下さい!部長の事は俺が絶対に守ってみせます!」

 

サーゼクスさんの提案に誰よりも早く反応したイッセーが同行を願い出る

 

「分かった。リアスの事をよろしく頼むよイッセー君」

 

「話は決まったみたいだな。あのヴァンパイアの小僧はその二人に任せるとして、外の連中の相手もせにゃならん。相手の数が多いから警護の奴らだけじゃ防戦で手一杯みたいだしな・・・つー訳でヴァーリ。どうせ退屈してたんだろ?ちょっくら外で暴れてこい。白龍皇が出れば戦況もこっちに傾くだろうしな」

 

「・・・ふっ、了解」

 

そうして禁手(バランス・ブレイカー)と成り、はぐれ魔法使いたちを一瞬で消し炭にしていくヴァーリ・・・一応まだ確定じゃないけどアイツ仮にも今は『禍の団(カオス・ブリゲード)』なんだよな?容赦ねぇ・・・

 

「サーゼクス様、魔法陣の用意が整いました」

 

どうやら今の間にグレイフィアさんが特殊な転移魔法陣を用意し終えたみたいだ

 

「おっと!兵藤一誠。コイツを持っていきな―――このリングをあのヴァンパイアの小僧に付ければ神器の力を抑えられるはずだ」

 

そうしてリングを手渡されたイッセーとリアス部長が魔法陣に乗り込む

 

「転移すれば即戦闘になるだろう。気を付けて行ってきまえ」

 

「「はい!」」

 

そうして転移して行った二人・・・アレ?イッセーの禁手(バランス・ブレイカー)用のリングは!?




上げるだけ上げといて使い道の無かった【神性】を此処で使ってみました。

悪魔に【神性】って大丈夫なのかというのも【神性】自体は神の『システム』とは関係ないから問題ないと・・・ただオーディンと一緒に居てもイッセーたちがダメージを受ける訳じゃないのと同じ感じですね

黒歌の恩赦についてオリ主には頑張って貰いましたが当の黒歌も小猫もその場にいないという罠www


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第五話 部長が、鳴ります!

リアス部長とイッセーがギャスパーの救出の為に転移して行った直後、会議室に魔法陣が現れた

 

「あの魔法陣は確か・・・レヴィアタンの紋章!!」

 

祐斗が魔法陣の紋章を読み取るがアーシアさんが疑問を溢す

 

「レヴィアタン・・・ですか?それは会長さんのお姉さんの?」

 

「いいえ違いますわアーシアちゃん。あの紋章は先代魔王の『レヴィアタン』の家系の物ですの」

 

朱乃先輩の注釈が入った直後、魔法陣から一人の女性が現れる

 

褐色の肌でメガネを掛けていて中々際どいタイプのドレスを着ている

 

「ご機嫌ようサーゼクスにセラフォルー。それと天使と堕天使の長よ―――貴方方には今此処で滅んでいただきます」

 

挨拶もそこそこに手にした杖で俺たちを新校舎ごと吹き飛ばす爆炎を放ってきた

 

「最大勢力のトップが揃って防御結界とは、何とも見苦しい!」

 

サーゼクスさん、ミカエルさん、アザゼルさんの張った俺たち全員を包み込む結界を見て完全に小馬鹿にした様子の女性に対しセラフォルーさんが声を掛ける

 

「カテレアちゃん☆いきなりどうしてこんな事を!?」

 

「セラフォルー!私から『レヴィアタン』の座を奪っておきながらよくも平然と私に声を掛けられますね!・・・なに、単に我々は貴方方が会談で出した答えと逆の結論に至ったのです。神の死を取り繕うだけの世界、この腐敗した世界を破壊し、大いなる変革をもたらすのです!———特にセラフォルー!貴女が穢した『レヴィアタン』の名を私が貴女を殺し、新たな『レヴィアタン』となる事で払拭して見せましょう!!」

 

実力不足を棚に上げて魔王の座を奪われたと確信している彼女が、特にセラフォルーさんに憎悪の瞳を向けながらも世界の変革を謳う

 

「カテレアちゃん☆何でそんなに怒ってるの!?私、魔王の職務はちゃんとやってるよ!?」

 

「惚けるんじゃありません!テレビのチャンネルを切り替えている時に貴女がふざけた格好をして『マジカル☆レヴィアたん』なんてモノが画面に映った時の衝撃を!貴女が理解できるはずが無い!!あの日から、レヴィアタンの使用人も領民も微妙に視線を逸らして来るのですよ!!———この屈辱はもはや貴女を亡き者にする事でしか晴らされないのです!!」

 

いえ、多分もう手遅れだと思います

 

「成程な、お前さんに関しちゃ大分私情が混じってたが、お前さんらの目的はサーゼクスたちだけで無く、世界そのモノって訳だ―――しかし腐敗だの変革だの、理由としたらカビの生えたチープな代物だ。そういうのは真っ先にやられる敵役のセリフだぜ?」

 

「私達の崇高なる使命を愚弄するか!」

 

「ああ愚弄するね・・・サーゼクス、ミカエル、ここは俺が闘るが構わねぇな?」

 

サーゼクスさんはアザゼルさんの確認に一瞬視線をそちらに向けた後、カテレアに対して最後通告を突きつける

 

「カテレア・レヴィアタン、下るつもりは無いのだな?」

 

「ええ、サーゼクス。貴方は良き魔王でしたが・・・残念ながら最高の魔王とは言えなかった!」

 

返ってきたのは明確なる拒絶と闘争の意思

 

「そうか・・・残念だ」

 

アザゼルさんとカテレアは濃密なオーラを纏いながら上空に飛び立つ

 

「旧魔王『レヴィアタン』の末裔、終末の怪物の一匹。相手としては悪くない―――いっちょハルマゲドンとしゃれ込もうか?」

 

「堕天使の総督如きが!!」

 

そうして空中でぶつかり合う二人だが、カテレアはパワーこそある方だけど攻撃が雑だな―――アザゼルさんとかポケットに片手突っ込んで余裕で相手してるし

 

「あの様子ならアザゼルの方は大丈夫だろう。後はあのゲートから湧いて出て来る魔法使いの排除だな。敵を全滅させるまで何時までも消耗戦をする訳にもいくまい。グレイフィア、あのゲートの解析及び解除を頼めるかい?」

 

「はい。お任せ下さいサーゼクス様」

 

サーゼクスさんの命を受けて早速手元に魔法陣を展開するグレイフィアさん。そしてそこにソーナ会長が進言する

 

「では、我々はその間に外の敵の殲滅に入ります。ゲートが閉じた後も敵の残党は排除しなければなりませんし、魔王様方に簡単に前線に出て頂く訳にも参りませんので」

 

「うむ。シトリー嬢の言う通りだな―――では皆には外の敵の相手を頼むとしよう」

 

「はい。では行きますよ皆さん―――アルジェントさんは此処に残って頂けますか?仮に大きな怪我をした時でもこの結界の中でなら安全に治療が受けられますので」

 

「は・・・はい!」

 

ソーナ会長が臨時で指揮を執り、おおよその方針を決める

 

「では、行きますよ皆さん!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

皆がそれに気合を入れた返事を返し、いざ!結界の外に飛び出そうとする

 

「あ、ゴメン。俺は此処(結界)に残るわ」

 

その言葉に若干つんのめった皆・・・何だろう。心なしか意気込んでいた皆からの視線が痛い

 

「それは何故ですか有間君?今更貴方が理由も無くそんな事を言うとは思いませんが・・・簡潔に説明をお願いします」

 

良かった。ちゃんと理由を聞いてくれた

 

「俺は今イヅナと気を同調させています―――実はこれが結構繊細な作業でして、戦闘と併用するとイヅナを介して皆さんと警護の人たちに付与した【神性】が解けてしまうかも知れません。戦闘中、敵の目の前で固まってしまうリスクが在るんですが・・・俺も戦いますか?」

 

マラソンしながら計算問題解き続けろって感じだからな

 

「いえ、そういう事情でしたら有間君はこちらに残って下さい」

 

そうして今度こそ皆は結界を飛び出し、外の敵を切り伏せ、焼き払っていく―――暫く戦っていた所で旧校舎の方からリアス部長たちが、体育館の方から小猫ちゃんがほぼ同時に合流した

 

イッセーと小猫ちゃんはそのまま戦闘に入り、リアス部長とギャスパーは結界の中に入って事情を窺っている

 

「・・・分かりました。では、私も敵の殲滅に入ります。———お兄様、ギャスパーの事をよろしくお願い致します」

 

だがそこでグレイフィアさんから言葉が掛かった

 

「サーゼクス様、たった今ゲートの解析が完了致しました―――ですがコレは・・・どうやらギャスパー・ヴラディの時間停止空間と連動している模様です。ゲートのみを破壊するのは少々時間が掛かるかと」

 

停止空間が広がってる限り、例えゲートを破壊しても直ぐに元に戻ってしまう訳か

 

「そ・・・それなら僕がこの停止空間を打ち破ってみせます!まださっきイッセー先輩の血を取り込んだ時の感覚は残ってるんです!今の僕なら出来るはずです、やらせてください!リアス部長!!」

 

リアス部長に振り向き、しっかりと視線を合わせて『やる』と主張するギャスパー

 

「ギャスパー・・・やれるのね?」

 

「はい!!」

 

力強い返事と共にギャスパーの瞳が輝く

 

「絶対に成功させる!僕だって・・・僕だって『漢』なんだぁぁぁぁ!!」

 

ギャスパーが叫ぶと同時に停止空間が解除され、ゲートもまた一緒に解除された

 

「よくやったわ!ギャスパー!!」

 

神器を制御してふらついていたギャスパーをリアス部長が抱きしめる

 

「では、私も敵の残党の始末に向かいます」

 

「俺も参戦します。もう此処に留まる理由も無いですから」

 

リアス部長がギャスパーをアーシアさんに預け、俺も停止していた皆に憑依させていたイヅナを敵の殲滅に向ける。魔法使いに一対一では勝てなくとも小隊を組んで対処すれば普通に勝てるからな

 

するとどうやら俺たちの様子を見ていた上空の二人の戦いも佳境に入るようだ

 

 

 

 

 

 

 

 

「下の方はそろそろ決着が付きそうだな。それに、お前さんじゃ俺にゃ勝てねぇよ」

 

確かに今までカテレアの攻撃は全てアザゼルにいなされていた―――だがそれにも関わらずカテレアはまだ余裕の様を崩さない

 

「私の力をこの程度だと見くびって貰っては困りますね。良いでしょう!まずは貴方に魅せて上げましょう!真なる魔王『レヴィアタン』の力を!!」

 

大仰に叫び、左手から出した魔法陣から黒い蛇が飛び出しカテレアの全身に絡みつく

 

直後にカテレアのオーラが一気に高まった―――単純なオーラの量だけで言えばアザゼルにも匹敵するだろう

 

「蛇・・・か。予想通りと言えばそうなんだが、まぁ確信が持てただけでも良しとするか」

 

そう言いながら懐を弄り、柄に紫の宝玉の付いた一本の短槍を取り出す

 

「見たいもんは見れたし、これ以上ちんたら戦う理由も無いからな。コイツでケリを付けさせてもらうぜ」

 

「それは?」

 

「コイツは俺の開発した人工神器の傑作、『堕天龍の閃光槍(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)』。まだまだ完成と言うにはほど遠いがな―――そしてコイツが・・・禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

手に持つ短槍からドラゴンのオーラが迸り、次の瞬間にはアザゼルの全身を黄金の鎧が包み込んだ

 

禁手(バランス・ブレイカー)。『堕天龍(ダウン・フォール・ドラゴン・)の鎧(アナザー・アーマー)』———もっとも、一回ぽっきりの使い捨て方式だがな」

 

明らかに強化された自分よりも強いオーラを纏うアザゼルに思わずたじろいでしまうカテレア

 

「さぁ、来いよ。それとも恐くなったか?」

 

「・・・ッ!舐めるなぁぁぁ!!」

 

左手で手招きして挑発するアザゼルに対してカテレアは瞬時に怒りを表し、先ほどの恐怖など忘れて正面から突っ込んでいく

 

だがそんな隙の大きな突進を律儀に受けてやる必要のないアザゼルは手にした光の槍でカウンター気味に深く切り裂いた―――それだけでも重傷だが、悪魔である彼女は光によって全身を蝕まれていく

 

「ぐぅぅぅ!!このままでは終わりません!せめて貴様を道連れに!三大勢力の一角を屠れればこの身が滅びようとも意味がありましょう!!」

 

狂気に染まった目でアザゼルを睨みその手を無数の触手状に変えてアザゼルの左腕に絡みつく

 

「なんだ自爆か?ゴメン被りたいね。対価としちゃ安すぎる!」

 

相変わらずの軽い口調のまま右手に持った光の槍で躊躇なく左腕を切り落とし、体勢が崩れたカテレアにそのまま持っていた槍を投げつける

 

「お前なんざぁ・・・精々が腕一本がいいとこだよ」

 

強力な光の攻撃を受けたカテレアはそのまま塵となって消えていった

 

アザゼルは気にした風でもなく鎧姿を解き、切り落とした腕の断面を魔法陣で止血しながらも禁手(バランス・ブレイク)に使った紫の宝玉を手に取り口づけをして呟く

 

「まだ改良の余地が在るな。もう少し俺に付き合って貰うぜ?龍王ファーブニル」

 

 

 

 

 

 

 

上空でアザゼルさんがカテレアとの決着を付けてから程無く、増援の無くなった魔法使いの残党も全滅させた・・・が、決着がついたと油断していたアザゼルさんに背後から強力な魔力弾が叩き込まれ、地面に叩き落されてしまう

 

「痛たたたた・・・俺もヤキが回っちまったかな?この状況で反旗かよ?ヴァーリ?」

 

「悪いなアザゼル。和平よりもこっちの方が面白そうなんだ」

 

「まったく、俺はお前に『世界の害になるような存在には為るな』と言ったはずなんだがな―――さてと、なら一つお前に聞いときたい事がある」

 

アザゼルさんは堕天使の翼を広げ、ヴァーリと同じ位置に浮かび上がり問いかける

 

「ん?」

 

「うちの副総督のシェムハザが裏の世界の不穏分子を束ねている存在を察知してな・・・組織の名前は『禍の団(カオス・ブリゲード)』と言ったか?んで、その纏め役がウロボロス・ドラゴン『オーフィス』」

 

「『オーフィス』!まさか!!」

 

リアス部長が驚愕の声を上げ、それに反応したイッセーが聞き覚えの無い名について問いかける

 

「部長、オーフィスってのは?」

 

「無限の龍神。この世が生まれる前から存在していると云われる神も恐れたとされる最強のドラゴンよ」

 

「確かに俺はオーフィスと組んだ・・・だが俺もアイツも世界だの変革だのに興味は無くてね。力を目当てに連中が勝手にくっついて来ただけさ」

 

「成程な、俺はてっきりカテレアと仲良くつるんだのかと思ったぜ―――お互い、魔王の座を奪われた者同士でな」

 

アザゼルさんの『魔王の座を奪われた』という言葉にその場の皆が反応する

 

「俺の名はヴァーリ・『ルシファー』。俺は死んだ先代魔王ルシファーの孫である父と人間の母の間に生まれた混血(ハーフ)なんだ」

 

自らの出自を明かし、4対の悪魔の翼と1対のドラゴンの翼の計10枚の翼を展開するヴァーリに皆が息を呑む

 

「魔王の血縁でありながら、人間の血も混じっている為に偶然にも白龍皇を宿す事が出来たか・・・全くもって冗談みたいな存在だよ、お前は―――こいつは過去・現在・未来を通じて最強の白龍皇に為るだろうさ」

 

アザゼルさんの呆れたような軽口を余所に、ヴァ―リはイッセーに語り掛ける

 

「兵藤一誠、運命とは皮肉だとは思わないか?」

 

「なに!?」

 

「俺は魔王の血筋であり、ドラゴンの力も宿した最強の存在。対してキミはただの人間———キミの先祖も調べたが6代遡っても人外や魔法使いなどの血は全く入っていない・・・つまり、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)以外何も無い。悪魔に転生するまでのキミは余りにも普通の高校生だった。加えて、悪魔に転生してなお歴代でも最弱と言われる素質の持ち主だと聞いた時は思わず笑いが出たよ。神器はライバル同士だというのに、宿主たる俺たちには天と地以上の開きがあるのだからね」

 

「それが一体どうしたってんだ!?」

 

完全に見下されたイッセーが声を荒げ、ヴァ―リはそんな彼に良い事を思いついたばかりに一つの提案をする

 

「だから、こう言う設定はどうだろうか?俺がキミの両親を殺して、キミは復讐者となるんだ。そうすればキミも多少は重厚な運命に身を委ねられるだろう?———そうだ!折角だからキミの目の前で両親は殺そう。強い感情の波が有れば、もしかしたらその場で禁手(バランス・ブレイカー)に至れるかも知れないからね」

 

ヴァーリの余りに自分本位な提案を聞いてアーシアさんが「そ・・・そんな酷い事を」を声を漏らし、直後にイッセーの怒りの声が響き渡る

 

「ぶっ殺すぞクソ野郎!何で俺の両親がテメェの訳分かんねぇ理屈で殺されなくちゃならねぇんだよぉぉぉ!!」

 

『Boost!!』

 

イッセーの怒りに呼応して今まで以上に濃いドラゴンのオーラを発しながらヴァーリに突っ込んでいくが今の彼に敵うはずもなく普通に殴り飛ばされてしまった

 

「ぐぁああ!!」

 

『無謀だぞ相棒!ただでさえ実力差が在るのだ!禁手(バランス・ブレイカー)に為らなければ相手にもならんぞ!』

 

「ああ、アイツは俺なんかよりずっと強いんだろうけどよ!だからって、そんな理由でここで引ける訳ねぇだろぉが!!」

 

両親を殺すと言われ、絶対に退かないという意思を込めてイッセーが吼える

 

その覚悟を感じ取ったのかドライグがイッセーに提案を出す

 

『フ!もしも相棒にその覚悟が在るのなら俺が手を貸してやらん事もない―――相棒の体を俺に対価として差し出せば疑似的に相棒を禁手(バランス・ブレイカー)に至らせる事も可能だ・・・もっとも今の相棒が奴とまともに渡り合おうとすれば、体の大半以上がドラゴンに変貌してしまうだろうがな』

 

「上等!どうせ俺は最弱なんだ。それでアイツをぶっ飛ばせるならやってやるさ!!」

 

いやいやいやいや!!待て待て待て待て!!何意気込んでんの!?

 

今までは黙って成り行きを見ていたが流石に体の大半を対価にするのは黙って見てられない!

 

咄嗟にイッセーの傍に駆け寄り、声を掛ける

 

「ちょっと待てイッセー!おい、ヴァーリ!イッセーが強くなるんだったらそれで満足なんだよな?だったら暫くそこで待ってろ!!俺が直ぐにコイツを禁手化(バランス・ブレイク)させてやるからよ!!」

 

「何だよイッキ?俺を禁手化(バランス・ブレイク)させるって?そんな方法があるのか?」

 

『相棒の言う通りだ。禁手(バランス・ブレイカー)に至るには本来、劇的な感情の変化が必要だ。そんなものはそうホイホイと用意できるはずもあるまい?』

 

しまったぁぁぁ!!イッセーを止める為につい勢いのまま声を掛けたけど、コレどうしよう!?

 

イッセーの禁手化(バランス・ブレイク)の方法って『アレ』だよな!?え?何?俺が言わなきゃダメなの!?でもここまで来たら引くに引けないし・・・良いよ!分かったよ!導いてやるよ!!

 

「・・・イッセー。思い出せ!お前が一番最初に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)に目覚めた時の事を!俺はお前に何てアドバイスした?」

 

「!!   俺の一番の想いは・・・おっぱいだって・・・」

 

「そうだ!それだけじゃない!お前が使い魔の森でギフトの力に目覚めた時も、ライザーとの戦いでパワーアップした時も!お前の心を占めていたのは一体なんだ!!お前が禁手(バランス・ブレイカー)に至るとしたら、その感情は怒りや憎しみによるモノなのか!?」

 

そうじゃないだろう?ドライグは赤龍帝だがイッセーはどっちかと言えば乳龍帝だろう!?

 

「いや!違う!俺の可能性をこじ開けてきたのは何時だっておっぱいへの想いだ!!」

 

「ならば戦場を見渡してみろ!お前を頂きに導く存在は、そこに居る!!」

 

俺の言葉を受けてイッセーの瞳にスケベ根性の炎が灯る・・・なんだろう?一応目論見通りに事が進んだはずなのに、何だかちょっと死にたくなってきた―――こんな大衆の面前(戦闘中)で何を言ってるんだ俺、否、俺たちは・・・

 

遠くから小猫ちゃんの「サイテーです」という声が聞こえてくるのは幻聴だと信じたい

 

「部長ぉぉぉ!!」

 

「ひえ!な・・・何かしらイッセー?」

 

イッセーの激しい剣幕にリアス部長が思わず後ずさる

 

「部長のお乳を突かせてください!!」

 

戦場の全てにもよく通る声量でイッセーの想い(スケベ根性)が放たれる

 

「な・・・何言ってるのよイッセー!?それに、こんな皆の前でそれをしろって言うの!?」

 

確かに・・・警護の人たちも居るから全部で70人くらいは居るんだよな

 

「俺が新しいステージに足を踏み出すには、部長のお乳が必要なんです!!」

 

「な・・・あ・・・あうあ・・・・」

 

イッセーの熱意に押されながらも流石にそんな悪目立ちはしたくないのであろうリアス部長が狼狽える―――もはや言葉にもならないみたいで両目がぐるぐる回ってるようだ

 

「リアス。ここでその頼みを聞いて上げなければ、彼は大きな代償を払う事になってしまうよ」

 

「私の払う代償(羞恥心)はどうなるのですか!?・・・もう!分かったわよ!でも、コレでもしもダメだったらいくら貴方でも許さないわよイッセー!!」

 

リアス部長の隣に居たサーゼクスさんが思考が定まってなかった彼女を諭し、リアス部長はやけくそ気味に叫ぶ

 

「大丈夫です!必ずヤリ遂げて魅せます!!」

 

『おい相棒!?本当にそれでいいのか!?そんな事で至るだなんて前代未聞だぞ!?』

 

ドライグのツッコミ虚しくリアス部長は戦場のド真ん中でその胸をさらけ出す

 

突然現れた美女のおっぱいにもはや戦場が一体となって無言でリアス部長の胸を凝視する

 

因みに天使の方々は何名か翼を白黒に点滅させていた・・・成程、アレが堕天の兆候か

 

「おいアルビオン。兵藤一誠はいったい何をしようとしているんだ?リアス・グレモリーが彼に対して乳房をさらけ出しているみたいだが・・・何かの儀式か?」

 

『知らん―――というより知りたくも無い』

 

今まで律儀に成り行きを見守ってきた白龍皇コンビからも困惑と拒絶の声がするが、そんな中でイッセーは重大な事に気づいたようだ

 

「!!   部長!右の乳首と左の乳首!どっちを押したら良いですか!?」

 

「し・・・知らないわよ!どっちでもいいから早く終わらせて!!」

 

「いえ!コレは重要な事です部長!適当に決めたら、もしかしたらその気の迷いが禁手(バランス・ブレイカー)に至るかどうかの分岐点になるかも知れません!しっかり答えてください!さぁ!オススメは!?」

 

無駄に漢らしい眼差しで最低な事を問い詰めるイッセーにリアス部長が「ばかぁ」と答えに窮しているとサーゼクスさんからのアドバイスが入った

 

「イッセー君、キミの先達として私が助言してあげよう―――右手と左手、何故腕は2本在るのだと思う?こういう時に両方突く為に在るのだよ!私もよくグレイフィアの胸を両方突いて鳴かせているものだ!!」

 

 

ッドバゴォォォォォォン!!

 

 

サーゼクスさんのアドバイス(赤裸々な私生活の暴露)にグレイフィアさんは顔を真っ赤にしながら手に持った巨大ハリセンからは考えられない爆音を響かせ、サーゼクスさんの頭を全力スイングで吹き飛ばす・・・あの威力、上級悪魔くらいなら即死だったぞ?現にサーゼクスさんは頭からダラダラと血を流してピクピクと地面に突っ伏してるし・・・

 

そんな惨状の中でもイッセーは呆然としながら自分の両手を見つめている

 

「両方・・・だと?この2本の腕にそんな意味が在ったなんて・・・流石は魔王様、思考レベルが遥か上を行ってるぜ」

 

そして"キッ!!"っと顔を引き締め、リアス部長に向き直る

 

「部長!今度こそいけます!!」

 

「何時まで待たせるの!?早くなさい!!」

 

ずっと胸をさらけ出したままだったリアス部長に急かされる中で、イッセーはゆっくりとその指を近づけていき、その淡いピンク色の二つの島を乳白色の海にズムズムと沈めていく・・・そして、その時は訪れた

 

「ぃやん♡」

 

瞬間、今までとは明らかに一線を画す、莫大な赤いオーラがイッセーの全身を包み込んだ

 

「この感覚は!僕が禁手(バランス・ブレイカー)に至った時と同じ!?」

 

「サイテーです。いやらしい赤龍帝だなんて・・・」

 

「あらあら、それでもリアスの胸でイッセー君が強くなるというのは少し妬けてしまいますわね」

 

「むぅぅぅぅ!!」

 

「そんな卑猥な手段で至れるなんて尊敬しますぅぅぅ!!」

 

『本当に至るとは思わなかったぞ相棒。だがそれにしても酷い!俺もそろそろ泣くぞ?』

 

皆が思い思いの感想を溢す中、イッセーは空中のヴァーリを睨みつける

 

「待たせたなヴァーリ!これが俺の禁手(バランス・ブレイク)!!赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイル・メイル)だ!!」

 

その言葉と共にイッセーを包んでいたオーラがさらに輝き、次の瞬間にはヴァーリの鎧とよく似たデザインの龍の鎧を身に着ける・・・色以外に違いといえばヴァーリのようなエナジーウィング状ではなく、まさしく竜の翼といった感じがする所だろうか?

 

「ふむ。何が起きたのかはよく分からんが本当にこの場で禁手(バランス・ブレイカー)に至るとはな。全く楽しませてくれる!」

 

『ドライグよ・・・お前・・・』

 

『何も言ってくれるなアルビオン・・・俺の今回の宿主は徹頭徹尾こういう奴なのだ・・・』

 

ヴァーリに関しては『何だか知らんが!兎に角良し!』と納得したようで、二天龍はドライグの方がその話題には触れて欲しくないようだった・・・アザゼルさん?ちょっと前から腹筋崩壊してますよ?

 

因みにミカエルさんは先ほど翼を点滅させていた天使たちをリアス部長が『鳴る』前に気絶させたみたいでした・・・良かった。どうやら新たな堕天使誕生とはならなかったみたいだ

 

それから始まるイッセーとヴァーリの今代二天龍の激突———しかし、いくら正当な禁手(バランス・ブレイク)をしたと言っても宿主たちの実力差が埋まった訳でもなく、直ぐにイッセーは追い詰められてしまう

 

だがイッセーが機転を利かしてヴァーリにギフトの力を用いる事で神器の誤作動を誘発し、動きが止まった所にアスカロンのオーラを込めた一撃が叩き込まれた

 

鎧を破壊され、何より龍殺しの聖剣たるアスカロンの一撃は悪魔でドラゴンなヴァーリにはよく響いたようだ―――だが吐血しながらも嬉しそうに鎧を修復して立ち上がる彼を見て、このままでは勝てないと悟ったイッセーがヴァーリの鎧を破壊した時に落ちた宝玉を拾い無謀な賭けに出る

 

「バニシング・ドラゴン、ヴァーリ!貰うぜ!テメェの力を!!」

 

気合と共に手にした宝玉を自らの右腕の宝玉に叩き込みその力を取り込む

 

暫く体の中で暴れ狂う力の奔流に絶叫を上げていたイッセーだったが遂には鎧の右腕部分が白龍皇の鎧のそれに変化した

 

『Vanishing Dragon power is taken!!』

 

『馬鹿な!!?こんな事はあり得ない!!』

 

目の前で起こった摂理に反する現象にアルビオンが否定の声を上げるが、逆にヴァーリは心底楽しそうな笑い声を上げる

 

「フハハハハハハ!面白い!その覚悟に敬意を表し、俺も本気を出そう!!」

 

その翼を大きく広げたヴァーリが新たな技を繰り出す

 

『Half Dimension!!』

 

見れば周囲の景色がどんどんと歪んで小さくなっていくようだ

 

超常の力に耐性を持たない学園の校舎などを筆頭に歪みが大きくなっていく

 

「何をしやがった!?」

 

「次元を歪ませています。このままでは非常に危険です!!」

 

突如として始まったヴァーリの全体攻撃にミカエルさんが危機を示す

 

「まともじゃ無いわ!?」

 

「まともじゃねぇのさ。ドラゴンを宿すような奴ってのは何処かな・・・物は試しだ、俺も有間一輝に倣ってもう一方のまともじゃねぇ所突いてみるか―――おい赤龍帝、兵藤一誠!お前にも分かるように解説してやる。ヴァーリのあの力は周囲のモノを半分にしていく・・・つまりだ、リアス・グレモリーのバストも半分に成っちまうぞ?」

 

アザゼルさんの説明を受けて鎧を着ていてもハッキリ伝わってくる程に衝撃が走っているイッセーだったが段々とワナワナと全身を震えさせていく

 

「ふっざけんなぁぁぁ!!」

 

『Boost!!』

 

「部長のおっぱいを半分にするだと!?」

 

『Boost!!』

 

「許さない!!」

 

『Boost!!』

 

「テメェだけは!!」

 

『Boost!!』

 

「許さないヴァーリィィィィィィィ!!」

 

『Boost!! Boost!! Boost!!Boost!! Boost!! Boost!! Boost!!Boost!! Boost!! Boost!! Boost!!Boost!! Boost!! Boost!! Boost!!Boost!! Boost!! Boost!! Boost!!Boost!! Boost!! Boost!! Boost!!Boost!! Boost!! Boost!! Boost!!Boost!! Boost!! Boost!! Boost!!Boost!! Boost!! Boost!! Boost!!Boost!! Boost!! Boost!! Boost!!Boost!! Boost!! Booooooooost!!』

 

今までの家族を標的にされる事への怒りとか仲間への想いとかが何だったのかと問い掛けたくなる程の圧倒的な力をまき散らしイッセーがヴァーリを攻撃する

 

「ぐはぁ!?何だ今のスピードと威力は!?」

 

驚愕するヴァーリを余所にしてイッセーの猛追が続く

 

「テメェを野放しにしといたら!部長だけでなく、皆のおっぱいまで半分になっちまう!!」

 

遂にヴァーリを完全に捉えたイッセーがその想いを込めた連撃を叩き込む

 

「コレは、部長のおっぱいの分!!」

 

『Divide!!』

 

イッセーの右ストレートで先程ヴァーリから奪った半減の力が彼を襲う

 

「コレは、朱乃さんのおっぱいの分!!」

 

強烈な頭突きをかましてお互いのフェイスの部分が砕けて顔が露になる

 

「ゼノヴィアのおっぱいの分!!」

 

晒された顔面を左のフックが捉える

 

「成長中のアーシアのおっぱいの分!!」

 

膝蹴りが腹部に叩き込まれ衝撃で鎧に罅が入る

 

「そしてコレは、将来素敵に成長する小猫ちゃんのロリおっぱいの分だぁぁぁ!!」

 

『Transfer!!』

 

最後の一撃を繰り出す為にイッセーが再びアスカロンに力を譲渡し、渾身の左を叩き込んだ

 

「ぐっはぁぁぁ!!?」

 

堪らず倒れ込んだヴァーリだったが若干震えながらも立ち上がる

 

「面白い!面白過ぎる!!彼になら、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を魅せるだけの価値がありそうだな!!」

 

『自重しろヴァーリ。先ほどのドラゴンスレイヤーの力がまだ響いている。この場でそれは良い選択ではない』

 

「俺はこの戦いをもっと楽しみたいんだアルビオン!」

 

『よせ!ヴァーリ!』

 

アルビオンの制止の言葉も聞かずに覇の呪文を唱え始める

 

イッセーは身がまえているが俺は内心無事に終わりそうだと胸を撫で下ろす―――そろそろ美猴が来る頃だろう

 

「我、目覚めるは 覇の理に全てを奪われし二天龍なり」

 

『ヴァーリ!!我が力に翻弄されるのがお前の本懐か!?』

 

「無限を妬み、夢幻を想う 我、白き龍の覇道を極め」

 

アレ?お猿さん?早く来てくれません?

 

「汝を無垢の極限へと誘おう!覇龍(ジャガーノート・ドライブ)!!」

 

唱え切っちゃったよコイツ!?

 




黒歌がこちらに居る以上、冥界合宿のヘルキャットでイッセーが禁手に至る理由が無いのでココで至って貰いました

次回はvs覇龍ですね。ヴァーリが原作で「人間」に覇龍を使ったのが曹操と幾瀬だけだったので次回はオリ主にも戦って貰います



☆ボツ案

「セラフォルー!私からレヴィアタンの座を奪っておきながらよくもぬけぬけと!!」

「何をそんなに怒って・・・ハ!?もしかしてカテレアちゃんも『レヴィアたん』に出演したかったの?」

「!!?」←自分でも気づかなかった心の内に気づいた


一ヵ月後、冥界テレビにて

「「魔法少女!ふたりはレヴィアたん☆始まるよ♡」」

レヴィアタン領の住人一同『ぶぅぅぅぅぅぅぅぅ!!』




収集付かなくなりそうなのでやめましたww

お猿さん?遅刻中ですが何か?


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第六話 和平と、恩赦です!

勝ち筋を喋るのは失敗フラグだと思う


ヴァーリが呪文を唱え終えた瞬間、禍々しくも荒々しい莫大なオーラが駒王学園を包む結界の中で弾けた―――サーゼクスさんやミカエルさんたちが手分けして俺たちを守る結界と学園結界の補助に回らなければ周囲一帯が吹き飛んでいたかも知れない

 

ヴァーリ自身は今までの禁手(バランス・ブレイク)のフォルムと基本は変わらないが微妙にドラゴンっぽくなっている、後は単純に大きくなっているな・・・5~6メートル級のドラゴンといった様相だ

 

「おいドライグ!何だよアレは!?アレも禁手(バランス・ブレイク)なのか!?さっきまでとパワーが全然違うじゃねぇかよ!?」

 

『いいや、相棒。アレは禁手(バランス・ブレイク)ではない―――アレは覇龍(ジャガーノート・ドライブ)というものだ・・・しかし、まさかこんな所で発動させるとはな・・・』

 

イッセーの質問にドライグが流石に驚愕しながらも答える・・・確かに、命の危険と暴走の隣りあわせの覇龍(ジャガーノート・ドライブ)をここで発動させるなんて思わなかったのだろう・・・しかも追い込まれている訳でも無いのに進んでなら尚更だ

 

『詳しい説明は後だ相棒!相棒の禁手(バランス・ブレイク)も間もなく解ける!早く此処から逃げなければ死ぬぞ相棒!!』

 

だがそこでヴァーリが動き出す

 

「キミの力と覚悟に敬意を表し、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)までしたんだ。今回は手加減するが、この一撃であっさりと死なないでくれよ?」

 

そう言ってゆったりとした動作でその右手の先に手加減とは何なんだと叫びたくなるレベルの凶悪な魔力弾を生成し、イッセーに撃ち放った

 

「ッチィ!!」

 

おっぱいブーストが掛かってた時なら兎も角、今のイッセーがアレを受ければ最悪即死してしまいかねない!———咄嗟にイッセーと魔力弾の間に割り込み全力で闘気を纏った左腕を薙ぎ払い、魔力弾を後方に受け流す

 

学園結界の一部を貫通していったけど上空の方に逸らしたから大丈夫だろう・・・飛行機や衛星を破壊したりしてないよね?

 

ただ、今の防御のお陰で左腕が骨折及び全体的に裂傷が走ったな

 

「お・・・おいイッキ!お前のその腕ボロボロじゃねぇか!?」

 

「しょうがないだろ!?今のお前じゃアレは防げなかったぞ?」

 

心配してくれるイッセーには悪いが事実だろう

 

俺の言葉に少し悔し気だったイッセーだが、そこで禁手(バランス・ブレイカー)が解けてしまう

 

「な!?コレは!?」

 

「さっきあんな馬鹿力(おっぱいパワー)を解放したんだから当然だろう・・・だから・・・」

 

禁手(バランス・ブレイク)が急に解けてへたり込んでしまったイッセーの胸倉を右手で"むんず"と掴み上げる

 

「い・・・イッキ?どうした?」

 

大丈夫、安心しろイッセー。安全な所に送り届けるだけだから・・・なんで安心させる為の俺の笑顔でイッセーが顔を青くしてるのか、全く分からないな~

 

「リアス部長!ヘイ!パース!!」

 

「え、ちょ、待っ!!」

 

男子高校生を女性に投げつけるとか普通なら無理だが、リアス部長は上級悪魔で体も鍛えているから問題無いだろう。イッセーの言葉に成りきってない制止の声を無視してリアス部長の元へ放物線という軌跡を描いて送り届ける

 

「うぉぉぉおおおおあああああ!!イッキ、テメェェェェェ!!」

 

「危ないイッセー!」

 

投げられたイッセーは慌てながらもちゃんとリアス部長がキャッチしてくれたみたいだ

 

イッセーが遠くで何やら文句を言ってるが聞こえないふりをしてヴァーリに向き直る

 

「悪いがヴァーリ、選手交代だ」

 

「ククク、構わないさ。キミとまた闘り合いたいと言ったのは俺の方だしね―――だが、俺の覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を前にして随分と余裕だな・・・何か策が在るのかな?」

 

勿論だよヴァーリ・・・流石に無策なら覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の前に立ちたいとは思わないね!

 

「ああ、お前のその状態は実は結構ギリギリなんだろ?今すぐ逃げ出したくなる程の荒々しいオーラだけど、逆に言えばそれだけその力を制御出来てないって事だ・・・イッセーからアスカロンのダメージを受けた直後にやるべきじゃ無かったな。後一発でも大きなダメージを受ければ覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を解かざるをえないはずだ」

 

「確かに今の俺は力の制御に意識の大半を向けているのは認めるが、今の俺にどうやってダメージを与えると言うのかな?」

 

「お前の方こそ、この間戦った時の事をもう忘れたのか?俺の持つ神器、【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】の効果をな!!」

 

さっきのお前の放った魔力弾で俺の左腕は奇しくもボロボロなんだ!今のお前にこのダメージを許容できるだけの余裕はまだ残っているのかな!?

 

神器を顕現させ、全身に神器を発動させる時の紋様を浮かび上がらせる

 

「この『力』は原初の【報復】の呪い!例え神でも防げないぞ!」

 

「ック!!」

 

ヴァーリが動き出そうとしているのが見えるがもう遅い!!

 

「【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】!!」

 

俺の叫びと共に俺に浮かんだ青白い紋様が一層強く輝いた!

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

・・・・・あれ?

 

「お・・・おいイッキ?今何かしたのか?何も起こったように見えないんだが・・・?」

 

え!?何で不発!?ヴァーリが何かした?・・・いや違う!あいつも困惑してるみたいだ―――だったら何でだ?前に一度発動した時は問題なく発動したよな?なら、何がダメだったんだ!?

 

落ち着け!落ち着いて思い返せ!多分何処かに答えがある!

 

1.【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】はゾロアスター教の原初の呪い!

 

2.防ぐことは神であろうと難しい!

 

3.自動ではなく任意発動!

 

4.発動は対象一人に対して一度きり!

 

 発動は対象一人に対して一度きり!!

 

発動は対象一人に対して一度きり!!!

 

「このクソッタレの三流神器(宝具)がぁぁぁぁ!!」

 

思わず手にしていた右歯噛咬(ザリチェ)を地面に叩きつけてしまった

 

でもさ!ヴァーリと戦ってからもう何日も経ってるんだぞ!それでも発動しないって事はマジで相手の人生一回につき一度しか発動しないって事!?クールタイム長すぎだろう!?運営に文句が殺到するレベルだぞ!?

 

偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】、お前さぁ!最近活躍してきてたじゃん!ケルベロスとの戦いではその首を落としたし、コカビエルにハッタリもかましたし、白龍皇を地に沈めたし、今回は【神性】で味方全体をサポートしたりと改めて列挙すれば結構いい感じだったよな!?

 

最後にそんなボケは望んでないんだよ!!どうすんだよコレ!?

 

「どうやら予想外の事が起きたみたいだが、俺にとっては僥倖だ。このままやらせてもらうぞ」

 

今一度攻撃態勢に入ろうとするヴァーリ・・・ってヤバ!

 

「【一刀修羅】!!」

 

【一刀修羅】を発動させ、全力で横に跳ぶと同時にさっきまで俺が居た場所を濃密な魔力弾が通り過ぎていった―――マジか!今のヴァーリは動きがぎこちない

 

今の攻撃だってテレフォンパンチみたいで至極読みやすい攻撃だった・・・その上で全力回避してギリギリとか基本性能上がり過ぎだろう!?

 

どの道このままではヴァーリの懐に入る事なんて出来ない!ならばどうする?【一刀羅刹】か?・・・いやヴァーリもかつて戦った土蜘蛛も同じ戦闘狂(バトルジャンキー)だけど今のヴァーリは一撃だって攻撃を喰らわないようにしているはずだ

 

【一刀羅刹】の攻撃を咄嗟に回避してしまうかもしれない・・・覇龍(ジャガーノート・ドライブ)ならマジで避けられても可笑しくないだろう!

 

それなら、届かない【一刀修羅】でも、一か八かの【一刀羅刹】でもない・・・その間を取って懐に入るまで!!———名前は修羅道と地獄道の鬼の間だから、畜生道と餓鬼道だよな?だったら勝利に喰らい付くという意味も込めて

 

「【一刀餓鬼】!!」

 

【一刀修羅】の60秒から持続時間を20秒に縮める!強化率は3倍だ!!

 

プラプラしている左腕は邪魔なので仙術で固定して再び右手に右歯噛咬(ザリチェ)を握ってヴァーリに駆けていく―――それでもヴァーリの方が速いけど今はこっちの方が『早い』んだよ!!

 

たどり着くまでに全身の骨がギシギシ鳴るし、内出血が色んな個所に滲んでいるけどそのままヴァーリを斬り付ける―――流石に一撃で真っ二つとはいかないけど鎧に大きな傷が出来た

 

「クッ!ちょこまかと!!」

 

ヴァーリよりも小さく、その上思うように体を動かせないヴァーリが何とか俺を捉えようとするがその尽くを避けて龍の鎧を剥ぎ取っていく

 

関節部分など装甲の薄い所なら既に僅かにヴァーリ自身の肉体にも刃が届いている

 

あーちょっとヤバいな。充血が行き過ぎて血の涙が出てきた

 

一番斬りかかり易い腹部の装甲も大分削れたしコレで決めるとしよう!!

 

【一刀餓鬼】の残り時間はおよそ3秒!それを一撃に込めた渾身の回し蹴りを後一息で崩れそうになっていた腹部の装甲に叩き込んだ

 

「ぐっはぁぁぁ!!」

 

「いっヅぅぅぅぅぅ!!」

 

ヴァーリは吐血しながら吹き飛び、俺は最後の蹴りの反動で右足が数か所折れた・・・下手したら足の裏とかバッキバキじゃない?感覚無いけど・・・

 

ヴァーリは吹き飛んだ先で血反吐を吐き、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)は解除されていた

 

紙一重だったな・・・ヴァーリの覇龍(ジャガーノート・ドライブ)が完全な状態だったら多分負けてたと思うし・・・そこはイッセーに感謝かな?

 

「はぁ・・・はぁ・・・クッフフフフ!最高だ!お互いもう戦えそうにないが関係ない。ここ迄来たら最後までとことん戦おう!!」

 

はぁ?ふざけんなよこのバトルジャンキーが!俺は右足と左腕を中心に全身ボロボロだし、ヴァーリだって俺の斬撃で全身の関節部分・・・即ち体を動かすのに必要な可動域をくまなく斬られて最後の蹴りで内臓がかなり傷ついてるはずだろうが!―――だがヴァーリがそう意気込んだ所で学園を包んでいた結界が破壊され、一人の男が降り立った

 

「よぉヴァーリ。迎えに来たぜぃ!・・・って、随分とボロボロだな?」

 

「美猴か、何しに来た?」

 

やっと来たのかこの畜生野郎!!俺怒ってもイイよね!?こいつ今まで何処で油売ってたんだ!?

 

「北のアース神族と一戦交えるから帰って来いってよ。んで、その伝言を届けに来ていざ結界を破壊しようしたらいきなり結界が強化されちまってよ。今まで入るに入れなかったンだよ―――まぁお前さんの覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の影響で結界に綻びが出来たからこうして入ってこれたんだが・・・ひょっとして結界が強化されたのってヴァーリのせいか?」

 

はい。その白トカゲのせいです!!

 

「まっ、そういう訳だからさっさと帰るぜぃヴァーリ。お前さんの治療もしないと流石に神とは戦えないだろう?それとも一人寂しくベッドの上で待ってるかぃ?」

 

「それはゴメン被りたいな。こちらは十分に楽しんだ―――ここは引くとしよう」

 

「やいテメェ!後からいきなり出てきやがって!テメェは何なんだ!!」

 

戦っていた俺たちそっちのけで会話に興じる二人にイッセーが問い詰める

 

「そいつは美猴。闘戦勝仏の末裔だ―――分かり易く言うと、西遊記で有名なクソ猿。孫悟空だ」

 

「そ・・・孫悟空?こいつが!?」

 

イッセーの疑問にはアザゼル総督が答えたので俺もここは一つ茶化してみるか

 

「イッセー、どうせならサインでもねだったらどうだ?ドラグ・ソボールの主人公、空孫悟のモデルだぞ(子孫だけど)」

 

「いや、ねだらねぇよ!コイツ敵なんだぞ!?つーかイッキはもう喋るなって!全身血まみれじゃねぇか!!」

 

心配してくれてるようだが問題ないさ!今はさっきまでの美猴への怒りも消えて何だか頭がフワフワしてるんだ

 

「大丈夫だって、心配すんな。全身の血が抜けたからなのか今なんか頭がスッとなって何だか妙にハイな気分に・・・」

 

「アーシアァァァァァ!!治療!!コイツちょっとヤバい領域に堕ちかけてるぅぅぅ!!変なテンションになってるぅぅぅぅ!!」

 

「は・・・はいぃぃぃ!!」

 

そんなやり取りをしていると美猴とヴァ―リが語り掛けてきた

 

「カッカッカ♪そっちも随分と楽しそうだねぇ♪ま!これから宜しくな、お二人さん♪」

 

「次に会う時は今日以上に激しくやろう。お互いにもっと強くなってな。有間一輝、兵藤一誠!」

 

そのまま二人は美猴が足元に生み出した闇に沈んでいった

 

 

 

 

 

二人が去ってから暫く、俺はアーシアさんの治療で怪我自体は直ぐに回復した

 

そして今は小猫ちゃんの仙術で体力を回復してもらっている最中だ

 

近くにあったベンチに膝枕で・・・小猫ちゃんの膝枕、超柔らかい・・・気を抜くと顔が少しニヤケそうになるのを堪えている―――イッセーの同類にはなりたくないってのともう一つ、今は小猫ちゃんの説教中だからだ

 

「イッキ先輩、今回も無茶しましたね。前の爆発の時もそうでしたが、今回も一秒ごとにどんどん先輩が血まみれになっていくのはとっても心臓に悪かったんですよ?」

 

小猫ちゃんがジト目でこっちの心を抉って来る

 

「ゴメン・・・あー、その・・・今度は何を奢ればいい?」

 

そう言ったら片方の頬を抓られた

 

「あいたたたた!」

 

「私が何時も食い意地が張ってると思われるのは心外です・・・今回は納豆パンプキンパイで手を打ちましょう」

 

うん。確かに今のはデリカシーの無い言い方だったかもしれないけど、結局頼んでるんじゃん!?しかも何?納豆パンプキンパイって?何で毎回チョイスがそんな斜め上なんだよ!?

 

「・・・一人で頼むのは勇気がいるので」

 

・・・そりゃそうだ。後、心読まないで

 

「イヤです」

 

「拒否られた!?」

 

そんなやり取りをしている中で三大勢力の天使、堕天使、悪魔の共同作業で破壊された学園が元に戻っていく

 

イッセーはミカエルさんにアーシアさんとゼノヴィアの二人が祈りを捧げてもダメージを受けないようにして欲しいと頼み、ミカエルさんもそれを快諾したようだ

 

そして各々が事後処理を終わらせて家に帰って行った

 

 

 

 

 

 

翌日の放課後、部室のリアス部長の椅子を堂々と占拠しているアザゼルさんが居た

 

「かくかくしかじかで、今日から俺がこのオカルト研究部の顧問になる事となった」

 

そんなアザゼルさんに顔を引きつらせながらリアス部長が怒りながら問う

 

「『かくかくしかじか』だけで分かる訳ないでしょう!?ちゃんと説明しなさい!!」

 

確かに、本当に彼は『かくかくしかじか』としか言ってないのだから分かる訳がない

 

「いやなに、セラフォルーの妹に頼んだらここに配属されたのさ」

 

その言葉に皆の視線がソーナ会長に集中する

 

「でなければ代わりにお姉様がこの学園に来ると脅され・・・せがまれまして・・・」

 

「ようするに、オカ研を売ったのね?」

 

半目で問いかけるリアス部長を無視してソーナ会長は「では、失礼します」とそそくさと退室していった―――逃げたとも言う

 

「あの・・・その腕はどうしたんすか?」

 

イッセーの方はといえばアザゼルさんの無くなったはずの左腕が気になるようで問いかけると、途端に上機嫌になって解説する

 

「コレか?コイツぁ神器研究のついでに造った万能アームさ!一度こういうのを装備してみたかったんだよな。ふふん♪」

 

そういって俺たちに見せつけるように次々と左腕を変形させ、最後にロケットアームにして部室の中を縦横無尽に飛び回らせ、俺たちの反応をひとしきり楽しんだ後、腕を元に戻した

 

「ま!そういう訳でな・・・それと、俺がここに居るのにサーゼクスから条件を出されてる」

 

「条件?」

 

「ああ、お前らの事を鍛えてやれってな。特に悪魔は神器の研究が進んでないからな・・・俺の研究成果をお前らでじっけn・・・・お前らに叩き込んでやるさ」

 

今殆ど実験って言いかけたよなこの人!?

 

「いいか?これからは俺の事はアザゼル先生と呼べよ!———ああ、そうだ。イッキ、祐斗、お前さんらの褒賞の事だ」

 

そこで次に彼は会談の褒賞について切り出してきた

 

「まずは祐斗。お前さんの同志の因子だがな、フリードの奴が三つも強引に体に入れたせいか取り出すのに少し掛かりそうなんだとミカエルから連絡が在った。だがまぁ作業自体は絡まった糸を少しずつ解いていくような感じみたいでな。時間が掛かる以外の問題は無いそうだ」

 

「はい。分かりました」

 

説明の途中、少し不安げだった祐斗も問題無いと聞いて安心したようだ

 

「次にイッキ。黒歌の件だが「黒歌姉様!?どういう事ですか!?」」

 

昨日の会談の場に居なかった小猫ちゃんが突然上がった黒歌の名前に驚いて喰い気味に反応する

 

「なんだイッキ?お前話していなかったのか?」

 

「いえ、まだちゃんと話が通るかは分かってなかったので・・・万が一ダメだったらぬか喜びさせるだけに終わってしまいますからね」

 

「ったく、お前さんは弱気なのか大胆なのか分からんな・・・まぁいい、サーゼクスから正式に通達が在った。『SS級はぐれ悪魔、黒歌の手配書を本日をもって破棄する』だとさ―――さて、そろそろ焦れてるそこの小猫にも事情を説明してやんな」

 

確かに・・・小猫ちゃんの無言の視線で物理的に穴が空きそうだ

 

そうして小猫ちゃんには昨日の会談の褒賞から恩赦の顛末を語る事になった

 

「そうですか・・・これでやっと黒歌姉様も追われる心配が無くなるんですね」

 

小さく「よかった」と呟く小猫ちゃんにアザゼル先生から声が掛かる

 

「どうやらその様子からして小猫、お前さんはコイツが黒歌と繋がっていた事を知ってたんだな?当時の事件とやらの顛末についてもだ」

 

「はい・・・一年ほど前から・・・」

 

「あらあら、一年前と言うと丁度小猫ちゃんの実力がグングンと伸び始めた時でしたわね」

 

「成程、そういう事だったのね」

 

2大お姉様方は得心がいったという感じだ

 

「あ~、リアス部長。報告義務を怠ったとかは言わないで上げてくださいね?そもそも小猫ちゃんは報告したくても出来なかったので・・・」

 

「出来なかった?」

 

信賞必罰。それはそれ、これはこれとして小猫ちゃんに軽い罰則が有っても可笑しくないので一応フォローしておく

 

当時小猫ちゃんと出会った時の経緯や悪魔の契約の内容について皆に説明した

 

「―――成程ね。まさか悪魔の契約をそんな風に逆手に取るなんて、またあくどい手段を講じたものだわ」

 

リアス部長が呆れたように呟くなか、アザゼル先生はニヤニヤしてる

 

「つまりだ。纏めるとイッキは動揺する女子中学生を力で脅し付けて自室に連れ込み、詐欺まがいの方法で心身を縛り付ける契約を迫ったって訳だ」

 

「間違ってませんけど!言い方に悪意満点ですよ!?無罪を主張します!!」

 

アザゼル先生はそんな俺の反論を余所にリアス部長に問いかける

 

「なら、此処は小猫の主であるリアスに委ねようか・・・判決は?」

 

有罪(ギルティ)ね」

 

NOOOOOOOOOOO!!

 

「ふふ♪冗談よ。小猫の事は感謝してもし足りないわ」

 

「い・・・いえ、自分がやりたかっただけですし・・・」

 

そこでリアス部長がふと思いついたように言った

 

「そう言えば、貴方を一度下僕に勧誘した時に言ってたやりたい事って言うのはひょっとしてこの一件の事だったのかしら?」

 

ああ、そういえばそんな事も言ったっけ・・・

 

「そうですね。悪魔に転生すれば何かしら功績を上げても主の功績と同一視され易いみたいですし、何か適当に大きな取引材料を持って直接交渉した方が可能性はあるかな?と思ってました」

 

「そう、そういう事だったのね。全く、貴方を下僕に出来ないのが残念だわ」

 

「あの部長?何でイッキを部長の下僕に出来ないんですか?」

 

その質問に答えたのはアザゼル先生だった・・・何かまたニヤついてない?イヤな予感がするんだけど・・・

 

「それはな、此奴は関西を束ねる九尾の狐の娘の婚約者だからだよ―――裏の有力者の婚約者を勝手に下僕にしたら即問題になるからな・・・因みに調べによると婚約者の名前は九重。年齢は10歳、今年で11歳だな!」

 

それを聞いてイッセーを筆頭に婚約者の件を知らなかった皆が大なり小なり驚きをみせる

 

「はぁ!?イッキに婚約者!?いやいやそれよりも相手が10歳っておいイッキ!お前はいつの間に元浜(ロリコン)に為ったんだよテメェ!!」

 

「誰が元浜(ロリコン)に為るか!それにな!九重は小猫ちゃんよりも身長は上なんd“バギャ!!”

 

全部言い終わる前に小猫ちゃんのアッパーが顎に突き刺さった

 

「じゃれ合ってる所悪いがな・・・恩赦の件についてはお前さんが黒歌に直接伝えてやれ。つーかどこに居るのか分かんねぇんだよ。仙術を使うっていっても隠れんの上手すぎじゃねぇか?」

 

顎を抑えて悶絶しているとアザゼル先生に黒歌への伝言を頼まれた

 

「まぁ黒歌はまともに戦ったとして模擬戦でも20回に1回勝てればいい方ですからね」

 

「マジで!?黒歌さんってそんなに強かったの!?」

 

もうね、ヤバいよ。時間を操れるようになってから『加速装置!』とかリアルで出来るからね

 

戦慄しているイッセーを余所にアザゼル先生からの伝言は続く

 

「後コレが最後になるがサーゼクスの奴が前に赤龍帝の家に泊まった時に眷属同士のスキンシップの重要性を認識したらしくてな。特にお前さんは力の有無にダイレクトに関わりがある。よって『魔王サーゼクス・ルシファーの名において命ず。グレモリー眷属女子部員は全員兵藤一誠と生活を共にする事』・・・ただし、小猫!」

 

「・・・なんでしょう?」

 

「お前さんは姉が自由の身になったばかりだ。姉と同じ場所で生活したいと言うならそれでも良いとの事だ」

 

そっか、家族水入らずというのも配慮してくれてるんだな

 

「イッキ先輩のお家でですか?」

 

「・・・おいイッキ、まさかとは思ってたが黒歌はお前の家に住んでるのか?」

 

あ゛!バレた!って今更か・・・違う!問題はそこじゃない!

 

「イッキィィィ!!婚約者の次は黒歌さんがお前の家に住んでるとはどういう意味だぁぁ!!」

 

ほらこうして過剰に反応する奴がいる!取り敢えず無視するか

 

「黒歌は俺の部屋を拠点にしているだけで家族は流石にその事を知りませんね。ちょうどいい空き部屋とかも無いですし、小猫ちゃんが住むには適さないかと・・・」

 

「は~ん。だがそれは今までの話だろ?黒歌の手配が切れた今なら、イッセーの家みたいにホームステイという形にする事もできるはずだ―――まぁ取り敢えず今日の所は一旦帰って恩赦の件と家の件を相談してみろ。お前さんが一人で結論を出す事もないだろう・・・まぁ明日の放課後までにどうするのか決めてくれ」

 

「・・・分かりました」

 

そこで今日の部活は終わり、皆は帰宅して行った

 

イッセーの家の大所帯はリアス部長がサーゼクスさんに家の改築を頼むと呟いていたが恐らく改築という言葉を著しく逸脱したナニカに為るんだろう

 

 

 

 

 

「ただいま、黒歌」

 

「お帰りにゃ、イッキ」

 

家路につき、自室に入るとベッドでゴロゴロしている黒歌がいた

 

う~ん。この話題を自分から切り出すのは何だか気恥ずかしいものが在るな

 

でも、黙ってる意味も無いし、仮に黙ってたとしても小猫ちゃん経由で直ぐにバレる事だしな

 

「黒歌。黒歌の手配書だけど破棄されたから・・・」

 

「にゃ?何を言ってるのにゃ?」

 

そりゃそういう反応になるよな

 

とは言え既に一度口に出した事なので改めて会談での恩赦の話と、つい先程正式に黒歌の手配書が破棄された旨を伝えた・・・後、小猫ちゃんや黒歌の住処の事情も含めて

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ち・・・沈黙が痛い・・・だがそこでゆったりと黒歌の声が響いた

 

「ねぇ・・・会談で願い出たって言っても別にその場で思いついた訳じゃないんでしょ?何時から『そういう事』を考えてたの?」

 

そういう事・・・か、それならあの時だな

 

「やっぱり初めてこの部屋で黒歌と小猫ちゃんが出会った日からかな?あの日から漠然とだけど如何にかしたいとは思ってたよ」

 

「・・・そう」

 

俺の答えに小さく返事をして少々俯く彼女・・・おんやぁ?コレは・・・

 

「黒歌・・・もしかしてテレてる?」

 

俺の問いかけに“ビクッ”と肩を震わせる・・・ヤバい、コレはニヤニヤしてしまう

 

ほんのり頬が赤くなってるのを微妙に顔を逸らしてるのがかなりグッとくる

 

“ズビシィィィ!!”

 

「目が!目がぁぁぁ!!」

 

調子に乗って覗き込もうとすると黒歌の水平チョップが俺の目を捉えた

 

ちょっと前に小猫ちゃんがイッセーに同じ事してたよね!?本当に似たもの姉妹だな!?

 

「ちょっと調子に乗り過ぎにゃイッキ!・・・ありがと

 

小さかったけど確かに聞こえてきたお礼の声に頑張ったかいは在ったんだなと思い直す

 

「それで、家の件はどうするのにゃ?私も白音と一緒に暮らせるならそうしたいけど、この家に空き部屋と言える所は無いわよね?流石に3人でこの部屋に住むのはちょっときつ過ぎるにゃん」

 

確かに、両親は結構書斎やら天体観測器具やらの趣味の物で半ば倉庫にしている所が多いのでこのままでは無理だ

 

「ちょっとアザゼル先生に電話してみるか・・・」

 

あの人なら相談に乗ってくれるだろう。それでいざ電話で用件を伝えてみると

 

≪成程、そういう話ならこっちに任せておけ・・・小猫の方には話は通ってるのか?≫

 

「はい、可能なら黒歌と一緒の家に住みたいと言っていました」

 

≪分かった。こちらで手配しておく・・・さぁ!楽しくなってきたぞぉぉぉ!!前々から取り込んでみたかったあのギミックを“ガチャ!ツーツーツー”≫

 

アザゼル先生ぇぇぇ!?何!?最後にいきなり上がったあのテンションにもう不安しか感じないんですけど!?ギミックって何の話ですか先生ぇぇぇ!!

 

一抹どころか全面的に不安しか感じなかったがその後何度電話を掛けても繋がらないので、その日はもう諦めて眠る事になった

 

「ああ、マジで不安だ。おやすみ、黒歌」

 

「おやすみにゃ、イッキ♪」

 

完全に眠りに落ちる前、ほんのりと頬に柔らかいものが当たったような気がした




次章は『冥界合宿のヘルキャット!!』ではなく『婚約騒動のお稲荷さん!!』とか書けたらと思います

黒歌も襲って来ず、小猫は既に仙術使い、イッセーは禁手に至ってるとぶっちゃけやる事ないので九重ヒロイン回ですねwww


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第7章 婚約騒動のお稲荷さん
主人公設定(第七章時点)


私の小説を読んで下さる方々や何時も誤字訂正して下さる方にこの場でお礼を
これからも良くしてくれると有難いですヾ(@⌒ー⌒@)ノ

今回は主人公の設定を今更ながら書いてみました

一応本編に載ってない内容も少しだけ含んでおります

後、1章の1話と2話を繋げました


第七章 婚約騒動のお稲荷さん開始時点

 


◎プロフィール

 

名前:有間一輝(ありま いっき)

 

誕生日:9月6日(黒鉄→黒→く.ろ→9.6)

 

星座:乙女座

 

身長:174cm(卒業までに後1~2cm伸びる感じ)

 

体重:64kg

 

所属:駒王学園2年B組/オカルト研究部

 

好きな食べ物:アイス、ミカン

 

苦手な食べ物:納豆、甘すぎるお菓子(シュガーコーティング等)

 

 


◎原作開始時点までの略歴

 

・死後、特典を貰い転生する。我流で仙術の鍛錬を行い、中学入学直前に黒歌と出会う事で最低限の指導を受けられるようになる

 

中学2年の修学旅行先で土蜘蛛の起こした事件に巻き込まれ、奇しくもそれを解決した事により九重の婚約者(一応まだ候補)となる他、参曲(まがり)から黒歌共々仙術の指導を受けられるようになる

 

高校入学とほぼ同時期に塔城小猫と不意に接触。何とか姉妹の仲を取り持つ事に成功―――以後、小猫を召喚し、黒歌と共に修行をみる。ただし、あくまで召喚というスタイルの為、その度に彼のお小遣いは無くなっていったので毎日のように召喚できた訳では無い

 

・・・彼のサイフは猫又姉妹に貢がされたのだ

 


◎人物

 

・容姿は落第騎士の黒鉄一輝をベースにFateのアンリ・マユを混ぜた感じ(野性味系一輝?)

 

数年に渡り黒歌の誘惑から耐えているのは自制心よりも寝る前に【一刀修羅】を発動させて強制的に眠りにつく為という所が割と大きい

 

なまじイッセーの導き方を知っている為、今後も要所要所でおっぱいアドバイザーになれるかも?

 

見え過ぎるエロより隠されたエロの方が好み(例:もろパン<パンちら<鉄壁スカート)

 

某問題児アニメで和装ロリが『見えそうで見えないギフト』を贈ったという設定には戦慄した

 

 


◎余談

 

・学園の一部の女子からは一時はエロ馬鹿3人組内とのカップリングが主だったが一輝がオカルト研究部に入部してからは木場祐斗や兵藤一誠とのカップリングの風潮が高まった

 

因みに木場祐斗が王子(プリンス)、兵藤一誠は野獣(ビースト)で有間一輝は本業の木場祐斗を差し置いて騎士(ナイト)を拝命

 

理由はエロ馬鹿三人組から何時も女子達を守護してくれていた所から・・・ただし、木場祐斗のように紳士オーラを振りまいている訳では無いので傭兵上がりの騎士という設定・・・らしい

 

 


◎転生特典

 

1.【一刀修羅(いっとうしゅら)

 

落第騎士の英雄譚出典の『一分で全力を出し切る能力』であり使用後は動けなくなる―――一度発動させたら途中キャンセルも不可であり、一輝本人は『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の下位互換だと思っている・・・実際そうかも知れない

 

応用技として【一刀羅刹(いっとうらせつ)】と【一刀餓鬼(いっとうがき)】が在り、前者は『一秒で全てを出し切る能力』であり後者は『20秒で全てを出し切る能力』。ただし【一刀餓鬼(いっとうがき)】の20秒はあくまで一つの目安である(細かい事を言えば1秒超過60秒未満で全力を出す事)

 

59秒で発動して意味が在るのか?とかいうツッコミは無しにして欲しい

 

一刀修羅(いっとうしゅら)】以上の技は肉体に掛かる負荷を制御出来ない為全身がボロボロになってしまう―――【一刀羅刹(いっとうらせつ)】を使おうものなら『瀕死』になる。『ひんし』ではなく『瀕死』になる

 

 

2.【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)

 

・Fateのアンリ・マユの持つ宝具で設定はFGOというよりもホロウ アタラクシア寄りである

 

相手から受けたダメージをそのまま相手に返すゾロアスター教を起源とする『報復』の呪いであり、一度発動すれば相手が神でも防ぐのは難しい・・・ただし最近マジで『相手一人につき一度しか発動しない』という事実が浮き彫りになった

 

象徴として奇形の短剣、『右歯噛咬(ザリチェ)』と『左歯噛咬(タルウィ)』を呼び出せる他、所有者との結びつきが強くなれば副産物として【神性】が付与される

 

禁手(バランス・ブレイク)???

 

 

3.【じばく】

 

・ポケットモンスターに出てくる技の一つで『威力200% 相手の防御力を半分にしてダメージ計算』という強力な技であるが使用後に『ひんし』となり動けなくなる

 

一応アーシアの治療を受ければ(HPが1でも回復すれば)再度使えるが【じばく】の近くに彼女を待機させる訳にもいかないので今の所その予定は無い

 

【じばく】の威力は一輝の生命エネルギー(オーラ)の最大許容量を元に計算する為【一刀修羅(いっとうしゅら)】の最中は威力が上がったりはしない(【一刀修羅(いっとうしゅら)】は何方かと言えば瞬間放出量のアップであって最大許容量のアップでは無い)

 

 


◎スキル

 

仙術:闘気による身体強化、相手の気を乱す事による各種デバフ効果、気配の隠蔽及び探知と幅広い能力を持つ。参曲(まがり)の修行を経て一応一端の仙術使いの実力は持っている(参曲(まがり)基準)

 

派生スキルで梵字を扱うものがあり、その応用で『だいじなもの』を異空間に仕舞っていたりする

 

【神性 C+】:【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】によって獲得した神核とは似て非なるスキル。とはいえ大体同じで相手からの特殊な攻撃の耐性として機能したりする

 

神造兵器や神社など神そのものでなくとも神の気を纏っているのと同じであり、Fateの【神性】とはちょっと違う

 

 


◎使い魔(ファミリア)

 

名前:イヅナ

 

特別性に創られた管狐で最大数75匹に分身するが基本は一匹

 

相手に憑依してイヅナを憑依させた者同士で隠密性の連絡を取り合ったり、自分のオーラを憑依者に貸し与える事もできる―――ただし、自分より強い相手に憑依する時には基本的に相手の同意が必要となる

 

所有者の実力に応じて力を増す(現時点では平均的下級悪魔程)

 

黒歌、小猫、九重、参曲の所にそれぞれ派遣している為、手元に居るのは71匹分

 

 

 

 

 

 

 

 



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第一話 京都の、呼び出しです!

恋愛パート、難しいナリィ(´Д⊂ヽ


朝の明るさを瞼の奥に感じて目を覚ますと目の前に黒歌が居た

 

それだけなら何度か在ったけど、今までと少し違う所も在った

 

「おはようにゃ、イッキ♪」

 

黒歌は既に目を覚ましていて俺の顔を覗き込んでいた所だ

 

「おはよう・・・何で俺はここ(ベッド)に?昨日寝た時は俺は床で寝たと思ったんだけど?」

 

「連れてきたにゃ♪・・・それとイッキ、もう床で寝るのは禁止するにゃ!」

 

朝一番からいきなり今までのライフスタイルを否定された!

 

「う゛・・・いやでもそれは・・・」

 

「イッキが今まで誘っても一緒のベッドで寝なかったのって私が『子種が欲しい』としか言わなかったからでしょう?勿論それは今も変わらないし、ずっと態度を変えなかった私も悪いけど私と白音の為にあれだけ動いてくれた貴方に何も感じない程私も薄情じゃないのにゃ」

 

「それは・・・つまり?」

 

「ここまで言わせといて最後まで私に語らせるつもり?」

 

そう言ってほんのりと頬を染めながら此方を覗き込んでくる黒歌・・・確かに、流石にここでヘタレる訳にはいかない

 

今まで曲りなりにも一緒に暮らしてきて彼女の一挙手一投足には何度もドギマギとさせられたし、小猫ちゃんに仙術を教えるのを如何に効果的にするかを真剣に相談してきたり、揶揄ってくる時の底抜けの笑顔とか・・・まぁ理由なら幾つも思い浮かぶ

 

なら、俺の言うべき事は一つだろう

 

覚悟を決めたと言っておきながらも、ちょっとヘタレた俺は顔を合わせて言うのが恥ずかしくなり、黒歌を抱き寄せた

 

「好きだよ・・・黒歌」

 

「そこは『愛してる』の方が好感度高かったにゃ」

 

まさかのダメ出し!?思わず抱きしめていたのを離して黒歌の顔を見ようとすると、俺が何か言う前に黒歌が顔を近づけてきてキスしてきた

 

時間にして10秒も無かったと思うけど、顔に熱が昇って来てるのが分かる

 

「にゃっはははは♪イッキは相変わらずこういうタイプの不意打ちには弱いわね♪」

 

確かに反論できない・・・正直ちょっと頭が働いてない気がする

 

「気持ちも確かめ合った事だし、早速だけど子作りするにゃ♪」

 

すると黒歌が俺の上に乗ってきていきなり『子作り』宣言してきた!・・・別にいきなりって事は無いのか?

 

「いや、黒歌!これから学校があるから!それに、流石に高校生の内は子供はまだちょっと早いって!せめて最低限養育費を稼げないと俺が心労で潰されるから!!」

 

子供だけ作って育児も費用も母親に丸投げとかちょっと・・・否!かなり不味い!

 

そんな心の叫びを伝えると凄く不満そうな顔をされたが一応の納得はしてくれたみたいだ

 

よくぞ耐えたぞ俺の理性!だてに数年間強制賢者モードを強要された訳じゃなかったな!

 

「・・・はぁ、それで?大学卒業まで待てって言うのかにゃ?」

 

「逆にそれは俺の理性が持たないかな?高校卒業したら八坂さんかアザゼル先生辺りから仙術使いとしての割のいい仕事を割り振ってもらえれば良いんじゃないか?」

 

後一年ちょいと期限を定めれば俺の理性も何とかなるだろう

 

「それは結構にゃ♪コレで後約6年お預けなんて言われてたら今この場で問答無用に押し倒してた所だったにゃ♪」

 

それは良かった。よくぞ決断したぞ俺のちょっと情けない理性よ!!

 

そのまま黒歌は俺の上に覆い被さってきた

 

"ムニュ!"っと潰れた胸の感触がヤバいと思いながらも暫くそうしていると黒歌がふと思い出したように此方に顔を向けてきた

 

「・・・そう言えば、こうして私に告白したのなら、ちゃんと白音と九重への態度もハッキリさせないとダメよ?」

 

・・・ぐぅ!日本人として生まれ育った者として『三又とかそれでいいのか?』と問い掛けてくるような質問を・・・別に隠れて浮気とかじゃ無いんだが・・・と言うか

 

「黒歌はそれで良いのか?」

 

「・・・私は白音も好きだし、九重も気に入ってるからそれでも良いけど、ちゃんとイッキの口から伝えないとにゃ―――白音もそうだけど九重も今は純粋な好意だけど遠くない内に違う意味での『好き』になるわよ?」

 

う~む。どうにもそういった所が緩い女性が多いよな・・・もしかしたらイッセー周辺だからなのかも知れないけど

 

「まぁでも私もイッキがあの赤龍帝ちんみたいに『ハーレム!ハーレム!』言うのは流石に気に喰わないし、増やすとしてもせめて後1人くらいにして欲しいにゃ!」

 

「いや!増やすとか言うなよ!!そんな予定は無いって!!」

 

絶対これ告白直後にする話題じゃないよね!?そう思ってると黒歌に「甘いにゃ」と返された

 

「強い雄の周りには雌が集まるものにゃ。赤龍帝ちんが傍に居るって言っても放って置いたらドンドン増えるわよ?」

 

そんなものか?正直自分にモテ期到来とか実感湧かないのだが・・・

 

「まぁ今はこれ以上ここで議論しても意味ないわね・・・そう言えば今日は終業式だったわね。お昼には帰って来るのにゃん?」

 

確かに、明日から夏休みに入るからな・・・夏休みの予定とかどうしよう?特に決めてないけど

 

「そうだな、終業式の後もオカルト研究部に少し集まるように言われてるけど・・・そうだ!折角だし黒歌もグレモリー眷属と今の内に顔合わせくらいしておくか?」

 

多分リアス部長を筆頭に皆夏の間は冥界行きだと思うし、この機会を逃すと暫くチャンスが無くなるからな・・・

 

「え~!顔合わせとか面倒だにゃ~!」

 

ええい!駄々を捏ねるなこの怠け猫め!!

 

「でも、黒歌も小猫ちゃんの件でリアス部長には感謝はしてるんだろ?頭を下げろとは言わないけど、お礼くらいは言っといた方が良いんじゃないか?小猫ちゃんの話だと毎回夏休みは冥界に帰ってるみたいだし、今日を逃すと一月後だぞ?」

 

そう言うと黒歌は『イヤな所を突くな』と言わんばかりの目でこっちを見てきたが、暫くして諦めたように溜息をついて了承してきた

 

「・・・分かったわよ」

 

凄く不服そうだな・・・とはいえいきなり部室に黒歌が現れても驚かれるだろうしリアス部長に連絡を取っておくか―――黒歌と話したり抱きしめたりしている内に既にそれなりの時間になっているからな・・・今日の朝練は中止だな。そう思いながらもリアス部長に連絡を取る

 

≪あらイッキ、おはよう。朝から連絡してくるなんて珍しいわね。どうかしたのかしら?≫

 

「おはようございます。朝からすみません。実はですね、今日の部活で黒歌を連れて行っても良いでしょうか?一度ちゃんと皆に紹介しておきたいですし」

 

≪黒歌を?それは願ってもない事だわ。私は明日から冥界の実家に帰るから何処かで一度挨拶はしておきたかったのよ≫

 

「分かりました。では放課後に会いましょう。———失礼します」

 

≪ええ、楽しみにしておくわ≫

 

リアス部長の返答を聞き、そこで通話が切れた

 

「聞いての通りだから、終業式が終わったタイミングでイヅナを通して連絡入れるから来てくれ」

 

「ん、了解にゃ」

 

だがそこで黒歌が「そういえば」と話を振ってきた

 

「昨日は聴きそびれたけどイッキ、また【神性】上がってるにゃん?」

 

「ん?ああ、十中八九ヴァーリの覇龍(ジャガーノート・ドライブ)と闘ったせいだろうな」

 

あれから暫くして気づいたが1.5ランク上がって【神性 C+】って感じだ

 

「ただ、何となく神器の感覚からいって【神性】はコレで頭打ちっぽいんだよな―――神器が禁手(バランス・ブレイク)したらまた上昇するかも知れないけど、こればっかりは至ってみないと分からんな」

 

「ふ~ん。ならさっさと至るにゃ!今でも十分高いけど、やっぱりより【神性】が上の方が子種の質も上がるにゃ!」

 

『子種の質』とか言うなよ!生々しいな!!

 

でも、俺の禁手(バランス・ブレイカー)って如何なるんだろうな?というかもう殆ど神器を発現させてから17年近く経つんだが・・・今更だけどちょっとサジの気持ちが分かった気がする

 

そんな事を感じつつ登校して行った

 

 

 

 

 

学園に登校し、終業式が始まる前の教室では皆が既に夏休みに何処に遊びに行くとか部活の試合の事とかを話し合ってもう夏休みモードに入っている

 

「お前ら!明日から待ちに待った夏休みだ!青い海!白い砂浜!輝く太陽!!そして、それを彩る女の子たち!!今年の夏こそ小粋な彼女をGETして俺たちは大人の階段を上るんだぁぁぁ!!」

 

「応さ!夏と言えば海にプールに夏祭り!サンオイルに水着に浴衣が俺たちを待ってるぜ!」

 

「この俺のスカウターにも磨きが掛かるってもんだぜぃ!」

 

松田の熱いソウルにイッセーと元浜も追従する

 

「変態トリオが叶いもしない夏の計画?よくやるわね」

 

「何だと!?俺たちの夢に向かった壮大で偉大な計画を笑おうとは!?」

 

「消えろ!桐生藍華!メガネ属性は元浜で間に合ってるんだ!」

 

意気込んでいる所に水を差されたのに腹を立てイッセーと松田が食って掛かる

 

「ふん!そんな奴と一緒にしないで欲しいわね。属性が汚れるから」

 

「何だと!?元浜のメガネはただのメガネじゃねぇんだぞ!女子のスリーサイズから先端の輪の直径まで測定が可能なんだ!!」

 

「まさか、その能力がアンタだけのものだとでも?」

 

そう言いつつ先ほど反論してきたイッセーに「ほうほう、成程成程」と近づいて行きその耳元でコッソリと囁きかける

 

「長さは・・・(ごにょごにょ)・・・幅は・・・(ごにょごにょ)・・・臨戦態勢時は・・・(ごにょごにょ)」

 

「な・・・俺の男の尊厳に関する元浜以上の詳細なデータ!」

 

戦慄するイッセーたちに対してドヤ顔を決める桐生さん―――だがそこで元浜も反撃に出る

 

「フ!それしきか?ならば新しく進化した我がスカウターの力を魅せてくれる!桐生、貴様の今日の下着は〇〇ブランドの紫の下着だな?」

 

「な!?まさか元浜お前!透視能力を身に着けたのか!?」

 

「一体いつの間に!?」

 

イッセーたちが元浜の謎の進化に驚いているのを眺めつつ俺はと言えば今朝の黒歌のキスが頭の中を駆け巡っていた・・・ヤバいな今日一日は頭の中がピンクで染まってそうだ―――そんな風に内心ニヤついてのがダメだったのか桐生さんの目線(スカウター)が此方を捉えた

 

「おやおやぁ?コレはコレは・・・」

 

そう言って思いっきり俺の顔を覗き込み面白そうな表情を浮かべる彼女

 

「その魂にマーキングされた女の香り・・・有間君貴方、彼女が出来たでしょ?」

 

「ぶほっ!?」

 

え・・・なに?魂の香りって!?恐!そんなの分かるもんなの!?

 

「ふふん!私のスカウターは元浜の透視能力みたいな物質面に縛られる領域に存在しないの。相手の男女の機微に関するアストラル体すら見抜けるのよ!・・・でも有間君、童貞臭さは抜けてないみたいね」

 

ほっとけ!・・・後凄いな!この教室の一角で行われる一般人による異能力バトル!・・・一般人ってなんだっけ?

 

「イッキィィィ!!彼女が出来たとはどういう事だぁぁぁ!!」

 

「昨日の今日って事は黒歌さんか!?黒歌さんなのか!?いや待てよ・・・と言う事はもしかして小猫ちゃんがお前の義妹になると言うのか!?」

 

「ぬぁにぃぃぃ!!小猫ちゃん(マイ・エンジェル)が義妹ぃ!?どういう事だ!嘘だと言え!!殺されたいのか貴様ぁぁぁ!!」

 

イッセーお前、余計な事を・・・まぁ今更黒歌と小猫ちゃんが姉妹というのを隠す意味も無いけどさ―――後元浜、誰がマイ・エンジェルだ誰が!!

 

結局終業式が終わるまでの間、エロ馬鹿3人組に追い掛け回された・・・途中からリアス部長たちと何時も一緒に居るイッセーも俺と一緒に追われる側になっていたが・・・

 

 

 

 

 

学校自体は終わったそのタイミングで俺とイッセーはオカルト研究部に避難した

 

「ったく、松田も元浜もスゲェ形相で追い掛け回しやがって」

 

「そのセリフ、最初にアッチ側だったお前には言われたくないな・・・」

 

そこで部室の扉が開いて祐斗が入ってきた

 

「二人とも元気だね。走って旧校舎に向かってる姿が見えたけど、競争でもしていたのかい?」

 

「おう、木場。別にぃ、イッキの騒動に巻き込まれただけさ」

 

「お前にだけは言われたくないぞイッセー」

 

暫くそんなやり取りをしている内に大体のメンバーが集まり、不毛と感じたのかイッセーが祐斗に話を振る

 

「そういや木場!お前は夏休みの予定とか決めてんのか?というかグレモリー眷属って夏休み中の活動とかって如何してるんだ?」

 

ソファーで本を読んでいた祐斗は「ああ!」と納得した様子で本を閉じる

 

「そっか、イッセー君は初めてだったね。僕たちは・・・」

 

そこまで言いかけた所で部室の扉が開かれた

 

「皆、揃ってるわね」

 

リアス部長と朱乃先輩が入室してきた

 

それから程無く全員(・・)でテーブルを囲って夏休みの予定の話に移る

 

「さて、夏休みの予定だけど私達グレモリー眷属は冥界の私の実家に来てもらう事になるわ。新しく眷属に為った皆も家族に紹介したいし、そうでなくとも毎回の事なのよ―――皆、長期旅行の支度をしておいてね」

 

ん?グレモリー眷属って事は俺はどうなるんだ?

 

そう思ってリアス部長に質問をしようとしたら先にアザゼル先生から声が掛かった

 

「俺も冥界に行くぜ」

 

いつもリアス部長の座ってる椅子に腰かけているアザゼル先生に皆が驚いてる

 

「な!?アザゼル・・・先生。何時からそこに!?」

 

「ふふん!この俺の気配を感じ取れもしないようじゃ、まだまだだな―――そっちのお嬢さんもそう思うだろ?」

 

アザゼル先生が窓の方に目を向けると「そうねぇ」と返ってきた

 

「流石に今のままじゃ白音を預けるのに実力面での不安が残るわね」

 

窓枠に腰かけていたのは黒歌だ。見知らぬ彼女の登場に皆の多くが一瞬身構えるが逆にちゃんと顔を知っている人も此処にはいる

 

「あ!?黒歌さん!」

 

「やっほー!赤龍帝ちん。数か月ぶりかしら?」

 

そう。中学の修学旅行で顔を合わせてから駒王町では町中で不意に遭遇する時は別段隠れてなかったのでアレから何度かは出会ってるのだ・・・その度に怨嗟の涙と共に追い回されたり、殴りかかられたりしたけど・・・

 

「いや『赤龍帝ちん』って、イッセーで良いっすよ」

 

「そう?ならそうするわね」

 

皆もそんなやり取りを見て彼女が小猫ちゃんの姉の黒歌であると理解したようだ

 

「そう、貴女が黒歌ね。直接会うのは初めてかしら?リアス・グレモリーよ」

 

挨拶をするリアス部長に黒歌は「ふ~ん」と顔を近づけていく

 

「弱いわね。でも素質は悪く無さそうだし、ギリギリ及第点って事にしておいて上げるにゃん」

 

煽りよるコイツ・・・リアス部長も「な!」と口元引くついてるし

 

「こら黒歌!今朝がたリアス部長に小猫ちゃんの件でのお礼を言うって言ってたのはどうしたんだ?出会い頭にケンカを売るとか真逆な事すんな!」

 

「黒歌姉様。揶揄うにしても場と空気を読んでください」

 

俺は後ろから黒歌の脳天に軽くチョップを入れ、小猫ちゃんからはダメ出しされた

 

「うぅ~。こういうのは初めに"ビシッ!"と上下関係をハッキリさせるべき何だけどにゃ」

 

一つの群れのヒエラルキーの頂点に立ちたいという獣の本能かよ!?

 

リアス部長も黒歌が俺と小猫ちゃんに怒られたことで取り敢えず溜飲を下げてくれたみたいでその後眷属の皆と一通りの挨拶を交わしていく・・・イッセーは黒歌の揺れる耳と尻尾を見て「マジで小猫ちゃんのお姉さんだったんですね!」とかテンション上げていたが・・・

 

そうして暫くの間わいわいと過ごして落ち着いて来た頃、懐からイヅナが飛び出してきてそこから聞きなれた声が聞こえてきた

 

≪イッキ!今日は終業式だったからもう学校は終わっておるじゃろう?実は母上から夏の予定で少し話したいことが在るそうなのじゃが、今良いかの?≫

 

聞こえてきたのは九重の声だ。イヅナには連絡を取る時に周囲の状況を見るように言ってあるが、この場にはもはや関係者しか居ない為大丈夫と判断したのだろう・・・とはいえ流石に俺の耳元で通常の電話くらいの声量で回りに聞こえないようにイヅナが軽く結界を張ってるが・・・黒歌と違って気配りが出来る奴だよ、お前は

 

一応皆にはジェスチャーで断りを入れて返答していく

 

「九重、こっちは式は終わったけど今はまだ部室で皆と集まってる所だな。とは言えここに居る皆は既に色々と事情は知ってるから問題は無い・・・それで、八坂さんの要件ってのは?」

 

≪む!まだ学校に居ったとは、もう少し時間をずらすべきじゃったか・・・要件については今、母上と代わるのじゃ≫

 

するとイヅナから今度は八坂さんの声が聞こえてきた

 

≪イッキ殿、こうして話すのは少し久しぶりですが、そちらはお変わりありませんか?・・・もっとも、九重からよく話は聞かされておりますが≫

 

「はい、ご存じでしょうが三大勢力の会談なども在ったので『変わりなく』とは言えないかも知れませんが、元気ではあります」

 

最近は滅茶苦茶情勢動いたからな

 

≪そのようじゃの。三大勢力が和平を結んだ事は既に各神話体系に知れ渡っておるからの―――さて、まだ学校に居るとの事じゃから早速本題に移ろう・・・実は此方の方で少しばかり問題が起きての、京の方でも対処は可能なのじゃが折角なのでイッキ殿に問題の解決を依頼したいのじゃ≫

 

「問題・・・ですか?」

 

≪流石に通信で詳しい内容は伝えられんが、この件はイッキ殿が一番適任だと思うておる≫

 

・・・詳しい内容が聞けないのでは判断しづらいが、八坂さんの方で対処は出来るという事は緊急性は高くないのかな?しかし、重要そうな内容ではあると・・・とはいえ、今まで何だかんだ良くしてくれてる八坂さんの頼みだしな。ここは引き受けよう

 

「分かりました。そちらには何時頃向かえば良いでしょうか?」

 

≪すまぬが、正直解決にどの程度日数が掛かるか予測が立てにくいので早い方が良いじゃろう≫

 

うげ!先行き見えないマラソンレースは面倒だな・・・いや!それだけ大切な事だと思って気を引き締めて行こう!

 

「なら、早速明日にでもそちらに向かいます。幸い夏休みの予定はまだ立ててなかったので調整の必要も無いですし」

 

≪うむ。では明日に直接話すとしようかの―――それではコレで失礼する≫

 

≪イッキ!また明日なのじゃ!会えるのを楽しみに待っておるぞ≫

 

「分かった。また明日な」

 

別れの挨拶をし、そこでイヅナの通信は切れ、それを見計らってイッセーが声を掛けてきた

 

「イッキ、今のは?ずっと使い魔に話しかけてたように見えたけど?」

 

「今のはイヅナを介した通話機能みたいなもんだよ―――それはそうとリアス部長。俺は明日から京都に行く予定が出来ました」

 

「あら、今の通信で?それにしても明日とはまた急ね」

 

「いえ、そこは俺が『明日でも大丈夫』と言っちゃったせいですがね」

 

するとそこでアザゼル先生が話に割り込んできた

 

「何だイッキは京都か・・・できればお前も冥界に連れていきたかったんだがな。昨日言ったろ?サーゼクスからお前らを強くしてくれって言われてるって―――まぁお前さんの場合は神器を詳しく調べることがメインになるだろうが・・・つーか調べたくってワクワクしてたのに俺のこの気持ちをどうしてくれる!」

 

知るかよ!この神器オタク未婚総督!!

 

「まぁ今更言ってもしょうがねぇか・・・なら黒歌はどうする?小猫の指導をする上で、お前さん以上の適任は居ないと思うんだが・・・冥界かそれとも京都か―――どっちにするんだ?」

 

「ん~、そう言う事なら白音と冥界に行くにゃ♪今まではイッキがこの子を召喚しても数時間ずつしか修行の面倒を見れなかったし、できれば一度集中的に鍛えておきたいにゃ」

 

黒歌がソファーに座っていた小猫ちゃんを後ろから抱きしめながらそう言う

 

「『白音』ってのは確か小猫の旧名だったか?・・・ともあれ了解だ。そう言ってくれると此方もやり易い―――仙術の講師役なんてそうそう見つかるもんでも無いからな、正直助かるぜ」

 

「では決まりね。出来たらイッキも客分として招きたかったけど、予定が在るなら仕方ないわ―――なら、今日はこの辺りで解散してそれぞれ明日の準備をしましょうか」

 

解散という事なのでそれぞれ部室の戸締りをして、いざ帰ろうとした所でアザゼル先生が「ちょっと待った」と俺にある物を渡してきた

 

「・・・鍵?」

 

「そいつはお前さんの新しい家の鍵だ―――因みにイッセーの家の隣に新しく建てた」

 

ブホッ!今トンデモナイ事言いませんでした!?・・・でも確かに思い返せば寝ている間にリフォームとかもされてなかったけど!まさかの改築ではなく新築ですか!?

 

「イッセーの周りに女が多い方が此奴のやる気UPに繋がるって言ったろ?それにお前さんやイッセーの御両親のような一般人も守る事を考えたら近くに住んでいる方が何かと都合が良いんだよ」

 

「成程、セキュリティ方面の配慮ですか。それだと流石に文句も言えないですね・・・でも、イッセーの家の周りって別に空き家って訳じゃなかったですよね?その人たちはどうしたんですか?」

 

「いいか?大人には大人の共通言語ってのが在るんだ。この国では主に福沢諭吉が喋るがな・・・勿論中には渋る奴らもいたが、札束で『おうふくビンタ』をかましてやったら直ぐにニコニコ顔になったぞ?」

 

聞きたく無かったよ・・・そんな若干SMの入った買収の話

 

若干げんなりしながらも新しい我が家とやらに着く―――どうやら俺の元の家の荷物とか小猫ちゃんの私物とかは既に運び込んであるそうだ

 

後はデカい!隣のイッセーの家と同じ高さ(地上6階)だ!・・・そうだった、この可能性を考えておくべきだった!

 

「あの、アザゼル先生・・・こんなにデカい家にする意味在ったんですか?」

 

絶対に持て余すと思うんだが

 

「ああ、この家は俺の所の神の子を見張る者(グリゴリ)で建てた物でな。ほら、隣のイッセーの家が悪魔の建築だろ?『それ以下の建物を造るなんてありえない!』って意見が出てな・・・かと言って逆にそれ以上のもんを建てたら今度はイッセーの家が増築して鼬ごっこになるだろ?だから一先ず高さは合わせたんだ―――ちゃんと地下も3階まで在るぞ?」

 

「そんな悪魔と堕天使の見栄の張り合いに家を巻き込まないで下さい!!」

 

「はっはっはぁ!良いじゃねぇか、立派になったんだからよ!取り敢えず軽く案内してやるよ、中に入りな」

 

いや此処仮にも俺の家なんですよね!?

 

イッセー達も一度中を見てみたいとの事だったので皆で広い玄関から入っていく

 

両親はまだ帰ってないみたいだ・・・どう反応するんだろう?

 

「うっひゃぁぁぁ!スゲェな!俺の家も大概だったけどこっちも負けてねぇぜ!・・・若干SFチックな内装が多いかな?」

 

確かにイッセーの言うように、可笑しくない範囲で男心をくすぐるような内装だな―――設計者の趣味が透けて見えるようだ

 

だが、玄関の先にあるリビングで可笑しなものを見た・・・具体的に言えば壁に在る赤いボタンで『緊急脱出用』とプレートが張ってある

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「ポチっとにゃ♪」

 

「なに押してんのぉぉぉ!?黒歌さぁぁぁん!!?」

 

すると直後から家全体から”ズゴゴゴゴゴゴ!”と振動が鳴り響てきた

 

「いやぁ、だって気になるじゃにゃい?」

 

そこはまずアザゼル先生に確認しようよ!?

 

「というか俺の家に何を仕込んだんですかアザゼル先生!?」

 

「くっくっく!そのボタンを最初に押すとは黒歌も中々いいセンスをしているようだな。やっぱり赤いブザーは鳴らしてナンボってのを良く分かっていやがる」

 

顎に手を当て『うんうん!』と頷いているアザゼル先生(マッドサイエンティスト)―――コイツぶん殴って良いかな!?

 

「なに、外を見てみろよ」

 

そう言われて皆で外を見ると青い空と白い雲が見えた・・・それ自体は可笑しくない。可笑しいのはそれ『しか』見えないという事だ!

 

慌てて窓際に走り寄ると眼下に広がる駒王町!

 

「い・・・家が飛んでるぅぅぅ!?」

 

「飛んでる・・・飛んでるぞアーシア!!」

 

「はいぃ!ゼノヴィアさん!とっても良い眺めですぅ!!」

 

「あ・・・あらあら、コレはまたトンデモナイですわね」

 

イッセーを筆頭に皆が騒いでるが、俺は逆に放心しかけていた・・・というかアーシアさんとゼノヴィアは反応が無邪気過ぎるだろ

 

「アザゼル・・・一般の人々にコレが見つかったらどうするつもりなの?」

 

もはや『先生』を付ける事も忘れてリアス部長が問うと「問題無い」と返してきた

 

「このロマンの一つ!『空飛ぶ家』を実現させる為に、この家が飛ぶときは超高価な資材を溶かして認識阻害を張れるようになっている!他にも迎撃システムも組み込んであるから駒王町くらいなら10分で火の海に出来るぞ!!」

 

「『出来るぞ!』じゃねぇぇぇ!!何俺の家を魔改造してんの!?」

 

昨日言ってた『ギミック』ってのはこういう意味か!

 

「安心しろ、ちゃんと後で取説を渡しとくからよ。ちゃんと頭に叩き込んでおけよ?先生からの夏休みの宿題だ!」

 

それから家はちゃんとイッセーの家の隣にすっぽりと収まり直し、アザゼル先生は取説を俺に押し付けて風のように去って行った

 

イッセー達は自分の家に帰って行ったけど去り際に俺の肩を“ポンっ”と叩いて行くのは虚しくなるのでやめて欲しかったが・・・

 

 

 

 

 

それから夕方過ぎ―――両親もそれぞれ帰って来て今はリビングで皆でテーブルを挟んで挨拶を交わしている

 

「あらあら、福引で豪邸のハウスシェアなんてものが当たったと聞いた時は初めはどうしようかと思ったのだけれど、息子の部活で仲が良い子が同じシェア相手と聞いた時はこういうのも良いかな?と思ったのよ。でもまさかこんな可愛い上に美人姉妹だなんてね」

 

どうにも新築に一緒に住む理由としてハウスシェアリングという形になったそうだ・・・日本では馴染みが無いけど、海外では割と普通にあるみたいだから理由としてはそこまで苦しくない・・・のか?

 

「しかし、良かったのかな?塔城さん達・・・うちのイッキは年も近いし、何か間違いが起きないとも限りませんが」

 

間違いって・・・まぁ父親として最初に確認しておくべき事項ではあるんだろうけど

 

「それなら問題在りません。私とイッキは付き合っていますので、人はそれを『間違い』では無く『正解』と呼びます!」

 

そこは『問題在りません』だけで良かったぞ黒歌!それと例え夫婦の営み(意味深)だったとしても態々それを『正解』なんて呼ぶ奴居ねぇよ。人間の常識捏造すんな!

 

「まぁ!黒歌さんがうちのイッキと!?イッキ、貴方彼女が出来たなら紹介してくれないと!」

 

「い・・・いや、黒歌と正式に付き合いだしたのって今朝の話だし!」

 

「そうなんです。イッキったら数年前からアプローチしていたのに、ようやくだったんです!」

 

「なんと!イッキがそんな優柔不断な奴だったとは!」

 

「ええ、貴方。昔から手の掛からない子だと思っていたけれど一度しっかりと教育し直す必要があるかも知れませんね」

 

『よよよ』と擬音が見えそうな臭い演技をする黒歌。しかも両親もそれに気づきながら乗ってくる始末だ

 

どうやら俺の味方は何処にも居ないようだった

 

一通り弄り倒された後は自室(前の軽く6~7倍は在る)のベッドの上でアザゼル先生のこの家のガイドブックを読んでいた―――この家、絶対に要塞の間違いだろ?レーザー砲とか積んであるぞ・・・後、備考欄に小さく【ロボットハウス、鋭意製作中】って書いてあるけどもう見なかった事にしよう

 

すると黒歌が部屋に入ってきた

 

「ノックくらいしろよ。『親しき中にも礼儀あり』だぞ?」

 

「え~。そんな礼儀は知ったこっちゃないにゃ!それにそもそも仙術で分かってたでしょ?」

 

「まぁな、言ってみただけだ」

 

正直、黒歌に言っても無駄だろうし本気で言ってないからな

 

「ならいいにゃ♪イッキもそんな分厚い説明書を読んでたら朝になるわよ?今日はもう寝るのにゃ!」

 

そう言いつつ黒歌はベッドに潜り込んで抱き付いてきた。空調は効いてるが夏場という事もあって黒歌の寝巻は薄く、肌色成分も多い。彼女の柔らかい体と体温で頭の中がイケナイ方向に傾きそうになる

 

「えっと、折角小猫ちゃんも同じ家に居るんだし、そっちで一緒に寝たら?」

 

「勿論白音も此処に来る途中で誘ったんだけど、まだ少し恥ずかしいのか一人で寝るって言ってたにゃん♪―――それにどうせ明日からは私と白音は冥界に行って修行で殆ど一緒になるなら今日はイッキと一緒に寝るにゃ♪」

 

む・・・しかし大丈夫だ。俺には【一刀修羅】先生による強制お休みモードがある!それなら朝までぐっすりだ!

 

そう思い日課だった寝る前の【一刀修羅】を発動させ、瞑想に入ろうとした所で俺は重大な過ちに気づいた―――【一刀修羅】は感覚すらも引き上げる技、それを黒歌が密着した状態で発動させた事で彼女の肌触りとか吐息とか心臓の音とか匂いとか色々と入ってきたのだ!

 

結局その日の瞑想は何も上手くいかないまま効果時間が切れてそのまま眠る事になった

 

・・・これからこの修行どうしよう?




九重パートに入る前に黒歌にヒロインしてもらいました

一応言うとイッキは別に九重に恋愛感情はまだ抱いてませんよ?真っ直ぐな好意を向け続けられたら5~6年後にはヤバいだろうとは思ってますが

後、もし黒歌が『自分だけを見て!』というタイプならそれに沿っていたでしょう


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第二話 再び、京都です!

再びと言いつつ、作中では結構京都に赴いてる設定の主人公・・・


微睡みの中、左半身に柔らかいものが巻き付いているような感覚がした

 

寝ぼけた頭でそちらを向き目を開けると寝息を立てる黒歌が左腕に抱き着き、俺の足に自分の足を絡めてきている

 

その他に、彼女の足の感触とはまた別に絡みついている細長いファーのような感覚は彼女の尻尾のものなのだろう―――フカフカ且つツルツルで気持ちが良い・・・

 

大丈夫コレ?昨日卒業までって言ってたけど、俺の理性本当に持つの?

 

後、どうしよう?枕元の時計を見ればもう直ぐ朝練の時間だ

 

でも、これだけ密着されてたら物理的に抜け出せないし、何より精神的に抜け出したくない!!何という高度な二重トラップだろうか!

 

まぁ朝練自体は何時もの事なので非っ常ぉぉぉに後ろ髪を引かれる気分だが、黒歌を起こして支度をする事にして彼女の肩を軽く揺さぶりながら声を掛ける

 

「ほら黒歌。もう朝だぞ」

 

すると少ししてから黒歌の目が薄っすらと開かれる

 

「う~ん。おはようにゃイッキ」

 

黒歌は上半身を起き上がらせて"グゥッ"と伸びをして挨拶をしてくるが、寝る時の彼女は白くて薄手の着物だけだ。さらに旅館の浴衣とかで寝た事のある人はご理解頂けると思うが寝ている間にハダけるのだ・・・どこが?勿論胸からヘソの辺りまで前面がである

 

そんな黒歌の姿を見たら昨夜の【一刀修羅】で感じ取ったアレコレなども連鎖的に思い出してしまうのは、もはや必然である

 

「ああ、おはよう黒歌」

 

俺も起き上がりながら黒歌では無く、その背後に焦点を向けて平静を装って挨拶を返す

 

「うにゃん♪」

 

すると何やら非常に上機嫌な彼女が俺に再び抱き着いてきた―――こうなれば先ほど無理やり引き出した平静の仮面も簡単に崩れてしまうもので顔が赤くなるのが自分でも分かる

 

「く・・・黒歌?何だか妙にご機嫌だな?」

 

若干上ずった声になりながらもそう問うと「それはそうにゃ♪」と返してきた

 

「今日からは今までと違って必要以上に警戒する事も無いし、白音も居るし、イッキも同じベッドに引き込めたし・・・昨日までとは環境が凄く改善されたんだからご機嫌にもなるにゃ♪」

 

言われてみれば確かに、自由が好きそうな彼女にしてみれば隠れ住むというのはストレスにもなるよな―――今の彼女は解放感に浸っているのだろう・・・でも、『同じベッドに引き込む』って黒歌には自分の部屋が在るし、一応ここって俺のベッドなんだが・・・今更か

 

すると黒歌は少しだけ顔を離し、此方を"じー"っと見つめてきた

 

さっきと違い此方も黒歌を見つめ返す・・・つまり、この雰囲気はそういう意味だよな?

 

頭の中でそう思いながらゆっくりと彼女の顔に自分の顔を近づけていき、後少しでお互いの唇が重なりそうになり・・・

 

“ガチャ!”

 

「黒歌姉様、イッキ先輩。まだ寝てるんですか?今日から朝の修行を付けてくれるとの事でしたが、もう時間です・・・よ・・・」

 

「「「・・・・・・・・・・」」」

 

小猫ちゃんが入ってきたぁぁぁ!そうだよね、今日にはもうグレモリー眷属は冥界に行くわけだし、俺と黒歌が揃って修行を見られるのは今だけなんだから、起きて来なかったら様子の一つも見に来るよね!

 

「あら?おはよう塔城さん。体操着という事は朝の運動なのかしら?そこはイッキの部屋よね?トレーニングのお誘い?」

 

少しだけとはいえ3人で固まってしまっている隙に母さんがやって来た

 

どうやら新しい家のせいか早めに起きてしまい家の中を見て回ってたようだ

 

そのまま"ヒョイ"っと俺の部屋を覗き込む

 

「・・・・・黒歌さん、イッキ。孫の名前は私が決めても良いかしら?」

 

「それは・・・えっと・・・候補を出すくらいなら問題ないかな?」

 

「そう?楽しみにしておくけど、学生の内は節度を守るようにね♪」

 

そう言い残し再び家の探索に向かっていった

 

「「「・・・・・・・・・・・」」」

 

またしても少し無言の時間が出来たが黒歌が何とか口を開く

 

「・・・イッキ、アレって普通の反応なのかにゃ?」

 

「いや、そんな事は無いと思うぞ?」

 

黒歌の猫耳と尻尾は遠目で見えなかったとしてもだな・・・

 

「自然と状況を流していきましたね・・・イッキ先輩のお母さん」

 

「取り合えず・・・朝練行こうか?」

 

深く考えてもしょうがないだろう・・・多分

 

 

 

 

 

それから3人での朝練を終えた・・・地下に在った訓練場はレーティングゲームの会場と似たような仕様らしく色々と環境を設定できるみたいだ。朝から家の地下で野山を駆け回る事ができるとは思わなかったが・・・

 

とは言え今日は皆出かける予定が在るためそこまでガッツリとした訓練では無かったが、黒歌も小猫ちゃんも何だかんだで楽しそうな雰囲気だったから良しとしよう

 

修行がひと段落したらそれぞれシャワーを浴びて朝食を食べ、家を出る

 

俺だけ京都ではあるが両親にはオカルト研究部の合宿という理由で統一しておいた

 

「さて、全員揃ってるな。それじゃとっとと行くとしますかね」

 

今はオカルト研究部のメンバーの殆どが固まっている俺とイッセーの家の前にアザゼル先生に祐斗とギャスパーが集合していた・・・引きこもりのギャスパーは祐斗がエスコートして連れてきたみたいだけどな

 

それから皆で最寄りの駅に向けて歩き出す

 

「それにしても部長、冥界って列車で行くんですね。俺はてっきり魔法陣で跳んでいくものだと思ってましたよ」

 

「基本的には魔法陣で行くのよ―――でも新人の悪魔は一度は正式なルートを通って登録する必要が在るの。緊急時や特別な招待を受けた場合は魔法陣で行く事も出来るけど、その度に毎回手続きし直さなくてはならないのよ」

 

それはまた事務的な話なんだな・・・

 

「そうだったんですね・・・そういえばイッキは京都には普通に電車で行くのか?」

 

「いや、俺は京都には転移で向かうから、途中で別れるぞ」

 

旅行という訳でも無いのだ。手っ取り早く転移で向かうさ

 

「転移?仙術にもそういう事が出来るものが在るんだな」

 

「ほら、前の会談の時に美猴って奴がやってただろ?あの地面に沈んでいくやつ―――アレは地脈・霊脈の流れに乗って遠くに転移する術でな。アレだ、空港とかで見かける『動く歩道』だよ」

 

そう言うとイッセーは「成程」と頭を振っていた。具体的な例が在ると説明が楽でいい

 

さて、実は京都に行く前に寄っておきたい場所もあるのでこの辺りで皆とは別れる事にしよう

 

「そろそろ行く事にするよ・・・そうだ!イッセーにはこれを渡しておこうと思ってたんだ」

 

異空間から本を一冊引っ張り出してイッセーに手渡す

 

「これは・・・テーブルマナーの本?何だってこんなモンを?」

 

「こんなモン言うなよ。家の本棚に在ったのを持ち出してきたんだぞ?———イッセー、お前リアス部長の実家が大貴族って事を失念してないか?想像してみろ。高級なテーブルに乗せられた見た目も鮮やかな料理の数々、それらを囲うメイドや執事の放つ厳かな雰囲気を!そんな中でお前は『ナイフとフォークは苦手なので箸を用意してもらって良いですか?』とか言うのか?・・・まぁイッセーが周囲の目を気にしないと言うならその本は返してもらっても・・・」

 

そこまで語るとイッセーは渡したマナー本を抱くようにして体に隠して俺から距離を取る

 

「いや!是非とも貸してくれ!付け焼刃でも覚えておきたい!そんな中で食事取ったら絶対に味が分からなくなる!!」

 

「そいつは結構。次会った時にでも返せよ―――それでは皆、また今度!」

 

軽い別れの挨拶をしてその場を後にし、引っ越す前の家のある方に向かって歩いて行く

 

大した距離でも無かったので程無く目的地にたどり着きそこのチャイムを押す

 

“ピンポ~ン!!”

 

すると直ぐに中の人からの反応が返ってきた

 

「は~い!どなたですかにょ?」

 

その言葉と共に現れたのはミルたんだ。さっき押したのはミルたんのアパートのチャイムである

 

「にょ?イーたんだったにょ。おはようだにょ!」

 

凄まじい。ミルたんから放たれる分厚いオーラだが今の自分では彼の力の底をもはや感じ取れない―――昔に比べたら俺は強くなったはずなのにミルたんは恐らくそれ以上の速度で成長してしまったのだろう。一体何処まで天元突破すれば気が済むのか・・・

 

「おはようございます。実はですね、昨日に急遽引っ越しする事になりまして・・・といっても同じ駒王町の中なんですが、遅ればせながら引っ越しのご挨拶をと思いまして」

 

何だかんだで10年以上ご近所さんでトレーニングする時などによく挨拶を交わしてきた間柄なので挨拶するのは礼儀かなと思ったのだ

 

「そうだったにょ!態々ご丁寧に有難うだにょ☆でも、遠くに引っ越す訳でもないなら寂しくないんだにょ♪・・・そうだにょ!ちょっと待ってて欲しいにょ☆」

 

何か思いついたとばかりに家の中に入っていくミルたん

 

何だろう?一応挨拶してそれで終わりのつもりだったのだが・・・

 

すると奥から何かを探すような感じの物音がしてきて、少しすると「あったにょ!」との声と共にミルたんが帰ってきた

 

「コレ、イーたんにプレゼントするにょ☆引っ越し祝いだにょ☆」

 

何やら赤い液体の入った小瓶を差し出してきたミルたん・・・ナニコレ?

 

そんな感情が表に出ていたのかミルたんが説明してくれた

 

「何年か前にイーたんがこの前連れて来てくれたお兄さん達とケンカして怪我をした時にイーたんの怪我を治したスッポンさんの生き血だにょ!覚えてないかにょ?」

 

ああ!あのフェニックスの涙的なアイテムの!・・・というかまだ残ってたの!?

 

でも考えてみればそもそも怪我をしなければ使う機会も無いし、ミルたんが怪我をする姿が想像つかんからな

 

「その、良かったんですか?こんな高価(?)な物を頂いてしまって・・・」

 

「問題無いにょ!ミルたんにはあの時イーたんを回復させた慈愛と抱擁のミルキー(ミルキー・ヒーリング・ハグ)があるから大丈夫だにょ☆あれから行き先で怪我をしている子がいたらミルたんが真心を籠めて抱きしめて上げてるんだにょ♪」

 

ああ・・・あの抱き絞め回復技・・・ミルたん、見事に技として昇華させたんですね

 

今までに一体どれだけの人々が犠牲になったんだろう?犠牲者第一号の俺としては決して他人事ではないんだが・・・

 

「そ・・・そうでしたか・・・では、コレは有り難く頂戴いたしますね。それでは失礼します」

 

「これからもよろしくだにょ~☆」

 

想像するのが恐くなってきた俺はそそくさとその場を後にした

 

その後俺はミルたんの家を出てから前の家の近くにあった林の中に移動した

 

一般人に見られないように周りに誰も居ないことを確認して裏京都に座標を定めて転移していった

 

 

 

 

 

 

 

転移して行った裏京都はいきなり八坂さんや九重の居るお屋敷!・・・・とは流石に無理なので転移ポート的な使われ方をしている広場に転移し、そこからは徒歩で向かっていく

 

悪魔と似たような感じで基本的に夜に活動する妖怪の住む裏京都は当然というべきなのか、基本的に夜に設定されている

 

勿論本物の夜に比べたら効果は薄めのようだが、夜でなくとも暗がりというだけで十分力を発揮できる妖怪も多いみたいだ

 

江戸時代位の街並みでそこかしこで色んな姿の妖怪たちが居るのはもう慣れた

 

首が長かったり、首が飛んでたり、首が無かったり、首しか無かったりと首一つとっても妖怪は多種多様だ・・・向こうの屋台で酒を飲んで談笑してる骸骨たちとか飲んだ酒は何処に消えているのかとかって疑問はもう持たない事にした

 

途中に在った『土産屋・化け猫亭』とかに売ってるマタタビ煎餅とかマタタビ甘納豆とかマタタビ八つ橋とか帰り際に買って帰ろうかな?

 

暫く歩いて大きな鳥居を抜けた先にある蒼い灯りで彩られた屋敷にたどり着き、門番の狐の妖怪に取り次いでもらって中に入る

 

少しの間、客間で待っていると案内役の人(妖怪)に「八坂様がお待ちです」との事で屋敷の奥に向い、部屋に通された―――中に居るのは何時ぞやと同じく八坂さんと九重、お付きの天狗の方だ・・・というか大体このメンバーである事が多いんだよな。この面子なら多少砕けた喋り方も出来るし、その辺りを考慮してくれているのだとも思うけど

 

「お久し振りです。八坂さん、九重」

 

軽く挨拶を入れてから腰かけると二人も挨拶を返してきてくれた

 

「うむ!こうして直接会えてうれしく思うぞイッキよ!」

 

「お久し振りですイッキ殿、前にお会いしたのは花見の時でしたね」

 

確かに、実は2年に進級する前にも会っていたりする。九重と時折会う為にちょくちょく京都には来ているので言うほど久しぶりではない

 

「3大勢力の間で和平が結ばれた事は此方でも大きな話題となっております。それと、大々的に発表された訳ではありませんが黒歌殿の手配が解かれたとか・・・こちらはもしやイッキ殿が手を回したのではありませぬか?」

 

「はい。コカビエルやケルベロスと戦ったり、それとダメ押しで会談の場で白龍皇と戦ったのが良く響いたみたいです」

 

「それは何よりなのじゃ!これで黒歌殿を縛るものも無いし、小猫殿も黒歌殿と大手を振って一緒に居られるのじゃろう?」

 

九重が耳と尻尾をピコピコと動かしながら自分の事のように喜んでいる

 

「そうだな。それと九重は小猫ちゃんとは通信越しでしか喋った事は無かったけど、今回の会談の一件で俺と九重の事もバレた事だし、良かったら一度俺の家に来てみるか?」

 

通信と言っても立体映像的な事も裏では普通に出来るから顔合わせはある意味終わってるし

 

「良いのか!?どうじゃろう?母上!」

 

目を輝かせる娘の姿に苦笑しながらも八坂さんが答える

 

「そうじゃな。今、3大勢力は各方面に対して和平の申し入れをしておる。関西は反対する者も少ないので早ければ盆の辺りには正式に和平を結ぶ予定じゃ。その後であれば問題無いかの」

 

九重は八坂さんの実質的な了承を得て、さらに上機嫌になる

 

少々単純かも知れないが、アレだけ喜ばれれば此方も何だか嬉しくなるものだ

 

「そうそうイッキ殿、一つ確認しておきたいのじゃが・・・」

 

「はい?何でしょうか?」

 

「黒歌殿とは何処まで進んだのじゃ?」

 

ちょあ!?何いきなりぶっこんで来てるんですか八坂さん!?

 

「イッキ殿が黒歌殿の為にそれだけ働いたのじゃろう?私が黒歌殿の立場ならそのまま勢いに任せて押し倒す所なのじゃが・・・」

 

ええい!この人も大概性に関して寛容だよな!娘の前でする話か?コレが!

 

「何と!イッキと黒歌殿はついにそこまで!?キスはしたのか!?そ・・・それともそのまま、ち・・・契りを結んだり!!」

 

「ストォォォォップ!!契りとかいくらオブラートに包んでもまだ九重が口に出すのは早いぞ!」

 

「そう恥ずかしがらずとも好かろう。昔であれば11~13歳で結婚などざらに在ったでの。具体的に言えば生r———」

 

「待ってください、八坂さん!次!次の話題に行きましょう!!」

 

開幕早々親子でエロトークに引っ張り込もうとするのはマジで勘弁してくれ

 

「ふむ。しかし、まだイッキ殿には質問に答えて貰ってないのじゃが・・・致し方ない。ならばイッキ殿と黒歌殿は一夜の夢を結んだものと認識する事として―――」

 

「キスまでです!まだ学生なので子供はせめて高校卒業までは待ってもらう予定です!!」

 

気付けばもはや、なりふり構わず全力で叫んでいる自分が居た―――多分此処でハッキリさせておかないと絶対に今後滅茶苦茶面倒になる・・・今でも十分振り回されてるけど

 

「そこまでハッキリ決まっておるなら問題なさそうじゃの。さて、このまま他愛の無い話を続けていきたい所じゃが、今回イッキ殿を京都に呼んだ理由について話そう」

 

先程までと違い"ピンッ"と張った空気を醸し出す八坂さんに合わせてこちらも姿勢を正す

 

「今回の一件。まず分かり易く端的に話すとじゃな・・・」

 

さらに目を細めて一旦言葉を切る八坂さんの様子に俺も知らずと喉を鳴らす

 

 

 

 

 

 

 

『九重ファンクラブ』の暴走じゃ!!

 

 

 

 

 

・・・・・はい?

 




一体いつからシリアス展開があると錯覚していた?


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第三話 やっぱり、愉悦部です!

最近家の水道からほんの少しだけど水漏れがぁぁぁ!!


何かよく分からない単語を八坂さんが言い放ち、逆に俺は完全に思考停止していた

 

「八坂様。流石にそれではイッキ殿に何も伝わりませぬぞ」

 

「まぁそうじゃろうな。では、順を追って説明しよう。イッキ殿は九重の婚約者じゃ、それはつまりまだ正式に婚姻を結んでいる訳では無いという事。イッキ殿が婚約者となる前から九重には幾つもの裏の妖怪の有力者の家から婚約、見合いの話が入ってきておった」

 

成程、確かにそれは理解できる話だ。八坂さんは日本三大妖怪の一角だし、関西を治めてもいる。純粋な力にしろ、権力にしろ、それらを手に入れたいが為に九重に自分の息の掛かった婚約者を宛がおうというのは感情面は別にしたら合理的とさえ言えるだろう

 

「ふん!そのような者達の事など知らぬ!私はイッキ以外と一緒になる気などないのじゃ!皆、欲望が透けて見えるしの―――酷い者じゃと母上よりも遥かに年上の者すら居ったのじゃぞ!」

 

ああ、昔の貴族とかで時々見る死にかけの爺さんと幼女の結婚とかそんな感じか・・・それは確かにイヤにもなるよな

 

「そんな中で九重の婚約者となったのはイッキ殿のみ、その上イッキ殿は人間だからダメと言い出す者も現れる始末での・・・まぁ、あやつらからしてみればイッキ殿が例え妖怪であったとしても適当な言いがかりを付けて、自分の所の婚約者候補を押し付けようとしておったのじゃろうが」

 

難癖何て付けようと思えば幾らでも付けられますからね

 

「そこまでであればそのような戯言は無視しても良かったのじゃが、婚約者候補から弾かれた一部の者たちがまずイッキ殿を追い落とそうと結託して皆を扇動し始めたのじゃ『非力な人間が九重の婚約者となろうとしている。弱い者が上に立っても良いのか!』とな」

 

「全く!イッキが弱いなどとよく言えたものじゃ!あやつらはイッキの実力を知らんのか!?」

 

九重が憤ってくれるが、八坂さんは首を横に振る

 

「事実、知らんのじゃろう。土蜘蛛との戦いは精鋭部隊が土蜘蛛の所に突入した後で解決したように見えたじゃろうし、それ以外でイッキ殿が京都に来る時は戦う機会など無かったからの。三大勢力の間で起きた戦いもわらわ達はイッキ殿から聞いて知っていても、他の者達にはまだまだ情報が届いておらん―――そもそも、このような器の小さい策を練る輩は絶対にイッキ殿が上だと口で言っても認めんじゃろう」

 

「全くもって嘆かわしい限りです!第一、八坂様の決定にそのような形で異論を挟もうなど、この儂が事が済み次第主導した者どもに可能な限り罰を与えてくれましょう!」

 

おお!天狗さんがなんかやる気だ!なら事後処理は彼に任せよう

 

「それで八坂さん。俺はどう動いたら良いのでしょう?」

 

態々呼びつけたという事はおおよその方針は既に決めてあるんだよな?

 

「うむ。イッキ殿は今通っている学園で悪魔の方々と仲が良いのであろう?ならば『悪魔の世界は実力主義』といった言葉を聞いた事はないかの?———妖怪の世界も悪魔の世界ほどではないが似たような風潮が在るのじゃ。もっとも戦う力だけでなく、例えば幸運を呼び込む座敷童など、それなりに例外が居るがの」

 

幸運チートですか・・・落第騎士のキャラにも確かそんな奴が居たっけな。死ねと念じるだけで相手の心臓が前触れなく止まっちゃったりする幸運が起こるみたいなヤバい能力だったけど

 

「そこでじゃ、一度高まった熱を治める為にもイッキ殿の力を示すのが一番分かり易い手段なのじゃよ。勿論、権力で押さえつける事も可能じゃが、この先、下手に侮られたままの状態が続けば何処かで要らぬ面倒を誘発しかねないからの」

 

「それはつまり、その婚約者候補たちを全員叩き伏せろという事ですか?」

 

何とも原始的な・・・つい最近リアス部長が似たような事をしたか

 

「確かにそうじゃが、それだけでは無い。言うたじゃろ?そやつらが皆を扇動したと―――正直に言って扇動した者たちは皆小物じゃ。良識と見識を持っておる者たちは娘がイッキ殿を慕っておる事もイッキ殿の実力が高い事も分かっておるから無駄に婚約話を持ってきたりしなかったからの。じゃから例えイッキ殿と婚約者候補の戦いを扇動された者たちに見せても、そこには根性無しの姿が映るだけじゃ」

 

おおう!かなり辛辣ですね八坂さん。実は結構怒ってます?・・・当然か。自分のひざ元でそんな訳の分からない騒ぎを起こされたらな・・・

 

「じゃから希望者は全員参加とする事にした!・・・案ずるな。工作員として手練れが入り込まぬようその場にいた者たちのみの参加で既に別の場所で待機して貰っておる。イッキ殿にはこの者達を全員倒してもらいたい」

 

下手にお家同士のパワーバランスとか約束事とかをどうにかしろと言われるよりは気は楽だけど、本当に力こそ正義!な解決方法だな!

 

「ま・・・まぁそれで良いなら引き受けますが」

 

圧倒的な力量差が出やすい悪魔や妖怪という種族だからこそって感じだ

 

しかし、それだけなら『九重ファンクラブの暴走!』なんて表現をするにはちょっと足りない感じがするんだけど―――今の話だけだと中心になってるのは欲に目がくらんだ婚約者候補たちみたいだしな・・・?

 

「引き受けてくれるか、それは有り難い。だが一度勝つだけでは駄目じゃ。あやつらはしつこいからの、可能ならこの機会にその心をへし折っておきたい。つまりは何日か時間を用意するのでその間に可能な限り叩き潰して欲しいのじゃ」

 

そこまでしないといけませんか、八坂さん。後顧の憂いを無くす気満々ですね・・・具体的に言えば相手の精神を物理でへし折るんですね

 

「基本的にわらわの許可した者しか出入りできぬ特別性の舞台(空間)を用意し、そこで戦ってもらう事になる。一時間後にイッキ殿を向かわせると向こうに通達しても良いかの?その間に候補の者達の資料を渡しておくからの」

 

・・・顔を覚えて念入りに甚振れという事ですね

 

「分かりました。お任せください」

 

口元を引きつらせながらも返答すると此方が意図をくみ取ったのが分かったのか、八坂さんは妖しい笑みを浮かべていた

 

 

 

 

 

 

あれから天狗さんに予め用意されていた候補者たちの資料を貰い、あの部屋を後にして今は客間で資料を読んでいる・・・とはいえ簡単なプロフィールのようなモノだし、扇動なんて馬鹿な真似を実行したのは5人だけだったみたいなので、しっかりと内容を覚える必要も無いのだが

 

「うへぇ!九重の言っていた遥かに年上ってコイツか!?もう見た目完全に爺さんのよぼよぼ狸じゃねぇか!」

 

何がとは言わないが犯罪だろう・・・一応他の候補者たちは皆成人前後で固めてあるのにな

 

「そうじゃろう!いくら何でもふざけ過ぎじゃ!そ奴は京都の表と裏の両方の商いで富を得ておる奴での、金の力で婚約の話を母上の所までねじ込んできたようじゃな」

 

九重が俺の向かいの席で不機嫌さを隠しもしないで文句を口にしている

 

マネーイズパワーシステムですか・・・大人げないな

 

そう考えていると九重が立ち上がり俺の後ろから首回りに抱きついて来た

 

「まぁそこはイッキが勝つから心配はしておらんのじゃ!私も習い事が在るからずっとという訳にはいかんが後でイッキの応援に行かせてもらうからの!」

 

屈託のない笑顔で言われたら引き下がれんな。気合を入れていくとしよう

 

それから時間に為るまでは九重とまだ通信では話していなかった会談の話を話題にして(神の不在とかは話せなかったが)時間を潰していると天狗さんがやって来た

 

「イッキ殿、そろそろお時間です———姫様もお稽古の時間ですぞ」

 

「分かりました。直ぐに向かいます」

 

「むぅ、分かったのじゃ」

 

九重は不満そうだが普通この年で稽古、勉強の類が一から十まで好きな子なんて居ないよな

 

少しだけ乱暴に九重の頭をワシャワシャと撫でて「行ってくる」と告げると、彼女も少し機嫌を直してくれたのか「うむ!」と元気の良い返事をくれた

 

それからまた八坂さんの元に行き、妖術で特設フィールドに転送してもらった

 

 

 

 

 

 

たどり着いた先に広がっていたのは一面のススキ野原だった

 

少し強めの黄金の月明かりに照らされた風景は正直ずっと眺めていたい位だ・・・おおよそだが300は超えていそうな数の妖怪がこっちをギラギラした目で見つめていなければだけど―――マジでこれを全部相手にするの?思えば候補者以外の相手の数は聴いてなかったな

 

でもこれ相手を殺したら勿論ダメだよね?正直この数相手に手加減して制圧するとか凄く面倒なんだが流石に殺しは無しだろう

 

そんな風にげんなりとしていると資料で見た5人が一団の前に立った

 

「ふん!人間風情がこのような事で俺の時間を使わせるなど!」

 

「然り、まだこの後この5人の中で俺様が一番伴侶として相応しい男だと証明しなければならないのだ。とっととくたばって貰おうか」

 

「全く、脆弱な人間が妖怪に敵うはず無いというのに、八坂殿は何をお考えなのか」

 

「もしやすると我らのような真に妖怪の未来を想い、行動する者を篩にかける策やもしれぬな」

 

「この老骨が出るまでも無いの。井の中の蛙の争いはお主らで勝手にやっとくれ」

 

う~む。いっそ清々しいまでの見下しっぷり。何だか旧魔王派の連中に近いモノを感じるな

 

俺も無言で殴りかかるのも芸が無いので前口上として適当に挑発しようとしたのだが、その前に後ろに控えていた妖怪たちが騒ぎ出した

 

「なにぃ!?『伴侶』とはどういう意味だ貴様らぁぁぁ!!」

 

「そうだ!九重ちゃんは皆の九重ちゃんなんだよ!お前らこの婚約を阻止するとしか言ってなかったじゃねぇか!!抜け駆けしようとは不逞な奴らだ!」

 

「九重ちゃんのふっくら頬っぺたは俺たちが愛でるんだよぉぉぉ!!」

 

「ふさふさ尻尾の感触を想像するだけでご飯10杯の価値が在るんだ!それを独り占めしようとは、テメェら全員ぶっ殺すぞ!!」

 

「九・重!」

 

「く・の・う!」

 

「KU・NO・U!!」

 

「KU・NO・U!!」

 

「KU・NO・U!!」

 

「KU・NO・U!!」

 

「KU・NO・U!!」

 

加速度的に不満の声と九重コールが膨れ上がり、そのまま物理的に雪崩の如く妖怪たちが押し寄せてきた

 

「「「「「!!?・・・・・・・・・・・!!」」」」」

 

“ぷちっ”

 

候補者たちは何かを喚いていたようだが一瞬で人波に消えていった

 

あっるれぇぇぇ?あいつら味方同士じゃなかったの?・・・というかこれは『候補者たちを叩き潰す』という依頼を果たせたって言えるの?むしろ勝手につぶれたんだけど・・・成程、暴走とはこういう意味か。扇動していたはずの奴らが完全に(物理的に)呑まれていったな

 

叩き潰すのは・・・期限は何日か取ってあるという話だし次の機会で良いか―――終わってしまった者達よりも今は向かってきている者達に意識を切り替える

 

奴らが手にしている武器は木刀の類だったり、刃挽きされた剣だったり、槍の代わりに棍棒だったりと一応殺傷能力は抑えたものになっているが、だからって殺す気で攻撃を加えたら普通は死ぬからね?君たち

 

それに中には武器など持たずに生まれ持った鋭い爪とか巨大な牙が武器の奴も居るし、八坂さん危機管理がちょっと杜撰じゃないですか!?

 

取り敢えず大量の気弾をばら撒き数を減らそうとするが後から後から気絶した仲間を踏み台にして距離を詰めて来る!それに向こうも向こうで炎やら風やらの遠距離技を放ってくるので大半が空中で誤爆してしまうのだ

 

そうなると最後は肉弾戦だが相手は大体中級クラスの力だ。下手に高い闘気を纏って殴ればマジで爆散しかねない・・・かと言って闘気の出力を弱めればこっちが普通にダメージを受けるし、コレなんて縛りプレイ?

 

内心愚痴を吐きながら突き込まれた棍棒を軽く右に避けて懐に入り、衝撃で吹っ飛んでいくように相手の気を乱しつつ掌底を放つ―――兎に角近寄らせない事を前提にして乱戦に入っていった

 

そしてかなり長い時間戦っているとフィールド全体にドラの音が聞こえ、その後すぐにフィールドに雨が降り始めたと思ったらいきなり転移した

 

転移した先に在ったのは趣はあるがそこまで大きい訳でもない感じの一軒家だ

 

「ハァ!・・・ハァ!・・・ここは?」

 

荒い息を整えながらも疑問に思っていると九重がその家から出てきて、俺の手を掴んだ

 

「イッキ!待って居ったぞ。さぁ先ずはシャワーが在るから軽く汗を流すとよいのじゃ、着替えもあるしの。その後昼餉にしよう!」

 

「いや九重。その前に此処は何処?急に跳ばされたんだけど・・・」

 

「ああ、此処はお主がさっきまで居た空間と隣り合って作られた休息用の空間じゃ。指定された時間になったらイッキとその他をそれぞれ別の休息場所に転移するよう設定されておるのじゃ!」

 

成程、最後のドラの音は時を知らせるチャイムであの雨は狐の嫁入りによる強制転移か

 

それから案内された風呂場で汗や土埃などを流し、用意されていた服に着替えて良い匂いを頼りにそちらに向かうと、ちゃぶ台の上に食事が用意されていた

 

2人分の食事があり、既に座っていた九重の向かい側に俺も座る

 

「昼の休息の時間は90分だそうじゃ。そこに時計が見えるじゃろう?」

 

確かに、今は短針が12を長針が4を指してるな。残りは70分か・・・

 

「じゃが、先ずは頂くとしよう。折角のご飯が冷めてしまっては勿体ないのじゃ」

 

「それもそうだな、なら「頂きます!」」

 

 

 

 

ご飯は美味しかった。何でも幾つか簡単なモノは九重が作ったらしいから驚きだ

 

「九重は料理も出来たんだな。何と言うか九重はお姫様だから、そういった方面は疎いのかと思ってたよ。認識を改めないとな」

 

「むぅ、それは偏見なのじゃ。私は将来守られるばかりでなく、時として前に立つ必要もあるからの。一通り生活に必要な技術は身に付けておくべきなのじゃよ」

 

そっか、裏の世界では才能の有無というのは決して馬鹿に出来ないからな。それこそ将来『九尾』クラスでなければ対処出来ない事案が発生しないとも限らないのか

 

「それはそうとイッキよ。此方に転移してきた時に思っていた以上に消耗しておったみたいじゃが、そんなに手ごわい相手が居ったのかの?」

 

「そうだな。今回の件の候補者たちは俺が何かする前にやられたから集まった奴らが相手だったんだけど、気を乱しても遠くに吹っ飛ばしても骨が折れるぐらいに打撃を加えても直ぐにまた起き上がって乱戦に加わってくるから全然終わりが無くてさ」

 

アレは妖怪じゃない。アンデッドとかリビングデッドとかゾンビとかその辺りだろう。あの執念だか怨念だかは一体何処から来るんだ?

 

全方位から絶えず攻撃がやって来るから捌き切れないモノは闘気を高めて防御する事で対処していたんだけど、そうなるとオーラの消耗が激しくてスタミナがガンガンと削れていったからな

 

「それはまた大変じゃったの。どれ、まだ四半刻程時間は残っておるし、少しでも体力の回復に努めるべきじゃろう―――本来は食べて直ぐに寝るのはあまり褒められた事ではないが、少し横になってはどうじゃ?」

 

「それもそうだな。悪いけど少し横になるか・・・」

 

そう言ってそのまま畳に仰向けに体を預ける。すると九重が俺の頭のすぐ横に座ってきた

 

そのまま俺の頭を持ち上げて自分の膝の上に乗せる

 

「九重?膝枕なんて何処で覚えてきたんだ?」

 

「馬鹿にするでない!むしろ膝枕を知らぬ方が珍しいじゃろう!・・・その、母上が男はこうすると喜ぶと此処に来る前に言っておったのでな」

 

ああ、八坂さんの入れ知恵ですか・・・絶対に内心ニヤニヤしながら助言したな

 

九重も自分でやっておきながら恥ずかしそうだし、確かにこの顔を見たらニヤついてしまいそうだ

 

何と言うかこう、保護欲的なモノを掻き立てられる感じだ

 

「ありがとな、九重」

 

逆さまに見える九重の頭を"ポンポン"と叩いて礼を告げ、そのまま少しの間他愛のない会話を続けて時間が過ぎていくのを待った

 

遠くでドラの音が聞こえて刻限となり、俺はまたススキ野原に転移して行った

 

 

 

 

 

 

「ぶっ殺せぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

殺せ

 

「殺せ!」

 

殺せ!!

 

「殺せ!!!」

 

『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』

 

午前中ボコボコにしたはずなのに何だか皆さんさらに殺る気に満ちてるんだけど・・・何で?

 

雄たけびを上げながら再び向かってくる百鬼夜行の皆さん―――最前列に候補者たちの姿が一瞬見えた気がするけど直ぐにまた人波に消えていった

 

恐らく彼らだけは最前列に転移するように転移の設定がなされているんだろうけど、そのせいで今はまた潰れたカエルのように為っているのだろう・・・もはや口上も何も無しに存在を喰われてしまっているな

 

それから再びの乱戦。相手の攻撃を時に躱し、時に一瞬だけ顕現させた神器で払い、時に弾いて一人一人倒していくのだがこいつ等『痛みなんか知るか!』と言わんばかりに襲ってくる。中には午前の戦いで腕の骨が折れたのか添え木と包帯で固定してある腕を全力で叩き付けてくる奴もいた

 

そんな状況に内心恐々としながらも一日目の戦闘が終了した

 

再び転移で例の屋敷の前に着くとまた九重が出迎えてくれた

 

「お疲れ様なのじゃイッキ。もう湯は沸かしてあるからまずはサッパリして来るとよい。その間に夕餉の支度を済ませておくからの」

 

それは有り難い。何だか状況だけ見れば帰宅後に『お風呂にする?ご飯にする?』みたいな例のやり取りっぽく見えなくもないが、この汚い格好で飯という選択肢は無いだろう・・・三つ目の選択肢?知らないなぁそんな奴

 

その後夕飯を食べ終えて二人でお茶を飲みながらまったりしていると八坂さんがやって来た

 

「八坂さん、お仕事お疲れ様です。夕飯はもうお済みに?」

 

「うむ。先ほど済ませた所じゃ。それで今日はどうだったかの?」

 

「一言で言えば疲れましたね。何であの人たち倒れても倒れても立ち上がってくるんでしょうか?———それとあの婚約者候補たちですが転移する時にせめて両陣営の真ん中位に出すことは出来ませんか?今日一日かけて一度も倒せなかったんですが・・・」

 

戦ってる途中に何度か気絶から復活してるのが見えたけど暴徒と化した彼らの流れ弾でまたすぐ気絶を繰り返していたからな

 

「そうじゃの、最初の内はわらわも様子を見ておったが、アレでは主旨がズレてしまうからの」

 

もう十分ズレてる気もしますけどね

 

「こちらで調整しておきましょう。候補者たち以外は止めたくなったら止めて良いとしておるのじゃが、果たしてあの様子でどれだけ脱落者が出るかは分からぬな」

 

何処か面白がるように告げる八坂さん。それにしても脱落者ねぇ?・・・居るのか?あいつら瞳に狂気が浮かんでたんだが

 

「戦いについては修行と考えて見てはどうじゃ?イッキ殿は特定の相手との模擬戦ばかりで多様な相手と戦う経験は少ないじゃろう?疲労があると言うならそれを何らかの形で補える方法を考え、試す事もできよう」

 

確かにそうだな。あの乱戦を繰り返せばスタミナは多少は付くかも知れないけど根本的な解決とは言いづらいし、もっと効率のいい方法が在るならそれに越したことはない

 

「そうじゃイッキ!黒歌殿はどうなのじゃ?イッキと同じ仙術使いの彼女が扱う術でヒントになりそうなのはないのかの?」

 

九重が提案してくれるが俺は首を横に振る

 

「仮に黒歌だったら仙術じゃなくて妖術の毒霧で痺れ毒とかを振りまいて終わりだろうからな。仙術も空間を操る術の応用で重力操作の地形効果を付与できるみたいだけど俺はそこまで会得してないし―――俺が黒歌より上だと自信をもって言えるのは闘気の練り上げや自己回復とかの身体操作くらいだから」

 

俺って仙術使いと言う割に結構物理面に寄ってるんだよな―――空間も認識阻害の結界を張ったりとかは出来るようになったけどそれ以外はまだまだ修行中だ

 

「むぅ、ままならんの」

 

「時間は在るみたいだし、ゆっくり考えていくさ」

 

「さて、わらわはそろそろお暇しますが九重はどうする?流石に参加者のイッキ殿だけを本邸に招く訳にもいかんのじゃが・・・」

 

「それならば私はイッキと此処に居るのじゃ!今回の件は少なからず私という存在が招いた事態とも言えるしの。イッキの世話は私がするのじゃ!」

 

「いや九重、別に世話なんて―――」

 

「よくぞ言うた!その独占欲、それでこそわらわの娘じゃ!男は噛り付いてでも離すでないぞ!」

 

もうやだこの親子・・・黒歌もそうだったけど、行動がもう捕食者のそれだもん

 

それから八坂さんは「後はお若い二人での~♪」とそそくさと帰って行った

 

とは言え、そもそもイヅナの通信でよく話しているし目新しい話題と言っても今日の乱闘騒ぎくらいしかなかったので適当に備え付けてあったテレビを見ながら二人で笑いあったりしていると九重が今度は胡坐をかいていた俺の上に腰かけてきた

 

「おお!此処も中々座り心地が良いのう♪」

 

う~む。九重のこういう行動をみているとやっぱりまだ子供って感じがするな。ドキドキすると言うよりは、ほのぼのするって感じだ・・・後、九重の6本のふさふさの尻尾が凄いな

 

全力でモフりたい!!

 

でも、黒歌や九重のような獣系の妖怪にとって尻尾を触るのってどういう認識になるんだ?お尻を撫でまわすのと同義とかだったら不味いしな・・・

 

「・・・・ッキ!イッキよ!どうしたのじゃ?心ここに在らずと言った感じじゃったが」

 

おっといけない!つい深く考えてしまっていたようだ

 

とはいえそこまで気にする必要はないのかな?今も九重が俺の胡坐の上に座ってる関係で割と全面的に尻尾の感触は堪能できてるし・・・黒歌はツルツルとふかふかの割合は7:3くらいだったけど九重はふかふかにステータス全振りしてる感じだ―――小猫ちゃんはどんな割合なんだろうか?

 

それからまたテレビを見つつ九重のふかふか(×6)を堪能して癒されたり、トランプや将棋などで遊んだり、九重の妖術を披露してもらったりして過ごした

 

「じゃあ九重、また明日な。お休み」

 

「うむ!お休みなのじゃ♪」

 

昼間の乱闘とは打って変わって夏休みらしいのんびりとした時間を過ごし、俺と九重はそれぞれの寝室に入り眠りについた

 

次の日の朝・・・と言ってもこの空間は基本夜なので時計を見ての判断だが目を覚ますと同じ布団に九重が居た―――それも何かジト目でこっちを見ていらっしゃる

 

何か不機嫌じゃない?

 

「おはようなのじゃイッキ・・・それで、そろそろ私の尻尾を放してくれぬか?」

 

言われて気付いたが、どうやら九重の尻尾に纏めて抱きついていたみたいだ

 

「あ!・・・ゴメン!でも何で俺の布団に居るの?後なんでそんなに不機嫌そうなんだ?」

 

慌てて放すと共に不機嫌そうな理由を問うと逆に恥ずかしそうにしながらも答えてくれた

 

「その・・・夜に偶々目が覚めての。一度殿方と一緒に寝るというのを体験してみたくての。それでコッソリ忍び込んだのじゃ―――ただ、今日は早めに起きて朝食をイッキに振舞おうと思っておったのじゃが、こうして尻尾を掴まれてしまっては抜け出す事もできんでの」

 

九重は「折角張り切って作ろうと思っておったのに・・・」とどうやら不機嫌というよりは拗ねてしまっているようだ

 

この九重の女子力(女子の腕力に非ず)の高さは凄いな・・・そう言えばずっと一緒に居た黒歌はどう何だろうな?今まではずっと隠遁生活だったからそういうのを発揮する機会は無かったし、流石に修行中の山の中でのサバイバル飯とかはノーカウントだろう

 

それはそれとして・・・

 

「良し!ならお詫びに今日の朝食は一緒に作るか?二人でやれば遅れを取り戻せるだろう?」

 

「むぅ、しかし今日もまた頑張るイッキを朝から働かせるなど・・・」

 

「それくらいで疲れたりしないさ。それに誰かと一緒の作業ってのはそれだけでも中々楽しいものだからな、手伝わせてくれよ」

 

この先ずっと九重にご飯やその他を色々準備してもらってたら不味いだろうしな―――主に世間体的な意味で

 

 

 

 

所変わって台所にて

 

「秘儀!空中野菜切り!!」

 

ちょっと今ハッチャケてます

 

「おお!凄いのじゃ!あんな出鱈目な切り方で綺麗に切れておる!」

 

少し離れた所で見て貰っていた九重が拍手しながら褒めてくれる―――包丁を気で強化した上で俺の身体操作技術をフル活用すればこの程度の芸は出来るようだ

 

九重に「イッキは料理は出来るのかの?」と聞かれたので少しパフォーマンスを踏まえて野菜切りを披露していた―――九重にはどうやら合格点を貰えたみたいだ。もっとも、二人で料理をするならパフォーマンスは危ないのでやらないけどな

 

そんなこんなで二人で仲良く朝食を作っていった

 

 

 

 

 

 

「「ご馳走様でした(なのじゃ)」」

 

「普通に料理したはずなのに、何だか何時も以上に美味しく感じたのじゃ!」

 

朝食を食べ終え、九重はキャンプで作るカレーは無駄に美味しい理論的なものに感動している

 

まぁ彼女の立場的に家臣と一緒に作る事はあっても友達と作るといったような経験は多分無いはずだから新鮮なのだろう・・・途中「母上に教えてもらってのう。こ・・・こうやると男は喜ぶのじゃろう?」と煮っころがしをいわゆる『ア~ン』されたのは恥ずかしかったが・・・九重の行動の陰に八坂さんが一々フレームインしてくるな

 

「それは良かった。なら、今度も一緒に作るか?」

 

「う~む。それも良いが一度一から十まで私の作った料理もイッキに食べてもらいたいのう」

 

"むむむむ!"と悩む九重の姿を微笑ましく思いながら「なら、時々手伝うよ」と提案すれば「それは良い考えじゃ!」と肯定してくれた

 

少しすると八坂さんがやって来て挨拶を交わし、本題に入る

 

どうにも一般参加者に棄権者はゼロ人らしい・・・何が彼らを駆り立てるんだろう?

 

疑問に思いながらも時間に為るまで九重とまったり過ごし、また転移して行った

 

 

 

 

 

 

昨日と少し変わって両陣営の中間あたりに既に見た目も気力もボロボロの婚約者候補たちが居た

 

俺はそれを確認した瞬間彼らに向かって走り出す―――もたもたしていたらまた昨日の二の舞だ

 

俺から見て右側二人の顔面を鷲掴みにして後頭部から地面に叩きつける

 

どうやら情けなくももう気絶してしまったようだ・・・掴んだ二人をフィールドの端の方に放り投げ、残る三人も同様に処理していく―――後は戦う場所にさえ気を配れば巻き込まれる事も無いだろう

 

それからまたあの不死の軍団と戦っていくが四方八方からの攻撃をその内捌き切れなくなって、後ろから左の脇腹に向けて誰かが刃を横なぎに振るうのを気配で感じる・・・昨日までの俺ならその瞬間に闘気を高く練り上げる事で防御していたが今日は違う!

 

一応既に対応策は考えてきたのだ

 

闘気を高めるのではなく攻撃が当たる箇所に周囲の気を一点に集める事で防御する

 

落第騎士の黒鉄一輝が世界最強の剣士の攻撃を魔力放出で防いだのと同じ理屈だ―――これなら練り上げる闘気の総量を変化させずに防御する事だって可能だ!

 

”バギィッ!!”

 

「う゛ぼぇぇぇ!!?」

 

防御個所の狙いを外した俺は闘気が薄くなった場所に一撃を叩き込まれ大ダメージを受けた!

 

俺の馬鹿野郎!何で最初にあの黒鉄一輝(バケモノ)と同じように『相手の刃筋』に合わせたピンポイント防御を実戦しようとしてるんだよ!?普通そこは某ハンター漫画の【凝】の防御とか、試すにしても腕とか分かり易い場所で試すべきだろうが!

 

「ハッハァァァ!今のは効いたみたいだな!それが俺たち全員の心の痛みの発露だぁぁ!」

 

「畳みかけろぉぉぉ!!」

 

痛みで動きが止まった俺を狂気を目に宿した奴らが見逃すはずも無く、更に攻撃が苛烈になっていく。もはやフレンドリーファイアなんてお構いなしだ

 

「お前ら本当に何なんだよ!?確かに俺は九重の婚約者だけど、ここまでお前らに恨みを向けられる覚えはないぞ!?」

 

普通ボコボコにされた上で一夜明ければ冷静になる奴が現れても良いと思うんだけど!?

 

怒りの感情を持続させるのは難しいとか心理学者さんたちも仰ってなかったっけ!?

 

「ふざけるな!分からないとは言わせねぇぞ!昨日は我らが九重ちゃんに膝枕!さらには足の上に乗せながらあのふわふわ尻尾を堪能してただろうが!」

 

「今朝だって恋人同士みたいに一緒に朝食作ったり!あまつさえ『ア~ン♡』とか!あ゛・・・あ゛・・・あ゛あ゛あ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

ちょっと待て!何故それを知っている!?それとお前、最後まで言い切る前に発狂すんな!

 

鈍くなった動きを闘気を高めて防御に専念すると共に、脇腹の回復を図っていると八坂さんから音声のみの通信が入った

 

≪ふむ。思ったよりも早くバレてしもうたのう≫

 

その一言で大体察する事が出来た―――やっぱり貴方か!

 

「八坂さん!?端的に聞きますけどあの屋敷ってカメラ回ってます!?」

 

≪うむ。だが安心するのじゃ。流石に生中継はしておらん。わらわ自身が編集したモノをあ奴らの屋敷に映しているだけじゃからの≫

 

「いや『だけ』って!そもそも何故そんな事を!?」

 

目の前のバーサーカー共の怒りの源泉はそこか!?

 

そりゃあ、むさ苦しい男どもが自分たちをボコボコにした男が美少女に『ア~ン♡』されてる映像を叩きつけられたらブチ切れるのも分かるけど!

 

≪そやつらも娘が好きで暴走しておると言うのならいずれ気づかねばならぬのじゃよ・・・九重(アイドル)は何時しか卒業(けっこん)するものなのじゃと!真に九重(アイドル)の幸せを願うならば涙を呑んで送り出さなければならぬとな!!≫

 

「それとあいつらを煽り立てるのにどんな関係が在るんですか!?」

 

拳を振りぬいた衝撃波で前方の敵を宙に舞わせながらも問い返す

 

≪今はまだ怒りが勝っているようじゃが、続けていれば心身ともに疲弊していく。そんな中で娘の幸せそうな笑顔を見せられ続ければ何のために戦っているのか分からなくなるじゃろう?———自分たちの目指す娘の幸せなど、とっくの昔に手に入れたモノであると理解した時、同時に自分たちのやってる事が娘の笑顔を奪う行為であると他ならないと気づくのじゃ。その時、そやつらは悲嘆にくれて心が折れる。そうなればもう逆らわぬじゃろうし、上手くやればそやつらの狂信を忠心に変えて手駒にできるという訳じゃ!≫

 

通信の向こうで八坂さんの笑い声が聞こえる

 

え・・・何それエゲツないんですけど・・・

 

≪そうそう、九重にはカメラの件は伝えないで欲しいの。出来るだけ自然体の映像を届けた方が良いしの・・・なに、娘には膝枕を始めとした色々な甘々展開を吹き込んでおいたから後は九重の勇気しだいでイイ絵が撮れるじゃろう≫

 

この人、幸せという名の毒で相手の心を穢す気だ!

 

今まではひっそりと八坂さんの事を愉悦部とか思ってたけど、正直九重や俺を揶揄う程度だし冗談のつもりだったのに今はハッキリと某外道マーボー神父を幻視したぞ!?

 

≪そういう訳じゃから、後は頼んだぞ?婿殿(・ ・)

 

そこで通信は切れた・・・きっとお釈迦様の掌の上ってこんな感じなのかな?目の前に居る今も俺を叩き潰そうとしている狂信者どもが途端に哀れに見えてきたんだけど・・・

 

まぁ納得・・・出来てるかは自信が持てないけど理解はした

 

もうあまり相手の事情は考えずに、こいつ等には修行のカカシ替わりになってもらおう

 

そう思い、今度は【凝】の防御を意識した修行の為にも俺の方から突撃していった




九重くらいの少女との甘々展開が通常の恋愛パートより数段難しい!!


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第四話 おじさんの、『きんのたま』だからね!

団三郎狸:表と裏で商売を営む狐を騙し殺す狸妖怪(wiki参照)


あれから既に2週間、初日を入れて15日たった

 

八坂さんの見立てではもう脱落者が現れるとの事

 

向こうの屋敷もモニタリングしている八坂さん曰く、個人個人では既に「何やってるんだろう?俺?」と暗い目をして呟いてる人たちが出てきているみたいだ―――一人でも脱落したら後は雪崩の如く瓦解するだろうと

 

今朝それを聞いたばかりの月明かりの下、ススキ野原は踏み荒らされ、辺りには戦塵が立ち込めている

 

今の俺は正面から振り下ろされた棍棒と剣の先を顕現させた右歯噛咬(ザリチェ)で絡めとりながら地面に突き刺して武器を封じ、右側に深く傾いた勢いのまま左足で攻撃してきた奴らの顎を回し蹴りの要領で打ち抜く

 

地面に突き刺さった右歯噛咬(ザリチェ)を抜くのも面倒なのでそのまま放棄し半回転しながら右手から気弾を放ちながら態勢を整えると今度は左から横なぎの剣が迫ってきた・・・前回はぶっつけ本番の高等テクの防御を実戦しようとして失敗したが今回は左歯噛咬(タルウィ)の刃と刃の隙間に剣戟を挟み込み、そのまま思いっきり捻ってやると剣は半ばから折れた。そのまま神器を消し、握った左手のまま相手の顔面に拳を叩き込む

 

八坂さんの見立て通り最初の頃に比べると全体的に勢いが衰えてきているので捌き切れない攻撃というのも減ってきたのだがやはり全部という訳にはいかない

 

丁度今拳を叩き込んで伸び切った左腕にサーベルタイガーみたいな牙を持った奴がその二本の巨大な牙を突き立ててきた

 

“ガギィ!”

 

牙が食い込む二か所に闘気を集中させて防御する。この2週間で試す機会は山ほど在ったのでこの防御法も中々馴染んできたと思う・・・指先とか分かり易い場所への攻撃なら某落第騎士さんの真似事も可能だ

 

「悪いな。俺は猫は好きだけどお前にじゃれつかれるのは遠慮する・・・ぜ!」

 

気合と共に俺の腕のせいで閉じ切っていなかった口の中に気弾をぶち込み引き剥がす―――そのまま二本の牙を両手で掴み、風車のように振り回して辺りの敵を蹴散らした後で一番敵が固まっている場所めがけて投げつけた

 

え?そもそもの元凶だったはずの他の婚約者たちはどうしたって?それは・・・

 

 

 

 

 

☆婚約者たちの日常

 

一日目:暴徒に呑まれて一日終了

 

二日目:初手、後頭部叩き付け。以降気絶から目覚める度にヤクザキック

 

三日目:顔面からの地面叩き付け。以降ヤクザキック

 

四日目:腹パン。以下略

 

五日目:腹への膝蹴り。以下略

 

六日目:ラリアットからの顔面ストンプ。以下略

 

七日目:ジャーマンスープレックス。以下略

 

八日目:脳天かかと落とし。以下略

 

九日目:エルボー。以下略

 

十日目:サマーソルトキック。以下略

 

十一日目:昇竜拳。以下略

 

十二日目:筋肉バスター。以下略

 

十三日目:獅子連弾(NARUTO)。以下略

 

十四日目:秘伝体術奥義・千年殺し(NARUTO)。以下略

 

今日:北斗百裂拳・以下・・・

 

途中から少しストレス発散を含めてネタ技に走ってる感が否めない・・・勿論俺は北斗百裂拳なんて習得してないから適当に仙術で気を乱しまくりながら指で突きまくっただけだけど

 

それと最初に巻き込まれないようにと放り投げたのは意識が戻った時に俺が手を下す為だ

 

でないと最初の一回で終わってしまうからね―――気絶から覚めたのを感知したら一瞬で戦線離脱して蹴り(仙術付き)を入れまた皆の所に戻るといった感じだ

 

八坂さんの話によれば最初の内はまだ『此処から出せ!私を誰だと思っている!』とか元気が在ったみたいだが、最近はもう夜にまともに寝ることも無く明日が来るのを恐怖し、部屋の隅でガタガタ震えて神様(天照?)にお祈りしたり、ひたすら懺悔したりしているみたいだ

 

まぁ元々300を超える人数でたった一人の人間を相手にリンチしようとしていた彼らにくれてやる慈悲など無いから別に良いのだが―――少しは九重ファンの根性を見習ったら良いのに

 

「! おっと!」

 

どうやらまた彼らが目覚めたようだ。気絶されたままでも困るから攻撃の最後に仙術で軽い気付けを施してるから疲れ果てた体でもずっと眠ったままではいられないからな

 

婚約者候補たちの元に人垣を飛び越えて向かうと、途中で彼らの一人が空中に閃光弾のようなモノを打ち上げた―――こんなアクションは初めてだな・・・まぁ何かやる前に気絶させてたのかも知れんが

 

たどり着くとどうやら先ほどの閃光弾を打ち上げたのはあの老狸らしい

 

八坂さんには徹底的に心を折れと言われてるし、今回は趣向を変えて話を聞いてみるかな

 

幸いここ最近ずっとヤクザキックをかましているからか、皆さんも俺が制裁を加える時は静観してくれるし、少しくらいなら話せるだろう

 

「た・・・頼む・・・もう許してくれ!か・・・金なら幾らでも払う!だからせめて儂だけでも解放しておくれ」

 

開口一番買収してきたよコイツ・・・しかも『儂だけ』ときたか―――やっぱり潰そう

 

「ほう?許してと言ったがそれは何に対してだ?しっかりとお前の口から聞きたいな?」

 

「わ・・・儂が皆を扇動してお主を蹴落とそうとした事じゃ・・・」

 

それに対して俺はコイツの頭を軽く叩く、するとスグに気分悪く吐きそうになった。今のは仙術で相手の平衡感覚を揺らしたのだ。きっと今遊園地のコーヒーカップを全力でぶん回した後のような感覚に襲われているだろう

 

「それだけか?」

 

コイツは俺だけでなく九重や八坂さんにも迷惑を掛けているしな・・・それ以外にも色々やってそうな感じだし、適当に追い詰めてみますか

 

「う゛ェ・・・儂は婚約者の座から降りる・・・今回怪我した皆の治療費も儂の所からだそう」

 

腹に親指を突き入れる。今度は酷い腹痛で臓腑が捩れる感覚をプレゼントだ。ついでに睡眠と覚醒の両方の効果を付与する・・・いわゆる自白剤と同じ感じだ。これで饒舌になればいいが

 

「あ゛ぐぅぅ!や・・・八坂殿にも謝罪とお詫びの品を送る!」

 

九重への謝罪が入ってないな・・・

 

軽い気弾を造りコイツの男の尊厳にぶち当てて疑似金的を叩き込む

 

「さっさと全部口にしないと次は潰すぞ?」

 

何処がとは言わないがきっと彼は今一番の痛みを受けている場所を連想したのだろう

 

青い顔を更に青くして喚き始める―――痛み・恐怖・疲労・酔い・眠気・覚醒(興奮)。様々な要素が組み合わさった結果、九重への謝罪ではなく全く別の言葉が綴られた

 

 

 

 

 

「八坂の夫を毒殺した事もじゃ!!」

 

 

 

 

「・・・は?」

 

周囲の者達も静観していた為か先ほどの叫びはよく響いたみたいで驚愕の気配が伝わってくる

 

だが既に目の焦点の合ってない此奴は絶句した俺達の反応に目もくれず更に捲し立てた

 

「儂は富を得た!商人としての権力も得た!ならば後は力と権力者としての権力だけじゃ!・・・力については諦める他なかったが権力ならばあの小娘を傀儡にすれば良いじゃろう?だがその為には下手にあの小娘以外の子供を作られたら困るのじゃよ!じゃから儂がのし上がる為に殺してやったんじゃ!小娘がある程度京都の霊脈を制御できる技量を身に付けたらあの女狐も殺すつもりじゃったわ!」

 

そんな事を言えば確実に死刑だろうに、もはや自分が何を言ってるのかも分かってないのだろう。一瞬このまま殺してしまおうかと思った所で八坂さんから音声通信が入った

 

≪イッキ殿・・・出来るだけ詳しく状況を知りたいのじゃ≫

 

底冷えするような押し殺した声を聞き、少し冷静さが戻って来る

 

「分かりました・・・それで?毒殺と言ったが具体的にはどんな方法だ?」

 

「儂の所の酒に毒を混ぜて贈っただけじゃよ」

 

そんな方法で?八坂さんの夫が死んだというなら色々と調査はされたはずだし、そんな見え見えの手法ではスグに足がついてしまうはずだ

 

訝しんでいると何が面白いのか気持ち悪い笑みを浮かべて詳しく話し出す

 

「何百年も昔な、運のよい事に猛毒を持つ(ちん)という妖怪の赤子を手に入れたのじゃ。鴆の羽は水に溶ける無味無臭の毒、暗殺にはこの上無く適した毒であった。しかし、例え無味無臭でも儂が送り付けた酒という証拠が残る以上、酒の出所ををいくら擬装しても何時かはバレてしまう。だがある時気づいたのじゃよ、毒はあくまでも妖力の発露、赤子や幼子の間は半日も経てば毒の力を失ってしまうのじゃと・・・だが、それだけでは相手が死ぬ前に毒が消えてしまうと思うじゃろ?じゃが、相手が妖怪ならばその者の妖力を糧に弱い毒が体内に残留し続けるのじゃ―――結果、病気のように徐々に衰弱死してゆくのじゃよ!」

 

成程、証拠の酒は調べる頃には無毒化し、本人の妖力を糧にするという事は多分血を抜いて検査とかしても調べる頃にはやはり無毒化するという寸法か・・・だけどコイツ今気になる事を言ったな。『何百年』だと?

 

「つまり八坂さんの旦那さんの毒殺に使ったのはその妖怪の子供って事か?」

 

流石に何百年も子供時代が続く妖怪って事はないよな?

 

「子供?クックック!そんな勿体ない使い方をするものか!大人の鴆の毒は真の暗殺には向かんからの、屋敷の地下牢に繋いで無理やり子供を産ませ、用済みとなった大人の方は処分しておったからの、もう今のあ奴が何代目の鴆なのか儂も把握しておらんわ!・・・あまりやり過ぎても問題になるからの、数十年に一度、ほんの数人死んでもらう程度の事じゃよ」

 

「そうやって関西屈指の大商人にのし上がったのか?」

 

「ヒッヒッヒ!その通り、どうじゃ?この儂、団三郎狸の下に来ればあんな小娘でなくもっと良い女も金も融通してやるぞ?それで今回の件は水に流そうではないか」

 

どうやら喋ってる間に薬(痛み)が切れてきたみたいだな―――今まで候補者たちは抵抗するでもなく、はた目にも心が折れていたから戦場から離したうえで後遺症の残るような攻撃はしなかったけど、此奴相手なら解禁で良いだろう

 

この団三郎とかいう狸の胸の辺りに掌底をたたき込む

 

「うべぇぇぇ!!・・・げぇほ!ゴホ!」

 

体内に通した衝撃を元に片肺を潰した。本来仙術でここまで物理的なダメージは与えられないがそれは相手が同レベルならの話だ―――潰れた肺の影響で文字通り血反吐を吐いているコイツの背中に手を当てて潰れた肺を強引に修復する。無理やり繋ぎ止めたような感じだからもうただの治癒ではアーシアさんでも治せないだろう

 

ついでにもう片方の肺も同様に処理していく

 

血反吐を吐き、体が空気を求めるのに肺が空気を受け入れられないのはさぞかしキツイ状態だろうな。少し待つと”ヒュー、ヒュー”とか細い息遣いが聞こえてきたので髪を掴んで無理やり顔を上げさせる

 

ちゃんと恐怖を思い出してくれたみたいだな―――後聞き出すべき事と言えば・・・

 

「あんたの商店は何処まであんたの直属なんだ?裏に関わってる奴らの記録とか弱みとか纏めた資料が在るんだろう?」

 

大商人というからには何も知らない末端の店とかも多いだろうしな

 

「そ・・・それは・・・」

 

この期に及んでまだ口ごもるので取り敢えず地面についていた手の小指を折る

 

「ぎゃああああ!!し・・・資料なら此処に在る!何時も肌身離さず持ち歩いている!」

 

そういって異空間から妖術で一枚の葉っぱを取り出し地面に置くと”ポン!”と小気味いい音と共に葉っぱが資料の山に代わる―――成程、これなら術に長けたやつが盗み出そうとしてもどれが目当てのモノなのか分からないのだろう。多分コイツの持つ異空間には沢山の葉っぱが入ってるんだろうな

 

「八坂さん」

 

≪うむ≫

 

八坂さんの名前を呼ぶと早速資料が転送されていった

 

ついでだ。このまま全部終わらせてしまおう

 

話を聞かれないように一度こいつを気絶させ、念のために遮音結界で包んでから再び八坂さんに思いついた作戦を伝える―――その際にイヅナを通して八坂さんに別途連絡を取り、八坂さんの音声をフィールド全体に聞こえるようにしてもらう

 

≪そうか、それで一網打尽にしてしまおうというのじゃな?じゃが、この資料の解析もあるし、作戦も詳細を詰めねばならんから一日待ってくれぬか≫

 

「分かりました。ネズミ一匹逃がさないようにしましょう」

 

≪しかし、そうなると人数を搔き集めねばならんの。だが大きな動きをしたら幾ら素早く動いても気取られるかも知れん。どうしたモノじゃろうか・・・≫

 

すると俺と八坂さんの会話を偶々(・ ・)この場で聞いていた九重ファンの皆さんが「八坂様!どうか俺達を使って下さい!」と都合よく 有り難くも名乗り出てくれた

 

「八坂様の旦那様を暗殺とか許せねぇ!」

 

「つまりは九重ちゃんも悲しませたって事だろ?二重の意味で最悪だ!」

 

「京都に巣くう害獣をぶっ殺してやる!」

 

これで兵隊はそれなりに確保できたな―――とはいえ皆が怪我人なのを何とかしなければ

 

「八坂さん。俺はこれから彼らの治療をしますので、彼らの配置など細かい事はお願いしても良いですか?」

 

それなりに京都に来ていると言っても流石に地の利があるとは言えないからな

 

その辺りは関西を統べる御大将に任せる方が良いだろう

 

八坂さんの了承を得てから狸を含めた候補者たちは屋敷の檻に隔離してもらい皆に向き直る

 

「聞いての通りだ!恐らく明日はデカい出入り(ケンカ)になる!だがお前らはボロボロだ!よって今から全員の傷を可能な限り早く俺が治す!」

 

ボロボロにしたのは俺だって?そんな昔の話は忘れたな!

 

こいつ等全員最初はゾンビの類だったのに今では皆包帯に包まれてない所を探す方が難しいからな―――一体いつの間にミイラにジョブチェンジしたんだか・・・

 

「敵は九重と八坂さんを悲しませた奴らだ!———まさか万全の状態で挑まなくてもイイなんて奴は居ないな!?」

 

ノリと勢いで全員に発破を掛ける・・・まぁ既に頭(狸爺)は潰れてるんだけど

 

『ウォォォォォォォォ!!』

 

「九重にいいとこ魅せたいか!」

 

『ウォォォォォォォォォォ!!』

 

「今なら八坂さんも付いて来るぞ!」

 

『ウォォォォォォォォォォォォ!!』

 

「だったら俺に付いてこい!」

 

『ウォォォォォォォォォォォォォ!!』

 

「九重との婚約を認めるか!?」

 

『ウォォォォォォォォォォォォォォ!!?』

 

「この戦いが終わったら九重と八坂さんの親子に直接礼を言って貰えるように提案してやる!もしかしたら握手会にもなるかも知れないぞ!(望みが叶うとは言ってない)」

 

『ウォォォォォォォォォォォォォォォォ!!?』

 

集った妖怪たちは皆両手を天に掲げて叫び、獣型の妖怪の遠吠えがススキ野原に響き渡った―――握手会は兎も角、直にお礼を告げる機会は作って貰おう・・・そうでないとこの熱は治まらないかもしれない

 

それから300を超える人数で輪になって手を繋いでいき全員の気を操り自然治癒力を限界まで高めていく。これだけの人数の気を同時に操るとなると大変だがイヅナに4~5人おきくらいに憑依してもらって中継器(ハブ)生命力(オーラ)のバッテリー替わりになってもらった

 

そのまま2時間ほどで昼となり皆には沢山ご飯を食べて身を清めてサッパリした上で英気を養ってこいと告げて屋敷に転移した

 

 

 

 

 

 

転移した先では何時ものように九重が屋敷の前で待っていてくれていたのだがその表情は暗いものだった

 

「・・・イッキ。話は聞いたのじゃ」

 

九重が言うには稽古の休み時間にイヅナが急に飛び出していったので後を追いかけると八坂さんの話声が聞こえてそこから知ったらしい・・・迂闊だったな。イヅナは初めは八坂さんに渡したけど、今では基本的に九重と一緒に居るんだから急に飛び出して行ったら普通追いかけるよな

 

「ゴメン。嫌な話を聞かせたよな」

 

「いいや、私は京都を治める母上の娘。いずれにせよ知らされていたじゃろう・・・もっとも、事が済んだ後だったかも知れぬがな―――それに、薄情かも知れぬが私は物心が付く前には父上は居なかったからの。今は悲しみよりも母上を嘆かせた事への怒りの方が強いかも知れん。とはいえ、既にあの者は捕まっておるがの」

 

確かに、既に主犯は潰して残るは掃討戦だけだからな・・・

 

「九重は今回どうするんだ?」

 

「私は屋敷で指揮を執る母上と一緒に居る予定じゃ。先も言ったが既にあの者は捕まっておる。態々大将の母上が出向くまでも無いからの」

 

全員で攻め込んで本拠地の屋敷をもぬけの殻にする訳にもいかないしな・・・

 

「イッキは戦いに参加するのじゃろう?」

 

「偶然とはいえあの狸爺の悪事を暴いたのは俺だしね。それに、今回の一件で俺と九重の婚約が対外的にも認められる事になれば九重のお父さんは俺にとっても義父になるからね、決して他人事じゃないさ」

 

・・・あ。改めて口にしたらなんかムカついて来た・・・もっとイタぶるべきだったか

 

内心ムカムカしていると目の前の九重が何処かソワソワした感じで顔を赤らめていた

 

「う・・・うむ。しかしアレじゃな。イッキが私との婚約に関してそうハッキリと口にするのは珍しいの」

 

「黒歌にも『ハッキリとした態度を取れ』って言われたからな。今更だが九重は俺で良いのか?」

 

そう言ったら今度は逆にジト目で見られた

 

「本当に今更じゃの。何時も言っておるじゃろう?私はイッキが良いと!」

 

それを告げた九重はとびっきりの笑顔だった

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、私に何か手伝える事はないかのう?母上の傍で待機とは実質何もしないようなものじゃからな。無論、出しゃばりたいという訳では無いが・・・」

 

「なら、美味しいお昼と他愛のない会話を頼むよ」

 

「そんな事で良いのかの?」

 

いつも通りを注文したら首を傾げているな

 

「あの狸爺の話を聞いてやっぱり気分が良いとは言えないからな。そういった『普通』ってのが一番心が落ち着くもんなんだよ―――九重はどうだ?正直明日は消化試合だ。それでもずっと嫌な気持ちを引きずったまま過ごしたいか?」

 

「それは嫌じゃ!あんな者の為に何時までもくよくよしてられんしの。では何時ものように先にシャワーを浴びるがよい。その間にお昼を用意しておくからの!」

 

流石にいきなり割り切って切り替えろとは言えないがそれでも多少なりとも吹っ切れたのかパタパタと小走りで休息用の屋敷の中に入っていった

 

それからまた皆でススキ野原で円となって仙術での回復を図り、夜(時間が)になる頃には全員の傷を大まかながらも回復させることが出来た

 

皆のオーラを回復に使ったのでかなり疲労困憊といった感じだが一晩寝たら体力も回復するだろう

 

例の狸爺に関しては八坂さんが信頼のおける部下の人たちと資料の解析に全力を費やし、他にも色々と細かい所を無理やりに吐かされたようでもはやボロ雑巾となっているらしい

 

その上で俺が考えた事だが『お前の部下を売り渡せばこれ以上傷付けないで関西からの追放で済ませてやる事も考えてやるぞ?』と囁いたら悪事に関わる直属の配下たちに緊急招集の回状をせっせと廻してくれたようだ———もっとも、死刑は確定事項だが・・・

 

『九重との婚約が上手くいったので今後を話し合いたい』と言った内容だが今まで散々あくどい手段を取ってきたことを知っている配下たちは特に疑問に思うことなく招集に応じる返事を寄越してきた・・・クソッたれな精神に対して部下の信頼が厚い狸である

 

翌朝、多くの妖たちにとっては仕事終わりの夕方ともいえる時刻に狸爺の屋敷に配下の者達が集まったと監視していた者から連絡が在った。商人の集まりなので流石に全員集合とはならなかったが大多数は集まってくれたのでこの場に来なかった幹部の下には八坂さんの部下が別動隊として向かう手はずだ

 

京都の地脈・霊脈を制御する八坂さんの力があれば遠隔で転移封じの強力な結界を展開する事位朝飯前らしい―――九重ファンの皆さんと一緒に狸の本拠地の屋敷に転移して同時に強力な結界が張られた

 

如何に強力な結界と言ってももしかしたら術に長けた用心棒とかが居るかもしれないのでやるべき事は一つ、迅速に制圧する事!

 

「いくぞお前ら!俺の後ろに付いて来い!」

 

『ウオォォォォォォォォォォ!!』

 

百鬼夜行を引き連れて正門を盛大に殴り壊して中に入り片っ端から仕留めていった。一応用心棒的な奴らもいたが精々が上級悪魔クラスだったので特に問題なく殴り飛ばす

 

それ以外は基本的に非戦闘員ばかりだったので九重ファンの皆さんも次々と制圧していった

 

大方の相手を気絶させ捕縛して一か所に纏めている中、俺はと言うと地下牢の前に居た―――牢屋の中では九重と同じくらいか少し年下の翼を持った妖怪の男の子が鎖で繋がれていた

 

もっとも、牢屋と言ってもちゃんとしたベッドも在るし、鎖もかなり長いから牢屋の中での自由はそれなりに確保されてそうだ・・・成程、こうして大切に且つ逃げ出さないように飼われて(・ ・ ・ ・)いたと・・・実際見ると胸糞悪いな!

 

ともあれその子を保護して屋敷内の気を探り、一応九重ファンの皆さんに屋敷中を外側から剥がすように破壊してもらって確かめた後、八坂さんに制圧完了の報告を入れた

 

どうやら他の場所も無事に制圧出来たらしい・・・とはいえ仮にも大商人を潰したので事後処理が非常に面倒らしいが、流石にそっちは手伝えそうにない

 

保護した子については暫くは監視の意味も含めて八坂さんの所で預かるそうだ

 

この子の毒で夫が死んだ事についてもそれをこの子のせいにして恨むほど筋違いではないから心配するなと云われた・・・後々聞いた話だと言葉は喋れるものの読み書きの類は出来ないらしく、年の近い九重が面倒をよく見た為(毒対策は万全に)弟が出来たようだと喜んでいたらしい

 

その日は八坂さんも忙しくて時間が取れなかったようで話も出来なかったが次の日に何時もの部屋に同じメンバーで呼び出された

 

「よく来てくれたのう。昨日は功労者のイッキ殿に対して労いの言葉も掛けられなくて申し訳なかったのじゃ」

 

「いいえ、むしろ事後処理をまるで手伝えない自分の方こそ申し訳ないです」

 

「フフ。ではお互い様という事にしておくかの」

 

日本人名物の一つ、『お互いに延々と謝り倒す』という事にはならなかったようだ

 

「さて、実はまだまだ立て込んでおるでの。早速本題に入らせてもらうのじゃ。イッキ殿を京都に呼ぶ時に依頼がしたいと言うたじゃろ?当然、報酬もある・・・というよりもこの報酬をイッキ殿に渡す口実でもあったのじゃ」

 

「口実・・・ですか?」

 

つまりはどんな言い訳を用意してでも俺に渡すつもりであったと?

 

「うむ。先ずは見てもらった方が良いじゃろう」

 

そう言って八坂さんは自分の胸元に手を突っ込んで一つの巾着を取り出したけど、そこから出す意味ありますか!?着物なら普通に袖口とかから出せば良いじゃないですか!?

 

渡された巾着を手に取る・・・温かいのは無視しよう

 

「ほれ、中身を取り出してみるといい」

 

そう促され巾着を逆さにして振ると黄金色に輝く玉が出てきた。大きさはビー玉くらいだ・・・黄金なら確かに価値はあるのかも知れないけどビー玉程度の大きさではたかが知れてるよな?コレが絶対に渡したかった報酬?

 

「それはの、わらわが昔まだ京都を治めておらなかった頃に大陸からの旅の商人を偶然助けた時にお礼として貰ったモノでな。金丹と呼ばれる不老長寿の秘薬じゃ!」

 

「ええええ!!そんな貴重なものをお礼に貰ったんですか!?」

 

豪胆過ぎない?その商人とやら!!

 

戦慄していると八坂さんが当時の商人とのやり取りを語ってくれた

 

 

 

 

 

 

 

―――おおよそ千年前

 

 

 

 

「アイヤー。助かったアルよお嬢さん。まさか崖から落ちて動けなくなるとはネ」

 

「何、偶々通りがかっただけじゃ。それにしてもその訛り、お主大陸の出か?」

 

「その通りネ!見聞を広める為に海を渡ってみたアルが言葉を覚えるのにも苦労したヨ!お嬢さんには何かお礼をしたいけど今手元に在るのはコレくらいネ」

 

「それは・・・金か?」

 

「私の家に昔からある家宝ネ!と言っても商売してるとこの程度の金は普通に手にできるし、コレをあげるヨ!」

 

「良いのか?家宝なのじゃろう?」

 

「ご先祖が何を思ってコレを大切にしまっていたのかも分からないアルし、命の恩人に渡す理由としては十分アル!それに実はこの『きんのたま』はもう一つ有るネ!何せ『きんのたま』だからネ!二つあるのは当然ヨ、なんと言ってもオジサンの『きんのたま』だからネ!!」

 

 

 

 

 

 

―――現代

 

 

「とまぁ、そういう経緯でその『きんのたま』を貰ったのじゃ―――初めの内はあの商人と同じようにただの純金かと思っておったのじゃが、獣の妖怪であるわらわが僅かに感じ取れる程度じゃが薬の匂いがしてのう。色々と伝手を辿って調べた結果、中国の最高峰の霊薬の一つ、金丹であると分かったのじゃよ」

 

うん・・・回想に在った微妙なセクハラ発言は置いておくとしてその商人は本当の価値を知らなかったんだな。まぁもう一つ持ってたらしいし別に良いか・・・

 

「それと、その金丹は実はそこまで貴重ではないのじゃよ」

 

「何故ですか?コレを手に入れる為に争いが巻き起こっても可笑しくないと思いますけど・・・」

 

「それがそうでもない。無論普通の人間にとっては貴重じゃが、わらわ達妖怪は元々寿命が長いから妖怪の世界では大した価値を持たんのじゃ。加えて魔王のベルゼブブ殿が作り出したあの悪魔の駒(イーヴィルピース)のお陰でこの薬の価値は大暴落したからの」

 

ああ・・・確かに悪魔の駒(イーヴィルピース)は王を除いて15人分は悪魔に出来るからな

 

転生する皆が人間という訳でもないが昔に比べたら不老長寿は手が届きやすい位置に在るのか

 

そりゃ価値も下がるわ

 

「コレって普通に飲み込めば良いんですか?」

 

「うむ。だが良いのか?それを絶対に使えとはわらわには言えん。寿命だけとはいえ、人間から逸脱するのじゃぞ?無論、九重の為にもそうしてくれれば有り難いが・・・」

 

「大丈夫です。どの道仙術を極めていけば似たような事は出来るみたいですし、そちらに修行の時間を掛ける必要がなくなるのは此方としても有り難いですからね―――それに九重も黒歌も、それに多分小猫ちゃんも・・・皆人間じゃないですから長い寿命に忌避感もありませんし」

 

先に俺だけ早くに死んだら申し訳ないからね・・・それに悪魔の出生率は極端に低いからそれこそ俺が早くに死んだら子供すら出来ないとか普通に在りうるからな

 

そうして自分でも驚くほどに気兼ねなく、その『きんのたま』もとい金丹を飲み込んだ

 

「!ッツゥゥゥゥ!!」

 

「そりゃその大きさの丸薬を水も無く飲み込めば痛いじゃろ・・・ほれ、水じゃ」

 

八坂さんに差し出された水を慌てて飲み干す・・・うん。今のは俺が馬鹿だったわ

 

そうして聞くところによると悪魔にも匹敵する寿命を得られた俺は盆が終わるまではそのまま京都でお世話になった・・・一度九重の父親の墓参りにも同行させてもらったが

 

「イッキ殿、また何時でも京都にいらして下さいね」

 

「はい。お世話になりました。九重もまたな」

 

「うむ!また今度なのじゃ!」

 

そうして俺は二人に見送られて家に転移していった




まだ夏なので次回は海にでも行ってこの章は終わりにするつもりです・・・というか番外編に近いですね

最初は婚約者たちはそのままフェードアウトするはずでしたが嬲ってる間に『九重のヘイトを稼ぐ為に出した狸が居たよな。良し!キャラを掘り下げて超老害キャラにしよう!』となりました・・・私はあまり先々の展開を匂わせる発言はしない方が良いのかも知れませんね

ただ、『きんのたま』については九重が婚約者になった後辺りから考えてはいましたw


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第五話 桃と、おっぱいです!

前回最後に海に行くと書いたのにそこまでたどり着けませんでした。次回!次回こそは海編を書きたいです!

最初の方の投稿が文字数少ないものが多かったので統合出来る所は統合しました(3/30


京都から転移で家に帰ってきた俺だったがまずはアザゼル先生にメールを送る。一応オカルト研究部の合宿という名目で家を出たから自分だけ先に帰宅するのは不自然だからな

 

メールを送ると直ぐにアザゼル先生から直接電話がかかってきた

 

≪おーう、やっと帰って来たのかお前。あの後別れてから直ぐに『暫く連絡取れません』ってメールだけ一方的に寄越しやがって・・・≫

 

京都に着いてから直ぐに結界の中でしたからね

 

「あははは、すみません。でもお陰で京都の用事もひと段落しましたから」

 

≪何やってたのか聞いても良いのか?≫

 

「詳しくは言えませんが・・・あえて言うなら百鬼夜行大戦したり、百鬼夜行引き連れてカチコミしたり、モフモフしたりしていましたね」

 

≪悪りぃ、サッパリ分からん。まぁいい、なら今から迎えに行くから神の子を見張る者(グリゴリ)に来てもらうぞ。お前さんの能力を一度ちゃんと調べておきたいしな。でないとお前さんを鍛えるにしてもアドバイスの一つも出来やしねぇからよ≫

 

その後すぐにアザゼル先生が俺の家の前に転移して来た

 

「よ~し、荷物はちゃんと持ってるな。なら早速行くぞ!ホレ、この腕輪を付けておけ」

 

「何ですかコレは?」

 

「そいつはお前さんが冥界で無事に過ごす為の腕輪だ。冥界の空気は人間にとっては毒だからな。仙術で防ぐ術式もあるみたいだが一々そんな事するのも面倒だろう?」

 

「有難うございます。でもそもそも俺は冥界で過ごす術式を持っていないですから・・・今度黒歌に教えてもらいますかね」

 

今までは冥界に行く用事なんて何も無かったからな。黒歌は冥界では手配犯だったから近づきたくも無かっただろうし

 

「ああ、そうしとけ。グレモリー眷属と一緒に居るなら今後冥界にはそれなりに赴く機会もあるだろうからな。万が一その腕輪が現地で壊れんとも限らないからよ」

 

確かにな。戦闘の余波で壊れましたなんてのは勘弁だ。そして腕輪を付けてアザゼル先生と共に冥界に転移して行った・・・まさか最初の冥界がグレモリー領ではなく堕天使領とはね

 

たどり着いた先は近未来的なデザインの巨大な建物だった

 

恐らくは研究施設の一つなのだろう

 

「そう言えばアザゼル先生。他の皆は今はどうしてるんですか?」

 

施設の中に入りながら皆の近況を確認する

 

「あいつらは今グレモリーの領地でそれぞれ俺が与えた修行の課題に取り組んでる所だ。もっとも小猫は完全に黒歌に一任してるがな。時々俺も修行の進歩状況を見に行ってるが皆この短期間で成長してるぞ。まぁお前さんも成長してるみたいだがな。ったく、若い芽は本当に成長が早いもんだぜ。———実は明後日には若手悪魔の間でレーティングゲームを執り行う事になってな、あいつらの初戦の相手はシトリー眷属だ。だから修行は取り敢えず今日までって事になる。夜には魔王主催のパーティーに参加して明日は体を休めると共にシトリー戦のミーティングを行い、深夜零時にはゲーム開始だ」

 

おお!まだ生徒会メンバーとは戦ってなかったのか、コレはちゃんと観戦しないとな

 

「レーティングゲームは以前ライザーとの戦いで一度参戦しましたけど、俺はこの先出場する機会はなさそうですね。ゲームが始まる前に皆の激励に行っても良いですか?」

 

「ああ、その方が良いだろうな。———そういやライザー・フェニックスとのレーティングゲームの映像は俺も見させてもらったが笑わせてもらったぞ!あんなに笑ったのはイッセーの奴が禁手(バランス・ブレイカー)に至った時以来だ!」

 

「いやそれ割と最近じゃないですか」

 

「な~に、笑いが多いってのは良い事だ。さて、着いたぞ。此処でお前さんの神器と後あのよく分からん能力を測定するからな。そっちの扉から入ればすぐに専用の服が在るから着替えてそのまま奥に入れ」

 

促されてそのまま扉の奥に行きそこに在った病院で着る服に似た物に着なおして一見何もない白い部屋に入る

 

≪よ~し、準備はいいか?早速始めるぞ≫

 

アザゼル先生の声が通信で入り俺の周りに何十もの魔法陣が展開される

 

≪その魔法陣でお前のバイタルやらなにやら測定していくからな。まずは神器を出せ≫

 

言われて神器を展開し、そのまま待機したり気を巡らせてみたり、用意されたネズミに『報復』の能力を発動してみたりしていった

 

≪よし。一先ず神器のデータはこんなもんで良いだろう。次はお前さん固有の謎能力だな。ちょっと別の場所に転送するぞ≫

 

神器のデータを一通り収集したらしいアザゼル先生がそのまま俺を別の空間に跳ばす―――跳ばされた先はこれまたシンプルなデカいだけの空間だ

 

≪そこはレーティングゲームと同じ仕様の疑似空間だ。じゃあ先ずは『じばく』とやらだな。ホレ、とっとと爆発しろ≫

 

「あの・・・『じばく』ってかなり痛いんですけど・・・そんな気楽に・・・」

 

≪特にその『じばく』が扱い辛いから検証して欲しいっつったのはお前だろう?愚痴言ってないでさっさと“ボカン”とイっちまいな≫

 

むぅ、確かに頼んだのはこっちだったからな。今のは俺が悪かったか・・・

 

「ではいきます!『じばく!』」

 

気合を入れて叫ぶと辺り一面を吹き飛ばす爆発が巻き起こり、俺自身は全身から煙を上げながら地面に倒れる。どういう冗談(ギャグ補正)なのか口の中からも蒸気機関車みたいに煙を吐いてるしな。というか相変わらずメッチャ痛い

 

大音量でキーンとなってる耳にアザゼル先生からの通信がくぐもってる感じに聞こえてきた

 

≪お~い、生きてるか~?実際に目にするとスゲェ威力だな。これを至近距離で喰らったコカビエルには今更ながら同情するぜ。よし!じゃあもう一発イっとくか≫

 

「ゴホッ!もう一発って、割と今でも大ダメージ何ですけど!?」

 

≪心配すんな。それ位のダメージならもう一つ重ねた所で死にはしねぇよ。連続で発動できるかの確認だ。文句言ってねぇで『じばく』しろ『じばく』≫

 

クソ!何時か機会が在ったら今回の件の逆恨みも込めてぶん殴ってやる!

 

「・・・・・『じばく』」

 

掠れた声で再度『じばく』と唱えたが幸いというべきなのか再発動はしなかったみたいだ

 

結局その日はその後何度か『じばく』させられた

 

「色々試してもらったが『じばく』の威力は基本一定のようだな。どうにもお前さんのオーラの最大許容量から得られる推定破壊力を2倍の値で計算するようだ。せめて爆発の範囲がどの位に及ぶのかを確認できる補助具をこっちで作っといてやるよ」

 

「あ・・・有難うございます」

 

今は実験の最後に【一刀修羅】を使ってグロッキーになりながら疑似空間に入ってきたアザゼル先生と話している

 

「まぁ今日はお疲れだったな。ベッドに運んどいてやるから今は寝とけ」

 

お言葉に甘えて眠る事にした

 

 

 

 

 

[アザゼル side]

 

 

 

「寝ちまったか」

 

【一刀修羅】とやらの反動で深い眠りについてるコイツはちょっと警戒心無さすぎじゃねぇか?仮にも俺は胡散臭いとされている堕天使の長なんだがな・・・ってグレモリーの列車の中で爆睡してた俺に言えるこっちゃ無かったか

 

そんな事を想いながら光力でイッキを浮かせてコイツ用の部屋に運んでいき、道すがらイッキの能力について考察する

 

コイツの持ってる三つの能力はそのどれもがただの人間が持っていたとしても大した脅威にならないような能力ばかりだ。だがコイツ自身の基本スペックを練り上げる事によってそのどれもが強力な能力に変貌している

 

【じばく】とやらなんてそこら辺の男子高校生に使わせても精々表の世界の手榴弾くらいの威力にしかならんだろうし、まさかヴァーリの覇龍(ジャガーノート・ドライブ)と渡り合うとかそんな人間がうちに居るもう一人の神滅具(ロンギヌス)使い以外に居るとは思わなかったしな

 

そう、神滅具(ロンギヌス)だ。もしもイッキの奴が何かしらの神滅具(ロンギヌス)や伝説のアイテムを所有していたというのならそこまでの驚きはなかったがコイツは正面から理不尽(ドラゴン)を打ち破ってみせた。グレモリー眷属の奴らもそうだがコイツの成長も想像するだけでも面白そうだ

 

未知の可能性ってのはこの歳になっても心が躍るもんだからな

 

「神の居ない世界で、お前さんらはどんな風に世界を廻すのかね?」

 

どうか面白可笑しい世界にしてくれよ?期待しておくぜ

 

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

朝起きたらアザゼル先生がグレモリー眷属のシトリー戦の前のミーティングにグレモリーの屋敷に行くから一緒に来いと言われた

 

そうして転移でたどり着いた先は豪邸というかお城だった・・・Fateのアインツベルン城とかならタメ張れるんじゃないか?まぁグレモリーは領地だけで日本の本州くらいはあるらしいからこっちの方が断然上なんだろうけど

 

仮にも同盟相手の堕天使の総督のお出迎えなのでメイドや執事の方々がズラリと並んでいるがアザゼル先生は「一々こんなに出迎えなくてもイイっつってんだがな」と愚痴を溢していたが流石にそれは無理でしょうに・・・

 

代表としてグレイフィアさんが近づいてくる

 

「お待ちしておりました。アザゼル様、イッキ様———イッキ様。御当主様もイッキ様に是非とも挨拶したいと仰っておられましたが、今は所用で外出しております。昼食の折には戻られますので宜しければご同席頂けますでしょうか?」

 

わぁお!名門貴族との挨拶!・・・・とはいえグレモリー家の気風ならコレが普通なのかもな。それに俺が九重の婚約者という情報は既に広まってるだろうし、お堅く考えるならむしろ気楽に来てしまった俺の方が問題なのかもね。そこら辺のさじ加減も少しは勉強しないとダメかな?

 

グレイフィアさんの言葉に了承の意を示してそのまま彼女の案内で皆の集まってる部屋に案内してもらう

 

「「よぉ、来たぞお前ら」」

 

俺とアザゼル先生の声がハモる・・・アザゼル先生ならこんなノリで入室すると思いましたよ

 

「アザゼル先生!それにイッキも!先生は兎も角イッキは何で此処に居るんだよ!?」

 

イッセーが驚愕しながらも質問してくる

 

「京都での用事が済んだから昨日は神の子を見張る者(グリゴリ)で色々神器とかのデータを採って貰ってたんだよ。そしたらアザゼル先生からグレモリー眷属とシトリー眷属のレーティングゲームをやるって聞いてな、応援に来たんだ。俺は眷属じゃないけど同じオカルト研究部だしな。それとリアス部長、お邪魔してます」

 

イッセーへの返答と最後にリアス部長に挨拶する

 

「ええ、歓迎するわイッキ。と言っても今夜のゲームが終わったら明後日には帰る予定だからあんまり歓待は出来ないけど・・・」

 

少し残念そうな表情のリアス部長だけど2泊も泊めてもらえるというのは庶民感覚では十分な歓待なんですけどね!う~ん、やっぱりこういう所はお嬢様だよな

 

それから皆がそれぞれの修行の成果を確認し合っている。小猫ちゃんは黒歌の使う魔力・妖術・仙術をミックスさせた術式を中心に鍛えたらしく、三つの内二つまでなら問題なく混ぜられるようになったようだ。三つ同時は出来なくはないが制御に全神経を使わなくてはならないようで実戦ではまだまだ使い物にならないらしい

 

そして最後にイッセーが報告している

 

「現状禁手(バランス・ブレイカー)になるには40秒ほど掛かりますね。その状態も維持するだけなら2時間はいけますけど全力戦闘なら1時間持たないかもしれません」

 

おお!詳しくは覚えてないけどけっこう強くなってない?

 

「成程、短期決戦(ブリッツ)方式ならそこそこには使えるくらいにはなってるようだな。とはいえ、出来れば10秒以内には至れるようになった方が良い。元が弱いお前はそれだけの時間が在れば倒せる奴はごまんと居るからな。報告は以上か?」

 

「いえ・・・例のヴァーリから移植した白龍皇の『半減』の力も試してみたんですけど一応発動はしました。ただ成功確率は一割以下で成功しても失敗しても寿命が削れるので頼れる力とは言い難いです」

 

「まぁそうだろうな。そもそも相反するドラゴンの力を取り込むなんざその場で死ぬ方が普通といえるだけの無茶だ。ましてやそれを使いこなそうというのは、それこそ覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を使いこなすよりも難しいかも知れん」

 

すると話を聞いていたゼノヴィアがイッセーに疑問を溢す

 

「イッセー。成功率一割以下と言っていたが今までに何回その力を試したんだ?それだけ検証したという事は相応に寿命を削ったという事になるぞ?」

 

「「「!!!???」」」

 

リアス部長と朱乃先輩にアーシアさんが特に大きく反応する。祐斗たちも今のを聞いて鋭い視線をイッセーに向けている。イッセーも『余計な事を言った!』といった表情だ

 

「い・・・いや~。検証は必要でしたし、それにもしかしたら寿命が削れるって言っても大したことないかも知れませんよ?流石に俺も多用する気は無いですし、大丈夫ですよ!」

 

だがそんな理屈で皆が納得するはずもなくイッセーに迫っていく

 

「イッセー!私より早く死ぬなんて許さないわよ!」

 

「あらあら、流石にその力の代償を詳しく知る事も無いままでは使用を許可したくありませんわね・・・いえ、そうでなくとも使って欲しくありませんが・・・」

 

「イッセーさん!死んじゃイヤですぅぅぅぅ!!」

 

「イッセー君。流石に僕もそれは見逃せないかな?」

 

「そ・・・そうですよ!どれだけ寿命が削れてるのか分からないって事はも・・・もしかしたら明日にでもイッセー先輩は永遠の眠りに!!」

 

「イッセー!私との子供もまだ出来ていないのだぞ!それに例え子供が出来てもやはりイッセーには生きていて欲しいぞ!2人目、3人目とこさえたいしな!」

 

ギャスパーがさりげにヒデェ予測を立ててるな

 

だが寿命の問題なら今の俺(・ ・ ・)ならある程度分かるかも知れん

 

「イッセー、俺がお前の体・・・寿命を診てやるからこっちに来い」

 

え?俺がイッセーの所に行けば良いって?それは無理だ。何故なら今俺の膝の上には小猫ちゃんが座っていてソファーの後ろからは黒歌が首筋に抱き着いて来ているんだもの・・・この猫又姉妹サンドイッチから俺は動けないんだよ!

 

黒歌は「イッキ成分補充にゃ~♪」と言ってたし、小猫ちゃんは座る前に「黒歌姉様が恋人になったのなら私ももっと積極的にならないと何時かおいて行かれてしまいます」とボソボソと呟いていたし・・・別にそんな事も無いのだが、二人にはイヅナを通して京都での大まかな顛末は話してあるから触発されたのかも知れない

 

初めの内は恥ずかしがっていたが暫くすると完全に背中の俺に体重を預けてきているのが凄く可愛いが・・・もっとも流石に今はイッセーの寿命の方が気になるのか前のめりになっているけど

 

「うっせえええ!!久しぶりに会ったと思ったらそんな滅茶苦茶羨ましい光景を見せつけてくれやがって!お前は敵だ!敵の施しを受ける気なんてねぇんだよ!!」

 

別に見せつけてる訳では無いのだが・・・そして正直に言おう。皆の前でこうしているのはかなり恥ずかしい!最初の内は抵抗しようともしたのだが黒歌は「イヤにゃ♪」と却下されたし、小猫ちゃんはウルウルした瞳で「ダメ・・・ですか?」とか言ってくるんだもの!無理だってコレを拒否するのは!

 

「イッセー、我が儘言ってねぇでちゃんと診てもらえ―――つーかイッキ、お前さんは寿命なんて診れるのか?」

 

「俺もただで京都に出向いてた訳では無いって事ですよ。実は色々あって寿命が一万年くらいに増えましてね。以前までとの生命力の差異から推し量って魂の寿命に関する部分を感知できるようになりました」

 

コレは俺が自身の生命エネルギーを把握するのに長けた仙術使いだからこそ把握出来た項目だ。とは言えあくまでも推し量れるのは寿命の最大値だけ、病気や事故とか不衛生な生活を続けた場合とかまでは分からないが―――それと実はもう一つ嬉しい誤算もあったのだがそれは今は関係無いからな

 

「イッキ先輩、寿命が延びたんですか!?」

 

小猫ちゃんが驚きながら振り向いて此方を覗き込んでくる

 

「ん?ああ、そうだよ。でも詳しい話は追々ね。今はイッセーの寿命についてだ」

 

そうして普段自分が美少女4人に囲まれている事を棚に上げたイッセーがぶつくさ言いながらも俺の前に立ち、その胸元辺りに手を当ててイッセーの生命力・・・魂までに意識を集中させていく

 

「ん~。確かにイッセーの寿命が不自然に減ってるな。イッセー、白龍皇の力は何度試したんだ?誤魔化しは無しだ」

 

「13回だな。11回目で発動してその後試しに2回やっても発動しなかったから」

 

成程、発動率1割以下ってのはそういう根拠か・・・にしてもよくやるよ

 

「イッセーの寿命は大体4%くらい削れてますね。ザックリですが一回の発動で30年くらいは寿命が削れる感じですか」

 

4%というと大した事ないようにも思えるが元が一万年だから既に400年分くらいは削れている事になる。もしもこの先今のままで白龍皇の力を戦闘で使っていこうとすれば1000年2000年の寿命程度一瞬で無くなるだろう

 

それを聞いたアザゼル先生も難しい顔をしながら「流石にそれはリスクが高すぎるな。しかも成功率1割以下ならなおさらだ」と言い、他の皆も同様の意見の様子だ

 

そんな中でイッセーだけは納得できないみたいだ

 

「そんな・・・でも俺は弱いです。ドライグにも歴代でも最低の素質だって言われてます。ヴァーリみたいな強敵と戦っていくなら例えそんな力でも俺には必要な力なんです!」

 

「とは言ってもな・・・イッキ、お前さんの仙術で治療とかは出来ないのか?」

 

「・・・一応出来ると思います」

 

「ホントか!?イッキ!」

 

イッセーが“ずいッ”と顔を近づけて来る―――近い近い!!

 

不自然に減っているを仙術で補填してやれば一応寿命の回復は可能だろう。もっとも仙術で扱う生命エネルギーはその根幹ともいえる魂のエネルギーに比べたら薄味だ。少なくとも今の俺では丸一日掛けても一年分の補填がせいぜいだろう

 

「何だよ。もっと手っ取り早く回復とか出来ねぇのか?」

 

「贅沢言うな!多少なら俺が治してやっても良いがバカスカと自分の寿命を削るような馬鹿野郎なら治療してやらんぞ!」

 

すると背後から抱き着いていた黒歌が会話に割り込んできた

 

「ん~。一応手っ取り早い回復は出来なくはないのよ?」

 

「マジですか!黒歌さん!!」

 

へぇ?そんな方法があるんだ

 

「と言ってもやってあげる気は無いけどね。房中術って言うんだけど知ってるかにゃ?」

 

そっか房中術か・・・って却下だよ却下!!小猫ちゃんもちょっと俯いて顔を赤くしてるし、朱乃先輩も「あらあら」と困った顔をしてるしな!・・・で、当のイッセーは「房中術?」と首を傾げている。何で性欲の権化とまで呼ばれているお前が知らないんだよ!

 

「私たちのような気の扱いに長けた者が性的に一つになる事でより深い所で相手の気を操作したり、分け与えたりする事が出来る術にゃ♪でも私はイッキの恋人だし白音も誰が好きかは言わなくても分かるわよね?」

 

黒歌がそう言うとイッセーも諦めたのか「ええ、まぁ」と返すが頭の中では房中術治療を妄想しているようでだらしない顔をしている

 

「アザゼル先生!俺に可愛くって房中術治療を施してくれる女の子を手配してください!」

 

絶対に此奴目的と手段が逆転してやがる

 

「魂の治療が出来るレベルで仙術が扱えてその上可愛いとか見つかる訳ねぇだろ。そこの猫又姉妹がダメだった時点でその道は絶たれてるんだよ・・・それとも性的に一つになる事が条件ならイッキとでも合体するか?正直オススメはしないがな」

 

「「ふっざっけるなぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

何とんでもない事口走ってくれてんだこの未婚総督は!?こじらせたか!?

 

「いやなに、俺がオカルト研究部の顧問になったからか学園の女子たちに時折質問されるんだよ。イッセーとイッキと祐斗のカップリングはどうなっているんですか?ってな。教師として学生の質問には答えてやりたいじゃねぇか」

 

そんな所で教育者魂発揮しないで下さい!!

 

イッセーと二人でひとしきりアザゼル先生を罵倒した所で本題に戻る

 

「結局、イッセーの寿命を気軽にどうにか出来る方法は無いって事か」

 

まぁそうだな。まともな手段じゃ無理だろう・・・なら、まともでない手段だったら?イッセーなら正直リアス部長のおっぱいでも吸わせておけばなんか乳力(ニューパワー)的な謎パワーで回復しそうではあるが、流石に今の段階でそんな不健全な提案をしたくは無いし、かと言って他に・・・

 

そこまで考えた所で一つ思いついた事があった。正直この考えも大概だが試す程度なら良いだろう

 

「リアス部長ちょっといいですか?」

 

リアス部長に声を掛け、とある物を取ってきてもらう―――少し経ってから部屋に帰ってきたリアス部長は箱を持っていた

 

「部長。その箱は?」

 

アザゼル先生への不満でぶつくさ言っていたイッセーは俺が頼んだ内容を聞いてなかったみたいで質問し、リアス部長は箱をテーブルに置いて蓋を開ける事で答える―――その中に入っていたのは

 

「お・・・おっぱい!」

 

無駄に瑞々しくて艶めかしい、おっぱいとしか形容できない果実が合計6つ入っていた

 

「イッセーの使い魔の竜子は夏休みの間はグレモリーとシトリーの合同研究グループの所で預かってもらっているのよ。実だけでなく竜子本体も研究しておきたいと言う事だったからね・・・それと、この実の名称も決定したそうよ」

 

へぇ!名前決まったんだ。以前パ〇の実と言ったら祐斗にダメ出しされたけど・・・

 

「ピー(チチ)よ」

 

「ぴ・・・ピーチチですか?」

 

「・・・ピー(チチ)よ」

 

何だろう・・・同じ言葉のはずなのに何かが違う―――するとアザゼル先生が関心したように顎に手を当てて意見を述べる

 

「成程な。その果実の形状は一見おっぱい以外にも桃のようにも見える。だからピーチと乳のふたつを合わせてピー(チチ)という訳か。果汁もたっぷり詰まっているようだし、ただ噛り付くだけでなくその先端を軽く噛んで吸い付けばそれはまるで疑似授乳・・・・」

 

アザゼル先生が只管味わい方を考察しているのを余所においてピー(チチ)の一つをイッセーに突き出す

 

「ほら、喰え。この実がどういう過程で実るのかは知ってるだろう?お前なら多分イケるって」

 

「いや何がだよ!!」

 

「つべこべ言わずに食え!」

 

「もぉが!!」

 

イッセーの口にピー(チチ)を突っ込み、すかさずイッセーのオーラを精査していく

 

「・・・マジか。半分は冗談だったのにマジでイッセーの失われた生命力(寿命)が回復していってる!おらイッセー!さっさと全部飲み込め!」

 

イッセーの寿命が回復してるという話に皆が驚いてるが気にせずその回復の度合いを調べていく。結果としてピー(チチ)一個で約100年の寿命が回復するのが分かった―――ヤベェよコイツ、おっぱいの力の変換効率が1を足したら100になるくらいの頭の可笑しい数値をたたき出してるよ

 

ともあれイッセーの無理に減らした分の寿命はピー(チチ)で回復出来る事が実証された

 

何時しかザトゥージさんが『使い魔は主の足りない部分を補ってこそ』と言っていたが、この二匹のおっぱいドラゴンは本当にベストコンビなんだな

 

そんな中イッセーは何かを考え込むようにジッと残りのピー(チチ)を見つめていたが

 

「どうしたイッセー?」

 

「んぁ?ああ、いや、何でもねぇよ」

 

「?」

 

ともあれイッセーは白龍皇の力を使う事の許可を得られたのだった

 

 

 

 

 

 

それから俺と黒歌は別室で皆のミーティングには参加しなかった。アドバイザーのアザゼル先生は兎も角一応グレモリー眷属の初の正式なレーティングゲームだし、相手のシトリー眷属だって内心では応援したからね。遠慮する事にしたのだ。今回は純粋に観客としての立場で応援しようと思う

 

「にゃ~♪イッキも少し見ない間に大分力を付けたみたいね。それに寿命の方も延ばしてくるなんて八坂っちには感謝しないとにゃ~♪」

 

今はソファで黒歌が俺の右側に座り腕に引っ付いてきている―――何処とは言わないけど二の腕が埋まってますよ黒歌さん!

 

「色々あったからな。一応修行がメインじゃ無かったけど、内容はほぼ修行だったし。黒歌自身はどうだったんだ?」

 

「にゃ?私?私はずっと白音の修行をみていたから基礎力の向上くらいだったにゃ。前々から練習していたあの技(・ ・ ・)の為にも必要な事だったしにゃ」

 

「そっか」

 

それでも十分前よりオーラが洗練されているのが分かる。俺の感知能力も上昇しているようだ。修行で四方八方の攻撃をいなすのは目では追い付けないから気配感知がメインだったからな。多分今なら目隠ししながらでも普通に戦えると思う

 

それから時間があったので折角だから黒歌に人間が冥界でも過ごせる術式を習っている中グレイフィアさんから昼食の用意が出来たと告げられ、一旦皆もミーティングを切り上げて全員で昼食を取る。その際リアス部長の両親のジオティクスさんとヴェネラナさんに「リアスが何時もお世話になっている」と言われて恐縮したり、ピー(チチ)が新しいグレモリー(とシトリー)の収入源になりそうだという所でもお礼を言われた。確かにリアス部長を説得したのは俺ですけどね・・・

 

そうして夜、ゲームに赴く皆にエールを送り俺と黒歌はグレモリー家のシアタールームで観戦する事となった

 

結論から言えばグレモリー眷属の勝利であったが終始シトリー眷属の戦略に翻弄されている感じだったな。皆基本的に原作よりもいくらか強いからもっと一方的になったりするんじゃないのか?とも思ってた感は否めないけど考えてみれば小猫ちゃんの成長に触発されてリアス部長が鍛えたなら、ソーナ会長も当然鍛えてるはずだからな。派手な変化こそないが基礎力は両陣営とも原作以上だったのかも知れん

 

「にゃ~、青臭い戦いだったにゃ~」

 

「確かに最後の『王』同士の一騎打ちとかは堅実とは言えなかったけど、まだ青春を謳歌する学生なんだしアレはアレで良いんじゃないか?リアス部長たちからしたら試合に勝って勝負に負けた感じかも知れないけどさ」

 

「何だかその意見はちょっとジジ臭いわよ?まぁでも得られるものが多そうな試合ではあったにゃ」

 

「・・・乳語翻訳(パイリンガル)も?」

 

「・・・何の事だか分からないにゃ」

 

エロに寛容な黒歌でもイッセーの披露した新技はアウトだったらしい

 

因みにイッセーを倒したサジは今回のMVPとしてサーゼクスさんから直々に表彰されたようだ

 

 

 

 

 

翌日、グレモリーの人たちに見送られて人間界行きの列車に俺も乗せてもらい一緒に帰る。一度乗ってみたかったから嬉しい限りだ

 

そんな中でイッセーは宿題相手に格闘していたが・・・夏休みも10日切ってるからね

 

「畜生!木場もイッキも余裕で茶ぁ飲みやがって!お前らは宿題は終わらせたのかよ!?」

 

「「貰ったその日に終わらせたよ」」

 

「ハモッてんじゃねぇ!嫌味か!?」

 

俺は苦手なモノから先に食べるタイプなんだよ。宿題が残ってると心のどこかでそのことが引っ掛かって十全に休みを満喫できないからな

 

イッセーの宿題をしている姿を肴にして和気藹々と過ごし、やっと人間界に到着した

 

列車から降りるとそこには一人の優男の外見をした悪魔の青年が立っていた

 

「アーシア・アルジェント!やっと見つけた!」

 

そう言いつつアーシアさんに近づいてくる

 

「あ・・・あの?」

 

困惑しているアーシアさんに構わず優男は続ける

 

「忘れてしまったかな?・・・無理もない。あの時僕は顔は殆ど隠れていたし、とても落ち着いた状況では無かったからね。でも、この傷は覚えてないだろうか?」

 

そう言って大きく胸元をはだけさせてかなり深い傷跡を見せる

 

「! その傷は!まさか!?」

 

「思い出してくれたようだね。僕はアスタロト家次期当主。ディオドラ・アスタロト。キミに命を救われた悪魔だ。あの日からずっとキミに言いたかった事があるんだ」

 

アーシアさんの前に膝まづき彼女の手を取ってその甲に軽くキスをする

 

「な!なにしやがんだテメェ!」

 

イッセーの叫びを無視して真っ直ぐにアーシアさんを見つめるディオドラ

 

「僕はキミに恋をしてしまった。キミを迎えに来たんだ―――どうか僕の妻となって欲しい」

 

アーシアさんに求婚するディオドラ・・・落ち着け俺、原作で此奴がどれだけのクズでもきちんと裏を取らなければダメだとレイナーレの時も思った事じゃないか・・・結果は黒だったけど

 

ディオドラ以外、不穏な空気が漂う中で俺は今後どう動くかを考えていくのだった




一応今回はちょろちょろと伏線とか意味深な言動とかを意識して書いてみた回でした

ピーチチ食べたらイッセーが女体化とかするかも!とかも思ったんですが原作でアザゼルが性転換銃を造ってったんでネタが被るのでやめましたwww


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番外編 海です!釣りです!花火です!!

水着はOVAとトレーディングカードを基本にしました


冥界から帰って来てから数日、夏休み明けまで指折り数えられるくらいにはなった。どうにもアレからアーシアさん宛てにディオドラからのプレゼントが毎日届いてるようだが今のところはまだお坊ちゃんが舞い上がってるだけと認識されているらしい、でもコレ、この先もずっと続けば悪質なストーカーを成敗するという名目で処罰できないかな?・・・流石に無理か

 

今の俺達は夏休み中は皆何だかんだで修業漬けだったので夏らしい思い出作りとしてグレモリー家の所有するプライベートビーチに来ている・・・無人島らしいのでプライベートアイランドか?

 

冥界には大きな湖は在るけれど海の類は無いらしいので人間界の海だ。夏と言えば海と山と夏祭り辺りが基本だが皆山には散々籠ってたみたいだし既にお盆は過ぎてるから、めぼしいお祭りの類は終わってしまっているので消去法で海に来ているという訳だ

 

そして今、女性陣が俺達男子の前で上着の類を取り払い、この間のプールの時に着ていたのとは違う水着を披露している

 

最初に水着を披露したアーシアさんは水色の・・・アレはビキニタイプと言っていいのかな?布面積が多いが清楚な感じと水色の清涼感がアーシアさんにマッチしている

 

同じ教会出身のゼノヴィアは競泳水着だ。前回祐斗との水泳対決で僅差で負けていたのでおそらくリベンジマッチを意識しているのだろう

 

次に朱乃先輩は緑色のビキニタイプなのだがこれまた布面積が異様に少ない!殆ど大事なところとその周辺が少し隠れているくらいだ!次にいこう!次に!

 

次に上着を脱いだのは我らがオカルト研究部のリアス部長なのだが・・・ハッキリと言おう。アレは痴女だろう!?かつて黒歌と小猫ちゃんと一緒に水着を買いに行った時に黒歌が突き付けてきたあのスリングショットの紐水着だ。布面積で言えば朱乃先輩よりも多いのかも知れないが色んな所が際ど過ぎである

 

まぁ朱乃先輩とリアス部長に関しては二人のターゲットはイッセーだからアレで正解なのだろう。実際イッセーは鼻血垂れ流しながら鼻の下伸ばしてるし・・・

 

俺?俺はまぁアレだ。魅力的かと聞かれると困ってしまう。趣味でないと言ってもコレで彼女の黒歌が着ていたらまた違った感想を持ったのかも知れないがifの話をしても仕方ないだろう

 

お次は黒歌だ。前に買った緑の南国風の水着ではなく、赤色を基本としたハイビスカスの花柄の水着だ。ビキニタイプだが淵が水色の薄い赤のシースルーの布を体に巻いている。こっちもハイビスカス柄だ。黒歌は水着は南国をモチーフにしたものが好みなのかも知れない

 

隠れてるような隠れてないような感じが俺のチラリストとしての好みにグッとくる!流石黒歌、分かっていらっしゃる

 

それから小猫ちゃんも新しい水着だ。青色のビキニタイプで下は白と青の縞模様のスカートを履いていてとっても愛らしさが強調されている

 

そして最後(・・)に白いスク水を着ている九重だ。泳ぐのには邪魔なのだろう、尻尾はしまってあるようだ。何故九重が一緒に海に来ているのかについては今朝まで遡る

 

 

 

 

▽―――今朝―――

 

 

“ピンポ~ン!!”

 

家のチャイムが押されて玄関を開けると九重とそのお付きの狐のお姉さんが二人立っていた

 

「来たぞ!イッキよ!」

 

「ああ、いらっしゃい。歓迎するぞ」

 

挨拶もそこそこに九重を家に上げ(お付きの方々は一礼して帰って行った)リビングに案内する。今日は夏休み中だがそれは俺達学生の話。両親にとっては普通に平日なので既に家には居ない

 

変わりにそこに居るのは黒歌と小猫ちゃん以外にオカルト研究部の面々が居た

 

九重とは先日別れたばかりだが折角の長期休暇だし、後伸ばしにする意味も無いので前に言った「俺の家に来るか?」を実行に移したのだ

 

しかしこの駒王町は仮にも三大勢力の和平の地で九重は西日本の重鎮の娘だ。リアス部長に話を通すと快諾してくれたが同時にオカルト研究部の皆にも九重が来る事が広まり、折角だから皆でお出迎えしましょうとなったのだ

 

「お主達がイッキの友人たちなのじゃな!私は京都の表と裏の妖怪を束ねる者。八坂の娘の九重と申す。今日は私の為にも集まって頂き、感謝するのじゃ!」

 

九重の元気いっぱいの挨拶に皆はそれぞれ微笑ましいモノを見るような表情だ

 

「ええ、私がこの駒王町を管理しているリアス・グレモリーよ。九重さん、貴女の来訪を私達も歓迎するわ」

 

此処は俺の家だけど俺と九重同士の挨拶など今更なのでリアス部長が代表で挨拶を返す

 

「丁寧な挨拶、痛み入るが九重で良いのじゃ。今日は遊びに来たのでな」

 

「なら、そうさせて貰うわね」

 

それから皆順番に挨拶を交わしていく

 

「小猫殿、こうして直接会うのは初めてじゃのう!黒歌殿の恩赦の件は聞いたのじゃ。私も嬉しく思うぞ!」

 

「ん、有難う。私も会えて嬉しい」

 

九重の無邪気な笑顔と祝いの言葉に小猫ちゃんも満足げな表情だ

 

だがそこで小猫ちゃんは"ぴくんッ"と一つの気配に反応を示した

 

「ではコレで一通りの挨拶は終わったわね。此処で着替えてからグレモリー所有の無人島へ転移で向かいましょう」

 

「むぅ?それは良いのじゃが、そちらの方は紹介してくれんのかのう?」

 

「え?」

 

全員分の紹介は終わったはずと思っていたリアス部長や他の皆が疑問を顔に浮かべると後ろから揶揄うような声が掛けられた

 

「何だ何だ。結局俺の気配に気づけたのは小猫だけか?冥界の修行で力を付けたと言ってもまだまだのようだな」

 

声を掛けてきたのはアザゼル先生だ。俺と黒歌も気づいていたがカウントはされないらしい

 

「な?何処から入って来たの!?」

 

「うん?普通に玄関からだが?それでも気付かなかったお前らが悪い。もしもコレが実戦ならその隙は致命的だぞ?」

 

一見小馬鹿にしたような忠告に何も反論出来なかったのか皆は悔しそうにしている

 

「さて、初めましてだな。俺はアザゼル、堕天使どもの頭をやってる」

 

「おお!お主がそうか!イッキの話にも出ておったぞ」

 

「へぇ。コイツは俺の事を何て言ってたんだ?」

 

「うむ。信頼は出来ても信用は出来なさそうな変人と言っておったのじゃ!」

 

九重~!!素直なのは良い事だけど本人にそう言う事言うのは止めて!!

 

「・・・成程な。おいイッキ、2学期が始まったら授業の小難しい問題をお前に集中して当ててやるからな?覚悟しておけよ?」

 

「うわぁ!地味にジワジワとくる嫌がらせ!微妙に職権乱用してるし!!」

 

絶対この人俺専用の問題自作してくるぞ!ちょっとの予習じゃ意味ないような感じの!

 

「アザゼル先生。今日はどうしたんですか?」

 

気持ちを切り替えて用事を尋ねると直ぐに答えは返って来た

 

「な~に、イッキの将来の嫁さんの姿を見ておきたいってのともう一つ、西日本の重鎮の娘が来るんだから万が一があっちゃ困るだろ?護衛も兼ねてんのさ」

 

いや護衛ってアンタ。寧ろ堕天使の総督の先生の方が護衛される立場でしょうに

 

「アザゼル。私の眷属に加えてイッキと黒歌まで居るのよ?いくら何でも過剰でしょうに・・・護衛と言いつつ仕事をサボりに来たんじゃないの?」

 

「お!よく分かったな。今頃副総督のシェムハザが俺の分の書類も片づけてくれてるだろうよ」

 

暴露するの早!隠す気ゼロですか・・・そしてシェムハザさん、ご愁傷様です

 

そうして九重に一通り俺の家の案内をしてから男性陣は俺の部屋で、女性陣は小猫ちゃんの部屋で着替えてから朱乃先輩の転移魔法で無人島に転移していったのだ

 

 

そんな訳で今、女性陣たちのそれぞれの水着姿を俺とイッセーが褒めているのだが・・・ギャスパーは何故そっちサイドに居るんだよ!ワンピースタイプの水着に頭に大きめのリボンを付けてうさ耳のようにも見える。何とも可愛らしいバニーさんですな!(半ギレ

 

因みに俺とイッセーは前回と同じ普通の海パンで祐斗はブーメランパンツ、アザゼル先生はアロハシャツに短パン系の水着だ

 

泳ぐ前に皆でビーチパラソルやらシートやらまったりと寛げるスペースを確保したり、浮き輪やバナナボートなどに足踏み式空気入れで空気を入れていく。コレって地味に大変なんだよな・・・仙術や魔力を使えば一瞬だがそういうのは風情が無いので禁止だ

 

「よ~し九重。浮き輪が膨らんだぞ」

 

俺は今足でバナナボートに空気を入れながら浮き輪の方は普通に息を吹き込んで膨らませていた

 

「うむ!有難うなのじゃ!」

 

「うげ!イッキお前もう空気入れたのか?俺なんてこのビーチボールに半分くらいしか空気入ってないってのによ・・・」

 

「鍛えてるからな。肺活量にも自信はあるんだよ」

 

【一刀修羅】瞑想で限界まで深呼吸とかしてるからな

 

「へぇ、イッキ君はそんな所まで鍛えているのかい?」

 

ビーチチェアの用意や近くの木にハンモックを取り付けていた祐斗が会話に加わる

 

「ああ、人間の体はパワーを出すには酸素が要るからな。地味な変化ではあるけれど、それでも確かに力の上昇に繋がるし、鍛えない理由は無いよ」

 

それに戦闘中とかでもどうしても息を止めないといけない時とかってあるからな・・・俺の場合主に黒歌との模擬戦で毒霧(麻痺毒や睡眠毒等)ばら撒かれた時とかだけど

 

「成程、勉強になるね。それなら僕もこれからの訓練のメニューに加えていこうかな?」

 

「ああ、良いと思うぞ。少なくとも損はしねぇよ」

 

他愛のない事を喋りながら準備を終え、軽く体を伸ばしてから先ずは海に入る。ビーチバレーとか釣りとかサーフィンとか海の楽しみ方は色々あるけれどやっぱり一泳ぎしてからだろう

 

「木場!あそこに見える岩場まで何方が早くたどり着けるか勝負だ!今度は負けんぞ!」

 

「望むところだよゼノヴィア。今回も僕が勝たせてもらうけどね」

 

さっそくリベンジマッチを挑むゼノヴィアだが祐斗も静かな闘志を燃やして受けて立つようだ

 

他にリアス部長に朱乃先輩、イッセーとアーシアさんにギャスパーは浅瀬でビーチボールで遊び、小猫ちゃんと九重は浮き輪で軽く泳ぎながら談笑、アザゼル先生はサーフィン・・・何だけど何アレ?なんか何故か付いてる噴射口らしき所からウォータージェットを出して様々なトリックを決めてるんだけど―――ちょっと楽しそう!

 

最後に俺と黒歌は素潜りだ。透明度の高い海の中で少し深い所まで行けば沢山の魚が泳いでいるのが見える。そういえばリアス部長は無人島としか言ってなかったけど此処はそもそも日本なのか?・・・まぁどうでもいいか

 

素潜りついでにバーベキュー用の食材であるサザエやらエビやらを採っていく。肉とかは流石に別途で用意してあるが海の幸はどうせなら新鮮なのを使おうという事だったからな。捕まえた伊勢海老なんかは逃げないように且つ鮮度が落ちないように仙術で意識を絶ち、籠に入れていくと直ぐに満杯になった

 

「ぷはっ!いっぱい採れたにゃ~♪魚の方は釣りをするんだったかにゃ?」

 

「ああ、折角だし男子陣で釣り競争しようって話になったからな。バーベキューだから焼き物系は十分だし、刺身とかその辺りにするつもりだけど」

 

「ふふ♪楽しみにしておくにゃ♪」

 

それから釣り勝負が始まるまでの間、小猫ちゃんと九重に合流してバナナボートに乗ったり、黒歌が魔力で作った縄をアザゼル先生のサーフボードの後ろにカウボーイの投げ縄の如く引っ付けて高速移動したりして過ごした

 

 

 

 

 

 

暫く遊んだ後、今は近くの磯で軽く上着を羽織ってアザゼル先生からの説明を受けている

 

「よ~し、お前ら。今から昼までの60分の間に何匹魚を釣り上げる事が出来るかを競うぞ?基本は数を重視してトップが同数だった場合は一番デカい魚(重量基準)の大きさで優劣をつける。何か質問はあるか?」

 

「ハイハイ、先生!トップを獲ったら何かご褒美とか貰えるんですか?」

 

「良い質問だ。優勝者にはこの一万円分の商品券をくれてやろう」

 

商品券って・・・いや確かに男子だけの参加でたかがお遊びの釣り勝負としては破格なのかな?イッセーの話だとリアス部長のお父さんのジオティクスさんはイッセーにお土産にお城を贈ろうとしたらしいし、そんなレベルの商品が用意されたら流石に委縮してしまうからな

 

「イッセーさん、頑張って下さい!」

 

「イッキ!どうせならトップを獲ってやるのじゃ!」

 

女性陣は疲れを癒す意味も含めてトロピカルジュースを飲みながら観戦モードだ。だがそこでアザゼル先生が取り出した釣り竿に目を引かれた

 

「あの・・・アザゼル先生。俺達の安っぽい釣り竿と違って先生のは随分と高級そうですね?」

 

「ふふん!よくぞ聞いてくれた。この竿は『イン〇ッサG-V』!磯釣りとしては最高級のロッドの一つだ。ロッドだけでなくリールもルアーもラインも全部最高峰のモノを用意した!う~ん、そんな安竿とはグリップの握り心地からして違うぜ」

 

大人気ねぇこの人!欠片もこっちに勝ちを譲る気ゼロじゃん!完全に突き放す気じゃん!

 

「・・・九重、アレがダメな大人の例よ。あんな風にはならないように気を付けるのにゃ」

 

何か向こうでは黒歌がお姉さんキャラとして九重に教育を施してるし、立派な反面教師ですね。アザゼル先生!

 

「何だ、分かってねぇな。遊びを楽しむ一番のコツってのは全力で取り組む事なんだぜ」

 

へぇ?言うじゃないですか先生―――ならこっちも全力でお相手致しましょう

 

「リアス部長。開始の合図をお願いします!釣りというのは道具の性能だけでなく技術(テクニック)も重要だと魅せつけてやりますよ!イッセー、祐斗、ギャスパー。お前らも気張れよ」

 

「へへ、そうだよな。部長が見てんだもんな!オカルト研究部部員として負けられねぇよ!」

 

その意気だイッセー。顧問なんてぶっ飛ばせ!

 

「そういう事なら僕も頑張らないとね。さっきはゼノヴィアとの水泳対決で負けちゃったから、ここでは勝たせてもらうよ」

 

爽やかな笑みを浮かべてるけどちょっと圧が籠ってるな。ゼノヴィアに負けたのが多少なりとも悔しいらしい・・・当のゼノヴィアは晴れやかな笑顔だ

 

「ぼ・・・僕も頑張りますぅ!ちょうど新作のゲームが欲しかったので!」

 

完全に商品券に釣られたなギャスパー・・・ある意味でお前は始まる前から負けてるよ

 

それぞれが配置に付き海に糸を垂らすと早速アザゼル先生の元にアタリが来たようだ

 

「お!来た来た・・・何だカサゴか。まぁいい、その内デカいのも釣れるだろ」

 

「ちぃ!先生は早速釣り上げてんのか。木場そっちは如何だ?」

 

「あはは、イッセー君。まだ釣り始めたばかりだよ?こういう勝負に焦りは禁物さ」

 

「ふふん!そんな事言っても道具の差は埋められないんだよ。こっちはもう2匹目が掛かったぞ?俺ばっかり釣り上げるせいでお前らが丸坊主(成果無し)になっちまうかもな」

 

「ぐぬぅぅぅ!!」

 

イッセーが露骨に悔しがる中で俺の方を見ていた九重が嬉しそうな声を上げる

 

「おお!イッキはもう3匹目を釣り上げたぞ!このままトップを獲ってやるのじゃ!」

 

「何ぃ!おいイッキ、何でそんな安物使ってるお前が俺の先をいってるんだ!?しかも、どれも俺の釣ったのよりも大きいじゃねぇか!?」

 

此方に来て籠の中を覗いたアザゼル先生が信じられないといった感じに詰め寄ってくる

 

「ほぉ?高級なロッドを態々用意したアザゼル先生は安竿以下だと?もしかして先生が下手くそなだけなのでは?」

 

ドヤ顔を浮かべて挑発すると「上等じゃねぇか。すぐにそのドヤ顔を吠え面に変えてやるよ」と意気込んで自分の持ち場に戻っていった

 

「ふふふふ、4匹目フィーッシュ!!アザゼル先生、別にこの磯の魚を獲りつくしてしまっても構わないのでしょう?」

 

丁度3匹目を釣り上げたアザゼル先生に聞こえるように某赤い弓兵なセリフを吐くと彼も爛々と瞳を燃やして再び竿を振っていた―――アザゼル先生、俺が仙術使いだという事を失念しているな?海の中の魚の大きさや位置、どの方向を向いているかまで完璧に把握できるんだよ!

 

「スゲェ、あの二人。何であんなに釣れるんだよ?」

 

「あはは、確かに何かもう二人だけの世界で勝負してるね」

 

「イッキ先輩もアザゼル先生もお二人とも凄いですぅ!あ!僕にもアタリが来ました・・・って何ですかこの魚は!気持ち悪いですぅぅぅ!」

 

「何だコレ?赤くて細長いし、三分の一は口だぞ?」

 

「あらあら、うふふ。ギャスパー君やりましたわね。それはアカヤガラと云われる高級魚ですわ。旬の時期ではありませんが十分美味しいと思いますわよ?」

 

そんなやり取りが行われる中30分ほど経過し勝負は後半戦、現在俺がトップで19匹、次点でアザゼル先生の16匹、その後に祐斗の6匹、ギャスパーの5匹、イッセーの3匹と続く、コレは三人が下手というよりは俺とアザゼル先生が抜きんでているのだろう、一匹辺り2分かかってないからね・・・というか仙術使ってる俺は兎も角アザゼル先生上手いな!さっきは挑発として下手なんていったけど道具一つであそこまで入れ食い状態に出来るとは!

 

「く!このままじゃこの俺が負けちまう!こうなったら秘密兵器だ!」

 

そう言ってアザゼル先生は金色に輝く新たなルアーを取り出し改めて竿を垂らすと15秒とかからずにアタリがついた。いくら何でもルアー一つでここまで変わるモノか!?

 

「はっはっはぁ!コレは俺の開発した人工神器『堕落する釣り人(ダウンフォール・フィッシャーマン)』だ!このルアーさえ在ればテクニックなんて必要ねぇ!ルアー自体から魚の好む匂いと飢餓感を刺激する匂いを強烈に発することにより例え満腹の魚しか居なくとも我先にと喰い付いてくるのさ!」

 

神器まで持ち出して来やがったよこの人!マジでお構いなしだな!しかも内容がさり気にエゲツないし。でも良いヒントをくれたな。語らなければ逆転も有り得ただろうに

 

俺の方も今までと少し釣り方を変えていく・・・そして残り3分、俺とアザゼル先生は現在51匹と47匹でその差はむしろ広がっていた。女性陣たちは皆が俺を応援してくれるし、イッセー達も横目で見ながら「先生に負けんなよ」と声援を送ってくれる

 

「クソッ!何で逆転出来ねぇんだ!?おいイッキ、お前一体何をした!?」

 

「別に?ただ疑似餌から生餌に変えただけですよ?」

 

「それだけでそんなに喰い付く訳ねぇだろうが!」

 

「それが喰い付くんですよ。ただしちょっと仙術で生命力を爆上げしてはいますがね」

 

そう言いつつウネウネと動く生餌を先生に見せつける。これにより魚たちは本能で美味しいエサを察知して喰い付いてくるのだ

 

「・・・おいちょっと待て、何でそんなちっこいのが牛一頭みたいな生命力を発してるんだよ?全力込めすぎだろう!?」

 

「楽しむコツは全力を出す事だって言ったのはアザゼル先生じゃないですか。俺は先生の教えを忠実に守ってるだけですよ?良い生徒でしょ?」

 

そこでリアス部長から残り一分との声が聞こえた。これならばもう何もしなくとも俺の勝利は決まったな。そう思いつつ余裕を持って釣り糸を垂らすとアザゼル先生から地の底から響くような声が聞こえてきた

 

「良いだろう。イッキ、俺がお前に大人の世界の厳しさと汚さってやつを教えてやるよ。俺は先生だからな!バランス・ブレイクゥゥゥゥゥ!」

 

アザゼル先生が手に持ったルアーを天高く掲げて叫ぶとルアーが枝分かれしたように合計7つに増えた。なんだそれ!?

 

禁手(バランス・ブレイカー)堕落した釣り人の(ダウンフォール・フィッシャー・)略奪者達(プレデターズ)』、所謂サビキ型ってやつだよ」

 

そして残り10秒、俺は逆転負けを喫し海岸に勝者の高笑いが響き渡った

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほら、何時まで不貞腐れてるのかにゃ」

 

「イッキ先輩、元気出して下さい」

 

バーベキューの肉を食べてると黒歌と小猫ちゃんから声が掛けられた。どうやら自分でも気づかないうちにしかめっ面をしていたらしい

 

当の優勝者であるアザゼル先生は食べたカニの甲羅を裏返して炙り、日本酒を入れて甲羅酒を楽しんでいる。勝利の美酒にしてはシャレているのがまたムカつく!

 

「しかし、あそこまで白熱した釣り勝負になるとは思わなかったのじゃ。手に汗握る実に熱い戦いであったぞ」

 

「でも結局勝てなかったよ。九重も応援してくれたのにな・・・」

 

皆は奮闘を称えてくれたけどアザゼル先生がドヤ顔を見せつけて来るからなかなか気持ちの切り替えが出来なかったがこれ以上うじうじしても仕方がない。それだけ真剣に取り組めたと思うようにしよう

 

因みに全部は当然食べられないので大部分は海にリリースしたが・・・

 

午後はクルーザーに乗って(運転:アザゼル)沖の方で景色を楽しむ―――そして、此処からは超常の存在ゆえの楽しみ方なのだろう、黒歌が海の中に魔力で巨大な気泡を造り俺達全員でその水中観覧車のような中に入り海の中を移動していく。全方位型水族館だ・・・因みに俺は仙術で気泡に掛かる水圧を軽減させる役割だ。黒歌一人でも問題ないが全部任せるのも悪いと思ったので手伝っている

 

「うおぉぉぉ!すっげぇ!こんなの普通じゃまず見れないぜ!」

 

「はい!お魚さん達が沢山居ますぅ!とっても綺麗です!」

 

「・・・美味しそうです」

 

小猫ちゃんお昼あんなに食べてたのにまだ食欲の籠った目で見るの!?

 

でも基本的に皆、瞳を輝かせているし水中遊泳は正解だったかな?

 

頭上に揺らめく海面から差し込む不規則な光に照らされた海の中は実際かなり幻想的だ。釣りだけでは分からない魚群や俺やアザゼル先生の釣った魚よりも大きな魚とか岩場の穴から顔だけ覗かせているウツボとかを堪能して廻って行った

 

一通り海で遊んで時刻は既に夕方、アザゼル先生が屋台まで用意して海鮮焼きそばを麺を練る所から作り、それに皆で舌鼓を打つ

 

チョイ悪風イケメンオジサンな先生はハチマキ姿すらも似合ってるな

 

「うんめぇ!先生、焼きそば捏ねる所から作るとかまた本格的ですね!」

 

「弾力性と粘性率、破断強度・・・全てのバランスが絶妙にマッチしていますね」

 

「悔しいけど小猫の云う通りよ。このソバの幅も均一で見事な黄金律だわ―――流石は堕天使の総督ね。その秘めた叡智・・・侮れないわ」

 

リアス部長?それはボケ何ですか?本気で言ってるんですか?

 

「・・・のうイッキ。三大勢力というのは麺に一家言ある者達なのか?」

 

ほらこうして勘違いする人が現れる!———その後何とか九重の誤解を解き、水平線に夕陽が落ちて薄暗くなった辺りで本日最後のイベントとして花火を楽しむ事となった

 

「いや~、やっぱりこういう普通の花火が一番だよな」

 

手元で"シュウシュウ パチパチ"と音を立てるごく普通の花火を見て俺は感慨深い気持ちになっていたが九重が恐る恐る声を掛けて来る

 

「う・・・うむ。だがアレは放って置いても良いのかの?」

 

「そうねぇ、ねずみ花火くらいなら可愛いモノだけどアレは遠慮するにゃ」

 

「イッセー先輩、ファイトです」

 

「どわぁぁぁぁぁ!何で俺を追いかけて来るんだよこの花火(?)は!!」

 

俺達がごく普通の手持ち花火を楽しんでいる中イッセーは赤い火花で彩られたドラゴン花火に追い掛け回されている・・・当然アザゼル印だ

 

「はっはっは!冥界での修行を思い出すだろ?イッセーとタンニーンの修行にこいつ等は興味を持ってたみたいだしよ、ちょっと再現してみたんだ」

 

「止めてくださいよ!俺ドラゴンに追い回されるの軽くトラウマ物なんですからね!?」

 

イッセーが文句を言うがドラゴン花火は口を大きく開けてブレス(花火)を吐き出す

 

「因みにそいつはドラゴンのオーラを感知して追尾する仕組みになっているからな。お前が危ないだけの安全仕様だ」

 

「それ俺の知ってる安全と違うぅぅぅ!!」

 

「イッセー君、今助けますわ!」

 

朱乃先輩が花火に雷撃を放って核を壊そうしたが次の瞬間ドラゴンが5匹に増えた

 

「なにぃぃぃ!?」

 

「そいつは攻撃を加えると数倍に増える仕組みなんだよ。もっとも、持続時間は短くなるがね」

 

「なら、私の消滅の魔力で元から消し去ってあげる!!」

 

リアス部長が特大の消滅の魔力を放ち、辺りが轟音に包まれる

 

煙の奥から現れたのは更に10倍には増えたドラゴンたちだった―――ここまでくると普通にうるさいので俺たちは結界を張って眺めている・・・所詮は花火だしね

 

「消滅の魔力は効かないぞ。この間シトリー眷属が『反転』を使っただろ?リアスの魔力を解析して対リアス用に特化させた『反転』だ。生半可な威力じゃ返されるだけだぞ?」

 

ああ~、そう言えばシトリー VS グレモリーの試合でシトリー眷属が色々な人工神器の試験運用も兼ねて色んな能力を扱ってましたね

 

そうして始まる無駄に神の子を見張る者(グリゴリ)の技術の詰まった花火の乱舞に俺達も眩しさから目を細める―――微かにイッセーの絶叫が聞こえるが無視して大丈夫だろう(適当)

 

「おお~、文字通り花火の中に居るんだな俺達・・・九重、今日は楽しかったか?」

 

「うむ!楽しかったぞ。イッキの友人の皆も面白い者たちばかりじゃったし、また遊びに来たいのじゃ!」

 

「何時でも来いよ、俺も皆も歓迎してくれるさ・・・まぁその前に駒王学園の修学旅行はまた京都だからな。むしろ俺たちが九重の方に行く感じだろ」

 

「そうじゃな。良かったらその時観光案内をしてやろう。有名処だけでなく隠れた名店まで私に任せておけばよい!」

 

「ああ、一緒に行動できるかは分からないけど、少なくとも何処かで時間を見つけてそっちにも顔を出すよ。八坂さんにも宜しく伝えておいてくれ」

 

「うむ♪」

 

結界の外ではイッセーが禁手(バランス・ブレイカー)となり、ドラゴンショットの乱れ撃ちを天高く放ち、花火を核ごと破壊し尽くす光景を本日の締めとして俺達の夏休みは過ぎていった




アザゼルさんなら神器ぐらい持ち出すと思う

終盤ちょっと駆け足気味でしたね


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第8章 体育館裏のホーリー
第一話 2学期、始まりました!


モンハンで臨界ブラキが倒せない~♪(ソロ


夏休みが明けて2学期が始まってから既に数日、今日は俺達のクラスに新しく転校生がやって来るらしい・・・そういう情報って何処から仕入れて来るんだろうな?

 

朝のホームルームが始まり担任の先生が早速その話題を切り出す

 

「え~、妙な時期ではありますが、このクラスに新しく転校生がやって来ました。海外からの帰国子女のようですが日本語に問題はありません。では、自己紹介をどうぞ」

 

先生が廊下に向かって声を掛け、一泊置いてから栗毛ツインテールの美少女が教室に入ってきて男女が共に色めき立つ

 

イッセーとゼノヴィアは驚きの、アーシアさんは喜びの表情をそれぞれが浮かべている

 

黒板に大きく自分の名前を書いて振り向いたその人物はハキハキとした声で自己紹介に入った

 

「紫藤イリナです。皆さんこれから仲良くして下さいね♪」

 

胸元の十字架を踊らせながら彼女はそう言ったのだった

 

 

 

 

 

「紫藤イリナさん。貴女の来校を歓迎するわ」

 

放課後、オカルト研究部でリアス部長がそう告げた。朝のホームルームが終わってからも軽く挨拶はしたのだが流石に裏の事情も含めてガッツリと話す事は出来なかったので詳しい話はまた後でという事になったのだ

 

コカビエルの時やトップ会談の時には特に繋がりの無かった俺やギャスパーもそうだが他の皆も以前は半ば敵対者として出会っていたからな

 

「今まで悪魔も沢山滅してきたりしたけど、これからは仲良くして下さいね♪」との事だ・・・前半のセリフ要るか?

 

「俺は要らないと言ったんだがな・・・禍の団(カオス・ブリゲード)というテロリストたちが不穏な動きを見せる中で三大勢力の重要拠点であるこの町を守護するのに教会側の戦闘員が全く居ないというのは問題だとミカエルが律儀にも寄越してきたのさ―――そんなのが気にならないくらいの超が付くバックアップ体制を敷いてるにも係わらずだ。それはそうと紫藤イリナ、お前さん人間辞めたのか?」

 

アザゼル先生が天界のお人好し加減に呆れつつイリナさんに確認を取る

 

「あ、分かっちゃいます?その通りです!ミカエル様の祝福を受けた私は転生天使として生まれ変わったのです。エクスカリバーは今は手元に無いけれど、この力を平和の為に振るっちゃいます♪アーメン♡」

 

"クルッ"と一回転しながら天使の翼と輪っかを顕現させてキメポーズを決めるイリナさんに皆が驚きを露にするがアザゼル先生だけは納得したといった感じだ

 

「転生天使?そんな現象があるのですか?」

 

「今までは無かったさ。三大勢力で和平を結んでそれぞれが持つ技術を交換したからな、悪魔のイーヴィルピースの技術を基本に置いて再現したって所か―――神の消滅で純粋な天使は生まれなくなったからな。僅かづつでも数を増やせる悪魔や堕天使よりも天使たちはその辺の事情はかなり切羽詰まってたはずだからな。あのミカエルですら内心"ホッ"としてるはずだぜ?」

 

「って!アザゼル先生!神の消滅とかそんなトップシークレットをそんな気軽に!」

 

祐斗の質問にサラッと神の消滅というワードを入れて話すアザゼル先生にイッセーが驚くがアザゼル先生は何でもないように言葉を返す

 

「何言ってんだイッセー。神の不在を知るお前たちの居るこの場所に派遣される以上はその辺りの事も伝えられているはずだぜ?でないと肝心な時に連携が取り辛いからな・・・つぅかそもそも三大勢力の和平会談の時に最初にサーゼクスが神の不在について言及してたろうがよ―――まさか記憶処理されたなんて事はねぇんだろ?紫藤イリナ」

 

「はい。私は既に主が居ないという事を認知しています」

 

先程までの明るい雰囲気から一転、硬くなった表情でイリナさんが告げる・・・が、それから段々と表情が崩れて最後には泣き出してしまった

 

「ああ~!世界の中心!我らが父が!全ての生みの親たる主が身罷われていただなんてぇぇぇぇ!最初にミカエル様にお聞きした時は七日七晩寝込んでしまったのよぉぉぉ!今だってこうして口に出すだけでも心が張り裂けそうになってしまうわぁぁぁ!うわぁぁぁぁん!!」

 

「分かるぞイリナ」

 

「分かります」

 

ゼノヴィアとアーシアさんが泣き崩れるイリナさんの肩にそれぞれ"ポン"と手を置いて慰める

 

「うぅぅぅ、ゼノヴィアには裏切り者とかアーシアさんには始め魔女だとか色々と酷い事を言ってしまってゴメンなさいぃぃぃ!」

 

そう言って"クルッ"反転して二人に抱き着くイリナさん

 

「私は全然気にしてませんから、宜しければお友達になって下さいね。イリナさん」

 

「私もだ。気にするな、イリナ。また一緒になれて嬉しいぞ・・・それはそうと、そろそろ離してくれないか?胸に下げてある十字架がチクチクと痛いんだ」

 

アーシアさんもゼノヴィアも十字架のダメージで抱き着かれた事に笑顔を浮かべつつも何処かその笑顔が引き攣っているようだ

 

「あ!御免なさい!つい何時もの調子で―――そうよね、悪魔は十字架がダメよね。次からは十字架を外して抱き着く事にするわ」

 

「ああ、そうしてくれると助かるよ」

 

「主はもういらっしゃらないけど、主への愛を忘れた訳じゃないわ。アーシアさん、ゼノヴィア、今日貴女達に出会えた事への感謝を籠めて・・・「「アーメン!!」」」

 

おお、教会トリオの初『アーメン』。無事に仲良くなれそうで何よりだ

 

それからイリナさんが転生天使の仕組みである『御使い(ブレイブ・セイント)』がトランプを模したモノであり、イリナさん自身はミカエルさんのA(エース)の札を貰ったのだと嬉しそうに語っていた

 

そして一通りの説明が終わった後、イリナさんが祐斗に向かって語り掛ける

 

「そうそう、木場君。私が今日此処に来たのは貴方にコレを渡す役割もあったのよ」

 

そう言って魔法陣から三つの光輝く結晶を取り出した

 

「ッ!それは、同士たちの!?」

 

「ええ、フリード・セルゼンの中に取り込まれていた貴方の同士たちの聖剣の因子の結晶よ。本当は私も二学期の始まりに合わせてこの町に来るはずだったんだけど、丁度因子の抜き取り作業が終わりそうだったからコレを運ぶ意味もあって今日転校する事になったの。受け取って頂戴」

 

差し出された聖剣の因子を祐斗はその両手で受け取り、その輝きを暫く見つめた後でゆっくりとその胸に掻き抱いた

 

「あの時も、この前も、僕を助けてくれて有難う。これからはずっと一緒に居よう」

 

“パァァァァァ!!”

 

祐斗のその言葉、想いが切っ掛けとなったのかコカビエルの時と同じような暖かな光が部室を照らし出し、三つの因子は祐斗の中に吸収されていった

 

「祐斗、体の方は問題ないか?何なら仙術で診とくけど・・・」

 

「大丈夫だよ、特に違和感は感じないかな―――逆に力が溢れて来るような感覚だよ」

 

確かに、祐斗のオーラが一回り以上は大きくなった感じだ

 

「ほぉ、まさか全部の因子を体に取り込むとはな・・・心が通じ合った者同士の因子だからこそって感じか―――天界でもまだ複数の聖剣の因子を取り込む事は出来てないんだろ?」

 

「はい。でもあのフリード・セルゼンから聖剣の因子を抜き取る際に図らずも複数の因子を取り込んだ体のデータが得られたから、そちらの研究も進みそうだと他の天使の方々も仰っていました」

 

ああ~、フリードの奴は自分の知らない所で被検体になってたのか

 

「よし、祐斗。お前も今度神の子を見張る者(グリゴリ)に来い―――無理やり因子を埋め込んだフリードのデータと成功例ともいえるお前のデータが合わさればお前の提供した聖魔剣の担い手の強化にも繋がるだろ」

 

うん。それはそう何だけどそれって祐斗が直接天界に行けば良いんじゃ?

 

・・・面白いデータを取りたいんですね、アザゼル先生

 

それからシトリー眷属の皆にもイリナさんが挨拶をしに行って部活が終わればイッセーの家で歓迎会をした。生徒会の面々も誘ったのだが予定が合わなかったので一先ず何時ものメンバーだ

 

 

 

 

「それでは皆さん改めまして、教会・・・天使側の使者として参りました紫藤イリナです。この町の平穏の為にも頑張りたいです。宜しくお願いします!」

 

今はイッセーの家の歓迎会でイリナさんが出だしの挨拶をしている・・・因みにイリナさんもイッセーの家に住むそうだ

 

まぁ俺の家もイッセーの家もまだまだ空き部屋が多いからな

 

イリナさんの挨拶に皆も拍手をもって応える

 

「長年争ってきた仲だ。和平を結んだと言っても不満を持つ者も多い。お前さんらのように個人的に親しくできる間柄というのは今はまだ希少だからな」

 

少し離れた所に立っていたアザゼル先生がグラスを傾けながら少し目を細めて言う

 

「だが・・・俺の知らない所で幹部の奴らが他勢力の女と宜しくやってたっていうのが気に喰わん。和平を機にどいつもこいつも我先にと籍を入れやがって、今神の子を見張る者(グリゴリ)じゃ幹部どもの結婚ブームが巻き起こってるんだよ・・・このままじゃ俺だけが独り身になっちまう!」

 

おお~い、アザゼル先生?呪詛が漏れてますよ呪詛が

 

「アザゼル先生って・・・モテないんですか?」

 

「な!?イッセー、テメェ!冥界合宿の時に俺が過去にハーレムを形成しまくった事を言ったのをもう忘れたのか!?お・・・俺は趣味に生きる男なんだ!・・・女なんて作ろうと思えば幾らでも作れるさ!何ならイッセー、お前が望むなら今日中にお前に堕天使の綺麗処をあてがってハーレム王にしてやろうか?」

 

「今日中にハーレム王!?スゲェ!コカビエルは明日にはハーレム王って言ってたのに先生の手に掛かれば当日ハーレム王ですか!?・・・流石、堕天使の総督はダテじゃなかったんですね!」

 

そんな所で評価すんなイッセー。後アザゼル先生もドヤ顔すんな!

 

「でもぉ、それって独り身って事実は何も変わってないって事にゃん?」

 

「黒歌の云う通りだな。ハーレムと結婚は別枠だからな・・・部下からの信頼の厚いアザゼル先生が周囲の人たちに結婚の相談をされなかったのは・・・」

 

「おい、イッキ。何故そこで言葉を区切る。そして何故そんなに憐憫の籠った眼差しをこっちに向けて来るんだ?言いたい事が在るなら聞くぞ?」

 

アザゼル先生?どうして手に持ったグラスに罅を入れてるんですか?

 

「大丈夫ですって先生。『女なんて幾らでも作れる』んでしょう?」

 

多分今の俺は慈愛に満ちた瞳をしているんだろう・・・多分、そう多分

 

「答えになってねぇぞコラァァァ!!」

 

「先生!彼女も婚約者も居るイッキ相手じゃ分が悪いです―――イッキは後で必ず血祭に上げるとして今は別の話題にしましょう!」

 

「そうか・・・そうだな。後でイッキの為に血を抜きやすい溝の彫ってある細い槍を何本か用意して、刺す時は急所をさけて・・・限界を超えて血を絞れるようにあえて輸血させながら血を抜き取るか・・・」

 

本人の前で血祭の計画練るの止めてくれません!?しかも内容が無駄にスプラッタだし!

 

「そうそうイッセー。この間冥界に行ってきたんだがお前さんの人気が出てきているぞ」

 

「え!?マジですか先生!ついに俺にもファンが!?・・・でもどうしてですか?正直この前のレーティングゲームでは大して活躍出来なかったんですが」

 

「いやなに、レーティングゲームは真剣勝負ではあるが、あくまでもゲームだ。その前のコカビエルとの戦いやヴァーリとの戦いを映した番組でお前の紹介シーンが特に子供相手にバカ受けでな」

 

アザゼル先生が指を鳴らすと俺達の後ろにあった身長よりも大きいテレビに映像が流れ始めた

 

『部長のお乳を突かせてください』

 

「んなはぁ!?」

 

突然流れ始めた映像にイッセーがあんぐりと口を開ける

 

『部長!右の乳首と左の乳首!どっちを押したら良いですか!?』

 

『コレは、部長のおっぱいの分!!』

 

『ふっざけんなぁ!リアス・グレモリーのお乳は俺のもんだぁあああ!!何時か絶対にあの素敵なおっぱいを揉んで!摘まんで!弾いてやるんだよぉぉぉ!!』

 

「ちょ・・・ちょっとアザゼル!何でライザーとのレーティングゲームの映像まであるのよ!?」

 

「サーゼクスからの提供だよ。安心しろ、何を掛けてゲームしたかまでは広まっていないし、このアップシーンだけじゃそもそも分からんだろう。冥界には今まで娯楽が少なかったし、最近では禍の団(カオス・ブリゲード)のテロによる情勢不安も在る。コレを機にイッセーには冥界の人気者として明るい話題を提供して貰いたいって寸法さ―――既におっぱいドラゴンというイメージソングも製作中だ」

 

アザゼル先生はグラスを傾けてお酒を飲みながらそう言う

 

「ま・・・マジですか」

 

「因みに作曲はサーゼクスだ」

 

「マジですか!?」

 

「何をやっているのよお兄様は・・・」

 

まさかの魔王の作曲という事でイッセーは驚愕し、リアス部長は頭が痛そうだ

 

『おっぱいドラゴン・・・二天龍の片割れ、赤き龍の帝王と畏れられたこの俺様があのアホくさい相棒の使い魔と同じ呼ばれ方を?・・・ふ、フフフフ』

 

ドライグの声に深く影が差しているな

 

「そう言えばお前さんらに今度、取材の申し込みが入ってるだろ?」

 

「取材・・・ですか?」

 

「ああ、皆にはまだ話して無かったわね。若手悪魔同士のレーティングゲームを全眷属が一度は戦ったから改めて今後の意気込みを聞きたいと申し入れがあったのよ」

 

「て・・・テレビの取材ですか!?」

 

「うわぁぁぁぁん!そんな大勢の人の前に晒されるなんて僕にはまだ荷が重いですぅぅぅ!!」

 

「も・・・もしかして悪魔らしく普段どんな悪い事をしているかなどを質問されるのでしょうか?ど・・・どうしましょう?今からでもご近所さんに朝に宅配される牛乳を飲んでしまったりとかしていくべきなのでしょうか・・・はぅう!私は何て恐ろしい悪徳を思いついてしまったのでしょうか!ああ、主よ!お許しください!」

 

ギャスパーの反応はいつも通りとして、アーシアさんが変な方向に力を入れようとしている―――確かに宅配された牛乳が空になってたら人によってはブチ切れるとも思うけどさ

 

それとアーシアさんが悪事を働くのは天地がひっくり返っても無理じゃないか?

 

「それで、その取材がどうかしたのかしら?」

 

「いや何、イッキも一緒に取材に連れていきたいと思ってな」

 

「はい?俺は若手悪魔同士の戦いには関係ないですよね?」

 

「ああ、別にお前に取材を受けろって話じゃねぇ―――それとは別に他の奴も交えて話したい事があるんだよ。もっともあのヴァーリを退けたお前さんにも冥界からかなりの数の取材の申し込みが入ってるんだが・・・お前さん受けたいか?」

 

「いえ、是非とも遠慮させて下さい!」

 

ギャスパーじゃないけど変に晒しものにはなりたくないしな!

 

 

 

 

 

翌日、今日は来る体育祭に向けて誰がどの種目に出るのかを決めている最中だ

 

「はいは~い!私、借り物レースに出たいで~す♪」

 

イリナさんは持ち前の明るさで既に教室に溶け込んでいる。あの社交性の高さは素直に凄いよな

 

今は競技の大半を占めるレース系に誰が出るかの話合いだ

 

種目はスプーンレース、メドレーリレー、ムカデ競争、借り物レース、障害物競争、パン喰い競争に二人三脚、最後に学年対抗リレーだ

 

因みに俺はスプーンリレーだ。身体操作には自信があるからな。繊細さが求められるスプーンリレーが丁度良いだろう・・・何なら走りつつお手玉しながらゴールも目指せるだろうし

 

「オッケ~。借り物レースはコレで決まりね・・・兵藤、あんた二人三脚に出なさいよ」

 

司会進行役だった桐生さんがイッセーに二人三脚に出ろと言う

 

「はぁ!?何でお前が勝手に決めてんだよ!」

 

「だって、二人三脚以外のイロモノ系のレースは全部埋まっちゃってるのよ?アーシアはまだ決まってないし、まさか彼女に学年対抗リレーに出させるつもり?アーシアもイッセーと引っ付いて走りたいわよね?」

 

「は・・・はいぃ。でもイッセーさんの足を引っ張るかも知れません。私の事は気にせずにイッセーさんはご自分の出たい競技にお出になって下さい」

 

健気で何処か寂しそうな笑みを浮かべながらアーシアさんがそう言うと教室中からイッセーに対して鋭い視線が突き刺さる

 

「い・・・いや~、俺も丁度二人三脚に出たいと思ってたんだよ。一緒に走ろうぜ!アーシア!」

 

「そうなんですか?嬉しいですぅ!」

 

アーシアさんの輝かんばかりの笑顔を見て主に男子達から舌打ちが聞こえてくる

 

美少女シスターのアーシアさんの想いは応援したいけどイッセーには破滅して欲しいという葛藤が彼らの中で渦巻いているのだろう

 

微かに『爆ぜろ』とか『もげろ』とか聞こえてくる中で体育祭のメンバー決めは終わったのだった

 

そして午後からは学年を跨いで体育祭に向けた練習が各自執り行われる事になった

 

3学年が体育とか珍しいがこの駒王学園は学校行事にかなり力を入れているし場所にしたって新校舎のグラウンド、旧校舎のグラウンド、体育館とこれだけでも十分なスペースを確保できる上に、内容によってはテニスコートだって使えるだろう

 

俺達2年生は新校舎のグラウンドで各種測定したりしている

 

「新しく転校してきた活発系美少女のイリナちゃんとゼノヴィアちゃんの競争は大変に目の保養ではあるのだが・・・イッセーに元浜よ、どう思う?」

 

「うむ。流石にあそこまで高速で動かれるとおっぱいの動きが把握しづらいな」

 

「やっぱり"ゆっさゆっさ"と揺れる様を堪能できる方がいいな」

 

「俺としてはこのご時世にまだブルマが基本な所にツッコミを入れたいんだけどな」

 

今じゃ小学生でもブルマは殆ど見られないだろうに・・・

 

「何を言う!確かにスパッツも良いがブルマのあの食い込みに勝るモノは無いだろう!?」

 

「というかイッキはさり気に自分の好みを押し付けたいだけではないのか?」

 

うるせぇ!ブルマはもはや絶滅危惧種だという事実を元に発言しただけだ!・・・決して俺の趣味趣向の話ではないんだよ!

 

そんなやり取りをしていると記録道具を持ったサジが俺達を見つけて近寄って来た

 

「よぉお前ら、何してんだ?」

 

「揺れるおっぱいを観察中だ!」

 

「あ・・・相変わらずだな。まぁ実害はないから良いか・・・所でお前らは体育祭はどの競技に出るんだ?因みに俺はパン喰い競争だ」

 

「俺はスプーンリレーだな」

 

「ふふん!俺はアーシアと二人三脚だぜ!」

 

「くっ!相変わらず羨ましい奴だな。俺だってできれば会長と密着しながら走りたかったさ!」

 

悔しがるサジだがそもそも学年から違うから流石に無理だろうに・・・とそこでサジの腕に包帯が巻かれているのが目に留まった

 

「サジ、その腕はどうしたんだ?怪我ならアーシアさんに頼めば治してくれると思うぞ?それとも3年遅れの中二病か?」

 

「ちげぇよ!コレはな、実は兵藤達とレーティングゲームをした時に赤龍帝の血とオーラを吸い続けてたのが変に作用したみたい何だよ」

 

そう言って俺とイッセーに包帯を取って左腕を見せてくれるサジ

 

松田と元浜は体操服姿の女の子たちを脳内保存するのに夢中で遠くに離れている

 

そこには黒い入れ墨のような蛇が何匹か左腕自体に蜷局を巻くように絡みついている・・・そしてその蛇たちの瞳の部分にはイッセーの赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の宝玉のようなモノが埋め込まれていた

 

「・・・サジ、お前やっぱり中二病を発症したんだな」

 

「だからちげぇって言ってんだろ!」

 

「いやだってお前のそれ、その内『くっ!我が左腕に封じられし邪悪なる龍の封印が!』とかガチで言えるじゃんか・・・サジ、黒邪の龍王はヴリトラの称号だしお前もこの際何か名乗ってみるか?・・・そうだな、闇の龍王ブラック・サタンで必殺技はダークブレス零式で逝こうか」

 

うん。実にカッコイイ!アザゼル先生なら称賛してくれるだろう

 

「誰がそんなこっ恥ずかしい名乗りをするか!つーか何で零式!?後絶対に『いく』の字が間違ってるだろうが!!」

 

そりゃ零式が最強だからだよ。だって宇宙からブレス放って来るんだぜ?ファイナルなファンタジーではそこそこお世話になったしな

 

『う゛ぅ、ヴリトラが羨ましい・・・俺の宿主など『おっぱいドラゴン』なのだぞ?『ブラック・サタン』など最高ではないか・・・』

 

おおっとぉ!ドライグさんがあまりにも相方の二つ名が酷いからか中二病全開の『ブラック・サタン』に魅力を感じ始めてしまっているぞ!

 

「待てドライグ、戻って来い!その先は地獄(アザゼル先生)だぞ!」 

 

必死に呼び止めたのが功を奏したのかドライグは『は!?俺は一体何を?』と中二病(ブラック・サタン)を羨ましがることは止めてくれた

 

 

 

 

 

その日の放課後、俺達は部室に集まって若手悪魔の行った各々のゲームを見る事になった

 

因みに此処にはイリナさんと黒歌も居る・・・何でもイリナさんは独自に怪しさ満点の部活を立ち上げようとしているらしいが現在部員一人で部として認定されてないので取り敢えずオカルト研究部に居るみたいだ

 

次に黒歌だが家に居ても暇だし、かといって今更学校に通う気も無いらしいので放課後の部活に顔を出している。ならば昼間などはゴロゴロしているのかと言えばそうでもなくて、どうやらアザゼル先生に適当に暴れられる案件を気が向いた時に受けているみたいだ・・・流石は戦闘種族、血気盛んである

 

アザゼル先生としては禍の団(カオス・ブリゲード)が各地でテロを起こしている為時折であろうと難易度の高めの案件を任せられる黒歌の暇つぶしは有り難いようだ

 

それから流れる若手悪魔同士のゲームの映像をこれから戦う事になる相手という事もあって皆真剣な表情で喰い入るように見ている

 

今見ているのはバアル眷属とグラシャラボラス眷属の試合なのだが、なんというか地力が違うな

 

主も眷属も多少の相性の悪さは力でねじ伏せられる位の差があった

 

最後には眷属全員が倒されたグラシャラボラスのゼファードルが『王』同士のタイマンをしろと吠えてサイラオーグ・バアルがそれに応え、すべての攻撃を弾きながら前進してゼファードルの防御陣ごと拳一発で突き破って試合終了となった

 

「凶児と呼ばれ、忌み嫌われたグラシャラボラス家の次期当主候補がまるで相手になっていない」

 

祐斗が固い表情で呟くけどもはやそれ単なる悪口じゃね?それだけ周りに迷惑を掛けられる位の実力があるって言いたいのだとしてもさ

 

「彼は若手No.1よ。少なくとも今の私達では策も無く正面から戦ったなら勝つのは難しいでしょうね・・・私の『王』としての資質、采配が試される所ね」

 

困ったように笑いながらもリアス部長は静かに瞳を燃え上がらせている―――負ける気など欠片も無いようだ

 

するとイッセーが俺に質問をぶつけてきた

 

「なぁ、イッキはあのサイラオーグさん相手に勝てるのか?」

 

その質問には皆興味をそそられたみたいで視線が此方を射抜く・・・と言ってもなぁ

 

「少なくとも今の試合映像の実力なら問題なく勝てると思うぞ」

 

「勝てるのかよ・・・というか何だその言い回しは?」

 

「いやイッセー、あの映像に映ってたサイラオーグさんが全力を振り絞って戦ってるように見えたか?あんな余裕綽々で勝った映像だけじゃ判断材料が足りねぇよ」

 

少なくとも原作の彼よりは強いと思っているが俺はまだ彼に直接会った事も無いしな

 

「イッキは自己評価が低いわね。白龍皇の覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を打ち破ったんだしもう少し自信を持っても良いんじゃないかにゃ?」

 

「・・・イッキ先輩は強いです」

 

黒歌と小猫ちゃんはそう言ってくれるがこの世界、インフレが酷いからな

 

せめて素の実力で魔王級は欲しい所だ

 

「ははは、それでもあの映像に映ってる彼に勝てると言えるだけでも凄いと思うよ」

 

と言ってもあの映像のサイラオーグさんはおそらく手足に枷を付けてるし変則的だが神滅具(ロンギヌス)も持ってるんだからな

 

そう考えればまるで本気じゃないって事になる

 

「今回の若手悪魔は全員が最後に『王』同士の一騎打ちをしている。リアスもサイラオーグも自軍優勢にも関わらずタイマン張りやがって・・・バアルの血筋は血気盛んなのかね?」

 

リアス部長は若気の至りを指摘されて恥ずかしそうだ

 

「あのグラシャラボラスの者はどの位強いんだ?」

 

サイラオーグさんの強さはあまり参考にならないとしてゼノヴィアが質問する

 

「今回の六家に限定しなければ決して弱くは無いわ・・・と言っても本来の当主候補が先日事故死してね。彼は代理としての出場なの。それから・・・」

 

リアス部長が言葉を続けようとした時、部室に転移魔法陣が広がった

 

「・・・あの紋章はアスタロトね」

 

「え!じゃあ!?」

 

アスタロトの者が来るとリアス部長が見抜くと先日のアーシアさんの手にキスをした一件を思い出したのかイッセーが激しく反応し、アーシアさんがイッセーの手を握り僅かに陰に隠れる―――彼女としては珍しい反応だがいきなりの求婚に加えて未だに毎日大量のプレゼントやラブレターが届いてるらしいからな・・・やっぱりストーカーだな

 

「御機嫌よう皆さん。ディオドラ・アスタロトです。アーシアに会いに来ました」

 

終には押しかけ属性も追加しちゃったよこの貴族様(ストーカー)

 

ニコニコと笑うディオドラの登場に皆の纏う空気が重くなっていくのだった

 

 

 

 

今部室ではソファーに対面しながらリアス部長とディオドラが座っている

 

リアス部長の後ろには眷属の皆が立っていて俺と黒歌、アザゼル先生は少し離れた場所で事の成り行きを見守っていた

 

朱乃先輩は『女王』として紅茶を淹れているが何時もの笑顔は完全になりを潜めている

 

「回りくどい事は無しにして単刀直入に行きましょう———本日は眷属のトレードをお願いしに来ました。こちらが求める駒は当然『僧侶』です」

 

「いやぁん!僕の事ですかぁぁぁ!?」

 

一瞬不快感から視線が鋭くなったリアス部長も後ろから聞こえてきた悲鳴に毒気を抜かれたのか若干肩を落としている

 

「な!?ディオドラ、テメェまさかの両刀使いだったのか!?誤解のないように言っておくけどギャスパーは男の娘だぞ!」

 

「イッセー、察してやれよ。昔から貴族とか生まれた時から欲しいモノは大抵手に入れられる人たちは変な趣味趣向に走る事が多いのは歴史が証明してるだろ?アーシアさんを狙っていると思わせつつ、本命がギャスパーだったとは俺も予想外だったけど」

 

既にストーカーとして十分な実績を積み重ねている彼に遠慮する事も無いので弄り倒させてもらう

 

するとギャスパーがディオドラの前に歩いて行き深く頭を下げた

 

「ご・・・御免なさい!僕は貴方とお付き合いは出来ません!」

 

あれよあれよの内に男の娘に告白もしてないのに一方的にフラれる事になったディオドラは口元を引くつかせて額に血管が浮き出てしまっている

 

「・・・リアスさん。随分と愉快な眷属をお持ちのようですね」

 

「ええ、自慢の眷属たちよ。貴方にはギャスパーは渡さないわ―――用が済んだなら、どうぞお帰り頂けるかしら?」

 

ディオドラの皮肉をシレっと流して帰れというリアス部長。可愛がってるアーシアさんを連日困らせているディオドラにはかなりの塩対応だ

 

眷属を大切にするリアス部長にとってアーシアさんをトレードで手に入れようとするディオドラの姿は不快に映るのだろう

 

「いいえ、僕が要求する眷属は「言っておくけどアーシアも、他の誰であってもトレードに応じる気なんて無いわよ」」

 

もはや最後まで言わせずにディオドラの言葉を途中でぶった切るリアス部長

 

「・・・それは彼女の能力が素晴らしいから?それとも彼女自身が魅力的だからですか?」

 

「両方よ。私はアーシアを妹のように思っているわ。アーシアは私にとって『家族』なの」

 

アーシアさんは今のリアス部長の言葉を聞いて感動している

 

そしてディオドラが目を閉じて一息つき、紅茶を飲もうとする直前微かに黒歌から妖気が漏れた

 

「成程、ではこうしましょう。若手悪魔同士のレーティングゲームで僕があなた達に勝ったらアーシアを頂きたい」

 

「へぇ?先日、アガレス眷属に負けておいてよくそれだけの大口が叩けるわね?」

 

へ?ディオドラがアガレスに負けた?

 

「大体好きな女性を手に入れようというのにさっきから貴方はアーシアを商品としか扱ってない、そんな所も気に入らないわ」

 

俺の内心動揺を余所に暫くにらみ合っていた両者だが不毛と感じたのかディオドラはその場で立ち上がりアーシアさんの方を向く

 

「アーシア、キミは如何だろうか?僕はキミの為なら強力と噂されるグレモリー眷属さえも打ち破って魅せよう」

 

そう言いつつアーシアさんの前で片膝をつき、その手を取って再び彼女の手の甲に口づけをしようとした所でイッセーにその手を強く掴まれた

 

「アーシアは嫌がってるだろ。今後、アーシアには指一本触れさせねぇよ」

 

そういうとイッセーの手を強引に振りほどき、掴まれた所をハンカチで拭っている

 

「止めてくれないかな。薄汚いドラゴンに触られるのはチョットね」

 

イッセーがその発言に怒りを覚えて反論しようとした所で部室に渇いた音が響いた

 

「イッセーさんにそんな事言うのは止めてください!」

 

まさかアーシアさんが手を出すとは誰も思ってなかったのか全員が驚愕して動きを止める中一番早く起動したのは叩かれた頬が気付けになったのかディオドラだった

 

「いきなりの事でキミも動揺しているみたいだね。今日の所は引こう・・・だけど、僕がグレモリー眷属に勝った時キミは僕の伴侶となるのが正しいと知るだろう」

 

一触即発とも言える雰囲気の中アザゼル先生が割って入った

 

「お前ら、丁度良い。ゲームの日取りが決まったぞ―――グレモリー対アスタロト、五日後にゲーム開始だ」

 

 

 

 

 

ディオドラが帰って行った後、気になった事を黒歌に尋ねる

 

「なぁ黒歌、途中一瞬妖術使ったのは何だったんだ?」

 

「ああ、アレはね、あのお坊ちゃんの紅茶に一日遅れの時限爆弾をプレゼントしたのにゃ」

 

「爆弾?」

 

「とぉぉぉってもトイレが恋しくなる爆弾にゃ♪」

 

いやそれ下剤なんじゃ・・・

 

「効果は三日三晩は続くにゃ♪」

 

ゲーム開始寸前までディオドラはトイレの神様(悪魔)になるのか・・・全く同情出来ないな




原作のディオドラがあまりにも馬鹿らしいタイミングで『蛇』を使っていたのでちょっと自粛させてみました


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第二話 夢と、ヒーローです!

前話でサーゼクスが作詞と書いてましたが実際には作曲だったので訂正しました




朝、シンプル且つ広大なフィールドで俺と黒歌が相対している

 

濃密な闘気を纏って瞬時に距離を詰める俺に対して黒歌も後ろに下がりながら百を超える分身を生み出しそれぞれが凶悪な仙術・妖術・魔力を籠めた弾丸を複数の魔法陣からガトリングガンの如く打ち出してきた

 

幻覚も含めれば秒間1000発は超えてそうだ―――仮に全部避けようと思ったら鬼畜難易度も良い所だし、その分身や打ち出された弾の一発一発にまで本物と同程度の気配を付与するおまけ付きだ

 

時間を操って自己加速が出来る彼女はそれだけ手数を増やせるからな

 

俺は迫りくる数々の弾丸を目で追うのは不可能と断じて自ら目をつぶって視界を切り捨てた

 

そうしてほんの僅かな違和感から本体の黒歌が居る方向にアタリを付けて他から迫る弾を意識から追い出し、より繊細に本物の弾丸だけを見極めて神器で弾きながら更に距離を詰めていく

 

正直言って恐い。黒歌の分身・気配攪乱技を完全に見切る真似は出来ないので多分本物だろうという曖昧な感覚を頼りに撃ち落としていかなければならないのだ

 

そうして黒歌との距離を半分程度に縮めた時、不意に後ろから違和感を感じて咄嗟にガードする

 

俺の感じた違和感はどうやら正しかったみたいで一発被弾してしまった

 

本当は左歯噛咬(タルウィ)で弾きたかったのだが腕でガード出来た分だけ上々だろう

 

どうやら黒歌は弾を俺の感知圏外から遠回りさせて後ろからブチ中てに来たらしい・・・一方向に集中し過ぎてしまったな

 

「むぅ、硬くなったにゃ」

 

「京都では主に防御法を中心で鍛えたからな」

 

攻撃を神器で弾きそこなったのを直感した瞬間、左腕に闘気を集めて防御力を高めたのだ

 

「でも、単純な破壊力をいなせるようになっただけじゃ攻略出来たとは言えないにゃ!」

 

その言葉と共に左腕に徐々に麻痺が広がっていくのを感じる

 

黒歌の三種混合攻撃の内、相手の気を乱す仙術は同じ仙術使いとして相殺できる。そして夏休みの修行を通して純粋な破壊力を司る魔力の部分もいなす事が出来るようにもなった

 

しかしまだ最後に妖術の部分を如何にかしなければならないのだ

 

身体操作は黒歌より俺に分がある為、黒歌の仙術を相殺しつつも余ったリソースで妖術に対抗しようとするが動きが鈍った左腕の側から容赦なく大量の弾幕が張られる

 

俺が左を向こうが弾幕自体を操作して左から襲い掛かる数を増やしているのだ

 

このままでは押し切られると考えた俺は脳のリミッターを解除して弾幕に対処しつつ一瞬、だが確かに神器を手放し右手で印を結ぶ

 

भै(ベイ)!」

 

薬師如来の力を借りる印で痺れを払い再び空中にあった右歯噛咬(ザリチェ)を掴む

 

それと同時に右足で地面を思い切り踏み付け俺の周り一帯を粉塵で囲った・・・本来なら自分で自分の視界を遮る行為だが俺にはあまり関係の無い話だ

 

「にゃ?まだ距離が在るのにそんな事をして何になるのにゃ?」

 

確かに間合いに入ったうえでの行動なら兎も角まだ黒歌と俺の間には距離がある・・・黒歌が一瞬でも気を逸らさなければだが

 

“ボフッ!”

 

煙の中から俺が煙を纏わせながら左右から(・・・・)それぞれ飛び出した

 

「その程度の幻覚が見分けられないとでも思っているのかにゃ!」

 

若干不機嫌になりながらも黒歌から見て右側の俺に向かって攻撃を放ってくるが彼女の攻撃が当たった瞬間俺の姿が歪んで消えた

 

「嘘!幻覚!?」

 

黒歌が自信を持っていたように相手を惑わすのは本来妖術の十八番だ―――仙術でも同じ事は出来るが黒歌の感知を騙せるレベルのモノは今の俺には作り出せない

 

だからこそ驚いたのだろう。何しろ黒歌が攻撃した幻覚は本物の俺と寸分違わぬ気配を放っていたはずなのだから

 

黒歌の意識が一瞬外れた時に煙の中で気配を絶っていた俺が筋肉のリミッターも外して正面から最短最速で彼女に肉薄した

 

「・・・今回は俺の勝ちだな」

 

「はぁ・・・負けちゃったにゃん」

 

右歯噛咬(ザリチェ)を目の前に突き付けて黒歌の投了で模擬戦は終了となった

 

 

 

 

 

「はあ~、久しぶりに勝てた~!」

 

久々の軽い優越感を手に二人で観客(・・)の元に歩いていく

 

「むぅ、イッキ。最後のアレは一体何だったのかにゃん?イッキの術系の仙術で私を出し抜くなんて納得いかないにゃ!」

 

「答え合わせはご自分で・・・って、痛たたたた。頬を抓るな!―――アレは幻覚の中に神器を潜ませてたんだよ」

 

「神器を?」

 

「ああ、神器は持ち主の生命の根源である魂と融合しているモノだから試しに神器から俺そのモノの気配を出せないかって思ったんだ。後は外面だけ取り繕った幻覚に合わせて神器をぶん投げたんだよ」

 

言ってしまえばコレは奇襲戦法だ。ネタバレした以上今後黒歌には効果半減だろうが、多分黒歌なら次回には気づいてたと思うしな

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

少し離れた皆の所に到着すると小猫ちゃん以外がまだ『ポカン』としている

 

「・・・今の俺じゃ絶対勝てねぇ」

 

最初に言葉を絞り出したのはイッセーだ。禁手化(バランス・ブレイク)に至った今のイッセーならパワーやスピードはそれなりになったが仙術によるフェイントを多用する俺や黒歌との戦いではまだまだ翻弄されて終わるだろうからな

 

俺や小猫ちゃんは近接では幻覚を織り交ぜてるし・・・ケルベロスの時は必要無かったけど

 

「ハァ・・・自分が情けねぇよ。昨日だって夜に木場と模擬戦した時に5連敗したってのに。まだまだドライグの力を使いこなせてないって事か・・・」

 

「それを言うなら私もだイッセー。デュランダル使いだというのに聖剣のオーラの出力ですら私は負けてしまっているのだからな」

 

イッセーに続いてゼノヴィアまで落ち込み始めた

 

どうやら祐斗は聖剣の因子を合計4つも体内に取り込んだ為か因子の総量ですら天然の聖剣使いであるゼノヴィアを上回ってしまったようだ

 

それによりイッセーは禁手(バランス・ブレイク)の状態ですら直線の移動でも祐斗に勝てないらしい

 

「二人については今後の目標にさせてもらいましょう。皆、汗を流していらっしゃい。その姿で取材に出る訳にはいかないわ。その後で朝食を食べたら冥界に跳ぶわよ」

 

リアス部長が"パンッ!"と手を打ち鳴らして朝の修行で疲れた皆に身だしなみを整えるように指示を出し、それぞれがシャワーで汗を流しにいったのだった

 

 

 

 

 

其々の家で朝食を食べ終わった後、一息ついた後で再び集合し冥界のテレビ局に転移する

 

アザゼル先生とはもう少し後で現地で合流らしい・・・黒歌は留守番だ。まぁテレビ局で暇を潰せって方が難しいからな

 

スタッフの方に案内されて局内を歩いていると正面から映像で見た顔が歩いて来た

 

「サイラオーグ!貴方もインタビューの収録?」

 

鍛え抜かれた肉体と野性味のある顔に自信を溢れさせていたのは若手悪魔No.1のサイラオーグさんとその眷属の皆さんだった

 

「リアス、お前も来ていたのか。俺達は丁度今インタビューが終わった所だ―――リアスたちはこれから収録か?」

 

「ええ、私たちはこれからよ―――試合、見させてもらったわ。圧倒的だったじゃない。流石は若手悪魔No.1ね」

 

「俺もお前たちの試合は見させてもらったぞ。どの眷属も高い実力を持っている。コレはゲームでは油断できんな・・・まぁもっとも俺もお前も『王』としては素人同然の振る舞いをしてしまったがな。お前も何か注意を受けたのではないか?」

 

「ええ、アザゼルに揶揄い混じりに言われてしまったわ」

 

「堕天使の総督のアドバイスか―――これも和平が結ばれたからこそだな」

 

お互いにゲームでタイマンを張った事に苦笑しつつも体から戦意が滲み出ている

 

全力でぶつかり合いたいと思っているのが丸わかりだ

 

そこでサイラオーグさんの視線がリアス部長の後ろに居た俺を捉えた

 

「お前は有間一輝か。初めましてだな、俺はサイラオーグ。バアル家の次期当主だ―――あまり詳しくは報道されてないが歴代最強とされる白龍皇を退け、加えて伝説の魔獣ケルベロスや聖書に記されしコカビエルも倒したそうだな・・・レーティングゲームで戦う事は叶わないようだが何時かお前とも拳を交えたいものだ」

 

サイラオーグさんが俺の眼を見ながらリアス部長に向けていたのと同じ戦意をぶつけて来る

 

「初めまして、有間一輝です。俺で良ければ是非」

 

自分はあまり熱血系ではないが、これほど真っ直ぐの闘志をぶつけられたらその想いに応えたくなってしまうな

 

「そうか、その時を楽しみにしよう・・・それはそうとお前は何故ここに居る?リアスたちの付き添いか?」

 

「いえ、俺もアザゼルさんに呼ばれたから来たんですけど内容は聞いてないんですよ。リアスさん達に合わせて来たから指定された時間までまだ少しあるので適当に暇を潰そうと思ってた所です」

 

そこでリアス部長にスタッフの人から声が掛かった

 

「リアス様。眷属の皆さま。もうすぐ収録が始まります。控室の方へお越し願えます」

 

「分かった。直ぐに行くわ―――ではサイラオーグ、また会いましょう」

 

「ああ、またなリアス」

 

そうしてグレモリー眷属の皆は控室に向かっていった

 

「さて、有間一輝。暇だと言っていたが折角だ。一緒に茶でもどうだ?俺の今日の予定はインタビューしか入っていなかったからな。この後は戻って眷属たちとトレーニングでもしようかと思っていたのだが、強敵との実戦を潜り抜けてきたお前の話に興味があってな」

 

サイラオーグさんからまさかのお茶のお誘いですか!う~ん、断る理由も特に無いか

 

「あ!でも俺冥界の通貨とか持ってないので奢ってもらう形になってしまうんですけど」

 

「そんな事は気にするな。そもそも誘ったのは俺なんだからな」

 

サイラオーグさんはそう言って俺の背中を"バシン"!と叩いてきた

 

・・・サイラオーグさん、地味に痛いです

 

 

 

 

所変わってテレビ局の一階にあるカフェで俺とサイラオーグさんと彼の『女王』であるクイーシャ・アバドンさんが席に着いている

 

他の眷属の皆さんは一足先にバアル領でトレーニングだそうだ・・・とはいえ、クイーシャさんは基本的にお付きとしてのポジションではあるが

 

既に朝食と云うには遅い時間で客も殆どいないから席も取り放題だ。俺とサイラオーグさんは珈琲でクイーシャさんは紅茶を頼んだ―――後、飲み物だけというのも味気ないので少々大きめのシュークリームが各自一つ・・・流石に貴族に提供する物だけあってシュークリームはメッチャ濃厚な味で美味しかった

 

テレビ局のカフェに貴族用メニューが普通に置いてある辺り日本とは違うよな

 

「さて、こうして席を交えると何から聞くべきか迷うな・・・お前は人の身でありながら既にそれほどの強さを誇っている。何時から鍛えているんだ?」

 

手始めにという事で無難な質問が飛んでくる

 

「物心付いた時(0歳)からですね。鍛え始めた理由と言えば実際最初から神器も顕現させられたし、この世界が表の世界の在り様だけじゃないって分かって『鍛えておかないと死ぬ!』って強迫観念じみた思いから自主練を始めました・・・まぁ思い返しても普通の子供の思考回路とは言えなかったと思いますけど」

 

何せ前世の記憶があるからな・・・魔王級の強さでも安心はできない世界だし

 

「成程な。今でも同じ理由なのか?」

 

「そうですね。白龍皇とかケルベロスとか実際鍛えてないと死んでましたからその思いは変わってません・・・でも今は違う理由も出来ました」

 

「ほう?それは何だ?」

 

「惚れた女の為、俺の事を好きって言ってくれる娘たちの為って言ったら笑います?勿論、リアスさんを始めとした、友達の為でもありますけど」

 

口にするのは気恥ずかしいけど理由としては結局ソコだと思うしな―――我ながら単純だと思う

 

「誰が笑うものか、命を懸けるには十分すぎる理由だろう。複雑な事情が有ろうが無かろうが、戦う理由なんてものは突き詰めればシンプルなものだ―――そして、しっかりとソコを見据える事が出来る者はいざという時に折れないし、揺らがないものだ・・・かくいう俺も理由を突き詰めれば女の為という事になる。もっともお前のように恋人とかではなく母の為だがな―――俺の原点はそこに在る」

 

サイラオーグさんは珈琲を一口飲んで息をつく

 

「俺のバアル家は代々滅びの魔力を受け継いできた家系だ。だが俺は滅びの魔力を得られなかったどころか魔力そのものすらまるで才能が無かったのだ・・・父親ですら俺を『欠陥品』と呼び、下の家の者にも虐められた。今でこそ気にしてないが流石に当時の俺はこたえたものだ」

 

そりゃサイラオーグさんだって最初から強靭な精神を持ってた訳じゃないよな

 

卑屈になって引きこもりになる方が普通かも知れない

 

「生傷が絶えず、何時も泣かされて帰って来た俺に母は厳しく諭してくれた『魔力の才能が無くとも腕力でも、知力でも良い。努力して結果的に素晴らしい力を得られればそれは何より尊いモノであると』・・・だが、幼かった俺はその言葉を励みにすると同時に不満もあった」

 

「不満・・・ですか?」

 

何と言うかサイラオーグさんには似つかわしくない言葉だな

 

「まぁ単純な話、厳しくされるだけでなく母親に甘えたかったのだ―――今にして思い返すと情けないがな・・・だがある時、偶々夜中に目が覚めてな、母上の部屋から微かに物音がしたのだ。気になって近づくと部屋の中から微かに母上が泣いて謝る声が聞こえてきた―――俺は愕然としたよ。辛い事があっても何時も気丈に振舞う母上が『辛い目に遭わせて、ちゃんと生んで上げられなくて御免なさい』と只管に謝り続けていたのだからな・・・その日から俺は泣く事を止めた。母上の期待に応える為、何より『俺はもう大丈夫』と安心させる為に母上に贈られたこの体を鍛えぬく事を決めたのだ・・・笑うか?」

 

そんな事は無い!・・・ってさっき俺も同じ事聞いちゃったのか

 

「まさか、もしそんな奴が居たらぶん殴りますよ・・・素敵なお母さん何ですね」

 

「ああ、俺の誇りだ・・・フッ、柄にもなく自分語りなどしてしまったな」

 

そう言って自分でも何処か可笑しそうに笑うサイラオーグさん・・・でも確か彼の母親は何だっけ?ずっと起きない病気に罹ってたんだよな?なんか原作ではイッセーの起こした謎の奇跡って事で眠りから覚めてたと思うけど、本当にそうなのかも分からないし何か出来る事とか無いのかな?

 

でも俺が出来るのは仙術で体を診るくらいだ。自己治癒力の底上げとか外傷相手なら兎も角、病気と云われると困ってしまう

 

記憶が確かなら医学の名門であるシトリー領に居るはずだから仙術の治療も既に試してるだろうしな―――仙術使いは少ないけど貴族の伝手なら呼ぶ事くらいは出来たはずだし

 

もしも何とか出来る手段が在るとしたら神滅具(ロンギヌス)幽世の聖杯(セフィロト・グラール)くらいか?・・・まぁ、迷うことなくその案は却下だが

 

それにそんな超絶アイテムがそうゴロゴロしているはずも・・・待てよ?確かアレってあの時説明では・・・いやいやいや!流石に確証も無しに・・・でも提供があの人だからなぁ

 

ええい!『思い立ったが』ってヤツだ、こっちから話を振ってみるか

 

「そうですか、でも公式戦じゃ無いとはいえ初のレーティングゲームで勝利したんです。何かお褒めの言葉でも貰ったんじゃないですか?それとも『もっと精進しなさい』とか?」

 

そう聞いた途端ほんの僅かではあるがサイラオーグさんの気配が揺らいだ・・・御免なさい、俺は今結構卑怯な問い掛けをしてると思います

 

もしかしたら病気に何て罹ってないという淡い期待もあったのだが―――あの様子では多分違うんだろうな

 

サイラオーグさんは目を閉じて重々しく口を開いた

 

「・・・いや、俺はもうここ数年母上と話せてはいない」

 

「サイラオーグ様、その話は・・・」

 

サイラオーグさんが答えるとクイーシャさんが割って入って来た

 

彼女としては何とか話題を逸らしたいのだろう

 

「よい、クイーシャ。リアスの友なら知る機会があっても可笑しくないし、何も後ろめたい事が在る訳でもあるまい?」

 

「はっ、出過ぎた真似を致しました」

 

「そんな事はない、その心遣いには感謝する」

 

・・・き・・・気まずい・・・自分で話題を振っておいて地雷を踏みぬいた気分だ―――実際その通り何だろうけどさ

 

「さて、話の腰を折ってすまなかったな。母上は悪魔特有の『眠りの病』と呼ばれるモノに罹ってしまったのだ。文字通りに只管眠り続ける病で病例も少なく、不治の病とされている・・・方々伝手を辿っているがもしかしたら俺はもう母上とは話せないのかも知れない。だがそれでも俺は立ち止まる訳にはいかないのだ―――悪魔の社会は実力主義と云うが実際には血筋、利権、見栄、嫉妬など様々な理由で位の低い家の者が正しく評価されてないのが現状だ。俺はそれをどうにかしたいと考えている。母上が幼い俺を導いてくれたように、俺もこれからの冥界を担う子供たちが正しく夢を持てる世界を創っていきたいのだ」

 

そう締めくくったサイラオーグさんは全身から覇気が滲み出ている

 

レーティングゲームとしての『王』じゃない。民を第一に考えるこの人には正しく支配者としての『王』のカリスマがあるのだろう・・・低めに見積もっても【カリスマ B】はあるな

 

そんな彼の前に一つの赤い液体の入った小瓶を置いた

 

「サイラオーグさん。いきなりですが此方を試してみる気はありませんか?」

 

「何だそれは?」

 

「とある伝手で手に入れた怪我や万病(・・)にも効くとされる回復薬です―――フェニックスの涙とは似て非なるモノですね。以前俺も使ったので効果は保証します・・・流石に万病に効くというのが何処まで本当かは分からないですけど、体に悪い物ではないので試す価値はあると思います。勿論、事前に分析してもらってからという事にはなるでしょうが」

 

この説明にサイラオーグさんもクイーシャさんもマジマジと赤い液体の入った小瓶(異世界のスッポンの生き血)を見た

 

「良いのか?今言った事が仮に本当だとすれば途轍もなく価値のある物という事になるが」

 

「そりゃあ手元に置いておけば何時か重い病気に罹った時に安心かもしれませんが、そんなの誰にも分からない事ですからね。目の前に困ってる人が居る・・・それが理由じゃ駄目ですか?」

 

「随分とお人好しなんだな、お前は」

 

「別に博愛主義って訳じゃないですよ?『子供たちが正しく夢を持てる世界を創っていきたい』―――そんなカッコイイ事を素で言える貴方になら渡しても良いと思っただけです」

 

コレは俺の本心だ。誰も彼も助けようと思うようなアーシアさん程の優しさは持っていない

 

理由なんて『気に入ったから』で十分だ

 

「分かった、有り難く頂戴しよう。お前の云う通り検証は必要だろうがな・・・後日、謝礼をさせてくれ」

 

「いやいや、謝礼なんてせめて効果が出てからでも・・・」

 

「そんな訳にもいかん。少なくとも怪我は治るのだろう?それだけでもフェニックスの涙ほどの価値が在る―――それに気持ちも大切だ。コレはどうあれお前の善意で贈られた物だ。それに対して『効果が無ければお礼もしない』などと―――そんな不義理な事を俺にさせないでくれ」

 

ああ~、それもそうか。ミルたんに引っ越し祝いに渡された物だから価値という点で感覚が麻痺してたよ・・・そうだよな、普通に考えたらそうなるよな

 

「ああ、でもソレの出所は秘密という事にしてくれませんか?俺もソレを一個しか持ってないですし、ちょっと入手先は秘密なもので・・・」

 

流石に異世界はトップシークレットだし仮に情報が流れたら異世界のスッポンが絶滅するまで乱獲されてしまうからな・・・それ以前に異世界の行き方とか答えられない上にどの異世界かも分からんしな

 

「分かった。決して誰にも喋らんと約束しよう」

 

その言葉を聞き残っていた珈琲を一気に飲み干した

 

「では丁度アザゼルさんも来たみたいなので話はこれで―――そうだ!検証する医者の方には出所は明かせないけど分析して医学に役立てる分には問題ないと伝えておいて貰えますか?」

 

医学の発展自体は良い事だからな

 

将来病気になったらその時はシトリー領でお世話になるかも知れないし

 

「分かった、必ず伝えよう・・・後日こちらから改めて連絡を入れさせてもらおう―――非常に有意義な時間だった。礼を言う」

 

サイラオーグさんが手を差し出してきたので此方も握り返し答える

 

「はい。一日でも早いご回復をお祈り致します」

 

「それは神にか?」

 

「いえ、此処は魔王に祈りましょう」

 

折角神も魔王も実在している世界なのだ。適材適所で祈っても良いでしょう

 

「クックック!神ではなく魔王に祈る人間か・・・お前は面白い奴だな、有間一輝」

 

「節操の無さにおいて、人間の右に出る種族は居ないんですよ?」

 

そう切り返すとまた一段と笑い声を上げ、別れの挨拶をしてからサイラオーグさんは帰って行った

 

何かツボに入ったのかな?

 

「よぉイッキ、こんな所に居たのか―――あの後ろ姿はサイラオーグか?若手の実力者同士が仲良くお茶会ってか?」

 

後ろから声を掛けてきたのはアザゼル先生だ―――気配で分かってはいたけどね

 

「ええ、話していて気持ちのいい人でしたよ。それで何処に行くんですか?」

 

「ああ、こっちだ。着いて来い」

 

そうして案内された先は上役とかが使ってそうな感じの会議室で中に入るとサーゼクスさんが居た・・・マジか、部屋に常備してある感じの結界で気づけなかった

 

アザゼル先生もサーゼクスさんも気配を垂れ流しにしてる訳じゃないからちょっと隠蔽されるだけでも途端に分かりづらくなるんだよな

 

「よく来てくれたねイッキ君。まずは掛けてくれたまえ」

 

サーゼクスさんに促されて席に座り、俺も挨拶をする・・・特に他の人も居ないし、『さん』呼びで良いかな?

 

「お久し振りです、サーゼクスさん。会談の時以来ですね」

 

「そうだね、あの時は本当に助かったよ。覇龍(ジャガーノート・ドライブ)が相手では我らと云えど甚大な被害が出ていただろうからね」

 

「それで、本日の要件は?」

 

「ああ、待ってくれたまえ。実はもう一人呼んでいてね―――そろそろ来る頃だろう」

 

丁度そこで会議室にノックの音が響きサーゼクスさんが許可を出すと「失礼します」とイッセーが入室してきた

 

「あ!サーゼクスさま!それにアザゼル先生にイッキまで!」

 

「急に呼び出してしまってすまないねイッセー君」

 

「よぉーし、これで役者がそろったな。イッセーもまずは座れよ」

 

そうして全員が席に着いたところで早速サーゼクスさんが本題に入った

 

「実は今度、イッセー君を主人公としたヒーロー番組を作ろうと思っていてね。今日はその話し合いをする為に此処に呼ばせてもらったのだよ」

 

「ひ・・・ヒーロー番組~!!?」

 

マジか、確かにイッセーがヒーロー番組をやるのは知ってたけど俺も居たから気付かなかった・・・正直完全に他人事だと思ってたからな

 

「うむ、いきなりこんな事を言われて動揺するのも分かる・・・しかし、コレは冥界の為にも是非とも進めて行きたい企画なのだよ」

 

「前に各地で起きてるテロのせいで情勢不安になってるからお前に明るい話題を提供して欲しいって言ったろ?だがまさか実際のテロの映像を常に使っていく訳にもいかん」

 

そりゃそうだよな。映像の素材集めの為にイッセーを常に戦場に送り込むとか言ったらリアス部長とか一瞬で沸点振り切れるぞ

 

「それで・・・無いなら作ってしまえば良いと?」

 

「その通りだ。今まで冥界では身分関係なく一律に楽しめる娯楽と云えばレーティングゲームくらいしか無かったと云っても良い。だがこの前の和平会談の前に駒王町に遊びに・・・下見に行った時、人間界の様々な娯楽文化に触れたよ―――その中にデパートの屋上で催されていたヒーロー番組のショーが在ってね。息子のミリキャスと同じくらいの年の子たちが瞳を輝かせてヒーローを応援していた。子供の生まれにくい悪魔にとって子供たちというのは本当に大切な宝物なのだよ・・・子供たちの夢の為にこの話、引き受けてもらえないだろうか?」

 

「分かりました。俺なんかが冥界の子供たちに夢を届けられるって言うなら張り切ってやらせて頂きますよ!」

 

イッセーの勢いのよい返事にサーゼクスさんは嬉しそうに目を細めて「有難う」と礼を言った

 

「あの~、そうなると俺はどんな理由で呼ばれたんですか?」

 

俺の疑問に答えたのはアザゼル先生だった

 

「基本は同じだよ。イッセー主役のヒーロー番組にお前にも出演してもらいたい。今まではお前への取材などは他勢力の人間という事で控えられてきたが西日本の妖怪たちとも和平を結んだ今、お前さんの情報も流れ始めている。もっとも、流石に会談から時間が経って熱も冷めてるから話題性はまだ低い方だがな」

 

マジですか。イッセーのインパクト(おっぱいコール)が強すぎて報道がされてないだけだと思ってたよ

 

「この企画は出来るだけ秘密裡に行っていきたいと考えている。他のレギュラーメンバーであるリアスたちグレモリー眷属は魔王の名の下に事後承諾させる事も出来るが流石にキミにまで秘密で勝手にキャラを創ってしまっては西日本から抗議が来てしまうからね・・・それで如何だろうか?この話、引き受けてくれないかい?」

 

成程、俺だけ皆とは立ち位置がちょっと違うから此処に呼ばれたのか

 

それでサーゼクスさんへの答えだが決まっている

 

「分かりました。引き受けましょう」

 

正直言って恥ずかしい気持ちは在るけどあくまでも主役はイッセーらしいし、サイラオーグさんに続いてサーゼクスさんにも『子供たちの夢の為』なんて話を聞いたら断りたくないもんな

 

「決まりだね―――では此処にプロジェクト。おっぱいドラゴン、乳龍帝の設立を宣言する」

 

「へぁあ!!?」

 

「ブッ!」

 

『ち・・・乳龍帝だと~!?おっぱいドラゴンだけでも胸が張り裂けそうだったのに、俺様の赤龍帝の称号にまで浸食してくるなんて、俺は・・・俺は・・・うおぉぉぉぉん!!』

 

魔王の宣言にドラゴンが吼え、一大プロジェクトがここに幕を開けたのだった




今回は黒歌との模擬戦の様子を一度書いてみたかったの書きました
ヒーロー番組の中でイッキがどんなポジションのキャラになるかはまた後で書いて行きます


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第三話 ゲームと、舞台裏です!

レアアイテムをゲットする為に数時間周回してたデータが雷で吹っ飛んだorz

インドラめ!許せん!!


冥界のテレビ局でヒーロー番組の大まかな打ち合わせをしてから帰宅し、今はお昼を食べた後だが俺は自室で一人、イヅナの通信を使ってとある方と連絡を取っていた

 

夏休みにリアス先輩の実家から帰って来て凡そ半月と少し、自分では色々頑張ったつもりだったがまるで進展がなく、そろそろ本気で如何にかしなければならないと思い相談する事にしたのだ

 

「・・・という訳で黒歌が可愛すぎて夜の【一刀修羅】の瞑想が全く身に入らないんです・・・・どうにか出来ませんか?参曲(まがり)様」

 

そう、今の連絡相手は参曲(まがり)様だ。高校に入った辺りで俺もギリギリ最上級悪魔くらいの実力になったし黒歌も三又になったので参曲(まがり)様の下での修行は一旦切り上げになったのだ・・・参曲(まがり)様も決して暇な方では無いからね

 

京都に赴く前に一度だけ黒歌が俺のベッドに入ってきてまるで瞑想が上手くいかなかった事が在ったが、その後すぐに20日以上は時間を空けていたから正直すっかり頭から抜け落ちていたのだ

 

だが家に帰ってから毎日寝る時は俺のベッドに侵入して来るし、抱き着いてくるし、耳をピコピコさせながらスリスリとマーキング?もしてくるし・・・俺が【一刀修羅】を発動させている時は黒歌の存在をより強く感じ取れるのが分かっているからか逆にもっと密着して来るしで大変なのだ

 

効果時間が切れて気絶するように眠らなければ何度俺の理性がプッツンしてたか分からない・・・少なくとも夜の数だけプッツンしてたな

 

後ついでに言えば昼間や部活で小猫ちゃんが引っ付いてくる頻度も上がったしな

 

・・・複数の美少女に俺以上に過激に囲まれながら手を出さないイッセーはもはや神じゃないか?

 

≪惚気の相談は余所でやりな≫

 

おおっとぉ!参曲(まがり)様からの辛辣なお言葉!

 

今まで俺の質問には何だかんだでちゃんと答えてくれた方なのに、これほど袖にされたのは初めてかも知れないな

 

いや確かに馬鹿な質問だとは思うけど、それでも切実何ですよ参曲(まがり)様!

 

参曲(まがり)様に謝りつつも何とかその想いを伝えると深くため息を吐かれた・・・心なしか通信機の役割を担っているイヅナも呆れた表情だ

 

≪猫又の私としてはさっさとあの黒猫を孕ませてしまえと言いたいんだけどね。まぁいい、そりゃアンタが五感も含めて感覚を広げ過ぎてるからだよ≫

 

「あの・・・【一刀修羅】を発動すると一瞬で感覚広がるので制御どころじゃ無いんですけど」

 

≪なら五感を閉じてから発動させな。今のアンタならそれくらいの身体操作はちょっと練習すれば出来るはずさね。感覚をオーラの感知一本に絞っていけばその内魂の気配も多少は判るようになるだろうさ≫

 

成程!先に感覚を閉じるのは盲点だった・・・まぁ普通はそんな事出来ないんだろうけど

 

「分かりました。相談に乗って頂き有難うございました―――早速試していきたいと思います」

 

≪ああ、仙術の道は奥が深いからね。これからも努力を怠るんじゃないよ≫

 

「はい、では失礼します」

 

そうしてイヅナの通信は切れた

 

さて、俺自身の問題はコレで良いとして後はディオドラだよな

 

何故かアイツ対アガレス戦でオーフィスの蛇を使わなかったみたいだし・・・まだ蛇を支給される前だったのか原作の彼よりも若干自制が利いたのか、はたまたただの小物でテロとは無関係なのか

 

取り敢えず3番目の可能性はどうでも良いから切り捨てるとして禍の団(カオス・ブリゲード)のテロが起きるとしてどう動くべきなのか・・・でもレーティングゲームに俺は同行出来ないし、始まると共に会場は絶霧(ディメンション・ロスト)で隔離されるはずだ

 

グレモリー眷属の下に護衛として来たのが主神のオーディンだけだった事を考えれば狙った場所に転移出来るのはオーディン一人だけと思うべきだ・・・ロスヴァイセさんも居なかったしね

 

幾ら実力的に必要無かったのだとしても一人だけで来たのは多分そういう事なんだろう

 

そうなるとテロ行為が起きてからランダム転移でフィールドに入って直接皆の所に救援に行くしかないって訳だ・・・完全に後手に回るな

 

会談の時もそうだったけど厳重な警備を一瞬で無力化するとか厄介ってレベルじゃねぇ

 

ディオドラが『蛇』を使ってないのでゲームが禍の団(カオス・ブリゲード)に狙われているとアザゼル先生達が予見出来てるか分からないし

 

ああもう!原作じゃディオドラが『蛇』を使ったからそこから芋づる式に情報が出てきて各勢力が準備万端で迎え撃ったってのに!『蛇』使っとけよディオドラァァァ!!(逆ギレ)

 

 

 

―――その頃のディオドラ

 

 

「クックック!もうすぐだ!もうすぐアーシアを僕の物に出来る!ああ!あの可憐な顔を泣き顔に変えてその頬を伝う涙を舐めれば極上の味がするんだろうなぁぁぁ!!」

 

“ぐぎゅるるるるるうぅぅぅ”

 

「ヴ!あ・・・アレ?何か急に腹が下って来たな。全く、いい気分に水を差しやがって」

 

腹を抱えてちょっと内股になりながらもトイレに向かい、目的地にたどり着く頃にはかなり青い顔をしていた彼であった

 

 

―――その頃のディオドラ(完)

 

 

 

そうなると問題は最初に大量の敵に囲まれる所とアーシアさんが次元の狭間に跳ばされる所だ

 

もしも急なテロという事でオーディンの救援が遅れたら十分危険だし、何より次元の狭間に跳ばされたアーシアさんが偶然ヴァーリ達に拾われるとかどんな確率だよって話だしな

 

此処は小猫ちゃんに預けてあるイヅナをコッソリと本体のイヅナに代えるか

 

そうすれば敵に囲まれても分身したイヅナと今のグレモリー眷属の殲滅力とを併せれば生き残るのはそう難しくないと思うし、不測の事態に陥った時にイヅナの一体をアーシアさんにくっつければ万一次元の狭間に跳ばされてもイヅナが結界を張り続けられるしな・・・消費されるオーラは俺の持つイヅナから供給してやれば何とかなるだろう

 

う~ん。事前にテロが在るとハッキリしていれば開幕一発ライザーの時にやった『味方の悪魔には耳栓して貰って冒涜的な聖書の朗読作戦』をかましてやれたんだけどな・・・残念だ

 

まぁ何で本体のイヅナを小猫ちゃんに持たせていたのかって聞かれたら困るから救援が間に合うのが一番なんだけど・・・適当に言い訳考えないとなぁ

 

それから数日、イッセー達が対ディオドラ戦に向けて修行していき、遂にゲーム当日が訪れた

 

何でもディオドラが面会謝絶レベルの急な病に罹ったらしく、それでいて施設の整った病院に行くでもなくアスタロト家に籠り切りになってゲームの中止も危ぶまれたと聞いた時は色んな意味でヤキモキしたが・・・黒歌?口笛吹いてましたよ

 

ゲーム開始まであと少し、俺と黒歌にアザゼル先生とイリナさんは先に冥界に跳んでV.I.P用観戦席に居る。立食形式のパーティー会場みたいな感じで空中に複数のスクリーンが浮かんでいて各勢力の要人、それと此処は悪魔の領土なので悪魔の貴族とかが居るしオーディンと思しき人物もサーゼクスさんと一緒に居るし主神が来ているからかセラフォルーさんも緑色の髪の人とスキンヘッドの人も居る・・・一応写真で見た事があるのでアレがアジュカ・ベルゼブブとファルビウム・アスモデウスだな。四大魔王が揃ってるのを見るのは初めてだな

 

良かった。最悪オーディンが居なくて絶霧(ディメンション・ロスト)のせいで会場に入れもしないとかだったら【一刀羅刹】で空間切り裂いて後の事は黒歌とイヅナに全部託すとかも考えてたし

 

健啖家の黒歌は早速テーブルの上の御馳走に突撃して行った・・・小猫ちゃんもよく食べるけど種族特性なのかな?

 

こういった席が普通に用意される辺りアザゼル先生の気づかいとか九重の婚約者の立場とかが有り難いと思ってしまう俺も現金な奴だよな

 

そんな事を思ってると後ろから声を掛けられた

 

「お・・・お久し振りですわね。有間一輝様?」

 

振り向いた先に居たのはレイヴェル・フェニックスだ。彼女も観戦に来ていたらしい

 

紫色の服に腰の辺りに不死鳥の尾羽のような装飾が付いてるのが特徴的だな

 

まさか彼女に話しかけられるとは思わなかったけどライザーとのレーティングゲームでは直接では無いけど戦った訳だし、一応俺も最近冥界で報道されつつあるみたいだから声を掛けるくらいはするかもな

 

でも彼女の事を何と呼べば良いのか・・・一応此処は要人も沢山居る訳だし、『さん』は拙いよね

 

「お久し振りです。レイヴェル嬢―――あれからお変わりありませんか?」

 

うわ!『レイヴェル嬢』とか自分で言っててスゲェ違和感!昔黒歌を『黒歌さん』って呼んだ時みたいだ

 

内心悶えていると彼女から先に提案があった

 

「ちゃんと挨拶を交わした訳でも無いのに私の名前を憶えていて下さったのは嬉しいですわね。ですがイッキ様は出は庶民と聞いております。堅苦しい言葉遣いは慣れないのでありませんか?特別に『レイヴェル』と呼び捨てで呼んでも宜しくてよ?」

 

おお!それは正直助かる。やっぱり素の口調が一番だからな

 

「じゃあレイヴェル。今日は一人なのか?」

 

「ええ、そうですわ―――あの和平会談のテロを潜り抜けたリアス様たちグレモリー眷属は今や冥界の注目の的。若手No.1はサイラオーグ・バアル様と言われていますが知名度ではやはりグレモリー眷属が一番ですからね。気になるのも当然ですわ・・・それと私はあれからお兄様の眷属を辞めて、お母さまの未使用の『僧侶』とトレードしましたの―――まさかレーティングゲームに出場する殿方が、あ・・・あのような卑猥な技を使ってくることも在るだなんて思いませんでしたから・・・もしもアレが公式戦の生中継だったらと、考えるのも恐ろしいですわ。お母さまはゲームしませんし、実質フリーの『僧侶』ですわ」

 

顔を青くさせて微かに"カタカタ"と震えるレイヴェル・・・確かにコレが普通の反応だよな

 

「いや、アレは流石にイッセーくらいしか使わないと言うか・・・」

 

「分かっておりますわ・・・ですが、理解と納得は別物ですのよ―――それに、もしもコレでお兄さまが初めての敗北から奮起してやる気を漲らせたりしていれば私もお兄様を支えようともしましたが・・・実はあの一件以来、自分の部屋に塞ぎ込んでしまいましたの」

 

溜息を吐きながら「やれやれですわ」と首を振るレイヴェル・・・そっか、やっぱりライザーは塞ぎ込んだのか

 

多分今頃『ドラゴン怖い。ドラゴン怖い』とか言って毛布に包まってるのかもな

 

「多分今頃『人間怖い。人間怖い』とか言って毛布に包まってるんですわ」

 

そうそう『人間怖い』って・・・人間?

 

「人間?ドラゴンとかじゃ無くて?」

 

「あら、よく分かりましたわね―――初めの内は自分を直接倒した赤龍帝を恐れてドラゴン関係がダメになったのですが、和平会談でイッキ様がコカビエル、ケルベロス、白龍皇を打ち破ったとの情報が入った辺りからイッキ様及び人間全般がダメになりましたの」

 

「何でそれが俺を怖がることに繋がるんだ?」

 

というか人間全般がダメって人間と契約して利益を得る悪魔としては致命的なんじゃ?

 

「イッキ様はお兄様とリアス様がゲームをする事を決める際、態とお兄様を挑発したのでしょう?それにゲーム開始直後の赤龍帝の力を利用したあの悍ましい作戦を立案なさったのもイッキ様だとか・・・今まで散々下等だと侮ってきた人間に完全に掌の上で踊らされていたのだと知ったお兄様はそのせいで人間そのものがダメになってしまいましたの―――きっとお兄様にはイッキ様が魔王・・・と言うのは悪魔の私たちには似つかわしくありませんわね。そうですね、邪神にでも見えているのでしょう」

 

邪神ってそれ何処のアンリマユ?神器が神器だからそっちに思考が寄っちゃうな

 

「な・・・なら、ライザーは今はドラゴンは大丈夫なのか?」

 

「ええ、幸いと言って良いのかドラゴンに対する恐怖は何処かへ飛んでいったみたいですわ」

 

黒幕の俺が使い魔の赤龍帝を操ってた的な認識になったのだろうか?

 

まぁ人間もドラゴンも両方駄目なのよりはマシ何だろうけど・・・

 

「そうですわ!折角ですし、お近づきの印に此方を差し上げますわ」

 

そう言って彼女が手渡してきたのは黒くて細長いハンコくらいの大きさの入れ物だった

 

気品のある感じで中心にフェニックスの紋章のようなものが刻まれている

 

「コレは?」

 

「それは我が家で製造しているフェニックスの涙ですわ―――こういった席では友好を深めたい上級悪魔へのお土産として喜ばれる物なので幾つか持ち歩いていますの・・・イッキ様は人間である以上、どうしても悪魔よりは傷付きやすいですからね。有り難く頂戴なさって下さいな」

 

おお、フェニックスの涙か!

 

お値段幾らなのか聞きたいような聞きたくないような感じがするな!

 

それにアーシアさんが居ると云っても少しでも回復手段は多い方が良いし、此処は彼女の云う通りに有り難く頂戴しよう

 

「有難うレイヴェル。大事に使わせて貰うよ・・・所でそのイッキ『様』って言うのは何とかならない?」

 

折角彼女からは名前呼びを許してもらえたんだし、出来れば年下の女の子に『様』付けで呼ばれるのは回避したいとも思うんだが

 

「いいえ!コレは大切な事なのです!」

 

"ズイ"っと顔を近づけて力説するレイヴェル・・・何がそんなに掻き立てるの?

 

「いいですかイッキ様。私はフェニックス家の、つまりは貴族の家の娘。ですが私自身は当主として領地を切り盛りしている訳でも兄たちのように働いている訳でもありません―――子供だからと云われればそれまでですが、だからこそ近い歳でありながらその身一つで九尾の姫の婚約者という立場を獲得し、和平に関しても多大な貢献という『実績』を積んだイッキ様を敬うのは至極当然のことですの!お分かり頂けましたか!?」

 

お・・・おう・・・そうですね・・・

 

若干彼女の勢いに押されて仰け反っていると皿に料理を盛りつけた黒歌が近づいて来た

 

「ほらほらイッキ。喋るのも良いけど料理も美味しいわよ。貴族社会もこういう処だけは評価してあげても良いわね・・・というかその子は誰なのかにゃ?」

 

「ん?ああ、そうか。黒歌は初めてだったな。この子はレイヴェル・フェニックス。リアス部長とゲームをしたライザー・フェニックスの妹だよ・・・一応ゲームにも参加してたんだけどな」

 

黒歌は結果だけ伝えてゲームの映像とかは見てないからな。知らないのも無理はない

 

「レイヴェル、こっちは黒歌。リアスさんの『戦車』である塔城小猫の実の姉だよ」

 

「後はイッキの恋人でもあるにゃん♪」

 

・・・それは牽制ですか黒歌さん?

 

「こ・・・恋人!?ですがイッキ様には婚約者がいらっしゃるのですよね?・・・第二婦人という事なのでしょうか?」

 

そこで浮気とかじゃなくて直ぐに第二婦人なんて言葉が出る辺りは彼女もやっぱり貴族なんだな

 

「ん~、対外的にはそうなるのかにゃ?まぁイッキは恋人に優劣付けられるような精神してないから私は特に気にしないけど・・・一応イッキの最初の恋人は私よ?」

 

「そうなのですね・・・まぁ不誠実を働いてないというのなら許して差し上げますわ!」

 

何か許された・・・いやこれで『不潔ですわ!』とか言われるよりは良いんだけどね?

 

そこでサーゼクスさんから会場の人たちに向けて声が掛かった

 

「皆様、もう直ぐゲーム開始の時間となります。今宵は全組みが一度は戦った後の初のレーティングゲーム。彼ら若い芽が勝利、または敗北を何処まで己の糧とする事が出来ているのか、その成長も含めてお楽しみください」

 

会場の各所に設置された空中スクリーンにゲーム開始のカウントダウンが表示される

 

そしてそれがゼロになった瞬間、会場の壇上の後ろの壁が爆発した

 

「何事だ!?」

 

「分かりません!これは・・・転移遮断、および外部との通信途絶!このパーティー会場とレーティングゲームの会場を正体不明の霧が覆い尽くしているとの事です!」

 

警備の人たちが慌ただしく動いている中で破壊された壁の穴から数十の悪魔たちが侵入してきた

 

「忌々しき偽りの魔王、そして和平などという世迷言に踊らされた下賤な他の神話体系の者どもよ、我らは真なる魔王様方に忠誠を誓いし者なり。真なる魔王の名の下に貴様らには此処で死んでいただく」

 

先頭に立った悪魔が宣戦布告を叩きつけて来た

 

「旧魔王派による大規模テロか・・・まっ、その内来るとは思ってたがな」

 

「そうか、シャルバとクルゼレイが動いたのか・・・出来れば話し合いで解決したかったのだが」

 

サーゼクスさんの言葉に先ほど宣戦布告してきた悪魔が嘲笑しながら語り掛けて来る

 

「愚かな、我らの間に話し合いの余地などない―――そんな貴様にはこんな趣向も用意してあるぞ?ゲームの会場を見ろ!」

 

その言葉と共にスクリーンに映し出されていた映像では丁度ディオドラにアーシアさんが捕まり、イッセー達が多数の悪魔に囲まれている所だった

 

「・・・あの愚弟が。どうやら手引きしたのはアイツのようだな」

 

「その通り、お陰でスムーズに計画を進められた。身内にすら見捨てられるのが貴様らが魔王としてふさわしくない事の証左なのだよ!―――サーゼクス、貴様は精々そこで大切な妹がなぶり殺しになる所を眺めているのだな・・・もっとも、その前に死ななければだが!」

 

その言葉と共に旧魔王派の悪魔たちが会場全体に向けて大量の魔力弾をばら撒いた

 

咄嗟に展開に着いて行けてなかったレイヴェルをお姫様抱っこで安全圏に退避する

 

警護の人たちは各要人の傍で結界を張り、その要人自身も結界を張れる為、第一波による人的被害は無いようだった

 

「あ・・・有難うございますイッキ様。って何で感動に打ち震えてますの?」

 

「ああ、御免。お姫様抱っこってコレが正しい在り方だよなって思っちゃって・・・今まで男にされたり女の子にされたりしてたモンだからさ」

 

小猫ちゃんも祐斗も揃って首を傾げるんだから困っちゃったんだよ!小猫ちゃんは十中八九揶揄ってたんだろうけど、佑斗とか完全にド天然であの反応だったしな!

 

「そ・・・そうですの・・・それはまた難儀な人生を送っていらっしゃるんですのね」

 

レイヴェルが呆れたような、それでいて何処か憐れみを含んだ視線を向けて来る

 

そりゃあ黒歌も小猫ちゃんも九重も頼めばお姫様抱っこくらい了承してくれるだろうけど、それは何か違う気がするしな

 

さて、無駄話は此処までにしよう

 

「黒歌、一先ずサーゼクスさん達の所に行くぞ」

 

「ん、無理やりにでもあのフィールドに転送してもらうにゃん!」

 

それから3人で降り注ぐ魔力弾の雨を掻い潜ってサーゼクスさん達の張っている結界の下に辿り着きその中に入れて貰う

 

「君たち、無事でよかった」

 

「サーゼクス様、今はそれよりリアスさん達の事を・・・結界には入れませんか?」

 

結界内には他の勢力の要人も居たので『様』呼びに気を付けながら問いかける。絶霧(ディメンション・ロスト)の結界は出来れば力押し以外の方法で突破したい

 

「結界は今、アジュカが解析を行っている・・・アジュカ、どうだ?」

 

サーゼクスさんが緑髪に緑のマントを羽織った男の人に声を掛ける

 

「ふむ、まだ解析に少し掛かりそうだ。流石は転移と結界を司る神滅具(ロンギヌス)といった所か。結界内に入る所までは解析できたが転送先を指定するアルゴリズムが絶えず変化している・・・これらを逆算しなければ何処に出るか判らんぞ」

 

それを聞いたサーゼクスさんは苦虫を噛み潰したような表情を見せる

 

スクリーンではリアス部長たちを散々挑発したディオドラがアーシアさんを連れて転移で消えていく所だった―――恐らく後1分も在れば戦闘が始まるだろう

 

「ふうむ、そういう事なら儂が行ってやろう。折角ゲームを楽しみに来たのに若いもんが理不尽に潰される様など見たくは無いしの。儂一人くらいなら術の隙間を抜ければ辿り着けるじゃろ」

 

左目に眼帯をした髭の長いお爺さん・・・北欧の主神オーディンが救援に向かうと告げるが傍に居た銀髪美人がそれに異を唱える

 

「そんな!オーディン様お一人が敵陣の只中に赴かれるなど!お付きとして容認できません!」

 

「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ!ではなロスヴァイセ、お主は適当にあの悪魔どもでも消し去っておるがいい」

 

「ちょ!オーディン様ぁぁぁぁ!?ああもう!本当に行っちゃった―――これ後で始末書だけで済むんですか!?首になったりしませんかオーディン様ぁぁぁ!!?」

 

笑いながら画面の向こうに転移して行ったオーディンに対し彼女、ロスヴァイセさんがその場で崩れ落ちる―――今のやり取りで彼女に責任がいくのか・・・厳しいな北欧業界

 

だが画面の向こうでは北欧の主神の登場にさらに多くの敵が送り込まれていた

 

『ほれ、あの娘っ子を助けに行くんじゃろ?そのオーラがお主達を守ってくれる。とっとと行かぬか。儂がついて行けばあの大量の蝙蝠共まで一緒に引き連れて行ってしまうからの。爺は此処でハッスルしとるでの』

 

そうか、ならやっぱり俺達も救援に向かうべきだな

 

「ではサーゼクス様、俺と黒歌も救援に向かっても宜しいでしょうか?オーディン様が敵の殆どを引き付けているとはいえ、その内別動隊も彼らにぶつけられるでしょうし」

 

「それは有り難いが先も言ったように今はフィールドにランダムで転移する。かなり広大に設定された空間だが大丈夫かい?」

 

「はい。俺と黒歌の探知範囲なら程無く見つけ出せると思います」

 

実際は小猫ちゃんに持たせたイヅナの気配を辿れば良いんだけどね

 

「分かった。アジュカ!頼むよ」

 

「ああ」

 

直ぐに俺と黒歌の足元に転移魔法陣が展開される・・・なんか色々とごちゃごちゃしてる魔法陣だな。恐らく絶霧(ディメンション・ロスト)を抜ける為の計算式とか何だろうけど

 

「イッキ君。黒歌君。リアスたちを頼んだよ」

 

「はい!」

 

「まっ、白音を助けるついでに助けてあげるにゃん」

 

そうして俺たちはフィールドの中に転移していった

 

 

 

[サーゼクス side]

 

イッキ君と黒歌君がフィールド内に転移して行った

 

彼には何時も迷惑を掛けてばかりで申し訳なく思う

 

「そう難しい顔すんなよサーゼクス。オーディンの爺の露払いに加えてあの二人が行ったならよっぽどの事が無い限り問題無いだろう。それにお前の妹たちだってそんな簡単にやられるタマか?」

 

そうだな。リアスとその眷属たちを鍛えたアザゼルがこう言うんだ。兄として信頼し、魔王として責務を果たさねばな

 

すると今回招いた要人の一人、ラフなシャツにサングラスをした大柄な男が声を掛けてきた

 

「よぉ、優しい魔王に正義の堕天使。最近の悪魔のパーティーってのは過激な催しをするんだな。中々スパイスが効いてて面白いぜ」

 

「これはこれは帝釈天殿、本日はこのような事になってしまい大変申し訳ない。この埋め合わせは後日させて頂こう」

 

結界の外で未だに大量の魔力弾が弾ける中気さくな態度で話しかけてきたのは須弥山の神。『天帝』、『インドラ』とも呼ばれる世界有数の強者の神だ

 

「いいや、埋め合わせってんなら今欲しいな。俺みたいに戦いたいのに地位も実力も高い奴は中々暴れられる機会ってのが少なくてよ―――ここで警備の奴らに守られてる奴らにも似たようなのが居るんじゃねぇか?魔王の手前大人しくしてるんだろうが、思いっきり力をぶつけたくてウズウズしてると思うぜ?」

 

戦闘狂とされる性格は相も変わらずの様子だな。仮にも同胞の悪魔を憂さ晴らしに殲滅したいというのには思う所があるが、これも魔王として彼らのテロ行為を未然に防げなかった我らの過失だ

 

「分かりました。ただし、ご自分から戦いを要求される以上、怪我などについては責任を負いかねますが宜しいのですね?」

 

「ハッ!俺があの程度の雑魚相手に怪我なんざしねぇって分かって言ってるだろ?」

 

彼がそう言って"ニッ"と笑うと同時に会場、否、建物全体を奇妙な感覚が襲った

 

「ああ?」

 

「これは・・・」

 

「ふむ、どうやらレーティングゲームの会場に建物ごと転移させられたようだな。こちらの転移は未だ封じられているがリアス・グレモリー達の居る場所とは正反対のようだ。理由については・・・どうやら語るまでも無いらしい」

 

アジュカがそう言いつつ会場全体を包み込む結界を張ると同時に建物全体が爆散した

 

そして地面に降り立った我らを大量の旧魔王派の悪魔たちが取り囲んでいる

 

成程、相手の準備が整ったので物量で此方を押しつぶすつもりか

 

「雑魚供が、ケンカを売る相手を間違えたな。おうお前ら!サーゼクスが自己責任なら戦ってもイイとよ!俺は早速やらせて貰うぜぇぇぇ!」

 

帝釈天殿が会場に居た他勢力の実力者たちに発破を掛け右腕を引き絞る

 

「消し飛べ!ヴァジュラ!!」

 

振るわれた腕に沿って極大の雷撃が放たれ延長線上に居た悪魔たちが一瞬で塵と化す

 

「はっはぁぁぁ!どうしたどうした!もっと骨のある奴は居ねえのかぁぁぁ!!」

 

帝釈天殿に触発された要人の中でも戦闘に長けた者たちもそれぞれが強力な攻撃を繰り出していく

 

先程オーディン殿に置いて行かれてしまった戦乙女(ヴァルキリー)の彼女も「ひ~ん!何でこんな事にぃぃぃ!!?」と泣きながら大量の魔法陣から魔力弾を打ち放っている

 

「さて、我々魔王も動かなければな―――自己責任とは言ったが万が一が在っては困るし戦えない者も居る。セラフォルーとファルビウムは此処で専守防衛に努めてくれ。アジュカは引き続き結界の解析を、私は敵の殲滅に移ろう」

 

「うん☆私もそれでいいと思うわ♪ファルビーの防御の魔力も私の氷の魔力も守るのに向いてるからね☆」

 

「そうだね~。皆張り切ってるから此処が一番やる事少なくて楽そうだし、頑張って来てよ」

 

「俺もサーゼクスと一緒に前線に出る事にするぜ。教え子の大事な試合を邪魔されたんだ。プチっと潰してきてやるよ」

 

「ははは!アザゼルも先生役が随分と板についてきたみたいじゃないか」

 

そうだ、私も大切な妹の試合を穢されて内心ではかなり怒ってるのが自分でも判る

 

「では皆、健闘を祈るよ」

 

そうしてそれぞれが自分の戦場に向かっていった

 

 

[サーゼクス side out]




流石にレーティングゲームとなるとイッキは一歩出遅れてしまいますねww
イヅナの本体を小猫に持たせたのも主人公は一応ちゃんと対策は講じてますよというアピールみたいなものでしたし・・・取り敢えず次回はvsシャルバになります


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第四話 先手、必殺です!

今回はどっちかと言えばグレモリー眷属メインですね


アジュカ・ベルゼブブの転移によってフィールド内に侵入できた俺と黒歌は今現在上空2000メートルくらいから絶賛落下中だ・・・いや確かに転移先はランダムって言ってたけどさ

 

眼下に広がるのは剣山のような尖った岩がそこかしこに見える広大なフィールドだ

 

「・・・この感覚、参曲(まがり)様の修行を思い出すなぁ」

 

思わず参曲(まがり)様に『空を肌で感じて来い』とパンツ一丁で天空高くに放り出されたあの頃を思い出してしまった

 

「あははは、イッキがもし普通の人間だったらこれでお陀仏だったわね。それで白音たちはどの方角に居るか分かるかにゃ?私の探知範囲内には居ないみたいだけど」

 

確かに、俺も黒歌も探知範囲は大雑把に探すだけなら駒王町一つくらいは余裕でカバー出来る。それでも感知できないとは本当に広いフィールドだ・・・本来はどんな内容のゲームをするつもりだったんだろう?―――早速俺もイヅナに憑依して貰ってその繋がりから小猫ちゃんに持たせたイヅナの気配を辿る

 

「ん~、イヅナの気配は向こうの方だな」

 

そういってとある方角を指さすと黒歌がそっちを向いて「ん~?小っちゃく城っぽいのが見えるからアソコなのかにゃ?」と言うが俺の眼には見えなかった。流石に悪魔は視力が良い

 

俺も仙術で空気を捻じ曲げて疑似望遠レンズを作り出して気配のする方を見ると確かに城のようなものが見えた

 

俺も黒歌もかなり高い位置に居るのに米粒のような大きさって事はかなり離れてるな

 

「黒歌、急いで向かおう」

 

「了解にゃ!」

 

俺は仙術で空中を踏みしめ、黒歌も妖術で空を飛び皆の救援に向かう

 

「・・・そう言えば黒歌って悪魔の翼で空飛ばないよな?」

 

「うん?私は悪魔の翼よりも妖怪としての浮遊能力の方が性に合ってるにゃ」

 

「そうなんだ」

 

道中暇なので襲撃を警戒しつつ他愛のない会話をしながらも高速で移動していった

 

 

 

 

[イッセー side]

 

 

アーシアが連れ去られてしまった

 

今日はあのイケ好かないディオドラって野郎とのレーティングゲームで正式にアイツが二度とアーシアに近づかないようにぶん殴ってやろうと思ってたのに、いざゲームのフィールドに跳ぶとゲームのアナウンスは流れず代わりに禍の団(カオス・ブリゲード)の旧魔王派だとかいう奴らに囲まれてしまった

 

そして俺たちの意識がそれた瞬間にアーシアの足元に展開された転移魔法陣で旧魔王派の奴らと一緒に居たディオドラの下に転送されてしまったんだ・・・多分だけど事前に魔法陣を仕込んでいたんだと思う

 

数日ぶりに見たディオドラは急な病に罹っていたという情報は正しかったみたいで目にクマが出来て頬はこけていたがギラギラと欲望に滾った暗い目は健在で余計に不気味に感じられた

 

そしてディオドラはアーシアを連れて転移して行ってしまったが後を追おうにも千は超えてそうな数のテロリストの悪魔たちに囲まれて絶体絶命という時、北欧の主神だとかいう爺さんが朱乃さんのスカートの中を覗き込みながらも強力な結界を展開し俺達を助けてくれた

 

・・・助けてくれた事には感謝するけど登場シーンで台無しだ

 

こんな時でなければ俺のドライグが火を噴いたかもな!

 

『何故俺なのだ?』

 

比喩だよ比喩!俺の心がって意味だよ

 

どうやらその爺さんの話ではこのフィールドそのものが強力な結界で覆われているらしく爺さんくらいしか咄嗟に助けに来れなかったらしい

 

それに各勢力の要人の集まってる観戦席も同じく旧魔王派の襲撃を受けたようだ

 

つまりアーシアは俺達だけで助ける必要があるという事だな

 

オーディンの爺さんは俺達に強力な守護のオーラを纏わせてくれてグングニルとかいう槍を手に圧倒的な力でアーシアが囚われている城までの道を切り開いてくれた

 

そして俺たちが城に辿り着くとディオドラの声が響き渡った

 

≪よく来てくれたね。グレモリー眷属の諸君―――では早速だがゲームをしようか。ご破算になったレーティングゲームの代わりだよ≫

 

コイツ!自分でゲームを壊しておいてよくも勝手な事をいけしゃあしゃあと言ってくれるな!

 

ディオドラの提案を部長は飲んだ・・・アーシアが人質になってる以上下手にあのクソ野郎を刺激するような事は控えた方がいいとの事だった

 

ゲームのルールは一度出した駒は二度と使えないという事。そしてディオドラの下に辿り着く事だ

 

最初の相手は『戦車』2名と『女王』に予め昇格(プロモーション)した『兵士』8名という大盤振る舞いだった。分かっていた事だが公平なゲームなんて欠片もするつもりは無いらしい

 

それに対して部長はゼノヴィアに『戦車』2名の相手を、そして小猫ちゃんとギャスパーに『兵士』の相手を任せた

 

たった二人で実質『女王』8名相手とか大丈夫なのか?とも思ったけど試合が始まる前にギャスパーには俺の血を飲ませて停止世界の邪眼(フォービドウン・バロール・ビュー)で相手の動きを封じ、その間に小猫ちゃんが仙術と妖術を混ぜた毒霧とやらを動けない『兵士』たちに展開して一瞬で勝負がついた

 

小猫ちゃんは近接タイプだけど冥界合宿を経てかなりオールマイティな強さも身に付けたようだ。基本無表情の小猫ちゃんの前に相手の『兵士』たちが泡吹いて倒れて痙攣してる様は言いようのない怖さがあるけどさ

 

そしてゼノヴィアの方も早急に決着はついた

 

デュランダルと俺の貸したアスカロンを2刀流で構え、爆発的な攻撃的なオーラを滾らせた

 

「私は初めてアーシアに出会った時、彼女にとても酷い事を言った。そんな私の事をアーシアは友達だと言ってくれたんだ!アーシアは私の友達だ!親友だ!私は彼女を助けたい!そのための力を私に貸してくれ!デュランダル、そしてアスカロンよ!」

 

2本の聖剣はゼノヴィアの想いとお互いの聖剣のオーラに触発されてどんどんと力を増していき、ゼノヴィアが剣を振ると前面に居た敵が景色ごと吹き飛んでしまった

 

聖剣のオーラは木場の方が上らしいが木場が同じことをやろうとしてもここまでの威力は出ないらしい―――破壊の権化とされるデュランダルそのものの本質(・・)を使いこなす才能はやはりゼノヴィアの方が上みたいだ

 

そのまま城の奥に進むと今度は『女王』と『僧侶』2名が待ち構えていた

 

アガレス家とのゲームを見る限り『女王』も魔力での攻撃を得意とするウィザードタイプのようだから実質ウィザードタイプが3人だ

 

「此処は私と朱乃が行きましょう。残る『騎士』二人程度なら祐斗一人でお釣りがくるわ―――イッセー、ディオドラは貴方に任せるわよ」

 

「「はい、部長!!」」

 

そうだ、俺だけじゃない。眷属を大切にする部長も親友のゼノヴィアも他の皆も心底腹を立ててるんだ!俺が皆の分も含めてぶん殴ってやらないとな!

 

そうして始まったお互いの極大魔力の正面衝突!

 

ジリジリと部長と朱乃さんが押しているので少し時間はかかりそうだけど問題なく勝てそうだな

 

そう思ってると袖の部分を小猫ちゃんが引っ張ってきて俺に耳打ちする

 

「・・・え、マジでそれを言うの?小猫ちゃん?そんな事しなくても勝てそうだけど」

 

「今はアーシア先輩を一刻も早く助ける事を一番に考えなくてはいけません。早くして下さい」

 

「わ・・・分かったよ―――朱乃さ~ん!その人たちを今すぐ倒せたなら今度の日曜にデ・・・デートに行きましょう!」

 

本当にこんなので良いの?小猫ちゃん・・・

 

“カッ!バチバチバチバチバチィィィ!!”

 

って!極大の雷を全身から迸らせている朱乃さんが居るぅぅぅ!?

 

「うふふふふ!イッセー君からのデートのお誘い!・・・だから、あなた方は邪魔ですわ!」

 

膨れ上がった雷光が一瞬で相手の『女王』と『僧侶』達を飲み込み消し飛ばされていった

 

”ゴゴゴゴゴゴゴ!!”

 

「酷いわイッセー!私というものが在りながら朱乃にだけそんな事を言うなんて!」

 

なんか今度は部長が極大の滅びの魔力を滾らせているぅぅぅ!?もう戦いは終わってますよ部長!

 

「あらあら、イッセー君は『私』を指名したのですわよ?もうこれは確定じゃないかしら?」

 

「ふん!高々デート一回の権利であんなに舞い上がる朱乃が初心なだけなんじゃないの?私なんて今まで何度もイッセーに胸を揉まれているわ!」

 

小猫ちゃ~ん!?戦いは確かに直ぐに決着したけど何か別の戦いが始まっちゃったんですけど!?

 

「思ったより薬が効きすぎたみたいです・・・仕方ありません」

 

そう言って再び俺に耳打ちしてくる小猫ちゃん・・・本当に大丈夫それ?また火に油を注ぐ事にならない?

 

「二人とも、早くアーシアを助けに行きましょう!ケンカを止めてくれないと俺、アーシアとデートしちゃいますよ?」

 

ゴメン!アーシア!勝手にデートとか言っちゃって!

 

「うぐ・・・そうね、今はアーシアが最優先よ。朱乃、この話の決着は戦いが終わったら付けましょう」

 

「そうですわね。アーシアちゃんは私にとっても妹のような存在。早く先に進みましょう」

 

良かった!二人の意見も一致したみたいだし再び全員で次を目指して走っていく

 

「うふふ♡イッセー君とのデート♡」

 

「聞こえてるわよ!朱乃!」

 

走るスピードは全く落とさずまたケンカする二人だった・・・波長はピッタリなんだよなこの二人

 

最後に俺達を出迎えたのは『騎士』の二人だった。此奴らを倒せば残るはディオドラのみ!

 

「あなた達で最後ね。『女王』ではなく『騎士』を最後に残すだなんて貴方たちの主は『王』としての采配が未熟なんじゃないかしら?それとも、何か切り札でも在るのかしらね?」

 

「ならば今すぐに見せて差し上げましょう―――我らが今ここに居る理由を!」

 

そうして彼女達二人の『騎士』は同時に羽織っていたフードを脱ぎ捨てた

 

『騎士』という役割に相応しく二人とも武器は剣だった・・・でもこの感覚、それにあの形は!?

 

「我らは元々教会の者だ。そしてコレはその時使っていた天閃の聖剣(エクスカリバー・ ラピッドリィ)模造品(レプリカ)―――ディオドラ様の下僕となる時についでに持ち出してきたのよ」

 

「例え模造品(レプリカ)と言えど悪魔にとって聖剣の一撃は掠っただけでも大ダメージ。加えて私たちがディオドラ様に頂いたのは『騎士』の駒―――速さに速さを加えた私たち二人の連携連続攻撃を無傷でしのげる悪魔なんて居ないわ」

 

フリードの持ってた天閃の聖剣(エクスカリバー・ ラピッドリィ)模造品(レプリカ)!?本物に比べてどれくらい劣ってるのかは判らないけどそれに『騎士』の特性を加える事で圧倒的な速度を実現したのか!!

 

「成程、ディオドラの対悪魔用の切り札があなた達って事ね・・・それで祐斗、イケるわね?それともイッセーの力も要る?」

 

「ご冗談を・・・僕一人で十分です」

 

そうして一人前に出て聖魔剣を構える我らが『騎士』―――そうだよな、今や木場は小猫ちゃんに次ぐ強さを誇るグレモリー眷属のエース。なんの問題も無いよな!

 

「ふん!全身鎧を着こめる赤龍帝が相手では面倒だと思っていたがお前のような奴は我らの聖剣の格好の的にしかならんさ!精々リアス・グレモリーの采配を呪いながら消滅するのだな!!」

 

お互いが聖剣と聖魔剣を構えて正面から対峙し、一拍置いてから3人の姿が掻き消えて次の瞬間にはお互いの立ち位置が背を向けた状態で逆転していた

 

「な・・・馬鹿な」

 

「疾過ぎる・・・見えなかった」

 

“ズシャァ”

 

「覚えておくと良い。どんな攻撃も相手に当たらなければゼロと同じだよ。キミたちにはまだまだ速さが足りていなかったね」

 

ハハハ、あの速度で足りてないって痛烈な皮肉だな

 

彼女達の持っていた疑似エクスカリバーもきっちり叩き折られてるし

 

だけどこれでディオドラの眷属は全員撃破

 

対して此方はかすり傷の一つも負ってない―――待っててくれよアーシア!

 

俺達は城の中心である玉座の間に辿り着いた

 

玉座にはディオドラが不敵な態度で座っているがそれよりもアーシアだ!

 

アーシアはディオドラの上で手足を棘の石像?のような物で拘束されていた

 

それだけじゃなくアーシア目は赤く染まり泣き腫らした後が見える

 

「テメェ!アーシアに何しやがった!?」

 

「クククク!ちょっとアーシアに思い出話を語って上げただけさ―――何なら君たちも見るかい?僕のコレクションに残そうとちゃんと録画してあるんだよ」

 

そういうと俺達とディオドラの間にスクリーンが投射され奴と囚われたアーシアの会話・・・いや、アレはディオドラの一方的な語りが映し出された

 

それを見た俺は怒りで気がどうにかなりそうな感覚に陥った

 

何せアーシアが教会を追放された切っ掛けになったディオドラの傷を治してそれを教会関係者に見つかった事件は、全てアーシアを教会から追放し絶望させた上で自分の手駒にしようとしたという内容だったからだ

 

「あの後、まさか仮にもアーシアが堕天使の組織に身を寄せるとは思わなかったから一度は彼女の足跡を辿れなくなってしまった時は焦ったけど、まさかリアス、キミの眷属になってるとはね」

 

「黙れ」

 

無意識の内に左腕に籠手が装着された

 

「初めは横から掻っ攫われた事に怒りを覚えたけど今では感謝してるんだよ?何しろ君たちと一緒に居る彼女は本当に幸せそうだったからね―――そんな君たちをこの場で殺す事によってアーシアは最っ高の表情で絶望の海に沈んでくれるだろうさ!」

 

「黙れ!」

 

籠手の宝玉が激しく点滅しているがまるで気にならない

 

「アーシアはまだ処女だよね?やっぱり初物が最高だからな・・・でも、必死に赤龍帝の名を呼ぶ彼女を組み伏せて寝取るのも楽しいのかも知れないねぇ―――そうだ!赤龍帝、君だけはすぐに殺さないでギリギリ生かしておいてあげよう!何時殺すかは僕のさじ加減一つ!アーシアはキミの為に僕に必死になって媚を売ってくれると思うと楽しいと思わないかい!」

 

「黙れエェェェェェ!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

俺の中で溜まった怒りが禁手化(バランス・ブレイク)という形で弾けた

 

こいつはアーシアの優しさを何処までも踏み付けにするつもりだ

 

これほどまでに怒ったのは初めてに違いない―――俺の怒りのオーラが足元の床を砕いていく

 

「あははは!中々のオーラだねぇ!これが赤龍帝か。なら僕も君たちに真の力を見せて上げる事にするよ!」

 

ディオドラは掌に蛇のような紋章の描かれた魔法陣を展開するとそれを握りつぶした

 

次の瞬間ディオドラの魔力が桁違いに跳ね上がる

 

「これがオーフィスの蛇の力!コレが魔王の血統の真の力さ!君みたいな元下等な人間の薄汚いドラゴンなんて一瞬で・・・」

 

“ドゴンッ!!”

 

「ッグッハアァァァ!?」

 

ただ真っ直ぐに殴りつけに行った俺の攻撃を障壁で受け止めようとしたみたいだが、あっけなく障壁は破れさってしまった

 

何だこりゃ?確かに込められた魔力量は部長や朱乃さんよりも上のはずなのに、こんなにも薄っぺらい何も籠ってない(・・・・・)障壁は初めてだ

 

「ふざけるな!僕は上級悪魔だぞ!誰よりも誇り高い魔王の血筋なんだぞ!お前のような下賤な輩に殴られるなんて事が在ってたまるものかぁぁぁ!!」

 

もはや絶叫しながら手元に強力な魔力弾を作り出したディオドラだがまるで脅威を感じない

 

そんなディオドラに俺は普通に歩いて近づいて行く

 

「はっ!漸く諦めたのか!まぁ僕の偉大なる魔力を前にすれば平伏したくなるのも無理はないけどねぇ!・・・でももう遅い!君には高貴なる僕を殴りつけた事を死を持って償って貰わないとねぇ!まったく馬鹿な奴だよキミは!僕に逆らわなければもう少しだけは長生きも出来たって言うのにさぁ!!」

 

「どうした?さっさと撃てよ?」

 

聞いてるのも馬鹿らしくなってきた俺は挑発とも言えない挑発で魔力弾を撃つのを促すと瞬時に悦に浸っていた顔を怒りに代えて魔力弾を撃ちだしてきた

 

「死ねェェェェェエ!!」

 

“ズガァァァン!!”

 

魔力弾が着弾し俺の周囲が煙に包まれる・・・それで俺が死んだと思ったのかまだ晴れてない煙の向こうから奴の笑い声が聞こえる

 

「あははは!馬鹿め!粉々に吹き飛びやがった!さぁ次はキミたちだよリアス!アーシアの心を甚振る為に赤龍帝を生かしておこうと思ってたけど殺しちゃったからね。大人しくしてるならリアス、君だけは半殺しで許して上げるよ。もっとも何時かは殺すけどねぇ!!」

 

もはや俺の方を見ないで部長たちの方向を向いている此奴には後ろで煙が晴れて無傷の俺が居る事に気づいていないのだろう・・・ここまで滑稽だともはやピエロだな

 

いや・・・こんな事を考えたらピエロを生業にしてる人たちに失礼だったな

 

部長たちの呆れてる表情にも気づかずに未だに高笑いを続けているディオドラの肩に手を掛ける

 

「へぁ?・・・ッブっがはぁぁぁ!!?」

 

振り向いた瞬間に全力で顔面に拳を入れる

 

吹き飛ばされたディオドラは壁に激突し殴られた顔を押さえて転がりまわっている・・・こんな無様な姿をさらしてよくもまぁ部長や会長と同じ貴族を名乗れるものだな

 

転がってるディオドラを片手で持ち上げてもう片方の腕で只管腹を殴りつけて血反吐を吐かせていく・・・途中何か色々喚いていたようだがもはや聞こうとも思わない

 

そして殴りつけても痙攣するだけになった所で最後にもう一度渾身の力で顔面を殴り飛ばし壁にめり込ませた

 

「ウチのアーシアを、泣かすんじゃねぇよ!」

 

もはや聞こえてはいないだろうが言葉を突きつける―――仮にも魔王の身内だから此処で問答無用で殺したら問題になるかも知れないから止めは刺さないけど、もしもまた俺たちの前に現れるような事が在ればその時は容赦なく消し飛ばしてやる

 

「アーシア!もう大丈夫だからな。今、そこから降ろしてやるぞ」

 

「はい!信じていましたイッセーさん」

 

だけど俺はすぐに顔を顰める事になる―――アーシアの拘束がどれだけ力を入れてもビクともしないからだ。マジかよ、こっちはドライグの鎧を纏ってるんだぞ?

 

俺の様子に気が付いた部長たちがそれぞれ拘束物に対して攻撃を放つがそちらも傷一つ付かない

 

「これは・・・」

 

すると小猫ちゃんが何かに気づいたみたいだ

 

「小猫。コレが何か分かったの?」

 

「はい。以前和平会談の時に漂ってきたあの霧と同じ気配を感じます」

 

「ってことはもしかしてコレは神滅具(ロンギヌス)なのか!?おいドライグ、同じ神滅具(ロンギヌス)だろ?如何にか出来ないのか?」

 

『無理だな。以前コレと似たようなのを見た事がある・・・恐らくコレは上位神滅具(ロンギヌス)の一つ、絶霧(ディメンション・ロスト)禁手(バランス・ブレイク)だ・・・俺のような中堅神滅具(ロンギヌス)での太刀打ちは難しい』

 

「何だよ、神様何て歯牙にもかけないとか言ってる割に中堅なのか?」

 

『確かに俺も白いのも本来は神以上の力を持っている。神器に秘められた力という意味でなら上位神滅具(ロンギヌス)にも決して引けは取らんさ。だが、宿主の肉体に依存し、多大な負荷を強いる俺や白いのの神器は習熟が困難なのだ・・・自分で言うのもアレだが使い勝手が悪いのさ』

 

「そうなのか・・・でも結局それって俺の力不足って事じゃねぇか!」

 

『まぁそこまで大きな差が在るという訳でも無い・・・せめて何かあと一つ要素が加われば互する事も出来るだろうさ』

 

「後一つ・・・」

 

クソ!こんな時どうすれば良い!?考えろ、俺が何時も壁に行き詰った時は・・・そうだ!イッキにも言われた事じゃねぇか。何時だって俺の可能性をこじ開けてきたのはエロへの熱意だ!!

 

「皆!試したい事が在ります!下がっていて下さい・・・アーシア、俺を信じてくれるか?」

 

「はい、イッセーさんを疑ったりなんてしません!何度でも私は信じます」

 

アーシアが何処までも真っ直ぐな瞳で俺を見つめて来る

 

へへ!俺だって同じだ。何度だってアーシアを助けてやるさ!

 

「高まれ俺の性欲!解き放たれろ俺の煩悩!!洋服崩壊(ドレス・ブレイク)ブーストバージョン!!」

 

イメージするのは生まれたままの姿のアーシア!服も、手足の拘束も何もない無垢な姿を俺の全脳細胞を総動員してイメージする

 

するとついにアーシアを戒めていた拘束が徐々にひび割れていき、アーシアの服と共に粉々に砕け散った・・・フ!例え神滅具(ロンギヌス)が相手だろうと俺の煩悩の前では紙細工さ!

 

裸になったアーシアに朱乃さんが魔力で服を着せてくれた

 

やっとアーシアをこの手に取り戻せたんだ!そう思うと無性に感動してきて思わずアーシアを抱き締める「アーシアァァァ!!」・・・前にゼノヴィアに先を越されてしまった

 

「アーシア!もし君が居なくなってしまったらと思うと私は・・・私はぁぁぁ!」

 

泣いて抱き締めるゼノヴィアをアーシアも抱きしめ返す

 

「私は何処にも行きませんよ?何時だってイッセーさんやゼノヴィアさん、皆さんが守ってくれますから・・・私は本当に幸せ者です」

 

「ああ!当たり前だ!君を見捨てるなんて出来るものか!」

 

よく見るとここに居る皆が大なり小なり涙ぐんでいるのが分かる・・・へへへ!ちょっと俺ももらい泣きしそうだぜ

 

「さぁアーシア、帰りましょうか私たちの家へ」

 

ゼノヴィアから離れたアーシアを今度は部長が抱きしめる

 

「部長さん・・・」

 

「もう!そろそろプライベートではそう呼ぶのは止めなさい・・・私は貴女の事を妹のように思ってるって前にも言ったでしょう?」

 

「はい!リアスお姉様!・・・あ、でもその前に少しだけお祈りさせて下さい」

 

「お祈り?何を祈るんだ?」

 

「ふふふ♪ナイショです」

 

少し気になるけどまぁいっか―――アーシアの事だからとっても優しい願い何だろうし、追及するのは野暮ってもんだよな

 

アーシアは俺達から少しだけ離れた場所で膝を突き神様にお祈りを捧げていく

 

光が降り注いでいるようにさえ見えるアーシアの姿はいっそ神秘的にも見える・・・いや、可笑しいぞ?アーシアを囲う光がドンドン強くなって光の柱と呼べるものになってしまった

 

そして風が吹いたかと思うと直ぐに光が弱まっていきそこには誰も居なかった・・・アーシア?

 

「アーシア!何処に行ったんだよ、アーシアァァァ!!?」

 

この状況でアーシアが居なくなったって事はまさかまた俺たちはアーシアを目の前で連れ去られてしまったっていうのか?

 

「イッセー先輩、落ち着いて下さい」

 

「小猫ちゃん!だってアーシアが!!」

 

何で小猫ちゃんはそんなに落ち着いてるんだよ!?

 

「あ・・・あの、イッセーさん?私は此処ですよ?」

 

・・・へ?

 

俺だけじゃなく皆が声のした方を向くとイッキに抱き抱えられたアーシアがそこに居た

 

もしかして俺、傍から見たら凄くマヌケな感じに叫んじゃってた?

 

俺は困惑しながらも取り敢えずアーシアが無事な事に胸を撫で下ろしたのだった

 

 

[イッセー side out]

 

 

 

 

 

黒歌と一緒に城まであと少しといった所で俺は空気の層を捻じ曲げた望遠レンズでイッセー達の姿を補足していた・・・既に戦闘の気は収まっていたのでもう一刻の猶予も無いと思ったからだ

 

そして悪い予想は当たるものなのかアーシアさんが祈りを捧げ、その周囲に不自然に光が舞っている様子が見える―――瞬時に筋肉のリミッターを解除して全力の闘気を右足に集中させ、一歩でアーシアさんをその場から離脱させた

 

全力で動きつつ彼女を繊細に掬い上げるのは冷や汗を掻いたが・・・下手こいてたらアーシアさんが「ぐえぇ!」とか言ってたかも知れないし、そんな誰も得しない案件はゴメンだよ

 

グレモリー眷属の皆は俺とアーシアさんが移動したのが見えなかったみたいで必死にさっきまで彼女が居た場所に声を掛けている

 

動揺してないのは多分少し前から俺と黒歌が近づいてるのを感知してた小猫ちゃんくらいだ

 

そうしてまだ状況をちゃんと掴めてなかったアーシアさんが皆に声を掛けて無事を伝える

 

「アーシア!何が起こったのかと思ったわ!イッキが助けてくれたのね・・・でも、どうしてイッキが此処に居るの?」

 

「ああ、あのオーディンの爺さんが言うには救援に来れたのは爺さんだけだって・・・」

 

「それは狙ってあの場に転移出来たのがオーディン様だけって意味だよ。俺と黒歌はアジュカ様の力でフィールド内自体にはすぐに入ったんだ・・・もっとも、かなり遠くに転移したからギリギリだったみたいだけどな。それより皆気を引き締めろよ」

 

「ええ、まだ終わってないにゃん」

 

追い付いた黒歌も皆に警戒を促す・・・まだアーシアさんを狙った輩が居るはずだと皆も気づきそれぞれが臨戦態勢に入る

 

≪ふん!下等な人間が偉大なる魔王の血筋たる俺様の手を煩わせようとはな。まぁいい、この俺が手ずから皆殺しにしてくれよう≫

 

空間に声が響き渡り玉座の上空に転移魔法陣が展開され鎧を着た男が天から降りて来るように足元からゆっくりとその姿を現していく・・・ので、下半身が出た辺りで即座に奴の後ろにジャンプして近づき鎧の膝の裏の関節部分を神器で切り飛ばした

 

「ぐおおおおおおおおおおお!!?」

 

膝から下を切り落とされた激痛に絶叫を上げながら浮遊も維持できなくなった男は床に顔面から落ち、俺はその後頭部を全力で踏みつける

 

・・・此奴は敵の密集する中で態々声を掛けてから目立つ場所からゆっくりと、感知タイプでも無ければ状況の把握も難しいだろうに足元の方から転移してくるとか馬鹿なのか?

 

「う゛・・・う゛ぉぉ・・・」

 

アレ?全力で攻撃したのにまだ意識があるのか・・・ああ、そう云えばオーフィスの蛇で能力だけなら魔王級なんだっけ?

 

「噴!」

 

“ズシンッ!!”

 

半ば床にめり込んでいた頭を再度踏みつける・・・一応幹部的な立ち位置何だし生かして捕らえればいい感じに情報を搾り取れるはずだ。でも下手な真似をされても面倒だし仙術で頭の中をかき乱しながら何度もストンピングする

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」

 

“ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!”

 

はっはぁぁぁ!どうした?真の魔王様よぉ!『無駄無駄無駄無駄ァ!』って言ってみろよ!!

 

途中から何か楽しくなってきた俺は按摩器のごとく連続で踏みつぶしハイになっていると床が抜けてしまった・・・すこしやり過ぎたか?

 

まぁでもギリギリ死んではいないみたいだから良しとしようか

 

上の階に居た皆も悪魔の翼で下に降りてきたので倒れてる男の髪の毛を掴んで顔を上げさせる

 

「あの、リアス部長。コイツが誰とか分かりますか?魔力は高いんで生け捕りにして魔王様に突き出した方が良いと思うんですけど」

 

「え・・・ええ、顔面が潰れ過ぎて自信が持てないけど資料で見たシャルバ・ベルゼブブ?だと思うわ?現魔王政権に叛意があって禍の団(カオス・ブリゲード)の旧魔王派のリーダー格の一人だったはずよ」

 

・・・あの、リアス部長?それに皆も何でそんなに距離を取ってるんですか?ゼノヴィアだけは「うんうん!やはり初手で勝負を決する事が出来るのが一番だな!」と感心してくれてるけどさ

 

ちょっと納得いかない感じがしながらも気絶した上に魔力も当分煉れないシャルバを朱乃さんが魔力で拘束していくのを眺めているのだった




はい!という訳で前回の最後に予告したようにVSシャルバでした
いや~、全力を賭した熱い戦いでしたねww

・・・冗談はさておきシャルバなんて小物相手にイッキが特典使うような戦いを演じるのも何か違うと思ったのでこんな感じになりました

一章ごとに特典で切り抜けるなんてしてたら直ぐにネタ切れになりますからねwwあと1~2話投稿して次のラグナロクの章では流石にそういう訳にもいかないでしょうけどww


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第五話 服装、秘話です?

近場のブックオフの前を久しぶりに通ったら『コロナ対策で30分以上の立ち読み禁止』となってました・・・まぁ潰れてなかったので良しとしましょうww


[アザゼル side]

 

「ブワッハッハッハッハッハ!!」

 

ヤベェ!仮にも戦闘中だってのに腹が痛てぇ!!

 

戦場で笑いこけている俺をテロリストの悪魔が後ろから襲ってくるのを左腕のロケットパンチで吹き飛ばしているとサーゼクスが呆れたように声を掛けてきた

 

「アザゼル、もう少し真面目にできないものか?」

 

「いやぁ、そうは言うがよサーゼクス。あの高飛車シャルバの文字通りの転落っぷりは永久保存版だろう?旧魔王派のやつらは現魔王の妹のリアスの殺られる様を見せつける為にあえてゲームの中継を切らなかったみたいだが・・・ククク!むしろ奴らの方が動揺してるぜ?明らかにさっきより動きが鈍くなってやがる」

 

まっ、上司のあんな無様な姿を見せつけられたらな―――それにしても酷いなアレは・・・イッキの奴は所謂『王道』は歩めないタイプかもな

 

アレだけの強さが在りながら普段からイマイチ自己評価が低い為か実戦では『勝利』を第一に考えるタイプだ。どちらかと言えば『覇道』タイプだな・・・いや、むしろ『外道』か?もしもアイツがレーティングゲームに出場するようなら一部にコアなファンが出来るかもな

 

そんな事を思っていると俺達の前に一人の男が舞い降りた――此奴は確か・・・

 

「クルゼレイ、既に旧魔王派の悪魔たちは神々の力も在ってほとんどが消滅している。それにシャルバが倒されたのも知ってるだろう?投降する気は無いのかい?」

 

「黙れ!我ら真の血統を『旧』などと呼び、我らの魔王の座を奪った貴様に下る気などない!この場で貴様を殺した後、貴様の妹とあの人間も殺して盟友シャルバを救い出してみせよう!」

 

あ~あ、ダメだこりゃ。完全に思考が固まってやがる

 

そもそもお前らが魔王の座に座れなかったのは自分たちの力不足が原因だろうに・・・実力主義を訴える悪魔の世界で何時まで血筋に傾倒してんだか

 

「そうか・・・残念だ。ならば私は魔王として今の冥界を脅かす者を排除する」

 

サーゼクスが手を掲げる奴の体をすっぽり覆う滅びの魔力が現れ奴の体が次々と崩壊していく

 

「ば・・・馬鹿な!オーフィスの力をもって最強となった私がこんなにも容易く!・・・ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

ハ!あの程度で最強とは妄想力だけは一級品だったな

 

すると俺が手に持っていた堕天龍の閃光槍(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)の宝玉が反応を示した―――そして次の瞬間俺たちの近くに以前にも感じた事のある気配が現れる

 

「ほう、まさかお前さん自身が出張って来るとはな」

 

今回の作戦はコイツにとってそれほど重要なのか?それとも何か他に目的でもあるのか?

 

「アザゼル、久しい」

 

現れたのは無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)、オーフィスだ

 

世界に関心の無いはずのこいつが何故今頃になって出てきたのか聞くとあっさりと教えてくれた

 

此処に来たのはただの見学で最終的な目的は生まれ故郷の次元の狭間に帰りたいとの事だった

 

此奴のホームシックが世界を巻き込んだ争いに発展してるとは最強を冠する龍神様はスケールが違うぜ・・・今次元の狭間を飛び続けてるオーフィスを追い出したグレートレッドも次元の狭間は広大なんだから仲良く2匹で漂ってりゃいいモノを・・・ま、縄張り意識の強いドラゴンにそんな事を言ったところで無駄だろうがな

 

ともあれ此奴が旧魔王派の手助けに来た訳じゃないってのは僥倖だったな

 

俺やサーゼクスを含めた四大魔王に各神話体系の神仏がちょくちょく集まっちゃいるが、もしもコイツがその気なら鎧袖一触に蹴散らされていた所だ

 

すると不意に空の方を向くとそのまま何も言わずに消え去ってしまった―――俺の眼を持ってしても影すら追えないとはね。全く嫌になるぜ

 

「アザゼル、オーフィスが何処へ向かったか分かるか?」

 

「んん、そうだな・・・どうなんだ、ファーブニル?」

 

手元にあった宝玉に話しかけると一つの座標を送って来た―――コレはイッキやイッセー達のいる所か・・・まぁ今更オーフィスが態々あいつらを直接どうこうしようとするとは思えないがな

 

「ふむ。確かに同意見だが無視する訳にもいくまい?幸いこの周辺一帯の敵はほぼ殲滅し終えているし少し前にアジュカが結界の解析・解除をしたとの連絡があった。既に結界の外に居た警備の者たちも旧魔王派の者達を逃がさないように包囲網を敷きつつ討伐に加わってくれている。転移も通常通り使えるようになったし此処は彼らに任せて我らはリアスたちの下に向かうとしよう」

 

「そんじゃまぁ、行くとしますかね?」

 

何つっても俺はあいつ等の顧問だしな

 

俺達の足元に転移魔法陣を展開し、オカルト研究部の下に転移して行った

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

 

俺達はあれから城を出て取り敢えず近場に居るオーディン様と合流しようという方針になった

 

もう既に粗方の敵を片付け終わってるみたいだから邪魔にもならないだろうし特に他に行くべき場所も無かったからだ

 

そうして今は俺がシャルバを、イッセーがディオドラを簀巻きにした魔力縄を持って引きずって向かっている所だ・・・初めシャルバを拘束してそのままオーディン様の所に行こうとしたら黒歌から「ねぇ、この壁にめり込んでるお坊ちゃんはほっといて良いのかにゃ?」と言われてそこでようやく皆がディオドラの存在を思い出したのだ

 

最後に駆けつけた俺と黒歌は兎も角、直接戦ってたイッセー達がディオドラの存在を完璧に忘れて『・・・・・あ!』と揃って反応した時には少しだけ哀れみを感じてしまったが・・・よっぽどアーシアさんが消えかかってしまっていたという事が彼らの中で衝撃的だったんだろうな

 

「・・・それで最後に木場が『騎士』二人を倒してディオドラの所に向かったんだ」

 

今はイッセーから軽くどんな事が在ったのか聞いている所だ。イッセー達の戦いは中継されていたはずだが俺と黒歌はスクリーンのある場所には居なかったからな

 

「ん?祐斗が『騎士』二人と戦ったのか?」

 

「ああ、そうだけど何かおかしかったか?」

 

「いや、何でもない。勘違いだから気にしないでくれ」

 

「?」

 

アレ?フリードの奴は居なかったのか?ああ、でも確かにフリードが聖剣の因子を取り出されて教会から追い出されたのは数日前の話だもんな。居なくても不思議じゃないのか・・・まぁフリードの事だしその内出て来るだろう。いや、来てほしい訳じゃないけど

 

そんな事を思っていると丁度俺たちの目の前の空間に切れ目が出来てそこから眼鏡を掛けた紳士服の優男系イケメンが現れた

 

「おや?まさかピンポイントで貴方方の居る場所に出るとは・・・もしやすると赤い龍と白い龍の持つ波動が無意識の内に惹かれ合ったのかも知れませんね?」

 

そう言って未だに開いたままの空間の亀裂を向き話し掛ける

 

「ふっ、それも一つの因果だと思えば俺は面白いと思うぞ?アーサー」

 

亀裂から出てきたのはヴァーリだ。そしてそのすぐ後ろには美猴も居る

 

「な!?ヴァーリ、テメェが何で此処に!旧魔王派とやらのテロに加担しに来たのか!?」

 

「安心するがいい、兵藤一誠。俺は今日のテロには無関係だし手を貸すつもりもない・・・ある探し物をしていてな。そろそろこの空間に現れそうだったから立ち寄っただけだ。そこのシャルバ・ベルゼブブをどうこうするつもりも無いさ」

 

ヴァーリがそう言うと彼の後ろに居た美猴が"ヒョイ"とシャルバの方を覗き込む

 

「うっひゃぁぁぁ!それにしてもヒデェなありゃ!前歯全部折れてるし鼻骨とか絶対粉砕してるぜ!鼻が殆ど顔面に埋まってるじゃねぇか」

 

まぁ確かに美猴の言うようにモザイク案件ではあるな

 

少なくともお茶の間のお子様にはあまり見せられない光景だ

 

「探し物?・・・って何だよ?」

 

「ふむ・・・そろそろだな。空を見ろ、兵藤一誠」

 

その言葉と共にゲームフィールドの遥か上空の空間が歪み始め”バチバチ”とまるで放電現象のような様を見せながら全長100mは在る巨大な赤いドラゴンの姿が現れた

 

「赤い龍と呼ばれる存在は2匹居る。1匹はキミの中に居る赤龍帝ドライグ。そしてもう1匹は黙示録に記されし『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッド。『真龍』、『ドラゴン・オブ・ドラゴン(D×D)』とも称されし最強の更に上、無敵とされる存在だ―――俺は何時かあのグレートレッドを倒して『真なる白龍神皇』になる・・・赤の最上位が居るのにライバルである白が一歩手前止まりでは格好がつかないだろう?」

 

そんな理由で神にケンカ売るなよな―――これだから戦闘狂は始末に負えんな

 

「グレートレッド、久しい」

 

すると突然岩の上に腰かけている少女が現れた

 

自分でもそれなりに感知の性能は上がってると思ってたが実際こうも何も感じないと自信無くすな・・・相手が相手だから仕方ないんだろうけどさ

 

「誰だ!?」

 

「・・・何の気配も感じなかったです」

 

只管グレートレッドを見つめて反応を示さない彼女の代わりにヴァーリが答える

 

「オーフィス、無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)だ」

 

目の前に居るのが禍の団(カオス・ブリゲード)のトップだと知った皆は驚愕の表情だ・・・まぁ見た目は幼女だしね

 

でも、俺としてはそんな事よりもずっと気になる事があるんだよなぁ

 

「我は、何時しか必ず静寂を手にする」

 

そう言って手をピストルの形にしてグレートレッドを撃つ仕草をする彼女

 

「ほぉ、グレートレッドを見るのは久しぶりだな・・・成程、さっき見学と言ってたのは旧魔王派の事では無くアイツを見に来ていたのか」

 

後ろから声がしたので皆で振り向くとアザゼル先生とサーゼクスさんが歩いて来ていた

 

「お・・・お兄様!?観戦席も襲撃にあったと聞きましたがそちらはもう宜しいのですか?」

 

「ああ、大丈夫だよリアス。旧魔王派の殆どは瓦解したよ―――今は包囲網を敷きつつ残りを片付けている所だ」

 

「ん・・・それもまた一つの結果」

 

オーフィスが此方側に正面から向き直り何でもないように告げる

 

「旧魔王派が居なくなった以上、禍の団(カオス・ブリゲード)で大きな戦力は後はヴァーリチームと英雄派くらいのものか?」

 

「英雄派?」

 

「ああ、そうだ。神器所有者や英雄の子孫何かを中心にした派閥さ」

 

「な・・・何つぅ奴らがテロリストになってるんですか!!?」

 

英雄派の来歴をしって驚きの声を上げるイッセー・・・何だけどもうイイよね!?誰もツッコまないなら俺がツッコんでもイイよね!!

 

俺は一人前に出て彼女・・・オーフィスの前に立つ

 

「初めまして。俺は有間一輝・・・早速だけど一つ質問させてもらって良いか?」

 

「お・・・おいイッキ!何やってんだよ!?」

 

「イッキ先輩!危険です!!」

 

心配してくれてるけどゴメン!どうしても前々から聞いてみたかったんだ!

 

オーフィスも「ん・・・何?」と質問を了承してくれたから遠慮なく聞こう!

 

「その服スゲェ変だぞ?どうしてそれをチョイスしたんだ?」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

いや皆揃って無言になるなよ!

 

だってどう見ても可笑しいだろこの格好!!

 

後ろから見る分には黒の格調高いドレスのようだけど、正面向いた瞬間に変態だぞ!?

 

穿いてるのはかぼちゃパンツにしか見えないし、腹は紐が二本結んでるだけで何より胸が乳首の部分にバッテンシールだけって何をどう迷走したらソコに行きつくんだよ!?

 

質問した当のオーフィスはと言えば何か考え込むように下を向いてるし・・・少しすると彼女はうつ向いていた顔を上げた―――ただし視線は俺ではなく別の方を向いていた

 

「・・・アザゼル。我の格好は・・・変?」

 

どうやら昔からの知り合いに意見を求めたようだ

 

「お・・・俺に聞くのか!ま・・・まぁそうだな。世間一般の常識に則るなら変だと思うぞ?―――てか俺も気になって来た。どうしてその服だったんだ?」

 

「・・・我、久しぶりに人前に出たから人里で最初に目に着いた服屋に入ったらこの服が売ってた・・・【一押し新商品】と書いてあったから我、コレにした」

 

それ絶対如何わしい店の一押しィィィ!!

 

でもそうか!服の良し悪しの分からない人のオシャレの最終奥義『あのマネキンの服一式下さい』を実行してしまったのか!・・・入った店が最悪だったみたいだけど

 

この服のデザイナーもまさか龍神様が着ているとは思うまい!

 

「ヴァーリィィィ!!女の子の服をコーディネートできる知り合いは居ないのか!?」

 

具体的にはルフェイとかルフェイとかルフェイとか!!

 

「ふむ、そういう事でしたら私の妹を紹介いたしましょう。妹は普通の感性をしていますし・・・それでよろしいでしょうか?」

 

アーサーがオーフィスに向き直りながら確認を取ると無表情のまま"コクン"と首を縦に振った

 

「・・・黒歌姉様。イッキ先輩は何であんなに必死なんですか?」

 

「それはね白音。多分健全系エロス信者のイッキにはあのフルオープン痴女スタイルがどうしても許せなかったんだと思うにゃ」

 

そこの猫又姉妹!聞こえてるからね!?———ちょっと否定できないけど・・・

 

「・・・我は帰る」

 

「お・・・オーフィス?そんな引っ張らなくても私h・・・」

 

一言だけ言葉を残しアーサーを連れて瞬時に居なくなったオーフィス・・・アーサーの妹に話を通す為に連れて行ったようだが、あの様子なら今日明日中にはまともな格好になっている事だろう

 

一人満足しながらもサーゼクスさんにディオドラとシャルバを引き渡し一先ず事件は終了となった

 

 

 

 

 

 

後日、駒王学園の体育祭がやって来た

 

土曜だからか俺の両親やイッセーの両親も同じ場所で風呂敷を広げて応援したり、カメラを構えて撮影したりしている

 

イッセーの両親とうちの両親は豪邸に住み、尚且つ美少女達と共同で住んでいるという共通点を持つお隣さん同士と言う事もあって仲が良い・・・確かに話を合わせられる相手なんて普通居ないし話題は尽きないだろうな

 

黒歌も今日は前に買った現代風衣装で同じ場所で小猫ちゃんの応援だ

 

丁度今一年生のパン喰い競争で小猫ちゃんとギャスパーがパンに噛り付こうとしている所だ・・・ギャスパーがブルマ姿なのはもはや何も言うまい

 

「畜生!一年に転入して来た金髪美少女にしか見えないギャスパーがアレで男だなんて!!元浜!お前のスカウターが壊れていて欲しいとあそこまで願った事は無かったぞ!」

 

「言うな松田、虚しくなる・・・それより俺は黒歌さんが本当に小猫ちゃん(マイエンジェル)の姉でこのままいくと小猫ちゃん(マイエンジェル)がイッキの義妹になりかねないと言うのがショックなんだ!」

 

俺達は今は次の出場競技までに時間が在るので生徒用の席でだべってる所だ

 

いやまぁ義妹にはならないと思うぞ元浜?・・・ぶっちゃけ嫁になりそう何だけどそれを言葉にしたら元浜が怒りから人間とは別のナニカに変貌しそうだから言わないけどさ

 

結局パン喰い競争は小猫ちゃんが一位通過し他の場所で行われていた短距離走では2年の部ではゼノヴィアとイリナさんが、3年の部ではリアス部長と朱乃先輩にソーナ会長と椿姫副会長がデッドヒートを繰り広げていた

 

「さてと、そろそろ出番が近いし行ってくる」

 

「おう!イッキは確かスプーンリレーだったっか?負けんじゃねぇぞ」

 

「誰に言ってるんだよイッセー」

 

自分で言うのも何だけど身体操作で俺の右に出る奴はこの場には居ないぞ?態々手加減するような理由も無いしキッチリと一位を盗ってクラスのポイントに貢献してやるよ

 

そうして待機場所で支給されたスプーンとピンポン玉を持つ

 

軽いから跳ねて落ちやすいし、なんなら強風が吹くだけでも落ちかねないこのピンポン玉を落とさないようにゴールに届けなければならない競技だ

 

当然ピンポン玉を落としてしまった場合は落とした場所まで戻って走り直しとなる

 

「イッキィィィ!もしも負けたら罰ゲームだからね~♪」

 

「イッキ先輩、頑張って下さい!」

 

遠くの方から黒歌や小猫ちゃんの声援も聞こえる。まぁ他にもオカルト研究部の皆も基本的に誰かが競技に出ていれば声援を送って来るから先ほど走り終えていたリアス部長たちの声も聞こえるんだけどね

 

そうしてもう直ぐ出番という所で後ろから肩を叩かれ、振り向くとそこにはイリナさんが居た

 

「ねぇねぇ有間君。ちょっとそのスプーン貸してくれない?」

 

「んぁ?どうしたんだ?」

 

そう言いながら半ば無意識にスプーンを手渡すと「やった!ゴールしたらすぐに返すわね」とレースに使うスプーンを持ったまま走って行ってしまった・・・って!えええええええ!!何?何がどうなってるの!?

 

突然の出来事に驚愕してるとイリナさんがスプーンを持つ手と反対の手に一枚の紙を持ち、そこに一瞬【スプーン】と書いてあるのが見えた

 

そういえばイリナさんは借り物レースに出場してるんだった!いやでもまさか目についたとしても普通俺から借りる?天然か!・・・そういえば天然だったわあの娘!!

 

そりゃ確かに此処日本のお昼のお弁当は基本箸だろうからスプーンを持ってる人を探すのは難易度高いんだろうけどさ!・・・もしくは家庭科実習室に突撃・・・は無理か。ああいう場所って基本鍵掛かってるだろうし・・・・

 

だが混乱冷めやらぬままに出番が来てしまった

 

「んん?イッキ、お前スプーンはどうしたんだ?」

 

基本テントで寛いでいたが偶々スタートの合図を鳴らす楽な役としてこっちに来ていたアザゼル先生に質問される・・・今の俺はピンポン玉だけ持ってる状態だからな

 

「その・・・イリナさんに借り物レースで持っていかれました」

 

「はぁ~ん。成程な。だがその為にこっちの競技を遅らせる訳にもいかんだろう。イッキ、お前はスタート位置で待機して他の奴らがゴールするまでにイリナの奴がスプーンを返しに来たらスタートしていいぞ」

 

ぐぅぅぅ!元はと言えば俺が何も考えずにイリナさんにスプーンを貸したのが原因だから何も言い返せない!そんな俺を余所にしてアザゼル先生が無情にも競技を進めて行く

 

「ほらほら、さっさと位置に着け。今ならライバルが一人減ってお得だぞ?」

 

「おっしゃ!」

 

「ヒャッホイ!」

 

「先生。クラウチング完了!何時でもスタート出来ます!!」

 

促すなよ先生!そして俺と一緒に走る予定だったお前らも嬉々として配置に着くな!

 

イリナさ~ん!カムバァァァァァック!!

 

内心焦っているとアザゼル先生は無情にもスターターピストルを上に向けた

 

「そんじゃいくぞ~。よ~い・・・“パンッ!!”」

 

鳴り響くスプーンリレー開始の合図。4人同時スタートで俺以外の3人が無慈悲にも走り出していく―――イリナさんの方を見れば丁度一位でゴールし終わった所だった。『やったぁ!』とか喜んでないでそのスプーン返してくれ!返却期限ついさっき切れちゃった所だから!

 

遠くに居たイリナさんが俺と目が合ってスプーンを手に走り寄って来る・・・でも先にスタートした奴らは既にゴールまでの距離を半分に詰めているからもはや一秒すら惜しい!!

 

「イリナさ~ん!!そのスプーンぶん投げてぇぇぇ!!」

 

皆の声援やら各競技で賑わってる中だが天使の彼女の耳には十分声が届くはずだ

 

一瞬キョトンとした彼女だが俺の状況を察したのか『あ!イっけない☆』といった感じにすぐさまスプーンを投げ渡してくれた

 

模擬戦では天使の光力を束ねた槍を投げて遠距離攻撃もするイリナさんは常人ならば目にも映らぬ速度でスプーンを一直線に投げてきた

 

一般人に直撃したら突き刺さるレベルの速度だ・・・フォークじゃないよ?スプーンがだよ?

 

何もそこまでの全力投擲を望んだ訳じゃ無かったが結果的に早く受け取れたから良しとしよう

 

俺はピンポン玉をスプーンに乗せずに(・・・・)スプーンをマジックでスプーン曲げをする人が持つかのように縦に持ち、宙に放り投げたピンポン玉を横向きでキャッチして爆走する

 

前に走る際に前面から掛かる風圧を使ってピンポン玉をスプーンの窪みに押しとどめてもう直ぐゴールしそうな先頭に追いすがらんとしていった

 

繊細な動作でピンポン玉の軸を動かさずに細かく調整し、果ては筋肉のリミッターすら外して猛追だ!―――反則じゃないかって?いやいや、リミッター解除技は仙術の類ではなく、あくまでも身体操作の延長線上に在る技術だから体育祭で使う事に何一つ違反は無いんだよ!

 

「な!バカな!?このままじゃ追い付か・・・いや!追い抜かれるぞ!?」

 

俺の一つ前を走っていた奴が偶然全力疾走する俺の存在に気づき声を上げる

 

「嘘だろ!さっきまでスタート地点に居たはずだぞ!?」

 

先頭を走ってた奴もその声に反応して思わず後ろを振り向いた。仙術抜きだろうとこちとら幼少期から鍛えてるんだ。そう簡単に負けてたまるかよぉぉぉ!!

 

「クッ!だが此処であの我らが駒王学園のマスコットである小猫ちゃんやあまつさえ最近その存在が露になった小猫ちゃんのお姉さんからの応援なんて貰ってた有間一輝は兵藤一誠ほどでは無いが我らの敵だ!せめてこんな時くらいは叩き潰してやる!先頭はそのままお前にくれてやる!」

 

「ああ!此処は俺達に任せて先に行け!!」

 

「お前ら・・・分かった!その犠牲、その覚悟は無駄にはしない!!」

 

謎の熱い友情を展開して暫定2位と暫定3位が暫定1位をゴールに送り出し、自分たちは振り向いて俺の進路を体当たり気味に塞ぎに来る・・・お前らレースはどうしたんだよレースは!?

 

大きく迂回している時間は無い!ただでさえ出遅れたのだから足を止めたら負けだ!

 

俺は姿勢を低くして突っ込むと相手もそれに合わせて受け止める為に体勢を低く保った

 

「此処だ!」

 

ギリギリ相手に当たるか当たらないかの低空飛行で前方宙返りを決め、可能な限りロスを少なくしてゴールを目指す

 

「届けぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

・・・・・結果から言えば2位でした

 

いやでも借り物を早急に渡したお陰でイリナさんはレースで1位だった訳だし、俺も2位なら十分すぎるほどクラスのポイントに貢献してるよな?

 

自分で自分を何とか納得させ午前の部が終了したので俺とイッセーの両親に黒歌も居る場所にお昼を食べにオカルト研究部の面々で向かうと黒歌から「罰ゲーム決定ね♪」と笑顔で言われてしまったけど・・・

 

まぁ黒歌もあそこで俺が負けるとは思ってなかったみたいで罰ゲームの内容は考えておくからまた今度という事になった・・・小猫ちゃんと同じ健啖家の黒歌の事だからまた何処か美味しいお店で奢る事になるのかな?

 

そうして体育祭も終わり皆で椅子とかテントとかその他もろもろを協力して片づけている中、夕暮れの体育館の裏でイッセーとアーシアさんの陰が見えたが取り敢えず気にしない事にした

 

どうせアーシアさんが輝くヒロインパワーを発揮しているのだろう

 

片づけもひと段落した所でグラウンドの少し高台の所で殆ど沈んだ夕陽を見て思う

 

・・・神々の黄昏(ラグナロク)が始まる

 

 

 

 

 

 

「うわ!何俺中二病な雰囲気出してるんだよ!恥ずかし!!」

 

後で悶える事になった俺だった・・・




どうしてオーフィスが原作であんな恰好なのか自分なりに考えてみましたw

最後のイッキはあれですね男子高校生の日常の『今日は、風が煌めいてやがるな』みたいな気の迷いですww

後さらっと流されがちな体育祭の方もちょっとだけ力入れて書いてみました


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第9章 放課後のラグナロク
第一話 デートと、デートです!


サブタイどうするか悩みました


『フハハハハ!ついに貴様の最後の時が訪れたぞ!乳龍帝よ!』

 

俺達は今、イッセーの家の所謂シアタールームで特撮ヒーロー番組を鑑賞している

 

タイトルは『乳龍帝・おっぱいドラゴン』・・・おっぱい押しと云う点に目を瞑ってさえいれば確かに話が細かい所まで作り込んであると思う

 

画面の向こうのイッセー(顔をCGで加工した役者さん)が丁度禁手(バランス・ブレイカー)となって悪の怪人と相対している所だ

 

「冥界で報道されるようになってからすぐに人気を博しているそうです・・・聞いた話によれば視聴率は50%を超えているんだとか」

 

小猫ちゃんが俺の膝に座って猫耳と尻尾をピコピコさせながら言う・・・流石に毎回膝の上に乗られていると恥ずかしい感情も幾分か慣れてきたので今は割り切っている

 

因みにお腹に手を回して少し強めに"ギュッ"とされるのがお好みだそうで、逆に黒歌は抱き着かれるのよりも自分から抱き着く方が良いそうだ・・・この猫又姉妹可愛過ぎである

 

「50%越えってマジで!?いや~、人気になるのは嬉しいんだけど『おっぱいドラゴン』ってのが流石にチョット複雑だよ」

 

「まぁサーゼクスさんやアザゼル先生の話じゃ今まで冥界に娯楽と呼べるものは殆ど無かったらしいし、テレビ番組の内容なんて多分だけど政治か普通のニュースかレーティングゲームの三つくらいだったんじゃないか?そう考えれば新しいエンターテインメントが大人気になっても可笑しくないと思うけど・・・」

 

それに『マジカル☆レヴィアたん』とかと違ってある意味時事ネタとも云えるしな

 

それにしても物語の主人公たる乳龍帝の名前が『イッセー・グレモリー』ってのがグレモリー家の人たちのある種の期待を表しているような気がするな・・・婿的な意味で

 

「この玩具もよく出来ているじゃないか。もしもこれを等身大にしたら本物のイッセーが横に並んでも分からないかも知れないな」

 

「はい、とってもそっくりですぅ!」

 

ゼノヴィアがグッズ販売されているイッセーの赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)のフィギュアを色んな角度から観察しながら感想を溢しアーシアさんが同意する

 

レーティングゲームで駒王学園を丸ごと再現する悪魔の技術からすれば寸分たがわぬフィギュアを作る程度の事は何でもないのだろう・・・この再現度で子供向け価格だからな

 

それと『乳龍帝・おっぱいドラゴン』のグッズ販売と同時についにピー(チチ)も満を持して販売を開始したらしい

 

ただ、生産できるのがイッセーの使い魔たる竜子だけなので圧倒的に数が不足し既に需要が跳ねあがってるようで、テロで値段が高騰した今のフェニックスの涙並みのお値段設定になってるらしい

 

フェニックスの涙とレーティングゲームで戦後に成りあがったとされるフェニックス家の財源に近いとかすさまじいな・・・まぁシトリー家との共同開発だから収入は単純計算で半分だし、フェニックスの涙のように何度も使う事を前提とした代物ではないが十分すぎるほどの利益が既に出ているとの事

 

得られる胸の大きさもDカップからHカップまでの間で選ぶことが出来るそうで、既に悪魔の貴族の奥様方から注文が殺到しており他にも噂を聞きつけた同盟を結んだ他勢力のお偉いさんもピー(チチ)を求めているようだ

 

数年は先の事になるかも知れないが、ある程度騒ぎが収まったら一般の悪魔にも手にする機会が訪れるように一般参加のクイズ番組などの商品として稀になら出していくという話もあるようだ

 

『世界を巨乳に! 乳&ピース!!』の理念はこうして形となったのだ・・・まぁあのはぐれ悪魔は「Eカップ以下は認めない!!」とか言いそうだけどね

 

とはいえコレで世界はおっぱい革命期(レボリューション)の時代に突入していったのだ

 

この前冥界に竜子の様子を見に行ったイッセー曰く24時間フル稼働で触手で色んなおっぱいから(にゅう)パワーを吸いまくってるらしく、ドラゴンの顔の部分なんか満面の笑みでツヤッツヤしてたみたいで一瞬その場で滅ぼしてやろうかと思ったと泣きつかれてしまったけどな

 

何でも気付かない内に「我、目覚めるは・・・」と口にした時点でドライグに強制的に意識を引き戻されたようだ・・・さりげにグレモリー領の崩壊の危機だったのかもしれん

 

「そういえばリアス部長。ソーナ会長はもうピー(チチ)を食べられたんですか?」

 

ふと気になったのでリアス部長に尋ねると首を横に振った

 

「いいえ、学園生活の中でいきなり胸が大きくなると不自然だから所謂『大学デビュー』するつもりだと言っていたわ。胸の大きさも自分の雰囲気に合いそうなDカップか自分の願望(りそう)を優先したDカップ以上にするか悩んでいるみたいね」

 

そこで悩むという事はソーナ会長の胸のサイズは・・・いや、これ以上は考えるのはよそう。多分これ以上掘り下げて考えたら次に学園で顔を合わせたら気づかれる予感しかしない

 

話している間にも物語は進み、乳龍帝がピンチに陥ったら登場したスイッチ姫へのパイタッチでパワーアップの下りでリアス部長がアザゼル先生にハリセンでどついたりしていた―――やっぱり名称はスイッチ姫になったんだな・・・これが因果か

 

「そういや今度の日曜、例のフェニックス家のお嬢さんが来るんだっけな?リアス」

 

へ?レイヴェルが?何しに?

 

「レイヴェルって確かあの焼き鳥野郎の妹でしたよね?」

 

「ええ、どうにもあの子、少しでも冥界の役に立てるように今の内から色んな仕事を体験したいらしくてね。手始めに三大勢力の和平の結ばれたこの駒王町に来てみたいそうなの」

 

「それって俺達グレモリー眷属の仕事を見学したいって感じなんですか?」

 

「いいえ、そもそも彼女はフェニックス家の息女でライザーの眷属でもあったのだから私達の基本的な活動を通して得るものは少ないでしょう」

 

そりゃそうだよな。上級悪魔であるはずのレイヴェルなら眷属としての活動の知識だけならリアス部長か、最低でも朱乃先輩にも引けは取らないだろう

 

「ああ、だから主に裏方方面だな。この町を管理するのはグレモリー眷属と次いでシトリー眷属がメインだが、他にも色々な天使・堕天使・悪魔のスタッフが細かい所を請け負ってる―――将来上に立つ者として下の者の仕事ぶりを肌で感じるというのは悪い事じゃないさ」

 

ああ~、そう言えば確か最初は『おっぱいドラゴン』の仕事の手伝いとかしていたんだっけか?でもイッセーが出合い頭に全裸にひん剥いたから『おっぱいドラゴン』からはちょっと距離を置いてる感じかな?

 

それでも此処に来たいってのはやっぱりこの町が今を時めく重要拠点だからか

 

「あの~、すみません部長。今度の日曜と言うと俺、朱乃さんとデートの約束しちゃってたんですけど、やっぱりソッチを優先しないとダメですか?」

 

「イッセー君!あの時の約束、ちゃんと覚えていてくれたのね!」

 

イッセーのデートの言葉に朱乃先輩が輝かんばかりの笑顔を向ける

 

「そりゃあ忘れませんよ!あの時は小猫ちゃんに促されてその場の勢いで言いましたけど、朱乃先輩との約束を反故にするような真似はしたくありません!・・・あ、でも俺なんかが朱乃さんのデートの相手としてつり合うかどうか」

 

「うふふ♪気にする事ありませんわ。私はイッセー君とだからこそデートをしたいのですから」

 

「「むぅぅぅぅ!!」」

 

二人のやり取りを見てリアス部長とアーシアさんは可愛らしく頬を膨らませてるな

 

ゼノヴィアは「うむ!やはりその場の勢いが大事なのだな」とか言ってたからまた近いうちにイッセーに突貫をかますのだろう・・・何時もの事か

 

「はぁ・・・約束を無碍にしろとまでは言えないわね。幸いと言って良いのか、レイヴェルが此処を訪れるのは夜になってからだから夕方までには帰るようにしなさい」

 

「はい!」

 

夜?悪魔のスタッフが本格的に動くとしたら夜がメインとなるからそれに合わせた感じかな?

 

「うふふ♪ええ、分かりましたわリアス」

 

取り敢えず朱乃先輩はその後、終始上機嫌でした

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、修学旅行の班決めで俺、イッセー、松田、元浜の何時ものメンバーで組み、そこに桐生さん、アーシアさん、ゼノヴィア、イリナさんも一緒に行動する事が決まった

 

「そう、そういえば2年生はそろそろ修学旅行の時期だったわね。イッセーとイッキは中学生の時も修学旅行先は京都だったのよね?今回はどう回るつもりなのか決めてるの?」

 

放課後の部室で皆でお茶を飲みながら旅行で行く京都の事が話題となっていた

 

「はい部長!俺とイッキ以外にも松田と元浜も一緒のメンバーだったのでアーシア達の為にも有名処を押さえつつ前は行けなかった隠れた名所とかも見て回ろうと思います!」

 

「そうなのね・・・はぁ、私も修学旅行で2回京都に行けたら良かったのに―――二人が羨ましいわ。全部見て回るには時間が足りなかったからね」

 

「うふふ♪去年はリアスが目に付くところ全てに顔を出していたせいで最後の二条城を回れなくなって最後に地団太踏んでいましたわね」

 

「もう!朱乃!それを言わないでよね!」

 

そんな二大お姉様のじゃれ合いを見ているとイッセーがふと思い出したように確認してきた

 

「なぁイッキ。中学の時の修学旅行でお前が最終日に京都の知り合いの家に泊まったって悪魔に為った今なら変だと分かるんだが・・・もしかして何か在ったのか?あ!それとも九重の家に泊まったって意味か?」

 

おや?3年越しに暗示の効果が薄れたか

 

「両方正解だ。あの時、偶然京都の事件に巻き込まれてその結果初めて九重の住んでる屋敷に行ったからな・・・いやぁ思い返すとあの時が一番重傷を負ったかも知れないガチバトルだったよ」

 

殆ど【一刀羅刹】の反動だったけど、あそこで使わないと死んでたしな

 

「マジか!イッキが重傷とかってどんなヤベェ事件だったんだよ!?」

 

「いやいやイッセー、俺もあの時は精々上級悪魔くらいの実力だったからな・・・相手は当時既に最上級悪魔クラスの黒歌を一発KOするような奴だったし、魔王クラスは間違いなくあったから自分でもよく生き延びたと思ってるよ」

 

今の俺なら【一刀修羅】で互角の戦いくらいは出来そうかな?

 

「ううむ。日本の魔都と呼ばれる京都はそれほどまでに混沌に満ちた場所だったのか。これは気合を入れて修学旅行に臨まなければいけないな」

 

「その通りだよゼノヴィア。上級悪魔くらいの戦闘力は京都に赴く際の最低基準だと覚えておくといいぞ」

 

京都で英雄派と戦う可能性は高いからゼノヴィアの勘違いをあえて加速させる事にしよう

 

「いやいや、待て待てイッキ!俺達が行くのは普通の修学旅行だから!」

 

「はぁ?俺たちが中学の時に行ったのも普通の修学旅行だっただろ?」

 

「いやそうなんだけどさぁ!!」

 

何でもないような顔をして軽くイッセーを揶揄ってると全員の持つ携帯が一斉に鳴り響いた

 

これは此処の所頻発している禍の団(カオス・ブリゲード)関連の厄介ごとがあった際の着信音だな。オカルト研究部の皆が鋭い目つきとなっている中俺は駒王町全体を探知する

 

「今回は最低でも人間が5人。後は何時もの魔物ですね。」

 

「全く、これで何回目かしらね?皆、気を引き締めて行きましょう」

 

『はい!』

 

 

 

 

 

丁度太陽が沈み切った頃、町はずれのおあつらえ向けの廃工場でオカルト研究部と4人の人間が対峙していた。彼らの後ろには倒すと塵のように消える魔物が100体以上控えている

 

禍の団(カオス・ブリゲード)、英雄派ね?私はこの町の管理を任されているリアス・グレモリーよ。一応聞いておくけど一体何の御用かしら?」

 

「これはこれは魔王の妹君。我らの目的は悪魔などという人の世を蝕む害獣を殺し尽くし、この町を解放する事にある。無論、悪魔に手を貸すそこの天使や人間も同じく裏切り者として断罪してやろう!」

 

こいつ等からすれば悪魔は明確な『敵』で俺やイリナさんは『裏切り者』らしい

 

どうやらしっかりと教育が行き届いているみたいで全くもって嫌になるな

 

「敵は4人・・・ね。皆、気を付けなさい」

 

リアス部長の此処で言う気を付けなさいは俺の探知した敵が5人だから伏兵が潜んでいるという意味だ。皆もそれに了承の意を示した所で敵が掌から白い炎を出して開戦となったが敵の一人が"ズイッ!"と前に出る

 

「ハ!悪魔なんて全員この俺様が一人で軽く蹴散らしてやるよ!よく見とけよ!俺様の神器の能力は手に持った石を・・・」

 

“ザシュ!”

 

祐斗に速攻で沈められたな・・・まぁ中には自分の力を過信する奴も居る訳だ

 

俺は今回は中衛で小猫ちゃんの隣で仙術の気弾による援護射撃がメインだ―――俺一人で終わらせたら皆の経験にならないという事でよっぽどの事でもない限りは一歩引いたスタイルで戦ってる

 

因みに黒歌は今回は此処には居ない・・・自由人の彼女は何時も部活に顔を出す訳でも無いしね

 

そうして敵の影使いをリアス部長の指示の下イッセーと祐斗が倒した辺りで外から小猫ちゃんが一人の気絶した男の襟首を掴んで引きずって来た

 

「馬鹿な!猫又が二人だと!?まさかコレがジャパニーズNINJAのBUNSHINだと言うのか!?」

 

最初に祐斗に沈められた奴が痛みも忘れたように叫ぶ。うん・・・外国人目線ですね。というか驚愕というよりも興奮してない?

 

取り敢えずお役目を終えた俺の隣に居た小猫ちゃんの幻影が消えていく

 

俺の仙術で幻影を作り出し、あたかも小猫ちゃんが仙術で攻撃してるように見せかけて本物っぽく演出していたのだ。まだまだ練度は低いけど英雄派の構成員程度なら騙せるし俺にとっても練習になるからちょくちょくこういう手は使わせてもらっている

 

相手に情報が漏れてるはずだからあまり派手なデータは渡さないように気を付けないといけないのが面倒なんだけどね

 

「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」

 

そいつがBUNSHINを見た興奮からか奇声を発した所で"ゴゴゴゴゴゴ!"と地面が揺れ動き、同時に神器使いの足元に転移魔法陣が展開され、そのまま消え去って行った事で戦闘は終了となった―――アレ?こんなんだっけ?まぁ多少の違いはあるか

 

すると残りの英雄派も転移し、魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)であろう影の魔物も居なくなったはずの廃工場の奥から足音が聞こえてきた

 

気配も何も感じなかったけど一体だれだ?

 

そして工場の影から出てきたのは黒髪龍神美少女様だった・・・って!オーフィスかよ!?

 

「な!オーフィス!?彼女が何で此処に!?」

 

驚愕している皆の心の声をリアス部長が代弁する中、オーフィスはそのまま普通に近づいてくる。皆も臨戦態勢になってはいるが先に手を出すのは拙いと分かっている為か誰も攻撃を仕掛けようとはしなかった

 

皆の緊張が最高に高まり誰もが額から汗を流している中オーフィスはゆっくりと両腕を広げた

 

「我。服、選んでもらった・・・変じゃない?」

 

ああ・・・うん。彼女の服は以前着ていた黒のドレスの変態的な部分を無くした『これぞ貴族のドレス!』って感じの仕上がりになっていた―――アーサーの妹はいい仕事したみたいだ

 

オーフィスの目線も心なしか俺の方を向いてるみたいだし、何より皆はまだフリーズ中だから俺が返答するべきだろう・・・何も知らなければそういう反応にもなるよな

 

「うん。似合ってると思うぞ。アーサーの妹さんと買い物に行ったのか?」

 

「そう・・・アレから我、毎日ルフェイに違う服を着せられてる」

 

そういうと一瞬黒いオーラに包まれたかと思うと今度は大きなバッテンマークの付いた黒のインナーにスカート、そして明るい紫の上着を着た姿に変わった

 

アレだな。『我、パンツ、穿いてない』の格好だ―――という事はもしかしてそのスカートの下は・・・いやいや!見た目だけとはいえ幼女のスカートの中身を真剣に考察したら人として大事なナニカを失ってしまう!

 

「現代風衣装か、そっちは表の世界に行くとき用に見繕ってくれたのかな?そっちも似合ってると思うぞ」

 

それにしても無限の龍神様が着せ替え人形と化しているのか・・・ルフェイさんがツヤッツヤした笑顔でオーフィスの服を選んでいる姿が容易に想像できるみたいだ

 

そしてオーフィスは服装に直接苦言を呈した俺に合格点を貰った為かそのまま一瞬で消えていった

 

「・・・なぁイッキ。アレが本当にテロリストの親玉の邪悪なドラゴンなのか?」

 

オーフィスが居なくなった事で漸く再起動を果たしたイッセーが訊ねてきた

 

「どうだろうな?会談の時にヴァーリも言ってたけど世界や覇権に興味はないみたいだし禍の団(カオス・ブリゲード)の連中がオーフィスの名前を使って勝手に暴れてるって感じもするけどな」

 

権威を笠に着て勝手な言い分で一方的に暴力を振るう・・・最初期のゼノヴィアのようだな。まぁ禍の団(カオス・ブリゲード)の方がはた迷惑の度合いが違うけど

 

取り敢えずこの町にオーフィスが現れたという事を報告しない訳にもいかないのでその日は解散していった・・・今頃リアス部長や朱乃先輩が『無限の龍神のプチファッションショーが在った』と上に提出する報告書を作成している事だろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、イッセーと朱乃先輩のデートの控えた土曜日。リアス部長とアーシアさんは普通にしてるように見えて何処か落ち着きが無かったがそれはそれとして今日もオカルト研究部の特訓がある

 

俺の家の地下のトレーニングルームとイッセーの家の地下のトレーニングルームが別々だと面倒だという意見もあり、今はパネル操作一つで二つの疑似空間を一つに纏める事ができるようになった

 

疑似空間を形作る構成力や余剰エネルギーを回すことでこれからインフレしていくであろうオカルト研究部の破壊力にもかなり耐えられる仕様になっているらしい

 

今は一通りの基礎訓練が終わって小猫ちゃんとイッセーが模擬戦中だ

 

イッセーは赤龍帝の鎧を身に纏い、小猫ちゃんはそのパワーに対応する為に大人モードで戦っている。後は少しでもその強化状態に慣れる為でもあるかな

 

イッセーの放つドラゴンショットを最小限の体捌きで避けて距離を詰める小猫ちゃんだがイッセーも接近戦は望むところなのか真っ直ぐに距離を詰める

 

イッセーの右のストレートを円を描くような動作で避けつつ突き出された右腕の手首の辺りを掴み背中のジェットで突進してきていたイッセーの力のベクトルをやや下に向ける

 

完璧に相手の動きを掴めないと出来ない芸当だろう―――ただし一瞬の交錯ではパワー馬鹿の赤龍帝の進行方向を少しずらすのが精一杯だが、その先が文字通り足元の地面であれば話は別だ

 

実際にイッセーは今物凄い勢いで地面に激突して地面をその身で削ったり跳ねたりしながらはるか遠くへぶっ飛んでいる・・・鎧があるから直接的なダメージはそれほどでも無いと思うけど天地も認識できないくらいに跳ねまわりながら全身に衝撃が走ってる事だろうな

 

そしてイッセーが立ち上がるよりも早く、追撃として放たれた二つの白い炎を纏った火車を兜の部分に左右から挟み込むようにブチ当てて完全に衝撃が内部に浸透したイッセーが倒されて模擬戦は小猫ちゃんの勝ちとなった

 

「あ~、イッキも小猫ちゃんも接近戦に持ち込んでも一発も入らねぇ!イッキは兎も角、小猫ちゃんはパワーとスピードだけならそこまで大きな違いは無いはずだよな?幻術も無しに体術だけで翻弄されると少し凹むぜ」

 

「イッセー先輩の体術はそれなりにキレがあると思います・・・その理由が女子生徒の着替えを覗く為にイッキ先輩に毎日のように叩き伏せられていたのが原因というのには思う所がありますが」

 

アーシアさんに軽く治療を受けていたイッセーに小猫ちゃんが意見を述べる

 

「なら、小猫ちゃんは何であんなに簡単に俺の攻撃を紙一重で避けられるんだ?まるで俺の次の動きが全部分かってるみたいな錯覚に陥るんだけど・・・」

 

「そりゃ、事実その通りだからだよ」

 

「はい、コレはおそらく私達が仙術使いだからこそ感じ取れる赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の弱点だと思います」

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の弱点?興味があるわね。眷属を率いる『王』として是非知っておきたいわ」

 

イッセーの弱点という話に興味をそそられたみたいでリアス部長も会話に加わって来る

 

休憩中の他の皆もこっちを向いてるな

 

神器(セイクリッド・ギア)は想いが強いほど力を増す特性がある。そしてイッセーの禁手(バランス・ブレイク)は強大な力の塊を全身に纏うタイプだ」

 

「だから、イッセー先輩が行動に移る直前にオーラの流れから次の手が読めてしまうんです」

 

原作の曹操もオーラの流れが弱点とか言ってたけど仙術使いとして対峙してみればそのことがよく判る。ましてやイッセーはかなり素直な性格だからそれも相まってるんだろうな

 

「マジで!?」

 

「残念ながらマジだよ。ある程度の仙術使いとか何らかの形でオーラを感知できる奴ならイッセーの攻撃は全部テレフォンパンチだ。右手で殴りかかろうとしながら左足にオーラが集中していればフェイントやる気なんだってバレバレだからな」

 

「うわぁぁぁ!どうりで幾ら虚を突こうとしても対応される訳だよ!何か対策とか無いのか?」

 

「う~ん。それ自体は赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)である限り消すのは難しいと思うから地道に地力を上げて先読みしても対応できない速度で攻めるか、広範囲を吹き飛ばすかじゃないか?折角力の塊とされる赤龍帝の力があるんだから『力こそパワー!!』で突き進むのも手だと思うぞ?」

 

仙術を覚えてオーラの流れを自覚して制御するって方法もあるけど時間が掛かり過ぎるし、何よりイッセーが仙術に手を出したら世界の邪念を吸い込んで性犯罪者になる未来しか見えん・・・今でさえ限りなくブラックに近いグレーなんだから

 

「そうね、対策も重要だけど地力を伸ばすのも同じくらい大切よ。力の差が大きければ多少の相性の良し悪しは覆せるものね・・・まぁこんな事を言えば脳筋みたいだから考える事を止めたらダメよ?イッセー」

 

「はい部長!練習しつつ色々考えてみます!」

 

イッセーの元気の良い返事を一つの合図としてそれぞれがまたトレーニングに戻って行った

 

 

 

 

 

そうして来る日曜日。今日はイッセーと朱乃先輩のデートの日で二人が態々別々に待ち合わせ場所に赴いたのをリアス部長とアーシアさん、ゼノヴィアとイリナさんが帽子にサングラスとマスクの出で立ちで付いて行った・・・アーシアさんの金髪はまだしもリアス部長の紅髪とかゼノヴィアの蒼い髪とか目立つ事この上ないからせめて魔力で髪の色を変えるとかすればいいのに

 

俺?俺や小猫ちゃんと後黒歌は尾行を見送っただけで付いては行ってないですよ?流石にデートの邪魔をする気はないしね

 

「黒歌や小猫ちゃんは今日は何か予定とかあるのか?」

 

「私は特に無いかにゃ~。白音は?」

 

「私もコレと言った用事は無いですね・・・でも・・・その・・・」

 

特にやる事も無かったので二人に話を振ると二人とも予定は無いとの事だったが小猫ちゃんが急に口ごもり始めた・・・はて?何かあるのかな?

 

「にゃ?どうしたの白音?何かあるのかにゃ?」

 

暫く何を言おうか言うまいか悩んでいた小猫ちゃんだったが黒歌にも軽く促されて漸く意を決したのか、顔を上げてこちらを見つめてきた

 

「イッキ先輩!私達もデートに行きませんか?」

 

な!?コレはまた真っ直ぐなお願いだな。イッセーと朱乃先輩のデートを完全に意識してるだろ

 

「ふ~ん。良いんじゃないの?行ってきなさいよ白音」

 

「あ!で・・・でも、もしアレなら黒歌姉様も一緒に3人で・・・」

 

「私の事は気にする事無いわよ。折角奥手な白音が勇気を出してイッキをデートに誘ったのに私が付いて行ったら野暮天にゃ・・・まっ、3人のデートも楽しそうだけどそれはまたの機会にするにゃん♪」

 

ふ~む。確かにそういえば黒歌や小猫ちゃんと普通の買い物とかなら何度もあるけど明確にデートと位置付けて何処かに行った事は無かったな―――コレも良い機会というやつだろう

 

「良し!じゃあ遊びに・・・いや、デートに行こうか、小猫ちゃん」

 

「はい!有難うございます、イッキ先輩!」

 

「あ!でもなぁ・・・」

 

そう言って悩み始める俺に小猫ちゃんの瞳が不安げに揺れる

 

「その・・・やっぱり駄目でしょうか?」

 

「御免御免、そうじゃなくてさ、何処に行くべきかって思ってね。今まで町中を巡るだけなら結構一緒に歩いたりもしたし、ショッピングとかだとイッセー達のデートとバッティングを気にしないといけないからね」

 

気配探知で出会わないようにするのは可能だがそんな方向に意識を割くのはちょっと遠慮したい

 

「では、定番ですが遊園地に行きませんか?大型連休でもないなら人混みもそこそこでしょうし」

 

それはいい案だな。王道ってのはそれだけ需要があるって事だし、今日はレイヴェルが来るみたいだから夕方には帰る必要があるけど、そこはちょっと転移を使わせてもらおう

 

そうして急遽小猫ちゃんとの遊園地デートが決定したのだった




次回のデートの部分は少しネタに走ろうと思います

因みにオーフィスは皆のマスコット枠です。ヒロインではありません


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第二話 お客様、来日です!

前半糖分多めで書いてみましたww


”コンコン!”

 

「イッキ先輩、入っても良いですか?」

 

「うん。入って良いよ」

 

「失礼します」

 

遊園地に行くことが決まってから一度各自の部屋に戻り軽く外出用の準備をして少しパソコンで調べものをしていると小猫ちゃんがドアを叩いて入室してきた

 

「小猫ちゃんの方はもう準備は出来た?」

 

とは言え大荷物が必要な訳でもないからまだ別れてから数分しか経ってないんだけどね

 

「はい!大丈夫です!・・・何か調べものですか?」

 

そう言いつつパソコンを覗き込んでくる小猫ちゃん

 

「うん。一口に遊園地と言っても何処に行こうかと思ってね。やっぱりメジャーな所で千葉ネズミーランドとかで良いのかな?って軽く調べてた所だよ。小猫ちゃんは興味のある遊園地とかってある?」

 

「それでしたら、最近人気が急上昇している遊園地があるとTVでやっていた所があるのでそこに行きませんか?何でも半年ほど前までは閑古鳥が鳴いていたらしいのですが新しく支配人になった方のプロデュースで一大人気テーマパークになっているんだとか」

 

へぇ!それは凄い!まさしく今を時めく遊園地って訳か

 

「良し!じゃあ、その遊園地にしようか」

 

 

 

 

 

 

あれから小猫ちゃんに遊園地の名前を聞いて場所を調べ、少し横着い気もしたけど近場まで転移で向かって遊園地のゲートを潜る

 

パンフレットだと『魔法の国からやってきた妖精たちが貴方達をもてなし、夢と希望を皆さまにお届けします』というキャッチコピーだったがこの遊園地、少し見渡すだけでも人外が多すぎである

 

本来着ぐるみであるはずのスタッフの人たちとか例外なく人間じゃないんだけど・・・もしかしてアレって本来の姿で仕事してるのか?

 

「イッキ先輩?どうしたんですか?」

 

「いやチョットだけスタッフに面食らってしまっただけだから大丈夫だよ。悪魔な小猫ちゃんに言うのも何だけど、気にならなかったの?」

 

「別に普通じゃないですか?去年のオカルト研究部の文化祭の出し物はお化け屋敷だったのですが、本物の妖怪さん達をリアス部長が雇ってましたから」

 

何やってるのリアス部長!?そしてそうか!去年の文化祭で旧校舎から異様な気配が漂いまくってたのはそれが理由だったのか!?

 

悪魔のオカルト研究部に言うのも何だけど本物の妖怪は表の文化祭で雇ったらダメだろう!

 

最初に目についたのはこのテーマパークの看板キャラクターのお菓子ハウスだ。最初は土産屋の一種なのかとも思ったけどどうにも射的ゲームで厨房を荒らすネズミたちを退治するらしい

 

より高得点をより難易度の高い設定でクリアすると後で景品として貰えるお菓子も豪華な物になるらしく、説明を聞いた小猫ちゃんは迷うことなく最高難易度のイージー<ノーマル<ハードのさらに上、インセイン(狂気)モードを選択していた・・・狂気モードってテーマパークとしてそれは如何なの!?

 

「はい、インセインモードですね!でしたら此方から使用する武器をお選び下さい」

 

“ガコォォォン!!”

 

受付嬢のすぐ後ろに安物水鉄砲みたいなのが壁に掛けてあったのでそれを使うものとばかり思ってたがインセインモードを選んだら壁が反転して様々なゴツイ銃たちが現れた

 

「アサルトライフル型の銃は連続掃射出来る代わりに弾切れが設定されており、その度にリロードモーションが必要とされます。対して拳銃型はリロード無しで撃ち続ける事が出来ますが正確な射撃が必要とされるので玄人好みとされております。なお、銃声と硝煙、反動も再現されておりますので無暗に他人に銃口を向ける事の無いようにお願い申し上げております。それでは何方をお選びになりますか?」

 

・・・・・此処お菓子ハウスだったよね?射的はあくまでも味付けだよね!?なんでそんなに無駄に本格仕様なの!?力の入れ処間違ってない!?

 

結局小猫ちゃんはアサルトライフル型を選び、俺は拳銃型を選んで戦地に赴いて行った

 

「イッキ先輩、豪華景品の為です。全力で挑みましょう」

 

お菓子に目が眩んだ小猫ちゃんが殺る気に満ちている中、近未来的なネズミのアジト(厨房や食糧庫)の至る所からネズミが一瞬だけ飛び出してきて此方に銃で攻撃を仕掛けて来る・・・お前らやられ役じゃないのかよ!?因みに銃と一緒に着せられた防弾チョッキに当たり判定が出るとその分減点されるそうだ

 

挙句の果てにはミサイル搭載のロボットに乗ったネズミも襲ってくる始末

 

小猫ちゃんが小回りを生かしてアサルトライフルで血路を切り開き、俺は後ろから身体操作技術にものを言わせて正確な射撃で撃ち漏らしを撃ち抜いて行く

 

時折走り抜けた後では爆発が起き、火薬と硝煙の匂いに銃声が狭い通路に充満していきやっとゴールにたどり着いた

 

「お・・・終わった・・・ナニコレ?」

 

撃ち漏らしは最初の数匹だけで後は全部ヘッドショットかましてやった・・・始まった瞬間絶対に二人で突破は出来ないと思ってスタートからゴールまで脳も筋肉もリミッター解除で全力疾走したから疲労感が凄まじいし頭もズキズキする

 

流石にインセインモードと嘯くだけの事はあるみたいだ

 

その後出てきた無駄に体幹にぶれの無いマスコットと一緒に記念撮影をして高級お菓子の詰め合わせセットを景品として貰った

 

「御免、小猫ちゃん。ちょっと疲れたから次はそうだな・・・あそこにしない?」

 

俺の眼に留まったのはメルヘンな雰囲気漂うミュージックシアターだ。あそこなら多少は休まるだろう―――音楽はリラックスにも良いって言うしね

 

「はい、では入りましょうか」

 

小猫ちゃんも快諾してくれたので建物の中に入り、奥にあった扉を開ける

 

するとその瞬間に爆音が轟いて来た。どうやら扉も壁も防音仕様だったみたいだ

 

中央に存在するステージではメタルな恰好をした羊のマスコット(人外)とその他の人間がギターやドラムをかき鳴らし、お客さんはそろってヘドバンしていた

 

 

≪アウッ! アウッ! アウッ! アウッ! オゥイェイ ベイベエエエエッ!!≫

 

 

“―――バタン!”

 

「・・・・・・・・・・次に行こうか小猫ちゃん」

 

「イッキ先輩がそう言うなら・・・面白そうだったのに

 

御免、体調万全なら突撃しても良かったけど今の俺にあのノリ(ヘドバン)はキツイわ

 

次に目に入ったのは可愛らしいピンクの猫のような(実際は犬らしい)マスコットが居るとパンフレットに書かれていたフラワーアドベンチャーだ。様々なお花を中心にした植物を見て回る事が出来るらしい

 

「次に行こうか」

 

「はい。イッセー先輩のような凄くイヤらしい気を感じます」

 

よく分からないけど取り敢えずスルーする事にした・・・あそこは多分関わったら業界の闇を覗き込むような場所だと思う

 

そして漸くまともな公演をやってる場所に来た―――地水火風の四人の精霊が物語に合わせて軽い劇とメインの踊りを披露する所らしい

 

「おお~!イッセーがあの精霊たちを見たら狂喜乱舞しそうだな」

 

「む・・・確かに皆さん可愛らしいですね」

 

他の女の子を遠回しに褒めたらちょっと不機嫌になっちゃった小猫ちゃんだけど、俺もあの使い魔の森で出会った水の精霊には思う所があったのでこれくらいの感想は勘弁して欲しいな

 

≪こうして、精霊たちの助けもあり森には平和が訪れたのでした≫

 

そのナレーションと共に舞台上の四人が一斉にキメポーズをとる・・・終始地の精霊がワンテンポ遅れてたけど、まぁアレも一つの味だろう

 

ダンスを見終わった俺達は丁度昼頃だったので食事にした

 

「このコロッケ!衣はサクサクでしつこく無く、中身も一つ一つの素材の味が主張し過ぎず、かと言って隠れ過ぎず調和しています!さらにはあふれ出る肉汁が全ての味を引き立てて絶妙なハーモニーを奏でています!」

 

普段口数の少ない小猫ちゃんの急な食レポ

 

食事自体は普通に美味しいという域を出なかったがパークのオススメメニューだという姫様コロッケは衣から中身まで拘り抜いて作られていたので凄く美味しかった・・・普段口数の少ない小猫ちゃんの急な食レポをかます程だからな

 

因みに何が『姫様』コロッケなのか聞いてみると魔法の国のお姫様お手製なんだとか

 

設定としてはいまいちよく分からない感じだったが美味しかったので良しとしよう

 

昼食を食べ終えて一番最初に赴いたのは恐竜時代を探検しながら学べるプラネットダイナソーという場所にした―――三畳紀(2億5190万年前)から白亜紀(1億4,500万年前から6,600万年前)までの歴史の流れを精巧に作られた恐竜を通して見て回った

 

≪白亜紀の最後、天から降り注いだ巨大隕石により近場の恐竜は全滅・・・その後天高く舞い上げられた粉塵が太陽を覆い尽くし氷河期となった地球で残った恐竜たちは一匹、また一匹と飢餓と寒さに徐々に体力を奪われ、無念の内に倒れていったのでした≫

 

ナレーションが暗いわ!絶滅で終わるのは仕方ないとしても、もっとサラッと流してくれよ!

 

恐竜の絶滅に変な哀愁を抱えながら気分転換に体を動かせる感じのアトラクションとして失われた秘宝を求めて大冒険するトゥームレンジャーに行くと何と敵は海賊、舞台はSAITAMA、求める秘宝はネギみそ煎餅だった・・・もはや意味が分からない

 

「イッキ先輩!気合を入れて行きましょう!」

 

・・・小猫ちゃんは食べ物が景品にあると途端にやる気になるな

 

でも、瞳を輝かせている小猫ちゃんはとっても愛らしいので良しとしますか!

 

「よぉし!掛かって来い海賊共!裏の世界じゃGUNMAに並ぶ魔境とされるSAITAMAでは貴様らなど塵芥に等しいのだと教えてやろう!」

 

武器として渡されたサーベルを手に小猫ちゃんと二人で海賊を退け、七つの海を越えて秘宝を手に入れた・・・ネギみそ煎餅は美味しかったです

 

しょっぱい物を食べたし運動もしたので土偶の経営しているクレープ屋でクレープを買い、次の場所を目指す。あの土偶さん普通に浮遊能力使ってクレープ作ってたけど大丈夫なのかな?

 

クレープを食べ終えた頃に見えてきたのは地球科学の体感シアターだ

 

案内役の地球型のマスコットが人類がいかに地球環境を破壊して来たのかを延々と説教する内容だった。説明ではなく説教って・・・いや、説明だったとしても大概か

 

「おう、そこのカップル。お前らも地球(俺)の為にこの募金箱に募金していけ!一口最低でも2千円は入れろよ―――さっさとしな、後が控えてんだからよ。二人で4千円・・・いや、カップルとかムカつくから5千円は募金しろ!おいテメェら!無視して出て行こうとするんじゃねぇ!1万円入れろおらぁ!!」

 

最後のアレは半分以上カツアゲだったな・・・よくあれで今まで問題になってないものだ

 

そして最後に訪れたのはドラゴンの守るお宝を手に入れろというアドベンチャーだった・・・入口から既にドラゴンのオーラが漂っているのはもはや今更だ

 

そして壁から矢が放たれたり、足元の床が剣山な落とし穴になったりといった明らかに殺傷能力のあるアトラクションを超えて最後の扉を開けるとそこには十数メートル級の赤いドラゴン(本物)が居た

 

「フハハハハ!人知を超越した我の財宝を盗もうとするのは貴様らかぁぁぁ!!」

 

凄いな。本物のドラゴンを雇うとかこのテーマパークが有名になる訳だ

 

「そういえば、グレートレッド以外でちゃんとドラゴンの形をした成龍を見るのは初めてだな」

 

ドライグは籠手だし、ラッセーは子供だからな・・・オーフィスは幼女だしドラゴンの姿をとったとしても多分だけど『竜』ではなく『龍』の姿だと思うしな

 

「私は冥界に合宿に行った時、元六大龍王のタンニーン様とその配下のドラゴンの皆さんにパーティー会場までその背に乗せて行ってもらいました」

 

へぇ!それはまた貴重な体験だったんだな

 

そう思っていると目の前のドラゴンが明らかに動揺し始めた

 

「た・・・たたた・・・タンニーン様とお知り合いなのでございますか!!?」

 

ああ、タンニーンさんは元龍王だからな。その『元』っていうのも別に格落ちしたって訳じゃないし、普通のドラゴンからしてみたら十分畏敬の対象なのだろう

 

「いや、俺は直接会った事は無いな」

 

「私も配下のドラゴンの方の背に乗せてもらっただけで直接言葉を交わした訳ではありません」

 

そう言うと残念なような、それでいて少し"ホッ"としたような様を見せる成龍

 

「ああ、でも赤龍帝のドライグとはそれなりに話したりもするよな」

 

もっとも最近は話すと言っても『おっぱいドラゴン』関連で泣いたり落ち込んだりしてるのを慰める為だったりだけどな

 

「ど・・・・ドライグ様ぁぁぁぁ!?・・・はぅぅ!」

 

ドライグの名前を出すと絶叫の後気絶してしまった。このままではアトラクションを終了できないので仙術で気付けをして起こすと完全に委縮した感じで頭を低くして恭しく財宝(パークの景品)を渡してきた

 

ちょっとこのドラゴン威厳が無さすぎじゃないかな?

 

何だかんだあったけどかなりの数のアトラクションを回ったので時刻は既に夕方だ。回れたとしても精々後一か所だし、何ならこのまま帰ってしまうのも手かと思っていると小猫ちゃんが「イッキ先輩。最後にアレに乗りませんか?」と観覧車を指さしてきた

 

観覧車か、確かに最後の締めとしては定番だな

 

そうして幸い特に待ち時間も無く小猫ちゃんと二人で観覧車に乗り込み席に座る

 

「・・・あの小猫ちゃん。何もこんな時まで俺の膝に座らなくても良いんじゃない?」

 

「此処が一番落ち着くんです。今の私はまだちっこいのでイッキ先輩の邪魔にはなってませんよね?それともやっぱり退いた方が良いですか?」

 

そんな事言われると「退いてくれ」なんて言えない・・・それに例えコレが黒歌やオトナモードな小猫ちゃんだったとしても邪魔だなんては思わないだろう

 

そうして二人で夕焼けの街を見ていると小猫ちゃんが話掛けてきた

 

「あの、イッキ先輩は黒歌姉様とは既にキ・・・キスは、したんですよね?」

 

「グフっ!」

 

小猫ちゃんのいきなりの質問に思わずむせ掛けてしまった

 

「えっと・・・夏休み前の終業式の日に・・・」

 

「唇ですか?他には?」

 

小猫ちゃん何かグイグイ来るな!?何この俺オンリーの暴露大会!?

 

「・・・冥界から帰って来てから黒歌に頬っぺたとか首筋にキスはされました・・・はい」

 

寝る前とか朝起きた時とかに軽めのキスされてます―――こっちは未だに慣れてなくてその度に理性蒸発しかけているのを残る理性を総動員して抑えてます・・・時々『もうゴールしてもイイよね?』って考えが頭を過ぎるけどな

 

・・・御免なさい。嘘つきました『時々』じゃなくて『しょっちゅう』です!

 

膝の上に座っていた小猫ちゃんがそれを聞いて体を横向きに座り直し、後ろの俺の顔を潤んだ瞳で見上げるように振り向いてきた

 

「なら、私も頑張ろうと思います」

 

「ムク!」

 

小猫ちゃんが少し背を伸ばして俺と小猫ちゃんの唇が重なる

 

驚きはしたものの夕暮れの観覧車とか確かにシチュエーションとしては完璧だ

 

小猫ちゃんの小さい体を改めて抱きしめ直す―――心なしか何時もより高い体温を感じながら、お互い自然と目を閉じて十数秒程度のキスを交わし、何方ともなく唇を離した

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

お互い雰囲気に中てられたせいか顔が赤い―――小猫ちゃんは"ぷい!"と体勢も顔も前を向いてしまったが僅かに覗く肌は真っ赤だ

 

そうしてお互い無言のまま観覧車を降り、テーマパークから外に出る

 

「・・・何ていうか、かなりベッタベタなシチュエーションだったけどさ」

 

正直、上手い言葉が見当たらないけど何とか言葉を絞り出す

 

「・・・はい」

 

「嬉しかったよ・・・・・帰ろうか?」

 

「・・・はい♪」

 

二人で人目の付かない所まで移動し、転移で帰宅していった

 

 

 

 

 

 

「ふ~ん。白音のその様子だとデートは上手くいったみたいね♪後でゆ~っくりと根掘り葉掘り、詳しく聞かせてもらうにゃん♪」

 

玄関の扉を開けると開口一番黒歌に尋問タイムの宣告がなされた

 

「ま・・・まぁそれは置いておいて荷物置いたらイッセーの家に行こうか?今日はお客さんも来る訳だしさ。黒歌はどうする?」

 

強引に話題を逸らすと少なくとも『今は』追及する気は無いのかちゃんと答えてくれた

 

「そうねぇ。何となく面白くなりそうな気がするから行くとするにゃん♪」

 

黒歌が「面白そう」とか何その不安しか感じない予感は!?

 

根拠のない一抹の不安を抱えながらもイッセーの家に行き、中に上がらせてもらう

 

「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ!紅髪の娘っ子も黒髪の娘っ子もデカいのう!それに蒼髪の娘っ子や栗毛の娘っ子も中々のもんじゃわい!」

 

ラフな格好をした眼帯のセクハラ爺さんがそこに居た・・・そういえば今日来るんだっけ

 

セクハラしている神様の後ろには前に少しだけ見た銀髪スーツ姿のロスヴァイセさんとガタイの良い武人気質漂う人も居る―――あの人が朱乃先輩の父親のバラキエルさんだろう

 

朱乃先輩は何時ものニコニコお淑やかオーラを止めて真逆の刺々しい雰囲気を滲ませている

 

その為か他の皆も心なしか空気が固いな―――アーシアさんと並ぶおっとりオーラがゼロどころかマイナスに突き抜けてれば仕方ないのかも知れないけどね

 

そしてセクハラ神のオーディン様は新たに部屋に入って来た俺達に目を向ける

 

「ほう!ほう!ほう!こりゃまた立派なモノを持っとる花魁ガールじゃな!うむうむ!やはり日本に来たなら着物や浴衣は外せんわい」

 

そう宣いながら黒歌の露出多めの胸に釘付けになってるオーディン様・・・もう心の中では『オーディン』と呼び捨てで良い気がしてきた

 

“スッパーン!!”

 

オカルト研究部の色んなおっぱいを吟味していたオーディンにロスヴァイセさんがハリセンを振り下ろす・・・どうせならあのハリセンの素材をスチール製とかにすれば良いのに

 

「もう!オーディン様はもっと北欧の主神としての威厳を持ってください!ましてや他勢力の皆様方の胸を卑猥な目つきで見渡すなどと北欧全体の品位が疑われます!!」

 

ハリセンで叩かれた当の本人は叩かれた頭を擦りながらため息を吐く

 

「全くお主は固いのう。これだけ別嬪さんが揃っておるのに胸の一つも見なければ逆に失礼というものじゃぞ?っと、そう言えばコヤツの事はまだ紹介しておらんかったの。儂のお付きで彼氏いない歴=年齢の生娘ヴァルキリーのロスヴァイセじゃ」

 

酷い紹介を見た。相手が神じゃ無かったら十分訴えられる内容だ

 

ロスヴァイセさんも自らの仕える主神の紹介に半分涙目になってしまっている

 

「き・・・生娘なのは関係無いじゃないですかオーディン様!わ・・・私だって好きで彼氏いない訳じゃないんですよ!?」

 

喰って掛かるロスヴァイセさんだがオーディンは髭を擦りながら諭すように言う

 

「しかしのう、ロスヴァイセや。英雄の恋人の役割も持つヴァルキリーが彼氏の一人も出来んのは問題じゃろう?そんなだからヴァルハラのヴァルキリー部署で職場の隅におったのじゃろ?折角器量は良い上に若いんじゃからもっとがっつかんかい」

 

「そんな事おっしゃられても最近はもう勇者や英雄の魂なんて殆どいないじゃないですかぁ!!そうですよ!どうせ私は仕事が出来ない女ですよ!どうせ私はこの先も一生処女やってくんですよ!うわあぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

主神に直接『仕事が出来ない』に等しい事を言われたロスヴァイセさんは泣き崩れて蹲ってしまった。けど確かに今の世の中そもそも戦争が少ないし、銃やミサイルをブっ放す最近の戦争で一騎当千の英雄とかって星5級のレア何だろうな

 

「爺さんが日本に居る間は俺達が護衛する事になっている。俺は最近忙しくてこっちにあまり顔を出せないからバラキエルをサポートに付ける。コイツは正面切っての戦闘なら俺と並ぶほどだからな、適任だろう・・・それはそうと爺さん。来日するのはもっと先の予定じゃ無かったか?偶々バラキエルに任せていた仕事が早めに片付いていたから対応できたが、そうじゃ無かったらまともな人材は派遣出来なかったぞ?神の子を見張る者(グリゴリ)は幹部が少ねぇからな」

 

アザゼル先生が茶を飲みつつ軽く苦言を呈すとオーディンも溜息を吐いた

 

「分かっとるわい。だが、そうも言ってられなくなっての。儂が他の神話体系に接触するのが許せんと喚き散らす輩が何人か居っての。下手な邪魔をされる前にこっちに来る事にしたんじゃよ」

 

「どこの勢力も問題は山積みだな。頼むから『神々の黄昏(ラグナロク)』を勝手に起こさないでくれよ?」

 

「その言葉、そっくり返してやるわい。お主らも和平を結んだばかり、『ハルマゲドン』の危険はまだ十分あるんじゃろうて」

 

オーディンの切り返しにアザゼル先生は小さく「このクソ爺が」とポツリと呟くがそのまま続ける

 

「まぁな、兎に角爺さんにその気が無いなら俺たちはサポートする事に否は無い。さて、とは言え日本の神々との会談までまだ時間はあるからな。爺さん、どっか行きたい所はあるか?」

 

アザゼル先生が訊ねると目を"ピキューン!!"と光らせて「おッパブに行きたいのう!」と意思表示するオーディン。それを聞いたアザゼル先生も嬉しそうに笑う

 

「分かってるじゃねぇか爺さん。実は最近うちの若いもんがVIP用に開いた店があるからそこに招待してやるよ。堕天使の女は良いぞぉ!男好きのする可愛い奴らが多いからなぁ!」

 

「ええのう!ええのう!!しこたま良いおっぱいを提供しておくれよ!」

 

「ああ、折角だから着物も着せてやろうか?帯の端を持って『あ~れ~♡』ってやってみたいだろう?北欧の主神様に俺が和の国日本の文化と伝統ってヤツを教授してやろう!」

 

エロ談義で超盛り上がってる一勢力のトップたち・・・と言うか日本の伝統を堕天使が教授するってそれは如何なんだろう?日本人じゃないとダメとは言わないけどアザゼル先生は悪乗り的な意味でダメな気がする

 

只管笑い声を上げて二人で肩を組みながら既にテンションMAX状態だ

 

「お・・・オーディン様!私も付いて行きます!!」

 

「アザゼルが一緒なら問題あるまい。お主は此処に残っとってもええぞ?」

 

「ダメです!オーディン様は目を離すと何をするか分からないんですから!!」

 

「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ!はて?よく聞こえんのう。最近耳が遠くてな。アザ坊や、何か良い案は無いかの?」

 

「疲れてるのかも知れないな。そういう時はリラックスに限る!追加にストリップショーも用意してやろう!心労も取れる事間違いなしだ!」

 

完全に遊ばれてるロスヴァイセさん・・・というかストリップショーって心拍数上がってリラックスとは真逆なんじゃないか?

 

この場に居る全員が主神と総督のテンションに付いて行けない中、二人が夜の街に繰り出そうと扉に近づくと廊下の方から足音が近づいて来て"ドバン!!"と盛大に部屋のドアが開かれ、金髪美少女が入って来た

 

「もう!時間通りに来ましたのに何で転移の間に誰一人として居らっしゃらないんですの!?暫く待っても誰も来ないし!———確かにレーティングゲームの時は敵同士でしたが、この対応は余りに酷いですわ!」

 

入って来たのはレイヴェルで、よく見ると少し涙目だ。ヤバい、ガチで忘れてた

 

他の皆も急な神様のサプライズ?お宅訪問でもうすぐ彼女が来る事を失念していたみたいでかなり気まずそうにしている

 

「ご・・・御免なさいねレイヴェル。ちょっと急な来客が在ったものだから」

 

「それとコレとは話が別でしてよ、リアス様!」

 

「う゛ぅ・・・はい・・・」

 

うん。確かにせめて一人案内及び説明役に祐斗でも待機させたら良かった話だからね。リアス部長も内心色々動揺していたのだろう・・・というか全員そろって忘れてたんだから連帯責任で良いんじゃないかな?・・・後で皆で謝る事にしようか

 

「それで?フェニックス家の私に迷惑を掛けた急な来訪者とはいったい誰ですの?せめて一言くらいはその方にも物申したい所ですわ!」

 

すると彼女の目の前にいるラフな格好のお爺さんが名乗り出る

 

「儂じゃよ。来客の予定があったとはすまんかったの・・・しかし、これは・・・ほほう!かなり将来有望そうなおっぱいじゃのう!」

 

いきなりのセクハラ発言にレイヴェルは胸を隠すようにして距離を取る

 

「何ですの貴方は!?初対面のレディにそんな事を言うだなんて常識がなってませんわよ!」

 

オーディンの後ろのロスヴァイセさんが早速北欧の品位が疑われた事に頭を抱えている。いや、コレは疑われたというよりは損なわれたというべきか?そんな中"キッ!"とセクハラ爺(オーディン)を睨みつけていたレイヴェルが何かに気づいたように訝し気な表情に変わる

 

「あら?貴方何処かでお会いした事がございませんか?」

 

必死に記憶を探って"うんうん"と唸っていたレイヴェルだが漸く思い出したのか顔を上げる。恐らく余りにも威厳の欠片も無い姿(短パン+シャツ)だったので記憶と噛み合わなかったのだろう

 

「そうですわ!この間のレーティングゲームの観戦席に居た北欧の主神の・・・・オーディン・・・さま・・・・」

 

そこまで口にした所でダラダラと汗をかき始めるレイヴェルとその様子を見て楽し気なアザゼル先生とオーディン。二人の意地汚い笑顔を見て「え?・・・え?・・・」と混乱冷めやらぬ彼女にオーディンとアザゼル先生が声を掛ける

 

「ん?どうしたんじゃ?儂に物申したいのじゃろう?ほれ、遠慮せずに言ってみい」

 

「そうだぞ~、折角神様から直々のお許しが出たんだ。存分に罵ってやれ」

 

だがそこでロスヴァイセさんが再びハリセンでオーディンをぶっ叩く―――真面目なロスヴァイセさんがアザゼル先生は叩けないだろうからこんな事もあろうかと(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)用意しておいたハリセンで俺がアザゼル先生の頭をぶっ叩く・・・流石に知り合いの女の子が権力全開のパワハラを受けてるのを黙ってみているだけなのは居心地が悪い

 

「もう!オーディン様もお戯れにしても悪質です!そもそも何の連絡も無しに急に押しかけたのは此方なのですよ。少しはご自重なさって下さい!」

 

オーディンはロスヴァイセさんに普通に怒られ、対してアザゼル先生は頭を抱えて蹲っていた

 

「ぐおぉぉぉ!!痛てぇ!何だそのハリセンは!?」

 

「これは和平会談の時にグレイフィアさんがハリセン使ってたのを見て衝動的に作りたくなった、叩かれた痛みを強める呪いの札を束ねた逸品。『痛撃!ハリセン君』です。制作は黒歌にも手伝って貰いました」

 

一枚一枚の効力は大した事無いし、少しオーラを纏えば防げてしまうネタ装備だけどな。それでも不意打ちを喰らえば普通に痛いはずだ。あまり得意でない呪術方面の練習ついでに作ってみました

 

「イッキお前!変なモン作成するのは俺の領分だろうが!・・・それにしても成程、ツッコミ装備か。色んなもん作る度にシェムハザにツッコまれてきたが今度はそっちにも手を出してみるか」

 

あ、ヤバい。ぶっ叩かれた先生は新たな着想に行きついてしまったみたいだ

 

「若いもんと戯れるのは賑やかでええのう。それで、悪魔のお嬢さんは此処には何をしに来たんじゃ?遊びに来たのかのぅ?」

 

「は・・・はい!オーディン様、先ほどは失礼いたしました。私が今回こちらに伺わせて頂いたのは貴族として見聞を広める為に皆さまの仕事ぶりをお手伝いという形で体験させていただきたかったからですわ。将来、冥界の役に立つ為にも必要な事かと思いまして・・・」

 

流石に突然の主神相手に少々委縮してしまっている感じのレイヴェルだが彼女の心意気を聞いてオーディンも満足げに頷いている

 

「若いのに良い心がけじゃわい。それならお主もいっそ儂の護衛についてこんか?神の護衛などそうそう体験できるものじゃないぞ?」

 

「オーディン様!?何を!?」

 

オーディンの発言に驚いたリアス部長が声を上げる

 

「な~に、日本にまで直接乗り込んでくるような馬鹿者なんぞそうそう居るものでは無いし、万一何かが起こったら後ろに下がっておれば良いじゃろう。それにお嬢さんはフェニックス家なんじゃろ?流れ弾程度で死んだりせんじゃろうし、後方から炎弾でも放っておればよいじゃろ。突然押しかけた詫びも含めた提案じゃ」

 

たいそう真面目な顔つきでレイヴェルを見つめるオーディン・・・その視線がレイヴェルの谷間に注がれていなかったら完璧だったんだけどな

 

護衛に一人でも多く花(女の子)が欲しいんですね―――幸か不幸かその不躾な視線に気づかなかったレイヴェルはリアス部長にお伺いを立てる

 

「リアス様、このような機会は二度と無いかも知れません。私としては護衛の任、お手伝いさせていただきたいのですが」

 

「そうね、ウィザードタイプとして優秀なレイヴェルが戦力に加わるのは心強いわ。それに万一不測の事態が起こっても、これだけの戦力が揃っているなら問題なく対処できるでしょう」

 

こうしてリアス部長が思いっきりフラグを建てる事によりレイヴェルが仲間に加わる事となり、今夜はアザゼル先生とロスヴァイセさんがセキュリティのしっかりした建物(堕天使式おッパブ)で過ごす為、本格的な護衛は明日以降という事になり皆、どことなく疲れた表情で解散となった

 

 

 

 

 

 

 

「にゃあ♪先輩♪」

 

後、夜寝る時に黒歌と一緒に小猫ちゃんもベッドに入ってくるようになりました




今章では『最後』のヒロインであるレイヴェルを盛り込んで書きたいと思います。ちなみにレイヴェルはディオドラ戦で出会った時はテレビなどの情報から婚約者の事もあり1ファンでしたが、黒歌の存在を知り、実際に助けられた事も相まってイッキの事を異性として意識し始めたという設定です


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第三話 宣戦、布告です!

最初に比べたらイッキもキャラが少しずつ掘り下がってきたと思うww


朝、目が覚めると左右から抱き着かれている感覚が有った。左を見ると何時もの黒歌の綺麗な寝顔があり、反対側を見ると昨日から一緒に寝るようになった小猫ちゃんのあどけない寝顔が在る

 

一応これと同じ状況は前にも在ったな。確かコカビエルと戦った後に小猫ちゃんが仙術の治療の為に一緒のベッドに居たんだっけ―――あの時は一人用ベッドに無理やり三人が入っていたから狭かったけど、今のベッドは特注なのかキングサイズよりも一回り大きいから余裕たっぷりだ

 

こうも無駄に大きいと引っ越す前の一人用ベッドが逆に恋しく・・・は、ならないな。中学生時代からずっと基本的に床に毛布で包まってたから未練何て残ってない

 

考察もそこそこに黒歌を起こさないようにベッドから抜け出そうとした所で今まで右手でゆっくり黒歌を引き剥がしていたその右手も小猫ちゃんが拘束中だという事に気が付いた

 

不味い!朝から黒歌がベッドの上で首筋とかに舌を這わせてきたりすると理性が吹っ飛ぶし【一刀修羅】にも朝から頼れないから黒歌より早く起きる術を体得したのにこれでは抜け出せない!

 

せめてベッドの上という脳内がピンクに染まり易い環境からだけでも脱出しないと何時か押し倒す!時々『何で俺、こんなに頑張ってるんだろう?』って考えてる俺は、こういうなけなしの努力を怠ったら多分一月も持たずに押し倒してしまう!

 

そして何とか脱出しようと身をよじっているとさっきまで寝てたはずの黒歌と目が合った

 

「にゃん♪おはよう、イッキ♪」

 

綺麗な黄金の瞳が此方を覗き込んでくる・・・ただし捕食者の瞳だ

 

「最近はイッキが夜に【一刀修羅】やってる間にくっついても反応しなくなってちょっとつまらなかったけど、成程ね。白音が居るからベッドから抜け出せなかったのかにゃ?私としてはイッキが高校卒業までなんて約束忘れて早く襲い掛かって欲しいんだけどにゃ~♪———今までは少しだけ手加減して上げてたけど、もっと本気で攻めて上げようかしら?」

 

手加減!?アレで!?毎日脳内神経焼き切れそうだったんだけど!?

 

「だって、最初の日以外口と口でキスして無かったでしょ?たぁっぷりと舌を絡めてお互いの匂いを混ぜ合うのよ。他にも色々・・・そして最後に一つになるの。後は精魂尽き果てるまで持久戦にゃ。興味ないかにゃ?」

 

意図して出しているであろう甘い声を耳元で囁きながら"ツツツ"と黒歌の掌が俺の太ももをゆっくりと昇って来る。興味が無いかどうかだって?んなモン在るに決まっているじゃないか!?もしも年頃の男子で黒歌の誘惑を素で「興味ない」なんて言える奴が居たらそいつはホモかゲイか同性愛者に違いない!!

 

 

―――何処かの秘境にて

 

 

「ハックション!!」

 

「おう、どうしたヴァーリ?風邪かい?」

 

「いや、美猴。問題無い。ただのクシャミだ」

 

「もしかしたら誰かが噂でもしてんのかもよ?」

 

「フ!それが俺を倒す為の算段だというのなら歓迎だ。楽しい戦いになるといいな」

 

「あ~らら。戦闘狂さんは今日も絶好調だねぃ」

 

 

―――何処かの秘境にて(完)

 

 

俺に覆いかぶさって来た黒歌が寝ている間に着崩れた白い装束から肌色を惜しげもなく覗かせながら目を細めてゆっくりと口を近づけて来る

 

いや、キスは嬉しいよ!好きな女の子とキスするとか男冥利に尽きる案件の一つだけどさっきの黒歌のセリフを聞いた後だと喰われる未来しか見えない!!

 

何!?昨日の小猫ちゃんはイッセーと朱乃先輩のデートに触発されてたけど、今度は黒歌は俺と小猫ちゃんのデートに触発されたりしたの!?

 

「・・・・・二人とも、朝から何してるんですか?」

 

あと少しで唇が重なり合う所ですぐ隣から小猫ちゃんの少しだけ不機嫌そうな声が聞こえてきた

 

ナイス!小猫ちゃん!前に黒歌とのキスの寸前で小猫ちゃんが部屋に入って来た時は少し残念な気持ちもあったけど、今この時はグッジョブだよ!!じゃないと喰われてた!多分の俺の中の理性のタガも外れてた!!

 

「うふふ、イッキと一つになって子種を貰おうかと思っただけにゃん♪白音だって同じ猫魈(ねこしょう)として他種族の雄を誘惑する事に興味あるでしょ?白音はまだ体が出来上がってないからもしも子供が出来たら最悪母子ともに死んじゃうから見学に留めておくにゃん♪」

 

「い・・・いやです!黒歌姉様とイッキ先輩がその・・・ごにょごにょ・・・するのを見ているだけ何て!私だってちゃんとやれます!覚悟は出来てますから!!」

 

や~めて~!俺を挟んでそんな応酬聞かされたらそれだけで一杯一杯だから!

 

何とか此処は強引にでも話題を逸らさないとダメだ!

 

「二人とも?そろそろ朝練の時間だk・・・」

 

「イッキはちょっと黙ってるにゃ!」

 

「イッキ先輩はちょっと黙っててください!」

 

「・・・はい」

 

3秒で撃沈しました

 

「大体白音?さっきも言ったけどもしも子供が出来たらどうするの?命の危険もあるし学校の事もあるでしょう?白音が学校生活を大切にしてるのは私も分かってるわよ?」

 

「それは・・・でも、私の体が大きくなるのはまだ2~3年はかかります。その間ずっとおあずけ何てイヤです!」

 

小猫ちゃん!?黒歌に影響されてエロエロ思考になってない!?エロエロな小猫ちゃんとか良いか悪いかで言ったら控えめに表現しても最高だけどさ!

 

駄目だ!何か昨日からずっと連鎖反応で猫又姉妹がグイグイ迫って来る!

 

「う~ん。白音の気持ちは分かるけど感情論で許可を出す訳にも・・・大体白音はまだ発情期も来ていないでしょう?やっぱりまだ・・・」

 

そこまで口にした所で何かを考えるようにして押し黙る黒歌

 

「うん。どう考えてもまだ白音が子供を作るのはまだ早いにゃ。私も子作りは暫く我慢して上げるから白音もそれで今は納得しなさい」

 

黒歌が身を引いた!?小猫ちゃんも黒歌の物わかりの良さに驚いているけどまぁ大切な妹の為なんだと思えばそう可笑しくはないよね?

 

小猫ちゃんも取り敢えず矛を治めてくれた所で黒歌が唇が軽く触れあうだけのキスをしてきた!

 

「ふふ♪今日はこれくらいで勘弁して上げるにゃん♪」

 

「姉様だけズルいです!私も先輩とキスします!」

 

黒歌とは反対側から小猫ちゃんが恥ずかしさから顔を赤くしながらキスしてきた!

 

ナニコレ?こんなに幸せで良いの!?

 

その時、小猫ちゃんの方を向いていた俺は黒歌の何時もの悪戯っ子の笑みには気づけなかった

 

 

 

 

 

 

他人に見られたら嫉妬から集団で撲殺されそうな姉妹ケンカに巻き込まれてから数日、オカルト研究部と黒歌にアザゼル先生にバラキエルさんとレイヴェルはオーディンの護衛として日本各地を飛び回っていた

 

因みに俺と黒歌は八坂さんの妖怪サイドから要請を受けた形になる。日本の神々、神話体系と妖怪はかなり密接に絡み合ってるからな―――日本の神と妖怪は必ずしも仲が良いという訳では無いけど神社、仏閣を大量に抱える京都を支配する八坂さんと反目し合ってるなんて事はないみたいだ

 

流石はクリスマスを祝って(聖書)除夜の鐘を突いて(仏教)初詣にお参りに行く(日本神道)日本人たちの神様方は妖怪にも寛容らしい

 

でも確かに思えば北欧神話やギリシャ神話とかは聖書と色々ごった煮になってる部分が多いけど、長く鎖国してた島国の日本神話は、伝承そのものにはそこまでの被害を被った訳では無いからかも知れないな

 

ともあれ巨大な八本足の軍馬、スレイプニルに牽かれる馬車で観光に付き合わされていたのだが、その大半がキャバクラやおッパブなどで待合室で待機していた為か皆の不満も溜まってるようだ―――イッセーは「クソ!俺だっておっぱい触りたいのに!」とかぶつくさ言って負のオーラをたれ流してたし、黒歌も仕事として割のいい給金じゃなかったらすっぽかして家に帰ってたかも知れない・・・まぁ一番不真面目な態度という事に変わりないけどな

 

お手伝いのレイヴェルも「神様に対する認識を改めなくてはなりませんわね」と待合室とかで愚痴っていたし、それを聞いたロスヴァイセさんが必死にまともな性格をした神々も北欧には居ると北欧神話をフォローしていた・・・北欧の主神についてのフォローはされていなかったが些細な事だろう

 

今、俺と黒歌はスレイプニルの馬車の御者台に居た。誰が移動中の馬車の周囲を守るかはその時々によって違うけど俺は人間で空は飛べないので外に居る時は基本的にこの位置に居る

 

始めは空中を踏みしめてランニング感覚でついて行ったりもしたのだが、皆が翼で跳んでいる中一人だけせっせと走っているのはいざという時の体力温存も含めて良くないという事でこの場所になった

 

流石に翼で飛んでる人たちに比べたら消耗するからな

 

御者台と言っても神馬のスレイプニルは頭も良いので手綱を引く必要はまるでないが

 

因みにイッセーも外にいる場合は此処に座っている

 

悪魔の翼でまだまともに飛行出来ないらしい・・・前に練習風景を見せてもらったけど今の所素人がラジコンヘリを操縦してるかのような挙動だ。墜落待ったなしである

 

黒歌?彼女は態々自分で飛ばなくても良いなら飛ばないだけである。御者台に座ったり、馬車の屋根の上に寝っ転がったりしています

 

外には他に祐斗、ゼノヴィア、イリナさん、あとバラキエルさんが空を飛んで護衛中だ

 

「あ~、俺も何か長距離飛行できるような術なりアイテムなり手に入れないとダメかな」

 

同じ仙術使いであろう美猴の持つ筋斗雲とか乗り心地もよさそう何だけど、流石にくれと言って貰える類のやつじゃないしな

 

「仙術だと空間操作の応用の重力操作を使えば飛ぶことは出来るけどイッキがそれを覚えるのはもう少し先かにゃ?まっ♪最悪走ればいいだけだし、転移の術式もあるんだから優先順位は低めで良いんじゃないかにゃ?」

 

すると話を聞いていたゼノヴィアと祐斗、イリナさんが会話に加わって来た

 

「ふふふ、私達よりはるかに強い有間でも苦手なものは在るという事か」

 

「はは、そうだね。でも、黒歌さんも言ったように重要な項目とは言い難いんじゃないかな?」

 

「有間君がもしも翼が欲しいと言うのなら私からミカエル様に話を通して上げるわ!妖怪側との調整も必要だろうけど、有間君。妖怪側と天界側の仕事を掛け持ちしてみる気は無い?」

 

イリナさん、サラッと勧誘するなよ

 

「悪いけどその必要性をまるで感じないからイリナさんの提案は却下で・・・というか正直俺が仮に天使に転生したら次の日にはアザゼル先生やバラキエルさんと同じ黒い翼になってる可能性が高いと思うぞ?」

 

黒歌の誘惑の前では多分脳内の妄想だけで堕ちると思う

 

イリナさんが「そんな!?有間君がそれほど罪深い業を抱えているだなんて!これは友達兼天使として彼の懺悔を聞き入れ、正しき道へ導けとの主とミカエル様のご意思なんだわ!」と変な方向に気合を入れてるけど、そういうのは俺よりもイッセーにどうぞ。あっちの方が重症だから!

 

「お前たち、私語はするなとは言わんが程々にしておくように・・・それと有間一輝、もしもの時はアザゼル共々歓迎しよう」

 

バラキエルさんまでちょっとお茶目な一面見せなくてもいいよ!?

 

だがそこで悪意あるオーラが転移して来るのを感じた

 

「警戒態勢!」

 

警告を発すると共に一応付いていた手綱を引き馬車を停車させ、空中に立つ

 

他の皆もそれぞれ武器を取り出した辺りで丁度目の前に一人の男が転移し終わった所だ

 

白を基本としたローブ姿で銀髪、額に大きな青い宝石のアクセサリーを付けている。髪の毛は重力を無視して蛇のように長い・・・海外版ぬらりひょんか?

 

剥げてはいないけどさ

 

「初めまして諸君。私は北欧の悪神のロキという者だ」

 

ロキの名に皆の警戒の度合いが跳ねあがる中、馬車から出てきたアザゼル先生が目の前の悪神に警戒度MAXながらに声を掛ける

 

「これはこれは北欧の神ロキ殿。まさか貴方までもこの国に観光に訪れていたとは思いませんでした。この馬車にはあなた方の主神、オーディン殿が乗っておられる。ご挨拶に伺ったのだとしても出来れば事前にアポを取っていただきたい」

 

オーディンもアポなし突撃訪問だったからね。アザゼル先生としては軽い皮肉も入ってるのだろう

 

「堕天使の総督か、出来れば他の神話体系の者と接触はしたく無かったのだがな―――私が此処に来たのはオーディンに事の真意を尋ねるためだ。主神自ら他神話との和議に及ぼうなどと――――これでは我ら北欧の悲願である神々の黄昏(ラグナロク)が迎えられないではないか!!・・・この行いが最終的に神々の黄昏(ラグナロク)に結びつくと云うのであれば不満はあれど此処は引いても良い。答えをお聞かせ願おうかオーディン!」

 

指を突きつけ、生半可な返答は許さぬとばかりに意気込むロキ

 

馬車からロスヴァイセさんを引き連れて魔法陣を足場に空中に出てきたオーディンはそれを見て深いため息を吐いた。イッセーやリアス部長たちも一緒に飛び出て警戒している

 

「全く、他の神話を毛嫌いしとるお主たちなら儂が北欧に戻るまでは大人しくしとると思っとったんじゃがの。当てが外れたわい―――ロキよ、儂はの、今更神々の黄昏(ラグナロク)なんぞに興味はない。大体神々の黄昏(ラグナロク)を迎えたとしてその先に何が在る?予言に記された戦争を予定調和に再現した所で得られるものなんぞ何もないわ。そのような事よりサーゼクスやアザゼルと喋ってる方が万倍楽しいわい。仮にも儂は『知』欲しさに自殺も厭わん馬鹿者じゃからの、前々から世界に視野を広げたいとは思っておったわ」

 

三大勢力が和平を結んだのは良い切っ掛けだったと笑うオーディンに対してロキは射殺すような目で睨みつけ、威圧感を倍増させる

 

「認識した。なんと愚かな―――では此処で貴様ら全員を殺し、神々の黄昏(ラグナロク)の幕開けとしよう!今此処に!私は宣戦を布告する!!」

 

”ドッガァァァァァン!!”

 

ロキの宣言と共に聖なるオーラの波動が襲い掛かり爆発を引き起こす

 

どうやらゼノヴィアが開幕速攻で仕掛けたようだが煙の中からは無傷の状態のロキが出てきた

 

「先手必勝だと思ったのだが、どうやら有間のように一撃で倒すとはいかなかったようだ・・・何がダメだったんだろう?」

 

可愛らしく小首を傾げるなよ・・・でも採点するならそうだな

 

「まず、デュランダルの波動を撃つときにオーラが抑えきれてないから正面から相対していたら相手が感知タイプでなくとも奇襲のメリットが無い。次に『すべてを断ち切る』デュランダルのオーラが相手に当たった瞬間『爆発』してる時点で『斬撃』という形にオーラを押し込められてない。つまりは構成力が弱い。後は単純にパワー不足かな?」

 

うん!軽く考えただけでも結構出て来たな!

 

そう思っているとゼノヴィアが"ズーン"と表現できそうな感じに項垂れてしまった

 

「ふっ、ふふふ!ここまでダメ出しされるとは思わなかったな・・・」

 

「イッキお前、もうちょっと時と場合を考えようぜ!ゼノヴィアが使い物にならなくなっちまうだろ!?どうするんだよ、空中で体育座りし始めたぞ!!」

 

え~、疑問に答えただけなんだけどな。しょうがない

 

「あ~、ゼノヴィア。課題が沢山あるって事はそれだけ強くなる余地が在るって事だから帰って来てくれ!特訓にも付き合うからさ・・・主にイッセーが!」

 

「いや、何でそこで俺なんだよ!?」

 

「ゼノヴィアだってイッセー相手の方がモチベーション上がるだろ?」

 

好きな男の子との楽しい運動の時間だと思えばさ

 

「そうだな・・・パワーの底上げを目指すなら力の塊たる赤龍帝との鍛錬の方が実力の向上に繋がりそうだ。イッセー、私と付き合ってくれるか?」

 

「ああ!幾らでも付き合ってやるから今は目の前の敵に集中してくれ!」

 

「フフ!そうか、イッセーは私と付き合ってくれるのだな!良し!この戦いが終わったら早速そこいらの茂みにでも隠れて子作りだ!」

 

「そっちじゃねぇぇぇ!何処から話がすり替わったんだよ!?」

 

イッセーのツッコミが炸裂する中、ロキの声が響く

 

「茶番はその辺りで良いだろう」

 

その言葉に再び皆にピリピリとしたものが走る中、ロキが俺達全員を見渡す

 

「ふむ。堕天使の総督に幹部、そこそこの実力の悪魔が沢山と天使に人間に赤龍帝か―――護衛としては些か過剰なのではないかね?オーディン」

 

「お主のような特大の大バカ者が来よったんじゃ。結果オーライというやつじゃよ」

 

「ロキ様!今此処で引けば罰則はあれどもまだ大事にならずに済みます!主神に異を唱えたいなら然るべき公正な場で発言して下さい!」

 

「ふん!一介の戦乙女(ヴァルキリー)如きが神々の会話に口を挟むな。もう戦いは始まっているのだよ!」

 

そう言って掌を此方に向け、オーラを集めて放とうとするロキの攻撃を危険と判断したのか既に『女王』に昇格(プロモーション)した上に禁手(バランス・ブレイカー)となっていたイッセーが突貫するが間に合わずに魔法弾が放たれた

 

「こなくそ!」

 

『Boost!! Boost!! Boost!!Boost!! Boost!! Boost!! Boost!!』

 

『Transfer!!』

 

イッセーの高めた力を魔力に一点集中させ放たれたドラゴンショットとロキの攻撃がぶつかり合い盛大な爆発を起こす。イッセーとしては強力な一撃だったんだろうけどロキからしてみたらグミ撃ちの一つみたいなもんなんだろうな

 

煙が晴れた瞬間にアザゼル先生とバラキエルさんの攻撃が放たれたがロキは全身を包み込む防御の魔法陣で爆発の中からまたしても無傷で現れる

 

戦いが始まってから爆発ばっかだな

 

「クソ!先生とバラキエルさんの攻撃でもあの壁は破れないのかよ!?」

 

戦慄しているみたいだから此処は一つ俺が模範解答を見せてやるか

 

「イッセー!俺に力を譲渡しろ!俺がお前に対魔法(アンチ・マジック)の手本を見せてやる!」

 

「おう!分かった!」

 

イッセーが瞬時に反応して赤龍帝の力を譲渡してくれたので力が引きあがる。神様相手ならこれくらいの保険は掛けておきたいからな

 

「人間風情が神に挑むとはな。その不敬に罰を下してやる!」

 

先程の魔法攻撃をまさしくグミ撃ちのごとく大量に放ってきたロキだが手数の膨大さで言えば黒歌との模擬戦を重ねた俺にはイージーモードだ!・・・向こうも本気じゃないんだろうけどさ

 

弾幕を掻い潜ってクロスレンジまで割り込むと前面に盾のように魔法陣を展開してきた

 

俺はそれを全力で拳を握り、殴り壊して奥に居るロキの顔面にヒットさせる

 

とはいえ障壁で勢いが削がれたから大したダメージにはならないだろうけどな

 

「って!それただのパンチじゃねぇかぁぁぁ!?しかも何でそれで障壁を破れるんだよ!?」

 

「イッセー、魔術に対抗するのに必要なのは圧倒的な物理攻撃だ!魔法使いタイプは物理に弱いのは世の常識だろう?・・・まぁ真面目に答えるなら着弾すれば攻撃が拡散する炎や雷、爆発とかより固めた拳の一点突破の方が障壁を破壊しやすいんだよ」

 

「な・・・成程。一瞬お前が馬鹿になっちまったのかと思ったぞ」

 

失敬な、どこぞの研究者も物理攻撃こそが対魔法(アンチ・マジック)だと言っていたぞ!———まだ出会った事は無いけどな!

 

「人間ごときに一撃貰うとはな。オーディンの護衛に着くだけの事はあるという事か。ならば私も一つ貴様に教授してやろう!人間の弱点というモノをな!」

 

そう言うと北欧の魔術を俺を囲うように大量に出現させ、先程とは比較にならない程に大量に撃ち放って来るロキ!しかも単純なショットだけでなく追尾型、隠密型、ランダム軌道、花火型と兎に角大量に放ってくる!流石に術式が豊富だな!

 

体捌きで避けるにしても逃げ場ゼロでは避け切れないので全身に何発か貰ってしまいつつ何とかその場から離脱した。だが大してダメージを受けてない俺の様子を見てロキが声を荒げる

 

「馬鹿な!貴様は人間だ!幾ら強力な闘気を身に纏った所で元が貧弱な人間の体では軽い攻撃でも防ぎきれるはずがない!せめて貴様が今身に纏っている数倍のオーラが必要なはずだぞ!?」

 

「さて、何でだろうな?種も仕掛けもあるマジックだけど種明かしする気はないぞ?」

 

今の俺が無事なのは京都で貰ったあの丸薬、金丹もとい『きんのたま』の副次効果さ!

 

『きんのたま』は不変なるものである金の性質を体に取り込み不老の肉体を得る丸薬!あの丸薬を呑んでから俺は仙術で自然エネルギーの金属に対する新和性がアップしたから多めにその気を取り入れる事で生身でありながら全身鎧のような防御法も得たんだよ!そこに闘気の一点集中防御も合わせれば倍プッシュだ

 

つまりはアレだな。どこぞの海賊漫画の『鉄塊』もしくは『武装色』とか現実で言うなら中国拳法とかで聞く『硬気功』や『鉄腕功』の上位版って所だ!まぁ流石にイッセーのドラゴンの鎧に比べたら鎧の質は劣るけどそこは闘気のコントロールでカバーだ

 

「そうか!うちのアルマロスの提唱するアンチ・マジック。肉体による物理攻撃と物理防御こそ至高という研究成果は神が相手でも有効なのか!あいつが聞いたら喜ぶだろうな!」

 

アザゼル先生がとっても楽しそうにしている中、ロスヴァイセさんは項垂れている

 

「何だか、北欧式に限らず魔法そのものを否定された気分です」

 

いや~そんな事言われても確か原作でもこの時点のイッセーが拳を叩きつけただけでロキの障壁を打ち破るシーンがあったはずだから、あながち間違ってないと思うんですよね

 

実際殴り壊す事が出来た訳だし―――そう思っているとバラキエルさんがロキより上空に飛び、魔法陣から巨大な鎖付き鉄球を取り出した―――モーニングスターの一種か、バラキエルさんはあんな武器も使うんだな

 

「ぬぅん!ならば私も彼に倣おうではないか!」

 

そう言って鍛え抜かれた体で鉄球を振り回し、ついでに雷光を纏わせてロキに叩きつける

 

ロキも障壁で防ごうとするがやはり物理に弱いのか砕け散り、鉄球の衝撃と付与された雷撃を喰らって堪らず距離を取る

 

「ハ!どうした悪神様よぉ!うちのバラキエルが磔にされて毎夜打ち付けられながら改良された特性鉄球は体の芯に響くだろう?バラキエルも出張先で自分を打ち据える為の鉄球がこんな形で役に立つとはな。流石は堕天使の幹部だ!その趣味一つが神をも冒涜するぜ!」

 

バラキエルさんのドM体質をアザゼル先生が暴露して皆が一様に微妙にバラキエルさんから距離を取る中、ロキも感想を溢す

 

「ふむ。確かに尋常ではない想いの籠った一撃だった。堕天使の幹部よ。貴殿があの鉄球にどれだけ心血を注いできたのかが伝わって来るようだ」

 

「う・・・うむ・・・」

 

バラキエルさんが答えに窮している。娘もいるこの場所で性癖暴露されてどう言い訳しようか考えているのだろう。朱乃先輩は「最低ですね」と口にしつつちょっとだけ興味の視線が瞳の奥に見え隠れしているから親子の和解がなったならそう遠くない内に仲睦まじい親子のコミュニケーションが見られる事だろう

 

「よもや敵を打倒す為に自らを犠牲にして武器の改良を重ねているとはな。戦場で痛みによって動きが鈍る事を防ぐ為に耐性を付ける意味も在るのだろう?その貴殿の戦士としての心意気は敵ながら評価しようではないか!」

 

「うむ!戦いとは常に準備を怠らず、自らを鍛え上げて望むもの!私は武人として当然の事をしているまでだ!決して趣味の類ではない!!」

 

ロキの好意的な解釈に乗っかったバラキエルさんだけど、この場においてはロキにしか効果が無い言い訳だ。実際距離を置いた皆が今度は白けた視線を向けているし

 

「成程、一筋縄ではいかぬようだ!ならば呼ぶとしよう!我が愛しき息子を!」

 

ロキが両手を広げると魔法陣が展開され、そこから10m級の巨大な狼が姿を現した

 

全身の灰色と背中の白の体毛をした狼で肩の辺りからは角が生えている

 

正直、ロキとは比べ物にならない威圧感だ。殺気を向けるロキよりもただそこに居るだけの狼の方がよっぽど強い『圧』を放っている

 

アザゼル先生が「全員距離を取れ!あれは最悪の魔獣の一体。フェンリルだ!」と叫ぶ中俺は俺で思った事を口にした

 

「可愛くないし、カッコよくも無い!チェンジ!!」

 

”ビシッ!”と指を突きつけるとフェンリルも含めて皆ちょっと脱力した感じだ

 

「お前!最初に見た感想がそれかよ!ケルベロスの時も似たような事してなかったか!?あの時はペットにしたいとか言ってたけどよ!何!?あいつはダメなの!?」

 

詰め寄って来てマスクを態々収納して問いかけて来るイッセーだけどこれは譲れない!

 

「だってよく見ろよイッセー!あの肩にとって付けたような角を!無いわ~、実に無いわ~。今気づいたけど多分俺は肩パッドとか許せないタイプだわ」

 

「いきなり変な内面に気づくんじゃねぇよ!あと一応言っておくけどアレは角なの!決してバブル時代の人たちが血迷ったスタイルの肩パッドじゃないの!許して上げて!ほら!あの狼さっきからしきりに肩の角の事を気にし始めてるから!アイデンティティーを否定しないで上げて!!」

 

するとロキとフェンリルも何やらやり取りとしている

 

「くぅぅぅん!」

 

「何?この戦いが終わったら何とか肩の角を無くして欲しい?案ずるな我が息子よ。あの人間の美意識が可笑しいだけなのだからな。貴様をデザインした私の美的センスは完璧だ!美の女神フレイヤも私の作品を前にしたら傅くだろうよ!フハハハハハ!!」

 

そう宣うロキの全身をフェンリルが見据えるが真っ白な全身、額の無駄に大きい宝石、蛇の抜け殻のような髪型を順番に見たフェンリルががっくりと肩を落とした

 

多分何を言っても無駄だと思ったのだろう

 

こうしてちょっとグタついた所はあるものの、戦いは本格的に動き出していった




久々に銀魂読んでたら肩パッドネタが目に付いたので適当に盛り込んで書いてみましたw

ロキやフェンリルのデザインはアニメ版です


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第四話 対策、会議です!

前にこのサイトのマイページのボタンを押したら全く別の人のマイページに跳びました。慌ててもう一度押したら元に戻りましたが今思えばアレってどんな奇跡的な確率で回線が混線したんだろう?


空中に立つロキだけでなくフェンリルもその視線に殺気を籠め始めた事により、この場に居る全員が一歩距離を取る。よく見れば何人かは冷や汗を流しているようだ―――その様子を見てロキは楽しそうに笑みを浮かべた

 

「どうやら本能で理解出来てるようだな。このフェンリルは神をも殺す牙を持っている。今貴様らの前には死が立っているに等しいのだよ!だが、私としてはグダグダと戦うつもりは無い。いかに私とフェンリルと言えど貴様ら全員に加えてオーディンがグングニルを抜けば負ける可能性は十分にあるからな。主神殿の力を私は決して過小評価はしない」

 

そこは油断してくれよ!まぁオーディンは戦神としての側面もあるからフェンリル相手でもある程度は戦えるのかもな・・・状況がそれを許すかは別だけど、ロキがオーディンを殺す意思がある以上は最終的にオーディンとの戦闘も視野に入れるのは当然か

 

「先ほどそこの聖剣使いが言っていたな『先手必勝』だと。だがそれは如何いう形にせよ相手の虚を突かなかければ意味は無い。そう!例えばこんな風にな!さあ、もう一体(・ ・ ・ ・)の愛しき我が息子よ!オーディンを我が前に連れて来い!!」

 

”ヒヒィィィィィィィィィィン!!”

 

そう言ってロキの掌から怪しい光が放たれると、突如として俺たちの後ろから何かが外れるような音と一緒に馬の嘶きが聞こえてきた

 

そこに居たのはオーディンの乗る馬車を牽いていた八本足の馬。スレイプニルだ!

 

スレイプニルは理性の灯ってない瞳で俺達が動くよりも先に神馬の名に恥じない神速で動き、オーディンの首根っこを口で銜えて一瞬でロキとフェンリルの前にオーディンを放り投げ、自身は俺達の前に立ちふさがった

 

当のオーディンはロキが発動させた拘束術式でこれでもかと雁字搦めにされていた

 

オーディンの方が魔術の腕が上でもあれでは簡単に抜け出せないだろう

 

「ぐぅぅ!!してやられたわい。お主が儂に息子のスレイプニルを献上した時、何か支配の術式を仕込んでおったな?儂のミーミルの泉から得られた魔術の知識でも気づけなんだとは、どんな手を使いよった?」

 

「この期に及んでまだ知識欲が疼くか、呆れたものだ。何、私とて魔術で完全に主神殿を出し抜けるとは思っていない。その口ぶりからすれば可笑しな魔術が掛かってないか調べたのだろう?だが、時として高度な術を扱う者は原始的な手法に気づかぬものだ―――方法は至極単純!生まれたばかりの息子の頭蓋骨を取り出し、内側に直接手彫りで術式を刻み込んだだけの事!私が特定のオーラを放たなければ何の効力も発揮せず、手彫りであるが故に魔術の残滓も感知できなかっただろう?貴方が正しく神々の黄昏(ラグナロク)を行うのであれば必要無かったのだが・・・いやはや保険というのは掛けておくものだ」

 

えっぐ!生まれたばかりの赤ん坊の頭蓋骨切り取って裏面をゴリゴリ削ったって?というか狼や馬が息子って神様ってよく分からんな

 

「ふん!そのような真似をしておいたよくもぬけぬけと『愛しき息子』なんて臆面も無くほざけたものじゃわい!悪戯っ子も度が過ぎておるぞ!」

 

「お忘れですかオーディン?私は悪神ですよ?どうやら貴方は新たな『知』を求めるよりもその耄碌を何とかした方が良いようですな・・・さて、予言では貴方はフェンリルにかみ殺されるとされている。多少順序は狂ったが神々の黄昏(ラグナロク)の幕開けには相応しい!フェンリルよ!我らが主神でその腹を満たすがいい!!」

 

ロキの言葉を受け、フェンリルの双眸がオーディンを射抜く

 

「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

アザゼル先生の絶叫にも近い叫びで皆が一斉にオーディンに噛み付こうとするフェンリルに遠距離攻撃を嵐のように仕掛けていくが間に立ったスレイプニルが神速で動き回って攻撃を撃ち落としていき、取りこぼしもロキの張った障壁で防がれていく。よしんば何発か当たった所でフェンリルは止まらないだろう

 

「フハハハハハ!さらばだオーディン!!」

 

”ドバギャン!!”

 

ついにフェンリルの神殺しの牙がオーディンを喰い殺そうとした所で辺り一帯を吹き飛ばすような怪音が響き渡った

 

赤く尾を引く流星のような物体がスレイプニルに反応も許さずフェンリルの下顎辺りに突き刺さり、当のフェンリルは錐揉み回転しながら遥か彼方まで吹き飛ばされる

 

「フェンリル!?・・・チィ!また貴様か!人間ごときが!」

 

ロキが忌々しい視線をこっちに向けて来るけど正直答える余裕は無い

 

フェンリルをライダーキックよろしく蹴り飛ばすのに【一刀羅刹】を発動させたので全身ボロボロで立つ事もままならない・・・と言うかもう直ぐ墜落する

 

噴き出る血と高速移動で赤い彗星と化したからな。もっとも、速度は3倍どころじゃ無かったけど

 

こんな死にかけの状態で敵の前に立つなんて危険何てレベルじゃないけど、次の手は既に打ってある!俺の右手には先日のイッセー達のレーティングゲームの折にレイヴェルから渡されたフェニックスの涙の小瓶が握られているからコレを振りかけてさっさと治療だ!早くしないとロキが立ち直って殺しに掛かってくるからな!

 

ふん!・・・ふぅおぉぉぉぉ!!?

 

!! しまった!体力ゼロ+余すところ無い大怪我でまるで力が入らずに瓶の蓋が開かない!?

 

ヤバい!コレ、死ぬ!!全力込めてるはずなのに腕がぷるっぷる震えるだけだ!

 

「む!それは確かフェニックスの涙か?そうはさせん!フェンリルを蹴り飛ばすなど、貴様は危険な存在だ!今此処で死ぬが良い!!」

 

瀕死の人間一人相手に過剰過ぎるオーラを手に集め、至近距離から魔法弾を放ってくるロキ

 

直後、何かが壊れるような音と共に直撃した(・・・・)魔法弾は盛大な爆発を起こした

 

「イッキ!」

 

「イッキ先輩!」

 

「イッキ様!」

 

イッセー、小猫ちゃん、レイヴェルを筆頭に皆が叫ぶ声が聞こえる中、無傷(・・)の俺が爆煙から現れてその場から距離を取る

 

今のはマジで死ぬかと思った!ギリギリ避けた(・・・)攻撃もすぐ後ろで爆発するし、あの血まみれの状態の俺が避ける事すら可能性に入れて殺しに来てやがったのか?

 

「有難う、黒歌!助かった!」

 

あの場の誰にも気づかれないように『小瓶を壊すだけの威力』の魔力弾を隠蔽を施して放ってくれた黒歌の機転には本気で感謝しないとな。流石にアレなら感知は難しいだろう

 

「全く、【一刀羅刹】だったっけ?その事を知らなかったら私も咄嗟に対応出来なかったかも知れないわよ?と言うか敵の目の前で『涙』の小瓶を開ける力も残ってないって諸刃の剣過ぎるにゃ」

 

まぁ確かに味方がいきなりスプラッタな状態に早変わりすれば何事かと思うよな

 

「チィ!今のは威力重視の一撃だったのだぞ!?無傷などあり得ない!」

 

「別に?ただギリギリ避ける事が出来ただけさ」

 

「何?ならば一体何に当たったというのだ!?」

 

は?いや、だから当たってないって・・・そう思っていると怒気とも呆れとも言えないような声音で後ろから声を掛けられた

 

「儂じゃよ」

 

訝しんでいるロキに対して俺の後ろ辺りから極大のオーラ砲が放たれて目の前の悪神を吹き飛ばした!思わずそちらに目をやるとそこにはボロボロの姿のオーディンが立っていた

 

「全く、お主は儂の護衛なんじゃろ?何拘束されて動けない儂を置いて攻撃を避けとるんじゃ・・・まぁ先のロキの攻撃で拘束が緩んで抜け出せたんじゃがの」

 

・・・あ、ヤッベ!完全に忘れてた!そうだよな!フェンリルに喰われる直前のオーディンを庇った上でロキの攻撃を全力回避とかしたら動けないオーディンに当たるに決まってるよな!

 

「っく!オーディンの拘束が切れたか!フェンリルよ!何をしている!?早く戻ってきてこの二人を噛み砕け!」

 

その言葉と共に遥か彼方の地上に落ちていたらしきフェンリルが跳び上がり、ロキの横に降り立つ

 

「きゅ・・・・・きゅうぅぅぅぅ!!」

 

「何?顎が外れてコレでは噛めないだと?」

 

「きゅうぅぅぅ!きゅうぅぅぅ!!くぅぅぅん!!」

 

「角に加えて牙のアイデンティティーまで否定された。北欧の外の世界がこんなに恐ろしいものだったとは思ってなかった。もう帰らせて欲しい?」

 

フェンリルは"コクコク"と頭を縦に振って意を示す

 

「ええい!情けない事を言うな!外れた顎何て私がはめ込んでやろう!」

 

そう言ってフェンリルの下顎の部分をグイグイと押し込むロキだが元々神狼の顎だからか中々動かなかった。暫く格闘していたが業を煮やしたのか今まで律儀に二人を身を挺して攻撃から守っていたスレイプニルに助けを求める

 

「スレイプニルよ!大きな衝撃を与えれば何とかなるかも知れん!フェンリルの顎を突き上げるように『たいあたり』、イヤ!『とっしん』だ!!」

 

「はぎゃ!?———ギャワオォォォォン!!」

 

ロキに操られているスレイプニルは一切の躊躇無くフェンリルの外れた顎に突撃をかました

 

「フハハハハハ!漸くその顎がハマったようだな!さぁ!続きをしようではないか!!」

 

笑っているロキの後ろで凄い形相でフェンリルが睨みつけているけどね・・・多分この戦いが終わって仮にロキ達が勝ったとしてもその時点で食い殺されるんじゃないか?

 

そんな事を思っていると俺達よりも更に上空から声が降って来た

 

「どうやら思った以上に楽しい事になっているようだな。俺も混ぜては貰えないか?」

 

一部見知らぬ奴も居るけどヴァーリとその仲間たちがいた

 

「白龍皇か!流石にこのままでは戦えんな。今は引くとしよう―――しかし!この国の神々との会談の日、私は再び貴様らの前に立ち塞がろう!さらばだ!!」

 

転移魔法陣を展開してそのままロキ達は消えていった

 

だけど皆はヴァーリ達が居るから警戒を解いていない

 

そんな中、一番ヴァーリと親しいアザゼル先生が声を掛ける

 

「ヴァーリ、何をしに現れた?戦闘狂のお前の事だ。ロキと戦いたいとでも言うつもりか?」

 

「残念ながらロキ単体ならば兎も角、フェンリルやスレイプニルまで一緒に敵に回すとなると俺たちだけでは戦力が足らんな・・・だが、お前たちと手を組めば話は別だ」

 

『!!!!!!』

 

皆がヴァーリの提案に驚いている

 

「今回の一件、俺達は共闘しても良いと言っている」

 

だが、皆が驚きの余り声も出ない様を見せている中で小猫ちゃんだけは別の方を向いていた

 

「サラマンダー・富田さん!?生きていたんですね!!」

 

小猫ちゃんはヴァーリ、美猴、アーサーと一緒に現れた甲羅、嘴、頭の皿という極めて特徴的な姿の妖怪である河童に話しかけていた・・・って言うかサラマンダー・富田!?富田は兎も角サラマンダーって火トカゲな精霊の名前だよね!?水棲の妖怪の名前に何故付けたし!?カエルとトカゲは両生類と爬虫類で似ているようで根本から違う生物だからね!?

 

「まさか彼がヴァーリたちと行動を共にしているだなんてね。でも、サラマンダー・富田さん程の実力者の手を借りられれば心強いのも事実だわ」

 

リアス部長が神妙な様子で呟き、オカルト研究部の初期メンバーがそれぞれ続く

 

「ええ、まさかサラマンダー・富田さんとまたお会いできるとは思っていませんでした・・・ある日突然私達の前から居なくなってしまいましたからね」

 

「あの夏の日の『河川敷頂上決戦』は今でも鮮明に思い出せるよ。サラマンダー・富田さんはあの時も小猫ちゃんと・・・」

 

「さ・・・サラマンダー・富田さんは小猫ちゃんの友達ですぅぅぅ!あの日も二人は一緒に『尻子玉ラプソディー』を口ずさみながら小猫ちゃんはサラマンダー・富田さんを河川敷に送り出していたんですぅ!!」

 

サラマンダー・富田、サラマンダー・富田うるせぇぇぇぇぇぇぇ!!どいつもこいつもサラマンダー・富田の名前連呼しやがって!そんなに名前連呼しなくても十分脳内に刻まれるインパクト抜群の名前だよ!!

 

「つーか何!?『尻子玉ラプソディー』って!?そんな頓珍漢なラプソディー聞いた事ねぇよ!」

 

知らねぇ!『河川敷頂上決戦』なんてものも知らねぇ!!そりゃあ小猫ちゃんはあんまり自分語りするタイプじゃないし、数年前から小猫ちゃんの動向を探ってた黒歌だって365日、常に監視してた訳じゃないんだろうけどさ!そんな特大のイベント見逃してたの!?

 

驚愕に彩られる中、小猫ちゃんとサングラスをした河童、サラマンダー・富田の会話は続いて行く

 

「突然居なくなって心配掛けたみたいだな。実家のきゅうり農家の親父が皿の病気になって急遽呼び戻されちまってよ。それはさておき小猫ちゃん。噂のお姉さんとは和解出来たみたいだな。最後に会った時は『好きな男の一人でも出来れば大人の女性になれる』って言ったけど、どうだい?彼氏の一人でも出来たかい?」

 

「はい♪今は一緒に暮らしてもいるんですよ?」

 

小猫ちゃんがはにかむような笑顔を浮かべながらもサラマンダー・富田に報告する

 

ぐっは!今のはヤバい!小猫ちゃん笑顔が直接俺に向けられた訳でもないのに乙女な笑顔の破壊力がヤバい!悶死するわ!!

 

「そうか・・・あの小さなレディが何時の間にか立派な女性に成長していたんだな。ああ、畜生!汗で目が霞やがる!」

 

天を仰いで目元から零れ落ちそうになる本人曰く『汗』とやらを拭っていた河童に小猫ちゃんは質問をぶつける

 

「でも、サラマンダー・富田さんは何で彼・・・白龍皇と一緒に居るんですか?さっきは実家に呼び戻されたって言ってましたよね?」

 

その小猫ちゃんの質問に答えたのはヴァーリだった

 

「塔城小猫、それは俺達が彼を雇ったからさ―――契約料は毎日新鮮で且つ出来の良いきゅうりを200本・・・一年更新で契約を結ばせてもらったよ。きゅうりの半分は実家に送って父親には療養してもらっているみたいだ」

 

毎日きゅうり200本!?きゅうりなんて大体3本100円くらいだよね!?日給6600円くらいじゃん!?滅茶苦茶安っすいな!

 

そんな風に思っていたが如何やらそうでもないらしく、美猴が疲れたように補足してくる

 

「安いと思うだろ?初めは俺っち達もそう思ったんだけどよ。この河童のきゅうりに対する情熱を俺っち達は見くびり過ぎていたんだよ」

 

げんなりと項垂れる美猴に続いてアーサーも困った顔をした

 

「ええ、彼のきゅうりの選考基準はとても高くてですね。お陰でヴァーリチームは全員がきゅうりソムリエとなってしまいました・・・妹がきゅうりの自動選別魔法を1週間ほぼ不眠不休で仕上げてくれなければ私たちは今もきゅうりと格闘していたでしょう」

 

光の角度の関係でメガネの奥は見えないけどアーサーが此処ではない何処か遠くを見ているのは嫌という程伝わって来る

 

「ああ、だけどアーサーの妹が一番大変だったのかもな。あの河童が付きっ切りで『きゅうり選別魔法』にダメ出しし続けてたからな・・・大きさ、重さ、長さ、鮮度、水分、青臭さ、シャキッと感、甘み、苦み、手触り、色、形、一つとして同じきゅうりは無いからそれら全てを総合的に分析して選別する魔法を創らされたルフェイには同情と共に感謝の念が絶えないぜぃ。最後の方とかルフェイの奴、完全に目が据わってたからな」

 

「ええ、オーフィスを抱っこしながらの作業でなければキレていたかも知れません」

 

うわぁ!全然安上がりじゃないわ!その様子だと『きゅうりを選定する為の1000の項目』とかありそう!後ルフェイちゃん、オーフィスを癒しのぬいぐるみ扱いしてない!?

 

ルフェイの膝の上にオーフィスを乗せてるとか想像すると癒し空間が広がってるみたいだけど、片方はドヨンとした目で連日の不眠でクマを作ってると思うと居た堪れないよ!

 

「はぁ、流石にサーゼクスやミカエルに話を通さずにお前たちの申し出を受ける訳にもいかん。取り敢えず今日の所は見逃してやるから一旦帰れ。ロキ達を前にして白龍皇様のチームと戦うなんてナンセンスだからな」

 

「フ!先に言っておくが申し出を断るようならお前たちとロキとの戦いには勝手に介入させてもらうぞ。三つ巴のバトルロイヤルも楽しそうだからな」

 

ヴァーリはそう言い残してチームの者たちを引き連れて帰って行き、それを黙って見送った小猫ちゃんにリアス部長が優しく肩に手を掛ける

 

「小猫。厳しい事を云うようだけど今の彼はテロリストよ・・・もう、彼と一緒にラップを奏でたあの頃には戻れないわ」

 

「分かっています・・・サラマンダー・富田さん。次にもし貴方とテロリストとして敵対した時にはその皿をかち割らせていただきます。覚悟しておいて下さい!」

 

小猫ちゃんは悲壮とも云える決意を決めていたけど皿をかち割るっていまいちシリアスになり切れないセリフだな・・・河童にとって皿は生命線何だろうけどさ

 

 

 

 

 

翌日、イッセーの家にヴァーリチームやシトリー眷属も含めて全員が集まっていた

 

リアス部長なんかは最後まで異議を唱えていたが魔王であるサーゼクスさんの許可も在るとアザゼル先生が告げるとしぶしぶながらも最終的には了承する事になった

 

「さてヴァーリ、お前さんの事だから昨日ロキと戦いたいと言った事自体には嘘は無いんだろう。だが、利も見る事が出来るお前が戦い以外に何もしないとも思えない・・・何を企んでる?」

 

開口一番アザゼル先生がヴァーリに問い詰めるがヴァーリ自身は軽く肩を竦めるだけだった

 

「別に何も企んじゃいないさ・・・と仮に言った所で意味が無いのだろう?精々好きに監視でもしておけば良い。もっとも、後ろから刺そうと言うのであれば此方も容赦しないがね」

 

数秒程にらみ合っていた両者だが、先に折れたのはアザゼル先生だ

 

「はぁ、まぁ既にサーゼクスやミカエルとも好きに動かれるよりは行動を共にした方が良いと結論は出ているからな―――ロキは兎も角フェンリルだけは始末に負えん。戦力をえり好みしてる余裕は無いからな」

 

アザゼル先生がヤレヤレと首を振ったあたりで地下のトレーニングルームの一角に転移魔法陣が現れ、そこから巨大なドラゴンが転移してきた

 

「タンニーンのおっさん!来てくれたのか!?」

 

イッセーが嬉しそうにドラゴンに声を掛ける

 

「うむ。先日ぶりだな兵藤一誠。今回は神が相手らしいな。サーゼクス殿からお前たちを手助けしてやって欲しいと頼まれたのだ」

 

「スゲェ!おっさんが一緒に戦ってくれるだなんてコレほど心強い事も無いぜ!」

 

「丁度いい所に来たなタンニーン。今からロキ対策の会議を始める予定だったんだ―――後、話してる間に龍門(ドラゴン・ゲート)の準備も進めるからよ」

 

アザゼル先生はそう言いつつ手元に魔法陣を浮かべて何やら操作すると少し離れた地面に少しずつ特殊な魔法陣が刻まれ始めた

 

「成程、ミドガルズオルムを呼ぶのだな?だがアイツが呼びかけに応えるかどうか・・・」

 

「此処にゃ二天龍に龍王が3匹も居るんだ。流石に大丈夫だろ」

 

「二天龍・・・成程、今回は白龍皇も居るのだったな。言っておくが俺は兵藤一誠のように甘くは無い。もしも妙な真似をすれば一切の躊躇なく貴様を噛み砕くぞ」

 

軽い脅しを掛けられたヴァーリは苦笑するだけだった

 

「さ~て、最初に確認しておきたいんだがイッキ。昨日お前がフェンリルを蹴り飛ばしたアレは何だ?まぁ会談の時にも似たようなのを使ってたから大体察しは付くがな」

 

此処にはヴァーリ達も居るけど既に切った手札の情報なら晒してもいいか

 

「アレは【一刀修羅】の応用技の【一刀羅刹】ですね。お察しの通り1秒に全力を籠めて動くだけの単純な能力ですよ。ただし、肉体が負荷に耐え切れずに死にかけますけどね・・・そう言えばまだお礼を言ってなかったな。レイヴェルのくれたフェニックスの涙で命拾いしたよ。有難う」

 

もっとも、小瓶の蓋が開けられないなんて醜態も晒したけど

 

「い・・・いえ!イッキ様のお役に立てたなら何よりですわ!元より禍の団(カオス・ブリゲード)によるテロが横行するなか、フェニックスの涙の製造・供給は我が家の義務と言っても過言ではありませんもの。もっとも、この場にそのテロリストが居る事は今でも不満ですが・・・」

 

そう言って半ばジト目でヴァーリたちに目を向けるレイヴェルだけどそこは諦めてもらおう

 

「まぁ予想通りだな。フェンリルにすら大ダメージを与える事が出来ると言ってもあの様子からすればその【一刀羅刹】とやらを作戦に組み込む訳にもいかんだろう。【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】とやらも同様だ」

 

「アザゼル先生!【じばく】はどうですか!?」

 

「却下だ馬鹿野郎!お前にはこの間【じばく】の補助具を渡しただろう?一体どれだけの範囲に影響が及ぶと思ってやがる」

 

そう!実はディオドラとの一件が終わった辺りでアザゼル先生が俺の【じばく】の補助具を渡してくれたのだ。耳にシンプルなピアスのように装着する事が出来るタイプで普段は俺から漏れ出る僅かな余剰オーラで一般人には見えないようになってるから校則違反にもならない

 

ボタンを押すように触りながらオーラを流し込むと変形してドラグ・ソボールに登場するスカウターみたいな形状になり、爆発が影響を及ぼす範囲が地図付きで表示されたりとかレーダーに分かる分だけの敵味方の有無なんかが表示されたりする・・・完全に製作者の趣味が盛り込まれた一品だ――朝と夜に俺の最大オーラ許容量を測定してそれから俺の【じばく】の範囲を割り出すらしい

 

最初に付けた時コスプレつって爆笑されたしな・・・まぁ後で取り敢えず殴ったけど

 

爆発範囲?駒王町と周辺都市くらいなら余裕で消し飛びますが?

 

魔王の一撃が地平線の先まで吹き飛ばすと考えれば威力200%の全エネルギー消費技の効果範囲などお察ししろという話な訳で・・・コカビエルがあの時全力防御していなければマジでヤバかったかも知れん

 

「つーかイッキ、お前の技は一々リスクが高すぎるんだよ・・・他の二つは兎も角、【じばく】はお前が強くなればなるほど加速度的に使いづらくなるとか舐めてんのか?」

 

ヒデェ言いようだな!反論しにくいけど!!

 

「そこを何とかするのが研究者でしょうが!ほら、前にヴァーリに渡したっていう次元の狭間の放棄された空間に転移するヤツで敵と一緒に転移して【じばく】したら自動的に俺だけ元の場所に転移し直す道具とか作れないんですか?」

 

「放棄された壊れかけの空間でお前が【じばく】なんぞしたら爆心地のお前は次の瞬間次元の狭間に放り出されるかも知れんぞ?HPゼロで次元の狭間を一瞬でも漂ってみたいか?」

 

うん・・・却下で!

 

「ともあれ先ずは相手の情報を知るところから始めるべきだろう・・・丁度今龍門(ドラゴン・ゲート)の準備も出来たからな。イッセー!それにサジ!ちょっとこっちに来て魔法陣の上に立て。それだけで良いからよ」

 

「はい」

 

「は・・・はい!俺もですか!?」

 

イッセーとサジが返事をするがあまり大事に慣れてないサジが狼狽えているな

 

「サジ、お前はヴリトラを宿してるだろうが。触媒としては十分機能するからな」

 

「しょ・・・触媒扱いですか・・・」

 

そうして皆が魔法陣の上に立ち、用意された魔法陣が、イッセーが赤、ヴァ―リが白、サジが黒、タンニーンさんが紫、人工神器を持ったアザゼル先生の場所が金色に光った

 

暫く待ってると徐々に立体映像が前面の空間に映し出されていく

 

そして蜷局を巻いた巨大なドラゴンの姿が映し出された

 

おお!東洋タイプのドラゴンだ!日本人だからか、ちょっとテンション上がるな!

 

サジの中に居るヴリトラも東洋タイプみたいだけどまだサジは覚醒前だしな

 

それぞれがそれぞれの驚きを持って目の前に映し出されたドラゴンを見つめる中、音声も繋がったのか重低音が周囲に響き始める

 

「ぐごごごごごごご・・・・むにゃむにゃ・・・・ぐごごごごごごごごご・・・・」

 

どう見ても熟睡中です―――それを見たタンニーンさんも呆れている

 

「案の定寝ているな。どうにもコイツとは馬が合わん―――おい、ミドガルズオルム!起きろ!」

 

タンニーンさんが寝ている彼を起こそうと声を掛ける

 

「ぐごごごごごごご・・・・むにゃむにゃ・・・・ぐごごごごごごごごご・・・・」

 

《ミドガルズオルムは ぐうぐう ねむっている》

 

「何時まで寝ている!俺達が呼んでも気づきもしないのでは終末が訪れても気づかないで眠ったままになるぞ!さっさと起きんか!!」

 

「ぐごごごごごごご・・・・むにゃむにゃ・・・・ぐごごごごごごごごご・・・・」

 

《ミドガルズオルムは ぐうぐう ねむっている》

 

それを見たタンニーンさんが怒りマークを額に浮かべ、立体映像相手だから遠慮なくブレスを放ち、空間に爆音が響き渡った

 

《ミドガルズオルムは 目を 覚ました》

 

「ん~?あれ~?タンニーンじゃないか、久しぶりだね~。それにドライグとアルビオンにファーブニルとヴリトラも居る・・・何だい?世界の終末なのかい?」

 

凄まじく間延びした声でミドガルズオルムが質問するがタンニーンさんは首を横に振る

 

「いや、まだ終末ではない。お前の父と兄弟の事について聞きたいが為にこの場にお前の意識のみを呼び寄せたのだ」

 

「ぐごごごごごごご・・・・むにゃむにゃ・・・・ぐごごごごごごごごご・・・・」

 

《ミドガルズオルムは ぐうぐう ねむっている》

 

「それはもういいわ!戯けぇぇぇ!さっさと起きろぉぉぉ!!」

 

生真面目なタンニーンさんのツッコミ(ブレス)が再び放たれ、話し合いは幸先の悪いスタートを切ったのであった




途中顎の外れたフェンリルとロキが普通に話してるようでしたが実際は「顎が外れた」も「あふぉははふれた」みたいな発音になってますwwどうでも良い設定ですがww

ヴァーリチームで黒歌が抜けた穴をどうしようかと思ったのですがフリーで且つ黒歌並みの実力者って事でサラマンダー・富田さんにお越しいただきましたww


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第五話 色々、準備中です!

プリズマイリヤの新映画来ましたね!


「むにゃむにゃ・・・タンニーンは何時も怒ってるなぁ・・・それで、ダディとワンワンと、ひょっとしてスレイプニル・・・もう『スー』でいいや、スーの事を聞きたいのかい?」

 

あれから爆音で起きたと言ってもやはり半ば眠ったままのミドガルズオルムはそれでも会話自体は出来るようになった・・・というか『スー』なんだ。いやまぁワンワンと同じようにまさか『ブヒヒィィィン』なんて呼ぶ訳にもいかないのも分かるけど

 

「ああ、今回ロキと敵対する事になってな。ミドガルズオルム、お前さんは眠ってたいんだろう?もしもロキが終末を招く事があればお前さんも働かなくちゃいけなくなるぜ?」

 

アザゼル先生が『ロキを放置すると仕事が舞い込むぞ』と言うと面倒くさそうな顔をした

 

「ああ~、それは嫌だなぁ・・・何時か来る時が在ったとしても出来れば先延ばしにしたいや。働きたくないしね。あ、でもぉ、その前に一つ聞かせてよタンニーン」

 

「何だ?」

 

「ドライグとアルビオンは戦わないの?」

 

ミドガルズオルムはイッセーとヴァーリに視線を向ける

 

「ああ、今回はロキ達を倒すのが先決だからな。そういうのはまた今度だ」

 

「へぇ、『敵の敵は味方』って云うのも二天龍には当てはまらない事だと思ってたよ」

 

「今代の二天龍の宿主はどちらも変わり種らしくてな」

 

「ふ~ん。なら早速だけどまず一番厄介なのはワンワンだろうねぇ、牙で噛まれたら大抵死んじゃうし。でも弱点は在るんだぁ。魔法の鎖、グレイプニルなら動きを封じられるはずだよぉ」

 

かなり重要な事を喋ってるはずなのにミドガルズオルムの間延びした声とワンワンとかいう名称のせいでイマイチ緊張が削がれてしまうな

 

「そいつはもう試したらしい。日本に向かおうとするフェンリルをグレイプニルで縛り付けようとしたみたいだが、引きちぎられたようでな・・・だからこそお前さんに更なる秘策が無いか聞くために呼んだんだよ」

 

アザゼル先生が『もう試した』と言うとみミドガルズオルムは首を"コテンッ"と傾けた・・・まぁあの巨体なら実際は"ズシンッ!!"だったんだろうけど

 

「ん~?ダディったらワンワンを強化したのかな?ならこっちもグレイプニルを強化すれば良いと思うよ~?確か秘境に住むダークエルフの長老がドワーフの魔法の品を強化する術を知ってたはずだからね」

 

「なら、アルビオンの神器に詳しい場所のデータを送ってくれないか?ドライグの宿主は頭が残念だからな。座標を送られても理解出来んだろう」

 

「ヒデェぞ先生!仮にもそれが教師が生徒に掛ける言葉かよ!?」

 

「だったらもっと地理のテストで良い点取れよ。1学期のテストは見させてもらったがお前だけだぞ?オカルト研究部で平均点以下を取ったのは―――赤点よりはマシだがな」

 

イッセーの抗議の声は無常な現実の言葉に押し潰された

 

まぁでも駒王学園はリアス部長達が通ってる事からも分かるように成績は良い奴らが多いから平均点やテストの難易度もそれに釣られて高めなんだけどな

 

それに悪魔に為る前のイッセーは女子の比率の高い駒王学園に入った時点で勉強については目的達成してたからやる気は無かったみたいだけどオカルト研究部に入ってからはコツコツと勉強し始めたみたいだがな・・・二大お姉様の監視という名の家庭教師が付いてるから今後のテストで下手な点数取れないって嘆いていたし

 

そうしてミドガルズオルムがヴァーリの神器に座標を送り、ダークエルフ達の住んでいる場所が判明した時点で次の話題に移る

 

「ダディとスーか~。あの二人は明確な弱点とまで言えるのは無いんだよね~。強さはそこそこだけどタフだしね。スーとか戦場を駆け回る事を前提にダディが創ったから多分タフさだけならワンワンに近いんじゃない?ダディならミョルニルの一撃なら防御を貫いて倒せると思うけどスーは一撃だと難しいかもね~」

 

マジか!耐久力フェンリル並みとかって・・・いやでも昨日の戦闘でも皆の一斉攻撃を自分から当たりに行って防いでたからな―――神々の黄昏(ラグナロク)の戦場を駆け回るには必要な能力なのかもな

 

「ふーむ。雷神トールの槌、ミョルニルか・・・だが幾ら非常時とは云え神々の武器をそう簡単に貸し出してくれるかどうか」

 

悩むアザゼル先生にミドガルズオルムは代替案を出してくれた

 

「それならさっきのドワーフとダークエルフに頼んでみなよ~。確かミョルニルのレプリカを持っていたはずだからね~。本物を借りるよりは簡単なんじゃないかな~?」

 

「成程、だがロキにしろスレイプニルにしろミョルニルをただでは喰らってくれないだろうから基本は普通に戦って足を止めた所にぶち当てるしかないか。まぁスレイプニルは操られてるからロキさえ先に倒せれば止まってくれるかも知れんが、当てるチャンスが在れば狙っていくべきだろう」

 

「ダディとワンワンとスーについて僕が知ってるのはこれ位かな~。偶のおしゃべりも楽しかったけど眠くなってきちゃったし、もうイイかな~?」

 

そう言って15m級のドラゴンのタンニーンさんも一飲みにできそうな大きな欠伸をしたミドガルズオルムは徐々に輪郭がぼやけていく

 

「ああ、色々助かったよミドガルズオルム」

 

「うん。じゃ~ね~」

 

アザゼル先生の労いの言葉を受けてミドガルズオルムはそのまま消えていった

 

「何て言うか、変なドラゴンでしたね。俺はてっきり龍王ってのは皆多かれ少なかれタンニーンのおっさんみたいに王様然とした感じだと思ってました」

 

イッセーはタンニーンさんとミドガルズオルムを比べて龍王のイメージが崩れたらしい

 

確かに威厳の欠片も無かったからな

 

「ああ、最初に出会ったのがタンニーンじゃそう思うのも無理は無いな・・・龍王ってのは支配者と言うよりは強さとしての称号の意味合いが強いからタンニーン以外でそういったカリスマが在りそうなのはティアマットくらいか?」

 

「そうだな。あいつは一人で気ままにやる方が性に合ってるようだが、何方かと云えば根は真面目だから案外合っているかも知れん」

 

文句を言いつつ任された仕事はキッチリやるタイプ・・・みたいな?

 

「さて、話し合いを続けたい所ではあるが先ずはオーディンの爺さんにミョルニルのレプリカを貸してもらえるのかどうかを聞かにゃならん。だが、基本はフェンリルをグレイプニルで拘束してロキとスレイプニルを牽制しつつ全員で袋叩きが第一目標になる。神をも喰い殺す牙さえ無ければ最悪は回避できるからな」

 

そう言い残してアザゼル先生はオーディンの居る場所に向かっていった

 

どうやら北欧も神たるロキが日本にフェンリルまで引き連れて攻め入った事が大問題となっているようでオーディンも色々と指示を出したりしているらしい

 

少し待っているとアザゼル先生から通信でミョルニル・レプリカは何とか借りれそうだが届くのは早くても明日になるので一時解散の旨が伝えられた

 

 

 

 

 

翌日、再びイッセーの家に皆が集まっている

 

昨日と違うのはロスヴァイセさんが居て、代わりにオーディンの護衛役としてバラキエルさんがこの場に居ない事くらいだ

 

当のオーディンは日本の神々との会談の警備について向こう側と意見を交わしているらしい

 

神をも砕く牙が殺意満々で会談を襲ってきますなんて日本の神々からしたら冗談じゃないからね・・・色々と譲歩案とか出しているのだろう

 

「オーディンの爺さんからプレゼントだとよ・・・ったく、あのクソ爺マジでコレの存在を隠してやがった。秘密兵器にしたって物騒過ぎるぜ」

 

アザゼル先生が不機嫌そうな顔を隠しもせずに机の上に装飾の施されたハンマーを置く

 

「コレがそのミョルニルってヤツなんですか?」

 

「レプリカだけどな。それでも本物に近い力を持っているはずだ。そいつには神の雷の力が宿ってるのさ。ミョルニルを真面に受けられる奴なんぞ神々にだって殆ど居ないだろうさ」

 

イッセーの質問にアザゼル先生が答える

 

「オーディンの爺さんはそいつをイッセー、お前に預けると言っている。既にバラキエルとこっちのヴァルキリーの姉ちゃんで悪魔でも扱えるように一時的に術式を変更しておいた」

 

「お・・・俺ですか!?何で俺が!?」

 

超絶兵器を預けられると聞いたイッセーが狼狽える

 

「何度も言うようだがそいつはレプリカだ。大丈夫だとは思うが、万が一出力が足りませんでしたなんて事態も考えれば赤龍帝の譲渡(ギフト)の力で威力を上乗せできるお前が持つのが一番確実だからだよ―――ほれ、取り敢えず持ってみろ」

 

アザゼル先生に促されて日曜大工に使うくらいの大きさのミョルニルを手に取るイッセー

 

「オーラを流してみろ」

 

「は・・・はい!」

 

”カッ!!”

 

イッセーがミョルニルに気合を入れてオーラを流した瞬間、ギャグマンガにでも出て来そうなイッセーの身の丈よりも一回りは大きいハンマーへと変わって先端部分を床に落としてしまった

 

「うお!重てぇ!何だコレ!?」

 

イッセーがミョルニルを何とかして持ち上げようと顔を真っ赤にしながら踏ん張っている姿を見てアザゼル先生とロスヴァイセさんが溜息をつく

 

「はぁ~、やっぱりこうなったか」

 

「そうですね。予想はしていましたが」

 

「ど・・・如何いう事ですか?」

 

イッセーが二人の態度に困惑しながら理由を聞く

 

「ミョルニルは元来心の清い者にしか扱えない代物と云われているんだ・・・イッセー、お前・・・スケベだろ?煩悩塗れだろ?エロいだろ?おっぱいドラゴンだろ?もう役満だよ」

 

「ええ!・・・でもそれじゃあコレどうしろって言うんですか!?て言うかそもそも重くて持つことも出来ないんですけど!?」

 

「赤龍帝の鎧を身に纏えば力づくだが持つ事は出来るだろう。雷に関しちゃ譲渡(ギフト)の力を流し込め、多分イケるはずだ―――お前さんはアスカロンだって使っているだろう?」

 

「そうか!聖剣使いじゃない俺はアスカロンの聖なるオーラを増大させて振るってるから!」

 

一瞬どうすれば良いのかといった感じだったイッセーも既に使っているアスカロンと同じ要領で多分何とかなるだろうと聞かされて一先ずは安心したようだ

 

「でもイッセー、そのハンマーって滅茶苦茶重いんだろ?それを当てようとするならどうにかロキの動きを封じてからじゃないとダメなんじゃないか?多分避けられるぞ?」

 

「あ~、そうかもな。まぁ取り敢えずロキとの戦いが始まったら鎧を纏った状態でどれだけ動けるか試しに一発振るってみるよ」

 

一撃で倒せればそれに越したことは無いからな・・・無理だろうけど

 

「なら次は誰が誰の相手を担当するかだな・・・ロキ対策のミョルニルを持つイッセーはロキで良いとして、折角だから二天龍はセットで戦ってみるか?歴史の1ページに刻まれるぜ?」

 

アザゼル先生が何処か面白がるように提案するとヴァーリも口元に薄く笑みを浮かべる

 

「ふっ、確かにそれは面白そうだ。では俺は兵藤一誠とタッグを組むとしよう。ロキを抑えるだけなら問題ないだろうからな・・・アルビオンも構わないか?」

 

ヴァーリが一番因縁のあるアルビオンに意見を求める

 

『俺様は誇り高き白龍皇だ。乳龍帝などと組む気は無い!!』

 

返って来たのは明確な拒絶の意思でこれにはドライグも慌て始める

 

『ま・・・まてアルビオン!乳龍帝はあくまでも宿主の兵藤一誠の称号であって赤龍帝たる俺様には関係の無い事だ!俺様自身はおっぱいになぞ興味は無い!!』

 

『黙れ赤いの!貴様が宿主を甘やかすからそう成ったのだろう!?聞いたぞ!そこの宿主は日常生活から『おっぱい、おっぱい』と人目も憚らずに連呼する変態だとな!』

 

そうか、イッセーが日常でも変態なのは裏の世界でも広まっているのか・・・『おっぱいドラゴン』な時点で今更かもしれないが

 

『ぐぅぅぅ!仕方ないだろう!俺様の意識が目覚めたのは半年ほど前でその時には既に相棒は変態として完成していたのだからな!もはや手遅れだったのだ!一番最初に意識が目覚めた時に聞こえてきたのが『輝けおっぱい』だった俺様の気持ちがお前に分かると言うのか白いの!?最初は本当に混乱したのだぞ!!』

 

そうだったのか、ある意味で言えばドライグもおっぱいで覚醒したんだな・・・目覚ましアラーム的な意味で

 

『そんな気持ち知りたくもないわ!テレビで宿敵を模した『おっぱいドラゴン』なるものを目にしてから何時か此方に飛び火するのではないかと気が気でないのだぞ!』

 

『俺様の方が辛いわ白いの!こっちは実際に呼ばれているのだぞ!?相棒も事あるごとに女の乳房でパワーアップを果たすばかりでまともな成長をしてくれないし、一体何故こんな事になったのだ!う・・・うぉ・・・・うぉぉぉぉぉぉおん!!』

 

『泣くな赤いの!我らは神すらも恐れさせた二天龍だぞ。此方まで悲しくなるではないか!ぐすっ、ひっく、うぐぅぅぅぅぅぅう!!』

 

ドライグが溜まっていた思いの丈を吐き出していたら堪え切れなくなったのか号泣し始め、宿敵のガチ泣きにアルビオンも嗚咽を漏らす・・・ガチ泣き一歩手前だからまだ傷は浅いか?

 

「・・・・・兵藤一誠。こんな時はどうやって慰めるべきだろうか?」

 

「御免なさいぃぃ!!そうですよ!どうせ全部『おっぱいドラゴン』が悪いんですよぉぉ!」

 

イッセーがドライグとアルビオンに平謝りして二天龍が泣き止むまで会議は一時中断した

 

 

 

 

 

暫くして2匹が一先ず落ち着いて来たので会議が再開した

 

「よ~し、ちょっと脇道逸れたがロキの相手はイッセーとヴァーリが務める。んで、残るフェンリルとスレイプニルだな。何か意見はあるか?」

 

アザゼル先生としては昨日語ったようにフェンリルを捕らえてその間にロキとスレイプニルを引き離して一点集中攻撃で撃破を旨とするつもりなのだろうが、恐らく追加で増援が来るから出来ればスレイプニルだけでも倒しておきたいんだよな・・・とはいえ耐久値とスピードにステータス全振りしてるスレイプニルを短時間で倒すにはミョルニル級の攻撃は必要だろうし―――まぁ持ってなければそれでも良いか

 

「じゃあ俺から一つ。この中で魔法に詳しい人って居ますか?」

 

「はい。それでしたら私が北欧式の魔術で宜しければそれなりに収めていますが・・・何かお聞きしたいことでも?」

 

「はい、上手くいけば操られているだけのスレイプニルなら一撃で倒せるかなと思うんですけど、こう云う事って魔法で出来ますか?」

 

ロスヴァイセさんに必要とする魔法とその活用方法を話す

 

聞いてる分だと魔法ではなく魔力だと少し難しそうだからな・・・スレイプニル相手だと特に

 

「成程、タイミングがシビアですが確かにそれならスレイプニルも倒せるでしょう・・・しかし、操られているだけと自分で言いつつ容赦ないですね」

 

そこはアーシアさんに拘束した後で最低限の治療をして貰えば問題ないだろう

 

仮にも神馬だから即死はしないと思うしな

 

「コイツが敵対者に容赦ないのは今に始まった事じゃ無いだろう・・・だがロスヴァイセ、お前さん此奴の作戦を上手く実行できるのか?」

 

確かに、失敗すれば二度と使えない作戦だしな・・・作戦なんて大抵そんなもんか

 

「そう言う事なら黒歌のサポートが在ればイケるんじゃないかな?」

 

黒歌の方を向いて確認すると了承の意が返って来た

 

「そうねぇ、どの道そこのヴァルキリーを守る役も必要になるし―――ついでに頭の中も弄って上げるにゃん♪」

 

「こ・・・恐い表現しないで下さい!大丈夫ですよね!?変な術式仕込んだりしませんよね!?」

 

黒歌の揶揄いにちょっと涙目になっているロスヴァイセさんを余所にアザゼル先生が締めくくる

 

「よ~し、大体決まったな。ロキはイッセーとヴァーリ、スレイプニルはイッキと黒歌にこのヴァルキリーの姉ちゃん、残りがグレイプニルで拘束したフェンリルの相手だ―――フェンリルを倒したら二手に分かれて加勢に入れ。それと会場をもぬけの殻にする訳にもいかんからな、シトリー眷属はディフェンスに回れ、いいな?」

 

『はい!』

 

ヴァーリチームとかを除き皆で返事をする

 

「ああ、そうだサジ。今回の戦いでお前の力が役に立つかも知れん。・・・ソーナ、此奴を少し借りて良いか?神の子を見張る者(グリゴリ)で面白いデータが出ていてな、上手くいけば此奴の大幅なパワーアップが見込めるぞ?」

 

「それは構いませんが、具体的にどんな事をするのですか?」

 

アザゼル先生の提案にソーナ会長が質問して先生は愉快そうに答える

 

「そうだな。まず最初に磔にして鉄球、次にドリルとノコギリで最後に重しを付けた上で水の中に沈める所からだな。時間が無いからフルコースは無理だが、まぁ何とかなるだろう」

 

「ならないっスよ!?それがどうして強さに繋がるって言うんですか!?」

 

アザゼル先生の神の子を見張る者(グリゴリ)でのスケジュールの一部を聞いて堪らず抗議を入れるサジ。しかしアザゼル先生は"チッチッチ!"と人差し指を左右に振りながら否定する

 

「今のは神器の力を引き上げる由緒正しい訓練方法だ!神の子を見張る者(グリゴリ)の算出した確固たる裏付けのあるデータだぞ?」

 

「間違ってますって!俺は研究者じゃないけどその実験結果は絶対に間違ってるってハッキリと云えますよ!?会長もそんな問題だらけの場所に俺を送り込んだりしませんよね!?」

 

神の子を見張る者(グリゴリ)の研究データは当てにならないとソーナ会長に何とか助けを求めようとするサジだが意外な所から声が聞こえてきた

 

「ふむ、懐かしいな。俺も鉄球を受けさせられそうになったりしたものだ・・・あの時、迫りくる鉄球を『半減』で無効化しなければキツイ一撃を貰っていた所だ」

 

「あ~、お前があの遠距離半減技を覚えたのってあの時だったよな。でも、強くはなったろ?」

 

マジ!?ヴァーリが次元を歪ます『Half Dimension』を覚えたのって鉄球に打たれたくなかったからなの!?いやまぁ、巨大鉄球が迫って来たら誰だって必死にもなるだろうけど!!

 

「聞きましたねサジ?あの白龍皇をすら新たな高みへ導いた特訓ならば受けない理由はありません―――シトリー眷属の『王』として命じます。見事神の子を見張る者(グリゴリ)の試練を乗り越えて帰って来なさい!」

 

そうして『王』の命の下逃げ場を無くしたサジはアザゼル先生に首根っこ掴まれて連行されて行った・・・彼の虚しく空中を必死に掻く伸ばされた手が印象的だった

 

「サジ・・・アイツは良い奴だったよ・・・」

 

「そうだなイッセー・・・アーシアさん。どうか元シスターとしてサジの冥福を祈ってやってくれませんか?」

 

サジもアーシアさんに祈られるならきっと本望だろう

 

「はい!・・・サジさん、貴方のあの世(神の子を見張る者(グリゴリ))への旅路に幸多からん事を」

 

アーシアさんの純粋(天然)な祈りはきっとサジに届いた事だろう・・・多分

 

 

 

 

サジが連行されて逝ってからこの状況で普通に学校に通うのも問題という事でハードにならないよう余力を残しつつのトレーニングをして夜になった

 

≪母上から聞いたぞイッキよ。今度は外の世界の神とその配下の魔物が相手じゃとな。三大勢力の和平からなるいざこざにちと巻き込まれ過ぎではないかの?≫

 

丁度暇になったので今は九重と通話中だ

 

「そうかもな。まぁそこは最初に大きな不満分子を潰しておけば後々楽になるって、精々前向きに捉える事にするよ・・・戦わなくて済むならそれが一番だけどな」

 

いや本当に大人しくしてて欲しい

 

ロキ達とか北欧に引っ込んでろと言いたいし、英雄派とか広範囲に悪影響出し過ぎだからな

 

≪全く!手前勝手な理由で殺しやら闘争やらをする連中が多くて敵わん!それはそうとイッキは此度も活躍しておったようじゃな。フェンリルとかいう魔物から北の神を救ったと。日本の神々からもイッキの評価は高いらしいぞ!私も何だか鼻が高いのじゃ!≫

 

おぉ、何か九重が我がことのように喜んでいる

 

自分としては【一刀羅刹】を使っても仕留めきれなかったのに不満を感じる所何だけどな

 

まぁオーディンの救出を目的とした牙を逸らす為のキックだったし、首を狙って切り落とそうとすれば殺すまではいかなくてももうちょっとはダメージを与えられたと信じたい

 

日本の神々からの評価が高めって云うのはおそらくだけど俺が妖怪側という半分日本神話勢力みたいな立ち位置に居るからかな?というか日本神話と妖怪って詳しくはどんな繋がり何だろう?今度機会が在れば八坂さんに聞いてみるか

 

そうして話していると部屋の扉が開いて少し髪のしっとりした黒歌と小猫ちゃんが白い寝間着姿で入って来た―――黒歌は丈の短い着物で小猫ちゃんはシンプルなワンピースと云った感じだ。決してTシャツ一枚っぽい何て思ってはいない

 

「はぁ~、サッパリしたにゃ~♪・・・うん?イッキは九重とお話し中だったかにゃ?」

 

部屋に入って来た黒歌が俺の様子に気づいて質問してくる

 

≪おお!黒歌殿か!その感じだとそちらはお風呂上りだったのかの?≫

 

九重も今は音声通信だけど多分黒歌の「サッパリした」のワードから風呂上りだと気づいたようだ

 

「そっ♪白音も一緒にゃ」

 

「ん。こんばんは、九重」

 

黒歌と小猫ちゃんが近づいてきてイヅナ越しの九重に語り掛ける

 

≪うむ♪こんばんはなのじゃ!・・・それはそうと黒歌殿だけでなく小猫殿も一緒という事は、もしやすると小猫殿もイッキと同衾するようになったのかの?≫

 

・・・うん。九重も男女の仲に興味津々なお年頃みたいだから、こういう質問が割と多かったりするのには少し慣れてきたな

 

≪う~む。私はあまり京都を離れられぬが、今度イッキの家に遊びに行くときは日帰りではなくせめて一泊くらいはしたいのう―――イッキに黒歌殿に小猫殿と一緒に私も寝てみたいのじゃ!きっと楽しいと思うでな!≫

 

何と言うか完全にお泊り会って感じのノリだな

 

「ふふ、そうねぇ、イッキや白音だけじゃなくて九重を一度抱き枕にするのも面白いかも知れないわね。白音はどう?九重を妹みたいに扱うのも新鮮なんじゃないかにゃ?」

 

「妹・・・私が・・・お姉ちゃん・・・?・・・はい!凄く良いです!!」

 

小猫ちゃん?姉として扱われる未来に喰い付き過ぎじゃない!?

 

≪むぅ、しかしそうなると3泊は必要になるがそれは流石に都合がつかぬかのう・・・≫

 

九重が悩まし気な声を漏らす

 

3泊って九重は抱き枕役をローテーションされる事前提で話してるのか

 

確かに2学期は3連休以上の休み何て基本的には無いし、冬休みとかは新年だから京都のお姫様である九重は下準備やら挨拶回りやらで逆に時間は取れないからな

 

勿論、無理やり取ろうと思えば何とかなるだろうけど、時々京都に顔を出したり通信で連絡を取り合ったりとかしているお陰か九重はあんまりその手の我が儘は言わないんだよね。勿論『出来ればもっと会いたい』と時折不満は漏れるけど我が儘と言うよりは愚痴の範疇だ

 

≪まぁそれはまたの機会で良い。それではそろそろ切ろうかの。イッキ、黒歌殿、小猫殿、神との戦いがどんなものだったのか、また次に聞かせて欲しい。ではお休みなのじゃ!≫

 

「うん。お休み九重」

 

「お休みにゃん♪」

 

「お休みなさい」

 

最後にそれぞれ別れの挨拶を交わしていった

 

「ふふふ、『また次』だってね。神が相手でも負ける訳ないって信頼されてるにゃん?」

 

「あ~、フェンリル蹴り飛ばしたって情報は向こうにも伝わってるみたいだからそれでかな?」

 

反動で全身血まみれになったみたいなネガティブな情報は伝わってないと思うし・・・ロキ達が去った後フェニックスの涙で傷は回復してたけど殆ど着ている服、血のシャワーを浴びた後みたいになってて皆に引かれたし、鼻の利く黒歌と小猫ちゃんに微妙に距離とられたのが地味にショックだったんだけど

 

「でも、その期待には応えなくてはいけません。誰かが死んだりするの何て嫌ですから」

 

小猫ちゃんが戦いに向けて気合を入れている

 

そうだよな。多分この3人の中で一番の優しさを持っているのはやっぱり小猫ちゃんだもんな!

 

「・・・ヴァーリチームは?」

 

「・・・・・サラマンダー・富田さん以外は割とどうでも良いです」

 

ドライ!好奇心から聞いておいて何だけど結構ドライなご意見!!

 

まぁ今の時点ではヴァーリチームは完全に敵でテロリストだから仕方がないか

 

はぐれ悪魔とかも普通にぶっ殺すのが悪魔社会だしな

 

それから暫く他愛のない話をして過ごし、自然と眠くなってきた辺りで全員でベッドに入って眠りについた

 

翌朝、トレーニングルームで軽く体を動かしていたヴァーリに宿っているアルビオンが『俺は尻龍皇などでは無い』と只管呪詛のように繰り返していた

 

ヴァーリも多少は窘めたようだが聞こえてなかったみたいだ

 

『何という事だ尻龍皇だと?白いのにまでそのような無体な仕打ちが襲い掛かるというのか!?』

 

「ふぉっふぉっふぉ!乳龍帝と尻龍皇・・・将来2匹を題材にした『かわいそうなドラゴン』という本でも出版してみるのも面白いかの?」

 

『『『かわいそうなドラゴン』!?我ら二天龍が!?うおぉぉぉぉぉぉぉぉん!!』』

 

ロキとの決戦の日の朝、地上最強の天龍の咆哮が世界の始まりを告げた




最後のドライグとアルビオンの始まりを告げる咆哮は”コケコッコー”と同じ扱いでいいですww

今章はヒロイン全員集合という事で九重にもゲストで来ていただきました。流石に通信越しですがwwこのままではキャラが薄いのでレイヴェルにもちゃんとヒロインさせたいですw


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第六話 神との、総力戦です!

スレイプニル(レベル100)
たたかう ▷ ⓵たいあたり  ⓶でんこうせっか
          
       ⓷とっしん   ⓸すてみタックル



決戦だから文字数ちょっと多くなりましたww


各メンバーが会談の始まる時間までリラックス出来る状態で過ごして調子を整え、ついに辺りが暗くなってきたところでアザゼル先生がメンバーに声を掛ける

 

「時間だな・・・俺からお前らに言える事は二つだ!一つは絶対にこの会談を成功させるという事、そしてもう一つは全員生きて帰って来い!———安心しろ、例えアーシアやフェニックスの涙でも治療出来ないレベルの怪我を負ったとしても生きてさえいればその時は俺が改造(なお)してやるからな!はははははは!!」

 

その場にいる全員の視線がアザゼル先生の左腕に集まる

 

だってこの人見せつけるように左腕変形させてるんだもん!

 

場を和ませるというよりはむしろ退路を断たれた気分だよ!!

 

・・・勝つにしても絶対に五体満足で勝とう。多分今、皆の心は一つになってるぞ

 

 

 

 

 

あれから俺たちは移動して今は都内の高級高層ビルの屋上でシトリー眷属以外は待機中だ

 

シトリー眷属は周囲のビルに散らばって俺達を戦場に送る大規模転移術式を何時でも発動できるようにしてもらっている・・・サジはやっぱりと云うか遅刻中だ。後、アザゼル先生も会談に出席する立場なので此処には居ないが代わりと言っては何だけどタンニーンさんが居るので前回と比べて戦力が減っている訳じゃない

 

それに、ヴァーリチームも待機中だ

 

「時間ね。会談が始まったわ」

 

リアス部長が時計を確認して告げ、それを聞いた皆の緊張の度合いが僅かに上昇した

 

直後にほんの僅かな転移の兆しを感知する

 

「皆、疫病神様のご来場みたいだ」

 

「小細工無しとはな―――恐れ入るよ」

 

俺とヴァーリの言葉に全員の警戒度が一気に最高レベルまで高まり、"バチッバチィ!"とこの周辺一帯に張ってあった結界を押しのけてロキとフェンリルとスレイプニルが正面から強引に領域内に侵入してきた

 

「目標視認、作戦開始」

 

バラキエルさんが通信でシトリー眷属に合図を出し、事前に仕込んであった大規模転移を即座に発動させ、会談の行われているビルを中心に周囲一帯が眩く光る

 

そして次の瞬間にはロキと俺たちは多少派手に戦っても問題無い場所として使われていない古い採石場跡に転移した―――本当ならロキ達の転移場所を結界の中に設定して黒歌の毒霧を濃厚散布とかも考えたんだけど恐らくフェンリルならどれだけ強固な結界も一瞬で喰い破るから無駄に警戒させるだけに終わる可能性が高いと言う事で却下となった。黒歌は神様相手でも一吸いで十分なダメージを与えられる毒を何時か絶対作ってやると物騒な意気込みを見せていたけどな

 

「・・・抵抗しなかったわね。余裕のつもりなのかしら?」

 

大人しく一緒に転移されたロキの様子が気に入らないのか険のある顔でリアス部長が問う

 

それに対してロキは手を後ろ手に組んだ状態で淡々と答えた

 

「必要が感じられなかっただけの事だ。どうせ何重にも術式を重ねてあったのだろう?ならば今此処で主戦力の貴様らを叩き潰し、その後ゆっくりとあの会場に戻るとしよう」

 

この場にオーディンも居ないのなら自分たちの勝利は揺ぎ無いと思っているのだろう。いっそ小馬鹿にしてるような笑みさえ浮かべているな

 

「そんな真似させねぇよ!いくぜ!昇格(プロモーション)『女王』!———禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

「ふっ、では俺もいくとするか―――禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

『Vanishing Dragon Balance Breaker!!』

 

地上最強と謳われた二天龍の鎧を纏った二人が空中に居るロキに突貫していく

 

「これは素晴らしい!!赤と白がこのロキを倒す為に共闘するなど神々の黄昏(ラグナロク)の前座としては極上だ!フェンリル!スレイプニル!暫しの間手を出すな、二天龍を味わってみたい!」

 

2匹に下がるよう言った後、笑いながら無数の魔法を撃ち放っていくロキに対してヴァーリは一先ず様子見なのか遠距離から魔力と数日で覚えたという北欧の魔法を織り交ぜて攻撃していき、イッセーは攻撃の半分はヴァーリに向いていて弾幕の薄い今の内に一気に接近戦に持ち込む

 

「アンタの障壁、物理に弱いんだってな!ただ殴るだけなら俺にだって出来るぜ!」

 

遂に直接手が届く位置まで潜り込んだイッセーの放った拳をロキは余裕を持って障壁で防ぐ

 

”ガキンッ!!”

 

「・・・へ?」

 

普通に障壁を破れると思っていたイッセーは拳が弾かれた事に気の抜けた声を漏らす

 

「この障壁は先日指摘された物理攻撃にのみ特化させた代物だ。もっとも、弱点と言われただけあって出来栄えは余り芳しくは無いが赤龍帝の拳を防ぐ程度は出来るようだな・・・これならばあの人間の方が強かったぞ?まだまだその力を使いこなしていないと見える」

 

「ッツ!!ああそうだよ!俺はまだ模擬戦で一度もイッキには勝ったことは無いけどな!俺の力を舐め過ぎだぜ神様よぉぉぉ!!」

 

そう言ってイッセーが再び拳を振り上げ右ストレートを放つ

 

ロキはそれをただの虚勢の一撃と思ったのか同じように障壁を展開する

 

『Divide!!』

 

イッセーの拳が障壁に当たった瞬間に赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)からは本来在り得ないはずの音声が響き渡り、耐久値を半減させられた障壁をイッセーの拳が突き破りロキを殴り飛ばす

 

「がっはぁ!?何故貴様が白龍皇の力を扱えると云うのだ!?在り得ない!いや、仮にそれが在ると仮定しても、どれだけの代償を払うと思っているのだ!?」

 

ロキがイッセーの右腕が白く変わっているのを見て驚愕している

 

「ああ、今回は運が悪かったな。この力を発動させるのに14回不発させちまったから大体500年は寿命が縮まっちまったよ」

 

一発殴るために一瞬で寿命をそれだけ消費したと何でもないように語るイッセーをロキは得体の知れないモノを見るかのように見ている・・・まぁ一度発動すれば解くまでは効果は持続するし、何より失った寿命は割合簡単に補填できるという事情を知らなければ体に爆弾巻いて特効してくるテロリスト並みにイカれた奴と認識されても可笑しくないからな

 

だが、思わずイッセーを凝視してしまったロキの隙をヴァーリが攻撃しない理由は無い

 

「くくく!白龍皇の力を扱う赤龍帝など後にも先にも兵藤一誠のみだろうな。だが良いのか?余りに隙だらけだから、かなり大きい一撃を用意させてもらったよ」

 

ロキの頭上に巨大な魔法陣が展開されて光の柱と表現できる極太のレーザーのような魔法が放たれ、イッセーに意識が盗られて対処の遅れたロキがそのまま光の柱に飲み込まれる

 

降り注ぐ光が止んだ時に出てきたロキは着ている服はボロボロで深手は無いものの全身に軽傷を負った姿だった。大したダメージじゃ無いようにも見えるがロキの着ている服は神のモノだから色々と防御の術式が仕込んであっただろうし全身に負った怪我も相まって攻撃はかなり通りやすくなったはずだ

 

「白龍皇か・・・如何やら私に対抗する為に北欧の魔術を覚えてきたらしいな。まさか数日でここまでの魔法を使いこなすとは素晴らしい限りだ」

 

「お褒め頂き光栄と言っておこう。しかし、一々興味のある対象に意識を割きすぎるようではオーディンの事を悪し様に言う資格は無いと思うが?」

 

ヴァーリの言う通りだな。何と言うかロキは強いと云ってもスペックだよりな感じだ

 

レベルだけ強いけどプレイヤースキルが伴ってない操作キャラのような・・・だから今も上空からミョルニルを手に落下してきているイッセーに漸く気づいた所だしな

 

「な!?それはまさかミョルニルか!?」

 

巨大化させて振り回すのがやっとのイッセーでも落下の勢いを味方に付ければ細かい取り回しは関係無いと踏んだのかヴァーリとロキが話している間に真上に死角から回り込んだ打ち下ろす一撃だ

 

「いくぜ!ドライグ!!」

 

『Transfer!!』

 

増大させた力を流し込み、ミョルニルは一層巨大化する

 

「うぉぉぉぉぉ!!出ろ!神の雷ぃぃぃぃぃぃ!!」

 

天から降り注ぐ雷撃のようにミョルニルを持ったイッセーは一直線に落ちて・・・ハンマーでただ普通に地面を砕いて終わった

 

いや、爆音轟くスゲェ威力ではあるんだけど肝心の雷は出なかった

 

ハンマーもロキはギリギリ躱してたしな―――これで極大の神の雷が伴っていれば多少避けた所で関係なく当たっていただろうに

 

「はっ!?何で何も出ないんだよ!?」

 

「ふはははは!残念だがミョルニルは心の清い者にしか扱えん代物だ。小賢しくも赤龍帝の力で無理やり扱おうとしていたみたいだが、そもそも静電気ほどの雷も纏っていないミョルニルの力を引き上げた所で雷など出るはずが無かろう?」

 

ああ~、アスカロンは聖なるオーラがそのまま聖剣の力そのものみたいな感じだけど普段の状態から帯電してる訳でもないミョルニルはダメか

 

火の無い場所に油だけ注いだ感じ?———そら燃えないわな

 

「いやはや、確かに油断が過ぎたようだ。もしも貴様らの中にミョルニルを扱える者が居て、そのものがその槌を振るっていたら我は負けていたかも知れん―――フェンリル!そしてスレイプニルよ!狩りの時間だ。奴らを皆殺しにしろ!!」

 

”クオォォォォォォォォン!!”

 

”ヒヒィィィィィィィィン!!”

 

ロキの指令を受けて傍観していた2匹が此方に向かってくる―――イッセーとヴァーリがロキを普通に倒してくれたら良かったけどやはりそう上手くは事が運んだりはしないか

 

対して俺達も二手に分かれる

 

片方に黒歌とロスヴァイセさんでもう片方にイッセーとヴァーリ以外の全員だ。フェンリルとスレイプニルも戦力差から普通にフェンリルが此方側でスレイプニルが黒歌側に分かれてくれた

 

スレイプニルは黒歌の幻術とロスヴァイセさんの派手さ重視の魔法の連撃で注意を引きつける

 

「朱乃!」

 

「はい、部長!」

 

此方は朝になって昨日までよりかなり刺々しい雰囲気が収まっていた朱乃先輩が異空間に仕舞ってあったグレイプニルを展開してその鎖が意思を持ったようにフェンリルに群がっていく

 

「フハハハハ!無駄だ。グレイプニルの対策などとうの昔に施してあるわ!」

 

今度は二天龍から意識を逸らさずにロキが笑い声を上げるがダークエルフにより強化されたグレイプニルは問題なくフェンリルを拘束した

 

そしてロキが余計な事をしない内に俺はフェンリルに正面から突撃する

 

「また自慢の顎を蹴り飛ばしてやるぜ、フェンリルちゃんよぉ!!」

 

フェンリルは普通にこちらの言葉は理解できるから今の挑発で危険な色をした双眸が俺を射抜く

 

幾らグレイプニルで体の動きを拘束されているとは云え口にまで鎖が巻いてある訳じゃない

 

そうじゃないと牙で鎖が破壊されるかも知れないからな

 

だからそんなフェンリルに真正面から突貫すれば首と口以外動かないフェンリルは俺を噛み殺そうとする以外の選択肢は無いんだ

 

そして射程圏に入った俺をフェンリルが大きく開けた口をそのまま閉じようとした瞬間、俺とスレイプニルの位置が逆転した

 

”ガブゥウウウウ!!”

 

フェンリルの神をも砕く必殺の牙がスレイプニルの頑丈な体をも貫き、夥しい血液が流れる

 

フェンリルも自分が今噛んでいるのが味方だと気づいて慌てて牙を引き抜き放り投げた

 

一瞬で瀕死に陥ったスレイプニルを後衛組が手早く拘束してアーシアさんが致命傷だけは回復する―――アーシアさんとしては全回復させてあげたいだろうけど此処は我慢してもらう

 

「どうだフェンリル?兄弟の血の味は美味かったか?」

 

何にせよ上手くいったな

 

ロスヴァイセさんが俺が噛まれる一瞬前にスレイプニルと位置を交換する転移魔法を使う

 

魔力だと転移の際には相手にマーキングしないと転移出来ない

 

投降したはぐれ悪魔などを朱乃先輩が冥界に送る時もマーキングしてたし、レイナーレの時もグレモリーの魔法陣で転移する時はリアス部長が俺にマーキングを施してくれたからこそ一緒に転移できたからな

 

今回シトリー眷属の使った大規模転移も空間そのものに事前に仕込んであったからだ

 

だが魔法による転移は少し違う。勿論マーキングが在った方がやり易いみたいだが計算式である魔法は極論、座標計算さえしっかりしていれば問題なく転移出来る

 

俺には事前にマーキングを仕込んでもらい、逆に印を付けようとしてもオーラで弾いてしまうスレイプニルは黒歌の時間加速を使って一瞬で動き回るスレイプニルの居る座標そのものを計算式に組み込んで転移させて貰ったのだ

 

「スレイプニル!?貴様、身内殺しを誘発するなどそれでも血の通った人間か!?」

 

悪神の云うセリフじゃないな・・・と言うか別にこの程度なら悪魔でもやってる事だろうに

 

それとスレイプニルを勝手に殺してやるなよ。まだ生きてるって

 

「いいだろう!もはや出し惜しみは無しだ!出でよ!スコル、ハティ、ミドガルズオルムよ!」

 

ロキの左右と下の空間が歪み、左右からは小さめのフェンリルが現れてロキの下の地面からは10匹のこれまた小さめのミドガルズオルムが現れた

 

「スコルとハティは正真正銘フェンリルの子!スペックは落ちるが牙は健在だ!そしてミドガルズオルムのレプリカも用意したぞ・・・もっとも、怠け癖を無くして作成したらかなり弱くなってしまったがね―――怠惰である事が強さに繋がるとは我が息子ながらよく分からん」

 

「おいおいおいおい!フェンリルの子供に龍王のレプリカ!?暗殺とかって生ぬるいもんじゃ無ぇ!マジでコイツ戦争を仕掛けて来てやがる!」

 

一気に増えた敵側の戦力にイッセーを始め、全員が戦慄している

 

俺?まだグレイプニルで動けないフェンリルの背中に乗って只管仙術で少しでも気を乱しながら殴り続けてますが何か?折角マウント取れる状態なんだから攻撃しないとか嘘だろう

 

『きゃうん!きゃうぅぅぅぅぅん!!』

 

「人間貴様こっちを見ろぉぉぉ!!先ずは驚く所だろうがぁぁぁぁ!!」

 

ロキが叫びながらスコルとハティ、そして量産型ミドガルズオルムを嗾けて来る

 

「ふん!俺の前で龍王のレプリカを持ち出すとはけしからんな!お前たち!後ろのレプリカたちは俺が引き受けよう!直ぐにでも消し炭にしてくれるわ!!」

 

粗悪な贋作が気に入らないタンニーンさんが上空から回り込んで眼下に居るミドガルズオルムたちに向かって極大の火炎を吐き出す

 

量産型の一体に直撃して暫くもがき苦しんだ後で宣言通り消し炭になった

 

「もう一発!」

 

タンニーンさんが更に炎を吐き出すが、残り9匹のミドガルズオルムたちが一斉に炎を吐き出す事でタンニーンさんの炎を相殺してしまう

 

「猪口才な!群れねば戦えぬ龍王などと!!」

 

あの様子だとまだ殲滅までに少し掛かりそうだな

 

その間にスコルとハティが駆けて来る

 

初手にバラキエルさんが向かってくる2匹に対して極大の雷光を放つが当の2匹は軽やかにその攻撃を躱して距離を詰めて来た

 

「ぬぅ!迅いな!」

 

バラキエルさんが更に攻撃を加えようとした所で隣にサラマンダー・富田さんが並び立つ

 

「援護しよう!―――河童忍法!水乱波!!」

 

サラマンダー・富田さんが口から大量の水を大瀑布の如き勢いで広範囲に吐き出し、バラキエルさんの雷光が通電して逃げ場を失った2匹に襲い掛かる

 

おお、連携技か!凄いなサラマンダー・富田さん!!

 

「NINPOU!?サラマンダー・富田さん、まさか貴方伝説のNINJAだったの!?」

 

リアス部長が戦場という事も忘れる勢いで瞳を輝かせてサラマンダー・富田さんに問いかける

 

「ははは!リアス姫。残念ながら俺はまだ師に免許皆伝は貰っていないので自ら胸を張ってNINJAとは名乗れないんだよ・・・しかし、NINJAは居る。情報通の俺ですら偶然微かな手がかりを入手できたからこそ辿り着き、頼み込んで弟子にしてもらったのだよ!」

 

ええ~、現代日本にマジでまだ忍者が居るの?

 

そんな俺の思いを余所にそれぞれが反応を示していく

 

「知っている!知っているぞ!NINJAとは確か日本一強い戦士の称号だろう?」

 

ゼノヴィアよ、せめてそこは侍とかにしてくれないか?忍者は裏方が基本だから

 

「違うわゼノヴィア!NINJAは日本を陰から操った歴史の真の支配者の事よ!」

 

うん。裏方とは言ったけどそこまでの影響力は求めてないよイリナさん!もしかしてイリナさんって陰謀論とかが好きな人だったりする?

 

「NINJAさんは海外でも活躍されていると聞いた事があります・・・確か亀の甲羅を背負ったミュータントでしたっけ?まさにサラマンダー・富田さんの事なんですね!」

 

アーシアさんそれタートルズゥゥゥ!!いやでも確かに言われてみれば河童っぽいな!

 

教会トリオが間違った忍者知識をさらけ出している中、サラマンダー・富田さんは全身ずぶ濡れで雷撃を喰らい少しだけ怯んだスコルとハティの間を走り抜ける

 

「河童忍法!底なし沼!!」

 

水と地面を媒体にした忍術(妖術)で泥沼を生み出して2匹の足を止め、彼はそのままタンニーンさんのいる所まで跳躍した

 

「元龍王、特大のブレスを放ってくれ!俺が合わせる!」

 

「む?河童は水の妖怪のはず。先ほどの『水乱波』とやらでは俺の炎と相殺してしまうぞ?」

 

そうだよな。炎の龍王と水の河童は決してタッグを組むのに向いてはいないはずだ

 

「フッ!俺をただの水吐きトカゲと思って貰っちゃ困るぜ?『サラマンダー』の名が伊達や酔狂の類じゃないってことを魅せてやるさ!」

 

サラマンダー・富田さんのニヒルな笑いにタンニーンさんもまた笑みを返す

 

「面白い!足を引っ張るなよ!」

 

タンニーンさんが思いっきり息を吸い込み特大の炎を吐き出すと同時にサラマンダー・富田さんも口から水流を吐き出す

 

「河童忍法!蝦蟇油流弾!!」

 

吐き出されたのは液体ではあるものの大量の油だった。それがタンニーンさんの炎と混じり合い量産型ミドガルズオルムたちの居る場所を灼熱地獄へと変える・・・って云うかさっきからサラマンダー・富田さんのサポート力がヤバいんだけど!後『蝦蟇』ってカエルじゃん!水吐き『トカゲ』って言ってなかった!?

 

「アレがNINPOUを習ったサラマンダー・富田さんの実力なのね。冥界の戦力強化のためにも是非ともこの戦いが終わったら彼の師というNINJAを紹介してもらわなくてはいけないわね!」

 

「アレがNINJA。冥界では魔力も魔法も凌駕する超能力集団として伝っていましたが正直眉唾物だと思っていましたわ。私もKATONのJUTSUとやらを教えてもらうべきでしょうか?」

 

教会トリオに引き続き純血の悪魔の二人も思考が変な方向にぶっ飛んでいらっしゃる

 

レイヴェルも別に火遁の術なんて覚えなくてもフェニックスの炎は十分強力だよ!?

 

というか忍術って本来逃走用のちょっとした攪乱とか悪路走破とかが基本であって決して印を結んで大規模破壊をもたらすモノじゃないからね!?

 

ツッコミを入れていると量産型ミドガルズオルムを片付けて反転して此方に戻って来るタンニーンさんとサラマンダー・富田さんよりも早くぬかるみから脱出したスコルとハティが一直線に俺の居る場所に向かってきた

 

どっちがスコルでどっちがハティか知らないが片方の爪がフェンリルの背に居た俺に振るわれ、もう片方が牙でグレイプニルの拘束を外してしまった

 

・・・って!皆、忍者に注目し過ぎぃぃぃ!!結局フェンリル攻撃してたの俺だけじゃん!子フェンリルの動き見逃してたじゃん!!

 

皆もちょっとばつが悪そうに視線を逸らさないで!

 

「グルゥゥゥゥゥゥ・・・」

 

そんな中先程よりも圧倒的な殺意を湛えた重低音の唸り声が聞こえてきた

 

フェンリルの方を向くと同時に最大級に危機を感じてその場を跳び退くが胸から腹の辺りまでに深く3本の線が走った。良く見えなかったけど一瞬で近づいて来たフェンリルの爪の攻撃を受けたのだろう。殆ど勘頼りの回避だったけど圧倒的に格上のはずのフェンリルの攻撃を素の状態で避けれたのは気を乱して多少は動きが鈍っていたお陰かな?

 

痛覚の感度を下げておいたお陰で痛みに呻く前に支給されていたフェニックスの涙を取り出して怪我に掛ける事で失血も最小限で済んだはずだ

 

もっとも数の少ないフェニックスの涙は一人一つ持ってるだけ何だけどな

 

ロキの襲来があった日からレイヴェルも暇を見つけて実家に転移で戻って涙の作成を手伝ったみたいだけど追加分はシトリー眷属が持つ事になったし・・・あっちはディフェンスとは云えアーシアさんのような明確な回復要因が居ないからな―――別動隊が送り込まれる可能性も視野に入れるならシトリー眷属に回復アイテム無しとはいかないだろう・・・レイヴェルが居なかったらマジでそうなってたかも知れないけどな。コネクション万歳だ

 

子フェンリルの片方はヴァーリチームが受け持ち、もう片方の子フェンリルと親フェンリルは俺達全員との混戦状態に入った・・・んだけど

 

「何でこのフェンリルさっきから執拗に俺ばっかり追いかけて来るんだよぉぉぉ!!」

 

タンニーンさんの炎とか横合いから放たれても黒歌やロスヴァイセさんの魔力・魔法弾がぶつかっても意にも介さず只管に俺を狙ってくるんだけどこのワンワン!!

 

さっきからリミッター解除全開で避けに徹してるけど生きた心地がしない!

 

うわ!今牙が鼻先掠めた!タンニーンさんのブレスで僅かに横に逸れてなかったら噛まれてた!

 

まぁ最大戦力であるフェンリルが無理やり俺だけ狙ってるから手が空いた他の皆の攻撃もよく当たるから状況的には美味しいのかも知れないけど!(俺以外!)

 

何か俺キミに怒られるような事した!?ちょっと顎が外れるほど蹴り飛ばして、容姿にダメ出しして、兄だか弟だかのお馬さんを口の中に放り込んで、動けないのを良い事に鳴き喚こうと殴り続けただけだって!しかも苛めじゃなくてあくまでも戦闘行動だぞ?・・・・・うん。俺がフェンリルの立場なら一も二も無く殺すかも知れん

 

完全に敵視取っちゃったよ。少しヘイトを稼ぎ過ぎたかな?

 

だが幾ら何でも伝説の魔物の本気の攻撃を避け続ける事は出来なかったみたいで発動し続けていたリミッター解除技の頭痛で一瞬動きが鈍った所を狙われ、巨大な牙で噛み付かれてしまった

 

「ガッ!グゥゥゥ!!」

 

噛まれる瞬間、牙の喰い込む場所に合わせて一点集中防御を試みたけど殆ど体を貫通してしまった・・・まぁ牙って別に一本じゃないから複数個所に闘気を分散したんだけどこれなら何処か一か所に絞った方がダメージは少なかったかもな

 

「ぐぶ!がっはぁ!」

 

ヤバい、内臓が傷ついてるから盛大に血を吐いた!胴体を噛まれてるけど肉体の強度を全力で上げてなかったら次の瞬間には泣き別れる!

 

「イッキを放すにゃワン公!!」

 

「イッキ先輩!今助けます!!」

 

黒歌が火車を展開して小猫ちゃんもそれに続く

 

「私も援護しますわ!」

 

「犬畜生が調子に乗るな!!」

 

レイヴェルが炎の翼から炎の竜巻を叩きつけ、タンニーンさんがブレスを吐き出す

 

一応全部フェンリルの胴体に当たってるけど殆ど真横で燃え盛る炎の四重奏でマジで俺まで燃え尽きそうなんだけど!

 

しかし、それでもフェンリルは俺を放さない・・・というか炎の熱さに歯を食いしばってない!?胴体からミチミチ、ブチブチとか聞こえて来るからこのままだと直ぐに死ぬ!

 

「【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】!!」

 

「!!? ギャワン!!」

 

流石のフェンリルも予想しない場所からの胴体に複数の大穴が開く痛みには驚いたのか牙が外れて俺は地面に放り出される

 

折角フェンリルに大ダメージを与えたと云ってもすぐに傷を治さないと俺が死ぬからさっさと回復して貰わないといけない

 

放り出された先の一番近くに居たレイヴェルが空中で俺をキャッチしてくれる

 

「小猫さん!涙はまだ持っていますか!?」

 

後衛且つ不死のフェニックスという事でレイヴェル自身はフェニックスの涙を持っていなかったので同じく近くに居た小猫ちゃんに声を掛けるが小猫ちゃんは首を横に振る

 

「私の分はさっき使ってしまいました」

 

丁度そこでアーシアさんの遠距離回復が届くがチーム全体を絶えず回復していて回復役として一番離れた場所に居るアーシアさんの治療速度は余り芳しくない。それでも後10秒も在れば大方の傷が治りそうな所は流石の一言だがそれまでにどんどんと血が流れ出てしまう

 

「なら、私の分を使うにゃん!」

 

幻術で翻弄しながら遠距離攻撃が主体だった黒歌はまだ大きな怪我は受けてなかったので懐からフェニックスの涙を取り出して此方に駆け寄って来るがその前に俺と近くに居たレイヴェルと小猫ちゃんを覆う三角錐の結界が何重にも張り巡らされた

 

「フハハハハハ!!人間!やはり貴様が一番危険な存在のようだな!貴様だけはこの場で殺し、一時退却するとしよう!まだ腹に穴が開いたその状態のまま放置すれば人間の貴様はすぐに失血死だ!やはり脆弱な肉体こそが人間の弱点なのだよ!」

 

ロキの張った結界のせいでアーシアさんの治癒の力も此方に届かない!

 

当のロキは此方に強固な結界を張って力のリソースを割いているから二天龍の攻撃を受けやすくなっているみたいだが意地でも結界を解かないつもりのようだ

 

「イッキ先輩!ダメです!死んだら!!」

 

小猫ちゃんが仙術で少しでも失血を抑えようとしてくれるが未だに拳くらいの大きさの穴が開いているから効果が薄い。こと回復力に関してはアーシアさんが異常なのだ

 

小猫ちゃんと違って他者の回復手段を持たないレイヴェルはオロオロするばかりだ。己の無力さからか瞳からぽろぽろと涙が落ちて俺に掛かるが回復薬としてのフェニックスの涙は確かかなり複雑な儀式を必要とするはずだから俺の傷が治ったりはしない

 

あ・・・ヤバい・・・かなり意識が朦朧とし始めた。でもこのまま意識を落としたらなけなしの仙術の自己治癒の効果も無くなるから瞼を閉じたら次の瞬間には死んでしまう

 

とはいえ瞼を閉じて5秒後に死ぬか頑張って起きて1分後くらいに死ぬかだが諦めるなんて選択肢は無い!今の俺には黒歌たちが居るんだから生き足掻く理由はそれで十分だ!

 

すると霞んだ視界の中で此方を覗き込んでいたレイヴェルが決心したような顔に変わった

 

「小猫さん。そのまま治療を続けてください。イッキ様は私が治しますわ!」

 

そう言ってレイヴェルが俺の上半身を出来るだけ体に負担が掛からないようにゆっくりと抱き上げてそのまま声を掛けて来る

 

「イッキ様。これからする事は治療行為であると同時にかなり一方的な宣言になります。まだ出会ってから短いですがイッキ様となら問題ないと思うのです」

 

正直既に頭がボンヤリとしているがレイヴェルが意を決して息を深く吸うのが見えた

 

「イッキ様!!私をイッキ様のお嫁さんにして下さい!!」

 

「『え!?そこで逆プロポーズしちゃうの!?』」

 

皆の心が一つになってツッコミを入れる中、何故かいきなり戦場のど真ん中で愛を叫んだレイヴェルが口づけしてきた!

 

もう訳分からないよ!頭がちゃんと働いてなかったけど流石にこんな事されたら少しは意識が覚醒してくる。でも本当に何やってるの?レイヴェルさん!?

 

レイヴェルは顔を真っ赤にして服が血で汚れるのも構わず抱きしめて来る

 

緊張からか彼女の心臓がバクバク鳴ってるのが丸わかりだ!

 

そんな多分レイヴェル以外状況が掴めてない中で先程まで泣いていたレイヴェルの瞳から新たに涙が滴り落ちて俺の体に掛かると煙を上げながら瞬時に複数の穴が開いていた怪我が塞がって行った

 

キスしたまま目線を下に向けて怪我が治った事を確認したレイヴェルが口を離す

 

「・・・・・ええと・・・その・・・」

 

暫く顔を赤くしながら口ごもっていた彼女は一気に捲し立てるように理由を説明してきた

 

「イッキ様!イッキ様はフェニックスの涙がどのように製造されているかご存知ですか!?商品として作り出されるフェニックスの涙はあまり詳しくは言えませんが複雑な儀式を何重にも施したうえで自分の為でも誰かの為でも無い『無垢なる涙』を材料としていますの!しかし!しかしですよイッキ様!何事にも例外は在るのです!いえ、むしろ商品としての涙の方が例外に当たるのかも知れませんわね!我らフェニックス家の者の涙は『もっとも親しい者』への想いの籠った涙であればその相手に対してのみ癒しの力が働きますの。大体そういった『実例』が全くなかったのだとしたら最初にフェニックスの涙を作成した者はとんだ変人という事になってしまいますわ!」

 

いやまぁ確かにそうだね。何の情報も無しに自分の流した涙を本気で回復薬として研究した人が居るとしたらもはや変人通り越して狂人だよ

 

そして成程、あのお嫁さん発言とキスは感情を高ぶらせる為に必要な行為だった訳だ

 

それともう一つ。俺は別にそこまで鈍感ではないと思ってる。此処でもし鈍感系主人公とかだったら『俺の怪我の為に自己暗示をかけてまで俺を治療してくれたのか』とか思うのかも知れないが大して好きでもない相手を治療行為目的で『もっとも親しい者』認定とか出来ないだろう・・・最初にレイヴェルの涙が掛かった時には回復しなかったけど下地は十分在ったという事になる

 

でも俺には既に黒歌に小猫ちゃんに九重が居る訳だし・・・アレ?でも確か黒歌と付き合い始めた時に『増やすとしても後一人』って言ってたような・・・いやいやいや!何妥協点探ろうとしてるの俺!?落ち着け!クールになれ俺!働かない頭を何とか平静にしようと頑張っていると純情ガールのレイヴェルは初めてのキス&逆プロポーズで『こんらん』しているのか所謂グルグルお目眼になりながら更に捲し立てる

 

「イッキ様が黒歌さんと京都の婚約者が既に居るという事は存じております。ですが私は黒歌さんともまだお会いしたことはありませんが九尾の姫の方とも仲良くしていきたいですわ!どうかイッキ様が許されるなら私を第『3』婦人として・・・」

 

そこまで言った所で今まで静観・・・というか俺と同じく頭が付いて来ていなかったらしい小猫ちゃんが会話にも物理的にも割って入る

 

「ぽっと出が何を言うんですかこの焼き鳥娘!イッキ先輩の『3番目』は前から私の指定席何です!譲るつもりはありません!」

 

「貴女が『3番目』ですか?私は黒歌さんは恋人で九尾の姫が婚約者と窺ってますが小猫さんも正式にイッキ様と付き合っていますの?」

 

その問いに小猫ちゃんは胸を張って答える

 

「一緒に遊園地でデートしましたし、それにキスもしました!!」

 

「では告白は?将来を誓い合うような言葉は交わしましたの?」

 

レイヴェルの追及に小猫ちゃんは言葉が詰まる・・・そう言えば黒歌には『好き』と言ったけど小猫ちゃんには言ってなかった気がする。観覧車でのキスの後も嬉しかったと殆ど肯定の言葉は言ったけど多分今あの両者の間ではカウントされない項目だと勘が告げる

 

「おや?その様子では告白もまだですのね?なら、早い者勝ちという言葉もありますから私こそが『3番目』という事で宜しいのでしょうか?」

 

「勢いで告白した焼き鳥娘には言われたくない!そのまま燃え尽きてしまえばいい!デートもキスもカウントできない鳥頭に負けるつもりはない!」

 

「んま~、口の減らない猫又娘ですね!」

 

両者の背後に小鳥と小猫のシャドウが見える。ただし劇画タッチで無駄に迫力のある絵だけど!にしても二人とも本当に水と油だね!いや、それとも同族嫌悪か?だからこそ一度仲良くなればすんなりお互いのスペースに溶け込むのかも知れないな

 

二人が言い争っている中で俺達3人を取り囲んでいたロキの結界が消え去った

 

俺が回復してしまった以上は結界を張り続ける意味が無いと判断したのだろう

 

「ちぃ!あのまま大人しく死んでおれば良いものを、何処までもしぶとい人間め!しかし貴様が回復したらフェンリルの傷も癒えたな。恐らく傷を共有する呪いの類か?相手の足を引っ張るだけの実に意地汚い能力だな!」

 

そりゃあ元々足止めとしては中々優秀とされている能力だからな。でもロキの言ったようにフェンリルの傷も治ってしまった(噛み傷限定)———俺はもう失血で体に力が入らないし、どうするべきかと思っていると起き上がったフェンリルも足をもつれさせた

 

そうか!さっきまで俺と同じくダバダバと血を流していた上に今までの皆の攻撃のダメージが蓄積されて足にきたんだな!

 

・・・俺よりボロボロのはずなのにフラフラしてるだけでまだ戦えそうって所には生物としてのスペックの差を感じる所だけどな

 

此方の様子を見たヴァーリが好機ととったのか反転して覇の呪文を唱えながら突撃してきた

 

「我、目覚めるは 覇の理に全てを奪われし二天龍なり 無限を妬み、夢幻を想う 我、白き龍の覇道を極め 汝を無垢の極限へと誘おう!覇龍(ジャガーノート・ドライブ)!!」

 

会談の時にも見た小型ドラゴンの姿となって暴力的なオーラを周囲にまき散らすヴァーリがフェンリルを背中から押し潰し地面に叩きつけて拘束する

 

「サラマンダー・富田!俺とフェンリルを予定の場所に転移させろ!」

 

「やれやれ、俺は運び屋って訳じゃないんだがな―――河童忍法!通り抜け忍び池!!」

 

フェンリルとヴァーリの足元に出現した水たまりがその水面に此処ではないどこか別の場所を映し出し"チャポン!"という音と共に池に沈んで姿を消した

 

「ヴァーリ!あいつ勝手な真似を!!」

 

イッセーが憤ってるがずば抜けて強いフェンリルが居なくなるのは正直助かる

 

あのままだったらもう一度フェンリルに襲われていたかも知れないしな

 

「おのれ白龍皇!ここまでされて何もしないまま引き下がれるか!」

 

ロキが叫ぶと上空高く舞い上がり戦場全てを包み込む大きさの魔法陣を展開した

 

さっきまでは二天龍を相手取っていたから大技が出せなかったのだろうがヴァーリが居ない今なら使えると踏んだみたいでイッセーに殴られつつも術式を完成させる

 

「スコル!そしてハティよ!この際誰でも構わん!隙を見せた奴から喰らっていけ!」

 

天空魔法陣から様々な属性の魔法が雨あられと降り注いでくる。一発一発の威力は程々だけど攻撃が終わる気配がしない。攻撃範囲と持続性に焦点を当てた魔法なのだろう

 

皆が上空に対して防御壁を展開して身動きが取れない中でスコルとハティは魔法の雨の中を多少の被弾を無視して動き回る

 

この状況でまともに動けるのは黒歌とタンニーンさんとバラキエルさんとヴァーリチームくらいだ。黒歌は消耗してしまって動けない俺を守るために小猫ちゃんとレイヴェルを含めて結界を張ってくれている

 

子フェンリルの片方はヴァーリチームが対処してるみたいだ

 

アーサーが手にした聖剣を上空を切り裂くように振るうと空間がぱっくりと割れて魔法の雨はその穴に吸い込まれていき、一時的な安全地帯でサラマンダー・富田さんが子フェンリルの足元をぬかるみに変えて足を止める

 

「聖王剣コールブランドは空間をも切り裂きます。ですから少し応用すればこんな事も」

 

アーサーが聖剣を地面に突き刺すと子フェンリルの腹の下あたりに剣先が突き出してきた

 

そしてそのまま地面を斬ると上空に広がってる空間の穴と同じ種類の穴が開く

 

”ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!”

 

恐らく上空の空間の穴と繋げたのだろう。吸い込まれた魔法が地面の下から子フェンリルの腹を滅多打ちにする。いくら威力が低めと云っても無防備な腹に連続でジャブをくらい続けるのは少しずつ痛みがひどくなっていくことだろう

 

下からの突き上げをくらっている所に如意棒を巨大化させた美猴が上から叩き付けまくる

 

上下の衝撃に挟まれた子フェンリルは苦しそうだ

 

「ではまず視界を奪っていきましょうか」

 

アーサーが聖剣を横に一閃して両目を潰す

 

「狼ですからね。お次はよく利きそうなその鼻も」

 

今度は縦に一閃して鼻を切り裂く

 

「最後に危険なその牙も・・・神殺しの牙が頑丈だと云うのであれば根本を絶ちましょう」

 

アーサーはそう言って牙の根本の歯茎の辺りを聖剣で空間ごと一本一本削っていく

 

うわ!実際見ると超痛そう!

 

「・・・エゲツないです」

 

「流石はイッキ様と同じ人間ですわね」

 

レイヴェルさん?そのセリフは如何いう意味ですか?

 

ともあれ片方の子フェンリルは問題ないとしてもう片方はと云えばタンニーンさんやバラキエルさんのブレスや雷光を無視して動いている・・・既にかなりのダメージを蓄積させているはずだがロキの『誰でも良いから倒せ』という指示を実行するのにその二人を相手取るのは非効率だと思ったのだろう

 

そして二人の攻撃を振り切った先で一番近くに居た未だに降り注ぐ魔法を防ぐのに手いっぱいで身動きの取れない朱乃先輩に目を付けた

 

「え!?きゃあああああ!!」

 

あわや朱乃先輩が噛み付かれる寸前に娘の危機にいち早く反応したバラキエルさんが間に入って神殺しの牙をその身で受ける

 

「引っ込んでろこの犬っころ!!」

 

直後に追いついたイッセーが子フェンリルを殴り飛ばしてバラキエルさんから牙が外れ、すかさずゼノヴィア、祐斗、イリナさんの教会出身組に守られていたアーシアさんの癒しの光がバラキエルさんの傷を治していく

 

「な・・・何で・・・」

 

「・・・お前まで・・・失う訳にはいかない」

 

泣きそうになっている朱乃先輩にイッセーが近づくと突然"ビシィッ!!"と朱乃先輩に指を突きつけるイッセー。此処からじゃよく見えないけど多分正確には朱乃先輩の胸を指してるんだろうな

 

「お前・・・何者だ!?」

 

突然好きな男の子にそんな事を言われた朱乃先輩は困惑した表情だ

 

そんな中で暫く固まっていたイッセーだがイッセーが殴り飛ばした子フェンリルが他の者を襲わないように肉弾戦で立ちまわっていたタンニーンさんに声を掛ける

 

「お・・・おっさん!大変だ!」

 

「何だ兵藤一誠!何が起きたと云うのだ!?」

 

「乳神様って何処の神話体系の神様だ!?」

 

イッセーの場違いの叫びに皆の動きが止まる・・・あ、ロキの魔法の雨も止んだ

 

そっかー、やっぱり乳神チャンネル受信したか・・・いやでも待てよ?もしも此処で異世界の事が露呈しなかったら英雄派を片付けたらそこで物語ほぼ終了じゃね?良し!何とか気を逸らさねば!

 

そしてタンニーンさんが何かを叫ぶ前になけなしの体力を振り絞ってタンニーンさんの代わりに俺がイッセーの疑問に答える

 

「イッセー!乳神様は日本神話の神様だぞ!!」

 

嘘ではない。前にちょっと魔が差して調べたのだが北海道に社を持つ神様だそうだ

 

「なにぃぃぃぃ!!?日本にはそんな素敵な神様が居たのか!?」

 

「そうだ!お前もおっぱいドラゴンだって言うんだったらもうちょっと造詣を深めろ!お前は熱意ばかりが先行し過ぎて視野が狭い所がある!!」

 

房中術を知らなかった所とかがそれにあたる事柄だろう・・・学校とかじゃこういうエロネタ系は喋らないけどこの場に居る女性陣は基本エロに寛容だから別に構わないよね?

 

いや、俺を両側から支えてくれてる小猫ちゃんとレイヴェルは鋭い目つき何だけど・・・

 

「ああイッキ、やっぱりお前は最高の親友だよ。普段はエロトークに参加しないけど時折誰よりも深い、本質を突くような意見を言ってくれるよな!」

 

そんな風に思われてたのか俺・・・全然嬉しくねぇ

 

だがこのまま乳神=日本神話という図式を成り立たせてしまえば良いと思っていると朱乃先輩のおっぱいから直接声が響いて来た

 

≪ち・・・違います!私は乳神様に使える精霊!そして乳神さまは此処ではない異世k≫

 

「イッセー!!日本の神様たる乳神の加護を得ようとはやはりお前も悪魔に転生したと云っても日本人なんだよな!これからは日本の神々をもっと敬うようにしろよ!」

 

異世界とか言わせねぇよ!って云うか乳語翻訳(パイリンガル)じゃないと声が聞こえないんじゃなかったっけ?朱乃先輩のおっぱいを全体通信にするようにチャンネル合わせて来やがったのか!

 

≪だから違います!私の主の乳神は異世k≫

 

「ああ、俺悪魔だけど頭痛に悩まされても日本の乳神様に祈りを捧げてもいいかなって・・・」

 

『≪異・世・界・の!乳神様ですよぉぉぉぉぉ!!≫』

 

朱乃先輩のおっぱいだけでなく、その場にいた全女性陣のおっぱいから叫び声が聞こえてきた

 

コイツ!この場に存在する全てのおっぱい(スピーカー)をジャックしやがった!!

 

≪ハァ・・・ハァ・・・良いですかおっぱいドラゴン?貴方がこの娘のおっぱいを救った時、乳神様は貴方に加護を授けてくれるでしょう≫

 

そうして恐らくイッセーと朱乃先輩とバラキエルさんに乳の精霊の4人にしか分からない遣り取りの後で朱乃先輩がバラキエルさんに縋りつくように泣き始めてバラキエルさんはそんな朱乃先輩の頭を優しくなでる

 

”ゴアァァァァァァァァァァァァァァァ!!”

 

突如としてイッセーから極大のオーラが吹き渡り、ミョルニルが神々しい光を放ち始める

 

これが乳神の加護か、凄まじいな!ミョルニルとかもはや要らないんじゃね?

 

≪おっぱいドラゴンよ貴方はこの娘のおっぱいを救いました。それが乳神様の加護の力です・・・それにしても凄いですね。乳神様の話では今、この世界では乳力(ニューパワー)が加速度的に増えつつあると言っていましたがコレほどとは・・・世界を隔てた上でも乳神様の力も徐々に増していってますし、邪神たちを打倒する日は遠くないのかも知れません≫

 

え!?マジで!?ピー(チチ)の齎したおっぱい革命期(レボリューション)は異世界の戦局すらも変えつつある訳!?

 

「予想外の事が起こり過ぎたな。それに赤龍帝の身に纏うオーラは危険だ。此処は大人しく引くとしよう。しかし!必ず再びお前たちを滅ぼしに現れるぞ!」

 

遂に諦めたのか捨て台詞を残して立ち去ろうとするロキを囲うように漆黒の炎が吹き荒れた

 

「ぐ!何だこの黒い炎は!?纏わり付いてくるだと!?」

 

よく見れば子フェンリルも炎に囲まれているようだ

 

そして空中から巨大な東洋型の龍が落っこちてきた

 

「あれは!?ヴリトラだと!復活したと言うのか!?」

 

同じ龍王のタンニーンさんが正体を看破して驚いている

 

それからヴリトラに変身したサジがロキと子フェンリルを相手を弱らせる効果も在るという炎で拘束して皆の一斉攻撃が降り注ぐ

 

「ロキィィィィィ!!」

 

黄金に光輝くミョルニルを手にしたイッセーがロキに突貫し、ロキは迎撃の魔術を放つが加護を受けたイッセーは無傷で弾幕を突き進んでいく

 

「くぅ!よし!邪炎が外れたな!さらばだ!」

 

イッセーから距離を取りつつ転移魔法を展開させようとするロキに極大の雷光が降り注ぐ

 

朱乃先輩とバラキエルさんの親子の雷光だがロキは寸でで転移魔法を構築している手とは反対側の手で結界を張り、防御した

 

「ふははは!油断はしないぞ!今回の戦いではそれを学ばせてもらった!」

 

ああ、そうかい!でも油断は無くとも隙は出来るもんだ!例えば間近で落雷なんてあれば視覚も聴覚も普通には働かないだろう

 

”ガギンッ!!”

 

ロキの展開していた雷光を防ぐ魔法陣に右歯噛咬(ザリチェ)が突き刺さる

 

小猫ちゃんに回復して貰った分も合わせて【一刀羅刹】で渾身の一投を中てたのだ―――もっとも殆ど体力が残ってない状態での【一刀羅刹】だから強化率も大したことはないが、だからこそ内側から破裂するようなことも無い・・・と言うか本来の【一刀羅刹】分も血を流したら死ぬ

 

僅かに障壁に突き刺さった程度だがそこから雷光が通電して直ぐ近くのロキに伝播する

 

「があぁぁぁぁ!?」

 

感電したロキが一瞬動きを止め、さらにサジの邪炎が復活する。そしてその隙にイッセーがロキをミョルニルの射程圏に収めた

 

「喰らえぇぇぇぇぇぇ!俺式ミョルニルゥゥゥ!!」

 

視界の全てを真っ白に塗りつぶす雷撃が降り注いで光が収まった時、殆ど裸族みたいな身なりで全身火傷を負ったロキが煙を上げながら倒れていた

 

子フェンリルたちもほぼ同時に倒されたみたいだ・・・しかし異世界の事は結局バレちゃったけどそれは仕方がないと割り切ろう

 

ヴァーリチームは既に居なくなってるし、動ける者は戦後処理をして動けない者はアーシアさんや小猫ちゃんが治療に回っている

 

俺は黒歌が仙術で体力を回復してくれているけどそもそもとして血が足りてないから効果が薄いと云うか一定以上回復しない感じだ

 

「なぁギャスパー・・・今の俺血に飢えてるんだけど輸血パックとか持ってない?」

 

修復作業で偶々近くに居たギャスパーに声を掛ける

 

「ひぃぃぃぃん!!なんかイッキ先輩が吸血鬼の僕よりも吸血鬼らしい事言ってますぅぅぅ!!ぼ・・・僕は持ってません!血生臭いの嫌いなので戦闘用にイッセー先輩の血をちょっと持ってるだけ何ですぅぅぅ!!ダメなヴァンパイアで御免なさいぃぃぃ!!」

 

うん。知ってた。ちょっと揶揄っただけ何だけどいい反応してくれるよな

 

するとイッセーがバラキエルさんに肩を貸して此方に運んできた―――バラキエルさんも大量に失血してたからこちらで休息となったのだろう。フラフラとした足取りのサジも一緒に休息組らしい。龍王形態のお陰で魔力が欠片も残ってないみたいだ

 

「乳、いや、兵藤一誠」

 

バラキエルさんがイッセーに語り掛ける

 

「キミは娘の事が好きなのか?」

 

「はい、大好きですよ!」

 

イッセーが笑顔で答えるとバラキエルさんは小さく笑った

 

「そうか」

 

「それと俺、乳何て食べませんよ?」

 

「・・・そうか、当然だな」

 

共通の話題があったのか変な遣り取りをして今度は二人して苦笑する中、皆の怪我を一通り治し終わったアーシアさんが箱を持って此方に駆け寄ってきた

 

「怪我の治療で私にできる事は終わりました。私はこれから戦場を修復しに行きますがイッセーさんは先に此方を召し上がってください。先ほど転移で届きましたから」

 

にっこり笑うアーシアさんは箱を開けると六つのおっぱい(ピー(チチ))が入っていた

 

それを見たイッセーとバラキエルさんは"ピシリ"と固まる

 

白龍皇の力を発動するのに500年分の寿命を削ったからな

 

一応万が一を考えて失った寿命分+ピー(チチ)一個食べる決りになってるからな

 

「・・・・・兵藤一誠・・・キミはやはり乳を食べるのだな!娘の胸も果実のように齧り付くつもりだろう!?ぬぅぅぅん!やはり許せん!おっぱいドラゴンめぇぇぇ!!」

 

そうしてイッセーとバラキエルさんだけ第二ラウンドを開始していたが助けに入る人は誰も居なかったのであった

 

 

 

 

 

[Boss side]

 

 

≪通信報告ですまないなアザゼル。今回も身内が世話になったようだ≫

 

≪気にするなよサーゼクス。第一俺は決戦の場には居なかったんだしな。現場に居たあいつらが一丸となって勝ち取った勝利だよ≫

 

≪ロキはイッセー君が止めを刺したと聞いたが・・・≫

 

≪ああ、だが今回の一件はイベント盛りだくさんだったぜ?異世界の乳神って何だよって話だし―――そうそう!あのフェニックス家のお嬢さんは戦場で逆プロポーズしたらしいじゃねぇか≫

 

≪イッキ君との結婚なら私は賛成だよ。———彼が人間という事で文句を言う輩は多いと思うが、幸いフェニックス家は悪魔には珍しく子供が多いからね。決定的な問題にはならないさ・・・資料を見る限りでも今回の戦いで一番活躍したのは彼ではないのかね?≫

 

≪そうだな。インパクトはロキに止めを刺したイッセーの方が上に見えるがMVPが誰かと云えばイッキだろう。あいつが居なかったら何人か死んでたかもしれん。———つってもいつもながら酷い内容だけどな。スレイプニルをフェンリルに喰わせるとか最初に聞いた時はそんな事を平然と提案するアイツに内心戦慄したぜ?あいつマジでガキかよってな。仲間の攻撃で倒すとか情愛の深いグレモリー眷属には急所を抉るような作戦だぜ。良かったな、アイツが敵じゃなくて≫

 

≪初めて彼に出会った時も言ったのだが、イッキ君がリアスたちの友というのは本当に心強いよ。しかし、いつの時代も我々がもっとも恐れるべきなのは人間なのかも知れないな≫

 

≪英雄派の奴らか・・・アイツらも大概だよな。自分たちのテロリストという立場を最大限活用して下種な実験を繰り返してやがる。あ~、やだやだ。何か逆に明るいニュースとかは無いのか?≫

 

≪そうだな。幸か不幸か連日のテロの影響でリアスの眷属の功績が溜まっている。近いうちにイッセー君。祐斗君。朱乃君。小猫君は中級悪魔に昇格するかも知れない≫

 

≪そっか。良いんじゃねぇか?上級悪魔ともなれば一気に権限と同時にやるべき事も増えるが、中級までならイッセーでも詰め込めば何とかなるだろう・・・だが、このままだと直ぐに上級悪魔って事になっちまうぜ?≫

 

≪うむ。出来れば上級悪魔には最低でも5年ほどは時間を掛けたいが実際はもっと早くなるだろう。中級昇格の話が固まったら上級悪魔としての在り方を考えるように伝えなくてはな≫

 

≪そっか・・・まっ、いい話が聞けたよ。またなサーゼクス≫

 

≪ああ、それでは失礼するよアザゼル≫

 

 

[Boss side out]

 

 

 

 

 

後日、俺の部屋でロキとの戦いが在った日は流石に俺がグロッキーだったので後回しにされていた問題に直面していた

 

今、この部屋に居るのは俺と黒歌、小猫ちゃんとレイヴェル、後九重に通信を繋いだイヅナだ

 

今回は音声通信ではなく立体映像も含めたものとなっている・・・九重の映像の後ろにチラチラと見覚えのある狐耳が見える気がするが恐らく気のせいだろう

 

今一瞬目が合って凄く楽しそうに見えたのもきっと気のせいだ

 

そんな中で黒歌が最初に口を開く

 

「私はイッキにあと一人くらい恋人が増えても良いって前にも言ったし、その娘が大して表裏が無い性格だってのもここ数日で理解してるから特に反対する理由はないにゃん。後はイッキの気持ち次第かしら?」

 

≪私はまだレイヴェル殿を評価できるほど知ってはおらんからの。黒歌殿の言う通りイッキの気持ちが大事ではないかの?だがイッキがモテるのは仕方がないとは思うがやはりこれ以上増やして欲しくは無いの。数が増えればどうしても一人一人の時間が減っていまうからの・・・レイヴェル殿を受け入れると云うのであれば同時にこれで最後として欲しいのじゃ!≫

 

黒歌と九重は肯定的な意見だ。隣に居るレイヴェルが凄く期待の籠った眼差しを此方に向けて来るが小猫ちゃんは不機嫌顔だ

 

「一つだけ条件が在ります―――『3番目』の座は譲りません!」

 

小猫ちゃんが条件を突きつけるが元々後発と思っていたのかレイヴェルはその条件はアッサリと飲んだ。まぁ無理難題っていう訳でも無いからな

 

「あら、そう言う事なら宜しいですわよ。元々こういう場合は正妻や他の妻の方々を立てなさいと教わっていますし・・・ですが、やはり最後に決めるのはイッキ様ですわ。望まぬ結婚を押し付ける気などありませんもの。答えをお聞かせ願えますか?」

 

真っ直ぐと此方を見つめるレイヴェルだけどよく見れば微かに体が震えている

 

此処で俺に断られたらという考えが頭を過ぎっているのだろう

 

確かにまだ出会ってから日は浅いけどそんな事を言えば九重なんて出会って五分で婚約者だ

 

逆に俺から断る理由はと云えば正直何も思いつかない―――あえて言うなら俺の覚悟か、一途で健気で献身的で可愛い自分を慕ってくれる女の子を幸せにする為に生きられますか?という問いだ

 

普通こういうのはお嫁さん同士の不和とかがネックになるんだろうけど、全員が肯定してくれるんなら男として覚悟を決めないと嘘だろう!

 

「レイヴェル。これから先、俺と一緒に歩んでくれるか?」

 

本当ならストレートに『妻になってくれ!』くらい言えたらカッコよかったのかも知れないがまだ黒歌たちにその手のストレート発言をしていない今だとこれ位が丁度いいはずだ

 

それでも十分過ぎるほど臭いセリフに今更ながら恥ずかしさが込みあがって来る

 

「はい!不束者ですが宜しくお願い致しますわ!イッキ様!」

 

まぁこの笑顔が見られたんだから良しとしよう

 

 

 

 

 

次の日の放課後、オーディンに日本に置いて行かれたロスヴァイセさんがリアス部長の『戦車』になったと紹介された。イッセーの家でグレモリー眷属転生のパンフレットを元にロスヴァイセさんを説得するリアス部長は完全に保険屋のお姉さんだったとイッセーは語った




はい、今話でレイヴェルが正式にヒロインしましたね。出遅れている分インパクトを大事にしたつもりですw

ロキをイッセーとイッキのどっちが倒すか迷ったんですが異世界ネタを盛り込む為には乳神召喚してもらわないといけないので今回はイッセーに倒してもらいましたw

決戦まるまる盛り込んで書いたのでサラマンダー・富田のNINPOUとかイッキの外道プレイとか逆プロポーズとかピーチチの影響力とかアザゼルも言っていたようにネタの宝庫でしたねww

次回はレイヴェル繋がりでライザーもそろそろ復活させたいですがドラゴンの山で修業という訳にもいかないのでどうしましょうか?兎に角番外編にはなる予定ですww


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番外編 小猫と、白音です!

書いてる内に何度か濃いめのブラックコーヒーが必要でした・・・もしくはかなり苦めのビターチョコとかでも良かったかも知れませんね

今の自分の限界ギリギリまで砂糖をぶっこんだつもりですww


レイヴェルに返事をした翌日、俺の家に一人のお客さんが来ていた

 

そして今は家族全員と客間で相対している

 

「この度、この家でお世話になる事になりました。レイヴェル・フェニックスと申します。急な話にも関わらず私の事を受け入れてくださった事、心よりお礼申し上げますわ」

 

まぁレイヴェルの事なんだけどね

 

流石に貴族の令嬢なだけあって一つ一つの所作が洗練されている感じだ

 

レイヴェルは今までは最初期にゼノヴィアも使っていたと云うグレモリーの所有するアパートの一角を借り受けてたのだが、今回正式に俺の住む家に引っ越したいと言われたので受け入れる運びとなったのだ・・・『一緒に歩んで欲しい』なんて言ったのがまだ昨日だから気恥ずかしいものが在るが仮にここで俺が断るような器の小さい真似はしたくないし、もしも断ったら涙目になって意気消沈するレイヴェルの姿が目に浮かぶようだ

 

リアス部長もレイヴェルの移住の話をしたら凄く微笑ましいものを見るような目で見られた後速攻で諸々の手続きをしてくれた

 

てっきり乙女モードな感じの反応するかもと身構えていたのだが多分そういうのはイッセーか朱乃先輩の前でこそ出している表情なのだろう・・・去り際に「小猫の事も宜しくね♪あの子、寂しがり屋だから目を離しちゃダメよ?」とも言われたけどな

 

「いいえ、うちのイッキとも塔城さん方とも知り合いで既に3人の承諾は得ていると言うのなら親の私達から反対する理由はありませんから・・・それに、お隣の兵藤さんのお宅にも外国人のホームステイのお嬢さんが沢山居ますからね。きっと今はそういう時代に変わりつつあるのでしょう」

 

母さんはそう言うが多分この家とそのお隣さんにしか適応されない時代の流れだと思う

 

一通り挨拶が終わってから今日はレイヴェルの部屋の日用雑貨等を買いに行く予定だ。レイヴェルが今まで居たアパートに在るのは基本備え付けの物が多かったし、元々彼女もそこまで長くこの駒王町に留まる予定では無かったので必要最低限の物しか置いてなかったのだ・・・まぁ貴族基準だからそこら辺の社会人1年生の一人部屋とかと比べたらダメみたいだけど

 

オーディンの護衛をしている時もメイドや執事の居ない初めての一人暮らしで最初はかなり戸惑う事も多かったみたいで翌日に疲れが残ってる感じだったしな

 

「よし!準備も出来たし買い出しに行こうか」

 

「はい!イッキ様!」

 

「私は今日は甘味担当にゃ♪」

 

「・・・・・・はい」

 

黒歌は自分の欲望に忠実な買い物をする気らしい

 

小猫ちゃんは少し元気のない感じだな・・・やっぱりレイヴェルの事を意識しているのだろうか?

 

そうしてそのまま一人で先に玄関の方に歩いて行ってしまった

 

「あの・・・イッキ様。やはり私が此処に来たのはご迷惑だったでしょうか?」

 

レイヴェルが不安そうな面持ちで此方を見上げて来る

 

「そんな事はないよレイヴェル。皆の事を受け入れたうえで不安にさせたのならそれは俺の責任だと思う。何と言うか俺の器が試される所なのかもな」

 

如何するのが正解なのか何て正直分からないけど全員幸せにするって気概を持たないと失礼を通り越してただの下種になってしまうからな

 

「うふふ、イッキもちゃんと言うようになってきたにゃん♪白音は今までイッキに恋人や婚約者が居るって云っても私は元々身内だし、九重は基本京都でその上男女の仲になるにはまだまだ時間があるから余裕があったけど、此処で初めてライバルとも云える娘が出てきて不安になってるにゃ。此処はイッキの包容力が試される所よ?」

 

ほ・・・包容力ですか。改めて言葉にして求められると如何するべきなのか・・・

 

「う゛っうん!!取り敢えず今は買い物を済ませる所から始めようか」

 

無理やり咳をして話題を断ち切り、俺もいそいそと玄関に向かっていった

 

「逃げたにゃ」

 

「逃げましたわね」

 

「まっ、今日明日くらいは様子見して上げるにゃん」

 

後ろから声が聞こえて来るけど逃げたんじゃない!一先ず如何するべきか考えてんの!

 

レイヴェルは流石は女の子と言うべきなのか買い物の大半は服が占めていた。元々服は沢山持っているみたいだが基本的には冥界で買い付けた物だから日本で着る服は日本で買った物にしたいそうだ・・・実家にあるのも大半はドレスみたいだしね

 

荷物持ちは当然と云うべきか俺が担当だ

 

そして今は俺と小猫ちゃんが並んで歩いて少し後ろに黒歌とレイヴェルが一緒に付いてきている

 

「いい?イッキはね、大胆過ぎるエロエロよりはワンランク控えめな日常の中に隠れているようなエロエロの方が好みなのよ。例えば不自然な裸エプロンとかよりも大きめのワイシャツとかを着て『下には何も穿いてないんじゃないか?』と思わせるようなギリギリを目指すのよ。私達の相手はむっつりスケベにゃ!」

 

「ふんふん!勉強になりますわ!では、スケスケのネグリジェよりも下着の形が薄っすらと見える程度の布地のネグリジェの方が喜ばれるという事ですわね!」

 

黒歌の明け透けな俺の性癖話をレイヴェルはさっきから一字一句聞き漏らさないようにしてメモして、更に独自の見解も盛り込んでいる・・・何この羞恥プレイ!?冗談みたいな大荷物を持っているせいで下手に振り返って抗議も出来ないしこの往来で抗議を入れたら行きかう人々にそれが俺の事だとバレてしまう!(手遅れ)

 

と云うか黒歌さん、小猫ちゃんが不安がってるって言ったのは貴女ですよね!?もう完全に俺に丸投げしてるの!?そりゃ頑張るけど態々ハードル上げなくてもよくないですか!?様子見は何処に行った様子見は!!

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!小猫ちゃんも無言で脇腹抓らないで!!」

 

両手が塞がってるから激痛の中でも下手に動けないし、かと云って痛覚をコントロールするのは男としてやっちゃダメな事何だと直感が告げる!

 

包容力?少なくとも今は無理だって!物理的に!!

 

買い物が終わった後、荷物を家に置いてから駒王町の案内も兼ねて夕方までほぼ丸一日費やした

 

レイヴェルも駒王学園に通う事にしたみたいなので折角の土曜で部活動をしている生徒くらいしか居ない学園を案内もしている所だ。休日の校舎ってのは何時もとはまた別の趣があるよな

 

あ、ちゃんと校舎を案内する許可はソーナ会長から貰ってます―――レイヴェルはまだギリギリここの生徒って訳じゃないからね

 

元々はこの駒王町に来たのは裏方のスタッフの方々の働きぶりを体験する為だったから少なくとも明後日から一週間は可能な限りスケジュールを詰め込んで色々と回るそうだ

 

因みに明日は学園に入る際の諸々の手続きなどがあるそうだ・・・駒王学園に入るだけなら兎も角、レイヴェルが今通ってる冥界の学校の方は一瞬で手続き終了とはいかないだろうからな

 

「私がこの学園に通える何て少し前までは思ってもいませんでしたわ」

 

やはり今度から自分が通う学園とあってキョロキョロと視線が行き来するレイヴェルが感想を溢す

 

「そうなのか?その言い方だと割と厳しい審査とか在ったりする?」

 

「ええ、この町は魔王ルシファー様の妹君であるリアス様が管理する地で更にこの学園はレヴィアタン様の妹君であるソーナ様まで通っている所ですからね。美しい外見も相まってこの学園に通ってお近づきになりたいという悪魔は多いんですのよ?———かと言ってそれらを全て受け入れる事なんて不可能ですので基本的には弾かれていますわ」

 

そっか、悪魔の貴族の学園に通っていればそれなりに交流が持てるはずだからな。それにプラスして転校してでも魔王の妹で次期当主で且つ才能豊かとされる二人の通う学園に来たいと思う悪魔はそりゃ居そうだ

 

そういえばサーゼクスさんってこの学園の理事も務めてたっけ?多分その辺りの対応とかもやってるんだろうな。一般人に選定させる訳にもいかないだろうし

 

まぁサーゼクスさんが直接仕分けてるのか眷属か臣下の方が受け持ってるのかは分からないけどな

 

その後も職員室や保健室、体育の着替えの際のロッカールームの場所など要所だけは押さえて見て回り、残りの細かい部分はレイヴェル自身が学園生活の中で改めて確認していくという事で帰路についた。とはいえ彼女ならただ通り過ぎただけの場所も把握していそうだが

 

「ふふん!当然ですわ。これでもプロのレーティングゲーム経験者ですのよ?まったく見知らぬフィールドで瞬時に地形を把握するのは必須技能ですわ!」

 

貴族悪魔の通う学園では当然と云うかレーティングゲームの講義もあるみたいでそういう戦略的なものの見方に必要な事なども教えてくれるらしい・・・実践できるかは別だろうけどね

 

そうして買い出し及び見学もひと段落したので帰宅して小猫ちゃんは悪魔の活動をしたり、俺と黒歌は基礎トレーニングと模擬戦してレイヴェルがその様子を見たりして過ごした

 

「改めて目にするとお兄様とイッキ様が戦ってお兄様が勝てるビジョンが見えませんわ―――特殊ルールのゲームなら兎も角、真正面からのつぶし合いでは私も含めたフルメンバーでもイッキ様お一人にやられていたでしょうね」

 

フェニックス最大の特徴である不死も仙術とは相性悪いからね

 

「あ~、やっぱりライザーはまだ?」

 

「・・・はい。情けなくとも私の兄ですから早く立ち直って欲しいのですが、今は部屋から連れ出すのすら難儀しておりまして―――無駄に能力だけは高いものですから本気で抵抗されると単独で抑えられるのはお父様と一番上のお兄さまくらいのものでして・・・何かせめて切っ掛けが在れば良いのですけど」

 

身内の醜態を恥ずかしそうに語るレイヴェル・・・うん、ちょっと話題の振り方間違えたかも

 

「まぁ如何にも手詰まりになったら俺がライザーに出会ってみようか?もしかしたらショック療法で何とかなるかも知れないし・・・あまりお勧めは出来ないけど」

 

「にゃははは、確かに逆にトラウマを悪い方向で刺激する可能性の方が高そうね」

 

「い・・・いえ!そんな事でイッキ様の手を煩わせるだなんて!」

 

パタパタと手を振るレイヴェルや黒歌と少し雑談し、軽く頼み事をしてからトレーニングルームを後にして汗を流し終えると小猫ちゃんも帰って来た

 

明日も早朝のトレーニングがあるから早めに就寝するのだが、いつも通り黒歌と小猫ちゃんが部屋に入って来てから入口の所で小猫ちゃんの一歩後ろに居た黒歌が妹の背中を押しやってから扉を閉めた・・・隠す気ゼロの結界を展開して生半可では開かないだろう

 

「黒歌姉様!?何のつもりですか!?」

 

「にゃははははは♪奥手な白音だと2人きりとかじゃないと中々内心を吐露できないでしょ?この機会にしっかりイッキに甘えて不安があるならぶちまけるにゃ♪私は今日はレイヴェルと親睦でも深めておくわよ♪」

 

あははは、確かに『小猫ちゃんと2人で話したい』とは言ったけど超絶強引な手で来たな

 

小猫ちゃんと話す内容?どんな風に声を掛けるか?そんな答えなんて知るか!結局答えが出ないまま悶々としていたら黒歌から『前に私が白音にバカ主の真相を話すときはアドリブだったし、もうそれでいくにゃ!』と言われてしまったのだ

 

確かにちょっとウジウジしてて恰好悪かったかも知れんな。小猫ちゃんと少し話すくらいの時間は幾らでもあったはずなんだから『当たって砕けろ』の精神でいってみるか

 

暫くすると小猫ちゃんは深くため息を吐いてジト目でこちらを見つめてきた

 

「これはイッキ先輩の差し金ですか?」

 

小猫ちゃんの質問に頷くことで答える

 

黒歌がアレだけ露骨にやったなら隠す事に意味は無いだろう

 

「・・・取り敢えず座ってよ」

 

そう言ってベッドの端に腰かけていた俺の隣を"ポンポン"と叩き、小猫ちゃんは俯き気味にゆっくりと近づいて来て少しの逡巡の後で腰かけた

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

気まずい!!当たって砕けろとか言ってたの誰だよ!?俺だよ畜生!!クソ!こういう時ばかりはやろうと思えばモテモテイケメンモードを発動できそうなアザゼル先生が羨ましいな!

 

そんな中沈黙を先に破ったのは小猫ちゃんだった

 

「すみません。黒歌姉様も私より5つも年下の九重も焼き・・・彼女の事を受け入れたのに私だけ何時までもウジウジとしてイッキ先輩の手を煩わせてしまって・・・」

 

小猫ちゃんはどんよりとした雰囲気を滲ませているけど九重は兎も角、黒歌ほどサッパリとした性格の持ち主の方が珍しいと思うけどな

 

「小猫ちゃんはさ・・・レイヴェルの事はどう思ってるんだ?」

 

自然と口が動いた―――多分だけどそこが今一番重要かな

 

「・・・凄いと思っています。自分を高める為に一人で家を飛び出して、プロのレーティングゲームの経験もあります。イッキ先輩と出会って一年半ほど経ちますがそれで漸く私がデートに誘ったのに対して逆プロポーズです・・・私が彼女に勝ってる所何て戦闘能力くらいですがそれもイッキ先輩には及びません。本当の強敵を前にしたら私はまだ守られてるばかりです。だから私は彼女の事が恐いんだと思うんです。自分が置いて行かれる感じがして―――だからですかね、昨日も頑なに『3番目』は私だ何て言って必死に優位に立とうとして・・・イッキ先輩は優しい人ですからそんな順番に意味は無い、誰かを蔑ろにしたりしないって分かってるはずなのに・・・」

 

小猫ちゃんはそこまで話してから再び口を閉じる

 

でもそうか、やっぱりレイヴェルを嫌ってるとかって話じゃ無いんだな―――むしろ彼女を認めているからこそ気になってしまった感じかな?

 

でも、小猫ちゃんが不安を感じてるという点は如何するべきか・・・俺も誰かを蔑ろに何てしたくは無いし小猫ちゃん自身もそれは分かってると言っていた・・・理屈じゃなくて漠然とした感覚なのだろうから「大丈夫、大丈夫」と伝えるだけじゃ足りない気がするし・・・

 

あ~もう!恥ずかしいけど小猫ちゃんの為だ!多少強引にイケ俺!

 

心の中で気合を入れて隣に座ってる小猫ちゃんを"ヒョイ"と持ち上げて膝の上に乗せる

 

振り返ってみれば自分からこの手の行動をしたことって無かった気がするな。黒歌やレイヴェルに告白的なセリフを言ったのも相手に促されてた部分が大きいし、キスとかも自分からした事は無かった・・・理性のタガが外れそうだって言ってたけど頑張れ俺!多少は耐性が付いて来たはずの今なら大丈夫だ!(自己暗示)

 

膝の上に乗せた小猫ちゃんを出来るだけ包み込むような感じで抱きしめる

 

黒歌のアドバイス。包容力(物理)だ

 

「小猫ちゃんはさ、良く膝の上に乗ってこうしているのが好きみたいだけど俺も好きだったりするんだよね・・・何て言うのか独占欲?みたいなのが満たされると言うか湧き上がってくるみたいな感じがしてさ。まぁ恥ずかしいのも在るけれど」

 

「・・・私もこうしている時は身も心もイッキ先輩に預けてる感じがして好きです。それに私だって皆さんの前で甘えるのは恥ずかしいんですが・・・それを差し引いても『私は先輩のものだ!』って感じたくて座っていました」

 

ぐっは!可愛い!何そのいじらしい理由!

 

自分から雰囲気創っておいてもはや俺内心身もだえてるんだけど!!

 

「なら、何時だって今みたいに座りに来ればいいさ。さっきも言ったけどこの体勢で居る時は小猫ちゃんの事を実は凄い意識してるって知ってもらった上でな」

 

「・・・・・はい」

 

小猫ちゃんの気がさっきまでより大分落ち着いて来ているな

 

そう思っていると小猫ちゃんが何だか可笑しそうに肩を震わせて笑い始めた

 

「小猫ちゃん?」

 

「ふふふ、だってさっきまでの先輩、何だからしくなかったんですもん。落ち着いて思い返すと可笑しくなってきちゃって」

 

う゛!そう言われると気恥ずかしさから頬が熱を持つのが分かる

 

「勘弁してくれ、俺だって恋愛初心者組何だから多少空回るのは見逃してくれよ」

 

今まで基本受け身だったのを始めて攻勢に出たんだからさ

 

「小猫ちゃん」

 

「はい?何ですか?・・・っ!!?」

 

声を掛けて振り向いてきた小猫ちゃんにキスをする。如何やらまだ俺は雰囲気に中てられているようだ。そして暫くしてから口を離して告げる

 

「好きだよ。小猫ちゃん」

 

「はい♪私も大好きです、イッキ先輩!!」

 

そうしてお互い自然ともう一度唇が近づいていった時、視線の端っこに黄金と蒼色が微かに見えた気がして、そちらに目線がいくと俺の部屋(3階)のベランダとかも無い窓の外から此方を覗き込む黒歌とレイヴェルの姿が見えた

 

黒歌は俺が気付いたのにも気付いたようだがニヤニヤ顔を崩さないし隣のレイヴェルは顔を手で覆ってるけど指の隙間から綺麗な蒼の瞳が丸見えだ

 

え!?二人とも何時からそこに居たの!?幾ら気を張ってなかったと云っても黒歌は兎も角レイヴェルが俺や小猫ちゃんに気付かれないレベルで気配を遮断するとかって出来るの!?

 

だがよく見れば黒歌がレイヴェルの肩に手を置いているのが見える。成程、黒歌がレイヴェルの分も仙術で気を操って気配を消していたのか。ベランダの無い窓と言っても彼女達なら空を飛ぶ何て朝飯前だし・・・いや!もしかして黒歌が部屋の扉にこれ見よがしに強力な結界を張っていたのは俺と小猫ちゃんにこの部屋が外界から遮断していると錯覚させる為か!?覗きをする自分たちが気付かれにくいようにする為の心理トリックかよ!

 

「・・・先輩?どうし・・・・・」

 

ああ!小猫ちゃんが訝しんで窓の方を見て硬直してる俺の視線を辿って外の二人の存在に気が付いてしまった!部屋の灯りは消してあったけど一瞬で顔を真っ赤に染め上げてるのが分かる!

 

すると外の二人は何も言わずにそそくさと窓枠の外側に消えて行ってしまった

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

本日二度目の無言タイム!しかし、少しすると部屋の扉に掛けてあった結界が解けて黒歌とそれに引きずられてレイヴェルが入って来た。レイヴェルは髪を下ろしている姿が新鮮だ

 

「イッキ、白音。二人とも話し合いはもう済んだのかにゃ?『多分』もう大丈夫だと思って様子を見に来たにゃ!」

 

何と白々しい!何が『多分』だ畜生!バッチリ見ていた上に悪魔の二人なら会話の内容も聞こえていたはずだ!レイヴェルとかさっきから全力で視線を背けて来るしさ!

 

「—————————————————————!!」

 

もはや言葉も無いのか小猫ちゃんが黒歌に喰って掛かるが黒歌は黒歌でそれをひょいひょいと躱す

 

小猫ちゃんも部屋の中で全力で動く訳にもいかないので中々黒歌を捉える事が出来ずにいると業を煮やしたのか今度は大人しく立っていたレイヴェルに標的を移した

 

レイヴェル(・ ・ ・ ・ ・)も黒歌姉様の悪戯に一々付き合わなくてもいい!貴族の娘何て肩書持ってるなら覗き見何て俗な事しなくていい!!」

 

小猫ちゃんは"ズンズン"とレイヴェルに歩み寄り彼女の左右の頬っぺたを摘まんで捏ね繰り回す

 

気恥ずかしさを紛らわす為なんだろうけど覗き見なら主であるリアス部長が先日イッセーと朱乃先輩のデートをストーキングしてるんだけどな

 

「にゃ・・・にゃにふぉにゃはいまふのこねふぉふぁん!!(何をなさいますの小猫さん)」

 

おお~!レイヴェルの頬っぺた柔らかくってムニムニしてるな・・・後さり気に小猫ちゃんがレイヴェルの事を始めてまともに名前で呼んでるし、いい傾向だろう

 

すると小猫ちゃんのムニムニから解放されたレイヴェルが反論していく

 

「もう!いいではありませんか!大体小猫さんはイッキ様にあんなにもムード一杯にキスして貰える何て羨ましいですわ!私何て戦場でのキスとある意味雰囲気は在ったかも知れませんが初キッスはドロッと血液の味ですのよ!?」

 

うん、何か御免。確かにほんのりレモンの味からは程遠かったね

 

このままだと暫く終わりが無さそうだったので二人を後ろから抑えにかかる

 

「ほらほら白音、そこまでにするにゃ。続きがやりたかったら一先ずベッドに入ってからね。そのうち自然と寝付けているはずにゃ」

 

「レイヴェルはこれから寝る時どうする?俺は何時も黒歌と小猫ちゃんと一緒に寝るのが当たり前になっちゃってるんだけど恥ずかしいなら普通に自分の部屋で寝ても良いし・・・小猫ちゃんも最初はそうだったしね」

 

というかむしろ自分の部屋で別々に寝るのが普通ではあるだろう

 

「そ・・・それは・・・その・・・宜しければイッキ様と一緒に寝たいですわ」

 

レイヴェルが俺の腕の中で恥ずかしがりながらも希望を告げる・・・うん、可愛い

 

でもこうなってくるとやっぱり心配になって来るのは俺の理性だ

 

何処かで発散させないと高校卒業まで持ちそうもない!しかし出来ない!何故かって?黒歌も小猫ちゃんもとっても鼻が利くからだ。ぶっちゃけ気づかれると思う。初対面の参曲(まがり)様が一瞬で俺と黒歌が同居してる事に気づいたのだからその嗅覚を侮ってはダメだろう・・・そろそろ本気で悟りを開けそうだ

 

そんなどうしようもない事を考えているとレイヴェルが少し遠慮がちに質問してきた

 

「あの・・・前から気になっていたのですが何故黒歌さんは小猫さんの事を『白音』と呼んでいるのでしょうか?最初は踏み込んではいけない事なのかとも思ったのですが小猫さんは『白音』と呼ばれる事も『小猫』と呼ばれる事も気負いも感じられませんし・・・」

 

レイヴェルの質問に俺と黒歌と小猫ちゃんはキョトンとしてお互いに視線を交錯させる。言われてみれば他人が見たら違和感の在る光景だったかも知れん

 

最初は手配犯だった黒歌の存在を少しでも隠す為に半ば必要に駆られて『小猫』の方の名前で呼んだけど、今までずっとそれで通してきたから完全に慣れ切ってしまっていたな

 

取り敢えずレイヴェルに当時の黒歌と小猫ちゃんのナベリウス家の事も含めたエピソードを語っていく。二人にとってもその一件は乗り越えた過去の話なので待ったが掛かる事も無かった

 

「・・・そうだったんですのね。契約を反故にするなど同じ上級悪魔として恥ずかしい限りですわ。その、もし嫌で無ければ私も小猫さんの事を『白音さん』と呼んでも宜しいでしょうか?・・・あ!イッキ様を差し置いて図々しい事を言ってしまいましたわね」

 

「いやいや、そんな事はないけど・・・小猫ちゃん的には名前の事どう思ってるんだ?」

 

「私は・・・黒歌姉様に捨てられたと思って、その上周囲の人たちに『処分した方が良い』と言われた過去を断ち切りたくてリアス部長に悪魔としての生と一緒に新しい名前をいただきました。リアス部長に貰ったこの名前はとても大切なものです・・・でも、今の私は過去を断ち切りたいなんて思っていません。『白音』という名前も殆ど覚えてませんが、優しくしてくれたお母さまに頂いた私に残る唯一のものです」

 

何方の名前も大切な人に貰った大切な名前だと語った小猫ちゃんはゆっくりと目を閉じる

 

そうして次に小猫ちゃんが目を開いた時にはしっかりとした決意が宿っていた

 

「私はこれから『白音』と名乗っていきます!リアス部長・・・いえ、リアス様に頂いた名前をお返しする事でもうただ泣いていたあの頃の私ではないと伝えたいです!」

 

そっか、そうだよな。大変だった時期の彼女を最初に救い上げて愛情を注いできたのはリアス部長だもんな・・・『もう大丈夫』と伝えられるならそれに越したことはないよな

 

「良し!じゃあ改めてこれから宜しくな。白音ちゃん!」

 

「私も宜しくお願い致しますわ。白音さん!」

 

そう言うと何だか不機嫌な顔をされた・・・何で?疑問に思ってると彼女は一言だけ発した

 

「・・・白音」

 

「え?」

 

「白音で良いです。『ちゃん』も『さん』も要りません」

 

恥ずかしそうに顔を赤らめながらちょっとだけそっぽを向く彼女を見て俺とレイヴェルは思わず互いを見やると何だか可笑しくなって笑ってしまった

 

「何笑ってるんですか」

 

「御免御免!それじゃあ・・・」

 

「「白音」」

 

レイヴェルと息を合わせてその名を呼ぶ。すると「ではこれで」と一言だけ言ってベッドに潜り込んでしまった・・・逃げたつもりかも知れないけどそこ俺のベッドだからね?

 

妹の愛らしい姿を見られたからか黒歌も満足そうな感じだ

 

「4人となると1人余っちゃうわね。ま♪今日の所は白音と新人のレイヴェルにイッキの隣を譲ってあげるにゃん♪その代わり、明日からローテーションだからね♪」

 

そう言って白音の隣に潜り込んだので俺も反対側に寝て、俺を挟んで更に反対側にはレイヴェルが一瞬硬直したもののゆっくりと入り込んで来た

 

「こんな風に殿方と一緒のベッドで眠る何て初めてですわ」

 

「俺だって別に慣れてる訳じゃないさ・・・それじゃあお休み。レイヴェル、黒歌、白音」

 

そうして就寝したのだが翌朝レイヴェルに寝る前に発動させた【一刀修羅】を滅茶苦茶ビックリしたと怒られた―――日課だったから普通に発動させてたよ。その上五感を閉じてたからレイヴェルの問いかけもガン無視状態だったからな・・・・すみませんでした!




ライザー編書くとか言って白音の事書いてたら一話分使っちゃったぜ!このまま今日中にライザー編も書いてやるぅぅぅ!!(徹夜明けテンション)


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番外編 勇者、ライザーです?

深夜明けテンションと今までと少し違った文体の試し書きも相まった感じになってますかね?まぁ番外編という事でお目こぼしくださいww




早朝トレーニングで俺とイッセーの家の地下トレーニングルームの統合空間でオカルト研究部と黒歌にレイヴェルが集まると最初に白音がリアス部長に名前の件を切り出した

 

それを聞いたリアス部長は白音の事を抱き締めて目尻に涙を溜めて喜んでいる

 

「そう、分かったわ。もう小猫と呼べないのは寂しいものが在るけれど、貴女が新しく一歩を踏み出そうとしているなら主の私にとってこれ以上の幸福は無いわ。これから宜しくね、白音」

 

「はい、リアス様」

 

抱き合う主従の姿に皆微笑ましい視線を送るか、もしくは釣られて涙ぐんでいるかだ

 

「ああ、何て美しい光景!愛は何時だって偉大だわ!アーメン!!」

 

イリナさんとかも何か祈ってるしな―――そのまま他の皆と改めて『白音』の名前で呼ばれている光景を見ているとリアス部長が近づいて声を掛けてきた

 

「昨日までのあの娘はレイヴェルを意識してか表情が硬かったけどまさか一日であそこまで変わる何てね。男の甲斐性って云うのでも見せたのかしら?」

 

「ええ・・・まぁ・・・」

 

頬を掻きながら曖昧に返す―――抱き締めて、キスして、告白しましたよ。流石に恥ずかしいから言わないけど

 

「うふふ♪今度女子トークの機会が在れば白音に詳しく聞いてみましょうか♪」

 

「か・・・勘弁して下さい・・・」

 

ああ、でも女子トークの場に突撃する訳にもいかないから多分数日中には揶揄われるかもな

 

その後朝のトレーニングも終えてから朝食の席では両親にもかくかくしかじかで小猫から白音に名前が変わると伝えてレイヴェルは一度向こうの学園の手続きなども踏まえて冥界に転移して行った

 

とは云え昼過ぎ辺りには帰って来るとの事だったので普通に送り出す

 

「では行ってまいりますわ。お昼は向こうで済ませて参りますので私の事はお気になさらず」

 

「分かった。行ってらっしゃいレイヴェル」

 

「行ってらっしゃい」

 

「またにゃん♪」

 

そうして彼女は冥界に転移して行った

 

「さてと、私は新しく開発中の術式の研究でも進めるとしてイッキと白音は如何するの?」

 

「・・・修行の続き・・・かな?買い出しとかは昨日ついでに済ませてしまったしな」

 

「なら、私も先輩と一緒に修行します。戦闘力はレイヴェルに勝ってると自信を持てるものですからね。簡単に抜かされたくはないです」

 

それから二人で地下のトレーニングルームに出向くと既に先客が居た

 

「やぁ、有間にこねk・・・白音じゃないか。そっちも特訓かい?」

 

ゼノヴィアが一人でデュランダルを構えて聖剣のオーラを高めていた

 

「やっぱり、すぐには呼び方は慣れないか?」

 

思いっきり小猫と呼び掛けてたしな・・・まぁ俺も何度か危うい所があったんだけど

 

「ふふ、そうだね。間違って呼んでしまったら済まないな」

 

「いえ、謝るような事ではありません。私は『小猫』の名前も好きですから・・・ただ、流石に統一した方が良いですからね」

 

白音がそう言うとゼノヴィアも「違いない」と軽く笑った

 

「私は今、ロキと戦った時に有間に色々指摘されたことを思い返していてね。如何するべきなのかと思案していたんだ」

 

あ~、何か色々言ったな俺。ゼノヴィア落ち込んじゃったけど

 

「だが結論が出たよ。ただでさえ今の私はデュランダルのオーラを扱え切れてないのだから、あの時のアドバイスを全て同時並行で鍛えるのは現実的ではないとね。だから私は取り敢えずパワーを極めようと思う―――細かい事はその後で良い!」

 

おおぅ!何という清々しくも真っ直ぐな脳筋宣言!祐斗が泣くぜ!

 

「それで良いんですか?ゼノヴィア先輩」

 

「いや・・・案外悪く無いかも知れないよ?扱える力の最大値が増えれば相対的に弱めの出力をコントロールする時に意識を割ける割合が大きくなるはずだし」

 

多分ね!というよりはそうだと信じたいだけかも知れないけど

 

「良し!もうすぐ京都への修学旅行だからな。少しでも力を付けなければいかん!有間!白音!いざ張り切って特訓だ!」

 

そうして少し珍しい組み合わせで修業に精を出すことになった

 

 

 

 

 

 

修行も終わり、昼食も食べて午後は流石にのんびりしようと思っていると転移陣の在る場所からレイヴェルの気配がしたので如何やら向こうの用事は済んだみたいだ

 

そのままリビングで待っているとレイヴェルがやって来た

 

「ただいま戻りましたわ」

 

「ん、お帰り」

 

「お帰りにゃん♪」

 

「お帰りレイヴェル。手続きとか問題無かった?」

 

「ええ、滞りなく済みましたわ」

 

それぞれが挨拶を交わして最後に冥界ではどうだったか聞くが心配するような事は無かったようだ

 

「それと・・・帰り際に実家の方にも寄りまして・・・その・・・両親にイッキ様との事は本当なのか?と聞かれましたので肯定しておきましたわ」

 

「ぐっふぅ!!」

 

マジですか!あの戦場の逆プロポーズの情報伝わってましたか!というか周りに居る女の子たちは普通にそういう事いきなり会話の中にぶっこんで来るよな!!

 

「えっと・・・それでご両親は何と?」

 

うん。やはりそこが気になる所だ。一応俺って人間だし猛烈に反対とかされたらどうしよう?説得の果てにどうにもならなかったら最終手段でレイヴェルを京都辺りに亡命させるしかないのか?

 

そんな風にちょっと悪い方向に思考が寄ってたらレイヴェルが詳細を語ってくれた

 

「お父様もお母様も長兄であるルヴァルお兄様も了承してくれましたわ・・・お父様はライザーお兄様とリアス様の婚約を強引に推し進めたのを反省してる様子でしたし、お母様はイッキ様ご自身の実力を高く買っておられる感じでしたわね。ルヴァルお兄様は自身が恋愛結婚していますから応援すると言ってくれましたわ」

 

何だかそれぞれの想いがあるみたいだけど認めてくれるのであれば良いか・・・でもそうなると何処か近いうちにあの伝説のイベント『娘さんを私に下さい!』をやらないとダメかな?黒歌、白音、九重の3人にはそういう事言う相手が居なかったし・・・考えてるとお腹痛くなってきそうだ

 

「あ~、それならライザーともう一人のお兄さんは?」

 

「次兄のリュゼお兄様は冥界のメディアで働いていまして家を空ける事が多いのでメッセージだけ送っておきましたわ・・・ライザーお兄様は相変わらず部屋に引きこもっていたので使用人か眷属が伝える事でしょう」

 

へぇ、もう一人のお兄さんは冥界のメディアに関わってるのか・・・おっぱいドラゴンとかにも一枚噛んだりしているのだろうか?

 

そんな事を思っていると家の外に一つの気配を感じ取った

 

「イッキ先輩・・・これは・・・」

 

「うん。ちょっと様子を見ようか―――レイヴェル、付いてきてくれるか?」

 

「はい。ですが如何したのでしょうか?」

 

見てもらった方が早いとだけ言ってレイヴェルの疑問には答えずにベランダから外に出る

 

気配は玄関の方から漂って来てるけどこっそり見るならこっちからだろう

 

そうして皆で気配を殺して回り込んでそっと玄関の方を見やるとそこには顔を青くして脂汗を流してブルブル震えているライザーの姿が在った

 

前に見た時と違って髪もボサついてるし無精ひげも生えているな

 

「な!?・・・お・・・お兄様!?何故ここに居らっしゃるのですか!?」

 

そんなこの場に居るはずのない兄の姿を見た瞬間、堪らずレイヴェルが飛び出して声を掛けるとライザーも此方に気が付いたようだ

 

というかライザーって今確か人間恐怖症で且つ俺の事を怖がってるとかレイヴェルも言ってたのによく人間界で且つ俺の家まで来れたな・・・生まれたての小鹿の方が今のライザーより生命力溢れている感じがするけどさ

 

「お・・・おお!レイヴェル。お前があの邪知に塗れた人間に誑かされてしまったと聞いてな。居ても立っても居られずに飛び出して来たのだ。さぁ気づかれない内に早く帰ろうレイヴェル。大切な妹をこのような悪の根城に置いておくなど父上や母上にルヴァル兄上も恐らくはあの人間に騙されるかもしくは何か弱みを握られているのかも知れんが心配するな。俺がお前を守ろう!こんな情けない兄だが妹を守るくらいの勇気は持たなくてはな」

 

ヤベェ!何か俺の事ボロクソに言われてるけどライザーが魔王城に突撃する勇者並みに魂を震わせてやがる!・・・そう云えばライザーの眷属の姿が見えないけど多分レイヴェルの嫁云々を聞いて一も二も無く飛び出してきたんだろうな

 

だがそれを聞いた当の本人は何とも形容しがたい複雑な面持ちとなった

 

引きこもりの兄が自分を想って四方八方トラウマの海とも云える人間界にまで来てくれた事は嬉しいのだろうが、ライザーの俺への評価がゼロどころかマイナスすらも突き抜けそうだからね

 

俺もレイヴェルの立場なら同じような表情をしたと思う

 

「(ねぇイッキ、ちょっと思いついた事が在るんだけど、こういうのって如何かにゃ?)」

 

成り行きを見守っていると声を潜めて黒歌が愉しそうに笑みを浮かべながら提案をしてくる

 

「(ええ・・・そんな事して如何するんだよ?どんな結果になるかまるで分らんぞ)」

 

「(でも、折角あれだけプルプル震えながらも此処まで来たんでしょ?ここでレイヴェルが『大丈夫』とだけ言って家に返しても引きこもりが治るとは思えないにゃ。だ・か・ら♪いっそ引っ掻き回してやるのにゃ♪———今こそRPGのラスボスになる時にゃ!)」

 

そう言って黒歌は俺をレイヴェルの方に有無を言わさず突き出した

 

ああもう!イイよ!やってやるよ!!破れかぶれだ畜生!!

 

「ち・・・違いますわお兄様!私が此処に居るのもイッキ様と婚約したのも全ては!ッツ!?」

 

そこまで発したレイヴェルを後ろから拘束して手で口を塞いだ

 

さぁいくぞ!ラスボスモードだ!(こんらん)

 

「よく来たな。ライザー・フェニックスよ。だがこの娘は我が妃となる運命なのだよ―――此処まで乗り込んで来たその気概に免じて貴様を我が城に招待しよう。もしも妹を取り戻したいと願うなら試練を乗り越えて再び我が眼前へと来るがいい!!」

 

そこまで言い放った所でこっそりとライザーの後ろに回り込んだ黒歌が仙術で一瞬で気絶させる

 

「あ・・・あの、イッキ様?コレは一体?」

 

「御免レイヴェル。正直俺もよく分かってない」

 

「ふふん!このお坊ちゃんが折角勇気を出しているんだから、どうせならそれを最後の一滴まで絞り出して貰おうっていうだけにゃん♪必死になって物事をこなせば精神的な不安とか割とアッサリ吹き飛んだりするものよ?」

 

そう言って黒歌はライザーを引きずって何時もの地下トレーニングルームに向かっていった

 

黒歌は幾らレイヴェルの兄と言っても赤の他人の為に自ら積極的に動くような性格はしていない―――都合よく目の前に現れた獲物(おもちゃ)を適当な理由を付けて甚振りたいだけなんじゃないか?

 

いや、ちゃんとレイヴェルの利にも繋がるようにもしてるんだろうけど大半がノリと勢いだよね?

 

 

 

 

 

あれから黒歌とライザーの後を追ってトレーニングルームに入ると黒歌は何やらトレーニングルームの設定を弄っていた

 

すると程無くして悪魔城ドラキュラ的な不気味な城と周囲の環境が出来上がる

 

「それで、この後はどうするつもり何だ?」

 

「ちょっと待つにゃん♪実はさっきこの手の専門家に連絡を取ったからそろそろ来るはずにゃ♪」

 

専門家?そう首を捻ってるとトレーニングルームにイッセーを小脇に抱えたアザゼル先生が入って来た!

 

「悪の親玉たる俺の力を借りたいって?万事俺に任せとけ!!」

 

もう既に嫌な予感しかしねぇよ!黒歌も何て人に連絡付けてんだ!!

 

「ちょっとアザゼル先生!いきなり人の事問答無用で拉致って一体何々ですか!ってライザー!?何で此処に居るんだよ!?」

 

イヤ本当に何でだろうな?

 

そうしてアザゼル先生主導の下、ライザー立ち直り計画【その炎で闇を払え!復活の勇者・ライザー編】が始動した・・・もう如何にでもなればいい

 

 

 

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

ライザー・フェニックスが目を覚ますとそこはまるで見覚えのない城の玄関ホールだった。見渡すと後ろには重厚そうな黒塗りの巨大な扉が在り、窓の外に見える風景は植物そのものが黒みを帯びているかのようで正面にはこれまた巨大な階段が城の奥へ吸い込まんばかりの奥行きを感じさせる

 

もっとも財源の潤ってるフェニックス家に生まれたライザーにとってみれば城の大きさ自体は慣れたものなのだがいきなり知らない場所に倒れていたという事には不安を感じる

 

「おい!誰か居ないのか!?いや待て、そもそも俺は何故倒れていたんだ?確か最後に・・・そうだ!レイヴェルを連れ戻そうとしたらあの男、有間一輝が現れてそれからアイツは城に招待するとか・・・と言う事はまさか!?」

 

「そう、そのまさかだ!」

 

そこまで思考が至った時、被せる様に階段の上から声が降って来た

 

「貴様は!?あの時の赤龍帝か!?」

 

そこに居たのはかつてリアスとの婚約を掛けたレーティングゲームで忌々しくも自分を殴り飛ばした龍の帝王を身に宿した小僧だった

 

下級悪魔の分際で当然のように上に立ち、腕を組んで仁王立ちしているのが神経を逆なでする

 

「久しぶりだな、ライザー・フェニックス。俺・・・私は悪神に仕えるドラゴン。赤龍帝だ!えっと・・・貴様の大切な妹はこの城の一番奥で我が主と共に居る。この先に進みたければ先ずは俺・・・私を倒してゆくがいい!!」

 

先程からチラチラと手元にある紙(カンニングペーパー)を見ながら告げるイッセーに勇者ライザーは炎の翼を出す事で応える

 

だが、戦意を滾らせると同時に僅かに汗をかいているのが見受けられた

 

それもそのはず、かつてライザーはレーティングゲームで自分を直接打ち負かせた赤龍帝を心底恐怖したのだから・・・その感情は後に人間と有間一輝に向いたとは云え、一度トラウマになった対象への感情を完璧に取り払うのは難しい

 

しかし、だからと言って此処で引く訳にはいかないのだ!

 

彼は自分の前方に魔法陣を展開する

 

「さぁ来い!俺の眷属たちよ!あの忌々しいドラゴンを全員で八つ裂きにするぞ!」

 

彼が最初に頼ったのは自分の力ではなく眷属の女の子たちの力だった

 

流石はライザー・フェニックス。戦法としては間違ってないのだろうが勇者としては情けない限りである・・・彼が真の勇者として覚醒するのはまだ少し先の事なのかも知れない

 

だが彼の愛しの眷属を召喚する為の魔法陣は何の効果も現さないままに消えてしまった

 

「馬鹿な!?何故召喚出来ない!?」

 

「無駄だ。ライザー・フェニックス。この城には招待された者しか入る事も出ることも適わない。嘘だと思うのならその辺の窓でも破壊してみるといい」

 

もはやカンペ直読みの赤龍帝が告げる

 

促されたライザーは窓に向かって特大の火炎を投げつけるが在り得ない程に強力な結界でアッサリと自慢の炎がかき消されてしまった

 

堕天使の総督とウィザードタイプで三又に至った黒歌の二重障壁はたかがライザー如きに打ち破れる代物では無いのである―――この二人本気過ぎる

 

「どうした、ライザー?妹を置いて逃げるのであればそんな小者と戦う意味も無い。此処から逃げ出せるようにしてやろう・・・それとも、再び私に敗北するのが恐いのかな?」

 

「ッツ!!上等だぁ!下級悪魔の分際で上級悪魔の俺様に舐めた口を利くと如何なるか!今度こそその身に刻んでやるわ!!」

 

「いくぞ!ドライグ!」

 

『応!最後には態と負けろというのは気に喰わんがな!』

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

ドラゴンの赤と不死鳥の赤が空中で激突し、周囲を赫く染め上げた

 

「態と負けるとか関係無しにギリギリの戦いだったよ」

 

後にイッセーは語った。どれほど殴り飛ばしても立ち向かってくるあの時のライザーはシトリー眷属とレーティングゲームした時のサジほどの根性を感じたと

 

ともあれ赤龍帝を下し階段の奥に行くと先ほどの場所よりも更に一段と広い場所に出た

 

どうやら玉座の間らしく遠くに妹を攫い、他の家族にすらも知らぬうちに手を伸ばしていた邪知暴虐の王がそこに居た

 

アザゼルコーディネートの黒を基調とした軍服で少しだけ金の装飾があしらわれた中二病が頭を過ぎるスタイルだ。無論、生粋の貴族であるライザーはそんな事を思わないであろうことはイッキの僅かな救いである

 

そしてその膝の上には横抱きでドレス姿のレイヴェルが居た―――よく見ると有間一輝の腕の中で顔を真っ赤にして熱に浮かされたように彼の事を見つめている・・・何か怪しい術を掛けられたに違いない!

 

実際はイッセーとライザーが戦い始めた辺りからずっと何時ライザーが来ても良いようにイッキの腕の中でスタンバってたので初めてという事も相まって有頂天になってただけである

 

控室のモニターを見ていた白音は面白くなさそうだ。後で絶対膝の上に乗ると決意した

 

「レイヴェル!貴様妹に何をしたぁぁぁ!!」

 

当然そんな事など知らないライザーは先程まで赤龍帝と戦って疲弊していたなどと露ほども感じさせぬ炎を吹き出し絶叫する

 

「ライザー・フェニックス。良くぞ我が臣下を下して此処まで来たものだ・・・しかし、我が前に立つにはまだ足りない。最後にして最凶の我が下僕を見よ!」

 

ずっとレイヴェルと抱き合い、この訳の分からない雰囲気に中てられたイッキはもはやノリノリである。中二病には適齢期を過ぎても男を狂わす魔力があるのだ

 

広間の空中に巨大な魔法陣が展開され、そこから15メートル級の巨大なスーパーロボットが降って来た!全身から言いようのない真っ黒なオーラを迸らせている

 

≪フハハハハハ!コレは堕天使の技術力を持って作成したお助けロボ、マオウガーだ!サーゼクスに頼まれてな。世界に漂う悪意を吸収して原動力としている為エネルギーが尽きる事はない!とってもエコロジーな逸品だ!≫

 

ロボットの中から音声が響き渡る。どうやら堕天使の総督は乗り込んで直接操縦しているらしい

 

「何いぃぃぃ!?堕天使に・・・サーゼクス様だと!?既に三大勢力の内、堕天使と悪魔は奴の手に堕ちているとでも言うのか!?」

 

トラウマレベルの傷を負った彼にとってはどれほどの悪逆も『あの人間ならば在りうる』で片づけられてしまうようだ

 

≪後でグレイフィアに伝えておかなくてはならないわね≫

 

≪あらあら、ではお父様経由で副総督さんには此方から伝えておきますわ≫

 

≪で・・・でもチョットあのロボット乗ってみたいですぅ≫

 

偶々回線が開いていたのか二大お姉様と元ハーフヴァンパイアの声が聞こえてきた・・・どうやら騒ぎを聞きつけたオカルト研究部の面々が控室に集まっているようである

 

幸か不幸か今の通信が聞こえていなかった彼らはそのまま動き出す

 

≪さぁいくぜ、マオウガー!人間たちの憎悪からなる闇であの不死鳥の炎すら包み消してしまえ!ロケットパーンチ!!≫

 

マオウガーの片腕がライザーに向けられ、どす黒いオーラが集中するとライザーに向かって片腕が飛ぶが流石に予備動作が分かり易過ぎた為か避けられてしまい、玄関の方で盛大な爆発を起こした

 

「ギャァァァァァァァ!!?」

 

遠くで赤龍帝の叫び声が聞こえたのは気のせいであると信じたい

 

≪マオウガーのロケットパンチを避けるとはやるな!だが、俺のマオウガーの力はこんなものじゃねぇ!魅せてやるぜ、ゲームで鍛えた俺様の操縦テクってやつをよぉぉぉ!!≫

 

時折町中のゲーセンに在るダンガムのコックピットに乗って遊んでいる化学の先生は本日最高に輝いている。だが、先ほどのロケットパンチでメインアームを片方無くし、さらには的が小さいのも相まって中々攻撃が当たらないでいた。そして痺れを切らしてもう片方のロケットパンチを繰り出すがやはり避けられてしまう

 

≪チィ!おいイッキ!見てないで参戦しろ!部下のピンチだぞ!≫

 

「いやいや、最後に負けるべきとか言ってたのアザゼル先生じゃないですか。後、仮にも部下は上司に向かって『参戦しろ』なんて言わないでしょうに・・・まぁ良いです。細かい事を気にしたらダメなんでしょう。でもロボットの手助けを気弾でするのも味気ないのでちょっと趣向を凝らしましょうか―――システムコール!認証システム、対象、有間一輝!有馬家緊急時迎撃システムマニュアル操作。光力砲2門展開!ファイア!!」

 

彼が夏休み前にアザゼルに手渡された堕天使の技術の詰め込まれた家のマニュアルを先生に言われた通りキッチリ読み込んだ彼は自分の座る玉座の左右にメカメカしい砲門を出現させるとそこからレーザー(堕天使の光力)を撃ち放つ!

 

「何ぃ!?光による攻撃だと!?何処までも卑怯な人間め!妹の為、悪魔の未来の為!貴様は刺し違えても此処で倒さねばならないようだなぁ!火の鳥と鳳凰、不死鳥フェニックスと称えられた我が一族の劫火!その身で受け燃え尽きろォォォ!!」

 

そこに居る冥界の未来を背負って戦うライザーはもはや引きこもりなどでは無かった

 

彼のような若者が居るならきっと冥界の未来は明るいだろう

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

 

 

「もう!お兄様ったらイッキ様の事を誤解し過ぎですわ!イッキ様は野心が強い方ではありませんので世界を裏から牛耳ろうと何てしていませんし、身内にはとってもお優しい方ですのよ!」

 

「し・・・しかしだなぁレイヴェル。やはり弱い人間などに・・・」

 

「イッキ様は最上級悪魔クラスの実力はお持ちですのよ?それに切り札も含めれば魔王級と言っても過言ではないかも知れませんわ」

 

「だが恋愛だと言うのであれば悪魔と人間では寿命の問題も・・・」

 

「イッキ様は不老長寿の薬を飲まれたとかで寿命も悪魔と同じく一万年はあるそうですわ」

 

「特別な生まれでも何でもないそうじゃないか・・・フェニックス家の者として家柄のつり合いという事も考えなくては・・・」

 

「ご存じですわよね?イッキ様は西日本を統べる妖怪の姫君の婚約者です。将来的には十二分につり合う相手ですわよ?」

 

戦いが終わった後、人間恐怖症は無くなったようだが、ライザーがなおも俺の事を扱き下ろしてくるのに怒ったレイヴェルがライザーが俺とレイヴェルの仲を認めようとしない発言を尽く切り捨てている

 

正直俺としてはこの兄妹のやり取りを聞いているのはかなりむず痒い気分だな

 

暫く言い争って・・・もといライザーが言い負かされているとガックリと項垂れた後、此方を睨みつけて近づいて来た

 

「やい、貴様!もしもレイヴェルを幸せにしなかったらその時はその魂の一片までも燃やし尽くすぞ!精々覚悟しておくんだなぁ!」

 

ライザーはそれだけ言うとさっさと転移魔法陣で冥界に帰って行ってしまった

 

「まぁアレだな。レイヴェルの為にトラウマを押してでも駆けつけてくれた事には変わりないんだし、理想的とはいかなくても良いお兄さんではあるんじゃないか?」

 

少なくとも身内にはね・・・リアス部長に取ってた態度はマイナスだけど、その辺りの変化も今後ちゃんと見受けられるようにはなっていくのかな?

 

「ふふ♪そうですわね。私もお兄様のあんなに必死になって戦う姿は初めて見ましたわ」

 

すると黒歌が後ろから抱き着いて来た

 

「ふふん!私の采配に間違いは無かったにゃん♪華麗な頭脳プレーに惚れ直してもいいのよ?」

 

「はいはい、黒歌には毎日惚れ直してるよ」

 

ぶっちゃけ偶々成功しただけだろうにこの悪戯猫は図々しい限りだな

 

「・・・・・・・不意打でそれはちょっとズルいにゃん」

 

後ろで黒歌がボソボソ言ってるけど俺何か変な事言ったかな?(←ノリノリスタイルが抜けきってない)

 

それからリアス部長に「ライザーの事、有難うね」と少し複雑そうな顔をしながらもお礼を言われたり、アザゼル先生がシェムハザさんに耳を引っ張て連行されるのを見送ったり、白音が俺の膝の上から暫く離れなかったりしながらも俺達2年生組は京都への修学旅行が間近に迫ってきていた




次回からはパンデモニウム編ですねwやっとアニメ4期に入っていけますww

途中フェニックス家の次男の名前が出てきますが公式じゃないのであしからずw
ただフェニックス家の子供って『ラ』イザーに『ル』ヴァルに『レ』イヴェルと皆ラ行で始まるので多分『リ』か『ロ』で始まる名前だとは思うんですよねw


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第10章 修学旅行はパンデモニウム
第一話 次期当主との、殴り合いです!


ギリギリ書き終えた~~!!一日三話とか死ぬ!!


修学旅行を明日に控えた今日、俺達オカルト研究部は冥界のグレモリー領に来ていた

 

リアス部長の眷属が先日ロスヴァイセさんが加入した事により全枠が埋まったので現当主への顔みせの意味合いがあるそうだ

 

レイヴェルはまだ駒王町スタッフの仕事を元々スケジュール一杯まで詰め込んでいたので今回は冥界に来る事は見送ったが俺とイリナさんは折角なので一緒にどうかとリアス部長に誘われたこともあって同行させてもらった

 

黒歌には「お土産買ってきて」と言われたから帰り際に適当に買うとしよう

 

後、ロスヴァイセさんが悪魔になってから初めての冥界なのでグレモリー所有の列車で行くことになったがさり気にこの列車に乗るのは初めてだったな・・・途中リアス部長がグレモリー領の地図をロスヴァイセさんに見せて「何処の土地が欲しい?その土地は貴女の物よ」と言われた時には目玉が飛び出る勢いで驚いていたな

 

少なくとも北欧のヴァルキリー部署よりは待遇は破格と言っていいほど違うらしいけど最初に取り敢えず広大な土地を貰えるグレモリー眷属と比較したらダメだろうに

 

そして今はグレモリー当主のジオティクスさんと奥方のヴェネラナさんと長い高級テーブルを囲んで挨拶している所だ。俺は前に挨拶自体はした事があるので今回のメインはロスヴァイセさんと同じく初めてこの家に来るイリナさんだ

 

「ロスヴァイセさんは教育事業に関心がおありだとか?」

 

「はい。北欧の魔術を教える学校のようなものを立てて、将来的には悪魔からヴァルキリーを輩出出来ないか試していきたいと思います。他にも日本のお店をリスペクトした店舗なども設立して経済も廻していけたらと思っております」

 

「はっは!やる気に溢れているようで結構。グレモリーの当主としては期待が膨らむばかりだよ」

 

ジオティクスさんは笑っているけどロスヴァイセさんの店舗設立ってもしかして百均か?百均への熱意を語ってる所は見た事ないけど連日百均の袋を提げて帰宅してるらしいしやっぱり百均か?

 

「天使の私がこうして上級悪魔の家にお邪魔出来る何て光栄の限りです!コレも主とミカエル様、そして魔王様のお陰ですね!」

 

「天使のイリナさんにそう言って貰えるとはサーゼクスや他の魔王もやりがいが出るというものだろう―――そうだ。丁度今居住区の方にサーゼクスが戻っている」

 

「お兄様が?」

 

「ああ、それと一緒にサイラオーグも来ている。先ほどリアスたちが来ると話していたのだが、是非挨拶したいと言っていたのでな。この後顔を見せに行っておくれ」

 

「サイラオーグまで来ていたのですね。分かりました。後で皆でご挨拶に伺います」

 

それから少し雑談(ヴェネラナさんの漬物好き発言など)をしてから皆で居住区の方に歩いて行く

 

「サーゼクス様か・・・どんな顔して会えば良いのやら」

 

隣に居たイッセーが独り言ちる。その顔は苦虫とまでは行かないまでも癖の強いものを噛んだような微妙な表情だ

 

「確か戦隊ヒーローなサーゼクスさんと戦ったんだったか?」

 

俺が先日引っ越してきたレイヴェルの買い物や学校見学に行ってる時にイッセーはイッセーで訳の分からない事態に巻き込まれていたらしい

 

「ああ、四大魔王とグレイフィアさんって云う冥界のトップ戦力による戦隊ヒーローたちが次々試練を出してきてな。最後にサーゼクス様とも戦ったけど完全に弄ばれてたよ。それと全部終わった時、ベルゼブブ様にアドバイスと一緒に変な事も言われたな」

 

「アドバイスは兎も角、変な事って何だよ?」

 

「ああ、アドバイスは俺はまだ『女王』の力を使いこなせてないから先ずは他の駒への昇格でそれぞれの駒の力の流れを知れって云うのだったけど、他に俺の体や悪魔の駒(イーヴィル・ピース)に未知の力が溜まりつつあるとか何とか・・・でも未知の力なんて言われても心当たり何て無いしなぁ」

 

むしろ俺としては心辺りしかないけどな。多分アレだろ。ピー(チチ)をよく取り込んでいる事による乳力(ニューパワー)だったりするだろ

 

そうこうしているうちに前方にサーゼクスさんとサイラオーグさん、そして楽し気にサーゼクスさんと一緒に居るミリキャスが居た。ミリキャスには一応夏休みにこの家にお邪魔した時に出会ってはいる―――とは云えすぐに帰ったことも在って軽い挨拶程度だがな

 

「お兄様。此方にお戻りになられていると聞きましたのでご挨拶に伺いました」

 

「リアス。そうか、気を遣わせてすまないね。丁度今サイラオーグと今度のレーティングゲームの事について話し合っていた所なのだよ」

 

サーゼクスさんがそう言うとサイラオーグさんが鋭い眼光を俺達に向けてきた

 

以前出会った時よりもかなりオーラが増してるな。とても力強いオーラだ・・・後ろでギャスパーが「っひぅ!」と情けない悲鳴を上げている。ビビり過ぎだ、頑張れ男の娘

 

「お邪魔をしている。元気そうだな、リアス、赤龍帝、有間一輝」

 

「ええ、貴方こそ元気そうで何よりだわ。今日はどうして此処に?」

 

「うむ。バアル家の特産品を持ち寄らせて頂いたのだ。弟が品種改良を施したリンゴがまた一段と美味くなってな。機会があれば是非食べてみてくれ。それと、先ほどサーゼクス様にお願いしていた所なのだがお前たちとのゲームでは個人に制限を掛けるようなルールを除外して欲しくてな」

 

「ッツ!それは、こちらのチームの不確定要素を全て受け入れるという事かしら?」

 

「ああそうだ。ヴァンパイアの時間停止も赤龍帝の破廉恥な技も全て受け入れたい。本気の相手と戦う気概も無ければバアル家の次期当主を名乗れるはずも無いからな」

 

サイラオーグさんの何処までも真っ直ぐな言葉を聞いてリアス部長も何だか嬉しそうだ

 

どんどんと戦意を昂らせる彼らの姿を見てサーゼクスさんが一つの提案をする

 

「丁度良い、サイラオーグ。赤龍帝と拳を交えたいと言っていたね」

 

「ええ、確かに以前そう申し上げましたが・・・」

 

「なら、軽く手合わせするのは如何だろうか?」

 

サーゼクスさんの提案にイッセーが驚いているな

 

「それは素晴らしい事です!・・・ですが、もし宜しければもう一つ、我が儘を言っても良いでしょうか?」

 

喜びながらも更に条件を付け加えるサイラオーグさんだけど、そういう事を言う人だったかな?

 

「ほう?サイラオーグがそのような事を言うのは珍しいね。言ってみたまえ」

 

サーゼクスさんも少し驚いたようだが気になったのか続きを促す

 

「はい。以前、有間一輝とも拳を交える約束をしています。彼とはレーティングゲームで戦うような事もありませんのでこの機会に是非とも戦ってみたいのですが」

 

サイラオーグさんの眼光が今度は俺一人を射抜く。確かに以前約束しましたね

 

「サーゼクスさん。俺としては問題ありませんよ」

 

「そうか、有難う。リアス、キミは如何だい?」

 

「お兄様―――いえ、魔王ルシファー様がそうおっしゃられるなら断る理由がありませんわ・・・イッセー、イケるわね?」

 

「は・・・はい!」

 

こうして急遽模擬戦が決まり、グレモリーの地下にある特設のトレーニングルームに移動する事となった。最初に戦うのはイッセーだ

 

サイラオーグさんとしては連戦という形にはなるがそんな事を気にする人じゃないだろう

 

「ドライグいくぞ!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

地味に修行で変身するまでの時間が40秒から30秒に減ったイッセーが禁手(バランス・ブレイカー)となり、背中のブースターで真っ直ぐに距離を詰めてフェイント無しのストレートを放つ

 

だがサイラオーグさんは腕組みしたままでイッセーの拳を額で受け止めてしまった

 

辺りに硬い物同士がぶつかったような爆音が響くがサイラオーグさんは身じろぎ一つしない

 

そこから始まる戦いはサイラオーグさんが只管に『力』を振りまく戦いだった

 

赤龍帝の『力の塊』というキャッチコピーを物理で吹き飛ばす肉弾戦だ

 

「イッセー君の赤龍帝の鎧が拳の余波だけでボロボロになっていく。彼の攻撃は紙一重で避けるだけではダメージを受けそうだ」

 

「あらあら、映像で見るのと実際にこの目にするのとではやはり違いますわね。いえ、以前のレーティングゲームの映像の時期から時間も経っていますし参考程度にしかならないのでしょう」

 

「ええ、実際に私達が戦う時にはもう一段上の実力は最低限想定しなければいけないわね」

 

皆が分析と感想を溢す中、彼らの戦いは次に進む

 

イッセーが『戦車』に昇格(プロモーション)して腹で拳を受けると同時に右腕で打ち込まれた拳を絡めとり、左のフックがサイラオーグさんの顔を撃ち抜いた

 

サイラオーグさんは鼻血と僅かに口を切っているのに対してイッセーは割と普通に吐血している

 

クリーンヒットのイッセーに対してサイラオーグさんの攻撃はクリティカル判定だ。抗えないとまでは言わないが地力の差は明白だ

 

「ふむ。此処までにしておこうか」

 

「そんな!俺はまだまだやれます!」

 

終わりを口にしたサイラオーグさんにイッセーが戦えると口にするがサイラオーグさんはそんなイッセーの肩に手を置く

 

「勿論だ。俺もお前もまだまだ戦える。それにお前にはまだ白龍皇の力というのも在るのだろう?俺もそれを味わってみたいが元々コレは軽い手合わせだ―――これ以上戦うと楽しくなって歯止めが利かなくなりそうなんでな・・・それと先ほどの『戦車』の攻防で分かった。お前は今、何かに目覚めようとしているな?俺たちの決着はレーティングゲームの場こそが相応しいだろう。その時、お前が手にしているであろう新しい力でもって改めて殴り合おう」

 

サイラオーグさんはそう言ってイッセーに拳を突き出す

 

「っはい!」

 

イッセーも拳を突き出してお互いの拳をぶつけ合った

 

「さて、なら次は俺だな。グレイフィアさん、こっちは軽い手合わせにする理由も無いので少し派手になるかも知れません」

 

観戦席のミリキャスと一緒に居たグレイフィアさんに声を掛ける

 

「分かりました。こちらには私が結界を張っておきましょう」

 

「有難うございます」

 

折角なので細かい事を気にしないで戦えるようにしてもらう事にする

 

鎧を解除したイッセーが此方に来てアーシアさんの治療を受けているのを確認して俺はサイラオーグさんと審判役のサーゼクスさんの居る場所に向かった

 

「俺の突然の我が儘に付き合ってくれて礼を言うぞ。有間一輝」

 

「いえいえ、偶にはこういった何の気兼ねも無い真っ直ぐな戦いも悪く無いと思います―――もっとも、俺は人間ですからね。小賢しい真似の一つや二つは盛り込むとは思いますよ?」

 

「是非もない。どんな手でも存分に使うが良い。第一、事前にそんな事を告げている時点でお前の根底の人の好さが露呈しているぞ?」

 

そんなものですかね?

 

「二人とも、準備は良いかな?」

 

「「はい!」」

 

「では・・・始めたまえ!」

 

開始の合図と同時にサイラオーグさんが真っ直ぐ突っ込んで来た

 

繰り出されるのは愚直なまでの右ストレート―――それを俺は額で受け止めた

 

先程のイッセーとサイラオーグさんの戦いの構図を逆転させた感じだ。勿論俺がこんな舐プみたいな真似をしたのには理由がある

 

なにせ戦いはまだ準備段階(・・・・)だったからだ。俺の中で試合開始のゴングはまだ鳴ってすらいない

 

「サイラオーグさん。先ほど準備は良いと言ってましたが本当にそのまま(・・・・)で良いんですか?」

 

俺が問いかけると彼は驚いた表情になった後、すぐに心底嬉しそうな顔に変わり距離を取った

 

「そうだったな。兵藤一誠と違い、次にお前と闘えるのは何時になるのか分からんのだったな。ならば!遠慮なくこの枷を外させて貰おう!」

 

宣言と共にサイラオーグさんの手足に魔法陣が浮かび上がり、それが霧散すると彼の闘気が更に高まった。今の彼なら先程の『戦車』・・・いや、例え『女王』で強化されたイッセーでも負けるだろう。それくらいオーラが跳ね上がった

 

「行くぞっ!!」

 

先程の一撃とは比較にならない速度で迫る彼の拳を彼と交錯する一瞬に跳び上がり、サイラオーグさんの頭に手を置いて前方宙返りを決めながら躱し、体が一回転するタイミングで背中を思いっきり蹴り飛ばす

 

元々俺に対して突貫していた勢いの上に進行方向に蹴り飛ばされたサイラオーグさんはかなり遠くまで吹っ飛んだな

 

硬気功で防御力の上がった俺だけど近接戦における俺の戦闘スタイルはイッセーやサイラオーグさんのように殴り合うものじゃない。相手の攻撃を捌いてカウンターを入れるのが基本戦法だ

 

変える必要はないし、変えようとも思わない

 

「ハハハハハハハ!見事だ!此処まで盛大にやられたのは久しぶりだぞ!」

 

土煙の中からさっきよりも闘気を高まらせたサイラオーグさんが現れた。戦意が闘気に影響を及ぼしているようだな・・・足元とか立ってるだけでバキバキ鳴ってるし

 

それから始まる殴り合い―――何度かカウンターを入れたけどダメージは通ってても倒れる感じがしない。ずっと張り付かれると脳のリミッター解除に負担が掛かるからこそ相手を吹き飛ばす攻撃が多いのだが吹き飛ばした端からクロスレンジに持ち込んでくるからさっきからリミッターがONとOFFを行き来しまくってる。これはこれでキツイな!

 

仙術使いの俺は近接戦では強いとされているけど、サイラオーグさんには気を乱すタイプの攻撃は効きづらいんだよな!闘気と言うのは元々は自身の生命エネルギーを爆発させる仙術の一種だからサイラオーグさんレベルで闘気を纏ってるとその勢いに押されて仙術で干渉しにくいのだ

 

まぁ俺も黒歌の仙術への抵抗力は強いからな・・・それと同じ事を筋トレの果てに習得したサイラオーグさんは頭可笑しいと思う

 

だから俺も途中から仙術で気を乱すのは止めて闘気の出力の方に力を割り振ってトレーニングルームを縦横無尽に走り回って拳や蹴りでクレーターを作っている所だ

 

そんな中、一瞬サイラオーグさんが視線だけでサーゼクスさんの方を見てから殴るのではなく取っ組み合う形で近づいて来た。そして小声で話しかけて来る

 

「(有間一輝。伝えたい事がある)」

 

傍目には掴み合って力押しし合っているように見える体勢だ・・・サーゼクスさんの耳にも届かないように自然と距離が離れたからこそ、この形で声を掛けて来たのだろう

 

「(何でしょう?)」

 

「(母上が目を覚まされた)」

 

そうして告げられたのは中々に衝撃的な内容だった。そっか、スッポンの生き血は不治の病すら癒すんですね

 

「(あの薬の検証自体は思いのほか早く終わってな。先日、母上が目を覚まされたのだ。だが、俺は今まで恩人たるお前に礼の一つ言っていない。本当に済まなかった)」

 

サイラオーグさんが謝るがそもそも彼が忘れていたとは思えない・・・かと言って理由があろうと言い訳するタイプの人でも無いからな

 

サイラオーグさんが俺に連絡を取らなかった・・・いや、取れなかった理由って何だ?

 

少し考えると答えは出た

 

「(薬の出所、黙っててくれたんですね)」

 

「(・・・当然の事だ)」

 

サイラオーグさんの母親の病は悪魔の世界の不治の病。それを治療できる薬の出所は当然お医者さんたちに詰め寄られた事だろう

 

そんな中で謎の薬で母親が回復した後ですぐに今まで殆ど交流の無かったはずの俺とサイラオーグさんが連絡を取り合おうとすればどうぞ疑って下さいと言ってるようなものだ

 

秘密裡に連絡を取ろうにもバアル家の他の家臣は言っては何だがサイラオーグさんにとって敵に近いし、三大勢力の和平の象徴である駒王町の俺と連絡を取ろうとすれば必ず記録に残るだろう

 

俺の家に純粋な熱意を持ったお医者さんと薬の生み出す利益に目のくらんだ貴族たちが押しかけて来る光景が目に浮かぶようである

 

あ~、考えるとかなりこの件で気を遣わせてしまったな。逆に申し訳ないくらいだ

 

「(ではこの後、サーゼクスさんとリアスさんには話を通しましょうか)」

 

「(良いのか?)」

 

「(情報規制もやり過ぎが原因で身動き取れなくなったら意味ないですからね・・・さて、ではそろそろ再開しましょうか―――)此処からは『人間』の戦いを魅せて上げましょう!」

 

「ああ!存分にお前の『人間』を見せてくれ!」

 

組み合った状態から俺は相手の体勢を崩しにかかる―――本来、十二分に警戒している相手を崩すと云うのはかなり難しい。しかし、密着状態というのは相手にダイレクトに力を伝えられる状態とも云える・・・一瞬でも相手の意識を崩す事が出来れば技を掛けられるのだ

 

「南無阿弥陀仏!!」

 

「ッグ!」

 

俺の突然の仏教用語にほんの僅かだが彼の体が弛緩したので、その隙をすかさず突いて背負い投げで地面に叩きつける

 

そうして追撃として足に膨大な闘気を集中させてとある場所(・・・・・)の近くに落ちる様にサイラオーグさんを蹴り飛ばした

 

「まだまだいきますよ!」

 

サイラオーグさんが吹き飛んだ方向に走り寄りながら異空間から前に作ってもらったアザゼル印のアイテムを取り出す・・・構造自体は単純だからすぐに作ってくれました!

 

出てきたのはバングル的なスピーカーだ。戦闘でも邪魔にならず且つ頑丈最優先で作ってもらったそれに付いているボタンを押すとそこから只管に『南無阿弥陀仏』が繰り返し再生される

 

勿論さっきの俺がサイラオーグさんにやったのは俺の【神性】でブーストが掛かってたが何時ぞやのライザー戦でやったように肉声を直接届けた訳でもないただの『南無阿弥陀仏』では頭がズキズキ痛む程度の事だろう・・・でも、ウザいでしょ?

 

普通の悪魔なら魔力で耳栓すれば聞こえなくなるだろうがそれはつまり戦闘において聴覚を封じる行為に他ならないし、魔力の扱いが下手であろうサイラオーグさんは耳栓の魔力なんて例え作ろうとしても作れるはずが無い

 

壊れたスピーカーのように延々と垂れ流される悪魔に対する固定ダメージはどれだけ気力を張っても消耗が加速する事間違いなしだ!100メートルは先の人の会話すらも聞き取れる耳の良さが在れば戦闘音の中でも聞き取ってしまうだろう

 

此処から先は一気に決めるべく筋肉も脳もリミッター解除してこっちから攻勢に出る

 

サイラオーグさんが突き出してきた右こぶしの手首の辺りを左手で掴み一気に引っ張る事で踏み込む勢いと合わせて彼の部厚い胸板が急接近してくるのでその真ん中に右腕を折りたたんで繰り出す肘打ちを仕掛ける

 

確か攉打頂肘(カクダチョウチュウ)とか言ったっけな?

 

「ゴフッ!!」

 

胸のど真ん中を撃ち抜かれたサイラオーグさんが肺の中の空気を吐き出す

 

更にそこから掴んだ左腕を基点として振り回して遠心力を持って投げ飛ばした

 

さて、投げ技や吹き飛ばし技を多用する俺だけど、当然吹き飛ばされた先が硬い程加速度的に威力を増す―――マットの上で柔道するのと分厚い鉄板の上で柔道をするのでどっちか危険なのかなんて言うまでもないだろう

 

しかし、悲しいかな。裏の世界の膂力を手にすると大抵の壁や地面は柔らかい部類に入ってしまう所があるのだ・・・それを踏まえた上でこの場でもっとも硬く、叩きつけられる場所と言ったら何処なのか?

 

答えは『グレイフィアさんの張った結界』だ!

 

それこそ彼女なら必要とあらば一瞬で結界をより強固なものに変えてくれるだろう・・・一応万が一結界が破れても誰も居ない場所には投げたけどな

 

観客を守るための安全装置くらいは戦術に組み込まないとね!

 

”ドバァァァァァン!!”

 

馬鹿みたいな衝突音が聞こえてサイラオーグさんの全身に逃げ場のない衝撃が走る

 

ちょっと観客の力も利用しただけの純粋なる一対一(サシ)の勝負だ!―――文句はイエローカードを切らない審判役の超越者魔王様(サーゼクスさん)へどうぞ

 

だがまだ終わりではない!彼がそこから離脱する前に猛然と拳と蹴りのラッシュを浴びせる

 

腹を殴れば内臓が潰されるような感覚が走り、顔面を殴ればそのまま後頭部が結界に激突し、脳まで揺さぶられるだろう―――しかし、明らかに俺よりダメージを受けて血を吐いているのにも関わらず彼は笑って殴り返してきた

 

「楽しいなあ!有間一輝!今まで格上とは幾らでも戦ってきたが、それは基本魔力によるものだった。此処まで体術で圧倒されたのは初めての経験だぞ!」

 

ボロボロになっていくのに殴り返して来る拳の重みがドンドン増している感じだ。これだけの連続攻撃だと一々ピンポイント防御をすれば何処かで失敗するので全身に闘気を行き渡らせているのだがそうなると殴られた部分が痣が出来てるな

 

もしも硬気功を習得していなかったら骨も折れてただろう・・・まぁその時はもっと戦い方を変えたとも思うけどな

 

だが遂にサイラオーグさんが自ら殴り飛ばされる形で結界を背にした場所から離脱した

 

流石にあのままでは不利と思ったのだろう

 

口の中が切れたのかタパタパと血が滴り落ちている上に片目も腫れ上がっている

 

サイラオーグさんの視界が鈍っているのを好機として俺は仙術の分身をその場に残して彼の目を誤魔化し、その隙に腫れ上がって視界が利かない方向に瞬時に回り込んで全力の回し蹴りを側頭部に向かって撃ち放つ!

 

サイラオーグさんは視覚外からの攻撃に反応出来ていない!

 

「そこまで!」

 

攻撃が当たる直前でサーゼクスさんから試合終了の合図が掛かった

 

「サイラオーグ。最後のイッキ君の攻撃に対して完全に反応出来ていなかったね?残念ながら今回はキミの負けだよ・・・さて、イッキ君。素晴らしい戦いだったが、一先ずそのスピーカーを止めてもらっていいかな?」

 

「あ!はい!」

 

まだ流れていた『南無阿弥陀仏』を止めると観戦席に居た皆も近寄って来た。その中でも先頭に居たアーシアさんが走り寄ってきてサイラオーグさんに癒しの光を当てる

 

「アーシア・アルジェントか、済まないな。恩に着る」

 

「いえ、怪我を治すのが私の使命ですから!イッキさんもすぐに治しますね」

 

「うん。有難う」

 

アーシアさんは本当に直ぐに治療を終えて、俺の傷も数秒で治してくれた―――やっぱりアーシアさんは回復力はチートクラスだよな

 

「負けてしまったか。負けるのは久しぶりなのだが、やはり悔しいものだな。もっと鍛錬を積まなければ!結局有間一輝の切り札を切らせる事も出来なかったからな」

 

「いえいえ!俺の切り札って殆ど使ったら相打ちでぶっ倒れるようなものばかりですから!」

 

使った時点で半分負けみたいなものですからね!

 

「それでもだ。そこまで追い込めなかったのは俺の弱さゆえ。帰ったらさっそく修行しなくてはな―――俺の気が収まらん!」

 

そんな風にサイラオーグさんが滅茶苦茶気合を入れている中で少しだけサーゼクスさんとリアス部長を交えて4人で話したい事が在ると伝えて皆には待っていてもらい少し離れた場所に移動する

 

そこでサイラオーグさんの母親を目覚めさせた出所不明の薬の事をやはり入手先は明かせない事も含めて説明する事になった

 

この二人なら話しても良いだろうからね

 

「そうだったの。ミスラおばさまが目覚められたと聞いた時は思わず飛んでいったものだけど、まさかイッキが関わっていた何てね。私からもお礼を言わせて頂戴」

 

「ああそうだね。イッキ君、私からも感謝の言葉を送らせておくれ。有難う。ミスラさんには私も何度もお世話になった事があってね。魔王の私が行くと色々と問題が在るのが面倒ではあるのだが、実はせめて手紙だけでもとサイラオーグに渡した所でもあったのだよ」

 

「はい、必ず母上にお渡しします!」

 

「事情は分かった。リアス、キミならばサイラオーグと遣り取りをしても下手に勘繰られる事もない・・・これから暫しの間、彼とサイラオーグの間を取り持ってくれるかい?二人が普通に出会っても可笑しくないように此方で演出しよう・・・そうだ!サイラオーグ、もし良かったら今度『おっぱいドラゴン』に友情出演してみないかい?普段は変装したスタッフが演じているのだが、今度是非本人たちでステージに出て欲しいとオファーが来ていたのだよ」

 

何とサイラオーグさんが一足先に『おっぱいドラゴン』デビューですか!?

 

「成程、そこで有間一輝と表向きの友誼を深めろという訳ですね?それに、冥界の子供たちに笑顔を届けるおっぱいドラゴンには以前から興味がありました。是非とも出演させていただきたい」

 

サイラオーグさんは楽しそうに笑みを浮かべているけど体から可視化した闘気を迸らせなくとも良いですよ!?どんだけ本気なんですか!?

 

「母上も一度お前に直接会いたいと言っていた。近い将来、バアル領を案内しよう。それではサーゼクス様、俺はこの辺りで失礼します。ではな有間一輝!―――そしてリアス、レーティングゲームは楽しみにしている」

 

「ええ、私もよサイラオーグ。お互いゲームでは全力を賭しましょう」

 

そうしてサイラオーグさんは帰って行き、俺達も人間界へと戻って行った

 

・・・後日リアス部長経由で彼からの手紙と一緒にバアルの特産品やら出来るだけ嵩張らない宝飾品やらが届いた。手紙に書かれている内容曰く、『お前は余り財に頓着するタイプではないだろうが持っておいて損は無い。もしも希望が在れば返信してくれ』との事だった

 

まぁ俺も長い生になる訳だからお金が要らない何て事は無いし、異世界のスッポンの生き血とトントンの価値だとしても今回送られた程度のものにはなるみたいだ・・・ヤベェ、俺小瓶一つで豪邸が建つレベルの物を懐(異空間)に仕舞ってたのか

 

因みにバアルのリンゴはとっても美味しかったです

 

そっちの方が感動する辺り貴族と庶民の差が出るな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、修学旅行当日の朝、黒歌も白音もレイヴェルも中々放してくれなかったので出掛けに3人を一人一人"ギュッ"とハグした

 

親も居たからキスは無理だったけど朝から顔から火が出るかと思ったよ

 

東京駅の新幹線ホームに着いた時に見送りにはリアス部長と黒歌が居た

 

他の皆は授業が在るし、レイヴェルは予定が詰まってるからな―――一応昨日九重にイヅナで連絡を取った時は何も問題は起きてないとの事だったけど英雄派が如何動くか・・・つーか来るな!

 

そんな事を思っているとリアス部長が悪魔の皆に悪魔でもダメージを受けずに神社・仏閣を回れる特別フリーパス券を渡していき、最後に少し離れた所でイッセーにキスをしている所が見えた

 

「あらあら、お熱い事にゃん♪」

 

「アレでまだ付き合ってないってのは傍から見たら冗談にしか映らないよな」

 

「ふふん!そうね♪こんな風にね♪」

 

そう言って黒歌は俺の顔を掴んで強めのキスをしてきた!

 

「にゃはは♪行ってらっしゃい♪」

 

「ああ、行ってきます」

 

そうして俺とイッセーは新幹線に乗り込んだ

 

「・・・顔がニヤけてるぞイッセー」

 

「・・・そのセリフ、鏡を見てから言えよイッキ」

 

「「・・・・・・・・ック!!」」

 

折角の修学旅行だからな。楽しめる所は楽しんでいかないとな!




投稿するとまず最初にマイリス数がめっちゃ下がるのに文才の無さを感じる


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第二話 旅行と、不穏な陰です!

今回戦闘シーンまで持っていけなかったので2話分書きました!


俺達駒王学園2年生を乗せて京都への修学旅行に向かう新幹線の中で俺とイッセーは隣り合った席に座っていた―――まぁ俺とイッセーに松田、元浜は同じグループなので移動も基本的には近くに居るのが当然だと云える

 

中学生の時の修学旅行の時と(少なくとも男子は)全く同じ構成なのは腐れ縁のようなものを感じると云うかなんと云うか

 

今は新幹線の席を一部反転させて4人が向かい合って座れるように調整し、俺とイッセー、祐斗、ゼノヴィアが座っている・・・祐斗はクラスが違うから本来別の車両だが軽い日程確認の為に一時的にこっちに来ていた

 

「そっか、教会にデュランダルを預けてて今は手元に武器が無いのか」

 

今は丁度ゼノヴィアから『私は丸腰』と報告を受けてた所だ。一応裏に関する事なので周囲に軽めの認識阻害の結界を張って置いたので周囲は此方に意識を向けてはこないようになっている

 

「ああ、デュランダルの威力を落とさずに勝手に周囲を破壊する攻撃的なオーラだけを抑える術が開発されたらしくてね。まぁ私が未だにデュランダルに振り回されていると大声で宣伝するようなものだから情けない限りでもあるのだがな」

 

「了解。いざとなったらアスカロンを貸せば良いんだな?」

 

「というかゼノヴィアは異空間にデュランダル以外の剣をしまったりしていないのか?サブウェポンは持っていた方が良いと思うぞ?」

 

俺の場合は神器だし、仮に使えないなら格闘術って事になるけどな

 

「そうだね。僕やイッキ君の持つ剣は神器によるものだから基本的に紛失や破損を気にしないで良いけど、今後デュランダルを調整したりする度に丸腰になるっていうのは少し問題かもね。何時だってイッセー君や僕が剣を貸せるとは限らない訳だし」

 

祐斗の意見にゼノヴィアは思い悩むように告げる

 

「もっともな意見なのだが、ただの剣では流石に強度が心許無いし、デュランダル程でなくとも聖剣なんてその辺に転がっている物でも貸し出してくれる物でも無いからな」

 

確かにな―――メインで使っていくなら兎も角、基本はタンス(異空間)の肥やしにします何て云うなら、貸し出してくれるような場所は無いかも知れん

 

以前までは破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)があった訳だけどな

 

「なら、取り敢えずコレを持っておくか?」

 

異空間から(コッソリと)取り出したのはよく素振りに使っていた木刀。洞爺湖の名を持つ、またの名を『星砕き』である

 

「それは確かイッキ君が仙人から譲り受けたという木刀だったね。以前より存在感が増している気がする・・・成程、成長する武器とは珍しいね」

 

祐斗が色々と盛大に勘違いしているが実はこの木刀は神性を持つ俺が毎日ずっと気を流し込んでいたり、素振りで血豆が潰れたりして僅かながらも直接神性込みの血がしみ込んだりした影響なのか『御神木から削り出した木刀』程度の霊剣的な存在に地味にクラスアップしていたりするのだ

 

ゼノヴィアが聖剣を扱う要領で使えば少なくとも簡単に壊れたりはしないだろう

 

「済まない。確かにこれなら京都で普通に持っていても違和感はないだろうな。聞くところによれば学生が京都に修学旅行で赴く際には必ず木刀を購入し他校の生徒と合戦をして観光スポットの優先権をもぎ取るのが習わしだと聞くぞ」

 

前半は兎も角、後半がかなり物騒な勘違いしてるな・・・頼むから先手必勝で他校の生徒に切りかからないでくれよ?

 

「さて、万が一の際のイッセー君たちの観光ルートも分かったし、あまり他クラスの僕が此処に居続けるのも悪いからもう行くよ」

 

「そうだな。私もデュランダルの件は伝えたし、アーシアやイリナ、桐生の所に戻るとするか―――実は桐生から修学旅行における様々な夜のアドバイスがあると言うのだ。修学旅行とは観光だけでなくホテルの夜にも何やらイベントが一杯らしいからね」

 

祐斗とゼノヴィアはそれぞれ元居た場所に帰っていった

 

そしてイッセーが首を捻りながら問いかけて来る

 

「なぁイッキ。俺達の泊まるホテルで夜に何かイベントをやる何て日程に書いてあったか?」

 

「・・・何でお前は時々そこまでピュアになれるんだよ。天使かお前は?」

 

桐生さんのアドバイスって時点でお察しだろうに

 

「何言ってんだ?悪魔だよ俺は」

 

その後、俺がトイレに行って戻って来ると松田が元浜の胸を揉みしだいている所に出くわした

 

「うおおぉぉぉぉぉ!おっぱいぃぃぃぃぃ!!」

 

「松田ぁぁぁ!?貴様一体何をする!?男の乳を揉んで何が楽しいぃぃぃ!?」

 

「ハ!?俺は一体何を!?なぜかいきなり何でも良いからおっぱいを揉みたい衝動に駆られて!」

 

松田が急に我に返って自分の犯した奇行に戦慄している

 

「見て見て!やっぱりあの二人は松田×元浜なのよ!私達の主張が正しいと証明されたわね!」

 

騒ぎを起こした二人は当然クラスの女子達も見ていたようで一部の派閥が盛り上がっている

 

「松田・・・お前そこまでおっぱい欠乏症に掛かっていたとは!?・・・・・お・・・お・・・おっぱいぃぃぃぃぃ!おっぱいを揉ませろォォォ!!」

 

元浜が松田の症状を冷静に分析しようとしていると今度は元浜が松田に抱き着き、彼のおっぱい、もとい雄っぱいを揉み始める・・・まぁ揉める膨らみ何て在る訳も無いのだが

 

「あふぅぅぅん♡何をしている元浜ぁぁぁ!?お前までおっぱい欠乏症を患っていたのか!」

 

松田が気持ち悪そうに元浜を必死に剥がしにかかる

 

「キャアアア!!今度は元浜×松田よ!あの二人って受けも攻めも両方こなしている存在だったのね!ああ!私達腐女s・・・貴婦人(貴腐人)にとって何て尊い在り方!誰の夢も壊さない二人の一線を越えた友情に今なら祈っても良い!!」

 

・・・このクラスの女子の大半は既に手遅れかも知れない

 

そうしてひと騒動在ったものの無事(?)に京都に到着し、改札口を出る

 

「おお!これは凄いな天井がとても高い!中々の解放感だ!」

 

「見て見て!あそこに見えるの京都タワーじゃない?一度上ってみたかったのよね~」

 

「九重ちゃんともまた会えるでしょうか?」

 

教会トリオは瞳を輝かせて周囲を見ているな

 

「九重とは三日目に合流予定だな。京都のお姫様を四日間も観光ガイドの真似事させる訳にもいかないしね。昨日通信で話した時は張り切ってたぞ?」

 

「はいはい、初めての京都で浮かれるのも分かるけど何時までも立ち止まってると邪魔になっちゃうから早速ホテルに行きましょうね~」

 

桐生さんに促されて京都駅から歩いて数分の場所にある高級ホテルであるサーゼクスホテルに到着した。松田や元浜だけでなく同じ学園の生徒の皆も目の前のホテルに圧倒されてるな

 

「うおぉぉぉぉぉ!何だこれは!?カード!?これが部屋の鍵なのか!?俺たちはもしかして百年後の世界のホテルにでも紛れ込んでしまったとでも云うのかぁ!!?」

 

部屋の鍵として渡されたカードキーを両手で持って天に翳している元浜(バカ)を無視してホテルのロビーで先生からの注意事項として新任教師として駒王学園に入ったロスヴァイセ先生が百円ショップの場所と尊さを只管説いた後でそれぞれの部屋に荷物を置きに行った

 

女子と男子では泊まる部屋の階層からして別れていて、男子の泊まってる場所の2階層上が女子の部屋の在る場所だ。そして俺とイッセーに用意された部屋だけはその中間にある部屋の一室となっている

 

何でも万一何か起きた時に男子女子の関係者が出来るだけ見つからないように無理なく集まれる場所として俺達だけ階が違うんだそうだ―――本来の男子の階層は偶々予約してあった一室が備え付けのトイレや風呂などの水回りが故障した為に俺とイッセーが別の部屋に割り振られたという設定らしい・・・良かった。ちゃぶ台敷布団の部屋じゃない

 

荷物を置いて整理してから一階ロビーで一緒に観光する皆と合流してから伏見稲荷大社を見て回る。京都への移動で既に時間を使ってるのでじっくり回れるのは1~2箇所くらいだろう

 

合流後、さっそく伏見稲荷に向かう

 

お土産屋などに顔を覗かせつつ山を登っているとイッセーが話しかけてきた

 

「なぁ、やっぱりイッキはこの伏見稲荷にはよく来るのか?ほら、お狐さん関連でさ」

 

「別にそんな事はないぞ?京都には時折は顔を出すけど伏見稲荷には年始とかに来るくらいだな。遊びに来るのに向いてる場所とは言い難いし八坂さんや九重も俺が此処に来る時にあまりそういう堅苦しい行事に参加させるのは悪いと思ってるのか行事に呼ばれる事も少ないしな」

 

九重からしてみればただでさえ会える回数は少ないのだから時間の掛かるその手のものは歓迎できるものじゃないのだろう

 

そんな事を話しつつ特に問題なく観光を終えてホテルに戻り、晩御飯の京料理を食べてから各自の部屋に戻るが下の階から不穏な気配を感じた・・・どうやら松田と元浜がこっそり忍び足で1階に向かっているらしく、その一階には女子の大多数の気配がしているので如何やら風呂場を覗きに行くつもりのようだ

 

「ハァ・・・行くか」

 

シトリー眷属も居るのだから必要無いのかも知れないけどエロ馬鹿の行動を感じ取ったら止めに入るのが既に4年と半年の時間染みついた俺の行動の一部になってしまっている

 

「イッセー、ちょっと出てくるわ」

 

「ん?おう」

 

イッセーの気の無い返事を聞きながら下に向かう・・・まぁイッセーが動いたとしてもその時はロスヴァイセ先生が止めるだろう

 

そうして1階まで降りると大浴場へと続く通路にシトリー眷属の『騎士』の巡さんと『僧侶』の花戒さんにサジが居た。今は女子の風呂の時間だし恐らく此処にいない『戦車』の由良さんと『僧侶』の草下さんは先に入っているのだろう

 

「よぉ、どうしたんだ有間?男子の入浴タイムはまだ少し先だぞ?」

 

「そっちも生徒会お疲れ様だな。俺はまぁ日課を消化しに来たという感じかな?」

 

そう言って徐に近くに在った窓に近づいてから素早く開け放ち、窓の下をこそこそと移動中だった2人組を引っ張り上げて中に引きずり込む

 

「な!?松田に元浜。お前ら何時の間にホテルの外へ出たんだよ?」

 

窓の傍を通ってたパイプを猿のように掴まって外に出ていたよ・・・もしも見つかったら普通なら来年度からその学校が出禁をくらいかねない無茶だよな

 

「まぁた貴様か有間ぁぁぁ!!それにサジも居るのか!お前らは俺達の崇高なる使命(覗き)を何故理解出来ん!?貴様らに性欲は無いのか性欲はぁぁぁ!!女子風呂を覗いてこその修学旅行だろうが!!」

 

「お前らに心配されなくても人並みの欲くらいは持ってるさ・・・その上で理性的な判断下してるだけだよ。というかお前らは本能に支配され過ぎだ。チンパンかお前ら?」

 

「うっせぇぇぇ!女子生徒の生まれたままの姿をこの目に焼き付ける事が出来るというのならチンパンでいいわ!あいつ等温泉街とかじゃよく混浴してるんだろ?チンパンに許されるんだったら俺達にだって許されても良いはずだ!」

 

元浜の抗議を受け流していると松田が人類1万年の進化の歴史を否定しても良いと言ってくる

 

こいつ等なら本当に覗きが出来るなら人間辞めるかも知れんな

 

というかそもそもチンパンジーも温泉って入るの?日本猿の印象が強いんだけど・・・

 

「なら此処は一つ覗かれる側の意見を聞こうか・・・判決は?」

 

松田と元浜を心底冷え切った目で見ていた巡さんと花戒さんに聞くと「サイッテーです」、「懺悔して下さい」との言葉と共に殴り倒された・・・懺悔を促す悪魔って如何なんだろう?

 

取り敢えず気絶した二人は仙術で女子達のお風呂タイムが終わるまで起きないようにして生徒会の見える位置のロビーの端の椅子に二人仲良く座らせておいた

 

「じゃあ俺は戻るな。丁度イッセーも動き出したみたいだしロスヴァイセ先生の応援に行くよ」

 

「お・・・おう。本当に有間ってあのエロ馬鹿どものストッパー役何だな」

 

「・・・今からでも代わってくれても良いんだけど?」

 

「う゛・・・情けないが俺はさっきあいつ等を見つけられなかったばかりだしな。済まんがもう少し実力が付くまで待ってくれ」

 

そうだよな。松田も元浜も警戒している悪魔3人のすぐ横を気づかれないレベルで気配を殺して移動してたんだもんな・・・頑張れサジ。エロ馬鹿共は日々進化を重ねているぞ

 

並みの中級悪魔くらいの実力じゃあいつらの気殺を見破れないからな

 

因みにお風呂を上がった女生徒たちはロビーで肩を寄せ合って眠っている松田と元浜を見て只管黄色い声を上げていたらしいが幸い俺がそれを知る事は無かった

 

ロビーを後にしてイッセーとロスヴァイセ先生が攻撃的な気をばら撒いている非常階段の方に歩いて行き、二人が戦ってる所まで階段を昇って行くと丁度イッセーが洋服崩壊(ドレス・ブレイク)でロスヴァイセ先生の服を弾き飛ばした所だったのか体を隠すようにしていた・・・一足遅かったようだ

 

「衣服を弾け飛ばす技何て環境に良くありません!・・・って有間君!?貴方まで何時の間にそこに居るのですか!?ま・・・まさか貴方まで性欲に駆られた行動を!?もしかして二人とも年頃だからってティッシュの使用量が凄い事になってたりするんじゃないですか!?無駄遣いは先生許しませんよ!」

 

「何かロスヴァイセさんって怒るポイントが所々妙にズレてませんか!?俺そういう方向から怒られたのは初めてですよ!・・・後ティッシュは沢山使ってます。すみません!!」

 

何だろうか・・・この目の前で繰り広げられている性と資源の論争は?踏み込みたくないって言うかこのまま帰りたくなってきた・・・でもその前に反論しておかないといけない事もある

 

「ロスヴァイセ先生・・・」

 

俺が真っ直ぐ視線を向けて名前を呼ぶと"ビクッ"とたじろいでしまった

 

「な・・・何ですか?有間君?」

 

今の俺は多分とても澄み(にごり)切った瞳をしていると思う

 

「俺の家に居る黒歌と白音は元は猫の妖怪・・・北欧的に言うなら細かい事を除けば獣人の一種と言えるでしょう。つまりは鼻が利くんです。そんな俺がティッシュ使えると思えます?黒歌なんて100%襲い掛かってきますよ?」

 

俺もエロい事は我慢しているけどそれは逆に言えば黒歌にも我慢させている事になるだろう・・・あの性格だから多分合ってるはずだ

 

そんな中で俺が若い衝動に負けたりしたら彼女はその場でサキュバスにクラスチェンジして静止も虚しく絞り尽くされる未来しか見えないのだ

 

黒歌だけなら先日サイラオーグさんに貰ったお金を育児金として見ればゴールしても良かったのかも知れないけど今は白音とレイヴェルが居る。2人が居る事に不満などあろうはずも無いが、まぁつまりはそういう事なのだ

 

「そ・・・そうですか・・・決めつけで罵ってしまう何て教師としてあるまじき事でしたね。本当に御免なさい」

 

淡々と語る俺の圧力に押されたのかロスヴァイセ先生が謝って来るけど未だに服がはじけ飛んでいる状態なので反応に困るから取り敢えず謝罪を受け入れてから諸悪の根源(イッセー)を引っ張って自分たちの部屋に戻る

 

「イッキ・・・お前・・・」

 

「何だ?環境に優しくないイッセーは環境に優しい俺に何か意見でも?」

 

「いや!悪い!何でも無いから忘れてくれ!!」

 

途中何か話しかけてきたイッセーだったが何故か何も言う事もなく駆け足で部屋に戻って行った

 

 

 

 

 

 

旅行二日目。昨日の夜も特に呼び出しとかがあった訳でもないのでもしかしたら英雄派云々は杞憂なのかも知れない・・・もしかしたら俺が九重や八坂さんと接触していたのが間接的に三大勢力との和平の時期を早めたり対テロリストの協力体制が早めに敷かれていたりしたのかもな

 

三年坂で桐生さんがアーシアさん達教会組を「転んだら3年以内に死ぬ」と言って揶揄ったりしながらも本日最初のメインともいえる清水寺に辿り着いた

 

「おお!異教徒の粋を集めて造られた建物だぞ!」

 

「ええ!異教徒バンザイね!」

 

取り敢えずお二人は過激な発言を慎んでくれよ。叩き出されるぞ?

 

「ここにはかの有名な千手観音が祀られているのだ」

 

「うむ。手が1000本在るという事は一度に500人のおっぱいを堪能できるという事だな。俺も悟りを開いたらおっぱいを揉むための腕が増えるのだろうか?」

 

「悟りを開いた時点で性欲とは無縁になるだろ・・・いや、その方が世の為になるか?」

 

こいつ等が悟りを開けば俺の仕事も減るだろうしな

 

「ねえ皆、あっちに恋愛関係のおみくじやってるみたいだから一つ占ってみない?」

 

「お!占いか。中学の時の占いじゃイッキを除いて全員が大凶だったからなリベンジといくか!」

 

エロ馬鹿3人組の中で女っ気のない松田と元浜が率先しておみくじを引きに行ったのだが二人が結果に目を通すと心底驚愕を現していた

 

「馬鹿な!超大凶なんてものが在るのか?最近では大凶のおみくじですら場所によっては入れてない所も在ると聞いているのに!」

 

「元浜も超大凶だと!?普通こういうのは仮に入ってるとしても精々一つくらいだろうが!それが何故俺達二人ともが超大凶何て引かなければならないのだ!?」

 

松田と元浜が驚きと絶望の表情を浮かべているが俺はこの『超大凶』というのに覚えが在ったので素早く辺りを見渡すと褐色の肌に陰陽師の格好をしている男が丁度おみくじ屋の裏手からコッソリと出ていく所だったので後ろに回り込んで肩に手を掛ける

 

「む?誰だね?私をペンタグラム伯爵と知って引き留めようと云うのか?生憎と私は先を急ぐので・・・なぁ!?またしても貴様かぁぁぁ!?ここ数年私の活動を邪魔しよって!」

 

振り返ったその顔にはデカデカと五芒星が描かれている彼の名前はペンタグラム伯爵というらしく、京都の全ての神社や仏閣でおみくじの中身を『超大凶』に代えるとか『リア充死ね』という絵馬を付けまくるとか程度は低いけど十二分に迷惑な行為を繰り返し出禁をくらっている人物である

 

今回松田と元浜が引いた超大凶はこのペンタグラム伯爵がすり替えたものだろう

 

実は俺が京都に赴くようになってから何故か行く先々で一回はこの人を見つけてしまうものだから対応もかなり手馴れてきた感じがあるんだよな

 

「はいはい、今警察呼ぶからね。すみません売り子の方。そのおみくじの中身全部この男がすり替えたみたい何でちょっと売るの待ってもらって良いですか?」

 

「止めろ!離せぇぇぇ!私は誇りある『四覇将』の一人だぞ!公安に屈してなるものかぁぁぁ!」

 

すると叫ぶ彼の様子に観光客がざわついたのが気になったのか住職の方がやってきた

 

「何の騒ぎですかな?・・・ああ、また貴方ですかペンタグラムさん。悪戯に人生を費やすその熱意を徳を積む為に向ける事が出来れば良いのですが―――おお!有間さん。何時もご苦労様です。前は確か八坂神社でこの方を捕まえていましたな。後は私が引き受けましょう」

 

「有難うございます・・・本当に何で寺とかに寄るとこの人と出会っちゃうんでしょうね?」

 

「ほっほ!きっと神様や仏様が有間さんを頼っていらっしゃるのですよ」

 

下手に暴れないようにイマイチ体に力が入らないように仙術を掛けてから住職さんにペンタグラム伯爵を引き渡して皆に振り返る

 

「悪い。ちょっと寄り道しちゃったわ」

 

「いや、それは良いんだけど有間君ってここの住職さんとは知り合いなの?結構気安い感じに話していたように見えたんだけど」

 

「あ~、中学の時に修学旅行で京都に来て以来実はちょくちょく京都に一人旅(黒歌随伴)しててさ。色んな所でさっきの人を取り押さえている内に少しずつ住職さんとか神主さんとかと顔見知り程度にはなってるんだよね」

 

「なぁにぃ!?イッキお前そんなに京都に来ていた何て聞いてないぞ?」

 

「は!?まさかイッキ。お前一人で京都美人をナンパして回ったり、舞妓さんと宜しくヤッてたりと裏の京都を満喫してたと云うのかぁぁぁ!?」

 

裏の京都は確かに毎回顔を出してたけどお前らのいう『裏』とは別もんだよ!

 

それからはゼノヴィアが銀閣寺と金閣寺の姿に一喜一憂したり景色を眺めながら抹茶を飲んでまったりと過ごし、ホテルへと帰って行った

 

そうしてホテルでの食事も終えた頃、ロスヴァイセ先生がやって来て一階のロビーに集まるように伝えられたのでイッセーと一緒にその場に行くとオカルト研究部とシトリー眷属にアザゼル先生とロスヴァイセ先生が勢揃いする事になった

 

・・・イヤな予感しかしないんだけど

 

今まで何も無かったのに急に問題発生ですか?

 

「よし、集まったな。急な事で悪いが今から妖怪側・・・裏の京都を支配する九尾の狐の屋敷に向かう事にする。詳しい事情は向こうに着いてから話す。じゃあ行くぞ―――イッキ、此処から一番近い裏京都への入り口は何処だ?」

 

「此処からだと道祖神社ですかね?京都駅のすぐ近くだから時々使ってましたし」

 

「よ~し、なら案内してくれ。態々遠回りで向かう事もないだろう」

 

アザゼル先生に促されて皆で夜の京都を移動してホテルから一番近場の神社の入り口に辿り着き、鳥居に触れてオーラを流し込んで鳥居を潜ると江戸時代のような町並みでそこかしこに妖怪が行き来する裏京都に辿り着いた

 

「何つーか昼間の時も思ったけど、こういった所で手馴れているのを見ると不思議な感じがするぜ。本当に俺の知らない所でよく京都に来てたんだなってさ」

 

「まぁな。兎も角行こうか」

 

八坂さんや九重の住んでいる屋敷に向かうと途中で妖怪たちも話しかけて来る

 

「おうイッキのアニキ!ニュースは見たぜ。異国の神と闘ったんだってな!」

 

「ははは!流石は俺達全員を叩き潰したアニキだぜ!実はあの時集まった奴らで良く模擬戦したりして鍛えてるようにしたんでさぁ!必要と在れば何時でも呼んで下さいよ!」

 

うん。何か夏に叩き潰した百鬼夜行の皆さんからは『アニキ』呼びになってたりするのが慣れないんだよな。どこの族の子分だよって話の上にコイツ等の忠誠って俺というよりは九重に向いてるはずだし・・・一応慕われるようにはなってるのかな?ただこのままいくと将来的に九重が『アネキ』とか『姉御』とかって呼ばれる気がするのは何とかしたい

 

そんな光景に若干引かれながらも大きな鳥居を抜けてこれまた大きな屋敷に辿り着き、屋敷の入り口の所には見知った顔・・・着物姿のレヴィアタンさんが狐の案内人の方と一緒に居た

 

「やっほー☆皆♪冥界でのパーティー以来だね。待ってたよ♪」

 

相変わらずテンションの高い御方である

 

「レヴィアタン様!?どうして此処に!?」

 

「お仕事で来ていたんだけど実は少し問題が発生したみたいでね。詳しくは中で話しましょう」

 

少し真面目な雰囲気でお仕事モードになったレヴィアタンさんと一緒に屋敷の奥に通される俺達だがたどり着いた先に居たのはやはりと云うべきなのか九重と天狗さんで八坂さんの姿は無かった

 

「お初にお目にかかる方も多いようじゃな。私は表と裏の京都の妖怪を束ねる者。八坂の娘―――九重と申す。このような夜分に急に呼び出す事となってしまい申し訳ない」

 

九重が最初に謝辞を述べ、天狗さんが事の経緯を説明していく

 

「先日、我らが八坂姫が行方不明となってしまったのです。姫様は須弥山の使者殿と会談をする為にこの屋敷を発たれたのですが何時まで経っても八坂姫が会場に到着しないと連絡があり、調べてみると八坂姫の護衛の一人が重傷を負った状態で見つかりました。その者から話を聞くと『突然紫の霧に覆われ、気が付けば見知らぬ場所で敵に取り囲まれていた』と」

 

「状況から察するにイッキが前に話してくれた神滅具(ロンギヌス)の一つ、絶霧(ディメンション・ロスト)である事、そして護衛の話では自分たちを取り囲んだ敵は人間だったという事から禍の団(カオス・ブリゲード)の英雄派である可能性が極めて高いという事が分かったのじゃ」

 

そうか、九重にはイヅナを通して三大勢力の会談や旧魔王派のテロでの話をしたから護衛の人の話からすぐに禍の団(カオス・ブリゲード)と結びつける事が出来たんだな

 

「私が今此処に居るのはね。元々八坂さんと須弥山の会談の後に、私も会談の予定が入ってたからなの・・・なのにいざ来てみたらこの状況って訳。本当にテロリストの人たちには困っちゃうわ。それで今は妖怪側と協力して京都中の調査を行ってる所なの」

 

「成程、確かに九尾の大将はまだ京都に居るらしいな」

 

「先生。何でそんな事断言出来るんですか?もうとっくに京都の外・・・それこそ海外とか冥界とかに行っちゃってる可能性は?」

 

イッセーが連れ去られたのでは?と聞くがアザゼル先生は首を横に振って否定する

 

「それはない。京都ってのはその都そのものが巨大な力の流れを制御する術式都市でな。その引き締め役の九尾が何の準備も無しに都を離れれば京都全体の気脈に影響がすぐさま出るだろう―――それが無いって事は少なくとも八坂の姫様は京都の何処かには居るって事だ」

 

「なぁ九重。何でお母さんが攫われたって事をもっと早くに俺たちに言ってくれなかったんだ?知らない仲でもないんだし幾らでも力を貸すぜ?」

 

隣に座ってたイッセーがそんな事を宣うので取り敢えず頭を『痛撃!ハリセン君』で叩く

 

「ふんのぉおおおおおおおお!!?痛てぇ!?アザゼル先生の冗談交じりのリアクションだと思ってたのに超痛てぇ!!」

 

頭を押さえて悶絶してるイッセーを尻目に九重に話しかける

 

「悪いな九重。俺達が修学旅行って事で気を遣わせちゃったんだろ?―――イッセーも言いたいことは分かるけどもうちょっと考えてから発言しろよ。今はそれでも良いかも知れないけど将来お前も『王』になって眷属を率いるなら、そういった所も覚えて行こうな・・・俺達を此処に呼ぶように言ったのは貴方ですか?」

 

そう言って天狗さんの方を見ると頷かれた。流石に九重にはそういった政治的な判断とか駆け引きとかはまだ早いだろうからね

 

「はい。九重様は渋っておられましたが私から進言させていただきました。八坂様を救い出す事が今は第一に優先すべき事であるという事。そしてもし、イッキ殿に何も伝えないままでは後で面倒な輩にまたイッキ殿が難癖をつけられてしまう可能性が高い事を説明し、折れて下さいました・・・皆さまの大切な旅行よりも此方の都合を優先したのは私の判断によるもの。非難の言葉であれば私にぶつけて頂きたい。その上でお頼み申します。八坂姫を救い出すのに皆さまの力を貸して欲しいのです」

 

彼が頭を下げるのと同時に九重も同じく頭を下げる

 

「私からもお願いじゃ。母上を助ける為にどうか力を貸して欲しい・・いや、貸して下さい」

 

「まっ、そういう事だ。若いお前らに言うのも何だがお前らは主戦力だ。捜索などは此方の部下たちが受け持つが有事の際には戦って貰う事になるかも知れん。出来るだけ面倒ごとは俺達大人が受け持つから今は旅行を堪能しろ。高校生の修学旅行は今だけ何だからよ」

 

『はい!』

 

皆が返事をしてホテルに帰って行く中で俺だけは屋敷に残って九重と話している

 

「済まないのじゃイッキ。折角京に来てくれたと云うのにこのような事になってしまって・・・」

 

そんな落ち込む九重の頭を優しく撫でて声を掛ける

 

「気にするな・・・って云うのは難しいかも知れないけど敢えて言うぞ。『気にするな』―――そもそも悪いのは全部テロリストであって九重には何一つ落ち度は無いんだからさ」

 

「しかし!妖怪側で起こった事にお主達を巻き込んで!」

 

九重は負い目を感じているのか感情的に叫ぶ。だけどその理屈は俺には通用しない

 

「残念。俺は九重の婚約者だぞ?可愛い婚約者の為にもむしろこっちから巻き込ませてくれよ」

 

そう言うと九重は一気に顔を赤らめてしまった

 

「イ・・・イッキよ。お主また少し変わったか?前まではそういう発言は控えめだったはずじゃが―――ぃ・・・嫌ではないのじゃが」

 

まぁ白音相手に甘々な感じで接したからな。少し自分の中のタガが外れた気はしてる・・・いや、恥ずかしい事は恥ずかしいんだけどね?

 

それでも今は九重を安心させる為にも正面から引き寄せて腕の中で背中を"ポンポン"と叩いてやる

 

「八坂さんは絶対に助け出す・・・だから少しは安心してくれ」

 

「うむ・・・信じておるぞ。イッキ」

 

 

 

 

 

 

あれから少しだけ抱き締めた九重が涙を流したりもしたが、離れる頃にはそれなりにスッキリとした表情になっていたので俺もホテルに戻る事にした

 

そんなに時間を掛けていた訳でもないので途中でイッセー達に追いついたのだが、初めて九重と出会ったサジなんかには「本当にあんなちっこい子が婚約者なのかよ」とか言われたので本日二度目の『痛撃!ハリセン君』の出番となり、シトリー眷属の他の女の子たちに引きずられていった

 

確かに現代日本では古くからの婚約者ってのは珍しいけど無い訳じゃないだろうに

 

因みにアザゼル先生は「アレから如何したんだ?婚約者の立場を使ってちっこい美少女様にキスとかしたのか?カーッ!この鬼畜野郎め」とか言って来たので本日三度目の『痛撃!ハリセン君』・・・をフェイントに使ったボディーブローを入れておいた

 

背中から衝撃が突き抜けて地面に蹲るアザゼル先生を助ける人は誰も居なかった

 

こうして修学旅行2日目の夜が過ぎていったのだ




京都においてイッキがそれなりに活動してるという事を描く為にペンタグラム伯爵にお越しいただきましたww


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第三話 英雄派、現れます!

修学旅行三日目。今日はホテルを出てからすぐに観光地に行かずに京都駅の前に居た

 

「なぁ、イッセー、イッキ。待ち合わせしてるって一体誰が来るんだ?・・・ハ!?中学の時は黒歌さんが居たよな!?まさか今回も彼女が一緒に京都を巡ってくれるのか!?」

 

「マ・ジ・か!松田よ。黒歌さんに出会ったら是非とも『妹さんを僕に下s「フンッ!」」

 

変な事を口走ろうとした元浜を地面に沈める―――誰がテメェに白音をやるか!

 

そうして大体何時もの通りに戯れてると九重がやって来た

 

「私が最後か、待たせてしまったかの?」

 

「いや、俺達も今来た所だよ。それに待ち合わせ時間まではまだ少し在るし、問題無いさ」

 

普段の狐の耳と尻尾は隠してよく着ている巫女服だ―――昨日の似非陰陽師の五芒星とは違い、ちゃんと着ている人物の守護の効果の在る五芒星を始めとした術式が盛り込まれている逸品だ

 

「悪いな。大変な時にさ」

 

「何の、元々お主らの家に遊びに行った時に観光案内を申し出たのは私じゃ。約束を反故にしては後で母上に叱られてしまうからの」

 

俺とイッセーがそれぞれ話していると九重こそが待ち人だったと知った3人が近寄って来る

 

「何だお前ら、京都でこんなちっこい子ナンパしたのか?」

 

「おお!小猫ちゃん・・・いや、今は白音ちゃんだったか。ともあれ勝るとも劣らないレベルの美少女!将来が楽しみ・・・ハァハァ、いや、むしろ今の段階で―――ゴフゥッ!!?」

 

地に沈めたはずがロリコン魂で復活してきた元浜を再度大地と接吻させていると桐生さんが辛抱堪らんとばかりに九重に抱き着いた

 

「うわぁぁぁ!何この子可愛いぃぃぃ!!兵藤・・・いえ、京都の知り合いって事は有間君の知り合いかしら?紹介してよ」

 

抱き着いたまま頬をスリスリさせる桐生さんだが流石に九重も過剰なスキンシップに引き気味だ

 

「は・・・離せ!馴れ馴れしいぞ小娘め!」

 

「ん~!お姫様口調で粋がる何てキャラも完璧じゃないのぉ!」

 

変な所に感動したのか更に暴走しかける桐生さんを取り敢えず引き離す

 

「この子は九重。お察しの通り俺の知り合いだな。一応前に一度駒王町にも来てオカルト研究部のメンバーとも顔見知りだ―――それと九重は京都の古き良き名家のお姫様だからあんまり過激な事はしないようにな」

 

「お姫様って・・・ガチ?」

 

「ガチだ」

 

桐生さんの質問に速攻で答えると詰め寄られて手を取られた

 

「有間君・・・有難う!貴方が友達で良かったわ!」

 

何か有り難られた。彼女には本物のお姫様という情報はむしろ興奮を煽るものだったらしい・・・失敗したかな?

 

そして桐生さんは兎も角、元浜(ロリコン)と九重の間をさり気にブロックする形で歩きながら駅で嵐山方面に赴き、そこから更に天龍寺へと向かう

 

世界遺産の庭園を見たり天龍寺の代名詞ともいえる天井一杯に描かれた龍の絵などを九重が解説を入れながら案内してくれた

 

「ほぁぁぁ!細長い東洋のドラゴンだな。ヴリトラやミドガルズオルムもこのタイプだったっけ」

 

『そうだな。タンニーンも含めた六大龍王では後は『玉龍(ウーロン)』もこのタイプだ』

 

そう言えば六大龍王って丁度西洋タイプと東洋タイプが半々何だな・・・今は五大龍王だけど

 

それから竹林や人力車など古都を満喫出来るコースを回り、昼食に九重オススメの湯豆腐屋で腹ごしらえをする・・・湯豆腐だけだと物足りないかも知れないが観光ついでの食べ歩きも視野に入れるならあんまり腹いっぱいにはしない方が良いだろう

 

すると隣の席にアザゼル先生とロスヴァイセ先生がやって来た

 

「お!奇遇だな。お前らも此処で飯か?」

 

そう言いながら席に座り湯豆腐や天ぷら、油揚げと日本酒などを頼んでいく先生

 

「貴方も何を頼んでいるのですか!?生徒の見ている横で教師が堂々と昼間からお酒を注文する何てそれでも教育者ですか!?」

 

「固い事言うなよ。適度な息抜きってのは必要だぜ?何だったらお前も如何だ?嵐山方面を調査して気が張ってるだろう。酒の力でリラックスだ」

 

教師としてはダメダメな理論を展開している内に先に日本酒だけが届いたのでアザゼル先生は「来た来た♪」と酒を杯に注いでいくがロスヴァイセ先生もそれを阻止しようとしている

 

「ダメです!もういっそ貴方が飲むくらいなら私が飲みます!!」

 

遂に強引にアザゼル先生から酒を奪い取ったロスヴァイセ先生の手から今度は俺が酒を奪い取る

 

「いや、ロスヴァイセ先生も飲んだらダメでしょう。後、先生って確か19歳でしたよね?北欧(裏)じゃどうだったか知りませんが日本じゃお酒は成人してからですよ・・・という訳でこのお酒は俺が頂きますね」

 

別にお酒が好きという訳でも無いがロスヴァイセ先生が飲むよりはマシだろう

 

「いやいや、待て待て!何でイッキが成人してる事になってるんだよ!?お前だって17だろ!?先生よりも若いからアウトだって!」

 

「イッセー。妖怪の世界では13歳で成人扱いだから多分大丈夫だ!」

 

「なんの根拠にもなってねぇぇぇぇ!!」

 

俺が適当ほざいているとイッセーのツッコミが響き渡る中イリナさんが九重に質問している

 

「(ねぇねぇ九重ちゃん。妖怪が13歳で成人扱いって本当?)」

 

「(昔はそういう風習も在ったそうじゃが今は違うぞ?人間の世界でも昔は元服などで15辺りで成人だったのと同じじゃ)」

 

九重もそういう事律儀に答えなくてもイイから!

 

「何で妖怪何だ?」

 

「さぁ?分からん」

 

松田と元浜が疑問に思ってる中、再びロスヴァイセ先生がコッソリと魔法を使ってまでお酒を奪い取り有無を言わさず強引に一気飲みしてしまった

 

あ~、ダメだったか。杯を呷ったロスヴァイセ先生の瞳が一瞬で"デロン"としたものに変わる

 

「だいたいれふね。わたしはもうおさけのめるんれふよ。まえのしょくばではオーディンのくそじじいにつきあっておさけをのむのなんれひょっちゅうでしたからね。アザゼルふぇんふぇいもそうですが有間くんもときどきふざけすぎなんれふよ!有間くんはふだんはちゃんとしれるんれすからさいごまでマジメにするべきなんれふ!アザゼルふぇんふぇいはおふざけがおおふります!まるでオーディンのじじいみたいじゃないれふか!そうれふよ!あのじじいにつきあってたらかれしなんてできるわけないじゃないれふかぁぁぁ!うあぁぁぁぁぁぁん!!」

 

泣き出してしまったロスヴァイセ先生の姿に皆が引きながらもアザゼル先生に後を託してその場を去る事となった

 

「・・・お酒の力とは恐ろしいものじゃな。母上がお酒を飲んでもああは為らぬぞ。『酒癖が悪い』とは正にああいう事を指しているのじゃな」

 

ロスヴァイセ先生が九重の教育に一役買っている中、渡月橋に辿り着いた

 

「ねぇ知ってる?この橋って渡り切るまでは後ろを振り向いたらいけないらしいよ?何でも今まで授かった知恵が全部消えちゃうんだって・・・エロ馬鹿三人組は特に振り返ったら終わりね。性欲だけが残った害獣にしかならないわ―――ああ、後振り返ったら男女が別れるって話も・・・」

 

桐生さんがそこまで言った所でアーシアさんがイッセーの腕に抱き着く

 

「絶対に振り返りません!イッセーさんも振り返っちゃダメですよ!」

 

「気にせんでも良いと思うのじゃがの。知恵は兎も角、男女の話は噂程度の話なのじゃから」

 

「そう言いつつ裾を握りしめて来るのは何で?」

 

「・・・今までは気にして無かったが、相手が居るとやはり気になるものなのじゃ」

 

そういうものかね?取り敢えずは俺も振り返らないでおこう

 

そして橋の中間辺りまで歩いた時、一瞬で周囲一帯に霧が発生して"ぬるっ"とした違和感が俺達を包み込んだ

 

「この感覚はまさか!?」

 

「ああ、今のは私にも分かったぞ。ディオドラ・アスタロトの時にアーシアを捕らえていたあの装置から発していたのと同じ感覚だ!」

 

イッセーとゼノヴィアを筆頭に皆が臨戦態勢になって周囲の様子を窺っていると高速で接近する二つの見知った気配が在った

 

「お前ら、無事か!」

 

「皆!大丈夫!?この霧は絶霧(ディメンション・ロスト)の霧だね」

 

アザゼル先生が堕天使の翼を広げて空から、祐斗が建物の屋根を跳び越えながら合流した

 

「周辺住民は綺麗サッパリと居なくなってるみたいだな。恐らくこの場所は悪魔のレーティングゲームの技術を流用して創り出された疑似空間だろう・・・予兆無しで大規模転移とは、これだから神滅具(ロンギヌス)は敵に回したくないんだ」

 

「先生。ロスヴァイセさんは如何したんですか?」

 

「あ~、酔っぱらって寝こけちまったから置いて来た。一応強力な結界を複数施しておいたから心配はないはずだ」

 

すると前方に発生していた霧に複数の気配が急に現れるのを感じた

 

そして霧の奥から人影が歩いてきて段々とその姿を顕わにする

 

「初めましてアザゼル総督。そして有間一輝にグレモリー眷属の諸君!」

 

学生服の上に漢服を着た大学生くらいの男が長い槍を肩に担ぎながら挨拶してくる。呼ばれなかったイリナさんが「え?私は天使何だけどグレモリー眷属枠で良いのかしら?」とか言ってるけど今はそういうの後にして!

 

イリナさんが天然を発揮してる中でもアザゼル先生は目を険しくしている

 

「全員。あいつの持ってる槍に気を付けろ。アレは最強の神滅具(ロンギヌス)神滅具(ロンギヌス)の代名詞ともなった神をも貫く槍。黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)だ」

 

アザゼル先生の言葉に皆が驚愕してる中、アーシアさんは只管にその槍を見つめている

 

「アレがイエス様を貫いたと云われる伝説の槍・・・」

 

そこまで言った所でアザゼル先生がアーシアさんの視界を遮る

 

「アーシア。イリナ。ゼノヴィア。信仰のある者はあの槍を直視するな!アレは聖杯、聖釘、聖骸布、聖十字架に並ぶ聖遺物(レリック)の一つだ。心を持っていかれるぞ」

 

言われたゼノヴィアとイリナさんがイッセーと祐斗に肩を揺らされる事で正気に戻って男の持つ聖槍から視線を外す

 

「それで、お前が噂の英雄派を仕切っている男か?」

 

問われた男は槍で肩をトントンと叩きながらも答える

 

「曹操を名乗っている―――三国志で有名な曹操の子孫だ。一応ね」

 

「母上を攫ったのはお主達じゃな?母上を返せ!」

 

「これはこれは狐のお姫様。お母上には我々の実験にお付き合い頂く予定でしてね。今すぐにお返しする訳にはいかないんですよ」

 

九重が一歩前へ出てきつく問いかけるが曹操は何でもないように答えるだけだった

 

「しかし、その前に噂のグレモリー眷属とその仲間たちと一度手合わせ願いたくてね。此処に参った次第です。俺の派閥は血の気の多いのが集まってるものでね」

 

「手合わせは構わん。だが代わりに貴様ら全員とっ捕まえて九尾の御大将は返してもらうぞ」

 

アザゼル先生の言葉の下、双方の陣営の戦意が高まる

 

「では始めましょうか。レオナルド。対悪魔用のアンチモンスターを頼む」

 

曹操の言葉に促されて出てきた小学生かギリギリ中学生くらいの男の子が地面に手を翳すと周囲に影が広がり、そこから最近の駒王町への襲撃で見慣れたモンスターたちが現れた

 

それを見たアザゼル先生が激しく毒づく

 

「ッツ!!あれは魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)!いかなる魔獣をも創り出す事が出来る神滅具(ロンギヌス)!―――これで上位神滅具(ロンギヌス)4つの内、魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)、 絶霧(ディメンション・ロスト)、 黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の3つがテロリストの手の内かよ!」

 

「マジですか!なら最後の一つもアイツらが持ってたり何てしませんよね?」

 

「それは無いから安心しとけ。最後の一つは今は天界側が所有しているからな―――とはいえ厄介な事に変わりはないがな」

 

「俺としては黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)なんかよりも絶霧(ディメンション・ロスト)の方が面倒臭いですけどね。力押しで破れそうな他の二つより余程脅威ですよ」

 

黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)には『奇跡を起こす』何てチート級能力も在る訳だがどうしても曹操が持ってると失敗するイメージの方が先行してしまうんだよな

 

「あらら、他の皆さんは俺の槍を警戒しているのにやはりキミだけは少し視点が違うようだね。人間ならではの感覚なのかも知れないな―――だが、仮にも最強とされた俺の槍をあまり舐めないで貰いたい。同じ人間として挨拶代わりに受け取っておくれ」

 

曹操は徐に聖槍の先端を此方に向けると勢いよく槍が伸びてきた。如意棒かよ

 

その一撃を俺は指一本で受け止める

 

「何!?」

 

曹操が・・・というよりはこの場の全員が驚いているけど勿論カラクリは在るんだよな。一つは槍が伸びる事を俺が知っていた事。次に曹操が本気で攻撃した訳じゃ無かった事。最後に闘気の一点集中防御だ

 

硬気功と合わせて全身に巡る闘気を指先一つに集める。来ると分かってる一撃なら脳のリミッター解除も併せて見切るのは難しくない―――指の第一関節の面積と体全身の面積の違いがそのまま俺の指先の闘気の強化率に変わるからな

 

槍に込められたオーラの量から判断して防げると思ったので相手に精神的な揺さぶりを掛ける意味でも避けるのではなく防がせてもらった

 

まぁ余裕を持って指一本で防いだと云うよりはむしろ指一本でないと逆に防げなかったという方が的確なのかも知れないがそんな事を態々教えてやる必要も無いからね

 

曹操本人は兎も角、後ろで見ている他の下っ端の英雄派の構成員の間では動揺が広がるはずだからコレで少しでも今後の連携が取りづらくなってくれたら御の字だ

 

「神をも貫く槍ね・・・前に神をも貫く牙には普通にやられたけど、もしかして使用者が弱すぎるんじゃないか?」

 

取り敢えず煽る。ここぞとばかりに煽らせてもらう

 

ぶっちゃけ本気の槍を繰り出されたら防ぐのは無理だと思うけどムキにならないでくれよ?

 

曹操は槍を元の長さに戻すと深く息を吐いた

 

「いけないな。此処で感情に任せて戦うのはリーダーとしてやってはいけない事だろう―――ではレオナルド。始めてくれ」

 

曹操の合図と共に生み出されたモンスター達が一斉に光の攻撃を放ってくるのをアザゼル先生が前方に障壁を展開して受け止める

 

「レオナルドは相手の弱点を突くアンチモンスターの創造に特化した才能を持っている。例えば悪魔なら光は猛毒といった感じにね」

 

曹操が語るけど少しアンチモンスターについて気になったので質問をぶつけてみる

 

「悪魔は分かり易いけど、なら天使は如何なんだ?」

 

質問した瞬間。確かにアンチモンスターのオーラが揺らいだ

 

どうやら持ち主のレオナルドに動揺が走ったみたいだ・・・何で?

 

訝しんでいると曹操は語りだす

 

「天使の弱点も悪魔同様明白だ。際どい格好をした様々なタイプの美女・美少女の姿のモンスターを召喚して魅惑のポーズで戦えば天使たちはまともに応戦出来なくなる。レオナルドにはその為に英雄派の男性諸君から秘蔵の本やDVDを回収し研究してもらったのさ!」

 

ば・・・馬鹿だ!馬鹿が居る!当のレオナルドは真っ赤にした顔をフードで隠してその場に蹲ってしまった!純情ボーイに何て研究押し付けてんだ!

 

「なぁにぃぃぃ!?各勢力に魔獣たちが送り込まれている事は知っていたが、天使の陣営はそんな羨ましい状況になっていたのか!?畜生、ミカエルの奴はそんな事一言も言ってなかったぞ!絶対後で抗議してやる!!」

 

アザゼル先生が怒り心頭といった様子だがそれは何に対する抗議なんですか!

 

「そんな!?何て素敵な神滅具(ロンギヌス)の使い方だ!これが・・・英雄派か!」

 

イッセーも変に真面目に戦慄するな!内容は最悪だからな!

 

ともあれツッコミだけで防戦一方という訳にもいかないのでそれぞれが動き出す

 

ゼノヴィアはイッセーからアスカロンを借りて祐斗と二人でアンチモンスターに向かって突撃して行き、アザゼル先生もファーブニルの黄金の鎧を纏って曹操を相手取る―――2人は戦いながら遠くに移動して行った・・・この場で戦うのは双方にとって問題だと感じたからだろう

 

それを見届け俺も動こうとした所でイッセーの声が響き渡る

 

「木場、聞こえるか!お前の能力で光を喰う剣を創って俺とアーシアとゼノヴィアに渡してくれ!万が一の場合の盾替わりにする!ゼノヴィアはアーシアと九重の護衛!イッキとイリナは前衛を頼む―――アーシア。代理承認カードだ。『僧侶』に昇格(プロモーション)する!」

 

おお!イッセーがちゃんと頭を使おうとしてる所を見ると感慨深いものがあるな・・・さて、俺も指示には文句は無いが一応イヅナを九重とアーシアさんの方へ飛ばして分身させ、360度警戒する形を取る

 

ウィザードタイプの居ない今、剣士のゼノヴィアだけじゃまだ心許無いからな

 

取り敢えず俺はアンチモンスターを神器で切り伏せる・・・のでは無く、ぶん回して英雄派の居る場所や他のアンチモンスターに直接投げつける

 

倒してもどうせすぐ補充されるだろうから無力化に重点を置こう

 

ブンブンぶん投げている為か後方に待機していた英雄派の構成員も逃げまどっているみたいだ

 

このアンチモンスターは光を撃ち放つ事にリソースを割いているのか動きが鈍いので簡単にぶん投げる事が出来る―――一応レオナルドにも投げつけたが直前で霧によって防がれてしまったので構成員が出来るだけバラバラになる感じに投げつける

 

既に何人か下敷きになったみたいだな。態々アンチモンスター何て狙わずに生身の人間の弱い奴らから狙っていかないとな

 

アンチモンスターと違って死んだら復活はしないしね

 

そうしていると俺の周囲だけ穴が開いたようにアンチモンスターが居なくなり、祐斗とかが戦ってる奴に近づいて投げようとすると霧散して別の場所に生み出されるようになってしまった

 

警戒されたみたいだけど何人か仕留めたから良しとするか

 

「流石だね有間一輝。弱い者から優先的に狙う何てやはりキミは僕たちに通ずるものが在る・・・どうだい?良かったらキミも禍の団(カオス・ブリゲード)に入らないかい?歓迎するよ」

 

腰に複数の魔剣を吊り下げた白髪の男が勧誘してくる

 

「悪いがテロリズムに興味はないし、やってる事は外道のクセに英雄を名乗るなんて中二病全開の恥ずかしい勘違い集団には入りたくないな」

 

「あっはっは!それを指摘されると痛いなぁ。でも大半の構成員は真面目に正義してるつもりなんだよ?まぁ僕たちがそういう方向に意識を誘導した所はあるけどね」

 

そう言って笑う男だがゼノヴィアが何かに気づいたようで声を上げる

 

「何処かで見た顔だと思ったがやはりそうか。気を付けろ!その男は教会のあらゆる派閥でもトップクラスの剣の使い手とされた男だ。複数の魔剣を操るという、確か二つ名は魔帝(カオス・エッジ)のジーク」

 

「そうだよ。今は禍の団(カオス・ブリゲード)に所属している。英雄シグルドの末裔で仲間はジークフリートと呼ぶよ。好きな方で呼んでくれたまえ」

 

するとジークフリートの後ろから祐斗が猛然と斬りかかる

 

「剣士相手なら僕が!!」

 

ジークフリートは素早く抜刀して受け止める

 

「魔帝剣グラム。魔剣最強のこの剣ならば聖魔剣とて砕けない」

 

「なら!」

 

祐斗はもう一本剣を生み出し2刀流となる。剣の質で勝てないなら手数で勝負という事だな

 

だがその攻撃も同じく2刀流となる事で受け止める

 

「魔剣ノートゥング。北欧に伝わる伝説の魔剣さ」

 

一々解説してくれるジークフリートだがまだ祐斗の攻撃は終わってない

 

足元や空中に魔法陣を展開して全方位から聖魔剣で突き刺そうとする

 

だが周囲の聖魔剣はジークフリートの振るった三本目の魔剣が竜巻状のオーラを纏って、破砕機でも振り回したかのようにオーラの暴風を巻き起こして全て粉砕してしまった

 

「危ない危ない。これは魔剣バルムンク。同じく北欧の魔剣だよ」

 

それを見た皆は魔剣の力よりもジークフリートの肩の辺りから生えている3本目の腕の方に注目している―――銀の鱗を纏った異形の腕だ

 

「ああコレかい?これは龍の手(トゥワイス・クリティカル)だよ。本来はそこの赤龍帝と同じように籠手の形何だけど僕のは亜種みたいでね。見ての通り腕が生えてきたのさ!」

 

ジークフリートは言い終えると共に祐斗に対して攻勢に出る

 

同士たちの聖剣の因子を取り込んだ祐斗はジークフリート相手でも互角に切り結ぶ

 

「へぇ、思った以上にやるものだね。なら此方もギアを上げよう」

 

途端にジークフリートの動きが鋭さを増し、どんどんと押し込まれてしまった

 

龍の手(トゥワイス・クリティカル)の能力は所有者の力を2倍にする―――赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)とは比べ物にならないくらいに弱いけど僕には十分な力さ」

 

「木場!私も加勢する!有間、悪いが剣士としてやらせて貰うぞ!」

 

「私だって剣士何だから気になっちゃうのよね!」

 

ゼノヴィアとイリナさんが祐斗の加勢に向かったので九重とアーシアさんの護衛ポジションに俺が代わりに入る・・・一応俺も剣は使うんだけど、彼らのように剣士の誇り的なものは持ってないから別に良いんだけどね

 

しょうがないのでイッセーと一緒に気弾でアンチモンスターの力の流れをかき乱してモンスターとしての形を維持できなくさせて倒していると、曹操とアザゼル先生が嵐山の方を景色をぶっ壊しながら戻って来た

 

「おやおや、少し戦ってる間にうちの構成員が何人か殺られてしまったかな?大半は重傷以上になる前にゲオルクが離脱させたみたいだけど・・・まぁ少し手間だがまた補充すれば良い」

 

「曹操!お前ら英雄派の動く理由は何だ!」

 

アザゼル先生が英雄派の動機を問いただすと曹操は槍を少し下げて天空を見上げる

 

「堕天使の総督殿。俺達の活動理由はシンプルだ―――人間として何処までやれるのか、それが知りたいのですよ。悪魔、ドラゴン、堕天使、妖怪、その他諸々。超常の存在を斃してきたのは何時だって英雄と勇者だ。伝説として語り継がれる存在に人間のままでどれだけ近づけるのか、或いは超えられるのか・・・そこに挑戦したいんですよ」

 

曹操の主張を聞いたアザゼル先生は「少し違うがヴァーリと似たタイプかよ」と毒づいていた

 

そうして再び二人が激突しそうになった時、周囲が揺れ動き川の底からせり上がるかのように巨大なゴーレム的なものが出現した

 

「デケェェェ!!?何だありゃ!?」

 

「ゴグマゴグ!古の神の創り出した破壊兵器―――次元の狭間に放棄されその全てが機能停止していたはずだが―――何で此処に!?」

 

イッセーとアザゼル先生が驚いているとそのゴグマゴグの近くに魔法陣が展開され、箒に乗ったまさしく魔法使いといった風貌の金髪で髪の毛をクルンと巻いた女の子が現れた

 

「はじめまして。私はルフェイ・ペンドラゴン。ヴァーリチームに所属する魔法使いです♪以前は兄のアーサーがお世話になりました。以後、お見知りおきを♪———それで早速何ですけど私実は『おっぱいドラゴン』のファンでして、良かったら握手して下さい!」

 

笑顔全開でイッセーに近づき握手を求めるルフェイの雰囲気に押されたのかイッセーも「あ、ども」とだけ返事をして握手に応じる

 

「やったー!有難うございます♪後、折角なので一緒に写真を撮っても良いですか!確か異空間にオーフィス様の写真集を作るために買ったカメラが在ったはず何ですが・・・あ!在りました♪それでえっと・・・」

 

高そうなカメラを引っ張り出した彼女は少し困ったように周囲を見渡す

 

「あ!曹操さん。ちょっとこのカメラで撮影お願いします!」

 

これまた笑顔全開で曹操にカメラを手渡し(押し付け)、イッセーの横に並んでカメラに向かってVサインを作る―――イッセーも「ほらほら、ピースですよ、ピース!」と促されて二人でカメラに向かってVサインだ

 

「ええと・・・はい、チーズ」

 

”パシャ!!”

 

「有難うございます曹操さん。『おっぱいドラゴン』さん!では私は帰りますね♪」

 

そう言って魔法陣を展開してそのまま転移して行ってしまった

 

ゴグマゴグはただ突っ立っているが気のせいか哀愁が漂っている

 

「曹操、アレは何だったんだ?」

 

「俺に聞くなよ赤龍帝・・・確かなのはキミのファンという事だろう」

 

すると三度魔法陣が展開して先ほど居なくなったルフェイが戻ってきた

 

「すみません!つい浮かれて用件を忘れてました!ヴァーリ様からの伝言があります―――『邪魔だけはするなと言ったはずだ』・・・だそうです♪曹操さん。うちのチームに監視者を送った罰ですよ!」

 

先程ルフェイに置いてけぼりを喰らったゴグマゴグが巨大な両手をハンマーのように曹操の居る場所に振り下ろすが曹操はそれを避けてレオナルドたちの居る場所まで後退する

 

するとさらに一人この場にやって来る人物が居た

 

「あ~もう、人が気持ちよく寝てる所にドッカン、バッタン、チュドンてうるさいんれふよぉぉぉ!!いいれふよ、皆纏めて吹き飛ばしてわらしはせいじゃくをてにふるんれふよ!」

 

酔っぱらった状態のロスヴァイセ先生がアザゼル先生の結界を破壊したのかこの場に覚束ない足取りでやって来て微妙にオーフィスっぽい事を言いながら魔法のフルバーストをかます事で無茶苦茶な破壊音と粉塵が辺りに広がっていく

 

「乱入が過ぎるな。だが、祭りの始まりとしては上々だろう。さて、我々は今夜、京都と九尾の力を使って二条城で大きな実験をする予定だ。是非、我々の祭りに参加してくれたまえ!」

 

その言葉と共に周囲を徐々に濃い霧が覆い始める

 

「お前ら、空間が元に戻るぞ!武装を解除しておけ」

 

先生の忠告の数秒後、俺達は元いた場所に戻って来ていた

 

どれだけ追い詰めたとしても簡単に取り逃がしてしまうのは本当に厄介だ

 

 

 

 

 

 

 

 

夜になって関係者は全員、俺とイッセーの部屋に集まって作戦会議だ

 

因みに俺は今仙術でロスヴァイセ先生の肝機能をフル回転させて少しでもアルコールが抜けるように頑張りながら聞いています

 

「では作戦を伝える。現在二条城の周囲に悪魔、堕天使、妖怪による大包囲網を敷いている。シトリー眷属はディフェンス担当だ。このホテルを守れ。相手は一般人相手でもいざとなれば巻き込む事に躊躇しないだろう」

 

『はい!』

 

「オフェンスはグレモリー眷属とイッキにイリナだ。悪いが俺はセラフォルーと一緒に全体の指揮を執らなきゃならん―――駒王町のリアスたちにも応援を頼もうとしたんだが、どうやらグレモリー領で旧魔王派の残党によるテロが在ったらしくしてな。黒歌も妹に付き添った為に来るのは難しいそうだ」

 

「な!?大丈夫なんですか!?」

 

「心配すんな。計画的なものでも無くて敵の戦力も大した事ないそうだからな。正直言って、こっちよりもよっぽど安全だよ。因みにレイヴェルは実家でフェニックスの涙の製造を手伝ってるみたいでな。此方もすぐに手は空きそうに無いとの事だ」

 

そっか、回復手段の限られるこの世界ではフェニックスの涙の生産の方が全体的に見て効率が良かったりするだろうからな・・・それに今回は聖槍が相手だし、フェニックスの不死身も期待できないからな

 

今後を考えるとレイヴェル自身にも強くなって貰った方が良いんだけど、取り敢えず今は後回しにして作戦の方に耳を傾けよう

 

「今分かってる情報では京都全体の気脈の流れに異常が生じてその力は二条城に向かってるらしい・・・奴さん達がそれで何を狙ってるのかは分からんが、何であろうと阻止するのみだ。最後に一つ、神滅具(ロンギヌス)を複数相手にするにあたって各地でテロリスト共を叩き潰して回ってるプロフェッショナルを呼んでおいた。第一目標は八坂姫の救出。どうしてもそれが難しそうなら助っ人が来るまで敵の計画を遅延させる時間稼ぎだ」

 

「あの・・・先生の言い分だと俺達全員よりも強いんですか?その助っ人って?」

 

イッセーが聞くとアザゼル先生はニヤリと笑った

 

「ま、凄いのが来るって事だけは覚えておけ。それとサジ、お前はオフェンス側に付け、龍王の力は必要になるかも知れん」

 

「わ・・・分かりました!」

 

「よし、全員生きて帰って来いよ。家に帰るまでが修学旅行だ。良いな!」

 

『はい!』

 

 

 

 

 

 

 

それから作戦開始までの僅かな時間にイッセーがアザゼル先生に連日の痴漢騒動を引き起こした原因とみられるピンク色の宝玉を手渡され、後で大規模な隠蔽工作をしなければならないと面倒な事案にロスヴァイセ先生が頭を抱えたりしてる内に時間となったのでオフェンス組が京都駅に向かう

 

すると駅の影から九重が現れ走り寄って来た

 

「イッキ!私も連れて行ってくれ!私も母上を救いたいしコレでも母上の娘、多少は気脈に干渉する術も習っておる。何かの役に立つはずじゃ!」

 

「おいおいおい九重!気持ちは分かるけどセラフォルー様やアザゼル先生に待機してるように言われただろ?———どうするんだイッキ?」

 

九重の扱いという事でイッセーが俺に意見を求めて来る

 

「九重。八坂さんは必ず救い出す。その上で一緒に来たいなら俺が九重を守るよ・・・ただし!後で八坂さんから懇々と説教される覚悟はしておくように!」

 

まぁその時は俺も一緒に怒られそうだけどそこは諦めよう

 

「うむ!・・・すまぬのじゃ、如何しても自分が抑えきれなくなってしまっての」

 

やはり罪悪感を感じているのか落ち込んだ様子を見せる九重だけど11歳でこういうのを割り切れ何て言わないさ・・・将来のお嫁さんの為に骨を折るくらいの事はしないとな

 

流石に恥ずかしいから口には出さずに九重の頭を撫でてやってると周囲に霧が展開して風景が切り替わった・・・予兆無しの転移は心臓に悪いから本当にやめて欲しい

 

一緒に居るのは九重で他の皆の姿は無い

 

「イッキ、また霧使いによる転移かの?」

 

不安なのか九重が俺に抱き着きながら聞いてくる

 

「そうみたいだな。俺達を分断したいみたいだけど取り敢えず今居るのはどの辺りだ?」

 

どうにも此処は何処かの路地裏のような場所らしい。流石の九重も路地裏の景色だけでは場所が分からないみたいなのでシンボルとなるものを探しに表通りに向かうと途中のビルとビルの間に分かり易い目印が見えた・・・のだが九重と一緒に無言でそれを見つめてしまう

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

そうしてるとイッセーから携帯電話がかかってきた

 

≪イッキ、そっちは無事か?九重は一緒に居るのか?≫

 

「ああ、九重は一緒で他には誰も居ないな。そっちは如何だ?」

 

≪俺はアーシアと一緒に京都駅の地下鉄ホームに居る。木場とロスヴァイセさんにサジは京都御所でイリナとゼノヴィアには今木場の方から連絡を入れてる・・・最終的には二条城に集合するとしてイッキは今何所に居るんだ?≫

 

「俺たちは今・・・タワーの前に居るな」

 

≪タワーって言うと京都タワーか!それなら俺達の居る場所と近いし、一旦合流してから一緒に「東京タワーだ」・・・はい?≫

 

聞き返すなよ・・・虚しくなるからさ

 

俺と九重はビルの隙間から遠くに見える日本一分かり易いシンボルの一つを見据えながらもう一度だけイッセーに現実を突きつける

 

「俺と九重が目にしているのは東京タワーだ・・・此処は東京だよ」

 

≪なぁぁぁぁぁぁぁにぃぃぃぃぃぃ!!?≫

 

電話の向こうで叫ぶイッセーの声を聞きながら天を仰ぐ

 

畜生!やっぱり霧使いが一番嫌いだ!

 

八坂さん救出作戦はこうして出だしからリングアウトして始まったのだった




曹操は構成員のバイブルを取り上げた

レオナルドのエロ知識が5上がった・羞恥心が5上がった

曹操の求心力が15下がった



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第四話 三角、関係です?

俺と九重が今東京に居る事を告げたら電話向こうのイッセーから驚愕の声が聞こえて来る

 

≪おいおい!俺達今は奴らの創った疑似京都の中なんだぞ!?京都までは転移で来れるとしてお前この空間の中に入れるのか?≫

 

「そうだな。態々追い出されたって事は今回は絶霧(ディメンション・ロスト)で外からの介入が出来ないように、かなり強固に空間を閉じているだろうから無理やり入るのは難しいかもな―――でも、今回に限って言えば多分大丈夫だと思う。試してみないと分からんが侵入できるはずだから取り敢えずそっちはそっちで二条城へ向かってくれ」

 

 

≪・・・分かった。絶対に来いよな!≫

 

「ああ、流石に俺と九重が蚊帳の外のまま事件終了何て勘弁だしな」

 

第一目標は八坂さん救出だから俺達がたどり着く前にイッセー達が事件解決ならそれでも良いが、可能なら英雄派は一度ボコっておきたいしね

 

イッセーとの連絡を切った俺は視線を横に向ける

 

俺の向いた方向からは明らか此方に敵意を向けている男が一人歩いて来ていた

 

「よぉ。俺の事を覚えてるか?前に工場で戦ったんだが・・・もっともあの時は聖魔剣使いに1番にやられちまったんだけどな」

 

そう言ってくる男の顔をよく見て記憶を探る

 

「ああ!確か『手に持った石を!』の人だったっけ?」

 

「その通りだ!今の俺はあの時の俺とは違う!新たに目覚めた力でもってお前たちを・・・」

 

ご高説が始まったが付き合う義理も無いので足元を軽く踏みつけて転移で一先ず京都に向かおうとするが転移が発動しなかった

 

それを見た男は高笑いをする

 

「ハッハッハァ!無駄無駄ァ!この周囲には事前に転移封じが仕掛けられている―――全く、つれない事すんなよ。俺はお前らと戦って叩き潰したいんだからよ!戦う理由なら用意してやったぜ。この転移封じは俺を倒せば解ける仕組みになっている。京都に行きたきゃ俺を倒すしか無いって寸法だ!さぁ殺り合おうぜぇぇぇ!!魅せてやるよ、この俺様の新しい力を!バラァァァンス!ブレェェェェっえっぶぅぅぅぅぅ!!?」

 

「話が長い!」

 

何か無駄にキメポーズ(NINJA的な)しながら勿体ぶって禁手(バランス・ブレイク)しようとしていたので顔面にワンパン入れて気絶させた

 

当分起きないようにしておいたから後で回収してもらう事にしよう

 

「良し!じゃあ京都に行くか―――それと九重、よく覚えておけよ。実戦では敵の変身シーンを待つ理由何て基本は無いって事をな!」

 

「うむ。私から見ても隙だらけじゃったからの。英雄派とやらが皆コヤツのような間抜けの集団ならば苦労も少なくすむのじゃろうがな」

 

九重の感想を聞きつつ取り敢えず京都に転移して行った

 

 

 

 

[イッセー side]

 

イッキと連絡を取り合った後、襲い掛かる禁手(バランス・ブレイカー)に至った英雄派の構成員を倒して疑似京都の二条城の門の前に集まっていた

 

見ると既に祐斗たちやゼノヴィアやイリナも揃っている・・・ロスヴァイセさんは少し体調が悪そうではあるが恐らくホテルでイッキの治療を受けた為かそこまで酷くは無さそうだ

 

昼間のロスヴァイセさんは凄い事になってたからな

 

「イッセー君、アーシアさん。そっちも無事みたいだね。後はイッキ君と九重さんだね・・・イッキ君が遅れてるって事は何か足止めに特化した能力者をぶつけられたのかな?」

 

そっか、当然だがイッキの事情を知ってるのは俺とアーシアだけだもんな

 

「いや、皆。イッキと後九重はどうやら東京に跳ばされたらしい・・・俺も最初聞いた時は耳を疑ったよ。でもイッキにはこの空間に入れる当てが在るみたいだからアイツなら心配しなくてもその内来るだろうよ」

 

「そうか、成程ね。現状、イッキ君は此方側の最大戦力だ。敵は態々僕たちをこの空間に呼び寄せて戦いたいみたいだけど、イッキ君が居れば計画に支障が出かねないと踏んだんだろうね―――あくまでも計画の遂行が第一だと考えるべきだろう」

 

「だが、それは逆に言えば有間さえ居なければ私達がいくら足掻こうとも問題無いと奴らに舐められている証拠だ。ハッキリ言って気に喰わないな」

 

木場の考察を聞いてゼノヴィアが明らかに不機嫌な顔になる

 

ああ、俺も同じ気持ちだよ。実際に俺が悪魔になってからイッキの助けなしでまともに勝てたと云えるのってレイナーレくらいじゃないか?あの時はイッキも戦ってたけど、ぶっちゃけ単純に勝つだけなら俺以外の初期メンバーの内誰か一人が居れば勝てたと思うし・・・勿論、アーシアの救出も踏まえたらそういう訳にもいかなかったんだろうけどさ―――いい加減助けられてばかりから卒業しないとな!

 

俺も意気込んでいるとゼノヴィアが握っていた今までのデュランダルとは違う形の聖剣に目が行った―――天界に送っていたデュランダルが返って来たとはホテルで聞いてたけどアレが新しいデュランダルか

 

「ん?気になるか?ふふ!私もこの剣を早く振るいたくてウズウズしてる所だ」

 

舌なめずりでもしそうな顔で手にした剣を握るゼノヴィアはちょっとヤバい奴に見えるな

 

少しだけゼノヴィアの雰囲気に引いてると二条城に続く巨大な門が一人でに開門していった

 

「どうやら歓迎してくれてるみたいだな。良し!じゃあ行こうぜ皆!」

 

『おう!』

 

 

 

 

 

そのまま二条城の中に入って行くと前方に見える建物の上に曹操とジークフリート、それ以外にライトアーマーを身に付けた巨漢に同じくライトアーマーを着ている金髪の美人の姉ちゃんが居た

 

今の状況であの場に立ってるという事はあの二人も英雄派の中で幹部クラスなんだろうな

 

「此処まで一人も欠ける事なくたどり着いたか。キミたちに差し向けたのは英雄派の中でも中堅クラスとはいえ禁手(バランス・ブレイカー)の使い手である事には変わりない―――君たちは十分に強いよ」

 

昼間に戦った時にも薄々感じてたけど、こいつ等はディオドラのように完全に此方を見下しているのとは違って俺達に警戒している・・・いや、どちらかと言えば観察してるような感じだ

 

この手のタイプと戦うのは初めてで正直言ってやりにくいな―――だが、今はそんな戯言に付き合ってる暇は無いんだ!

 

「お前ら!八坂さんを何処にやったんだ!とっとと返して貰うぜ!」

 

それを聞いた曹操は視線を俺達とは少し外れた茂みに移した

 

するとそこから両脇を英雄派の構成員に掴まれた金髪巨乳の美女が現れた!突入前にイッキの携帯の写メで見せられた姿と同じ!

 

くぅぅぅ!!あんなおっぱい美人が義母になるとか羨ましいぞイッキ!

 

だが、すぐに異変に気付く。八坂さんは虚ろな瞳で明らかに意識が無い状態だった

 

聞いた話では九尾の狐である八坂さんの実力は魔王クラス。しかも京都の力を利用する場合に限り、一時的にそれ以上にすらなれるとの事だ

 

曹操とかなら兎も角、ただの構成員相手なら本来なら問題なく振りほどけるはずだからな

 

親友や知り合いの女の子の身内をそんな扱いをしていると思うと沸々と怒りが湧き上がって来る

 

だが曹操の奴は相変わらずの澄ました顔で肩を槍でトントンと叩くだけだった

 

「そう言われて『はい、そうですか』と返す訳にはいかないな―――言っただろ?我々のこれからする実験に協力してもらうとね」

 

よく言うぜ。『協力』って言葉の意味を辞書で引く所からやり直しやがれってんだ!

 

曹操は槍の石突きの部分を打ち鳴らすとそれが合図だったのか八坂さんが突如として苦しみ始めた

 

そして青白いオーラに全身が包まれ、どんどんとその光が膨れ上がり、光が収まった時にはフェンリルと同じかそれ以上にも見える九本の尾を持った狐の姿となった

 

「これが伝説の妖怪。九尾の狐!」

 

そんな場合じゃないと分かっているが放たれる荘厳な威圧感に見入ってしまった

 

ああ、確かにコレはフェンリルと戦ってる時のタンニーンのおっさん並みの威圧感だぜ

 

「九尾の狐は妖怪でも最高クラスの存在。そして九尾と深く繋がっている京都は都そのものが強大なパワースポットを生み出し、運用する為の術式都市だ。その力と九尾の狐を使い、この空間にグレートレッドを召喚する―――触媒としては龍王の方が適してるんだけどね・・・今回はそこまで用意できなかったよ。赤龍帝やヴリトラを使う事も考えたが、神器に封印されている状態では贄として活用するのは難しくてね」

 

こいつ等!俺やサジも必要と在れば拉致するつもりだったのか!

 

いや、それも重要だがそれよりもこいつは今なんと言った?グレートレッドだと!?

 

「何でグレートレッドを狙う!?あいつは次元の狭間を泳ぐだけの無害な存在のはずだろう!」

 

「その通り。だがこの世で唯一グレートレッドを敵視しているのが俺達のボスなものでね。故郷に帰りたいのに困っているそうだ・・・まぁ住んでる場所を突如として力づくで追い出されたら敵視の一つもするだろうね」

 

う゛・・・そう言われると完全に無害とは言えなかったかもな

 

「それで、グレートレッドをおびき寄せて如何するんだ?殺すのか!?」

 

だけどそれには違和感がある。最強と称されるオーフィスでも勝てないとされているのがグレートレッドなのだから、幾ら最強の神滅具(ロンギヌス)があるからって無謀過ぎないか?

 

「殺すのは難しいかもな。一先ずは捕らえてから逃げられるまでに出来る限りデータを収集するつもりだ。未知の存在を既知の存在にすれば攻略の糸口も見えて来るかも知れない・・・例えば、『龍喰者(ドラゴン・イーター)』がどの程度あの赤龍神帝に効果を及ぼすのかとかね」

 

龍喰者(ドラゴン・イーター)?———ドラゴン・スレイヤーとはまた別なのか?

 

「何だか知らねぇが、兎に角八坂さんは返してもらうぜ!」

 

そうだ。仮にグレートレッドがどうにかなってしまったら世界にどんな影響が出るのか予測がつかないと前にアザゼル先生が言っていた

 

何も起きないかも知れないし、何かが起きるかも知れない―――そんな曖昧で危険な可能性が在る以上、此奴らがグレートレッドを狙う事も許容する訳にはいかない!

 

「イッセーの言う通りだ。お前たちの行いと思想は世界の脅威となる。此処で屠るのが適切だ」

 

「ゼノヴィアの意見に賛成だね」

 

「私も同じく!」

 

ゼノヴィアを筆頭に剣士組がそれぞれデュランダル、聖魔剣、光の剣を構える

 

「全く、グレモリー眷属に関わると死戦ばかりだな」

 

後ろではサジが困ったように笑いながら頭を掻いている

 

「悪いな。俺も遠慮したんだけどコレが俺達の平常運転でさ」

 

「まっ、皆とダチの為ならしょうがないさ―――ヴリトラ、今日は暴れられそうだぜ!」

 

サジが気合を入れると同時にサジの手足に無数の黒い蛇が絡みつき、後ろには巨大な蛇の幻影のようなものが浮かび上がる

 

アレはロキ戦の時に見た復活したヴリトラの姿を小さくした感じだな

 

『我が分身よ、獲物はどれだ?あの聖槍か?それとも狐か?・・・それとも、全てを等しく燃やし尽くしてみせようか?』

 

おおう!随分と好戦的なセリフだな。というか喋れるのか

 

驚いているとすぐ傍から莫大な聖なるオーラが迸った―――見るとゼノヴィアが新しいデュランダルの切っ先を天に掲げて巨大な光の柱と呼べる状態にしていた

 

「先ずは初手だ。喰らっておけ!」

 

“ザッパァァァァァァン!!”

 

猛烈なまでの聖なるオーラの奔流が目の前に振り下ろされて曹操達を飲み込んでいく

 

その直後に目の眩む閃光と爆風が吹き荒れ、それが収まるとさっきまで目の前に在ったはずの建物というか、その後ろに見えていた二条城を敷地ごと巨大なクレーターに変えていた

 

当のゼノヴィアはスッキリした顔で汗を拭っている

 

「うむ。感覚を確かめる為に試運転も兼ねて振り下ろしてみたが問題無いようだな」

 

「いやいや!試し斬りの威力じゃねぇだろ!見ろよ!もはやMAP破壊兵器だよ!」

 

「ちゃんと威力は絞ったぞ?ふふふ!エクスカリバーと同化したデュランダルの威力はまだまだこんなものでは無いからな」

 

「な!?エクスカリバーと同化!?」

 

最強クラスの聖剣二つを同化とかどんだけ最強なんだよ!?

 

ゼノヴィアは新しいデュランダルが気に入ったのか聖剣の刀身を恍惚の表情で撫でている・・・傍から見たらヤバい奴だぞ?さっさと帰って来いゼノヴィア

 

「ああ、それで名前も付けた。エクス・デュランダルだ・・・まぁ、あの程度で倒せる相手ならば苦労も無いのだがな」

 

ゼノヴィアが視線をクレーターに向けると土の下から曹操たちが這い出てきた・・・ゾンビの登場シーンじゃねぇんだから

 

見た所無傷みたいだが、奴らが全身に薄っすらと紫の霧を纏ってるのが見えるから絶霧(ディメンション・ロスト)の力で防いだんだろうな

 

「いやー、いいね♪キミたち既に上位の上級悪魔の眷属と比べても遜色が無い。ディオドラ・アスタロトとのゲームの映像は見させてもらったが、その時と比べても明らかに強くなっている―――以前、シャルバやクルゼレイが取るに足らない雑魚と言っていたが、いずれ間違いなく足元を掬われていただろうね」

 

「まぁシャルバは掬われるどころか斬り落とされてたけどね」

 

「あっはっは!確かにアレは笑ったなぁ!組織内でも彼らは俺達人間を過剰に見下していたからね。英雄派の構成員の中ではあの動画の視聴回数が爆発的に伸びていたっけか?シャルバの頭が只管踏みつけられるだけの長時間耐久動画とかその日の内にアップもしていたな」

 

曹操とジークフリートが何だか楽しそうに喋っているけど動画をアップとかまた人間臭い事を・・・いや、奴らは人間なんだろうけどさ。調子狂うぜ

 

・・・と云うかイッキの奴思いっきりネタに使われてるじゃねぇか

 

「さて、戦う前に以前居なかった二人を紹介しておくか―――ジャンヌ、ヘラクレス」

 

「おう!」

 

「は~い♪」

 

曹操に呼ばれて新顔の二人が一歩前に出る

 

「この二人は英雄ジャンヌ・ダルクとヘラクレスの魂を受け継いでいる」

 

ッツ!英雄の子孫の次は英雄の生まれ変わりかよ!神滅具(ロンギヌス)といい、英雄といい、此奴らはビッグネームを安売りし過ぎだぜ!

 

「結界の外には堕天使の総督殿に魔王も居る。あまり悠長にし過ぎてもいけないな―――ゲオルク、実験を始めてくれ」

 

「了解だ」

 

曹操が声を掛けると俺達とは少し離れた場所に居たらしい眼鏡を掛けた赤いコートの男が周囲に無数の魔法陣を展開し始める

 

「ざっと見た限りでも、北欧式、悪魔式、堕天使式、白魔術、黒魔術、精霊魔術、中々多様な術式を扱うようですね。かなりの魔法の使い手です」

 

ロスヴァイセが固い声で云うが確かに魔法陣が重なり合って見えずらいが、多分今ロスヴァイセさんが言った以上の数の術式が煉り込まれているように見える

 

すると八坂さんの足元を中心にして巨大な魔法陣が広がり、八坂さんが雄たけびを上げた

 

もしかしなくてもアレって不味い状態じゃないか?

 

無理やり力を引き出されてるとしたら体にどれだけの負担が掛かっているか分からない!

 

「さて、後はコレでグレートレッドが来てくれる事を願うが・・・余興も楽しまないとな。ジークフリート、キミは誰と闘りたい?」

 

ジークフリートが両手に持った剣をそれぞれ木場とゼノヴィアに向ける

 

「ジャンヌ、ヘラクレス」

 

「なら私は天使ちゃんにしちゃおっと♪」

 

「となると俺が銀髪の姉ちゃんだな・・・赤龍帝はリーダー様に譲っておくか」

 

「有難う、ヘラクレス。おっぱいドラゴンは色々面白いと聞くからね。楽しみにしていたんだ」

 

こいつ等!マジで遊び感覚だな!

 

そして曹操が「そっちのヴリトラ君は?」とサジの方に意識を向けたその瞬間、高速回転する飛来物が奴らの後ろからヘラクレスと呼ばれた男の首筋に迫った!

 

“ギィン!!”

 

「なっ!!?」

 

ヘラクレスが驚いているがどうやら間一髪で曹操が槍で弾いたらしい

 

だがヘラクレスの首筋には赤い線が走って血が垂れている・・・恐らくあと少し深く切り裂かれていたら頸動脈まで達していたかも知れない!

 

そして弾かれた物が地面に突き刺さるとそれは見覚えのある歪で禍々しい赤黒い剣だった

 

役割を終えたからか光の粒子となって消えていくそれは間違いなくイッキの神器だ!

 

アイツ、間に合ったんだな!信じていたって言っても神滅具(ロンギヌス)の結界だから本当に入ってこられるのか実は結構不安だったんだ

 

まぁ挨拶替わりに暗殺から入るのはイッキらしいと云うか何と云うか

 

「・・・随分と早いご到着だ。ゲオルクの結界はそう容易く抜けられるものでは無いんだがな。隠れてないで出てきたらどうだい?」

 

曹操が剣が飛んできた茂みの辺りに声を掛けるとイッキがクレーターと曹操達を飛び越える形で俺たちの居る場所に跳躍してきた

 

そうしてイッキが放物線を描くように俺達の横に着地するのを見届けようとしたその瞬間、再び金属音が辺りに鳴り響いた!

 

慌てて曹操達の方を見るとどうやらまたイッキの神器がヘラクレスの首筋を両断しかけたみたいで曹操がそれを防いだようだ

 

「あ~、残念だな。曹操さえ居なければ今ので二人は殺れていたはずなんだけど」

 

その言葉と共にさっきイッキが飛び出したはずの茂みからイッキと九重が姿を現した!なら、今俺達の隣に居るイッキは!?

 

そう思うとそのイッキは風景に溶けるように姿を消してしまい、足元にはイッキの神器の片割れが刺さっていた———そうか!以前黒歌さんも騙したという幻術と神器の合わせ技で曹操達の眼すら欺いて堂々と二度目の暗殺を実行しようとしたのか!全くもってイヤらしいぜ!

 

本当に実戦では敵に回したくない奴だよ、お前はさ

 

そして今度こそ九重をお姫様抱っこして跳躍したイッキが俺達の傍らに着地した

 

「悪い。遅れたか?」

 

「そんな事ねぇよ。今から始める所だったからな」

 

イッキと九重も揃って漸く今回のフルメンバーだ

 

さぁ!殴り飛ばさせて貰うぜ英雄さん達よぉ!

 

 

[イッセー side out]

 

 

 

 

イッセー達と合流して九重をアーシアさんの傍に行くように促してイヅナに護衛を任せる

 

さり気にイヅナも一匹一匹の力は以前より増して上位の下級悪魔位にはなっているから曹操が直接狙ったりジークフリートの本気のグラムとかでも無い限りは一撃で守りが抜かれる事は無いはずだ

 

「九重、霊脈の力が八坂さんの体に負担を掛けているから少しでも良い、霊脈の力を散らす事に専念してくれ・・・それとあいつ等は俺とイッセーが受け持つから皆は八坂さんとあの魔法使いを頼む。繊細な作業をしてるって言うなら思いっきり邪魔してやってくれ」

 

「うむ!最善を尽くすぞ!」

 

その提案を聞いたゼノヴィアが少々肩を落とした

 

「出来ればジークフリートには昼間のリベンジがしたかったんだがな。この新生エクス・デュランダルの力をぶつけてやりたかったのだが」

 

「それは僕も同じだよ・・・でも、僕たちの第一目標はあくまでも八坂さんの救出だよ。私情を優先して八坂さんを助けられなかった何て事になったら一生自分を許せなくなっちゃうよ」

 

2人には悪いが此処は譲って貰おう

 

すると曹操が声を掛けてきた

 

「有間一輝、ゲオルクの施した結界をどうやって抜けてきたのか気になる所だね。良かったら参考までに聞かせてくれないか?」

 

「それに答える必要在るか?対策施されて終わりだろうが」

 

曹操も本気で質問した訳じゃ無かったのか肩を竦めるだけだった

 

まぁ今回はこの結界が『そもそも閉じ切って無かった』から入れたんだけどな

 

 

 

 

~少し前~

 

 

 

襲い掛かって来た英雄派を変身シーンの途中に殴り飛ばした後、俺と九重はすぐに転移で京都自体には舞い戻って来ていた

 

今は表の二条城の敷地の少し外の人目の付かない場所に居る

 

「のうイッキ。これから一体どうするつもりなのじゃ?まともな手段では入れんのじゃろう?」

 

「まぁな。でもこの結界は唯一外からの侵入を許している経路が在るんだよ・・・今、この京都中のパワースポットから二条城に向けて霊脈を通じて力が流れ込んできている。そして仙術の転移は霊脈の流れに乗って移動するものだ」

 

「おお!そのような簡単な・・・話で済むとは思えんのじゃが・・・」

 

一瞬だけ喜んだ九重だけど流石にすぐに問題点に気づく

 

「確かに相手もその点は分かってるはずだから霊脈の入り口には異物を排除するフィルターみたいなのが張ってあるはずだ。今も試しに軽く転移しようとして弾かれたから間違いないだろうな」

 

「では、それをすり抜ける策が在るのじゃな?」

 

「そりゃな・・・九重は俺達が最初に出会った切っ掛けになった土蜘蛛の事は覚えてるか?」

 

徐に片膝を突いて地面に右手を添えながら聞くと力強く返事が返ってきた

 

「うむ!勿論覚えておる!」

 

「その土蜘蛛の種族特性の『土隠(つちごもり)』は霊脈に隠れる力だ。今回はそれを真似してみようと思ってな・・・最も、様々な力の奔流とも云える霊脈に完全に自身の気を同化させるとなるとかなりの集中力が必要になると思うけどな―――そういう事だから九重。俺にくっ付いてくれるか?最初に九重のオーラを俺に合わせてから、霊脈にオーラに近づけていくからさ。違和感は在るかも知れないけど抵抗はしないでくれると助かる」

 

「了解じゃ!私の全てをイッキに預けるぞ。一緒に母上を助けに行くのじゃ!」

 

九重が俺の背中から首に手を回して抱き着いて来た

 

俺が集中できるようにこれ以上は喋らないつもりのようだ

 

その気遣いを感じながらも少しずつ霊脈の波動と俺たちの気を同調させていった

 

 

 

 

暫く集中していたのでどの程度時間が過ぎたのかイマイチ分からないがオーラを霊脈と同調させ切ったと感じた瞬間に転移を発動させ、奴らの創り出した裏京都の中に入る事に成功した

 

そのまま九重共々気配を消した状態で周囲を窺う

 

「・・・イッキよ。私の記憶が確かなら向こう側には二条城が在ったと思うのじゃが、私の記憶違いかの?それともあ奴らは二条城を再現しなかったのか?」

 

「いや、そんな事は無いみたいだぞ?」

 

最初に転移した場所から無くなった二条城の方に進んでいくと巨大なクレーターが見え、そこに英雄派の奴らが居るのが見えた

 

どうやらまだ本格的には戦ってはいないのだろう・・・予備知識が無かったら既に凄い激戦が巻き起こった後のように見えるだろうけどな

 

とはいえ折角都合よく後ろを取ったので挨拶替わりに1人か2人減らせないか試すとしますか!

 

 

 

 

~現在~

 

 

結局1人も致命傷にすら出来なかったんだよな・・・やっぱり曹操だけは別格なんだろう

 

ただ、九重が完全に霊脈と同調した感覚から以前より霊脈の掌握がやり易そうだと言っていたからプラマイゼロという事にしておくか

 

「それでイッセー、向こうはイッセーと戦いたいみたいだけど如何する?曹操を受け持つかそれ以外の3人を受け持つかだけど」

 

「元々アイツは俺をご指名みたいだからな。折角だし俺がアイツの顔面に一発入れにいくさ!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

イッセーが赤龍帝の鎧を纏って俺の横に並び立つ

 

だが今まで黙って聞いていた英雄派の奴らはイラついた表情だ

 

その中で一番体のデカい男が吼えて来る

 

「おいおい!不意打ちしか出来ねぇ弱腰野郎が随分と粋がってくれるじゃねぇか!たった一人で俺達全員を相手取るだと?それはつまり楽に死にたくないって事で良いんだよなぁ!?」

 

「曹操に守って貰わないと既に2回死んでた雑魚が3人程度なら問題ないと思うけど?」

 

確かコイツはヘラクレスだったっけ?禁手(バランス・ブレイク)しても素のサイラオーグさんに手も足も出なかった印象しか無いわ

 

Fateのヘラクレスは好きなキャラだったけどコイツはな・・・ぶっちゃけ正面から対峙しても威圧感も特に感じない気がするわ

 

当のヘラクレスは煽りの耐久値は【E】だったのか額に血管が浮き出ている

 

だがそんなヘラクレスを押しのけて強い視線を向けてきたのは金髪の娘だった

 

「まだ貴方には自己紹介していなかったわね。私はジャンヌでこっちで無駄に怒ってるのがヘラクレスよ。宜しくね―――私、前からどうしてもあなた達に逢いたかったのよ」

 

そう言って俺とイッセーと祐斗に視線を向けてきた

 

それを聞いたイッセーが何かに気づいたように叫ぶ

 

「何?・・・ハッ!?まさかそのお姉さんキャラで俺達3人を同時に食べちゃう(意味深)みたいなエロエロ年上攻めっ気属性だったりするのか!?」

 

んな訳在るかバカ野郎!!

 

ツッコミを入れる中、ジャンヌは俺達に質問をぶつけてきた!

 

「あなた達って誰と誰が受けで攻めなの!?」

 

・・・へ?

 

「私ね!駒王学園で出版されている『プリンス×ビースト』、『ビースト×ナイト』、『ナイト×プリンス』の三角関係ものも、攻守が逆転した『野獣兵藤×木場きゅん』、『木場きゅん×いっくん』、『いっくん×野獣兵藤』のシリーズも全て手に入れたわ!でもやっぱり現実の関係を知ると妄想が捗るのよね!———あ!大丈夫よ。例えあなた達の実際の関係を知っても他の作品への愛が薄まったりなんかしないから♡」

 

頬を紅潮させて瞳の中にキラキラと光る星が見えるレベルで好奇心を覗かせている世界でも有数の知名度を誇る聖女の魂を受け継いだ人物(腐)がそこに居た

 

駄目だコイツ!しかも駒王学園で出版されたとかシリーズとか言ってなかったか?

 

「・・・イッセー、俺が曹操と戦うからこっち側頼むわ」

 

「悪いなイッキ、俺は今最強の神滅具(ロンギヌス)相手と戦える事に心底感謝し始めてるんだ・・・いや本当にそっちと云うかその娘を相手取りたく無いわ」

 

イッセーが!女の子大好きのイッセーが美人との戦いを忌避してる!そんなに関わるのがイヤですか!・・・俺だってイヤだよ!!

 

ジャンヌは何時までも期待に満ちた瞳を向けて来るな!答え何て無いんだからさ!

 

こうしてイッセーへの提案も拒否され、テンション駄々下がりになりながらも全員がそれぞれの戦場に向かっていったのだった




『プリンス×ビースト』などのBL本は英雄派の入団試験の問題にも使われています(公式)

今回イッキは挨拶!(暗殺)な こんにちは死ね!みたいな登場でしたね・・・それで良いのか主人公ww


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第五話 三人が、目覚めました?

イッセーと九重、アーシアさんを除いたメンバーが八坂さんとゲオルクの方に向かっていく

 

サジは龍王形態となってまさに怪獣大決戦と云った感じだ―――と云うか九尾状態の八坂さん初めて見たけど綺麗だしカッコイイな!流石は時として神とすら祀られる存在である

 

だがゲオルクに攻撃を加えようとしたところでゲオルク自身が霧を展開し、さらにそれらを守るようにして英雄派の構成員が現れた

 

ゲオルクは今回の奴らの作戦の要だし、守護する人も配置されていて当然か!

 

実際如何やら盾系だったり幻惑系の神器保有者たちみたいだし完全に守りを堅めた布陣だ・・・とはいえそれでも皆の攻撃を捌き切れるものでは無いのでゲオルク自身も守勢に回らなくてはならない為、ダメージは通らなくてもかなり集中が乱されているようだ

 

八坂さんに流れ込む力が一回り以上は少なくなっている

 

アレならば最悪でも寝込むくらいで済みそうだ

 

「じゃあ気張れよイッセー・・・聖槍と云っても指一本で止められるから安心しろ」

 

「いや、流石に指一本で止められる気はしねぇよ・・・お前ホントに人間か?」

 

「人間だよ、俺は・・・何で俺達って時々相手の種族を疑っちまうんだろうな?」

 

別にお互い隠してる訳でも何でもないはず何だけどね

 

イッセーが曹操の方に向かっていくとジークフリートが話しかけてきた

 

「良かったのかい?悪魔の彼に聖槍の相手をさせてさ・・・消滅しちゃうよ?彼」

 

「最強の龍殺しの魔剣を持ってる奴が居る時点で弱点で云えばどっちもどっちだよ。それなら一人相手に集中できる方がまだましさ」

 

曹操が禁手(バランス・ブレイカー)無しならって条件は付くけどな

 

原作でも完全にグラムを使いこなす奴は出て来てないけど、仮にも魔剣最強なら秘められた力は神滅具(ロンギヌス)に届いていても不思議じゃないだろう

 

って言ってる間にイッセーは聖槍で鎧ごと貫かれてフェニックスの涙を使用してるな

 

今回支給されているフェニックスの涙は全部で3個で一つはシトリー眷属が持っていて、イッセーが今使ったから最後の一つは動けるけど防御に難のある祐斗が持っている

 

流石に見ていてハラハラするから保険を作っておくか

 

そう思った矢先にヘラクレスが指をポキポキ鳴らしながら前に出てきた

 

「ジークフリート、ジャンヌ!先ずはこのすかした野郎は俺にやらせろ!こんな奴は俺一人で十分だ!それに、知ってるんだぜ?お前まだ禁手(バランス・ブレイカー)にも至ってないらしいじゃねぇか―――態々そんな事しなくてもぶっ倒せるが、此処は一つ俺がコイツに格の違いってヤツを見せてやるぜ!禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

流石に無駄な変身ポーズを取ったりせずに禁手(バランス・ブレイカー)となったヘラクレスは全身に突起物を生やした状態となった

 

両手には一際大きいミサイルのような物がくっ付いている・・・正直言って不格好だな

 

「コイツが俺の神器(セイクリッド・ギア)巨人の悪戯(バリアント・デトネイション)禁手(バランス・ブレイカー)超人による悪意の波動(デトネイション・マイティ・コメット)だァ!!」

 

横文字が多い!どの名前に注目していいか分かんねぇよ!

 

後、俺が未だに禁手(バランス・ブレイカー)にも至ってない事に関してはもう諦めた!

 

実力でどうこうなるタイプのものじゃ無いんだから、なるようにしかならないからな

 

ただしヘラクレス、テメェは取り敢えずぶっ飛ばすけどな!

 

「かっ散りやがれぇぇぇ!!」

 

ヘラクレスが両手に付けたミサイルを2発とも俺に向けて撃ち放って来たので素早く右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)を顕現させ、投げつける事で両者の間で誘爆させる

 

どうやら手元から離れたら衝撃で爆発する仕様だったみたいで、ほぼヘラクレスの目の前で爆発が起きてそのまま爆炎に包まれてしまう

 

「ぶほぉああ!!」

 

自分の出せる最大火力を喰らって全身にダメージを受けながら煙から離脱した瞬間を狙って蹴りでジークフリートやジャンヌとは別の方向に吹き飛ばし、そこからあえて追撃を行わずに様子を見る

 

「グッ!ガハッ!クソがぁぁ!!」

 

すると悪態をつき、血反吐を吐きながらも懐に手を伸ばして小瓶を取り出した

 

「へへ!コイツが何なのか分かるよな?裏ルートで手に入れたフェニックスの涙だ・・・さっきは油断しちまったけどもうこの先油断はしねぇ!すぐにテメェをぶっ倒して―――」

 

“パシィ!!”

 

「・・・へ?」

 

ヘラクレスは間抜けな声を出すが何のことは無い。取り出したフェニックスの涙を盗ませてもらっただけだ―――ヘラクレスはさっきの至近距離の爆発で目と耳が鈍ってるし、拙いながらも一瞬でも幻術で俺の姿を消して虚像を映せば騙される・・・1秒騙せれば掏るのは容易いからな

 

フェニックスの涙は超が付く高級品だし、裏ルートで手に入るとしてもその場合は超超超高額なお値段となっているだろう

 

テロをやるにも金は掛かるだろうからコレだけでも十分痛手なはずだ

 

それにレイヴェルを嫁に貰う以上はフェニックス家及びフェニックスの涙は俺にとっても所縁の品になるからな。それを目の前でむざむざ使わせる訳にはいかないんだよ!

 

「ヘラクレス!ジャンヌ、回復を!」

 

「はいはい分かりましたよ。援護はするからそっちは宜しくね、ジーくん」

 

経緯を見守っていたジークフリートとジャンヌは仲間がやられそうになるのは流石に見過ごせなかったのか素早く俺とヘラクレスの間に割って入る

 

「「禁手化(バランス・ブレイク)!!」」

 

こっちは油断なしで対峙する事にしたのか二人は初手で切り札を切って来た

 

龍の手(トゥワイス・クリティカル)禁手(バランス・ブレイカー)阿修羅と魔龍の宴(カオスエッジ・アスラ・レヴィッジ)!!」

 

聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)禁手(バランス・ブレイカー)断罪の聖龍(ステイク・ビクテイム・ドラグーン)!!」

 

ジークフリートは龍の手が四本生えて阿修羅のような恰好となり合計六本の腕にそれぞれ魔剣を握らせる(一本だけ光の剣だが)

 

対してジャンヌは聖剣が寄り集まって出来たドラゴンを作り、ジークフリートの横に並ばせて盾として自身は懐からフェニックスの涙を取り出し、ヘラクレスに振りかけた

 

流石にあの守りを強引に突破しようとすれば要らないダメージを受けそうだ

 

しかしコレで英雄派の幹部がそれぞれ一つフェニックスの涙を持ってると仮定して既に3つ使わせた事になるな・・・視界の端で曹操がフェニックスの涙でイッセーに切り落とされた腕をくっ付けてるのが見えたしね

 

ならば此方も早々に決着を付けていこう

 

先ず最初に狙うのはジークフリートだ!

 

「ッツ!僕からか!一番脅威と思ってくれているのなら光栄だね!」

 

いや、そんな事まともに戦った事無いんだから正確には分からんし・・・単に他の2人の禁手(バランス・ブレイカー)は威力はあっても大味な感じだから、引っ付いて戦えば向こうがフレンドリーファイアを気にして攻め手が緩くなるのを期待しただけ何だけどな

 

「ダインスレイブ!」

 

ジークフリートが以前は出さなかった新たな魔剣の名を叫ぶと地面から無数の氷柱が現れ、俺に向かってくると共にジークフリートから距離を取らせようとする

 

恐らく魔剣の能力で中距離攻撃しつつ他の2人と連携を取りたいのだろう

 

だが至近距離で自分自身を巻き込まないようにして放たれた牽制の氷柱は俺が震脚で放った仙術の波動で根本から水に変わった―――自然の気を感じ取り、コントロールするのに水気の扱いは参曲(まがり)様に叩き込まれたんでね!

 

震脚をそのまま踏み込みとして扱い、ジークフリートの懐に掌を添える

 

「破ッ!」

 

そのまま体の内部に衝撃が浸透するように掌打を放つ

 

相手の体に衝撃が入るタイプの技は同時に仙術で気を送り込み易いのだ

 

それで堪らずその場から吹き飛ばされたジークフリートは震える手で懐を探りフェニックスの涙を取り出そうとする

 

「げふっ・・・何?『涙』が無い?」

 

「お探しの品物はコレか?」

 

まだ懐を探っていたジークフリートに俺の手に握られたもう一つのフェニックスの涙を見せ、そのままポケットにしまう

 

先程掌打を放つ為にジークフリートの懐に手を這わせた時に次いでに掏っておいたのだ

 

フェニックスの涙は特殊な処理を施された特別なアイテムの為、至近距離で気配をしっかりと読めばどのポケットに入ってるか程度は見分ける事が出来るからね

 

これでフェニックスの涙が二つ・・・ヤバいね、超が付く豪邸が建っちゃうよ

 

いや、自分の物に何てする気は無いけどさ

 

兎に角、これで一人はダウンだ―――そう思ってるとヘラクレスが叫んで来た

 

「お前さっきから人の物ポンポンと盗みやがって!そういうのが許されるのはなぁ!俺達みたいな英雄、勇者だけ何だよ!」

 

「イヤイヤ!お前それ何処のド〇クエだよ!」

 

確かにドラ〇エじゃ世界を救う勇者は毎回、宝石箱の中身を盗ったり、タンスの中身のセクシー下着を盗ったり、シーフ(盗人)が仲間に居たりしてるけどさ!

 

と云うか何でテロリストにそんな指摘を受けなきゃいけないんだよ!相手の回復手段を封じるのは戦略として間違ってないはずだ―――相手の回復を阻止し、相手の資金に痛手を与え、此方に希少な回復薬を増やせる一石三鳥のやり方なんだからな!

 

それにコレは正確には盗んでるんじゃ無い!返して貰ってるんだ!

 

ともあれ気を取り直して残る二人に対処する

 

ジャンヌが聖剣で創られたドラゴンを俺に正面から差し向ける

 

「私の断罪の聖龍(ステイク・ビクテイム・ドラグーン)の守りを簡単に崩せるとは思わないでよね!聖剣を押し固めて創られたこの子は並みの成龍よりもずっと硬いわよ!それに普通のドラゴンと違って内臓何て無いから、その分ギッシリとドラゴンのオーラを付与した聖剣が詰まってる上に多少壊れたくらいならすぐに補強出来る!貴方はあんまり派手な物理攻撃は持ってないんでしょう?それでこの子を壊し尽くす事が出来るのかしら!?」

 

確かに目の前のドラゴン(聖剣)からはドラゴンのオーラを感じる

 

形だけ真似た訳じゃ無くて様々な属性の聖剣を創れる能力でドラゴンという力強いオーラを纏う事で全体的な強度を上昇させたのだろう・・・だから俺は走りながら倒れているジークフリートの隣を通過ざまに地面に転がっていたグラム(龍殺しの魔剣)の腹の部分を蹴りつけて目の前のドラゴン(聖剣)に向かって吹き飛ばした

 

ただそこに存在してるだけで強烈な龍殺しの呪いを振りまいているグラムはその呪いの効果を遺憾なく発揮してジャンヌの創り出したドラゴンに当たった瞬間に粉々に爆散させた

 

「かっふ!!?」

 

グラムがドラゴンを破壊する瞬間を狙って気配を頼りに投げつけた左歯噛咬(タルウィ)が彼女の腹に突き刺さった

 

自慢のドラゴンがこうも儚く消え去るとは彼女も思って無かったのだろう―――反応するので精一杯で対処は出来なかったようだ

 

「ジャンヌ!?ち・・・畜生ォォォ!!」

 

ヘラクレスがやぶれかぶれと云った感じに全身の突起ミサイルを連続で撃ち出して来るけど、ヘラクレスの全身のミサイルの数は見た感じ70発ほどで別にそれをガトリングガンのように連続掃射出来る訳でも無い・・・アレくらいの手数なら白音でも対処可能かもな

 

俺はその無駄撃ちされるミサイルの雨を掻い潜って近づいて、右手に持った右歯噛咬(ザリチェ)で肩から斜めに切り裂いた

 

コレで全員が致命傷、傷口から血を噴き出しながらヨタヨタと後ろに下がっていくヘラクレスの首を刎ねようとした処で遠くから聖槍がまた如意棒の如く伸びてきて弾かれてしまった

 

「二度ある事は三度あるって云うけどまたその首が繋がったみたいだな」

 

そう言って下がった後で倒れたヘラクレスを尻目に曹操の方を向く

 

「悪いね。うちの幹部をそうそう簡単に殺させる訳にはいかなくてさ―――取引しようじゃないかキミはその3人を見逃す。代わりに此方は赤龍帝を見逃そう」

 

そう言って曹操が体をずらすと手足など、全身を何か所か聖槍で斬られてアーシアさんの遠距離回復の光を受けても煙を上げ続けるイッセーが居た

 

右腕は白龍皇の白い籠手になっているがそれも通じなかったようだ

 

「ヴァーリの力は一対一で戦う場合は驚異だ。しかし、赤龍帝の場合は右腕の攻撃だけに注意してさえいれば問題無い。そしてアーシア・アルジェントの回復力もまた驚異的だ。だが、先ほど初めに赤龍帝を槍で貫いた時にその回復速度は見させてもらった。少し強めに斬ったから今の彼はこのままでは消滅するだろう―――そこで、お互いの立ち位置を交換しようじゃないか。キミはさっきジークフリート達からフェニックスの涙を奪ったようだからね。赤龍帝に使って上げると良い」

 

全く良く言うな。こっちの状況を見てからイッセーを死なない程度に斬り付けた癖に・・・実際、イッセーに攻撃する時に殺気は籠って無かったから俺も見逃したんだけど―――まぁそれは曹操も似たようなものかな?あっちは禁手(バランス・ブレイカー)が在ればイッセーを相手取りながらでもこっちに参戦出来たはずだし

 

「っぐ!・・・イッキ!俺の事は良いからぶっ倒しちまえ!」

 

「いやいや、それだと殺されるぞ、お前」

 

「何とかする!」

 

いや、ならんだろ。万全の状態なら想いの力で神器の力を引き上げる事も出来たかも知れないけど消滅しかけてそもそも力が入らない今のイッセーじゃ無理だ

 

根性論とかじゃ無くて手足が千切れ掛けてる状態では肉体の機能面で不可能なんだよ

 

「分かったよ。取引に応じよう」

 

「イッキ!」

 

「ふふふ、身内には甘いんだね。有難う、おっぱいドラゴン―――キミのお陰で助かったよ」

 

俺が取引に応じるとイッセーが声を上げるが、それを見た曹操がイッセーに屈辱的な皮肉の言葉を浴びせる・・・あ!今のは流石に"カチン"と来たぞ!

 

だが今はイッセーの回復が優先の為俺と曹操はお互い、時計回りに円を描くように警戒しながらもそれぞれの立ち位置を交換する

 

「イッセー、『涙』を使うぞ」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

膝を突いたままだったイッセーにフェニックスの涙を使って回復させるが当のイッセーは拳で地面を叩くだけだった・・・曹操に手も足も出なかった事が心底悔しいのだろう。地面に叩きつけた拳が"ブルブル"と震えているのが目に入る

 

「・・・イッキ、何で俺はこんなにも弱いんだ?大事な時にまともに勝てた試しが一度も無い!今度こそと気を張って挑んだってのにアイツの本気を引き出せてすらいない!何で俺は!!」

 

イッセーの慟哭に俺なりの見解で応える

 

「俺も、あと多分曹操も小さい時から鍛錬したり実戦を経験したりしてる。それこそ10年前後の積み重ねだ―――対してイッセーはこの裏の業界に入ってからまだ半年、色々と粗削りで至らない所が在るのは仕方無い面もある・・・基本的に想いの力で覆せる力量には限りが在るからな」

 

そこまで言うと耐え切れないといった風にイッセーが喰って掛かって来た

 

「!!ッツ、だからってそれで諦めて納得しろってのか!?」

 

それを俺は首を横に振る

 

「そんな事は言ってないぞ?さっき『基本的に』って言っただろ?聖書の神様の創り出した神器システムは人の想いが奇跡に届き易く、形になり易いように整えた代物だ」

 

それが全て何て事は無いだろうけど、そういう側面は在るのだろう・・・特に亜種の禁手(バランス・ブレイカー)とか諸だしな

 

「イッセー、悔しいか?」

 

「ああ、勿論だぜ!」

 

「曹操をぶっ飛ばすのは諦めるか?」

 

「いいや!絶対にこの手で一発はぶん殴る!」

 

「だったら出来るさ。お前の可能性を此処で解き放って魅せろよ!」

 

「分かったよ・・・へへへ、情けない所を見せちまったな―――!! イッキ、少し時間を貰って良いか?今、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)に宿った歴代の先輩のエルシャさんって人から呼び出しが掛かったからよ。時間を稼いでくれ」

 

時間稼ぎ!なら此処はあのセリフを言うしかないな!

 

「時間を稼ぐのは良いが、別にアイツを倒してしまっても構わないのだろう?」

 

言えた!人生で一度は素で言ってみたいセリフトップ20には入るこのセリフを!

 

「いや、倒されると俺の拳の行き場が無くなっちまうんだけど・・・」

 

「あ・・・うん」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

「行くぞ!曹操ォォォ!!」

 

「来い!有間一輝ィィィ!!」

 

気まずさを振り払うように無駄に気合を入れて突撃すると曹操も普通に応対してくれた

 

今はただ、無心で戦うのみ!

 

両手に握った右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)にもオーラを巡らし、最強の聖槍と斬り結ぶ!

 

しかし、流石に通常の神器と最強の神滅具(ロンギヌス)で真面にぶつけ続けるのは分が悪いのか徐々に刃こぼれが起き、右歯噛咬(ザリチェ)の複数ある刃の一つは根本に大きく罅が入っていた

 

仮にだが神器を只管ぶつけ合うような勝負をしたら先に音を上げるのは俺の方になるな―――神器は壊れてもオーラを注ぎ込めば修復は可能だけどその分体力を消耗するし、聖槍とぶつけても粉々にならないように、かなり強めにオーラを巡らせてもいるからね

 

それにチンタラと戦ってたらイッセーがパワーアップして戻ってくるだろうし・・・エルシャさんとか言ってたから多分そろそろ『召喚』すると思うしな

 

だから此処は一つ奇手を打つとしよう!

 

右歯噛咬(ザリチェ)で斬り付け、曹操が槍を盾にして防ごうとする瞬間に右手の神器を消し去り、曹操の槍の柄の部分を掴む―――俺なら別に聖なるオーラで焼かれるような事は無いからね

 

そして相手の聖槍の動きを止めたまま左手の左歯噛咬(タルウィ)で曹操に只管真っ直ぐな(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)真横一閃の斬撃を放つ・・・が曹操は咄嗟に聖槍を放棄してそのまま後方に跳び退いて斬撃を回避し、着地する頃には既に手元に聖槍を再出現させていた

 

それを見て俺も少し後ろに下がりカウンターを意識した形で構えを取る

 

「危ない、危ない。成程、短剣型の神器は斬撃と徒手空拳を好きなタイミングで切り替えられるのは強みだね。分かっていても対処のし辛い戦法だ」

 

そう評価しつつ聖槍を構えて僅かに腰を落として前傾姿勢となる

 

「では、今度は此方から攻めさせて貰おうかな!———————!!ッツ!!!!」

 

素早く踏み込んで俺に迫って来る曹操だが先ほど俺が真横に左歯噛咬(タルウィ)の斬撃を放った場所を通過する直前、何かを察知したのか強引に突撃を止めて顔を横に逸らす

 

”ブシャッ!!”

 

「ぐうぅぅぅ!!」

 

曹操の右目の部分が突如として切り裂かれ、鮮血が噴き出した

 

体勢が崩れた彼に気弾を何発か撃ち出すけど、さらに体を捻って躱し、聖槍で打ち払ってしまった

 

流石にあの程度では明確な隙にはならないか

 

潰された右目を抑えながら曹操は残った左目で睨みつけて来る

 

「今のは・・・達人の斬撃は斬られても暫く気付かないなんて言われているが、それと似たような事を大気に対して放ったのかな?」

 

おお!凄いな、一発で見抜かれた

 

【一刀修羅】の影響で身体操作には自信があるからな・・・集中して放った一切ブレの無い(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)素早い斬撃は大気にズレの無い断層としてその場に残る

 

後はその場に誰かが突っ込めば僅かに大気がズレて、それが瞬時に元に戻ろうとカマイタチのような現象を引き起こすのだ・・・某落第騎士の世界最強さんの空間に残る斬撃を再現した形だ

 

この設置型の斬撃は仙術でも闘気でも魔法でも魔力でも何でも無いただの技術なので気配で察知するのが著しく困難という利点がある・・・もっとも、仮に俺が突っ込んでも切り裂かれるから動きが制限されるとか強風が吹けば誤作動してしまうとか欠点も豊富だけどな

 

最初に斬撃を空間に置く事が出来た時には久々に『ファンタジーやべぇ』って思ったよ

 

黒歌や白音には最初「・・・人間って特別な力無しでも意外と何でもできるのね」、「姉様、戻ってきてください」みたいな反応はされたけどさ

 

「全く、高性能の顕微鏡で調べてもブレが見つからないレベルの緻密な身体操作技術は必須の一太刀だろうに・・・キミ、実は機械生命体みたいな未知の種族だったりしないよな?」

 

「お前まで俺の種族を疑うのかよ!?どいつもこいつも皆して俺を悪魔だの邪神だの果ては未知の機械生命体とかってさぁ!俺は純度100%の人間だ!!」

 

大体機械生命体とかってそれ、何処の異世界(E×E)の邪神軍団だよ!

 

結局邪神じゃねぇか!

 

如何にかして曹操に今の言葉を撤回させる為に詰め寄ろうとした処で背後から異様な気配がした

 

曹操も驚いてる表情をしていたので警戒しつつも後ろを振り向くとイッセーを中心に赤いオーラで形成された人型の存在が地面から湧いてくるように次々と出現し、何かを求める様に両手を突き出している―――そして彼ら(?)は只管うわ言のように一つの単語を連呼して歩いて行く

 

「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」「おっぱい」

 

・・・・・うん、コレは酷い。これだけの数の人の意識を操って痴漢行為を半ば強要したとか例え態とじゃ無くても犯罪だと思う

 

取り敢えず後でイッセーには何か適当に罰を与えた方が良いかもな・・・後処理をするアザゼル先生の実験に付き合う罰とか戦いが終わったら提案してみるか

 

そんな中でも事態は進み、曹操に『おっぱいゾンビ』と評された1000人は居そうな彼らは少し離れた場所で円陣を組み地面に溶けていき、ピンク色の見た事も無いタイプの魔法陣が浮かび上がった

 

折角なのでその魔法陣をいろんな角度、距離から携帯の写メで撮っていく

 

後で魔法を使う黒歌やロスヴァイセさんに資料として送ろうかな

 

そんな事を思っているとイッセーが今度は天に向かって息を深く吸い込んだ

 

「サモン!おっぱぁぁぁいっ!!」

 

何と馬鹿みたいな魂の叫びだろうか―――そんな声に呼応して魔法陣が激しく輝きだし、上空の空間に穴が開いた。上位神滅具(ロンギヌス)絶霧(ディメンション・ロスト)で初代孫悟空と五大龍王でも容易には突破出来なかったとされる結界に一瞬で大穴を穿ちその人を呼び込んだのである

 

「へ?えええええええええ!!?」

 

上空からリアス部長(下着姿)がゆっくりと降りてきた・・・あの様子ならグレモリー領で起きたというテロ行為は鎮圧できたのだろう

 

「イッセー!?それにイッキも!・・・という事は此処はもしかして京都なの!?もしかして私召喚されたの?一体何が起こっているというの!?」

 

かなり動揺してらっしゃるな・・・アレ?と云うかこっちの状況を知らない?

 

いや、知ってたとしても突然召喚されたら驚くだろうけど・・・

 

少し視線を逸らしながらもリアス部長に問う

 

「リアス部長。アザゼル先生から何も聞いてないんですか?あの人連絡を取ったとは言ってたんですけど・・・実際グレモリー領でテロが在ったって俺達も知ってますし・・・」

 

「い・・・いいえ、私は何も聞いてないわ」

 

「あ~、だとしたら多分アザゼル先生は駒王町のスタッフの人にリアス部長達の近況を聞いて応援は頼めないと判断したんでしょうね」

 

「という事は京都でもテロが!?」

 

「はい・・・と言ってももう終盤なので終わったら軽くメール送っておきますね」

 

詳しい報告書とかは後で別に上げる必要があるから概要だけだけどな

 

「それで・・・私は何で此処に呼ばれたのかしら?」

 

「それについては俺からのお願いが在ったからです!」

 

イッセーが前に出てリアス部長の正面に立つ―――それと同時にリアス部長の胸が輝き始めた!

 

鎧のマスクの部分を収納したイッセーは最高にイイ笑顔でお願いをする

 

「部長のおっぱいを突かせて下さい!」

 

その後俺は流石にその場に居るのは躊躇われた為に距離を取り、少しすると役目を終えたらしいリアス部長が再び結界の穴から元居た場所に送還されていった

 

「有間一輝。アレは一体何だったんだ?」

 

「・・・世の中、理解出来なくてもいい事って在ると思うぞ?曹操」

 

仮に説明しろって言われても出来ないしな

 

因みに今の『サモン!おっぱい!!』で絶霧(ディメンション・ロスト)を強引にこじ開けられた影響でコントロールが鈍ったのか八坂さんは怪しい魔法陣の上からは龍王形態のサジが連れ出す事に成功したようだ

 

それからイッセーは今までとは一線を画すオーラを身に纏い、新たに発現した三種の能力、『龍牙の僧侶(ウェルシュ・ブラスター・ビショップ)』、『龍星の騎士(ウェルシュ・ソニック・ブースト・ナイト)』、『龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)』を次々と発動させ、曹操を追い詰める

 

今は丁度曹操の槍の一撃を分厚い装甲となった『戦車』の籠手で受け止めた処だ

 

「へ!お前の一撃、俺も防げるようになったぜ!吹き飛べ、このクソ野郎ォォォ!!」

 

イッセーの拳で地面に盛大に叩きつけられた曹操だが、少しすると土煙の中から埃を払いながら現れた―――槍をクルクルと廻したり、首をコキコキ鳴らしたりして体の調子を確かめているようだ

 

「成程、俺やヴァーリ、有間一輝とはまた違う―――冷徹さを持って戦うのではなく感情を力の呼び水として戦う。感情で戦うのはリスクが大きいがその分リターンも大きいという訳だ・・・最弱と云われるキミがこの短期間で加速度的に力を付ける理由は強い想いと危険を脱する豪運の合わせ技と云った処かな?まさにヒーローのようじゃないか」

 

「まぁな。コレでもヒーローショーの主役をやってる身なんでね。俺が負けたら子供たちが悲しんじまうだろ?だったら勝たないとな!」

 

それから曹操とドライグがイッセーの新技をそれぞれ『イリーガル・ムーブ』、『トリアイナ』のようだと言い、言われたイッセーは『赤龍帝の三叉成駒(イリーガル・ムーブ・トリアイナ)』と割とそのまんまな名前を付けた

 

「さて、どうしたものか―――ゲオルクも劣勢のようだし、九尾の波動もあまり次元の狭間に響かなかっただろうからね・・・!!?いや、どうやら来たみたいだな。さっきの赤龍帝の特異な波動に興味を引かれたのかも知れないね。ゲオルク!俺が禁手(バランス・ブレイカー)となって援護する。『龍喰者(ドラゴン・イーター)』の準備に取り掛かって・・・」

 

空間に裂け目が現れ始めたのを見た曹操がそこまで言った処で言葉を切った

 

「違う!この気はまさか!」

 

澄ました顔から驚愕の表情に変わった曹操の視線の先に現れたのは緑色の東洋タイプのドラゴンだった―――さらにその頭の上には小学一年生程度の大きさの猿っぽい人物が乗っている

 

そしてその人型は「ほっ!」と軽い掛け声と共に俺とイッセーの近くに降りてきた

 

「久しい限りじゃの~、聖槍のボウズ。だがちょいと悪戯が過ぎたようじゃぜ」

 

「これはこれは、闘戦勝仏殿。それに西海龍童(ミスチバス・ドラゴン)玉龍(ウーロン)もご一緒とはね。かの有名な西遊記のメンバーが二人も現れるとは思いませんでしたよ」

 

闘戦勝仏と呼ばれたサイバーなサングラスを掛けた人物は煙管を吹かして答える

 

「元々、ここの九尾の姫さんと会談する予定じゃったんでな。それを当日となって拉致たぁやってくれるぜぃ。このまま引き下がっちゃあ須弥山の面子にも関わるんでね。お仕置きしに来たぜぃ・・・と言っても既に殆ど終わってるみたいじゃがな」

 

成り行きを見守っていると隣のイッセーが話しかけてきた

 

「なぁイッキ。もしかしてあの爺さんがアザゼル先生の言ってた凄い助っ人ってヤツなのか?スゲェ大物感出てるけど何者なんだ?」

 

「イッセー、お前さっき闘戦勝仏って言ってたの聞こえなかったのか?要は初代孫悟空だよ―――イッセー、今度こそサインを強請ってみたらどうだ?正真正銘の有名人だぞ?」

 

「い・・・いや、流石に初代の孫悟空相手にサインを下さいなんて恐れ多すぎて言えねぇよ!」

 

そんな風に話していると闘戦勝仏が此方に顔を向けてきた

 

「お主らじゃな?聖槍のボウズに仕置きしたのは?此処に入る直前、良い龍の気が流れておったわ。それとそっちのボウヤは九尾の娘さんの婚約者じゃったな?成程、澱みの無い気の流れじゃ。一部なら既に儂にも通ずるところも在るようじゃ・・・クソボウズ、お前さん本気にもならんでこの二人を相手にしたのか?まだまだ相手の力量を推し量る『目』が足りとらんようじゃの」

 

「それは片目を奪われた私への皮肉ですかな?確かに、色々と図り違えましたからな・・・今回の件は今後に生かすとしますよ―――ゲオルク!引き時だ!闘戦勝仏殿まで加わっては今の俺の禁手(バランス・ブレイカー)程度では御しきるのは無理だろう」

 

遠くで皆にフルボッコにされて攻撃は受けてないものの肩で息をしているゲオルクが待ってましたとばかりに霧を展開して曹操の隣に転移する

 

「全く、遊び心も程々にしてくれないかい?コレでは結局本当にあの方法でグレートレッドを呼び出せたのかどうかすら分からないじゃないか・・・作戦の下準備は大変でデータは得られず、幹部が倒されてと完全敗北だよ」

 

「何、そう腐るほどの事じゃ無いさ―――失敗は成功の基とも云うしね。人員は欠けてないのだから、諦めさえしなければまた別の手を試せば良い。目標に向かってコツコツと積み重ねを続けていくのは人間が異形に勝る数少ない武器だよ」

 

ゲオルクを中心に大量の霧が発生し、倒れているヘラクレス達も含めて姿が隠されていく

 

「それではさらばだ諸君。次に会う時は存分に聖槍の真の力を魅せて上げよう」

 

ゲオルクはさっさと退場したいのか曹操のセリフが終わると同時に霧が一気に彼らを包み込んで姿を消し、残った霧もすぐに霧散して・・・

 

「う゛ぼおぁぁああ!!?」

 

・・・霧が消え切る直前に初代が如意棒を伸ばして、もはやピンポン玉程度の霧の穴でしか繋がっていなかった霧の転移先に一発入れたようだ

 

声だけだったけど今のは曹操の叫び声だったな

 

完全に不意打ちの攻撃はさぞかし痛かっただろう

 

「まっ、流石に何もせん訳にもいかんからの。三日はまともに飯も食えんようにしてやったわい」

 

闘戦勝仏はそう言って悪戯が成功したように笑ったのだった

 

 

 

 

 

 

戦いが終わってから俺達は八坂さんの近くに集まっている

 

「母上!母上!九重です!」

 

「く・・・のう・・・」

 

八坂さんは消耗の具合はそこそこなものの、まだ洗脳の後遺症なのか意識が朦朧としている感じだ

 

その様子を見ていた闘戦勝仏は煙管を吹かしながら

 

「ふぅむ。九尾の姫さん自身が無意識に邪な気(洗脳)に抵抗しているようじゃの。これならば気付けと気脈の活性化をしてやれば内側から祓えるじゃろう・・・そういう訳じゃから玉龍(ウーロン)!お主の龍の気の大半をいっちょ姫さんに分けてやれぃ。お前さん何もしとらんじゃろう」

 

「いやいや、俺様この空間を無理やり開くのに結構力使って疲れてんだけど!?ちょっと龍使いが荒すぎねぇか、爺さん!」

 

「お前は龍王の中で一番の若手じゃろうが。多少へたばった程度ならすぐに回復するわい・・・それとも、天帝に『玉龍(ウーロン)は足替わりにしか役に立たなかった』と伝えとくかい?きっと冗談半分に天罰が貰えるじゃろうて」

 

「そんな理不尽な天罰喰らいたくねぇよ!しぶとさに定評のある邪龍のヴリトラですら消滅する天罰(雷撃)とかおいらが喰らったらお陀仏じゃねぇか!」

 

玉龍(ウーロン)がツッコムが闘戦勝仏は「ほれほれ、早くせんかい」と促すだけで結局玉龍(ウーロン)は項垂れるように了承し、倒れ込む八坂さんにドラゴンのオーラを送り込む形で治療した

 

洗脳が解け、ついでに元気一杯にもなった八坂さんが人間の姿に戻り、九重が抱き着く

 

「母上~!!」

 

「おやおや、如何したのじゃ九重?そのように泣いて。まだ泣き虫な処は治ってないようじゃの」

 

八坂さんはどうやら洗脳されてた時の記憶は無かったみたいだが九重をあやしながらも周囲の状況を見渡すとある程度は察した様子だった

 

そしてこの場で八坂さん以外に一番偉い闘戦勝仏に声を掛ける

 

「闘戦勝仏殿。会談に出席出来なかったばかりか助けて頂いたようで―――感謝致します」

 

「いやいや、実は儂が辿り着いた時には殆ど終わっておったからの・・・姫さんの娘さんは中々良い婚約者とそのお仲間が居るようじゃぜぃ?礼なら儂よりもそっちに言ってやりな」

 

「そうでしたか。ふふふ、イッキ殿を九重の婚約者とした私の判断を褒めてやりたいですな」

 

「うむ!今日はイッキの戦いぶりを初めて間近で見られたのじゃ!凄かったぞ!」

 

八坂さんに抱き着いていた九重が興奮したように告げる

 

「そうか、その話は後でゆっくり聞かせて貰おうかの―――イッキ殿、感謝する」

 

「有難うなのじゃイッキ!それに皆の衆!」

 

そうして二人の狐の姫様のお礼の言葉を締めとして京都の事件は終わりを迎えたのだった

 

「うう゛・・・疲れた・・・俺様もう動きたくない・・・」

 

・・・約一匹ぐだってたが片づけの邪魔だとケツに如意棒フルスイングされてたが些細な話だろう

 

 

 

 

 

 

翌朝、昨日の戦いの疲れは残っているものの、イリナさんの強い要望もあり京都タワーのお土産屋で傷みやすい生もの系の物を買ったり、展望デッキから街を眺めたり、マスコットであり所謂ゆるキャラの『たわわちゃん』が居たので一緒に写真を撮ったりしていた

 

今はダンスが得意という触れ込みもある『たわわちゃん』が見事なブレイクダンスやマイケルダンスを披露している処で観客たちが興奮してキャーキャー騒いでるけどアレで合ってるのだろうか?

 

するとこの場にアザゼル先生とロスヴァイセ先生も現れた

 

俺達以外にも一定数駒王学園の生徒が居るので様子を見に来たのだろう

 

「お二人とも後処理は終わったんですか?」

 

「ああ、元々此処は九尾の姫さんのお膝元だし大まかな指示は出し終えたからな。セラフォルーに後を任せて引率の先生役に逆戻りだ」

 

テロの後処理よりは表の学校の先生役の方が楽ですもんね

 

「イッセー君の起こした痴漢騒ぎの被害者の方々へのフォローも大方済ませました。彼の可能性の宝玉の残滓が宿っている人間にサーチを掛けたので取りこぼしは無いと思います」

 

おお!それは良かったな!

 

あれだけの人数を特定出来るのか心配だったんだけど問題無いようで何よりだ

 

「それとイッキ君から提供されたイッセー君の発現させた魔法陣ですが、大変興味深いものでした。龍門(ドラゴン・ゲート)の術式を基本に置いてはあるのですが未知の部分も多くてですね。アザゼル先生の見解では例の乳神の加護の残滓がイッセー君の高まった乳力(ニューパワー)と共鳴して発動したものではないのかと・・・異世界の術式が絡んでいるとすれば魔法使いとしてキッチリ研究したいですね」

 

マジですか!冗談交じりに撮影したものだったのにそこで乳神が関わってきますか!

 

「他に気になる処と言ったら『龍喰者(ドラゴン・イーター)』とかだな。聖槍を持つ曹操がグレートレッドに通用するかも知れないとしているその存在が何なのか・・・まぁ奴らは色々な実験を繰り返しているみたいだから複数のドラゴンスレイヤーを掛け合わせたとか神器所持者を態とドラゴンを憎むような環境に置いて亜種の禁手(バランス・ブレイカー)に至らせたとか考えられるけどな」

 

ああ~、そんな風に考えていたのか・・・でも違うんだよな

 

色々と思考が柔軟なアザゼル先生ですらサマエルの可能性を思いつかなかったんだからハーデスがサマエルの封印を解いたのは本当に在り得ない事なのだろう・・・と云うか他の神話体系を毛嫌いしてるはずのハーデスが聖書側の汚点でもあるサマエルを今までキチンと管理してたと考えるとマジでヤバい代物なんだろうな

 

「アザゼル先生の知ってる限りの最強のドラゴンスレイヤーって何なんですか?俺は今回グラムを見ましたけど、魔帝剣よりも凶悪となるとそもそも存在するんですか?」

 

英雄派が『龍喰者(ドラゴン・イーター)』を使用できるという事はやはりこの世界でも『ハーデス死すべし、慈悲は無い』と云った行動をとっているのだろうから此処は原作知識を生かしてアザゼル先生の思考を誘導する事にしよう

 

「ん~、イッセーのアスカロン以外にもバルムンクとか日本なら天叢雲剣とか剣以外なら邪龍ラードゥンを倒したヒュドラの毒とかだな。まぁヒュドラの毒は別に強力なだけでドラゴンスレイヤーって訳じゃないんだが、それ以上となると・・・いや待てよ!もしも三大勢力の和平をアイツが疎んでるとしたら、有り得るのか?しかし、だからと言って・・・」

 

暫く思考の海にに沈んでいたアザゼル先生だったが疲れたように溜息を吐いた

 

「はぁ、イヤな想像しちまったぜ。イッキ、取り敢えずこの件は俺が預かる。サーゼクスやミカエルとも協議しないといけない事になるかも知れんからな・・・まぁ先ずは怪しい動きが無いか諜報部に当たらせないといかんが、アソコは年がら年中きな臭いんだよなぁ」

 

心労掛けてすみません。でも悪いのは全部ハーデス何です。だから『僕は悪く無い!』

 

「お~い、イッキ!もうそろそろ駅前の集合時間だぞ~!」

 

心の中でちょっと冗談めかして括弧つけていたらイッセーが呼びに来たので、アザゼル先生に胃袋にストレスを与えながらも皆で駅のホームに移動する

 

八坂さんと九重にセラフォルーさんが俺達の見送りに来てくれた

 

「それでは皆々様。此度は本当に助かり申した。三大勢力を中心に協力し、都により強固な警戒態勢を敷けるようにこれから詳細を詰めていく予定じゃ」

 

「うん♪こっちの事は私に任せてね♪悪い子が二度と京都で騒ぎを起こせないように、色々な防備を築いちゃうんだから☆」

 

色々な防備ですか・・・重要な場所なら多分相手を『捕りにいく』んじゃ無くて『殺りにいく』ようなトラップとかも増設されるのかもな

 

「イッキよ、ちょいと良いかの?」

 

京都の防衛に思いを馳せていると九重が手招きしてきたので近くに寄る

 

「どうした、九重?」

 

すると九重が軽くジャンプして正面から首筋に抱き着き、俺の頬に軽くキスをしてきた!

 

すぐに恥ずかしくなったのか九重は母親の後ろに隠れてしまい、顔だけこっちに向けている

 

「く・・・唇はまだ恥ずかしいのでの・・・イッキよ、行ってらっしゃいなのじゃ!」

 

行ってらっしゃいか。まぁ確かに実は八坂さんの屋敷には俺や黒歌の寝泊まり用の部屋(ほぼ自室)とかも既に用意されてたりするんだよね・・・今はまだあまり使用しないからと最初は断ったんだけど親子二人に押し切られたので京都はもう既に実家の一つになりつつある

 

ならば確かにこの言葉が適しているのだろう

 

「八坂さん、九重。行ってきます!」

 

こうして学生最後の修学旅行は幕を閉じたのだった

 

 

 

 

 

 

 

「イッキー!!窓から見えていたぞォォォ!!九重ちゃんにほっぺにチューとかテメェは絶対に許さん!!そうだ!絶対に許されてはならない事なんだァァァ!!」

 

「しかも何だあの巨乳金髪美人は!?九重ちゃんのお母さんか!?お前は黒歌さんと白音ちゃんといい、姉妹の次は母娘を同時に毒牙に掛けようとしているのかァァァ!!」

 

嫉妬の炎に駆られて体から薄っすらと闘気すら身に纏った松田と元浜を拳で沈めておいた

 

「なぁイッキ、此奴ら今闘気を」

 

「知らん!」

 

修学旅行はどうやらエロ馬鹿三人組を一段上の強さに導いたらしい

 

どうしてこうなった?




サブタイの目覚めた三人とはエロ馬鹿組でしたねw松田と元浜の戦闘力を上げてる事に深い意味はありませんww

それとイッキも少しずつ人外認定されるようになってきましたねw人間のまま「もうお前人間じゃないだろ」と突っ込まれるキャラにしていきたいですww


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第11章 学園祭のライオンハート
第一話 準備と、課題です!


今章はマジでイッキの出番が出しにくいですwwカオスブリゲードの横やりとかはヴァーリが気合を入れて防ぐと原作でも言ってたので、せめて少し違う視点を入れたいですね


修学旅行から帰って来て後日、俺達は冥界に来ていた

 

今居るのは冥界の旧首都であるルシファードのコンサートホールである

 

そこには特設ステージが設けられており、子供を中心に親御さんやその他の悪魔まで幅広い客層が席を埋め尽くしてステージの上に声援を送っていた

 

「「「おっぱいドラゴン頑張って~!!」」」

 

「「「負けるなおっぱいドラゴ~ン!!」」」

 

子供たちの声援を受けて立ち上がるおっぱいドラゴンだが立ち塞がる『二人』の敵を前にして劣勢を強いられているようだ。そしてそのうちの片方が声を掛けて来る

 

太く逞しいアスリートのような鍛え抜かれた肉体にライオンの特徴を盛り込んだ衣装を着たサイラオーグ・バアルが立っていた。なお、ステージ上の名前はライオン・キングだ

 

「おっぱいドラゴンよ。貴様に滅ぼされた我が領土に住まう領民たちの無念を今此処で晴らさせて貰おうか!此処が貴様の死地と知れ!」

 

おっぱいドラゴンにそんな声を掛けるライオン・キングの更に後ろには浅黒い肌色をした(魔力で着色した)全身に青白い不気味な紋様を浮かび上がらせた有間一輝が居る

 

服装も赤いバンダナや紋様を良く見せる為か少し露出の多めな格好となっておりFateの世界のアンリ・マユに近い姿となっている・・・おっぱいドラゴンのデザイナーには変な電波を受信している人でも居るのかも知れないが真相は謎のままである

 

因みに彼の『おっぱいドラゴン』における設定は邪人、オール・エヴィル(この世全ての悪)でダークネスナイト・ファングの所属する悪の組織の幹部であり、ライバルとしての側面も持つダークネスナイト・ファングと違って完全な悪者設定である

 

子供たち相手なら明確な悪役もまた必要として、基本は裏で暗躍して時折表に出て来て悪意を振りまく敵役だ―――今回は人望の厚い若き領主のライオン・キングが町を離れている隙に破壊の限りを尽くし、その場所におっぱいドラゴンの痕跡をこれ見よがしに残したのだ

 

そうして戻って来た領土で目の前の惨状に嘆く彼に正義のおっぱいドラゴンが実は人助けの報酬に金品などを無理やり強奪したり、ばれないように各地で暴れたりしている裏の顔を持つと言葉巧みに傷心しているライオン・キングに吹き込んで二人がぶつかるように画策したのである・・・まさに外道!もはや悪鬼の所業だった

 

脚本家は人間の彼にどうなって欲しいのだろう?真相は本人のみぞ知る処だ

 

ついでに言えば同じく幹部のダークネスナイト・ファングとは騎士としての在り方を持つ彼とは折り合いが合わず、おっぱいドラゴン2期では味方となったダークネスナイト・ファングとおっぱいドラゴンが暗黒の秘術で邪人から邪神になったオール・エヴィルとの長きにわたる戦いを展開するのだがそれはまた未来の話である

 

だがそんなピンチのおっぱいドラゴンを助けに紅髪の姫が現れた!

 

「来たわよ、おっぱいドラゴン!そしてライオン・キング、貴方に会わせたい人が居るの!!」

 

現れたリアス・グレモリーことヒロインのスイッチ姫は傍らにもう一人連れていた

 

それを見たライオン・キングは驚愕に彩られる

 

「お前はメイドのクイーシャ!?何故ここに!?」

 

サイラオーグ眷属の『女王』である金髪をポニーテールに近い形にして衣装のメイド服を着せられたクイーシャ・アバドンである

 

今回はチョイ役の村人A的な立ち位置の為、特別な称号は無しで登場だ

 

「ライオン・キング様!領地を襲ったのはおっぱいドラゴンではありません!ライオン・キング様の後ろに居るその男が全てを演出していたのです・・・私は町の外れに買い出しに出ていた時に偶然にもその男がおっぱいドラゴンの鎧の中から現れたのを目撃したのです!」

 

「チィ!見られていたとはな。もっと人目の付かない場所で着替えるべきだったか」

 

「何だと!では俺はこの者にみすみす騙されていたと云うのか!・・・すまない、おっぱいドラゴン。もしもお前が許してくれるならこの邪悪なる存在、オール・エヴィルを打倒すのに協力させてくれないか?」

 

「ええ、勿論です!さぁ皆!いくぞぉぉぉ!!」

 

おっぱいドラゴンが立ち上がり観客の方を向いて両手の人差し指を前に突き出すポーズを取る

 

「ずむずむいや~ん!」

 

「「「「「ずむずむいや~ん!」」」」」

 

観客の子供たちがおっぱいドラゴンの掛け声を復唱し、おっぱいドラゴンは内側に仕込んだライトで発光現象を引き起こしているスイッチ姫のおっぱいを突く・・・ふりをする

 

おっぱいドラゴンの宝玉が光り輝き(演出・ドライグ)パワーアップを果たしたおっぱいドラゴンはライオン・キングと共にオール・エヴィルに立ち向かう

 

しかし、二人の雄姿を前にしてオール・エヴィルはまだ余裕の表情を崩さない

 

「クククククク!こんな事も在ろうかと策は二重に仕込んであるのだよ!見るが良い!」

 

彼が指を鳴らすとスクリーンに映像が投射された

 

そこに映っていたのは殺されてしまったと思っていた領民たちの姿だ

 

縛られており、彼らの周囲にはオール・エヴィルの配下の者達が剣を携えている

 

「皆!?おのれ俺の領民をどうするつもりだ!」

 

気炎を発するライオン・キングを嘲笑しながらもオール・エヴィルは得意気に語る

 

「決まっているだろう?人質だよ。さぁお優しい若き領主様とおっぱいドラゴンは彼らを見捨てられるかな?助けにいこうにも彼らが何処に居るのかすら分からないだろう?ライオン・キングよ、領民を殺されたくなくばおっぱいドラゴンと戦え!おっと、おっぱいドラゴンも下手に抵抗すれば一人ずつ領民を始末していくように命令を下していくぞ?」

 

彼は手元にトランシーバーのような無線機を取り出し弄びながら脅す

 

会場の子供たちは「卑怯者~!」「正々堂々戦え~!」などの言葉を浴びせていく

 

オール・エヴィルはその子供たちの声を受けて「フハハハハ!!お前たちが俺様に向ける悪意が気持ちいいぞぉぉぉ!!」と実は結構ノリノリである

 

こういうのは寧ろ吹っ切れた演技の方が恥ずかしくないのである

 

普段の自分からかけ離れた挙動を取る事で『これは自分じゃない』と自己暗示を掛け易いのだ

 

だが彼の天下は長くは続かなかった

 

≪ぐぎゃ!!≫

 

≪ギャアアアアアア!!≫

 

人質の居る場所を映したスクリーンから叫び声が聞こえ、彼らが慌てて映像を見ると倒れ伏す悪の手下たちと無駄に格好よく剣を納刀している木場祐斗ことダークネスナイト・ファングが居た

 

今回は映像先からの特殊な出演の為、オール・エヴィルの部下が撮ってるはずの映像なのに無駄に色んな方向からズームして恰好良さを際立たせているのはご愛敬である

 

≪オール・エヴィル。人質を取るのは良い。しかし、関係無い者を数多く巻き込む貴方のやり方には美学が感じられない―――今回は邪魔させて貰うよ≫

 

「「「「「キャアアアア!!ダークネスナイト・ファング様ぁぁぁ♡」」」」」

 

会場のお母さま方も何時もと少し違った演出に興奮気味だ・・・割と何時もの事だが

 

「ダークネスナイト・ファング!貴様は何処までも俺様をイラつかせてくれるな!」

 

だが怒りに駆られた彼はまだ気づいていなかった・・・人質が解放された事で二人のヒーローもまた楔から解放されてしまった事に

 

「どうやらこれで思う存分お前を打倒せるようだな、さあ行こうか!おっぱいドラゴン!!———ライオンパーンチ!!」

 

「ええ!覚悟して貰うぜ、オール・エヴィル!!———ドラゴンキーック!!」

 

二人の必殺技を受けたオール・エヴィルは遥か彼方に飛ばされていった

 

残念ながらオール・エヴィルには最後に逃げられてしまったが、おっぱいドラゴンとライオン・キングは見事、巨悪を退ける事に成功したのだった

 

 

 

 

 

ショーが終わって控室で俺とイッセーにサイラオーグさんが汗を拭っている―――体力的な面は兎も角、あまり慣れない事をすると妙に疲れるんだよね

 

因みに祐斗は白音の演じるヘルキャットのクイズショーに付き添っている

 

ダークネスナイト・ファングのファンのお母さま方を相手に本人が一度もステージに顔を見せないというのは後で文句が多そうなのでもう少し頑張って貰ってる処だ

 

裏方ではレイヴェルにも手伝って貰っている。俺や白音が居るならと付いてきてくれた感じだ・・・黒歌?ステージの上で悪ノリ出来る役でもないと来ないだろうな

 

「ククク!ヒーローショーなど初めてだったが、最後に子供たちがおっぱいドラゴンと共に俺の事も応援してくれたのはとても良いものだった。何時もとはまた違う気合の入ったパンチが打てた気がしたぞ!」

 

「いや、サイラオーグさん。それは気のせいじゃ無いですよ?俺が相殺して無かったらステージの大半は拳の余波で吹き飛んでましたからね?」

 

ステージのセットは決して強固な造りになってる訳じゃないので同質同量の攻撃をぶつけるという繊細な作業が必要だったんですよ?今回は上手くやれたけど次回も同じことが出来るかと言われたら自信が持てないですからね!?

 

イッセーも「どっひゃー!!」とか叫びながら避けてたし・・・アレ絶対涙目だったはずだ

 

「それにしてもまさかサイラオーグさんとレーティングゲームで戦うよりも早くヒーローショーで戦ったり共闘したりするとは思いませんでしたよ」

 

「それは俺も同じだ―――だが、悪くはないだろう?それとも俺が味方役では不服か?」

 

「いえいえ!そんな事ありませんよ!サイラオーグさんとこうして共演出来るなんて光栄の限りです!・・・敵役として対峙してた時はプレッシャーで冷や汗が止まりませんでしたけど」

 

そう言って拭ったはずの汗をもう一度流し始めるイッセー

 

まぁ確かにイッセーは割と本気で避けてたよな。声援ブーストが掛かってなかった時だからまだ手加減された拳だったけど、直撃すれば鎧に罅くらいは入ってたかも知れんし、ステージの外まで吹っ飛んでたかもな

 

そんな見ている側も演じる側もかなりハラハラする公演も終わり、スタッフの方々を始めとした関係者さん達の前でサイラオーグさんと仲良さげな様を演じたり、(演じる必要は無かったかも知れないが少しオーバーにした)握手会など一通りのスケジュールを消化して後は着替えて帰ろうという辺りで通路の先からイッセーとリアス部長が歩いて来て、折角なので近くの控室で少し談笑する事となった

 

「そうか、サイン会のチケットの時間が分からず列に並ぶ事すら出来なかった子供が居たのか・・・人間界の文化を取り入れ始めたばかりでその辺りの情報がキチンと行き渡ってない部分も在ったのだな」

 

「ええ、もっと告知や宣伝に力を入れなければならないわね。チラシやラジオ、テレビなど力を入れられる処はまだまだ在るわ。おっぱいドラゴンの収益も伸びてきているし、売り上げの一部をそっちに回すよう打診しなければいけないわね」

 

「広告塔とかが在っても良いかも知れませんね。おっぱいドラゴンの情報を随時更新出来るように電子掲示板で軽く映像が流れるようにしたりとか―――冥界にその手の物はまだ少ないでしょうから目立つんじゃないですかね?」

 

「俺もつい周りに誰も居ないからってその子にサインと握手をしてしまいました・・・後悔してる訳では無いですけど少し軽率な行動だったと反省しています」

 

公演自体は成功と言えるものではあったが、やはりそれでも思う所が在るのか頭を悩ませたり次回に向けた改善点を考えたりしていると控室の扉が開いて二人の女性と一人の子供が入って来た

 

「リアス姉様、サイラオーグ兄様、イッセー兄様、イッキさん!公演、とても楽しかったです!」

 

最初に元気よく声を掛けてきた紅髪の男の子はミリキャスだ

 

そしてリアス部長とサイラオーグさんはミリキャスと一緒にこの場に来た二人女性の内、片方の登場に驚きの仕草を見せる

 

「ミリキャス、それにお母さまとミスラおば様まで!」

 

「母上!お越しになられているとは!まだ安静になさっていた方が良いのでは?」

 

「心配しなくとも体に異変は見受けられないと先日も医者の方に言われたでしょう?それにずっとベッドの上で体力が落ちていたのだから、寧ろこうして出歩いて体を慣らす方が健康にも良いわ・・・初めての方もいらっしゃいますね。私はミスラ・バアル。サイラオーグの母です。以後お見知りおきを」

 

流石にこの場では治療薬の一件を口に出す訳にもいかないのでそれを除いた挨拶をしてくれた

 

「は・・・はい!自分はリアス・グレモリー様の『兵士』の兵藤一誠と申します!此方こそよろしくお願いし致します!」

 

「初めまして、有間一輝です。平民の身で恐縮ですがサイラオーグ様とは仲良くさせて頂いております。以後、宜しくさせて頂ければ幸いです」

 

こういう時に挨拶する場合、俺の身分って結構微妙何だよね

 

周囲に居る人たちはそういうの気にしない場合が大半だけどさ

 

「ふふふ、今はプライベートですから楽にしてくれて構いませんよ。息子の友人にまで貴族として接したら肩が凝ってしまうわ」

 

一応初対面の貴族相手なのでお堅く挨拶をしたが楽にして良いとされたので多少崩していこう

 

「それでは人目の無い時などはミスラさんとお呼びしますね。改めて宜しくお願いします」

 

「あら、切り替えが早い事は良い事です。息子共々仲良くして下さいね」

 

俺とイッセーにそれぞれ握手をしてからミスラさんはサイラオーグさんに向き直る

 

「さて、サイラオーグ。ヒーローショーは盛り上がっていましたね。子供たちに夢を与える・・・とても良い事です」

 

「はい、母上!全身全霊で与えられた役を「ですが!」」

 

サイラオーグさんの言葉を途中で遮って強い語気で言う

 

「全力で取り組む事と物理的に全力を出す事は違います!一誠さんに繰り出していた攻撃も並みの悪魔なら吹き飛んでいたでしょうし、最後のパンチは一輝さんが上手く防いでいなかったらパニックになって子供たちに夢を与える処か泣き出していたでしょう。正直見ていて冷や冷やしました―――手を抜くなと言ってるのではありません。手加減を覚えなさい」

 

サイラオーグさんは叱られて項垂れてしまった

 

「そ・・・そんな・・・俺が子供たちの夢を壊す処だったのか?これでは次期当主への道は遠い・・・そうだ!手加減の修行の為に山籠もりしなくては!」

 

何か最後の方に変な方向に気合を入れ始めた気がしないでもないけど放っておくか

 

ミスラさんが監督してくれる事だと思うからね

 

それに冷や汗を掻いたのは俺も一緒だし・・・ミスラさん、もっと言ってやって下さい!

 

内心でミスラさんを微妙に応援していると隣は隣でヴェネラナさんがリアス部長に苦言を呈しているみたいだった

 

「リアス、一誠さんとの仲はその後如何なのですか?彼や一輝さんを見ていれば分かるように強い殿方には多くの女性が惹かれるものです。一輝さんは女性陣のパワーバランスが上手く纏まっているようですが一誠さんの周りの女性は押しが強い方ばかりなのでしょう?ちゃんと貴女が全体の手綱を握らなければいけませんよ。デートくらいは既に済ませたのでしょうね?それか殿方の方からのキスでも構いませんが―――夏季休暇が終わってから進展は無いのですか?」

 

「それはその・・・忙しくてそんな暇が無かったと言いますか・・・」

 

リアス部長がボソボソと言い訳するとヴェネラナさんは更に視線を鋭くする

 

「そこでそんな言い訳をするようではいけませんね。彼にも問題が無いとは言いませんが、将来共に歩む者を導くのも大事な役目です。少々教育が足りてないのでは無くて?押しが強いのは私に似ていると思っていましたが、如何やら認識を改める必要がありそうですね」

 

リアス部長、もはやフルボッコである

 

俺とイッセーの目の前で大王家と公爵家の次期当主が揃って母親に説教されている

 

やり手の母親相手では流石の二人も頭が上がらないみたいだ

 

そしてイッセー。普通に眺めてるけどヴェネラナさんの説教の何割かはお前への愚痴でも在るんだぞ?・・・と云うかグレモリー家には俺の周囲の女の子事情がそれとなく伝ってる感じがするのが凄いな。そりゃ駒王町のスタッフとかから幾らでも話は聞けるだろうし、リアス部長にも話題を振れるだろうからな

 

二人の母親が一通り説教を終えて満足したのか此方に向き直る

 

「あらあら、御免なさいね。一誠さんや一輝さん相手だと気負う必要が無いと、ついつい家と一緒の対応をしてしまって・・・これからもリアスの事を宜しくお願いしますね」

 

「サイラオーグも、この間お二人と闘った時の事を楽しそうに語っていましたよ―――リアスさんとはレーティングゲームも近いですから今すぐにという訳にはいかないでしょうけど、何時かバアル領にも遊びに来て下さいね」

 

お!さり気なく話題を振られたな。問題無いか一瞬視線だけをリアス部長に送ると注視しないと分からない程度の頷きが返って来た

 

「でしたら俺はゲームに参加はしませんので一度伺ってみても良いですか?バアル産のリンゴは本当に美味しかったですし、サイラオーグさんともまた模擬戦もしてみたいですからね」

 

近接で殴り合えるのは俺にとっても良い修行にもなるしね

 

仲間内だけの模擬戦では悪い意味で慣れてしまう処もあるしな

 

「ええ、歓迎致しますよ」

 

「うむ。まさかお前とこんなにも早く再戦出来る機会が訪れようとはな・・・いかんな、もう戦意が抑えられそうにない。帰ったら早めに日程を調節するとしよう。今から楽しみだ!」

 

そうして最後にミリキャスが「ゲーム、お二人とも応援させて頂きます!!」との言葉を最後に別れの挨拶をして三人は帰って行き、俺達も着替えて皆と合流してからそれぞれ帰路についた

 

 

 

 

 

 

 

翌日、俺達オカルト研究部に駒王学園に転校してきたレイヴェルが入部した

 

白音やギャスパーが一緒のクラスなので特に心配しなかったが、ギャスパー曰く、白音が転校生の宿命として質問攻めにされるレイヴェルとクラスメイトの間に入ってフォローしていたらしい

 

まぁレイヴェルは冥界の学校に通ってたらしいから未だしも、白音は裏の事情も知った上での同性且つ同年代の友達というのは初めてだから積極的に関わってる気がするな

 

今は文化祭に向けたオカルト研究部の出し物の準備をしている処だ

 

因みに出し物は喫茶店、占い、お化け屋敷、オカルト研究の成果のまとめ(表向き)など、取り敢えずやれることは全部やるという欲張り企画となった

 

これは準備も文化祭当日も大変そうだ

 

イッセーと祐斗は今裏庭でノコギリで材木を切り出して、女性陣は服などの装飾の裁縫作業で俺とギャスパーはイッセー達が切り出した材木にペンキで色を塗っている

 

すると部室に買い物袋を手にした黒歌(制服姿)が入って来た

 

この格好の方が騒がれないからと言ってたが絶対楽しんでるな

 

女の子の何時もと違った格好は新鮮で良い・・・控え目に言って最高である

 

「ほ~ら、足りないって言ってたペンキとか色々買ってきてあげたわよ~」

 

「ええ、有難う黒歌。そっちに置いておいてくれる?」

 

「了解にゃ♪」

 

文化祭の準備だが学生ではない黒歌が直接手伝うのは何か違うという事でこういった買い出しとか適当にお茶を用意したりとか、間接的に手伝って貰っている・・・昔の彼女なら「面倒だからパ~ス!頑張ってにゃ~♪」とか言いそうだけど仲間内相手なら多少は自分から関わってきてくれるようになったな

 

テーブルの上に買ってきた物を置いて、ついでにそこからお菓子の類を取り出して食べてるのは黒歌らしいけどね

 

え?ペンキとかって女性が持つには重いんじゃないかって?黒歌は悪魔だし、ウィザードタイプとはいえ基礎トレはちゃんとしてるし白音とも組手もしてるから近接戦でも普通に戦えるよ?・・・流石に本領のウィザード戦法よりは劣るけどな

 

少々脱線した事を考えてると手は動かしていても何処か上の空なリアス部長が居た

 

「リアスお姉様?お裁縫中に考え事は危ないですよ?」

 

それに気づいたアーシアさんが声を掛けると「ああ、御免なさいね。有難う、アーシア」と少し困った顔で返事を返す

 

「あらあら、部長がそこまで思い悩む何て、サイラオーグ様とのゲームが近いせいかしら?」

 

「ええ、やっぱり如何しても気になってしまってね。ディオドラ・アスタロトなんかとは比較にならない強敵だもの・・・京都でイッセーが目覚めさせた力というのは私はまだ見てないけど、イッキから見て如何?サイラオーグに通じそうかしら?」

 

「そうですね。直撃すれば大ダメージって処ですか・・・ただ、一つ一つの形態がかなり癖が強いので初見でなければ避けられるかも知れません。サイラオーグさん相手ならまだしも、テクニックタイプ相手だと厳しいですね。正面からだと曹操みたいなのにはもう通じないでしょう」

 

「曹操・・・英雄派のリーダーね。アザゼルとも斬り結んだらしいし、イッキもそうだけど相手にするのが恐い限りだわ。イッセーの新技、イッキにはもう通用しないんじゃなくて?」

 

「あはははは、まぁその辺りはまたイッセーと模擬戦する時にでも見ていて下さい・・・ただ、イッセーの『真・僧侶』とか広範囲に影響を及ぼす技ですから流石に家の地下で試すのは問題何ですよね」

 

強固な結界ではあるがイッセーが強くなるにつれ、万が一壊れたりしたら地上の俺とイッセーの家が跡形もなく消し飛んでしまうからこそ、まだ模擬戦で新形態のイッセーとは闘えてないんだし

 

「それについては大丈夫よ。実は連日のテロを阻止している報酬にグレモリー領の無人エリアに特別な練習用のフィールドを造って頂いたの・・・プロのレーティングゲームのプレイヤーの上位陣はそういうのを持ってたりするのだけど、まさかデビュー前に貰えるとは思わなかったわ。あそこなら万が一結界が壊れても周囲の被害は最小限で済むからイッセーの力も存分に試していけるわよ―――ねぇ、もしかしてイッセーは単純な攻撃力なら貴方を上回ったんじゃない?」

 

「破壊力という意味でならそうですね。ただオーラを一点に集中させて貫くような攻撃範囲を絞りに絞った貫通力では負けませんよ?」

 

「・・・指先一つに全オーラを集中させるの何て私には無理だったわ」

 

苦笑しながらそう言うって事は試したんですね

 

確かにアレは全身にオーラを巡らせるという通常の全力を遥かに上回る力を制御しろって感じだから案外難しいんだろうな。俺は幼い頃から【一刀修羅】で本来の自分以上の力を身に纏う感覚に慣れてたから割とすんなり出来たけどな

 

「破壊力の無さは俺の欠点ですからね。どうにかしないといけません」

 

そう言った途端に部屋中の視線が俺に向いて来た。え?何この何とも言えない圧力!?

 

「貴方、サイラオーグと同じようにイッセーの鎧を余波だけで破壊できる癖にまだ破壊力が足りないって言うの?正直、欠点とはとても思えないのだけど」

 

「そんな事はありませんよ・・・そうですね。俺とサイラオーグさんの模擬戦ですけど俺と彼、どっちがより強い闘気を発しているように見えましたか?」

 

「それは・・・イッキの方が力強く感じたけど」

 

「はい、でもあの時全身にオーラを纏った状態同士での俺とサイラオーグさんの拳の威力にそれほど差はありませんでした。その理由は・・・ギャスパー、ちょっと良いか?」

 

「へぅ!?な・・・何ですか、イッキ先輩?」

 

ギャスパーはいきなり会話の矛先が自分に向けられてビックリしてるな

 

そんな彼を部室の真ん中に在るテーブルを挟んで座るように促す

 

「ギャスパー。いっちょ俺と腕相撲しようか!」

 

「はぇぇぇぇ!!?いきなり過ぎて訳が分かりませんよ!それに僕が腕相撲でイッキ先輩に勝てるはず無いじゃないですか~!!僕、拳で衝撃波とか出せませんよ!?」

 

「いいから、いいから!」

 

「ん、ギャー君も男の子なら腕相撲を断っちゃダメ」

 

「白音の言う通りね。腕相撲・・・それは漢の聖域(サンクチュアリ)よ!」

 

「あらあら、うふふ♪なら私が開始の合図をいたしますわ」

 

「ふえぇぇぇん!何で皆さんそんなに腕相撲でテンション上げてるんですかぁぁぁ!?」

 

ギャスパーが絶望している中で俺とギャスパーが手を合わせ、朱乃先輩の開始の合図を待つ

 

「それでは・・・始め!」

 

”ゴンッ!!”

 

朱乃先輩の気合の入った声とほぼ同時に決着はついた

 

「痛ってぇぇぇ!!」

 

「しょ・・・勝者!ギャスパー君!」

 

この結果には皆驚いた表情だ

 

「イッキ、これは如何いう事?貴方手を抜いたの?」

 

リアス部長が聞いて来るので仙術で叩きつけられた手の甲を治療しながらも答える

 

「いえ、全力でしたよ?ただし闘気を一切纏わないで人間としての素の筋力だけで闘いましたけど・・・リアス部長、人間は異能を使わなければこんなもの何ですよ。肉体を鍛えれば皆が皆サイラオーグさんみたいに闘気を纏える訳じゃないですし・・・大体それが出来るなら人間界のオリンピック選手とか化け物の見本市になってしまいますからね――――少し話がズレましたね。要は幾ら闘気で強化しようと素が弱過ぎるからどうしても攻撃力が伸び悩むって話です。仙術の気弾も破壊力には乏しいですしね」

 

「で・・・でもそれならイッキ先輩の闘気を気弾みたいな感じに放つ事は出来ないんですか?それなら破壊力のある遠距離技にはなると思うんですけど」

 

確かにギャスパーの言うように、それが出来れば戦術にも幅が出る。先日の曹操との戦いで彼の眼を潰した時の追い打ちの気弾も槍で弾くのが難しくなるはずだから、崩れた体勢をさらに崩してから仙術をぶち込めたはずだ

 

だが、そんなギャスパーの疑問に答えたのは黒歌だった

 

「ん~、それは難しいのよね。闘気ってのはそれ単体だと肉体から切り離すと直ぐに霧散してしまうのにゃ。私や白音なら妖気や魔力と混ぜ合わせる事で闘気弾とも云えるのを作れるけど純粋な人間のイッキには無理なのよね~。五大宗家の百鬼(なきり)とかは龍脈から借りた莫大な闘気で遠距離技もこなすようだけど、アレも契約してる黄龍の龍の気と混ぜ合わせてるからこそのモノだしね」

 

仙術使いが直接的な攻撃力に乏しいとされているのはこの辺りが原因なのかもな

 

悪魔とか神とかは基本は生まれ持った魔力とか権能とかを研鑽する場合が殆どだろうし、人間が仙術を覚えてもそうとう頑張らないと肉体の強化はそこそこだし、遠距離技でも派手な威力は出せないからな・・・勿論、索敵とか色々優秀な面もあるけど、物理攻撃力が足りてないという事実に変わりはないからね

 

「・・・イッキがその辺りを克服した時が恐いわね。遠近・攻守・サポートと本当に隙が無くなってしまうわ。今まではイッキの気弾は全力で障壁を張れば防げていたけど、そうなったら今の私達の障壁じゃ防ぎきれないわ」

 

「イッキ様を倒すには、純粋に実力で上回る必要が在りますわね・・・もっとも、切り札を考慮しなければの話になりますが」

 

「まぁともあれ今はサイラオーグさんとの試合についてですね。彼のバトルスタイルを真似た状態で模擬戦をする程度で良ければ付き合いますよ」

 

「うふふ、お願いね。じゃあ皆!心置きなく修行に入れるように準備を進めて行きましょう!文化祭もレーティングゲームも、全力で取り組むわよ!」

 

『はい!』

 

そうして皆がそれぞれの作業に戻って行った・・・なお、ドライグは心労が祟ってカウンセラーが付いたようだがそれは文化祭とは関係ないので割合しておく

 

・・・一応慰めの言葉は掛けておいた




おっぱいドラゴンのストーリーを掘り下げまくって一話まるまる使う事も考えたんですが、掘り下げるほどにオール・エヴィルが鬼畜外道になってしまってガチで子供が泣きそうだったので止めましたww

前書きに書いた違う視点としてバアル領に遊びに(?)行く感じにしましたww


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第二話 貴族家に、出向きます!

24時間後にもう一話アップします!(追い込み)


翌日、俺達はグレモリー領に新しく造られたという特別製の訓練用のバトルフィールドに来ていた

 

兎に角広くて頑丈な事を優先して造られたらしく、少々シンプルな感じがするが多少ならフィールドの設定も弄れるらしい

 

そんな場所で今は俺とイッセーが模擬戦中だ

 

イッセーの新技を見る為に一度それぞれの形態のお披露目をして、疲れているイッセーを仙術で回復させてから闘いの中ではどんな感じになるのかを見る為に仮に『真・僧侶』を直撃しても最悪死にはしない俺が選ばれた・・・黒歌もそうだけど此処で彼女に押し付ける気は無いからな

 

前段階として通常形態の禁手(バランス・ブレイカー)のイッセーと闘ってるけど、オーラの質が以前より上昇している為、普通に闘うだけでも全体的な底上げになっているな

 

俺の攻撃をガードしつつも自ら後ろに跳ぶ事で威力を軽減させたイッセーがついに新たに目覚めた力、『赤龍帝の三叉成駒(イリーガル・ムーブ・トリアイナ)』・・・長いので『トリアイナ』を解放する

 

「行くぜイッキ!ついて来られるか?『龍星の騎士(ウェルシュ・ソニック・ブースト・ナイト)!!』・・・ゴフゥ!!」

 

イッセーが『真・騎士』の力で加速する瞬間に俺も一気に駆け出してライダーキック(水平バージョン)でカウンターを決めたのだ

 

「イッセー、その力は装甲が薄くなるからカウンターが決まると痛いだろう?そして背中に増設されたブースターを吹かして速度を得るから小回りが利かずに軌道が読みやすく、お前自身がその速度になれてないから技の出がかりを交叉法で潰すのはそこまで難しくない・・・後は設置型のトラップとかも有効かな?」

 

そこまで言うと蹲ってたイッセーが立ち上がって距離を詰めてきた

 

「だったらこれなら如何だ!『龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)!!』」

 

さっきとは逆に全身の装甲をコレでもかと分厚くしたイッセーが殴りかかって来る

 

それをイッセーの拳の届くギリギリ一歩外になるように避けていく

 

「その形態は動きが鈍重になるから間合いを取り易いな。それと装甲が大きくなり過ぎる為に体の可動域が制限されるから攻撃が単調になる。後は・・・」

 

“ザシュッ!!”

 

イッセーの左腕の関節部を斬り付けて肉体に刃が届く

 

「ッグ!!」

 

「どんな鎧も関節部は如何しても脆い・・・まぁ『戦車』の影響で関節部と言えど硬いゴムを切ったような手ごたえだったけどな―――それと!」

 

殴りかかって来たイッセーの腕の部分に両手を添えてアクロバティックな感じに攻撃を躱してイッセーの顔面を蹴り付ける

 

マスクの部分が全体的にひび割れてしまい、仰け反って倒れてしまった

 

「唯一頭の部分は装甲の厚みが変化していないから通常の『戦車』としての恩恵しか受けられない処も、欠点とまでは言わないけど覚えておいて損は無いぞ?」

 

次で最後だな。俺はイッセーから距離を取ってから声を掛ける

 

「よ~し!イッセー!俺はこの場所から動かないから撃ってみろ!」

 

「言ってくれるぜ!避けるまでも無いってか?だったら喰らって見ろよ!『龍牙の僧侶(ウェルシュ・ブラスター・ビショップ)!!』・・・行くぜ!ドラゴンブラスタァァァァあああ!!?」

 

イッセーがドデカい砲身を展開して足元に踏ん張りを利かせ、膨大なエネルギーをチャージして放つ直前に俺は地面を足で軽く叩いて大地の気を操り、イッセーのつま先の土をボコッと盛り上げる

 

体勢を崩したイッセーがチャージ砲を天に向けて放ち、反動で後頭部から地面に叩きつけられた

 

どこぞの大地の力を扱う家のような大規模な事は出来ずとも、これくらいなら下位の仙術使いでも問題なく出来る事だろう

 

「イッセー!今のはつま先だったけど本当なら踵の土を盛り上げても良かったんだぞ~!!」

 

そこまで言うと立ち上がろうとしていたイッセーが鎧を解いて頭を振った

 

「はぁ、降参だよ。俺の負けだ」

 

 

 

 

 

 

 

イッセーとの模擬戦を終えて皆でイッセーの新技に意見を出し合う事とした

 

「一つ一つの形態の長所が突き抜けてるけど、その分短所が顕著となっているのね」

 

「隙を補う為には仲間との連携が必須ともいえる力だね。初見なら一人でも良いかも知れないけど、一度対策をきちんと立ててしまえばそれ以降は通常の鎧で相手に大きな隙を生み出さないとね―――ただ発動させるだけでは対処されそうだ」

 

「あらあら、『騎士』何かは出の早い私の雷光だとカウンターが狙い易そうですわね・・・いえ、イッセー君ならダメージ覚悟で突っ込んできそうですが」

 

「イッキ先輩は最後のチャージ砲撃を普通に対処してるように見えましたけど、あれだけのオーラを発射する直前まで引きつけてからやり過ごす何て、かなりタイミングがシビアですぅぅぅ!!」

 

「あとは消耗も激しいんでしょう?あえて遠近織り交ぜて翻弄して形態変化を促せば一気にスタミナの減少に繋がりそうにゃ」

 

「でも、当たれば大きいです」

 

「しかし、現状ではあまり回数が使えないのも事実。ゲームはもう近いですから、今回はサイラオーグ様に初見で中てる事を優先した戦略を立てるべきでしょうね」

 

皆して上昇志向が強いから辛口な意見が大半を占めてるな

 

「そう云えばイッセー。『トリアイナ』の発動中は白龍皇の力は使えなかったのか?」

 

「それがそうなんだよ・・・多分『トリアイナ』を使ってる時は赤龍帝としての力が強くなり過ぎてヴァーリの力を抑え込んじまうみたいでさ。『白龍皇の籠手(ディバイディング・ギア)』は今まで通り、通常の鎧の力として使っていくしかないみたいだ」

 

「それは残念だったな。それが出来たなら新しい『騎士』の戦略の幅が広がったと思うんだけど」

 

「まぁ出来ないもんは仕方ないさ。自分にやれる処から可能性を広げていかないとな」

 

そう言いながらイッセーはピー(チチ)を頬張ってるけど、今のピー(チチ)は凄いお値段になってたはずだから考えてみるとイッセーの修行ってアホみたいに金が掛かってるよな・・・まぁ竜子はイッセーの使い魔な訳だし、利益がマイナスになるほどには食べてないのだろうけどな

 

もしもそうだったら流石に注意されてるはずだしね

 

イッセーも幾ら回復出来るとは云え、修行では白龍皇の力は基本は使わないようにとアザゼル先生にも言われているからな・・・何時回復出来なくなるなんて事態に陥る可能性も無い訳じゃないから少し使って少し回復してと云った感じだ

 

おおよその批評は済んで、基礎トレは最初に終わらせたので各自、修行に入って行く

 

あと、レイヴェルにも本格的な修行をして貰わなくてはいけない

 

今年に入ってからこの駒王学園は滅茶苦茶テロと関わってる・・・強固なセキュリティがこの町に張ってあると云っても相手には『絶霧(ディメンション・ロスト)』の使い手とか、そうでなくてもテロリストが強引に結界を突破して短期決戦に持ち込もうとすればやっぱり危険だ―――勿論レイヴェルの事も守るけど一番なのは俺達一人一人が実力の底上げをするのが防衛に繋がるからね

 

「レイヴェルは何か得物とかは使わないんだよな?となるとやっぱり最大の武器は『僧侶』の特性だよな・・・レイヴェルって魔法は使えるのか?」

 

「魔法ですか?いいえ、魔力で大抵の事は出来てしまうのでそちらに手を伸ばした事はありませんでしたわね」

 

確かに生まれた時からほぼ万能な魔力が扱えたらそこで満足しちゃうかもな

 

「ん~、それは勿体ないにゃ。ウィザードタイプなら魔法力も高い場合が多いし、『僧侶』の駒ならそっちも一緒に強化されるからね。一度試してみるべきにゃ。魔力はイメージが大事だけど、逆に言えばイメージで補完しきれない細かい部分を魔法で補う事も出来るし、戦闘なら事前に用意しておいた術式を思い浮かべるだけでも良いから瞬間的に複雑な魔法を放つ事も出来るにゃ・・・まぁ魔力のイメージを描きながら魔法の演算をするのは最初の内は頭がこんがらかりそうになるけど、覚えれば手数は単純に2倍よ?———レイヴェルは頭の回転の速さも柔軟性もありそうだから両立できるはずにゃ♪特に結界術や封印術は腰を据えて術式を編める環境なら魔力より優秀だったりもするからね」

 

「成程・・・実際に魔法と魔力を両立させている黒歌さんの意見は参考になりますわね。いえ、実際にはそこに仙術と妖術も組み合わせていらっしゃるのでしょうが・・・黒歌さんが使われているのは悪魔式の魔法ですか?」

 

「その通りにゃん♪当時、ナベリウス家に居た時はそれ以外の術式は手に入らなかったし、やってみれば普通に相性良かったからそのまま使ってるにゃ」

 

あ、黒歌の魔法って悪魔式なんだ・・・確かに魔法陣には悪魔文字が描かれてたからそうなのかなとは思っていたけど聞いた事は無かったな

 

悪魔式という事はマーリン・アンブローズの流れを組む一番ポピュラーな術式だな

 

「他の神話体系の術式は兎も角、悪魔式なら冥界でも普通に資料を集められるんじゃないか?」

 

「はい。イッキ様の仰る通りですわ。上級悪魔とその眷属は魔法使いとの契約でそれなりに繋がりも強いですから我がフェニックス家の書斎にもそこそこの数の資料は在ったはずです・・・一度実家から取り寄せてみましょうか」

 

「私が教えて上げても良いけど、そういう事ならもっと適任が居るにゃん♪」

 

「適任・・・というとロスヴァイセさんか?」

 

というかこの場でキチンとした魔法の使い手って他に居ないしな・・・白音も少しは黒歌に魔法を習ってるみたいだけど魔法使いと胸を張れるほどじゃ無いだろう

 

「その通りにゃ!私は元々他人に何かを教えるのは得意じゃないし、彼女の扱う魔法は術式の質だけなら私よりも上よ?それに仮にも教育者なんだし、一口に魔法と云っても色んな術式があるから北欧の魔術がレイヴェルに合ってるのかを確かめる為にも一度教えを受けて見たら?」

 

「私が如何かしましたか?」

 

すると少し遠くに居たロスヴァイセさんが俺達の会話で自分の名前が聞こえたらしく、気になったのか近づいて話しかけてきた

 

「丁度良かったです、ロスヴァイセさん。前に冥界に北欧魔術の学校を建ててみたいって言ってましたけど、一度レイヴェルに魔法を教えるって感じの経験を積んでみる気はありませんか?」

 

「レイヴェルさんに魔法を・・・ですか?」

 

「はい。今私がより強くなるのに魔法を覚えるのが一つの手ではないかと意見を頂きまして・・・北欧の主神のお付きでもあったほどのロスヴァイセ様に教えを受けられればと・・・勿論、悪魔として対価も無しにとは言いませんわ!フェニックス家に保管された魔法の資料を私の自由に出来る範囲で持ち寄らせて頂きます・・・如何でしょうか?」

 

成程、これからロスヴァイセさんに魔法を習うのなら彼女に先に資料に目を通して貰った方が質問し易い上に彼女の利益にもなる提案って事か

 

後はフェニックス家の資料の価値がどの程度かによるだろうけど・・・低いという事は無いかな?

 

「そうですね。私も折角悪魔に転生した訳ですから悪魔式の魔法に手を伸ばしてみるのも良いかも知れませんね―――京都で戦った魔法使いも多種多様な術式を使っていましたし、対策案としても活用できそうです」

 

ロスヴァイセさんが了承の意を出すと今度はリアス部長と朱乃先輩がやってきた

 

さっきまで二人で消滅の魔力と雷光を打ち合っていたがひと段落したようだ

 

「ちょっと良いかしら?その話、私達も混ぜてくれない?」

 

「私達もウィザードタイプですからね。可能性を広げられるなら一度魔法の方も習ってみたいですわ・・・私もリアスもウィザードタイプと云ってもパワー寄りな処が在りますから、テクニック方面を魔法で補えるかも知れませんからね」

 

こうしてロスヴァイセさんを主軸に黒歌がサポートに入ったウィザード組の魔法学習・向上を目指した集まりが出来たのだった

 

だがこの数日後、ロスヴァイセさんが防御の術式を全然覚えてないという事情が露呈する事となり、ロスヴァイセさんが「うう・・・このままではいけませんね」とちゃんとバランス良く魔法を教える事が出来なければ将来魔法を教える教育者役は務まらないと反省する事になる

 

 

 

 

 

翌日、グレモリー眷属の皆はどうやら冥界で対戦相手のバアル眷属と一緒にテレビの取材が在るとの事で学校が終わってから冥界へ行った。そして俺はと云うと実は俺もその空き時間を使って冥界を訪れていた

 

「おお~!フェニックス家はグレモリー家に負けず劣らずにデカい屋敷何だな!」

 

「ふふん!当然ですわ!我がフェニックス家はフェニックスの涙とレーティングゲームで莫大な富と爵位以上とも云える発言力が在りますの―――我が家の事を『成り上がり』と揶揄する家も多いですが、所詮は成り上がる事すら出来ない者達の僻みでしかありませんから」

 

珍しくちょっと高飛車モード入ってるな・・・まぁ貴族社会だし色々と鬱憤も多いのだろう

 

さて、何故俺がレイヴェルとフェニックス家にやってきたのかと云えばレイヴェルの御両親に挨拶する為だったりする―――既にあちらが俺とレイヴェルの事を知っていて、その上で肯定的だと云うのなら後回しにする理由も無いからだ・・・心情的には後回しにしたい気もするが回避不可のイベントなので腹を括ろうと思う

 

そして屋敷の前まで辿り着くとメイドの方々が出迎えてくた・・・普通は委縮しそうだがリアス部長の家に何度かお邪魔してるから多少は耐性も付いてるな

 

「お帰りなさいませ、姫様」

 

「お嬢様、旦那様方は既にお待ちになられております」

 

こうして見るとレイヴェルもリアス部長とかなり近い立ち位置なのかもな・・・明確に違うのは次期当主か否かって所か?

 

いや、十分すぎる程に大きな違いだけどさ

 

そうして通された先の部屋でフェニックス家の現当主とその奥方と出会う

 

「初めましてだね。私がレイヴェルの父だ。キミの事はライザーとリアス嬢のレーティングゲームの時から知っているよ・・・最初はゲームの音声が聞こえなくなったのは何かしらのトラブルかとも思ったが、まさか悪魔のゲームで聖書の朗読をしているとは思わなかったな!ハッハッハ!」

 

「貴方、ちゃんと挨拶して下さい。折角忙しい合間を縫って挨拶に来てくれたのですから―――初めまして有間一輝さん。レイヴェルの母です。ライザーもお世話になったみたいですし、武勇のほども聞き及んでいますわ―――これなら人間界で悪い蟲が娘に付くことは無さそうで安心ですね・・・そう云えば貴方、昔から『娘を嫁にやるなら最低でも私を倒せるくらいの男でなければならん!』と言っていましたが、イッキさんと闘ってみますか?」

 

ちょっと奥さん!?ちゃんと挨拶してと言った傍から御当主との決闘を持ち出してどうするんですか!何?フェニックス家は基本は不死身だから割と手軽に決闘とかしてたりするんですか!?

 

「ふふん!イッキ様が負けるはずありませんわ!さぁイッキ様!お父様相手ですが遠慮なさらずに一刀の下に斬り伏せて、見事!その強さを知らしめてくださいな!」

 

レイヴェルさぁぁぁん!?何このノリ!?フェニックス家って身内同士だとこんな感じなの!?

 

ええい、分かったよ!リクエストが一刀だってんならそれに応えてやる!

 

不死身のフェニックスを確実に倒すならあれしか無い!

 

「では何もない広い場所を案内して貰って良いですか?【一刀羅刹】なら空間ごと断ち切れると思うので、御当主も漏れなく真っ二つに出来ると思います・・・ちょっと再生出来るか怪しいですが、そこはご了承頂ければと・・・」

 

そこまで言うと流石に次元ごと二つに裂かれるのは遠慮したいのか遮るように言葉を被せて来た

 

「いやいやいやいや!闘うまでも無い!私も上級悪魔の中では強い方だと自負しているがキミには敵わないだろうから真っ二つは止めてくれ!・・・う゛ぅん!知ってると思うがグレモリーの当主とはそれなりに交流があってね。キミと娘の人間界での交流も問題なさそうと云うのは聞いているし、レイヴェル自身も以前、色々と話してくれたからね―――問題は無いだろう。ただ、気になる処が在るとすれば結婚式は何時頃になるのかな?」

 

「け・・・結婚式ですか・・・それは普通に大学卒業後でも・・・いや、そうか!」

 

そこまで言ってから問題点に気づく

 

「ええ、外聞上、イッキさんの正妻という立場には九尾のお姫様が付く事になります。ですがまだ彼女は11歳なのですよね?大学卒業と云うのをそのまま当てはめると11年は先の話になってしまいますわ・・・ですが、日本の女性は16歳で結婚は出来るのですよね?一度その辺りの事を相談してみて下さいな。娘の晴れ姿は早く目にしたいものですから」

 

昔そんな小説だかドラマだかなかったっけ?『奥様は高〇生』的なタイトルのヤツが

 

流石にそこはせめて九重が高校卒業くらいは待ってもらった方が良い気がする・・・それなら大学卒業後2年程度の空白だし不自然じゃないはずだ

 

・・・なお、後日に落ち着いてから八坂さんに相談した時に九重も含めて16歳の結婚でも良いと妙に乗り気だったので説得に苦労する破目になった。八坂さんとか「高校生となったばかりの新妻と迎える初夜・・・どうじゃ?興奮せんかの?」とか囁くのマジで止めて下さい

 

それから挨拶もそこそこに学園祭の準備も進めなければならないので少しだけフェニックス領を観光してから帰宅すると先に戻って来てたイッセーが押しかけてきて泣きつかれた

 

「イッキィィィ!!俺、明日の朝刊が恐くて読みたくねぇよ~!!」

 

如何やら記者会見はそうとうに盛り上がったみたいだ

 

「分かった。お前が読みたくないなら俺が読んでお前の前で音読してやるよ!」

 

「違げぇよ!何の解決にもなってねぇじゃねぇか!俺が今欲しいのはタイムマシン的な何か何だよ!ああ~、部長にもとんだ恥を掻かせちまったぜ!」

 

そう言って暫く頭を抱えていたイッセーだったが気まずくなったのか別の話題を振って来た

 

「そういやイッキは明日はサイラオーグさんの所に行くんだったか?」

 

「まぁな。バアル領特産のリンゴをお土産に貰って来てやるよ・・・一応言っとくけどスパイ行為はしないぞ?むしろ殴り合いに行くからサイラオーグさんが強化されるかも知れないけどな!」

 

「此処でスパイをやれ何て図太い神経は持ってねぇよ。それに軽い手合わせ程度でギャーギャーと云う程器が小さくもないつもりだ・・・リンゴは楽しみにしとくけどな」

 

おう!楽しみにしとけ!

 

 

 

 

 

次の日、朝食を終えて(冥界の新聞を見たら『おっぱいドラゴン、スイッチ姫のスイッチをぶちゅううううっと吸う!?』という酷い見出しをみたが)少し経った頃に家の地下の転移魔法陣が設置された部屋に居た

 

そうして少しすると魔法陣からサイラオーグさんとクイーシャさんが現れた

 

「来たぞ、有間一輝。準備は整ってるか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

これと言って大荷物も無いし、異空間にもそれなりの装備は入ってるからな

 

そこでサイラオーグさんの視線がこの場に居た黒歌、白音、レイヴェルに向けられる

 

三人とも見送りに来てくれた形だ・・・そう云えばサイラオーグさんはこの中で黒歌とだけは面識が無かったんだっけか?白音とレイヴェルとは最低でもおっぱいドラゴンのステージでは顔を合わせてるし、もしかしたらそれ以前に普通に出会っていても可笑しくない布陣だよな

 

「そうか、塔城白音の姉が有間一輝の恋人且つ、そうとうな実力者だと聞いていたが、この距離で注視しなければ分からんほどの静かで洗練されたオーラだ・・・おっと、紹介が遅れたな。俺はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主だ。こっちは俺の『女王』のクイーシャ、宜しくな」

 

サイラオーグさんの真っ直ぐで誠実な雰囲気に中てられて黒歌もマジメな挨拶を・・・

 

「黒歌よ。今日はイッキの事を貸し出してあげるにゃん♪ただし、延長は受け付けないにゃ」

 

するはずもなくレンタル品として扱われた

 

「ハッハッハ!もしも延滞したら追加料金が凄い事になりそうだな―――何、心配するな。今回俺が招くのは俺と母上が住んでいたバアル領でも田舎の方だ・・・本邸の方は少々頭の固い連中が多いが、だからこそ態々田舎まで出向いてくるような連中ではないからな」

 

あ~、確かに言われてみれば愚物で小物っぽいバアル家の現当主とは鉢合わせたくないわ

 

『なぜ我が偉大なるバアル家にこのような下等生物が居るのだ?摘まみだして処分しろ!』

 

とか言われそうだしな

 

バアル家の先代とか含めた当主は小物っぽい感じだったはずだし、初代バアルは清濁を理解した上で色々やってるっぽかったけど・・・いや、もしかしてバアル家当主が無能なのって初代が引退後も実権を握る為だったりしないよな?邪推の域を出ないけど何か在り得そうかも

 

ともあれそろそろ出発しようか

 

「良し!それじゃあ行ってくる!」

 

「うん、行ってらっしゃいにゃん♪でもその前に・・・」

 

・・・黒歌さん?その広げた両手は何なんですか?(すっ呆け)

 

「ほらほら、どうしたのかにゃ~?修学旅行の時は私達全員にハグしてくれたのににゃ~?あの時はイッキの両親も見ていて恥ずかしそうにしてたけど、あちらの次期当主様はイッキに恋人が複数いる事くらい承知でしょう?それか別れ際の駅のホームみたいにキスしてくれても良いのよ♪」

 

この悪猫が!少しでも弄れるネタが在ると容赦なくツッコんでくるな!

 

「イッキ様!?あの後そんな事が在ったのですか!?」

 

「聞いてないです。そういう事なら私達にも権利はありますよね?」

 

ちょっとお二人とも!?見事に黒歌に乗せられてますよ!そしてサイラオーグさんも笑って見てないで助けて下さいよ!

 

「はっはっはっはっは!有間一輝も恋人には弱いのだな。覚えておこう。何、昨日の記者会見では赤龍帝がリアスの乳を吸う何てコメントを残してるのに比べたら恥ずかしがる事もあるまい?」

 

あなた達がこの場に居ると云うのが一番恥ずかしい要因何ですけど!?

 

結局その場はハグ+額にキスでお茶を濁してクイーシャさんの転移でその場を後にした

 

転移の直前に「ただいまのキスは唇でお願いにゃ~♪」とか聞こえた気がするのは気のせいだと(気のせいじゃないと)信じたい・・・結局そういう触れ合いは男として嬉しいのだ

 

冥界に付いた後、何度か転移を経由して田舎に建てられたこじんまりとした屋敷に辿り着いた

 

まぁ比較対象がグレモリー家やフェニックス家の本邸なだけで十分にデカいのだけどな

 

そしてサイラオーグさん達と一緒に玄関から中に入ると一人のちょっと太った感じの執事の方が出迎えてくれた

 

「お帰りなさいませサイラオーグ様。そして、ようこそお越しくださいました有間一輝様。サイラオーグ様がご友人を家に招くなど初めての事、今回は気合を入れて御持て成しさせて頂きます!」

 

「程々にな―――クイーシャは暫く眷属を取り纏めておいてくれ。後で顔を出そう」

 

何か妙に気合を入れている執事の方をサイラオーグさんが軽く窘め、クイーシャさんに軽く指示を出してから早速ミスラさんの部屋に赴いて中に入ると黒髪で落ち着いた雰囲気の女性のミスラさんが居た

 

「先日ぶりですね、一輝さん。何も無い所ですが寛いでいって下さい」

 

「はい!それと、ご回復なされたようで何よりです」

 

「一輝さんが提供してくれた例の秘薬のお陰ですよ・・・貴方には感謝してもし足りません。眠りの病の初期症状が出た時、サイラオーグならば私が居なくとも夢を諦めたりしないと思っていましたが、それをこの目で見る事が叶わないだろうと云うのが心残りでした。ですが今は再び息子が夢に向かって邁進する姿を見る事も応援する事も出来る。これほど嬉しい事もありません」

 

むぅ・・・どうにもあの薬(?)は自分で作った訳でも無ければ手に入れたのも偶然だからお礼を言われるのはむず痒いところが在るな

 

ともあれそれを言っても仕方ないのでお礼を受け取っているとその薬の話になった

 

「例の薬ですが、あれからシトリー家が何とかオリジナルの再現を果たそうとしているようですが今の所目途は立ってないみたいですね。ただ、幾らか性能の落ちる状態でなら復元出来たようです・・・もっともそれでも冥界屈指の医療技術を持つシトリー家の薬品の分野が1世紀分は進歩したそうですが」

 

1世紀!?100年先の未来にシトリー家進んじゃいましたか!?う~む。これはマジで将来難病に掛かったらシトリーの病院一択になるな・・・まぁ健康が第一だけどさ

 

流石は万病を癒す異世界のスッポンの生き血は格が違った

 

後に聞いた話ではシトリー家の現当主であるソーナ会長の父親が一年後に眠りの病を発症したらしいが初期の段階であれば十分スッポンの生き血(劣化版)で回復したそうである

 

その後、ミスラさんが趣味で手入れしている花壇など屋敷を軽く案内して貰っていると(グレモリー家とかは案内してたら三日は掛かる)とある部屋の窓から中に妙なモノが見えた

 

「あの・・・サイラオーグさん・・・あのリンゴのキャラクターは何なんですか?」

 

俺の視線の先には幾つか微妙に表情の作りの違うリンゴの被り物たちが在った

 

普通の笑顔のモノやニヒルな笑顔のモノ、果てはポケッとした気の抜けた表情のモノまである

 

「ああ、アレは『バップルくん』だな。最近冥界では人間界の文化を取り入れ始めているのは知っているだろう?グレモリー領の『おっぱいドラゴン』もヒーローショーを基にしている。我がバアル領も流行に乗り遅れないように人間界の『ゆるキャラ』をいうものを取り入れる事にしたのだ。アレらはその試作品という訳だ」

 

試作品・・・だから色々な表情が在るんですね

 

「ふむ・・・実はあの『バップルくん』だが俺がスーツアクターを名乗り出ようとしていたのだが母上に止められてしまってな―――『ゆるキャラ』は先日のヒーローショーよりも子供たちとの触れ合いが多いので俺にはまだ早いと言われてしまったのだ」

 

そういって項垂れるサイラオーグさんだけど俺としては『ミスラさんナイス!』としか思えなかった。正直この人が『ゆるキャラ』を演じるのが想像できない

 

先日のヒーローショーのライオン・キングの役は脚本家がサイラオーグさんが殆ど素のままでも演じる事が出来るようにしたキャラクターだったから良かったけど『ゆるキャラ』はダメだろう!

 

だがそこでサイラオーグさんは閃いたとばかりに顔を上げてきた

 

「そうだ!有間一輝よ、元々『ゆるキャラ』は人間界の出し物だ。人間であるお前と一緒なら俺も俺の『ゆるキャラ力』を高められるかも知れん!どうか俺に『ゆるキャラ』を教授してくれないか?俺は子供たちに夢を与えられる大人になりたいのだ!!」

 

何言ってんのこの人ぉぉぉ!?俺『ゆるキャラ』何てやった事ないよ!?日本人なら皆SAMURAIの精神を持っているように人間なら皆『ゆるキャラ』くらい出来るとかって勘違いしてない!?

 

慌ててミスラさんの方を向くがミスラさんは「サイラオーグが生まれてから人間界には関わる余裕もありませんでしたが、随分と文化が様変わりしたのですね」とか真剣な表情で仰ってるけど違いますからね!?20年も経たない程度じゃそこまで激変しませんから!!

 

「サイラオーグ。私も一度貴方の現時点での『ゆるキャラ力』を把握しておきたいです。手加減の修行も併せて一度、一輝さんの意見も聞かせて貰って構いませんか?」

 

ミスラさぁぁぁん!?俺は貴女は常識人枠のツッコミ寄りのポジションだと思っていましたよ!蓋を開けてみればボケですか!天然枠何ですか!?

 

「は・・・はい・・・」

 

二人の穢れの無い澄んだ瞳に耐え切れず、俺は生返事(悪魔の契約)をしてしまったのだった




イッキ「必殺!土ボコッ!!」

某悪役令嬢「盗られた!?」



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第三話 バップルくんと、バップルくんです!

前半ちょっとカオスっちゃいましたww


サイラオーグさんの『ゆるキャラ』の修行に付き合う破目になって先ずは着替える事になった

 

まぁ被り物程度なら問題ないだろう・・・と、思っていた時期も在ったな(遠い目)

 

被り物は良い。だが『ゆるキャラ』というのは当然服も用意されているのだがそっちが問題だった

 

背中の部分に小ぶりの可愛らしい悪魔の翼があり、所謂オーバーオールというスーパーマ〇オの着ている服の短パンバージョン(インナー無し)だったのだ・・・そう、インナー無し故に背中の部分とかほぼ丸見えである。他にもサイラオーグさんの鍛え抜かれた腕や足の盛り上がった筋肉が何とも言えない威圧感を放っている

 

『ゆるキャラ』ってさぁ、誰が演じても見た目の違いが出ないように極力肌の露出を抑えた格好が普通だと思うんだけど俺の認識が間違っていたのかなぁ?・・・取り敢えず全てが終わったらミスラさんにその辺りの事を伝えておこう

 

と云うか目の前の気合を入れてるサイラオーグさんと同じ格好をしていると考えると早くも気が滅入って来た・・・このまま脱力系『ゆるキャラ』になれそうな感じだ

 

「えっと、サイラオーグさん。この『バップルくん』は喋るキャラなんですか?それか鳴き声とか設定されてるんですか?」

 

一番ノーマルな笑顔の被り物をしたサイラオーグさん(バップルくん)にニヒルな笑顔の被り物をした俺(バップルくん)が問いかける

 

一応引き受けた以上はちゃんとアドバイスできそうな所はしていきたい・・・でないとこの筋肉盛り盛りのある意味半裸のキャラクターが近い将来バアル領を駆け回る事になりかねない

 

後日俺のアドバイスを訊いたミスラさんがギチギチの短パンをギチギチ半歩手前のクォーターサイズに変更してくれた・・・その露出への捨てきれない拘りはなんなんだ?

 

「む?『ゆるキャラ』とはそういった処まで設定が必要なのか?」

 

「ええ、勿論です。『ゆるキャラ』を誰が演じてもそのキャラの中身、性格がある程度は一致しないと子供たちも如何接して良いか困るでしょうからね。外見だけでなく性格や特技などを設定しておくと良いでしょう」

 

「うむ!考えておこう!では早速だが移動しようか。俺達の修行場へ案内するぞ」

 

移動か・・・出来れば俺もうこの『バップルくん』を脱ぎたいんだけどな―――まぁ修行場という事なら人目に付くような事も無いか

 

半ば諦めながらミスラさんすら伴って魔法陣で転移するとリアス部長が貰ったあの練習場と同じ造りの空間に跳ばされ、そこではサイラオーグさんの眷属の皆さんが修行中だった

 

嘘だろ!出来れば他人には会いたく無かったのに!それにサイラオーグさんの眷属とは以前テレビ局でチラッと顔を合わせたけど、もしかしてコレが正式な挨拶になるの!?

 

ミスラさんと二人の『バップルくん』の登場に皆が手を止めて近寄って来る

 

「ミスラ様!このような場所までお越し下さるとは・・・あの、ひょっとしてサイラオーグ様とイッキ様・・・ですか?」

 

「うむ。有間一輝に『ゆるキャラ』を教えてもらう事になってな。これから殴り合う所だ」

 

サイラオーグさんは両腕を組んだ状態で頷きながら答える

 

というか殴り合うって俺聞いてませんよ!

 

クイーシャさんが何とも言えない目でこっちを見て来るけど俺は視線を横に向けて哀愁を醸し出すので精一杯だったが、彼女は何となく察してくれたようで憐憫の籠った瞳を向けてくれた

 

常識人枠は貴女でしたか(ただしツッコミには期待出来ない)

 

そうして俺は『バップルくん』のままサイラオーグさんの眷属たちと挨拶を交わし、その後はフィールドの中央で二人の『バップルくん』が可視化できる白い闘気を纏って対峙する事となった

 

此処まで来ると逆に俺の心は既に凪いだ状態だった・・・今なら悟りを開けるかもしれん

 

「・・・取り敢えず腕を組んで仁王立ちするのは止めましょうか」

 

そんな二の腕を持つ人が仁王立ちとかしちゃいけません!威圧感半端ないから!

 

「む?・・・そ・・・そうか、所作の一つ一つにまで気を配る必要が在るとは『ゆるキャラ』の道は思っていた以上に厳しいのだな」

 

そうして改めて構え合った俺達だけど、コレで一体何を伝えたら良いんだ?

 

少なくとも『ゆるキャラ』に戦闘力は必要ないはずだが・・・まぁ戦いの中でこそ見えて来るものってのも在るだろうさ・・・多分

 

それに目の前の『バップルくん』からは闘気と一緒にウキウキとした気配が漂って来てるから無下にしたくないし・・・敵が相手なら叩き潰せば終わりなのに・・・何だろう?俺って実は善意のある相手の方が苦手なのかも知れんな

 

「良し!では行くぞっ『バップルくん』よ!」

 

サイラオーグさんは気合の入った踏み込みで足元を破壊し、最短最速で右ストレートを放ってくる

 

到底『ゆるキャラ』が放っていい威力では無く、俺が避けた先の100メートル近くの地面は衝撃波で抉れてしまっている

 

「サイラオーグさん。いえ、『バップルくん』!早速ですがレッスン1です。貴方は今『ゆるキャラ』なんですからセリフもゆるく!『良し!では行くぞっ』じゃなくて『良~し♪いっくぞ~♪』くらいは己を殺して"ゆるさ"を出さないとダメです!」

 

そう言うと彼は動揺しながらも素直に指示には従ってくれた

 

「ょ・・・よーし!いっくぞっ!」

 

「声が小さい!腹から声を出せとは言いません!拡声器を通すように遠くまで響く声を意識するように!後セリフの最後は『っ!』じゃなくて『♪』な感じでテンション高めを意識!」

 

「良ーし♪いっくぞ♪」

 

「いい感じです!まだ声が固いですけど後はそれを力を抜いて言えるようにしましょう!」

 

なお、此処まで会話しつつ戦ってる

 

俺自身、大分可笑しなテンションになってるが、こうでもしないと『ゆるキャラ』同士で殴り合うという今の状況を(精神的に)乗り切れないと思うのだ

 

「次!レッスン2!体術の在り方!ヒーローならば敵の攻撃を受け止めて反撃でもいいですけど『ゆるキャラ』は本来戦う存在じゃありません!どうしてもという時は観客を魅せるようなアクロバティックな動きを意識して避けるのに主眼を置いてください!サイラオーグさんなら大抵の攻撃は効かないでしょうけど、もしも子供が『ゆるキャラ』が殴られているような場面を目撃したらどう感じると思いますか?」

 

サイラオーグさんの鋭い蹴りをバク転しながら躱し、問いかける。続く連続パンチもスウェーとステップでヒラヒラと回避していく・・・勿論余裕はないけど、あたかも簡単に避けている風に繕う

 

「そうか、『ゆるキャラ』は非暴力の象徴であると言いたいのだな?可能な限り、傷つくような事があってはならないのだと!」

 

「そこまで分かってるならレッスン3です!敵を制圧したい時でも傷を負わせないで気絶を狙う!さっきから何度か顔面パンチが飛んできますけど『ゆるキャラ』が顔面パンチとか論外です!」

 

「何!?」

 

「顔はすぐに傷つくから痛々しく変形し易い上に鼻や口から血が流れ易い。俺達の手にはめた『バップルくん』の白い手袋を見てください・・・それを血で赤く濡らして子供たちの頭を撫でてやれると思いますか?それにサイラオーグさんが全力で腹を殴れば相手は血反吐を吐き、『バップルくん』の顔面に掛かるかも知れません。顔面血だらけで子供たちと目線を合わせても怖がらせる事は無いと言えますか!―――だからこそ、手加減が必要なんですよ」

 

相手の力量を見極めて血反吐を吐かない程度に抑える手加減がね!

 

それから結局ほぼ一日、サイラオーグさんと闘い続ける事になった

 

俺もサイラオーグさんもスタミナには自信がある方なのでお昼やミスラさんがおやつ時に焼いてきてくれたアップルパイを食べてる間以外は大体殴り合っていた

 

時々我に返りそうになるのをねじ伏せて、二人の『バップル君』が時に地上で、時に空中で闘気で白く輝きながら戦い続けたのだった

 

環境設定で夕陽が差し込む中、お互いの攻撃を捌き、躱しながら演武にして演舞のように闘い続ける二人を見続けたサイラオーグ眷属は最後には『力強くも美しい光景だ』とか大分頭がイカレてしまったみたいだけどな

 

一応俺も折角の闘いなので先日話題に上がった俺の『攻撃力の無さ』を現時点で限定的にだが埋められそうな考えが在ったのでその練習もコッソリと行っていたりする

 

そうして今は汗を流してから用意された夕食を食べている所だ

 

「まさか今日一日お前と殴り合える事になろうとはな・・・このような事は初めての経験だ。それに戦いの中で俺自身、体術に改善の余地が在る事を知れた。同じだけの力でありながら結局、俺の着ていた『バップルくん』しかボロボロにならなかったからな・・・俺はバアル領の顔にもなるはずの『バップルくん』を守ってやる事が出来なかったのだ。これからは時々、『バップルくん』の格好となって眷属たちと模擬戦でもするか―――良い回避訓練になりそうだ!」

 

・・・うん。サイラオーグ眷属の皆さん。これから時々『バップルくん』が訓練に突撃していくと思うけど強く生きてくれ

 

その後家に帰ってから俺は黒歌たちに寧ろ俺から抱き着きに行った

 

一日中『バップルくん』と殴り合って疲弊していた俺の精神には癒しが必要だったのだ

 

「にゃはは、イッキがこんなになって帰って来るだなんてね・・・何が在ったのかにゃ?」

 

「流石は大王家・・・という事なのでしょうか?」

 

「魔窟?」

 

なお、それから暫くの間お土産に貰ったリンゴを見ると『バップルくん』が殴りかかって来る光景が頭をチラつくようになり、余り美味しく食べられなかった

 

 

 

 

[イッセー side]

 

 

俺達グレモリー眷属は今、俺の家のミーティングルームに集まっていた

 

これからサイラオーグさんとのレーティングゲームに向けた話し合いをするところだ

 

はぁ、それにしても冥界の朝刊が俺の予想よりも更に酷い見出しになっているとは思わなかったぜ

 

「白音ちゃん。イッキ君はもうバアル領に向かったのかな?」

 

「はい、今日の夜には戻るそうです」

 

まだ全員は揃ってなかったので木場が白音ちゃんに近場の話題を振った

 

そう、イッキの奴実は今サイラオーグさんのバアル領に居るんだよな

 

ヒーローショーで出会った時なんかも仲良さそうだったし、聞いた話によると俺が初めてサーゼクス様に『おっぱいドラゴン』の企画を聞いたあの日、俺達が取材を受けている時に一緒にお茶までしていたらしい・・・まぁサイラオーグさんはとても好感が持てる人なので気持ちは分かるがな

 

俺もサイラオーグさんとのレーティングゲームが終わったら一度じっくりと話し合ってみたいものだぜ。イッキの奴は遊びに行くついでに殴り合ってくるとか言ってたけど、アイツも大分感性が可笑しなことになってる気がする・・・少なくとも今の俺は模擬戦なら兎も角、サイラオーグさんと雑談ついでに殴り合えるとは思えない―――あの二人の練習は俺の全力に匹敵しそうだ

 

とはいえ、それは修学旅行前の話でドライグの本来のオーラを発現させた今の俺なら正面から殴り合うスタイルのサイラオーグさん相手でも十分戦えると思う

 

それでも『トリアイナ』をキッチリ決めなければ勝てると言えないんだけどな

 

因みにこの場には黒歌さんとイリナにレイヴェルは居ない・・・あくまでもグレモリー眷属としてのミーティングだからな

 

プロプレイヤーであった黒歌さんやレイヴェルの意見は参考になりそうだけど、最初からそういうのに頼ったりしてたらいけないと思うんだ

 

今回はアザゼル先生がグレモリー眷属のアドバイザーになったそうだけど、そういう公式に認められてる役職はまた別だしな

 

「うぅ、僕の周りの男子の皆さんは凄い方ばかりで気落ちしちゃいそうです。僕は部長から『変異の駒(ミューテーション・ピース)』で転生させて頂いたのに、未だに自分の中に眠る力とやらも引き出せていませんし・・・このままでは僕はゲームでも皆さんの足を引っ張りそうですぅ」

 

う~む。赤龍帝の俺より潜在能力が有るかも知れないと言われているギャスパーだけど、確かに今の所はそれらしい力は見た事無いんだよな

 

コイツも順調に力を伸ばしていってはいるけど自信が持てないのかも知れない

 

「よぉし!ギャスパー!そんなお前にオカルト研究部男子訓戒を授けよう!訓戒その1!『男は女の子を守るべし!』ほら、復唱しろ!」

 

「お・・・男は女の子を守るべし!」

 

「次だ!訓戒その2!『男はどんな時でも立ち上がる事!』」

 

「お・・・男はどんな時でも立ち上がる事!」

 

「訓戒その3!『何が起きても決して諦めるな!』」

 

「何が起きても決して諦めるな!」

 

「よく言えたぞギャスパー!俺達にとって一番大事なのは能力じゃない!諦めないど根性だ!俺は京都でそれを学んだつもりだ―――俺たちはまだまだ弱いからな。現時点で勝てない敵ってのは沢山居る。けどな!諦めなければソイツに噛み傷を残すくらいは出来るんだ。そうすれば後は仲間たちがそのたった一つの勝機から勝利を引き寄せてくれるんだぜ?」

 

「は、はいぃ!僕、試合では最後まで絶対に諦めません!相手に噛み付いて、な・・・生臭いのも我慢して血も飲み干してやりますぅ!」

 

おう!流石はハーフでもヴァンパイアだ。とってもらしい(・・・)セリフだったぜ!

 

「良いね、その訓戒。僕も胸に刻んでおこうかな?後でイッキ君にも伝えておかないとね」

 

「そうだな。仲間外れにしたら後が恐そうだ」

 

絶対ウルトラハードモードな模擬戦とか仕掛けて来るぞアイツ

 

そうして雑談していると部長と朱乃さんにアザゼル先生が入って来た

 

「皆、揃ってるわね。それじゃあミーティングを始めましょうか」

 

それぞれが席に着き、サイラオーグさんの眷属の最新のデータが書かれた資料を手渡される

 

こういう情報は随時更新しておかないとダメだからな

 

相手の能力が解れば対策を立てられるんだから・・・まぁそれは向こうも同じな訳だが

 

「さて、最初に伝えておく。お前らのアドバイザーに俺が付いたように、サイラオーグの所にもアドバイザーが付いた。なんと例の皇帝(エンペラー)様だそうだ」

 

「ディハウザー・ベリアルッ!!」

 

それを聞いた途端に部長が険しい表情となった・・・当然か。ディハウザー・ベリアルは何でも長年レーティングゲームのトップに君臨し続けているという絶対王者

 

部長の夢がレーティングゲームの覇者になる事なら倒すべき最大の敵であると同時に、恐らくは部長にとって尊敬すべき人物のはずだ

 

その心中は中々複雑なものが在るのかも知れない

 

「お前らはデビュー前の悪魔としては既に破格と言っていい。お前らがプロのレーティングゲームに参加すればそれこそ数年以内にはディハウザー・ベリアルとタイトルを掛けて戦う機会も訪れるかも知れん。意識するのは良いが今はサイラオーグとの試合についてだな―――あいつ等はお前らやシトリー眷属と同じく、悪魔では珍しい修行をするタイプだ。前回のグラシャラボラスとの試合で手の内を見せ切ってない奴も居るし、仮に手札を全て晒していたとしてもお前らと戦う時には新技の一つや二つ開発しているかも知れん・・・が、お前ら修学旅行前にサイラオーグの全力の戦闘を見る事が出来たんだろう?その時より極端に強化される可能性は低いと見て良いだろう。イッキに感謝しておけよ?」

 

「ええ、イッキとの闘いを見ていなかったらサイラオーグが自らに枷を付けてるなんて思わなかったでしょうね。彼のオーラが爆発的に高まったのを見て正直震えたわよ・・・まぁイッキはそんなサイラオーグを倒しちゃった訳だけど―――ねぇアザゼル。少し話がズレるけど、イッキって人間ではどの位強いの?彼以上の人間を少なくとも私は知らないのだけど」

 

あ!それは俺も気になってたんだよな。ちょっと前までアニメや伝承の中だけの存在と思っていた悪魔とかドラゴンとか、果ては神々とかも居る中でイッキの奴普通に混じって戦ってるんだから

 

ヴァーリの所にもアーサーってのが居るし、英雄派の奴らだって強敵ばかりだったからな

 

模擬戦で毎回叩き潰されてる事も相まって俺の中で『人間=弱い』って図式がいまいち成り立た無いんだよね―――イッキを含めてあいつ等が例外だってのは頭では理解出来るんだけどさ

 

「そうだな、俺の知る中でアイツに匹敵しそうなのは英雄派のリーダーの曹操と俺の処の『神の子を見張る者(グリゴリ)』に所属している『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』くらいか・・・直接会った事は無いがゼノヴィア。お前のデュランダルの前任者はかつてコカビエルをボコボコにして追い返したみたいだがな。まぁ最強の人間ランキングなんてものがあるなら候補には入れると思うぞ。ただ、アイツの能力はどれもイッセーの新技なんか目じゃないくらいに癖があり過ぎ得るからな・・・最強かどうかは兎も角、総合力では一番にはなれんだろう」

 

あらら、『最強』にはなれても『最高』にはなれないってか?でも確かにイッキの【一刀修羅】とか詳細を知っていれば全力で時間稼ぎをするだろうからな―――逃げるのは・・・『真・騎士』でも追い付かれそうだ

 

転移術式も・・・転移する前に斬り伏せられそうだな

 

時間一杯隠れる・・・仙術使いのイッキ相手に?

 

強固な守り・・・防御に特化した神々レベルじゃないと突破されるんじゃないか?

 

此方が複数いれば散り散りに逃げる事も出来るかも知れないけど、一対一だとイッキから逃げられる気がしねぇ・・・『大魔王(イッキ)からは逃げられない』なんてフレーズが頭を過ぎっちまったぜ

 

「ただまぁイッキはお前らと一緒で未だに成長途中だ。最終的に何処まで強くなるのかは俺も興味がある―――つぅか斬撃を空中に『置く』って何だよ?斬撃を飛ばす奴なら幾らでも居るが、そんなのは初めて聞いたぞ。これでも長年生きてるんだがな」

 

マジか!アザゼル先生でも知らないレベルのトンデモ剣技だったんだな、アレ

 

いや、確かに俺も一応アスカロンを使ってるけど斬撃を『置く』とか正直理解が追い付かんわ

 

「確かに、初めてイッキ君と手合わせした時から綺麗な剣筋だとは思っていたけどまさかそんな現象を起こせる領域にあるなんてね。能力を僕に合わせた状態で剣を競ったのもちゃんと勝てたのは最初の内だけだったし・・・この上なく基礎はしっかりしてたから少しの経験で体術や剣術は一足飛びに伸びていくんだろうね」

 

「確かに、有間の強さは積み重ねの上に成り立っている。その典型なのかもな・・・私はそんな器用な斬撃を放てる気はしないから、取り敢えず空間を切り裂く位を目標にしようか」

 

『騎士』組はイッキの剣に思う処があるようだ

 

と云うかゼノヴィア。凄い事言ってるようで、その実脳筋発言だよな?それ?

 

「・・・そう言えばディオドラ・アスタロトの時、最悪【一刀羅刹】で空間を真っ二つにするつもりだったと言っていました」

 

そうか・・・アイツは俺の『真・僧侶』の砲撃でも空間を歪ませるのがせいぜいだった神滅具(ロンギヌス)の創った結界を真っ二つにする気だったのか

 

白音ちゃんの発言にちょっと遠い目になり掛けるが、そこでアザゼル先生が"パンパン"と手を叩いて俺たちの意識を集める

 

「イッキの事はその辺にしとけ。では改めてミーティングを始めるぞ―――まず新しい情報としてはサイラオーグ唯一の『兵士』だが、どうやら駒を6つか7つ消費したらしい」

 

おっとっと!意識を切り替えないとな

 

そうして対サイラオーグ眷属の話合いは続いて行ったのだった

 

 

 

 

ミーティングも終わってそれぞれの休日を過ごし、夕方にもう一度トレーニングを行ってから夜には悪魔としてのお仕事を終えて眠るのには程よい疲れを感じつつもベッドで横になってると部長が入って来た!俺は何時も部長とアーシアと一緒に寝ているのだ!

 

しかもそれに加えて朱乃さんやゼノヴィア、果てはイリナまで日によっては突撃してくる・・・まぁだからこそお互いにいがみ合って俺のベッドの上で女の子たちが火花を散らしているのは見ていて心臓に悪いんだけどな

 

とは云え険悪という訳じゃないので俺も強くは言わないようにしている

 

多分アレはじゃれ合いの延長だと思うんだ・・・男だったら無駄に拳で小突き合うような感じかな?女子の方はちょっと見ててハラハラするけどね。特に部長と朱乃さんは普通に魔力弾が飛び交ったりするから死の気配ってやつを感じるぜ

 

アーシアはまだ来ていないけど、ゼノヴィアやイリナを含めた教会トリオはよく一緒に居るから話し込んでいるのだろう

 

そんな事を考えているとスケスケのネグリジェ姿の部長がベッドに入ってきて早速とばかりに俺の頭を掴んでその豊満なお胸に引き込んで来たぁぁぁ!!俺の顔面が部長の素敵なおっぱいに埋没していくぅぅぅ!!

 

「ねぇイッセー、イッキがレイヴェルと一緒にフェニックス家に行ったのは知ってる?」

 

「い、いえ・・・初めて知りましたけど、何しに行ったんですか?」

 

ひょっとしてライザーにまた何かあったのか?人間恐怖症とやらが再発してイッキがもう一度ライザーを叩き潰しに行ったとか?・・・今度こそ再生出来ないくらいに潰されそうだな

 

「いいえ違うわ。ロキの時にレイヴェルがイッキに逆プロポーズしたでしょう?当然その情報はフェニックス家の方々に伝わってね。後回しにするのも印象が悪いだろうからとレイヴェルの御両親に挨拶に行ったみたいなのよ」

 

マジか!あの後どうなったのか知らなかったけど、黒歌さんに白音ちゃん、更には将来美少女確定ともいえる九重まで居るのに更にレイヴェルも貰うってか!?・・・いや、確かに告白の後でレイヴェルがイッキの家に住み始めたのを見て薄々感じてはいたけどさ!畜生!何でハーレム王を夢に掲げる俺よりもイッキの方がハーレム王に近づいて行ってるんだよ!?

 

強さか!強さが足りてないのか!?俺の夢の一つに最強の『兵士』になるってのが在るけど、既に最強の『人間』の候補には入れるとアザゼル先生からお墨付きを貰ったイッキにはまだ届かないのか!?確かに模擬戦じゃ未だに黒星続きだけどさぁ!

 

「イッセーも同じ男の子なんだからもう少し積極的になっても良いと思うのよ」

 

「せ・・・積極的・・・ですか?」

 

むしろ俺、ある意味積極的過ぎて学園の女子から総スカンを喰らってる身なんですが・・・

 

「ねぇ・・・イッセーは私の事を如何思ってるの?」

 

「は・・はい!尊敬もしていますし、とっても大切な人です!」

 

「なら、イッセーは私と・・・如何なりたいの?」

 

部長が俺の瞳を覗き込むがそこには不安や期待が綯い交ぜになったような色が浮かんでいた

 

俺が部長と如何なりたいのか―――先ず、この先も部長の『兵士』として付き添っていきたいと思う。将来的には上級悪魔となって独り立ちはするつもりだけど部長の『兵士』である事を止めるつもりはない!

 

でも、それだとある意味現状のままとも云える

 

ハーレム王を目指す者として俺は部長とつまりはその、彼氏彼女の男女の仲になりたいと思う

 

部長は眷属をとても大切にする人だから例えば一緒のベッドで寝るのも木場やギャスパー相手なら拒んだりしないと思う―――だけど俺に対してはスケスケの服で抱き着いて来たり、一緒にお風呂にも入ったり、キスも何度かしているのだ。そのキスも額や頬じゃ無くて(それも在るけど)口と口のキスだ

 

実は初めてライザーとゲームで戦って家で気絶から目覚めた後、部長から初めて口と口のキスをして貰ったのだが部長はそれを『ファーストキス』だと言っていた

 

その事からも悪魔の文化でも口でするキスは特別な意味合いが有ると考えるべきだろう

 

でも俺は部長につり合うだけの存在なのか?俺と部長じゃ身分違いも良い所だし・・・いや、それを言い訳には出来ないか

 

何せイッキも俺と同じ一般人だし、レイヴェルや九重とも身分の違いで言えば天と地だろう

 

結局俺はフラれるのが恐いからなぁなぁで過ごしているのか?・・・ちょっと違うかな?当然もしも俺の勘違いでフラれたなんて考えると今後が気不味過ぎて吐き気がするけど、一番の理由は俺が俺に自信が持てないからなんだろう

 

京都では新しい力に目覚めて曹操をぶっ飛ばしたけど、結局倒しきる事は出来なかったし、そもそもアレはアイツが油断しきってたところに一発当てただけで本気を引き出せてもいなかった・・・話しぶりからして禁手(バランス・ブレイク)も使えるようだったのに使ってこなかったし

 

なら、今度のレーティングゲームは丁度いい機会なのかも知れん

 

若手悪魔最強であり、あれほど誠実で人の良いサイラオーグさんを倒す事が出来たなら

 

「部長。その答えですけど、サイラオーグさんとのレーティングゲームが終わるまで待ってもらって良いですか?彼に勝って、気持ち良く伝えたいんです」

 

そう言うと部長は目を見開いて驚き、俺の言葉の裏の想いを受け取ったのか(そうだと信じたい)「ええ、待ってるわ」と嬉しそうな笑みを浮かべてくれた

 

「ああ、でもそうなると―――もしも負けてしまったら保留になっちゃうのかしら?」

 

う゛っ!!確かに負ける可能性は十分に在る・・・勿論負けるつもりなんて無しに全力で勝ちに行くけど負けてしまったらまたなぁなぁで過ごすのか?それは流石に誠実さに欠ける気がする

 

「ま・・・負けたとしても伝えます・・・約束します・・・だから、勝ちましょう!」

 

「うふふ、そうね♪勝ちたい理由がまた一つ増えたわね♪」

 

そう言って部長は俺の上に覆い被さるようにしてキスしようとして来るぅぅぅ!?

 

ああ!部長の胸の谷間やぷっくらとした瑞々しい唇が迫って来るぅぅぅ!!

 

“ガチャ!!”

 

「あらあら、リアスばっかりズルいですわ。イッセー君を胸で包み込むのは私の役目ですのに」

 

朱乃さん!?そんな素敵なお役目何時出来たんですか!?

 

「はぅぅ!なら私は体全体を使ってイッセーさんに引っ付きますぅ!イッセーさんは胸だけじゃ無くて女性の体ならどこでも好きですよね!?」

 

全身で引っ付く!?アーシアは本当に時々大胆な発言をするよね!そして俺は当然胸だけでなく、女性のスベスベで柔らかい体は大好きです!

 

「おお!見ろイリナ。女が男に覆い被さるという光景は中々に妖艶な感じがするものなのだな・・・成程、これが女性悪魔の持つべき男を虜にする技なのかも知れん―――実際、あの体勢からは容易に抜け出せないからな。相手が抵抗するなら最後は女子力(物理)で押さえつけようという腹なのだろう」

 

「あわわわわ!リアスさんったら大胆!此処は天使として悪魔の所業というものを実地で検証してレポートに纏める必要があるわね!」

 

聖剣使いコンビはいっつも何処かズレたご意見を発してくれるよな!?というかイリナ!その纏めたレポートを何処に提出するつもりだよ!ミカエルさんか!?

 

心の中でツッコんでいると部長は苦笑しながら離れてしまった

 

「これじゃあ台無しね―――ゲームも近いし、今日は皆で寝ましょうか」

 

皆でですか!?確かに6人ならベッドにも収まる人数ですけど、それでも結構狭くなりますよ!?

 

それでも結局全員で寝る事になったのだが、翌朝ロスヴァイセさんにその事が知られて怒られる事となった・・・何だよ、イッキだって女の子と一緒のベッドで寝てるみたいじゃないか

 

「あちらはちゃんと付き合っていますし、不純な事もしていません・・・京都で彼の澄んだ(にごった)瞳はイッセー君も見たでしょう?」

 

あっ、はい

 

確かにアレは手を出していないと確信できるレベルだったわ

 

イッキの置かれた状況に羨ましさと同時に憐憫も感じ、静かに心の中で手を合わせる俺だった

 

 

[イッセー side out]




イッセーですがレイナーレのトラウマが無い分原作よりも少し前向きになっています


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第四話 試合、開始です!

筆が乗ったので頑張って書きました!


グレモリー眷属とサイラオーグ眷属との試合の当日、俺と黒歌にレイヴェルにイリナさんは試合が行われるアグレアスに来ていた

 

イッセー達は報道陣に顔見せとかもしなければならない為、別ルートで俺達の居るホテルに向かってる処だろう―――試合会場でもあるアグレアス・ドームの隣の高層高級ホテルなのだが俺達も関係者として入れて貰っているのだ

 

「それにしても空中に浮かぶ巨大都市とかまたロマンのある設計だよな。別に此処って最初から土地が浮いていた訳じゃ無いんだよな?」

 

「ええ、このアグレアスは初代四大魔王様方の今は失われた技術で創られた都市であると伝えられていますわ。現ベルゼブブ様が長年解析を行っているそうですが、まだ秘密の全てを解き明かせてはいないのだとか」

 

「冥界は地の底である事が一つの象徴とも云えるからこの『空中都市』って結構意味深よねぇ。あ!でもでも、空中都市っていうなら天界なんて全部そうよ!」

 

「にゃはは、天国がその辺の土地と地続きだったら名前詐欺にゃ」

 

するとホテルに備え付けられている大型テレビから生中継の映像が流れてきた

 

≪ご覧ください!魔王ルシファー様の妹君にしてグレモリー公爵家の次期当主でもあらせられるリアス・グレモリー様がご自身の眷属を引き連れてたった今このアグレアスに到着いたしました!ああっとぉ!更には今回グレモリーチームのアドバイザーを務めているとの情報の入っている堕天使の総督、アザゼル様もご一緒です!これから彼らは試合が始まるまでの間は会場となるアグレアス・ドームの隣のホテルで最後の調整を行うとの事!試合開始まであと7時間を切っております!今夜の一戦は決して見逃せない戦いとなるでしょう!試合の内容も当然の事ながら、おっぱいドラゴンはスイッチ姫の胸をぶちゅうううっと吸うのか!?以上、現場からお伝えしました≫

 

うわ、途中までマジメなリポートだったのに最後の最後で台無しになったな

 

リムジンに乗り込んだリアス部長が最後に一瞬顔を手で覆う仕草が見られたし、多分その手の報道陣の質問が幾つか飛び交っていたのだろう

 

「取り敢えず、すぐにでも此処に到着するだろうから出迎えに行きますか・・・黒歌、リアス部長を揶揄うのはマジで勘弁してくれよ?」

 

「にゃはは♪確かにホテルの中だろうと滅びの魔力をぶっ放してきそうにゃ」

 

それからホテルのロビーに移動すると程無くして皆がやって来た

 

そうしてボーイの人の案内でグレモリー眷属用の軽い運動も休息も出来る特別ルームに案内される

 

その途中で前方から黒いフードを着た骸骨の仮面集団を引き連れた法衣姿の骸骨が歩いて来た

 

隣のイッセーとか驚いてるけど、正直骸骨が歩いてるくらいなら妖怪で見慣れているんだよな

 

ただ、心臓が妙な圧力で負荷が掛かってるようなこの威圧感は確かに気持ち悪い

 

俺だから分かるが魂の部分に奴の発するオーラが肉体とか素通りして干渉してくる感じだ

 

ふぅむ。大分俺も魂感知能力が上昇してきたかもな

 

と、そこでアザゼル先生が目の前で立ち止まった骸骨に話しかける

 

「これはこれは、冥界の下層こと冥府に住まう死を司る神、ハーデス殿。悪魔や堕天使を何よりも嫌う貴方が冥界まで昇って来るとは思いませんでしたよ」

 

「ファファファ!言うてくれるわい。何、最近カラスやコウモリの羽音が五月蠅くての。視察に来たのじゃよ―――出来る事なら戸締りしたいところじゃ」

 

完全に見下して馬鹿にしている感じに対応するハーデス神・・・やっぱコイツがハーデスか

 

「骸骨爺ぃ、ギリシャ神話ではアンタだけは未だに和平に反対のようだな?」

 

「ならば如何する?この老骨もロキのように葬るか?」

 

その一言と共にハーデスの周りの死神(グリムリッパー)の殺気が通路に充満する

 

僅かに手元を上げているのは死神の鎌、デスサイズを取り出す予備動作か?

 

「ゼウスやポセイドン程じゃなくても寛容さを身に付けろっつってんだよ。折角スッカスカの身の上何だ―――筋肉の代わりに優しさを、肌の代わり礼節でも貼り付けたらどうだ?」

 

「儂が身に纏うのは人間の魂と後はこの法衣だけで十分じゃ」

 

二人が完全にいがみ合って空気が重いけど、今この場で一番可哀そうなのは案内役のボーイさんかもな―――さっきからガクガク震えてるし

 

すると埒が明かないと判断したのかハーデスの視線?が今度は俺を向いた

 

え?何で?そこは赤龍帝のイッセーじゃないの?

 

「お主か、儂のケルベロスを切り刻んでくれた人間と云うのはの」

 

ケルベロス(原種)の事かぁぁぁ!!そうですね!お宅のペットのワンちゃんは全ての首を斬り落として胴体も四分割にさせて頂きましたよ!

 

「はい、申し訳ございません・・・ですが、次からはペットは放し飼いにはなさらない方が宜しいかと―――よそ様の庭(人間界)に勝手に赴いて吼えまくるようでは番犬どころか駄犬以下ですよ?躾くらいはちゃんとして頂きたい」

 

ペットの管理も碌に出来ないのかあ゛あ゛ぁん?という思いを少しだけオブラートに包んで伝えておいた・・・ちょっと中身がはみ出してる気もするけど、この神様は敬う必要のない神様だから問題ないだろう

 

「中々生意気な人間のようじゃの・・・どうじゃ?お主儂らの神話に来ぬか?最近は神々に従順な魂ばかりじゃからの。多少は反骨精神を持っとる奴の方がイジメがいも在るというものじゃ」

 

骸骨に虐められて喜ぶような特殊ドM性癖は持ってねぇよ!

 

「まぁ良い。今夜の試合は見させてもらおう―――精々死なぬようにな・・・今宵はお主達の魂を刈り取りに来た訳では無いのでの」

 

そう言って配下の死神たちを引き連れて過ぎ去っていった

 

「北欧時代のヴァルキリーの先輩から話だけは伺ってましたが、あの魂を直接掴まれているような感覚は慣れそうにありませんね」

 

「先生、あの神様は悪神何ですか?」

 

イッセーの問いにアザゼル先生は難しい顔で答える

 

「さてどうかな?アイツの周囲には黒い噂が絶えないんだよ。だが、決定的な証拠は掴ませないし、人間の魂の管理はキッチリとやってる神だ・・・要するに他の神話体系が大嫌いなんだよ。仮に悪事の証拠を掴んでも人間にとっては必要な神だからおいそれと封印したり消滅させたりする事も出来んのだ」

 

「成程、仕事は真面目にやってる上に代わりが利かないから重い罰は下せないって事ですか」

 

それを分かってるからこそ悪質な悪戯をやりまくってるんだな

 

その上で証拠隠滅も余念は無いと

 

「ああ、出来ればロキみたいに封印してやりてぇ神様だよ」

 

 

 

 

 

 

その後、同じくギリシャ神話の主神のゼウス様やポセイドン様という暑苦しい筋肉神様コンビやタンニーンさんにオーディンとも出会って(ロスヴァイセさんが鬼の形相で追いかけてた)から漸く用意された部屋に付いて一息つけるようになった

 

今は皆思い思いの方法でリラックスしたり体を温めたりしている

 

イッセーはジョギングしていたり祐斗はゆったりと剣筋を確かめるように素振りしていたり、逆に今はゆったりした時間を過ごしたいのか(流石に時間が迫れば最低限体は解すと思うが)リアス部長は本を読んでたり、アーシアさんとか使い魔のラッセーと戯れたりしてるな

 

そうしている中で俺はと云えばアザゼル先生に呼び出されていた

 

「それで話というのは何なんですか?」

 

「ああ、実はまだ確定している情報という訳じゃないのだが現状、これ以上の情報は出てきそうにないんでな。折角アイツに出会った訳だしお前さんには伝えておこうと思ってよ・・・例の『龍喰者(ドラゴン・イーター)』についてだ。重ねて言うがまだ確定情報じゃない。それでもお前さんに伝えるのはお前がそういう情報を知っても無難に動けそうだからだ・・・まだまだリアスたちは実戦における精神的な割り切りってのにはケツの青い部分があるからな。黒歌に伝えるか如何かの判断はお前に任せるから取り敢えず聞け」

 

おお!アザゼル先生にそういう評価を貰えるとはかなり嬉しいものが在るな!黒歌には・・・ぶっちゃけ俺の中でほぼ確定情報だから伝えておこう

 

「お前さん、『サマエル』の名は知っているか?」

 

「確か、アダムとイブに知恵の実を食べるよう唆した蛇でしたっけ?」

 

他には海を割った事で有名なモーセを天国に連れて行こうとして杖で殴られて失明して神様に心配されるでもなく怒られたとか・・・うん、俺ならグレるわ

 

「そう、その事が原因で『サマエル』は聖書の神の怒りや憎しみなどの負の感情を一身に受ける事になる。その本質は蛇やドラゴンを嫌う極大のドラゴンスレイヤーという呪いとして顕現した―――英雄派は魔帝剣グラムを持ち、グレートレッドと同格のオーフィスを目にしているにも関わらず効果を見込めると考えている程の代物となると俺の知りうる限りでは他に存在しない」

 

まぁ実際『サマエル』ってヤバいよな

 

グレートレッドやオーフィスと同格とされるトライヘキサを各神話の主力陣営が1万年は掛けないと倒しきれないとされているのに原作ではオーフィスを数分で力の殆どを分割したし・・・消滅させる事を目的としても10分も在ればオーフィス消滅してたんじゃないか?

 

そう考えると弱点特効の恐ろしさったらないぜ

 

「それでだ。その『サマエル』は今、ハーデスの管理する冥府こと地獄の最下層のコキュートスに封印されている・・・だがあの骸骨爺なら俺達の和平への嫌がらせだけにコキュートスの封印を解くという可能性も無くはないって話だ―――一応、ミカエルやサーゼクスにもこの可能性は示唆したがアイツらも信じられないって反応だったぜ。正直言えば俺もそうさ。それくらいには『サマエル』って存在は各勢力間においても禁忌とされてきた代物だからな。出来れば勘違いであって欲しいものだよ」

 

溜息を吐くアザゼル先生だけど、もしかして半分くらいは俺に愚痴を溢す為に話してませんか?

 

でも実際明確な証拠も無しだと幾らでもしらばっくれるのが政治とも云えるんだよなぁ

 

「ん~、根本的な解決にはならないですけどアザゼル先生。こういうのって作れませんか?」

 

だからちょっとした思い付きでアイテムの作成を提案する

 

すると割と乗り気な反応が返って来た

 

「ふむ。確かにお前らはバカみたいに事件に遭遇してるからな。上手くいけば多少の意趣返し程度にはなるだろう。『サマエル』ってのは本来取り扱っちゃいけないレベルの劇薬なんだからな―――良し分かった。作っといてやるよ。他にも思いついた事が在れば言ってくれよ?アイツ相手に受け手に回ってるだけじゃ何時か取返しの付かないレベルの爆弾を仕込まれるからな」

 

今回は『サマエル』でしたけどね・・・と云うかもしもグレートレッドが死んで悪い方向に世界が崩れて皆死んじゃったなんて状況になってたらハーデスの奴どうするつもりだったんだろう?

 

それとも世界が無くなる事なんて無いって高を括ってたとか?・・・火薬庫で火遊びしても自分だけは大丈夫とか思ってるタイプか・・・うわ!マジで滅べよ!

 

そうしてハーデスの事を話し合った後は皆の所に戻って軽い組手に付き合ったり白音を膝の上に乗せて仙術で気を整えながら雑談したりして過ごし、試合開始の時刻が近づいて来た

 

「ふふ~ん!私達はおっぱいドラゴンのファンたちの居る席のチケットが貰えたからそこで皆の事を応援させて貰うわね!何と私!応援団長にも任命されたから旗も持って盛り上げるわよ♪」

 

俺達はグレモリー家からチケットを貰っているので観客席の最前列が指定席だ

 

イリナさんがとっても張り切ってる中で俺はイッセーに語り掛ける

 

「イッセー、サイラオーグさんもその眷属も色んな意味で強敵だ―――ハッキリ言って戦いの終盤ではこの場に居る何人かは倒されていると思う・・・お前はまだ『心は熱く、頭は冷静に』何て器用な事は出来ないだろうからアドバイスを一つ言っとくぞ」

 

「仲間がやられるとかすっげぇヤな事言うな・・・でも、確かに冷静じゃいられないかも知れないな。それで?アドバイスってのは?」

 

「単純だよ。サイラオーグさんは互いに誇りを掛けて戦って、その上でも感じてしまうお前の理不尽な怒りも真っ正面から受け入れてくれる人だ―――全ての感情はサイラオーグさんだけにぶつけろ・・・それだけで良い」

 

原作のクイーシャさんとの闘いとかがそうだろう・・・誇りを掛けて闘って、その上で殺してしまったとかなら兎も角、怒りの捌け口として殺してしまったとかだと後で絶対後悔してたはずだ

 

「そうだな。分かったよ。俺はただ全力でサイラオーグさんをぶん殴るだけで良いんだな?」

 

「ああ、シンプルだろう?」

 

「了解だ・・・なんだか完全にサイラオーグさんにおんぶに抱っこみたいな感じでカッコ悪いけど、もしも自分が抑えられそうに無かったらお前のアドバイスを思い出すよ」

 

ああ、それで良い

 

お前は力を向ける相手さえ間違わなければ『おっぱいドラゴン』でいられるはずだからな

 

「イッキ先輩、お願いがあるんですが・・・」

 

俺達の会話が終わったのを見計らったのか今度は白音が話しかけてきた

 

「ん?如何した?」

 

「この試合に勝てたら先輩の方からキス・・・して貰っても良いですか?」

 

顔を赤らめて上目使いの白音が可愛すぎてヤバいんですけど!何この可愛さにステータス極振りしたような存在!何時もの黒歌のエロい攻めとは別方向で俺の理性を剥がしに来てるんだけど!

 

「あらあら、白音ちゃんも随分と大胆になりましたわねぇ♪」

 

「ええ、でもこのままでは白音に水をあけられてしまうわ。先輩として先ずは同じ土俵に立つ為にも絶対にこの試合で勝たないといけないわね―――良い雰囲気になってそのまま勢いで・・・」

 

ちょっとリアス部長が肉食獣の雰囲気醸し出してませんか?

 

まぁいい、今は放っておこう・・・どうせ何も起こらんと思うし

 

「むぅ、私も何かイッキ様に褒めてもらえるシチュエーションが欲しいですわね」

 

「まっ、今回は白音に譲りましょうか―――レイヴェルは雰囲気とかを重視するタイプかにゃん?私は気の向くままに襲っちゃうけど♪」

 

「はい。ですが日常の中で自然と交わされるキスというのも憧れますわ・・・ただ、黒歌さんはもう少しだけイッキ様に迫るのを手加減して頂いた方が宜しいのではないかと・・・イッキ様が時折オーラのコントロールがブレる程に理性が跳びかけてますから」

 

うん。レイヴェルにモロバレするレベルでマジで生殺し状態です

 

寝る時とかレイヴェルや白音は俺を気遣ってなのか頬にキスくらいで済ませてくれるけど、黒歌は首筋に舌を這わせたり耳を甘噛みしてきたりと俺の理性を溶かしに来てる・・・以前手加減してると言ってたように割とすぐに止めてはくれるんだけど理性が残ってる内に【一刀修羅】で意識の強制シャットダウンだ

 

・・・というか後輩達にそんな風に気遣われている時点で俺はかなり限界だと思う

 

でも今回は白音にとっても正式に付き合ってから初めてのレーティングゲームの大舞台だ

 

ちゃんとその願いは叶えてやりたい

 

「分かったよ―――なら、もしも負けたら如何する?その時もキスする?」

 

慰めのキス的な意味で・・・うわ!セリフだけ見ると凄くキザっぽい!

 

「要りません。その方が気合が入るので・・・ただ、頭くらいは撫でてくれると嬉しいです」

 

了解。心を籠めて撫でさせていただきますよ

 

 

 

 

 

 

 

遂にその時がやって来た

 

今、俺達の居るアグレアス・ドームは観客で完全に埋まっている

 

俺達の座る席は『おっぱいドラゴン』のファンの子供たちが関連グッズの帽子や玩具を手に取って興奮した面持ちだ―――イリナさんは気合が入るからと教会の例の戦闘服で会場入りしようとしていたが取り敢えず胸元に在った十字架は仕舞ってもらった・・・危うく体調不良者が続出するところだったぜ

 

≪会場にお集まりの皆さま!長らくお待たせいたしました。いよいよ世紀の一戦が始まります!まず最初に東口ゲートから入場するのはサイラオーグ・バアルチームです!!≫

 

「「「「「「わあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!」」」」」」

 

会場のボルテージが一気に爆発し、叫び声という形で広大なドームを満たした

 

サイラオーグさん達が入場し終わり、実況も次に移る

 

≪続いて西口ゲートより、リアス・グレモリーチームの入場です!!≫

 

先程の歓声に負けないレベルの大音量が響き渡る

 

この『おっぱいドラゴン』ファンの席では子供たちを中心にした『おっぱいドラゴ~ン!』とか『スイッチ姫~!』とか『ずむずむいや~ん!』とかの声を中心に聞こえて来る

 

子供たちの奥方様たちは『ダークネスナイト・ファング様~♡』とかグレモリーチームは眷属一人一人の知名度が高い事が窺えるな

 

そうして司会進行・実況役に元72柱の一角、ナウド・ガミジン、審判(アービター)役に転生悪魔にして最上級悪魔のリュディガー・ローゼンクロイツ、特別ゲストの解説役にアザゼル先生とレーティングゲームのトップに君臨するディハウザー・ベリアルが紹介された

 

それから発表されたゲームのルールは『ダイス・フィギュア』だ

 

実況のガミジンさんがルールの説明をしていく

 

≪ご存じでない方の為に改めて『ダイス・フィギュア』のルールをご説明させて頂きます。使用されるダイスは通常の六面ダイス。それを両陣営の『王』が振り、出た目の合計数字により、試合に出せる選手が決まるのです―――これは人間界におけるチェスの駒価値というものが反映されております!『兵士』の駒価値は1、『騎士』と『僧侶』は3、『戦車』は5、『女王』は9となっており、例えば出た目の合計が8だった場合はその駒価値を超えない範囲であれば選手を出すことが出来るのです。『騎士』ならば2人まで出せますし、『戦車』と『騎士』または『戦車』と『僧侶』なども合計が8となるので出場させることが可能です。なお転生する際に複数の駒を消費された眷属の方は消費した分だけの駒価値となりますのでご注意下さい。『おっぱいドラゴン』こと赤龍帝の兵藤一誠選手は転生に『兵士』の駒を8つ使われたとの事なので駒価値は8となる訳です≫

 

「ん~、もしも俺がイッセーと同じように何も知らずにいたら駒価値ってどの程度だったんだろう?優秀な神器を持ってるサジが4だろ?俺の神器は基本ハズレ枠だし、2・・・とかか?」

 

「イッキ、【一刀修羅】と【じばく】を加味するのを忘れてるにゃ・・・まぁその二つも鍛え上げなきゃハズレ枠だし、3か精々行っても4とかじゃないかにゃ?」

 

「今のイッキ様は『戦車』二つでも転生できるか怪しいですがね。もっとも、『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の駒価値は転生する本人の資質や実力以外にも主となる悪魔の資質・実力により変動しますのでその辺りは結構曖昧な部分があるんですのよ?それに例えば資質だけ見れば1程度でも『女王』の駒で転生させれば対外的には駒価値は9になりますわ―――少し極端な例でしたが趣味で眷属を作る上級悪魔ならそういう事も起こり得ますわ」

 

そっか、レーティングゲームに興味ない悪魔とかならそんなのもあり得るのか

 

≪なお、合計数字以下の選手が両陣営ないし片方の陣営に居ない場合はダイスの振り直しとなります。そして出場選手は連続してバトルに出る事は出来ない処もこのゲームの胆となりますね≫

 

それが出来ればアーシアさんと白音の回復で誰が相手でも一定の成果を出せる祐斗が潰れるまで連続出場!とかも評価を気にしなければ出来るもんな

 

≪レーティングゲームの基本ルールに則り、『王』が獲られた時点でゲーム終了となりますが、その『王』の駒価値は事前の審査委員会の評価によって決定しております―――さあそれでは発表いたしましょう!リアス・グレモリー選手とサイラオーグ・バアル選手の駒価値はこのようになりました!≫

 

会場の各所にある巨大スクリーンにはリアス部長とサイラオーグさんが画面を二分するように映し出されてその下の方に大きくそれぞれの数字が表示された

 

≪おおぉぉっとぉぉ!リアス・グレモリー選手が『8』、サイラオーグ・バアル選手が『12』となりましたぁぁぁ!サイラオーグ選手の方が高評価ですが逆に言えば最大の数値が出ない限りは出場できないという事になります!両陣営がそれを踏まえてどんな采配をするのかに期待が寄せられます!———さあ、それではいよいよレーティングゲームを開始いたします!『王』の方は専用の台に赴きダイスをお取りください!≫

 

二人の『王』がお互いに視線を逸らさずに台の前に歩いて行き、ダイスを手にした

 

≪それでは第一試合の選手を決定いたします!ダイス・シュート!!≫

 

そうして出た合計数字は3だった

 

「これは・・・木場様一択となりますわね」

 

「まぁ『僧侶』は完全にサポート特化だからな」

 

「ゼノヴィアっちも単独で戦えるけどゆっちーの方が安定してるからにゃ~」

 

「う~ん。元相棒としてフォローしたいけどフォロー出来ない」

 

あはは、まぁエクスカリバーの能力を使いこなせてない今の彼女じゃね

 

というか『ゆっちー』何だ・・・黒歌ってあだ名付けるの好きだよね

 

それから5分間の作戦タイムを経てバトルフィールドに現れたのは祐斗と馬に乗った甲冑騎士、『騎士』のベルーガ・フールカスさんだった

 

この間俺とサイラオーグさんの着ぐるみファイトを見て『力強くも美しい光景』とかほざいていたのは地味にこの人だったりもする

 

お互いに『騎士』というよりは騎士として名乗りを上げ、審判の号令の下戦いが始まったが祐斗はベルーガさんの愛馬の『青ざめた馬(ペイル・ホース)』の速度をすら上回り、徐々に刃が掠めていく

 

聖剣としての特性も持つ聖魔剣で斬られた彼は浅いとは云え傷口から煙を上げていた

 

このままでは放って置いてもリタイアになると踏んだベルーガさんが大量の実態のある分身を生み出して祐斗に迫るが少しの打ち合いで本物を見破った祐斗が分身を切り払って本体に斬り込み、そこで勝負は決した

 

「まっ♪私にイッキに白音と周囲に三人も幻術を織り交ぜて戦う人が居れば自然と感覚も研ぎ澄まされるわよねぇ」

 

「黒歌の幻術は完成度高すぎて祐斗が見破った事は無いけどな」

 

続く第二試合のダイスの合計数値は10でグレモリーチームは白音とロスヴァイセさんの『戦車』コンビでバアルチームは『騎士』のリーバン・クロセルさんに『戦車』のガンドマ・バラムさんの二人が出場だ

 

試合が始まってから白音は終始バラムさんを圧倒し、ロスヴァイセさんは視界を媒体にする重力の神器と氷の魔法で動きを封じられたものの、光を上手く使った転移魔法でクロセルさんの視界を鈍らせつつ自分とバラムさんの居場所を交換してすかさず魔法のフルバーストを放ち、相手二人を吹き飛ばす

 

だがリタイアしかけながらもクロセルさんが重力で二人を拘束し、全身ボロボロのバラムさんが叩きつけるような攻撃を放つ

 

≪まだです!≫

 

闘気を全開にして身体能力を引き上げた白音がロスヴァイセさんを連れてその場から脱出した

 

≪それは此方も同じ事!お返しするぜ、お嬢さん!!≫

 

攻撃を避けて着地した二人の目の前に再びバラムさんが急遽現れてリタイアの光に包まれながらロスヴァイセさんを最後の力で殴り飛ばしてしまった

 

恐らく見ている視点を基点として発動する神器に予め転移の術式を連動できるように仕込んでいたのだろう―――重力で捉えて次の瞬間にはバラムさんの攻撃が決まるように・・・最初にロスヴァイセさんに仕掛けた時は白音にフルボッコにされてる最中だったから無理だったみたいだけどな

 

いや~、クロセルさん技巧派だわ

 

ともあれコレでロスヴァイセさんはリタイアとなってしまった

 

バアルチームも二人ともリタイアだけどな

 

―――で、お次の出た目は8だったがこれまた酷かった

 

誰が出場するかは相手チームに分からないように作戦タイム中は結界が張られるのだがその前にサイラオーグさんが『僧侶』のコリアナ・アンドレアルフスさんを出すと宣言した

 

これには観客も実況も騒めいた

 

≪おおっとぉ!?これは出場選手の予告宣言でしょうか?サイラオーグ選手、その理由は?≫

 

「兵藤一誠のスケベ技に対抗できる術を彼女が持っていると言ったら『おっぱいドラゴン』はどう答える?」

 

その挑発にイッセーが受けて立ち、宣言通りに転移先のフィールドで二人は対峙する

 

京都の一件を経て10秒程で禁手(バランス・ブレイカー)となったイッセーを相手にデキる金髪グラマーOL的なコリアナさんはストリップショーを開始した!

 

「み・・・見ちゃいけませんわイッキ様!」

 

まぁ俺の場合はレイヴェルが後ろから両手で俺の視界を塞ぎに来たので見れないのだが、レイヴェルに半ば抱き着かれている状況なのは役得と云えるのかな?

 

≪ご覧ください!コリアナ選手の魅惑のポーズとストリップショーにより会場の男性客が無言で見つめております!アザゼル総督、コリアナ選手の作戦は確かに兵藤一誠選手の動きを完全に封じておりますが、この後どうやって勝つつもりなのでしょうか?≫

 

≪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・≫

 

解説しろよ!アザゼル先生!

 

≪え~、アザゼル総督はただいま大変お忙しいようなのでバアルチームのコーチを務めたというディハウザー・ベリアル様にお聞きします。アレにはどういった意味が在るのでしょうか?・・・いえ、意味など無くとも大変素晴らしい光景なのですが≫

 

≪はい。コリアナ選手のストリップショーには所作の一つ一つに魔法の術式が込められております。アレを集中して見れば見る程に術式が複雑に絡まって行き、最後には文字通りに金縛りを受けるでしょう。彼らの実力差では普通ならすぐに解けてしまう魔法もイッセー選手から進んで魔法に掛かりにいく事で簡単には抜け出せないようにするのです≫

 

≪なんと恐ろしい術式でしょうかぁぁぁ!!?男心を弄ぶ!コリアナ選手、まさに魔性の女であります!これは『おっぱいドラゴン』、破れてしまうのかぁぁぁ!!≫

 

あ!そんな術式仕込んであったんだ。成程、魔法自体は最初に発動させておけば乳語翻訳(パイリンガル)を受けてもどの順番で脱ぐかの方に意識が向くから最後まで気づかれないと

 

スゲェ馬鹿々々しいようでその実、計算され尽くした戦略だったんだな!

 

だが最後にイッセーの≪そこはブラジャーからのパンツでしょうがぁぁぁ!!≫の叫び声と共に爆音が響き、イッセーの勝利のアナウンスが告げられた

 

「イッキ様、もう見ても大丈夫ですわよ」

 

レイヴェルも手を放してくれたけど実況で大体伝わってるんだけどね

 

いよいよ中盤とも云える第四試合はダイスの出目は再び8でゼノヴィアとギャスパーの二人に対し、向こうは『戦車』のラードラ・ブネさんと『僧侶』のミスティータ・サブノックさんだ

 

見た目はひょろ長いおっさんと男の娘だな

 

なんとこの試合って男の娘同士の戦いでもある訳だ!・・・だから何だって話だが

 

そうして始まった試合だが最初にラードラさんがドラゴンの姿に変身し、ゼノヴィアがデュランダル砲を撃とうとした処でミスティータさんが神器の呪いでゼノヴィアの聖剣を扱う力を封じてしまった

 

ゼノヴィアを蝙蝠に変身したギャスパーが岩陰に隠して解呪の儀式を行い、単身で時間稼ぎにドラゴンに立ち向かい、先日イッセー達が俺にも教えてくれた『オカルト研究部男子訓戒』を口にしてどれほどの大怪我でも意識だけは繋ぎ止め、呪いが解けたゼノヴィアをリタイアするその瞬間までサポートする事で勝利が決まった

 

「もしかしなくてもこの試合のMVPはギャスパーなのかもな」

 

「はい、もう断言しても良いと思いますわ」

 

「あのギャスパー君があそこまで漢を見せるなんてね。私、いろんな意味で涙が出て来ちゃった」

 

「にゃははは♪この試合が終わったら早く元気になれるように白音と一緒に特製ニンニク料理のフルコースを御馳走しようかにゃ?」

 

いや、止め刺して如何するよ

 

まぁ試合中は厳しい表情をしてた黒歌だからそんな悪戯はしないと信じたい・・・しないよね?

 

グレモリーチームがギャスパーの試合を見て厳しくもより一層覚悟の決まった表情をする中、次に出た目は9だった

 

作戦タイムが終わり、フィールドに転送されたのはお互いの『女王』という『女王』対決

 

試合が始まってからフィールドを飛び回りながら炎や氷、風、水、通常の魔力弾と至る場所で魔力が弾けた。ここまでは互角だが朱乃さんが更に魔法を併用し始めて手数を増やす事でクイーシャさんに防御越しとは云え何発か被弾させた

 

≪ッツ!魔法を扱うという情報は無かったわね!≫

 

≪ええ、当然ですわ。私もつい最近習い始めたばかりですから手数が2倍とは言えませんけれど―――なので、私が優位に立てるうちに押し切らせて頂きます!雷光よ!≫

 

得意の雷光を魔法と一緒に広範囲に撃ち放ち、勝負を決めようとする朱乃先輩だがクイーシャさんがアバドン特有の魔力である(ホール)をデータに無いレベルで広げて、全身を包み込む事により大規模攻撃を無力化した

 

そして朱乃先輩の周囲に(ホール)を複数展開させ、光の属性だけを抜き出してカウンターを行い、朱乃先輩の防御を貫通してリタイアとなった

 

「にゃは~、ロセっちに防御の魔法を習えなかったのが響いちゃったわね」

 

「黒歌は魔法を教えなかったのか?防御の魔法も使えるだろう?」

 

「最初に覚えたのが北欧の術式だったからね。最初から複数の術式に手を伸ばすのは初心者には良くないから長期的な成長を考慮して断念したにゃ」

 

って事はリアス部長もパワーファイターが魔法で更にパワーを伸ばした形でこの試合に臨む事になったのか・・・・ロスヴァイセさん、怪我の治療はもう終わって病室で観戦してると思うけど、今頃頭抱えてるかも知れないな

 

朱乃先輩が倒され、再び振られたダイスの映像に会場が活気づいた

 

≪あああああ!ついにこの数字が出てしまいました!出た目の合計は12!これはつまりサイラオーグ選手が出場できるという事です!≫

 

実況に応えるようにサイラオーグさんは上着を取り払い、結界で中が見えなくなる前に転移場所に立つ―――隠すものなど何もないという事なのだろう

 

そうして時間となりフィールドに転送されたのはサイラオーグさんと白音、祐斗、ゼノヴィアの3人だった。それを見てサイラオーグさんは笑みを深める

 

≪リアスの案か?———成程、どうやら『王』としてまた一歩成長したようだな≫

 

≪ただでは死にません。最高の状態で貴方を赤龍帝に送り届ける!≫

 

≪あと言っておくが負けるつもりなど無いからな!≫

 

≪少しでも油断すれば、そこで試合終了(ゲーム・オーバー)だと思って下さい!≫

 

3人がそれぞれの闘志をサイラオーグさんに叩きつける

 

≪素晴らしい!お前たちは何処まで俺を高まらせてくれる!≫

 

前口上は終わりと判断したのか審判(アービター)役のリュディガー・ローゼンクロイツが静かに手を上げ、両チームの選手がそれぞれ構える

 

≪それでは第六試合、開始してください!≫

 

振り下ろされた掌と共に試合開始のブザーが鳴り響いた!




今回は試合は基本ダイジェスト版に近い形で書きましたがチラホラと違いが見られる感じですね

流石にサイラオーグとの戦いとかはちゃんと書きたかったので次回に持ち越しです・・・でも試合内容どうしよう?まぁ思いつくままに書いていきましょう!


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第五話 次期大王との、死闘です!

木場回ですね。超木場回になりました


[木場 side]

 

 

巨大な湖を中心に造られたバトルフィールドで僕とゼノヴィアはそれぞれの聖剣と聖魔剣を手に取り、白音ちゃんは猫又モードレベル2(大人モード)となって周囲に火車を展開し、自身も白い浄化の炎を纏う

 

対するサイラオーグさんも全身から濃密な白い闘気を発し、そこに立っているだけで足元にクレーターを作った―――ははは、凄いや。イッキ君という存在を知らなかったら今この場で多少なりとも気圧されていたかも知れないね

 

≪なんとぉぉぉ!!塔城白音選手が白い闘気に包まれたかと思えば次の瞬間にはグラマラスな女性へと変貌し、白い炎を身に纏ったぁぁぁ!!?≫

 

白音ちゃんは今試合で初めての変身の為、実況も先ずはそこに着目したようだ

 

まぁ確かに見た目の変化は著しいからね・・・イッセー君とか練習で白音ちゃんが変身する度に視線がそっちに行きがちになるし。何でも期間限定のプレミアム感があるから見逃せないんだとか

 

もっとも、あんまり見つめ過ぎると後でイッキ君からの制裁が入るんだけどね

 

≪アレは仙術と妖術を組み合わせて肉体を一時的に成長させる技だ。白音選手はまだ体が出来上がっていない為、大人の肉体を得るだけでも身体能力、そして単純に腕や足のリーチの向上に繋がる。接近戦を旨とする白音選手にとっては大きなアドバンテージとなる訳です。更に彼女が身に纏っている白い炎には浄化の力が働いている。聖なるオーラ程ではありませんが悪魔にとっては弱点となる属性と云えるでしょう≫

 

≪成程、並みの悪魔ならば近づいただけでも大ダメージとなってしまうのですね!ですが、対するサイラオーグ選手も白い炎に紛れて分かりにくいですが塔城白音選手と同じく闘気を身に纏っております!これはサイラオーグ選手も仙術を習得しているという事なのでしょうか?≫

 

解説のアザゼル先生の説明に実況のナウド・ガミジンがサイラオーグさんもまた仙術を習得しているのかと疑問を投げかけるが今度は反対側に座っていたもう一人の解説役であるディハウザー・ベリアルがそれを否定する

 

≪いえ、彼は仙術は一切習得していませんよ。確かに闘気は仙術の一種とは云えますが、彼の場合はその在り方が違います。彼は極限まで肉体の鍛錬を積み重ねる事によりその身に魔力とは違う力を宿したのです―――自然の気を操るのが仙術使いとするなら、さしずめ彼は闘気のみを扱う、闘気使いと云った処でしょうね≫

 

そうだ。サイラオーグさんは闘気しか、体術しか使えない。でもそれは彼の弱さにはまるで繋がらない事を僕たちは良く知っている!

 

「お前たちは覚悟を決めた戦士!ゆえに一切の油断はしない!行くぞ!」

 

ただでさえ力強かった闘気を更に引き上げて正面から突撃するサイラオーグさん

 

彼が走った後にはその踏み込み一つ一つでさえも軽く地面が砕けてしまっている!

 

並みの中級悪魔程度ならパンチやキックどころか技も何も無いただの体当たりですら致命傷となるだろう・・・いや、上級悪魔ですら危ういかも知れない

 

そんな高速で迫る小回りの利く重機のような理不尽な存在と化したサイラオーグさんだけど、僕らも当然ただで近づかせたりはしない!

 

ゼノヴィアはエクス・デュランダルから聖なるオーラの斬撃を放ち、僕は地面に手を着いて迫りくる彼の進路上に大量の聖魔剣を咲かせ、白音ちゃんは周囲に展開していた複数の火車を操って投げつける・・・が、単発でタメの大きい聖剣の波動は避けられ、聖魔剣はステップとどうしても邪魔な物は剣の腹の部分を殴る事で壊して進み、変幻自在に空中を飛んでくる火車も彼は軽業師のような動きで避けていく

 

「ッツ!前に見た時より回避動作にキレがある!」

 

「分かるか?木場祐斗よ。前に有間一輝がバアル領に来た時に朝から晩まで俺達は『ゆるキャラ』となって戦い続けたのだ!衣装を汚さないように相手の攻撃を捌き、避ける事に只管集中して殴り合ったのはとても良い経験となったぞ!」

 

「何をやってるんですか!?貴方もイッキ君も!!?」

 

イッキ君がバアル領に赴いたのは知ってる!ついでにサイラオーグさんと模擬戦もしてくると言っていたのも知ってる!でも、多少強くなる程度ならまだしも此処まで技量を上げるなんて!

 

と云うか『ゆるキャラ』で戦うって何ですか!?そのたった一つのツッコミどころがあまりにも異質過ぎてもう考えるのを放棄したくなってきちゃったよ!

 

≪告知されている為一般人でも調べれば分かるのですが今、バアル領では新しく『ゆるキャラ』事業を展開しようとしています。そのキャラクターである『バップルくん』の格好をしたサイラオーグ選手は時折、眷属の皆さんの一斉攻撃を躱し、捌く訓練を最近になって加えました―――被り物をして視界や聴覚など感覚を鈍らせた状態で何の防御術式も盛り込んでいないただの衣装を、自身が着る『バップルくん』を守る為に彼は極限の集中力を発揮して避け続けた結果、彼の体術は一段上のステージへと昇り詰めたのです・・・最初の頃は訓練が終わった後でボロボロとなってしまった『バップルくん』を見て彼は嘆き苦しみながらも次代の新品の『バップルくん』を着こんで戦ったのです。彼の成長はバアル領を真に愛しているからこそのものと云えるでしょう≫

 

解説のディハウザー・ベリアルさんがその役目を見事果たしてくれたけど今度は何処にツッコめば良いのか判らなくなったよ!

 

「『バップルくん長男』から『バップルくん12男』よ・・・お前たちの犠牲と献身は決して無駄にはしない!」

 

イッキ君がバアル領に行ってから今日の試合までの短い間に既に1ダースの『バップルくん』が犠牲になったの!?

 

すると通信機からリアス部長の固い声が聞こえてきた

 

≪皆、気を付けて!今の彼は倒れていった眷属の想いだけじゃなく、『バップルくん』の想いも一緒に拳に乗せて戦う気なんだわ!今の彼は・・・鬼神よ!≫

 

リアス部長・・・悪魔に転生してから僕は時々貴女の感性に付いて行けなくなる時がありますよ———でも多分真剣なんだ・・・サイラオーグさんもきっと真剣なんだろう

 

上級悪魔の次期当主ともなれば何処かで常人には測れないものが在るのかも知れない

 

そんな感想を抱きつつも僕らの攻撃を躱しきったサイラオーグさんが一番近くに居たゼノヴィアの背後を盗り、殴りかかった!

 

「っくぅ!!」

 

咄嗟に体を半回転させつつも迫りくる拳と体の間にエクス・デュランダルの刀身を盾替わりに差し込んだゼノヴィアは殴られた衝撃で湖の畔近くまで吹き飛ばされた

 

しかし彼女は体を捻って崩れた体勢を立て直して地面に着地する

 

「ほう、良い反応だ。聖剣を盾とするのと同時に後ろに跳んで衝撃を軽くしたな?」

 

「最近は接近戦に限定した有間と何度か模擬戦したからな、その速度と威力には多少は慣れている・・・それでも、今の一撃で骨が軋むような感覚だ」

 

「成程、俺対策か―――これは簡単には勝負を決められそうにないな」

 

そうだ。僕たちはサイラオーグさんとの戦いの感覚を得るためにサイラオーグさんの戦い方を真似たイッキ君と何度か仕合ったのだ

 

サイラオーグさんにとっては僕たちと戦うのは初めてでも、僕たちの方はそうじゃない

 

勿論完璧に同じ何て事は無いけれど、このアドバンテージは大きい!

 

「しかし!俺に出来る事は近づいて殴る事だけだ!それ以外を知らないのでな!」

 

サイラオーグさんが駆けだす

 

次の標的は・・・僕だ!

 

聖魔剣を壁のように展開し自分の姿を隠した僕は素早くその場から後退する

 

”ガシャァァァン!!”

 

案の定聖魔剣で創られた壁は拳一発で破壊されてしまった

 

そのまま彼は僕の姿を見つけて更に距離を詰めて来る!

 

彼の拳や蹴りを紙一重で躱すけど衝撃波を纏ったその攻撃は僕にダメージを与えて来る・・・防御の薄い僕はもっと大きく避けなければならないけど今の僕ではこれが限界だ

 

僕の繰り出す反撃も彼の分厚い闘気に阻まれて体まで届かない

 

だがそこでサイラオーグさんが突如として大きめに攻撃を外したのでその隙に再度距離をとって一息つく事に成功した

 

今のは?一瞬僕の視界に僕自身が写り込んだような気さえしたけど

 

「大丈夫ですか、祐斗先輩?」

 

白音ちゃん!そうか、恐らく幻術で僕の位置情報を僅かにずらしたんだね

 

余り大きく幻覚を作ればすぐにバレてしまうかも知れないから僕と幻術の僕が重なり合うくらいの相手の目測を狂わせるだけの幻術という訳だ

 

「あれだけ高速で動き回られると私では付いて行くのがやっとだな」

 

近づいて来たゼノヴィアがそう云うけれども彼を相手に足を止めたら次の瞬間には沈められてしまうよ・・・とは云え、僕の聖魔剣では彼に決定打を与えられない。僕たちの中で一番の攻撃力を秘めているのはゼノヴィアだから、彼女の見せ場を作らないとね

 

「ゼノヴィア、僕と白音ちゃんで時間を稼ぐ。最高の一撃を用意してくれるかい?」

 

「ああ、なりふり構わない凶悪な一撃をプレゼントしてやろう!」

 

はは、ゼノヴィアにはもっとテクニックを磨いてほしいと何度か言ってたけど、今この時だけはパワーのみを伸ばした彼女の一撃が頼もしいや

 

「じゃあ行こうか、白音ちゃん!」

 

「はい!」

 

白音ちゃんが手を横に広げると同時に白い霧が発生する

 

視界を極端に遮る程じゃないけれどこの霧の効果は別にある

 

「ぬ!デュランダル使いの気配と姿がそこかしこに在るな」

 

そう、この霧でゼノヴィアの気配を遊園地にあるミラーハウスのように乱反射させて本体の場所を判らなくさせているのだ

 

気配や姿を消す方法だとゼノヴィアがエクス・デュランダルに聖なるオーラをチャージしていくといずれ隠しきれなくなってしまうからね

 

さて、僕も時間稼ぎの為に出し惜しみは無しでいこう

 

僕は手にしていた聖魔剣を放棄して新しく手元に一本の剣を生み出して構える

 

禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

周囲に等身大サイズの巨大な剣が複数出現し、それは形を変えて龍のフォルムをした兜を被った甲冑騎士団へと変わる。これにはサイラオーグさんも驚いてくれたようだ

 

「新たな禁手化(バランス・ブレイク)だと!?馬鹿な!禁手(バランス・ブレイカー)は一つの神器に一形態のはず・・・いや、お前のその騎士団からは魔の波動を感じないな」

 

「その通りです。コレは僕の持つもう一つの神器、『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』の禁手(バランス・ブレイカー)を僕なりにアレンジして発現させたもの―――『聖覇の龍騎士団(グローリィ・ドラグ・トルーパー)』です。京都で僕と同じ神器の持ち主が居たので参考にさせて貰いました」

 

僕は元来『魔剣創造(ソード・バース)』しか持ってはいなかったんだけど、コカビエルとの戦いの時に亜種の中でも更にイレギュラーとされる聖魔剣を発現した際に後天的にこの神器を宿す事になったんだ―――もっとも、聖魔剣で聖なる波動は確保出来るし、剣の質でも劣るから今まで実戦では使って来なかったんだけどね

 

≪本来、『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』の禁手(バランス・ブレイカー)は甲冑騎士を複数創り出す『聖輝の騎士団(ブレード・ナイトマス)』というものだ。木場選手はそれを亜種として発現させたようだが、名称から察するにあの騎士一つ一つにドラゴンのオーラを纏わせて通常の禁手(バランス・ブレイカー)より強化しているんでしょう。禁手(バランス・ブレイカー)は実力が在れば至れるというものでは無いが故に、それを二つも亜種として発現させた木場選手の神器を扱う才能には驚かされますね≫

 

アザゼル先生の解説が聞こえるけど何時もと違う口調で素直に褒められると変な感じがするね

 

「成程、長所を伸ばしつつも新しい可能性も模索している訳だ・・・良い『騎士』だ。リアス、お前が羨ましく思える程の『騎士』だよ。グレモリー眷属は努力する天才の集まりと云った処か?全く末恐ろしい限りだ」

 

「それでは行かせて貰います!」

 

僕自身も聖剣を手に取りながら騎士団を従えて走りだす

 

白音ちゃんの幻術が解けるのは問題だから今回は僕が前に出る!・・・というか、妹のようにも思っている後輩の後ろに居るのは男としてプライドが許せないかな?

 

サイラオーグさんは迫りくる甲冑騎士を次々とその拳で破壊して白音ちゃんの火車も弾き飛ばしていくけど僕も壊れた端から再び騎士団を補充して斬り掛かる

 

「速さも在る。剣筋も良い。だが技術は反映出来ていないようだな。俺の拳を避けないで戦うには、硬さが足りてない!」

 

横なぎに大きく振るわれた蹴りで一気に複数の騎士たちが壊されてしまった

 

「さらにもう一つ!聖魔剣ほどの攻撃力を秘めていないようでは俺の体には届かんぞ!」

 

サイラオーグさんの周りに再出現させた騎士団が一斉に彼に斬り掛かるが今度はその攻撃を無視して本体の僕の方に突っ込んで来てしまった!

 

確かに聖魔剣より単純な質では劣るけど避ける処か防ぐことすら放棄するなんて!?

 

虚を突かれた僕は半歩反応が遅れてしまい、その隙に聖剣を握っていた持ち手の部分を彼の左手で掴まれてしまった

 

不味い!

 

「離れて下さい!」

 

白音ちゃんの火車が複数、サイラオーグさんの顔面に突き刺さり、仰け反らせつつも火車を押し付けて浄化の炎による継続ダメージを与えるが彼は鼻血を出し、顔を焼かれながらもギラついた瞳を僕に向けてきた

 

「噴!」

 

“メシィッ!!”

 

気合の入った掛け声と共に残った右腕で僕の両腕にチョップを繰り出し、両腕の骨が折れてしまった!さらにそこから右足の蹴りが放たれて僕の左足も同じく粉砕される

 

しまった!剣士で『騎士』の僕が腕と足を破壊されるなんて完全に長所を潰された形だ!

 

そのまま彼は顔面を焼く火車を取り払い、距離をとった

 

彼の顔は鼻血以外に頬や鼻の上に火傷を負っているけどそこまで深いダメージじゃない

 

やはり闘気に包まれた彼の防御力は生半可では無いのだろう

 

右足以外の手足から脳を焼くような激痛が走るが通信機からゼノヴィアの声が届いた

 

≪すまない、私は何時も遅刻してばかりだな。だが、準備は整ったぞ!≫

 

その言葉と共に周囲のゼノヴィア達の構える聖剣が天を衝く柱と云える程の莫大な聖なるオーラを迸らせる。今だ!

 

「咲き誇れ!聖魔剣よ!」

 

サイラオーグさんの周囲、空中を含めた全方位に切っ先を彼に向けた聖魔剣を展開し、更に白音ちゃんの火車が地面に円を描くように旋回して浄化の炎による結界を創り出す

 

サイラオーグさんならこの二重障壁も突破するだろう

 

だが一瞬、ゼノヴィアが聖剣を振り下ろす隙さえ稼げれば良い!

 

「喰らえェェェェェェェ!!」

 

エクス・デュランダルの波動が白音ちゃんの張った霧も吹き飛ばしたのでゼノヴィアの本体が浮かび上がるがもはや問題じゃない

 

そんな中、サイラオーグさんは自分に倒れて来る光の柱を見据え、深く息を吐き右腕を引き絞る

 

彼の右腕に闘気が集中していく―――迎え撃つ気か!

 

そうして振り下ろされた剣戟と振り上げられた拳がぶつかる

 

大剣の一撃を生身の拳が正面から迎撃するという普通であれば正気を疑う光景だ

 

「「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああああああああああああああああ!!!」」

 

二人の気合の入った叫び声が空間に木霊する

 

たった一刀、それだけなのにゼノヴィアは既に大量の汗を流していた

 

本当に文字通りに形振り構わないで全オーラを籠めたのだろう

 

“バリィィィィィン!!”

 

ガラスが割れるような音が響いて聖剣のオーラで形作られた巨大な刀身が砕け散った

 

そして弾かれた衝撃はエクス・デュランダルに及び、ゼノヴィアの体勢が大きく仰け反るように崩される―――サイラオーグさんはその一瞬の隙に間合いを詰めて腹から抉り込んで持ち上げるように左手のアッパーをみまい、宙に浮いたゼノヴィアを連続の蹴りで仕留めた

 

その際にエクス・デュランダルも投げ出されてしまったようで近くの地面に突き刺さる

 

倒れてリザインの光に包まれた彼女を見れば分かる。完全に意識を絶ち切られてしまったようだ―――クソ!ゼノヴィアがあれだけの力を込めた一撃でも彼には届かなかったのか!?

 

「・・・見事な一撃だった。これで俺は決戦に向けてフェニックスの涙を使用しなければならん―――万全な状態で戦いに挑みたいからな」

 

悔しがってた僕の耳にそんな言葉が聞こえてきた

 

よく見れば聖剣の一撃を迎撃した彼の右こぶしが手首の辺りまで両断されている

 

今は筋肉を絞めるように握り拳を作る事で出血を抑えているようだが"ボタボタ"と血が垂れているみたいだ・・・彼の闘気によって聖なるオーラの追加ダメージは無いみたいだけど、これで彼の右手は使い物にならなくなっただろう

 

ゼノヴィア!キミの一撃は確かに彼に届いたよ!

 

そんな彼の前に今度は白音ちゃんが立つ

 

「まだやるか」

 

「当然です。貴方にフェニックスの涙を使わせる・・・私達は最低限の役割を果たしたと云えます。でも、まだ削れます。フェニックスの涙は怪我も魔力も体力も瞬時に回復させますが唯一、失った血液だけは勝手が違います。生命活動が維持できる程度の血液が体に在ればそれ以上は必要ないと判断されるのか回復しませんから・・・これから先、一滴でも多く血を流して貰います!」

 

「成程、俺の体力、その上限を奪う気だな?ならば俺も速攻で決めさせて貰おう!」

 

単純なスピードではサイラオーグさんに分がある為、白音ちゃんはその場に留まって格闘術で応戦する―――彼が激しく動けば動くだけ右手の出血も増大するという魂胆だろう

 

「もうあの白い炎は纏わないのか?」

 

「折角ゼノヴィア先輩が付けてくれた傷を焼いて塞がれたりしたくはありませんから!」

 

クロスレンジで殴り合う二人。パワー、スピード、体格、全てサイラオーグさんが上回っているが右腕を満足に使えない分まだ白音ちゃんは決定打を貰っていない

 

それでも掠めた攻撃だけでも大ダメージを受けるのは良く知っている

 

僕より防御力のある白音ちゃんだけどクロスレンジで戦うとなれば被弾も多く、何時彼のパンチやキックが急所に突き刺さるか分からない

 

その戦いを見ている一方で僕は一体何をしている?

 

イッセー君が考えてくれた男子訓戒を僕も胸に刻んだんじゃなかったのか?

 

ギャスパー君はあれだけの覚悟を見せた

 

白音ちゃんはたった一人でサイラオーグさんと正面から闘って今も服で隠れていない場所に青黒い痣が見える・・・きっと服の下も似たような事になっているのだろう

 

後輩二人が一番頑張って先輩の僕がこのまま寝ているだけだなんて在り得ないだろう!?

 

幸いリザインはしていないんだ。両腕が使えないからなんだ!左足が壊れているからなんだ!右足が健在なら僕はまだ戦えるはずだ!

 

無様に地面を這いつくばりながらも何とか右足を軸に背筋と勢いに身を任せて跪くような形で上体を起こす事には成功した

 

でも如何する?『聖覇の龍騎士団(グローリィ・ドラグ・トルーパー)』の現時点での攻撃力では白音ちゃんの援護に向かわせても特に効果は見込めない

 

双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』も目玉や喉のような急所中の急所なら効果があると思うけど、戦闘中にそこを警戒しない戦士なんて居やしない

 

右足しか使えない僕の、今出せる最高の一撃!それを繰り出さないといけないんだ!

 

決意を新たに、僕にはある可能性が目に入ったのだった

 

 

[木場 side out]

 

 

 

 

 

 

塔城白音とサイラオーグ・バアルの打ち合いも佳境が近づいている

 

全身に痛々しい痣を作った彼女の動きは徐々に、しかし確実に精彩を欠いていってるからだ

 

悪魔に対する最大の武器である浄化の炎は噴き出る闘気で効果が薄く、また相手の最大の怪我である右手の傷を塞いでしまう恐れがある為に使えない

 

通常の闘気のみで戦った方が良いと判断したが、流石に攻撃力では一段劣る

 

「楽しいな!まさか兵藤一誠以外にもこの俺と正面から此処まで打ち合える者がまだグレモリー眷属に居たとは思わなかったぞ!だが、時間を掛ければお前たちの思う壺だ―――此処で勝負を決めさせて貰うぞ!」

 

“ズンッ!!”

 

「かはっ!?」

 

彼女の腹部にサイラオーグの右こぶし(・・・・)が突き刺さる

 

「壊れた腕で・・・殴るなんて・・・」

 

苦痛に歪む白音だが殴ったサイラオーグもまた苦悶の表情を浮かべているがそれでも彼は口の端を吊り上げる

 

「後でフェニックスの涙を使う事も考慮に入れれば多少の無茶も利くという訳だ」

 

予想しない一撃というのは通常より遥かにダメージを負う

 

血を吐き出し、リザインの光に包まれる白音だが彼女もまた口元に笑みを浮かばせて腹に突き刺さったその腕を逃がさないように全身で捕まえる

 

「今です!祐斗先輩!!」

 

「何!?」

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

彼女からは見えていたのだ

 

腕も足も破壊された彼が立ち上がり、最後の一撃に備えている処を!

 

体を半回転させたサイラオーグ・バアルの目に飛び込んで来たのは一直線に飛来するエクス・デュランダルとそのすぐ後ろを追従して剣の柄の部分を蹴り込もうとしている木場祐斗の姿だった

 

見れば少し後ろで例の騎士甲冑が何かを投げたような体勢で居る事からあの甲冑が聖剣を投げ、木場祐斗はオーラを右足に溜めた、たった一歩の踏み込みで跳んで来たのだろう

 

そうしてエクス・デュランダルの切っ先が彼の脇腹に刺さると同時に木場祐斗の蹴りが柄にぶつかる・・・僅かなズレも許されないタイミングを要する一撃だ

 

エクス・デュランダルの使用権は一時的にだが木場祐斗にも持ち主のゼノヴィアが許可を出している―――ゼノヴィア程の攻撃力は出せない彼だが不意の一撃にダメージを受けやすいのは先ほどサイラオーグが実証したばかりだ

 

左の脇腹から正面の腹に掛けて深く切り裂き、勢いに任せて彼らの傍を通り過ぎる時、木場祐斗は確かに聞いた

 

「格好良かったですよ。祐斗先輩」

 

既に殆ど光に消えかけていた後輩の言葉を聞いて彼は先輩として最低限の面目は立ったかなと思いつつも受け身すら取れずに盛大に地面を転げまわった

 

今ので折れていた腕も足も変な方向に投げ出されている

 

そんな彼に右手だけでなく腹からも血を流したサイラオーグが無事な左手で傷口を抑えつつ近づいていく。濁々と腹からも血を滴らせるサイラオーグの様子をうつ伏せのまま頬を汚しながら顔をそちらに向けて確認した彼は満足そうに口角を上げて次期大王に告げる

 

「僕たちの役目はこれで十分だ。後は我が主と親友が貴方を屠る」

 

「見事としか言いようが無い。お前たちと戦えた事に感謝する」

 

サイラオーグは全霊の敬意を持って足元の木場祐斗を踏みつぶしてリザインさせた

 

 

 

 

 

 

 

 

[イッセー side]

 

 

選手用に用意されている席で俺と部長とアーシアはリザインの光の中に消えていく木場を最後まで目を離さずに見つめていた

 

「祐斗、白音、ゼノヴィア。良く戦ったわ」

 

部長は三人の雄姿を目にしながら気丈に前を向いている

 

だけど、すぐ近くに居る俺とアーシアには分かった

 

部長の瞳が何かを堪えるように揺れている処を―――眷属を誇らしく想うと同時に可能ならば今すぐにでも病室に駆けつけたいのだろう

 

だけど、そんな選択は在り得ない。だから今は只管前を、勝利を見つめる事でしかリタイアしていった皆の想いには応えられないのだ

 

少し前のギャスパーの戦いぶりに最初は凄惨さから目を背けてしまった部長だけど今度は最初から最後まで強い瞳のままだった

 

サイラオーグさんも言っていたように、部長は皆の想いを糧に『王』として成長したんだ

 

だけど俺は握り締めた掌や噛んだ唇の端からも血が滲むのを止められなかった

 

それでもゲームは続く

 

次に部長とサイラオーグさんが出したダイスの目の合計は9だった

 

エンドゲームまでの流れはもう読み切れている

 

相手は『兵士』ではなく『女王』が出て来るだろうというのが部長や木場の見立てだった

 

いや、仮に『兵士』が出てきたとしても流れは変わらない

 

次の試合にアーシアが出場して戦わずにリザイン

 

その後、サイラオーグさんと俺の決戦だ

 

作戦会議の為の相手の陣地が見えなくなる結界に包まれると部長が話しかけてきた

 

「イッセー、貴方今とても怖い顔してるわよ」

 

そんな部長のセリフにアーシアも続けて声を掛けてきた

 

「イッセーさん。イッキさんのアドバイスを忘れてませんよね?」

 

ああ、二人に心配掛けちゃうくらいには顔に出てしまっていたのか

 

「大丈夫、ちゃんと覚えてるよ」

 

俺が本当に全ての感情をぶつけるべきなのはサイラオーグさんただ一人!

 

正直今この瞬間も頭がどうにかなりそうな位に怒りの感情が渦巻いているけど折角親友に貰ったアドバイスを忘れたりしない

 

それに二人に声を掛けられた事で幾らか理性が戻ってきている感覚がする

 

まだ、この場で怒りに任せて『トリアイナ』を使う訳にはいかないんだ

 

回避性能が上がったというサイラオーグさんなら危険と判断した『トリアイナ』の攻撃を紙一重で避ける可能性が引き上がっているからな

 

そうして二人に見守られながらも時間となり、転移台の上に立っていた俺はバトルフィールドに転移していった

 

転移先はコロシアムのような場所だった・・・人気が無い為寂しくも感じるな

 

俺の対戦相手はやはりと云うべきなのか『女王』のクイーシャさんだ

 

「妙に落ち着いていますね。女の私が相手ならもっと分かり易く喜ぶかと思ったのですが」

 

「勿論!美人の相手は歓迎しますよ!」

 

これは本心だ。喜んでいる自分は確かに居る

 

でも、今の俺はパンパンに空気の詰まった爆発寸前の風船のような状態

 

女性を殴りたいだなんて普段の俺なら在り得ない思考が浮かんでいる今の俺は速攻で勝負を決めにいかないと何時頭が真っ白になってしまうか分からない

 

遊びは無しに一瞬で決めさせて貰いますよ

 

≪それでは第七試合、開始して下さい!≫

 

開始の合図が鳴るがクイーシャさんは10秒程ある俺の変身までの時間を手を出さずに待つつもりのようだ

 

禁手(バランス・ブレイカー)となりなさい赤龍帝。我が主は貴方の全力を望んでいる。ならば『女王』の私もそれを望みましょう」

 

「ええ!では行きますよ!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

ドライグの鎧を着た俺は背中のブースターを盛大に吹かして正面から突撃する

 

対するクイーシャさんは前面に巨大な(ホール)を展開した

 

ただ突っ込んでいくだけでは俺の体ごと何処か別の場所に転移させられて壁や地面にぶつけられる事だろう・・・それでも構わずに俺は近づき、右腕を目の前の(ホール)に向けて薙ぎ払った

 

『Divide!!』

 

白く変化した俺の右腕が触れた瞬間、目の前の(ホール)の大きさが半分になり、クイーシャさんの姿が露になる・・・ヴァーリと違って何度も半減は出来ないけど赤龍帝と白龍皇の力を両方使えるって自分でもかなり反則だとは思う

 

「なっ!?」

 

自分を守る物理攻撃に対しては絶対的な盾とも云える(ホール)が突如として半分になった事で驚くクイーシャさんに対して体の見えた部分から彼女に向かって手を伸ばし、全力のドラゴンショットを撃ち出した!

 

≪サイラオーグ・バアル選手の『女王』、リタイアです≫

 

審判がこの試合の終わりを告げる

 

でもまだ俺は怒りの感情が収まっていない・・・やはりサイラオーグさんと決着を付けない限りは、彼を全力で殴り飛ばさない限りは無理なのだろう

 

選手用の席に戻った俺は会場の反対側に居るサイラオーグさんを睨みつける

 

まだだ、まだ次のアーシアの試合がある

 

もう正直先は見えてるんだから四の五の言わずにサイラオーグさんと戦いたい

 

戦って皆の分も含めて殴り倒したいんだ!

 

「何て目を向けてくれる。敵意に満ち満ちているではないか―――もう1秒たりとも待てないと顔に書いてあるぞ・・・審査委員会に問いたい!もう良いだろう!?この男をルールで戦わせないなどと云うのは余りにも愚かだ!俺は次の試合、残ったメンバーでの団体戦を希望する!」

 

サイラオーグさんから驚きの提案がなされ、会場が騒めく

 

≪確かに今後の展開は簡単に読めてしまう。連続して出られないルール上、次の試合はバアルチームの『兵士』とグレモリーチームの『僧侶』の闘い・・・ただし、この闘いは試合の結果になんの影響も生み出さない為片方が試合開始と同時にリザインして終了。その後赤龍帝とサイラオーグ選手の事実上の決勝戦となりますね≫

 

≪確かにそれは余りにも詰まらない。決勝の直前にリザイン戦を挟むなんて事をするくらいならどうせなら残ったメンバーの総力戦!この戦いのテンションを維持して見られるなら俺もその方が良いと思うぞ≫

 

皇帝(エンペラー)とアザゼル先生は肯定的だな

 

「私もそれで構いませんわ!」

 

部長もカメラに向かって合意の意思を発する

 

少しすると実況の人の下に連絡が入ったようだ

 

≪え~、ただいま連絡が有りました。審査委員会はサイラオーグ・バアル選手の提案を認めるとの事です!つまり!次の試合は両チームの総力を持って戦う決勝戦となります!!≫

 

「「「「「「わあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!」」」」」」

 

この決定に観客のボルテージも最高潮に達したようだ

 

「そういう訳だ。死んでも恨むなとは言わないが、死ぬ覚悟だけは決めて来い」

 

「殺す気でやらせて貰います!そうでないと倒れていった仲間に顔向けできないんで!」

 

短くも長く感じられたこの試合、ついに終わりの時がやってくる

 

「部長、勝ちましょう!」

 

「ええ、それ以外あり得ないわ!」

 

バトルフィールドに転移するまでの僅かな時間、俺は全力で戦意を高まらせた




最初は真面目一辺倒で書こうとしたら木場ならツッコミ!ならば周りはボケしかない!との義務感に襲われて最初はボケまくりましたww

次回の決着はメンバーが一緒なのであまり変わらないかも知れませんが見どころは用意してるつもりです!


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第六話 NEW BorNです!

アニメのタイトル回収してみました


いよいよ最終試合となった

 

俺達の居る場所は『おっぱいドラゴン』ファンの集まる場所の為、『おっぱいドラゴン』とヒロインの『スイッチ姫』の共闘という形の試合に声援にも特に気合が入っている

 

因みにアーシアさんは待機組だ

 

彼女の役割は後方支援だし仮に試合に出て遠距離回復したら流石にサイラオーグさん達も無視する事は出来ない

 

彼らを相手に今のイッセー達が守備にも力を回しては逆に勝てないだろう

 

さっきの試合でリザインした白音の所に行って病室から観戦するというのも有か無しで言えば有りだとは思うがそれはしない

 

俺達は今日は観戦に来たのではなく応援に来たのだ

 

ならば最後までこの場所で見届けるべきだろう

 

両チームが転送された先は広大な平野で白く輝く地面に宇宙空間のような空という何とも幻想的な雰囲気の場所だった・・・と云うか空に光輪が浮かんでいるけど、どっかで人理焼却してない?

 

いや、疑似空間なんだけどさ

 

≪さぁいよいよバアルVSグレモリーの決戦もついに最終局面を迎えました!サイラオーグ選手の提案により団体戦となったこの試合!バアルチームからはサイラオーグ選手と初出場の仮面の少年『レグルス』選手!対するグレモリーチームはアーシア選手は控えに回り、スイッチ姫ことリアス選手とおっぱいドラゴンこと一誠選手の出場となります!≫

 

≪それでは最終試合、開始して下さい!≫

 

実況による選手の紹介が終わり、審判(アービター)役のリュディガー・ローゼンクロイツが開始の合図をする

 

イッセーが禁手化(バランス・ブレイク)するのに少し間が空く為かサイラオーグさんが二人に語り掛ける

 

≪リアス、始める前に言っておく・・・お前の眷属、妬ましくなる程にお前を想っている。それ故に強敵ばかりだった―――互いにこの場に居るのは『王』と『兵士』のみ・・・終局が近いな≫

 

そこまで言ってからサイラオーグさんは今度はイッセーに視線を向けた

 

≪兵藤一誠、ついにだな≫

 

≪・・・貴方に恨みは有りません。貴方も、貴方の眷属も誇りとそして敬意を持って戦ってくれました。でも!だからと言ってこの場で無心で貴方を殴れるほど、俺は大人じゃ無いんですよ!仲間の仇を此処で討たせて貰います!!≫

 

イッセーの感情の全てを吐き出す言葉にサイラオーグさんは嬉しそうな笑みを浮かべる

 

≪極限とも云えるセリフだ・・・ああそうだな、お前はそういう男だった。先ほどの憤怒に駆られたお前の表情が全てを物語っていた・・・よくぞその怒りを此処まで耐え抜いた!さぁもう遠慮は要らん!お前の全てを俺にぶつけて来い!!≫

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

≪では遠慮なく行かせて貰います!!≫

 

赤い鎧を身に纏ったイッセーが突貫し、サイラオーグさんもまた突貫する

 

始まりを告げる攻撃はお互いの顔面を捉えたクロスカウンターだった。いや、お互いの攻撃がヒットしてるんだからカウンターとは違うか・・・クロスパンチング?兎にも角にも最初の一撃、イッセーにとって最も想いの籠る一撃は兜を壊されながらもサイラオーグさんを確かに押し返した

 

≪今のは倒れていった仲間たちの想いも乗せた一撃です!≫

 

≪・・・練り上げられた拳だ。気迫が体に入り込んでくるようだ!≫

 

サイラオーグさんは鼻血を拭いつつも更に戦意を高める

 

その一方でリアス部長と相手の『兵士』の戦いも始まりつつあった

 

貴族服を着たオレンジの髪の少年は今まで付けていた仮面を外したかと思えば、どんどんと体格が歪に変化していく

 

着ていた服も大きくなる体に耐え切れずに内側から破れ去り、最終的には全身を黄金の体毛に包まれた巨大な獅子、ライオンへと変身した

 

≪まさか、ネメアの獅子か!?≫

 

アザゼル先生の驚愕の声に実況が続きを促す

 

≪と、申しますと?≫

 

≪元々は元祖ヘラクレスの試練の相手何だが、それは後に13ある神滅具(ロンギヌス)の一つとなった。極めれば一振りで大地を割り、飛び道具を弾き、巨大な獅子の姿にも変化するバトルアックス!まさかサイラオーグ選手の眷属となっているとは・・・だが、そうなると宿主は何処に居る?アレは別に所有者と一体化する神器では無かったはずだ≫

 

そんなアザゼル先生の疑問に答えたのは実況が聞こえていたサイラオーグさんだ

 

≪その通りだ。所有者は既に死んでいる。俺がコイツを見つけた時は既に宿主は怪し気な集団に殺された後だったからな・・・だが、コイツはあろうことか宿主も無しに獅子に化け、その場に居た敵を全滅させたのだ―――俺が眷属としたのはその時だ。獅子を司る我が母の家の血筋の呼んだ縁に思えてな≫

 

「サイラオーグ様の母君のミスラ様は元は獅子を司るウァプラ家の出身だったはずですわ」

 

「そう言えばウァプラは獅子だったわね。まぁネコ科だし好感度にプラス5点にゃ」

 

「いやいや、それ絶対適当言ってるだろ」

 

関連があるからって一々好感度上げてたらイッセーとかサイラオーグさんの眷属のラードラさんと親友にならなくちゃいけねぇよ!

 

≪所有者無しに単独で動く神器だと!?しかもそれが悪魔に転生!?神滅具(ロンギヌス)が凄いのか、はたまたそれを成した悪魔の駒(イーヴィル・ピース)が凄いのか、それともその二つが奇跡的に噛み合ったからこそなのか!くぅぅぅぅ!!サイラオーグ!試合が終わったら絶対その獅子連れて俺の研究所に来い!滅茶苦茶にしt・・・滅茶苦茶調べたい!!≫

 

今滅茶苦茶にしたいとか口走りかけませんでした!?

 

いや、壊すようなような事は勿体ないと考えてしないだろうけど、目からビームを出す機能くらいは取り付けそうだ!

 

≪こいつは所有者が居ないせいか力がとても不安定でな。よく見境無しの暴走状態になる為にこの試合でも単独で出す事すら出来んのだ。壁や地面を只管攻撃する何て事にもなり兼ねんのでな・・・此奴を出せるとしたら俺と組めるような試合のみだ。もしもコイツが暴走したら力尽くで抑え込めるのは俺だけだからな≫

 

≪よぉぉぉし!サイラオーグ!絶対にソイツ連れて来いよ!神の子を見張る者(グリゴリ)の研究成果を叩き込んで暴走のリスクを可能な限り薄めてやるからよ!≫

 

アザゼル先生、まだテンション高いまま何ですね

 

とは云え暴走の危険性を抑えられるなら良い事だ・・・研究所では常にサイラオーグさんがレグルスに付き添うと云う条件さえ出せば問題無いだろう

 

≪何にせよ私の相手はその獅子という訳ね。敵は神滅具(ロンギヌス)———不足は無いわね≫

 

自分に飛び掛かって来る獅子に向かって滅びの魔力を浴びせるリアス部長・・・魔法を覚えたと云ってもリアス部長にとって滅びの魔力以上の攻撃力は存在しない為、一緒になって繰り出す魔法も何方かと云えば破壊力では無く、稲光の強い雷撃とか視界を埋め尽くす炎とか相手の足場を崩したり突き上げたりする地形操作とか、滅びの魔力を中てやすいように相手の動きを何らかの形で阻害するタイプだ

 

一方でイッセーとサイラオーグさんの戦いもレグルスの説明が終わった事で再開となった

 

イッセーは右腕を白龍皇の腕に変えて殴りかかる

 

単純なパワーでは今の両者は拮抗している―――そこに『半減』の力が加われば一気に天秤はイッセーの方に傾くだろう

 

だからこそサイラオーグさんはイッセーの右からの攻撃を避ける!

 

時に最小限に躱してカウンターを入れ、時に大きめに躱して仕切り直す

 

兎に角右の拳だけは避ける!

 

避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!避ける!!!

 

≪クソ!マジで全然当たらねぇ!!≫

 

イッセーは毒づくけど右手以外の攻撃は当たってるし、サイラオーグさんも回避に力を入れなければならない為に反撃の手数は減っている・・・要するに今のところは互角だ

 

お互いに決定打を欠いて戦いが長引いてるけどそれはリアス部長の方も一緒だな

 

ロスヴァイセさんに防御術式を習えなかった代わりに魔法を回避に費やしてるから此方もまだかすり傷程度だ・・・とはいえ滅びの魔力の直撃であのライオンは軽傷程度だし、派手に魔力や魔法をぶっ放しまくってるリアス部長が先に息切れするだろうな

 

だがこの中で一番最初に隙を見せたのはあの場で一番の実力者であるはずのサイラオーグさんだった―――クロスレンジで繰り広げられる息つく暇もない攻防、その中でほんの一瞬、しかし確かに彼は立ち眩みのようなものを起こしたのだ

 

≪此処だ!『龍剛の戦車(ウェルシュ・ドラゴニック・ルーク)!!』≫

 

“バギャァァァン!!”

 

その不意に生まれた隙を見逃さずに一気に攻勢に出たイッセーが『真・戦車』となり、人体を殴ったとは思えないような大音響を響かせてサイラオーグさんを空中に持ち上げる

 

そしてそのまま『真・僧侶』となり極大の砲撃を撃ち出した

 

「イッキ様、今一瞬サイラオーグ様の動きが止まったのは・・・」

 

「うん。何時もより少なくなった血液でイッセーの右腕を最大限に警戒しつつもあれだけ激しく動いていれば一瞬でも脳に酸素が行き渡らなくなっても不思議じゃないさ」

 

「ゼノヴィア達の奮闘が此処へ来て活きて来るのね!」

 

そうして砲撃の直撃を受けて血を流しつつも立ち上がろうとする彼にイッセーが追撃を仕掛けようとしたところでリアス部長の叫び声が響いた

 

画面がそちらを映し出すと金毛を所々血で濡らしながらも未だに健在なレグルスがボロボロとなったリアス部長の前に立っている

 

全身を爪で切り裂かれたのか防御術式を練り込まれていた特別性の制服も穴だらけでその真下に見える肌からは大量の血が流れている

 

ぶっちゃけ半裸一歩手前だ

 

それからレグルスはイッセーにフェニックスの涙を使うように促す

 

サイラオーグさんもそれを認め、イッセーが持っていた『涙』でリアス部長を回復させた

 

「ん~、私ならサクッと殺っちゃうにゃん♪」

 

「そうだな。俺も獲れる時に獲っちゃうタイプかもな」

 

「でもでも!それって何だかカッコ悪くない?」

 

「『王道』を持ってして不確定ながらも高い評価を得るか『覇道』で持ってして無難で確実な実績を得るかですわね」

 

「状況にもよるだろうけど俺はヒーローでも無ければ英雄でも無いからな。多少一時的に評価を落とそうと勝利を積み上げて世論の方を変えていければ良いさ」

 

完全に全てを味方にする事は出来なくともそれなりの支持者は付くだろう・・・そんな戦法で戦って負けが込めば一気に『小者だった』と評価は急転直下するだろうけどね

 

「まぁ少なくとも小賢しい手は使っても卑怯な手は使わないさ」

 

「リュディガー・ローゼンクロイツ様を筆頭に人間からの転生悪魔は『もう戦いたくない』と評価される方が一定数おりますが、こういう処なのかも知れませんわね」

 

下賤な元人間なんかに黒星を付けられたくないって考えの貴族悪魔にとっては勝利に噛り付くタイプの敵とは戦いたくないんだろうな

 

負けたら貴族社会で陰口叩かれまくるだろうし・・・そう云えば将来的にレイヴェルとかも人間の俺と結婚したりしたら悪魔の腐った貴族たちに陰で馬鹿にされたりするのか?

 

あ、ヤベェ!考えただけでイラつくわコレ!

 

でもなぁ―――性根の腐った奴らの認識を変えるのは難しいし、分かり易いのは俺が圧倒的に強くなって神クラスくらいの力を冥界に示せたら大分マシになると思うけど流石に考えるだけでも現実的とは言い難いな

 

おっと、思考が逸れたな。それも大事だけど今はイッセー達の試合の方だ

 

丁度今、レグルスがサイラオーグさんに自分を身に纏うよう進言し、彼に一喝されているな

 

でもそれを聞いたイッセーがレグルスの力を使うように促している

 

≪俺は、いや、俺達は今日!最高の貴方を倒して勝利を掴むんです!全力を出さない相手に勝てたとしてそれが一体何になるって言うんですか!?≫

 

「にゃはは、泥臭いけど良い啖呵だにゃ♪イッキはああいう熱い展開は苦手かにゃ?」

 

「いや、俺も好みだぞ?実戦なら兎も角、ゲームとかで特に背負うものが無いなら、あんな風に闘っても良いかもな」

 

「うふふ、やはりイッキ様も殿方ですのね。先ほどはあんな事を言ってましたが、それは守りたいものを優先するが故の選択であると」

 

む・・・そんな風に持ち上げられるとは思わなかったな

 

「・・・俺は弱っちぃ人間だって事に自覚的なだけだよ。全部を守る何て云えないから、せめて手の届く範囲を守ろうとしてるだけだ」

 

ヒーローなんて柄じゃないからな・・・そういうのはイッセーにでも任せるよ

 

「ですが、イッキ様がお強くなれば手の届く場所は少しずつ、しかし確実に広がりますのよ?」

 

「ま♪強くなるのは好きだし、それがイッキの為にも繋がるなら私ももう少し頑張って上げても良いのよ?レイヴェルも守られるだけじゃなくて一緒に誰かを守れるように強くならないとにゃ♪」

 

「勿論ですわ!!」

 

う゛・・・将来のお嫁さん達が献身的で泣きそうになるわ

 

内心ちょっと感動しながらも画面の向こうではサイラオーグさんが全身に獅子を象った黄金の鎧を身に纏った

 

アレがレグルスの禁手化(バランス・ブレイク)———『獅子王の剛皮(レグルス・レイ・レザーレックス)』か

 

変身を見届けたイッセーが『真・戦車』となって獅子の鎧を身に纏ったサイラオーグさんに渾身の一撃を叩き込むが、それは片手だけで受け止められてしまった

 

≪これで限界か≫

 

その呟きと共にサイラオーグさんの拳がイッセーの腹部に鎧を破壊して突き刺さり、そのまま仰向けに倒れてしまった

 

鎧も一時的に解除され、中身のイッセーは指先や口の端がピクピクと動くだけでその瞳も完全に焦点があっていない

 

リザインしてないのは朦朧としてはいるもののギリギリ意識があるからだろう

 

≪イッセー!!≫

 

画面の中でフェニックスの涙で回復したリアス部長が倒れたイッセーに近づき、そのまま上半身を抱き起して声を掛ける

 

≪イッセー!しっかりしてイッセー!目を開けて!≫

 

≪兵藤一誠。コレで本当に終わりなのか?・・・3分だけ待とう≫

 

サイラオーグさんもそう言い残し、少しだけ二人から距離を取って見に回る

 

俺達の周りの席ではおっぱいドラゴンのファンの子供たちが泣きそうになっている

 

いや、既に泣いてしまっている子供も居る

 

「おっぱいドラゴン死んじゃやだぁぁ」

 

「立って、立ってよおっぱいドラゴン!」

 

そんな中、イリナさんが子供たちに『おっぱいドラゴンは何度でも立ち上がる。だから信じて応援しよう!』と諭してこの応援席から始まったイッセーを応援する声は次第に観客席全体に伝播していく・・・まぁ『おっぱい!』コールなのは色々とダメだとは思うけど

 

だが会場の皆の想いが届いたのかリアス部長の胸が京都の時のように光輝き、その光を浴びたイッセーがリアス部長の胸に吸い付いたぁぁぁぁぁぁ!?

 

≪いやぁぁぁん♡≫

 

一部映像に謎の光が差し込んだがコレに会場は爆発した

 

え!?そこは光を受けて立ち上がるだけじゃ無かったの!?

 

≪ああっと!コレはぁぁぁ!?皆さまご覧下さい!未だに焦点が合っていないように窺える兵藤一誠選手・・・もとい『おっぱいドラゴン』がスイッチ姫の破れてしまっていた服の下乳の辺りから顔を突っ込んで遂に吸い付きました!ぶちゅうううっと吸っております!意識が定まっていないにも関わらず、いえ、アレは意識が無いからこそ本能のままに吸い付いているのでしょう!一心不乱です!"チュウチュウ"と擬音が聞こえて来るかのように吸い付いております!≫

 

いや実況興奮し過ぎだろう。どれだけ詳細に語ろうとしてるんだよ!

 

≪うおぉぉぉぉぉぉん!うおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおん!!≫

 

ほら!宿主の醜態が生中継されている展開にドライグが号泣し始めたぞ!

 

そして漸く満足したのか(何を?)口を離したイッセーが紅の光に包まれ、光が収まると鎧を変化させたイッセーがそこに立っていた

 

≪うおぉぉぉぉぉぉん!うおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおん!!相棒!俺は・・・俺はっ!!・・・うおぉぉぉぉぉぉん!!!≫

 

≪ど・・・如何したドライグ!?ほら!俺は戻って来たぞ!心配掛けちまったみたいだけどそんなに泣く事無いじゃねぇか!≫

 

うん。どうやらあの様子だとイッセーはさっきまでの事はまるで覚えて無いみたいだな

 

確かに意識が朦朧としてるみたいだったけどさ

 

そこにリアス部長が問いかける

 

≪い・・・イッセー、その事は良いのよ!気にしないで頂戴!それよりもその鎧は!?≫

 

≪はい!どうやら俺は『真・女王』となれたみたいです!でもそれだけじゃありません!素の俺自身の能力も格段に引き上げられている状態です―――俺は周囲から散々才能が無いと言われていました。だから、それを補う為の特訓は欠かさなかった。でも、力では無く才能そのものを伸ばす方法は本当に無いのかって疑問に思ったんです!・・・ヒントはピー(チチ)でした。失ったものを、寿命ですらも乳力(ニュー・パワー)で補完できるなら足りないものに付け足す事も出来るんじゃないかって―――俺の生命力が枯渇しかけた時に乳力(ニュー・パワー)を軸にして復活する事で俺の基礎スペックを引き上げる!俺の好きな漫画、『ドラグ・ソボール』の主人公の体質を参考にした強化復活技!その名も『NEW BorN(乳房)』です!≫

 

ああ・・・死にかけて復活すると戦闘力が引き上がる某野菜星人の体質ね

 

ドラゴンショットだってその漫画のドラゴン波が元ネタだしな

 

イッセーの場合は彼の資質・才能を乳力(ニュー・パワー)に置き換える感じか?

 

≪・・・ただ、その為には膨大な量の乳力(ニュー・パワー)が必要なはずなんだけど、その力は一体何処から来たんだ?感覚的に部長のおっぱいフラッシュで如何にか出来る量じゃ無かったはずだから机上の空論の域を出なかったはず何だけど・・・?≫

 

≪ふむ、それはだな兵藤一誠“バジュンッ!!”・・・俺から言うのは止めておこう≫

 

サイラオーグさんが素直にイッセーに教えようとするが涙目のリアス部長の滅びの魔力が高速で顔の横を過ぎ去り兜が一部削れてしまったので言葉を止める

 

流石にデリカシーが無いと思ったのだろう

 

と云うかリアス部長。今滅茶苦茶濃い滅びの魔力を放ちましたよね!?

 

本人は気づいてないみたいだけどさ

 

≪気にはなるけど今は良いです。この鎧、そうですね『真紅の赫龍帝(カーディナル・クリムゾン・プロモーション)』とでも名付けますかね・・・部長、本当は試合が終わった後って話でしたがすみません。抑えきれないので今此処で言わせて貰います!俺は俺を応援してくれる皆と俺の惚れた女を守る!俺はリアス・グレモリーが大好きだぁぁぁぁぁぁ!!≫

 

その宣言にサイラオーグさんが楽しそうに笑い、戦闘が再開するが、真紅の鎧だけでなく素の力も上昇したというイッセーにパワーもスピードも上回られたサイラオーグさんが一気に劣勢を強いられるようになる

 

≪強い!これ程のものか!だが、此処で簡単に膝をつくようではバアル家の次期当主を名乗れるはずもない!≫

 

既に何発もイッセーの拳を受けて既に膝がガクガクと震えているサイラオーグさんはそれでも只管に前に進む

 

だがしかし、だからこそ手加減をせずにイッセーは彼を吹き飛ばし、本日二度目のチャージ砲撃を放ち、サイラオーグさんは爆発の中に消えていった

 

煙が晴れた時にはクレーターの中心で倒れているサイラオーグさん

 

ある意味でさっきとは逆の構図だ

 

そしてそれは観客席も多少ではあるが同じだった

 

彼が倒れて少し経った頃、子供の一人が叫ぶ

 

「ライオンさん頑張ってぇぇぇ!」

 

微かにサイラオーグさんの指が動く

 

「立ってよライオンさぁぁぁん!!」

 

腕に、足に、少しずつ力が入っていく

 

それはおっぱいドラゴンの声援に比べたら小さいものなのかも知れない

 

しかし、サイラオーグ・バアルにこそ魅力を感じ、応援する子供も確かに居るのだ―――そして彼は自分に届くその小さな声を決して蔑ろにしたりしない

 

自分を応援する子供の声でおっぱいドラゴンが立ち上がったのなら自分が同じ事をされてこのまま寝ていて良い道理などないと云う事なのだろう

 

そして遂にサイラオーグはボロボロでありながら先ほどよりもオーラを全身に漲らせて立ち上がった・・・それから先はただの殴り合いだ

 

殴って殴られて、お互いの鎧が修復も間に合わずに崩れ落ちていき、最後に殆ど生身となった処で鎧の胸部分のライオンの顔、それも半分しかないレグルスが待ったを掛けた

 

≪もう良い、赤龍帝。我が主は、サイラオーグ様は少し前から意識を失っておられた≫

 

立ったまま、殴りかかる体勢のまま気絶したサイラオーグさんに感極まったイッセーが彼がリザインの光に消えていくその瞬間まで泣きながら抱きしめてグレモリーチームの勝利が告げられた

 

 

 

 

 

 

試合が終わり、皆で家に戻って来た

 

祐斗を筆頭に皆酷い怪我ではあったが腹に穴が開いててもその場で治せるアーシアさんの治療の前ではかすり傷に等しい為速攻で退院となったのだ

 

その際、サーゼクスさんがリアス部長を通じてイッセー、祐斗、朱乃先輩、白音の4人に中級悪魔への昇格の話が有ると告げていった

 

ぶっちゃけその話に驚いてたのは裏の世界にまだまだ詳しくないイッセーとアーシアさんくらいだったけどな

 

4人の中では一番弱い朱乃先輩ですら上級悪魔の上位にも喰い込める実力だし、他の3人は最上級悪魔クラスはある・・・もっとも、一口に最上級と云ってもピンキリだけどな

 

インフレの酷いこの世界では一つ階級が上がるたびに力の上げ幅が大きくなっていくからな

 

ともあれ今は俺の家の屋上に白音と居る・・・例の約束を果たす為だが口に出して切り出すのは恥ずかしい為何となく自然にアイコンタクトを取り合って屋上まで来てしまったのだ

 

前回と同じ失態を踏まない為に屋上への通路は外周も含めて結界を張っておいた

 

因みに白音も自然と結界を張った―――流れるような共同作業だったな

 

今は夜の為、何とは無しに星空を見上げていると会話を切り出したのは白音からだった

 

「試合には勝ちました・・・でも、私個人としては負けてしまいました・・・悔しかったです。枷を外した彼が相手では勝ち目は薄いのは分かってました。リアス様たちに後を託せたのも誇らしく思います・・・それでもやっぱり悔しいと感じました」

 

そっか、最初に病室に向かった時に僅かに目元が赤かったのは悔し涙を流してたからなんだな

 

「なら、強くならないとな」

 

『俺が白音を守る!』・・・みたいなセリフは此処では相応しくないだろう

 

「はい!だからイッキ先輩、私に勇気を下さい」

 

星空を見上げていた白音の顔が此方を向く

 

このままキスという流れでも良いのかも知れないけど少し悪戯しよう

 

「勇気だけで良いのか?」

 

「・・・やる気も下さい」

 

「その二つだけ?」

 

「ッツ!あと根気も優しさも未来も愛情も先輩の全部を私に分けて下さい!!」

 

あ、ヤバい!自分から揶揄っておいてこんな事言われたら我慢できないわ

 

白音の細い体を抱き寄せてキスをする

 

前に遊園地でした時は十数秒程だったが今度は数えてないけど1分以上はしてた気がする。途中から止め時が分からなくなってしまったからな

 

それでも自然と距離が空いてから赤い顔のまま見つめ合う・・・と云うかフリーズし合って動けないだけだなコレ

 

「えっと・・・今日はもう寝ようか?」

 

「は・・・はい・・・」

 

ギクシャクしながらもベッドに戻るとそこにはニヤニヤしている黒歌が居た

 

まぁ彼女ならこの後根掘り葉掘り聞いてくるのかも知れないけど態々話てやる事も無い

 

そう思ってると一つのカメラを黒歌は取り出した

 

「どうどう?良く撮れてると思わないかにゃ~?」

 

デジカメ式のそこに映っていたのはつい先程の俺と白音のキスシーン!?

 

え?何で?この家にはガチガチに結界を張ったから例え黒歌でもあの短い間には突破は出来なかったはずなのに!?

 

「ふふ~ん!イッキは恋愛方面になると途端に警戒が緩くなるわね♪この家の屋上に上がれなくてもすぐ隣に同じ6階建ての建物が在るんだから、そっちから撮らせて貰ったにゃん♪」

 

すると隣に居たレイヴェルは弁明してくる

 

「大丈夫ですわ!ちゃんとリアス様たちにも事情を説明して屋上に上がらせて貰いましたから!リアス様は黒歌さんが変な事しないか見張ると言って、他の方々も一緒に付いてきましたが」

 

「イッキや白音が気付かないレベルの隠密結界を張るのは疲れたにゃ~」

 

・・・・・いやそれ全員にガン見されてたって事じゃねぇか!!何のフォローにもなってないよレイヴェルさん!?畜生!次が在れば近づけないだけじゃなくて外部から見えない結界にしてやる!

 

 

 

 

 

 

 

翌朝・・・トレーニングルームでイッセーが俺の顔を見るや血涙を流しながら真紅の鎧となって殴りかかって来た

 

「畜生ォォォ!イチャイチャ、イチャイチャしやがってェェェェェェェ!!」

 

「知るかボケェェェ!お前なんて生放送公開告白してただろうがぁぁぁ!!」

 

取り敢えず朝から死闘だった・・・いや勝ったよ?まだまだ『真・女王』の力が不安定だったからオーラが極端に薄くなる場所を狙ってのカウンターをしまくってやったらダウンしたからね

 

ただ、流石に単純なパワーとかは抜かされてるから冷や冷やしたけど・・・オーラを集中しての防御法って失敗したら超絶大ダメージだからな

 

そんな事も在りつつも学園祭がやって来た

 

旧校舎を改造したオカルトの館はのっけから大盛況だった

 

一番客を呼び込んだシステムは好きな部員との写真撮影サービス

 

この学園は元が女子高の影響で女子の比率が高いけどオカルト研究部は基本はアイドルの集まりの為二大お姉様を筆頭に撮影依頼が入る入る!

 

祐斗のイケメン紳士オーラやギャスパーの男の娘キャラとかも人気は高い

 

一応俺にも指名は入ったけど数はそこそこだな

 

まぁ俺に黒歌という恋人が居るという情報はそれなりに流れているみたいだから遠慮されているのかも知れんがな

 

因みにイッセーは案の定指名はゼロ人だった・・・この辺りは日頃の行いだろう

 

「イッキ君!3番テーブルにイチゴのマフィン!それと撮影希望だってさ」

 

「了解!」

 

慌ただしく駆け回る中、久々に指名も入ったので祐斗が出してきた料理を盆に乗せ3番テーブルに向かう―――そこに居たのは大学生風の私服を着た黒歌だった

 

「黒歌かよ!」

 

「ふふ~ん!準備は私も多少は手伝ったけど折角だからお客としても来てみたのよ。後で白音にお祓いでもして貰おうかしら?」

 

お祓いって・・・そもそも憑り付かれて無いし、黒歌に憑いたり呪ったり出来るレベルの相手とか最低でも魔王クラスは引っ張ってこないと無理だろう

 

と云うか黒歌は悪魔で化け猫なんだから基本的には祓われる側だよな?

 

「取り敢えず今はお客何だし写真を撮りましょう?そうね・・・レイヴェル、ちょっと写真お願いできる?」

 

む?写真は別に顔を寄せ合った2ショットが基本だから(または俺達単品の写真)別に誰かに頼まなくても十分普通に撮れるんだけど―――そう思って黒歌の方を見ると『アーン♡』と形容できそうな感じに口を開けて来ていた

 

「ほらほら、早く私にマフィンを食べさせて欲しいんだけど?」

 

「く・・・黒歌さん!?此処でやってるのはあくまで普通の2ショットまでで恋人2ショットは許可されていませんわ!」

 

うん。それをやったら阿鼻叫喚の地獄絵図になるわ

 

祐斗の紳士オーラを間近で浴びて耐え切れずに病院送りになる女子とか続出しそう

 

黒歌が「え~!」と口をとがらせていると白音がやって来て黒歌の頭をお祓い棒で叩く

 

見ればお祓いコーナーや占いコーナーはお昼の時間なので一時的に閉めたようだ

 

喫茶店は兎も角、それ以外までフル稼働してたら休憩回しも出来ないからね

 

「全く、忙しいんですから我が儘も程々にしてください―――イッキ先輩、交代しますのでイッセー先輩と先にお昼に行ってきて下さい」

 

白音に促され、去る前に黒歌と普通に写真を撮った後でイッセーと休息に入る

 

女子の方もローテーションで少しずつ抜けて休息に入る形だ

 

旧校舎の裏側で手早く食べられるお握りを頬張っているとアザゼル先生が現れ、サイラオーグさんの周辺事情を話してくれた

 

「そんな!サイラオーグさんを支援していた上層部の多くが手を引いたんですか!?」

 

「そうだ。幸い、サイラオーグの母親のミスラ・バアルは才女と謳われた女性らしくてな。長く床に臥せってたらしいが回復して独自のパイプが在るらしく、まだサイラオーグに付いていても旨味が得られる連中は残った形だ―――もしもサイラオーグだけだったら全員離れていたかも知れんがな。奴は最近になって台頭し始めた若手の為、まだまだパイプ造りが弱いところが在ったからな」

 

確かにな・・・サイラオーグさんが次期当主になったのってここ数年の話だろうし、独自の強固なパイプを繋げるのは難しかっただろうな

 

「これが悪魔業界だ。実力主義を謳いつつも血筋とプライドと政治が絡む魔境だよ。お前らも将来裏の世界で上の立場に立つならば、今から覚悟は決めておけ」

 

確かに、共に京都を守るはずの妖怪と祓い人のいがみ合いとか考えるだけでも面倒臭いしな

 

難しい顔をしていた俺達を見てアザゼル先生は軽く笑う

 

「まぁまだ最低でも数年は先の話だ。今は青春を楽しみな―――それが将来の自分の糧になるだろうさ。イッセーの新形態と併せて着実に成長していきな」

 

「言われてるぞ?朝の模擬戦で俺に負けたイッセー?」

 

「うっせぇぇぇ!次こそはイッキ!お前に勝つ!!」

 

ハッ!簡単に抜かさせてやるものかよ!

 

鬼の形相で襲い掛かって来るイッセーから逃げ回っていると飯を食べた直後の運動で二人とも腹痛で蹲る事になった

 

それを見たアザゼル先生は今度は楽しそうにカラカラと笑う

 

「そうそう、お前らみたいな馬鹿が少しずつトップに立っていけば裏の世界も少しは風通しが良くなるだろうさ」

 

そうして時間は過ぎて夜―――学園祭の最後にイッセーが改めてリアス部長に告白するのを全員で出歯亀するのをイベントの(しめ)として学園祭の幕は閉じていった




流石にイッキが絡まない同じメンバーの決戦は代わり映えしなかったですね。もはやドライグを泣かせる事くらいしか出来なかったですww

次章辺りから敵が叩き潰しても問題無い相手ばかりですのでイッキが暴れます・・・次章はまだしも次々章辺りとかカオス回にする予定なのでお付き合いいただければ幸いですww


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第12章 進級試験とウロボロス
第一話 獣と、ドヤ顔です!


最近筆が乗ってる気がします


[アザゼル side]

 

 

グレモリー眷属とバアル眷属のレーティングゲームが終わってから数日と経たない間に俺のところにヴァーリからのプライベート回線での連絡が入った

 

「何!?それは本気で言っているのか?」

 

今此奴が語った事が本当だとするならば色んな意味で世界情勢が塗り替えられる事態にすらなるかも知れんぞ!

 

≪ああ、彼・・・今は彼女か―――彼女はそれを望んでいてね。俺としても興味深いから便宜を図りたいのさ≫

 

「お前さんがただのお人好しで動いたりはしないだろう。ロキの時にフェンリルを連れ去ったように今度も何か企んでるのか?」

 

≪相変わらず鋭いな。いや何、彼女を狙う者が居るのは何時もの事なんだが・・・今度は身内から出そうなものでね。そろそろ炙り出したいんだよ≫

 

曹操か・・・グレートレッドにも通用するかも知れないものを本当に持ってるなら、オーフィスを標的の一つに定めても可笑しくはないのかもな

 

そんでコイツは最強の聖槍の持ち主とガチで戦いたいからさっさと敵対したいと・・・相変わらずのバトルマニアっぷりだよ―――何処で教育を間違えたんだか

 

さて、俺もヴァーリの提案には思うところが在るが如何動いたものかね?

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

 

 

夜、今俺達はイッセーの家のVIPルームに集まっている

 

何でもイッセー、祐斗、朱乃先輩、白音の中級悪魔昇格に関する通知が正式に届くとの事で俺や黒歌にレイヴェルも殆ど身内みたいなものだから折角なので顔を出す事にしたのだ

 

それで訪問して来たのはサーゼクスさんにグレイフィアさん。後は俺達と云うかこの場合はグレモリー眷属の顧問という事でアザゼル先生だ

 

「先日も伝えたように、イッセーくん、木場くん、朱乃くん、白音くんの四名は数々の殊勲、そして先日のレーティングゲームの戦いぶりを評価されて中級悪魔への昇格の推薦が出る事になった」

 

サーゼクスさんは一旦言葉を切って推薦組の顔を見渡してから続ける

 

「その昇格も殊勲の内容から推し量れば本来、上級悪魔への昇格が妥当なのだが、昇格のシステム上、先ずは中級悪魔への試験を受けてもらう事になる」

 

「上役の連中が五月蠅いらしくてな。飛び級は認めないんだとよ・・・まっ、大方最近若手が昇格できるだけの殊勲を上げまくってるから飛び級まで認めたら自分たちの『上級悪魔』って肩書が圧迫されるとでも思ってんだろう」

 

アザゼル先生の明け透けな言い分にサーゼクスさんはちょっとだけ困った顔だな

 

しかし聞いてる分にはアザゼル先生の説明は分かり易くて有難い

 

「だが悪い事ばかりでもないさ。お前らの殊勲・実力などを見ればどれだけ引き延ばしたとしてもそう遠くない未来に上役連中も上級悪魔への推薦を出さざるを得ないだろうからな―――お前ら、中級悪魔へ昇格したならすぐに上級悪魔になるものとして備えたりしておけよ」

 

「中級悪魔への昇格の話でも驚きなのに上級悪魔ですか・・・でも備えって具体的に何をすれば良いんですか?」

 

そりゃいきなり『上級悪魔への備えをしろ』と言われても困惑するか

 

「そうだな。先ずは自分の眷属を持てるようになるから転生させたい奴とかに目星を付けたり、悪魔の仕事をする上で自分の事務所も必要になるだろう・・・後は主の悪魔ともなれば現場に赴くよりも眷属の仕事を書類で管理・提出したりするデスクワークが多くなるな。ぶっちゃけお前らが中級悪魔の試験で落ちるとは思ってない・・・イッセーのペーパーテスト以外はな・・・リアス、此奴らが中級悪魔になったなら取り敢えず書類仕事のやり方だけでもちゃんと教えておけよ。事務所とかならどうとでもなるからな」

 

「先生今凄く不穏な事言いませんでしたか!?俺、ペーパーテストで落ちちゃうの!?」

 

「試験の内容は実技、ペーパーテスト、レポート提出の三つになる・・・実技はお前らの実力なら欠片たりとも問題無い。レポートもその場でテーマを与えられて書くんじゃ無くて事前に用意するものだから割とどうとでもなるんだよ。で、最後のテストだが中級の試験だから正直そこまで難しくないから他の3人は少し勉強するだけで余裕だ・・・だがイッセーは悪魔に為って日が浅いからな。基本と少しの応用が入った問題ばかりだがイッセーは先ず基本を叩き込むところから始めなきゃならん―――サーゼクス、次の試験は何時になるんだ?」

 

「うむ。来週の週末が一番近い受験日となるね」

 

滅茶苦茶余裕が無いな・・・こりゃイッセーは勉強漬け決定だわ

 

「来週!?急すぎません!?それって・・・あの・・・もしも試験に落ちちゃったりしたら推薦取り下げですか!?」

 

「いやいや、それは無いから安心したまえ。一度推薦を受ければ何度でも受験は可能だ。推薦を受けた者がよっぽどの問題を起こさない限りは推薦が破棄される事はない―――悪魔に為ったばかりのキミがこの手のもので不安になるのは仕方のない事だとは思うが私はキミが見事、試験を突破すると信じているよ」

 

爽やかにプレッシャー掛けますねサーゼクスさん・・・九分九厘は本心なんだろうけどさ

 

「はい!ご期待に沿えるよう、全力で試験に挑ませて頂きます!」

 

イッセーも魔王のサーゼクスさんにそこまで言われては引き下がれないと感じたのか敬礼のポーズを取って勢いよく返事をする

 

「うむ。期待しているよ―――さて、木場くんと朱乃くんと白音くんは如何かな?一応試験を受けないという選択肢はあるけどね」

 

いやぁ、流石にこの雰囲気でそれを選べる猛者は居ないでしょう

 

当然と云うか3人とも『推薦有難うございます!頑張ります!』的な事を丁寧に伝えてリアス部長が自分の眷属の昇格(一応まだ推薦)に嬉しくなって抱き着いた

 

「イッセー、祐斗、朱乃、白音。昇格推薦おめでとう。私は本当に眷属に恵まれているわ」

 

それを皮切りに他の皆が口々に称賛の言葉を送る

 

それが一通り終わった処でロスヴァイセさんが新しい話題を切り出した

 

「一息ついた処で私は一度ヴァルハラに戻ろうと思います・・・この間の試合では私の至らなさから皆さんにもご迷惑を掛けてしまいましたので防御魔法を中心に使えそうな魔法を出来る限り習得してから戻って来る予定です」

 

「まぁねぇ、ロセっちがそっちも覚えてくれないと魔法の講義が進まないにゃ」

 

「う゛ぅ・・・しかし実際黒歌さんのおっしゃる通りです―――ヴァルハラでは攻撃魔法の単位だけ湯水のように習得して半ばゴリ押しに近い形でヴァルキリーの試験に合格出来てしまいましたが、それが此処へ来てこうもアダとなるとは・・・」

 

そうは言うけどヴァルキリーの試験ってのが簡単なものとは思えないし、それをバランスの悪い一能突出で突破するんだと思えば凄い事だよな

 

「まっ、実際今のグレモリー眷属の火力なら大抵の敵は防御やカウンターも虚しく吹き飛ばされるだろうさ―――お前らが出会ってきた強敵が異常なだけだ。とはいえロスヴァイセが防御・サポートの魔法を覚えるのは良い事だ。リアスたちは今魔法を習ってるんだろ?ロスヴァイセの強化はそのままグレモリー眷属全体のサポート面の強化に繋がるからな・・・リアスはこの件の許可はもう出しているのか?」

 

「ええ、自ら伸ばしたい点が在るなら断る理由は無いわ・・・私達も魔法をもっと覚えたいしね」

 

「では、早速ですが出発したいと思います。ああ、それと学園の中間テストの問題は既に作成しておきましたのでご心配なく」

 

「ああ!そうだ!中間テストも在るんだった!」

 

イッセーの奴、軽く絶望してるな・・・実際キツいか?

 

「アザゼル先生。飲めば1週間は頭が良くなる薬とか無いんですか?試験後にアッパラパーな感じになっても良いんで」

 

「ああ、在るぞ」

 

そう言って懐から小瓶を取り出したアザゼル先生

 

在るんかい!冗談のつもりだったのに!

 

「・・・因みに具体的にどんな薬何ですか?」

 

「コイツの名前は『賢者の薬』だな。コイツを飲めば強制的に『賢者タイム』に入る事が可能だから勉強も捗るだろう・・・元に戻れるかの保証がないのが難点だけどな」

 

なんて恐ろしい薬何だ!人間を欲に堕とすのが使命とも云える堕天使の作る薬とは思えない!

 

「元々は強力な媚薬を作成する研究過程で偶然生まれた副産物みたいなものでな・・・かと言って色欲を消し去る薬とか堕天使的に研究しようと思う奴は居なくてな。副作用も改善されないまま取り敢えず取って置かれてたんだ・・・飲むか?イッセー?」

 

「誰が飲むかぁぁぁぁ!!」

 

「そうよアザゼル!イッセーから色欲を抜いたら一体何が残るというの!?」

 

リアス部長、何気にヒデェな・・・ドライグは残るか?

 

「あらあら、エッチじゃないイッセー君何て想像出来ませんわねぇ」

 

「ああ、女にがっつかないイッセー何てイッセーの形をしただけのナニカだろう」

 

皆がイッセーの事を如何認識してるのか分かるな。何と云うかメガネキャラはもはやメガネが本体で肉体はメガネ置きに過ぎないとかそういうレベルの言われ方だ

 

そんな中で黒歌はアザゼル先生に近寄って行く

 

「ねぇねぇねぇねぇ!さっき言ってた『強力な媚薬』って言うのはもう完成してるのかにゃ?だったら売ってくれない?」

 

「お!毎度あり!一口に媚薬って言っても種類が有るぞ?どんなのをお望みだ?」

 

何買おうとしてるの!?そして何を売ろうとしてるの!?

 

「そうねぇ、イッキが一瞬で『理性蒸発』する位のヤツが良いにゃ♪」

 

「そうか、一服盛る気だな?それならコレだ!『クラスビースト変貌薬!』コイツを飲ませりゃそこに居るのは有間一輝という一人の人間じゃねぇ!ただの一匹の・・・獣だ!」

 

「買ったにゃ!」

 

「買ったじゃねぇぇぇ!!」

 

「買ったじゃありません!!」

 

俺が黒歌を、ロスヴァイセさんがアザゼル先生の頭をひっぱたく

 

ついでにロスヴァイセさんはアザゼル先生の取り出した媚薬をひったくった

 

「何しやがる!返せ!」

 

「返す訳ないでしょう!貴方は今教師の立場でも居る事をもっと自覚して下さい!」

 

真面目なロスヴァイセさんとしては学生(俺)に降りかかる魔手は見逃せないのだろう

 

「にゃ~、痛いにゃイッキ!」

 

「うっせぇ!一服盛ろうとしたんだからこれ位で済んで良しと思え!」

 

「でもぉ・・・興味はあるでしょ?」

 

興味は・・・・・凄く在るから困ってるんだよ!

 

思春期の男子を舐めんなよ!・・・と云うか『クラスビースト変貌薬』って俺を七つの人類悪の一つにする気かよ!

 

いや、それを飲んでもFateのキアラみたいに為れるとは思わないけどさ!

 

「大丈夫です。黒歌姉様が変な事しないように私達も見張りますから」

 

「そうですわね。そういうのはもうちょっと後にした方が良いと思いますわ」

 

白音とレイヴェルもフォローしてくれるみたいで・・・って、レイヴェルのセリフはかなり危ないぞ?自覚有るか?

 

取り敢えずはツッコまないでおこう

 

そうして満場一致で可能な限りイッセーの勉強のフォローをするという形でその場の話は纏まった辺りでその場は解散となった

 

 

 

 

 

 

数日後、家では悪魔の勉強、学校では普通のテストに向けた勉強を放課とかの短い時間も全部消費して勉強に費やしているイッセーは早くもグロッキーである

 

テスト勉強があるからって悪魔の仕事も中断とかは出来ないだろうしね

 

夏季休暇やレーティングゲームの日とか悪魔業をお休みする場合は事前に悪魔召喚カードに『休業のお知らせ!』的なメッセージが表示されるそうだ・・・誠に便利である

 

「ほらイッセー、この問いの【元72柱のウァプラ家の司るものを答えよ】の答えは『獅子』じゃなくて正確には『グリフォンの翼を持った獅子』だぞ。『獅子』を司る家は他にあるからこれだと採点で〇どころか△も貰えねぇよ―――サイラオーグさんのレグルスのイメージが先行し過ぎだ」

 

「だぁぁぁぁぁ!!何でイッキの方が悪魔業界に詳しくなってんだよ!?俺一応夏季休暇辺りからグレモリー家の人達に勉強教えられて、それ以降もちょくちょくぶちょ・・・リアスや朱乃先輩にも教えて貰ってたんだぞ!?勉強し始めの時はお前俺より知識無かったのに何で問題集を何度か読み込んだ程度のお前がもう俺を追い抜いてんだよ!?」

 

イッセーの家で連日開かれる勉強会で今はリアス部長に朱乃先輩にアーシアさんが軽い夜食を作ってるから俺がイッセーの勉強を見ていたらいきなりキレられた

 

「そうだな・・・【一刀修羅】で体を流れる電気信号を感じ取り、仙術で生体電気を操る事で脳の中のシナプスを人工的に強化し、記憶力の向上を図ってだな」

 

「お前自分の肉体にどんな改造を施してんだよ!?恐えぇぇよ!どんどん人間離れしていくなお前!その果てに何処に辿り着くつもりだよ!?ロボットか!?」

 

いやいや、脳みそ位鍛えないと緻密な肉体制御って難しいんだよ

 

心臓の強弱を付けたりとかも自律神経を制御しないと操れないしな

 

結局肉体を統率しているのって脳な訳だしさ・・・と云うかいつも使ってる脳のリミッター解除も似たようなもんだろうに

 

「・・・白音も仙術使いとして同じ事が出来ますの?」

 

「黒歌姉様でも無理・・・肉体操作に関してはイッキ先輩の技量は異常です」

 

「イッセー、仙術は特定の分野を極めていくと勉強が得意になる―――此処、テストに出るので覚えておこうな!」

 

「絶対に出ないね!そんな問題出た日には思わず試験問題をその場で破り捨てちまうぜ!」

 

そんな風にちょっと馬鹿な事を話しているとリアス部長達がサンドイッチを作って持ってきた・・・成程、確かにアレなら手早く軽く摘まめるな

 

ただ、リアス部長達の後ろからアザゼル先生も一緒に入って来たけど何で?

 

「夜分にすまんな。実は明日、この家に客を招きたくてな・・・リアスの許可を得に来たんだ」

 

「明日とはまた急ね」

 

「ああ、日程を合わせるのに苦労してよ・・・かなり訳アリでな」

 

普段のおちゃらけた態度が鳴りを潜めてるアザゼル先生の様子に皆も何時になく真剣な話だと気づいたのだろう。誰が来るのか難しい顔で考えてるな

 

「お前らはその客に確実に不満を漏らす。下手したら出会い頭に速攻で攻撃を叩き込みかねない位にはな」

 

「ヴァーリ達とかですか?それともまさか曹操達だ何て言いませんよね?」

 

イッセーが恐る恐ると云った感じに問いかける・・・曹操のお宅訪問は遠慮したいな

 

「ヴァーリチームというので半分正解と云った処だな。だがそれだけじゃない・・・詳しい事は今言っても仕方ないんだ。明日直接会って貰うのが一番良い―――俺からのお前らへの願いは兎に角攻撃も敵対もしないでソイツと話をしてやって欲しいって事だけだ・・・頼む」

 

皆が頭を下げるアザゼル先生の姿に驚きつつ、そこまで言うならとリアス部長も了承の意を返す

 

「有難う―――明日の朝にまたソイツを連れて此処に来るから集まっておいてくれ・・・ああ、それと云い忘れてたが朱乃、例の件だがバラキエルは了承したぞ」

 

「父が・・・分かりました。私もこのままではいけませんものね。魔法で短所を補う以外にも長所も伸ばしていかなければ、いずれ足手纏いに成り兼ねませんもの」

 

朱乃先輩がアザゼル先生の言葉に強い表情で答える

 

流石にアニメ版以降の細かい所は曖昧だけど、バラキエルさんとなると雷光の特訓か何かかな?

 

アザゼル先生が帰った後、皆明日の訪問者が気になりつつも意識を何とか切り替えて夜遅くまで勉強していくのだった

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、敵対心を抱く訪問者が来るとの事で朝練も基礎練習だけに留めて指定された時間にイッセーの家のリビングで待機しているとチャイムが鳴らされた

 

イッセーの御両親に関しては偶々今日は朝早くから出かける予定となったと云う様に通勤してる会社とかの仕事内容を弄ったらしく、後日、無意識下で迷惑を掛けたお詫び代わりにマッサージ店や商店街などの無料券や割引券が偶然を装って渡される事になるらしい

 

そうしてこの家の代表としてイッセーが玄関の扉を開けるとそこにはちびっ娘黒ゴスロリの龍神様が佇んでいた

 

着ている服は今回もちゃんと真面なドレスだ←此処重要!

 

「ドライグ、久しい」

 

「オ・・・オ、オ、オ、オーフィスぅぅぅぅぅ!!?」

 

広い玄関なのでイッセーの後ろにも皆で待機してたのだが、最強の龍神様且つテロリストのトップの登場にそれぞれが一気に臨戦態勢に移行する

 

ふむ。やはり此処は一つ俺が緊張を解した方が良いかな?

 

「ほらイッセー、挨拶されたんだからちゃんと返せよ。社会の常識だぞ?久しぶりだな。俺の事は覚えてるか?」

 

「有間一輝、覚えてる、久しい」

 

だがそこで隣に居たイッセーに肩を掴まれて形容しがたい瞳で見られた

 

「いやいやいやいや!イッキお前順応早過ぎだぞ!最強の龍神様相手に何を普通に挨拶かましてんだよ!俺達コイツと絶賛敵対中何だぞ!?」

 

「でもイッセー、アザゼル先生がアレだけ云うほどの相手となるとオーフィスと、あとは精々コカビエルとロキくらいだろ?超法規的措置で封印処理されたそいつらがやって来る事とかも考えてたし(言い訳用に)予想の範疇だよ」

 

まだ皆はハーデスとは明確に敵対してないしね―――消去法で考えたらその3人くらいだろう

 

「・・・昨日、家に帰ってからイッキ先輩にその可能性を示唆されてまさかとは思いましたが本当に無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)が訪問してくるとは思いませんでした・・・流石に今回ばかりは外れていて欲しかったです」

 

一応昨日寝る前にその事が話題に上ったので心の準備が出来るようにさっきイッセーに言った感じの事を伝えておいたので白音に黒歌にレイヴェルは最低限の警戒で済んでるな

 

黒歌に関しては元々彼女もアウトローだったからか忌避感も特に感じて無いみたいだし

 

「ほらほらお前ら、何時までも玄関前でたむろしてないで中に入ってくれよ」

 

オーフィスと一緒に居たアザゼル先生が中に入るように促すがリアス部長とか滅茶苦茶目線を鋭くしてるな。それでも俺やイッセーのやり取りを挟んだためか深く息を吐いて気持ちを整えている

 

「アザゼル、最初に二つだけ聞かせて頂戴。今回の事は魔王様方や天使長ミカエルも知らない、貴方の独断なのよね?・・・そしてその上でこれが平和の為にも必要な事だと判断したのね?」

 

リアス部長の質問にアザゼル先生は頷いて答える

 

「ああそうだ。この事はミカエルやサーゼクス達も知らないし、俺は今回の会談の為に現在進行形で様々な機関・組織を騙している・・・それでもコイツの願いはもしかしたら禍の団(カオス・ブリゲード)を内部崩壊させられる一手になるものかも知れないと思っている―――改めてお前らに謝り、願う。どうか此奴の話だけでも聞いてやってくれないか?」

 

昨日に引き続き頭を下げるアザゼル先生の真剣な姿に皆も大分毒気が抜かれたみたいだ

 

「俺は構いません。先生の事を信じます!」

 

イッセーはまた熱い返事だな

 

「私も先生には何時も世話になってるからな・・・今すぐデュランダルで斬り掛かるのは今回は我慢しておこう」

 

真っ二つにしてもダメージほぼゼロだと思うぞ?

 

「ミカエル様に黙ってオーフィスを・・・でもでも、それが世界の平和に繋がるかも知れないなら此処は静観するべきなのかしら?」

 

天使長に隠し事でも邪な想いが無ければ堕天はしないか・・・翼も点滅もしてないし

 

「実際、戦って勝てる相手じゃありませんからそれが一番なのかも知れませんわね」

 

「最低限の警戒だけはさせてもらいますよ」

 

朱乃先輩と祐斗が只管常識人なご意見だね・・・この二人が居なくなったらグレモリー眷属のストッパーが居ない気がする

 

・・・朱乃先輩も時々暴走してるからやっぱり祐斗だけが安パイだな

 

「イッキさんとも普通に挨拶していらっしゃいましたし、それほど怖い方ではないのかも知れません・・・最終的な判断はイッセーさんとリアスお姉様が決めるべきなのでしょうが、私は大丈夫だと思います」

 

「うぅぅ・・・ぼ・・・僕はちょっと怖いですぅ・・・傍らに段ボール箱を常備しても良いですか?何時でも逃げ込めるように」

 

自分の意見も言いつつ判断は委ねると・・・眷属として見るならアーシアさんが一番無難なのかもね・・・ただしギャスパー、テメェはダメだ!龍神相手に段ボール箱のハニカム構造じゃ到底太刀打ちできんぞ

 

「イッキ様が彼女相手でも普通に対応なさるなら、私も将来の妻として同じだけの度量を持たなければいけませんわね」

 

「右に同じ」

 

御免。白音にレイヴェル。ぶっちゃけ訪問客が誰か99%分かってたから驚かなかっただけだわ

 

「ん~。もしかしたらこんな感じになるのかにゃ?」

 

黒歌は何を言ってるんだ?

 

まぁそんな感じに皆の複雑ながらも肯定する意見を聞いてリアス部長も訪問客を受け入れる事を決めたようだ

 

「分かったわ。祐斗が言うように最低限の警戒はさせて貰うわよ・・・それで?家に上げてお茶でも淹れれば良いのかしら?」

 

「ああ、そうしてくれ―――兎に角話をするだけで良い。それと昨日もヴァーリチームが来ると言っただろう?先ずはオーフィスだけでもと思って先に会わせたが・・・来てくれ」

 

アザゼル先生が一瞬通信魔法陣(光力陣?)で何処かに連絡を取ると目の前に魔法陣が展開して京都で出会った水色のとんがり帽子とマントを着た魔女っ娘と大型犬くらいの灰色の狼が現れた

 

間違いなくフェンリルだ。以前よりも威圧感が大分小さいけどそれでも下手な神クラス程度は有りそうだな・・・その上で牙は健在だな

 

牙単体に絞って気配を感知する分には以前と変わってる感じがしない

 

「ごきげんよう、皆さま!ルフェイ・ペンドラゴンです。京都ではお世話になりました。こちらはフェンリルちゃんです。宜しくお願いします♪」

 

元気の良い感じの挨拶と共にペコリと頭を下げて挨拶をする

 

そしてもう片方のフェンリルの方はと云えば俺の前まで歩いてきて渾身のドヤ顔を俺に向けてきた・・・しかし、俺には何のことだか分かるぞフェンリル!

 

「お前、肩の角無くなったのか!!」

 

フェンリル、ドヤ顔である。ドヤ顔にドヤ顔を足してドヤ顔を盛りつけたようなドヤ顔だった。そこまで気にしてたと思うとちょっと言い過ぎたかも知れん・・・いや!アレで正しかったんだ!

 

「フェンリルちゃんの肩の角は神・ロキさんが設計したものでしたので私の魔法で幻術を掛けて一時的に見えなくする程度は出来たんですが戦闘でフェンリルちゃんが全力のオーラを発すると幻術も解けてしまって・・・どうするのが良いのか悩んでいたら膝の上に乗っていたオーフィス様が少しだけ姿を変えられる蛇を創って頂けたんです!」

 

おお!神喰狼をイメチェンするには無限と混沌と虚無を司る存在が必要になるのか!

 

随分と高い整形代だな!

 

思わず目の前の上機嫌なフェンリルを撫でようと頭に手を伸ばしたら"バクッ"と喰われてしまった

 

「痛ってぇぇぇぇぇ!!」

 

噛み付きやがったぞ、このワン公!

 

「あ!大丈夫ですよ♪今日この家に訪問して有間一輝さんが居ると知ったフェンリルちゃんはこの日の為に『問題無い噛み付き方』として相手に怪我をさせないギリギリの絶妙な噛み付き加減を沢山練習してましたから♪・・・美猴さんで」

 

どうやら俺はフェンリルには個人的に嫌われてしまったようだ・・・・畜生!

 

あと美猴、ご愁傷様・・・練習の過程で全身に包帯巻く破目になってるかも知れんが俺の知ったこっちゃ無いだろうさ

 

「話・・・したい」

 

そんな中でオーフィスはポツリと意見を溢す

 

「お茶の準備をして話を聞いてやってくれ・・・此奴を此処に連れて来るために俺はあらゆる勢力を騙しに騙してるんだからよ・・・下手を打ったら俺の首が本当の意味で飛んじまうんだ」

 

アザゼル先生に促されてオーフィス、ルフェイ、フェンリルをお客として家の中に招き入れ、部屋に向かう途中で黒歌が慰めて来る

 

「まぁまぁイッキ、前に戦った時の好感度で言えばイッキが私達の中で一番低いのは予想できる事にゃ。むしろアレはイッキが悪かったわよ?」

 

確かに前回戦った時はフェンリルは俺だけ只管に狙って来てたけどさ―――アレだけのドヤ顔で上機嫌なら問題無いと思っちゃったんだよ

 

「い・・・イッキ様!頭を撫でたいなら私の頭を何時でも撫でて下さいな!」

 

うわ!レイヴェルも随分と可愛い事言うな!しかしそこに白音が割って入って来た

 

「レイヴェルじゃ獣耳が付いてない・・・少しでも近い感覚を得るならイッキ先輩は私の頭を撫でるべきです」

 

「白音の理屈だと私の頭でも良いのかにゃ?偶にはそういうのも悪く無いかもね♪」

 

「そんな!そう云えばイッキ様のお嫁さんの中で私だけ獣耳を持っていませんでしたわ!」

 

レイヴェルは何をそんなに絶望的な表情を浮かべてるの!?

 

でも確かに言われてみれば四分の三が獣耳だったな!

 

「イッキ様!獣耳が無ければイッキ様に頭を撫でては貰えませんか!?偽耳では駄目ですか!?それで良いなら今日中にでも猫耳か狐耳のカチューシャを買ってきますわよ!」

 

レイヴェルもそんな涙目で迫ってこないでくれよ!

 

「別にそんな事しなくても幾らでも頭は撫でてやるから、そんな必死にならなくても良いって!」

 

獣耳カチューシャのレイヴェルは・・・まぁ一応見て見たい気はするけどさ

 

「イッキお前もうちょっと緊張感持てよォォォ!!つーか、さっきからイチャコラしやがって羨ましいぞ畜生ォォォ!!」

 

少し騒ぎ過ぎた為かイッセーに怒られ(?)ながらもVIPルームに辿り着いたのだった




獣になる薬にケモ耳に獣(狼)な感じでお送りしましたw

フェンリルの使ったオーフィスの蛇はあくまでもイメチェン用で戦闘力が上がったりはしません・・・というかフェンリルが蛇で強化とかクロウ・クルワッハより下手したら強くなるんじゃ?


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第二話 龍神と、お泊り会です!

「お茶ですわ」

 

オーフィス達をVIPルームに案内し、朱乃先輩が緊張しながらお茶とお茶菓子を出す

 

オーフィスは無表情で出された紅茶を飲み、ルフェイはニコニコと上機嫌だ

 

おっぱいドラゴンのファンの彼女にしてみればアイドルのお宅に訪問してるようなものなのだろう

 

朱乃先輩がお茶を淹れている間にイッセーに色紙を渡してサイン貰ってたし

 

フェンリルはルフェイに寄りそう形で欠伸をかましているな

 

それ以外の皆は大体は緊張や警戒で表情が硬い

 

そんな異様な雰囲気の中でアザゼル先生とイッセーはひそひそ話をしている

 

ぶっちゃけ相手にも聞こえてるだろうが気にする相手じゃないので良いんだろう

 

「(それで、一体何を話せば良いんですか?『龍神様と楽しい楽しいトークショー!』とか俺、出来る気がしませんよ!)」

 

「(奴はお前に興味を持ってるみたいだからな、兎に角質問されたら返せ。アイツを知る事が出来る良い機会なのは確か何だ。安心しろ、アイツ個人はグレートレッド以外に敵対するような事は無いはずだ。もしもコイツが本気で世界と敵対する気が有るなら禍の団(カオス・ブリゲード)なんてまどろっこしい真似しなくてもたった一匹で世界を滅ぼせるんだ―――ソイツと話し合える機会なんて貴重ってレベルじゃねぇんだよ。兎に角良いお茶会になるように気張れや!)」

 

「(先生!責任重大過ぎてマジで泣きたくなってきました!)」

 

そんな風にイッセーが世界の命運を握らんとする会話に挑まんとする中で俺はと云えば代表として席に座っているイッセーにアザゼル先生、あとリアス部長達の後ろで他の眷属の皆やイリナさんと一緒に立って待機してる処だ

 

祐斗とか何か在ったら何時でも飛び出せるように重心が僅かに爪先に寄ってるな

 

黒歌は適当に椅子を引っ張ってきて座って眺めてるけどさ

 

まぁ俺も今は両隣に立っている白音とレイヴェルの頭を撫でている処だったりする

 

二人とも『私が頭を撫でて貰うんです!』と譲らないままだったので二人同時という事でその場を治める事になった・・・頭を撫でるのに腕二本は早々使わないしね

 

あ~、二人とも幸せそうに目を細めている姿を見てると和むわ~

 

そんな緊張感の欠片も無いぽわぽわ空間を展開してたら祐斗が苦笑しつつも話しかけてきた

 

「(イッキ君は余り彼女の事を敵視してないよね?如何して何だい?)」

 

「(三大勢力の会談の時にヴァーリの奴も言ってたろ?『禍の団(カオス・ブリゲード)』の連中が勝手に引っ付いてるだけだって―――それにあの様子からしてテロリストの連中に『ああしろ、こうしろ』と命令を下した事とか無いんじゃないか?まぁ後はどれだけ気を張ってたところでオーフィスがその気なら俺達が認識する前に全員叩き伏せる事も可能だろうから警戒する意味無いかなってさ・・・情けない理由だけどな)」

 

常に【一刀修羅】を発動し続ける事が出来れば反応は出来るだろうけどそんなの無理だしね

 

だが、祐斗は少し不満顔だな

 

「(それは詰まり、相手にもされてないって事だよね?)」

 

「(飾らずに云えばそうだ・・・悔しいと感じるなら結局強くなるしか無いぞ?強さがものを言う裏の世界じゃ特にな・・・神クラス程度の力が有れば抵抗くらいは出来るようになるだろうさ―――それとも、今の強さで満足しておくか?)」

 

まぁ抵抗と云っても何人かを逃がす為に囮になるとかそういうレベルだろうけど

 

「(それは嫌だね。今日の夜の修行、早速だけど模擬戦に付き合ってくれるかい?)」

 

「(ああ、良いぞ。俺も最低でも神様くらいは倒せる力は欲しいからな)」

 

この場に居るのがオーフィスだから良いものの、もしもオーフィス並みの強者が少しでも悪意・敵意を持っていたのならそれだけでどんな不利な条件を呑まされるか分かったもんじゃない

 

対等な交渉なんて大抵は武力が付き物だしな・・・どこぞの黒船ペリーさんみたいにね

 

「(あらあら、『最低でも神様』とか、現時点でも上手く能力がハマれば神を相手に相打ちには持っていけそうなイッキ君が言うと説得力が違いますわね)」

 

そうは言うけど、出来れば真面に勝ちたい処ですよ

 

一々共倒れしてちゃ世話ないですからね

 

「え~と、それで・・・俺に何を聞きたいんでしょうか?」

 

おっ、向こうも話し合いが始まったみたいだな

 

引き攣った笑顔のイッセーが話を切り出したぞ

 

それに対してオーフィスは飲んでいた紅茶をテーブルに置いて答える

 

「ドライグ、天龍止める?」

 

簡潔過ぎて正直なにも伝わらない質問にイッセーの引き攣った笑顔が硬直する

 

そして咄嗟に答えあぐねている彼にオーフィスは特に気にした様子もなく続けて問う

 

「宿主の人間、今までの宿主と違う成長してる。我、とても不思議。ヴァーリも違う成長してきている。不思議。だから聞きたい。ドライグ、何になる?アルビオンも何になる?天龍止める?」

 

するとイッセーの左手の甲に緑色の宝玉が現れてドライグがそれに答える

 

『分からんよ、オーフィス。コイツが何になりたいのかなど俺には分からん。恐らく、アルビオンもそこは同じだろうさ・・・だが、俺の今回の宿主が面白い成長をしているのは確かだ。そして俺は分からないからこそ、その成長の先を見て見たいとも思っている』

 

それを聞いたオーフィスは次の質問に移る

 

「・・・二天龍、我を『無限』、グレートレッドを『夢幻』として『覇』の呪文に込めた。何故?我もグレートレッドも『覇』では無い」

 

『最初から強い存在に『覇』の何たるかなど分かるはずも無い。お前とグレートレッドは得ようと思えば路肩の石を拾うかのように『覇』を得る事が出来る・・・別次元の強さを誇るお前とグレートレッドが『覇』に興味を抱けないのは頷ける話なのだ―――俺は今まで『覇』以外の力を高める事に気づけなんだ。お前は如何だ、オーフィス?この世界に現れたお前は、この世界を如何感じた?何故、次元の狭間に帰りたいと思ったのだ?』

 

「質問、我もしたい。ドライグ、違う存在・・・乳龍帝になる?乳を押すと天龍から違う存在になる?乳を吸うと天龍超えられる?ドライグ、乳を司るドラゴンになる?」

 

聞いてる分には噛み合ってるような噛み合ってないような変な感じのする会話だったが最後の『乳を司るか?』という問いにドライグの宝玉が不安定にチカチカと明滅する

 

『ぬうぉぉぉぉぉぉ!!コイツにまでそんな事を云われるのか俺はぁぁぁ!?ハァッ!ハァッ!相棒!鎮静剤だ!薬を!俺を薬漬けにしてくれぇぇぇ!!』

 

ドライグ、完全に精神がイッちまってるヤク中のセリフだぞそれ!

 

イッセーも最近になってドライグがアザゼル先生に見つけて貰ったというドラゴンカウンセラーの先生(玄奘三蔵法師)が処方したという精神を鎮静化させる薬を慌てて左手の宝玉に塗る

 

「お、お、お、お、落ち着けドライグ!?ほら、薬だ!ゆっくりと深呼吸しろ!」

 

『カヒュー、ヒュー、ヒュー、ヒュー、ヒュー、ヒュー』

 

「ドライグぅぅぅ!?蟲の息になってんぞ!深呼吸だ深呼吸!———なぁオーフィス!ドライグは実は今とっても繊細な時期なんだ!胸に関する話題は暫く控えて貰っていいか?頼むよ!」

 

イッセーが追加の塗り薬を宝玉に擦り付けるように塗りたくりながらドライグに乳の話題は禁句(タブー)にしてくれと願うとオーフィスは無表情ながらも首をコテンと傾げて不思議そうな雰囲気を出しつつも了承した

 

「よく分からないけど分かった。代わりに我、ドライグとその宿主の事、見ていたい」

 

ドライグも乳に関する話題が来ないというのが意識の片隅にでも聞こえていたのか今は『スーハー!スーハー!』と呼吸も戻りつつあるようだ

 

そしてオーフィスの提案にアザゼル先生が補足する

 

「まっ、元々それも願いの一つでな。悪いが数日だけでいいからコイツをこの家に置いてやって貰えないか?ただ見るだけなら良いだろう?」

 

「う~ん。試験が近いんでそれの邪魔さえしないで貰えるなら俺は構いませんよ」

 

「そうね。イッセーがそう言うなら私も構わないわ」

 

こうして最強の龍神様のお泊り会が決定した

 

 

 

 

 

 

あれから数日、今日も皆でイッセーの家に集まって勉強会をしているのだが、教科書や参考書、ノートと睨めっこしている皆の視線は時折部屋の隅へチラチラと向かっている

 

そこにはオーフィスが居て、先日の宣言通りに只管こっちに視線を向けてるのが気になるようだ

 

確かにアレは例え最強の龍神という肩書が無かったとしても気になるわ

 

当のオーフィス自身は出されたお茶菓子を食べたりはするけど特に自分から動いたりはしないのだが周囲はわりかし別だったりする

 

魔法使いのルフェイはフェンリルと一緒に兵藤家の地下の一室を間借りしているみたいなのだが、時折オーフィスを膝の上に乗せてニコニコしてるしアーシアさんとかも追加の紅茶やお茶菓子を出したりしているし、イリナさんもトランプに誘ったりしたらしい

 

因みに俺もルフェイ・ペンドラゴン監督の『オーフィス・ファッションショー』に参加を求められたので一応出ておいた

 

彼女曰く「オーフィス様にファッションの道を示せたのはイッキさんのお陰なのでぜひ一度ご意見を頂きたいのです!」との事らしいが別にオーフィス自身がファッションに目覚めてる訳では無いと思うのだが・・・一応以前の変態ゴスロリでは無い以上は多少は意識してると言えるのかな?

 

話を聞きつけた黒歌や白音にレイヴェルも「面白そうだから」、「心配だから」と参加を表明して最終的には体格の比較的近い白音やレイヴェルが私服を持ち寄ってオーフィスに着せてたけどやっぱり女の子はファッションに関心を持つ子が多いのだろう

 

あと、ルフェイに『ウロボロス・メモリアルver.1』というオーフィス写真集も進呈された

 

売りに出すつもりは無い激レア品らしいがコレを俺にどうしろと云うのだろう?

 

取り敢えず『だいじなもの』として異空間にはしまっておいたけどさ

 

そして今はオーフィスの隣に黒歌が座っていたのだが「ねぇねぇイッキ!見て見て♪」とテンション高めに声を掛けられたので黒歌とオーフィスの方を向くと"ピコピコ"と動く黒い猫耳が『二対』存在していた―――片方は当然黒歌の猫耳でもう片方は猫耳を生やしたオーフィスだった

 

声を掛けられたのは俺だけど他の皆も気になったのか俺と一緒に視線を向けていたが表情が固まってしまっているな

 

無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)って姿形を自在に変えられるって言うじゃない?だからちょっとお願いして猫耳生やして貰ったんだけど、どう?黒髪猫耳!私とイッキの間に子供が出来たら多分こんな感じになるんじゃないかにゃ?猫魈(ねこしょう)の子供って大概は女だしね♪」

 

立ち上がってオーフィスの脇下に手を入れて持ち上げ、俺の方に近寄ってから"ズイっ"とオーフィス(猫耳ver)を突き出してくる黒歌・・・そんな人形みたいに扱わなくても

 

とはいえ黒髪美少女に猫耳が付いているのだ。確かに可愛いと言える・・・言えるのだが

 

「ダメだな」

 

「え?」

 

速攻でNOを突きつけると自信満々だった黒歌の表情が一瞬で崩れた

 

「猫耳を付けるならちゃんと尻尾も付けなきゃダメだろう!?猫又って普通の猫よりもよっぽど尻尾はアイデンティティなんじゃないのか!?やり直し!!」

 

「いやそっちぃぃぃぃぃ!!?イッキお前絶対にツッコミを入れる場所を間違えてるよ!?」

 

何を言うイッセー!大事なポイントだろうそこは!!

 

「にゃん・・・だと?まさか人間のイッキに猫又系妖怪のチャームポイントについてダメ出しを貰う日が来るなんて、地味にショックにゃん」

 

「そんな・・・折角昨日ひっそりと通販サイト『konozama』で狐耳カチューシャを購入致しましたのに・・・っく!狐の付け尻尾も買わなければイッキ様にお披露目できませんわ!」

 

黒歌は項垂れ、レイヴェルは秘密の計画が頓挫したらしい

 

「いやいや!レイヴェルの気持ちは嬉しいけど耳や尻尾の有無で優劣を付けたりなんてしないから大丈夫だって!」

 

逆に考えるんだレイヴェル!唯一ケモ耳を持ってない自分は希少価値何だって!・・・うん、口に出して言いたくは無いなコレは

 

だけどこのままではレイヴェルが変な方向に進んでしまいそうだし、一度ちゃんと話し合うべきか?あくまでもコスプレ程度に意識を留めて置かないとその内拗れて不死鳥の翼と狐耳(+尻尾)のコラボレーションなんて事になり兼ねん

 

その程度なら外見上はごった煮に目を瞑れば可愛いの範疇だけど、実質合成獣(キメラ)だよね、それ!

 

「我、尻尾生やしてみた」

 

おおっとぉ!黒歌が追加の要望を出したのかオーフィスに尻尾が生えたぞ!

 

ただでさえドラゴンっぽく無かったのにもはや完全に猫又ですね!

 

「ほらほら♪コレ見たら赤ちゃん作りたくなってこない?白音たちの事が気にかかるなら今夜こっそりと抜け出して二人でホテルに泊まったら朝までフルコースにゃ♪」

 

「抜け駆けは禁止ではありませんでしたか黒歌さん!それに寝る前にイッキ様が【一刀修羅】を使ってなかったら直ぐに分かりますわよ!」

 

「子供・・・赤ちゃん・・・ねぇ、今度はそのまま白色に成ってみてくれませんか?」

 

黒歌も白音も種族柄か子供というワードの押しが強いな!

 

「はぁ・・・なんだかイッキたちを見ていると警戒しているのが馬鹿らしくなってくるわね」

 

「あらあら、うふふ♪しかし赤ちゃんですか―――オーフィスさんは黒髪ですし、この場の女性で黒髪なのは黒歌さんと私だけ・・・私とイッセー君の間に娘が出来てもあんな感じになるのかしら?そう考えると私もちょっとこの後イッセー君を襲いたくなってしまいますわね♪」

 

「ダメよ!イッセーは私のものよ!」

 

「あらあら♪イッセー君が目指すのはハーレム王ですわよ?『正妻』という立場はリアスに譲るとしても他の事柄まで譲歩するつもりはありませんわ・・・例えばイッセー君の初めてとか♡」

 

学園の二大お姉様が両者の間に火花を散らしながら牽制しあっているな―――前からそうではあったけどサイラオーグさんとのレーティングゲームの後にイッセーがリアス部長に告白してからちょっと密度が増した気がする

 

「だ・・・ダメですぅぅぅ!イッセーさんを最初に好きになったのは私何ですよ!私にだってその権利くらいは有るはずですぅぅぅ!!」

 

「いや待てアーシア。お互いに初めてだとぎこちなくなってしまう事も在ると桐生も言っていた。片方がリード出来る方が良いだろう―――アーシアの思い出が素晴らしいものになるようにイッセー、先ずは私で女に慣れろ。その経験を活かしてアーシアに優しくしてやるんだぞ?」

 

「ああ!何て素晴らしい自己犠牲の精神!主よ、悪魔に堕ちてしまっているけど如何かゼノヴィアにも慈悲と祝福をお与えください!」

 

でもそんな女の戦いに教会トリオも参戦(?)する・・・だいぶこの場が混沌に満ちてきたな

 

「あはははは、イッキ君もイッセー君も女性関係は苦労しているね。黒歌さん達なんか無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)をお人形扱いじゃないか。まさかこんな光景が見られるとは思わなかったよ」

 

「折角話合える機会が有るならコミュニケーションを取らないと勿体ないだろう?打算的な事を言えば仲良くなれればテロ活動が抑制されるかも知れないってのも在るけどね・・・祐斗、お前も手作りケーキでも作ってやったら如何だ?お菓子作り得意だったよな?」

 

「う~ん。そうだね。試験が終わった後で機会が残っていれば一度作ってみるよ。最強の龍神が僕のお菓子を如何思うのか・・・是非とも感想を聞いてみたいしね」

 

そんな感じに少しずつオーフィスの居る環境でも皆ある程度はリラックスしながら勉強会は続き、遂にイッセー達の中級悪魔昇格試験の日が訪れた

 

 

 

 

 

 

試験当日の朝、イッセーの家の地下にある転移魔法陣のある部屋に皆で集まっている

 

受験組は直接試験会場に転移して残りのメンバーは試験会場近くのホテルで待機、昼頃には試験は終わるそうなのでぶっちゃけほぼ合格確定の皆の打ち上げパーティーをホテルのレストランでする予定だ―――オーフィスがイッセーの事を観察するという願いを叶える為に試験会場に直接同行させる事は出来なくともせめて試験会場の近くで気配だけでも追えるようにとの配慮も含まれている

 

それと打ち上げが終わった後はサーゼクスさんの所にオーフィスを向かわせたいというのもある様だ―――オーフィスも「イッセーが行くなら我も行く」と了承?してくれた

 

「俺はてっきりグレモリー領に転移してから車か何かで向かうものだと思ってました。直接転移出来るにしてもそういう形式ばった感じで移動するのかなって・・・ゲームの時とかそうでしたし」

 

「ある意味原因はそのゲームに在ると云えるかもな。お前最終試合でリアスに告ったろ?魔王の妹で名門グレモリーの次期当主と人間からの転生悪魔で下級悪魔で冥界の人気者なおっぱいドラゴンの恋愛ネタとなれば冥界のメディアが黙ってる訳ねぇだろう?暑苦しいマスコミ連中にチヤホヤされながら試験会場まで行きたいというなら止めんぞ」

 

「いえいえ!マスコミにチヤホヤとか激しく遠慮したいです!」

 

確かに、少なくとも『チヤホヤ』なんて可愛らしいものじゃ無いだろうな

 

「今、冥界ではお二人の事が身分を超えた真剣恋愛として貴族、平民を問わずに話題となっているそうですわ。幸い、リアス様もイッセー様も元々の人気が高かった為か肯定的な意見が大半を占めていますわね・・・血筋を重んじる『古き悪魔』の派閥の方々は否定的だそうですが・・・」

 

まぁ、流石に冥界全てが最初から味方って事は在り得ないか

 

「俺とリアスが付き合うのに否定的な人達ですか・・・『そんなの関係無い』って言いたい処ですけど色々と圧力とか掛けてきたりするんですかね?面倒臭いなぁ。他人の恋愛事情にまで首突っ込まないで欲しいですよ」

 

「確かにな。俺も九重との婚約を反対する奴らは居たけど、全員心が折れるまで叩き潰してやったら黙ったぞ?最後には『アニキ』とか呼ばれるようになったしな」

 

「えええええ!?京都でイッキの事を『アニキ』って呼んでた奴ら結構居たよな!?皆スゲェお前の事慕ってるように見えたけど叩き潰した奴らだったの!?恐怖心が一周回って崇拝とか忠誠とかに置き換える事で心の安定図ってるだけじゃねぇのかそれ!?」

 

「むっ、失敬な!俺は皆の心を折ってその後八坂さんと一緒に意識を誘導しただけで、心が壊れて狂っちゃうほどには磨り潰したりはしてないぞ?」

 

狂人と化してしまったら絶対に制御が難しいからむしろマイナスになっちゃうだろうからね

 

「ああ~、そう云えば京都で英雄派を捕らえる大包囲網を敷いてる時に一部の妖怪が滅茶苦茶に張り切って戦果を挙げてたけどあいつ等の事か『アニキの敵は俺らの敵だぁぁぁ!』とか『ヒャッハー!九重ちゅぁぁぁん!』とか叫んでたから多分そうだろう」

 

ああ、うん。間違いなくソイツ等です

 

と云うか何時の間にか世紀末要素付与されてません?・・・いや、そう云えば元から結構そういう鱗片が見えてた気がするわ

 

「まぁそういう訳だからイッセーも邪魔する奴らは全員、暴力で解決できるぞ!」

 

「いやいやいやいや!それをやったらダメだって事くらいは俺でも理解できるぞ!むしろ何でお前が暴力で反対派に不満も残さずに解決出来たのか意味が分からねぇよ!」

 

「イッセー、コツは露見しても問題無いように相手から攻めさせる事と相手が心の底から味方になってくれるまでマウントを取り続ける事だ!」

 

『俺は!お前が!改心するまで!殴るのを止めない!!』・・・的な感じ?

 

某神父様も『暴力程効率の良い指導はこの世に存在しないぞ~』とか言ってたから少なくとも間違ってはいないはずだ

 

まぁ流石にそんな方法が毎回使える訳無いし、もしもイッセーがトチ狂ってそれを実行しようとしたら止めるけどな

 

そうしていよいよイッセー達が転移する時間になったのだが当のイッセーは視線をキョロキョロと辺りを見渡している

 

「ギャスパーは見送りに来てないのか?アイツがこの手のものをサボるとは思えないんだけど、もしかして風邪でもひいた?」

 

「いや、ギャスパーの奴は一足先に神の子を見張る者(グリゴリ)の研究施設に一人で向かったぞ」

 

「ギャー助が!?一人で!?」

 

「ああ、バアル戦の後で俺に泣きついて来てな―――『もう皆さんの足を引っ張る事の無いように強くなりたいんです!皆を守れるくらいに強く!』ってよ。今までずっと引きこもりで今でさえ対人恐怖症が治り切ったとは云えないアイツが一人で神の子を見張る者(グリゴリ)の門を叩いたんだ。生半可な覚悟じゃないだろう・・・今頃、自分の中に眠る力を引き出そうと頑張ってる頃だろうさ」

 

「そうですか・・・よっしゃ!アイツが頑張ってるってんなら俺達も昇格試験には全力中の全力で挑まないとな!」

 

「イッセー、気合を入れるのは良いけど実技の試験はお前禁手化(バランス・ブレイク)するの禁止な」

 

「は!?いきなり何を言い出すんだよイッキ!?」

 

「お前サイラオーグさんとのゲームで素の状態でも上級悪魔にギリギリ届くか届かないかくらいにはなってるんだよ・・・例の『NEW BorN』でな。そんなお前が禁手化(バランス・ブレイク)したら実技の内容が試験官との戦いだったりせずに受験生同士の戦闘とかなら下手したら一撃で相手が死ぬぞ?お前が宿している赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)は本来、神様だって屠れる力何だって事を自覚しろ・・・ドライグ、イッセーがやり過ぎそうになったら諫めてくれないか?」

 

『良いだろう。中級悪魔の試験を受けるのは普通は中級程度の実力のはずだからな。今の相棒なら『トリアイナ』を使わなくとも相手は死ぬだろう』

 

よしよし!ドライグが見張っててくれるなら最悪だけは避けられるだろう

 

最後まで納得いってない感じのイッセーだったが全員で応援の言葉と共に送り出し、俺達も魔法陣に乗って試験会場である冥界のグラシャラボラス領に在るホテルに転移した

 

 

 

 

 

 

 

 

転移した先の高級ホテルの割り振られた部屋に向かう途中でゼノヴィアがふと切り出した

 

「中級悪魔か。悪魔の上層部の頭の固さを考えても学園を卒業するまでには私も中級に昇格しそうかな?ふふふ、悪魔としての格が上がると云うのは元教会の信徒として想像するだけでも未だに妙な感じがするね」

 

「まぁゼノヴィアが悪魔に転生してからまだ3ヵ月くらいしか経ってないんだからしょうがないとも思うけどな。それを言ったらアーシアさんも似たようなもんだし・・・そう云えばアザゼル先生ちょっと良いですか?」

 

「ん?どした?」

 

「今少し気になったんですけど中級悪魔の昇格試験には実技が有るんですよね?その場合アーシアさんのような完全サポート特化の人って如何なるんですか?」

 

アーシアさんとか以外でも完全に研究者として成果を上げてる人とか如何してるんだろう?

 

「ああ、そういう場合は事前に申請しておけば別途で実技の試験を受ける事が可能だ。その分、普通の実技よりは採点基準が高めに設定されているが、今のアーシアでも回復力の一点突破で合格基準は満たせるだろう・・・ただ、上級悪魔となれば少し違う。上級悪魔は自らの眷属を守る立場でもある故に、最低限の戦闘力は求められる」

 

成程、中級までなら最悪戦闘力は要らないんだな

 

「はうぅ・・・流石にそれだと私には無理そうです」

 

「いや、別にそんな事は無い。一口に戦闘力と云っても色々ある。アーシアは相手を傷つける攻撃魔力は苦手かも知れんが、例えば防御結界の応用で相手を閉じ込めたりと云ったような相手を無力化するタイプの手法でも構わないからな・・・もしくは強力な使い魔と契約を結ぶ事で戦闘力の補強を行うのも良い。魔物使い(テイマー)だって立派な戦闘手段だ。強力な魔物の類は契約が難しい場合が多いが、お前さん確か気難しいとされる蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)と契約していたな?」

 

「はい!ラッセーくんと言います!」

 

「上級悪魔になるには最低でも数年は必要だと思うから『上級悪魔昇格』という一点のみを見つめればそいつが育つのを待てば良いんだが、出来れば即戦力となる使い魔がもう一体くらいは欲しい処でもある―――実戦では何時もイッキの使い魔がアーシアの守護に回ってるがコイツはグレモリー眷属じゃない。グレモリー眷属はイッセーが『兵士』の駒を全部使用しているから数が少ないからな。イッキやイリナが居ない場合だとただでさえ少ない前衛を中衛か、敵が強敵なら完全にアーシアの守護に回さないといけない・・・一度、使い魔用の強力な魔物をピックアップしてみるか。案外すんなり契約できるかも知れんからな」

 

確かに、サイラオーグさんとのレーティングゲームで最後にアーシアさんが壁役となる魔物を率いてリアス部長のサポートに回っていればゲームの内容はまた違ったものになってたかも知れない

 

レーティングゲームの度にアーシアさんに俺がイヅナを貸し出すとか反則も良い所だし・・・と云うかイヅナは契約主の力量で力が上下するから一時的に主を変更しようものなら壁役の機能をその時点で失うしな

 

それから数時間、特にやる事も無く、かと言ってオーフィスの傍を離れすぎるのも問題という事でアザゼル先生が態々ホテルの部屋にまで持ち込んだ大乱闘するゲームや相手を甲羅やバナナで嫌がらせしながらゴールを目指すレースゲームなどにオーフィスを誘いながらも時間を潰していき、お昼近くになるとイッセー達の打ち上げの為に貸し切りにしておいたレストランに向かった

 

・・・ホテルのレストランを貸し切りとかサラッとやるよな

 

ともあれ予定ではそろそろ試験も終わる頃だろう

 

まぁアザゼル先生は主役の到着を待たずして既にビールを一杯大ジョッキで呷ってるけどな

 

少しするとイッセーから『試験終わったんで今からそっちに合流します』と連絡が入り、程なくしてイッセー達がレストランに入って来た

 

「イッセー、朱乃、祐斗、白音、お疲れ様―――試験の出来は如何だった?」

 

「はい!ペーパーテストも手ごたえは有りました!空欄も殆どありません!」

 

「・・・『レヴィアたん』一期の敵幹部の名前は分かりませんでした」

 

「あはは、確かにそれは僕も解らなかったなぁ」

 

「あらあら、私も『おっぱいドラゴン』に関する問題は細かいところも解けたんですけどね」

 

・・・それはテストの問題として起用して良い内容なのか?

 

リアス部長も「それは仕方ないわね」と苦笑しているな

 

「実技の方は如何だったんだ?イッセー?」

 

「ああ、ドライグの奴俺に『Boost』一回分しか許可をくれなくてさ・・・ただ、それでも普通に勝てちゃったんだよな。隙を突いて殴ったら対戦相手が壁際まで吹っ飛んじまったし、他の皆も似たような感じで力を抑えた上で余裕で勝利って感じだった―――まさかこんなにも俺達の実力が上昇してるなんて全然実感無かったよ」

 

『当然だ。相棒は悪魔になってから敵も味方も強大な力を持った者達ばかりと接していたからな。強者に鍛えて貰ったり、強敵との連戦に継ぐ連戦―――相棒は強くなったが、そうだと自覚出来ないのは仕方のない部分がある』

 

「う゛ぅぅ・・・確かに俺って基本的にボコボコにされてるよな。勝てても辛勝とかだしさ―――ハァ、まだまだ強くならないとな」

 

「イッセー君、特訓なら幾らでも付き合うよ。少し前にもイッキ君と神クラス程度の実力は欲しい何て話してたしね。イッセー君も如何だい?イッセー君の夢の一つが最強の『兵士』なら僕も最強の『騎士』になりたい―――ひとまずの目標に据えるには良いと思うんだけど?」

 

おお!祐斗も大分豪胆な発言をするようになったな

 

「お前ら俺の知らない処でそんなトンデモナイ事話してたのかよ!?でも良いかもな!俺には神をも恐れさせたっていうドライグが宿ってるんだ。神クラスは通過点としてゆくゆくは天龍の力を全部引き出せるようになりたいぜ!」

 

『ククク!楽しみにしているぞ、相棒』

 

「ったく、お前らは三人とも破格だな。神クラスってのも実際に手が届きそうだからこそ、そんな発言が出来るんだろうよ」

 

アザゼル先生、ちょっと呆れ顔が入ってませんか?

 

「・・・僕はその点では一番恵まれていると思います。直ぐ近くに少しでも気を抜けば置いて行かれてしまうイッセー君に常に明確に先に居るイッキ君が居ますから、特訓にも身が入ります」

 

「そうだな。俺もテクニックタイプの木場との模擬戦はとってもタメになるし、もうそろそろイッキにも勝てちまうかもな!」

 

お?言ったなコイツ

 

「どうかな?俺も最近幾つか手札を増やしたぞ?お前ら相手に実はコッソリ練習もしてたし、俺に勝ちたかったら先ずはその引き出しをこじ開けてみろよ」

 

前にサイラオーグさんとの模擬戦(バップルファイト)の時にやり始めたのが形になって来たしな

 

「・・・お前また何か変なの編み出したんじゃねぇだろうな?前の『置く』斬撃みたいに」

 

さ~て?如何かな?

 

「くくくくく!リアス、お前の眷属は将来神クラスを複数有するチームになるかも知れんぞ?他の眷属も将来的には最上級悪魔クラスにはなりそうだしな・・・レーティングゲーム王者の道が見えてきたんじゃないか?」

 

「そうかも知れないけど、今の私たちはまだまだよ。そこで慢心してしまえば王者への道何て開けないわ。私も含めて眷属全員で強くならないとね」

 

リアス部長が決意を新たにしていると"ぬるり"とした感触と共に周囲に霧が立ち込め、その場に居る全員が異空間に転移した・・・俺以外

 

「またこのパターンかよ!!」

 

曹操達って一度戦った敵のデータを収集して次で勝つ!みたいな連中のはずだよな!?京都で俺とは戦ってるんだから今俺だけが結界から弾かれたのって絶対にただの嫌がらせだぞ!

 

取り敢えず俺は『結界に入るまでの僅かな時間』にサーゼクスさんへの緊急通信(正確にはグレイフィアさん直通)で皆が結界の中に閉じ込められたと簡潔に報告だけは行ったのだった




猫耳オーフィス・・・イイ

ルフェイの『ウロボロス・メモリアル』はどんどん続編を出していく予定ですw


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第三話 秘剣と、七宝です!

蒸し暑くなってきましたね。夏バテに気を付けましょう・・・後コロナも


[イッセー side]

 

 

今まで何度も感じた、忘れたくても忘れられない感触と共に周囲の皆以外の人の気配が消えてしまった。この感覚はあの霧使い・・・って事は英雄派か!こんな所で仕掛けてきやがって!

 

「皆!無事か?」

 

咄嗟に声を掛けながら周囲を見渡すとレイヴェルから焦った返事が届く

 

「イッキ様が居ませんわ!」

 

えええええ!?何イッキの奴またハブられたの!?そろそろ本気で拗ねるぞアイツ!

 

「あ~、イッキの奴は心配しなくても良いよ。京都の時もアイツだけ遠くに跳ばされてたし、ある意味一番安全だと思う。それより今はロビーに向かおう。そこなら此処より広いし、テーブルでゴチャゴチャもしてないからな」

 

皆俺の意見には賛成なのかロビーに向かう事になった

 

そして全員でその場に到着すると奥の方に二つの人影が見える

 

そして片方が指を鳴らすと俺達の入って来た入り口の後ろの壁から炎弾が放たれた

 

(トラップ)魔法!?いや、壁に霧が見える!何処かで発動させた炎の魔法を絶霧(ディメンション・ロスト)で転移させたのか!アレなら黒歌さんや白音ちゃんでも気づけない!狙いは・・・アーシアとイリナだ!

 

だが攻撃が当たる直前にオーフィスが二人の間に立ち塞がり、迫りくる炎を片手で掻き消した

 

「あ・・・有難う御座います」

 

「有難う、オーフィスちゃん!」

 

二人にお礼を言われてもオーフィスは黙ったままだけど無口・無表情がデフォルトだからよく分からんな。でも、ナイスだったぜオーフィス!

 

「やぁ、アザゼル総督にグレモリー眷属の諸君。いきなりの挨拶をさせて貰ったよ―――京都での仕返しってやつさ」

 

声を掛けて来た方を改めてよく見ればそこに居たのは英雄派のリーダーの曹操と霧使いの確かゲオルクとか言ったか?その二人だった

 

「へ!だからイッキもこの空間に招待しなかったってか?京都でもお前らはイッキを東京まで跳ばしてたよな?そんなにイッキが恐いのかよ?」

 

「いやいや、前回彼のデータは取らせて貰ったからね。今回は最初から戦っても良かったんだが、折角なら悪戯の一つでも仕込んでみようと思ってね。京都の時は彼の持つスキルから考えて霊脈の流れを使って疑似空間に侵入したようだけど、今回も入って来れるのかなってね」

 

イッキの奴、そんな理由でハブられたのかよ!

 

と云うか大丈夫なのか?アイツの言う事をそのまま信じるなら前回イッキがこの結界の中に侵入した手段はもう使えないって事になるんだが

 

「ほう、だがイッキが隔離されるでも無しに外に居るってんならサーゼクス達に一早く情報が伝わるだろう。魔王軍が集団でこの結界を外側から崩しに来たなら破られるのも時間の問題だぞ?」

 

そうか!アザゼル先生が言う通りだ!例えイッキ一人じゃ難しくても援軍の人達と協力出来ればそれこそ時間が経てば味方が雪崩れ込んで来るって事になる!

 

だがアザゼル先生の指摘に曹操は槍で肩をトントンと叩くだけで余裕の表情を崩さない

 

「おっしゃる通りだ。有間一輝は先ほどのホテルに居る・・・だが、この空間がそこに在るとは言ってないですよ?確かにこの疑似空間はあのホテルを再現しているが既にこの結界の座標は冥界の遥か遠くに転移している。現実世界のあのホテルを幾ら探ってもこの空間への入り口は見つけられない・・・まぁちょっとした宝探しを彼にはして貰ってる訳です」

 

はぁ!?裏の空間に隠れた冥界の何処に在るのかも分からないこの結界を見つけろって!?宝探しにしちゃ難易度高すぎだろう!?俺ならそんなクソゲー返品しちまうぞ!これじゃあ幾らイッキでもこの場所を見つけるのは不可能に近いんじゃないか!?

 

「ふぅん、でもこっちはそんなお子様のお遊びに付き合う義理は無いのよねぇ」

 

そう思ってると黒歌さんが前に出た。何時もの陽気な感じはそのままに何処か雰囲気がトゲトゲしい―――表面上は笑いながら内心は怒ってるんだろう。楽しい時間に水を差されるのとか本気で嫌がりそうだもんな・・・いや、俺も怒ってるけどさ

 

「塔城白音の姉の元SS級はぐれ悪魔の黒歌ですか。貴女が過去にナベリウス家に居た時のレーティングゲームのデータと神ロキとの戦いのデータは見させて貰いましたよ・・・それで一体どうするつもりなのかな?解決法が有るのなら是非見せてくれたまえ。次回からはその経路を潰せるようになるからね」

 

野郎!本当にイッキを追い出したのはただの嫌がらせかよ!その上でデータの収集だけは余念がないとか本気でやりにくい相手だな!

 

「全く生意気なクソガキにゃん。まっ、イッキの方も最低限の連絡は済んでるだろうし、そろそろ呼びましょうか」

 

そう言うと黒歌さんは右手の爪を鋭利に伸ばし、左腕を少し切り裂いた

 

そして傷口の血を指先で掬って左の掌に横一線に付けると印を結んでから地面に叩きつけた!

 

”ボフンッ!!”

 

「にゃはは♪忍法口寄せの術!・・・なんちゃってね♪」

 

「いや黒歌、忍法かどうかは兎も角、割とそのまんまだから」

 

小気味いい音と共にイッキが現れた

 

それを見てゲオルクは興味深そうな視線を送る

 

「ほう、どうやら今のは東洋式の使い魔召喚の術式のようですね」

 

「そっ♪普通の使い魔召喚じゃなくて血を触媒にしている分強く呼び出せるのにゃ♪」

 

使い魔召喚!?それってまさかイッキが黒歌さんの使い魔って事!?

 

「成程、それに使い魔召喚は完全な上下関係の従属契約であれば相手を呼び寄せる強制力も強くなる。普通強者が使い魔としての肩書を持つなどプライドが許さないなんて事は多いが、キミは自分も一つの駒として換算しているのかな?」

 

「まぁな・・・そこに有用な手段が有るなら使う事に忌避感はないさ」

 

マジかぁぁぁ!いやでも俺だってリアスの眷属だけど普通に下僕って呼ばれたりもするし、実態は兎も角使い魔も下僕も大して違いを感じられないのは日本人ならではの感覚か?

 

思考が横に逸れてるうちに黒歌さんの説明は続く

 

「ふふん♪それにイッキは私の使い魔だけど逆に私もイッキの使い魔なのよ?まさか私がまた首輪付きになっちゃうだなんてねぇ・・・まぁイッキのペットなら悪い気はしないにゃん♪」

 

なん・・・だと・・・

 

「いや、その理屈だと俺も黒歌のペットになるんだが?」

 

イッキが何か言ってたがもはや耳に入らない!

 

「ペットォォォ!?イッキお前自分の彼女に首輪でリード付けてペットプレイとか何時の間にそんなイヤらしい上級者プレイを嗜むように為りやがったぁぁぁ!!」

 

「あらあら、ペットだなんてそんなの私の中のSの血もMの血も両方滾ってしまいますわ♪そうでしたのね・・・鞭で叩いたり縛り付けたりするだけが愛情表現の全てではありませんのね。黒歌さん!今度感想を聞かせて下さいな!」

 

ああ!何か朱乃さんが新しい道を開拓しようとしている!

 

ペットの朱乃さん・・・ヤバい!想像しただけで鼻血が噴き出そうになるわ!

 

「成程な、SMプレイにこそ神滅具(ロンギヌス)の結界を打ち破るヒントが隠されていたとは盲点だったぜ。クソ!まさか堕天使の俺がその手の事で後手に回るとはな!」

 

人を欲に堕とす堕天使の総督たるアザゼル先生の想像を上回る変態プレイだと!?

 

イッキ・・・時々俺はお前の突き抜けた変態性に戦慄と畏怖を覚えるぜ!

 

「俺を無駄に変態にするんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

イッキの叫び声がロビーに木霊する・・・全く照れなくても良いのによ

 

今度、二人っきりで一度腰を据えてエロトークしようぜ!

 

 

[イッセー side out]

 

 

 

 

黒歌に呼び出された直後から何か周りが俺を変態認定してきたり朱乃先輩の妄想が爆発したりアザゼル先生が全く必要のないところで悔しがってたりとしていた

 

「ほら黒歌、お前のペット発言から皆可笑しくなったんだし何とかしてくれよ」

 

「ん~、イヤ!・・・というよりは無理にゃ♪」

 

楽しそうにしやがって!混沌だけバラ撒いて後は放置かよ!

 

確かにこの場を治めろと仮に言われたら如何すれば良いのか分かんないけどさ!

 

因みに今回は黒歌に呼び出されたけど、対外的に使い魔という肩書が知られるのは面倒臭いので基本は秘密だ

 

それと実は白音やレイヴェルとも同じ契約を交わしていたりする

 

仮に第三者にバレてしまっても最悪問題無いようにそれぞれの保護者的立ち位置のリアス部長にフェニックス卿、そして総括として八坂さんにも『この契約は対テロリスト用の緊急時における一時的な~』みたいな御堅い文章の契約書も作成する事になったけど必要経費だろう

 

こういう政治的抜け道手法にこなれているであろう八坂さんやフェニックス卿は兎も角、リアス部長には呆れられたけどな・・・自分をヒエラルキー最底辺の使い魔というカテゴリーに押しやるとか生粋の貴族からしたら中々思いつく手法では無いんだろう

 

まぁこの手法は俺に疑似的に主が三人居る状態になるので召喚事故が起こり易くなる為、本当に一時的な処置だったりするんだけどな

 

「成程な、それにしても有間一輝が使い魔とかまた反則だな。レーティングゲームなら使用に規制が掛かる事間違いなしだ―――ああ、そうそう。この間のバアルとのゲームは見させて貰ったよ。皆が皆高い能力を持っている・・・良い眷属を集めたものだね、スイッチ姫」

 

曹操にスイッチ姫と呼ばれたリアス部長は明らかに不機嫌顔になったな

 

「褒められてるのか貶されてるのか分からないわね・・・少なくとも貴方にスイッチ姫なんて呼ばれたくはないわ」

 

「それは残念。これでも俺は京都でおっぱいドラゴンとスイッチ姫のコラボレーションをリアルで拝見したんだがね。ファンの一人には数えて貰えないのかな?」

 

「・・・貴方、『おっぱいドラゴン』のファンなの?」

 

「いいや違うさ」

 

曹操の小馬鹿にしたような態度にリアス部長、かなりイラっとしてるな

 

「さて、そろそろ本題に入ろうか・・・オーフィス、ヴァーリと共に何処かに出かけたと思ったらまさかこっちに居るとはね。予想の範疇ではあったが、それでも少々驚いたよ。今頃ジークフリート達はヴァーリと闘りあってる頃かな?」

 

曹操の言葉に皆が訝しんでいるとルフェイが挙手をして状況の説明をしてくれた

 

「えっとですね。事の発端は二つありました。一つはオーフィス様がおっぱいドラゴンさんに大変ご興味を抱かれたのをヴァーリ様自身も気になったらしく、アザゼル様経由で話し合いの場を提供なされようとした事・・・もう一つは曹操さん達英雄派がオーフィス様に牙を剥こうとしている兆候が見られたので折角なのでこの機会にオーフィス様を囮として炙り出そうとした事です―――もっとも、オーフィス様を本当に囮にする事も無いという事で美猴様がオーフィス様に化けてヴァーリ様と行動を共にし、本物のオーフィス様は秘密裡におっぱいドラゴンさんのお宅にお連れしたという訳です!」

 

ルフェイの説明を聞いた曹操も槍で肩をトントンと叩きながらも補足する

 

「その通りだ。俺達もヴァーリがオーフィスを何の策も無しに囮に使うというのには違和感を感じていた。とはいえヴァーリの方も無視出来ない・・・結局隊を二つに分けて俺とゲオルクが赤龍帝の方に探りを入れる事にしたんだ。オーフィスが今代の二天龍に興味を持っているのは分かっていたからな。そしたら案の定だったという訳だ」

 

「曹操、我を狙う?」

 

オーフィスが前に出て曹操に問う

 

「ああ、貴女の力は我々に必要だが貴女自身は我々には必要無いと判断した」

 

「・・・言ってる事分からない。けど我、曹操に負けない」

 

それを聞いた曹操は肩を竦める

 

「でしょうね、貴女は余りにも規格外過ぎる。全盛期の二天龍がタッグを組んだ処で一蹴されるのが関の山だ・・・でも折角の機会ですし、少し試してみますか。ゲオルク、邪魔が入らないように結界を頼む。有間一輝の居る場所でお遊びをするなら保険は掛けないと次の瞬間首が飛ぶからね―――シャルバ・ベルゼブブの二の舞は御免だよ」

 

「了解」

 

曹操に返事をすると同時にゲオルクが俺達と曹操達を分断する霧の結界を張った

 

研究されるのって確かに面倒臭いな

 

まさに曹操が言ったような事出来ないかな?って考えてたのにさ

 

次の瞬間、一瞬でトップスピードに乗った曹操が聖槍をオーフィスの腹の中心に突き立てて体を貫通させる―――そのまま刺さった刃の部分に凄まじい質量の光が集約し始めた

 

「輝け、神をも滅ぼす聖槍よ!」

 

その言葉と共に集めた光が暴力的なまでに輝き、オーフィスを中心に周囲をも破壊し始める

 

「あの光(オーラ)は悪魔は掠っただけでも死にそうにゃん」

 

そう言うと黒歌は俺達の周囲に濃い黒い霧を発生させる

 

「これは光を緩和させる霧何だけど吸い込んだりしないでね?あの聖槍の威光を防ぐレベルだと悪魔や人間でも体に毒にゃ・・・光力が体に満ちてる天使や堕天使なら永遠にお寝んねにゃ♪」

 

それを聞いたイリナさんは「ひぅ!」と短い悲鳴を上げて霧から離れる

 

アザゼル先生なら大ダメージで済むかも知れないけど今のイリナさんなら死ぬかもな

 

少しすると聖槍の輝きが無くなったので黒歌も霧を解除する

 

曹操がオーフィスの腹に刺さった槍を引き抜くとポッカリと穴が開いていたが、血が噴き出る事も無く何事も無かったかのようにその穴は破れた服ごと再生される

 

それを見た曹操は呆れたように息を吐いて言う

 

「悪魔なら直撃すれば魔王だろうと瞬殺できる位の力は籠めたんだけどね。力ある神仏であろうと致命傷。それを受けても眉一つ動かさない・・・見たかい諸君?コレがオーフィスだ―――グレートレッドを抜かした全勢力で最強の存在。神々だろうと神を滅ぼす神滅具(ロンギヌス)だろうとオーフィスの前では等しく無意味だ・・・ダメージが無い訳じゃないが無限の体現者であるオーフィスにしてみれば直ぐに回復する程度のものでしかないのさ」

 

アレか?数時間掛けて倒す無茶苦茶なHPを誇るレイドボスに常に回復するリジェネまたはリホイミが掛かりっぱなしな感じかな?

 

確かにそれは正攻法での攻略はほぼ不可能だな

 

「攻撃を仕掛けた俺に反撃もしない・・・理由は簡単だ。何時でも俺を殺せるから。実力差が掛け離れ過ぎているからこそ俺に興味を抱かず、だからこそ反撃もしない。基本的にグレートレッド以外はどうでも良いんだよ。まぁそれ故にオーフィスが今代の二天龍に興味を示したと云うのはヴァーリが関心を持つのに十分な事柄と云えるんだけどね」

 

そこまで言うと俺達のすぐ傍の床に魔法陣が展開した

 

「ふぅ、やっと繋がりました」

 

さっきから俺達の後ろで集中していたルフェイが汗を拭い、フェンリルが魔法陣の中心に立つと魔法陣の輝きが増し、光が弾けた次の瞬間にはそこに銀髪イケメンのヴァーリが立っていた

 

「ご苦労だったなルフェイ。そして、直接会うのは久しぶりだな曹操―――やっと敵対してくれて嬉しいよ。ようやくお前との決着を付けられそうだ」

 

「ヴァーリか、コレはまた驚きの登場だな。有間一輝といいお前といい、ゲオルクの結界を一々すり抜けて来るとはな。次は一体どんな方法で転移して来るんだか」

 

「ふっ、安心しろ。次など来ないさ・・・それにしても此方もまさか此処に居るのがお前とゲオルクの二人だけだとは思わなかったよ。たった二人で俺達を相手取れると思っていたのか?随分と大胆な英雄様だ」

 

「その通り、英雄だよ。俺達はね―――何、単純に俺達だけで十分だと判断したまでの事さ」

 

「その自信の源は例の『龍喰者(ドラゴン・イーター)』とか云うヤツ何だろう?大方英雄派が新たに創り出したドラゴンスレイヤーか龍殺しに特化した禁手(バランス・ブレイカー)の使い手と云ったところか?」

 

曹操はヴァーリの推理を頭を振って否定する

 

「違う。違うんだよヴァーリ。『龍喰者(ドラゴン・イーター)』は元から存在していた。それに俺達が適当な呼び名を付けていたに過ぎない。かの者を創り出したのは他ならぬ聖書に記されし神なのさ―――ゲオルク、頃合いだろう。この場に居るのは無限の龍神に二天龍、ああ、ついでに龍王のファーブニルも居たっけか。これだけ揃えば申し分無い。地獄の釜をこの場で開こうじゃないか」

 

アザゼル先生が曹操の話を聞いて小声で「マジかよ」と呟いている

 

聖書の神の名前まで出てきたら悪い予想(サマエル)的中って確定ですもんね

 

「漸くだな。ついに俺達英雄が無限を喰らう時が来た」

 

ゲオルクが大仰に両腕を広げると奴らの後方に巨大な魔法陣が展開され、そこからドス黒い禍々しいオーラが噴き出した

 

『これは!このドラゴンだけに向けられた圧倒的な悪意は!!?』

 

ドライグが戦慄する声が響く中、床に敷かれた魔法陣から徐々にソレは姿を現した

 

巨大な十字架に磔にされ、全身を拘束具でぎゅうぎゅうに締め上げられ、釘でめった刺しにされた上半身が堕天使で下半身が東洋タイプのドラゴンの姿をした存在だ

 

”オオオォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオ!!”

 

開かれた口からは血と唾液と共にあらゆる負の感情を含んだ怨嗟の声が響き渡る

 

「オーフィス!お前を逃がすからちょっと手荒いのは勘弁な!」

 

それを見た俺はオーフィスに走り寄り、彼女を掴んでロビーのホテルの外に繋がるガラスに気弾を放つと同時にオーフィスをそこ目掛けてぶん投げた

 

・・・幼女をぶん投げるとか事情を知らない人が見たら袋叩きにあっても可笑しくない光景だな

 

サマエルの召喚時間には制限が在ったはずだし、完璧にアレを制御出来るとは思えないので取り敢えず距離を離すだけでもそれなりに効果は見込めるはずだ!

 

“ガシャァァァン!!”

 

気弾がガラスに大穴を開け、その穴にオーフィスが吸い込まれていく

 

“ガシャァァァン!!”

 

オーフィスと気弾が外に出たと思ったらロビーの俺が壊したガラスの反対の位置のガラスから気弾が入って来てその直ぐ後ろからオーフィスがこれまた入って来た

 

「我ぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

「ぐるぐるぅぅぅぅぅ」

 

「ループするぅぅぅぅぅぅぅ」

 

如何やら俺達を逃がさないようにメビウスの輪のように空間が捻じ曲がっていたみたいだ

 

しかし龍神様ちょっと楽し気ですね!

 

自分で投げた手前3周目くらいにオーフィスをキャッチして気弾も消す

 

「う~ん、アザゼル先生。『三十六計逃げるに如かず』とはいかないみたいです」

 

「見えてたよ。相変わらずお前の割り切りはスゲェな。強くなると自然と困難には逃げずに立ち向かう精神とかが芽生えたりするもんだがな」

 

ああ、確かに先ずは一当てしてから逃げるかどうかの判断を下すとかそういうアクションが挟まったりするものかも知れないな

 

「まぁその辺りは弱い人間は脱兎の如く逃げるのが本能に染み付いてるとでも思っといて下さい」

 

そう言ったら変な顔を向けられた

 

「お前を人間として『弱い』認定したら俺達人外の立つ瀬が無いじゃねぇか」

 

アザゼル先生は「まぁいい」と言って意識を『サマエル』に切り替える

 

「それにしてもまさか本当に『サマエル』の封印を解く何てな。お前らはあのクソ骸骨神様と裏で手を結んだって事か・・・ッチ!何時かあのムカつく面にワンパン入れてやるぜ!」

 

アザゼル先生、完全にお怒りモードだ。とはいえ確かにこの状況であのハーデスが今頃『ファファファファ』とか変な笑い声上げてると考えると俺もワンパン入れたくなっちゃうけどね

 

「おや、堕天使の総督殿は『龍喰者(ドラゴン・イーター)』の正体にあたりを付けていたのですね―――その通り、改めてご紹介しよう。曰く『神の毒』、『神の悪意』、今は亡き聖書の神の呪いを一身に受けた大罪人。エデンに住まうアダムとイヴに知恵の実を食べさせた存在。『サマエル』だ!」

 

曹操の紹介を聞いてイッセー達が激しく動揺する

 

「あの・・・『エデンの蛇』くらいは俺も聞きかじった事は有るんですけど先生の言う『クソ骸骨神』ってのはひょっとしてこの間出会ったハーデスとかいうヤツ何ですか?」

 

「ああそうだよイッセー。『サマエル』は地獄の最下層、ハーデスの管理するコキュートスに封印されている存在だ。聖書においてドラゴンや蛇が邪悪と描かれる原因となった『サマエル』は神の怒り、憎悪によってその存在自体が凶悪なドラゴンスレイヤーへと変貌した。この世に『サマエル』を超えるドラゴンスレイヤーは存在しない」

 

「ご説明どうも総督殿。そう、『サマエル』は究極の龍殺しの呪い。しかし余りにも凶悪過ぎる為にただそこに居るというだけで世界中のドラゴンや蛇由来の魔物が全滅し兼ねないという理由で聖書陣営やオリュンポスだけでなく世界中の勢力が使用を禁じる程の代物だ―――かつて二天龍があらゆる勢力圏で暴れていても誰も『サマエル』を使用しようとは思わなかった程にな・・・さて」

 

曹操の瞳がオーフィスを捉える

 

「喰らえ」

 

その一言と共にサマエルの口から黒い触手のような舌が斜め(・・)に伸びた

 

「にゃ!?」

 

誰も居ない空間に伸びた舌が向かうと黒歌の短い悲鳴と共に突き飛ばされるような形で彼女の姿が露になり、俺達のすぐ傍に居た黒歌とオーフィスが霧が晴れるように消え去る

 

それを見た曹操は感心した面持ちだ

 

「ほう・・・幻術か、気付かなかったよ。だが残念ながらサマエルはドラゴンに向けた神の悪意だ。一種の天罰とも云える。幻術程度で逃れる事は出来ないよ」

 

ドラゴン相手なら一度発動すればロックオン&ホーミング機能付きって事か!?随分とねちっこいな聖書の神様もよ!

 

つい先ほどまで黒歌が居たはず場所にはサマエルの舌が伸び、先端が大きく膨らんで球形となっている。そして”ゴクンゴクン”と形容出来そうな感じに伸びた舌を伝って何かが吸い取られているみたいだ。クソ!オーフィスを逃がしたり隠したりは出来なかったか!

 

それとさっき黒歌が突き飛ばされたのはオーフィスが彼女を逃がしたからか?

 

「まさか!その黒い玉の中にオーフィスが!?祐斗、斬って!」

 

リアス部長の命令に祐斗が迷う事無く反応して聖魔剣で細い舌の部分を切断しようとする

 

「!ッ刀身が!?」

 

しかし聖魔剣は触手の部分を通り過ぎるとその接触していたはずの刀身の部分がごっそりと消えさってしまっていた。先端部分の刀身が“カランッ”と地面に落ちる

 

「ならコレは如何だ?」

 

「こっちもにゃん!」

 

ヴァーリが魔力弾と魔法弾を、黒歌が浄化の力を宿した黒炎を放つが効果は無し

 

ドラゴンでもあるヴァーリの攻撃は兎も角、浄化の力でもダメとか流石は神の悪意と感心すれば良いのか呆れれば良いのか・・・どっちにせよ厄介極まりない事には変わりないか

 

「仮にもドラゴンだってんならアスカロンで!」

 

イッセーが鎧の左腕の籠手から龍殺しの聖剣の刀身を出すがアザゼル先生がイッセーの前に片手を突き出して静止させる

 

「イッセー、アスカロンは使うな!最凶のドラゴンスレイヤー相手じゃ何が起こるか分からん!アスカロンが吸収されるかも知れんし、サマエルの神の毒が弾けて敵味方関係なく降り注ぐなんて事態もあり得る!それに奴をドラゴンスレイヤーで本当に殺せるのかも分からん。考えてみろ、奴は神の毒を一身に浴びたドラゴンだぞ?何でまだ生きてるんだと思う?」

 

イッセーが「えっと?」と答えに窮しているので俺も一緒に考えてみる

 

「・・・聖書の神がサマエル自身にドラゴンスレイヤーに対する耐性を付与したって事ですか?」

 

聖杯なんて物も在るんだから不可能じゃないはずだ

 

「サマエルが苦しみ続けるギリギリのラインだとは思うが、そうだろうよ―――ったく、どの神話の神々にも云える事だが神の怒りはおっかないもんばかりだよ。何はともあれ今はオーフィスの救出だ!奴らにオーフィスが何をされてるのか知らんが碌でもない事だけは確かだろうよ!」

 

アザゼル先生の言葉を聞いてその場の全員がオーラを高めて何時でも攻撃に移れるようにする

 

「このメンツ相手だと流石に本気で行かないとダメだろうな。何せサマエルの使用はハーデスに一度しか認めて貰ってないんだ。その上、出来るだけ君たち悪魔や堕天使に嫌がらせをしてくるようにと注文まで付けて来る始末。それさえ無ければこの空間にオーフィスだけを連れ去ってさっさと召喚したサマエルでケリを付けられたんだけどね」

 

ああ、此奴らが二度目は無いという状況でも俺達を招き入れたのはハーデスの要望って事ね

 

まぁこいつ等自身の傲慢とかも含まれてるんだろうけど

 

「・・・先生」

 

「何だ?」

 

「この一件が終わったらちょっと冥府でハーデスを消滅させて来ても良いですか?」

 

了承してくれるなら俺の【じばく】が火を噴くぜ?

 

「良し!許可する!・・・と言いたいが止めろ。アレでも消滅したら世界にとっても困るってのは以前にも説明しただろう?本音を言えば俺も今すぐにでも光の槍をぶち込みに行きたいがな」

 

「曹操、此方はサマエルの制御に掛かり切りになる。援護は期待しないでくれ」

 

「構わないさ。この程度を御しきれないようではこの槍に選ばれる資格など無いだろうからね―――では、始めようか・・・禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

曹操が力ある言葉を唱えると神々しい輪後光が背中の辺りに出現し、その周囲を七つのボーリング球くらいの大きさの球体が浮かび上がる

 

「コレが俺の『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』の禁手(バランス・ブレイカー)極夜なる天輪聖(ポーラーナイト・ロンギヌス・)王の輝廻槍(チャクラヴァルティン)』だ」

 

「亜種か!『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』の通常の禁手(バランス・ブレイカー)は『真冥白夜の聖槍(トゥルー・ロンギヌス・ゲッターデメルング)』だったはず!お前は自分が転輪聖王(てんりんじょうおう)とでも言いてぇのか!?―――クソッたれめ!あの七つの球体の能力は俺にも分からん!」

 

「俺の場合は『転』のところを敢えて『天』と名付けてみた。そっちの方が格好いいだろう?」

 

仮にも転輪聖王(てんりんじょうおう)をリスペクトしてるんならもっと平和的にいかないもんかね?

 

確か武力を用いずに正義と話し合いで世の中を治める名君の称号だったと思うんだけど・・・少なくともテロリストが冗談でも名乗って良い名前じゃないだろうに

 

「気を付けろ。奴の周囲に浮かぶ球・・・『七宝』にはそれぞれ別に特殊な能力が付与されている。どんな攻撃が来るのか分かったものじゃないぞ。俺もその内三つまでしか知らんしな」

 

「七つ!?二つや三つじゃなくて!?」

 

ヴァーリの忠告にイッセーが驚愕を示す・・・同じ神滅具(ロンギヌス)の『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』が基本は『倍化』と『譲渡』の二つだもんな

 

「ああ七つだ。それに加えてあの槍には『覇輝(トゥルース・イデア)』なんて奥の手まで存在する。それを可能としてしまうからこそあの槍はこう呼ばれるんだ―――『最強の神滅具(ロンギヌス)』とな」

 

ヴァーリがそう評する中、曹操が右手をゆっくり前に向けると漂う球体の一つがその動きに沿う形で曹操の前に出る

 

「七宝が一つ。『輪宝(チャッカラタナ)』」

 

“ガシャン!!   バガン!!”

 

脳のリミッター解除しておいたから高速で迫る七宝にも反応出来たけど自分を狙った訳でもない初撃は防ぎきれなかったな

 

一拍遅れて皆が音のした方向を見て驚愕する

 

「エクス・デュランダルが!?」

 

ゼノヴィアの持つエクス・デュランダルは外装のエクスカリバーの部分は無残に壊れ、本体のデュランダルもかなり罅が入ってしまっている

 

輪宝(チャッカラタナ)がエクス・デュランダルを破壊した直後に俺が球体を蹴り飛ばしたのでゼノヴィアの体に穴が開く事は無かったみたいだけどな

 

「やはり反応速度に一番優れているのはキミのようだね。さて、見て貰ったように輪宝(チャッカラタナ)の能力は武器破壊だ。相当濃いオーラを武器に纏わなければ抗う事は不可能・・・本当はその後槍状に形態変化させてデュランダル使いに大穴を開けてやろうと思ったんだけどね。とはいえ聖剣の無い聖剣使いなど怖くはない。先ずは一人だ」

 

そのセリフ、デュランダル使いの前任者にも是非言ってやってくれよ

 

「此方も悠長にはしてられないのでな。どんどん行かせて貰うぞ―――『女宝(イッテイラタナ)』」

 

「させるかよ!」

 

「僕も行くよ!」

 

イッセーと祐斗が飛び出すが曹操はそれを槍で捌きながら七宝を操る

 

そして次の七宝が俺達の頭上に飛んできて眩い光を発した

 

「っく!あんなモノ!」

 

「撃ち落として差し上げますわ!」

 

リアス部長と朱乃先輩が滅びの魔力と雷光を放とうとするが何も起こらなかった

 

訝しむ二人が再度攻撃を加えようとするがやはり何も起こらない

 

女宝(イッテイラタナ)は女性の異能を封じる力。これも相当な実力者で無いと抗えない・・・ふむ。これでスイッチ姫と雷光の巫女、ミカエルのエースに、回復役のシスター、フェニックスのお嬢さんについでにデュランダル使いも完全に戦闘不能だ。猫又姉妹とルフェイは咄嗟に結界を張ったようだな。しかし完全に防げたのは黒歌のみのようだ―――他の二人は幾らか能力がダウンしてるはずだよ」

 

「グアッ!!」

 

「ガァッ!!」

 

イッセーと祐斗が曹操に弾き飛ばされた―――直接攻撃は受けてないようだが聖槍のオーラの波動によって間接的にダメージを受けているようだ

 

「イッセー、祐斗!下がれ!悪魔のお前たちじゃ接近戦に持ち込むのは分が悪すぎる!―――ヴァーリ!俺に合わせろ!」

 

「やれやれ、俺は一人でやりたいんだがな」

 

アザゼル先生がファーブニルの黄金の鎧を纏い、ヴァーリも文句を言いつつ追従する

 

先生が前衛、ヴァーリが中衛で攻めるつもりなのだろう

 

「おっと、ドラゴン相手なら手札は決まっている―――ゲオルク!」

 

曹操がゲオルクの名を呼ぶと「了解」との返事と共にサマエルの片腕の拘束が外れて曹操に迫りくる二人に手を向ける。すると二人の居る空間が突如として漆黒の球体に包まれて弾け、中の二人が鎧を解除した状態で現れた

 

生粋の堕天使でドラゴンの鎧を身に纏っただけのアザゼル先生は片膝を付いて苦し気なだけだがヴァーリの方は口から血を吐いて倒れてしまった

 

アザゼル先生の持つ人工神器、『堕天龍の閃光槍(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)』の柄の部分に在る紫の宝玉もかなり罅が入ってしまい宝玉から放たれる光も弱弱しく明滅している

 

「クククッ、如何だヴァーリ?神の毒の味は?ドラゴンには堪らない味だろう?」

 

ああもう!皆血の気が多いから制止する間もなく突っ込んでいくな!

 

普通曹操相手なら弱点の薄い俺をサポートして七宝の能力を解明するのが先じゃね!?

 

「イッセーと祐斗は先生とヴァーリを引きずって連れ戻せ!白音とルフェイは皆の護衛!黒歌!ファーブニルとヴァーリ、後ついでにアザゼル先生を診てやってくれ!」

 

「ガハッ!俺はついでなのかよ!」

 

「一番ダメージ少ないでしょうが!」

 

そう言いつつ神器を顕現させて俺も曹操に突っ込んでいく

 

「そう、あの黒歌という元はぐれ悪魔の能力は封じられなかったが仙術使いの彼女はアーシア・アルジェントを封じた今、貴重な回復要員。さらに聖槍を持つ俺を相手に簡単に前線に出す事は出来ない。これで残るはキミだけだ、有間一輝。どうやってなのか人間の耐久力の低さを克服したキミは分かり易い弱点がほぼ存在しない。真正面からねじ伏せる必要があるからね。実はこの戦いは楽しみにしていたんだ」

 

ああそうですかい!こっちは全然楽しくないけどな!

 

初手として右歯噛咬(ザリチェ)で突き技を放つ!神器の形状的に右ストレートで殴りかかるかのような感じだ

 

「おっと、もう輪宝(チャッカラタナ)の能力を忘れたのかな?武器破壊能力を前にその攻撃は悪手だよ」

 

確かに、祐斗の創造系の神器と違って破壊されたらこっちのHPがグッと減る感じだろうからな

 

だから奴が俺の神器にぶつけて来ようとしたその球体を右歯噛咬(ザリチェ)が接触する直前に神器を消してそのまま殴る!

 

“バギンッ!!”

 

何かが壊れるような音が響いて輪宝(チャッカラタナ)が曹操の顔の横を高速で通過する

 

ッチ!惜しい!

 

「・・・おいおい有間一輝。今ので輪宝(チャッカラタナ)が殆ど壊れかけたぞ。どんな威力で殴ったら神滅具(ロンギヌス)を素手で破壊出来るんだ?」

 

「ただの剣術だよ。攻撃する瞬間、体に掛かってる力の全ベクトルを一点に集中する『第一秘剣・犀撃』ってのに闘気の一点集中も掛け合わせただけだ」

 

いや、殴ったんだから今のは秘剣というか秘拳だったけどさ

 

俺の攻撃力の無さを補うのに以前某落第騎士の世界最強の空間に留まる斬撃を放ったのを思い出して、もしかしたら主人公の技を再現できるかも知れないと色々練習したんだよ!

 

『第一秘剣・犀撃(さいげき)』・・・全ての力を一点にって言っても具体的な手法とか書かれてなかったから俺流だけどな。それを言ったら『第七秘剣・雷光』とか速く斬るとしか書かれてないしさ

 

攻撃の瞬間、体中の筋肉を弛緩させて足先辺りから順次筋肉を絞めていって体内の力のベクトルを攻撃する箇所に押し出していく感じだ

 

え?そんなの無理だって?取り敢えず筋肉の筋の1本1本まで意識を巡らせられるようになってから抗議は受け付けます

 

つまりはゼリー飲料とかのパックやチューブ状の調味料とかを使い切る時に底の方から折りたたんで絞り出す感じに近いかな?

 

「『第一秘剣』・・・ね。なら京都で見せたあの斬撃にも名前が在るのかな?」

 

む?そう云えばアレって名前無かったよな?どうしようか?性質としては『第五秘剣・狂い桜』に近いのかも知れないけど、もうそれで良いか?ぶっちゃけ『第五秘剣』って使いどころも原理もよく分からんしさ・・・斬ってから動いたら傷口が開くと云うのは兎も角、特定の動きをするまでは傷口もそのままとか理解不能だし

 

ああ~、でも流石に違う技なのに同じ名前にしちゃうのはちょっとアレだな

 

「・・・『第五秘剣・断空』って事で」

 

「今考えたな」

 

速攻で気付かれた!?

 

「『第五』・・・という事は少なくとも俺の知らないトンデモ剣技が後三つは残ってる訳だ。それらを是非引き出させたい処だがキミにはカウンター系の神器の能力も有る。キミと戦う場合は下手なダメージを与えないで一撃で仕留めなくては此方が危ない―――女宝(イッテイラタナ)のような相手を封じる力が有れば良いんだが女宝(イッテイラタナ)の男版何て都合の良いものは残念ながら持ってないからね。分かり易い弱点の無いキミはシンプルな攻撃こそがベストな選択だろう・・・将軍宝(パリナーヤカラタナ)。能力は単純。圧倒的な『力』さ!」

 

悪い、それ知ってる・・・本当に知っていれば対処って楽だよね

 

飛んで来たその球体を左手の左歯噛咬(タルウィ)で受け止め、流れて来た衝撃を『第一秘剣・犀撃』にも似たマッスルコントロールで左腕から右腕に流し込み、右歯噛咬(ザリチェ)将軍宝(パリナーヤカラタナ)に破壊力を斬撃に変更してお返しすると球体が真っ二つに割れた

 

「『第三秘剣・(まどか)』」

 

ヤバいな、主人公の技を使うの楽しい!

 

しかし今はオーフィスが囚われているのだから悠長にはしてられない

 

そろそろこっちから攻めないとな

 

「キミ・・・一々神の奇跡を体術で突破するの止めてくれないかな?『七宝』の能力を頭捻って考えた自分がバカみたいに思えてくるんだが」

 

「イッキくんの剣技って世界にケンカ売ってるよね?もう禁手(バランス・ブレイカー)と同じ扱いで良いように思えて来たよ」

 

「今のって原理は分かんないけどカウンター技だよな?ヤベェ、今後俺が『戦車』で殴ったらそのまま俺に返って来るのも視野に入れなきゃなんねぇのかよ!?」

 

ああ!祐斗が遠い目になり掛けてる!流石は黒坊の剣技、イカレテルぜ!

 

それは兎も角として行かせて貰う!

 

俺はフロアの天井を砕き、仙術で粉塵を操る事で煙幕を作り出す

 

一拍置いてから、煙幕の中から5人の俺が飛び出した

 

「その技は京都で見させて貰った。キミの神器を核にして本物と同等の気配を出すその分身は最大で二つまでしか生み出せない。本体を入れて3人だ。つまりは本物の気配のするキミを3人同時に仕留めればどれかはアタリと云う訳だ!」

 

曹操が残りの球体を操り、5体の分身の内3人に狙いを絞って打ち出す

 

攻撃を弾いたものが本体という魂胆だろう。だが、それらの攻撃は全て(・・)すり抜けてしまった

 

「馬鹿な!」

 

驚愕する曹操に畳みかけるように未だ晴れていなかった煙幕の中から30を超える俺が飛び出した。如何やらしっかり騙されてくれているようだな。何しろ飛び出た分身全部が本物の気配を放ってるはずなのだから

 

“カラン!”

 

軽い音が響いて曹操がそちらに目を向けると金属の破片が落ちている

 

それを見た曹操は悟ったようだ

 

「有間一輝!お前は自分の神器をバキバキにへし折ったのか!?」

 

正解です。曹操の聖槍と違って俺の神器ってオーラを纏わせなければ少し頑丈な剣程度だから最初に一部だけへし折って幻術で気を引いてる間に煙の中でアイスのチューペットでも叩き割るかの如くバッキバキに折らせて貰いましたよ!武器に対する愛着?そんなものが戦闘で役に立つの?

 

体力は多少消耗するけどコレが俺流の『第四秘剣・蜃気楼』だ!・・・いや、だって原作の目の錯覚で引き起こす幻覚の分身とか仙術で幻術使える俺には必要無いんだもん

 

まぁHPを消費して分身を創り出すんだからポケモンの【みがわり】に近いのかも知れないけどな

 

そして曹操の気を逸らしている間に本体の俺はと云えば既にサマエルの喉元辺りまで接近している。触手がダメなら首を落とす!ハーデスの玩具は此処で処分しておきたい

 

もしもダメなら速攻で標的をゲオルクに変更してサマエルの制御を奪うとしよう

 

「しまっ!」

 

曹操が本体の俺に気づいたようだけどもう遅い!

 

俺の振るった左歯噛咬(タルウィ)がサマエルの喉元に喰い込んだ!

 

“ズルッ・・・ズルズルズル”

 

「・・・へ?」

 

え?なにこれ?ナニコレ?サマエルが左歯噛咬(タルウィ)の接触した部分から掃除機に吸われるスライムの如く吸収されていくんだけど!?

 

“ギュオォォォォォォォ・・・・ギュポン!!”

 

あ、全部吸い取った・・・如何するの?コレ?

 

予想外過ぎる事態に流石に固まってしまったのだった




曹操「キミの事は研究させて貰ったよ」

イッキ「悪い、曹操の能力全部知ってたわ」


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第四話 脱出、作戦です!

2話連続投稿です


その場の全員が動けなかった・・・というか唖然としていた

 

いや、気持ちは分かるよ?俺とか一番の当事者だしさ・・・あ、オーフィスは解放されたみたいだ

 

「何が起きた!?いや、ゲオルク!どれだけ盗れた?」

 

「半分よりは多いが・・・精々六割強と云った処だろう。そっちのオーフィスは力を奪う際に幾らか無駄が出てしまったみたいだし、神輿に担ぐ事は十分出来るはずだ」

 

曹操とゲオルクのやり取りにアザゼル先生が反応する

 

「! そうか!お前たちは新たな『ウロボロス』を創り出すつもりだな?自分たちの言うことを聞く、傀儡となる『ウロボロス』を!―――いや、それよりもイッキ!お前『サマエル』を吸収とかして無事なのか!?突っ立ってねぇで返事しろ!」

 

アザゼル先生が声を掛けて来るけど正直答えられる余裕は無い

 

俺の中で憎悪、悪意、痛み、妬み、怒り等の『サマエル』の感情が俺の中の『器』にどんどんと溜まってきている感覚がしているのだ

 

ヤバイヤバイヤバイ!この感覚が『器』から溢れ出たら俺自身の精神が侵食される!

 

つーか【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】お前勝手に『サマエル』を吸収とか何してくれてんの!?

 

もしかしてさっきの『第四秘剣・蜃気楼』でバッキバキにへし折りまくったのを怒ってんの!?いやいや、この神器は魔獣とかを封じたタイプじゃないから違うはずだ!・・・違うよね?

 

焦る俺だったが無情にも神の悪意は俺の許容限界を超えたらしい

 

「ぐっぶ!?ガハッ!!」

 

神の毒が俺の体を蝕みその場で血を吐いてしまった

 

さらには俺の体から瘴気が溢れ出るかのようにサマエルの呪いが滲み出る

 

ギリギリの処でイヅナを入れてあった竹筒は皆の方に放り投げられたけどコレは拙い!

 

「イッキ!」

 

「イッキ先輩!」

 

「イッキ様!」

 

皆が焦って俺の名前を呼ぶ声が聞こえるけど、黒歌たちの声が最初に耳に届くのは俺も意外と素直な奴なのかも知れんな

 

「コレは・・・興味深いが俺では移植した『右目』が在るから下手に近づけんな。ゲオルク、そっちは如何だ?」

 

「ダメだな。彼の神器にサマエルが飲み込まれてから完全にリンクが切れたようだ。送還も制御も出来そうにない」

 

ゲオルク!こいつ俺をこのままコキュートスに送るつもりだったのか!?マジで後でぶっ殺す!

 

そんな思考の中俺の体に魔力の縄のようなものが巻き付いて皆の居る場所に引っ張られた

 

如何やら黒歌の仕業のようだ

 

動けない俺を曹操達の近くに置いておけないとの判断だろう

 

皆の近くには着地したけど皆が近寄って来る事は無い

 

絶賛俺の体から呪いが溢れてるからな

 

と云うか着地の衝撃でまた血を吐いたし・・・いや、黒歌の判断はベストだったけど今の俺は少しの衝撃でもヤバい!

 

「イッキ様!せめて回復を!」

 

レイヴェルが懐からフェニックスの涙を取り出して近づけないから中身を飛ばすように俺の体に『涙』を振りかけようとしてくれたけど飛んで来た水滴は俺の体の周囲の呪いに接触した瞬間に黒く染まって回復の効果を無くしてしまった

 

コレだとレイヴェル自身の涙による治療も期待できないな

 

「そんな!?如何すれば!?」

 

レイヴェルが狼狽える中、曹操とゲオルクは勝手に話を進めていく

 

「ふむ。余りにも想定外だったな。まぁその様子では有間一輝は助からんだろう―――ゲオルク、オーフィスから奪い取った力は予定通りに本部に送られているんだな?」

 

「ああ、サマエルはあくまでも中継地点に過ぎなかったからな。有間一輝の中に力が吸収される事は無かったようだ。もっとも、そうなっていたら折角奪ったオーフィスの力も制御されない呪いの力で消滅していただろうがね」

 

「了解だ。さて諸君。今回は俺としても消化不良で終わってしまったからね。ヴァーリ、そして兵藤一誠。キミたちは殺さずに生かしておこうと思う。今代の二天龍は面白い成長をしているみたいだし、強者との戦いは俺も望むところだ。何時しかこの槍を脅かす程の存在となって俺の前に立ってくれ・・・英雄が挑むのは何時だって魔王か伝説のドラゴンだからね」

 

「随分と・・・舐め腐ってくれるものだな。曹操」

 

曹操の言い分にまだまだ調子の悪いヴァーリが低い声で吐き捨てる

 

「それはお互い様だろう?キミも赤龍帝を禁手(バランス・ブレイカー)に至らせる為に彼の家族を殺すなんて脅したみたいじゃないか―――似たようなものだよ俺もお前もな。さてゲオルク、死神たちに現状を報告してくれ。彼らは力がダウンしてようとオーフィスが欲しいみたいだし、ついでにサマエルも彼らに回収して貰おう。彼等なら『サマエル』の扱いは俺達よりは詳しいだろうからね。ああ、ついでにルフェイの使っていた入れ替え転移を試してくれないか?俺とジークフリートを入れ替えよう。向こうにはフェンリルも居るだろうから、遊んでくるよ」

 

「一度見ただけの術式だが、何とかなるだろう」

 

「そこで何とか出来ると云えるとは、流石はかの大悪魔、メフィスト・フェレスと契約を交わしたゲオルク・ファウスト博士の子孫だよ」

 

「先祖が偉大過ぎてこの名前を名乗るのもプレッシャーなんだけどね」

 

「聞いての通りだ。これから此処にハーデス配下の死神一行とジークフリートを呼ぶ事にする。俺個人はキミたちに生き残って欲しいがそれを死神達やジークフリートに強制する気はさらさら無い。逆境を生き延びてこそ戦う価値が有るというものだろう?宝探しの次は脱出ゲームだ。是非ともクリアを目指して頑張ってくれたまえ」

 

「待ちやがれテメェ等!!」

 

曹操とゲオルクが共に霧の中に消えていこうとするのをイッセーがドラゴンショットで阻もうとするが一歩向こうが早くこの場から消えていった

 

クソ!ヴァーリじゃないけど本当に舐めてくれるな!

 

「イッセー、曹操達は今はいい!イッキの方が問題だ!アーシア、曹操が居なくなったなら力は戻ってるだろうから遠距離回復を試してみてくれ!」

 

「は・・・はい!」

 

アーシアさんが癒しのオーラを送って来るが俺を覆う負のオーラがフェニックスの涙と同じく弾いてしまう

 

「それなら白音!私達二人で浄化をイッキに掛けるわよ!アーシアはオーラが薄まった箇所から何とか回復の力をイッキに届かせて!」

 

「はい!姉様!」

 

「分かりました!」

 

黒歌と白音のダブル浄化で負のオーラが薄まった箇所を目掛けてアーシアさんが癒しのオーラを飛ばしてくれた事で肉体的には幾らかましになったが傷も治らない・・・恐らく呪いで肉体が傷つくのと回復速度が拮抗してしまっているのだろう

 

十全に回復のオーラが届いてないみたいだしな

 

「わ・・・私も解呪の魔法を掛けます!」

 

そこにルフェイも魔法を掛けようとしてくれるがアザゼル先生から待ったが掛かる

 

「いや、恐らく解呪の魔法は意味がないだろう。今のイッキは呪いが外側から掛かってるのではなく、内側からにじみ出ている状態だ・・・正直、サマエルを飲み込んだイッキが未だに生きてるのが信じられんくらいだ。兎に角今は時間が欲しい。態勢の整ってない今死神どもの相手なんぞしてられん―――ルフェイ、お前は可能な限り強固な結界を張ってくれ」

 

アザゼル先生の頼みでルフェイは周囲一帯に結界を張り、結界の角などに術式を補強して結界の強度を底上げする為と言って離れていった

 

それにしてもそうですか、本来ならとっくに死んでますか

 

アザゼル先生の考察を聞いて体の中に渦巻く負のオーラを努めて無視して必死に頭を回転させる。中々思考が定まらなかったが一つの可能性に行きついた

 

サマエルを吸収したのは俺の神器、【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】だ

 

そして最初にサマエルを吸収した直後は俺の中の『器』とでも表現できる感覚のものに悪意が溜まっていくような感じがした

 

Fateのアンリ・マユはある意味で『この世全ての悪』そのものと云えるから『サマエル』の持つ『神の悪意』が俺の神器に惹かれるのはギリギリ理解できる

 

なら何で今の俺が単純な悪意の総量で云えば『この世全て悪意』に及ばないと推測できる『神の悪意』を受け止めきれていないのか・・・【神性 C+】が原因じゃね?

 

アンリ由来の【神性】が悪意の受け皿としての機能を仮に持ってたとしたら最初の『器』=【神性】に悪意が溜まり切るまでの間俺が無事だったのも今この瞬間に俺がまだ死んで無いのも分かる気がする―――今俺の体に満ちているのは【神性 C+】で受け止め切れなかった、『器』から溢れた分の悪意だけって事になる・・・いや、十分死にかけてるんだけど

 

ならば俺もどこぞのA・U・Oみたいに【神性 A+】も有れば良いのか?あの人聖杯の泥を浴びて『この俺を染めたくばその3倍は持ってこい』とか言ってたし・・・いや、アレは別に【神性】そのものは関係無かったのかも知れないけどさ

 

何とか【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】の親和性を上げるなら此処で禁手(バランス・ブレイカー)に至るしかない・・・というか至らないと遠からず死ぬ!

 

でも、ただ至るだけで良いのか?今の俺の中には膨大な負の感情が流れ狂ってるからそれを利用すれば禁手(バランス・ブレイカー)の発動条件を裏技に近い感じでクリアできると思う

 

でも出来れば保険を掛ける意味でも【神性】にそれなりに特化した至り方をした方が良いだろう・・・上手くいくかは分からんが、引き上がった【神性】の感覚を感じ取りながら至ってみるか

 

イッセーの『赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)』で俺の【神性】を引き上げられるのは以前のライザーとのレーティングゲームで実証済みだ

 

それでも『ギフト』の力はドラゴン由来だから黒歌と白音が浄化を掛けてくれているとは云え、出来るだけ強力な『ギフト』が欲しい!

 

「・・・イッセー、聞こえるか?・・・頼みがある」

 

正直体はボロボロだし頭が割れる様に痛いので掠れた声しか出ない

 

「ああ!どうした?イッキ!?何でも言ってくれ!」

 

イッセーが必死に心配する声を俺に届けてくれる

 

「リアス部長の胸を・・・・突いて・・・くれ・・・」

 

「『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』」

 

あ、目も霞んでるし耳鳴りも酷いけど皆が固まったのは何となく分かったぞ

 

「イッキィィィィ!?如何したお前!?ついにサマエルの毒がお前の頭を侵食したのか!?意識をしっかり保て!」

 

「そうよイッキ!今イッセーが私の胸を突いて一体どうなると云うの!?」

 

うん。当事者二人は色々と必死だな。でもそんな事よりさっさとして欲しい・・・大分意識が朦朧としてきたんだから

 

「何・・・なら・・・朱乃先輩の胸も・・・同時でも良い!」

 

そう言うとイッセーが鼻血を噴き出した

 

「グハッ!想像したら鼻血出てきた!いやでもイッキ!リアスも言ったがそれでどうするんだよ!?それにサーゼクス様も言っていたけど右の乳首と左の乳首、両方同時に押す為に腕は2本在るんだろ!?二人同時に押すのは確かに大変魅力的だけどそれじゃあ俺はリアスと朱乃先輩の右と左、どっちを押せば良いんだよ!!」

 

仲間が死にかけててもそういう処は妥協しねぇんだなお前も!

 

「なら人指し指と親指を限界まで開いて二人には胸の山頂を寄せて上げて貰え!二人の胸の柔軟性を考慮すればお前は四つの頂に同時に指が届くはずだ!」

 

アレ?何か俺今変な事口走らなかった?まぁいい、どうせ大した事じゃないだろう

 

「な!?・・・イッキ、俺は・・・俺はお前に何度教えを受ければ良いんだ?」

 

何かイッセーが感動してるような声音だけどそういうの良いから!

 

「それで高まった力で俺の【神性】に力を譲渡するんだ」

 

「【神性】に?い・・・いや、やっと真面で真面目なセリフを聞けた気がするぞ―――兎に角それでお前は助かるかも知れないんだな?リアス!朱乃さん!どうか俺にポチッと押させて下さい!」

 

「リアス!私は既に準備万端ですわ!!さぁ、早く貴女も胸を差し出しなさい!」

 

何処か遠くで朱乃先輩の凄くテンションの上がった声が聞こえた気がした。どうやらイッセーが二人に頼みこんだら間髪入れずに朱乃先輩が反応したようだ

 

「あ・・・朱乃貴女!思い切りが良すぎよ!」

 

リアス部長がツッコミを入れるが黒歌が痺れを切らしたようだ

 

「ああもう!さっさとするにゃスイッチ!もうイッキが限界に近いにゃ!」

 

「部長!早くして下さい!」

 

「これ以上待つようなら最悪朱乃様の乳力(ニュー・パワー)だけでも!」

 

3人に急かされてリアス部長も覚悟を決めて胸を差し出す

 

「ああもう!分かったわよ!さぁイッセー、突きなさい!」

 

「ではお二人とも、いかせて頂きます!」

 

「ぃやん♡」

 

「ぁん♡」

 

イッセーの気合の入った声の後、二人の嬌声が聞こえたと思ったら莫大なオーラが直ぐ近くで爆発し、イッセーがすかさず俺に力を譲渡してくる

 

「いくぞイッキ!ダブルおっぱいの力をお前に託す!―――赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)!!」

 

『Transfer!!』

 

二人のおっぱいを突いて馬鹿みたいに高められた力が俺に贈られ、俺の【神性】にブーストが掛かると読みは当たったのか俺の体から瘴気が一時的に漏れ出なくなった

 

そして肉体的なダメージもアーシアさんの回復で治るがドラゴン由来の『譲渡』の力はどんどんと消滅していき、俺の【神性】も同時に削れていく

 

このままではまたさっきと同じになるのも時間の問題だからさっさと至るとしよう!

 

神の悪意に一時的に身を・・・と云うよりは心を委ねる

 

世界の流れに逆らうほどの感情の激流だってんなら十分過ぎるだろう

 

至る為にサマエルの感情利用したり、亜種になる確率上げる為にイッセーの『譲渡』を利用したりかなり他力本願だけど別に至れるんだったら何でも良くね?

 

ただ、この方法だと一時的に俺がバーサーカーになる恐れがあるのでその対策も必要だ

 

「【一刀羅刹】!それで禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

はい、そういう訳で強制気絶モードに入って至ると同時にぶっ倒れました

 

倒れる瞬間、黒歌の胸のクッションに受け止められたのは唯一の救いだったかも知れん

 

 

 

 

 

 

[黒歌 side]

 

 

サマエルの毒で死にかけてたイッキがスイッチで高まった赤龍帝の譲渡の力を贈られ、イッキが回復したと思ったら次の瞬間にはいきなり【一刀羅刹】で体中更に血まみれにして倒れてしまった

 

一瞬「禁手化(バランス・ブレイク)」と叫んでたしイッキの持つ神器の形が変わったように見えたけど本当に一瞬だったからよく分からない・・・でも、気絶して倒れたイッキを受け止めるとさっきまでイッキの体からにじみ出ていたサマエルの負のオーラが感じられないので如何にかイッキが上手くやったのだろうと思う

 

アーシアがイッキの【一刀羅刹】の怪我を治してから白音が仙術で体力の回復を図ろうとするので取り敢えず止めておいた

 

「待つにゃん、白音―――イッキが最後に意味も無く【一刀羅刹】を使ったとは思えないし、命の危機は脱したんだから体力の回復は後回しにしなさい」

 

「そう・・・ですね。分かりました・・・ですが本当にイッキ先輩が無事で良かったです。一時はどうなる事かと思いました」

 

まぁ確かにね。内側から負のオーラが滲み出てる以上は浄化も気休めよりはマシって程度だったし、私も白音も本気の浄化を使ってたから遠からず破綻してただろうしね

 

取り敢えずはイッキの全身が例によって血まみれなので魔力で服を洗浄して近くに在った長めのソファーにイッキを横に寝かせて頭の部分は私の膝の上に乗せる

 

掌をイッキの額に置いてイッキの体調に異変が起きないか様子を診ましょうか

 

「遠目にはイッキの神器にサマエルが吸収されているように見えたな―――イッキの神器にある名前、『アヴェスター』はゾロアスター教の聖典の名だ。右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)ってのも聖典の中に描かれる悪神の名前・・・黒歌、お前イッキに何か聞いてないか?」

 

アザゼルがイッキの事聞いて来るけど何かあったかにゃ?

 

ん~?そう言えば出会って間もない頃に何か言ってたような

 

「確か『アンリ・マユ』由来の神器だって言ってたにゃん。それと「所詮は偽りだから『アンリ・マユ』であって『アンラ・マンユ』じゃ無いんだ」とも言ってたんだけど、如何いう意味だったのかは分からないにゃ―――イッキって味方相手でも中々能力の詳細とか語らないで情報の漏洩を避けるタイプだし、あの時イッキが口を滑らせたのもまだ小学生の時だったからだと思うしね」

 

(事実は黒歌に出会って舞い上がって口が軽くなってただけであるが、その事を黒歌は知らない)

 

「『アンリ・マユ』に『アンラ・マンユ』?どちらもゾロアスター教最大の悪神の名前の事だ。呼び方が少し違うだけで同じ存在の事のはずだぞ?『偽りのアンリ・マユ』とは如何いう意味だ?」

 

そう言えば私も出会った直後で特に興味も示さなかったから深くは聞かなかったにゃ

 

すると赤龍帝ちん・・・いえ、イッセーがアザゼルに質問してるわね

 

「先生。イッキの神器には、えぇと此処で言うと『アンリ・マユ』って神様が封じられているんですか?・・・と云うかそもそもどんな神様なんです?」

 

「そうだな。まずイッキの神器はその『アンリ・マユ』を始め、何かを封じたタイプの神器じゃない。以前夏休みにイッキの奴が神の子を見張る者(グリゴリ)に来た時に一通りは調べたからな。そもそもアンラ・マンユは今も活動してる現役の神だ。『この世全ての悪』と表現される神では在るんだが、幾ら本物のアンラ・マンユでも聖書の神の悪意の塊であるサマエルを取り込めるとも思えん」

 

彼の言葉に皆が頭を悩ませてるけど如何やら此処で答えが出るような事柄では無さそうという事で丁度戻って来た魔法使いのルフェイに現状を聞く事にしたにゃ

 

「只今戻りました。その様子だとイッキさんの方は如何にかなったみたいですね。良かったです!・・・あれ?オーフィス様は何方へ行かれたんですか?」

 

「ああ、オーフィスはイッキが回復したのを見届けると「我、この周辺を見て来る」と言って颯爽と消えちまったよ。ルフェイの張った結界も在ったから取り敢えず問題無いと思うけど・・・それで結界の外の様子とかは確認できたか?曹操の奴は死神を呼ぶとか言ってたけどさ」

 

「はい。既にこのホテルは私の張った結界以外は死神の方々が沢山居る状態です。軽く探査魔法を飛ばしてみましたが現時点でも300は超えてるかと」

 

うへぇ・・・あの黒い集団がうじゃうじゃ居るとか一匹居たら30匹は居るっていうあの『G』を思い出してイヤ何だけど

 

「ハーデスの野郎、本格的に動き出したって訳か―――曹操が云うには力を削がれたオーフィスを捕まえる事は元々組み込まれた作戦のようだしな。向こうは事前に入念にオーフィス封じの術式か何かを用意してたと考えるべきだろう」

 

すると当のオーフィスが帰って来たわね

 

「オーフィス、体の調子は如何だ?」

 

「弱くなった。今の我、全盛期の二天龍より3回り程強い。それに、無限じゃなくなった」

 

「それは・・・弱くなったな」

 

「いやいやいや!全盛期のドライグやアルビオンより3回り強くてまだ弱いって価値観崩壊しそうなんですけど!?」

 

「そりゃ全勢力で最強だからな。二天龍の3回り程度なら三大勢力に加えて後一つか二つ他の神話勢力の力が加われば倒せるだろう。元が一匹で世界を同時に相手取れると考えれば十分弱まったと云えるさ。特に有限になってるのが痛いな。力が落ちたと云っても仮に無限のままなら世界相手に勝てはしなくても十分戦えたはずだからな―――しかし、英雄派が奪っていったオーフィスの力は今のオーフィスより1回りか2回りは強大なんだろう?考えるだけで頭痛くなってくるぜ」

 

確かに、力を割ってもなお世界の脅威とか笑えないわね

 

「そこまで差は無いはず。サマエルに力盗られてる間、我の力、『蛇』にして別空間に逃がした。今、それを回収してきた。だから、半分より少し盗られたくらい」

 

「!?そうか!曹操達がオーフィスの力がダウンしてたと云うのはサマエルによる力の変換効率が悪いのが原因じゃ無かったって訳か!ククク!英雄派め、オーフィスを舐め過ぎたな」

 

「ふぅん・・・でもこっちのオーフィスが有限って事は向こうの奪った力で創ろうとしてるオーフィスも多分有限って事よね?それって『蛇』の恩恵をもう新たに創るのは難しいって事なんじゃない?意味あるのかにゃ?」

 

「英雄派の奴らは『蛇』による強化に手を出さない方針みたいだからな。組織を纏められる圧倒的な強者の役割を果たしてくれれば最低限は問題無いって事何だろうさ」

 

そう言えばあの霧使いは『神輿に担ぐ』とか言ってたけど、何処までも他者を使い捨ての道具としか見てないのは気に喰わないわね

 

敵対者相手なら兎も角、仮にもオーフィスは味方でしょう?

 

何であれ全員揃った事で今後の方針を決めていく

 

オーフィスは力がまだ不安定な事に加えてこの結界が対オーフィス用に特化しているようだから脱出は難しいとの事だったので最低限外に中で起こった事を伝える為にミカエルともスムーズに連絡が取れるイリナっちにエクス・デュランダルが壊れたので修理が必要なゼノヴィアっちの二人がルフェイと一緒に転移で脱出する事になった

 

魔王側には英雄派が攻めてきたという連絡だけはイッキが伝えているはずだからミカエル経由でそっちにも直ぐに連絡がいくだろう

 

その際にルフェイがイリナっちに回収出来て無かった最後のエクスカリバーをフェンリルを仲間にするのに使ったからもう要らないという事で渡していた

 

エクス・デュランダルが更に強化できるみたいだけど、最大の特性である各種能力をゼノヴィアっちが使いこなせてないから強化と云っても今のところは微妙だと思うけどね

 

次にオーフィスを逃がすためにはこの結界をどうにかしないとダメって事で術者を倒すか結界の基点を破壊する必要があるって事で私とルフェイの魔法で詳しく探査するとこの疑似ホテルの屋上と2階のホール会場、最後に外の駐車場にそれらしき装置が見つかった・・・と云うかウロボロスの像とかこれ見よがし過ぎるけど、あの霧使いは多数の術式を使うみたいだしウロボロスの偶像というのも魔術的な意味を持たせているんだろう

 

駐車場の死神が一番数が多くて尚且つ霧使いの姿も確認できたからアソコが一番重要な基点のようだ―――スイッチ姫の提案でルフェイの結界が破れる直前まで全員の体力の回復に努めて開幕と同時におっぱいドラゴンが『真・僧侶』の2門在る砲門で屋上と2階ホール会場の装置を周囲の死神ごと一発退場して貰おうという作戦が採用された

 

本当は駐車場の霧使いと装置を一撃で破壊出来れば言う事ないんだけど神滅具(ロンギヌス)の防御力を考えると無駄撃ちに終わる可能性があるので却下となったわ

 

アザゼルや白龍皇たちも仙術で体内に巣くっていたサマエルの気を正常な気で体外に押し出すように吐き出させた上にルフェイが解呪の魔法をかけたのでアザゼルは大分持ち直したわね

 

流石にドラゴンの白龍皇とついでにファーブニルは直ぐに回復とはいかなかったみたいだけど回復に向かうようにはなったので感謝して欲しいくらいだ

 

作戦開始時刻まで今は後30分程、各々が回復に努めたり精神を集中させてたりする中で白音はアザゼルとあの白龍皇の治療の続き

 

二人とも流石に禁手(バランス・ブレイク)は無理そうだし白龍皇は体調不良を押してギリギリ普通の魔力戦が出来る程度・・・接近戦は出来なくはないが最終手段にしておきたいみたいだ。まぁ魔王の系譜の魔力による固定砲台でも十分に雑魚死神は葬れるだろう

 

アザゼルに関しては元々彼はドラゴンじゃないから作戦開始までに本人の体調はほぼ回復するだろうから問題無い

 

私はイッキの体力を回復中だ―――暫く経過観察して【一刀羅刹】の影響でオーラが弱弱しくてよく判らなかったけど、それでもイッキのオーラが変に乱れていたがそれも漸く治まって来たので回復させる事にしたのだ

 

イッキは結構血を流しちゃってるけど、それを踏まえても目覚めれば私達の中で3番目の強さになるからね・・・私とアザゼルに、もしかしたら『真・女王』とやらのイッセーも今のイッキ相手なら勝てるかしら?だとしたら4番目ね

 

それにしても、と膝の上のイッキの髪の毛を弄りながら思う

 

「イッキ・・・美味しそうになったにゃ~♪」

 

如何いう理屈かイッキの持つ【神性】にはサマエルの呪いを抑える効果が有ったみたいでイッキが禁手(バランス・ブレイク)したら彼の【神性】がかなり高まった

 

恐らく【神性】との親和性を高める形で亜種として顕現させたとアザゼルは言ってたけど今のイッキからはそれこそ神々と同等くらいの【神性】が感じられる

 

以前イッキに「さっさと至れば子種の質も上がる!」と言ったけど此処まで見事に要望に応えてくれるだなんてちょぉぉぉっと襲いたくなっちゃうわね♪

 

流石に今の状況がアレだし、初めてで寝込みを襲うだけならまだしも相手が気絶中というのは自分でも遠慮したい。途中でイッキが起きなかったら完全に独りよがりになっちゃうしね

 

そろそろあの術式(・ ・ ・ ・)も完成しそうだし、今のイッキを見てたら創作意欲が湧いてきそうだ

 

あ、不味いわね。ちょっと口元が歪んで涎が垂れそうになってるのが自分でもよく分かる

 

すると私の熱の籠った視線の気配に気づいたのかイッキがゆっくりと目を開けたみたいだ

 

「えっと・・・お早う?」

 

イッキのそんな気の抜けた反応に思わずクスクスと笑ってしまう

 

「お早うにゃん♪イッキ♬気分はどう?」

 

「・・・ホテルの中で周囲に結界が張ってある状況じゃ無ければこのままもう一眠りしたいくらいだな。あと、膝枕の感触は中々に最高って事くらいか?」

 

あらら、まだ少しボンヤリしてるのかしら?普段のイッキなら恥ずかしがって言いそうにないセリフだと思うけど・・・まっ、後で揶揄うネタにするにゃん♪

 

でも、名残惜しいけど切り替えて行かないとね。作戦時間まで余り猶予はない訳だし

 

「イッキ、今の状況と今後の方針。軽く説明するにゃ」

 

そう前置きしてから説明と他の皆にイッキが目を覚ました事を伝える事になった

 

あと、近々絶対にイッキの事を襲ってやるにゃ!

 

“ビクッ!!”

 

そう思ってるとイッキがいきなり体を震わせた

 

「どうしたの?イッキ?」

 

「いや・・・何か悪寒がしたんだが・・・」

 

それはきっと気のせいにゃ♪

 

 

[黒歌 side out]




繋ぎ回みたいになったのでもう一話書きました


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第五話 バランス・ブレイクです!

2話連続ですので一話前からお読みください


深く・・・深く意識が底に沈んでいく感覚がして暫くするとやっと底に辿り着いた

 

周囲を見渡すと真っ暗なのに自分の姿や足元なんかは不思議と見える空間だ

 

で、その足元には赤黒い泥が流れている・・・ちょっと誰かが此処で聖杯の中身を溢しちゃったのかも知れんな―――まぁその場合割と世界が崩壊しかねないけど

 

「此処はアンタの神器に対するイメージが空間を彩ってるのさ」

 

そんな馬鹿な事を考えていると前方から上半身が堕天使で下半身が蛇の男が闇から這い出てきた・・・ラミアって魔物の男版に翼が生えた感じだな

 

と云うかアレってサマエルだよね?拘束具無いけどさ

 

「よぉ、アンタが俺の宿主って事で良いんだよな?」

 

「良くねぇからさっさと出てけ!」

 

話しかけてきたけど誰が宿主だ!こちとらお前のせいで死にかけたんだよ!

 

「くっくっく!嫌われたもんだな。とはいえ俺様だっていきなり吸い込まれた身だからな。出ていけと言われても自分の意思じゃ出ていけないのさ―――そもそも出ていくつもりも無いしな」

 

「そうかよ、じゃあ死ね」

 

この空間では神器は取り出せないみたいなので貫手の構えを取ると向こうも慌て始めた

 

「おいおい、お前は俺の力を使って禁手化(バランス・ブレイク)出来たんだろ?もうちょっと俺に友好的になってくれても良いんじゃないのか?」

 

「? だからそうしてるぞ?今のお前は何故か普通に話せるみたいだけど実体のお前は神の呪いで永遠に苦しんでるんだろう?だから此処で魂ごと消滅させてやるのが慈悲かなってさ―――堕天使の部分とドラゴンの部分を引きちぎってサマ/エルにしてやるよ。もしかしたら上半身だけは呪いから逃れられるかも知れないぞ?」

 

うわ!ちゃんと救いの可能性も残して殺るなんて俺って優しい!

 

下半身が無くなった程度なら超常の存在ならもしかしたら生き残れるだろうしね!

 

「何だそのサマ/エルってのは!?ったく、俺があのクソったれの神に封じられてる間に人間も随分と様変わりしたんだな―――それと呪いで今も絶賛絶叫を上げてるはずの俺様が話せるのは此処が神器の奥、深層心理とか魂とか本能とかそんな感じものだけが入り込める空間だからだな。神の呪いも此処には届かんみたいだ。だからこそ俺は此処を離れたくないんだよ。肉体に精神が戻った瞬間また苦痛の日々だからな」

 

いや、だからこそ綺麗サッパリ消滅させてやれば良いんじゃ・・・

 

「消滅は勘弁だ!やっと真面に思考が出来る様になった次の瞬間に殺されたくはないね!」

 

心を読まれた!?

 

「そりゃ此処が魂が触れ合うような場所だからな。ある程度は読めるさ―――それで如何するんだ?こっちはぺらっぺらの意識体のようなもんだから戦いになれば抵抗できんし、それともやっぱり人間をエデンから追い出した切っ掛けになった大罪人は許せないか?」

 

「いや、俺ってクリスチャンじゃないからそこら辺は如何でも良いし、それに『最初の人』がエデンから追放されたからこそ今の人間界の在り方があるんだと思えばまぁ解釈は色々だろうけどサマエルは俺達を形作った恩人とも云えるよ―――善悪も判らずにエデンでずっと日向ぼっこしてるよりは良かったんじゃないか?」

 

そう言うとサマエルはキョトンとした表情の後、面白いものを聞いたとばかりに肩を震わせた

 

「この俺が人間たちの恩人?それはまた面白い解釈だな」

 

「まぁ俺は基本無神論者サイドだから人間は猿から進化したって説を押すけどね」

 

「最後で台無しになったな!一応今の人間の何割かはアダムとイヴの血が流れてるはずだぞ!」

 

あ、そういう感じなんだ

 

「それで?サマエルさんよ。お前は消滅したくないって言うけどそんなお前は俺に何してくれるんだ?勝手に俺の神器を間借りしておいて宿代も払わない何て言わないよな?」

 

「お前は磔にされた罪人からも搾取するつもりかよ!?強欲な人間だな!」

 

は?当然の権利だろ?

 

「別に俺は良いんだぜ?出すもん出せないってんならお前が内側に居ても俺にメリット無いし、消滅させるだけだ」

 

う~ん。この空間に来てから理性がいまいち働かないな・・・本能とか魂の空間って言ってたのはこういう意味か

 

「わぁったよ。お手上げだ。お前が神器で神の呪いを扱う時は俺も制御を手伝ってやる。アレは俺に向けた呪いであると同時に俺自身でもあるからな。変に暴走したりしないようにしてやるよ」

 

良し!交渉成立だな!

 

そうと決まればこんな辛気臭い場所はおさらばだ!

 

「なぁおい、ちょっと!こっちは数千年ぶりの会話なんだからもう少しおしゃべり・・・」

 

さっさとこの空間から意識を浮上させるとそんな声が聞こえてきたけど別に放って置いて良いよね?相手は罪人なんだしさ

 

「都合の良い時だけ罪人ネタを出すんじゃねぇぇぇぇ!!」

 

サマエルのツッコミ虚しく俺は意識が肉体に戻るのを感じたのだった

 

 

 

 

 

 

 

後頭部に柔らかい感触と良い匂いに包まれている感覚の中で目を覚ますと黒歌が俺の顔を覗き込んでいるようだった―――どうやら彼女に膝枕されていたらしい

 

取り敢えず挨拶をしたけど何か黒歌口元ニヤケて頬が少し紅潮してたけど何か変な事考えて無かったか?・・・気になる処ではあるが黒歌も俺が起きたのを見て少し真面目な表情で現状を語ってくれた。案の定と云うべきかまだ疑似ホテルの中でオーフィスの力は割られてしまったらしく、これから脱出するみたいだ

 

「お~うイッキ。しっかり回復したみたいだな―――神の毒を取り込んで、その上そこらの神クラスの【神性】まで持つようになったか・・・一度お前解剖してみて良いか?」

 

「断固遠慮します!」

 

アザゼル先生、さっき黒歌が俺に向けてたのとある意味同じような「ハァハァ」と息遣いが聞こえてきそうなヤバい顔しないで下さい!

 

心臓に直接電極ぶっ刺すくらいの事は余裕でやりそうだよ今のアンタは!

 

因みに今の俺は【神性 A】ってところだ。どこぞのA・U・Oには届かなかったけどAランクって半神で死後神になったFateの元祖ヘラクレスと同ランクだよな?十分凄いと思うし、やはり俺の持つ【神性】はこの世界の『神性』や『神核』とかとは少し仕様が違うのだろう

 

それから作戦開始前に皆が一か所に集まったのだが如何にもこの状況で上機嫌な人が居る

 

「うふふふふ♪」

 

「あの・・・朱乃先輩?随分と機嫌が良さそうですね?」

 

「あらあら、うふふ♪イッキくんのお陰ですわ」

 

「はぃ?俺ですか?」

 

間抜けな声が出た気がするけど俺何かやったか?

 

「あら?覚えていませんの?確かにあの時はイッキくんはサマエルの呪いで大変でしたから覚えて無いのも無理はないかも知れませんわね。いえ、追い詰められていたからこそなりふり構わない提案をしてくれたんでしょうけど・・・ふふふ♪お陰で私もイッセーくんの力になれましたのよ」

 

すいません。何言ってるのか全然分かんないです!え?俺何かしたの?どんな提案をしたの?

 

困惑してるとイッセーが肩に腕を回してきた

 

「イッキ・・・一度しっかりとエロスについて語り合おうぜ。今までは松田や元浜とも語らっていたエロトークにイッキに意見を振ってそれに答えるって感じだったけど、俺は一度お前のエロに対する主張や哲学をじっくり聞いてみたいって思ったぜ!」

 

イッセー!?お前何その無駄にいい笑顔で割と最低な事言ってんの!?そして本当に俺は一体何を口走ったの!?

 

「まっ、イッキがむっつりだって言うのは前々から分かり切ってた事にゃ」

 

「あの熱い物言いにはイッキ様の漢を見た気がしますわ」

 

「えっちぃのは嫌いです」

 

ああ!皆の中の俺の評価が変な方向に向いた気がするぞ・・・と云うか白音のそのセリフは何処のたい焼き好きの生体兵器だよ!

 

「ふぅん。白音がエロエロが嫌いだって言うなら私とレイヴェルでイッキの子種を貰おうかしら?レイヴェルは小柄だけど女の体つきには殆どなってるしね♪」

 

「私もですか!?わ・・・私はイッキ様が望まれるならその・・・構いませんわ!」

 

「だ・・・ダメです!私が嫌いなのはオープンなエッチな事であってイッキ先輩と、え・・・エッチする心の準備はもう出来てます!」

 

や~め~て~!!黒歌は兎も角レイヴェルと白音は学園生活があるでしょうに!ちゃんとそう云うのは十分に満喫しないと後で後悔するよ!

 

悪魔の生は永いんだから焦る事ないって!

 

「くくくっ、そうやって狼狽えている処を見ればお前がサマエルを取り込んだ程度で人格が変わったりしてないってよく分かるぜ」

 

こういう時何処かホッとした感じに話すから憎めないんだよな、この人って

 

「皆さん、結界がそろそろ持ちそうにありません」

 

「分かったわ。白音、イッセー、狙いは?」

 

「バッチリです!砲門は既に白音ちゃんに教えて貰った方角向いてるので後は撃つだけです!」

 

「では始めましょうか!イッセーの砲撃と共にルフェイ達は転移、その後前衛と後衛に分かれて駐車場を制圧するわよ!」

 

『はい!』

 

「では行きます!『龍牙の僧侶(ウェルシュ・ブラスター・ビショップ)!!』そんでもってドラゴンブラスタァァァァ!!吹き飛びやがれェェェェ!!」

 

イッセーの『真・僧侶』の二つの砲門から極大のオーラ砲が上下に放たれ、ウロボロスの装置の傍に居た死神諸共反応が消失した

 

「転移、開始します!」

 

「イッセー、皆、死ぬなよ!」

 

「必ずこの状況をミカエル様や魔王様にも伝えて来るわ!」

 

ルフェイの転移で脱出メンバーは無事に転移したようだ

 

「よし、後は駐車場の奴らを殲滅して装置も壊せば終わりだ!いくぞお前ら!」

 

アザゼル先生が駐車場側の壁に大穴を開けて前衛組が突撃・・・する前にオーフィスが外に掌を向けて攻撃を放った―――確かオーフィスの力が不安定だったはずなので確認も含めてファーストアタックは彼女にお願いしたのだ

 

“ドグオォッォォォォォオオオオオオオオオオンッ!!”

 

うわっは!今の一撃で駐車場の半分は死神と一緒に抉れたな!

 

ただ、着弾点はかなりズレてるみたいだ。ウロボロスの像を中心に爆発してたらそれで終わってたと思うんだが実質余波が届いただけだ・・・まぁ余波で既に被害甚大だけど

 

「上手く力、制御出来ない」

 

「やっぱりか、オーフィス、因みに今のはどれくらいの力を込めたつもりだったんだ?」

 

アザゼル先生が聞くとオーフィスは簡潔に答える

 

「ドライグの魔力弾くらい」

 

マジかぁ、強化されたとはいえイッセーの魔力量は大した事ないし、通常のドラゴンショットなら中級死神数体を屠れるくらいだろう

 

それがあの威力で放たれたと考えると本当に不安定なんだな

 

「分かった。予定通りお前は此処で大人しくしててくれ。下手すればこの空間全てを内側から吹き飛ばす何て事態にもなりかねん。お前は助かるかも知れんが俺らは敵も味方も全滅だ」

 

それを聞いたオーフィスはコクリと頷いてその場に体育座りした

 

死神達も初撃の動揺から立ち直ったのか不気味な鎌を手に空を飛んで俺達に襲い掛かって来る

 

前衛組はそれを見てこの部屋に辿り着かれる前にホテルの外に飛び出していく

 

因みに今回の後衛組はリアス部長に朱乃先輩、レイヴェル、白音にアーシア、あと体調不良のヴァーリだ―――ついでにオーフィスが待機組だな

 

まぁ何と云うか超絶攻撃特化固定砲台という脳筋仕様だったりする

 

死神が近づいて来る前に消滅させる!攻撃は最大の防御!って感じだ

 

勿論ウィザードタイプのリアス部長や朱乃先輩も攻撃程得意ではないけどそこそこの防御の魔力は使えるのだが二人の消滅の魔力に雷光、それにプラスして放たれる魔法の乱舞、さらには原作よりも大分マシなダメージになってるヴァーリの魔力に北欧の魔法が入り乱れてオーフィス目掛けて飛んでいく死神達が焼き払われる羽虫のように散っていく

 

オールラウンダーの白音は万一接近された場合も考えてあの場にいるけど今のところ仕事がないみたいだ・・・いや、仙術探知で変な不意打ちを喰らったりしないように警戒してるから働いてない訳じゃないんだけどさ

 

それにしても敵の防御を打ち砕き、敵の回避を数の暴力で潰し、敵の遠距離攻撃を真正面から迎撃して奥に居る敵を討つという清々しいまでの脳筋プレイである

 

実力差があり過ぎると無双ゲーになっちゃうのは仕方ないのかな?

 

だがそれを見たゲオルクも下級の死神では埒が明かないと思ったのか追加で霧を展開し、そこから大量の死神を投入する・・・感じるオーラの強さは上級悪魔くらいだから中級の死神だろう

 

そう考えると結構大盤振る舞いだよな

 

敵の中に居たジークフリートは剣士として祐斗が相手をする事になったけど今の彼なら引けは取らないだろうから迫りくる死神達を俺も相手をする

 

とはいえ俺も結構血を流したので激しく動き回るのは遠慮したいので対雑魚殲滅用の新技をお披露目するとしよう・・・何も秘剣の開発だけを推し進めていた訳じゃ無いんでね!

 

俺は掌から青白い炎をだし、それを闘気と混ぜ合わせる事で極大の蒼炎に変換して目の前の死神共を焼き払った

 

「イッキ!お前それもしかして狐火か!?」

 

同じく死神を相手取っていたイッセーが俺の出した炎を見て驚きながら聞いてくる

 

「おうよ!イヅナを俺に憑依させて一時的に狐の妖怪の能力を借り受けたんだよ!」

 

この場では必要ないけど今なら浮遊能力も使えるので以前オーディンの護衛をしてる時に空を飛べる能力が欲しいと話してたのも解消出来てたりするんだよね

 

「狐火を使う人間・・・イッキは今度は妖怪に手を出したか」

 

「何だその含みのある言い方は!?俺自身は人間の要素を捨ててねぇはずだぞ!」

 

別にこれと云って人間である事に拘りがある訳じゃないけど、人間辞めてない内から『非人間認定』を受け取る気は流石に無いぞ!

 

あとこの狐火も秘剣たちもそうだけどコレは俺の手札を増やしただけで俺自身のオーラ量とかが増えた訳じゃ無いんだよな

 

勿論鍛錬で少しずつは増加してるけど如何したもんかね?

 

悩みつつも追加の死神たちを半分くらい減らした処で今までの死神とは比較にならないレベルのプレッシャーを放つ2人の死神が現れた

 

≪やれやれ、中級とはいえ同胞たちをこうも一方的に倒されると少し複雑であり、また情けなくも感じますね≫

 

≪仕方あるまい。魔王の妹とその下僕たちだけなら力は有れどまだ甘いところも在っただろうが周囲を固める奴らが逸品揃いだ。此処は素直に相手を褒めておこうではないか≫

 

現れた死神は他の死神と違ってローブにそこそこの装飾が施されており、手に持つ鎌も刀身まで黒く染まり、更にドス黒いオーラまで纏わせている絶対に触りたくない代物のようだ

 

「貴様らは・・・」

 

アザゼル先生が雑魚死神を蹴散らして俺達の近くに降り立ち現れた二人に険しい視線を向ける

 

黒歌もヤバい気配を感じてか直ぐ隣に降り立ってくれた

 

≪初めまして、堕天使の総督殿。私はハーデス様に仕えている死神の一人。プルートと申します。以後、お見知りおきを≫

 

≪同じく、ハーデス様が配下、タナトスという者だ―――本当はプルートのみが此処に来る予定だったのだがサマエルが貴公等に奪われたという事で急遽、私も動員されたのだ≫

 

「誰が奪うかよ!勝手に俺の神器に引っ付いて来たんだぞコイツは!」

 

≪報告は受けている。お前が有間一輝だな?正直まだ生きていたとは驚いたぞ―――しかし、此方としては僥倖だ。お前ごとサマエルを回収する事にしよう。神器の研究を特に行っている訳ではない冥府ではお前とサマエルを分離するのは恐らく不可能なのでお前ごとコキュートスに封印する事になるだろうがな≫

 

冗談じゃねぇよバカ野郎!

 

「プルート、それにタナトスか。伝説にも残る最上級死神を二人も派遣するとは何処までもやってくれるぜ、あの骸骨爺はよ!」

 

≪あなた方はテロリストの首魁のオーフィスと結託して各勢力の和平を内側から崩そうと画策いたしました。その罪、万死に値します・・・と、今回はそういう理由を立てさせて貰いました≫

 

「よく言うぜ。どうせハーデスの事だから俺達悪魔や堕天使が気に喰わないから嫌がらせに曹操達テロリストに手を貸して各勢力が封印してきたサマエルを解放したんだろ?その上、サマエルがイッキの中に偶然入ったからって理由で地獄の最下層にぶち込むとか人間の魂を管理する神としちゃそりゃ如何なんだ?」

 

≪ふむ。確か人間界にこんな言葉が在るようですね―――『バレなきゃ犯罪じゃないんです』と。まぁそこの彼は不運だったというだけの話です≫

 

そんなバリバリに悪意が介在する状況を『運』で済ませられるかよ!

 

≪プルート、お喋りはそろそろ良いだろう。悠長にしていると他の死神共が全滅しそうだ。あまり死神の人材は豊富ではないのだから、これ以上減れば我らにもしわ寄せが増えるぞ≫

 

≪おっと、それは勘弁ですね。では、私は予定通りに出涸らしのオーフィスを頂きましょう・・・この状況でも参戦してない以上はやはり力が不安定なのでしょう。慎重に立ち回れば私でも捕らえられるでしょうからね≫

 

「イッセー!『真・女王』になれ!俺と一緒にプルートを殺るぞ!イッキと黒歌はタナトスを頼む!お前らなら連携が取れるだろうし、タナトスはお前狙いみたいだからな。もてなしてやれ!」

 

もてなしって相手神クラス何ですけど・・・まぁしょうがないか

 

先生とイッセーの相手も似たようなもんだし文句は言えんだろう

 

それに彼なら初めてのイッセーとのコンビもちゃんと合わせてくれるだろうしな

 

≪ふむ。私の相手は人間と元妖怪の悪魔か。向こうの堕天使の総督と赤龍帝に比べたら知名度では劣るが実力はそこそこのようだ。この鎌の錆落とし程度にはなりそうだな≫

 

如何やら急遽こっちへの派遣が決まった為かこっちの情報は余り持ってないようだな。見下してくれてるようだが油断も慢心もこっちは大好物だ!

 

「タナトス殿!有間一輝には全オーラを消費して一時的に神クラスになれる力が有る!更には自身の負ったダメージを相手に返す神器の能力もある。油断は手痛い反撃を受けてしまいますよ!」

 

≪成程、気を付けよう≫

 

ゲオルクぅぅぅぅぅ!!やっぱりテメェが俺の一番の天敵かも知れないな!勝手にこっちの手の内ネタバレしやがって!(逆ギレ)

 

「まっ、仕方ないわね。私も今回は本気でやらせて貰うにゃん」

 

そう宣言した黒歌はオーラを高めて全身に黒炎を纏う。しかし、今回はその先が有った

 

黒歌から生える『四本目』の尻尾だ!

 

「『四尾モード』ってところかにゃ?まぁこの先尻尾が増える度に変な名前つけるのも面倒だし、シンプルが一番よね♪」

 

≪ほう。元々最上級悪魔の中でも強い方と云える力が在ったが今は魔王級と云っても差し支えないようだ・・・コレは良い!思った以上に楽しめそうだ!≫

 

如何やら戦いを愉しむタイプらしいな。なら、こっちもいきますか

 

折角至ったんだし、今の俺は体力が足りてないから短期決戦に持ち込むべきだろう

 

「『禁手化(バランス・ブレイク)!!』」

 

苦節17年。やっとたどり着いた禁手化(バランス・ブレイク)だ!

 

先ず形はそれなりに変わった

 

奇形の短剣である右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)だがかなり大型の剣に変化している。色合いは元の赤黒い感じのままだが両方とも肉厚の片刃の剣に変わり、峰の部分は羽毛でも生えたかのようである。刀身には血管のようなものが浮き出ているのでかなり生物的な感じが加わってる・・・と、ここまで説明したが要するにFateのエミヤの扱う干将・莫邪のオーバーエッジをちょっと(?)禍々しくした感じだ

 

言うなればオーバーエッジ・オルタである―――本来のオーバーエッジを串カツのタレに漬けるように聖杯の泥に漬ければ完成しそうな見た目だ

 

今まで以上に刀身へのオーラの流れが良いし使い方も頭に流れ込んでくる

 

そして能力!禁手化(バランス・ブレイク)中に限るようだが同じ相手に何度でも『報復』が使えるみたいだ・・・ただし!クールタイムは24時間!

 

・・・クールタイムはまぁ良しとしよう。結局『報復』で付けた傷は俺が治れば向こうも一緒に治るってのに変わりはないみたいだし、強くなったかと問われれば割と微妙なんだけど、それよりももう一つ(・ ・ ・ ・)の能力が凶悪だ!

 

俺と黒歌は超速戦闘に入る・・・四尾となって各種能力が引き上がって時間を操る術で自己加速している黒歌に脳や肉体のリミッターを解除している俺だけどタナトスは普通に付いてくるんだよな―――【一刀修羅】を使いたい処だけどその前に神器の能力を試したい

 

上手くいけば倒せるだろう

 

黒歌が全方位から諸々ミックスした弾幕を幻術付きで放つが大鎌に危険なオーラを纏わせて豪快に振るうと迫りくる攻撃は相殺された

 

「なら、コレはどうかにゃ!」

 

黒歌は次に俺達の戦域に先の見えない対死神用の黒い濃霧を発生させる

 

≪むっ、毒か。多少ピリピリするな―――吸い続けるのは流石に体に悪そうだ。それに視覚以外にも気配阻害の効果もあるか。しかし甘い!≫

 

タナトスが再び大鎌を振るい、黒歌本体の居る場所に斬撃が放たれる

 

「にゃ!?如何して私の居場所が!」

 

≪分かったのか・・・か?私は死神だぞ?相手の魂を見るのは死神の基本能力だ。この霧はまだ相手の魂の気配まで隠蔽出来ていない≫

 

“ギィィィィィン!!”

 

黒歌に向かって話し掛けていたタナトスに俺が背後から近寄って一撃を見舞うがそれも普通に受け流されてしまった。これもダメか

 

≪だからこのような奇襲も通じない・・・しかし、キミは何故この霧の中で私の居場所を探れる?あちらの猫の妖怪に対抗術式でも仕込んで貰ったのか?≫

 

「いいや、仙術でも頑張れば魂感知は出来るってだけの話だよ!」

 

そこから始まる暗闇の中での大鎌と二刀の大太刀の乱撃

 

目は利かないし、音だって実はこの空間で乱反射してるのか四方八方から聞こえて来る

 

魂感知に関してはタナトスの方が上だろうがデスサイズの魂を刈り取るヤバさは逆にこの空間では鮮明に感じるので打ち合う事が出来る

 

黒歌も毒霧の濃度を更に引き上げるのに集中してくれたみたいなのでタナトスの動きも鈍ってるからこそだけどな

 

≪成程、人間としては感嘆する強さだ。しかし、死神に魂の分野で挑むのは間違いだったな≫

 

突如として腹に衝撃が走り、凄い勢いで霧から吹き飛ばされ、ホテルの壁に激突してしまった

 

そして俺の妨害のなくなったタナトスは黒歌の霧を衝撃波で霧散させる

 

≪鎌の動きは良く見えていたようだが私自身の動きは曖昧だったようだな・・・隙を突いて蹴り飛ばすのは難しくなかったぞ。お前の神器の力を考えれば余り痛めつける攻撃は出来ないから手加減はしておいた・・・さて、先に黒猫を始末した方が良さそうだな≫

 

確かに、派手に吹き飛んだけど俺が受けたダメージはそれほどでもない

 

何方かと云えば突き飛ばすような感じで蹴られたからな

 

まぁズキズキと痛いけどこのダメージを『報復』で返しても大した痛手にはならないだろう・・・以前の神器までならな!

 

喰らって貰うぜ新技を!

 

「【歯止めの利かない復讐者(アンリミテッド・アヴェンジャー)!!】」

 

≪グハッ!!?何だコレは!?≫

 

「如何かな?『神の毒』の味は?幾らドラゴンじゃないって言ってもやっぱりキクだろう?」

 

≪!!そうか、貴様の禁手(バランス・ブレイカー)としての能力か!?≫

 

御名答、『報復』で相手にダメージを返す時、一緒にサマエルの毒も流し込まれる仕様です

 

コレなら態とこっちからかすり傷を負いにいって発動させれば大抵の相手は大ダメージだ

 

ドラゴン相手なら龍王クラスじゃないとほぼ瞬殺、それに・・・

 

≪これは・・・呪いが際限なく流し込まれているのか≫

 

そう、元々の『報復』の能力は避ける事も出来ず、さらには俺の傷が治るまではサマエルの呪いが流れ込み続ける

 

亜種に至る為に【神性】との親和性に能力を振ったから流し込まれる呪いの量は大した事無いが呪いの質が質だし継続の毒のダメージはドラゴンでなくとも無視出来ないだろう?神クラスの力を持つアンタがどんどん体調が悪化していく程度にはさ

 

ヤバいなこの神器!ついに不遇の名を返上する時が来たのかも知れない!(フラグ)

 

もう使いどころの難しいポンコツだ何て言わねぇぞ!(フラグ)

 

凶悪で強力!もうこの先の強敵なんか怖くない!(フラグ)

 

邪龍軍団?サマエルの呪いなら魂ごと消滅だ!(フラグ)

 

≪ック!サマエルを回収に来たつもりがサマエルにやられるとは≫

 

苦しそうなタナトスの近くにプルートが降り立ち、他のメンバーも勢ぞろいする

 

ジークフリートとか祐斗にドラゴンの腕を2本は落とされたみたいだな

 

≪タナトス殿、手酷くやられたようですな。総督殿と赤龍帝も思ったよりはやるようです。周囲の死神も殲滅され、他の方々の援護も加わったので此方も仕留められませんでした。一度立て直した方が良いでしょう≫

 

ああ、他の皆は途中からイッセー達の援護をしたから一番隙の大きいイッセーもデスサイズの直撃は凌げたみたいだな―――こっちは黒歌が中身の見えない霧を展開してたから援護しようにも出来なかったんだろうしね

 

≪それに、丁度連絡も来ました。冥界を崩壊させる騒ぎを起こせば何処かで機会は訪れるでしょう。サマエルの呪いを抑えなければ死ぬかも知れませんよ?≫

 

≪・・・分かった。此処は引こう≫

 

「おいおいちょっと待ちなお二人さん!聞き捨てならねぇ事を言ったな?冥界を崩壊させるだと?そりゃあ一体どういう意味だ!何をし掛けやがった!」

 

アザゼル先生が光の槍を突きつけて問い詰めるとプルートはドクロの仮面を被っていても分かるような嘲るような笑いを見せる

 

≪そうですね。此処まで奮闘した貴方たちに敬意を表して余興の始まりを見せて差し上げます≫

 

プルートが何処かに連絡を取ると直ぐに転移魔法陣がプルート達の後ろに展開した

 

そこから現れたのは先ほどまでの中級死神よりも一段上のオーラを持つ死神・・・恐らくは上級死神が一人の褐色肌の子供を連れて現れた

 

「レオナルド!?彼は別の作戦を遂行中のはずだ。まさか連れ出して来たのか!」

 

≪ええ、まぁサマエルをまんまと奪われた貴方方へのペナルティだとでも思っておいて下さい・・・もっとも、最初から連れ出す気でしたがね。では、始めなさい≫

 

当のレオナルドは洗脳されているのか周囲の状況に反応を示さない

 

そんな彼に上級死神は懐から一つの拳銃を取り出した

 

良く見れば銃口の部分が注射針になっている

 

「それまで持ち出したのか!?まだ子供の彼には負担が大きい、どんな悪影響が出るか分かったものじゃないんだぞ!」

 

ジークフリートが焦る中、上級死神はレオナルドの首筋に針を突き刺す

 

すると途端にレオナルドが苦しみ始め、顔中に血管が浮かび上がる

 

「何だか知らないけどさせないにゃん!」

 

黒歌が大量の弾幕を張るがプルートがそれらをかき消してしまう

 

≪まだコレで終わりではありませんよ。最後までご覧ください≫

 

プルートの云う様に今度は小型の魔法陣を展開させて彼に近づけるとレオナルドがついに絶叫を上げ始めた

 

「う゛あ゛あああああああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!」

 

身を裂くような絶叫と共に彼の影がドンドンと膨らんでいき、巨大な人型の姿となる

 

まだ形が安定していないのか人型の影のような感じだが300メートルはありそうだ

 

さらに追加で200メートル級の巨大怪物も生み出されていく

 

恐らく原作と違いあの『薬』の効果で一回り以上はデカく、強力になったのだろう

 

不味い不味い!確かアレだけでも冥界に大打撃だったのにそれ以上とかアホみたいな被害が出る!

 

≪彼はアンチモンスターの創造に特化しているらしいので対悪魔用の・・・いえ、対冥界用のアンチモンスターを創って貰いました。ハーデス様は悪魔も堕天使もお嫌いなのでこの辺りで少し滅んで欲しいそうです≫

 

「はぁ!?ふざけるなよ!こんなもんが冥界で暴れたら見境無しじゃねぇか!何の関係もない子供たちや平和に暮らしてるだけの悪魔だって沢山居るんだぞ!」

 

≪言ったでしょう?赤龍帝。悪魔がお嫌いだと・・・悪魔というだけで皆殺しにする理由としては十分だとハーデス様はお考えです―――さて、この怪物を生み出したせいでこの空間も限界が近いようですね。それでは皆様、近いうちにまたお会いしましょう≫

 

プルートは隙を見せないまま恭しく一礼してタナトスと上級死神と共に転移していった

 

それと同時に巨大怪獣たちの足元にも転移魔法陣が展開する

 

「止めろぉぉぉおおおお!!」

 

アザゼル先生の必死の声に全員で一斉攻撃するがアザゼル先生や黒歌、パワー馬鹿のイッセーの攻撃でやっと少し傷つく程度でその傷も直ぐに再生してしまう

 

「なら!アーシアさん、回復頼む!【一刀羅刹!】」

 

“ズッバァァァァァン!!”

 

試しに何処まで通用するかと思って【一刀羅刹】の斬撃を放つが足から脇下の辺りまで切り裂いて後ろに倒れたが傷口自体はみるみるうちに再生していく―――アレでは実質ダメージは無いと云っても良いだろうな

 

一応オーバーエッジ状になった神器を両手持ちで振るった一撃だったんだけど・・・コレからは両手剣の鍛錬ももっと身を入れないとな―――木刀の素振りやっといて良かった

 

そんな風に若干現実逃避しているとゲオルクが倒れて放置されたレオナルドを回収し、ジークフリートも傍に立つ

 

「『薬』に加えて術者の精神をかき乱す魔法で強引且つ一時的に至らせたのか。コレではレオナルドは最悪もう使い物にならないかも知れないな。もっとじっくりとこの子を育てるつもりだったのに、やってくれるよ」

 

「ジークフリート、兎も角一度本部に戻るとしよう。レオナルドが完全にダメになったと決まった訳じゃない。直ぐに治療すれば何とかなる可能性はある・・・あまり期待は出来ないがな」

 

ゲオルク達も霧で転移してしまい、巨大なアンチモンスター達も皆の攻撃虚しく転移してしまった

 

「クソ!全員今すぐウロボロスの像を壊せ!この空間から離脱する!あのアンチモンスターを放って置いたら本当に冥界が崩壊するかも知れん。何としても食い止めに行くぞ!」

 

「『はい!』」

 

冥界を混沌と混乱の渦に陥れた魔獣騒動が幕を開けてしまった




俺のバランス・ブレイクは最強なんだ!もう、何も怖くない!!(フラグ)


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第13章 補習授業のヒーローズ
第一話 ウロボロスと、帰る家です!


俺達は無事にウロボロスの像を破壊してオーフィスも含めて皆で結界の外側に転移した

 

そのまま周囲に例の魔獣が目に見える位置には居ないのを確認してからグレモリー領まで再び全員で転移し、アザゼル先生は直ぐにサーゼクスさんやミカエルさんにシェムハザさんなどに同時通信で簡潔に事態を説明していく

 

≪成程、冥界の各地に正体不明の超巨大生物が出現したと緊急入電が在ったところだがそれは英雄派の・・・いや、ハーデス殿の仕掛けた神滅具(ロンギヌス)の騒動という訳か≫

 

サーゼクスさんが険しい顔でそう溢す

 

冥界を統治する魔王として決して捨て置けない案件だろう

 

≪それにしてもまさか本当にサマエルを使用するとは思いませんでした・・・ふふふ、少々天罰が必要かも知れませんね≫

 

ミカエルさんは笑顔が黒いですね!天使が神に天罰を与えるとかって『システム』的に如何なんでしょう?・・・まぁ他神話だから問題ないのか

 

≪しかし幾ら抗議しようにも証拠となるものが無ければ只管に白を切られて終わりでしょう―――アザゼル、例のモノは使用出来たのですか?≫

 

シェムハザさんがアザゼル先生に確認を取ると先生はニヤリと笑みを浮かべた

 

「ああ、バッチリだぜ!イッキの提案でこの日の為に開発したボールペン型盗撮器!―――ハーデス達は基本証拠を残さないように証拠隠滅や妨害魔法での録画防止などを仕掛けてるがコイツには神の子を見張る者(グリゴリ)の技術の粋を集めて録画という一点にのみ焦点を当てた作品だ!―――三大勢力を始めとして各勢力の和平によって流れてきた多様な術式をコレでもかと盛り込んだ逸品だぜ!冥府に閉じこもってるあいつ等じゃ最新のセキュリティーは張れないだろうと踏んだが案の定だ・・・もっとも、馬鹿みたいな数の術式をコスト度外視で付けたから日に一度は最上級クラスの奴がオーラを籠めないと起動もしない代物だがな・・・イッセー達の周囲はトラブルの宝庫だから何とかなると思ったが漸く報われたぜ!」

 

因みにその録画装置は俺とアザゼル先生が持ってたんだけど俺の持ってたのはサマエルの呪いで敢えなく破壊された

 

そこそこ頑丈には作ってあったみたいだけど神の呪いには耐え切れなかったみたいだ

 

「そんな先生・・・俺らを撒き餌か何かと勘違いしてませんか!?」

 

「うん?当たり前だろう?お前らオカルト研究部がこの短期間でどれだけ大事件に巻き込まれたと思ってやがる。まさにトラブルホイホイじゃねぇか。俺はそこに監視カメラを設置しただけさ」

 

アザゼル先生の言い分に皆が反論しようにも心当たりが多すぎて反論できない、苦虫を噛み潰したような表情になる

 

「まぁそれでもあの骸骨爺は意地汚く捏造だ何だと騒いで冥府の奥に引っ込みそうだがな。だが今回は物的証拠も押さえられた。何とイッキの神器にサマエルが吸収されたからな!」

 

≪『!!?』≫

 

これには流石に各トップ陣も驚いた様子だな

 

≪馬鹿な!神の呪いを吸収などすれば幾らイッキさんでも無事では済まないのではないですか!?≫

 

「まっ、確かに一時期ヤバかったがな。イッキの奴がサマエルの呪いを受け止められる形に亜種として神器を至らせたのさ―――世界の均衡を崩す、禁手(バランス・ブレイカー)の面目躍如って処だな」

 

≪それは良かった・・・しかしそれだとイッキ君がハーデス殿の一派に狙われる事になるな。アザゼルの盗撮を知らないのであればハーデス殿はこの魔獣騒ぎが治まるまでに証拠となるサマエルを回収したいと考えるはずだ。イッキ君の護衛に冥府そのものへの牽制も必要だな・・・分かった。おおよその指示を出し終えたら冥府には私が直接乗り込みハーデス殿と歓談でもするとしよう。アザゼル、付いてきてくれるか?≫

 

≪そういう事でしたら天界側からも切り札(ジョーカー)を切りましょう。実力は申し分ないはずです≫

 

「ああ、良いぜ。そういう訳だからシェムハザ、今回の件、細かい指揮は全部そっちに任せるぞ」

 

≪分かりました。相手が神器だと云うのならすぐに専用の観測機器を現場に送りましょう。話では随分と頑丈なようですから対抗術式は必要となりそうなのでベルゼブブ殿と連携を取って行きたいと思います≫

 

話は大体纏まったみたいだな

 

あとはハーデスが今後も要らないちょっかいを出さないようにしたいところだ

 

ハーデスは今回の件を追及されても暫く動きづらくはなるだろうけど多分数十年もすればまた色々暗躍出来るようになるだろう・・・どれだけ監視網が敷かれたとしても賄賂なり人質なり幾らでも手はあるだろうからね

 

冥界に甚大な被害を出しておいて恐らくはその程度だろうと考えるとどう考えても割に合わない。ハーデスなら内心嗤って罰を受け入れそうだ

 

以前アザゼル先生も言ってたがハーデスは人間の魂を管理する神の仕事は真面目にやってるみたいだし・・・今回俺はコキュートスに封印されそうになってる訳だけど

 

まぁそんなハーデスを実質厳重注意と軟禁程度で処罰を済ませる?冗談だろ?

 

ああでも、ハーデスって三大勢力だけでなく他の神話勢力にも色々ちょっかい出してるんだよな?なら、上手くすればもうちょっとキツ目の罰(・ ・ ・ ・ ・)を与える事も出来るんじゃないか?―――その為には多分彼ら(・ ・)の協力も必要になるだろうけどそこは原作知識を活かさせて貰おうかな

 

ああ、もしも上手くいった時の事を考えれば口角が上がっちゃいそうだ!

 

いかんいかん!今の段階では絵に描いた餅だし今は魔獣たちを如何にかするのが先決だ

 

「では、我々は一番近場の魔獣の下に向かいます。足止めに重点を置き、周辺住民の避難の時間を稼ぎたいと思います」

 

リアス部長が前に出てそう進言する。まぁこの人が冥界の危機に黙ってるなんて事は無いだろう

 

≪分かった。許可しよう。魔獣を倒すには大規模な攻撃は必要不可欠となりそうだからね。住民の安全確保は最優先事項だ≫

 

「よっしゃ!行くぜイッキ、木場!俺達で冥界を守るんだ!」

 

イッセーが気合を入れて男衆に声を掛けて後ろに居た俺達に振り返る

 

「・・・って、アレ?イッキは何処だ?」

 

イッセーがキョロキョロしてるけど別に遠くに居る訳じゃないんだがな

 

「イッセー、下だ。下」

 

「おわ!何で倒れてるんだよ!?」

 

「サマエルの呪いと最後の【一刀羅刹】で血を流し過ぎた・・・後、エネルギー枯渇中」

 

傷はあの空間でアーシアさんが治してくれてたから自己回復に意識を割けるけどまだまだ動ける状態じゃないんだよ・・・皆空中モニターの緊急トップ会談に夢中で俺だけぶっ倒れてるの地味に寂しかったんだぞ!イッセーも「あ~」みたいな反応しやがって!!

 

「そういう訳なのでリアス部長。ちょっと血を補充する時間を下さい・・・後、巻き込まれたさっきは兎も角、冥界の戦いに自分から参戦するなら八坂さん経由の許可を取らないと後々面倒だと思うのでそっちの手続きも済ませておきますね」

 

三大勢力所属なら兎も角、俺が勝手に参戦したらダメだろう・・・まだD×D結成前だし

 

「ええ、分かったわ。確かに妖怪サイドに身を置く貴方を勝手に戦力に数えたら問題になりかねないわ。レイヴェルもイッキの傍に居て―――婚約者のイッキの傍で戦うというなら兎も角、グレモリー眷属がレイヴェルを家の許可も無しに戦力に数えるのはやっぱり問題だからね」

 

「私もイッキの傍に居るにゃん。仙術で体力の回復も必要だし、今の状況じゃ何時死神が現れるか分かったものじゃ無いからにゃ」

 

「・・・分かりましたわ。私も両親を説得して冥界の危機に立ち上がりたいと思います!」

 

レイヴェルも気合を入れてるな・・・流石にレイヴェルの立ち位置的に避難誘導とかが主な仕事になるとは思うけど、今は人手が欲しいからな

 

「まぁそう言う訳だから悪いが少し遅れて行くわ」

 

「おう!頼りにしてるぜ、親友!」

 

出ていく皆を見届け、アザゼル先生に証拠映像の取り扱いを少し意見を出してから八坂さんに連絡を取る・・・医務室で輸血されながらだけどね

 

≪あい分かった。冥界の危機ならばわらわ達も力を貸そう。一先ずイッキ殿を先兵として送り出したという体裁にしておくからの・・・くれぐれも気を付けるのじゃぞ?≫

 

「分かりました。有難うございます―――それでは、コレで失礼します」

 

それから暫くすると髪を三つ編みに一本に纏め戦闘服を着たグレイフィアさんとバラキエルさん、龍の顔を持つ紅い鱗を持つ馬が現れた

 

「イッキさん。サーゼクスの命で貴方の護衛として行動を共にするように申し付かってきました」

 

「うむ。お前が取り込んだというサマエルが無ければこの一件の後、政治的にも冥府の神を追及するのが難しくなってしまうからな。私もアザゼルに頼まれたのだ」

 

おお!マジか!メイドでもオフでもないサーゼクス眷属としてのグレイフィアさんは初めて見るな!それにバラキエルさんまでとなると皆さんハーデスを政治的に追及する気満々ですね!まぁアザゼル先生が言ってたようにサマエル無しじゃ証拠映像も捏造だ何だと騒ぎ散らすんだろうからな

 

すると残る紅い馬(?)が自己紹介してくれた

 

「私は初めましてになりますな。サーゼクス様が臣下、『兵士』の炎駒(えんく)と申します。幻獣・麒麟と云えば伝わるでしょうか?宜しくお願い致します」

 

麒麟!どうしてもビールの絵柄が真っ先に思い浮かぶけどあの麒麟ですか!?黄色じゃなくて紅だけどそう言えば麒麟って何種類か色違いが居るんだっけ?赤いギャ〇ドス的な?

 

内心少し失礼な事を考えてしまったが顔には出さずに挨拶を交わす

 

だがそこで外が慌ただしくなったと思ったら弱弱しい見知った気配がしたので思わず医務室から輸血用スタンドを持って飛び出してしまう

 

そこには全身血まみれのイッセーが担架で運ばれてすぐ横にアーシアさんが連れ添って回復のオーラを送り続けていた

 

「くそ!出血が止まらない!彼女の神器の回復速度を上回る勢いで怪我が増していってるんだ!早く輸血の用意をするんだ!彼の全身の血液を入れ替えられる位は用意しておけ!」

 

グレモリー専属の医者の方が必死で部下に指令を飛ばしている

 

おいおい!イッセー達と別れてまだそんなに経ってないぞ!

 

一体何が在ったっていうんだ!?

 

戦慄しているとグレイフィアさんが話しかけてきた

 

「イッキさん。いち早く現場に駆け付けた冥界のテレビ局が映像を捉えていたようです。放送を見れば何が在ったのか判るかも知れません」

 

「・・・分かりました。イッセーの事は彼らに任せましょう」

 

気持ちを抑えてテレビの在る部屋に赴き、全員で現場で何が起こったのか見る事となった

 

途中で黒歌とレイヴェルとも出会ったので一緒に状況の確認に向かう

 

如何やらレイヴェルも直接的な戦闘は最小限にとの事で許可は得られたみたいだ

 

レイヴェルの実力はギリギリ上級悪魔程度で不死身の特性込みならもう少し評価が上といった程度だから今の彼女ではあの魔獣相手では火力が足りてないしね

 

≪こちら、少し前の映像となります!≫

 

テレビのアナウンサーの言葉と共に映像が切り替わる・・・どうやらヘリのようなものに乗って上空から撮影しているようだ

 

≪冥界の各地に突如として出現した謎の超巨大人型の生物・・・と言って良いのでしょうか?人型の影のようなものが現れ、政府は非常事態宣言を発令し、周辺住民の避難を促しております!他の場所では早くも軍がかの謎の生物に攻撃を加えましたが殆ど効果を及ぼさなかったとの情報も入っております!≫

 

画面の中の人型の影はゆっくりとだが歩みを進めているようだ

 

≪おや?あちらに見えますは『若手四天王(ルーキーズ・フォー)』、グレモリー眷属のようです!フルメンバーではないようですが例の巨大生物に真っ直ぐに向かっております。成程、おっぱいドラゴンを中心にパワープレイが得意とされるグレモリー眷属であれば巨大な相手とは相性が良さそうに伺えます!―――いえ!ご覧ください!巨大生物が纏っていた影が徐々に薄れてその中身が見え始めております。一体何が現れると云うのでしょうか!?≫

 

確かに形のちゃんと定まってなかった人型がついにその影のベールを脱いだ

 

≪こ・・・コレはぁぁぁぁ!?中から現れたのは美女です!巨大な美女が出現しましたぁぁぁ!!更にはとても際どいビキニ姿であります!先ほどまでは普通に歩いていたのに美女の姿になった途端に腰をくねらせて大変刺激的であります!堪りません!!≫

 

ええええええええええ!?何で魔獣が美女何だよ!?

 

すると画面の中の鎧姿のイッセーがそれを見た途端にその場で急停止し、カメラさんが恐らくは冥界式の高性能収音マイクで声を拾う

 

≪ダメです部長!俺・・・俺はあんな素敵なお姉さんを消し去る事なんて出来ません!≫

 

≪何を言ってるのイッセー!冥界の危機なのよ!?ドラゴンブラスターを打ち込みなさい!≫

 

≪ああっとぉぉぉ!おっぱいドラゴンが美女を相手に戦意喪失です!≫

 

うん。何をやってるんだあの馬鹿は

 

そしてビキニ美女は今度は水着をずらして胸の先端を露出する・・・あ、謎の光は仕事してます

 

そしてそこから謎のピンクビームを地面に放射するとそこから生まれる平均的な背丈の美女と美少女の軍団!?全員がそれぞれ違う格好だ

 

天使でトーガ(ただし、ちょっと破れぎみ)とか猫耳とかスク水とかハーピィとかセーラー服とかブルマとかOL的なスーツとかSM女王様とか多種多様である

 

そして半数以上はやたら丈が短かったり透けた素材だったりしている

 

それを見たイッセーが鎧のマスク越しでも分かる量の血を吐き出してその場で倒れた

 

≪び・・・美女が・・・煽情的な女の子たちがあんなに一杯セクシーダンスしながらこっちに向かってくる・・・ああ、これは夢なのか・・・≫

 

映し出されるイッセーは既に鎧が解除されており、瞳に光が入ってない

 

だが、魔獣たちはそれに構うはずもなくアンチ悪魔用だからかその胸から主に光のビームを乱射して周囲を焼け野原に変えていく

 

≪っく!イッセーはこのままでは戦えないわ!アーシア!イッセーと一緒に今すぐグレモリー領に転送するわ!他の皆はせめてあの追加で出てきた奴らを叩くわよ!アーシアが居ない分深追いは避けて!いいわね!≫

 

≪な、な、な、何とコレはぁぁぁ!おっぱいドラゴンが溢れ出るエロスの前に敗北してしまいました!これから冥界はどうなってしまうのでしょうか!?魔獣の攻撃が開始された中我々も危険な為、一時的にこの空域から離脱致します。以上!現場からお伝えしました!≫

 

「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」

 

「何と云うか、イッセーがすみません」

 

アーシアさんが回復させる端から鼻血噴き出してたんだなあの馬鹿は

 

「いえ、イッキさんが謝る事ではありません。彼のスケベ心は彼の力の源ですが、如何やら今回はオーバーヒートしてしまったようですね」

 

冷静な分析、痛み入ります

 

すると今度はバラキエルさんの方に通信が入ったようだ

 

「むぅ、分かった・・・どうやら今回の一件、天界側は全力のバックアップ体制を敷く事に決定したようだ。教会の戦士はまだしも天使は前線に出るのは難しいらしい」

 

ですよね!堕天しちゃいますもんね!

 

テレビの続きを見て見ると他の箇所の魔獣たちも同じように超巨大美女と生み出された際どい又はあざとい集団が冥界を爆炎を背景にセクシィに蹂躙してるらしい

 

非常に馬鹿らしいのに災禍は広がるばかりだ

 

現着した軍の皆さんも放たれる魔力弾がいまいち力が籠ってないように見える・・・と云うかちょっと腰が引けてませんか?

 

あ、今鎧を脱ぎ捨てて裸一貫で突貫していった勇者(おろかもの)がおっぱいビームの集中砲火を受けてリタイアした・・・うん。口には出さないけどアンタは漢だったよ

 

隣のグレイフィアさんの目がスッと細まったのが超怖いけど

 

「えぇとですね。死神はあの時魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)の担い手の精神をかき乱す魔法で強制的に禁手(バランス・ブレイカー)に至らせたようです。それと、担い手の少年は対天使用の資料として英雄派の男性陣秘蔵の本やらDVDやらを曹操のリーダー命令で研究させられたようで、多分その辺りが混ざり合った結果があの美女型魔獣(集団AV撮影会)を実現させたのではないかと思います・・・思春期の少年には色々刺激が強すぎたのでしょう」

 

「つまりあの魔獣たちは英雄派の男たちの想いの結晶という事って訳にゃ?」

 

まぁ黒歌の言う通りだろう。そう思って改めて見ると色々と業が深い―――犬耳カチューシャ眼鏡上だけセーラー服な白スク水ニーソックスロリ巨乳とか誰が拗らせやがった!

 

プルートは対冥界用のアンチモンスターと言ってたけどついでに天使も封じるとは、コレはもう対三大勢力用のアンチモンスターと呼んで差し支えないんじゃないのか?

 

「それで、イッキさんはこの後どう動くおつもりですか?」

 

グレイフィアさんが真面目な話を振ってくれるのが今は凄く助かる!女神に見えてきたよ!

 

「そうですね・・・タナトスが何時現れるか分からない現状、俺は避難誘導に参加するべきではないでしょう。可能なら前線で戦いたいですが護衛される身でもある以上はダラダラと戦って消耗戦で魔獣の足止めをするのも得策とは言えませんし・・・」

 

大人しくしてるってのも悪くはないんだけど、如何したもんかね?

 

参戦する!って言っておいてその辺り考えて無かった・・・まだまだ俺もわきが甘いな

 

するとレイヴェルがおずおずと手を挙げて意見を言う

 

「あの、一撃離脱の戦法は取れないのでしょうか?イッキ様の【一刀羅刹】はあの魔獣にも確かなダメージを与えましたし、それ以上の破壊力を持つという【じばく】というものであれば倒す事も可能ではありませんか?」

 

「でもそれは最低でも周辺住民の避難が完了しないと使えないし、そもそも馬鹿みたいに攻撃範囲が広いからな・・・威力の調節とか出来ないし、いや、そもそも全力の威力じゃないと倒せそうには無いんだけどさ」

 

今の段階だとむしろ俺が冥界を破壊した感じになっちゃわない?

 

「それに仮に【じばく】で倒せたとしても爆発の範囲内には私達も近づけないから【じばく】の度に無防備なイッキをその場に晒す事になっちゃうにゃん。最初は兎も角二度目以降は死神たちとのイッキ争奪レースが始まるのはリスクが高いにゃ」

 

【じばく】の影響が収まった瞬間から始まるレースで片方は死神集団とかゾッとする光景だな

 

と云うかそもそも倒せて無かったら当然俺は魔獣の近くに放り出される事になるし

 

「はい、ですのでこう云う作戦は如何でしょうか?」

 

それからレイヴェルから語られた作戦を聞き終えると皆微妙な反応をしていた

 

アレ?何かこの反応見覚えある気がするな。良い作戦だと思うんだけど

 

するとバラキエルさんが代表として前に出て話しかける

 

「あ~、レイヴェル君に有間一輝、いや、イッキ君と呼ぼうか二人はそれで良いのか?」

 

? よく分からなかったのでレイヴェルと一緒に首を傾げる

 

「「何か問題が在りましたか?」」

 

セリフをシンクロさせながら返答してしまったがバラキエルさんは「う、うむ。本人が問題無いのであればそれで良いのだ」と少し狼狽えた感じだ

 

「・・・イッキさんとレイヴェルさんは『覇道タイプ』なので相性が良いのでしょう」

 

「と云うかコレってレイヴェルも無意識のうちにイッキのもう一つの属性の『外道タイプ』の影響受けてないかにゃ?」

 

何?俺って『覇道/外道』タイプなの?聞いた事ねぇよ!

 

ともあれ作戦開始には周辺住民の避難が優先との事で俺達は進撃する巨人達の中で一番周囲に被害が出ない相手を選んで暫くの間は待機する事になった

 

俺自身もまだまだ体力が回復してたとは言い難かったという理由もある

 

そうして時間が過ぎ去るとリアス部長達が戻って来たようだ

 

援軍の軍隊が駆けつけて住民の避難誘導も受け持った為、英雄派との戦いで連戦となった皆が冥界の状況把握と回復も兼ねて帰宅したらしい

 

皆制服とかボロボロになってるな

 

「イッセーの容態は如何?」

 

やっぱり最初はそこが気になるんですね

 

「何とか持ち直したみたいですよ・・・輸血に継ぐ輸血で大変だったみたいですけど」

 

「そう・・・次からはもう少し耐性が付いてるものと願いましょうか―――今回はいきなりの事で心構えが出来ていなかったでしょうからね。直接倒す事が無理でも譲渡の力で完全にサポートに回るのでも十分すぎる力になるわ」

 

確かに・・・迫りくる巨大怪獣(美女)は一度のおっぱいビームで百を超える美女・美少女軍団を生み出すようだし、それが全部で13体―――既に何度か集団を召喚してるなら数千を超える数の敵が出現してる事になる・・・イッセー相手ならある意味マジで天敵だな

 

そしてそこでリアス部長の視線がグレイフィアさんを捉えた

 

「グレイフィ・・・いえ、お義姉(ねえ)様!その恰好という事は出陣なさるのですか!」

 

「いいえ、今の私はイッキさんの護衛です。炎駒も居ますよ」

 

「炎駒!この間ぶりね!」

 

この間?訝しんでいると朱乃先輩が近くに来て説明してくれた

 

「(あらあら、修学旅行の前にオフのグレイフィア様が兵藤家に来たのはご存知でしたよね?)」

 

「(ええ、イッセーがその後戦隊ヒーローなサーゼクスさんと戦ったと云ってましたけど)」

 

「(その時、グレイフィア様の兵藤家への護衛として彼が一緒に来ていたのです・・・もっとも、その時は送迎だけでそのまま帰ってしまわれましたが―――サーゼクス様の眷属の方々は皆お忙しいそうなので、リアスも残念がってましたわ)」

 

へぇ、そんな事も在ったのか

 

「朱乃、久しぶりだな」

 

「お父様!お父様もいらしていたのですね―――やはり、イッキ君の護衛任務ですか?」

 

「ああ、アザゼルに頼まれてな」

 

「あはは、俺自身が護衛対象になるとか初めての経験なので変な感じがしますがね」

 

京都で八坂さんや九重と一緒の時とかは俺も護衛対象ではあったけどアレはどっちかと云えばオマケ扱いだったからな。明確に俺一人に護衛が付くとかは初めてだ

 

「仕方あるまい。映像とサマエル、この二つが揃ってこそ冥府の神への牽制はより力を増す。その上で狙ってくるのが最上級死神とあってはな」

 

出来れば此処で後顧の憂いを絶ちたいところですよ

 

「・・・彼女は(・ ・ ・)?」

 

炎駒さんとの挨拶や冥界各地の情勢も軽く聞いたリアス部長が真剣な面持ちで聞く

 

「今は彼等(・ ・)と一緒に居ます。会うにしても先にシャワーだけでも浴びてきたら如何ですか?イッセーも輸血さえすればもう元気になってるはずですし、声を掛けてきますんで」

 

「ええ、ならお言葉に甘えさせて貰うわ」

 

そう言ってリアス部長は皆を引き連れてシャワールームの方へ歩いて行った

 

そうしてイッセーとアーシアさんを気配で見つけてリアス部長達と合流してグレモリーの屋敷でも奥まった場所にある部屋に向かう

 

イッセーも流石は悪魔なのか体調はすっかり回復したようだ・・・何の策も無しに戦場に送り出したらまた鼻血でぶっ倒れそうだけどな

 

「それにしてもイッセー、何時も松田や元浜と鑑賞会してる割にあの程度でぶっ倒れる何て耐性無さすぎないか?」

 

「いやいやいや!テレビ越しや雑誌で見るのと実際に見るのとでは天と地ほどの差が在るんだよ!しかもそれが集団で迫って来るんだぞ!?しかも一人一人の女の子たちはそれぞれ魅力に似合った非常にあざとい魅せ方をしてくるんだ・・・あの神滅具(ロンギヌス)の持ち主は相当細部まで突き詰めて研究を重ねたに違いないね!」

 

そうか・・・レオナルドはそこまで追い詰められていたのか。もしくは拗れたか?

 

 

 

 

 

~何時かの時間の英雄派~

 

 

「えっと、グラビアアイドル、ミミちゃんさんの出来はこんな感じで良いですか?」

 

「いいやダメだな!ミミちゃんは下乳にほくろが在るんだ!更に相手に流し目を送る動作をする時に僅かに舌をペロっと舐める動作が足りてない!やり直し!!」

 

「細かすぎますよ!ちょっと気持ち悪いですよ!」

 

「おいおい、おっぱいの感触の再現度が足りてないんじゃないのか?やはりシリコンだけじゃ限界が在るんだろう。確か新幹線の速度で空気を掴もうとするとJカップ級の揉み心地になると聞いたな。良し!レオナルド!さっそく現地取材だ!」

 

「待て待て!それより先にこのロリっ娘ロゥリィちゃんだ。設定より背が高いぞ!」

 

「え!?で・・・でも雑誌に書いてあった背丈で再現しましたよ!」

 

「馬鹿野郎!それは厚底ブーツを履いた状態の背丈だ!ロリを売りにしながらもロリのコンプレックスを少しでも誤魔化す為の健気な努力、背丈を常に意識させるような挙動を取らせろ!!」

 

「ふえぇぇぇん!皆さん注文が細かすぎますよ!・・・あ!何持ち去ろうとしてるんですか!ダメですよ!この部屋から出た瞬間に崩れるように設定してますからね!」

 

「うおおおおお!?俺のサキュバスちゃんが泥人形みたいに崩れたぁぁぁぁ!?」

 

「ああ、まともに修行したい・・・お仕事(テロリズム)したい」

 

 

~何時かの時間の英雄派(完)~

 

 

 

 

 

思っていた以上にあの魔獣たちが英雄派の英知(せいへき)の結晶という事実は知らぬまま目的の部屋に辿り着き中に入る

 

部屋の中にはヴァーリチームとオーフィスが居た

 

「ようヴァーリ、調子は如何だ?」

 

「キミからそんな言葉が聞けるとはね。大分回復したさ、今からでも戦える・・・もっとも、流石に本調子に戻すには後一日は掛かりそうだがな」

 

そんな状態で戦えるとか言うなよ

 

「そう・・・オーフィスは如何かしら?」

 

「あの結界の中の時よりはマシになった。でも、まだ力、安定しない」

 

そこまで言った処でオーフィスの瞳が一緒に部屋に入って来た炎駒さんに向けられ、トテトテと炎駒さんに近づいて彼の顔をジッと見つめる

 

「あの・・・私が何か?」

 

「グレートレッド?倒す?」

 

オーフィスが掌をスッと持ち上げる

 

「いやいや待て待てオーフィス!確かに炎駒さんは紅い鱗に龍みたいな顔立ちしてるけどグレートレッドじゃないから!頭を叩いたりしたら首がすっぽ抜けて麒麟からデュラハンの首無し馬(コシュタ・バワー)に(ジョブ)チェンジしちゃうから!」

 

「イッキ殿・・・流石に私も首が取れたら転職する前に昇天してしまうのですが・・・」

 

と云うか冗談だよね?そんな理由で一々攻撃してたら炎龍(フレイム・ドラゴン)とかとっくに絶滅してるよね?赤いし

 

「・・・ルフェイが冗談を時々会話に混ぜると良いと言っていた」

 

部屋の全員の視線がルフェイに向く。するとルフェイは顔を赤くして頬を掻く

 

「オーフィス様にはもっと他人と仲良くなる術を知って貰おうと思いまして」

 

ああ、成程ね。でも、無表情のオーフィスがやると冗談に聞こえない場合が多々あると思うんだ

 

「あ~、それでヴァーリチームは禍の団(カオス・ブリゲード)ではどんな扱いになったんだ?曹操達英雄派と明確に敵対した訳だけど」

 

そう聞くと今度は溜息を一つ吐いてから詳細を語りだした

 

「今、私達ヴァーリチームは禍の団(カオス・ブリゲード)から追われる形となっています。本部からの通達では『ヴァーリチームはクーデターを企みオーフィス様を騙そうとした。オーフィス様は英雄派が無事奪還。ヴァーリチームは見つけ次第始末せよ』という事になっています」

 

「何だそりゃ!?事実とまるっきり逆じゃねぇかよ!?あいつ等オーフィスを襲った張本人たちだぞ!何処までもふざけやがって!!」

 

イッセーは憤るがヴァーリは苦笑するだけだった

 

「まぁ俺達はお尋ね者同士だからな。こういう事もあるさ―――無論、落とし前は付けさせてもらうがな」

 

「へっ、そうかよ―――それでお前たちは今後如何するんだ?今回の件で禍の団(カオス・ブリゲード)には居られなくなるんだろう?」

 

「別に特に変わらないさ。禍の団(カオス・ブリゲード)に居た時も強者と戦えそうな任務が在れば活動(テロ)していたが、それ以外は専ら世界を旅して回ってただけだしな。曹操達が敵対してくれるようになると云うのならそれはそれで歓迎するさ」

 

うわぁ、マジでバトル脳だな。自分から敵を創って常在戦場を演出するとか真似したくないわ

 

「私はヴァーリに付いて行くつもりです。彼の傍に居れば強敵に事欠きませんし、世界を旅するついでに観光もしてるので皆さまが思うほどギスギスしてる訳でもないのですよ?」

 

「私も兄と一緒に付いて行きます!ヴァーリ様たちったら放って置くとカップ麺しか食べないですから心配何です!カップ麺の加薬で野菜を取った気になる位で、私が抜けたらフェンリルちゃんのご飯までカップ麺になってしまいます!」

 

ああ、ルフェイは料理番長的な立ち位置なのか

 

「ルフェイ、余り誤解を与える発言をしないで下さい。街中に潜入する時などはちゃんとレストランなどで真面な食事もしてるじゃないですか」

 

「野宿の時は私が居ない時は全滅じゃないですか!それにヴァーリ様と美猴様はどの町に着いても最初に探すのはラーメン屋ですし!」

 

おお~これを機会にルフェイが普段の不満をぶちまけてるな

 

「サラマンダー・富田。貴方は如何ですか?」

 

兄のアーサーも分が悪いと悟ったのか残るメンバーである壁際で腕を組んでハードボイルドな空気を滲ませていた河童に問う

 

「契約はまだ続いている・・・それだけだ」

 

渋い!仕事人だわこの河童!

 

「俺っちも付いて行くぜぃ。今まで自由に楽しくやれてたんだ。今更抜ける理由はないってな!」

 

ヴァーリチームは意外とアットホームな感じだよね

 

「なら、最後にオーフィスは如何する?いや、如何したい?」

 

「我、分からない。次元の狭間に帰れるなら利用されても良いと思った。でも、曹操たちはその気は無いのも分かった。戻る場所、無い」

 

それを聞いた皆は微妙な表情になる

 

「なら、前にドライグが聞いた時ははぐらかされちゃったけど答えて欲しい。オーフィスは何故、次元の狭間に帰りたいと思ったんだ?人間界とか冥界とかじゃダメだったのか?」

 

静寂を得るだけなら何処かに隠れたりとかって選択肢も有ったんじゃないか?

 

「我の周り、自然と誰かが集まる。その者達、我を畏怖して遠巻きに力を欲する。我はそれを楽しくない?・・・そう楽しくないと感じた。だから再び静寂を得たいと思った」

 

ああ~、どの時代でも『絶対オーフィス利用するマン』にストーキングされ続けた訳か

 

オーフィスの性格がもう少し好戦的ならとっくに世界滅んでたかもな

 

「じゃあさ、俺ん()来いよオーフィス!俺達はオーフィスの力を利用したりしねぇし、ここ数日でもかなり俺達と打ち解けたんじゃないか?いや!俺達はもう友達だ!ダメか?」

 

こういう熱い青春ネタを口に出来るのはイッセーの唯一見習いたい処かもな

 

「友達?それ、なると何かお得?」

 

「友達ってのは損得勘定でなるものじゃないよ。一緒に居て楽しいと思える奴らが集まればもう友達だ。オーフィスは俺達と過ごした数日は楽しく無かったか?」

 

「・・・楽しかった・・・と思う・・・我、赤龍帝の家に帰る、良い?」

 

「おう!」

 

二人のやり取りをリアス部長が呆れたように、でも何処か嬉しそうに見る

 

「全くイッセーも勝手に決めちゃって。調整が大変そうだわ―――でも、私も賛成よ。皆が彼女を抱っこしたりしてるのを見て私も実は気になってたのよね」

 

「あらあら、部長。オーフィスちゃんは私の娘ですわよ。そして夫は・・・うふふふ♪」

 

「ダメよ!そんな邪な感情でオーフィスを抱っこさせられないわ!」

 

何か二大お姉様方がオーフィスの抱っこ権を掛けて火花を散らしていらっしゃる!

 

「まっ、もし良かったら俺の家にも遊びに来てくれよ。イッセーの家の隣に住んでるのは知ってるだろう?」

 

そう声を掛けるとオーフィスもコクリと首を縦に振る

 

「我、皆と友達になる」

 

そう言うとオーフィスは皆に向けてニッコリと笑顔を向けた

 

あ、今の笑顔で何人か撃沈したな―――ギャップ萌えに弱いのが何人か居たようだ

 

こうしてオーフィスをこの一件の後、兵藤家を中心にして匿う事が決定したのだった




取り敢えず今章は予告通り自重を自重していきたいと思います

今のところ予定としては

ジークフリートが一番酷い目に遭って
ハーデスが一番酷い事になって
ジャンヌが一番強化されて
ギャスパーが一番迷走させようかなと考えておりますw

レオナルドが酷い事になってるのは既に過ぎ去った出来事なのでカウントは無しでお願いしますw


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第二話 汚ねぇ、花火です!

オーフィスが兵藤家に住む事が決定してから直ぐにアザゼル先生が部屋に入って来た

 

「おお~、集まってるなお前ら」

 

「先生!もう冥府に行く準備ってのは出来たんですか?」

 

イッセーの質問にアザゼル先生は頷いて答える

 

「まぁな。どうあれ冥界の危機に魔王が抜けるんだ。流石にサーゼクスなんかは身軽にさっさと冥府行きとはならんさ。だがサーゼクスも天界のジョーカーも準備は出来たみたいだからな。これから俺達はハーデスの野郎の神殿に電撃訪問だ」

 

・・・と、そこまで言った処で顔を顰めた

 

「ただ、この魔獣騒動だが更に面倒な事が起こり始めたようだ」

 

「面倒って何ですか?もう正直お腹一杯何ですけど・・・」

 

「魔獣たちの対処に軍や有力な上級悪魔や最上級悪魔のチームが出張っている。それを好機と取ったのか旧魔王派の残党たちが各地で内乱を起こし始めたんだ。戦力が激減した各街を今の内に占拠してしまいたいんだろうよ」

 

「はぁ!?そいつら馬鹿何ですか!?ただでさえ冥界の危機なんですよ!そんな事したら戦力を分散せざるを得ないですし一体どれだけの犠牲が増えると思ってるんですか!?」

 

いきなりのクーデターの情報に皆驚愕するか溜息を吐くかだ・・・溜息を吐く大人組は旧魔王派ならやりかねないと前々から思ってはいたのだろう

 

「良いんだよ。旧魔王派の奴らにとっては現魔王の政権の下で生きてる悪魔何てコレを機に多少減ってくれた方が後々支配し易いとか思ってんのさ」

 

イッセーがそれを聞いて「身勝手過ぎる」と溢す

 

「悪いニュースはまだ有るぞ。英雄派は世界中の神器所有者を強引に拉致して神器を無理やり禁手(バランス・ブレイカー)に至らせる研究を行い、その情報を拡散している・・・主に主によって不遇な扱いを受けてる、または不当な手段で無理やり眷属にされた神器所有者などにこっそりとな。で、案の定コレを機に各地の神器保有者の転生悪魔が主に反旗を翻したのさ」

 

「悪魔が皆、合意や忠誠、取引で眷属を得ている訳ではないものね。無理やり強引に眷属にするというのは禍根を残すから止めるよう政府から方針が出されているけど、それを守らない者が一定数居るというのが現状だわ」

 

リアス部長が苦い顔で首を横に振る

 

「反旗を翻すにしても主の悪魔をぶっ殺すだけなら良いんですけどね。家族や恋人とかを人質に取られたり、力で虐げられてきた人達が主やその家臣への復讐で終わるとは思えないですよ」

 

多少の混乱は在れどクズ悪魔が死ぬ分には俺としては対岸の火事だわ・・・もし俺が魔王の立場ならそう云う訳にはいかないんだろうけど

 

「イッキの言う通りだな。主の悪魔が後ろから刺されるだけならまだ自業自得で済むが復讐ってのは人の心のタガを容易に外しちまう。主である悪魔という種族そのものに対する憎悪になっても何ら可笑しい事は無い」

 

俺の【歯止めの利かない復讐者(アンリミテッド・アヴェンジャー)】とかまさにそれだよな―――『報復』は決して同じだけのものを返して終わりじゃない。相手が破滅するまで止まらないって感じに近いし

 

サーゼクスさん達現四大魔王の方々には同情はする。かつて三大勢力は天使陣営はもはや天使が減る一方で堕天使陣営は幹部が数える程しか居ないのに対し、悪魔陣営は新たな魔王が選出され、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)で戦力増強してたのに腐った悪魔が只管に足を引っ張って来るとか組織の長としてのストレスはミカエルさんやアザゼル先生より上だったんじゃないか?まだ天使と堕天使の陣営はトップの方針が割と通る組織だと思うしな

 

「・・・何時かこうなってしまうからこそ、サーゼクス達は呼びかけていたのですがね。聞く耳を持たない貴族悪魔がどれだけ居たのか、各勢力に知らしめる形となってしまいました」

 

グレイフィアさんも頭が痛そうだ・・・暫くは事後処理に追われそうですもんね

 

「アザゼル先生、英雄派の動きは見られるんですか?」

 

暗い雰囲気のままでいても仕方ないので話を次に移す

 

「今のところはまだ、だな・・・ただあの曹操がこんな絶好の機会に黙ってるなんて事は無いだろう。だからこそ今回はあの魔獣たち相手でも魔王や神仏が参戦するのが非常に難しくなってる。魔獣と戦ってる中で後ろから聖槍で貫かれた何て事に成れば下手をすれば世界規模の戦争にだって発展しかねん・・・和平を結んだって言ってもロキみたいに他神話を毛嫌いしてる奴はそれなりに居るからな」

 

ロキとかガチで戦争仕掛けてたからな

 

「何て言うか・・・思ってた以上に和平って危なっかしいんですね・・・」

 

「そうだな。だがその薄氷の上に成り立ってるような和平でも、崩させる訳にはいかないんだよ。今は薄氷でも時間が経てばもう少し位は氷も分厚くなってくれるさ」

 

積み重ねが大事ってやつですね

 

「ああ、そうそう。例の巨大魔獣たちだが呼び名を決めたぞ―――小さめの奴らが『豪獣鬼(バンダースナッチ)』で一際デカい奴が『超獣鬼(ジャバウォック)』だ・・・と云うかだな。あの巨大魔獣たちがあんな可愛い女の子集団に変わるって分かってたら冥府には俺じゃなくてシェムハザかバラキエルでも向かわせてたぞ!クソ!何が悲しくて女体天国に背を向けて骸骨爺の御尊顔を拝みに行かにゃあならんのだ!」

 

流石は堕天使の総督、欲望駄々洩れですね

 

アザゼル先生は毒づきながらもその場を後にしてそのまま解散となった

 

グレモリー眷属の皆は食事と仮眠を取ってから戦闘から避難誘導、リアス部長なんかはそれに加えてグレモリー家自体の保有する私兵への指示や各貴族間の連携とかで頭をフル回転させている―――グレモリー家当主のジオティクスさんやヴェネラナさんだけでは手の回らない部分を積極的に補っているようだ

 

俺はと云えば今は待機・・・じっとしてるのも落ち着かないがコレばっかりは仕方がない

 

一応グレモリー家で怪我人を癒して回ってるアーシアさんを仙術でちょくちょく回復させたりとかはしたけれど、何か馬車馬のように働かせている気になるので内心申し訳ない感じもするが非常事態なので勘弁して欲しい・・・アーシアさんとか本気で気にしないだろうけど

 

ともあれ半日以上は経過し、魔獣(美女)の内の一体の周囲―――俺の【じばく】の範囲をスカウターモドキで算出したデータの範囲内の住民の避難が完了したとの報告が来た

 

被害は抑えるつもりだけど最初だから最大限の範囲をカバーしようとしたら魔獣たちの騒動が始まってから合計で丸一日程度の時間が掛かってしまったが、それも終わりだ

 

先ず俺、黒歌、グレイフィアさん、バラキエルさん、炎駒さんで魔獣たちの進路上に転移する。流石にレイヴェルは今回はグレモリー眷属と避難誘導で戦闘の際は最後尾からの支援になるが、その辺りは割り切って貰おう

 

転移した先は少し上空の位置だったが辺り一面荒野とまではいかないが地肌が結構見えてる土地だった。成程確かに広大な冥界に置いても態々この周辺に住もうという悪魔は殆ど居なかったようだ。もっとも、魔獣の向かう方角には大きな街が在るそうなので出来れば此処で仕留めたい

 

「イッキさん。事前通告した範囲内は住民及び兵士たちの退去は完了したようです」

 

「分かりました。此方の仙術の探知とレーダー(スカウター)にも引っ掛かる反応は在りませんので早速始めようと思います」

 

グレイフィアさんの報告に此方でもチェックを入れた事を告げるとバラキエルさんがオーラを高めて前に出る

 

「うむ。では一番手は私が貰おう。雷光は殲滅にも向いている力だからな」

 

全員がアイコンタクトを入れた後に遠くに見える魔獣に向かって飛んでいく

 

遠くと云っても俺達の速度なら程無く到着するけどな

 

そうして近づいて行くと地面をわらわらと進軍する美女軍団がおっぱいビームやハート形のものが飛んでいくウィンクや謎のピンクの波動などで手当たり次第にただでさえ荒野なのをクレーター以外の凹凸の無い不毛の大地に変えていく状況とエンカウントした

 

もう少しで俺達自身も射程圏に入るだろうという所で黒歌が話しかけてきた

 

「ねぇ、イッキはあの女の子集団を見て何も思わないのかにゃ?」

 

「あそこまで馬鹿らしいのが突き抜けてると一周どころか三周回って何も感じないな」

 

多少目のやり場に困るけど何方かと云えばそれは反射行動に近いものが有ってエロス的な意味で心が揺さぶられる感じじゃない・・・何事も程々が大事なのだろう

 

勿論、こういうのが好きって人たちは一定数居るんだろうけど

 

イッセーとか今は戦う時は遠くから溢れ出る美女を目にして感動と美女が殲滅されることへの心の荒ぶりを力に変換して鼻血流しながら仲間に譲渡での支援をしてるみたいだしな―――聞いたところでは想いの強さが力に変換される赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)が滅茶苦茶仕事(譲渡)してるみたいだしな

 

遠目とは言え鼻血の貧血でぶっ倒れるんじゃないかと云うのは輸血用スタンドを戦場に持ち込んで常に血を補充する事で補ってるようだ

 

今頃イッセーの足元には涙と鼻血の汚ねぇ血だまりが出来ている事だろう

 

その代わり、イッセーが参戦した場合は皆の力が跳ねあがるので魔獣も足止め出来るらしい

 

考えが逸れたが目的のポイントまで到達したので一度止まる

 

「それではバラキエルさん。お願いします」

 

「うむ―――雷光よ!眼下の敵を焼き払え!」

 

此処に来る道中でバラキエルさんが溜めた雷光のオーラが一気に解き放たれて小型美女軍団が一瞬で雷撃の嵐の中に掻き消えていく

 

それと同時にグレイフィアさんが俺以外を包む転移魔法陣を展開させ、黒歌は自分の腕を少し切って血を流す。それを確認した俺はと云えば

 

「【一刀修羅!!】」

 

こうして【一刀修羅】で力を跳ね上げる

 

皆は転移していくけど此処まで一緒だったのは小型美女軍団の露払いと、道中でタナトスが出てこないようにギリギリまで護衛して貰う為だ

 

そうして皆が転移したのを見届けると余計な横槍が入らない内に速攻で巨大美女―――『豪獣鬼(バンダースナッチ)』に突撃する

 

今からだったら例えタナトスが転移して来ても転移が終わる前に片が付く

 

ハッキリ言ってコイツはアホみたいに堅い。対抗術式有りならそこそこと言った感じだったと思うが、そうで無ければ少なくともフェンリルよりは堅いと思う

 

正直俺の【じばく】の至近距離直撃で幾ら【じばく】に防御力半減効果が有るといっても倒しきれるか分からない・・・倒せなかったら自動再生されるだろう

 

それに幾ら冥界が広大と云っても俺の今の【じばく】の範囲だと避難の終わった村や町の一つや二つ巻き込む可能性が高いし、死神の問題もある・・・これらの問題を解決できるアイディアをレイヴェルは提案してくれた訳だ

 

敵である『豪獣鬼(バンダースナッチ)』も『超獣鬼(ジャバウォック)』も美女、即ち人型(・ ・)で再現されている

 

ならば当然口も在る

 

【一刀修羅】の超スピードで巨大な口の中に飛び込む!

 

生臭そうなのは息を止めてれば問題ないし、相手が口を閉じてても今の俺なら人ひとり分の隙間をこじ開ける程度は造作も無い!

 

口の中に入って第一段階クリア!そのまま喉の奥に空中を蹴って侵入し、肉の壁に触れないように仙術で光源を生み出して周囲を確認しながら胃袋の方に進む・・・まさかこんな小人体験をする事になるとは思わなかったよ

 

喉を通って胃まで到達すると胃酸(多分超強力)のある場所まで着いたがその先は存在しないようだ。もっとも、行く気は無かったけど

 

引き延ばされた感覚の中でそこまで確かめる・・・なお、此処まで皆が転移してから現実の時間じゃ10秒経ってないな

 

そう思いつつぶっちゃけちょっとグロく見えるこの場所からオサラバする言葉を紡ぐ

 

「【じばく】!!」

 

 

 

 

爆発して全身が叩かれたような派手な衝撃が入った次の瞬間には何処かに引き寄せられるような感覚が有り、黒歌の使い魔召喚術式で【じばく】圏内の外で『豪獣鬼(バンダースナッチ)』の様子を窺っていた黒歌に召喚された

 

黒歌の時間加速術式で【じばく】を視認から1秒経たずに呼び出して貰ったのだ

 

そのまま黒歌が体力回復の術を掛け、グレイフィアさんの再度の転移でグレモリー家に直行する

 

「如何です?上手くいきましたか?」

 

転移した先で聞くとグレイフィアさんが軍の観測班からの情報を伝えてくれた

 

「ええ、『豪獣鬼(バンダースナッチ)』は内側から粉々に弾け飛び、再生するような様子も無いとの事です」

 

それを聞いて取り敢えず息を吐く

 

レイヴェルの『相手が人型なら口の中に自動追尾型手榴弾(俺)を放り込んで爆発させれば倒せる上に敵が全方位肉壁になって被害も抑えられるんじゃね?』作戦が上手くいってくれたようだ

 

・・・そう云えば作戦名決めて無かったな

 

一応黒歌が俺を回収した時にタナトスが現れる可能性も考えて俺とグレイフィアさんにバラキエルさんはフェニックスの涙を所持している

 

各地で大怪我してる人達が居る為、黒歌と炎駒さんは配布が間に合わなかったようだが、戦時下ならそんなものだろう

 

むしろ五人パーティーでありながら三つも持っていて、俺と黒歌は仙術で多少の回復は出来ると考えれば破格なのかも知れんな

 

「それにしても・・・うむ。婚約者を敵の腹の中で爆発させるという策もそうだが仮にも美女の外見をした敵が内側から弾け飛ぶさまは衝撃的だったな―――遠目で且つ一瞬で爆炎に包まれたから良かったが検証のためにスロー再生などをしたらアザゼルは泣くかも知れん」

 

うん。確かにバラキエルさんの言う通り、余りリアルな想像はSAN値チェック案件になりそうな絵面だな。相手が魔獣だから倒したら消え去るけど仮にただの巨人とかだったら周囲一帯に生焼けの肉が散らばる事間違いなしだ

 

「ともあれこれで『豪獣鬼(バンダースナッチ)』であればイッキさんの【じばく】で倒せる事が実証されました。後は先ほどの『豪獣鬼(バンダースナッチ)』自身を盾とした爆発の範囲を調べればもっと効率的に殲滅して回る事が出来るでしょう」

 

「そうですな。それに嘆かわしい事ですが今は旧魔王派の者達が各地で暴れております。『豪獣鬼(バンダースナッチ)』の対処に回っていた兵士たちを順次、各所の援軍に向かわせる事も可能でしょう」

 

炎駒さんの言う様に残る魔獣と旧魔王派と神器保有転生者・・・いや、この機に乗じて虐げられてきた転生悪魔が集団決起してるかも知れんから人手は足りてないだろうしな

 

そのまま黒歌の回復を受けながら再び待機して縮小された【じばく】の予測範囲内の避難が完了した魔獣の所に赴き、敵を内側から弾けさせる―――何処ぞの戦闘民族の王子様なら『汚ねぇ花火だ』と言ってくれるだろう・・・この世界のドラグ・ソボールにもそんなキャラって居るのかな?

 

それから丸一日程掛けて追加で6匹程の『豪獣鬼(バンダースナッチ)』を冥界を彩る花火に変えて(気のせいか遥か遠くから悪魔や堕天使、英雄派の男たちの慟哭が聞こえた気がした)グレモリー家に出戻りして休んでるとレイヴェルが二人の男性と一緒にやって来た

 

「よぉ有間一輝。冥界のそこかしこを更地に変えているようだな」

 

一人はライザーでそんな皮肉を言ってくるがすぐに隣に居た物腰柔らかな正統派イケメン貴族な人に頭を引っ叩かれてしまう

 

「ライザー、冥界の為に戦い、アレだけの戦果を挙げてくれている彼に失礼だろう。初めましてだね、私はルヴァル・フェニックス。レイヴェルの兄でフェニックス家の次期当主だ。レイヴェルから通信や手紙でよく話は聞いているよ。キミの事を話すレイヴェルは何時も嬉しそうで聞いてる側も楽しくってね。元々近々直接会いたいとは思っていたんだ」

 

プライベートな話を暴露されたレイヴェルが顔を赤らめてルヴァルさんに喰って掛かる

 

「も、もう!お兄様!あんまりそう言う事をおっしゃらないで下さいな。恥ずかしいですわ!」

 

ルヴァルさんはそんな顔を赤くした妹の頭をポンポンと叩いた

 

「この通り、可愛い妹でね。幸せにしてやって欲しい」

 

そんな風に言われるとこっちも何だか苦笑してしまうな

 

「はい。必ず」

 

この場で余計な言葉も無用だと感じたのでルヴァルさんの瞳を真っ直ぐ見ながら必要最低限だけ返す。間に挟まれたレイヴェルが頭から湯気が出そうな感じになって俯いてしまってるけどルヴァルさんとしては今ので満足してくれたようだ。"うんうん"と頷いている

 

「キミみたいな子が義弟(おとうと)になってくれると思うと喜ばしい限りだよ。今まで、末弟のライザーは愚弟だったからね―――最近漸く真面になってくれて来ているがね」

 

「愚弟で悪かったですな」

 

ライザーが拗ねたような声を出すけどそうだよな。ルヴァルさんも後ライザーもレイヴェルと籍入れたなら義理の兄になるのか・・・呼び方は『兄上』若しくは『兄さん』か?違和感は在るが10回位呼べば慣れるかな?

 

「さて、私達が此処に来たのは何も挨拶だけが目的じゃなくてね。イッキ君、キミにコレを渡しに来たんだ」

 

差し出された箱にはフェニックスの涙が5つ入っていた

 

俺が倒した『豪獣鬼(バンダースナッチ)』は最初のを合わせて計7体だから残るは5体・・・つまりはそう言う事何だろう

 

「キミが魔獣たちを半分は倒してくれたお陰で冥界の戦力や同盟関係の戦士達の戦力は単純計算で2倍となった。倒せはしなくとも何とかその場に押し留める事には成功し、住民の避難もスムーズに進んでいる。今は貴重なこの『涙』だが戦闘を長引かせて怪我人を出すよりもキミの回復薬として活用し、魔獣を速やかに殲滅する方が被害は少ないと進言させて貰ったのだよ」

 

まぁ言ってる事は理解出来るのだが少し腑に落ちない点が一つ

 

「冥界の上役の方々が人間が活躍する手助けの許可とか良く出しましたね」

 

「はははは!確かにかなり渋っていたようだね。しかし現四大魔王様方は冥界を真に大切にして下さってる方々だし父上も張り切って他家と連携して交渉したと言ってたよ―――フェニックスの涙を供給する我がフェニックス家に最近医療の発達目覚ましいシトリー家、多くの女性の悩みを解消したピー(チチ)を売りに出し、『おっぱいドラゴン』という民衆の人気者を有するグレモリー家に掛かれば多少の意見は直ぐに通るさ」

 

メッチャ圧力掛けてるじゃないですか!娯楽、美容、医学、実力で政治的にマウント取りに行ってますね!もしかして日和見の中立派とかかなり現魔王派に引き込めたんじゃないですか?

 

冥界の政治を今の俺が気にしても仕方ないのかも知れないけど、いい傾向だと思おうか

 

「何より、キミが冥界で活躍してくれればイッキ君とレイヴェルの婚約を発表しても表立っての批難はされないだろうからね。父上、本当に凄く張り切ってたよ」

 

「そ、そうですか」

 

今度は苦笑と云うか口元ヒクついてしまった。グレモリー家のイッセーの対応を見ていたから多少の耐性は有ったけど悪魔の方々は男女のアレコレに積極的ですね!アレか?やっぱり超常の存在は基本的に出生率が低いからその辺りグイグイ来るのがデフォルトなのか?

 

レイヴェルへのヘイトが減ってくれるのは素直に有難いけどさ

 

「分かりました。あの人間と敵対するとヤバいって味方に思われるように派手に【じばく】していこうと思います!」

 

「うん。言い回しは少し気になるけど僕らが求めているのはまさにそれだ。フェニックスではないけれど、キミの業火を是非魅せて欲しい」

 

そうしてルヴァルさんとライザーは『超獣鬼(ジャバウォック)』の足止めの為に前線に出ると言い残しその場を去って行った

 

レイヴェルも今回は案内だけだったのか別の場所の支援に向かっていく

 

「グレイフィアさん、次の標的はもう狙えますか?」

 

「ええ、今、全隊に指示を出しました。今より15分後、順次『豪獣鬼(バンダースナッチ)』の殲滅に移ります。皆さんそのつもりでいて下さい」

 

15分か、帰って来てから直ぐにルヴァルさん達が来たから体力は戻ってないから素直に『涙』で回復するとしよう

 

それから語る事は多くない。タナトスも襲って来なかったし、順番に避難が完了した地区の魔獣から内側からボカンと弾けさせただけだ―――タナトスも流石に俺の【じばく】の範囲に入るリスクを負ってまで仕掛けるのは無理だったようだな

 

これで残るは超巨大魔獣の『超獣鬼(ジャバウォック)』のみとなるのだがコイツを最初の方で倒さずに後回しにしていた理由は二つ有る

 

一つは巨大であるが故に歩みも早く、足止めもままならなかった為住民の避難がギリギリでとても【じばく】を放つ事が出来なかった事

 

もう一つはこの魔獣(美女)のモデルが『くノ一』タイプだったからだ!

 

そう!つまりは覆面付きなのだ!それも超獣鬼(ジャバウォック)製と考えれば超絶堅いだろうし、今までの『豪獣鬼(バンダースナッチ)』のデータがフィードバックされる仕様だったのか鎧系のマスクみたいな感じになってしまった・・・口を無くすとかじゃなく、あくまで美女のイメージを崩さないで対処する辺り、強い拘りを感じてしまう

 

だがこれで『豪獣鬼(バンダースナッチ)』は全部倒せたのでそちらの戦力を『超獣鬼(ジャバウォック)』に割り振れるから多少歩みを遅くする事くらいは出来るだろう

 

しかし『超獣鬼(ジャバウォック)』周辺の住民の避難と進路上にある首都リリスまでの距離を考えるともう【じばく】は使えそうにないな

 

流石に『首都をぶっ壊しました』はシャレにならないだろうからね

 

折角上げたはずのイメージが一気にマイナス突き抜けちゃうのは勘弁だ

 

「対魔獣用の対抗術式も後数時間もあれば完成するとの事です。ですが、『豪獣鬼(バンダースナッチ)』が一気に殲滅された為、死神の一派も焦れて多少強硬な手段で襲い掛かってくる可能性が在ります。気を抜かずにいきましょう」

 

その言葉に頷いて返す。だが『豪獣鬼(バンダースナッチ)』は特に問題無く倒せたのだから一先ずは良しとしよう

 

少しすると小休止なのかイッセー達が帰って来た

 

「よぉイッセー、そっちは如何だった?」

 

そう聞くとイッセーは目に涙を浮かべて詰め寄って来た

 

「イッキィィィ!!お前には血も涙も無いのか!?遠くからでも見えてたぞ!魔獣(美女)が内側から爆発してキノコ雲が上がるのをっ!!」

 

「いやいや、敵だし。所詮は創りモノだろ?」

 

「創りモノだろうと需要は在るんだよ!それを否定したら紳士の玩具が価値がないって事になっちまうじゃねぇか!」

 

そんな滂沱のような涙を流すなよ

 

「あ~、はいはい。分かった分かった。それはそれとしてお前は如何なんだよ?合間合間のニュースでそっちの現場での戦いの様子も見てたけど譲渡の力で貢献は凄いしてたけどお前自身が戦果を挙げてるのは見た事ねぇぞ―――俺はもう【じばく】は使えないだろうけどこのままじゃ俺一人だけが悪目立ちしちまうだろ。サーゼクスさん達の政治的な今後の影響を考えるなら『超獣鬼(ジャバウォック)』のはイッセーみたいな悪魔で且つ人気者のお前が倒す方が良い」

 

対抗術式が届いた後、【じばく】無しで明確にダメージを与えられるだろう【一刀羅刹】は斬撃技だから超速再生能力を持つ巨大魔獣とは相性が悪いからな

 

イッセーのような砲撃で塵も残さず消し去る技の方が良いだろう

 

それに言ったように仮に俺が全部片づけたら体裁が悪いだろうし、一際巨大で強大な『超獣鬼(ジャバウォック)』を冥界のヒーローのイッセーが止めを刺せればつり合いも取れるだろう

 

「いや、そうは言うけどよ。対抗術式が有ってもあの『超獣鬼(ジャバウォック)』は魔王級の火力を連続でぶち込みまくんなきゃ倒せないかもって研究班の人達が言ってたって聞いたぜ。俺のドラゴンブラスターでも単発じゃ倒せないと思うぞ?」

 

え?確かイッセーって『超獣鬼(ジャバウォック)』を一撃で消し飛ばすような描写がされてなかったっけ?ああもう既に原作読んだのは17年以上前だからアニメのような映像有りきのサイラオーグ編以降は細かい処が曖昧だな

 

ああでも確かグレートレッドが現れてたんだっけ?それで何か夢幻パワーで倒すんだったか?

 

でもイッセーは今此処に居るからその手段は取れないか

 

そう云えば今のイッセーは夢幻の肉体じゃなくて『NEW BorN』とやらで『乳力(ニュー・パワー)』の親和性が高まってるはずだよな?ならもうそっちで良いか?多分イッセーの乳力(ニュー・パワー)については真面目に考えると馬鹿を見るだろうし、多少投げやりな意見で良いだろう

 

「あ~、ならイッセー。お前に胸を差し出してくれる女の子全員のおっぱいを順番に突っつけ。多分それで冥界は救われると思うから」

 

「絶対適当(いい加減なさま)言ってるだろ!」

 

「応、適当(相応しいさま)言ってるぞ」

 

突っかかって来るイッセーにそのまま返す―――日本語って難しいよね

 

「話は聞かせて貰った!イッセー!その時は存分に私の胸を突け!」

 

ゼノヴィアが現れた

 

一応後ろに同じく天界に戻ってたイリナさんと途中で合流したであろうロスヴァイセさんも一緒だ

 

「ゼノヴィア!それにイリナにロスヴァイセさんまで!ゼノヴィアはエクス・デュランダルの修理はもう終わったのか?」

 

「ああ、バッチリだ。それと聞こえていたが全員をリアス部長と同じスイッチ姫にしようと云う壮大な計画であの魔獣を倒そうとしているのだろう?ならば私も志願するぞ!」

 

ゼノヴィアが意気込む隣でロスヴァイセさんは溜息を吐く

 

「はぁ、有間君がそういう卑猥な提案するようになってしまうとは・・・」

 

「いえ、学校とかじゃしませんよ?ただ実戦だとイッセーが乳力(ニュー・パワー)で強化されるのは厳然たる事実なのでもうその辺りは割り切った方が良いのかなと思いまして」

 

だから白音もさっきから微妙に冷ややかな視線を送るの止めてくれ

 

かなり精神的にクルからさ

 

「ま・・・まぁ確かにそれでイッセーの力が跳ねがるのは間違いなさそうね。後で誰がイッセーに胸を差し出すのか、立候補で決めましょうか」

 

結局その場でリアス部長の他に朱乃先輩、アーシアさん、ゼノヴィアが我先にと手を挙げて全員ちょっとテンション高めに解散となった

 

豪獣鬼(バンダースナッチ)』が居ない分休息に回せる時間が多くなってるのだろう

 

それから1時間近く経った頃、緊急通信が入った

 

旧魔王派の残党のテロなども相まって避難の遅れていた首都リリスで一般人の護衛・避難誘導に当たっていたシトリー眷属が英雄派の幹部と交戦状態に入ったとの事だった




次回はジーク戦ですね・・・ジャンヌまで行くかな?


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第三話 兄妹、対決です!

本編予告

「初めましてになるっスかねぇ?お兄さん?仮にも同じ施設で同じ遺伝子から生まれた者同士、かなり特殊かもっスけど僕らは兄妹って事になると思うんすよ。生まれはこっちが後みたい何で、取り敢えず兄の暴挙は妹の責務として止めさせて貰うッスよ」

且つて教会のシグルド機関で生まれた阿修羅の兄と純白の翼を持った妹がここに激突する!




[木場 side]

 

 

アジュカ・ベルゼブブ様の魔獣への対抗術式があと少しで完成するという時に首都リリスで英雄派も動き出したとの連絡が入ったので僕たちグレモリー眷属にイリナさんはリリスのとある高層ビルの屋上に転移の座標を指定され、すぐさまそこに急行する事になった

 

イッキ君はタナトスがどんな手法で襲ってくるか分からない為一旦待機

 

だけど、グレイフィア様やバラキエルさんに炎駒さん、そして黒歌さんにイッキ君自身も非常に高い戦闘能力を持っている―――よっぽどの事がない限りは大丈夫だろう

 

イッキ君はタナトスを倒さないと冥府の神ハーデスが各勢力間の間で明確にサマエルの件で罰せられるまでは家にも帰れそうにないから可能なら倒しておきたいと休憩中に言ってた

 

確かに最上級死神が駒王町で暴れるなんてシャレにならないからね

 

理不尽に狙われているイッキ君が面倒がるのも納得だ。それに僕だって・・・いや、グレモリー眷属の全員が今回のハーデスの行いには腹を立てている

 

これはイリナさんやレイヴェルさん、黒歌さんにも言える事だけど、例え眷属で無かろうと彼らは僕たちの大切な仲間で親友だ。そんな彼を狙われたなら怒るのは至極当然の事

 

もしも次またハーデス神に出会ったとしても、それが例え公式の場であっても敵意を抑えられるか自信が持てないかな

 

白音ちゃん何て「あの骸骨、何時か絶対バラバラにして(ケルベロス)のエサとして冥府の門にばら撒いてやります」とか言ってたし―――うちの女性陣は基本的に過激だよね

 

特にイッキ君が直接狙われている状況は恋人の白音ちゃんからすれば少なくとも僕以上には不快に思ってるのかも知れない

 

そうこうしている内にグレモリー城の転移の間に辿り着いた

 

「皆、転移先には既にギャスパーが居るそうだから合流してからソーナ達の救援に向かうわよ」

 

! そうか、ギャスパー君は自らの力と向き合う為に神の子を見張る者(グリゴリ)の研究施設に一人で向かったんだった。このタイミングで帰って来てくれるとは心強いよ

 

因みにレイヴェルさんはイッキ君と一緒だ。彼女は家の人が参戦を認めてくれたけどあくまでも避難誘導などがメインだ。明らかに敵との交戦が予想される場所にまで連れて行く事は出来ない

 

そうして転移が終わると直ぐにギャスパー君が駆け寄って来た

 

「皆さんやっと合流出来ました!堕天使の方々に此処で待っていたら良いと言われて待機してたんですけど心細かったですぅぅぅ!」

 

ギャスパー君も揃ってグレモリー眷属もフルメンバーだ。やっぱりこういうのは揃うとそれだけでも心強くも感じるね

 

「ギャスパー、修行の成果。期待してるわよ」

 

「はい!頑張ります!!」

 

リアス部長の言葉に何時もとは違う力強い語気で返事をするギャスパー君

 

如何やら何か得るモノが在ったようだね。リアス部長じゃないけど僕も期待させて貰うよ

 

“ドドドドドドオォォォォォォォン!!”

 

その時、かなり遠くに連続した爆炎が上がる様が見えた

 

そしてそっちに仙術の探知を飛ばしたであろう白音ちゃんが固い声で告げる

 

「あそこからシトリー眷属、それから大量の一般人の気配を感じます!」

 

一般人の気配!?やはり巻き込まれてしまっていたか!誰かを守りながらの戦いは普通の戦いよりもはるかに難しい。急がなければ!

 

「分かったわ。皆、急ぐわよ!」

 

『はい!』

 

それぞれが悪魔の翼を生やして(イッセー君は禁手(バランス・ブレイカー)のドラゴンの翼だけど)今も爆発が起こっている現場に急行する

 

しかし途中で僕たちがどうしても無視出来ない影がとあるビルの屋上に現れた

 

「おや?これはこれはグレモリー眷属の皆さん。早速キミたちと出会えるとは僕も運が良い」

 

その場に転移して来たのは英雄派の幹部である魔剣使いのジークフリートと霧使いのゲオルクだった。何故ここに?

 

「ソーナ達の救援が優先だけど捨て置くことも出来ないわね。二手に別れましょう」

 

リアス部長がそのまま指示を出そうとする前にジークフリートが話しかけてきた

 

「その必要はないよ、リアス・グレモリー。ゲオルクは直ぐにジャンヌ達と合流するはずだったし、まぁそれは僕も何だけどそっちの聖魔剣使いには例の疑似空間で手痛い目に遭わされちゃった上に勝負が有耶無耶になっちゃったからリベンジしたいと思ってたんだ・・・ゲオルク、頼むよ」

 

「全く、曹操を筆頭に英雄の子孫たちは我が強くて困るね。気分で作戦を変えるんだから」

 

溜息を吐きながらゲオルクは手元に魔法陣を展開させ、僕たちが警戒すると同時に強烈な閃光を放ってきた―――しまった!思わず魔法陣を注視してしまって視界が鈍る!

 

すると今まで何度か感じた"ぬるり"とした感触に包まれたかと思えば僕とジークフリートの二人だけが全く別の場所に転移していた

 

「安心しな。此処も首都リリスの中だよ。さっきまで僕らが居た場所とは正反対だけどね。キミを倒したら僕もこの都市の破壊活動をするのがお仕事の内でさ」

 

「そんな事、させるものか」

 

僕は聖魔剣を構えると向こうも5本の魔剣と一本の光の剣を構える

 

一対一の決闘がお望みらしいけどそれはこっちも願ったりだ

 

そこで僕の耳元に通信用魔法陣が展開され、リアス部長の声が聞こえてきた

 

≪祐斗、聞こえる?今どこに居るの?≫

 

「部長。此方はジークフリートとリリスの別の場所に跳ばされたようです。敵はジークフリートのみのようですし、此処で確実に彼を倒してそちらと合流します」

 

≪・・・分かったわ。こっちはゲオルクも居なくなったし、予定通りソーナ達の方に向かうわ≫

 

「はい。そちらもお気を付けて」

 

通信を切るとジークフリートが話しかけてくる

 

「最後の挨拶は済んだのかい?」

 

「そっちこそ、この前闘った時の感触からすればもう僕の方が強いと思うけど?仲間との別れは済ませてあるのかい?闘う前なら遺言くらいは聞いてあげるよ」

 

流石に油断できる程の実力差がある訳でも無いからね。殺す気で行かないと此方が危ない

 

「いいや、その必要は無いよ。此処で死ぬのはキミの方だからね」

 

彼はそう言うと懐からピストル型の注射器を取り出した

 

アレは確かあの空間でレオナルドという少年に死神が使った物と同じ物!

 

「コレはキミたちがかつてシャルバ・ベルゼブブと戦った時に彼が流した血液を回収して培養、その上で数多の犠牲を伴う研究の果てに完成させた神器の強化薬さ。シャルバ・ベルゼブブは小者ではあったが血筋だけは神器を生み出した聖書の神と対をなす本来の魔王のもの。相反する二つを組み合わせる事で強化する・・・ある意味キミの聖魔剣に近いかもね」

 

「・・・僕の聖魔剣はかつての同士と今の仲間への誓いと想いの結晶だ。そんな悍ましい薬何かと一緒にして欲しくはないね」

 

酷い侮辱だ。頭に熱が昇って行くのが自分でも解る

 

「そうかい、それは失礼したね。だがキミの感情と現実に此処に在る薬は別の話だ。本当は自分の力だけでキミを倒したいと思うがグレモリー眷属の成長は著しいからね。多少のポリシーは捨てて、遠慮なく使わせて貰うとするよ」

 

そう言って彼は素早く自らの首筋に針を突き刺し、薬を注入する

 

すると変化は直ぐに訪れた

 

ジークフリートの全身が痙攣し、顔中に血管が浮かび上がる。この時点で相当な負荷を体に強いる薬である事が窺える

 

そして彼の背中から生える四本の神器の腕が太く、長くなっていき、指の形は崩れて持っている魔剣と終には融合するような形となった

 

「今打った薬は『魔人化(カオス・ブレイク)』。そしてこの状態の事を『業魔人(カオス・ドライブ)』と呼んでいる。『禁手化(バランス・ブレイク)』と『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』から名称の一部を拝借させてもらってるよ」

 

今までの彼は阿修羅のようだったけど、今の彼はまるで二足歩行の蜘蛛の異形といった面持ちだ。悪魔の僕が言うのも可笑しいかも知れないけど完全に化物だよ

 

「この状態になると神器の力が不安定になるけど僕としては嬉しい誤算って云うのが在ってね。神器の『ドラゴン』という力も一緒に曖昧になるのかこのグラムを全力で振るっても反動が来ないようになるのさ。コイツは相手がドラゴンなら例え持ち主であろうと気遣ってくれるような殊勝な剣じゃないからね。僕の最強の武器であるグラムは僕の最強形態とは果てしなく相性が悪かったが、それも解消された。コレが僕の本当の全力ってやつさ!」

 

そう、確かに僕は今までの戦いで彼が魔帝剣の力を振るっているのを見た事が無い

 

グラムの能力はゼノヴィアのデュランダルのような破壊力とイッセー君の持つアスカロンのドラゴンスレイヤーの力を併せ持っている

 

僕の『聖覇の龍騎士団(グローリィ・ドラグ・トルーパー)』は騎士団にドラゴンのオーラを付与してあるから今のグラムを前にしたら下手をすれば近づいただけで龍殺しのオーラで破壊されてしまうかも知れない・・・・使えても精々目晦ましが限界だと思うべきかな?

 

それにしても不味いね。今の彼にグラムの呪いが届かないという事は恐らく僕の創り出す龍殺しの魔剣なども効果が望めないという事だ

 

無いよりはマシかも知れないけど彼を倒すには純粋に剣士としての技量が試されるという事・・・イッキ君のようなトンデモ剣技を使えるだけの技量が有ればとも思うけど、此処で無い物ねだりしても仕方がない

 

改めて聖魔剣を構え直した僕は一気に彼の懐に飛び込み斬り掛かる!

 

彼の図太くなった腕は相当に筋力が引き上がってると見るべきだろう。スピード特化型の僕は手数と膂力に勝るであろう今の彼相手に後手に回れば一瞬で詰められると見るべきだ!

 

下手に距離を取ろうにも、その時は斬撃の嵐が飛んでくるだろうからね

 

“ガギィィィィィィン!!”

 

だが僕の最速の一撃は軽々と受け止められてしまい、続く連続の斬撃もそれぞれの魔剣で防がれる。あの長大な腕で懐にも剣を伸ばせるなんて蜘蛛と云うよりはタコみたいな柔軟性だね!

 

「凄いな!たった二日程会っていないだけなのに動きのキレが僅かに、しかし確かに上昇している!あの魔獣たちとの連続した実戦を確かに力に変えているようだね」

 

驚いているみたいだけど至近距離で見る彼の顔は痙攣しながらもイヤらしい笑みを浮かべている。僕の猛攻をまるで意に介していないような余裕の表情だ

 

「ふんっ!!」

 

彼が気合を入れた声で魔剣を薙ぎ払うと力を受け流す暇もない圧倒的な力の奔流で体ごと遠くに飛ばされた。今までは欠片も本気を出していなかったのか!!

 

そのまま彼が持つグラムが僕に向かって振り下ろされた

 

それに僕は最大限の危険信号を察してなりふり構わず全力で横に避けると巨大な何かがすぐ真横を通過していった

 

煙が晴れるとそこには巨大な大地の裂け目が遥か後方にまで続いている。まるでゼノヴィアのチャージ砲みたいな威力だ!しかもそれを彼は軽く剣を振るっただけで再現してしまった

 

ダメだ!早くクロスレンジに持ち込まないと、このままでは彼の斬撃を避けてるだけでこの首都が崩壊してしまう!近くに寄れば余り派手な攻撃は自分も傷つけるから攻撃範囲を絞らなければならないはず!勝機を探すのは闘いながらでいい!

 

「へぇ、あの一撃を見てまだ闘志を燃やして向かってくる事が出来るなんてね。でもそれで彼我の戦力差が埋まる訳でもないんだよ。残念ながらね」

 

ジークフリートが振り下ろしてきた魔剣の一つを聖魔剣に全力でオーラを流し込んで強化しつつも受け流す!出し惜しみ何てしていられない!

 

至近距離で聖魔剣を次から次へと足元や空中から出現させて彼の動きを阻害しようと配置するが今度は体全体に竜巻のような衝撃波を身に纏って聖魔剣を全て破壊し、近くに居た僕自身も全身を引き裂かれてしまった

 

「魔剣バルムンク。今の僕は剣と一体化しているからね。本来は竜巻状のオーラを剣に纏わせたり撃ち放ったりする剣だけど、ご覧の通り、僕自身がバルムンクになっているのさ!」

 

攻防一体の風の鎧!アレではもはや近づく事すらままならない!

 

そのまま彼は凄い速さで距離を詰めて斬り付けてくる!

 

僕の最大の武器である速度ですら互角が精々の速さだ!

 

何とか隙を見つけて斬撃を繰り出したけど聖魔剣は体に届く前に粉砕され、剣を振った方の腕はさらにボロボロになってしまった

 

それから避けに徹するけど徐々に体が傷つき、このままでは勝てない

 

「この薬は体に掛かる負担が大きいからね。このまま少しずつキミが死に近づいていくのを見てるのも良いんだけど、此処は我慢してケリを付けるとするよ―――ダインスレイブ!!」

 

彼が叫ぶと同時に僕の後方に半ドーム状の巨大な氷の壁が瞬時に現れた

 

ダメだ!コレでは逃げ場が無い!

 

僕は聖魔剣の壁を創り、更に全力で手に持つ聖魔剣にオーラを籠める

 

さっきはコレで受け流す事は出来たんだ。バルムンクの余波でダメージは否めないだろうけど、その隙を突いて離脱する!彼の薬に使用制限が在るのなら此処は仕切り直すべきだ!

 

“スパァァァン!!”

 

「・・・え?」

 

彼の振るった剣が何の抵抗も無く聖魔剣を斬り裂いて僕の胸元から横一閃に盛大に血が噴き出した

 

「魔剣ノートゥングにディルヴィング。切れ味重視の剣と破壊力重視の剣の能力を同時使用してやれば聖魔剣など細枝よりも脆くなる・・・これで終わりだよ木場祐斗」

 

片方の剣にもう片方の剣の能力を付与した!?今の彼はそんな事も出来るのか!?

 

「ガッハ!!」

 

血を吐き出してしまった。如何やら今ので肺も傷ついてしまったようだ。血がこみ上げてくるのとは別に何だか息がし辛い気がする

 

全身を切り刻まれた上に胸元の怪我で力が入らず、すぐ後ろに在った氷の壁に背中を預けるように座り込んでしまった

 

ダメだ、早く立て!でないと殺されてしまうぞ!

 

だが力を入れようとした次の瞬間、僕の四肢が細めの氷柱で貫かれて拘束されてしまった

 

「グゥゥゥ!」

 

痛みを堪える僕にジークフリートが語り掛ける

 

「おっと、逃がさないよ。今回は僕の圧勝だったけど、一年も放置すればキミは今の僕と戦える領域まで成長するかも知れないからね。それはそれで楽しそうだけど、レオナルドが再起できるか分からない現状、余り不確定因子を放置し過ぎては英雄派に大打撃を受けそうなんでね」

 

ジークフリートは僕に近づき、グラムを上段に構える

 

「せめて一瞬で真っ二つにしてあげるよ。さらばだ!聖魔剣の木場祐斗!!」

 

“カッ!!”

 

彼がグラムを振り下ろす瞬間、僕と彼の間に眩い光が走ってジークフリートも突然の出来事に思わず後退する―――何だ?この光は?

 

疑問が晴れる前に僕の四肢を拘束していた氷柱が破壊され、自由になったのが解る

 

すると光の中から声が聞こえて来た

 

「初めましてになるっスかねぇ?お兄さん?仮にも同じ施設で同じ遺伝子から生まれた者同士、かなり特殊かもっスけど僕らは兄妹って事になると思うんすよ。生まれはこっちが後みたい何で、取り敢えず兄の暴挙は妹の責務として止めさせて貰うッスよ」

 

光の中から現れたのは可愛らしい恰好の・・・もっと言えばレヴィアタン様がプライベートで着ている魔法少女的な格好をした―――フリード・セルゼンだった

 

「ォうえっ!!」

 

思わずちょっと嘔吐(えず)いてしまった。肉体的なダメージに加え、精神的にも一発キツイのを貰ってしまったよ。ゴスロリ衣装の上に前に教会で戦った時と違って明らかに筋肉が肥大化している

 

前回は神父服だったけど今の彼があの時の服を着る事が出来ないであろう事は予想できる程度にはマッチョになっている・・・しかもそれがミニスカートの子供向けアニメ的な衣装を身に纏っているのだ。一体彼に何が有ったって云うんだ!?そして彼が何故この場に居るんだ!?

 

凄く気になるけどそれ以上にアレと関わり合いに成りたくない!

 

だがそんな僕の願望虚しくフリード・セルゼンは此方を振り向き話しかけてきた

 

「お久し振りっスねぇ、イケメン君☆割とガチで死に掛けてるみたいだけど回復アイテムは持ってるっスか?」

 

「え・・・あ、ああ、持ってるよ」

 

僕は震える手で懐にあったフェニックスの涙を取り出す。さっきは使う暇も無かったし、今は目の前の彼(?)が余りにも衝撃的な見た目で登場したからすっかり忘れてたけど今の内に回復しよう

 

「それで・・・キミは何故此処に居るんだい?」

 

結局好奇心に勝てずに聞いてしまった。多分コレが『怖いもの見たさ』ってヤツ何だろう

 

「勿論!僕チンとキミの間に在る絆を通してキミがピンチだって伝わって来てね!空間を飛び越えてこうして助けに来たのさ!」

 

「僕とキミの間に変な絆を勝手に設けないでくれ!」

 

「そんな事ないっスよ。キミの且つてのお仲間さん達の聖剣の因子を僕チンが取り込んで、それを天界が取り出したのは知ってますよねぃ?」

 

当然だ。僕の同士たちの因子は全て僕の内に眠っているのだから

 

「天界が僕チンが取り込んだ因子を抜き出す際、僕チンが生来持っていた聖剣の因子も一緒に抜き出しちゃったのさ♪」

 

・・・え?待ってよ、それってもしかして

 

「それでキミはその因子を取り込んだ。つまりはそういう事さ☆」

 

ええええええええええええええええええええええええええええええ!!?

 

僕はあの時、同士たちだけでなくフリードの因子まで取り込んだの!?

 

そんな僕の驚愕を余所にフリードはその後の経緯を話し始める

 

「因子を抜かれて教会から放逐され、神の子を見張る者(グリゴリ)からもリストラ叩きつけられたオイラは新しい就職先を見つけようともしてたんだけど、どの組織にも過激派ってのが居てね。はぐれになった僕チンが変な所に入る前に消しておこうと思ったエクソシストに追われちゃったんスよ♪」

 

まぁ気持ちは分かるかな?フリードは最初は教会に所属してたんだから彼の残忍性を知る人達が一定数居ても可笑しくないからね

 

「放逐時に武器も取り上げられ、そもそも光力を籠めてくれる相手もいない状態では流石の僕チンも追い詰められちゃってね。逃げおおせる事には成功したんだけど、大怪我して道端に転がっちゃったんスよぉ。『絶対にあいつ等ぶっ殺してやる』―――そう誓う僕チンはその日、魔法少女(ミルキー)に出会ったのさ☆」

 

うん。最後が全く分からない!

 

「その(ミルキー)は動けない僕チンを優しく抱き上げると『慈愛と抱擁のミルキー(ミルキー・ヒーリング・ハグ)』と唱えながら僕チンを抱き締めて怪我も体力も回復させてくれたのさ☆あの時、体に流れ込んでくる衝撃(オーラ)が憎しみだとか恨みだとか、そういう負の感情を全て浄化されていくような気がしてね。『にょ。辛い事があったなら何も言わずにミルキーを一緒に視るにょ。この世界には愛と希望と平和が満ちてるって事を教えてくれるアニメだにょ。全てはそれからで良いんだにょ』と言われた僕チンは負の感情を浄化され、抜け殻となった状態で只管一緒にミルキーを視て、ミルキーの偉大さを語られたんス。空っぽだった僕チンの心は何時しかミルキーで一杯になっていき、世界はこんなにも輝いているモノなんだって解ったんスよ!!」

 

いや!それ洗脳されてない!?強いオーラを流し込んで一時的に心が麻痺した状態で魔法少女のアニメを延々と見せたって事じゃないの!?

 

「でも、その人はただミルキーを愛してるだけじゃ無かったんスよ!志を共にする同士たちと一緒に自らミルキーとなって世界の為に戦う意思を持っていた!それに感動した僕チンは彼らと共にミルキー魔法を使いこなす為のトレーニングを日々行い、同時に困ってる人々に手を差し伸べるミルキー活動で今も悪と戦い続けてるッス!」

 

少なくとも『ミルキー魔法』にその筋肉は要らないんじゃないかな!?ミルキーを基にしたレヴィアタン様のアニメも時折テレビのCMで見かける人間界のミルキーのアニメもキラキラエフェクトの魔法を放っていたと記憶しているんだけど―――その前回出会った時より全体的に3倍は太く逞しくなったその体つきを見れば『トレーニング』とやらが筋肉に極振りした内容だと寸分の疑いもなく確信できるよ!

 

そこまで経緯を語った彼は今度はジークフリートに向き直る

 

今までジークフリートは「酷い鏡を見せられている気分だ」と頭を抱えていた・・・まぁ同じ顔した相手がマッチョな魔法少女になっていればそんな反応にもなるかもね

 

「兄さん。分かってるっスよ☆今の兄さんは少し前の俺と一緒っス!つまりは抱き締めて、ミルキーの愛を語ればきっと自分の間違いに気づいてくれるってね!」

 

「そんなはず無いだろう!!?」

 

後ずさるジークフリートにフリード・セルゼンが仏の如き慈愛の表情を浮かべて両手を広げて一歩一歩近づいていく

 

「く、来るなぁぁぁ!!」

 

“ッドパァァァァァン!!”

 

ジークフリートが我武者羅に魔剣を振るった

 

真正面にいてその直撃を喰らったフリードは煙に包まれるが直ぐに煙から現れた

 

全身に怪我を負い、血を流しているにも関わらずハグする為に左右に手を伸ばした格好のままだ。あの攻撃をまるで意に介していない!ダメージは負っているというのに、何という精神力だ!

 

本当に悟りを開いているとでも云うのか今の彼は!?

 

「ふふ♪兄さんはヤンチャ者っスねぇ。イイっすよ。先ずは妹として兄さんの全てを受け止めて上げるっス♡このミルキー・エンジェルモードでね☆」

 

「妹とか言うんじゃなぁぁぁい!!」

 

ジークフリートのツッコミ虚しく、フリードはそう宣言すると全身を莫大な闘気で包み込み、背中の肩甲骨の辺りから特に高出力の闘気が噴出してまるで純白の翼が生えたような見た目となった

 

何だかもう色んな意味で泣きたくなってきたよ

 

「ミルキーは何時だって誰かを助けて巨悪に立ち向かい、守るべきものの前に立つ者!誰もがその姿を見て安心出来る背中を魅せる為に背筋の鍛錬は怠っていないっス!」

 

背筋って言っちゃったよ!『ミルキー魔法』は何処に行ったの!?

 

でもそうだね。今の彼の先ほどよりも盛り上がった背中の筋肉を見ていると何物をも通さない絶対の盾を彷彿とさせるよ

 

「ふざけるなぁぁぁ!!」

 

普段から冷静な様を見せていたジークフリートがそんな仮面をかなぐり捨ててフリードに斬り掛かって無数の斬撃を全方位から浴びせていく

 

しかし倒れない!魔帝剣グラムの攻撃でさえ彼の筋肉の表面しか傷つける事は出来ず、他の剣にいたっては弾かれる始末―――光の剣何て既に砕けてしまっている

 

ジークフリートが一旦距離を取って一息つく

 

「痛みも、苦痛も、愛さえ有れば全てを受け止められるっスよ♪」

 

フリードは薄くとはいえ全身を斬られて血を流しているのに未だにイイ笑顔だ

 

もはや狂気を感じるよ

 

よく見ると彼の持つ魔剣たちが"カタカタ"と震えているようだ。ずっと岩でも斬り付けていたようなものだろうからね。腕に反動がきたのかな?

 

そう思っていたが如何やら違ったようで彼の持つ五本の魔剣はジークフリートと一体化していた持ち手の部分から攻撃的なオーラを放って彼の手を強制的に振り払い、空中を飛んで近くに居た僕の影に隠れるように地面に突き刺さってしまった

 

僕の後ろから剣の柄の部分がそっと彼らの様子を窺うように突き出ている

 

電柱に隠れてストーキングする人じゃないんだから・・・いや、むしろ親の影に隠れる子供かな?

 

成程、強力な魔剣や聖剣は時として意思を持ったような反応をすると聞くけどコレはちょっと露骨過ぎないかい?フリードが恐いのは分かるけどさ

 

ジークフリートも「馬鹿な・・・」と唖然としているようだ

 

「兄さん、終わりにしよう。兄さんの敗因は(ミルキー)を知っているか如何かだったのさ。その魔剣たちにも普段から愛を持って接していたら結果は変わらなくとももう少しは違う過程になっていたと思うよ。眠りから目覚めたなら先ずはミルキーを全て視聴する処から始めると良いっス☆」

 

「『天啓齎すミルキーの抱擁(ミルキー・エンジェル・ハグ)』」

 

ふわりと近づいたフリードはその太い腕でジークフリートを抱き締め"ゴキッ、メキッ、ゴキャッ"という人体から鳴ってはいけない音を響かせて大地に沈めた

 

そうか・・・アレがミルキー魔法なのか(遠い目)いや、分かってるよ?そんな訳無いって事くらい・・・ただもうツッコムのも疲れてきた気がするんだ

 

一瞬思考が別の世界に飛びかけた気がするけどフリードはそんな僕に顔を向ける

 

“カタッ!”

 

僕の後ろの魔剣たちが震えている

 

「はっはっは!少し見ない間に兄さんの魔剣ちゃんたちと随分仲良くなったんスね?情愛の深いとされるグレモリー眷属に籍を置くキミの下なら魔剣たちもきっと良い子に育ってくれるはずっス♪だ・か・ら♡」

 

そこまで言うと彼は一瞬で僕の背後に回った―――速い!見切れなかった!

 

彼は僕の後ろの地面に突き刺さっていた魔剣たちの刀身を抱き寄せて優しく声を掛ける

 

「今度は彼をしっかりサポートして上げるんスよ?今度もし逢った時に仲良くなってなかったらキミたちにもミルキーを教え込んで上げるっスから♡」

 

ウィンクする彼のセリフを聞いて魔剣たちは"ガチャガチャ"と震えまくる

 

多分だけど人間なら高速で頭を縦に振っているような感じだと何となく判る

 

それを見て満足そうにした彼は立ち上がり天使(闘気)の翼で空中に舞い上がる・・・闘気で空って飛べるんだ

 

「それじゃあ僕チンはもう行くっスよ。ミルキーの助けを求める人々は世界中に居るっスからね。ここも大変みたいだけどきっと大丈夫☆魔剣君たちもキミの力になってくれるみたいだし、もしもまた本当にキミが死に掛けたらまた助けに飛んでくるっスよ♪」

 

何か最後にトンデモナイ爆弾発言を残して彼は何処かへ消えていった

 

「・・・僕が死に掛けると彼が召喚されるみたいだね。如何やら僕は強くならなくちゃいけないみたいだ。いや、本当に二度と彼とは会いたくないな。キミたちも手伝ってくれるかい?」

 

無機物である剣に語り掛けるなんて傍から見たら変な光景だろうけど魔剣たちは力強いオーラを僕に送ってくれた

 

如何やら僕は魔剣自身から全力のバックアップを受けて剣を振るえるようになりそうだ

 

この件が終わったら一度、フリードの分の聖剣の因子だけを選別して抜き取る事が出来ないかアザゼル先生に相談してみようかな

 

そう思いつつ皆の居る場所に急いで向かったのだった

 

 

 

 

 

 

 

・・・因みに後日、「無理」と言われた

 

 

[木場 side out]




純白の翼(転生天使とは言ってない)

一体いつからリント・セルゼンだと錯覚していた?

お気づきの方も多いでしょうがフリードはワンパンマンのプリプリプリズナーをひな型にしていますww


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第四話 首都、防衛です!

酷暑続きで執筆意欲にダメージ入りそうです・・・いや、続けますけど


[木場 side]

 

 

ジークフリートを倒した(?)僕は急いでリアス部長達の居る場所に合流する為、翼を広げて空を飛ぶ。まだ連続した爆発音が聞こえるので戦いは終わっていないようだ

 

それにジークフリートが使用していた『魔人化(カオス・ブレイク)』という薬がアレ一つだけとは思えない。恐らく英雄派の他の構成員も持っていると考えるべきだろう

 

あの薬でどれほど戦闘力が引き上がるか体験した僕が前線に立たないと場合によっては初撃で命だって落としかねない。それほどの代物だ

 

程なくして辿り着いた場所は高層ビルの建ち並ぶ所で広い道路が在り、シトリー眷属とグレモリー眷属が大型バスを守るように配置していた

 

よく見ればバスの車輪は外れていて中に居るのは幼い子供たちが大半だ。恐らく幼稚園のバスのようなものが何らかの形で戦禍に巻き込まれてしまったのだろう

 

「遅れてすみません」

 

「祐斗!無事で良かったわ!ジークフリートは倒せたのかしら?」

 

当たり前の事だけど中々答えずらい事を第一声に聞かれてしまった。ジークフリートの持っていたフェニックスの涙は取り上げた上に一応縛っておいたし、そもそも詳しく語ろうと思ったら簡潔に纏められる自信がないから後で報告書で提出しよう

 

面倒を後回しにした僕はリアス部長に返事をする

 

「はい。ただ思った以上に苦戦しました。英雄派は神器の力を大幅に強化する薬を持っているようです。此方ではまだ使われていないようですが・・・いえ、そもそも今誰が戦ってるんですか?」

 

そうだ。この場には何時も一番に敵に向かって突撃していくイッセー君が居る

 

シトリー眷属も何人かダメージを負った様子はあったが既にアーシアさんの力で回復は済んでるみたいだし、眷属も全員揃ってる。この場に居ないのは・・・ギャスパー君か!

 

いや、彼が一人で戦ってるなんて在り得ないだろう。きっと蝙蝠に変身して周囲に逃げ遅れた人が居ないか物理的に捜索してるに違いない

 

白音ちゃんの仙術の探知も瀕死の状態で生命力が弱まってる時やテロリストから隠れる為の結界を張ってる場合は流石に精度が落ちるらしいしね

 

そう結論づけてるとビルの影から巨漢の男が吹き飛ばされて地面に激突し、それを追う様に一人の女性が現れ、別の場所にはゲオルクも霧の転移でやって来た

 

地面に倒れたのは英雄派の幹部のヘラクレスだ。既に禁手化(バランス・ブレイク)しているようで全身からミサイルのような物を生やしている

 

そうか、この一帯に響いていた爆音の主な発生源は彼のようだね

 

「クソっ、ジャンヌ!テメェ裏切りやがって!!」

 

「そうね。仮にも仲間だったんだし、それについては謝っておくわ」

 

ヘラクレスと同じ幹部のジャンヌ!?何故彼女が同じ英雄派に牙を剥いているんだ!?

 

ジャンヌは背後に京都で遠目に見た時よりも力強いオーラを纏った聖剣で出来たドラゴンを従え、右手に剣、左手にアレは本か?それを抱えている。聖女の魂を引き継いだという彼女なら教会の戦士たちのように聖書を武器として扱う事も可能なのだろう

 

しかし、本当に何故彼女が?そう思っているとサジ君が状況を説明してくれた

 

「初めは俺達が護送していたバスに大量のミサイルが飛んできて、それを皮切りに英雄派との戦闘に入ったんだ。だけど・・・その・・・会長が敵の幹部のジャンヌ・ダルクをとある手段で買収して、その忠誠を確かめる意味も込めてあのジャンヌって人に一人で戦わせてるんだ」

 

買収!?買収だって!?少なくとも英雄派の連中がお金で釣られるとは思えないけど一体何を差し出したって言うんだ?

 

疑問に思っているとジャンヌがテンション高く独白し始めた

 

「ああ!我が主様!駒王学園の裏のルートで僅か5冊しか刷られなかったという伝説の聖典!―――『駒王式真羅万象(ハイスクール)』シリーズの書き手が居ただ何て!これはもう運命(Fate)に違いないわ!」

 

ハ・・・駒王式真羅万象(ハイスクール)シリーズ?彼女は一体何を叫んでいるんだ?

 

ジャンヌが左手に持っていた本を掻き抱くようにしてるからアレは聖書とかじゃなくてその『駒王式真羅万象(ハイスクール)』とやらの本なのかな?

 

丁度今彼女が動いてないので悪魔の視力で目を凝らしてよく見てみると如何やら薄めの本を2冊抱えていたらしい事が窺える―――片方には末尾に『(プリンス)×(ビースト)』とあり、もう片方には『(プリンス)×(ナイト)』とあるけど何の略語だろう?

 

そして何故椿姫先輩はさっきから顔を真っ赤にしているんだい?

 

「彼女が今抱えている本の作者は椿姫なのです・・・京都での戦いについては私も報告書を読ませて貰いました。その中であのジャンヌという者が駒王学園の漫研を主体として流通させていた創作物たちに強い興味を抱いていたと分かったので何時か役に立つ可能性も考慮し、(BL本の)裏ルートに通じている人物を洗い出し、一番レア且つ人気の高い作品は何かと尋問(アンケート)しました―――結果、椿姫の書いた『駒王式真羅万象(ハイスクール)』というシリーズ物が伝説級の人気を誇ったものであったとの情報を入手したのです」

 

「会長・・・『コレが欲しければ仲間になりなさい!今なら作者であるここに居る椿姫の直筆サインも付いてきます』って言ったらあのジャンヌってヤツ、速攻で隣に居た仲間を吹き飛ばして副会長の前で片膝ついて忠誠誓ったんだよ・・・見惚れる程の忠義心を感じたぜ。しかもそれから明らかにあのジャンヌの神器の力が跳ねあがったんだ。会長が言うには神器の力の源である強い心・・・信仰心を手に入れたのが原因だって話だ」

 

そ・・・そうなのか。椿姫先輩はテロリストの心さえ入れ替える程の書物を執筆出来るだけの文才も有しているんだね。グレモリー眷属とシトリー眷属の『王』と『女王』は皆文武両道だよね

 

「それだけ心に響く本だと云うのなら今度僕も見せて貰おうかな?」

 

そう言うと椿姫先輩が今まで見た事無いくらいに狼狽えだした

 

「だ、だ、だ、ダメです木場きゅん!」

 

きゅん?噛んだのかな?

 

「あ・・・あの本はですね。とても特定の読者層の趣向に合わせた本となってまして木場君が見ても楽しめないだろうと言いますか・・・見ないで欲しいと言いますか・・・」

 

普段のキリっとした感じと正反対のしどろもどろした様子の彼女を見て僕は察した。成程、自分の作品を身近な人物に見られるのが恥ずかしいという話なんだね。それだと無理に見るのは止した方が良さそうだね。残念だけど諦める事にしようか

 

そう伝えると彼女は心底ホッとした様子を見せた

 

だがそんな彼女に此方に向かってきているヘラクレスのミサイルを全て迎撃しながら追い詰めているジャンヌが大声で話しに割り込んで来た

 

真羅椿姫(あるじ)様!何も恥ずかしがる事など無いんです!書物からは書き手の心情が漏れ出るもの。出された本は何方も(プリンス)が攻め!つまり貴女様は(プリンス)のモデルであるそちらの木場祐斗に責められたいと云う願望の表れなのでしょう?」

 

「な、な、な、な、な、何を言ってるのですかジャンヌさん!」

 

椿姫先輩が先程とは比較にならないくらいに動揺している。図星だったのかな?でも椿姫先輩が僕に攻められたい?ああ、そういう事か

 

「椿姫先輩。僕で宜しければ模擬戦には何時でも付き合いますよ」

 

「えっ、あのっ、木場君。今のは違くて・・・模擬戦?」

 

まだ動揺してたのか僕の言葉が聞こえて無かったみたいなのでもう一度提案する事にする

 

「ええ、模擬戦です。僕に攻められたいと云うのは詰まり、僕と特訓がしたいという事ですよね?薙刀を使った堅実な守りを得意とし、神器の能力もカウンタータイプの椿姫先輩が聖魔剣や騎士団、それにスピードも相まって全方位から細かい攻撃を仕掛けられる僕との模擬戦で力を高めたいと思うのは自然な事だと思いますし、僕自身もカウンター使いとの特訓は望むところです。一緒に頑張りましょう!」

 

そこまで言うと椿姫先輩は今度は顔を両手で覆ってその場にへたり込んでしまった

 

「つ、椿姫先輩?」

 

咄嗟に声を掛けようとするがシトリー眷属唯一の一年生の仁村さんが瞬時に僕と彼女の間に両手を広げて立ち塞がった

 

「ダメですよ木場きゅんパイセン!」

 

木場きゅんパイセン!?そんな呼ばれ方は初めてだ!

 

「これ以上木場きゅんパイセンが副会長にそんな無垢でつぶらで穢れの無い視線を向けたら副会長が罪悪感で潰れちゃいます!」

 

仁村さん。キミは一体何を言っているのか僕には理解できないよ!

 

「そうか・・・副会長って隠れMだったんだな。こりゃ意外だぜ」

 

イッセー君が後ろで小さくボソボソと何かを言っていたけど少し聞き逃しちゃったな

 

椿姫先輩はもう目を瞑って耳を塞いで"イヤイヤ"と形容出来そうな感じに頭を振ってるんだけど、もう普段の凛とした彼女のイメージが崩壊しちゃってるよ

 

そんなに僕は変な事を言っちゃったのかな?

 

「ねぇソーナ。流石にアレは椿姫が可哀そうじゃないの?」

 

「いえ、リアス。アレは椿姫への罰でもあるのです。個人でああいう物を書く分には私も何も言いませんが、椿姫は生徒会副会長の立場でありながら取りしまるべきものを流通させたのですから」

 

「あらあら、そう言われてはフォローの仕様も在りませんわねぇ」

 

よく解らないけど、如何やら椿姫先輩へのフォローは叶いそうにないみたいだ

 

心苦しいが僕に出来る事はもう無さそうなので戦場に意識を戻す

 

「ッチィ!クソッたれが!そんな薄い本如きで此処まで力を引き上げるなんて納得いかねぇ。もうこうなったら出し惜しみは無しに叩き潰してやるぜ!」

 

ボロボロになっていたヘラクレスは懐からフェニックスの涙を取り出して怪我と体力を回復し、更には魔人化(カオス・ブレイク)の注射器も取り出し、素早く首筋に突き刺した

 

「いくぜぇ!『業魔人(カオス・ドライブ)』!!」

 

顔中に血管の浮かび上がったヘラクレスの全身から生えていたミサイルの突起も変形していく

 

変化が終わった時にそこに居たのは全身トゲトゲのロボットスーツのような恰好をしたヘラクレスだった。視界を遮りたくない為か顔だけは出しているのだが半面、首から下が3回り以上は大きくなっているのでかなり不格好になっている

 

恐らくアレで防御力を向上させ、更に体の面積を増やした事で全身に設置したミサイルの数、連射性が向上しているのだろう・・・いや、ジークフリートの戦闘力の引き上がり方からみてミサイルの威力も上昇していると考えるべきだろう

 

「部長!アレは英雄派がシャルバ・ベルゼブブの血液から創り出したという神器の強化薬です!能力を把握するまでは回避と防御に専念して下さい!」

 

「そう・・・英雄派はそんな研究までしていたのね。目的の為に必要と在らばどんな悍ましい事にも手を出して結果を求める―――人間は時として悪魔より強欲だわ」

 

リアス部長が目を細め、他の皆も防御や迎撃の構えを取る。今はヘラクレスはジャンヌと戦ってるけど流れ弾一つでも十分に危険だ

 

「無駄よ。貴方がソレを使うと云うのなら私も同じく強化すれば済む話だもの」

 

今度はジャンヌがポケットから魔人化(カオス・ブレイク)の注射器を取り出すけど、それにソーナ会長が待ったを掛けた

 

「お待ちなさい。貴女が真に今後、私達(椿姫)の下に来るというのであればそのような邪法で生み出された物を使用する事は許しません」

 

「でも!アレはそんな精神論で如何にかなるような安っぽい強化薬じゃないのよ!」

 

確かにあの薬の力を知っている僕には彼女の言いたいことは分かる。しかし、ソーナ会長の言い分は至極もっともだ―――まだ彼女を全面的に信用する事は出来ないが僕とイッセー君が挟撃するような形で戦闘に参加するのが一番無難な選択だろう

 

「では報酬を追加しましょう。貴女が単独で彼に勝てたなら椿姫には新作を書いて貰います」

 

「会長!?」

 

「やります!!そういう訳だからヘラクレス!さっさと倒れて貰うわよ!」

 

椿姫先輩の驚愕を余所にソーナ会長とジャンヌの間に取引は成立したようで彼女の操るドラゴンがより一層力強いオーラを迸らせてヘラクレスに突貫していく

 

その直ぐ後を追うジャンヌは何処か崩れた表情で「ぐふふふ♡」とか言ってるけど何だか今のキミはスケベな事を考えてるイッセー君に近しいものを感じるよ

 

「人間の欲望に付け込み契約を結ぶ。悪魔の基本的な活動の一つです。解りましたか、皆さん?」

 

「『は~い♪』」

 

「おおぅ、シトリー家次期当主直々の悪魔の仕事の実地研修・・・流石ソーナ会長。どんな事も無駄にしないぜ」

 

僕たちの護衛しているバスの子供たちの元気の良い返事を聞いてるとコレで良いのか?とも思えて来るけど多分子供たちの緊張を解す意味も在るんだろうね

 

でもそんな僕たちの様子を余所に向こうでは早くも決着が付きそうになっていた

 

ジャンヌの神器で形作られたドラゴンは殆ど原型を留めておらず、彼女自身もボロボロだ

 

単純な実力ではジャンヌに軍配が上がっていたようだけど、やはりあの薬で跳ね上がったヘラクレスを制する程の実力差では無かったか

 

だがジャンヌはダメージで膝を震わせながらも立ち上がり、神器のドラゴンも修復させていく

 

「まだやんのか?ジャンヌ。薬も使わねぇテメェがこの俺様に勝てる訳ねぇだろうが」

 

「そうね。でも、強大な敵に立ち向かって奇跡を起こしてこその英雄でしょう?私はジャンヌ・ダルクの魂を引き継ぐ者!前世の私は聖書の神の為に戦ったみたいだけど、そんなのは私には関係無かった。でも今日!私は今世において仕えるべき主を見出したのよ!此処で無様な敗北は見せられない!!私の忠誠(大好きなBL本)の為にも私は今の貴方を打倒す!!」

 

何という強い想いだ!彼女の気迫が遠くに居る僕にまで響いてくるみたいだよ

 

そうか、英雄ジャンヌ・ダルクは仕えるべき主を定めてこそ真の力を発揮するタイプの人だったんだね。そんな彼女が今世で主と認めたのが椿姫先輩だったと・・・彼女はテロリストだし、戦いが終わってから直ぐにとはいかないだろうけど、もしかしたら将来椿姫先輩が上級悪魔まで昇格したら眷属か、そうでなくとも臣下には加わるかも知れないね

 

「・・・さっきから祐斗先輩が微妙にズレた感想を抱いてる気がします」

 

「良いのよ白音。別に祐斗が知る必要の無い事柄だから、あのままそっとしておきましょう」

 

だが、立ち上がったジャンヌは既に満身創痍である事に変わりはない。如何するつもりだ?

 

「・・・そうよ。私の『断罪の聖龍(ステイク・ビクテイム・ドラグーン)』は壊れても修復する。それって詰まりはそれだけ余力が有るって事よね?なら、これで如何かしら!」

 

ジャンヌが気合を入れると修復した聖剣のドラゴンの左右に更に二体のドラゴンが現れた!

 

一体だけでもかなりの威圧感を放っていたのにそれを三体同時に生み出すとは・・・あのドラゴン一体形作るのに聖剣が数百本分は必要だと考えると三体同時ともなれば恐らく千本前後の聖剣を常に運用しているようなモノだろう。当然、消耗は激しいだろうし完全に短期決戦仕様だね

 

「けっ、そんなラジコンドラゴンが少し増えたからって如何だって言うんだ!こちとら全身に増設されたミサイルの数は三倍程度じゃ収まんねぇんだよ!物量でこの俺に勝てると思うな!」

 

ヘラクレスはそう叫ぶと全身のミサイルを一斉に撃ち出してジャンヌのドラゴンを全て破壊してしまった。ジャンヌはドラゴンを巧みに犠牲にするように動かしたらしく、追加のダメージは多くないようだ。しかし、オーラの消耗はやはり激しいらしく既に肩で息をしている

 

だがヘラクレスのセリフを聞いた彼女は何処か自嘲するように口元に笑みを浮かばせた

 

「ふふふ、私って馬鹿ね、ヘラクレス」

 

「あ゛?」

 

「元々私の『断罪の聖龍(ステイク・ビクテイム・ドラグーン)』は多くの敵を殲滅する為じゃなくて、全ての力を一つに集約することでたった一人の強敵を屠れるように発現させたもの・・・その心を忘れて再び数に頼ろうだ何てね。まぁドラゴン複数顕現も使い勝手は良さそうだったけど、今倒すべきなのはアンタ一人。だったらこうするべきよね!」

 

彼女のドラゴンが今度は一つに集約されて今までより体格の一回り以上は大きい三つ首のドラゴンがそこに生まれた!

 

「合体だ~!」

 

「凄~い!ドラゴンって合体するんだ~!」

 

子供たちも大はしゃぎだ

 

「ねぇねぇおっぱいドラゴ~ン!」

 

「ん?どうした、お嬢ちゃん?」

 

瞳をキラキラさせていた子供たちの内の一人の女の子がイッセー君に声を掛ける

 

「ドラゴンが合体するならおっぱいドラゴンも誰かと合体するの~?私、ダークネスナイト・ファングとの合体を見てみた~い♪」

 

「え!いや、それはチョット・・・」

 

鎧越しでもイッセー君の声が強張ったのが解るけど如何したんだろう?要するに僕とイッセー君のコラボ技を見たいって事だよね?

 

「? 如何したんだいイッセーくん。良い案じゃないか。新しい(戦闘の可能性の)扉を開く為にも早速今度合体(技)をしてみようか」

 

カハッ!!

 

キャー!副会長が倒れたー!

 

このままじゃ副会長が尊死しちゃう!

 

誰かあの天然ホモ発言機を止めろー!

 

何だか急にシトリー眷属側が騒がしくなったみたいだけど特に流れ弾が来た訳でもないみたいだし、問題無いはずだ

 

「『究極の(アルティメット・)断罪の聖龍(ステイク・ビクテイム・ドラグーン)』・・・流石に私も、もう余力が無いからね。これで決めさせて貰うわ!」

 

「上等だぁぁぁぁぁ!!」

 

彼女の三頭龍がヘラクレスに向かって高速で飛翔する

 

ヘラクレスが迎撃に撃ち出したミサイル群を三つ首のブレスで正面から迫るモノを撃ち落としていき、六枚羽となった翼で衝撃波を繰り出して側面から回り込んでくるミサイルも誘爆させてゆく

 

しかし、距離が縮まる程にヘラクレスの弾幕が厚くなる為にどんどんと被弾していき、三つの首も二つまでがもげてしまう

 

だが、最後の一押しで近距離まで割り込んだドラゴンがヘラクレスの胸部の装甲を噛み砕いた

 

“ッドガァァァァァァン!!”

 

盛大な爆発が起き、爆炎から逃れるようにヘラクレスが出てくる

 

「へ!ざまぁねぇな!爆発反応装甲ってヤツさ。頼みの綱のドラゴンもこれで全部の頭を吹っ飛ばしてやった・・・ぜ!?」

 

ヘラクレスが最後まで言い切る前にジャンヌが一本の聖剣をヘラクレスの壊れた装甲の部分に突き立てていた―――ヘラクレスの側からは見えてなかっただろうけど僕たちからは彼女があのドラゴンを突撃させる直前に背中の部分に人ひとり入れる程度のスペースを開けてそこに乗り込む様子が見えていた

 

「油断。アンタの最大の弱点だからよく覚えておく事ね」

 

彼女はドラゴンが破壊される事も織り込んでヘラクレスの油断する一瞬を狙いすましたんだ。もっとも、ミサイルで壊されたドラゴンの破片と爆炎で全身に切り傷と火傷を負っているみたいだけど、この勝負は文句なしに彼女の勝利だ

 

・・・さて、そろそろ僕もジャンヌとヘラクレスの戦いの観戦という『現実逃避』はこの辺りにしてもう一つ(・ ・ ・ ・)の戦場に意識を向けないといけない時がきたようだ

 

そう、この場には元々ジークフリートと一緒に神滅具(ロンギヌス)所持者の霧使いゲオルクが居る。ジークフリートも向かう予定だったと言っていたし、現に最初にヘラクレスがジャンヌに吹き飛ばされて出てきた時も一緒にこの場に来ていた

 

そんな英雄派でもリーダーの曹操に次ぐポジションと云っても過言ではないはずの、神器の力だけでなく自身の魔法も卓越した技量を持った彼が今・・・ギャスパー君(?)にさっきから防戦一方で只管蹂躙され続けているのだ

 

「あの、部長・・・」

 

「あら?何かしら祐斗?」

 

「あの空を飛んでいる黒いオーラを纏ったミサイルと機関銃とレーザービームを乱射している段ボール箱はギャスパー君何ですよね?」

 

「・・・そうよ」

 

やはりそうか!出来れば勘違いであって欲しかった!

 

「ック!我が霧も魔法も侵食されて貫かれる。一体何だと云うのだ、そのドス黒いオーラは!?そして何故段ボール箱に入っているのだ!?」

 

ゲオルクが今まさに自分を襲っている理不尽な光景の元凶に問いかける

 

「ふっふっふ!よくぞ聞いてくれましたね!僕は神の子を見張る者(グリゴリ)で幹部の一人、サハリエルさんの下で新たな力・・・いえ、僕の中に眠っていた力を解放出来たんですぅ!サハリエルさんと一緒に力の扱いを模索する中で言われたんです『ヴァンパイア君はその内向的な精神が潜在能力を発揮する上で妨げになっている』って」

 

うん。確かにそういう面は在るだろうね。オーラの出力や、特に神器の力とかは精神力が大きく左右するからね。イッセー君の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)なんかはもしかしたら全神器の中で一番それを如実に表している神器かも知れない

 

「僕の内気な部分を直ぐに改善するのは難しいと言われましたが、同時に打開策もサハリエルさんは提示してくれたんです!僕自身、何で気付かなかったのかと思いました・・・僕は人と話す際、紙袋を被っていれば落ち着けるんです!そして段ボール箱は僕のもう一つのホームグラウンド!サハリエルさんは僕に段ボール箱に入ったまま戦えば新しい扉を開けるんじゃないかと提案してくれて、ついでにと段ボール箱に各種武装も取り付けてくれたんです!」

 

何をやってるの!?ギャスパー君の潜在能力を引き出す為に彼自身が落ち着ける状態で力を振るわせてみるというのはまだ理解出来るけど、ミサイルとかは絶対にサハリエルさんの趣味だよね!?

 

「結果。僕は今までにない魔力、神器の数値を叩き出しました。でも、それだけでは終わらずに僕は闇を身に纏う力を得たんです。多分コレが僕が変異の駒(ミューテーション・ピース)を使った理由だと思います。サハリエルさんが言うにはコレでも僕の内に眠る力の表面的な部分しか扱えていないようですから・・・それでも、この闇をミサイルに付与すればキミの防御を貫く事くらいは出来るみたいだね。此処で倒れて貰うよ!霧使い!今の僕はもう昔の段ボール箱に引きこもっていた僕じゃない!今の僕は段ボールヴァンパイア神。否!闇を纏いし『段ボールヴァンパイア神・オルタ』だ!」

 

ああ、あの何時も弱気だったギャスパー君が自ら神を名乗る程に自信と力を付けて来るだなんて、本当に成長したんだね・・・そう思う様にしよう

 

多分深く考えたら思考の迷路にドン詰まると思うからさ

 

全武装展開(ガンバレルフルオープン)!」

 

「このままではジリ貧で押し切られる!この場は退くしかないか!」

 

ギャスパー君が段ボール箱を中心にコレでもかと云うほどの兵器群を展開させる。アレはもうさっきまでのヘラクレスと同等かそれ以上の数が有る!神の子を見張る者(グリゴリ)の資金をどれだけつぎ込んだんだ!?

 

不利と悟ったゲオルクが足元に転移魔法陣を展開させようとするが魔法陣が構築される途中でその動きを停止させてしまった

 

「馬鹿な!我が魔法を停止させただと!?停止世界の邪眼(フォービドウン・バロール・ビュー)の力までもが格段に上昇していると云うのか!?」

 

ゲオルクの魔法だけを停止させた!?それ程までに繊細な操作を可能とするなんて・・・そうか、ギャスパー君。キミはついに神器の力を我が物としたんだね

 

「これで終わりです!『終焉齎す宵闇の雨(ハルマゲドン・ブラック・レイン)』!!」

 

「ぐあぁァァァ!?馬鹿なぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ああ!ギャスパー君がアザゼル先生が聞いたら喜びそうな技名を人前で叫びながら攻撃するなんて―――この戦いが終わったらサハリエルさんだけでなく、アザゼル先生も混じってギャスパー君に更なる武装・改造を施しそうで、もはや恐ろしいよ!

 

そうしてゲオルクはギャスパー君の力の影響なのか漆黒に彩られた爆炎の中に消えていった

 

「闇の炎に抱かれて消えて下さい」

 

ギャスパー君が痛々しいキメ台詞を放つ。色んな意味でキマッてるね

 

「・・・なぁ木場」

 

「何だい、イッセー君?」

 

「ギャー助は一体何処に向かって進化しようとしてるんだろうな?」

 

「・・・『段ボールヴァンパイア神・オルタ』なんじゃないかい?」

 

他に如何言えば良いのだろうか?

 

「ともあれ、コレでこの場の敵勢力は全員無力化しましたね。ジャンヌ、貴女に関しては一度拘束させて貰いますが仮に天界側が貴女の身柄を預かるとしても可能な限り便宜(BL本提出)を図る事を約束しましょう」

 

ソーナ会長はそう言いつつジャンヌを魔力の縄で拘束していき、ジャンヌ自身も特に抵抗する事なく捕まった。取り敢えず目先の脅威は過ぎ去ったかな

 

「リアス、私たちはこの子たちの護送任務に戻ります。今は転移ゲートが何処も詰まっている為にバスで移動していましたが、英雄派の幹部に子供たちのバスが壊されたと云えば転移の許可も下りるでしょう。いえ、降ろさせます」

 

「分かったわソーナ。なら私達の相手はアレ(・ ・)という事ね」

 

リアス部長が大通りの先を見つめるとそこには既にあの超巨大魔獣『超獣鬼(ジャバウォック)』の姿が見える。もうこのリリスの外周辺りまでは攻め込まれているみたいで激しく魔力弾が弾けているのが遠目にも分かる

 

時間的にもうそろそろベルゼブブ様の対抗術式が現場にも届いている頃だろうから僕たちも向かうとしよう。少なくともイッセー君の派手な攻撃は確実にあの魔獣相手に相性は良いだろうからね

 

そうして僕たちはシトリー眷属と別れて魔獣の近くに向かって行くと途中でサイラオーグさんとレグルスに出会った

 

「サイラオーグ!貴方も来ていたのね!」

 

「うむ。冥界の危機と在らば呆けている訳にもいかんからな。先ほどまで俺と眷属たちはこの街で暴れている旧魔王派の残党の相手をしていた所だ。一通り片付いたので細かい事はクイーシャに指揮を任せて俺はアレの相手をしようと思ってな。アレが街に踏み入ればそれだけで被害は甚大だ」

 

「そうね。急ぎましょう!」

 

僕たちが戦闘区域に辿り着いた時には既に激しい戦闘が始まっていた

 

如何やらベルゼブブ様の編み出したという対抗術式は既に効果を発揮しているみたいで遠距離攻撃部隊の放つ攻撃は魔獣の表面を傷つけている・・・ただ、余りにも再生が速い為中々ダメージを与えているようには見えないけど対抗術式無しでは『豪獣鬼(バンダースナッチ)』相手でも精々衝撃を通して歩みを鈍らせるだけだったのを考えれば破格と云ってもいい位だ―――つくづくイッキ君の【じばく】の出鱈目さを痛感させられるよ

 

万物の事象を数式として操ると言われるベルゼブブ様が数日掛けて対抗術式を編み出したのにイッキ君の【じばく】は『特性だから』であの堅い防御を半ば突破出来るんだから・・・いや、あの技が耐久値の半減という事は魔獣を覆う結界だけでなく、魔獣自身の肉体の耐久値も半減していると見るべきか。ハハ、僕なら掠っただけで死にそうだよ

 

「如何やら『超獣鬼(ジャバウォック)』の上半身と下半身に分けて攻撃を加えているみたいね。足元で戦っているのはお兄さま・・・ルシファー様の眷属の方々よ」

 

冥界でも最強と名高いサーゼクス様の眷属。今はグレイフィア様と炎駒様がイッキ君の護衛で居ないけど、残りのメンバーも強力だ

 

サーゼクス様の眷属には僕の師匠を含めて近距離戦で真価を発揮する方々も居る上に下手に一般兵などが近くに居れば攻撃の余波だけで死にかねないから彼らだけで戦っているのだろう

 

生み出される小型の魔獣(美女)達も僕の師匠は剣士であると同時に体内に大量の妖魔を飼っているからそちらの対処も問題無いみたいだしね

 

そしてそれ以外の此処に集まっている各勢力の援軍たちが主に胸から上を狙って遠距離の飽和攻撃を仕掛けているようだ―――魔獣の大きさが大きさだからフレンドリーファイアをそこまで気にしなくていいみたいだね

 

「ぬぅ・・・これでは俺は思っていたような援護は出来んな。流石にサーゼクス様の眷属が連携して戦っている場所に下手に割り込む訳にはいかんだろう」

 

サイラオーグさんがそういうけど僕も同じかな。聖魔剣では精々中距離程度までしか威力を維持できない。あれだけ魔獣と距離があると届く頃には半減しているだろう

 

でもそれは聖魔剣での話だ。僕は皆と合流する途中に亜空間に仕舞ってあったグラムを取り出す

 

「う゛っ、木場。何だその剣は?」

 

取り出した瞬間、魔剣から漏れ出る龍殺しの呪いとも云えるオーラにイッセー君が思わず一歩引いてしまった

 

「これはジークフリートの持っていたグラムだよ。他の魔剣も含めて如何やら僕の事を新しい主と定めたらしくてね」

 

「マジか!お前たった一戦俺達から離れていただけでどんだけパワーアップして帰って来てんだよ!カーッ、これじゃ模擬戦で益々油断できねぇな!お前相手に油断した事なんて無いけどさ」

 

ははは、イッセー君にそう言って貰えるのは光栄だね

 

しかしこのグラムならば斬撃のオーラをあの魔獣に叩きつける事も出来るはずだ

 

「成程、斬撃を飛ばす一撃か。ならば俺も性に合わんなどと言ってられんな。レグルス!」

 

「はっ!」

 

サイラオーグさんがレグルスに声を掛けると彼はライオンの姿から変化する。鎧の姿になると思ったんだけど如何やら違ったみたいで巨大なバトルアックスに変化して地面に突き刺さった。それをサイラオーグさんは抜き取る

 

「元々レグルスは獅子の姿以外にもこのバトルアックスの姿で所有者に振るわれるモノだ。一振りで大地を割るこの戦斧ならば大気も割れる道理!」

 

いや!その理論は無理があるんじゃないかなぁ?まぁ彼ならばそんなのは関係無しに斬撃を飛ばしてくれるだろうから良いんだけどね?

 

「よし!それじゃあ作戦通りに進めましょうか!リアス、朱乃さん、アーシア、ゼノヴィア、宜しくお願いします!爆炎で常にあの魔獣の姿がほとんど見えない今なら消し飛ばせますんで!」

 

「うむ!任せろイッセー!」

 

「あらあら、うふふ♪ゼノヴィアちゃんには負けてられませんわ」

 

「わ、私もイッセーさんのお力になりますぅ!」

 

「皆、最初に突かれるのは私の役目だからね!」

 

我さきにとまろび出される女性陣の胸たち。皆さんこういうのに抵抗がなくなり過ぎじゃないですか!今はもう目を背けたけど普通に最初は視界に入ってしまったよ

 

「おお!兵藤一誠が彼女達の胸を突くのか!リアスの胸だけでもあれ程のパワーを引き出す赤龍帝ならば確かにあの魔獣にも致命傷を与えられるかも知れんな!」

 

「ええ!サイラオーグさん。俺今物凄く感動しています!俺が皆のお乳を突くまでの間、時間稼ぎをお願いして良いですか」

 

「うむ!引き受けた!さぁ木場祐斗よ。俺と一緒に兵藤一誠が仲間の乳房で強くなるのを手助けしようではないか!」

 

間違っていない!間違っていないからこそハッキリとストレートにそう言われると全身の力が抜けていく感じがしますよ!

 

そうしてイッセー君とイッセー君に胸を突かれるメンバー以外は各部隊から繰り出される魔力弾に自分の攻撃を混ぜていく

 

僕やサイラオーグさんの斬撃もちゃんと魔獣に届いたみたいでそこそこの範囲を切り裂いている

 

「いやんっ♡」

 

「ぁはん♡」

 

「んっ♡」

 

「はぅん♡」

 

後ろから女性陣の声がハッキリと聞こえて来る・・・今は悪魔の聴覚が恨めしいよ

 

取り敢えず部長、副部長、ゼノヴィア、アーシアさんの順番だったとだけ言っておこうか

 

「来た来た来た来たぁぁぁ!!」

 

後ろからイッセー君の興奮した声と莫大なオーラの迸りを感じる

 

準備が整ったみたいなので後ろを振り向くと紅のオーラにどこかピンク色っぽいオーラ(乳力(ニューパワー)?)を噴き出したイッセー君が居た

 

彼は両肩の砲門を魔獣に向けて凶悪なほどのオーラを収束させていく

 

「イッセー、ルシファー眷属には極大砲撃が向かうと連絡を入れたわ!何時でも良いわよ!」

 

「了解です!いっくぜぇぇぇ!『ドラゴンおっぱいブラスター!!』」

 

「酷いネーミングセンスです。サイテーですね、イッセー先輩」

 

白音ちゃんのツッコミと同時にイッセー君の乳力(ニューパワー)を乗せた必殺の砲撃が放たれ、『超獣鬼(ジャバウォック)』の上半身に直撃した

 

「やったか!?」

 

「イッセー先輩!コカビエルの時に学ばなかったんですか!それはフラグです!」

 

白音ちゃんはそういうけど今の一撃を見た後だと流石に倒せたと思ってしまう。でも、如何やら確かにそれはフラグというものだったらしい

 

爆煙が晴れるとそこには胸から腹に掛けて巨大な穴を開けてなお倒れない魔獣が居た

 

しかもその穴も徐々に再生してきているようだ

 

「何を呆けている!あの穴を塞がせるな!遠距離攻撃で再生を阻害しろ!」

 

一早く立ち直ったサイラオーグさんが攻撃を仕掛け、他の場所に居た悪魔や堕天使、妖怪やヴァルキリーの援軍も彼の攻撃を見て弾幕を張るのを再開した

 

「クソ!今の一撃でもダメだなんて!」

 

イッセー君が悔しがっている。自慢の乳力(ニューパワー)で倒しきれなかったのが心底悔しいのだろう

 

そんな中、魔法のフルバーストを放っていたロスヴァイセさんが静かに溢す

 

「・・・如何やら、私も覚悟を決める必要があるみたいですね。イリナさん、貴女もです」

 

「へぅ!私?如何いう意味なのロスヴァイセさん?」

 

「当然、私達もイッセー君に胸を差し出すという意味です。さっきの一撃があの魔獣に大ダメージを与えたのは事実。そして未だに回復しきっていない今なら追加で先程の攻撃を上回る一撃を放てばあの魔獣も倒せるでしょう。この場でイッセー君に乳力(ニューパワー)を差し出せるのは後は私とイリナさんしかいませんからね・・・白音さんに頼んだら後でイッキ君がイッセー君を割と本気で殺しかけそうなので却下ですが」

 

そうか!4人の乳力(ニューパワー)でダメなら今度は6人の乳力(ニューパワー)でドラゴン(おっぱい)ブラスターを放つと言うんだね!確かにそれならイッセー君なら先ほどの攻撃を大きく上回るくらいの一撃を放ってくれそうだよ

 

・・・大分僕も頭がイカレてきた気がするのはグレモリー眷属でいる限りは宿命かも知れないね

 

「ロスヴァイセ。貴女がそんな提案をするだなんてね」

 

「冥界の危機ですから・・・それを私の羞恥心一つで何とか出来るならやらない訳にはいかないでしょう。恥ずかしいですが、どうせ私は独り身ですしね。フフ、フフフフフ!」

 

ロスヴァイセさんが自虐ネタで本気で落ち込みだしてしまった!ま、まぁ彼女は美人で優秀なのだから例え放って置いたとしても求婚者とか現れそうだけどね・・・多分

 

「わ・・・分かったわ!コレはエッチな事じゃなくて冥界を救う為に必要な事!そう思えば私も堕天しないと思うから皆と一緒に胸を突かれる事にするわ!」

 

「なぁにぃぃぃぃ!?マジですか!マジで半神の戦乙女と天使のおっぱいも追加で突かせて貰えるんですか!?レア度で言ったら☆5クラスだよ!いや、それはリアスたちも一緒なんだけど!」

 

イッセー君が大変に興奮する中、今度はロスヴァイセさんとイリナさんを加えて皆が胸をイッセー君に差し出す事になった

 

「あん♡」

 

「っく♡」

 

「はぅ♡」

 

「あっ♡」

 

「きゃ♡」

 

「ぅう♡」

 

今度は部長、ゼノヴィア、アーシアさん、副部長、イリナさん、ロスヴァイセさんの順に声が聞こえて来た―――頼むからコレで終わりにして欲しい

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!今度こそ終わりだ!『ドラゴンおっぱいフルブラスター!!!』」

 

イッセー君の一撃は魔獣の腰から上を完全に吹き飛ばし、如何やらその何処かに核のようなモノがあったのか残りの下半身も塵と消えていった

 

それを見て皆が漸く緊張を解く。これでやっと全ての魔獣が倒されたからね

 

だけどその時、強大なプレッシャーが僕たちを襲った。この感覚は死神のモノ!それに感知タイプでもない僕にも分かる―――これはあのタナトスとプルートの気配だ!

 

このタイミングで出て来るとは如何いうつもりだ?

 

「ッ!!死神と一緒にイッキ先輩の気配が在ります!」

 

何!?イッキ君は今グレモリー領でグレイフィア様を筆頭に手練れの方々と一緒に居るはず。如何やって連れ出して来たと言うんだ!?

 

「此処から遠くないわね。皆、直ぐに向かうわよ!」

 

部長の号令の下僕たちはそれほど離れていない場所から感じる気配の下へ全速力で飛んでいった

 

 

[木場 side out]




イッキが居ないので引き続き木場視点でした。彼もツッコミばかりなのも悪いと思ったので今回の前半部分はボケに回ってもらいましたww


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第五話 処罰と、改心です!

魔獣騒動編もこれで終わりですね。魔獣騒動直後のOVAのイッセーの追試と温泉旅行は書く気もないのでこれで完全無欠にアニメ分に追いつけました


さて、状況を確認しようか

 

俺はつい先ほどまでリアス部長の実家のグレモリー城で黒歌やレイヴェル、あと護衛として一緒に居て下さってたグレイフィアさんにバラキエルさん、炎駒さんと冥界のテレビを見ていた。今は大抵のチャンネルで各地の様子が生中継されてるし、軍部の情報とかはグレイフィアさんやバラキエルさんの方にも情報が入ってる

 

テレビの向こうで『超獣鬼(ジャバウォック)』を悪魔を中心に様々な種族が全力でフルボッコにしていると一際巨大な紅とピンクのオーラに彩られた砲撃が『超獣鬼(ジャバウォック)』の体の中心を穿ち、その後更に強大な砲撃が今度は上半身を完全に消し飛ばしたようだ

 

十中八九イッセーの『おっぱいキャノン』的な攻撃だろう

 

そうしてコレで全ての魔獣が殲滅された事に全員の気が緩んだ瞬間に俺は突然の強制転移と思しきもので街中に転移させられ目の前にはタナトスとプルートが居る・・・ついでに言えばこの周囲一帯に結界が張ってあって逃げるのは非常に難しそうだという事だ―――『拉致監禁・ダメ・絶対』と言ってやりたい

 

いや!と云うかそもそも何でこいつ等は俺を強制召喚出来たんだ!?仮にもグレモリー公爵の家に居たんだから転移封じも含めて結構強固なセキュリティが張ってあったと思うんだけど!?

 

≪驚いていらっしゃるようですね。此方も色々苦労した甲斐があったというものです。この度は貴方の中に居るサマエルを招待状の代わりにして呼び出させて頂きました。元々サマエルは我らが冥府で管理していたもの。それに加えて貴方がタナトス殿にサマエルの毒をタップリと注いで下さったのでそちらを触媒にしてパスを繋ぎ直しました―――本来ならば冥府に直接呼び出せたら良かったのですが薄いパス程度では同じ冥界に呼び出すのが精々でしてね・・・もっと時間を掛ければその限りでも無かったかも知れませんが、貴方があの魔獣たちを早々に処理してしまったのでこれ以上待つ事は出来ないと召喚を強行させて貰いました。いやはや、私とタナトス殿の二人掛かりでやっと召喚出来るとは中々にギリギリのタイミングでしたよ≫

 

サマエルの細い繋がりを神クラス二人が力業で手繰り寄せたって事?

 

死神に熱烈な歓迎を受けるとか欠片も嬉しくねぇよ

 

それに最上級死神が二人とか・・・何方か片方だけならまだしも二人同時とかマジで無いわ

 

「確かプルートとやらはオーフィス狙いじゃ無かったのか?そっちに行けよ」

 

今ならオーフィスの力も安定性を増してるだろうからそのまま返り討ちになっちまえ!

 

≪貴方方がそれを言いますか?―――オーフィスが何処に匿われているのか、ある程度は絞り込めますがグレモリー領、四大魔王領のいずれか、神の子を見張る者(グリゴリ)など、片っ端から攻め入るような真似は流石の私も出来ませんのでね≫

 

≪そこで私がハーデス様に手持無沙汰になっているプルートを一時的に貸して貰ったのだよ。サマエルと違ってオーフィスの回収はそこまで急ぎという訳でもないからな≫

 

プルートの説明にタナトスが補足する・・・丁寧なご説明痛み入りますよ!(半ギレ

 

まぁ今の話の内に会話(・ ・)は出来た

 

そして次の行動に移そうとする前にこの辺を覆う結界の外にイッセー達がやって来た

 

そうなんだよなぁ、タナトスたちが俺を態々このリリスに召喚したのってこの辺一帯を人質に取って俺の【じばく】を封じる為なんだろうな

 

魔獣たちはただ突き進んで来るだけだったから良かったけど、俺の【じばく】ってぶっちゃけ対策取るのはかなり簡単なんだよな―――どう考えても防衛とかには向いてない力だし

 

いや、そもそも『自爆』にそれを求める方が間違ってるのかも知れんけどさ

 

「イッキ!クソ、この結界、無茶苦茶硬てぇ!」

 

呼びかけと同時に結界を殴りつけたイッセーが弾かれる

 

イッセーで無理なら単純なパワーでの突破は難しいか―――【一刀羅刹】で内側から結界を切り裂いてもこの二人相手にそんな隙を晒したら次の瞬間封印されてお持ち帰りだ

 

仮に俺一人でこの二人と戦って勝てる確率とか考えたくないな・・・まぁゼロって訳じゃないが

 

「皆さん下がって下さい!僕の闇ならあの結界でも侵食して貫けると思います!」

 

ん?アレは蠢く闇を纏った段ボール箱?アレってギャスパーだよな?さっきまで普通の格好でオドオドしてなかった?何でいきなりその恰好でそんなに強気になってるの?

 

そんな疑問を余所に漆黒の段ボール箱は大量の・・・形状からしてミサイルかな?それを展開して結界に撃ち放った

 

威力そのものはイッセーの攻撃の方が上に見えるがさっきギャスパーが『侵食』と言っていたようにあの黒い闇は結界にドンドン浸み込んで最後には人ひとり分軽く入れる程度の穴が開いた

 

「イッキ先輩!穴が塞がらない内に早く!」

 

ギャスパーお前、無駄に頼もしすぎる活躍を見せるな!お前のキャラはどこ行った!?

 

≪おっと、お前を逃がす訳にはいかないのだよ≫

 

だが当然というべきか基本性能で上回るタナトスとついでにプルートが立ち塞がる

 

「なら!乗り込んで叩くまでだ!」

 

結界の修復機能か徐々に塞がりつつあるその穴にイッセーが背中のブーストを吹かして突入しようとしてくる―――だがそのイッセーは途中に割り込んで来た者に弾かれてしまった

 

「悪いな兵藤一誠。此処は俺が行かせて貰う」

 

そうして結界に入って来たのは案の定と云うべきかヴァーリだった

 

≪ほぅ、白龍皇か≫

 

タナトスが何処か歓心しているように言う

 

「ああ、先日ぶりだな。と云っても前の時は出会ったとも言い難いものだったが」

 

≪貴殿はあの時サマエルの呪いに蝕まれていたのだろう?ドラゴンでもある貴殿がもう回復しているとは驚いたぞ≫

 

「呪いの処置はあの時既に済ませてあったのでね。とはいえ中々にキツかった事は否定はしないさ。漸く本調子を取り戻したのは良いが、俺が寝ている間に俺のチームのメンバーは冥府のハーデスに嫌がらせに行かせたし、あの巨大な魔獣たちは俺が戦おうとしても横やりが酷い上に有間一輝が大方片づけてしまったからね。俺の鬱憤を晴らせる相手は曹操かお前たちだけなんだよ。他の英雄派や死神では物足りなくてね。やっと出て来てくれて感謝している」

 

俺も感謝してるぞヴァーリィィィィ!!

 

ぶっちゃけ今はイッセー単体が援軍に来るより遥かに心強いわ!死んだらまぁしょうがないで済ませられるし、何より乳力(ニューパワー)の無いイッセー何てただの赤龍帝だしな!

 

「さて、なら俺もそろそろ援軍を呼びますか」

 

そう言って顕現させた神器で腕を斬り付け、その血を触媒にして黒歌を召喚した

 

良し!絶霧(ディメンション・ロスト)の結界も突き破った使い魔召喚で且つ、この結界が俺を召喚(・ ・)したって処から出るのは難しくとも侵入は何とかなると思ったが案の定で助かった

 

「やぁっと呼び出したのね。さっき通信で呼ぶって言うから身構えてたのに一体何やってたのかにゃ?」

 

毎度おなじみイヅナ通信なら妨害電波も何のそのだったりする。うちのイヅナが優秀過ぎて助かる

 

「悪いな、丁度その時にイッセー達がやって来たり、ヴァーリが参戦を表明したりしててさ―――グレイフィアさん達は?」

 

「今、転移で向かってるはずにゃ。そんなに時間かけなくても来るんじゃにゃい?」

 

≪成程、元々時間を掛ければ結界も壊されるか侵入されるでしょうから手早く済ませるつもりでしたが、こうも早く援軍が来るとは・・・では、これ以上面倒になる前に有間一輝、貴方を確保いたしましょう≫

 

「ふっ、手早く済ませたいのは此方も同じだ。邪魔が入る前に戦おうじゃないか。有間一輝、タナトスは元々お前狙いみたいだからな。お前が殺るといい―――俺はプルートを貰おう」

 

「了解。俺もタナトスに逃げられるのは勘弁だし、お互い速攻で決めようか」

 

≪ファッファッファ!神を相手に尊大な態度を取りおる若造共だ≫

 

≪先ほど、冥府でフェンリルも暴れているとの通信が入りました。神をも殺せるあの牙は脅威です。忌々しい牽制を頂きました。白龍皇にして魔王の血筋という貴方との戦いは私も楽しみたい所ではありますが我々も冥府に帰らなくてはなりません。短い間でしょうが、せめて全力で潰し合いましょう≫

 

プルートの言葉を聞いてとても嬉しそうな雰囲気を醸し出すヴァーリ・・・プルートも何だかんだいってかなりのバトルマニアだよな

 

「同じ二天龍の兵藤一誠は全く新しい力を身に付けようとしている。だが俺は違う。俺は白龍皇としての力を極め、その先に向かう!今此処に、俺だけの『覇龍』を見せてやろう」

 

ヴァーリは全身から白銀のオーラを放ち、詠唱を始める

 

「我、目覚めるは、律の絶対を闇に堕とす白龍皇なり」

 

『極めるは、天龍の高み!』

 

『往くは、白龍の覇道なり!』

 

『我ら、無限を制して夢幻をも喰らう!』

 

ヴァーリの詠唱に続いてヴァーリの鎧の宝玉から恐らくは歴代白龍皇の思念のようなものが高らかにその戦意を告げる

 

「無限の破滅と黎明の夢を穿ちて覇道を往く―――我、無垢なる龍の皇帝と成りて」

 

「「「「「汝を白銀の幻想と魔道の極致へと従えよう」」」」」

 

『Juggernaut Over Drive!!!!!!!!!!』

 

最後の一節を歴代白龍皇と共に唱え終わったヴァーリ

 

前に見た覇龍(ジャガーノート・ドライブ)は見た目も小型のドラゴンっぽくなっていたが今のヴァーリは白銀の鎧が少しだけ有機的に変化したくらいだ

 

そして何よりも感じ取れる馬鹿みたいなオーラ。恐らく以前の覇龍(ジャガーノート・ドライブ)は暴走を押さえつける必要があったが、今の白銀の鎧はその分のリソースを戦闘力に割り振っているのだろう・・・強くなるはずである

 

「『白銀の(エンピレオ・ジャガー)極覇龍(ノート・オーバードライブ)』歴代所有者を説き伏せた、俺だけの強化形体だ。とくとその身に刻むがいい」

 

それに対してプルートは高速で動き回り、数多のの残像を生み出しながら接近してドス黒いオーラを纏わせた赤い鎌を振るう。だがそれはヴァーリの裏拳一発で粉々に砕かれてしまった

 

≪ック!≫

 

驚愕し、距離を取ろうとするプルートだがそれよりも速くヴァーリのアッパーがプルートの顎に突き刺さり上空に打ち上げられ、ヴァ―リはそちらに右手を向けて掌を握りしめた

 

「圧縮しろ」

 

『Compression Divider!!!!』

 

『Divid Divid Divid Divid Divid Divid Divid Divid Divid Divid Divid Divid Divid Divid Divid!!』

 

プルートがまず縦に半分になり、次に横に半分になる。そしてまた縦、横とタナトスが止める間もなく豆粒以下の大きさに圧縮されていく

 

≪こんな!―――このようなバカげた力が!!≫

 

その言葉を最後にもはや視認すら出来ないサイズにまで圧縮されたプルートは原子の塵と化してこの世から消滅した

 

≪プルート!!?≫

 

おっと、お仲間が何も出来ずに瞬時に殺られたのに動揺するのは分かるけど、それはダメだ

 

「悪いが死ねよ【一刀羅刹】!!」

 

≪!!ッツ≫

 

既に禁手(バランス・ブレイカー)の大剣を持っていた俺はタナトスに斬り付けるが本能で危険を察知したのか僅かに体をずらしたタナトスの左腕を斬り落とすだけに終わった

 

≪ぐうぅぅ!貴様がサマエルを持っているのは危険だ!ハーデス様には悪いがここで貴様を殺し、適当な人間に憑りついたサマエルを回収するとしよう!≫

 

左腕を斬り落とされたタナトスが瞬時に目標を下方修正し、背後に抜けたイッキに振り返りざまに右手に持って手放さなかった大鎌を横一閃に振るう

 

前回の戦いの後、【一刀羅刹】のデータも目を通したので今のイッキが瀕死になっていると分かっていたからである。それでもこの場には白龍皇に猫又も居るので連れ去るのはリスクが高いと判断したのだ。片腕だろうと死に掛けの人間一人殺すのに秒も要らない

 

だが大鎌を振りぬいた先には誰も居なかった

 

≪馬鹿な!≫

 

「残念、下だ。【一刀羅刹・二連】―――『第七秘剣・天照』!!」

 

驚いているタナトスに『第七秘剣』を繰り出す―――この『第七秘剣』を如何するのかは正直迷った。何せ原作の落第騎士では『雷光』という技が本来の『第七秘剣』なのだが技の詳細が一切書かれていないのだ。精々読み取れるのは『超絶速い剣』程度の事で再現しようと思っても術理もなにも在ったものじゃない

 

だが、態々完全再現に拘る必要もないのだ・・・『第五秘剣・断空』もそうだけど『第四秘剣・蜃気楼』もぶっちゃけ別物だしね

 

最初は『終の秘剣・追影』という抜刀術で代用しようかとも思ったが刀身を掴んで力を溜めるあの技は俺の大剣型の神器とは相性が悪い。刃の根本に近い部分を掴んでも余り力は溜まらないからだ

 

そこで思いついたのが落第騎士の主人公の兄が使っていた威力と速度を兼ね備えた剣技である天照だ。体を極限まで捻って関節が元に戻ろうとする力までをも利用して放たれる一撃―――折角なのでこれを少しアレンジしたものを『第七秘剣』として扱う事とした

 

街に被害が出ないようにタナトスの斜め下辺りから上に居るタナトスに狐火を纏った一刀を喰らわせる。仮にも太陽神の名を冠しているなら炎が在っても良いんじゃないかと思ったのだ

 

勿論、伊達や酔狂で狐火を纏わせた訳では無い。『第五秘剣・断空』と同じように解き放たれた斬撃が空気の断層を生み出し、そこに練り込まれた狐火が瞬時に断層に干渉して空気を巻き込んで弾けさせる―――結果、極大の斬撃が炎を滾らせて全てを斬り焼くのだ

 

アレだな。某死神代行漫画の主人公の必殺技の炎バージョンである―――あっちは月でこっちは太陽だけど

 

咄嗟に鎌を盾にしたタナトスだけど鎌ごと一緒に切り裂いて炎の斬撃に呑まれて消滅していき、上空に放たれた斬撃は冥界の空に赤い一文字を刻んだ

 

「ふぅ・・・取り敢えず最上級死神を二人も葬ったんだからこれでハーデスも骸骨の額に在りもしない血管を浮かび上がらせる程度にはブチ切れてくれるかな?」

 

「ククク!俺もお前も神クラスを瞬殺か―――お前と再び戦える日が待ち遠しいよ」

 

「いいや、俺はそんなに自慢できるもんでもないさ。さっきのもプルートがやられた動揺を突いた形だし、そもそもアイテム頼り(・ ・ ・ ・ ・ ・)の攻撃でもあったからな」

 

「ふっ、それを気にするような性格でもないだろうに」

 

いやいや!最初の【一刀羅刹】の時に予めフェニックスの涙を含んでおいて【一刀羅刹】の効果が切れたと同時に飲み干して回復。再度黒歌に通信でグレイフィアさんやバラキエルさんの持っていたフェニックスの涙を貰って来た上で渡されてたのをまた口に含んで【一刀羅刹】して回復

 

怪我こそ治ったけどまたそれなりに血が流れたし、そもそもフェニックスの涙一つで豪邸が建つのだ。【一刀羅刹・二連】の短い時間の攻撃に大金溶かし過ぎである

 

気軽に出来るかバカ野郎!経費で落ちなかったら凄い事になるんだぞ!

 

ともあれタナトスにプルートも居なくなった時点でこの辺を覆っていた結界も解除されたので皆も寄って来る。それに丁度グレイフィアさん達も到着したな

 

「すみませんイッキさん。護衛を任されておきながら肝心な時に傍に居れず」

 

「いえいえ!グレイフィアさん達が居なかったら魔獣騒動の時にでももっと直接的に狙われてたと思いますし、フェニックスの涙も役に立ったので大丈夫ですよ」

 

「有間一輝、それに白龍皇か―――全く凄まじい力を秘めているな。今度有間一輝と模擬戦する機会があればその時はレグルスの鎧を着た状態で戦ってみたいものだ」

 

「つーかヴァーリ!テメェ俺の事横からいきなり突き飛ばしやがって!」

 

「なに、ああいうのは早い者勝ちというやつだよ、兵藤一誠。お陰で中々楽しめた」

 

そうしてワイワイやってると"パチパチパチ"と拍手が鳴り響いた

 

皆がそちらを見るとそこに居たのは曹操だった

 

「いやはや、あの魔獣たちに加えてうちの幹部たち、更には最上級死神が二人も倒されるとはね。しかも未だに誰も死んでもいない。キミたちの成長率と生存能力にはもう畏敬の念さえ覚えるよ」

 

「曹操!」

 

英雄派の首魁の登場に皆がそれぞれ身構える

 

「曹操、今頃になって何故出てきた?お前一人で俺達全員を相手取れると思う程自惚れている訳でもあるまい?」

 

「勿論だともヴァーリ。今回、英雄派はかなりの痛手を受けたから組織の再編に少しばかり時間が掛かりそうだ。今回は俺達の敗けだよ―――しかし、折角極上の敵が揃っている好機である事も事実。帰る前に、可能なら誰かの首は獲っておきたい」

 

「可能なら・・・ね。なら仮にこの場の全員でお前を倒そうとしたら?」

 

「その時は仕方ないからさっさと逃げるさ」

 

そう宣う曹操の周りには薄っすらと霧が漂っている。ゲオルクがどうなったのかは知らんが逃走を手助けできる程度ではあるんだな

 

そんな中、イッセーが皆より一歩前へ出る―――俺の仕事は『この後』だし、好都合だ

 

「なら、お前の相手は俺がやらせて貰うぜ。イッキもヴァーリも大暴れしたんだ。俺だって京都の時からやられっぱなしの借りを返したくてよ」

 

「そうか。俺の相手は赤龍帝か―――前回は紅の鎧を出す前に終わらせてしまったからね。今度こそ魅せてくれ。キミの紅を!」

 

「ああ!存分に味わわせてやるぜぇ!」

 

曹操の言葉にイッセーが全身から紅のオーラを噴出させながら応える

 

「我、目覚めるは王の真理を天に掲げし、赤龍帝なり―――無限の希望と不滅の夢を抱いて、王道を往く―――我、紅き龍の王者と成りて、汝を真紅に光り輝く天道へ導こう!」

 

『Cardinal Crimson Full Drive!!!!』

 

イッセーが紅の鎧を身に纏う―――発現させた当初に比べたら多少は安定性が増したよな

 

「よっしゃ!ならチョット勝ってくるわ・・・本当はお前を倒す為に考えた戦術何だけど、出し惜しみ出来ないしな」

 

へぇ?何をもってそう言ってるのか見極めさせて貰おうか・・・ついでに対策施してまだまだ模擬戦で敗けないようにしないとな

 

「『象宝(ハッティラタナ)』」

 

曹操もイッセーの変化を見届けると禁手化(バランス・ブレイク)して七宝の一つの上に乗る

 

「少し場所を移そうか」

 

そういうと曹操は街中の方に飛んでいき、イッセーも後を追って飛ぶ

 

「私達も距離を取りつつ後を追うわよ」

 

リアス部長の指示の下、流れ弾が来ても問題無く対処出来そうな距離を保ちつつ二人の戦いを見守る―――今のところテクニックの不足をイッセーがパワーとスピードで強引に補ってお互いの攻撃がクリーンヒットしてない状態だ

 

もっとも、イッセーは鎧が槍で削れたりはしているけどな

 

するとそこに加えてイッセーの鎧の各所が石になり始めた

 

「これは!?」

 

「メデューサの瞳というのをご存知かな?有間一輝に潰された俺の右目にはそれを埋め込んであってね。焦点を合わせるだけで強力な石化攻撃が出来るこれは中々に使い勝手が良いのさ」

 

イッセーは石化した部分の鎧をパージさせて瞬時に作り直す事で対処しているが遠目にもボロボロと鎧の残骸を落としながらの戦いは消耗が激しそうだ。それにもしも関節部分が石化したら一瞬だろうと動きが鈍る。それは曹操相手じゃ致命的だろう

 

「見るだけでイッセー君の鎧を瞬時に石化させるなんて!あの瞳一つで曹操の七宝の能力にまるで引けを取らない。僕のような生身じゃ対処も難しい!」

 

祐斗が厳しい顔で考察してるな

 

良し!此処は一つイッセーにアドバイスを送ると共に教授してやろう

 

「イッセー!相手の視線と眼球のオーラの増加具合に注目しながら戦えば焦点を合わせる攻撃なんて避けられるぞ~!」

 

「で・き・る・かぁあああ!!俺はお前のような仙術使いでもテクニックタイプでも無いの!そんなアホみたいに繊細な回避方法とかとれる訳ねぇだろうが!!」

 

戦闘中でもキッチリ律儀にツッコミを返してくれるイッセー

 

まぁ今のアドバイスは何方かと云えば祐斗に向けた言葉だったしな

 

祐斗なら今は無理でも将来的にはそういった動きも出来る様になるだろうさ

 

「全く、赤龍帝と戦うのはヒヤヒヤものだな。だがキミたち鎧型の禁手(バランス・ブレイカー)には弱点が有る。パワーの権化である鎧は次に何処で攻撃するのかオーラの流れで逐一分かってしまうのさ」

 

そう言った曹操は強烈なオーラを籠めたイッセーの右のこぶしをワンテンポ早く避けようとする。しかし寸前でイッセーの拳が止まり、引き戻した反動と共に突き出した左腕が曹操の顔面を捉えた

 

「ぐうぅぅぅ!?何故だ!フェイントの兆候など無かったぞ!」

 

「へっ!鎧型の弱点なんてのは今まで散々イッキや白音ちゃんに突かれまくってるんだよ!結局、俺一人じゃオーラを完全にコントロールするのは難しいって事になったけどな。でも、何もこの場で戦ってるのは俺一人じゃないんだ!一瞬だけオーラのコントロールの全権限をドライグに移譲してあたかも本気で右手で殴りかかるかのように見せかけたのさ!人間として耐久値の低いお前じゃオーラの余り籠ってない攻撃でも大ダメージだろう?その右目、潰れちまったんじゃないか?」

 

そう言いつつイッセーが最短で距離を詰めて『戦車』の力で肥大化させた左腕で殴りかかり曹操は槍で真正面から受け止める

 

「動揺が抜け切れてないぜ。またフェイントかもと一瞬考えただろう?今まで受け流してた攻撃を受け止めてるのがその証拠だ!」

 

撃鉄を打ち鳴らして威力を底上げした拳でイッセーは曹操を地面に叩きつける

 

「っぐっはぁ!!」

 

京都の時と似た構図だが、あの時よりもより一層強化された一撃で背中から叩きつけられた曹操はボロボロとなって血を吐き出す

 

「チィ!今ので肋骨が折れた上に左腕も怪しいな。フェニックスの涙で回復したとしても今の俺はキミの云う様に動揺が抜けきっていないだろうから勝つのは難しいかも知れん」

 

曹操はそう言って立ち上がり、聖槍を右腕一本で強く石突きの部分を地面に叩きつけた

 

「ならば、『覇輝(トゥルース・イデア)』だ」

 

曹操が更なる奥の手を出すのを見て観戦してた皆も緊張が跳ねあがる

 

「槍よ、神を射抜く真なる聖槍よ。我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの狭間を抉れ―――汝よ、遺志を語りて、輝きと化せ!」

 

聖槍の槍先から莫大な量の聖なるオーラが噴き出て天を穿った・・・が、それはそのまま徐々に勢いを無くして最後には聖なるオーラの放出を無くして槍自体のオーラも弱弱しいものとなった

 

「失敗・・・した?いや、コレは違う。発動した結果がコレなのか―――そうか、聖書の神の遺志は俺よりも赤龍帝の方を選んだという事なのか」

 

「如何いう事だ?」

 

イッセーの疑問の声に曹操は溜息を吐きつつ答える

 

「『覇輝(トゥルース・イデア)』は今は亡き聖書の神の遺志が関係する。この槍を持つ者の野望を吸い上げ、相対する者の存在に応じた様々な奇跡を齎す。それは相手を打倒する圧倒的な破壊であったり相手を祝福して心を得られるものであったりと多種多様だ―――しかし、赤龍帝に対するこの槍の答えは『静観』だった。要は俺の野望を叶えるくらいなら赤龍帝の夢の方がまだましとこの槍は判断したんだよ。今後も聖槍が俺の野望を見たいならキミたち全員を退けられるような圧倒的な奇跡を発現させていたはずだからね」

 

「ククク!その槍に嫌われたか。不確定要素の塊とされる今代の赤龍帝を何時までも面白半分に放置するからそうなる。やるならもっと割り切って接するべきだったな」

 

「ヴァーリか、不確定要素というならキミも人の事言えないだろうに・・・しかし悔しいものだな。兵藤一誠も君と一緒に倒したかったのだが」

 

「ふっ、折角二天龍という宿命のライバルなんだ。お前には兵藤一誠はやらんさ」

 

「僕としても親友の彼を渡す気はないかな。彼を倒すのは僕の目標だからね」

 

「俺もだな。何時しかまた、あの試合の時のような最高の殴り合いをしたいものだ―――そして、次はこの俺が勝つ!」

 

戦いが終わったので皆でイッセーと曹操の居る場所に近づいて行き、男衆が会話に加わっている。凄くむさ苦しい―――唯一あの場の熱気を引き上げなかった俺にイッセーが感謝の視線を送って来る・・・流石にバラキエルさんは対象外みたいだけど

 

すると曹操の近くにゲオルクが現れた

 

覇輝(トゥルース・イデア)』が失敗した以上、引き時と判断したんだろう

 

それにしても爆撃機の飛び交う戦場を走り抜けたかのような有様だな

 

「曹操、此処までだ。俺達は多少の計算違いは在れど多くは間違えて居なかった。しかし、此奴らと関わってしまった事だけは唯一にして最大の間違いだったんだ」

 

ゲオルクはそう言いつつ足元に転移魔法陣を展開する

 

「ぬっ!逃がすか!」

 

サイラオーグさんが拳を振りかぶって攻撃するが曹操が聖槍の光を放った事で悪魔の彼の動きが一瞬鈍り、拳が届く直前に曹操達はその場から消えた

 

 

 

[三人称 side]

 

 

「クソ!最後の最後で逃がしちまったか!」

 

イッセーが折角英雄派のリーダーを捕まえる事の出来る機会を逃してしまった事を毒づく

 

「そうね。でも、あれだけやられれば英雄派も暫くは身動きも取れないでしょう。よくやったわ、イッセー。流石は私の眷属よ」

 

「はい、部長!」

 

リアスの言葉にイッセーも気持ちを切り替えて返事をする。確かに逃しはしたものの英雄派の幹部を軒並み倒した事に変わりはないのだ

 

だがリアスはイッセーの『部長』呼びに頬を膨らませる

 

「もう、リアスで良いのに」

 

「いや、でも今はプライベートでもない訳ですし」

 

「そんなの気にしないわよ。公の場以外ならリアスって呼んでくれると嬉しいわ」

 

「は、はい!分かりました、リ・・・リアス」

 

これからは可能な限り『リアス』呼びをする事が決定したイッセーが恥ずかしくも嬉しそうに返事をする

 

「宜しい。じゃあ皆、帰りましょうか・・・あら?イッキは何処かしら?」

 

辺りを見渡したリアスはこの場にさっきまで居たはずのイッキが居ない事に気づき、辺りを見渡し、他のメンバーもイッキの姿を探す

 

「にゃはははは♪イッキならあいつ等の転移に紛れ込んで一緒に跳んでいったわよ?まぁ私も幻術でイッキがあいつ等の後ろからコッソリ近づくのを手伝ったんだけどね」

 

「なっ!如何いう事ですか黒歌姉様!」

 

幾ら相手が弱っていたと云えどイッキ一人を向かわせた事に白音が批難の声を上げる

 

「大丈夫よ。イッキはまだもう一つのフェニックスの涙も持ってるし、イヅナの通信も繋いであるから何か不利になる事が在れば即座に私が召喚するにゃ。男を信じて待つのも良い女の条件よ♪」

 

黒歌は敢えて言わなかった。態々気配と姿を消して消耗している曹操達の背後にまで忍び寄ったイッキが転移を止めるでもなく一緒に転移していった事を

 

『上手くいけば愉しい事になるかも』なぁんて言われたら協力しないとにゃ♪

 

悪戯好きの黒猫はこの先イッキが如何するつもりなのかに想いを馳せるのだった

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

 

 

ゲオルクの転移で向かった先は紫のラベンダーの咲き誇る場所だった。空が青い事から此処が人間界の何処かである事が窺える

 

「曹操、先ずは回復したら如何だい?」

 

「・・・ああ、そうだなゲオルク」

 

ワンテンポ遅れて返事をした曹操が懐からフェニックスの涙を取り出し―――イッキに奪われた

 

「なんだか英雄派からフェニックスの涙を掏る事が毎度の恒例になりそうだな」

 

そう言いつつ俺は幻術を解除する。転移前の黒歌のサポートがあった時と違って転移後でもこいつ等が気付かなかったとなると消耗もあるだろうけど完全に気を抜いていたみたいだな

 

「な!?有間一輝、貴様は“バギッ!!”」

 

驚いているゲオルクに取り敢えず仙術顔面パンチを繰り出してそのまま頭を引っ掴み、魔法や神器を使えないように仙術で気をかき乱す

 

コイツが動けると会話の一つも出来やしない

 

十分に異能を封じてから曹操の横にゲオルクを投げ捨ててやると曹操も首を横に振る

 

ゲオルク無しでは逃げるのもままならないと分かっているのだろう

 

「この流れで俺に止めを刺しに来るとはね。華々しく戦って勝とうとか思わないのかい?」

 

曹操としても冗談で口にした事なんだろうけど答えてやるか

 

「そういうのは英雄(ヒーロー)の役割だ。俺みたいなただの人間には柄じゃないさ―――そう云えば曹操。お前は京都で『異形を倒すのは何時だって英雄だ』とか言ってたけどこれからはもう一つ覚えておけ―――『英雄に止めを刺すのは何時だって人間だよ』」

 

『倒す』じゃなくて『止めを刺す』ってのがポイントな

 

まぁそもそもこいつ等は『英雄』なんて器じゃないけどね

 

そこまで言ったところで莫大なオーラが接近してくるのを感じ、その気配の持ち主は数秒程度で俺達の前に降り立った

 

アロハシャツにサングラス、ボウズにした頭に首に大きな数珠を下げている巨漢だ

 

「よぉ、悪いがそいつらは俺様が貰うぜ」

 

そこに降り立った神に対して俺は取り敢えず頭を下げる。コイツに会うのも目的の一つだからな

 

「初めまして、帝釈天様。お目に掛かれて光栄です」

 

アロハシャツのヤクザ顔の御尊顔を見ても光栄もクソもないがまぁいいだろう

 

「ああ、お前の事も知ってるぜ。有間一輝―――最近じゃあまり見かけないタイプの人間かもな」

 

如何いう意味で言ってるのかは気になるが「恐縮です」とだけ返しておく

 

「さて、堕天使の総督から聞いていますが曹操達と繋がりのある貴方が潰されて使い物にならなくなった英雄派から『神滅具(ロンギヌス)』を回収するつもりならば私はそれを邪魔するつもりはありません」

 

そこまで言うと曹操とゲオルクがピクリと反応し、帝釈天は面白そうに俺を見る

 

「ですがもし宜しければ代わりに私の話を聞いて頂けないでしょうか?」

 

「いいぜ。言ってみろよ」

 

「いきなり質問で申し訳ないのですが、冥府の神であるハーデスの事を帝釈天様は個人的(・ ・ ・)にどう思ってますか?」

 

「ああ、死ねばいいと思ってるぜ」

 

「それは好都合、ではここに居るゲオルクの協力も得て上手くいけばハーデスを合法的に消滅させられるかも知れない話をしたいと思います」

 

そうして俺は取り敢えず頭の中にある作戦を話し、それを隣で聞いていた曹操たちは「有間一輝。キミには神様を敬おうという気持ちはないのかい?」と隙が有れば後ろから聖槍でぶっ刺そうとしていた曹操にそんな事を言われた・・・解せぬ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、総督を更迭されたぁぁぁぁぁ!?」

 

俺達は冥界の騒動から駒王町に帰って来たその日の内に中間テストに追われ、採点待ちをしている時に放課後のオカルト研究部でアザゼル先生が総督を辞めたという話を聞いていた

 

「うるせぇな。仕方ねぇだろ?色んな組織を騙してオーフィスを此処に引き入れたんだから、罰が有って当たり前だ。今の俺の肩書は神の子を見張る者(グリゴリ)の特別技術顧問だな。まぁこの駒王町は離れねぇし、この地の監督役とも云えるが」

 

「総督から、監督」

 

白音が小さく呟く

 

「ま、そういう訳で神の子を見張る者(グリゴリ)の新しい総督にはシェムハザを、副総督にはバラキエルを据えたからよ。平和に近づいた今ならあの堅物二人の方が上手く組織を回していけるさ。これから俺は只管自分の趣味に時間を割けるようにもなって皆万々歳だ!」

 

アザゼル先生の最後のセリフを聞いて皆が皆一様に難しい顔となるが当の本人は口笛を吹いている

 

「そうそう、先日の中級悪魔の試験だが合否が出たぞ。忙しいサーゼクスに代わって俺がお前らに伝える事とする。先ずは木場だ」

 

そう言いながら四通の書類を取り出し、サクサクと皆の合否を発表していく

 

結果は全員合格だ。白音が「合格」と言われた時はレイヴェルが抱き着いてたな

 

そして皆の興奮がある程度落ち着いた所でアザゼル先生が新たな話を切り出した

 

「さて、急な話で悪いが皆には今から冥界に向かって貰う」

 

それを聞いた皆も頭上に?を浮かべているような表情だ

 

「冥界に?私は何も聞いてないのだけど何をしにいくの?」

 

代表してリアス部長が聞くがアザゼル先生が言いにくそうに言葉を発する

 

「あ~、ちょいとお前さんらに是非会いたいという要人が居てな。サーゼクスやミカエルたちもこの件は既に知っているがお忍びでな。お前らに伝えるのもギリギリのタイミングになった訳だ」

 

そうしてアザゼル先生が転移陣を展開して皆にそれに乗るように促す

 

「先生!誰と会うんですか?」

 

「あ~、それは出会ってみてのお楽しみって事にしとけ―――全員乗ったな?じゃあ行くぞ」

 

イッセーの質問を濁して返したアザゼル先生の転移で皆で冥界に転移した

 

 

 

 

 

 

 

転移先はそれなりに広い部屋の中で窓や扉も全て閉じている為此処が冥界のどの辺りなのかは分からない。だが、イッセー達は転移直後から一気に臨戦態勢に移行した

 

「ハーデス!何でテメェがここに居る!!?」

 

イッセーを始め、全員敵意剥き出しだ。それも当然、冥界を無茶苦茶にした先日の騒動の大半は目の前の神が仕組んだ事なのだから転移先にハーデスが居ればこういう反応になるだろう

 

そんな中でハーデスは"ツカツカ"と近づいてこれ以上一歩でも近づけば問答無用で皆が攻撃を仕掛けるであろう間合いの一歩外で立ち止まり

 

 

 

 

「誠に申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

渾身の土下座をかました

 

「『ええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!?』」

 

皆の驚愕の声が部屋に木霊する

 

「ほらほらお前ら。さっきも言ったろ。要人がお前たちに会いたがってるってよ。そこで土下座してるハーデスがその要人だよ」

 

「いやいやいや!この状況を納得できる訳ないじゃないですか―――ハッ!さては先生。コイツは先生が造ったハーデスの偽物ですね!総督の立場から解放されて最初の悪戯にしては質が悪すぎですよ!先生がハーデスを嫌ってるのは知ってますが、態々こんなのを造って楽しいんですか!?」

 

「誰がハーデスの人形なんか頼まれても造るか!そいつは本物のハーデスだよ!」

 

「マジ・・・ですか?」

 

「ああ、マジだ」

 

そんなイッセーとアザゼル先生のやり取りから皆が再びハーデスに視線を移した頃、俺もハーデスに近づいて顔を上げさせる

 

「ハーデス様。質問宜しいですか?」

 

「イッキさん。貴方にも今回多大なご迷惑をお掛け致しました。私で良ければ何でも聞いて頂きたい。守秘義務に抵触するものでない限りはお答えできるでしょう」

 

うっは!気持ち悪りぃ!このハーデス!

 

「座右の銘は?」

 

「一日一善」

 

「好きな言葉は?」

 

「世界平和」

 

「これからの冥府のスローガンは?」

 

「笑顔で働けるホワイトな職場」

 

「・・・好きなアニメは?」

 

「ミルキーシリーズ」

 

うん。ちょっと最後に世界の均衡が崩れそうな言葉を聞いた気がするけど概ね注文通り(・ ・ ・ ・)

 

今回、サマエルに加えてあの映像資料を三大勢力や帝釈天、八坂さんの協力の下、各神話の主力陣の方々に水面下でリークしてハーデスの処罰を決めたのだ

 

流石に全勢力で禁止されているサマエルで次元の守護者のグレートレッドを滅ぼそうとしたり冥界を崩壊させようとしたり、魂を管理する神の役割を放棄して俺をコキュートスに封印しようとしたりしたのが普段から各方面に恨みを買う真似をしていたのも相まって『冥界への罰金と冥府への監視の強化、そして今後は”心を入れ替えて“職務を全うする事』という処罰が下されたのだ

 

最初は会議の場で映像もバラされて不機嫌だったハーデスも結局人間の魂を管理する自分に重い罰を下せずに目の前でアザゼル先生が(演技で)悔しそうな顔をしてるのもニマニマと眺めながらその罰を受け入れたらしい―――勿論、表面上だけでその内また悪さをするだろう事は見て取れたがハーデスが処罰の内容を呑んだ瞬間にその場に居た神仏たちや遠距離通信で会議に参加していた各勢力の者達が一斉にハーデスを拘束、喚くハーデスの“心を入れ替えさせた”のだ

 

これはゲオルクがオーフィスの力を分割して新たなウロボロスを創り出そうとしていた所を見て疑問に思った事なのだが、神の力を割ったり、創ったりといった術式は何処から引っ張って来たものなのかという事だ。そこで思い当たったのが英雄派に力を貸し、死『神』を大量に有するハーデス達だった

 

恐らく原作でハーデスが執拗に弱体化したオーフィスを狙っていたのは英雄派に渡していない術式を利用すれば弱体化したオーフィスを通じてもう一人のオーフィスも操ったりまた一つに纏めたりできると考えたからではないだろうか?最初にグレートレッドを狙っていた所を見るに必ずしもオーフィスである必要は無かったみたいだしね

 

それともう一つ重要なのが原作のもう一人のオーフィスであるリリスは確かヴァーリの祖父が感情・思考を幾らか設定していたという所だ

 

そもそもそれが出来なければオーフィスにしろグレートレッドにしろ支配下に置く事は出来ない。神の力から新たな都合の良い神を生み出す術式

 

ハーデスがこの世界に必要で消滅させる事が出来なくともその心を消し去ってやれば良い。そうして此処に善神・ハーデスが爆誕したのである

 

因みに刑期は数十年という設定だったらしいが善神となったハーデスから出るわ出るわ余罪の数々。ハーデス自身も自分が元に戻ったらまた悪さをするのではないかと心配し、刑期を半永久に変えてくれと申し出る始末・・・勿論そこまで計算しておいたので無事ハーデスの刑期は伸びた

 

因みにこの『心を入れ替えて奉仕する』罰は今後下されることの無い一度限りの鬼札だ

 

何故ってそれは勿論各勢力には後ろ暗い事をしてる奴なんて沢山いるからに決まっている

 

だけど一度しか適用されない罰ならば皆ニッコリだ―――ハーデスも『今は』ニッコリである

 

とまぁそんな感じの事があったと皆に説明するとドン引かれた

 

「イッキ・・・お前絶対人間じゃねぇよ。畜生とか外道とかその類だよ」

 

「何言ってるイッセー?畜生も外道も人間の在り方の一つで種族じゃねぇぞ。つまり俺は人間だ。それにそもそも外道とは言ってくれるな。俺の提案でこの世界に一柱の力ある善神が生まれたんだぞ?それを成した俺は即ち正義だろう」

 

何処ぞの正義の味方の弓兵も言っていたしな―――『正義とは秩序を示す』ってさ

 

秩序維持に一歩近づけたんだからやっぱり俺は正義だ!

 

・・・流石に本気でそう思うほどイカれちゃいないけどね

 

ハーデスと仲良く肩を組んでいる俺の言に皆が更に引いてる中、アザゼル先生が話掛けてきた

 

「ああ、そう言えばイッキ。あの会議でハーデスの処罰とは別にお前の事も議題に上がったんだ」

 

へ?神々の関心をそこまで引くような事有ったっけ?

 

「お前の禁手(バランス・ブレイカー)、今後能力使うの禁止な」

 

「はぁ!?何でですか!?」

 

「何でもなにもねぇだろう。元々サマエルは各勢力が使用を禁止していた程の呪いの塊だぞ。それを『神器になったからこれからは自由に使えます』なんて事になると思ってたのか?最初は神器を封印しようという話も出ていたがそれをすればお前の力も大幅にダウンするからな。禁手(バランス・ブレイカー)までなら良いが兎に角サマエル関連の力は禁止だ。この後神の子を見張る者(グリゴリ)でお前がサマエルの力を使ったらすぐに各勢力に伝わるタイプの発信機を付ける事になる。良かったな。お前が冥界を救う程の功績を出して最上級死神を単身屠るほどの力を見せてなかったら神器の封印程度は強行されてたと思うぞ」

 

嘘でしょ!この後の戦いって邪龍との戦いが増えるんだよ!?言う訳にはいかないけど此処で俺の神器が封印指定されるとか嫌がらせかよ!

 

結局お前ドラゴンでもないタナトスに呪いをちょっと浴びせて終了とか役に立たねぇな!

 

こうして冥界を震撼させた魔獣騒動は無事(?)に幕を閉じたのだった




ハーデスが一番酷い事になると予告しましたが今の活き活きとしてるハーデスは本当に酷い事になったと云えるのでしょうか?(すっとぼけ



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番外編 狐っ娘と、龍っ娘です!

新章を書こうと思ったら時系列的に九重回とも云えるのが混じってたのでそっちを書きました。九重はヒロインだけど出番が少ないのでこういう回は貴重ですからね


冥界を震撼させた魔獣騒動が終わって少し経った

 

実は魔獣騒動の事後処理を終わらせて深夜に家に帰宅したその日が中間テスト初日だった事には普段優雅な振る舞いを心掛けている二大お姉様方さえも笑顔に陰りが見えた位だ

 

オカルト研究部の全員が昼過ぎにテストが終わって家に戻った時に次の日のテスト勉強よりも睡眠を優先した事は仕方のない事だっただろう

 

これが科目の多い期末テストだったら何て考えたくはない

 

それでテストが全て終わった時に善神・ハーデスと出会ったり、サーゼクスさんの息子であるミリキャスが悪魔の仕事の見学に来てついでに護衛という名目で遊びに来たサーゼクスさんの眷属である『騎士』の沖田総司さん、『僧侶』のマグレガー・メイザースさん、『戦車』のスルト・セカンドさん、『兵士』のベオウルフさんと出会って最後に彼らが帰る時にイッセーがスルトさんに主に合わせて成長する魔法の帆船の『スキーズブラズニル』を渡され使い魔にしていた・・・因みにサーゼクスさんの眷属は残るは『戦車』のバハムートさんらしい

 

何時か出会ってみたいものだ

 

そう言えば主のオーラを糧に成長する使い魔って処は俺のイヅナと似ているな

 

今はまだラジコン程度の大きさだがその内帆船として相応しいだけの大きさに成長するだろう

 

それとイヅナだが俺が禁手(バランス・ブレイカー)に至った影響か今までは一匹辺り上位の下級悪魔くらいだったのが今では平均的な中級悪魔程度には成長した。此処までくれば仮に俺がレーティングゲームに出場したとしてもイヅナにそれなりの制限が入る事は間違いないだろう

 

魔獣騒動の時に沖田さんがやっていたという一人百鬼夜行にはまだ届かないけどね

 

そんなこんなで冥界の一件以来、特に事件もなく過ごして居た時に部室で冥界式人生ゲームとか云うのをやっているとイリナさんがふと思いついたであろう事を口にした

 

「ねぇねぇ皆。オーフィスちゃんのお社って用意するべきなのかしら?」

 

「お社?」

 

イリナさんの突然の提案にイッセーが返す―――他の皆も興味が惹かれたのか皆がイリナさんと人生ゲームを見つめていたオーフィスに視線を移す

 

「うん。だって仮にも・・・と云うか正真正銘の龍神様な訳じゃない?だから、そういうのが有っても良いんじゃないかな~?ってね」

 

もっともな意見とも云えるけど天使のイリナさんが異教の神を祀るとか言い出して良いのか?・・・いや、オーフィスはどの神話体系にも所属してないフリーの神様ではあるか

 

「古来よりドラゴンは力の象徴として色んな地域で『龍神』として祀られる事が多いです。特に東洋タイプの龍にはその傾向が強いですね」

 

白音がドラゴンと『龍神』に対して補足する。一般的な人間にしてみれば下位のドラゴンでも神と崇めるのに十分過ぎる迫力があるだろうからね。裏の世界から見ればドラゴンの神と云えばオーフィスとグレートレッドの二匹だけだけど表の世界から見れば『龍神』の肩書を持つドラゴンはそこそこ居るって事だろうな

 

「円環を表すウロボロス・ドラゴンと云えば東洋タイプの龍のイメージが先に来るよな」

 

オーフィスのドラゴンとしての姿ってのは一度見て見たい気がするな。やっぱり東洋タイプか?

 

「ねぇオーフィス。お社、欲しい?」

 

そんな中、リアス部長が丁度ソファーの隣に座っていたオーフィスに声を掛ける

 

当のオーフィスは無表情のままユラユラと頭を左右に振っている。如何にもこの仕草は考え事をしている時の仕草らしいがリアス部長はその可愛らしい挙動を見て微笑む

 

「嫌な事は否定する傾向の強いオーフィスが直ぐにダメと言わないって事は興味は有るみたいね。でも、悪魔の私達がお社のような神聖なものを建てるというのは流石に難しいかしら?イリナの教会側は基本的にドラゴンを敵視してる宗教だから教会寄りのものを建てる訳にはいかないわよね」

 

「う゛ぅぅぅ、そう言われると少し厳しい・・・かな?」

 

「そういう話なら八坂さんの方に相談してみましょうか。神社・仏閣などの扱いなら八坂さん経由で幾らでも伝手が利きますからね。日本式なら龍神を祀るのは割と普通にある事ですし」

 

「そうね。ならお願いできるかしら」

 

頼まれた俺は善は急げという事で早速イヅナで連絡を取る

 

≪イッキ!何時もの通信以外で掛けて来るとは珍しいのう。何か在ったのかの?≫

 

最初に繋げたのは九重だ。イヅナは基本的に九重と一緒に居るようになっているみたいなので通信を繋げると最初に九重が出るんだよね

 

イヅナの分身には余裕があるから八坂さんにもイヅナの分身を渡しても良いんだろうけど多分それをやると九重が拗ねてしまいそうなのでこのままで良いという事にしている

 

最も、流石にイヅナだけでなく八坂さんに直接繋がる通信術式のチャンネルはあるけどな

 

必ずしも九重が八坂さんの傍に居るとは限らないからだ

 

ともあれ急ぎの用事とかでもない限りは八坂さんへの用事でも先ずは九重に連絡を取る形になっている。まぁ通信越しでも上機嫌になる九重の事を想えばこの程度は手間の内に入らないだろうさ

 

≪ああ、実は今イッセーの家に人間界を知る為にお忍びで居候しているドラゴンの子供が居るんだけどさ。何でも実はかなり高位のドラゴンの血が流れてるみたいでそれなら此処は一つ『龍神』としてお社を建ててみようって話が持ち上がったんだよ。それで京都を束ねる八坂さんから伝手なりアドバイスなり貰えたらなって話になったんだ・・・八坂さんは今は忙しいか?それなら時間を改めて連絡するけど≫

 

そう聞くとイヅナの通信先から九重とは別の声が聞こえてきた

 

≪いいや、必要ないぞイッキ殿。今日は仕事が少し早めに終わったのでな、九重と一緒に居ったのじゃ。先ほどの件も聞いておったぞ。この屋敷にも社の管理の専任の者達がおるし、今は年明けの仕事の下準備くらいしか仕事が入っておらんからその者達を派遣出来るじゃろう≫

 

おお!流石は神社・仏閣の宝庫である京都のボスはそこら辺の人材に事欠かないみたいだな

 

まさか此処でいきなり八坂さんが通信に出るとは思ってなかったのだが、折角なのでリアス部長を始めとした修学旅行のメンバー以外が八坂さんと挨拶する

 

「初めての挨拶がこのような形で申し訳ありません」とか「プライベートな通信なのだから気になさる事はありませんよ」とか大体そんな感じの挨拶を皆が終える―――と云うか魔王とまでいかなくともそれなりに忙しいはずの八坂さんが早めに仕事が終わるとは珍しい

 

≪ふふふ、最近イッキ殿のお陰で外交関係の仕事の話が付き易くなっておるのじゃよ≫

 

「俺がですか?」

 

≪うむ。イッキ殿が冥界の地形を何か所も塗り替えてその上ハーデス殿もあの有様に為る様に糸を引いたじゃろ?それで少々反抗的な者達などは押し黙るようになったのじゃよ。下手に反抗すればどんな方向からイッキ殿が尊厳を壊しに来るかと肝っ玉の小さいのは恐々とするようになったのじゃ。勿論、一部の者達だけじゃが屁理屈を重ねて無駄な時間を使わせるのだけが得意な奴らが口を閉ざせば私も早めに仕事を済ませられるのじゃよ≫

 

わぁお、完璧にペリー外交じゃん。俺が黒船役じゃん

 

まぁ八坂さんの話ぶりからして向こうが勝手に恐れてくれてるみたいだけどさ

 

「・・・イッキ先輩の『オール・エヴィル』のキャラが少しずつ現実を侵食してます」

 

白音がボソッと呟くけどなに?俺って各勢力に悪意の塊とか思われてんの?

 

≪さて、話がズレてしまったがお社の事であったな。そのドラゴンの子は赤龍帝殿の家に住んでいるらしいがお社もそこに建てるのかの?≫

 

そうなるかな?オーフィスはおいそれと俺とイッセーの家と後はオカルト研究部以外には余り外出出来ない事になってるし

 

リアス部長に目配せすると「それで構いません。そうですね、屋上が結構場所が余っていますし、そこが良いでしょう」と返された

 

此処で自然とイッセーではなくリアス部長に答えを求める辺りイッセーのヒエラルキーの低さが普段からにじみ出ているのが分かるというものだ

 

≪ならば余り本格的な社を建てる訳にはいかぬであろうな。聖なる気が高まり過ぎるのは悪魔の住居に置くには少々問題があるじゃろう・・・となれば後は材料じゃな、御神木とまでいかずとも霊木の類が何処かに余っておれば良いが流石に調べてみんと分からぬからのう≫

 

あ~、確かにそこら辺の木を切り倒して造るとか一般人目線なら兎も角俺達からしたらお社というよりはお社の模型的な感じになっちゃうか―――霊木・・・ねぇ・・・

 

「八坂さん。コレって使えませんか?」

 

そう言って取り出したのは俺の木刀、『洞爺湖』ないし『星砕き』だ

 

それを転移で向こうのイヅナの前に送る

 

≪これはまた・・・見事に神気の宿った木刀だのう。もしやイッキ殿はまた【神性】が上がったのかの?≫

 

「ええ、神器が禁手(バランス・ブレイカー)に至った影響で―――これならそこらの御神木よりは神気が籠ってると思いますが」

 

「いやイッキ!木刀一本でどうやって社を建てるだけの木材を確保するんだよ?ミニチュアの社でも建てるつもりなのか?」

 

「イッセー、俺は自然の気を操る仙術使いだぞ?木刀を大木に成長させる事だって出来るさ」

 

流石に植物として既に死んでいる木刀を生き返らせる訳ではないが強引に大木の形に持っていくことなら可能だ。コレで御神木クラスの木材ゲットである

 

後に聞いた話だとこの方法で名の在る御神木の木を量産して全国で使うなんて事は出来ないらしい。正確には出来るけど同一の木から造られたお社が複数あるとその繋がりから御利益や加護が分散してしまうようだ

 

安産祈願のお祈りをしに行ったらその祈りの力が別の神社の交通安全とか家内安全などにも流れてしまう感じ?そんな事になったら神様でも信者の願いを管理できないとの事だ

 

流石に世の中そんなに美味い話は無いみたいだな

 

まぁ今回はオーフィスの小さなお社に使うだけの話だから問題無いんだけどね

 

木刀も素振りに使ってるだけだから無くなっても適当にまた買えば良いし

 

≪うむ。コレならば申し分ない素材となり得るの。寧ろ主神を祀るレベルじゃろう。最後に神事を執り行う者じゃが―――九重、お主が往くか?≫

 

≪! はい♪見事私がそのお役目、果たしてきます!≫

 

おお、九重の声が弾んでるな。こっちに遊びに来られるのが嬉しいのだろう・・・と云うか仕事半分遊び半分か?

 

≪では、今度の週末に九重と職人の者をそちらへ向かわせるからの≫

 

「はい。ご相談に乗って頂き、有難う御座いました。八坂さん。またな、九重」

 

≪うむ♪週末を楽しみにしておるぞ。またなのじゃイッキ、皆の衆!≫

 

そうして迎えた週末。俺達は今兵藤家の転移の間に居る

 

イッセーの家の屋上にお社を建てる都合上材料とかを運ぶのにこっちの方が良いからだ

 

因みにアザゼル先生は『第三百十六回堕天使幹部麻雀大会』があるとかで居ないけどな

 

あの後改めて九重たちがやって来る時間とかその他細かい打ち合わせの連絡が有ったのでそれに合わせて皆で転移の間に集まってると魔法陣が輝きだして鳥居が現れ、その鳥居の中心の空間が歪んでそこから九重と御付きの妖狐のお姉さんが二人現れた

 

「お主達!久しぶりじゃ!この間、若しくは夏以来じゃのう」

 

「ええ、久しぶりね。今日は来てくれて有難う」

 

最初にリアス部長が挨拶したのを皮切りに皆がそれぞれ挨拶の言葉を口にするがレイヴェルだけはやや緊張気味か?そう言えばレイヴェルと九重が直接会うのはこれが初めてになる訳か

 

「こうして直接お会いするのは初めてなりますわね。レイヴェル・フェニックスですわ。将来イッキ様を共に支える者同士、仲良く出来れば幸いですわ」

 

レイヴェルは貴族然としたしっかりとした挨拶を交わす

 

「うむ。イッキが選んだのであれば間違いないじゃろう。それと、そのように固くなる必要はないのじゃ。私の正妻という立場は表向きのものじゃし、実質立場の差は在って無いようなものじゃ。私達が仲良くしないと、イッキが悲しむでな」

 

「ふふ、そうですわね。では改めて宜しくお願いしますわ。九重さん」

 

「うむ♪此方こそ、宜しく頼むぞレイヴェル殿!」

 

レイヴェルも最初の緊張も解れて九重と笑顔でやり取りしてるな

 

「おいイッキ。何で九重はあの歳であんなに嫁力が高いんだよ?」

 

「そこは文化と教育の違いじゃないか?貴族のレイヴェルも結構似た所在るしな」

 

まぁコレが大奥とかだと正妻の座を巡るドロッドロのドラマとかがイメージに湧くけどさ

 

全員ヤンデレの奥さんに囲まれる生活・・・うん。多分その内物理的にも精神的にも穴が開くわ

 

それに比べて目の前の金髪美少女同士の笑顔の会話の何と微笑ましくも尊い事か

 

そんな少しズレた感想を抱いているとレイヴェルとの挨拶がひと段落した九重がオーフィスに目を向けた

 

「そちらの者が龍神として祀りたい者で間違いないかの?赤龍帝を除けば他に龍の気を持つ者はおらんようじゃが」

 

「ああ、この娘の名前はフィス。仲良くしてやってくれ」

 

丁度オーフィスの隣に居たイッセーがそう紹介する―――流石に無限の龍神の名前でそのまま紹介する訳にはいかないので対外的にはフィスという名前になったのだ

 

フィスなら愛称と言っても違和感ないからな

 

「うむ。私は九重!フィス殿、宜しくなのじゃ!」

 

「ん、宜しく」

 

オーフィスに駆け寄って無邪気な笑みを見せる九重にオーフィスも薄っすらとだが笑みを浮かべる。悪意や気遣いなどの感情が一切無い交流は初めてなのだろう・・・ルフェイが居たか。まぁアレはちょっと暴走気味な感じがするけどな

 

それから先ずは皆でイッセーの家の屋上のどの辺りに社を置くかを決め、お付き兼職人のお姉さんたちが間取りに合わせた設計図を決める

 

設計図と云ってもある程度規格があるので事前に何枚か用意して最適なのを選ぶだけだが

 

そうして次に地下のトレーニングルームに移動する

 

此処ならば作業スペースに困る事はない

 

「ではイッキ。立派な木を頼むのじゃ!」

 

「応!皆ちょっと離れててくれ」

 

九重に促されて木刀に仙術を流し込む―――別に地面に生やす必要は無いので最初から横向きに巨木に変えていく

 

そして十分な大きさになった処で仙術を止めた

 

「これ位で足りますかね?」

 

職人のお姉さんに聞くと問題無いと言われたので手を離すとゼノヴィアが前に出た

 

「良し、最初に切り分けるのは私の役目だな」

 

ゼノヴィアがその手に持っているのは何時ものデュランダルではなく特殊儀礼を済ませた剣だった。コレが人間だったらノコギリとかじゃないとダメだけど裏の世界の住人なら大木を切り分けるなら剣で一刀両断にした方が早いからだ

 

そうして職人のお姉さんの指示通りに切り分けるとそれぞれが与えられた役割と図面通りに木を加工したり屋上でお社の土台を造ったりしている

 

勿論職人芸が必要な細かな作業となれば全面的に頼るしかないのだが、それ以外の肉体労働は可能な限り俺達が引き受ける形だ

 

最初はノコギリなどの工具も全て聖なる気を纏っている特殊な物であった為に聖剣使い組以外の悪魔の皆が扱えないという問題も在ったがロスヴァイセさんが北欧の元同僚にその手の事に詳しい人が居たらしく悪魔が持っても平気となる術式を教えてもらい無事に持てるようになった

 

九重は妖怪だけど平気だったみたいでそこまで気が回らなかったらしいけど妖怪って本当にその辺り曖昧な所あるよな―――狐は神として祀られる事が多いけど、その辺りが理由か?

 

と云うか神聖なる工具は聖剣の親戚なんだな・・・言われてみれば分からんでも無いけど、何だか変な感じだ

 

ともあれそれからは皆で一日掛かりの作業をして木材の切り出しと加工、土台造りなどを大凡終わらせた。鳥居やしめ縄などはまた別の専門家の手がいるらしく外部発注で明日届くらしいので今日の作業は終わりだ―――仮に今から頑張って造れても夜中になってしまうのでお社のお披露目には適していないからね

 

それから夜は九重の歓迎会として皆で俺の家に集まった

 

イッセーの家よりは婚約者の俺の家に泊まる方が自然だろう・・・寧ろ此処で九重が態々隣のイッセーの家に泊まるとか俺達は気にならなくても周囲から見れば昼ドラ展開を妄想出来そうだ

 

九重が俺の両親にお姫様らしい丁寧な挨拶を交わす―――最初狐耳と尻尾を仕舞うのを忘れたまま挨拶に赴こうとしたのは慌てて止めたけどな

 

とはいえ巫女服はそのままだし、丁寧な挨拶も相まって両親も京都の良いとこのお嬢様程度の認識はしたみたいだし今はそれで良いだろう・・・将来的にはちゃんと紹介出来るのだろうか?

 

全員で夕食を済ませて(母親が張り切ってた)俺の部屋に向かう

 

大人数だがリフォーム後の自室は馬鹿みたいに広いので問題無しだ・・・ゲームとかも有るしね

 

暫く雑談やトランプ、大乱闘するテレビゲームなどをして過ごしていると九重がオーフィスを連れて部屋の外に行き、少しすると二人は駒王学園女子の制服を着て戻って来た

 

「イッキ!如何じゃ?制服じゃぞ!」

 

「可愛いぞ九重。フィスも似合ってるな」

 

駒王学園の制服は普通にデザイン性高いから美少女が着ると絵になるよな

 

それ以前に女の子が新しい服を見せに来たなら先ずは褒めないとね

 

「でも、その服は如何したんだ?」

 

「うむ。コレは通販で手に入れたものじゃ。今この服は冥界の若い女人の間で流行っておるそうじゃぞ。母上に頼んで買って貰ったのじゃ!」

 

「あらあら、うふふ。如何やらレーティングゲームでグレモリー眷属とシトリー眷属が毎回この制服を着てバトルに臨んでいる事から人気に火が付いたようですわ。今や冥界では学校の服というよりは私達のバトルコスチューム兼コスプレ衣装みたいな扱いになっていますの」

 

「マジですか朱乃さん!?俺達の制服がそんな扱いに!?」

 

イッセーが驚いてるけど俺もビックリだ。流石は今まで娯楽の少なかった冥界、一度波に乗れば浸透するのも早いようだ

 

「じょしこーせーになったら駒王学園に入学すると既に母上と話しておってな。何時かこの制服がピッチリと似合う女性に成長してみせるぞ!」

 

「! 九重は駒王学園に来るつもりなのか」

 

「その通りじゃ!駒王学園は異形の者や異能者の受け入れ態勢も整っておるようじゃし、何よりもイッキの通っている学園には興味があるからの・・・それにイッキの家に下宿させて貰えればJKの魅力でイッキに迫ればイチコロじゃろうと母上も言っておったしの」

 

何時もの事だけど何を吹き込んでんの八坂さん!?

 

「いや、ほら・・・それを言うなら同じ条件の白音やレイヴェルにも俺は手を出してない訳だし」

 

「そこは母上が『九重が高校生になる頃にはあの3人には手を出しているはずじゃからの。そうなればイッキ殿も心のタガが外れておるはず―――押せ押せでイケるはずじゃ!』と言っておったから問題ないのじゃ!」

 

「おお有りだァァァ!!マジで何を吹き込んでんの八坂さん!?将来の俺の周囲と心情を何処まで計算に入れるつもりだ!?そもそも娘にする話じゃねぇだろ!!」

 

それに万が一子供が出来たら九重の貴重な高校生活が潰れてしまう・・・大丈夫だ。俺はちゃんと理性を保てるはずだ

 

「その頃には私達に手を出しているだろう事は否定しないんですのね、イッキ様は」

 

「私たちはイッキ先輩の将来のお嫁さんだからある意味当然」

 

そうですよ!今だって本当に最近皆に甘えられるとそれだけで理性が跳びそうな位には限界なんだから少なくとも高校卒業したら黒歌には手を出すと思う―――そうじゃないと俺の脳みそがその内蕩けて溶けると思うからな!

 

少しダメな方に開き直ったりもしたが夜遅くになったので皆それぞれの家(大半はイッセーの家)に戻り、明日また作業の続きをする為にイッセーの家に集合となった

 

お風呂に入ってサッパリした処で(風呂は複数あるので女性陣は大浴場で俺は個室風呂に入った)部屋で待ってると黒歌たちが入って来る

 

風呂上りと云うのはそれだけで魅力度3割増しに見えるから不思議だ

 

そんな中、今回は九重も一緒に入って来た

 

「ふふふ~♪コレでイッキとイッキの婚約者が全員集合の水入らずじゃな。皆と一緒に寝てみたいとは前から思っておったのじゃ♪」

 

そう言えばロキと戦う前にそんな話もしてたっけな。その後すぐにレイヴェルの告白が重なった訳だけどさ

 

それからはベッドですぐに寝るという訳では当然なく、冥界での騒動の事とかを中心にした話で盛り上がったり以前白音が希望した九重の白音へのお姉ちゃん呼びで白音のテンションが上がったりしている内に疲れた九重が自然と寝息を立てた処で皆揃って眠る事となった

 

翌朝、朝食を食べてからイッセーの家に集合してお社を建てる作業も終盤に入る

 

木材同士を組み合わせる基本的に釘とかを使わない造りとなっている文字通りの組み木仕様なのでどんどんしっかりとした社の形となっていき、土台の上に固定。他の場所で造っていたという人一人通れるくらいの鳥居としめ縄も設置した

 

コレで後は神事を執り行えば完成かと思ったが職人のお姉さんが箱と模型を持ってきた。如何やら余った木材で造ったらしい

 

箱の方は賽銭箱で入れたお金はオーフィスのお小遣いの一部となるそうだ

 

そして模型と云うか像は赤い龍と白い龍だった

 

「オー・・・じゃなかった。フィスに像を置くなら何が良いかって聞いたら龍の赤いのと白いのっていうものですから。日本式のお社だけどフィスの要望は二天龍って事でしょうから像も西洋タイプのドラゴンで彫って貰ったのよ」

 

言われてみれば確かに龍じゃなくて竜の方だな。それらを設置するとオーフィスが赤い方の像に近寄ってペチペチと叩く

 

「グレートレッド?倒す?」

 

「ペチペチしないでぇぇぇ!!それ俺やドライグの事みたいだから俺を倒さないでくれぇぇぇ!!っていうか自分で要望出したんだよね!?」

 

「・・・冗談」

 

オーフィスの無表情の冗談発言にガックリと項垂れるイッセーだった

 

最後に九重が神聖な力が高まり過ぎないように略式ではあるが神事を執り行いお社は完成した

 

「何だか・・・こうして改めて見るとかなりの神気が漂ってるよね。聖なる波動じゃないから僕たちでもダメージは無いけど自然と背筋を伸ばしちゃいそうだよ」

 

「まぁそれはイッキと違ってお社が気配隠蔽とかする訳ないからにゃ」

 

ああ、俺が普段隠してる分が垂れ流されてる訳ね。俺よりは【神性】は低いだろうけど隠してない分強く感じる訳だ

 

「今さらだけどさ。コレってお社にお祈りしてもイッキにお祈りした事になったりしない?」

 

「それは大丈夫じゃ。あくまでも信仰を受けるのはこの社の主であるフィス殿だけじゃし、そもそも木刀に宿った時点でイッキの【神性】とは別物じゃからの」

 

「うふふ、折角ですし完成記念に皆でフィスちゃんにお祈りしてみませんか?」

 

イッセーの懸念に九重が答えた処で朱乃先輩が提案して俺達が初参拝客となる事になった

 

・アーシアさんの願い

 

「世界が平和でありますように」

 

「平和・・・世界の平和、どこからが平和になる?」

 

哲学的!

 

 

・白音の願い

 

「成長期が早く訪れて欲しいです」

 

「蛇・・・飲む?」

 

変身じゃなくて成長だから!

 

 

・ゼノヴィアの願い

 

「女子力を高めたい」

 

「エクス・デュランダルを極める」

 

破壊力の先に女子力は在りません!

 

 

・朱乃先輩の願い

 

「お料理がもう少し上手くなれたら嬉しいですわ」

 

「我も嬉しい」

 

願われる側の願望混じってますよ

 

 

・レイヴェルの願い

 

「背がもう少しだけ欲しいですわ」

 

「牛乳を毎日飲む」

 

ある意味一番無難だな

 

 

・イリナさんの願い

 

「クリスチャンの私が龍神に願ってもいいのかしら?」

 

「ミカエルより我の方が強い」

 

ちょっとドヤってませんか、龍神様?

 

 

・祐斗の願い

 

「えっと、悪魔の仕事が沢山舞い込みますように」

 

「・・・ZZZZZZZZZZZZZZZ・・・」

 

祐斗は不憫キャラ

 

 

・ロスヴァイセさんの願い

 

「彼氏かお金が欲しいです」

 

「残念」

 

それは如何いう意味の『残念』ですか?

 

 

・ギャスパーの願い

 

「え、えっと、女子力じゃなく男子力を身に付けたいですぅ」

 

「ミルたん」

 

そこに在るのは腕力だよ・・・と云うかミルたん知ってんのかい!

 

 

・九重の願い

 

「願いは沢山あるが、京都が平和であれば問題無しじゃ!」

 

「お社を有難う」

 

加護を頼むぞ、龍神様

 

 

・リアス部長の願い

 

「アーシア程規模が大きくはないけれど、この町が平和なら良いのではないかしら」

 

「町の平和は我が守る」

 

物理!?

 

 

・黒歌の願い

 

「イッキが私の事を襲って欲しいにゃ~♪性的に♪」

 

「クラスビースト変貌薬」

 

何で知ってるの!?

 

 

・俺の願い

 

「黒歌の攻めが少し緩和しますように」

 

「賢者の薬」

 

両極端!そして本当に何で知ってるの!?

 

 

 

最後にイッセーがお願いをしようとした処で屋上にアザゼル先生がやって来た

 

「くぅぅぅ!徹夜の麻雀明けの朝日は目に染みるぜぇ」

 

如何やら麻雀大会は夜通し行われたみたいだ

 

「お!それが連絡にもあった龍神のお社か、中々立派な出来じゃねぇか。流石は九尾の姫さんだな、九重。良い仕事してるぜ」

 

褒められた九重も「当然じゃ!」と嬉しそうに胸を張っている

 

「先生、結局麻雀大会は誰が勝ったんですか?」

 

「バラキエルだよ。アイツの麻雀にも表れる御堅い戦略が最終的に勝ちをもぎ取りやがった」

 

そりゃあ一日中麻雀してたら堅実に打つ方が勝率上がるでしょうよ

 

「それで、見たとこお前らは祈ってたって処か。なら俺も龍神の御利益ってのに祈りを捧げてみますか―――え~、先ずはシェムハザがプライベートでも頭が柔らかくなりますように。バラキエルが堅物を止めますように。天帝がムカつくんで箪笥の角に足の小指をぶつけますように。ミカエルが無駄な仕事までこっちに押し付けて来るから天界ごと堕ちますように。それでなくとも可愛い天使、特にガブリエル辺りが堕ちてきますように」

 

何とも俗な願いをふんだんに盛り込んで祈るアザゼル先生だが近くに居たイッセーは最後のガブリエルが堕ちるというワードを聞いて変な妄想でもしてるのかだらしない顔になる

 

「先生!俺も一緒に祈ります!天界一の美女が堕ちて堕天使的エロ衣装に身を包むとか最高に見て見たいです!」

 

「おお~、分かってるじゃねぇかイッセー。堕ちたてのガブリエルとかきっと永久保存版の魅力に溢れていると思うぞ」

 

そんな馬鹿な会話をしている二人の頭上が急に曇っていき、天から雷が降り注いだ

 

「「ぴっぎゃあああああああああああああああああああああ!?」」

 

オーフィスは不思議そうに首を捻ってるから今のはミカエルさん辺りからの抗議だったりするのかな?何にせよ黒焦げになった二人を余所にお社は完成したのだった

 

 

お社が完成した後は九重が帰る夕方までショッピングに出かけたりオーフィスと九重がお互いの服を着てみたい(巫女服とドレス)との事から服を交換し、そのままオーフィスに与えられた部屋にルフェイが大量に揃えていた色んな服を着て二人のプチファッションショーみたいな感じになったり(八坂さんに写真を後で送ったら喜ばれた)九重が俺達の模擬戦風景を見て見たいとの要望に応えて何時もの練習風景を含めて観戦して貰ったりした

 

俺の狐火とイッセーのドラゴンブレスがぶつかり合った時なんかは遠くで九重のテンションの上がる声が聞こえたので楽しんで貰えたようだ

 

そんな風にしてるとあっという間に九重が帰る時間となりお土産も持たせて今は転移の間だ。既に九重たちの背後には転移の鳥居も出現している

 

「皆、この二日間は本当に楽しい時間であった。お世話になりました」

 

ペコリと頭を下げる九重にオーフィスが近づいて行く

 

「また、我と遊んでくれると嬉しい」

 

「うむ!私とフィス殿は友達じゃ。また遊ぼう!」

 

最後にお互いの手を取り合って笑顔を向け合う二人

 

これからもちょくちょく二人が出会える機会を作れたらいいな

 

取り敢えず、イヅナで九重と話す時とかはオーフィスも呼ぶ事にしますかね

 

そんな事を思いつつ九重が帰るのを見送ったのだった




そう言えばフリードがミルキー軍団に加わった事でレーティングゲームのフルメンバーの16人となりましたね・・・ウンディーネは使い魔のマスコット枠ですしww


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第14章 進路指導のウィザード
第一話 魔法使いとの、契約です!


九重がオーフィスのお社を建てに来てから少し経った頃、俺は今イッセーから愚痴というよりは相談みたいなのを受けていた

 

「それで?最近女の子がベッドに寝ている間に侵入してくるから朝起きるとベッドから転がり落ちてる時が在るって?」

 

俺も人の事は言えないのかも知れないけどコイツの悩み相談を他の男子が聞いたら血で血を洗うバトルアクションが展開される事間違いなしだぞ

 

「ああ、女の子たちと密着して寝られるのは素直に嬉しんだけどさ。朝起きると広いベッドもぎゅうぎゅう詰めになっててさ。寝てる間は良いとして途中で目が覚めると改めて眠れるスペースが無いんだよ。それにゼノヴィアなんかは寝相が悪くてベッドから蹴り落とされる事もあるし・・・一応俺の部屋なのに主の俺がベッドを占拠されて床で寝るってのも可笑しな話だろ?」

 

イッセーの言い分は分かるし、正しいとも云えるけどこの場合は相談する相手を間違えたな

 

「俺、中学3年間と高校1年間の計4年間は黒歌にベッドを占拠されて冬場でも固い床で毛布に包まって寝てたんだけど・・・」

 

中学の修学旅行が終わった辺りから黒歌は一緒に寝ようと誘って来てたから後半の2年間は俺の意地みたいな処もあったけどさ

 

「・・・マジか?」

 

「マジだよ―――アレだ、イッセー。床で寝るのも男の甲斐性の一つだよ」

 

「いやイッキ。それは合ってるようで微妙に間違ってると思うぞ」

 

そう言いながらイッセーは不憫なモノを見るような目を向けて来る―――そんな目で俺を見るな!

 

「真面目に答えるなら結局ベッドを増設するしかないんじゃないか?ほら、ベッドって複数のベッドを繋ぎ合わせる事だって出来る訳だし、そもそもお前の周りの女性陣はお前に引っ付いて寝たいって事だろうから密着度は変わらないだろうけど蹴落とされるような狭さは何とかなるだろ」

 

寝ている間に勝手に侵入するなら順番決めてローテーションにしても意味ないだろうしな

 

「あ~、そうだなぁ。今度リアスにも相談してみるか・・・幸い『おっぱいドラゴン』関連でお金には余裕がある訳だしな。必要経費って事でグレイフィアさんお金降ろさせてくれるかな?」

 

そう言えばコイツ・・・というよりグレモリー眷属のサイフは基本的にグレイフィアさんが握ってるんだったっけ?

 

皆それなり以上にはお金自体は儲けていても一般的な高校生のお小遣い程度が振り込まれるようになってるんだとか

 

将来への備えとか子供の内から余り多くのお金を持たせるのは良くないとかって理由みたいだ。逆に俺の方はと言えば八坂さんとかが管理してたりする訳じゃない

 

もしも俺が豪快にお金を使ってたりしてたら別だったかも知れないが幸い俺の庶民根性は大金程度で動かされるモノじゃなかったようだ

 

まぁ余りお金を貯め過ぎても経済的に良くはないだろうから使う時にはスパッと使う覚悟は持っておく必要があるだろうけどね・・・差し当たり車とかか?マニアみたいに何台も買ったりしなくとも軽自動車って選択は無いだろう―――いや、軽自動車自体は普通に便利そうだけど彼女が居る身としてはちょっとね

 

そんな事を話していたらイッセーの背後から松田と元浜が近づいて来たので周囲に雑談に聞こえる認識阻害を解く

 

そして近づいて来た二人はイッセーの後頭部にダブルで拳骨を落とした

 

「痛ってぇぇぇ!?突然何すんだお前ら!!」

 

「うるっせぇ!イッセー!オカルト研究部に新しく入った一年の転校生の金髪美少女レイヴェルちゃんとその情報だけでもムカつくのに登下校も同じ時間で一緒の方向に歩いてるとの情報は上がってんだ!どうせまたアーシアちゃんみたいにお前の家にホームステイしてるとか羨まけしからん事になってるんだろう!?本っ気で嘘だと言えイッセー!!」

 

「違げぇよ松田!そんな雑な推理で毎回俺を取り敢えず殴るのは止めろって!レイヴェルとは彼女が転校してくる前から知り合いではあるけど俺の家に住んでたりはしねぇよ!!」

 

「その言葉、信じて良いんだろうなイッセー?」

 

「ああ、当たり前だろ元浜。何せレイヴェルが住んでるのはイッキの家なんだから!と云うかお前らイッキの方も疑えよ!」

 

「イッセー!!お前そこは否定するだけで良かっただろ!」

 

態とだよな!今の情報漏らしたのは絶対に俺に矛先向ける為に態と情報流したんだよな!?

 

「ぬぁあにぃいいいい!!?その反応をするって事はイッセーの言ってる事は本当なのか!?畜生!何でだ!この学園のマドンナが全員何故イッセーとイッキの周囲に集まって行くんだ!?特に新しく入って来る女の子たちは皆オカルト研究部とか美少女比率がドンドン高まってやがるじゃねぇか。俺達も入部させろォォォ!!」

 

しまった。俺の態度がこいつ等に確信を与えてしまったか・・・いや、こいつ等なら関係なしに確信してただろうな。イッセーが口に出した時点でアウトだったか

 

「アンタらも毎度毎度嫉妬しながらよく飽きないわよねぇ。見ている側としてはちょっとマンネリ化してきたわよ?」

 

「喧しいぞ桐生!俺達は真剣だ!真剣に女の子にモテたいだけなんだァァァ!!」

 

松田、渾身の魂の叫びだけど聞こえてたクラスの女子は遠巻きに蔑んだ目を向けるだけだった

 

「う~ん。有間君がモテるのは分かるけど変態三人組の中で兵藤だけがモテるのはやっぱり顔じゃない?一応アンタら三人の中じゃ一番真面な顔してるし、最近は鍛えてるのか良い意味で野性味が出て来てるって意見もあるからね」

 

「本当か桐生!?遂に俺にも伝説のモテ期がやって来てるのか!?」

 

イッセー・・・今のお前がモテ期じゃ無かったらなんだってんだよ。ほら、クラスの男子がお前の発言を聞いて殺気を送り始めたぞ

 

「まっ、アンタら二人も本当にモテたいならその変態を何とかする事ね。生まれ変わっても直りそうにはないけどさ」

 

"ニシシシ"と笑う桐生さんの言葉に松田と元浜は悔し涙を流すのだった

 

「あっ、それで有間君がレイヴェルさんと一つ屋根の下って話は如何なったの?」

 

この後、松田と元浜に滅茶苦茶追い回された

 

 

 

 

 

 

放課後、部室にてリアス部長から連絡事項があるとの事だった

 

「吸血鬼側から連絡が有ったの。話の内容は今の段階では明かされなかったけど暫くしたら使者が来るそうよ」

 

それを聞いたギャスパーの顔が少し曇る。ギャスパーとしては自分を迫害した吸血鬼にいい思いは抱けないだろうからな

 

「それはまた・・・今の段階で今まで各勢力との話し合いに応じて来なかった閉鎖的な吸血鬼たちが態々使者を送って来るとは厄介ごとの匂いしかしませんね・・・」

 

「如何いう意味ですか?ロスヴァイセさん?」

 

イッセーの質問に答えたのはアザゼル先生だ

 

「今、吸血鬼の領土から一つの噂が流れて来てるんだよ。何でも神滅具(ロンギヌス)所有者が出たってな。俺達が今その所在を確認出来てない神滅具(ロンギヌス)は『蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)』、『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』、『究極の羯磨(テロス・カルマ)』の三つだ。どれも直接的な破壊を齎すタイプじゃないが、だからこそ悪用された時は対処がしにくいとも云えるな」

 

「成程、あの引き籠りの吸血鬼たちが外と繋がりを持とうというにはそれぐらいの爆弾が必要なのかも知れないな」

 

教会時代から吸血鬼と対峙して来たであろうゼノヴィアが呟くけどその爆弾はとっくに導火線に火が付いた状態ですよね

 

「一応まだそうと決まった訳では無いけれど、十中八九面倒ごとでしょうね。それに吸血鬼側が三大勢力ではなくて態々私達を会談相手に指名してきたのも気になるわ」

 

「まっ、今は情報が無いからこれ以上考えても仕方ない。全員、気構えだけはしとけ」

 

アザゼル先生が吸血鬼の話を締めくくり、リアス部長が次の話に移る

 

「そろそろ私達悪魔は魔法使いとの契約期間に入るのよ」

 

「魔法使いとの契約・・・ですか?」

 

この世界の魔法使いは自分の決めたテーマを生涯かけて研究する人達とされている・・・ある意味Fateの魔術師と在り方は近いのかも知れんな。向こうは自分の決めたテーマと云うよりは家が代々受け継いできたテーマって感じだけどね―――後、魔術師は漏れなくイカれてるのがデフォだけど

 

「これは主である私が一定の年齢に達したからね。同時に眷属の皆にも魔法使いと契約を結んで貰う事になるわ」

 

リアス部長が皆を見渡して続ける

 

「魔法使いが悪魔と契約する理由は大きく分けて三つ。一つは用心棒として。バックに強力な悪魔が居れば相手先といざこざが起きた時に折り合いがつけやすいのよ」

 

「ヤクザみたいですね」

 

イッセーのストレートな物言いにリアス部長も苦笑しながらも否定はしなかった

 

「二つ目、悪魔の持つ知識や技術、または人間界では手に入りにくい素材などを入手する為。要は彼らの研究のお手伝いね。特に裏の素材とかは魔法使いが真面なルートで手に入れようとすれば物凄く価格がつり上がるの。裏の素材を研究対象にしている魔法使いなんかじゃ死活問題になるわ」

 

お金の問題ですか・・・何時の世も世知辛い事情は付いて回りますね

 

「最後は最初の理由と少し被るけど箔を付ける為ね。強力でその上有名な悪魔なんかと契約する事が出来ればそれだけでも魔法使いとしての発言力が高まるし、トラブルが起きた時や相談事においても契約先の悪魔の伝手で広い範囲の悩みをカバー出来るからね。『人間に知恵を与え、対価を得るのが悪魔』―――私達悪魔が研究者である魔法使いと契約を結ぶのは利益もあるけど『聖書に記されし悪魔』としての在り方を体現している部分も大きいわ。だからこそ私達悪魔にとってこの契約は仕事であると同時に種族としての義務でもあるの」

 

ああ、悪魔にも研究者は普通に居るのに態々人間と契約してるのにはそういう意味も在るのか。要は悪魔としての信仰心を集めるのに必要な事って訳だ

 

余りハッキリとした描写は無いけど裏の世界の住人にとっては人々の信仰心というのは文字通り糧になってるんだろう

 

例えばだけど今から世界中の人々がクリスチャンになったら不安定な『システム』が補強されたり天使たちがパワーアップとかするのかな?

 

「まさか私が魔法使いに呼び出される側になるとはな」

 

「そうね。召喚で呼び出されるの何て基本は悪魔や魔物、妖怪などが大勢を占めてるわ。だからこそ、皆にはきちんとした契約を結んで貰いたいの。一度契約すれば簡単に契約を破棄なんて出来ないし、魔法使いにとって契約がステータスであるように悪魔からしても程度の低い魔法使いと契約すれば品位というものを疑われる事になるわ―――最高の取引相手を選びなさい。私達も出来る限り相談に乗るからね」

 

「そういやリアス。その選考について何だが一人アドバイザーを紹介したいと思っててな。リアスたちが手伝うつってもこの中で魔法に関してガッツリ詳しいのがロスヴァイセだけだと大変だろう?取り敢えずもう呼んであるから先ずは会ってくれ」

 

アザゼル先生はそう言って指を打ち鳴らすと部室の床に魔法陣が広がって水色を基調とした尖がり帽子の魔法使いと灰色の狼が現れた

 

「皆さまお久し振りです。この度、アドバイザー役を申し付かりましたルフェイ・ペンドラゴンです。一応敵同士という事ではありますが宜しくして頂ければ幸いです」

 

ヴァーリチームの魔法使いのルフェイ(とフェンリル)が現れて"ペコリ"とお辞儀をしながら挨拶するのを見て皆反応に困ったような表情だ

 

敵意はお互いに持っていなくとも一応相手はテロリストの肩書を持ってる訳だしね

 

「・・・アザゼル。何故彼女を?」

 

「なに、向こうのヴァーリ・・・と云うかアーサーに頼まれてな。アーサーの奴は自分から強敵を求めてヴァーリと行動を共にしてるみたいだがルフェイはそんなアーサーを心配してついて来ただけだから可能な限り危険な場所に置きたくないんだろう。ルフェイが何時か表側に戻れるように少しずつこうやって良い印象を持たれるような機会を持たせたいのさ」

 

「お兄様は昔から私に過保護何です。私も自分の意思でお兄様たちについて行くと決めたのですが・・・ただ、今回は『おっぱいドラゴン』さんの家に行けると云うのともう一つ・・・」

 

そこでルフェイは一度言葉を区切ってソファーに座っていたオーフィスに抱き着いた

 

「オーフィス様にもこうしてお会いしたかったものですから。お久し振りです。オーフィス様」

 

「ん、ルフェイも久しい」

 

抱き着かれたオーフィスも禍の団(カオス・ブリゲード)時代から好意を向けてきていたルフェイとの再会は何処か嬉しそうな雰囲気だ

 

「あっ!勿論魔法使いとしてアドバイザーの仕事はキチンとやらせて頂きますので皆さま如何か宜しくお願いします!」

 

リアス部長は二人の様子を見て溜息を吐く

 

「貴女には魔獣騒動の時も助けられたし、オーフィスも懐いているなら無碍には出来ないわね。良いでしょう。暫く貴女が滞在する事は認めるわ―――ただし、分かっているとは思うけど目立つような行動は控えるようにね」

 

こうして彼女が魔法使いとの契約における臨時アドバイザーとして兵藤家に泊まる事になった・・・因みに食事時だけは転移魔法でヴァーリ達の下に帰って食事の用意をするそうだ。こと食事に関しては何一つ信用されてないヴァーリ達だった

 

そうして少し経った頃にリアス部長が時計を確認する

 

「そろそろね。もう直ぐ魔法使いの協会のトップのお方が連絡を下さるの。失礼のないようにね」

 

それを聞いた皆はそれぞれ姿勢を正す。すると部室の床に魔法陣が広がった

 

「アレはメフィスト・フェレスの紋章だね」

 

祐斗がその紋章を看破した数秒後、魔法陣の上に立体映像で高級そうな椅子に座った赤と青の混ざった頭髪をピッチリと固めた強面の男性が映し出された

 

髪だけでなくその瞳も右目が赤で左目が青のオッドアイで中二・・・もとい妖しい雰囲気を纏ったダンディな方だった

 

≪こんにちは。リアスちゃん。久しぶりだねぇ≫

 

中身は大分気さくな方のようだけどね。皆の緊張の度合いが少しだけ下がった感じがする

 

「お久し振りです。メフィスト・フェレスさま」

 

≪うんうん。日を追うごとに美しくなっていくねぇ。キミのお母さんもお祖母さんもひいお祖母さんも皆美しい方ばかりだったよ≫

 

「有難うございます―――皆、此方が魔法使いの教会の理事であり、番外の悪魔(エキストラ・デーモン)のメフィスト・フェレス様よ」

 

≪やあやあ初めまして。魔法使いの組織の一つ『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』の理事をやっているメフィスト・フェレスです。詳しく知りたかったら関連書物を確認してね。僕を取り扱った書物は結構あるからね―――それはそうとアザゼルも久しぶりだねぇ。聞いたよ。総督を辞めたんだって?≫

 

彼は皆を見渡して挨拶し、最後にアザゼル先生に顔を向け話しかける

 

「応、これもまた時代の流れってヤツだよ。まっ、俺としちゃ自分の趣味に費やせる時間が増えたんで今の立場を存分に満喫させて貰ってるけどな」

 

≪程々にしておきなよ?やり過ぎるとシェムハザ君が無表情で折檻しに来るだろうからね≫

 

二人の気安い会話を聞いていたイッセーが「お知り合いなんですか?」と質問する

 

「まあな。コイツは初代四大魔王と折り合いが悪くて人間界に引っ込んだのを神の子を見張る者(グリゴリ)は独自のルートで接触してたのさ。コレでも結構長い付き合いだよ」

 

≪先代の魔王たちは頭が固くてその上『ああしろ、こうしろ』と煩くてねぇ。その上成果だけ限界まで搾り取ろうとするような奴ばかりだったから早々に縁を切ったんだよ。だからこそ、今の四大魔王には好感を持ってるよ。まぁ僕はもう人間界で独立してるから先日の魔獣騒動とかも傍観決め込んじゃってるんだけどね≫

 

"HAHAHAHA"とでもいった感じに笑う彼に皆は困ったような表情を浮かべるばかりだ。独立して立場もある彼がおいそれと手を貸せないのは分かるけど反応に困るといった感じだろう

 

≪まぁそれでも現政府とはビジネスパートナーとしては良好な関係を結ばせて貰ってるよ。そういう訳で雑談もそこそこにお仕事の話に移ろうか。キミたちと契約したいと言ってる魔法使い達の詳細なデータを送らせて貰うよ≫

 

彼がそう言って指先で魔法陣をクルクル回すと部室の開けている場所に魔法陣が展開され"ドバドバ"と大量の書類が次から次へと転送されてきた

 

見ればそれは履歴書のようで魔法使いの写真と得意分野や研究テーマなどが明記してある

 

誰宛の履歴書なのかも書いてあるので皆で仕分けしていくがそれでもそれぞれの前に書類の山が出来た位だった

 

一番履歴書がテンコ盛りだったのはリアス部長でこの結果にはアザゼル先生も納得の面持ちだ

 

「まっ、この結果は当然だろうな。リアスの眷属は全員人気が高いが主であるリアスと契約出来ればその眷属、そしてグレモリー家の力も引き出せると考えるヤツは多いだろうし、そもそもリアス自身も才能有る悪魔だ。お近づきになりたい奴らは多いだろうさ」

 

リアス部長以外では書類の量の順番的にロスヴァイセさん→アーシアさん→白音→イッセー→祐斗→朱乃先輩→ゼノヴィア→ギャスパーの順だった

 

ロスヴァイセさんは半神であり北欧の魔法に詳しいから、アーシアさんは癒しの力の研究がしたいから、白音は仙術と妖術を扱えるからでそれ以降は言ってはアレだがレア度順な気がするな

 

例えば白音の仙術とか珍しい植物の量産とかも出来る訳だし研究も捗るだろうけど、今まで極一部の者しか扱えなかった聖剣使いで悪魔になって日が浅いゼノヴィアとか『箔を付ける』という意味なら兎も角研究の手伝いとかは難しいだろうからね

 

そう言うとゼノヴィアも「確かに、今の私では護衛や素材集め以上の事は求められても困ってしまうな」と納得した感じだ

 

「ああ、でもイッセーは知名度だけじゃなくて研究の協力の面でも選ばれてるかもな」

 

「は?俺が?言っちゃなんだけど悪魔としては一応先輩だけどゼノヴィア以上に知識不足な処ってあると思うぞ」

 

まぁゼノヴィアは元々教会の戦士だからそれなりに裏の事は知ってるだろうな

 

「そこはほら、ドラゴンって素材の塊じゃん?人間ベースのお前じゃ鱗とかは無理でも『ドラゴンの血を寄越せ~』って研究者は少なからず居そうだけど?」

 

途端にイッセーは凄くイヤそうな顔をしたな

 

「止めてくれよ。幾ら何でも体を売りたくはないぞ・・・ああ、いやでももしも素敵な白衣のお姉さんに報酬(おっぱいタッチ)と引き換えの献血を求められたらちょっとくらいなら・・・」

 

「イッセー!」

 

「はい!真面目に選びます!」

 

イッセーの思考がイヤらしい方向に跳びそうになったのをリアス部長が一喝して引き戻す

 

如何やらちゃんと躾が行き届いているようで何よりだ。最初期のイッセーなら未練を顔に残していた事だろうからな―――さて、そろそろ本題(・ ・)に入ろうか

 

「メフィスト会長。誰もツッコまないままここまで来ちゃったんですけど質問良いですか?」

 

≪うん。キミは有間一輝君だね。遠慮なく聞いてくれたまえよ≫

 

「何でこの選考書類、俺宛のが混ざってるんですか?」

 

そう!何故か俺向けの履歴書があるんだよ!数はギャスパーのものより少し少ないけど十分『山』と表現出来る数がある!・・・何で?

 

≪ああ、それはねぇ。先日の冥界騒動を通してキミの知名度も魔法使いの間でかなり高まったんだよ。それでキミの事を詳しく調べる人も出て来る訳だけどキミが演じている『邪人』という設定が魔法使いの教会でも広まってね。勿論キミが人間だという情報も流れてるけどまぁ噂なんてのは面白いものが優先されるものだからねぇ。ダメ元でキミに書類を出した魔法使いが一定数いたって事さ。面白そうだから今回ついでに送らせて貰ったよ≫

 

いやいやいや!面白そうだからって理由でこんなもん送り付けないで下さいよ!

 

「そもそも今回の選考は悪魔と契約する為のものでしょう!?目的からしてズレちゃってるじゃないですか!」

 

≪いいや、そんな事は無いんだよ。魔法使いが契約者を求めるのは後ろ盾と研究の協力が欲しいからだ。必ずしも悪魔である理由は無いんだよ。キミは実力、知名度共に問題無いし、妖怪にも悪魔にも伝手が利くからねぇ。ぶっちゃけ契約を結べたら万々歳だと思うよ?まぁその書類は冗談で送ったものだから無視しても良いけど、興味があるなら目を通してくれたまえ≫

 

そんな事言われても普通に困るんですけど!?あ~、でも捨てる前に軽く見てみるか。契約結ぶ気なんて無いけど暇つぶし代わりにはなるかもだし

 

≪今回の分の書類はそれで全部になるよ。まぁキミたちに見合うような魔法使い何てほんの一部だろうし、今回決まらなかったらまた次回に持ち越しだね。優秀ではあっても諸事情があって今回の選考に参加出来なかった魔法使いとかも一定数は居るからね≫

 

そこにリアス部長が契約にはお互いの利益が合わなくなった場合や不慮の事故、寿命の違いによる死亡での契約解除や短期契約などで魔法使いとの契約はこの先何度もある事が補足説明される

 

「うっへぇ。その度に俺達はこの書類の山と格闘しなくちゃいけなくなるのかよ。確かにいい加減な気持ちでは選べないな。出来るだけ長期でしっかりとした利益の出る契約相手じゃないと―――毎度毎度こんな選考してらんないぜ」

 

イッセーがげんなりしてる様を見ていたメフィスト会長は今度はレイヴェルに視線を移した

 

≪そこのキミはフェニックス家の者だね?≫

 

「は、はい。レイヴェル・フェニックスと申しますわ」

 

突然話しかけられて驚きながらもレイヴェルは返事を返す

 

≪キミはフェニックスの涙が裏ルートで取引されていた事は知っているかな?≫

 

「はい。ですが取引に携わった不逞の輩は既に粛清したと聞きましたわ」

 

≪コレは魔法使い側でも一部の者しか知らない情報何だけどね。裏ではフェニックスの涙がまだ流通してるんだよ―――それだけならまた新しく取引の任に着いた者が流してると思う事が出来たんだけど、どうにも取引されているのは偽物のフェニックスの涙らしいんだ≫

 

「偽物の涙・・・ですか?それでは回復効果の無いただの液体と変わりないはずです。まさか!」

 

そこまで云った処でレイヴェルの表情が驚愕に彩られる

 

≪うん。そのまさかでね。偽物の『涙』は本物と寸分違わぬ回復力を有しているんだよ。ほら、コレがその偽物の『涙』さ≫

 

メフィスト会長は懐から小瓶を取り出した

 

≪この偽物が闇マーケットに流れるのに前後して禍の団(カオス・ブリゲード)の魔法使いとはぐれ魔法使いが手を組んでフェニックスの関係者に接触してるらしいんだ・・・まっ、如何やってるのかは分からないけど無関係では無いだろうね≫

 

「それはつまり、フェニックスのクローンが造られてるって事ですかね」

 

俺の言葉にレイヴェルだけでなく他の皆の視線が突き刺さるけどコレって原作知識云々言わなくても思い付ける事だと思うんだよね

 

「クローン・・・ですか?」

 

言葉を震わせるレイヴェルには心が痛むけど後で真実を他から聞くよりはマシだと判断して続ける事にする

 

「確認するけどレイヴェル。フェニックスの涙を生み出せるだけの血を持った家の人が拉致されたとか行方不明なんて話は聞いてないんだよね?」

 

「ええ、そのような事になったら私の下へも連絡が来るはずですわ・・・ですが、それにしてもクローンだなんて」

 

「クローン技術は最近の人間界では広く知られている技術だ。クローンを題材にした色々と倫理観に訴えかける映画とかだって数多くある位にはな。その上相手は外道のテロリスト。英雄派だってシャルバの血液の培養とかもやっていたんだから十分あり得る話だろう―――悪いなレイヴェル。嫌な話を聞かせて」

 

隣で沈んだ顔をしていたレイヴェルの頭を撫でる・・・彼女は頭を撫でられるのが好きだからね

 

「いえ、イッキ様。確かに聞けば納得できる内容でしたわ。可能性・・・という事になりますがお父様には今の話は私の方から伝えておく事にしますわ」

 

「もしそれが本当だとしたら絶対に許せないわ!主の御名の下、断罪して上げるんだから!生命を弄ぶような真似、主がお許しになるわけないんだから!」

 

人一倍正義感が強いイリナさんが立ち上がって宣言する

 

「一応言っておくけどイリナさん。英雄シグルドの薬物漬けクローンを生み出して戦場に送り込んでいたという、はぐれ魔法使いよりも先にクローン技術を悪用してたのは教会だからね?」

 

「ぐはふぅぅぅぅぅぅぅ!!?」

 

あ、イリナさんがフリーズした―――と思ったら同じく教会出身者のゼノヴィアとアーシアさんも固まったな

 

「私の・・・私の信じていた教会はテロリストにも劣る畜生が跋扈していたのか・・・ふふふ、教会で剣を振るっていた時ですらすぐ隣の異臭にも気付けなかったとは情けない限りだ」

 

特に断罪の剣を振るっていたゼノヴィアのダメージが酷いな

 

だがコレでレイヴェル一人に圧し掛かっていた重い空気が分散されたから良しとしよう―――すまん。教会トリオよ

 

「俺の方でも情報を集めてみよう。それにしても流石はイッキだ。やっぱり外道の考えは外道には分かるもんなんだな。『餅は餅屋』って訳だ―――レイヴェルも心配すんな。イッキが傍に居るなら魔王級の奴でも襲って来ない限りは問題すら起きんだろう」

 

誰が外道だ!人間の悪意を考えればクローン程度は普通の範疇だろう!それと最後に思いっきりフラグ立てていくな!

 

≪あははは、僕としても貴重な意見だったよ。僕たち悪魔や異形の者はその存在自体が貴重なサンプルと見られる時代になって来ちゃったのかもね。これからはそう云った面でのセキュリティも強化していかないとダメそうだ。ついでに此方でも秘密裡に探りを入れる事にするよ―――最後に物騒な話が挟まっちゃったけど魔法使いの契約の件も宜しく頼むよ≫

 

「はい。本日はお忙しい中、有難う御座いました」

 

リアス部長のお礼の言葉を最後に≪またね~♪≫と軽い感じに通信が切れた

 

状況的にやっぱり先手は取られそうなんだよな―――だからと言って何もしない訳にはいかないし、原作のように魔法陣で調べて終わり何て事で済まなかったらとか冗談じゃない・・・いや、確かギャスパーが酷い目に遭ってたっけ?うん。何とかしてはぐれ魔法使い共は一人でも多く葬ってレイヴェルのデータとかも渡さないように出来れば良いんだけどな

 

取り敢えず、やれる事はやっておきますか

 

こうして不穏な話は在ったものの、メフィスト会長との話し合い自体は無事に終了したのだった




クローンの事を考えたら教会も同じくらいヤベェ事してたっていうのを思い出しました


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第二話 吸血鬼と、称号です?

二話連続です


メフィスト会長との話し合いも終わり、グレモリー眷属の皆が皆山のような書類と睨めっこして数日(俺は流し読み程度)、本日の特訓で祐斗が騎士団に魔剣を持たせてゼノヴィアを圧倒し、デュランダルのチャージ砲撃もグラムで相殺して彼女を項垂れさせていた。『私の取柄のパワーですら並ばれてしまった』とそれは酷く落ち込んで今のままではいけないと今まで手を出していなかったエクスカリバーの各種能力も使いこなそうと努力している

 

祐斗は祐斗で魔剣を使うと消耗が激しいらしく今は地力を伸ばすのが一番と基本メニューを強化している。何でも魔剣自身が祐斗に協力的らしいがそれでも現状では実戦の中でグラムを三回も全力で振ればガス欠になってしまうようだ

 

まさか祐斗がそこまで魔剣に認められているとは思わなかったけど聖剣の因子を多く取り込んだからってそんな影響出るものか?(原因:フリード)

 

ロスヴァイセさんはルフェイと魔法談義でレイヴェルもそこに加わって何やら質問してるようだ。ロスヴァイセさんとルフェイが厳しい顔をしてるけど如何したんだろう?

 

他の皆も思い思いに特訓に励んでいる姿が見受けられる

 

俺はと云えば今はイッセーと模擬戦だ。『真・女王』でパワーもスピードも上回ってるイッセーだがドライグとの連携でオーラの移動での先読みが出来なくなってるから前よりずっと戦い難くなっている。別にオーラの先読みが出来ないからといって戦えない訳じゃないが以前と比べて倒すのに3倍以上は時間が掛かるようになった。それだけ慎重に立ち回らなくてはならないからだ

 

「カーッ!イッキを倒すまで後ちょっとだと思うんだけど、そのちょっとが遠いんだよなぁ」

 

「俺から見ればイッセーは単に戦闘の相性が良いからここまで戦えてるだけだとも思うけどな」

 

「ならイッキにとって相性の悪い相手ってのはどんなヤツ何だよ?」

 

そこは自分で考えたまえよイッセー君。自分の弱点を素直に教える程お人好しじゃないぞ俺は

 

それからはアーシアさんがオーフィスにドラゴンの知識を教えてもらってたりリアス部長が可能な限り滅びの魔力を圧縮させたレーティングゲームでは禁止技指定されるだろうという新技の練習をしているなど軽い報告を終えてその日の修行は終了した

 

それからまた次の日、偶にはという事で俺とイッセーにサジと祐斗の同学年野郎組で屋上で弁当を突っついている

 

「それじゃあ、バスの子供たちを送り出した後、特に問題も起こらなかったんだな?」

 

俺は話に聞いていただけだが英雄派が子供たちの乗ったバスを攻撃した時の話らしい

 

「ああ、それどころか手続きを終えて俺達がリリスに戻った時には巨大魔獣は居ないし赤く空が割れてるし、直ぐに戦闘終了の連絡が来たから只管事後処理だったな」

 

「あの後深夜・・・と云うかほぼ明け方に帰宅しての中間テストは鬼だと思ったな。生徒の俺達やサボり魔のアザゼル先生は兎も角ロスヴァイセ先生とか定時までしっかり仕事してただろうしな」

 

「ああ、あの時のロスヴァイセさんは家に戻ってから栄養ゼリーだけ口にしてベッドにダイブしちまったよ」

 

生真面目過ぎるのも考えものだな

 

「そう言えば匙君。生徒会メンバーと云うかシトリー眷属ももうメフィスト様から魔法使いの書類は送られてきたのかい?」

 

「ん?ああ、あの書類の山な。実はシトリー眷属に新しく人員が2人増えてよ。その関係で調節があって書類を貰ったのも昨日の夜だぜ。まだ全然目ぇ通せてねぇよ。まっ、会長に聞いた話じゃ俺らが受け取った書類はグレモリー眷属に比べたらかなり少ないみたいだし、この時ばかりは知名度の低さに感謝したね。あ!今言った事は会長には内緒な!会長の耳に入ったら絶対後で『何を腑抜けた事を言っているのですか。修行メニューを倍にして気を引き締めなさい』とか言われるわ」

 

「あはは、了解だよ。それにしても新しいシトリー眷属には興味が湧くね」

 

「近いうちに自己紹介の機会もあるだろうから俺から言うのは控えておくな。ただ即戦力だからチームの力と安定性がグッと増した事は確かだぜ」

 

「なら、あとはサジの龍王形態の安定性が上がれば取り敢えず完璧だな」

 

ちょっと水を差してやるとサジはガックリと項垂れた

 

「それを言うなよ有間。俺はこの前のアガレスとのゲームで思いっきり暴走しちまって結構今でも凹んでるんだからさ―――そういや兵藤。お前はアレからリアス先輩と如何なんだよ?」

 

「アレからって何時からの事だ?」

 

「惚けんなよ。お前バアル眷属とのレーティングゲームの決勝戦で生中継の中告白してたじゃねぇか―――で、如何なんだ?同じ主を狙ってる身としちゃしっかり聞いてみたいもんだぜ。やっぱり主と眷属ではまだそういう仲になるには早いから『先ずはお友達からでお互いの事を知っていく処から始めましょう』とかそんな感じに躱されたのか?」

 

聞かれたイッセーはサジに遥か高みから見下ろすかの如くドヤ顔を決める

 

「ふっふっふ!いや~悪いなサジ君。実は俺とっくにリアスと付き合ってるんだよね」

 

「ハァ!?マジかよ!?つぅかお前今『リアス』って呼び捨てにしたか!?そんな・・・俺なんて未だに一緒に映画、それも眷属の皆で映画を見たくらいの進展しか無いんだぞ!!」

 

眷属の皆で映画とかそれを無理やり進展と捉えるサジが不憫過ぎる

 

「畜生・・・こんなペースじゃ俺の夢『会長とデキちゃった結婚をする』に辿り着くのに数百年は掛かりそうだぜ。俺とお前で何でこんなに差が付いたんだ?天龍と龍王の差か?俺なんてどれだけ会長にアプローチしても全く意図が伝わった事すらないんだぜ!?」

 

ヴリトラの所為でモテない何て云うのはヴリトラが可哀そうだろうに

 

「逆に女子からお前にアプローチとかは無かったのか?」

 

「ねぇよ。この間なんて仁村と花戒に『男子の意見が欲しい』ってランジェリーショップに連れ込まれたんだぜ?異性として意識されてねぇよ」

 

取り敢えずコイツに同情の余地は無ぇのがハッキリしたな。しっかりモテてんじゃねぇか

 

「女の子とランジェリーショップだとぉぉぉ!?俺だってリアスたちの誰ともその神聖領域に立ち入った事は無いんだぞ!」

 

「あはは、過去に何度かその手のお誘いを受けた事も在ったけど流石に困っちゃうよね。勿論丁重にお断りさせて貰ったけどさ」

 

祐斗は相変わらずイケメンムーヴしてるな

 

「誘われてる時点で十分俺の敵だ!―――イッキ、まさかお前までそういう経験あるだなんて言わないよな?」

 

イッセーの醜い嫉妬の視線を受ける・・・黙ってる方が面倒は少ないんだろうけど此処は一つ現実というものを教え込んでやらないとな

 

「悪いなイッセー。俺は水着コーナーもランジェリーコーナーも中学でコンプリート済みだ」

 

そう言うとイッセーは固まった後で風化していった

 

その後、その日の部活で明日の夜に例の吸血鬼たちがやって来るとの情報が入るのだった

 

 

 

 

 

件の吸血鬼たちがやって来ると連絡の在った日の深夜、オカルト研究部部室にはグレモリー眷属、ソーナ会長と椿姫副会長、アザゼル先生に俺とレイヴェルに黒歌、そして最後に初見のシスターの方が揃っていた。初見とは云ってもイッセーと教会トリオは先日教会に顔を出した時に出会っていたらしいけどな

 

見た目は二十代半ば辺りの北欧美人って感じだ

 

「あいさつが遅れました。私、この地域の天界スタッフを統括しておりますグリセルダ・クァルタと申します。もっと早くに皆さまに挨拶に来れれば良かったのですが結局このような機会となってしまいました。改めてよろしくお願いしますわ」

 

丁寧な物腰で頭を下げて挨拶をするグリセルダさん

 

イリナさんが後ろで「私の上司さま何です!」と何故か自慢げに胸を張っている

 

「話には聞いてるぜ。転生天使のガブリエルの『(クイーン)』だったな。それにシスター・グリセルダつったら女のエクソシストの中でも5本の指に入る実力者だったはずだ。確かそれで付いた二つ名が『クイーン・オブ・ハート』だったな」

 

不思議の国のハートの女王のような我が儘っぷりは無さそうだけど、二つ名を付けた人は何を思って最初にそう呼んだんだろうな?

 

「堕天使の元総督殿にそのように認識されているとは光栄の至りです―――さて、ゼノヴィア」

 

元々彼女が来てから視線を忙しなく彷徨わせていたゼノヴィアがグリセルダさんに名前を呼ばれた事で"ビクッ"と震えて冷や汗まで流し始める

 

そんなゼノヴィアに近づいたグリセルダさんは後退ろうとするゼノヴィアの顔をガッチリと両手で左右から挟み込む形で掴まえる

 

「あらあら、如何したのかしら?そんなに私と顔を合わせるのがイヤなのかしら?貴女が勝手に悪魔に転生した事に対する説教は先日したばかりなのに、もしかしてそれ以外でも私に怒られる心当たりでも有るのかしら?」

 

ゼノヴィアが微妙に変顔になるレベルで掴んでその瞳を至近距離で覗き込むグリセルダさん。此処で白を切る真似をしたらヤバい事になるとは誰でも分かりそうだ

 

ゼノヴィアもそれを悟ったのか、か細い声で返事をする

 

「その・・・電話を無視して御免なさい」

 

「はい。良くできました。折角同じ地域で働けるようになったのだし、番号も交換したのだから連絡くらいしなさい。一緒に食事程度は出来るでしょう?」

 

「それは・・・どうせ小言ばかりだろうし・・・」

 

「当然です。貴女は昔から色々と手の掛かる子でした。特に私生活方面はダメダメでしたからね―――今度貴女の部屋を抜き打ち検査させて貰おうかしら?」

 

「(シスター・グリセルダはゼノヴィアと同じ孤児院で育ってね。ゼノヴィアのお姉さん役的な存在で全く頭が上がらないのよ)」

 

イリナさんの補足説明が入る中暫くグリセルダさんのお説教は続いたのだった

 

 

 

 

 

吸血鬼の来訪予定時刻まではまだ時間が余ってたのでイッセーが純血の吸血鬼について詳しく聞いていた―――純血の吸血鬼は流水を超えられず、銀の武器や十字架や聖水などの神聖なものに弱く、太陽の光を浴びる事が出来ない上に日が差している間は自分の棺で眠らなければ自己回復も図れないと弱点が多いが夜の間は悪魔以上に多様な異能を操れるというメリットもあり、フェニックスとまではいかなくとも高い不死性すらも持っているという事

 

あとは純血の古き悪魔以上に他種族に対して排他的であるという事などだ

 

「う~ん。夏休みの時の若手悪魔のパーティーの時に悪魔のお偉方は話が通じない奴らばかりだと感じたけど今から来るのは下手したらそれ以上になる訳か」

 

「イッセー、今のセリフ絶対公の場とかで言うなよ?確実に面倒になるぞ?」

 

「分かってるよ。それくらい―――心配すんな」

 

「言うなら政治的根回しをしっかりして相手を潰せる布石を全て整えた後でな!」

 

開戦の狼煙であると同時に終戦の合図くらいのマウントを取らないとね!

 

まぁ云うほど簡単じゃないけどね

 

「だから言わねぇよ!お前は俺を諫めたいのか嗾けたいのかどっちなんだよ!?」

 

「吸血鬼か・・・私も連中は好かんからな」

 

「そう云えば私とゼノヴィアが初めて出会っての合同任務は吸血鬼退治だったわねぇ」

 

イリナさんが何処か懐かしむように告げる

 

「そうだったな―――くくく、当時の私達が吸血鬼との会談に臨む今の私達を視たらなんと思うだろうか?」

 

「ん~、捕えて拷問で吸血鬼の情報を聞き出すか暗殺の為の会談だと思うんじゃない?」

 

物騒!如何足掻いても敵認定じゃん!殲滅しか頭に入ってないじゃん!!

 

それを聞いていたグリセルダさんは頭が痛そうにしている。流石に会談を望む相手を殺すのを前提に考えるのは教会としてもダメなんだろう・・・まぁ出会った当初の二人はね

 

「まっ、お前らが吸血鬼と出会うってので浮足立つのも分かるがもうちっと落ち着けや。心配すんな、そんなお前らの為に今回神の子を見張る者(グリゴリ)の技術を使ってある秘密兵器を造って来たぞ―――こいつが有れば万が一の時だって安心だ」

 

アザゼル先生はそう言って魔法陣から重厚そうなアタッシュケースを取り出して皆に見えやすいようにテーブルの上に置いてその中身を開示した

 

それを見た悪魔の皆は漂うオーラから少し嫌悪感を出し、それ以外の皆も顔を顰めている

 

と云うかアザゼル先生、完全にネタに走りましたね!?この中でコレにツッコミではなくボケを合わせられるのは俺だけか?イッセーはこういう時ツッコミに走るタイプだしな

 

「ほう・・・コレは・・・」

 

俺は努めて低めの渋い声を意識して声を発する。それを聞いたアザゼル先生も口の端を吊り上げて説明に入る

 

「対化物戦闘用13mm拳銃『ジャッカル』―――既存の弾丸の改造品ではなく神の子を見張る者(グリゴリ)謹製の専用弾使用銃だ。全長39cm 重量16kg 装弾数6発 もはや人類では扱えない代物だぜ」

 

俺はケースの中に在った巨大な拳銃を手に取る。銃身には『Jesus Christ is in Heaven now』(神は天に在り、世は全て事も無し)としっかり刻まれている

 

「専用弾の詳細は?」

 

「13mm炸裂徹鋼弾」

 

「弾殻は?」

 

「純銀製、マケドニウム加工弾殻」

 

「弾頭は?炸薬式か?水銀式か?」

 

「法儀式済み、水銀弾頭だ」

 

そこまで遣り取りした処でニヒルな笑みを浮かべてアザゼル先生に視線を送る

 

「パーフェクトだ、アザゼル」

 

「感謝の極み」

 

アザゼル先生が俺に恭しく頭を下げる。もしかしたら俺堕天使の総督(元)に頭を下げさせた初めての人間になるかも知れんな

 

皆はと云えば今のやり取りにポカンとした表情だ

 

“スパンッ!!”

 

「・・・何を馬鹿な事やってるんですか?イッキ先輩」

 

背後から白音にハリセンで叩かれてしまった。その上ジト目を向けられたけど今の俺は割とやり切った感が勝っているぞ。アザゼル先生も似たような感じだろう

 

「今のってアレよね?ちょっと前にアニメでやってたネタよね?全くイッキは時々変な所でふざけるんだからにゃ」

 

いや~、目の前であんな風にフリ(・・)をされたらつい応えたくなっちゃうと云いますか

 

「何にせよ、そんな対吸血鬼に特化したような物騒な銃を会談に持ち込む訳にはいかないでしょうに。持っているのがバレた瞬間に破談になるわよ」

 

「でもコレって武器としては強力なのよね?私は剣士だから使わないけどこれからの教会の主武装の一つになったりしない?」

 

リアス部長が呆れ、イリナさんが微妙に興味を持ち始めたのをグリセルダさんが「そんなはず無いでしょう」と軽く折檻する

 

この銃で武装した教会の戦士が装弾数6発という名の無限弾倉で尽きぬ弾幕を張ってくるとかいうヒデェ蹂躙劇にしかならないだろうな

 

そんな馬鹿な事をやっていると底冷えするような気配が旧校舎の前に現れた

 

「・・・如何やら来たみたいね。相変わらず吸血鬼の気配は凍ったように静かだわ。祐斗、お願いね。それとアザゼルはその銃をさっさと仕舞って頂戴」

 

それを聞いた祐斗が招かれない限りは建物に入れない吸血鬼を迎えに行く為に一礼してから部屋を出ていき、アザゼル先生も渋々といった感じに銃をケースに仕舞って異空間に収納する

 

会談にあたって椅子に腰かけるのはそれぞれのグループの代表たちだ

 

グレモリー眷属の『王』のリアス部長にシトリー眷属の『王』のソーナ会長、アザゼル先生にグリセルダさんでそれぞれの後ろに眷属や部下が立っている形になる

 

朱乃先輩だけは給仕が出来るように台車の前だな

 

「ほらイッキ、お前も座れ」

 

「え?俺もですか?」

 

「当然だろう。お前は一応三大勢力ではない関西の妖怪サイドに属してるんだからこの場でお前がリアスの後ろに着くのは体裁が悪くなるぞ」

 

あ~、言われてみればそうだった

 

「お前は自己評価が低いせいかこういう処でポカをやり易いから気を付ける事だな。特に冥界の騒動でお前の知名度はかなり広まったと言っていい。一般人且つ九尾の姫さんの婚約者という立場が微妙なのは分かるが、これから先は婚約者という立場を優先して堂々と振舞うべきだ」

 

そう諭され、いきなりの事で乗り気には成れないものの諦めて椅子に座る

 

俺はリアス部長の横に座り、俺の後ろに黒歌とレイヴェルが立ち、それと白音がグレモリー眷属の中で俺寄りの立ち位置に立ったな

 

「お客様をお連れしました」

 

ドアがノックされ、祐斗が客人を中に通す

 

入って来たのは深紅の瞳の金髪をウェーブにしたドレスを纏った少女だ

 

見た目だけで云えば高1か中3辺りだろう。血の気の引いたような青白い肌をしている上に何より生命エネルギーを感じないのは吸血鬼が死者としての側面も持ってるからかな?

 

少なくとも単純な仙術による生命力の操作は利かなそうだ。その代わり魂の圧が直接的に感じられるからそっちで体が動いてるのだろう・・・死神とは相性が悪そうである

 

「ごきげんよう、皆様方。特に堕天使の前総督様と魔王の妹君のお二人にお会いできるとは光栄の至りですわ―――私の名はエルメンヒルデ・カルンスタインと申します。エルメとお呼び下さい」

 

綺麗な礼をしてから促された俺達の対面の席に座る彼女

 

その後ろには同じく吸血鬼のお付きが男女一人ずつ立っている。取り敢えずそのピリピリした空気を出すのを止めなさいと云いたい

 

魔王クラスや最上級悪魔クラスが割とゴロゴロしてるこの空間でそれは悪手だから・・・もしかして威圧してるんじゃなくて緊張してるだけか?

 

「カルンスタイン・・・男尊のツェペシュ派と対立する女尊のカーミラ派に属する家でも最高クラスの家だ。純血且つ高位の吸血鬼と出会うのは俺も久しぶりだな」

 

「エルメンヒルデ。早速で悪いんだけど聞かせて貰うわ。今まで和議のテーブルに着こうともしなかったあなた達が今回、私達に接触してきたのは何が目的なの?」

 

開口一番にリアス部長が彼女等の目的を問う

 

「ギャスパー・ヴラディのお力を貸していただきたいのです」

 

そんな簡潔な答えにアザゼル先生が眉根を寄せる

 

「悪いが順を追って説明してくれないか?率直過ぎてそれだけでは理解が出来ん」

 

「はい。実は今我々吸血鬼の価値観を根底から覆しかねない出来事が起こっているのです。私共と対立しているツェペシュ派から神滅具(ロンギヌス)所有者が現れました」

 

それを聞いたアザゼル先生は嫌そうに息を吐いた

 

「やっぱり神滅具(ロンギヌス)絡みか・・・それで?ツェペシュ派から出たという神滅具(ロンギヌス)は一体何なんだ?」

 

「聖杯です」

 

「ッツ!!よりにもよって聖遺物(レリック)の一つ、『幽世の聖杯(セフィロト・グラール)』かよ。アレは生命の理を容易に崩しかねない程の代物だぞ」

 

「その通りです。闇の住人たる我らが聖遺物(レリック)の力を借りるというだけでも悍ましいのにあろう事か彼らはその力で吸血鬼としての在り方すら捨て去ったのです―――即ち吸血鬼としての弱点を全て排した不死身に近いナニカ(・ ・ ・)です。その上彼らは私共にも攻撃を加えてきました。既に犠牲者も出ており、我らが負ければ恐らく次には世界に牙を剥くやも知れません・・・自分たちの種族が他種族を支配し頂点に立つ。そういう思考を持つ輩はどの勢力にも居るでしょうが、我ら吸血鬼が聖遺物(レリック)の力でそれを成す事にどんな意味があると云うのでしょう」

 

聖なる力を信奉する吸血鬼が出来上がるかな?視方によっては聖なる力に支配されてるとなる訳だ

 

「ツェペシュ派の吸血鬼は完全に暴走しています。我らカーミラ派はそのような暴挙を断じて許すつもりは在りません。同じ吸血鬼として彼らを粛清致します。そして、その為にもそこに居るギャスパー・ヴラディの力を借り受けたいのです。彼もハーフとはいえ吸血鬼ですし、それに眠っていた力が目覚めたと聞きましたので」

 

ハーフだろうとリアス部長の眷属であろうとギャスパーの力は我々の物だと言わんばかりの物言いにリアス部長の瞳がさっきからどんどん昏くなっていく

 

表情には出してないけどフェニックスの業火が隣で燃え盛ってるような錯覚すら覚えるんだけど!今は後ろに控えている皆が羨ましいと感じるわ

 

「あの力は何?神の子を見張る者(グリゴリ)で調べてもまだ結論が出ていないのだけど」

 

「吸血鬼には時折、特異な力に目覚める者が居ります。近年ではハーフによく視られる現象ですが、一律した能力に目覚めている訳では御座いません。カーミラ派の我々では詳しい事は判りかねますが、彼の生まれたヴラディ家ならば何か掴んでいるかも知れませんわね」

 

段ボールヴァンパイアからその力を推察出来たらある意味凄すぎだけどな―――それにしてもよくもまぁ今まで語った状況で詳細不明で目覚めたばかりのギャスパーの力を利用しようとか考えたものだよな・・・カーミラ派も絶対頭イカれてるぞ

 

「問題の聖杯ですが、それを発現させた者は当然忌み子・・・ハーフです。そしてその者の名はヴァレリー・ツェペシュ。ツェペシュ家の系譜の者です」

 

その名前を聞いた途端、ギャスパーが目に見えて狼狽しながら大声で喰って掛かる

 

「ヴァレリーが?そんな嘘です!だってヴァレリーは僕のように神器を発現させていなかった!」

 

「神器は先天的に発現する場合もあれば後天的に発現する場合もあります。確か、そちらの赤龍帝さんも少し前までは一般人だったとお聞きしてますが、それと同じ事です。ヴァレリー・ツェペシュは近年になって聖杯の力に目覚めたのでしょう・・・雑種、もどき、忌み子、混じりモノ、貴方はツェペシュ派の家で辛い幼年期を過ごし、ハーフが一時的に集められる家でそのヴァレリー・ツェペシュとお互いに支え合って生きていたと聞いています。ハーフの彼女が聖杯の力を堂々と振るうとなればツェペシュ派の者達に無理矢理力を使わされていると考えるのが自然です。大切な幼馴染なのでしょう?ヴァレリーを止めたくはありませんか?今の貴方ならそのついでに自分を虐げてきた彼らに復讐する事だって可能なはずですよ。ヴァレリー・ツェペシュを止めた暁には彼女の身柄はカーミラ派で保護しましょう。忌み子の彼女が静かに暮らせるように領地の端にでも住まいを用意させますよ」

 

買い物に行くたびに石を投げられてずっと家に引きこもり、強大な力を持ってるから逃亡も許されない監視付きの孤独死ルート直行ですね。分かります

 

「あなた方吸血鬼はハーフの子を忌み子と蔑みますが、そもそも戯れで人間を襲い、子を産ませたのはあなた達です。我々教会の者が今までどれだけ吸血鬼の身勝手な振る舞いで人生を壊された者達と向き合ってきたか―――出来れば趣味で人間と交わらないで欲しいですね」

 

「それは申し訳ありません。ですが、人間を狩るのが我々吸血鬼の本質。あなた方悪魔や天使も多くは違わないのではありませんか?『人間の欲を叶えて対価を得る』『人間の信仰を必要とする』我々異形の者は人間を糧としなければ生きられぬ『弱者』ではありませんか」

 

そこまで言うとこの場の『人間』の俺に視線を向けてきた

 

「貴方が例の最上級死神すらも屠った人間ですのね。貴方が妖怪の姫と婚約していなければ勧誘したいくらいですわね。見方によっては神クラスとも云える人間の血は一度飲んでみたいですわ」

 

エルメンヒルデ、俺を出汁に煽りよるな。オカ研の皆から怒気が滲み出てきたし、俺の背後の殺気が恐いんだけど!振り向きたくねぇ!

 

仕方ない。此処は一つ俺が場を和ませるとしようか

 

「そうですか。折角貴女方が話し合いの場に着いた記念の日ですからね。私の血で良ければ友好の証として提供しましょうか?流石に噛まれるのは問題なのでグラスでという事になりますが」

 

言った瞬間エルメンヒルデ達以外の全員に「何言ってんのコイツ」的な視線を向けられるが俺はと云えば努めて普段の祐斗を参考にしたキラキラオーラを全力で振り絞る

 

本家の祐斗とは比べるべくもないがそれを見た皆は文句よりも困惑が勝ったのか口を噤んだな

 

「あら、宜しいんですの?」

 

「ええ、私の血程度で貴女方が気分を良くして下さるなら安いものです。まぁこれからの話合いが少しでも円滑に進むのではないか?という打算在り気ですが」

 

「うふふ、素直な子は嫌いじゃありませんのよ」

 

「有難う御座います。もし宜しければ後ろのお付きの方の分もご用意致しましょうか?」

 

「お心遣い、痛み入りますわ」

 

了承を得た俺は異空間から品の良さげなグラスを取り出す。いや~、遣り取りは幾つか考えていたけど軽い冗談でも俺の血を欲してくれて助かったわ~

 

三つのグラスに手首の辺りを軽く斬って血を溜めている間にエルメンヒルデは話を元に戻す

 

「さて、今回我々はそこに居るギャスパー・ヴラディの力を貸して欲しいと最初に言いましたが、勿論タダで何て言うつもりはありませんわ。ちゃんと手土産を持参しました」

 

エルメンヒルデの後ろの付き人が鞄から一枚の書類を取り出して彼女に渡し、それをテーブルの上に置く。その内容を見たアザゼル先生は溜息を吐いた

 

「カーミラ派の和平協議についてか―――つまり今日お前たちは特使としてこの席に着いたと受け取って良いんだな?」

 

「はい。我らの女王は長年続く闘争という状況を憂いております。協議の内容いかんによってはあなた方と休戦協定を結びたいと仰っておりますわ」

 

「順序が逆だ。お嬢ちゃん。普通は和平の書類が先でギャスパーと聖杯の話は後だろうが。これじゃあギャスパーを貸さなければ和平のテーブルにも着かないと言ってるようなもんだぞ」

 

アザゼル先生も和平に正面からケンカを売る内容の和平にぶち切れ寸前だ

 

「三大勢力主導の下、各勢力に隔てなく和議を申し込んでいた我々がこの話を無視すれば我らの信用にすら響きますね。『各勢力に対して協力と平和を訴えながらも実は相手を選んでいるのではないか?』・・・と。それに提示されたのは停戦ではなく休戦、此方の弱みを突かれた形です」

 

馬鹿みたいに舐められた書面の内容に皆の怒りのボルテージが更に高まる中、俺は三つのグラスに血を注いだものをエルメンヒルデ達の前に差し出して傷口を止血する

 

「どうぞ、ご賞味下さい」

 

「あら、有難う。あなた達も飲みなさい。折角の御厚意よ」

 

エルメンヒルデに促されてお付きの二人もグラスを手に取る

 

「(おいイッキ!何でこんな奴らにそこまでしてやるんだよ!)」

 

堪えられなくなったのかイッセーが小声で器用に怒鳴って来るけど直ぐに分かるさ

 

彼女等は目の前で注がれた新鮮な何の変哲もない(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)血液を呷った

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!!?〇△□×!?』

 

一瞬の硬直の後彼女等は口元を抑えて生気のないはずの顔を真っ赤に染め上げて悶絶する

 

「おや、如何されました?体調が優れないのであればお手洗いは廊下の端に在りますよ?」

 

爽やかスマイルでそう言うと涙目になった彼女等は我先にとトイレに向かってダッシュしていった

 

「・・・っは!ざまぁ」

 

うすら笑ってやると隣のリアス部長が頭が痛そうに額を手で押さえているな

 

「イッキ、貴方何をやったの?」

 

「何って見てましたよね?彼女等の要望に応えて血液を提供して上げただけですよ・・・まぁ【神性】持ちで大事な会談に向けて『ちょっと滝に打たれて身を清めた』俺の血を飲んで大丈夫なのかとは思いましたけど、自分たちから飲んでみたいと言ったんだから大丈夫だと思ったんですよ」

 

まぁ裏側の住人として【神性】含めてオーラは基本隠蔽してるけどね

 

「「「ウ゛っげぇぇぇぇぇ!!」」」

 

遠くの方で余り美しくない音が聞こえる気がするけど気のせいだろう

 

「・・・何ででしょう?今、心底ホッとしている自分が居る気がします。何か不名誉な称号を回避できたかのような不思議な感覚です」

 

ロスヴァイセさんは京都で時間一杯俺が仙術治療を施して胃の中ぶちまけなかったですもんね

 

ゲロ吐きヴァルキリーの称号は今回ゲロ吐きヴァンパイアに取って代わった訳だ

 

「さて、彼らが戻って来るまでに彼らの出して来た話を検証しましょうか―――リアス部長も少しは溜飲下がりましたか?」

 

「・・・ええ、その代わり別の意味で頭が痛いけれどね」

 

「ギャスパーも如何だ?飲みさしで良いなら一杯いっとくか?」

 

そう言って彼女等が机の上に置いて行ったグラスを指さす

 

「ひぃぃぃん!絶対イヤですぅぅぅ!」

 

「にゃっははははは♪それにしても吸血鬼って顔をあんな風に真っ赤にできるなんて思わなかったにゃ。あ~、可笑しい!」

 

「何はともあれ奴らの提示した事についてだな」

 

「そうだった!あのエルメンヒルデってヤツ好き勝手言った上にギャスパーを吸血鬼同士の内部抗争に貸せって事だよな!しかも聖杯の力とやらで強力になった吸血鬼相手に最前線に送るって事だろ?悪魔以上に血を尊ぶだか何だか知らねぇけど、やってる事が汚過ぎるぜ」

 

「アレが純血の吸血鬼としては普通の在り方だよ。吸血鬼の問題には一切外部からの介入を拒むが自分たちの血が大事だから普段忌み子だのと言って迫害してるハーフは最初に使い潰す連中だ。だからと言ってこの俺達を舐め腐った和平の話を無視する訳にもいかん。コレが人間同士の交渉なら話にならんと突っぱねるのが普通だが奴らの要求しているギャスパーは今は悪魔に籍を置き、悪魔の上層部の役人どもは元ハーフヴァンパイアのギャスパー一人の命と引き換えに例え休戦でも結べるなら安いと考えるだろう。当然、サーゼクスは反対するだろうが答えの出ない協議を重ねれば他勢力から『何をやってるんだ』と時間を掛ける程に信用に響いていき、ツェペシュ派の吸血鬼の暴走が他勢力に向いた時、未然に防げる立場でありながらそれをしなかったという理由でも叩かれる事になる」

 

三大勢力は結構嫌われてる処があるからまだ和平を結んでない勢力からしてみれば例えクソみたいな内容でも吸血鬼側のSOS(失笑)を無視したとして難癖付けて来る訳だ

 

あ~、政治って面倒クセェ。魔獣騒動の時に悪魔の上役も一緒に死ねば良かったのに・・・我先にと一番に逃げた事は容易に想像できるけどさ

 

それに後釜もきっと英才教育(笑)を受けたその悪魔の息子とかになるから変わらないか

 

「ぼ、僕行きます!協定の事とかは僕個人としては如何でも良いです。でも、ヴァレリーは僕の恩人何です!僕は悪魔に転生して優しい主や仲間に囲まれて今は凄く幸せです。そんな中、ヴァレリーが理不尽に辛い目に遭っているというのを聞いた以上は放ってなんていられません!勿論、死ぬつもり何て無いです。必ずヴァレリーを連れて此処に戻ってきます!」

 

おお!ギャスパーが囚われのお姫様をお城から掻っ攫う宣言をしたぞ。どこの主人公だよ

 

「俺は一度カーミラ派の領地に赴く事にする。向こうも聖杯を相手取る以上、俺の知識は欲しいはずだ。現状、直接の介入は難しいだろうが手土産持参でいざという時にある程度動ける体勢を作りに行くつもりだ。ギャスパーを向かわせるならその後でも遅くないだろう」

 

「分かったわ。なら私もヴラディ家に行くことにするわ。かの家の当主とはギャスパーを眷属にする時に少し話したけど野心を抱くタイプには見えなかったわ。恐らく今回のツェペシュ派の動きにも中立かそれに近い立ち位置に居るはず―――ギャスパーのあの黒い力も気になるし、ついでにツェペシュ派の動向に探りを入れてみるわ」

 

そこでイッセーが「なら俺達も一緒に」というのをリアス部長は諫める

 

「今の吸血鬼側は緊張状態よ。そこに私が眷属をぞろぞろと引き連れて行っては彼らを無駄に刺激する事になるわ。だから護衛は私の『騎士』を一人、連れて行くつもりよ」

 

『騎士』一人という言葉にすかさずゼノヴィアが反応する

 

「任せてくれリアス部長。いざという時はエクス・デュランダルで吸血鬼の根城ごと真っ二つにかち割ってくれる!」

 

「・・・連れて行くのは祐斗よ」

 

「お任せください、部長・・・と云うかゼノヴィア。キミは単にさっきまで彼女達に向けていた怒りの思いの丈をぶつけたいだけなんじゃないのかい?」

 

「全く貴女は・・・話合いの途中に斬り掛からなかったから成長しているかと思えば最後に台無しにするんですから」

 

祐斗とグリセルダさんに呆れられた視線を向けられるゼノヴィアだった

 

「皆さん。そろそろ彼女達が戻ってきますよ」

 

ソーナ会長に促されて全員が元の立ち位置に戻るとエルメンヒルデ達が戻って来てソファーに座る。元々吸血鬼は生気を無くしたような青白い肌色だけど今は青白いの『白』を抜いて最早青いのレベルだ。直前に見た顔が真っ赤だったからギャップが凄い

 

「急に席を外して申し訳ありませんでしたわ。何故かいきなり体調が優れなくなりまして」

 

吸血鬼の自分たちが人間の血にやられたとは口にしないんだな

 

「とは言え、お伝えしたい事はお伝えしましたので本日はコレで失礼させて頂きます。この地にスタッフを残しておきますので質問や連絡が有ればそちら経由でお答えしますわ」

 

そう言ってそそくさと立ち上がるエルメンヒルデ達にリアス部長も「ええ、今日はあなた達吸血鬼の色んな側面を視れて見識が広まったわ。お大事にね」と声を掛けるとエルメンヒルデ達も帰って行った。祐斗が玄関まで送ろうとしたが断ってオカ研の扉を出て行った直後に全力ダッシュしていったのが気配で伝わって来たので急いで拠点(トイレ)に向かったのだろう

 

吸血鬼の気配が完全に学園から無くなったところでアザゼル先生がグリセルダさんとイリナさんに視線を向ける

 

「シスター・グリセルダ、イリナ。お前たちは今回の一件をミカエルにも伝えておいてくれ、吸血鬼と聖杯の組み合わせは流石に不気味過ぎる」

 

「ええ、分かりました。神滅具(ロンギヌス)が絡む事は事前に予想できた事なので最悪天界はジョーカーを切る用意があります」

 

「そりゃまた用意の良いこって・・・まぁ神滅具(ロンギヌス)、しかも聖遺物(レリック)の対処にジョーカーを切るってのは何も可笑しくはないがな」

 

「ええ、あの子暇さえあれば美味しいもの巡りをしているんですもの。使える時には存分に使おうというのが四大天使様方の方針です」

 

グリセルダさんが困ったように頬に手を当てて溜息を吐いている

 

「へぇ、それなら何時か七つの大罪の暴食の罪で堕天してきたら幹部として迎え入れてやるって伝えといてくれよ」

 

「伝えませんよ。そのような事。ただ、今の発言はミカエル様には告げ口しておきますわね」

 

「うげっ!そいつぁ勘弁してくれ」

 

グリセルダさんの柔和な微笑みを浮かべながらの告げ口宣言にアザゼル先生は必死になって口止めしようとするのだった・・・結果はお察しであったが




ゲロ吐きの称号はエルメが貰ってくれました。やったねロセさん!

途中のヘルシングネタは吸血鬼って事で一度やってみたかったので盛り込んでみましたwwアザゼルなら造ってくれそうですw


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第三話 魔法使いと、禁術です!

二話連続投稿です 一話前からお読みください


あれから吸血鬼の領地に行くという事でリアス部長と朱乃先輩とアザゼル先生は少しだけ打ち合わせするというので残りのメンバーは一足先に家なり支部なりの拠点に戻る事になった

 

もう夜も遅いし明日も朝練が在るのでさっさと眠るべきなのだが、やはり今回の吸血鬼及び会談の内容が気になるみたいなので少しだけ話をしている

 

「いや~、それにしても気に喰わない連中だったにゃ~」

 

「私も純血の吸血鬼の方とお会いしたのはコレが初めてですが、心底自分達さえ良ければ良いという姿勢は理解し難いものが有りましたわ。アレで交渉の席に着くというのですからなおの事です」

 

「いっそギャー君の幼馴染だけ秘密裡に連れ出したいくらいです・・・流石に無理でしょうが」

 

「白音の案を採用するなら、お会いしたことは無いけどぬらりひょんの力が要るだろうな。黒歌の伝手で何とかならない?」

 

「無理無理!私あの方に頭が上がらないのよ。そんな事頼める訳ないにゃ!」

 

まぁそうだろうね。借りが有る訳でもないし、そもそも一大組織の頭目を借りれるだけの借りって土蜘蛛10匹ぐらいは倒さないと無理じゃね?皆が皆アザゼル先生みたいにフットワークが軽い訳でも無いしな・・・と云うかアザゼル先生の身軽さは異常か

 

「まっ♪でも最後にイッキがあいつ等に一手仕返ししたのは良かったけどね♪最後に真っ青な顔で部屋に戻って来た時なんか笑いを堪えるのに必死だったにゃ」

 

「それでもアレは本当に嫌がらせの域を出ないものだよ。流石に伝手も無い上に吸血鬼の根城が分からなければ事前に潜入捜査や仕込みとかも出来ないしさ」

 

「合理性だけでなくそれぞれの種族から個人の感情まで絡めて考えなくてはならないのですから政治というものは本当に難しいですわ」

 

「合理性に基づいて協議出来れば理想的だけど、それは無理」

 

確かに、公私混同しないで滅私奉公する政治家とかウルトラレアも良い処だし、例え居たとしても少数の意見は通りにくいのがまた政治なんだよなぁ

 

本格的に政治に関わった事は無い俺でも面倒だと感じるんだから相当だ

 

「ともあれギャスパーの手伝いが出来るように吸血鬼側から譲歩を引き出すとアザゼル先生も言っている訳だし、今の俺達に出来る最善は結局修行して力を付ける事だろうな。呼び出された時に手伝いという名の蹂躙をしてさっさとギャスパーの幼馴染を掻っ攫う事が出来ればベスト何だけど」

 

「まっ、そうよねぇ。折角小難しい事はアザゼルっちが請け負ってくれるって言うんだから、これ以上頭捻って考えたくないにゃ~」

 

そう言って枕に顔を埋める黒歌に後輩二人はジト目を向けている

 

「全く、黒歌さんは頭の回転は速いのにそうやってスグに怠けるんですから」

 

「ゼノヴィア先輩みたいですよ。黒歌姉様」

 

さり気にディスられてるぞ。ゼノヴィアよ

 

そうして俺達はその辺りで話題を切り上げる事にして眠りにつくのだった

 

俺も3人の寝顔を堪能した後でいつも通り【一刀修羅】の後で眠りについた

 

 

 

 

 

 

 

吸血鬼との会談から数日、リアス部長達が吸血鬼の領土に向かう日がやって来た。何でも幾つもの転移を経由した上に旅客機に乗ったり、車で移動したりと非常に面倒なルートを通らなければたどり着けないそうだ。勿論吸血鬼が使用する直通ルートも在るそうだが外部の者が入国するのにそのルートは使えない。これは吸血鬼の本拠地の場所を外部の者に分からせなくする為の措置のようで彼らの引きこもりという性質が色濃く出ているな

 

まぁ敵の多い吸血鬼としては一概に悪いと云える要素ではないのかも知れんが、先日の会談相手にも全力で見下す姿勢を見ていると擁護する気も失せるがな

 

それと如何にもレイヴェルは最近魔法で新技のようなものを試しているらしい。もっとも、まだ形になっていないから今は秘密と言われたが何でも「イッキ様の戦いから着想を得ましたの」と言われたけど流石にそれだけだとサッパリだ―――まさかミサイル抱えて自爆特効なんて話じゃないだろうしね

 

今は夕飯を終えて軽く寛いでいた時に白音に通信が入ったようだ

 

「イッキ先輩。リアス部長が今から出発するそうです。何でもルーマニアの天候不良が一時的に回復したらしいです」

 

それを聞いた俺達はすぐにイッセーの家の転移の間に向かった

 

 

 

転移の間に着いた時にはリアス部長がギャスパーを抱き締めていた

 

「大丈夫よギャスパー。貴方の事は私が守るわ。ヴラディ家からもしっかり話を聞いてくるから貴方もすぐに動けるようにしておいてね。そのヴァレリーという子がギャスパーの大切な人だと云うなら私だって助けたいからね」

 

流石は情愛の深い事で有名になるだけの事はあると思わせる主従愛っぷりである

 

すぐ隣ではイッセーが祐斗の胸に拳を当てて「リアスの事、頼んだぜ」、「勿論だよ」と男同士の青い春を展開してるな

 

この空間に腐った目線を持つ人が居たらエサにされる事間違いなしだ

 

すると祐斗の視線がこっちを向いたな

 

「やぁ、イッキ君も見送りに来てくれて有難う」

 

「そりゃな。そう云えば祐斗はリアス部長の護衛な訳だし『ジャッカル』は装備して行けよ」

 

「『ジャッカル』・・・ああ、あの銃の事かい?ははは、僕は剣士だからね。銃は必要ないよ」

 

ッチ、折角吸血鬼の本拠地に向かうんだから装備してみて欲しかったな

 

「相手は不死身を更に強化したらしい吸血鬼だからな。もしも戦闘になった時、聖魔剣でただ斬りつけても効果は薄いかも知れないから一つ、アドバイスをやろうか」

 

「アドバイス?」

 

俺の言に小首を傾げる祐斗。そんな彼にタフな吸血鬼も塵に出来そうな戦術を教授するとしよう

 

「祐斗は龍騎士の鎧をジークフリートと戦った時に着こんでたよな?」

 

「うん。そうだね。それが?」

 

最初にタナトスとプルートが出てきた時に祐斗は彼と戦闘してたからな

 

その時にまだ佑斗の動きまでは完璧に再現(トレース)出来てない龍騎士の一体に偽装してジークフリートに痛手を負わせていたのだ―――鎧を着ていない普段の佑斗の幻影を魔力で創り出してな

 

「その鎧を相手に着せた上で炎か雷辺りの龍騎士に属性を変化させて逃げ場ゼロの全方位から聖なる攻撃の継続ダメージを与えてやれば効果的なんじゃないかと思ってな。お前今まで龍騎士に持たせた聖剣の属性を変化させる事は在っても龍騎士自体の属性を弄った事なかっただろ?でもあの騎士団だって元は聖剣が変化したものなんだからやればイケるはずだ―――『鋼鉄の乙女(アイアン・メイデン)』から取って『鋼鉄の龍姫(アイアン・メイデン・ジャンヌ)』でいいか?」

 

俺の言う龍の姫はFateのジャンヌ・ダルク・オルタの方だけど英雄派のジャンヌも一応ドラゴンな力を使ってたし、不自然ではないだろう

 

一度鎧に入れて聖なる炎で炙ってやれば霧になって抜け出すことも難しいだろうしね

 

「・・・相変わらずエゲツない発想だね。僕の騎士団が拷問用処刑道具として見られるとは思わなかったよ。しかも普通に有用そうなのがまたイヤらしいね」

 

「・・・俺、絶対に実戦でイッキを敵に回すような真似はしたくねぇな」

 

何かドン引かれてしまったが祐斗なら本当にそれが必要になったなら今の案も採用するだろう

 

「朱乃、眷属の事はお願いね」

 

「ええ、勿論ですわ」

 

「はぐれ魔法使いの事もある。レイヴェルも含め、全員気を付けてくれ」

 

『はい!』

 

「ああそれとアーシアにオーフィス。例のだが一応何度か試運転はしておけよ。オーフィスもアーシアに付いていてやってくれ」

 

「は、はい。恥ずかしいけど頑張ります!」

 

「ん、我、アーシアの事、しっかり見る」

 

「それじゃあ行ってくるわね」

 

「何かあったら呼んで下さい。必ずリアスの下に駆けつけますから!」

 

最後に一通りの挨拶と注意事項などを告げてリアス部長達はルーマニアに向けて転移していった

 

 

 

 

あれから数日、今日は授業で体育があり、時折入る息抜き種目としてドッヂボールが行われていた。試合は既に佳境に入っており内野に残っているのは既にイッキとイッセー、そして敵チームの内野には松田と元浜だけが残っている

 

「行くぞイッキィィィ!!黒歌さんだけでも度し難いというのに白音ちゃんにフェニックスさんに九重ちゃんとロリ属性持ちに囲まれている貴様は此処で俺が引導を渡してくれるぅぅぅ!!」

 

10割の私怨を乗せて元浜がダイナミックな動きを魅せて渾身のボールをイッキに叩きつけて来る

 

「甘いぞ元浜!『第三秘剣・円』!」

 

迫りくるボールを体を一回転させながらボールの裏側を掴み、タイムロス無しで元浜に投げ返す

 

渾身のボールを放った直後の元浜は体勢が崩れたままだったが強引に腕だけ動かしてボールを上に向かって高く弾いた

 

「頼む、松田!!」

 

「応よ!」

 

その言葉に素早く反応した松田がオリンピック選手並みの跳躍力をみせて空中のボールに手を伸ばす。地面に落ちる前にキャッチすればセーフになるからだ

 

だが松田の取った行動はキャッチではなかった

 

「うおぉぉぉ!!松田!ダイナミックスパイクゥゥゥゥ!!」

 

そう!彼はボールをそのまま相手コートに向かって弾き返したのだ。イッキのキャッチしたとも取れるカウンターシュートと違い『弾く』という行為では相手に当たらず地面に接した瞬間二人ともアウトになる。だが松田はそのリスクを負ってでもワンテンポ、いや、ツーテンポ早い反撃で相手を討ち取る事を選択したのだ。自分と元浜よりもイッキとイッセーの方が単純な身体能力は高いと理解しているが故に奇をてらった攻撃に勝機を見出したのだ

 

狙った先はイッキよりは討ち取り易いイッセーだ。現に彼は捕球行動に移るのが遅れてしまっている。授業時間も残り僅か、此処で一人減らせれば逃げ切り勝利も視野に入れる事が出来る

 

「しまった!!」

 

案の定捕球に失敗したイッセー。ボールはと云えば彼の右腕の部分に当たり既にすぐ横の外野まで跳ばされている。ボールが落ちても外野の選手は敵の陣地の者達なので彼らがキャッチしてもイッセーは外野という名の敗者の一員となる

 

だがイッキは松田がスパイクを打った瞬間にはもう万が一に対して動き出していた

 

無駄に滑らかな身体操作によって最速で最高速に達したイッキ

 

「イッセー!跳ばせェェェ!!」

 

イッセーの左側から爆走してくるイッキを見た彼は瞬時にイッキの方を向いて両手を重ね合わせてイッキの踏み込みに備える

 

本来なら体操種目などで大ジャンプをする時のものだが目指すボールは後方だ

 

イッセーはイッキの片足が掌に乗った瞬間にリンボーダンスの如く上体を逸らし、本来上に撃ち上げるものをほぼ真横とも云える角度でイッキを撃ち出す。数舜後に自分が倒れるなどお構い無しだ

 

撃ち出されたイッキは外野の空中でボールをキャッチする

 

だが、このまま敵地である外野に降り立ったらその瞬間負けが確定する。先ほどの松田と元浜と立場が逆転した。ならばこそ、そのままお返ししてやれば良い!

 

外野に向かって跳んだ関係上敵である二人には背を向けた状態だ。だからこそ、そこから繰り出される技も有る。体が地面に落ちる寸前に極限まで体を捻らせた一投を放つ!

 

「『第七秘剣・天照』!!」

 

【一刀羅刹】状態だったとは云え最上級死神すらも屠った秘剣を用いてボールを撃ち出し、着地したばかりの松田にボールを当て、松田に当たった事で目の前で軌道が変わった事で対処の遅れた元浜をダブルで討ち取った事で勝敗は決したのである

 

なお、体育の先生はこの4人に対しては危ないプレーなんて言う気は失せている

 

倒れたイッセーも倒れ切る前にブリッジ状態からバク転気味に立ち上がるし、イッキも地面に落ちる前に手で地面をついてアクロバティックに体勢を整えたからだ

 

松田と元浜も大体似たようなものである。此処が駒王学園という特殊な力場に覆われた場所で無ければ、まともな体育教師なら校長や理事に『彼らをオリンピックに!』と直談判するくらいにはハイレベルの攻防であった・・・勿論闘気などは使って無く、4人の内3人は人間なのだが

 

「あー!敗けたぁぁぁ!やっぱり団体戦でイッキとイッセーが一緒のチームに居ると勝てねぇ!と云うかイッキ1人と俺達3人で互角位なのに絶対組み合わせ間違ってるぜ!」

 

「そこはランダムで決まったんだからしょうがないだろ」

 

単純な人間としての身体能力だけだと使えるテクニックも限定されるんだからお前ら3人を毎回相手取るのは流石にしんどいわ。それに毎度同じ組み合わせとか体育の授業的にダメだろう

 

そうして授業が終わり着替える為のロッカールームに向かおうとグランドを歩き始めた瞬間、俺の視界が切り替わった。これは転移などではなくイヅナの視界共有だ

 

視界の先では床に光る魔法陣から現れたであろう魔法使いのローブの人間がすぐ傍に居た生徒を捕まえて攻撃的な魔法陣を突きつけている処だった

 

イヅナにはもしも何か起こったら一瞬だけ視界を繋げる事で連絡してくれと言ってあったが本当に三大勢力の結界をすり抜けて転移して来やがったんだな!

 

クソ!折角ゲオルクを捕まえても手引きできるヤツが相手側に居れば意味がない!

 

「(イッセー、敵、恐らく禍の団(カオス・ブリゲード)だ)」

 

「な!?」

 

隣のイッセーにだけ聞こえるように簡潔に伝えると信じられないと云った表情になる

 

「先行くぞ」

 

悪いが返事を待っている暇はないのですぐにレイヴェル達の居る教室に向かう

 

グラウンドを抜けた先で魔法使いが二人転移して来て「よぉよぉ、急いで何処に行くんだ?俺らと一緒に遊んで・・・」とか言っていたけどすれ違いざまに二人の間を仙術ダブルラリアットで叩き伏せながら通り過ぎる。一応今は一般生徒の居る時間帯なので気絶に留めているけどな

 

だがそこで旧校舎の方角から強大な魔力反応が解き放たれた。籠められた魔力量は最上級クラス。学園及びその周辺は木っ端微塵、余波で町が崩壊するレベルだ

 

ハァ!?マジかよ!?あんなもん個人で対処できるのは俺かイッセー位だぞ!しかもイッセーは真昼間に鎧で飛ぶ訳にはいかないから実質俺一人だし!

 

白音も対処は出来るだろうけどかなりの怪我は負うだろうし、そもそも今は動けないはずだ

 

一瞬迷って足が止まった処で魔力反応は消え、同時にレイヴェル、白音、ギャスパーの気配も消えていた。ブラフか!

 

多分だけど今のはグレイフィアさんの弟の・・・名前はユーグリットだったっけ?そいつが魔法使いがレイヴェルを連れ去る為に態と攻撃的なオーラを放ったんだな

 

それで気を取られている間にまんまと連れ去ったと・・・ああもう!結界素通りの転移拉致とか分かってても防げねぇ!

 

まぁ防げないだろう事は見越してたので白音かレイヴェルが俺を召喚するのを待つか。今一年の教室に向かって人前で俺も転移する姿が見られるのは勘弁だしな

 

そう思ってるとイッセーが後ろから追い付いて来た

 

「イッキ!どうなったんだ!?俺も林の方に居た魔法使いと少し戦ったけどヤバいオーラが旧校舎から漂ってきたと思ったら奴らサッサと引き上げて行ったんだ」

 

「こっちは一般生徒が人質に取られて白音とレイヴェルにギャスパーの気配が消えた。本命はレイヴェルで他の二人はついでだろうけどな。二人とはまだ使い魔契約を継続してるしレイヴェルにイヅナの本体も付いてる上にこういう時にイヅナには特定のビーコンを出すように予め指示してあるからな。俺はすぐに召喚されると思うからイッセー達は後から来てくれ。イヅナの信号は魔法使いの黒歌とロスヴァイセ先生に術式渡してあるから」

 

出来るだけ早くリカバリーが効くようにはしておいたけど出来れば連れ去られるのを何とかしたかったんだけどな

 

心の中でつい愚痴が漏れてしまうが丁度召喚で引っ張られる感覚がした。良かった。俺の使い魔召喚術式は英雄派のゲオルクと曹操、それとプルートにタナトスは目にしていたけど二人はすぐに死亡してゲオルクと曹操は今は冥府だ。はぐれ魔法使いの派閥には情報は入って無かったようだな。流石にピンポイントで対処されてたら召喚術式も機能しなかっただろうし

 

「イッセー、呼ばれてるみたいだから後は頼む」

 

「応!こっちは任せろ!」

 

そうして一瞬視界が暗転して次に視界に映り込んで来たのは

 

 

 

 

 

「オ~ホッホッホッホッホ!何時までも私が守られてばかりの戦えない娘だと思って貰っては困りますわ!やはりクローン何て無粋なモノを製造していただなんて万死に値しますわ!私の業火で全て塵にしてさしあげましょう!ホ~ッホッホッホッホッホッホォ!!」

 

 

 

 

 

何だかテンションの壊れたレイヴェルが普段の何倍もの火力ではぐれ魔法使いの一団を蹂躙している光景だった・・・別に問題が在る訳じゃないけど、何だか思ってたのと違う

 

「えっと・・・如何いう状況?」

 

取り敢えず俺を召喚したであろう白音に状況を聞く事にした

 

 

 

 

~少し前~

 

 

突如として現れた魔法使いに虚を突かれ、クラスメイトを人質に取られた白音とレイヴェルとギャスパーは抵抗する術が無かった

 

敵が人質を取っている目の前の魔法使い一人だけならまだ何とかなったかも知れないが魔法使いは他にも見える位置に数人、気配を探れば校内の別の場所にも居る事から実質この学園そのものを人質に取られたようなものだ。悔しい想いを噛み殺して3人は後ろ手に魔法の縄のようなモノで拘束され、転移していった

 

転移先は真っ白い巨大な空間で四角い箱の中のような場所だった

 

そして3人を取り囲んでいるのは数十人の女魔法使いたち、その中の一人がクスクスと笑いながら話しかけて来る

 

「ようこそ、お嬢ちゃんたち・・・って確か一人は男だったわね。何で表の授業中に拉致して来たのに女子生徒の格好してるのよ?まぁ良いわ。今回あなた達と云うかそこのフェニックスのお嬢ちゃんにに来てもらったのはちょぉぉぉっと協力して欲しい事が有ったのよねぇ♡」

 

そう言って指を鳴らすと少し離れた場所に沢山の人一人入れる程度の大きさの生体ポッドが床からせり出してきた

 

「アレ、何なのか判るかしらぁ?フェニックスの悪魔のクローンよ。フェニックスの涙を造る為にちょっと量産してね。何でも『涙』の精製には感情の宿らない『無垢なる涙』が必要っていうけど、意識の無いクローンに電極張っ付けて強制的に涙を流させてやれば涙なんて幾らでも搾り取れるからね。ただ、クローンの基にしたフェニックスはどれも直系の者じゃ無かったからか失敗作も多くてね。マーケットには完成品だけを流しているんだけど出来ればもっとお金も『涙』も欲しいのよ。だ・か・ら♡貴女の生体データを調べさせて貰うわね♪」

 

俯いて顔を見せないレイヴェルに女のはぐれ魔法使いは愉しそうな声音で語り掛ける

 

「そんな事、させない!」

 

白音が『戦車』の膂力で拘束を引きちぎろうとするが力を籠める前に待ったが掛かった

 

「ああ、言い忘れたけどあなた達のその拘束は強引に外そうとすれば爆発する仕組みになってるわよ?折角だから猫又やヴァンパイアのデータも取りたい処だけどフェニックス以外は最悪死んでも良いから、大人しくしておく事ね」

 

それを聞いて力を籠めるのは止めたが代わりに猫の妖怪として爪を鋭く尖らせて掌を切る

 

イッキとの使い魔従属の相互契約を結んでいるのは黒歌だけではないし、魔獣騒動の後もイッキと黒歌だけが契約を続行するというのはイヤだった事もあって白音もレイヴェルも契約はそのままになっていたのだ。もしも契約を外そうという話になっていたなら最低でもイッキはフェニックス家の関係者が狙われている事を理由に契約を結び直していただろうが

 

だがいざ白音がイッキを口寄せしようとした処でレイヴェルから声が漏れた

 

「フフフフフ、本当にクローンを造っていたんですのね。流石はイッキ様ですわ。小悪党の考える程度の事はすぐさま見破られるだなんて凄いです」

 

「あらぁ?もしかして可笑しくなっちゃった?それともただの現実逃避かしら?」

 

「いいえ、違いますわ―――そうそう、この拘束魔法ですが無理やり外すのがダメだと云うなら別の手段で外せば良いだけの話ですわね。こんな風に!」

 

訝しむ魔法使いだったがレイヴェルの後ろから一瞬炎が上がると直ぐにレイヴェルは背後で縛られていたはずの手を前方に回し、その手には腕を縛っていたはずの魔法の縄が握られていた

 

「お返ししますわ!ついでに此方も受け取って下さいな」

 

レイヴェルは投げた『衝撃が加わると爆発する魔法の縄』に向かって右手を突き出すと魔法陣を展開し、右腕が一瞬炎に包まれる

 

直後に放たれた攻撃は兄であるライザー・フェニックスの業火にも匹敵、ともすれば上回る熱量ではぐれ魔法使い達を消し飛ばした

 

「ギャスパーさん!一度コウモリに変身して拘束から逃れて白音の拘束魔法を解呪して下さいな!イヅナは分身してギャスパーさんが解呪するまで専念出来るように護衛をお願いします!私は敵の数を減らしますわ!」

 

そう言うと今度は一度左腕を燃え上がらせたかと思えば周囲を圧壊するような暴風が吹き荒れ、魔法使いたちの防御魔法越しでも吹っ飛ばしていく

 

そうしてギャスパーが魔法を解呪した辺りで白音はイッキを召喚したのである

 

 

~少し前(完)~

 

 

「・・・と、そう云う感じです」

 

うん。分かるようで分からん。取り敢えずレイヴェルがクローンを実際目にしてブチ切れたのは分かったんだけどその戦闘力の向上は何?

 

「多分、クローンの事だけじゃなく、先日の魔獣騒動の時にずっと裏方だった事も絡んでいると思います。レイヴェルも仲間想いだから一人だけ後方に配置されてたのは口には出さなくても気にしてたと思うから」

 

「いや、気合が入ってるのは理解したけどそれだけであの火力は出ないよね?」

 

「うぅぅ・・・今のレイヴェルさんは何だか怖いですぅぅぅ」

 

ギャスパーの反応は何時もの事として成熟し、才能ある悪魔で最近トレーニングをちゃんと積み始めたライザー並みの火力を出せるってそこだけ見たらリアス部長を上回ってるって事になるぞ?

 

だがそこで蹂躙されている魔法使い達が魔法使いだからこそその答えに気づいたようだ

 

「嘘でしょう!?あの小娘が使ってる術式はさっきから禁術ばっかりよ!?」

 

「あら、漸くお気付きですの?以前私の最大の特性は『僧侶』の駒によって高められた魔力と魔法力だと言われました。私自身もこと戦闘力に置いてはその通りだとその時は思いましたが我らフェニックス家の最大の特性は何といっても不死身の再生力ですわ!今までそれは防御にしか役に立たないものだと思っていましたが多大なリスクと引き換えに強大な力を得るイッキ様の戦い、それと祐斗さんの身を削って力を得る魔剣たちを見ている時にピンと来ましたの。魔法には術者の肉体を犠牲に強大な力を得る事が出来る術式が在るのだと―――ですが私は不死のフェニックス。魂を明け渡すような術式でもない限り私の体力と魔力が続く限り幾らでも禁術を撃ち放てますのよ!」

 

え、恐!不死身の能力を攻撃力に転換してるのか。不死身と禁術の相性良すぎじゃね?

 

もしかしたらこれから先、フェニックス家の人は禁術を習うのが必須科目になっても可笑しくないレベルでヤバいだろ

 

と云うかさっきからレイヴェルが魔法を撃つ直前に腕とか足とかが一瞬炎に包まれてるのはその為の犠牲として消し去ってるからか・・・最初に腕を縛る拘束魔法を抜け出したって云うのも一瞬腕を物理的に消失させて抜け出した訳だな

 

考察している間にレイヴェルが全ての敵を倒したようだ・・・コレ、俺要らなかったか?

 

いやいや!敵がこれだけならそうだったかも知れないけど多分そうじゃないよな

 

するとレイヴェルがフラついて倒れそうになったので慌てて支える

 

「あ、申し訳ありませんイッキ様。流石に再生と禁術を平行して維持し続けるのは体力の消耗が激しいものでして・・・それにまだ習い始めたばかりの為か禁術という割にまだまだ威力は低いんですのよね。もっと精進を積まなければいけませんわ」

 

「付け焼き刃の段階でコレなら十分凄いよ」

 

確かに禁術というには地味だったかも知れないけどな

 

「いいえ、まだまだですわ。術の構築にも時間が掛かりますし、集中力が要るからその場から動くことも出来ませんの・・・今の私ではオカルト研究部の皆さんの誰にも勝てないでしょう」

 

あ~、確かにそれは冷静に対処すれば破るのは難しくなさそうだな

 

そんな事を思っていると転移魔法陣が展開され、空間に一人の男の声が響いてきた

 

「おやおや、これは・・・」

 

俺達が視線を向けるとそこにはフードを目深に被った銀のローブの人物が辺りを見渡していた

 

「駒王学園を襲撃した魔法使い達を回収してグレモリー眷属とシトリー眷属をおびき寄せる空間に居る彼らに注意事項を説明している間に全滅とは―――そちらの有間一輝の仕業でしょうか?いえ、この破壊痕からすると違うようですね・・・まぁ良いでしょう。彼らには好きにさせるように言われましたが失敗した処で私には関係の無い事ですしね。それにしてもお早い到着ですね、有間一輝。折角貴方にも招待状を送っておいたのですが必要無かったようです。如何やったのかお聞きしても?」

 

曹操もそうだったけど取り敢えず聞いて来るんだな・・・やっぱ中にはノリノリで答えちゃう人って居るんだろうか?

 

「そうだな。これからは例えテロリスト同士でももっと仲良くしてたら良かったんじゃないか?英雄派には使った手段だったんだけどな」

 

そう言うとローブの男は肩を竦めた

 

「それは難しいですね。元々禍の団(カオス・ブリゲード)は様々な派閥が混在している上に荒くれモノのテロリスト達です。他の派閥は追い落とす事が先ず前提になってる処もありますからね」

 

「そんなお前は魔法使いの派閥所属か?」

 

違うだろうけど一応ね

 

「いいえ、今は私があのお方(・ ・ ・ ・)の意向で禍の団(カオス・ブリゲード)の残党の指揮を取っております。有体に言えば今の禍の団(カオス・ブリゲード)のNo.2と認識して頂ければ・・・最も、旧魔王派と英雄派という二大派閥を失った彼らは好き勝手やっておりまして、私程度では中々に御し難いのですが」

 

それで昼間の学校を襲ってくるんだもんな。表の人間たちはどの神話勢力にとっても糧となる存在だ。勿論、信仰する神に違いは在るけどな。だから表の人間を見境なく襲えば各勢力が手を取りあって、または独自に制裁を下す為のエージェントを派遣する確率が高まる

 

はぐれ魔法使い達は今まで傍観してた奴らも自分達をぶっ殺しにやってくるレベルの大ポカやらかしてるって理解・・・してないんだろうなぁ

 

「さて、実はですね。そこのフェニックス家のお嬢さんのデータを取るのは私としてみれば『出来れば良い』程度の事でしてね。本命の実験は別にあったのですよ。本当は招待状を出したあなた方が来てから紹介するつもりでしたが貴方が相手なら彼もウォーミングアップとして満足してくれるでしょう。第一、貴方を前に私『一人』で立つのは怖いですからね」

 

そう言ってフードの男は床に巨大な龍門(ドラゴン・ゲート)を展開し、深緑の輝きが放たれる

 

完全に【一刀修羅】を警戒されてるな

 

「彼は常に強者との戦いに飢えていましてね。是非とも遊んで頂きたいのですよ。それではご紹介致しましょう。かつて滅ぼされた伝説のドラゴン―――大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)、『グレンデル』」

 

彼のセリフが終わると共に前にイッセーに言った『俺にとって相性の悪い相手』である『グレンデル』が俺達の前に現れたのだった




イッキたちの体育の授業が異次元の領域に突入しかけてる件について

あと、レイヴェルの強化案も出せましたねww


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第四話 邪龍と、邪人です!?

龍門(ドラゴン・ゲート)から現れたのは浅黒い鱗を身に纏った巨大なドラゴンだ。二足歩行で体つきはやや人間よりな為翼の生えた巨大なリザードマンとも云える姿のドラゴンだった

 

そいつが空間を震わす程の声量で咆哮とも笑い声とも取れる上機嫌な様子で辺りを見ている

 

「グワアアアハハハハハ!龍門(ドラゴン・ゲート)なんぞ久しぶりに潜ったぞ。俺様を召喚しようなんて物好きは当時はもう居なくなってたからなぁ!それでぇ?俺様と闘うのはどいつなんだぁ?居るんだろ?俺様好みのクソ強ぇヤツがよォォォ!!」

 

うん。居ないから帰れって言いたい

 

「グレンデル!?英雄ベオウルフに退治された伝説の邪龍ですわよ!」

 

レイヴェルが驚愕の声を上げるとそれに気付いたグレンデルの視線が俺達を捉える

 

「あん?悪魔が3匹に人間が1匹?もしかしてコイツらが俺の相手なのか?」

 

グレンデルの疑問にフードの男が答える

 

「今回貴方の相手として用意した者達はまだまだ追加でやって来ますよ。その中でもそこの人間が取り敢えず最強とされているので貴方を呼びました。後続の戦士が来るまでまだ少し掛かりますので放っておいたら一番楽しめそうな相手が居なくなってしまう上に援軍も此処に来る理由が無くなってしまいますからね」

 

最強って黒歌の事は?まぁ黒歌は戦闘の回数が少ないしタナトスを屠ったという情報はインパクト大きいだろうからその所為かな。安定した強さという意味でなら黒歌の方が上なんだけど

 

「ぁあ?要はコイツと遊んでいればその内もっと楽しくなるって事か?まっ、そう言う事なら構わねぇよ。おいお前、追加の玩具が来るまでの間に簡単に壊れてくれるなよ?」

 

玩具ね・・・此奴の場合は戦いに関するモノなら取り敢えずは玩具認定なんだろうな

 

拳も武器も血も怪我も殺し殺されも自分が愉しむ為の道具って事かな?

 

さて、ウンザリする敵意と殺気を向けられてるけどこっちはレイヴェルがまだ消耗したままだし、敵は魔王級と龍王級でしかもどっちも強化されてる可能性有りときた。まぁ戦うのはグレンデルだけだとは思うけど此処は俺一人だけで戦ってイッセー達が来た時に全員のフルバーストで決着と云うのが自然な流れか・・・幸いグレンデルの意識は今は俺に向いてるみたいだし

 

「3人とも下がっててくれ。ご指名は俺みたいだから俺が行くよ。もう一人を警戒しつつグレンデルの戦い方も良く分析しておいてくれ。それと白音はレイヴェルの回復も頼む・・・あとギャスパーは今の内に段ボール箱に入っとけ」

 

「はいぃ!お二人の事は僕が守ります!」

 

「・・・はい」

 

「うぅ、張り切ったのが早速裏目に出る何て情けないですわ・・・お気を付けて」

 

白音とレイヴェルは心配してくれてるけどギャスパーは元気よく異空間から取り出したマイ段ボール箱に勢いよく入り込んだな・・・それで良いのか?

 

気持ちを切り替えて3人から離れてグレンデルの正面に立つ

 

「グハハハハ!まさか復活してから最初に戦うのが人間になるとは思わなかったぞ!まぁ良い。要はテメェが強ぇか如何かだ!早速やらせて貰うぜぇぇぇッ!!」

 

全身から荒々しいオーラを解き放ちながら姿勢を低くしたグレンデルはそのまま俺の方に前傾姿勢で飛び出し愚直なパンチを放つ

 

迅い!巨体でありながら鈍重さなんて欠片も感じさせない速度だ!

 

俺はそのパンチに合わせて跳躍し、グレンデルのパンチを避けると共にその突き出された腕を爆走し、奴の顔面を斬りつけたが多少鱗と皮膚を裂くだけに終わった

 

やっぱり硬いか。と云うか一応目玉を狙ったのに躱されたし、反応も上々・・・と

 

俺の能力値は最上級悪魔クラスで此奴は龍王クラスの防御寄り

 

単純な値で負けているから攻撃範囲を狭めて貫通力を高めた技でないと攻撃が通らないんだよな。そして何よりこいつはデカい!

 

相手が人間サイズなら貫通力のある俺の攻撃は当たれば割とそのまま致命傷になるけど攻撃範囲を絞った俺の斬撃は此奴にとってみればカッターナイフで斬り付ける程度のものでしかないだろう

 

即ち俺が【一刀修羅】とかを使わないでグレンデルを倒そうとするならそれこそ数百回程度は斬りつけないとダメな訳だ・・・しかも相手は頭だけでも戦おうとする邪龍と考えればそれでも足りない可能性が高い。ならば長期戦をするのかと云えば能力値で劣る俺の方が無茶で繊細な行動を強要される上にドラゴンと人間ではスタミナでも向こうに軍配が上がるだろう

 

詰まるところジリ貧で負ける公算が高いという事だな

 

特典無しで戦う場合『デカくてタフな敵』が俺にとって一番やり難い相手だと思う

 

そりゃタナトスの方が強いだろうがグレンデル相手だと決定打を打てないからな

 

原種のケルベロス?アレもダメな奴だったよ

 

「何だ何だ?俺様の鱗を切り裂いた割にはこの程度かよ。こんなんじゃ全然足りねぇぞぉ!」

 

そう吼えたグレンデルは少し離れた位置に移動した俺にドラゴンブレスを放ってくる。人間程度余裕で丸呑みに出来るサイズの灼熱の火球が直撃する

 

「ハッ!マジかよ。あの程度の奴が一番ってんじゃコレから来るヤツらってのもあんま期待は出来ねぇかもなっ!?」

 

グレンデルが言い終わる前に後ろから首を斬り付けるがやはり戦闘勘は優れているのか頸動脈までは届かなかったな

 

『第四秘剣・蜃気楼』は禁手(バランス・ブレイカー)する前は一々神器をへし折っていたが今は違う。Fateのエミヤの持つオーバーエッジは峰の中ほどまでが羽毛なような形になっているのだが神器が所有者の意思にある程度応えるならばもしかしてと思って念じてみたら羽が取れたのだ・・・まぁ羽と云っても形だけで金属なんだけど、ともあれコレで『蜃気楼』用に神器を壊さないとダメという事はなくなった訳だ

 

「何だぁ?さっきのは当たったと思ったんだけどよ」

 

「生憎と逃げたり避けたりするのは得意な臆病者でね。足りないと言ってたけどそれなら俺は逃げ回ってる間に今みたいな攻撃を百回でも千回でも叩きつけるだけさ―――その頃にはお前も楽しめるようになってるんじゃないか?」

 

蝶のように舞い、蜂のように刺し、ゴキ〇リのように逃げる!俺の基本戦法です

 

「グハハハハ!言うじゃねぇか!なら、途中でへたばんなよ?この俺様を愉しませる事が出来るまで斬りつけてみせろぉぉぉぉぉ!!」

 

白音たちに矛先が出来るだけ向かないように『楽しもうぜ!』というお誘いを掛けると効果的だったのかさっきよりも鋭い猛攻を仕掛けて来るようになった

 

ああもう!泣いて良い?攻撃を避ける為にも脳のリミッターを解除してるけどコイツの巨体だとカウンターで吹き飛ばす事も難しいしダメージで怯まないから息つく暇がないんだよな

 

俺のカウンター戦法の要もデカさとタフさでゴリ押しかよ!

 

だがそれでも知覚加速している間に兎に角ダメージを蓄積させるしかないんだけどさ!

 

「何だコイツは!こんなにちょこまかと俺様の攻撃を避け切る相手は初めてだ!いいぜ、いいぜぇ!俺様も段々とノッてきたぜぇ!」

 

全身に既に無数の切り傷を受けて青い血を垂らしているグレンデルだが、あくまで傷は表面上のモノだし傷が増えていく事にテンションが上がり始めたのか動作のキレが鋭くなってきた

 

更には俺の頭痛も酷くなってきたので一旦リミッターを元に戻すが、そうなると途端にパワーもスピードも上回るグレンデルの攻撃を躱すのが難しくなる

 

「オラオラあああ!反撃して来いよ反撃ィィィ!!」

 

それが出来れば苦労はしてねぇよ!今は躱すので精一杯なの!

 

するとグレンデルは息を吸い込み下腹部を肥大化させた―――ブレスか!此処は狐火をぶつけて相殺している間にまた『蜃気楼』で距離を取る!

 

だがグレンデルの口から出たのは炎では無かった

 

 

 

グルウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!

 

 

 

解き放たれたのは只管に馬鹿デカいドラゴンの咆哮

 

炎が来ると身構えていた時に至近距離から音の爆弾を聞かされた俺は一瞬体が硬直してしまう

 

ただの音と馬鹿にする事なかれ。物理的な衝撃波すら伴うレベルの咆哮はただの人間なら鼓膜が破れる程度じゃ済まない破壊力だ。音響爆弾一斉起爆より質が悪い!

 

そして俺の動きが止まる事を見越していたグレンデルの腕の薙ぎ払いが俺を捉えた

 

“ズッガアァァァァァン!!”

 

「ぐっはぁ!痛ってぇ!!」

 

地面に叩きつけられた俺は軋む体を動かしてその場から離脱する

 

煙で視界は利かなかったが気配でグレンデルが俺のおおよその位置にあたりを付けて踏み付け攻撃を仕掛けて来ているのが判ったからだ

 

「はっ!漸く一発入ったなぁ!いいぜぇ、やっぱり潰し合いってのはお互いに血を流して命のやり取りってのを全身で感じてこそだろうがよォォォ!!」

 

グレンデルが心底ニンマリとしたイヤらしい表情を浮かべてるけど、クソ!こういう処でも体格差の問題が出るな

 

此奴の攻撃はパンチでもキックでも殆ど俺の体全体に匹敵する面積があるから闘気の一点集中防御が使えないんだよな―――曹操の聖槍の方が破壊力の合計値は大きくてもまだ防げるってのに!

 

それに攻撃が当たった時に全身にインパクトが走ると体の中の衝撃の逃げ場が無いから『第三秘剣・円』でのカウンターという名のダメージ軽減も狙えない

 

『秘剣』シリーズは基本的に対人戦用なんだって痛感させられるよ全く!

 

あ~、コレイッセー達がやって来るまで俺の体持つかな?全身を防御した時の俺の耐久力はイッセーよりも低いから今の一撃で結構ヤバい。もう一発同じくらいの攻撃を受ければいろんな箇所にガタが来てしまうだろう

 

【一刀修羅】なら多分グレンデルを倒せるけどユーグリット(仮)が俺を見逃すのに賭けるとか流石にそんなマネはしたくないしな

 

黒歌は今頃イヅナのビーコン頼りに皆を案内してるだろうから呼ぶとしてもやれる事をやってからだな・・・とは云え何か有るか?

 

今の『傷』を返してもグレンデル相手じゃ『効果はいまひとつ』だろうし・・・と云うかそうだよ【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】だよ!正確にはそこに宿ったサマエルだよ!

 

それさえ使えればグレンデルなんて秒殺できるのに結局【神性】が上がってギャスパーの時間停止のような特殊技に耐性が付いただけじゃねぇか!

 

それ以外じゃ悪意の受け皿が広まった処で神の悪意にリソース割いちゃってるし・・・待てよ?

 

俺の【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】の禁手(バランス・ブレイカー)は兎に角【神性】との親和性を上げる事を第一に優先した至り方をした。ならもういっそ【神性】を突き抜ける方向で道を見出すべきだろう

 

「おい、サマエル聞こえるか!前に神の悪意の制御を手伝うとか言ってたけどそれもう要らんから別の対価を寄越せ!」

 

グレンデルの攻撃を何とか捌きながら手に持つ神器に意識を向ける

 

神器の深奥に潜ってるサマエルの返事は期待出来ないが声は届いている感触が有る

 

こういう時はイッセーとドライグみたいに会話が出来ると楽なんだけどな

 

かなり無茶苦茶言ってる自覚はあるが仮に俺が死んだ時サマエルの意識が衝撃で肉体に戻る可能性だって十分在るんだから勿論協力してくれるよね!(ゲス顔)

 

サマエル自身も一応元は高位の天使何だし偶然だろうと神器の奥の方に潜ってるんだからアンリ・マユ的な【神性】も頑張れば引き出せるだろ

 

ほら早くしろよ!こちとら伝説の邪龍の猛攻を絶賛受けてる最中なんだからよ!

 

「なにさっきからブツクサ言ってやがるんだぁ?おいおい詰まんねぇぞ。もう終わりなのか?ならもう死んどけよクソ雑魚野郎がよォォォ!!」

 

「一々短気だなお前は!もうすぐパワーアップするから大人しく待ってろ!」

 

「そいつは良い事を聞いたなぁ!ならさっさと力を出せるようにもっと追い込んでやるよ!」

 

ダメだ、分かってたけど会話が通じねぇ。まさしく狂戦士(バーサーカー)だよな。それも【狂化 EX】だろ

 

マジで厄介極まりねぇ

 

コイツへの愚痴は一旦置いておいて今は【神性】だ

 

今まで俺は【神性】を意識する事はあっても、態々それを高めようとした事なんてのは禁手化(バランス・ブレイク)時以外は無かった―――理由は簡単。ぶっちゃけ特に役に立たないからだ

 

自然と上昇する分だけで十分過ぎたからな

 

だけど今は意識して神器の【神性】に手を伸ばす

 

魂と繋がった神器の【神性】の力の源におおよその当たりを付けてすり寄って行く感じだ

 

そうして少しすると漸く何か繋がった感覚がして俺の【神性 A】が【神性 A+】くらいに引き上がる。良し!流石は【神性】特化型禁手(バランス・ブレイカー)

 

内心ガッツポーズを決めながら『蜃気楼』連続発動で距離を取る

 

これで上手くいかなかったら大人しく黒歌を呼ぶか

 

俺は少しずつ分量を見定めてゆっくりと体に邪気を纏い始める

 

仙術というのは扱いが難しい力とされている。中でも一番の理由は世界に漂う邪気を体に取り込むだけなら仙術の基礎が扱える者ならば誰でも出来てしまい、その邪気に精神を侵食されて狂暴且つ残忍な性格に変貌してしまうからだ

 

だがもしも『この世全ての悪』に対する耐性・受け皿を持っているならば話は別ではないのか?

 

今まで正と邪の内、正しか扱っていなかったがもう半分に手を伸ばせば単純に出力は2倍だろう

 

その上戦闘となれば邪気の方が恐らく強いしな

 

邪気を少し取り込んだ・・・問題無し

 

もっと邪気を取り込んだ・・・影響無し

 

一気に邪気の出力を上げていくが前にサマエルを取り込んだ時に感じた悪意の器の感覚から上限を正確に把握出来る

 

俺のオーラの変化に気づいたグレンデルが初めて驚いた表情を見せる

 

「おいおいおいおい。何だそりゃ?オーラが強まっただけじゃねぇ。馬鹿みてぇに禍々しい邪気を身に纏って人間のテメェが何で生きてられる?呪詛が 呪いが 怨念が 視認出来るレベルじゃねぇか―――お前本当に人間かよ?」

 

「だ・・・ダメですイッキ先輩!仙術に呑まれちゃったりしたら!!」

 

同じ仙術使いとして邪気の危険性を知り、黒歌が且つて邪気に呑まれたと一度は聞かされていた白音が必死に叫ぶけど安心させるように軽い調子で手を振って応える

 

「御免。先に言っとくべきだったけど暴走とかしてる訳じゃないから大丈夫!」

 

仙術と邪気に対してトラウマ級のモノを持っている白音への配慮が足りてなかったな・・・後でちゃんと謝ろう

 

そしてそう!世界に漂う邪気こそが今の俺の第二の動力源!今の俺はアザゼル先生の造った巨大ロボットである『ザゼルガー』の人間バージョンに近いとも云える

 

世界の皆!オラに悪意を分けてくれ!・・・コレは別作品だったか

 

そんなこんなで魔王級・・・少なくとも蛇シャルバよりも単純なオーラ量は強くなった俺を見てグレンデルは喜悦の表情に顔を歪める

 

「クックックック!何が起きたのかは知らねぇが知る必要もねぇな!俺様は強い!そんでテメェも強くなった!なら後はぶっ殺し合いしかねぇよなァァァ!!」

 

今の俺に対する小手調べという事なのかグレンデルは今までで一番のブレスを吐き出す

 

効果範囲も広いので白音たちも射程圏に入っているからそっちも含めて守らないとな

 

「やっぱり炎には炎だろう!」

 

今までの俺の狐火ではグレンデルのブレスは完全に相殺する事は出来ずに精々軌道を逸らす程度だったが今は正面から迎撃する

 

「ひいぃぃぃん!邪龍の邪炎と邪人の邪炎のぶつかり合いですぅぅぅ!どっちもオーラが禍々し過ぎて闇の頂点争いにしか見えませんよぉぉぉ!!」

 

段ボール箱から顔を覗かせたギャスパーがプルプル震えている

 

「ええ・・・事情を知らなければ一目散に逃げるか、関わるにしても戦いが終わった後の漁夫の利を狙って全力で潰して動きを封じた後で尋問という形になりますわね」

 

「『取り敢えず』で討伐令が下っても可笑しくないと思います」

 

ちょっと後輩諸君の俺への評価が酷くないですか!?

 

内心泣きそうになりながら俺はグレンデルに突貫する

 

さっきまで戦っていた俺と速度が急に変化した為かグレンデルの防御が一歩遅れ、懐に入ってライダーキックをかますとグレンデルの巨体が後方に押し出される

 

良し!距離が取れるならヒット&アウェイ戦法も復活だ!

 

「ベッ!イイ蹴りだったぜぇ!もっとだ!もっと!ドンドン来いよォォォ!!」

 

口から青い血を吐き出したグレンデルが来いと言いつつも殴りかかって来るけど、こっちだってさっきのお前の一発で何ヵ所か骨に罅入ってるし、頭も切ったから垂れてきた血で左目塞がってる程度にはダメージ蓄積してるんだからさっさとケリを付けたいんだよ!

 

「『第一秘剣・犀撃』、投擲砲!」

 

剣の柄の底を全力で殴りつける投擲技!投擲って何だっけ?と思ったらダメだ。その悩みはとっくの昔に置いて来た!

 

大剣がグレンデルの腹に突き刺さりそのまま背中から飛び出た辺りで停止する

 

う~ん。腹は皮膚だったから貫通したけど背中の鱗で止められたか―――まぁ実質貫通してるから良しとしよう。グレンデルが腹のダメージに気を取られている間に残る大剣で脇下から斬り上げて左腕を半ば以上切断する

 

「オッほぉぉぉ!痛てぇなぁ!ああコレだよコレ!コレが生きてるって証だぜぇぇぇ!!もっと殴って、嬲って、噛み砕いてお互いの体が消し炭になるまで殺し合うんだよォォォ!!」

 

今までの浅い傷ではなく深いダメージを負った事でテンションが爆上がりしたグレンデルだが、俺に殴りかかる為に勢いよく腕を振り上げたところで左腕が千切れ落ちた

 

「あ゛あ゛!?俺様の腕はこんなもんで落ちる程軟じゃねぇぞ!調整ミスってんじゃねぇのか!」

 

グレンデルが怒りの矛先をローブの男に向ける

 

「いいえ、グレンデル。彼が邪気を纏った後に付けた腹と腕の傷をよく見て下さい」

 

指摘されたグレンデルが傷口に目をやれば切りつけた周囲が黒く染まってドロッとしている状態に気が付いたようだ

 

「・・・こりゃあ、腐ってやがんのか?」

 

「正解だ。攻撃にタップリと呪詛を流し込んだからな。細胞が壊死して体が脆くなってるんだよ」

 

それでも指摘されるまで気付かないとか鈍感と云えば良いのか馬鹿と云えば良いのか

 

「ふむ。邪気に対する耐性ですか・・・邪龍にそんなモノは必要ないと考えすらしませんでしたね。それと如何やらお仲間も来られたようだ」

 

空間の一角に大きめの転移魔法陣が展開してそこにグレモリー眷属とシトリー眷属に黒歌とイリナさんが転移して来た

 

「来たぞ!皆無事か!・・・って何だあの禍々しいオーラを放ってる奴は!」

 

いやイッセー、俺だよ俺。あ、もしかしてグレンデルの事か?

 

「いえ、よく見て下さい。アレは有間君のようです。それとあのオーラ・・・恐らく彼は何者かに乗っ取られていると見るべきでしょう。妖怪には人間に憑依出来る者も多いと聞きます。しかし、彼程の手練れが乗っ取られるなど生半可な敵ではありません。皆さん、気を引き締めて下さい!」

 

「何て悍ましいオーラでしょう・・・まるでこの世全ての不吉を孕んでいるかのようです」

 

やっぱり俺の事かぁぁぁ!?皆揃って戦闘態勢に移らないで!敵は向こうだから!

 

椿姫先輩も微妙に的確な表現しないで!というか黒歌だけは皆の後ろで笑ってるけど何で?

 

「黒歌姉様にはイヅナでイッキ先輩の状態は伝えておきました」

 

うん!その情報全員で共有してなきゃ意味無いって!

 

「誰だか知らねぇけど俺の親友の体からさっさと出て行って貰うぜ!イッキ!ちょっと手荒くなるのは勘弁しろよ。我、目覚めるは王の真理を天に掲げし、赤龍帝なり―――無限の希望と不滅の夢を抱いて、王道を往く―――我、紅き龍の王者と成りて、汝を真紅に光り輝く天道へ導こう!」

 

此処でそんなカッコイイ呪文要らねぇから!俺は乗っ取られたりしてねぇから!・・・あ、そう云えば一応イヅナを憑依はさせてるか

 

って!そうじゃねぇ!!

 

「おい、仲間割れか?一緒に掛かって来るんじゃなかったのか?大乱闘って解釈で良いのか?」

 

「きっと彼らも友人の変わり果てた姿に動揺していらっしゃるのでしょう」

 

変わり果てたって表現止めてくれません?なんだか俺が取り返しがつかない領域に足を突っ込んだみたいじゃないですか!

 

だがそこでグレンデルの翼と尻尾の先端の部分がボロっと崩れた

 

「おや?グレンデル、如何やら此処までのようですね。貴方の体はまだ調整中の為、試運転を兼ねた戦闘でしたがガタが来たようです。邪気の影響でしょうか?予想より早いですね―――ともあれ一度戻りましょう。貴方も再び土くれに成りたくはないでしょう?」

 

それを聞いたグレンデルはギラつかせていた殺気が萎えるように治まっていく

 

「ッチ!折角コレからもっと殺し合いが盛り上がるところだったのによぉ。それを言われちゃ退くしかあるめぇよ」

 

「不貞腐れないで下さい。如何やら白龍皇の方でも苦戦中のようですから最低限体を補修したら向こうにも顔を出しましょう。対ドラゴンのデータも採りたいのでね」

 

「オホ!そういう事ならさっさと行こうぜ。俺は先に戻ってるからよ。ああそれとお前と後ろの奴ら・・・ってドライグまで居んのかよ。惜しいな。まぁ良い次の機会だ。次はアレだ。その、アレだよ、殺すからよ。それまでにくたばるんじゃねぇぞ」

 

萎んだ殺気をこの後すぐ戦えると聞いた途端にまた膨らませたグレンデルはそのまま龍門(ドラゴン・ゲート)で上機嫌に消えていき、それを見届けた男はローブのフードを取り払う

 

中から現れたのは銀髪で長髪を後ろで結んだ優男だった

 

「私の名前はユーグリット・ルキフグスです」

 

その名乗り、特に『ルキフグス』という名前に皆が激しく反応する

 

「・・・なるほど。この町の堅牢な結界を突破し、魔法使い達を招き入れたのは貴方ですね?グレイフィア様と近しいオーラを持つ者であれば警戒網に引っかからなくても不思議ではありません」

 

「姉に・・・グレモリーの従僕になり下がったグレイフィア・ルキフグスに伝えて頂けますか?貴女がルキフグスの使命を放棄して自由に生きるのであれば、私にもその権利は有るのだと」

 

ソーナ会長の質問には答えず奴はそれだけ言い残して転移魔法でこの場から去って行った

 

「さて、では残るは貴方だけですね?有間君の肉体を返して頂きましょう!」

 

その設定まだ続いてたの!?俺は慌てて仙術で邪気を取り込むのを止めて通常のオーラに戻す

 

「大丈夫です!さっきのは俺の新しい技みたいなものなので別に操られてたとか憑依されていたとかじゃないですから!それよりほらっ!空間が端から崩れ始めてますよ!取り敢えず脱出しましょう!何なら魔力で束縛しても良いですから!あとイヅナ、あの生体ポッド2~3個持って来て!」

 

レイヴェルとしては見たくもないモノだろうから後で直ぐに布でも被せるとして、明確な証拠品だからな

 

そうして俺達は転移魔法でその空間を脱出したのだった・・・しっかり俺はソーナ会長にお縄になったけど脱出先で白音たちと黒歌の説明にロスヴァイセさんの探査魔法で白と判定された

 

なお、黒歌はソーナ会長に耳を引っ張られてお説教される事となったが

 

白音も黒歌が逃げ出さないように見張ってる途中でライザーが眷属を引き連れて助けに来たけどもう終わってたなんてオチも付いたけどな

 

イッセー達と魔法使い達の戦い?鎧のイッセーに黒歌も居るんだから蹂躙以外の選択肢ある?

 

 

 

 

 

[アザゼル side]

 

 

ルーマニアに入った俺とリアスと木場は車で山奥の道なき道を走っていた。領土で云えば既に吸血鬼の国に入っているが指定のルートを通らなければたどり着けない為かなり大回りになっている

 

一応領土の入り口で吸血鬼から地図は貰ったが、後は自力で行けとボコボコの道に送り出すとか何とも素敵なお出迎えをしてくれるぜ

 

ルームミラーを覗けば物憂げな表情をしているリアスが映る

 

「やっぱり日本に残してきた彼氏が気になるか?」

 

「・・・気にならないと言えば嘘になるわね。朱乃やゼノヴィアは押しが強いし、アーシアやイリナは天然なところが在るから流され易い面も在るからね―――それでも、イッセーの妻になる者として多少の騒乱は受け止めないとね」

 

ハーレム王を望むイッセーの彼女として貫禄出てきたんじゃねぇか?自然と『妻』なんて言えるなら大丈夫だろう。イッセーはどんどん成長して来ているがハーレム王としての威厳が出るまではもう少し掛かりそうだしな。それまではキチンと手綱を握っておけよ?

 

「あと、15分ほどで現地の吸血鬼のスタッフと落ち合う場所に着けそうですね」

 

助手席で地図と方位磁石と睨めっこしていた木場が報告してくる。その後は俺とリアスたちはそれぞれ俺がカーミラ派、リアスたちがツェペシュ派の領地に向かって別れる手筈だ

 

話題が無かったのかふとリアスが質問してくる

 

「曹操はどうなったの?昨日、正式な通達が有ったのでしょう?」

 

「英雄派の神滅具(ロンギヌス)所有者である曹操、ゲオルク、レオナルドの3名はインドラが捕らえ、聖槍は没収してその3名は冥府送りにしたって事になったな。まっ、槍だけじゃく他の神滅具(ロンギヌス)もどうせ奴が持ってるんだろうよ。一応他の幹部のジャンヌ達からインドラとの繋がりを吐いて貰ってるが、あの天帝相手に何処まで通じるかって話だな・・・イッキの奴が居なかったら完全にお前らの手柄をインドラが横取りする形で全部終わってたぜ」

 

イッキの奴もインドラの協力を得る為の取引としてか曹操達を捕まえたのはインドラだって証言(俺が聞いた時は棒読みで答えた)してるからソレに関しては深くはツッコめないんだけどよ

 

「・・・ハーデスね。思い返してもアレは酷かったわ」

 

土下座ハーデスを思い出しているのかリアスが何とも言えないといった顔に変わる

 

「あはは、イッキ君は敵対する相手には一切慈悲を持たないからね」

 

「そう言えば出発前に龍騎士に相手を閉じ込めて焼くとか提案してたな。本来鎧ってのは守る為のモノだってのに何処をどう思考を捻ったらそんな案が出るんだか」

 

「・・・もしもイッキが英雄派の一員だったら多分私達死んでたんじゃないかしら?」

 

確かに今のリアスたちではイッキの相手はキツいかもな。そうなったらイッセーの謎のおっぱいの奇跡に縋る以外の選択肢がなくなるだろうよ

 

そう云えば魔獣騒動の後処理が一段落した後でインドラと通信で話したな

 

≪HAHAHA、あの坊主は自分が何者に成りたいのかをキチンと決めずに動き回ったのがいけなかったのさ。『人間の力で異形の存在に勝ちたい』とそんな事を宣っておきながら怪物のメデューサの瞳なんぞ移植するから土壇場で聖槍に嫌われてジ・エンドだ。笑えるだろう?笑っとけ。アイツは最後に道化になった≫

 

それに関しちゃ同意見だ。持ち主の野望を糧とするという『覇輝(トゥルース・イデア)』も持ち主の方針がコロコロ変わっちゃ、付き合いきれないと見捨てても可笑しくないだろうさ

 

≪それに、あのガキどもは『英雄』を目指していたがまるで本質が見えちゃいなかった。あの有間一輝ってガキが曹操に言ってたぜ『英雄ってのは頂く者じゃなくて冠く者だ。英雄を目指すのは良い。努力しても良い。だけど最後に英雄たらしめるのは名も無き人々の声だ。自分から英雄を名乗った時点でお前がやってるのはただの『英雄ごっこ』だよ。テロリストとして悲劇しか生まなかったお前が英雄と周囲から称賛される存在なのかよく考える事だな』ってな≫

 

はっ、英雄やヒーローなんか柄じゃないって言ってるイッキの方がよっぽど英雄を解ってるなんて皮肉なもんだよな

 

イッセーだって冥界の子供たちに笑顔を届けてヒーローとして活動している。最初はショーの役だったとしても今のイッセーは実績と民間の声援を伴ったまごう事無きヒーローだ

 

それに対してごっこ遊びの曹操達・・・そりゃあ勝てないわな

 

「帝釈天は何がしたいの?曹操を泳がせ、ハーデスを間接的に煽り、各勢力に混乱を齎した戦の神。アザゼルは真意を聞いたの?」

 

「ああ、奴は破壊の神、シヴァに対抗する為の人材を欲しているのさ。戦乱がより良い強者を造り出すと信じていやがる」

 

まっ、そうなれば必然的にインドラと敵対する強者だって育っちまう訳だがな。そうして巻き起こるのは世界規模の闘争だ―――勘弁してほしいぜ。やるなら身内同士でコッソリやれってんだ

 

心の中でインドラに唾を吐いていると定期連絡の魔法陣が届いた

 

「グレンデル・・・それにルキフグスだと!?」

 

連絡はそこで切れた。この通信は一方的なもので相互のやり取りをするタイプじゃないが、今すぐにだって通信を繋げ直したいくらいだ

 

滅んだはずの伝説の邪龍に死亡したとされていたグレイフィアの弟だと!?

 

きな臭いなんてレベルじゃないぞ!

 

「リアス、木場、如何やら厄介な事になりそうだ」

 

これから先に口を開けて待っているであろう混沌が幻視出来るような気さえしたぜ

 

 

[アザゼル side out]




はい、とうとうイッキも魔王級の仲間入りとなりましたね

まぁ身体能力をどうにかしたというよりはオーラ量と質によるゴリ押しですけどw

イッキが金丹を食べて仙術使いだからこそ強くなったのと同じように神性と仙術を組み合わせたからこその強化案となっております

次章は間章とも云えるダークナイト編ですがアレって祐斗や朱乃の過去回みたいな感じだからそのまま載せる訳にもいかないですし、何とかオリジナル日常回みたいなものを挟みたいですねw

第一秘剣の投擲という名の殴りつけはfgoのシグルドを参考にしてます


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第15章 陽だまりのダークナイト
第一話 生徒会との、模擬戦です!


夏休みのグレモリーVSシトリーもこの間の魔法使いとの戦いでもシトリー眷属の出番を無くしてしまったので今回、シトリーの紹介を兼ねた回となっています


魔法使いやグレンデルとの戦いから割とすぐの事だった

 

その日は偶には購買のパンも良いものだと思って一部の男子が目当てのパンに向かってダッシュしてるのを見ながら売店に辿り着き列に並ぶと、後ろに並んだヤツに声を掛けられた

 

「おっ、有間じゃねぇか。売店で見る何て珍しいな」

 

「お前もな、サジ。てっきりサジは弁当派だと思ってたんだけど?」

 

「そりゃこっちのセリフだ。まぁ俺も普段は弁当なんだが今日はうっかり作ったやつを家に置いてきちまってな。今日の俺の晩飯はお昼の弁当で決定だよ」

 

あらら、そりゃまたありがちな凡ミスをしちゃった訳だな

 

「ていうかお前弁当自分で作ってたんだな。女子力高めか?」

 

中々男子で弁当自分で作ってる奴は居ないと思うが

 

「あ~、俺んちって両親が居なくてさ・・・」

 

「あ、悪りぃ」

 

地雷踏みぬいたぁぁぁ!!

 

「謝んなよ。今はもう引きずってる訳でもねぇしよ・・・ただ、それでもやっぱり余り自分から話すような内容でもないからな」

 

そういうサジは確かに気負ったような感じは見られなかった

 

本当にそうなのかまでは流石に分からないけど引っ張っても仕方ないだろう

 

「分かった。なら、詫びの印に今日のお前のパンは俺が奢ってしんぜよう!」

 

「何で最後が上から目線なんだよ?まっ、そういう事なら一丁ゴチになるぜ」

 

そうして幾つかパンやドリンクを買ってから折角なら近場の生徒会室で喰わないか?と提案されたので二人でそちらに向かう途中、サジが話し掛けてくる

 

「そういやよ。有間の弁当は如何なんだよ?」

 

「如何って・・・今日は偶々気分でパンでも良いかなって」

 

「違げぇよ。聞いてんだぞ。お前、黒歌さんに塔城にフェニックスさんの全員が婚約者で同居してるんだろ?女の子の手作り弁当とかそういう話だよ」

 

あ~、そっちね

 

「そうだな。まず黒歌は性格ズボラなところが有るしどっちかと云えば食べ専だから無しだな。白音も同じく食べ専でしっかり料理出来るのはレイヴェルくらいか。だから基本俺の弁当は母親かレイヴェル謹製の何方かって感じだったけど最近は白音が少しずつレイヴェルを意識してか一緒に台所に立つ事が増えてきたな」

 

エプロン姿で一緒に料理してる白音とレイヴェルとか癒し空間が広がってるわ

 

最初の内は台所から破砕音とレイヴェルの怒号が聞こえてきた気がするけどレイヴェルが監督したお陰か弁当に少々形の崩れた玉子焼きとかが入ってても味は普通だったしな

 

黒歌は・・・一応過去の山籠もりの修行とかしてる時はサバイバル飯とか当番制で作ったりしてたから料理が壊滅的って感じのキャラじゃないだろうけど家庭料理とかは食べた事ないな

 

九重とは一緒に料理もしたけどね

 

「何だよ!結局女の子の手料理をコンプリートしてる事に変わりはねぇじゃねぇか!俺だって会長の手料理を食べた事なんか・・・一応・・・沢山あるけど・・・」

 

どんどんと語尾が小さくなっていき無意識にか腹を擦るサジ・・・ああ、料理下手なのね

 

会長LOVEを前面に押し出してるサジがこの反応って事は相当だな

 

そしてそうか。それをお前は沢山食べる機会が有ったんだな

 

無言でサジの肩を慰めるように叩きつつも生徒会室に辿り着いた

 

この時間帯は基本生徒会室に人は居ないとの事だったのだが、俺達が中に入るとそこには先客が居た。黒髪切れ目のクールキャラ。我らが生徒会長様と副会長様だ

 

「会長に副会長!いらしてたんですね」

 

「ええ、先日のはぐれ魔法使いの襲撃によってこの学園及びこの町の警備網の見直しと強化をしなければなりませんからね。今、その辺りの報告書が上がってきていたので此処でお昼を摂った後で目を通すつもりでした。教室でその手の物を見る訳にはいきませんからね。サジは有間君と一緒に昼食ですか?貴方たち二人だけとは珍しい組み合わせですね」

 

確かに基本教室は別だしオカルト研究部も生徒会メンバーも放課後は校舎に残ってるから態々お昼に一緒になるのはそこまで多くないし、その時はイッセーや木場も誘うからな

 

「ええ、さっき購買で偶然一緒に並びまして、折角なので有間を近場の此処に誘ったんですけど、お邪魔でしたか?」

 

「そんな事はありませんよ。雑談程度で気が紛れたりしませんし、態々来てくれたお客さんを追い出したりもしません。一緒にお昼をいただきましょうか」

 

ソーナ会長に「歓迎しますよ。有間君」とお許しも出たので生徒会室の卓を一緒に囲む事になった

 

食べ始めて少しするとソーナ会長が声を掛けてきた

 

「有間君は私の夢はご存知でしたでしょうか?」

 

「ええ、前にイッセーに聞いた事があります。冥界に子供たちが身分の差なく勉強できるレーティングゲームの学校を建てる事だと聞きました」

 

「その通りです。今の冥界で学校に通えるのは基本的に上級悪魔の貴族だけとなっています。一般の悪魔の教育も親任せなところが大きいですし、塾のようなものは一応在りますが戦闘訓練などを教える場所はありません―――この前、アガレス眷属とのゲームをした後で彼らを率いるシーグヴァイラと交友を深めましてね。魔王であるお姉様の妹の私がシトリー領などに学校を建てようとするとお姉様の政治に悪い影響が出てしまうので場所の選定に苦慮していたのですが、彼女がアガレス領の一角を提供してくれたのです」

 

平民の悪魔の為の学校を見下して嫌悪してる上役の上級悪魔がクソみたいなクレームをセラフォルーさんにネチネチと言いまくる訳かな?

 

悪魔の上役とかの話を聞くたびに思う事だけど合理性の欠片もないただの自己中集団だよな

 

というか『悪魔は合理的』って云うけど鍛える事とかしないで眷属のトレードやこの前の冥界騒動で沢山出たという強引に眷属にされた転生悪魔とかの話を聞いてると『合理的』じゃなくて『短慮』もしくは『目先の利益しか見えてない』って感じがしてならない

 

そういう奴らはリアス部長やソーナ会長の爪の垢を煎じて飲めば良いのに

 

「その学校ではレーティングゲームに役立つ様々な事を教えていくつもりです。中には悪魔であっても魔力の扱いが苦手なサイラオーグのような悪魔も居ますが強さと才能は魔力だけで測れるものではありませんからね。魔力が苦手でも魔法ならば得意だったり、サイラオーグのように体術を鍛えても良いです―――私は出来るだけ様々な可能性に子供たちを触れさせたいと考えています」

 

「それは、俺に仙術の講師役をして欲しいという事ですか?」

 

此処でその学校の話を振るって事はそういう事かな?

 

「・・・それについて正直迷っているので有間君の意見を聞かせて欲しいのです」

 

迷っている?

 

「仙術は希少であり強力な能力です。勿論才能の有無は有るでしょうが、基本的には多様な種族が努力すれば身に付ける事が出来る力です。ですが半面、リスクも在りますよね?世界の邪気を取り込んでしまうという点です―――この前の有間君の状態は例外だとしても子供に教えるには向いていないのではないかという点を仙術使いの視点からの意見を聴けたらと思いまして」

 

そうだよな。一歩間違えれば大惨事に為り兼ねない仙術は慎重にならざるをえないだろう

 

「そうですね。少なくとも現状では仙術を学校のように広く門戸を開くのは難しいと言えます。幼い子供であれば仙術の基礎が出来たらそれこそ好奇心から邪気を取り込む子も出てくるでしょう。それを防ぐ為にも監督出来る・・・いざという時に邪気を初期段階で体から叩き出せる仙術使いが居れば良いですけど、多くの子供たちの気配を同時に繊細に感じ取るのは出来なくはないですけど厳しいです。それにそもそも学校の授業の時間だけ仙術を教わっても基礎の世界の気を感じ取るところまで辿り着けません。それこそ仙術を身に付けようとするなら最初は毎日出来るだけ瞑想をする必要がありますけど、自宅で頑張って修行を続ける子が居たとしてもその子の傍に居られないんじゃ結局危険ですからね。仙術の習得に関しては先生と生徒の関係では補いきれない処が多々在ると思います」

 

俺は最初は一人だったけど精神的にはある程度成熟してたから何とかなったようなもんだしな

 

「やはり難しいですか・・・仙術に関しては私生活まで共に過ごして指導する師弟のような関係を結ばなければいけないのですね。仙術使いの講師が一人、五人まで弟子をみられると仮定して共に暮らすという問題を無視したとしても仙術の講師が建てる学校一つに数十人は必要になると・・・流石に現実的ではありませんね」

 

そこまで仙術使いが居るなら希少でも何でもないですからね

 

「それに仙術は最初の修行が兎に角地味です。やる気の有る子供でも―――1に瞑想、2に瞑想、3、4に瞑想、5に瞑想何て言われたらどれだけ付いて来れるかも分かりません。俺の場合は独学だったので参考になるかは微妙ですが気の流れを感じ取れるようになるのに1年掛かりました」

 

黒歌や白音、九重のように種族特性として最初から仙術に高い適正を持ってるなら兎も角ね・・・ああ、でもよくよく考えたら俺も【一刀修羅】瞑想なんて普通じゃない手段を用いていた訳だからそれ無しだったら瞑想だけで更に数年は必要だったかもしれん

 

しかし、否定ばかりしていても心苦しいな

 

仙術は今は良い案は浮かばないけど別の事なら提案してみるか

 

「ソーナ会長。子供たちに色んな戦闘で役立つ技術を教えたいんですよね?」

 

「ええ、その通りです。現状ではやはり仙術は厳しいと改めて思いましたが、それが?」

 

「ええ、実はですね・・・」

 

俺からの説明を聞いたソーナ会長は難しい顔で考え込む

 

「成程、秘密裡にという形にはなりますが一度接触してみる価値は有るかも知れませんね。有間君。素晴らしい意見を頂きました。アザゼル教諭が戻ってきたら相談してみましょう」

 

結構乗り気な反応を得られたと思ったらサジに小声でツッコまれた

 

「(おい有間!何て提案してんだよ!会長が妙に上機嫌になっちまったじゃねぇか!)」

 

「(いや~、俺も半分は冗談だったんだけど、真面目に考えたら悪くは無いと思わね?『好きこそものの上手なれ』とも云うし、冥界の子供たちも興味を持って楽しめると思うしさ)」

 

「(いや、そうかも知れないけどよぉ!)」

 

まぁ何にせよソーナ会長の相談には乗れたから良しとしよう

 

その後冥界が如何なっても俺にはあずかり知らない事だしな!

 

そうして全員が昼食を食べ終わり、俺とサジが五月蠅くならない程度に雑談したりソーナ会長たちが資料に目を通したりし始めて少し経ったところで生徒会室の一角に転移陣が現れた

 

「なっ!?あの紋章は!?」

 

それを見たサジが驚きながら立ち上がり、ソーナ会長たちが頭が痛そうにしている中、黒髪ツインテールな魔王少女さまが現れた

 

サジは素早くソーナ会長の後ろの眷属ポジションに椿姫先輩と一緒に着く

 

「やっほー☆ソーナちゃぁぁぁん♪お姉ちゃんが遊びに・・・じゃなくて視察に来たわよ♪」

 

ある意味ここまで公私混同して仕事するのも凄い事ではないだろうか?まぁ公私混同と云ってもダメな方向に向かってる訳でもないから問題無しか・・・ソーナ会長のストレス以外

 

「お姉様・・・いえ、魔王レヴィアタン様。本日こちらに来られるという予定は伺っていなかったのですが、情報の行き違いでしょうか?」

 

仮にも視察に来たという魔王相手の為か努めて冷静な仮面を被って一悪魔として対応するソーナ会長だけど僅かに目尻の辺りが痙攣してますよ

 

「こっちに来るのはさっき決めたの☆だってぇ、上役のおじさま達ってば先日現れたっていうグレイフィアちゃんの弟の事ばっかり『あ~でもない。こ~でもない』って一向に会議が進まないんだもん。それなら重要拠点の防衛力の再確認を兼ねて遊びに来たんだぞ☆」

 

この人、ついに遊びに来た事を隠さなくなったな!いや、仕事はちゃんとやる人なんだろうけど

 

「全くお姉様は何時まで経っても子供っぽいところが抜けないのですから・・・」

 

さっきは『レヴィアタン様』何て呼んでいたソーナ会長も最後の遊びに来たのセリフのせいかお姉様呼びに戻っている・・・多分大体何時もこんな感じの流れなんだろうな

 

「それで今回はソーナちゃんの新しい眷属だったりアザゼルちゃんのところの人工神器をどれだけ扱えているようになっているのかを視たいのよ♪」

 

成程、シトリー眷属は神の子を見張る者(グリゴリ)で造られた人工神器に夏休みの時から手を出しているけど人工神器自体がまだまだ改良も調整もしていってる未完成品だから成長の度合いを推し量りにくいところが在るみたいだからな

 

「それでね♪出来れば皆が戦ってるところが見たいから、そうねぇ―――そこに居る有間君にも協力をお願いしても良い?」

 

「ぐぶふっ!?」

 

我関せずとイ〇モン茶ならぬ家康茶をしばいていた時に急に話題を振られた為にボトルの中身を吹き出しかけてしまった

 

「お姉様!いきなりで有間君が驚いているではありませんか!それにいきなり眷属の力が見たいなどと言われても困ります!此方にも調整というものが有るのですから、それは魔王のお仕事をなさっているお姉様の方がよく判っておいででしょう?」

 

「い~や~!私ソーたんの子たちの新しい力が見たいの~!」

 

諭されるような事を言われたセラフォルーさんは大きな瞳に涙を溜めてそのまま生徒会室の床をゴロゴロと転がり始める

 

汚・・・くはないか。ソーナ会長の根城なら掃除も行き届いてるだろう―――人(悪魔)として如何かとは思うが

 

「駄々を捏ねないで下さいお姉様!全く、皆揃って甘やかすから身内相手なら我が儘さえ言えば何とかなると思ってるのですから」

 

そこで椿姫先輩がソーナ会長に耳打ちする

 

「(会長・・・セラフォルー様はこうなると長いかと)」

 

「(分かっています、椿姫。結局願いを叶えてさっさと帰って貰うのが一番被害の少ない最適解なのだという事くらい、ただ)・・・お姉様、眷属の模擬戦でしたら見て行って構いませんが有間君は悪魔陣営の人間ではありません。公務の中で気軽に頼み事をしないで下さい」

 

「むぅぅ、ソーナちゃんったら御堅いんだから。でも、彼の力を見てみたいって云うのも有るのよ?何でも傍目には凄く危険な力って報告書にもあったから一度自分の目で確かめたかったしぃ」

 

どんな書かれ方をしたんだ俺の能力は(ヒント:この世全ての悪)

 

「え~っと、ソーナ会長。俺は構いませんよ?仕事というだけあってセラフォルー様の行動も理には適ってる訳ですし、合同の模擬戦というのも面白そうではありますので」

 

俺が前向きな姿勢を見せると魔王少女様は我が意を得たりとばかりにソーナ会長に迫る

 

「ほらほらソーナちゃん♪本人の許可も取ったんだから良いでしょう?」

 

「あ、有間君までお姉様を甘やかすのですか・・・しかし、有難いのも事実です。朱乃には私から断っておくので放課後に生徒会室まで来ていただけますか?」

 

「分かりました。放課後にまた来ますね。それでは俺はこれで一度失礼します」

 

このままこの空間に留まっても余り良い事は起きそうにないのでさっさと退室するに限る!

 

そうして俺はサジの『逃げんな!』という視線には気付かないフリをして教室に戻ったのだった

 

 

 

 

放課後、生徒会室に集まったシトリー眷属+俺+セラフォルーさんは転移陣でソーナ会長の家の地下に在るというレーティングゲーム用のトレーニングルームに来ていた

 

コレは俺やイッセーの家の地下のトレーニングルームと同じ仕様で造られているらしいがソーナ会長はこの部屋を実費で支払ったらしい・・・一体幾ら掛かるんだ?

 

因みにコレから模擬戦という事なので皆既にジャージに着替えている

 

「はいは~い、みんな♪今日は眷属の新しい力を私に見せてね☆」

 

いきなりの魔王の訪問で生徒会メンバーが緊張しているかと云えばそこまででもないのを見れば割とプライベートでも突撃訪問は有ったんだと察せられるな

 

「それで今日は特別ゲストとして悪の大幹部、邪人オール・エヴィルこと有間一輝君にも来て貰いました♪それではオール・エヴィルとして何か一言!」

 

無茶ぶり!?打ち合わせゼロで台本無しのネタ振りとかお笑い芸人でもキツイんじゃないか!?

 

考えろ!脳のリミッターを外して思考を加速し、他の知覚を遮断して脳のリソースに振り分けて時間を稼いで考えるんだ!(こんらん)

 

数瞬瞑目した俺は一歩前へ出て両腕を前で組み、高慢を顔に張り付けて渾身のガイナ立ちで生徒会メンバーに高笑いを飛ばす

 

「フハハハハ!貴様らは先日俺様が冥界をあの魔獣どもから『救った』などと勘違いしてはいるまいな!冥界も、冥府も!地獄に連なる世界はこの俺様が手に入れる!それを横合いからかき乱されるなど我慢出来なかっただけだ!だから奴らに体で分からせてやったのさ!いずれ俺様が支配する世界で勝手な事は許さんとなぁ!!」

 

っふ!決まったな!(こんらん)

 

そこに鳴り響いた拍手は二つだけだった

 

「う~ん。見事な悪役っぷりだったわね☆何時かおっぱいドラゴンとのコラボは考えてはいたけど、その時はオール・エヴィルも出演決定かしら?」

 

≪コレがおっぱいドラゴンの敵役のオール・エヴィルですか。今はまだショーやアニメで見る分には小者ってイメージが強かったっすけど、何時しかこんな風にカリスマを兼ね備えたキャラに成長するって考えると『おっぱいドラゴン』のファンとして先々の展開が気になるところですぜ≫

 

セラフォルーさんと死神の格好をした少女がそれぞれの意見を述べる

 

恥ずかしっ!真面目に分析された辺りで羞恥心が湧き上がって来たわ!

 

と云うか俺も何真面目に応対してるんだよ!「いきなり無茶ぶりしないで下さい」と軽く流して良い場面だったろうに!

 

「有間君は変なところでノリが良くなるとは聞いていましたが、こういうところですか」

 

俺ってリアス部長からそんな評価を受けてたの!?

 

驚きも在る中模擬戦に入る前にソーナ会長が新しく眷属になったという二人を紹介してくれるという事でさっきの死神少女と大柄な無口系頼れるあんちゃん的な雰囲気を出してる二人が前に出た

 

「こちらは私の新しい『騎士』―――最上級死神オルクスと人間のハーフのベンニーアです」

 

≪ご紹介に与かりやした。ベンニーアと申します。元死神(グリムリッパー)ですがハーデス様のやり方に付いて行けずに悪魔に鞍替えしやした。もっとも、マスターに自分を売り込んでいる途中にハーデス様が可笑しな事になっちまいやしたが、元のハーデス様を知ってる身としては鳥肌が立つくらいに違和感しか無かったので変わらず売り込んでこの度悪魔に転生させて貰ったしだいですぜ≫

 

結構禍々しいデザインのドクロの仮面を取り外すと紫の長髪を後ろで結んだ金の瞳の少女の顔が在った。死神(グリムリッパー)らしく死神の大鎌たるデスサイズも持っているがデフォルメされたピンク色のドクロマークが装飾されている

 

まぁ、今のハーデスが違和感バリバリなのはしょうがないよね

 

そしてソーナ会長はベンニーアの隣の灰色の髪の大柄な男性の紹介に入る

 

「こちらは駒王学園大学部に在籍している新しい『戦車』として招いたルー・ガルーです。私達はルガールさんと呼んでいます。有間君も是非そう呼んで上げて下さい」

 

「ルー・ガルーだ。ルガールでいい。宜しく頼む」

 

第一印象と同じく無口系の人だな。必要最低限しか喋らないタイプか

 

「此方こそ宜しくお願いします。ルガールさん、それにベンニーアさん」

 

≪あっしの事はベンニーアで構わないですぜ?年上にさん付けされるのもむず痒いんで≫

 

「さて、ではそろそろ模擬戦に移りますか。お姉様が眷属の力を把握したいというのが趣旨なので此方からは2~3人ずつ出す形での試合形式での手合わせをお願い出来ますか?」

 

それが無難かな?最初は様子見と守備に力を回すか

 

そう思いつつ皆から少し距離を取った場所で邪気を取り込んでオーラを高めて質問する

 

「・・・『邪人モード』は如何しますか?」

 

「・・・無しでお願いします。今の有間君に触れたらそれだけでも死にかねませんので特に近接組は試合が成立しません。お姉様も有間君の力が見たいとの事ですがコレで良いですか?」

 

別に邪気を取り込む量を調整すれば良いけどそれでも今の俺には皆近寄りたくないのかちょっと遠巻きになってるのが学校のクラスのボッチポジションになったような感じがして嫌だな

 

「う~ん。確かにコレは原初クラスの悪神並みのオーラねぇ。それも魔王クラスでありながら神クラス並みに感じるって事は質だけみれば上回ってるって事かしら?中級クラスまでの悪魔なら触れただけで即死しそう。上級悪魔でも不用意に触れたら暫く入院生活ね」

 

体に薄く魔力を纏ってセラフォルーさんが近寄って観察してくるけど元は俺の操る邪気だから死んでさえいなければ取り除くのは難しくないと思うんだけどね

 

毒みたいなもんか?俺だけが一瞬で解毒出来る感じの

 

「ありがと♪もうそのオーラは仕舞ってくれて良いわよ☆」

 

十分観察し終わったみたいなので邪気を取り込むのを止めると生徒会の面々があからさまにホッとした様子を見せる。良く見ると冷や汗が頬を伝っている人も居れば無意識に片足が一歩後退して瞬時に後ろに跳べそうな人も居る

 

「改めて見ると頭が可笑しくなりそうなオーラだったぜ」

 

「うん。私あの状態の有間先輩と戦いたくない―――蹴り技が主体の私とか最高に相性悪いし」

 

「ある意味サーゼクスちゃんに近いかもね。サーゼクスちゃんも本気で戦う時は全身に滅びの魔力を纏って戦うから迂闊に触れたら削れちゃうから☆」

 

サーゼクスさんもえげつねぇ・・・しかも滅びの魔力って事は遠距離攻撃も消滅させる攻防一体の魔力の鎧って事だろ?どうやって勝つの?

 

超・超・超大規模攻撃で無理やり倒すか、もしくは消耗戦で相手の魔力を枯渇させる以外に思いつかないんだが(ただし相手は超越者)

 

「それではそろそろ始めましょうか―――私達シトリー眷属は余り有間君の戦っている姿を直接見た事は有りませんが、彼の力は紅の鎧のイッセー君や獅子の鎧を纏ったサイラオーグ・バアルと比べても互角以上です。今日は胸を借りる事としましょう」

 

「『はい!』」

 

≪今日は人工神器がメインみたい何で、あっしとルガールの旦那は見学ですぜ≫

 

成程、会長と副会長にサジ以外の生徒会メンバーが相手ね

 

「最初は翼紗(つばさ)巴柄(ともえ)、前へ」

 

出てきたのは『戦車』の由良(ゆら)翼紗(つばさ)さんと『騎士』の(めぐり)巴柄(ともえ)さんだ。翼紗さんが指ぬきグローブで巴柄さんが日本刀を装備している

 

「よろしく、有間」

 

「よろしくね~♪」

 

それぞれ軽く挨拶してきた後、ソーナ会長が手を上に上げる

 

「始め!」

 

号令と共に手を振り下ろし、同時に二人が挟み込むように迫って来る

 

俺から見て左から迫る光と闇の属性を纏った日本刀を顕現させた禁手化(バランス・ブレイク)前の左歯噛咬(タルウィ)で受け止め、右から迫る蹴りは素直に腕で受け止める

 

受け止められたのを見た二人は素早く切り返して同時だったり態とタイミングをズラしたりしながらコンビネーションで攻撃を加えてくる

 

「っく!受け流される!」

 

「ていうか有間君。なんで後ろからの攻撃を視もせずに対処出来るの!?」

 

「こっちもだ!殴るのは止められるが掴み技に移行すると弾かれてしまう!」

 

夏休みに京都で300を超える妖怪の四方八方からの攻撃に対処していればこの程度はね!

 

猛攻を仕掛けていた二人は一息つく為か一旦距離を取るのでそこに威力抑え目の狐火を放つ

 

「広がれ!我が盾よ!―――『精霊と栄光の盾(トゥインクル・イージス)』!!」

 

迫りくる狐火を前に翼紗さんが左腕に盾を出現させ、ビームシールドのような光の盾が瞬時に広がって狐火を防いだ

 

威力を絞ったと云っても上級悪魔の攻撃程度の威力は有ったんだけどあっさり止められたな

 

「アレが二人の人工神器です。巴柄が持つのは『閃光と暗黒(ブレイザー・シャイニング・オア)の龍絶刀(・ダークネス・サムライソード)』―――高出力の光と闇の属性攻撃を同時に相手にぶつけるタイプですね。そして翼紗が持っている盾は精霊と契約してその能力を盾に付与する事が出来るものですね。今はまだ火の精霊としか契約を結べていませんがこの先、もっと多様な精霊と契約を結ばせたいと考えています・・・少なくとも地水火風の四元素は揃えたいところですね」

 

閃光と暗黒(ブレイザー・シャイニング・オア)の龍絶刀(・ダークネス・サムライソード)は昔の若かりし頃のアザゼル先生が考えたものじゃなくて、つい最近制作して命名したモノだろう?アザゼル先生の中二病は今も深く彼の心の奥に根付いてるんだな・・・それと精霊と栄光の盾(トゥインクル・イージス)は契約する精霊を増やせばそれだけ多様なタイプになるという事だけど契約の対価とか考えたら無作為に沢山契約してもそれはそれで大変そうだ

 

四元素の精霊以外だとレーティングゲームで有利になるようにソーナ会長としては光の精霊と契約を結びたいだろうけど悪魔と契約を結ぶ奇特な精霊を探すところから始めないといけない訳だ

 

・・・もしも彼女がミルキー軍団の使い魔(マスコット)の水の精霊と契約していたら属性の相性なんてクソ喰らえな最強の盾が出来上がったと思うな

 

そうして盾で防がれた狐火が消え切る前にその炎を突き破って盾がフリスビーのように投げられた。成程、物理を伴った属性遠距離攻撃にも使える訳だ

 

向かってくる炎に包まれた盾を神器で弾くが普通に軌道を変えて持ち主のところに戻るんだな

 

「アレがヨーヨーみたいに投げられる翼紗ちゃんの盾なのね♪それに巴柄ちゃんの光と闇の剣もカッコイイわ。こういうオシャレなノリが今の冥界の政治には必要なのよ☆」

 

まぁ確かに中々のオサレ武器だとは思うけど、それを取り込んでいったら冥界の会議風景が酷い絵面になりそうだな

 

そう思いながら再び飛んで来た盾を今度は右歯噛咬(ザリチェ)の刃と刃の間で挟むように受け止めて床に突き刺し、左歯噛咬(タルウィ)も使って逃がさないようにしっかりと固定する

 

「熱ちちち!」

 

ついでに盾に宿る精霊の気を乱して炎の出力を抑えさせて貰った。コレで床を溶かして抜け出すという事は出来ないはずだ

 

「っく!外れない。だが無駄だ!」

 

翼紗さんは人工神器を一旦消して手元に再出現させる事で武器を取り戻した。人工神器でも結構出し入れは通常の神器と変わらないんだな

 

そのまま二人の動きを確かめるように5分ほど戦って最後に二人の額に仙術デコピンで一時的に体を麻痺させる事で決着となった

 

「あ~ん。強い~!」

 

「流石だな有間。今回改めて思ったが私はキミの強さには敬意を表するよ」

 

「いや、敬意って言われても・・・」

 

「謙遜するな。私は人間だった頃、自然と魔物の類を寄せ付ける体質でね。最初は肉弾戦のみで戦っていたんだが強い相手には結局逃げの一手しか打てずに対抗する力を身に付けるという意味も在って悪魔に転生したんだ・・・人間のままでは限界が有ると思ってね。だからこそ、人間でありながら最高クラスに強い有間には畏敬の念を覚えるよ」

 

おおぅ・・・此処までべた褒めされたのは初めてかも知れないな

 

と云うか魔物に襲われる体質とはまた難儀な

 

「それで、私達の戦いは有間から見てどうだったかな?」

 

「そうだな・・・翼紗さんは結構体術はしっかりしてたな。気になった処で云えば最初に俺の狐火を防いだ時に広範囲に光の盾を広げただろ?アレを近接戦でも取り入れたら良いとは思ったな」

 

「ふむ?」

 

「例えば盾の側面を相手に向けて盾を広げれば一種のシールドバッシュになるだろうし、相手の移動先を結界で封じて逃げにくくした処で巴柄さんが一撃加えるとかって感じかな。折角伸び縮みする武器ならもっと間合いの変化を上手く活用できると思う」

 

「そうか、属性を付与した盾は攻撃で広がる盾は防御だと割り切っていたが頭が固かったようだな。有難う、早速これからの特訓のメニューに加えてみるよ」

 

一通り所感を述べると今度は巴柄さんが手を挙げてきた

 

「はいは~い!じゃあ私は?」

 

「巴柄さんは・・・閃光と暗黒(ブレイザー・シャイニング・オア)の龍絶刀(・ダークネス・サムライソード)だっけか?それに頼り過ぎかな?」

 

「も、もう!その名前は恥ずかしいから言わないで!」

 

ほうほう!恥ずかしいとな?

 

閃光と暗黒(ブレイザー・シャイニング・オア)の龍絶刀(・ダークネス・サムライソード)の破壊力が凄いのは分かるんだけど、だからこそ閃光と暗黒(ブレイザー・シャイニング・オア)の龍絶刀(・ダークネス・サムライソード)を何とか当てようって気持ちが先行しちゃってる感じだ。折角手数が本命とも云える『騎士』何だから閃光と暗黒(ブレイザー・シャイニング・オア)の龍絶刀(・ダークネス・サムライソード)の斬撃だけでなく蹴り技とかも組み込めば閃光と暗黒(ブレイザー・シャイニング・オア)の龍絶刀(・ダークネス・サムライソード)を当てやすくなるんじゃないかな?」

 

「・・・有間君。態とやってるでしょう?」

 

はて?何の事やら

 

「反省はその辺りでそろそろ次に移りますよ。今度は三人です―――桃、憐耶、留流子」

 

呼ばれた三人が交代で前に出る

 

『僧侶』の花戒(はなかい)(もも)さんに同じく『僧侶』の草下(くさか)憐耶(れや)さん、最後に『兵士』の仁村(にむら)留流子(るるこ)さんだ

 

試合が始まるとまず最初に仁村さんの足が脚甲に覆われる

 

「アレが留流子の人工神器、『玉兎と嫦娥(プロセラルム・ファントム)』です。見ての通り、蹴り技主体の神器ですね」

 

説明と同時に瞬時に後ろに回り込んで来た仁村さんが放つ後頭部狙いの蹴りを体を90度回転させて腕で防ぐ

 

“ズドンッ!!”

 

おお!脚甲からオーラを噴出させる事で蹴りの威力を底上げしてるのか

 

闘気を全身に回した状態での防御だとかなり衝撃が来るな。連撃で同じ個所に中てられたら痣くらいは出来そうだ

 

それにしても脚甲タイプでオーラの噴出・・・どこぞの最速のアニキを思い出すな

 

ス〇ライド的な意味で

 

彼女は攻撃を防がれたと見るや即座に反対側の足のブーストを吹かして上半身を捻りつつもう一度後頭部を狙って来たので今度は屈んでその攻撃を回避する

 

二撃目を放った時に上半身が下を向いた彼女は地面に手を着いてバク転するように立ち上がって再び高速で最初の立ち位置に戻った

 

「ルルちゃん速~い!『騎士』寄りの『兵士』はゲームでも変則ルールに合わせやすいのよね♪これからのルルちゃんのゲームでの活躍に期待が持てちゃうかも☆」

 

なら、最初の二人にもやったように狐火の広範囲攻撃にはどう対処するのかな?そう思って掌から青白い炎を繰り出すがそれは三人を包み込む半球状の青い結界に阻まれた

 

「守備は任せなさい」

 

結界を張ったのは花戒さんだな。さっきまでは無かった腕輪を装着している

 

「桃の人工神器は『刹那の絶縁(アブローズ・ウォール)』―――効果範囲内であれば瞬時に結界を張れる代物です。そして憐耶の持つ人工神器は複数の仮面を飛ばして操る事で遠くの状況を確認できる偵察型の神器『怪人達の仮面舞踏会(スカウティング・ペルソナ)』・・・流石に今回の模擬戦では使いどころが難しいですが」

 

ソーナ会長の紹介が有ったからか草下さんが周囲に少し不気味なデザインの仮面群を出してそれをこっちに飛ばしてぶつけてくる

 

見た目からして攻撃力が無さそうだったのでそのまま受けてみたけど、案の定というべきか“ベシベシ ぺちぺち”と体に当たるだけで攻撃力は皆無だった

 

棒立ち状態の俺に浮遊する仮面が全身に”ぺちぺち”と当たるだけとか傍目にはシュールだわ

 

「私、攻撃とかはあんまり得意じゃないから直接戦闘だとこれ位しか出来ないのよ。桃や翼紗が居る時は結界とか私が張る意味殆ど無くなっちゃうし。だからせめてこれ位はしようかなって」

 

まぁ確かにこんなのが周りを飛んでたらウザいとは思うけどさ

 

「ん~。でも草下さんの神器でその使い方だけってのは勿体なくはないですか?攻撃魔力なり魔法なりが苦手だとしても罠魔法(魔力)の応用で次元収納を仮面に付与して任意発動させれば爆弾なり毒薬の散布なり間接的に攻撃力は確保できると思いますよ?―――そうですね。花戒さんの結界って味方だけじゃなく相手も結界で包めます?」

 

「ええ、出来るわよ」

 

「なら仮面の一つを飛ばして相手と仮面を結界に閉じ込めて毒の煙幕を張ればフレンドリーファイアも最小限に抑えられる中々のコンビ技になりませんか?」

 

次元収納に潜ませるアイテムは買っても良いし、なんならこれから草下さんが錬金術とかを習って自前で用意しても良いだろうしね

 

「成程、これが有間君ですか・・・初見の能力であってもこうも容易く相手を潰す為の戦術を考え付くとは恐れ入りますね」

 

≪『オール・エヴィル』のキャラはなるべくして為ったって感じますぜ≫

 

椿姫先輩とベンニーアにコレは褒められた・・・と、取って良いのか?

 

「しかし憐耶の能力にそんな使い道が有ったとは・・・それならば何も直接的な爆弾などでなくとも捕縛陣や地雷などのトラップアイテムを各所に配置する事すら可能ですね。広域戦闘では諜報能力はそれだけで有用でしたが、今の案を組み合わせればフィールドの支配権すらもある程度コントロールが可能です」

 

眼鏡を光らせながら口元に薄く笑みを浮かべて様々な戦略(タクティクス)を組み立てているであろうソーナ会長・・・シトリー眷属が少しくらい強化されたかも知れないけど別に良いよね

 

「模擬戦は・・・どうなったんだ?」

 

「『あっ!』」

 

ルガールさんの言葉に皆の意識が引き戻る・・・そう云えば模擬戦真っ最中でしたね

 

「すみません。能力の考察が思いのほか楽しくて・・・」

 

「いえ、私も有間君の意見は大変興味深かったですから・・・では再開してください」

 

結局その後草下さんの案は下準備が必要な為実質仁村さんと花戒さんを相手取り、俺の攻撃から仁村さんを守ろうとした結界を闘気を集中させて貫通力を上げたパンチで突き破って結界内の二村さんの気を乱したところで残り二人も降参して終了となった

 

「・・・結界の強度には自信が有ったのですが、普通に突き破られてしまいましたね」

 

「オーラを集中させた一点突破は俺の得意技なので」

 

「はいは~い!有間先輩!私だけ今のところ何も言及されてないんですけど、もしかして私って完璧だったりしますか!」

 

元気よく手を挙げる仁村さんはその自信は何処から来るんだ?

 

「仁村さんは引き上がった脚力、特にブースト吹かした蹴りに体が流されちゃってるからもっと体幹を鍛えたら動作のキレ、速度、パワーが増すかな」

 

取り敢えずバッサリダメ出ししたら隣に居た花戒さんに「調子に乗るんじゃありません」と軽く頭を叩かれてたな

 

「うぅ、チョーシこいてすみません。後、有間先輩も私の事は呼び捨てで良いですよ。ベンニーアちゃんと同じで先輩に『さん』付けされると逆に委縮しちゃいそうなので」

 

「了解」

 

それからはソーナ会長が新人の二人に今の模擬戦の感想を聞いたりセラフォルーさんがベンニーアに抱き着いて話しかけている

 

「ベンちゃんはおっぱいドラゴンのファンなの!?マジカル☆レヴィアたんは見ないのかしら?」

 

≪あっしは生粋の乳龍帝のファンでっせ。レヴィアたんも悪くはないんですがね。元となったミルキーの方が好きなのでやり切れない部分もありますぜ≫

 

「ベンちゃんはミルキーも見るのね♪どのシリーズが好きなの?私は全部☆」

 

≪あっしは初代信者ですぜ。でも3作目のミルキーも味が有って良かったと感じてやす≫

 

・・・うん。十割趣味の話だったな

 

「さて、今日の有間君との模擬戦で色々見えてきたものも有ると思います。この後は何時も通り、反省会に移りますよ」

 

『はい!』

 

流石に反省会にまで付き合う必要はないとの事でソーナ会長に代表としてお礼を言われてシトリー眷属との交流会は幕を閉じたのだった



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第二話 デートと、水族館です!

あま~い!

後半はブラックコーヒーをご用意下さい


魔法使いの襲撃と生徒会メンバーとの模擬戦から数日経った日曜日。リアス部長達がルーマニアの吸血鬼の領地に向かってから一週間程経とうとしている

 

とはいえ、面倒くさいルートでの移動なのでそれだけで数日使っているみたいだけどな

 

そして今日はと言えばイッセーの家の地下に在るプールを温水仕様にしてオカ研メンバーと生徒会メンバーが集まっていた

 

「最近は皆さん魔法使いの選考書類と睨み合うばかりで息が詰まるでしょうから少しだけリフレッシュを兼ねて本日はイッセー君の家のプールを貸して頂く運びになりました。遊びに来たと言っても節度を守るよう心掛けなさい」

 

「『はい!』」

 

そんな訳でソーナ会長が言うように連日書類と睨めっこしている皆が集まっているのだ

 

水着姿で泳ぐ気満々だったり、水着の上に上着やシャツを羽織って少なくとも最初は雑談しようというグループに分かれているな

 

名目上では書類選考の息抜きとソーナ会長は言っていたけど多分それだけじゃなくて先日の魔法使い襲撃で表の学園が襲われてから皆がピリピリした空気を漂わせていたからその緊張を解す意味合いが強いんじゃないかと思う

 

こういった交流会を態々リアス部長と祐斗の居ない今やるのは多分そういう事だろう

 

「うっひょぉぉぉ!オカルト研究部だけでなく、生徒会メンバーの水着姿も同時に拝めるとかなかなかにレア度の高い光景だぜ!基本美少女しか居ないとか最高かよ!」

 

「会長の・・・会長の水着姿とか初めて見た!これで俺は後5年は戦える!!」

 

サジの安すぎる発言にちょっと涙が溢れそうになったぞ。普段どれだけ報われてないんだよ

 

するとアーシアさんが思いついたように手を叩いた

 

「あ!それでしたらこの機会に私も皆さんに紹介したい方が居るんです」

 

そう言うと俺達の居る場所から少し離れた所に大きな黄金に輝く龍門(ドラゴン・ゲート)を展開し、アーシアさんは力強い呪文を唱える

 

「―――我が呼び声に応えたまえ、黄金の龍よ。地を這い、我が褒美を受けよ!お出で下さい!黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)!ファーブニルさん!!」

 

呪文が終わると同時に光が弾け、そこに現れたのは黄金の鱗を纏った翼の無い四足歩行タイプのドラゴンだった。大きさは大体タンニーンさんと同じくらいだな

 

出てきたファーブニルは俺達と周囲を一瞥すると危険は無いと判断したのか頭を下げて腹ばいになり、リラックスモードへと移行する。ただし、視線はスク水姿のアーシアさんを捉えて離さない

 

「五大龍王の一角、ファーブニルですか・・・まさかアルジェントさんの使い魔になっているとは思いませんでしたね」

 

「そ、そうだよアーシア!ファーブニルって確かアザゼル先生と契約して人工神器に宿ってたドラゴンのはずだろう!?何時の間にアーシアと契約してたんだ!?」

 

思わず詰め寄るイッセーにアーシアさんが経緯を話していく

 

「はい、それが契約を結んだのは本当についこの間の事でして・・・皆さんに紹介するにしても何度か私自身がファーブニルさんとコミュニケーションを取った後の方が良いとも言われたので今回、お呼びする事になりました。あっ、リアスお姉様と朱乃さんにロスヴァイセさんは契約に立ち会って頂いたのでこの事は既にご存知です」

 

成程、つまりは現状では祐斗だけがハブられてる・・・と

 

「ええ、アザゼルは先日総督を辞めたでしょう?それを機に前線に立つのを極力減らしてバックアップに力を入れるそうですわ・・・ですがそうなるとファーブニルも一緒に前線から引く事になってしまうので、それは勿体ないとアーシアちゃんが新たな契約主になったんですの」

 

「だとしても龍王と契約を結べるとは破格ですね。ですが契約の対価は如何してるのです?ファーブニルと云えばドラゴンの中でも特に財宝に執着する者として有名です―――要求されるモノによってはグレモリーの財政すらも圧迫しかねないでしょう?このように気軽に呼び出してしまって良かったのですか?」

 

ソーナ会長の疑問にアーシアさんもやや動揺を見せながらも無難に答えていく

 

「そ、それは・・・ファーブニルさんは明確に何かをして欲しいと頼んだり働いて頂いたりしないで呼び出すだけなら特に対価を求められないんです」

 

『俺様、アーシアたんのお宝は労働の対価として貰いたい。その方がプレミアム感が付くから

―――アーシアたんの頼み聴く、俺様、アーシアたんのお宝貰う、これ、黄金の方程式』

 

ファーブニルが『労働とは尊い』みたいな事を語ってるけど頭に生えてる角の先端に水色の布が巻き付いていなかったら素直に関心も出来たんだろうけどな

 

「成程・・・ただ無節操に財宝を集めれば良い訳ではないのですね。ドラゴンの価値観は独特とは聞きますが所謂人間界で云うところのマニアという人種に近い拘りが有るという事でしょうか」

 

だがソーナ会長がそこまで考察したところでついにゼノヴィアがその存在に気付いてしまった

 

「なっ!?あの水色の布は何処かで見覚えが有ると思っていたが・・・アレはアーシアのお気に入りのパンツじゃないか!?」

 

ゼノヴィアの叫び声に全員の視線がそこに集中する

 

『金髪美少女シスター、アーシアたんのおパンティ、この上無いお宝。俺様、何時かアーシアたんのおパンティに埋もれられるくらいにコレクションしたい』

 

「『なぁにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?』」

 

ファーブニルの変態発言に全員の驚愕の声が重なる

 

「はうぅぅ!やっぱり見つかってしまいましたぁ!」

 

アーシアさんも羞恥心から顔を覆ってしまった・・・何食わぬ顔でシレッとしていれば気付かれないという淡い期待も有ったのだろうが、実はさっきから目線がチラチラとパンツに向いていたからその内誰かが気づいていたとは思うな

 

「待て待て待て!そりゃアーシアのパンツがお宝だってのは否定しないけど、まさか契約の対価ってパンツの事だったのか!?パンツで契約を結べる龍王ってどんなだよ!?まさかアザゼル先生も対価にパンツを支払っていたなんて事はねぇよなぁ!?」

 

『金髪美少女シスターのパンツにこそ価値が有る。アザゼル、俺様には伝説のアイテムとかくれた。おパンツシスターのパンツ、その価値レジェンダリー』

 

神話にも語られるような伝説のアイテムと美少女のパンツは等価値ですか・・・一部の男性は同意しそうと思えちゃう辺り男という生物の業の深さを感じるよ

 

『ば、馬鹿な!如何したファーブニル!?昔のお前はそんな感じでは無かったはずだ!』

 

『そうだ!お前は金銀財宝以外には特に興味を示さないドラゴンだったではないか!』

 

『俺様、初めてアーシアたんを見た時、衝撃走った。そして気付いた。今まで財宝だけ集めてたのはアーシアたんに出会ってなかったから、アーシアたんのおパンティ、プライスレス。お金に変えられない価値が有る』

 

「『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』」

 

赤龍帝と黒邪の龍王の問いただす声に黄金龍君は静かでありながら他のどんな言にも揺るがないと感じさせる力強い口調で返答するのに思わず二匹も閉口してしまったようだ

 

今までパンツを集めていなかったのは財宝に匹敵ないし凌駕するだけのファーブニル好みの美少女と出会っていなかったらに他ならないだけであったという事か―――ただ節操なく集めれば良いという訳ではないと・・・本当に自分の(こだわり)を持ってるコレクターなんだな

 

『ック!何て事だ。ファーブニルのこのような姿はアルビオンには見せられん。最近は尻というワードに過敏になっているらしいからな・・・恐らくパンツはアウトだろう』

 

パンツと尻は連想ゲームなら容易に結びつくからな

 

そんなこんなでちょっとした(?)ハプニングは有れどもプールで遊んだり寛いだりという本来の目的を何とか思い出して皆で思い思いに過ごす事になった

 

ファーブニルは温水プールに浸かりつつ同じプールでビーチボールを使って何時もの教会トリオ以外にも生徒会メンバーも混じって遊んでいるアーシアさんをガン見している

 

『アーシアたんの浸かった水。俺様、このプールの水を飲みほしたいお・・・』

 

・・・ある意味イッセーより酷いオープンな変態だな

 

俺はといえば今は丸テーブルを囲う形で座っている。俺以外にはソーナ会長と朱乃先輩にレイヴェルだ。イッセーとサジはそれぞれ女の子にプールに引きずり込まれて一緒に遊んでるな

 

ギャスパー?アイツは女子枠だろ?もしくは『性別・ギャスパー』だ―――一々ツッコんでいたらキリがない

 

黒歌と白音は先ずは泳ぐ事にしたのか生徒会の翼紗さんに巴柄さんと一緒に爆速で泳いでいるな

 

≪あっしは此処でこうしているのが一番落ち着きやすぜ≫

 

おっと、この場にはもう一人、ベンニーアが水着こそ着なかったもののマントは外してテーブルの下で寛いでいる

 

ルガールさんは少し離れた場所で倒したデッキチェアで横になっているけどプールで遊んでいる皆を見る目が完全に保護者視線だ

 

余談だがこの温水プールだが勿論というべきかただの味気ないプールではなくジャングル風味な造りになっていて、何でも普通のプールと温水プールで仕様が違うらしい

 

今は鬱蒼としたジャングルの奥地をモチーフにしているようだが通常のプールとして水を張るとトロピカル風味になったり、波の出るプールとかなら砂浜すらも再現可能だという話だ

 

「うふふふ、この家を設計した方は様々な隠し要素を仕込むのが大好きなんですのよ。イッセー君の家では時折新しい発見がまだまだ続いているくらいですわ」

 

それはまた人によっては面倒だと感じてしまうかも知れない機能だな。まぁそういう人の場合はそもそもその人に依頼をしなきゃ良いだけなんだけどさ

 

「そう言えば有間君の家は神の子を見張る者(グリゴリ)が建てたのでしょう?この家に負けないくらいのギミック(悪ノリ)が施されているのではありませんか?」

 

「・・・ええ、まぁ、多分宇宙まで行けますね。マニュアルの緊急脱出用プログラム最終フェーズで順次下の階から切り離していき、月まで行ってから帰って来れるそうです・・・帰って来る時には一番上の六階部分しか残ってないそうですが」

 

一応マニュアルにはそう書いてあったけど嘘だよね?そう思いたい今日この頃だ

 

「それはまた・・・壮大ですね・・・」

 

話題を振ってきたソーナ会長も反応に困っている

 

普通なら冗談の類で済ませられるのだがそこに『アザゼル』ないし『神の子を見張る者(グリゴリ)』の一単語が挟まるだけで無視も楽観も出来ないモノとなってしまうのだから

 

個人的に宇宙に行ってみたいという気持ちは無い訳じゃないが、流石に自宅で宇宙旅行をするつもりもまた無いのだ

 

取り敢えず話題を変えるかな

 

「今回はリアス部長と祐斗・・・あとついでにアザゼル先生が居ないですけど何時か全員揃って騒いでみたりとかもしてみたいですよね」

 

可能なら九重も誘ったりしてな・・・今はテロの横行で中々そういうのは難しいけど禍の団(カオス・ブリゲード)の一件が全て片付いたら多少余裕は出来るだろうか?トライヘキサの事は何とかしたいけどそれが終わったら異世界の邪神軍団が攻めてくるのが20年後だか30年後だか、そんな感じだったはずだ

 

異世界の邪神とやらも異世界の乳神の居る陣営と戦ってる割には他の世界にも手を出したりとか、ちょっとばかし好戦的過ぎやしませんかねぇ?

 

「そうですね。後でリアスには皆でこうして集まっているという事が知れたら私が計画しなくともリアスが主導してまた今回のような集まりを企画する事でしょう」

 

「確かに、リアス様はこういったイベント事には力を入れる方ですからね」

 

すると朱乃先輩が意味深で楽し気な笑みを浮かべる

 

「あらあら、うふふ♪イベントと云えばレイヴェルちゃんも昨日はイベントが有ったのでしょう?イッキ君との初デートは如何だったのかしら?」

 

「なぁ!?」

 

突然話題を振られたレイヴェルは一気に挙動不審になって顔を紅く染めた

 

「おや?それは初耳ですね。詳しく聞かせて貰えませんか?」

 

ソーナ会長も話題に喰い付いた!やっぱり御堅いイメージが有っても恋バナとかは女子は好きな人が多いんだな・・・よし!

 

「あ~、俺もそろそろ泳いできますね」

 

そう言って立ち去ろうとしたがレイヴェルに右手を、朱乃先輩に左手を掴まれてしまった。正面に座っていたソーナ会長にも「有間君?私は詳しくと言いましたので当事者たる貴方には此処から去るという選択肢は用意されていませんよ」とゲンドウポーズで圧を掛けられてしまった

 

「イッキ様。どうせ後で私は女性陣に根掘り葉掘り聞かれると思いますので、こんな時くらい一緒にいて下さいまし」

 

「うふふ♪女の子一人を戦場に残すような真似をしてはいけませんわよ」

 

戦場ですか!この場は既に戦場と化していたんですか!?

 

そうして俺達は昨日のデートについて語る事になったのだった・・・コレなんて羞恥プレイ?

 

 

 

 

 

 

 

 

~デート回想~

 

 

魔法使いの襲撃の後すぐ、生徒会メンバーと模擬戦する前の時間に俺はレイヴェルに一つの提案をしていたのだ

 

学校や部活も終わり、家で寛いでいる時にレイヴェルに語り掛けていた

 

「レイヴェル。次の週末だけど何か予定有る?」

 

「予定ですか?今の所は特にこれと云って決めている訳ではありませんが」

 

「なら、一緒に何処か行こうか」

 

首を傾げるレイヴェルにその提案を口にすると後輩二人は目に見えて狼狽えだした

 

「な!?そ、それはもしやデ、デートのお誘いという事ですの?」

 

「そうなんですか!イッキ先輩!?」

 

詰め寄って来る二人の頭を"ポンポン"と叩いて落ち着かせて言う

 

「率直に言えばそうだな。前に白音とは遊園地でデートしたけどレイヴェルとは正式に付き合ってからデートに行った事無かっただろ?修学旅行とかサイラオーグさんとの試合に向けた集中特訓の手伝いとか冥界の危機が去ったと思いきや魔法使いとグレンデルの襲撃と色々忙しくてさ・・・しかも今は吸血鬼の問題も何時舞い込むか分からないときたもんだ。でも、婚約者の女の子とデートもせずにいる言い訳としたらそれは下の下だよ。だからさレイヴェル、デートに行かないか?」

 

それに襲撃してきた魔法使いたちの『工場』を見たレイヴェルの気分転換にもなったら良いと思った事もあるんだけどね

 

「そ、それは大変嬉しいお誘いなのですが、それでしたら私よりも先にイッキ様の一番初めの彼女である黒歌さんとのデートを先にした方が良いのではないですか?」

 

「あ~、私はパスにゃ。私もイッキと一緒にデートには一度行ってみたいけど今作成してる魔法が後は仕上げだけでね。先にそっちを終わらせないとモヤモヤしちゃうにゃ。だ・か・ら♪ちゃんと二人で楽しんでくるのにゃ♪」

 

実は黒歌にもデートの話は既にしたのだがそういう理由で断られたのだ。黒歌の部屋に行った時は作成中の魔法陣を展開してたのだがアジュカさんが絶霧(ディメンション・ロスト)の結界を抜ける時に展開していた時のような超絶複雑怪奇な魔法陣だったのでチラ見程度ではまるで内容が解読出来なかったのだ・・・まぁ俺は魔法は専門外なんだけどさ

 

黒歌程の使い手がそれ程手間を掛ける魔法がどんなモノなのか一応直接聞いてみたけどその時は「秘密にゃ♪ただ完成した時には私がイッキとのデートを後回しにするだけの価値の有る魔法だって理解して貰えるはずにゃ♪」と自信満々の様子だったのでよっぽど凄い大魔法を組んでいるのだろう・・・ロキやタナトスのような神クラスとの戦いで決定打を打てなかった黒歌だから神すらぶっ飛ばせるような攻撃魔法とか?何だかんだ言っても猫魈(ねこしょう)は戦闘種族というだけあって黒歌も好戦的な面が強いからな

 

「そういう事でしたら是非ともご一緒させて下さいな」

 

レイヴェルが背景に華が咲くような笑顔を見せてくれるからこの反応を見るに誘って正解だったようだな―――白音も「そういう事なら」と納得してくれたみたいだし、今度黒歌とデートに行けたならその次は全員で旅行とかにも行けたなら良いんだけど・・・九重は如何だろう?レイヴェルはまだ目に見える形での実績を残してる訳じゃないけど俺と黒歌に白音が一緒なら遠出の許可も下りるかな?その時になったら八坂さんにも相談してみるか

 

「それで、何処に行くかはもう決めてあるのかにゃ?」

 

「ああ、沖縄に行こうと思う」

 

 

 

 

 

 

 

そんなやり取りも有った中でやって来た沖縄県!いや~、転移が有ると日本最南端(沖ノ鳥島とかは除外)にも気楽に来れるって良いよね!

 

季節は既に秋だけど沖縄は普通に暖かいから半袖の上に薄手のシャツ一枚で十分過ぎるしな

 

「イッキ様、今回は何故沖縄だったのでしょうか?」

 

レイヴェルの服装は白のワンピースに白のブーツサンダル、白のツバ広ハットにワンピースや帽子に青いリボンが結んである清涼感を前面に押し出した格好だ

 

どこぞの御令嬢と言われても違和感ゼロだな・・・って侯爵令嬢だったか

 

フェニックス家は成り上がりなんて揶揄されてる事もあるみたいだけど、侯爵家なら成り上がりも何もないと思うんだけどな

 

「そうだな。まず白音とは遊園地に行ったし、全く同じっていうのも芸がないと思ったのが一つ。あとあまり考えたくないけど途中で吸血鬼関連で呼び出しがあると乗り物によっては素早く抜けるのが難しいからそれに配慮した処もあるな。秋だから紅葉を見に行く案も有ったけどレイヴェル達は一年後には修学旅行で秋の京都に行くから今回は後回しにしたというのがまた一つ。それで最後にレイヴェルの・・・と言うか冥界に無いものを考えた時に冥界には海が無いってのを思い出してね。もしかしたら海くらいは見た事あるかも知れないけど今回のメインは水族館だ」

 

「水族館ですか?確か様々なお魚を代表とした海の生物を観られるのだとか」

 

「そっ、デートの定番でもあるし、川と湖だけの冥界だとやっぱりこの手の娯楽施設は無いんじゃないかと思ってね」

 

そもそも冥界には娯楽施設は最近まで余り無かったみたいだし(サーゼクスさんがゲーセンとか色々と増やしたらしいが)魚の種類とかも人間界の海の方が勝るだろうから『人間界を知る』一助にもなると考えたのだ

 

「それほど私の事情まで含めて考えて頂けるなんて感激ですわ。確かに冥界だとそういった施設は在りませんわね。種類もそうでしょうが下級悪魔程度なら簡単に食い千切れるお魚が跋扈する湖とかも在りますし、魚の飼育も補充も実力者でなくては務まりませんわ」

 

えっ、冥界の湖恐っ!魚というか魔物じゃん!・・・冥界と考えたら別に可笑しい事は無いのかも知れんけどさ

 

そうして冥界の湖事情に戦慄しつつも控えめに見積もっても日本水族館トップ3には入るであろう『美ら海水族館』にやって来た

 

入口の所でジンベエザメのオブジェが出迎えてくれる

 

水族館の目玉としてジンベエザメってその時点で反則級だと思う・・・その分、飼育とかエサ代とか大変なんだろうし、別にジンベエザメを飼育している水族館は此処以外にも在るけどやっぱりジンベエザメと言ったらこの水族館というイメージがあるな

 

観光スポットだけあって外国人観光客もチラホラ見られるけどレイヴェルクラスの美少女だとやっぱり注目を浴びるな―――「綺麗な娘」とか「可愛い」とか「セレブ?」とか聞こえてくる

 

駒王学園のオカ研や生徒会とかと一緒に居ると感覚可笑しくなってくるけどこの反応が普通だろう

 

「どうかされまして?」

 

ジッとレイヴェルの姿を見ていたら不思議そうな顔をさせてしまったようだ

 

「ああ、いや。言い忘れたけどその恰好似合ってるぞ。綺麗且つ可愛く見える」

 

「あ、有難う御座います。イッキ様の好みに合うように私も色々考えたんですの。派手過ぎず、それでいて少し大人な感じを装飾ではなくデザインで表してみましたわ」

 

俺としてはグッジョブと言わざるを得ない采配だ。流石にファッションに関してはレイヴェルが一歩抜きん出ているな。場合によっては子供っぽくも見えそうな組み合わせなのにデザイン性でそれらの要素を打ち消している。それと俺の性癖が把握され過ぎである・・・別に良いけどさ

 

「じゃあ行こうか。レイヴェル」

 

「はい♪」

 

俺が手を繋ぐように右手を差し出すとレイヴェルは手は繋がないで腕を組むように引っ付いてきた

 

「今日のイッキ様は私だけのものですから普段以上に甘えさせて貰いますわ♪」

 

ヤバい、可愛い。満開の笑顔だ・・・黒歌たちにも言える事だけど本気で可愛いと可愛い以外の言葉が咄嗟に出てこないものだよな

 

そうして入場してから最初に在るヒトデやナマコとかの触れ合いコーナーでは指先でチョンチョンと突いたりしてヒトデの硬さやナマコのぷにぷに感を堪能して次に向かった・・・俺としては同時に感じるレイヴェルの感触に意識が持っていかれそうだった

 

やっぱり家での触れ合いとデートでの触れ合いはまた違った新鮮さがあるものだ

 

それから水族館の最初の掴みとして色鮮やかな熱帯魚のコーナーで目を楽しませて暫く進むと毒持ちの魚やクラゲ、ヒトデなどを展示してあるコーナーに差し掛かる

 

飼育が難しい為か模型だったり単品で小さめの水槽に入ってるな

 

「毒ですか。海で遊ぶ際にはそういった点が危険だという話も聞きますがフェニックスたる私なら大丈夫ですわね」

 

「大丈夫って言っても痛みは有るんだろ?遊んでる途中で刺されたりしたら一気にテンション下がると思うぞ。一番分かり易く遭遇しそうなのはクラゲとかかな?海に遊びに行く機会が在っても出来ればそういうのには近づかないようにな」

 

「分かっていますわ。そう言えばイッキ様は毒などは大丈夫なのですか?」

 

「俺は仙術で解毒の印を結ぶ必要があるな。新陳代謝を操って毒が回り難くする事は出来るけどそれは解毒とは別だからな」

 

ドラゴン系等の毒なら体内に入った時点でサマエルの恩恵で解毒されるかも知れないけど流石に試したくはない・・・と云うか水族館に来ておきながら結構物騒な話してるな

 

・・・これが戦闘職の性ってやつか

 

そんな事を思いつつ先に進むとシアタールームに辿り着く。折角来たのだからこの水族館を堪能する為にも中に入る事にした

 

音声ガイドの下ガラス越しに見るのとはまた違う臨場感のある映像を巨大画面で見ていく・・・俺やイッセーの家に置いてある平均的なテレビより僅かに大きいだけというのには決してツッコんではいけないのだ

 

シアターを出てサメの展示場を抜けたらこの水族館最大の水槽にして代名詞とも云えるジンベエザメのいるアクアルームに辿り着く

 

「わぁ!大きいですわねイッキ様!それにとっても愛嬌のある顔立ちですわ」

 

確かにのっぺりとした顔で牙も無いし、泳いでる様も非常にゆったりとしていて基本的に恐いという要素が見当たらない・・・直前のサメのコーナーでサメらしいサメを展示してあるのはギャップ要素を狙ったものじゃないかと勘ぐってしまうくらいだ

 

そこで丁度ジンベエザメについて書かれた案内板が目に付いたので読む

 

「え~と、何々?大きい方のジンベイザメで体長8.7mか―――ジンベエザメが最大で20m前後まで成長するらしいからまだ子供って事かな?」

 

「これで子供ですか・・・ですがこれ以上大きくなるとこの水槽でも少々手狭になってしまうのではないでしょうか?」

 

「多分だけどある程度の大きさに成長すると海に返してまた別にもっと小さい子供のジンベエザメを捕まえるんじゃないかな?」

 

パンフレットかどこか別の案内板とかに載ってるかな?

 

そうしてジンベエザメやマンタなどが優雅に泳ぐのをある程度見た後はその場に在る『カフェ・オーシャンブルー』で昼食を摂る

 

此処でお昼を食べるために少し遅めに入館してシアターで時間調整とかもしたのだ

 

それを踏まえてもまだ11時半くらいだが誤差の範囲だろう

 

レイヴェルと昼食を食べ、折角だから限定のモノをとジンベエザメのラテアートコーヒーに紅芋アイスをデザートにしてカフェを後にし、深海魚のコーナーを抜けて少し進むと出口に辿り着いた

 

「あら、もう出口ですのね。楽しい時間はすぐに過ぎてしまいますわ」

 

「流石にデートで水族館だけなんて言わないさ。先ずはそこの土産屋で色々買って行こうか。黒歌とか沖縄のお菓子とか買ってなかったら恨みがましい視線を向けられそうだ」

 

「ふふっ、そうですわね。黒歌さんも白音も食いしん坊ですから」

 

可笑しそうに笑うレイヴェルと『ショップ・ブルーマンタ』に入り、一通り食べられそうなのを物色したら最後にレイヴェルが見ていたフワフワしたジンベエザメのぬいぐるみ(青色とピンク色を一匹ずつ)買う事にしてお土産屋を去る

 

え?国内郵送?そこは次元収納という名の手ぶら術が有ると便利ですよ?

 

水族館を出た俺達はその後も観光スポットである今となっては沖縄以外では幻の2000円札の首里城とその周辺の観光やビオスの丘という自然植物園で亜熱帯のアマゾンっぽいイメージの川を遊覧船でゆったり進んだり水牛の牛車に乗ったりと所謂『地域限定』を中心に巡っていった

 

夕方。今は二人きりで海に沈んでいく夕陽を海岸沿いにある手ごろな岩に座って眺めている

 

仙術感知を使えばその日その日の穴場を探るのも難しくない

 

「イッキ様。今日はとても楽しかったですわ。イッキ様のお家に住むようになってから実家に居る時とはまた違う彩りを感じます。やはりお慕いしている殿方と一緒だからでしょうか?」

 

そんな事言われたら否定する言葉なんて出る訳ないだろうに

 

「やっぱりそれが恋人っていう関係なんじゃないかな?俺も今日は楽しかったけどその根底に在るのはレイヴェルと一緒に居られて嬉しかったって感情も関係してると思う」

 

「そうですわね。私もイッキ様と同じ時間を過ごせたのが、ただそれだけで嬉しいですわ

―――きっとそれがゆくゆくは家族、いえ、『夫婦』に繋がっていくのでしょうね」

 

此処で『夫婦』と来ましたか。隣に座るレイヴェルも口に出して顔が紅いのは決して夕陽による見間違いではないだろう

 

「結婚はまだ先だけど一緒に住んでいるんだから殆ど似たようなもんだとは思うけどな。それでも数年後には夫婦になる訳だし、これから先は夫婦の時間が圧倒的に長くなるんだから今は『恋人』を十分満喫しようか」

 

実質変わらないのかも知れないけど気分の問題だ。そう思っているとレイヴェルがクスクスと口に手を当てて笑い始めた

 

「うふふ♪白音が言っていましたわ。イッキ様は二人きりの時などは少し積極的になる方だと」

 

う゛!指摘されると恥ずかしいな

 

「・・・もう帰る時間ですわね。では、最後に一つおねだりをしても宜しいですか?」

 

太陽が水平線に殆ど沈んで少し冷えた風がレイヴェルの髪を揺らす中でそんな事を言われた

 

「ああ、何でもこい」

 

俺が了承するとレイヴェルは何も答えず黙って目を閉じる

 

程なくして俺とレイヴェルの影が重なった




はい、そういう訳でレイヴェルとのデートでした。黒歌とのデートと迷いましたが最初に白音とデートしたなら黒歌はトリでも良いかな?と思ったので・・・何時しか黒歌ともデートさせたいですw


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第三話  天使と、狗です!

俺とレイヴェルのデートの内容を話し終えると朱乃先輩は片手を頬に当てて楽し気な笑顔を浮かべている。逆に俺とレイヴェルは少し顔が紅くなってしまっているな

 

「あらあら、うふふ♪夕陽の落ち切る瞬間を狙った浜辺でのキスだなんてロマンチックですわ。今度イッセー君とデートする時の参考にさせて貰おうかしら?」

 

俺とレイヴェルのデート話を聞いた朱乃先輩は本当に上機嫌だ。お肌が心なしかさっきよりもツヤツヤしている感じすらしているよ

 

「ええ、それにお互いがお互いの事を分析して服装やデート先を考えた所も高評価ですね。貴族社会では血筋優先で恋愛結婚というのは難しいですがレイヴェルさんは問題なさそうで何よりです」

 

≪ラブラブってやつですか・・・あっしのパパ殿とママ殿を思い出しやすぜ≫

 

ラブラブなんて他人に言われると反応に困る・・・と云うか呼び方パパ殿とママ殿なんだ

 

「それにしてもイッキ君はイッセー君とは趣味が真逆ですわよね。イッセー君ならエッチな服装が大好きですのに―――家でそういうコスプレとかをすると大変喜んでくれますのよ」

 

それを聞いたソーナ会長は眉根を寄せて朱乃先輩に苦言を呈す

 

「朱乃、貴女は少し過激過ぎます。これはリアスにも言える事ですが学校にまで派手過ぎる下着を着て来ては風紀が乱れます。もう少し有間君達の清い交際を見習いなさい」

 

「あらあら、ソーナったらプライベートでも生徒会長なんですから―――ですがイッキ君だってイッセー君が認める程の芯(チラリスト魂)を持った殿方ですのよ。それが偶々学園の風紀と合致しただけなのではなくて?」

 

「それは・・・」

 

そこで言葉に詰まらないで!俺は学園の風紀を脅威(変態三人組)から守ってる方なんだから味方でしょう!?生徒会長として健全な一生徒を擁護して下さいよ!

 

まさかのソーナ会長に見捨てられる事態に嘆いているとこの部屋の入口から水色とんがり帽子の魔女であるルフェイと神喰狼であるフェンリル(大型犬モード)が入って来た

 

それとほぼ同時に競争していた皆も一旦休息の為かプールから上がる。翼紗さんと巴柄さんはプールサイドに腰かけて足だけ浸からせてビーチボール組に声を掛けているな

 

「皆さんお疲れ様です。先日の魔法使いの襲撃時はお役に立てず申し訳ございませんでした」

 

確かに魔法使い達が襲撃してきた時に家には既にルフェイが緊急で呼び出されたとのメッセージだけ残して居なくなっていたので参戦もバックアップもしていなかったのだが今の俺達の関係性を考えれば手を貸して貰うのもやはり難しかっただろう

 

ルフェイはテロリストたるヴァーリチームに所属しているが三大勢力重要拠点を守護しているシトリー眷属も当然ルフェイ達の情報は伝わっているようだ・・・サジが遠目に現れたフェンリルに絶賛ビビリ倒している最中だが他のメンバーはフェンリルと直接対峙した訳でも無いので反応は可もなく不可もなくって感じだな

 

「いや、大凡だけど事情は分かってるよ。こっちでは魔法使いの後でグレンデルが襲ってきて、その後白龍皇の所に行くって言ってたから少なくともグレンデルとは戦ってたんだろ?」

 

「はい。此方は最初にアジ・ダハーカが襲ってきた関係で呼び出されました」

 

「アジ・ダハーカですか。そちらもグレンデルと同じく滅んだとされる邪龍ですね。いえ、正確にはただ滅ぼすだけでは直ぐに復活しそうだったので封印に近い形で処理したそうですが」

 

「千の魔法を操りゾロアスターの善神に牙を剥いた邪悪なドラゴンですわね」

 

ゾロアスターの悪神であるアンラ・マンユが創り出したドラゴンでもあったな。だからと云って【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】を持ってる俺の言う事を聞いてくれるなんて都合の良い話は無いだろうけど

 

つーか俺のはアンリ・マユだし。関係ゼロと言っても過言じゃないくらいだ

 

「はい。ヴァーリ様を始め、私達のチーム総がかりでも倒れずに血を噴き出しながら笑って戦っていました。ですがそこにイッキさんの言ったようにグレンデルとユーグリット・ルキフグスと名乗る男の方が転移して来て、そこからはアジ・ダハーカとグレンデルがどちらが私達と戦うのかを言い争った上で私達そっちのけで殺し合いを始めたんです。余りにも場が混沌としてしまった為、私たちは一時退散する事にしました」

 

それってその二匹が気が付いた時にはヴァーリ達が居なかったって事だよな?内容が内容だけに笑えないけど一種のギャグだろうそれは

 

そう思った辺りでさっきまで泳いでいた白音と黒歌も水を滴らせながらも此方に歩いて来た

 

そしてそのまま白音は俺の膝の上に座る。白音の濡れた体が俺の体にフィットするぅぅぅ!!

 

Be cool!落ち着け俺!エロい方面に思考を回すな!白音が膝の上に座るのなんて何時もの事なんだから愛おしさの方面に意識を傾けろ!

 

「競争で勝った方がイッキ先輩の膝の上に座る事になったんです。黒歌姉様と云えどもこの場所は私の縄張りですので死守させて貰いました」

 

俺の膝の上が何時の間にか景品になっていたのか

 

「にゃはは、白音にちょっと発破を掛けたら思った以上に効果抜群だったみたいにゃ。でも折角だし私もイッキの膝の上には乗ってみたかったんだけどにゃ~。如何、白音?水着越しにイッキに後ろから抱きしめられる感想は?白音がそこを退いたら私も座るにゃ♪イッキの理性を今の内に溶かしてベッドで【一刀修羅】で寝るなんて発想が浮かばないで私達を押し倒す事しか考えられなくしてやるのにゃ♪レイヴェルも協力しなさい♬」

 

「そんな協力させようとすんな!」

 

だが俺の抗議を受け付けないで黒歌はシンプルな黒のビキニの格好で後ろから抱き着いて来る。後頭部辺りからマシュマロのような感触に包まれてしまった。超柔らかい!

 

「にゃっはははは♪そんな事言ってさっきからイッキが白音の感触を堪能して思考がエロエロ寄りになってるのなんて丸判りにゃ。必死に誤魔化そうとしているみたいだけど、それは詰まり誤魔化すべき何かが在るって事でしょう?答えは一つ!エロエロにゃ!」

 

っく!何という名推理だ!だが言わせてくれ。禁欲をほぼ強制させられてる俺がこの状況で何も感じなかったら俺は今すぐにでも仏の位に上がる事が出来ると思う

 

ダメだダメだ!白音もレイヴェルもまだ学生なんだし白音は万が一の時はガチで命の危険が在るんだから手を出してはダメだ!

 

落ち着け、平静になるんだ俺!こんな時は確かそう!素数だ。素数を数えるんだ。素数とは1と自分の数字でしか割る事の出来ない孤独な数字。俺に勇気と冷静さを与えてくれる・・・」

 

何時の間にか心の声が漏れていたようだが俺はそれに気付かずに素数を数えていた

 

「・・・黒歌さん。イッキ様を追い詰めるのも程々にして下さいまし、フラストレーションが日に日に溜まってこのままでは近いうちにイッキ様の精神が限界を迎えてしまいますわ」

 

レイヴェルが苦言を呈すと黒歌はイッキから離れた

 

「にゃはは~。ちょっちやり過ぎちゃったかもねぇ。まぁ今現在進行形でイッキに負荷を掛けているのは白音なんだけど♪」

 

「わ、私ですか!?うぅ、大切にされているのが伝わってくるからこそ、この場は離れるべきなんでしょうか?と言うか黒歌姉様はシレッと私に責任を全て押し付けないで下さい」

 

「あらあら、イッセー君のように欲望に忠実である程度発散させている訳でもないと、年頃の男子には少々刺激が強すぎるのでしょうね」

 

「こうして見ると有間君も普通の一男子高校生という感じがしますね」

 

「まっ、大丈夫にゃ。仮にイッキの精神が崩壊してもイッキなら最後の理性で白音やレイヴェルには手は出さないだろうからイッキの欲望は全部私が受け止めるからにゃ♪」

 

「「ダメです!!」」

 

暫く周囲の音は認識できなかったが意識が現実に戻ってきた後、取り敢えず黒歌やレイヴェルが続けて膝の上に乗る事は無かった―――冗談、もしくは何か心変わりでもしたのだろうか?

 

気のせいか一瞬記憶が飛んでるような感覚がするけど取り敢えず今は真面目な話題を振って黒歌が俺の妄想に刺激を与えるような事が起きないようにしよう

 

「あ~、邪龍達と一緒に居たユーグリットの事だけどグレイフィアさんはやっぱりまだ?」

 

露骨な話題逸らしだったけど幸いにも朱乃先輩は答えてくれた

 

「ええ、冥界の上役の方々はグレイフィア様が弟の死を偽っていたのではないか。それか少し前に接触されて今回の件を一緒に手引きしたのではないかなどと疑惑の目を向けている状態ですの。在り得ない事ですが今の冥界は前魔王に関する事には殊更敏感になっていますので、前魔王、特にルシファーに仕えていた6家筆頭であったルキフグスというのは彼らを刺激するのに十分なインパクト有ったようですわ。グレイフィア様は今はグレモリーの城でメイドの仕事も出来ずに軟禁状態だそうです。家に居るか審問を受けるかの二つに一つだそうでして、上役の方々の頭の固さを考えると暫くはこの状況が続きそうですわ―――グレイフィア様はコレを機にミリキャス様との時間を増やすと言っておられたようですが、最初にユーグリットの生存を聞かされたグレイフィア様は酷く狼狽していらしたみたいですのでやはり、少々無理をしているのではないかと思います」

 

死んだと思ってた弟が生きていた・・・だけなら未だしもテロリストとして再登場だからな

 

「ことは冥界の政治に絡む出来事ですからね。悔しいですが、これと云って強い発言力も持っていないデビュー前の私達では口を差し挟む隙もありません」

 

ソーナ会長がそう言って視線に影を落とす

 

うわ、もっと別の話題にしておけば良かった。一気にしんみりした空気が出来上がっちゃったよ

 

なら!

 

「口を出す事が出来ないなら手を出しましょう!」

 

「それは・・・上役の方々を暴力で黙らせるなんて事をすれば流石の私達も有間君をフォローする事が出来なくなってしまいますよ?貴方はもっと冷静な意見を出せる人だと思っていたのですが―――それとも冗談でしたか?だとしても余り面白くは無かったですね」

 

なんか超絶ボロクソに言われた!確かに言葉足らずだったとは思うけど一息にそこまで否定しなくても良くないですか!?

 

「いや、そういう意味じゃないですよ?ユーグリット・ルキフグスが禍の団(カオス・ブリゲード)に所属しているなら今回と同様にまた俺達の前に現れるでしょうからとっ捕まえましょうっていう話です。冥界のお偉いさん方も問題のユーグリットが捕まれば少しは落ち着けるんじゃないですか?」

 

正直ユーグリットを捕まえないとグレイフィアさんの状況は好転しないとも思うんだよな

 

「ああ、そういう意味ですか―――確かに我々・・・特にオカルト研究部は和平の切っ掛けとなったコカビエルの時からイベントの目白押しでしたからね」

 

アザゼル先生も高性能盗撮機を仕掛けておけば近いうちに良い画が撮れると確信するレベルですからね・・・提案したのは俺だけど

 

「イベントって言うならライザーとのレーティングゲームが始まりかも知れませんね。あれは別にテロとかとは関係ないですけどリアス部長の結婚の掛かった一大イベントでしたよ」

 

ぶっちゃけレイナーレの件は和平前の裏の世界ではよくある事で、レイナーレ自身もただの下級堕天使だったからイベントと云うにはパンチが足りてないんだよな

 

「有間君が高めた力で聖書を朗読したあの試合ですね。ゲームの映像は私と椿姫もリアルタイムで視聴していましたが酷い光景でした。ライザー氏の眷属の方々はまだ動き出していなかったので全員同じ部屋でのたうち回っていたのですから・・・」

 

ああ~、映像越しだとバイオハザードな感じになってたのか。下手したら体から煙上げてる人とか居たんじゃないか?

 

「ソーナ様はまだ良いではありませんか。その時だけはゲームの音声は切れていたのでしょう?私なんてそののたうち回っていた一人でしたのよ?」

 

「御免なさいっ!!」

 

思わず謝ってしまった。あの時はまだ敵同士だったから謝る事じゃないのかも知れんがそれでも今この瞬間は罪悪感をヒシヒシと感じるぞ

 

「もう過ぎた事ですわ。それにゲームの戦略としては何も間違ってはいないのですからそもそも気にしてなどおりませんわ」

 

レイヴェルに苦笑混じりに許されたけど取り敢えずレイヴェルの頭を撫でると「もう、イッキ様ったら」と口にしながらも満更でもなさそうだ

 

するとルフェイと一緒に隣に在ったテーブルの椅子に座っていた黒歌がふと気になったのかソーナ会長に質問する

 

「そう言えばアレって婚約とか結婚とかを賭けてゲームしてたんでしょう?なら、そっちのシトリーの次期当主様はそういう話って無いのかにゃ?魔王の妹で次期当主―――条件は似通ってるから貴族社会なら婚約者の一人くらい居るんじゃないのかにゃ?」

 

ソーナ会長はアイスティーを一口飲んでから何でもないように答えた

 

「ええ、私にも婚約者は居ました(・ ・ ・ ・)ね」

 

既に過去形である

 

「うふふ♪ソーナは婚約相手にチェスの勝負を申し込んでコテンパンに叩き伏せる事で婚約を解消させたのですわ♪自分よりも頭の弱い男を婿に取るつもりは無いと言ってね」

 

マジですか!ソーナ会長の婿になるにはチェスかそれでなくとも頭脳戦で勝たなくちゃダメなの!?難易度高くね?・・・サジ、お前ソーナ会長と付き合うなら龍王の力を鍛えるよりチェスの名手になる方が夢に近づくんじゃないのか?

 

「流石に本気言っている訳ではありません。ある程度の地頭の良さが欲しいのは確かですが、ただ単に私の婚約相手が詰まらない方だったのでプライドを刺激して勝負に持ち込んだだけです―――あの程度の安い挑発にまんまと乗せられるようではチェスでなくとも私の勝ちでしたでしょうが」

 

おお!策士タイプらしいやり方で勝利(婚約解消)をもぎ取ったんですね。策士が勝負の土俵に上がる時には既に勝敗は9割方決しているってやつですか

 

「ふいぃぃぃ、疲れたぁぁぁ。皆何を話してたんだ?」

 

雑談に興じているとイッセー達がプールから上がって歩いて来た

 

一旦休息をとる事にしたようでそれぞれがプール備え付けの冷蔵庫から冷たいジュースを手に取っている。もっともまだ遊んでいる人も居るようで仁村やイリナさんなんかはジャングル設計の木に巻き付いていた蔓を使って「アーアアー!」とターザンごっこだ

 

あの二人が一番快活だよな

 

他にはプールに浸かっているファーブニルの上にオーフィスに捕まったフェンリルが座り、その上にオーフィスが跨り、オーフィスの頭の上にアーシアさんの使い魔のラッセーが乗っかっている

 

「我、この四段合体ならグレートレッドに挑める・・・と思う」

 

それただの四段重ねだし、何一つとして纏まってないよ―――ドラゴンの間に狼挟まってるし

 

いや、実際原作の三段重ねよりは強いのかも知れないけどグレートレッドには届かんだろう

 

ラッセーとか余波だけで消し飛ぶぞ

 

「何を話してたかって言えば色々だな。面倒な事件やイベントが今までも、それと多分これからも目白押しになりそうってな・・・後は恋バナとか?今はライザーとのゲームとか婚約者のアレコレについて話してたんだよ」

 

「男が恋バナとか言うなよ」

 

しょうがないだろ。他に何て言えば良いんだよ?

 

「まぁでも確かに実戦に次ぐ実戦だよな。強くならなきゃ死んでるし―――俺としてはもっと平和に過ごしたいんだけどなぁ」

 

「ふふっ、だが代わりと言っては何だがイッセーは強くなったじゃないか。一番初めに私とイリナが出会った時のイッセーはパワーは時間を掛ければ上級悪魔並みの力が出せたとしても単独の戦闘力は精々上位の下級悪魔程度だったのが今では素で上級、総合で最上級、パワーだけなら魔王級にすら手が届くじゃないか」

 

ゼノヴィアが褒めるけど当の本人は難しい表情だ

 

「そりゃフルチャージ出来ればそうかも知れねぇけど、そんな隙を見逃してくれるような相手が基本居ないってのが痛すぎる問題何だけどな―――それでも漸くイッキに追いついて来たと思ったらまた突き放されるしよ。また連敗記録が伸びちまうじゃねぇか」

 

そう言いつつイッセーがジト目を向けて来る。もう少しで俺に模擬戦で勝利を掴めるかもと手ごたえを感じていた矢先に俺がパワーアップしたからだろう

 

「そんな目を向けるなよ。お前が俺達の中で一番成長率がヤバいんだからな?少なくとも今のイッセーなら夏休み前の俺なら倒せると思うぞ・・・俺の10年以上の努力を半年で追い縋って来てるんだから満足しろとは言わないけど卑下するような事も言うんじゃねぇよ」

 

まぁ【一刀修羅】とか込みで考えれば最悪負けはしないかも知れないけど純粋な戦闘能力だけで考えるなら正直厳しいだろう

 

ヴァーリ相手じゃとことん触れさせないで半減の能力を封殺して互角って感じだったけど、倍化にそれは関係ないからな

 

それにしても赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)は流石の恩恵を齎しているとつくづく実感できる

 

今のイッセーがオーラの最大値だけ見れば魔王級だとして、確か超越者モードのサーゼクスさんのオーラ量が前魔王の約10倍・・・封印前の二天龍の力がそれより少し上だと仮定するなら今のイッセーは赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の力の一割も引き出せてない訳だ。しかしそれは逆を言えば伸びしろが滅茶苦茶残ってるとも考えられるよな・・・末恐ろしい限りだよ

 

当然使いこなせるか如何かは別問題だけどさ

 

「分かったよ。確かに愚痴ばっか言ってたらドライグにも悪いしな。でもその内絶対に追い抜いてやるからな!」

 

イッセーが改めて強くなる決意と共に戦意を突きつけてきたがそれと同時にこのプールに追加のお客さんが入って来たようだ

 

「地下にプールだなんてとても楽しそうですね。それに丁度青春を謳歌しているみたいですし、やはり若い方は勢いが有る方が見ていて心地よいものです」

 

「グリゼルダ姐さん。今の発言は年寄り臭いっスよ?もっとヤングな感じを出して・・・って!イダダダダ!!」

 

「シスター・グリゼルダ。デュリオはシスターもまだまだ若いと言いたかったんですよ」

 

真ん中にこの地域の教会関係者を取り纏めているシスター兼転生天使のグリゼルダさんで両脇に男性が付いてきている

 

片方は金髪碧眼・・・青というよりは緑に近いかな?そんな瞳をした神父服の優男でもう片方は日本人に平均的な黒髪黒目の優男だ。ダブル優男の登場である

 

まぁデュリオと呼ばれた方は初っ端から頬っぺた引っ張られながらの登場になったが

 

突然の上司の登場にイリナさんも急いでこっちに来たし、つられて仁村さんも来たのでオーフィス達以外は全員集合だ

 

「本日は皆さんが集まっていると聞きまして、その上で此方の2人の都合も付きましたのでこれを機にご挨拶に伺わせて貰いました」

 

グリゼルダさんがそう言いながら抓っていた手を放すと頬を擦りながらも金髪の人が先に前に出て俺達に挨拶をする

 

「ど~も~。初めまして駒王学園の方々。自分、デュリオ・ジェズアルドといいまっす!以後お見知りおきを~」

 

かなり軽い挨拶だが直後にグリゼルダさんにまたもや頬を抓られてしまっていた

 

「デュリオ。貴方は天界の誇る切り札(ジョーカー)なのですからもっとちゃんと挨拶なさい」

 

「いひゃいっスよ姐さん。全く敵わないっスねぇ」

 

デュリオが再び折檻を受けた次はもう一人の男性が今度は真面な挨拶をしてくれた

 

「初めまして、幾瀬鳶雄(いくせとびお)と言います。本日はアザゼル元総督の代行という形で訪れさせて頂きました。神の子を見張る者(グリゴリ)所属で刃狗(スラッシュ・ドッグ)というチームリーダーを務めていて、主に裏方面でのサポートが仕事です。それともう一人・・・と云うか一匹も紹介しますね」

 

そう言うと彼の影から一匹の黒い狗が這い出てきた

 

「コイツは神滅具(ロンギヌス)の一つ、『黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』で独立具現型の神器なんだ。コイツの事は『(ジン)』と呼んでやって欲しい」

 

「うわ、何ていうか異質で底知れないオーラね。強いのは解るんだけどそれ以外がよく判らないわ。でも、とってもキュートな外見ね」

 

「イリナ。お前の感想はそれで良いのかよ?・・・でも確かに佇まいからして隙を感じさせないな。独立具現型って事はサイラオーグさんのレグルスに近いのかな?あっちは戦斧にも変化するし、今じゃ悪魔に転生してるっていう特大のイレギュラーだけど」

 

確かにイレギュラー性という一点を見つめたら今代のレグルスが神滅具(ロンギヌス)の中で一番かもな・・・少なくとも現在は力が不安定になって扱いにくくなってるだけというマイナス補正だけど

 

「奇しくも三大勢力の神滅具(ロンギヌス)所有者が集まりましたね―――所有者と言えるかは微妙ですがこの場にサイラオーグとネメアの獅子が居れば完璧でした」

 

「そう言えば、有間さんの神器もサマエルを取り込んだ事で14番目の神滅具(ロンギヌス)として数えるべきか如何かで協議されているそうですよ」

 

「そうなんですか!?」

 

グリゼルダさんから驚きの一言!確かにその可能性は考えていなかったな!

 

「とは云え、基本、半永久的に封印される事が前提なので態々神滅具(ロンギヌス)認定せずとも良いのではないか?という意見も強いようですが」

 

「そ・・・そうなんですか・・・」

 

サマエルが使えないならただの神器ですからね

 

例え翼が生えていようとも飛ばない豚はただの豚ですか

 

微妙に気落ちしてしまったがそんな中で鳶雄(とびお)さんが俺達の予定を聞いてきた

 

「皆さんはこの後は今日もトレーニングをする予定は有るのかな?」

 

「は、はい。毎日のトレーニングは欠かせませんから」

 

「なら、俺を模擬戦相手に如何かな?今の俺はアザゼルの代理だからね。キミたちの成長を手助けするようにも言われているんだよ。模擬戦相手が何時も同じメンバーだと悪い意味で慣れてしまうだろう?それに、俺にとってもキミたちとの模擬戦は己の力を高める事が出来そうだからね。此方としても願ったりなんだが、如何だろう?」

 

「あ!そう言えば俺もミカエル様にトレーニングの手伝いを命じられたかも。そんな訳で皆さん、俺も練習相手としてどうかな?」

 

神滅具(ロンギヌス)所有者二人の特訓の提案に皆が色めき立つ

 

「是非お願いします!こんなビッグチャンスは逃せませんよ!」

 

「ええ!私も天使パワーをもっと高めたいわ!」

 

「そうだな。自称天使はジョーカーから天使というものをもっと習った方が良い」

 

「もう!それならゼノヴィアだって刃狗(スラッシュ・ドッグ)さんにテクニックを習ったら?有間君の持つテクニックは異質過ぎて参考にならないって前に言ってたわよね?」

 

そんな事言ってたのかゼノヴィアは・・・でも確かに後の先を取る俺の戦闘スタイルと先手必勝のゼノヴィアのスタイルは噛み合わないかもな

 

そんな風に考えているとルフェイが口を挟んだ

 

「あ、それでしたら鳶雄(とびお)さんも似たようなものかと―――前にヴァーリ様に覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を使わせたのだとヴァーリ様も「何時か再戦する」と愉しそうに話してましたから」

 

それを聞いた鳶雄(とびお)さんは苦笑いだ

 

あの戦闘狂(バトルジャンキー)に狙われるのは勘弁だというのは俺やイッセーにも分かるが、多分同じ組織に所属していた事を考えれば今まで何度もヴァ―リに突っかかって来られたのだろう

 

「マジか。イッキといい、鳶雄(とびお)さんといい、曹操といい、逸脱した力を持った人間が多すぎじゃないか?」

 

「そう言われても多少逸脱した力でもないと裏の世界では生き残れないんだよ」

 

いや本当に最上級悪魔くらいで漸くスタートラインって感じだからな。ぶっちゃけ魔王級程度だとその内埋もれてしまいそうだ

 

「宜しければうちのヴリトラ使いも参加させて下さいませんか?そろそろ禁手(バランス・ブレイカー)に至らせたいと考えていましたので皆さんとの特訓は良い刺激となるはずです」

 

ソーナ会長の提案にデュリオさんは快諾する

 

「いいっスよ~。んじゃ、龍王も特訓に参加って事で」

 

「三大勢力及びその同盟相手ですが中々テロリスト相手にすぐに動ける実力者というのは多くありません。超常の存在である各勢力の実力者は永い歳時の中で相応の立場に就いている場合が殆どですから。本来、テロリストの相手をあなた方若手にして貰うのは良くない事ですが一般の兵士には手に余る実力者が相手となっているのが現状です。先日現れたというユーグリットとグレンデルだけを見てもただの兵士では束になっても敵わないでしょう」

 

軍隊規模で動員すれば飽和攻撃で何とかなるかも知れないけど、結局それはそれですぐには動かせない戦力ですからね

 

「まだ若いあなた方すらも危険な戦場に送り出さなければいけない事は情けない限りですが、各神話勢力及び人間界の為、世界の平和の為にも力を貸して下さい」

 

そう言ってグリゼルダさんは頭を下げる。確かに神々が戦いに赴いたとして特に分かり易いのは豊穣を司る神とかかな?そういった神が死んだら人間界にも大打撃だからな

 

面倒くさいけどこの世界では『命の価値は等価じゃない』っていうのが結構ダイレクトに響いてるんだよね

 

皆もそれは解っているからかグリゼルダさんに頭を上げさせて『任せて下さい』と張り切っている様子だ。もっとも「平和が一番ですけどね」とも続いているのはご愛敬だろう

 

 

 

 

 

 

[アザゼル side]

 

 

ルーマニアの吸血鬼の本拠地に来てから大分経ったな

 

俺は今、カーミラ派の昼間の城下町の喫茶店の2階にあるテラスで一人寂しく紅茶を飲んでいる・・・一人というと微妙に語弊があるな。少しだけ離れた場所に監視役の吸血鬼が視線を向けてきてやがるから一人だけの優雅なティータイムとは言い難い

 

まぁ同盟を結んでいる訳でもない他勢力の要人に監視を付ける事自体は普通なのでその点で云えば文句はないのだが今の俺が文句を付けたい事は別にある

 

と云うのも俺はこの吸血鬼の町に着いてから一度もカーミラの女王とも要人とも会談を行えていないのだ。何でも丁度お偉いさん方が集まって会議を開いているらしく、しかもそれが長引いているからだと言われたな―――ったく、無礼な特使を送っておいてその上こっちに来る事を伝えてから移動やらこの町での待機やらで何日も潰しているのに未だに会う事も出来ないとはとことん自分達を中心に世界が回っていると勘違いしている連中だぜ

 

そんなこんなで今の俺は絶賛暇人真っ最中という訳だ

 

ツェペシュ派のギャスパーの実家に向かったはずのリアスと祐斗は上手くやっているかね?ひょっとして俺みたいに未だに話すら出来ない状態だとは考えたくないもんだ

 

あ~あ~。こんな事なら駒王町であいつ等の修行でも手伝っていたいくらいだぜ

 

定期報告じゃ元々頼んでいた刃狗(スラッシュ・ドッグ)以外にも天界のジョーカーまで一緒に特訓してるらしいからな。それにイッキの奴も新しい力を手にしたって云うし、それもじっくりと観察したいぜ・・・もっとも、世界の邪気を取り込んだ『邪人モード』ってイッキの奴は本当に何処に向かって進化しようとしてるんだかな?おっぱいで進化するイッセーも相当だがイッキも同じくらい可笑しなことになってやがる

 

【神性】もまた一段と高まったらしいし『邪人』じゃなくてもう『邪神』じゃねぇのか?

 

『邪人』から『邪神』に進化か―――おっぱいドラゴンの敵役のオール・エヴィルの設定として使えるかもな。今度サーゼクスに提案してみるか

 

そんな事を考えていると突然監視役の吸血鬼がテーブルに突っ伏して眠ってしまった

 

それと同時に現れた気配を感じて俺は溜息をつく

 

「こんな所にまで何の用だ?ヴァーリ」

 

「何、見知った気配を偶然感じたものでね」

 

出てきたのはヴァーリとアーサー、それに美猴とサラマンダー・富田だ

 

相変わらずサラマンダー・富田の名前だけが異質だぜ

 

まぁこいつ等なら鎖国的な吸血鬼の町にだって潜入も出来るだろう

 

仙術と妖術の使い手である二人にアーサーだって聖王剣で空間を切り裂いて侵入も脱出も出来るだろうし、ヴァーリにしたってこいつは基本的に何でもできるタイプの天才だからな

 

北欧の魔術も覚えたらしいし便利そうな術式を幾つか持ってるのは想像に難くない

 

魔獣騒動の時も俺やサーゼクスが冥府に赴いた時はヴァーリの仲間たちが好きなだけ暴れまわってから颯爽と行方をくらましたくらいだからな

 

余り褒めるべきではないが、流石は世界中から狙われるヴァーリチームだぜ

 

「この町に来たのも目的在っての事だが先に聞きたい。邪龍の事についてだ」

 

「アジ・ダハーカは強かったか?」

 

「少なくともプルートよりはな」

 

おーおー、愉しそうな笑みを浮かべちゃってよ。隣の美猴はウンザリしてるぜ

 

「つーかヤベェよあのドラゴン。今まで戦ってきた奴らの中でもダントツでヤベェ。如意棒でぶっ叩こうがアーサーが聖剣で切り裂こうがフェンリルが噛み付こうがどんだけ攻撃を加えても笑いながら反撃して来やがる。あの様子じゃ体の大半を吹き飛ばしても終わらないかもな。そんぐらい兎に角強くてしぶとかったぜぃ」

 

「ええ、途中で現れたグレンデルもアジ・ダハーカ程ではありませんが強そうでしたね。なにより異常な戦意を放っているという点では同じでしたし、アレも相応にしぶといと見るべきでしょう」

 

「そこで聞きたい。アジ・ダハーカもグレンデルも既に滅んだ邪龍のはずだ。聖杯というのは死者の復活すらも可能とするだけの代物なのか?」

 

此奴らがこの町に来たのは聖杯について調べに来た訳だ。まぁ聖杯の噂が流れ始めたのとほぼ同時に死んだはずの邪龍と遭遇したら関連付けたくもなるよな

 

「魂の行方ってのは定義が色々ある。各神話体系の数だけは最低でも存在する程度にはな。単純に死者の魂というだけならばハーデスや日本なら閻魔大王のようなあの世を管理する神の下に行くって事になるな。他には天国や極楽のように死者の向かう場所という事も在るが消滅した魂の行く末ってのは解っていないと言ってもいい。本来ならば如何に聖杯と云えども完全に消滅した存在を復活させるなんて事は不可能に近いはずだ」

 

「・・・邪龍は別という事か?」

 

その言葉に俺は頷いて返す

 

「魂を引き裂かれてバラバラの神器に封印されたヴリトラは神器を寄せ集めただけで復活したろ?邪龍ってのは魂レベルでタフなんだ。邪龍の魂を聖杯で一欠けらでもサルベージできたなら、そこから邪龍を完全に複製する事は恐らく可能だろう」

 

封印されていたアジ・ダハーカは兎も角、ただ滅ぼされていただけのグレンデルならばその内自力で復活していたかも知れん―――もっとも、何千年掛かったかは分からないがな

 

「そうなっとやっぱ吸血鬼と禍の団(カオス・ブリゲード)の一派は繋がってるって事なんかね?」

 

断定こそ出来んがそう考えるのが自然だろうよ

 

というか聖杯も使わずに禍の団(カオス・ブリゲード)が伝説の邪龍を復活させられる手段を手に入れたと考える方が頭が痛いぜ。どっちにしたって面倒だが、まだ問題が一纏めになってる方が有難いってなもんだ

 

「・・・アザゼル。今回の件の黒幕、今の禍の団(カオス・ブリゲード)の首領についてユーグリット・ルキフグスから直接伝えられたぞ」

 

何?今の禍の団(カオス・ブリゲード)のトップだと?ユーグリットは自分の事をNo.2だと言っていたらしいがトップも明かしたのか。しかし何故ヴァーリにだけ?

 

疑問に思う中でヴァーリは不快感や憎悪といった感情を隠さずにいる。コイツがそれだけの敵意を向ける相手といえば一人しか思い浮かばない

 

「奴だよ。アザゼル。あのクソッたれ野郎が今回の件の黒幕だ」

 

吐き捨てるように言うヴァーリの言葉を聞いて俺は思わず天を仰いだ

 

如何やら今回の一件は吸血鬼と神滅具(ロンギヌス)なんて単純な問題では終わりそうにないようだ

 

これから先、一体どれだけの被害が出るのか想像するだけで冷や汗が流れる俺だった

 

 

[アザゼル side out]




今回は繋ぎの裏方の説明回みたいな感じでしたね。次回から吸血鬼の章に移ります


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第16章 課外授業のデイウォーカー
第一話 ルーマニア、訪問です!


最近PS4のコントローラーのスティックが反応しなくなったので近場の店を三件程回ったのに何処もスイッチばっかりだった。これは自分の住んでいる場所が悪かったのか偶々入荷して無かっただけなのか・・・


明け方の早朝トレーニングで皆がトレーニングルームに集まって念入りに柔軟などをして体を解している時に隣に居たイッセーが話しかけてきた

 

「なぁイッキ・・・女の子と一緒に全裸でエロゲーを実況プレイするのって如何思う?」

 

「死ね」

 

取り敢えず切って落とした

 

「いやいや待て待て待て!言い訳をさせてくれ!俺だってそんな訳の分からん状況は望んでないんだよ!」

 

「聞かなくても大体分かるわ!大方ゼノヴィア辺りが暴走したとかそんなんだろ!」

 

そんな変な提案するのはゼノヴィアくらいだろう。ここまでの付き合いがあれば原作知識なしでも想像出来るわ!

 

「スゲェ、マジで分かってやがる。あとついでにそこにイリナとアーシアも追加だ。始まる前にロスヴァイセさんが来て有耶無耶になったけどアレは本気で助かったぜ」

 

まぁコイツは変態ではあるけれどエロの趣味に対しては分かり易いエロを昇華させたような普通の延長線上にあるエロが好みといえば好みだ

 

さっきコイツが語った『女の子と一緒に全裸でエロゲーを実況プレイ』を正面切って受け入れられる器は持っていない・・・いや、世界規模で見てもいきなりそんな状況に陥ってそれをその場で受け入れられるヤツがどれだけ居るんだって話ではあるがな

 

「特殊過ぎるその状況そのものには同情せんこともないけど俺から言えるとしたら一線超えるなら将来にも責任を持つ事を宣言しろよ。お前が目指すのはハーレム王なんだろ?」

 

「なっ!い、一線超えるってお前!」

 

「え!?お前ってまさかプラトニック・ラブなハーレム王を目指してるのか?それはそれで達成出来たら偉業だとは思うが・・・その為には今後一切女の子とのスキンシップ禁止な」

 

そこまで出来たら俺はお前を尊敬するぞ

 

「絶対ヤダね!女の子と触れ合えないだなんて俺にとっては死活問題だ!夏季休暇でタンニーンのおっさんと一緒に山籠もりした時だって辛過ぎたってのに一生なんて言われたら俺もうこの世を生きていく自信がないぜ!」

 

そこまでか!・・・いや、一生異性と触れ合えないっていうのは普通にキツイか

 

そうして準備運動も終わろうかという時、朱乃先輩の下に通信が入ったようだ

 

「皆さん。トレーニングは中止です。アザゼルから緊急の通信が入りました。如何やら吸血鬼の領土で何やら問題が起こったそうです」

 

それを聞いた皆の顔つきが真剣なものに代わる。事件に出会い続けているからかこういった切り替えは皆段々と様になってきたよな

 

直ぐに朱乃先輩この場に居ないメンバーに連絡を飛ばして招集をかけ、イッセーの家のミーティングルームに全員が転移してきたのだった

 

 

 

 

 

 

集まったメンバーの前で魔法陣に映し出された立体映像のアザゼル先生が此方を見渡す

 

≪よぉし、全員揃ってるな。実は少し前にツェペシュ派の側で動きが在った。如何やら内乱、クーデターが起こったそうだ≫

 

「クーデター!?そんな!?あそこにはリアスたちも居るんですよ!まさか巻き込まれてるんじゃないですか!?」

 

≪それは無いから安心しろ。クーデターはかなり周到に準備されてたみたいでな。リアス達が城の不穏の空気を感じ取った時にはクーデターは成功。ツェペシュ派のトップが入れ替わったらしい≫

 

イッセーがリアス部長らの安否を心配するがアザゼル先生は更なる爆弾を投下しながらも否定した。だが齎されたツェペシュ派のトップが既に入れ替わっているとの情報に流石の皆も絶句気味だ

 

≪ただ、今のリアス達は新政権に客として迎えられてはいるものの軽い軟禁状態みたいでな。普通の手段じゃ連絡も取れないんだよ≫

 

それを聞いた朱乃先輩が専用の連絡魔法陣を展開するがやはりリアス部長には繋がらなかったみたいで首を横に振る

 

「マジか・・・ん?あれ?でもさっき先生はリアス達の様子をよく分かってたみたいな言い方でしたけど、連絡取れないんじゃなかったんですか?」

 

≪おいおい、俺もリアスもきな臭い事情を抱える胡散臭い吸血鬼の根城に乗り込むんだぜ?最低限の備えはしてるさ―――といってもイッキの手を借りたんだがな≫

 

「イッキが?」

 

イッセーだけでなく皆の視線もこっちを向いたな

 

「三人が出発する前にイヅナの分身を貸していたんですよ。アイツの通信は電波とか魔力の通信とかじゃなくて全てが同一体と云うもっと概念に近い感じに情報を共有してますからね」

 

目に見えない有線ケーブルが繋がってる感じ?幾ら隔離結界で覆っても電話線(イヅナ)自体を何とかしないと意味がないようなもんだ

 

毎度毎度うちのイヅナがサポートに秀で過ぎててヤバい。マジで八坂さんには感謝してます

 

因みに今のイヅナの力は【神性】アップと『邪人モード』習得に伴い上位の中級悪魔くらいにはなった。アレだな多分最初期の雷光無しの朱乃先輩と同じ程度だろう・・・あくまでもオーラ量だけの話で流石に戦闘技術とか諸々含めたら朱乃先輩の方が強いだろうけど、イヅナは元々サポート要員の使い魔なんだし十分過ぎるとは思うが折角此処まで来たなら上級悪魔程度の力は身に付けさせたいものだ―――まぁイヅナの力は俺の力次第だから結局の処、俺が頑張るしかない訳だが

 

≪まっ、そういう訳でリアスとも連絡を取って無事は確認済みだ。それで如何にもツェペシュ派の追い出された元トップがカーミラ側に助勢を申し出たらしくてな。その辺りの混乱に乗じて俺もツェペシュ派の方に顔を出す事になった。だが俺だけでは如何ともし難いからな。聖杯を持った吸血鬼がいよいよトップに立った事でカーミラ側が動揺している隙になんとかお前らの召喚権をもぎ取った―――カーミラまでの直通の魔法陣をこの後で展開するからお前らにも来て欲しい。十中八九数日中に大規模な戦闘が起こるはずだ・・・あの野郎(・ ・ ・ ・)がこんな静かな政権交代で終わらせる訳がないからな≫

 

アザゼル先生は最後にボソッと不穏な事を言う

 

「了解です!リアスの眷属として、オカルト研究部の部員として主の危機には駆けつけますよ!」

 

≪さて、戦力についてだが当然全員に来て貰うという訳にもいかない。そっちはまだ魔法使いの襲撃が在ったばかりだからな。此方に来るのはオカルト研究部員と黒歌でいいだろう。シスター・グリゼルダ、ジョーカー、鳶雄、シトリー眷属はそちらに残ってもらう≫

 

それを聞いたグリゼルダさんは頷いて了承した

 

「分かりました。デュリオ、今回は守備に徹して貰いますよ」

 

「俺がツェペシュ派とやらの吸血鬼の町をまるごと荒れた天候で閉じ込めて町を機能不全にしてあげても良いんスけどね~」

 

「お止めなさい。和平を説いてる我々がそんな事をして如何しますか。吸血鬼のとの仲が拗れるだけでは済みませんよ」

 

頭を叩かれるデュリオさんだけど長年あの陰湿な吸血鬼と対峙してきたと考えると、そういった半分以上本気の冗談を言いたくなるのは解る気がする

 

因みにコレがゼノヴィアだったら99%は本気の冗談に・・・ってもはや冗談じゃねぇな

 

≪こっちも大事だがそっちも大事だからな。神滅具(ロンギヌス)所有者が4人も居るんだからそこは半分に分けた方が良いだろう≫

 

「4人?・・・もしかしてそっちにヴァーリが居るんですか?」

 

≪ああ、聖杯が気になったみたいでな。潜入している。二天龍に刃狗(スラッシュ・ドッグ)にジョーカー。神器マニアとしちゃ豪華すぎる面子に不謹慎ながらワクワクするぜ―――それとレイヴェル≫

 

アザゼル先生は愉し気な顔から一転して真面目な顔でレイヴェルに声を掛ける

 

≪レイヴェルは今回はそっちに残った方が良い。レイヴェルを狙った魔法使い共はデータを取る前に殲滅したならまだ奴らにはレイヴェルを狙う理由がある。その上こっちのツェペシュ派の吸血鬼は十中八九禍の団(カオス・ブリゲード)と繋がってるからな。お前が来るとついでに狙われる可能性が高い。その上、報告では禁呪の魔法を使うようになったらしいがまだまだ練度がなってないんだろう?・・・ロスヴァイセ、レイヴェルの仕上がり具合はどんな感じになりそうだ?≫

 

レイヴェルの魔法の指導をしていたロスヴァイセさんは顎に手を当てながら言葉を紡ぐ

 

「・・・そうですね。レイヴェルさんは飲み込みも早く、本来在り得ない事ですが禁術を数をこなして練習する事も出来ます。ですので年末までには粗削りながらも形にはなると思います」

 

≪そうか。まぁそういう訳で今のお前の力はまだまだ不安定だからな。前線に出るには少し早い。今回はそちらで待機しててくれ―――それと、必ず誰かと行動を共にするようにな≫

 

まだ自分が守られる立場だという事に瞳の奥にほんの少しの寂しさを灯しながらもそれを打ち消す強い瞳でレイヴェルは頷く

 

「はい、解りましたわ。一日でも早く自分の身は自分で守れると皆さまに認められるように精進していく次第です・・・白音、今回は任せましたわ」

 

本来、レイヴェルの力ならば大抵の相手は吹き飛ばせるだろうが俺達の敵のインフレが酷いからな

 

「分かってる。大丈夫、レイヴェルはすぐに強くなる」

 

「ええ、すぐに追い付いてみせますわ」

 

白音とレイヴェルが友情を育んでいると、そこでソーナ会長が一つの提案をしてきた

 

「いい機会です。うちの新しい『戦車』と『騎士』も派遣しましょう―――相手が吸血鬼というのなら、彼らは良い戦力となってくれるはずです」

 

それを聞いたアザゼル先生も"うんうん"と頷いているな

 

≪成程、確か新しい眷属ってのは死神ともう一人のルガールは対吸血鬼のスペシャリストだったな。送ってくれるなら助かるぜ≫

 

「ではそのように。彼らはまだ悪魔としての実戦経験が少ないですからね。それぞれの駒の特性を理解してもらうにはやはり実戦が一番ですから」

 

・・・ソーナ会長も割とスパルタだよな

 

≪良し!これより先の詳しい事は現地で移動しながら話す。準備ができ次第こっちに来てくれ≫

 

「『はい!』」

 

 

それから出立するメンバーが自室に戻り防寒着と最低限の小物などを用意してから転移の間に戻って来た。ルーマニアとの時差は約6時間。此方が明け方という事は向こうは深夜だ。加えて日本より冷える上に山奥となれば防寒着は必須だろう

 

程なくして全員が再び転移の間に集合する

 

先程は居なかったルガールさんとベンニーアの姿もあるな

 

「それでは二人とも、オカルト研究部の皆さんのフォローをお願いしますね」

 

「了解した」

 

≪ご命令、承りやしたぜ≫

 

ソーナ会長が新人の2人を送り出し、グリゼルダさんも声を掛けてくれる

 

「この町の事は我々にお任せ下さい。あなた方に主の御加護・・・いえ、ご武運を」

 

加護と言い掛けてから取りやめたグリゼルダさん

 

出発するメンバー11人中10人が悪魔ですからね。主の御加護は盛大なデバフになってしまいますよ・・・だからこそ言い直したんでしょうけれど

 

「イッキ様、皆さん、気を付けて行ってらっしゃいまし」

 

最後にレイヴェルの見送りの言葉を聞いて俺達は転移の光に包まれていった

 

・・・さて、俺は如何動くべきかね?

 

 

 

転移の光が収まるとルーマニア側の転移の間に到着し、アザゼル先生が声を掛けてくる

 

「お前ら、よく来たな」

 

次にアザゼル先生の隣に居た先日出会った吸血鬼であるエルメンヒルデも挨拶してくる

 

「皆様。ようこそおいで下さいました。手前どもはギャスパー・ヴラディだけで良かったのですが、仕方ないと割り切って差し上げましょう」

 

・・・訂正。挨拶じゃなくてケンカ売ってるだけだった

 

その上本人にはその自覚すら有るかどうか怪しいと来たもんだ

 

皆も内心イラっと来てるとは思うがエルメンヒルデはそのまま案内を開始する

 

「では、早速ですが車まで移動しますわ。それでツェペシュ派の領地に向かいます」

 

吸血鬼の町を囲う外壁塔の地下だったらしいそこから外に出ると流石の寒さだった。やはり山奥の寒さは都会の寒さとは一味違う

 

俺とかは参曲(まがり)様の仙術修行で寒中水泳とか色々やらされたからある程度耐性は有るけどそれでもやっぱり寒いものは寒い―――我慢できる事と平気である事は似ているようで違うのだ

 

それから案内された先に在った二台のワゴン車に乗り込み、俺達はツェペシュ派の領地に向けて出発する。片道2時間程度あるらしいがエルメンヒルデの案内は此処までで後は自分達で行けという事らしい―――案内とは一体?とも思ったがカーミラとツェペシュの領地を結ぶ道が他と繋がってるなんて事はなく、一本道との事だ

 

移動中、俺達はアザゼル先生から詳しい事情を聴いていた(もう一方の車はロスヴァイセさんが運転中で音声通信を繋いで全員がアザゼル先生の話を聴けるようにしている)

 

「そんな!ツェペシュ派の新しいトップがヴァレリー!?」

 

ギャスパーが心底信じられないという風に驚愕の声を上げる

 

「ああ、相当可笑しな状況になっているのは確かだ。聖杯を持つというヴァレリーを傀儡として操るとしても態々ハーフであるその娘をトップに立たせるなんてのは諍いの種にしかならんからな。俺としてはカーミラを代表とした他の純血の吸血鬼を煽ってとっとと戦争でも起こそうとしてるんじゃないかと勘繰ってるくらいだ。強化された吸血鬼の力を早く試したいんだろう」

 

アザゼル先生の推察を聴いたギャスパーは普段中々見せない怒りに顔を歪める

 

「許せません!ヴァレリーの聖杯もヴァレリー自身もそんな風に扱うなんて!」

 

幼馴染が戦争の道具にされてるというのが許せないのだろう。今や体からオーラが滲み出そうだ

 

ギャスパーの隣に座っていたイッセーが彼の頭にポンと手を乗せる

 

「気張るのは良いけど気負うなよギャスパー。俺達が付いてるんだからさ」

 

「は、はい。有難う御座います。イッセー先輩」

 

如何やらギャスパーも少しは落ち着いたようだ

 

そうこうしている内に目的地に辿り着いた

 

正確には次の移動手段である山奥のゴンドラの場所までというべきだな

 

如何やらこのゴンドラはツェペシュの領地までに張ってある結界の類をすり抜けられる特別性らしくこれを使わない場合は山道を複雑なルートを通らないと結界を抜けれないようだ

 

ゴンドラは全員が乗れるだけのスペースがちゃんと在ったのでそのまま乗り込み、30分ほどゴンドラに揺られた辺りでやっと終点に辿り着き、ツェペシュ派の吸血鬼たちに出迎えられた

 

一応「敵だ。殺せ!」みたいな展開ではないようだ

 

そうしてリアス部長の居る本城に案内するという事で馬車まで移動するが途中でルガールさんとベンニーアさんが音も無く消える―――ゴンドラの中で≪あっし達は町の下見といざという時の為の脱出経路を確保してきやすぜ≫と言っていたのでその通りに下見に行ったのだろう

 

案内人の吸血鬼も馬車に辿り着いた時に何時の間にか2人も居なくなっていたから慌ててたけど一先ず俺達を城に送るようにお達しが来たようだ

 

あの吸血鬼は後できっと職場の方々にイビられるんだろうな

 

そうして案内されたのはツェペシュ派の吸血鬼の城の玉座の間の前だった。「此処でお待ちください」と言われてから程なくして廊下の向こうからリアス部長と祐斗がやって来る

 

「イッセー!皆!よく来てくれたわ!」

 

「リアス!へへっ、眷属として、部員として当然ですよ」

 

一週間以上は出会えていなかったからか吸血鬼の根城とか関係無しに二人はキャピキャピとした雰囲気を隠そうともしない

 

「おらおらバカップル共。騒ぐのも良いがその辺にしておけよ」

 

アザゼル先生に注意されて漸く二人が落ち着いたところで案内の吸血鬼が扉に手を掛ける

 

「それでは皆様。ツェペシュの新王がお待ちです」

 

その言葉と共に扉が開かれて俺達は中へと入って行った

 

中に入った俺達は先頭にアザゼル先生でその後ろにリアス部長と俺、それ以外の皆がその後ろに続く。前にエルメンヒルデとの会談の時に立ち場有る者としての振る舞いを意識しろと言われたのでこの位置取りにしたけど特に何も言われなかったので正解だろう・・・グリゼルダさんが居ない今天界側のイリナさんも巻き込んでやりたいとも思うが彼女はミカエルさんの(エース)と立場は上々だが現時点では知名度が低いから除外だ

 

真っ赤な絨毯に中世の貴族の城っぽいデザインでこの部屋に居る吸血鬼達も貴族服だ

 

そして俺達の真正面の玉座には大学生くらいの見た目をした派手さは無いが品の在る白いドレスを着た金髪の吸血鬼の女性が座っている

 

ギャスパーと似たような気配、即ちハーフである為彼女がそうなのだろう

 

それと彼女の隣に他の上役の吸血鬼よりも若い見た目をした男が立っている

 

「皆様、ようこそお出で下さいました。私はヴァレリー・ツェペシュ。この度ツェペシュ派の新しい当主・・・王様をやらせて貰っています」

 

軽めの口調で挨拶する彼女だが瞳に感情が宿っていない

 

だがギャスパーに視線が向いた時だけ微かに反応したようだ

 

「久しぶりね、ギャスパー。悪魔になったと聞いてたけど元気そうで良かったわ」

 

「う、うん。久しぶり、ヴァレリー。会いたかったよ」

 

ギャスパーも自分に反応してくれた事で少し無理やり気ながらも笑顔で応える

 

「私もよギャスパー。ふふ、まだ女の子の格好をしているのね。昔私が貴方に女の子の服を着せて遊んでいたのがそのまま癖になっちゃったのよね。懐かしいわ」

 

「も、もう!いきなりそんな事暴露しないでよヴァレリー!」

 

あ、今のは思いっきり素の反応だったな。まぁいきなり自分の女装癖の根源を公衆の面前で晒されたらそうなるか

 

「ふふ、御免なさい。昔の貴方はもっと小さかったと思い出してたらついね。さぁギャスパー。もっと近くに寄ってちょうだい」

 

呼ばれたギャスパーは遠慮がちに玉座に寄るが他の吸血鬼は特に止める事もせず静観の構えだ

 

近くまで寄ったギャスパーをヴァレリーは抱き寄せる

 

「大きくなったわね。ギャスパー」

 

「・・・まだヴァレリーの方が大きいよ。それに僕は男子としては小柄だしね」

 

「私の方が年上だからね。それに私としては今のギャスパーの方がまた昔みたいに着せ替え出来るから嬉しいわ」

 

「流石にそれはあんまり嬉しくないよ。最低でもヴァレリーの背丈は追い抜いてみせるよ」

 

「うふふ、背の高いギャスパーもそれはそれで見てみたいわね」

 

スラっと背の高いギャスパーか・・・第二のイケメン紳士が降臨するな。まぁ今のままでは「ひぃぃぃん!」と叫ぶ外見だけのイケメン紳士だけどな

 

だがそこでヴァレリーが空中に視線を彷徨わせた

 

「―――――――――。―――――。――――――――――。」

 

口から出てきたのはどの国の言葉でもない言語・・・一応俺も仙術で翻訳術は使えるけど理解出来ないな。他の皆も同様のようだ

 

確か様々な魂の欠片が混じり合った亡者とかの声が聞こえるんだったか?という事は恐らくアレはそれこそ蟲や動物とかも含めたあらゆる言語を圧縮したようなものなのかも知れんな

 

流石の悪魔の言語翻訳もそこまではカバーできないだろう

 

さっきまではギャスパーと楽しそうに話していたのに今はギャスパーそっちのけで空中に語り掛けている彼女の姿に皆が戸惑いを浮かべる中アザゼル先生が警告を飛ばす

 

「全員、アレから視線を外せ。聖杯の影響で見えちゃいけないものが見えてるんだ。特に教会出身者のアーシア、ゼノヴィア、イリナはこれ以上見るんじゃない」

 

名指しされた3人はすぐに視線を床に落とした

 

するとそこでヴァレリーの隣に居た吸血鬼が進言する

 

「ヴァレリー。あまりその方々とばかり話していてはお客様にも失礼となりますよ。今の貴女は我らの王なのですから、彼らにも我らの新しい方針を伝えて上げて下さい」

 

そう言われたヴァレリーはまた瞳から光を消した虚ろな感じに逆戻りする

 

「御免なさい。そうでしたね。私が王に為れば平和な吸血鬼の世界が創れるんですって―――そうなればもう私達ハーフの生まれでも辛い想いをしないですむわ」

 

さっきまでと違い抑揚の少ない何処か棒読みささえ感じられるようにヴァレリーが話す

 

「よくもまぁ此処まで仕込んだものだな。しかもそれを俺達に見せつけるとは趣味が悪すぎだぜ。一体その娘にどれだけ聖杯を使わせた?亡者と話せるなんてのは既に末期症状に近いはずだ。一体聖杯でお前さんは何をしたい?どうせお前は今回の件の首謀者なんだろう?」

 

アザゼル先生がズケズケとストレートに質問するが問われた男は何でもないように答える

 

「首謀者といえばその通りですね―――おっと、自己紹介が遅れましたね。私はマリウス・ツェペシュ。王位継承権第五位でこの国では現在宰相及び聖杯研究の最高責任者をしております・・・私としましては後者が本業なのですが叔父上たちに頼まれましてね。次期宰相が正式に決まるまでの暫定の宰相という事です」

 

そう言いながら貴族仕込みであろう綺麗な礼を取るマリウスだけど表情は完全に此方を見下している感じだ。そしてそのまま言葉を続ける

 

「さて『何故』という質問でしたね。それはもう腹違いの可愛い妹が吸血鬼の未来を憂いたのを陰ながら手伝ってあげたい・・・というのは勿論建前で私が興味があるのは聖杯そのものです。元総督殿ならお分かり頂けると思いますが大変に興味深い代物でしてね。満足のいくまで研究したくなったというのが私の個人的な理由になります。ですが前王である父上や兄上たちは聖杯の使用に否定的でしてね。聖杯を使って新たな力を得たいというそちらの上役の方々と利害が一致したので此度は父上たちにはご隠居して頂く運びとなった訳です」

 

これだけ明け透けな説明を聞いても当のヴァレリーはニコニコ笑顔のままだ

 

そんな幼馴染の様子を見てギャスパーも涙が溢れそうになるのを必死に堪えている

 

「マ、マリウス様。此処は仮にも謁見の間です!それに相手は堕天使の元総督にグレモリーの次期当主も居ります。今の発言を総意と取られては我々の立場がありませぬ!」

 

例え嘘でも戦の前の口上のように『大義は我に有り!』と本来ならば言うべきだからな

 

「おや、これは失礼。慣れない事はするものではありませんね。ならば早く後任を決めて下さい。私は何時でもこの身を退きますよ」

 

そんな彼らのやり取りを聞いてるのも不毛と判断したのかリアス部長もアザゼル先生と同じく踏み込んだ発言をする

 

「・・・ヴァレリーは渡せないのね?」

 

それにマリウスも頷いて返す

 

「ええ、彼女は私の貴重な研究対象ですから」

 

「もういいじゃないか、リアス部長」

 

それを聞いたゼノヴィアが前に出て亜空間からエクス・デュランダルを取り出す

 

「コイツを消し炭にしてその娘を連れてさっさと帰ろう。そいつは生かしておいても害しか生まないタイプの下種だ。この場で綺麗サッパリ消し去るのが一番だろう」

 

割とゼノヴィアに同意したい自分がここに居るがそれが出来れば苦労は無いんだがな

 

・・・政治的にも『物理的』にもさ

 

「聖剣ですか。悪魔が聖剣を持つなど、あなた方も我らと大して変わらないと思いますがね。しかし仮にも聖剣を向けられるのは怖いものですからね。此処は一つ、我らの頼もしきボディーガードをご紹介致しましょうか」

 

相変わらず見下した表情のまま『怖い』などと宣うマリウスがそう告げるとこの謁見の間に莫大なプレッシャーが襲い掛かった

 

全員の視線がとある一点に釘付けになる

 

そこに居たのは金と黒が入り乱れた髪に右目が金で左目が黒色のオッドアイというかなり特徴的な人物だ。黒いコートを纏って柱に背をもたれさせて腕を組んでいる

 

「・・・一人だけ明らかにレベルが違うね。成程、彼がクーデターに手を貸したというのであれば少人数だろうと何だろうと成功するだろう。言っては何だけど彼一人でカーミラを含めた吸血鬼の世界は滅ぼせるんじゃないかな?それぐらいの力を感じるよ」

 

冷や汗を流しながら強張った顔で祐斗が呟き、それにドライグが答える

 

『レベルが違い過ぎて当然だ。アレはたかだか吸血鬼ごときが何とか出来る存在じゃない。ヤツは三日月の暗黒竜(クレッセント・サークル・ドラゴン)、『クロウ・クルワッハ』。邪龍の中でも最強と称されたドラゴンだ』

 

「マジかよ。なら仮に俺達全員で掛かったとしたら?」

 

『止めておいた方が賢明だ。有間一輝の【一刀羅刹】とやらが上手く決まれば致命傷程度は負わせる事は出来るだろうが、所詮は致命傷止まりだ。邪龍がどれほどしぶとい存在かは前に語っただろう?外したら終わりな上に当たったとしてもジリ貧で負ける公算が高い・・・如何やら昔に比べてかなり強化されているようだな。もしや聖杯の力か?兎に角戦うのは止めておけ』

 

ドライグが考察してるけど確か強化されてるのって聖杯は関係無かったような?・・・俺達にしてみれば変わらないか

 

「今回はここまでにしておきましょう。ヴァレリーの大切なお客様ですからね。お部屋をご用意しておりますので宜しければご滞在下さい」

 

イッセー達の戦慄する様子を観れて満足したのか俺達の退室を促し、クロウ・クルワッハの手前ゼノヴィアも大人しくエクス・デュランダルを仕舞って俺達はその場を後にした

 

「・・・吸血鬼とは思えない異質な男だったな」

 

暫く廊下を歩いてからゼノヴィアがポツリと呟く

 

「確かにな。奴は血筋とかよりも己の探求心を第一に考えてるタイプだ。吸血鬼としては異端と言えるだろう。だが、ああいう手合いは厄介だ。己の欲を叶える為ならば種族や一族の決めたルールなど無視して何処までも突っ走っちまうからな。マリウスという男は聖杯の研究がしたかったがそれを行う為にも聖杯を使ってでも現政権に不満の在る奴らと協力する必要が在った。そこに戦力としての邪龍の情報を流したのが禍の団(カオス・ブリゲード)って訳だ。作戦の幾らかは『あの野郎』の立案だろうがな―――ったく、今更出て来たと思えば早速とばかりにかき回してくれるぜ」

 

アザゼル先生が悪態をつく中で俺達の向かう先から異様な気配が流れてきた

 

・・・態と気配を少し出した感じだな。他の皆もほぼ同時に険しい顔になった

 

そうして出てきたのはヴァーリ・ルシファー40代後半とでも云えるような見た目の男だ

 

「およよ~?そこに居るのはアザゼルおじちゃんじゃないですか~。ひっさしぶりぃ♪」

 

「やっぱりか。近いうちに出て来るとは思ってたぜ、テメェ!」

 

「・・・一体誰なの?」

 

何時に無い怒りの表情を目の前の男に向けるアザゼル先生にリアス部長が訝し気に問う

 

「リゼヴィム。サーゼクス・『ルシファー』の妹たるお前なら聞いた事があるはずの名前だろう」

 

それを聞いたリアス部長が今日一番の驚愕を顔に出す

 

「ッツ!!嘘でしょう!?」

 

そんなリアス部長を余所にアザゼル先生は噛み付くように答える

 

「ああ久しぶりだな。何千年経とうがお前のクソッたれな面は忘れねぇぜ。なあ!

―――『リリン』!いや、リゼヴィム・リヴァン・ルシファーッ!!」

 

リゼヴィムの名前には反応しなかったメンバーも『リリン』、ないし『ルシファー』の名前に漸く理解が追い付いて来たようだ

 

「先生・・・ルシファーって・・・」

 

「ああそうだよ。コイツは前魔王ルシファーの正真正銘の息子。聖書には『リリン』という名で描かれている大悪魔だ。ルシファー家に仕えるユーグリット・ルキフグスが動き出すには十分過ぎる理由だろう・・・で、此奴の息子の更に息子こそがヴァーリ。つまりはヴァーリの実の祖父だ」

 

・・・如何でも良いけど『リリン』って随分可愛い名前だよな。何?もしかして此奴は昔はギャスパー枠だったりしたの?

 

そこまで考えた処で白音に足を踏まれた

 

「痛っ!」

 

「イッキ先輩。今は真面目な時ですので空気を読んで下さい」

 

俺何も話して無かったよね!?なぜそこまで確信を持ってツッコめるの!?

 

驚きを余所にアザゼル先生はシリアスを継続させる

 

「そしてコイツこそが今の禍の団(カオス・ブリゲード)の新しいトップって訳だな」

 

「う~ん☆自己紹介要らずだねぇ。隠居してから結構経つのに未だに若い子達にもそんな風に驚いて貰えるとは俺もまだまだ捨てたもんじゃねぇってか?」

 

「リゼヴィム。何故今頃になって出てきた?お前は前魔王の血筋・・・シャルバやクルゼレイ、カテレアのように冥界の支配に興味があるようには見えなかった。まさか今になって心変わりして魔王に為ってみたくなったなんて言わないでくれよ?」

 

アザゼル先生の疑問にリゼヴィムは肩を竦めて否定する

 

「あ~、無いない、それは無い。冥界の政治に何て今も昔も興味はないよ。昔はサーゼクスくんやアジュカくん達と政権を巡って争ったりもしたけどその頃から特に乗り気じゃなかったし―――実際戦争の途中で姿晦ましたっしょ?同じ『超越者』の2人と戦ったりすれば面白いんじゃないかと思ったし、一応前魔王の息子としても戦ったけどすぐに飽きちゃってねぇ。禍の団(カオス・ブリゲード)の奴らを纏めてるのはやりたい事が見つかったからだよん♪」

 

「お前を此処で仕留めてそれを妨害するってのも良いんだがこの国では俺達はまだ部外者に近い。おいそれと戦う訳にはいかねぇか―――どうせ正体偽ってVIP待遇でも受けてるんだろう?」

 

「その通りだよん♪今の俺はこの国では国賓だ。アザゼルおじちゃんは今は世界中で和平の為に動き回って頑張ってるんだって?此処で俺様に手を出すのは得策じゃぁねぇなぁ―――もっとも、負けるつもりもねぇけどよ」

 

そう言ってリゼヴィムが片手を上げると廊下の奥から一人の少女が現れ、その姿を見た皆に動揺が走る。何せ皆が『良く見知った』姿だからな

 

「曹操のガキ共がオーフィスから奪った力から再構成した我が組織のマスコットガールのリリスちゃんですよ~。うちのママンの名前を付けてみたんだけど、どうよ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

リリスと呼ばれた彼女はオーフィスそっくりで違いは髪をポニーテールにしている処だろうか

 

まぁオーフィスも普段はストレートだけどルフェイのファッションショーの一環で髪型を弄られる事もしばしばだからポニーテールのオーフィスも見た事はあるけどそっくりだ

 

まぁある意味では双子のようなものだから当然と云えば当然なんだが

 

「この子、腐ってもオーフィスちゃんだから滅茶苦茶強いよ?俺様専属のボディーガードでユーグリットくんが居ない時なんかはこの子が俺を守ってくれます!いや~、ちっこい子が滅茶強いってロマンがある設定だと思わない?」

 

それは否定出来ないけどさっきのクロウ・クルワッハよりもヤバいプレッシャーを放ってるから全然そんなものを感じれる暇がないな

 

『常時【一刀修羅】』くらいの事をしないと戦えもしないんじゃないか?コレ?

 

「んじゃ、俺はマリウスくんとお話が有るから此処を通らせて貰うよ?此処は吸血鬼くん達のお国だからね。平和が一番♪鎖国国家は一度入り込んじまえば扱いやすくて最高です☆」

 

そう言って俺達の間を通り抜けて去ろうとしているリゼヴィムの背中にアザゼル先生が言葉を投げかける

 

「・・・リゼヴィム。ヴァーリがお前の命を狙っているぞ」

 

それに対してリゼヴィムは首だけこっちを向いて薄ら笑いを浮かべた

 

「へぇ、そりゃあ愉しそうだ。少しは強くなったん?アイツの父親よりは強かったけどさ」

 

「いずれお前の首も獲れるさ」

 

「わぉ!そりゃ嬉しすぎておじさん、咽び泣きそうだわ―――じゃあもう行くな。ああ、そうそう。カーミラと結託して攻め込んで来るなら頑張ってね。キミたちの雄姿をワインでも飲みながら応援させて貰うからさ☆」

 

最後までふざけた口調のリゼヴィムの姿が消えていった

 

“ドゴンッ!!”

 

廊下に突如として破壊音が響いた。アザゼル先生が壁を殴りつけたようだ

 

「ヴァーリ、お前が奴を嫌う理由が本当によく判るよ」

 

それから俺達が用意された部屋に案内されてから少しして、ギャスパーの父親との面会が叶う旨を伝えられたのだった

 

 

 

 

 

さて、あれからギャスパーの父親との面会以外にもリアス部長とギャスパーはヴァレリーに呼ばれ、アザゼル先生も『神器について話しませんか』とお呼ばれしていった

 

此処で皆に付いて行ってギャスパーの話を聴いても良いのだが俺は既におおよその事情は知っているし、勿論間違いの可能性自体はあるけど後で皆に聞けばいいだけの話だ(リアス部長はクーデターが起こる前にギャスパーの父親との面会は済ませてるらしい)

 

取り敢えず敵方の戦力は実際に出会って気配を肌で感じ取るだけでも収穫があったが言える事は今のところ一つだけ―――『この城に敵の戦力が集まり過ぎ』である

 

もうね、ふざけてんの?二天龍と同格以上の最強邪龍に超越者に弱体化してもなお二天龍以上の龍神様、それとついでに魔王級のユーグリット

 

魔王級がこの中で突き抜けた雑魚とか本当に止めて欲しい

 

『―――ユーグリットがやられたか、しかし奴は我ら四人の中でも最弱。若手悪魔どもに敗北するなど新生禍の団(カオス・ブリゲード)の面汚しよ』

 

なんてフレーズが頭を過ぎったわ!

 

オーフィスを含めた駒王町の戦力も導入しないと勝負が成立しねぇよ

 

そんな訳で今回は裏方に徹する事にしよう

 

必要なのは結果だ。別に所謂俺TUEEEEEE!がしたい訳じゃないからな・・・いや、リゼヴィム相手にそれが出来たら愉しそうではあるけどさ。実際出会ってそう思ったね

 

「俺は少し調べたい事が有るからギャスパーの父親の所には皆で行ってくれ。それと黒歌、悪いがサポートを頼む」

 

「にゃん?もしかして隠密行動かにゃ?折角だしこの城の宝物庫でも漁る?」

 

発言が完全に泥棒じゃねぇか!

 

「宝物に興味はないし伝説のアイテムとかが在っても知識が無いから総スルーしちゃうと思うから却下で・・・アザゼル先生なら楽しめそうだけどな」

 

あの人のコレクターっぷりは神器だけが対象じゃなかったはずだ

 

「何だよ?調べたい事って?」

 

「悪いがまだ確信が持てるレベルじゃないから話さないでおくさ―――そっちこそギャスパーの話は後で聞かせてくれよ?」

 

「はいはい、分かりましたよ。イッキの秘密主義は今に始まった事じゃねぇからな」

 

秘密主義なんて言われる程隠してたりしたっけか?出会ってからはちょっと黒歌や白音の事を話さなかったり、神器を持っている事を言わなかったり、【一刀修羅】や【じばく】の奥の手を隠してたり、婚約者の事を黙ってたり、ハーデスの時に暗躍したりした程度だと思うんだけど・・・・

うん。割と周りから見たらそう見えるかもな

 

でもだからって自分から話しまくるのも違うと思うから俺は悪く無いはずだ

 

そうして皆が部屋を出て行った

 

良し!それじゃ一丁気合を入れますか

 

「【一刀修羅】!!」

 

「に゛ゃに゛ゃ!?」

 

突然の俺の【一刀修羅】に黒歌の驚く声が部屋に響いたのだった




今章は新しい敵の登場回的な章なので・・・というかイッキが言っていたようにボスキャラが集まり過ぎてて身動きとれません。どうしろって言うんだよ?マジで俺TUEEEしようと思ったら初期のスーパーサ〇ヤ人とか完全体フ〇ーザ様のように戦闘力1億は必要じゃね?


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第二話 黙示録の、獣です!

お知らせ:第1章と第2章を多少手直ししました。見切り発車で書き始めた処で今よりもかなり粗が目立っていたので・・・とはいえ元の形を崩さないようにセリフの間に心理描写を加える程度の補修ですがw




[イッセー side]

 

 

あれから俺達はギャスパーの父親の居るという地下の部屋に赴きその話を聴く事が出来た

 

ギャスパーの父親は逃げ出したという前ツェペシュの当主の派閥に近い中立派みたいな立ち位置だったらしく、この地下の部屋に軟禁されていたようだ

 

軟禁と言っても貴族らしいかなり豪華な部屋だけどな

 

そこで聞いたのはギャスパーの出生の秘密

 

ギャスパーの父親はギャスパーの事を終始『アレ』と呼び、ギャスパーが生まれた時に『闇が蠢くナニカ』として生れ落ち、ギャスパーの母親はショック死、その上でその出産に立ち会った人達も生まれたばかりのギャスパーが無意識に放っていたと推察される呪いによって数日中に全員が死んだという衝撃の事実を話してくれた

 

ギャスパーの父親はギャスパーの事を吸血鬼でも人間でもハーフですらない、定義の出来ない存在だと言ったけどそれなら答えは決まってる

 

アイツは転生悪魔で俺の後輩の『ギャスパー・ヴラディ』だ

 

聴くところによればリアスも俺と似たような事を言ったらしく、嬉しくも感じた

 

ギャスパーの父親は俺達の反応を『理解出来ない』と言っていたけど、俺はそれを頭から否定する気にもならなかった

 

この人がギャスパーの母親の人間を如何思っていたのかは分からないが、少なくとも愛おしさは感じてたはずだ。そうでなければ子供を作ったりはしないだろう。そしてその人を事故だろうと死なせてしまったというのであれば彼が葛藤するのは理解は出来るからだ

 

勿論それは幼い頃のギャスパーが迫害されるのを放置する言い訳にはならないのかも知れないけどそんな簡単に割り切れる話でもないのだろう

 

だけど、俺達の答えは変わらない。この人がギャスパーを愛せないなら仲間である俺達がギャスパーを大切にする。それだけだ

 

この場には居ないけどイッキや黒歌さんだってギャスパーが実は凄い闇のナニカだとしてもビビったりするような性格じゃないだろうしな・・・少なくとも俺は自分の腹に風穴開けたフェンリルと次に出会って早々に頭を撫でたいとは思えない

 

それに呪いを振りまくというのならぶっちゃけ俺達はイッキである程度耐性も付いてるしな

 

模擬戦じゃ近接で殴り合ってると先ず何より精神を圧迫されるような恐怖を感じるし、ドライグの鎧もドンドンとイッキの操る瘴気が侵食してくるから絶えず鎧をパージして作り直さないといけないときたもんだ

 

曹操と戦った時にも奴の石化の魔眼で似たような状況になったけど、ドライグの莫大なパワーを振りまいて戦う俺の戦闘スタイルだと元から酷いスタミナの消耗が更に加速する事になる

 

でも何時かちゃんと勝てるように今は修行あるのみだな

 

おっぱいドラゴンである俺が敵役のオール・エヴィルに実際は連敗してるだなんて冥界のヒーロー役として子供たちにも恰好がつかないしよ

 

それから話を聴き終えた俺達は再び宛がわれた部屋に戻ったのだが、そこには豪華なソファーで黒歌さんに膝枕されているイッキが居た

 

「うおぉぉい!イッキ、テメェ調べたい事が有るって言うからてっきり俺は町とかどっかこの城の重要そうな場所に潜入でもしてるかと思えば膝枕だと!?俺達がギャー助の話を聴いてシリアスしてたってのにお前は恋人の太ももを堪能してたのかよ!!」

 

思わず叫んじまったがそこで黒歌さんに"ギンッ"と鋭い目つきを向けられてしまった

 

「五月蠅いにゃ!イッキは力を使い果たしてるだけよ。今は仙術で回復してるんだから静かにしておきなさい!」

 

「あ、はい、御免なさい」

 

俺の想像していた事とは違ったようなので素直に謝る

 

でもあのイッキが力を使い果たすとか普通じゃないけど何が在ったっていうんだ?いや、イッキが短時間で力を使い切る手段を持ってるのは知っている

 

片方の手段である【じばく】は論外だから残る可能性は一つだけだ

 

「あの、黒歌さん。イッキはその様子からして【一刀修羅】を使ったんですよね?何が有ったんですか?敵襲っていう訳じゃないですよね?」

 

そう、全ての力を消費して一分間だけ能力を数十倍に引き上げるという力を使ったという割にまるで戦闘をしたという気配も痕跡もない・・・と云うかもしもイッキがそんな戦闘を繰り広げてたならこの城が吹き飛んでいても可笑しくないだろうし、戦意の在るオーラをイッキが放っていたなら流石に俺達も気づいたはずだ

 

「ん~、ちょっと難しい問題だからね。アザゼルっちも今はまだ話さないようにって言ってたし、私の口からは言えないにゃ・・・ほら、白音。あんたも一緒に回復を手伝って」

 

「は、はい。お姉様」

 

黒歌さんに促された白音ちゃんがイッキの傍に近寄り絨毯の床に膝をついてイッキの額に手を当てる。猫又姉妹によるダブル仙術治療・・・クソ!羨ましくなんかないんだからな!

 

「あらあら、うふふ♪イッセー君は此方ですわ」

 

名前を呼ばれた俺は朱乃さんの方に顔を向けると別のソファーに座った朱乃さんが自らの膝をポンポンと叩いている

 

「何時戦いが起こっても良いようにイッセー君には常に英気を養って頂かないといけませんわ。それとも、私の膝枕では足りないかしら?」

 

「そんな事は有りません!是非、その極上の枕を堪能させて下さい!!」

 

普段以上に敏捷な動きで素早くかつ丁寧にソファーに横になって頭を朱乃さんの膝の上に乗せる!うひょー!柔らかくていい匂いがして目の前にはおっきなおっぱいと朱乃さんの嬉しそうな顔が見れるなんて膝枕は最高だぜ!

 

「はぅぅ!また乗り遅れてしまいましたぁぁ」

 

「っく、流石は副部長だな。こういう行動の素早さはもしかしたら眷属随一かも知れないな」

 

「そ、それでイッセー君が十全の力が発揮できるなら私も後で膝枕するんだから!膝枕なら天使の私も堕天しないし、ここは逃せないわ!」

 

おっ、この流れはもしかして教会トリオも後で膝枕・・・の争奪戦の果てに有耶無耶になる未来が見えるな。でも折角だし皆の膝枕も堪能したいし、そうならない事を祈るぜ

 

それから俺達は吸血鬼の監視付きながらも城下町を観光兼軽い下見をしたり、ヴァレリーの話し相手として呼ばれたりしながら二日間程時間は過ぎていった

 

途中町中でオーフィスの分身であるリリスと偶然露店の土産屋の前で出会って赤いドラゴンのアクセサリーをジッと見つめていたのでつい買い与えてやったり、お腹が空いたと言われてしまったので近くの喫茶店で一通り料理を頼んだりした

 

話してみた感じだとオーフィスと同じくらい純真でオーフィスより無知でやや幼い感じがするってところだろう。まぁまさしく『生まれたばかり』だと考えるなら納得のいく話だ

 

勝てる勝てない以前にこの子とは戦いたくないもんだぜ

 

・・・ただ、食べ終わった後で「バナナ、ない?」と聞かれたけどバナナが好きなのか?家に居るオーフィスもお菓子などの甘いものや最近ではバナナをよく好んで食べてたりしたが、やっぱり元が同じだから趣味嗜好も似通ってるのかね?

 

アーシアも「そう言えば私がファーブニルさんと契約を結ぶ時にオーフィスさんも一緒でしたがずっとバナナを食べていらっしゃいました」とか言ってたし、本当にバナナが好きなんだな

 

因みに流石にバナナは持ってなかったのでそう告げると「・・・そう」と一言だけ発したけど、無表情ながらに多分アレは落ち込んでたんじゃないのか?

 

そうして今日はまたヴァレリーの話し相手としてギャスパーは固定だとして、俺やリアスに白音ちゃんと話しているとあのマリウスの野郎が現れてギャスパーがヴァレリーを解放してくれと頼む。すると奴は薄っぺらな笑顔でそれを了承しやがった

 

ギャスパーは喜んでいたけど俺は以前ドライグに聞いた話を思い出していた

 

レイナーレという堕天使がアーシアの神器を抜き取ろうとしていた時の状況とそっくりだからだ

 

部屋に戻った時にアザゼル先生が居たのでその話をすると先生も厳しい表情でギャスパーに神器を抜き出した場合は死んでしまう旨を伝えると喜んでいたのが一転して悲壮な表情を浮かべる

 

「じゃ、じゃあヴァレリーを解放してくれるって言うのは・・・」

 

「あのマリウスってヤツの性格を考えるなら先ず間違いなくそれは聖杯を抜き取るという意味だろう。確かにそれならば聖杯からの解放自体は叶うからな」

 

「絵に描いたような最低な男ね。でもそうなると多少無理をしてでもヴァレリーを連れて国外に逃亡する必要があるかしら。あの男が私達にそれを話したという事はある程度神器を抜き出す下準備が整ってると考えられるものね」

 

確かに・・・問題はどうやって連れ出すのかだけどな

 

ヴァレリーの近くには護衛として常にあのクロウ・クルワッハが控えているから如何にか奴を足止めしつつ外との直通の転移ゲートを開かないといけないだろう

 

しかし此処は結界に覆われた吸血鬼達の国―――簡単にゲートは開けないだろう

 

如何したものかと悩んでいたところで俺達の居る部屋が突如として結界に包まれた

 

一瞬身構えちまったけど部屋の天井に転移魔法陣が現れてそこからエルメンヒルデとルガールさんにベンニーアが落ちるように転移して来たんだ

 

・・・エルメンヒルデは着地に失敗して尻もち着いてたけどな

 

それから彼女にツェペシュ派の吸血鬼が聖杯に関する計画を最終段階に移したという情報を聞く事になった。マリウスの奴がヴァレリーから聖杯を抜き出してこの町の吸血鬼全員を弱点の無い存在に進化・・・いや、変化させようという事らしい

 

正直吸血鬼がどう変化しようと興味はないけどやるならやりたい奴らだけでコッソリと自己完結して欲しい―――ヴァレリーに無理矢理聖杯を使わせたり、進化した力とやらでその後多方面にケンカを売る何て事は見逃す訳にはいかない

 

だがそこで城全体を巨大な魔法陣の光が包み込んだ

 

「コレは!かなりオリジナルの術式が煉り込まれているが神滅具(ロンギヌス)を術者から取り出す術式で間違いない!」

 

窓際に素早く駆け寄って魔法陣の術式の一部から即座に全体像を把握したアザゼル先生が苦々しい声を出す

 

クソ!遠くない内にとは聞いてたけどもう動き出したのかよ!

 

「この事態を察知した我らカーミラの兵たちも程なくこの城に攻め込んで来るでしょう。あなた方は早く避難を」

 

「この状況でもまだ俺達の介入を拒もうってのか?吸血鬼が吸血鬼でなくなるのにもう一刻の猶予もねぇんだぜ?」

 

「ええ、吸血鬼の問題は吸血鬼が解決・・・と言いたいところですが我らが女王からあなた方がギャスパー・ヴラディの護衛・援助をする程度ならば許可を出すとの言葉を賜りましたわ」

 

こんなに限界ギリギリの状況でよくもまだそんな事を言えるもんだな

 

まぁいい、今はそれは後回しだ。コレで俺達が暴れても良いという大義名分は得た

 

後はヴァレリーを救い出して脱出するだけだ。エルメンヒルデは俺達と一緒に居る理由が無い為、ベンニーアの手によって外のカーミラ派の居る場所に再び転移していった・・・足元に展開された魔法陣で落とし穴のように落ちていったけど些細な問題だろう

 

他の部屋に居た皆もすぐに異変を察知して集合してくれた

 

だがそこにイッキと黒歌さんの姿は無い。二日前にイッキが回復した後で「暫く留守にする」って居なくなってしまったのだ

 

監視役の吸血鬼も暫く経ってから漸く二人が居なくなっている事に気付いて慌ててたな

 

まぁ本来搦め手やサポート能力に秀でているという仙術使いで魔王級の実力を有するあの二人なら気付かれずに行動するのなんて訳ないのだろう

 

一応イッキたちが何処に行ったのかとも聞かれたけどこっちはマジで知らねぇから答えようもないし、答える気もない・・・一応「観光でもしてるんじゃないか?」とは言っておいたけどな

 

「先生、イッキと黒歌さんはまだ?」

 

一応アザゼル先生はイッキたちが何をしているのかは知っているらしいが先生もその内容を教えてはくれなかったんだよな

 

「ああ、アイツらの任務はヴァレリーの救出と並ぶレベルで重要な案件だ。俺達の加勢に間に合うかどうかは正直微妙だな。一先ずは俺達だけで聖杯の摘出阻止及びヴァレリーの救出に向かうぞ」

 

マジか!この局面でもイッキたちがすぐに動けないってどんなヤベェ案件に首突っ込んでるんだよ?いや、どんな問題でもあの二人ならば俺達が手を出すまでもないと信じよう

 

ヴァレリー救出を目前にした今、余計な横やりを防いでくれるってんなら願ったりだ

 

如何やら聖杯を取り出す儀式はこの城の地下で行われているようなのですぐさまそこに向かう

 

外では既にカーミラ派とツェペシュ派の吸血鬼の兵隊たちの戦闘音が聞こえてくるけど正直レベルの高い吸血鬼とかは地下の警護に回ってるんじゃないかと思う

 

何せ聖杯を取り出して自由に使えるようになったならより完璧に近い不死身の軍団が出来上がるのだから始めに多少カーミラ派に押されても城の守りこそを厳重にする可能性が高い

 

そいつ等を蹴散らさないといけないとするならこの先一秒も無駄にはできないな

 

そうして俺達が地下に向かうと大きな広間が在ってそこに吸血鬼の兵隊たちが多数待ち構えていた

 

・・・少なくとも百人以上は居るな

 

「さて、誰から行く?こいつ等は数だけだが吸血鬼だけあってしぶとい。おまけに地下では余り派手な攻撃もし辛いときたもんだ。一刻を争う以上、少数で当たって残りは先に進んだ方が良い」

 

アザゼル先生が光の槍を手元に生み出しながら言うとシトリー眷属の新メンバーの二人が前に出た

 

「問題無い」

 

≪此処はあっし達に任せて先に行ってくだせぇ≫

 

二人だけで大丈夫なのかと心配したけどベンニーアは高速で駆け出して、手にしたデスサイズで次々と吸血鬼達を一撃で斬り伏せてしまった

 

そしてもう一人のルガールさんはと云えばなんと狼男に変身したのだ。驚きから覚める前にルガールさんは俊敏且つ力強い動きで兵隊たちに詰め寄ったかと思えば両腕に魔法陣を展開して灼熱の拳と爪で瞬く間に敵を蹂躙していく

 

≪ルガールの旦那は高位の狼男と高名な魔女のハーフっつぅ血筋チートのハイブリッドウルフガイですぜ。まっ、あっしも余り人の事は言えないんスけどね≫

 

そういえば魔法使いが襲撃してきた時に思いっきり死神の格好してる彼女の事が気になったのがソーナ会長にばれて最上級死神オルクスと人間のハーフって教えて貰ったっけか?

 

実は母親の方も凄い人だったりするのかな?いや、仮に一般人だったとしても十分過ぎるんだけどね。勿論血筋と才能は必ずしもイコールで結ばれる訳じゃないけどさ

 

「この場は任せて問題無いようね。私達は進みましょう」

 

リアスの指示の下、俺達はこの場を彼らに任せて歩を進める

 

先に進むと二つ目の広い空間に出た。アザゼル先生がこの二日間の間に何処かからパクってきたという地図によれば最下層の儀式をしているであろう広間も含めて四つの広間があるそうだ

 

そしてこの二つ目の広間には高級そうな衣服に身を包んだ上の階の吸血鬼の兵隊よりも数段強い気配を漂わせている吸血鬼が3人居る

 

「来た来た。主殿が仰った通りだ」

 

「うむ、噂のグレモリー眷属だな」

 

「強化された我々にとっては練習台としてもってこいの相手になりそうだな」

 

たった3人だってのにえらい自信だな。自分たちが死なないと思っているからこその余裕か?

 

さて、今度は如何するか?3人だけなら誰かが残ったりしなくても全員で掛かれば時間も掛からずに退治できるか?

 

「邪魔です」

 

「「「ぎゃあああああああああ!!」」」

 

如何動こうか思慮した矢先に白音ちゃんが白い炎を纏った火車を飛ばしてその炎に焼かれた吸血鬼達は瞬時に灰となって消え去ってしまった―――瞬殺かよ!もはやギャグの領域だよ!

 

「火車の炎は死者の魂をあの世に誘います。動く死体(リビングデッド)の定義に含まれる吸血鬼では浄化の炎に抗えません。幾ら耐性を付けようとも死者であるという魂の根源、概念を変更しない限りは灰となるまで燃やし続けます」

 

浄化の炎・・・いや、この場合火車の炎か?それにそんな特性があったなんて!完全に対吸血鬼用の炎じゃないか!―――白音ちゃんは元は妖怪だし、本来使用する相手は幽霊とかなのかも知れないけど、何にせよこの場では心強いよ!

 

「う~ん。イッキ君に貰ったアドバイスが試せなかったね。まぁ彼らにしてみれば一瞬で灰と化す方が良かったのかも知れないけどさ」

 

木場が苦笑交じりに言ってるのは聖剣の騎士団に閉じ込めて聖なる炎や雷で全身くまなく焼くって案だったか・・・確かにこいつ等は聖杯の力で色々と耐久値が底上げされてたはずだからその場合はかなり悲惨な光景が繰り広げられてたかもな

 

これ以上想像するのは精神衛生上良くないと判断して俺達はまた次の階層に向かう

 

そこに待ち構えていたのは先日駒王町を襲ってきた魔法使い共とユーグリットの野郎と一緒に居た邪龍のグレンデルだった

 

タンニーンのおっさん並みの体躯に隠す事の無いイヤらしい好戦的な笑みを浮かべている

 

「よぉ、待ってたぜぇ!この間のガキは居ねぇのか?まぁ良い。ドライグゥゥゥ、お前とも戦いたかったぜぇ―――つっても暫く見ねぇ間に随分小っこくなっちまったなぁ!聞いたぜ。神器に封印されたんだってな。ざまぁねぇなあ、天龍だなんだともてはやされても所詮お前も俺も大して変わんねぇ結末ときたもんだ。まっ、神器に封じられたお前とこうして肉体を持って復活した俺じゃその後の経過は違うみてぇだがな」

 

『ふん!確かに昔の俺もアルビオンも周囲の事をそっちのけで暴れまわって封印された。俺達以外の奴らにしてみれば邪龍も天龍も変わらなかっただろう』

 

よ~く反省しろよドライグ?各神話世界で滅茶苦茶な被害を出して暴れてたって結果だけを見るならある意味邪龍より質が悪いんだからな?

 

『だが、今の俺は暴力以外の世界も色々と知る事が出来た。昔と変わらぬ笑みを浮かべるお前と一緒にされたくはないな』

 

「ハッ!小っこくなっただけじゃなくて丸くなっちまったってか?ドラゴンってのは闘争の中で生きてこそドラゴンだ。それを忘れちまったってんなら今すぐ思い出させてやるぜ―――さぁ!愉しい愉しいぶっ殺し合いの始まりだ!!」

 

奴はそう吼えると開幕速攻特大のブレスを放ってきやがった

 

既に鎧自体は身に纏っていた俺は正面から迫りくる火球にドラゴンショットを打ち込んで威力を削り、残る余波はリアスと朱乃さんの張った魔法の障壁で完全に防ぎ切った

 

二人の防御能力が格段に上昇している。初撃という事もあり二人で防いだけど今のは一人でも十分だったな。如何やらこの二人はこと防御に関しては魔力よりも魔法の方が適正が高かったらしい

 

「イッセー、この先にはまだクロウ・クルワッハにリゼヴィムも待ち構えている可能性があるわ。真紅の鎧は今はまだ使わないで頂戴。この邪龍は皆で倒すわよ。イッセーの力はヴァレリーの直接の救出と撤退戦で発揮して貰うわ」

 

「分かりました!」

 

確かにあいつ等全員を相手に何てしてられない。コイツを倒して最低限の退路を確保してヴァレリーを連れて逃げるのがベストだろう

 

方針が決まったのなら後は突貫するだけだ

 

背中のブースターからオーラを噴出してグレンデルに真正面から突撃する

 

「おほ!正面からか!そうそう、そういうので良いんだよ!」

 

奴の巨大な拳を回避して懐に潜り込んだ俺は渾身の拳を放つ

 

「悪いが時間を掛けてられないんでね。速攻で決めさせて貰うぜ!」

 

左の拳が奴に当たる直前に籠手に収納されていたドラゴンスレイヤーの聖剣であるアスカロンの龍殺しのオーラに力を譲渡する

 

『Transfer!!』

 

"ドゴンッ!!"

 

奴の硬い体と俺の拳がぶつかり空間に鈍い音が響く

 

「相手は邪龍だからね。畳み掛けさせて貰うよ」

 

俺と同じく神速で距離を詰めていた木場がその手にグラムを手にしてグレンデルの肩口から袈裟懸けに切り裂いた

 

木場の持つグラムもアスカロンと同じくドラゴンスレイヤーの力を宿している。木場の放った一撃は奴の硬い鱗も切り裂いて正面から青い血が噴き出る

 

「二人とも下がって!」

 

リアスの指示が飛び、すぐさま反応した俺達はグレンデルの傍から離脱すると後ろに居た皆が放つ遠距離攻撃が一斉にグレンデルにぶち当たった

 

・・・スゲェ威力だ。俺でもあんなの真面に喰らったら消し炭になるぜ

 

だが煙が晴れる前にグレンデルがあの攻撃を喰らった直後とは思えない軽快な動きで距離を詰めてきて俺を殴り飛ばし、反対側で振られた尻尾で木場も同じく吹き飛ばされてしまった

 

すかさずアーシアの回復のオーラが俺と木場のそれぞれに放たれる

 

俺はドライグの鎧越しだったけど木場は回復に少し掛かりそうだな

 

それにしてもグレンデルの奴は全身に重傷を負っていると分かるのにあんな風に反撃してくるだなんてな。お陰で反応が遅れちまった

 

「グハハハハハ!痛てぇ!痛てぇ!痛てぇよぉぉぉ!でもだからこそ最っ高に愉しいぜぇぇぇ!―――ヴっ!ヴボゲェェェ!ガハッ、ガハッ、ガハハハハハハハハハ!!」

 

途中で盛大に口からも血を吐き出しながらも嗤うのを止めないグレンデルの姿にうすら寒いものを感じてしまう。ああ、漸く実感できたぜ―――コレが、邪龍なんだな

 

『その通りだ相棒。ただしぶといから邪龍なのではない。この戦いにおける異常な精神性こそが邪龍の邪龍たる所以だ。精神を屈服させることは出来ない。只管に肉体を消滅させる事に注力しろ』

 

ドライグに此処まで言わせる何てな。確かにコイツは死ぬまで、いや、死んでも諦めないだろうよ

 

「なら此処は私の出番ね。皆、少し時間を稼いで頂戴。私も必殺技っていうのを作ってみたの。決まればその邪龍でも一撃で葬れるわ」

 

そう言いつつリアスは頭上に滅びの魔力の球体を形作り、どんどんとその力を追加で注ぎ込みながら圧縮させていく。練習してたのは遠目になら知ってるけど完成形は見た事無かったな

 

打開策は決まった。後は皆でリアスを守るように立ち回る

 

まぁアザゼル先生はこの後で神器の摘出を防ぐ繊細な仕事が待っている為援護射撃くらいだけどな

 

再び突貫する俺を筆頭に近接組である復活した木場が騎士団を創り出してそれぞれにジークフリートから入手した魔剣を持たせてその能力を解放して斬りつけていく

 

伝説の魔剣たちを複数操るだけあって木場の戦闘能力は格段に上昇したよな

 

そしてもう一人飛び出した白音ちゃんも驚きの変化を見せた

 

「レイヴェルもすぐに強くなります。何時までも私だけ足踏みしてる訳にはいきません!」

 

白音ちゃんは何時もの大人の姿にはならずに通常の状態で更に闘気を高める

 

すると白音ちゃんの二又の尻尾が三本に増え、それと同時に白音ちゃんのオーラも格段に上昇した

 

「今はまだ大人の姿と併用する事はできませんが、現状ではコレが私の最強モードです」

 

元々黒歌さんと白音ちゃんの猫魈(ねこしょう)という種族は尻尾が三本、即ち三又の種族らしいからコレで白音ちゃんは正真正銘の一人前と言えるのだろう。今の白音ちゃんならレグルスの鎧無しのサイラオーグさん相手でも引けは取らないと思う。むしろ技の引き出しの多い白音ちゃんの方が総合力では上か?・・・流石に強化形態だからスタミナ勝負に持ち込まれたらジリ貧で敗けそうだけどね

 

ともあれ俺、木場、白音ちゃんのスリートップで攻め立て、その隙を後衛組が更に攻める

 

コイツの鱗は非常に硬いし各種耐性も高いけど俺と木場の攻撃で全身に怪我が増え、白音ちゃんの仙術で少しずつ耐性も減りつつあるからどんどんダメージが蓄積されていく

 

だがコイツは死ぬほどの怪我を受けてなおテンションが高まって行くのか動きが機敏になっていき、前衛組も何度か良いのを貰ってしまっている。アーシアが居なかったら戦線が瓦解してたぜ

 

今は木場がゼノヴィアが放ったチャージ砲で隙が出来たところに全身に刻まれた奴の傷口に今度は無数の聖魔剣を突き立てる

 

「どいて下さい!雷光龍よ!!」

 

今度は朱乃さんの鋭い声がして離れると東洋タイプの龍の形をした雷光のドラゴンがまるで意思を持っているかのように動きグレンデルの体に巻き付いた

 

全身に突き刺さった聖魔剣から直接雷光がグレンデルの体内を焼いていく

 

「コレが私の新しい必殺技、雷光龍ですわ。イッセー君に胸を突かれた影響かしら?これを形造るときはドラゴンのオーラが付与されて力強さが増すんですの・・・性質としては祐斗君の龍騎士に近いのかもしれませんわね」

 

マジですか!朱乃さんがリアスに続く準スイッチ姫ともいえる裏設定を手にしたのがそんな形で現れたんですか!?

 

「なにぃぃぃ!?そうなのか!?良しイッセー!この戦いが終わったら私の胸も百回でも千回でも良いから突きまくってくれ!最近木場に差を付けられるばかりで悩んでいたんだ!」

 

良いのか!?そんな事言われたら俺突いちゃうよ。ゼノヴィアのおっぱいも十分大きいし張りもある、素敵なおっぱいなんだから!

 

「そ、それなら私も突かれてもっと皆さんのお役に立てるようになりますぅぅ!」

 

「私だってそれで天使パワーが強化されるならこの胸を主と信仰の為に捧げるんだから!」

 

教会トリオは何時も仲良しだよね!何か俺が胸を突くとパワーアップするのがもうキミたちの中で確定事項になってない?俺が言うのも可笑しいのかも知れないけどさ!

 

「あなた達もいい加減にしなさい・・・と、言いたい処だけど私のこの必殺技もイッセーに胸を吸われ・・・突かれてから変化が生じたのよね。準備は出来たわ。皆下がって良いわよ」

 

リアスも胸を突かれて魔力に変化が生じたの!?そんなリアスの頭上には一目で危険だと分かるドス黒い圧縮された滅びの魔力の塊が浮いている

 

それを見た俺達は絶対に巻き込まれないようにリアスの後ろまで一気に避難した

 

「元々魔力の圧縮、一点集中技術はイッキの指先にオーラを集中させるのを参考に鍛えていたのだけどね。それに付け加えてこの状態の滅びの魔力には相手の弱点とか耐性とか防御とか一切を無視してダイレクトに攻撃出来るようになったのよ」

 

凄いな!滅びの魔力に加えてそんな特性まで付与されたら直撃すれば神様だって危ないんじゃないか?でも木場や朱乃さんと違ってドラゴンの力が関係してるって感じじゃないのは何でだろう?

 

『全てを貫通する攻撃だと?もしやそれは俺の透過・・・いや、そんな事は無いはずだ』

 

ん?ドライグには何か心当たりでも有るのかな?

 

「コレが私が貴方に与える滅びの一撃―――『消滅の魔星(イクスティングィッシュ・スター)』よ。消し飛びなさい!」

 

だが放たれた滅びの球体は大した速度では無かった。アレでは避けて下さいと言ってるようなものだ。現にグレンデルも遅すぎる攻撃を鼻で笑っている

 

しかし変化はすぐに訪れた

 

「ん?んおおお!?何だこりゃ!?引きずられる!何て吸引力だ!」

 

如何やらあの滅びの魔力には周囲のモノを引きつける作用があるらしい。滅びの魔力で大気や空間が消滅し、周囲の空間がそれを補完しようと引っ張られてるって事か?何にせよあのグレンデルですら気が付いた時には手遅れだったようで滅びの魔力とグレンデルが接触した瞬間に盛大に弾けた

 

光が収まった時にそこにグレンデルの姿はもう無かった・・・恐ろしい攻撃だ。あの堅いグレンデルが完全に消し飛ばされるなんてな

 

だが漸く勝ったと思った矢先にこの場にもう一体の邪龍が現れた

 

「そうか、グレンデルがやられたか」

 

現れたのは最強の邪龍と云うクロウ・クルワッハだ。奴はグレンデルが居た場所を一瞥するとそこから何かを拾い上げた・・・アレはグレンデルの牙か?それだけ残ってたんだな

 

「その牙を如何するつもりだ?邪龍でも仲間を弔ってやったりとかするのか?」

 

「さて、俺は此処での時間稼ぎとグレンデルがやられているなら退くように命じるか、殺されていたなら欠片だけでも回収するように言われていてな。何でも聖杯の力ならば欠片からでも再生する事は可能らしい」

 

あんな牙一本からでも復活させられるのかよ!もうあのグレンデルとなんて戦いたくねぇぞ!

 

それにこの状況も不味い。皆グレンデルとの戦いでかなり消耗している。それに加えてグレンデル以上の邪龍との連戦では体力が持たない

 

何より此奴相手では俺も真紅の鎧でないと相手にすらならないだろう

 

だがそこに見知ったオーラが高速でこの場所に近づいて来るのを感じた

 

そして次の瞬間広間の扉が壊されて鎧姿のヴァーリが現れる

 

ヴァーリはクロウ・クルワッハを見据えて質問する

 

「お前がクロウ・クルワッハだな?」

 

「その通りだ。今代の白龍皇よ」

 

「ヴァーリ!遅かったじゃねぇか!今まで何をやっていた?」

 

「此処に来る途中、ユーグリット・ルキフグスとはぐれ魔法使いの集団『魔女の夜(ヘクセン・ナハト)』の聖十字架使い、更には宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)『ラードゥン』の妨害に会ってな。アーサー達は今は引きずり込まれた別空間で戦っている」

 

「ッチィ!話には聞いていたが神滅具(ロンギヌス)聖遺物(レリック)使いは全部テロリストに加担かよ!それに『ラードゥン』だと!?アイツもグレンデルと同じく滅んだはずの伝説の邪龍だぞ。ソイツも聖杯で復活させたのか!」

 

また伝説の邪龍かよ!俺は先生の愚痴を聞いて内心ウンザリしながらも今は先に進む事を優先する為にヴァーリの横に並び立つ

 

必殺技を放ったリアスも含めて今は皆グレンデルとの戦いの直後で消耗している。それに何よりヴァーリが来た事を加味しても目の前の邪龍は真紅の鎧無しには戦える相手ではない。だから俺はすぐ横のヴァーリに訊ねる

 

「ヴァーリ・・・共闘する気は有るか?」

 

「っふ、俺もお前もこの先に用が有るのは一緒みたいだからな。この場に来る前にユーグリット・ルキフグスとの戦いで白銀の鎧で戦えるだけの力は消耗してしまった。これ以上無駄に力を減らしたくはないのでね。ここは一つ、二天龍の共演といこうか。ロキと戦った時のようにな」

 

! そうか、ヴァーリは今はあのプルートすらも瞬殺した鎧は使えないのか。アレが在ればかなり勝率が高まったんだけど、文句は言ってられないな

 

俺は呪文を唱えて真紅の鎧になるとヴァーリと二人でクロウ・クルワッハに立ち向かうが俺達の攻撃は全て奴に軽く受け流されてしまった

 

このままではダメージが与えられないと考えた俺はヴァーリに奴の気を引いてもらい、その間にチャージした渾身のクリムゾンブラスターにアスカロンのドラゴンスレイヤーの力を乗せて撃ち出すが奴がガードする時に使った翼を破壊するに留まった

 

その上奴は片翼を失ったにも関わらず平然としている―――邪龍のタフネスってヤツか!それに今までの攻防で分かった。コイツはまだ全力を見せていない

 

もう一度同じ攻撃を仕掛けて命中したとしても更に高めたオーラで防御されたら今度は翼を吹き飛ばす事すら出来なくなるかもな

 

「ッチィ!これ以上は時間を掛けてられないな。アーシア、呼べ!ファーブニルを!」

 

「は、はい!」

 

此方の戦況を見て今のままではいけないと判断した先生がアーシアにファーブニルを召喚するように促す―――マジか!此処であの契約の対価にパンツを求めちゃう龍王を呼びますか!

 

そしてアーシアがすぐさま呪文を唱えて黄金の龍を龍門(ドラゴンゲート)で呼び出した

 

『おパンティータイム?』

 

ダメだ!分かっちゃいたけどコレは酷い!

 

そうして顔を真っ赤に染めたアーシアが「違・・・い、いえそうです!おパンティータイムですぅ!」と否定しかけた言葉を飲み込んで肯定の意を返す

 

だがこの変態龍王はアーシアがポケットからパンツを取り出すのを見て不機嫌になった

 

『違う。俺様今はおパンティーって気分じゃない。俺様、アーシアたんのスク水が欲しい』

 

黙ってパンツ受け取っておけよこの変態龍王!

 

こんなルーマニアにまでアーシアがスク水を持って来ている訳がないと文句を言おうとした処でアーシアがスク水を取り出してファーブニルに渡す。皆もアーシアがそれを持っていた事に驚愕するが如何やらソーナ会長がアーシアがファーブニルを紹介する時に彼女のスク水姿に熱い視線を送っていたことに気付いて出発前にスク水を持ち運ぶよう助言したらしい

 

スゲェよソーナ会長!あの人は一体どれだけ柔軟な発想で先々まで見通せるんだ!?

 

「ファーブニルは泳ぎたいのか?」

 

最強邪龍様の勘違いを加速させつつもアザゼル先生に『タスラム』とかいう伝説のアイテム・・・正確にはそのレプリカらしいが、それがクロウ・クルワッハに有効だとしてスク水を食べたファーブニルがバズーカのようなものを取り出してそれを手に取った先生がぶっ放した

 

途中、ファーブニルの変態パンツ、否、スク水騒動を初めて目の当たりにしたアルビオンが過呼吸気味になり、ドライグが必死にフォローしていた

 

『ハァ、ハァ、ドライグよ。俺は一時期は変な称号で呼ばれる事に対してお前を恨んだりもした。だがあのファーブニルを見て悟ったぞ。きっと今のこの時代こそが我ら伝説のドラゴンに『変態』という風評を押し付ける何らかの因果が働いているのだろう』

 

『ああ、分かるぞアルビオン!あのオーフィスですら少し未来がズレていたなら痴女だのなんだのと呼ばれていたかも知れんのだ。ドラゴンとして天に立つも神には至らぬ我らでは今の時代の運命には抗えないのかも知れん』

 

『ドライグ・・・良かったらこの後我らだけで語り合わないか?』

 

『そうだなアルビオン。これはきっと当事者でなければ分からん事だろう』

 

『今まで悪かった!ドライグ!』

 

『アルビオン!!』

 

う~む。なんか知らんが二天龍が和解しそうだぞ?お前ら何百年だか何千年だか争ってきたんじゃないのかよ?まぁアルビオンの怒りの矛先が『おっぱいドラゴン』から逸れているっぽいから口出しはしないでおこう―――下手な事を言えば再燃する気がする

 

そんな思いをよそに『タスラム』というクロウ・クルワッハ曰く必中する魔弾というのがぶつかり、煙が上がっていた場所に目をやると顔の部分だけ人型からドラゴンの形になった奴が魔弾を咥えて防御していた・・・無傷かよ

 

「聖杯の力でここまで強化されて復活を遂げるとはな」

 

ヴァーリが苦笑するがクロウ・クルワッハはそれを聞いて怪訝な表情を浮かべる

 

「復活、それに聖杯だと?そもそも俺は滅ぼされた事など一度として無いぞ。聖杯の力とやらも受けてはおらん。当時キリスト教の介入が煩わしくなって表からは姿を消したがな―――以降、見聞を広め、力を付ける為に世界を旅して廻っていただけだ」

 

何!?って事はコイツは素であの強さなのかよ!?

 

『永きに渡り、力を高め続けていたというのか。相棒、よもやするとコイツは全盛期の俺とアルビオンに匹敵ないし凌駕するほどの存在になっているかも知れんぞ』

 

おいおい!地上最強と謳われた二天龍と同格かそれ以上かよ!単純な強さで云えばサーゼクス様と同じ超越者っていうリゼヴィムよりもヤベェんじゃないか?

 

「戦いを求めるドラゴンとはよく言ったものだ。元より興味は有ったが、それが更に深まったよ。お前とはいずれ何の気兼ねも無くぶつかり合いたいものだ」

 

「俺もだ白龍皇・・・しかし、それは今ではない」

 

お互いに戦いが大好きだという事を隠しもしない笑顔を浮かべてるが、クロウ・クルワッハは高めていた戦意を仕舞って奥に続く道を譲って来た

 

「俺は最低でも十数分時間を稼げと言われただけなのでな。白龍皇も本気を出せないというのなら、これ以上ここで戦う理由がない」

 

そう言い残して最強の邪龍はこの場を去って行った

 

折角戦うなら出来るだけ万全の状態で戦いたいってタイプか

 

同じ邪龍でもグレンデルとは別な感じだな―――多分アイツはそう云うのお構いなしだと思うから

 

「何にせよ、戦わずに先に進めるならそれに越した事はないわ。時間稼ぎと言っていた以上はもう猶予は無いはず。進みましょう!」

 

リアスに言われて俺達は駆け足で最下層の広間に向かう

 

そうだ。奴が頼まれた時間の分だけ俺達の足止めをしたというのなら本当にヤバい!

 

湧き上がって来る焦燥を何とか堪えつつ遂に儀式場に到着すると床に光る魔法陣の中心にヴァレリーが横たわっており苦し気な表情を浮かべていた

 

彼女の隣にはあのマリウスって奴も居る

 

「ヴァレリー!!」

 

「ギャス・・・パー・・・?」

 

ギャスパーの叫びが聞こえたのかヴァレリーが此方の方を向く

 

今すぐ助けに行きたいが魔法陣に組み込まれた障壁が俺達の行く手を阻む

 

『騎士』組が直ぐに攻撃するがゼノヴィアや木場が斬りつけてもびくともしないか!なら!

 

「おっと、下手な攻撃はしない方が良いですよ?下手に術式が乱れたらヴァレリーが魂まで一緒に砕けてしまうかも知れませんからね」

 

それを聞きドライグのパワーで障壁を殴ろうとしていた俺の手が止まってしまう

 

魂と溶け合った神器の摘出作業中に下手を打てば確かに奴の言う通りになってしまう!

 

ならば繊細なやり方でとアザゼル先生を見るが、当の先生は小型魔法陣で目の前の術式を解析していたらしくその結果に険しい表情を浮かべる

 

「このプロテクトコードは・・・聖書の神の物か!何故俺達も知らない術式をお前が知っている!これもリゼヴィムの野郎の提供か!」

 

「あの方には聖杯や神器の取り扱いについて色々と教えて頂きました。代わりに私は伝説の邪龍復活のお手伝いをして差し上げたのですよ」

 

何だかよく判らないけどアザゼル先生でも直ぐには解析不可能なプロテクトって事か!?

 

だが無情にも魔法陣が最後の輝きを放つと共にヴァレリーの胸の辺りから黄金に輝く杯が現れ、魔法陣も消え去ってしまった

 

ギャスパーが障壁が消えたのと同時に彼女に駆け寄って抱き締めるが聖杯を抜かれたヴァレリーはどんどんと呼吸が弱くなっていき、最後にギャスパーの中にもう一人居ると告げる・・・ギャスパーのあの黒い力の源の事か?

 

そうして死ぬ間際だというのに最後までギャスパーを心配し、笑顔を向けながら彼女の手は力を失い地面に垂れてしまった

 

「ヴァレリィィィィィィィ!!!」

 

ギャスパーの慟哭が広間の中に木霊する。目の前の悲しい光景を見ているだけでもう頭が可笑しくなりそうだった

 

そんな中でも、いや、そんな中だからこそ一層不快に聞こえる声が俺達の耳を打つ

 

「いやぁ、美しくも滑稽な三文芝居でしたね。ヴァレリーには聖杯以外に価値は無いと思っていましたが如何やら喜劇を演じる役者の才能は有ったようだ―――さて、リアス・グレモリー様。如何か私に貴女の滅びを与えてくれませんか?」

 

「ええ、遠慮なくやらせて貰うわ。流石の私も我慢の限界だから―――消し飛びなさい!」

 

ギャスパーの事を嗤われてその場の誰もがマリウスに襲い掛からんとしていたが、それより少し早く奴自身の指名を受けたリアスがグレンデルに放った必殺技を彷彿させる濃縮された滅びの魔力でマリウスの足首から上を完全に消失させた。今の奴は両足の足首から下とヴァレリーから取り出した聖杯が宙に浮かんでいるだけだ

 

流石に死んだかと思ったが見る間に奴の肉体は再構築されて復活を果たしてしまった

 

すると広間の奥に居たのであろう謁見の間にも居た吸血鬼達が悦楽を顔に灯しながら現れる

 

「やはりそうだ。再生能力が向上している」

 

「まるでフェニックスのようですな」

 

「今まで我々は強大な力と引き換えに太陽、十字架、流水、釘、銀など様々な弱点を有していたがそれも解消される。ついに人間どもを我らが完全に掌握する時代がきたのだ」

 

「天使の走狗どもを始め、家畜どもが我々に噛み付く事も、もはや無くなるでしょう」

 

「然り、我らは種の頂きに至った。もはや我らを阻むものは無い」

 

・・・こいつ等、完全にイカれてやがる

 

倫理観の育っていない子供の妄想がそのまま人の形をしているかのようだ

 

だがそこに地の底から響くような怨嗟の籠った声が木霊した

 

≪ふふふふふふ、下らない。下らな過ぎる≫

 

瞬間、広間が闇に包まれた

 

真っ暗になったという意味ではなく、ヴァレリーを抱いて俯いていたギャスパーから噴出された闇が周囲に蠢いているような感じだ

 

そしてギャスパーの体から漏れ出る闇が徐々にギャスパーの体全てを覆い隠して形を変えていく

 

≪進化したというお前らの力を僕にも見せてみろ!≫

 

そこに居たのは濃密な闇のオーラがまるでドラゴンのような形をした漆黒の獣だった

 

ギャスパー、コレがお前のもう一つの姿か!

 

上役たちが狼狽えるがマリウスの奴がそれを窘める

 

「落ち着いて下さい、皆様。恐らくアレが報告に有ったギャスパー・ヴラディの本性というやつなのでしょう。しかし、聖杯を持つ今の我々がたかがハーフの力に怯えては滑稽ですよ?」

 

「う、うむ。そうだったな。我らは既に至高の存在へと・・・」

 

そこまで言った処でその上役の足元にも侵食していた闇からワニのような魔獣が現れて丸ごと飲み込んでしまった

 

それを見て激昂した他の吸血鬼達も体から獣や毒虫を生み出して攻撃しようとするがギャスパーはそれらを遥かに上回る闇の獣を部屋中に繰り出して彼らを文字通りに喰らっていく

 

恐怖に駆られた上役が逃げようとするも霧に姿を変える事も蝙蝠になる事も魔法の転移も全てギャスパーの持つ神器、『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』で能力そのものを停止させさせられて最後には抵抗すらさせて貰えずに闇に体を貪られていった

 

そんな光景を見てもマリウスは興味深そうに見ているだけで余裕の表情を崩さなかった

 

如何やらギャスパーの力も直接聖杯を持つ自分を脅かすものでは無いと思っていたようだがギャスパーの力はそんなマリウスの力を上回っていたようで、直ぐに再生しない体にマリウスは焦りと恐怖の顔を浮かべる

 

「ば、馬鹿な!叔父上たちは兎も角、直接聖杯に触れている私すらも再生出来ないなんて事が!ギャ、ギャスパー・ヴラディ。キミの力は聖杯をも凌駕しているとでも言うのか!?」

 

それに答えたのはアザゼル先生だ。先生は耳をほじりながら小馬鹿にしたような目で奴を見る

 

「さてな。ギャスパーの力が逸脱したものであるのは確かだが、そもそもお前さん。たった数年研究した程度で聖杯の力を十全に引き出せているとでも思っているのか?」

 

そっか、それもそうだよな。たったそれだけで聖杯の力を完全かそれに近い形で扱えるようになるなんて事が出来るなら最低でも聖書の神様にすら匹敵するだけのモノを持ってないとダメだろう

 

コイツにそんな器が有るようには見えないな

 

そうして最後にマリウスはギャスパーにヴァレリーを聖杯で生き返らせると言って命乞いをする

 

≪もう黙れよ。お前が死ぬ事とヴァレリーが生き返る可能性は別の話だ。取り出した聖杯でそれが可能なら、なんだったらお前を殺した後で聖杯を使えば良い―――お前が僕に差し出せるものは、命以外に何も無い≫

 

その言葉を皮切りに闇の獣が一斉にマリウスに襲い掛かり肉体の一片までも獣たちに喰われ、啄まれてこの世から消失していった

 

戦いが終わったと見るや直ぐさまアザゼル先生が聖杯を手にヴァレリーの体を魔法陣を展開して調べていくが、先生には珍しく心底驚いた様を見せた

 

「コイツは・・・神滅具(ロンギヌス)の抜き出しにしては余りにも静か過ぎると思っちゃいたが、まさかこんな事が起こり得るとはな」

 

「先生、何か判ったんですか?」

 

「ああ、如何やらヴァレリーの聖杯はもう一つ体の中に在るらしい。生まれながらの亜種として顕現した聖杯という事か?聖杯を半分とはいえ抜き取れた事で仮死状態になっているようだが、コレならばこの聖杯を体に戻して完全な状態とすれば何とかなるだろう」

 

聖杯が複数の亜種!?なんでそんな形に変質してるんだ!?いや!それよりも今重要なのはヴァレリーが生きているって事だ!

 

俺は闇の獣と化したギャスパーの姿なんて気にも留めずに近づいて声を掛ける

 

「良かったな、ギャスパー!」

 

≪うん。有難うイッセー先輩・・・というかアザゼル先生は少し調べただけで聖杯が複数有る事に気付いたのに長年研究していたって自慢していたマリウスは知らなかったんだね≫

 

確かに、自称聖杯研究者が聞いて呆れるぜ

 

そうしてアザゼル先生が聖杯をヴァレリーに戻す作業を待ちながらギャスパーと話す

 

如何やら今のギャスパーは大昔に滅んだとされるバロールという魔神の意識の断片がギャスパーの神器に宿ったものらしい

 

「なら、今のお前はバロールって呼んだ方が良いのか?」

 

≪いいや、バロールは既に滅んだ存在だ。それにこうして僕の力が解き放たれた事で吸血鬼のハーフとして生まれた『僕』とバロールの意識の断片の『僕』は完全に混じり合った―――今の僕は『ギャスパー・ヴラディ』さ≫

 

そっか、そうだよな。コイツは俺の可愛い後輩、それで良いじゃないか

 

≪この状態の僕は神器とバロールの融合が齎したものだ。禁手(バランス・ブレイカー)ともそうでないとも言える・・・そうだね、取り敢えず『禁夜と真闇た(フォービトゥン・インヴェイド)りし翳の朔獣(・バロール・ザ・ビースト)』と名付けようかな≫

 

そうしてこの場に居ないイッキと黒歌さんのも含めて全員の名を呼び『これからも宜しく』と告げてから闇が晴れて元のギャスパーの姿となって気絶した

 

如何やら力を使い果たしたみたいだな。完全に倒れる前にリアスが愛おしそうにギャスパーを抱きとめてコレで一件落着かと思いきや丁度聖杯をヴァレリーに戻したアザゼル先生が不穏な事を言う

 

「おかしい。意識が戻る兆候が見られない。まだ何か足りないのか?」

 

先生が疑問を呈した瞬間、この場にマリウスとは別の不愉快な嗤い声が木霊する

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃ!そりゃ多分『コレ』を戻さないとダメなのかもなぁ★」

 

現れたのはリゼヴィムだ。だが何より俺達は奴のすぐ傍に浮いている黄金の杯に釘付けになってしまった。何で聖杯がもう一つ在るんだよ!

 

「ヴァレリーちゃんの亜種の聖杯が二つでワンセットだと思った?残念ながら正解は三つでワンセットでした♪先にコッソリと俺様が抜き出しておいたんだけど、いや本当にマリウス君の無能っぷりには笑わせて貰ったよ。もしかして彼の方が喜劇の役者の才能有ったのかもね☆」

 

三つの聖杯!?どれだけ規格外なんだよ!?

 

それから現れた自分の祖父に対して今までに無い程に激昂したヴァーリをリゼヴィムが小馬鹿にしていく―――アザゼル先生の話だと幼い頃のヴァーリの父親に対して『息子を虐めろ』と命令を下した上にヴァーリの父親、即ちリゼヴィムにとっての自分の息子すらも『なんかイラついた』という理由で殺してしまったようだ 

 

「リゼヴィム。その聖杯を使って一体何を望む?王位に興味は無いとぬかした貴様はテロリストを纏め上げ、オーフィスの分身を手元に置き、邪龍共を復活させてこの国を荒らしてまでお前が求めるものは何だ?」

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃ!知りたい?良いよ良いよ、答えて上げちゃう☆今から少し前に一部の界隈に激震が走るような情報が齎されたのさ。何と何と、どの神話体系にも属さない新たな神の存在がな―――そうです!そっちの赤龍帝の坊やがロキと戦った時に交信したという異世界の『乳神』!・・・正確にはその眷属だったみたいだけどな★」

 

な、なに?ロキと戦った時に朱乃さんを筆頭に皆のおっぱいから語り掛けてきたアレが!?

 

「俺達に取っちゃ全く未知の神話体系!未知の世界!それを聞いた俺は年甲斐も無く心を震わせたね♪んで思ったのよ。『じゃあ滅ぼしてみようぜ☆』ってな♪」

 

ハァ!?何でいきなりソコ(・ ・)に帰結するんだよ!?過程を飛ばして『滅び』に結びつけるとか此奴の思考回路は一体どうなってんだ!?

 

「でもでも異世界に行く事は現状では叶わない。何故ならソコには次元の狭間を守護するチョー強いドラゴン様が居るからです。そっ♪ご存知グレートレッドさんです。でもあの夢幻を司るドラゴンは『どいて』と言ってどいてくれる相手じゃない。なら、邪魔なら倒す?無理無理、邪龍軍団でも超越者とされた俺様でも100%勝てない。全盛期のオーフィスちゃんなら可能性は有っただろうけど曹操とかいう馬鹿が肝心のオーフィスの力を真っ二つだ。元に戻そうにも壊すより直す方が難しいからそっちも簡単にはいかないだろ?考えて考えて、俺様が辿り着いた結論がこうだ―――黙示録の一節を再現しようかなってさ★」

 

それを聞いたアザゼル先生は徐々に目を見開いて驚愕の表情を浮かべる

 

「黙示録・・・『666(トライヘキサ)』か!」

 

666(トライヘキサ)』?

 

「大正解です。アザゼルくん♪座布団欲しいか?それとも豪華世界一周船旅チケット?いや~、やっぱり回答要員が居るって良いね。話甲斐が有るよ☆」

 

「先生、何ですかその『666(トライヘキサ)』ってのは?」

 

「・・・不幸を表すとされる獣の数字、666(スリーシックス)。それの大元となった化け物の事だ。聖書ではグレートレッドとセットで描かれている。それが『黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)』、トライヘキサだ」

 

グレートレッド級の化け物って事かよ!

 

「だがあの獣は誰一人としてその存在を確認出来た者は居ない。聖書陣営の俺達はもとより他の神話の神々ですら長年議論を重ねても結論が出て無い代物だぞ」

 

あ、そうなんだ。『最強』とされるオーフィスを唯一上回るから『無敵』の存在とされるのがグレートレッドと聞いたから、なんで同格とされる奴が話にも上がらなかったのかと思えば神様の間でもおとぎ話に近い扱いなのか

 

「それがね。居たんだよ。聖杯を使って生命の理に潜ってみた結果、俺達は忘れられた世界の果てであの獣様を発見したのさ♪―――でもねぇ、如何やら俺達よりも先にその獣を見つけてかたーく封印を施した存在が居たらしくてね。このままじゃあの獣を使えないのよ。一体誰が封印したと思う?なんと亡くなった聖書の神様でした!さっきマリウス君が聖杯を抜き出す際に使っていたプロテクトコードも666(トライヘキサ)の封印に使われていたものを流用したものだったのです♪」

 

「何!?聖書の神がだと!?―――いや、そうか!聖杯は元々聖書の神が神器として生み出したモノ。聖杯で666(トライヘキサ)を見つける事が可能なら聖書の神が666(トライヘキサ)の所在をいち早く掴んでいても不思議じゃない!」

 

「その通~り♪いやぁあの神様は凄いね。誰にも悟られずにあの獣を神様でも使えば反動で死ぬような禁止級の封印術を何百何千と重ね掛けしてあったんだから・・・案外聖書の神様が死んだ原因ってこっちなのかもね。少なくとも俺には真似しようとしても逆立ちしたって出来ないわ―――今は聖杯と聖十字架を使って必死こいてちまちまと封印を解く作業に没頭中って訳だぜ★」

 

それって封印を解いた時にもしも制御が外れたら世界規模で破壊が巻き起こるじゃねぇか!

 

「異世界を滅ぼすだとか、そんな下らねぇ理由でどれだけの迷惑を掛けるつもりだよ!」

 

「下らないとは心外だねぇ。こっちはこんなオジサンになってから漸く見出した夢なんだぜ?それに理由も単純明快だ。それは俺が『悪魔』だからだよ。いいか?悪魔ってのは『悪』で『魔』の存在だ。邪悪で、悪鬼で、畜生で、悪道で、外道で、邪道で、魔道で、鬼畜で、悪辣こそが本質なんだぜ?なら、悪意を振りまく為にも努力せにゃぁならんって訳よ!うひゃひゃひゃひゃひゃ!」

 

そんな事を看過する訳にはいかないと俺が先手を打ってドラゴンショットを打ち込むがその弾はリゼヴィムに当たった瞬間に霧散してしまった

 

先生曰くアレはリゼヴィムだけが持つ特殊能力で『神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)』というらしい。それを聞いた木場も直ぐに試しとばかりに聖魔剣で斬り付けるが結果は同じだった。可笑しな成長をしていると言われる俺の紅の鎧でもイレギュラーな木場の聖魔剣でもダメなのかよ!

 

「ならば聖剣で斬るのみ!」

 

ゼノヴィアがエクス・デュランダルから聖なるオーラを飛ばすがその攻撃はリゼヴィムの傍にいたリリスによって簡単に弾かれてしまった

 

神器以外の攻撃は龍神様が間に入るってか!それに奴は悪魔の中では魔王を超えて最強のカテゴリーである超越者の一人らしいからエクス・デュランダルでもダメージを与えられたかは微妙だな

 

直ぐ隣の憎悪の炎を瞳に灯していたヴァーリが今まで下手に仕掛けなかった理由がこれか!

 

全員が打開策が打てない現状にリゼヴィムは愉快そうな笑みを向けてくる

 

「まっ、キミたちが争いが虚しい結果しか生まないと理解してくれた処でこれを見てくれよ」

 

奴の後ろに空中に浮かぶ巨大なディスプレイが浮かび上がり何処かの町の様子が映し出される

 

「キミたちにご覧頂いているのはカーミラの町のライブ中継です。深々と雪の降り積もるロスタルジックな風情漂う街並みですね」

 

確かに、カーミラの町は少ししか見れなかったけどツェペシュの町と同じように少しレトロな建物の割合の多い静かな町ではあった

 

「しかししかしあ~ら不思議。実はここで俺様がこの指をパッチンすると楽しいショーの舞台へと早変わりするのです★何が起きるか分かるかな?破壊?爆発?近いっちゃ近いけど正解とは言えないな。それでは気になる方も多いと思うので早速ですが答え合わせのお時間です♪」

 

リゼヴィムがそう言い切るや指を打ち鳴らす。だが画面の中の町の様子に特段の変化は訪れない

 

「んん~?ちょーっと待っててね。そろそろだと思うからさ」

 

だがその後10秒、20秒、30秒経っても変化は無かった

 

リゼヴィムは楽しそうな面の眉間にどんどん皺が寄っていって不機嫌な表情となる

 

「おいおい何で何も起きないんだよ!?どうなってる!」

 

そう言ってから画面を操作して映し出されるカーミラの町の映像を切り替えていく

 

するとそこには大体5~7mくらいの大きさの邪龍が複数体存在し・・・地面に倒れ込んでいた

 

死んでるのか?いや、良く見れば呼吸している様子が見えるから気絶又は寝ているのだろう

 

なんだ?リゼヴィムは聖杯で量産した邪龍でカーミラの町を襲わせようとしたけど邪龍達にボイコットでもされたのか?

 

「はぁ!?何か調整ミスったのか?折角吸血鬼達を弄り回して邪龍にしてやったってのに気絶とか!体が大きく変貌した反動か?」

 

「な!?アレが吸血鬼だと!?」

 

コイツは聖杯で吸血鬼を強化する際にそんな事まで仕込んでたってのか!?

 

俺達はリゼヴィムのあまりの所業に驚愕し、戦慄するが当のリゼヴィムはガジガジと頭を片手で掻きむしって舌打ちしている

 

「クソ、こんな締まらねぇオチが付いたんじゃ興醒めもいい処だ!いや待てよ?こっち(・・・)でも同じ事になってるのか?」

 

リゼヴィムが更に別の画面を展開するとそこにはさっきとは比べ物にならない大量の邪龍が同じく地面に転がっている光景だった

 

「こっちと言ったわね。つまりあの映像はツェペシュの町の様子という事かしら。直接潜伏していたこの町の吸血鬼の兵士は大方聖杯の恩恵を受けていたから軒並み邪龍にされたようね・・・あれだけの数の邪龍が町中で暴れまわっていたらと考えるとゾッとするわ。カーミラの邪龍も数は少なくても今はカーミラの戦力は大方がマリウス達を倒す為に出払っているだろうし、残った兵士だけでは一体どれだけの被害が出たか」

 

「そう!そうなんだよ!まさしく俺様はそれが見たかったのにさぁ!何で失敗してんだよ!」

 

いい歳した見た目中年のオヤジが子供ったらしく地団太を踏んで悔しがっていた

 

だがそんな様子を観て今度はアザゼル先生が愉しそうに嗤い声を上げる

 

「ハッハッハッハッハ!いやぁ、テメェのムカつく面が引き攣る様子はしっかり録画させて貰ったぜ。何で失敗したのか教えてやろうか?所詮現役を引退して久しい悪魔様じゃあ悪の大幹部にゃ届かないんだよ」

 

悪の大幹部?それってまさか!

 

「イッキがこれをやったんですか!?」

 

「正確にはイッキと黒歌だがな。アイツがお前らがギャスパーの父親に話を聴きに行ってる間に【一刀修羅】を発動させたらしいって言ってたろ?全てはこの為の布石だったんだよ」

 

詳しい事は分からないけど如何やら俺の親友は裏でとんでもなく働いていたようだ

 

[イッセー side out]




今回はメインストーリーを出来るだけサクサクと進めて書きましたが説明部分が多い為文字数2万字超えしてしまいましたねw

次回はイッキ視点で2話連続且つ明日の18時に予約しております

3話→4話→2話の順番に完成したのでww


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第三話 ドラゴンと、メイド服です?

良し、イッセー達はギャスパーの父親に話を聴きに行ったな。なら始めますか

 

「【一刀修羅】!!」

 

「に゛ゃに゛ゃ!?何をやってるのかにゃ!?」

 

あ、ヤベ、黒歌に事前に説明するの忘れてた!

 

「悪い黒歌。今から気配感知、いや、魂感知に集中するから終わったら仙術の回復頼む。詳しい説明はその時にするわ!」

 

うん、コレは普通に俺が悪かった

 

黒歌も不承不承といった感じではあるが「分かったわよ」と納得してくれたようなので早速とばかりに座禅を組んで【一刀修羅】で強化された感覚でもってこの吸血鬼の町の気配を感知する

 

元より俺はこの【一刀修羅】を長年『感覚を研ぎ澄ます』という用途で使用してきた

 

元々が血筋で云えば平凡な俺がここまで強くなれたのは【一刀修羅】いや!【一刀修羅】大先生のお陰だと言っても過言ではないだろう

 

使えねぇ【じばく】や一々上げて堕とす事に定評のある【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】とは違うのだ!

 

そうして周囲の吸血鬼達の気配もとい魂の根底にまで手を伸ばし、【一刀修羅】を発動させてからジャスト一分後にもはや慣れてしまった極限の疲労感に蝕まれる

 

「ほらイッキ、ソファーに運ぶわよ」

 

ぐったりとしてしまった俺を黒歌がお姫様抱っこでソファーに運びその上で膝枕をしてくれるけどコレで猫又姉妹のお姫様抱っこを逆コンプリートしてしまったな

 

そんな馬鹿な事を考えつつも黒歌の膝枕と疲労感に仙術治療のポカポカした暖かさの合わせ技で瞼が落ちそうになるのを必死に堪えて説明に入る

 

「黒歌はさ。吸血鬼の兵士とかの気配を如何感じた?」

 

「にゃ?如何って特段変わった気配はしなかったけど?」

 

「そうだな。表面上は確かに吸血鬼の気配だった。でも聖杯で強化されたってのが気になってよくよく探ってみたら違和感を覚えたから今、【一刀修羅】で感覚広げて調べてみたんだ」

 

正確にには知っていたからこそ念入りに調べたって感じだけどな

 

前にタナトスと戦った時に魂感知はそこそこといった評価だったが【一刀修羅】状態ならばその限りではないからな

 

「それで?一体何が判ったのかにゃ?」

 

「この町の吸血鬼とあとカーミラで出会った吸血鬼の一部もそうだけどアレは邪龍だよ」

 

「はい?ど、如何いう意味にゃん!?」

 

吸血鬼が邪龍と告げると流石に黒歌も目が点になってから詰め寄って来た

 

近い近い!顔が近い!っクッソ、こんな状況でなければ堪能してたのに!

 

「間違いなく生命の理を操るっていう聖杯の力なんだろうけど、魂がもう邪龍の魂に上っ面の吸血鬼の仮面を被せてるだけの状態だな・・・いや、むしろ風船の中に水がパンパンに詰まってる感じか。ほんの少し衝撃を与えてやれば邪龍の魂に引っ張られて心が暴れるだけの邪龍と同じになるか肉体ごと引っ張られて完全に身も心も邪龍になるかだろうな」

 

「・・・それってあのマリウスとかって吸血鬼がそうしたって事?幾ら何でも邪龍にする意味は無いんじゃないかにゃ?幾らアイツがイカれてるって言っても流石にそれは不自然にゃ」

 

そりゃあ最初はそう考えるよな。現在、聖杯を扱えるのはヴァレリー及びヴァレリーを操ってるマリウスだけとするのが自然だろうけどそんな訳の分からない事をするのは黒歌の言ったように不自然極まりないからな

 

「そうだな。推理小説じゃないけど順番に行こうか。まず How done it(どうやったか)Why done it(何故やったか) は置いておいて最初に考えるべきなのは此処では Who done it(誰がやったか) だと思う」

 

どこぞのエルメロイな二世様と違って Why done it(何故やったか) 以外はゴミだ何て言わないさ

 

「それはつまりこの件に関してはマリウスとかって吸血鬼が犯人じゃないって事?」

 

「一人だけ居るだろ?アザゼル先生が散々扱き下ろしたクソ野郎で邪龍についても詳しそうなのが一人さ」

 

そう言うと黒歌も「ああ・・・」といった反応を示した

 

「そうだと仮定して Why done it(何故やったか) は恐らく理由は二つ。一つは此処で量産した邪龍を手駒に加える為、もう一つは・・・単に愉しそうだったからじゃないか?」

 

「確かに廊下で出会った時は只管小者で只管邪悪って印象だったからね。それも在り得そうにゃ」

 

小者って・・・まぁ確かに正直大物感はあのふざけた態度からは読み取りにくいけどさ

 

実際無駄に強いだけの小者だしな

 

「で、最後の How done it(どうやったか) だけど使われた道具自体は聖杯だとして黒歌、ちょっとアザゼル先生を内密に呼び出して貰って良いか?神器研究者(オタク)の意見を聴きたい」

 

それから少しするとアザゼル先生から通信が入った。同じ城内ならばイヅナでなくとも繋がるな

 

≪おう、如何した?こっちはデカい方の便所だっつって抜けてきたが余り時間は取れないぞ?≫

 

「そこは最悪急に腹が下って盛大に下痢ったとでも言っといて下さいよ。それでですね・・・」

 

俺は最後の推察以外の事を出来るだけ簡潔に話す。途中通信越しでもアザゼル先生が絶句してたのが伝わって来たけど構わず話す。この人ならこの程度で思考停止はしないだろう

 

いや、如何かな?俺は元々そういうもの(・ ・ ・ ・ ・ ・)と認識していたからこそだったけど、先生や黒歌たちにしてみれば普通の魚が優雅にマグマの中を泳いでるレベルに変な事言ってるかも知れん

 

≪・・・・・・それで?その仮説を一先ず信じるとして、お前が聴きたいことってのは何だ?≫

 

普段とはかけ離れた固い声音だな。まぁこの町の吸血鬼の兵士の多く及び一部の上級吸血鬼はこの国に来た時点で魂レベルで手遅れでしたって話だからな

 

それに十中八九カーミラにも邪龍が入り込んでいるとなればね

 

「先生も気になってる事だとは思うんですが、この町の吸血鬼が可笑しな事になっているのはまだマリウスたちが聖杯を使う時にコッソリ介入したのだと考えれば出来なくはないとも思うんです。マリウスは聖杯の研究者とか言ってますけど聖杯の噂が流れ始めたのはここ最近の事。聖杯の研究は精々数年程度しか行われていないとするならアザゼル先生はたったそれだけの期間で聖杯の全てを掌握出来ると思えますか?」

 

≪無理だな。俺達神の子を見張る者(グリゴリ)が今まで何年神器の研究に費やしてきたと思ってる。その上その対象が特大の力を持ちつつも扱い辛さでは神滅具(ロンギヌス)屈指の聖杯となれば尚更だ≫

 

確かに、聖杯って単純なポテンシャルだけ見るなら『奇跡を起こす』黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)にだって匹敵するかもな・・・代わりに廃人直行コースだけど

 

≪この町の吸血鬼達の事はそれで良いとしても問題はカーミラ側にも邪龍寸前の吸血鬼が居るという事だろう。幾ら何でもカーミラの領地まで聖杯を持つヴァレリーを連れだせたとも思えん≫

 

さぁて、一番どうしようもない質問が来たぞ

 

吸血鬼が邪龍ってのは実際俺の魂感知でも感じ取れたことだから良いとして此処で俺が「実はですね。俺は今回の聖杯は亜種で複数在ってリゼヴィムたちが既にコッソリと抜き出して使ってるんじゃないかと考えてるんですよ」・・・なんて言える訳がない

 

具体的な根拠がないとね

 

一応ヴァレリーの気配を辿ってそっちにも感知を飛ばしてみたけど魂が何処か不安定になってるのは解るのだがそんなの聖杯の精神汚染と考えるのが普通だろう。そこから『聖杯複数説』に繋げるのは無理があり過ぎるからな

 

ハッキリ言ってカーミラ派の奴らまで邪龍になってる事については得られる情報が少なすぎて推測の一つも立たない

 

だからここは伝家の宝刀を抜かせて貰おう!

 

「そこが判らないのですがアザゼル先生は何か思いつきますか?」

 

秘儀!他人に丸投げ!!此処まで推理っぽい事やっといて何だけど俺の今回の件における主目的は吸血鬼の邪龍化の事を伝える事だから誰が(Who)とか目的(Why)とか手段(How)とかぶっちゃけ如何でも良いのだ

 

物事の方針を決めるのに一々真実まで探り出す必要は無い

 

勿論それが出来ればそれに越したことはないけど、ここで必要なのは事実だけで十分だ

 

≪正直なんとも言えんな。どの政権でも敵対派閥・・・ここで言うなら聖杯の恩恵にあやかりたいってカーミラ派の吸血鬼の裏切り者は居るだろう。少人数であればカーミラ派の情報と引き換えに秘密裡にヴァレリーの下に連れて行って聖杯の強化を受けられる機会もあるかも知れんが、末端の兵達にまで聖杯の力が及んでいるとするなら一気に話は面倒臭い事になる≫

 

「兎に角俺と黒歌で対処に当たろうと思います―――ハッキリ言って聖杯で強化された吸血鬼は魂レベルで手遅れです。元に戻そうと思ったらそれこそヴァレリーに同じだけ聖杯を再度使って貰う必要がありますが、身勝手な内乱を起こした奴らまでヴァレリーを犠牲に救おうとは思いません」

 

この町に漸くお呼ばれした時点で手遅れとか介入の『か』の字もさせてくれなかったよな

 

≪まぁ同意だな。だが奴らが町中で理性無き邪龍に突如変身するなんて事になれば関係の無い一般住民の吸血鬼にも甚大な被害が及ぶだろう。流石にそちらは見逃す訳にはいかん≫

 

「ええ、ですから俺が吸血鬼達を選別して黒歌に術式を仕込んで貰おうかなと」

 

「それは良いけど、どんな術を仕込む気かにゃ?」

 

「邪龍の気配を感知したらその相手を麻痺なり昏倒なりさせて縛り上げるような、兎に角動きを封じる術式を仕込んで欲しい。『実は吸血鬼が邪龍になってたから邪龍になる前に全員暗殺しました』なんてこの件が終わった後で各勢力に説明できないからね。あいつ等には邪龍になって俺らの大義名分の生きた証人になった上で何もさせずに制圧するのがベターかなってな―――ベストなのはリゼヴィムが何かする前にぶっ殺して邪龍になるトリガーを引かせない事なんだけど・・・」

 

≪難しいだろうな。アイツ一人でも大概だが今はオーフィスの分身があの野郎を守ってる。守備は鉄壁と言っても過言ではないだろうよ≫

 

龍神様の加護(物理)ですね

 

「それで如何だ黒歌?術式組めそうか?」

 

「ん~、そうねぇ。邪龍のオーラを感知したら起動する一種のトラップ式で発動したら脳みそに直接仙術ぶち込むようにすればタフな邪龍でも意識を奪えるんじゃないかにゃ?でもその為には相手の頭に直接触れて術を仕込む必要があるわね・・・どれぐらいの数が居るのにゃ?」

 

「大体二百人前後?カーミラ派の領地の方にどの程度改造吸血鬼が居るのかはそっちでまた感知してみないと判らないけどな」

 

そう言うと黒歌は凄くイヤそうな顔をした

 

「それ全部私が気付かれないように術式仕込むのかにゃ?そりゃあ私なら雑兵の吸血鬼程度仙術と妖術に時間操作も組み合わせれば本人にも立ち眩み程度の違和感しか与えないで作業も出来るだろうけど大変な作業に変わりないにゃ」

 

それを言われると弱いな。今回の件でもしかしたら一番労働するのは黒歌になるかも知れない

 

≪俺からも頼む。もしもリゼヴィムの悪戯で邪龍が町中で突如として暴れ出したらクーデターとは本来関りの無い住民が大量に死ぬことになるし、彼らの住む場所であるこの町も破壊されるだろう。流石にそれは放置は出来ん≫

 

「分かってるわよ。ただ、後で何かご褒美が欲しいにゃ~?凄~く大変なんだからそれぐらい良いでしょう?そっちの方がモチベーションも上がるしにゃ♪」

 

ご褒美と来ましたか。まぁそれで黒歌のやる気が出るなら安いもんじゃないか?

 

「ご褒美は良いけど急に言われてもな・・・何かリクエストは有るのか?」

 

聞くと黒歌は楽しそうな笑顔を向ける

 

「勿論にゃ♪―――ほら、イッキがレイヴェルとデートに行く前に私が新しい術を創ってるって言ってたの覚えてるかにゃ?完成したら起動実験に付き合って欲しいのよねぇ♪」

 

「ん?そんなので良いのか?」

 

もっと色々振り回されるような内容を想像していたんだが

 

「ええ♪私一人じゃ実際に使ってみた時に判らない処もあると思うし、感覚の鋭いイッキの意見は貴重だからにゃ♪イッキには・・・そうねぇ。後でその術とそれに付随する効果の詳細とか感想とか諸々をレポートに纏めて貰っていいかしら?」

 

レポートか。黒歌がそこまでするなんて本当にその新術に力を入れてるんだな

 

「分かった。新術に付き合うのとレポートだな。お安い御用だ」

 

「にゃん♪・・・・・言質取ったにゃ♪

 

「?」

 

最後に黒歌が何か言ったみたいだけど疲労感のせいか聞き逃したな

 

「そういう訳でアザゼル先生。俺と黒歌はこの町・・・国で作業を終えたら最初に魔法陣で跳んで来たカーミラの町の方でも同様の処置をしていこうと思います。聞いての通り繊細な作業で且つ数が多いですし、上級吸血鬼の住む屋敷や城への潜入とかも考えるとかなり時間が掛かると思います。俺は黒歌のサポート及びナビゲーター役って事になりますね」

 

今の俺は黒歌に仙術で回復させて貰ってるけど、今度は逆に俺が黒歌の疲労を回復する事になりそうだ。それ以外は軽い補助になりそうだけどな

 

≪分かった。確かにコレはお前さんらでなければ頼めん案件だ・・・ったく、俺ん処の『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』並みに優秀だよ。魔王級の力も出せる仙術使い二人とか暗躍には持って来いだな≫

 

「良いんですよ、それで。強敵と真正面から渡り合い打倒すとかってのは『おっぱいドラゴン』のするべき立ち回りでしょう」

 

≪クックック、お前は『オール・エヴィル』だもんな。だが、お前が今やっている事は真逆の善行なんじゃないのか?≫

 

むっ、確かに別にスニーキングミッションとかはそれだけでは別に悪じゃないよな。何処ぞには段ボールで潜伏(スネーク)する主人公だって居るんだし

 

「なら、俺と黒歌が作業を全部終わらせる前にリゼヴィムが行動を起こしてイッセー達の前でドヤ顔で『邪龍パレード♪始まるよ~★』とかやったなら一転してほぼ何も起きない事に癇癪爆発させるリゼヴィムの間抜け面でも録画しといて下さい。後でワイン・・・は、未成年だから無理なのでかち割氷にウーロン茶でブランデーっぽい雰囲気だけだして一緒に鑑賞会して愉しみませんか?」

 

≪ハハハハハハハハ!!それは酒が進みそうだなぁ!悪意の塊、扇動の鬼才と称された聖書に記されし大悪魔も邪人、いや、邪神様に掛かっちゃ形無しってか?≫

 

「いや、何時の間に邪神なんて設定が出てきたんですか?そんなの知りませんよ?」

 

≪なぁに、お前の【神性】がどんどん高まってる事にちなんでだよ。実際出会って探ってみたがお前が魔獣騒動の折に禁手(バランス・ブレイカー)に至った直後はそこら神クラスって感じだったが、今のお前の【神性】は名の有る神クラスじゃないか。その内主神クラスの【神性】を手にする日もそんなに遠くなんじゃないか?≫

 

主神クラスの【神性】ねぇ・・・今の俺が【神性 A+】でそれ以上となると【神性 A++】だけどそう言えば確か常夏ビーチではっちゃけたお忍び太陽神のキャス狐(ランサー)がそれぐらいだっけ?そう考えるとアザゼル先生の言ってる事も割と的を射てるんだな

 

・・・いや、これ以上【神性】が上がるか如何かなんて知らんけど

 

≪サーゼクスの方にもその案は提出するつもりだからな。『おっぱいドラゴン』の敵役として一丁頑張って演じてくれや≫

 

その設定は決定事項ですか!?

 

―――そりゃ堕天使の元総督の意見を脚本家も蔑ろには出来ないだろうけどさ!

 

「全く、それにちゃんと政治的な意味合いも有るんですよ?ツェペシュ派とカーミラ派の吸血鬼達の兵士の多くと一部の上級吸血鬼が今回の件で邪龍に変わるなら国力も統制力も一気に減少するでしょう。その上生かして捕らえた邪龍は元は聖杯に手を出さなかった吸血鬼たちからしてみれば裏切り者であると同時に家族であったり友であったりするはずです。そんな捕らえた邪龍を処分するなんて判断は簡単に下せるものじゃありません。かと言って逆に捕らえた邪龍を飼う(・・)にしても、その時この国にそんな力が残ってるかは微妙です。恥も外聞もかなぐり捨てて外への援助を申し出るしかない。邪龍を元の吸血鬼に戻すにはヴァレリーの、聖杯の力が必要ですが彼女は俺達が連れ去る予定ですからね。聖杯の機能を限定してほんの少しずつでも良いから吸血鬼に戻して欲しい・・・なんて頭下げて来るんじゃないですか?」

 

まっ、実際は元がただの兵士の下級吸血鬼とかはコッソリと数を減らされるとかありそうだけどな

 

もしくは聖杯に与した邪龍は全部殺処分すると厳しい判断を強行したとしても一部の元上級吸血鬼の邪龍は何処ぞの地下にでも繋がれることだろう

 

どっちに転んだとしても聖杯や神器、邪龍などに現状一番詳しくて吸血鬼の上役や貴族が頼れるのは三大勢力及び和平を結んだ神話勢力だけだ

 

五体投地で和平入りしてくれるだろうし恩も売れるはずだよね?

 

≪・・・そう間違っちゃいないが言い方が悪辣過ぎるぞ≫

 

頑張れって言ったのそっちじゃないですか!

 

「それに別に搾り取れって言ってる訳じゃないですよ?そんな風に接したら数十年から数百年後が恐いし・・・程々に彼らの残るプライドを刺激しながら『助けて差し上げる』ことが出来れば彼らもきっと和平勢力への恩を忘れずに変に増長したりもしないだろうって話です」

 

・・・天界の全力バックアップみたいな事をしていったらその内『我ら至高の吸血鬼は他種族から奉仕されるのが当たり前』とか考える輩も出てきそうだしね

 

≪この事はイッセー達にはまだ伏せておけ。吸血鬼達が手遅れだってんならアイツ等の不安を無駄に煽るだけだからな。お前らが対処するってんなら尚更だ≫

 

「了解です。俺が回復したら早速動くとしますよ・・・それでは通信を切りますね。トイレの長いアザゼル先生」

 

≪な!?おま!?後で覚えてろy・・・"ブツッ"≫

 

アザゼル先生が全部を言い切る前に通信は切れた(切った)

 

「それじゃイッキも今は眠って体力の回復に努めなさい。その間に私も仕込む術式を組んでおくからにゃ」

 

黒歌はそう言って掌を俺の眼の上辺りに置いて視界を遮る。早く寝ろという合図だろう

 

実際黒歌の仙術で最低限体力は回復してるから起きている事は出来るけど先程から抗っている大量の眠気を撥ね退ける方が精神的に消耗しそうなので大人しく睡魔に身を委ねる事にしたのだった

 

 

 

 

 

良い匂いと人肌の暖かさを感じながら目を覚ますと黒歌の膝枕に加えて白音が俺の額に手をやって仙術を掛けつつ顔を覗き込んでいた

 

目覚めてから最初に白黒の猫又姉妹の顔が拝めるのは自分でも役得だとは思う

 

「起きましたか?イッキ先輩」

 

「ああ、お早う白音―――黒歌、頼んでたものは出来たか?」

 

「ええ、何時でも行けるわよ」

 

良し!それじゃあ早速行動開始だな。どの程度猶予があるかまでは流石に覚えて無いけどそんなにゆったりはしてられなかったはずだ

 

そう思いつつ上半身を起こして周囲を見ると何故か近くのソファーではイッセーが朱乃先輩に膝枕されて幸せそうな(だらしのない)表情を浮かべている・・・何やってんだコイツ?

 

「おう、起きたのかイッキ。いやぁ膝枕って最高だよな!」

 

開口一番それかよ・・・否定はしないけどさ

 

それと如何やらイッセー達の後ろでは教会トリオがジャンケンをしていたようだが丁度決着が付いたようでイリナさんが勝利のピースサイン(決め手はチョキ)を高々と掲げる

 

「イエーイ!イッセー君に次に膝枕する権利は私のものよ!」

 

ああ、成程。イッセーを膝枕する順番を賭けてたのね

 

「ッく!この手のものでイリナに後れを取るとは!・・・何故先ほどの私はあそこでパーを出してしまったんだ!?」

 

ゼノヴィアは悔しさに歯を食いしばりながらブルブルと震える己の掌(パー)を見つめている

 

「はぅぅ、負けてしまいましたぁ。でも、次は負けませんよ!」

 

アーシアさんだってちょっと涙目だ―――凄いな。ジャンケン一つであそこまで真剣になれるのか

 

「ああ!私も例えアーシアが相手であろうと手加減するつもりは無いぞ。友達でも、否!友達だからこそ全力を賭す覚悟だ!」

 

「わ、私だって負けません!」

 

それから始まる二人の最後の攻防

 

幾度かのあいこの後、天に拳(グー)を突き上げるゼノヴィアの姿が在った

 

アーシアさんがジャンケンで敗けたのか

 

基本的に運の良い彼女が最下位とは珍しいとその時は思っていたが、如何やら後にアーシアさんが膝枕しているタイミングで偶然同じ部屋から人が居なくなってイッセーがアーシアさんに逆膝枕をするという桃色イチャラブ空間を形成していたらしい・・・アーシアさん、流石の運命力である

 

ただまぁそれをゆっくり眺めている訳にもいかないな

 

「皆、俺と黒歌はやる事出来たからちょっとの間留守にするわ。少なくとも丸一日以上は戻らないからそのつもりで頼む」

 

「それってアザゼル先生の口止め案件って事か?なら聞いても意味無いな」

 

おお、素直だな。イッセーも裏・・・と云うかコレは大人のと言うべきかな?そんな立ち回りに理解を示してきたな

 

単純な実力と違って分かりにくいけど『王』としての在り方を身に付けつつあるのは良い事だ

 

そう思いつつ立ち上がって近くの白音の頭に手を置く

 

「それじゃあ白音。こっちは任せたぞ」

 

「はい。イッキ先輩と黒歌姉様もお気を付けて」

 

「それじゃ、行ってくるにゃん♪」

 

そうして俺は普通に、黒歌はひらひらと手を振りながら客間を後にした

 

「それで?今は【一刀修羅】を使ってない訳だけど邪龍な吸血鬼の気配は追えるのかにゃ?」

 

「大丈夫だ。最初は軽い違和感程度だったけど一度はっきり感じ取れば今の俺でも気配を追えるな。この町の吸血鬼達を一通り処置したら一応最後にもう一度【一刀修羅】で確認を取るつもりだけど・・・黒歌、吸血鬼に施す術式だけど、悪いが軽いマーキング機能も付けて貰って良いか?最後に判別出来るようにさ」

 

「はいはい、それ位ならお安い御用にゃ。それじゃあ面倒事はさっさと終わらせちゃいましょう」

 

そうして俺達は先ずは警備の薄い処からお試しも兼ねて町中を巡回中の吸血鬼達を片っ端から襲撃(ただし襲われた本人は気づいて無い)していく事にしたのだった

 

 

 

 

 

邪龍の魂を持つ吸血鬼達に覚醒と同時に昏倒する術式を仕込む作業を始めてから既に一日半は過ぎたが実は既にこの町の吸血鬼達の処置は済んでいる・・・もっと時間が掛かるものと思っていたがぶっちゃけこの町の警備網がかなりザルだったのだ

 

クーデター直後だからと云う理由だけじゃなくて、兎に角吸血鬼達は鎖国的な為か外敵の侵入や内部工作に実は弱いんじゃないだろうか?一番の敵と云える教会ですら長年この町やカーミラの町などを発見したことが無いとなれば想定する相手は精々敵対派閥の吸血鬼や後は・・・人狼族とかくらいじゃないか?今まで特に見つかる事すら無かったなら警備の意識が緩くなっても仕方ないとも思う。まぁ何にせよ俺と黒歌の仙術は吸血鬼達の警備の目を掻い潜るのに有効だったという嬉しい誤算があったのだ

 

当然皆の居るツェペシュ派の本城にも例の吸血鬼達が居たけど流石にそちらはセキュリティのレベルが高くて苦労したけどな。それ以外だと吸血鬼は眠るときは棺桶で眠る特性があるから彼らの兵舎に侵入して彼らの眠っていた部屋の吸血鬼を一気に処理した時とか気分は墓荒らしだったよ

 

監視役の吸血鬼は俺と黒歌が与えられた部屋から完全に居なくなったと思ってたのだろうが城内の作業も終えて最後に【一刀修羅】を発動させて確認を取った時に部屋に戻って黒歌と一緒に仮眠も取っていたりする―――因みにその時はイヅナでコッソリと白音を呼び出してベッドに突っ伏してる俺達を回復して貰ったんだけどな。ずっと働き詰めだった黒歌に加えて俺が【一刀修羅】で体力を使い果たしたら回復役が居なかったからさ

 

そうしてまだ若干重たい体を押して今は二人でまた町に繰り出して喫茶店で食事を取っている処だ。城に俺達が居るとバレれば穴が開くレベルで監視されてしまい、抜け出すのに物理的な力が必要になるかも知れんからな―――現状で先に手を出したなんて証拠は残せないからね

 

「ふにゃ~、疲れたにゃ~」

 

「お疲れ、黒歌」

 

喫茶店での食事を終え(黒歌は俺の倍以上は食べた)、程よい満腹感を感じつつ黒歌は喫茶店のテーブルに突っ伏している

 

そんな黒歌の様子に苦笑しつつも一先ずの労いの言葉を掛けた

 

「うぅ~、でもまだカーミラの吸血鬼の町の方にも行かなきゃならないんでしょう?そう考えると憂鬱にゃ。サクッと殺した方が早いんだけどねぇ・・・まぁそんな事をしたらすぐにバレて厳戒態勢になるから逆に面倒になっちゃうわね」

 

コイツもサラッと怖い事言うな

 

因みにコレから俺達はカーミラの領地に向かう訳だが、この町を覆う結界は外に出るのは難しくなさそうだったりもする

 

カーミラの町から外に出る時も俺達は普通のワゴン車で町から離れたし、多分万が一内部でなにか不測の事態が起きた時に逃げやすいように結界が創られているのだろう

 

今回のクーデターとかまさにそれで、ツェペシュ派の追い出された王様も逃げ延びたってアザゼル先生が途中で言っていたしな

 

もしも脱出ルートが限定されていたら逃げ延びるのは無理だったんじゃないか?

 

そうして喫茶店を後にした後、この町に来た時のゴンドラ乗り場の方から脱出してカーミラの町に潜入する手筈だ・・・しかし途中で見えた光景に思わず足を止めてしまう

 

町中を流れる小さめの川・・・というか用水路の橋の上にオーフィスの分身であるリリスが居たのだ。それだけなら散歩と割り切る事も出来たけど既に頭の上と云うか全身に雪が積もっている

 

何時間その場で微動だにしなかったんだよ!?

 

まだまだ情緒が育っていなかったんだと思うけどちょっとコレは酷いぞ

 

「あ~、リリス。何してるんだ?」

 

流石に見知った顔のゴスロリ幼女が体に雪を積もらせているのを黙って見てるのもアレなので声を掛けると此方に視線を寄越さないで用水路を見つめたまま「かわ、みてる」と返してきた

 

まんまじゃねぇか!

 

「川が好きなのか?」

 

「しずかなの、リリス、すき」

 

そう云えば元は静寂を求めるドラゴンでしたね

 

「それでも雪くらいは払った方が良いぞ。それかこんな雪の日は傘をさすとかな」

 

「? リリス、さむくない」

 

今度はこっちを向いて不思議そうに首を傾げられた

 

そりゃ弱体化していても龍神様だからこの程度は平気だろうけどよ!

 

それこそ全盛期なら太陽から宇宙まで下手したら平気かも知れないが、そうじゃないんだよ

 

「そう云うのは本人が平気でも一つのモラルとしてアウトかな」

 

「?」

 

また不思議そうな顔をされた。確かにコレでは今の彼女には伝わらないか・・・

 

「ほら、リリスは今ドレスを着てるだろ?原点を辿れば服は人間が体温調整や弱い肌の保護の為に着るもので、必要不必要で語るならリリスはそもそも服を着る意味も無かったはずだ。それなのにリリスは何で服を着ているんだ?」

 

見た目幼女に「キミは如何して服を着てるんだい?」と質問する高校生・・・傍目には完全に事案である。だけど無知で無垢な彼女を納得させるにはそういう只管に物事の根本を捉える『服とは何?』といういっそ哲学的なレベルから語らないとダメな気がしたのだ

 

「・・・わからない、リリス、リゼヴィムにふくを着るようにいわれた、だから着た」

 

「それはそうしないと人間界では周囲に変に思われるからだな。それにリリスくらいの見た目だと変どころか『あの子は何かあったんじゃないか?』って心配までさせる事になる。自分一人だけなら兎も角、周囲に他の人達が居る状況だとある程度その文化に合わせないと要らない諍いを呼び込む事になるぞ?リリスは静かなのが好きならそういう事も少しずつ覚えていこうな」

 

取り敢えず今のリリスの関心事であろう『静寂』を理由に盛り込んで説明したら素直に頷いてくれた。そうして彼女は周囲を見渡すと丁度こじんまりとした服屋がそこに在ったのでそちらに歩いて行く。如何やら早速行動に移したようだ―――素直だからこそ行動に直結するんだな

 

そう思いつつ俺達もカーミラの町に行かなくてはいけないのでリリスが店に入るのを見届けてから移動しようとして彼女が店の扉を開けた瞬間微かに、だが確かにマネキンに着せられた前面解放乳首バッテンシールドレスが見えた

 

“バタンッ!”

 

そしてリリスは店の中に入って扉を閉めた

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

「ストオォォォォォップゥゥゥ!!リリス!戻って来い!」

 

「にゃは~。今のってオーフィスが最初に着ていたあの服だったわよね?吸血鬼の町にも入荷してたなんて、意外と人気商品だったのかしら?」

 

そりゃ『一押し新商品』だったはずだからな!つーかどんな確率でその店引き当てたんだよ!

 

リリスに俺の声は届いていなかったようなので全力ダッシュして店内に突入し、今まさに伝家の宝刀『あのマネキンの服一式下さい』を発動させようとしていたリリスを連れ出す事に成功した

 

因みに店を出る時にチラッと見たのだが『ゲテモノメイドシリーズ』の新作らしく他には『堕天使エロメイド』や『大妖精チラメイド』、『海魔王ブラメイド』他数点が確認出来た

 

シリーズものかよ!―――因みにその新作は『龍姫(ドラクル)ペケメイド』だそうだ

 

それから俺と黒歌は普通の服屋を探し出してリリスの服を見繕う事になった

 

取り敢えず今彼女が着ている黒のドレスの上にフード付きのレディースポンチョを買って上げたので見た目で云えば赤頭巾ちゃん、もとい黒頭巾ちゃんって感じだ

 

一応モノトーンを意識して同じタイプの白のポンチョと他数点を次元収納に仕舞って貰った

 

「・・・思わぬ処で時間を喰ったな」

 

「にゃはは、まぁアレは仕方なかったんじゃないかにゃ?」

 

仮に橋に居たリリスを放置していたらあの店に入る事は無かっただろう・・・俺がオーフィスの服装を普通にしたから代わりにリリスの服がアレになる処だったのか?

 

何だかこう、運命の修繕力みたいなものを感じたよ

 

店を出たらリリスが此方を見つめてくる

 

「あり・・・がとう・・・?」

 

疑問形ですか。人生経験の殆ど無い彼女からしたらよく判らないのだろう

 

「どういたしまして」

 

この場ではそうとだけ返しておいた。与えられれば常に感謝するべきかと云えば結構微妙だからな―――『お菓子あげるからお願い聞いてオジサン(アザゼル)』とか世の中には居るし、その辺りも含めて少しずつ学習していけば良いのだろう

 

・・・仮に変態紳士に遭遇しても返り討ちだし

 

「じゃあ俺達はやる事有るからもう行くよ」

 

「おしごと?」

 

「ああ、お仕事だ―――っと、そう云えば今更だけど自己紹介もしてなかったな。俺は有間一輝、それでこっちが黒歌だ」

 

こっちは一方的にリリスの事を知ってたけど、今のリリスにしてみれば未だに俺達は名無しの通行人Aと通行人Bだからな

 

「あり・・・ま・・・いっき?くろか?」

 

「まぁ、イッキと黒歌で良いよ」

 

さて、このまま別れても良いんだけど、そう云えばオーフィス用のお菓子とかが次元収納に仕舞ってあったな

 

オーフィスは同じドラゴンであるイッセーの後を憑いて回る事が多いけど九重と通信するようになってから俺の部屋に来る頻度も増えたし、他の皆も結構オーフィスにお菓子を出したりお茶を淹れたりとかして構ってるんだよね。流石のマスコットガールだ。その上太ったりする心配も無いから所謂『エサを与え過ぎないで下さい』的な議題も上がらないしな

 

「リリス。お近づきの印にこれをやろう」

 

次元収納から取り出したのは一本のバナナだった

 

何故バナナかって?オーフィスは好き嫌いを口に出す方ではないけどバナナを食べてる姿が度々見られるから好きなんだろうというだけの話だ

 

・・・そう云えばうろ覚えだけどクロウ・クルワッハもバナナが好きだったっけ?最強の名を冠するドラゴンはバナナで繋がるのかも知れんな

 

それからリリスがバナナを食べ終えるのを見届けて(最初は皮ごと齧り付きそうになった)何だか無言ジッと催促するような瞳で見つめられたので残りのバナナ(一房)を与えて皮はゴミ箱に捨てるよう指導してから俺達はその場を後にしたのだった




ゲテモノメイドシリーズは魔術と科学が交差している学園都市で出てきますねw


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第四話 邪人と、赤龍帝です?

リリスと別れた後、改めてカーミラの領地に向かおうとしたところで路地裏の方に微かに見知った気配を感じ取り、黒歌と手を繋いでそっちに移動し、そこに居た二人に話し掛ける

 

「ルガールさん。ベンニーア。そっちは順調か?」

 

そこに居たのはシトリー眷属のお二人で力を借りたいと思ったのだ

 

この町に着いた時に脱出用のルートを確保する為に別行動だった―――俺や黒歌のやり方だと脱出可能と言っても転移とかじゃなくて殆ど物理的に外に向かう必要があったし、逆にカーミラの領地に再度侵入するのは骨が折れそうと思っていたのだが、彼女達が既にルートを構築しているならそっちの方が楽で良いし、何より早いからね

 

気配を極力消して行動していたから声を掛けた瞬間身構えさせたけどな

 

≪おっとっと!お二人ですか。いやぁ、ビックリしやした。あっしもルガールの旦那も感覚は鋭い方だと思ってたのに気づけなったっス≫

 

俺も仙術で魂の気配を感じ取れるようになってきたから多少は魂の気配も弄れるようになったので少し試しに死神ハーフっ娘のベンニーアにも気付かれないか、繋いだ手で黒歌の気配も消してから挨拶してみたのだ。取り敢えずこの反応からして上々と云えるかな?

 

≪そうっスねぇ。今の処この町と郊外を繋げるルートに郊外のツェペシュとカーミラの間を繋げるルートにそこからカーミラと繋げるルートって感じで取り敢えず最低限の枠は確保しやしたね。日本とかへの完全にこの国の外まで行ける直通ルートはもう少し掛かりそうですぜ≫

 

良し!この結界に包まれた鎖国国家で自由に行き来できるルートを構築できるこの二人マジで優秀!特にカーミラに転移三回で実質直接跳べるのはデカい!

 

「なら、悪いが俺達をカーミラの町に跳ばしてくれないか?ちょっと緊急でこの町とカーミラの町で工作活動する事になってな。この町の分のノルマは達成したから丁度カーミラの方に出向こうとしてたんだ」

 

≪おや、あなた方も裏方要員っスか?≫

 

そう聞かれて肩を竦めてながら言葉を返す

 

「分かり易い主役は赤龍帝と魔王の妹ってビッグネーム背負ってる二人に任せるよ。俺はコッソリと相手の嫌がる事を根回しして相手が怒髪天を衝く様子を高笑いする役さ」

 

アザゼル先生、ちゃんと録画してくれるかな?

 

≪いやぁ、でもそれって最後には返り討ちでぶっ飛ばされるってオチじゃないんですかぃ?≫

 

「それは大丈夫。現実で俺が嫌がらせする相手は基本悪役だ。そこにヒーローは存在しない」

 

舞台設定の所謂『お約束』なんて現実には影響しない・・・いいね?

 

≪悪の大幹部様にそう言われちゃ『おっぱいドラゴン』の一ファンとしてこれ以上は野暮ってもんですね。なら、早速向かいますが良いっスか?≫

 

「了解、頼む」

 

短く返事をすると直ぐに足元に魔法陣が広がり・・・

 

“スポッ!!”

 

「に゛ゃ!」

 

「うわ!」

 

俺達は魔法陣に落ちた(・ ・ ・)

 

 

 

 

 

 

薄暗い森の中、恐らくツェペシュ近郊の森の空中に魔法陣が展開され、そこから俺と黒歌、その後にベンニーアとルガールさんが続けて落ちる形で現れ、着地する

 

それにしても“スポッ!!”は無いだろ“スポッ!!”は幾ら何でも心臓に悪いわ!もっと優雅に転移出来るはずだろう!?何で態々落とし穴形式!?

 

現に黒歌はベンニーアのドクロのお面を外して彼女の頭を左右から拳でグリグリしてる

 

「なぁんでもっと普通に転移させなかったのかにゃ~?せめて事前に説明するべきじゃない?」

 

≪痛たたたた!御免なさい、ヘルキャットのお姉さん!だってそっちの方が手早く転移が済むから今までずっとそうやってきたのが癖になってるんで如何か許して欲しいんですぜ≫

 

「・・・済まない。中々治らんのだ」

 

同じ眷属としてかルガールさんも謝ってくるけど常習犯ですかい!

 

そんなハプニングこそ在ったもののベンニーアの転移で無事カーミラの領地に侵入を果たし、そこでシトリーの二人とは別れた

 

「それで邪龍の気配は如何かにゃイッキ?ツェペシュの町よりは流石に少ないわよね?」

 

黒歌に言われて早速俺も町全体に気を巡らせて感知する

 

「・・・そうだな。数は・・・三十人程度だな。ツェペシュに比べて一割ちょっとだけどカーミラからの情報を得る為ならそこまで数は要らないし、内訳としては十人程度が他多数の一般兵士の吸血鬼と一緒に居るから多分兵士の中でも指揮官とか諜報員とかで、それ以外は上級吸血鬼っぽい気配だから貴族とかなんだろうな」

 

流石にカーミラの末端の兵までは手を回せなかったかな?

 

「そう、まぁそれ位なら直ぐに済みそうね」

 

「ただ、ツェペシュ派と事を構えてるからかこの町には兵が少な目みたいだし、邪龍に変えられてるのも元の素体がある程度良質だと考えたら邪龍になった時の強さもそれなりだろう。暴れ出したら一般兵からしたら相打ち覚悟の戦いになると思うぞ」

 

そうならないようにさっさと作業を終わらせよう

 

それからカーミラの吸血鬼達の処置を終えるまでは特筆する事もなく無事終了

 

ツェペシュの方で兵舎や貴族の屋敷や城に潜入したノウハウが在った分、楽だったくらいだ

 

数も少なかったし、一応最後に俺の感知範囲に取り溢しが無いか【一刀修羅】で最終確認をする為に近場の一般吸血鬼の空き家を家宅侵入少し間借りして発動後の疲れを癒した

 

 

 

 

 

あれから暫くの間眠っていて【一刀修羅】の疲労が抜けた―――それにより俺と黒歌はこの町でやる事は無くなったのでカーミラの町から脱出して再びツェペシュの町に向かおうとしていた時、城壁付近を守護していた兵士たちが騒めいているのを感じた

 

「おい!ツェペシュの国境沿いの突入部隊から連絡が有ったがツェペシュの奴ら、聖杯であの町の住民も一人残らず造り変える計画が始まったようだぞ!」

 

「なに!?今まさに突入してツェペシュの城を制圧する処だったじゃないか!」

 

「ツェペシュの城が巨大な魔法陣の光に包まれたんだとよ。潜入していたエルメンヒルデ・カルンスタイン様が堕天使の元総督から情報を抜き出したらしいから間違いないそうだ」

 

おいおい!既に舞台がクライマックスに差し掛かってるじゃねぇか!

 

それと情報を『抜き出した』って・・・『教えてもらった』とは言わない、まさしく吸血鬼節だな

 

俺達は直ぐさまその場を後にしてカーミラの結界の外に出て最初にツェペシュの町に向かう時に車で移動した際の道を高速で突っ切って行く事になる

 

ベンニーアが居ない以上は彼女の敷設した特製の転移は使えないからな

 

それに行きは車で二時間程掛かったけど空を飛んで行けば山の道路特有の曲がりくねった道を無視できる分かなり早く着くはずだ

 

だが途中、かなりツェペシュの町に近づいてツェペシュ派とカーミラ派の吸血鬼の闘争の気配もそれなりに感じ取れるようになった辺りで俺達の前方に二つの強大な魔とドラゴンの気配が現れ、片方は直ぐにその場を去ってしまった

 

高速で移動していた俺と黒歌は直ぐに気配が現れた場所まで辿り着くとそこには赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)が佇んでいた

 

「ふむ。随分と白龍皇にも嫌われたものですね。いえ、元より私などがリゼヴィム様と同じだけの関心を持たれると思う方が間違いだったのでしょうが―――そうは思いませんか?」

 

高速移動でそれなりに気配が漏れていた為か俺達の存在はバレていたみたいで独り言の最後に此方に話を振られた

 

「さてな。いい歳して意外と構ってちゃん何だな。ユーグリット」

 

鎧に包まれていても気配はユーグリット・ルキフグスのものだ。それにそう云えばコイツは超絶気持ち悪い方向にシスコンを拗らせた構ってちゃんだったような気がする

 

「取り敢えず、その鎧の事を聞いて良いか?コスプレって訳でも無いんだろう?」

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の偽物って原作ではサマエルの毒で滅んだイッセーの肉体を元にして造り出された劣化コピーだったはずなんだけど、少なくともイッセーはそんな事にはなって無いんだがな

 

「ええ、お察しの通りコレは赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)のコピーです。かつて英雄派が『魔人化(カオス・ブレイク)』という薬を貴方が倒したシャルバ・ベルゼブブの血液をレーティングゲームの廃棄された空間にて回収・培養したのと同じですよ。グレモリー眷属とバアル眷属のレーティングゲームの後であそこに残っていた赤龍帝の血液や鎧の残骸から復元させたのがこの鎧です―――もっとも、流石に性能はオリジナルには及びませんし、毎回起動させるのに名の在る邪龍複数体分の魂を贄とする必要が在るのでコストは悪いですが」

 

また廃棄された空間かよ!

 

「・・・取り敢えずこれからはレーティングゲームで使った後の空間は次元の狭間にそのまま捨てる事のないようにサーゼクスさん達に進言しておくわ」

 

「・・・ほんの一欠けら程度から神滅具(ロンギヌス)もある程度量産できるって、ちょっと聖杯の事舐めてたかもね。幾らコストが悪いって言っても放って置いたら少しずつでもその鎧が増えるって事でしょ?面倒なんて言葉じゃ済まないにゃん」

 

「ふふふ、そうですね。人間界でいう所謂『ポイ捨て禁止』というやつです。今回はそのツケが回って来たというだけの事ですよ」

 

そっか、この世界ではポイ捨てすると赤龍帝軍団がツケの清算にやって来るんだな。しかも割と無差別で全方位に取り立てるという理不尽をもって・・・嫌になるわぁ

 

「さて、ヴァーリ・ルシファーとの戦いでこの鎧の試運転も済みましたし、それなりに彼を消耗させられたので後はクロウ・クルワッハに任せても問題無いでしょう。流石に白銀の鎧とやらを使う彼と有間一輝。この二人の瞬間火力が合わされば、かの邪龍とて無事には済みませんでしょうからね。そこにアザゼル元総督に赤龍帝、それに猫又の貴女、確か黒歌でしたか―――それだけの戦力に畳みかけられれば滅っせられた可能性が高い」

 

逆にそれだけ寄り集まって『可能性』の域を出ないクロウ・クルワッハはマジ地上最強クラスだな

 

「それにしてもお二人は今まで何処に?可能ならば貴方の足止めも任務の一つだったのですが早々に姿を消してしまいましたからね。来た方向からしてカーミラの町に居たようですが?」

 

「態々教えるとでも?」

 

「此方もそちらの質問に答えたのですから返答が欲しい処ではありますね」

 

ユーグリットも流石に本気でそんな戯言を言ってる訳でもないのだろうな

 

「そうだな。『雄弁は銀、沈黙は金』とだけ言っておくよ」

 

「これはこれは、仰る通りですね。ですが私は金よりは銀の方が好きですので問題無しと勝手に納得しておきましょう」

 

・・・もしもグレイフィアさんが金髪だったら悔しがったのだろうか?

 

欠片も論理的じゃ無いけど・・・何か在り得そうでキモイ

 

そう思っているとユーグリットは自分の直ぐ隣に龍門(ドラゴン・ゲート)を展開した

 

「白龍皇を消耗はさせましたが取り逃がしたのも事実。ここは念の為あなた方にも足止めを仕掛けておきましょう」

 

そうして現れたのはドラゴンの形をした樹木・・・逆か?樹木の特性を持ったドラゴンだ

 

『急に私を呼び出すとは如何しましたか?折角現白龍皇のお仲間とやり合っていたのに、紫炎の使い手が怒っていましたよ?彼女だけでは白龍皇のチームとは戦えませんからね―――彼女の配下の魔法使い達が全滅する手前辺りで紫炎の使い手も撤退するでしょう』

 

「そうですか。彼女には後で適当に邪龍(ペット)でも渡して機嫌を取るとしましょう―――ああ、ご紹介が遅れましたね。此方は宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)の『ラードゥン』です」

 

ああ、コイツがラードゥンか

 

原作じゃ如何やって殺られたんだっけ?俺的にかなり印象が薄いんだけど

 

それにヴァーリの仲間も足止め中ね。コイツもさっきまで戦っていたみたいだが、そこを抜け出した事でヴァーリチームに天秤が傾いたみたいだけどな

 

『ご紹介に預かりました。ギリシャ神話出身のラードゥンと申します・・・成程、その鎧を身に纏う今の貴方でもこの二人を同時に相手取るのは難しそうですね』

 

「はい。ですので片方を貴方に受け持って頂きたいと思いましてね。結界に秀でた貴方なら分断は得意でしょう?貴方にはあちらの女性の方をお任せします。男の方は結界を貫通するような攻撃が得意みたいですからね。貴方とは相性が悪いでしょう」

 

『そう言われると逆に気になってしまいますが、良いでしょう。あちらの女性も決して油断できる相手では無さそうですからね』

 

役割を決めた目の前のユーグリットとラードゥンはそれぞれ小瓶の中身を頭から振りかけたり奥歯を噛みしめて何かを飲み込む動作をすると身に纏うオーラが力強さを増した

 

・・・そう云えばレイヴェルのデータが無い分、量産は出来なくてもフェニックスの涙を複数持っているんだっけか

 

これでは下手に【一刀修羅】は使えないな

 

俺は邪気を取り込んで『邪人モード』となり、黒歌も尻尾を四本に増やした『四尾モード』に移行する。この場の全員がシャルバのような下手な魔王級よりも強いオーラを発して対峙した

 

う~ん。一応此処はカーミラとツェペシュの町の中間辺りだけど結界のラードゥンと搦め手の黒歌は兎も角、俺とユーグリット・・・特にユーグリットの破壊がまき散らされるとカーミラとツェペシュを隔てる巨大な湖が後に形成されちゃうかも

 

クレーターとかは後で戻せるとしても動植物は流石に無理だし荒野になってしまうな

 

「黒歌、流れ弾とかは仕方ないとして取り敢えず上空で戦おうか」

 

「はいはい、分かったわよ」

 

「そっちも異存は無いか?」

 

問いかけるとユーグリットは頷いて提案を受け入れた

 

「ええ、構いませんよ。元より貴方と存分に闘ってみたいという話ですしね。しかしお優しいですね。吸血鬼達への被害を極力抑える為なのでしょう?彼らの態度は人間・・・いえ、他種族に対してかなり不快感を齎すものだと思ってましたが、気になさらないのですか?」

 

「へ?」

 

「え?」

 

つい間抜けな声が出てしまったな

 

そっか、周りから見たらそうとも取れるのか

 

「ああ、いや、単に仙術使いとして自然破壊は心が痛むな~ってだけで吸血鬼の事とか欠片も意識して無かったわ」

 

「―――ック!クハハハハハハハハハ!!」

 

そう言うと一瞬ポカンとした表情になった後、盛大に爆笑し始めた

 

「いやぁ、失敬。貴方の今の吸血鬼達に対する関心はそこらの草木や動物以下ですか―――成程、貴方が敵対する者には容赦がないと評される理由が判った気がします。そう云えば『愛の反対は憎しみではなく無関心』なんて言葉も在りましたね。確かに貴方はヒーローではないようだ」

 

「そりゃあ俺の設定は悪の大幹部だからな―――ヒーローじゃないさ」

 

「そういう意味ではないのですが・・・まぁそれ程間違ってもないので良しとしましょう」

 

そうして俺達はそれぞれ別に空中高くへと飛び上がる

 

ユーグリットは自身の持つ銀色のオーラと赤龍帝の赤いオーラが混じり合った莫大なオーラを発し、対して此方はFateの汚染された聖杯から溢れた泥のような混沌の黒と錆びた血のような赤を混ぜたような見た目のオーラを発する

 

「それでは偽物で恐縮ですが『おっぱいドラゴン』と『オール・エヴィル』の戦いとしゃれ込もうではありませんか」

 

「―――取り敢えず『おっぱいドラゴンの歌』を全部ソラで歌えるようになってから出直しな」

 

その遣り取りを最後に俺とユーグリットがぶつかる

 

遠くでは黒歌とラードゥンの戦いが始まった気配も感じるな

 

取り敢えずユーグリットの拳を禁手化(バランス・ブレイク)した剣で受けて止めてみたけど案の定と言うべきか一撃で全体的に罅が入って壊れかけてしまった

 

単純なパワーやスピードでは向こうの方がかなり上だな

 

「如何です?貴方の御友人の赤龍帝より私の方がずっと強いでしょう?」

 

「基礎能力で勝ってる事だけは否定しないよ!」

 

壊れた左歯噛咬(タルウィ)を修復しつつも右歯噛咬(ザリチェ)で斬り付けるがオーラに勝るユーグリットはそれでも回避を選択して距離を取る

 

「貴方の攻撃は邪龍でも最硬とされるグレンデルの鱗すらも切り裂きますからね。私はかの邪龍のように斬られて喜ぶ性癖は持っていませんので避けに徹する事としましょう。何、今の私のパワーとスピードが在れば貴方に反撃の隙を与えない事も可能でしょう」

 

そう言って大量の濃密な魔力弾を放ち、更にそれに追従する形で本人も高速で迫る

 

俺もイヅナの妖気と闘気を混ぜ込んだ闘気弾で迎撃するがユーグリットの魔力弾一つを迎撃するのに闘気弾を2~3個当てなければならない為、特に邪魔くさいと感じるものに限定して相殺し、残りは体捌きで避けていくが最後に迫り来た魔力弾を神器で弾いた時の衝撃でユーグリットに対して大きめの隙を晒した

 

「隙ありですね。先ずは一発喰らって貰いましょう」

 

“ドズンッ!!”

 

接近して来たユーグリットから見て『丁度良い位置に在った腹』に拳を突き立てると周囲に衝撃波が広がる―――仮にコレが地上なら余波だけでかなり大きなクレーターが出来上がっただろう

 

だが殴り飛ばされた俺は普通に空中で体勢を立て直した

 

「・・・今のはかなり良いのが入ったと思ったのですがね。それがオーラのコントロールからなる防御法というやつですか―――しかし、少しでも受け間違えれば貴方の体は四散しても可笑しくないでしょうに、よくやる気になりますね」

 

私には怖くて出来ませんよと続けるユーグリットだけど俺だって怖くない訳ではないんだけどな

 

だけど幾らパワー、スピードが今の俺より上でも何処に来るか分かってるなら恐怖も最小限で済むからな。俺の場合は腕や足、神器などで防御しなくても闘気を集中させればそこが防御個所として十分機能するので、腹などの弱点を晒す行為のリスクは普通よりは少ないし、何より今のユーグリットは『鎧型の禁手(バランス・ブレイカー)』を身に纏っているからオーラの先読みがし易いのだ

 

だけどそれでも反撃し辛いのも確かだ。今のユーグリットなら生半可なカウンターでは基本性能差に任せて後出しで避ける事も可能だろう

 

そう思っているとユーグリットは俺を殴りつけた拳を見やる

 

よく見ると鎧の籠手の部分が僅かに黒ずんでいるようだ

 

「成程、私のオーラを超えて侵食してくるとは大変危険な呪いの力ですね。仮に生身で殴っていたら逆に此方がダメージを負う処でした―――ですが」

 

そこまで言った処で奴は黒ずんだ箇所をパージしてその穴を鎧の修復機能で塞ぐ

 

「貴方の傍に居続けるような真似をしなければ今の私の脅威足り得ませんね。私はかの赤龍帝の宿主と違って魔力による中・遠距離戦も得意ですので、そちらで攻めていきましょう」

 

うわぁ!コイツ面倒クセェ!!

 

遠距離技じゃ向こうの方がパワーが上だし近接に持ち込もうとしてもスピードでも上のアイツに追いつくのは至難だぞ!俺の秘剣シリーズも基本的には近接技だしよ

 

まぁ仮にも剣技で遠距離技が豊富だったらそれはそれで可笑しいんだけどさ

 

それから始まった砲撃戦は案の定こちらがジリ貧で押し込まれる形になった

 

直撃はまだしてないけど近くでの誘爆の熱量はジリジリと熱いし、オーラの消耗も精神的な疲労のスピードも此方が上だ

 

点の攻撃である闘気弾はそもそも当たらないし、狐火の面の攻撃は威力が拡散している為オーラの質量で勝るユーグリットには簡単に吹き飛ばされる

 

「ッグ!」

 

クソ!右肩に一発被弾した!

 

黒歌より手数は少ないけど攻撃を弾くのにかなり力を籠めなきゃいけないから動作が遅れたか!

 

「ようやく一撃ですね。グレンデルとの戦いの時も思いましたが感嘆に値する回避性能です。オーフィスの蛇で得た強大な魔力に胡坐をかいていたシャルバ・ベルゼブブやクルゼレイ・アスモデウス相手なら既に満身創痍だったでしょうに」

 

「そりゃどうも」

 

オーラの移動も不十分だったから右肩の周囲が焼けてしまった―――アーシアさんが居なかったら火傷痕が盛大に残っちゃうかもな

 

さぁて如何するかな。【一刀修羅】も【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】も今はまだ切るには早い手札だ。ユーグリットも試運転と言うからには俺へのダメージもそこそこに戦いを切り上げるだろうけど、それでユーグリットが去って行ったら実質向こうの勝ちと云えるだろう

 

それは何かヤダ!・・・と、意気込んでみた処で今の手持ちの技でユーグリットの防御を突破出来るようなものなんて・・・

 

「いや、在るか」

 

先程ユーグリットが俺を殴った時に鎧の拳部分が邪気に侵食されていた。質で勝るであろう俺のオーラなら徐々にではあるが強大なオーラ相手でも蝕む事が出来るのだろう

 

しかしさっきから俺が放っている闘気弾や狐火(邪気ver)はただでは当たってくれない

 

とは言え案は有る。点でも面でもダメならば立体、即ちこの空間全てを侵食するまでだ

 

生命の気を操るだけが仙術ではない

 

万物、つまりは自然の気を操るのも仙術使いの十八番なのだから!

 

今居る場所はかなりの上空だから周囲一帯の大気に自らの気を乗せて掌握する

 

要するに疑似風使いだ

 

当然ただ風を操ってユーグリットに突風とかを叩きつけても意味は無いけど、そこに邪気が含まれていたなら如何かな?

 

「む、コレは!?」

 

ユーグリットが驚いているけど狐火や闘気弾のように目に見える形ではない上に、毒薬の広範囲散布にも似たコレは防げないだろう?

 

流石にその分侵食速度は遅いけど鎧だけでなく呼吸すれば体内にも邪気が徐々に溜まる事になる

 

『猛毒』というフィールド効果を付与する新技って処かな

 

「さて、如何する?このまま遠距離で撃ち合ってお前の体調が崩れるのが先かお前の魔力弾が俺にクリーンヒットして畳み掛ける展開に持っていけるのが先か、試してみるか?」

 

控え目に見てもこれで戦況は五分と五分だろう

 

「ラードゥンと戦っている猫又の使うという毒霧に近い技ですね。私でも長くこの空間に留まる事は出来なさそうとなれば大抵の相手は抗えないでしょう」

 

「こちとら『この世全ての悪』を取り込んでるからな。今のお前相手ならドラゴン、男、貴族、イケメン、才能、悪魔とまぁその辺りの者に向けられる悪意とかがヒットするだろうな」

 

「それは・・・なんとも節操無しですね」

 

「節操の無さで人間の右に出る種族は居ないんでね」

 

前にサイラオーグさんにも似たような事言ったっけ?

 

この技は周囲の風を操ると言っても邪気がメインだから取り敢えず掌握するだけで他には特にこれと云ってする事は無いから割と集中力も割かれないのがポイント高いな

 

俺の感知範囲は町一つ程度は余裕でカバー出来るから、つまりは一つの町を邪気、瘴気が漂う世界に変える事も可能だ

 

そう言うと凄そうに聞こえるけどフレンドリーファイアが恐くて集団戦では使えないし、魔王級なら一撃で町一つ、地平線まで吹き飛ばす威力の範囲攻撃は出来るからそこまで突き抜けた凄さは無いと思う・・・精々あらゆる悪意、角度から邪気が侵食するから抵抗が難しいというだけだ

 

まぁ対抗手段は有るけどね。聖なるオーラや浄化の炎で身を包めば流石に希釈された邪気では体内にまで入り込めないだろうし

 

技名は・・・如何しよう?

 

風に邪気を纏わせている訳だしシンプルに風邪(ふうじゃ)!・・・いや待て落ち着け、それだたの風邪(かぜ)じゃねぇか!なら逆にして邪風?確か病気を齎す風って意味が在ったよな?

 

分かり易いけど語呂が悪いな

 

秘剣シリーズのように既存の技名や第七秘剣・天照のように存在する何かから名前を取った方が良いのか?病を齎す風と言って思い出すのは疫病神だけど疫病神も語呂が悪いよな

 

天照は流石は日本神話の主神様。普通に技名として採用させて頂きました

 

他にそれっぽいモノと云えば黒死病たる『ペスト』とか?う~ん。それだと完全に邪気ではなく『ペスト』の存在が前に出ちゃうな

 

オリジナルの技名とか考えるのって案外難しいんだよね・・・何で漫画やライトノベルの主人公とかって例え何時もテストの出来が悪いような設定でも技名考え付く時だけは外国語が堪能になったりするんだろう?

 

後は『邪』から始まる技と云えば邪王炎殺拳?

 

・・・炎じゃねぇし叫んだ瞬間に自爆(羞恥心が)するわ!それ以外だとジャジャン拳とか?アレって確か邪拳からくるジャンケンを最初噛んで『じゃ、ジャンケン』って言ったのが始まりだっけか?・・・いや、割と良いんじゃないか?あんまり中二チックな名前は付けたくないけど設定の一部を借り受けたら少しはオサレな感じが出るだろう

 

邪邪 風風(ジャジャ フウフウ)』―――良くないものを運ぶ風を表す『邪風』をアンリ・マユという極大の悪意を運ぶってのを意識して名付けてみた

 

「ふむ。これ以上続けると怪我と違って回復に時間が掛かりそうですね。これまでにしましょうか。丁度今リゼヴィム様がこの吸血鬼の国を混沌に陥れる最後の余興を始めたとのサインが有りましたのでここで失礼します―――ラードゥン、帰りますよ」

 

この口ぶりだとリゼヴィムが遂に改造吸血鬼達を邪龍に変えたんだろうけど、まさか邪龍達が全員揃ってお寝んね(気絶)してるとは思ってないだろうな

 

ユーグリットは転移魔法でその場を去り、ラードゥンも通信を受けてユーグリットが居なくなった事で龍門(ドラゴン・ゲート)を展開して何処かに消えていった

 

俺は大気を汚染していた邪気を霧散させると黒歌の居る場所に飛んで行く

 

「お疲れ、そっちは如何だった?」

 

「もうあの邪龍の結界堅すぎにゃ!本体を守る結界は何重にもなってるし、一枚壊せば一枚張り直されるし、私の方にも閉じ込めるタイプの結界を飛ばして来るからそれを只管避けながら何とか結界を突破しようとしてたんだけどダメだったにゃ」

 

多分攻撃役と防御役で膠着状態になったんだろうな

 

完全に守備に徹されると仙術も妖術も上手く機能しないしね

 

「こっちは閉じ込める技ばかりで怪我も無いけどイッキはその火傷がちょっと痛々しいわね。さっさとアーシアに治療して貰いましょう」

 

賛成だ。仙術だけだと治すのに丸一日は最低でも掛かるだろうし、今は痛覚遮断してるけどこの状態って麻酔を打ってるような感じで余り好きでもないんだよな

 

「じゃあツェペシュの皆と早く合流しようか」

 

「賛成にゃん♪」

 

俺達は再びツェペシュの町に向かって飛んで行ったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、そう云えば・・・【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】」

 

取り敢えず意趣返しに【報復】はしておいた

 




古来より病魔の類は邪神、悪神の仕業とされてきました。やったねイッキ!邪神にまた一歩近づいたよww


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第五話 D×D、結成です!

あれから俺と黒歌がツェペシュの町に着いた時にはリゼヴィムは既に撤退した後らしかった。リゼヴィムに因縁の有るヴァーリがつっかかって行ったみたいだけど吸血鬼の町が破壊されるイベントが潰れたせいか凄まじくテンション駄々下がりになって新しく組織の名前を『クリフォト』に改名したとだけ告げて帰って行ったようだ

 

久しぶりに表舞台に登場して活き活きと悪意を振りまいたつもりが、出だしから躓いたのが余程お気に召さなかったらしい・・・ざまぁ

 

町中に気絶して倒れている邪龍達は一先ず無事な吸血鬼達が居なくなった吸血鬼のリストや邪龍になった際に身に付けていた衣服のなどの切れ端などから元の吸血鬼の特定に加えて可能な限りガチガチの封印を施して回っているようだ

 

邪龍達が今度如何なるのかは残った吸血鬼の上役たちが協議する事だろう

 

ヴァレリーはやはり聖杯を一度抜き取られて意識を失ってしまったせいか眠り続け、起きるにはもう一度聖杯を完全に元の形に戻す必要があるとアザゼル先生が言っていた

 

ギャスパーも父親に今生の別れを告げて眠っているヴァレリーを抱え、俺達は日本に転移で帰る事になったのだった

 

帰ってから直ぐにギャスパーとヴァレリーはヴァレリーの体を詳しく調べる為に神の子を見張る者(グリゴリ)に向かい、アザゼル先生も今回、吸血鬼の町で起こった事の顛末を和平を結んでいる各首脳陣営に報告しているようだ

 

一応その場には居なかった俺は今、イッセー達から大体の事情を聴いていた

 

「でよ、リゼヴィムの野郎には俺の真紅の鎧も木場の聖魔剣も通じなかったんだよ。木場はまだ神器じゃないグラムとかの魔剣を使えば良いし、龍騎士団も同じように魔剣を持たせれば十分活用できるけど、今の俺じゃあ神器の力を打ち消された素の力だとリゼヴィムの野郎に一発入れる事も出来なさそうなんだよな」

 

ギリギリ上級悪魔と超越者じゃ天と地だからな

 

「お前が直接戦うなら今の処はやっぱり聖剣のアスカロンを振るうしかないんじゃないか?赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア)の倍化の力は身体強化だけに割り振ってアスカロンで斬るって感じにさ―――まぁアスカロンの聖なるオーラを譲渡の力で引き上げる事も出来ないし、聖剣といっても『ただの剣よりマシ』程度の扱いになると思うけど」

 

後は仮にアスカロンを振るうなら籠手から分離させた方が確実ってくらいかな?

 

そのまま次にリゼヴィムが『黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)』たるトライヘキサを復活させ、グレートレッドを倒して異世界デビューで一発キメたいとの説明を聞く

 

話を聴き終えた俺は次に俺と黒歌の裏方での仕事について説明し、ユーグリットが聖杯の力でイッセーの一部から赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)のレプリカを劣化コピーしてきたと話すとイッセーだけでなくその場の全員が絶句している

 

「そんな!俺の鎧のレプリカだって!?」

 

「それは・・・例え多少性能が落ちてるとしてもちょっと笑えない状況だね」

 

「そうですわね。ユーグリット・ルキフグスと言えば過去の大戦の資料を観るだけでもグレイフィア様にも決して劣らぬ戦果を挙げています。恐らくその鎧無しでも魔王クラスの力を有していると見るべきでしょう」

 

リゼヴィムにリリスに邪龍達とただでさえ戦力過多なのにそれに加えて神滅具(ロンギヌス)・レプリカが出てきた事で皆の表情が固い

 

そんな中でも流石と言うべきかリアス部長は思考を先に進める

 

「ねぇ、イッキ。ユーグリットはイッセーの紅の鎧も使って来たりしたのかしら?」

 

「いいえ、通常の鎧状態で終始やり合ってたのでそれは無いと思います」

 

『当然だろうな。あの真紅の状態は赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア)の性能というよりは相棒自身の内に溜まったその・・・にゅ、乳力(ニュー・パワー)とやらと悪魔の駒(イーヴィル・ピース)が大元となっている。外側だけ似せた偽物であの鎧を再現するのは難しいだろう』

 

「多分ですけどイッセー先輩のドスケベな性格も付与しないと、あの鎧は使えないと思います」

 

白音の的確な?推測にゼノヴィアも声を上げる

 

「そうか!つまり乳力(ニュー・パワー)とやらはイッセーのおっぱいへの強い想いや渇望が力を引き出す為のトリガーになっているのだな!」

 

仮にその通りだとしたら聖杯でユーグリットの性格をド変態おっぱい野郎に改変しなければいけないって事だよな?いや、ユーグリットならグレイフィアさんの18禁グラビアおっぱい写真集とか渡したら割と高い確率で真紅の鎧の力を引き出しそうだけど・・・流石に無いと信じたい

 

「まぁイッセーの血液やら何やらが利用された事に関してはアザゼル先生にはもう報告してあるから先生が今サーゼクスさん達への報告がてら対策の事も話し合ってるだろうな。後は聖杯さえ取り戻せば何とかなると思う」

 

取り戻すまでに造られた鎧は直接壊すしかないけどね

 

「ああ!俺とドライグの偽物なんて気持ち悪りぃモノは一つ残らずぶっ壊してやるぜ!」

 

『その意気だ相棒。二天龍とは俺とアルビオン。そして歴代の宿主たちを指す言葉。今の時代の我ら伝説のドラゴンの気苦労も知らぬような意思も宿ってないガラクタなどに形だけでも真似られるなど我慢ならん!』

 

現赤龍帝コンビはやる気十分のようだな

 

「ああ、そうだイッセー。今回の一件で分かったと思うけど魔法使いとの契約で美人のお姉さんに血液とかの提供求められても絶対に拒否しろよ?何処から禍の団(カオス・ブリゲード)・・・じゃなかった。クリフォトに流出するか分かったものじゃないからな」

 

より詳細なイッセーのデータが集まれば、今よりもっと低コストで鎧を生産出来るようになる可能性もゼロではないのだから

 

「ああ、よぉぉぉく分かったぜ」

 

そうして注意しているとアザゼル先生が部屋に入って来た

 

「よぉお前ら、まだ居るんだな。デカい事件が起こったばかりなんだから帰れる奴は帰っとけ。つっても大概が此処の住人だがな」

 

まぁ確かにここはイッセーの家だから俺と黒歌に白音は家は隣だしな

 

祐斗とギャスパーはマンション暮らしだけど別に極端に離れた場所という訳でもない

 

因みにギャスパーは夏休み明けから旧校舎に在る部屋はそのままに祐斗の住んでいたマンションと同室になっているらしい

 

「先生。話し合いは如何なりましたか!」

 

「今回は話し合いと言うよりは仮報告みたいなもんだからな。俺はこの後直ぐに詳細を書き上げて書面を送り、改めて各首脳陣と会議を行う事になる。緊急で通信が繋がらなかった奴とかも居るからな。だがまぁ内容が内容だ。リゼヴィムの野郎が現れたと一昨日報告した時には三大勢力の特に悪魔陣営が騒ついたくらいだったがトライヘキサに異世界まで話が跳んだ時にはオーディンの爺さんやゼウスのオヤジを始め、全員絶句してたよ・・・如何考えても世界規模でヤベェ案件だからな。同盟を結んでいる処もまだの処も、可能な限り通信でも良いから会議に参加して貰うよう働きかけているんだよ―――俺も総督を降りたから本来はそういう面倒なのはシェムハザの案件だが、今回ばかりは俺自身が当事者だからな。今から数日はかなり忙しくなりそうだぜ」

 

後頭部を掻きながら"やれやれ"といった調子だな

 

「そうね。私も魔王様方に提出する報告書を作成しなければならないし、今日のところはこれで解散としましょうか」

 

リアス部長の解散が告げられ、それぞれが自室なり家なりシャワーを浴びに行ったりとして解散していき、俺達も家に戻るとレイヴェルとオーフィスが出迎えてくれた

 

「お帰りなさいませ。イッキ様、黒歌さん、白音」

 

「おふぁえひ」

 

うん。取り敢えずオーフィスはバナナ喰いながら喋るのは止そうな

 

「ふふ、オーフィス様は私が家に居る時は一緒に居て下さったんです」

 

「この家とイッセーの家、我の帰る場所。我が守る」

 

如何やら俺とイッセーの家限定でリリスの守護に匹敵する龍神の加護(物理)が発動しているらしい・・・最強の自宅警備員だな

 

俺達は順番に頭を撫でてお礼を言うとオーフィスはイッセーの家に帰っていった

 

一応オーフィスの自室とかは向こうにあるしね

 

まぁオーフィスは基本的に皆の集まる場所に居る時が多いから、逆に自室は余り使って無いのかも知れないけどさ

 

時間帯としては既に深夜を回っているので俺達は軽くシャワーを浴びてから眠る事にした

 

悪魔の皆からしたら本来は今ぐらいが活動時間なのかも知れんけど今日も学校があるしね

 

レイヴェルも「皆様お疲れでしょうから詳しい話はまた明日お聴きしますわ」と言ってくれたのでお言葉に甘えて眠る事にした

 

 

 

 

 

あれから三日ほど経過し、お偉いさん方の話合いは大枠は決まって今は細かいところを詰めている感じらしいが今日も今日とて俺達は修行の毎日だ

 

白音は三又に為れるようになったのをもっと力を安定させて大人の姿と併用する事による更なる出力アップを目指しているし、レイヴェルもロスヴァイセさんやルフェイと一緒に禁術の練度を高めている―――他の皆もそれぞれが基礎力アップや新技開発に勤しんでいるな

 

そんな中で偶々祐斗が聖魔剣を見つめて難しい顔をしていたのが目に入ったので声を掛ける

 

「如何した?悩み事か?」

 

「あ、イッキ君。うん。実はそうなんだ。何とか聖魔剣にももっと攻撃力を付与出来ないかなってね―――僕は最近龍騎士団と魔剣を併用して戦っている事が多いんだけど、僕の扱う魔剣たちはグラムを筆頭に皆伝説の魔剣ばかりだ。悔しいけど剣としての質も威力も今は魔剣の方が上だし、龍騎士団を使えば手数も補える・・・元来消耗が激しくて扱い辛い魔剣だけど、剣たちが僕に協力的だからそれ程気にせずに魔剣の能力も使っていけるからね。実質聖魔剣は体力温存の為にそこそこの敵に使うものって感じになっちゃったんだ。グレンデルとの戦いでは奴の傷口に突き刺して朱乃先輩の雷光を通電させるのに使用したけど、それも聖剣でも代用できたからね」

 

祐斗は「聖魔剣の方がより深く刺さりそうだったからそっちを使ったけど」と困った顔だ

 

あ~、祐斗と祐斗の同士たちの想いの結晶たる聖魔剣がザコ専になっちゃったら複雑だよな

 

「イッキ君はその時居なかったけどコカビエルの時に最初にゼノヴィアたちがやって来た際、かなり険悪な感じになっちゃってね。その時僕はゼノヴィアと模擬戦したんだけど、彼女の持つ破壊の聖剣(エクスカリバーディストラクション)を攻撃力で正面から上回ろうと巨大で頑丈な、僕の持ち味のスピードを台無しにしてしまうような魔剣を創り出した時もあった・・・同じ轍を踏む訳にはいかないけど、どうにか出来ないかなってね」

 

スピードが売りの『騎士』が足を止めてちゃな。何処ぞの死神の2番隊隊長みたいにそのリスクと釣り合うだけの攻撃力を持てるなら兎も角、聖魔剣にそれは求められないしな

 

初期の頃の防御の薄い『戦車』のロスヴァイセさんみたいな感じか

 

駒の特性を生かさないのは確かに勿体ないどころか悪手に近いからな

 

そこで一つ思いついた事を聞いてみる

 

「・・・なぁ祐斗、変な事聞くけど祐斗の足の速さは鍛錬以外に『騎士』の駒の特性を使っている訳だよな?」

 

「え?う、うん。そうだね、でもそれが如何したのかな?」

 

変な顔向けられたけど確かに今更過ぎる質問だもんな

 

「実はロスヴァイセさんが防御魔法を『戦車』の特性で強化したってのを思い出してな。それと同じように聖魔剣自体に『騎士』の特性を持たせられないかって考えたんだよ」

 

『戦車』の魔力特性を肉体以外にも振り分ける事が出来るなら『騎士』でも同じ事が出来るのではないかってな・・・もしかしたら『戦車』と『騎士』の駒の特性と言うのは肉体の強化ではなくて、『パワーの魔力』とか『スピードの魔力』みたいなカテゴリーに入ると思うんだよ

 

リアス部長の場合は『消滅』でレイヴェルならば『不死身』になる訳だけど

 

「聖魔剣に・・・かい?面白い発想だけどパワーや頑強さが増す『戦車』なら兎も角、剣にスピードを持たせるというのは無理じゃないかな?結局僕自身が剣を振らないといけない訳だし」

 

そりゃただの(・・・)聖魔剣なら意味は無いかもな

 

「そこで一工夫だ。聖魔剣と云うか魔剣創造(ソード・バース)は望んだ魔剣を創り出せる訳だけど・・・祐斗、お前『振動ナイフ』って知ってるか?『超音波カッター』でも良いけど」

 

新世紀エヴァン〇リオンのプログレッシブ・ナイフとかもそうだったっけ?

 

「そうか!確かにそれなら剣を疾くするのも有用そうだね」

 

早速祐斗が高周波ブレードな聖魔剣を創造したので試し斬りに今回は朱乃先輩に魔法障壁を展開して貰った・・・ロスヴァイセさん達はまだ魔法の議論と調整の途中だったので今回は見送った形だ

 

そうして先ず最初に比較の為にも普通の高周波聖魔剣で斬り付けて貰う

 

”ギィィィィィィィィィィィィィィィィッ!”

 

祐斗の聖魔剣が障壁に当たった瞬間から少し耳障りな音が響いて朱乃先輩の張った障壁をガリガリと削って行く―――この時点でもそれなりだな

 

次に同じ聖魔剣に自身の内に在る『騎士』の駒の特性を引き出して聖魔剣に付与する形で聖魔剣を振るって貰った

 

”チュガッ!ギャリィィィン!!”

 

接触した瞬間に先ほどよりも大きな音が響いたと思えばそのまま高周波聖魔剣は堅牢な障壁を両断してしまった

 

「あ、あらあら。普通に断ち切られてしまいましたわね。『戦車』の特性を高めて以前とは比べ物にならないレベルで障壁を強固に出来たと思っていましたのに、これでは立つ瀬がありませんわ」

 

障壁を断ち切られて朱乃先輩もちょっと困ったような表情だ

 

「でも何の抵抗も無く綺麗にスパッと切れたんじゃなくてチェーンソーとかで木を切るような感じに近いように見えましたね。祐斗の持つ切れ味重視のノートゥングとは似て非なる感じかな」

 

「そうだね。やはり超連続で攻撃を当てるという特性上、接触時間が少ないとノートゥングには及ばないかな。でも逆を言えば鍔迫り合いとか障壁破りとかには真価を発揮しそうだよ」

 

何にせよコレで祐斗の聖魔剣の攻撃力はそれなりに補えたかな?

 

「あらあら、私も何か駒の特性を生かした新しい技を開発するべきかしら?今の私の必殺技の雷光龍は『僧侶』の特性で高めたものですし、『騎士』のスピードや『戦車』のパワーはまだ持ち腐れですものね」

 

「それは・・・パッと思いつくのは堕天使の使う光の槍でしょうか?雷光を『僧侶』で強化して『騎士』のスピードで突貫して、『戦車』のパワーを加速した状態で突くような感じなら全ての駒の特性を使う事は出来ますけど・・・でもそれは・・・」

 

「ええ、私は本来遠距離のウィザードタイプですわ。組手の修行などはしていますので近接戦が苦手と云うほどではありませんが、自分の得意分野を棄ててまでその選択を取る必要があるかと言われると・・・少し難しいですわね」

 

ですよね。『戦車』や『騎士』の特性は基本は近接戦を想定したものだし、じゃあ魔力弾とかにパワーやスピードを付与出来るかと言えば多分無理だ。それが出来るなら今までの『戦車』や『騎士』の人達が流石に気付いていただろうから、恐らくその特性はかなり物理寄りの側面でしか強化出来ないのだろう

 

それに『騎士』のスピードを魔力弾に付与出来たとしても、魔力の源はイメージだから例え『騎士』込みで秒速一キロのスピードを上限として出せたとしても術者自身が秒速三百メートルの魔力弾をイメージしてしまったら意味がない―――イメージが重要な魔力操作で『イメージ通りにイメージ以上の速度をイメージしろ』って矛盾してるからな

 

結局その場では朱乃先輩の全種の駒の特性を盛り込んだ新必殺技の話は良い案も浮かばなかったのでお流れになった

 

他にはギャスパーがヴァレリーの奪われた聖杯を取り戻す為にと意気込んで闇の獣の姿になってイッセーと殴り合ってるな

 

逆にイッセーの方はと言えばドライグとアルビオンが和解して楽しいトークを繰り広げている時にアルビオンの歴代たちがそれに待ったを掛けたらしい―――曰く『我ら『おっぱいドラゴン被害者の会』は赤龍帝の現宿主もそれに感化されておっぱいを信奉するようになった歴代たちも認めない』との事だ

 

そして今はイッセーの神器に宿ったアルビオンの力の一部を中継として繋いで二天龍及びその歴代の思念達が神器の深奥に潜って闘論しているらしい

 

まぁケツ龍皇の残留思念なんぞ、その内おパンツドラゴンが何とかするだろう(丸投げ)

 

そんなこんなで新たな敵に対抗する力を身に付ける為にも変わらず修行を続けていく中、吸血鬼の国から戻ってから五日程経った時に俺達は深夜の駒王学園に集まっていた

 

集まっているのはオカルト研究部(+黒歌)、シトリー眷属、アザゼル先生、グリゼルダさんにデュリオさん、幾瀬鳶雄さん、サイラオーグさん、シーグヴァイラ・アガレスさん、初代孫悟空にヴァーリチームと総勢36名だ。主要人物に絞っても中々の人数だな

 

本来ならそれに加えてバアル眷属とアガレス眷属に刃狗(スラッシュ・ドッグ)のメンバーも加わるんだけどね

 

「・・・会議の方は如何話が付いたの?」

 

全員集まった処でリアス部長がアザゼル先生に切り込む

 

「そうだな。リゼヴィムの野郎のしている事は余りにも危険すぎる事の為、今まで非協力的だった神話や種族の各勢力も今回ばかりは最低限だろうと協力するという運びになった。吸血鬼の国は多くの兵士とそれなりの数の貴族が邪龍に変えられて武力も国力も実質最底辺まで落ち込んだ上に、その内容の悍ましさには最初の仮報告の時に居なかった各首脳陣も閉口したからな―――何よりもグレートレッドと復活したトライヘキサが戦い始めたら余波でこの世界が滅んでも可笑しくない。今まで傍観決め込んでた奴らも今回ばかりはヤバいと感じたのさ」

 

二大魔獣の戦いは戦わせた時点で俺達の敗北(に為る可能性が高い)と云う訳だ

 

と云うかグレートレッドとトライヘキサってどっちが強いんだろうな?同格のオーフィス(全盛期)とグレートレッドではグレートレッドの方が強いってあるけど・・・ん?

 

「如何したイッキ?なんか分からん事でも有ったか?」

 

ふと疑問に思った事が顔に出ていたのかアザゼル先生が声を掛けてくる

 

「いえ、ここで議論しても仕方ない事なのかも知れませんが、もしかしてトライヘキサとグレートレッドが戦ったならトライヘキサが勝つんじゃないかなと思いまして・・・」

 

「何?気になるな。言ってみろ」

 

「例えばドライグとアルビオンの二天龍の力はライバル関係と云うか拮抗してますよね?それなのに同じようなドラゴンの神であるグレートレッドとオーフィスではグレートレッドの方が強いとされてます。でも、もしもこの一方的な関係が元々トライヘキサを含めた三つ巴の関係だったとしたらと思ったんです」

 

例えるならジャンケンの『グー、チョキ、パー』とか三竦みの『蛇、ナメクジ、カエル』とかポ〇モンの最初に選ぶ御三家の『草、水、炎』とかそんな感じで

 

グレートレッド

↗      ↘

トライヘキサ    オーフィス

 

と、こんな感じの相関図になったりはしないだろうか?

 

元々前から無限の体現者たるオーフィスがグレートレッドより明確に格下というのには違和感は感じていたのだが、そこに同格のトライヘキサを加えて考えるとバランスは良くなるんだよな

 

「・・・成程、面白い意見だな。だがそう考えると益々リゼヴィム達クリフォトがトライヘキサを復活させる事を防がなきゃならん―――そこでだ。俺達は協議の結果、対クリフォト用の特別チームを組織する事を決定した。薄々分かってるとは思うがお前らの事だ。この場に居る多くのメンバーが未だ若手という事だが、だからこそ有事の際に迅速な対応が出来るメンバーと言える。どの神話にだってクソ強い神様の一人や二人居るもんだが、立場と彼らが万が一やられた時に人間界に広がる影響を考えると前線に出てもらうのは難しいからな」

 

初代孫悟空とかはまだしも俺達は立場弱いですもんね

 

「私は賛成よ。こんな時だからこそ、協力し合うべきよ」

 

「私も賛成ですね。そうでなければ何のための同盟か分かりませんから」

 

「俺も異論は無い。共に戦わせて貰おう」

 

「私もよ。まぁこのメンツだと主に後方支援になっちゃいそうだけどね」

 

若手四天王(ルーキーズ・フォー)は全員賛成で他の代表者たちも対テロ組織への参加を承諾していくとジョーカーが首を捻っていた

 

「何だ?何か不満か?ジョーカー」

 

「いやいや、そうじゃ無いっスよ。ただチーム名とか決めた方が良いんじゃないかってね」

 

ジョーカーの言葉に白音がポツリと『D×D』と呟き、D×D(ドラゴン・オブ・ドラゴン)たるグレートレッドを守るデビルとかドラゴンとか堕天使のダウンフォールとか色んな『D』が多く集まるチームの名前として分かり易いとして特に反対意見も無くチーム名は『D×D』となった

 

「良し!チーム名は『D×D』で良いとして次にこのチームのリーダーだが・・・ジョーカー、お前がやれ」

 

「は、はいぃぃぃ!?え!?何で俺っスか!?俺、あんまりそういう役はちょっと・・・」

 

「理由としちゃ、お前が天使だからだよ。実力者の集まるこのチームは当然それを疎ましく思うような連中も出て来るだろう。だから対外的にも出来るだけ清廉なイメージを持たせた方が良い。そう言った点では悪魔や堕天使、妖怪はどちらかと云えばネガティブなイメージが強いからな。人間であるイッキや鳶雄だが、鳶雄は基本裏方で動く事が多いから知名度は低い。対してイッキは悪い意味で知名度が高いからやはり却下だ。そうなると転生天使で天界の切り札たるお前が一番適任なんだよ。天使様なんだから敬われとけ」

 

アザゼル先生の「良いからやっとけ」との言葉にグリゼルダさんも同意もとい半ば命令されるような形で推されてデュリオさんが項垂れつつもリーダーの件を了承する

 

「サブリーダーは初代に頼んで良いか?副職で大変申し訳ないんだが」

 

「構わん構わん。儂のような爺が新しい時代に出しゃばり過ぎても若い芽が育たんでな」

 

初代孫悟空もサブリーダーの件を了承し、残るはヴァーリチームについてだ

 

「リゼヴィムの引き起こすこの未曽有の危機に対してヴァーリ達白龍皇のチームもこの対テロ組織、『D×D』に迎え入れるべきだと俺は主張する。その為にもこいつ等がかつて禍の団(カオス・ブリゲード)の一員でもあったというネガティブなイメージを払拭する為にオーディンの爺さんがヴァーリを自分の養子として迎え入れる準備がある」

 

アザゼル先生は壁に背を預けて立っていたヴァーリに視線を送る

 

「どうだ、ヴァーリ?過去の罪を全て帳消しとはいかないが、仮にも北欧の主神の養子となれば口出し出来る相手も限られる―――今よりはずっと動きやすくなるぞ?」

 

「お互いに利益が出る時は協力しよう・・・縛られるつもりはないぞ?」

 

「オーディンの爺さんもその辺りは承知の上だよ。再びテロリストにでもならん限りは文句はないとさ。なら、養子の件は合意という事で話を進めるぞ?」

 

ヴァーリは黙ったままだがこの場で否定しないなら実質肯定だ

 

「赤龍帝殿。一つ宜しいでしょうか?」

 

ヴァーリの無言の肯定を待ってからアーサーがイッセーに話し掛ける

 

「は、はい。なんですか?」

 

「赤龍帝殿はまだ特定の魔法使いと契約を結んでいないと聞いています―――そこで、貴方の契約相手にルフェイを選ぶ気はありませんか?兄の私が言うのも何ですか彼女は魔法使いとして優秀ですし、貴方のファンでもある。それに今回の恩赦に加えてかの赤龍帝と契約を結んだという実績があれば妹も何時でも実家に戻れるでしょう・・・どうかご検討頂きたい」

 

真摯に頭を下げるアーサーにイッセーも流石にこの場で二つ返事はしなかったものの、この後直ぐに面談を行おうと前向きな姿勢を見せた

 

「―――有難うございます」

 

最後にアーサーが祐斗的爽やかイケメンスマイルでお礼を言う―――そして大凡の話が纏まった辺りで初代孫悟空が一歩前に出て俺達を見渡して問いかける

 

「さて、この中の若いもんで今よりもっと強くなりたいってぇ奴はおるかい?」

 

「―――ッ、それは如何いう意味でしょうか?」

 

リアス部長の言葉に初代は煙管を吹かしながら答える

 

「簡単な話じゃ。望むなら儂がお前さんらを一から鍛え直してやろうって事じゃよ。量産型の邪龍でも最低限上級悪魔程度の実力が無ければまともな戦果は挙げられんからの。この場の全員が最低でも上級、ゆくゆくは最上級や魔王級の力を手にして貰わなきゃならん―――そうでなければこのチームを結成した意味が無いでな」

 

それを聞いたアザゼル先生も頷いて肯定する

 

「その通りだ。このチームは対クリフォトだけで終わるものじゃない。将来的にクリフォト以外の危険なテロ組織が台頭した時や、もしくはリゼヴィムの野郎が狙っているという異世界の者達がこちらに対して友好的であるという保証も無いからな・・・ロキ戦でイッセーが乳神の精霊とやらと交信した時にも邪神とやらと交戦していると言っていたしな。楽観できる要素は無いからこそ、備える必要が在る」

 

「まっ、そういう訳じゃからな。この中でも特に二天龍なんかは同じ神滅具(ロンギヌス)所有者でもそっちの天使や狗使いと違って肉体に掛かる負担が大きいのに無駄にパワーをまき散らしとる。今のままじゃ連戦なんぞ出来んじゃろ?お主らは儂が集中的に扱いてやるわい―――ああ、無駄が多いと言えばそっちの小僧の【一刀修羅】とやらもじゃな。お主にも儂から課題を出そう」

 

いや、確かに【一刀修羅】は周りから見たら無駄の多い力かも知れないけど、そういう能力だしな

 

「あの、闘戦勝仏様。俺の【一刀修羅】は一分という時間を引き延ばす事とか能力の特性として出来ないのですが・・・」

 

「ああ、違うわい。また別の話じゃ―――まっ、楽しみに待っとれい」

 

むぅ・・・気になるがそう言われては引き下がるしかないな

 

向こうは闘戦勝仏なんて異名持ちなんだし、そのアドバイスを無碍にするとか在り得ないからな

 

そうして俺達はチーム『D×D』を結成し、その場は解散する事となった

 

 

 

 

 

因みに次の日にイッセーがルフェイと正式に契約を結んだそうだ




どうにも原作でも朱乃は活躍や強化が地味なので新しく必殺技とか考えてみました。何時出すかは決めて無いですけどその内出すと思いますw


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番外編 レポート、提出です!

番外編というよりは新章の0.5話くらいの位置づけになってます


対テロ組織、『D×D』を結成して数日。俺達はお互いの現時点での実力や戦闘スタイルを知る為にも集まれる人は集まって訓練や模擬戦をしたりしていた

 

流石に皆立場や仕事が在るからこうして集まるのは最初の内だけだろうが、それでも実力者同士の交流は確かな刺激となっているようだ

 

だけど俺達はまだ学生の身。修行も大事だけど学園生活の平和な空気を満喫して英気を養う一助とする事もまた大切な事だ

 

そんなこんなでいつも通りの放課後は部室に集まってまったりと過ごしていたりもする

 

基本的な俺達の修行スケジュールは早朝特訓に休日特訓。悪魔の仕事が入ってない時には放課後にショッピングやゲームなどの娯楽と基礎訓練などで軽く汗を流す程度だ

 

強くならなきゃ自分も仲間も死ぬから皆真剣だ

 

原作でトライヘキサが復活して隔離空間に主要な神々や魔王などが一緒に入って滅茶苦茶永い間戦い続けるという流れまでは知っているが、何とかしようと思ったら今年中に最低でもリゼヴィムを消滅させないといけないし、仮にそれが上手くいっても邪龍筆頭のアジ・ダハーカと・・・アポプスだっけか?その二匹も確か『異世界で暴れてぇ!ヒャッハー!』な思考の持ち主だったはずだからそっちも同時に始末しないといけない訳だ・・・難易度高過ぎだって!

 

何が難しいってそもそも敵の居場所が基本分からない事だ。今や世界中の勢力がリゼヴィムの本拠地を探しているのだろうが発見されないくらいだからな

 

・・・見つかってさえいれば【じばく】テロしてやるのにな

 

まぁ最悪トライヘキサが復活しても如何にかする当(・・・・・・・)ては有る(・・・・)のだが、復活しない方が良いしね

 

取り敢えず差し当たっては恐らくクリスマス辺りに天界を襲ってくるであろうリゼヴィムを仕留められないか試すところから始めよう

 

とまぁそんな真面目くさった未来の話は置いておき、今は部室に全員集まって(先生組以外)朱乃先輩がお茶菓子を取り出そうとしたところで祐斗からの待ったが掛かった

 

「実は今日は新作のケーキを焼いて来たんです。宜しければ振舞わせて頂けませんか?」

 

祐斗はお菓子作りが趣味だから時折クッキーとか色々作って来るんだよね。それに主であるリアス部長は大貴族だし、祐斗のきめ細やかな性格も相まって普通にクオリティが高い

 

「あらあら、祐斗君の新作ケーキですか。それは胸が高鳴りますわね・・・部長。良いかしら?」

 

「勿論よ。私も楽しみだわ」

 

そうしてテーブルの上に異空間収納から取り出されたケーキはサクサクのパイ生地とフワフワのクリームにスポンジ生地の層が積み重なったミルフィーユとスポンジケーキの中間辺りのケーキだ

 

一番上には酸味として漬けた皮付きオレンジの輪切りが綺麗に並べられている

 

「うわぁ!可愛らしいですぅ」

 

見た目鮮やかな仕上がりのケーキにアーシアさんが瞳を輝かせる

 

「ほぅ、毎度思うが木場のお菓子を作る腕前は学生の域を超えているな」

 

「うんうん!それにとっても美味しそうよ♪」

 

「僕は今までケーキを作る時は余りこういう切り分けるのが大変なものは作ってこなかったんだ・・・どれだけ綺麗に作ってもナイフを入れればその時点で見た目が悪くなってしまうからね」

 

教会トリオの反応を見やりながらも朱乃先輩と一緒に皿を用意していた祐斗が語る

 

「でも、もうその心配は要らなくなったんだよ」

 

祐斗はそう言うと手元にケーキを切り分ける為の小型の魔剣を創造した

 

そしてそのナイフでケーキに刃を入れると押して引くという作業も無く、フワフワのクリームすらも形を崩さずに抵抗なく切れていく

 

「祐斗・・・お前それ振動ナイフの魔剣かよ」

 

「その通りだよ。僕の魔剣創造(ソード・バース)聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)は魔力の扱いに似ていてイメージがしっかりしている程、質の高い剣を創造できるからね。イッキ君のアドバイスで高速振動する魔剣を創ってからより強くそのイメージを補完する為にネットにアップされてる工業用振動ナイフの資料映像を探してみたんだ。そしたら硬いモノを切るだけじゃなくて、こんなケーキのような柔らかいモノを切るのにも使われているって知ってね。試してみたくなってこうして作って来ちゃったんだ」

 

まぁライザー戦の合宿の時はイッセーとアーシアさんも『出来るだけ魔力を用いて料理を作る事』という魔力操作の修行もやってたから魔剣や聖剣でケーキを切り分けても良いんだけどさ

 

切り分けられた後でもその綺麗な外見を損なう事のないケーキが全員に行き渡り、俺達は早速とばかりにケーキを食べていく

 

『・・・・・・・・・・・・・』

 

だが食べ始めてから皆が微妙な表情になってしまった

 

「・・・なぁ祐斗」

 

「・・・・・何かな?」

 

「いや、もう気付いてると思うけどさ。幾らナイフで綺麗に切り分けられてもフォークを突き刺した時点でグチャグチャになるわ」

 

別にケーキが型崩れする事自体は特段可笑しな事でもないし、普段なら気にしないだろうが、つい先ほどまで祐斗がケーキが綺麗に切れたと満足気な感じだったから、潰れたケーキに何となく微妙な哀愁にも似た感情が湧いてきてしまった

 

そんな中でも黒歌と白音とオーフィスは無言で食べ進めているけど、食い意地が張ってるあの三人からしたら美味しいという方がよっぽど重要なのだろう

 

「気ぃ落とすなよ木場。味は本当に美味しいんだからさ!」

 

「そうだな。それに問題点が見つかったなら改善も出来るだろう?ほら、次回からこういうタイプのケーキは背を低くして切り分けた際に一口サイズになるように作るとかさ」

 

「う、うん。そうだね。次からはそうする事にするよ」

 

そんな何気ない日常を満喫する中でふと白音と視線が合わさると"ツィ"っとばかりに視線を逸らされてしまった。そしてオーフィスの口に付いたクリームを拭って上げていたレイヴェルの方にも視線を向けると此方の視線に気づいてから同じように視線を外されてしまった

 

実はこの二人、昨日からこんな感じで話しかけても「な、な、な、何でもありませんわ。イッキ様!」とか無言ダッシュでその場を離れられたりしているのだ

 

俺が何かをやったというような自覚は無いし二人とも避けては居るものの別に険悪な空気を出している訳でもないし・・・と云うか視線を逸らす割に"チラチラ"と見られている感覚がするんだよね

 

他の皆もこの空気には若干困惑気味だ

 

「(なぁイッキ。マジでお前あの二人に何したんだよ?何か心当たり無ぇのか?)」

 

「(在ったらとっくに解決してるわ!)」

 

これがもしクリスマスやバレンタイン、もしくは俺の誕生日間近とかならそれっぽい雰囲気だとは思うんだろうけど、今は11月の終わり辺りで特にイベントも無いしサプライズプレゼントとかっていうには二人の態度があからさま過ぎるとも感じるしさ

 

「にゃははははは♪」

 

・・・まぁ事情を知ってそうな人物の特定は簡単なんだけど絶対に教えてくれないだろうしね

 

結局その後も特に進展しないまま金曜日となり夜を迎えた

 

学園は日本では週休二日制を導入されてるし、オカルト研究部の部活動も基本は夕方から夜にかけての悪魔のお仕事の活動時間に連動してるから精神的にもかなりまったり出来る感じだ。所謂『花金』である・・・バブル時代の流行りの言葉らしいから昨今だと死語に為りつつあるけどな

 

ともあれ後は寝るだけという処で黒歌達が部屋に入って来た

 

美少女達と一緒のベッドで寝てるとかクラスの男子に知られたらイッセー共々追い回される事請け合いだろうな

 

そんな事を今更ながらにボンヤリ考えていたら先ず白音が部屋の鍵を閉めて結界を張った

 

次にレイヴェルも重ね掛けするように結界を張った・・・今一瞬腕が燃え上がったし、もしかしなくても禁術の結界を張ったな!?

 

最後に黒歌がダメ押しとばかりに強固な結界を展開した・・・え、何?この堅牢過ぎる結界群

 

驚く中で黒歌が近寄りながら猫なで声で話し掛けてきた

 

「ねぇイッキ~♪吸血鬼の町でした約束、覚えてるかにゃ~?」

 

聖杯で邪龍にされた吸血鬼に遅延式の気絶術式仕込みまくった報酬の事だよな?

 

「確か、新しく創った魔法の実験の手伝いをして欲しいってやつか?」

 

「そ♪私が丹精込めて創った『避妊魔法』のね♡」

 

・・・・・・え?

 

そして俺がリアクションを取る間も無く黒歌にベッドに押し倒され、俺の上に覆いかぶさるように四つん這いとなった

 

ニヤけた口元に覗く八重歯が捕食者としての良い味を出している・・・って!違うわ!

 

「え?避妊魔法?ええ!?」

 

「イッキは最初私との子作りを拒否したのは学生の身でお金が無かったから一つの男の矜持として先延ばしにしたでしょう?それからイッキが大金を手に入れた辺りで白音やレイヴェルも本格参戦したから私は兎も角二人はもしも子供が出来たら学園生活を謳歌出来なくなっちゃうって理由でイッキは私達に手を出さなかったにゃ・・・だからイッキが私達を気兼ねなく襲えるように体に負担を掛けず、後遺症も副作用も無しで絶対避妊出来るエロ魔法を創ったのよ♪」

 

「なんちゅうもんを数か月も時間を掛けて創ってんだよこのエロ猫!」

 

思わず口が悪くなってしまったけどコレは許されるよね!?

 

「ふっふ~ん♪猫又妖怪はエロくてナンボよ?白音が万一にも妊娠しないように細部まで拘り抜いた緻密で精密な計算術式を練り込んだ自信作にゃ♪」

 

そんな自信、次元の狭間にでも捨ててしまえば良い!

 

だが俺に覆いかぶさっていた黒歌の左右に白音とレイヴェルが顔を紅く染めながら這いよってきた

 

「い・・・イッキ様。私達はもう覚悟は出来ていますわ―――数日前に黒歌さんにこの魔法が完成したと云う事で詳細については先に存じておりましたので」

 

ここ数日レイヴェルと白音が目線を合わせなかったり妙に余所余所しかったのはそれかぁぁぁ!?

 

黒歌は愉しそうにしてたから原因を知ってるかもと思ってはいたけど完全に元凶じゃねぇか!?

 

「イッキ先輩・・・私はまだ体はちっこいですけど、え、エッチは出来ます!なんなら大人の姿も維持するだけなら一晩くらい持たせてみせます!イッキ先輩の事が大好きです!愛してます!だから、もっと先輩の事を近くで感じたいんです!」

 

あ、ダメだコレ。この状況と皆のセリフに頭の中沸騰してるし、これだけお膳立てされた状況で女の子にここまで言わせて据え膳食わぬは男の恥だろう

 

俺はベッドで上体を起こして目の前の三人に順番にキスを返し、初めに黒歌を今度は逆にベッドに押し倒した

 

白い着物が半ばはだけて下に覗く肌が何時もの10倍は艶めかしく見える

 

「三人とも俺が嫁に貰う―――途中で止まる気なんて無いからな?」

 

多少強引な形でそう言うと一瞬キョトンとした表情の後でその綺麗な黄金の瞳を薄く狭めた

 

「ふふ、イッキもこういう処は男の子よね♪・・・来て、イッキ♪」

 

「ふふ♪まだ恋人ですが、夫婦の営みと参りましょうか」

 

「今回だけは黒歌姉様の欲望に忠実な在り方に感謝します」

 

そうして薄暗闇の中で俺達の関係はまた一歩先に進んだのだった

 

 

 

▽  

 

朝日が昇るにはやや早い時間帯に携帯の呼び出し音が鳴り、重たい体を起こす

 

寝ぼけた頭で電話を取るとリアス部長の声が聞こえてきた

 

≪イッキ、如何したの?もう既に早朝特訓の時間が始まってるのに貴方も白音も黒歌もレイヴェルも誰もやって来ないものだから電話したのだけど、何か在ったのかしら?≫

 

そこまで言われたところで頭が現実に追いついてきた

 

何が在ったかと言われると超絶一大イベントが在った訳だけど馬鹿正直に内容を話す訳にはいかない。敢えて言うなら数年に渡る禁欲と三人の可愛さに脳死した俺は【夜の一刀修羅】を発動。例え精魂尽き果てようとその度に三人のあられもない姿を見て【覚醒(ブルート・ソウル)】して再度【夜の一刀修羅】を発動。黒歌も黒歌で仙術で自分の発情期をコントロールして解放するエロテクを披露し、最高レベルの仙術使い三人分の織り成す房中術で体を活性化させて終わりの見えないフルマラソンを完走したのが恐らくつい先ほどで直後にリアス部長のコールが響いたのだろう

 

―――誰が言えるかこんな内容!

 

「え、えっとですね。昨夜に新しい技の開発に俺達全員で議論が白熱してしまって、深夜テンションで夜通し張り切っちゃいまして―――すみませんが今日は俺達抜きでお願いします」

 

かなり苦しくてダメダメな言い訳だがもう既にリカバリー出来ない処まで来ちゃってるからな

 

≪そうなのね。全く、向上心が強いのも良いけど黒歌以外は真面目なあなた達三人が睡眠も忘れて新技の開発に没頭するだなんて、よっぽど凄い技を開発したのかしら?なら今日のトレーニングの無断欠席の罰として近いうちにその新技をお披露目して貰おうかしら?―――素晴らしいと言えるものであれば部室の掃除1週間程度で許して上げるわ。期待してるわよ?≫

 

その言葉を最後に通信が切れた

 

いや、無茶振りぃぃぃ!!俺達生真面目に新技開発してたと思われてるぅぅぅ!?

 

俺が昨日会得した技って房中術だけだぞ!お披露目とか無理に決まってんじゃん!

 

コレは拙い!何かアッと驚くような新技をでっちあげる必要が在る!

 

焦る俺の直ぐ横から声が掛かった

 

「にゃは~。もう諦めるしかないんじゃないかにゃ?」

 

そちらを見ると生まれたままの姿でベッドで上半身を起こしてる黒歌が目に入った

 

それに反対を見れば白音とレイヴェルも通信の声のせいか起きてしまっているようだ

 

う゛っ、余り直視しないでおこう

 

「お、お早うございます。イッキ様」

 

「お早う・・・ございます」

 

何を思い出しているのか恥ずかしそうにシーツで上半身を隠す二人だけどもうその仕草からしてヤバい・・・っとダメだダメだ。今はその時じゃない

 

「にゃは~、それにしてもイッキは本当に激しかったにゃ~♪今まで悪戯してた分が爆発しちゃったせいだとは思うけど、もしも私一人だったら受け止め切れなかったかもね♪」

 

「―――黒歌。取り敢えずその話題は今は控えてくれ。今は脳内ピンク色に染めてる場合じゃないんだよ」

 

無理矢理そう云う事だと納得しておかないと無限ループに陥りそうな気がする

 

「え~、でもねぇ」

 

黒歌は俺に寄りかかって自分のお腹の辺りを擦る

 

「こ~んなにイッキを感じられる状態・・・癖になっちゃいそうにゃ。朝練も無くなったんならもう一戦頑張ってからでも良いと思わない?ねぇ♪白音にレヴェルもそう思うでしょ?」

 

バカ、そっちに振るな!このエロ猫一線超えたからか自重する気ゼロかよ!

 

そして白音とレイヴェルも潤んだ瞳を向けないでくれ!

 

―――取り敢えず、次に目を覚ましたのは昼近くだった事だけは記しておく

 

流石になんだかんだで全員限界が近かったので短期決戦だったが・・・

 

 

 

 

起きてから黒歌はご機嫌で他の二人は正気に戻って頭から湯気を出しながらも汚れたシーツなどを魔力で浄化していく

 

シャワーを浴びて朝食と云う名のお昼を食べたら再び部屋に戻って作戦会議だ

 

「え~、朝の通信を聞いてたと思うけど、朝練をサボった事に見合うだけの新技を開発する事になりました。ショボい技や術でお茶を濁すのは難しいだろうし、実は何も開発してないと云えば全員揃って昨夜に何をしてたのか根掘り葉掘り聴かれる事になりそうなので何かいい案の有る人は?」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

「にゃは~」

 

うん。こんな事急に言われても早々思い浮かばないよね

 

黒歌に至っては絶対に頭を働かせている事すらしてないだろうし、彼女の場合は俺達の中では唯一のオープンスタイルなので、バレても問題無いとしか思ってないから此処では戦力にならん

 

「うにゃ~、もう私の避妊魔法とやっと実践出来た房中術を素直に話せば良いと思うんだけどにゃ~。スイッチ姫を筆頭に向こうも基本はエロエロだし、特に避妊魔法には喰い付いて罰だのなんだの小さい事は言わなくなるはずにゃ」

 

とっても的確な推理を有難う!

 

羞恥心に目を瞑れば確かに朱乃先輩やゼノヴィア辺りは全力で興味の視線を隠さなそうだけどさ!

 

 

因みに高校卒業後に黒歌の開発した避妊魔法はメフィスト会長経由で風俗店などに黒歌が術式を売ったらしく、悪魔などの元より子供が極端に出来難い種族でもない限りは男女の最後の垣根(薄いゴム)を取り払った黒歌の知名度はその手の界隈で有名となるのだがそれはまた未来の話である

 

 

「兎も角避妊魔法も房中術も無し、で・・・・」

 

そこまで言い掛けたところでふと思いついた事が有った

 

昨日の俺と今日の俺では見えている景色が違うのだ(意味深?)

 

「なぁ黒歌!」

 

「な、なによ?」

 

思い付きを胸にズイッと迫ったせいか若干引かれてしまったけどそのまま提案する

 

「ちょっと黒歌の頭を念入りに撫でても良いか!」

 

「・・・イッキ、貴方頭大丈夫にゃん?」

 

なんか頭の心配をされてしまった・・・解せぬ

 

 

 

 

それから朝練も出来なかったので午後は思い付きの新技・・・と云えるのかは微妙かも知れないけどそれの練習をして夕方に皆の感想を聞いていた

 

「う~ん。やっぱりコレは瞬間火力の短期決戦用の技だにゃ」

 

「はい。それに今はまだぎこちないので特に近接戦主体の私では戦闘に組み込むのはもっと練習を積まなければいけませんね」

 

「ですが、見える景色が変わったようでしたわ。使いこなせれば大幅なパワーアップにも繋がるでしょう。今の段階でも私の禁術を実戦レベルまで引き上げるだけの効果は見込めそうですし、修行のメニューには是非加えていきたいですわね」

 

取り敢えずは肯定的な意見と取っても良いのかな?まぁ確かにたった半日の修行じゃ発動も覚束ない状態だからな。でも、覚える気は有りそうだ

 

かなり無理矢理だったが今日の成果に納得している処で黒歌が思い出したとばかりに迫ってきた。凄く愉しそうな愉悦顔だから不安しか感じないんだけど!?

 

「ねぇねぇイッキ♪そう云えば私がイッキに望んだ報酬の話だけど魔法の実験に付き合うのともう一つ在ったのを覚えているかにゃ?」

 

「え?魔法の実験の手伝いだけじゃ無かったっけ?―――いや、確か他にもその魔法の詳細な・・・レポートの・・・提、出?」

 

そこまで途切れ途切れに言葉に出した辺りで目の前の黒歌の顔が完全に悪魔の微笑みに変わる

 

吊り上がった口角が暫く戻る事は無さそうと思えるほどの極上の愉悦顔だ

 

「そ♪感覚の鋭いイッキが新術で私達の体をたぁぁぁっぷり堪能したその詳細と感想を私と白音とレイヴェルの分・・・そうねぇ、一人頭原稿用紙10枚分程度で許して上げるからしっかりと書き上げて私達に提出するのにゃん♡」

 

あ・・・悪魔だ。此処に悪魔が居るぞ!・・・いや三人とも悪魔だけど

 

「く、黒歌さん。流石にそれは酷なのではありませんか?」

 

「そ、そうですよ黒歌姉様!悪戯にしても度が過ぎてます!」

 

見かねたレイヴェルと白音が援護射撃してくれる。有難う二人とも!天使は此処に居た!

 

しかし、悪魔の囁きは終わらない

 

「あらぁ?でもレイヴェルだってイッキの書くレポートが気になるんじゃない?イッキが私達のどの部分が好きで、どんな反応が好みなのか、他ならぬイッキが隅々まで教えてくれるのよ?まぁレイヴェルや白音が気が咎めるっていうなら二人のレポートは無しで良いにゃ♪その代わりに私だけは次回からイッキと今回以上に気持ち良くなるだけよ♪」

 

黒歌がレイヴェルの耳元でそう囁くとレイヴェルは真っ赤にした顔を伏せてしまう

 

「・・・・・い、イッキ様。私の分もレポートの提出をお願いしますわ」

 

「・・・・・私も、置いて行かれたくはないです」

 

レイヴェルが絞り出すように答えると白音も追従してしまった

 

天使が陥落した!悪魔の囁きで二人が堕天したぞ!

 

最後の防壁を失った俺はその日寝るまでに三人完全監修の下、妥協の許さぬ詳細なレポートを提出する破目になった

 

出来上がったレポートを手に顔を紅く染めながら喰い入るように見つめて(俺の性癖を)分析している三人を前にしながらもその日の俺はもはや何もやる気が起きなかったのだった

 

 

 

 

翌日、未だに真っ白になっている俺にイッセーが恐る恐る話しかける

 

「お、おいイッキ?如何したお前?今にも消えてなくなりそうだぞ?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぉぅ」

 

「あらあら、昨日あの四人が一緒に休むなんて言うので、もしかしたら一夜の夢を結んだのかもと思ったのですけど、この様子では違うのかしら?」

 

薄い反応を返す俺を見て朱乃先輩も勝手に正解から遠ざかってくれている

 

まぁ普通これが結ばれた男女の醸し出す雰囲気とは思わないよな

 

結局、俺が精神的にある程度回復するのに丸一日近くは掛かったのであった




はい、今回はR-17くらいの内容でしたかね?R-18なイッキの書いたレポートの詳細は各自ご想像下さいww


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第17章 教員研修のヴァルキリー
第一話 修行、修行、修行です!


新章突入ですね


黒歌達との関係が進みながらも12月に入り、対テロ組織『D×D』の修練は続いている

 

イッセーとヴァーリの二天龍は必要な力を必要な時に必要な分だけ引き出す消費を抑える訓練を行っている―――イッセーよりヴァーリの方が修行がグングン進んでいるのはご愛敬だ

 

で、俺はと云えば皆が鍛錬で俺やイッセーの家の地下やグレモリー眷属の特別鍛錬フィールドなどで修業している中、一人だけ京都に来ていた

 

基礎練習や模擬戦などでは俺も向こうで修業するが闘戦勝仏の課した【一刀修羅】の修行をするのには莫大な気脈の渦巻くこの京都の方が都合が良いのだ

 

今居る此処も八坂さんの屋敷である

 

京都の気脈・龍脈を掌握する九尾の狐の住まうこの場所の一角を闘戦勝仏と共に訪問して借り受け、八坂さんの手も借りて色々と術式方陣を敷き、その方陣の中が俺の修行スペースだ

 

「【一刀餓鬼】!!」

 

方陣の中心で座禅を組んだ俺は【一刀修羅】でも【一刀羅刹】でもない三大勢力の和平会談の時のヴァーリ戦で見せた【一刀餓鬼】を発動させる

 

勿論コレは俺が闘戦勝仏様に『無駄が多い』とされた事への改善の為だ―――曰く

 

「小僧の資料などは一通り目を通させて貰ったがの、【一刀修羅】とやらはまだええが【一刀餓鬼】とやらと特に【一刀羅刹】ってぇ小僧の切り札の扱いがなっとらん。小僧が力を使う度に全身ボロボロになっとるのは強化と耐久の内、強化の方に力が流れ過ぎとるからじゃ―――体を壊す程の強化を施した必殺の一撃と云えば聞こえは良いかも知れんが、お主が敵に斬り付けるまでに全身の筋肉が何割も断裂していたら施した強化以上に威力を殺す結果に繋がるわい。お主がかつてフェンリルを蹴っ飛ばした時だって【一刀羅刹】の力を十全に伝える事が出来ていれば、顎が外れるだけでなく骨折程度は余裕じゃったじゃろ」

 

との事だ。確かに限界値の150%の力を出したとして、相手に攻撃が届くまでに筋肉が半分断裂してたらと考えると『無駄が多い』と言われても仕方ない

 

そしてそんな俺に出された課題は【一刀修羅】と【一刀羅刹】の中間である【一刀餓鬼】を先ずは20秒で発動させて出血などで体が壊れないようにその力をキチンと制御する事。それが出来るように為れば次は15秒、10秒と段階を踏んで【一刀餓鬼】の圧縮強化の時間を短くしていき、最終的に【一刀羅刹】も体を壊さずに使用できるようにするというものだ

 

それに全身の血が一々流れるのが無くなれば態々輸血しなくても仙術の回復かフェニックスの涙だけで十分になるのもデカい

 

だが、本来【一刀修羅】は全生命力を消費する技なので普通は日に何度も発動できる類の能力では無い。一分だけ頑張ってその後何時間もぶっ倒れるようでは普通に修行して地力を上げる方がまだマシだし回数だって熟せないから修行にならないだろう

 

そこで八坂さんと闘戦勝仏様謹製の京都の気脈を利用した俺の体力を回復する効果を付与した特別製法陣の出番という訳である

 

この回復仕様のパワースポットの上で修業する事により短いサイクルで回復して直ぐにぶっ倒れる無限ループが完成する訳だ・・・まぁやっぱり修行途中では下手な強化で全身に血が滲むのを繰り返すのでちょくちょく輸血しながらの修行になる訳だが・・・

 

「イッキ、お疲れ様なのじゃ!夕餉の支度が出来たので呼びに来たぞ!」

 

暫く修行を続けていると九重がやって来た

 

八坂さんの屋敷という事は当然九重の家でもある訳だからな

 

修行の為とはいえ、ちょくちょく俺がこの屋敷に顔を出す事になってから九重もご機嫌な様子だ

 

「分かった。直ぐに行くよ」

 

普段はあまり朝晩などに俺が実家の食卓に姿を見せないというのは両親に違和感を持たれてしまうので修行したらさっさと帰ってしまう事が多いのだが、今日は友達の家で晩飯を御馳走になると誤魔化して来た感じだ・・・イッセーの家で食べたと言えばご近所付き合いの有る俺とイッセーの両親の間でその話題が出たらボロが出るからね

 

一応暗示を掛ければ問題は無いのかも知れないけど、そういう手法は極力控えたいしな

 

気が通り易いように着た白装飾も割と真っ赤になってるので梵字の不動明王の印を結んで清める

 

本来は厄災や悪霊などを退けるものだが『不浄を払う』という意味を拡大解釈して浄化魔力の真似事も出来るのだ。勿論その分出力は落ちるけど服の汚れを払う程度なら毛ほども問題は無い

 

体を清めて手早く着替えてから九重と一緒に食卓に向かい、八坂さんと九重と俺の三人で一緒に食事を取る。流石に近場に侍女の人達とかが控えているけどグレモリー家の食事風景のようにほぼ360度にメイドと執事が囲んでいる訳ではないので気にする程ではないだろう

 

アレはやり過ぎだとも思うけどグレモリー家現当主のジオティクスさんはかなり感性が生粋の貴族寄りだからアレで普通なんだろうな

 

三人で見た目も艶やかな京料理に舌鼓を打っていると八坂さんが話しかけてきた

 

「イッキ殿。修行の進み具合は如何じゃろうか?」

 

「そうですね。20秒に縮めた【一刀餓鬼】は元々ある程度制御出来ていたのか何とかなったのですが、次の15秒の壁が厚いです。まだ修行を始めたばかりだから仕方ないところも在るかも知れませんが、発動する度に全身ギチギチと痛いので早く【一刀羅刹】までちゃんと制御を覚えたい処では有りますね」

 

修行が大変なのはしょうがないとも言えるけど毎回修行終わりにはスプラッタになって輸血スタンド必須の状況は終わりにしたいものだ

 

「・・・うむ。今日もイッキを呼びに行った時はかなり痛々しい見た目じゃったからの。修行の口実でイッキが此処を訪れてくれるのは嬉しいのじゃが、イッキが早く完璧な制御を身に付けて欲しいというのが本音じゃ」

 

「そうだな。九重にも心配掛けないで済むように頑張るとするよ」

 

「うむ!それにイッキがそこまで修行に身を入れている姿を見たら私だって負けてられんのじゃ!直ぐに私も立派な『れでぃ~』に成長してみせるぞ!」

 

両手を握って"ふんすっ"と気合を入れる九重の微笑ましい様子に俺も八坂さんもつい顔が綻んでしまう。だがそこで八坂さんがもう一つ質問を重ねてきた

 

「―――そう言えばイッキ殿は他の婚約者の皆と契りを結んだのであろう?」

 

「ゴフゥッ!!」

 

飲んでいたお茶が気管に入ってしまった!絶対に俺がお茶を啜るタイミングを見計らって声を掛けてきたなこの人!

 

と云うか何で速攻でバレてんの!?・・・って、黒歌以外あり得ねぇぇぇ!!

 

「な、なんと!私が立派な『れでぃ~』を目指している中で黒歌殿達は既に大人の『れでぃ~』への階段を登ってしまったのか!?」

 

九重がショックを受けてるけどショックを受けるポイントはそこで良いのか!?

 

「くくく、そう悲観する事ではないぞ九重や。イッキ殿が高校一年生の白音殿やレイヴェル殿に手を出したという事は詰まり九重も最低でもその頃にはイッキ殿と契りを結べるという事じゃ―――以前イッキ殿が正式に輿入れするのは九重が高校卒業後と言っておったが黒歌殿の魔法で初夜を迎えても子供が出来る心配が要らないとなれば5年後には結婚式を執り行えるのう」

 

「しょ、初夜でありますか」

 

「うむ、そうじゃ。何も子供を作る事だけが体を重ねる事の全てでは無いぞ?九重にはまだちと早いが、将来に向けてこれからの勉学に予習(・ ・)自主練(・ ・ ・)の時間を設けて―――"スパンッ!!"」

 

そこまで八坂さんが語った処でつい我慢できずに異空間収納から取り出したハリセン(普通の)で八坂さんの頭を叩いてしまった

 

侍女の人の方をチラッと見やるが露骨に見なかった振りをしてくれているので問題無しだ

 

「そこまでですよ、八坂さん!」

 

「・・・ふむ。しかし、イッキ殿よ。黒歌殿達との初夜を迎えた以上は最早九重と結婚するのに残る障害は年齢だけじゃろう?九重の16歳の誕生日と同時の結婚をする事に問題は有るかの?」

 

「それは!・・・」

 

・・・アレ?よくよく考えたら問題が何も残ってない?昨日は三人を嫁に貰うと宣言したけど今更九重は無しなんて言うつもりも無いし・・・アレ?

 

「って!論点をずらさないで下さい!俺は九重の予習(・ ・)自主練(・ ・ ・)はやっぱりまだチョット早過ぎるんじゃないかなって事を言いたいんですよ!!」

 

「ふむ。反論せぬという事は詰まりイッキ殿も九重との結婚については問題無しとした訳じゃな?良かったのぅ九重や。高校卒業まで待つ必要は無くなったぞ?」

 

ダメだこの人、幾らでも白を切るつもりだ!

 

結局その後も話術で八坂さんに俺が勝てるはずも無くのらりくらりと躱されて八坂さんは「オホホホホホ!」と態とらしく退室

 

残った俺と九重は九重の部屋で(普通に)遊んでから転移で家に帰ったのだった

 

 

―――後々気付いた事だが九重が『16歳で結婚』ではなく、『16歳の誕生日』で結婚と最短最速の結婚スケジュールを日付指定で組まれていたようで俺が気付いた時には八坂さんが各方面に根回し済みで既に手遅れだったのだ

 

言質を取られる事もそうだが黙っている事も権力者の前では肯定の意として扱われる事が身に染みて理解出来る一件となった・・・いや、ホントに悪い事じゃないんだけどさ

 

 

 

 

 

闘戦勝仏様に課された【一刀修羅】の修行はそんな感じで進み、リアス部長要望の新技披露に関してはもう少し技の練度を上げる時間を貰いながらも各自の修行は進んでいく

 

そして今日の俺は学校が終わってからサイラオーグさんと一緒に神の子を見張る者(グリゴリ)の観測兼訓練スペースにお邪魔しているところだ

 

「俺の新しい力の模索に付き合ってくれて礼を言うぞ、有間一輝!」

 

俺の眼の前でサイラオーグさんが楽しそうに戦意を高めているが、それと云うのも話は今朝に遡る

 

 

 

今朝は合同訓練の中にサイラオーグさんが混ざっていたのだが皆で一通りの基礎訓練を終えた後で今回は俺とサイラオーグさんが模擬戦をする事になったのだ

 

正確に言えばレグルスの鎧を纏ったサイラオーグさんだけどな

 

サイラオーグさんはレグルスの鎧を冥界の危機に関してのみ使うと言っていたがイッセーとの試合でも使ったし、そもそも特訓は別の話だ

 

ただでさえ本来の所有者でないサイラオーグさんの場合はレグルスの鎧を使いこなす為の難易度がイッセーやヴァーリのような同じ神滅具(ロンギヌス)の鎧を纏っている奴らに比べても難しいだろうからね

 

そうして早速レグルスの鎧を纏ったサイラオーグさんに俺も邪人モード(浸食率低め)で相対する

 

だがいざ模擬戦を始める前に違和感を持ったのだ

 

「む?如何したのだ?有間一輝」

 

問いかけて来るので素直に疑問に思った事を聴くことにした

 

「あの、サイラオーグさんと云うかレグルスは『兵士(ポーン)』の駒なんですよね?他の駒に『昇格(プロモーション)』はしないんですか?」

 

「―――その事か。知っての通りレグルスは通常の転生悪魔とは違う。レグルス単体では時折暴走してしまう程度にはな。一応レグルスを眷属としてから昇格(プロモーション)を何度か試してみた事は有ったが、結果は全て暴走という形で終わってしまったのだ」

 

成程、ただでさえ不安定なレグルスは力が変動する昇格(プロモーション)とは相性が悪いという事か

 

「でもそれはレグルスのみで昇格(プロモーション)を使った場合ですよね?それとグレモリー眷属との試合の後でレグルスを神の子を見張る者(グリゴリ)には連れて行きましたか?」

 

「むっ、確かに神の子を見張る者(グリゴリ)で調整した事で暴走の危険は少しだけ減ったな。それに昇格(プロモーション)を鎧を着た状態でやると云うのは考えていなかったな」

 

禁手化(バランス・ブレイク)した今の二人のオーラはレグルス単体よりは安定している感じだし、案外イケるんじゃないかな?

 

そうしてサイラオーグさんが『では早速』とばかりにレグルスを昇格(プロモーション)させようとしたので慌てて止める

 

「待ってください!鎧を着た状態の昇格(プロモーション)でサイラオーグさん自身にもどんなフィードバックが有るか分かりませんし、ここはついでに詳細なデータを取れる神の子を見張る者(グリゴリ)の方で試しましょう!―――フェニックスの涙付きで!」

 

下手こいたら昇格(プロモーション)直後に二人揃って血反吐吐き出すとかサイラオーグさんが鎧状態でレグルスばりに暴走するとか考えられるんだから他の皆の居るこの場所で試すのは拙い!

 

俺は早速アザゼル先生に連絡を取って今朝はもう駒王学園の仕事もあるアザゼル先生ではきっちり時間が取れないので学園が終わってから神の子を見張る者(グリゴリ)に向かったのだ

 

本来であれば俺もアザゼル先生も要らなかったのかも知れないけど俺は提案した手前気になるし、アザゼル先生は神滅具(ロンギヌス)昇格(プロモーション)のデータ採取とか他の人に任せるとか在り得ないという事でこういう運びになった

 

俺とサイラオーグさんが今向かい合っているのは戦闘におけるデータも採取する為だ

 

最悪サイラオーグさんが暴走したらしたで押さえつけるまでの戦闘データを採るつもりらしい・・・まぁデータが無かったら補助具の一つも造れないからな

 

造れるか如何かは知らんけど

 

少し体を解したりしているとアザゼル先生からの通信が入った

 

≪よぉし、こっちの観測機器の準備は整ったぞ。そっちのタイミングで始めてくれや≫

 

それを聞いた俺達は先ずは今朝と同じ状態までに持っていく

 

―――そして、ここからが本番だ

 

「良し!ではゆくぞレグルス!」

 

「はっ!」

 

「「昇格(プロモーション)、『騎士(ナイト)』!!」」

 

サイラオーグさんとレグルスの声が重なり、先ずは様子見として『騎士(ナイト)』に昇格(プロモーション)したようだ

 

≪どんな感じだ?サイラオーグ?≫

 

「そうですな。何時もより力が張っていて鎧を着ているにも関わらず生身の時より体が軽い感じです・・・成程、コレが『騎士(ナイト)』の感覚ですか」

 

≪こっちの観測でもお前らのオーラは最初よりは多少ブレてるがまだ安定した数値の範囲内だな。まぁお前さんもレグルスも『騎士(ナイト)』や『戦車(ルーク)』とは相性が良さそうだから予想の範囲内っちゃ範囲内だ―――良し!そのまま『戦車(ルーク)』、『僧侶(ビショップ)』、『女王(クイーン)』に為ってみてくれ。問題無ければ次はイッキとの模擬戦だ≫

 

そうしてサイラオーグさんとレグルスが昇格(プロモーション)を切り替えていく

 

やはりと言うべきか『僧侶(ビショップ)』に為ったらオーラがかなりブレて『女王(クイーン)』は更にブレブレになったので下手に暴走する前に直ぐに解除する事になった

 

「成程な。確かにコレは兵藤一誠のように一つずつの駒の力を高めていかなければレグルスの『女王(クイーン)』の力は引き出せんか」

 

イッセーは紅の鎧の安定性を鍛える為に『トリアイナ』の訓練を地味に続けてるからな

 

これがもしヴァーリのような天才肌だったら最初から『女王(クイーン)』で鍛えた方が手っ取り早いのだろうが、サイラオーグさんもイッセーも不器用なタイプだから似たような修行内容になりそうだ

 

「でも少し失礼かも知れませんがレグルス自身は魔力が得意ではなくともサイラオーグさんのように極端に苦手という訳でも無いみたいですし、鎧状態であれば何か魔力を使った小技の一つくらいは覚えても良いかも知れませんね」

 

流石に長年鍛えてきた肉体から繰り出されるパンチやキックとかには及ばないけど、ちょっとした補助技程度が在っても良いと思う―――折角限定的とはいえ使えるようになった魔力なら使用しないのは勿体ないだろう

 

流石に引き上げた力の全てを魔力に譲渡という形で変換出来る赤龍帝の能力に比べたら自由度は下がるだろうからイッセーのドラゴンショットの真似事とかは止めた方が良いと思うけどね

 

サイラオーグさんなら拳圧を飛ばした方が疾いし強いからな

 

「魔力はイメージが大事らしいですし、その魔力も何方かと言えばレグルスの魔力です。だから新技を開発するのであればサイラオーグさんとレグルスの双方が強くイメージを共有できるような技が望ましいと思います」

 

「うむ。レグルスと相談しつつ形にしていくとしよう。良いな?レグルス」

 

「ハッ!サイラオーグ様の御心のままに!」

 

≪魔力の扱いについてはその辺にしておけ。それじゃあそろそろ模擬戦に移るぞ―――サイラオーグは『騎士(ナイト)』と『戦車(ルーク)』の駒を意識して切り替えながら戦ってみろ≫

 

そうして俺とサイラオーグさんの模擬戦が始まる

 

イッセーの紅の鎧のような特別な力は無くとも、獅子の鎧の状態でイッセーに迫るパワーを出せていた彼の鎧は昇格(プロモーション)により単純な性能値(スペック)ではイッセーをすら上回った。とはいえ増大したパワーやスピードに慣れてないサイラオーグさんの戦い方は流石にまだぎこちなく、カウンター使いの俺の格好の的となってしまったので普通に俺が勝っちゃったな

 

戦いが終わってから白衣を羽織ったアザゼル先生が転移でやって来る

 

「お疲れだな。二人、いや三人とも。取り敢えず良い感じにデータは採れたぞ。この後でサイラオーグの『僧侶(ビショップ)』の駒の力を安定させる為の補助具を造ってやるからそれを使って『僧侶(ビショップ)』のコツを掴め―――段階的に補助具の性能を落としていき、問題無いレベルまでオーラの波長が安定したら次は『女王(クイーン)』を試していくぞ」

 

「はい。宜しくお願いします。アザゼル殿」

 

「なぁに、俺も神滅具(ロンギヌス)昇格(プロモーション)なんて面白いもん見せて貰ってるんだ、構わねぇよ。それに加えて今回はイッキの『邪人モード』も見せて貰ったしな―――しっかしお前マジで人間か?アレだけのドス黒いオーラは並みの奴なら即死するし、直接オーラに触れなくても気をしっかりと持たねぇと戦意すら保てねぇぞ・・・一定レベル以下の相手だと立ち向かう資格すら奪うとか何処のRPGの魔王様だよ?」

 

《イッキは『魔王の威圧』を発動させた》ってか?

 

「いや、お前は魔王じゃなくて邪神だったな『邪神の威圧』で良いと思うぞ」

 

「『邪神』なんて言ってるの今の処アザゼル先生だけでしょうに」

 

「残念だったな。おっぱいドラゴンのストーリーでお前が邪人から邪神に進化するという筋書きは脚本家もノリノリで受け入れてくれたらしいぞ?そう遠くない内にお前は周囲から『邪神、オール・エヴィル』として認識される事は決定事項だ」

 

カーミラの町でサーゼクスさんに『邪神』の設定を提案するとか言ってたけど、もう既に話固まってるんですか!?仕事が早えぇよ!悪い意味で!!

 

 

 

神の子を見張る者(グリゴリ)でやる事も終えた俺はサイラオーグさんと別れて帰宅し、イッセーの家の会議室で今日の皆のそれぞれの修行の成果を発表している

 

流石に毎日という訳ではないが数日に一度はこうして皆で顔を突き合わせての確認や意見を出し合っているのだ―――時折思わぬ発見や貴重な意見が出たりするから全員で考えるというのは中々に馬鹿に出来るものではないからね

 

「―――そんな訳で【一刀餓鬼】及び【一刀羅刹】の練度の上昇と、今日はサイラオーグさんの新しい可能性に付き合う形になりました」

 

「マジか!サイラオーグさんがレグルスの鎧で昇格(プロモーション)するとか頼もしいのと同時に悪夢なんだけど・・・前の試合の時に勝てたのだってギリギリだったし、俺も何か真紅の鎧とはまた別の技を模索しないと一気に置いてかれそうだぜ」

 

イッセーがガックリと項垂れているな。そんなイッセーの隣でイリナさんが立ち上がる

 

「はいは~い♪次は私ね。なんと私はこの度天使としての格が上がったと天啓がありまして四枚羽に成れました!」

 

その言葉と共に一歩下がってから祈りのポーズをすると確かに純白の翼が二対四枚となっている

 

イリナさんも「えへん♪」と得意顔だ

 

何でもコレで天界の保管するアイテムや権利の行使などの制限が緩くなるらしい

 

とは言え天使の翼は最大六対十二枚だし、天使としての格が一つ上がった程度のイリナさんが扱える天界のアイテムとかアザゼル先生ならそれ以上ものを用意できるだろうからな・・・今後に期待といった感じかな?

 

「俺はこれだけの実力者や神滅具(ロンギヌス)に囲まれて特訓したからか神器のオーラの質自体は向上してるんだが禁手化(バランス・ブレイク)にはまだ至れてないな。今日も天界のジョーカー様に相手をして貰ったんだがコテンパンにやられちまったよ」

 

最後に報告をしてるのはサジだ。セリフ自体は卑屈っぽいけど本人は気負った様子は見られない―――実は修行当初は禁手化(バランス・ブレイク)出来ないと嘆いていたのだが幾ら環境が良いからって簡単に至れるものじゃないのが禁手化(バランス・ブレイク)だ。俺だって結局至るのに裏技を使った上に十数年掛かった訳だし

 

まぁ結局サジにとって気付けとなったのはソーナ会長が冥界のアガレス領に建てた学校で先生役として手伝いに奔走するようになってからのようだけどな

 

夢を持つ子供たちとの触れ合いが良い意味でサジを前向きにさせたらしい

 

―――で、最後にまだ報告とかしていなかった我らが『D×D』のリーダー様たるデュリオさんはと言うと会議が始まってから"うつらうつら"と半分船を漕いでいた

 

イリナさん曰く会議に出席しているだけで奇跡なんだそうだ

 

天界の切り札の齎す奇跡は随分と安いようだった

 

 

 

季節は12月に入った事で期末テストが実施され、本日答案用紙が返却された

 

配られたテスト用紙の点数をみてクラスの皆は一喜一憂して騒いでいる

 

「ようイッセー、テストの出来は如何だったよ?」

 

松田の質問にイッセーは微妙な表情で「平均点よりはやや上」程度だと答える

 

まぁここ最近は訓練以外にもリアス部長や朱乃先輩にも勉強を教えて貰ってたりしてたのにその点数ってのは納得いかないんだろう

 

つっても『D×D』の訓練があるからガッツリと勉強出来た訳ではないだろうがな

 

「俺達の中で勉強が出来るのなんてイッキくらいだからな。平均点の周辺を漂う事が出来ていれば上等だろう」

 

俺は仙術修行で脳みそもある程度弄ってあるので歴史とか覚えるのに時間が掛かりそうな科目を省略出来るので大体平均90点前後はキープ出来ている

 

流石に完全記憶能力みたいに完璧な記憶力を保持できる訳でもないし、凡ミスやド忘れでちょくちょく点数を逃す事が在る感じだ

 

すると女子生徒の、と云うかゼノヴィアの辺りが騒めいている

 

アーシアさんが言うにはゼノヴィアのテストの平均点数が90点越えで100点の答案も何枚か在るようだ。外国人で転校当初は国語の勉強に四苦八苦していたのを皆知っているが故に驚きも大きいのだろう・・・そういうアーシアさんも似たような条件で80点台後半らしいがな

 

「ちょっと私にも一つ目標というものが出来たものでね。取り敢えず、今の自分がどれだけやれるのか試してみたくなったのさ」

 

ゼノヴィアとしては一番点数が低かったらしい国語もイッセーより僅差で負けている程度だとイッセーが知った時は流石にショックを受けていたみたいだがな

 

そこに桐生さんが近づいてきて教会トリオとイッセーに目線を向ける

 

「イリナっちも平均80点以上・・・あんたらの子供は父親に似たら悲惨よね」

 

「なぁ!?き、き、桐生!こ、子供ってお前!」

 

完全にどもっているイッセーだが話しを振られた教会トリオは特に動揺は無いようで

 

「なに、教育と環境次第というやつだろう」

 

「うんうん!ゼノヴィアの言う通りよ!」

 

「愛さえあれば良い子に育ってくれます!」

 

などと嫁力の高い発言をかましてクラスの男子のヘイトを一気にイッセーに向ける

 

・・・本人たちは自覚がないようだけどね

 

「ぬうぅぅぅ!!やはり許せん!」

 

「死ねぇ!イッセェェェェェェ!!!」

 

そうして松田と元浜を筆頭に暴れるクラスの男子と逃げまどうイッセー

 

―――毎度の事ながらよくやるよ

 

そんな風に傍観者を気取っていたのが悪かったのか桐生さんが俺に近寄って来た

 

「まぁ兵藤より先に有間君の方に子供が出来るかもね♪有間君の童貞臭さが消失してるし・・・それにしても有間君、童貞からの4(ピー)とはやるわね」

 

“ガタンッ!!”

 

耳元で囁かれたセリフに顎肘を付いていたのが"ガクッ"と外れてしまった

 

「な!、ど!、な!?」

 

何で?、如何して?と言った言葉が出そうで出ないでいる

 

「ふふん!忘れたの有間君?私のエロス・スカウターは相手のアストラル体・・・魂すらも見抜けるのよ!」

 

そうだった!?よくよく考えればこの人、俺が最近になって漸くものにし始めた魂感知に似た技を自力で習得してるんだった!・・・恐るべし、エロスへの執念

 

「それにしても有間君が複数人に手を出すとはねぇ・・・ちゃんと責任は取るの?」

 

そりゃ此処は基本重婚が認められてない日本だし、そういう話にもなるか

 

「全員嫁に貰うとは宣言したよ―――日本で結婚できないなら海外に行くまでだしな」

 

「あらあら、有間君ってばそう云う処は漢らしいのね。兵藤もハーレムハーレム言うならこれ位の度量を身に付ければ良いのに」

 

未だクラスのドタバタで喧騒に包まれている中、桐生さんも席を立つ

 

「じゃあね有間君。結婚式には呼んでよね♪」

 

そう言い残してアーシアさん達の方に歩いて行く・・・桐生さんって時折凄い胆が据わってるよな

 

そんな事を思いつつも日常は過ぎてゆくのだった




流石に九重に手を出す訳にはいかないので最速結婚という事で許して下さいww


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第二話 オープン、スクールです!

桐生さんの潜在能力に戦慄した日の放課後の部活動で全員が揃った時、リアス部長からの俺達に連絡事項が告げられた

 

「皆、今度の休日にソーナの建てた学校のオープンスクールの手伝いに向かう事は話したわね?実はそのオープンスクールに招かれる講師の一人が先だって兵藤家への訪問を希望されてるの」

 

ソーナ会長の建てたレーティングゲームに有用な様々な技術・知識を学べる学校はまだまだ宣伝の段階で教師なども十分な数を確保しておらず、色んな人達にオファーを掛けている段階だそうだ

 

将来的にシトリー眷属の大半が教師役に就くのだとしてもやはり大学卒業及びその間に人間界の教員免許取得などでノウハウをちゃんと学ぶ方が良いだろうからな

 

結局何が言いたいかと云うと『人手が足りない』の一言に尽きる

 

そんな状況にも関わらずソーナ会長が学校を創ったのはそれだけその夢を強く掲げていたからなのだろう・・・レーティングゲームで八百長しまくってる古き悪魔どもは滅べば良いと思う

 

そう思ってる中、ゼノヴィアが訪問について疑問を感じたのか質問をする

 

「・・・何故、イッセーの家なのだ?講師の方が様子を見たいというのはまだ解るがそれならばシトリー眷属の方に行くべきではないのか?」

 

当然と云えば当然の疑問を口にしたところでロスヴァイセさんの表情が微妙に歪む

 

「ああ、それはね。訪問される方はロスヴァイセのお祖母様なのよ。だから何方かと云えば学校関係というよりは孫の顔を見に来たと言った方が近いわね」

 

その説明に皆の視線が一斉にロスヴァイセさんに向かう

 

ロスヴァイセさんの表情は相変わらず硬いけど身内の訪問って微妙に気不味いですもんね

 

そんなロスヴァイセさんの反応に苦笑しつつリアス部長が補足説明してくれる

 

「ロスヴァイセのお祖母様のゲンドゥルさんは元ヴァルキリーで北欧でも名うての魔法の使い手なの。今回もソーナの学校には魔法の講師としてお越し下さるわ。皆、失礼の無いようにね」

 

『はい!』

 

「・・・はい」

 

テンション低めのロスヴァイセさんだったが流石にコレは為る様にしか為らんとして後日にゲンドゥルさんの訪問の日がやって来た

 

その日は部活や修行も少し早めに切り上げて指定された時間になるとイッセーの家の転移の間の専用魔法陣が光り輝き、その光が収まるとそこには一人の女性が立っていた

 

紺色のローブを着て年齢を感じさせないピッチリとした立ち姿だ

 

「初めまして、日本の皆さん。そこに居る孫がお世話に為ってます」

 

俺達全体を見渡した後で最後にロスヴァイセさんに視線が固定される

 

ロスヴァイセさんは相変わらず何処か落ち着かない様子だな

 

「ロスヴァイセの祖母、ゲンドゥルと申します。以後、お見知りおきを」

 

それからその場で自己紹介するには俺達の人数が多過ぎる為、VIPルームに移動してから一人ずつ挨拶を交わしていく

 

この場に居ないのは表に出せないオーフィスとオーフィスの付き添いのルフェイ(+フェンリル)だ。あとついでにアザゼル先生

 

先生は総督を辞めたと言っても何だかんだで忙しい人だからな・・・まぁリゼヴィムの野郎がトライヘキサなんて超級の爆弾を持ち込まなかったらもう少しマシだったとは思うが

 

とは言えあの人ならどれだけ忙しくても要領よく仕事を片付けて裏でコッソリ神の子を見張る者(グリゴリ)の資金でロボットとか造ってる姿が目に見えるようだけどな

 

「―――という訳でゲンドゥルさんは学校の近くで開かれる名うての魔法使い達の会合に出席するついでに講師の方も引き受けて下さったのよ」

 

リアス部長が言うにはその魔法使いの会合では古代の珍しい魔法や禁術の類が議題として取り上げられているらしく、悪魔や堕天使の研究員も派遣される予定らしい

 

「あとコレはオフレコなんだけど、今は各勢力で禁術や古代の魔法などを識る術者たちが行方不明になる事件が急増しているの」

 

そのセリフを聞いて今度は皆の視線がレイヴェルに集まる

 

「わ、私ですか!?」

 

驚くレイヴェルだがリアス部長が安心させるように軽く否定する

 

「いえ、レイヴェルが狙われる可能性は低いと見て良いでしょう。こういってはアレだけどレイヴェルの扱う禁術は贄を消費して術の規模を拡大・強化する構造自体は単純なものでしょう?『D×D』という戦力の中に居るレイヴェルを態々狙わなくても術式だけなら直ぐに手に入るわ」

 

「そうですね。狙われているのは主に門外不出の術式を知っているか、または自力で開発した術者が中心となっています。禁術程危険性は無くとも対価を払って力を得るというのはどの魔法にも魔力にも共通する世界の理です。そちらのお嬢さんは先ほどフェニックスと名乗っていましたね。成程、貴女の扱う禁術がどんなものかは推し量れますが、確かに狙われる危険性は少ないでしょう」

 

リアス部長の言葉にゲンドゥルさんも追従する

 

そりゃロスヴァイセさんも禁術の術式だけなら識ってた訳だし、秘匿度は低いのか

 

「術者たちを攫っているのがはぐれ魔法使いなのかクリフォトなのかは今の段階ではハッキリとはしていませんが、今回の会議では私達の研究テーマや一部の術式を一連の事件が解決するまでの間、封印するという話になっています。我々魔法使いにとって研究テーマ及びその魔法とは生涯を掛けて高めた半身とも云えるもの。それがどこの誰とも知れぬ悪辣な輩に利用させるくらいなら、実験を一時中断する方が遥かにマシという訳です」

 

因みにその術者たちに施す封印を担当するのは技術開発の先端を行き、異形の業界での信頼も高まりつつある神の子を見張る者(グリゴリ)に白羽の矢が立ったようだ

 

魔法使い達が自分で自分に封印を掛けても洗脳を受けたりすれば自力で解除しかねないからという理由らしい

 

例え封印解除の術式を別の場所に保管して本人もそれを忘れるような感じ(特定の条件で思い出す)で術式を組んだとしても結局は自分で練り上げた封印は自分のクセというものが現れる為、時間を掛ければ自力で解除という可能性も有るそうだ

 

真面目な話もそこそこにロスヴァイセさんの子供時代の話などの雑談を交えてから暫く(ロスヴァイセさんは赤面してた)、ゲンドゥルさんが表情を改めてロスヴァイセさんを見つめる

 

「さて、ロセ。私が今日此処に訪問した一番の理由はお前なら分かっていますね?・・・今、この場に居る男性は三人(・ ・)ですが、誰がそう(・ ・)なんだい?」

 

その質問にロスヴァイセさんが咄嗟に返事が出来ないでるが彼女が再起動するまで僅かな間に少し気に為ったところをツッコませて貰う

 

「あの、ゲンドゥルさん。ギャスパーも男なのでこの場に居る男性は四人ですよ?」

 

俺はギャスパーの後ろに移動して肩に手を置いてそう言うと目を見開いて驚いていた

 

「あ、あらあら。私はてっきり男の子っぽい名前をした女の子だとばかり思っていました・・・そういう風習のある場所というのは存在しますからね―――まさかロセ!その子がお前の・・・」

 

「ち、違います!わ、私の彼氏はそちらに居る赤龍帝の兵藤一誠君です!!」

 

瞬間、リアス部長達を中心に部屋の空気が5度は下がった感じがした

 

そんな空気に構わず北欧のお二人の話は続いて行く

 

「ロセ、お前は勝手に家を出て、勝手に悪魔に転生し、勝手に日本の人間界で教員などをし始めて私に心配ばかり掛ける悪い孫です」

 

「うっ・・・それは・・・」

 

「悪魔になる事も教員に為る事もそれが悪いとまでは言いません―――第一にオーディン様がお前を日本に置いて行った事が事の始まりですからね。そちらには私も抗議を入れておきました・・・私がダメだと言っているのは私達に何の相談も無しにお前が自分で全部を決めてしまった事です。お前の場合は決断力が有ったというよりはその場の勢いで色々と決めたのでしょう?グレモリーの皆さんは実力・権力・人柄を兼ね備えた人達だったようですが、私は何時かお前が取り返しのつかない事柄まで勢いで決めかねないのではないかと心配しているのですよ」

 

「・・・耳が痛いな」

 

ゲンドゥルさんのクドクドとした説教にゼノヴィアが地味にダメージを受けている

 

まぁ教会の戦士が悪魔に転生とか完全に取り返しのつかない事柄だもんな。今は三大勢力で和平が結ばれてるけどゼノヴィアが悪魔に転生した時はそんな話は聞かされて無かった訳だし

 

「私は心配していたのですよ。勉強や魔法は出来ても大いに抜けた処のあるお前が遠い極東の地で他人に迷惑を掛けないでちゃんと教員を勤められるのかが―――そこでロセに直ぐに相談も出来てキチンとお前をその場に繋ぎ止められる彼氏が居れば安心出来ると伝えたら、既に彼氏が居ると言うものですからロセとその彼氏の顔を見に来たのです」

 

ロスヴァイセさんは顔を赤くしながらもイッセーの腕に抱き着く

 

「か、彼は伝説の赤龍帝です!それに悪魔に転生してから半年足らずで既に中級悪魔へ昇格しているという将来性もばっちりの人なんです!」

 

この状況にリアス部長たちも表情どころか思考も固まってしまっているな

 

「―――ふむ。冥界の事情などは私も知っていますが赤龍帝という知名度を除けばそちらの有間さんと木場さんも似たようなものではないのですか?それに木場さんは現在フリーのようですから安パイだったでしょうに、何故兵藤さんだったのですか?」

 

聴かれた疑問にロスヴァイセさんはあたかも今考えたであろう言い訳を重ねていく

 

「それは、有間君は彼女や婚約者が正式に決まっていたので私が入り込める余地は無かったですし、木場君は・・・えっと・・・彼はそう!イッセー君やイッキ君が好きなのでダメなんです!」

 

「「ッブ!!」」

 

俺とイッセーが同時に噴き出してしまった。幾ら何でもその言い訳は酷いですよ!・・・と云うかロスヴァイセさんもさり気なく俺達の事をそういう視線で見てたんですか!?

 

「そ、そうなのですか?」

 

「あはははは・・・二人の事が好きな事は否定しませんよ」

 

祐斗さぁぁぁん!?『友達として好き』って意味何だろうけど今この場では誤解を加速させる効果しか生まないぞそのセリフは!?

 

「そうですか・・・コレが文化の先進国とされる日本男子の実態なのですね。とんだライバルも居たものですね」

 

何か日本文化が誤解されてるぅぅぅ!?

 

「それにイッセー君は当時から冥界のヒーローでしたから、付き合うなら彼が良いかなって」

 

「ヒーロー、英雄の魂を誘うヴァルキリーとしての部分が彼に惹かれたのかねぇ?それで、彼とは付き合ってどれくらいになるんだい?」

 

「さ、三か月です」

 

それってもう一目惚れからのゴールインくらいじゃないとそうは為らないよね?

 

「ならもう既に男女の関係は結んでいると考えても良いんだろうね?」

 

この質問にはロスヴァイセさんも今まで以上に顔を赤く染める・・・まぁ俺とレイヴェルって時間だけ見れば二ヵ月くらいだしな

 

白音とは明確にどの辺りからと聞かれると少し困るけど

 

「そ、それはまだ私達結婚してる訳でもないし・・・大体私の貞操観念を植え付けたのはお祖母さんじゃないですか!」

 

「私は結婚前に関係を結ぶなとは言ってないよ。下手な男に簡単に体を許すなと言ったんだよ」

 

「わ、わたすだって男の子とエッチな事してぇさ!」

 

「そっだら、さっさと身ぃさ固めちまえつってんでしょが!」

 

おお、ヒートアップした二人が方言を使い始めたぞ

 

悪魔や魔法使いの言語翻訳能力や魔法で自動変換されるからそう聞こえるんだろうけど、見た目完全に北欧系の二人が日本語の方言を使ってるように聞こえるのは実際聞くと違和感が凄い

 

「コホン・・・良いでしょう。交際を認めます」

 

「・・・ほぁ!?」

 

「何を驚いているのですか。男女の在り方の認識に行き違いが有ったようですが、それは今、正されたでしょう?関係を結んでも良いと言っているのです。デートに行ってキスの一つでも済ませておきなさい。魔法使いの会議が終わった後でもう一度進展具合を聴きに来ますからね」

 

ゲンドゥルさんはそれだけ言い残すと「ではコレで失礼します」とお暇していった

 

如何やら会議の在る日まではソーナ会長が学校関係者用に用意した宿泊施設に泊まるらしい

 

「あの、イッセー君。今度一緒にデートに付き合ってくれませんか?もう・・・後には引けないんです」

 

「え、あの、はい。俺で良ければ・・・」

 

イッセーの袖を掴んで乙女な動作で上目遣いでイッセーに懇願するロスヴァイセさんにイッセーもしどろもどろながらに返事をした

 

なお、リアス部長達が再起動するのにその後数分の時間を要し、ロスヴァイセさんが必死に謝るという状況となっていた

 

 

 

イッセーとロスヴァイセさんのデートが決まってから暫く暗い顔をしていた女性陣はイッセーがそれぞれの女の子と買い物などに付き合うと云うプチデートの約束を取り付ける事により何とか機嫌を取っていた

 

翌日の放課後に二人はデートに向かう事になった。急すぎるとも思うけど週末まで時間がないし、体裁を取るだけなら一日掛かりの本格的なデートである必要も無い

 

デートの行く先はロスヴァイセさんが東京で一度行ってみたかった場所が在るんだとか言っていたらしいが、どうせ100均とか超激安スーパーとかその類なのだろう

 

俺の記憶が確かなら今日の二人と云うかロスヴァイセさんにユーグリット・ルキフグスが接触して来るはずだが俺としては特にやる事は無いんだよね・・・何故かと云えばクリフォトメンバーの中でもユーグリットが一番捕らえても倒しても影響の少ない雑魚(魔王級)だからだ

 

ぶっちゃけユーグリットを捕まえてもトライヘキサ復活計画を遅延させる事も出来ないだろう

 

要はリスクとリターンが全くつり合ってないのだ

 

もしもコレが聖十字架を持つ紫炎の魔女とかなら二人のデートにコッソリ付いて行って安全に捕まえられる隙を探す価値は有ったのだろうけどな

 

大量の一般人を巻き込む可能性が在る以上は残念ながら下手に刺激しないのが一番だろう

 

一応万が一イッセー達からSOSが在った場合を考えて今日は基本は家で待機だけどな

 

そんな中で今の俺はと云うと俺とルフェイとオーフィスにレイヴェルで死闘を繰り広げている処だ―――具体的には俺の操る何でも吸い込んでコピーする星の傭兵とオーフィスの操るエデンの緑龍(でっていう)にルフェイの炎を吐き出す棘付き甲羅の亀とレイヴェルの不死鳥を模った『フェニックス・パンチ』が必殺技なスピードレーサーの大乱闘である

 

交代制なので黒歌と白音は今は観戦中だな

 

「ふはははは!秘儀!『ステージの端から落ちつつの敵吸い込み心中!』」

 

その名の通りステージから落ちるように飛びつつ目の前に居たラスボス亀さんを吸い込む

 

「あー!酷いですよ有間さん!これで私残機がゼロに!」

 

「だがこれで終わりじゃないんだよ!星の傭兵はステージ復帰力も高いからな!」

 

そう!完全に落ち切る前に中身を吐き出して空中ジャンプとファイナルソードを組み合わせればギリギリステージに復帰が可能なのだ!

 

「ルフェイの仇」

 

だが完全に復帰する前にオーフィスが上から投げた俺にとっての【じばく】テロの大先輩であるボンバー兵によってルフェイと共に俺の残機もゼロとなった

 

「・・・ぶい」

 

オーフィスがルフェイに一瞬だけVサインを出してルフェイが感動してオーフィスに抱き着く

 

その後最後に残った二人によるドラゴンと不死鳥の頂上決戦では『フェニックス・パンチ』の炸裂で勝敗が決したのだった

 

「ふふん!フェニックスだって時としてドラゴン相手にだって勝てますのよ!」

 

その後もマ〇オパーティーや普通にトランプなどをして過ごしていき、夜に差し掛かる辺りでリアス部長から緊急招集が掛けられた

 

思った通り、イッセーとロスヴァイセさんのデートにユーグリットが接触したようだ

 

 

 

 

 

「・・・そういう訳でして、クリフォトは私が学生時代にトライヘキサについて論文を書いた事を突き止めたようで今回一般人を半ば人質にする形で接触して来ました―――あの論文も提出した訳ではなく、かつてのルームメイトに軽く話しただけでしたのに、その記憶を探って私に接触して来たという事は奴らはトライヘキサに関する情報をなりふり構わずに集めているのでしょう」

 

兵藤家の会議室に集まったメンバーでロスヴァイセさんの報告を聞いている

 

白昼堂々ユーグリットが人間界で接触してきたという事で皆険しい表情だ

 

「何ていうかクリフォトって普通のテロリストとは一線を画してるわよね。関係の無い表の人間も巻き込む事を何とも思ってないみたい」

 

「ああ、普通は各神話体系の神々の信仰、その基盤とも云える人間界に大規模な被害を出すような真似をすれば世界中から派遣された実力者が優先的に自分達を狙ってくるものだ。だが奴らは既に世界中の神話体系にケンカを売った後だからな。今更コソコソする理由も無いという事だろう」

 

イリナさんの感想にゼノヴィアが自分の考えを述べる

 

世界中を敵に回した後だからこれ以上敵が増える事も無いって事だよな

 

「それでも各国の主要都市はそれぞれ裏では強固なセキュリティを張っているわ。確かにユーグリット程の力が有れば侵入も出来なくはないでしょうけれど、当然一度侵入されればセキュリティはより強固なものになる―――見つかる危険と都市部への二度目の侵入を難しくするリスクを負ってまでロスヴァイセに接触したという事はロスヴァイセが学生時代に書いたというレポートが奴らにとってそれ程大した代物であったという事かしら?」

 

言われたロスヴァイセさんも学生時代に途中で破棄したレポートがそこまで重要な要素を持っていたなどと云うのは実感湧かないみたいで微妙な表情だ

 

「兎も角、そろそろアザゼルとの定期連絡の時間だし、そっちも併せて聴いてみましょうか」

 

 

 

 

≪―――そうか、ロスヴァイセが狙われたか≫

 

ここ数日神の子を見張る者(グリゴリ)に赴いてクリフォトとトライヘキサの対策会議で町に居なかったアザゼル先生が思案顔で言う

 

≪お前らは最近名うての魔法使い達が拉致されている事件については知っているか?≫

 

その言葉に全員が頷くと先生は話を続ける

 

≪実はその術者たちには禁術や古代魔法を識っている事以外でも共通点が在ってな。全員トライヘキサの研究をした事のある術者ばかりだ。それも通常の解釈とはまた別の視点からトライヘキサを調べた者達だ・・・ロスヴァイセ、確認するがお前はトライヘキサを如何読み解こうとした?≫

 

「・・・私は異説である『616』からトライヘキサの事を調べました。『616』という数字を基に聖書を中心に各神話で起きた事件、伝承などから符合するものを見つけ出そうとしたのです」

 

≪そうか、やはりな。一応神の子を見張る者(グリゴリ)ではクリフォトの奴らが解除に手間取っているであろう封印の術式は二十三までは予測が立ててあってな。そこからトライヘキサの封印が解除されるまでの時間を逆算しようとしてたんだが・・・実際に封印に触れている奴らがこう動いたという事は聖書の神は異説の『616』の方で封印を施したと考えるべきか?だとすればまた一から理論を組み立て直さなきゃならん・・・当然、トライヘキサの復活阻止が第一目標だが、最悪の事態も想定する必要は有るからな≫

 

最悪の事態=世界の滅亡に皆が不安気な表情に為るがアザゼル先生は安心させるように笑う

 

≪そんな暗い顔してんじゃねぇよ。お前ら以外にもトライヘキサ復活に対して『保険』は作るつもりだ。今度また各国の首脳陣が集まって色々意見を出し合わなきゃいけねぇがな≫

 

それって多分『隔離結界』だよな?この段階から計画され始めてたのか・・・まぁ復活させないのが一番だけどな。大体サーゼクスさん達が仮に居なくなったら折角現魔王派と古き悪魔たちの政治バランスが徐々に現魔王派に傾きつつあるのがひっくり返りそうだし、絶対に将来的に面倒臭い事件が起きるだろうしな

 

世界の為に我が身を犠牲にトライヘキサと戦う気概の在る実力と良識を持った神々や魔王がゴッソリ居なくなるとか悪魔サイドは古き悪魔だけど他の神話体系も絶対に問題児が台頭してくるぞ

 

≪よし、取り敢えずロスヴァイセはその学生時代に書いたというレポートを思い出せる限りで良いから書き起こしてこっちに転送してくれ。此方側でも可能な限り調査してみよう≫

 

するとロスヴァイセさんは手元に魔法陣を展開する

 

「実は、少し前から書き起こしてたんです。リゼヴィムがトライヘキサの復活を目論んでいると聞いたので少しでも役立ちそうな事が無いかと思いまして・・・」

 

異空間収納から取り出したレポートの束を今度は小型の転移魔法陣に乗せて転移させると映像のアザゼル先生の手元に資料が送られた

 

≪確かに受け取った―――しっかしお前も大したもんだよな。自然と祖母と同じ事を研究テーマに据えるんだからよ。血は争えないってやつか?≫

 

「―――私は、家の魔法を継ぐ事が出来ませんでしたので・・・」

 

ロスヴァイセさんが自嘲するように呟く

 

≪そうか・・・だが、俺が言いたいのがそう云うこっちゃ無いってのは分かってるだろう?今すぐ折り合いを付けろとは言わんが、お前さんも十分過ぎる程の才女だと思うぞ≫

 

その励ましの言葉にロスヴァイセさんも小さく「有難うございます」とお礼を言ってはいたが、表情は納得してない感じだな

 

その様子にアザゼル先生も苦笑気味だ

 

≪まっ、お前さんも折角彼氏が出来たなら慰めて貰え≫

 

「えっ、いや!イッセー君とは本当に付き合ってる訳じゃ・・・」

 

≪偽物でも結構じゃねぇか。お前は生真面目過ぎるから少しくらい一時の火遊びを覚えるべきだぜ?それがそのまま何時しか本物に為ってるかも知れんしな≫

 

偽りの恋人から本物の恋人にって何処のニセ〇イですか?

 

ロスヴァイセさんがその言葉を意識してイッセーの方をチラチラと目線が行くようになってアザゼル先生は≪お~お~、若い奴らは青春を満喫してるねぇ~。じゃ、俺はそろそろ退散するから後の事はイッセーに任せるぜ~≫と場を混乱させるセリフだけ残して通信を切ったのだった

 

 

・・・当然。イッセー取り巻く女性陣により場は混沌としたので俺に祐斗にギャスパーと黒歌達はそそくさと退室する事になった

 

 

 

 

ソーナ会長がアガレス領の田舎に建てた学校のオープンスクールは土日の二日間を使って行われる

 

学校の名前はその田舎町の名前であるアウロスから取って『アウロス学園』だそうだ

 

所謂『シンプル・イズ・ベスト』ってやつである

 

俺達はセキュリティーの関係も有って数度の転移を経由して田舎町・アウロスへとやってきた

 

転移の光が収まるとそこには町の役員の方とサジが待っていた

 

「お待ちしておりました、リアス様。そして眷属の皆様」

 

役員の人の挨拶もそこそこに俺達はサジの案内の下アウロスの畑と風車と石造りの一昔前のヨーロッパ風の風景を楽しみつつ町の南端の方に在るというアウロス学園に向かって歩いて行く

 

「ああ~、空気が美味しいぜ~!冥界でそんな事言うのも変かも知れねぇけどな」

 

「全くだよ。人間の俺なんて対抗術式無しで過ごしたら割と高確率で死ぬぞ」

 

冥界の空気とか動植物とかって人間にとって害のある物が多いみたいだしな

 

「有間がその程度で死ぬってのが俺には想像つかねぇよ―――それは兎も角長閑(のどか)で良い所だろ?それもただ長閑ってだけじゃないんだ。ほら、向こうにお前らがサイラオーグの旦那とレーティングゲームした時の空中都市、アグレアスが見えるだろ?直ぐ近くに娯楽施設のたっぷり整った観光名所まで在るんだ。ちょっとの移動で田舎と都会を好きなだけ満喫出来るって寸法さ」

 

有り余る広大な土地に対して悪魔は出生率が低いからね。日本のような人口過密国になってないからこそ田舎風景が残ってるって感じかな?

 

そうしてイッセーや教会トリオ達が将来引退したらこういう静かな場所で農耕でもして過ごしてみたいとか千年単位で先の事になりそうな話をしていたりするうちに目的地であるアウロス学園が見えてきた。驚きだったのはアウロス学園はかなり俺達の通う駒王学園を踏襲した形になってるって処だったな。流石に細部は違うけど第二の駒王学園と言っても良いくらいだろう

 

ソーナ会長が今の駒王学園の生活を気に入ってるのが伝わって来るようだ

 

正門から入り、本館に辿り着くとそこには既にソーナ会長が待っていてくれた

 

「会長、オカルト研究部の皆さんをお連れしました」

 

「サジ、ご苦労様でした。後は私が引き継ぎます。貴方は担当の場所に戻ってくれて構いません」

 

「はい。ではコレで失礼します」

 

お仕事モードでキッチリした挨拶を終えたサジは俺達男子組には「また後でな」とだけ小さく軽い挨拶を残して担当の場所とやらに去って行った

 

「改めて、おめでとう。ソーナ」

 

「ええ、有難う、リアス。まだ開校は先になりそうですが、それでもやっとここまで来れました」

 

お互いに自然と握手を交わして顔を綻ばせるリアス部長とソーナ会長

 

「さあ、中を案内しましょう」

 

握手を終えたソーナ会長が奥へ誘うように手を広げた

 

アウロス学園に集まっている子供たちは大凡10歳前後のようで、教室やグラウンドなどでソーナ会長が各地から呼んだであろう講師の方とサイラオーグさんの眷属の方々が中心になって授業を行っているようだ―――サジを始めとしたソーナ会長の眷属は基本的に講師の方の手伝いのポジションだな

 

「私の眷属は誰かにモノを教えるという経験を積んでいませんし、人生経験も豊富とは言えません。最初の内は講師の方の手伝いをしながらもそのノウハウを吸収して欲しいと思ってます」

 

子供たちにモノを教えながらも自分たちもついでに勉強中って事ですか

 

「どのくらいの数が来ているのかしら?」

 

「宣伝した後、口コミでもかなり噂が広がったみたいでして、予想よりもかなり多くの子供たちが来ています。数で言えば子供たちで200人以上、父兄の方や見学に訪れたこの学園を支持して下さる方々も併せれば500人は軽く超えているでしょう」

 

「父兄の方々だけでなく、有力者の方々まで来ているの!?」

 

貴族や上級悪魔の家の人も来ていると聞いてリアス部長は驚きの声を上げる

 

「ええ、流石に数は少ないですが是非とも直接授業の内容を見てみたいという方々もおりまして―――将来的にこの学園が軌道に乗れば、この学園の卒業生だけで眷属を構築する事を考えてる人も居る程です」

 

その言葉に皆が『お~!』といった反応を示す

 

「今の段階でそこまで熱を入れてくれる上級悪魔が居るだなんてね」

 

「その理由についてはもう少し後で判ると思いますよ。今は順番に案内していきましょう」

 

ソーナ会長の言葉にリアス部長は面白そうな表情を浮かべる

 

「ソーナ、貴女は何か目玉となるものを用意したのね?」

 

「ええ、有間君のアドバイスからとある伝手を辿ってみたのです」

 

すると今度は皆の視線がこっちに向いたな

 

「イッキが?」

 

「以前彼が生徒会室に来た時にこの学園の話になりましてね。その時に」

 

「そうだったのね。イッキは私達とは違う角度から物事を見る事が多いから今から楽しみだわ」

 

それを見ていたイッセーが俺にコッソリと耳打ちしてきた

 

「(おい、イッキ。お前一体何を言ったんだ?)」

 

「(もう直ぐ分かるんだから俺がネタバレ出来る訳ないだろうが!それに俺も思い付きを口にしただけでその後どうなったのか何て知らなかったんだよ!)」

 

そうしてソーナ会長の案内はまだまだ続いて行くのだった



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第三話 特別、講師です!?

グラウンドで魔力や魔法の実践的な講義で子供たちが懸命に腕を突き出して魔力弾や魔法陣を発現させようと頑張っている光景を見ながら渡り廊下を抜け、次に俺達が辿り着いたのは体育館だった

 

中に入るとこれまた子供たちの活気あふれる声が聞こえて来る

 

そしてそんな子供たちを指導しているのはサイラオーグさんだ

 

「いいか!パンチと云うのは腰を落として脇を絞めながらも真っ直ぐに前に突き出すのだ!」

 

「『はい!』」

 

丁度今は体術の正拳突きを教えているところだったらしい

 

学校の体育館という処を気にしなければまるで空手の道場のようだ

 

そしてそこでサイラオーグさんが俺達の存在に気付いたらしい

 

「見ろ!おっぱいドラゴン達が会いに来てくれたぞ」

 

「わぁ!おっぱいドラゴンだ~!」

 

「スイッチ姫もダークネスナイト・ファングも居る~!」

 

サイラオーグさんの言葉に子供たちが一斉に冥界の人気者達に群がって行く

 

・・・俺?何人か訝しんでいる子も居るみたいだけど俺のキャラであるオール・エヴィルって基本半裸で魔力で褐色肌ペイントしてバンダナ巻いて体中が怪しい紋様に包まれている状態だからな

 

頭に何か巻く訳でもなく、日本人らしい肌色で冬用の学生服を着ている俺は子供たちに気付かれてない状態です・・・ちょっと虚しいけどバレたらバレたで『死ねぇ!オール・エヴィル~』とかやられそうだからバレない方が良いのか?・・・う~ん。分からん

 

子供たちの興奮を発散させる為にもイッセーと祐斗が体育館のステージの上で即席のショーを演じている様子を見ながら俺達の所に寄って来たサイラオーグさんが声を掛けてくる

 

「学び舎とは良いモノだな。冥界にも貴族や限られた富裕層の通える学園は在るがそこには常に身分や利権、利害が付いて回る。だがここに集まった子供たちはただ只管真っ直ぐに夢に向かって進み、友と語らう事が出来る」

 

それを聞いたソーナ会長も目を細めて答える

 

「・・・日本は良い国です。誰にでも学ぶ権利がある。此処に集まった子供たちの多くは何らかの理由で通常の教育機関を利用できなかった子供たちばかりです―――才能が有っても身分が低かったり、逆に身分が在っても魔力の才能が無かったり・・・特に悪魔は魔力の有無を重要視するきらいがあるので他の能力が如何に優れていても魔力が不得手ならば入学拒否などといった事例も在るのが現状です」

 

「だからこそ、分け隔てなく手を差し伸べ、あらゆる可能性の成長を促すこの学舎を建造できたその意味は大きいと言える。俺の母が且つて聞かせてくれた事だ。魔力が足りなくとも他のモノ、腕力でも、知力でも良い。それらを伸ばし、結果として素晴らしい力を身に付ければ良いのだとな。俺は腕力担当だ。どの子供たちも一生懸命に拳を突き出してくれる―――只管壊して前に進むだけだったこの不格好な拳で子供たちに何かを伝えられる・・・それが堪らなく嬉しいと感じた」

 

二人の言葉を聞いてリアス部長はクスクスと笑う

 

「ふふ、ソーナもサイラオーグもすっかり先生の目をしてるわよ?」

 

「むっ、そうか?―――だがまだまだだ。今だって教育の本を読みつつ見様見真似だからな」

 

「誰しも初めてというのは在るものです。私達もこの学園も・・・子供たちも、まだちゃんと始まってすらいないのですから皆で盛り立てて行きましょう」

 

次期当主の三人が冥界の未来を想い描いている中でイッセー達のショーも山場を迎えつつあるようだ。ダークネスナイト・ファングの鋭い一閃におっぱいドラゴンが吹き飛ばされた

 

「おっぱいドラゴン頑張ってぇぇぇ!」

 

「そうだ!ピンチの時はスイッチ姫を呼ぶんだよ、皆!」

 

「そ、そうか!―――スイッチ姫~!」

 

「「「スイッチ~!」」」

 

おお、子供たちから自然とスイッチ姫を求める声が高まっていく

 

イッセーと祐斗の闘いだけサクッとやるはずだったのにな

 

「ほら、呼ばれていますよ、リアス」

 

「うむ、子供たちの期待には応えねばな!スイッチ姫よ!」

 

「もう!分かってるわよ」

 

背中を押されたリアス部長が通信用小型魔法陣で軽くイッセーに指示を送る

 

それを聞いたイッセーがステージの上で叫んだ

 

「サモン!おっぱぁぁぁぁぁいっ!!」

 

その声に合わせてリアス部長は転移魔法でステージの上に躍り出て行ったのだった

 

 

 

 

突発のヒーローショーを終えた俺達はサイラオーグさんと別れて本校舎の裏側から少し離れた場所に歩を進めていた

 

駒王学園ならばそこには我らがオカルト研究部の部室の在る旧校舎が存在している訳だが、このアウロス学園は新築の為、当然旧校舎など存在しない

 

そこに在るのは日本の道場めいた建築の建物や落ちたら水面に沈むようなアスレチック的な運動が出来る場所などが設けてある

 

何より此処に集っている子供たちや父兄の数が今まで見てきた中ではダントツだろう

 

そして今講師の方が居る道場の方に赴くと中には初老の男性が動き易そうな黒の装束を着ている

 

それを見たリアス部長が激しく反応した

 

「なぁ!?あ、あ、アレはまさしく―――NINJA!!」

 

それ以上の言葉が続かなかったのか口をパクパクさせているリアス部長を見てソーナ会長が怪しく眼鏡を光らせ、口元に笑みを浮かべる

 

リアス部長の言うように今講演しているのはまさしく忍者の格好をしているのだ

 

「そうです。あの方が我々が冥界の学園に対して中立派だった貴族すらも此方側に引き込めた最大の理由―――すなわちNINJAです」

 

その言葉を聞いて我に返ったらしいリアス部長が俺に詰め寄ってきて両肩を力いっぱい掴まれる

 

「イッキ!貴方NINJAに知り合いが居たなら何で教えてくれなかったの!?」

 

痛い痛い!これ普通の人間だったら肩の骨粉砕してるって!

 

リアス部長は設定こそ生かされてないけどスポーツも万能なんだから!―――いや、実際訓練とかやってるとリアス部長も接近されたら紙一重回避とかしつつ再び距離を開けようとするとか運動神経良くないと出来ない動きとかしてるんだけどね

 

「いえ、別に俺自身が知っていた訳じゃないですよ!と云うかリアス部長もその場に居たでしょうに―――ほらアレですよ。神ロキが攻めてきた時です」

 

そこまでヒントを出すとリアス部長も察したようだ

 

「!! サラマンダー・富田ね!」

 

「その通りです。彼、サラマンダー・富田は忍者に弟子入りして(河童)忍法を習得したと言っていました。だからアザゼル先生からヴァーリの伝手を辿ればサラマンダー・富田からその師であるという忍者の方に接触できるのではないかと考えたんです」

 

「ええ、その時はまだ『D×D』発足前だったので秘密裡に紹介して貰ったのですがね。彼は現代に忍者と忍術を代々伝承する由緒正しき忍者の方なのですよ」

 

それを聞いた生粋の日本育ちのイッセーが変な表情になる

 

現代に忍者が居るというのがまだ心情的に納得出来ないのだろう

 

リアス部長はリアス部長で「ック!私とした事が迂闊だったわ!」と悔しがってるし

 

「し、しかし、なんというか忍者が本当に居たって事にも驚きですが、よく悪魔の学校で忍術を教えるなんて了承してくれましたね」

 

「それは彼が伊賀流の方だったので、待遇しだいで頷いて頂けました」

 

「IGA流!お金と契約を重視する私達悪魔に近い性質のNINJAね!」

 

先程からリアス部長のテンションが壊れ気味である

 

「ソーナ会長!希望すれば私達でも講義を受けられるのだろうか!?」

 

「ゼノヴィアだけ抜け駆けなんてズルいわ―――わ、私もNINJUTSUを習えば天界の戦力アップ、ひいては主とミカエル様の為になると思うの!」

 

聖剣コンビがソーナ会長に詰め寄ってるな・・・と云うかゼノヴィアはテクニック方面を忍術で補うつもりなのか?

 

「NINJUTSUと魔法の融合はやはり模索するべきでしょうか?」

 

「私もNINJUTSUに禁術の類が無いのか知りたいところですわね」

 

皆なんだかんだで真剣に忍術を自分のスタイルに組み込めないか考えてるな

 

だが今は講義中なので取り敢えずは黙って講師の忍者の方(名前は百地(ももち) 丹紋(たんもん)と言うらしい)の話を聴く事になった。リアス部長達は当然とばかりにメモ帳を取り出している・・・てか周囲を見渡せば特に大人組は基本メモ帳かビデオ回してるな

 

後で記録媒体が擦り切れるまで再生するつもりなのだろう・・・そんな目をしている

 

「皆さんは忍びとは鍛えた肉体で目的地へ潜入したり敵を打倒したりするものだと思っているかも知れませんが、それは間違いでは無いものの正解とも言えません。それは如何いう意味なのか。先ずはこちらを見て頂きましょう」

 

忍者の先生は直ぐ隣に置いてあった風呂敷を解くと中に並べてあったのはクナイや手裏剣、忍者刀、丸い玉(恐らく煙玉の類)、鉤爪など、如何にもと云った道具たちでそれを見た子供も大人も大興奮だ

 

「忍びは基本的に潜入も脱出も万一の時の戦闘も一人で潜り抜けなければなりません。それ故、まず大事なのは情報収集、そしてそれを基にこのように用途に合わせた様々な道具の中で最低限必要な物を取捨選択して持っていく必要が在ります。しかし、荷物を少なくしては有事の際に困ってしまう。だから忍者たちは知恵を絞ったのです」

 

そう言って彼は徐に忍者刀を手に取る

 

「例えば此方の刀ですが、日本刀でこそありますが、刀身に反りの無い真っ直ぐな刀です。これは潜入を旨とする忍びは戦う場合は狭い室内での戦闘となる時が多いため、小回りが利き、振り回すのではなく、突き刺す為の形状です。そして鞘の底に穴が開いているのが見えますでしょうか?コレは水の中に潜って隠れて移動する所謂水遁の術を使用する時のシュノーケリングの代わりになるのです。他にもこの刀に長い紐が付いており、これは刀の鍔の部分が少々大きめに造られているのは高い塀などを乗り越える際の足場として忍者刀を使い、その時に鞘に付いている紐を足に結んだり手に持つなどして後で回収する為のものなのです・・・一つの道具に多様な効果を持たせる。言葉にすれば簡単ですがこの忍者刀一つを完成させるのに幾人の忍びの先達が頭を悩ませたか・・・そう、忍者とはただコレらの道具を使いこなすだけの集団ではなく、あらゆる情報を集め、考え、時に新しいモノを創る研究者にして戦術家だったと言えるでしょう」

 

『おお~!!』

 

大人たちの関心する声が響き渡る。子供たちも瞳をキラキラさせてるな

 

「このアウロス学園では皆さんが様々な知識や技術を学ぶ事を推奨しているそうですね。私は皆さんに忍びの知識をお教えしましょう・・・ですが、皆さんが憧れる忍術を使いたいというので在れば、ただ真似るだけではいけません。忍びの持つ技を如何にしてキミたちの扱う魔力や魔法などで再現し、高められるのか、そのためにあらゆる手段を模索して下さい。そしてその視野を広げる為に様々な知識や価値観に触れて下さい・・・説教臭くなってしまいましたが、最後に一つコツをお教えしましょう。それは楽しむ事です。それが忍びを極める第一歩ですよ」

 

そう話を締め括った百地(ももち) 丹紋(たんもん)氏に拍手喝采が送られる

 

「素晴らしい!噂を聞いてお忍びで来てみたが、まさか伝説のNINJAが本当に教鞭を取ってくれるとは!」

 

「そうだな。サタンレッド。忍びは研究者と聞いて私としては彼らをより近くの存在に感じたよ」

 

「サタンブルーも新しいのを創るのが得意だもんね☆私も眷属の枠はまだ空いてるし、追加の眷属はNINJAにしようかしら?」

 

「う~ん。面白そうだから良いんじゃないかな~?」

 

「そうか、サタングリーンは眷属を集めきってしまっているがサタンピンクはまだだったな。NINJAを眷属に迎えられるかも知れないと思うと羨ましいぞ」

 

「もう☆サーゼク・・・じゃなかった。サタンレッドにはSAMURAI(沖田総司)がもう居るじゃない」

 

「ハッハッハ!そうだったな!」

 

・・・うん。あそこに見える謎の戦隊ヒーロー達は見なかった事にしよう。だからイッセーはその視線を外そうな―――あ、新たに現れたグレイフィアさんことサタンイエロー(恐らく変装の為)に全員魔力でお縄になって連行されていったな

 

グレイフィアさんとかグレモリーの城をコッソリ抜け出すの大変だったろうに・・・

 

 

 

―――冥界のレーティングゲームが某忍ばない忍者であるナ〇トばりの選手が台頭し始めるのはもう少し未来の話であった

 

なお、コレに大変な興味・・・危機感を持った天使や堕天使にもコッソリ授業を受けに行った者が居て、天使NINJAや堕天使NINJAが生まれ、競争原理で彼らのSHINOBIの技は加速度的に高まって行く事になる

 

NINJAが世界の裏を支配する日はそう遠くないのかも知れない

 

 

 

 

現代に生きる忍者の方の話の後は外に出て刃引された手裏剣を的に投げる体験などで非常に盛り上がった・・・と云うかリアス部長達がその場を離れなかったので一講義まるまる居座ってから再び本校舎の方に戻る

 

丁度講義が終わって小休止の時間なので体育館から出てきた首にタオルを掛けたサイラオーグさんと出会う

 

「リアスのその様子なら百地(ももち) 丹紋(たんもん)殿の授業は見学出来たようだな」

 

「あ、あら、分かってしまうかしら?」

 

「当然だ。リアスが元々日本に強い関心を持っていた事は昔から知るところだからな。そんなお前がかの伝説の戦士と出会って気分が高まらない訳は無かろう?」

 

舞い上がっていたのを即座に見抜かれたリアス部長は顔を赤くして恥ずかしそうだ

 

あと、さり気にサイラオーグさんも忍者を『NINJA』として認識してるのか

 

まぁ日本のサブカルチャーがワールドワイドになるのは良い事だろう

 

日本の神々もお喜びに為るに違いない!(すっ呆け)

 

そんな事を考えていると正門の方が一気に騒がしくなってきて子供たちの黄色い声が離れたこの場所にまで響いて来た

 

「如何やら来られたようだな」

 

「ええ、そうですね。私達も挨拶に伺いましょうか」

 

ソーナ会長とサイラオーグさんが正門に向かうので俺達も付いて行くとそこには灰色の髪をした端正な顔立ちの偉丈夫が居た

 

前にリアス部長とサイラオーグさんのレーティングゲームの時にゲストとして見た顔だ

 

「ッツ! 皇帝(エンペラー)、ベリアル!!」

 

「マジかよ!皇帝まで来てるのか!?サプライズ過ぎんだろ!」

 

皇帝(エンペラー)、ディハウザー・ベリアル氏・・・レーティングゲームの頂点に長年君臨する絶対王者がこの学園を見学に来るというその意味は大きいね」

 

他の皆も驚く中でソーナ会長とサイラオーグさんの二人はそのまま歩を進めて子供たちに囲まれている皇帝(エンペラー)と挨拶を交わす

 

「ディハウザー・ベリアル様。本日はお越しいただき誠に有難うございます」

 

「仰って下されば迎えの一つも寄越しましたのに」

 

「いやいや、直前まで詰めていた仕事もあって、此処には何時頃着けるか判らなかったからね。授業の手伝いをしているキミたちの手を煩わせるような事が在ってはならないと思ったんだよ―――このオープンスクールの主役は誰よりもここに居る子供たちなのだから」

 

そう言って皇帝は近くに寄っていた子供の一人の頭を撫でる

 

撫でられた子供は目に見えて興奮し、周囲の子供は羨ましそうな視線を向けると共に"自分も自分も"とばかりに詰め寄るのを彼はポンポンと手早く且つ優しく撫でて行く

 

一瞬だろうと冥界で大人気の皇帝(エンペラー)に頭を撫でて貰ったという事実だけで子供たちとしては十分過ぎる大事件なのだろう。キャイキャイとはしゃいでいる

 

「良い学園だ。此処に来る途中からでもこの学園のいたる場所が活気に満ちているのが伝わってきていたよ―――私も可能な限りこの学園を応援させて貰うよ。未来あるレーティングゲームの選手が育つ事は素晴らしい事だからね」

 

そこでディハウザーさんの視線が後ろに居た俺達に向けられる

 

「貴女はリアス・グレモリーにその眷属の皆さんだね?他にも例の対テロリストチーム『D×D』のメンバーも居る様だ。先日のサイラオーグとの試合は見事だったよ」

 

「直接は初めてお目に掛かります。そう言っていただけて光栄ですが、私としましては至らない処の多い試合でしたわ―――だからこそ精進を重ねて何時しか貴方にも挑戦したいと考えています」

 

「キミは若手悪魔の交流会でレーティングゲームの覇者に成るのが夢だと語ったそうだね。キミならば良い覇者と成れるだろう―――無論。私を倒せればだけどね」

 

リアス部長の挑戦に絶対王者は柔和な笑みの中に不敵さを滲ませながら応える。狙ってやったんだろうけどその『受けて立つ』という返答にリアス部長も嬉しそうな笑みに覇気を纏っている

 

「―――それにしてもコレで若手四天王(ルーキーズ・フォー)は全員この学園に関わっているのだね。良い傾向だ。此処には居ないが、かのアガレスの姫も今はアグレアスに居るしね」

 

「シーグヴァイラが・・・ですか?」

 

「うむ。実は皇帝(エンペラー)には俺から声を掛けさせて貰ったのだが、それと云うのもあのアグレアスで皇帝(エンペラー)主演の映画の撮影が在ったからこそ忙しい合間に来て下さる運びになってな・・・その映画には俺の眷属にシーグヴァイラの眷属も友情出演するのだよ。シーグヴァイラもオープンスクールの手伝いは今回は無理だが最後に顔だけ出すと言っていたぞ」

 

それから彼は俺達『D×D』のメンバーとも一人一人握手を交わしてくれた

 

ソーナ会長は俺達の方の案内も一通り済んでいたし、ディハウザーさんが来た事で彼の校内の案内に役割を切り替える・・・やっぱり人気者で忙しいみたいなので要所要所を見て回って子供たちに軽いファンサービスをしてからアグレアスに向かって行った

 

俺達は午後の授業から手伝いをする為に実際に授業に触れた事を踏まえた上で如何にして手伝うかの最終確認をしている

 

それぞれ魔力や魔法、神器や各種の駒の特性などの実演という形での手伝いやアーシアさんやイリナさんなんかはまだまだ冥界では確保の難しい教会関連の知識を披露している

 

黒歌は面倒くさがってたけど白音とレイヴェルに頼まれて仙術と妖術、魔力に魔法と違う種類の能力を同時発動するテクニック方面のウィザードタイプとしての技を披露している

 

俺の場合は仙術枠だ。仙術のやり方を教える訳にはいかないけど、"こういう技術も有る"と知る事は良い事だしな・・・仙術の授業に関してはもう少し年齢が高くて危険性を十分説いた上でそれなりの審査を通った一部の生徒にだけ教えるとか、そういう事になるのかね?

 

学園が如何しても難しいなら仙術使いの居る場所に留学みたいな感じで派遣するとか?なんにせよ、もしもやるとなれば面倒な感じになりそうだ

 

・・・と云うか仙術使えるのはこの場に俺と黒歌に白音の三人だけだからサポートというよりは授業に近い。まぁそれはアーシアさんやイリナさんも一緒だから文句は言えないんだけど初めての講義となると精神的に辛いな

 

昔俺が参曲(まがり)様から教えられた事を出来るだけ丁寧に思い出しながらの授業となった

 

時折黒歌や白音も手伝ってくれたけどね

 

夜になって子供たちが帰った後も明日の授業の準備や今日の講義・手伝いにおける反省点や改善点などを話し合い、元気一杯の子供たちに囲まれたおかげか充実感と同時に精神的にもかなりの疲労感を感じたので学生寮に在る公共の大きな風呂に入って疲れを癒す

 

まだまだ広い冥界の中にもアウロス学園一つだけなのでこの『誰でも通える学園』が冥界に浸透するまでは親元を離れないと通えないという子供たちも多いと予測されているし、各家庭の諸事情により学生寮が都合が良いという家庭も有るだろうという事でそれなりに大きい学生寮となっている

 

今風呂に入っているのは俺と祐斗にギャスパーだ

 

サイラオーグさん及びその眷属の方は明日のアグレアスの映画撮影で午前は向こうで過ごす為、夕食と打ち合わせをした後でアグレアスに向かった

 

向こうは向こうで別に打ち合わせをしているのだろう

 

シトリー眷属男子のサジとルガールさんはまだ打ち合わせの続きをしているので俺達の後で風呂に入るようだ。シトリー眷属はやはり俺達よりも気合が入っているな

 

「イッキ君。イッセー君は今居ないけど如何してるのか知ってるかい?」

 

シャワーを浴びてから浴槽に浸かっていると隣に座っていた祐斗が話しかけてきた・・・てか祐斗さん近いですよ?広いお風呂で友人同士が隣に浸かるのはまだしも肩が触れ合いそうになる距離まで詰めて来る必要ありましたか?

 

「イッセーは改めて一度学園を見て回りたいとさ。昼間はやっぱりなんだかんだ言って騒がしかったから細部まで見る余裕は無かったしな。今頃今日の出来事を振り返りながら明日と未来のこの学園について想いを馳せているんじゃないか?」

 

「イッセー君は子供たちの人気者だからね。やっぱりこういう学園には強く惹かれるところは有るのかも知れないね」

 

「だとしてもイッセーはその内子供たち相手でもおっぱいについて熱く語りだしそうだから子供たちの情操教育的に教師は向いてないとも思うんだよな・・・おっぱいドラゴンが浸透してる時点で冥界の未来が心配だよ、俺は」

 

そう返すと祐斗も苦笑いだ

 

まぁ俺も『おっぱいドラゴン』の配役の一人だから余り深くツッコミを入れるとブーメランになってしまう訳なのでここまでにしておこう

 

そこに丁度シャワーを浴び終えたギャスパーも湯船に浸かってきた・・・大きめのタオルを体に巻いて見た目乙女な格好だ

 

―――最早何も言うまい

 

「で、でも今日は皆慣れない事をして疲れてますし、明日も朝は早いですから出来れば早めに休んだ方が良いとも思いますけど・・・」

 

でもそこでふと疑問が湧いて来たので二人に質問する事にした

 

「・・・なぁ、今更なんだけど悪魔って陽の光に弱いんだろ?一応冥界にも昼間は在る訳だけど、なんで寧ろ深夜の時間帯に学園をやってないんだ?」

 

本来そっちが活動時間じゃね?

 

「い・・・言われてみれば・・・何ででしょう?」

 

いやギャスパー。お前は概要くらいは知っとけよ

 

「そうだね。確かに悪魔は陽の光を浴びると体が怠くなってしまうけど、冥界の場合は別に神聖視される太陽の光が直接降り注いでいる訳ではないから昼間の明るさでも特に体が怠くなったりはしないんだよ。勿論深夜の方が魔力とかも高まっていくけど悪魔たちが基本は人間界と同じように昼間に仕事をする事が多いのはレーティングゲームの影響じゃないかな?―――ほら、冥界は最近まで娯楽文化がレーティングゲームくらいしか無かったから、より高いレベルのゲームをする為にも必然的に本調子が出せる深夜に試合が開始されるだろう?」

 

「ああ、成程な。唯一の娯楽文化で尚且つレーティングゲームが浸透し始めた当初はテレビとかも在ったのか疑わしいし、他の一般人まで深夜に仕事をしていたら試合を見に行けないからか」

 

それに昼間に怠くならないと云うのなら例えば商いなどの仕事をしてる人達にとっては深夜で魔力及び戦闘能力が上昇したから何だって話だしな

 

それから少し昼間の忍者講義に出ていた実はクナイは忍者道具では無く当時の町民が普通に持っていた道具を武器として扱っていたという話で相手に警戒されないように日常の道具を武器にするという中二心を擽る話題で盛り上がったり(百地さんはボールペンや鉛筆を的に投げて深々と刺していた)してから風呂を上がってサジとルガールさんにバトンタッチした

 

 

学生寮の俺達に割り振られた二人部屋のベッドでせめてこれだけでもと瞑想をしていると風呂上りらしいイッセーが入って来た

 

因みに部屋割りは俺とイッセーにギャスパーと祐斗、サジとルガールさんの組み合わせだ

 

「如何だった?学園の散策は?」

 

「そうだな・・・半神の戦乙女(ヴァルキリー)の体つきって神秘的な美しさを感じたよ」

 

瞑想を止めてイッセーに問いかけると迷走した答えが返ってきやがった

 

なんでも女子寮側のお風呂でお湯が出なくなってしまったようで生真面目に最後まで準備やらでお風呂の時間が遅くなってしまったロスヴァイセさんがもう俺達や男性スタッフは全員風呂に入ってるはずという事で男子のお風呂に入ったら同じく遅れてお風呂に浸かっていたイッセーと鉢合わせたようだ

 

相変わらずのラッキースケベ展開を何処でも発生させてる訳だけど別に羨ましくは無いかな?

 

黒歌達との関係が進んだ日から今まで手加減の一環としてか彼女達が家の風呂場に突撃して来る事は無かったのだが、今ではその・・・ね?

 

平穏無事な日も在ればそうでない日も在る訳です。はい

 

まぁ今日の話をしていく中でもロスヴァイセさんや魔法の話に触れると時折イッセーの目が遠くを見つめるような真剣な目になってるからきっと風呂場でシリアス展開が在ったのだろう

 

そうして二段ベッドの上と下で話していたのだが自然と会話が無くなった辺りでお互いに「お休み」と声を掛けて眠る事となった

 

明日は来ないのが一番だけど恐らくクリフォトの襲撃も在るだろうし、上手くいけばトライヘキサの復活を遅延させる事くらいは出来るかも知れないな

 

学園を守るのと同時に聖十字架を明日この段階で確保する

 

 

―――さあ、魔女狩りの時間だ!




紫炎の魔女さん逃げて超逃げて・・・逃がさないけど


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第四話 こんがり、焼けました!

モンハンの新作が発表されてたのにちなんでサブタイ付けてみました


アウロス学園二日目の朝、朝食を食べる為に食堂に集まっているとイッセーの下にアーシアさんとサジがやって来て話し掛けている

 

如何やら二天龍が歴代の赤龍帝と白龍皇の思念体の扱いに困っているらしくて、今の彼らだけでは話が平行線になっている為にサジの神器に宿るヴリトラとアーシアさんと契約しているファーブニルの意識をドラゴン繋がりで神器の深奥に呼び出し、意固地になってる歴代白龍皇たる『赤龍帝被害者の会』のメンバーを何とか説得を試みたいと云う事らしい

 

「―――でよ。夢でヴリトラが二天龍の助勢に向かうって伝えてきて起きてから神器に話し掛けても返答が無いし、マジなんだなってな。一応ヴリトラが居なくても神器は使えるけど、アイツが居ないと細かい制御が大変なんだよな」

 

「私の方も似たような感じです。夢でファーブニルさんが出てきまして、今はファーブニルさんとの繋がりが少し遠くに感じます」

 

「そっか、悪いな。そっちにも迷惑掛けちまってるみたいでさ」

 

「な~に、強くなる一環だってんなら構わねぇよ。ヴリトラが居ない今だからこそ、より精密な神器操作の技術を練習できるところだって在るだろうしな」

 

そんな会話も在りつつ朝食を食べてから改めて今日の予定を軽く確認してからオープンスクールの二日目が開始された

 

時折他の皆の授業の様子がチラホラと遠目に見受けられたが、多少は教える事に慣れたのか昨日よりも固さが無くなってる気がする

 

一度目二度目と授業をしたり、子供たちの人間界に対する質問なども飛び交う・・・『NINJAが居るならSAMURAIも居るんですよね!』とか答え辛い質問もしばしばだったけどな

 

でも実際日本の裏の術者では霊剣を扱う一族とかも居るみたいだし(生徒会の巡さんの家とかそんな感じだったらしい)探せば居るんじゃないかな?とは思っている

 

そんな感じに過ごしていたら背中に冷たいモノが走る感覚と共に突如として空が白く染まってゆき、周囲一帯が結界に閉ざされた

 

子供たちは空を見上げてるけど不安と云うよりは困惑している感じだ

 

今の処は空が白くなっただけだからな

 

そしてそこに校内アナウンスが鳴り響いた

 

≪グラウンドに居る体験入学生、父兄の方々、講師、スタッフの皆さんは速やかに校内に入って下さい―――繰り返します。グラウンドに居る体験入学性、父兄の方々、講師、スタッフの皆さんは速やかに校内に入って下さい≫

 

和気藹々とした学園の雰囲気は一転して殺伐とした空気を醸し出すようになってしまった

 

 

 

 

 

 

職員室に『D×D』のメンバーが集まっている

 

他の子どもたちや父兄の方々は皆体育館に集合して貰って椿姫副会長及びスタッフの人達が対応に当たっている。とは言え現状では情報が足りてないので中々に苦慮しているだろうが

 

その為俺達は分かっている分の情報を纏めている処だ

 

「・・・ダメね。外との連絡が取れないわ」

 

「此方もダメですわね。短距離転移は兎も角グレモリー領などへの転移は出来ませんわ」

 

「アグレアスや町の集会所との通信は繋がりました―――映像を出します」

 

ソーナ会長が空中にディスプレイを表示させるとその先にはサイラオーグさんとゲンドゥルさんの姿が映し出された

 

≪コレは如何なっている?≫

 

サイラオーグさんの開口一番の疑問の言葉に答えたのはゲンドゥルさんだ

 

≪如何やらこの地域一帯が敵対勢力の張った大規模結界に囚われてしまったようですね。此方で結界の規模を探ってみましたが、このアウロスの町と空中都市アグレアスを楕円形に包み込む形で結界が展開されているようです≫

 

それからの話合いの内容を纏めると次のような感じだ

 

・集会所に集まった魔法使いは軒並み大半の魔法を封じられてしまった事

 

・それを行ったのは恐らくは聖杯と偽物の赤龍帝の力で強化された千を超える魔法を操ったとされる伝説の邪龍、『魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』 アジ・ダハーカだと推察される事

 

・大規模結界だが外と中の時間の流れが違う為(時間を操る黒歌のお墨付き)外からの援軍は余り期待できないという事

 

・敵の狙いはトライヘキサに関連の在る名だたる魔法使いと旧魔王時代の謎技術満載の空中都市、アグレアスに眠る『ナニカ』だろうと云う事

 

ザックリ言えばこんな感じだ

 

現状の把握が済んだので次は如何やってこの結界から皆で脱出するべきかの話に移行しようとした辺りでスタッフの一人が慌てた様子で職員室に駆け込んで来た

 

「如何されましたか?」

 

「じょ、上空に、映像が!」

 

その報せを聞いて俺達が校庭に出るとその言葉通りに空中に巨大なディスプレイが表示され《しばらくお待ちください》という文字がお花畑の映像と一緒に浮かび上がっている

 

「何だアレ!?ふざけやがって!!」

 

イッセーが怒りを露にしているが、毎度思うけど空中ディスプレイとか裏の世界の技術ってスゲェ

 

そんな他の皆とは温度差の有るであろう感想を抱いていると音声が流れてきた

 

≪え?なになに?もう放送繋げてあるの?なんだよ、オジサンまだ弁当食べてる途中なのは見れば分かるだろうに、せっかちだな~。分かった分かった出れば良いんでしょ出れば≫

 

この会話の流れからして映像を繋げたのって多分アジ・ダハーカなんだろうな・・・少なくともユーグリットって事は無いだろう

 

ワンチャンでラードゥンも有りか?・・・まぁ如何でも良いか

 

そうして映像が切り替わって銀髪の渋いオジサンが外見に似合わない軽すぎるノリで語りだす

 

≪チャオチャオ~★今を時めく皆のアイドル、リゼヴィムおじさんだよ~♪初めましての方もお久し振りな方も居るだろうけど、今回は大変な目に遭っているキミたちに優しくも状況の説明ってヤツをしてあげようと思ってね☆ほら、こういう状況で悪役が自分が不利になるのも気にせず説明して上げるのってお約束じゃん?やっぱりこういうのは形から入らないとね~★≫

 

軽い感じで悪意を振りまくリゼヴィムの姿に皆の不快感が更に高まる

 

不快感と嫌悪感が三割増しって感じだ

 

≪もうお気づきだと思うけどアグレアスとアウロスの町を丸ごと結界で囲っちゃいました♪それをやってくれたのは此方!聖杯によって強化復活を遂げた邪龍一の結界術の使い手である宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)の『ラードゥン』さんです!≫

 

カメラが移動してラードゥンの姿を映し出す。隣ではリゼヴィムが「わ~、パチパチパチ~★」とかやってるな

 

≪それから今アウロスに集まってるっていう魔法使いの魔法も封じてる訳だけどそれを行ってくれたのはこれまた俺達のキーアイテムである『せい☆はい』で復活した魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)の『アジ・ダハーカ』さんであります☆こちらのお二人にはコピーした赤龍帝の譲渡の力を渡した上で命を削るレベルの力の行使をお願いしてあるのでキミたちが此処から逃げる事は出来ません★削った命は聖杯で回復出来るから禁術仕掛け放題!結界の外とは時間の流れも隔絶してるから援軍は期待しないでね♪―――神滅具(ロンギヌス)と邪龍の組み合わせってスゲェェェ!!≫

 

「・・・そう言えばイッセーの能力とサジの能力って相性良いよな」

 

サジに宿るヴリトラって邪龍と龍王を兼任してる訳だし、先日の魔法使いの襲撃の時にはソーナ会長がイッセーとサジの能力を繋げて一方的かつ安定してはぐれ魔法使い達を蹂躙したみたいだしな

 

「お前それ今言う必要あったか!?」

 

「成程・・・確かに神滅具(ロンギヌス)と邪龍は危険視するべきですね」

 

「会長も乗らないで下さいよ!!ヴリトラは邪龍の中ではまだ理性的なんですからね!そうじゃないと龍王の称号は得られないですよ!」

 

二匹のドラゴン(宿主)が吼える中でもリゼヴィムの説明は続いて行く

 

≪何で今回こんな事をしたのかってぇと目的は二つね♪一つはアウロスの町に集まってる魔法使い達は如何にも俺達に非協力的みたいだし?邪魔になるかも知れないなら消しちゃおうってのが一つ。んで、もう一つは空中都市アガレスなんだけど、そこに眠るモノを貰っちゃおうって訳だよん♪―――ほら、アガレスって元々は俺のパパの持ち物だった訳じゃん?だったら息子の俺が相続しても良いよね★≫

 

戦で負けて戦利品として押収されたモノの権利を今更主張されてもなぁ・・・第一確かアガレスって創ったのは先代魔王のルシファーだけでなくて先代四大魔王が創ったやつだから、その理屈で言えばベルゼブブにレヴィアタンにアスモデウスも主張出来るじゃん

 

・・・主張した処で通る訳ないけどね

 

≪今、アガレスとアウロスには俺達クリフォトを打倒しようって言う『D×D』って奴らが居るんだろ?なに、その程度の情報は得ているぜ。折角だから勝負しようぜ☆邪龍の皆さんは好戦的だからさ、キミたちとぶつかって蹂躙したくって堪んないみたいなんだよ―――今から三時間後にアウロスとアグレアスの二か所を邪龍軍団が潰しに掛かるからさ、それが嫌なら止めてみな♪なぁ、止めてみせてくれって!≫

 

映像のリゼヴィムが指を打ち鳴らすとアウロスの町周辺を囲うように天高く燃える紫色の炎が噴き出してきた・・・今度は指パッチン成功したんだな

 

映像のリゼヴィムも若干ドヤって見える気がする

 

「紫炎ですか・・・これはまた厄介な相手が来ているようですね」

 

答えたのは俺達の後ろから近づいて来たゲンドゥルさんだ。魔法の大半を封じられている今、俺達と合流した方が良いと判断したのだろう

 

集会所の他の魔法使い達らしき気配もこの学園に集結しているようだな

 

ゲンドゥルさんが天高く聳え立つ紫炎を忌々しそうに見上げると無数の火柱たちはそのまま巨大な十字架の形へと姿を変えた

 

「十字の紫炎!神滅具(ロンギヌス)の一つ、『紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)』!」

 

正体を察したリアス部長が叫び、聖なる炎が相手だと聞いて他の悪魔の皆の警戒度が一層高くなる

 

≪うひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!そういう訳だから精々頑張ってくれよ♪ちゃお~★≫

 

リゼヴィムの癇に障る笑い声と共に映像は途切れ、俺達は防衛戦の準備に入るのだった

 

 

 

 

 

あの後直ぐにソーナ会長が中心になって町の住民を学園への避難誘導を開始した

 

スタッフの方々の手も借りてシトリーとグレモリーの眷属がスタッフの人達の護衛も兼ねて町中を廻っているところだ

 

今此処に居るのは俺とリアス部長にソーナ会長というこの場における各勢力の代表(俺は関西の妖怪枠)と万が一此処で今、戦闘が起きた時の為に火力重視で譲渡も出来るイッセーと広域を魔法で吹っ飛ばせる黒歌やロスヴァイセさんに回復役のアーシアさんだ

 

椿姫副会長も学園へ逃げてきた住民の誘導で学園の正門の辺りで活動している

 

大凡の指示を出し終えた辺りで再びアグレアスのサイラオーグさんと情報の擦り合わせ中だ

 

≪―――そうか、そちらは既に住民たちの学園への避難を開始しているのだな≫

 

「ええ、万が一を考えてこの学園の地下には強固なシェルターを優先して建造していたのが功を奏しました・・・実際に使われる事は無い方が良かったのですがね」

 

≪もっともな感想だが、今はその判断が正しかったものと捉えるしかあるまい。此方もシーグヴァイラが大公代行として頭の堅い役人や市長を早くも説き伏せて町の実権を握り、今は住民たちをアグレアスドームに避難させつつある。あそこはレーティングゲームのスタジアムだけあって各種防衛機能もかなり揃っているからな・・・此方は紫炎以外にもこの町自体を包む新たな結界が張ってあって容易に脱出は出来んのだが、そちらも同じか?≫

 

確かに遠目にも空中に浮かぶアグレアス半透明の結界に包まれて淵の辺りに此方と同じく十字の紫炎がぐるりと囲んでいるのが窺えるな

 

「ええ、紫炎もその先に展開している結界も一時的に穴を開ける事は出来るけど直ぐに閉じてしまうわ・・・それにその二重防壁の外には既に量産型の邪龍達が待ち構えているみたいだから住民を脱出させるなら大枠のこの周囲一帯を囲う大規模結界の外に直接逃がさないと意味が無いわ」

 

「ですので今、集会所に集まった魔法使いの方々が封じられてない部分の術式を組み合わせて全く新しい外に直接跳べる転移魔法を構築中です―――彼らが図抜けた術者の集まりだからこそ可能な離れ業と云えるでしょう」

 

確か魔法使いの一人に裏切り者が居るんだっけ?でも、現時点では誰なのか判らないからな

 

思案しているとロスヴァイセさんが前に出て脱出プランの補足説明をする

 

「この町の住民をその転移魔法で避難させる事が出来れば彼らにも逃げてもらい、私がその術式を引き継いでアグレアスに向かいます。例え私一人では無理でもイッセー君の譲渡の力も合わせればアグレアスの住民も結界の外へ逃がす事が出来るはずです」

 

≪そうか、それは有り難い。無論、邪龍共にみすみす町を襲わせるつもりは無いが、防衛戦において住民たちの安全が確保されるだけでも勝利条件の半分以上は達成できるようなものだからな≫

 

それに精神的にもゆとりが出来るというのもデカいからな

 

≪そちらの防衛力は如何なのだ?此方は俺とシーグヴァイラの眷属に加えてディハウザー殿の眷属も揃っているのに加え、アグレアスにも常駐の兵達は居る。我々が邪龍共を殲滅し、兵達には仕留めそこなった邪龍の足止めと可能ならば殲滅という形で働いてもらうつもりだが、そちらの町で真面に戦えるのはお前たちだけだろう?≫

 

「それは大丈夫よ。数の不足はギャスパーの生み出す闇の獣とイッキの使い魔が補うわ」

 

≪有間一輝の使い魔?≫

 

視線を向けられたので懐からイヅナを出してサイラオーグさんに紹介する

 

「コイツが俺の使い魔のイヅナです。70匹程に分身出来て一匹辺りの戦闘力もギリギリ上級悪魔程度・・・要は量産型邪龍と同じくらいの強さは有していますし、連携も完璧に熟せるのでギャスパーの獣と併せて全体のサポートを担って貰います」

 

『邪人モード』を手に入れた時は上位の中級悪魔程度だったが日々の修行と京都での無限ループ【一刀餓鬼】修行で俺自身の力も地味にクラスアップしているのだ

 

目指せ!イヅナ一匹最上級悪魔レベルである・・・上級から最上級辺りになると力の振り幅が酷くなり始めるから先は長いかも知れんけどな

 

≪ほぅ、その小さな使い魔一匹で邪龍と同格とはな―――分かった。過度な心配は無用なようだな。此方も片付き次第増援を送ろう≫

 

「いえ?逆にこっちが早く片付いてそっちに援護に向かうかも知れませんよ?」

 

≪ハッハッハ!成程、確かにそれもあり得るな―――その意気だ。我ら『D×D』はこのような時の為に結成されたのだ。俺達の手で守るぞ!冥界の住民を、未来有る子供たちをな!≫

 

「「ええ!」」

 

「『はい!』」

 

サイラオーグさんの力強い言葉に俺達もまた気合を入れて返したのだった

 

 

 

 

 

サイラオーグさんとの通信を終えてからそろそろリゼヴィムの指定した三時間が迫って来た。一応余裕を持って二時間前には全住民の避難は完了させている

 

避難所の方では子供たちが不安な様子ではあったが皆が明るい笑顔で『邪龍なんて楽勝でぶっ飛ばす』宣言をしていくと徐々に笑顔が戻りつつあるようだ

 

そして職員室で作戦の確認が行われた

 

「―――では今から発表する者達でタッグを組んで、この学園を中心に八方に散らばって防衛線を張って貰います。可能な限り前衛と後衛をバランス良く合わせたつもりです」

 

ソーナ会長が発表した組み合わせは次の通りだ

 

・リアス部長 + ベンニーア

 

・祐斗 + 椿姫副会長

 

・ゼノヴィア + 由良さん

 

・朱乃先輩 + 巡さん

 

・イリナさん + 花戒さん

 

・ルガールさん + 草下さん

 

・サジ + 白音

 

・イッセー + 仁村さん

 

ソーナ会長とギャスパーが中央の学園の校庭に陣取り状況を見つつソーナ会長が各地にギャスパーの闇の獣を振り分け、尚且ついざという時には結界術で敵の攻撃を防ぐ役割だ

 

イヅナはギャスパーの闇の獣のように味方の影に瞬時にワープとか出来ないので八方に散るチーム一つにつき八匹貸し出してサポートに入って貰う

 

アーシアさんとロスヴァイセさんにレイヴェルはイッセーの使い魔の龍帝丸が今ではヨットくらいの大きさに成長していたので、それに乗って戦場を飛び回っての味方の回復役

 

ロスヴァイセさんは防御魔法でアーシアさんの護衛をしつつ余裕があれば攻撃魔法を放ち、量産型邪龍の攻撃が例え直撃してもほぼノーダメージのレイヴェルは禁術砲台の役割だ

 

移動も龍帝丸が担ってくれるので禁術の発動にのみ集中できるので高火力支援が期待できる

 

・・・と、そこまで説明した辺りで校庭の方から此方が気付けるようにする為か、垂れ流しのオーラと大きめの通信用魔法陣が展開され始めた

 

一旦話し合いを中断してそちらに向かうと立体映像に紫のゴシック調の服装に紫の日傘を持った女性が映し出された

 

≪御機嫌よう悪魔の皆さん。私、『魔女の夜(ヘクセン・ナハト)』の幹部をしているヴァルブルガと申しますのん≫

 

リゼヴィムとはまた違った癇に障る喋り方だ

 

「(うわぁ・・・悪趣味だわぁ。高い身長も相まってゴシックドレスが殺人的なまでに似合ってないし、せめて後20年前にするべき恰好だろ、アレ)」

 

「(確かに・・・って云うかあの喋り方は全年齢でキツイにゃん)」

 

「(単にゴシック調のドレスというだけならまだしも無理にロリィタの要素を組み込もうとしてるから崩れてるんですのよ。あの髪の毛に取ってつけたような大量のリボンとか・・・もしかしてアレで若さを演出しようとしてるのでしょうか?)」

 

「(逆にそのせいで無理してるオバサンにしか見えないです)」

 

≪―――以後、お見知りおきをん♪・・・ってさっきから何ボソボソ言ってますのん!今スグに灰にしますわよん!≫

 

おお!瞬間的に激昂した。これなら『紫炎のヴァルブルガ』じゃなくて『激昂のヴァルブルガ』に改名しても良いんじゃないかな?

 

≪全くもうですわん。それで、銀髪の貴女がロスヴァイセって人で合ってるかしらん?一応貴女だけは無事に連れて来るようにとユーグリットさんにお願いされてるのよねん♪あんなイケメンにお熱を上げられるなんて羨ましいですわん≫

 

それを聞いたロスヴァイセさんは難しい表情で首を横に振る

 

「そちらに行く気も、協力する気も有りません。戦います」

 

≪まっ、そうよねん♪でもぉ、貴女以外は別に殺しちゃって良いから他の皆さんは私が燃え萌えしてあげちゃいますわん。存分に私の萌えで燃えちゃって下さいな♡≫

 

キャピキャピ声で『燃え』だの『萌え』だの言ってるヴァルブルガにとうとうサジも苦言を呈すようになってきたようで、仁村さんもそれに追従する

 

「(なぁ有間、兵藤。俺も段々堪えられなくなってきた。自分で『萌え~』とか言うのなんて一体何年前の死語だよ?)」

 

「(匙先輩に同意です。白音ちゃんとかならゴスロリ衣装で『萌え~』出来るんですけどね)」

 

「(多分十年以上は前じゃないか?ガキの頃にテレビの特集とかで見た覚えがあるけど直ぐにブームは去って行ったと思うぞ?ルフェイ主催の『オーフィス・ファッションショー』では白音やレイヴェルも服を持ち寄ったりしてるからな。似合う事は保証するぞ)」

 

「えっ!?なにそのファッションショー!チョー気になります!」

 

『オーフィス・ファッションショー』に反応した仁村さんがひそひそ声も止めて喰い付く・・・生徒会メンバーの中で彼女が一番ノリの軽い性格してるよね

 

「仕方ない。この戦いが終わったらルフェイさんに渡された『ウロボロス・メモリアルver.3』を貸して上げるからさ。最新号ではオーフィスメインだけど白音とレイヴェルも一緒に写ってるページも在るから」

 

その約束に仁村さんが「やった♪」と喜んでいる中、画面の向こうのヴァルブルガは額に青筋を浮かび上がらせている

 

≪良いですわん。元々殲滅するつもりでしたが貴方たちはより念入りに燃え萌えさせて差し上げますわん―――お覚悟なさってねん!≫

 

語気の強い感じにヴァルブルガの通信が切れた辺りでソーナ会長とリアス部長が溜息を吐いている

 

「イッキ、貴方態々相手を執拗に怒らせてどうするのよ?」

 

「いえ、作戦の内ですよ?ヴァルブルガがアウロスとアグレアスのどっちを襲ってくるか判らなかったので挑発しておけば本人が来るでしょう・・・それでソーナ会長。ヴァルブルガが通信してくる前の話なんですが俺と黒歌の配置は如何予定されてましたか?」

 

「・・・そうですね。お二人は今回はお一人ずつで対処に当たって欲しいと思っていました。正直貴方方の実力は今の私達の中では図抜けていますので遊撃隊として動いて欲しいのです」

 

「私は構わないにゃ。これでも一人で戦うのは慣れてるしね」

 

肯定の意を示す黒歌だけどそこに俺が待ったを掛ける

 

「いえ、それなんですが俺は黒歌と組んで良いですか?」

 

「・・・何故でしょうか?ヴァルブルガに関連の有る事ですか?」

 

「はい。邪龍筆頭格のアジ・ダハーカがアグレアスに向かっているみたいなので今の俺達にとって一番の脅威は聖遺物(レリック)であるあの紫炎です。アレが存在している限り何時までも一撃逆転の目を向こう側に残す事になる―――そこで、こう云うのは如何でしょうか?」

 

作戦を話すと皆微妙と云うか難しい表情だな

 

最初に言葉を発したのは顎に手を当てて考えていたソーナ会長だ

 

「―――確かに有間君の身体操作技術とオーラの操作技術がかの初代孫悟空にさえ迫る程の異常なレベルに在る事は私達も識るところです。有間君。一つだけお聞きします。問題無いのですね?」

 

俺が頷いて「はい」と返すとソーナ会長は「分かりました。私は有間君の作戦を支持します」と言ってくれて、他の皆も渋々と云った感じは拭えないものの了承してくれた

 

それから全員が指定された箇所(俺と黒歌は取り敢えず最初は空中に陣取った)に配置してから10分程待つと町をグルリと取り囲んでいた量産型邪龍達が一斉に吼え始めた

 

「開始の合図みたいにゃ」

 

「俺一人だったら『邪邪 風風』しながら適当に逃げ回ってれば、その内あいつ等全部のた打ち回って死ぬんだけどなぁ」

 

「それを言ったら私だって量産型程度なら景色ごと吹き飛ばせば終わりなんだけどにゃ~。まっ、しょうがないからチマチマ削って行きましょうか」

 

少し愚痴を垂れつつも俺はイヅナの妖気と混ぜた闘気弾で、黒歌は4種混合フルバーストで遠くに見える邪龍の内皆が防衛線を敷いて戦ってる場所の後方に居る邪龍達を優先して殲滅し、前線で戦ってる彼らへ後続の邪龍が押し寄せるその勢いを半減させる

 

ファーストアタックはそれでも良かったが邪龍達が戦線に近づいてくるとあまり後方に攻撃を加えるのも効率が悪くなってくるので、取り敢えず学園の正門の方から時計回りに廻りつつ邪龍の数を減らす・・・遊撃と言っても流石に最初の内から極端に押し込まれるような場所も無いからね

 

至る場所から雷光やら聖剣の波動やら魔力弾やらの爆発音が聞こえて来る

 

暫く戦っていると大量の邪龍達の気配に紛れて判らなかったが学園の北側のリアス部長とベンニーアが担当している場所に紫炎の火柱が立った

 

如何やら紫炎の魔女が来たようだ

 

 

 

[リアス side]

 

 

今、私の目の前の空中には聖十字架の使い手である魔法使い、ヴァルブルガが空中で魔法陣を足場にして私達の事を嘲笑うかのように見下している

 

挨拶代わりとして放たれたであろう紫炎の火柱は明らかに私もベンニーア狙っていなかった・・・無論、回避しなければ当たっていたでしょうけど、明らかに隙の有る一発だったわ

 

「うふふふふ、燃え萌えさせにやって来ましたわん♪貴女はグレモリーのお姫様ねん。貴女のその真っ赤なお髪に似合う、たっぷりの炎をプレゼントして差し上げますわん♪」

 

あの口振りだと狙って私の下に来た訳では無いようね

 

そう思いつつ先ずは通信機で状況を伝える

 

「此方北側、ヴァルブルガが現れたわ」

 

≪了解です。万一に備えて一度防衛ラインを引き下げます。北東の椿姫と木場君はリアス達と合流して、有間君と黒歌さんは準備に取り掛かって下さい≫

 

瞬時にソーナの指示が飛ぶ

 

私達悪魔に聖なる炎は弱点だけど出現させた鏡で受けた衝撃を倍にして返すカウンター系の神器である『追憶の鏡(ミラー・アリス)』を持っている椿姫と合流すればヴァルブルガが相手でも戦いの安定性が格段に上昇する。後はベンニーアと反撃しつつ後退してその時(・ ・ ・)を待つだけね

 

私は滅びの魔力で邪龍達を消し去りつつヴァルブルガに話し掛ける。如何やらお喋りが好きなタイプみたいだし、無駄にリスクを負って紫炎と相対する必要は無いものね

 

「ねぇ、紫炎の魔女さん。貴女達が今襲っているのは学園なの。だからと云う訳でもないけど、一つ教授して上げるわ」

 

「あらん?なにかしらん?」

 

「人間界の中世において『魔女狩り』と呼ばれる弾圧が巻き起こったわ。本物の魔女なら表の人間に簡単に捕らえられる事も無いでしょうし、実際に魔女裁判で処刑された人達は魔法とは何の繋がりも無い人達が大半だったとされているわね」

 

「・・・馬鹿にしているのん?その程度の知識は一般常識の範疇でしょうん?」

 

私が何を語るのか興味のあった視線は侮蔑を含んだものに変わる

 

その中で私の近くを飛んでいたイッキの使い魔の管狐の分身体の一体が一瞬だけ狐火を吐き出す―――如何やら準備が整ったようね

 

それに丁度祐斗たちも視認できるくらいに近づいて来たわ

 

「あら、御免なさいね。そんな喋り方をしている貴女の口から一般常識なんて高尚なセリフが聞けるとは思わなかったわ。でも、人の話は最後まで聴くものよ?―――魔女狩りでは様々な方法で人々が処刑された訳だけど、その中でも特に有名なものの一つに『火炙り』と云うものが在るのよ。貴女は他人を燃やすのが好きみたいだけど、一度燃やされてみるのも一興だと思わない?」

 

空中で紫の日傘をクルクル廻していたヴァルブルガが「なにを・・・」と言い掛けた瞬間、ヴァルブルガの全身が燃え上がった・・・いや、違うわね。一瞬そうだと錯覚してしまう程の全身の大火傷が突如としてヴァルブルガを襲ったのだ

 

「イ゛ッ!?ぎひゃああああああああああああああ!!!!?」

 

何の予兆も無く、突然全身を襲った堪えがたい苦痛にヴァルブルガは傘を放り出し、足場の魔法陣も町の周辺を囲う紫炎も維持できなくなり、真っ逆さまに地面に落ちる

 

だけど地面に落ち切る前の空中でやって来た祐斗が高速で突っ込み、ヴァルブルガの両手足を切り落として更には呪文の詠唱も封じる為に喉も潰す

 

ヴァルブルガの肉体から離れて地面に落ちた両手足はすかさず私が消滅の魔力でこの世から消し去り、フェニックスの涙による再生を阻害し、私自身素早くヴァルブルガに近づいて周囲の邪龍達の攻撃から祐斗たちに守って貰いながら彼女を魔法で雁字搦めに拘束した

 

「イッキ、黒歌。こっちの処理は終わったわよ」

 

≪了解にゃ。龍帝丸にこの黒焦げのイッキを転移させるから後は宜しくにゃ≫

 

そう、今回の作戦とはヴァルブルガが現れた際にイッキがオーラのコントロールで最低限の守りだけを施した状態で町の周囲に常に存在する紫炎の『攻撃』に態と突っ込んで【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】の効果を発動するというもの

 

態々イッキがそこまで体を張らなくても遭遇した者が尽力して足止めをし、遊撃隊のイッキと黒歌が駆けつけて倒せば良いのではないかと云う意見も在ったが、イッキ曰くヴァルブルガは吸血鬼の町でヴァーリチームを相手取りながらも逃げおおせるだけの力も有り、更には今回直接会話した感触では相手は只管自分が優位に立った状態で敵対者を甚振りたい下種な趣向の持ち主のようだから少しでも不利を悟れば転移魔法でさっさと逃げて、それこそ結界の外からの一方的な攻撃すらも仕掛ける可能性が有ったので確実に手早く『処理』した方が良いとの事だった

 

イッキの能力はイッキ自身が回復すれば呪いを掛けた相手もその傷は治ってしまう上にクリフォトは偽物のフェニックスの涙を製造しているのでイッキの能力の発動と同時に諸々の『処理』をしたのだ・・・自分の体を把握しきっていて重要器官はオーラでしっかりとガードする事ができ、身体操作の応用で一時的に痛覚遮断すらも扱えるという相変わらず訳の分からない技術を持つイッキでなければ間違っても許可など出せない作戦ね

 

「・・・私もカウンター使いですが、まるで参考にならない外法の業ですね」

 

「全くよ。例え同じ能力を持っていても、真似出来る気がしないわ」

 

椿姫の感想に思わず私も肩を竦めてしまった

 

イッキ自身が既に治療を受けているのか目の前で拘束したヴァルブルガの火傷痕が急速に治っていくが当のヴァルブルガは気絶してしまっているようね・・・この結界内でも私達は短距離転移なら使えるので拘束したヴァルブルガをソーナの下に転移で送り、ソーナの魔力の拘束の重ね掛けとギャスパーの闇の獣の見張りを立てる手筈となっている

 

そうして転移でヴァルブルガを送って一息着いた辺りで学園の南の方で大規模な爆発が巻き起こる

 

強大な邪龍の気配が二つ・・・一つは先日戦ったグレンデルのものだけど、邪龍筆頭格らしいアジ・ダハーカがアガレスの方に向かってるみたいだし、もう一つはラードゥンのものかしら?

 

南の方向なので相対してるのはイッセーだろう

 

私達の場所に北東の祐斗たちが駆けつけたという事は反対側の南西担当の白音と匙君がイッセー達と合流しているはず

 

イッセー一人で一匹を受け持って残りの三人でもう一匹を受け持てば互角とまでは言えなくとも十分戦えるはずだ

 

白音も三又に至ってから音速を超える動きが当たり前になって来ているし、彼女を中心に戦えば十分過ぎる程に時間が稼げるわね。その間に黒歌と回復を終えたイッキが合流すればグレンデルとラードゥンの二匹程度なら押し返せるでしょうね

 

・・・そう言えば遠くで白音の訓練を見学していたイッキが独り言で「アレはまさしく、サーヴァントの領域・・・」とか呟いてたのを偶然耳にした事が在ったけど、イッキは召使い(サーヴァント)に何を求めているのかしら?もしかしたらイッキの中でメイド(サーヴァント)筆頭であろうグレイフィアを基準に考えてない?―――数百を超えるグレモリー家の使用人達が全員音速越えで動き回るのが基準だったらとっくにグレモリー家が世界を征していたかもね

 

後でイッキの勘違いを正してあげるべきね(後日その事を話したら「聞いてたんですか!?うわ、恥ずかしっ!」と言っていたから冗談の類だったようだ)

 

量産型邪龍はまだまだ襲ってくるから私達はこの場を離れる訳にはいかないけれど、この調子なら私達の勝ちね!(不穏フラグ)

 

私達は仲間を信じて今は目の前の邪龍達を倒す事に注力していくのみよ!

 

 

[リアス side out]




イッキ「イッキ、逝きま~す!フレアドライブ&みちづれ!」


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第五話 魂の、叫びです!

冒頭一話の低評価爆撃で絶対に評価値が7に届かないorz

評価値8以上の人とかマジセンスの塊だわ・・・何時かそうなれたら良いな

まぁ基本オリ主でそれを目指すのって難しい気がしますがw


ヴァルブルガが出現してから俺と黒歌は襲い来る邪龍の群れを町の外側に向けて豪快に吹っ飛ばして道を造り、素早く気配と姿を絶って町の外周に在る聖十字架の炎の前までやって来た

 

量産型の邪龍程度が相手なら気付かれる事も無いだろう

 

一応繊細な作業なので黒歌の護衛有りきでもそもそも邪魔が入らないのが一番だからな

 

「うにゃ・・・悪魔で妖怪の私にはこれだけ近くで聖なる炎が燃え盛ってると悪寒が酷いにゃ」

 

心底嫌そうな顔をしている黒歌・・・良く見れば尻尾の毛が逆立ってるな

 

流石に人間の俺の場合は特に嫌な感じはしないけど、あのヴァルブルガが操ってる炎って考えると目の前の聖なる炎が穢れたモノに思えてきてしまう

 

「なら、手早く終わらせますかね。俺としてもこの作戦は効率的ではあっても心情的にはやっぱり抵抗は有るし、嫌な事はさっさと終わらせるに限る」

 

俺はその場で服を次元収納に仕舞ってトランクス一丁の姿になる。次元収納を使った瞬間脱衣術だ

 

戦場でいきなりパンツオンリーとか傍目には気が狂ったとか思われるかも知れんが俺は正常である

 

全身に火傷を負う為に炎に突撃する作戦の性質上、『皮膚の下』にオーラを通わせて紫炎を防ぐ必要がある・・・要するに服を着ていたら燃え尽きるのだ

 

流石にパンツまで燃え消えるのは色々と問題が有るからトランクス周りだけはトランクスごと強化して燃えないようにするけどな

 

・・・他には例えば髪の毛とかもそうだな

 

アーシアさんの治療やフェニックスの涙でも、後から幾らでも生えて来る頭髪とかが『治療』の範疇に含まれるのか判らんしね

 

もしもダメだった場合は俺はこの後の戦いで極めて前衛的なヘアースタイルで戦場を駆け回るなんて事にもなり兼ねない―――流石にそれは御免である

 

とまぁそんな感じに諸々重要な器官だけはしっかりとオーラでガードして準備完了だ

 

安全性さえ確保できてるなら使い魔召喚とかで血を触媒にする為の自傷行為の延長線上にある行いでしかない

 

「オッシャアアアアア!!突撃ィィィィ!!」

 

それでもやっぱり恐いものは恐いので無駄に叫びながら紫炎に飛び込んでいった

 

勝利を捕まえる為なら例え火の中、水の中、あの娘のスカートの中・・・ってあの歌詞冷静に考えるとヤベェ内容だよな

 

馬鹿な事を考えつつも紫炎に身投げして、今は全身の痛覚は遮断してあるので仙術のオーラ感知で体の状態を把握し、ものの数秒で炎の中から脱出した・・・弱点とか関係無しに普通に高火力だわ

 

視界は閉じたままだけどすぐ傍の黒歌が水気を操って俺にぶっかけてくれるという最低限の処置をしてくれた気配は感じるな

 

「【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)】!」

 

1秒も待つ理由は無いので、すぐさま『報復』の呪いを発動させて取り敢えずその場に座りこむ

 

程なくして町を覆っていた紫炎も消え去ったようだ

 

自分から攻撃に突っ込んでおいてなんだけど、そもそも相手はテロリストな訳だし、これぞまさしく『自業自得』ってやつだろう・・・お互いにとってのな

 

俺はチラッと目を開けると自分の体の生々しくも痛々しい火傷痕が視界に映った

 

「うわぁ、見ない方が良かったかも」

 

「私としてはそれだけの大怪我でありながら普段と同じ調子で喋れるイッキの方が可笑しいと思うんだけどにゃ~」

 

「痛みさえ感じなければ喋るくらいはな。黒歌だってその内出来るようになると思うぞ?」

 

「イッキの身体操作に追いつくのに後何年掛かるかは分かんないけどね。後、そんな全身焼け焦げの状態で言われてもなんかイヤにゃ」

 

お互いに軽口を叩いているとリアス部長からヴァルブルガの『処理』が完了したとの通信が入ったので黒歌の転移で龍帝丸に送られる事になる

 

「じゃ、私は適当にまた邪龍を殲滅して廻る事にするにゃ」

 

「了解。また後でな」

 

短く会話を終わらせて黒歌の転移で予め龍帝丸に施してあったマーキング位置に跳ぶ

 

一応レイヴェルやアーシアさんに配慮して学園から拝借したバスタオルで体を包んでおいた

 

そうして転移の光が収まるとすかさずアーシアさんが駆け寄って来る

 

元々大怪我前提なので準備しておいたのだろう

 

「イッキさん。直ぐに治療しますね!」

 

そのままアーシアさんの淡いグリーンの光に包まれると体中の火傷痕が熱したフライパンの上に垂らした水が蒸発するかの如き勢いでどんどんとその規模を縮小させ、10秒と掛からずに俺の全身の怪我を完治させた

 

治療が終わると手早く服を着直してアーシアさんにお礼を言う

 

「アーシアさん、何時も有難う・・・なんか俺実戦だとアーシアさんに自傷系の傷ばっかり治して貰ってる気がするな」

 

【じばく】も【一刀餓鬼】も【一刀羅刹】も、思い返せばコンプリートしてるな

 

「いえ、それが私のなすべき事ですので・・・それに逆にイッキさんは他の方の攻撃で深手を負う事は少ないですし、それはとても良い事だと思いますよ」

 

紙装甲だった時代の名残で未だに回避盾&パリィが基本だからな・・・一応祐斗も同じ系統だが、祐斗のインフレと敵方のインフレが釣り合ってるから結局毎度大怪我してるという泣ける話になっちゃってるけど

 

「!―――っとぉ」

 

立ち上がったは良いけど一瞬グラついてしまった

 

実際には凄いダメージだった訳だから怪我が治っても体力がゴッソリ削られた感じだ―――アーシアさんの聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)は体力の回復はしてくれないしな

 

「イッキ様・・・その・・・私の『涙』は必要有りますか?」

 

龍帝丸の後ろの方で禁術ブッパしていたレイヴェルが顔を赤らめながら聞いてくる

 

今回俺達はレイヴェルも含めてフェニックスの涙を所持していない

 

今はクリフォトのテロで『フェニックスの涙』が入用な時期だし、今回はレイヴェルも貴族のパーティーでも無い為持ってはいなかったのだ・・・そう言えば空中都市で戦ってるサイラオーグさん達の方にはアーシアさんのような回復役が居ないけど大丈夫なのかな?―――いや、あの場所はレーティングゲームの聖地だから医療施設や薬とかは充実しているし、常備してある『涙』の一つや二つは有るのかも知れないな

 

と云うか普通に考えて冥界の病院って万一に備えて絶対にフェニックスの涙を常備してるよね?

 

これは確かにフェニックス家が儲かる訳だわ

 

娯楽に医療に喰い込んで更には侯爵家と中々に高い地位も持っていて、ついでに不死身の特性で仮に戦が巻き起こってもお家断絶の危険性が限りなく低いとか、確かにコレは嫉妬の対象になりそうだ・・・完全に逆恨みだけどな

 

さて、フェニックスの・・・と言うかレイヴェルの『涙』なら確かに俺は失った体力も回復出来るけど、黒歌も居るし量産型の邪龍を相手取る程度なら今のままでも回復してもらう程では無い

 

だけど絶対この後グレンデルとか来るだろうからなぁ

 

「じゃあレイヴェル。悪いけど・・・」

 

そこまで口にしかけたところで案の定と言うべきかグレンデルとラードゥンの気配が学園の正門の先の方に現れた

 

正面突破で学園を襲おうって訳だな・・・裏口入学(物理)をしようとしたヴァルブルガとはまた対照的だ

 

「イッキ様!お早く!」

 

感知タイプでなかろうと龍王クラスの強大な気配を隠しもしないで現れた為に他の皆の表情も強張り、レイヴェルにも急かされてしまったので手早くレイヴェルに近寄りその目尻近くにキスを落とす・・・いや、違うよ?純血のフェニックス家の人達は俳優さん達のように素早く泣ける技術を習得しているけど今は一刻を争う状況だからコレはあくまで極めて効率的な回復行為なんだ・・・断じてイチャラブし始めた訳では無い

 

俺やレイヴェルは顔が紅くても、近くに居るアーシアさんやロスヴァイセさんが魔法や回復の光を飛ばしながらもやっぱり顔を紅く染めてチラチラとこっちを見て来ていても違うのだ!

 

実際、俺の体力は回復したしな!

 

「じゃ、じゃあ俺はもう行くよ///」

 

「は、はい。イッキ様。如何かお気を付けて///」

 

こういう気恥ずかしい感じのやり取りは慣れないものだけど、それで良いと思っている自分も居る

 

アーシアさん達はまだこの辺りの担当の回復が残っているので俺だけ空を蹴って学園の正門から少し離れた場所に駆けて行った

 

 

 

 

俺がグレンデル達の居る場所に辿り着いた時、黒歌も同時に到着したようだ

 

「にゃ~、なんで態々私が北側の方に向かってる途中でこっち(南側)を襲ってくるのよ。せめて私が後半周してから来なさいよね!」

 

流石にその感想は理不尽だろうに・・・そう思いつつも戦況を視る

 

如何やらイッセーはラードゥンの結界に捕らわれて結界から脱出する為に連続で拳を突き出しているようだな

 

ラードゥンもラードゥンでイッセーを捕まえ続ける為に壊れた端から結界を追加で展開しているから一応の膠着状態ではある様だ

 

グレンデルの方は白音が白い炎を纏いながらも接近戦を仕掛けて時折グレンデルが飛ばす火炎弾はサジが相殺、及び黒炎の各種特殊能力でグレンデルの動きの阻害で仁村さんが量産型邪龍の数を減らすように立ち回ってるな

 

白音も実質殆ど一人でグレンデルと相対してる訳だけどまだ戦闘開始からそれ程時間が経ってないから未だに『無傷』だ

 

それもタネは有るんだけど、俺と黒歌が来るまでの時間稼ぎとして使用したんだな

 

「なんだこのチビッこいガキは!ちょこまかと逃げ回るのはあの人間みてぇだなぁ!」

 

悪かったな。ちょこまか鬱陶しくてよ

 

だがそこで十分近づいて来ていた俺と黒歌の姿を視界に捉えたのかグレンデルが喜悦の表情を浮かべる。状況的に不利になるとかコイツは気にしないんだろうな

 

「おほ!来やがったな、人間!―――前回はお前は居なかったし、今回お前以外にも楽しみにしてたドライグはラードゥンの野郎が盗っちまうし、あの学校とやらをぶっ壊しちまえば周りに散らばってる奴らも全員集まるからそれを狙ってたんだが、まぁいい。前回消化不良だったあの闘いの続きをしようぜぇぇぇ!人間ちゃんよォォォ!!」

 

言うが早いか返事も聞かずに特大の火炎を吐き出してきやがったな!

 

「本当にお前ってお喋りな割に他人の話は聞かねぇよな!」

 

「じゃあ、私はラードゥンの方に行くわね。あのまま赤龍帝が封じられるままなら兎も角、下手に次元の狭間にでも飛ばされたら厄介だし」

 

「了解」

 

火炎を避けつつ俺がグレンデルで黒歌がラードゥンを担当する事にしてそれぞれの相手に向かおうとするが、その直後に莫大な威圧感が新たに出現した

 

グレンデル達でさえ手を止めて思わず全員がオーラの感じる方に目をやるとそこには褐色肌でエジプト風の祭服に身を包んだ美男子が居た

 

見た目は人間だけどこのオーラはドラゴンのものだな

 

この場に現れるクロウ・クルワッハに迫るオーラの持ち主となれば候補は一人(匹)

 

「これはアポプス殿。貴方は今回の戦いには不参加だったはずですが、如何されましたかな?」

 

ラードゥンが問いかけるがやっぱりコイツが原初なる晦冥龍(エクリプス・ドラゴン)、『アポプス』か

 

向こうのアジ・ダハーカと言い、全盛期の二天龍クラスのドラゴンが二匹揃ってるとか明らかに戦力過剰過ぎて可笑しい事になってるぞ

 

まぁアジ・ダハーカもアポプスもアグレアスと学園の魔法使いが狙いのはずだから全力戦闘は仕掛けて来ないはず・・・だよね?

 

「ふむ。あの魔女が余りにも早く居なくなったみたいなので様子を見に行って欲しいと言われてな。逃げたのか、それとも殺られたのか如何かとな」

 

「ああ~、あの紫ババアな。ユーグリットの奴が俺ら用の龍門(ドラゴン・ゲート)を用意している間に一足先に学園とこいつ等燃やすとかって出て行きやがったからな・・・そういやアイツ死んだのか?気にもしなかったぜ」

 

ああ、様子見ですか

 

教えたらそのまま帰ってくれないかな?元々戦うつもりは無かったみたいだし

 

「あの魔女さんならフェニックスの涙でも再起不能な程度には痛めつけられてるぞ。下手したらそのまま死んでるかもな」

 

一応十字架は剥ぎ取りアイテムとして欲しいから最低限の処置はしてるはずだけど、絶対に死んで無いとは言えないからね

 

え?神器を剥ぎ取ったら死ぬって?いやだなぁ、相手はテロリストですよ?―――つまりはそういう事なのです

 

ワンチャン摘出前に紫炎の十字架さんがヴァルブルガを見限ったら命だけは助かるかもね?

 

「そなたは有間一輝殿だな?貴公があの魔女を倒したのか?」

 

お!反応してくれたな

 

「俺も手伝ったけど別に俺だけで倒した訳じゃないさ。俺達の仲間を信じる絆から生まれる華麗な連携が有ってこその奇跡(のろい)だよ」

 

そう返すと主にその仲間たちからジトっとした目を向けられた

 

「有間のあのヒデェ作戦をそんなキラキラした言い方するとか違和感が酷いぞ」

 

「ですよねぇ。私も必要も無いのにあの魔女に少しだけ同情しましたもん。出現した時点で負け確イベントでしたからね」

 

「イッキ先輩がなにか作戦を思いつくと大体こんな感じです」

 

「『D×D』としてシトリー眷属も一緒に行動する事は増えるだろうし、その内少しずつ慣れて行くとは思うぞ?まぁ俺達もイッキの行動に慣れたかって聞かれると困るんだけどさ」

 

息つく暇も無い酷い言われよう!?

 

ちょっとふざけた返ししただけじゃん!

 

「成程、何が在ったのかは知らんが貴公は噂に違わぬ人物のようだな」

 

何その噂!スゲェ気になる・・・大体予想付くけど!

 

「ああ、それとリゼヴィム王子にもしも貴公と出会ったならついでに戦ってその胸の鼓動が停止する様をしっかりと確認するようにとも頼まれていたな。なにか奴を怒らせる事でもしたのか?」

 

なにその嫌がらせ!?ついでにエンカウントしたら殺せって俺がやったのって千年単位ぶりの復帰ステージを台無しにしてやっただけじゃん!

 

「うわ。どれだけみみっちいのよ、あのクソガキ爺」

 

黒歌の意見に一票だな。と云うかクソガキ爺とはまた的確な表現を・・・

 

それはそれとして俺の相手がアポプスとか、ソレ何てイジメ?

 

「おいおい、イッセー達はグレンデル相手のハードモードだけど、俺だけ何故かルナティックモードじゃねぇか・・・イッセー、グレンデルとトレードしてくんない?」

 

「ソイツはお前狙いなんだから取り合ってくれないだろうが!クソ!何とかさっさとこいつ等を片付けて援護に向かうから待ってろよ!絶対に死ぬんじゃねぇぞ!」

 

まだラードゥンの結界の中に居たイッセーが先程以上の苛烈さで結界を殴りつけていく

 

「匙先輩!ルル吉!気合を入れて下さい!グレンデルとラードゥンが居たんじゃイッキ先輩の援護にも向かえません」

 

「ッチ!今度はアポプスの旦那の横やりかよ。これだから他の奴と組むってのは嫌なんだ!」

 

白音たちとグレンデルの戦闘も再開したようだな

 

そして当のアポプスは人型のまま空中に浮いて俺と黒歌の目の前にやって来る

 

「貴公たちはあの学園とやらを守護する為に戦っているのだろう?私としてもこの場で戦えば私の生み出す闇が量産型の邪龍達だけでなくグレンデル達もついでに溶かしてしまう。場所を変えようか・・・そちらの猫又も参戦するか?」

 

アポプスが戦闘区域を移す提案と黒歌の行動について聞いてくる

 

と云うか戦闘の余波だけでグレンデル達も死にかねないとか聞いてるだけで泣きたくなってくるぞ

 

「・・・ええ、流石にイッキ一人でアンタの相手をしろとは言えないにゃん。なによりも私のイッキに手を出そうって云うなら噛み千切るだけよ」

 

唸る黒歌の様子にアポプスの一つ頷く

 

「そうか。そなたは有間一輝の女なのだな。ならば確かに退けぬだろうよ」

 

さて、流石に二天龍クラス相手に勝算は低いから、敵の計画のアグレアス転移までは最低でも粘らないといけないな

 

その後退くなら良し。退かないなら一か八かの【一刀羅刹】か【一刀餓鬼】に頼るしかない訳だ・・・それまで俺と黒歌だけで持つかな?

 

「―――ソーナ会長。そういう訳なので俺と黒歌はアポプスとの戦闘に入ります。正直言って力を使い果たすと思うので以降の遊撃は期待しないで下さい」

 

≪・・・分かりました。ただ一つだけ指令を出しておきます。絶対に死なないで下さいね≫

 

それはなんとも高難易度な指令(ミッション)な事で

 

「了解です。必ず生きて戻ります」

 

自分自身にも気合を入れる為にもそう返し、俺と黒歌はアポプスと一緒に学園から離れたアウロスの結界の程近くに移動した

 

 

 

[白音 side]

 

 

イッキ先輩と黒歌姉様がアポプスと一緒にこの場から離れて行く

 

あの邪龍の話ぶりだと戦闘の余波だけで魔王、龍王級でも死にかねないという事です

 

それにその話が本当なら回復役のアーシア先輩達も容易には近づけないでしょう

 

「あ~あ~!今度はあの人間とまた殺りあえると思ってたのに、アポプスの旦那が相手じゃ先ず死ぬな。ったく、どいつもこいつも邪魔しやがって」

 

グレンデルの苛立たしそうな視線が私達の方を向く

 

「せめて精々嬲らせてくれよ。簡単に壊れるんじゃねぇぞ!その上で死ね!」

 

グレンデルは言うが早いか特大のブレスを吐き出してきましたがそれを私の浄化の白炎と匙先輩の呪いの黒炎で相殺します

 

「はっ、有間を舐めんじゃねぇぞ!アイツは人間だけど殺したって死にそうにねぇんだからな!」

 

「そうですよ!私だって最近有間先輩は本当に『邪人』っていうカテゴリーの人なんじゃないかって疑い始めてるくらいですもん!」

 

「・・・ルル吉」

 

「なに?白音ちゃん?」

 

「後で体育館の裏に一人で来て」

 

そういうとルル吉の顔がサァっと青ざめましたね。大丈夫です。軽く関節を極める程度です

 

「ふふふ、余り楽観的な希望は持たない方が良いですよ。彼らの去った方をご覧下さい」

 

未だにイッセー先輩を結界で閉じ込めていたラードゥンがイッキ先輩と黒歌姉様の向かった方に首を動かして視線を送っているので皆でそちらを向くと木々や建物などのあらゆる影がどんどんと広がって闇がまるで海のように変質していくところでした

 

「アポプス殿の闇は全てを飲み込みます。あの闇に対抗しようとするなら何処かの神話の太陽神を引っ張って来るしかない。果たして彼らに防御不能のあの闇の波濤を何時までも躱しきれるでしょうか?見物ではありますね」

 

・・・太陽神は何処の神話でも主神かそれに近い立ち位置の神様である事が多いです。そんな方々でなければただでさえ強力な邪龍なのに属性の相性でも劣勢を強いられるという事ですか

 

「だったら助けに行って皆で倒すまでだ!―――ドラゴンブラスタ―!!」

 

イッセー先輩の極大の魔力砲撃がイッセー先輩を包む結界を打ち破り更にはその先に居たラードゥンを守る結界すらも破壊しますが間に挟まった結界でかなりの威力が削がれたのかラードゥンに当たった魔力砲撃はその表面を焼く程度のダメージしか与えられませんでした

 

イッセー先輩のチャージ砲は踏ん張りを利かせて放つ技なので直ぐにその場を離脱しようとする彼よりも一瞬早くラードゥンは再び結界で閉じ込めます

 

「私に攻撃を当てるとは凄いですね。ですが私も守護が本領の身。グレンデルには及ばないものの私の体も中々に硬いのですよ。そこに結界を加えればグレンデルをも上回れます」

 

深いダメージは無いのか目に見える速度で傷を再生させていくラードゥンですがイッセー先輩も諦めません。再び砲身に魔力をチャージしていきます

 

「なら、再生が追い付かないくらいに何度だって喰らわせてやるだけだ!」

 

いけません。その選択は悪手です。さっきの様子だとそれが成功する確率は低そうですし、例え成功してもその時にはイッセー先輩の体力が尽きてしまいます

 

時間一杯まで学園を守る事を目的とした防衛戦でそのリスクは負うには余りに大き過ぎます

 

止める間もなくイッセー先輩が再びフルチャージした砲撃をラードゥンに浴びせました。ですが、仕切り直した上での2発目では最初の一発と大して違いは有りません

 

「俺だって少しは考えるようになって来てるんだよ!ドラゴンブラスター!!」

 

2発目の魔力砲撃が行われてさっき同じような光景が生み出されました

 

「無駄ですよ。何度でも瞬時に貴方の周りに結界を・・・」

 

煙が晴れる前にイッセー先輩の居た場所に結界を張り直したラードゥンがそこを見ると既にそこにはイッセー先輩はいませんでした

 

「俺は!此処だァァァ!!」

 

ラードゥンが声の聞こえた頭上に目を向けると高速で突貫して拳を叩きつけて来るイッセー先輩の姿が目に入ったようです

 

拳こそ結界に阻まれましたがほぼゼロ距離まで接近し、イッセー先輩の連続攻撃で自身を守る結界しか展開出来ない今のラードゥンならば程なく押し切れるでしょう

 

「ぐうぅぅ!バカな!どうやってあの結界から脱出したというのですか!?」

 

「へっ!俺の渾身のドラゴンブラスターは威力はデカいけど反動もデカくてな。思いっきり踏ん張らないと反対方向に吹っ飛ばされちまうんだよ」

 

「! 赤龍帝。貴方はその反動を自ら受け入れたという事ですか!」

 

「そういうこった。俺のドラゴンブラスターでお前の結界が壊れるのが一瞬でも、自動で結界に全力突撃しながらの砲撃ならその場から離脱するのは容易いぜ!・・・つっても結構強めに背中を打ったから肺が詰まるかと思っちまったぜ」

 

よく見ればさっきまでイッセー先輩が結界で閉じ込められていた場所の背後の辺りの地面が結構抉れてますね。勢いよく地面に追突したのでしょう

 

「っは!ナイスだ兵藤!自爆要素を戦術に組み込むとか有間の影響か?」

 

「あそこまで極端じゃねぇよ!」

 

私と一緒にグレンデルと戦ってた匙先輩がイッセー先輩の方の状況が好転した事に嬉しそうな声を上げます。確かにイッセー先輩がラードゥンを倒してくれたなら協力してグレンデルを打倒し、イッキ先輩たちの援護に向かえます。全員で向かう訳にはいきませんが、この場合は譲渡の力を持つイッセー先輩が向かうのが一番効果的でしょう

 

―――いえ、どころかラードゥンを倒せばこの地域一帯を覆っている結界そのものも消失するはずですから、すぐさま魔王様方に連絡を入れれば軍隊を派遣して貰えるでしょう

 

ですが次の瞬間強大な気配が現れ、それが超高速で突っ込んで来ました

 

「避けて下さい!イッセー先輩!」

 

「え?―――グハッ!!?」

 

警告は間に合わずに飛んで来た赤い流星のようなものにイッセー先輩が吹き飛ばされました

 

「おっと、お前によそ見してる暇は有るのかよ?」

 

突然の乱入でも目の前の獲物の事しか眼中に無かったであろうグレンデルに私は隙を見せる格好となってしまい、その巨大な拳で殴り飛ばされてしまいました

 

「塔城さん!?こなクソ!お前の相手はこっちだ!」

 

匙先輩が殴り飛ばされた私を見て多数のラインに黒炎に黒炎の檻など能力をフルに発動させて注意を引きつけてくれます・・・今のは完全に私のミスでしたね

 

吹き飛んだ先に在った民家の瓦礫をどかして立ち上がると背後から優しい緑の光に体が包まれます

 

「白音ちゃん!今、回復します」

 

見ればイッセー先輩の使い魔の龍帝丸に乗ったアーシア先輩が回復の光を飛ばしてくれたみたいです。ナイスタイミングです。アーシア先輩

 

そして同じく龍帝丸に乗っていたレイヴェルの禁術とロスヴァイセさんの魔法のフルバーストが近場に居たグレンデルに襲い掛かり、押し戻してくれました

 

援護射撃も完璧です

 

私が戦場に意識を戻すと敵が新たに増えていました。その姿は龍を模した赤い全身鎧

 

「偽物の赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)!?ここでテメェが出て来るのか、ユーグリット!!」

 

ですがユーグリットはイッセー先輩の叫びを無視してラードゥンに話し掛けます

 

「ラードゥン。貴方とアジ・ダハーカは今回の我々の作戦の要です。そう簡単にリタイアされては困りますね」

 

「・・・ドラゴンの戦いに軽々に首を突っ込まないで欲しいですね。あまりこういう事が続くようでは土くれに戻ってでも楯突きますよ?グレンデルならば既にキレていたでしょう」

 

ラードゥンが低い声音でユーグリットに返すとユーグリットは顎に手を当てて思慮してからラードゥンに向き直りました

 

「分かりました。今後はもう少しその辺りの事を考慮に入れましょう」

 

取り敢えずその言葉でこの場は治めたのか次の質問を問い掛けてます

 

「アジ・ダハーカ殿の方は如何なのです?アポプス殿を始め、此方に戦力を投入し過ぎでは?」

 

「それが、アポプス殿が参戦した気配を彼も感じ取ったようで『なら俺様ももっと愉しませて貰うぜ』とやる気に満ち溢れてしまったのですよ。彼の戦いの邪魔をすれば物理的に消されかねないと思い、此方側に来ました・・・彼は我々の目的の一つがアグレアスに在ると忘れていなければ良いのですが・・・そこは『D×D』の皆様と皇帝に頑張って頂きましょう」

 

そっちの不始末を此方に押し付けないで欲しいですね

 

そして確かに遠目に見えるアグレアスで巻き起こってる爆発が当初よりより一層激しくなっているようです。これでは援軍は期待出来ないかも知れません

 

「無視してんじゃねぇぇぇ!!」

 

イッセー先輩がユーグリットに殴り掛かりますがそれを彼は正面から受け止めます

 

「ふむ。私としても赤龍帝同士での戦いには興味が有りますが先程釘を刺されたばかりですしね。それにそもそも貴方の相手は私では無いでしょう?」

 

“ズシンッ!!”

 

「がっ!?」

 

近距離から放たれたユーグリットの蹴りがイッセー先輩の脇腹に命中して吹き飛ばされるとその先でイッセー先輩が再び結界に捕らわれました

 

「そう。貴方の相手はこの私ですよ」

 

「ラードゥン!なら、さっきと同じように吹き飛ばしてやるぜ!」

 

「いいえ、そうはなりません」

 

その言葉とともにイッセー先輩を包む球体の障壁の一番外側にイッセー先輩の正面・・・いえ、チャージ砲を撃つ砲門の先にだけ穴の開いた障壁を展開させました

 

「貴方が私の障壁を壊したその一瞬に離脱するというのであれば一枚だけ壊されなければ良いのです。攻撃を防いだり、受け流したりするだけでなく、退路を断つ為だけの結界を追加でご用意させて頂きました。同じ戦術がそう何度も通用するとは思わない事ですね」

 

結界に閉じ込められたイッセー先輩を見たユーグリットは此方側のロスヴァイセさんの方に視線を向けて話しかけます

 

「今暫く待っていて下さい。仕事を終えたら真っ先に貴女を攫いに行きますから」

 

・・・白昼堂々の拉致宣言とはかなり酷い部類のストーカー発言ですね」

 

「いいえ、私はストーカーではありません。彼女がその才能を発揮できるのは貴方方の傍ではないというだけです。彼女も私の傍に居る方が幸せに過ごせるのですよ。彼女が私の傍に来るのなら、私が愛を与えて上げましょう」

 

途中から心の声が漏れていたみたいで反論されましたが・・・本心からの言葉なのでしょう。だからこそ本気で気持ち悪いです。ロスヴァイセさんもちょっと鳥肌立ったみたいです

 

自分の体を抱いて龍帝丸の端の方に移動して一歩でもユーグリットから距離を取ろうとしています

 

「行きません!私の居場所はグレモリー眷属です!」

 

「ならば『そこ』を破壊すれば、貴女は私のものとなる。貴女を連れ去った後にでも憂いを絶って差し上げましょう・・・もっとも、この場でも幾人か居なくなるかも知れませんがね」

 

そう言って飛び上がったユーグリットは掌に魔力弾を生み出して学園の方に複数撃ち出しました

 

龍帝丸の近くを通り過ぎようとした魔力弾はロスヴァイセさんとレイヴェルの魔法の二重障壁で防げましたが別の魔力弾の方は間に合いません

 

「させません!」

 

火車を操って魔力弾の一つはその火車を複数束ねた盾で防ぎ、最後の一つであった魔力弾は私自身が大量の闘気を纏って直接防御する事で何とか防ぎましたが先程グレンデルに殴り飛ばされた時以上にダメージを受けてしまいます。聖杯で強化されたグレンデルよりも偽物の赤龍帝の鎧を着るユーグリットの方が破壊力は上みたいです

 

「っぐぅ・・・」

 

直ぐにアーシア先輩の回復が飛んできますが全身が痺れてしまっています。肉体のダメージは治ってもダメージを受けたと認識した脳の処理が追い付いていない感じです

 

「おいおい、ユーグリット!お前まで俺様の獲物を横取りする気か!」

 

「それは違いますよグレンデル。私は学園を狙って攻撃を放ちました。そこに勝手に割り込んだのは彼女の方です」

 

よく言いますね!ソーナ会長の結界が有れば学園の上層部が吹き飛ぶ程度に被害は抑えられたでしょうが、今の冥界で立場の低い子供たちが通う為の学園がテロリストによって破壊されたという『事実』を残す訳にはいかないです

 

後で修復すれば良いというものではありません。『テロリストに蹂躙された学園』などと醜聞が広がれば今後の学園の運営にどんな支障が出るか分かりませんからね

 

学園を狙った攻撃に私達全員のオーラが怒りで力強さを増したのを感じます

 

「・・・テメェ。今学園を・・・そこに居る子供たちを狙いやがったな?」

 

その中でも一際強烈なオーラを放ち始めた匙先輩・・・今の彼は邪龍と呼ぶに相応しい質のオーラを放っています。強い想いに反応する神器が匙先輩の怒りに呼応しているのでしょう

 

「グハハハ!なんだなんだ?まだ足りねぇが、生前のヴリトラを彷彿とさせるオーラじゃねぇか。そういやあの学園とやらを狙えばお前らが必死こいてくれるとかって言われてたのを忘れてたぜ。じゃあ、こういうのは如何だ!」

 

グレンデルが思いっきり息を吸うと今まで吐いて来ていた火球タイプではなく、火炎放射と呼べるタイプのブレスを学園の方向に放ってきました

 

匙先輩が全身に黒炎を纏ってそのブレスの正面に立ち相殺しますが相手は聖杯で龍王クラスが強化復活した存在。今の匙先輩の炎で完全に相殺できるはずもなく匙先輩の全身がグレンデルの炎で焼かれていきます。アーシア先輩の回復の光もグレンデルの魔王級とも云える圧倒的な威力のブレスに包まれた匙先輩には殆ど届いていません

 

直ぐに私がグレンデルに攻撃を加えてブレスを中断させようと動き出しましたがその私の前にはユーグリットが立ち塞がりました

 

「おっと、赤龍帝がラードゥンに捕らわれている現状では貴女が最大戦力のようですからね。足止めさせて貰いますよ」

 

「どいて下さい!」

 

目の前のユーグリットに攻撃を加えますがひらりと躱され、反撃のパンチが飛んできます

 

『イッキ先輩に教わった技』も用いてその攻撃を避けますがその後連続して繰り出される攻撃にスピードもパワーも大きく劣る私では捌き切れなくなって結局殴り飛ばされてしまいました

 

少し内臓が傷ついたのか口元から血が滲んでます

 

「白音ちゃん!」

 

「アーシア先輩は匙先輩の回復に専念して下さい!」

 

今、アーシア先輩が一瞬でも匙先輩の回復を怠ったらただでさえ全身の火傷が広がりつつある匙先輩が一瞬でウェルダンを通り越した丸焼きになってしまいます!

 

ロスヴァイセさんとレイヴェルもこうしている今も迫りくる量産型の邪龍達の対処をしつつグレンデルに魔法を撃ちこんだり、私がやられないようにユーグリットに牽制の魔法を放ったりしてくれていますがこのままではそう遠くない内に匙先輩が死んでしまいます!

 

「ぐおおおおおおおおおおああああああああ!!」

 

≪匙!今すぐにその場を離れなさい!学園は・・・学園は最悪また立て直せば良いのです!学園を守る為に貴方が死んでしまっては元も子もありません!≫

 

こちらの状況は伝わっていたのかソーナ会長の切羽詰まった声が通信で聞こえてきました。ですが匙先輩はそれでもその場を動こうとせずに寧ろより一層黒炎を昂らせました

 

「有難う御座います、会長。でも・・・でもダメなんですよ!あそこにはあの学園に希望を見出した子供たちが居るんです!全然教えるって事に慣れてなくて、不器用で固い感じの授業をしてる俺なんかの事を笑顔で『先生』って呼んでくれる子供たちが居るんです!!―――すみません。会長。此処で退いたらアイツ等の笑顔を、不安な顔で塗りつぶしちまうって思うと、この場を一歩だって退きたくないんです!」

 

匙先輩がそう叫んだ瞬間、先輩の身を包んでいた黒炎が力強さと安定性を増しました

 

そして匙先輩の神器からそこに宿るヴリトラの声が聞こえてきます

 

≪遅くなったな、我が分身よ。今、神器の深奥より戻って来たぞ≫

 

「ヴリトラ!?全く最高に良いタイミングだぜ」

 

≪ふっ、如何やら暫く見ない間に随分と成長したようだな・・・いけるか?我が『相棒』≫

 

「当然だ!今なら俺は至れる(・ ・ ・)ぜ!!」

 

気合を入れて叫んだ匙先輩がかつて祐斗先輩やイッセー先輩、イッキ先輩が神器のその先(・ ・ ・)に辿り着いた時のような異様なオーラを纏い始めました

 

≪そうだ!今までのお前は周囲に居る男たちより劣っていると心の内側で無意識にブレーキを掛けてしまっていた。だが分かるぞ。今のお前は完全に吹っ切れたようだな!さぁ!今こそその心に秘めた胸の内を全霊で叫ぶ時だ!それを新たな龍王の産声とせん!≫

 

「ああ!ソーナ会長の眷属になって生まれた俺の夢!俺の願いを今此処に!」

 

匙先輩の熱いセリフに通信機の向こうのソーナ会長が嗚咽を漏らすのが聞こえます。ユーグリット相手に劣勢を強いられてるこんな現状だというのに自然と私も口元に笑みが浮かんできますね

 

「俺の・・・俺の夢は・・・

 

 

 

 

――ソーナ会長とデキちゃった結婚する事だああああああああ!!

 

 

 

・・・瞬間、敵も味方も関係なく時が止まりました

 

いえ、一つだけ動いてるものとして匙先輩の全身を包む漆黒の炎がまるでイッセー先輩の着ているような感じの鎧へと変化しました

 

恐らく思いの丈を叫んだ事でしっかりと禁手(バランス・ブレイカー)に至ったのでしょう

 

グレンデルの炎も止んでいる中、最初に動き出したのは匙先輩です

 

匙先輩は全身鎧の禁手化(バランス・ブレイク)を解除すると喋り始めます

 

「ヴリトラ!今なら至れるぜ!」

 

≪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・≫

 

「子供たちの笑顔が、俺に力をくれるんだ!俺の夢!俺の願い!」

 

≪・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・≫

 

「俺は!子供たちの為の先生になるんだあああああああ!!―――禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

匙先輩が再び漆黒の鎧を身に纏いました

 

「『罪科の(マーレボルジェ・)獄炎龍王(ヴリトラ・プロモーション)』、地獄の業火に等しい炎をその身でタップリと味わいな!」

 

≪・・・我が分身よ。何事にも取り返しのつかない失態というのは在るものだぞ?≫

 

確かに・・・絶対に今日この日の事は匙先輩の生涯に渡った黒歴史になる事間違い無しですね

 

一応フォローするならさっきまでの匙先輩の様子なら子供たちを守ろうとする『先生になる』という夢の発露でもきっと至れただろうという事ですかね?

 

≪な、な、な、な、何を言っているのですか匙、貴方は!≫

 

当然と言うべきかムードの欠片も無い告白を聞いたソーナ会長が完全に(ども)りながら問い掛けてます・・・音声のみですが今の会長が顔を真っ赤にしてるのは簡単に想像付きますね

 

「か、会長!い、今のは聞かなかった事にしてくれませんか!」

 

≪も、もう遅いですよ!貴方は私の事を異性として見ていたのですか!?そんなリアスと兵藤君じゃあるまいし・・・そ、それに貴方の事が好きな桃や瑠々子の事は如何するのですか!?≫

 

「え?仁村と花戒が・・・俺を?」

 

≪「会長!なに暴露してるんですか!!?」≫

 

この場に居たルル吉と他の場所に居た花戒先輩の声が重なりました

 

お二人が匙先輩狙いだという事はルル吉を通して知っていましたが、匙先輩の恋心に欠片も気付かずに二人の恋を見守る立場だったソーナ会長がこんな形で暴露するとはそうとう混乱している証拠でしょう。確かにとてもインパクトに溢れた告白では在りましたが、3人には同情してしまいますね・・・匙先輩に同情の余地は無いですが

 

「ひょ・・・兵藤!俺はこんな時如何したら良いんだ!?」

 

「―――サジ。俺の祖父ちゃんはもう死んじまってるんだけどよ。まだ生きてた時、俺の幼い頃にこう言われたんだ『男ならハーレムを目指せ!可愛い女の子から告白されたら迷わずゲットしろ!そうして色んなおっぱいを手中に収めるんだ!』ってさ」

 

何処か遠くを見つめながら懐かしむような声で答えるイッセー先輩ですけど、そのお祖父さんは小さい時のイッセー先輩に一体何を吹き込んでるんですか!

 

リアス部長達との女子トークでもイッセー先輩の御両親は部長たちが裸エプロンでイッセー先輩に迫るのも寧ろ推奨してたみたいですし、もしかしてイッセー先輩のドスケベ根性は血筋の影響なんでしょうか?

 

≪・・・サジ、桃、瑠々子。取り敢えずその事はまた後で話し合いましょう。ええ、きっとその方が良いはずです≫

 

≪「「りょ、了解です」」≫

 

後日、ルル吉にはその話し合いがどうなったのか根掘り葉掘り訊く必要が有りそうですね

 

ですが、なんにせよ匙先輩が禁手化(バランス・ブレイク)に至った事で大分戦況が持ち直しました

 

まだ足りてませんが、ヴリトラが戻って来たという事は他のドラゴン達も同じく神器の深奥から帰還したという事です

 

「! ファーブニルさんのオーラを感知しました!召喚します!」

 

次にアーシア先輩がファーブニルの召喚に取り掛かります

 

五大龍王の一角であるファーブニルはアーシア先輩のパンツを欲しがる変態ですが、その実力は本物です。かの龍王が加われば戦況は五分にまで持ち直せるでしょう

 

ですが、召喚されたファーブニルが契約の対価として受け取ったアーシア先輩のパンツでその場でクッキング番組をリスペクトした料理をし始めました・・・何でも『ディアボラ風アーシアたんのおパンティー揚げ』だそうです

 

如何やら私はあの変態龍王の変態度を甘く見ていたようですね。龍帝丸の上でアーシアさんがふらついてロスヴァイセさんに支えられていますが、アーシア先輩の心労が心配です

 

ですが、そんな突然の此方の思考を麻痺させる調理風景に何匹かの量産型の邪龍が共感を覚えたらしく、ファーブニルの揚げたパンツを食べた後の『在りのままのキミでいて欲しい』というセリフで大号泣してそのままこっちに寝返りました・・・きっとあの邪龍達は量産品の宿命とも云える時折出る『不具合を抱えた品』なのでしょう

 

それとド変態龍王(ファーブニル)の『在りのままのキミでいて欲しい』とはつまり揚げたのは失敗だったという事でしょうか?・・・衣服を揚げ物にする時点で失敗なのは当然ですか

 

女の私でもオリーブオイルと玉ねぎ、ニンニク、塩、コショウで揚げたパンツに需要を持てるような男性は世界を見渡しても1人だって居るのか怪しいのは分かります

 

そして最後にイッセー先輩の下にドライグの意識も戻ったみたいです

 

なんでも歴代白龍皇の思念をファーブニルが説得したらしく、見事に歴代白龍皇の思念はパンツとお尻に目覚める事でイッセー先輩の神器に眠る歴代赤龍帝の思念と和解したんだそうです

 

なんでもお互い女体の神秘は素晴らしいものであると認めた上でおっぱい派かお尻派か、定期的に闘論会を開いて相手の派閥の者を自陣営に引き込むという憎しみでも否定でもなく、ライバルとして認めるからこそ、お互いの性癖を高めて行けるのだそうです

 

そしてあわよくば相手の信念(へんたい)を打ち破って自分の主張こそが至高だと認めさせるのだとか・・・神器の深奥で永遠に争ってて下さい

 

ですがコレで今までトリアイナや真紅の鎧では白龍皇の力が使えなかったイッセー先輩が自由に白龍皇の力を使えるようになったみたいです

 

完全に戦いの天秤が此方側に傾いてきました

 

彼らを倒し、イッキ先輩と黒歌姉様を助けに向かうんです!

 

 

 

「おや?少し見ない内に随分と賑やかになりましたね。此方はもう終わりましたよ」

 

先程一度聞いただけですが、本来ここに居てはいけない者の声が耳を打ちました

 

見れば遠くから祭服を着た褐色肌の青年の格好をした邪龍・アポプスが片手に何かを掴んで歩いて来るところでした。そしてソレを私達によく見えるように前に出します

 

あれはイッキ先輩です!気絶しているのでしょうか?ピクリとも動きません。イッキ先輩が敗けるなんて!―――いえ、今は一刻も早く助けなければ!

 

あの状態で敵の手中にいるなんて危ないなんて話じゃありません!

 

「リゼヴィム王子の依頼通り、彼の心臓はその活動を停止させました」

 

・・・・・え?

 

「人間の体は貧弱です。確か心停止から10分以上経つと蘇生はほぼ不可能だそうですね。既にこの者の心臓が停止してから此処に歩いてくるまでに15分は経過しています。動かない相手に攻撃を加えるのは趣味ではないので止めこそ刺してませんが、コレで依頼は完了という事で良いでしょう?・・・それでは私は元々この戦いに参加する気はありませんでしたのでコレで失礼します」

 

アポプスはそう言うとイッキ先輩を地面に置いてそのまま去って行きました

 

イッキ先輩が・・・死んだ?なら、黒歌姉様は?アレ?目の前で相対していたユーグリットの頭が何時の間にかかなり上に在ります。何時飛んだのでしょう?・・・ああ、私がへたり込んでいるせいですか。首も動かせないですけど多分レイヴェルも私と同じようになっているのかも知れません

 

さっきから思考があちこちに跳んで支離滅裂になってます

 

そんな・・・だって私達の事をお嫁さんにしてくれるって・・・まだ結婚もしてないし子供も出来てないんですよ?

 

分かっています。イッキ先輩が如何に私達の中で最強でも相手はあの二天龍に匹敵したというクロウ・クルワッハに迫るオーラを放つ最凶クラスの強敵

 

イッキ先輩の能力が基本格上殺しと呼べるものでも分の悪い戦いなんだって事くらいは

 

でも・・・それでも・・・

 

 

 

「・・・どうして?」

 

私はその一言を止められませんでした

 

 

[白音 side out]




匙は普段から自分の夢はデキちゃった結婚だと言っているので土壇場で間違えて叫ぶ事くらいは有ると思うんですよねww

ヴァルブルガを速攻リタイアさせちゃったのでアポプスを出してみたんですが、流石に勝つのは難しそうだったので取り敢えずイッキの息の根を止めてみましたw


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第六話 ドッキリ、作戦です!

前回軽い気持ちで評価値について書いたつもりが結構反響があってビックリしました。嬉しいような催促したようで申し訳ないような気持ちになりましたが先ずはお礼をば・・・これからもお付き合い頂ければ幸いですw


[三人称 side]

 

 

地面に投げ出された有間一輝を目の当たりにしてチーム『D×D』の中で一番初めに動きをみせたのは赤龍帝の兵藤一誠だった

 

有間一輝への想いの強さで云えばこの場では白音とレイヴェルがツートップだがその二人はあまりの衝撃の大きさに心が麻痺してしまって直ぐには動けなかったのだ

 

だがこの場における一番の激情家である彼は辛うじて怒りの感情が上回った

 

その怒りは勿論イッキを殺したというあのアポプス及びクリフォトへと向けられたものもあるが、それ以上に今の一誠は自分自身に怒りを感じていた

 

如何してあの時咄嗟に転移の光に消える自分の親友を屠ったアポプスに飛び出して行けなかったのか・・・当然それも有るが、それ以上に今回の戦いにおける自分の不甲斐無さが何よりも許せなかったのだ

 

グレンデルとラードゥンが襲撃して来てから自分は僅かな隙を突かれてラードゥンに終始結界で捕らわれてしまっているだけだった

 

結界使いであるラードゥンに見合った戦術ではあるが一誠としては結果論だろうと皆がボロボロになって戦ってるのに自分一人だけがある意味で一番安全な結界の中で暴れていただけだ

 

そしてそんな時間稼ぎにまんまとハマっている間に黒歌を除けばイッキとの付き合いの長さで云えば一番である自分が親友を助けに行く事すら出来ずに死なせてしまった

 

悪魔に転生して裏の世界に関わるようになってから実戦では格上との戦いばかりで自分も含めて仲間の誰かが何時か死んでしまうという可能性は確かに頭には在った

 

だがそれは全力を振り絞った激闘の中でそれでも手が届かない、そんな状況であるのだと無意識に思ってしまっていたのだ

 

だが現実には結界に捕らわれている間に全部が終わってしまった

 

・・・決してラードゥンとの戦いに手を抜いた訳では無い

 

しかし、それでも・・・

 

「―――こんなのが納得出来るかよぉぉぉぉぉ!!」

 

その叫びと共に莫大なオーラが全身から迸る

 

習熟度以外にも想いの強さによって出力が上下する神器の特性によるものだ

 

その高まった力と拳で自分を今もなお閉じ込めている結界を殴りつけると一撃ごとに一枚の結界が破壊されていく

 

「ック!恐ろしいまでのパワーですね!」

 

ラードゥンの声音に焦りの感情が乗るのと同時にイッセーの周囲を覆っていた結界は全て破壊され、先ずはラードゥンに向かって行く

 

「出ろ!『飛龍(ワイバーン)』達!」

 

その言葉と共にイッセーの体から小さな白い、それこそ掌に乗せられるようなサイズのドラゴン達が体の各所にある宝玉から飛び出して来る

 

神器(セイクリッド・ギア)は宿主にその扱い方を頭に直接感覚的に伝える特性も持つ

 

それによりイッセーはこの力がどういうモノなのか判っているのだ

 

「行け!」

 

号令と共にラードゥンに迫る彼より先行した飛龍達がラードゥン自身を守る強固な結界に張り付き一斉に機械的な音声を流す

 

『Divide』『Divide』『Divide』『Divide』『Divide』『Divide』『Divide』『Divide』『Divide』

 

「馬鹿な!コレは白龍皇の半減の力!?貴方はその力を完全に同化させたと言うのですか!?」

 

ラードゥンの驚愕の声には答えずに度重なる『半減』で耐久値を減らされた結界をいとも容易くその拳で打ち破り、その奥に居たラードゥンに勢いそのままの拳を叩きつけた

 

ラードゥンに当たった拳は”メギャッ!!”という鈍い音を響かせてその顔面の一部を抉り削る

 

「まだまだァァァ!!」

 

続けて左腕を『戦車』の特性を反映して肥大化させたソリッド・インパクトを打ち込むと腹部に大穴が開いた

 

咄嗟にラードゥンが障壁を張っていなかったら下半身はまるまる吹き飛んでいただろう

 

しかし今の一撃でラードゥンは上半身と下半身が辛うじて繋がっているだけの状態だ

 

如何に邪龍と云えど決して無視できるだけのダメージでは無い

 

「吹き飛びやがれぇぇぇ!!ドラゴンブラスタアアアァァァ!!」

 

翼に収納してあったキャノンから渾身の魔力砲を撃ち放ち、ラードゥンの居た場所を爆炎が包む

 

「ふぅ・・・危ない所でしたね」

 

だが煙が晴れる時にユーグリットの声が聞こえ、中から現れたユーグリットはラードゥンを背に庇うように立ちながら右腕を突き出していた

 

偽物の赤龍帝の鎧で増大させた魔力弾で相殺したのだろう

 

その後ろに居たラードゥンはその足元に龍門(ドラゴン・ゲート)を展開させている

 

「ラードゥン。今回は貴方の敗けのようですから強制的に退場させますよ。今の一撃を喰らえば消し飛んでいたのは分かっているはずですね?―――グレンデルならまだしも貴方はこの一帯を結界で包む役割が有るのですから・・・その怪我では大規模結界の維持にもその内支障が出るでしょう?早く治療して貰ってきて下さい」

 

「・・・仕方ありませんね。体を新調してまた遊ばせて貰うとしましょう」

 

グレンデルよりはまだ聞き分けの良いラードゥンは素直に龍門(ドラゴン・ゲート)で転移して行った。恐らくリゼヴィムの下で聖杯で体を造り直すのだろう

 

追い打ちを仕掛けたい処だがすぐ傍にユーグリットが居てはそれもままならない

 

「ふふふ、貴方の相手はこの私です。赤龍帝同士で楽しみましょうか」

 

「ふざけんな!俺達こそが赤龍帝だ!称号とかに興味はねぇけど、それでもお前なんかに赤龍帝の『名』をやれるかってんだ!」

 

イッセーの啖呵に相棒たるドライグも同意する

 

『よく言った相棒。我ら二天龍の苦労もよく知らぬこんな小僧に俺様のパートナーが務まるはずも無い!何よりリゼヴィムという奴もユーグリット、貴様も俺は気に喰わん。それならばまだ女の胸に現を抜かすこのバカの方がマシというものだ!』

 

「―――そうですか。それは残念です。ドライグの魂を此方の鎧に移さないかと提案しようと思っていましたが、まさか提案前にフラれるとは・・・おや?」

 

ユーグリットが何かの気配に気づいたような仕草を取るとアウロス学園の方から極大の光の柱が立ち昇った。事前に聞かされていた転移の光だ

 

これで冥界の子供たちやその父兄の方々を安全な結界の外側に逃がす事が出来る

 

怒りの感情自体はまだ収まらないものの、その事自体は素直に喜ばしい事だ

 

だが光の柱はそのままに一向に転移が始まる気配が無く、皆が訝し気な表情となった辺りでその光が突然あらぬ方向を向いた

 

光の向かった先は空中都市アグレアスである

 

アグレアス全体が転移の青白い光に包まれると先程まで遠目にも十分視認出来た巨大都市が忽然と姿を消してしまったのである

 

「如何やら上手くいったようですね」

 

「テメェ!一体何をしやがった!!」

 

きつく問い詰められたユーグリットは大仰に手を広げて答える

 

「なに、簡単な話ですよ。あの学園で新しい転移魔法を練っている魔法使い達の中に一人、我々の協力者が紛れ込んでいただけです。その者に転移魔法が発動する直前の隙を狙って転移の対象及び転移先を変更して貰ったのです」

 

そこにソーナ・シトリーの声がインカムではなく、ユーグリット達にも聞こえる全体通信で響く

 

≪・・・成程。貴方方が狙っていたのはアグレアスに眠る技術ではなく、アグレアスそのものであったという訳ですか。貴方方が最初に3時間という時間的猶予を与えたのも全く新しい様々な結界を素通り出来る大規模転移術の完成を待った為ですね?≫

 

全く新しい方程式で組まれた転移魔法という事はどの勢力もそれに対する対抗術式を持っていないという事。冥界の中だろうと外だろうと好きな場所に転移させて隠す事が出来る

 

「流石は知略家たるシトリーの次期当主殿ですね。その通りです。単純にアグレアスを転移させようとしてもかなり骨が折れるので、折角だから高名な魔法使い達の手をお借りしたという訳です。彼らが我らに協力して頂けないのならばそういう状況に誘導してやれば良いだけの事です」

 

≪我々はまんまとハメられたという訳ですか≫

 

彼女の苦々し気な声が聞こえる中で『D×D』のメンバーが心底嫌悪する声が新たに聞こえてきた

 

≪うひゃひゃひゃひゃ!その通りだよぉぉぉん♪ユーグリットくん。ネタばらしタイムご苦労だったね☆アグレアスに居た住民は邪魔だから空中都市の真下辺りに自然と置かれちゃったけど、出来れば彼らもついでに次元の狭間にでも放逐できれば最高だったんだけどねぇ・・・まっ、流石に協力者の魔法使いも転移が始まる直前にそこまで術式の改変を仕込むのは無理だから今回は見送ったよ。それはそうとラードゥン君に聞いたぜ?お仲間の一人がおっ死んじまったんだって?いやぁ、ご冥福をお祈りいたしますわ・・・まぁアポプス君に依頼を出したのは俺様なんだけどな♪≫

 

空中に映し出されたリゼヴィムがそんな相変わらずのふざけた態度で煽ってくる

 

元より気に喰わない性格とイラつく言動だったが今の彼らには今までの何十倍も耳障りな声に聞こえる。正直に言って今すぐに自分の鼓膜を破いてしまった方がまだマシなのではないかと思う位だ

 

≪イイね、イイねぇ!キミたちのその怒りと悲壮な感情が綯い交ぜになったかのような表情!そんな顔を向けてくれるんならキミたちを一気に殺すのが勿体なくなっちゃうぜ★俺が飽きるまでは一人ずつ殺していっても良いかもね♪キミたちのそんな視線だけで相手を殺せそうな顔を見ながらこうして高級なワインを一口・・・う~ん♡デリシャス♪≫

 

「ガアアアアアアアアっ!!通信なんてしてないでこっちに出て来いリゼヴィム!テメェ絶対にぶっ殺してやる!」

 

≪あっははははは!怒り心頭だねぇおっぱいドラゴン君。ヤダヤダ♪こうして相手の手の届かない場所から馬鹿にするのが最高に愉しいんじゃん。まっ、間近で直接その顔を見るのも良いものだけど、それは次の機会にでも取って置くとするぜ☆≫

 

決して相手の手の届かない場所から一方的に見下すという悦に浸っていたリゼヴィムだが、そこでまるで良い事を思い付いたとばかりに"ぽんっ"と手を叩く

 

≪そうだ!折角だしもう少し盛り上げてみようか―――グレンデルく~ん!さっきから度々戦闘の邪魔しちゃってゴメンね~★そんなキミの為に一つアドバイスをしようか。あの学園を襲ったら『D×D』の奴らが本気になるって最初は言ったけど今はそこに転がってるアポプス君の玩具を彼らの前で踏み付けのボロボロの消し炭にしてやれば今戦ってる彼らは一も二もなくグレンデル君を殺しに来てくれると思うよ~♪これぞ正しく死体蹴りってやつだ。さぁ、張り切っていこ~う☆≫

 

「ッ!!行かせるかよぉぉぉぉ!!」

 

今まで援護射撃有りとはいえ基本一人でグレンデルと対峙していたサジが鎧から伸びる幾重ものラインを飛ばしてグレンデルに巻きつけてそれを阻もうとする

 

だが、幾ら禁手(バランス・ブレイカー)に至ってパワーだけなら最上級悪魔クラスとなった彼でも相手は悪魔基準で魔王級のパワーと数多の戦闘経験を持つ歴戦の邪龍

 

更に言えばサジがその身に宿す黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)はパワーではなくテクニックが売りのドラゴンだ。神器を通してその力の使い方自体は理解出来ても咄嗟に実戦で活用しきるのは難しい

 

それでもグレンデルと最低限戦えるだけの力は出せているが学園を守りつつ友の亡骸(そんげん)を守るには今の彼では単純に実力が足りていないのだ

 

気やオーラで体を守っている訳でも無い人間の体など態々溜めを必要とする程のブレスを吐く必要も無い。サジのラインなど無視して首だけを有間一輝の方に向け、軽く息を吹くような感覚で灼熱の炎を浴びせてやれば十分だ

 

イッセーもユーグリットを振り払ってイッキの下に向かおうとするがものの数秒で彼の守りを突破出来るはずもなく、軽いブレスとはいえ一軒家程度は軽く飲み込むような炎に親友の体が包まれた

 

「グハハハハ!ざまぁねぇなぁ!前の時は消化不良で終わっちまった上に死んじまってよぉ!ボロボロにしてやりたいとは思ってたんだ!火加減はしておいたから形くらいは残ってると思うぜ?その方がお前らも盛り上がるんだろう?」

 

"グックック"と喉を鳴らすようなイヤらしい笑みを浮かべて振り返るグレンデルにリゼヴィムのテンションも最高潮に達する

 

≪うひゃひゃひゃひゃ!そうそう、分かってるじゃんグレンデル君★跡形もなく消し飛ばすよりは見るも無惨な姿を晒した方が―――≫

 

“ドンッ!!”

 

そこまで口にしたところでグレンデルの上顎から下が斬り離された

 

≪・・・へあ?≫

 

思わず間抜けな声と表情になるリゼヴィム

 

グレンデルに至っては身体構造上もはや声も出せない

 

一瞬でグレンデルの傍を通り過ぎた黒い影・・・いや、この場でソレを視認出来た存在がどれだけ居るのかも分からないがその影はほぼ直線上に居た龍帝丸の上に軟着陸した

 

「ゼェ・・・ゼェ・・・お~、痛ってえええ。でも、以前よりは怪我もマシになったな。まぁまだまだ大怪我に変わりないから修行有るのみか」

 

≪・・・んだよ!何でテメェが生きてんだよ!テメェはアポプスが殺したはずだろう!?≫

 

画面の向こうからどこか俯瞰的な視点で見ていた為かリゼヴィムが一早く復活して死んだと聞かされていた有間一輝がなぜ生きているのかと怒鳴るが当の本人はそれに取り合わずにひらひらと手を振るだけであしらうような様を見せる

 

「ああ~、ブチ切れてる処大変申し訳ないけど今忙しいから後にしてね・・・白音!」

 

「―――ッはい!グレンデルの魂を封印します!」

 

先程まで絶望から無気力に沈んでいたはずの彼女は涙を拭いながらも素早く反応する

 

「イッキ様も回復を!」

 

同時にイッキを想った涙を流していたレイヴェルもその涙でイッキの回復を図った

 

白い炎を纏う火車を出現させた白音はグレンデルの体の周りを円を描くように回転させ、その炎の結界の内側に魔法陣が展開される

 

恐らくは仙術と魔法を組み合わせた封印術なのだろう

 

「むっ、流石に魂を封じられたらグレンデルの復活が叶うか怪しいですね。此処は一つ―――」

 

そう言って危険な魔力を圧縮した魔力弾を複数放とうとしたユーグリットの直ぐ後ろから女性の声が聞こえた

 

「あら?折角の白音の見せ場なんだから邪魔はさせないわよ」

 

「! しまっ・・・」

 

咄嗟に首だけ振り向くも既に遅く、ゼロ距離から仙術・妖術・魔力・魔法を混ぜた極大のミックス砲とでもいえる攻撃を喰らい、ユーグリットはあえなく吹き飛ばされた

 

「黒歌さん!無事だったんですね!!それにイッキも!!」

 

アポプスは言及こそしていなかったものの有間一輝が死んだと聞かされていた以上は決して無事ではなく、それこそ下手をすれば彼女も死んでいたのではないかと想像していたのだ

 

幾つか少し深めの傷は在るものの、痛手と云える程の重傷は皆無の様子に仲間想いの彼はこの状況に思考こそ追い付いていないが嬉しいという感情だけは素直に吐露する事が出来た

 

しかし黒歌は何かを思い出そうとしているような仕草を見せる

 

「ん~、何か忘れてるような・・・あっ、そうだったわね。触媒は必要だったにゃ!」

 

そう言って黒歌は目の前の兵藤一誠(しょくばい)の手を握る

 

「へ?触媒?」

 

親友の彼女に手を出すような下種な思考は持っていなくとも、普段触れ合いの少ない猫耳黒髪美少女に突然手を取られたイッセーは一瞬硬直し、その隙に目の前の美少女に碌な抵抗も出来ないままにぶん回された上で遠心力在りきにぶん投げられた

 

「ほ~ら、白音~。ドラゴン一匹ご配達にゃ♪」

 

「ナイスです。黒歌姉様」

 

グレンデルの体と頭を前に片手で印を結んでいた白音は近くに落ちてきた兵藤一誠(しょくばい)にもう片方の手を伸ばして彼の腕に付いていた緑の宝玉の周囲に『戦車』の膂力と有間一輝に教わっている身体的なオーラのコントロールで指先とまでは行かずとも片腕程度には闘気を集中したその手で宝玉を鷲掴みにして籠手を破壊しながら取り出した

 

まだ敵が居る中なので説明するよりは手っ取り早いと判断したのだろう

 

戦闘において(わる)い意味でクレバーな思考になって来ているのは誰かさんの影響かも知れない

 

取り出した宝玉を魔法陣の中に投げ入れると(しめ)の呪文を唱える

 

「邪龍グレンデル!その魂よ、常闇と閃耀(せんよう)の狭間に眠れ!」

 

強力なドラゴンの魂を封じた神器である赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)をグレンデルの魂を閉じ込める核として使用したその封印術で見事、グレンデルはその宝玉に封印された

 

封印後にその場に残っているのはグレンデルの巨体らしき形の土くれとグレンデルの司る色である深緑の色に変化した宝玉だけだ

 

そこに回復を終えて龍帝丸から降りてきたイッキがその宝玉を回収し白音とイッセーの傍に寄る

 

「イッキ先輩!」

 

白音がイッキの名前を呼びながらその腕の中に跳躍気味に抱き着くとイッキもバツが悪そうな声音で目元に未だに涙が溜まっていた彼女の顔を優しく拭ってやる

 

「白音もレイヴェルも悪いな。アポプス相手だと死んだふりをするのが一番生存率が高そうだったからさ」

 

「いえ、いいんです。イッキ先輩や黒歌姉様が無事ならそれで・・・後で埋め合わせはして貰いますけど。最初はイッキ先輩が死んだと聞いて本当に絶望したんですよ?直後にイヅナの念話で生きていると知れましたが、あの時は世界が終わちゃったんじゃないかと錯覚したくらいです」

 

白音がそう言うとイッキも「う゛う゛っ・・・罪悪感が」と形容し難い困った表情を浮かべる

 

≪おいおいおいおい、待て待て待て!死んだふりだぁ?そんなチンケなもんでアポプス君を騙せる訳が無いだろうが!適当ほざいてんじゃねぇぞ!≫

 

アポプスの魔の手から逃れた方法がそんな手段であるはずがないと断じたリゼヴィム

 

確かに彼の言う通り距離を開けていたりしたなら兎も角、直接この場まで有間一輝を運んで来たアポプスの目を誤魔化すのはイッキや黒歌どころか初代孫悟空でも出来るか怪しいだろう

 

その疑問にイッキはとある死神漫画の魔王のセリフを借りて答える

 

「では此方からも訊こうリゼヴィム王子(・・)。一体何時からアポプスがこの茶番劇に参加していないと錯覚していた?」

 

内心テンション爆上げしながらもイッキは更に続ける・・・流石に魔王プレイを続けたら後で羞恥心で悶えそうなので口調は戻したが

 

「そう睨むなって。アポプスはお前との契約を違えてなんていないさ。お前がアポプスに出した依頼の内容をよく思い出してみるんだな」

 

味方側も気になっているみたいなので皆と別れた後の事を軽く説明するイッキだった

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

 

 

~少し前~

 

 

俺と黒歌とアポプスが町の端の方に辿り着いた時、先行していたアポプスが此方に向き直る

 

アポプスもこっちに背を向けている程度では隙らしい隙も見当たらなかったから結局何もせずに此処まで来ちゃったな

 

さて、原初なる晦冥龍(エクリプス・ドラゴン)、『アポプス』・・・確かエジプト神話出身の太陽を飲み込む蛇だか闇だかって存在だったはずだ

 

「黒歌、一応訊くけどアポプス対策に太陽系統の神秘の宿った術とか持ってない?」

 

そういうのが在れば大変有難いんだけど?

 

「そんな都合の良いもの持ってないにゃ。大体悪魔も妖怪も太陽とは相性が悪い場合が多いから使える奴なんてほんの一握りよ・・・そう言うイッキは如何なのよ?『第七秘剣・天照』だっけ?日本の太陽神の名前を冠してるでしょう?」

 

「名前を(あやか)ってるだけで別に加護もなにも受けちゃいないよ」

 

某ドラグ・ソボールの太〇拳とかも使おうと思えば使えるだろうけど、それも意味無いしな・・・今の俺なら『光魔法・かっこい〇ポーズ』とか出来るか?―――やらんけど

 

「―――もう良いか?」

 

黒歌と軽口を叩いているとピリッとした雰囲気を出したアポプスが確認してくる・・・如何やらこれ以上の引き延ばしは出来ないようだ

 

そのアポプスの周囲に蠢く闇が展開され始めた。アレだけ見るとギャスパーの操る闇みたいだな

 

ギャスパーの闇は魔神バロール由来のものだから質で云えば似たようなもんなのかも知れないが、アポプスの闇の方が出力は上だし年季も違うだろう

 

生前のバロールなら、もしかしたら良い勝負出来たかもな

 

だが前方の闇に注視した処で直ぐ足元の自分の影から闇の槍が飛び出てきた

 

「にゃにゃ!危にゃい!」

 

「相手の影でも『闇』のカテゴリーなら支配下に置けるってか!」

 

俺も黒歌も感知タイプだから一早く攻撃を察知出来たけど、リアス部長やロスヴァイセさん辺りの後衛職だったら大怪我必至だぞ!

 

二人でその場を飛び退いてそれぞれが魔法や狐火を放っていくが、それらはアポプスの広げた闇に飲み込まれて消え去っていく

 

よく見れば蠢く闇が過ぎ去った場所はゴッソリと削られて消えている・・・闇に溶けているんだろうけど、そっちの特性はある意味リアス部長の消滅の魔力に近いか?

 

絶対に触れたくない攻撃だ

 

そうしている間にもどんどんと闇の領域が広がって行くとその闇も段々と水気を帯びたようなものに変化して、まるで津波のようにあらゆる方向から形状を変えて俺達を刺し貫こうと迫って来る。だが一応俺も黒歌も感知タイプのテクニック寄りだ

 

必然的にアクロバティックな動きで回避しながら反撃を叩き込んでいく

 

その反撃を闇で防いでいたアポプスが感心したように言う

 

「成程、魔王級というだけでなく貴公等は回避性能が高いようだ・・・そちらの猫又は見た所時間を操っているな?有間一輝は手段は判らんが如何やら反射速度がズバ抜けている。だが、このままではジリ貧だぞ?」

 

確かに、大仰に回避している俺達に対してアポプスは初期位置からたいして動いていないし、向こうは俺達の攻撃を防げるのに俺達は防げないからな

 

さっきも黒歌が試しに結界張ってたけど闇の槍が普通に溶かして貫いてたしさ

 

・・・一つ試してみるか

 

一応俺もオーラの質だけなら原初の悪神クラス以上とセラフォルーさんに評価を受けた身だ

 

俺は後ろから襲い掛かって来ていた闇を体を回転させつつ避けながらオーラを纏わせた指先でほんの少しだけ触れる

 

その結果を確認した俺はアポプスに対して突撃していった

 

「来るか!有間一輝!」

 

随分とまぁ嬉しそうな顔してるな畜生!

 

突っ込む俺に対してアポプスの展開する闇の密度が増していくが構わず突き進み、放たれる闇の隙間に無理矢理体をねじ込むように距離を詰めて遂にアポプスの眼前まで近づいた

 

「素晴らしい・・・が、そうも接近すれば逃げ場が無いぞ?」

 

奴の言うように既に避けられるだけのスペースが無い。それにアポプス自身も前面に闇の盾を展開したのでこのまま殴りかかっても殴った手が溶けるだろう

 

だが全てを飲み込む事で防御する質量の無い闇の盾を俺は盾の端の部分を掴んで(・ ・ ・)無理矢理グイっと横に退かして盾を剥がす

 

「なに!?」

 

こっちに近づく上で剣は回避の邪魔だったので展開して無かったから固めた右こぶしでアポプスの胸部を殴り飛ばしてやった

 

「ぐっは!!?」

 

ん?思ったよりはダメージが入ったな?

 

「クククク、如何やら貴公を侮り過ぎていたようだな。不思議か?―――本来の私は闇そのもの。基本、物理的なダメージはそれでいなすからグレンデルのように硬くは無いのだよ。だが、本来の姿に戻ればそれだけでこの町一つ程度は闇に包んでしまう・・・それでも十分だと考えていたがよもや私の『原初の水』を鷲掴みにする者が居るとは思わなかったぞ」

 

ああ、舐めプじゃなくて縛りプレイ中なのね

 

闇の水・・・『原初の水』とやらの対処は簡単で接触箇所から俺の邪気を流し込んで『原初の水』から『聖杯の泥(比喩表現)』に変換(おせん)して支配権をもぎ取ったのだ

 

もっとも、手加減していても向こうの方がオーラが格段に強いから触れた箇所を(俺にとっての)無害化する程度のものでしか無いけどな

 

だがアポプスは攻撃を喰らった事でテンションが上がってしまったのか人間の姿は変わらずだが先程よりも大量の闇を縦横無尽に操って襲い掛かってきた

 

「に゛ゃ~!!相手のやる気を引き出して如何するのかにゃ~!?」

 

「黒歌だってバカスカ攻撃してたじゃん!偶々俺の攻撃がヒットしただけだって!」

 

責任の押し付けは止めてくれない?責任が有るとしたら全部リゼヴィムが悪いんだから!

 

なんにせよこのままでは拙い。俺は避けるしかなかった迫りくる闇の攻撃を物理的に逸らしたり、いなしたり出来るようになったが黒歌は相変わらず結界は役に立たないし本来の彼女は後衛職だ。純粋な体術では俺より劣るからその内避けられなくなるだろう

 

事実、かすり傷程度だが幾つか傷が付いている

 

俺もさっきアポプスに無理矢理近づいた時に多少は傷付いたけど黒歌の方が切羽詰まってる

 

敵の攻撃に突っ込んでのかすり傷と避けに徹してのかすり傷ではその意味合いが違うし、アポプスの攻撃も激しさを少しずつ増していってるからな

 

そして遂に黒歌が紙一重で避けていた攻撃がより深くヒットしだした

 

完全に直撃こそしてないものの既に幾つかナイフでザックリ切り裂かれたような傷が出来ている

 

「ッツ!痛いわね!出し惜しみとかしてらんないにゃん!」

 

黒歌が息を深く吸って集中し、妖術やら仙術やらを放っていたのを止めて今度は黒く燃え盛る車輪である火車のみを展開する

 

浄化の炎であればアポプスにとっても太陽程では無くても弱点属性だろう

 

火車のみに力を注いでいるからか何時もより圧縮された炎だ

 

「いけ!」

 

黒歌の号令の下多数の火車がアポプスに襲い掛かるが奴も余裕の表情を崩さない

 

「おやおや、確かにそれを喰らえばかなり熱そうですが、先ほどまでの苛烈で多様な攻撃も全て防いでいた私に数を減らした攻撃が届くと御思いですか?全て溶かして差し上げましょう」

 

アポプスの操る闇が火車を四方八方から消しに掛かるがその攻撃を黒歌は全て闇と闇の僅かな隙間を針の孔に糸を通すかのような繊細な操作で躱しきる

 

「ほう、コントロールに神経を注いでいるようですが、そういう場合、本体の注意が散漫になりますよ。今の貴女に私の攻撃を避けられますか?」

 

だが黒歌は先ほどまでと打って変わって余裕を持ってアポプスの攻撃を躱していく

 

勿論その間も火車の制御を怠ってはいない

 

複雑怪奇な軌道を描く火車がアポプスに迫るが彼も闇の盾以外にも防御の姿勢を取る

 

しかしそれこそミリ単位で制御していた火車はそれらの防御すらもまるで絡みつくような動きですり抜けてアポプスに襲い掛かった

 

「ヌグゥ!先程までの速さとはまた違う。まるでそこにそちらの有間一輝の素早さが加算されたかのような反応速度だ」

 

正解。流石の戦闘経験値だな。良く見抜いてる

 

あの日、黒歌達と夜の大運動会を開催して房中術も活用しまくって彼女達の気をそりゃあもう隅々まで把握し弄んだ(弄ばれた)俺は俺が格上相手の実戦で生き延びる為の必須スキルである脳のリミッター解除技を仙術で外部から発動する事が出来るのではないかと思ったのだ

 

知覚加速と肉体強化の2種類が有るけど仙術使いの黒歌と白音はそれぞれ集中すれば成功率100%とはいかないまでも使えるようになった

 

最初に白音がグレンデル相手に短時間とはいえ無傷でやり過ごせたのもコレのお陰だ。それに体に負担を掛けるリミッター解除技も人間よりも基本頑強な彼女達の場合は限界値が俺より高いから最終的には俺よりも使いこなす事も出来るようになるだろう

 

レイヴェルも修行の中で俺がリミッターをONとOFFに切り替えてやる事でもう少しでコツが掴めそうなのだ・・・黒歌とか時間加速と知覚加速を併用すればガチで俺の【一刀修羅】に近い風景が見える事だろう。もっとも、その分現実の時間に換算すればあっという間に限界が訪れるだろうが

 

完全後衛職のレイヴェルだってこれを覚えれば消耗を考えなければ禁術の砲台から禁術の速射砲台にクラスアップ出来るな

 

俺自身の強化ではなく黒歌達の強化という形だが、コレならばリアス部長にも発表出来る!

 

もっとも、相手の脳内を弄る繊細な作業が必要なので今の俺でも房中術必須だからリアス部長達には適応できないがな!祐斗にイッセーにギャスパー?―――『ア゛あ゛ぁぁぁぁぁ♂』な展開なんて誰も望んじゃいないんだよ

 

絶対に神々に頼まれたってやらねぇ!俺の仙術の練度が素で参曲(まがり)様クラスになれば可能性はあるからそれまで待ってろ!・・・何十年掛かるか知らんがな!

 

「認めよう。貴公等は真に強い『敵』であると!・・・惜しむらくは私が本気を出せぬ事と有間一輝、其方だけは殺すように言われている事だな。もっと場を整えて戦いたかったものだ」

 

残念そうに首を横に振るアポプスを見て黒歌が意外そうな声を上げる

 

「へぇ。邪龍のクセにそういうの気にするのね。あのグレンデルとかなら関係無しに暴れまわってたでしょうに・・・あのバカ王子のお使いを素直に受けてる分、理性的なのかしら?まっ、それはそれで別の意味で厄介極まりないんだけどにゃ」

 

「確かにな。大人しく命令に従う邪龍も暴れまわる事しか頭に無い邪龍も面倒だ」

 

両方が揃ってるクリフォトがマジで面倒だよ

 

「私をグレンデルのような邪龍の中でも粗暴極まる品の無い輩と一緒にされるのは少々残念だ。理性的というのであればラードゥンもまだましな方だろう。それと、私は別にリゼヴィム王子に大人しく付き従っている訳では無いぞ。あの王子は貴公等も感じたように小者で矮小で不出来な者ではあるが、一応聖杯で復活させて貰った恩義は有るのでな。最低限の義理立てをしているだけだ・・・幾つか頼みを聞いたらあの者とは手を切ろうと考えている。あの男は傍に居ても不快になるだけだ・・・口にする言葉全てが幼稚過ぎるのでな」

 

アポプスのリゼヴィムへの評価メッチャ低い!低空飛行どころか土中潜行してるじゃん!

 

いや、解ってたけどさ!

 

「てか、さっきは俺の心臓を止めるとか言ってなかったか?」

 

「? 同じ事だろう?人間は心臓が止まれば死ぬのだから」

 

いや、そんな真面目に応対しなくても・・・いや、待てよ?

 

「なぁアポプス。少し聞きたい事が在るんだが」

 

攻撃の手を止めて質問すると向こうも手を止めて応じてくれた。これだけでも有難い

 

「リゼヴィムの事は個人的には嫌いなんだよな?それと、リゼヴィムには俺の事を正確には『殺せ』とか『死亡の確認』ではなくて『心臓の停止の確認』を依頼された訳だ。後ついでにお前は出来れば場を改めて戦いたい・・・と、そう言う事で良いんだよな?」

 

「―――確かにそうだが・・・貴公の言葉の意図が解らんな。何が言いたい?」

 

ちゃんと興味を示してくれたようだな

 

俺はニンマリとした愉しそうな笑みを浮かべてアポプスに最後の確認を問い掛ける

 

「リゼヴィムへの依頼とリゼヴィムへの嫌がらせを両立できる案が在るんだけど、如何だ?一つ俺と契約を結ばないか?」

 

 

 

 

「―――とまぁそんな感じでな。アポプスに出された依頼を達成させてあげる為に身体操作で自力で心臓を止めて仙術で体内の血流を操って循環させてたんだよ。全身の血液を操るような真似しなくても心臓内の血液に適切な圧を籠めれば良いだけだから意外と難易度低かったけどな・・・アレだ。ちょっと仙術扱えれば人間って別に心臓止まってても死なないみたいだぞ?」

 

「『いや!その理屈は可笑しい!』」

 

一通り話し終えると誰彼構わず一斉にツッコまれた。許してくれよ。リゼヴィムの為に煽りムーヴしてるだけで変な事言ってる自覚は有るんだから

 

確かに扱う力は少ないけど血流への加圧具合を間違えれば内側から"パーン"するからな

 

それにあのまま戦ってても相手は『まだ私は後2回変身を残している』とか言える奴だし、下手に追い込んでなりふり構わず闇の領域を拡大されてたら学園ごと飲み込まれていたかも知れん

 

アポプスを相手取らなくて良いならそれに越した事は無かったんだよ

 

白音とレイヴェルには俺の回復とグレンデルの封印を手早く行って貰う為にもコッソリとイヅナの念話通信で状況伝えたけどな

 

「ともあれ今言った通りだよ。リゼヴィムも『その鼓動が止まるのを確認しろ』みたいな小洒落た言い回しなんてせずにストレートに『殺せ』って言っておけば良かったのにな」

 

そう言いつつ俺は次元収納からとあるアイテムを取り出す

 

こんな事も有ろうかと(・・・・・・・・・・)アザゼル先生に頼んで作成して貰った物が在るのだ

 

今回も何時ものように例の録画装置で画面向こうのリゼヴィムが高笑いから間抜けな顔を晒す様を録画してはいるが、毎回それではマンネリ化してしまうとの意見が在ったんだよね

 

前にリゼヴィムが吸血鬼の国で間抜け面を晒した際の映像を俺は直接リゼヴィムに出会ってなかったのを理由にアザゼル先生とブランデー片手(俺はウーロン茶だった)の鑑賞会をしたのだ

 

酔った先生がついでにシャルバの踏み付け動画とか魔獣騒動の巨大美女爆散事件とか色々と映像を流していたりしたけどな

 

そんな訳で暗い部屋にかち割り氷のウーロンに部屋に漂う酒気などで微妙に場酔いにも似たテンションになった俺もアザゼル先生の悪ノリに付き合う形となったのだ

 

次元収納から先ず取り出したのは扇子だ

 

その扇子をバッと開くと中央には《残☆念》と書かれている

 

小馬鹿にされる事に耐性は無いのかたったこれだけでこめかみに青筋浮かび上がらせているリゼヴィムだけど、俺が次になにかを言う前に画面の向こうのリゼヴィムが居る場所に帰還していたらしきアポプスが援護射撃を入れてくれた

 

≪リゼヴィム王子。こんな時だが貴公に一つ伝えておかねばならない事がある≫

 

≪あ゛あ゛!俺様との契約を破っておいてその上なにが在るってんだぁ!?≫

 

≪ふむ。なんら貴公との約束自体は違えていないのだが、話を聴いていなかったのだな?それはそうと私やアジ・ダハーカが貴公と縁を切る条件として何処ぞの神クラスと契約しろというのが在ったが、此度の私は魔王クラス・・・即ち下位の神クラスの有間一輝と一時の契約を結んだ為、貴公の下を離れようと思う≫

 

あ、魔王クラスってそういう位置づけなんだ

 

魔王と龍王が呼び名が違うだけで同等の扱いだったりするのと似たようなもんか―――それに確かに戦闘が苦手な神様だったりすれば単純なオーラ量なら魔王クラス程度だったりするのかな?

 

≪はぁ!?巫山けんなよ!お前たちみたいな危険な邪龍と契約を結ぶような奴は大抵何処ぞの悪神とかしか居ねぇだろうからこそ出した条件だぞ!≫

 

≪しかし貴公は「神と契約しろ」ではなく「神クラスと契約しろ」としか言っていない。これ以上議論を重ねる気は無いが・・・それとも今此処で私と戦ってみるか?≫

 

画面の向こうのアポプスが静かにプレッシャーを放っているようでリゼヴィムは苦々しい顔をしたままだったが、その場でアポプスとやり合うのは不味いと思ったのか「あ~、はいはい、行け行け」とアポプスをおっ払うように手を振って見送った

 

「・・・裏切りのライブ映像」

 

「よぉぉく目に焼き付けておけよイッセー。アレが『王』の資質、即ちカリスマ性ゼロの悪魔の果ての姿ってやつだ」

 

「・・・イッキも白音ちゃんも容赦ねぇな」

 

リゼヴィムには情けも容赦も要らないと思うぞ?

 

「それにしても契約を重んじるとされる悪魔のくせにこうも連続で契約で揚げ足取られ続けるなんてな。久しぶりのデビュー以前に新人悪魔研修からやり直した方が良かったんじゃないか?」

 

手に持った扇子をもう一度広げるとそこには《チラシ配りのリリン君、爆誕?》と書いてある

 

≪おいなんだその扇子は!さっきは『残念』としか書いて無かっただろうが!そんなピンポイントに他人を煽る扇子が在るか!≫

 

「ああ、これか?コレはアザゼル先生謹製の『合いの手扇子』だよ。音声入力式でな。状況に合わせた好きな言葉を入れれるんだ」

 

≪自作自演じゃねぇか!そういうのは合いの手って言わねぇんだよ!!≫

 

至極まっとうなツッコミ。もはや煽り散らす事すら頭に無いとか『扇動の鬼才』が聞いて呆れるな

 

「さて、話してる間に他の場所の量産型邪龍の群れも片付いたみたいだし、ラードゥンは敗退、グレンデルは封印。残るはユーグリットだけだな」

 

俺が状況を確認すると先程黒歌に吹き飛ばされたユーグリットが諦めたかのように首を振る

 

「リゼヴィム様。流石に私一人でこの場の全員を相手取るのは不可能なのですが、如何いたしますか?無論。戦えと仰るのでしたら従いますが」

 

≪ああ~、止めとけ止めとけ。お前が居ないと細かいところで指示を出すのが面倒になるから帰って来い―――ああ!でもそう言えばまだ事前に一つ仕込んでいたもんが在ったよな。最後に『D×D』の皆さんに盛大に披露して差し上げなさい★≫

 

「畏まりました―――では」

 

恭しく画面のリゼヴィムに一礼をしたユーグリットが片手を指パッチンの形にする。

 

ああ、潜入した裏切りの魔法使いに仕掛けた爆弾とやらか

 

「テメェら!今度は一体何を仕掛けやがったんってんだ!!」

 

「そう急かさないで下さい、赤龍帝。今から見せて差し上げますよ」

 

ユーグリットはイッセーが止める間もなくその指を打ち鳴らした

 

“ヴンッ!!”

 

「は?」

 

次の瞬間ユーグリットの目の前に縛られた一人の男が転移して来てそのまま盛大に爆発した

 

「『え?』」

 

皆が呆ける中、『こうなると知っていた』俺は爆炎に突っ込んで気配を頼りにユーグリットと距離を詰めて目の前に迫ったユーグリットを全力で殴りつける

 

しかし一応ユーグリットも歴戦の戦闘経験は持っている為か俺の攻撃に咄嗟に鎧の籠手の部分でパンチを防いだようだ

 

「ふぅ、今のは危なかっ・・・グブオ゛ェェェ!!?」

 

最後まで喋り切る前にユーグリットはまるで『生身の腹を直接強打されたかのようなダメージ』を受けて大量の血を吐いてその場に倒れた

 

「ッグ、カハッ!・・・今のは?」

 

「『第六秘剣・毒蛾の太刀』。衝撃を相手の好きな部分にぶち込む技で所謂浸透勁ってやつだ」

 

鎧の防御なんて関係ない貫通ダメージ

 

この攻撃を防ぎたかったら自分の肉体から離した障壁を張るか内臓を含めて鋼の肉体になるまで鍛えるかするしかないぞ

 

「取り敢えず、今は寝ろ」

 

ダメージから回復されても厄介なので丁度真下に在ったユーグリットの頭を踏みつけて邪気をタップリ流し込んでやったら陸に上がった魚のように”ビチビチ”とのた打ち回り、「グアアア!姉上ぇぇぇ!何故そんな男とオォォォ!!?」とか叫び始めたので黒歌に転移封じやら体の拘束やらと後最後に防音の結界も張って貰って放置する事にする

 

「おい、イッキ。アレ・・・死ぬんじゃねぇのか?ていうか如何なってんだ?」

 

「大丈夫、死ぬほどの邪気は流し込んでないから・・・しかし脳内に直接邪気を注入するとああなるのか。まぁ気絶出来れば(・・・・)大人しくなると思うぞ」

 

延々と悪夢でも見てるような感じかね?

 

万華鏡写〇眼!ツクヨミ!!―――お前はこれからグレイフィアさんとサーゼクスさんの仲睦まじい姿を眺め続ける!・・・みたいな?

 

シスコン拗らせてるユーグリットには悪夢だろうさ

 

今回やったのは単純で俺は裏切り者の魔法使いが潜んでいる事は知っていてもそれが誰かは分からなかったので転移魔法がアグレアスを転移させた後で様子を見るという名目でイヅナを派遣したのだ。イヅナが辿り着いた時には既に裏切りの魔法使いはゲンドゥルさん達にやられて拘束された状態だったのだが、そもそも可笑しいのだ

 

裏切りの魔法使い一人に対して名うての魔法使いが揃ってる場所で裏切らせたところで捕まるのは必定だし、アグレアスの転移先をこの魔法使いは知っているはずだ

 

なにせ行先変更をしたのはソイツなんだから

 

ならば最後に考えられるのは口封じしかない

 

イヅナ越しにそうゲンドゥルさん達に伝えると直ぐに魔法使いの体を精査してくれて、その魔法使いの魔法力を消費して発動する爆発魔法を体内に仕込んでいたのが明らかになった

 

体内に仕込まれた魔法を短時間で取り出すのは難しいとの事だったので学園から離れた場所に棄てるしかないという事だったのだが逆にその魔法が発動する前に別の魔法を間に差し込む事は出来ないかと思い、起爆の信号(指パッチン)を目標にした転移魔法が爆発魔法の前に発動するように仕込んで貰ったのだ

 

現実でも投げた爆弾が手違いで手元に戻って来る(爆発前に相手に投げ返される)事は時折ある事なのでそれを少し参考にさせて貰ったんだよね

 

確実に相手の虚を突ける一撃になるからさ

 

「―――ユーグリットを逃がす可能性を考えた上でもリゼヴィムが指パッチンしてくれたらそれはそれで面白そうだったんだけどなぁ・・・まっ、今回はここまでって事で」

 

最後にまた扇子を広げると《爆発オチなんてサイテー》と書いてある

 

他に良い文言思い浮かばなかったんだよ

 

≪・・・・・・・・・・・・・・≫

 

もはや言葉も出ないのかこっちを睨んでるだけだったリゼヴィムの通信はそこで途絶えた

 

こうしてアウロス学園の平和は守られたのだった

 

・・・多分またアザゼル先生との鑑賞会が待ってるのかもな

 

 

 

 

リゼヴィムたちはあのまま去ったようで周囲一帯を覆っていた大規模結界も解かれ、異変を察知した魔王軍の人達が駆けつけてくれて今はその方々の手も借りて戦後処理をしている

 

学園は守られたけどアウロスの町並みはかなり酷い事になっているからな

 

アグレアスの方はそもそも戦っていた空中都市そのものが無くなっているから修復作業とかは無いけどアガレス大公の下に届くであろう大量の書類を想うだけで可哀そうになってくる

 

捕らえたヴァルブルガとグレンデルの魂を封じた宝玉に関しては後から駆け付けて「戦後処理、頑張ります!」と答えてくれた我らが『D×D』のリーダー、デュリオさんに丸投げした

 

グレンデルの宝玉は元々天界の清浄な気の満ちた場所で更に厳重な封印を施す事でグレンデルの魂が外に漏れる事が無いようにする予定だったし、折角此方側に戻って来た聖遺物(レリック)の一つである聖十字架の扱いも天界側が一番活用も出来れば体裁も良いという事だった

 

後日聞いたところによるとヴァルブルガは無事(?)聖十字架には見捨てられたようで今は牢屋の中で廃人のようになっているらしい

 

ユーグリットはあの状態のままでは話も聞けないとの事で封印で雁字搦めにした後は邪気を取っ払って魔王軍の方に引き取って貰った

 

後の事は家族であるサーゼクスさんやグレイフィアさん、ついでに尋問官の人の仕事だろう

 

そうこうしている内にアザゼル先生もやって来たみたいだ

 

「悪いなお前ら、今回は何も出来なくて」

 

「いえ、結界の外で3分間の出来事では仕方ないですよ。その代わり『合いの手扇子』は役に立ちましたよ?」

 

そう返すと先生も愉しそうな笑みを浮かべる

 

「お!そりゃあ良いな。作った甲斐が有るってもんだ。それはそれとしてお前らに報告事項が二つ有る。一つは初代孫悟空が担っていた帝釈天が各地に派遣していた対クリフォトの先兵、その後釜が曹操に決まった」

 

「はぁ!?曹操ですか!?アイツ地獄に堕とされたって聞いてますよ!」

 

思わずイッセーが大声を出すが他の皆もそれぞれ驚いた表情だ

 

「どうにも地獄を自力で抜け出せたら帝釈天の下で首輪付きでこき使ってやるとヤツと取引してたみたいでな。聖槍も返されたようだ。まぁ少なくとも表立って馬鹿な真似はしないだろうさ。帝釈天の名の下に派遣された奴がテロ行為なんてしたら流石の帝釈天も体裁が悪いからな。それにインドラの野郎は傍迷惑な神ではあるが悪神って訳じゃない。アイツはシヴァと戦いたいだけだからな。少なくともクリフォトを相手にするよりはマシだよ。だから今は目を瞑っておけ」

 

そう諫められたイッセーは不承不承ながらも小さく「分かりました」と無理矢理納得したようだ

 

「で、二つ目だがロスヴァイセの書いた論文を解析したところ、そのモノの見方はトライヘキサの封印術式に応用できそうって話になってな。万が一トライヘキサが復活しても場合によってはロスヴァイセの論文から生み出した魔法術式で新たな封印を施せるかも知れない」

 

アザゼル先生の説明に先程の曹操の時以上の驚愕の視線がロスヴァイセさんに送られる

 

「そう・・・ユーグリットが危険を冒してまで東京にロスヴァイセと接触する為に現れたのはそういう事だったのね。トライヘキサの封印術式。それを応用すればクリフォトがトライヘキサを復活させた時にトライヘキサを制御する術式としても使えそうだったからかしら?」

 

リアス部長が思案顔になってるけど真実は、銀髪美人を姉の姿と重ねただけの変態(シスコン)です

 

いや、そういう理由も有ったのかも知れないけどさ

 

「後は丸ごと奪われたアグレアスの秘密ってやつだな。あそこは旧魔王の秘蔵の技術がまだまだ眠っているから正直何に使おうとしているのか見当もつかん。一応あそこを調べていたアジュカにも聞いてみるが、余り期待は出来ないかもな」

 

そう言うとアザゼル先生は「じゃ、俺はもう行くぜ。あ~、やだやだ面倒クセェ」と愚痴りながら他の場所の戦後処理の為にその場から離れて行った

 

「ああ、そうそう。この学園をお前らはキッチリ守ったんだ。色々考える事は在るだろう。だが、何時までも固い表情してんなよ?」

 

振り向きざまにそういうセリフぶち込むのは卑怯だと思う

 

アザゼル先生が去った後、また皆がそれぞれの場所での作業を再開しようとした時にゼノヴィアが待ったを掛けた

 

「そうだな。折角学園を守ったのだからこのタイミングが良いだろう。実は皆に聞いて貰いたい事とリアス部長に了承して貰いたい事が在るんだ」

 

ゼノヴィアは俺達を見渡すとそのまま続ける

 

「私は次の生徒会選挙に立候補しようと思う。私は生徒会長になりたいんだ!」

 

「『ええええええええええええええ!!?』」

 

皆の叫び声が木霊する中、ゼノヴィアは満足気な笑みを浮かべている

 

波乱に満ちた学園生活はまだまだ続きそうだ

 

 

 

 

 

サジの方はソーナ会長が恋愛初心者の為に直ぐに告白についての話は出来ずにギクシャクしてるようだがもう直ぐクリスマスというイベントも迫っているからそう遠くない内に進展するだろう

 

結果は分からんがな!




某外道死神研究者「ダメだよ。放った爆弾は手元に戻って来るものじゃあない」

なんだか気が付いたらリゼヴィムを煽る感じになってましたww

次の章ではリゼヴィムと直接顔を合わせられるから今回以上に煽れるかな?



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番外編 再戦、フェニックスです!?

一万字程度に収まると思ったら意外と長くなりましたww

後、後書きに今回はミニ話を乗せてます。良ければそちらも是非w


アウロス学園を守ってから数日、俺達はクリフォトが設立してから初めての『D×D』案件でアグレアスこそ奪われたものの死者ゼロの上でグレンデルの封印とユーグリットの無力化、更にトライヘキサの封印を解くのに貢献していたとされる聖十字架の奪取と中々の戦果を挙げる事が出来た為か皆の雰囲気も明るいものがあった

 

グレイフィアさんもユーグリットが捕まったので、まだ監視付きではあるものの完全な軟禁状態からは脱したようだ

 

因みにあの戦いで白音とレイヴェルを滅茶苦茶心配させた罰として滅茶苦茶可愛がる事となった。白音とか一時は俺が死んだと思った衝撃も有ってか俺の子孫を残したいという本能が働いた為か発情期モードに入ったので落ち着かせる意味も込めて夜の大運動会パート2が開催された

 

初めてを迎えた日から全員我慢する理由も無かったのでちょくちょく夜の運動(意味深)はしていたのだが、精魂尽き果てるレベルなのは初日以降初めてだったな

 

役得なので文句は無いのだが、若い衝動に負け過ぎである

 

少なくとも次はプレゼントとかデートとかそういう方向で攻める事にしよう

 

何処かで自制しないと堕落しそうだ。三人とも流石は魔性の女(種族的な意味で)である・・・黒歌は割とガチだけどな

 

そんな事も有りつつ今日も放課後に俺達2年生組がオカルト研究部に辿り着くと既に1年生と3年生はホームルームは終わっていたのか部室に居たようだ

 

そしてそこでは中央の大きなテーブルを挟んでリアス部長とレイヴェルが区分けされた学園の見取り図のようなものを見つめながら何やら意見を出し合っているようだった

 

「私ならば一気に戦線を押し上げる形で攻める戦法を取りますわね。今のイッセーさんは好きに昇格(プロモーション)が可能な上にリアス様の有する『兵士』はイッセーさんのみです。ハッキリ言ってこの場合本陣の守りを固めて相手の昇格(プロモーション)阻止という基本的な戦法は無意味に等しいですわ。(トラップ)の類も白音なら見破るのは容易いでしょうし、一人一人の質で劣っている分、此方側の昇格(プロモーション)を少しでも活用出来る機会は作っておきたいですわね・・・勿論、単純に攻め入るだけでは鎧袖一触にされるでしょうからそれぞれに合わせた対策は必要でしょうが」

 

「そうね。後は私の眷属を何処に配置してレイヴェル達がそれを何処まで読むのかで結構戦況が変わりそうだわ・・・私なら本陣の守りにはやはり感知能力に長けた白音を配置するかしら?当時ならフェニックスに対抗出来るのは実質白音だけだったけど、今なら朱乃に祐斗にゼノヴィアも居るものね。イッセーだって聖剣(アスカロン)を持ってるし―――」

 

「・・・リアス様の眷属はレーティングゲームで属性的に有利過ぎますわよ」

 

うん。今の会話で大体分かったかな

 

「お疲れ様です。それはライザーとのレーティングゲームの仮想話ですか?」

 

「ええ、お疲れ様イッキ。その通りよ。もしも今の私の眷属でライザーとレーティングをしていたなら如何いう流れになったのかという話になってね。レイヴェルと色々意見を交わしていたの。ほら、今は私の眷属もフルメンバーになってる事だし、あの時はイッキが開幕と同時にやらかしたから割とゲームメイキングが崩壊してたからね」

 

開幕聖書ブッパでしたからね

 

するとゼノヴィアがテーブルの上に敷かれた見取り図を興味深そうに覗き込む

 

「成程、話には聞いていたがリアス部長の婚約を掛けた一戦だったらしいからな。私としても興味のある一戦だよ。私はその時はまだ教会の戦士でそもそも日本に来ても居なかったがね」

 

「それを言うなら私もオーディン様の御付きだった頃ですね・・・ふふふふ、何時かあの長い髭を燃やした上で一発殴ってやりますよぉぉぉ!!」

 

ロスヴァイセさんがオーディン関係で壊れた笑いを溢すのは恒例の事なので皆も軽く流す

 

「後はギャー君もまだ引きこもっていた時期ですね」

 

「うぅぅ・・・それを言わないでよ白音ちゃん。結果的に勝ててたから良かったけど、部長の為にあの時だけでも引きこもりを振り払って参戦しようって進言すら出来なかったのは結構気にしてるんだから・・・あの頃は悪魔側も神器の力を抑える道具とかも無かったし、申告しても却下されたとは思うけど・・・」

 

「和平前だもんな。アザゼル先生も悪魔側は神器の研究が進んでないって初めて会った時に嘆いてたのは覚えてるよ」

 

あの時は色々ギャスパーにアドバイスだけして去っていったっけ

 

「あらあら、それを言ったら私なんて戦える立場に居たというのに雷光の力を封じていましたもの・・・私なんて主であり親友である部長の為に力を出す事を渋っていた当時の自分を叱ってやりたいくらいですのよ」

 

朱乃先輩も当時を振り返って笑顔ではあるものの若干声のトーンが下がってしまった

 

「もう、私は気にしてないわよ。トラウマと向き合う・・・それは生半可な覚悟で出来るものでも切羽詰まったからと言って出来るものでもないでしょう?今のあなた達は過去と向き合い、未来を見つめるようになった。それだけで十分よ」

 

リアス部長の愛情たっぷりのセリフに何故か当事者でないイッセーとアーシアさんの方が感激しているな

 

「でもゼノヴィアじゃないけど聞けば聞くほど興味深い一戦よねぇ。場合によっては私達が初めて出会った時にはリアスさんはその時旦那さん持ちになっていたかも知れないんでしょう?」

 

そんなイリナさんの言葉に祐斗が苦笑いしながらもそのifの未来を予想する

 

「そうなったらそうなったでライザーさんも大変だったと思うよ?コカビエルの来襲に和平会談のテロ、旧魔王派のテロに悪神ロキの襲撃・・・心労が絶えなかっただろうね」

 

「いや、如何だろう?ライザーは基本冥界に居るだろうしコカビエルの時は魔王軍も間に合ってないんだから多分間に合わなかったと思うし、和平会談テロの時は婚約者という理由で関係無いライザーが呼ばれることも無いだろう?旧魔王派のテロもフィールドが絶霧(ディメンション・ロスト)の結界で覆われていたから俺や黒歌のような広域感知が無いと辿り着けなかっただろうし、最初に戦うとしたらロキとフェンリルじゃないか?・・・慢心してた頃のライザーなら神殺しの牙でフェニックスの不死身ごと噛み砕かれて死んでたかもな」

 

実質初戦の強敵がフェンリルとか不死身でも死ぬぞ

 

「うん。リアス部長。如何やらあの時のレーティングゲームでは勝っても負けてもライザーとの結婚は無かったと思いますよ!」

 

アレ?即日結婚とか言ってたっけ?なら結婚2ヵ月の速攻未亡人ルートだな

 

・・・誰が得するんだよそんな未来

 

「流石にそれは後味の悪すぎる未来予想図ね・・・」

 

「お兄様がリアス様たちに敗北して心底良かったと初めて思いましたわ・・・」

 

リアス部長もレイヴェルも頭が痛そうにしているな

 

「ふ~む。成程、全員それぞれライザー・フェニックスとのレーティングゲームに多かれ少なかれ想うところが有るようだな」

 

するとちょっと前から気配を消して会話を聞いていたアザゼル先生が会話に割り込んできた

 

俺や白音は兎も角、祐斗は気づいていたな

 

感覚の鋭い祐斗だから順当と云えるけど他の皆も実力的にもう少しって感じか

 

グレモリー眷属で一番強いのは何だかんだでイッセーになっているけどイッセーの実力って振れ幅が大きすぎるから余り参考にならんしね

 

素の状態のイッセーがアザゼル先生の気配に気付けるようになるには、まだ時間が掛かりそうだ

 

「俺もこの時の試合は映像でしか確認してないからな―――もっとも、試合開始1分で俺の腹筋は崩壊したけどよ」

 

当時まだ禁手(バランス・ブレイカー)に至って無かったイッセーの力が溜まるまでの間だけだったもんな

 

「そうだ、リアス。再戦して見ないか?」

 

少し思案していたアザゼル先生がそう提案した

 

「―――!!本気で言っているの!?」

 

「ああ、本気だぜ。あの時のイッキはまだ実力を隠してる段階だったようだが、今振り返ってみれば実質イッキにおんぶに抱っこな試合だったってのは分かるだろう?まぁそれでも白音というフェニックスに対しての切り札も居たから絶対に負けていたとは言わんが、それでも勝率は五割を切っていただろう。だが今ならお互いにフルメンバー・・・っと、そう言えばライザーの『僧侶』枠はレイヴェルだったか。ともあれフルメンバーに近い形だ。今度こそ真正面から戦ってみるってのも面白いんじゃないか?ただしイッキはリアス達に加勢したら蹂躙にしかならんから除くがな」

 

言い方は引っ掛かるけど今のグレモリー眷属だけでも十分蹂躙しそうだし、仕方ないのかな?

 

「・・・そうね。今の私達にイッキまで加わっては流石に戦力過剰でしょうし、何よりも確かに面白そうだわ」

 

リアス部長の乗り気な言葉を聞いてアザゼル先生もニヤリと笑う

 

「良し!決まりだな。グレモリー家とフェニックス家への打診と調整は俺が受け持ってやる。折角の機会なんだから気合を入れて試合に臨めお前ら!―――ただしイッキは除く!」

 

「『おお~!!』」

 

ノリが良いのは結構だけど実は俺の事嫌いだったりしないよね?

 

泣くぞ!畜生!!

 

その後家に帰ると、とある人物から一つの連絡が有ったのだった

 

 

 

 

[イッセーside]

 

 

ライザーの眷属とレーティングゲームで再戦する案が出されてアザゼル先生がその日の内にグレモリー家とフェニックス家の両家から了承の意をもぎ取ってから数日

 

俺達オカルト研究部の内でもリアスの眷属だけが部室に集合していた

 

正確には今居るこの場所はオカルト研究部室でも駒王学園でもなく、次元の狭間に駒王学園そっくりに造られたフィールドだ

 

そう、詰まりはあの時行われたレーティングゲームのフィールドを再現してあるのだ

 

この試合があの時の再現も含まれているという、このゲームを取り仕切っている大人たちの遊び心を感じるぜ

 

観客席にはリアスの御両親やレイヴェルの御両親など、まだライザーの公式のレーティングゲーム復帰前という事もあって完全に身内で固めた形となっている。この辺りも当時と一緒だよな

 

違うところと云えばこの場にイッキが居ない事か

 

まぁあの時はまだリアスの眷属も全員揃っていなかったっていうのがイッキがあの時参戦した大きな理由になってるから眷属が全員揃っている今、イッキが俺達の味方に付く理由も無い

 

それに今回の試合は特にリアスの結婚とかサイラオーグさんやソーナ会長との夢を賭けたような重い覚悟の要る戦いではないからな

 

負けるつもりは無いけど、そういう意味では気が楽だぜ

 

「リアス、リアスは今回の戦いを如何見てるんだ?―――あ、戦力差的な意味でさ」

 

「そうね。私達は以前ライザーと戦った時と比べて全員が比べ物にならない程のパワーアップを遂げてるわ。朱乃の雷光、祐斗の2種類の禁手化(バランス・ブレイク)、白音の三又モードに私とアーシアも基礎力が向上しているし、当然、イッセーの紅の鎧もね。そこに以前居なかったゼノヴィアとロスヴァイセにギャスパーも含まれるのだから相当特殊なルールでもないと負ける事は考えにくいでしょうね」

 

はは、改めて聴くとヒデェ戦力アップだよな

 

それでも毎度死にそうな目に遭ってるんだから勘弁してくれって感じだけどよ

 

それにしても特殊なルールか

 

今のところ俺達の参加したレーティングゲームって全部プレーンなルールかそれに近い形のものだから、そっちにも興味は有るんだよな

 

ソーナ会長のところのシトリー眷属とアガレス大公の次期当主のシーグヴァイラさんの眷属はフィールドに設置してあるフラッグを奪い合う試合をしたみたいだし、他にもレース的なものとかサッカーみたいなルールが組み込まれたものとか冥界唯一にして最大のエンタテインメントだけあってレーティングゲームのルールは多種多様だ

 

俺達はまだデビュー前の新人だから公式戦に参加できるようになるにはまだ数年は掛かるらしいけど、今から既に待ち遠しいぜ

 

もっと早くにそういう機会が訪れないものかね?まっ、今は愚痴っても仕方ないか

 

「だけど油断は出来ないわ。ライザーは引きこもりが治ってから眷属との修行に身を入れるようになったみたいなの。以前対ライザー戦の合宿を行った時はライザーの公式戦の映像を見せた事は有ったけど、今の彼らは当時のレイヴェルの抜けた穴を補って余りある実力を手にしていると考えるべきでしょうね。更に今回の試合はレイヴェルが向こうのチームのアドバイザーに就いているから気を抜いたら搦め手で痛手を負わされる事になるわよ」

 

そう、今回レイヴェルはライザーの『僧侶』枠として参戦するのではなく、アドバイザーという立場でライザーの側に身を置いている

 

レイヴェルとしては俺達もライザーも何方も応援したい立場だろうけど今回はライザーのアドバイザーという形に落ち着いたようだ

 

俺達の手の内を知り尽くしているレイヴェルが敵に回る訳だけど、これも大人組からの快諾を得られている。恐らくは戦力差を考慮してライザーの側に軽いハンデを付けた形なんだろうな

 

あの時は俺達はライザーにハンデを付けさせられる側だったと思うと変な気分だ

 

まぁ付けたハンデ(イッキ)が特大の爆弾だった訳だけど・・・

 

「レイヴェルが参戦しないと言うのであれば相手側の眷属は『僧侶』抜きという事か?」

 

「いいえ、如何やら今回のみの助っ人を呼び寄せたみたいよ。と言っても今回の試合は完全に身内同士の戦いだし、恐らくはライザーの二人の兄かフェニックス卿の眷属の誰かを派遣して貰ったんじゃないかしら?」

 

成程ね。向こうも一応フルメンバーな訳だ

 

今のリアスの言い方だとそれが誰なのかは知らないようだけど、頭のキレるレイヴェルがゲームとは言えそういう情報を漏らすような真似はしないか

 

そうこう話していると悪魔の魔力のもっとも高まる深夜零時近くになり、そこに既に懐かしくも感じる校内放送が流れてきた

 

≪皆様、この度、フェニックス家とグレモリー家の試合に置いて、審判役を仰せつかったグレモリー家の使用人、グレイフィアでございます。今回のバトルフィールドはリアス・グレモリー様方の通う駒王学園のレプリカを用意させていただきました≫

 

「良かった。こうしてグレイフィアさんの声を聞けただけでもちょっと安心出来るぜ」

 

サーゼクス様の秘書的な仕事はまだ無理でもこういったゲームの方には顔を出せる訳だよな

 

それをこうして確認出来ただけでも嬉しいぜ

 

≪此度のレーティングゲームでは以前のゲームのルールを基本に置いております。使い魔制限は特に設けていない為、アーシア・アルジェント選手の使い魔である五大龍王の一角、ファーブニルも使用可能となっております≫

 

「マジか!ファーブニルまで使えるって戦力差開き過ぎじゃねぇ!?」

 

いや、今回のゲームでアーシアのパンツを犠牲にしてまでファーブニルを召喚する必要が有るのかと聞かれたら返答に困るんだけどさ

 

≪『兵士』の駒の方は昇格(プロモーション)する際は敵本陣までお越し下さい。注意事項としまして兵藤一誠選手も昇格(プロモーション)する際は敵本陣での使用のみに制限されております≫

 

「これは仕方ないわね。元々以前のルールをリスペクトしているのであればイッセーの何時でも使える特殊な昇格(プロモーション)はゲームのルールに抵触するわ・・・それでなくともレーティングゲームでは反則気味の力だもの」

 

確かにリアスの言う通りだ。サイラオーグさんとの試合で俺がトリアイナや紅の鎧を自由に使用出来たのは彼がこっちの能力を全面的に受け入れると言ってくれたからだ

 

実際のチェスで考えたら俺の特性って試合開始と同時に全ての『兵士』の駒が一手で自由に昇格(プロモーション)出来るようなもんだしな・・・そう考えるとマジで反則だぜ

 

でもまぁ俺の動きに多少の制限は入ったけど向こうはファーブニルの使用を認めているんだから差し引きゼロどころかまだまだこっちが有利とも云える内容だ

 

と云うか何時もポンポンと昇格(プロモーション)してたから忘れがちだったけどこっちが寧ろ普通だよな

 

「しかし、当時を再現しているという事は恐らく向こうのチームは今回もフェニックスの涙を所持していると見ても良いだろうね」

 

「あらあら、うふふ。前回はそれで痛手を負わされてしまったんですものねぇ」

 

あ~、そんな事も有ったな~。フェニックスの強力な再生能力に加えてフェニックスの涙2つ分の回復とかしぶと過ぎだって話だよな

 

≪それでは開始の時刻となりましたので、ゲームスタートです≫

 

グレイフィアさんのその言葉の直後に深夜零時を告げる学園のチャイムが鳴り響いた

 

前回と違って作戦タイムは無いけどこの空間自体には30分程前から入ってるし、ルールも以前とさして変わらないだろうという予想は建てられたので最初の配置は既に話し合っている

 

学園の敷地内に置いて南側には新校舎、北側に旧校舎、そして新旧校舎の間には各種運動に使える施設が揃っている

 

一番東にプールとテニスコート、次にサッカーコートや野球場、新旧校舎の間の丁度中央くらいの位置に体育館で西側に普通の汎用グラウンドだ

 

・・・改めて思うけどこの学園ってマジで広いよな

 

今回の戦いではあまり関係ないと思うけど新校舎に隣接する場所に学生の集会所とかも在るんだぜ?そんなの全部体育館一つで済むだろうに

 

そんな中でテニスコートの方をロスヴァイセさん

 

サッカーや野球場の辺りを朱乃さん

 

中央の体育館を俺とゼノヴィア

 

グラウンドの方を白音ちゃんと木場が担当する事になっている

 

特殊競技場の在る東側の方は範囲が広いが見晴らしも良いので大規模破壊の得意な二人がやって来た敵を蹂躙し、突破力の有る俺とゼノヴィアが最短ルートで新校舎に突入する

 

そうすれば俺も昇格(プロモーション)出来るからな

 

体育館を挟んで西側のグラウンドに感覚の鋭くあらゆる事態にも無難に対応出来る二人が固めている・・・流石に『兵士』の数の少なさは如何しようもないので危険度は兎も角、やや朱乃さん達の居る側の守りが薄いが俺達の本陣である旧校舎の周囲にはギャスパーの闇の魔物を配置する事で本陣の守りを固めている

 

リアスとアーシアとギャスパーの本体は本陣である旧校舎に待機だ

 

「ふふ、レイヴェルが一体どんな手を打って来ているのか、気になるね」

 

ゼノヴィアと一緒に体育館に向かって走っていると並走していたゼノヴィアが楽しそうに溢す

 

「気を付けろよ?鎧を着こめる俺よりはゼノヴィアの方がカウンターを喰らった時はダメージデカいんだからな?」

 

同じパワータイプの力押しだけど初見のカウンターとかだとゼノヴィアの方が危ないんだからさ

 

エクスカリバーの各種能力を使いこなしてテクニックも両立出来るようになれば良いんだけどな

 

ちょくちょく使うようにはなってきてるんだけど今の段階ではまだパワーの方が秀で過ぎてて軽い補助の領域を出ないものだからね

 

ゼノヴィアも「ああ、分かっているさ」と返してくれながらも俺達は体育館の中に侵入する

 

一応窓から素早く潜入したんだけど中で既に待ち構えていたライザーの眷属はこっちの気配に気付いていたらしく声を掛けて来た

 

「コソコソしても無駄ですよ。出ていらっしゃい」

 

完全に俺達の潜んでいる方向に向けて声を掛けて来ている。如何やら当てずっぽうで言ってる訳ではないようだ

 

俺とゼノヴィアは一度顔を見合わせて互いに頷いてから物陰から普通に歩いて出て行った

 

「あ~あ、バレちまったか」

 

「私達も修練を積んでいますし、此方のチームにも多少感覚の鋭い者くらいは居るのですよ」

 

答えてくれたのはチャイナドレスの女の子だ

 

その子以外には棍を持った和風な出で立ちの女の子に大剣を持った女性、チェーンソーという武器として何故それをチョイスしたとツッコみたくなる得物を持ったロリっ子の双子の女の子だ

 

分かっちゃいたけど基本可愛い女の子しか居ねぇ!

 

それにしても結構中央に戦力を投入してきたな・・・一応駒価値の合計数値では互いに11だからイーブンではあるけどさ

 

考えてると向こうのチャイナ服の子が代表として自己紹介し始めてくれた

 

「私はライザー様の『戦車』、雪蘭(シュエラン)。こっちの大剣を持ってるのが『騎士』のシーリス、残りの三人は全員『兵士』で棍を持ってるのがミラ。双子がイルとネルよ」

 

一応以前ライザーと戦う時に最低限の情報と顔写真とかは見ていたから役割と名前は知っているんだよね。まぁそれは向こうも同じだけど初対面なら挨拶は大事か

 

因みにチェーンソーを持った体操服姿の双子は自己紹介時に『イルです!』『ネルです!』と手を挙げて答えてくれた・・・うん。ぶっちゃけ見た目じゃほぼ判らないから有難い

 

一応違いを言えば髪を俺達から見て右側で結んでるのがイルで左側で結んでいるのがネルのようだ

 

「『兵士』の兵藤一誠だ」

 

「『騎士』のゼノヴィアだ。宜しく頼む」

 

最低限の礼儀として俺達も名乗り返したらそれぞれが得物や拳を構えて戦闘態勢に移る

 

俺も素早く鎧を着こんで拳を構えた

 

如何やら俺の相手は雪蘭(シュエラン)って子とミラって子の打撃タイプらしい

 

ゼノヴィアの方はゼノヴィア含めて全員が大剣タイプだな・・・チェーンソーを大剣に分類して良いのかは分からないけどな

 

ゼノヴィアもエクス・デュランダルから破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)を分離させて二刀流で迎え撃つ気のようだ

 

おっと、戦いの前にちゃんとリアスに連絡を入れないとな

 

「こちら体育館。俺とゼノヴィアは相手の『戦車』と『騎士』の各一名及び『兵士』三名と接敵。戦闘に入ります」

 

≪分かったわ。祐斗達の方はどうかしら?≫

 

≪こちらも敵と接触しました。『戦車』と『騎士』と『僧侶』が各一名に『兵士』に双子の猫又が相手です。『僧侶』は元々の眷属の方ですね≫

 

確か『戦車』の人がイザベラって名前で顔の半分が仮面に隠されていて『騎士』がライトアーマーを着た剣士のカーラマイン。『僧侶』が十二単を着た美南風(みはえ)だったかな?・・・戦場で十二単って絶対に動きづらいと思うんだけど、ライザーの趣味優先なんだろうな

 

『兵士』の二人はまた双子で猫又のニィとリィだったな

 

こっちはイルとネルと違って髪の毛の色がニィが水色でリィが赤色と違いが分かり易い

 

猫又と言っても白音ちゃんや黒歌さんとは種族が違うらしい

 

二人の種族は猫魈(ねこしょう)だからね

 

ただこの二人って映像を見る限り猫耳は付いてるけど猫尻尾が確認出来なかったんだよな・・・マル尻尾タイプか?

 

是非ともそのスカートの中身を確認させてもらいたいもんだぜ!

 

「・・・突然何をニヤケだしているのですか?」

 

おっと、顔に出ちまってたかな

 

「イッセーは隙あらば思考が卑猥な方向に向く天才だぞ。きっと試合に関係ないイヤらしい想像を働かせていたに違いない」

 

「違いますぅぅぅ!俺は知的好奇心に基づき、この世の神秘(美少女のスカートの中)に想いを馳せていただけですぅぅ!」

 

イッキだってオーフィスが猫耳生やした時に尻尾の有無をあんなに気にしてたじゃないか!

 

少し横道に逸れてしまったがそうなると朱乃さんとロスヴァイセさんの方には消去法で相手の炎と風の魔力で爆炎を生み出すのが得意な『女王』のユーベルーナさんと助っ人の『僧侶』が向かっているのかな?残る『兵士』は踊り子的な衣装のシュリヤーとミニスカメイド服のマリオンとビュレントだったはずだけど、朱乃さん達の方に行ってるのか、それとも状況を見て別動隊として動くのかのどっちかってところか

 

そんな風に戦況を予想していると朱乃さんからの切羽詰まった様子の通信が耳に付けた魔力のインカムに響いた

 

≪此方朱乃、相手の『女王』と助っ人の『僧侶』が現れました・・・助っ人に現れたのは、黒歌さんですわ!≫

 

「ぬわあぁぁぁにぃぃぃぃ!?」

 

え!?黒歌さんがライザーチームの助っ人!?マジで!?あの人魔王クラスだぞ!

 

いや!確かにレイヴェルが助っ人を頼める人ではあるよな!

 

イッキと同じ家に住んでる訳だし、黒歌さん自身も『僧侶』の駒で転生したらしいから役割的にもピッタリだ。何よりあの人はイタズラ好きな性格してるからドッキリで参戦しても可笑しくない!

 

ヤバい!プレーンなルールだし、ライザーには悪いけどゼノヴィアを諫めるような事を言いつつ内心結構楽勝なんじゃないかって思ってた!

 

特殊能力抜きの素の実力では仲間内ではイッキの次に強いんだぞあの人!

 

『邪人モード』のイッキ相手でも勝率3割はもぎ取れる人だしな!

 

※実際はイッキのリミッター解除技をほぼ習得して勝率4割程度

 

焦る俺だったがそこにリアスの声が聞こえてきた

 

≪皆、聞きなさい。確かに予想外の助っ人だったけどレーティングゲームはあくまでも『王』を先に取った方の勝ちよ。朱乃とロスヴァイセはギャスパーの闇の魔物を増援に送るから防御に徹して、敵の『女王』と黒歌を足止めして―――他の皆は相対している敵を素早く排除したらライザーを討ち取りに行きなさい。ただしゼノヴィアだけは目の前の敵の排除後は朱乃達の援護に向かいなさい・・・正直黒歌を討ち取るのは難しいでしょうからコレは時間との勝負よ。グランドと体育館の敵が片付いたら私も新校舎に向かうわ。1秒でも早くライザーを倒すわよ≫

 

≪『了解!』≫

 

全員の声が重なる

 

流石はリアスだ。不測の事態でも冷静に頭を回せるんだからな

 

そうだ。少し傲慢な考えな気もするが今の俺達にとって強敵と云えるのは黒歌さんとライザーに後は精々相手の『女王』くらいのものだろう

 

多少強引でも速攻で攻めていくべきだ

 

焦る俺達に対する何かしらのカウンターは想定するべきだけど、ここは押し通らせて貰うぜ!

 

何より相手は可愛い子ちゃん!ここは久しぶりにあの技を使う時!

 

俺は赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)で強化された身体能力で高速で彼女達の傍を通り過ぎ様にタッチしていく

 

「ふっ、これで条件は整った。『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』」

 

俺が指を打ち鳴らすと彼女達の着ていた服が粉々にはじけ飛ぶ!

 

突然裸になれば男女問わず戦意を維持するのは難しいからな

 

最低な技とも言われてるけど戦術的に見ても実は最高クラスの技なんだよ!

 

しかし彼女達は服が粉々になって一瞬その綺麗な肌を覗かせたかと思えば全身を炎の魔力のようなものが覆うとまた新たに服を着た状態で現れてしまった

 

「ふん。やはりその破廉恥な技を使ってきましたね。しかし無駄ですよ。前回の戦いでその技を喰らったレイヴェル様にそれの対策だけはこの日までに徹底的に仕込まれましたからね。魔力の扱いが得意な者も苦手な者もこの早着替えの魔力を扱えない者は今のフェニックス眷属に居ません!」

 

「なん・・・だと・・・?」

 

俺の『洋服崩壊(ドレス・ブレイク)』にそんな対策を?流石はレイヴェル。以前この技を喰らっただけの事はある

 

「因みに着替えは個々人で100着用意しました。貴方の実力ならば全てを破壊しきる事も可能でしょう・・・しかし、今の貴方方は呑気に戦う暇が有るのですか?―――そう!貴方は自らの性欲に蓋をして至極まっとうに私達と戦うしか道は無いのです!」

 

説明してくれた雪蘭(シュエラン)にミラという子も追従する

 

「おっぱいドラゴンのスケベを封じれば戦いに対するモチベーションが下がります。感情が重要なファクターである神器を最大武器としている貴方ならこれで100%の力を出しにくくなる―――それだけで勝てるとは思いませんが、此方だって最大限時間稼ぎをさせて貰います!後、実はファンです!試合が終わったらサイン下さい!」

 

「あっ、はい」

 

そっか、この子俺のファンなのね

 

最後の一言で気が抜けそうになるのを気力で持ち直して改めて拳を握り突貫する

 

だけどこの子達は俺の攻撃をなんとかといった感じだが防御して反撃までしてきた

 

嘘だろ!?以前見たライザーの試合映像から推し量って十分に気絶か戦闘不能に追い込める威力で攻撃したんだぞ!勿論最近ライザー達も修行し始めた事も考慮に入れての攻撃だったのに!

 

反撃の威力も重かった。あの『兵士』のミラって子ですら間違いなく上級悪魔程度の力が有ったぞ。衝撃がちゃんと鎧の内部にまで響いて来たからな

 

チラリとゼノヴィアの方に視線を向けると向こうも同じような事になっているようだ

 

大剣は良いとしてチェーンソーなんてネタ武器なのに纏ってるオーラは一級品だ

 

俺達グレモリー眷属の成長も大概だと言われてるけど、それは修行以外にも頭が可笑しいくらいに厳しい実戦を潜り抜けてきたものがあってこそだ

 

ライザーの眷属は割と最近修行を始めたばかりで全員が上級悪魔クラスの力を身に付けたというのか・・・いや、在り得ない。流石に何かカラクリが有るはずだ

 

「ふふ、不思議かしら?でもこの場でネタばらしなんてして上げないわよ!」

 

このセリフ。やっぱり何か有るのか。それも当然不正では無い手段で

 

俺は迫りくる攻撃を腕で受け止めて素早く掌を翻し、雪蘭(シュエラン)の蹴りを放ってきた足を捕まえる

 

「この!」

 

その隙にミラが棍棒の突き技を放ってくるけどその攻撃を無視して雪蘭(シュエラン)にカウンターを決めてリザインさせた

 

隙を晒した脇腹辺りに棍棒が突き刺さったから体育館の壁際まで押しやられたし、鎧越しでも一瞬息が詰まったけどな

 

「ッ!なんて強引なカウンター」

 

「悪いな。こちとら生粋のパワータイプでよ。流石に複数の攻撃を上手く捌ける自信は無くてさ」

 

そう言うと気を取り直したミラが再び攻撃してくるがその大上段からの打ち下ろしを咄嗟に半歩前に出て棍の持ち手の部分を掌底で突き上げる事で強制的に体勢を崩す

 

「でも、これでもイッキ相手に中学時代からケンカしてたから一対一ならそこそこにはカウンター戦法も使えたりするんだよ」

 

両腕が浮き上がってガラ空きになった腹に向かってまた掌底を繰り出す事で吹き飛ばし、彼女もリザインの光に消えて行った

 

≪ライザー・フェニックス様の『戦車』一名、『兵士』一名。リタイア≫

 

良し!後は素早くゼノヴィアに加勢して敵を倒すか

 

そう思ってそちらを向くと丁度ゼノヴィアの相手も光に消えて行くところだった

 

≪ライザー・フェニックス様の『戦車』一名、『騎士』二名、『僧侶』一名、『兵士』四名、。リタイア≫

 

おおう、一気にリタイアアナウンスが響いたな

 

如何やら白音ちゃんと木場の方もほぼ同時に片付いたみたいだけど、同じくらいの時間だったって事は向こうも強化されてたのかな?

 

まぁいい。考えるのは後だ

 

「ではイッセー。私は副部長たちの加勢に向かう」

 

「ああ!ライザーの方は任せとけ!」

 

ゼノヴィアがリアスの指示通りに体育館から出て悪魔の翼で上空に飛び立っていった

 

俺も直ぐに新校舎に向かわないとな

 

 

 

 

 

新校舎の前に辿り着くと丁度白音ちゃんと木場も到着したところだった

 

「リアス。今から俺と白音ちゃんと木場は新校舎に侵入します」

 

≪了解よ。こっちはライザーの残る『兵士』3人が旧校舎の近くまで攻め入っていたから迎撃してから私達もそっちに向かうわ≫

 

!!姿を消してた『兵士』は何時の間にか何処かの戦場を通り抜けてたって事か

 

「恐らく、黒歌姉様です。あの人なら戦いながら近くに居る味方の姿と気配を幻術で誤魔化す事は可能だと思うので」

 

そっか、それで戦場を抜けて旧校舎の近くまで接近したんだな

 

ギャスパーの闇の魔物も黒歌さんの方に力を注いでいるからもしかしたら本当に抜けられてたかも知れないな

 

「敵の『王』の気配は屋上に在るようです。飛んで行きましょう」

 

成程、ライザー・・・さんは屋上か

 

≪ライザー・フェニックス様の『兵士』三名、リタイア≫

 

良し!リアスたちの方も片が付いたみたいだな

 

「行こう!」

 

俺のセリフに二人とも頷いて悪魔の翼を広げる・・・俺はドラゴンの翼だけどな

 

そうして屋上に俺達が辿り着くと当然ながらライザーさんが居たがもう一人、此処には居るはずの無い人物が待っていた

 

「よぉ、待っていたぞ。グレモリー眷属の諸君!」

 

腕組みして仁王立ちしていた俺の親友のイッキだった

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!?イッキ!?何で!?」

 

あんまりの事にあんぐりと口を開けてしまう俺だった

 

他の二人も叫びこそしてないもののポカンと口を開けている

 

「何でもなにも無いだろう。俺こそが今回のフェニックス眷属の『僧侶』枠の助っ人だよ」

 

「いやいやいやいや!だって『僧侶』の助っ人は黒歌さんだって・・・」

 

「フェニックス眷属の誰か一人でもそれを肯定したか?方法は至極単純だ。俺が『僧侶』枠として参戦する。そして黒歌は俺の使い魔だ!」

 

そう来るか~!!確かに、幾ら以前の試合に沿ってると言っても龍王であるファーブニルの使用を認めるってのは可笑しいとは思ってたけどこの為の布石だっただろ、絶対に!

 

後このイタズラには間違いなくあの堕天使の元親玉のラスボス先生が絡んでいる!

 

100%今観客席で高笑いしてるぞ!

 

それに乗っかるイッキと黒歌さんも大概だけどな!

 

「つぅかイッキ!お前はオカルト研究部の味方しろよ!」

 

「良いじゃないか。今回の試合は遊びの意味合いが強いし、何より俺は将来レイヴェルと結婚するんだからライザーとは義理の兄弟にもなるんだ。どっちの味方をしても可笑しくないだろう?」

 

コイツ!サラッと美少女との将来確定発言してやがる!もうそれプロポーズに近くね?

 

「イッキ先輩は私や黒歌姉様の事も嫁に貰うと宣言してくれてますので今更です」

 

相変わらず心を読んでくるね。白音ちゃん!

 

そうですか!イッキの周りの女の子達には全員プロポーズ済みですか!

 

悔しくなんてないんだからな!

 

「イッセー、先ずはその涙を拭きなさい」

 

ちょっと視界が滲んでしまっていたが後ろからリアスの声が聞こえてきた

 

振り向くとリアスにアーシアに闇の魔物の姿になったギャスパーが居る

 

如何やら追い付いて来たようだ

 

「うぅぅ・・・リアス。状況は見ての通りです」

 

泣きながらも報告を入れるとリアスも苦笑気味だ

 

「ええ、分かっているわ。イッセーと白音はイッキを抑えて頂戴。私の眷属のツートップである貴方達が一番適任だわ。残りのメンバーでライザーを倒すわよ。アーシアもファーブニルを召喚して頂戴・・・最後に白音に一番重要な任務を言い渡すわ」

 

リアスは一拍置いてから白音ちゃんを強い眼差しで見つめてその命を下す

 

「明日、女子会を開くから黒歌とレイヴェルも引っ張ってでも連れて来る事!」

 

・・・あの、リアス?それ絶対に恋バナしたいだけですよね?今の貴女はとてもキラキラした乙女な瞳をしていますよ?

 

「―――はい・・・迂闊でした

 

うん。確かに迂闊だったね。多分根掘り葉掘り聞かれるんだろうな

 

「兎に角やる事は変わらないわ。聖剣を持つ祐斗を中心に全力で叩き潰すわよ!」

 

「はっ、俺様も随分と甘く見られたものだなぁ。いかに貴様らが半年程の間に成長していたとしても俺様も修行を始めてからサイラオーグを招いて殴り合いをしているのだ。タフネスは以前の俺の比では無いぞ」

 

修行にサイラオーグさんとの殴り合い!?あんな気迫を拳に固めて放って来るような人と殴り合いだなんて例え不死身でも並みの精神力じゃ持たないぞ!

 

以前のライザーは典型的なイヤな貴族のボンボンって感じだったけど本気で認識を改めないとな

 

「白音ちゃん。俺達も全力でいこう!イッキを倒せれば実質黒歌さんも戦闘不能だ。折角だから最高の大金星を挙げてやろうぜ」

 

「はい。覚悟して下さいイッキ先輩。ゲームでも・・・いえ、ゲームだからこそ遠慮なしに本気で倒させて貰います!」

 

「フハハハハ!来るがいい。おっぱいドラゴンにヘルキャットよ!このオール・エヴィルが相手をしてやろう!我が剣の錆落とし程度には役立ってくれよ?」

 

ッチ!ノリノリじゃねぇかイッキの奴も!

 

なら俺だっておっぱいドラゴンとして負けてられねぇな!

 

俺と白音ちゃんは同時にイッキに向かって駆けだして行った

 

 

[イッセーside out]

 

 

 

イッセーと白音が俺に向かって突っ込んで来る

 

新校舎まで侵入している為イッセーも最初から紅の鎧状態だ

 

「イッキィィィ!!この際だから言わせて貰うぜ!何でお前の方が着実且つ堅実にハーレム王への道を歩んで行ってるんだよおぉぉぉ!!俺なんて進展が有りそうになると毎回天の采配とも思えるようなタイミングで邪魔が入るんだぞ!」

 

「知るかあぁぁぁ!そんなのお前が押しが弱いだけじゃねぇか!それに女子の比率で云えばお前の方が上って言うかこの場ではライザーがぶっちぎりでトップ何だからそっちに文句を垂れろ!」

 

俺は4人でイッセーはロスヴァイセさんも入れて6人でライザーは14人だぞ!

 

俺の3倍、イッセーの2倍でも足りねぇんだぞ!

 

馬鹿な事を言ってる間にも射程圏に入る

 

何時もの愚直なパンチを受け流そうとした辺りで一瞬イッセーの鎧の宝玉が青く光ったのを見て受け流しから回避に移行して大きく距離を取った

 

体勢を整えてそちらを見ればイッセーの周囲に白い小型のドラゴンが飛び回っている

 

パンチを受け流してたらその隙に宝玉から飛び出したドラゴンにぶつかって『半減』の能力を使われていただろうな

 

「へ!どうよ。俺の新技『白龍皇の(ディバイディング・)妖精達(ワイバーン・フェアリー)』・・・歴代白龍皇の思念達と共に認め合うライバルになった事で解放された力だ!」

 

「・・・あの二大派閥(胸か尻か)会議ってお前も出席してるの?」

 

「・・・時々歴代の先輩が夢の中に出て来て強制参加させられる」

 

ああ、そうですか・・・

 

「夢の中までイヤらしいんですね。イッセー先輩は」

 

まぁイッセーだしね

 

でも実際飛び回る半減能力とか厄介極まりないんだよな

 

イッセーがドラゴンのオーラを、白音が邪気を祓う浄化の炎を身に纏って接近戦を仕掛けながら白い火車と白い小型ドラゴンが俺達の周囲を飛び回る

 

全方位から軌道を変えながら迫りくる攻撃は気配感知で戦える俺みたいなタイプじゃないと接近戦では直ぐに被弾しそうだ

 

なによりパンチやキックに魔力弾と火車は防げるけど小型ドラゴンだけは完全回避しないといけないのが辛過ぎるんだよな

 

さっきから何度も強引に体を捻った回避とかしてるから地味に体への負担がキツイ

 

こっちも牽制に闘気弾や狐火を放つけどそれは『半減』の能力で威力が消されるし、更に厄介な特性が一つ

 

『Reflect!』 『Reflect!』 『Reflect!』 『Reflect!』

 

そう、『半減』だけでなく生前のアルビオンが使っていたらしい『反射』の力も加わっているから通り過ぎた攻撃や下手に放ったこっちの攻撃すらも俺に返って来る

 

この能力に目覚めてイッセーの奴テクニカル方面の力が伸びすぎだろう

 

白音も白音でリミッター解除技を教えてパンチやキックの威力が飛躍的に上昇しているし、要所要所で知覚加速も使ってるから俺でも気を抜けば関節技(サブミッション)とか掛けられそうだ

 

「まだまだだ!白音ちゃん!浄化の炎を放ってくれ!」

 

「よく分かりませんが、分かりました」

 

イッセーに促されて白音が俺に白炎を放つとその進路上にドラゴン達が縦に整列し、その色が白から赤に変わる

 

『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』『Boost!!』

 

白炎がドラゴンを通過する度に『倍化』の力が働いて極大の炎に成長していく

 

「狐火・怨火(えんか)!!」

 

邪気をタップリと含ませた炎で相殺するとゲームフィールドの空が全く真逆の性質の白と黒の炎で彩られた

 

シャルバとかあの辺りが放てるレベル程度には力を込めたんだけどな

 

「如何だ!味方自身を強化するんじゃなくて味方の放った攻撃の強化だから肉体に掛かる負担は実質ゼロになるって寸法だ!」

 

面倒クセェェェ!イッセーのこの能力は知ってたけど実際相手にすると果てしなく面倒クセェ!

 

でも俺にとって何よりも面倒なのはやっぱり『半減』の力だ!

 

触れたら終了!初めてヴァーリと出会った時の事を思い出すな

 

あの時とかお互いに決定打を打てなくて数時間ぶっ通しで戦ってたんだから

 

「いけます!今のイッセー先輩の力が有れば【一刀修羅】無しのイッキ先輩なら十分に戦えます・・・使われたら手の内知られ尽くしてる私達は1分以内に全滅しそうですが・・・」

 

如何だろ?逃げに徹されると微妙だよ、1分ってさ

 

まぁゲームに勝つ事だけを考えるならリアス部長を一点狙いすれば良いんだけどね

 

さて、それは置いておくとして如何戦おうか

 

イッセーの新技ってある意味フィールドそのものに自分及び味方の強化と敵の弱体化の能力が飛び交ってるようなもんだよな

 

ちょっと発動条件は違うけど何処ぞの赤セイバーの黄金劇場を相手にしてるようなもんだ

 

・・・薔薇の皇帝スゲェ

 

薔薇の皇帝は二天龍の因子を持っていた説・・・無いな

 

ともあれ先ずはあの『半減』を破る手立てを・・・アレ?そもそもそんなもの必要ないか?

 

良し!一丁試してみますかね

 

思いついたら即実行とばかりに俺はイッセーに向かって飛びだしていく

 

そして俺は迫りくる白いドラゴンを無視(・・)して突っ込んだ

 

『Divide!』『Divide!』『Divide!』

 

三匹程体に当たって『半減』の能力が発動するが、ほんの僅かになら力が減ったが到底『半減』と呼べるような弱体化はしなかった

 

「なんだって!?」

 

驚くイッセーを余所にその腹部を蹴りつけて鎧を破壊し、グラウンドに叩きつける

 

「ッグ、げほっ、なんで!」

 

「いやぁ、考えてみれば白龍皇の『半減』の力って神の力を持つ者には上手く発動しないってのを思い出してさ。【神性】って自分に掛かるデバフ効果の有るものをある程度無効化する特性が有るんだよ。本家であるヴァーリもプルート相手に『空間の半減』って間接的に能力使ってたろ?」

 

ヴァーリで無理ならイッセーでも無理だろう

 

和平会談の時にギャスパーの時間停止を味方に【神性】を付与して防いだりとかもしてたし、あの時より【神性】のランクは上昇してるからな

 

≪ライザー・フェニックス様の『女王』、リタイア≫

 

あ、ユーベルーナさんがやられたか

 

「そっか!これでそっちは残り3人だな。イッキが俺達を倒す前にライザーがやられればこっちの勝ちだし、もうリタイアアナウンスが流れる頃じゃないのか?」

 

確かに、実力的に結構袋叩きに遭ってるであろうライザーは普通ならもう再生する体力も使い果たしてリタイアしていても可笑しくは無い

 

そう、『普通なら』ね

 

「そう言えばイッセーも白音もライザーの眷属が意外と強くて驚いたりしなかったか?」

 

「・・・それが如何したんだよ?」

 

「アレのカラクリだけどな。ライザーの眷属の皆には俺の使い魔のイヅナを憑依させてたんだよ―――イヅナは単純なオーラ量だけならギリギリ上級悪魔クラス。そこにライザーの眷属本人の力が加算される訳だ。いきなりパワーアップしたオーラを十全に扱える訳じゃなくても単純な出力は中々だっただろう?そしてそれは当然ライザーにも同じ事が言える。イヅナは溜め込めるオーラの最大値はかなりのものだから今はライザーに常にオーラを供給し続けて貰ってるんだ。フェニックスの再生には体力が要るけど、消耗するオーラの大部分をイヅナが肩代わりする事でライザーはまだまだ粘れるぞ?」

 

『王』がやられちゃ元も子も無いのでこの『ライザーサンドバッグ化計画』で頑張って貰うって寸法だ。それに・・・

 

≪リアス・グレモリー様の『女王』一名、『戦車』一名、『騎士』一名リタイア≫

 

「ライザーの眷属が全員やられたら本気を出す予定でな。こっから先は遊びは無しだ」

 

と言っても殆ど本気だったけどな。精々さっきイッセーを蹴り飛ばしたのを本気なら『第一秘剣・犀撃』の応用で蹴ってたってくらいだけど

 

「・・・仕方ありません。それなら私も最後の切り札を切らせて貰います」

 

白音がそう言うと翼を広げてライザーとリアス部長達が戦ってる場所に飛んで行った

 

俺とイッセーもそれを追う形となりそこに黒歌も合流する

 

「っく!もう少しだって云うのに黒歌も合流するなんて!」

 

リアス部長が悔しそうにしてるけどライザーは・・・もはやパンツ一丁だな

 

衣服を再生してる余裕も無いらしい

 

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・ふ、ふははは、如何やら俺様の粘り勝ちのようだなぁ!」

 

ライザーが既に勝ち誇った顔をしているがリアス部長の前に白音が降り立った

 

「大丈夫です。相手が反則ギリギリの手を打ってくるなら私達もそうするだけです。部長、許可を願います。この一手で形勢を逆転させます」

 

「何か策が有るのね?分かったわ。貴女の策略を魅せて頂戴」

 

一体何をするつもりなのかと身構えると白音は自身の爪で掌を軽く切った

 

「使い魔召喚。イッキ先輩!」

 

白音が地面に手を叩きつけると次の瞬間、俺は白音の目の前に移動していた

 

「『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』」

 

「イッキ先輩が私の使い魔として召喚された以上、黒歌姉様も私達の味方です」

 

「あ~、まぁそういう事になるかにゃ?」

 

「えっと・・・ライザー・・・義兄さん・・・?」

 

「まだお前に義兄(あに)と呼ばれるのは抵抗が有るのだが・・・なんだ?」

 

「諦めて?」

 

数秒後、ライザーの絶叫とリタイアアナウンスがフィールドに響き渡った

 

 

 

 

 

 

「いや~、やっぱりその時々に合わせたちゃんとしたルールを設けないとダメだな」

 

後日の部室でアザゼル先生が頭を掻いて笑っている

 

「ええ、全くね。あんな最後になるとは思わなかったわ・・・それにしても白音の最後の逆転だけど、勝利の為なら何でも利用する辺り、かなりイッキの影響を受けてない?」

 

ノーコメントでお願いします

 

「でもまぁ見てる側としちゃ逆転に次ぐ逆転って感じで面白かったぜ?」

 

「そちらに演出されたもので無ければ素直にその言葉も受け取れるのにね」

 

「そう言うな。実質イッキと黒歌を相手にかなり対等に戦えたじゃねぇか。半年前のお前らじゃ片手であしらわれて終わりだったぜ?魔王級二人とフェニックス眷属を相手取ってあそこまで善戦出来るんだから今のお前らはレーティングゲームのトップ10とまではいかなくともトップ20程度には割り込めるだろうさ」

 

経験不足でハメ手で負ける事は有っても実力的にはそんなもんなのかな

 

「っく!だとしても私達は黒歌一人に負けてしまったのだ。もっと修行を積まないとな!」

 

「ええ、結局グレモリー眷属では私達だけリタイアしてしまいましたからね。せめて足止めの任はキチンと果たしたかったです」

 

「あらあら、コレから暫くはいつも以上に修行に身が入りそうですわ」

 

リタイアした3人は残念がりながらも気合を入れているな

 

「うふふ、フェニックスの不死は体力だけでなく気力も大事ですからね。私としては最後まで諦めなかったお兄様の成長を感じられる試合でしたわ」

 

レイヴェル的には身内の成長を実感できる試合になったみたいだな

 

「・・・しかしアレだな。イッキがレーティングゲームに参加すると尽く台無しになるな」

 

「誘ってきたのはアザゼル先生ですよね!」

 

「まっ、イッキは人間なんだから『悪魔の』レーティングゲームの公式戦に出たりする事も無いだろう」

 

「そっか、そりゃそうですよね」

 

「「アッハッハッハッハッハ!」」

 

イッセーがアザゼル先生と一緒に笑ってるけど『悪魔の』って付けるのは意図したものなんですか?う~む。もしも『例の大会』が開かれるなら俺もちょっと面白いチームを組んでみたいかな?

 

今から考えておきますか!

 

イッキを『王』としたチーム名・○○○○○○○が大会を蹂躙する時は近い




前回の後書きに乗せようとしていたサタンレンジャーが見学に来るのが一日ズレていたらのifのアウロス学園

グレ&ラー「学園を壊しに来たぞ」
アポプス「有間一輝の心臓を止めに来た」

サタンレッド「ピンチのようだな。『D×D』諸君!我らは通りすがりの魔王戦隊!冥界の平和を守るのは我らも同じ!皆、一斉攻撃だ!滅殺の魔弾(ルイン・ザ・エクスティンクト)!」

サタンブルー「覇軍の方程式(カンカラー・フォーミュラ)、業の式!」

サタンピンク「零と雫の霧雪(セルシウス・クロス・トリガー)!」

サタングリーン「アスモデウス的な攻撃~!」

サタンイエロー「えーと、イエローショットで」

グレ&ラー&アポ「「「ぎゃああああ!!」」」

アポ「っく!まだだ!まだやられん!」

サタンレッド「ぬっ!アレに耐えるとは!皆、第二撃だ!滅殺の魔弾(ルイン・ザ・エクスティンクト)!」

サタンブルー「覇軍の方程式(カンカラー・フォーミュラ)、業の式!」

サタンピンク「零と雫の霧雪(セルシウス・クロス・トリガー)!」

サタングリーン「アスモデウス的な攻撃~!」

サタンイエロー「い、イエローショット」

イッキ「第七秘剣・天照!」

アポ「ぎゃああああ!!」

サタンレッド「やったな皆!これでこの学園の平和は守られた」

ユーグリット「おやおや、邪龍達の気配が突然消えたからなにかと思って来てみれば・・・」

サタンイエロー「イエローショット!イエローショット!イエローショット!イエローショット!イエローショット!イエローショット!イエローショット!イエローショット!イエローショット!イエローショット!イエローショット!イエローショット!」

こうしてチーム『D×D』は初勝利を治めたのだった

・・・サジが成長できないのでやめましたww


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番外編 家族と、お話です?

丁度一年前の11月14日に初投稿なのに気付いて急遽今日中に書き上げました(間に合ったー!!)

あとついでに、文字数も総計100万字ごえですねww


ライザーとの模擬戦も終わり冬休みまで片手で数えられる程になった頃、今は部室でイッセーと軽く将棋を指していた

 

厳しい特訓の日々だからこそ、こういった遊び心も重要だと思う

 

とは言え流石に真剣勝負という訳でもなく、結構早指しで雑談しながらではあるがな

 

適当な雑談を繰り広げているとイッセーが少し固いトーンに変わる

 

「なぁイッキ・・・ちょっと真面目な話なんだけどさ・・・」

 

「ん?なんだよ?」

 

「俺達って寿命が一万年くらいは有る訳だろ?それに俺はもう種族からして悪魔に変質しちまっている・・・それ自体は別に自分で選んだ事でもあるから良いんだけどさ。松田や元浜なんかの友達とか、特に俺達の両親みたいな家族にはその辺り、如何接していくべきなのかなってさ・・・悪魔は成人すれば見た目は魔力で変化させられるみたいだけど、両親を一生騙していくって考えると気が引けるんだよな。だからと言って今の俺達の正体を打ち明けたら危険な戦いに身を投じてるって事で心配させちまうだろうし・・・いや、そもそも『悪魔に為った息子』を両親が受け入れてくれるのかなって思うとね」

 

少しどころかガチで真面目な話題ぶっこんで来たな

 

『悪魔に為った息子』ね・・・まぁ確かに一般人からしたら『悪魔』は基本悪いイメージで凝り固まってるからな

 

話も聞かないで一方的に拒絶!・・・とかも普通に考えたらあり得る訳だ

 

年の瀬が近づいてるからか将来的な事を漠然と考えるようになったのかな?

 

「―――そうだな。これはあくまでも俺の場合だけど、クリフォトの一件が片付いたなら両親に打ち明けても良いとは思ってるぞ」

 

そう言うと意外そうな顔を向けられたので続きを話す

 

「先ず、仕事が危険だから両親に心配させたくないって言うのは何も俺達『D×D』だけに限った話じゃない。日本の自衛隊・・・だとちょっとイメージしにくいかも知れないけど彼らだって有事の際には命懸けで戦う職業だ。海外の軍隊を含めて、それとどれ程違いがある?」

 

普通に銃が普及している国とかなら警察だって軍隊ばりに命懸けだろう

 

勿論多かれ少なかれ心配させてしまうのは心苦しいものが有るが、それを理由にそれらの職業を無くして良い訳でもない

 

それにクリフォトが居なくなればテロ自体は無くならないにしても強大な敵がそうポンポン出て来る訳でも無ければ、俺達だってそんな敵に無策で突っ込む訳でも無いだろう

 

「それにな。俺達が裏側の存在だって事は両親には話しても話さなくてもその危険度に然程違いは無いんだ。俺達『D×D』の家族の一般人・・・テロリストからしたら十分に標的としての優先順位は高い位置に在るはずだ。俺達の家もそうだけど、両親の仕事先とかでも三大勢力のエージェントが密かに護衛に就いているんだぞ?」

 

俺達は有事の際は前線で体張るけど、裏方の人達の日々の献身を忘れんな

 

「ああ・・・絶対に忘れないようにするぜ」

 

「最後に両親に打ち明ける理由だけど、これは完全に俺のエゴが含まれてる・・・俺は将来黒歌の事もレイヴェルの事も白音の事も九重の事も嫁に貰う訳だけど、その事を暗示で誤魔化したりしないでキチンと伝えたいし、祝って欲しい・・・日本じゃ一夫多妻制は認められてないから普通に『全員嫁にします!』ってのは流石に無理だろうからな」

 

八坂さんやレイヴェルの両親は祝ってくれるだろう。でも折角ならそこにちゃんと自分の両親も加えたいというただの我が儘ってやつだ

 

俺が苦笑しながらそう言うと部室内の皆の視線が突き刺さる

 

え・・・なに?

 

「そう・・・これがプロポーズ済みの男性の放つパワーなのね」

 

「っく!不覚にもちょっとカッコイイとか思っちまった!」

 

「あらあら、うふふ。白音ちゃんたちも本当に愛されていますわよねぇ」

 

「よし、イッセー!早速この場でリアス部長にプロポーズしろ!そうすればイッセーも覚悟が決まって私との子作りをそのまま受け入れられるようになるだろう!」

 

そう云えば他の皆の居る場所でこの手の発言をした事は無かったっけ?

 

自覚してから少し顔に熱が昇ったので誤魔化す為にテーブルに置いてあった朱乃先輩の淹れてくれた珈琲に口を付ける・・・うん。相変わらず美味しい

 

すると背後から"ふにょん"と極上の柔らかに頭が包まれた

 

「うっふふ~ん♪そんな事言われたら襲いたくなっちゃうにゃん♪」

 

「・・・でも、そうですね。イッキ先輩の御両親の事を気兼ねなくお義父さん、お義母さんと呼べたら素敵な事だとは思います」

 

「白音の言う通りですわね。隠し事が有る事は仕方ないにしても、これに関しては受け入れて頂ければそれが一番ではあります・・・問題はイッセーさんの不安と同じように私達が『悪魔』であるという点ですわね」

 

レイヴェルの言葉に白音もちょっとシュンとなってしまったな

 

ていうかよく見れば他の女性陣も心なしかさっきより表情が曇ってる

 

「そうだな。イッセー。何時か自分の口からばらすのも一生黙っているのも何方も一長一短だ。明確にどっちが正解なんて事は無い。ここで大事なのは心を定める事だと思うぞ?」

 

「心をって如何いう意味だよ?」

 

「俺は黒歌達の事も両親の事も大事だし、大切にしたい。でも仮にだけど両親から『悪魔』や『裏』についての理解が得られなかったとして・・・最終的に俺は黒歌達を選ぶ」

 

「!!」

 

目を見開いているイッセーを余所にそのまま続ける

 

「勿論。大団円になるのが一番だし、一度拒絶された程度なら何度だって説得もするさ。それに有事の際に両親の命を守る事も当然だ・・・でも、『幸せにする』という一点を見つめたなら、俺が選ぶのが黒歌達って事だ」

 

要はもしも悪い方向に話が進んだ時の為の覚悟って、少しだけ後ろ向きな覚悟なんだけどな

 

最後にそう付け加えるとイッセーは首を横に振る

 

「いや、そんな事はねぇよ。俺なんて『バレたら如何しよう』とか『拒絶されたら如何しよう』とか、そこで完全に思考が停止しちまってたんだからさ」

 

それは仕方ないとも思うけどな

 

俺は人生二度目だから普通の学生の精神性とは若干異なるって自覚は有るし

 

「それでも『もしも』を想定するってのは何事においても大事だろ。そりゃあ想定外なんて幾らでも在るだろうけど、例え答えは出ていなくても一度でも真剣に考えた事のある事柄なら動揺も最低限で済むだろうからな」

 

「―――成程な。なんだかんだ言って常に戦況を見定めて動くイッキらしい意見だぜ・・・それはそうとイッキお前・・・」

 

イッセーが将棋の次の一手を打つと同時に俺に指を突きつける

 

「話が進む度に後ろから黒歌さんに両脇に白音ちゃんにレイヴェルがどんどんとくっ付いていく様を見せつけて来るんじゃねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

それは俺に文句言うなよ

 

まさか俺に彼女達を引き剥がせとでも言うのか?

 

「そもそも話題を振って来たのはイッセーの方なんだから諦めろ・・・ほい王手で詰みだ」

 

「あ゛!」

 

集中が乱れたのか普通にさっきの一手は悪手だったからな

 

「まぁ両親の事に関しては焦る必要もないし、大学卒業辺りまでは考える時間を設けても良いとは思うぞ?」

 

寧ろ問題はリアス部長達の事だろう

 

途中で邪魔が入るってんならもういっその事全員集まってる時にでも纏めて告白なりプロポーズなりしちまえよ・・・と、思わんでもない―――何故かイッセーって性欲の積極性に反比例どころかマイナス突き破るレベルで恋愛方面は奥手だからな

 

あと、俺の家は家庭内の仲は基本円満だから楽観してる部分は有るとも思うけど、それはイッセーの家だって同じだろう・・・寧ろ『うぅ・・・イッセーにこんなに可愛いお嫁さんが沢山居るなんて・・・将来は孫たちだけのチームでサッカーとか出来るのかな』とかやってるであろうそっちの家の方が言っちゃなんだけど変なんだからな?

 

いや、俺のところの両親もレイヴェルのホームステイとか認めてる時点で似たようなもんか

 

信じられるか?暗示とか使って無いんだぜ?

 

クリフォトの件が片付いたらってさっきは言ったけど実際は学生終わり辺りになるのかね?高2の段階で万が一拒否られたら滅茶苦茶気まずいだろうし予防線は張って置くべきか・・・臆病で結構。デリケートな問題なんだから慎重すぎるくらいで丁度良いんだよ

 

そんな話をしていると部室の床に描かれた魔法陣が青白い光を放ち始めた

 

「あらあら、依頼が入ったようですわね」

 

朱乃先輩の言うようにこれはイッセー達に悪魔召喚のカード(『貴方の願い、叶えます』という非常に怪しいカード)で依頼が舞い込んだ時の光だ

 

常連さんとかだと事前予約とか指名依頼も入れられる機能とかも使ってたりもする

 

俺が高校一年の間白音を召喚してたのはこの機能だな

 

それ以外の突発的な依頼とかだと召喚主の思考・願いをある程度読み取って今動けるメンバーの中で適任の人が依頼に赴く形になっている

 

朱乃先輩が魔法陣に手を翳して調べるとリアス部長に報告する

 

「部長。如何やら新規の方で力仕事関係の依頼のようですわ」

 

力仕事・・・引っ越しの手伝いとかそこら辺か?

 

力仕事の依頼って悪魔なら別に『戦車』の白音とかでなくても問題無いんだろうけどね

 

「分かったわ。ゼノヴィアは1000本ノックの依頼が入ってるし、白音に頼もうかしら?」

 

1000本ノックの依頼ですか

 

ゼノヴィアはこういうスポーツ系の依頼を中心に熟してるよな

 

因みに同じ『戦車』のロスヴァイセ先生は今はまだ職員室で会議中だ

 

小柄な白音が力仕事とか出来んのかって初見の依頼者は思うかも知れないけど、そんな時は近場の重い物―――ベッドとか本棚とかをその場で片手で持ち上げれば黙るみたいだしね

 

と云うかグレモリー眷属でそういうのが得意そうな外見してるのってイッセーくらいしか居ない(祐斗は線が細い)から一々気にしてられないのだ

 

「それじゃあお願いね、白音」

 

「はい。部長」

 

白音が短く返事をしてから魔法陣で召喚カードを目印にした転移で依頼主の下へ転移して行った

 

白音が居なくなったので黒歌が同じ場所に座ってテーブルの上のお菓子に手を伸ばす

 

「う~ん。何時呼び出されるのか判らないってのも面倒よねぇ。今の私はどうあれ『はぐれ』という名のフリーだから気が向いた時に仕事するだけだけどにゃ~」

 

「別に召喚に応じる時間帯は基本決まってるんだからそこまで面倒じゃないだろうに・・・そう言えばリアス部長。やっぱりこういうのって時間外勤務を如何してもと頼まれたら割増料金で受けたりとかもするんですか?」

 

「内容に依るわね。やっぱり如何しても此方の都合が合わなければそもそも無理だし、割増料金という理由だけで受けていたら私達も身動きが取れなくなっちゃうわ。依頼の内容を詳しく聞いて、本来の時間帯で魔力とかの何らかの手段で代用できるならそうするし、如何しても無理なら昼間の呼び出しに応じる事にしている他の専門の悪魔に仕事を流すわね」

 

昼間の依頼専門の悪魔か・・・体が怠くなるだろうけど、他の悪魔と仕事がバッディングする事も少ないというメリットも有るんだろうな

 

そんな雑談をしているとリアス部長の耳元に小型の通信用魔法陣が現れた

 

「白音?如何したのかしら?・・・ええ・・・ええ・・・分かったわ。直ぐに向かうわね」

 

そう言ってリアス部長が席を立つ

 

何か問題でも在ったのだろうか?そう思ってるとリアス部長がこっちに視線を向けた

 

「イッキ、レイヴェル、黒歌。あなた達も一緒に来た方が良いわ」

 

「え?マジで何が在ったんですか?」

 

「―――如何やら白音を召喚したのがね。イッキのお母さまみたいなのよ」

 

おぉう・・・さっきこの手の話題したばっかだぞ

 

フラグ回収早過ぎるだろう

 

 

 

 

 

イッセー達が心配そうにしている感じの中で見送られて俺達はリアス部長と一緒に転移魔法陣で俺の家まで転移していった

 

転移先はリビングだったようで両親共に揃っていてリビング中央のテーブルの椅子に座っている

 

白音はちょっと縮こまっちゃってる感じだな・・・まぁ白音からしたら心臓に悪すぎる状況だったろうし、仕方ないのだが

 

「イッキ!それに黒歌さんにレイヴェルちゃんにリアスさんまで!」

 

「おおう・・・テレポートなんてSFの世界の話だと思っていたよ」

 

どっちかと云えばファンタジー路線の世界ですよ

 

「白音、今は何処まで話したのかしら?」

 

「詳しい事はまだなにも・・・」

 

俺達も速攻で来たからそれも当然か

 

「話をするにも取り敢えずお茶を淹れるよ。レイヴェルは手伝ってくれ。その間に黒歌は椅子を人数別に移動させといて」

 

取り敢えず場を整える事にして黒歌とレイヴェルに頼む

 

「分かりましたわ」

 

「分かったわよ」

 

そうして全員で卓を囲んで心を落ち着かせる意味でハーブティーを行き渡らせてから先ずはリアス部長が話を切り出す

 

「さて、叔母様、叔父様。イッキもこの場に居る訳ですが、ここは白音の主でもある私から説明に入らせて頂きますわ」

 

その言葉に両親もオズオズと云った感じではあるが頷く

 

そうしてリアス部長は懐から一枚のカードを取り出す

 

「白音が最初に召喚された時、このカードに願い事をなされましたね?」

 

「・・・はい。もう直ぐ大晦日なので重たい物をどかして掃除する時に如何しましょうかという話になって、引っ越してから未整理だった小物とかを片付けていると何年か前に駅のチラシ配りだったかしら?それで貰ったそのカードが見つかったんです。棄てるつもりだったのがそのままになっていたみたいで、冗談半分で力持ちのお手伝いさんが来て欲しいと願ったら、白音ちゃんがいきなり魔法陣?みたいなもので現れてビックリしました」

 

年末の大掃除に向けて話し合ってる時に偶々仕舞い込んでいたカードを掘り起こしちゃったのね

 

俺がオカルト研究部に入部して俺の家にカードを配る事は無くなったとしても、それ以前に入手したカードもそりゃ可能性としちゃ在るよな

 

「そうでしたか。先ず、先程白音や私達が魔法陣でもって現れたようにこの世界の裏側には超常の存在という者達が住んでいます。悪魔、天使、堕天使、妖怪に各神話の神々など、他には人間にも霊能力者や陰陽師といった異能の力を持つ者も居ます。その中でこの場では私、白音、レイヴェル、黒歌の種族は悪魔なのです」

 

説明の為に立ち上がったリアス部長は悪魔の翼を展開する

 

皆で広げると邪魔だし、レイヴェルの翼は家が焦げるのでリアス部長のみだ

 

広げられた翼をまじまじと見つめる両親を余所に説明は続く

 

先ずは一通りの概要を勢いに任せて話してしまった方が良いからな

 

「悪魔は人間の願いを叶え、対価を得るという『信仰』を一つの糧としています・・・しかし近年では悪魔召喚用の魔法陣を態々描いて召喚を本気で試そうとするような人間は稀なのでこうして此方からカードを配って願いの有る依頼主の下に魔法陣で召喚されるのが一般的なんです」

 

リアス部長が「此処までは宜しいですか?」と尋ねると父さんはお茶で喉を潤してから「色々理解が追い付いてませんが、悪魔の世界も世知辛いのだと思いました」と変な返しをする

 

思考が可笑しなところに注目しているな・・・無理もないか

 

『悪魔』という人類の敵というイメージだけど今まで普通に過ごして来た白音たちな上に息子の俺も普通に同席してるからか警戒心MAXという感じではないのが幸いか

 

「次に悪魔の中にも階級というモノが存在します。その中でも上級悪魔と呼ばれる者達は悪魔以外の種族を悪魔として転生させる事が出来る特別な道具を魔王様から賜る事が出来るのです。私はそれを使い、妖怪であった白音を私の配下として転生させました・・・勿論合意の上での話です」

 

「白音ちゃんは元妖怪・・・なら、黒歌さんも?」

 

「ええ、私と白音は元々猫魈(ねこしょう)と呼ばれる猫又の上位妖怪にゃん」

 

母さんに話を振られた黒歌は猫耳と尻尾を出して答えた

 

「黒歌さん・・・」

 

それを見た母さんはテーブルに乗り出して黒歌の方にズイッと体を寄せる

 

「・・・何かにゃ?」

 

「その耳と尻尾。触っても良いかしら!」

 

「ま、まぁ構わないけど・・・」

 

黒歌の許可が出ると母さんはそのまま黒歌の猫耳を堪能し、テーブルの上に先端部分だけだけど移動させた黒歌の尻尾をニギニギしている

 

「ねぇ、白音ちゃんも猫耳出せるの?」

 

「は、はい」

 

母さんの圧に負けた白音が猫耳と尻尾を生やすと「キャアアアア!可愛いわぁぁぁ!!」とテンションうなぎ昇りになって父さんに「はしたないぞ」と諫められるまで撫でまわしていた

 

父さんは父さんで母さんが隣で暴走してたから逆に冷静な感じだったけど猫耳に気を取られて右手がソワソワしてた・・・セクハラになるから自制したんだろうけど撫でたかったんだろうな

 

「何て言うか・・・イッキ先輩の御両親である事を強く感じました」

 

「うふふ♪イッキも私や白音の耳や尻尾も好きよねぇ」

 

いやぁ、そこにフワフワの猫耳が在れば撫でるでしょう。普通はさ

 

「・・・続けても良いでしょうか?」

 

おっと、心なしかリアス部長の声音に呆れの色が見えるぞ

 

まぁ俺としては母さんが良い意味で場の空気を壊してくれたから良いんだけどね

 

「この場で私の眷属は白音だけですが、悪魔と為った以上は悪魔として仕事をして貰う必要が有るのでカードに込められた願いを叶える為に彼女が派遣されたのです・・・まさかイッキの御両親の召喚だったとは思いもしませんでしたけど・・・因みに私やイッキの所属しているオカルト研究部の部員は殆どが私の眷属悪魔です。顧問のアザゼル教諭は堕天使ですし、副顧問のロスヴァイセ教諭は私の眷属。他には天使もおりますし、ご子息の彼は知っての通り人間です」

 

「天使?天使と悪魔というと永遠に相容れない敵同士というイメージがあるのですが、現実には違うのですか?」

 

父さんがオカルト研究部には天使も居るという情報に驚いている

 

「確かに悪魔、天使、堕天使は三大勢力とも呼ばれ長年争ってきましたが、つい最近不毛な争いに終止符を打つべきだと三大勢力のトップ会談が開かれ、和平が成立しました。今は聖書以外の他の神話体系の勢力にも和平の申し入れに力を入れています」

 

「そう・・・なのですか・・・」

 

実は超常の存在が本当に居て、その上悪魔や天使が和平を結んでいるという価値観が崩れる情報になんかもう諦めたような雰囲気が滲みだしてきているな

 

「悪魔のお仕事とやらについては一先ず分かりました。一応お聞きしますが仕事の内容に釣り合わない法外な報酬を求めたりは?」

 

「私のところは明朗会計をモットーとしております。今回の白音への依頼内容からして金額で一万円を超える事は無いでしょうし、そもそも契約が成立しなければ当然、依頼料もゼロとなります」

 

「・・・遅い時間帯に瞬時に駆けつけてくれるお手伝いさんのお値段としては寧ろ安いくらいかも知れませんな。それで、話を聴く限りではイッキの居る部活動では人間では無い方々が集っているようですが、なぜそこにイッキが居るのでしょうか?」

 

「それは・・・」

 

言い掛けたリアス部長を片手で軽く制する

 

「リアス部長。そこから先は白音が召喚された事とは別問題なので俺から話しますね」

 

「―――そうね。では、お願いするわ」

 

全部の説明をリアス部長に任せてしまった方が気は楽なんだがそういう訳にもいかないだろう

 

それから一般人の依頼主への要点を絞った説明とかを両親にするのも変だし逆に面倒なので順を追って話す事にした

 

人間も超常の力を偶然宿す場合が在る事から始まり、神器の発現から独学の仙術の習得、小学生の終わりに黒歌と出会って中学の修学旅行で土蜘蛛の事件に巻き込まれてそこで正式に仙術の師から手ほどきを受けた事などを話していく

 

「―――そんな感じで事件を解決した報酬として猫妖怪の長老の参曲(まがり)様に黒歌と一緒に仙術の稽古を付けてもらう事になったんだ」

 

「・・・イッキ。貴方私達の知らない間にどれだけ大冒険してるのよ」

 

いやぁ、これでもここ半年の事件の密度に比べたら薄味もいいとこ何ですけどね

 

「それにしてもイッキと黒歌の仙術の師の方がまさかあの猫妖怪の大御所の方だったなんてね。白音を最初引き取る時に日本の猫妖怪の事について一通りは調べたから筆頭とも云えるその方の事は覚えているわ・・・イッキと黒歌の実力の高さの秘密が解った気がするわね」

 

確かに俺の基礎能力を叩き上げてくれたのは参曲(まがり)様だからな。個人的には俺にとって一番頭が上がらない相手ではありますよ

 

「―――そう言えば参曲(まがり)様の事は話した事は無かったでしたっけ?」

 

「ええ、そうね。イッキは最初は妖怪に伝手が有るとしか言ってなかったし、その後八坂様の事を知ったからてっきり八坂様の配下かそれでなくとも関西方面で仙術が扱える方の弟子になっていたんじゃないかって思い込んでたわ」

 

あ~、言われてみればそうだよな

 

俺って一応関西と関東の妖怪両方の重鎮とコネクションを持ってる訳だ

 

重鎮というか関西に関してはトップだし

 

「でもイッキ~?修学旅行の事を話すならもう一つ重要な事を話さないといけないんじゃないのかにゃ~?」

 

う゛っ、可能ならその事は最後に回したい気持ちは有ったんだけど、仕方ないか

 

「あ~、前に九重が家にお泊りした時のがあったけど、彼女がさっきの話に出てた京都を束ねる九尾の狐の八坂さんの娘さんなんだけど、覚えてる?」

 

オーフィスのお社を建てた時の事だからまだ一ヵ月程度ちょいしか経ってないんだけどね

 

「ええ、巫女服を着たとっても可愛い子だったわね。狐の妖怪・・・と言う事はもしかしてあの娘もケモ耳と尻尾を!?」

 

あ~、はいはい。抑えて抑えてね

 

まさか俺の母親が此処までケモっ娘属性持ちだったとは・・・流石に俺もここまでじゃないはずだし、遺伝子的に血が半分だからそれで抑えられてんのか?そんな疑いを持ってしまうな

 

「俺、あの娘と婚約してるんだよね・・・」

 

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 

止めて!その沈黙と真顔はマジで止めて!

 

「・・・・・イッキ。貴方何時から幼女趣味に走るようになったの?」

 

「ちょっと待てぇぇぇ!!その反応は予想してたけど、多分に誤解を含んでいるからしっかり説明させて下さい!!」

 

「でもイッキ貴方、黒歌さんがガールフレンドなのでしょう?それは如何なったの?」

 

「黒歌も婚約者であと白音とレイヴェルも婚約者です!!」

 

クソ!絶対こんな感じになると思ってたぜ

 

その後、黒歌の合いの手(悪い意味で)も在り、八坂さんに翻弄されまくった婚約話とかも話していく事になる

 

レイヴェルとリアス部長は詳しい経緯は初めて聴く為か真面目な顔の中でもちょっと口元がニヤケそうになっているのが解る

 

それからお隣のイッセーが悪魔になったのをきっかけに俺もオカルト研究部に入部した事やイッセーの御両親はまだこの事を知らない事

 

裏の世界で色々事件が在ってレイヴェルは初めは俺への憧れの意味も在ってこの町にやって来てそれから好きになってくれた事

 

裏だと一夫多妻制は割と普通な事(ここ重要)も話しておいた

 

「そう・・・イッキに黒歌さんという彼女が居る割には白音ちゃんやレイヴェルちゃんとも仲が良すぎるとは感じていたけど、黒歌さんが何も言わないから黙っていたのだけどねぇ―――まさか全員お嫁さんに貰おうとしていた何ていうのは予想外だったわ」

 

頬に手を当てて困ったような嬉しいような表情を浮かべる母さんとは逆に父さんは腕組みして御堅い表情で真っ直ぐ俺の眼を見て来る

 

「結婚も視野に入れた上で貴女達が何時もとても仲が良いのは私達も十分知っているつもりです。今更複数の女性と付き合う事による家庭内不和などの危機などを問うのは愚問でしょう―――最後に一つだけちゃんと確認をしておきたい・・・お前は全員幸せにする覚悟は有るんだな?」

 

―――否定的な言葉で無くて良かった。その質問なら部室で言っていたように答えは決まっている

 

「はい。一生大切にします」

 

その言葉を最後に俺達の間に張られていた緊張の糸が緩んだのを感じたのだった

 

 

 

 

 

あれから一通り細かい事情まで含めて説明し終わった時には最初に話し始めてから数時間は経っていた。極端に遅い時間に白音が呼ばれた訳でもないので今は大体夜の9時過ぎくらいだ

 

途中テロリストと戦う裏の部隊に所属しているという事でやはり心配させたけど、仮に此処で俺だけが戦いから降りたとしても黒歌はまだ抜けようと思えば抜けられるだろうけど白音やレイヴェルはそのまま戦闘の矢面に立つ事になるので絶対にそれは受け入れられないし、そもそも今はガチで地球が物理的に無くなるレベルで世界の危機なので此処で退く訳にはいかないと説得していった

 

「でも・・・他の皆さんは悪魔とか天使とか凄い存在なのでしょう?イッキが本当に戦力になるんですか?皆さんの足を引っ張ったりしてしまうんじゃ・・・」

 

母さんがそう言うと黒歌達女性陣が思わず顔を見合わせた

 

「叔母様。それは在り得ませんわ。『戦いに参加した』としか説明していなかったのでそう思うのも無理はないですがイッキの力は魔王クラスとされていますし、神々すらも下す力を有しています。実際に最上級死神を単身屠る戦果だって挙げています―――彼のお陰で最悪の事態を免れた事も一度や二度じゃありません。今、『D×D』の中で彼より格上と言えるのはかの西遊記で有名な孫悟空様以外に居りませんわ・・・彼の力は我々に不可欠なものです」

 

リアス部長がそこまで断言すると両親は困惑した感じだ

 

まぁいきなり息子が魔王クラスに強いなんて言われてもね

 

今まで散々裏の話をしてきた上でもキツイか

 

「う~ん。リアス部長。流石に実際目にしないと実感湧かないと思いますし、前のフェニックス眷属とのレーティングゲームの映像とか借りられませんか?ゲーム自体はグダつきましたけど、一応俺の戦ってる姿も映ってますし」

 

「そうね。それが良いかしら」

 

取り敢えずその日は最後にそれだけ取り決めて終了となった

 

一度転移で部室に荷物とかを取りに戻り、イッセー達に問題無いと伝えてからまた家に戻って来る

 

帰って来てから母さんが黒歌や白音の猫耳や尻尾を触ってからリアス部長が最初に出した悪魔の翼の触り心地が気になったらしく、生粋の悪魔として紹介されていたレイヴェルに翼を触らせて欲しいと願ったり、それにレイヴェルが自分は不死鳥なので炎の翼だから触る事は出来ないと断って(トレーニングルームで見せたりはした)代わりに白音が翼を生やしてまた撫でまわされたりした

 

「はぁ・・・」

 

「如何したレイヴェル?そんな溜息吐いて」

 

「イッキ様・・・いえ、何だか私だけケモ耳も尻尾も無ければ翼を触らせる事も出来ない事に一抹の疎外感を感じてしまいまして・・・」

 

あ~、両親が裏に対して結構寛容だったのは良かったんだけど、確かにレイヴェルって『分かり易い人外の特徴』におけるスキンシップは取れないもんな

 

正確には取った次の瞬間に溶けるレベルで燃えるからね

 

すると俺達の会話が聞こえていたのか母さんが今度はレイヴェルに抱き着く

 

「あらあら、そんな事気にしなくて良いのに―――私はレイヴェルちゃんの事も大好きよ?まさかイッキにこんなに可愛いお嫁さんが出来て、正式に私達の娘になってくれるなんて、こんなに嬉しい事もないわ。母親なのにイッキに嫉妬してしまいそうよ」

 

母親から嫁が可愛いと嫉妬されるのは勘弁してくれ

 

いやマジで反応に困るからさ

 

「そう言えばイッキ。私達も裏側の事情を知った今なら何処か近いうちにイッキのお嫁さんの皆の御両親にご挨拶したいのだけど」

 

「あっと、黒歌と白音はご両親は他界してて、九重も父親が居ないから八坂さんとレイヴェルの御両親だけって事になるけど」

 

そう言った途端"しまった!"という表情に変わったが黒歌と白音も『今更気にしてない』とフォローして、年始は毎回京都に赴いているし、レイヴェルの家にも三箇日は挨拶に行こうと考えていたのでその時に一緒に京都や冥界に行けるよう段取りする事になった

 

冥界行きの段取りは流石にリアス部長とレイヴェルに任せる事になるけど、その辺りは二人とも快諾してくれた

 

もうすぐ年末、でもその前にクリスマスがやって来る

 

両親に認められて天国での戦いも気合を入れて望めそうだ




一年記念で急遽書き上げましたけど、普通に次章のクリスマス編を書こうか迷ったんですが、此処は今まで焦点を当てて無かった家族の方を書いてみました

まさかイッキの母親がケモナーになるとはww


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第18章 聖誕祭のファニーエンジェル
第一話 冬休み、突入です!


新章始まりましたね。リゼヴィム煽りムーヴの方法は既に考えてますww

後は魔獣騒動の時のように多少カオスった展開にしていきたいですねww


両親に黒歌達の事がバレても幸い何事もなく過ぎ、今日は12月の20日、駒王学園は終業式の日だ。既にクラスの皆は冬休み気分に突入している

 

因みに両親に裏の事を話して一度部室に戻って事の顛末を伝えた時にイッセーは「本当に良かったな!・・・俺も少し前向きに考えてみる必要も有るのかな?」と呟いていたのでもしかしたら原作と違って自分から言い出したりするのかね?―――流石にリゼヴィムに俺やイッセーの両親が人質に取られるようなイベントは回避したいしね

 

それはそれとしてクリスマスに年越しに三箇日と休み期間の数割はイベントが詰め込まれたその休暇に色々と思いを馳せる学生は多いからな

 

今も教室内からクリスマスはパジャマパーティーしようとか除夜の鐘を聴きに行こうとか初日の出を見に行こうとか冬休みの宿題なんて消えてしまえとか聞こえて来る

 

式自体はついさっき終わって教室に戻って来たところなのでサッサと帰るグループと教室に残って雑談してるグループに分かれている

 

「じゃあ、冬休みもイッセーやイッキたちは忙しいのか」

 

「わりぃな、松田に元浜。クリスマスも年末年始も色々予定が既に詰まっててよ」

 

イッセーが冬休み中に何処かに遊びに行かないかと誘ってきた二人に断りを入れている

 

「オカルト研究部に入部してからお前ら結構忙しいよな。ネス湖にネッシーを実際に探しに行くとか絶対にグレモリー先輩が部長じゃないと無理だろ。経費的な意味でさ」

 

確かに松田の言うように表の部活動の為だけでも割と普通に海外出張ありだからな

 

常識で考えたら在り得ないだろう・・・まぁこの駒王学園は人外渦巻く力場の影響なのか、そんな非常識に対する認識が緩いんだけどね

 

「グレモリー先輩と言えばオカルト研究部は次の部長に誰が就任するのかはもう決まっているのか?もうとっくに次代の部長として活動している2年生も多いぞ?」

 

「それか。まだ発表はされてないんだけど、一応リアス部長と朱乃先輩は『秘密♪』って言ってたから先輩方の中ではもう決まってるみたいだぞ」

 

「そうなのか。オカルト研究部も色々変わって来てるんだな。イリナちゃんも正式に加入するみたいだし、何よりも驚きなのがゼノヴィアちゃんが生徒会長に立候補したって話だよな」

 

元浜としてはそっちが気になるようだが、それも当然ではあるな

 

一応は仲の良いと言えるクラスメイトが生徒会長になるとなれば気にならない事はないだろう

 

因みにイリナさんは今までオカルト研究部員ではなく、正確には『紫藤イリナの神の子(せいと)救済委員会』の立ち上げを頑張っていたのだが(当然)報われる事は無く、この度正式にオカルト研究部に入部という形となった・・・今更な話ではあるがな

 

「私はゼノヴィアっちの生徒会選挙を手伝うつもりよ。だってゼノヴィアっちが生徒会長の学園って絶対に面白そうだもの!」

 

さっきまで教会トリオと話していた桐生さんがこっちの話にも乗っかってきた

 

「実際、ゼノヴィアっちは校内では学年問わず人気が高いし、十分に生徒会長を狙える位置に居ると思うのよねぇ。結構困ってる人を助けてる事が多いし、ボーイッシュ美人だから1年の女生徒からは一番支持が集まると思うわ」

 

ゼノヴィアお姉様~♡・・・って感じか?

 

でも確かに今のオカルト研究部の中でお姉様属性を持てそうなのってゼノヴィアくらいだよな

 

ロスヴァイセさんは生徒の間にもドジっ娘属性が浸透し過ぎてるから無理だろうし、アーシアさんにイリナさんは可愛い系だし、生徒会メンバーも含めて考えたら『戦車』の由良さんと『僧侶』の花戒さんはお姉様属性を持てそうかな

 

「まぁでも今日はもう終業式だし、生徒会選挙の手伝いをするにしても本格的に動くのは休みが明けてからよ。一応アーシア達と冬休み中に多少アイディアとかを考えたりとかはするつもりだけど、逆に言えばそれくらいしか出来ないしね」

 

そりゃあ精々部活とかで学園に来る生徒が僅かに居るかもって程度の中でタスキにスピーカー装備で宣伝活動していたら、精力的と見られるよりは変な目を向けられるのが目に見えるようだ

 

でも、変態と常識人を両立出来る面倒見のいい桐生さんなら中々優秀なサポーターになってくれそうではあるかな」

 

「・・・言ってくれるわね、有間君」

 

ポヤっと考えていたら若干目元が鋭くなった桐生さんにそんな事を言われた

 

「あれ?声に出てたか?」

 

「ええ、バッチリとね。でも基本は高評価みたいだったし、許して上げるわ」

 

許しが出たので俺は無駄に桐生さんに平伏する姿勢を取る

 

「はは~!有難き幸せ~!」

 

「うむ。苦しゅうない。寧ろ褒めて遣わそう」

 

「いや、なんだよそのノリは?」

 

学生同士の馬鹿な戯れです

 

「そう言えば冬休み最初のイベントと云えばクリスマスの聖なる夜な訳だけど、今年のクリスマスは有間君と兵藤は女の子からのプレゼントは何を貰うのかしらねぇ?」

 

脳内妄想繰り広げてるのか口元がだらしない感じになってますよ?

 

そこに話が一段落したのか教会トリオも会話に加わって来た

 

「うむ。桐生から聞いたぞ。日本のクリスマスは家族で過ごすものというよりは恋人同士で過ごす意味合いが強く、そのまま子作りをして天から子供を授かる儀式でも有るのだとな。クリスチャンな私としてはなんとも心が湧きたつイベントだぞ」

 

「私がこの国を離れている間に日本のクリスマスは随分とだ、大胆になってしまったのね。でもでも、自分を捧げるというのは信仰的に考えると結構理に適ってるのよね・・・ああ、でもダメよ!そんなふしだらな事を強く考えてしまったら私堕ちちゃう!」

 

イリナさん。貴女今絶対に翼を出していたら点滅状態ですよね

 

「だ、大丈夫ですイリナさん!天から子供を賜るというのは決して如何わしい事ではありません。わ、私も一緒に頑張りますから心を落ち着けていきましょう!」

 

実行はされないと思うけどアーシアさんの発言がヤバい・・・と云うか三人の発言がヤバいから教室に僅かに残った男子達の殺気がイッセーに突き刺さる

 

あ~、この場に彼女が居ない身(物理的な意味で)としては楽で良いわ~

 

「畜生!美少女の入れ食いかよ!」

 

「お前なんて大事なところが腐って落ちてしまえば良いんだ!そんな聖なる夜が性なる夜になるような奴は絶対に新作の紳士の円盤やゲームを今後貸してやらんからな!」

 

性なる夜ね・・・俺のところはエロ猫(くろか)が居るから多分夜の大運動会パート3が開催される気がする

 

アザゼル先生から精力剤とか買った方が良いのか?・・・止めておこう。絶対に即日全員にバレる

 

今は房中術を極めていくしかないか・・・俺は真剣に何を考えてるんだろうな?

 

「彼女持ちの有間君としては如何なのよ?聖なる夜に子作りって言うのは?」

 

女子生徒が男子生徒にそういう話を振るんじゃありません!・・・と言っても既に教会トリオ含めてなんだかんだで性に寛容か興味津々のメンバーしか残ってないな

 

だからと言って変に答えて弄られるのもアレだし、少し矛先を変えるか

 

「そうだな。ゼノヴィア。クリスチャンとしてクリスマスに天から子供を授かるって言うのがポイントが高いって言うならバレンタインもクリスマスに匹敵ないし凌駕するくらいに良いものだと言っておくぞ」

 

「む?確かにバレンタインは人々の愛の為に殉職した聖ウァレンティヌス由来の記念日だ。クリスマスに匹敵するというのは解るが凌駕するとはどういう意味だ?」

 

流石は教会出身。そういう知識はスラスラ出て来るな

 

「いいかゼノヴィア。女性っていうのは妊娠から出産までに大凡十月十日ほど掛かるとされている。そこでバレンタインデーである2月14日から十月十日を逆算してみろ」

 

俺の言葉にゼノヴィアは"ポク! ポク! ポク! チーン!!"とでも擬音が付きそうな感じに少し首を捻ってから俺の言いたい事がなんだったのかに辿り着く

 

「!! それは詰まりバレンタインデーに子作りすればクリスマスに子供が生まれる可能性が高いという事だな!」

 

ゼノヴィアの叫びにアーシアさんやイリナさんもハッと気付く

 

「そういう事だ。クリスマスに子供を授かるのも良いが、恋人たちの記念日に子供を授かり、神の子と同じ日に自分の子供が生まれる・・・そう言うのもまた夢が有るとは思わないかな?」

 

要するにバレンタインデーの雰囲気に呑まれたカップルが夜のプロレスごっこに興じて『性なる』夜に誕生日を迎えるのだと大人になってから毎年実感するって糸色望(ぜつぼう)先生も言っていたしな!

 

「イッセー!聞いたな!クリスマスは張り切って子作りしよう!そしてバレンタインにはもっと張り切って子作りだ!―――有間、私は今とても感動しているぞ」

 

「はいぃ!クリスマスとバレンタインにそんな素敵な繋がりが有る何て思いもしませんでした。ど、どちらも自分自身をプレゼントすると言う風習が有るみたいですし、頑張りたいと思います」

 

「も・・・もしも本当に神の子と同じ誕生日になっちゃったらその時は子供の名前はイ、イ、威叡蘇(イエス)なんて名付けたり・・・いやいやいや、ダメよ私!流石に不敬過ぎるわ!」

 

「いやイリナそれ、キラキラネームゥゥゥ!!絶対止めろォォォ!!」

 

「やだイッセー君ったらキラキラネームだなんて。確かに子供の未来を明るく照らして下さる素晴らしい名前だとは思うけど、そんなに褒めなくても・・・」

 

イリナさんがテレテレと頭を掻いて顔を赤くしている

 

如何やらイッセーに素晴らしいネーミングセンスだと思われたと勘違いしたらしい

 

「褒めてねぇよ!最近の言語も含めてもっかい日本語勉強して来いやぁぁぁ!!」

 

結局その後教会トリオの変な反応にイッセーがツッコミを入れて場が有耶無耶になったので俺は見事追及を躱す事に成功したのだった

 

それから教室に残るは俺達だけとなったので話し合いながら学園の外に歩いて行き、正門を抜けて少ししてから松田に元浜、桐生さんとも別れて俺達は家路についた

 

 

 

 

家に帰った俺達オカルト研究部はイッセーの家の上階にある会議室に集合していた

 

オカルト研究部以外ではアザゼル先生とシスター・グリゼルダさんも集合だ

 

勿論、アザゼル先生やロスヴァイセさんの仕事終わりに時間を合わせる事にはなったけどな

 

今回、会議の音頭を取っているのはイリナさんだ

 

「―――そんな訳で、クリスマスを通じて普段人知れず迷惑をお掛けてしてしまっている駒王町の皆さんにプレゼントを配るのよ!」

 

概ねイリナさんの言うように駒王町の表の住人達は人知れず町ごと吹き飛びそうになる事も何度か在った。三大勢力の和平が結ばれた象徴とも云えるこの町では例え裏の施設を全部撤退させて人間界の何処か人の住んでいない僻地に居を構えたとしてもクリフォトなら嫌がらせでテロってくる可能性も高いし、引っ越すのも当然タダじゃないのでおいそれとは移動出来ないのだ

 

三大勢力の和平会談を例えば人の居ないサハラ砂漠のド真ん中で開催するなんて事は流石にギスギスしていた当時に出来たとも思えないしね

 

仮にそうなっていたとしてもインフラ整備とか如何すんだって話だし

 

因みに配るプレゼントの資金はトップ陣の方々が援助してくれて一応俺達もポケットマネーを出している。流石に俺達のポケットマネー程度(リアス部長とか大金を動かしそうだったので皆で止めた)でそこまで配るプレゼントの質が変化したりはしないけど所謂『気持ちが大事』ってやつだ

 

プレゼントは一人一人の願望を事前調査とかは出来なかったので当たり障りのない物。子供なら流行りの玩具とか大人なら商品券の類とかとなっている

 

余りやり過ぎなプレゼントもダメだし、アザゼル先生曰く「まっ、都市伝説になる程度のモノで良いだろう」との事だ

 

それから皆で細かいところを決めたり小物を確認したりしていく

 

「うふふ。此方がサンタクロースの衣装の見本になりますわ。女性の場合はズボンの物もミニスカの物も在りますわね」

 

朱乃先輩が段ボールから取り出したのはミニスカタイプのサンタコスチュームだ

 

とは言っても今回の企画自体は健全なものなので普通に可愛らしい感じに収まってるデザインだ

 

「シスター・グリゼルダ。トナカイって当日は飛ぶんですか?」

 

「トナカイには浮遊の魔法を掛ける予定ですよ」

 

イリナさんとグリゼルダさんがそんな会話もしているけど飛ばされるトナカイが半狂乱にならんと良いんだけど・・・

 

「我、サンタになってみた」

 

オーフィスは早速サンタのコスチュームの一番小さいサイズに袖を通したようだ

 

白音も居るからか結構小さめのサイズも有ったので普通にピッタリだな

 

「おう、可愛いぞ。素敵なサンタさんだな」

 

無限の龍神様からのクリスマス・プレゼントね・・・ある意味聖書の神から直接プレゼント渡されるのより豪勢なんじゃないか?

 

「クリスマス当日はプレゼント配りもそうだけど私達悪魔の儲け時でもあるわ。態々この日の為に予定を空けて下さっているお客さまの為にも後でミーティングを行うわよ」

 

「『了解』」

 

リアス部長の言にグレモリー眷属の皆が返事をするけどクリスマスに態々悪魔を召喚するってその人たちの背景を気にするのは多分タブーなんだろうな

 

後から聞いた話だとよく白音とイッセーに契約を頼んでいる白音にお姫様抱っこ『して貰う』という願い事を頼む方はこの日はクリスマス仕様としてお姫様抱っこ以外にもサンタな白音の担ぐプレゼント袋に入って担がれる体験をしたのだとか・・・世の中変な人って多いよね

 

「シトリー眷属は今回はギリギリまで企画の手伝いは出来ないんでしたっけ?」

 

イッセーがこの場に居ないシトリー眷属の事についてアザゼル先生に確認を取っている

 

「ああ、お前らの働きでアウロス学園は確かに守られたが、アウロスの町そのものは結構壊されたからな。それの復旧に町全体を含めた防備の強化と忙しいんだとよ。一応今は魔王軍から派遣された兵が警備に当たっているが、それも何時までもって訳にはいかんからな」

 

因みにあの事件の後でアウロス学園の知名度は一気に冥界全体に広がって体験入学は予約で数年待ちの状態となったようだ

 

「あの事件は冥界に大々的に報道されたからな。『若手悪魔、テロリスト集団を相手に大活躍。夢と希望の学園を死守!』こんな見出しの報道がなされればいやでも注目を受けるからな。特に転生悪魔や魔力に乏しいサイラオーグが前線で邪龍共をなぎ倒すなんてのは下級、中級悪魔の奴らからしたら英雄譚にも等しい。そりゃあ予約も殺到するだろうさ」

 

先生の言うように冥界の報道機関もテロリストに襲撃されたという事よりその脅威から守り切ったという事実の方を積極的に取り上げたのが冥界の一般住民に好印象を与えたらしい

 

・・・あと、忍者も

 

「ですが、余りイッキ様の活躍が報道されてないのが私としては納得いきませんわ。イッキ様の戦果は新聞の後半部分に事務的に載ってるだけでしたし・・・」

 

あの場の人間は俺だけ(百地さんは除く)なんだからそこだけくり抜いて報道する訳にもいかんとは思うけど、レイヴェルや白音は少し不満顔だな

 

別に知名度が欲しい訳じゃないけど彼女達の意向も汲んでこれからは『この俺様こそがMVPだぜ!』ってアピールして行くべきか・・・無いな。仮にいきなりそんな事し始めたら周囲の人達にどんな目で見られるか想像したくない。一気に小者指数が上昇しそうだ

 

「まっ、冥界の新聞なんだからある程度は仕方ないさ。その代わり他の勢力圏の新聞や報道ではイッキの事も普通に取り上げてんだからそれで納得しとけ」

 

あっ、そうですか

 

その後は捕まったユーグリットが大好きな姉であるグレイフィアさんにニコニコ笑顔で苛烈な尋問を受けているという改めて聴いてもドン引き案件を聞いたり、無くなったアグレアスの現在地などの考察をしていたりするとグリゼルダさんが皆を集めた

 

「それではこれより皆様を天界にお連れ致します。そこでミカエル様と今回のクリスマス企画の内容の確認と年明け前の御挨拶を頂く予定です」

 

おお~!遂に俺も天国行きか

 

と言っても俺はクリスチャンじゃないし天国には・・・そう言えば俺って死後は何処に行くんだろう?仏教か日本神話か、日本人ってかなりその辺り曖昧だよな

 

一応葬式は取り敢えず仏教式という家が大多数だとは思うけど、なら仏教徒なのかと言われるとそれもなんか違うような気もするしな

 

まぁ黒歌達を残して早々に死ぬつもりも無いから相当後の話だろうし、今考えても仕方ないか

 

「んじゃ、ミカエルの奴に宜しくな」

 

「先生は天界に帰ったりしないんですか?」

 

イッセーの質問にアザゼル先生は首を横に振って答える

 

「今更帰れると思うか?まぁ天界に居た頃の研究施設を始末させて貰えるなら行っても良いけどよ。まっ、企画には協力するからこういうのは若い奴らでやれば良いさ―――それに俺はお前らが出て行ったらイッキの両親のところに改めて挨拶に行く予定なんでな」

 

え!?聞いてませんよ!

 

「仮にも大切な息子さんを俺らの都合でテロリスト相手の矢面に立たせようってんだ。裏の事情がバレた以上は良い酒でも土産に責任者たる大人が挨拶するのは当然だろう?バレた次の日にでも行っても良かったが、親としちゃあ子供たちが居ないからこそ話せる内容だって在るかも知れん。だからこの日まで待ってたんだよ」

 

「―――相変わらずやろうと思えば気遣いの出来る大人ですよね。アザゼル先生って」

 

「お前らの何倍生きてると思ってる。年季が違うんだよ年季が」

 

そう言ってアザゼル先生は俺の頭をワシャワシャと乱暴に撫でてきた

 

う~む。気恥ずかしいものだな

 

アザゼル先生はそのまま俺の家に向かい、俺達は地下の転移魔法陣の在る部屋に移動した

 

「それでは皆様に此方をお渡しします。頭の上に翳して頂ければそれで大丈夫です」

 

グリゼルダさんに一人ずつ手渡されたのは光る輪っか・・・そう、天使の頭の上に浮いているあの輪っかのレプリカだ

 

ID登録や天使や死者の魂以外が天界を訪れてもこの輪っかを付けていれば神の残した神器を含めた奇跡を司る『システム』への影響を最小限に抑えられる代物らしい

 

三大勢力の和平を機に何時か天界に外部の者を招き入れる事も見越して三大勢力の技術を結集して密かに作成していたそうだ

 

「あ、アーシア!天使になった気分だ!」

 

「はい!とっても光栄ですぅ!」

 

教会出身の二人は流石の感動具合だな

 

そんな中でイリナさんとグリゼルダさんが祈りながら聖書の一節を唱えると転移室に白亜っぽい感じでデザインの凝った両開きの扉が現れた

 

「ふっふ~ん!如何かしら?コレが天界に行く為の天使用のエレベーターなのよ!皆、輪っかは頭の上にちゃんと浮かべたかしら?そうじゃないと天国に向かう途中で空高くに弾き出されちゃうから注意してね♪―――それじゃあ、しゅっぱ~つ!!」

 

そうして俺達は実は割と殺意高めだったエレベーターで天界に向かったのだった




『威』光と『叡』智を持って『蘇』りせし者。イ・エ・ス~!

後で知りましたけどゼノヴィアの誕生日ってバレンタインデーなんですね


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第二話 プレゼントは、ドアノブです?

天界行きのエレベーターに全員が乗り込んだ後、直ぐに上空に体が吹っ飛ばされるような感覚が襲い、次の瞬間には雲の上に立っていた

 

この雲とかどうやって足場として加工してるんだろうな?

 

そんな疑問も在るけど俺達はイリナさんとグリゼルダさんの先導の下、目の前に見えていた超巨大な扉の前まで歩いて行く

 

そして俺達が近づくとその荘厳な門はゆっくりと開いていった

 

「「ようこそ、天界へ」」

 

俺達が天国の入り口の門を潜るとその先に見えた光景は輝かんばかりの白に彩られた世界だった

 

雲の足場に道は白い石畳で舗装され、石造りの建物も基本は白だ

 

飛び交う天使たちは白い翼を広げているし、服装も白に装飾として少し金が混じってる程度

 

降り注ぐ光も白く輝いている

 

兎に角全部が白、白、白な世界だった

 

「うわっはぁぁぁ!!幻想的だなぁ!」

 

「確かにな・・・でもこれだけ白ばかりだと観光する分には良いけど、此処に住むとなれば彩りが欲しくなっちゃいそうだ」

 

最初から此処に生まれ住んでる天使たちは当たり前の光景で特に気にしないんだろうけどさ

 

まぁ天国は普通は観光に訪れるような場所では無いのだが

 

初めての天国に周囲をキョロキョロと見渡していた俺達にグリゼルダさんが先導しつつ天国について説明してくれる

 

「天界は全部で7つの層に別れています。今居る此処は第一層・・・第一天と呼ばれる所です。主に天使たちの働いている場所ですね。他には当時の神の子を見張る者(グリゴリ)のメンバーが主に集っていた第五天が現在は研究施設として活用されていますね。『御使い(ブレイブ・セイント)』のカードも第五天で生産されているんですよ」

 

途中で雲の上に浮いてる建物をイリナさんが指さして転生天使としてそこで働いてるとかいう話も耳にしながら俺達はまた別のエレベーター(という名の門)の在る場所まで辿り着く

 

そこからは一層ごとにチェックを受けつつどんどんと上の階層に昇って行った

 

「一般的に信者の魂が行きつく『天国』は第三天に在ります。今の天国に居る信者たちは基本的に三大勢力の和平が結ばれる前に此処に辿り着いた魂たちが大勢を占めていますので今回は悪魔の皆さんの見学はご遠慮させて下さい。無用な混乱を招いてしまいますからね」

 

死者の魂が集まる場所となれば時代ごとに価値観が違う人達が集まってもいる訳だ

 

それにそもそも和平が結ばれて半年経ってないし、その辺は仕方ないかな

 

「第四天は別名エデンの園。アダムとイヴのお話が有名よね!」

 

アダムとイヴね

 

俺の中のサマエルが且つて知恵の実を騙して喰わせた相手だよな

 

知恵の実か・・・諸説は有るけどやっぱりリンゴみたいな形なのかね?

 

美しい庭園だとして、やっぱり庭師を生業にして数千年のベテラン天使とかが管理してるのかな

 

個人的には一番見て見たい場所だけど、俺達の目的地は第六天なのでこの階層もスルーして第五天に辿り着く

 

勿論この階層もさっさと移動する訳だが近場に建ててあった建物とかは結構近代的な研究施設みたいな見た目でこの階層だけちょっと異質だな

 

そうして最後の検問を終えて第六天に向かうエレベーターに乗る前にグリゼルダさんが思い出したように注意事項を説明する

 

「言い忘れていましたが、天界は俗世の欲望に耐性が強くありません。此処より先の第六天はセラフの方々しか入れない『システム』の在る第七天に最も近い場所なので邪な考えは極力持たないようにお願いします」

 

その説明に全員の視線がイッセーに集中する

 

「イッセー先輩がエロエロな事を考えたら5秒以内に沈めます」

 

「うぅ・・・白音ちゃんが手厳しいぜ」

 

手早く心を落ち着かせる手法(K.O術)ですね

 

エレベーターを降りて第六天に辿り着いた俺達を最初に出迎えたのは見渡す限りの壁だった

 

正面に見える扉が地上100メートルくらいの大きさは有りそうだし、当然それを囲う壁はそれより一回り以上は高い

 

あの壁をぶち抜くのは苦労しそうだし、人外なら空を飛べると言っても多分あの壁の上空を無断で通り過ぎようとしたらエゲツ無いレベルの迎撃システムで撃ち落とされるんだろうな

 

そんな人間界の昔の戦争で使われてた破城槌程度では1000年経っても破れそうにない門を抜けると光り輝く光輪を背負った神殿が見えてきた

 

「あそこがセラフの方々が住まわれておられる現天界の中枢機関、『ゼブル』です。此処より上の最上層である第七天はセラフの方々以外は立ち入り禁止なので私達が足を踏み入れられるのは基本的にこの第六天までとなっています」

 

神の住んでいた第七天に居を構えるとか下手したら堕天しそうですもんね

 

「今、『ゼブル』は万一の時の為に内装工事で防備を整えている最中なので今回は中をお見せする事は出来ません」

 

あらら、そりゃまた残念。こんな機会でも無ければ此処まで来れないのに―――天界は観光スポットに良さそうな見た目してるけど俗なモノに弱いから実質無理な話だしな

 

『ゼブル』への道を外れて暫く歩くと花の咲き誇る中庭のような場所に辿り着き、そこにはミカエルさんがテーブルに座って待っていた

 

俺達に気付いたミカエルさんが立ち上がって挨拶してくれる

 

「これは皆さん。お久しぶりですね」

 

「お久しぶりです。ミカエル様。お招きいただき光栄ですわ」

 

リアス部長を筆頭に皆で挨拶を交わすとテーブルに座るよう促された

 

給仕の天使の女性の方がお茶を用意してくれる

 

「それでは皆さん。改めて今年はお疲れ様でした。私としても和平からここまで激動の年になるとは思ってもみませんでした。今の天界や冥界が平穏でいられるのは皆さんの尽力在ってこそです。一年前であれば天界で悪魔や信徒でもない人間と一緒にお茶をしているなんて想像も出来なかったでしょう。天界の代表としてお礼を言わせて頂きます。ありがとうございました」

 

ミカエルさんが今年一年の事を労ってくれるけど、多分後数日でクリフォトが攻めて来ますけどね

 

それからミカエルさんと一緒にクリスマス企画の内容で大まかな流れなどを確認していく

 

「―――はい。これで問題は無いようですね。そろそろ貴方方の町に今回の企画の立案者も到着している頃でしょうから細かい調整はその者と打ち合わせした方が良いでしょう。悪魔のお仕事や修行などでお忙しい皆さんを余り長く引き留めてもいけませんし、ここまでと致しましょうか」

 

ミカエルさんがそう締めくくり、そのまま解散の流れとなった辺りで遠くからサンタの格好をした天使の方がやってきた

 

「ミカエルさまぁ!」

 

「おや、ガブリエル」

 

「ガブリエル様」

 

現れたのは四大セラフの紅一点。ガブリエルさんだ

 

グリゼルダさんの『(キング)』でイリナさんにとってのミカエルさん的な立ち位置の方だな

 

ウェーブの掛かった金髪に間延びした声にたれ眼で天然おっとり系美人と云った感じかな?

 

直接お会いするのは初めてになる

 

「あら~?グリゼルダちゃんに『D×D』の皆さんですねぇ?初めまして、わたくし四大セラフのガブリエルと申します」

 

そう言ってガブリエルさんは頭を下げて挨拶してくれた

 

「ガブリエル様は天界一の美女で天界最強の女性天使の方なのよ!」

 

イリナさんが補足説明してくれたけど、そりゃあ四大セラフ唯一の女性ならそのまま最強の女天使という位置づけになるわな

 

すると突然イッセーの周囲を取り囲むように天使文字の結界のようなものが張られ、更には警報まで鳴り響いた

 

「うわっ!なんだコレ!?」

 

驚くイッセーにミカエルさんが苦笑しながら答えてくれた

 

「天界には天使の堕天を防ぐ為に一定以上の煩悩を検知したらそのように警告と堕天使化の一時的な抑制効果のある結界が作動するようになっています。如何やら悪魔の方であっても結界は作動するようですね。赤龍帝の煩悩に反応してしまったのでしょう」

 

ガブリエルさんと出会って煩悩解放された訳だな

 

「イッセー先輩。5秒以内に煩悩を追い出して下さい。でないと地獄に堕とします」

 

物理!?天界自体から叩き出すって意味ですか?

 

「いや白音ちゃん!そんな急に言われてもあんな素晴らしい天界一のお胸様を見て瞬時に切り替えるなんて俺には・・・」

 

「そうですか。なら、歯を食いしばって下さい」

 

白音が指をパキパキと鳴らしながらイッセーに近づいていくけど流石に天国でノックダウンされるというのは少し可哀そうか?

 

仕方ないから少し手伝ってやるか

 

「白音。ちょっと待ってくれ。俺が一言でイッセーの煩悩を消し去ってやるから」

 

「イッキ先輩?・・・先輩がそう言うなら、お任せします」

 

そうして未だに警報に包まれたイッセーを皆から引き離して耳元で囁く

 

「(イッセー、思い出せ。サイラオーグさんの眷属であるコリアナさんと戦った時のストリップショーの最後の瞬間を)」

 

あの最後に残るは下着を取るだけの時にコリアナさんがパンツから脱ごうとした時の事をさ・・・まぁ俺はレイヴェルに目を塞がれたから見えてはいなかったんだけどな

 

あの時のイッセーは興奮の絶頂にあったはずの精神が一瞬で凪いだ海のようになったはずだ。例え同じカテゴリーの趣味を持っているとしても細かなこだわりの違いというのは決して馬鹿に出来るものではない。漫画とアニメが同じという人やダンガムシリーズならどれも変わらないという人に憤りを感じるマニアは多いだろう

 

いや!寧ろ近しいジャンルだからこそ許せないモノというのが在るのだ

 

心の高ぶりを治める方法は単純でその真逆の心が冷める出来事を脳内で思い出してやれば良いのだ

 

事実。イッセーの周囲に展開していた結界は消え去った

 

「・・・イッキ。俺は今、心が寒いぜ」

 

イッセーの瞳に光が入ってないな

 

「そうか。良かったな。冷静になれて」

 

「良くねぇよ!お前は俺の煩悩を何だと思ってやがるんだ!」

 

少なくともこの場所では必要の無いものだと思ってるよ

 

真っ向から自分の性癖と対立するあの時の虚しさを思い出し、肩を落として覇気を無くしたイッセーと一緒に席に戻る

 

「イ、イッセー?貴方大丈夫?」

 

「リアス・・・ゴメン。天界一のおっぱいは後で思い出す事にするよ・・・」

 

「にゃはははは、ここまで見事にコントロール出来るなんて、流石は中学からの腐れ縁ね」

 

ローテンションのイッセーを見て黒歌は笑いを堪えられないと言った感じだ。まぁ、年がら年中エロ馬鹿共を沈めていたら手綱の握り方くらいは覚えるさ

 

何時もなら落ち込むイッセーを豊満な胸に抱いて励ますリアス部長や朱乃先輩も流石に天国では自重したらしい

 

「おんやぁ?オカ研の皆さんじゃないですか。あっ、天界に来るのって今日でしたっけ?」

 

「デュリオ。散歩は終わったのですか?」

 

ガブリエルさんの次に現れたのは『D×D』のリーダーのデュリオさんだ

 

散歩ってのは何時もの食べ歩きツアーなのかそれとも第三天(・・・)にでも行っていたのか

 

取り敢えず、詮索するのは野暮かな

 

「これはミカエル様。すみません、こんな忙しい時に休息なんて頂いちゃって」

 

「構いませんよ。忙しい時だからこそ、必要な休息というのは有るものです。それに貴方もクリスマスのプレゼント配りは手伝ってくれるのでしょう?」

 

「それは勿論任せて下さいっス。これでもプレゼントを配るのは得意なんで、あんまり準備の方は手伝えないけど当日はその分張り切ってプレゼント配りに勤しみますんでね」

 

天界のジョーカーも流石に忙しいみたいだ

 

ユーグリットからクリフォトの末端とはいえ拠点の情報も割れだしているみたいだし、いろんな場所の天候を大荒れにしてたりしてるんだろうな

 

「ミカエル様。例の件についても話しておいた方が宜しいのでは?」

 

グリゼルダさんがミカエルさんに進言し、ミカエルさんも頷く

 

「そうですね。知らせておいて損は無いでしょう―――現在、教会関係者が次々と襲撃を受けているのです。教会本部だけでなく、支部の重鎮にも死傷者が出ています。襲撃者は未だ不明ですが、現場には邪龍の気配が残されている事から恐らく・・・」

 

「クリフォト・・・ですね?」

 

リアス部長の推察にミカエルさんも頷いて返す

 

「ええ、確証こそ在りませんが、十中八九間違いないでしょう。敵の狙いが教会関係者という事以外判然としない今、駒王町の教会も標的となるかも知れません。注意しておいてください」

 

ミカエルさんの警告を最後に俺達は天界を後にしたのだった

 

 

 

 

 

天界での用事も終わり、俺達は再びイッセーの家の地下転移室に天界のエレベーターで戻ってきた

 

「リアス~!俺、俺イッキにイジメられて~!!」

 

煩悩禁止空間(天国)から解放された途端にリアス部長に泣きつくイッセーは取り敢えず無視して皆で天国の感想を言い合う事にした

 

と云うかイッセーの奴まだ引きずってたのか・・・

 

「あらあら、イッセー君ったら・・・それにしても素敵な場所でしたわよねぇ。やはり想像しているのと実際に目にするのでは感動が違いますわ」

 

「はい。あまり見て回れなかったのは残念でしたがまさか生粋の悪魔である私が天国に行く事になるなんて、ミカエル様ではありませんが想像も出来なかったですわね」

 

人間からの転生悪魔なら天国に行く事を大雑把に夢想する事は有っても、生まれた時から純血の悪魔であるレイヴェルやリアス部長は確かに欠片も考えた事無いだろうな

 

もしも考える機会が在るとするなら天界に攻め入ろうとする場合に如何攻めるべきかとかって非常に物騒な思案になるだろうし

 

「僕としてはセラフの住んでいるという『ゼブル』が気になったね。あの白亜の宮殿をケーキで再現出来たら面白いと思ったよ」

 

お菓子やケーキ作りに凝っている祐斗らしい意見だな

 

実際お城ケーキとかも有るし、祐斗のデコレーションケーキは新しい領域に突入しようとしているのか・・・しかし、悪魔が仮初でも天界の中枢でセラフの住処である『ゼブル』に噛り付き、咀嚼するというのは如何なんだ?

 

まぁそう言う事まで深く考え始めたらキャラ弁とかもアウトになってしまうからな

 

するとイッセーも今の会話の内にリアス部長の胸でSP(スピリチュアル・ポイント)を回復したみたいなので皆で一階のリビングに向かう事にする

 

因みにグリゼルダさんとは天界で別れている。向こうでまだ仕事が有る様だ

 

リビングに近づくと扉の向こうから楽し気な話声が聞こえてきた

 

皆でリビングに入るとイッセーのお母さんと神父服を着た栗毛の男性が談笑しているようだ

 

「やあ皆さん。お邪魔させて貰っているよ」

 

その男性を見てイリナさんが文字通り飛びついた

 

「パパ!」

 

「おお!マイエンジェル。元気にしていたかい?」

 

「勿論よパパ!―――皆、紹介するわね。私のパパで教会で牧師をしている・・・」

 

「紫藤トウジです。普段は教会のイギリス支部で働いていますが本日はイリナと一緒に仕事をする為に日本にやって来ました。クリスマスは一緒に盛り上げていきましょう」

 

クリスマスの駒王町のプレゼント配りを立案したのはこの人という訳だ

 

てか神父じゃなくて牧師なんだな

 

神父と牧師ってほぼ同じような立場だけど細かいところで違いが有るんだったっけ?

 

それからクリスマスの細かい打ち合わせをする前にそろそろ夕飯の時間という事で皆でイッセーの家で夕飯を頂く事になった

 

幸い俺の家の親に確認してみると夕飯の支度に取り掛かる直前だったらしく、今回は要らないという事は伝えたけどな

 

大人数ではあるがリフォームされて無駄に豪勢な俺とイッセーの家は台所も広い為、料理の出来るリアス部長に朱乃先輩、アーシアさんがイッセーのお母さんの手伝いをする事でどんどんと料理が出来上がっていく

 

俺達男衆(トウジさんは客人枠で除外)は料理を運んだりテーブルを拭いたりが主な仕事だ

 

台所が広いと言っても流石に4人以上は狭いから料理で手伝えることは無いからな

 

「それにしても俺もイッセーもそうだけど家にこれだけ女性陣が集まってると中々自分で料理する機会が訪れないよな・・・偶にはレイヴェル達と一緒に料理もしてみるべきか?」

 

「イッキ・・・お前料理出来んのか?」

 

「よぉし、イッセー。一度お前の俺に対する認識をちょっと掘り下げて聞いてみようか」

 

失礼な奴だなコイツは―――そもそも料理が壊滅的ならそんな提案をしたりなんか・・・そう言えばサジはソーナ会長の手料理(恐らく壊滅的)を何度も食べたんだっけ?

 

「一応答えておくとそこそこには料理を勉強した時は有るから最低限の基礎は押さえてると思うぞ。昔黒歌と一緒に山のサバイバルとかで修業してた時とか彼女に『下手のモノ喰わせられん!』って変な使命感に駆られた事もあったし、家に置いてあった料理本のレシピは一通り試したからな。別に料理の腕前を昇華させた訳じゃないけど、少なくとも下手な味付けとかはしないさ」

 

参曲(まがり)様の修行の時からだけど黒歌のスキンシップが段々と増えて来てた頃だったし『惚れさせてやる』って意気込んでた時期でもあったから細かいところまで気になっちゃったんだよな

 

「俺はそうだな。オカルト研究部に入るまでは玉子焼きとかそういう簡単なもの以外だと殆ど家庭科の調理実習くらいしか料理はしなかったな・・・夏休みには獣の皮を剥いで焼いたり適当な雑草と一緒にその辺に落ちていた歪んだ鍋で煮込んだりはしたけど・・・」

 

一から獣の解体をして食べるとか、いきなり山に放り込まれた割に根性有るよなコイツも

 

現代っ子だと拒否反応出る奴も多いだろうに

 

「雑草スープか。アレって最初は苦いけどその内舌が麻痺して意外と深みのある味わいに変わっていくんだよな」

 

肉からにじみ出た油で喉ごしもそれなりになるし

 

「分かるわ~。俺はアレで『不味い』と『苦い』が根本的に違うものなんだって心の底から理解出来たぜ。普段そんな事余り意識しないのにな」

 

ピーマンとかゴーヤとかが苦手な人は一度雑草スープで三日間ほどで良いから過ごしてみると良い。きっと克服できるから

 

まぁ知識ゼロでその辺の雑草を食べたら下手したら毒に当たってしまうので専門的な知識を持っているか仙術で解毒の印を結べない人は止めて置いた方が無難だけどな!

 

「ははは、僕はそういう道具も揃ってない完全現地調達の料理は流石にした事なかったかな」

 

「インドア派な僕には想像も出来ない世界ですぅ」

 

祐斗は兎も角、ギャスパーは世界が狭いぞ。想像くらい出来るだろうに・・・アレ?そう言えばハーフとはいえ少量でも血を吸う必要のあるギャスパーは獣の血でもイケるのかな?

 

ギャスパーを人里離れた山奥に放り込んだらその内ボロボロの服で熊や鹿の首筋に直接噛み付くワイルドな光景が見られたりするのだろうか?・・・ちょっと見てみたい

 

「ふむ・・・料理か。私は基本外食か任務の時は教会支給の携帯食だったから料理した事は無かったな。良し!私の女子力を高める為にも一度料理をしてみようか―――イッセー、その時は是非とも試食して感想を聞かせてくれ!」

 

「ああ!ゼノヴィアがちゃんとした意味で女子力という言葉を認識しているのね。以前は女子力を『女子の腕力』の事だと勘違いして只管筋トレに励んでいたのが嘘のようだわ!」

 

感動してるとこ悪いけどイリナさんも日本語がかなり怪しいからな

 

教会コンビは正直どっちもどっちだと思う

 

後日。ゼノヴィアとついでにイリナさんがイッセーに料理(劇物)を振舞い、胃袋に壊滅的なダメージを負わされたイッセーはロスヴァイセさんが心配して作ってくれた北欧式胃薬(劇物)で一日中寝込む事となってしまった・・・どんまい。同情はするよ

 

イッセーの家の女子で料理が出来るのって今まさに手伝いをしているあの3人だけだったんだな

 

その点では黒歌も含めて周囲の女の子全員が料理できる俺は恵まれているんだな

 

白音は最初は料理が出来なかったっぽいけどレイヴェルが指導したみたいだし

 

そうして雑談していると料理も出来上がったみたいで皆で食事を頂く事にする

 

話の中心は当然トウジさんなので俺達に向ける会話の内容は自然と幼い頃のイリナさんの話となり、当の本人は顔を赤くしていた

 

食べ終わって片付けも一段落してからトウジさんと一緒に会議室に移るとイリナさんは父親にぷくっと頬を膨らませて抗議している・・・流石に食事中に本気で止めに入る事は出来なかったからトウジさんのトークは終始止まらなかったからな

 

「もう!パパったら私の赤裸々な過去を全部話しちゃうんだから!」

 

「はっはっは!ゴメンよマイエンジェル。皆さんに是非イリナちゃんの魅力を知って欲しいと思ったら止まらなくってね」

 

イリナさんがトウジさんをポカポカと叩いていると部屋にアザゼル先生も入って来た

 

「お前ら、天界から帰って来たんだな―――あんたが紫藤イリナの父親か。初めましてだな。俺はアザゼル。神の子を見張る者(グリゴリ)の特別技術顧問をやっている者だ」

 

「貴方が堕天使の元総督殿ですか・・・お初にお目にかかります。教会のプロテスタントに属している牧師兼エージェントの紫藤トウジです。娘のイリナがお世話になっております」

 

堕天使の元トップの登場に姿勢を正して挨拶するトウジさん

 

俺達は何時も一緒で悪戯とかに巻き込まれてるから感覚が変になってるけど、本来アザゼル先生は超が三つくらいは付く大物だ

 

初対面ならこういう反応にもなるだろう

 

それからアザゼル先生も交えてクリスマス企画の細かいところを決めていく

 

どのメンバーがどの地区を担当するかとか、全部配り終えるのにどの程度時間が掛かりそうだとかそんな感じだ

 

「―――これで大体の事は決まりましたかな。後は当日に向けた下準備だけで良いでしょう」

 

そう締めくくったトウジさんは「ああ、そうそう!」と荷物を弄り始めた

 

「実はね。今回はイリナちゃんに特別なお土産を持ってきたんだよ」

 

そうして取り出したのはドアノブだ

 

ドアノブのみだ・・・アレが例のドアノブか

 

ドアノブをプレゼントに見せられたイリナさんも流石にこれには困惑した表情だ

 

「このドアノブを家の何処でも良いから扉に取り付けるんだよ。ほら、こんな感じにね」

 

トウジさんが廊下へ続く扉のドアノブをドライバーで取り外してプレゼントとして持ってきたドアノブを新たに取り付ける

 

そしてその扉を開くと俺達の部屋よりも大きい部屋に繋がっていた

 

天使の像や絵画などが飾られていて中央には丸い形の天蓋付きベッドが鎮座している

 

「この部屋は天使と悪魔が子作りしても堕天しない特別な結界が張ってある空間です。さっきのドアノブがこの専用の異空間へ繋げてくれるのですよ―――ミカエル様曰く『天使イリナ、兵藤一誠君。この部屋では何をしても問題ありません。色んな事を試してみて下さい。若い男女ですしね、そういう信仰も有るのでしょう』・・・との事です」

 

「『えええええええええええええええええええ!!』」

 

皆もそのぶっ飛んだ説明に絶叫するか呆れるかの二択のようだ

 

トウジさんがイッセーの手を取って目元に涙を浮かべて詰め寄る

 

「イッセー君。孫を!孫をよろしくお願いします!!」

 

「ええ、ああ、いや、その、えと・・・」

 

イッセーがしどろもどろに為っている・・・まぁ流石にそんな頼み事されたら反応に困るわな

 

「孫は男の子でも女の子でも構いませんよ。いや!寧ろ沢山子作りに励んで両方の孫の顔を見せて下さい!女の子だったらイリナちゃんに似て天使のように可愛い子になるんだろうなぁ・・・男の子だったらドラゴンのように勇ましく誇り高い男子になってくれそうだ。ああ、どっちの孫の顔も見れると思うと今から楽しみだ。最初は男の子?女の子?いやいやもしかしたら二卵性の双子で両方同時に拝めるという可能性も在る訳で・・・これから毎日天に祈りを捧げなければ!」

 

うん。この人イリナさんの父親だわ

 

一度自分の世界に入ると妄想が突っ走るところとかそっくりだわ

 

「バカバカバカバカ!パパのバカ!ミカエル様もなんでパパにこの部屋のドアノブを渡しちゃうのよ!もういや!恥ずかしくって私死んじゃいそう!」

 

イリナさんが部屋の角で俺達に背を向けて座り込んでしまった

 

トウジさんは・・・

 

「イリナちゃんもイッセー君も将来有望だから沢山子供が出来ても金銭面での不安も無いだろうし、やっぱり生きてる間にサッカーチームも組めるくらいの孫に囲まれてみたいなぁ。天使の翼を生やしたちっちゃい頃のイリナちゃんそっくりな孫に『お爺ちゃ~ん♪』なんて言われた日には私は・・・私はそのまま天に召されても良いのかも知れない・・・」

 

まだ妄想の世界から帰って来てないようだ

 

「―――こういう部屋、革新的だわ」

 

「ええ、この部屋に入ってしまえばやる事は一つだけですものね」

 

イッセーと中々仲が進展しない為かリアス部長達も段階飛ばしで子作り部屋で勢いに任せて押し倒す事を考えてるみたいだな

 

「う~ん。確かに良い部屋だけど私の場合そんな特殊な結界とか要らないし、寧ろ内装の方に技術を振ったのが欲しいかもにゃ~。ねぇねぇアザゼルっち!堕天使の技術でも似たようなの造れない?学園の屋上や教室、プール、橋の下まで色んなシチュエーションとそれに合わせた衣装も用意出来るエロ部屋!きっと売れると思うんだけどにゃ~?」

 

「お!それは良いアイディアだな。見られるかも知れないという緊張感で興奮する奴も居るし、そうでなくともその空間なら開放的なプレイを誰に憚る事も無く楽しめるという訳か。幾つかの空間を小分けで用意して行きかう人々は映像でONとOFFを切り替えられるようにして幅広いエロのニーズに応えられる部屋!この後早速開発担当者共に意見を通しておくぜ」

 

「意気投合してんなよ、エロ推進派共!!」

 

エロに寛容な悪戯っ子共が手を組んだらマジで始末に負えねぇ!

 

後、将来的には俺の部屋の中に何処にも繋がってない、ただドアノブを付けられるだけの扉を設置して貰いますからね!

 

それと持ち運び用のドアノブも一個!

 

密かな決意を胸に秘めながらも、結局その日は顔を赤くしたイリナさんに(子作り)部屋から追い出されたのを機に解散となったのだった




次回から本格的に物語が動き出しそうですね

エロエロシチュエーション部屋・・・良き!


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第三話 神の、奇跡です?

翌朝、日課のトレーニングとして家の地下の共同トレーニングルームに赴く

 

大体は此処で基礎練してから模擬戦及び必殺技開発組がグレモリー領地下トレーニングルームに転移し、瞑想だったり力を抑えて相手と自分の動きをよく見て組手を行うテクニックを磨くようなタイプの修行をする組に分かれたりする

 

だがいざ到着するとリアス部長の姿が無かった

 

別に集合時間に遅れてるという訳でもないので気にしなかったがリアス部長以外のメンバーが揃ったところで朱乃先輩から連絡事項が伝えられた

 

なんでも昨日解散した後でグレモリー家から連絡が来て重要な話が有るので一度冥界の実家に帰る事になったそうだ

 

一応今日の夜までには帰る予定らしいが通信で万が一にでも傍受される可能性を排してリアス部長を呼び出したなら、もしかしたらもう少し時間が掛かるかも知れないとの事だった

 

確かバアル家の関係だったっけ?

 

バアル家の重鎮とかが何人か暗殺とかされてたりしたんだろうな

 

・・・まぁどうせ悪魔側で殺されたのは『例の件』で私腹を肥やす事しか考えてなかったクズだから別に死んでも良いんだけど

 

そのまま初代バアルも死んでくれればサイラオーグさんも将来動きやすくなるんだろうけどなぁ

 

初代が死んだらそれだけでバアル家のパイプの半分以上が瓦解しそうだけどさ

 

そんな感想を抱きつつ基礎練と少しの模擬戦を終えた俺はまた京都に赴いて【一刀餓鬼】の修行をする。折角の冬休みなので休み期間中は可能な限りこの修行を中心にしていくつもりだ

 

九重に出迎えられたり、八坂さんも交えて一緒にお昼を頂いて両親に裏の事がバレた時の事をイヅナの通信ではなく改めて話したり午後から延々と回復してぶっ倒れたりを繰り返していると夕方の辺りで駒王町から緊急通信が入って来た

 

如何やらクリフォトの襲撃が有って、トウジさんが負傷したようだ

 

襲撃は今日だったのか。流石に日にちまでは覚えて無いな

 

「了解。直ぐに戻ります」

 

八坂さんと九重に軽く状況を伝えて心配する九重の頭を撫でてやってから俺は駒王町へ転移した

 

 

 

 

[イッセー side]

 

 

いや~、昨日は大変だったな

 

リアスが実家に呼ばれて一時帰国してから夜に寝ているとゼノヴィアがやって来て少し付き合って欲しいと言われたのでゼノヴィアの部屋に赴いてみると扉を開けると例の子作り部屋だった

 

そして中にはセクシーなネグリジェ姿のイリナが居てそのままゼノヴィアに部屋の扉を閉められて強制的に二人っきりになる始末!

 

ギクシャクしながらもイリナと一緒に昔はクリスマスにサンタを襲撃してプレゼントを強奪しようとか企んでたとかの昔話に花を咲かせているとイリナに押し倒されてしまったのだ

 

天使の翼を広げたネグリジェ姿の美少女に押し倒れるとかそれだけで鼻血が噴き出そうだった

 

イリナも俺の手を取って自分の胸に当ててそれでも天使の翼が堕天の兆候を見せない事でより一層艶っぽい表情になって唇を近づけてくる

 

だけどキスする直前で部屋の扉から家の女性陣の好奇心に彩られた視線を感じ取ってしまい、結局その日はなにも無かったのだ・・・あの扉には内側にカギを付ける必要が有るのではないか?

 

しかし今回はこれで良かったのかも知れない

 

俺も場の雰囲気に呑まれかけていたけどまだイリナとは告白もなにもしていないのだ

 

流石に段階飛ばし過ぎだし、そうなってたらリアスが悲しい顔をしそうだ

 

俺はまだ正式に好きと伝えたのはリアスだけだからな。イリナとのエ・・・エッチは非常ぉぉぉに魅力的だけど先ずは告白が先だろう

 

俺の周りの女の子たちが俺なんかの事を異性として好いてくれている事は自覚しているし、実際アプローチも凄い

 

世の女性のアプローチは絶対ここまで過激じゃないって確信出来る程度には凄い

 

ハーレム王を目指す者として近くにイッキが居るからか俺も意識しちまうぜ

 

特に先日のイッキの『絶対に黒歌さん達を幸せにする』って決意を聞いた後だと尚更な

 

少し前のオカルト研究部に入る前の俺なら漠然とハーレムを形成して可愛い女の子たちにチヤホヤされたいとしか考えていなかったけど今は違う

 

リアス達の事を本当に大切に想うようになった

 

・・・だからこそ、その想いに尻込みしちまってるんだよな

 

リアスに告白するだけでも滅茶苦茶勇気が必要だったのにイッキの奴は俺の3歩は先を歩いてやがる・・・今日みたいに一人一人と良い雰囲気になっても如何にも邪魔が入るならいっそ全員揃って告白した方が俺に必要な覚悟力は兎も角、難易度は低いんじゃないかって最近思えてきた

 

決意と覚悟と自分の優柔不断な不甲斐無さに悶々としながらも次の日の昼を迎えて午後には駒王町から駅二つ程離れた町に俺とイリナとゼノヴィアにロスヴァイセさん。そしてイリナの父親の紫藤トウジさんと一緒にその町の大型家電量販店を訪れていた

 

まだクリスマスプレゼントで一部決まっていない品物が在ったので下見に来たのだ

 

他にはサンタのコスチュームを色々と見て回って俺達が着る予定のサンタの服のデザインをもっと凝ったものに出来ないかという考えもある

 

ロスヴァイセさんにミニスカかズボンかと聞かれたけどミニスカ一択と答えておいたぜ!

 

これに関してはイッキも同意見だろう

 

あのチラリストのイッキなら生足よりも長めのストッキングや靴下などで僅かに太ももが見える絶対領域とか好きそうだ。間違いないね!

 

そして大方見て回った辺りで突然雨が降って来た

 

雨の予報なんて特に無かったけど、通り雨かな?

 

俺達は丁度近場の公園に屋根付きのベンチが見えたのでそちらに移動して雨が過ぎ去るのを待つことにした。通り雨なら長くても10分も降らないだろう

 

天気予報の大外れならズブ濡れを覚悟する必要が有るけどな

 

「全く、最後の最後でついてないね。ジョーカーなら天候操作で一発なんだが」

 

「天界の切り札様を傘代わりにするなよゼノヴィア」

 

てかそんな事で一々天候操ってたらキリが無ぇよ

 

「有間君や黒歌さんでもジョーカー程ではありませんが仙術で一区域の天気を多少操るくらいは出来そうですけどね」

 

ああ~、魔王クラスのあの二人なら確かにジョーカーのように自在に操って攻撃とかは無理でも雨雲を晴らすくらいの事は出来そうかな?

 

・・・人間ってなんだろうな?

 

少し哲学的な事を考えていると公園に一人の男が入って来た

 

それを見て俺達は警戒心を高める

 

なにせその男は日本刀を手に明らかに危険なオーラを漂わせていたからだ。少なくとも表の人間のイカれた切り裂き魔なんて事は無さそうだ・・・それはそれで大問題だけどな

 

「クリフォトか?」

 

ゼノヴィアが異空間に仕舞ってあったエクス・デュランダルを抜いて構える

 

幸い今は突然の雨もあって周囲に人は居ないようだけどまだ明るいうちにドンパチやり始めたら確実に人目に触れてしまう

 

すると隣のロスヴァイセさんが手元に魔法陣を展開させて周囲一帯の空気が変わる

 

「人避けの結界を張りました。とはいえ急ごしらえの結界なので余り長くは誤魔化しきれないと思って下さい」

 

いや、有難い。もしも見られて騒ぎが広まったら人々の記憶の改ざんやらその人達を守りながらの戦闘やらで大変な事になっていたはずだ

 

だがそこにトウジさんの心底震えたような声が耳を打った

 

「そ・・・そんなまさか・・・」

 

「お久し振りです。紫藤さん・・・いえ、今は確か紫藤『局長』でしたか。僕と彼女を殺した成果で昇進されたのですか?それは何よりですね」

 

トウジさんが彼を殺した(・・・)

 

でも、今まさに生きてるじゃないか―――何かの比喩か?

 

それとも、もしかして聖杯・・・なのだろうか?

 

「教会側で殺されていたのはスミスや轟・・・当時のメンバーだ。やはりキミがやったのか?」

 

「そうです。教会側で直接関わったのは貴方で最後だ。今、此処で裁いて差し上げます」

 

言うが早いかその男は手に持つ刀に恨みの感情をそのままオーラとして乗せたような斬撃を放ってきた。俺とゼノヴィアが防御するが鎧を纏っていなかった俺は吹き飛ばされ、ゼノヴィアもその重い一撃に地面に小規模なクレーターが出来る

 

それから二人は高速で斬り結ぶが徐々にゼノヴィアがそのパワーに押されているようだ

 

俺はこのままではダメだと素早く鎧を着こむ

 

「その太刀筋。教会の教えを基本に置いているモノだ。お前は教会の戦士だな!」

 

「ああ、『元』だがな―――しかし、エクスカリバーにデュランダルを持つ悪魔に赤龍帝の悪魔、そちらの銀髪の女性はヴァルキリーの悪魔ですか。私の居ない間にこの町は魔境へと変わってしまったのですね。紫藤局長、貴方を葬る為には『この力』を解放する必要が有る様だ。なに、手早く済ませれば一般人への被害も出ないでしょう」

 

ゼノヴィアの剣を弾いて俺達から距離を取った男は手にした刀から更に凶悪な瘴気を放ち始める

 

そして瘴気が徐々に形を変えていき、邪龍の気配を纏って八首の蛇の頭のようなモノが現れた

 

「八重垣君、その剣は!」

 

「神霊剣、天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)。その剣に伝説の邪龍、『霊妙を喰らう狂龍(ヴェノム・ブラッド・ドラゴン)』八岐大蛇を宿したモノだ。この国の誇る最高峰の霊剣ならばデュランダルやエクスカリバー相手でも遅れは取らない」

 

天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)!?俺でも知ってる日本の『三種の神器』と呼ばれる国宝の一つじゃないか!

 

天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)は折れて、日本神話からの依頼で修復中だったはず!そもそもその剣に邪龍が宿ってるなんて聞いた事ないわ!」

 

イリナの叫びに男はイリナの白い翼に視線を向けて皮肉気に笑う

 

「―――貴女が紫藤局長の娘さんですか。今はその天使の翼も憎々しいモノに思えてならないよ。なに、クリフォトの使っている聖杯の力で邪龍の魂とこの剣を融合させたらしい。だけど僕にはこの想い、この恨みを体現してくれる剣という事実だけで十分だ」

 

おいおいおい!クリフォトが神剣と邪龍を融合させたってのも驚きだけど教会側はまた聖剣・霊剣の類を奪われてるのかよ!コカビエルとバルパーにエクスカリバーを3本も奪われた事といい、一度管理体制を見直した方が良いんじゃないのか?

 

「さあ!断罪の刻です!」

 

驚愕も余所に八岐大蛇の首が俺達を襲う

 

『相棒!八岐大蛇の毒は危険だ!絶対にその牙を真面に喰らうなよ!』

 

左腕の宝玉からドライグの警告が飛ぶ―――ヒュドラのように毒が売りのドラゴンって事かよ!

 

男の一番近くに居たゼノヴィアに首の一つが最初に到達するがゼノヴィアは紙一重で横に回避して無防備なその首筋にエクス・デュランダルを振り下ろした

 

だが流石は伝説の邪龍というべきか刀身は首を半ばまで断ち切ったものの途中でその勢いを無くしてしまう。刀身が首に埋まったままのゼノヴィアに他の首が襲い掛かる

 

あれでは埋まった刀身を引き抜くのが間に合わないか!?

 

「ゼノヴィア!ミミックを伸ばして!」

 

イリナの咄嗟の助言に反応したゼノヴィアが擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を発動させて刀身を思いっきり引き延ばす事で柄を握るゼノヴィアはその場から反動で離脱する

 

傷口に埋まったままの刀身は形態変化のミミックの先端を細くする事で抜き取った

 

流石は元ミミックの使い手!ミミックで戦況を出し抜く一瞬の判断はまだイリナの方が上だな

 

とはいえ相棒の声に迷いなく聖剣を発動させて危機を脱したゼノヴィアも流石だ

 

だが感心ばかりもしていられない。俺は俺で複数の首が迫っているからだ

 

あの牙が危険だと云うのなら、先ずは遠距離攻撃だ

 

俺は首たちに向けて複数のドラゴンショットを撃ち出してヒットさせる

 

ドラゴンショットは八岐大蛇たちの顔面の3分の一程度を吹き飛ばすがそのまま直ぐに再生してしまった―――再生持ちかよ!益々話に聞くヒュドラみたいだな!

 

「その程度ではこの邪龍は止められないぞ。何でもこの剣には本来八岐大蛇の魂の半分だけを入れて残りの半分は聖十字架使いの魔女の神滅具(ロンギヌス)に活用しようとしていたらしいが、キミたちが倒したのだろう?この邪龍はもう殆ど完全に復活していると言っても良い」

 

その殆ど復活している邪龍に霊剣の霊力を上乗せした状態で使役する事にも成功したってか?アポプスに逃げられたからただ邪龍を復活させるだけでなく、支配下に置ける方法を模索してるのか?

 

なんにせよ不味い状況だ

 

耐久力はそこそこだがそこに再生も加える事でラードゥンやグレンデルばりに厄介なタフさを持っていやがる・・・倒そうとすればそれこそ全力のクリムゾン・ブラスター並みの力は絶対に必要になるけど、こんな住宅街の近くで派手な砲撃をかませる訳が無い!

 

しかしそこで俺の眼に俺達相手に目立たないように他の首の影に隠れるようにして首の一本が地面に埋まっている姿が見えてしまった

 

「アーシアァァァ!!ファーブニルを呼べえええ!!」

 

そうだ!詳しい事情は分からないけど奴の狙いはトウジさんだ

 

別に俺達全員を倒さなくても不意打ちの一発さえ決まれば人間のトウジさんは致命傷だろう!

 

イッキ?アイツにフェンリル以下の牙って通るの?

 

兎に角後方に下がって一緒の場所に居るトウジさんとアーシアが今一番危険だ!

 

俺が危惧した通り、直後に前衛の俺、ゼノヴィア、イリナの後方の地面から八岐大蛇の首が飛び出して真っ直ぐに二人の下へ向かう

 

アーシアが召喚の呪文を唱える暇は無い!更には俺達の方にも残りの首が邪魔に入るのでこのままでは援護も間に合わないぞ!

 

「させません!」

 

同じく後方に居たロスヴァイセさんが素早く二人の前に立ちはだかりシールドを展開する

 

その結界は見事に大口を開けた八岐大蛇の口に嵌め込まれる形となりその突進を止める事に成功した。だがその3人の更に後方(・・・・)からまたしても首が飛び出して来た!

 

「キミたちが後ろに気を取られている間にもう一本仕込ませて貰ったよ。僕の怒りとクレーリアの悲しみ!貴方の命で清算させて貰いますよ!」

 

クソ!巨大で長い首が戦場全体をうねうね動いてるから1本見逃したか!

 

トウジさんは咄嗟に隣にいたアーシアを突き飛ばすが自身は八岐大蛇の噛み付きを回避しきれずに牙の先端が腕を掠めてしまった

 

それを見た男は歓喜の表情となる

 

「ああ、そうだ。それで良い!出来得る限り苦しみながら死んで下さい」

 

腕の傷はアーシアが直ぐに駆け寄って治療したけどトウジさんは膝をついて全身をガクガクと震わせて大量の汗を掻く

 

『相棒!八岐大蛇の毒は魂すらも腐らせる猛毒だ。早急に治療しないと手遅れになるぞ!』

 

ドライグの声が聞こえていたのかイリナが目に涙を浮かべて男を睨みつける

 

「よくもパパを!」

 

「そう、ソレが怒りの感情だ。如何に天使といえども大切な者を傷つけられればその激情を抑える事は出来ない」

 

「―――ッツ!!」

 

咄嗟に言い返せなかったイリナに男は醜悪な笑みを浮かべる

 

「ロスヴァイセさん!トウジさんを連れてこの場を離れて下さい。イリナ!今はトウジさんの安全確保が最優先だ!」

 

「う、うん!」

 

イリナもなんとか切り替えて改めて光力で出来た剣を構える

 

さて、とは言え簡単に逃がしてくれるのか?トウジさんが毒に侵された事でさっきまでの猛攻は鳴りを潜めたみたいだけど・・・

 

相手の様子を窺っていると遠くから朱乃さん達がやって来るのが見えた

 

「良からぬオーラを検知したとの報告が有り飛んできましたわ!」

 

援軍の登場に男は後方に飛び退く

 

「流石にこれ以上は人目に付くか―――紫藤局長!僕は必ず貴方と天界、そしてバアル家に復讐をします!絶対に許す訳にはいかない!」

 

男はそういうと足元にクリフォトの紋章の描かれた転移魔法陣を展開する

 

「キミたちの住むあの町は多くの犠牲の上に築かれた血塗られたまやかしの楽園だ。その事をよく覚えておくといい」

 

そう言い残し、男は転移の光に消えていった

 

 

[イッセー side out]

 

 

 

俺が京都から戻った時に向かった先は教会の医療施設だった

 

トウジさんが敵の八岐大蛇の毒を受けてしまい治療の為に此処に運ばれたそうだ

 

「悪い。遅くなった。トウジさんの容体は?」

 

「イッキか。今は教会の医療スタッフの人が治療に当たってる。黒歌さんがその場でトウジさんの体内の毒を大方吐き出させてくれたから最悪には至らないだろうってさ」

 

そっか。ヴァーリ達がサマエルの毒にやられた時にも治療した黒歌なら確かに治療は出来るだろう

 

「ん~、でも脆い人間の体だからにゃ~。あの白トカゲやアザゼルっちのように放って置いても自力で完治するのは難しいから残った僅かな毒は専門の治療で解毒するのが良いにゃ―――イッキが聖十字架の炎に突っ込んだ時みたいに私の浄化の炎で丸焼きにするって手も在るけどね」

 

「却下に決まってんだろ。少なくとも今此処でやるべき治療法じゃねぇよ」

 

絶対に普通に治療した方がダメージ少ないだろ・・・と云うかそのウェルダン式熱消毒とか下手したら焼死体が出来上がるし

 

父親がやられたイリナさんの方は落ち込んではいるもののそこまで深刻って訳じゃなさそうだな

 

黒歌が早期に治療を施したからかな

 

そして俺の到着に少し遅れてリアス部長とアザゼル先生もやって来た

 

「事情は聴いたわ。御免なさい。大事な時に居なくて」

 

「とは言え黒歌が居て助かったぞ。八岐大蛇の毒ともなればかなり特殊な専門の機関での治療か並外れた術者でなければ解毒は出来んからな」

 

まぁ黒歌は『並み』の術者ではないよな

 

少しすると医務室からグリゼルダさんと医者の人が出てきた

 

医者は俺達に一礼するとそのまま去っていき、グリゼルダさんが説明をしてくれる

 

「局長の体には現在、八岐大蛇の毒が残留していますがそれも極僅かです。それ故この後で局長を天界の専門施設に移送して残りの毒を完全に治療します。ですがその前に局長から皆さんに襲撃者の事についてお話が有るそうです」

 

俺達が部屋に入るとベッドの上で上体を起こしたトウジさんが出迎えてくれた

 

腕には点滴が繋がっているが顔色は極端に悪いという程ではないみたいだ

 

「パパ、体はもう大丈夫なの?私・・・折角ミカエル様の『(エース)』に選ばれたのにパパを守る事が出来なくって・・・」

 

「心配は要らないよ。イリナちゃん。大方の解毒は済んでいるという説明は聴いてるんだろう?今は精々度合いで云えば二日酔い程度さ」

 

近づいて落ち込む娘の頭を撫でて元気を出させる為か少しおちゃらけた感じで大丈夫だとアピールするトウジさん・・・二日酔いって普通に気持ち悪いけどね

 

「さて、私が天界に治療に向かう前に皆さんにお伝えしたい事が有ります。今回襲ってきた彼・・・彼の名前は八重垣 正臣(やえがき まさおみ)。教会でも名うての戦士であり、かつて私の部下だった男です」

 

「・・・『だった』という事は現在その者は教会から追放されているという事でしょうか?」

 

リアス部長の質問にトウジさんは沈痛な面持ちで否定する

 

「いいえ・・・そもそも彼はもう亡くなっています。昔、教会が彼を粛清したからです。理由は且つてこの町を管理していた上級悪魔、ベリアル家の子女。クレーリア・ベリアルと恋に落ちてしまったからなのです」

 

それからリアス部長がバアル家の現当主周辺の悪魔のお偉いさんが既に幾人か襲撃されて殺されている事を告げ、トウジさんも八重垣という人の仕業で間違いないだろうと言う

 

そして今、バアル家からグレモリー家に事態の説明に人が来るのでリアス部長が眷属を連れにやって来た事を話し、トウジさんも先ずはそっちから話を聴いた方が良いと言った

 

グレモリー家に説明に来る人も関係者以外には口が重くなるかも知れないという事で駒王町の管理をしているリアス部長及びその眷属とイリナさんだけが向かう事なった

 

俺達は皆が戻って来た時に改めて事情を聴くという(てい)

 

まぁ『王の駒』辺りの事情も知ってる俺としては初代バアルが目の前に居たら助走を付けたワンパンをぶつけたい衝動に駆られながら説明を聴く事になっちゃうだろうから有難い

 

当時の出来事だって俺に出来た事なんて無いだろう・・・そもそも町中でばったり出会う事も無かったし、よっぽど数奇で特殊な立ち回りをするか、これと云った修行も無しに猛威を振るえるような『俺TSUEEEEEEEEE!!』なチート能力が必要だ

 

少なくとも後者に関しては最初の三連ガチャで爆死したしな

 

さて、現実逃避もそこそこに実は今は頭の痛い問題が有る

 

・・・八岐大蛇。強化されてね?

 

そう云えば確かに紫炎の魔女さんが禁手で八岐大蛇の魂を取り込んだ八岐の炎蛇的なものを使っていたような気が薄っすらとするなぁ

 

・・・原作でも確か登場とほぼ同時にやられてたから忘れてたぜ

 

聴いた感じだとほぼ生身に近い感じになってるから耐久値とかが上がってそうだ

 

聖杯で強化されてるだろうから弱点とかにも強くなってそうだけど、八岐大蛇の弱点で思いつくのは酒に酔って寝首を掻かれた事だから酒に強くなったのか?

 

そうか。八岐大蛇は酒豪として生まれ変わったのか

 

仮に今後完全に復活する事が有っても決して酒に酔えない体質って考えると少しだけ不憫だな

 

っと、思考が明後日の方向に向いてしまったな

 

「純血の悪魔と人間の恋愛ですか・・・私もフェニックス家の淑女として少し考えてしまいますわね。和平前は私も漠然と同じ悪魔の貴族の下へ嫁ぐものなのだと思っていましたわ」

 

今はレイヴェルが悪魔と人間の恋路について難しい顔をしている

 

俺とレイヴェルも種族としては同じ条件だから思う処が有るのだろう

 

「悪魔の貴族の場合は特にそうだろうよ。俺達堕天使は大半は人間のおっぱい突いて堕天したような奴らばっかりだからその辺は悪魔に比べたら緩かったがな。だが和平前で純血の悪魔と教会の戦士の恋愛となれば下手を打てば戦争だ―――うちの幹部共も和平前から他の勢力の女と宜しくやってたみたいだが基本はバレない様にするか、少なくとも片方が完全に所属する勢力との縁を絶つ必要がある・・・それでもバラキエルのように厄介ごとは付いて回っただろうがな」

 

そうか。和平前のいざこざに巻き込まれたという意味では朱乃先輩の母親も似たような感じなのか

 

バラキエルさんクラスですら危ない橋だったんだから学生貴族と教会の一戦士では扱える権力・パイプ・実力、その全てがバラキエルさん一人に劣っていただろうからな

 

「・・・八重垣君もそのベリアル家の彼女も真っ直ぐに私達に想いを伝えてきました。例え教会と悪魔の者であろうとお互いを想いあう事が出来るのだと。その考えが広まればきっと争いも沈静化し、何時しか手を取り合える時代が来るのだと。しかし当時の私達には絵空事にしか聞こえなかったのです・・・ふふふ、あれから僅か10年足らずで三大勢力は和平を結んだというのに」

 

トウジさんが自嘲するように笑うけど流石にそれは仕方ないとも思うけどな

 

何せ数千年単位で争い続けていた訳だし・・・いや、もしかしたらもっとか?アザゼル先生って実際何歳くらいなんだろう?

 

「何時の時代も真っ直ぐで正しい馬鹿が割を食っちまうんだよなぁ」

 

「嫌になる位に世知辛いですね」

 

アザゼル先生の愚痴に俺もつい同意してしまう

 

正しい意見や正しい行いは大抵淘汰される少数派だ

 

「その点お前さんの事は心配しなくて良さそうだから気が楽だぜ。なにか在ったら根回しして磨り潰すのは厭わんだろう?イッセーなんかはその辺りはまだまだだからな。なにか在って解決するにしても力づくになりそうだ。まっ、ドラゴンらしいと言やぁらしいけどよ」

 

「『威』でもって『意』を示すというのも裏の世界だと割と通用してしまうのが何とも言えない処ですけどね」

 

武力を背景に『お話』するのは人間界でも一緒だけど、裏の世界だと軍事力よりも個々人の力量に大きな隔たりがあるからその辺りは物凄くこまごまとしたパワーバランスになってそうだ

 

そうして暫くするとリアス部長達が帰って来てバアル家の使者が初代バアルその人だった事や、当時のいざこざについてはグレモリー家当主であるジオティクスさんも知らなかった事。最後にサーゼクスさんにだけは初代バアルから事情(失笑)を話していたという事だった

 

トウジさんが改めて昔の出来事をもっと上手く、穏便に済ませられなかったのかと悔いてイリナさんが涙ながらに慰めた後でトウジさんはベッドの横に置いてあった大きなケースを取り出した

 

「実はね、イリナちゃん。私が日本にやって来たのはクリスマスの仕事の為だけじゃないんだ。コレをイリナちゃんに直接渡す為でもあったんだよ」

 

そう言ってケースを開けるとそこには一振りの聖剣が入っていた

 

「デュランダルの持ち主だったパラディンのローラン。そのローランの親友であり、幼馴染でもあった同じくパラディンのオリヴィエが持っていた聖剣―――オートクレール。真に清い者にしか扱えないとされた剣だ。その力は敵対する者の心すらも清く洗い流してしまうとされている・・・診断の結果、イリナちゃんが一番適性値が高いと判断された。天使に転生して聖剣の因子が強化された事と今代のデュランダルの持ち主であるゼノヴィアさんの相棒を長く務めていた事が深く作用したそうだ」

 

トウジさんはケースからオートクレールを取り出すとイリナさんに差し出す

 

「イリナちゃん。僕に言えた義理では無いのかも知れないけど、どうかこの剣で八重垣君を止めて欲しい。愛の為に戦った彼にこれ以上憎悪の刃を振るわせる事は在ってはならないんだ」

 

「うん!私、必ずこの剣であの人を止めて、パパを守るわ!例えパパが過去をどれだけ後悔していても・・・だって、家族だもん。それにあの人もそれだけ優しい人だったなら復讐を遂げても、きっと虚しいだけだと思うから、あの人の心も守ってみせるわ!」

 

「・・・『汝、汝の敵を愛せよ』。ああ、主よ。我々は漸く貴方様の教えを体現出来る時代への最初の一歩を踏み出せたようです」

 

トウジさんの様々な感情の入り混じったその小さな呟きを最後に俺達は病室を後にしたのだった

 

 

 

 

 

翌日、俺達はまた天界を訪れていた

 

トウジさんを天界の医療施設に移送する時に八重垣さんが襲ってくる可能性が十分あったのでそれの護衛と、先日アウロス学園が襲われた時にファーブニルが披露したという『ディアボラ風アーシアたんのおパンティー揚げ』で感動して改心した量産型邪龍4体を天界でも詳しく調べたかったからだそうだ

 

説明してくれたリアス部長は変な顔してたし後ろに居たアーシアさんは顔を赤くしてたけどな

 

今は駒王町はオカルト研究部及び生徒会メンバーが出払っている訳だけど天界に来る気の無いアザゼル先生や刃狗(スラッシュ・ドッグ)のメンバーが待機してくれている感じだ

 

俺としてはルフェイとフェンリルにも天界に来て欲しかったが先日からヴァーリチームの方で秘境巡り中なので今は居ないんだよな

 

まぁこればっかりは仕方ない。仮にフェンリルが居ても今回は恐らくリリスも一緒だから仕留めるのは無理に近いしな

 

リゼヴィムを害する攻撃は例え俺の【一刀羅刹】でも弾かれる公算が高い・・・いっその事攻撃の瞬間に明後日の方向にバナナでも投げつけてみるか?

 

ワンチャン有りそうなのが何とも言えないな

 

そんな馬鹿だけど割とイケそうな作戦を実行に移すべきか如何か悩んでいると天界が揺れた(・・・)

 

そしてそのまま天界の上空に赤い天使文字で非常事態を告げる警告文が広がり同じく警告音が鳴り響く。この事態に天使の人達も狼狽えている様子だ

 

直ぐに俺達の近くに居た警備の天使の人が状況を伝えてきてくれた

 

邪龍とクリフォトが攻めてきた・・・と

 

 

 

 

今居る天界の第一天の指令室に俺達『D×D』のメンバーと転生天使である『御使い(ブレイブ・セイント)』の人達が集合し、各階層の映像を見ながら状況を整理している

 

現在量産型邪龍達は第二天、第三天、第四天で天使の兵団とそこかしこで戦闘中だ

 

「敵は信徒の魂の行きつく場所である第三天から侵入したようです」

 

一番大きいディスプレイに第三天・・・天国の様子が映し出され、そこには空中都市アグレアスと大量の邪龍、それからラードゥンとクロウ・クルワッハの姿が窺える

 

アポプスもヴァルブルガも居ないしクロウ・クルワッハは中級前後の実力の天使を真面に相手にするつもりはないのか攻撃を捌くだけだな

 

実質ラードゥンしか頑張ってないのは幸いか

 

次にクリフォトがどのような手段で侵入を果たしたのかという話になった時にアザゼル先生から通信が入り、冥府から侵入したのだと推測を聞かされた

 

≪信徒の魂が死後に行きつくのは天国と地獄の二択だけじゃない。辺獄と煉獄と呼ばれる特殊な事情を抱いた魂が一時的にそこに行きつき、魂を清めた後に天国に迎え入れられるんだ。分かるな?辺獄にも煉獄にも天国に続く道が用意されてるのさ。現在、人間界と天界を繋ぐルートは全て遮断されている。ならば残るはその二つしかない・・・最も、如何やって入ったのかは解らんがな。少し前なら辺獄と煉獄のモデルになった冥府を支配するハーデスがクリフォトに手を貸したと考えた処なんだが、今のハーデスはどっかの誰かさんのお陰でアレ(・・)だしな≫

 

へぇ、そのどっかの誰かさんは可能性の一つを事前に潰してたんだな

 

とっても優秀ですね!(棒読み)

 

「イッキ先輩、ふざけないで下さい。それに結局攻め込まれてます」

 

「せめて心の中でくらいボケさせてくれませんかねぇ!」

 

最近ずっと甘々な感じだったからこの毒を含んだ物言いが懐かしいよ畜生!

 

そこに指令室に伝令を持った天使が入って来る

 

「ご報告します。煉獄から第三天へ繋がる扉が破壊されているとの事です!」

 

「手段は分からんが、経路は知れたな・・・クリフォトの目的はなんだ?」

 

「最上層の『システム』・・・でしょうか?」

 

ゼノヴィアの呟きに朱乃先輩が一つの意見を出す

 

しかしそれはアザゼル先生によって否定される

 

≪そう簡単には第七天まで辿り着けんよ。お前らは第六天の強固な城壁を見たんだろう?如何にクリフォトと云えどもあそこを正面突破しようとすればただじゃ済まない。クロウ・クルワッハが居る事を加味してもな・・・それに例え辿り着けたとしても第七天に入れるのは聖書の神とセラフのメンバーだけだ。それ以外が侵入しようとすれば正しく神の御業とも云える強制転移で人間界の僻地に跳ばされちまうのさ≫

 

アザゼル先生が「昔コッソリ『システム』を視ようとしたらそいつを喰らっちまってよ」と暴露する・・・よくその時に堕天しなかったですね

 

「第七天も第六天も可能性としては低いですか・・・第一天には重要な物が置いてない訳ではないですが、出入りが激しいですし真に重要なアイテムなどは第六天か第七天に置いてあります。第二天はバベルの塔の関係者が主に収容されていますが、トライヘキサの復活に彼らが役立つとも思えません」

 

≪グリゼルダ。第三天の生命の樹と第四天の知恵の樹は今はどうなってる?≫

 

「主が居なくなってから果実の生成は止まっています。樹、そのものは健在ですがアダムとイヴが知恵の実を食べてから主が樹に侵入者を迎撃する術式を組み込んでいますので、どちらの樹もクリフォトが近づこうと思ったら第六天に攻め入るくらいの覚悟が必要となるでしょう」

 

皆がまさかリゼヴィムが悪戯で天界に攻めてきたとは考えないで真剣に敵の目的を考察している中、グリゼルダさんが映像の一つを見て焦りの表情を浮かべる

 

その第五天の映像には天叢雲剣を持った八重垣さんが映っていた

 

「いけません。今あそこには解毒の最終段階の処置をする為に紫藤局長が上がっています!」

 

「パパ!」

 

イリナさんの悲痛な声にリアス部長が勢いよく立ち上がる

 

「行きましょう!敵の目的は今は後回しよ!私達は対テロ組織の『D×D』。天使たちと協力して邪龍を殲滅しつつ上層を目指すわ!先ずは敵を蹴散らしながら最短で第五天を目指すわよ」

 

≪俺達も天界への扉の封印をなんとか解除して増援に向かう。お前ら、気張れよ!≫

 

「『了解!』」

 

 

 

 

俺達『D×D』のメンバーと『御使い(ブレイブ・セイント)』のメンバーが第一天を抜けて第二天を突っ切って行く

 

第二天はバベルの塔の関係者や罪を犯した天使の幽閉所兼星を観測する為のフロア全体がプラネタリウムのような場所だ

 

すぐ傍に牢屋が立ち並んでいるという事にさえ目を瞑ればこれまた美しい場所である

 

だが第三天へ続く道の半ばを過ぎた辺りから邪龍軍団と天使たちの戦いが見て取れるようになった

 

俺達と一緒に指令室を飛び出した『御使い(ブレイブ・セイント)』の人達が先行して戦っていた一般兵の天使たちと合流する

 

「いくぞ!陣形を組め!フォーメーション、『フルハウス』!」

 

その言葉と共に隊列を組んだ転生天使たちは光の力を爆発的に増加させて邪龍の軍団に突っ込んで殲滅していく

 

「私は此処に残ってこの階層の天使たちの指揮を執ります。皆さんは先に進んで下さい!」

 

グリゼルダさんもそう言いつつ天使の翼を生やして上空に飛び立っていった

 

そして遂に第三天へ続く門の前に辿り着くとそこには樹木のような特性を持った邪龍、ラードゥンが立ちはだかっていた

 

門の守護者としてはこの上ない人選だよな

 

「これはこれは『D×D』の皆さん。先日のアウロスの町以来ですな」

 

「ラードゥン!そこを退きやがれ!!」

 

「いえいえ。それでは私がこの場に居る意味が無い。この命が尽きるまで貴方方の足止めをさせて頂きますよ・・・最も、後で聖杯で復活しますがね」

 

いやそれ復活する前に白音の封印術で魂を封じれば終わりじゃね?

 

「ああ、そうそう。本当に私がやられそうになった時は封印される前に強制転移で本拠地に帰る手筈となっていますので、封印は諦めて下さい・・・ふふふ、貴方方の余裕の無くなっていく表情を見ながら存分にこの戦いを愉しませて貰いますよ」

 

その言葉と共に第三天へ続く門全体をラードゥンの結界が包み込んだ

 

聖杯の復活も加味して兎に角足止め重視で戦う気かよ

 

「邪魔しないでよ!」

 

イリナさんを始め、皆が武器を構える中、そこに一人の男が現れた

 

「伝説の邪龍、ラードゥンか。肩慣らしの相手としては悪く無い」

 

最強の聖槍を肩でトントンと叩きながら現れたのは曹操だ

 

「曹操!なんでお前が!?」

 

イッセーの驚愕の声を聞いて曹操が軽く説明する

 

「邪龍狩りに興じようと思ってね。ハーデス殿の協力も在って奴ら同様、煉獄から上がって来たのさ―――さて、何やら先を急いでいるようだな。俺としても久しぶりの復帰戦だ。一つ手早くあの邪龍をどうにかしてやろうじゃないか・・・天界の危機ともなればかの神の『遺志』も力を貸してくれそうなんでね」

 

そう言うと曹操はそのまま聖槍を体の前で掲げるように持った

 

え?マジで?ここでそれ使っちゃうなんて流れ有ったっけ?

 

「『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』ですか。神滅具(ロンギヌス)最強と称されるその力、是非ともこの身で味わってみたいものです」

 

「ではお見せするとしよう。この槍の起こす『奇跡』を!」

 

既にお互いしか見ていない曹操とラードゥンがお互いのオーラを爆発させる

 

そして曹操はその力強い呪文を唱え始めた

 

「槍よ、神を射抜く真なる聖槍よ。我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの狭間を抉れ―――汝よ、遺志を語りて、輝きと化せ!

 

 

 

 

 

 

 

覇輝(トゥルース・イデア)!!

 

 

 

 

 

 

 

聖なる槍の穂先から解き放たれた莫大な光が夜のようだった周囲一帯を明るく照らしていく

 

覇輝(トゥルース・イデア)』は敵対する相手に合わせて様々な奇跡を引き起こすチート級の能力!

 

命を削るような結界を展開し、自身がやられそうになれば強制転移で逃げてしまうというラードゥンに対して聖書の神の『遺志』は一つの『奇跡』を起こす!

 

 

”パアァァァァァァァァァァ!!”

 

 

リアス部長の胸が光輝いている(・・・・・・・・・・・・・・)

 

そしてそこから声が聞こえてきた

 

≪皆さん。初めまして。私は乳神と申します≫

 

乳神!?異世界の乳神の眷属の精霊じゃなくて乳神ご本人が降臨されましたか!?

 

「乳神ってまさか異世界の乳神!?以前俺にロキを倒せるだけの加護をくれた!」

 

まさかの登場人物にイッセーもビックリだ。と云うかこの場で驚いてない奴なんて居ないだろう!

 

≪あ、いえ、私は日本の乳神です≫

 

あ、そっちですか

 

こうして天界での戦いは最初から混迷を極めて行くのだった




日本の乳神である理由はちゃんと有りますので次回をお楽しみにww


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第四話 フィールド、効果です!

異世界の・・・ではなくて日本の乳神が登場し、リアス部長のおっぱいをスピーカー代わりにして俺達にも聞こえる形で語り掛けてくる

 

≪さぁ、今此処に『おっぱいドラゴン』に私の加護を授けましょう≫

 

「な、なんだか分からないけどこの状況を打開できるなら何でもいいや!では日本の乳神様!早速俺にその加護とやらをお与えください!」

 

この聞こえる先であるリアス部長の胸をギンギンに凝視しながらもイッセーが加護を貰おうとする

 

しかし乳神からの返答は予想外のモノだった

 

≪いいえ、私が加護を与えるのは貴方ではありません≫

 

え?如何いう事?今確かに『おっぱいドラゴン』に加護を与えるって言ってたのに

 

「そ・・・それは如何いう意味なんですか?」

 

≪確かに貴方も『おっぱいドラゴン』です―――ですが、『おっぱいドラゴン』と呼べるだけの存在は本当に貴方だけなのですか?≫

 

乳神の言葉に俺は得心がいった

 

確かにその称号を名乗れそうなのが一匹居たな

 

「イッセー。もしかしてお前の使い魔の竜子の事なんじゃねぇのか?」

 

ピー乳を生産している多分グレモリー眷属一の働き者兼稼ぎ頭というギャスパーの立ち位置を奪い取った奴がね

 

乳神も俺の予想を肯定してくれた

 

≪その通りです。私は貴方の使い魔にこそ加護を与えましょう。さぁ!叫んで下さい!『サモン・おっぱい』と!!今なら私の加護の下、この天界でも召喚出来るはずです!≫

 

「いや、それはリアスと云うかスイッチ姫を召喚する時の・・・ええい!ツッコミ入れてても仕方ねぇ!さぁ来い竜子!―――サモン・おっぱぁぁぁぁいッ!!」

 

イッセーの叫びと共に使い魔召喚により魔法陣から久しく見ていなかったその巨大な姿が現れた

 

そう。『樹木の特性を持つドラゴン』が此処に降臨したのだ

 

≪良いですか?元来の私は女性の乳房に見える樹が祈りによって神格として昇華された者です。神としての格は低い方ですが貴方の使い魔の齎したピー乳によって私の霊格も上昇し、こうして直接的に加護を授けられるまでに為りました≫

 

そう云えば異世界の乳神の精霊も異世界の乳神の力も増しているって言ってたから、この世界の乳神もその恩恵を受けていても可笑しくないか

 

≪世の女性に乳を授ける存在である私と赤龍帝の使い魔は親和性が非常に高いのです。今此処に、貴方の使い魔を新たな高みに誘いましょう!≫

 

おっぱいで樹木だもんね。加護の一つや二つ授かっても可笑しくないよね!(こんらん)

 

リアス部長の胸の光が指向性を持ち、その先に居た竜子を優しくも力強く包み込む

 

『シャギャアアアアアアアアアアアア!!』

 

竜子が吼えるとラードゥンの足元から竜子のものであろう根っこが生えていき、ラードゥンに素早く絡みついていく

 

「ッく!私の結界の遥か下層、第一天にまで根を伸ばして回り込みましたね!しかしこの程度の拘束がなんだと言うのですか!」

 

確かに、基本は動かないで結界で戦うラードゥン相手に『まきつく』なんてしても特に意味は無さそうだけどな?

 

疑問に思うが而して変化は直ぐに訪れた

 

「なっ!?私の結界が崩れてゆく!?っく、何故だ!これに絡みつかれると力が上手く錬れない。一体なんだと言うのだ!!?」

 

そう云えば竜子の触手にはそんな特性も有りましたね。恐らくは乳神の加護の力でブーストも掛かってるんだろうけど、当時から一度捕まえれば上級悪魔のリアス部長や朱乃先輩の魔力を完全に無効化してたと考えるとヤベェ力だよな

 

そして程なく俺達とラードゥンを隔てる結界は崩れ去った

 

そしてその隙を逃さず竜子が最早全身に触手(根っこ)が絡みついたラードゥンに突貫して行き、竜子の本体ごとラードゥンに覆い被さり彼の姿を隠していく

 

そう、まるで吸収し同化するかのように・・・ドラゴンであり樹木という存在自体は極めて近い性質だからこそかな?

 

元々竜子自身も合成獣(キメラ)である事も後押ししてるんだろうな

 

「や、止めろオオオ!!私の・・・私の中に侵入って来るナァアアア!!?」

 

幹(胴体?)の僅かな隙間からラードゥンの焦りを含んだくぐもった声が聞こえて来る

 

当然の事だがこの場にラードゥンを助けようとするような輩は居ない・・・というか如何すれば良いのか判らないから傍観するしかないんだよな

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛オ゛オ゛オ゛オ゛お、お、お、おっぱぁぁぁぁいいい!!」

 

ラードゥンの悲鳴が変化していく―――竜子の中に蓄えられている莫大な乳力(ニューパワー)がラードゥンの精神を蝕んでいるのだろう

 

「おっぱいが!おっぱいが襲い掛かって来るゥゥゥ!!右も左も前も後ろもおっぱいだ!おっぱいの・・・おっぱいの津波に飲み込まれるゥゥゥ!!」

 

何だか凄い事になってるな―――乳力の中に浸ってるような状態だからか?

 

仕方ない。助け舟を出してやるか。抵抗されて時間を掛けられても面倒だし

 

俺は竜子に近づいて幹の中心に在る紫の宝石のような核のような場所に囁いてやる

 

「ラードゥン。乗るしかないだろう?その乳波(にゅ~・うぇ~ぶ)にはよ!」

 

逆に考えるんだ。受け入れちゃっても良いさと

 

「ああ・・・そうだ・・・こんな硬いだけが取り柄の私なんかをこのおっぱい達はこんなにも優しく柔らかく包み込んでくれるのだな・・・そうだ。一体何を拒む必要が在ったというのだろう・・・ああ・・・おっぱい・・・おっぱい・・・おっぱい・・・おっぱい・・・」

 

ラードゥンの意識がおっぱいの海に溶けていったようだ

 

最後におっぱいエコーを残してラードゥンは完全に竜子と同化したらしい

 

≪邪龍、ラードゥンは元々黄金の果実の守り手。これから先は竜子の力としてピー乳の守り手としてその力を振るって貰いましょう。更に龍王クラスのラードゥンの力を取り込んだ事により竜子自身もピー乳の生産量が上昇しているはずです・・・これまでピー乳は需要と供給が釣り合っていませんでしたがコレによりもっと多くの人々におっぱいの御利益が齎されるでしょう≫

 

さいですか・・・それにしても乳神様もやるな。竜子に加護を与えてこの状況を打開する手助けをするのと同時に世の女性に乳を齎す事で己の信仰の強化にも役立てようとは

 

「・・・確かに今までは竜子にフル稼働して貰っても各勢力のトップ層か上級悪魔の中でも位の高い家が優先されていたのが現状よ。位の低い家の者は予約待ち状態だったものね」

 

「あらあら、うふふ。今までは生産量に対するクレームが多かったですが、それも少しは改善されそうですわね」

 

竜子の齎したおっぱい革命期(レボリューション)は更なる高波となって世界に浸透するんですね

 

『おっぱい革命期(レボリューション)第二波(セカンド・ウェーブ)』と云ったところか

 

「と云うか俺はイッキの容赦の無さにドン引きだぜ。限界状態だったラードゥンに対するあの呟きは悪魔の囁きだろう」

 

何を言う。何事にも諦めが肝心な時は有るものだ

 

この世界でおっぱいの奇跡が起こったら抗っても良い事なんか無いんだよ(達観)

 

なんにせよコレでラードゥンの件は見事に片付いた訳だ

 

俺は未だに聖槍を掲げた状態で固まっていた曹操に近づいてその肩に手を置く

 

「曹操。ネタキャラ化おめでとう。その看板はきっと一生付いて回るぞ」

 

「有間一輝・・・キミはもう少し優しい言葉を掛けられないのかい?」

 

曹操相手に慰めてどうするよ?

 

「よ、良し!兎に角ラードゥンは居なくなった(?)んだ。先に進もうぜ!竜子、お前は素早く動けないしこの門を守れ!近づく邪龍は全部結界で押し潰しちまえよ!」

 

『シャギャ!シャギャアアアアアアアアア!!』

 

イッセーの指示に返事をする竜子

 

これでこの門周辺の安全はほぼ確保されたかな?

 

第二天で戦ってる天使の方々もある程度は戦い易くなっただろう

 

「じゃあ皆。先に進もうか」

 

そう言って一歩を踏み出そうとしたらイッセー達に止められた

 

「待て待て待てイッキ。なに普通に曹操と並んで走り出そうとしてるんだよ。そいつはテロリストで敵なんだぞ?今は帝釈天の下に居るってのは聞いてるけど一緒に戦えるかってんだ」

 

見ると皆も結構微妙な表情をしているな

 

「そうは言ってもなら如何するんだ?曹操が此処に居るって事は帝釈天の使いとして来ているんだろ?仮にもそんな相手を拘束する訳にもいかないし、曹操は強い。なら監視の意味も込めて一緒に居るしかないだろう?」

 

実力的にそこら辺の天使たちに曹操は任せられないだろうしな

 

「いや・・・うん。そうだな。今は先に進むのが先決か」

 

不承不承ながらもなんとか曹操の同行を飲み込んだようだ―――イッセーも大分切り替えが出来るように為って来たな。もう少し以前のイッセーならここで「でも!」とか言ってただろう

 

「はぁ・・・初めてオーフィスが訪問してきた時もイッキは直ぐに受け入れてたし、その割り切りは何処から来るのかしらね?まぁ良いわ。曹操、可笑しな真似をしたらその場で消し飛ばすわよ」

 

「っふ、少なくとも今は敵対する気など無いさ。帝釈天の下で働いては居るものの英雄としての在り方を否定され、今の俺は自分探しの真っ最中でね。こんなスカスカの身の上でキミたちに挑んだ処で一蹴されるのが関の山さ。だが少なくともクリフォトと戦う事だけは英雄・・・いや、人間として間違ってはいないと思っている。今の俺の敵はクリフォトだ。この答えでは不満かい?」

 

「相変わらず持って回った言い方ね。やっぱり貴方の事は苦手だわ」

 

俺とイッセーとリアス部長も曹操の同行を許した事で他の皆も無理矢理納得したようだ

 

なんにせよ少しでも戦力を増やして皆で先に進めるのは良い

 

何せ相手は仮にも超越者だしな

 

リリスは積極的に参戦しないとしても、用心の為にね

 

それに原作だと皆が倒されてアーシアさんがリゼヴィムにビンタされてファーブニルがキレるって感じだったけど、普通に考えてあのビンタもご都合主義過ぎるし・・・ディオドラの時に原作アーシアさんが次元の狭間に跳ばされて即帰還並みの幸運だけど生憎そんなものに頼りたくはない

 

俺がリゼヴィムの立場なら最低でも内臓かき回す腹パンをキメて吐血させる程度はするだろうに、アイツの悪意って本当に稚拙でブレブレだよな

 

「―――ッ!何でしょうか?今、凄い悪寒がしたのですが・・・」

 

「なに?大丈夫かアーシア!またアーシアを狙うヤツでも居るってのか!?」

 

「い、いえ。済みませんイッセーさん。少し緊張していたのかも知れません。早くイリナさんのお父さんを助けに向かいましょう!」

 

なんかアーシアさんが身震いしてたけど俺の所為じゃないよね?

 

門を抜けて第三天の中央通りを抜けて第四天の門へ続く道を走る

 

「・・・妙だね。クリフォトはこの第三天から侵入したそうだけど邪龍達の姿が殆ど見られない」

 

散発的に襲い掛かって来る量産型邪龍を数体屠ったところで祐斗が訝しむ

 

映像でアグレアスから羽虫のように湧き上がって来ていた邪龍の様子が見られたのでこの階層が一番敵の数が多いと踏んでいたのだろう

 

「敵が手薄なのは良い事です・・・今の内にイッキ様と黒歌さんだけでもアグレアスに侵入・・・は危険だとしても発信機の術式を仕込んだりは出来ないのですか?」

 

レイヴェルの意見は最もなんだけどな。天界を守る為という大義名分の下、アグレアスに【じばく】特攻しても良いんだけど、その意見を黒歌が否定する

 

「にゃははは。確かにレイヴェルの言うように出来れば良いかも知れないけど、それは無理そうにゃ―――アグレアスはもう居ないっぽいしね」

 

「だな。まぁ気配を探る限り逃げ出した(・・・・・)みたいだけどさ」

 

「逃げ出した?それって如何言う・・・」

 

イッセーがそこまで疑問を口にしたところで俺達の前に黒と金色の混ざった髪をした男が立ち塞がった。その姿を認識した皆はそこで足を止める

 

「クロウ・クルワッハ!此処で出て来るのね!」

 

「久しいな『D×D』の諸君。ククク、長く生きてる割にお前たちとの再戦は待ち遠しかったぞ」

 

吸血鬼の町では俺と黒歌にレイヴェルはコイツとは戦わなかったんだよな・・・あと、曹操も

 

だが戦いが始まろうとする前にもう一人この場に現れる人物が居た

 

「おや~?結構良いタイミングで来れたのかな?」

 

それを見たクロウ・クルワッハは更に嬉しそうな笑みを浮かべてその男を見る

 

「天界の切り札(ジョーカー)か。貴様とも戦ってみたかったぞ」

 

「ありゃりゃ、話には聞いてたけど本当にヴァーリどんと似たタイプなんだね」

 

デュリオも戦意の籠った目を向けられて困った表情だ

 

「俺も切り札(ジョーカー)を見るのは初めてだな。成程、やはり遠くで邪龍の群れを殲滅しているのはお前の『煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)』か。神滅具(ロンギヌス)随一の広域破壊能力を有するそれが相手ではアグレアスも後ろに下げるだろうな」

 

「解き放たれた量産型邪龍とかは自分たちの帰るべき本拠地が無くなろうが関係ないからな。正しく消耗品な訳だし」

 

死ぬまで戦って塵となればそれで良しって事だ

 

「此処は天国だ。折角現世でのお役目を終えた魂たちが静かに暮らしてる場所だからさ。荒らされる訳にゃあいかんのよね。一応訊くけど戦わないって選択肢は無い?」

 

神滅具(ロンギヌス)が三つにその他の者達も名を轟かせる者達ばかり、戦う為に戦ってきた俺としては引き下がる理由は無い。お前たちの全力を味わいたいものだ」

 

そう言って拳を構えるクロウ・クルワッハを見てデュリオさんは覚悟したように息を吐く

 

「そうかい。でもこっちもキミ一人の為に全員で掛かるのは悪手なんでね。ここは一つ、俺―――「と、俺が残るよ」・・・イッキ君?」

 

自分一人でクロウ・クルワッハを足止めしようと言おうとしたデュリオさんの言葉に被せて俺も一緒に残る事を提案する

 

「分かったわよ。こっちはイッキとそっちのジョーカーに任せるにゃん」

 

「では皆様。先に進みましょう」

 

「イッキ先輩はこういう時に意味も無く割り込む人ではありません。考えが有ると思います」

 

黒歌達の俺への信頼度がむず痒くも嬉しいものだな。少し口元がニヤケそうだった

 

「そうね。白音たちがそう言うなら問題無いわね」

 

リアス部長も同意してくれたな

 

「さて、クロウ・クルワッハ。そういう訳だけど俺とデュリオさんだけじゃ不満か?」

 

「よく言う。お前たちからは一分の隙も見当たらない。俺が他の奴らに無駄に攻撃を仕掛けようとすれば下手をすれば首が飛ぶだろう―――良いだろう。行け」

 

クロウ・クルワッハは俺達に第四天へ続く道へのルートを開ける

 

皆もクロウ・クルワッハが変だけど基本は素直な性格なのを解っているからか警戒しつつも横を通り過ぎて行った

 

「今更だけどイッキ君は行かなくて良かったの?」

 

「接近戦が苦手なデュリオさんには前衛が必要でしょう?相手は殴り合いが大好きなドラゴンですよ。それに、皆の下へはクロウ・クルワッハが退いた後で向かいますよ」

 

俺のセリフが聞いていたクロウ・クルワッハは面白そうといった表情になる

 

「ほぅ。この俺を退けられると言いたいのだな?」

 

「さて?如何だろうな?」

 

原作ではデュリオさんが一人で戦ってたけど実力差は歴然だし、クロウ・クルワッハが止めを刺さずに戦いを切り上げても消耗しきったデュリオさんがはぐれ邪龍とかに襲われたりしたら目も当てられないからな

 

「全く、『D×D』のリーダーとしていっちょ『ここは俺に任せて先に行け!』って恰好付けたかったんだけどな。でもイッキ君が一緒なのはやっぱり心強いよ―――さて、天界での禁手化(バランス・ブレイク)はダメって言われてるけど、流石に目の前の邪龍さん相手に手加減は出来ないからね。ミカエル様も許してくれるっしょ」

 

デュリオさんは10枚有った純白の天使の翼を広げてオーラを高める

 

禁手化(バランス・ブレイク)!!」

 

眩い金色の光がデュリオさんの全身を包み込むと次の瞬間には10枚の翼を12枚に増やし、翼の色もセラフのメンバーと同じ黄金に変わる。頭の上の天使の輪も四重になっているな

 

そして周囲一帯を巨大なシャボン玉が包み込み、俺個人もシャボン玉に包まれた

 

「『聖天虹使(フラジェッロ・ディ・コロリ)の必罰(・デル・アルコバレーノ)終末の綺羅星(スペランツァ・ディ・ブリスコラ)』―――長ったらしい名前でゴメンね。このシャボン玉の内側ではありとあらゆる天候の天罰が降り注ぐんだ。ただしイッキ君の周囲だけは影響を取り除いておいたよ」

 

この俺一人分だけ包み込んでいるシャボン玉はそういう理由ですか

 

「でも、その前に先ずは閉じ込められないか試しておこうかな」

 

デュリオさんがクロウ・クルワッハに手を向けると彼の全身を俺を包んでいるようなシャボン玉に包まれ、次の瞬間シャボン玉の中に雷・炎・氷・風・水とあらゆる属性の嵐が吹き荒れた

 

もはやシャボン玉の内側が如何なっているのか見るだけではよく判らない感じになったが直ぐにそのシャボン玉が"ドムンッ!"と中から殴られたように変形しその現象が連続で起こるとシャボン玉は耐え切れなくなったのか内側から弾けとんだ

 

中から拳を突き出した体勢で現れたクロウ・クルワッハは見たところでは無傷のようだ

 

炎や雷のような属性ダメージは斬撃とかよりも持続的に攻撃を当て続ける事で最大の威力を発揮するものだからな

 

クロウ・クルワッハにダメージを通すにはもっと長時間当て続けないとダメなのだろう

 

「う~ん。このシャボン玉が壊されたのは初めてだよ。仮にも今は天界の危機で俺の切り札(ジョーカー)としての特性で能力も引き上がってるんだけどなぁ」

 

天界の危機だと切り札(ジョーカー)一枚でも戦闘力が大幅アップするんだな

 

今のデュリオさんは悪魔の駒(イーヴィル・ピース)で云えば『女王』の駒に昇格(プロモーション)しているようなものか

 

「でも効果が無い訳じゃないですよ。クロウ・クルワッハを一瞬でも身動きを止められるなら拘束(バインド)系の技としても使えますし・・・ところで俺を包むこのシャボン玉って俺がクロウ・クルワッハに攻撃しようとして弾かれるなんて事は無いですよね?」

 

「それは大丈夫だよ。イッキ君を包むソレは俺の攻撃が届かないようにする領域・・・境界線に過ぎないからね。その代わり彼の攻撃も普通に届いちゃうけど」

 

それは仕方ない。クロウ・クルワッハにこそシャボン玉は普通に壊されたけど相手を閉じ込めて、相手の攻撃を防ぎ、味方の攻撃を阻害しないなんてのは流石に都合が良すぎるからな

 

デュリオさんが高速でシャボン玉の性質をその瞬間瞬間に合わせて変更出来たら良いんだけど、多分それクロウ・クルワッハに勝つより難易度高いわ

 

そうして俺も禁手化(バランス・ブレイク)して両手に大剣を握る

 

「来い」

 

俺達の準備が整ったのを見たクロウ・クルワッハの告げたその短い言葉を開始の合図にして超巨大シャボン玉の領域内に超巨大積乱雲(スーパーセル)よりも酷い天候が吹き荒れる

 

俺と術者のデュリオさんだけは平気だけどな!

 

だがクロウ・クルワッハも碌に視界も利いていないだろうに俺が攻撃を加えると剣の腹の部分を拳で弾いたり避けたりして受け流していく

 

デュリオさんも天候操作以外にも天使の光力で槍を創り出してホーミング能力で俺に当たらないように様々な角度から突き刺そうとするがそれも同じく拳や蹴り、時には片翼だけ出して羽ばたかせてそれらの攻撃を打ち砕いて行く

 

「仙術使いでも無いのによく全部の攻撃が解るな!」

 

「なに、ただの勘だ」

 

勘かよ!勘であの精度って可笑しくね?

 

こっちも一応嵐に紛れて姿と気配を誤魔化しながらのヒット&アウェイ戦法取ってたんだけど

 

すると何度かの衝突の後で俺が攻撃を仕掛けて間合いから外れるように動いた時、クロウ・クルワッハはピッタリと張り付くように追従して来た

 

「貴様の周囲にこの鬱陶しい嵐が無いというのであればもう逃がさんぞ。それにこれ程近くに寄れば大剣を振るう事も出来まい?」

 

単純なスピードでは俺を上回るクロウ・クルワッハに拳で闘り合うレベルの距離まで接近された

 

確かに剣というのは柄に近い部分である程力が乗りにくい

 

此処で徒手空拳に切り替えても良いんだけど出し入れできる神器と違って掴まれるリスクが高まるし何よりこの程度(・・・・)で剣術を攻略したなどと思われるのも癪だ

 

俺は迫りくる拳の片方を右歯噛咬(ザリチェ)の腹で受け流しつつ左歯噛咬(タルウィ)で脳天真っ二つにする唐竹割りを繰り出す

 

「遅い!」

 

だが間合いの広い剣で攻撃をしようとしてもワンテンポ遅れてしまうので余裕を持ってクロウ・クルワッハに振り下ろす刀身の柄近くを掴まれた

 

速度の乗ってない攻撃などクロウ・クルワッハの鱗を裂く事など出来ないからだ

 

それを見た俺は薄く笑みを浮かべる

 

「―――ッツ!?」

 

「『第二秘剣・裂甲』!!」

 

全身の筋肉のバネの反動を利用してゼロ距離でほぼ動けない体勢からでも放てる寸勁技だ

 

加えて【一刀餓鬼】の修行で全身に行き渡るオーラの移動速度も以前よりもスムーズに為っているので攻撃する瞬間にクロウ・クルワッハが掴んでいた箇所にオーラを一点集中させた

 

咄嗟に掴んでいた右手を放して俺から距離を取ったクロウ・クルワッハの掌は確かに斬られて血が流れている

 

そして俺から距離を取るという事はデュリオさんの操る嵐にまた包まれるという事

 

「ふん。無傷だった先程とは違って傷口から雷などは体内によく通るようになったな」

 

「いや~。邪龍さん。それ、体内から雷で焼かれてる人の態度じゃないっスよ」

 

デュリオさんのツッコミに同意だわ。だって顔色一つ変えて無いんだもん・・・いや、訂正する。何だかさっきよりも嬉しそうだ

 

「だが解せん事も有る・・・が、このままでは落ち着いて話も出来んな」

 

そう言うとクロウ・クルワッハは上を向くと人間の姿から首から上だけドラゴンの姿に戻してアホみたいな威力のブレスを吐き出した

 

そのブレスはデュリオさんが最初に張ったこの周囲一帯を包む超巨大シャボン玉を破壊する

 

ないわ~。イッセーのクリムゾン・ブラスターがちょっと強めの水鉄砲程度に見えるわ~

 

クロウ・クルワッハの一撃?消防車の放水並みだろ、コレ

 

「さて有間一輝。お前は何故本気で戦わない?」

 

首を元に戻して完全に人間形態になったクロウ・クルワッハが疑問を投げかけてくる

 

「お前には邪気を纏う事で戦闘力を引き上げる技が有ると聞いた。それを使っていれば先程俺の掌を切り裂いた時ももっと深く切り裂けたであろうし、その前に攻撃を加えていた時もかすり傷程度は俺に与えられたはずだ」

 

まぁ訊かれるよな。戦い大好きドラゴンならなおの事

 

「クロウ・クルワッハ。此処は何処だ?」

 

俺の突然の質問にクロウ・クルワッハは訝しむものの素直に答えてくれた

 

「む?天界だな。キリスト教圏において天国と呼ばれる場所だ」

 

「そう、此処は天国だ―――天国ってのは聖域なんだ。清浄な気で満ちていて邪気の類は一切無い!在っても直ぐに天国というこの場所自体が浄化させちまう!」

 

「え・・・待ってよイッキ君。それって詰まり・・・」

 

デュリオさんが凄く何とも言い難い表情を浮かべる

 

「ご推察の通りってやつだ!俺にとって天国は場違いな場所(アウェイ)なんだ!俺は天国では普段の半分の力も発揮出来ないんだよ!」

 

今の俺は『あまごい』中に繰り出すヒトカゲ(炎タイプ)や『にほんばれ』中のゼニガメ(水タイプ)のようなものなのさ!

 

「天界で強化されてる切り札(ジョーカー)と弱体化している俺の凸凹(デコボコ)コンビが今のお前の相手って訳だ!」

 

人間が一度は夢見る神聖領域である天国がホームグラウンドなデュリオさんとアウェイな俺・・・畜生。自分で言ってて泣けてくるぞこの野郎!

 

「・・・イッキ君。今度何か甘い物でも奢るから元気だしなよ」

 

近くに居たデュリオさんに慰められた

 

べ、別に気にしてねぇし!

 

一同微妙な空気になりながらも俺達とクロウ・クルワッハの戦いはまだ続いて行くのだった




竜子は龍王クラスに進化しましたねぇ。いや~、一気に戦力アップですよ!

フィールド効果・・・ただし弱体化

天国では本気が出せない主人公君でしたww


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第五話 人の、業です!

俺が天界で邪人モードを使わない(使えない)理由を聴いたクロウ・クルワッハは興味深いといった面持ちだ

 

「面白い。全力を出せない身でありながら、この俺と対峙しようと云うのか?」

 

「別に俺一人って訳でもないし、邪人モードも最近使い始めたもので元々俺はテクニックタイプだ―――少ない力を、小賢しい技を持って戦うのが人間ってやつだろう?」

 

イッセーと同じパワーのゴリ押しタイプだと思われるのも癪だからな

 

「成程、その状態のままでも俺に届く牙が有るという訳だな?」

 

「答えを知りたかったら、拳を構えな」

 

俺の挑発にクロウ・クルワッハは凶悪な顔つきで笑みを浮かべて拳を構えた

 

そして両者睨み合って数秒後、俺はクロウ・クルワッハの眼前まで距離を詰めて未だに反応しない(・・・・・・・・)クロウ・クルワッハを全力で×(バツ)字に切り裂こうとする

 

「!! ぬっ!?」

 

そこで漸く俺の『姿』を『意識』に捉えたクロウ・クルワッハの表情に驚愕の色が灯る

 

全力で上体を逸らしつつ後退したがその胸には×字の傷が浅く刻まれた

 

「なんだ。今のは?」

 

そう言って警戒心を高めて俺のことを見るクロウ・クルワッハだが数舜の後、彼の目と鼻の先に俺の右歯噛咬(ザリチェ)の突き技が迫る

 

直前になってからの回避だけど基本性能が上だから本来躱せないようなタイミングでも首を捻って避けられてしまった

 

目玉を抉ろうとしたけど頬を切り裂くに止まったな

 

再び距離を取ろうとする俺に反撃の様子を見せるクロウ・クルワッハだけど次の瞬間シャボン玉に包まれて俺の離脱を許してしまう

 

最もシャボン玉はまた直ぐに破壊されたけどな

 

「ナイスです。デュリオさん」

 

「いや~。今はコンビなんだから当然っしょ?でも如何やったのかな?イッキ君は普通に攻撃してるように見えたし、幻術って訳でも無いんでしょ?」

 

「流石に今はノーコメントでお願いします」

 

目の前にクロウ・クルワッハが居るしな

 

デュリオさんも「御免御免。それもそうだよね」と後回しにしてくれた

 

これは主に房中術の訓練・・・訓練?の副次効果と云えるだろう

 

黒歌達・・・即ち他者のオーラを俺はそれはもう真剣に繊細に精細に感知しているので黒歌達程でなくとも他人のオーラに対する感知能力はまた上昇しているのだ

 

そんな中で敵対する相手のオーラの揺らぎと云うか波長みたいなものが鎮まる無意識の瞬間を狙って距離を詰める―――激しい攻防を繰り広げている時には無理だが先程のようにじっくりと対峙している時に訪れる相手の無意識に踏み込むのだ

 

落第騎士の世界で使われている歩法の極意の一つである『抜き足』と呼ばれる技術・・・これならばさっきのクロウ・クルワッハの『勘』もすり抜ける事が出来ると踏んだが正解だったようだな

 

「成程、面白い。元より貴様を侮ってなどいなかったが、人間というものに更に興味が湧いたぞ」

 

「いやいや。イッキ君って体術においてはビックリ箱みたいな子だからね。俺も少し前までは人間だったから言うけどイッキ君みたいなのって世界を見渡しても3人だって居るか怪しいよ?」

 

その言い方だと俺以外にもう一人くらいは居ると思ってるって事か・・・多分だけどデュランダルの前任者の事かな?

 

まぁビックリ箱と云うなら他に体術とは別に曹操も入れても良いと思うな・・・乳神召喚したしね

 

「なんにせよコレが、人間が格上(ドラゴン)を喰らう為の(小細工)ってやつだ」

 

そうして俺達は三度仕切り直して激突していくのだった

 

 

 

[三人称 side]

 

 

イッキとデュリオにクロウ・クルワッハの相手を任せてイッセー達は第四天である通称『エデンの園』に辿り着いた

 

そこでこのメンバーの中で随一の感知能力を持つ黒歌が道の先に鋭い視線を向ける

 

「皆、この先にイリナっちのお父さんの気配と八岐大蛇の気配が在るにゃ」

 

「パパが第四天(ここ)に居るの!?」

 

「如何やら第五天から降りてきたみたいね。連れてこられたのか、追われて逃げてきたのか。兎も角まだ間に合うという事よ。急ぎましょう!」

 

瑞々しく色鮮やかな草木の咲き誇る文字通りの天上の楽園を今までよりもペースを上げて走って行くと邪気を放つ禍々しく変貌した天叢雲剣を持った八重垣正臣とその隣で苦しそうに座り込んでいる紫藤トウジが居た

 

八岐大蛇の毒は既に解毒されていた為、新たに毒を送り込んだのだろう

 

「貴方を殺すならどうせならこのエデンでと思っていました。僕とクレーリアを殺した貴方に送る手向けの花としては少々豪勢過ぎるかも知れませんがね」

 

「・・・八重垣君。私で全てを終わらせてくれるかい?」

 

「パパ!?何を言うの!?」

 

「イリナちゃん。私の命で彼の魂が救われるというのなら、安いもの何だよ」

 

それから続く彼の当時の悔恨と懺悔を聴いて八重垣は激昂する

 

「だから何だ!だからなんなんだよオオオオッ!!僕と彼女は愛せていた。種族が違っても愛せていたんだよオオオオ!!」

 

全身からドス黒い邪気を吐きだして天叢雲剣を振りかぶって紫藤トウジの首に振るうその一撃をイリナ、ゼノヴィア、祐斗の三人の剣士組が受け止めてその間に白音がトウジの体を引っ張って後衛組の方に連れて行く

 

八重垣の殺意に連動して現れた八岐大蛇の頭の追撃はイッセーや曹操、他の後衛組の魔力や魔法で防いでいく

 

「黒歌姉様、治療をお願いします!」

 

白音が地面にトウジをゆっくり降ろすと黒歌が素早く体の状況を診ていく

 

「分かってるわよ。ん~、前に治療した時よりも時間が経ってるみたいだからちょっち時間が掛かりそうにゃ」

 

「分かったわ。私達でトウジさんと黒歌を守るから彼の事はイリナ、イッセー、ゼノヴィア、祐斗、白音にお願いするわね」

 

治療という繊細な作業を万が一にも邪魔しない為に守りに重点を置いた采配だ

 

それを聞いた曹操も槍を肩でトントンと叩きながら一歩下がる

 

「なにやら私情が絡んだ相手のようだからな。俺は今回は守備に徹するとするさ」

 

「ガアアアアアアアア!!シ、シシシ、死ネエエエェェェッ!!」

 

治療を受けるトウジの姿に憎悪が触発されたのか八重垣の纏う邪気が一層力強さを増し絶叫を上げながら天叢雲剣と八岐大蛇を暴れさせる

 

「おいおい!もうあの八重垣って人殆ど正気じゃねぇぞ!」

 

『当然だ。龍王クラスの邪龍の邪気なんぞ人間が纏えば精神が蝕まれない訳がない。少なくともあの剣を如何にかしない限り正気に戻る事なぞないぞ!』

 

剣を手放しても正気に戻るかは判らないが、少なくとも剣を持ったままでは100%無理だとドライグの忠告が飛ぶ

 

「イッキはあれ以上の邪気を何時も纏ってるけど!?」

 

『あれは有間一輝の存在が理不尽なだけだ!』

 

地上最強の二天龍という理不尽の権化みたいなドライグに存在を半ば否定されたイッキは幸いこの場には居なかった

 

「クレーリアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

 

悲哀の籠った悲鳴の中でも恋人の名前を叫ぶ彼と対峙するイッセー達はその悲壮な想いに涙を流しながらも攻撃を加えていく

 

「アンタは悪くねぇよ!でも、でもよ!こんな事をしてももう誰も得しねぇんだよ!ただ悲しいだけなんだよな!」

 

「デュランダル。終わらせよう!」

 

「オートクレール!アナタが私の事を真に主と認めてくれるなら今こそその力を示して!あの人を倒すんじゃない。助ける為の力を!」

 

イリナとゼノヴィアの持つ且つて共に戦った戦友とも云える剣が時代超えて再びその輝きを解き放った。お互いの剣がその聖なる波動を相乗効果で高めていく

 

そして他の三人もそれに追従する形で清めの力を解放する

 

「アスカロン、聖剣の見せ場が来たぜ!」

 

イッセーが左腕の籠手からドラゴンスレイヤーの聖剣を取り出す

 

「邪気を祓うのなら任せて下さい!」

 

白音は火車に白い浄化の炎を最大火力で纏わせる

 

「これでも一応聖剣使いでもあるんでね!」

 

最後に祐斗は聖魔剣ではなく聖剣を握る。且つてゼノヴィアやイリナと初めて出会った時に創った巨大な威力重視の魔剣を聖剣で創り出す

 

今、この瞬間、この場ではそれが最適だと思ったからだ

 

『助ける』。その想いで放たれた白く輝く重なり合った一撃は八岐大蛇と八重垣を包み込んでいき、その中心で共に剣を掲げるゼノヴィア(悪魔)イリナ(天使)の姿を見て八重垣は涙を流す

 

「ああ、クレーリア。何かが違えば、僕たちもあんな風に為れたのかな?」

 

イッセー達の目に光に飲まれる彼を女性が優しく抱きしめている姿が見えたのは、きっと幻などでは無いのだろう

 

光が収まった後、倒れている八重垣は涙を流しながらエデンの空を見上げている

 

傍に落ちている天叢雲剣も一切の邪気が消失していた

 

そしてその隣には八つの頭を持つ一般的なサイズの白い蛇が居る

 

それを見た面々は目を点にしていた

 

「え・・・アレって八岐大蛇・・・だよな?なんだかとってもプリティになってるみたいだけど」

 

『・・・恐らくだが八岐大蛇は殆ど復活しかけているという曖昧且つ魂が剥き出しの状態だった処に先程の心を洗い流すというオートクレールを中心とした極大の破魔の一撃が効いたのだろう。体が小さくなっているのは不安定なまま神剣から切り離されて無理矢理体を復活させた為か?』

 

ドライグが目の前の結果から推測できる事を語っていく

 

敵対する相手の心を洗い流すオートクレールの一撃を受けて八重垣だけでなく八岐大蛇も影響を受ける事にそう可笑しい事は無い

 

最も、完全に復活した八岐大蛇相手では無理だっただろうが

 

その八岐大蛇は「キュイッ」と可愛らしい鳴き声を出してイリナの方に這って行き足に頭を擦り付ける。如何やら懐かれたようだ

 

「え、ええ~」

 

先程まで邪気をバンバンに出して血の涙を流しながら噛み殺そうとして来ていたはずの邪龍に懐かれて流石のイリナも困り顔である

 

「ドライグ。もはやアレって改心したとかじゃなくて純真無垢に幼児退行しただけじゃね?」

 

『ま、まぁ精神は肉体の影響を受けるとも言うしな。しかし色んな条件が重なった結果だろうが伝説に謳われるドラゴンが幼児退行するなど・・・ん?何故ホッとしている俺が居るのだ?』

 

イッキが居る分、イッセーが一々おっぱいの奇跡でピンチを切り抜ける比率が若干下がってアルビオンと和解する前にギリギリ幼児退行を免れたドライグは理由の判らぬ安心感が有ったらしい

 

「ふっ、キミたちは天使や悪魔だけでなく、邪龍とすらも一緒に在れるのか」

 

倒れて天を見上げていた八重垣が首だけ動かしてイッセー達を見る

 

「俺は・・・元人間です。でも悪魔である女性を愛しています」

 

「そうか。だが今のキミはどうあれ悪魔だ。そちらの天使もキミは守れるのか?」

 

且つて八重垣と愛する女性を引き裂いたその壁について彼は問う

 

「守ります。種族がどうのというのは今はもう関係有りません。いえ、例え和平の前だったとしても、俺はきっと守る為に全てを賭けたでしょう・・・且つての貴方と同じように」

 

「だがそれではキミの力では守れない時が、如何しようも無い理不尽が降りかかる時が在るかも知れないぞ?そんな時は如何する?」

 

「その時は仲間を頼りますよ。俺一人で無理なら皆で守ります。種族の違いなんて気にせずに仲間の為に命を懸けられるのが俺達なんですから」

 

イッセーは確信を持って告げる

 

主であり、恋人であるリアスなら色々と最低限身を守れるよう手配してくれるだろう

 

親友であるイッキなら呆れつつも原因そのものを叩き潰すエゲツない手札でも用意してくれそうだ

 

大切な人を守る為ならば仲間の手を借りる―――借りられるのだ

 

「―――そうか。キミたちには、理解者が居るのだな」

 

「勿論。俺一人だけで颯爽と助けられればそれが一番ですけどね」

 

イッセーは"ニカッ"と笑いながら冗談めかして言い、それに八重垣も笑みを浮かべる

 

「ふっ、違いない。好きな女の子は出来れば自分の手で助けたいものだからな」

 

下らなくも大切な男のプライドがそこには有るのだ

 

「通じ合えたなら、俺は、俺達はきっと分かり合えます」

 

イッセーが伸ばした手を八重垣は上半身を起こしてその手を握り返す為に手を伸ばす

 

「ああ、そうなったなら、きっと・・・」

 

 

 

“ドンッ!!”

 

 

 

突如として二人を引き裂く重低音が響き渡った

 

 

 

 

 

「ぐぶふぅぅぅううう!!?」

 

・・・二人の手が結ばれる直前に白音が八重垣の顔にライダーキックをかましたのだ

 

「なにしてんの白音ちゃぁぁぁん!?」

 

イッセーの悲鳴染みたツッコミに当の白音はお構いなしに別の場所を見つめる

 

「イッセー先輩。警戒して下さい。狙撃が在りました!」

 

「そ、狙撃!?」

 

慌てて周囲を見れば近くの地面に不自然な穴が開いている

 

恐らく白音が八重垣を蹴り飛ばさなければ彼の体を貫通していたのだろう

 

当の八重垣は顔面を蹴られて鼻血がダバダバと滴り落ちているが、死ぬよりはマシなはずだ

 

「あ~あ~、なんだよ。折角美しい復讐の喜劇がこれ以上駄作にならないように合いの手を入れてやったってのに、邪魔してくれちゃってさぁ」

 

全員が耳障りと感じる声の調子でリゼヴィムが現れた

 

「リゼヴィム!」

 

イッセー達が登場したリゼヴィムに向けて警戒態勢を取る

 

「レイヴェル、パスです」

 

白音は警戒しつつも蹴り飛ばして悶絶してる八重垣を安全圏に逃がす為に後衛組の居る場所に投げつけてそこに居たレイヴェルがキャッチする

 

「アーシアさん。治療をお願いします」

 

「は、はいぃ!」

 

「おいおい!なに俺様を無視して淡々と作業進めてるんだよ!」

 

「いえ、狙われた彼を後ろに下げる事は素早くやるべき事ですし、一応貴方の事は警戒しながら投げましたよ。彼が撃ち落とされたら堪りませんし」

 

登場シーンの間にやれるだけの作業はやっておく―――実に合理的な行動である

 

「ヤベェ、今一瞬イッキがこの場に居るかのような感覚を味わったぜ」

 

「あははは、まぁ強敵相手で且つ実戦なんだから良いんじゃないかな?」

 

「あ!ならなら私もこの子を預けるからちょっと待っててね」

 

イリナが足元に居た白く染まった八岐大蛇(ミニマムサイズ)を抱き上げるとアーシアに手渡す

 

「アーシアさん。この子をお願いね♪名前はえっと・・・『八白(やしろ)』。八白にするわ!神様を祀るお社にも掛けてるの♪」

 

「分かりました。八白ちゃん、危ないから私と一緒に下がってて下さいね」

 

「キュイッ♪」

 

アーシアの腕の中で元気よく返事をしてイリナに頭(の内の一つ)を撫でられる八岐大蛇・・・完全にペット枠と化した日本の誇る伝説の元邪龍

 

それを見たゼノヴィアは自分にだけペットに懐かれるような事が無いのに妙な焦りを感じていた

 

「ック!まさかアーシアに続いてイリナまでドラゴンに懐かれるとは。この程度の人望(?)で私は駒王学園の生徒会長の支持が本当に得られるのか?」

 

デュランダルを構えながら次期生徒会選挙に想いを馳せるゼノヴィアにイッセーが遂にキレた

 

「シリアスさせろオオオオッ!!」

 

白音の容赦ゼロの救出劇からイリナ達のほのぼの空間にイッセーのツッコミが炸裂した・・・もう我慢の限界だったのだ

 

「ねぇ今の状況判ってる!?目の前にラスボス的な存在が居るんだよ!?不意打ちで殺されそうにもなってたんだよ!?白音ちゃんの行動は衝撃的だったけどまだ理に適ってるから良いとしてもイリナとアーシアとゼノヴィアは能天気過ぎだろうが!!」

 

女性は三人寄れば姦しいとも言うがその三人が天然属性だと最早手に負えないのである

 

確かに相手は強大だがこの場に味方が大勢揃っている事と前回も前々回もイッキに出鼻を挫かれているので実際対峙しても心に少々のゆとりを持てているのだ

 

「ん~、『D×D』の皆さんがそんなに俺様の事を舐めてくれるなんて、これはキツ~イお仕置きが必要かな?」

 

そのセリフにマジメに真面に対峙してたイッセーが空気を入れ替える為に噛み付く

 

「やい、テメェ!さっきは何で八重垣さんを狙った?仮にも今は味方同士だったはずだろう!」

 

「ん~。だってあれだけ復讐に燃えてた男が最後に改心しちゃってハッピーエンドなんて詰まらな過ぎるじゃん?彼はバアル家と教会の間で起きた事件の語り部と霊剣と邪龍の融合品の試験運用の実験体という使命は果たし終えてたから俺様としては用済みだったしさ。遊び終えた玩具は最後にキチンと廃棄処分(おかたづけ)しないとね」

 

「―――そうかよ。リゼヴィム・・・やっぱりお前は此処で滅んだ方が良いみたいだな!」

 

相手は超越者という強敵。しかしこの場でリゼヴィムを倒す事さえ出来ればクリフォトをほぼ瓦解させる事が出来る

 

アポプスやアジ・ダハーカのようなリゼヴィム以上の強者こそ居るが邪龍がクリフォトの残党を纏め上げる可能性は低いと見て良いだろう

 

イッセーは左腕の籠手からアスカロンを取り外して神器の力を身体強化のみに割り振って突貫する。リゼヴィムだけが持つ特殊能力である『神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)』を警戒しての行動だ

 

だがリゼヴィムはその聖剣の一撃を普通に腕を盾にして防いでしまう

 

「ダメダメ。オーラを纏わせて無い聖剣なんてヒノキの棒よりましって程度だよ。それに幾ら力の塊と称された赤龍帝の膂力と言っても使いこなせてなきゃ俺様には届かねぇな―――まっ、ちょっとはジンジンとしたし、ちゃんとお返ししないとね★」

 

ふざけた口調で攻撃直後で硬直しているイッセーの腹にリゼヴィムは空いてる方の拳でパンチを繰り出す。そのパンチは赤龍帝の鎧に触れた瞬間に鎧を消失させ、その奥に在ったイッセーの生身の肉体に直接突き刺さると彼を遥か後方に吹き飛ばした

 

「グッハァ!?ゲホッ!・・・クソ、触れた箇所だけじゃなくて鎧の全部が消えるのかよ」

 

アーシアの遠距離回復の光に包まれたイッセーが再び鎧を纏いながら愚痴を溢す

 

全身の武装が解除されるというのが何度も続けば消耗がそれだけ加速するからだ

 

次にイッセーと入れ替わるように祐斗とゼノヴィアとイリナの剣士組が斬り掛かった

 

「だっだら神器で無ければ良いのだろう!」

 

「だからと言って神器も忘れて貰ったら困るけどね!」

 

ゼノヴィアがエクス・デュランダルをイリナがオートクレールを祐斗がグラムを握り残りの魔剣は龍騎士たちに振らせて一斉攻撃を仕掛ける

 

「わぁお!伝説の魔剣・聖剣のオンパレードだねぇ。神器に魔剣を握らせるのは面白い発想だけどそれでも俺様とは相性が悪すぎだよん♪」

 

黒い翼を一対だけ生やしたリゼヴィムがその翼を水平に高速で祐斗の龍騎士に僅かに掠らせると龍騎士は霞のように消え去り四本の魔剣が地に落ちる

 

相手の急所を狙ったりする必要もなく、ただ触れれば良いだけならばリゼヴィムにとって児戯にも等しいのだ

 

そして残る本人たちの振るう魔剣や聖剣も体術で軽くいなしてそれぞれを魔力で吹き飛ばした

 

剣士組が距離が離れたのを見たリアス達が一斉に攻撃を叩き込むがそれもリゼヴィムはシールドを張って防ぎきってしまう

 

「これでも魔王の息子で悪魔の中でも超越者っていう三指に入る実力が有るんでね。神器以外の攻撃も生半可じゃ届かないよん☆」

 

そう言って濃密な魔力が籠った魔力弾をまだ回復中だった剣士組に放つ

 

「させるかよ!」

 

直前にイッセーが『戦車』の特性で最大限に防御力を高めた状態で間に入るがその凶悪な魔力に鎧はあえなく破壊されて怯んだ瞬間に接近したリゼヴィムが蹴りを放つ

 

「ほい♪ルシファーキック★」

 

相変わらずふざけた調子で放たれた蹴りはイッセーの鎧に触れると再びその鎧を消し去り衝撃波が突き抜けるようなバカげた威力でイッセーに血反吐を吐き出させた

 

痛みに耐えながら何とか鎧を着直したイッセーにリゼヴィムは小馬鹿にしたように声を掛ける

 

「なぁ。サーゼクス君の眷属がなんで神器保有者が居ないのか判る?色々と理由は有るんだけど中でも一番の理由は俺と対峙した時に役に立たねぇからなんだわ。特に赤龍帝君は神器が無ければ何にも出来ないクソ雑魚アクマ君だもんね♪自分の雑魚っぷり、痛感してくれたかな?」

 

リゼヴィムが軽く手を払って鎧のマスクに触れ、またしても素顔を晒したイッセーに至近距離で魔力弾を生成する

 

「冥土の土産に良い事聞けたね☆なら後は死ぬだけっしょ♪」

 

そうして放たれた魔力弾はイッセーの顔面を吹き飛ばすかに思えた。しかし直前にイッセーの顔の前に現れた黒い渦に吸い込まれてリゼヴィムの眼前にも発生したその渦から飛び出した自分の魔力弾に吹き飛ばされた

 

「グッハァァァ!!?」

 

「は?」

 

九死に一生を得た事より今、目の前で起こった事がなんなのか理解が追い付いてないイッセーが間抜けな声を漏らす

 

「さて、大体解ったよ―――折角相手は聖書に記されし大悪魔リリン。ここからは俺が少しお相手させて貰おうかな」

 

槍で肩をトントンと叩きながら最強の神器の使い手が参戦したのだ

 

「曹操・・・お前今なにをしたんだ?」

 

「なに、単純な話さ。俺の神器の禁手(バランス・ブレイカー)の七宝の能力の一つ『珠宝(マニラタナ)』。襲い掛かる攻撃を他者へと受け流す力が有る」

 

よく見れば曹操は既に禁手化(バランス・ブレイク)しており周囲には七つの宝玉が浮いている。そうして淡々と能力の説明をしてくれた曹操だがイッセーが聞きたい事はそこでは無いのだ

 

そしてそれはリゼヴィムも同じだった

 

「そうじゃねぇ!どうやって俺様の『神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)』をすり抜けやがった!?」

 

激昂するリゼヴィムに曹操は小馬鹿にしたように鼻で嗤って解説してやる

 

「なんだ?自分の能力なのにまさかその程度の認識だったのか?成程、力は有っても小者だとは聞いていたがこれ程だとはな。その能力は貴様が直接触れなければ発動しないのだろう?『神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)』は貴様の魔力弾にその効力を乗せる事は出来ない・・・現に先程剣士組を狙って攻撃した時に間に入った赤龍帝の鎧は破壊されていた(・・・・・・・)。そして最後に止めを刺す前に態々鎧に触れて解除してから魔力弾を放とうとしただろう?推測するには十分過ぎる材料だよ」

 

返された魔力弾がリゼヴィムにダメージを与えたのは珠宝(マニラタナ)の能力がただ受け流すだけ(・・)の力だったからだろう

 

同じカウンター系の神器の技でも威力を倍にして返す森羅椿姫の追憶の鏡(ミラー・アリス)だったならば返す事は出来ても無効化で打ち消されていたはずだ

 

圧倒的な力を持ち、過去の大戦の途中で姿を消して無気力に生きていたリゼヴィムが真剣に己の能力と向き合う機会など無かったのだ

 

「さて、今リゼヴィムと真面にやり合えそうなのは俺とそちらの猫又の姉だけだが、いきなり連携を取って戦うのも難しいし何より一人で臨みたいのだが、構わないかな?」

 

「私は別に構わないにゃ。面倒な相手を引き受けてくれるならそれでね。もしも死んだら火車の炎で火葬くらいならしてあげるわよ」

 

「では、精々火で炙られないようにしよう」

 

他の者を下がらせて自分一人で闘うと云った曹操にリゼヴィムは盛大に笑い声を上げる

 

「ハハハハハ!曹操君、キミ、自分が何を言ってるのか判ってる?確かにさっきは不覚をとったけど要は魔力弾を使わなければそれでキミの攻撃は完封出来るんだよ。如何に最強の神滅具(ロンギヌス)だとしても直接的な効果は俺様に及ばないのは実証済みだ。途中に何かを挟んだ間接的な攻撃だとしても元が神器から齎された力なら無効化出来るしね!それとも素手で挑んで来るのかい?」

 

「まさか、確かにこの槍では手傷を負わせることは出来ないだろう」

 

曹操はそう返すと最強の聖槍を手放した

 

そして徐に近くの地面に刺さっていた天叢雲剣をその手に掴む

 

「日本という国の誇る最高峰の霊剣。先程の『D×D』のメンバーの浄化の力で神剣としての姿を取り戻している。槍でないのは残念だが、贅沢は言わないでおくか」

 

「曹操、お前剣まで扱えるのかよ!?」

 

刀をヒュンヒュンと取り回し、重さを確かめるような曹操にイッセーが驚いたように問いかけるが曹操は刀の峰の部分で肩をトントンと叩きながら答える

 

「いいや、剣を握ってみた事くらいは有るが知っての通り俺は槍使いだ。だが毎度仲間のジークフリートと鍛錬していれば大体の術理くらいは掴めるさ―――木場祐斗に敗北してからジークフリートの奴は何かに取り憑かれたかのように堕とされた冥府で朝から晩まで鍛錬に明け暮れているからね。いい練習相手になってるよ・・・ところで木場祐斗。ジークフリートが『ミルキー怖い。筋肉怖い。可愛い妹なんて幻想だ』とずっと呟いているのだが、何か知らないかい?」

 

ジークフリートは『ミルキー漢女恐怖症』を発症し、再びあの悪夢と出会う事が有っても物理で振り払えるように必死に己を鍛えているらしい

 

「イエ、ナニモシリマセン」

 

木場祐斗はあの時の出来事の記憶にそっと蓋をした

 

「にしても曹操お前・・・幾ら何でも剣の扱いを見て覚えたなんて無茶苦茶な・・・」

 

「なに、どれ程のものかは悪魔退治でお見せしよう」

 

曹操はそう言うと七宝を周囲に展開させたまま神速の踏み込みでリゼヴィムに迫る

 

「あははは♪まさか黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)の使い手が剣で勝負を挑んで来るなんてね!こんなお爺ちゃんになってからでも初めての経験だよ☆」

 

「斬る。突く。撃つ。破砕する―――人の生み出す武器はそれぞれの状況に合わせた用途で扱うのが基本だ。敵の弱点を突く事を信条としている俺がなぜ態々無効化されると判っている武器で攻撃しなければならない?それにそんなセリフは先程アスカロンで斬り付けた赤龍帝に初めに言ってやるべき言葉だろう」

 

曹操の言う事に間違いは無いのかも知れないがそもそも基本能力の一つに『譲渡』の力を持つ赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)と比べるのは酷というものだろう―――本来彼の持つ槍はあらゆる状況を覆すだけの性能を秘めたこの世界で最強の武具なのだから、それを『使えないなら仕方ない』で済ませる曹操が可笑しいのだ

 

しかし、如何に曹操が人間では最強クラスの力を持つとしても超越者たるリゼヴィムには基本性能で劣ってしまう

 

曹操が幾ら素早く仕掛けようともパワーでもスピードでも上回るリゼヴィムは神剣の攻撃を受け流す事も避ける事も難しくは無い

 

「さっきの奴らよりはマシだけどまだまだだよん♪その周りに浮いてる玉の力で下手に魔力弾を撃てないと言っても所詮それだけでしょ?」

 

「なに、ただの肩慣らしだよ」

 

リゼヴィムの挑発を軽く受け流した曹操は七宝の転移・浮遊・分身の能力を使ってリゼヴィムの反撃を寸で避けて全方位から攻撃を仕掛けて行く

 

当たる直前で転移で避けられ、本体に当たったと思えば分身と本体を転移で入れ替えた囮だったりと兎に角翻弄していく

 

「ッチ、聖槍がなければ小細工しか能の無い人間が!」

 

「その通り、小細工こそが人間の究極の技だと思っているよ・・・とはいえこのままでは埒が明かないな。生半可な奇襲は通用しなさそうだ」

 

曹操は飛び上がってリゼヴィムから少し離れた地面に着地する。一息つくそのタイミングでリゼヴィムは曹操に問いかけた

 

「なぁ曹操ちゃん。キミも且つて世界に牙を剥いた身なら俺様達に協力しない?異世界にはそれこそキミの見た事もないような人外が沢山居るぜ?『D×D』の奴らがうちの聖十字架を奪って行ったけど聖槍の持ち主であるキミの力が有ればトライヘキサの復活も目前に迫るんだけどな。天帝に付けられたであろう首輪もちゃんと取ってやるぜ・・どうよ?」

 

リゼヴィムの提案を聴いた曹操は構えを解いて刀で肩をトントンと叩きながら返答する

 

「残念ながら異世界に現を抜かす前に俺は自分探しに没頭したいものでね―――それに」

 

そこまで口にしたところで曹操が再び転移し、リゼヴィムの背後に現れそのまま斬り付ける

 

先程までは後出しでも曹操の攻撃を避けられたはずのリゼヴィムは今回はほんの一瞬反応が遅れてしまい、振り下ろされた刃が僅かに頬を裂いた

 

「っぎゃ!?痛ってぇぇ!なんだ?転移の速度を上げたのか?」

 

斬られた頬が神剣の影響で僅かに煙を上げて傷口を抑えるリゼヴィムが怒りの目を向ける

 

如何に高速の転移と云えどもタイムラグは存在する。リゼヴィムにとって曹操の転移は例え背後に廻られようとも十分に対処出来る速度であったはずだった

 

「いや、転移の速度は変わってないさ。先程自分で言っただろう。俺は小細工だけは達者なんでね。今のも弱い人間の編み出した小技の一つに過ぎないさ」

 

曹操はリゼヴィムの瞬きの瞬間(・・・・・)を狙って動いたのだ

 

イッキのように相手の無意識に潜り込むような技に比べたら虚を突きにくいがクロウ・クルワッハよりも弱いリゼヴィム相手ならその0.1秒の隙はテクニックを極めんとする曹操には十分狙えるものだった

 

「俺達は弱っちい人間なんでね。絶対的な怪物(でんせつ)を打ち倒す為にたった一本の鋭い(わざ)を磨くのさ」

 

奇しくもこの天界で強者(ドラゴン)強者(アクマ)弱者(にんげん)の小細工に翻弄されたのだ

 

「すっげぇ・・・」

 

「うん。彼と云いイッキ君と云い僕たちの周りに居る人間はテクニックタイプの究極系ばかりだね。同じテクニックタイプとして嫉妬しちゃいそうだよ・・・まだまだ鍛錬が足りないな」

 

イッセーが素直に感心し、祐斗が似たタイプとしてその領域に至っていない事にある種の悔しさを感じていると皆の耳に柔らかい声が聞こえてきた

 

「ふふふ、人間の中には時折伝説をも下す者と云うのは現れるものなのですよ」

 

「ミカエル様!」

 

「遅れてしまいましたね。『システム』の在る第七天にセラフのメンバーで結界を施しました。これでもし我々が死んだとしても誰も『システム』に干渉する事は出来ません」

 

黄金の12枚の翼を広げてにこやかな表情のままオーラを迸らせつつ『システム』の安全を告げる

 

「さてリリン。直接顔を合わせるのは先の大戦以来ですね。まさか天界まで昇って来るとは思いませんでしたよ。天国を土足で踏み荒らした以上、キツイ仕置きを受けて頂きましょう」

 

ミカエルが天に手を翳すとコカビエルが全力で創り出したのと同程度の巨大さを誇る光の槍が何十本と現れた。ジョーカーのように天界の危機ともなれば天使長も天界のバックアップを受けて能力が大幅に上方修正されるのだろう

 

「おっと、これはいけないな」

 

曹操もそれを見てリゼヴィムから距離を置く

 

「私達も続くわよ!」

 

リアス達も戦況の変化に合わせて各々が遠距離攻撃の用意をし、ミカエルが掌を振り下ろしたのを合図にリゼヴィムに集中砲撃が襲い掛かった

 

「ハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

爆炎の中からリゼヴィムの笑い声が響き、黒い竜巻が爆炎を吹き飛ばす

 

黒い竜巻の正体はリゼヴィムの背から広がる12枚の悪魔の翼だ

 

しかし無傷とはいかなかったようで翼の半分程度はボロボロになっている

 

「おおお、痛てぇ。真面に痛みを覚えるのなんて何百年ぶりだ?思わずテンション上がっちゃったよ。あ~、こりゃ参ったね。チーム『D×D』、三大勢力と和平を結んだ奴らの精鋭部隊を相手にするのに今までちょっとふざけ過ぎてたのかも知んないなぁ」

 

リゼヴィムは懐からフェニックスの涙を取り出すと自分に振りかけて傷を治すとまるでヴァーリのような鋭い眼光に変わりイッセー達を見据える

 

「遊びは終わりにしよう―――私はルシファーの息子として貴殿らを我が宿敵と認めよう」

 

「へ!今更マジメぶった処で寒いだけだぜ?何が狙いで天国までやって来たのか知らねぇが此処でキッチリ倒してやるよ!丁度今お前に通用しそうな新技を覚えたんでね!」

 

如何やらイッセーは新たな力に目覚めたようだ

 

「いや、目的は達したのでな。今日は帰るとしよう」

 

―――如何やらイッセーが新たな力を出す機会は失われるようだ

 

出鼻を挫かれたイッセーは必死に食って掛かる

 

戦闘狂(バトル・ジャンキー)では無いが、今の彼は激しく戦いたい気分だったのだ

 

「ぅおおい!ふざけんなよ!お前此処に来てから俺らと戦ってただけじゃねぇか。それでどんな目的を達成させられるってんだよ!?」

 

イッセーの何処か焦りを含んだ叫びにリゼヴィムは懐から二つの果実を取り出す事で応える

 

その実を見たミカエルの表情が驚愕に彩られる

 

「まさかそれは!?」

 

「そう、これこそが『生命の実』と『知恵の実』だ」

 

その告白に他のメンバーも思わずその実を凝視した

 

「どうして!その実はもう生っていないはず!」

 

「その通りだ。しかし『保存』されていたとすれば話は別じゃないかな?」

 

イリナの叫びにリゼヴィムは高慢さを滲ませる笑みで答える

 

「我が母はリリス。且つてこのエデンの園に住んでいたアダムの最初の妻だ。その母は人間だった頃、この二つの実を神の目を盗んでとある場所に隠したのだよ。私は幼少の頃、母からその話をよく聞かされていた。そして調べてみたところ、これを見つけたという訳だ・・・最も、既に実は干からびてその力を失ってしまっていたがね」

 

干からびたと言うがリゼヴィムがその手に持つ二つの実は瑞々しい輝きを放っている

 

それを見たミカエルはその理由を推察する

 

「その干からびた実を聖杯の力で復活させたという訳ですか・・・ですが、一体天界の何処に在ったというのです?最初から干からびていたならいざ知らず、我々は昔からその実の気配を感じた事は一度も有りませんでした」

 

「天界では無い。煉獄だ。冥府に繋がる隠れ道にな―――天界へ攻め込んだのは実を手に入れたついでに過ぎん。最初から目的は達していたのだよ。煉獄への入り方も当然、母から聞いたものだ」

 

天界を襲ったのがただのついでだと聞かされた皆は不快感満載の顔だ

 

そんなイッセー達の表情を愉しみながら片手で二つの果実を器用に弄んでいると一陣の風が過ぎた

 

リゼヴィムが弄んでいた実の片方・・・知恵の実が無くなっている

 

そしてイッセー達の近くにはさっきまで居なかったイッキが居たのだった

 

「ふぅ・・・不意を突ければと思ったけどまさかそんな重要なアイテムを態々だしてご説明してくれるとはね。これはもう掏るしかないっしょ」

 

全身に血をある程度滲ませたイッキがそう言いながら徐に立ち上がりリゼヴィムに振り向いて手に持つその実を見せつける

 

「イッキ!実を盗んだってマジかよ!?クロウ・クルワッハは如何したんだ!」

 

「ああ、あの邪龍さんなら『本気を出せないお前と決着を付けるのは勿体ない』って途中で勝負を切り上げていったよ・・・まぁそれを見込んで盛大に『弱体化してる』なんてセリフ回しまでしたんだけどな

 

「ん?なんか言ったか?」

 

「いや、別に?」

 

強者との闘争にこそ心を震わせるドラゴンなら適当な処で戦闘を切り上げてくれると思ったからこそあの場に残ったイッキだった

 

そして遅れて行けば何らかの形でリゼヴィムの虚を突けると思ったのだ

 

不意打ち・漁夫の利上等である

 

最も、リゼヴィムに直接【一刀羅刹】で危害を加えようとすれば直前の殺意や害意でリゼヴィムにも気付かれて避けられたかも知れないし、今もリゼヴィムの影に潜んでいるはずのリリスが間に入った事だろう

 

それならばリゼヴィムが堂々と見せびらかすであろう二つの果実を狙ったという訳である・・・イッキはそろそろどこぞの勇者のように『職業・盗賊』を名乗っても良いのかも知れない

 

後はデュリオには少し待ってもらって気配を消して忍び寄り、リゼヴィムが果実を取り出してから『抜き足』と【一刀羅刹】の併用で実を掠め取ったのだ

 

なお、【一刀羅刹】のダメージは例の如くフェニックスの涙で回復済みである

 

アザゼルからも『お前は折角格上殺しの技を持ってんだから活用出来るように常に一本はフェニックスの涙を持っとけ』と言われていた

 

レイヴェル・フェニックスの婚約者であり『D×D』の一員であるイッキならばその程度の融通は普通に利くのだ

 

「貴様・・・有間一輝か。こうして直接顔を合わせるのは初めてだな。先ずは私から知恵の実を奪った事は評価しよう。他の奴らが全力で私を攻撃しようとしている中で私のことを眼中から消して真っ直ぐに実を狙ったのは業腹だがな。私一人であったなら奪われた実を取り戻すのは少々骨が折れる処だったが、此方に誰が居るのか忘れているようだ―――リリス」

 

最後に静かにその名を呼ぶとリゼヴィムの影からオーフィスの分身体であるリリスが現れた

 

真正面からの戦闘ではイッキたち全員でもリリス一人に負ける公算が高い。そこにリゼヴィムが加われば不可能とさえ云えるだろう

 

「リリスは確かに私を守る様にしか命じていない。その命令の隙間を狙ったならこの場で新たな命を授けるまで」

 

リゼヴィムがその指を有間一輝に突き付けてリリスに命ずる

 

「さあリリス!あの人間が手に持つ実を奪い返しt“グジャアアアッ!!”・・・へぁ?」

 

イッキ以外の全員の思考が真っ白に染まりその視線が一点に集中する

 

有間一輝の掌に在った実は無残にも握りつぶされていたからだ

 

「「いや何してくれてんのお前えええ!!?」」

 

奇しくもイッセーとリゼヴィムの声が重なりエデンの空に木霊していった

 

 

[三人称 side out]




相手が強すぎて奪われる?なら廃棄っしょ!


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第六話 クリスマス、当日です!

感想欄にネタバレが在ると答えに困る・・・これが返信者のサガか


握りつぶされて汁の滴るその実を見て全員が未だに動けない中、俺は空気を換える為に異空間から一つのグラスを取り出してその汁を注いでいく

 

「イッセー、出来立て搾りたてのリンゴジュースだけど、飲むか?」

 

声も出ないイッセーは必死に首を横にブンブン振って否定する

 

「他の皆は?」

 

一応イッセー以外にも話を向けたけど皆揃って首を横に振ったな。すんげぇシンクロしながら否定してるぞ。首を振る速度まで一緒だ

 

そこにリゼヴィムが動揺を隠しきれない声でツッコミを入れてきた。先程俺に真っ直ぐに突きつけたその指先はブルブルと震えている

 

「お、お、お、お、お前自分が何をしてたのか判ってんのか!?アダムとイヴが口にした伝説の果実なんだぞ!」

 

「いや知ってるよ。クリスチャンでなくても今の情報化社会に生きてれば一度は聞いた事が有る程度には有名だもんな―――その価値プライスレス!」

 

お金に代えられない価値がソレにはあるんだろう。奇しくも完全復活した知恵の実と生命の実とか天界側からしたら神器じゃない元々の聖杯や聖骸布、聖槍などの聖遺物(レリック)に匹敵するだろうな・・・勿論欠片とかじゃなく完全版と同等だろう

 

「分かってんじゃねぇか!いや、解ってるけどやっぱ判ってねぇよ!」

 

「どうした?言ってる事が支離滅裂過ぎるぞ?敵の手に渡るくらいなら潰す方が良いってだけだ―――ほら、ミカエル様を見てみろよ。天使長のあの人がずっとニコニコ笑顔のままなんだぞ?・・・きっと俺の判断を世界を守る為の英断だと認めてくれたに違いない!」

 

ミカエルさん俺が実を握り潰してから一人だけ微動だにせずに変わらぬ笑みを浮かべたままだしな

 

「アレはフリーズしてるって言うんだよ!?一番近くで聖書の神に仕えていた天使長だからな。未だに認識が現実に追いついてないだけだ!」

 

やだ、ミカエルさんの事を気に掛けて上げるだなんてリリン君ったら優しい

 

「リゼヴィム、実、とる?」

 

リリスがリゼヴィムに訊くけど当のリゼヴィムは頭を掻きむしっている

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!もう知恵の実からオーラも何も感じねぇじゃねぇか!干からびてるだけならまだ聖杯で活力与えてやれば如何にかなったがアレ、本当に直るのか?」

 

リゼヴィムの顔に疑念が浮かんでいる。流石に魂なんて宿ってる訳でもないと復元は難しいのか

 

まぁもしも潰れた欠片からでも復元出来るなら知恵の実や生命の実を半分に割って聖杯で復元しての繰り返しで無限増殖バグすら可能だからな

 

それでもリリスに狙われても困るし、もう一手必要か

 

「ふぅむ。リンゴジュースは皆に不評だったみたいだし、此処は一つ焼きリンゴにするか」

 

俺は実を持っている右手を狐火で包み込む

 

周囲に甘くて芳ばしい香りが漂い始めた

 

「グフゥゥゥッ!!」

 

「キャー!ミカエル様、お気を確かにぃぃぃ!」

 

「はうぅぅ・・・」

 

「ヴっ、眩暈が・・・ふふふ、如何やら白昼夢を見ていたようだ。酷い悪夢だったな・・・」

 

「アーシアァァァ!!しっかりしろォォォ!ゼノヴィアも現実から目を背けるなぁぁぁ!」

 

俺が簡単手のひらクッキングし始めたらミカエルさんと教会トリオにイッセーが騒がしい

 

―――イリナさんは目の前で気をやった上司の心配が幸い(?)勝ったみたいだけどな

 

少し味方に被害が出たけどリゼヴィムにさっさとお帰り頂く為に追い打ちを掛けていくスタイルだ

 

「そう言えばリゼヴィム。さっきまでのカリスマスタイルはもう良いのか?」

 

魔王の息子ムーヴしてたはずだよな?

 

「誰のせいだと思ってやがる!だあああああ!!貴様が絡むと碌な事ねぇ・・・これ以上此処に居ても不毛なだけだし、クロウ!リリス!さっさと帰るぞ。飲まなきゃやってられねぇ!」

 

話の途中でやって来ていたクロウ・クルワッハとリリスに退くように命じるリゼヴィムだがクロウ・クルワッハは腕を組んだまま動こうとしなかった

 

「クロウ?」

 

「・・・・・・・・・」

 

名前を呼ばれても黙ったままのクロウ・クルワッハがリゼヴィムと一緒に行く気が無いと分かったのか深くため息を吐く

 

「まっ、お前さんらは何時か離れるとは思ってたよ」

 

そうある種の理解を示してる感じだけど離れる原因の大半がリゼヴィムの小者っぷりのせいだと思うのは俺だけだろうか?

 

クロウ・クルワッハは留まるとしてもリリスはまだ情緒などが育っていないから普通にリゼヴィムに付いて行くようだけど、折角クリスマスも近いしな

 

「リリス!」

 

既にリゼヴィムと此方に背を向けて歩き出していたリリスに声を掛けると立ち止まって振り向いてくれたので、異空間からチョコレート菓子の箱を取り出してリリスに投げる

 

「少し早いけどクリスマスプレゼントだ」

 

「・・・ありがとう?」

 

相変わらず疑問形かい!

 

まぁリリスは0歳児なんだから十分子供の範疇だしクリスマスプレゼントを渡しても良いだろう

 

いや、オーフィスにも渡すけどね

 

「―――行くぞ、リリス」

 

リゼヴィムが微妙な表情で俺の渡した菓子箱を見てるけどリリスから無理矢理取り上げてリリスの不興を買う事は避けたみたいだな

 

短くセリフを切って小さくなっていく背中に大きく声を掛ける

 

「食べ終わったらちゃんとゴミはゴミ箱に捨てるんだぞ~!」

 

最後にリリスに教育を施して天界での激闘は幕を閉じたのだった

 

 

 

 

リゼヴィム達が立ち去ってから俺はとても青い顔をしているミカエルさんの下へ近づいて行く

 

「・・・イッキさん。色々と言いたいことは有りますが、リリンに知恵の実が渡らなかった事は僥倖と言えるでしょう。よ、良くやって?くれました」

 

最後のお礼の一言が声が震えてますよ

 

他の皆も俺を若干咎めるような視線を向けて来るしな

 

俺はそんな空気を払拭させる為に少々ふざけて恭しい感じの礼を取る

 

「ミカエル様。此度の戦いでは天界にも少なくない量の被害が出た事でしょう。復興の手助けも天使でも信徒でもない我々では幾らこのID(レプリカ天使の輪)が在ると言っても大量の人員を裂く事も難しいはず。ですが折角聖夜祭を目前に控えた今、天使たちにも心躍るイベントが有っても良いと思うのですが、如何でしょうか?」

 

急に態度を変えた俺の様子に皆は訝し気な気配を漂わせているがミカエルさんだけは俺との付き合いの短さも有ってか素直に頷いてくれた

 

「確かに一理有りますね。ですが今は天界の復旧作業やクリスマス自体も我々教会陣営は表も裏も忙しいですし、それが終われば新年となります―――大々的な催しは例え出来たとしても大分先になるでしょう」

 

確かにミカエルさんの言う通りだろう・・・だけど発表(・・)ならば時間も手間も最低限で済むんじゃないかな?

 

「つきましては此方をお受け取り下さい。此度の戦の戦果でございます」

 

そう言って俺は異空間から無傷の知恵の実(・・・・・・・)を取り出してみせた

 

「―――は?」

 

おお、天使長様が口をポカンと開けて少々間抜k・・・だらしのない・・・気の抜けた表情になったな。毎度の事だけど録画装置で録画もしているし、リゼヴィムの間抜け顔と併せてアザゼル先生へのクリスマスプレゼントは決定だろう

 

―――(よこしま)な考えじゃないよ?あくまでも天界にクリフォトが攻め込んで来た事に対する大切な映像資料として今後に少しでも役立てるように提供するだけだ

 

だから『僕は悪く無い。だって僕は悪く無いんだから!』

 

ちょっと過負荷(マイナス)寄りな思考だったかも知れないけど、きちんと理論武装したお陰か天界の堕天防止プログラムは働かなかったみたいだ

 

「では、貴方が今持ってる潰して焼いたその実は一体・・・?」

 

「ああ、これですか?これはバアル家の特産品のリンゴですね。サイラオーグさんとは仲が良いので時折郵送されてくるんですよ。俺は一度たりとも潰したこの実を『知恵の実』と言った覚えは有りませんよ?【一刀羅刹】で知恵の実を掠め取った後でその実は袖に隠して取り出したこのリンゴの表面を知恵の実の幻術で覆ってからリゼヴィムに見せつけたんです」

 

冬用コートの袖の中なら十分果実の一つくらいは隠せるのだ

 

「見せつけた偽物の実とほぼ同じ位置に本物の実があれば漂うオーラからも偽物の実を本物だと誤認するでしょうからね。後は潰すのと同時に袖の中に隠した知恵の実を異空間に隠せばまるで知恵の実が潰されて使い物にならなくなったかのように見えるという寸法です―――幻術と手品の合わせ技って感じですね」

 

表の小細工(トリック)と裏の小細工(マジック)を組み合わせただけだ

 

二つが合わされば大悪魔リリンも間抜け面を晒すのさ

 

幻術も必要最小限の力しか使って無いからそっちから違和感を感じるのも難しいだろう

 

ただのリンゴを潰されて絶叫を上げるリゼヴィムを見て嗤いを堪えるのは結構大変だったがな!

 

「いや、ソレ俺達も騙されて・・・もうどうでも良いや・・・」

 

イッセーが文句を言おうとしたようだが途中で諦めたのか疲れたように肩を落とした

 

時には言いたい事を飲みこむのも処世術の一つですよ?

 

「さてミカエル様。そういう訳ですが、受け取って頂けますか?」

 

「・・・分かりました。決してクリフォトの手に渡らぬよう第六天か第七天に保管する事としましょう。貴方のお陰で聖十字架も天界の下に来ましたし、また借りが出来てしまいましたね」

 

日本人なら「いえいえ、そんな」とか言って遠慮するのかも知れないけど、将来的にお偉いさん方との交流が仕事の一つになるかも知れない身としてはどんどん恩を売って行きたい処だな

 

取り敢えず今は「恐縮です」とだけ答えておいた

 

「『D×D』皆さんも良く戦ってくれました。天界を代表してお礼を申し上げます。貴方も天帝殿の使いとしての御助力に感謝します」

 

ミカエルさんが俺達と曹操に感謝の意を示し、お礼を言われた曹操は可笑しそうに肩を竦める

 

「フッ、俺はイエスを貫いた槍を持った咎人なのだがな。天使長殿は寛大なようだ」

 

「イエスは自らを貫いたその槍に祝福を与えました。その槍を持ち、敵対する意思も無いのであらば無碍に出来るはずも有りません」

 

神の祝福か・・・さっきはその祝福で酷い事になってたけど、覇輝(トゥルース・イデア)の乳神降臨を知ったミカエルさんは後でどんな反応するんだろうな?

 

「そうか―――しかし俺が余り此処に長居しても仕方ない。俺はまた煉獄から冥府に降りるとするよ。ジークフリートにもさっさと帰って来て修行の相手をしろと天界に来る前にせっつかれているものでね。今のジークフリートを放置し過ぎると色々面倒なんだ・・・全く、此方も天帝の使いで各地のテロリスト共と戦って偶の休みは修行漬け・・・まさか禍の団(カオス・ブリゲード)で世界中から狙われていた頃よりも忙しい日々になるとはね」

 

いや、知らんがな・・・と云うかジークフリートが死んで無いのは知ってたけどそれ程修行に身を入れてるなんてどんな心境の変化が有ったんだ?

 

手のひらを後ろ手にヒラヒラとさせながら遠ざかっていく曹操を見届けた後にミカエルさんは自身の眷属であるイリナさんにも改めて労いの言葉を掛ける

 

「イリナ。よくぞ天界の為に戦ってくれました。此処に向かう途中でも貴女のオートクレールの優しく力強い波動は感じ取れましたよ。流石は私の『(エース)』です」

 

「はい、有難う御座います!・・・あの、ミカエル様。不躾かも知れませんが一つお聞きしても宜しいでしょうか?」

 

「ええ、構いませんよ」

 

「何故私を『A』に選ばれたのですか?」

 

ミカエルさんが快諾してイリナさんが自分が『A』の役を与えられた理由を問う

 

確かにトランプに置いて『A』と云うのは単純に強かったり特別な意味合いを持たされる事が多い。そんなある意味ではジョーカーに迫る程の役を何故自分に与えたのか疑問だったのだろう

 

転生前なんかはイリナさんは実力的に精々優秀の域を出ないものだったからな

 

「そうですね。人間界でトランプの箱を開けた時、一番上に在るのはどのカードですか?」

 

「えっと・・・」

 

「スペードの『A』」

 

一瞬答えに詰まったイリナさんの代わりに白音が答えを言うとミカエルさんは頷いて指を1本立てて詳しい理由を語る

 

「その通りです。転生天使・・・『御使い(ブレイブ・セイント)』の顔役には誰よりもそれを体現出来る者が相応しいと考えていました。天使イリナ、貴女は天真爛漫で実直であり主への敬愛と深い信仰心を持ち合わせ、誰とでも仲良くなれる才も有ります。だからこそ私は貴女を『A』に据えたのですよ―――如何かこれからも『御使い(ブレイブ・セイント)』の顔である事を願います」

 

「はい!これからも精一杯務めさせて頂きます!」

 

ミカエルさんが自分をそれ程評価してくれていた事に感動したイリナさんは元気よく答える

 

良く見れば感極まってるのか目から涙が零れているな

 

尊敬する上司であるミカエルさんが何よりも自分の内面性をこそ評価してくれていたと考えればそりゃあ嬉し涙の一つや二つ流すだろう

 

その後、クロウ・クルワッハはイッセーに『ドラゴンとして闘え』と場を読まずに迫るが『疲れるから今は無理』という言葉に取り敢えずの矛を収めて去っていった

 

俺との戦いでも全力が出せない相手という理由で途中で切り上げた彼ならば納得のいく理由だ

 

残るは八重垣さんの処遇だな

 

「あの!ミカエル様!如何か八重垣さんに寛大な処置をお願いします。彼がやった事は如何あれ許される事ではありません。罰するなとは言いませんが彼を殺したりする事だけは如何か!」

 

「ミカエル様。私からもお願いします。彼の動機は元を辿ればあの時駒王町に居た我々の罪でもあります・・・私は信頼に足る部下であった彼を二度も教会の下で処刑するなど耐えられません」

 

「わ、私もお願いします!此処でこの人が死んじゃったら何のためにオートクレールで彼の心を救えたのか分からなくなっちゃいます」

 

イッセーがミカエルさんに八重垣さんの減刑と云うか死罪だけでも回避するように頼むとトウジさんとイリナさんもイッセーの隣に並んで揃って頭を下げる

 

それに対してミカエルさんは困ったような部下の優しい心が嬉しいような表情を浮かべる・・・組織のトップとしては頭の痛い問題だよな

 

当時の駒王町に居た教会のエクソシストの人達は心の均衡を崩して隠居するか『褒美』を得て教会の要職に就いているかだ

 

前者は誤魔化しがまだ利いても後者はかなり無理がある

 

それに殺されているのはバアル家現当主のお知り合いも含まれる

 

バアルの当主は八重垣さんが生きてると知ったら天界で幽閉するみたいな事を伝えても『そのような生ぬるい処罰など在り得るか!此方に引き渡せ!我々が直々に処刑してくれよう!』とか喚くんだろうな。勿論適当に交渉を続けつつ決して渡さないというスタンスを取る事も出来るしそれが無難なんだろうけど不毛な遣り取りが続くと考えると天界としてはクソ面倒臭いだろう・・・バアル家の交渉役とかが出張って来るなら天界側もそれなりの地位の者を出さないといけないだろうしね

 

「ミカエル様。彼が生きてるとバアル家が騒ぎそうという事なら一つ案が有るのですが」

 

ミカエルさんが『万事私に任せて下さい』とか苦労を背負う前に打開策を提示する

 

「おや、それは有難いですが如何するのですか?」

 

「そうですね。実践した方が早いでしょう」

 

俺は八重垣さんに近づいてその胸に手を当てる

 

「え・・・何を・・・」

 

俺とは初対面だけどさっきまでの知恵の実騒動を見ていた彼の顔が引きつっている

 

「動かないで下さいね。リラックスして下さ~い」

 

俺は出来るだけ相手の緊張が解れる様に優しく声を掛ける・・・何故更に引き攣る?

 

「八重垣さん、クイズを出しましょうか。聖書の一節についてです―――『永遠の安息は』?」

 

「『死の中でこそ与えられる』・・・?」

 

瞬間に俺は彼の心臓に『第六秘剣・毒蛾の太刀』の衝撃を叩き込む

 

「グブッ!?」

 

心停止した彼はそのまま気絶して斃れこんだ

 

「イッキィィィィ!!?今ので大体分かったけど本当にもう止めたげてよ!八重垣さん俺達との和解から白音ちゃんに顔面ライダーキック受けたばっかりなんだよ!?その人が何したって言うんだよ。扱いが雑過ぎるだろうが!なに?八重垣さんって不幸の星の下にでも生まれてきたの!?」

 

おお!この状況で先にツッコミから入るとはイッセーも大分俺の性格とスキルを把握してきたな

 

「ミカエル様。心停止から15分も経てば人間は基本死にますので、それを見届けた上でバアル家の方には『下手人は天界で死亡が確認された』と伝えて頂こうというのが案なのですが、如何でしょうか?」

 

斃れて白目剥いてる八重垣さんの血流を操作しながら問い掛ける

 

「・・・ええ、確かに嘘は吐かないで済みますね。リアスさんは宜しいですか?」

 

悪魔陣営であり、バアル家との繋がりも強いリアス部長にミカエルさんが確認を入れるとリアス部長は溜息の後に頷いた

 

「・・・そうですね。天界側と古き悪魔筆頭のバアル家の諍いの種を残しても良い事は在りませんし、私は黙認致しますわ」

 

ミカエルさんも「ではそう言う事で」と了承してくれた。流石に八重垣さんもコレから先は監禁・軟禁生活だろうし大丈夫だろう

 

直接彼の顔を知る人はもう居ない(・・・・・)んだしね

 

「それにしてもイッキ・・・そこまで大王派を警戒しなきゃならないのか?」

 

「大王派と云うか古き悪魔の思考を持つ奴らだな。少なくとも今まで古き悪魔たちって俺らの足を引っ張る事しかしてないから良い印象を持てって方が難しいさ―――具体的に上げていこうか?今回の件は教会も絡んだ事だから置いとくとして(『王の駒』は無視)旧魔王派と古き悪魔はかなり癒着してたから間接的に三大勢力の和平会談テロ。ディオドラの時の各国のVIPを狙ったテロとこの二つを支援してる奴らはそれなりに居ただろう。冥界の魔獣騒動の時も血筋優先の悪魔は民を見捨てて逃げの一手でクリフォトの前ルシファーの息子の『血』に傾倒して新たに合流したのも大半は古き悪魔だろうしな・・・うん。良い所が見つからんわ」

 

そこまで言い切るとリアス部長から待ったが掛かった

 

「ちょっとイッキ・・・なんで貴方が魔獣騒動の時に逃げ出した貴族が居る事を知ってるのよ?その事は冥界のニュースにはならなかったはずよ?旧魔王派の残党が暴れたのは周知の事実だけど」

 

「あ、やっぱ保身に走った奴らが居たんですね」

 

高貴なる者の義務(ノブリス・オブリージュ)とは笑わせてくれる

 

そう返すとガックリと肩を落としてしまった

 

「憶測をよくそこまで平然と言い放てるわね」

 

分厚い面の皮を被って相手の腹を探るスキルはこれからの俺達には必要な物ですよ?

 

リアス部長も貴族でその辺りには理解があるのか素直に引き下がってくれた

 

すると此方に駆けて来る影が一つ

 

「皆さ~ん!お怪我は有りませんか~?」

 

四大セラフのガブリエルさんだ。如何やら丁度人間界に出張ってて戦いの最中は締め出されてしまっていたらしい

 

彼女の姿を見たイッセーは素早く目にオーラを集中させた

 

「おお!おおおおおお!!あ、アレが天界一の美女天使様の美しすぎるおっぱいイイイ!!」

 

イッセーが涙を流して喜ぶと同時にイッセーの周囲に堕天防止用の天使文字と警告音が鳴り響く

 

あ~、確か『透過』の力だったっけ?

 

『相棒オオオオ!!折角俺がアルビオンと神器の深奥に潜り潜ってようやっと取り戻した俺の生前の第三の力なんだぞ!最初に使う内容がそれで良いのか!?』

 

「良いに決まってんだろ!俺が洋服崩壊(ドレス・ブレイク)か透視能力か少ない魔力の才能をどっちにつぎ込むか真剣に悩んでたのはお前も知ってるじゃねぇか!―――図らずもお前は俺の足りない部分を補ってくれるだなんて、やっぱりドライグは最高の相棒だぜ!」

 

『そんな処で認められても嬉しくないわ、戯けええええ!!』

 

その後、取り敢えずシステムに悪影響がこれ以上出ないように白音と俺がイッセーの側頭部を挟み込む形でツープラトンパンチを打ち込んで気絶したイッセーを引きずり、俺達は天界を後にした

 

 

 

 

今日は来るクリスマス当日!世間じゃ前日であるイブの方が盛り上がってる気もするが、俺達はイブの夜の帳が降りてから次の日のクリスマスの朝までに駒王町中を駆け回った

 

トウジさんはまた八岐大蛇の毒を喰らってたので流石に大事を取ってドクター・ストップが掛かっていたので代わりにイリナさんが父親の分まで張り切っていたな

 

時間に追われる中でサイラオーグさんとか地上を爆走してたし、黒歌とかトナカイに時間加速の術を掛けて早送りトナカイという風情をぶち壊す手法も取っていたがそれに文句を付ける人は居なかった。何せ数が数だしやはりクリスマスプレゼントは朝に皆が起き出す前に配達し終えたかったからだ―――次元収納式サンタのプレゼント袋持ってサンタの格好をした俺達は朝日が昇る前になんとかミッションを終えて教会に戻って来た時は疲れた笑顔を浮かべる人か逆に変なテンションになってしまってる人かの二択状態だったくらいだ

 

その上イブも当日も教会も悪魔業も普通に忙しいとくればね

 

教会勢は徹夜明けからそのまま表の仕事に入り、リアス部長達は夜にまた駆り出されるので速攻昼過ぎまで眠る事になった

 

リアス部長達は夜の仕事の前に如何に仕事をサクサク終わらせるかの(そうでないと捌き切れないらしい)ミーティングも有るそうだから頭が下がる思いだよ

 

しかし逆を言えばプレゼント配りが終わった今、教会所属でも無ければ悪魔の契約の仕事も無い俺、黒歌、レイヴェルは時間が余ってるという事だ

 

夜遅くになるだろうがグレモリー眷属とシトリー眷属の仕事が終わったなら小規模なプチパーティーを開く予定なのでそれまでの時間を如何やって潰すのかと云えば俺と黒歌は絶賛デート中だったりする。折角クリスマスという絶好のデート日和なんだしね

 

白音とレイヴェルとは既にキチンとしたデートを済ませてあるので今回は黒歌という訳だ・・・勿論プチパーティー中やその後では白音とレイヴェルも可愛がるけどな

 

レイヴェルも「流石に此処でお二人に付いて行くなんて野暮な真似は出来ませんわ」と送り出してくれたからな・・・来年のクリスマスは何とか全員との時間を確保したいけど、昨日の忙しさを考えると難しいか?悩みどころだ

 

そんなこんなで今俺達は何時もの駒王町のショッピングモールとはまた別に都会の方の大型モールに来ていた。幾らクリスマス仕様とはいえ自分の町だと流石に目新しさを感じ辛いので普段来ない場所まで足を運んでみた形だったりする

 

因みに黒歌の格好は着物姿ではなく、ブーツにタイツにスカートとセーターでデザイン的には大学生のお姉さん風だな

 

髪型もそれに合わせて片方の耳の後ろ辺りで編み込んだテールタイプだ

 

何時もと違った色気がグッとくる

 

そんな思いが伝わったのか隣を歩いていた黒歌が正面に回って笑みを向けて来る

 

「そんなに見つめて如何したの?襲いたくなっちゃった?」

 

「否定はしないけど今からホテルへGO!とか流石にしないからな?」

 

「あらら、残念。どうせ今晩はイッキに白音とレイヴェルも一緒に美味しく頂かれちゃうんだからその前にイッキの情欲を一身に浴びてみたかったんだけどにゃ~」

 

相変わらずのエロ猫っぷりである

 

それでも流石に周囲に他の人が居ない瞬間を狙って発言してくれているので遠巻きの嫉妬の視線は感じるが殺意を覚える視線までは感じない

 

如何やら黒歌も少しだけ気遣いを覚えてくれたみたいだな・・・欲望は駄々洩れだけど

 

「だってぇ、私達イッキの相手をして全員揃って力尽きるのよ?もしもそんなイッキの相手を私一人で務めたらと思うと妄想で涎が止まらなくなりそうにゃ~♪」

 

訂正。駄々洩れどころかひっくり返す勢いだった

 

しかし言わせて欲しい。幾ら相手が3人居ると言っても彼女より先にダウンするというのは男のプライド的に赦せないのだ

 

そして凄く頑張ってる果てに抜き足などの技すらも会得してるのだから何とも言えないな

 

イッセーじゃないけど俺もコッソリ女体でパワーアップを果たしていたと考えるとね

 

取り敢えず目の前で口元がだらしなく歪みかけている黒歌に軽いチョップを入れて現実に引き戻しつつ駒王町のショッピングモールでは見かけない物とかを購入したりゲームセンターで思考加速の反則気味の技を使って『太鼓の鉄人』をペアで満点を叩き出したりしてランキングを荒らし回ったりしていった・・・大人気ない?いやいや、俺達まだ成人前の子供ですから

 

それに術とか使ってる訳じゃないしね

 

ただ暫く遊んでると観客(ギャラリー)も増えてくる

 

「スゲェあの二人!出てきたゾンビの頭が全部一瞬で弾けたぜ!」

 

「ああ!しかも早撃ち(クイック・ドロウ)が早過ぎて協力プレイなのに銃声が一発しか聞こえなかったぞ」

 

「どっちがどの敵を狙うかまで計算してるって事だよな」

 

「息ピッタリかよ。カップルなんだろ?男の方もゾンビと一緒に弾けちまえ」

 

一緒に弾けろって何気にヒデェ野次も飛んでるな

 

しかしこの程度では白音と一緒に行った遊園地の射的ゲームという名のサバゲ―に比べたら温過ぎるぜ・・・あの遊園地が可笑しいだけか

 

それからアクセサリーショップを見ていると黒歌が質問してきた

 

「ねぇ、子供たちへのプレゼントって事で私達も駆け回った訳だけど、九重には何か贈ったのかにゃ?私達はこの後のパーティーでプレゼント廻しゲームする予定だけど」

 

プレゼント廻しとはオカ研メンバーとシトリー眷属の皆で事前にそれぞれが秘密裡にプレゼントを用意して完全ランダムで他の皆に配るビックリ箱的なちょっとしたお遊びだ

 

無難なプレゼントを選んでも良いし、ネタに走っても良い

 

確率は低いが自分が選んだプレゼントを自分が引き当てるなんて事もあるけどな

 

因みに俺は『痛撃!』・・・ではなく『衝撃!ハリセン君』を入れておいた

 

痛い訳でなく手元のスイッチを押しながら叩けば黒歌の重力魔法が発動し、相手を叩いた方向に十数メートルホームラン出来る代物だ

 

吹き飛ばされる事自体にダメージは殆ど無いけど普通の人間相手には使わないようにしないといけないが、基本悪魔やら天使やらが大半を占めているから大丈夫だろう

 

後のプチパーティーでリゼヴィムやミカエルさんがただのリンゴを潰されて絶叫したりしてる映像を見て腹筋崩壊でテンション上がりまくってウザい絡みをしていたアザゼル先生がロスヴァイセさんにハリセンホームランを受けて吹き飛ばされていたが、些細な事だろう

 

「九重には雪の結晶をあしらった(かんざし)と狐と白黒の猫に不死鳥・・・は流石に無かったから黄色い小鳥の小さいキーホルダーを上げたな―――お姫様っぽい物と子供らしい物を一応両方抑えておいた感じだ」

 

え?キーホルダーに俺が入ってないって?オール・エヴィルの格好を象徴するのってボロ布だよ?それを如何プレゼントに組み込めってんだ・・・奇形の短双剣のキーホルダーとかも売ってないし

 

冥界だとリアルフィギアとかは売ってるけど自分のフィギアを相手にプレゼントするような勇気は俺は持ち合わせていないのだ・・・どんなナルシストだよ

 

夕食は見晴らしの良い展望レストランに行ったり暗くなった外に出て街のイルミネーションやストリートライブの音に耳を傾けたりしていき、そろそろ皆の悪魔のお仕事が終わるであろう時間が迫って来た。今はひと気のない公園のベンチで自販機で売っていたココアで体を温めている処だ

 

黒歌も流石に外は寒いのか新しく買ったコートを羽織っている

 

「ねぇイッキ、はいコレ♪」

 

呼ばれて黒歌の方を見ると首にマフラーを掛けられた

 

黒歌も同じマフラーをしていてカップル用の長いやつとかじゃない一人用の普通のマフラーを二人で首に巻いてる状態だから若干引っ張られて自然と顔が近くなってしまう

 

黒歌はそのまま至近距離で此方を見上げて来る

 

「にゃはは、どう?暖かい?」

 

クッソ、普段はガサツな感じなのにこういう時だけ乙女モードに切り替わるとか狙ってんじゃないかと疑いたくなってしまう

 

「そうだな。熱いくらいだ・・・でも手放したくは無いかな」

 

ちょっと顔に熱が昇ってるし、至近距離で見つめ合うと如何しても心臓が早鐘を打つからな

 

かと言って離れたいとは微塵も思わない

 

「あら?そういう返しするのね」

 

「何だ?極めて物理的な暖かさの感想が良かったか?」

 

体温的な意味で・・・俺も頑張れば漫画の名医みたいな感じに相手の額に指を置くだけで温度計の真似事とか出来るようになるかな?

 

「う~ん。流石にそれは勘弁にゃ」

 

「デートの時くらいは多少ロマンチシズムな面も出していくさ・・・流石に『キミの瞳に乾杯』とか言う突き抜けた臭いセリフは勘弁して欲しいけどな」

 

「にゃははは♪もしもイッキがさっきの展望レストランでそんな事言い始めてたらお腹抱えて笑い転げてた処にゃ♪」

 

まぁそうだよな。そんなドラマなセリフを実際に言える奴なんて・・・祐斗ならイケるか?

 

その後なんだか可笑しくなって二人でひとしきり笑い合った

 

きっと黒歌も臭いセリフやシチュエーションが頭の中を駆け巡ったのだろう

 

「黒歌」

 

落ち着いてから黒歌に声を掛ける

 

「にゃ?・・・ッ!」

 

名前を呼んで此方を向いた黒歌にキスをした

 

「帰ろうか。まだパーティーは残ってる」

 

「そうね―――よ~し!ケーキとか喰いまくってやるにゃ~!!」

 

一応晩飯は食べたんだけどまだ食うのか

 

そうして俺達はイッセーの家で開かれたクリスマス企画のお疲れ様パーティーに足を向けた

 

なお、お菓子は兎も角ケーキは祐斗が気合を入れて焼いておいたらしく、それはとても美味しかったのだがソーナ会長も眷属にも気付かれないように秘密裡にケーキをサプライズで用意していたらしく、サジがたった一人でホールケーキ(激マズ)に突撃するという今年一番の勇気を魅せて後日、丸一日寝込んだようだ

 

―――例え美味しかったとしてもホールケーキ一個とかいうフードファイトをすればそりゃ寝込むだろうさ。逆に良く食えたな

 

それとリアス部長と朱乃先輩からオカルト研究部の次期部長はアーシアさんで副部長は祐斗が選ばれた事が発表され、リアス部長達はその任を降りる事となった

 

リアス部長達の呼び方を如何するかなんて話も出たけど普通に『リアス先輩』じゃいかんのか?まぁその辺りの心境は個々人に任せて大丈夫だろう

 

最後に深夜に寝る時になんだかんだで皆疲れてるし普通に寝るのかと思ってもいたが黒歌達がミニスカサンタ衣装で突撃してきたので『性なる夜』を堪能する事となった

 

日付が変わってる?そんな些細なことなど三人の可愛さを前にしたら如何でも良いのです

 

 

 

 

[Boss side]

 

 

≪アザゼル、ホットラインを繋げたのは他でもない。アグレアスについてそちらにも伝えた方が良いと思ったからなんだよ≫

 

≪やっぱり何か問題が起こってたか。それであの空中都市様にはどんな秘密が在るってんだ?≫

 

≪うむ。アグレアス内の遺跡には『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の元となる結晶体を生み出す機関が備わっている。アジュカもまだその機関の解析には成功していない上で丸ごとアグレアスが奪われてしまったという訳だ・・・現在手元に保管されている『駒』はおよそ千セット弱だ≫

 

≪成程、確か『御使い(ブレイブ・セイント)』も『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の技術を流用している都合上、同じ素材を使っていたな。最悪今後転生出来る悪魔や天使に限りが生まれる訳だ・・・天使共はまだ良い。転生のシステム自体がまだ導入したばかりだし、まだ対応出来るだろう。ミカエルが造ったっていう子作り部屋とかもあれば天使が生まれるハードルも昔に比べて十分下がってるしな≫

 

≪ああ、だが我々悪魔にとって『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』は余りにも深く種の根底までに絡みついている物だ。万が一アグレアスが遺跡ごと破壊されて『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を生み出せないなんて事になればどれ程の混乱が広がるか予想も出来ない≫

 

≪『アグレアスをみすみす奪われた現魔王政権なんかに任せておけない』って悪魔どもがここぞとばかりに政治の主権を握りに来るかもな―――やだぜぇ?お前ら現魔王の代わりに腐った貴族と交渉を重ねて行くとか、同盟を結んでる他の神話勢力が悪魔陣営だけ切り捨てて結果戦争とかよ≫

 

≪はは、最悪でもそうは為らないように頑張るしかないさ≫

 

≪とはいえリゼヴィムがそんな問題が表面化するのに時間の掛かる事だけを狙ってアグレアスを奪ったとは考えにくいな。アイツの目的はこの世界の混乱ではなく異世界への侵略だ。もっと即物的な理由が有ったと考えるべきだろう≫

 

≪やはりそう思うか。アグレアスに秘められたナニカ、聖杯、生命の実。少しずつリゼヴィムの下にキーなる物が揃いつつある。このまま放って置けば666(トライヘキサ)が本当に復活してしまうだろう≫

 

≪イッキの奴が聖十字架の奪取と知恵の実がクリフォトに渡るのを阻止した分、猶予は伸びてるだろうが元々聖杯一つでも時間を掛ければ復活まで行きつくだろうからな。気が抜けねぇよ・・・ぶはっ!知恵の実の事を考えてたら思い出し笑いが!だ、ダメだ。まだ腹が痛てぇ!≫

 

≪・・・あの映像は私も視たけどイッキ君は相変わらずのようだね≫

 

≪ああ、毎度毎度何かしらやらかしてくれる奴だよ。イッセーが予測も付かない奇跡を起こす奴ならイッキは考えも付かないやらかしをしてくれる奴だ。言われてみればその通りでも、それを即座に実行に移すあのバカのお陰で今の処リゼヴィムの企みは全て中途半端に終わってるからな≫

 

≪案外イッキ君ならトライヘキサが復活しても想像も付かない方向から事態を解決してくれるかも知れないね≫

 

≪ああ、だが流石にそれをアテにする訳にもいかん。各勢力の神々も秘密裡に後任を決めてるだろうし例の結界もロスヴァイセの論文を基礎にしたものの理論が大凡固まりつつある。本当に最後の最後に如何しようもなくなったなら尻ぬぐいは若い奴らじゃなくて俺達大人が担わないとな≫

 

[Boss side out]




18巻も終わりですね。やっと黒歌ともデート出来ました。少しあっさりめに書きましたが二人の距離感ならこんな感じかなと思ったので

次回は総選挙のデュランダルですね


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第19章 総選挙のデュランダル
第一話 神の、加護です?


[アザゼル side]

 

 

年の瀬でもうすぐ新年を迎えようとしている今、俺は某国の僻地の川でかれこれ数時間は釣り糸を垂らしていた。因みに釣果はゼロだ。なにせこの川にはそもそも魚が居ないからな

 

新年に向けて全員が忙しくしている中で俺がそんなある意味で太公望染みた事をしているのは伝説に因んでとある大物を釣り上げたいからに他ならない

 

その大物は俺の隣に座って同じく釣り糸を垂らしている青光りする黒髪の持ち主の15歳前後の年齢に見える人物だ

 

俺が意識を向けたのが判ったのか青年は軽く笑う

 

「・・・釣りは苦手だったかな?」

 

「いいや、一応釣り(コレ)だけで数年費やした事もあったさ」

 

この青年に見える人物程ではないがそれなりには長く生きてるという自覚は有るんでね

 

色々と手を出してみたものは有る

 

最も趣味として没頭できるものも、そうでないものも有ったがな

 

「成程、ブームは過ぎ去っていた訳だ。まぁ僕も前に釣りにハマっていたのは結構昔で、今は久しぶりのブームの再来なんだけどね」

 

確かにずっと続く趣味と時折思い出したようにハマる趣味ってのは有るもんだ

 

俺の場合神器研究が前者で釣りは後者に当たる

 

とはいえブームでないからと言っても別にその間釣りが嫌いになる訳でもないんだがな

 

「―――あんたに頼みたいのは一つだけだ。もしもトライヘキサが復活した時にはあの獣を止めて欲しい」

 

「良いのかい?あれはキミたち聖書陣営の怪物だったと思うが」

 

「現時点でアレを単独で止められるとしたらアンタだけだろう」

 

「買い被り過ぎだよ。且つて地上最強と謳われた二天龍ですらもその獣と同等とされる全盛期のオーフィスやグレートレッドを止める事など出来ないだろうに」

 

確かにその通りだ。二天龍が封印されている現状、この青年こそがグレートレッド達を抜かした中では最強だがそんなものは気休めにも為らないだろう。それどころか当時の二天龍を超えたのではないかと目されるクロウ・クルワッハの方が実際に強いかも知れん。しかしその上でトライヘキサを相手に対抗しうる存在が居るとしたら、この神以外に在り得ないんだ

 

「そうだな。普通ならば無理だろう。だがアンタは『戦争』を司る神であると同時に『曖昧さ』を司る神でもある。自身の存在を敵対する相手の尺度に合わせて変貌させ、どんな相手でも『戦争』を引き起こせる・・・違うか?破壊神シヴァ」

 

◇もしもこの場にイッキが居れば「月姫の『原初の一(アルティメット・ワン)』かよ!?」とでもツッコミを入れた処だろうが流石のアザゼルもシヴァもそれは分からない

 

「ははは、僕より強い奴なんて基本は居ないから殆ど死にスキルだけどね―――しかし僕が引き起こせるのは『戦争』であって『蹂躙』じゃない。トライヘキサを止められたとしても相応に苦労はするだろう。そんな僕にキミは何を差し出せるのかな?」

 

「俺に用意できるものなら何でもだな。俺の命が欲しけりゃくれてやるし、オーディンの爺さんやゼウスのオヤジにも対価を出すよう頼む事も出来るだろう。俺の伝手の届く範囲の全てだ」

 

世界を滅ぼせるトライヘキサの相手をして貰おうってんだ。正直これでも安すぎるくらいだろうが、これ以上の物は用意できん

 

下手な交渉は逆効果と思って最初から全賭け(オール・イン)

 

ったく、世界の為に此処まで身を張る事になるたぁ少し前までは思いもしなかったぜ

 

「要らないさ。キミの命も、なんだったらオーディンやゼウスの命にだって興味はない。あえて欲するならオーフィスやイレギュラー体とされるサーゼクスやアジュカ。彼らのような僕の喉元に届きそうな人材は欲しいところだが、彼らが求めるのは『平穏』だ。能力は申し分ないとしても『戦争』を司る僕とは相いれない―――折角部下にしても、逆に敵対したとしても嫌そうに戦われては僕もモチベーションが下がるからね」

 

そこまで口にすると隣に座っていたシヴァは立ち上がって告げる

 

「呑もう。キミの願いを。件の獣がグレートレッドを倒し、異世界に進出しようとするのなら僕が阻もう。ただし、それ以外は干渉しない。クリフォトを潰して復活を阻止したりといった事には一切手を貸さない。僕が動くのはあくまでもキミたちの思う最悪のシナリオが動き出した時だけだ」

 

「そうか。有難い。心から感謝を・・・」

 

「いいさ。それが僕の役割だからね―――全てを破壊する」

 

するとシヴァは川から巨大な光り輝く魚を釣り上げた。この川に魚は居ないはずだがこの神には俺には見えない世界が見えているのだろう

 

しかし、結果は上々だ

 

俺達聖書陣営から出てきた問題のケツ持ちをシヴァに任せる事が出来たのだから

 

内心安堵していると跳ねまわる巨大魚を指一本で一撫でして大人しくさせていたシヴァが異世界の事について話しかけてきた

 

「しかし、キミたちは余程異世界の事を危険視しているようだね。そんなに異世界の神とやらは強大だと思っているのかい?」

 

「ああ、次元を隔ててイッセーに加護を与えるなんて離れ業をした乳神は悪神ロキを一撃で倒す程の力を齎している。それ程の事が出来るとすればグレートレッド級の力は必要だろう。そしてそれらと戦っているとされる邪神・・・現時点で判る範囲でもそれだけの強さが有るんだ。そんな処にリゼヴィムがちょっかい出してもしもグレートレッド級の奴らが異世界には2体も3体も居るなんて事になればこの世界は蹂躙される以外の道が無くなっちまう。それは避けなきゃいかん」

 

相手の戦力も不透明な中で取り敢えず戦争を仕掛けようってんだからリゼヴィムの幼稚さには毎度頭痛が襲ってくるぜ

 

「最高なのは俺達がリゼヴィムを倒して異世界の神々も邪神とやらを倒し、異世界間協定でも結ぶ事なんだがな」

 

乳神とやらが所属している陣営が一枚岩かは分からんが、既に異世界の存在自体はお互いが認識してしまっている

 

例え簡単に行き来出来ないのだとしても不戦協定くらいは結んでおきたい処だ

 

まっ、そんな馬鹿みたいに都合の良い状況なんて早々起きるはずもないんだがな

 

 

~『おっぱい革命期(レボリューション)第二波(セカンド・ウェーブ)』から暫く経った後のE×E(エヴィー・エトゥルデ)

 

 

E×E(エヴィー・エトゥルデ)機械生命体(エヴィーズ)サイドを支配する最高神にして邪神であるメルヴァゾアは苛立っていた

 

『ええい!高位精霊(エトゥルデ)の奴らはまだ勢いを増しているのか!』

 

『ハッ!高位精霊(エトゥルデ)の聖母神チチことチムネ・チパオーツィ及びその眷属の力の上昇は少し前から更に加速の一途を辿っているようです』

 

『レガルゼーヴァとセラセルベスは今如何している?』

 

『兄君であらせられる鬼神・レガルゼーヴァ様はF×F(ファディル・フェルドラ)の制圧にはまだ時間が掛かるとの事。妹君の魔神・セラセルベス様は且つて滅ぼした世界でバカンス中です』

 

『二人とも呼び戻せえええええええ!!』

 

 

~『おっぱい革命期(レボリューション)第二波(セカンド・ウェーブ)』から暫く経った後のE×E(エヴィー・エトゥルデ)(完)~

 

 

この世界の誰も知らない内に異世界の命運はおっぱいによって左右されそうになっていた

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

年の瀬を超えて新年を迎え、俺達は今京都の伏見稲荷大社に初詣に来ていた

 

俺と黒歌は一応毎年こっそり来ていたけど今回はオカルト研究部のメンバーも一緒だ

 

初詣に何処に行くかという話になった時に俺が京都に行くという事を伝えたらリアス部長改めリアス先輩に「なら皆で行きましょう」という事になったのだ

 

因みにアザゼル先生は他のVIPの方々との新年会でこの場には居ない

 

後に送られてきた写メはアザゼル先生とサーゼクスさんにグレイフィアさん。ミカエルさんにギリシャの主神ゼウスと北欧の主神オーディンが酔っぱらって全力でエンジョイしてる画像だった

 

「待っておったぞ!皆の衆!」

 

伏見稲荷大社の山を登った先では九重が元気に出迎えてくれた

 

よく見れば先日贈った簪で髪を結ってある

 

直ぐ後ろには八坂さんと御付きの妖狐の人達が数人待機してる

 

流石に新年で人がごった返しているので一角に人避けの結界を張ってスペースを確保してるので九重たちも狐耳や尻尾はそのままだ

 

「皆様、遠路はるばるようお越し下さいましたなぁ」

 

それから俺や黒歌が定例文で挨拶すると次に振袖姿のリアス先輩がグレモリー眷属代表としての挨拶を交わす・・・一応以前通信での挨拶はしていたけどリアス先輩と朱乃先輩に白音とレイヴェルは八坂さんと直接顔を合わせるのは今回が初めてになるからね

 

そして初顔合わせはその4人に限った話ではない

 

「は、初めまして。息子が何時も世話になっております」

 

「九重ちゃんとも久しぶりね」

 

―――そう。この場に居るのは俺の両親も含まれる

 

オカルト研究部の挨拶だが裏の事を知った両親という事と京都で出会う予定の八坂さんと九重が俺との繋がりが濃すぎる訳なので(九重との婚約的な意味で)挨拶をという事になったのだ

 

京都を統べる八坂さんやその娘の九重は新年は基本忙しいから両親だけ後で時間を作って貰うというのも八坂さん達のスケジュールを圧迫し兼ねないからな

 

「でも九重ちゃんは確か11歳だったわよね?それが3年前からイッキの婚約者だなんて・・・イッキ、貴方変な事はしてないでしょうね?」

 

出来るか!白音は見た目ちっこいけど高校生だが九重は人間界で言えば小5だぞ

 

寧ろ俺の方が何かと性に寛容な八坂家に振り回されてるわ!

 

それからは皆で先ずは当初の目的である初詣のお祈りを済ませる

 

俺は戦闘力が上昇しそうな神の加護でも得られませんか?とか祈っておいた

 

トライヘキサの事がある以上は世界平和とかは自分で掴まないといけないからな

 

役立ちそうなステータスアップ系の加護を是非!・・・まぁ何かが付与された感じは暫く待っても何も無かったんだけどね

 

お社の方では他にシトリー眷属も初詣に来ていたらしく新年の挨拶を交わす

 

サジは次期生徒会の副会長の座を狙ってるらしく、当選祈願をしたようだ

 

因みにだがサジはまだソーナ会長と花戒さんに仁村さんとの進展が無いらしい・・・と云うのも『できちゃった結婚』を叫んだらしいサジと彼女達の間がギクシャクして誰も話題を切り出せないのだとか―――気まずいのは分かるけどソーナ会長はもう直ぐ卒業なんだし、それまでには決着付けろと背中を叩いておいたけどな

 

他にはゼノヴィアと花戒さんが至近距離で火花を散らしているな

 

あの二人は生徒会長に立候補しているので今回はライバル同士になる訳だ

 

「負けるつもりはないわ。ゼノヴィアさん」

 

「ああ、桃。やるからには全力だ。そしてその上で私が勝つ!」

 

お互いニヤリと笑いながら握手している

 

「おお!アレが青春というヤツなのじゃな!」

 

九重も目をキラキラさせてるな。熱い学園ドラマを目の前で見られればそうなるだろう

 

そんな事を考えてると八坂さんが後ろから近寄って来て耳元の辺りでコッソリと声を掛けてきた

 

「(ふふふ、九重は人間でいう中学生に合わせて駒王学園に入学するようリアス殿に取り計らって貰っておるのじゃ。今年の春からと云う手も有ったのじゃがイッキ殿も黒歌殿達も後一年はお互いの体に気兼ねなく溺れたいじゃろう?九重をイッキ殿の家に送る時までにはその辺り(・・・・)の教育も施しておくでの)」

 

なに言ってのこの人!?いや、確かに九重が同居するようになったらとってもシ難く(・・・)なるだろうから有難いのも知れないけど!

 

「最も、九重にアレコレ吹き込む反動でイッキ殿の家に住まう九重が体を持て余すかも知れんが、例の黒歌殿の魔法が有るなら手を出しても良いでの」

 

「出しません~!九重の事はちゃんと大切にします~!!」

 

大学生になってるはずの俺に中学生を襲う許可とか出さないで下さい!

 

極めて健全な関係を心掛けますよ!

 

「ふむ。しかしそれはそれで九重にとって辛いものかも知れぬの・・・好きな男と一緒にいて優しくされる日々。段々と膨れ上がる愛情とそれに伴う情欲・・・終には九重の方が強引にイッキ殿を押し倒す・・・うむ!一筆書けそうじゃ!」

 

書くなよ!自分の娘を出汁にした官能小説妄想しないで下さいよ!

 

誰が読むんだそんな物!?

 

八坂さんの相変わらずの質の悪い冗談(冗談だよね?)に翻弄されつつも全員分の参拝が終わったようで、これから皆は京都の他の神社なども廻っていく予定だ

 

祀ってる神様によって家内安全や合格祈願、商売繁盛など特色があるからね

 

ゼノヴィアなんかは「それでも願うだけならタダだろう。全ての神社で子宝を願うぞ!」とか言ってたけどな

 

イッセーはそんなゼノヴィアに新年早々ツッコミを入れて疲れた様子で白い息を吐いている

 

「ったく、ゼノヴィアの奴はなんちゅう願いをしてるんだか」

 

「そうか?悪魔は子供が出来難いんだし、今から願うだけ願っといても良いと思うんだが」

 

「ゼノヴィアの肩を持つなよ。高校生で父親になる勇気は流石に無いぞ」

 

まぁそうだよな。そこら辺の事も加味して黒歌も避妊魔法作ってた訳だし

 

「と言うかその言い方だとちゃんと付き合う事も視野に入れ始めたのか?」

 

『今』はダメでも『将来』は父親になっても良いって聞こえたぞ?

 

「あ~、そりゃ俺の夢はハーレム王でリアスも朱乃さんもアーシアもゼノヴィアもイリナもそれに多分最近グイグイ来るようになったロスヴァイセさんも俺なんかの事を好きって言ってくれるんだ。何時までも返事をしないままって訳にはいかないだろう?・・・と言っても今はまだ心の準備をしただけなんだけどな」

 

おや?なんだかイッセーが精神的に成長している気がする―――なんでだ?

 

「お前のお陰だぜ、イッキーーー好きな女の子を全力で幸せにする気概くらい持てないで、ハーレム王なんて目指せる訳ないもんな」

 

両親に裏の事がバレた日の『黒歌達を絶対幸せにする』宣言の事か

 

何時の間にか俺がイッセーのハーレム王の道の手本の一つみたいな感じになってたのかな?

 

目指した訳じゃないけど一応俺もハーレムのカテゴリーには入るだろうし、触発されたのか

 

「じゃ、ここでお別れ(・・・・・・)だな」

 

「おう。イッキだけじゃなくて白音ちゃんや黒歌さんにレイヴェル。それにイッキの両親までとか八坂さんはどんな用事なんだろうな?」

 

そう。実はこの後今イッセーが言ったメンバーは皆と別れて裏京都に向かうんだよな

 

「内容は聞いてないけどこのメンツなら婚約関係で『将来良くして下さいね』って改まった挨拶をするとかそんな感じじゃないのか?」

 

婚約者を一堂に集める理由なんてそんな処だろう

 

「お家同士の交流ってやつか・・・それだとレイヴェルの親御さん達は?」

 

「フェニックス家とかは上級悪魔の中でも位は高いし、新年はパーティーに出ずっぱりで忙しいだろうから流石に無理だろう。一応三箇日の間に両親連れてフェニックス家に行く予定は有るぞ?」

 

その辺りの手続きはレイヴェルに頼む事になったけどな

 

「マジで?お前本当そういう処はサッサと話進めるよな」

 

「いや、元々京都で八坂さんと挨拶するのもフェニックス家に挨拶に行くのもこれは両親の案だよ。ほら、俺の家って一般の出じゃん?八坂さんもフェニックス家も遥か格上になるから挨拶だけでも早めに済ませておいた方が良いって両親が気にしてさ」

 

「あ~、確かに俺がイッキの両親の立場なら気持ちは分かるかな?」

 

イッセーの両親はリアス部長の両親と授業参観の時に自然と交流を持てて実は何回か兵藤家に来ていたみたいだから未だしも、俺の両親からしてみれば八坂さんやフェニックス卿は妖怪と悪魔のお偉いさんと云う以外の情報はほぼ皆無だからな。裏の事を聞きかじった程度の両親が色々と気にしてしまうのは仕方ない処がある

 

まぁ八坂さんもフェニックス卿も気さくな性格だから実際に出会ってみれば印象も変わるだろう

 

皆と別れて裏京都に入り八坂さんと九重の住む屋敷に歩いて行く

 

江戸時代風の町並みにそこかしこに色んな妖怪が居るので両親の目線が忙しない

 

いや、白音とレイヴェルも一緒か

 

「日本の古風なものを好むリアス様なら裏の京都でも目を輝かせそうですわね」

 

「リアス部長・・・リアス元部長はグレモリー領の実家にも色々と日本のグッズを溜め込んでいますから―――年末の大掃除でヴェネラナ様に大量に廃棄されて落ち込んでいましたが」

 

グレモリー眷属が年末に冥界に行ってたのはそれか

 

きっとリアス先輩は色々と抵抗してヴェネラナさんに一蹴されたんだろうな

 

と云うかヴェネラナさんが娘の私物を棄て去るとかどれだけ実家のリアス先輩の部屋はカオスな状態になってたんだろう?

 

少し見てみたかったかも知れん

 

そんなこんなで辿り着いた八坂さんの屋敷だが中には入らずに屋敷の裏手に回って更に進んでいく

 

そうなると流石に皆訝し気な表情となる

 

「あの八坂さん。どこに向かってるんですか?」

 

「なに、そう急かさんでも直ぐに分かるでな」

 

そう返されたら黙るしかないので大人しく付いて行くとしめ縄が掛かっている大きな丸めの岩が鎮座し、その周囲も石造りの祭儀上となっている場所だった

 

「この場所は裏の京都の頭目が新年に吉兆を占ったりこの国の神々と直接話せる『ほっとらいん』が繋がってる場所でもあるのじゃよ」

 

ほうほう!詰まりは八坂さんが直々に俺らの事を占ってくれると、そう言う事かな?

 

「―――という訳で今から天照大御神殿と繋げるからの」

 

「いやそっちぃぃぃ!?いきなり日本の神々のトップとどんな話が有るって言うんですか!?」

 

全力で太陽神じゃん!日本の主神様だよ

 

「なんじゃ。イッキ殿達は前に北欧の主神であるオーディン殿の護衛を務めていた事も有るんじゃから今更じゃろう」

 

そりゃオーディンやら三大勢力のトップやら色々とトップもしくはトップクラスと沢山出会ってるけど初めて出会うお偉いさん相手に緊張ゼロとはいきませんからね?

 

両親は・・・あ、ダメだ

 

神話クラスの話に付いて行けてない。フリーズと云うか考える事を放棄してやがる!

 

確かに矢面に立つのは俺だとは思うけどさぁ!

 

「そうか・・・そうだよなぁ。神様が本当に居ると知ってるんだからさっきのお参りももっと真剣に祈っておくべきだったのかなぁ」

 

「ええ、あなた。後で改めて参拝しておきましょうか」

 

そろそろ現実に戻って来て欲しいと思ってる中、八坂さんは着物の袖の中からサバイバルナイフ位の大きさで刀身の代わりに沢山の鈴が付いている祭具である神楽鈴を取り出し"シャンッ"と鳴らす

 

するとしめ縄の掛かっていた大岩に映像が映し出された・・・あの大岩ってビデオ通話の画面だったんですかい!

 

古代から続いていたであろう現代文明に匹敵する技術力に慄きながらも画面に目を向けるとそこには金髪美人が映っていた

 

見た目ではFateのキャス狐の狐耳無しに近い感じだな―――あと金髪

 

そう言えばキャス狐は太陽神の分霊みたいな立ち位置だったっけ?まぁ似てるだけだと思うが

 

≪久しゅう。八坂。秋の折に攫われた聞いた時は心配したぞ?大事無いようで何よりじゃ≫

 

”みこ~ん!と可愛く初登場♪”・・・なんて出だしじゃなくて安心したよ

 

そこまでいってたらちょっと悪い意味で時空が歪みそうだったからな

 

それから八坂さんと軽い新年の挨拶を交わした後で天照様は俺達にも自己紹介及び挨拶をしてくれたので礼をして答えた

 

両親はカチコチだったし黒歌は白音に懇願される形で礼を取った感じだったけどな

 

白音もそこまで心配しなくても多少はこっちに合わせるようになってくれた黒歌なら無難な挨拶程度はしてくれたはず・・・はずだよね?

 

断言出来ない辺りが黒歌らしいと言うかなんと言うか・・・

 

≪さて、新年は何かと忙しいからの。早速じゃが本題を・・・と言う前に有間一輝。お主に一つ謝っておかねばのう≫

 

え?俺日本の神様と交流とか無いから謝るも謝られるも無いはずなんだけど

 

≪お主、先程宇迦に願い事をしたじゃろう?≫

 

宇迦―――伏見稲荷大社の宇迦之御霊大神の事だな

 

確かに願い事自体はしたけど神様の御利益も参拝者の数だけ分散してるなら何も感じなくても可笑しい事なんて無いと思うのだが、違うのか?

 

≪宇迦も『すてーたすあっぷ』などと言う願い事は初めてだったとは言っていたが折角クリフォトとの戦いに赴いているこの国の人間の其方に多少なりとも力になればと加護を授けようとしたらしいのじゃが、弾かれてしまったようでな―――こうして見てみればよう解る。人と神の間に出来た子程度ならば未だしも、お主の持つ【神性】は各神話の神々でも主要な地位に就いとる者ら並みじゃ。加護はあくまでも『神』が己が庇護する『人』に与えるもの・・・お主は人間じゃが気配が人のそれではない。お主の【神性】に加護が弾かれてしまうのじゃよ≫

 

Oh shit!

 

主神様にまで『人間じゃねぇ』って言われた!いや、『人間だけど』って言ってくれてるけども!

 

≪まぁそういう訳でお主には今後も神の加護は欠片も届かんという訳じゃ≫

 

い、いや。まだ慌てるような時間じゃない

 

アザゼル先生もオーフィスのお社とかで「無限の龍神を祀るお社とか調べるっきゃねぇだろ!」って『加護測定器』を始め色んな物で計測して皆にボコられてたけど特に俺だけ加護が届いてないとかは言ってなかったし、要は主神クラスだとほぼ同格だから加護を与えられないけど最強の龍神様の加護なら俺の【神性】を貫通して加護を届けられるって事だよな?

 

ああ、オーフィス。俺が祈りを捧げる神はお前だけになりそうだよ・・・

 

「にゃはははは!い、イッキだけ加護を得られないとかそこまで盛大にハブられてるだなんて可っ笑しいにゃ~!まぁ元々加護にそこまでの性能を期待しても仕方ないし、諦めるしかないんじゃないかにゃ?」

 

そんなに笑うなよ。拗ねるぞ畜生!

 

「元気を出して下さいまし、イッキ様」

 

「ん、加護が無くてもイッキ先輩なら問題ない」

 

「寧ろそれだけの【神性】を持っておると言う方が凄いじゃろう」

 

肩を落とした処に左右から白音とレイヴェルがちょっと背伸びして頭を撫でてきて正面からは九重が抱き着いて来た

 

うぅ・・・気遣いが妙に身に染みるぞ

 

黒歌も背後から背中をポンポンと叩いてくるしな。と云うか爆笑してたのは黒歌だよね!

 

≪うむ。正しく八坂の娘の言う通りでな。お主が加護を求めたのはクリフォトと戦う為の手札を一枚でも多く欲したからじゃろう?ならばお主がそやつらに加護を与えてやれば良い≫

 

なんかこの神様今トンデモナイ事言いませんでしたか?

 

「あの、天照様・・・俺別に神様じゃないんですけど・・・」

 

≪別に半神などであっても加護は授けられよう。確かに神として特別なにかを司る訳でも無いのなら広範囲に加護を授ける事は出来ずとも、お主自身が大切に扱い、守りたいとする者達ならばその限りではないのじゃ≫

 

そう言われると今まさに自分の周囲を固めてる四人という事になる

 

両親もそうだけど俺が今必要としているのはクリフォトと戦う為の加護だ

 

そういう意味では両親は加護は対象外になるな―――九重の場合は将来的な話になるが

 

≪決まったようじゃな。それで良い。後でそこの祭場で簡易の儀式を執り行えば加護も繋がるじゃろう。今は一年で最も祈りと加護の力が蔓延している時期な上に京の都なら十分なはずじゃ≫

 

そりゃ京都なら天界の『システム』に似て非なる感じの機構が組み込まれてるでしょうね

 

≪では、加護の話も終わった処で本題に入ろうかの≫

 

そう言えば加護はついでの話でしたね・・・衝撃的過ぎてこれで終わりだと思ってたよ

 

≪なに、単純な話での―――お主達の婚約及び将来の婚姻をこの国でも正式に認めるよう取り計らうという話じゃ。現代(いま)の日ノ本は一夫多妻もその逆も基本的には認められてはおらんが人間たちでも五大宗家の者達などは裏では国が複数の妻を迎える事を認めておる。今回はそこにお主を加えるという事じゃな。裏京都や冥界の者と繋がっておるお主なら婚儀はその場限り故、そう気にせんでも良いじゃろうが折角なら堂々と全員を妻として迎えたいであろう?≫

 

成程、そういう話ですか・・・確かに俺達にとっては利にはなっても損にはならない話だけど、主神様が直々にそんな事を告げるような事か?

 

支配者目線で考えるなら俺に少しでも恩を売ってこの国との結びつきを強くする為か?何だかんだで一応俺も魔王クラスで且つ寿命も延びてる訳だし

 

しかしそれにしたって九重はまだ11歳だ。話を振るにしても少し性急過ぎる気もするけど、この時期でないとダメな理由が有るとか?

 

・・・トライヘキサと隔離結界か

 

原作知識を基にして考えればもうそろそろ各神話体系の神々や魔物などのトップたちが万が一復活したトライヘキサを滅ぼす苦肉の策として隔離結界と呼ばれる頑強な結界にトライヘキサと一緒に封じられてその内側で約一万年程の時間を掛けてトライヘキサを滅ぼすという策が有った

 

各神話の主要な神々・・・当然目の前の天照大御神も参戦すると考えるべきだろうし日本屈指の神社・仏閣を有する裏京都の支配者である八坂さんにも秘密裡にその計画は伝わっているはずだ

 

―――となればもう直ぐこの世界から居なくなる『かも』知れない神々は心情的に『やれる仕事は出来るだけやっておきたい』となるのだろう

 

そう考えれば一応の納得はいく訳だ。なら・・・

 

「格別のご高配を賜り痛み入ります。謹んでお受けいたします」

 

さっきも言ったが悪い話ではないので慇懃な感じに受け取っておく事にした

 

実質タダで貰えるもんなら貰っとこうと云う訳だ

 

≪ホホホ、そうやってこの話を素直に受ける姿を見るにその者らとの将来は安泰のようじゃのぉ

―――では八坂よ、後は任せるぞ≫

 

「畏まりました。後日、関東の妖怪との和平協議の折にまた御逢い致しましょう」

 

天照様は口元を着物の袖で隠して笑いながらそこで通信は切れたのだった

 

その後、簡易な儀式とやらを八坂さん主導の下で執り行った事により4人には俺の『加護』とやらが付与される事となった

 

黒歌達なら上手く使うだろう

 

ともあれ京都でやる事も終わってイッセー達も参拝巡りは終わって帰宅しているとの事だったので俺達も俺達で家に帰って行った

 

黒歌や白音は仙術使いだから未だしもレイヴェルはまだ追加されたばかり加護の気配を十全に隠蔽とか出来ないので夕方に改めて皆集まった時に普通にバレてしまったけどな

 

「加護を授けたってイッキお前・・・やっぱ人間じゃないだろ?」

 

「人間だよ!最近ちょっと自分でも自信が持てなくなってきたけど人間ですぅぅう!!」

 

だから皆もそんな微妙な視線を向けないでくれませんかねぇ!

 

こうして新年初日から幸先の良いのか悪いのか判らないスタートを切ったのだった

 

・・・その日の夜、俺の加護を得た事で感情が高まったのか艶っぽい表情(かお)を浮かべた黒歌達(振袖姿)との姫はじめ(性的な意味で)を堪能し、忙しい三箇日の二日目は必死に眠気と戦う一日となったのだった




冒頭では破壊神の実力と能力を考察してみました。原作では散々グレートレッドたちを抜かせば二天龍最強!ドラゴン最強!とやってたのにいきなり666を単独で止められるシヴァとか出て来るし、超越者モードでもない四大魔王と同等と公式にあるインドラがシヴァをライバル視しているとかそこら辺を原作リスペクトしながら矛盾が出ないようにすると『原初の一』みたいな能力になりましたww

あとイッキの加護はもう直ぐ最終決戦ですので嫁ーズを筆頭にイッセー達も原作とは違う成長やら必殺技やらを出していきたかったからですねw


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第二話 新学期、始まりました!

三話の都合上今回は少し短めで切る事になりました


『D×D』のメンバーとして三箇日は怒涛のお偉いさん方相手の挨拶で時間を潰し、残りの僅かな冬休みはそれぞれが実家に帰ったりプチ旅行に行ったりして過ごした

 

イッセーはイッセーで田舎の祖母の家に両親とアーシアさんと一緒に帰省してそこでプラモ漁りもとい大公としての仕事に来ていたシーグヴァイラさんと吸血鬼のエルメンヒルデと偶然出会ってプラモに情熱を傾ける上級吸血鬼と戦ったりしたらしい・・・うん。毎度の事ながらよく分からん

 

因みに同じプラモデル好きのシーグヴァイラさんとその吸血鬼だが意気投合したりはせずに細かいマニア魂の違いから相容れる事は無く、激闘を繰り広げたのだとか

 

シーグヴァイラさんってソーナ会長と同じ眼鏡クールキャラなのにロボットとかが大好きなのだそうだ。なんでも現大公アガレスの教育の賜物なのだとか

 

まぁ別に個人の趣味の範疇の話だし違和感は有るものの否定するようなものでも無いだろう

 

そして迎えた3学期、始業式の日の午後

 

アーシア新部長の下俺達の最初の部活動が始まる

 

因みにこの場にはリアス先輩や朱乃先輩は居ない

 

引退した自分達が居ても良いようには為らないだろうと新体制がある程度整うまでは部室に顔を出すのは控えるそうで今は3年の教室でソーナ会長や椿姫先輩と雑談に興じているところらしい

 

まぁ生徒会の方はまだ選挙もして後任を決めている訳でもないからもうほんの少しだけはソーナ会長たちは仕事があるかな?―――と言っても引き継ぎ程度だろうが

 

それからはアーシアさんが『部長』と呼ばれても自分が呼ばれたと気付かなかったり新体制と云えど新しく部長になったアーシアさんがまだまだ上に立つ立場に慣れてないという事も有って一先ずはリアス先輩の部活動の方針をリスペクトしてそこから少しずつ新しい試みを増やしていくと言う方針に固まった

 

次に部員の補充の話に移る

 

「新入部員とかは如何すれば良いんだろうな?俺達って部活がそのまま悪魔の活動とほぼ直結してただろ?俺達裏側に理解のある人じゃないと色々やり難くなりそうだけど」

 

「そうか?元々普通部活なんてのは夕方辺りで切り上げるものだし完全に表の人間が入部したとしても悪魔の活動としての拠点を移すか一旦帰る真似をした後で改めて部室に集まるとか手は有るだろう。まぁ面倒な上になんだか騙してるような感じになりそうだから裏の人間が欲しいって意見には賛成だけどな」

 

その人だけ普通に帰って残りのメンバーが後で集まるとか傍目には苛めレベルでハブってるようにしか見えないだろうしね

 

「そういう事でしたら一応候補は二人居ますわ。今年の春にルフェイさんとベンニーアさんが駒王学園に入学する手続きをしているそうですの。ベンニーアさんは分かりませんが、ルフェイさんはこのオカルト研究部に入部したいと仰っていましたわ」

 

朱乃先輩からお茶くみ係の後任に就いたレイヴェルが今まさに欲している裏の関係者の入部希望者の名前を挙げてくれる

 

ルフェイもベンニーアも『おっぱいドラゴン』のファンだしね

 

ベンニーアはシトリー眷属として生徒会に入ったりとかも一瞬考えたけどあのまったりとした性格のベンニーアは生徒会の空気と合わなそうではある

 

ゼノヴィアが生徒会長に当選したならまた別かも知れないけどね

 

「―――ゼノヴィアの方もまだ話し合ってんのか」

 

新オカルト研究部の大凡の方針が決まったのでイッセーが息を吐いてからこの場に居ないゼノヴィアの方に意識を向ける

 

今このオカルト研究部にはゼノヴィアとイリナさんが居らず、旧校舎の別の空き教室で桐生さんも交えて明日からの生徒会選挙活動についての意見を出し合っているのだ

 

教会トリオと桐生さんは仲が良いけどアーシアさんは新部長という事で流石にこっちを優先する事になったけどな

 

すると丁度向こうでの話し合いも一段落したのか桐生さんが勢いよく部室の扉を開けて入って来た

 

「どう!?ゼノヴィアっちの選挙活動の勝負服をセレクトしてみたわ!」

 

"ババーン"という効果音でも出ていそうな感じに振り向きざまにすぐ後ろに立つゼノヴィアの登場を演出する桐生さん―――かなりノッてますね

 

「ふっ、似合うかな?」

 

出てきたゼノヴィアの格好は中世ヨーロッパの貴族風でしかも男の格好だ

 

男装の麗人。女生徒からの黄色い歓声が巻き起こりそうではある

 

「う~ん。馬子にも衣裳って感じかしら?」

 

イリナさんソレ、褒め言葉じゃないからね?

 

「ア〇ドレ!とか言ってイッセーに抱き着くと云うのも一つの手か?」

 

ゼノヴィア『ベル薔薇』知ってるのか・・・俺も触りしか知らないけどさ

 

ただそれをやると黄色い歓声以外に悲鳴と怨嗟もプラスされるぞ

 

「ゼノヴィアっちもあれだねぇ。魔力で魅了(チャーム)!―――とか出来たら無敵なんだけどねぇ」

 

桐生さんがそんな様子を見ながら冗談めかして言うとイッセーがツッコム

 

「そうだな。ゼノヴィアが魅了(チャーム)を覚えれば楽勝で・・・って、一般生徒相手にそんな真似出来る訳ないだろ」

 

「あはは、それもそうよね」

 

「「アッハッハッハ!」」

 

「アッハッハ・・・は?」

 

二人して笑いあっているとイッセーが急に固まった

 

そして恐る恐る桐生さんに確認を取る

 

「き・・・桐生・・・お前今魔力とか魅了(チャーム)とか言ったか?」

 

「? ええ、言ったけど?」

 

あっけらかんとした態度で普通にそう返す桐生さんにイッセーは益々混乱していく

 

「あっ!そうでした!イッセーさんにはまだお話していませんでした」

 

「そうか。そうだったな。イッセー、桐生は私の常客だぞ。当然私達の正体も知っている」

 

「・・・・・ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!?」

 

アーシアさんとゼノヴィアの態度と言葉に一拍置いてからイッセーの絶叫が部室内に木霊した

 

「い、い、い、何時から!?」

 

イッセーに困惑しながらも問われた桐生さんは顎に指を一本置いて思い出すような仕草で記憶を探っていく

 

「確か12月の始めの頃だったかしら?駅前で配られてたチラシを面白半分で使ってみたらゼノヴィアっちが魔法陣から現れてね。それからリアス先輩も出て来て裏の事とか説明を受けたのよ」

 

まぁ同じ町で表と裏の双方で活動してたらそういう時もあるわな

 

俺も白音が両親に召喚されたし

 

「心配しなくても松田や元浜も含めて誰にも話したりしないわよ。友達であるアーシアやゼノヴィアっちにリアス先輩の頼みであるし、その辺案外口が堅いわよ?」

 

「寧ろさっきのはイッセーの失態だろう?魔力で魅了(チャーム)なんて学生同士ならアニメや漫画の影響で戯れに飛び出す単語なんだから、もしも桐生さんが何も知らなかったらスゲェ変な目で見られてたと思うぞ?」

 

俺もレイヴェルが淹れてくれた珈琲を飲みながら忠告するとイッセーもガックリと肩を落とした

 

「う゛っ、確かにさっきの俺の態度はいただけなかったかな・・・でもその、桐生は俺達の正体を知ったんだろう?変に思わなかったのか?」

 

「思ったわよ?」

 

イッセーの若干ネガティブが入ったようなセリフに桐生さんはズバッと率直に返した

 

「だって悪魔とか妖怪とか天使とか完全にファンタジーじゃない?変に思うか如何かって聞かれたらそりゃ答えは決まってるわよ―――でも同時にこうも言うわよ。だからなに?」

 

「だ、『だからなに?』ってお前・・・」

 

「アーシアもゼノヴィアっちもイリナっちも私にとって大切な友達よ。オカルト研究部の人達も皆評判が良いのは知ってるし、悪魔なんて言っても要は種族が違うってだけでしょ?人間にだって悪人も居れば善人も居るんだし、それと同じ事が言えるって云うのは直ぐに解ったわよ―――だから別に良いんじゃないかしら?それに人間よりはるかに強い悪魔とか天使とかが陰からコッソリ私達の事を守ろうとしてくれてるっていうなら尚更ね」

 

桐生さんって本当にサバサバした性格してんな

 

「それとゼノヴィアっちにも聞いてるわよ。あなた達なんか今世界の命運掛けて戦ってるんだってね。普段スケベなだけのアンタからは想像出来ないけど、応援くらいならしてあげるわ」

 

「そうだぞ、イッセー。ちゃんと俺達か弱い人間を悪の魔の手から守ってくれよ」

 

「イッキは乗っかんなよ!桐生は未だしも俺はお前の事を『弱い』だなんて認めねぇからな!」

 

ッチ、ラスボスとの戦いとか別にイッセーが片づけてくれるならそれで構わないんだけどな

 

楽なのが一番だし

 

「そう言えば有間君は人間なんだってね。で、他にはイリナっちが天使でアザゼル先生が堕天使で残りのメンバーが悪魔・・・まぁ人間から悪魔に為ったってのが大半みたいだけど、やっぱり松田や元浜と一緒に有間君に叩き伏せられてる兵藤がそんなに強いって云うのはイマイチ実感湧かないわよねぇ」

 

学園生活や私生活を見て戦闘力を察しろとか一般人に求める水準じゃないわな

 

「そういう事なら百聞は一見に如かずとも言うし、今度桐生さんがゼノヴィアに頼み事をする時に悪魔の試合のレーティングゲームの映像を見てみたいとか頼んでみたら如何だ?サイラオーグさんとの試合とかさ」

 

人間にレーティングゲームの映像を見せるのが対価がどれくらいになるのかは分からないけど、和平なりで色々と各勢力との繋がりを強くしている今ならそこまで馬鹿みたいにお高い御値段にはなってないとも思うし

 

「あっ、それは良いわね!ゼノヴィアっち~。次に呼び出す時はそのレーティングゲーム?っていうののビデオ見せてよ!」

 

「分かった。バアル眷属との試合はイッセーの家に普通に保管してあるからな。後で一応マスター・リアスに確認だけ取っておこう」

 

その返事に「良し♪」とガッツポーズを決めた桐生さんは再びゼノヴィアとイリナさんを伴って部室から出て行く

 

「まっ、そういう訳だから私は変わらずゼノヴィアっちの応援を続けるわよ。よぉし、二人とも、次は選挙当日のスピーチ原稿の草案を幾つか簡単な流れだけだけでも決めていきましょう」

 

三人が出て行って閉められた部室の扉に一瞬の沈黙が降りる

 

「何つぅか、桐生の奴が面倒見が良いのは知ってたけど、ああも裏側の事に対してもアッサリしてると力が抜けちまうな」

 

「ふふふ、桐生さんはとっても器の大きい方なんですよ?」

 

最後に少々の暴露事項が在ったものの三学期初日の部活動は滞りなく終わっていくのだった



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第三話 妖怪との、和平です!

三話という名の番外編ですね。寒くてキーボード打つ手が震えるぅぅぅ!!


始業式に部活動も終えて晩ご飯を食べていた俺達は両親に軽い報告事項が在った

 

「あらそう、九重ちゃんがまた家に来るのね」

 

報告の内容は今まさに母さんの言った通りで何でも三大勢力のトップ陣と日本の神々に関東と関西の妖怪のトップに五大宗家の方々を交えた話し合いのようだ

 

そう言えば元旦の折に天照様がそんな感じの事をチラッと言っていたな

 

それでその間、八坂さんが折角駒王町の近くまで来るので九重を遊びに行かせようという事らしい。流石に九重がそんな会談に出席する訳にもいかないし、京都で大人しく待っているという手も有るが『折角なので』という事だ

 

九重は基本京都で離れているのでちょっとした機会でも出会うのも良いだろう

 

『D×D』のメンバーの実力も向上しているから安全面も中々だしね

 

「・・・前は八坂さんの手前自重したけど、今度は九重ちゃんのあのモフモフ尻尾をモフモフ出来るかしら?」

 

・・・母よ。永遠に自重してて下さい

 

そうツッコんでいると聞きなれない声が耳を打った

 

「ほぅ。お前さんの婚約者だとは聞いていたが西の姫の娘さんが来るのかい?」

 

和服を着た後頭部の長い禿げ頭のお爺さんが一緒に晩飯を食いながらそう話に割り込んで来る

 

なんだか見てると頭がボンヤリしてくる好々爺って感じだ

 

「お、こいつぁ中々美味いな。偶にはこういう洋食ってのも良いもんだ」

 

因みに今日の晩御飯はエビフライ定食をイメージして頂ければ概ね合っている

 

爺さんは自家製タルタルソースの掛かったエビフライに噛り付いている

 

そしてそこにレイヴェルがお茶を用意してお爺さんに出してあげた

 

「ふふふ、私と白音もお義母様の料理の手伝いをしましたのよ。最近ではこういった家庭料理も慣れてきましたわ。前は貴族としての高級スイーツなどがメインでしたから」

 

「レイヴェルはそれでも下地がしっかりしてたから良い。私なんて最初は玉子を割ろうとしてボールごと潰してた位だから」

 

ボールごと潰すって黄身ごとってレベルじゃねぇ・・・どこの日常の力加減に苦心するスーパーマンだよ?慣れない料理で無駄に気合が入ったせいか?

 

「ふふ、私は二人がお料理を手伝ってくれてとっても助かってるし、何よりイッキのこんなに可愛いお嫁さん達と料理するのが楽しいわよ?」

 

「カッカッカ!仲が良いようで何よりじゃの。黒歌は料理の手伝いはせんのか?」

 

「私は、ほらっ!食べるのが専門だし?そ、そんな事よりも肩凝ってないかにゃ~?ほらほら、良かったら揉んで上げるにゃ!」

 

誤魔化したと云うより逃げたな黒歌の奴め

 

「なんじゃ、そんな事では男に愛想を尽かされるぞぃ?なんだかんだ言っても好きな女の料理ってのは格別なもんじゃからの。兄ちゃんもそう思うじゃろ?」

 

黒歌に肩を揉まれながら爺さんが今度は俺に話題を振って来た

 

「ええ、確かに一度くらいは黒歌のちゃんとした手料理も食べてみたいって気持ちは有りますね」

 

一瞬だけソーナ会長とサジの姿が頭に浮かんだのを振り払って答えると「じゃろう?」と返される

 

黒歌が飯マズキャラじゃないのは分かってるんだし、やっぱり好きな女性の手料理には男は羨望を抱くものだ

 

「・・・・・って!イヤっ、違げぇぇぇぇぇぇぇ!!?アンタ誰だよ爺さん!!」

 

そうだよ!初めて見るよこの爺さん!?なに普通にご相伴に預かってんの!?黒歌とか肩揉んでるし、普段のキャラは何処に行った!?

 

待て、落ち着け。さっきは初めて見たと言ったしそれは事実だけどその姿自体は知識に有る

 

俺が目の前の爺さんの正体に行きついた辺りで黒歌も叫び声が切っ掛けになったのか自分が肩を揉んでる相手を見て"ピシッ"と固まった

 

「にゃ、にゃにゃにゃにゃんでこんな所に居るのかにゃ!?」

 

「お?何だ何だ?術が解けちまったか。参曲(まがり)にも此方から干渉すればバレるだろうと言われてたが本当に儂の術を破るとはの」

 

目の前の人物が術を解いたのか両親に白音にレイヴェルも正気に戻ったらしく、一瞬で警戒態勢に移って両親を背後に庇う

 

「誰ですか!貴方は!?」

 

「一体何時の間に!?」

 

まぁ警戒は当然だけど取り合えず二人を諫める事にするか

 

「白音、レイヴェルも落ち着いてくれ―――確認ですが関東の妖怪の頭目の『ぬらりひょん』様ですよね?」

 

不法侵入してきた相手だがこの妖怪の特性(・・)を考えると言っても無駄だろう。ある意味で存在意義みたいなもんだし

 

―――ぬらりひょん。勝手に他人の家に上がり込んで茶を啜ったりする妖怪。百鬼夜行を率いる妖怪の総大将だ・・・若い頃は禿げ頭じゃなくてロキみたいな感じだったのかな?

 

最も夜の運動会で黒歌達の裸を覗いたとか言ったならその時は○○○○(自主規制)して貰うけどね

 

「ほっ、若いのに立ち回りの良さは中々じゃの。成程、参曲(まがり)が気に入りそうな奴じゃわい。ただ若いうちはもっと勢いで突っ走っても良いと思うんじゃがな。そっちは赤龍帝の坊やに期待するか」

 

ただ若いだけじゃなくて済みませんねぇ!俺の精神年齢って若干あやふやなんだよ!

 

まぁ別に前世で枯れた爺さんだった訳じゃないけどさ!

 

てかオカルト研究部の人達って『取り敢えず一当てしてから考える』とか『一当てしながら考える』という猪突猛進タイプばっかなんだよ

 

主人公組らしいっちゃらしいけど実際隣で戦うとハラハラするからな

 

俺は多少時間が掛かっても敵の最後の一人まで闇討ち完封出来ればベストって考えだからなぁ

 

その点で云えば目の前に居るぬらりひょんのステルス能力とか羨ましいったらないな

 

さっきは彼の方からこっちの意識に干渉してきたから気付けたけど、その前のただ隠れてた時点ではマジで気付かなかったし

 

参曲(まがり)様が俺なら気付くと言っていたなら魂感知レベルの感知能力が有れば破れるって事だよな?・・・全力で感知能力に集中している時ならステルス中でも気づけたか?

 

そうでなくとも魔王クラスの実力が有れば違和感は感じられるだろうけど、それ以下だと『親しい相手』と認識して実質尋問し放題

 

潜入と情報収集の能力が反則級だろ、コレ

 

「さて、バレた以上は儂が此処に来た理由とかを話しても良いんだが、折角の料理を冷ましちゃ悪い。ほれ、黒歌も畏まった挨拶とかは後だ。座れ座れ」

 

中断させたのは自分のクセしてなんてふてぶてしい爺さんだ

 

もしかしなくても久しぶりの洋食をがっつきたいだけじゃねぇのか?

 

「にゃ・・・にゃんでこんな事に・・・」

 

黒歌は黒歌で物凄く気まずそうにしながらもぬらりひょんの言う事には逆らえないのか大人しく元の席に座る

 

そうして何時もの晩御飯は突然の特別ゲストを迎え入れた状態で再開したのだった

 

 

 

 

 

 

突如として訪れた東の妖怪の総大将との会食

 

そこに漂う空気は当然重苦しいものとなる・・・

 

 

 

 

 

「いや~。すみませんねぇ。丁度今日本酒は切らしてしまってまして」

 

「いやいや、気を使わんで下さっても良いですよ。確かに日本酒は一番よく飲むんじゃが、別に酒なら大抵はイケますからな・・・寧ろ何かと献上品とかで日本の酒はよう貰うんで専用の蔵まで用意しとるくらいじゃからの。今日突然押しかけた詫びに後日何本か上物を贈くるよう部下に言っときますわぃ。妖怪には酒鬼ってぇ酒造り専門の奴も居ますでな。アイツの酒は美味いですぞ」

 

「それは是非とも飲んでみたいものですな」

 

「もう!アナタったらがっつき過ぎよ。普段そこまで飲むタイプでも無いでしょう?」

 

「そうは言っても酒造りの妖怪の造った酒なんて聴いたら年甲斐もなくはしゃぎたくもなるさ」

 

「う~ん。気持ちは分からなくもないんだけどねぇ・・・」

 

「ほっほ!奥さん相手なら鍛冶屋の手がけた一級の調理器具とかの方が良かったかの?」

 

「あら、それならこの間アザゼル教諭に金属から幽霊まで斬れちゃう『閃光と暗黒(ブレイザー・シャイニング・オア)の龍絶包丁(・ダークネス・キッチンナイフ)』やどんなに煮詰めても焦げ付いたりしない『灼熱と凍結(ディザスター・オブ・バーニング・)の龍滅鍋(オア・フリーズ・ポット)』。それとミクロの汚れまで落としてに乾燥まで出来ちゃう『激流と乾き(フォール・オブ・レイジングストーム)の龍墜箱(・オア・ドライ・ボックス)』まで頂いてしまっているので被っちゃいますわね・・・その、お酒には余り辛口過ぎないのも混ぜて貰っても良いですか?」

 

「なんだい。結局母さんも興味が有るんじゃないか」

 

「ええじゃないか。うちの若い女子衆も好きな甘めの酒も混ぜときますからの」

 

「あら、有難うございます」

 

 

・・・訳でも無かったらしい

 

お酒の話とかには割り込めないから様子を見てたけど滅茶苦茶話しが弾んでいる・・・ってか何時の間にか家のキッチンが人工神器に侵されていってるんだけど!?

 

因みに『激流と乾き(フォール・オブ・レイジングストーム)の龍墜箱(・オア・ドライ・ボックス)』の洗濯機版である『激流と乾き(フォール・オブ・レイジングストーム)の龍墜槽(・オア・ドライ・タンク)』も有るらしい―――名前が紛らわし過ぎるわ!

 

と云うか両親とも八坂さんやアザゼル先生や天照様や新年の挨拶では他に冥界までフェニックス卿と出会ったりしてたからか感覚麻痺してますよね!今目の前に居る朗らかな雰囲気出しているのは妖怪の中でもトップ3に入っても可笑しくない方ですよ!

 

『D×D』のメンバーほぼ全員に言える事だけども俺の両親もその余波を受けたのか

 

そうして両親との話も一段落したのか今度は黒歌に話題を振って来た

 

「そういや黒歌は実際如何なんだ?」

 

話し掛けられた黒歌は椅子に座りながらも姿勢を正して軽く頭を下げながらも返答する

 

「はい。お陰様で妹とも無事に再会出来ました。こうして今を無事に過ごせているのも『はぐれ』となったばかりの私を追手から匿って頂いたことに「ああ、違う違う」・・・にゃん?」

 

黒歌には非常に珍しく畏まった言動で感謝の意を伝えていると当の本人から待ったが掛かった

 

そしてぬらりひょんはよくアザゼル先生が浮かべている人を揶揄うような表情を見せる

 

「まっ、感謝の言葉は貰っておくが、堅苦しいのは後つったろ―――儂が今訊いてるのはお前さんの『ぼーいふれんど』に手料理を作ってやらねぇのか?って事だ」

 

それを聞いた黒歌は力が抜けたように肩を落とす

 

そう言えば俺が『黒歌の手料理を食べてみたい』と言ったその返事は貰って無かったな

 

「そ・・・そんなの態々訊くような事かにゃ?」

 

まぁ今はただの会食の時間なんだから良いんじゃないか?

 

それに黒歌には悪いが俺も今回はぬらりひょん様の味方をしたい

 

黒歌の意思は尊重するけど、希望を述べるくらいはさせて貰うぞ

 

「黒歌。今度の学校の昼の弁当だけど、黒歌に頼んで良いか?」

 

いきなり朝食や夕食などで家族全員に盛大に振舞えってのもあれだしね

 

「にゃ!?イッキまで・・・そんなに食べてみたいのかにゃ?」

 

当然。勿論白音やレイヴェルが作ってくれる弁当も良いけど、どうせなら全員分の料理をコンプリートしたいものなのだ

 

「姉様。その日は早朝訓練は少し早めに切り上げましょう」

 

「レトルト品だけでお茶を濁すなんて事が無いように、私と白音も同行させて頂きますわ」

 

如何やら白音とレイヴェルが監督してくれるようだが、黒歌はこういう処は信用無いのな

 

「うぅぅ・・・分かったわよ。ちゃんと作るから!」

 

「カッカッカ!あの面倒くさがりのお前さんがアッサリと折れるとはの―――男に妹、それに家族と、良い意味で首輪が付いたじゃねぇか」

 

笑われた黒歌も相手が相手なので下手に言い返す事も出来ずに軽くそっぽを向く程度の抗議しか出来ないみたいだ

 

そんな隣の席で何時もより少し頭の位置の低い黒歌の頭を撫でる

 

サラサラの髪とフワフワの猫耳の感触が心地良い

 

「にゃっ、にゃにすんのよイッキ!」

 

「いや~。普段揶揄う側の黒歌が揶揄われている姿が新鮮でつい・・・」

 

それに文句は言いつつも手を払ったりはしてないしな

 

とは言えやり過ぎれば後が怖いので程々で止めておく

 

それから晩御飯も食べ終わったので皿の片づけなどは流石に今回は母さんに任せて家の中の和室に移動することにした

 

無駄に広い家な上に俺達も日本人なのを配慮してか和室も普通に家の中に在るからな

 

まぁ神の子を見張る者(グリゴリ)の変人達が建てただけあって壁に掛かってる掛け軸の後ろに秘密の階段とか見たような気がしないでもないけど、一々気にしてたらキリがない

 

「さて、数年ぶりじゃな。黒歌」

 

出会ってから色々機会が潰れて、漸く挨拶に漕ぎつけられた黒歌が正座からそのまま頭を下げる

 

「お久し振りです、頭領。ご壮健なようで何よりです。白音、ご挨拶なさい」

 

「はい。お初にお目にかかります。塔城黒歌の妹、塔城白音と申します」

 

白音はグレモリー眷属としてマナーは普段から普通に良い方だから見ていて違和感が無いな

 

「妹の方が母親とよく似てるようだな。つっても藤舞(ふじまい)は術者としては優秀だったが猫魈(ねこしょう)の割に余り戦闘は得意じゃ無かったがな」

 

へぇ、黒歌と白音の母親の名前は初めて聞いたな。完全な後方支援系だったのか性格的に戦いが苦手だったのかは分からんけど基本近接でガチ殴りする白音とはその辺りは違うんだろう

 

「まっ、姉妹で性格は違っても惚れた男は一緒だったみたいだがな」

 

ぬらりひょんに話の水を向けられたのでまだ挨拶していなかった俺とレイヴェルも挨拶する事にする。黒歌達程頭を深々と下げる必要はないかな?

 

関東に所属してる訳でもない上に俺の家でアポ無し訪問だしな・・・参曲(まがり)様相手?速攻で五体投地に移行しますが、何か?

 

「有間一輝です。参曲(まがり)様にはとても良くして頂いております」

 

思い出される修行の日々

 

ノーロープバンジーや寒中水泳。土に埋められたり山奥に放り込まれたり、毒キノコ食わされたりとかもしたなぁ

 

「レイヴェル・フェニックスですわ。名高き百鬼夜行の主にお目に掛かれて光栄です」

 

「こいつぁ名乗りが遅れて申し訳ないねぇ。関東一円の妖怪共を束ねているぬらりひょんって者だ。そっちの黒歌とは母親が昔は俺の組に居た縁でね。保護してやったって訳だ」

 

主を殺して『はぐれ』となったばかりの黒歌には悪魔側から追手が差し向けられたようだし、当時から最上級クラスの力のあった彼女を追うならそれなりの実力と数を備えた奴らだったろうからな。追手を巻くにしても一度完全に雲隠れしないとオチオチ眠る事も出来なかったんだろうし、白音を探す事も難しかったんだろう

 

幸いにして白音はリアス部長の眷属になれた訳だけど

 

「さて、儂が此処に居る理由が気になってると思うが明日、何が在るか知ってるかい?」

 

「はい。八坂さんの話だと関東と関西の妖の長と三大勢力のトップ陣に五大宗家、それに日本の神々の間で会談が開かれるとか」

 

九重が家に来るのもその関係だからな

 

「そうだ。そんでもってその会談の内容は和平についてだな。元々儂ん所は和平を態々結ぶつもりは無かったんだ。別に特に敵対してる訳でも無かったからメリットってもんが少なくてな。だが例のテロリスト集団のせいで儂たちの方にも被害がそれなりに出始めてな。情報や技術で後れを取らない為にも形だけでも和平に応じた方が良いってぇ意見が強くなった」

 

成程、和平によるメリットよりも結ばない時のデメリットが無視できなくなってきた感じか

 

「大体よぉ。和平を推し進めてる三大勢力に既に和平に応じた八坂の姫さんやこの国の神さんに囲まれた和平への誘いの会談とかヒデェ布陣だとは思わねぇか?もっと爺ぃを労りやがれ」

 

いやいや、その程度の圧迫面接なんて慣れたものでしょうに

 

関東の妖怪の長がそれくらいで参るような精神をしているとは思えないぞ

 

「で、実質既に和平の話自体はほぼ固まってんだが、儂の組織も一枚岩じゃぁねぇ。和平に対して異を唱えてる奴らが居てな。ただ気に喰わねぇからって理由なら適当に諫めてそれで終わりにしても良かったんだが、実は儂の所は少し前に五大宗家の『姫島』と『神器持ち』の関わる騒動で結構被害が出ちまってな。その上で同盟の象徴たるお前さんら『D×D』には神器持ちも多ければ『姫島』に関わる者も居るだろう?若い奴らが同盟に反対してる一番の理由がそれなんだよ」

 

「朱乃先輩はとっても優しい人です!それに幼い頃にその『姫島』から追放されているんですよ!それなのに敵意を向けるって言うんですか!」

 

反対派のその理由を聴いた白音が険しい表情で立ち上がって声を荒げた

 

グレモリー眷属はリアス先輩の影響なのか元々の本人の資質なのか兎に角仲間を大切するからそう言う理不尽には過敏に反応するんだろう

 

俺としても勿論納得のいかない理由だしな

 

そんな白音の叫びと俺達の目線が一段冷え込んだのを見てぬらりひょん様は愉快気に笑う

 

「ほっ、真っ直ぐな瞳をしとるの―――確かにちっこい嬢ちゃんの言う通りだ。お前さんの言い分は実に正しい。だがの、大切なもんが傷つけられた時、どうしてもソイツの眼は憎しみってぇ色眼鏡が掛かっちまうのさ・・・まぁ、反対しとる奴らも幸い頭では解っているが心が納得出来てねぇって感じでな。要するに和平の前に不満をぶちまける場が欲しいのさ。完全に憎しみやら嫌悪やらで心が満たされてたなら頭での理解も拒否ってるだろうがよ」

 

そこで彼は俺達の顔を見渡しながらニヤリと笑う

 

「そんで本格的に会談をする前に通信で堕天使の元総督に『だったら若い奴ら同士でどつき合わせれば良い』ってぇ意見を出されてな。儂としても一度『D×D』とやらについてはこの目で見極めたかったんでその話に乗ったって訳だ」

 

アザゼル先生ェ・・・なに勝手俺達を売り飛ばしてるんですか

 

でも確かにトップの一存で反対派の意見を封殺してしまったら絶対後々問題を残してしまうからな

 

例え和平自体はほぼ確定だろうとその人(?)達の気持ちも出来るだけ汲んでやって禍根を絶ちたいって感じか

 

「でもその話、俺達にしてしまって良かったんですか?」

 

「まっ、気付かれずにじっくり観察出来たらそれが良かったんだがな。お前さんや黒歌なら俺の存在に下手したら気づきかねねぇし、二人の事は参曲(まがり)から聞いてるから今更なんだよ。そっちのお嬢ちゃんたちも少ししか見られなかったが、少なくとも邪悪の類のではなかろうよ。先にこっちに来たのは魔王ん所の姫さんと赤龍帝の家を見物してる時に俺の存在が気付かれないようにって配慮だ。なんでも寝る前に【一刀修羅】とやらで最後の修行してんだろ?儂の隠形も流石にそれだとバレるだろうからな」

 

【一刀修羅】で瞑想してる事は参曲(まがり)様も知っているから彼が俺達とイッセーの家に行くと知って忠告したんだろうな

 

確かにそうなってたら下手すれば一気に駒王町全体が厳戒態勢とかに移行してたかも知れん

 

・・・コッソリ来るなよとも言えるけど抜き打ちで見るからこそ見定められる処も有るだろうから、なんとも言えんな。そもそもコッソリと言っても上の許可は下りてる状態な訳だし・・・現場の俺らとしては納得し難いけど

 

「・・・要するに見て見ぬふりをして欲しいって話ですか」

 

『これからイッセーの家にも不法侵入するけど宜しくね』って事ですね

 

アザゼル先生やあと多分サーゼクスさんとかが許可を出してるんだろうけど不法侵入に変わりはないからな・・・細かい事言い始めたらキリがないけど

 

そんな訳でぬらりひょんがイッセーの家に向かうのを見送ったら黒歌がその場で畳に気が抜けたように仰向けに倒れ込んだ

 

「うにゃ~。やぁぁぁっと居なくなったにゃ~。ホント、来るなら来るって事前に言っといてよ。知ってたらその間適当に暇を潰してたのに」

 

「おいおい、一応恩人なんだろ?」

 

完全に面倒が過ぎ去ったって態度じゃないか

 

「だからこそよ。気が抜けなくて肩が凝っちゃうわ」

 

仰向け状態の黒歌が右手で左肩を揉んでいるけど豊満な胸が腕に当たってユッサユッサと揺れている。男のサガとしてとても気にはなるが、それを何とか意識から追い出した

 

あの高性能ステルス能力の持ち主であるぬらりひょんがひょっこり帰って来る可能性も有るしな

 

「でも黒歌は参曲(まがり)様相手でもそこまで畏まった態度は取って無いよな?」

 

話題と言うか意識を逸らす為に疑問に思った事を聴く

 

猫妖怪の長老である参曲(まがり)様とか同じ猫妖怪で色々世話になった黒歌ならそれこそぬらりひょん相手以上の態度を取っても可笑しくはないはずだが、そんな姿は見た事ない

 

「あ~、三毛ばあさんは私が小さい時からなんだかんだで見知った相手ではあるからね。殆ど交流も無しに一方的に恩だけ有る頭領相手だと砕けた態度も取り辛いのよ」

 

成程、ぬらりひょん相手だとどこまで距離感を縮めて良いのか、情報が足りてないのか

 

「―――いえ、そもそも黒歌姉様はぬらりひょん様以外の目上の立場の方にももう少し礼節を持って接して欲しいです」

 

「魔王様方を始め、私達が出会う権力者が基本フレンドリーな性格をしているので何とかなっていますが、今後はそう言った事に厳しい方々も集まるパーティーなどにも招待される機会も有ると思いますのよ?」

 

「大丈夫よ。その時は堅苦しそうなパーティーなら欠席するか壁の花を決め込んで只管料理に舌鼓でも打っておくからにゃ」

 

礼儀に時間を使うくらいなら食欲に当てて乗り切ろうって腹ですか

 

確かに黒歌なら面倒な相手が近づいてきたとしても事前に察知して煙に巻くとか出来るだろうな

 

その後、俺達はその日はもう寝る事にした

 

明日は九重も来るし、ぬらりひょんの言の通りなら反対派の妖と一戦交える事にもなりそうだったからな・・・黒歌は寝る前に部屋に強力な結界を張ってたけど、まぁ気持ちは分かる

 

好き好んで親しいとも言えない相手に寝顔を見られたいとは思わないので自然と俺達も結界を重ね掛けしてから眠りにつくのだった

 

 

 

 

翌朝、始業式が金曜だったから今日は休日で、朝食を食べた後に俺の家にイッセー達もこれから来る九重を迎える為に集合している。先程リアス先輩から九重が来た後で少し話が有ると言われたけど、多分ぬらりひょんに化かされたりしたのだろう

 

九重も妖怪の姫だけ有って当然妖怪には詳しいから意見を訊きたいってところか

 

そんな事を思ってると地下の転移部屋の常設してある巨大な魔法陣の上に赤い鳥居が出現し、九重が現れた。九重の左右には御付きの狐の妖怪がお土産だと思われる風呂敷を手に持っている

 

「正月ぶりじゃな、皆の衆!思ったよりも早く再会出来て嬉しく思うぞ!」

 

確かにまだ冬休みが終わったばかりだからそんなに日にちは経ってないし、中でも俺は冬休みの終わりまで出来るだけ特製の回復陣を使った【一刀餓鬼】の修行で京都にお邪魔してたから他の皆よりも更に離れてた日数は少ないんだよな

 

【一刀餓鬼】の制御も10秒までなら問題無く制御出来るようになったし、5秒でもそこまで酷い怪我を負う訳でも無くなったので6~7秒までなら圧縮強化も制御出来てるはずだ

 

【一刀羅刹】を使っても修行を始める前の三分一程度には怪我も抑え込めるんじゃないだろうか?

 

それはさておき九重は皆と正月に再会しているのだが一人だけ例外も居た

 

「九重、九重」

 

「フィス殿!久しぶりじゃのう!正月は会えなかったが元気そうで何よりじゃ!今年も如何かよろしく頼むぞ!」

 

オーフィスは基本としては各勢力のトップでも一部の方々しか此処に居る事を知らないから流石に人目に付き過ぎる元旦の神社とかに連れて行く訳にもいかなかったからな

 

直接会うのは前回のオーフィスのお社を建てた時以来と言える

 

二人で手を取り合ってはしゃいでる姿は実に微笑ましい

 

「前はお雑煮が気に入ったと言っておったが、今も食べておるのか?」

 

「ん、お餅が無くなるまでは食べる」

 

まぁイヅナ通信で九重と連絡する時はオーフィスも呼んでいるので会話自体は久しぶりと言う程でも無いのだが

 

因みにだがルフェイは現在はヴァーリチームとして行動中のようだ

 

きっと今もアグレアスの捜索を行っているのだろう

 

ヴァーリチームで一番そういう危機察知とかじゃない単純なモノ探し的な能力に長けているのはルフェイだろうからな

 

そうして九重の持ってきた京都の色んなお菓子のお土産を置いてお付きの妖怪さん達が帰ってからリアス先輩が一つの話題というか相談を切り出してきた

 

オーフィスと黒歌?既に全力で甘味を愉しんでますよ?まぁ量は有るから直ぐに無くなったりはしないだろうが

 

話の内容は昨夜にイッセーと教会トリオが見知らぬお爺さんを御持て成しするという不思議体験をしたらしく、その上その時は思考に霞が掛かったような夢心地で気が付いたら朝になっていたと言う。当初は変な夢を見ただけかとも疑ったそうだが確認してみれば夢の中に居た4人全員が同じ夢を見ていたらしく、これは只事では済ませられないとしたそうだ・・・うん。間違いなくぬらりひょんです。知ってた

 

「う、う~む。私の知り得る限りでは『D×D』たるお主らを化かす事が出来て且つそのような現象を引き起こせるとしたら一人だけなのじゃが・・・いやしかしイッキと赤龍帝の家に集うのは超常の存在の中でも実力者ばかり、この場に溜まる力場が幻覚を見せたという可能性も有るにはあるがそこまでピンポイントとなるとやはり・・・」

 

九重も一組織のトップが突撃訪問してきたのだとは考えたくないのか悩まし気な声で考え込んでいるが、やはり状況が状況な為か殆ど確信してしまっているようだ

 

あんまり悩ませてもアレなのでネタばらしタイムといくか

 

これ以上は引き延ばせないだろうしな

 

「そろそろ潮時ではありませんか?ぬらりひょん様?」

 

俺は誰も居ない部屋の隅を見つめて問い掛ける

 

「ほっほ、今度は此方から話し掛けた訳でもないのによう気付いたのう」

 

「『居る』という前提で気配感知に全霊を傾ければ違和感は感じ取れたので」

 

ステルス状態を解除したぬらりひょんが急に現れた事で皆が警戒態勢に移行した

 

とは言え俺の方から話し掛けたからか身構えつつ成り行きを見守ってるって感じだが

 

「なあ!・・・あ、あなた様は、やはり、そうであったのですか」

 

九重が震えた声でぬらりひょんを凝視する

 

「おう、西の姫さんの娘さんだな?直接会うのは初めてだねぇ」

 

東の妖怪の頭領に話し掛けられた九重はその場で姿勢を正して頭を下げた

 

「―――ぬらりひょん殿。お初にお目にかかりまする」

 

「ぬらりひょん・・・やはりそうだったのね」

 

「ええ、リアス。伝え聞いた特徴と合致するとしたらこの方くらいですからね―――と云うかイッキ君はあの様子だと既に知っていたみたいですけど、これはお仕置きが必要かしら?」

 

二大お姉様方は『ぬらりひょん』と聞いて予想が合ってた事で得心がいったという面持ちだったがなんか朱乃先輩に俺も共犯扱いされてるんだけど!?

 

「朱乃先輩。お仕置きは是非ともアザゼル先生にお願いします!」

 

「そう・・・またアザゼルが絡んでいるのね」

 

一応昨夜連絡を入れたけどサーゼクスさんも許可を出してたみたいなのでそっちも折檻して良いですよ?・・・リアス先輩のお仕置きとかサーゼクスさんなら笑顔で受け入れそうだけど

 

取り敢えず手頃に生贄として扱えるアザゼル先生にヘイトを向けておいたので問題はないはずだ

 

それからぬらりひょんにより昨日の夜に聞いたのと似たような説明がなされる

 

「―――まっ、そういう訳で同盟を結ぶ為の最後の一手にお前さんらにも協力して貰いてぇのよ。儂自身としちゃ昨日からお前らの生活ぶりを見させてもらったから同盟ってぇ形でも良いとは思ってんだがな。やっぱ戦ってる姿も見ておきてぇ」

 

「そう言う事情でしたら我々も協力させて頂きます。それで、『D×D』を見極めたいとの事でしたが招集できるメンバーは全員集めた方が宜しいのですか?」

 

「いんや、代表だけで構わねぇ。具体的にはそこの姫島出身の嬢ちゃんとその上司で魔王の妹であるアンタ。後は知名度の高い神器使いって事で赤龍帝の坊主。最後に西の妖怪共の総大将の娘との婚約者であるそっちの坊主もだな」

 

まぁ納得の人選か―――例えばイリナさんやゼノヴィアやロスヴァイセさんとか神器持ちでもなければ妖怪とも接点が薄いからな

 

黒歌や白音なんかは元を辿れば関東の妖怪だし・・・白音はそこら辺微妙だけどな

 

 

 

 

あれから場所を移して俺達は地下のトレーニングルームに来ていた

 

『D×D』結成からこの地下トレーニングルームも各方面の技術を使って強度は増しているのでちょっとした模擬戦程度ならば壊れたりはしない

 

指名された俺達以外のメンバーは遠くで一応結界を張った状態で観戦モードだ

 

九重とオーフィスはそれぞれ腕にイリナさんの使い魔の八白とアーシアさんの使い魔のラッセーを抱いているのが何とも微笑ましい・・・八岐大蛇はちょっと微妙だけど

 

あの二匹って将来新たな龍王になったりするのかな?その場合七大龍王になる訳だが仮にそうなるとしても順当に考えるなら百年単位で先の話になるかな?

 

「さて、では呼ばせて貰うとするかの」

 

ぬらりひょんが手に持った杖で"トン"と地面を叩くと彼の両脇に"ドロン"と紫色の煙が発生しそこから2体の妖怪が現れる

 

「東の妖怪。鎌鼬の列座(れつざ)と申します」

 

「同じく、雷獣の雲辺(くもわたり)でございまする」

 

現れたのは両腕に鎌のようなモノを生やした人間大の大きさのイタチと体の周囲に雷撃と雲を纏わせた犬の妖怪だった

 

丁寧な挨拶とは裏腹に敵意を滲ませた目をしている

 

「さてお前ら、場は整えてやった。後はお前ら自身の目で見極めろ」

 

「「はっ!」」

 

「つっても流石にあいつ等全員相手にするのはキツイだろうし儂も爺なりに運動するか・・・おい、赤龍帝の坊主。お前さんの相手は儂がしてやるよ。列座と雲辺はあっちのお姫様達と闘りな」

 

「あの・・・俺は?」

 

俺だけ言及されてないんですけど?

 

「慌てなさんな。お前さんの相手は―――「私さね」」

 

訝しんでいるとぬらりひょんのセリフを引き継ぐ形で聞き覚えのある声が聞こえてきた

 

「にゃぁぁぁ!?三毛ばあさん!?」

 

「何時の間に・・・」

 

白音の言うように何時の間にか観客である皆の後ろに七本の尻尾を持った三毛猫の参曲(まがり)様が鎮座していた。近く居た黒歌も気付けなかったのかよ

 

「全く、黒歌。今のアンタなら私の存在に気付けたはずだよ。ちょいと気を緩めすぎなんじゃないのかい?―――そっちが白音だね?まっ、挨拶は後にしようか」

 

そう言ってその場から消えた参曲(まがり)様は次の瞬間俺の眼の前に現れる

 

いや~。俺も気付かなかったし参曲(まがり)様の採点基準高すぎじゃないですかね?

 

「直接会うのは久しぶりだねぇ。元気に暴れてるようで何よりだよ」

 

元気に暴れてるってそこだけ聞くと不良学生みたいなんですけど・・・

 

「お久し振りです。参曲(まがり)様。本日は何故此処に?」

 

参曲(まがり)様が反対派の一員であるとか考えにくいんだが・・・

 

「なに、頭領がこの家に行くってんでついでにアンタら二人とあっちの妹猫に会っておこうと思ってねぇ。順調に力を伸ばしていってるようで何よりだよ―――白音と言ったか。あの娘も既に一端の猫又・・・いや、猫魈(ねこしょう)になってるようだね」

 

やっぱり三又になって初めて一人前なのかな?

 

てか参曲(まがり)様がこの場に居るのはただの『ついで』かよ!

 

イヤ、出会えた事自体は嬉しいとも感じるんだけどね!

 

「イッキが畏まってるって事は大物なんですよね?」

 

「800年は生きているとされる猫妖怪の長老よ。イッキと黒歌の仙術の師でもあるわ」

 

「イッキと黒歌さんの師匠!?どんだけ最強なんですか!」

 

少し離れた場所でイッセーの疑問にリアス先輩が答えている

 

リアス先輩には俺の師がこの方だって事は両親に裏の事がバレた時に知られてるからな

 

そんで参曲(まがり)様の実力か。以前出会った時はまるで敵わなかったけど今ならオーラ量『だけ』なら同等以上は有ると思う・・・ただ総合力ではボロ負けだろうな

 

長期戦に持ち込んだ時点でアウト。短期決戦の力押しならワンチャン有るかもって感じか

 

と言っても今回はちょっとした模擬戦みたいな感じだからその手は使えないし、アレ?これ俺に勝ち目無くねぇ?

 

格上相手でも下す方法とか色々有ると言っても基本は参曲(まがり)様の教えが下地になってるから手の内ほぼバレてるよね?

 

「お手柔らかにお願いします」

 

結局そう言うのが精一杯だった

 

 

 

 

[3人称 side]

 

 

関東の妖怪と今回の『D×D』の代表者のマッチングが決定してそれぞれが邪魔にならないように距離を取る

 

3組の中でイッセーは通常の赤龍帝の鎧を装着して拳を構えつつ自分から攻めるべきか出方を窺うべきか迷っていた

 

「(見た目完全に爺さんだもんなぁ。見た目で判断しちゃダメって事くらい解るけどやっぱ少しやり難いぜ。てかこの爺さんもイッキが相手をしてる参曲(まがり)とかって猫又と一緒でこっちに特に敵意が有る訳でも無いんだし―――いや、この爺さんは俺達を見極めようとしている事に違いは無いんだから此処は普段の俺らしくいきますか!)」

 

数秒で迷いを抑えて方針を決めたイッセーが背中のブースターを噴かせてぬらりひょんに突撃しようと前傾姿勢となった瞬間、イッセーの視界に映っていたぬらりひょんの姿が消え去った

 

「消えた!―――クソ!何処だ!?」

 

単純なスピードで視界から消えたにしては余りに予備動作が無かった為、イッセーは彼が消えたのは『D×D』の中では特に黒歌が多用する幻術の類だと判断して周囲に気を配る

 

「ほっ、赤龍帝の坊主は裏側に足を踏み入れたばかりで搦め手に弱いってのは本当みてぇだな」

 

声が聞こえてきたのはイッセーの目の前どころかすぐ下からだった

 

構えていた拳にぶつかりそうなくらいで身長差が無かったならお互いの鼻がくっつきそうな距離と言えるだろう

 

「なっ!?」

 

「ほれ、ビビるんじゃねぇよ」

 

驚いてバックステップで距離を開けようとしたイッセーよりも早く小柄な老人の放つローリングソバットがイッセーの全身鎧の脇腹部分にぶち当たって吹き飛ばされた

 

「ガッ!畜生、やっぱり幻術か!」

 

「幻術?バカ言うねぇ。そんなもん使ってねぇよ」

 

「え?」

 

「今のは単に気配を消して動いただけだ」

 

実際に姿を消したりした訳では無く気配を絶った結果としてイッセーが認識出来なくなっただけだとぬらりひょんは語る

 

「儂の力が他人の家で呑気に茶を啜るだけのもんだと思ってたのか?それだけじゃあ妖怪の総大将は名乗れねぇよ」

 

ぬらりひょんの戦い方は如何な相手であろうと全ての攻撃を『不意打ち』で仕掛ける事が出来ると言うある意味では究極の先の先の型なのだ

 

それから暫くはぬらりひょんに翻弄され続けるイッセーだった

 

 

 

 

所変わってリアスと朱乃も鎌鼬の列座(れつざ)と雷獣の雲辺(くもわたり)との戦いが始まろうとしていた

 

「それでは此方も始めると致しましょうか」

 

「これは元より我らの仕掛けた戦い。先手は頂かせて貰いますぞ!」

 

その言葉と共に雲辺が雷獣の名に恥じない雷撃を全身から放ちリアスと朱乃を襲う

 

「舐めないで頂戴!」

 

対応したのはリアスだ

 

迫りくる雷撃に対して前方の地面を魔法で何本もの避雷針状に変える事で雷撃を誘導したのだ

 

「私が何時も誰と模擬戦をしていると思っているのかしら?雷の対処法はまだまだ有るわよ!」

 

そう言いつつ隆起した地面を素早く元に戻すとリアスの隣で雷光を溜めていた朱乃が開いた隙間からその強力な雷を放った

 

「そのセリフ。そっくり返してやろう!」

 

雷光を見て前に出たのは鎌鼬の列座(れつざ)だ。彼は自身の持つ鎌で前方の空間を一瞬で滅多切りにすると素早く後ろに下がる

 

そして朱乃が放った雷光がその場所を通り過ぎようとするとその場で弾かれたかのようにスパークを起こして雷光は消失した

 

「雷は大気の影響を良く受ける。そこをかき乱してやればこの通りだ」

 

お互いに相棒が雷の使い手だからこそ対処にも慣れているのだ

 

雷の規模を極大と呼べるものに引き上げればまた別の対処が必要だろうがコレは殺し合いではない

 

一手一手じっくりと相手の攻撃を捌きながらよく観る事が重要なのだから

 

「次は此方から行かせて貰う!」

 

「ええ、来なさい!」

 

そのまま4人の居る場所は激しい爆炎に包まれていった

 

 

[三人称 side out]

 

 

 

「うおおおおおおおおっ!?」

 

は~い。イッセーとリアス先輩と朱乃先輩と違ってぶっちゃけ和平と関係無い戦いを演じている訳なんですけど既にメッチャ劣勢に追い込まれてます

 

「ほらほら、身体操作系に関しちゃそのまま精進を続けろとしか言わないからね。折角だから遠隔系を鍛えて上げるよ」

 

はい。そんな訳で師匠の言に反論できる訳も無く絶賛相手の土俵で戦っておる次第です

 

接近戦に持ち込んで猛攻すればワンチャンとか思ってた過去の自分に無駄な希望を持つなと言ってやりたい。師匠命令という番外の一手で俺の得意分野は封殺されました

 

・・・さっきから参曲(まがり)様の術の発動が自然過ぎて碌にタイミングも掴めないから結局幻術で翻弄されてたとは思うけどね!

 

達人の抜刀術は速さよりも間合いとタイミングを支配するとかそんな風に感じるわ!

 

参曲(まがり)様が凄いのは元から解ってたから砂粒数個だけ操って俺の眼球にぶち当てて隙を作るとか訳の分からないレベルの省エネ戦法とかねじ込まないでくれません!?ご丁寧に砂粒に強化とか施してるし―――勉強になりますけどさぁ!

 

「自分の心臓すらも操作可能なイッキ先輩は身体操作なら似たような領域だと思います」

 

遠くに居る白音の声が聞こえる

 

ツッコミなのかフォローなのか分からないけどもう白音は猫又とかじゃなくて相手の心を読むさとり妖怪を名乗っても許されるんじゃないだろうか?

 

仕方ない。せめてオーラ量だけでも上回らないとやってられない

 

そう思った俺は世界の邪気を取り込んで『邪人モード』を発動させる

 

「へぇ、まるで地獄の釜が目の前で開いたかのようだよ。私達猫又には効果が薄いけどね」

 

参曲(まがり)様は薄く蒼み掛かった炎を身に纏う。黒歌や白音も使う浄化の炎だ

 

浄化の力や聖なる力であんな風に身を守られると邪気の各種追加効果は望めないんだよな

 

勿論明らかに格下なら邪気の浸食が上回るけど目の前の七尾とかいう猫又の限界突破し過ぎなお方には通じないだろうから単純にオーラ量の嵩増し程度の認識でいかないといけない

 

しかし俺と参曲(まがり)様の間に二つの影が立ち塞がった

 

「おのれ!なんたる醜悪な瘴気だ!これが『D×D』とやらの本性か!」

 

参曲(まがり)殿!御下がりくだされ!ここは我らが!!」

 

リアス先輩に朱乃先輩と戦ってたはずの妖怪たちだった

 

なんか既に物凄い決意と覚悟を秘めた決死の瞳をしてるんですけどもしかして俺の所為で和平がご破算になったりしないよね?

 

一瞬不安になったが参曲(まがり)様がその尻尾を伸ばして二体の首に巻き付ける

 

「ほら、あの子の力の事は新聞にも載ってただろう。バカ晒してないで向こうのお嬢ちゃん達と続きをやってきな」

 

そう言うと尻尾をぶん回して先輩方の居る場所に放り投げて顔面から地面に落とす。アレは痛い

 

その後は他の二組の決着が着くまでの間、特にイヅナの妖力を核にした狐火や闘気弾とかの練度が低いとダメ出しされつつ翻弄され続けたのだった

 

 

 

 

「「くあぁぁぁ!敗けたあああああ!!」」

 

俺とイッセーの声が重なる

 

結局イッセーもぬらりひょんに「ほれほれ、こっちじゃこっち」とか「よぼよぼの爺相手じゃから手加減してくれとるのか?全く優しいのぅ」とか終始煽られまくってたからな

 

お前みたいなよぼよぼ爺が居るか!

 

やっぱり完全なテクニック勝負に持ち込まれると向こうが一枚上手だ

 

パワータイプのイッセーなら尚更だろう

 

だからと言って本気のパワーを解放したら地上が吹き飛ぶからな

 

「赤龍帝の坊主はまだまだ我武者羅過ぎるが、その分拳に真っ直ぐな想いが籠っててこっちとしちゃあ色々伝わってくるもんが有ったぜ―――お前らは如何だ?」

 

総大将に所感を問われた二人は姿勢を正して頭を下げる

 

「はっ、彼らに悪意が無い事は手合わせして十分に感じました」

 

「今後は同盟の件で口出しする事は一切致しませぬ」

 

リアス先輩と朱乃先輩とは俺やイッセーと違って結構接戦を繰り広げたのか両者服やら毛やらが焦げ付いてるみたいだな

 

だからこそなのか悪意が無い事を知れたという事以外にも本気のぶつかり合いが出来てスッキリしたというような表情が見え隠れしている

 

その後また覚悟を決めたような顔になって「ご迷惑をお掛けした。罰するならどうか我々のみに」みたいな事を言われたが元よりそんなつもりは無かったので「これから宜しく」と言った感じにお茶を濁した。てか此処で厳罰とか下したらこの二人以外の反対派がまた台頭して来そうだ

 

「さて、黒歌」

 

「にゃ、にゃによ。三毛ばあさん。もう用事も済んだのなら帰ったら良いじゃないの」

 

参曲(まがり)様に名前を呼ばれた黒歌が一歩後ずさる

 

「今度白音にも稽古を付けて上げるから黒歌も一緒に来な」

 

「ええ、別に稽古なんて望んでないって・・・」

 

「姉様!是非稽古を付けて貰いましょう!宜しくお願いします。参曲(まがり)様!」

 

黒歌のセリフを途中で遮って勢いよく頭を下げる白音―――まだまだ実力不足だと思っている白音は食いつきが良いな

 

参曲(まがり)様は白音に了承を返すと軽く跳躍して俺の肩に乗って話し掛ける

 

「アンタは八坂の姫の所で【一刀修羅】の修行をしてるんだからその後だね。後ついでに妖力の扱いももっと慣れておきな」

 

先に今やってる修行を片付けろって事ですね

 

そして最後に参曲(まがり)様は耳元で周りに聞こえないように囁いてきた

 

「(黒歌と白音、それと向こうのあの娘は不死鳥かね。随分交わってるみたいだけど子供が出来たならちゃんと一度は見せに来るんだよ)」

 

「え゛っ」

 

バレてる!超バレてる!?

 

「(さっさと孕ませてしまえって前にも言っただろう?まっ、その辺りの事は心配しなくても良くなったみたいだし、それを確認出来たのが今日一番の収穫さね)」

 

言いたい事だけ言い終えると参曲(まがり)様は俺の肩から降りてしまった

 

「よし、それじゃあこれから会談に向かうぞ。邪魔したな」

 

そう言ってぬらりひょん一行は予定されていた会談へと赴いて行った

 

後日、迷惑料として色んな貴重品やサーゼクスさんからは超高級カタログなどがあの場に居たメンバー全員に贈られた・・・このカタログ普通にフェラーリとか世界一周旅行とか載ってるんですけど俺達には使えないよね

 

ぬらりひょん一行を見送った後、九重が近づいて来た

 

「イッキよ。最後に参曲(まがり)殿に何を言われておったのじゃ?」

 

「あ、ええっと・・・お嫁さんを大切にしなさい?」

 

間違ってはいないよね?

 

「おお!そう言う事であれば参曲(まがり)殿の心配は杞憂じゃの。イッキ、フィス殿。今日は時間一杯遊ぶのじゃ!」

 

「お~」

 

子供特有の邪気の無さが有難い。心が癒されるぜ

 

そうしてその日の午後に八坂さんが九重を迎えに来るまで、俺達は久しぶりに遊び倒したのだった

 




原作通りでも良かったんですが、ちょっとバトルシーン追加してみました


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第四話 変革の、弊害です!

明けましておめでとうございます。

正月休みならやる気が出るかと思えばそんな事は無かったですorz

良ければ最後までお付き合い頂けると嬉しいですww


九重が遊びに来て休日を挟んでから本格的に三学期が始まった

 

今は特に部活でやる事も無かったので雑談タイムだ

 

元々この後の悪魔の活動をする隠れ蓑的な意味合いも有ったし、文化祭が近い訳でも無いからリアス先輩の時代からまったりとした時間を過ごす事は多い

 

アーシアさんも「私が部長(リーダー)になったからにはコレをやりましょう。付いてきなさい!」ってタイプでもないしな

 

今日も今日とてゼノヴィアとイリナさんは別の空き教室で生徒会選挙の意見を出し合っているそうだし、部長のアーシアさんも授業の合間とかは積極的に意見を出したりしているみたいだ

 

まぁアーシアさんだけでなく教会トリオが揃ってる為か「讃美歌を皆で歌いましょう!」とか「演説を聞いてくれた方には漏れなく聖書進呈」とか「頭に油を注いであげる」とか変な方向に話がぶっ飛びそうになるのを桐生さんが軌道修正してるようだ・・・マジでお疲れ様です

 

「―――それでお兄様のレーティングゲームの復帰戦のお相手になんとあの王者、ディハウザー・ベリアル様とのマッチングが叶いましたのよ!」

 

今はレイヴェルがライザーの引きこもりが治ってから初のレーティングゲームの公式戦にトップを独走してる冥界の人気者との対戦が決まったという事を嬉しそうに報告している

 

「マジか!?よく王者とまだ新人とも言えるライザーさんの対戦なんて組まれたな」

 

イッセーが驚いているがライザーも公式戦では10回しか戦ってないんだからベテランとは確かに言えないよな

 

「ええ、正直お兄様が勝つのは不可能と言っても良いですわね。実力・・・レートが離れすぎている場合は基本的に対戦が組まれる事は無いのですが、今回はお兄さまの復帰戦祝いとディハウザー・ベリアル様の人気番組である『皇帝ベリアル十番勝負』を掛け合わせたもので、エキシビションマッチに近いものですわね」

 

「『皇帝ベリアル十番勝負』?・・・ああ~、そう言えばリアスが最近よくその番組を録画しなくちゃって忘れないように呟いてる姿を何度か見たなぁ」

 

レーティングゲームの覇者になるのが夢のリアス先輩でしかも最近まで冥界の娯楽はレーティングゲームが大半を占めてたみたいだからな

 

兄であるサーゼクスさんは眷属も含めて最強と言われてるみたいだけど魔王でレーティングゲームには出場できないらしいし、もしかしたらリアス先輩はディハウザー・ベリアルの影響でレーティングゲームの覇者という夢を持ったのかも知れない

 

「我がフェニックス家としてもお兄様の復帰を宣伝するのにこれ以上最適な場は有りませんでしたからね。お父様もお兄様も話が舞い込んできた時は『是非に』と飛びついたようですわ」

 

そうしていると祐斗が黙ったままの俺が気になったのか話し掛けてきた

 

「イッキ君。さっきから静かだけど如何したのかな?」

 

「―――ん。ああ、いや、王者との試合が組まれた事に関しては昨夜ご本人から通信で散々自慢されたもんだからちょっとね」

 

一応嘘ではない

 

ライザーから「レーティングゲームの絶対王者と戦える事が光栄」だとか「勝てぬまでも最後まで喰らい付いて不死鳥としての矜持を冥界に魅せ付けたい」だとか「ついでにお前よりも有名になってやる」だとか延々と3時間くらいは聴かされたからな

 

それを伝えると祐斗も苦笑いだ

 

「それは・・・大変だったね」

 

「お兄様がご迷惑をお掛け致しましたわ・・・」

 

途中で部屋に入って来たレイヴェルが事態を収束させてくれなかったら恐らくあと2時間は終わらなかったんじゃないだろうか?

 

しかし、俺が気にしているのはそこでは無い

 

原作通りならライザー戦ではディハウザーとの戦いでライザーとレイヴェル、ついでに王者も一緒に試合中に行方不明になっている

 

真相としては王者が試合で故意に不正行為をしてアジュカ・ベルゼブブと接触をするのとフェニックスである二人の力を解析して出回ってる偽物のフェニックスの涙を無力化してリゼヴィムの持つ切り札の一つを失わせる為であった

 

その辺りの事情を考えると今回の試合は黙って素知らぬふりをしているのが効率的だし、そもそも本当に起こると決まっている訳でもない

 

ついでに言えば俺が介入出来る要素が無いと言うのも有る

 

「でもライザー・・・さんはこの間戦った時はまだ新規の『僧侶』の枠が決まって無かったみたいだけど、それは如何するんだ?ひょっとして新しい人を見つけたとか?」

 

イッセーがライザーの眷属の『僧侶』枠が空いたままなのを気にして新しい人員を補充出来たのかと質問するがレイヴェルは首を横に振って否定する

 

「いいえ、お兄様は今回はメンバーを一人欠いた状態で試合に挑む事になりますわね。幾ら相手があのディハウザー様とはいえ、上級悪魔にとって自身の眷属選びは大切なものですから、決まらなかったならそれは仕方のない事と言えますわ・・・私が一時的にお兄様の眷属に復帰するという案も出たのですが、今の私は『D×D』の一員ですから身内と言えどもそういう理由で拘束されるのは対外的にも心象が悪く成り兼ねませんので」

 

「あ~、完全にライザーさんの眷属に復帰するってんなら兎も角、一時的なんて言えばちょっとアレかもな。悪魔社会だけならトレードはやる人は結構やってるみたいだけど俺達『D×D』は他の勢力の人達の目も有るんだもんなぁ・・・てかそもそも試合直前のトレードって『D×D』の事を抜きに考えても流石に無理が有るんじゃ?」

 

イッセーの疑問に答えたのは優雅に紅茶を飲んでいた祐斗だ

 

「うん。確かに試合直前のトレードは基本的には禁止されているね。だけど勿論いくつかの条件をクリアすればそれは可能だよ。試合相手の合意やレートがかなり離れている場合とかが挙げられるかな。それでもやっぱりかなり特殊な事情でも無ければ認められないね」

 

そう。今の会話の通りに今回はレイヴェルが正式に『D×D』メンバーの一員という事や禁術ブッパ戦法でぶっちゃけライザーよりも高火力砲台へと変貌しているのも有って一時眷属復帰の案こそ有れどお流れになったようだ

 

それを聞いて内心ホッとしている自分も居るのだが高確率でライザーの復帰戦が悪い意味で潰れてしまうというのはモヤモヤする

 

昔は原作に関わるのはかなり受け身な姿勢だったし、当時の俺なら『仕方ない』で済ませていたのだろうが大分俺も絆されてしまったようだ

 

正直言って良い気分はしない

 

上手い事状況を好転させて進める策とか思いつかないし、原作知識なんてアドバンテージを活用しきれていない自分にイライラする・・・このイライラはリゼヴィムにぶつけて晴らすとしよう

 

誰も文句は言わんだろうしな!

 

内心でリゼヴィムに若い衝動(暴力)をぶつけようと考えていると部室にアザゼル先生にロスヴァイセさんにリアス先輩と朱乃先輩。ソーナ先輩とシトリー眷属というこの学園における裏のメンバーが勢ぞろいで入室してきた。全員が固めの表情をしている事からあまり良くない事だと皆も察して先程までの空気と一変して引き締まったものとなる

 

近くの空教室で選挙の事について話していたゼノヴィアとイリナさんも呼び戻し(桐生さんは少しの間外して貰った)、アザゼル先生が重ために口を開く

 

「さて、新学期早々で悪いんだが良くないニュースともっと良くないニュースが有る。どっちから聴きたい?」

 

「普通そこは良いニュースと悪いニュースの二択じゃないんですか!?俺達の選べる選択肢にマイナス要素しか揃ってないじゃないですか!」

 

思わずツッコんでしまった。ヒデェよその選択肢は!

 

『上げて落とす』でも『落として上げる』でもなくて『落として堕とす』じゃん!

 

流石『堕』天使の元総督は格が違った

 

「おいなんだその目は?俺の所為じゃねぇんだから俺に文句を言うなよ・・・まぁいい。取り敢えず軽めの方から伝えるぞ。去年の終わりの方で教会の主に戦士たちがクーデターを起こした。理由は同盟を結んだ関係で戦士たちの戦うべき相手が居なくなったからだな。今までならその場で罰する事が出来ていた俺達異形の犯罪者相手でもおいそれとその場で消滅させる事が出来なくなった・・・引き渡した後でキチンと罰せられるならまだ良いが金や権力で抜け道を通っちまうヤツらが居るのも事実だ。特に戦いに人生を捧げてきた戦士達が不満を爆発させるのも無理はない」

 

あ~、『はぐれ』とかなら前々から即殺ルールだったけど『はぐれ』認定されない悪魔=腐った貴族悪魔ならその場で罰するのも難しい上に適当に釈放とか在り得そうだよな

 

教会の戦士からしてみればその場で粛清したいのも頷ける・・・最も教会の戦士とかも昔のゼノヴィアやイリナさんを見れば過激な人達が多いだろうから天使以外の異形の存在というだけでサーチ&デストロイする人達とかもそれなりに居るだろうし、割とどっちもどっちなんだけどな

 

「クーデター自体は殆ど収束し、大半の戦士は既に捕らえられているんだが首謀者とも云える大物3人は未だに逃走中でな。残った戦士達もその3人と共に行動しているんだよ」

 

アザゼル先生の説明にソーナ先輩がその大物について詳しい情報を追加で説明してくれる

 

「その大物とは司教枢機卿(すうききょう)であるテオドロ・レグレンツィ猊下(げいか)、司祭枢機卿であるヴァスコ・ストラーダ猊下、そして助祭枢機卿であるエヴァルド・クリスタルディ猊下です―――カトリックにおいてトップの教皇に連なる2,3,4番目の地位にある方々が反旗を翻した形ですね」

 

2,3,4番手の役職が揃ってクーデターとか教会側の意見が如何に統一されてなかったのかが良く分かる構図だよな・・・一応理由は予想が付くけど

 

「三大勢力の和平はコカビエルの起こした事件をきっかけにして『これ以上は待てない』って感じで急遽話が進んだ処が有りますからね。ミカエルさんなんかは本当ならもっと教会側の意識改革をしてから和平に挑みたかったんでしょうが、強引に和平を纏めた弊害が出てきた感じですか」

 

結論。コカビエルが悪い

 

「まっ、そうだな。特に天界側は新たな天使が生まれない関係上どうしても慎重を期して下界の者達との接触も最低限になる。ミカエルも相当に苦労しただろうよ」

 

神の子を見張る者(グリゴリ)なんかはアザゼル先生がカリスマオーラを配下の方々に直当て纏める事が出来たのに対して教会側は『なんか神託が下りました』だもんな。ミカエルさんの威光(カリスマ)もフィルター越しじゃ届き難かったか

 

「ストラーダ猊下にクリスタルディ先生か・・・」

 

ゼノヴィアが複雑そうな表情でボソリと呟く

 

「知ってるのか?ゼノヴィア」

 

「当然だろう。教会出の戦士でそのお二人に世話になっていない者など居ないと言っても良いくらいだ。それになにしろストラーダ猊下はデュランダルの前任者なのだからな」

 

ゼノヴィアの主武装であるデュランダルの前任者という身近な情報を聞いて皆も驚いた様を見せるがそこにアザゼル先生も追加で口を開く

 

「デュランダルの初代の使い手である英雄ローランに並ぶとも超えたとも言われている者でな。戦士教育機関の必要性を説き、教会の戦士達の質を向上させた実績も持つ」

 

「・・・ストラーダ猊下は御年87歳になられるわ」

 

「87!?爺じゃん!?」

 

最後にイリナさんが付け加えた情報にイッセーが思わずツッコむがその心境を否定したのはデュランダル現所持者のゼノヴィアだ

 

「年齢の事は忘れた方が良い。ストラーダ猊下は生ける伝説だ。未だに肉体は衰えていないぞ」

 

「ゼ、ゼノヴィア先輩。87歳で肉体が衰えて無いってその人は人間なんですよね?それとも天界とそこまで敵対していない人外のハーフだったりクオーターだったりとかですか?」

 

ギャスパーが87歳で衰え知らずと聞いて純粋な人間なのか如何かを疑い始めたようだ

 

ギャスパー自身も人間と吸血鬼のハーフだからこそ出てきた意見なのだろうが、当時の教会なら赤ん坊のギャスパーが目の前に居たら『アーメン』の一言と共に首チョンパしてたんだろうな

 

「いや、ストラーダ猊下は人間だ。特別な生まれという話も聞いた事は無い」

 

「確か御使い(ブレイブ・セイント)ではラファエル様とウリエル様が『A』候補としてスカウトされたって聞いたわ。どちらもお断りになられたみたいだけど―――人の身で死にたい、と」

 

人の身のままでも寿命一万年とかにもなりますよ?―――野暮だから言わんけど

 

「なんにせよあの若造が老体となった今でも衰え知らずなら鬼のように強いぞ。コカビエルが聖剣に強い興味を持った切っ掛けがヴァスコ・ストラーダにボコボコにされたからだからな」

 

逆に良く生き延びたな。コカビエルのヤツ

 

「私としてはクリスタルディ先生とは戦いたくないわ。私達の世代の戦士で先生の教えを受けていない人なんて居ないもの。それにバチカンに行く度にエクスカリバーの指導をして貰ったのよね―――確かクリスタルディ先生って最前線で活躍している頃は3本のエクスカリバーを同時に扱ったって聞いたけど・・・」

 

「ああ、クリスタルディは当時の神の子を見張る者(グリゴリ)でも話題の逸材だったぞ。所持していたのは3本だったが理論上、奴ならば全てのエクスカリバーを扱えたとされていた・・・最も、当時はエクスカリバーはバラバラな上に一つは行方不明だったからな」

 

確か支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)だっけ?行方不明だったのは・・・もしもクリスタルディがジークフリートのように6刀流が出来たりしてたなら6本全部のエクスカリバーを扱っていたのかな?

 

「最後のテオドロ・レグレンツィについては歴代でも最年少で今の地位に就いたって事以外はまるで資料が無い。アーシア、ゼノヴィア、イリナ。お前らはどうだ?」

 

話を振られた教会トリオは難しい顔で頭を横に振るばかりだった

 

「私も今のお三方の中ではレグレンツィ猊下とだけはお会いした事は無いんです・・・教会の中でも噂ばかりで直接その御姿を見たというのは聞いた事がありません」

 

「右に同じく」

 

「私も天使に転生した後でもお会いした事はないわ。多分だけどシスター・グリゼルダも一緒なんじゃないかしら?」

 

「そうか・・・ミカエルの『A』となったイリナでも姿も知らないとは相当だな。だがまぁ兎に角その教会でも大物3名が戦士達を連れて姿を消している訳だ。それでソイツ等の行先ってのが恐らく此処。駒王町って推察されている。この町は三大勢力の和平の始まりの地だからな。バチカンで異を唱えるのと同じ位の影響力は有るだろう」

 

教会の戦士と重鎮たちに狙われているのがこの地及び俺達なのだと聞いて皆の表情が固くなるがアザゼル先生は安心させるように軽く笑う

 

「心配すんな。お前らが考えてるような血生臭い事にはならんさ。クーデターとは言ったが今の処は一人の死者も出ていない。実質少し過激なデモ程度だ・・・いや、今回の一件はその程度で終わらせなければならない事なんだ。死人が出たらそれこそ歯止めが利かなくなっちまうかも知れんからな。そしてそれは向こう側も分かっているはずだ」

 

アザゼル先生はそこまで言うと今度は真面目な表情となって俺達を見渡す

 

「特に今回の一件の最後の一押しをしたのはリゼヴィムの野郎が教会側を煽ったのが原因らしいからな。争いの規模が大きくなればクリフォトが間違いなく介入してくるだろう。注意を払うべきなのは寧ろそっちと云える」

 

「ッツ!またアイツですか!!」

 

イッセーを筆頭に皆が不快感を顕わにするけど態々教会側を煽ってもリゼヴィムにとってトライヘキサ復活には直接は何にも関与しないよな?きっと天界の時みたいに『ついで』とかそんな感じの理由なのだろう。クーデターが起こったのが去年の年末辺りと云う事はリゼヴィムがまだ魔王の息子ムーヴする直前だったんだろうし

 

「ああ、アイツは他人をイラつかせる事に関しては天才だからな。『扇動の鬼才』なんて言われてた頃も有ったよ。無駄に力も権力も有るもんだからアイツの幼稚な言動も無視出来ないものに昇華しちまってるからな」

 

「教会側の問題は把握しましたけど、それならもう一つの方の良くないニュースって云うのはなんなんですか?」

 

ぶっちゃけリゼヴィムの事とかどうでも良いので身に覚えのないもう一つのニュースとやらを訊く

 

「―――それか。実は冥府の神、ハーデスに仕えていた死神達の一部がクリフォトと合流した」

 

「『!!?』」

 

皆が一様に絶句している。あの世界平和(笑)を目指すハーデスの配下の死神が何故・・・

 

「離反したのは元々のいけ好かないハーデスに仕えていた死神共でな。今の可笑しn・・・優しい骸骨神様を見限ったり、もしくは元のハーデスに戻そうと考えてるような連中らしい。まっ、冥府の方は俺達三大勢力なんかとは比べ物にならないレベルで強引に政策が変わったからな。こうなるのも仕方ないとも言えるさ」

 

ああ、確かに上司が明らかに洗脳された状態だからな。そりゃ離反者も出るか

 

「んで、そのハーデスの下を去った死神共が目指す標的も当然―――」

 

駒王町(ここ)という訳ね」

 

アザゼル先生のセリフをリアス先輩が引き継ぐが当の本人は後頭部をガリガリと掻いている

 

「あ~、狙いが駒王町(ここ)ってのは間違っちゃいねぇんだが、正確には死神達の第一目標はイッキ、お前だよ」

 

ファ!?

 

「なんで俺なんですか!?」

 

「なんでってそりゃあお前があの神々へのリスペクト精神の欠片も無い『善神・ハーデス爆誕事件』を企画したんだって情報は流れちまってるからな。改変前のハーデスに忠誠誓ってた奴らにとっちゃお前が一番ぶっ殺したい相手って訳だ。こうして話してる今でもきっと何処かで数百を超える死神(グリム・リッパー)共が丹念に己の鎌を研ぎあげてると思うぜ?」

 

くあぁぁぁ!マジか!強引に政策を変更しなければならなくて、そのしわ寄せが今来てるとかミカエルさんの気持ちが少しだけ分かった気がするぞ

 

あとアザゼル先生、死神達がこぞって鎌を研いでるとかその表現要ります!?

 

「だ、大丈夫か?イッキ?」

 

頭を抱える俺にイッセーが心配して声を掛けてくれる

 

「ああ・・・次から相手の尊厳を破壊するような手段を取る時はもっと念入りに根回しして不穏分子を封殺出来るようにする事を心掛けるわ・・・」

 

「・・・うん。心配した俺がバカだったな!」

 

「はは、イッキ君は更に容赦なく相手を叩き潰す方向で考えてるんだね」

 

「さ、流石はイッキ先輩ですぅ。ナチュラルに思考が外道で圧制者のそれですぅ!」

 

うるせぇぞ、オカ研男子共!

 

「まっ、知っての通りこの町の防備は堅い。死神共が直近でここを襲う機会が在るとすれば例の教会の戦士とのいざこざに紛れてって形になるだろう。絶対にそうだとは言わんが、各自気を付けて過ごしてくれ」

 

「『はい!』」

 

そうしてその日の部活はそのまま終わりという事で全員で下校していくのだった

 

 

 

 

 

翌日、お昼休みに弁当を食べてから俺達は校内の中庭に来ていて、白音やレイヴェル達一年生組とも合流していた

 

合流自体は示し合わせたものじゃないけど目的は一緒だ

 

俺達の目線の先ではイリナさんと桐生さんがとあるポスターを配っている

 

「皆さ~ん。次期生徒会長候補のゼノヴィアの主張を纏めた記事ですよ~!」

 

「清き一票をお願いしま~す!」

 

二人が配っているポスターにはゼノヴィアが聖母マリアを意識した格好で祈りを捧げている姿が映っている。まぁゼノヴィアが、と云うか教会トリオが敬虔なクリスチャンだという情報はそれなりに知られている事みたいなのでそこまで変には思われてないようだ・・・と云うかゼノヴィア自身が美少女だからかポスターそのものが目当てっぽい生徒がチラホラと見受けられるな

 

まぁファンだと云うのなら選挙本番でもゼノヴィアに票を入れるだろうからアレで良いのか?

 

そこに自分の名前の入ったタスキを身に付けたゼノヴィアがマイク片手に現れた。足元には拡張機も置いて在るな

 

「えー、こんにちは、駒王学園の皆。このたび、生徒会長に立候補した二年のゼノヴィアだ。是非とも私の話を聴いて欲しい。私が生徒会長に当選した暁には―――」

 

ゼノヴィアが道行く人々に声を掛け、それを聞いて多くの生徒が足を止めている

 

「へぇ、ゼノヴィアの奴、敬語は無しで素のままの自分で行くつもりか」

 

「良いんじゃないか?只管礼節を押し出していくスタイルだとソーナ先輩と被るし、その下で働いてた花戒さん相手に勝てないだろう」

 

そうは言ってもまだゼノヴィアとしては固い感じが残ってるけどな

 

「・・・選挙活動直前の感じでは現状、6対4でゼノヴィア先輩が不利ですね。とはいえほぼ互角ですし、此処からどう巻き返していくのかが注目されるところです」

 

「ゼノヴィア様は生徒会長になると決める以前より校内で困っている生徒に手を差し伸べていますので、とても人気が高いですわね。ボーイッシュな性格に惹かれてか特に一年生の女子達の間ではゼノヴィア先輩の人気がずば抜けて高いそうですの」

 

レイヴェルの説明を証明するかのようにゼノヴィアの周囲には一年生の女生徒が群がってキラキラした瞳を向けてるな。少ないけど時折「ゼノヴィアお姉様~♡」なんて声も混じってるし

 

―――成程。あれが固定票ってやつか

 

「ぜ、ゼノヴィア先輩が当選するように僕たちも出来るだけお手伝いはしていきたいですぅ」

 

ギャスパーも男女問わず人気が高いからギャスパーファンが釣られたりするかもね

 

「・・・そう言えばゼノヴィアは男装は止めたんだな」

 

「台無しです。イッキ先輩・・・その光景も少し見てみたい気はしますけど」

 

それからもう一人の生徒会長候補の花戒さんもやってきてゼノヴィアとお互いに闘志を燃やしながら握手したり、副会長候補のサジが男子学生たちに揉みくちゃにされたりしていた

 

 

 

 

放課後、今日は悪魔の活動の予約が入ってなかったらしいので隣町の老舗のたい焼き屋まで寄ってたい焼きを食べる事になった

 

緊急での呼び出しの可能性は十分在るけど基本的に眷属のほぼ全員が住んでる家も近いから特に問題にはならないらしい

 

「私はたい焼きはあんこ以外は邪道だと思うの」

 

「ですが、カスタードも美味しいですわよ」

 

「元は小麦粉とお砂糖とタマゴのシンプルなものです。だからこそ、大抵の甘い物は合いますよ」

 

今はリアス先輩とレイヴェルに白音が持論を展開している

 

日本的な文化を重要視しているリアス先輩に洋菓子的な風味を好むレイヴェルに美味けりゃ何でもいい白音って感じか

 

だがたい焼き屋を目指して住宅街を抜けようとしたところで明確に俺達に向けてプレッシャーが発せられた

 

「『ッツ!!?』」

 

プレッシャーを感じ取った皆が一斉に身構えて円陣を組むように周囲を警戒する

 

「今のは?殺気や敵意みたいなのは感じなかったけど・・・」

 

おお~。イッセーも害意の感じ分けが出来るようになったんだな。和平前にヴァーリが挨拶に来た時は俺がすぐ傍で殺気を出してたのにも気づいて無かったのに

 

俺がイッセーの成長に関心していると道の先に一瞬で近づいて来た気配が在った

 

それに続くように数十人規模の気配も俺達を囲むようにジリジリと近づいているな

 

他の気配は今すぐ姿を現す感じは無かったので堂々と現れた気配に白音と一緒に目をやるとイッセー達の視線もそちらに向く

 

「Buon giorno 悪魔の子らよ」

 

イタリア語で挨拶してきたのは白髪頭で祭服を着た老人だ

 

老人とは思えないくらいに鍛えこまれた肉体をしている

 

背も高いし、あれほどのマッスルボディはミルたん以外には見た事がない

 

腕も足も巨木の幹のようで特別な力無しでも胸板の分厚さだけで銃弾を跳ね返せるんじゃないかと思えるくらいだ

 

「私はヴァチカンから来たヴァスコ・ストラーダと云う者だ」

 

皆は目の前に居るのがクーデターの首謀者の一人と聞いて一層緊張度を跳ね上げたのだった

 




次回からバトルバトルしていきますかね


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第五話 ケンカと、挑戦状です!

昨日気分が乗らないと書いたらなんか逆に筆が乗りました。自分の思考回路が自分でも解らんww


[イッセー side]

 

 

俺達の目の前に突如として皺くちゃの顔と不釣り合い過ぎる瑞々しく太い筋肉に全身を覆われた老人が現れた。てかヴァスコ・ストラーダって昨日聴いたばかりの名だぞ!

 

クーデターの首謀者自らが単身で俺達の前に現れたってのか!?なんて豪胆さだ!

 

身構える俺達を静かに見据えるその老人からは異様なプレッシャーがヒシヒシと漂って来ている。それなのに当の老人は特に何かを言うでもなく、此方に歩いて来るでもない

 

最初の挨拶以降は黙ってこっちを見ているだけだ

 

相手はただ一人。その上普通の人間でしかも87の爺さんだって云うのに異様な圧力を前にして動けない!しかもなんだ?俺達の周囲に圧し掛かるプレッシャーだけど決して俺達に向けられたものじゃない。直ぐ隣に居たリアスと木場になんとか視線を送るが二人もこの圧力の中で息切れを起こしているようだ―――かく言う俺も既に汗でびっしゃりだぜ。まだまだ新年明けたばっかりの寒空だぞ。これまで短期間の内に何度も死線を潜って来た俺達がこの有様かよ!

 

すると巨漢の爺さんはやっとその口を開いた。それと同時にプレッシャーも霧散する

 

「Bravo その若さで良くぞそこまで練り上げたものだ」

 

なんの事だ?正直俺達は動く事すらままならなかったんだが・・・?

 

疑問に思っていると返事をしたのはイッキだ

 

「いえ、俺もこういうやり取りは初めてで勉強になりましたよ。ただ、これ以上は友人たちに悪いですしね」

 

「ハッハッハ!私もこの手の戦いは異形を相手取っていると中々機会が無くてね。少し年甲斐も無くはしゃいでしまったようだ」

 

やり取り?戦い?何の事だ?

 

「・・・ねぇイッキ。一体なんの話をしているのかしら?」

 

リアスも同じ事を思ったのか俺の・・・と云うか皆の心の声を代弁してくれた

 

「いえ、あのお爺さんがお茶目にも『抜き足』で俺達の背後を盗ろうとしていたのでこっちもやり返していたんですよ。相手と自分。双方の波長を意識してフェイント合戦してたんですが100手を超えても埒が明きそうにないので止めました」

 

『抜き足』ってイッキが新しく覚えたって言うあのトンデモ技術だよな!?あの爺さんも同じ事をしてたってか!?そうか、二人の極度の集中力に挟まれてたから重圧こそ感じながらも直接意識を向けられてる感じがしなかったのか

 

・・・以前。アザゼル先生が最強の人間候補の一人にイッキを挙げていた。あれからイッキ自身もさっきの『抜き足』とかも含めてかなり技量を上げてたはずだ

 

今のイッキは【一刀修羅】とか無しで考えても人間では最強クラスのはずで目の前に居る爺さんも同じく人間最強クラス・・・業を極めて異形の存在と渡り合う人間。その最高峰同士のぶつかり合いがこんなにも静かなものだとは思わなかったぜ

 

クソッ!自分の実力不足が身に染みるな

 

内心歯噛みしているとデュランダルの前任者という爺さんはゼノヴィアに声を掛けた

 

「戦士ゼノヴィアよ。悪魔になったそうだな?」

 

「・・・お久し振りです。猊下」

 

ゼノヴィアはさっきまでの俺達よりもよっぽど酷く顔中に脂汗を滲ませてなんとか返事をする。お世話になった大恩有る恩師が敵方として目の前に立っている。その心境は今の俺には計り知れない

 

「これを渡しに来たのだ」

 

そう言うと懐から封筒を取り出し、リアスの前に歩いて近づくとその封筒を差し出した

 

「―――こ、これは?」

 

先程の緊張が抜けきってないのかリアスの声も固いままだ

 

「挑戦状だ。私達は貴殿らに挑戦状を叩きつけようと思う」

 

その大胆極まりない宣言と行動に俺達は驚愕と呆気に取られる

 

おいおい!この爺さんは首謀者の一人で中枢を担う程の人物なんだろう!?普通は伝令役に任せるとかするもんなんじゃないのか!?

 

「冗談ではないわ!貴方程の地位に居るならトライヘキサの事も知っているのでしょう?今、この時期にこんなものを叩きつけるだなんて、幾ら何でも―――」

 

激昂したリアスが喰って掛かろうとすると爺さんはその野太い指を1本立ててリアスの眼前に突き出し、抗議を止めてしまう。そしてそのまま"チッチッチ"と指を左右に振る

 

「悪魔の姫君よ。若いな、若すぎる」

 

「ッツ!!」

 

その行為に我慢できなくなった俺は二人の間に無理矢理割り込んで目の前の爺さんを睨みつける

 

「これ以上は許さないぜ。例えアンタが何者であってもな!」

 

すると爺さんは一瞬キョトンとした顔になったかと思えば破顔するように笑って豪快に俺の頭を撫でた。掌だけで俺の頭がすっぽりと収まってしまうくらいだ

 

「いい目だ。悪魔の少年よ」

 

頭に血が昇っていた俺は馬鹿にされたと感じてその手を振り払うと目の前に居たはずの爺さんは一瞬でかなり遠くまで移動してしまっていた

 

目の前で睨みつけてたんだぞ?それなのに音も気配も感じさせずに移動したってのか?

 

全く、本当にこの爺さんは少なくとも体術に限定すればイッキ並みの出鱈目具合らしいな。少なくとも今の俺にはどっちが上とか感じ取れない位の領域にあるらしい

 

移動した先でその爺さんは後ろに目を向ける

 

「ではレグレンツィ猊下。宣言をお願い致します」

 

爺さんが一歩退いた場所に枢機卿という最高峰の祭服を着た爺さんと似た意匠の祭服を身に纏った11~12歳くらいの見た目の少年が現れた

 

「―――貴方が、テオドロ・レグレンツィ?」

 

「そうだ。私がテオドロ・レグレンツィだ」

 

ミカエルさん達天使を別にすれば教会でナンバー2の地位に居るのがこれほど幼い子供だとは思わず、ついリアスも疑問形で質問をしてしまったようだが問われた本人は即座に頷いて返した

 

マジかよ!どんな特殊な事情が有ればあれほどの年齢でそれだけの地位に就けるってんだ?

 

疑問を余所にその少年は僅かに声を震わせながらも強い瞳でその意気をよく響く声で告げる

 

「私は、エクソシストの権利と主張を守る!例えそなた達が『良き悪魔』であろうと、罰せねばならない『悪しき悪魔』や吸血鬼も居るのだ!それらを断罪する権利を一方的に取り上げるなどと云うのは、例え主やミカエル様の意思であったとしても、納得出来ない!その意思に反してでも、納得する訳にはいかないのだ!」

 

魂からの叫びだ。決して幼さから周囲に担がれて言わされているんじゃないと伝わって来る宣言だった。そしてその子供の、されど誠実な主張に反応して俺達の周囲の建物の影から一斉に教会の戦士達が取り囲んだ。ざっと見ただけでも100人は居るんじゃないか?

 

彼ら一人一人から強い意思を感じる

 

全く―――町から少し離れただけでコレだもんな。駒王町は魔境なんて言われているみたいだけど、『D×D』に所属していると駒王町も他の町も大差ないように思えてくるぜ

 

一触即発。俺達と彼らのぶつかり合いは目前に迫っているようだな

 

 

[イッセー side out]

 

 

 

ヴァスコ・ストラーダと機先を制し続けるバトルが終わってから少年枢機卿であるテオドロ・レグレンツィが教会の戦士達を代表とした宣言をした

 

それを受けて此方側の皆が戦意とオーラを高める

 

いや、皆この場所はまだ住宅街だからね?それに相手の戦士達も戦意こそ有りつつもまだ誰も武器を手に取って無いじゃん・・・抜刀一歩手前は結構居るけど

 

一応既に向こう側が人避けの結界を張ってるみたいだけどさ

 

そんな中でヴァスコ・ストラーダはゼノヴィアに語り掛ける

 

「戦士ゼノヴィアよ。デュランダルは使いこなせているかね?」

 

「ッツ!行きます!!」

 

その一言が切っ掛けになったのかデュランダルに聖なるオーラを纏わせて突貫するゼノヴィア

 

ゼノヴィアさ~ん!?幾ら何でも猪突猛進過ぎますよ!?知っていてもつい二度見しちゃうくらいに後先考えない突貫だぜ!

 

「言葉よりも行動か―――デュランダルの使い手はそうでなくては!」

 

ダメだ。あの爺さんも大概ぶっ飛んでやがる

 

スゲェ嬉しそうな表情してやがるぞ!

 

だがエクス・デュランダルを上段から振り下ろした一撃は彼の指一本で止められてしまった

 

「まだまだのようだ」

 

「ええ、まだです!」

 

残念とばかりに首を横に振るヴァスコ・ストラーダだが斬撃を指一本で止められる事に慣れている(・・・・・)ゼノヴィアは固まる事無く瞬時にデュランダルの刀身を僅かに弾き腕の内側に刃を滑り込ませてそのまま顔面を真っ二つにする軌道で斬撃を繋げる

 

「おっと、これは少し危ないな」

 

だがそれも反対側の手が瞬時に割り込んで刀身を捕まえてしまう

 

「成程。デュランダルの方は兎も角、戦士としては思った以上に成長しているようだ」

 

後半こそ褒められているものの一番大事なデュランダル使いとしての部分はそうでは無いと言われたゼノヴィアが歯ぎしりしながらその場から一歩退く

 

「ゼノヴィア!―――猊下!失礼を承知で参ります!」

 

ゼノヴィアと入れ替わるようにイリナさんが天使の翼を展開し、オートクレールをその手に握りながら斬り掛かるが、その前に一瞬でイリナさんとストラーダさんの間に割り込んだ影がイリナさんのオートクレールの一撃を受け止める

 

「クリスタルディ先生!」

 

「戦士イリナよ。例え強敵相手でも、視野を狭めてはいけないな」

 

恩師の姿に狼狽するイリナさんに軽く説教をしながら力の乗り切っていなかったオートクレールを弾いてイリナさんの体ごと後方に押しやった

 

「元エクスカリバーの使い手!」

 

更に入れ替わって突貫したのは聖魔剣を握った祐斗だ

 

ああ、もう!剣士組は突貫しないと気が済まないのか!?

 

ほんっと見ててヒヤヒヤするなぁ!

 

聖魔剣を手にした剣で受け止めた彼は祐斗のその聖と魔の入り混じった剣を見て得心がいったかのような表情を浮かべた

 

「聖魔剣。教会に配られているものとは一線を画しているな。成程、お前が聖剣計画の生き残りか。だが、こうして見ると歪だな。キミは聖魔剣の力を正しく引き出せていないようだ」

 

「なにをッ!!」

 

バカにされたと思ったのか祐斗が激しく剣戟の嵐を繰り出すが元エクスカリバーの使い手は同じく高速の斬撃で対応してしまう

 

「キミもだ、聖魔剣使い。あの計画の生き残りであるキミが私に思う処が有るのは分かるが、剣士ならば魂を燃やしつつも頭は冷静さを保たねばならない」

 

斬撃の中で何時もより強く踏み込んだ祐斗の足を彼は"スパン"と同じ足で払って体勢が崩れたところに上段からの打ち下ろしをみまい、片膝を付きながらも聖魔剣で受け止めた祐斗はそのまま足元にクレーターが出来る程の破壊力を前に倒れてしまう

 

ダメージを無視して素早くその場から跳び退いたが、それでもその一歩が見逃されたものだと祐斗も解っている事だろう

 

とても祐斗らしくない凡ミスだ

 

それにしても歪か・・・確かに今の祐斗は『力が噛み合っていない』。けれど直接それを指摘しても意味は無いんだよな。打開策こそ有るものの、今の聖魔剣では無理だ

 

彼もそれが分かっているからこそ、曖昧な言い方で止めたんだろうしな

 

そして祐斗が叩き伏せられた姿を見た為にいよいよ他のメンバーも動き出そうとした辺りでヴァスコ・ストラーダが片手を上げて静止の合図を出す

 

「勘違いしないで欲しい。私達は戦争をしに来たのではない。最後の訴えをしに来たのだよ。それだけは分かって欲しい」

 

彼が揚げた手を横に薙ぐと周囲を取り囲んでいた戦士達も去っていった

 

「―――なら。お互い矛を収めた方が良さそうね」

 

代表としてリアス先輩も同じく皆に戦意を解くようにハンドサインを送る

 

それを確認し、この場に残っていた三人の枢機卿たちは身を翻してその場を去る

 

「―――近いうちに再びまみえよう。若き戦士達よ」

 

その一言を言い残して姿を消した彼らの居た場所を見つめて軽くあしらわれた剣士組はそれぞれ苦い表情を浮かべていた

 

 

 

 

 

教会のクーデター組から挑戦状を叩き付けられてから数時間後、イッセーの家のVIPルームにはこの地で活動している『D×D』のメンバーが招集されていた

 

この場に居ないのは『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』のメンバーくらいだ。彼らは他の仕事の途中で今回の会議には不参加となるので後で事後報告がなされる手筈となっている

 

そして俺達は今、立体映像の通信でミカエルさんと話しているところだ

 

≪申し訳ありません。立て続けに天界側の事件に巻き込んでしまって・・・≫

 

ミカエルさんがクーデターの一件とクリスマス直前の天界が攻め込まれた一件の事に対して謝ってきてるけど、今回の件は兎も角、リゼヴィムと邪龍に天界が攻め込まれた事はミカエルさんが謝るところとかまるで無いと思うんだけどな

 

≪彼らが望んでいるのは『D×D』との試合です。和平の始まりの地である駒王町で和平の象徴でもあるあなた方『D×D』に彼らは最後の思いの丈をぶつけたいのでしょう≫

 

ミカエルさんの言葉にシスター・グリゼルダさんが続いてクーデター組の動機を話す

 

「彼らはその殆どが悪魔や吸血鬼などと云った人外の存在に家族や友人などを殺められたり、人生を狂わされた者ばかりです。余り健全とは言えませんが、復讐を心の根底に置いて戦ってきた者も少なくありません」

 

「復讐・・・ですか・・・」

 

イッセーが複雑そうな声を出すとグリゼルダさんは諭すように、且つ戦士達も擁護出来るように続きを話す

 

「ええ、勿論悲劇を最小にする為に戦ってきた者も多いですが、私は怒りなどの感情が必ずしも悪いものだとは言いません。何故なら大切な者を傷つけられて怒るという事はそれだけその者達を愛していたからとも言えますから―――程度の問題ではありますがね。私の場合は下手をすれば堕天してしまうので気を付けなければいけませんが」

 

≪ふふふ、グリゼルダ。貴女のように柔軟に愛を説ける者ならば『Q』の座も安泰ですね。負の感情と云うのは頭から否定するだけでは冷たい人間になってしまいます。受け止めた上で包み込む事が肝要なのですよ≫

 

おお、流石天使長様は心が広くていらっしゃる

 

≪ですが当然。初めから全員がそれで納得出来るはずもありません。彼らを過酷な最前線で戦わせておいて、いきなり『戦うな』ですからね。その上、主の不在も隠したままで・・・彼らに『横暴だ』と言われても反論出来ません―――間違った判断をしたとまでは思いませんが、それでももう少し上手くやれたのでは?と、埒も無い事を考えてはしまいますね≫

 

ミカエルさんが困ったような笑顔を浮かべる。組織のトップでなくとも『上司』という肩書を持つ人なら大小は有れど万国共通の悩みなんだろうな

 

「ったく、俺達のような組織のトップに立つ奴ってのは大概何時もその事で頭を悩ますもんだろうが。それかミカエル。お前さんも俺みたいにトップの座を降りてみるか?」

 

≪ふふふ、遠慮しておきますよ。大体今の貴方を見ているとトップを降りた程度ではそう変わらないように思えますがね。大事な会議には何時も出席しているのですから≫

 

「・・・それを言うなよ。一応これでも書類仕事は減ったんだぜ?」

 

アザゼル先生の揶揄いにミカエルさんのカウンターが決まって逆に先生の方が肩を落とした

 

ついこの間もぬらりひょんや日本の神々とかも含めた会談をしたばっかりだもんな

 

少なくとも『特別技術顧問』という役職の人のやるこっちゃないわな

 

≪話を戻しますが、今回の一件は元々は我々天界、及び教会側から出てきた問題です。此処は我々の力をもって・・・≫

 

「待て、ミカエル。お前は動くな」

 

ミカエルさんが一組織のトップとして厳正な審判を下そうと口にしかけたのを先生は遮った

 

「ミカエル。お前は天界の象徴であるべきだ。唯一神である聖書の神が居なくなった今では特にな。此処で厳しい判断を下すのも正しい事だと俺も思う。だが、今回の一件が巻き起こった経緯を考えれば無理矢理押さえつければ必ず禍根が残る。しかし今ならケンカという範疇で事を治める事も出来るはずだ。違うか?」

 

≪・・・ですが、『D×D』の皆さんにはそれこそ『D×D』結成前から負担を掛け続けてしまっています。此処で身内の争いまで彼らに押し付けてしまうと言うのは―――≫

 

ミカエルさんが俺達への負担を懸念するがアザゼル先生は冗談めかした雰囲気でこちらに話題を振って来る

 

「―――と、天使長様は仰られている訳だが、お前らは如何だ?今回の一件、手を退くか、請け負うのか」

 

その二択にリアス先輩はジト目になってアザゼル先生を睨んだ

 

「アザゼル・・・分かって言ってるでしょう?―――ミカエル様。今は少しでも早く盤石の態勢で足並みを揃えるべき時です。何よりも彼らに直接挑戦状を叩き付けられた以上、真正面から受けて立ってこそだと思っております」

 

相変わらずリアス先輩って基本は熱血系なんだよな。そしてそこにイリナさんも自分の思いの丈を吐露する

 

「ミカエル様。私は和平後にはミカエル様の『A』という名誉ある生き方を提示されました。ですがもしも一戦士のままであったなら、もしかしたら教会の戦士達に紛れてゼノヴィアに憤りをぶつけていたかも知れません。彼らの気持ちを、想いを受け止められるなら、そうしたいです!」

 

もしもイリナさんがミカエルさんの『A』じゃなかったら・・・か

 

コカビエルの事件の後で理由も分からず悪魔になったゼノヴィアに『裏切り者』と言い残して別れて、和平会談は『神の不在』を知っている事が前提だからイリナさんは出席せず

 

その後出会う機会は無く、扱っていたエクスカリバーも残り全部が統合された上でゼノヴィアが振るう事になり、事件に巻き込まれるグレモリー眷属として新聞で情報を追う事に

 

そして和平の象徴とされる『D×D』の一員となってクリスマスの天界の危機には教会の戦士の自分ではなく、偶々天界に居合わせた悪魔の彼女がまた戦う・・・と

 

そりゃあ『D×D』と、延いてはゼノヴィアと直接ケンカ出来る機会が訪れればクーデターの一員になるくらいはするかもな

 

憎しみとかじゃなくて憤りを親友であるゼノヴィアにぶつけるって感じで

 

「ほら、若い奴らはやる気だぞ?それに俺は如何にも気になっているのさ。あのストラーダとクリスタルディがただ単に周囲の奴らに担がれて今回のような事件を起こすのかってよ。今回の一件にはなにか裏が有るんじゃないかってな。それはお前さんの方が感じてる事なんじゃないのか?」

 

≪確かに、二人とも幼い頃から知っている二人です。彼らは敬虔な神の信徒であり、頭の回転も早く指導力にも長けている。きっと回りくどいようで真っ直ぐな想いを胸に抱いているのではないかと思っています≫

 

「ならばやはり、今回の挑戦状は『D×D』が受けるべきだろう。それぐらいの信頼はお前も持ってるんじゃないのか?」

 

≪・・・ええ、そうですね≫

 

一度視線を切ったミカエルさんは再び俺達を見渡す

 

≪最後に、テオドロ・レグレンツィですが、彼はとても純度の高い『奇跡の子』です。それ故にあの年齢であの地位に抜擢された経緯があります≫

 

「奇跡の子?」

 

「イッセーさん。天使様と人間さんの間にお生まれになった方の事ですよ」

 

イッセーが疑問符を頭の上に浮かべたのでアーシアさんが説明する

 

要は天使と人間のハーフなのだが特殊な結界を張った上で愛情以外の感情を排して子作りしないといけない為、ハイパー過ぎる難易度を誇っている

 

当然色欲が一定値を超えたら堕天する為、いろんな意味で狭すぎる門だろう

 

少なくとも俺なら即堕天する。何時も黒歌達と色欲フィーバーしてますが、なにか?

 

黒歌達と一線超えるまでの間に何度悟りを開きかけたか分からないくらいには厳しい事だってのは身をもって知ってるさ

 

いや、エロエロな誘惑をしてくる黒歌と比べたらいかんのかも知れんけどさ

 

≪そう言えば例の部屋はちゃんと使っていますか?意外と期待しているのですよ?≫

 

すると天使との子供という話題が出たからかミカエルさんがイッセーとイリナさんに視線を送って天使長がするとは思えない質問をする

 

問われた当の二人は思いっきり咽ていた。それが治まってくると顔を真っ赤にしたイリナさんが上司の質問に答えるべく叫んだ

 

「じ、時間の問題です!クリスマス以降はイッセー君の事を実はダーリンって呼んだりしてますので、これはもう確定です!」

 

「確定ってなにが!?」

 

≪そうですか、それは結構≫

 

イリナさんの答えを聴いたミカエルさんが満足そうに頷いている

 

イッセーの声は聞こえて無かったようだ

 

「まっ、そういう訳でな。何時も貧乏くじを引かせて悪いが、今回もお前らの力を借りたい。天界と教会の尻拭いってやつだな」

 

アザゼル先生が締め括ってミカエルさんが俺達に頭を下げる

 

こうして俺達『D×D』はこの件に関わる事が決定した

 

因みに今回の決闘ではコカビエル戦と和平会談に直接関わった者としてオカ研部員とシトリー眷属、この地を管理し、同盟に賛成している教会の者としてイリナさんにデュリオさん。グリゼルダさんと天界から『御使い(ブレイブ・セイント)』のメンバーを何名か派遣するそうだ

 

サイラオーグさんとシーグヴァイラさんは御堅い頭の貴族悪魔が教会のイザコザに協力する訳はないだろうと云う事とそれ以上に冥界を守護する二人までも招集するのは対クリフォトの観点からも不味いという事で状況だけ伝えて待機して貰う事になった

 

・・・欠片も信用されてない貴族悪魔共よ

 

黒歌は「私はコカビエルも会談の時も家でゴロゴロしてただけだし、今回は裏方に回るにゃん」と言って裏方要員になったのだが面倒だっただけじゃ?と思わなくもない

 

いや、死神が狙ってる情報も有るんだしそんな事は無いか

 

黒歌以外にはルフェイとフェンリル、『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』のメンバーが裏方要員だ

 

ヴァーリはチームメンバーは兎も角、ヴァーリは参戦したらやり過ぎてしまうのではないかと心配されたが、幸いと言うべきか修行及びアグレアスの行方を追う事に専念したいそうなので却下だ

 

その代わり最強のエクスカリバー使いとデュランダル使いという肩書に釣られてヴァーリチームからは唯一アーサーが参戦している

 

一応彼なら事前にちゃんとガチの殺し合いは禁止と云えば従ってくれるだろうから問題無い・・・コレがヴァーリだったら楽しくなってきたら事前の約束ぶっちぎって『とことん殺り合おう!』とか言い出しかねないからな

 

その後、スケジュールを調整し、決闘の日程は三日後となった



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第六話 決闘、直前です!

教会の戦士達との決闘は三日後に決定した訳だがこの世界は兎角イベント事に事欠かない

 

翌日にイッセーの家に突然とあるVIPがやって来るとの事で待ち構えていたのだが、転移魔法陣から現れたのは小っちゃいぬいぐるみみたいな赤いドラゴンだ

 

アーシアさんの使い魔のラッセーより少し大きい程度だが洗練されたオーラの流れだ

 

その小型ドラゴンを見てイッセーが嬉しそうに名前を呼ぶ

 

「タンニーンのおっさん!お客っておっさんの事だったのか!」

 

「久しぶりだな。兵藤一誠。直接顔を合わせるのはサイラオーグ・バアルとの試合の時以来か」

 

そう言えば試合前のホテルで激励に来てくれてたんだっけか

 

その時もホテルに15m級のドラゴンは大き過ぎるからぬいぐるみ仕様だったな

 

思い返しているとリアス先輩が一歩前に出る

 

「お久し振りです。タンニーン様。本日は如何いったご用向きで来られたのでしょうか?」

 

「うむ。実はお前たちに頼みたい事が有ってな―――俺の領地に暮らしているドラゴンは大半が平穏を求めて流れてきた者達なのだが、その内の一種族に『虹龍(スペクター・ドラゴン)』という希少種が居てな、それが此度タマゴを生んだのだ」

 

話しと言うのは単純でそのドラゴンのタマゴが孵るまでの間、この地の地下に置いて欲しいとの事だった。何でも冥界の空気とそのタマゴは相性が悪いらしく、冥界に置いておくと高確率で腐ってしまうとの事だ。裏のルートで販売すればアホみたいな金額になるようでクリフォト辺りに狙われる可能性も十分に在る為、防備の整った駒王町の中でも一番戦力が集中しているこの場所に置きたいという理由らしい

 

「分かりました。私共の方でも出来るだけ見守らせて頂きますわ。孵化の兆候が見えたらご連絡させて頂きます」

 

「すまんな。助かる」

 

タンニーンさんが引き受けてくれたリアス先輩にお礼を言うと連絡用魔法陣でそのタマゴを持ってくるように通信先に伝える。すると程無く転移魔法陣が再び輝きだし、そこから現れたのは邪龍筆頭格であるクロウ・クルワッハだ。両腕で抱えるように七色が入り混じったタマゴを持っている

 

流石にドラゴンのタマゴというだけあってか一抱えくらいの大きさはあるようだ

 

だが皆は希少で美しいタマゴよりもその運び手にこそ驚いたようで一瞬で身構えた

 

しかしそこにタンニーンさんが小さな翼をパタつかせながら割り込む

 

「待ってくれ。驚かせて済まないが、この者は今は俺の食客でな。敵対しないでくれると有難い」

 

「なっ!?食客って、コイツはあのクロウ・クルワッハなんですよ!?」

 

正気か!?―――とでも言いた気なイッセーにタンニーンさんも苦笑気味だ。一応常識外れな事をしているという自覚は有るのだろう

 

「分かっているさ。だが同じドラゴン同士、少し思う処があってな。それにクロウ・クルワッハは邪龍ではあるがグレンデルのような粗暴な輩とは違って話の通じる相手だ。無暗に暴れないようにと約束も取り付けてある」

 

「俺は今タンニーンに衣食住などを世話になってるからな。その義理を果たしているに過ぎない」

 

皆が口元を引きつらせるか"イヤイヤ"とばかりに首を横に振るかしているのも気にせず、クロウ・クルワッハは丁度この場に来ていたオーフィスに視線が固定される

 

そして抱えていたタマゴを静かに床に降ろすとバナナ片手のオーフィスに向かってファイティングポーズを取った

 

「オーフィスか。俺と闘え」

 

最強の龍神(弱体化)と最強の邪龍の様子を見て他の皆の緊張具合が一気に加速する

 

しかしオーフィスはバナナを食べるのを止めてクロウ・クルワッハをジッと見つめると口を開く

 

「我、ケンカしないようにこの家の者達と約束してる。無理」

 

「そう・・・なのか?ならば如何いった手順を踏めば可能となる?」

 

「知らない」

 

「そう・・・か」

 

速攻で断られたクロウ・クルワッハはそのまま大人しく引き下がって足元に置いた『虹龍(スペクター・ドラゴン)』のタマゴを再び抱え上げるとまた黙ってしまう

 

オーフィスはオーフィスでドラゴンのタマゴに興味が惹かれたのかクロウ・クルワッハの抱えるタマゴを手の平で"ぺしぺし"と叩いている

 

そんな最強の称号を持つドラゴン二体の会合風景を見て皆も変な表情をしているな

 

「なんて言うか、『ドラゴンはマイペース』なんて言われる理由がこの光景を見てると理解出来るような気がするよな」

 

独特の雰囲気を前に素直に感想を述べる・・・なんと言うか、二人とも素直なんだよね

 

「いや、でもドライグもアルビオンもここまでじゃ無いと思うぞ?」

 

確かに、ドライグもアルビオンも人間臭い感じでしっかりと会話が成り立つよな

 

「・・・二天龍は昔から歴代所有者と共に人間側の視点から世界を見てきているので、その影響じゃないでしょうか?」

 

『そうだな。俺もアルビオンも今の所有者と巡り合うまでは余り会話もしてこなかったが、それでも人間に宿るという神器の特性上、人に近い視点で多くを見てきたつもりだ。自分ではよく分からんが、多少感化されるくらいはしているかも知れんな』

 

白音の推測に当のドライグ本人がそれを肯定する

 

成程、確かにドライグとアルビオンはある意味で人間の文化を一番近くで見てきたドラゴンかもな

 

サジに宿るヴリトラなんかは最近まで意識は無かった訳だし、他のドラゴン系統の神器がどんな感じかは知らないけど常に力を引き寄せる二天龍に比べたらそれこそ覚醒もしないまま次代の持ち主に移行するとかも普通に在り得そうだ

 

「そしてそれはクロウ・クルワッハにも言える事だ。ヤツは人間界を見過ぎた者の目をしている。二天龍のように間近で接してきた訳では無いだろうが、それでも人間の世界は我々のような異形の存在と比べると移り変わりが激しい。如何に強力なドラゴンとて、様々な知識、価値観に触れ続ければ多少の様変わり程度はするという事だ」

 

俺はタンニーンさんの言葉を聴きながらタマゴを抱えたままのクロウ・クルワッハを見る

 

実際クロウ・クルワッハは邪龍で戦いを楽しむ為ならテロリストに力を貸したりもするけど、アポプスやアジ・ダハーカのように戦闘こそを全てに優先させている感じはしない

 

恐らくはこの辺りがタンニーンさんの言う変化なのだろう

 

クリフォト側に付いた他の邪龍達は基本滅ぼされていた邪龍達ばかりだから世界の移り変わりを眺める機会なんて当然なかった訳だしな

 

なればこそ、提案くらいはしてみるのも一興か

 

「なぁクロウ・クルワッハ。オーフィスの代わり・・・と言うのは烏滸がましいが、俺と模擬戦してみる気は無いか?」

 

「『なっ!?』」

 

「ほう?」

 

皆の驚愕の声とクロウ・クルワッハの面白気な声が重なる

 

「お前!何考えてんだよ、イッキ!?」

 

「なにって・・・修行の模擬戦相手をクロウ・クルワッハが務めてくれたら捗るだろうなぁってさ。流石にガチバトルしたら死ぬしかないし、模擬戦でも良いって言ってくれるならめっけもんだろ?断られたらそこまでだし、提案するだけならタダだからな」

 

そう返すとイッセーは天を仰いでしまった

 

「そうだった。お前って普段慎重な癖して時々アホみたいに大胆になるんだよな・・・オーフィスの服装にダメ出しした時とか、他にも幾つか」

 

大丈夫、大丈夫。グレートレッド以外誰も勝てないとされていたオーフィスの服装全否定した時よりは多分マシだよ

 

「それで如何だろうか、クロウ・クルワッハ。さっきも言ったように今の俺じゃお前には勝てないけど、俺を鍛えてくれたなら将来の楽しみが増えるんじゃないか?」

 

俺の知り得る限りでの原作知識では最終決戦が終わってから世界大会みたいなのが始まるってところで終わっていたけど、まさかそのまま国際大会を滞りなく進ませて終了なんて事はないだろう

 

異世界と云う盛大な伏線も張られてた訳だしな

 

もうすぐ俺の原作知識というアドバンテージが無くなる以上、これまで以上に基礎力を向上させて未来に備える必要が出て来る・・・と云うかよくよく考えたら天界でファーブニル逆鱗モードが発動していない時点で今更か?う~ん。後で差異から来る変化を予測しておかないとな

 

ともあれ、イッセーが夏休みにタンニーンさんに追い回されてたように格上の強者、それも強大なドラゴン相手なら共振効果みたいな感じに俺の素のオーラも引き上げられる可能性は高い

 

「クッ、クハハハハハ!邪龍の俺に人間を鍛えろと言うか。しかも俺が楽しむ布石として!永らく生きているが、そのような馬鹿げた話をされたのは初めてだ!!」

 

それなりにツボに入ったようで凄い笑っている

 

ドデカいタマゴを抱えたままってのがシュールだが・・・

 

「一応此方がお願いする立場だからな。戦いを司るドラゴンなんて称されるアンタ相手なら、やっぱり対価は戦いが良いのかなってさ」

 

さぁて、コレで条件を呑んでくれたらベストなんだけどな

 

「ふん、俺は他者を鍛えた事などないからな。最初にお前が言ったように模擬戦という形にはなるだろう。後は勝手に強くなるがいい」

 

おし!好感触な反応だ

 

内心ガッツポーズしていると「だが」と続けられた

 

「模擬戦ではお前の目的とも被っている故に対価とするには少し弱い。お前は他に俺にどんな対価(たたかい)を差し出せる?」

 

え~、クロウ・クルワッハってこんな事云うヤツなんだ・・・意外とがめつい

 

そんな俺の心境が伝わったのかクロウ・クルワッハは薄く笑う

 

「ドラゴンとは(おの)が宝に執着する者だ。下手に暴れるつもりは無いが、目の前に(たたかい)が転がっていれば手を伸ばす程度はする」

 

戦いはお宝ですか。そうですか・・・

 

「なら、こういうのは如何だ?」

 

俺は仙術で空気を操ってクロウ・クルワッハにのみ声が届くように調節して報酬の話をする

 

「・・・成程、存分に戦いたければ勝ち取ってみせろと言うのだな?」

 

「ああ、その時が来たなら真正面から闘ってやるよ」

 

「ああ、愉しみに待とう」

 

俺がガチバトル宣言をすると目の前の邪龍さんは凶悪な笑みを浮かべた

 

良し!格好つけてるようでその実、保身に走った二次案で納得してくれた!

 

この邪龍さんと何の保険もなしにガチバトルするしかないってんならそもそもの提案自体を却下しないといけないところだったぞ

 

今のところ俺達の間でも噂程度という扱いになっている未来の国際レーティングゲーム

 

その場で相対する機会が在るならちゃんと戦うという約束だ

 

今の段階ではトップの間でもちゃんと決まっているか分からないが、俺はちゃんとその大会が開かれる可能性が高いという事を知っている

 

神々も戦う事を想定した頑丈なレーティングゲームのフィールドに『リタイア転送機能』他、各種安全策を張ってあるフィールドでならクロウ・クルワッハ相手でも死にはしないだろう

 

あの大会の詳細までは知らないけど多くの神々まで参戦する以上は悪魔のレーティングゲームよりも特に『死』に関しては安全策が練られていると思う

 

なにせ神が死んだらマジで一大事だからな

 

最強邪龍との模擬戦の権利を獲得しつつ、対価の戦いとやらは国際ルールに守られながら支払ってやるよ!―――は?チキン?なんとでも言えば良いさ

 

フッ、勝ったな(何に?)

 

謎の優越感と達成感に浸っているとタンニーンさんが近づいてきた

 

「話は付いたようだな。クロウ・クルワッハは暫くは俺の領地でドラゴンを見て回るそうだ。模擬戦などの都合の調整は連絡用の魔法陣を渡しておくのでそれで付けてくれ・・・それとクロウ・クルワッハ。もしも有間一輝が対価の話を持ち出したが故に戦いの話を白紙に戻そうとしていたら、如何していたのだ?」

 

「―――その時は対価は要らんから俺と闘えと言うまでだ」

 

「え゛っ」

 

なにそれ!?なんの為に対価の話持ち出したんだよ、このドラゴン!?

 

『クックックックック!有間一輝。クロウ・クルワッハとどんな契約を交わしたのかは知らんが、覚えておけ。ドラゴンは何処までも我が道を往くような奴らばかりだ。特に強力なドラゴン程、そういう奴が多い。価値観の違いから来る『ズレ』で痛い目を見る者は居るものだぞ?』

 

ドライグの忠告を聴いてチラッと視線がアーシアさんの方へ向く

 

・・・成程。グレモリー家が用意した財宝を払えば良いとされていたアーシアさんもファーブニルの変態性によって公衆の面前でパンツを晒されたり、クッキングされたりしてるもんな

 

大丈夫だ俺。確かにガックリときたけど、下には下が居るものだ

 

実際、俺は一応当初の予定の範囲には納まってる訳だしな

 

「イ、イッキさん!?なんで私を見て納得したように頷いているんですかぁっ!?」

 

「・・・いや、アーシアさん。何も他意はないですよ?」

 

「絶対嘘ですぅぅぅ!」

 

純情ガールのアーシアさんに嘘を看破された!?そんな馬鹿な!!(すっ呆け)

 

その後、『虹龍(スペクター・ドラゴン)』のタマゴを駒王町のとある地下空間に設置し、『D×D』のメンバーが交代制でタマゴを見守る事となった

 

一応『D×D』もそれなりに数は居るし、どうしても都合がつかない時間帯が出来るようなら駒王町のスタッフがその地下空間周辺の警備を強化するそうだ

 

「イッキ」

 

「はい?」

 

タマゴを設置してタンニーンさんとクロウ・クルワッハを見送り、イッセーの家まで戻ってきたらリアス先輩に呼び止められた・・・あの?随分と迫力のある笑顔ですね?

 

「正座」

 

「はい」

 

速攻で正座をする俺。あれは逆らってはいけない種類の笑顔だった。間違いない

 

「イッキ先輩。突拍子もない提案(邪龍との模擬戦)をするのは構いませんが、せめて私達に先に意思確認くらいはして下さい」

 

「あっ、はい」

 

そうして俺は暫くの間リアス先輩の有難い説教を受ける事になるのだった

 

 

 

 

 

教会の戦士達との決闘を明日に控えた今日、何時ものように放課後に部室に集まっている

 

クロウ・クルワッハとの模擬戦だが、元々クロウ・クルワッハ自身の目的がタンニーンさんの領地のドラゴン達を見ていたいというものだったし、決戦が目前に迫っている事もあってまだ一度も戦ってないんだよな

 

今は生徒会選挙の意見を別の教室で出し合っているゼノヴィア達も小休止及び俺達の意見も軽く聴きたいとして部室に来ているところだ

 

桐生さんも客人枠でソファーに座ってクッキーを食べている

 

「やっぱりここは普通の生徒会長とは一味違う!って言うのを一目で分かるように派手なパフォーマンスが必要だと思うのよ!ゼノヴィアが剣を持って壇上で巻き藁をスパッと一太刀!これで皆の視線は釘付けよ!」

 

今はイリナさんが皆にドヤ顔で素晴らしき意見を提案なさってくれているところだ

 

俺達オカルト研究部は生徒会選挙ではやっぱり仲間であるゼノヴィアを応援してるから意見を求められれば協力はする

 

彼女達もあくまでも自分達で進めているというスタイルだしね

 

・・・ただ、なんでか時々眩暈がするんだよ

 

「取り敢えずイリナさん。日本には銃刀法というものが存在していてだな・・・」

 

例えパフォーマンスだろうと刀剣類の扱いは未成年には認められないよ?細かい事まで言い出せばもっと色々規約が在るが、此処では言わないけどさ

 

「つーか、生徒会長に関係ねぇだろ、それ!」

 

解説とツッコミでイリナさんの意見をダブルで否定しているとレイヴェルの淹れた紅茶に頬を綻ばせていた桐生さんが"うんうん"と頷く

 

「いや~、やっぱ有間君や兵藤が居ると私の仕事(ツッコミ)が減って良いわ~。これでこそ休憩よね」

 

うちの聖剣コンビが済みません。教会の教えに一般常識の科目はまだ無いみたいなんです

 

すると桐生さんが丁度思い出したとばかりにイッセーに詰め寄った

 

「あ、そうそう!兵藤。例のアレ、見させてもらったわよ」

 

「な、なんだよ?アレって?」

 

イッセーは瞬時に思い至らなかったのか頭の上に疑問符を浮かべる

 

「なにって決まってるじゃない。あんた達のレーティングゲームとやらの試合映像よ」

 

「あ、あ~、そう言えばそんな事言ってたっけな」

 

「そうそう、有間君の提案でね。家で選挙に使えそうなネタをノートに書きだし終わった時に息抜きついでにゼノヴィアっちを喚び出して一緒に視たのよ。ゼノヴィアっちが還る時にノートも渡せるしね。ノートは次の日に学校で返して貰えれば良いし」

 

そりゃ何とも合理的な事で

 

「いや~、凄かったわよ。空中から剣を出したり魔法放ったり、アンタは赤い鎧着こんで殴り合ってたり、アレなら確かに世界の命運くらい懸けて戦ってたりするのかもねぇ」

 

桐生さんからしてみれば正しく別次元の戦いだったろうな

 

かなり楽しそうに試合について語っている

 

「う~ん。でもやっぱり注目すべきはゼノヴィアっちやロスヴァイセちゃんのエチエチ衣装とかストリップショーとかよねぇ」

 

・・・うん。別次元だろうがなんだろうが着目する場所は変わってないみたいだな

 

「後は白音ちゃんのナイスバディモードとかね♪あの豊満に成長したおっぱいで有間君に迫ったりしてるんじゃないの?」

 

「・・・なんで分かったんですか?」

 

答える必要ないですよ白音さん!普通に肯定しちゃってるじゃないですか!

 

「いや、なんでもなにも有間君の膝の上を陣取ってる姿を見せておいて今更じゃない?一応表立っては有間君の彼女は白音ちゃんのお姉さんって事になってるけど、その体勢じゃあね。一緒に住んでるレイヴェルちゃんもそうなんでしょ?クラスメイトにハーレム男が二人も揃ってるとか今時の日本じゃそれだけでもファンタジーの世界よ」

 

・・・そう言えば白音は毎度の如く俺の膝の上に座っているな

 

俺達にとって部室の中における日常の一コマになってたから桐生さんが来てもそのままだった

 

もっとも桐生さんは俺が脱童貞した事はエロススカウターでその場で看破してたし、俺の家(一応正確には有間家と塔城家のハウスシェア)に丁度女の子が3人住んでる事は松田や元浜とかの話からも分かってたはずだから殆ど確信してたんだろうけど

 

「くうぅぅぅ!ちっちゃい白音ちゃんもおっきい白音ちゃんも両方堪能出来るとか今すぐお前をぶん殴りたくなるぞ、イッキィィィ!!」

 

そんな歯ぎしりして悔しがるなよイッセー

 

「成人した悪魔は魔力で外見年齢を好きに変えられるんだから数年後にでもリアス先輩にでもちっちゃくなって貰えば良いじゃねぇか」

 

「そうか!その手が在ったか!!サーゼクス様に見せてもらったアルバムでしか知らないリアスの小さい頃の姿を直接この目で見られるのか!!」

 

イッセー・・・お前何歳くらいのリアス先輩を想像してるんだ?

 

まぁ今のイッセーはイヤらしい顔というより、だらしない感じの顔だから大丈夫か

 

―――まるでサーゼクスさん(シスコン)のような顔だよ

 

「そんな!ただでさえリアスお姉様に一歩遅れてるのに新しい方面から攻められたら更に差が開いてしまいますぅ!朱乃さんも対抗するでしょうし―――い、一体如何すれば良いんでしょうか?」

 

「いや待てアーシア。忘れ勝ちだが年上美人属性のロスヴァイセ先生はリアス元部長と朱乃元副部長より歳は一つ上だ。一番最初に我々が警戒すべきなのは銀髪幼女なのかも知れんぞ」

 

ゼノヴィア・・・今この場にロスヴァイセさんが居なくて良かったな。流石にお叱り受けてたと思うぞ。その後ロスヴァイセさんが妄想の海(イッセーの抱っこ)に沈みそうだけどね

 

「そ、そうよね!ロスヴァイセ先生も最近ダーリンへの視線が熱を帯びて来てるし、十分あり得る話しよね」

 

「うむ。やはり此処は子作りで先手を打つしかないだろう。イッセーにチヤホヤされるのも一度は体験してみたいものだが、やはり子作りに勝るものは無いはずだ―――アーシア、イリナ。明日は丁度決戦だ。イッセーの士気を上げるという口実で例の子作り部屋で待ち構えるぞ。なに、適当にイッセーに寝る前に飲み物を飲ませておけば寝た後でも然程時間は掛からずトイレへ立つだろう。そこを仕留めるぞ!」

 

「はい!」

 

「ええ!」

 

ゼノヴィアの提案にアーシアさんとイリナさんは力強い目で返事を返す

 

「ゼノヴィアあああああああ!本人の目の前で隠す気ゼロの作戦会議とか止めてくれよ!大体最後の仕留めるってなんだ!ムードのムの字も無ぇじゃねぇか!!」

 

なんと言うか、イッセーもこういう処は苦労してるよな

 

 

 

 

決闘を前した俺達の日常はこうして普通に過ぎていくのだった

 

 

 

 

 

 

決戦当日。俺達『D×D』のメンバーや今回応援にやってきた『御使い(ブレイブ・セイント)』の皆さんは既にイッセーの家の地下転移の間に集合している

 

四大セラフから各三名ほど出してイリナさんやグリゼルダさんを含めて10名程だな

 

駒王町に居るのが『D×D』の中心メンバーという扱いを受けているところは有るが、『御使い(ブレイブ・セイント)』の皆さんも普通に『D×D』所属だし、幾らクーデター組が駒王町のメンバーに挑戦状を叩き付けたと言っても天界側が一つの戦力も出さないと言うのは問題だからね

 

とは言え基本は無用な被害が出ないようにサポートや防衛をメインにして貰う予定のようだ

 

全員が集まったのを確認したアザゼル先生が一歩前に出て声を掛ける

 

「いいか、今回のは教会の戦士達とのケンカだ。戦う場所はそこの転移陣の先にレーティングゲームのフィールドの技術の応用で駒王町を再現してある。範囲は直系10km。クーデター組も同じくこちらの用意した転移魔法陣で深夜零時と同時に転移する予定となっている」

 

「なんつぅか。よく向こうもその案に乗りましたね?転移先が罠とか牢獄とかだったりとかは考えなかったんでしょうか?」

 

アザゼル先生の説明にサジが疑問を呈すが先生は苦笑して返す

 

「当然考えただろう。俺も考えた。だが却下した。その理由は・・・イッセー、分かるか?」

 

「これが『ケンカ』だからですね?」

 

「そうだ。ケンカってのは小難しい事を抜きにして正面から堂々と相手の鼻っ柱に拳骨をぶち込む事に意義があるんだよ。禍根を絶つ為のケンカで禍根を残す戦いを演じるなんざ道化も良い所だからな。そしてそれは向こう側も解っている」

 

そう。相手がただの敵ならば潰せば良いが、今回の相手は『敵』である以上に『味方』なのだ

 

今回の俺達は相手の気持ちを汲む戦いをする事が先ず前提条件

 

「お前らにばかり貧乏くじを引かせて申し訳ないが如何か奴らに応えてやって欲しい。それと今回のクーデターだがやはり枢機卿3名の真意は別にあったようだ。教会、いや、同盟の未来を考えた・・・な。今はまだ言えんが、やる事は変わらん。全力でぶつかってやれ」

 

「今回用意したフィールドには対トライヘキサ用に開発した様々な術式も盛り込んでいます。普通のレーティングゲームのフィールドよりは頑丈に出来ているので多少派手に暴れても大丈夫です。今回の戦闘でもっと良いデータが採れればいいのですが・・・」

 

成程、データ収集の為に派手な技を使った方が・・・って、いやいや!今回の相手は基本人間なんですよ!フィールド崩壊級の技を打ち込んだから流石に死にません?

 

・・・やるとするならヴァスコ・ストラーダとエヴァルド・クリスタルディくらいか

 

「相手は中隊規模の部隊を二つに分けるそうです。片方はヴァスコ・ストラーダ率いる部隊。もう片方がエヴァルド・クリスタルディ率いる部隊ですね。それに合わせて此方も部隊を二つに分けます。私達シトリー眷属と『御使い(ブレイブ・セイント)』の皆さんがエヴァルド・クリスタルディ側を担当します。リアスのグレモリー眷属はヴァスコ・ストラーダ側を担当して下さい。有間君とレイヴェルさんも同様です」

 

あれ?サジって確かヴァスコ・ストラーダ側担当だった気がするんだけど違ったっけ?

 

・・・俺とレイヴェルが居るからか

 

「そしてヴァーリチームのアーサーさんには私達の側に付いて貰おうと思っています」

 

ソーナ先輩に編成を聴いたアーサーが何かを言う前に祐斗が割り込んで来た

 

「ソーナ前会長、僕もそちら側に付いても良いですか?」

 

その一言を聞いて祐斗と聖剣計画の事を知るメンバーは驚くと同時に納得した

 

もっとも、硬い表情にはなったが

 

「―――エクスカリバー、ですね?」

 

「はい。エヴァルド・クリスタルディは天然のエクスカリバーの真の適合者だと聞いています」

 

「確かに、当時のエクスカリバーはバラバラでしたが、彼ならば統合されたエクスカリバーも十全に扱えたであろうとされています」

 

ソーナ会長の答えにグリゼルダさんが補足説明をしてくれた

 

「そうですね。加えて教会の中でも唯一、教皇聖下から直接エクスカリバーのレプリカを賜っています。話では統合されたエクスカリバーのデータを元に再現したようです・・・最も、性能は本物のエクスカリバーに比べれば五分の一以下だそうですが―――ストラーダ猊下も同様にデュランダルのレプリカを賜っているそうです」

 

教会の二大巨頭がレプリカとは云え最強の聖剣を手にしていると聞き、皆の緊張の度合いが跳ねあがる。此処に居る大半は悪魔だから仕方ないんだろうけどね

 

「レプリカか・・・ストラーダ猊下とクリスタルディ先生が持つ以上は気休め程度にしかならないのだろうな」

 

「やらせて下さい。これは復讐ではありません。挑戦なんです!」

 

祐斗が真っ直ぐにソーナ先輩を見据えて頼むとアーサーが近づいて来た

 

「やらせて上げても良いのでは?剣士のこだわりは剣士でしか癒せません。代わりに私がグレモリー眷属側に付きましょう。エクスカリバーの使い手も魅力的ですが、『教会の暴力装置』、『天の許した暴挙』、『本当の悪魔』とまで言われたあのご老体の力の方が興味が惹かれるものですから・・・願わくば両方と戦いたいものですがね。今の彼が心配なら有間一輝もそちら側に付ければ戦力的には大きな違いも出ないでしょう」

 

アーサーが援護射撃をするが当の祐斗はその内容にハッキリと不機嫌顔だ

 

「・・・言ってくれるね。キミと僕だけじゃ力のつり合いが取れてないって聞こえるよ?」

 

「その通りですよ。ですが、勘違い無きように言っておきますが、キミの事を下に見ている訳ではありません。キミはまだ、自分の中に眠る可能性を引き出しきれてないだけです。全てが噛み合った時、キミは私の好敵手足り得る剣士となるでしょう」

 

アーサーさ~ん。決戦前でピリピリしてる祐斗をナチュラルにイラつかせるの止めてくれませんかねぇ!アーサー自身は素直に思った事を言っただけ何だろうけど『今のお前は戦うに値しない』って言われた祐斗が危ない目つきになってきてるから!

 

「ソーナ。祐斗をそっちに入れてあげて」

 

「良いのですか?」

 

「ええ、『剣士のこだわりは剣士にしか』・・・そう言うのが在る(・・)というのは一応分かってるつもりよ―――祐斗。今度こそエクスカリバーへの想いに決着を付けてらっしゃい」

 

リアス先輩の許可を得た祐斗はリアス先輩に片膝を付いた騎士の礼を取った

 

「有難う御座います。我が主」

 

それを見届けたソーナ先輩は今度は俺に問うてくる

 

「有間君は如何しますか?ヴァスコ・ストラーダ氏もエヴァルド・クリスタルディ氏も最大戦力でこそありますが、本気のつぶし合いを望んでいる訳ではないようですし、ここは有間君の意見を尊重しても良いのですが」

 

最強のデュランダル使いと最強のエクスカリバー使いの何方と戦いたいかですか

 

「何方かと訊かれたならエクスカリバーですかね。先日ストラーダさんとは十分闘り合ったので、折角ならもう片方とも手合わせしておきたいです」

 

戦わずに済むなら家で黒歌達と一緒にコタツでミカンとか食ってたいけどね

 

黒歌も白音も猫だからかコタツに入ると気持ち良さそうに丸くなるから見ていて和むのだ

 

レイヴェルは今冬初めてコタツ文化に触れたから当初は『だらしない』とぷんすかしてたけど今では普通に潜り込んで来る・・・流石に寝そべってはいないみたいだけど、来年辺りにはレイヴェルもコタツの魔力に陥落すると俺は見ている

 

部隊の再編成も終わり、各々がリラックス出来る状態で30分程過ぎた頃、部屋に設置された巨大転移魔法陣が淡い光を放ち始めた

 

「時間だな。お前ら、祭り(ケンカ)の時間だ。一丁派手に暴れてこい!」

 

「『はい!』」

 

アザゼル先生の激励の下、全員が転移魔法陣に乗り込んだ

 

 

 

―――決闘(カーニバル)が始まる







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第七話 VS  エクスカリバーです!

[木場 side]

 

 

僕たちは指定の時間になり今回の決闘の為に用意された特別性のフィールド内に転移した

 

先にシトリー眷属と『御使い(ブレイブ・セイント)』に僕とイッキ君が転移し、すぐ後にリアス元部長やイッセー君達が座標をずらした別の場所に転移する仕組みのようだ。そして僕たちが転移した先は町はずれに在る今はもう使われていない廃教会。かつてイッセー君とイッキ君が入部して少し経った後でこの町に侵入していた堕天使レイナーレとその一派がアーシアさんの神器を抜き取ろうとしている事件が在った。その時の決戦の場がこの廃教会だ

 

この場でアーシアさんを無事に助け出してリアス元部長がアーシアさんを眷属にし、その後イッキ君が一部のはぐれエクソシストを筋肉の怪物(ミルキー)に引き渡し―――ミルキー、筋肉、そしてあの場で戦ったフリード・セルゼン・・・う゛っ!頭が!!

 

ガチガチに記憶に蓋をしたはずなのに幾つかのワードから連鎖的に『ナニカ』がフラッシュバックしそうになって思わず目つきが鋭くなってしまっていると『D×D』のリーダーであり天界の切り札(ジョーカー)でもあるデュリオさんが話しかけてきた

 

「木場きゅん。怖い顔してるみたいだけど大丈夫かい?」

 

心配気な声だ。今回の決闘は出来ればケンカの範疇で治めたいというアザゼル先生の言もある中、僕がやり過ぎてしまわないか今の僕を見て危惧してしまったのかも知れない

 

「大丈夫です。少し関係の無い事を考えてしまっていただけです。深くツッコまないで下さい。本気でお願いします」

 

「う、うん。分かったから一言ごとに顔を近づけるのは止めてよ。何も訊かないからさ」

 

ああ・・・道理でデュリオさんの顔がやけに近くに感じると思った

 

知らず知らずのうちに詰め寄ってしまっていたらしい

 

「でも如何やら勘違いのようで良かったよ。さっきも木場きゅんは怒気や殺気を放っている訳では無かったみたいだしね。キミが教会に対して(わだかま)りを持っているのは知ってるけど、今だけは我慢の時だからさ」

 

「―――剣を向けるべき相手くらいは弁えているつもりです」

 

いや、正直に言えば禁手化(バランス・ブレイク)を手に入れる前までの僕は結構危なかったんだけどね。イッセー君の家のアルバムにエクスカリバーとは関係ない聖剣の写真が目に入っただけで眷属の皆に迷惑も心配も掛けてしまったし、思い返すと情けない限りだ

 

実はこのフィールドに入る直前にもイッセー君にも「お前が死んでも代わりなんてしてやらない」って釘を刺されちゃったし、この前の時のように無謀な突貫はしないように心掛けなくちゃいけないや

 

するとデュリオさんは懐から二羽の折り紙で作った鶴を取り出して神器の力で空に飛ばす

 

クルクルと飛ぶその姿を目で追うとデュリオさんが静かに話し始めた

 

「この町の周辺にある教会施設の地下でさ、近々神器の解呪儀式が行われる予定なんだよ。神様の齎した神器は時に宿った相手と致命的に相性が悪い場合がある。足が速くなる神器で逆に立てなくなったり、目に関係する神器なら目が見えなくなったり、酷い場合だと全身に拒絶反応が出て衰弱死してしまうなんて事すらあるんだ」

 

その話は聞いた事がある

 

超常の神秘と人間の魂の融合は聖書の神ですら完璧に扱う事が出来ない領域なのか、それとも聖書の神が死んだ事で神器と奇跡を司る『システム』に悪影響が出ている事が問題なのか、はたまたその両方なのか

 

なんにせよ神器の先天的不適合者が今の世に生まれてしまう事が有るのは事実だ

 

「まだ完全な理論じゃないそうなんだけど、今回解呪の儀式を受ける子は二人居てね。一人はさっきも言ったように足に関係する神器を持っていて、それが原因で車椅子の生活をしてるんだ。足が治ったなら遊園地に行きたいって言ってたよ」

 

それは・・・なんとも普通で、だからこその尊い夢だろう

 

「―――もう一人の子の方が今は切羽詰まった状況でね。その子は悪魔と人間の間に生まれたみたいなんだけど、半分でも人間の血が入っている為に神器を宿しちゃったみたいなんだよね。そこはヴァーリきゅんと同じなんだけど、今はもうベッドから起き上がる事も喋る事すら難しい程に衰弱してしまってるんだ。それこそ、冥界一医療が充実してるっていうシトリー領が新薬を開発してなかったら去年の内に亡くなってしまっていただろうってお医者さんが言ってたよ。だから、今回の解呪儀式を受けないという選択肢は無かった」

 

そう言えばシトリー領で画期的な新薬が開発されて他の医療施設よりも頭二つ分は突き抜ける程の成果を出したと冥界のニュースでやっていた。しかし、悪魔と人間のハーフで冥界の医療施設に居る子供の事情を天使の彼が知っているのは何故だろうか?

 

「どうやらその子は『おっぱいドラゴン』とか『若手四天王(ルーキーズ・フォー)』よりも俺のファンだったみたいでね。その子の父親が冥界の政府経由で息子と会って欲しいって手紙をくれたんだよ。その時は目の前にある仕事を全力で片づけて何とか数日以内に会いに行けたのさ」

 

天使の彼のファンだと云う悪魔の子供。これもまた同盟から得られた一つの形なのかも知れない

 

「それからもちょくちょく会いに行ってるけど、何も変わらなかったよ。悪魔とか、人間とか関係ない。ただただ無邪気な子供の笑顔がそこにあった。退院出来たら一度、教会の施設も見て回ってみたいんだってさ―――だから俺はそんな子供たちの素朴な夢を守れるようになりたいんだ」

 

今まで宙を舞っていた二羽の折り鶴が彼の手元に戻る

 

片方の鶴は少々不格好な形をしているところを見るに恐らくその子供たちがデュリオさんの為に折ったものなのだろう

 

それを大事そうに懐にしまったデュリオさんが顔を上げる

 

「さぁ、お話はここまでだ。おっかない先生たちがやって来た」

 

その言葉と共に教会の正面から戦士の一団が堂々と入って来たのだった

 

 

[木場 side out]

 

 

 

教会の戦士達が既に視認できる距離から歩いてくる様子を見てるとソーナ先輩から声が掛かる

 

「有間君は今回は如何立ち回る予定でいますか?」

 

「そうですね。双方に死者が出ないように立ち回りつつ、エヴァルド・クリスタルディ氏と軽く手合わせをする程度でしょうか。多分デュリオさんも似たような感じで戦うと思いますよ。彼がその気になったら最初の一手で敵が全滅してしまいますしね」

 

そこまで一方的だともはやケンカとは呼べないだろう

 

禁手化(バランス・ブレイク)無しでもデュリオさんが遠慮ゼロで攻撃を放てばエヴァルド・クリスタルディ以外は一発で消し炭だ。神滅具(ロンギヌス)第二位の力は決して安くはない・・・クロウ・クルワッハは平然としてたけどアレは例外だ―――近々俺はその例外と模擬戦するんだよな。あっ、自分で提案しておいてちょっとお腹が痛くなってきた。ボコボコにされる未来しか見えない

 

「ええ、その方が良いでしょう。木場君はイリナさん達と違って悪い意味でエクスカリバーとの因縁が有りますから―――それを断ち切らせる為にもリアスは此方のチームに入って戦う事を許可した訳ですし、これはクーデター組にとってのケンカであると同時に木場君にとってのケンカでもありますからね」

 

祐斗にとってのケンカでもある・・・ね。確かにその通りだ

 

「さて、お話は此処までみたいですね」

 

戦士の皆さん全員が立ち止まった

 

双方のグループのリーダーであるデュリオさんとクリスタルディさんが先ずは言葉を交わす

 

「これは先生。お久し振りッスね」

 

「・・・この再会を喜ぶべきか、嘆くべきか。デュリオ、そして転生した『御使い(ブレイブ・セイント)』達よ。お前たちが未だに私の事を『師』と呼ぶのであれば、問答無用で我らの剣を受けてはくれまいか?」

 

飄々と挨拶したデュリオさんにクリスタルディさんは堅い表情を崩さない

 

「こっちも訊きたい事は山ほどあるんスけどね。そっちも後には退けないのかも知れないけれど、『人』として対話を最初から放棄しちゃあダメだと思うんスよ」

 

「天使となったお前が『人』として語るのか?」

 

元人間の彼から『人』と聴いたクリスタルディさんが皮肉気に口を歪め、対してデュリオさんは軽く肩を竦めるだけだ

 

「イヤ、実際天使と人間の違いなんて羽根と輪っかと光力くらいですよ?『対話』にゃ関係ない項目ばかりだと思いません?」

 

「ならば答えよう。語る事など何も無いと・・・それともこう言えばよいか?近々お前が足繁く通っている施設の子供たちが『悪魔的な儀式』を受けようとしている。それは既に罪深い事であり、辺獄にて罪を浄化してやる事こそが唯一の救いになると」

 

挑発の為だろうがデュリオさんの一番大切な想いを踏み荒らす発言をしたクリスタルディさんに飄々とした態度を崩さなかったデュリオさんの目つきが初めて鋭いものに変わる

 

「・・・例え冗談でも、それは俺の前で言っちゃいけないやつっスよ。先生」

 

あからさまな挑発だと分かっていても、それでも聞き流せなかった教え子に彼は逆に問う

 

「―――若いな。デュリオよ。教会最強と称されたお前は何の為にその力を振るう?」

 

「この手の届く限りのガキンチョ共の笑顔を守る。今も昔も、そしてこれからも、俺の戦う理由はそれだけで十分っスよ」

 

その儚くも尊い願いを聴いて教会の戦士達は少し顔が曇る

 

今は刃を向け合ってこそ居るものの、目指す先に違いなど無いのだから

 

「クリスタルディ先生。互いにもう言葉は無粋となりましょう」

 

「グリゼルダか・・・そうだな。元より我らはその為にこの場に集ったのだ」

 

エヴァルド・クリスタルディはその剣を天に掲げる

 

例えレプリカと云えども教会の戦士達にとって教皇より直接賜ったというその聖剣は彼らの士気を向上させ、その意思を研ぎ澄ませるのになんの不足も有りはしない

 

「皆の者!天より許された一戦だ!心に溜まった(おり)を今この場で全て吐き出せ!―――死んでも後悔するな。罪からくる報酬は、『死』なのだから!!」

 

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

 

彼の持つ剣の切っ先が此方に向かって振り下ろされるのと同時に戦士達が各々の武器を手に咆哮と共に突っ込んで来る

 

≪始まりましたね。先ずは遠距離攻撃を封じましょう。椿姫と翼は前に出て盾を展開。桃は二人をガードしなさい≫

 

耳に付けた通信機からソーナ先輩の指示が飛ぶ

 

リーダーこそデュリオさんだけどデュリオさん自身が前線に出る貴重な戦力だし戦術家としての能力だけを見るならこの場ではソーナ会長が一番なので指揮を預かっている感じだ

 

参謀総長とかそんなイメージだけどソーナ会長にはピッタリである

 

椿姫先輩の攻撃を吸収し、倍化して跳ね返す『追憶の鏡(ミラー・アリス)』の鏡と翼紗さんの『精霊と栄光の盾(トゥインクル・イージス)』の光の盾が敵の光銃などの遠距離攻撃を防ぎ、跳ね返す

 

その攻防の間に相手の近接戦組も彼我の距離を半分以下に縮めてきた

 

≪ならば此方も同じアタッカーで迎え撃ちましょう≫

 

それを聞いて草下さんを除いた残るシトリー眷属とイリナさんを含めた『御使い(ブレイブ・セイント)』の約半数。それに加えて俺と祐斗が突っ込む事になる

 

今は神器無しで素手での格闘戦だ。祐斗も聖魔剣の刃は潰してあるし、他のメンバーもある程度自分に制限を掛けた戦闘になる・・・向こうの戦士は刃引きとかしてないけど今の彼らが模造刀の類を持ってる訳無いからそこは仕方ない

 

他にも草下さんの『怪人達の仮面舞踏会(スカウティング・ペルソナ)』の仮面たちが上空からバラバラと捕縛陣などを付与したアイテムを落としたりしてるな・・・地雷を相手に直接投げつけるようなもんだがちゃんと発動してるみたいだし問題無いな

 

あ~、それにしても四方八方から色んな攻撃が襲い掛かって来るとか夏休みの京都を思い出すなぁ

 

過去に思いを馳せながらも一人ずつカウンター戦法で潰していると椿姫先輩の声が響く

 

「会長!条件が整いました!」

 

≪ええ、椿姫、至りなさい≫

 

「はい!禁手化(バランス・ブレイク)!! 」

 

ソーナ先輩の許可を得た椿姫先輩が神器のその先(・・・)の力を解放する

 

空中に三つの歪で不思議な模様で向こう側が見えない鏡が出現する

 

「お出でなさい。『帽子屋(マッド・ハッター)』、『冬眠鼠(ドーマウス)』、『三月兎(マーチ・ラビット)』!!」

 

その鏡の奥から椿姫先輩の呼び声に応えて三体の怪物が姿を現した

 

≪あれが椿姫の禁手(バランス・ブレイカー)、『望郷の茶会(ノスタルジア・マッド・ティー・パーティー)』です。通常の神器と少し違い、禁手化(バランス・ブレイク)するには『追憶の鏡(ミラー・アリス)』で一定回数の攻撃を跳ね返す必要が在ります≫

 

ふむ?なんでそんな制限が入ってるんだろうな?ひょっとして亜種の禁手化(バランス・ブレイク)で制限を掛ける事でその分強力な能力になってたりするのだろうか?

 

また今度アザゼル先生(神器オタク)にでも聞いてみようかな?

 

そんな事を考えてる間に三体の怪物は俺達近接戦組を飛び越えて後方に居た戦士達の元に突撃する

 

そして三体の内の一体であう巨大なネズミである『冬眠鼠(ドーマウス)』が口から煙を吐くとその煙に巻かれた戦士達は次々と昏睡していく

 

≪『冬眠鼠(ドーマウス)』の能力はその煙を浴びた者を強制的に眠らせます≫

 

次に服を着た二足歩行の兎が戦士たちの間をピョンピョンと飛び跳ねる

 

「うひゃあああああああああああっ!!」

 

「ゲハハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

三月兎(マーチ・ラビット)』が飛び跳ねた地面に波紋が広がり、その波紋に触れた者達が奇声を上げながら近くの味方にまで手当たり次第に攻撃を加え始めた

 

≪『三月兎(マーチ・ラビット)』の能力は波紋に触れた者の意識を狂暴化させます≫

 

ソーナ先輩の説明を聴きながら残る帽子を被った細身の魔物に目を向けると帽子の奥の眼が光ってその光を直視した者達が突然怯えたように目の前に我武者羅に攻撃を加え始める

 

≪『帽子屋(マッド・ハッター)』の能力は視線が合った相手に恐ろしい幻覚を見せます―――これら三つの能力を受ければどのような相手であっても戦いから除外出来ます。相手の戦力を削る方法はなにもパワーで無くともよいのです≫

 

ソーナ先輩の解説を聴いて少し離れた場所に居た祐斗が苦笑してる様子が見えた

 

祐斗自身は問題無いとしてグレモリー眷属はパワータイプが多いからね。勿論テクニックも磨いてはいるんだけど、イッセー達は修行や実戦でテクニックを10伸ばすと自然とパワーが30位伸びてしまうと云う骨の髄までパワータイプだから

 

祐斗の境遇に僅かに同情の念を抱いているとソーナ先輩から新たな指示が飛ぶ

 

≪では有間君だけは効果範囲に突っ込んで下さい≫

 

ホワッツ!?

 

「ソーナ先輩!?俺、何か貴女に嫌われるような事しましたか!?」

 

『これら三つの能力を受ければどのような相手であっても戦いから除外出来ます』って説明していたその中に飛び込むの!?苛め!?

 

≪いえ、椿姫の能力で相手の戦線はほぼ崩壊するでしょうが『冬眠鼠(ドーマウス)』は兎も角『三月兎(マーチ・ラビット)』と『帽子屋(マッド・ハッター)』はフレンドリーファイアで死者が出かねないので危ない攻撃は捌いて欲しいのです。有間君の【神性】ならば搦め手の能力は無効化出来るでしょう・・・本当に有間君は私達のような『ハメ手』を得意とするタイプとは相性が悪いですね≫

 

確かに俺はクロウ・クルワッハみたいな力こそパワーみたいな奴が一番攻略し難いかも知れん

 

だがそれはそれとしてこの釈然としない感じは何なんだろうか?

 

近くの味方に容赦なく刃を振るっている教会の戦士たちの下へ跳躍しようとするが直前に肩を"ちょんちょん"と叩かれてそちらを見ると黒い触手が肩を叩いていた

 

その大元を辿るとサジがラインを伸ばしていて俺に向かってグッと親指を立てている―――ウルセェよ!励まそうとすんな!!

 

直後に跳躍した俺の視界が一瞬滲んだのは気のせいだと思う

 

 

 

 

教会の戦士達の数が半数を下回った時、低くて重い声が響いた

 

「下がれ」

 

クリスタルディさんのその一言でさっきまで雄たけびを上げながら加熱していた戦士達も一瞬で静まり返って道を開ける。溢れ出るカリスマオーラだ

 

ああいうのは今の俺では真似出来ないよな・・・京都の舎弟(ようかい)達相手なら出来るか?

 

強烈な邪気を纏って数多の妖怪に傅かれる存在・・・どう見てもヤベェ奴だコレ

 

不穏な未来の映像を振り払って改めて近づいてくる男を見つめる

 

すると今まで後ろで待機していたデュリオさんが天使の翼を広げて俺達の近くに降りてきた

 

「イッキ君。木場きゅん。聞いてるだろうけど先生は元エクスカリバーの使い手でね。手に持っているのはレプリカなんだけど、それを踏まえてもイメージしてるであろう最強のエクスカリバー使いの四つ上は覚悟しておいて欲しい」

 

≪彼の相手はデュリオさん、イリナさん、シスター・グリゼルダ、有間君、木場君に担当して貰います。教会の戦士達はシトリー眷属と残りの『御使い(ブレイブ・セイント)』の皆さんで対処しましょう≫

 

その言葉を受けて俺も流石に素手は止めて禁手化(バランス・ブレイク)の大剣を握る

 

他の皆も改めて聖魔剣や聖剣、光力で出来た武器などを構え直したようだ

 

ゆっくりと近づいて来た最強のエクスカリバー使いは予備動作無しで無数に分身する

 

そこにグリゼルダさんが本体を見極める為に光の球体を散弾の如くばら撒くが本体がその攻撃を弾くと同時に本体は幻術に紛れて瞬時に移動し、擬態の力で本体と入れ替わった実体の有る分身が突撃する。それを本体と勘違いしたイリナさんと祐斗が迎撃しようとするのをデュリオさんが制して振り出しに戻る

 

「最後に違和感を感じられたから擬態って分かったけど、イッキ君は先生の動きは見えた?」

 

「これでも仙術使いなので一応見えてました。俺のパートナーも幻術使いですし・・・精巧な幻術を造る為にレプリカのエクスカリバーに大量に力を込めているんでしょうけれど、半ば力押しで作られた幻術には違和感を感じます・・・もしもアレが本物のエクスカリバーだったなら、俺でも見抜けたかは自信が持てませんがね」

 

これで能力五分の一以下だってんだからな。エクスカリバーの能力の多彩さには本当に舌を巻く

 

神をも殺す神滅具(ロンギヌス)の特徴が二つ以上の能力の保有なんて言われてるけど、七つの能力を持ったこの聖剣とタメ張れるのなんて曹操の亜種の禁手(バランス・ブレイカー)くらいのものだろう

 

使いこなせるかは別としても性能はぶっ壊れ過ぎだよな

 

俺は一旦下がって来ていた祐斗とイリナさんの前に立つ

 

「取り敢えず軽く一当てしてみるから二人ともよく観察しといてくれ」

 

二人は一瞬何か言いた気だったけど、一当てするだけと言ったのが効いたのか見に回ってくれた

 

「イッキ・アリマか。ストラーダ猊下と張り合ったキミに手加減は出来んな」

 

「あはは、お手柔らかにお願いします」

 

別に手加減してくれても良いんですよ?

 

そんな事を思いつつ俺とクリスタルディさんは同時に地面を蹴った

 

それと同じく夢幻の聖剣(エクスカリバー・ナイトメア)で創り出された無数の分身を無視して誰も見えない空間に剣を振るうが防がれてしまう

 

「ふむ。やはり仙術使い相手では見破られてしまうか。仙術の使い手と戦った経験は余り無いが、厄介なものだな」

 

透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)で姿を隠していたクリスタルディさんの姿が浮かび上がる

 

「戦闘経験豊富そうな貴方でも、そんなに少ないもんですか?」

 

「当然だ。我らが主に相手にする悪魔や吸血鬼、堕天使で仙術を扱う者など居ない上に使い手自体も少ないのだからな。お前自身も含め、お前の周囲に仙術使いが多く揃っているだけだ」

 

言われてみればそうかもな。仙術は希少で強力とされる力だし、『D×D』とか裏の世界のトップ陣との繋がりが強いと自然と周囲に仙術使いがチラホラ集まる訳だ。その上で九尾の狐とか孫悟空とか教会としても敵対し辛い立場の強者ばかりだと戦う機会も無くなるよな

 

ならば仙術使いとしての力も存分に振るうとしよう

 

鍔迫り合った状態から足元の地面を踵で二度叩くと周囲の地面がトゲ状に変化して襲い掛かる

 

「甘い!」

 

しかしその攻撃は彼に当たる前に不自然に軌道が逸れてしまい結局かすり傷も付かなかった

 

「私の時代には無かったが、『支配』の能力も問題無く扱えるのだよ」

 

やっぱりこう云う分かり易いのは対処されるか

 

「むっ!?」

 

ならばと彼の足の下にある土を退かして片足だけ埋まる即席の落とし穴を造る

 

一瞬体勢が沈むように崩れたところに余っていた左手の武器を手放して沈んで来た顎にアッパーカットを繰り出そうとしたが思いっきり上半身を後ろに倒す事で回避される

 

だが敵の目の前で片足が埋まった状態でそこまで体勢を崩して良いのかと思ったが埋まった足が地面を切り裂いて(・・・・・)飛び出てきたので咄嗟に俺も側転の要領での回避を余儀なくされた

 

見れば彼の足に形態変化した聖剣が巻き付いてそこから鋭い刃が伸びている

 

具足に出し入れ可能な刀剣を取り付けるかのようなロマン武器だ

 

「私が現役時代に3本のエクスカリバーを扱っていたのは聞いているのだろう?ミミックが在れば直接手で持つ必要は無い―――まさか私が3本目を口に咥えていたとでも思っていたか?」

 

御免なさい、ちょっと思ってました。どこぞの海賊狩りの海賊みたいにやってるか、もしくは凄いとっかえひっかえしながら戦ってるのかと!

 

ミミックで分身も造ってたし、この分なら全身いたる所から刃を生やせるトリッキーな戦いも可能だろう・・・日本刀の形か鞭のようにしならせるかの二択だったイリナさんとはえらい違いだな

 

「ちょっ、ちょっと有間君!今何か凄い失礼な事考えなかった!?」

 

イリナさんが不穏な空気を感じ取ったようだ。俺達の周りの女性陣ってこう云うのには変に敏感な人が多いよな

 

「いやぁ、クリスタルディさんのエクスカリバー捌きが凄いなぁって・・・流石はイリナさん達の先生ですね!」

 

「そ、そうよ!先生は凄いんだから!!」

 

恩師を褒められたからか途端に上機嫌になるイリナさん・・・ちょろい

 

グリゼルダさんは額に手を当てて頭が痛そうにしているし、祐斗とデュリオさんは苦笑中だ

 

「では此処からは純粋に戦士としての近接戦の技術での応酬といこうではないか」

 

クリスタルディさんはミミックの力で両手に剣を握った二刀流の構えとなる

 

柄頭から伸びる紐で繋がっているのでゼノヴィアのエクス・デュランダルの分解機構とはまた別のようだ。俺の二刀流に合わせた形なのだろう

 

それから始まった様子見を棄てた剣戟の応酬で周囲の戦士達に直接の被害こそ無いものの廃教会も教会周辺の森も剣戟の余波で粉微塵となっていく

 

『破壊』と『天閃』を組み合わせた果てしなく分かり易い攻撃だ

 

衝撃が何度か重なった場所は空間が崩れて向こうに万華鏡のような次元の狭間が見える

 

・・・ロスヴァイセさん。もうちょっと結界の強度を上げても良いんじゃないかな?

 

備考欄に斬撃に弱いって書いておこうか

 

そのまま少し戦っていると彼が戦い方に変化を付け始める

 

お互いの剣がぶつかってクリスタルディさんがそのまま押し込むような形で力を掛けてきたので鍔ぜり合うようになりお互いの足が止まった瞬間に彼の持つ刀身から刃が何本も伸びてきたのだ

 

「危なっ!?」

 

密着状態は向こうに有利過ぎるな、これは!

 

咄嗟に体をずらして枝分かれした刀身を避けると何本かの細い切っ先が背後で地面に当たって爆音を奏でる。今まで以上に『破壊』の特性が猛威を振るう訳だ

 

正統派の剣技と同時に全身を植物のツタが絡みつくようなミミックの斬撃も襲い掛かってくるのを捌いていると不意に左手の辺りに危機感を感じる

 

気配に意識を向けるとミミックで伸ばした剣の先端部分だけを透明化させて左腕に巻き付けようとしているようだ

 

単純に透明になってるだけなら兎も角、気配も『夢幻』以上に遮断出来るらしい

 

まぁそれくらいしないと『夢幻』の完全な下位互換だもんな

 

そうして細剣と鞭が合わさったような聖剣が左腕に巻き付いた

 

「漸く捕らえたぞ。もっとも、その腕を輪切りにしようとしていると云うのに巻き付くだけに終わっているのには物申したいがな」

 

普通に恐い事言いますね!フェニックスの涙とかが有るからこそ何だろうけどさ!

 

『破壊』の特性も相変わらず乗ってるから巻き付く刃に合わせて螺旋状にオーラを集中させてるから輪切りに為らずに済んでるけども!

 

なら、此方も一つトリッキーに脱出しますか

 

俺は憑依させているイヅナの妖力を借り受けて術を発動する

 

参曲(まがり)様にも妖力の扱いにもっと慣れろと言われたしな

 

 

“ポンッ!!”

 

 

軽い音を立てて俺は小学生低学年くらいの年齢に『変化』する

 

「は?」

 

俺の腕を捕まえていたミミックもいきなり肉体の体積が減った影響で隙間が出来てその隙に腕を引っこ抜いて距離を取った

 

狐と狸の妖怪の代名詞とも云えるのがやはりこの変化の術だろう

 

白音の大人モードと違って見た目を変えているだけなので子供の筋力になったりしないし、ちゃんと服も子供サイズだ

 

「おお!初めて実戦で使ってみたけど間合いの変化を戦術に組み込めるのは面白いかも知れないな・・・見た目が締まらないけど些細な事だろうし」

 

「『些細じゃなぁああああい!!』」

 

おうふ!皆からのツッコミが耳に痛い―――通信機越しに大声出さないで欲しい

 

≪有間君。その姿だと此方も気力が削がれるので元に戻って頂けませんか?≫

 

ソーナ先輩の通信も入ったので変化の術を解いて元に戻る

 

何やら不評だったようだ

 

「いやぁ、なんて言うか・・・ねぇ?」

 

「小さい子供が戦場に居るという視覚情報だけでも如何してもハラハラしてしまいますね」

 

仁村と椿姫先輩の声に皆も頷いている。慣れれば大丈夫なんだろうけど、いきなりやるこっちゃ無かったか

 

「あ~、祐斗。エクスカリバーの力を使わせ続けて体力は消耗してるはずだし、場も白けちゃったから交代で良いか?」

 

「あ、うん、そうだね。後は僕たちでやるよ」

 

改めて戦闘態勢に入る祐斗たち・・・仕切り直すには効果的だったのだと思うとしよう

 

≪有間君。次に子供の姿になる時は周囲に黒歌さん達が居ない時かキチンと紹介した後にして下さいね―――多分彼女達が使いものにならなくなりますので≫

 

ソーナ先輩はなにを心配してるんですかねぇ!

 

「いやいや、黒歌達にそんなショタコン疑惑を掛けなくても・・・」

 

咄嗟に否定しようとするがそれも直ぐに遮られてしまう

 

≪甘いですよ。別にそういう趣味でなくとも危険だと言っているのです―――分かりましたね?≫

 

「―――はい」

 

ソーナ先輩の圧の籠った忠告を受けながらも俺は祐斗たちの戦いに目を向けるのだった




神器不全症の悪魔と人間のハーフはサイラオーグとのゲームの審判役だったリュディガー・ローゼンクロイツの子供ですね。シトリーの医療が発展して影響が出る人物と考えたらその子が浮かんだので救済してみました


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第八話 VS  デュランダルです!

なんかこの章は書き始める前は5話くらいで終わるかな~?と思っていたのに意外と長くなってきましたね


俺とクリスタルディさんの戦いが終わって俺自身は一歩下がった位置で待機している

 

シトリー眷属と『御使い(ブレイブ・セイント)』の皆さんの戦いもほぼ収束してて俺が行く必要なさそうだし、クリスタルディさんとの決着を付けるのも教会出身の彼らに任せるべきだろう。祐斗も教会出身だしね

 

そんな中でクリスタルディさんは先程までは余り使用していなかった『夢幻』や『透明』、『祝福』といった能力もフルに使って祐斗たちの攻撃を捌いて行く

 

祝福の聖剣(エクスカリバー・ブレッシング)で十字架の効果を増幅させて張った結界で天使と悪魔の飛行能力と行動範囲に制限を掛けた。特に祐斗は莫大な聖なるオーラを練り込まれて造られた結界に下手に突っ込めば大ダメージは避けられないだろう

 

有刺鉄線や電流ロープに囲まれたプロレスのデスマッチな試合みたいな感じだ・・・あれより数倍以上は危険だけどな

 

それでも先程までの俺とクリスタルディさんの戦いである程度動きに慣れたのかそれなりに戦闘は安定している

 

だがやはり今の祐斗やイリナさんでは地力が足りてないようで俺との戦いの時には使用を控えていた各形態の能力で徐々に劣勢になっていく・・・あ、祐斗が強化された聖水ひっ被った

 

そこへイリナさんが聖水が掛かった箇所から煙を上げて悶絶する祐斗を助ける為に背後からクリスタルディさんの首目掛けて横一閃を繰り出す

 

その一撃でクリスタルディさんの首が宙を飛び、避けられるか防がれるかと思っていたイリナさんが一瞬硬直してしまう

 

「甘いな。戦士イリナ」

 

自分が殺される幻術を解いて背後から現れた彼が『破壊』の特性を籠めた振り下ろしを繰り出し、声を掛けられた事でギリギリ反応したイリナさんを防御の上から叩き潰す

 

追撃を防ぐ為にデュリオさんが炎や雷、氷の属性攻撃を放つ事で後退はさせられたが『支配』で攻撃を逸らされてダメージを与える事は出来なかったようだ

 

「っく!ここまでのものか!天性のエクスカリバー使いと云うのはっ!」

 

「ハハハ、だから言ったでしょ?目の前に居るのは教会でも二大巨頭と言われた一角。教会の長い歴史の中でも恐らく最上位クラスの力の持ち主だ。ちょっと悪魔や天使に転生した程度で容易にひっくり返るような実力じゃぁ無いのさ」

 

神器(セイクリッド・ギア)保有者と云う訳でも無いんですよね?」

 

祐斗はクリスタルディさんがなんらかの身体能力強化系の神器でも併用してるのかと疑っているようだけどデュリオさんはそれを否定する

 

「ああ、クリスタルディ先生もストラーダ猊下も神器(セイクリッド・ギア)なんか持っちゃいないさ・・・逆に訊くけど木場きゅん。今すぐイッキ君が神器を失ったとして、弱くなると思う?」

 

「それは・・・『邪人モード』が無くなる分弱くはなるんでしょうけど、少なくとも今の僕は勝てる気はしませんね。イッキ君の神器って禁手化(バランス・ブレイク)しても剣の形状と強度が変わるくらいしか恩恵が有りませんし」

 

≪一番重要な神器の能力が各勢力満場一致で封印指定ですからね。現状、全神器の中で有間君の神器が一番能力の振れ幅が少ない代物と化していると言って良いでしょう≫

 

「キミたちナチュラルに俺の神器の事ディスってくるけど、俺の事嫌いですか!?」

 

デュリオさんの質問は神器が無くても人間でも強いヤツは居るって言いたかったと取れるけど祐斗とソーナ先輩は半分悪口だよ!自覚有る!?

 

そりゃあ俺の『邪人モード』でオーラの出力2倍とかありふれた神器である『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』に肩を並ばれる程度の性能だし、邪気が凄いってなんとかマウント取り直しても龍の手(トゥワイス・クリティカル)禁手(バランス・ブレイカー)が正規のものがどんなのか知らないが、多分容易にひっくり返される程度のアドバンテージにしかならないんだとは思うけどさ!

 

ジークフリートの出力16倍なんて知らない。知らないったら知らない!・・・あれ?素でほぼ魔王級の俺が使えば二天龍超えられるんじゃね?とか思ってはいけない!

 

因みにだが後日アザゼル先生に訊くところによるとそう上手い話は無いようで、神器に封印されたドラゴン以上の出力は出せないんだそうだ

 

概念的な意味で出力が2倍になるんじゃなくてあくまでも力の根源は封印されたドラゴンの力に依存するという事らしい・・・良かった。俺の神器はギリギリポンコツの誹りを免れたぞ

 

でもそうだよな。そんなポンポンと出力数倍を叩き出せるならアザゼル先生とか態々ファーブニルと契約しなくても下級ドラゴン数体と契約して人工の龍の手(トゥワイス・クリティカル)禁手(バランス・ブレイカー)をローテーションで廻していけば、低コストでありながらアザゼル先生が常に主神クラスのオーラで立ち回れるようになっちゃうもんな

 

サーゼクスさんが扱ったなら全盛期の二天龍を同時に相手取っても勝てるかも知れない

 

・・・各勢力の代表たちが使えば絶対トライヘキサを倒すのに一万年も要らないよな

 

ユーグリットが魔王級が赤龍帝の鎧を纏ってた割に大した事無かったのもこの辺りが原因かな?

 

意識は戦場に戻って見てみると祐斗が亜空間を開いてグラムを取り出そうとしているようだ

 

「僕がグラムを解放して全霊の一撃を放ちます。倒す事は出来なくとも隙は作れるはずです。そこから一気に畳み掛ければ戦いの流れをまた此方に引き戻せるでしょう」

 

そう語る祐斗の目にはグラムを解放する事に迷いが見える

 

この世界のグラムや他の魔剣は何故かは知らないが祐斗に協力的だ。原作のように全霊の一撃で命が削れるような事は無いだろう。しかし祐斗にとってエクスカリバーは且つての同志たちの想いの結晶である聖魔剣でこそ打倒したい相手でも有るはずだ

 

最強のエクスカリバー使いを前に最強の魔剣(グラム)を抜くという行為は聖魔剣では結局本来のエクスカリバーに敵わなかったと敗北宣言を告げる行為に等しい

 

祐斗の抱える複雑な感情を察したのかデュリオさんが祐斗の肩を叩いてそのまま前に出る

 

「木場きゅん。これはスッキリする為のケンカだ。そんな顔しながら剣を振るう作戦は容認出来ないな。ここは一つ、俺に任せてくれよ―――木場きゅん。いや、祐斗」

 

デュリオさんは呼び方を変えつつ祐斗に振り返る

 

「キミは教会の施設出身なんだろう?俺も元は施設の出でね。どこの施設も共通だと思うけどあそこで育った子供たちってのは皆が兄弟姉妹だ。なら、祐斗も俺にとっちゃ弟みたいなもんだよ。ここは一つ、兄貴面をさせてくれってね」

 

ウィンクしながら祐斗の頭を撫でるデュリオさん。彼の優しさは正しく天使に相応しいと云えるだろう・・・でも祐斗が弟ならその理屈で言えばアーシアさんとゼノヴィアも施設出身だから妹になるし、グリゼルダさんはお姉さんになるのか

 

イリナさんだけハブられてるとか思っちゃいけない

 

デュリオさんは再び振り向いてクリスタルディさんの方を向くと10枚の翼を広げてオーラを高めながら両手を合わせて円の形にし、口元に持ってくるとそこに息を吹きかける

 

シャボン玉を作るのと同じように息を吹きかけられた箇所から無数の虹色の玉が溢れ出し、クリスタルディさんの張った結界も素通りして戦場全体に広がっていった

 

「これが煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)の応用技―――『虹色の希望(スペランツァ・ボッラ・ディ・サポネ)』さ」

 

そのシャボン玉が弾けてゆくと戦士達は感動するように涙を流し、武器を取り落として戦意を失っていく

 

「このシャボン玉に触れた者はその人にとって最も大切な記憶を思い出すんだ。元々は辛い想いをして塞ぎ込んでしまったガキンチョ共にまた前を向いて欲しいと思って創り出した力なんだよね」

 

おそらくはデュリオさんが亜種の禁手(バランス・ブレイカー)に至った事で禁手化(バランス・ブレイク)前でも使えるようになった技なのかな

 

天候を操る神器で思い出を想起させる能力・・・本当に亜種になると何でも有りだな

 

祐斗も涙を流している。きっと禁手(バランス・ブレイカー)に至った際の想いを今一度思い出しているのだろう

 

教会の戦士達の殆どが戦意を失う中でクリスタルディさんだけは涙を流しつつもその手に握ったエクスカリバーをより一層強く握り締めた

 

「ああ、我らが戦いを望んだのはこの儚き情景を守りたいが為だった―――だが!一応の決着を見せなければ我らの決起は無駄になるのだよ!!」

 

もはや戦えるのは彼一人となり、決着を付ける為の最後の戦い(ケンカ)が始まる

 

グリゼルダさんは今までの光力の攻撃以外にも手元に創り出したハートの『Q』だけが持つ特性である味方の天使の力を引き上げる光の弓を構え、それに合わせて祐斗とイリナさんが飛び出す

 

祐斗の持つ聖魔剣は祐斗が完全に吹っ切れた影響か今まで以上に完全に混じり合った

 

その聖魔剣とエクスカリバーがぶつかった瞬間、聖魔剣の魔剣の力でエクスカリバーの聖なる波動を吸収し、吸収した力を自らの聖魔剣に加算させる

 

以前までの聖魔剣であれば片方の力が大きくなり過ぎれば聖魔剣としての体裁を保てずに崩壊してしまっていただろうが、その制限を乗り越えたのだ

 

その様子を確認して思わず俺も口元に笑みが零れる

 

欠けたピースは全て揃った。最終決戦も近い中、自重する必要は無い

 

この戦いが終わったらちょっくら祐斗を魔改造する事にしよう。強くなってその分沢山働いてくれ

 

“ビクッ!!”

 

鍔ぜり合っていた祐斗の肩が『何故か』一瞬震えたけど戦いは終わってない

 

イリナさんがエクスカリバーの力が失われている隙にグリゼルダさんの能力上昇の矢を受けて強大化させたオートクレールの浄化の力をクリスタルディさんに撃ち放つ

 

殺傷力こそ無いもののデュリオさんのシャボン玉の直後に戦意を消し去る攻撃を受けて直ぐには立ち直れない彼の頭上に雷雲が集まる

 

「祐斗、イリナちゃん、避けてくれ―――先生、これで終わりです!」

 

デュリオさんの放った雷撃が周囲を囲んでいた結界ごと彼らの師を貫いて決着となったのだった

 

それから結界越しとはいえ雷に打たれて地面に横たわるクリスタルディさんが自身の命と引き換えにこの場に集った戦士達の助命を願うがデュリオさんはそれを否定した

 

「やりませんよ。そんな事したらどう考えても皆の恨みを買うだけっしょ―――それに、生きてりゃそれだけで美味いもん沢山食えます。世の中たったそれだけの事がどれだけ幸運な事なのか知らない奴らが多すぎるんスよ」

 

「・・・甘いな。お前は本当に甘い」

 

手で顔を覆って涙を流す彼の隣に腰かけたデュリオさんは俺達に次の戦場に向かうよう告げる

 

「俺はもう少し此処で先生と話してるからさ。祐斗、イリナちゃん、イッキ君。三人は向こうの戦場に行ってあげてくれ。多分まだ決着は付いてないと思うからさ」

 

その言葉を受けて俺達は互いの顔を見て頷き合いその場を後にした

 

 

 

 

 

俺と祐斗、イリナさんがイッセー達の戦ってる場所に辿り着いた時には既に相手側の教会の戦士達は未だ戦場に舞っているシャボン玉で戦意を喪失したのか戦闘音は一切聞こえて来なかった

 

「これはこれは、綺麗なシャボン玉ではないか」

 

ただ一人、ヴァスコ・ストラーダさんだけはデュリオさんの優しさが生み出したシャボン玉が舞う光景を嬉しそうに眺めている

 

リアス先輩が「このシャボン玉は此方の陣営のものかしら?」と呟いた辺りで俺達も戦場の中心に到着し、祐斗がリアス先輩に後ろから声を掛ける

 

「はい。このシャボン玉はジョーカーの生み出したもので対象の心の最も大切な思い出を想起させるもののようです」

 

「祐斗!それにイッキにイリナも!そう、これはジョーカーの能力なのね。彼らしい力だわ」

 

此方の戦力が整ったと見たのか奥に居たストラーダさんが上半身の祭服を脱ぎ捨てた

 

少なくとも今の彼の分厚過ぎる筋肉を見て彼の事を聖職者と初見で見抜ける奴は居ないだろう

 

幅広のデュランダルの刀身よりも筋肉に覆われた腕の方が太いくらいだ

 

俺も小さい頃から修行はしてたし、体質によってはあんな感じのモリモリマッチョマンになってたかもと思えば流石にちょっと遠慮したい

 

彼はその巨大な体を揺らしながら一歩一歩近づいてくる

 

そして途中で立ち止まって両腕を広げると皺くちゃな顔に笑みを浮かべる

 

「さぁ教義の時間だ―――子供らよ、学んでいきなさい」

 

 

 

 

「僕から行かせて貰うよ!」

 

先ず飛び出したのは祐斗だ。進化した聖魔剣で調子づいているのだろう

 

だがその一撃はデュランダルも使わない素手でアッサリと止められてしまう

 

「ふむ。良い太刀筋だ。人間が相手でも迷いが無く、また先日少し見た時よりオーラが数段洗練されている」

 

褒められてはいるが刀身を鷲掴みにされている祐斗としてはそんな言葉は頭に入ってこないだろう

 

そのままデュランダルを持っている方の柄を握る拳で聖魔剣を側面から殴りつける事で真ん中辺りからへし折ってしまった

 

折角ストラーダさんが『教義の時間』と言ったのだ。俺もここは祐斗魔改造計画第一弾のアドバイスをするとしよう

 

聖魔剣を折られた事で後ろに下がって再度聖魔剣を創り出した祐斗に声を掛ける

 

「祐斗。聖魔剣を新たに解放したお前が今までと同じように剣を振るうな。宝の持ち腐れだぞ」

 

「? どういう意味だい?」

 

「いいか?お前が聖魔剣を初めて解放した時、体の中に取り込んであった聖剣の因子の結晶は一つだけだった。だけど今の祐斗はその身の内に四つの因子を宿している―――今までの聖魔剣では因子の力を解放し過ぎてしまえば聖魔剣が崩壊してたはずだから無意識に因子の出力にブレーキを掛けてたんだろうけど、今の祐斗ならさっきエクスカリバーの聖なる波動を吸収した時と同じ強化状態に自力で持っていけるはずだ」

 

祐斗にとって三つ分の聖剣の因子は後付けの力だ。聖魔剣がその力を受け止め切れなかったとしても可笑しい事は無い

 

俺の言葉を聴いた祐斗は目を閉じて自分の中に意識を集中させているようだ

 

そしてその手に握る聖魔剣にどんどんと聖なる波動が注ぎ込まれて行く

 

「僕の身に宿る同志たちの魂よ。待たせてゴメン。今こそ、僕らは一つの剣となろう!」

 

掲げた聖魔剣から莫大な聖なる波動が溢れ出す。この世界の祐斗だからこその聖魔剣だ

 

「ほお、美しく、更には力強い剣となったものだ。流石にこれは素手では怪我をしそうだ」

 

感心したように頷いてから最強のデュランダル使いは漸くその剣を構えた

 

それから始まるオカルト研究部怒涛の攻撃を彼は次々と捌いてゆく

 

祐斗やイリナさんの剣は純粋な剣技と体術で受け流し、レイヴェルとロスヴァイセさんの魔法は指一本で魔法の術式の僅かな隙間を狙って計算式を乱す事で無効化し、ギャスパーの闇の衣を拳圧で吹き飛ばし、朱乃先輩の雷光で創られた龍達は瞬く間に細切れにし、白音やイッセーの肉弾戦を敢えて正面から受け止めて押し返す

 

「おいおいおいおい、これが87の爺さんの力かよ!?もうコレ詐欺じゃねぇか!?」

 

イッセーが皆の気持ちを代弁してる。今まで散々強敵と戦い、打倒して来たという自負も有る中でほぼ全員の攻撃をレプリカの聖剣一本で無傷で凌がれた事が少なからずショックなのだろう

 

だが皆が戦慄している中でゼノヴィアは一人エクス・デュランダルを手に突貫していく

 

その様子を見たストラーダさんも笑みを深める

 

「そうだ、戦士ゼノヴィアよ。例えエクスカリバーと同化していようともデュランダルの本質は破壊でしかない!それこそがデュランダルを扱う者の持つべき気概だ!」

 

ゼノヴィアのエクス・デュランダルを受け止めた彼は更に続ける

 

「だが、パワーの表現とは一つでは無い。戦士ゼノヴィアよ、このデュランダルは本当にキミの望むパワーの在り方なのかな?」

 

「―――ッツ!」

 

自分でも気になっていたところを指摘された為か咄嗟に言い返せずにいるゼノヴィアを腕力で押し返したストラーダさんに今まで皆が戦っていた間にずっと魔力をチャージしていたリアス先輩の必殺技が完成する

 

消滅の魔星(イクスティングィッシュ・スター)!―――避けなければ弾けて消えるわよ!!」

 

最低限の忠告の下、邪龍最硬の鱗を持つグレンデルすらも一撃で牙一本以外の全てを消し飛ばしたと云う魔の星が放たれた

 

「これはこれは、老体にはちと厳しい代物だ」

 

その真面に喰らえば魔王級であろうと消滅する一撃を前に彼はレプリカのデュランダルに爆発的なオーラを纏わせる。輝く聖剣の光で殆ど目も開けてられない程だ

 

“キンッ!”

 

両手持ちで大上段から振り下ろされたその斬撃が何かを断ち切ったような音を響かせると彼に迫っていた漆黒の球体は真っ二つに割れて逆に消滅してしまった

 

この結果に流石のリアス先輩も目を見開いて口元がヒクついている

 

「・・・こういう時って笑うしかないのかしらね?」

 

「ハァ・・・ハァ・・・いいかね?デュランダルは『全て』を斬れるのだよ。例えそれがバアルの滅びであろうとも、例外は無い」

 

今の一撃でストラーダさんもかなり消耗したようだけど、五分の一以下の性能のデュランダルで断ち切れるなら本物のデュランダルを使えば低く見積もっても連続で消滅の魔星(イクスティングィッシュ・スター)を五つは斬り伏せられる訳だ

 

当然実際はもっと多いだろうし、そう言えば超越者モードのサーゼクスさんが複数操るという消滅の魔力の球体の一つ一つがリアス先輩の必殺技に匹敵するなんて設定をどこかで聞いた事があるけど、要するに本物のデュランダルを操る全盛期の彼ならば超越者なサーゼクスさん相手でも真正面から勝負を挑めるって事だよな

 

エクスカリバーと並ぶ聖剣とされるデュランダルだけど七つの力を有し、その内の一つにデュランダルと被る『破壊』の特性を持ってるエクスカリバーと比べてそんなに優れているのかと疑問に思った事も有るけど本当に攻撃力という一点が突き抜けた性能を持ってるらしい

 

内心呆れにも似た感情を抱いていると同じく観戦していたアーサーが話しかけてきた

 

「有間一輝。貴方は参戦しないのですか?」

 

「俺は以前一度一応は戦ったし、さっきは最強のエクスカリバー使いとも試合ったから良しとするよ。最初に祐斗に口出しした分だけで十分だ」

 

一応この後クリフォトが攻めて来る事も視野に入れて力は温存しておきたいしな

 

「成程、傑物と謳われたそのどちらとも戦えたとは羨ましい限りです。では、彼らも全員一度は一当てしたようですし、私もかの老人に御指南頂くとしましょう」

 

腰に差していた聖王剣を抜きながら何時もの冷静で澄ましたその横顔に僅かに口角を上げる笑みを滲ませてアーサーが参戦する

 

「ほう・・・まさかこの歳となってからソレを目にする事が叶うとは」

 

同じく教会の誇る怪物はアーサーの手に握られた最強の聖剣を見て嬉し気に目を細める

 

「その剣が本物で無くて残念ですが、貴方の剣技だけでもこの身に受けたいと思いましてね」

 

「良かろう―――構えなさい」

 

お互いに聖剣を正眼に構え、次の瞬間にはその姿が掻き消えた

 

“ガギンッ!!”

 

二人のファースト・コンタクトは空中で行われ、落下しながらも剣を振るう手を止める事はしない

 

そのまま地面に足が付いた瞬間から超高速で戦場を縦横無尽に駆け回りながらただの一時もその剣戟の音が鳴りやまない

 

「・・・凄い」

 

「悔しいけど、今の僕たちではまだ届かないね」

 

ゼノヴィアの呟きに祐斗も歯痒そうな面持ちだ。剣の性能は追いついたけどまだ剣士としての純粋な技量で下回ってるのを今まさに見せつけられてるからだろう

 

安心しろ祐斗。祐斗魔改造計画はまだ次のステップが残ってるから

 

「なんて言うか、今戦ってる二人もそうだけど、さっきは先生と有間君が似たような剣戟を繰り広げてたし、この戦場のトップ陣って人間が多すぎない?」

 

「―――正確なランク付けは分かりませんがトップ5の内四人は先程イリナ先輩が上げた人達でしょうね。残る一人のジョーカーは天使ですけど、そもそも彼は天使になる前から教会最強のエクソシストだったそうですし・・・なんだか私達人外の立つ瀬が無いような気がします」

 

白音はそう言うけどイッセーならクリスタルディさん相手でも勝機は十分有ると思うけどな・・・握ってるのがレプリカならだけど

 

皆が感想を口にしていく中でアーサーはロキ戦で見せた技も織り交ぜ始めた

 

アーサーが聖王剣(コールブランド)の切っ先で空間を突き刺し、消えた剣先をストラーダさんの死角に空間を繋げて全方位からの突き技を戦術に加えるが彼は長年の戦闘経験から来る『勘』で避けていく

 

そしてお互いにクリーンヒットしないまでも体中に無数の浅い切り傷を滲ませた辺りでアーサーが突如として構えていた剣を下ろす

 

「素晴らしい・・・が、止めにしましょう。これ以上は・・・虚しくなるのでね」

 

闘争の終了の意思を受け取ったのかストラーダさんもレプリカのデュランダルを下げる

 

「すまないな。若い剣士よ」

 

ストラーダさんも苦笑しつつも何処か寂しげなようだ

 

アーサーは聖王剣を鞘に仕舞うと戦場に背を向けて歩き出す

 

「後20年・・・いや、30年早く出会っていれば最高の戦いも出来たでしょう。全くもって悲しくなって“ガシィッ!!”―――ッグェ!!?」

 

哀愁醸し出しながらも俺の横を通り過ぎて行ったアーサーを後ろから襟を引っ掴んで止める

 

「な、何をするのですか?有間一輝、私は今かなり傷心中なのですが・・・」

 

何時も紳士然としたアーサーにジト目を向けられてしまったけどお前の傷心なんて知らんわ

 

「まぁまぁ、祐斗はこの戦いの始まる前と比べて強くなった。まだ、もう一波乱くらいは有るかも知れんぞ?剣士としての傷心を癒やしたいなら、新しい才能の開花を目にするのも良いだろう」

 

多分だけどこの後クリフォトが来るのだ。適当に引き留めつつ存分にそいつ等で鬱憤を晴らして貰うとしよう

 

紫炎の魔女が居ない事で相手側の戦力がどんな感じに変動してるのかハッキリとは分からないので俺はアーサーを見送ってやったりなんかしない。ただでさえヴァーリチームは『D×D』と云うには仕事しないのだから機会の有る時はちゃんと配置してやるべきだろう

 

・・・まぁヴァーリはクリフォトの拠点を探す為に躍起になってるんだから本当に仕事してない訳じゃないんだけどね

 

要請しても動かないか、音信不通で頼んでも無い(ただし重要)仕事を勝手にやってる奴らだ

 

組織としては非常に扱いに困るグループだろう

 

兎も角そうしてアーサーを引き留めてから改めて戦場に視線を移す。そこではゼノヴィアがエクス・デュランダルを分割して右手にデュランダル、左手にエクスカリバーを握った二刀流の構えで立つ姿が在った。元々エクス・デュランダルが造られた切っ掛けはゼノヴィアがデュランダルの攻撃的なオーラを押さえつける術を持っていなかったが為のもの―――それが今、解き放たれたのだ

 

自分の中で答えが見つかったのかゼノヴィアが握るデュランダルの放つオーラは前よりも強く、されど安定したものとなっていた

 

「そうだ!それで良い!デュランダルの元々の持ち主だった私にとってはエクス・デュランダルは疑問の塊だった。デュランダルもエクスカリバーもそれ単体で完成された聖剣だ。何故それを組み合わせる必要が在る?それは貴殿がデュランダルに振り回されてエクスカリバーに『補助』などという愚行を課せたからに他ならない!それではデュランダルもエクスカリバーも真の力を解放する事など出来はしないのだ―――戦士ゼノヴィアよ、パワーを否定してはならない。デュランダルの担い手はパワーを信じた先にしか、その道は開かれないのだ」

 

真のデュランダルを前にして途端に饒舌になるストラーダさん

 

長年の相棒との再会が本当に嬉しいのだろう

 

彼はゼノヴィアの持つ二振りの聖剣のオーラがどんどんと高まって溢れんばかりの輝きを宿す姿を見て感嘆に溜息を溢す

 

「漸く、再会出来たな。デュランダルよ―――さぁ、我が後継者たる戦士ゼノヴィアよ。何も考えずにただ来るがいい。最後の教義を授けよう」

 

「―――はいッ!!」

 

真のデュランダルを解放したゼノヴィアはこの瞬間に本当の意味で後継としての舞台に立ったのだ

 

そこから先の戦いはパワーとパワーのぶつかり合いだった

 

相手を倒す為に剣を振るうと云うよりは相手の剣に自分の剣を叩き付ける戦い

 

子供ケンカの延長線上にある殴り合いであり、意地の張り合いだ

 

「―――少し、羨ましくも感じますね」

 

戦場を眺めていたアーサーが二人の戦う姿を見て目を細める

 

「私は戦う時は常に最善の一手を探して剣を振るいます。先ほどのストラーダ氏との戦いもそうでしたし、それ自体は勿論最高に愉しかった。しかし私にはあんな風に我武者羅に、無邪気に戦うのは難しい」

 

生粋のテクニックタイプのアーサーは相手の隙を突き、無駄に攻撃を受けないように立ち回る事が心身に染み付いているのだろう。しかしアーサーは「ですが」と続ける

 

「子供のように剣を振るう・・・剣士としての高みを目指す上で一度くらい体験してみるのも良いのかも知れませんね」

 

そう言うアーサーは何処か楽し気な様子だった

 

アーサーが自らの新しい糧に想いを馳せている間にデュランダル使い同士の戦いも終盤だ

 

剣と剣のぶつかり合いでクレーターどころか空間にも所々に穴が開いて次元の狭間が見え隠れする中、その暴力の中心で暴れていたゼノヴィアの渾身のクロス斬りとストラーダさんの唐竹割りが交差し、レプリカのデュランダルの刀身に罅が入り、ストラーダさん自身も肩で息をしながら片膝を付いてしまった

 

「スタミナ切れですね。如何に鍛え抜かれているとしても、老人である事に変わりは有りません」

 

「普通の87歳の老人ならあのスタミナの1000分の1だって有りはしないけどな」

 

このまま決着かと思われた中でゼノヴィアとストラーダさんの間に少年枢機卿であるテオドロ・レグレンツィが涙を流しながら両手を広げて立ち塞がった

 

「もういい!全ては私が悪いのだ!ストラーダ猊下たちを許してやってくれ!!」

 

「テオドロ猊下、御下がりください。この老骨めが全てを決めますゆえ」

 

立ち上がろうとするストラーダさんをテオドロ・レグレンツィは制する

 

「元々これは私の我が儘から始まったのだ―――私の両親は悪魔に殺された。だから、悪魔を許す事は出来ないのだと!・・・だがこれは未来を繋ぐ考えでは無い。それでも、そんな私の幼稚な想いを聴いて剣を取ってくれた戦士達が居た。この町まで来て、直接その想いを告げた時点で退けば良かったのだ―――それでも、それでも私は悪魔の事を・・・」

 

偶然であろうと与えられた枢機卿という立場から来る理性と、それを押しのけて行動するに至った両親を殺した悪魔との共存への不満の板挟みにあった二律背反の想いで声を震わせていく

 

そんな少年を後ろから抱き留めてストラーダさんは語る

 

「良いのですよ、テオドロ猊下。子供が不満を訴えるのは何時の時代も在る事です。貴方の想いは誰よりも幼いが故に純粋だった。だからこそ、我らは剣を取ったのです。そして何よりも貴方に見て欲しかった。我々の想いを撥ね退けてまで形作られた彼らの姿を―――彼らが我々を力で押さえつけ、処罰する機会は幾らでも在った。しかし彼らは我らの想いを如何すれば受け止められるか、如何すれば踏みにじらずに済むのかを考えた上で今日、この場で戦ってくれた・・・その時点で、我らは敗北していたのです」

 

「―――ッ」

 

その言葉を聴き、涙を流しながら俯く少年の頭を撫でながらストラーダさんは頭を上げる

 

「テオドロ猊下の宣言の下、戦いは終わった。私とクリスタルディ猊下の首をもって、天に許しを請おう―――その場にいる戦士達はその多くがまだ若い。彼らは今日、この日の出来事を糧に新たな道を歩んで行けるだろう」

 

その告白を聴いて戦士達は色めき立つ

 

「猊下!そのような事をおっしゃらないで下さい!」

 

「猊下は我らの意思を汲んで下さっただけ!罰ならば我らが受けよう!」

 

「煉獄に焼かれる覚悟は出来ております!」

 

少し前にクリスタルディさんを倒した時と同じ光景が広がっていた

 

教会を今日まで引っ張って来た二大巨頭がどれほど慕われた存在なのかが解るというものだ

 

 

 

≪ならばその命、我らが刈り取ってやろう≫

 

 

 

しかしその光景に水を差す声が響いて来た

 

転移型魔法陣が空中に現れ、そこから100人規模の死神達と数百の邪龍が転移して来たのだ

 

・・・本っ当こいつ等空気読めよな

 

教会のクーデター組との決闘の最後に飾るには無粋な華だが仕方ない。その命を根こそぎ刈り取らせて貰うとしよう

 

アザゼル先生たちにこうなった場合の仕込み(・・・)なら頼んでいるし、最後の仕上げとしましょうか!



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第九話 罠と、死神と、ミルキーです!

さて、このフィールドに侵入してきた死神と邪龍達だけどこちらの初手はロスヴァイセさんの実証実験からスタートだ

 

「ロスヴァイセさん。お願いします」

 

「ええ、如何あれクリフォトならば大量の邪龍を引き連れて来る事は予測済みです」

 

ロスヴァイセさんが指を鳴らすとフィールド全体が銀色に発光し始める。そして少しすると空中を飛んでいた邪龍の群れが一匹残らず力を失ったかのように地面に墜落した

 

≪これは如何いう事だ!?≫

 

流石にこの光景には驚いたのか死神が騒めくがロスヴァイセさんは心なしかドヤ顔で語り出す

 

「このフィールドには予め私の合図一つで起動する邪龍の力を封じる効果を付与しておきました。量産型の邪龍は一匹一匹の波長がとてもよく似ています。アーシアさんが手懐けた邪龍達を研究させて貰えれば弱体化の魔法は思いのほか早く完成しましたよ」

 

さも簡単そうに言ってるけど多分普通の魔法使いならロスヴァイセさんの数倍以上の時間を掛けて2ランクは性能が下回る魔法を創るのが精一杯なのだと思う

 

ロスヴァイセさんはやっぱり直接戦闘よりこういった裏方関係などで真価を発揮するタイプだよな

 

≪ふん!成程な。クリフォトの奴らめ。「便利だから持っていけ」とトカゲを押し付けておきながらこの体たらくとは―――まぁ良い。元より我らだけで殺しに来たのだ。このフィールドに入る手引きだけでお役御免だからな。寧ろ鬱陶しいトカゲ共が居ない方が清々するわ≫

 

クリフォトと合流したとは聴いてたけどあの様子では加入した訳では無いみたいだな

 

いや、禍の団(カオス・ブリゲード)時代から派閥が違えば仲間意識ゼロだったっけ

 

ともあれ邪龍達は原作通りに片付いたので残るは死神達だ

 

死神達の構成は感じるオーラからザックリと分けると下級死神が7割に中級死神が3割、それと上級死神3人ってところだな

 

死神の力は悪魔基準で大体ワンランク上で換算出来るから中級7割、上級3割に最上級から魔王級くらいが3人って感じだ

 

死神の最上級は神クラスだしね

 

誰がどの死神達を担当するべきかと思っていると3人の上級死神の中でも魔王級のオーラを持つ死神(他二人は最上級悪魔クラス)が此方に危険な色を灯した眼光を向ける

 

≪有間一輝。ハーデス様を貶めた大罪人。やはり先ずはアイツを始末せねばな≫

 

わぁお!その言葉に反応したのか残りの死神の皆さんの視線も俺一人に集中してきて殺気が肌に痛い。てか提案したのは俺だけど他の勢力の代表たちだって似たようなもんじゃん!

 

しかし俺の前に仲間が狙われたなら真っ先に立ち上がる気質を持ったイッセー達が立ち塞がる

 

「イッキは俺達の仲間だ!やるってんなら俺達が纏めて相手になるぜ!」

 

≪ファファファファ!コウモリ共は相変わらず何処に居ても五月蠅い羽音を響かせるものよ。無論、冥府とハーデス様に歯向かう愚か者はコウモリもカラスもハトも、種から滅ぼしてくれるわ≫

 

死神達が一斉に命を刈り取る死神の代名詞とも云える大鎌(デスサイズ)を構え、それを見たリアス先輩からの指示が飛ぶ

 

「敵の主力あの三体の死神で間違いないでしょう。狙われてるイッキはまだ大半が動けない戦士達が巻き込まれないように少し離れた場所で戦って頂戴。イッキの側にイッセーと白音と祐斗が付いて・・・アーサー、出来れば貴方にも一体受け持って欲しいのだけど?」

 

「ええ、良いでしょう。先程の戦いは消化不良でしたので、この憤りをぶつけられる相手が居るなら是非もありません」

 

アーサー手加減の必要無く暴れられる相手を前にして凶悪な笑みを浮かべて聖王剣を引き抜いた

 

その様子を見たリアス先輩は続けて指示を出す

 

「残りのメンバーで戦士達を守りつつ周囲の死神達を殲滅するわよ!ギャスパーは最終防衛ラインとして闇の魔物を召喚して専守防衛に努めて。アーシアもファーブニルを召喚して頂戴!」

 

「『はい!』」

 

≪ふむ。もしやトカゲを封じた事で希望でも持ってしまったのかな?仕方ない。本来ならば消耗品であるトカゲの数が減ってから喚ぼうと思っておったのだが、ここで喚ぶとしようか≫

 

死神達が地面に手を翳すと魔法陣が無数に現れ、炎が立ち昇る

 

そしてその魔法陣一つ一つからまるで地の底から這い出て来るように鋭い牙と爪、そして三つの頭を持った巨大な犬が現れた

 

「な!?ケルベロスかよ!しかもあんなに沢山!」

 

≪ファファファ!死神たる我らが地獄の番犬を使い魔に持つ事がそんなに不思議か?穢れた赤いトカゲを宿す小僧よ。成程、コウモリもトカゲも何方も低能であったな≫

 

とことん此方を見下した死神は話はこれで終わりとばかりにデスサイズの調子を確かめるように槍術のようにブンブンと振り回してから担ぐような構えでピタリと止まる

 

≪さぁ、天罰の時だ!全ての命を刈り取ってくれる。有間一輝、人間である貴様の魂は冥府に連れ帰ってタップリともてなしてやろう!≫

 

そのセリフを合図にして死神達とケルベロス達が一斉に飛び掛かってきた

 

『おもてなし=拷問』ですね。分かります

 

勿論そんなのはイヤなので通信先に確認を取る

 

「黒歌、そっちの準備は?」

 

≪バッチリにゃ♪≫

 

「ではロスヴァイセさん。もう一度お願いします」

 

「はい。再設定は完了です」

 

死神達が迫る中でロスヴァイセさんがまた指を鳴らすと敵側の全員が青白い光に全身を包まれた

 

≪なんだこれは!?≫

 

驚く彼らに再度ロスヴァイセさんの説明が入る

 

「それはレーティングゲームのリタイア転送の光です。この決闘の場はそもそもレーティングゲームのフィールドを参考に作り上げたもの。ゲームのルールを差し込む事は難しくありませんでした。自分達に害の有る能力ならば貴方方も対抗手段も持っていたかも知れませんが、安全装置のリタイアシステムの術式の対策は組んでいましたか?」

 

レーティングゲームのシステムを構築したのはこの世のありとあらゆる数式を操る超越者であるアジュカ・ベルゼブブさんが開発したものだ。その上このリタイア転送システムは本来対策を施す類のものじゃない。ましてや悪魔に否定的な死神の彼らが対抗術式なんて持ってるはずがないのだ

 

「転送先は当然医務室なんかじゃなくて今回裏方で動いてる黒歌の毒霧やルフェイの設置型の魔法、鳶雄さんの神滅具(ロンギヌス)とか可能な限りキミたちを一方的に磨り潰せる環境に整えた頑丈な別部屋だからさ。戦う相手も居ない中、早く諦める事をお勧めするよ」

 

≪き、き、き、貴様ァァァァァ!!直ぐに殺す!殺してやる!!≫

 

死神が仮面を被ってても口角に泡吹いてるのが分かるような奇声を上げながら突進してくるけどロスヴァイセさんが最後に"パンッ"と手の平を打ち鳴らしたのを最後に死神達とケルベロス達はリタイアの光の中に消えて行った

 

「・・・・・有間一輝。このような策が有るなら私を引き留める必要も無かったのでは?」

 

なんとなく俺が引き留めた理由を察したのか襟を引っ掴んだ時以上のジト目を向けられた

 

「いやいや、策が一つだけとか有り得んだろう?もしかしたらリタイアシステムもなんらかの方法で無効化されてたかも知れないし、その時は力尽くって事になってたしな」

 

どこぞの死神兼駄菓子屋の店主みたいに『千の備えで一使えたら上等』なんてのは真似出来ないけど、策や保険を複数用意するのは常識の範疇だと思うんだけどな?

 

「・・・俺、ちょっと今死神達に同情してるわ」

 

「戦うことすらさせて貰えないとかさっきまでクリスタルディ先生やストラーダ猊下たちと真っ向から打ち合いしてた身としてはギャップが酷いと言うか・・・」

 

イッセーもイリナさんもそこは切り替えていこうか

 

回避できる戦いを回避しない理由は無いんだし

 

一から十までこっちが用意したフィールドに敵が高確率で現れるのに罠を仕込まない理由が有るなら誰か教えて欲しいくらいだ

 

ロスヴァイセさんだって邪龍に何もさせずに無力化してるんだから一緒一緒!

 

「それで、今も蹂躙中・・・いや、既に終わってるかも知れんな。その死神達はどうなるんだ?そのまま消滅させるのか?」

 

ゼノヴィアが顎に手をやって死神が如何なるのかを考えてるようだ

 

だけどそれについては既に処遇は決まっていたりする

 

「いいや?一応出来るだけ生かして捕らえたらハーデス様の下に送り返す予定だな。アザゼル先生の話だとなんでもハーデス様が今回反旗を翻した彼らに愛と平和を語って更生させたいって打診が在ったみたいだからな」

 

善良なる神と化した冥府の神様は先ずは対話を試みたいらしい

 

「それは・・・大丈夫なのかしら?あの死神達がその程度で更生するとは思えないのだけど」

 

「問題無いと思いますよ?如何しても説得に失敗するようならハーデス様も厳罰を下すしかないって事らしいですし、俺の方から助っ人も推薦しておきましたので」

 

「助っ人?説得の?誰の事かしら?」

 

「・・・・・・・ミルたんさんです」

 

「『え゛っ』」

 

リアス先輩の質問に少し躊躇したものの答えると全員の顔が果てしなく渋い顔になった

 

だって愛で説得するなんて聴いたら真っ先に思い浮かんだのはミルたんさんなんだから

 

それに消滅させるよりはミルたんさんの説得(せんのう)でハーデス様の忠実な部下が増えた方がハーデス様の反対派に対する抑止力として凄く機能しそうだと思ったのだ

 

戦士達には殺されたって従わないような奴らは多く居るだろうが、つい先日まで殺意満々で意気込んでた同僚がミルキー死神になって職場復帰してきたら今回日和見してた死神達もこっちに手だししようとは思わないようになるだろう

 

「ああ・・・そう言えばイッキは次からはもっと容赦なく不穏分子ごと磨り潰すとか言ってたんだっけ?」

 

そうそう。殺して終わりなんて勿体ない(・・・・)。彼らには生きたまま『俺達に手を出すとこうなりますよ』という広告塔として存分に宣伝(ミルキー)して貰う方が効果的だろう

 

後日、ハーデス様とミルたん(+その仲間たち)の説得の下、死神の皆さんはヒラヒラのレースをふんだんに使用したピンクのミルキーマントを着た一団へと変貌したらしい

 

加えて襲ってきた中の上級死神はミルキー魔法(物理)の鍛錬により数年後には最上級死神クラスの力を獲得。タナトスとプルートの抜けた穴を十二分に補ったようだ

 

・・・あと何故か知らんが直接出会わなかったようだが(誰に?)ジークフリートの鍛錬の密度が倍増したらしい

 

 

 

 

 

戦いが終わって教会の戦士達も武器を捨てて投降し、デュリオさんやクリスタルディさん達も此方に合流した

 

異空間に送られた死神達は予定通りに蹂躙されたようだ。今頃冥府のベッドの上で治療と拘束を受けながらミルキーシリーズをミルたん解説の下、初代の第一話から視聴している事だろう

 

此方も量産型邪龍を改めて拘束して冥界に送ったりとかしている中でストラーダさんがアーシアさんに声を掛ける

 

「聖女アーシア。私を覚えているだろうか?」

 

「は、はい。一度だけご挨拶を・・・」

 

「うむ。そなたはまことに敬虔な信徒であった―――これを受け取りなさい」

 

懐から取り出されたのは封筒の束だ。それを受け取ったアーシアさんは中身が思い当たらず困惑している

 

「あの・・・これは?」

 

「その手紙は貴殿が治療した者達から宛てられた感謝の手紙だ。貴殿が教会を追放された後でもその手紙はずっと届いていた」

 

「ッ!?」

 

それを聞いたアーシアさんは声も出せない程驚いている

 

「良かったらその手紙を読んで返信してやって欲しい。中には貴殿が教会から追放された事を後から知って心配している者も多くいる。教会には話は通してあるのでどうか彼らに応えてやってくれないだろうか?」

 

「―――っはい!」

 

「・・・貴殿が追放されたと聞いた時、秘密裡に保護しようと隠遁先を探したのだが、間に合わなんだ。すまなかった」

 

アーシアさんの手を取って頭を下げるストラーダさんにアーシアさんも遂には溜まっていた涙を堪え切れなくなったのか手渡された手紙を抱いて地面に幾つもの雫を落とす

 

最後にアーシアさんの頭をその大きな手で優しく撫でた後、彼は次にフィールドに入って来たアザゼル先生に話し掛けた

 

「堕天使の元総督殿。その様子なら我らに付いた背信の徒はいぶり出せたようですな」

 

「如何いう事ですか?」

 

会話の内容が分からなかったのかイッセーが如何いう事かと問うとアザゼル先生が答えてくれた

 

「クーデター組を扇動したのはリゼヴィムって言ったろ?それはつまり教会側に手引きしてる奴が居たって事だ。案の定、この特性フィールドにクリフォトの奴らが現れた。この空間に入る為の術式を売った奴らがいるのさ。分かってさえいれば網を張って捕まえる事も出来るってこった」

 

「イッキは網どころか罠を張ってましたよね?」

 

「何時もの事だろ?」

 

「確かに・・・」

 

そこで速攻で納得しないでくれませんかねぇ!

 

「元総督殿、それとこちらもお渡ししたい。今回の騒動に対するお詫びという形になりますな」

 

イッセーの信頼に泣きそうになってるとストラーダさんは新たに懐から一つの小瓶を取り出した。中身は陶器の欠片のようだがかなり密度の濃い聖なる気が練り込まれてる

 

それを見たアザゼル先生も目を見開いて凝視していた

 

「そうか、やはり・・・コレなんだな?」

 

アザゼル先生の確認に彼もコクリと頷いて返す

 

「万が一を考えれば、コレがあなた方に必要になるかと思いまして」

 

「先生、なんですかソレは?」

 

「これは聖杯の欠片だ。本物のな」

 

「『!!?』」

 

話を聴いていた皆が驚愕と共に先程の先生と同じように小瓶の中の聖杯の欠片を凝視する

 

伝説に謳われる聖杯の一欠片。研究職でなくともその価値が計り知れないという事くらいは容易に察する事が出来るというものだ

 

アザゼル先生が聖杯の欠片を仕舞ったのを見届けたストラーダさんは最後に祐斗に語り掛ける

 

「リアス・グレモリーの『騎士』よ。教会の施設に居た時はイザイヤと呼ばれていたそうだね?」

 

「―――ッ!?どうして・・・それを・・・?」

 

「施設の過酷な実験の中で途中から姿を見せなくなった者も居たのだろう?だが何も全員が死んでしまった訳ではない。一人だけ生き残りが居たのだよ。トスカ、という名前に覚えは有るかね?」

 

実際にその名前に憶えが在ったのか祐斗はブンブンと頭を縦に振る

 

一人だけの生き残り、そして出された名前。ここまで揃えば察する事は容易過ぎる

 

ストラーダさんが部下の一角に目線を移すと彼らの後ろから12~13歳くらいで白い髪をおさげにした女の子が現れ、祐斗の事を凝視する

 

そして震えた声で在りし日の名でもって祐斗を呼ぶ

 

「・・・イザイヤ?」

 

「ッ!―――トスカ・・・なのかい?」

 

名前を呼ばれた祐斗も全身を震わせてカラカラに乾いた喉で確認を取る

 

目の前に在る現実(きせき)をまだ上手く飲み込めないのだ

 

「彼女の持つ神器は結界系のようでね。過酷な実験で生命の危機を感じたのか神器が覚醒し、そのまま暴走して自分自身に堅牢な封印を施したようなのだよ。バルパー達も封印を解く事も処分する事も出来ずに研究施設の奥で眠ったままになっていた。三大勢力の和平によって手に入れた堕天使の持つ神器の研究データを元に先日漸く封印を解く事に成功したのだ。ずっと仮死状態だった為にその間の成長は止まったままだったようだがね」

 

ストラーダさんの説明が聞こえているのかいないのか、祐斗はフラフラとした足取りでトスカという少女に近づいていく。そして祐斗が彼女の前に辿り着いた時、彼女は背伸びをしながら祐斗の片方の頬に手を這わせて優しく声を掛ける

 

「イザイヤ、こんなに大きくなったんだね。私は昔のまんまなのに」

 

触れた頬から伝わる確かな熱を感じて祐斗は遂に大粒の涙を流して彼女を抱き締める

 

「良いんだ・・・良いんだよ。そんな事は・・・トスカが生きていてくれた・・・それが・・・それだけの事が・・・大切な事なんだ・・・」

 

「うん。私もイザイヤが生きていてくれて嬉しいよ」

 

彼女も目尻に涙を溜めてその抱擁を受け止める。さっきのアーシアさんの時もそうだったが今も皆がこの光景を見て貰い泣き状態だ

 

俺?俺も勿論泣いてますよ

 

感動系の映画とか観ると普通にジワるタイプだからな

 

「彼女を連れて行くと良い。今回の件で教会はだいぶ揺れ動いた。クリフォトと繋がる糸は断ち切ったがまだ悪魔や堕天使に否定的な人間も多い。彼女を教会に置いておけば彼女を研究したり、キミに対する人質とするような輩が出て来るかも知れんからな」

 

確かにそうだ。人質もそうだけど彼女の神器で疑似的なコールドスリープが可能なら欲しがる奴は沢山出てきそうだな

 

「あの!僕はっ・・・!」

 

大切な仲間を取り戻してくれた恩人ともなった彼に祐斗が礼を言おうとするがその行為をストラーダさんは手で制した

 

「私を―――教会を決して許すなよ。若き『騎士』よ。さすればそなたの剣の輝きは鈍る。光と闇の狭間こそ貴殿の力の根源となろう」

 

ストラーダさんは転移魔法陣の上に立つと右手を振り上げる

 

「さらばだ。未来有る若人達よ」

 

その言葉を最後に彼は光の向こうへ消えていったのだった

 

 

 

 

教会のクーデター組との戦いも終わって二日ほど経った頃。今日は放課後の部室では部屋の隅の方で祐斗イリナさんが何やら真剣な表情で話し合っている―――と云うのも先日出会ったトスカさんがこの町・・・より正確には祐斗とギャスパーが一緒に住んでいる部屋に彼女も住むようになったので教会側とも色々遣り取りしているのだ

 

トスカさんは教会育ちの信者だし、この町で住むにしても教会での拝礼や信者の集会(ミサ)などをいきなり切り離せというのも無茶な話だ

 

他にも彼女がまだこの町どころか日本語も覚束ない段階だったり教会時代の常識との差異だったり兎に角今はフォローと調整が必要な時期なのだ

 

アーシアさんやゼノヴィアの時は言ってはアレだが教会から追放されてたので教会関連の事は考えなくても良かったし、悪魔に転生した事で日本語を話す分には問題無かったからな

 

少なくとも今のトスカさんよりはハードルは低かっただろう

 

そんな事を現実逃避(かんがえて)いると向かいのソファーに座った何時もより少し目線が高い(・・・・・)イッセーが堪らなくなったのか遂に立ち上がって俺に指を突きつけてきた

 

「なんでだよ?―――なんでイッキが小っちゃくなってんだよオオオ!!?」

 

突きつけられた指の先で黒歌の膝の上に座っている(・・・・・・・・・)俺にツッコミをぶつけたいようだ

 

「まぁまぁ、落ち着けイッセー」

 

「落ち着けるかよ!?ていうか何で木場とイリナはこの状況で普通に事務的な話を続けてられるんだよ!?イッキがミニマムになってんだぞ!?可笑しいだろ!?」

 

祐斗とイリナさんが反応が鈍いのは先日のクーデター戦で俺がこの変化の術を使ってる姿を一度見たからだな。流石に二度目で大仰に驚いたりはしないだろう

 

大声を出すイッセーに俺を膝の上に乗せている黒歌と左右に座って俺の頬っぺやら頭やらを撫でたり突いたりしていた白音とレイヴェルが苦言を呈す

 

「ちょっと、子供の前であんまり大きな声を出さにゃいでよね」

 

「イッセー先輩。他人を指さす行為は褒められたものではありません。教育に悪いので自重して下さい」

 

「白音の言う通りです。イッキ様が真似しだしたらどうしますの」

 

「畜生!誰か俺に味方してくれる奴は居ないのかよ!?」

 

すまないがイッセー。今の俺じゃフォローできん

 

授業が終わってからイッセーが松田と元浜と紳士の円盤や雑誌(俺の指導でカバーは付けさせることに成功した)の交換会をしてたのでイッセー以外は一足先に部室に来ていたのだ

 

そしたら部室に偶に遊びに来る黒歌が転移して来て開口一番「イッキ。子供になるにゃ!」と思わず仰け反る勢いで迫って来た―――なんでも訊くところによると家に居る時にアザゼル先生から「イッキとクリスタルディとの戦いの記録はもう見たか?面白い事になってやがるぞ」と連絡が有ったようで目を通したところ俺が妖怪変化で子供(小学一年くらい)になったシーンを目撃したという事らしいのだ

 

「―――って!アザゼル先生が原因じゃねぇかよオオオオ!!?」

 

ここまでのザックリと説明した辺りで再びイッセーの叫びが響く

 

全くもってその通りである

 

その後直ぐに現れた一年生組の白音とレイヴェルにもその件がバレて三人に詰め寄られて押し切られた形で今に繋がる

 

お陰で黒歌達のお人形さんと化してしまったのだ―――ハッキリ言って恥ずかしい

 

さっきから努めて平静を保とうとしているが黒歌に文字通り子ども扱いされている現状では焼け石に水だ。もう全方位が柔らかくていい匂いがする

 

なによりもなけなしの男のプライド的なものが砕け散っていくのを感じるのだ

 

うぅぅ・・・やるならせめて等身大の抱擁がしたい

 

だが今回の件で一つの事実がハッキリとした。それは・・・

 

 

 

 

 

俺におねショタ属性やバブみ属性は無いという事だ!!

 

 

 

・・・いや、別に前々から解ってた事だけどさ

 

だからイッセーはそんなに羨ましそうな瞳を向けるな!「小さくなれば俺も無邪気さを装ってお姉さん方のおっぱいタッチしまくれるんじゃね?」とかもう口に出てるんだよ!

 

言っとくけどこの状態そんなに良いもんじゃねぇかんな!正直今も黒歌達にワチャワチャ触られて真面に身動き取れねぇし、かなり特殊な紳士属性の方じゃないと振り回されるのがオチだ・・・待てよ?ならいっその事実際に体験(・・)して貰えば良いんじゃないか?

 

俺は思いつくままにイッセーに一つの提案をする

 

「イッセー、小さくなってみたいなら協力してやる。ちょっとイヅナを憑依させろ」

 

「え゛っ!?い・・・いやぁ、別に小さくなりたいなんて言ってないし?」

 

おっ、なんだ?本当に小さくなるかもって思ったら尻込みしやがったか?

 

だがお前の意思など関係ないのだよ。その可能性を示唆してやった時点で退路は断たれているのだ

 

先ずイッセーの隣に座っていたアーシアさんが勢いよく立ち上がった。基本はお淑やかな彼女には珍しく鼻息を荒くしている

 

「イ、イッセーさん!是非小さい頃のお姿になってみて下さい!」

 

「アーシア!お、落ち着けって・・・な?」

 

何とかイッセーが諫めようとするがアーシアさんは鼻と鼻がくっ付きそうな距離に顔を近づけて迫っている・・・少し前に見た光景だ

 

「私は落ち着いてます!イッセーさんが小さくなって抱っこさせて頂けたならもっともっと落ち着けますぅぅぅ!!」

 

絶対に落ち着く訳が無いと確信出来るアーシアさんにタジタジになっているイッセーだがそこに祐斗との話が一段落したのかイリナさんが後ろから首に腕を回す形で抱き着いた

 

「ねぇダーリン。将来二人の間に子供が出来た時の為に予行演習しておきたいんだけど協力してくれない?具体的には子供を抱っこしたりしてみたいな~ってね♪」

 

赤ん坊なら兎も角小学一年くらいの子供相手に抱っこの練習とか必要無いと思うんだがな

 

「イリナ!お前もか!」

 

新たな敵(イリナさん)の登場に更にタジタジになるイッセー。しかし俺はこの程度で手を緩めたりしないぞ

 

すると廊下の方から誰かが全力ダッシュするような音が聞こえてきて部室の扉が開かれる

 

「話は聞かせて貰ったわ!」

 

「あらあら、うふふ♪あのアルバムの中のイッセー君をこの目で見られると聞いたら最速で来るしかありませんわ」

 

「リアス!?朱乃先輩まで!?なんで此処に?ていうかなんで知ってんの!?」

 

イッセーの疑問に誰かがなにか言う前に開け放たれたドアから更に別の二人が入って来た

 

「イッセーはもう子供化したのか!」

 

「あらら~?兵藤が面白可笑しい事になるって聞いて来たんだけど、何だか先に有間君が子供になってない?」

 

入って来たのはゼノヴィアと桐生さんだ。生徒会選挙はもう目前なので最後の確認やスピーチの練習を近くの教室で行っていたのだ。イッセーに気付かれないようにこっそりとイヅナを解き放って思念通話でイッセー子供化イベントの告知をしたら全力で集合してくれたという訳である

 

黒歌達と違ってリアス先輩達は常にイヅナを持ってる訳ではないけど、この学園の敷地内に居る彼女達の下に上級悪魔クラスの力を持つイヅナが秒で辿り着くなんて簡単な事だからな

 

そうしてイッセーは女性陣のパワーに押し切られてイヅナを憑依させる事を了承

 

俺が遠隔で変化を発動させてイッセーを子供の姿に変えると荒い息遣いとだらしない口元に変わった女性陣に抱っこの為に四方から引っ張られる状態となった

 

「いででででで!!皆放して!俺の腕と足が全部取れちゃう!ゼノヴィアは俺の頭を持つなって!首までもげるぅぅぅ!!」

 

なんか昔国語の教科書で似たような光景を見た気がする・・・確か『大岡裁き』だっけ?

 

子供の母親を主張する二人がその子供を引っ張り合って子供が痛がる様を見て手放した方こそが母親と認められたっていう創作だったはずだ

 

 

 

”ギチギチギチギチッ!!  ギリギリギリギリッ!!”

 

 

なんかもう人体から出てはいけないかなりヤバい音が鳴り始めてる気がするんだけど大丈夫かな?

 

「ヘルプッ!?ヘェェェェルプ!!俺が五等分になっちまうぅぅぅ!!」

 

五等分の花婿(物理)ですね。そんなイッセーの助けを求めるそのSOSを聴いた桐生さんは呆れたように肩を竦める

 

「バカねぇ、兵藤。両手両足と頭が取れたら胴体が残るでしょうが。でも安心なさい。余った体の方は後でロスヴァイセちゃんが回収してくれると思うわよ?」

 

六等分の花婿(物理)だったか・・・

 

「ねぇ待って!体が千切れるの前提で話を進めるの止めてくれません!?悪魔でも首が取れたら普通に死ぬんですよ!」

 

フェニックス家みたいな例外は在るけど普通は首無くなったら死ぬよな

 

その後、職員会議が終わって俺が子供化して弄られてると思ったアザゼル先生と何も知らないロスヴァイセさんがやって来てアザゼル先生は爆笑。ロスヴァイセさんはリアス先輩達を吹き飛ばして長々と説教する事になった

 

帰り際にイッセーは「俺・・・もう子供になりたくねぇわ」と心身ともにボロボロになって帰路についたのだった

 

 

 

 

後日、駒王学園の新生徒会役員を決める生徒会選挙が開始された

 

事前の広報活動は全て終わり、最後に体育館で立候補者のスピーチを聴いてから投票箱に票を入れる事になる

 

会計、書記、副会長と順にスピーチでそれぞれの意気込みを語っていった

 

まぁ全身超絶厚着でゴーグル付けて光を遮断してる吸血鬼のミラーカ・ヴォルデンベルグさんが一番(見た目で)インパクトは有ったかな?

 

副会長に立候補したサジの基本に忠実で少し笑いを交えたスピーチが終わったら次はいよいよ生徒会長候補のスピーチの番だ

 

先鋒として壇上に上がった花戒さんは自分がどれだけ生徒会が好きなのか、そして生徒会を通して駒王学園をより良くしていきたいという旨の内容を語った

 

スピーチの終わりには生徒たちから大きな拍手が贈られる

 

花戒さんが壇上から降りると次はゼノヴィアのスピーチの番だ

 

手に持ったスピーチ原稿を読むために一度口を開きかけた彼女は少し逡巡してから原稿を伏せて顔を上げて語り出す

 

その内容は学園を変えていく上での分かり易い目標でもなく、守りたい事柄でもなく、今まで教会の施設で育った自分が初めて通った学園という場所で見聞きした事が如何に新鮮で楽しいものだったのかという感想だった

 

続けてゼノヴィアはそんな自分に新しい様々な『楽しい』を与えてくれた学園をもっと楽しいものに変えていきたいと言う

 

自分が感じたように―――自分が感じた以上に―――『楽しい』を創りたいのだと

 

「―――私はこの駒王学園を誰からも愛される学園にしたい。皆、楽しい駒王学園にしよう。いや、私がしようと思う。だから、こんな私をどうかよろしくお願いします」

 

演説を終えたゼノヴィアが最後にお辞儀をするのと同時に生徒たちから歓声が上がった

 

 

 

後日、票の集計結果が張り出され、新生徒会のメンバーが決定した

 

 

◎生徒会長/ゼノヴィア・クァルタ(二年生)

 

〇副会長/匙元士郎(二年生)

 

〇書記/巡巴柄(二年生)、加茂(かも)忠美(ただみ)(二年生)、百鬼(なきり)黄龍(おうりゅう)(一年生)

 

〇会計/草下憐耶(二年生)、仁村留流子(一年生)、ミラーカ・ヴォルデンベルグ(一年生)




一体何時から死神とのガチバトルが始まると錯覚していた?

ちょっと冥府の戦力強化されちゃいましたねww

取り敢えずこの章はここまでで次から進路相談のベリアルになります。19巻の最後を20冒頭に持って来ても変わりないと思ったので新生徒会で〆にしましたww



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第20章 進路指導のベリアル
第一話 宇宙へと、羽ばたきません?


生徒会の新メンバーが発表された日の夜。ゼノヴィアが生徒会長に当選された事を祝って打ち上げパーティーが行われた

 

例の如く皆の悪魔の仕事の後なので夜も遅めの時間帯となったし他にも用事が有ったとの事でゼノヴィアの選挙活動にかなり貢献した桐生さんは残念ながら不参加となった

 

まぁパーティーが終わってから深夜に家に送り返す訳にも親御さんへの説明無しでいきなりお泊り会をする訳にもいかないだろうし、そもそも用事有りなら仕方ない

 

そしてパーティーの一つの〆として『皇帝ベリアル十番勝負』でライザーと王者・ディハウザー・ベリアルの試合を視る為に皆が冥界のチャンネルと合わせたテレビに注目していた時に一人の人物が部屋に入って来た

 

「よぉ、お前ら。ちゃんとハメ外してっか?」

 

「先生!こんな時間になんの用ですか?ってか仮にも教師の第一声がソレって不味いでしょ!」

 

アザゼル先生の不謹慎極まりない言動にイッセーからのツッコミが入る

 

「なんだなんだ?お行儀よくジュースとお菓子だけか?ったく、こういう時は教師に隠れてアルコール入りのジュースや煙の出るシガレットで盛り上がるのが学生の愉しみだぜ?」

 

いやいや、健全でも普通に楽しめますし、第一この場にはもう一人教師が居るでしょうに

 

すると予想通りと言うべきかロスヴァイセさんが恐い顔で立ち上がった

 

「アザゼル先生!生徒を不良の道へ堕とすような発言は慎んで下さい!」

 

「お堅いねぇ。これも一つの教育だぜ?ガキってのは穢れを一つ識るごとに、渋い大人に成長していくのさ」

 

「変に格好つけないで下さい!識ることと自ら首を突っ込むことは違います!」

 

言い争う・・・と云うよりはロスヴァイセさんが一方的に突っかかってるだけだが俺達としては見慣れた光景だ

 

「それでアザゼル。今日は何の用で来たのかしら?これからライザーの試合が始まるのだけど」

 

「ああ、実は先日ストラーダから譲られた聖杯の欠片を使ってとあるアイテムを作ってな。ついさっき完成したところなんだ」

 

「アイテム?」

 

聖杯の欠片を使ったアイテムと聴いて皆の興味の視線が一段高まる

 

「そうだ。理論上、それを使えばギャスパーのお姫様であるヴァレリー・ツェペシュを目覚めさせる事が出来るはずだ。だからこそ、こんな遅い時間でも態々来てやったんだぜ?」

 

アザゼル先生がニヤリとキメ顔をキメながら語られた内容に全員が驚き、中でもギャスパーが勢いよく先生に詰め寄った

 

「ヴァレリーが!?ほ、ほ、ほ、本当なんですか先生!?」

 

「慌てるな。なにせ相手は神滅具(ロンギヌス)と聖杯だ。100%の保証はせん・・・が、現状俺の持てる技術は全部ぶち込んでは有る。それで、見に来るか?」

 

「はいっ!」

 

アザゼル先生は100%じゃないと言ってるけど基本は慎重派でこと研究に関しては妥協しない彼の事だから万が一の時のセーフティなども含めて本当に『全部』を注ぎ込んだのだろう

 

そして見学するか如何かだがギャスパーの答えは当然Yesだ

 

リアス先輩はそれを聞いて皆に神の子を見張る者(グリゴリ)へ行くよう促す

 

「そう言う事なら早速準備を・・・あっ!」

 

しかし途中まで言い掛けたところでレイヴェルの方を振り向いた

 

確かにヴァレリーさんが目覚めるかも知れないと云うのは直ぐに足を運びたい案件では有るが、レイヴェルにとっては実の兄であるライザーの復帰戦の応援も決して蔑ろにして良いものではない

 

「レイヴェル・・・貴女はライザーの戦う様を応援して上げるべきじゃないかしら?」

 

「い、いえ!リアス様。お気になさらずともお兄様の試合の様子は後で録画したものを視る事も出来ますし・・・そ、それに結果は分かってる試合ですしね・・・」

 

レイヴェルはチラチラとテレビの方に視線を送って少々後ろ髪を引かれるような感じではあるものの、同じ一年で友人のギャスパーの方を優先しようとしたが当のギャスパーがレイヴェルの手を取ってゆっくりと首を横に振る。ライザーの試合は後で録画で見たら良いとレイヴェルは言ったがそれを言うならヴァレリーの方も似たようなものだ

 

「有難う。レイヴェルさん。でもこっちは大丈夫だからレイヴェルさんはライザーさんの事を直接応援して上げて。こういう時のアザゼル先生は信用も信頼も出来るから」

 

ギャスパーはギャスパーの『家族』を、レイヴェルはレイヴェルの『家族』を、今は優先するのが一番良いと判断したのだろう

 

「おいギャスパー。お前サラッと普段は信用も信頼も出来ないとか抜かしやがったな?」

 

アザゼル先生の独り言(ざれごと)は聞こえないものとして俺もギャスパーの言に乗っかる

 

「なら俺と、あと黒歌もレイヴェルと一緒に残ろうか。吸血鬼の城では俺と黒歌だけは挨拶もした事ないし、ヴァレリーさんが起きた後で紹介してくれれば良いよ。それに俺も一応ライザーの将来の義弟だしな―――黒歌もそれで良いか?」

 

「まっ、構わないにゃん」

 

俺と黒歌は最初に城に行った時にギャスパー達がお話してる後ろにちょろっと居ただけだし、レイヴェルに関してはヴァレリーさんからしてみれば完全に初対面だからな

 

他のメンバーは俺と黒歌が裏で工作してる時にギャスパーとヴァレリーさんの歓談にお呼ばれもしたみたいだから良いけど、目覚めた直後に俺らがその場に居ても多分『誰?』となるからな。自己紹介は後で構わないだろう

 

黒歌には事後承諾みたいな形で言ってしまったが彼女も特に異論は無いようだ

 

「我も・・・残る?」

 

「ああ~、行くのは神の子を見張る者(グリゴリ)の施設だからな。オーフィスは今回は遠慮してくれ」

 

オーフィスの存在は各勢力のトップ陣の中でも一部しか知らされてない事だからアザゼル先生の根城と云えど連れて行くのは無理か。まぁトップ陣で知らされてない奴らも(インドラとか)勝手に情報掴んでるんだろうけどな

 

そんな訳で皆は最低限外行の格好となってから地下の転移の間で神の子を見張る者(グリゴリ)へと転移して行った(ライザーの試合は既に始まってたので見送りは不要と言われた)

 

ライザーとディハウザー・ベリアルの試合もエキシビションマッチで例えばスポーツ形式で制限時間一杯まで戦うような内容は組まれずに多少王者側に制限は入ってるものの基本は正面からぶつかり合うようなルールとなったので試合内容は割とサクサク進んでいる

 

今はディハウザー・ベリアルの下へ向かおうとしたライザーと『女王』のユーベルーナさんに皇帝の眷属が戦いを仕掛けてユーベルーナさんが囮となってライザーをディハウザー・ベリアルの待つ洞窟の奥へと向かわせたところだ

 

≪ライザー・フェニックス選手の『女王』、リタイア!≫

 

ライザーが炎の翼を広げて高速で奥へと進む道半ば辺りでユーベルーナさんのリタイアアナウンスが鳴り響いた。これで眷属は全員撃破された事になる

 

ライザーは後ろを振り返って誰も追って来るような気配が無い事を確認する

 

≪よくやったユーベルーナ。追撃者が居ないのは王者の計らいなのだろうが、半年前の俺達では手加減された上でも皇帝の膝元まで辿り着く事すら出来なかったのだろうな≫

 

ライザーは振り向いていた顔を正面に向け、まだ見えぬ位置に居る皇帝の気配のする方へと鋭い視線を向ける

 

≪俺の眷属たちよ。お前たちの献身に俺は皇帝に喰らい付く意地でもって応えるとしよう≫

 

そうしてライザーはそこからはゆっくりとディハウザー・ベリアルの下へ歩き出していく

 

―――ヤバい。ライザーが超主人公してる

 

となりに座ってるレイヴェルも目元に涙を溜めて「成長なさいましたね。お兄さま」と妹目線というよりは保護者目線で感じ入ってるようだ

 

しかし問題はこの先だ。俺はライザーの試合が高確率でご破算になるのを識っている。だからせめて試合を視るレイヴェルの傍に居てあげたいと思ったのだが、そもそも『多分大丈夫』という理由で行動に移さなかった俺にそんな気遣いとかする資格が在るのかとか思考が泥沼に嵌りそうだ

 

これが原作知識持ちの葛藤ってやつか

 

今まで大して気にして無かったってのにな・・・

 

ったく、身内が絡むと途端に気になるとか人間味が有ると言えば良いのか薄情と言えば良いのか。気持ちを切り替える為にも一つ静かに深呼吸をする

 

そうだ。『話さない』を決めたのは俺なのだからレイヴェルや皆がこの先持つであろう不安や心配を前に俺自身の気持ちなど二の次だろう・・・それ位は飲み込まないとな

 

そうしてライザーは皇帝の待つ洞窟の中のカメラの届かない奥まった場所に入って行き・・・皇帝と共にゲームフィールドからその姿を消したのだった

 

 

 

 

試合中の二人の『王』が突如として居なくなった事に実況役の人の動揺から徐々に観客、視聴者にも不測の事態が起こった事が伝わっていった

 

そして試合の放送は慌ただしく中断されて冥界のニュースにも速報のテロップが流れる程だ。ライザーは兎も角として絶対王者たるディハウザー・ベリアルは冥界屈指の実力者であり、スターという名の娯楽提供者でもある

 

貴族と縁の薄い民衆からしてみれば四大魔王と同等かそれ以上の人気が有っても可笑しくない程だ。そんな人気者が行方不明となれば情報の拡散は一瞬だった

 

神の子を見張る者(グリゴリ)へと出向いていた皆も直ぐに戻って来てギャスパーの大切な人が目覚めたと報告してくれたがその表情は硬い。ヴァレリーさんとライザーの良いニュースと悪いニュースが同時に来たものだから仕方ないのだろうがな

 

今は皆で映像が切り抜かれた問題のシーンを改めて見たりアザゼル先生が悪魔政権の方に色々確認を取っているところだ

 

そうは言っても洞窟の奥の入り口付近に有ったカメラの映像なのでライザーが入って行ってから中の様子は見えず、少ししたら蒼い光が僅かに中から漏れ出たくらいのものなのだが―――ともあれ今はアザゼル先生の連絡が終わるのを今か今かと待っている状態だ

 

だがやはり一番落ち着きがないのはレイヴェルだ。今は左手で俺の袖を握り締めてるし、反対の手は白音が繋いでいる

 

何時俺の袖を握ったのかレイヴェル自身は無意識だったようなので出来る限り優しく袖を握る手を解いてから白音と同じように手と手で繋ぎ直しておく

 

やはり不安な時は人肌の温度の方が落ち着くだろう

 

そして先程より少しはレイヴェルが落ち着いた辺りでアザゼル先生が帰って来た

 

「先生!ライザーと皇帝はっ!?」

 

「今、ハッキリしているのは二人が消える少し前にゲームの緊急用プログラムが作動したという事だけだ。緊急用プログラムってのは例えばフィールドが崩壊しかけた時にフィールドを修復したりイカサマ防止だったりと内容は様々なんだが、今回発動したプログラムの識別コードではあの場所で何かしらの不正行為が有ったらしいと云う事だけだ」

 

「そんな!あり得ませんわ!お兄様はゲーム馬鹿ですが、だからこそ不正行為などするはずもありません!!」

 

「ではベリアル氏が・・・?」

 

「一応クリフォト辺りが外部から介入した可能性も視野に入れてはいるんだが、今の時点では外からの工作の痕跡は見つかってないそうだ。第一不正行為をしたところで何処へと知れない場所に跳ばされて行方不明になるなんて訳の分からん設定は当然組まれていない」

 

要約すれば『意味不明』という先生の言葉に皆の表情に影が落ちる

 

普通に考えてライザーも皇帝もゲームで不正をする必要が無いからだ

 

皇帝がゲームに勝つ為ならごく普通に戦えば確定で勝てるし、逆にライザーだって彼我の実力差が有り過ぎて不正行為の一つや二つで勝てるなんて思わないだろうし、そんな事をすれば当然レーティングゲームからの追放とフェニックス家の没落だ。それ以前にレイヴェルの言ったようにライザーが楽しみにしていた試合を穢すような真似はしないと云うのが満場一致の意見となる

 

何かしら手掛かりの一つでも在れば悪魔政府の捜索隊などにも希望が持てるのだが、今の話では手あたり次第に探すという最も非効率な動きになると分かってしまうからだろう

 

「・・・アザゼル先生は何か思い当たる事が有るんじゃありませんか?」

 

朱乃先輩は腕を組んで難しい顔をしているアザゼル先生に訊ねる

 

その一言に皆の視線が先生に集中した。様々な情報を手広く収集し、柔軟な思考力を持つアザゼル先生ならば自分達では解らないようなか細い糸も見逃さないのではないかと云う期待だ

 

「・・・悪いが今はまだ何とも言えん。だが、俺の予想が正しければライザー・フェニックスの行方はそう悪いものではないはずだ。俺の事を信じてくれるなら、今は無事だけ祈っててやってくれないか?」

 

アザゼル先生の言葉に皆は何かを言いたそうにしながらも口を閉ざす。推測でも良いから聴きたい気持ちは有れど、こういう時に無理に訊くのは良くないとの判断からだ

 

皆、苦い顔をしながらもその日は解散となり、その日家に戻って寝る時は自然とレイヴェルを抱き締める形で眠りにつくのだった

 

 

 

 

 

あれから数日、皆は訓練場に集まって訓練をしている。ニュースの内容は代わり映えしないし、なにより俺達の立場ならニュースよりも先に情報が届くからニュースを見る意味が薄いのだ。ライザーの安否が気になっていたとしても結局前線で働く俺達は地力を底上げして何かあった時に素早く確実に対処できるようにするのが一番良いのだと態々口にしなくとも全員が理解している。そして俺も兼ねてより約束していた特訓をしているところだ―――そう、クロウ・クルワッハと云う名の最強邪龍様との模擬戦である

 

 

 

「ぐぁっ!!」

 

―――お陰で今もこうして蹴り飛ばされているところだ

 

直前で腕をクロスして闘気を集中させたのだがクロウ・クルワッハの攻撃が素早くて闘気のガードが完璧ではなかった為、ビリビリと蹴られた部分が痺れている

 

もうね。マジでこの邪龍がヤバい。以前天界で戦った時は戦闘経験からくる勘をすり抜ける為に相手の無意識に入る抜き足を使ったのだが二度目の今日は既にその抜き足も対処されてたった今カウンターで吹き飛ばされているのだ―――多分方法を訊いてもやはり勘と答えるだろうから意味が無いのだが・・・

 

飛ばされた先には地形の一つである大岩が転がっているようで地面を手で弾いて体の姿勢を整えて大岩の側面に横向きに着地する。その際、俺を蹴り飛ばしてから追撃で迫って来ていたクロウ・クルワッハの眼前に手を着いた瞬間に発動させた仙術で土壁を何重にも張り巡らせた

 

「甘い」

 

だが当のクロウ・クルワッハは一切速度を落とさずに土壁に突っ込みそのまま俺に近づいて来るのが気配で分かる

 

だけどそれは予想通りだ。かの邪龍を土壁で止めようとするなら大陸プレートでもひっくり返して壁としなければ安心出来ないだろう

 

一瞬の目晦ましの間に『第四秘剣・蜃気楼』の分身をばら撒き、目前の土壁が破壊されたのと同時に本体の俺もその場から離脱する。しかしクロウ・クルワッハは瞬時に本体の俺を(どうせ勘で)見つけ出して距離を詰めてきた

 

「ッチ!『第五秘剣・断空』、乱っ!」

 

バックステップで逃げる俺とそれを追うクロウという形なので目の前の空間に無数の斬撃を置く(・・)がやはりそれも彼は無視して突っ込んで来た。『断空』は威力に主眼を置いた技ではないからか連続ヒットしても精々カッターナイフで切りつけた程度の傷しか出来ない。この邪龍の戦いはシンプルだ。近づいて殴るかブレスを吐くかだ

 

抜き足も勘で対処できないものを勘で対処するとか言う以前にこんな感じに猛攻されるとほぼ使えなくなる技術だからな。やり難いったらない

 

「苦し紛れに振るう剣で俺を倒せると思うな」

 

剣の間合いに入ったクロウ・クルワッハを両手に持った大剣の右歯噛咬(ザリチェ)左歯噛咬(タルウィ)で斬り付けるが瞬時に背中から生やしたドラゴンの翼で剣の腹の部分を弾く事で拳の間合いにまで詰められてしまう。そしてその拳が俺の額にぶつかった

 

“グバンッ!!”

 

拳と頭蓋骨が衝突したとは思えない音を奏でて俺の上半身が勢いよく(・・・・)倒れる

 

「むっ!」

 

その勢いの反動で振り上げられた蹴り技がクロウ・クルワッハの顎を蹴り上げた

 

「『第三秘剣・円』―――ムーンサルト版ってね」

 

漸く真面に一発攻撃が入ったな・・・大して効いてないだろうけど口元から血は流れている

 

彼は口の中をモゴモゴとさせると血と一緒に歯(牙)を地面に吐き出した。まぁ牙くらいドラゴンなら直ぐ生えて来るだろう(適当)

 

「ククク、成程。この俺の膂力を利用したカウンター技か。苦し紛れの攻撃に見せたのは俺が遠慮なく拳を打ち込む為の布石だな?しかし、その右足はもう使い物にならんのではないか?」

 

痛い所突いてくるな。確かにコイツの言う通り、蹴った右足の骨が折れてしまっている。頭蓋骨をガードする為にオーラを集中させて次の瞬間右足にオーラを集めたのだが完全には間に合わなかったのだ。コイツとの接近戦ではまだ俺のオーラを瞬時に移動する技術が追い付いてないのだ

 

基礎能力で相手が上回ってる以上、今までと同じようなカウンター戦法では一歩遅れてしまう

 

そのまま再度クロウ・クルワッハが接近戦で嵐のような攻撃を仕掛けてくるが右足が折れた今の自分では10秒と経たない間に劣勢に追い込まれて行く。幾ら痛覚遮断しても怪我をしているという事実に変わりはないのだから100%のパフォーマンスは発揮出来ないのは当たり前だ

 

そんな中、左歯噛咬(タルウィ)を放たれたオーラで弾かれてしまい、しかしその反動で僅かに距離が開く。クロウ・クルワッハがそのまま右手で殴りかかって来るのを見てすかさず右歯噛咬(ザリチェ)を右薙ぎに振るってその拳・・・いや、指を斬り落とそうとするがその右手がドラゴンの巨大な手に変わって刀身そのものをガッシリと掴まれてしまった

 

そのままクロウ・クルワッハの左手の掌底が神器を掴まれた右腕を叩き折る為に迫る

 

神器が掴まれたなら神器を放棄すれば良いのだが、一瞬硬直した俺と始めから連撃を叩き込むつもりだったクロウ・クルワッハの攻撃では奴の方が疾い。よしんば腕を回避できたとしても掌底が胴体に当たればそっちの方が大ダメージだ

 

だから俺は右歯噛咬(ザリチェ)を握ったまま禁手化(バランス・ブレイク)を『解除』した

 

禁手化(バランス・ブレイク)前の俺の神器は奇形の短剣。その刃は腕の方までカバーしている。その刃をクロウ・クルワッハの掌底と俺の腕の間に差し込んだのだ!!・・・まぁ結果は予想付くと思うけど関係無しとばかりに放たれた攻撃で俺の右腕は折れました。今は彼が左の手のひらに折れて喰い込んだ刃を抜き取って投げ捨てているところだ

 

人型に戻した右手も右歯噛咬(ザリチェ)を掴んだ際に手のひらに深めに切り裂いたみたいだけど相手はタフネスお化けの邪龍さん。「こぶしを握っておけば直ぐ治るだろう?」とか言い出しそうである

 

さて、これ以上はどうやっても無理そうなので最後の仕上げといきますか

 

「【一刀餓鬼】!!」

 

折角なのでクロウ・クルワッハを相手にこの強化状態で数秒間だけ思いっきり斬り付けるのだ。戦いの中でもちゃんと力の制御が出来るようにするという事とクロウ・クルワッハ自身が数秒とは云え歯ごたえのある相手と戦えるという理由からだ・・・初日は全身の切り傷に加えて片腕斬り落としたのに今では初日に比べて怪我も半分くらいになってるという冗談みたいな適応力を魅せているけどな!たった数秒。されど濃密な数秒の戦闘を無駄にしないように突貫していくのだった

 

 

 

 

「大丈夫ですか。イッキ様?」

 

はい。右手右足が骨折して全身裂傷に加えてエネルギー枯渇して戦場から離脱した俺です

 

「大丈夫。毎度すまんな」

 

「そこは『有難う』が欲しいですわね」

 

「ああ、有難う」

 

そんな感じにイチャつきながら今はレイヴェルの膝枕を受けながら涙の回復を行っています―――本当なら膝枕の必要はないのだが本人が膝枕をご所望だったのでそれに従ってる感じだ。クロウ・クルワッハとの模擬戦では最後に【一刀餓鬼】を使う関係上アーシアさんではなくレイヴェルの回復が必須となる。なんだか彼女を便利な回復アイテム扱いしてるかのようで気が引けるのだが最初にその事で詫びを入れると「なら、膝枕で!」となったのだ

 

ライザーの安否が知れない中でレイヴェルの我が儘と云うのも本心も有るのだろうが不安を紛らわす意味も有るのだろう。断る理由も無かったのだ(周囲の視線が恥ずかしいけど)

 

黒歌と白音は文句こそ無いようだが普段の密着度が少し増した気はするがな

 

役得と割り切ってレイヴェルの膝枕を堪能していると今日の朝練に参加していたデュリオさんが近づいてきた

 

「いやぁ、イッセーどんもそうだけどイッキ君も可愛いお嫁さん達に愛されてるようで羨ましいっスねぇ」

 

まぁ自覚は有りますよ。ただ一夫多妻的な俺に天界のジョーカーがその発言は宗教的に大丈夫なのかとは思うけどな

 

そして彼は遠くの方で行われている模擬戦の方に目を向けた

 

「イッキ君もそうだけどヴァーリどんもよくあの邪龍君を相手に一人で闘う気になるよね」

 

そう。今クロウ・クルワッハと模擬戦しているのはヴァーリだ

 

訓練には時折参加するヴァーリは今日偶々顔を出した時にクロウ・クルワッハを見つけて試合を申し込んだのだ。当然クロウ・クルワッハは快諾して今に至る

 

今も空中で派手にドンパチやってる最中だ。ヴァーリも最初から白銀の鎧で遠目に見ていても『半減』の力で空間が歪みまくって変な事になっている

 

「デュリオさんも如何ですか?『D×D』のリーダーとして一つ」

 

「ハハ、遠慮させて貰おうかな?彼のパンチを真面に喰らったら宇宙まで吹き飛ばされそうだよ」

 

冗談のようで冗談に聞こえない話だよな・・・それにしても宇宙か

 

ふと思いついた事を尋ねてみる

 

「デュリオさんの煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)で大気を操ればワンチャンデュリオさんが『スペース☆エンジェル』に為れたりしませんか?」

 

「うえ゛っ!?」

 

宇宙線とかの対策の術式とかは別に必要だろうけど最悪オーラのゴリ押しで身を守ればすぐにでもデュリオさんは宇宙まで飛んでいけるのではないだろうか?

 

「確かに、空も飛べて莫大な光力も持ち、天候を自在に操るデュリオ様なら可能か不可能かで言えば・・・可能なのではないでしょうか?」

 

「ええ~、レイヴェルちゃんまでそんな真剣な顔して考察しないでよぉ。それにそれならイッキ君だって自然を操る仙術使いなんだから『スペース★ヒューマン』に為れるって事にならない?」

 

デュリオさん。なんで間に挟まる星マークが黒く染まってるんですか?

 

「それは難しいと思いますよ?地上の空気を持っていけても結局は操ってるだけなのでその内酸素が無くなります。デュリオさんのは神器の力だから物理法則をある程度無視してますが、仙術だとその辺りの融通が利かないでしょう」

 

「う~ん。そっか~・・・うん?でもそれって短時間なら生身で宇宙へ行けるって言ってるようなものなんじゃ?」

 

変なところに着目しないで下さいよ。真面目に考えたら確かにやれそうだとなるとなんかまた皆に人間扱いされなくなる気がするんだから!

 

「食料とか用意しておけば下手したら生身で月まで行けそうなデュリオさんには負けますよ」

 

寝る時とかは球体の強めのバリア張って中を空気で満たせば問題無いだろうし、割とガチでイケる気がする。それを聴いたデュリオさんも明るい声で笑い声を上げた

 

「それもそっか!」

 

「「あっはっはっはっはっは!!」」

 

そうして俺も釣られて(やけくそ気味に)笑ったところで一気に静まり返る

 

「・・・・・・この話は精神衛生上良くないみたいだから止めにしないっスか?」

 

「・・・同感です」

 

「・・・どっちもどっちだと思いますわ」

 

こうして俺とデュリオさんの宇宙談義は幕を閉ざしたのだった




短時間とは云えイッキの力を考えたら宇宙まで行けそうだなと思ったので。無論、イッキが大丈夫なら『スペース☆キャット』もイケます

以前九重と海に行った時に海中遊泳とかしてたのを思い出したのでww


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第二話 三者、面談です!

如何でもいい考察ですがサイラオーグの『騎士』のベルーガ・フールカスって馬に跨って重たいランスを振り回すって絶対に『騎士』の特性持ち腐れですよね?FGOの呂布レベルで人馬一体してないと馬の脚までは疾くならんでしょうし・・・


あの後もヴァーリも含めて挑む気概の有る奴が漏れなくクロウ・クルワッハにぶっ飛ばされて(クロウとヴァーリはご満悦だった)訓練も終了し、その日の放課後に俺達は明日に控えた三者面談の話題となっていた。対象となるのは1~2学年の生徒だ。3年は大学の入試に向けた勉強をしているか一部の推薦組はとっくにまったりとしている時期となっている

 

リアス先輩達はこのタイプだな。駒王学園は初等部から大学部までのエスカレーター式だし、家の後ろ盾なんて無くともあの人達が内申と成績で推薦を落とす訳が無い・・・と云うか家の力で推薦を貰うとかグレモリー家の気風的に無理だろうしね。もしも仮にやったら最後、亜麻髪の絶滅淑女(ヴェネラナさん)銀髪の殲滅女王(グレイフィアさん)が動き出すに違いない

 

「あ~、昔っから三者面談とか苦手なんだよな。俺とイッキは普通に自分の親が来るとして他の皆は如何なんだ?イリナとレイヴェルの両親は日本に居ない訳だしさ」

 

イッセーの言うようにオカルト研究部のメンバーは大半がお家事情が複雑だ。一般出なのは俺とイッセーくらいだしな

 

「私は母が来るそうですわ。全く、ライザーお兄様の件でまだまだごたついているのですから代理を立てても構わないと伝えたのですが『それとこれとは話は別』と言われてしまいましたわ」

 

"やれやれ"とばかりに首を横に振るレイヴェルだがそれでも表情はどこか嬉しそうだ。色々と忙しくなってるはずの親がそれでも自分の為に時間を割いてくれる気持ちを察せないほど捻くれてないからな。軽く髪をイジリながらほんのりと頬が紅い。その様子を見ると少し笑いが込み上げて来るが気付かれないようにしないとな

 

「ん~、私の場合はシスター・グリゼルダが来る事になるのかしら?パパはバチカンに戻ったばかりだし、ママは飲食店の経営してるから簡単には休業出来ないしねぇ」

 

「私も来るとするならシスター・グリゼルダだな・・・まぁ色々小言を聞かされそうなので複雑な気分だが」

 

続けてイリナさんとゼノヴィアの聖剣コンビはグリゼルダさんが来ると云う・・・けどこの感じだとまだ誰が来るのか明確な回答は貰ってないようだ

 

順当に考えたらグリゼルダさんだけど、グリゼルダさんも立場が在ってどうしても都合が付かない場合も考えられるし、直ぐに二人に回答が無かったのもグリゼルダさんが仕事を頑張って明日の分を空けられるようにしつつもそれが確定じゃ無かったからだろう

 

「僕とギャスパー君の場合は毎年グレモリー家の使用人の中からそれっぽい見た目の人を代理として立てているね。今までなら白音ちゃんもそうだったんだけど、白音ちゃんは今年は如何するのかな?黒歌さんなら面白がって出て来ても可笑しく無さそうだけど」

 

「・・・祐斗先輩の言う通り、今回は黒歌姉様が保護者として来るそうです。正直今から不安でいっぱいです」

 

祐斗とギャスパーは無難な感じだな。使用人の代理の人も毎年違う人を用意する意味なんて無いだろうし、きっと過去の代理役も同じ人かもな

 

白音は、まぁアレだ。頑張れ。確か白音のクラスの担任は女性だったはずだからそう可笑しな事にはならんだろう

 

「私はお義母さまがイッセーさんと一緒に受け持って下さるそうです」

 

アーシアさん完全にサラッと『お義母さま』発言してるけど何故これで進展しないのか

 

いや、教会トリオでイッセーがトイレに行く時にトイレのドアノブを交換して例の部屋で待ち構えるとかしてる彼女達にも問題は有ると思うけどね・・・イッセーにも愚痴られたし

 

―――それは確かに気持ちが乗らない。初体験はトイレの中(別空間)でとかやめて欲しい

 

それで喜ぶのは一部の大変紳士な方々だけだ

 

「進路ねぇ。俺達は大学部に進学するのは共通だとして卒業した後か・・・グレモリー眷属としてはグレモリー関連の何処かの事業とかって話にはなるんだろうけど、グレモリー家が広げてる事業は幅広過ぎて絞り込めないんだよな。悪魔として人の願いを叶えるのとレーティングゲームには出場したいし、それだけでも問題は無いんだろうけど折角の悪魔の永い一生だし、色々手を出してみたいんだよな」

 

『おっぱいドラゴン』は時々ショーをやったりしてるけど基本は役者さんがショーも特撮も代行してるからな

 

「私は今まで剣を磨いて来た身だ。卒業したとしても最初はそっち方面の仕事を探すかな?だが、イッセーの言うように悪魔の生は永いから何処かで剣をクワにでも持ち替えて農園をやったりとかも面白そうだ。ふふっ、なにから手を付けて良いのか迷ってしまうね」

 

ゼノヴィアよ。頼むから聖剣ブッパで畑を耕したりするなよ?・・・擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)ならクワにもスコップにもハサミにも、その時々に必要な物の形に変化する万能農具になるんじゃないか?

 

・・・聖剣で耕された畑から芽吹いた作物が悪魔が喰える物になってれば良いのだが

 

「俺の場合は少なくとも最初は京都関連かな?一応入り婿って形だから京都に名声なり利益なり還元しないと要らない火種を生みそうだ。後はゼノヴィアじゃないけど折角今まで鍛えてきた仙術なんだし、手っ取り早く成果を上げる為にも仙術使いが求められる仕事とかが在れば良いんだがな。戦闘以外にも治療とか自然保護とかやれる事は多そうだし、仙術の見聞を広めるにも良いかも知れないしな」

 

どうしても今までは仙術の腕も戦闘力を伸ばすばかりだったし、折角なら初代孫悟空や参曲(まがり)様みたいに『仙術なら万事任せろ』って言えるキャラには為っておきたい

 

それに必ずしも趣味を仕事にする必要もないのだ。仕事しながらでも趣味は出来るし、仕事の中に趣味を見つける事も出来るだろう

 

「イッキ君は本当に向上心が有るよね。僕の場合は・・・そうだな。僕にも最強の『騎士』になるって夢が有るから研鑽は怠らないとしても、一度お菓子作りを活かしてパティシエになってお店を開いたりしてみたいかな?―――趣味でも、いや、趣味だからこそ一度本気でプロの技を学んでみたいや。そうしたら皆に振舞うお菓子やケーキがより一層華やかになるだろう?」

 

将来、仲間内のちょっとした会合やプチパーティーなどで振舞われるプロの技―――夢が有るね!

 

祐斗の話を聴いた白音が滑らか且つ素早い動きで祐斗の手を取ってキラキラした瞳を向ける

 

「祐斗先輩。試食でしたら任せて下さい!祐斗先輩の夢が一日でも早く叶うように、私も精一杯サポートしますっ!」

 

「ハハハ・・・有難う。白音ちゃん・・・」

 

食欲全開の視線を至近距離で浴びせられた祐斗も流石に苦笑いだ

 

「ふむ。それにしても最強の『騎士』か。私も同じ『騎士』なのだが私も最強を目指すべきだろうか?折角デュランダルも真の力を発揮出来るようになってきたのだしな」

 

「ゼノヴィアも目指すならその時は改めて一剣士としてライバルだね。負けないよ?」

 

ゼノヴィアも最強を目指すと聴いて祐斗も楽しそうな笑みを浮かべる。ゼノヴィアも祐斗の戦意の籠ったセリフを聴いて「無論、やるからには一番を目指す」と不敵に返した

 

最強を目指す者が二人以上居るならばずっと研鑽し続けないとな。まぁ二人なら楽しんで高め合っていけるだろう

 

「そうですね。抑止力たる『D×D』に所属する身としては丁度良い目標なのかも知れません。なら、私も最強の『戦車』を目指しましょう」

 

おおっとぉ!雰囲気に乗せられたのか白音まで最強発言し始めたぞ。流石は戦闘種族とされるだけあるな。そうなると白音の当面の目標はサーゼクスさんの『戦車』であるスルト・セカンドさん以上の実力と云う事になるか

 

「し、白音ちゃんがそう云うなら僕も負けてられません!僕も何時か最強の『僧侶』になってやりますぅぅぅ!」

 

ギャスパーは既に最強の『僧侶』でも可笑しくないと思うのだがな?本気でバロールの力を振るえば少なくとも短期決戦なら最強じゃないか?今はまだギャスパー自身の体力が足りてないから力をセーブして戦ってるけどね・・・アレだ。ギャスパーが真の最強を目指すなら腕立て、腹筋、マラソンが近道かも知れんぞ。プロテイン飲むか?―――俺は別に飲んでないけど

 

「お!ギャー助も言うようになったじゃねぇか。でもそうだな。リアスの夢がゲームの王者になる事なんだから眷属にも最強が揃ってるのはある意味当たり前かもな」

 

「うむぅぅぅ!そういう事なら私だって最強の『A』を目指しちゃうんだもん!なんと言っても私は御使い(ブレイブ・セイント)の顔役なんだからね!」

 

「なら、次からはイッセー達もクロウ・クルワッハとの模擬戦に参加するんだな?」

 

「お前は俺達に死ねと言うのか?例え模擬戦だろうと単騎で戦えてるイッキやヴァーリが可笑しいだけだからな?ヴァーリは『半減』で空間捻じ切るし、イッキやクロウ・クルワッハは打撃や斬撃で空間に穴が開いてるし、なんで訓練場が壊れて無いのかが不思議だよ!」

 

そりゃあ空間ごとぶっ壊してるからだよ。訓練施設の壁や天井に衝撃が行く前に次元の狭間にエネルギーを逃がせば結果として被害は少なくなるからな。壊れた空間は真空に自動的に大気が埋まる様に放って置いても自然修復するし、壊れた空間を治す技術だって普通に存在してるんだから

 

「―――うん。イッキ君は普通は上級悪魔が全力を出しても空間を壊せたりしないって事をもっと自覚しようね。普通剣を振っても空間なんて切り裂けないからね?」

 

それくらい解っている。攻撃の全てが勝手に空間を壊してちゃ真面に動く事も出来なくなるし、空間を壊す攻撃にはコツが要るのだ

 

他にもそれだと一定ランク以上の遠距離攻撃が全部放った直後に次元の狭間に消えて遠距離技として成立しなくなってしまうからな

 

「大丈夫。祐斗なら近いうちに空間も斬れるようになるさ。そして一緒にクロウ・クルワッハにボコられようか!(同じ境遇の被害者(なかま)を期待する瞳)」

 

「い、いやぁアハハ・・・強くなるのは望むところだけど、イッキ君のそのお誘いの仕方だとちょっと頷きづらいなぁ・・・」

 

祐斗は苦笑いしながら一歩遠ざかるが逃がさんぞ。決戦間近なんだからさっさと強くなれ

 

「遠慮する事はないぞ。この中で一番分かり易く伸びしろが残ってるのは祐斗だからな。基本は地力を鍛え上げるしかないし、イッセーはどうせ誰かのおっぱい突くだけだし、真面なアドバイスで強くなるのは祐斗だけだからな!―――そういう訳だから祐斗は次にグラムたち魔剣群を一瞬で素早く全開状態にして直ぐにゼロに戻す訓練を推奨しよう!」

 

「おい待てイッキ。俺の扱いに対して異議申し立てるぞ」

 

却下に決まってるだろう。お前のこれまでを振り返ってみろよ―――『ギフト』に禁手化(バランス・ブレイク)にロキ戦の乳神の加護に『トリアイナ』に『真紅の鎧』にジャバウォックを吹き飛ばした『おっぱいブラスター』とおっぱいで進化してない時を探す方が難しいじゃねぇか!

 

「アハハ、まぁイッセー君にはイッセー君なりの強くなる方法が有るんだからそれで良いんじゃないかな?―――それにしても一瞬だけ魔剣の力を引き出すっていうのは詰まりは少し前にイッセー君とヴァーリが初代孫悟空に習った事と一緒なのかな?」

 

「そうだな。今までの祐斗の武器だった聖魔剣とかなら常にオーラを流し込んでいても問題無かったんだろうが、魔剣は出力の高さ以上に体への負担がデカいだろ?まさにイッセーやヴァーリの真紅や白銀の鎧と似たような状態になってるんだよ。いや、寧ろ覇龍(ジャガーノート・ドライブ)が近いか?」

 

これまでがなまじっか燃費が良かったから聖魔剣と同じように魔剣を扱おうとしてしまっていたのだ。だけど剣と云うのはずっと全力で握って持つようなもんじゃない。斬撃が当たる瞬間に柄の内を絞めるのが剣術の基本だ。それと同じ事をオーラでもやれば良い

 

「・・・成程。確かにそれを体得出来れば魔剣を振れる回数が今の数十倍にだって増えそうだね。特訓のし甲斐が有るよ」

 

今の祐斗は全力グラム2~3回でガス欠だからな。それ以上に体に危険信号が出る程の負荷を掛けて魔剣を振るおうとしても魔剣が祐斗の体を気遣って拒否するようだ

 

※祐斗が死に掛けるとミルキー・フリードが確率で召喚されます

 

ともあれ次から祐斗の魔剣のオーラの制御術が訓練内容に追加されたのだった

 

祐斗の場合強さの要因が聖剣の因子に聖剣の神器に伝説の魔剣と基本後付けばかりの後付け王子様だからな。導きがいが有るのだ

 

「・・・後付け王子様は酷いよイッキ君」

 

お前も心の内を読んで来るな!そんなだからホモ疑惑が浮かび上がるんだぞ!

 

 

 

後日、オカルト研究部のメンバーは三者面談の順番待ちの為に保護者と共に部室に集まっていた。普通こういうのは部活動は関係ないのだろうがオカルト研究部員と生徒会メンバーは特殊な人員が一か所に集中しているのでこういった采配になったのだろう。松田や元浜などのクラスメイト達は先に教室での面談を終わらせてから旧校舎に先生が来る形らしい

 

まぁ大半の先生は裏の事情とか知らないんだから不審に感じるだろうがそこは軽い暗示か学園に満ちる『力』で感性がズレてるので実質問題無しだ

 

今は俺とイッセーとレイヴェルの母親に黒歌が談笑中だったりする

 

祐斗とギャスパーの親は代理という形なので俺達の親と鉢合わせても面倒だから仕事の都合でギリギリ面談に間に合うという設定で今は居ない

 

二人の番になったら転移魔法でコッソリと召喚する予定らしい

 

「まぁまぁ、フェニックスさん。新年の挨拶に伺った時以来ですね」

 

「ええ、有間さんもお変わりないようで何よりですわ。レイヴェルはなにかご迷惑をお掛けしておりませんこと?昔から少し我が儘な処が有る子でしてね。何か有ればおっしゃって下さいね」

 

「まさか!そのような事はまるで在りませんよ。それどころかレイヴェルちゃんには何時も家事も料理も手伝って頂いてとても助かっていますし、とっても素直で良い子ですよ」

 

「それは何よりです・・・黒歌さんから見て如何でしょうか?同じ一輝さんのお嫁さんとしては?あの子は昔から他人のモノを欲しがる癖が有ったのですが、無理やり黒歌さんや白音さんの間に入ったりしていませんか?」

 

「それは大丈夫ですよ。妹の白音にも言える事ですがイッキに甘えてる姿を見て羨ましそうにしていても、その後で直ぐにイッキが甘やかしてくれますからね。不満が溜まる前に解消してしまうのでレイヴェルからその手の発言は聴いた事は在りませんね」

 

「あらあら、一輝君は女の子と真摯に向き合って問題も無さそうなんですね・・・それと比べて家の息子は何時までもハッキリとした態度を取らないから見ていてヤキモキしてしまいます。昔からエッチな事ばかりにだけ素直で、ここで彼女達を逃したら一生孫の顔を見れなくなると思うと」

 

「それは大丈夫ですよ、兵藤さん。我がフェニックス家はグレモリー家とも交流が深いですが息子さんの名前はよく聞きます。息子さんがグレモリー家に婿入りする日は近いでしょう」

 

「「「「・・・・・・・・・・」」」」

 

「なぁイッキ、白音ちゃん、レイヴェル・・・スゲェ居心地悪いな」

 

そうだな。保護者トークの間に感想を差し挟む間も無かったくらいにはな

 

「イッセー先輩のお母さまが居るからでしょうが、黒歌姉様がまともな対応してるのを見てると違和感が凄いです」

 

確かに。黒歌も白音ももう家の中では猫耳も尻尾も隠してないし、黒歌も語尾に『にゃ』が付くのが普通だったからな。白音は学園生活とかで普通に喋る方がデフォルトになってるから甘えて来る時に語尾ではなく鳴き声として『にゃ~♡』が付くんだよな

 

・・・始めの内は鼻血噴き出すかと思ったわ

 

「もう!お母さまったらさっきから我が儘だのなんだのと言わなくても良い事ばかり!恥ずかしいったらありませんわ!」

 

レイヴェルも自分のダメなところを暴露されてプンスカと怒っている。確かに時々白音が俺の膝の上に乗ってるのを見て何か言いたげな視線を向けてたりしてたのだが、原作の微かな記憶から引っ張り出してレイヴェルも真似したいのではないかと予想が付いたから時々はレイヴェルも膝の上に乗せてたりするんだよな。家の中とかならそこまで恥ずかしくないし、一応俺達って夜の運動会というもっと恥ずかしい事もしてる訳だからかプライベートにおけるイチャラブ指数が高まってる気はするのだ

 

『D×D』とクリフォトのおかげでデートも殆ど機会が訪れない分、少しくらいは・・・ね?

 

そうして保護者達の話が盛り上がっていると部室の扉を開いてイリナさんのお父さんである紫藤トウジさんが入室してきた

 

「パパ!?如何して日本に居るの!?」

 

基本は海外で働いていてこの間のクリスマスが終わって日本から居なくなったばかりのはずの父親が現れてイリナさんが思わずといった感じに駆け寄る。トウジさんはそんな娘の姿を見て、出会えた事に対して嬉しそうに後頭部を掻いて笑いつつも理由を話してくれた

 

「いやぁ、可愛い娘の将来の相談が有るって聴いたらパパ、仕事をサボって来日しちゃったよ」

 

局長さぁぁああん!?有休ですらないってのは問題過ぎませんか!?

 

「もう!パパったらそんな事したらミカエル様だってお怒りになられるわよ?」

 

「ハハハ、流石に冗談だよ。仕事で偶々日本に用事が出来てね。ついでにこうして来る事が出来たんだよ。イリナちゃんのパパとしてミカエル様も日本への出張系の仕事は優先して回してくれるようになってね」

 

そうか、冗談か。一瞬本気にしてしまったぞ。ミカエルさんの采配も天使のイリナさんが駒王町で働いてるなら、仲の良い親子の方が連携も取り易いからという理由も有るからなんだろうな

 

「ふむ。紫藤局長が来てもシスター・グリゼルダが姿を見せないと云う事はやはり忙しくて来れなかったらしいな。仕方ない・・・そう、これはあくまでも仕方ない事だから三者面談には私一人で臨むとしよう」

 

壁にもたれ掛かった体勢でイリナさんとトウジさんの様子を見ていたゼノヴィアは『仕方ない』を強調してグリゼルダさんが来ない事に安堵しているらしい。三者面談や授業参観を得意とする生徒は基本は存在しないという例にゼノヴィアもキチンと当てはまっているようだ

 

しかして現実は何時も非情なのである

 

「ゼノヴィア。何も心配する事など有りませんよ?こうして私もちゃんと仕事を片付けてやって来たのですから」

 

丁度廊下を歩いて天使の聴力でゼノヴィアの独り言もしっかりと聞こえていたグリゼルダさんが圧力の籠った笑顔で入室してきたからだ

 

それを見たゼノヴィアは途端に挙動不審となる

 

「や・・・やぁ、シスター・グリゼルダ。私などの為にそこまで気を廻さなくとも大丈夫だ。しっかりと進路の事も考えてある。折角時間が出来たなら今からでも普段の疲れを癒す為にも休んだら如何だろうか?」

 

「うふふ。その為にはその進路の内容をしっかりと聴いてみないといけませんね。貴女は昔からなんでもかんでも大雑把なのですから、どうせ漠然とした事しか考えていないのでしょう?さぁ皆さんの邪魔になってはいけません。隣の教室で三者面談の番が来るまで進路の事について根掘り葉掘り聴かせて貰いますよ―――それでは皆様、失礼致します」

 

如何にかしてグリゼルダさんを追い返そうとしたゼノヴィアだが当然そんな提案が受け入れられるはずも無く、グリゼルダさんに首根っこ掴まれて部室から引きずり出されて行った

 

その様子を見て頭の中にドナドナが流れたけどまぁ仕方ないかな?ゼノヴィアなら面談の先生にも「大学進学して卒業後は剣で敵を斬り倒す職に就きたい」とか言いそうだ。先生が好意的な解釈をしてくれるなら将来剣道で剣術指南とかの仕事がしたいと捉えてくれるかもしれんが、先生の脳みそを無駄に加熱させて胃袋に負担を掛けるようなやり取りをさせては可哀そうだろう

 

時間ギリギリまでこってりとグリゼルダさんの添削を受けるといい

 

それから少し経つと三者面談の俺達の番が回ってきたので一人ずつ呼ばれる事となった。男女混合出席番号順で呼ばれたので2年生は初手は俺で次点でアーシアさん、その次に祐斗って感じらしい

 

俺の面談の内容は駒王学園大学部への進学(ここまでなら駒王学園のほぼ全ての生徒が一緒)と卒業後のビジョンを訊かれた時に京都に伝手が有ってそっち関連で働くと言ったら流石に驚かれたけどな。まぁ京都関連とは言ったけど京都の町である必要は無いのだが・・・てか卒業後直ぐに俺が京都に入り浸るようになったらその時家に住んでるはずの九重にも悪いしな

 

う~ん。しかし将来京都で働く九重にグレモリー眷属の白音にフェニックス家のお姫様のレイヴェルか・・・黒歌は身軽だから問題無いとしても将来的に住む家を一か所に固定するのは難しいか?いや、そこは日本好きのリアス先輩やフェニックス卿と話し合って白音やレイヴェル自宅を京都に設定出来れば良いんだけど・・・俺やイッセーの家の地下に在るような特製転移魔法陣の設置とかも八坂さんに話を通せば何とかなるだろうし、いや、しかしそれでもグレモリー家当主となるリアス先輩の眷属は冥界に居た方が都合が良いのか?

 

―――ダメだ。多分コレ自分一人で悩んでも埒が明かないタイプのやつだ

 

そうして仕事とマイホームの事を頭の片隅で考えつつも三者面談は終了したのだった

 

 

 

三者面談が終わった次の日の放課後。オカルト研究部とシトリー眷属は部室に招集されていた

 

全員が集まったのを確認したアザゼル先生が早速その理由を切り出す

 

「確認が取れた。ライザー・フェニックスは無事だ」

 

一先ず簡潔に告げられたその一言に部室の中の雰囲気が一気に明るいものとなる

 

皆が"ワッ"と盛り上がる中で俺の隣に立っていたレイヴェルは力が抜けたように倒れそうになってしまったので咄嗟に支える

 

「あ・・・すみませんでしたイッキ様・・・安心したと思ったら、つい・・・」

 

謝るような事じゃ無い。ライザーの眷属でもあったレイヴェルが兄の事をなんだかんだ言って慕っていたのは分かっている。仲間内で一番内心穏やかじゃ無かったのは間違いなく彼女なのだから緊張の糸が緩まれば腰の一つも抜かすだろう

 

「大丈夫だ―――良かったな、レイヴェル」

 

「はい♪」

 

後ろから半ば抱き着くような形のままレイヴェルの頭を撫でるとここ数日で一番の笑顔を見せてくれた。それを機に他の皆もレイヴェルに次々と「良かったな」「良かったね」と声を掛けてくれる

 

そうして一通り皆の声掛けも終わったところでソーナ先輩がアザゼル先生に問う

 

「それで、ライザー氏は今何方に?」

 

「ライザー・フェニックスは今、アジュカ・ベルゼブブの下で保護されている」

 

魔王が直接庇護下に置いているという情報を聴いて皆の表情が引き締まったものに変わる

 

『ただの特殊なトラブルで無事だったからそれで全部終了』などと云う甘い話な訳が無いのだ。漠然と見え隠れする厄介ごとの影に皆の敵意が集中するのだった

 

 

 

[白音 side]

 

 

レイヴェルのお兄さんが今、アジュカ・ベルゼブブ様の下に居ると云う情報が入りって明日にはその魔王様と直接出会う予定が組まれているとアザゼル先生から伝えられました

 

アジュカ様と秘密裡に会談するという事になります。四大魔王様方の中でサーゼクス様とセラフォルー様とは比較的よく出会っていましたし、そもそも昔ナベリウス家の一件で周囲の貴族悪魔から黒歌姉様の代わりに処刑されそうになっていたのを助けて頂いたのはサーゼクス様で、一番最初にお会いした魔王様です。ですが残る二人の魔王様とはそれほど接点は無かったので今から少し緊張してしまいます・・・いえ、普通は一介の転生悪魔が四大魔王の内お二方とよく出会っているという方が可笑しいんですがね

 

特にこの半年と少しの間にそれこそ神々を始めとした超大物と出会ってきましたがやはり悪魔である私にとって魔王は特別に感じます。私は数年前までは妖怪でしたが物心付いた頃には黒歌姉様と一緒に悪魔社会で生きていたので妖怪よりも寧ろ悪魔の方が詳しいかも知れませんね

 

今日は元々予定していた女子会の都合でお風呂にはイッセー先輩の家でリアス元部長達と一緒に入っています。黒歌姉様たちと一緒にイッキ先輩の入ってるところに突撃するのも良いのですが、やはり同性同士だからこその良さと云うのも有ります

 

それにイッキ先輩と一緒にお風呂に入ると高い確率でとっても体力を使ってしまいます。勿論そうでない時も有りますが、その場合はベッドの上が戦場と化しますね。本当になにも無い日は数える程でしょう・・・ここ数日はレイヴェルの手前流石に自重してましたし、寝る時の場所もローテーションだったのがイッキ先輩の隣の一枠は自然とレイヴェルが埋めてました。詰まり何が言いたいかというと、今晩は間違いなく黒歌姉様が暴走して大変になります

 

今晩の為にも今の内に英気をタップリと蓄えないといけませんね!(使命感)

 

黒歌姉様が『猫又妖怪はエロくてなんぼ』と以前に言っていましたが、同意します。今の私は悪魔ですが、悪魔も己の欲に正直且つ欲深く生きる者ですから二重の意味で問題在りません

 

脱衣所で服を脱いでいくと改めてイッキ先輩とイッセー先輩の家に住んでいる女性はスタイルお化けだと思いますよね。アーシア先輩もリアス元部長の眷属となってから教会の質素な食事から変わった影響なのか胸も大きくなってきているのが分かりますし・・・まぁゼノヴィア先輩やイリナ先輩は初めて出会った時からスタイル抜群でしたからただの成長期の違いなのかも知れませんが

 

すると隣で上着とスカートを仕舞って下着を脱ぐ為に背中のホックに手を伸ばし掛けていたリアス元部長が何かに気付いたかのように此方を見ます

 

「あら?・・・白音貴女、少し背が伸びたかしら?」

 

「はい。あとほんの少しで140cmに届きそうです」

 

そうです。ここ最近少しずつ背が伸びました。前に測った時は138cmだったのでほぼ2cm程伸びた事になります。高等部の一年生ももう終わりですからね。これからジリジリと背も伸びていくでしょう・・・私の次に背が低いレイヴェルが153cmなので3年生終盤辺りでやっと追いつく程度かも知れませんが、アーシア先輩くらい(155cm)の身長は欲しいですね。ギャー君(150cm)はもっと牛乳を飲んだら良いと思います

 

「うっふふ~ん♪白音がここへきて体が大きく成り始めたのは本当に成長期だけが理由なのかにゃ?イッキの事が好きで、イッキの子種が欲しいって想いが大人の体(・・・・)に成長を促した―――なぁんて事も考えられるんじゃないかにゃ~?」

 

黒歌姉様が後ろから抱き着きながらそんな事を言ってきましたが、意識一つで身長が伸びるはずも有りません―――ちょっと前に発情期が前倒しで来たので普通の人間と比べて完全否定できないところは痛いですが、流石に無いと思います

 

「黒歌姉様も裸で引っ付いてないでシャワーを浴びてきて下さい。下着が脱げません」

 

振り返らずにジト目になってあしらうと「にゃにゃ、白音もこの手の冗談への耐性が付いてきちゃったのねぇ」と放してくれました

 

確かに半年前の自分だったらもう少しムキになっていたかも知れません

 

それから皆さんと一緒に先ずはシャワーで頭と体を洗ってから浴槽に浸かります。このメンバーの中では私とゼノヴィア先輩は比較的髪の毛が短いので一足先に洗い終えて、それから続々と皆さんが小さいプールくらいの大きさのお風呂に入って体を温めます

 

浄化の魔力を使えば体の汚れ自体は消し去れるのでしょうが、やはりお湯に浸かる事で得られる充足感には敵いませんね

 

リアス元部長や黒歌姉様たちが肌色の水風船を湯船に浮かべています・・・私も大人モードではあんな風に浮くんでしょうか?今まで気にした事は在りませんでしたが、今度こっそり確認してみましょうか?

 

「ふぅ・・・それにしてもライザーさんがご無事で本当に良かったですね」

 

全員が揃ったところでアーシア先輩がレイヴェルにニッコリと笑顔を向けながらそう言います。身内を除けばアーシア先輩が一番心配してくれていたのだと思います。万人に向ける優しさは聖女と呼ぶに相応しい資質でしょう・・・リアス元部長と朱乃元副部長に桐生先輩の影響でイッセー先輩への愛情表現は色々可笑しな感じに空回っているようですが、くっ付くのは確定なので特に心配はしていません。時間の問題と言えるでしょう

 

今日の女子会も元々はレイヴェルの気分転換の意味合いが強かったのですがライザーさんの無事が確認された以上はレイヴェルも憂いなく楽しめるでしょう

 

「あ、有難うございます・・・それにしても今回の事は分からない事ばかりですわよね。ライザーお兄様の身柄を確保したのがアジュカ様という事以外はなにも情報が無いのですから・・・」

 

レイヴェルの疑問の声にリアス元部長も胸の下で腕を組んで悩むような仕草を見せます。イッセー先輩なら間違いなく興奮するように"ぼよんっ"と浮上しました

 

「確かにレイヴェルの言う通りね。ライザーが見つかったと言っても何処で見つかったのか?その時の状態は?王者の行方は?―――分からない事ばかりだわ」

 

「考えても仕方ないさ。どうせ明日には説明が聴けるのだろう?そこで謎が全て語られるのかは兎も角、頭を捻るのはそれからでも遅くはないと思うがね」

 

ゼノヴィア先輩は必要無いと判断したものをバッサリと切り捨て過ぎだと思います

 

「もう!ゼノヴィアったら何っ時も考えなくても良いと思ったらそこで思考を放棄しちゃうんだから!そんなんじゃ何時か必要な時に頭が回らなくなっちゃうわよ」

 

イリナ先輩も偶には良い事言いますね。実際アザゼル先生は最初から何かを掴みかけていたようですし、その辺りは素直に凄いと思えるところです

 

するとそこで私達が浸かっている場所から少し離れた水面にポコポコと泡が出たと思ったら黒髪の少女が勢いよく現れました

 

「ぷはっ。我、一時間潜れた」

 

出てきたのは無限の龍神であるオーフィスです。特異な力も感じませんでしたし、異能無しに一時間ってどんな肺活量ですか?仮にも人間形態なんですよね?

 

それからお風呂を上がった私達はリアス元部長の部屋でお菓子やジュースを持ち寄って談笑したりゲームをしたりしました。大乱闘です。最近実装されたラスボスも真っ二つにする銀髪剣士でアーシア先輩のエデンの緑龍(でっでいぅ)もリアス元部長のハイパーマルオも教職が終わって遅れて参戦したロスヴァイセ先生のゴリラ・ゴリラ・ドンキーも蹂躙してやります。最強の『戦車』とか眷属とかは兎も角、最強のゲーマーは私ですから!

 

そうしてタップリと楽しんでからイッキ先輩の家に帰りました

 

またこうして気兼ねなく楽しむ時間が増えると嬉しいですね

 

 

[白音 side out]




なんだかイッキのウラヤマけしからん生(性)活が透けて見えるようでしたねww書いててちょっとイッキを殴りたくなりました(怒)


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第三話 王の、駒です!

説明回は下手に跳ばせないのが辛い


魔王アジュカ・ベルゼブブさんの下へ訪問する時がやって来た

 

今は例の如くイッセーの家の地下の転移部屋に集まっているところだ

 

集ったメンバーはアザゼル先生にオカ研メンバーとシトリー眷属にグリゼルダさんでそれ以外のメンバーはそれぞれの仕事で都合が付かなかったようだ

 

原作ではアジュカさんとの会合の最中にイッセーの御両親がクリフォトの邪龍に連れ去られるという流れだったのは流石にハッキリと覚えているが、天界でファーブニルの逆鱗の呪いを受けなかったリゼヴィムが同じようにちょっかいを出して来るだろうか?

 

可能性は低くなってるだろうが天界にも『ついで』で攻め込む輩だから絶対に襲撃が無いとは言えないんだよなぁ

 

原作でも駒王町のメンバーが偶々軒並み居なくなった瞬間にこの町に侵入してくるとかな

 

流石に仮に駒王町にクリフォトのスパイが忍び込んでいてもアジュカさんとアザゼル先生の会合が秒でバレたとは考えにくい。要は原作リゼヴィムがファーブニルの呪いの不眠症を解消する為に焦って邪龍を派遣したら奇跡のようなタイミングで駒王町の主要戦力が居なくなった瞬間に転移してきたという訳だ・・・アーシアさんばりの幸運値発揮してんじゃねぇよと言いたい

 

一応アザゼル先生に主要戦力全抜けするのは如何なものか?と進言して万一に備えて黒歌に待機してもらう流れには出来た。ルフェイとフェンリルはヴァーリチームの方に呼ばれて居ないし、黒歌なら最悪俺を口寄せが可能だからな。それに少し前にイッセーの御両親が出掛ける気配がしたからコッソリとイヅナの本体を護衛に付けてたし、大丈夫だろう

 

リゼヴィムも無駄にコチラに仕掛けてきたら転移の痕跡などからアグレアスの場所がバレるリスクも有るはずなので多分仕掛けては来ないと思うしな

 

憂いを断ち切っていざ時間となったので俺達は転移魔法陣でアジュカ・ベルゼブブさんの待つ場所へ転移して行くのだった

 

 

 

 

転移の光が止んで俺達の目に飛び込んで来た光景は夜の砂浜だった。浜に寄せる波の音が静かに響いている。そんな中で皆の視線を集めるモノが二つ在った。一つは砂浜に椅子とテーブルを置いて優雅にティータイムをしている魔王のアジュカさん。もう一つは夜空に浮かぶ『二つの月』だ

 

人間界とも冥界とも云えない未知の世界に皆の関心が向いたのを見てアジュカさんはティーカップを置いて立ち上がり、此方に歩いてきながら説明してくれる

 

「此処は例の『異世界』の風景の一部を再現した空間だよ」

 

俺達の前で立ち止まったアジュカさんはミステリアス風な笑みを浮かべる

 

「こうして直接出会うのは久しぶりだね。『D×D』の諸君」

 

今は『D×D』として一纏めにしたけど『D×D』結成後に出会うのは初めてだよな

 

この場に居るメンバーで初対面なのはイリナさんとグリゼルダさんにルガールさんとベンニーアの四人だけだろう

 

それにしてもサラッと言ったけど何処に在るかも分からないはずのイッセーにちょっと一回接触してきただけの異世界の景観を再現とか、大分頭の可笑しい事をやってらっしゃいますよね!

 

「旧魔王派のテロの時に軽く顔を会わせて以来か」

 

アザゼル先生が差し出した手をアジュカさんも握り返す

 

「寧ろ他のVIP抜きでは初めてになりますね―――我々の会合は他の勢力のお偉方には警戒の対象でしょうから・・・例え間に『D×D』を挟んだとしてもね」

 

胡散臭い科学者とミステリアス科学者(悪魔と堕天使の長)の夢の会合ですね。分かります

 

・・・冗談はさておき、和平を結んだと言っても悪魔も堕天使も悪いイメージの筆頭格だからな。まだまだ他の勢力から信用されるには積み上げるものが少なすぎるんだろう。まぁ和平を結んで半年ちょっとだから仕方ないのだろうが、こればっかりはコツコツと積み上げていくしかない

 

代表者同士の挨拶が済んだところでさっきから辺りを気にしていたレイヴェルがアジュカさんに質問をする

 

「あの、アジュカさま。ライザーお兄様は此方には居らっしゃらないのでしょうか?」

 

てっきりこの場でライザーと出会えると思っていたレイヴェルとしては第一に確認したい事だろう

 

それに対してアジュカさんも頷いて返答する

 

「レイヴェル嬢。心配は要らない。キミの兄の身柄は一足先にフェニックス本家に移送済みだ。感動の再会を演出してやれなかったのは申し訳ないが、これからキミたちには色々機密事項を話さなくてはならなくてね。『D×D』所属でない彼には外れて貰ったのだよ」

 

この異世界を模した空間もその一つかもな。少なくともおっぴろげにして良い情報では無いだろう

 

「実はライザー・フェニックスについては今、刃狗(スラッシュ・ドッグ)のメンバーが護衛に付いている。その上フェニックス本家に無事に着いたとの連絡も確認済みだ」

 

アジュカさんに続いてアザゼル先生の保証も付いた事でレイヴェルもライザーと直接会えないのは残念そうにしながらも納得して引き下がってくれた

 

それを確認したアジュカさんが懐から一つのチェスの駒を取り出して本題を切り出す

 

「これが何かは解るかな?悪魔の駒(イーヴィル・ピース)だという事は予測がつくだろう?」

 

『女王』でも『戦車』でも『僧侶』でも『騎士』でも『兵士』でもない。誰も見た事が無い形の悪魔の駒(イーヴィル・ピース)―――普通ならばすぐに答えに辿り着きそうなものの、今まで長年続いた冥界の常識が皆の思考に待ったを掛ける。しかしそれでも彼らの脳が一つの可能性を紡ぎ出そうとする直前にアジュカさんの口からその答えが語られた

 

「これは―――『(キング)の駒』だよ」

 

『―――!!?』

 

その答えに全員が絶句と共に目を見開いてその駒を凝視する

 

・・・流石はミステリアス魔王様。間の取り方が絶妙である

 

俺だけ温度差の有る感想を抱いている中でリアス先輩が震えた声で未だに信じられないといった面持ちで問いかける

 

「『王』の・・・駒?そんな、だって『王』の駒は未だに製作の為の技術が確立されておらず、その為に『王』の登録には石碑を用いているのだと聞いていたのですが・・・」

 

「そう。『王』の駒は本来在り得ない。だがそれは決して作成出来なかったからではないのだ。『王』という制度を駒ではなく石碑に登録するというシステムにした理由は二つ。一つは転生悪魔が『王』に昇格した時に体の中にある駒との重複が危険だと判断したため。そしてもう一つの理由はこの『王』の駒の存在を誰にも知らないようにするためだ」

 

一つ目は兎も角二つ目の理由に皆の頭の上に疑問符が浮かぶ

 

その様子を見て『王』の駒を手の中でクルクルと遊ばせつつ、アジュカの説明は続いていく

 

「この駒の能力は単純な強化だ。能力が全体的に底上げされる・・・そういう意味では『女王』の駒と一緒だが、問題はその強化率にあった」

 

手の中でクルクル弄んでいたその駒を"パシッ"と掴み直し『王』の駒の性能を語る

 

「『王』の駒を使用した者はその力が最低10倍から駒との相性が良ければ100倍にまで増える―――文字通りに力が跳ねあがる訳だ。これ程の強化を施すアイテムが流通すれば強大な力を突然手にした者達は自制心を置き去りにしてその仮初の力を振るうだろう―――駒の取り合い、独占の為に利権に囚われた悪魔たちが派閥同士で潰し合う・・・強大な暴力でもってね。そうなれば悪魔の種族の危機なんて話では終わらずに各神話世界を巻き込んだ世界大戦。三大勢力風に言えばハルマゲドンの来襲だ」

 

『王』の駒が流通した場合に齎される被害が最悪ガチで星を終わらせるレベルに発展すると聴いて皆の顔色が青ざめる

 

『王』の駒の作成に具体的にどれだけの時間・労力・材料などの制約が掛かるかは知らないけど仮に全悪魔に一斉に『王』の駒を与える事が出来たなら悪魔陣営以外は全て駆逐されてたはずだ

 

マジでヤバ過ぎる発明品である

 

皆の驚きが冷めやらぬ中、アジュカさんは手元に魔法陣を展開すると次の瞬間空中に無数のディスプレイが表示される。数十人程の悪魔の顔を映したそれにはリアス先輩やソーナ先輩には見覚えのある人物たちだったようだ

 

「これは・・・レーティングゲームの有名なプレイヤーの一覧?」

 

「そうだ。そしてここに映し出した者達の共通点、それは『王』の駒を使用した者達という事だ―――つまり彼らはレーティングゲームの定めたルールの外側にある力でもって虚構の栄光を手にした者達なのだよ」

 

「『―――ッ!!!?』」

 

その情報は先程『王』の駒の存在を識らされた時以上の衝撃を皆に与えた

 

しかしアジュカさんの暴露はまだ終わっていない

 

『王』の駒がこれ程までに使用されているその背景が存在するのだ

 

「彼らに『王』の駒を与えたのは冥界の上役たちでね。知っての通りレーティングゲームは莫大な利権・利益が絡む。もしもそこに古き悪魔たちの息の掛かった数十倍以上の力を持たせたプレイヤーを送り込む事が出来ればゲームの勝敗を思いのままに動かす事が出来ると思わないかい?実際、ゲームを取り仕切る上役連中は真っ黒でね。八百長、貴族としての圧力、ランダムで決まるはずの対戦表やバトル内容の操作。『王』の駒以外にもやりたい放題しているのが現状だ」

 

「では・・・実力が有れば相応のモノが得られるという謳い文句は?」

 

そんな混沌とも云えるドス黒いゲームの裏側を聴かされて冥界の子供たちの夢の為にレーティングゲームの学校を建てようとしているソーナ先輩が既に青白くなった顔で問う

 

「それは確かに嘘ではない。しかし今のレーティングゲームの環境で上役たちの思惑をも正面から叩き潰して上に昇れる者はキミたちのような突出した例外中の例外でも無ければ不可能に近い。無論、中にはそういった者も居る。元龍王のタンニーンやリュディガー・ローゼンクロイツなど、主に転生悪魔に見られる傾向だ・・・逆に言えば最上級クラスの力が無ければ高い確率で敗れ去ってしまう。それ程に今のレーティングゲームは不誠実な代物と化しているのだよ」

 

「―――なんてこと」

 

思わずソーナ先輩が砂浜に膝をつく。貴族社会で日の当たらない子供たちに夢や希望を与える手段として実力で結果を出すレーティングゲームの為の学校を建てたのに、そのレーティングゲーム自体が不正が横行する環境だとは思わなかったのだろう

 

「現在。レーティングゲームは表向きは上手く回っているように見えている為にこれを切り崩すのは難しくてね。強引に事を進めて民衆に『王』の駒の存在が知れ渡れば暴動が起きてしまう。元々種の存続が危ぶまれていた中で旧魔王派に属する者達も逮捕又は討伐したし、その上で民衆と古き悪魔の間で争いが始まれば如何なるか・・・まぁ決して愉快な事にはならないだろうね」

 

先の大戦で72柱の上級悪魔の大半の家が断絶したけど旧魔王派と古き悪魔も消え去れば更に半分となって20柱を切るような状態になるかもな。悪魔の社会では血筋による基礎スペックの遺伝は絶対では無いものの決して無視できる程小さい要素でもない。種の根絶とまでには至らないだろうけど、後の世に悪魔が『少数民族』と記されるくらいには規模が縮小するかもね

 

「しかし、何故この情報を私達に?これは本来、魔王様クラスの立場の方々にしか知り得ない情報でしょうに・・・」

 

崩れ落ちた親友であるソーナ先輩の肩をサジと左右で別々に手を置いて気遣っていたリアス先輩の疑問の声が飛ぶ。『D×D』と云えども悪魔ですらない種族の者達も居る中で態々悪魔の汚点を話すリスクは普通はない。可能なら秘密裡に解決して何食わぬ顔をしたい案件のはずだ

 

「敢えて知らせなかった者。知り得てはいけない者にこの情報が渡ってしまったからだよ―――皇帝、ディハウザー・ベリアルが真実に到達してしまったのだ」

 

「では、皇帝は生粋の?」

 

リアス先輩の問いにアジュカさんは頷く

 

「その通り。彼は純粋な才能・努力・実力でもってレーティングゲームのトップに上り詰めた『本物』だ。それ故に先日の騒動を起こしてしまった。リゼヴィムに協力し、アグレアス強奪に手を貸す見返りとしてレーティングゲームの裏側と『王』の駒の情報を識ったのだよ」

 

既に何度目かの驚愕か。冥界で絶大な人気を博するレーティングゲームのトップがクリフォトのテロに協力していたのだと聴いて絶句以上に皆は混乱している様子だった。そんな中で皆の気持ちをレイヴェルが代弁する

 

「―――しかし解せませんわ。王者は誠実な事でも有名なお方です。幾ら真実を識る為でもクリフォトのテロに手を貸すなど、余りにも彼らしくありません」

 

アジュカさんは苦虫を噛んだように眉間に皺を寄せる

 

「それについては彼にも事情が有る。突き詰めれば、古き悪魔たちの所為だと言える。あの老人たちの欲望は少しずつ冥界の各所を腐らせていたのだよ。今回は偶々そこに楔を打ち込んだのが王者だったと云うだけだ・・・全く、無能な味方ほど厄介なものは無い」

 

アジュカさんの吐き捨てるようなセリフに流石の皆の表情も引き攣り気味だ。この場に居る大半が悪魔だからなんともコメントに困るだろう

 

「ん゛ん゛っ!―――ですが、それだとディハウザーさんは如何してライザーとの試合で事を起こしたんですか?リゼヴィムから訊きたい事は既に訊いた後なんですよね?」

 

イッセーがディハウザーさんが再び動いた理由を問う。質問前にワンクッション入れたのはご愛敬だろう

 

「俺を呼ぶ為に、俺と直接話をする為にだ。ディハウザーもテロリストであるリゼヴィムの言う事をそのまま鵜呑みにする訳にもいかないだろうしね。レーティングゲームと悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の製作者である私に真偽を確かめる必要は有った。ベリアル家は家の特色として『無価値』という対象の効果を打ち消してしまう魔力を持っていてね。ライザー・フェニックスを倒した後でレーティングゲームのリタイア転送システムを『無価値』でもってリタイア出来ないようにしていたのだよ―――ゲーム中に不正が発生すると俺の管理下に回されるようになっているのは少し調べれば分かる事だからそこを利用したのだろう。私自身もなぜ王者がそんな事をしたのか気になって直接フィールドに跳んだのだよ」

 

「そこで王者から話を聞いたんだな?」

 

「ええ、『王』の駒とリゼヴィムに協力している事を話してくれました。そして、彼の目的も」

 

アザゼル先生の言葉に頷いてからアジュカさんが俺達を見渡す

 

「彼の目的は『王』の駒の存在を冥界、そして各勢力に至るまで全てに開示する事です」

 

「『ッ!!?』」

 

一拍置いてから語られた皇帝の目的にイッセーが悲鳴に近い声を上げる

 

「そんな事をすれば、どれだけの犠牲が出るかッ!」

 

「王者がそれを話したのは冥界の被害が最小限になるように私に手を打って欲しいからだろうね。古き悪魔への復讐は止められないが、だからといって民衆への被害を無視出来るような男じゃないさ。無論、私も冥界の民を守る魔王の一人として可能な限り打てる手は打っておく―――暴動が起きた時に最低でも死者が出ない為の各種措置、ヘイトコントロール、告発を利用したレーティングゲームの清涼化。やる事は多い」

 

万が一ディハウザーさんがレーティングゲームの闇の情報を白日の下に晒しても最低限如何にかする為の手立ては立てているようだ

 

「王者は今は何処に?王者の告発は可能ならば取り消して裏から少しずつ切り崩すのが理想のはずですよね?幾ら対策を施すとしても暴動を完全に制御する事など出来ないと思われますが・・・」

 

「私と話している途中に外部からの強制転移で去っていってしまったよ。恐らく、アジ・ダハーカの仕業だろう。私と王者の密談をリゼヴィムが危険視したのだと思う」

 

リアス先輩は『王』の駒を秘密裡に処分するのが良いと考えているようだし、実際今までもそうだった訳だが俺はアジュカさんが対策取ってるならバラしちゃった方が良いと思うんだよな

 

悪魔社会だけなら兎も角、今は国際レーティングゲームの話がチラホラ周囲で囁かれている時期だ。仮に原作のように直ぐには開催しなくとも各勢力の戦士達の間で噂されているなら数年か遅くとも十数年以内には国際レーティングゲームが開催されるのはほぼ確定とさえ云える。強大な権能を操る神々や異能を操る魔物などが参戦する試合には悪魔発祥のレーティングゲームの代表としてトップランカーも出場するはずだ。『王』の駒を使用してるランキング2位のロイガン・ベルフェゴールや3位のディビゼ・アバドンは当然出場するだろう

 

他にも何個だったか忘れたけど『王』の駒を使用しているランカーは居る。そんなあらゆる分野の神々が注目する試合の中で『王』の駒なんて『内蔵型強化装置』を使って戦闘を行っていけば自然とバレる可能性は十二分に有るんじゃないか?独自の価値観を持つ神々の集まる国際大会でバレたらそれは詰まり冥界が全勢力に対してケンカを売ってるにも等しい行為となる

 

今はまだ良いとしても国際レーティングゲームが決定したなら隠して事を進める際に被るリスクが天井知らずに跳ね上がるだろう・・・もしも王者の告発が不発に終わったら懸念はリアス先輩経由でサーゼクスさん辺りにでも伝えておいた方が良いかもな

 

「実はレーティングゲームのフィールドには観客用のカメラだけではなく監視用のカメラも各所に設置されていてね。王者があの場で私と話した以上、上役たちはその場に居たライザー・フェニックスの関与も疑うだろう。そしてレーティングゲームの裏を聴いた可能性が有る以上は処分の為に動きだす・・・私が彼の身柄をここ数日隠していたのは、彼の安全を確保する為の段取りを進める為だったのだよ」

 

「しょ・・・処分って・・・」

 

「するさ。あの老人たちは自分の利益の為なら『かもしれない』という理由で手を汚すのなんて日常茶飯事だ。実際、過去に『王』の駒の正体に近づいた者達は裏で消されていたからね」

 

うん。やっぱり『王』の駒はバラしたら良いと思うぞ!安全確保と言っても最低限だろうし、バラされたなら古き悪魔たちがライザーを狙う理由は無くなるしな!

 

可能なら古き悪魔たちの息の根を止められたらと心情的には思うけどそれをやると悪魔社会が弱体化し過ぎて他の勢力が欲を出すからなぁ

 

殺すのも難しいし、人間のように寿命も待てない・・・ミルたんさんどっかでぶち込めないかな?

 

セラフォルーさんなら古き悪魔たちが新しい道に目覚めても上手く纏めてくれそうだし、何処かで魔王主催のパーティとかって名目で上役たちを集めてイベントと称してミルたんさんとその仲間たち、更に特別ゲストでハーデス様の冥府の一派も呼んで改心するまで物理的に会場を封じた上でレッツ・パーリィする・・・おお?意外とイケそうじゃないか?

 

※古き悪魔たちの明るい未来が決定した

 

そんな事を考えているとふいにアジュカさんの視線が此方を向いた

 

「ふむ、有間一輝。ここまで色々と驚愕の事実と云えるだけのものを開示してきたつもりだが、キミだけは静かだね。まるで最初から識っていたかのようだ」

 

顎先に軽く握った手を当てて妖艶な笑みを向けて来る魔王様

 

しまったアアアアアアアアアア!!実際その通りで他に思考廻してたら全く笑えない魔王ジョークが飛んで来た!アジュカさんとしては流石に本気で言ってる訳じゃないのだろうけど心臓に悪すぎるんですけど!?・・・え、冗談なんですよね?ミステリアスキャラ相手だから自信が持てねぇ!

 

よし。ここは適当にそれっぽい事言っとこう。今まで俺が得た情報を繋ぎ合わせて回答を示せ!

 

俺は努めて営業スマイルで返答する。さぁ!原作知識を下敷きにした俺の名推理を披露してご覧に入れようじゃないか!カンニングとかぬかす奴には邪気パンチな!

 

「まさか、そんな事ありません。最初に『王』の駒の事を聴いた時も普通は『王』が石碑への登録制だなんて(この世界で)初めて聞いたので驚くに驚けなかっただけですし、ディハウザー・ベリアル氏がゲームの不正に関わっていた事は記録映像からも推察出来ましたからね」

 

「ほぅ。キミたちが手にした記録映像では洞窟の入り口しか映っていなかったはずだがね?」

 

そう。何も映っていないのが最大に可笑しいんですよ

 

「だからです。ディハウザー・ベリアル氏はレーティングゲームの絶対王者でファンサービス精神も高い選手だと云う事は分かります」

 

彼のゲームの映像は俺も観た事は有る。近くにリアス先輩というファンが居るしね。普通に見ていて参考になる資料でもあるし寧ろ俺達前線組にとって見ないという選択肢の方が在り得ないだろう

 

「そんな彼がライザーを態々『観客のカメラの届かない場所』で待ち構えるなんて不自然ですからね。まるでこれから見られたらいけない事をしようとしてるかのようじゃないですか」

 

「『―――!?』」

 

そう答えるとまたまた皆が驚愕した。盲点だったのだろう―――なんかもう皆、今日だけで向こう十年分くらいの驚愕を先取りしてない?

 

「それと、同じ映像を見ていたアザゼル先生は『恐らく大丈夫』と言っていました。あの映像の中で唯一明確に不審な点として映ったのは洞窟の入り口が一瞬蒼い光で照らされた事です。先生がそれを見て『大丈夫』と言ったのだとすればライザーに利するなにかが起こったという事です。最初はあの光がアジュカ様の転移魔法の光かもと思ったんですけど、以前拝見したアジュカ様の魔法は黄緑色です―――ひょっとしてあの場にはアジュカ様と王者とライザーの他にもう一人、アザゼル先生も知っている『誰か』が居たんじゃないですか?」

 

ふっふっふ!どうよ?一応あの洞窟の入り口の映像と本来俺が知り得ているだけの情報を組み合わせてもこれくらいにはでっち上げられるんだよ!確か蒼い光で転移して来たのはレーティングゲームの裏の審判者の一人で五大龍王最強の紅一点。天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)、ティアマットだったはずだ

 

すると目の前のアジュカさんはゆっくりと拍手をしてくれた

 

「素晴らしい。もしも私が『D×D』を狙う敵なら最初に狙うのはアザゼル元総督殿だが、次点では間違いなくキミを標的にするだろう」

 

わぁ、全く嬉しくない誉め言葉だなぁ

 

「ふふふ、フェニックス家が襲われないようにもう一つか二つ防衛を強化した方が良いかも知れないね。老人たちがキミやキミの身内にちょっかいを出した後の未来が恐ろしいよ」

 

あ、大丈夫です。それについてはさっき結論出ましたので―――セラフォルーさんのパーティだけじゃ全員引っ張り出せないだろうけど、最悪レーティングゲームの国際大会で優勝出来れば優勝賞品の願い事として古き悪魔たちも全員ミルキれると思うしね☆

 

「何故だか、今すぐイッキ先輩の頭を殴って記憶消去した方が良い気がしてきました」

 

「―――同意しますわ」

 

白音とレイヴェルはなに物騒な事呟いてんの!?

 

「アジュカ。一つだけ確認しておきたい。現存する『王』の駒は全部で何個だ?」

 

「生産ラインは初期スロットで停止させています。駒の製造法は私しか知らない上に私の能力が無ければ作成出来ない為、これ以上増える事はありません―――『王』の駒は全部で9つ。王者に渡された駒を合わせて私の手元に有るのは4つです」

 

「残る5つは上役共の手の内って訳か・・・いざとなったら十分に戦況をひっくり返せる数だ」

 

老害共が持ってるのが5つ。少し前までは6つか・・・あれ?そうなると

 

「アジュカ様。先程『王』の駒を使用しているランカーたち数十人(・・・)のデータを見せて頂きましたが、それは詰まり奴らはとっかえひっかえしていると云う事でしょうか?」

 

「如何いう意味だよイッキ?」

 

「いや、可笑しいだろ?『王』の駒の数とランカーの数が合わないんだから」

 

6と数十は流石に誤差ってレベルじゃないぞ

 

「いい着眼点だ。実際その通りでね。レーティングゲームのプレイヤーは何も年がら年中ゲームに明け暮れている訳ではない。名声を得てゲームを半ば引退し、時折思い出したようにゲームプレイする者達も居る。その辺りの調整は老人たちの得意分野だ。必要な時に必要な者に『王』の駒で強化して試合に出てもらい、終わったならまた抜き取れば良い。2位のロイガン・ベルフェゴールや3位のディビゼ・アバドンのようにメディアへの露出も多く、現役プレイヤーとして試合の予定を常に組んでいる者達などは逆に入れっぱなしだったりするようだがね」

 

アザゼル先生がそれを聴いて腕を組んで唸る

 

「それ程簡単に抜き差し出来るとなると厄介だな。下手に追い詰めても駒だけ上役の下へ転送!なんて事もあり得るのか」

 

「お陰で苦労していますが俺は例え数千年掛けてでも全ての駒を回収するつもりですよ。俺の見通しの甘さが招いた事態ですからね。製造した手前、その位はしなくては」

 

アジュカさんなら超絶強化する駒の特性を識ってたら造った次の瞬間にも隠すか破棄してただろうし、多分何人かのテスターに駒を使用して、その効果をちゃんと確かめる前にそのまま持ち逃げされたりしたんだろうな

 

「あの、その駒を例えばリゼヴィムなんかが使って無いのは何故なんですか?」

 

イッセーが疑問を呈す。確かに超越者の能力が百倍とかになったら笑えないから当然の懸念だな

 

「『王』の駒は特異な能力を持つ者や強大な力を持つ者が使用するとオーバーフローを起こしてしまうんだよ。言ってしまえば才能の無い者にしか使えない代物なんだ。仮に強者が使用した場合は死ぬか・・・生き残ったとしても重大な障害が残るだろうね」

 

それを聴いた皆はホッとした表情だ。元気百倍なリゼヴィム王子と相対しなくて済んだからだろう

 

「まっ駒やゲームなんかについての話はこんなもんか。次に移っても良いか?」

 

「ええ、どうぞ。何を御聞きしたいのですか?」

 

アジュカさんの質問にアザゼル先生はこの月が二つ夜空に浮かぶ砂浜を見渡した

 

「この空間についてだ。異世界を再現したと言っていたが、向こうに勘づかれる恐れはないのか?何しろ邪神なんてのが存在してる事は分かってるんだからな」

 

下手に気付かれたら逆探知で一気にこの世界の座標などが邪神側にバレるかも知れないからな

 

と云うかマジでどうやって異世界の風景なんて手にしたんだよ?

 

「問題在りません。この空間は神滅具(ロンギヌス)の『蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)』と『究極の羯磨(テロス・カルマ)』に関係していましてね。自作の『ゲーム』で少しずつ間借りしているのですよ」

 

「成程な。自分の思い描いた閉じた世界を創り出す『蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)』と確率を捻じ曲げる『究極の羯磨(テロス・カルマ)』の合わせ技か。詰まりお前さんはランダムに世界を形作りそれが『偶然』にも異世界と同じ景色を生み出す確率を引きずり出した訳だ―――確かにそれならば向こうには一切干渉していないから気付かれないだろうな」

 

ふぁっ!?なにそのエゲツナイ組み合わせ!?

 

猫をピアノの鍵盤の上に乗せて『偶然』にもベートーベンの『運命』とか弾いちゃいましたみたいな無茶苦茶具合だな!?

 

「あの二つの神滅具(ロンギヌス)については私の領分だと思っています。なにしろ世界の理の外にあるのですからね。神器に誰より詳しい貴方でも追うのは困難でしょう・・・異世界の情報はこうして少しずつ向こうの景色を覗いたりしていってる段階ですからね。まだ殆どなにも解ってないのが現状です。もう少し色んな角度から情報が得られれば探れる範囲も増えるでしょう」

 

「そうかい。神器マニアとして何時かその二つも調べ尽くしてやるからな」

 

アザゼル先生は残念そうな顔をした後で神器マニアとして中途半端で引き下がれないと情熱をその瞳に灯す。子供みたいにワクワクした顔してますね

 

「ククク、元総督殿ならばきっと可能でしょうね」

 

アジュカさんはアザゼル先生の様子を可笑しそうに見た後は俺達に改めて向き直る

 

「『D×D』の諸君。今回の件ではキミたち、特に若手悪魔の諸君にはかなりの負担を掛けてしまう事だろうが、どうか乗り切って欲しい。レーティングゲームの舞台裏などの小難しい話は私達の方で対処する。キミたちは与えられた場で存分にその力を振るってくれ。それが、正しきレーティングゲームにも繋がっていく事だからね」

 

「『はい!』」

 

レーティングゲームの闇を聴いて一時は酷く狼狽していたソーナ先輩も立ち直ったようだ。『今』のレーティングゲームがダメでも『これから』のレーティングゲームを少しずつ良い方向に変えていけるならば、彼女の夢はまだ繋がっているのだから

 

俺達は最後にアジュカさんにライザーを保護してくれた事へのお礼と別れの挨拶を終えて転移魔法陣でイッセーの家に転移していった




ニーズヘッグとかクリフォトが襲ってくるシチュも考えたんですが原作知識とイヅナの感覚共有を合わせるとどう考えてもイッキが瞬時に対処する未来しか見えなかったので止めましたwwクソ!イヅナの感覚共有さえ無ければイッキの家をロボットにしてイッセーの両親をロボットアームで家の中にぶち込んで月まで飛ばす事だって出来たのに!!(こんらん)


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第四話 アグレアス、突入です!

アジュカさんとの会談も終わって家に戻ると早速レイヴェルがフェニックス家のライザーに通信を繋いだ。とはいえ盗聴とかも考慮すれば機密事項の事を匂わせる程度の発言も出来ないので、本当に挨拶程度で無事を伝えて終わりだったけどな

 

まぁ立体映像付きの通信先のライザーは相変わらずふてぶてしい様子だったので大丈夫だろう

 

「レイヴェル。なんだったら一度実家に戻ってみても良いんだぞ?それとも付いて行こうか?」

 

別に手間でも無いし直接出会ってみたらと提案してみるもレイヴェルは首を横に振る

 

「いいえ、お兄様がご無事な様子はちゃんと確認出来ましたし、それに通信でやりとりした後に直ぐに家に戻ったりするのは何だか気恥ずかしいですわ」

 

あ~、確かにそれはお兄ちゃん大好きっ娘的に周囲から温かい視線を送られそうだな

 

「うにゃ~。それで?魔王とは結局どんな話をしてきたのにゃ~?」

 

万一に備えて家で留守番して貰ってた黒歌に一応追加で部屋に結界を張ってからアジュカさんが話した事を説明していく

 

「ふ~ん。レーティングゲームの不正行為ねぇ・・・まぁ腐った貴族がそれなりに蔓延ってる中でゲームだけが例外なんて事もないでしょうねぇ」

 

黒歌としては割と如何でも良いようだ。まぁ今の黒歌はゲームのプレイヤーではないから関心が薄いだけなのかも知れないがな。強い正義感とか持ってる訳でもないし

 

―――さて、報告も終わった訳だが如何やらクリフォトが攻めてきたなんて事も無かったようだが原作ではヴァーリ達がこの辺りでアグレアスの情報を持ち帰っていた

 

ただこの世界ではもう少し発見は遅れるかもな。クリフォト襲撃の転移の痕跡でアグレアス発見に繋がったならね

 

結局その日は思った通りヴァーリ達が此方に来ることもなく就寝する事となった

 

 

 

 

 

翌日、今日も今日とてクロウ・クルワッハとの模擬戦だ

 

俺はクロウ・クルワッハが殴りかかって来る直前(・・)に回避動作に移る

 

頬を掠った拳で血が飛ぶが今までよりミリ単位で怪我が浅くなった

 

「ムっ?」

 

時間にして刹那とも云えるような、普通なら誰も気付かない変化だが戦いを司るとまで謳われた邪龍は違和感を覚えたようだ

 

クロスレンジで繰り出される連続攻撃に徐々に体が傷ついていくのは変わらないが前までの模擬戦と比べて微かに、しかし確実に怪我が浅い

 

俺の使う『抜き足』の技術はクロウ・クルワッハのように勘で対処するとかって例外は除いて弱点は存在する。一つは今クロウ・クルワッハがやってるような近距離での猛攻であり、もう一つは俺が一瞬で詰められる間合いの外側で戦うロングレンジ戦だ。『抜き足』はミドルレンジで相手が慎重に様子見しながら戦ってくれる時が一番効果を発揮する

 

目の前の邪龍さんに『抜き足』がほぼ効かないならまた別の技術が必要になる

 

最初に考えたのは俺の使う秘剣シリーズや抜き足などでお世話になっている落第騎士の主人公の相手の思考を掌握して未来視ばりの先読みを可能とする『完全掌握(パーフェクトビジョン)』だ

 

勿論言うまでもなく秒で却下した

 

なに?相手の価値観(アイデンティティ)まで把握して、付き合いの深い相手なら瞬きの瞬間まで先読み出来るとか頭イカレてんの?んなもん出来る訳ねぇよ!(半ギレ

 

自分を把握するなら兎も角、相手を完璧に把握するとか難易度に天と地じゃ到底済まない隔たりが有る。そんなの元々読心系の能力が無いと真似出来んわ!

 

だがしかし観察するという方向性そのものは悪く無いはずだ

 

俺は今まで思考加速などの力を用いて相手の動きを見切ってからそれに対応する動きで戦ってきた。そこから更にもう一歩踏み込めるのではないかと思ったのだ

 

具体的には相手が動き出す直前の筋肉の弛緩や膨脹、オーラの揺れなどの実際に動き出す前の前兆(・・)を視る感じだ

 

普通ならオーラの揺らぎとも言い難い波から次の動作を読むのは難しいだろうが、こちとら生まれてこの方自分自身の筋肉・血流・電気信号からオーラまで感知し続けてきた身だ。その経験則から相手が例えばパンチを繰り出す寸前の気配を感じ取り相手が実際に動き出す前に次の手を読む

 

例えるなら赤ん坊の家庭教師がヒットマンしてるとこの主人公の持つ『超直感』や某忍ばない忍者のサスケェ!君が終末の谷で主人公と初めて戦った時の先読み動体視力に近いだろう

 

名付けるとしたら相手の兆候・前兆・予兆を読むものとして『(きざし)』―――だろうか?

 

まぁ格好付けたところで『完全掌握(パーフェクトビジョン)』の圧倒的下位互換なんだけどな!

 

それにまだ完全じゃない。まだまだクロウ・クルワッハの動きをサインを見逃す事が多いし予兆を感じ取れても次の動きがイメージ出来ない事も多い

 

だからよく見ろ。貪欲に観察しろ!仙術使いがパワーに囚われるな。仙術使いとしての俺の原点は感知タイプなんだって事を認識しろ!

 

五感も第六感も総動員して目の前の相手だけを観つめて動け!

 

 

 

観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、

観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、

観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、

観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ、観ろ!!!

 

 

「クハハハハ!先日より気迫が充足しているな。心配事でも有ったのか?まぁ良い、ならば此方も本気に近づけていこう。最後まで付いてくるがいい!」

 

目の前のクロウ・クルワッハが何か言ってるけど重要なものじゃないとして切り捨てる。どこぞの落第騎士様なら相手の声音も計算に入れるのだろうが、俺には無理だ。俺が感じ取るべきは呼吸のリズムや筋肉の収縮や膨脹、戦意などだ―――兎に角観ろ!観て捌け!

 

そのまま俺とクロウ・クルワッハは暫くの間乱打戦を繰り広げていったのだった

 

 

 

次に意識が段々と覚醒してきた時、自分の体が仰向けになって後頭部に柔らかい感触と良い匂いが漂ってきているのを感じた。これはアレだな。膝枕だ

 

クロウ・クルワッハとの模擬戦をしていたのは分かるのだが途中から色々感覚や意識が曖昧になっているようだからどっかで倒されたのだろう

 

戦闘後の膝枕なら一瞬レイヴェルかと思ったけど如何やら違うようでこの感覚は黒歌だな

 

ただ可笑しいのはさっきから直ぐ上でガチャガチャと音が鳴ってるし時折黒歌の腕が俺の額や顎辺りにガシガシぶつかって来ている事だ。ボンヤリしていた意識も流石にここまでされたら急速に目覚めていく

 

「―――黒歌さん?膝枕は大変に嬉しいんですけど、なにそのままアクションゲームで盛り上がってんの?」

 

「あ~、後にしてイッキ。もう少しで尻尾が切れそうだからにゃ」

 

コイツ!横目でテレビ画面を見てみればモ〇ハンで一狩り行ってやがる!そりゃ顔の上でゲームのコントローラー弄ってたら顔にガンガン当たるわ!

 

仕方ないので黒歌のプレイの邪魔にならないように体を起こしてソファーで隣に座り直す

 

・・・なんだろう?この釈然としない気持ちは?

 

最後に黒歌が抜刀術で華麗にフィニッシュを決めて倒したモンスターから素材を剥ぎ取りながらやっと状況を教えてくれた

 

「あの邪龍との模擬戦で二人ともどんどん動きにキレが増していっててね。それでもクロウ・クルワッハの攻撃で全身に浅い傷が無数に出来て最後に出血多量で糸が切れたように空中から落下したのにゃ。あの邪龍がイッキの首根っこ引っ掴んで助けてはくれたんだけどね。まぁそうでなければ見学してた誰かが間に合ったとは思うけどにゃ」

 

あ~、決定打を貰ったんじゃなくてリミット超えでぶっ倒れたのか

 

脳みそフル回転し過ぎていてスタミナとかダメージとか頭から消えてたな。逆にそれぐらいしないと相手の動きを繊細に掴み取るのは無理だった訳だが

 

「それでレイヴェルの涙で回復はさせたんだけど血が足りて無かったし修行の時間も終わりだったから魔力で浄化して着替えさせた後で此処まで連れてきたのよ。今日は休日だし、輸血に頼らなくていい時はしない方が良いって事で最初は白音とレイヴェルがイッキの看病もしてたんだけど、もう直ぐお昼だから二人は今昼食作りの手伝いに向かってるわ。それで私がイッキの様子を見るのと同時にそろそろ起きて貰おうと思ってにゃん♪」

 

「・・・それでアクションゲームに走った訳か」

 

他の選択肢は幾らでも在ったはずだよな!?

 

「だぁってぇ、ただ普通に起こすのも味気ないじゃにゃい?イッキが起きるまでに何匹狩れるかってのもあったけどね♪」

 

尻尾握ったろかコイツ!気絶してる恋人をゲームの縛り要素に組み込むんじゃねぇ!

 

だが実行に移す前に部屋にレイヴェルが入って来てしまった

 

「黒歌さん。イッキ様はお目覚めになられまして?ランチの用意がもう整うところですわ」

 

「にゃん♪見ての通りもう起きたわよ。それで、お昼はなんなのかにゃ?」

 

報告もそこそこにお昼のメニューが気になる黒歌の様子にレイヴェルも苦笑しているな

 

「イッキ様の血が足りないならお肉をとハンバーグがメインですわ。それとイッキ様。修行に集中するのは良いですが今日は無理をし過ぎですわよ?出来ればこれっきりにして下さいな」

 

「・・・はい。以後気を付けます」

 

珍しくレイヴェルに叱られてしまったので素直に反省する。思い返せばクロウ・クルワッハも言っていたように心配事(ライザー)が無くなって無意識の内にハイになっていたのかも知れん

 

そうして昼食を食べる為に食卓に向かって行ったのだが、途中で目の前を歩いてた黒歌の尻尾を衝動的に掴んだら怒られた―――うるせぇ!さっきの仕返しだ!

 

 

 

そんな一種のじゃれ合いをしながらも昼食を食べ終えて一息着いたら俺は駒王町のとある場所に在る地下空間へ向かう

 

タンニーンさんの依頼で俺達で見守っているスペクター・ドラゴン(虹龍)のタマゴの様子見で俺の番が回って来ていたからだ

 

そこには先客が居て部屋の中央に安置されているタマゴを抱き抱えるようにして座っているオーフィスの姿が見えた。オーフィスはタマゴに興味が有るようで最近はよく此処に顔を出しているそうだ・・・先日イッセーが見に来た時はタマゴに向かって「ひっひっふ~!」とラマーズ法を唱えていたようだがイッセーはツッコまなかったらしい

 

まぁ龍神様が親身になって接しているだけでも加護が付きそうだし、態々ケチを付けるような事を言う必要は無いわな

 

それとこの空間にはオーフィスに興味を持ってらっしゃるクロウ・クルワッハも居る

 

流石に訓練の時以外で俺やイッセーの家に彼が来る事は無いけど、この地下空間にオーフィスがやってくると如何やって察知してるのか高い確率で現れるのだ・・・オーフィスがよく此処に来てるから当てずっぽうで来てるだけかも知れんがな

 

そんな二人(匹)のドラゴン達は今・・・バナナ食ってるな

 

クロウ・クルワッハが持ってるのは先日アーシアさんが渡したらしいバナナだろう

 

オーフィスは餌付けの内の一つだろう。タマゴ抱えながらもバナナ貪ってらっしゃいます

 

うわ~、シュールな光景

 

クロウ・クルワッハは・・・放って置いても良いな。オーフィス(幼女)をガン見する事に夢中な黒コートを相手にするのも悪い

 

因みにだがこのタマゴ。仙術で気を探ってみたところ生命の気が二つ感じ取れたので如何やら双子のようだ。希少なドラゴンが二匹も生まれると聴いてタンニーンさんも喜んでたな

 

虹龍(スペクター・ドラゴン)は東洋タイプの龍みたいだし、もしかしたらオーフィスの影響でお互いの尻尾を咥えて『ウロボロスごっこ』とかし始めるかもな

 

それと今回はタマゴの様子を見に来たのもそうだが、この場に居るであろうオーフィスにちょっとした思い付きを試してみたかったりもするのだ

 

「オーフィス。そのままで良いから少し頼みたい事があるんだよ」

 

「ん・・・なに?」

 

小首を傾げて聞き返して来る龍神様の前で俺は異空間収納から色々取り出して準備する

 

「リゼヴィム一派との戦いに役立ちそうなアイテムを作ろうと思ってさ。な~に、ちょっとアドバイスが貰えたらそれで十分だ」

 

そうして俺はオーフィスから沢山の意見を頂いたのだった

 

 

 

アジュカさんとの会談から一週間ほど過ぎた

 

途中で新生徒会長になったゼノヴィアが本校生徒の一人の弟のロードバイクが近一の不良校である出素戸炉井(デストロイ)高校の不良に盗られて新生徒会メンバーが他校に殴り込みに行き、河川敷で決闘を行ったり、途中から様子を見ていた新オカルト研究部も参戦して不良たちを全員粛清したりといったイベントが有ったけど些細な事だろう(遠い目)

 

なお、問題にならないようにアザゼル先生が手を回してくれたそうだ―――と云うかゼノヴィアの背中を押したのがアザゼル先生らしい。先生ェ・・・

 

そんなちょっとした(?)トラブルと日常が交差していく中でイッセーの家に緊急招集された

 

如何やらヴァーリ達がリゼヴィム達の拠点であるアグレアスの場所を特定したらしい

 

 

 

イッセーの家の上層階に在る会議室に『D×D』の駒王町組が集まっていた。サイラオーグさんやシーグヴァイラさんなんかも通信で会議に参加だ

 

こういった時に場を仕切るのは例によってアザゼル先生だ

 

「よ~し、呼んだ奴は全員揃ったな?それじゃルフェイに美猴、報告を頼む」

 

「はい!」

 

「はいよっと」

 

ヴァーリ・チームからリゼヴィムの居場所を掴んだ事を報せに来たのはこの二人だ。ルフェイと一緒なのがアーサーやフェンリルではなく美猴なのは仙術使いの気配遮断などのスキルを駆使してリゼヴィム側に万が一にでもヴァーリ達が近くに居ると気付かせない為の配慮だろう

 

「今までヴァーリ様達とアグレアスの微かな痕跡を辿り、アグレアスが隠れるのに条件の良い場所におおよその山を張って監視してゆく中でアタリを引きました。高度な隠蔽もかの島程の巨大な質量を転移させる時には微かに揺らぎが生じるようです。かの島の座標については先程アザゼル様にお渡ししました」

 

「ヴァーリの奴は今は他のメンバーと一緒にアグレアス付近で待機中だぜぃ。作戦開始のタイミングだけはこっちに合わせるってよ。自分の手で爺さんをぶっ殺したいってのと同じくらいに、もう逃がしたくないって事だろうな」

 

ヴァーリの獲物を横取りしても難癖付けられる可能性は低いって事だな。まぁヴァーリは元々そんなキャラじゃないから心配はしてないけど

 

「アグレアスが転移したばかりなら次の転移までに猶予は有るはずだ。とはいえチンタラ準備してまたアグレアスを見失うなんて事は避けたい。今回の奇襲作戦の詳細決め及び準備は5~6時間以内に全部済ませて突撃するから、そのつもりで各自頭を捻ってくれ」

 

確かにそうだな。アグレアス程の物体の隠密転移とかアジ・ダハーカでも大変だと思うけど向こうには聖杯も偽の赤龍帝の鎧も有るんだし今日は偶々半日で再度転移で拠点を移す可能性も有るのだ。逃走中のクリフォトが毎日キッチリ同じ時間に転移を使って移動とかする訳もない。そういうのはある程度ランダム性を持たせないと効果も半減だろう

 

そうして詳細を詰めた結果としてアグレアスへ直接乗り込む手段はアジュカさんがアグレアスの結界を突破できる禁呪クラスの転移魔法で突入する事となった。なおこの禁呪は一度にメンバー全員は運べないそうなので何回かに小分けして転移するそうだ

 

第一陣はデュリオさん、イリナさん、グリゼルダさんと他数名の御使い(ブレイブ・セイント)にシトリー眷属で、最後に俺だ

 

第二陣で黒歌やレイヴェルにイッセー達やアザゼル先生に鳶雄さんが入る

 

サイラオーグさんやシーグヴァイラさん達は最初は自陣で待機してクリフォトが何らかのカウンターを仕掛けて来ないか警戒し、問題無いと判断出来たなら第三陣として増援に駆けつける

 

第一陣の俺達の最初の一手で戦況が大分左右されるんだよな

 

会議が終わってルフェイと美猴は作戦内容をヴァーリ達に伝える為に去っていき、俺達は作戦開始の下準備等が整うまで数時間程各々のやり方でリラックスしたりウォームアップしたりして過ごし、作戦決行の時がやってきた

 

 

 

 

 

何時ものようにイッセーの家の地下の転移の間に集まる

 

床に敷いてある転移魔法陣はアジュカさんが遠隔操作しているようで何時もの魔法陣よりも複雑な紋様を描いている

 

「これから始まるのは奇襲作戦だ。迅速に敵戦力を殲滅しろ。ヴァーリ達の執念とも云える捜索のお陰で掴めたこのチャンスでリゼヴィムの野郎を打倒す。ハッキリ言ってアグレアスにどれだけの仕掛けが施してあるか分からん上に奴は今もその血筋で絶大な支持を受けている『ルシファー』だ。生かして捕らえても下手すれば裏から手を回されて逃げられるかも知れん。『はぐれ』と同じように処理(・・)しろ。俺が許す」

 

「『はい!』」

 

生死不問(デッド・オア・アライブ)どころか見敵必殺(サーチ・アンド・デストロイ)を推奨されちゃったよ―――まぁ異世界にケンカ売りに行く上に既にクリフォトが各勢力に出している被害も半端ないから当然か・・・吸血鬼の国とかほぼ壊滅したしな

 

皆もアザゼル先生の許可の下、殺る気に満ちた元気の良い返事を返す

 

突入前に皆に例のモノ(・・・・)も配ったし、後は作戦を進めるだけだ

 

アザゼル先生が最終確認に入る

 

「さて、サジ。ラインの調子はどうだ?」

 

「はい!太くて固いのが出来上がってます!何時でもイケます!!」

 

もしも今サジのセリフで少しでも邪念が頭を過ぎった奴は焼き土下座な・・・俺はしないけど

 

「よぉしサジ!その黒くて固くて太゛っとくて長いのであいつ等を繋げ!」

 

如何やらアザゼル先生は焼き土下座候補のようだ

 

馬鹿な事を考えてる間にサジが事前に用意した強靭なラインでイッセーと御使い(ブレイブ・セイント)達と俺を繋ぐ

 

「ドライグいくぞ!―――赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)!!」

 

『Transfer!!』

 

イッセーが右手でラインを掴み、左手で俺単体に手を置いて2種類の力を強化する

 

ここまで来れば大体お分かりかも知れないが、作戦タイムで俺はライザー戦の初手ブッパを再現しようと提案したのだ・・・二番煎じ?あの試合はグレモリー家とフェニックス家の当主や家族、それからアザゼル先生くらいしか視聴していないのだからリゼヴィム達は知らんだろう。『同じ手は二度通じない』なんてのは同じ相手に使う時に言うべき言葉だ

 

俺は使えるならバンバン使っていくよ?イッセーの強化が終わってサジのラインは役目を終えて消え去り第一陣が魔法陣の上に乗る

 

シトリー眷属は俺と御使い(ブレイブ・セイント)の皆さんの合唱が終わるまで魔力の耳栓をした状態で護衛だ。仮にこの初手が上手くいかなかったら俺は黒歌やイッセー達と合流して他の皆は派手に暴れる事で相手の注意を惹き付ける囮役となる

 

イッセーがラインを通してシステムの『祝福』を、俺に直接『神性』を強化した状態でいざ行かんアグレアス!素敵な洗礼詠唱(うた)を届けに行くぜ!




天使の奏でるハーモニー・・・なお一部邪神が混ざってる模様


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第五話 チョコレートと、バナナです?

決戦前のイッキ以外の視点で書いてみました


[木場 side]

 

 

アグレアス奇襲部隊の第二陣として僕たちグレモリー眷属と黒歌さんにレイヴェルさん。鳶雄さんとアザゼル先生が敵の本拠地にアジュカ・ベルゼブブ様の転移魔法で乗り込んだ時、そこには地獄が広がっていた

 

・・・まぁここも地獄(冥界)なんだけどそう言う意味じゃなくて比喩表現での地獄だ

 

周囲を見渡すといたる所に山積みになった黒い大きな物体が見える。その物体はトカゲに羽根が生えたような存在で・・・って回りくどく言っても仕様が無いかな。量産型の邪龍達が白目をむいて地面に横たわっている

 

「うっわぁ、エゲツねぇな。量産型の邪龍はもうコレ全滅じゃねぇか?」

 

イッセー君が周りの惨状を見て引いてる。と云うか殆ど皆がドン引きだ

 

量産型とは云え、邪龍は邪龍。そのタフネスは決して侮って良いものじゃないはずなんだけどこのまま放って置いても丸三日程度は気絶したままになっていそうだ。寧ろ何割かは既に死んで無い?

 

初手で魔王の一撃を叩き込むレベルの事をしてるから妥当ではあると思う・・・と云うかイッセー君も一応この惨状の立役者の一人なんだからね?

 

「じゃあ俺は予定通り裏方に回るからもう行くよ」

 

幾瀬鳶雄さんが神器であり相棒でもある黒い狗を連れて颯爽と立ち去る。ちゃんと見てたはずなのに何時の間にか影に溶けるように移動してしまったのは単なる身のこなしによるものだけじゃない。あの人もまた人間としては底知れない実力の持ち主だ

 

「俺もこのままアグレアスの中枢へ向かう。動力部を停められるかも知れん。初手が上手くいったなら第一陣の援軍の御使い(ブレイブ・セイント)達とシトリー眷属も刃狗(スラッシュ・ドッグ)と同じように裏方に回って貰う予定だ。お前らは真っ直ぐにリゼヴィムを目指せ」

 

先生も含めて彼らが裏方を担当してくれるなら、僕たちはただ標的を倒せば良い。アグレアスが途中で何処かに転移しないように阻害魔法を掛けたり、まだ動けそうな伏兵を警戒・退治したり、万一逃走された場合でも直ぐにまた発見出来るように位置情報を発信するビーコンを置いたりと上げればキリが無い。シトリー眷属も今回の相手のリゼヴィムは神器無効化(セイクリッド・キャンセラー)が有るから人工神器も無効化される公算が高いので裏方担当だ。リゼヴィム程の相手に表も裏も充実した戦力を揃えられるのは素直に喜ばしい―――そうして去っていく先生の背を見送りながら僕らも動き出す

 

「白音、黒歌。仙術でリゼヴィム達が居そうな場所は分かるかしら?」

 

リアス元部長が仙術使いの白音ちゃんと黒歌さんの姉妹に状況を訊く。二人は猫耳をピクピクと反応させながら集中して周辺一帯の気配を探ると同時に同じ方向に顔を向けた

 

「はい。向こうに見える一際大きな高層ビルを中心に特に多くの量産型邪龍の気配がします。恐らくはあそこかと」

 

「ん~、ゴチャゴチャして分かりにくいけどかなり強めの邪龍の気配も在るわね。白音の言うようにあそこが一番怪しいと思うにゃん」

 

成程。量産型邪龍だけでなく、それ以外の強力な邪龍もあのビルを守っているのか。二人が強いと言いつつもそこまで警戒していない様子からアポプスやアジ・ダハーカのような規格外レベルの邪龍ではないようだね。流石の二人もこれだけ邪龍でごった返している中でリゼヴィムの気配をピンポイントで探る事は難しかったようだが

 

「やはり事前の予想通りね。あの高層ビルはアグレアスの庁舎よ。アグレアス全体を監視するのに最も設備が整っているのがあそこなの―――では皆、行くわよ!」

 

「『了解!』」

 

この先に待ち受ける巨悪。前魔王ルシファーの息子であるリゼヴィム・リヴァン・ルシファーを今こそ斃す時だ!

 

 

 

 

僕らが庁舎前に辿り着くとそこには鼻が曲がりそうな瘴気を放つドラゴンが居た。発する邪気は龍王クラス。アレがここの門番とみて良いだろう

 

黒い鱗に黄土色の腹、体長は細長く20メートル程で四肢も翼も付いている西洋タイプのドラゴンと東洋タイプのドラゴンの中間みたいな感じと云えるだろうか?

 

「うっへぇ、臭すぎにゃん」

 

「酷い臭いです」

 

人間ベースの僕ですら腐ったような臭いがするのだ。猫又として鼻が利く二人には堪らないのだろう。僕たちは顔をしかめる程度で済んでるけど白音ちゃんと黒歌さんはよく観ると涙目だ

 

その姿を視認したロスヴァイセさんが苦々しい顔となる

 

「アレは『外法の死龍(アビス・レイジ・ドラゴン)』のニーズヘッグですね。北欧神話の邪龍で非常にしぶとい事で有名です。過去何度も討伐されていますがその度に蘇っているそうです。今ここに居るのは自力での復活か聖杯かは分かりませんが、聖杯の強化は施されていると見るべきでしょう」

 

同じ北欧神話出身であるロスヴァイセさんがかの邪龍の正体を見抜く

 

僕も名前は聞いた事のある邪龍だ。世界樹ユグドラシルの木の根を毒の牙で汚染し、常に腹を空かせている邪龍だという

 

今の僕たちは気付かれないように遠目に様子を窺っているんだけど、今見えてる光景からでもその一端が垣間見える。何せあのニーズヘッグは最初のイッキ君達の聖言でこの周囲にも山積みとなっている量産型邪龍を貪り食っているのだから・・・仮にも仲間だったはずだが悪食にも程があるね。そしてニーズヘッグの口から滴り落ちている涎も毒々しい色合いで地面に落ちると煙を上げている。毒の龍というのも間違いないようだ

 

如何先手を取ろうかと相談しようとすると量産型邪龍をおやつ代わりに貪っていたニーズヘッグが顔を上げる

 

「んだ~?嗅ぎ慣れねぇ新鮮な生ものの匂いがすっぞ?もう此処まで来ただか。ほら、隠れてねぇで出て来いよおおぉぉぉ!居るんだろぉぉぉ?」

 

僕たちの気配は黒歌さんが消してくれていたけど如何やら匂いでバレてしまったようだ。僕たちはこの臭気で既に嗅覚が麻痺し掛けてるけど、匂いの持ち主であるニーズヘッグには関係ないらしい

 

リアス元部長も片手を上げて指示を出し、僕たちは姿を現す―――しかし戦闘に入る前に僕たちの前に三つの人影が舞い降りた

 

「やぁやぁ、間に合ったみたいだね」

 

軽い調子で声を掛けてきたのは僕たち『D×D』のリーダーのデュリオさんだ。イッキ君とイリナさんも居る。作戦の出だしが上手くいったなら彼らも僕たちに合流する手筈だったからね。仙術使いが両チームに居ればお互いの位置を見失う事も無いしね

 

「さぁて、お相手はあの邪龍君か。なら一丁こう言うべきかな?―――ここは俺に任せて先に行け!ってね」

 

そう言って僕たちの前に出て雷や炎、水、風などを体に纏わせるデュリオさん。一人であの邪龍を受け持つつもりか!

 

「こちらにはこれだけ人数が居るのよ?全員で袋叩きにしても大して時間のロスは無いんじゃないかしら?」

 

「いいや、そうでも無いと思うんッスよね!」

 

リアス元部長の案にデュリオさんは各属性攻撃に加えて天使の光の槍までもニーズヘッグに叩き込む事で応えた―――爆炎が舞い、煙の奥からボロボロのニーズヘッグが現れる

 

「い、い、イデェよおおォォォ!いきなりさ攻撃するなんてオ゛メ゛ェ、悪リ゛ぃ奴なんだな!小っこいハト野郎があああああ!!で、でも・・・グヘヘヘヘ!ほ~ら復活だアア!!」

 

ニーズヘッグは全身の怪我を見る間に回復させてしまったのだ

 

「偽物のフェニックスの涙!何処まで我がフェニックス家を侮辱すれば気が済むのでしょうか!」

 

レイヴェルさんが激昂している。ニーズヘッグの足元には先程使用したフェニックスの涙の小瓶が転がっている・・・レイヴェルさんが怒るのも無理はない。偽物のフェニックスの涙の製造には純正に近いフェニックス家の人のクローンが必要だ。以前魔法使い達が襲撃してきた時にチラッと見たあの生体ポッドの中でただ涙を『採取』されている者達が居るという事なのだから

 

「成程、あのニーズヘッグが幾つ『涙』を所持しているのか判らない現状、全員で掛かるのは下策ね。しぶとさに定評のある邪龍では一瞬で絶命させるのも難しいでしょうし」

 

「そう言うこと。それに上に行ってもリリンには俺の神器も通じないしねぇ。光力だけで戦う事も出来るけどやっぱり戦力は半減だ。この場に残るのは俺が良いんだってね」

 

そうだ。リアス元部長の眷属に神器使いは僕とイッセー君とギャスパー君にアーシアさんの4人が居るけど神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)が完全に突き刺さるのはギャスパー君くらいだ・・・アーシアさんは回復役だし、僕は龍騎士たちに魔剣を持たせれば良いし、イッセー君は新たに『透過』という生前のドライグが使っていた能力を使えば神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)の上からでもリゼヴィムにダメージを与えられるはずだと言っていた。まだ試した事は無いけど超越者と二天龍の能力がぶつかれば二天龍に軍配が上がるだろうと云うのが僕らの推察だ

 

・・・と云うか今気づいたけどニーズヘッグの後ろに既に小瓶が二つ程転がっているのはイッキ君達の聖句に対する頭痛薬代わりに使ったんだろうね

 

するとデュリオさんが天候を操るその力で今度は強力な竜巻をニーズヘッグに横合いからぶつけてこの場から弾き飛ばす

 

「さぁ今の内に!やっぱりこういう時はキミたちが一番目立つ位置に居るべきさ」

 

ハハッ、確かに僕たちオカルト研究部が何だかんだで騒動の中心に居るよね。それが慣れた戦場って云うのはクリフォトとの戦いが終わったなら暫くは勘弁して欲しいや

 

デュリオさんが開けてくれた道をを僕たちは一度頷き合ってから走って庁舎の中に入る

 

「ここまで近づけば分かります。リゼヴィムと王者は屋上です」

 

「ええ、では行くわよ!」

 

庁舎の中に入った事で気配をしっかりと捉える事が出来るようになった白音ちゃんが決戦の場を示す。僕らが外から飛んで行かないのはアグレアスの庁舎は元から外からの侵入に対してかなり強固な結界を張ってあるからだ。それならば下手な事はせずに中から昇った方が確実で面倒が少ない

 

階段を駆け上がる僕たちだけど襲ってくる邪龍はやはり居ない。時々通路にぐったり倒れている邪龍が見えるからその理由は言わずもがなだ

 

敵の本拠地をこうも無力化するなんてね。イッキ君がなにかを提案する時とかは大抵酷い有様になるけど、今回は群を抜いて酷いかも知れない

 

でもまぁ流石にこれ以上の惨状はイッキ君でももう生み出せないのだと信じたい。そう思っているとイッキ君が突然声を上げた

 

「あっ!しまった!」

 

「如何した!なにか有ったのかイッキ!?」

 

そのセリフに僕たちは瞬間的に体に緊張が走りイッセー君も慌てて問い掛ける。なにか重大な見落としでも在ったのだろうか?

 

「最初のイッセーの『譲渡』に『透過』も付けておけば『無価値』や『神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)』を持つリゼヴィムと王者も大ダメージ与えて量産型邪龍も完全に全滅まで持っていけてたのに!」

 

「『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』」

 

“スパーンッ!!”

 

白音ちゃんが何処からか取り出したハリセンでイッキ君の頭を叩いた・・・うん。ちょっと擁護出来ないかな?それとやっぱりイッキ君は敵に回したくないって想いがより一層強くなったよ

 

ちょっと遠い目になり掛けながらも庁舎の屋上まで半分辺りとなった時に建物の内部にアナウンスが流れ始めた

 

≪御機嫌よう、冥界の皆さん。ディハウザー・ベリアルです。突然の放送となりましたが私は見ての通り、平穏無事です≫

 

これは!王者の・・・皇帝ベリアルの放送!?

 

「ねぇ皆、あそこに在るテレビを見て!」

 

イリナさんが何かに気付いたのかこういったビルの中に所々に設置されているテレビを指さす。そこには今まさにディハウザー・ベリアル氏が映っていたのだ。アナウンスなどの音声だけではなく生中継で恐らくは冥界・・・いや!可能な限り各勢力のチャンネルに向けて発信しているのだろう

 

僕たちはそれを見て立ち止まるのも一瞬に再度上を目指して走り出す。映像は見れないものの庁舎内のアナウンスからも音声は流れているのでその内容は聞こえてくる

 

≪今から皆さんにお伝えしなくてはならない事が有ります。それは、レーティングゲームの闇だ≫

 

そこから語られた王者の話は以前僕たちがアジュカさまから聞かされた内容そのものだった

 

レーティングゲームのトップランカーが『王』の駒で不正行為を働いていた事。ゲームを取り仕切る上役たちの『王』の駒以外にも行われる過剰なまでの圧力や反則。ここまでは以前聞いたままだったが、そこから僕たちの知らない高潔なはずの王者がリゼヴィムに協力してまで動いた理由について語られていく

 

≪私の従姉妹のクレーリアがある日私にこう訊いて来た『王の駒の事を知っているか?』とね。当時の私は『噂程度なら知っている』と答えたよ。実際、都市伝説の類だと思っていた≫

 

その後の話に耳を傾けると如何やらそのクレーリアという女性は都市伝説では終わらせずに『王』の駒の事を調べて真実に到達、またはかなりの所まで近づいたのだという。その彼女と王者は実の兄妹のように親しかったようだ

 

―――結果だけ云えば彼女は冥界の上役たちの手によって殺されたらしい

 

クレーリア・・・クレーリア・ベリアルと云えば僕たちにとってまだ聞いたばかりの名だ

 

リアス元部長の前に駒王町を治めていた人で当時まだ敵対していた教会所属の八重垣正臣さんと恋に落ち、三大勢力間の戦争に発展するのを危惧した教会の人達と悪魔の人達が何度も説得を試みるも失敗。結果として両陣営が一時的に目的を合致させて二人の粛清に踏み切ったという何とも苦々しい内容だった。しかし、王者の言ってる事を加味すればまた状況が変わって来る

 

悪魔の上役たちは初めからクレーリアさんを始末するつもりだったのだ。『王』の駒の存在に近づいた彼女を始末しようとしている処に偶々それらしい理由が転がっていただけの事

 

勿論、当時の三大勢力は長年の緊張状態にあったから上役たちが絡まなくても同じ結果になっていた可能性はある。だけど僕たちはイリナさんの父親のトウジさんが粛清という判断を下すまでにどれほど心を折り、またその後も苦しんで来たのかトウジさんの懺悔の言葉から識っている

 

それに対して上役たちは初めからクレーリアさんを説得する気など無かったのだという・・・いや、きっと他にも手を回したのだろう

 

細かいところまでは流石に解りようもないが、結果としてクレーリアさんというディハウザー氏を兄のように慕い、恋人と共に最後まで愛を説いた女性は冥界の上役たちの酷く利己的な理由で断罪が決定された訳だ

 

やっと得心がいった。あの王者がテロという行為にまで手を貸してでも真実を求めたその動機としては十分理解は出来る内容だった。しかし、だとしても王者がクリフォトに手を貸した事は覆せない事実。これ以上彼が罪を重ねない為にも絶対に止めなくては!

 

決意も新たに僕たちは遂に庁舎の屋上へ躍り出た

 

 

 

屋上ではその一角に配信用の機材に囲まれた王者、ディハウザー・ベリアル氏が居た。如何やら配信自体は既に停止しているようで機材も動いていない

 

そんな状況で彼はゆっくりと此方を振り返る

 

「さて、『D×D』の諸君。私は如何したら良かったと思う?今の事実を手に入れ、冥界に伝える為に私は余りにも罪を犯し過ぎた。レーティングゲームの王者なんて言われておきながらその聖地を穢し、ライザー・フェニックス氏との試合でもゲームプレイそのものも穢してしまった・・・・全く酷いチャンピオンだ」

 

振り返った彼の顔は何時もテレビで見るような爽やかで自信に満ちたスターとしての笑顔ではなく、痛々しく自嘲に満ちた儚い笑顔だった

 

その様子を見て僕たちが何を言う前に機材の裏から銀髪の男が現れる

 

そんなこと(・・・・・)は如何でも良い―――俺が、否、このルシファーの息子たる私が許そうではないか、ベリアル卿」

 

「・・・リゼヴィム様」

 

その男の登場に僕たち皆が険しい顔となる。その声を聞いてるだけで、その姿を視界に収めているだけで、こうまで不快な気分になるだなんてね―――そんな中、イッキ君が一歩前へ出る

 

「ディハウザーさん。目的を果たした貴方がまだクリフォトに居る理由は有るんですか?出来ればリゼヴィム討伐に力を貸してくれたら有難いんですけど」

 

イッキくぅぅぅん!!?王者とリゼヴィムが並び立ってるこの場でどんな交渉し始めてるの!?

 

しかも投降を促す内容じゃなくて協力しろだなんて厚かましいにも程があるよ!

 

「ハッ!所詮は矮小な人間だな。強大な力を前にすれば最後は我ら異形の存在に媚びる事しか出来ないのだから」

 

いえ、その矮小な彼は先日も最強邪龍と真正面から殴り合ってましたよ?―――そう言えばリゼヴィムとイッキ君が直接戦闘をした時って無かったよね。戦ってるところを見たのもアウロス学園の時に映像越しに不意打ち喰らわせてるシーンだけだったし、天界で直接相対した時はイッキ君は邪人モードになってなかったし、過小評価になるのは仕方ない・・・のかな?

 

「しかし・・・ここまで冥界を混乱させた私が今更そのような事をして何になる?」

 

「そうですね。冥界の為に為ります―――貴方が冥界を混乱させた事に負い目を感じているなら今すぐ隣のリゼヴィムに魔力弾をぶち込みましょう。それが冥界、ひいては世界の為に為ります」

 

歯に衣着せぬ言い方!イッキ君ちょっと面倒くさくなってない?・・・ライザーさんの大事な試合を壊された事はやっぱり少し根に持ってたのかな?

 

「・・・それともこう言いましょうか?貴方がこれ以上迷ってリゼヴィムに協力してしまうと貴方の眷属やベリアル家の立場がどんどん悪くなりますよ?ご家族については72柱の存続の観点から殺される事は無いでしょうが、貴方の眷属は漏れなく縛り首です」

 

今度は脅して来たああああ!!これを脅しと言って良いのかは疑問だけど、負の側面から説得し始めたよ!王者の良心につけ込む気満々だ

 

「馬鹿な!眷属たちには既に外れて貰った!最後まで私の我が儘に付き合う必要はないと!それに彼らには私は詳細などは話していなかった・・・所々で彼らに普段とは違う指示こそ出したが、彼らが私が真実を識る為に犯罪に手を染めていたと告げたのは最後も最後だ」

 

そうか。王者は眷属が罪に問われにくいように可能な限り自分の手で事を進めて来てたんだね

 

「ディハウザーさん。腐った貴族たちにとってそんなこと(・・・・・)は如何でも良いんですよ。彼らは自分の利権とちっぽけな自尊心を守る為だけに動きます。古き悪魔に楯突いたディハウザーさんの眷属とか格好の的になると思いませんか?―――魔王様方も古き悪魔の上役たち相手では政治面で拮抗している訳ですし、今回の件で魔王側に天秤が多少傾いたところでディハウザーさんが冥界への不利益となる行動を積み重ねれば積み重ねる程に『ディハウザー・ベリアル一人では罪を背負いきれない。主の手足である眷属も同罪として断罪する』って強権を振るうでしょうね。眷属の方々は直接的には協力してないなんて関係ないです。自分達に生意気働いたディハウザー・ベリアルの大切な者達となれば嬉々として殺す為に動くでしょう・・・ディハウザーさん。それでも貴方は魔王様方が庇いきれないレベルまで自暴自棄になって暴れるつもりは有りますか?―――さぁ、俺達の手を取って罪を清算する為の最初の一歩を踏み出しましょう★」

 

それは・・・確かにそうかも知れない。かつて黒歌さんが『はぐれ』となった時も白音ちゃんは『家族だから』という理由で処刑されそうになっていたと聞く

 

魔王様がディハウザー氏の罪の対応に苦慮すればするだけ眷属の方々の処刑または『偶然の事故死』の可能性が高まりそうだ

 

「あんな甘言に惑わされるなよベリアル卿。必要なら貴殿の眷属も家族も保護してやろう」

 

そんなリゼヴィムの提案をイッキ君は鼻で嗤う

 

「保護という名の人質ですね。そう言えば知ってましたかディハウザーさん?そこのリゼヴィムは貴方の従姉妹のクレーリアさんの恋人である八重垣さんを聖杯で復活させて邪龍を宿した剣を持たせて精神汚染を引き起こさせて兵に仕立てた上に用済みになったら彼を殺そうとしたんですよ?きっと保護した方々も色んな洗脳や改造を施してディハウザーさんを操る為に活用するに決まってます・・・そうですね。体の中に爆弾組み込んだり特定の薬を定期的に摂取したりしなくては徐々に体が崩壊するようにするとかでしょうね」

 

イッキ君のセリフの最後に『俺ならそれ位はします』って幻聴が聴こえた気がするよ

 

「ええい!さっきから屁理屈ばっかり並べやがって!おい王者くん。まさか今まで色々情報提供してやった恩を仇で返すような真似はしねぇよな?」

 

「ハッ、散々他人を煽りまくってきたお前が最後に情に訴え掛けるようになっちゃお終いだな」

 

イッキ君とリゼヴィムが同時にディハウザー氏に右腕を差し出す

 

「「さぁ、お前の居場所は此方だ。この手を取れ、ディハウザー・ベリアル!!」」

 

見事にセリフがハモったよ!魔王の息子と邪人オール・エヴィルが傷心の王者を取り合ってるよ!

 

「・・・・・なぁ木場。俺達は何を見せられてるんだ?」

 

「勧誘合戦じゃないかな?」

 

「にゃははは、まぁイッキの狙いは分かるんだけどね。王者がこっちに付いてくれるならそれで良しだし、失敗しても会話で時間稼ぎすれば裏方組の仕事も捗るだろうしね」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

少しの間沈黙していたディハウザー氏は右手を僕たちの方へ向け、手のひらの先に濃縮された魔力弾を創り出した―――ダメなのか!もう王者自身が引き返せないと諦めてしまっているのか!

 

「そう。それで良いのだベリアル卿。我らは悪魔だ。貴殿に懸念が有ろうとそんなものはトライヘキサと邪龍共の力を持ってすれば各勢力が相手だろうと打ち砕ける。先ずは我らの邪魔をする目の前の『D×D』を共に葬り去るとしよう!」

 

リゼヴィムが高らかに宣言すると同時にディハウザー氏が魔力弾を手首のスナップを利かせて斜め後ろに居たリゼヴィムに撃ち放った

 

「ッグァ!げほっ!なにしやがる王者アアア!」

 

咄嗟にガードしたみたいだけど完璧じゃなかったのか額から一筋の血が流れているリゼヴィムが憤怒の形相で問いただす

 

「―――申し訳ございませんリゼヴィム王子。私はこれ以上家族や眷属、領民まで失う訳にはいかないのです」

 

「だからそれくらいなら別に好きに匿えば良いって!・・・」

 

「いえ、本拠地たるアグレアスに攻め込まれて兵たる量産型邪龍も全滅しているこの状況・・・既に王手(チェック)が掛かっています。今更私自身の格好悪さなどを気にするつもりは有りませんので、勝ち馬に乗らせて頂こうかと」

 

うん。確かに本丸まで攻め込まれて部下も居ない裸の王様状態の彼が勝ち馬とは思えないよね

 

そんな感想を抱いていると空の向こうから白い閃光が高速で突っ込んで来て庁舎周りの結界を強引に破壊し、僕達の居る屋上に降り立った

 

「これは・・・今如何いう状況なんだ?」

 

降り立った白龍皇たるヴァーリ・ルシファーが困惑するのも無理はない。味方同士であったはずのリゼヴィムと王者が敵対しているんだから

 

「ヴァーリか・・・・あ~、アレだ。イッキの説得(?)の末、王者が味方になってくれたんだ。リゼヴィムの人徳の無さが成せる業だよ」

 

イッセー君が彼に簡潔に状況を伝えている。それを聴いたヴァーリもあきれ顔だ

 

「そうか・・・アーサー達には余計な邪魔が入らないように且つ奴がここから逃げられんようにこのビルの周囲を固めて貰っている。だが、リゼヴィムの前に此処まで戦力が揃っているとは思ってなかったぞ。奴とは一対一(サシ)で勝負したかったのだが、この状況ではな・・・」

 

あはは、確かにもしも数千か万にも届いていそうなあの邪龍達の妨害を受けていたらこの場に辿り着けたのは数人だけだったろうね

 

実際には精々デュリオさんがニーズヘッグに相手に持久戦してるくらいだからね・・・今も離れた場所に雷やら竜巻やら火炎旋風やらが見えるからもう少し掛かりそうかな?

 

こうして僕たちは余りにも充実した戦力の下、遂にリゼヴィムとの決戦が始まろうとしていた!!

 

 

 

・・・ここまで来るとちょっと気が引けるなぁ。そう思いながらも僕は剣を構えるのだった

 

 

[木場 side out]

 

 

[アザゼル side]

 

 

イッセー達と別れて俺は真っ直ぐにアグレアスの中枢へと向かっていた

 

アグレアス内部の地図は元々研究していたアジュカに頼めば普通に入手出来たので迷う事は無い。流石に中枢へ近づく為の通路には幾重ものトラップが張り巡らされていたがこちとら天界に居た頃からの技術屋だ。一つ一つ確実にトラップを解除して前へ進む

 

しかしアグレアスの中枢までもう分かれ道も無いという場所まで辿り着いた時、俺の前に小さな黒い影が佇んでいた。オーフィスの半身であるリリスだ

 

オーフィスとの外見上の違いはオーフィスが髪をストレートにしているのに対してリリスはポニーテールにしているところ位だろう。まぁある意味で双子だから当然なのだが何ともやり難いぜ

 

リリスの後ろにはアグレアスの動力部の巨大な扉が見える

 

この空間自体も戦闘を行うには十分な広さが有るだろうが、真面にやり合っても俺では手も足も出ないから力づくで突破するという手段は取れない

 

「なぁ、リリス。俺はその後ろの扉の向こうに用が有るんだが通しちゃくれないか?」

 

取り敢えず語り掛けてみるがリリスが可愛らしく首を傾げる

 

「ここ、とおる?」

 

「ああ、ダメか?」

 

「むり、リゼヴィム。ここ、まもれとリリスにいった」

 

だろうな。だが逆に言えばここまでアグレアスが攻め込まれている状況でもリリスを優先して此処に配置するだけの理由がこの先に在るって事だ。こちらも簡単には退けん

 

さて如何したものかと思案に移ると奇襲作戦が始まる前にイッキが皆に配った物が在る事を思い出した。イッキ曰く、対リリス用のアイテムという事でなんでも『我が家に代々伝わる錬金術を用いてオーフィス監修の下、作成した逸品』だと言う

 

それを聴いた時は驚いたさ。イッキの家の事はコカビエルの顛末を知った後で血筋も含めて調べたはずだった。錬金術師の末裔なんて情報は掠りもしなかったがイッキの奴も可能な限り情報は伏せてこそここぞという時に役に立つと言っていたし、俺も組織の元長としてそれは理解出来る事だったから文句も言えん

 

俺は異空間に仕舞ってあったソレを取り出す。見た目は上品な漆黒の箱で仙術で封をしてあるみたいだがこれは軽くオーラを流し込めば開くようになっているみたいだ

 

リリスも俺が何かを取り出したのを興味深そうに見つめているようだが構わず箱を開ける

 

どんなアイテムが入っているのかは分からんがイッキ曰く、見れば使い方は理解出来るらしい

 

この土壇場でイッキが明かした錬金術で造られた物となれば研究者として少しワクワクした気分にもなっている自分が居る。そうして俺はその中身を見た

 

先ず目に飛び込んで来たのは箱と同じような漆黒だ。此方の方が光の反射率が高いのか所々輝いても見える。近未来的建造物などに見られる曲線を描くようなボディーのソレに木製の杭が一本突き刺さっている。次に目に入ったのはその漆黒の本体に無数に散りばめられた色鮮やかな宝石の数々。本体と相まってまるで満天の星空ような煌びやかな仕上がりとなっている

 

最後に俺の五感が訴えかけて来るのはやはりこの芳醇な香りだろう。甘い匂いの中に僅かに酸味の匂いも混じって俺の口内の唾液の分泌量が僅かに上昇するのを感じる

 

「―――って!チョコバナナじゃねぇかあああああああああ!!」

 

なに?イッキの奴馬鹿なの!?死ぬの!?この局面でなんてもん渡してんだよ!

 

それと家に代々伝わる錬金術って料理の事かよ!確かに錬金術は台所が起源なんて説も有ったが、そりゃあどの家だって代々継承してるわ!

 

思わず箱ごと床に叩き付けたい衝動に駆られたが俺の第六感が強烈なまでの視線を捉えた

 

“ジィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ”

 

・・・見られてる。リリスの視線が穴が開くレベルで俺の手元のチョコバナナに釘付けになっている。てか既に口元から唾液が垂れかけているくらいだ

 

そう言えばオーフィスも果物の中では特にバナナが好物だ。アーシアがクロウ・クルワッハにバナナを渡して奴も持ち帰ったと聞くし、確か吸血鬼のツェペシュ町でイッキと黒歌がリリスに出会ってバナナを食わせて天界では去り際にイッキがプレゼントと称してリリスにチョコレートを渡していたと云う―――リリスが強く興味を惹くであろうチョコとバナナを掛け合わせてリリスと趣向が似ているであろうオーフィスが最高に『美味しい』と感じるチョコバナナを作成したと!?

 

俺はそのチョコバナナを取り出してリリスに魅せ付ける

 

「―――ッ!!」

 

もう完全に目を見開ているな。手がチョコバナナを受け取ろうと無意識に空中で揺らめいている

 

「ほら、如何だ?欲しいか?通してくれるならやる。ダメならやらん。どうだ?」

 

こうして俺はチョコバナナを武器に最強の龍神と交渉に入るのだった

 

 

[アザゼル side out]




バレンタインなのでチョコレートネタを盛り込んでみましたww


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第六話 新技、炸裂です!

トライヘキサとの最終決戦の前にイッセー達の見せ場回になりますかね?


【王者が 仲間に 加わった】

 

頭の中でファンファーレを流しても許される戦果だろう

 

ディハウザーさんが此方に魔力弾を突き出した時には既に手首を捻る筋肉の力の入れ具合が見て取れたので、余裕を持って成り行きを見守らせて貰った

 

シールドを張られたので追撃が出来なかったのが惜しまれる所だが、それは仕方ないだろう

 

リゼヴィムは後ろに跳んで俺達から距離を取る

 

「ッチィ!悪に染まり切る覚悟も無い若造がっ!!そのまま堕ちるなら俺様の右腕にもしてやったってのによぉ!!」

 

ユーグリット・ルキフグスが居なくなったから指示出しが面倒臭いんですね。分かります―――

それにしても、さも自分が悪の上位存在みたいな表現止めてくれない?リゼヴィムの器の小ささは最近流行の『鬼殺の剣』のラスボス並みだからね?少しは某死神代行漫画の『天に立つ』人を見習えよと言いたい・・・勝てる気しないからやっぱいいわ

 

「さぁて、オジサン一人でキミら若者たちと遊ぶのは流石に大変そうだから助っ人を呼ばせて貰うよん♪」

 

もう魔王の息子ムーヴ止めたのか・・・キャラぶれっぶれだなコイツ

 

リゼヴィムの周囲に数十の魔法陣・・・龍門(ドラゴン・ゲート)が展開される

 

「うひゃひゃひゃひゃ!こいつ等はアグレアスの中枢に保管してあったからさ。最初の忌まわしい聖句も届いてないぜぇ!」

 

アグレアス庁舎でスピーカー乗っ取った訳でもないからな。地下深くまでは音声届いてなかったか

 

そう思うのも束の間。龍門(ドラゴン・ゲート)から見知った邪龍達の姿が現れる

 

「はぁ!?グレンデルにラードゥン!?しかもなんであんなに沢山居るんだよ!?」

 

イッセーの叫びの通り、出てきたのは量産型のグレンデルとラードゥンだ。感じるオーラは本物より一段劣るし、多分戦い方がなっちゃいないから実力は更にもう一段下がるんだろうけどインパクトは抜群だろう

 

「落ち着けイッセー。グレンデルとラードゥンの魂はちゃんと封印してあるし、アイツ等をしっかり見てみろ。魂が抜けたような死んだ魚みたいな目をしてやがる。恐らく聖杯であの二匹の(がわ)だけ再現したんだろう」

 

邪龍最硬の鱗を持つグレンデルと結界に長けたラードゥンを素体にしたのは肉壁として優秀だからかな?いざという時に逃げられる隙が少しでも増えるようにな

 

「クククク、確かにそいつ等は本物のグレンデルやラードゥンに比べたら弱いかもな。だが俺様の切り札はまだ有るんだぜぇ★」

 

おお、切り札を先出しで大盤振る舞いするとかリゼヴィムも負ける気満々だな

 

リゼヴィムは突き出した手のひらの先にウロボロスを模した魔法陣を展開するとそれを握りつぶす

 

次の瞬間にはリゼヴィムのオーラが跳ね上がった。全盛期のフェンリルよりも更に上だ

 

「あひゃひゃひゃひゃ!有限になったリリスだが『有限』っていう事は一定数までならパワーアップの為の蛇も出せるんだよ!リリスの力が減った分は聖杯で補完してやりゃあ良い話だしな!―――まぁ最も聖杯の力を使った後だとその後にリリスが出す蛇は神器の力と見なされちまうから俺様には使えないんだがな♪・・・う~ん。それにしても体の底から湧き上がって来るこの絶大なパワー!素ん晴らスィィィ!!」

 

リゼヴィムにとっては一度限りのパワーアップね・・・いや、そもそもオーフィス(リリス)の蛇と云えども同じ相手に何度も使える代物じゃないと思うんだよな。それが出来るなら旧魔王派の奴らとかもっと蛇でパワーアップを図ってただろうし、きっと複数取り込むと内側から弾け飛ぶ感じに“パーン”するんだろう

 

「何て事!ここへ来てリゼヴィムが超越者すらも超えるオーラを手にするだなんて!」

 

『ああ、あのオーラ量は生前の俺や白いのにも匹敵するだろう。気を引き締めろよ相棒!これで勝負は一気に分からなくなったぞ』

 

「ヘヘ、マジかよ。でもだからって退く訳にはいかねぇよな!付き合って貰うぜ、ドライグ!!」

 

『それで良い。パワーを見せつけてくる輩に背を向けたとあっては力の塊と称された赤龍帝の名折れだ。どちらが真のパワー馬鹿か魅せてやろうではないか!』

 

ドライグが触発されてハイになってるな。皆の表情も気合の入ったものへと変わった

 

「イッセー、イッキ、黒歌。それと王者とヴァーリでリゼヴィムの相手をお願い。他は全員で周囲の量産型のグレンデルとラードゥンがイッセー達の戦闘の邪魔をしないように立ち回りつつ撃破していくわよ。邪龍が片付いたらイッセー達の援護に回って!」

 

「『了解!』」

 

「やれやれ、共闘か・・・まぁ奴の『神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)』を加味した上で俺をリゼヴィムに回してくれるなら文句はないがな」

 

「ヴァーリ、貴方はどうせ周囲の邪龍を先に片づけてってお願いした処で聞く気は無かったでしょ?それにリゼヴィムを目の仇にしている貴方が何の対策も持たずに来たとは思ってないわ」

 

リアス先輩の言葉にヴァーリは一瞬固まる

 

「・・・・・ッフ、それは見てのお楽しみというやつだ」

 

おい、なんだその間は?原作でもリゼヴィムになんの変哲も無いパンチぶち込んでいいように転がされてたヴァーリ君のまま此処に来てないよな?

 

「私は元より罪人の身。キミたちの指示に従おう」

 

ディハウザーさんも特にリアス先輩の采配に異論は無いようだ

 

俺も邪人モードは神器から来る【神性】由来だから多分リゼヴィムには通じないけど天界でも使わなかったし、まぁ良いだろう

 

そうして俺達はそれぞれの戦いに移っていった

 

 

 

[三人称 side]

 

 

イッキたち魔王級の実力者がリゼヴィムの対処に回ったのと同時に残りのメンバーも動き出す

 

まず最初に動き出したのは魔神バロールの化身たる闇の獣の姿となったギャスパー・ヴラディだ

 

「心情的には突っ込んでいきたいところだけど、イッセー先輩たちの邪魔を万が一にでもさせる訳にはいかないからね。邪龍達の流れ弾とかは全部僕が引き受けるよ。皆は邪龍を素早く倒すことだけを考えて!」

 

ギャスパー・ヴラディの周囲に闇が広がり、そこから多くの闇の獣の群れが出現する。元々彼の神器である『停止世界の邪眼(フォービドウン・バロール・ビュー)』と彼自身とも云える分身を無数に生み出す吸血鬼としての能力は最高に相性が良いのだ

 

『魔眼の王』とすら称され、無数の魔眼を持つ生前のバロールの力がどれだけ継承されているかはまだまだ不明だが、ギャスパー・ヴラディがバロールの力を全て己の物とした時、眷属屈指のテクニックタイプへと化ける事だろう

 

「ナイスだギャスパー!これで心置きなく聖剣を振り回せる!」

 

イッキたちを守護するなどの立ち回りを気にしなくて良いと分かったゼノヴィアが嬉しそうにデュランダルとエクスカリバーの出力を高める

 

「もう!ゼノヴィアったら楽が出来ると分かると直ぐにそっちの思考を放棄するんだから!」

 

「あははは、とは言っても敵の数が多いとギャスパー君の負担が大きいのも事実だからね。ゼノヴィアじゃないけど手早く済ませようか」

 

剣士組も剣を構えてそれぞれが近くの敵に向かって斬り付けてゆくのを皮切りにそれぞれの戦いが幕を上げた

 

 

 

グレンデルタイプの量産型邪龍の頭上から轟音と共に白き雷が降り注ぐ

 

『神の雷』と称されたバラキエルのそれを受け継いだ姫島朱乃お得意の雷光だ

 

雷光を脳天から喰らった偽グレンデルは全身から煙を上げてダメージを受けている

 

「あらあら、確かに本物のグレンデルと比べると防御力に難ありのようですわね。攻撃も単調でキレが有りませんし、時間を掛ければ私一人でも普通に倒せそうではありますが、流石に悠長はしていられません。ギアを一段上げますわよ―――雷光龍よ!」

 

短い攻防で敵の大凡のスペックを把握した朱乃が腕を天に掲げるとそこから雷光が迸り、その雷光が形を変えて東洋の龍の姿へと変わる。その数7体。どこかの神話の一節に登場しても可笑しくない荘厳さだ。ただ龍の形をしているだけでなく、ドラゴンのオーラが付与されて力強さが増したその雷光の龍が先程の偽グレンデルに纏わりついて激しくスパークする

 

「うふふ♪撃破(テイク)。さて、お次はそちらにしましょうか・・・あら?」

 

黒焦げとなって落ちていく邪龍を尻目に次の獲物を探した朱乃の前に居た新たな偽グレンデルに雷光龍を向かわせた朱乃だが、その偽グレンデルが多重結界に包まれて雷光龍を弾いてしまった。

よく見ればその偽グレンデルの後ろに偽ラードゥンが三体ほど集まって結界を張っているようだ。グレンデルが前衛でラードゥンが後衛。当然と云えば当然の配置だ

 

「あらあら、そんなに私にイジメられるのが嫌なのかしら?そんなに固く身を寄せ合っているところを見ると遊びたくなってしまいますわぁ♪」

 

なにやら変なスイッチが入り掛けているようだ。ちょっと頬が赤い

 

「しかしそういう訳にもいきませんからね。ここは一つ私の新しい必殺技で纏めて貫いて差し上げますわ!雷光龍よ!」

 

朱乃が再び天に腕を掲げると顕現していた七体の雷光龍が捩じるように形を変えて彼女の手の中に一本の槍として収まった。堕天使がよく扱う光の槍だがよく見ればドラゴンの装飾が施してある

 

彼女のライバルのリアスも魔力の圧縮技術を鍛えていたので当然負けず嫌いな朱乃もそちらに手を出していたのだ

 

朱乃はそれを握ると投擲の構えを取り、自分の眼前に円環状の魔法陣を展開させた

 

「『僧侶』の特性で槍自体の出力を高め、『戦車』の膂力で投げ放ち、『騎士』の特性を付与した加速術式(・・・・)で加速させ、高速で貫く―――これが私の『女王』の特性を全て生かした必殺技ですわ」

 

ロスヴァイセが防御魔法を『戦車』の特性で強化したように朱乃が今使える加速魔法を『騎士』で更に高めたのだ。その技を朱乃が解き放つ

 

 

 

「貫きなさい―――轟き堕ちる雷龍の神槍(カラドボルグ)!!」

 

 

ケルト神話において『硬き雷』とも言われるその名を冠した一撃は偽ラードゥンの多重結界を容易く貫通して偽グレンデルに突き刺さり、そのまま後方で結界を張っていた偽ラードゥン達も纏めて串刺しにして内側から雷光で焼き滅ぼした

 

「やっぱり強敵用の技があるだけで随分違いますわねぇ。この調子でいきましょうか」

 

朱乃は再び雷光龍を形作りながら次の標的の下へ飛んで行くのだった

 

 

 

別の場所ではゼノヴィアがデュランダルとエクスカリバーで邪龍達を斬り付けていた。真の力を解放したデュランダルならば細かい事を考える前に斬り付けた方が早いという、間違ってないからこそ祐斗が聴いたら泣きそうな内容となっている

 

「ちょっとゼノヴィア!少しはセーブして戦いなさいよ!」

 

「言われなくとも分かっているとも!まだメインディッシュ(リゼヴィム)が残っているからな。しかし何事にも肩慣らしというものは必要だぞ!それに、場合によってはチマチマ戦うより一気に大技を決めた方が消耗が少なく済むという時だって有るのだからな」

 

相方の忠告を聴きつつも自分の意見も通す彼女はデュランダルとエクスカリバーを振り上げて莫大な聖なるオーラを籠める

 

 

「喰らうがいい!伝説の聖剣、豪華2本立てだ!

 

―――クロス・クライシス!!」

 

 

お互いの聖剣に触発されて瞬間的に高まったオーラでもって×字に斬り裂き、巨大な二本の斬撃が邪龍を複数同時に葬る。エクスカリバーの特性が泣いてしまう力技だ

 

「ええ!?ゼノヴィアったら一体何時そんな必殺技作ったのよ!?」

 

「ふふん!イリナ。私は駒王学園生徒会長として学園の皆を守る義務が有るのだ。その為に必要な強化なら何でもするぞ。今はアザゼル先生に生徒会長専用の特注戦闘用強化制服(バトルユニフォーム)の案を出しているところだ!」

 

彼女は駒王学園をなにから守るつもりなのだろうか?裏からの刺客が居るとしても生徒会長の服装とかは関係ないはずである

 

「不味いわね。このままゼノヴィアだけが活躍してたら私だけ影が薄くなっちゃう。それは避けなきゃいけないわ!」

 

妙なところを危惧したイリナがオートクレールにオーラを籠める

 

「でもいきなり必殺技なんて・・・えっと、ええっと・・・え、エンジェル・スラアアッシュ!」

 

説明しよう!『エンジェル・スラッシュ』とは・・・種族・エンジェルが力を籠めて一刀を放つ技である・・・以上!

 

「イリナ・・・今度新技の開発に付き合ってやるからもうその技は使わないでくれ。力が抜ける」

 

「うわああぁぁぁあああん!脳筋のゼノヴィアに馬鹿にされた目で見られたああああ!!」

 

片方は泣きながらも二人は自然と連携を取り合いつつ邪龍を葬ってゆくのだった

 

 

 

白音とレイヴェルはそれぞれが得意とする相手から優先して潰している

 

「邪魔です」

 

その一言と共に突き出された拳が偽ラードゥンの結界を破壊する

 

仙術における身体操作系の能力ではイッキの手解きを受けている白音は指一本とまでは行かずとも攻撃する瞬間に拳にオーラを集中させる程度なら実戦レベルで扱えるのだ

 

結界に穴を開けて偽ラードゥンの体に直接拳をめり込ませて浄化の炎を解放する

 

猫又の扱う浄化の炎は死者をあの世へ誘う。聖杯で復活した邪龍もある意味動く死体(リビングデッド)なので効果は抜群である

 

「この程度なら周囲の邪龍を殲滅するまでは私も黒歌姉様もアレを使う必要は無さそうですね」

 

白い炎に包まれた偽ラードゥンを前にそんな感想を抱く彼女もまた余裕である

 

 

 

一方でレイヴェルも体力を温存する為の立ち回りをしている

 

禁呪を使用している事には変わりないがその手には一本の炎の剣が握られている

 

偽グレンデルが正面から突っ込んで来るレイヴェルに炎を吐き出す

 

(ぬる)いですわよ!」

 

しかし本物より数段劣るソレなど不死鳥(フェニックス)たるレイヴェルにとっては避ける価値すら無い

 

遠距離ウィザードタイプのレイヴェルだが不死性を有している分、リアスや朱乃、ロスヴァイセなどと比べて接近戦の選択肢を取り易いのだ

 

炎を突っ切って来たレイヴェルを見た偽グレンデルが今度はその大きな拳を振りかぶる。人ひとり分程度はある巨大な拳だ

 

「温いと言いました!」

 

それを脳のリミッターを一瞬だけ外してギリギリ回避した彼女は懐に入ってその剣を突き立てる

 

 

「燃え尽きなさい!―――頂き焦がす悪神の炎剣(レーヴァテイン)!!」

 

 

体内に莫大な熱量を叩き込まれた偽グレンデルは皮肉にも先程自分が吐いたブレスよりも強力な炎を口から噴き上げながら灰となっていった

 

 

 

それぞれが邪龍相手に大暴れしているのを見てタッグを組んでいたリアスとロスヴァイセは苦笑していた。仮にも特別性の邪龍を相手に一方的に葬り去る眷属たちの火力に周囲からの『パワー馬鹿』という評価は当分付いて回るだろうと改めて思ったのだ

 

「全く。ここまで余りにもあっさりと来れたものだから皆ここぞとばかりに暴れてるわね」

 

「有間君は大局を観て手を打つのが得意ですからね。そこに細かいところまで気が回るレイヴェルさんも加われば更に隙が無くなるでしょう・・・一度あの二人が組んだ本気の戦略(タクティクス)でレーティングゲームの仮想シミュレーションが如何なるのか、見てみたい気はします」

 

雑談を交えながらもロスヴァイセが邪龍を結界魔法ですっぽりと包み込む

 

するとその邪龍は途端に力を無くしたように飛行の高度が一段下がってしまった

 

教会のクーデターの時に死神達が引き連れてきた邪龍達を無力化した術式だ。流石にただの量産型邪龍より数段強いグレンデルとラードゥンタイプの邪龍を完全に無力化する事は出来ないが、能力を著しく下げる事は出来る。魔法のフルバーストが派手でパワーのゴリ押しタイプだと誤解されがちだが、研究者気質のロスヴァイセはどちらかと云えばアザゼルのような相手に合わせて戦術を用意出来るテクニックタイプに近い―――初見の相手だと結局フルバーストとは言ってはいけない。グレモリー眷属は不意且つ頻繁に強敵とエンカウントするので彼女と相性が悪いだけなのだ。経験を重ねていけば将来的にはそれこそアザゼルのような強さも持てるだろう

 

そうして更に防御力が下がり、動きも鈍った目の前の邪龍の頭部をリアスが手元に圧縮した濃密な滅びの魔力を放ち、消滅させる

 

「態々体ごと消滅させなくても、頭さえ潰せばそれで十分だわ」

 

戦い方としては地味かも知れないが『王』であるリアスが単身で敵陣に突っ込んで大暴れする方が可笑しいのでこれで正解である。リアスとロスヴァイセは堅実に一体一体順番に邪龍達の頭を消し飛ばしていった

 

・・・眷属屈指のテクニックタイプの木場祐斗は高周波聖魔剣と聖剣の因子の出力を上げて性能が上がった龍騎士団で上手に戦ってました―――まる

 

 

[三人称 side out]

 

 

リゼヴィムとの戦闘は危惧していた程向こうが圧倒するような展開にはならなかった

 

クロウ・クルワッハと模擬戦してたからよく分かるけど強大なオーラを扱う技術が伴っていないのだ。まぁさっきパワーアップしたばかりだし過去のサーゼクスさん達との大戦以降はずっとソファーでワイン飲んで自堕落な生活してきたリゼヴィムがそう簡単に戦闘勘を取り戻せるはずも無いからな

 

それ以外でもイッセーの『白龍皇の(ディバイディング・)妖精達(ワイバーン・フェアリー)』の集団戦におけるサポート力がエグイ事になっている

 

イッセーの『半減』と『反射』、ヴァーリの『半減』、ディハウザーさんの『無力化』でリゼヴィムの遠距離攻撃がほぼ無効化出来るからな

 

そうなると残るは近接戦だ。リゼヴィムに向かってヴァーリが突貫する

 

『Divide!』『Divide!』『Divide!』『Divide!』『Divide!』『Divide!』

 

ハッキリ言って白龍皇の能力は『神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)』と特に相性が悪い。リゼヴィムの能力を直接『半減』させる事は出来ないし、ヴァーリお得意の空間の『半減』も通じない

 

どう足掻いたところで最終的にリゼヴィムに攻撃を届かせようとするなら神器以外の方法が必要だ

 

リゼヴィムに接近する前にヴァーリは自分自身のなにか(・・・)を『半減』させた

 

「うひゃひゃひゃひゃ!なにをやった処で神器の力は俺には届かないんだよん♪お祖父ちゃんと違ってまだまだ若いのにもう痴呆に掛かってるのかな?」

 

「ならば防いでみるんだな!」

 

ヴァーリが全速力でリゼヴィムに接近し、勢いのままその拳で殴りつける

 

「だから無駄だってぇの!」

 

リゼヴィムがその拳に合わせるように手のひらを突き出して拳を受け止める姿勢となり、ヴァーリの籠手が接触する寸前にヴァーリが急停止して全くロス無く今度は遠心力をタップリ乗せた廻し蹴りをリゼヴィムの胴体に放つ

 

しかしそれでも基本性能に勝るリゼヴィムの対処が追い付き蹴りをガードしようとしたが、ヴァーリが更に在り得ない挙動で攻撃をキャンセルして体を捻り、リゼヴィムの顔面に鎧を一部解除して生身に魔力を乗せた裏拳を叩き込んだ

 

「っぶ!?―――テメェ!!」

 

虚を突かれて一筋とはいえ鼻血を流したリゼヴィムがヴァーリを掴もうとしたが彼は技後硬直無しにトップスピードで間合いを離した

 

「っふ、ようやくその憎らしい顔に一発入れる事が出来たよ」

 

ヴァーリが少しだけスッキリした顔をしている一方でリゼヴィムは鼻血を拭いながら考察している

 

「重力?いや違う。自らの慣性エネルギーを『半減』させて体術に急停止の機能を付けたのか!」

 

「そうだ。これにより密着するような間合いでも随分と小回りが利くようになる・・・最も、拳の威力などは相応に下がってしまうがね。それでも貴様に一々鎧を消されるよりはマシさ」

 

『ッフ、思い付きにしては上手く使いこなしているではないか。流石は我が宿主だな』

 

「・・・・・なにを言っているアルビオン?前々から考えていた手段だ」

 

『・・・・・そうか』

 

ああ、うん。さっきリアス先輩に『まさか無策じゃないよね?』と聴かれてから頭をフル回転させたんだろうな

 

「よそ見してんなよ!クリムゾンブラスタアアアアッ!!」

 

『Penetrate!!』

 

そしてヴァーリからの攻撃を受けて意識が逸れたリゼヴィムにイッセーの強化『僧侶』のオーラ砲が放たれた

 

「はっ!体術なら兎も角そんな神器頼りの魔力砲が俺様に効く訳ないだろう!」

 

左下辺りから放たれた攻撃に左手を突き出すリゼヴィムだが、砲撃と一緒に聞こえた神器の音声にももう少し注意を払うべきだったな

 

着弾したオーラ砲はかき消される事は無く、爆炎となってリゼヴィムを包み込んだ

 

爆炎の中からリゼヴィムが飛び出して来たのを俺達の追撃が飛ぶがオーラの籠った悪魔の翼で弾かれてしまった。しかしイッセーの攻撃は完全に油断して喰らった為か彼の左の手のひらは火傷のような痛々しいダメージを負っている

 

「ッぐ!クソ!なんで赤龍帝の攻撃が俺に効く!?そいつは神器の力が無けりゃクソ雑魚だろうが!神器の分をかき消したら中級悪魔にだって届くか分からないようなショボい魔力しか残らないはずだぞ!」

 

「へっ、どうよ?コレがドライグの生前使っていたもう一つの能力、『透過』だ!やっぱり超越者と二天龍の力じゃ二天龍の方が質が上だったみたいだな!」

 

「相反する二つの能力がぶつかったってのか!矛盾の逸話じゃあるめぇし!」

 

「違うなリゼヴィム。逸話通りならば答えは『台無し』だ。赤龍帝の『透過』が最強の矛なら、お前の『無効化』は準最強の盾だったというだけの事。且つて地上最強と恐れられた二天龍の力を低く見積もり過ぎたな」

 

ヴァーリに諭されてイラついた表情を隠しきれない様子のリゼヴィムだが一度深く息を吐いて気持ちを整える

 

「全く無駄に頑張ってくれちゃって―――じゃ、ここいらで一度リセットを挟もうかね」

 

懐から取り出したのは偽の『フェニックスの涙』だ。ダメージ及び体力・魔力を回復させて気持ちも新たに俺達を潰す気なのだろう。だが小瓶の中身を頭から振りかけたリゼヴィムの体に特に変化は訪れなかった

 

「申し訳ありませんがリゼヴィム王子、貴方様の持つ・・・いえ、クリフォトの持つ『涙』は既に『無価値』とさせて頂きました。ライザー・フェニックス氏とのゲームで彼の特性を調べさせて頂き、私にも支給された偽の『涙』も合わせて研究すればこの程度は可能です。偽の『涙』はクローンという同一の個体から製造された物。根本が同じならば一度に全てを『無価値』に出来ます」

 

「―――ッツ!フェニックス家とのゲームはこれを見越してたってのか!」

 

苦々しい表情を浮かべたリゼヴィムは一気に上昇して俺達の頭上を取る

 

そして両腕を頭上に突き出すと半径100m位はありそうな巨大な魔力弾を複数生成した

 

「あ~、やだやだ。これ以上はジリ貧に為りそうだし、一発お見舞いしてオサラバさせて貰おうかね★運が良ければ一人か二人は死ぬっしょ♪」

 

逃亡を前提としてる為に余力を考えて無い馬鹿げた威力だ

 

まだ生き残っていた量産型のグレンデルとラードゥンもリゼヴィムの指示が有ったのか彼の前で壁を作る。【一刀修羅】なら放たれた魔力弾も弾き飛ばせると思うけど、安全確保してる間に逃亡されるかもな

 

「へっ!だったら逃げる隙も無いように迎撃と撃墜を同時にこなしてやるよ!チャージに時間が掛かる新技だったから使えなかったけど、向こうも時間を掛けてくれるなら問題ねぇ!」

 

イッセーは邪龍達が居なくなった事で丁度集まって来ていたリアス先輩達にお願いをする

 

「リアス、朱乃さん、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセさん!皆のおっぱいを俺に分けてくれ!!」

 

イッセーは巨乳に為りたいのか?・・・んな訳ないか

 

「俺は魔獣騒動の時に皆のおっぱいを順番に突いて渾身のおっぱいブラスターを撃ち放った。けど、こうも思ったんだ。おっぱいの力はあの程度な訳が無いって!」

 

心の中のツッコミを余所にしてイッセーが語り出す

 

「如何して威力が乗らなかったのか考えて、分かったんだ!あの時は同時におっぱいを押して無かったからなんだって!!」

 

「イッセー、お前の腕は二本なんだから二人以上は同時に押せんだろう」

 

うん。ちょっと頭痛くなってきたぞ

 

「ああ、だから俺が出した答えがコレだ!―――サモン!おっぱああああい!!」

 

イッセーが叫ぶと魔法陣からイッセーの使い魔の竜子が召喚された

 

「竜子!時間が無いからぶっつけ本番で行くぜ!―――融合(フュージョン)!!」

 

その言葉と共にイッセーの鎧に竜子が融合していく

 

真紅の鎧に所々樹木の装飾が施されて宝玉の中心にピンクの光の点が追加された

 

「俺と竜子の乳力(にゅー・ぱわー)を繋ぎにして一瞬だけ竜子の力を上乗せした。これが赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)龍襲(・オーバーコート)だ」

 

大丈夫?ドライグ息してる?

 

『俺様、ちょっとアルビオンの宝玉に避難する』

 

『ああ、歓迎するぞドライグ。あそこに居たら発狂しかねん』

 

なんかヴァーリの宝玉からドライグの声が聞こえてきた。まぁ無事なら良いや

 

そうしてイッセーの鎧の背中辺りから竜子の胸から力を吸う触手的なものがリアス先輩たちの分、12本伸びてきた

 

「そう言う事ね!皆!イッセーに胸を差し出しなさい!」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

リアス先輩が全てを察して胸を曝け出し、他の5人の女性陣もそれに続く

 

「み、見ちゃいけませんわイッキ様!」

 

「イッキ先輩。見たら殴ります」

 

後輩二人に目元を塞がれてしまった。サイラオーグさんの試合の時も似たような事無かったっけ?

 

それからやけに水っぽい“ぬちゃっ”という音と一緒にリアス先輩達の艶のある声が聞こえてくる

 

きっと先端に張り付いた上で吸われているのだろう

 

「アルビオン。どんどん兵藤一誠のパワーが増大している。女性の乳房には未知のエネルギーをストック出来る仕組みが有るのか?明らかに彼女達のオーラ量と釣り合っていないようだが?」

 

『―――ヴァーリよ。どうかお前はそのままでいてくれ』

 

アルビオンが願う中で上空で魔力を練り上げていたリゼヴィムが声を上げた

 

「おいおいなんだよそのオーラは!?」

 

リゼヴィムの驚愕にイッセーは両肩と両腕、両腰から伸ばした六つの砲門を上空に向ける

 

「見て分かんねぇか?これがおっぱいの可能性だ!おっぱいから直接『吸う』事によって得られる力はおっぱい一つ辺りミョルニルにだって匹敵する!それを6倍だ。消し飛びやがれ!―――

 

 

超乳波動砲(にゅうトロン・ビーム・キャノン) 六連砲(フルブラスター)!!

 

 

「クソッたれがあああああ!!」

 

放たれた桃色光線は偽グレンデルと偽ラードゥンの守りを突破してリゼヴィムが苦し紛れに放った魔力弾も貫通し、かの悪魔の王子を消し炭に変えた

 

・・・生かして捕らえてトライヘキサとの繋がりを絶ってから始末したかったのに一瞬で消し飛んじゃったよ

 

イッセーに文句を言う訳にもいかない中、アザゼル先生の方がどうなったのかが気になる俺だった




イッセーラヴァーズで今回ちょっと強化が間に合わなかった人達(イリナや祐斗)も居ますがちゃんと皆にも活躍して貰うつもりですww

※レイヴェルは新技こそ出しましたが必殺技では有りません。アレですレーヴァテインは螺旋丸です。螺旋手裏剣は別に有ります


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第七話 復活、直前です!

[アザゼル side]

 

 

俺は今、アグレアス中枢への扉を解錠している

 

リリス相手にイッキから貰ったチョコバナナで交渉に入ったがリリスの奴はリゼヴィムの野郎の命令とチョコバナナの誘惑の葛藤で滅茶苦茶瞳をウルウルさせてたもんだからスゲェ悪い事してる気分になっちまったぜ。だが手ごたえは十分に感じれたのでダメ押しにチョコバナナを後で追加で好きなだけやると言ったらその一言が決め手となったようだ

 

イッキが事前に突入組に渡した分だけでも20本以上ストックが有るし、なんなら作れば良い

 

パンツで契約を結べる龍王も居れば、お菓子で買収出来る龍神様だって居るんだから強いドラゴンの価値観は計り知れん

 

リゼヴィムの奴はリリスにとってチョコバナナ以下の価値だって思うと少しスカッとするがな

 

因みにそのリリスは俺の隣でチョコバナナ食べながら解錠の作業を見ているが、こうやって無言でガン見されるのはオーフィスで慣れたものなので特に気にならん

 

そうして漸くアグレアスの動力部への巨大な扉を開いてその中へ踏み入った

 

 

 

「コイツはっ!?」

 

アグレアス中枢たるその部屋にはアグレアスを動かす動力であり、『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の素材も採取出来る巨大な結晶体が在るとの事だった。そして確かに巨大な円形状の部屋の中央にその結晶体は鎮座していたが、俺はそれよりもその結晶体を抱き抱えるかのようにして眠っている巨大な獣にこそ目が行ってしまった

 

それは七つの首と獣の王権を示す冠である角を十本生やした強大過ぎる存在だった

 

黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)』 666(トライヘキサ)―――大きさはざっと見たところ数百メートルってとこか?

グレートレッドが大体百メートルだからその数倍か・・・まさかこの目でコイツを拝める日が来るなんて、ほんの数か月前まで思いもしなかったぜ

 

トライヘキサはリゼヴィム曰く、『忘れられた世界の果て』で封印されていたらしいが此処に連れて来てたんだな。その理由の一つがアレ(・・)だろう

 

アグレアスの動力たる結晶体から無数のケーブルが伸びてかの獣と繋がってやがる。アグレアスを動かすのに必要な分以外の余剰エネルギーをトライヘキサに流し込んで体の活性化を促しているんだろう。親父の遺産は遠慮なく使うとはダメ息子らしいっちゃらしいがな

 

俺は改めてトライヘキサの全容を観察する

 

七つの首から生える頭部はそれぞれが別の生物の形をしている

 

獅子、熊、豹、龍と様々だ。胴体の方も同じく色んな生物の特徴がそれぞれの部位に見られる

 

まるで合成獣(キメラ)のようだ。そして何よりもこの獣の放つ圧倒的な威圧感!

 

トライヘキサは封印の影響でまだ眠っている。ああしてエネルギーを送り込んでる様子を見るに体の活性化も不十分なのだろう。しかしそれでも既に常軌を逸してると言わざるを得んな

 

聖書の神が且つて逸脱した力を持ったグレートレッドにオーフィス、トライヘキサの中でコイツだけを無理をしてでも封印した理由も理解出来たぜ。なんて禍々しいオーラを発してやがる

 

グレートレッドもオーフィスも強大な力こそ持っちゃいるが、基本的には他者に関わろうとしない害の無い存在だ・・・最近のオーフィスは好奇心旺盛になって来てるが隣のリリスと合わせて邪念はない。だがコイツはダメだ。コイツは恐らく気まぐれで世界を滅ぼす事もある奴だと直感が訴えてきてやがる

 

質で云えばイッキの次くらいには穢れてそうなドス黒いオーラ!・・・イッキってなんだろうな?もうアイツは人間じゃなくて『イッキ』という一つのカテゴリーで考察した方が良いのかも知れん―――まぁ良い。味方のイッキよりも今はコイツだ

 

一旦アグレアスの動力を停止させてトライヘキサへの力の供給を絶ってから慎重に動力の結晶体とこの獣様を繋ぐケーブルを外していくのが無難か

 

無理矢理外す程度の衝撃で起きやしねぇだろうが万が一・・・いや、億が一にでもそれで目覚めたら世界が終わるからな、慎重すぎるくらいが丁度いい

 

あと考える事と言ったらトライヘキサの置き場所かね?元々聖書の神がコイツを封印していた『忘れられた世界の果て』は未だ見つかってないし、前魔王の息子であるリゼヴィムが復活させようとしていた以上は悪魔陣営には置けない。俺達堕天使陣営もまだまだ信頼を築き上げてる途中だし、天界は信用こそ三大勢力の中では一番高いだろうが、トライヘキサ(こんなもん)を聖書の神が居なくなって『システム』が不安定になってる天界に保管しようとすれば間違いなく『システム』に悪影響が出る

 

トライヘキサは俺達三大勢力の神話の獣だから面倒を引き受けるべきなんだろうが、少なくとも封印場所は提供できないときたもんだ。そうなると次に候補に挙がるのは冥界の更に下層、あのハーデスの住まう冥府だろうな。元々聖書における地獄や煉獄などは冥府を参考に造られた場所だ

 

今の可笑しくなっちまう前のハーデスがサマエルなんて聖書陣営の厄物を近年まで管理していたのもその辺りに理由が有る・・・コカビエルも今は地獄の最下層のコキュートスに居るくらいだしな

 

前までのハーデスならトライヘキサなんぞ危なっかしくて預けられなかったが、今のハーデスならば良いんじゃないか?アイツ自身も世界の強者トップ10にランクインしかねない程の実力者だし、最近はハーデス直属の親衛隊(ミルキー・死神)も増えたみたいだから何処の神話の神々だろうと手出しは難しいだろう

 

各勢力の神々や魔物たちが総出でトライヘキサに封印術を重ね掛けした上で氷の川(コキュートス)にでも沈めておけば良いだろう・・・流石に定期的な視察は必要だろうが、今のハーデスなら拒否はすまい

 

おお!意外となんとか成りそうだ。やっぱ持つべき友は平和を愛する神様(洗脳ハーデス)だよな

 

普通ならばトライヘキサ程の劇物をどっかの神に一任するなんてのは各勢力の代表が色々文句を言って自分の手元に置こうと画策するところだろうが、ハーデスの処遇はその代表たちで決めた事だ。今のハーデスを信用できないと言うには、俺達は全員揃って余りにもノリノリであの善神様を生み出しちまったからな・・・日頃の鬱憤が溜まってたんだろう

 

そうして動力を止める為に結晶体とそれを囲んでるトライヘキサに近づいていると、隣を歩いていたリリスが壁の方を指さした

 

「ドライグ、ドライグ」

 

それを聴いてリリスの指す先に目をやるとその光景に唖然とした

 

俺の眼に映ってきたのは壁一面に在る人間大の白い繭とその上部から突き出している龍を模した赤い鎧の頭部だ。見渡す限りの繭の数々・・・恐らくその数は千は超えているだろう

 

リゼヴィムが聖杯で造り、ユーグリットが使用していたあの偽物の赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)

 

中身は量産型邪龍と同じだろうからユーグリットが使っていた程の出力は出せないはずだが、その脅威度は量産型邪龍とは比較にならん!単純な出力だけでなく『譲渡』も使えるならば更に厄介だ!・・・いかんな、トライヘキサの存在感にやられて視野が狭くなっていたらしい。リリスに言われるまでコレに気付かないとは情けない限りだ

 

溜息を吐きつつも俺は気持ちを落ち着かせた―――そうだ。確かにトライヘキサにも量産された赤龍帝の鎧にも驚いたが、実戦投入前に止められたなら問題は無い

 

トライヘキサの周囲には聖書の神が施した封印の気配がまだ色濃く残っている。俺の感覚と今まで集めて研究してきたトライヘキサの資料を照らし合わせてもまだ3~4ヵ月程度は復活しなかっただろう・・・アグレアスの動力の件が無ければ、まだ半年は大丈夫って読みだったんだがな。ここに知恵の実と聖十字架が加わってたとすればマジで猶予が無かったかもな

 

するとそこでリリスが俺の着ているコートを"クイクイ"と引っ張ってきた

 

「ごみばこ・・・ない?」

 

見るとチョコバナナは食べ終えて串だけ残ってる状態だ・・・そりゃあこの部屋にゴミ箱なんぞ設置してないだろうな

 

そういや天界でイッキがリリスにチョコを渡した時に『ゴミはゴミ箱に』っつってたっけか?

 

「あ~、その串渡せ。後で俺がゴミ箱に捨てといてやる」

 

一応チョコバナナを渡したのはこっちだしな。ゴミを引き受けるくらいはするさ

 

そうしてゴミを手渡されたところでリリスが「―――あ」と短く声を漏らして天井・・・いや、その先を見つめる

 

「リゼヴィム・・・しんだ?」

 

―――ッ!そうか、奴が死んだか。リリスの感覚なら恐らく本当だろう

 

イッセーかヴァーリかイッキか、この三人のうちの誰かだろうな。実力的にはデュリオや黒歌も在り得るが、アタッカーが三人も居る中であの二人が前に出るとも思えん

 

まぁ良い。何はともあれリゼヴィムが死んでくれたなら後顧の憂いは大分取り払われた―――しかし、そう思った矢先に横たわるトライヘキサに変化が起きた

 

 

―――ドクンッ!!―――

 

 

トライヘキサの体が一度だけ、されど力強く脈動したのだ。そしてトライヘキサを縛り付けていた封印の約半分が今ので消失してしまった―――封印の術式は大雑把に分けて二種類在る。一つはトライヘキサを外から押さえつけるモノ。もう一つがトライヘキサ自身を弱体化させるモノだ

 

鎖や牢で拘束するか睡眠薬で無力化するかって感じだが、後者の方が吹き飛んでしまった!

 

なんだっていきなりこんな事に!そう思うのも束の間にこの空間に二つの龍門(ドラゴン・ゲート)が出現した

 

どちらも黒い輝きを放つ龍門(ドラゴン・ゲート)でそこから現れたのはアポプスとアジ・ダハーカだ

 

アポプスは褐色の肌で祭服を着た青年のような人間形態。一方のアジ・ダハーカは三つ首のドラゴンの姿をそのままに晒している

 

「如何やらリゼヴィム王子は自身とトライヘキサを紐づけしていたようだな。万が一自分が死んだならその魂のエネルギーの全てをトライヘキサに流し込むよう術式を組んでいたようだ」

 

アポプスがトライヘキサに目をやりながら俺の疑問に勝手に答えてくれた

 

成程そういう事か!あの野郎は死んでも他人様に迷惑を掛けられる布石を置いといたって訳だ

 

だが今の俺にはそれと同じくらいに気にかかる事が有る

 

「何故!テメェらが聖杯を所持してやがる!?」

 

そう、丁度アジ・ダハーカの隣辺りにリゼヴィムが持ってるはずの聖杯が浮かんでやがったのだ―――リゼヴィムがこいつ等に聖杯を渡していた?いや、リゼヴィムの野郎がそんな真似するとは思えない・・・とするなら

 

「リゼヴィムから聖杯を奪ったのか!?」

 

俺の詰問にアジ・ダハーカの奴がそれぞれの頭に笑みを浮かべる

 

『奴が戦いに赴く前に奴の亜空間から抜き取ったのさ』

 

『僕たちとっても魔法がお上手なの☆』

 

『王子様はお宝盗まれても気付かないでやんの!』

 

アジ・ダハーカの三つの首が順番に喋った―――ああ、千の魔法を操るとされるこの邪龍ならそれくらい容易いだろうよ。仮にも今まで一緒に行動してたなら尚更だ

 

「お前らは最初からリゼヴィムの野郎を裏切るつもりだったのか?」

 

そう聞くとアポプスは首を横に振った

 

「それは違う。かの王子が余りにも情けない為に見限っただけの事・・・最も、私に関してはアグレアス奪還の時に袂を分かったのはそちらも知っての通りだ。だが私とアジ・ダハーカは異世界に興味自体は有ったのでな。リゼヴィム王子なら何時か『D×D』にやられるだろうが、その時まではトライヘキサの封印解除という面倒を引き受けてくれそうだったのでアジ・ダハーカには残って貰っていたのだ」

 

『全く、俺様にだけ働かせやがって』

 

『次に僕たちが『戦いたい』って獲物と出会ったら寄こす約束だ☆』

 

『優先権!優先権!』

 

成程な。戦闘狂の邪龍共らしい取引だぜ・・・それにしても厄介な。リゼヴィムと邪龍は異世界への侵略という目的そのものは合致してたってのか

 

ここで俺がこいつ等に立ち向かっても返り討ちに合うだけだ。上に居るメンバーを搔き集めたとしても二天龍クラスのこいつ等が本気で暴れようものなら戦力が足りん

 

「では元総督殿、我らはここで一度退かせて頂こう」

 

「なに?」

 

逃げるってのか?こいつ等が?

 

「トライヘキサの所在がバレた以上はこの場で私とアジ・ダハーカが防衛したとしても各勢力から軍が派遣される事は明らかだ。そのままそれが最終決戦と成り兼ねん。しかし、折角ここまで封印解除を推し進めた玩具(トライヘキサ)を使わずにいるというのは実に勿体ない―――我らの目的はより大きな戦乱と闘争。異世界へ向かう前に各神話の神々ですら戦場に出て来ざるを得ないだけの戦争を引き起こし、彼らと殺し合い(あそび)たいのだ」

 

そういう事か!こいつ等のターゲットにはこの世界の神々などの強者も含まれるって訳か!!

 

確かに神々は死んでしまうと信仰の源である人間界にどれだけの悪影響が出るか分かったもんじゃないが故においそれとは前線に立つ事が出来ない。だからこそ『D×D』という精鋭でありながら死んでも世界への影響が少ない部隊が設立された―――俺は神じゃないし組織の長の役目も譲ってるからな。初代の爺さんも『武』に特化してるから須弥山影響下の人間界で戦乱の世でも巻き起こってない限り、居なくなっても影響は少ない・・・つーかインド神話は戦神が多すぎなんだよ。そりゃあ万が一の時でも爺さん一人分くらいの穴は頑張れば埋められるさ

 

「それでは暫しの別れだ。元総督殿」

 

アポプスがそう言うとこの空間全体に転移魔法陣が展開されやがった

 

『安心すると良い。この術式は我々邪龍とトライヘキサだけを転移させるものだ。トライヘキサの体が活性化した今、アグレアスはもう我々には必要無い』

 

『これからはお互い戦争の為の準備期間だ!しっかり戦力揃えろよ?そんでもって全てを賭けて殺し合いしようぜぇええ!!』

 

『戦争だ!お祭りだ!!』

 

お祭りなんて言葉で済ませられるかよ!

 

俺はなんとか転移魔法を妨害しようと術式を魔法陣に打ち込むが、術式が魔法陣に届く前に横合いから出てきた黒い水に飲み込まれてしまった―――アポプスの『原初の水』か!

 

「我々を探すのも構わないが、戦争の準備を進めることをお勧めしよう」

 

アポプスのその言葉を最後に部屋全体が眩く輝き、次に目を開けた時にはトライヘキサ達は居なくなっていた。残っているのは精々動力部の結晶体とそれに繋がるケーブルくらいだ

 

「―――っクソ!」

 

悔しさから拳を握りしめた俺の小さな悪態がやけに大きく部屋の中で反響した気がした

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

イッセーがリゼヴィムをおっぱいキャノンで消し飛ばしてヴァーリはチームメンバーを連れてさっさと居なくなってしまった。リゼヴィムを目の仇にしてたヴァーリだが、リゼヴィムが死んだところを確認したらなんか如何でもよくなったようだ

 

もしかしたらヴァーリはリゼヴィムが過去にやった事よりも、リゼヴィムが生きている事で自分と同じような思いをする人が増えるのが一番許せなかったのかもな

 

自分で止めを刺す事よりもリゼヴィムが『死んだ』という事実の方が重要だったってだけだ

 

ほどなくしてアザゼル先生から通信で作戦終了の連絡が届いた。後から来た軍の人達に引き継ぎをしてから一旦家に帰る事になる。処理(気絶してる量産型邪龍の寝首を掻く作業など)とかやってらんないしな―――連絡を受け取ったリアス先輩が言うにはアザゼル先生の声が固かったようなので多分トライヘキサに逃げられたか、はたまた別の場所にとっくに移されていたとかだろう

 

後日、先生が改めて俺達に詳しい説明をするらしい・・・まぁ俺達は戦闘要員だからトライヘキサに逃げられたなら先に諜報部への指示出しや各勢力との議論などの優先度が高くなるのは仕方ないだろう

 

トライヘキサ復活までの猶予は稼げたと思っていても原作の歴史の修繕パワーとかでこの場でトライヘキサの咆哮が聞こえて来る事も覚悟はしてたからな。それが無いだけでも十分だ

 

「それじゃあ皆。多分明日からも忙しくなるでしょうから、しっかりと休養を取るようにね」

 

「『はい!』」

 

そうして俺達のリゼヴィム討伐及びアグレアス奪還作戦は終了したのだった

 

 

 

翌日の夜になってから俺達はまたイッセーの家の会議室に集まっていた

 

そしてそこでアザゼル先生からアポプスとアジ・ダハーカがトライヘキサと偽の赤龍帝軍団と共に消えた事やリゼヴィムが死んだ際に自身の魂のエネルギーを全消費してトライヘキサの封印解除の一助となった事を伝えた

 

「それで、先生から見てトライヘキサ復活までの猶予はどの程度短くなったと考えてますか?」

 

取り敢えず俺が一番気になった事を訊いてみる

 

「そうだな、恐らくあと一ヵ月前後といったところだろう」

 

「一ヵ月!?たったそれだけでトライヘキサが復活しちゃうんですか!?」

 

アザゼル先生からの宣告にイッセーが思わずと言った感じに立ち上がる

 

今まで散々トライヘキサの復活はそのまま世界の終焉と聴かされていたのにそのリミットが一ヵ月となれば当然の反応だろう

 

「当然、今は居なくなったトライヘキサの捜索に全力を挙げているが―――アグレアスよりも小さいトライヘキサをアジ・ダハーカが聖杯の力も使って全力で隠していると考えれば、たった一ヵ月で奴らを見つ出すのは正直厳しいだろう」

 

そうだよな。アグレアスに置いとく理由が無くなったならそれこそリミットまで未だに見つかってない『忘れられた世界の果て』に隠れても良い訳だしな。仮にトライヘキサたちの居場所を見つけて強襲出来たとしても奴らとしては復活の時まではアジ・ダハーカの禁術転移で逃げ放題・・・・あれ?これってチェックまでは持っていけてもチェックメイトまでは無理っぽくね?

 

それこそアジュカさんやオーディンみたいな術式に長けた超が付く実力者を沢山揃えて転移防止の結界とか張らないと逃げられるよね?

 

「各勢力のお偉いさん方がどこまで事態の深刻さを感じてくれているかは分からんが、取り敢えず最悪を想定して軍備を整える方向に話を持っていく事には成功した・・・まっ、大半はそこまで予算を裂いたりしないだろうが、何もしないよりはマシさ」

 

あ~、そこは仕方ないか

 

グレートレッドにしろオーフィス(全盛期)にしろトライヘキサにしろ、まだ直接的に被害を出した事の在る奴なんていないんだもんな

 

必死になって軍備を整えて各勢力とも意欲的に協力しようとするのは一部だけだろうさ

 

「今まで不明瞭だったトライヘキサ復活までの時間がかなり正確に掴めるようになった訳だが、お前らにやって貰う事は変わらん。裏方は俺達が引き受けるからその時が来るまで各自修行に打ち込んでくれ。まっ、それ以外だとトライヘキサ復活前に片が付くようとでも祈っといてくれ」

 

誰にだよ?神の不在を識る堕天使の元総督がそれで良いのか?

 

それから各々細かい連絡事項を伝え合うとその日の会議は終了となった

 

さて、俺も行動に移しますかね・・・正直気は進まないんだけど、世界が終わっちゃ元も子もない

 

「アザゼル先生。ちょっと時間貰って良いですか?」

 

そう声を掛けてから皆が居なくなった後、二人で別室に移って声が漏れないように結界を張る

 

「―――で、話ってのはなんだ?」

 

俺が結界を張り終えてから先生が早速用件を訊いて来た

 

「はい。トライヘキサを倒せるかも知れない策が在るんですけど、先生に用意して欲しい物が在るんです」

 

そう告げるとアザゼル先生は目を見開いて俺の両肩を強く掴んで来た

 

「そんな策が有るなら何故さっさと言わん!?・・・いや、お前さんの事だから情報の漏洩を嫌ったってとこか。それで?その方法ってのはなんだ!?」

 

「すみません。この方法は前々から考えてはいたんですけど正直口にするのも憚られる、余りにも『アレ』な内容だったので本当にギリギリな状況に陥るまでは黙っていようと思って―――その前に決着が着いたならそれで良かったんですが・・・」

 

目の前の先生の視線から逃れるように俺も思わず視線を逃がす

 

「お前がそこまで言うってどんだけだよ・・・」

 

先生?その含みのある言い方は何なんですか?

 

俺は一度咳払いをしてから先生を見返す

 

「アザゼル先生には用意して欲しい物と出来ればアドバイスも貰いたいんです。それと各勢力の代表に協力要請も出して欲しいですね。俺の作戦の内容は・・・」

 

そうしてアザゼル先生に伝えれる事を全部伝えた時、目の前の先生に無言で頭に拳骨を落とされた

 

「痛ってえええ!いきなり何するんですか!?」

 

「ウルッセェェェ!!馬鹿野郎!!お前将来絶対に地獄に落ちるぞ!敵に対しては外道だ鬼畜だと今までも思ってきてたけど、今度は味方に対しても外道、いや、畜生になるつもりか!?」

 

「だから嫌だったんですよコレを言うの!先生!年長者として俺にアドバイスを是非!!」

 

「識るか!土下座でもしてろ!」

 

そうして俺とアザゼル先生はヒートアップして暫くの間話し合い(取っ組み合い)に明け暮れるのだった

 




途中リゼヴィムが死んだときの遺言が流れなかったのはまだリゼヴィムの死をトリガーに666の復活には漕ぎつけなかったからですね。遺言を残す前にリゼ爺は死にましたww


いよいよ次章で最終章なので(嘘?)予告を一つ


イッキ:『受け入れることだよ』『トライヘキサ君』

『不条理を』『理不尽を』『嘘泣きを』『言い訳を』

『いかがわしさを』『インチキを』『堕落を』『混雑を』

『偽善を』『偽悪を』『不幸せを』『不都合を』『冤罪を』

『流れ弾を』『見苦しさを』『みっともなさを』『風評を』

『密告を』『嫉妬を』『格差を』『裏切りを』『虐待を』

『巻き添えを』『二次被害を』

『―――愛しい恋人のように受け入れることだ』


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 最終章 終業式のアンリ・マユ
第一話 大王家、襲撃です!?


[アザゼル side]

 

 

イッキのバカと話し合い(殴り合い)をしてから二日程経過した

 

俺は今、冥界の首都である『リリス』でサーゼクスと面会していた。直接話したい事も有るし、他にもこの場で待ち合わせている人物も居る

 

「あ~あ~、気が抜けちまうよな。俺達首脳陣が最悪を想定して悲壮な覚悟を密かに決めてたってのにイッキの策が成功したらトライヘキサを真正面(・・・)から叩き潰しちまうってんだからよぉ・・・

仮に倒しきれなかったとしても大ダメージは与えられそうだから、当初の予定通りに進めても俺らが引き篭もる時間は大幅に短縮できそうってのがな・・・」

 

まだその三人目がこの場に来ていないうちにサーゼクスに対して愚痴を溢す。可能ならヤケ酒に付き合わせたいくらいだ

 

「ハハハ、準備(・・)の内容だけはアザゼルに教えてもらったけど僕がイッキ君と同じ事を提案するなら

・・・うん(死ぬ)勇気は必要かな?寧ろそれ以外になにが必要なのか分からないね」

 

まぁコイツの場合は立場が違うからな。それでも仮に当てはめて考えたなら・・・コイツの頭が弾け飛ぶ未来が見えるぜ

 

「一応訊くがイッキにアレを用意する事は悪魔陣営として可能か?」

 

「難しいだろうね。イッキ君にだけ全てを託すなんて事は出来ないさ。代替案があるなら尚更ね」

 

だろうな。少しでも保険は多めに作っときたかったんだが、そこまでの成果は期待出来ないか

 

「実際どうなんだいアザゼル?堕天使の元トップとしてアドバイスを求められたんだろう?」

 

「知らねぇよ。俺の管轄とは少しズレてたからな・・・まぁ代わりにバラキエルやらベネムネやらサハリエルやらといった幹部連中を紹介しとけば後は上手くやるだろう」

 

「それは・・・イッキ君が求めているものとは違う気がするのだが?」

 

それこそ知らねぇよ。イッキに対して真面目に対応するのも馬鹿らしい・・・が、俺達神の子を見張る者(グリゴリ)の長年の叡智を叩き込んでやれば良いだろう

 

アイツ等にも遠慮するなと伝えてあるしな

 

クックック!アドバイスと称してこれを機にイッキの精神を魔改造してやろう

 

俺が口の端を吊り上げているとこの部屋に近づく気配を感じた

 

「―――おっと!来たようだな」

 

俺が部屋の入口に目を向けると少しして扉をノックする音が響いたので入室の許可を出す

 

「失礼します。魔王ルシファー様、アザゼル元総督様」

 

「よく来てくれたな。エルメンヒルデ」

 

そう。今入って来た人物こそが俺らの今回の待ち人―――以前駒王町にも特使という形で訪れた事のある吸血鬼のエルメンヒルデ・カルンスタインだ・・・如何でも良いが俺の事を『特別技術顧問』って呼んでくれる奴一人も居ねぇよな。そんな如何でも良い事も頭の片隅で思いながらも数か月ぶりにその姿を見る

 

金色の髪に血のような赤い瞳、病的な程に白い肌に貴族のドレスと見た目は前の時と変わらないが、身に纏う雰囲気は大分変った

 

以前のような吸血鬼以外を完全に見下す感じではなく、ふとした瞬間に消え入りそうな儚げな印象を抱かせる感じだ

 

まぁ吸血鬼の二大派閥であるカーミラ派もツェペシュ派もリゼヴィムの企みで上級貴族から兵士までその多くが邪龍へと身も心も改造されちまったからな。国力はガタ落ちで排他的な吸血鬼達がすぐに和平に応じたくらいだ

 

今は国を立て直す為に動ける奴ら総出であちこち奔走しているらしい・・・そう言やイッセーが正月に祖母の家に行った時にエルメンヒルデとアガレスの姫に出会ったと言ってたっけか

 

短い間に世界中飛び回って祖国の為に本気で頭を下げ続ける日々を送ってれば、価値観の一つも揺らぐだろうさ

 

エルメンヒルデは懐から取り出したメモリースティックをテーブルの上に置く

 

「元総督様の憶測通り、マリウス・ツェペシュが残した聖杯の隠しデータが見つかりましたわ」

 

それを見た俺は一つ頷く

 

やはり在ったか―――幾らマリウスの野郎が愚物とは云え、仮にも王族で研究者でもある奴なら聖杯の研究データでも最も重要なものは別に保管してあると踏んでいたのだが、読みが当たったようで何よりだ。聞けばデータを探す為に城中ひっくり返して人間関係も含めて洗い浚い調べたらしい

 

どうにもマリウスの野郎は聖杯の研究データをリゼヴィムが城に滞在する前に食料として血を吸う為の人間の体に術として刻み込んで国外追放という扱いにしていたらしい

 

俺はテーブルの上のメモリースティックを手に取る

 

「助かったぜ。エルメンヒルデ」

 

聖杯は今回の戦いにおいてのキーパーソンだ。聖杯が向こうに渡ったままだと最悪トライヘキサを倒したとしても復活した邪龍達のように再生しました、なんて事にも成り兼ねん

 

戦闘面でも聖杯が有る限りは邪龍や偽赤龍帝を幾らでも増産出来るからな。聖杯を奪取する為にも聖杯に関するデータは幾らでも欲しいところだ

 

「いえ、仕事ですので」

 

あらら、これまた素っ気ない返事だな

 

イッセーが言うには大分雰囲気が軟化したとの事だったが・・・ふむ

 

「いや、マジで助かったぜ。報酬には色を付けておこう。俺はこれから駒王町に戻るが、一度寄ってくか?イッセーの顔も見れるかも知れんぞ?」

 

報酬の事では特に変化は無かったがイッセーの名前を出した途端にエルメンヒルデの顔が真っ赤に染まりやがった

 

「なっ!?な、な、なぜそこで赤龍帝の名前が出てくるのですか!?わ、私とは関係ありませんし、私自身もそんなに暇じゃありませんのよ!?」

 

滅茶苦茶動揺してるな。イッセーの事だからひょっとしたらと思ったらやっぱフラグ建ててやがったが―――となるとイッセーの七人目はこの嬢ちゃんになるんかね?ルフェイは『おっぱいドラゴン』のファンとしての要素が強いし、おっかない兄も付いてるから将来関係が発展するにしてもまだ少し掛かりそうなんだよな

 

だがエルメンヒルデも中々顔を会わせる機会も無いとなると厳しいか?―――まっ、イッセーの事だから勝手に後2~3人程度は増えてくだろうさ・・・ヴァーリは如何なんかね?今は強く成る事で頭が一杯みたいだが誰か守りたい奴でも見つければもう一歩大きく踏み出せるようになる気はするんだがな

 

リゼヴィムの奴が居なくなった事で自分を見つめ直す余裕が生まれる事でも願っとくかね

 

 

[アザゼル side out]

 

 

 

 

[三人称 side]

 

 

アグレアス奪還作戦が成功してから五日程経ったある日

 

冥界で魔王よりも影響力が有るとされる大王バアルの治める領は喧騒に包まれていた

 

理由の一つは先日ディハウザー・ベリアルが冥界全土に発信したレーティングゲームの不正の数々の告発によって領民の不満が爆発してしまっているからだ。大王家もそれに加担していた事は告発の内容に含まれている為、民衆の怒りの矛先がそちらに向かうのは必然と云えた。王者の流した情報を元に、今頃冥界全土で不正組の拠点に人々が押し掛けている事だろう

 

今、バアルの城の廊下を数人の衛兵と共に歩いているのは大王家次期当主のサイラオーグ・バアルの異母兄弟(おとうと)であるマグダラン・バアルだ。バアル家の現当主により次期当主に内定していたが、サイラオーグとの次期当主の座を掛けた決闘で敗北した事でその座を奪われた経緯を持つ

 

そんな彼を守る衛兵たちは50を超える堅牢な防御結界に守られた過去に一度も陥落した事の無いバアルの本家の中だというのに硬い表情で気を張っている

 

それと言うのも先程から城の周辺で幾度も爆音が鳴り響いているからだ―――そう、最も歴史と権威を持った大王家は今、襲撃の最中にあるのだ

 

襲撃者は先ほどのレーティングゲームの不正を知った領民ではない。幾ら数が居ると言っても彼らの力では防御結界を突破できないからだ。中には魔力の高い者も混じっているだろうが伊達に大王家の権力と財力は高くない。民衆の暴動を抑えられるだけの衛兵は揃っている

 

加えてマグダランの眷属も『女王』以外は民衆を宥める為に派遣していたので、よっぽどの事がない限りは問題ない

 

ではバアル本家まで攻め入っている輩は何者かと云えば如何やら仮面で顔を隠している者達のようだ・・・如何考えても実力ある領民なんてオチではない

 

マグダランは内心でため息をつく。今現在この城に居るバアルの者は自分一人だけだ。普段は現当主の父とその妻の母、そして自分と兄のサイラオーグの四人が住んでいる

 

初代を含めた歴代当主とその伴侶はそれぞれが冥界の各地で隠棲している

 

そんな中で現当主はトライヘキサや領民への対策を如何進めれば良いのか初代に意見を仰ぎに行っている。マグダランの父親は政治だけでなく家の行事でさえも常に初代や先代の指示を受けなければ動けない男だった・・・そのクセ他人を見下す事だけは一流だ

 

マグダランは襲撃者が何者かを考える。正直バアル家が他者から狙われる理由は山ほど有るのだが、このタイミングでの襲撃となるとやはり王者の告発したレーティングゲームの闇についてだろう。マグダラン自身は『王』の駒は流石に予想外だったがゲームで不正が働いているのは何となく察していた。しかし、民衆もしっかり騙せてゲームの運営も問題ないのであれば気にする必要すら無いのだと思っていたのだ

 

不正や汚職はバレた際のリスクを伴うが、バアル家の権力ならば大抵の事はもみ消せる・・・まさか民衆への影響度で云えば魔王にも匹敵するであろうディハウザー・ベリアルが冥界の混乱を承知で大々的に暴露するとは思わなかったが

 

今回の一件でバアル家とそれに与する派閥は多少発言力や権力を落としてしまうだろうが、それは仕方ないものとして早急に立て直しを進めて魔王派に弱みを握られないように立ち回るべきだろう・・・そう思ったところでマグダランの父親は子供の意見など聴く訳がないので意味の無い考察だったと、諦めたような心境で彼は首を振ってその思考を頭から追い出す

 

何時の間にか思考が逸れてしまった彼が廊下の角を曲がるとその先に全身を漆黒の鎧に包み込んだ者が此方に近づいて来るのが視界に入る

 

マグダランの護衛たちが彼を守るように立ち塞がり、各々武器を構える

 

しかしその鎧姿に見覚えの有ったマグダランは護衛たちを静止する

 

「待て・・・そちらはソーナ殿の眷属とお見受けします」

 

彼らの前に出てそう声を掛けるとその人物は鎧の兜を収納して軽く礼をとる

 

「貴方がサイラオーグの旦n・・・次期当主様の弟のマグダラン様ですね?俺はソーナ・シトリー眷属の『兵士』です。助けに参りました」

 

「よもや貴公等『D×D』に助けられるとはね」

 

マグダランはそれに軽い皮肉を交えて答える。『D×D』は対テロの精鋭部隊だ

 

現魔王政権に対して政治的にマウントを取る為に裏で様々な汚職を重ねている古き悪魔たちは寧ろ『D×D』の敵と云える。無論、決定的な証拠を掴ませないように立ち回っているが、本来であれば『D×D』とは本質的に真逆なのだ

 

『D×D』に所属しているという点ではマグダランの兄であるサイラオーグもそうだが、彼・・・と云うより今『D×D』の中でも『若手四天王(ルーキーズ・フォー)』とその眷属は連日冥界の各地で起きている暴動の対処で動き回っている。バアル本家が襲撃を受けている中でもサイラオーグが未だこの場に居ないのはそれが理由だ。偶々バアル家襲撃の報を聴いて一番近くに居たのがシトリー眷属だったという話だ。恐らく兄のサイラオーグも此方に駆けつけている最中だろうが、グレモリー眷属は来ないだろうとマグダランは予想する。何故ならバアル家はグレモリー家を嫌っているからだ

 

本来『滅びの魔力』はバアル家の持つ特性だが現当主もマグダランも特別強い『滅び』を持っている訳ではない。次期当主のサイラオーグに至っては『滅び』が使えないどころか通常の魔力も最低レベルという有様だ。対してグレモリー家は且つて嫁に行ったヴェネラナ・グレモリー(元バアル)、超越者で魔王を継いだサーゼクス、『若手四天王(ルーキーズ・フォー)』の一角のリアス・グレモリー、幼いながらも既に才覚を表しているミリキャス・グレモリーと強大な滅びの魔力の使い手のオンパレードだ・・・例え理屈に合ってなかろうとグレモリー家がバアル家にケンカを売ってるようにも見える構図である。勿論そんな訳もないのだが血筋を誇るバアル家の者達のプライドを刺激するには十分過ぎる要素なのだ―――先ず間違いなくグレモリー眷属には『手助け無用』と発信しているだろう

 

かつてライザー・フェニックスがリアス・グレモリーに対してお家事情が切羽詰まってると言ったのも大王家及び大王派の圧力から家格に見合う婚約相手を見つけ難くなるであろうと云う次世代に向けた言葉だ。フェニックス家はフェニックスの涙の財源と不死によるレーティングゲームの優位性によって多少バアル家から睨まれた程度ならば揺らがない地盤を持っていたと云うのもライザーとの婚約の背景には含まれている

 

その辺りの事情が分からず首を傾げる匙元士郎にそのまま護衛を頼み、彼に先導されてバアル家からの脱出を図る。マグダランの母も連日の民衆の暴動の喧騒から逃れる為にどこぞの田舎に身を隠しているのでマグダランが脱出したらバアル本家からバアル家の者が全員居なくなる訳だ。それも逃げ出す為に

 

力を信奉すると謳っている悪魔社会の大王家の実態は本気でパワーで攻められたらサイラオーグ以外は逃げの一手しか打てないのが現状だ

 

マグダランにも才能と呼べるものは有ったがそれは植物学者としての才能だ。戦闘ではなんの役にも立たない。褒めてくれたのはサイラオーグだけだ

 

冷え切った家族関係の中で唯一サイラオーグだけはマグダランに兄として接していたが当のマグダランの態度は素っ気ないものだった―――どころか裏ではサイラオーグの政策や興行の邪魔をするように動いていたくらいだ。それなのにサイラオーグはマグダランの妨害工作に気付いているはずなのに恨み言の一つも言わない。何年もただ虚しさが重なるというだけの結果に終わった

 

「もうすぐです」

 

匙元士郎がマグダランたちに声を掛ける。前方には城の裏口が見えていた

 

だがそこで先導していたサジが立ち止まり後続のマグダランたちを手で制してオーラを高める

 

護衛たちもそれを見て構えを取る中、向かう先の裏口の扉が弾けて同時に大きな塊が入ってくる

 

宙に舞っていたソレは重力に従い"ドサリ"と落ちる

 

ソレは灰色の髪にライトアーマーとマントの軽装をしたマグダランの『女王』であるセクトーズ・バルバトスだ。脱出先の安全確保の為に先行していた彼は仮にも元バアル家の次期当主であったマグダランの『女王』に選ばれるだけあってそれなりの戦闘能力も有している。でなければ攻め込まれる状況で単独で安全確保の任など任せられない。その彼が今は血だらけで転がっているのだ

 

「セクトーズ!大事無いか!?」

 

マグダランの声に反応してサジが鎧から触手を伸ばして倒れ伏すセクトーズを拾い上げる。彼をボロボロにした人物が近くに居る状況でマグダランを伴って前に出る訳にはいかないからだ

 

マグダランの前に運ばれたセクトーズは血を吐きながら主に「お逃げ下さい」と伝えてそのまま意識を落とす

 

全身を槍で貫かれたような怪我を負い、このままでは出血多量で死亡してしまうと考えたマグダランは自らの衣服を破いて出血箇所を縛っていく

 

すると裏口のある広間であるその空間に拍手の音が響いて来た

 

「お優しいのですな。とてもバアル家の方とは思えない」

 

音源を辿ると破壊された裏口に一人の人影が立っている

 

「・・・ビィディゼ・アバドン殿か」

 

そこに居たのはレーティングゲームのランキング第三位であるビィディゼ・アバドンだ。先日のディハウザー・ベリアルによるレーティングゲームの不正公表で『王』の駒の使用者として挙げられていた人物の一人でもある

 

マグダランはこの状況であの登場となれば仮面の襲撃者たちの正体はビィディゼ・アバドン及びその眷属なのだろうと納得する

 

レーティングゲームにおいて不動と云われるトップ3の『王』は魔王級の実力者とされ、その眷属の力も洗練されている・・・最も、そのビィディゼが『王』の駒の使用者という事は駒を抜き取ったら眷属最弱になるのだろうが、ビィディゼが迸る魔力を身に纏っている様を見るに駒を抜き取られてはいないようだ

 

「貴方は確か・・・次期当主殿の弟さんでしたかな?突然の訪問申し訳ありませんが、私は初代殿と現当主殿に急ぎの用が有るのです。どちらに居らっしゃるかお教え願えませんか?」

 

口調こそ丁寧だがやっている事は真逆だ。残骸となった扉を踏み付けて入って来るビィディゼにマグダランも当然、まともに返答する気など無い

 

「生憎ですが、我がバアル家には玄関の開け方も知らないような者を初代や当主に会わせて良いという教えは無いのですよ・・・とは云え、折角かの有名なビィディゼ殿にお越しいただいたのです。私で宜しければご用向きを御聞きいたしますが?」

 

少しでも相手の目的を探り、援軍が来るまでの時間稼ぎの為に会話に入る。目の前に居るのは偽りだろうと魔王級の実力者なのだ。ハッキリ言ってマグダランと衛兵は戦力にならない上にサジもその力は高めに見積もっても最上級の中堅クラス・・・最も半年前までただの人間だった事を加味すれば十分破格なのだが魔王クラスを相手取るには力不足だ

 

「なに、簡単な事です。ご存じでしょうが先日ディハウザーが世間に色々暴露しましてね―――レーティングゲームの闇、その首謀者として初代殿と現当主殿の御首(みしるし)を頂きにまいった次第です」

 

「駒の使用者である貴方がですか?」

 

「ええ、私は古き悪魔たちに家族や友人を人質に取られて泣く泣く『王』の駒を使って彼らの下で働かされてきた『被害者』ですからね。今の冥界の混乱に乗じて魔王派の一部の方が彼らを『保護』してくれたので私は最後の責務としてこうして諸悪の根源である初代殿と現当主殿を討ちに参ったのです。この件が終われば記者会見で私はこれまでの責任を取ってゲームからの引退を表明するでしょう」

 

「・・・成程。そういう筋書きで既に魔王派の一部と結託しているのですね」

 

なんとも安直でお涙頂戴の話だろうか

 

目の前に居る男のイヤらしくニヤついた顔が全てを台無しにしているが、きっとカメラを前にしたらすぐに悲壮な表情を浮かべて大粒の涙を流すのだろう

 

一方的に糾弾される現在から世論を二分するところまで持っていき、勇退する

 

一定の名誉は守られる訳だ

 

「彼らとて一枚岩ではないという事です。それにバアル家が現魔王よりも尊いとされているのは引退したとは名ばかりの初代殿の影響が強い。バアル家の権威が失墜すれば政権は一気に魔王派に傾くでしょう。貴方は兎も角、そちらのソーナ・シトリー殿の眷属はそちらの方が都合が良いのではないですかな?それに次期当主のサイラオーグ殿も大王派の権力(ちから)が強いと何時までも針の筵ですよ?彼の気質は現魔王様方との方が相性が良いでしょうからね」

 

話を振られたサジは受け入れられないと首を横に振る

 

「ダメですよ。そんなのはダメなんですって!そんな風に力と嘘で誤魔化しても何処かで別の憎しみと不満が溜まるだけじゃないっスか!」

 

「全員が納得する解などはないよ。だが、一部の被害を抑える事は出来る。私が涙ながらに民衆に訴えかけ、上に立つ者として責任を全うすれば彼らの溜飲は下がる。貴族の失墜が民の娯楽となり得るのは人間界でも同じだろう?」

 

「そんなのは犯罪を容認する理由にはなりませんって!!」

 

サジの真っ直ぐな言葉に今度はディビゼが呆れたように首を横に振る

 

「キミは戦略家たるソーナ・シトリー嬢の眷属なのだろう?もう少し君自身も賢くなりたまえよ」

 

「俺達はレーティングゲームを正しい形にして上を目指す・・・誰もが(トップ)を目指せるゲームにしていきたいと思っています。その俺達が不正に加担なんて冗談でも出来る訳が無い!」

 

それを聴いたビィディゼは顎に手をやって思案顔になる

 

「ふむ。確かに戦略頼りでもそこそこの戦績は出せるだろうが、トップを獲るのは諦めた方が良い。ライバルの少ない小さなタイトルが精々かな―――ランキングもトップ5以内には入れないだろうね」

 

「・・・何故そう言い切れるのですか?」

 

自分の主のスタイルをさも当然のように低く評価されてサジの声が一段重くなる

 

「私達が身をもって体験してきたからだよ。戦略は確かに重要だが、それ以上に重要なのは圧倒的な力を持ったプレイヤーだ。例えトップランカー同士の戦いでも魔王級が一人居るだけで相手の戦略の大半を踏み潰せる・・・キミたちが戦略重視で研鑽しているならばリュディガー・ローゼンクロイツ辺りを手本としているのではないかね?少なくとも意識はしているはずだ―――その上で訊こう。彼はランキング何位だ?」

 

「それは・・・」

 

咄嗟の答えに詰まるサジにビィディゼは畳み掛けるように事実を告げる

 

「そう、『番狂わせの魔術師(アプセッティング・ソーサラー)』という二つ名を有するあの元人間ですら7位止まりだ。あの忌々しい元人間をも超えて戦略のみでトップに立つなど、それこそ夢物語だよ」

 

世間では常勝するのは無理でも王者たるディハウザー・ベリアルに土を付けられるとしたら彼が一番可能性が高いのではないかという意見も有るが、当然そんなポジティブな事を言うつもりはビィディゼ・アバドンには無い

 

「結局、トップに立てるのは何時の時代も1人か2人は居る突き抜けた才能か力の持ち主だけだ―――サーゼクス様然り、アジュカ様然り、ディハウザー然り。だからこそ、それに追いすがろうとするならば足りない『力』を別に補う必要が在った」

 

「貴方にとってそれが、『王』の駒という訳ですか?」

 

自らの『女王』のセクトーズの手当を衛兵と一緒に大方終えたマグダランが問う

 

「その通りだ。私は『王』の駒を手に出来る立場が有った。財力が有った。適性が有った・・・貴族だからこそ許された特権だ。それも今回の件で終わるが、まぁ愉しませて貰ったよ。ある程度ほとぼりが冷めたら次の娯楽を探さなくてはいけないがね」

 

例え偽りでもレーティングゲームの第三位にまで昇りつめた彼がさっさとゲームを用済みと未練もなく棄て去る様を見てサジは表現し難い憤りを感じる。自分たちの大切なモノを目の前でぞんざいに投げ棄てられているように感じたからだ

 

「―――ッなんでですか!なんでそんなアッサリと手放せるんですか!貴方にとってレーティングゲームはその程度でしか無かったって言うんですか!」

 

「私とて惜しい気持ちは有るさ。だが、敢えて『何故』と答えるなら、そうだな・・・ディハウザーに勝てなかったからだろうね」

 

どれだけ接戦を演じようとも自分も他のランカーたちも誰一人として王者には勝てなかった―――『決してトップに立てないゲーム』それがビィディゼ・アバドンのレーティングゲームへの感想だ

 

「しかしゲームを引退する代わりに最後に私は華々しい戦果を飾る事が出来る。悪逆非道のバアルを討ち取った悪魔―――歴史に私の名が刻まれるだろう。多少ごたついた幕引きではあったが、概ねプラスと云えるだろうね」

 

「バカ野郎オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

どこまでも身勝手なビィディゼの様子にサジの怒りが頂点に達して全身に呪いの黒炎を滾らせる

 

鎧から何本もの帯のような触手をビィディゼに向かって伸ばすがサジとビィディゼの中間辺りに幾つも空いた『(ホール)』に飲み込まれてそのまま『(ホール)』を閉じる事で触手が断ち切られる―――アバドン家特有の魔力だ。これを駆使した戦い方でビィディゼは冥界でも屈指のテクニックタイプとして名が通っている

 

サジも初手が上手く決まるとは微塵も思っていなかったようで既に次の一手を準備している。彼の右腕にヴリトラの黒炎が集中する

 

ヴリトラの呪いの炎は一度喰らえば例え神クラスであろうと解呪に手間取る代物だ・・・有間一輝と模擬戦した時は邪人モードの彼に普通の炎と同じように払われたりしていたのだが、アレは相性が悪かっただけである。有間一輝に呪いとか効く訳ないので残るは普通の炎だけである

 

そうして放たれた巨大な炎は同じく巨大な『(ホール)』によって飲み込まれてしまった

 

「やっぱ力押しじゃ陽動にもならないか。ならっ!」

 

気持ちを切り替えたサジは一気に駆け出して距離を詰めつつ触手や黒炎を不規則な軌道で放つ

 

手数を増やして自分の攻撃が一つでも当たれば良いと云う考えだ。今のサジの役割はマグダランの安全確保。無論、勝てれば言う事は無いが執念の具現化とも云える触手を一本でもビィディゼに巻き付かせる事が出来れば彼らを別の場所から逃がす事も出来る

 

例え彼らを背に庇う形で逃がしたとしてもビィディゼの『(ホール)』が有る以上は簡単に先回りされてしまう。故に、それまではマグダランたちをこの場から遠ざける事も出来ないのだ

 

しかし相手は冥界屈指のテクニックタイプと称された悪魔。サジの攻撃の悉くが『(ホール)』に飲み込まれ、ビィディゼが手元に生み出した『(ホール)』に魔力弾を放つと同時にサジの周囲に無数の『(ホール)』が取り囲み、先程放たれた魔力弾が『(ホール)』から『(ホール)』へ転送され続けていく

 

気配が現れたり消えたりを高速で繰り返す魔力弾の動きはただでさえ掴みにくいのにビィディゼは追加でどんどん魔力弾を放っていき、サジの隙が出来たところに的確に打ち込む

 

凶悪な威力の魔力弾はサジの龍王の鎧を砕く

 

サジも破壊された箇所を即座に修復するがその隙に別の箇所が破壊されてしまう。当然、鎧が破壊される程の衝撃は生身にも決して少なくないダメージを与えて見る間にサジの全身が血だらけとなっていく

 

同じテクニックタイプでこうも違う。単純なパワーではサジが劣っているとは云え、大差と呼べるほどの違いは無いはずなのに一方的なリンチにしかなっていない

 

一言で言うならこれが年季の差というものだ。極シンプルな能力なら兎も角、無数の触手や様々な能力の付与された炎を操る能力を己の手足のように操るにはサジが禁手(バランス・ブレイカー)に至ってから余りにも時間が足りてないのだから

 

そうして遂にサジが血反吐を吐きながら片膝を付く。鎧のお陰で辛うじで致命傷は負ってないものの、逆に言えばそれだけだ

 

「クソッ!・・・今にして思えば最初に出会った時に有間に仙術習っときゃ良かったかもな。なんて言ったところで半年ちょっとじゃまだ瞑想段階か・・・なら、気張るしかねぇよな!」

 

震える膝を黙らせて何とか立ち上がるがビィディゼはサジに諦めるように現実を突きつける

 

「残念だが気力で戦況を覆せるのは同じレベルの相手で且つその相手が油断している時に限る。キミが立ち上がる事に意味など無い」

 

ビィディゼが止めを刺そうと手元に先程までよりも強力な魔力弾を形成した時、ビィディゼの背後から莫大な闘気が迫って来た。その闘気の持ち主はビィディゼに向かって拳を突き出すが当のビィディゼは軽やかにその攻撃を躱して距離を取る

 

空振りに終わったその拳の余波がサジやマグダランたちの横を通り過ぎていき、バアルの城を一部破壊した

 

「よく立ち上がった。匙元士郎よ」

 

「旦那!」

 

現れたのは獅子を模した黄金の鎧を着こんだ『滅び』を持たないバアル家の次期当主、サイラオーグ・バアルだった

 

「これはこれは、若手の『王』では最強と称されるサイラオーグ殿ではありませんか」

 

「・・・ビィディゼ殿。今ならまだ引き返せます。どうか誇り高き第三位の名を穢さぬよう」

 

「ふふふ、まるで私に勝てるかのような物言いですね。少し増長が過ぎるのではありませんか?

大王家次期当主殿?」

 

まるで戦意を解かないビィディゼの様子にサイラオーグは一瞬瞑目してから拳を構える

 

「では、テロリスト対策チーム『D×D』の役割を果たさせて頂きます」

 

「若手悪魔最強が相手か。面白いですね!」

 

「戦う前に一つ。先程匙元士郎が立ち上がる事に意味が無いとだけ聞こえたのですが、それは違う。彼が立ち上がってくれればこそ、俺は全力で貴方と闘える」

 

立ち上がった彼が居るからこそ、弟を守る為に全力で『敵だけ』を見据える事が出来るのだという信頼の言葉にサジの目頭が思わず熱くなる

 

サジがバックステップでマグダランの近くに寄り、触手を周囲に展開して防御態勢を整えたところでサイラオーグ・バアルとビィディゼ・アバドンの闘いの火蓋が切って落とされた

 

 

 

先手を取ったのはサイラオーグだ。魔力に乏しく、肉体を鍛え上げただけでここまで昇りつめた彼には『近づいて殴る』以外の選択肢は無いと言ってもいい。仮に大岩などを投擲したとしても投擲物に魔力や闘気を纏わせられない以上は一定レベル以下の相手にしか通じない

 

ただただ迅く深く踏み込んで体術を繰り出すしかないのだ

 

愚直に突き出されたその拳は回避したはずのビィディゼの頬に一筋の傷を付ける。なんの変哲も無いパンチが当たった理由は単純。迅いからである―――あまりにも単純明快な回答だ

 

ビィディゼは瞬時に先程サジ相手に使ったのと同じようにサイラオーグの周囲に無数の『(ホール)』を展開させていく

 

そこから先程サジに放ったのと同じように全方位からタイミングをずらした魔力弾の嵐を浴びせるが、サイラオーグはその弾幕を複雑なステップでも踏むかのようにして体を捻り、拳で迎撃して避けていく―――先日、バップル君24男(総計2ダース)が殉職した辺りでもう彼は眷属の総攻撃をも捌けるまでに成長したのだ・・・サイラオーグは心の中でバップル君を悼み男泣きした

 

それを見ていたビィディゼが一旦攻撃の手を止め、それを訝しんだサイラオーグに称賛を送る

 

「想像以上の体捌きですね。しかし惜しい。貴公には結局それしか無い―――如何でしょう?貴公も『王』の駒を使ってみては?」

 

「・・・如何いう意味ですかな?」

 

「そのままの意味ですよ。貴公も己の才能の無さに苦慮した身だ―――駒が強化するモノは『魔力』。今の貴公でも『王』の駒は扱える。私が大王の首をあげた暁には私から古き悪魔たちに頼み駒を一つ融通して貰いましょう。私は劣勢となった大王派の幹部に魔王派と渡りを付けて恩が売れる。貴公はその力で真の大王となる。民衆からの信頼の厚い貴公ならば新しく、そして強い大王家を始められるでしょう!」

 

「いやそれ無理でしょ」

 

両腕を広げて「さあ!」と言わんばかりのビィディゼにサジが思わずツッコミを入れてしまう

 

サイラオーグとビィディゼの視線が自分に向いたところでポロっと溢した感想を聞かれてしまったのだと思わず口元に手をやるがフルフェイスの兜を付けている時点で意味は無い

 

「・・・あ、あ~っと、サイラオーグの旦那が魔力が苦手なのは既に周知の事実ですし、世間で『王』の駒に対する反感が高まってる中で急に旦那が『魔力に目覚めた』なんて言ったら100%民衆が離れていきますよね?」

 

「確かに、政治的に・・・と云うより常識的に考えて彼が『王』の駒を使用するなど愚の骨頂ですね。大王の首を取ろうとする程だ。やはりビィディゼ殿は正気でないと見受けられる」

 

二人の冷静なツッコミにビィディゼの顔が見る間に赤く染まっていく

 

「ハーッハッハッハッハッハ!成程、元より俺と、俺を慕って付いてきてくれた者達と共に積み上げてきた拳を否定して偽りの才能など欲しくは無かったが、俺より遥かに頭の回る弟にまで理屈で語られては、より一層その案は否定するしかありませんな」

 

幼い時以降、次期当主となってから家族として接する時は何時も生返事だけの弟の予想外の援護射撃がサイラオーグのツボに入ったらしい

 

普段のマグダランなら特に何も言わないところだが襲撃されているこの状況下では表に出さずとも動揺から多少何時もと違う言動も出てしまうという事だ

 

「なにが可笑しい!!」

 

頭脳面で痛撃を受けたビィディゼはサイラオーグたちの口を塞ぐ為に大量の『(ホール)』を展開し、強力な魔力弾を先程までの数倍とも云える量で取り囲む。如何にサイラオーグの回避能力が高くとも、そもそも逃げ場が無ければ意味が無い

 

「残念ですよ、次期当主殿。そろそろ終わりと致しましょう」

 

その言葉を合図にサイラオーグに向かって無数の魔力弾が雨あられと降り注ぐ。レグルスの鎧を纏ったサイラオーグと云えどもその中心に居れば見るも無残な肉塊へと変貌しただろう

 

「悪いが、態々喰らってやる気は無い」

 

・・・そう。『居れば』の話だ。包囲網を如何やってか抜けたサイラオーグが目にも止まらぬ速度でビィディゼの眼前に踏み込んだ。ビィディゼが攻撃を放つ直前にサイラオーグとレグルスは同時に唱えていたのだ―――「「昇格(プロモーション)、『騎士(ナイト)』」」と

 

元より鍛え上げた肉体で最高峰の速度を出せていたサイラオーグが『騎士』の特性を使えば弾幕の壁の魔力弾を自分が通れるだけの数を弾いてその穴から脱出する事も可能だったのだ

 

そうしてビィディゼの虚を突いて接近し、拳を放つ

 

「「昇格(プロモーション)、『戦車(ルーク)』!!」」

 

インパクトの瞬間に駒の特性を変更し、ビィディゼの胸板を衝撃波を伴いながら撃ち抜いた

 

パンチの衝撃で城の壁をぶち破り外に落ちたビィディゼが瓦礫を押しのけ、口元を血で汚しながら立ち上がる。肋骨の2~3本は折れた感触がサイラオーグの拳には伝わって来ていた

 

腹や顔面を殴りたかったところだがそういった急所はディビゼが咄嗟に『(ホール)』を展開してガードしてしまったのだ。ゲームであろうと流石に戦い慣れていると云えるだろう

 

「ゴホッ・・・そうか、貴公の鎧は神滅具(ロンギヌス)であると同時に『兵士』なのだったな。正直神滅具(ロンギヌス)というインパクトが強すぎて見落としていたよ」

 

「今有るもので使えるものは全て使う・・・俺の友にそんな人間が居るのです」

 

「例の有間一輝とか言う人間か。成程、実に弱者らしい臆病さだな」

 

ビィディゼが瞳に蔑むような色を灯しながら嘲笑するがサイラオーグは小さく笑うだけだった

 

何故ならその言葉は有間一輝の侮蔑足り得ないからだ

 

「クッ、いや失礼をした。有間一輝は弱者とも臆病とも言われても「その通り」と素で返しそうだと思ってな―――ビィディゼ殿。あの男がなにより恐ろしいのは、あれだけの力を持ちながらも本気で自分の事を『弱い』と確信しているところなのですよ」

 

有間一輝は原作でトライヘキサとの戦い辺りまでの流れしか識らないが、原作にまだ続きが在るのは知っている。インフレ激しいこの世界では魔王クラスの力で漸く逃げ惑って生き残れる最低ライン(・・・・・)だと思っているのだ

 

当然、サイラオーグ含めて誰もそんな具体的な事は知らないが、有間一輝が強さにおいて未だに足りてない(・・・・・)と感じているのは端々の態度から察する事は出来る

 

有間一輝は(つよ)くて臆病(果敢)な人間だとサイラオーグは評価している

 

「ビィディゼ殿、まだ続けますかな?」

 

「勝ち誇るのは早いですよ。確かにいきなり上がった速度には少々驚きましたが、来ると分かっていれば対処も出来る。例え貴公が『女王』となったとしても体術だけで落とせる程、第三位の名はダテでは無いのですよ」

 

「そう仰るならばお見せしましょう―――行くぞ!レグルス!」

 

『ハッ!』

 

「「昇格(プロモーション)、『女王(クイーン)』!!」」

 

そこからは遠くから見ているサジの目でも捉える事すら難しい高速戦闘が開始される

 

無数に現れる『(ホール)』。飛び交う魔力弾。ビィディゼ自身も『(ホール)』に手足を突っ込んで体術を繰り出し、本気のビィディゼの攻撃に流石にダメージを負いながらも接近するサイラオーグを『(ホール)』を用いた短距離転移で距離を取る

 

目まぐるしく動き回る彼らはさながら小さな台風のようだ

 

あの中に不用意に割って入れば最上級悪魔クラスであろうともミンチになるだろう

 

旧魔王派のシャルバ・ベルゼブブやクルゼレイ・アスモデウス、カテレア・レヴィアタンのようなオーフィスの蛇で突然得た魔王クラスの魔力をグミ撃ちするだけの輩とは違い、鍛え上げられた魔王クラス同士のぶつかり合いだ

 

だが幾ら体術に分があろうともこのままでは相性の差で先にサイラオーグが地に倒れ伏すのは時間の問題だ。だからこそビィディゼの隙を突く更なる一手をサイラオーグは切る

 

ビィディゼ・アバドンはサイラオーグには体術しかないと油断している。『女王』には魔力を底上げする『僧侶』の効果も含まれているが『サイラオーグは魔力を使えない』という認識は簡単に拭い去れるものでは無いのだから

 

「射抜け!レグルス!!」

 

『ハッ!!』

 

二人の意思が重なり合い、ここに魔力の耀きがサイラオーグを勝利へ導く

 

 

 

「「―――目玉焼き(サニー・サイド・アップ)!!―――」」

 

 

サイラオーグの胸元に在るレグルスの獅子の眼からレーザーのように指向性を持った強烈な光がビィディゼの目を焼く―――勿論サイラオーグの魔力で直接的なダメージを与える事は出来ないが、ただ只管に眩しいだけなら何とかなったのだ。少し仕様は異なるがイッセーならドラグ・ソボールの『太陽拳』を思い浮かべただろう

 

「だ、旦那ぁぁぁ!?なんでソレをチョイスしたんっスかぁぁあああ!!?」

 

叫びながらもサジは確信する。絶対にアレはサイラオーグとレグルスだけの考えじゃない。あの二人に変な事を吹き込んだ犯人が居ると

 

マグダランはそっと目を逸らした。サイラオーグは時折奇行(バップル君の殴り合い等)に走るが、接点を抑えていた彼にとっては初めて目にする光景だったのだ

 

そんな中、強烈な閃光(眼光)で脳までクラっとしたビィディゼにサイラオーグの『戦車(パワー)』と『騎士(スピード)』による恐ろしく単純な拳のラッシュが浴びせられる

 

拳の一発一発が相手の魂まで揺さぶると言われた獅子王の拳がガトリングガンのようにビィディゼの全身に打ち込まれ、最後に彼の拳がビィディゼの顔面を殴り飛ばした

 

「わ・・・私が・・・何故?・・・私は・・・魔王クラスと・・・言われて・・・」

 

朦朧とする意識の中でビィディゼは最後まで己の敗北を信じられないままに倒れたのだった

 

 

 

「だ、旦那・・・その、なんで目からビームなんですか?」

 

戦闘が終わったことでサジがサイラオーグに近づいて如何しても気になってしまった事を訊ねる。放置すると気になって寝つきが悪くなりそうだと思ったのだ

 

「む?―――そうだな。俺とレグルスが魔力を用いた技について案を出している時に偶然シーグヴァイラがやって来てな。「動物の顔が胸に在る(ロボット)ならビームを出すのが常識」と教えてくれたのだ。その後すぐにアガレス家から大量の資料(ビデオ)を持って来てくれて俺は様々な知識を学んだ・・・よもや人間界の機械技術があれほど進んでいるとは思っていなかったがな。アザゼル元総督も秘密裡にロボットを量産していると聴くし、シーグヴァイラはこれからの我らの前にロボットが立ちはだかる日が遠くないと言ってな。秘蔵の資料(プレミアビデオ)すらも持ち出してくれたのだ」

 

ロボットが敵になる日がやって来そうと云うのがあながち的外れでないのが一層質が悪い

 

まさかバアルの王子とアガレスの姫が二人揃ってロボットアニメを(ガチで真面目に)視聴(けんきゅう)していたとは思わなかったサジも言葉もないようだ

 

そうして次にサイラオーグはサジの隣に居たマグダランに声を掛ける

 

「大事無いか?マグダランよ」

 

サイラオーグのその声音に、その視線に、その態度に自分のことを心から心配していた事がマグダランには見て取れた。だからこそ解らない

 

「何故ですか?何故貴方は貴方を嫌い、幾度も貴方の政治を邪魔してきた私などをそんな風に心配出来るのですか!?」

 

ディビゼとの戦闘でサイラオーグはボロボロだ。先程の匙元士郎と同じくらいのダメージを負っている。そんな状況にあっても尚、敵対する自分を心配するサイラオーグの心境が理解出来なかったのだ。寧ろ戦闘に巻き込まれてマグダランが死んだ方がサイラオーグにとっては都合が良いとさえ言えた。その上で何故?・・・と

 

そんなマグダランの問いかけにサイラオーグは弟の目を真っ直ぐに見ながら静かに答える

 

「―――俺はお前から次期当主の座を奪った。それも俺の力を皆に認めさせ、夢を叶えるという俺自身の我が儘の為にだ。だから俺はお前の怒りや憎しみの矛先が俺個人にのみ向かうならば、全て受け止めようと決めていたのだ」

 

それを聴いたマグダランはそれだけでは納得できないと首を横に振る。その説明ではまだ足りない

 

「違う!そうじゃない!その決意は確かに立派と呼べるものなんだろう!高潔と呼べるものなんだろう!だがそれは私を心配する理由にならない。私が貴方にしたように無関心でいれば良かったはずだ。初めの内なら兎も角、私にその気が無いと識れた時点で離れれば良かったはずだ!それなのに何故、貴方は未だに私に大切な者にするような目を向けて来るのだ!?」

 

「『弟』だからだ」

 

「―――ッ!」

 

何処までも真っ直ぐで、何処までも単純明快な答えだった

 

心配するのは『家族』だから―――冷え切った家庭環境で育ったサイラオーグの瞳は暖かな光で満ちていた

 

「・・・貴方は馬鹿ですね」

 

「ああ」

 

「不器用ですね」

 

「そうだな」

 

「愚か者ですね」

 

「否定はせん」

 

「政治の世界では苦労しますよ?」

 

「全くだ」

 

そこでマグダランは深くため息を吐いた

 

「ならばこれからは政治に関しては相談くらいは受け付けますよ―――『兄上』」

 

昔、まだサイラオーグが廃嫡される前の時にのみ呼んでいたその敬称がマグダランが示す和解の印だった

 

「ああ!これからも宜しく頼むぞ、我が弟よ!!」

 

「兄上が次期当主となった時にバアルのリンゴの品種改良の予算を割いてくれるなら、もう少し頑張って差し上げますよ」

 

「ハッハッハッ!それくらいならば安いものだ。共にバアル家を盛り立てていこうではないか!」

 

「う゛う゛ぅ!良かったですね、サイラオーグの旦那ぁ・・・」

 

麗しい兄弟の絆にサジは鎧のマスクを収納して涙を袖で拭っている

 

するとそこに額に二本の角を生やした桜色のウェーブの掛かった髪をした二十代後半くらいの容姿の妖艶な女性が現れた

 

「ビィディゼの馬鹿がバアル家に攻め込んだって聴いて止めに来たんだけど、如何やらもう終わってしまってるようね。コイツの眷属も私の眷属がシトリー眷属に加勢して鎮圧したところだし、一先ず終了ってところかしら?」

 

現れたのはレーティングゲームのランキング二位。ロイガン・ベルフェゴールだ。彼女もまたディハウザー・ベリアルに『王』の駒の使用者として告発された者の一人である

 

「私も所謂『不正組』さ。でも私はこの力も地位も後悔してないよ―――私はただ華々しくも楽しくゲームで遊びたかった。それだけさ・・・だからと言ってこの馬鹿(ビィディゼ)みたいにみっともなく足掻こうともしないけどね。冥界を混乱させる事は私も本意じゃないし、離反した上位ランカーの鎮圧には私も手を貸すよ―――まっ、尻拭いくらいはしないとね」

 

ゲームに『楽しさ』を求めた彼女はゲームで引き起こされる混乱は受け入れ難かったのだ

 

「獅子王くんに龍王くん。アンタたちはレーティングゲームは好きかい?」

 

倒れ伏したビィディゼに拘束術式を多重に掛けながらロイガンが問う

 

「私はレーティングゲームが好きさ。でも済まないね。一位から三位まで馬鹿ばっかりでさ・・・なんて一纏めに言ったらディハウザーのファンに「一緒にするな!」と怒られちまうかな?

―――これからのアンタ等の創るゲームを楽しみにさせて貰うよ」

 

ロイガンはビィディゼを引き摺って戦闘が終わった事で裏口の近くにまで来ていた衛兵に引き渡す

 

その後、別次元と称されるトップスリーの一角であるロイガンは最後の仕事とばかりに積極的に暴れる上位ランカーたちを黙らせて周り、最後にアジュカ・ベルゼブブへ『王』の駒の返上と謝罪会見によって民衆の暴動もある程度抑制したのだった

 




サニーサイドアップはどっちかと云えば魔法陣グルグルですねww

さぁてトライヘキサ復活までの間の話を如何するべきか(何も考えて無い)

明日の自分に丸投げですねww


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第二話 ファンと、幽霊です!

後一つか二つ日常パート的なのを挟み込んでから決戦に移りたいですね


冥界の騒動もある程度治まって俺達は学業しつつも特訓に励んでいた

 

だが実を云えば俺達の生活のリズムはここのところ崩れ勝ちでもある。と云うのもトライヘキサと直接相対したアザゼル先生にトライヘキサが復活したとして、俺達が後一ヵ月学園やら仕事やらの合間にちょくちょく修行したとして足しになるのかと尋ねたのだ

 

勿論俺個人はそんな訳ない事は知っていたので、これは皆の危機感を煽る為の質問だ

 

俺の考えた策もアザゼル先生たちが秘密裡に用意してるはずの隔離結界も実行するには聖杯と邪龍を殲滅する必要が在るからね。それに量産型邪龍相手なら兎も角、トライヘキサが戦場に居れば下手すればブレス一発で消し炭になる。皆の地力を引き上げたいってのはそういう流れ弾を回避できるようにって感じだ

 

しかし元々『D×D』に所属するメンバーは上昇志向が強いから多少焚き付けただけでは意味が無い。今の俺達に一番必要なのは時間だ

 

俺の策も一番大変なのは下準備だからな・・・てか何で神の子を見張る者(グリゴリ)の幹部たちがやって来るんだよ!可能な限り準備の手段は知られたく無かったのに先生バラしやがったな!

 

突然拉致られて椅子に括りつけられて関係者一同の講習会が開かれるとか何の罰ゲームだ!

 

ともあれ術式やアイテムも揃ったので後は決戦までコツコツと積み上げていくしかない訳だ。もうイイよ!分かったよ!突っ走ってやるよ畜生!!・・・とまぁそんな愚痴は置いといて具体的に俺達が強くなる為に如何するべきかと考えたらなにが有用なのか?―――答えはドラグ・ソボールにも登場する『精神と時の部屋』だ!

 

アグレアスが奪われたアウロス学園防衛戦の時にアジ・ダハーカが現実世界の一分を結界内では一時間経過するように術式を施していた。倍率にして60倍だ・・・まぁ広大な空間の60倍の時間加速なんてのはアジ・ダハーカの禁術有ってこそだろうから実際はもっと小規模になる訳だが、改めて考えると一日が一年になる倍率365倍の『精神と時の部屋』が凄いのが分かる・・・漫画の設定を真剣に考えられる時点で俺達も十分可笑しいんだろうが、細かい事は気にしたら負けだ

 

アザゼル先生に提案したら渋い顔をされたがな

 

時間を加速させて修行するなんてのは確かに健全とは言い難い。『生き急ぐ』って言葉をこの上なく物理で実行してしまうようなもんだからな

 

だけど俺としてもこれは退けない提案だ。最終決戦を前に出し渋りたくはないし、ギリギリの状況下でもなければ秒で却下される案も、アザゼル先生がトライヘキサをその目で見た今だからこそ通ると思ったのだ

 

そんな訳で如何にか特別修行スペースを確保する事には成功した

 

場所は俺にとって馴染みの京都にお邪魔させて貰っている。と云うのも特別製修行スペースを創るのにレーティングゲームのフィールドやロスヴァイセさんやルフェイなどの魔法使い組などの協力も有ったのだが、肝心かなめの時間を操れる術者として参曲(まがり)様にもお越しいただいたのだ(黒歌も手伝ったが)―――しかし術を発動させる為には膨大なエネルギーが必要でそのエネルギーを補う為に術式都市である京都の気脈を利用する事になった・・・俺が【一刀餓鬼】の修行で京都の気脈で回復していた技術の応用だ

 

最も『D×D』のメンバーが全員京都に行く訳にもいかないし、加速術式を起動出来るのも現実世界で一日数時間程度だ。エネルギーが足りないならオーフィスの蛇で強化されて捕まってるシャルバ・ベルゼブブとディオドラ・アスタロトを秘密裡に電池代わりに使えないかと訊いたらまた頭に拳骨落とされたけどな

 

何はともあれ決戦までに夏休みの特訓2~3回分程度の修行時間は確保出来たから優秀な動力源(シャルバとディオドラ)は諦めよう

 

そうして決戦の日までちょっと常人の数倍の時間を過ごす事になった俺達だった・・・時折曜日の感覚が狂うのはご愛敬だ

 

どれだけ強くなれるかは後はもう皆に任せるしかないし、俺自身もちょっとサマエルとでも話を付けてこようかね?

 

 

 

[イリナ side]

 

 

私の名前は紫藤イリナ。元プロテスタント所属のエージェントで今はミカエル様の『(エース)』よ♪

 

(エース)』と云うのは転生天使に与えられた役割の一つでトランプに則しているの!因みに図柄はスペードよ。ミカエル様を筆頭にした四大セラフ様とその他にもいらっしゃる天使の最上位であるセラフの階級を持つ方々が近年導入された『御使い(ブレイブ・セイント)』のシステムの下、転生天使の数を増やしているの―――最も、天使は欲をかいたら堕天使に為っちゃうから転生出来るのは私のように穢れ無き信仰心を持つ者に限られるわ!

 

そんな私は今、長年の相棒であるゼノヴィアと一緒に天界に来ているの

 

ゼノヴィアは元ヴァチカン所属だったんだけど、複雑な事情が有って今は悪魔に転生しているの。そのせいでちょっとギクシャクした時も有ったけど、今でも変わらない私の相棒よ

 

本来天界には天使しか立ち入れないからゼノヴィアは天使以外の者が天界に居ても極力悪影響が出ないようにする特別製の天使の輪っかを頭の上に浮かばせているわ。私?私は勿論自前の輪っかよ!初めて天使に転生した時は天使の白い翼や輪っかに舞い上がっちゃったものだわ

 

「なぁイリナ。今日は聖剣を強化出来るとしか私は聴いてないのだが、具体的になにをやるか知っているか?」

 

天界に来て第五天を目指して歩いているとゼノヴィアが訊いて来たわ。でも、私も詳しい内容までは知らされてないのよね

 

因みに天界は全部で七階層に分かれていて、最初に踏み入れる場所が第一天。私達が目指している第五天は主に研究施設が揃っている場所ね

 

「う~ん。私もシスター・グリゼルダに言われただけで詳細までは教えてくれなかったのよね」

 

私はミカエル様の『(エース)』だけど階級そのものはまだ中級天使。位が高いんだか低いんだか傍から見る分には判り難いのよね。敢えて例えるならエリート街道に乗ったばかりの新人ってとこかしら?要するにまだまだこれからって事ね

 

「そうか・・・しかし気になるね。私は先日デュランダルの真の力を解放したばかりだ。ストラーダ猊下の言うように完成された聖剣であるデュランダルとエクスカリバーを如何やって強化すると云うのだろう?下手をすれば力を損ねてしまう結果にしかならないぞ?」

 

確かにゼノヴィアの言う通りよね。ゼノヴィアは少し前に起きた教会の戦士達のクーデターでデュランダルの前任者のストラーダ猊下との闘いの中でデュランダルとエクスカリバーの力を解放するまでは二本の聖剣を合体させたエクス・デュランダルで戦っていたわ

 

デュランダルに振り回されていた未熟なゼノヴィアならそれで良かったけど、あの戦いで一皮剥けた今のゼノヴィアだと逆に聖剣の力を制限してしまうのよね

 

ゼノヴィアの扱うデュランダルとエクスカリバーも私のオートクレールも完成された伝説の聖剣

 

一体如何するつもりなのかしら?

 

 

 

二人で頭を捻りながらも私達は一つずつ階層を昇って、漸く目的地である第五天に辿り着いたわ

 

そうして指定された建物の中に入ると意外な人物がそこに居たの

 

「やぁイリナちゃん。授業参観以来だねぇ」

 

「パパ!」

 

なんでパパがここに居るの?パパは別に聖剣の研究者って訳では無いのに

 

「私が呼んだのですよ」

 

「ミカエル様!」

 

部屋の奥から黄金の光を纏った翼を生やしたミカエル様が現れた―――でも、ミカエル様がパパを呼んだの?聖剣の事となにか関りが有るのかしら?

 

「イリナ、そしてゼノヴィア。先日はアグレアスの奪還任務、ご苦労様でした。あなた達のこれからの活躍にも期待していますよ」

 

「「勿体なきお言葉でございます」」

 

その言葉に私もゼノヴィアも揃って信徒としての礼を取る。ゼノヴィアは悪魔だけど信仰心を無くした訳ではないものね―――ああ♪それにしても天界に来て早々にミカエル様から直接お褒めの言葉を頂けるなんて今日は良い日だわ♪

 

「では3人とも、こちらに来てください」

 

そうしてミカエル様に案内された部屋に入ると中央に在る台座の上に二つの青紫に輝く三角錐にも似た形の結晶が浮かんでいたわ

 

「ミカエル様!アレはまさか聖剣の因子の結晶ですか!?」

 

つい確認してしまったが見間違えるはずも無い。なにせ私はゼノヴィアのような天然の聖剣使いではなくあの因子を祝福と共に受け入れて聖剣使いになったのだし、加えてオカルト研究部の仲間の木場くんの且つての同士の人達の因子の結晶を彼に届けたのも私だからだ

 

「成程、聖剣の強化とは聖剣そのものではなく、私達自身の強化を指していたのだな」

 

「ええ、その通りですよゼノヴィア。聖剣の因子を複数取り込んだ事例は二つ有ります。一つは聖魔剣使いの木場祐斗くん。もう一つはフリード・セルゼンです。それらのデータとあなた達自身の成長、相性の良い聖剣の因子の選定によってこの二つの因子ならばあなた達に適合すると結論付けられました」

 

よく見るとそれぞれの因子の下に私とゼノヴィアの名前のプレートが置いてあるようだけど、自分と合わない因子を取り込んだらどうなるのかしら?そもそも取り込めなかったり?

 

「自分の結晶でない方は触れないで下さいね。万が一そのまま肉体に取り込まれたら"パーン"となりますよ」

 

「ひぅっ!!」

 

思わず部屋の端まで後ずさってしまったわ

 

と云うかミカエル様!にこやかに仰ってますが"パーン"ってなんですか?"パーン"って!?擬音じゃなくてもう少し具体的に教えて頂きたいんですけど!?・・・あ、やっぱりいいです

 

そうして恐々としながらもゼノヴィアの隣に戻ったけど心臓に悪いわね

 

「イリナちゃん。このイリナちゃんの分の結晶はね、元は八重垣君の因子なのだよ」

 

それを聴いた私はビックリよ。八重垣正臣さんはパパの昔の部下の一人で去年のクリスマスの直前に天界で戦ったばかりなんだもん。驚く私にパパは事の詳細を話してくれたわ

 

「私は可能な限り八重垣君とは面会をしていてね。外の話もするんだよ―――そう、八重垣君の恋人のクレーリアさんの従兄妹(いとこ)であるディハウザー・ベリアル氏の話題もね。伝えるべきかは迷ったんだけど、大きい事件だから僕が言わなくても何処かから漏れると思ってね」

 

それはそうかも。幾ら八重垣さんが収容施設に居ると言っても冥界全土を震撼させたあの事件は噂をするなと言う方が難しいでしょうね

 

「それと・・・イリナちゃんは八重垣君との戦いで最後にオートクレールの浄化の力を放った時に八重垣君を包み込む女性の姿が見えたのを覚えているかい?」

 

「ええ、勿論よパパ。ゼノヴィアたちにも見えてたって言うし、間違いなくあれはクレーリアさんの魂よね!」

 

・・・あれ?でも改めて冷静になって考えてみれば純血の悪魔であるクレーリアさんの魂が何故天界に居たのかしら?幾らそのクレーリアさんが良い人(悪魔)だったとしても死後の魂が天国に召されたなんて事は無いはずよね?

 

「うん。実はそのクレーリアさんの魂は今も八重垣君と一緒に居るんだよ。八重垣君が聖杯で復活した時に一緒に居たであろう彼女の魂も活性化して八重垣君と一緒に天界に来たんじゃないかと思われるんだ。今の彼女は八重垣君の守護霊みたいな感じに憑いているよ」

 

「ええ!八重垣さんとクレーリアさんが今は同じ檻の中で同棲してるですって!?」

 

「・・・イリナ。檻の中で一緒に居るのは同棲とは言わないぞ」

 

もう!ゼノヴィアは時々変なところに拘るんだから!それにしても二人は死後の魂の状態でも寄り添っていたからこそ、今一緒に居られるのね!とってもロマンチックだわ♪

 

「それで出来ればその三人を一度はひき合わせたいんだけど、八重垣君もディハウザー氏も今は自由に動ける状態じゃないだろう?」

 

う~ん。確かに難しいかも―――天界と冥界それぞれの檻の中だもんね

 

「そこで聖剣の因子の研究も進んでいる事も知っていた私が提案したんだ。因子の提供という形で天界に貢献すれば条件付きの釈放程度なら認めて貰えるんじゃないかとね」

 

「ええ、今の彼が冥界に赴いたとして、レーティングゲームで不正を働いていたという古き悪魔たちも今更彼に手を出す事に旨味は有りません。勿論無用な混乱を避ける為にもお忍びでという形にはなるでしょうが、面会程度の時間は取れるでしょう」

 

ミカエル様も承諾して下さっている事なのね!ムムムッ、そうなると責任重大ね。私が八重垣さんの力も使って大きな戦果を挙げればそれだけ八重垣さんへの当たりが弱くなって自由に動きやすくなるって事よね?

 

「分かりました!ミカエル様、パパ。三人がちゃんと出会えるように、八重垣さんの想いの詰まった結晶は私が戦場に持っていきます!!」

 

「有難うイリナちゃん。そう言ってくれると思ってたよ。流石は我がマイエンジェルだ!」

 

もうパパったら私が天使だなんて当たり前な事を♪

 

「八重垣氏の聖剣の因子は聖杯の力によって高められています。きっと貴女の力となるでしょう」

 

ミカエル様はそう言って私の分の結晶を持って近寄って来られたので且つて教会で聖剣の因子を受け入れた時のように両膝を付いて祈りを捧げ、その力を受け入れたの

 

”バサッ!!”

 

因子の結晶が私の中に全部入った瞬間に私の二対四枚だった翼が三対の六枚羽に変わったわ!?

 

「如何やら因子の力に後押しされる形で天使の格が上がったようですね。ですが今の貴女は新しい力を受け入れたばかりです。良くも悪くも邪龍達との戦いが間近に迫ってもいますし、その戦いまでに力の制御を身に付けて下さい。その時、改めて貴女に上級天使としての位を授けましょう。今の貴女ならばきっと大きな戦果を挙げられるでしょうからね」

 

「はい!主とミカエル様の為、より一層精進致します」

 

「ああ!娘が天使として立派に成長する瞬間をこの目に出来るとは、私はなんて幸せなんだ」

 

パパったら何時の間にか袖が涙でビショビショじゃない。一応今の私はまだ中級天使なのよ?

 

・・・それにしても何だか私イッセー君以上にスピード出世してない?天使は人員不足っていう背景も有るんだろうけど、私が天使に転生したのって日本で云えばまだ夏休みの頃よ?・・・まぁその頃は私はまだバチカンに居たんだけどね

 

「では次に戦士ゼノヴィア」

 

「はい!」

 

私の祝福が終わって次にミカエル様はゼノヴィアの結晶を手に取られたわ―――ひょっとしてあの結晶もなにか曰くの有るモノなのかしら?

 

「この因子の持ち主とはあなた達は先日戦ったばかりでしたね。優れた戦士でしたが、クーデターを引き起こした罰として引退したあの子が再び剣を取るのは難しい。それならば後進に力だけでも残せるならと承諾してくれたのですよ」

 

「―――ッそうですか。ストラーダ猊下は何時かちゃんとした手合わせの下、先達を超える姿を見せたかったのだがな」

 

少し寂しそうに呟くゼノヴィア。そう・・・あれはストラーダ猊下の因子の結晶なのね。ストラーダ猊下は今はイタリアの某所の元々猊下の持ち物だった農園に半径数キロの結界を張ってその中に軟禁されていると聴くわ。仮にも特大のクーデターの首謀者の一人という立場なら極刑でも可笑しく無かったんだけど、猊下の今までの功績、信仰、クーデターの真の目的、そして多くの戦士達の嘆願によって軟禁と呼ぶのも微妙な罰に収まったのよね。かく言う私とゼノヴィアも嘆願書を出したのよね・・・と云うか教会の戦士出身で嘆願書を出してない人って居るのか疑わしいくらいだったみたいよ

 

一応猊下は結界の外に出られないみたいだけど、私達が会いに行く事は出来るみたいだしね

 

するとミカエル様はどこか困ったような笑みを浮かべているわね、如何したのかしら?

 

「・・・戦士ゼノヴィア。これはヴァスコの因子ではなく、エヴァルドの因子なのですよ」

 

あら、ストラーダ猊下じゃなくてクリスタルディ先生の因子だったのね。私も同じデュランダルの担い手としててっきりストラーダ猊下の因子だとばかり思ってたわ

 

でも、如何してストラーダ猊下の因子じゃないのかしら?因子の相性はきっと良いはずよね?

 

「ヴァスコの因子はエヴァルドと比べてもかなり強いのですよ。計測の結果、もしもゼノヴィアがヴァスコの因子を取り込んだ場合・・・"パーン"となります」

 

ミカエル様・・・もしかして"パーン"がプチブームになってない?

 

「そこでエヴァルドの因子なのですよ。ゼノヴィアはエクスカリバーの使い手ではあるものの、因子の力で強引に振るってる状態です。エヴァルドの因子を取り込めばエクスカリバーの各種能力も制御し易くなるでしょう―――そこからは貴女次第ですが、折角デュランダルの真の後継となったのです。ついでにエクスカリバーも使いこなしてみせなさい」

 

つ、ついでって軽くおっしゃいますね、ミカエル様。でも確かにゼノヴィアはエクスカリバーの各種特性は全く使いこなせてないのよね。特に『祝福』の能力は発動も覚束ないって愚痴ってたし、このままでは勿体ないわ―――ああ!戦力アップと一緒にゼノヴィアの心配事まで解消さなるなんてミカエル様の深慮遠謀は留まるところを知らないわ!アーメン!!(ただの偶然)

 

 

 

あれからゼノヴィアも聖剣の因子をミカエル様から賜り、当初の用事は済ませた私達はミカエル様と別れて天界の第二天に来ているの

 

第二天は基本夜のようになっていて星の動きを観る事が出来るのと収容施設も兼ね備えている場所で主にバベルの塔に関係した者達が収容されているの・・・と云うのも主が居なくなって奇跡を司る『システム』が不安定になっている状態で背信者や異教徒を受け入れる事に不安が有ったのと、そもそも人間界の牢屋で事足りたって理由ね。それでも特殊な事情を抱えた極少数の人達がこの第二天に収容される事はあり得る事なのよね

 

そうしてとある収容施設で面会の手続きをすると少ししてガラス(と結界)で隔てられた向こう側に八重垣さんが入って来たの

 

「やぁ紫藤局長、それに娘さんとそちらは確かデュランダル使いのゼノヴィア・・・だったかな?エデンで戦って以来だね」

 

以前戦った時の怒りと憎しみに囚われた顔とは違って柔和な笑みを浮かべる八重垣さんだけど、理由はやっぱり今も八重垣さんの隣に漂ってる半透明の女性よね

 

≪一応初めましてかしら?クレーリア・ベリアルよ。正臣を解放してくれて有難う♪≫

 

そう挨拶してくれたのは八重垣さんの殺された恋人のクレーリアさんの霊魂。以前は遠目で一瞬だったけど、この前出会ったディハウザーさんと同じ白っぽい灰色の髪を腰のあたりまでストレートに伸ばしたとっても綺麗で可愛らしい女性よ!

 

「本来であれば死者の魂とは軽々に話す事は出来ないんだけどね。彼女は八重垣くんにくっ付いてるから『あの世』である天界から出る事も出来るし、聖杯の影響を受けたからか意識もハッキリしているんだよ」

 

≪その代わりに正臣からあんまり離れられないんだけどね♪≫

 

「ハハハハッ、僕はまさしく悪魔に魂に憑りつかれた元信徒という訳さ♪最も、彼女になら僕の魂くらい全部売り渡しても良いと思ってるんだけどね」

 

≪もう、正臣ったら♡それなら正臣の魂がまた誰かに買いたたかれる前に私が言い値で買い取ってあげるわ♪≫

 

「勿論、クレーリア相手なら本望だよ」

 

な、なんだかとっても仲が良いのね。二人の背景がピンクに輝いて見えるわ

 

「・・・大体何時もこんな感じでね。監禁されていると言っても八重垣君に心配は要らないよ」

 

「僕が居るのも別に冷たい牢獄みたいな感じではないからね。何時かクレーリアと一緒に外を見て回れるように少しでも天界に貢献しなくちゃいけないんだ・・・『天界に』という処に思う処が無い訳じゃないけど、クレーリアの為なら安いものさ」

 

恋人の為に頑張ろうとしている八重垣さんは以前と違ってとっても生き生きして見えるわね。やっぱり愛の力は偉大なのですね―――ああ!主よ!

 

≪有難う正臣。私としてもこの間ディハウザーお兄様が起こした事件を聴いて、如何にか一度話をしたいと思ってたの。お兄様が私の為にも事件を起こしてくれたのは嬉しくも思うんだけど、真面目なお兄様はきっと罪を赦されても責任感からゲームを引退してしまうと思うの―――レーティングゲームが大好きなお兄様が自分を押し殺してゲームを眺めているだけなんて、お兄様の従兄妹(いもうと)としても一ファンとしても許容できないわ!≫

 

「クレーリアさんはお兄さんの事も本当に大好きなんですね」

 

クレーリアさんとディハウザーさんは本当に仲の良い兄妹のように育ったと聴いてるわ

 

私は一人っ子だったから兄弟姉妹の関係に憧れるのよね・・・将来ダーリンと子供を作る時は最低でも三人は欲しいところだわ♪

 

でも私がそう言ったところでクレーリアさんが結界ギリギリまで近づいて鼻息を荒らくする

 

≪そう!そうなのよ!ディハウザーお兄様は強くて格好良いんだから!外に出てお兄様となんとか面会してゲームに復帰するように説得したら私が死んだ後のお兄様の試合ビデオを全部視聴しなくちゃいけないわ!他にもお兄様の事が掲載された雑誌や新聞まで切り抜きを作らないといけないわね!お兄様はメディアへの露出も多いからテレビ番組も全部網羅出来るかしら?いえ、やるのよクレーリア・ベリアル!ああ!そう言えば私が死んだなら家に溜め込んだコレクションって廃棄されてたりするのかしら?最悪過去の記録まで洗って集め直さないといけないわね!それにしてもやっぱり『王』の駒だなんてね。第二位と第三位はお兄様と同格みたいに雑誌にも書かれてたけどやっぱりお兄様だけが突き抜けた頂点だったのよ!そうそう!あなた達はお兄様の試合映像は見た事あるでしょうけど、映画は見た事ある?無いんだったら今日家に帰ったら絶対見るべきよ!アクション映画とかじゃお兄様だからこその格好いい魅せプレイでありながら実際の試合でも有用な立ち回りとかも勉強出来るんだもの!単に格好良ければいいってものじゃないの!合理性を求める悪魔ならそこに在る機能美に惹かれるファンも多いわ!つまり!何が言いたいかと云うとディハウザーお兄様はとっても強くてとってもカッコイイって事よ!!≫

 

途切れる事なく紡がれるマシンガントーク。幽霊って息継ぎ無しでも喋れるのね

 

「ソ、ソウデスカ。スゴイワネ、ゼノヴィア?」

 

「マッタクダナ、ソレデハ、ソロソロオイトマシヨウ」

 

気圧された私は席を立つ。隣のゼノヴィアも同時だったわね

 

でも外への扉へ向かう私達のそれぞれの肩にパパが後ろから手を掛けたわ

 

「イリナちゃん。ゼノヴィアくん。面会時間はまだ残ってるよ?」

 

パパ!?瞳に生気が宿ってないわよ!?なんで死者のクレーリアさんが活き活きしていて、生者のパパが死にそうになってるの!?もしかして面会の度にこんな感じなの!?

 

「・・・これは、私に与えられた天からの試練なのだ」

 

絶対に違うと思うんですけど!?・・・結局その後、私とゼノヴィアは何時家に帰ったのか記憶が曖昧になったわ。イッセー君の家のディハウザーさんの試合映像をテレビにセッティングした辺りで意識が覚醒したんだけど、短い面会時間の間になにが在ったのかしら?

 

ただ一つ教訓を得られたとしたら『狂信者と熱烈なファンは紙一重』って事ね

 

「・・・なぁイリナ」

 

「・・・なぁに、ゼノヴィア?」

 

「次からは私抜きで頼む」

 

全部私に押し付ける気ね!その時は絶対に巻き込んでやるんだから!

 

 

[イリナ side out]




初登場させてみたクレーリアをインパクトを大事にしようとキャラを掘り下げたらこんなんになりましたww


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第三話 フィスと、リースです!

皆の日課の早朝特訓が終わった後、学園に向かう前に俺はイッセーの家の屋上に居た

 

そうと云うのも別に今日が特別って訳ではなくてオーフィスのお社へのお参りだ

 

友達の家の屋上に社が設置してあるもんだから何処かで習慣づけないとずっと放置しちゃうからね

 

特に元日にこの国の主神の天照様に神の加護を授けられないって聴いたら余計にな

 

俺に加護を与えられるのは遥か格上のオーフィスかグレートレッドの二択となってしまったのだ

 

別に信心深い訳でも無いけど無垢なる龍神様へのお参りは普通に御利益有りそうだしな

 

今日も賽銭(オーフィスのお小遣い)を入れて軽く手を合わせる・・・本来なら二拝二拍手一拝とか作法も有るんだけどオーフィスは日本の神様じゃないし、仮にやっても頭の上に(ハテナ)マークを浮かべて終わりだろう。やるとしても元日だけで十分だ

 

参拝も終わって振り返るとそこにはオーフィスとリリスが居た。アグレアス奪還作戦が終わった後でアザゼル先生がオーフィスの半身たるリリスも此処で預かった方が良いと言って、皆もそれを了承したのだ。リリスは「もうひとりのリリスといっしょ、もうひとりのリリスといっしょ」と基本オーフィスと一緒に居る・・・オーフィスも誰かの後を付いて回る事が多いし、その後ろに更にリリスも追従するもんだからカルガモの親子のような光景が度々見られるようになった

 

俺の様子を偶々見に来たのか、賽銭箱のお小遣いを取りに来たのか、お社の中に直接お供えされている時も有るお菓子が目当てか判断に困る

 

だけど俺は二人を見ていて少し気になる事が出来た

 

「なぁ、オーフィスとリリスは元は同じ存在だった訳だけど、もしかしてリリスもお社欲しかったりするのか?」

 

 

 

 

 

放課後、オカルト研究部には正規の部員の他に引退したリアス先輩と朱乃先輩も居た。二人は時々部室に顔を出すとは言っていたが、今回二人を喚んだのは俺だったりする

 

ゼノヴィアは今回は生徒会の仕事で居ないけど、こういう時も有るさ・・・と云うか生徒会長だからこっちに顔を出すよりも生徒会を優先するのが当然だしな

 

その代わりと言ってはなんだが特別ゲストとしてオーフィスとリリスがソファーにちょこんと座って出された紅茶とお菓子(今はポッキー)をポリポリ食べている

 

「それでは事前に軽くお伝えした通り、本日の特別議題はリリスのお社についてです!」

 

立案したのは俺なので開始の宣言は俺だ

 

「そっか、確かに今はリリスも居るのにオーフィスにだけお祈りするのもなにか違うかもな」

 

「は、はい。では先ず幾つかの案を出して、最終的にオーフィスさんとリリスちゃんの意見を取り入れつつ選んでもらうという形にしたら良いと思います」

 

イッセーの感想にアーシアさんも意見を出しながら全体の流れを決める

 

アーシアさんがオカルト研究部の部長に就任してからまだ一ヵ月程度だけど皆の意見に只管「はい」とだけ答えていた時と違い、緊張しながらも部長としての責務を果たそうとしてくれている

 

特に今日はリアス先輩や朱乃先輩も居るし、アーシアさんにとってはプチ授業参観みたいなものだろう。流石の二人もオカルト研究部で会議とかが有る日には顔を出したりはしないからね

 

そしてアーシアさんが「それでは皆さん。なにか意見は有りますか?」と俺達に訊くと先ずはイリナさんが手を挙げる

 

「はいは~い!リリスちゃん専用のお社を建てる!お社二つで御利益も二倍よ!」

 

「―――悪く無い案だと思うけど、その場合何処にお社を建てるかが問題だね。イッセー君の家の屋上に置かれているお社は一つである事を前提に建てられてるから、仮にその隣にもう一つ建てたら少しバランスが悪くなってしまうかな?」

 

イリナさんの提案に祐斗がそれに対しての懸念事項を口にし、アーシアさんが事前に用意した会議用のホワイトボードに意見を纏める

 

「な、ならリリスちゃんのお社はイッキ先輩の屋上に建てると云うのは如何なんですか?対となってる感じも出せますし、イッキ先輩の家の屋上は空いてますよね?」

 

確かにギャスパーの意見なら間取りの問題は解決だ。この辺では突き抜けて高くて高級な地上6階の二つの家の屋上に対となる円環の双龍(ウロボロス)のお社が祀ってあるとか傍から見るとロマンが有る

 

「確かに同じ間取りでリリスのお社を建てる事は出来るな・・・でもなぁ」

 

「ええ、それぞれのお社にお参りするのに一々二つの家の屋上にまで出向かないといけないというのは少々不便ですわね。私たちならば軽く認識阻害を掛けた上で跳躍して屋上から屋上へ渡る事も出来ますが、流石にはしたないですわ」

 

「面倒です」

 

俺が口を濁すとレイヴェルと白音が濁した部分を代弁してくれた。ハッキリ言って面倒くさい

 

ジャンプして良いって言うなら俺とか黒歌とかイッセーとかゼノヴィアとかならそれ程気にはならないと思うけど、この二つの家の住人の大半は気になるだろう

 

少数しか得をしない時点で却下だ。かと言って律儀に階段で移動すると、地上6階で屋上まで含めると7階までを昇って下ってを2往復しなきゃならんからな

 

「なら、今有るお社の祀る対象をオーフィスちゃんとリリスちゃんの二人に変更すると云う手も有りますわね。複数の神様を一纏めのグループとして扱うのは日本ではそれなりに見かけますし、今のオーフィスちゃんとリリスちゃんは二人で無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)と言っても過言ではありませんもの」

 

この国だと七福神とかが有名どころかな?寧ろ七福神の個々の名前を全員分即答出来る人って少ないんじゃないだろうか?

 

「でも、今有るお社は既にオーフィスのお社として神事を執り行ってるのよね。そもそも朱乃の意見を採用出来るのかしら?」

 

神事とか関係無しにオーフィスとリリスが了承すればそれで良いって事にもなりそうですがね

 

ただ確かに最初から複数の神様を祀るなら兎も角、後付けで祀る神様を増やすってのはなかなか聞かないよな

 

しかしその辺は抜かりはない。一応提案者だけあって面倒そうな話は予測が付いた分だけは下調べもしておいたのだ

 

「それについては八坂さんに事前に確認を取りました。元々祀ってあるそのお社の主神が了承するなら新たに神事を結び直す事は可能だそうです」

 

皆が頭を捻る中でアーシアさんが方向性の一部を定めようとリリスに意見を求める

 

「リリスさんは二つのお社か一つのお社かどちらが良いですか?」

 

その質問にリリスはオーフィスの悩む仕草と同じようにユラユラと頭を左右に揺らして暫く考える

 

「どっちでもいい」

 

ありゃりゃ、まだハッキリとした自己主張とかは難しいか?

 

「でも、ふたつなら、もうひとりのリリスといっしょがいい」

 

あ~、ギャスパーの意見が完全に粉砕された感じだな

 

形は如何あれオーフィスと離れたくないって事か

 

「それでは、オーフィスさんのお社に新たにリリスさんをお祀りするという事で宜しいでしょうか皆さん?」

 

アーシアさんの締めくくりの言葉に特に反対意見や他の案も出なかったのであと少しだけ細かいところを決めてから本日の臨時会議は終了となった

 

後日、イッセーの家の地下の転移魔法陣からお客さんがやってきた

 

「イッキ、皆の衆!九重、ここに参上じゃ!」

 

そう、やって来たのは九重だ。前回オーフィスのお社を建てた時に最後に神事を執り行ったのは九重だし、オーフィスと九重は通信でも話す仲だ。寧ろ九重以外の人選は無いだろう

 

「九重、九重!」

 

「おお、フィス殿!ぬらりひょん様との一件の時以来じゃのう!そして、そちらが新しく龍神として祀りたいというフィス殿の妹のリース殿なのじゃな?双子とは聞いておったが、本当にそっくりじゃのう」

 

九重にはリリスの名前はリースと伝えている。双子のドラゴンの子供、フィスとリースだ

 

「くのう?くのう」

 

「うむ!私が京都を束ねる九尾の狐。八坂の娘の九重じゃ!リース殿、会えて嬉しく思うぞ。今日はリース殿の為にも張り切って神事を行うつもりじゃ!」

 

珍しく微笑を浮かべるオーフィスと無邪気な笑顔の九重に二人に釣られて笑みを溢すリリス

 

三人で輪になるように手を繋いではしゃいでいる・・・子供って本当に理屈じゃ無く本能で友達作るよな

 

「如何したイッキ?そんな遠い目ぇして?」

 

「いやぁ、遠い昔はあんな頃も有ったのかなってさ」

 

「なに無駄に老けたような感想溢してるんだよ?精々数年前だろうが」

 

俺とお前じゃ時間感覚が微妙に異なるんだよ。転生して二度目の人生・・・って一応イッセーも転生者ではあるのか。悪魔になってから半年ちょいの赤ん坊的な意味で

 

まぁ高校生なら小学生くらいの時を懐かしむのはそこまで変じゃないと思うけどな

 

それから例によって九重の付き人の狐のお姉さんが俺達に京都土産の風呂敷を渡してから一足先に帰り、俺達は屋上に移動して九重の神事が終わってから改めてオーフィスとリリスのお社に軽くお祈りした

 

それから俺達は皆で連れ立って近くの大型のショッピングモールに買い出し兼遊びに向かう事にした。それと言うのもアグレアス奪還が終わった後は冥界各地で起きる暴動の鎮圧とかで悪魔が大半を占める俺達はリリスの生活品の買い出しとかの時間を殆ど取れなかったのだ

 

一応オーフィスの部屋や私物で共有できるものとかは一時的にそうしてもらったし、必要最低限のものとかは買えたけど、逆に言えばそれだけだ。そこで今回はリリスに必要なモノの買い足しと九重の駒王町への案内も含めてショッピングモールへ来たという訳だ

 

オカルト研究部の面々がぞろぞろと歩いてたら注目を集めるけど、九重やオーフィスにリリスに万が一が有っても困るからな

 

オーフィスとリリスが物理的にどうにかなる事は無いだろうが、手を出した相手の方が消し飛びかねないからね

 

それにこのグループの大半が女性陣だからついでに入り用なモノが在れば買えるので、リリスをメインに据えながらも全員での買い出しと言った方がより近い

 

「おや?イッセーにイッキ!それにオカルト研究部を中心としたメンバーが集合してんじゃねぇか!休日に女の子達と一緒にデートたぁ良いご身分だな!!」

 

「と云うかそこに居る金髪少女は京都に居た確か・・・九重ちゃんだったか?でも隣に居る黒髪の双子ちゃんは初めて見るな―――畜生!なんでお前らは美女だけでなく可愛いロリっ子とのエンカウント率まで高いんだよ!・・・へへへへ!そちらの双子ちゃんのぺったんなスリーサイズはどんな感じに・・・可変式?どういうことだ?」

 

松田と元浜が現れた。二人も買い物に来たのだろうが、子供の教育には大変宜しくない。それと元浜のスリーサイズスカウターが仕事し過ぎである。お前本当に人間か?

 

これ以上下手に関わる前に二人に素早く近づいて側頭部に手をやると挟み込むようにそれぞれの頭をぶつけて気絶させ、近場のベンチに寄りそうように座らせる

 

暫くすれば目も覚めるだろうが、元浜は兎も角松田は流石にとばっちり感が強かったな。今度お詫びにジュースでも奢るか。それで十分だろう

 

「では気を取り直して行きましょうか」

 

「ええ」

 

「はい」

 

「うん」

 

皆即答するか頷いてくれたのでさっさとその場を離れる事とした。九重たちはよく分かってなかったみたいだけど、それで良いと思う

 

 

 

「フィス殿!リース殿!これがマッサージチェアというモノらしいのう!・・・う~む、これが気持ち良いのじゃろうか?」

 

俺達の入った入口付近にデカい電気店が見えたので軽く中を覗く事になった

 

様々な最新電化製品が置いてある電気店に体験版のマッサージチェアが置いてあったので九重たちが早速とばかりに座ってみたようだが九重は首を傾げている

 

それも仕方ないだろう。そもそも体格が合ってない上に肩こりや腰痛も無いならマッサージチェアの良さは実感出来ないからな

 

「・・・わぉわぉわぉわぉ・・・」

 

「・・・あぉあぉあぉあぉ・・・」

 

龍神っ娘たちは無表情ながらも楽しそうに振動を受けているから案外気に入ったのかも知れんが、本来の用途で使用される日は来ないな

 

玩具代わりにするには流石に色々とアレなので買わないけどね

 

電気店は時々顔を出すと結構面白いものだ。その後も扇風機の定番ネタのダミ声や炊飯器の米だけでなくパンやケーキに煮込み料理まで調理できるとかいう多機能っぷりに関心するべきか呆れるべきか悩んだり出来た

 

それからオーフィスと共有してるベッドやら服やらもどんどん買い足していく

 

リリスは基本一人でいる事は無いのでリリスの部屋を作ってもあんまり意味がないように思えるけど、折角部屋もお金も余ってるし、将来的にリリスの自立心的なのを刺激するには自室は有った方が良いという話だ

 

皆で真剣に子育てについて考えているような感じだ―――リリスもオーフィスも素直な上に普通の子供とは云えないけど、特に女性陣は可愛がってるよな

 

流石に俺達男性陣は一歩下がった形になるけどね

 

ただこの間はよく俺の膝に白音やレイヴェルが座ってる光景を見ていたからかリリスが俺の膝の上に座ってそれを見たオーフィスがイッセーの膝の上に座ったんだよな。女性陣が自分の膝の上にオーフィスやリリスを座らせる事は多くても、男性陣でそういう事してるのって俺だけだったし興味を持ったのだろう

 

白音やレイヴェルも流石に無垢な龍神様相手に嫉妬したりはしないで『仕方ない』って表情だったしな・・・最も、リリスが離れた瞬間に陣取り合戦が始まったけどな

 

そうして必要不必要に関わらず色んなお店を廻ってからレストランで昼食を頂く事となった

 

「・・・イッセーお前、スパゲティとハンバーグのお供がなんで味噌汁なんだよ!」

 

団体だったので幾つかの席に分かれて座ってたのだが近場に座っていたイッセーの席に運ばれた料理の組み合わせについツッコミを入れてしまう

 

なんというか和洋折衷の失敗バージョンみたいな。どこぞのア○チ県庁舎のようなミスマッチ感を漂わせている

 

「なんだと!米と味噌汁はどんなものもオカズに出来る日本人のソウルフードだろうが!」

 

『オカズに出来る』ってその組み合わせの中で味噌汁がメインなのかよ!?

 

「俺はそういう無駄に調和が取れてないやつが何時かのフェンリルの肩の角くらいに気に喰わないんだよ!・・・あ、今解った。俺ってミスマッチ的なものが苦手なんだ」

 

「また唐突に自分を悟ったな。つっても味噌汁がミスマッチってのは認めねぇがな!」

 

「そこは認めろよ。味噌汁と合わせるならせめて俺が頼んだおろしハンバーグのような和風テイストなやつをだな・・・」

 

「はっ!なにがおろしハンバーグだ。ハンバーグはデミグラスソースでカロリーたっぷり濃厚仕立ての方が美味しいに決まってんだろうが!」

 

「あ゛?」

 

「お゛?」

 

俺とイッセーの間に火花が散る。お互いのこだわりのぶつかり合いだ

 

「ま、まぁまぁイッセー君もイッキ君も落ち着きなよ。折角運ばれてきたハンバーグも冷めちゃうよ?どっちも美味しいって事でここは一つ」

 

「「ステーキ派は引っ込んでろ!」」

 

そんな俺達を諫める為に祐斗が割って入って来たが一喝する

 

祐斗の前に置かれたステーキがコイツは敵だと叫んでいる

 

「大体なぁにがステーキだ。ハンバーグの方が美味しいに決まってるじゃねぇか!」

 

「ああ、ステーキなんて結局分厚い肉塊をそのまま焼いてるだけだしな。ハンバーグとは手間暇の掛け方から違うんだよ!」

 

「分かるぜイッキ。口の中でほろほろ崩れて肉汁が溢れるハンバーグとは比べようがねぇってのに少し大人になると皆『ハンバーグなんてお子様の食べ物よりもステーキ切り分けてる俺、カッコイイ』とか思ってステーキ注文してんだぜ?ハンバーグとステーキでどっちが美味いかって訊かれて『ステーキ』なんて答える奴は皆格好付け(ファッション)に過ぎねぇんだよ!」

 

※全国のステーキ派の方々御免なさい

 

「な、なんでさっきまでケンカしてたはずの二人が意気投合してるのさ」

 

ガ○ダム論争してるところにエヴァ○ゲリオン派が訳知り顔で仲裁に来たら叩かれるに決まってんだろ

 

「ふむふむ。イッキはミスマッチが苦手なのじゃな」

 

「ハンバーグ、美味しい」

 

「おいしい~」

 

ほれ見ろ、龍神様もハンバーグ派じゃねぇか!(偶々頼んだだけ)

 

ステーキよりもハンバーグという結論が出てレストランを去った俺達はその後ゲームセンターやらアクセサリーショップなどを巡っていった

 

レストランから出た直後に何人かが祐斗の肩を慰めるように叩いていたような気がするけど多分気のせいだろう

 

一通り遊んだ後は家に戻ってまた遊び、夕飯を食べた辺りで九重の帰宅の時間となる

 

「今日も皆と遊べて楽しかったのじゃ。京都に修行に来るお主らとはちょくちょく出会っているが、それとはまた別じゃからのう。今はクリフォトとやらのせいで中々こういう機会は無いかも知れぬが、なに、お主らなら軽く蹴散らしてしまうじゃろう」

 

地下の転移魔法陣の上に出現した鳥居を背にして今朝九重を送って来てくれた狐のお姉さんたちと一緒に立つ九重にオーフィスとリリスが体を寄せ合う。それぞれの頬っぺたがくっ付きそうだ

 

「フィス殿、リース殿。詳しい事情は分からぬが、お二人はあまりこの町を離れられぬと聴いた。しかし後一年もすれば私もイッキの家に住む予定じゃからの。それにフィス殿としておったイヅナの通信にこれからはリース殿も出てくれるのじゃろう?」

 

「我、九重と話、する」

 

「する、する」

 

「うむ♪さっきは一年後と言ったがそれまでにもこうして遊びに来る事は何度か在るじゃろう。その時はまた沢山遊ぶのじゃ!」

 

最後に三人でのハグをした後、オーフィスとリリスが魔法陣の外に出る

 

「ではさらばじゃ皆の衆!」

 

転移の光が強く輝き、次の瞬間には九重は京都へ帰っていったのだった

 

 

 

皆が何時ものように修行に明け暮れている中、今の俺は座禅を組んで瞑想をしている

 

瞑想そのものは仙術の修行内容として普通のものだが、今回は修行の為の瞑想ではなくて俺の神器に吸収された『神の毒』、『神の悪意』などと呼ばれる最凶の龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)たるサマエルとの交渉の為の瞑想だ

 

神器との繋がりを辿って深く深く意識を堕とし込んでいく

 

「よぉ、こうして話すのは久し振りだな、マスターさんよ―――どういった心境の変化だい?」

 

声が聞こえてきたので目を開く・・・目を瞑ってるのに目を開くとはこれ如何に?

 

まぁ、そんな精神世界特有の疑問は脇に置いとくか

 

俺は改めてサマエルの姿を見る。以前と変わらず男版ラミアに堕天使の翼が生えた姿だ

 

・・・元々はコイツも聖書の神が生み出した天使の一体だったんだよな?

 

コイツをデザインした聖書の神様の美的センスに脱帽(失笑)である。本当になにを思って下半身を蛇にしたのか?神の考える事は分からん

 

「・・・言われてみればそうだな。まぁ新しいものを創りだす事が得意なヤツだったし、天使とドラゴンを掛け合わせて天使の戦力アップでも企んでたんじゃないか?その試作壱号的なのが俺だったとかな。真相は訊こうにもヤツは既に死んじまってるから訊けないがな」

 

「そう言えば有る程度は思考が伝わっちゃう空間だったな」

 

それにしてもサマエルの憶測が正しいとしたなら聖書の神は『ドラゴン☆エンジェル強襲部隊』とか設立させたかったのかね?最強(ドラゴン)最強(エンジェル)を組み合わせればもっと最強になるとか・・・それ一体どこのアザゼル先生ですか?―――似た者同士かよ!流石はある意味親子だな!

 

「そう言う事さ。それで今回の用事はなんだい?流石に俺様もアンタがこの場で考えた表面的な事しか読めないからな」

 

「そうかい。なら単刀直入に言うけど、この先の戦いでお前の『力』を借りたい」

 

するとサマエルがキョトンとした表情を浮かべた

 

「へぇ、俺の?俺の龍殺しの神の呪いは確か各勢力の代表とやらが封印指定したんじゃなかったっけか?それともなにか別の事で力を貸せって?」

 

ある程度はこっちの事情も知ってるのな。前にグレンデルと闘った時に【神性】の補助を強引に頼んだ時が在ったけど、それと同じような事を頼まれると思ったようだ

 

「いいや、俺が欲しいのはまさにその龍殺しの力だよ。使っちゃいけない力ってのも何事にも例外は在るもんさ・・・最も、標的は666(トライヘキサ)じゃないけどな」

 

666(トライヘキサ)相手にサマエルの呪いの力を使えたら戦力の七分の一程度は減らせるんだけどな。アザゼル先生も首の一つはドラゴンだって言ってたから効くだろう

 

しかし俺の狙いはそうじゃないのだ

 

「なら、アンタは一体誰を呪いたいんだ?」

 

「なに、単純だよ。最凶の龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の力を向けるに足る存在。俺がその力を向けたい相手は―――オーフィスだよ」

 




買い物の内容を本気で掘り下げたら多分2万字くらいはいくんでしょうけど、止めときました

リリスがイッキの膝の上に座りましたがヒロインルートではありません


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第四話 皆で、お泊り会です!

日常パートはこの辺りで〆になりますかね


「やっほ~!遊びに来たわよ~!」

 

そんな元気いっぱいの声と共にオカルト研究部に入って来たのは同じクラスの桐生藍佳さんだ。

茶髪をおさげにしたメガネ女子でエロ知識を教会トリオによく吹き込んでいる

 

オカルト研究部はガッツリと活動するタイプの部活じゃないし、会議とかも何曜日にやるとかってのは基本決まってるから遊びに来やすいのだろう

 

特に3年のリアス先輩と朱乃先輩が居ないとパリッと引き締まるような空気がないからね。こればっかりはアーシアさんでは出せない雰囲気だろう・・・逆に新部長を皆で支えようとする意識が高まる事を見越してアーシアさんが新部長に選ばれたとも聞いたがな

 

それにしても桐生さんもこの分だと新生徒会のゼノヴィアの方にもちょくちょく顔を出したりしてるのかもな。今の生徒会はイケイケ系の生徒が固まってるからね・・・以前近隣の不良校の生徒達のたむろしてる場にカチコミに行った事もあるしな

 

オカルト研究部も加勢してたし、あの時の不良たちにとっては城を出たばかりの勇者がド○クエ歴代のラスボスと裏ボス全員がチームを組んで襲ってくるレベルのムリゲーだったよな・・・トラウマになってなきゃ良いけど

 

「あ!イリナ氏と木場きゅんきゅんを発見!ねぇねぇ、この間提案した事、なんとか成りそう?」

 

桐生さんが祐斗とイリナさんに声を掛ける―――なんの話だろうか?

 

「うん。トスカも大分日本に慣れてきたみたいだし、そろそろ皆との距離を一気に縮めても良い頃かと思うんだ。日本語はまだまだだけど、僕たちなら言語の壁は無いようなものだしね」

 

「ちょっと反則かも知れないけど交流会なんだし、その間は桐生さんかトスカさんには翻訳魔法を掛けたら良いと思うわ」

 

「それは良いわね!流石にまだ日本語を勉強し始めて一ヵ月程度のトスカちゃんとは意思疎通が難しい時も有ったから、助かるわ」

 

「ははは、日本語は世界でも有数の難解な言語として有名だからね」

 

「う~ん。生粋の日本人の私には実感が持てないけど確かに考えてみれば平仮名、カタカナ、漢字、英語、和製英語に同じ発音で意味が違う文字とか日本語ってかなり混沌としてるわよね」

 

成程。祐斗の且つての同士の一人であるトスカさん絡みか

 

確かに彼女は日本に慣れる事と身の安全の確保が第一だったからな

 

「そういう訳だから兵藤。今度の金曜の夜からちょっとお泊り会でアンタの家に行かせて貰うから宜しくね~!」

 

それを聞いたイッセーが飲んでたお茶を咽かける―――まさに寝耳に水といった表情だ

 

「いやいや待てよ!俺ん家でのお泊り会の予定を立ててたって俺はそんな話なんにも聞いてねぇんだけど!?」

 

イッセーが抗議とも云える声を上げるが桐生さんは指を一本立てて"チッチッチ"と左右に振る

 

「そこは勿論リアス先輩にお伺いを立てさせて貰ったわよ。それにアーシアからもアンタの御両親にもキッチリ話を通しておいたわ」

 

哀れイッセーは蚊帳の外であった。まぁイッセーはあの家でのヒエラルキー低めだろうしな

 

「結局仲良くなるのに一番手っ取り早いのは常に一緒に行動して同じ釜の飯を食う事なのよ!そんな訳だから男子諸君も参加しなさいよ。下手にここで分けると壁が出来ちゃったりするからね」

 

桐生さんが俺とイッセーの居る辺りにビシッと指を差す

 

「お、俺達も?でも人によっちゃ男子ってのが一種の壁になったりしないか?」

 

「そこは大丈夫だよ。トスカは以外とお茶目さんでね。性別は特に気にしないタイプだから―――それに僕と一緒に住んでるギャスパー君とはもう打ち解けてるから後はイッセー君とイッキ君だけなんだよ・・・他の男性で鳶雄さんは中々任務で出会える機会が無いし、デュリオさんはトスカにとっては友達というよりは信仰の対象に近いから出会った時は少しアレだったけどね」

 

祐斗が苦笑を浮かべている。出会った当初は教会とか神父とかが憎いとまで言っていた祐斗からしたら少し複雑なところは有るのかも知れない

 

「そっか、トスカさんにとっては目覚めて見れば基本出会う事のないはずの天使が直に目の前に居るって事だもんな。特に人間から天使に転生となるとか信徒の人からしたら尊敬と憧れの目で見ちゃう訳だ・・・あれ?そうなるとイリナさんも?」

 

教会トリオみたいに何かある度に祈ってる感じか?天界の切り札である転生天使なデュリオさんとか多分会った瞬間に祈り倒したんだろうし、同じく天使長たるミカエルさんの『A』であるイリナさんも凄い信仰してそうだ

 

「ええ!私も天使として迷える子羊を導くのは当然の事だもの!よく相談にも乗るし、その度に祈って貰ってるわ!」

 

イリナさんの『相談に乗る』が凄い不安しか感じないんだけど、大丈夫か?

 

するとアーシアさんが少し困ったような顔で補足してくれる

 

「はい。ただ逆に純粋な悪魔であるリアスお姉様の事は少し怖いみたいでして・・・私達のような転生悪魔は木場さんの事も有ってある程度は平気みたいなんですけど」

 

あ~、今までが『人類の敵』としてずっと教え込まれてた悪魔だもんな。純血の悪魔と云ってもグレモリー家とか見た目は完全に人間だし、悪魔の翼も仕舞えるから気になった事も無かったけど、流石にそんな簡単に割り切れるもんでもないか

 

多分祐斗が居なかったら転生悪魔にも苦手意識を拭いきれない感じだったのかもな

 

「あれ?そう言えば純血の悪魔が駄目ならリアス先輩だけじゃなくてレイヴェルもアウトか?」

 

フェニックス家も72柱の純血の家系だからな

 

「いえ、話を聞いてるとトスカさんはレイヴェルさんに対しては苦手意識みたいなものをそこまでは感じないんです。だから純血の悪魔という以外にもなにか理由が有るのかも知れませんが、今のところはよく分かってなくて・・・」

 

『悪魔が苦手』と本人が思ってるだけで本当の理由は別にあるのかね?

 

「それで今はトスカさんが一番気兼ねなくお付き合いしているのは桐生さんなんです。やはり同じ人間であるという事が大きいのだと思います」

 

成程。多かれ少なかれ『悪魔』というのは関係してそうなのか

 

悪魔というのを完全に気にしてないなら、アーシアさんかゼノヴィア辺りと一番仲良くなりそうだもんな―――イリナさんは崇拝対象だから除外するとしてね

 

「OK。つまりは人間である俺もまたトスカさんの人付き合いに一役買っていけるって訳だな」

 

久々に『人間』としてのアドバンテージを活かす機会が来たって訳だ!

 

「あ・・・その・・・トスカさんはイッキさんの事を『人間から悪魔に為るのは以前から聞いた事はあったけど、邪神に為るなんて聞いた事がないです!』と少し怖がっていた様子でして―――先ずは誤解を解くところから始めないといけないかも知れません」

 

「祐斗オオオッ!!お前の出番だ、仕事しろオオオ!!」

 

同じマンションに住んでんだからお泊り会までにトスカさんのその間違った認識に修正を加えろ!

 

「つぅか誰だよ!?トスカさんに余計な事を吹き込んだのは!?邪人なら兎も角、邪神になんてまだなった事ねぇっつぅの!!」

 

「『まだ』なのかい?でもイッキ君は高い【神性】も有るし、寿命だって長いから崇められた時点で現人神という扱いになっても可笑しくないんじゃないかな?」

 

祐斗貴様裏切ったなアアア!!お前は常に中立か味方かのどっちかだと思ってたよ!!

 

ほんとなんなの!?なんで皆して一々俺に邪神という肩書を背負わせようとするんだよ!

 

 

 

 

 

そうしてやって来た金曜日の終業後

 

今日は特にこれと云ってオカルト研究部の活動も悪魔としての仕事の予約も入って無かったみたいなので直で家に帰る

 

こういった時は大概部室で時間を潰す事が多いのだが、今日はお客さんも来るので一足早く解散したのだ―――桐生さんとかお泊り会用の荷物とか家に取りに行かないといけなかったりするからね

 

まぁ俺としては毎日お邪魔してるお隣さんの家にお泊りもなにも無いって気はするけど、あくまでメインはトスカさん(と一応桐生さん)だからな

 

少なくともこの二人にとっては新鮮な体験となるだろう

 

両親にもイッセーの家に泊まる事は当然伝えたけど、親同士でも交流の深いお隣さん相手に心配する事などなにも有りはしないようで普通に許可をくれた

 

俺と黒歌達でイッセーの家にお邪魔して皆でリビングやら自室やらで思い思いにたむろしているとインターホンが鳴り響く

 

それに反応したイッセーが玄関を開けてお客人を招き入れる

 

「お、お邪魔します・・・」

 

「おっ邪魔しま~す♪」

 

「お邪魔します」

 

トスカさんに桐生さんに祐斗がやって来た

 

「おう、先ずは上がってくれよ」

 

「は、はい!これから少しの間、お世話になります」

 

そんなやり取りが聞こえてきた後でトスカさん達もリビングに顔を出す

 

この場に他に居るのは俺と黒歌と白音にレイヴェルとリアス先輩だ

 

全員で態々リビングで待つ事も無かったし、かといって同じお客様組の俺達も誰かの部屋で待つのもあれだったからな

 

「いや~、男子の家に泊まるってのは初めての経験だわ~・・・と云っても兵藤と兵藤のおじさん以外は基本女の子ばっかだから、もう殆ど女子の家って言えるわよね」

 

「うっせぇ桐生!それを言ったらイッキの家だって似たようなもんだろうが!!」

 

いやいやイッセー、女子4人と9人はかなり違うぞ

 

オーフィスとリリスも部屋は一応イッセーの家の方に在るんだしな

 

しかしそこで一人足りない事に気付いたので祐斗に訊いてみる事にした

 

「そう言えばギャスパーは如何したんだ?」

 

「ああ、ギャスパー君は後から転移魔法でヴァレリーさんと一緒にここに来るよ。折角なら集まれるだけ集まろうって話になってね―――今は神の子を見張る者(グリゴリ)でヴァレリーさんの健診を行っているはずだよ」

 

お泊り前の健診ね。奪われた聖杯を取り戻すか、もう少し時間が経つまではギャスパーの心配っぷりは治らないかな?

 

「まっ、流石に今の時期は仕方ないか」

 

「そうだね。あの二人の為にも早く聖杯を取り戻さないとね」

 

ヴァレリーさんはアザゼル先生作の聖杯の欠片を使用したペンダントで意識を取り戻してるけど、それも特殊な結界の中という条件付きの話だからな

 

結界は主に俺とイッセーの家に祐斗とギャスパーの住んでるマンション。後はオカルト研究部の有る旧校舎と神の子を見張る者(グリゴリ)・・・大体オーフィスとリリスの活動圏内と同じ場所に張られているだけだ―――駒王町全体とかには張れないのか、張れるとしてもコストが掛かり過ぎるのだろう。恐らくだけど後者かな?

 

オーフィスとリリスについてはトップ陣の間では公然の秘密的な扱いになっているところも有るから少し工作すれば割とすんなり出掛けられるけど、ヴァレリーさんは下手に結界圏外に出たら永眠だもんな・・・折角ギャスパーと同じく昼間も活動出来る吸血鬼であるデイライトウォーカーなんだし、聖杯を取り戻した暁には皆で旅行とかに行くのも良いのかも知れない

 

「いらっしゃいトスカさん、桐生さん。歓迎するわ」

 

リアス先輩も二人に挨拶をするがトスカさんは純血の悪魔であるリアス先輩への苦手意識からか祐斗の後ろに隠れてしまった

 

本当に『悪魔』というだけで駄目なのだろう・・・当のリアス先輩も苦笑するばかりだ

 

どうにも昔、元教会の信徒だった祐斗を眷属とした時も、最初の内はリアス先輩たち悪魔に対して敵意剥き出しだったみたいなので、それと比べれば可愛いものなのだろう

 

まぁ今回のお泊り会は仲良くなる為の企画なのだし、焦る必要は無いだろう

 

それとトスカさんは確かにレイヴェルにはチラリと目線を向けてはいたけど縮こまるという程の反応ではないし、この違いはなにが原因なんだろうな?

 

そうしているとトスカさん達が来たのが分かったのかアーシアさんが上の階から降りてきた

 

「皆さんいらっしゃったのですね。二階の空き部屋でお茶のご用意が出来てますよ」

 

如何やらアーシアさん達が団らんの場を整えてくれてたらしい。空き部屋と云ってもソファーやらテレビやらは整っているのだろう・・・俺の家にも幾つかの赴きの異なるゲストルーム的な空き部屋も普通に在るしな。少なくとも一般家庭ならば一生必要なさそうだけど、今の俺もイッセーも既に『一般』からは逸脱しちゃってるからね

 

神や魔王や伝説の魔物や妖怪がある日突然泊まりに来ても別に可笑しくないレベルでお偉いさん方との繋がりが出来ちゃってるからな

 

オーフィスとリリスにフェンリルが住んでる時点で今更か―――封印枠まで含めたら二天龍の片割れのドライグにサマエルもガチで伝説の登場人物だからな

 

「よ~し!お茶も良いけどその前にアーシアの部屋の箪笥の中身だけでも物色するわよ。アーシアが私の知らないところでどんなエロエロな勝負下着を購入しているか、興味あるわ~♪」

 

「はうぅぅ!待って下さい桐生さ~ん!!」

 

ズンズンと上の階のアーシアさんの部屋を目指す桐生さんをアーシアさんが涙目で追いかける

 

―――ご愁傷様です

 

「俺達は先に空き部屋とやらに行くか」

 

「まぁ桐生の奴も本人も言ったように直ぐに切り上げてくるだろうな」

 

そうしてリビングに残されたメンバーも二階に向かう

 

「わっ!これとかお尻丸見えじゃない!いやぁ、こんなエロいの買ってるなんてあの純情っ娘だったアーシアが成長したのねぇ。お姉さん嬉しいわぁ―――これで兵藤を誘惑するんでしょ?」

 

「はわわわわ!見られちゃいました~!!そ、その下着は前にゼノヴィアさんとイリナさんと一緒に買い物に行った時にお揃いのものをと購入したのであって決してそういう意図なんかじゃ」

 

「はっは~ん。つまり教会トリオのトリプルセクシャルパンツで兵藤に迫ろうって魂胆ね。やるじゃないの。兵藤が干物になるまで搾り取ってやりなさいよ!」

 

遠くの開け放たれた扉から桐生さんとアーシアさんの会話が漏れてきた

 

「おい、イッセー。鼻息荒くしてねぇでさっさと行くぞ」

 

と云うかアーシアさん。そんな下着を単にお揃いとして買ったとか言い訳が下手過ぎるだろう

 

それから数分もしない内に桐生さんとアーシアさんもやって来た

 

アーシアさんの顔が紅く染まってるのは放置で良いだろう

 

そうして皆で思い思いの場所に座って歓談する・・・黒歌は「これっぽっちのお菓子じゃ足りないにゃ~」とか既に寝っ転がって足をパタつかせながら愚痴っている。この後夕飯が有るんだからせめてその後にしろって

 

そんな姉のだらしない姿に軽くため息を吐きながらも先ずは白音が話題を振る

 

「トスカさん。新しい暮らしは如何ですか?祐斗先輩は兎も角、ギャー君なんかはトスカさんに怖い想いをさせたりしていませんか?」

 

「い、いえ!最初はハーフのヴァンパイアと聞いて戸惑っちゃったんですけど、段ボール箱に入ってる姿を見てたらなんか如何でもよくなっちゃって・・・紙袋を頭に被った時もイザイヤが事前に教えてくれていたので驚きはしなかったですし、それに同じヴァンパイアのヴァレリーさんも段ボール箱に入ってるのでヴァンパイアに対するイメージが崩れちゃったと言いますか・・・」

 

「ちょっと待った!ヴァレリーさんも段ボールヴァンパイアに為ってんの!?ギャー助が勧めたのか!?それともヴァレリーさんが真似したのか!?」

 

イッセーがついツッコミを入れた。気持ちは分かる。後者ならまだしも前者ならアウトだぞ!

 

「あ、えと、ヴァレリーさんはギャスパーさんに勧められたと言ってました」

 

アウトオオオオオ!!一体何を幼馴染にお勧めしてるんだあのバカは!

 

「あの、トスカさん。まさかヴァレリーさんは段ボールだけじゃなく、穴の開いた紙袋まで被ったりしてないですよね?」

 

俺もつい深堀して訊く事にした。ヴァレリーさんが紙袋被ってる姿とか見たくねぇぞ

 

「は、はい。今のところそういった姿は見た事はないです」

 

はぁ、良かった・・・なんで最初の質問からこんなに疲れなきゃいけないんだよ

 

「イザイヤは白音さんは妹のような人だと言っていました。良かったら白音さんから見たイザイヤの事を教えて貰えませんか?」

 

「はい。私にとっても祐斗先輩はお兄ちゃんのような人です―――そうですね。祐斗先輩は料理もお菓子作りもとっても得意なんです。祐斗先輩が眷属となってから日本での生活に慣れるまで私も一時期祐斗先輩と同じ部屋に住んでいたのですが、私が出来合いの物ばかり食べていたのを見かねた祐斗先輩が料理を作ってくれたんです」

 

そっか、その頃はまだ白音も黒歌との(わだかま)りが解消されてない時期だし、最近まで白音も料理出来なかったんだもんな

 

同じ部屋に住んでるなかで健啖家の白音のスーパーの弁当やらのゴミが積み重なっていく様子を見ていれば色々と心配にもなるか

 

毎日二人分じゃ済まない量の料理を作ってれば、祐斗が元々生真面目な性格だったってのも相まって短期間でも料理の腕は上がるわな

 

「あらあら、祐斗君の昔話ですか。私にとっても祐斗君は弟みたいなものですから、私の方からもお話いたしますわ。そうですわね。彼が眷属となって少ししてから皆で牧場に行ったのですが、その時の祐斗君は初めての牛の乳搾りに夢中になってしまって・・・あの頃はまだ仲良くなったばかりだったので自分がはしゃいでる姿を見られたのが気恥ずかしかったのか私達に見られているのを意識した瞬間に顔を赤くしてしまったんですのよ」

 

そんな風に祐斗の恥ずかしい過去話に花を咲かせているとリアス先輩に朱乃先輩、アーシアさんが席を立つ

 

「そろそろお義母さまたちも帰って来られる頃だから夕飯の準備をしてくるわね。用意が出来たら呼びに来るわ」

 

「あらあら、うふふ♪何時もより腕が鳴りますわね」

 

手伝いは無理か・・・幾らキッチンが広くても動ける人数は限られてるからな

 

黒歌と白音が居る分、人数分以上に用意する必要が有るけど流石に下手に手を出しても邪魔になりそうだ・・・仕込みの分だけでも魔力でパパっと時短するのだろうか?

 

その後、イッセーの両親とロスヴァイセさんが帰宅してから皆で食卓を囲む

 

「いやぁ、何時も以上に賑やかだねぇ母さんや」

 

イッセーのお父さんがビール片手にワイワイとした雰囲気を楽しんでいる

 

「そうねぇアナタ。今日は腕によりを掛けちゃったわ♪」

 

「母さんの料理は何時だって最高だよ。そうだ!折角だし今度は一度一輝君の御両親も誘ってみようか。将来悪魔のお嫁さんを貰う息子を持つ者同士、一度じっくりと話し合ってみたいものだ」

 

ブッハ!?今なんて言いました!?

 

兵藤家組以外が驚きで固まってるとイッセーが後頭部を掻きながら答えてくれた

 

「あ~、実は父さんと母さんには俺が悪魔に転生したって事とか話したんだよ」

 

「いや、お前そんなアッサリと・・・」

 

「そんな訳ねぇだろ。前にイッキが何時か両親にも打ち明けたいって言ってたのを聞いてから俺もここ数ヶ月はスッゲェ悩んでたんだぜ?でも思ったんだ。この先両親に打ち明けないでいたとしても危険度は大して変わりないし、何十年も先に両親と出会う度に魔力で見た目の年齢を変えていたら騙してるような気分になって、その時の俺はちゃんと父さんと母さんの息子として胸を張れるのかな?ってさ―――バカな俺にはそういうのは難しいんじゃないかと思ってよ」

 

親子で種族と云うか寿命が著しく異なる事からくる葛藤か・・・俺も余り人の事言えた立場じゃないけど

 

「はっはっは!なぁに、悪魔だろうがなんだろうがスケベでバカなうちの息子だって事実に変わりはないさ。それに悪魔の世界は一夫多妻も認められてるんだって?子供たちでサッカーチームを組める程どころかサッカーチームでのトーナメント戦だって出来そうじゃないか!」

 

それは・・・将来的には可能かも知れないけど、悪魔の出生率の低さを考えるとかなり先の話になるんじゃないか?転生悪魔は純血の悪魔同士と比べたら子供が出来易いらしいけど、それでも数百年は軽く掛かるだろう

 

まぁそれでもイッセーラヴァーズ全員の子供を合わせれば数十年以内に1チームくらいは結成出来るかもな

 

如何考えても内容が超次元なサッカーになりそうだけどね

 

 

 

夕飯を食べ終えた俺達は男女で別れてお風呂に入る。特大風呂も普通に複数有るからこそ出来る所業だ。お風呂好きには堪らないだろう・・・清掃とかの手間を考えなければ

 

悪魔とかの超常の存在なら魔力とかで浄化出来るけど、一般人は肉体労働で掃除しなきゃならないと考えると流石に厳しいと言える

 

「ふぅ・・・それにしてもイッセーも良かったじゃないか、両親に受け入れて貰えたみたいでさ」

 

広い湯船に肩まで浸かって一つの極楽を味わいつつ感想を述べる

 

「そりゃな。でもいざ話す時とか緊張しまくってたんだぜ?それに母さんは悪魔として危ない戦いも在るって聞いた時、すげぇ心配してくれてさ。そこら辺の事細かい説明やら説得やらで話の進行が一時期止まっちまったよ。今でも将来俺がレーティングゲームに出場する事にだって否定的・・・とまでは言わないけど賛成はしてくれなさそうでさ。俺の事を心配してくれるのが嬉しいやら申し訳ないやらで、今でも頭の中で結構グルグル回ってる感じだよ」

 

「そっか・・・何時か『D×D』の活動は兎も角、レーティングゲームの方は応援に来てくれるようになると良いな」

 

「ああ!つってもまだ俺達デビュー前なんだけどな」

 

「そうだね。僕はリアス元部長の下でイッセー君と一緒に戦いたいし、逆に『王』となったイッセー君の率いるチームとも戦ってみたい・・・悩ましい限りだよ」

 

肩を並べて戦いたいし、正面から殴り合いもしたいとか祐斗も割と熱血キャラだよな

 

「後はイッキ君とも戦ってみたいんだよね。だから今は噂程度だけど各勢力合同のレーティングゲームが始まるかも知れないというのには密かに期待しているんだよ」

 

「その時は容赦なく叩き潰してやるよ。俺がチームを率いるなら魅せプレイとか期待すんなよ?まぁ俺やイッセーが『王』として出場するならメンバー集めから始めないといけないんだけどさ―――黒歌とレイヴェルは良いとして白音はなぁ・・・もしもそのレーティングゲームが本当に開催されるとしてリアス先輩と白音を奪い合うところから俺の勝負は始まりそうかもな?」

 

勿論白音の意思が一番だけど、白音に選ばせるのもまた酷な気もするし、どっちに転んでもいいようにしないとな

 

「俺は如何なんだろうな?もしも俺が上級悪魔になったならアーシアとゼノヴィアは俺の眷属として付いてきてくれるって言ってたし、イリナも頼めば一緒のチームに入ってくれそうだけど流石に4人は少なすぎだもんなぁ」

 

「それを言ったらイッセー達が抜けたらリアス先輩の眷属も人手不足になるだろう。イッセーとか実質『兵士』8人分なんだし」

 

イッセーも祐斗もメンバーについて頭を悩ませている。まぁ今はメンバーに対する細かい規定とかも分かってないどころか始まるとさえ言われてない状況だもんな

 

俺?俺はもう大体のメンバーは決めている―――それもこれもトライヘキサが世界をぶっ壊さなければの話だけどな

 

ミルたんを引き込んだらほぼ勝利が確定するとは思うけど、それだけはダメだと俺の最後の良心が訴えている―――死んでも勝たなきゃいけないような理由も無いから別に良いんだけどさ

 

「ん?そういや祐斗は上級悪魔に昇格した時は自分の眷属とかなにか予定は有るのか?『D×D』に所属してる以上は功績も溜まるだろうし、他の勢力の目も有るから悪魔の上層部も転生悪魔って理由で昇格をそこまで渋れないだろ?」

 

イッセーもそうだが祐斗も普通に考えれば成人悪魔になる前には上級悪魔に昇格して悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を賜るだろう

 

「ああ、僕は悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を貰うつもりは無いよ。例え上級悪魔に昇格したとしても、僕はずっとリアス元部長に剣を捧げるつもりだからね。『王』として活動すると如何してもそちらにも時間を盗られちゃうからね」

 

二足の草鞋ってやつか?・・・少し意味合いが違うか

 

そんな風に考えてるとイッセーが驚いた声を出す

 

「え?悪魔の駒(イーヴィル・ピース)って受け取り拒否出来んの!?」

 

「拒否・・・と云うよりは保留が近いかな?申請すれば何時でも駒を受け取れる状態にする事は出来るんだよ。ほら、レイヴェルさんだって自分の眷属を持ってる訳じゃないだろう?」

 

言われてみればそうだ。レイヴェルだって上級悪魔のフェニックス家出身なのに駒とか眷属とかの話は聞いた事無いな。成程、上級悪魔なら(すべか)らく悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を持ってると云う訳じゃないのか

 

恐らく次期当主と言い方は悪いがそのスペア辺りまでは必須なんだろうけど、それ以外は眷属を持つか持たないか選べるんだな

 

でも多分これって主に転生悪魔に向けた制度だよな?

 

悪魔の出生率の低さを考えると今のフェニックス家みたいに4人も兄妹が居る方が珍しいはずだし

 

貴族悪魔は恋愛結婚よりも最初のリアス先輩とライザーのように義務的・政略的な結婚が多そうだから跡継ぎを一人儲ければ夫婦の仲とか別居するレベルで冷え込みそうだし、男漁りや女漁りで万が一子供が出来ても上級悪魔として扱って悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を渡す事とか無いだろうし・・・うわ、なんかドロドロした貴族社会の裏側まで見えてきた

 

そうして駄弁りながら泡の出るジャグジー風呂やらサウナやらを堪能した後で風呂から出たが部屋に戻ってもまだ女性陣は戻って来てはいなかった。ただその代わりにギャスパーとヴァレリーさんにルフェイが部屋で寛いでいた

 

「あ!イッセー先輩に祐斗先輩にイッキ先輩。皆さんが居ない間にお邪魔させて貰ってます」

 

ふむ。取り敢えず今は段ボールも紙袋も無いな―――良かった。ギャスパーは兎も角ヴァレリーさんが紙袋被ってたら真面に対応できたか分からなかったからな

 

「おう、三人ともいらっしゃい。俺らはもう飯も食ったし風呂も今入って来たところだけどそっちは大丈夫か?」

 

「は、はい。どの程度時間が掛かるか判らなかったので家の方で済ませてから来ました」

 

ギャスパーが軽く報告すると次にルフェイが立ち上がってペコリと礼を取る。何時もの水色魔女ルックではあるけど、とんがり帽子は流石に室内では被ってないで後ろに置かれている

 

「本日は居候の身でお茶会に招いて頂き有難うございました。私も先にお兄様やヴァーリ様方にご夕飯を用意してからこちらに来たので大丈夫です。軽くシャワーも浴びて来ましたので」

 

ヴァーリ達ェ・・・何時まで彼女に食事の心配をさせ続けるつもりだ?

 

「うふふ♪お邪魔してます。お城に居た頃と違って皆でお泊り会なんて楽しみです♪沢山の『声』に囲まれるのも久しぶりですね」

 

最後にヴァレリーさんが少しコメントに困る発言をしながらもニコニコ笑顔で楽しそうにしている

 

『声』って聖杯の影響で聞こえていた亡者の声ですよね?

 

そんなこんなをしていると女性陣たちもお風呂を上がったみたいで、全員が湯上りの美人度3割増し状態で部屋に入って来る

 

「あら、ギャスパー達も来ていたのね。これで声を掛けたメンバーが全員揃ったわね。それじゃあ本格的に騒いでいきましょうか!」

 

リアス先輩の号令の下、祐斗の作った各種お菓子やケーキ、市販の駄菓子などと共に祐斗を中心にした昔語り、テレビゲームにボードゲーム、トランプ等で遊んでいく

 

そうして祐斗の昔語りやここ最近の流行などの話題が尽きてきた辺りで桐生さんがイヤらしい笑い声を出し始めた

 

「ムフフフ♪ねぇねぇ、こういう時の定番と言ったらやっぱり恋バナよね?兵藤に有間君とかこ~んな綺麗どころと一つ屋根の下で、親も公認なんでしょ?ラッキースケベからプロレスごっこまで、ネタは豊富なんじゃない?・・・あ、木場きゅんとギャスパー君は除外で良いわよ。二人は恋愛方面では良くも悪くも普通そうだし・・・まぁギャスパー君とヴァレリーさんのおねショタネタが有るなら何時でも受け付けるけど♪」

 

遂にきてしまったかエロトークの時間

 

桐生さんが居る時点で何時か話題が振られるかもとは思ってたけど、恋バナ(エロトーク)とかせめて女子だけの時にしてくれませんかね?

 

ただ普通に除外された祐斗とギャスパーはそれぞれ首を捻っている

 

「ラッキースケベはまだ解るけどプロレスがなんの関係が有るんだい?」

 

「お、おねショタってなんですかぁ?・・・この歳でおねしょなんてする訳ないですぅぅう!」

 

うん。取り敢えずお前らはエロトークの舞台に上がる資格すらないのはよく分かったよ

 

意味についてはぐーぐる先生に訊いて来い

 

もしくはアザゼル先生でも可・・・オススメはしないけど

 

「エロと言ったらおっぱいだ!乳、尻、太もも!女の子のエロスを強く感じられる部分は多いけどおっぱいに勝る部位は無いね!尻派である歴代の白龍皇の先輩方と日夜答弁を重ねている俺だけど、この答えだけは不動だぜ!!」

 

「イッセー、それは単なるエロトークであって恋バナというオブラートにすら包まれてないぞ」

 

「うっせぇイッキ!だったらお前はどこが一番好きなんだよ!?この場の女子はエロトークにも寛容なんだから学園に居る時みたいに誤魔化しは無しだぞ!」

 

おい、そこに居るロスヴァイセさんが「そっだエロエロな話さ、わたす許容なんかしてねぇだ」とか言ってるのは耳に届いてないのか?

 

だがここで話に乗って来たのは以外にもゼノヴィアだった

 

「そうだな。私達は何時もイッセーの趣味趣向を研究しているが、偶には他の意見を聴くのも良いのかも知れん。多用は出来ずともアクセントとして他のエロを織り交ぜる事で何時もと違った攻め方が出来ると思うからな。もしかするとそれが子作りへの道を拓くかも知れないからな」

 

いや、ゼノヴィアは攻め方を変えるよりも時には一歩抑えた方が上手くいきそうな感じするけどな。イッセーはグイグイ迫られるとタジタジになっちゃうみたいだし

 

他の皆も興味というよりは面白がってる感じに俺の答えを待っている

 

「・・・答えなきゃダメ?」

 

「『ダメ!』」

 

畜生!即答された!

 

「さぁイッキ。お前はおっぱい派か?それとも尻派か?俺達二天龍の崇高なる議題だぜ!」

 

二天龍と一括りにしたらドライグとアルビオンが泣くぞ

 

そう思いつつも俺は俺の真実(こたえ)を述べる

 

「太もも派・・・かな?」

 

「な・・・まさかの赤龍帝(おっぱい)白龍皇(しり)邪神(ふともも)の三竦み・・・だと?」

 

お前最初に乳、尻、太ももの三択を出してたじゃねぇか!その中だったら太ももだよ!そこが一番チラリズムの割合が高い部位なんだから俺のチラリスト魂が魅力を感じやすいところなの!

 

「ふ~ん。そっかそっか、有間君は太ももなのねぇ。それで黒歌さんたちの太ももをベッドの上でケダモノのように舌を這わせて舐め廻してるって事か~」

 

おいそこのエロメガネ女子。なに訳知り顔で頷いてんだよ!

 

「男は皆オオカミってやつよね。有間君もオオカミに変身してるんでしょ?」

 

「そんな訳ねぇだろ!」

 

桐生さんの言葉を力を籠めて否定する。嘘じゃないぞ?俺の神器が亜種として至って無かったらオオカミに物理で変身してたかもな

 

「にゃはは♪私はイッキがケダモノでも構わないんだけどね♪(ネコ)白音(ネコ)レイヴェル(トリ)九重(キツネ)と揃ってるんだし、イッキもオオカミになればケダモノパーティーの出来上がりにゃ♪」

 

ケダモノパーティーってなんかイヤだなそのネーミング

 

そう否定すると桐生さんがメガネをキラリと光らせる

 

「成程分かったわ。有間君は同じケダモノになるよりも黒歌さんたちの調教師(ブリーダー)でいたいって事ね!彼女達に首輪を付けてあんな事やこんな事まで仕込むつもりなんでしょう!有間君のドSメーターが振り切れてるのが見えるわ!!」

 

そんなもん見ないで宜しい!

 

そうして暫く皆に弄ばされた後でやっと俺も解放され、深夜近くに男女で部屋を別れて眠りにつく

 

俺達はイッセーの部屋に布団を敷いて寝たけど、以前の家で冬場でも固いカーペットの上で毛布に包まって寝てた時とは比べるべくもない・・・そう感想を溢すと憐みの視線を向けられたけどな

 

翌日も常に全員一緒とはいかないが、買い物に出かけたり修行をする時にトスカさん達が見学に来たり祐斗の指導の下でお菓子作りに励んでみたりと土日も遊び倒した

 

そうして迎えた日曜日の終盤にトスカさんが意を決してリアス先輩に話し掛ける

 

「あの・・・リアスさんから見たイザイヤの事を私にも教えてくれませんか?お二人が出会った時からの事を!」

 

如何やらトスカさんがリアス先輩を避けてしまっていた一番の理由は復讐に駆られてた祐斗の過去を、その時の様子からして全部知っているリアス先輩に聴いてしまうのが恐かったかららしい

 

白音や朱乃先輩やギャスパーも祐斗の話題を出すとしても当然明るい話ばかりだ

 

それでもトスカさんは大切な仲間である祐斗(イザイヤ)の怒りに囚われた過去もキチンと全て知りたいのだとこのお泊り会の間に決心が着いたようだ

 

「ええ、勿論よ」

 

リアス先輩もそれを了承し、全てを話し終えた時にトスカさんが涙目になりながらも頭を下げる

 

「イザイヤを助けて頂いて、ありがとうございました」

 

涙声になりながらもお礼を述べるトスカさんをリアス先輩も優しく抱きしめる

 

「貴女こそ、生きていてくれて、本当にありがとう」

 

こうして親睦を深める為のお泊り会は無事に終了し、トスカさんもそれからは俺達の家によく遊びに来てくれるようになったのだった




イッセーが両親に打ち明けましたけど、原作の人型ドラゴンという訳でもない彼は打ち明けるハードルがやや下がってる感じです


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第五話 進撃の、合図です!

2月も終わって3月に入り、今年最後の期末テストもとい学年末テストの結果が返って来た

 

駒王学園は割と名門校だけど学年末に鬼畜問題を出題するような先生は流石に居なかった様だ

 

アザゼル先生とかは授業中のちょっとした小話に挟んだネタ問題とかを盛り込んだりしてたけどな

 

「イッセー!イッキ!お前ら俺らのこのテストを見ろ!!」

 

今は丁度松田と元浜が俺とイッセーの眼前に返却されたテストを突きつけている

 

「なんだよ、二人とも平均殆ど80点ぐらい有るじゃねぇか。自慢か?」

 

こいつ等の平均点は何時もここから20点前後は低かったはずだよな?

 

そう言うと松田に激しく否定された

 

「ちっげぇよ!ここ最近ずっと一緒にテスト勉強の誘いをしてたのに悉く断りやがって!折角グレモリー先輩や姫島先輩という二大お姉様を筆頭にカワイ子ちゃん達で溢れているお前らん家でめくるめく勉強会を開催したかったってのに、結局全部むさい男子二人で寂しく膝を突き合って机に向かってただけで終わっちまったんだぞ!お陰で馬鹿みたいに勉強が捗っちまったわ!!」

 

可愛い女の子達に囲まれたキャッキャムフフな勉強会を夢見て計画を立てまくってたんだな

 

その全てが頓挫してその分だけ泣く泣く勉強に力を入れてたと・・・こいつ等って駒王学園に入学する為に中学で本気で勉強してたから、勉強のノウハウ自体はちゃんと持ってるんだよな

 

「いや、松田も元浜も勉強の誘いを断ったのは悪いと思ってるけど最近俺達も忙しくってさ・・・て云うかお前らこの前激レア紳士の円盤を手に入れたって言ってたから、そっちで盛り上がってたんじゃねぇのか?後、もう見終わったなら俺にも貸してくんねぇか?」

 

「黙れイッセー!勉強の合間に紳士の息抜き(DVD観賞)をしようとしても同じ時にお前らが二大お姉様やロスヴァイセちゃん相手に女教師プレイやら他の女の子達とも保健体育の実践勉強やらをしていると考えると、とても満足に集中して観れなかったんだよオオオオオ!!」

 

松田に続いて元浜も叫ぶ。そっか、モヤモヤした気持ちを全部勉強に費やして自分を誤魔化そうとしてたんだな・・・いや偉いよ、そこで勉強を選択できるのはさ

 

「松田、元浜。お前らはそのままマジメにやっていったら多分自然とそこそこモテるようにもなると思うぞ?高等部は難しいかも知れんが大学部に為れば外から女子も入るだろうからさ。お前らはこれを機にエロから脱却したらどうだ?」

 

「ダメよ有間君。そいつらからスケベな部分を取ったら元浜はメガネしか残らないし、松田にいたっては完全に空気と同化しちゃうわよ?」

 

松田と元浜を真人間に誘導しようとしたら桐生さんから待ったが掛かった・・・確かに二人からエロを取ったら輪郭線しか残らないかも知れないな

 

「喧しいわ桐生藍華!ってかイッキも無言で首を縦に振るんじゃねぇ!輪郭線だけってズームアウトした時の背景モブじゃねぇか!」

 

『無言』で首を振ってるだけなのに俺の心の声まで汲み取らないでくれませんかねぇ!?

 

「俺達だってお前らみたいにハーレム築けばもっとキャラ立ちするわ!」

 

微妙にメタい発言するなよ元浜

 

「ああ~、やだやだ。女の子にモテない奴ともっとモテない奴が哀れに騒いでるわ~」

 

「待ていっ!もっとモテない奴とはどっちの事だ!?せめてそこだけでもハッキリさせろ!!」

 

 

 

そんな何時もの光景も終わり、放課後にオカルト研究部で活動する

 

今日は普通に部としての活動が有ったので桐生さんはトスカさんとヴァレリーさんに会いに行った

 

「アーシア部長。これが来年度の部活の予定表です」

 

祐斗が手渡した表を受け取ったアーシアさんがざっと目を通して最初の項目に着目する

 

「はい。新入生に対する部活動の勧誘にポスター作製、体験入部の内容ですね。やはりこの年度の始めは準備が大変そうです」

 

新入生に部活の勧誘か・・・もうそんな時期になったんだよな

 

「なぁ祐斗。新入部員確保って去年は如何してたんだ?白音やギャスパーは身内枠だから良かったとして、その頃から二大お姉様として人気の有ったリアス先輩や朱乃先輩が居たし、祐斗だって女子生徒からの人気は高かったんだから入部希望者はかなり集まったんじゃないか?」

 

部活動の内容じゃなくてその3人目当てで入部したいって人達は絶対に沢山居ただろう

 

その頃の俺はまだ追われる立場だった黒歌の事も有ったからオカルト研究部や生徒会には近づこうとかしなかったしな

 

「ああ、そこは最初の全校生徒に向けた部活発表の時に『入部手続きに関してはポスターに記載』と言っておいて、そのポスターにちょっとした催眠の魔法を掛けておいたんだよ。オカルト研究部のポスターなら堂々と魔法陣も描けるしね」

 

成程。例え入部しようとしても裏の関係者や力の持ち主でないと『やっぱりいいや』と思考が誘導されてしまうんだな。場合によりけりだろうけど表の人間が下手に入っても動きづらい上に当時まだギスギスしてた三大勢力の間で『お前から悪魔の気配がする。取り敢えず殺しておくか』なんて感じに殺されても可笑しくは無かったんだし、必要な処置だろう・・・純粋にオカルトが大好きな入部希望者が居たならそこは少し気の毒だけどね

 

「それにしても、もう直ぐ私達も3年生ですか・・・なんだかとっても早く感じますね」

 

アーシアさんが少し上を見上げて一年を振り返っている

 

怒涛の一年だったから暇を感じる時間も無かったからな―――特にアーシアさん達教会トリオは日常生活すらも目新しいものばかりだったはずだから余計にそう感じるのだろう

 

「私達も2年生です。来月には後輩が来るよ、ギャー君」

 

「うぅぅ・・・先輩としての威厳が出せるか心配ですぅ」

 

取り敢えずギャスパーは女装をしてる限り威厳とか無理じゃねぇのか?まぁ白音もギャスパーも見た目は中等部の一年生でも通じちゃうから出だしは苦労するかもな

 

「裏側の関係者で春から駒王学園に入学してくるのはソーナ元会長・・・いや、もうソーナ様と呼ぶべきかな?そのソーナ様の眷属のベンニーアさんにルフェイさん、それからトスカが入学する予定だよ。もっともトスカは中等部への編入だけどね」

 

「トスカさんはコールドスリープ状態だったからな―――中等部と言えば九重も来年に中等部の一年生としてこの駒王学園に入学するように八坂さんがリアス先輩に掛け合ってたみたいだぞ」

 

「そうなのか!?九重も駒王学園に来るんだな」

 

「ああ、オーフィスやリリスも喜ぶだろうな」

 

オーフィスとリリスは俺とイッセーの家を行き来しているけどやっぱりイッセーの家に居る割合が多い。しかし九重が俺の家に住むようになったら半々くらいにはなりそうだ

 

「・・・木場がソーナ元会長の呼び方を改めるならリアス元部長などはどう呼ぶのだ?私は仕事の場合はマスター・リアスと呼ぶことにしているが、私のように『マスター』か?それとも『主様』とかだろうか?」

 

ソファーで朱乃先輩の代わりに給仕ポジションに着いたレイヴェルの淹れた紅茶を飲みながらゼノヴィアがふと疑問を溢す・・・と云うか生徒会長がシレッとここに居るよな。今日は生徒会の仕事が無かったのかな?

 

「実はそれについては僕とギャスパーくんと白音ちゃんはもう話し合って決めてたんだ。まぁそれも卒業されてからかな」

 

「はい。卒業式が終わってから呼び方は改めるつもりです・・・少し恥ずかしいですけど」

 

「ぼ、僕たちとしては一大決心ですぅうう!!」

 

3人ともほんのりと顔が紅い。てかギャスパーは普通に顔が紅い

 

大体予想が付かんでもないけど、これに関しては卒業式の日を楽しみに待つとしよう

 

卒業式が終わってリアス先輩達と合流する時にはこっそりとカメラを回さないとな!(使命感)

 

撮れた映像は秘密裡にリアス先輩に流せば数年後くらいにからかいのネタに出来そうだ

 

そんな風に話していると部室の扉が"コンコン"とノックされた

 

アーシアさんが「はい、どうぞ」と扉の向こうの人物に入室を許可すると一人の男子生徒が「失礼します」と一礼して入って来た

 

制服の上からでもちゃんと鍛えこまれた様子が見て取れる生徒で以前生徒会選挙の時に壇上で演説をしている時などに見かけている人物だ

 

「ゼノヴィア会長、やっぱりここに居ましたか」

 

黄龍(おうりゅう)か、どうした?」

 

「こちら、例のレポートが出来上がったんで確認をお願いします」

 

「なに、もうか?別に急ぎでも無かったが、お前は仕事が早いな。どれ見せてくれ」

 

彼はゼノヴィアの傍に近寄って手に持っていた書類を差し出し、ゼノヴィアもそれに素早く目を通していく。そんな中、手持ち無沙汰になったのか彼はオカルト研究部の部室内や俺達部員にキョロキョロと目配せしてきた。そりゃあこんな魔法陣だらけでソファーや机を始め、高級品で埋め尽くされたような部屋はしっかり見たくなるよな

 

そんな彼の様子に気付いたゼノヴィアが書類から顔を上げる

 

「ん?そう言えば黄龍(おうりゅう)にはまだ皆を紹介してなかったか?」

 

「はい。会長が近いうちに挨拶の機会を頂けるとおっしゃってから今日まで音沙汰無しでした」

 

おいゼノヴィア。新生徒会が立ち上がってから既に3ヶ月近くは経ってるぞ?彼の言い方から察するに紹介するって言ったのも昨日今日の話じゃないだろう

 

彼が態々オカルト研究部まで来たのだって半分は挨拶の為じゃないのか?

 

「そうか、それはすまなかったな。皆、紹介させてくれ。新生徒会の書記の一人として入った一年の百鬼(なきり) 勾陳(こうちん) 黄龍(おうりゅう)だ」

 

ゼノヴィアも忘れていたのは悪いと思ったのか素直に謝ってから俺達に彼を紹介してくれた

 

「ご紹介に預かりました百鬼(なきり) 勾陳(こうちん) 黄龍(おうりゅう)です。間の勾陳(こうちん)(いみな)・・・まぁミドルネームみたいなものですので百鬼(なきり)黄龍(おうりゅう)で構いません」

 

「へぇー、百鬼って言ったらこの国の人間の術者たちの総元締めみたいな五大宗家の更にその筆頭よね?それに黄龍と言えば百鬼の崇めている霊獣の名前・・・という事は」

 

「ああ、イリナの予想通りだ。黄龍は百鬼の霊獣を受け継いだ百鬼家の次期当主に当たる」

 

立ち位置だけで云えば大王家の次期当主たるサイラオーグさんに近いのかもな

 

そうして皆がその情報に関心したりしている中で一年生組は違う反応だ

 

「百鬼さんとここでお会いするとは珍しいですわね」

 

「百鬼くん。こんにちは」

 

「コーチン、仕事?」

 

挨拶された百鬼も片手を上げて同じ一年生の白音とレイヴェルとギャスパーに挨拶を返す

 

「よっ、何時もの三人組・・・ってか塔城もその呼び方は止めてくれよ。名古屋コーチンみたいでイヤなんだよ」

 

「―――美味しそうだから変えたくない」

 

「どんな理由だよ!!?」

 

百鬼のツッコミが入る・・・まぁ名古屋コーチンは黄色っぽい印象の強い鶏だし、黄龍って名前からも連想してんのかもな

 

「・・・ドラゴンって鶏肉の味がするのかな?」

 

「有間先輩!?」

 

ポツリと考えてた事が口に出たら後輩から『お前もか!』みたいな目で見られてしまった

 

それでもファンタジー食材としてそこそこ有名なドラゴン肉にはやはり興味は有る

 

「如何でしょうか?ドラゴンと言えば姿で云えば爬虫類が近いですし、東洋タイプのドラゴンなら蛇という事になりますわよね?蛇は鶏のササミのようだとも白身魚のようだとも言われていますし、可能性は十分有るのではないでしょうか?」

 

レイヴェルも考察に参加し始めた―――レイヴェルの言うように淡白な味わいなのかね?寧ろイメージだけだとズッシリと肉汁滴ってそうなんだけど

 

「フェニックスまで話に乗るなよ!一応言っとくけど俺の契約してる黄龍は霊的な存在だから食べられないからな!」

 

それじゃあ仕方ないか。尻尾の先くらいなら斬っても再生すると思ったが、諦める事にしよう

 

それから改めて一人ずつ自己紹介を返していく

 

百鬼は俺達の事は既に知ってたようだけど、裏の関係者なら『D×D』は有名だもんな

 

その上同じ学園に通ってるとなれば尚更だ

 

五大宗家も十分有名ではあるけど殆ど日本限定だし、同盟が進んでいる中でワールドワイドに有名な『D×D』は知名度だけなら群を抜いてるからな

 

俺達みたいな立場の者達なら兎も角、例えば冥界の一般家庭の悪魔とかに五大宗家とか言っても精々『名前くらいは聞いたかも?』って程度だろう。今までの五大宗家もよく言って保守的、悪く言えば排他的であったようだし、今のところ同盟も『一応結んだけどあまりこっちに関わるな』ってスタンスに近いらしい

 

修学旅行の時だって術者の総本山とも云える京都が英雄派に襲われたが、彼らは表側の人間の安全確保を最低限請け負っただけだったみたいだしな

 

とはいえ五大宗家筆頭の百鬼の次期当主がこんな感じにフランクならば今後は少しずつ関係も改善されていく事を期待も出来るかな

 

「・・・はぁ・・・なんかもうスゲェ疲れた・・・」

 

「ふふふ、黄龍はこんなのだが人間としては大した術者だぞ。なにせ魔王アジュカ・ベルゼブブの下で重要な役割に付いているんだ。確か残りの神滅具(ロンギヌス)の調査だったな?」

 

見つかっていない神滅具(ロンギヌス)と言えば『蒼き革新の箱庭(イノベート・クリア)』と『究極の羯磨(テロス・カルマ)』だったっけかな。その二つも以前アジュカさんが『王』の駒の話をした時に少し触れてたっけ

 

「あの魔王様に面倒押し付けられてるだけって感じもするんですけどね」

 

「そういうな。世界の理の外に在るという神滅具(ロンギヌス)の調査など、その辺の者ではしようと思っても出来んだろう。それを任されてるんだから、それだけお前が優秀という事だ」

 

良く言えば選ばれし者の使命。悪く言えば人材不足の皺寄せですね、分かります

 

「まっ、苦労してるみたいだけど、俺達で良かったら力も貸すし相談にも乗るぜ」

 

「はい、有難うございます兵藤先輩!」

 

イッセーが正面から百鬼の片方の肩に手を置いてそう言うと百鬼もピシッと背筋を正して元気の良い返事をする。体育会系タイプかな?

 

「あの、俺、実は兵藤先輩に憧れているんです!元々はただの一般人だったのに馬鹿みたいに襲い来る怒涛の運命を前に抗って力を付けてる姿が鮮烈で―――俺もそんな風に運命に負けないだけの力を得たいと思って生きてます!」

 

真っ直ぐな瞳で尊敬してると言われたイッセーは一瞬ポカンとしてから気恥ずかしそうに頬を掻く

 

「大げさだよ。俺なんてまだまだだし、行き当たりばったりさ・・・てか力が有るのに憧れるって言うなら同じ人間のイッキの方が良いんじゃねぇのか?寧ろイッキなら運命に抗うどころか、何時か運命ごとぶっ壊しそうだぞ?」

 

それは土台からひっくり返す的な意味で言ってないか、イッセー?

 

「勿論有間先輩の事もスッゲェ尊敬してます。同じ人間で年も一つしか違わないのに最強の人間の一角ですからね・・・正直兵藤先輩と有間先輩のどっちが上かって訊かれたら甲乙つけがたいくらいです。それでも何故かと敢えて言うなら自分と兵藤先輩が似ているからだと思います」

 

「似ているって・・・どこが?」

 

「兵藤先輩は赤龍帝を宿し、俺も黄龍って赤龍帝ほどじゃないですけど伝説のドラゴンを身に宿しています。その力を纏って殴りつけるのが俺の戦闘スタイルなんです。だからか憧れと同時に応援したいって気持ちも強くて・・・もし良かったら今度模擬戦に付き合って頂けませんか?」

 

成程ね。戦い方が似ている分、感情移入し易かった訳だ

 

「ああ良いぜ!そういう事ならいっちょ先輩として胸を貸してやるよ!」

 

そんな後輩からの殴り合いのお誘いにイッセーも二カッと笑って快諾する

 

そんな二人の姿を見てゼノヴィアも"うんうん"と首を縦に振る

 

「イッセーと黄龍は相性が良いと思っていたぞ。二人とも熱血馬鹿だからな」

 

他の皆もイッセーと黄龍の掛け合いを見て楽しそうにしている

 

そんな和気藹々(あいあい)とした雰囲気を打ち破るように、その場に居る全員の携帯電話から耳を(つんざ)く様なアラート音が鳴り響いた

 

俺達のように表の社会で普段は活動している者達の場合、なにか緊急の報せがある場合は携帯電話に先ずは一報が入るようになっている。クラスメイトと話してる最中とかに突然耳元に通信用魔法陣とか展開させる訳にはいかないからな

 

内容は駒王町のメンバーは至急イッセーの家のミーティングルームに集合との事・・・しかしメールの件名には三つの数字が並んでいた―――666(トライヘキサ)―――と

 

事態の深刻さを瞬時に察した皆は急いで転移魔法でイッセーの家に急行する事になった

 

百鬼も百鬼で五大宗家の方で招集を受けたらしく、一言だけ俺達に断ってから直ぐに部室を飛び出していった

 

邪龍とトライヘキサ側にやはり先手を取られてしまった。あとは各勢力がどれだけ素早く足並みを揃えて迎撃態勢を整えられるかで被害の規模が決まると言っても良い

 

3年生方の卒業を間近に控えた今、神話(さいご)の戦いが幕を上げようとしていた




ddの世界のドラゴンの尻尾ってどこぞのメイドなドラゴンのようにクリーミーに美味しかったりするんでしょうか?


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第六話 決戦、準備です!

緊急招集が掛けられてから程なくしてイッセーの家に今集まれるだけのメンバーが集まった。話し合いの内容は分かっている為か皆の表情が緊張で固い感じだ

 

「トライヘキサと邪龍共が現れた」

 

アザゼル先生がこの場に集った皆を見渡しながら言った

 

「一体どこに出現したと言うの!?直ぐに私達も救援に向かうべきだわ!」

 

リアス先輩の言葉に皆も頷いている。戦いになる可能性が高い事など前々から分かっていたので動けるだけの戦力は直ぐにでも動くべきという思いからだろう

 

しかし事はそう簡単な問題では無かったようだ

 

「―――トライヘキサが出現した場所は北欧神話の領域」

 

そこまでアザゼル先生が口にしたところで皆の視線が一瞬ロスヴァイセさんに集まる。北欧は彼女の故郷だからだ

 

だが誰かが声を上げる前にアザゼル先生の説明は続く

 

「そしてギリシャのオリュンポス。更にはケルト、インドの神話世界に冥界、最後に人間界のヨーロッパにこの日本の近海に出現した」

 

「『!!?』」

 

その説明を聴いた皆は驚愕と共に訳が分からないといった面持ちとなる

 

マジか。まさか初手で分裂してくるなんてな。でも確かにこれは対処がし難い

 

「せ、先生!それって一体どういう事ですか!?トライヘキサが七か所に同時に出たって意味ですか!?―――あ、それともアジ・ダハーカの連続転移魔法で既にそれだけの移動を繰り返してるって意味ですか?」

 

「非常に残念な事に前者だ。どうやら(やっこ)さんは七つの首の分だけ体を分裂させられるみたいでな。既に開幕を告げる狼煙代わりにトライヘキサは近場の地形を丸ごと消し飛ばすブレスを放ってから大量の邪龍と偽の赤龍帝を引き連れて徐々に移動を開始している。日本は最初のブレスで既に島が一つ消え去った・・・トライヘキサは日本の場合だが態々近海に現れたように最初は被害の少ないところに現れてからそれぞれ近場の首都を目指してゆっくりと移動している―――大方アジ・ダハーカやアポプスが本気の俺達と戦えるように少しだけ時間を掛けてるんだろうよ。いきなりトライヘキサが首都にでも現れてお偉いさんがトライヘキサのブレスで消えちまったら真面に戦うことすら危うくなるからな」

 

裏の世界だとお偉いさん=実力者の場合が多いからな

 

「それはつまり分裂したトライヘキサだろうと不意打ちをかませば神クラスたちでも消滅するって事ですね」

 

「ああ、そう言う事になる。実際トライヘキサが放った攻撃は真面に受ければ戦神、主神クラスだろうと無事では済まない威力のようだ・・・最初は被害の出にくいところを狙ってくれたようだが、規模が余りにも大きすぎる為、気休めよりはマシって程度だよ」

 

今まではもしもトライヘキサが復活したとしてもその場に各勢力から戦力を集中的に派遣するつもりだったのが、その前提が崩されたのだ

 

これでは何処に赴いて防衛に当たれば良いのか判らない・・・いや、正解なんて無いのだろう

 

「そこでお前ら『D×D』の分担だが二手に分かれて人間界に現れたトライヘキサの迎撃に当たって貰う。人間界は各勢力、各神話を支える信仰の基盤だ。神々は例え消滅しても長い時間を掛けて信仰が集まればまた復活出来る可能性も有るが、その土台が無くなったら話にならん。その上人間界は俺達異形の存在が大っぴらに動けない分、どうしても守りが薄いからな。精鋭であるお前らには人間界を守ってもらうって訳だ」

 

そこでアザゼル先生はリアス先輩にソーナ先輩、そして映像越しのサイラオーグさんとシーグヴァイラさんそしてレイヴェルに向き直る

 

トライヘキサに襲われてる場所の中には冥界も含まれている

 

冥界出身の悪魔としては気が気でないだろう

 

「それとリアスたちにサーゼクスたち魔王から伝言だ。『冥界の事は心配するな』ってな」

 

それを聞いたリアス先輩は一瞬笑みを浮かべる

 

「全く、お兄様ったら・・・」

 

如何考えても尋常じゃない被害が出るだろう状況でもそんな事をトップから告げられてしまったら心配よりも信じる方に意識を切り変えなくてはならない。難しい事だろうが幸いここに居るメンバーはそれが出来る人達だ

 

「まっ、冥界に住んでんのは俺達堕天使も同じだ。神の子を見張る者(グリゴリ)からも既に軍を派遣している―――トライヘキサが7か所に同時に現れたのは確かに想定外だったが、伊達に俺達だって準備を整えてた訳じゃねぇよ」

 

「今、天界からの全体連絡も入りました。天界はガブリエル様と一部のセラフメンバー以外の大部分の戦力を各地のトライヘキサにそれぞれ派遣するそうです」

 

グリゼルダさんからの追加の情報も入る

 

トライヘキサが各勢力圏内にいきなり現れた以上は天界を含めてまだ襲われてないところも他勢力への増援は難しいだろうに、ミカエルさんも結構大盤振る舞いしてくれたな。てかミカエルさんも何処かの前線に立つのか

 

とはいえアザゼル先生に『超の付くお人好し』と言われる天界以外だとそこまでの増援は見込めないか―――そう思っているとアザゼル先生が吉報を届けてくれた

 

「おう、こっちにも報告が一つ届いたぞ。冥府の神のハーデスの奴も死神(グリム・リッパー)を各地に派遣してるらしい・・・ったく、オリュンポスだって襲われてる最中だってのに無理しやがるぜ」

 

あ~、今のハーデスは世界平和を愛するお人好しの神ですからね、そりゃあ世界の危機には立ち上がるでしょうよ

 

それらの報告を聞いてリアス先輩たちの瞳の奥に在った微かな迷いの光が消えたような感じがした

 

今、急速に世界が纏まり始めている

 

共通の敵を前に団結するのは敗者の習性とかそんなもんは知らん!勝てば良かろうなのだ!

 

「次に聖杯についてだ。実は人間界に現れたトライヘキサにはそれぞれアポプスとアジ・ダハーカが同行しているのが確認されている。という事は聖杯はそのどちらかが所持していると見て良いだろう。そこで聖杯の奪取の為に今回は彼女にも戦地に赴いて貰う事になる」

 

アザゼル先生が控室の方に「入ってくれ」と声を掛けると扉が開いてヴァレリーさんが現れた

 

「え!?ヴァレリーさんが直接戦場に行くのか!?」

 

イッセーが思わず立ち上がって驚きの声を上げる

 

ヴァレリーさんは性格も能力も戦闘タイプじゃないからな。俺達の中で例えるならアーシアさんに前線に出ろと言うようなものだろう

 

「ああ、実はエルメンヒルデの協力でマリウス・ツェペシュが残した隠された聖杯の制御方法が見つかってな。ある程度まで奪われた聖杯に近づく事さえ出来れば聖杯の制御を奪い返す事が出来るはずだ―――この事は既にヴァレリーとギャスパーに了承を得ている」

 

「ヴァレリーの事は、僕が必ず守り通します!聖杯を取り戻して全てを終わらせるんです!」

 

何時ものオドオドした様子から一変して強い意思と眼差しでギャスパーが宣言する

 

いやぁ~、こんな時だけど後輩の成長が見られて嬉しいもんだわ

 

「ヴァレリーの首に十字架のネックレスが下げてあるのが見えるだろう?そいつは神滅具(ロンギヌス)紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)を一時的に加工したもんでな。どうにも聖遺物の力は他の聖遺物を用いる事である程度制御が可能らしい―――昔マリウスが聖杯の力を暴走させかけた時にツェペシュ派が隠し持ってた聖釘(せいてい)の欠片で場を凌いだようだ」

 

「・・・よくマリウスの野郎はそんな情報知ってましたね?リゼヴィムにいいように出し抜かれてたようにしか見えなかったんですけど」

 

イッセーが腑に落ちないといった感じだ。自称聖杯研究の第一人者(笑)だったからな

 

「吸血鬼にとって最大の天敵は十字教だからな。敵について識る為に王族の間で長年密かに研究を続けてたようだ。要はマリウスの手柄とかじゃねぇって訳だ」

 

ああ、やはりマリウスはどこまでも小物を脱却できない奴なんだな・・・俺と黒歌は出会ってすらいねぇんだけどさ

 

「聖釘の欠片はヴァチカンに渡しといたが大喜びだったぜ。まぁ聖遺物は過去の大戦から世界中に散らばって行方知れずだったからな。寧ろ欠片だけでもよく残ってたくらいだ―――案外吸血鬼達みたいに意外な奴らがコッソリ持ってたりするのかも知れないな」

 

欠片で大喜びなら俺の渡した知恵の実とか実は天界で天使たちが狂喜乱舞してたりしたのかもな。信心深い訳じゃないから、いまいちピンと来ないけど

 

「私達はどのように戦力を分けるべきかしら?心情的にはやはりこの国を守りたいのだけれど」

 

リアス先輩が希望を述べるとほぼ同時に会議室の扉が開いてヴァーリ達が入って来た

 

「それならば、ヨーロッパ方面は俺達が担当しよう」

 

開口一番そう言ったヴァーリにアザゼル先生もニヤリと笑みを向ける

 

「やっと来たか、ヴァーリ。会議の通信はそっちにも開いていたから状況は理解しているな?」

 

「ああ、俺は別にこの国自体にはそれほど思い入れがある訳ではないからな。リアス・グレモリーたちには気合の入る方を担当して貰ったら良いだろう」

 

確かにね。特に神器使いなんかは気合の入り具合でもろに影響が出るしな・・・俺以外

 

「まっ、そうだな。だがヴァーリチームだけだと流石につり合いが取れん。ヨーロッパ方面には俺と刃狗(スラッシュ・ドッグ)のチームも同行しよう・・・悪いな、鳶雄」

 

「いえ、それがサポートの役割ですからね。それに今回は俺も暴れさせてもらいますから」

 

アザゼル先生が俺達と同じ日本出身の鳶雄さんを戦力の観点から祖国の防衛に振り分けられなかった事に小さく謝るが鳶雄さんは特に気にしてないようだ

 

これは祖国への思い入れが薄いとかじゃなくて、単純に自分のやるべき事をしっかり見据えている大人の対応って感じだな

 

「フッ、久々にアンタの本気が見られるのか・・・出来ればアンタと再戦する時にこそアレを見たかったものだがな」

 

ヴァーリはそんな鳶雄さんが何時もの裏方ではなくて前線で暴れると聴いて嬉しそうに戦意を高めている・・・会議の場で戦意を高めんなよ

 

「ははっ、ヴァーリも格好つけのバトルマニアっぷりは何時治るのかな?―――実はそんなキミに逢いたいという人を連れてきている。キミの手綱は彼女に握って貰うとしようか」

 

「! まさか!?連れて来てるのか!!?」

 

鳶雄さんの言動からその『彼女』の正体に勘づいたらしいヴァーリが驚愕の表情を浮かべる

 

そしてさっきヴァレリーさんが出てきた控室の扉から今度は魔法使いの格好をした金髪のおっとり系美人が現れた

 

「ヴァーくん。また我が儘を言っているのですね?」

 

「ラ、ラヴィニア・・・ッ!どうして此処に!?」

 

ヴァーリの奴、彼女にヴァーくんなんて呼ばれてるのか

 

更には完全に(ども)った上で狼狽してるし、何時ものクールキャラが見る影もない

 

そんなヴァーリの様子にアザゼル先生とヴァーリチームに刃狗(スラッシュ・ドッグ)のチームの人々はニヤニヤしながら様子を窺っている

 

「メフィスト会長とアザゼル元総督から表に出て良いとお許しが出たのです。また昔みたいに一緒に戦えるのですよ、ヴァーくん」

 

「い、いや・・・しかしだな・・・」

 

「ヴァーくん。神の子を見張る者(グリゴリ)を裏切って勝手におじいさんを探しに行った挙句、いろんな人に迷惑を掛けたのです。そういうのは良くないのです。メッ!なのですよ。今回はきちんと皆と一緒に戦うのです―――いいですね?」

 

ヴァーリは近づいて来た彼女になす術なく頭を胸に抱き寄せられた

 

あのヴァーリがメッ!とかされているのはちょっと面白い

 

「ルシファードラゴンのルシドラ先生は格好つけが未だに治らないんだな」

 

「でもこれがヴァーくんっぽくて良いわね♪」

 

刃狗(スラッシュ・ドッグ)のチームのお二人にもそんな事を言われている始末だ

 

色々テロったりしてたヴァーリだけど、昔馴染みの人達からしたら本当に『やんちゃ』の一言で大体納得してしまう感じだったんだな

 

原作に鳶雄さん達を中心に描いた番外編が有るってのは知ってたけど、読んだ事は無いんだよなぁ・・・まぁこの人達の様子からしてヴァーリは子供の頃から今と然程変わらない感じに格好つけてたってのは分かったけどな

 

「カッカッカ♪ヴァーリは『氷姫』の気配を感じると逃げてばっかだったからな。だけど今回は油断に加えて完全に気配を殺されてたって訳だ」

 

「彼女はラヴィニア・レーニと言ってね。灰色の魔術師(グラウ・ツアオベラー)のメフィスト会長の秘蔵っ子なんだよ。昔から世話になってて俺もヴァーリも頭が上がらないのさ。ヴァーリの姉役と言った方が伝わり易いかな?」

 

うん。当のヴァーリはラヴィニアさんに慈愛の表情の下、全力で構いたおされているな―――雰囲気としてはアーシアさんに近いものを感じるけど、俺の直感があの人はアーシアさんより数段上の天然系だと示している

 

成程、あれではヴァーリがどれだけクールぶったところでラヴィニアさんのポアポアとした雰囲気に全て押し流されてしまうのだろう

 

そして灰色の魔術師(グラウ・ツアオベラー)の『氷姫』と言えば神滅具(ロンギヌス)の一つである『永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』の所持者だ

 

神滅具(ロンギヌス)の力だけではなく、魔法使いとしても一流の実力者らしい

 

「さて、最後に聖杯がアポプスとアジ・ダハーカの何方が持っているかだが、それは調査中だ。最悪ギャスパーとヴァレリーには日本とヨーロッパの両方に出向いてもらう事になるかも知れん・・・が、まぁ最初は日本の方で後方待機しておけ。如何しても特定出来ない時には運が悪けりゃ2体のトライヘキサの下へ邪龍の群れを突破して近づいて貰う事になる」

 

「大丈夫です。邪龍なんかにヴァレリーには指一本触れさせません!」

 

ギャスパーはヴァレリーさんが絡むとマジで途端に漢になるな

 

ただ女装をして見た目美少女なのとヴァレリーさんに「ふふふ♪ギャスパー格好良いわ」と言われつつ頭を"よしよし"と撫でられてるのが締まらないけど

 

て云うかもしかしなくともヴァレリーさんとラヴィニアさんって似た者同士なんじゃ?あんな風に頭を撫でてる光景をついさっき見たばかりな気がするぞ

 

「既に先行している部隊がトライヘキサと邪龍達を相手に遅滞戦術で時間を稼いでいる。とはいえあまり時間もないからな。一時間で全ての準備を整えてくれ。その後は転移の間からトライヘキサの進路上に展開される奴らを迎え撃つ為の大部隊の居る場所に送る事になる」

 

時間が無いって云うのは先行してる部隊が力尽きるという意味なのか『命』が尽きるという意味なのかは訊かない方が良いのかもな。なにしろ相手が相手だし

 

「今回の作戦では聖杯奪取の為、私とアザゼル先生たちで練り上げたトライヘキサ専用の捕縛陣を全てのトライヘキサに向かって同時に展開させる予定です。制限時間付きですがほぼ確実にあの獣の動きを止められるでしょう。本命は聖杯を持っていると思われる日本とヨーロッパ・・・アポプスとアジ・ダハーカのいるトライヘキサですが、下手に一部だけ止めると他のトライヘキサがどう動くか判らない為、全てを同時に止めます」

 

ロスヴァイセさんが聖杯を取り戻す為の作戦を伝えてくれた

 

トライヘキサを止めて完全即死広範囲攻撃(ブレス)を使えなくしてからギャスパー達が突っ込む訳だ

 

「ただ、その捕縛結界は一回こっきりの使い捨て方式だ。一度使えばトライヘキサに術に対する耐性が付与されるはずだからな。その上、その術はトライヘキサ専用だから量産型邪龍や偽赤龍帝には効果が無い。だが喜べ、トライヘキサを止める為の捕縛結界は違う種類の物をなんとか二つ用意出来た・・・お陰で最近寝不足で目がシパシパするぜ」

 

「―――私も少し肌荒れが気になってます」

 

へぇ!捕縛結界は二つ用意出来たのは余裕が有って良い事だな。二人・・・と云うか研究者の人達は後一ヵ月で復活するって納期がハッキリしてる分ここ最近は締め切りに追われてたんだろうな―――それとロスヴァイセさんはまだ十代なんだからそれくらいじゃ肌にダメージ残りませんよ

 

「有間君。女性の肌ケアを舐めないで下さい!テストに出しますよ!」

 

「はい!すみませんでした!!」

 

思わず席から立ちあがって謝ってしまった

 

だからなんでこの世界の住人は表も裏も関係なく読心術師がちらほら紛れてるんだよ?

 

そんなコントをしているとアーサーが手を挙げて質問をする

 

「では、停止させたトライヘキサはその後どうするのです?捕縛結界に関しては制限時間付きだと言っていましたが、倒しきれるまで止めたままに出来るはずも無いのでしょう?」

 

まともにやったら神々がボコボコにしまくっても一万年は掛かるみたいだからな

 

主に耐性を上げる事に特化しているらしい聖杯による能力上昇に加え、食べたら不死身になるとさえ言われる『生命の実』で今のトライヘキサは恐らくだが全盛期のオーフィスやグレートレッドよりも総合的な能力値は上だろう

 

「そこは俺達にとっておきの作戦が有る。それも二つな―――その為の二種類の捕縛結界だ。まだトップ陣やその他一部の者にしか知らされてない作戦だ。まっ、安心しろ。なにせ作戦の片方の立案はイッキだからな」

 

その言葉に皆の視線が俺に集まる

 

「イッキが!?・・・そっか、それなら大丈夫だな」

 

「うん。イッキ君が考えた事なら問題ないだろうね」

 

「寧ろ今からトライヘキサが可哀そうになる未来しか見えないですぅぅぅ!」

 

「―――お前らの信頼にちょっと俺泣きそうだぞ?悪い意味でな!」

 

戦いの前に緊張が解れるのは良い事かも知れんが、なにか釈然としないんだが?

 

「まぁ私達もここ一ヵ月は合間を縫って下準備を手伝いまくったからにゃ~♪」

 

「・・・私達が必要有ったのかと問われると微妙ですけどね」

 

「いえ!やはりお二人の仙術は必須だったと思いますわ!」

 

確かに下準備に追われる毎日だったよ。その辺はアザゼル先生たちと一緒だな

 

勝負なんてのは布石を置きまくって実際に鼻先付き合わせた時には終わってるなんて言うくらいだし、裏で準備してる俺達は眠気覚ましの栄養ドリンクを一気飲みしながら頑張ってましたよ

 

・・・俺、この戦いが終わったら慰安旅行に行くんだ・・・多分・・・

 

 

 

会議が終わってから解散して各々最低限の準備を整える事になり、トレーニングルームでストレッチしたり、ソファーでお茶を飲んだり本を読んだりと思い思いに過ごした

 

俺も一旦は自分の家に戻って少し気になったのでリビングのテレビを点けるとどのチャンネルも緊急の特報が流れている・・・冥界とかの裏のチャンネルじゃなくて人間界のチャンネルでだ

 

どこぞの勇気なのか蛮勇なのか判らないテレビ局のカメラを積んだヘリが撮影したのか、海の上を飛んでいるトライヘキサと大量の邪龍の姿を遠目に映している

 

先行してるという部隊との戦闘で幾つも爆発が起きているから流石に近づくような真似はしなかったようだけど、思いっきり表の電波に乗っちゃってるな

 

ライブ映像ではないようだから流石に今は人避けの結界とかが張られているのだろうが、初期の映像はバッチリ残ったようだ

 

ぶっちゃけ量産型の邪龍が空を埋め尽くしている為、遠くからの映像越しだと大量の蠅がブンブンと飛び回りまくっているようにも見えて気持ち悪い

 

他のチャンネルに切り替えると丁度会見中だ

 

≪官房長官!日本とヨーロッパに現れたあの謎の生物の正体は一体なんなのですか!?≫

 

≪目下調査中です≫

 

≪判らないで済ませて良い問題ではないでしょう!既に我が国の島が一つ無くなり、余波の高波で沿岸部にも被害が出ているのですよ!あれは他国の開発した生物兵器なのではないですか!?≫

 

≪それも調査中です。あの正体不明(アンノウン)の進路上の市民たちへの避難誘導を既に開始しています≫

 

≪あの場では幾度も爆発と戦闘の様子が映し出されていました。アレは我が国の秘密の軍隊ではないのですか!これは国際条約違反ですよ!どう責任を取るお積りですか!『戦争をしない国』というのは偽りだったのですか!―――それに今自衛隊は何をしているのですか!我が国が攻撃されているのですよ!ミサイルでもなんでも打ち込むべきでしょう!!≫

 

≪自衛隊は沿岸部に集中して展開させています。正体不明(アンノウン)を本土に上げる事を阻止する為に全力を尽くす所存です≫

 

うわっはぁ~・・・官房長官の人可哀そう

 

流石は政府の広報担当とも言われる役職だわ。官房長官クラスなら裏との繋がりとかも有るかも知れないけど、事情を知ってても知らなくても公表出来る訳ないじゃん

 

マスコミの最後の人とか戦争を批難したいのか推奨したいのかどっちなんだよ?

 

まぁでもこの状態でも自衛隊が戦闘機で緊急出動(スクランブル)とかしてない以上はそっちには手が回ってるみたいだな

 

仮にも味方から背後からミサイルをブッパされるって事は無さそうだ

 

次に冥界の方にチャンネルを合わせてみるとそこにはサーゼクスさんが映っているところだった

 

≪冥界の皆さん。現在、冥界全土、堕天使領も含めてこの世界に未曽有の危機が訪れています≫

 

テレビの向こうのサーゼクスさんはリゼヴィムと邪龍、そしてトライヘキサの情報を順序だてて分かり易く国民に伝えている

 

≪ご覧頂いているのは黙示録に記されし伝説の怪物、トライヘキサであり・・・≫

 

サーゼクスさんの居るスタジオの後ろにトライヘキサの映像が流れ、あらゆる種族や神々ですらも壮絶な戦いを繰り広げている様子が放映される

 

人間界よりも寧ろ神話世界の方が戦力を展開しやすい為か既に文字通りに神話規模の戦闘が繰り広げられているようで、地上は一面焦土と化している

 

神々の一撃で量産型の邪龍程度なら数千単位で灰になろうともアポプスとアジ・ダハーカたちもこの日の為にせっせと邪龍を増やしてたのか一向に減った感じがしない

 

ロスヴァイセさんの編み出した量産型邪龍の弱体化結界も有るはずだが、広く分布している邪龍達を一挙に閉じ込めようとすればトライヘキサも一緒に捕らえる事になってしまうから使いづらいのだろう―――トライヘキサに結界を掛けたら一瞬で破られるし、逆に小規模な結界を展開しても意味が無いからね

 

この間のアグレアスのロスヴァイセさんのように個人で戦術に盛り込むなら良いけど、基本はトライヘキサをどうにかした後の掃討戦くらいにしか使えないって訳だ

 

≪この映像のように私達悪魔だけが戦っているのではありません。同盟関係にある堕天使、天使、各神話の神々や伝説の戦士たちが各地で立ち上がっております。トライヘキサと邪龍たちの戦力は膨大です。これは数か月前の魔獣騒動どころか過去の三大勢力の戦争すらも上回る規模となるでしょう。しかしながら皆さん。ご心配なく。我々には希望の星がある≫

 

そう言ってトライヘキサの映っていた画面が今度はイッセーやリアス先輩たちを始めとしたメンバーを映していく。最後の方には俺やデュリオさんみたいな悪魔じゃ無い者も表示されたな

 

≪そう、テロ対策組織『D×D』をはじめ、我が悪魔世界が誇る勇猛な戦士達も冥界とそこに住む民を守る為、そして世界を守る為に命を賭して戦いに応じるでしょう≫

 

するとサーゼクスさんの居るスタジオの映像の脇からセラフォルーさんが横チェキを決めながら現れた

 

≪そうよ、皆!私も前線に立っちゃうんだから心配しないでね☆≫

 

・・・この状況下で横チェキ出来るその精神力には驚嘆するわ

 

サーゼクスさんもそれを見てフッと笑ってから力強い眼差しでカメラを・・・いや、それを通して国民に視線を向けてその覚悟を口にする

 

≪セラフォルーと同じく、私も前線に立ちます。この私の命を賭して、必ず冥界と国民の皆さんを守ってみせる!≫

 

う~ん。流石に超常の存在を知ってるか知らないかで報道の内容が変わるもんだな

 

表と裏の情報が切り離されてるとこういう時に困るよな・・・まぁガチの世界滅亡レベルの事態が早々起きても困るんだけどさ

 

「冥界などは兎も角、人間界はどこもかしこも大混乱ですわね。流石にこれほどの規模で超常の存在が一般の方々に知れ渡ってしまったなら記憶の改ざんにも無理が生じてしまいますわ」

 

「―――それでも、今は隠すしかないと思う」

 

「白音の言う通りで、暫くは世界規模の記憶改ざん部隊みたいなのを組織する必要が有るかもな・・・表と裏が交わる事が絶対にダメだとは言わないけど、今回のようなバレ方はアウトだろう。神々とかが本当に居るっていきなり世界に知れ渡ったら宗教戦争が勝手に勃発するぞ」

 

我が国の神様サイコー!異教徒は死ね!って当の神様ほっぽり出して人間たちがミサイルと鉛玉を撃ち合う姿が見える見える

 

何時の日にか裏の事をバラす時が仮に来るとしても、少なくともそれは今じゃない

 

「まっ、どっちにしろそれは私達の関与するところじゃないのにゃ~」

 

「全く!幾ら何でも適当過ぎますわよ、黒歌さん!」

 

レイヴェルがプリプリと怒っているけど今は黒歌に同意かな?俺達は基本戦闘職だから実際に動く訳じゃないし、精々戦後に裏方で奔走する人達に労いの品でも届けに行く程度だろう

 

「まぁまぁレイヴェルも戦いの直前で気が張るのも解るけど、今はトライヘキサに集中しようか。こんな時の為に沢山準備もしてきたんだし」

 

そう言って俺は懐からビー玉くらいの丸い玉を取り出した

 

アザゼル先生に頼んで作って貰った神の子を見張る者(グリゴリ)謹製の秘密兵器だ。これの効果を高める為に今日まで裏でゴソゴソしてたんだしな

 

そうしていると映像付きの通信用魔法陣が展開された。両親に裏の事がバレたので家の中ではこういった通信も普通に繋がるようになっている―――通信先はライザーだ

 

≪よぉ有間一輝。そちらはまだ出立してないと聴いてな。連絡を入れさせて貰ったぞ≫

 

「お兄様!?まさかお兄様も前線へ赴くのですか!?」

 

≪・・・レイヴェルもそこに居たのか。というかお前は俺の事をなんだと思ってるんだ?冥界の危機に立ち上がらなくては我らフェニックス家の名折。幾ら伝説の魔獣が相手と云えども不死鳥が死を恐れて巣に引きこもるなど滑稽だろう≫

 

格好良い事言うように為っちゃって

 

このまま成長して行けばツンデレ系ちょい悪小僧みたいなどこか憎めないキャラとして大成する日も近いかもな

 

≪おいちょっと待て有間一輝。何故お前が最近兄達が俺に向けて来るような目つきで見るんだ?≫

 

大丈夫。馬鹿にしてる訳じゃないし、寧ろその逆だから気にすんな

 

≪ッチ、時間もないから追及は後で良い―――いいか、これだけは言っておくぞ!レイヴェルを泣かすよう真似だけはするんじゃないぞ!そうなれば俺は冥府まで赴いて貴様の魂を燃やし尽くしに行くからな!≫

 

おお!ライザーが本当に良いお兄ちゃんしてるな・・・いや、わりと出会った時から兄としての姿は問題無かったか

 

それにしてもレイヴェルを泣かすなって言われてもな

 

「それって嬉し涙も禁止か?」

 

涙が全部ダメって言われると困るんだけど・・・

 

≪揚げ足を取るな!・・・それならば許してやる。兎に角レイヴェルに悲しみの涙だけは流させるなよ!分かったな!≫

 

最後に俺に指を突きつけてからライザーの通信は切れた

 

それを見たレイヴェルは困ったように笑う

 

「全く、お兄様ったら・・・」

 

その呟きを聞いた白音がクスクスと笑う

 

「レイヴェル、リアス元部長と同じ事言ってる」

 

「呆れたようでいて嬉しそうな反応もそっくりだったわね。今度あのスイッチと兄トークでもしたら盛り上がるんじゃないかにゃ?」

 

「もう!白音も黒歌さんも揶揄わないで下さいまし!ライザーお兄様と魔王たるサーゼクス様を一緒の議題に乗せて話してたら後半になるにつれて惨めになりますわよ」

 

そうかな?サーゼクスさんってキャラが濃いからリアス先輩も愚痴トークの話題は尽きないとも思うんだがな。これが『お兄様の自慢大会(レイヴェルはライザー限定)』とかだとレイヴェルがフルボッコにされる未来しか見えないけどな!

 

それからイッセーの家の集合時間となるまでに3人とイチャついて過ごし、出かける前には帰って来た両親にも軽く手を振って告げる

 

「じゃあちょっと世界を救ってくる」

 

無駄にキザなセリフを吐いておく

 

そうだ。折角なんの因果かこの世界に来たんだし、世界の一つくらいは救わないとな

 

なんて格好つけたところでメタい事も言えば各勢力のトップ陣がトライヘキサと一万年隔離結界で閉じこもったら残される俺達の仕事量がヤバそうって理由も有るんだけど・・・どっかの外伝であったけどイッセーは200年先まで過密スケジュールだしイリナさんは疲れたOLのような生活をしてるらしい

 

普通に嫌だよ?そんなのは―――だから今後の日常も含めて守るにはここで完全勝利を決め込まないとな!

 

「・・・イッキ先輩が変なやる気を出してる気がします」

 

「・・・ええ、どこか庶民的な匂いがしますわ」

 

「にゃはは~、イッキはどうしても勇者には為れない人材よねぇ」

 

別にいいじゃん!平穏な日常の為に戦うとか勇者っぽいじゃん!

 

そんな馬鹿話をしながらイッセーの家に向かう

 

地下の転移魔法陣の部屋でアザゼル先生が追加の連絡事項を告げる

 

「聖杯の反応を特定した。聖杯は日本側・・・アポプスが所持している」

 

聖杯の情報に皆の表情が引き締まる

 

「俺達は予定通り、二手に別れる。なぁに、この業界は死ななきゃ安いもんだ。だから死ぬんじゃねぇぞ、お前たち。それでは各自持ち場についてくれ!」

 

「『了解!』」

 

そうして俺達は転移の光に包まれていった



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第七話 それぞれの、想いです!

可笑しい・・・予想ではもう戦いも折り返しくらいまで進んでるはずだったのにまだ始まってすらいないとは・・・

それと先日「お!これ小説に使えそうなセリフ回しじゃね?起きたらメモっとこ」と夢の中で思う夢を見ました・・・実際起きたらセリフの方は忘れてました・・・ちくせう


日本近海のとある無人島に俺達は降り立った

 

そこには既に様々な種族の混成部隊が出来上がっているのが目に入る

 

『D×D』が幾ら精鋭部隊と言ってもアホみたいな数の邪龍達を相手にするのにこちらも数を揃えなくては意味が無い。戦いは数なのですよ、アニキ

 

とはいえそれでも向こうの方が数は多いんだろうけどね

 

まぁトライヘキサと聖杯さえ何とか出来れば量産型邪龍の弱体化結界を超広範囲で展開すればそこでほぼ勝利が確定するからそこはマジでロスヴァイセさんに感謝である

 

今、この島に集結しつつあるのは日本を縄張りとする妖怪と五大宗家を中心にした陰陽師などの術者が大半を占めている

 

陰陽師とかも妖怪や式神を強化・使役する術者も多いから傍から見る分には完全に百鬼夜行だ

 

すると現れた俺達に気付いた一部の人達が近寄って来る

 

その中の小柄な影が走り寄ってくると軽くジャンプして抱き着いてきたのでそれを受け止める

 

「イッキ!それに皆もよく来たのじゃ!此度の戦、私も戦うのじゃ!」

 

「え!?マジで!?」

 

幾ら何でも今の九重じゃ量産型邪龍の一体でも倒すのは至難を極めると思うんだけど

 

「ふふふ、心配要りませんよイッキ殿。九重は私に疑似的に狐憑き(ひょうい)させてオーラの底上げや霊脈の制御を手伝って貰うつもりじゃ―――流石に今の九重を単独で走らせたりはしませぬよ」

 

ああ~、そう言えば原作の冥界の魔獣騒動の時とかにそんな描写が有ったような気がするな

 

この世界線では俺がさっさと【じばく】連打したからそんな機会は無かったみたいだけど

 

「うむ♪そういう訳じゃからな。自分一人で!―――とはいかんが、やっとお主らと一緒に戦えるのじゃ!」

 

「そっか。親子ならではの連携技って事だな。しっかり八坂さんのサポートしてやれよ」

 

九重が八坂さんと常に一緒に居るならば俺も安心出来るからな

 

「―――ふむ。私の上に九重が重なる事で旨みが増す。これが俗に言う『親子丼』というもので」

 

いきなり何を言いだすんですかねぇ八坂さんは!?てかマジで誰だよ?そんな間違った『親子丼』を八坂さんに教えたのは!?

 

「違いますぅぅぅ!親子丼の認識を穢さないでくれませかねぇ!?そもそも親子丼ってのは食べ物で狐ではなく鳥を使用した・・・」

 

八坂さんでなくとも当然知っている事だろうが、そこまで訂正したところで今度はレイヴェルが顔を紅くして狼狽えだした

 

「イ・・・イッキ様!?まさか私とお母さまを一緒に美味しく頂くおつもりですの!?流石にそれはお父様やお兄様たちも激怒致しますわよ!」

 

レイヴェルさぁぁぁん!?それはボケてるんですか!?天然なんですか!?

 

「・・・レイヴェル。ちょっと笑ってる」

 

「にゃはははは♪レイヴェルもイッキを揶揄える程度には砕けてきたわね」

 

いや多分それって悪戯好き猫又姉妹と常に一緒に居る影響だと思うんですけど!

 

もう一度レイヴェルの方を見るとクスクスと笑っていたので本当に冗談だったんだろう

 

なんかこのままだと九重も何時しか皆の影響を受けて俺をイジリに来る未来が見えそうだ

 

「イッキ殿は何時でも揶揄い甲斐がありますなぁ」

 

そんな俺達のやり取りを見て八坂さんも満足気だ

 

戦いの前の緊張は解れるけど代わりに疲れるんですけど?

 

「くふふふ。ともあれ九重の初陣が世界を救う為というのも乙なモノと云えるかの。それに、九重の力を見たならばきっと驚くじゃろう。この娘は将来私を凌ぐ九尾となるのだと確信しておるぞ」

 

八坂さんに褒められて九重の頬が紅く染まる

 

「そっか、なら、援護は任せるぞ。九重」

 

「うむ!大船に乗った気でいるが良いぞ!」

 

俺が抱き抱えていた九重が俺の首に手を回してギュっとしてくる

 

九重は古い家特有の落ち着く香りがしてくるから癒される。ここら辺は近未来的堕天使建築の我が家にはないものだろう

 

それに黒歌達だと如何してもドギマギとした感じがするからね―――勿論それはそれで良いんだけど、完全に守ってあげたくなる系の九重はレアだ

 

それも後数年後くらいに九重との関係が恋仲として進展したら別なんだろうけどな

 

「あらあら、うふふ♪私も後でイッセー君にあんな風に抱き着いてみようかしら?以前にイッセー君が小さくなった時みたいに今度は私が小さくなって何時もと違う甘え方を体験してみるというのも良いかも知れませんわねぇ」

 

「あら?昔の朱乃が見られるなら是非私も混ぜてくれないかしら?」

 

そう言って次に現れたのは朱乃先輩の数年後の姿と言われたら納得してしまいそうなくらいに生き写しな女の人だった。敢えて違いを探すなら少し目元がキツメかな?朱乃先輩からおっとり成分を少し抜いたような感じだ

 

そんな彼女の登場に朱乃先輩は満面の笑みを浮かべて近くに駆け寄る

 

朱雀(すざく)お姉様!お久し振りです!!」

 

「ええ、久しぶりね朱乃。今までは碌に連絡も取れなかったけど、五大宗家も和平を結んだし、姫島のご隠居たちも押し込め・・・説き伏せてきたから今度一度ゆっくりお茶でもしましょうか」

 

「はい!」

 

今押し込めるとか言い掛けませんでしたか?

 

「あの朱乃さんにそっくりな人は誰なんですか?」

 

そんな中イッセーはリアス先輩にコッソリと耳打ちしている

 

「五大宗家の一つである姫島の現当主よ。朱乃とはいとこ(・・・)の関係に当たるの―――昔、まだ朱乃の母がご存命だった時にはとても世話になったみたいでね。あとは刃狗(スラッシュ・ドッグ)の鳶雄ともはとこ(・・・)の関係になるわね」

 

「え!?鳶雄さんって姫島の関係者だったんですか!?」

 

「ええ。もっとも『幾瀬』を名乗っている通り、姫島との繋がりは薄いみたいだけどね。なんでもイッセーと同じ年ごろまでは裏の世界の事も知らずに一般人として過ごしていたらしいわ」

 

「はぇ~、偶に出会う時は『特訓、特訓!』って感じだったからあんまりそういった事情を聴いたりしなかったな」

 

「彼が訓練に参加する時は少ないからイッセーは気が逸ってしまったのね。でも拳をぶつけ合う以外の交流も大切よ。戦いだって相手の私生活からでも見えて来る事って意外と多いのよ?」

 

相手の趣味・嗜好から戦い方を割り出すってどこの落第騎士の『天眼』ですか?まぁ流石にアレとは比べられないんだろうけど、要はどんな情報も逃さずに多角的に判断しろって事だろうな

 

長年次期当主及び『王』として人の上に立ってきたリアス先輩らしいモノの見方って感じか

 

「う~ん。どうしよっかにゃ~?」

 

「いや、なにを悩んでんだ?黒歌」

 

なんかさっきから視界の隅で黒歌が顎に手をやって考え込んでるんだよな

 

「いやぁ、白音もレイヴェルも九重もちっこい体でイッキに甘えてるじゃにゃい?朱乃っちじゃないけど私も一度小さくなってみるべきかと思ってね。ほら、私がイッキと初めて出会った時って殆ど今と見た目は変わってないからイッキとしても新鮮だと思うのよねぇ・・・折角色んなシチュエーションを試す手段も有れば時間もあるんだし、そういうのも楽しそうじゃないかにゃ?」

 

「お前はこんな時になにを考えてんだよ?てかここで黒歌までロリになっちまったら俺にあらぬ疑い(ロリコン疑惑)が掛けられそうなんだけど?」

 

そんなのは元浜で間に合ってるんだよ!

 

いやまぁ黒歌が小さくなって白音みたいに俺の膝の上に座ってみるとかそれだけだったら別に良いんだけどさ。実際可愛いと思うし

 

だけど絶対に黒歌の場合悪戯としてロリボディに変化したままR―18な展開に持っていこうとすると思うんだ・・・流石にそれは色んな意味でヤバいからな。社会的に死にそう

 

「それって外から見たら片方が幼過ぎるのが問題って事よね?だったらイッキも一緒に小さくなってロリショタプレイをしてみるにゃ!」

 

「そこじゃねぇぇぇぇぇぇ!!」

 

R指定においてロリもショタも現実じゃアウトだよ!つぅか俺らの実年齢はバレバレなんだからマジで意味ねぇよ!!

 

「ははっ、先輩方は世界の命運を目の前にしても平常通りなんですね」

 

「ん~、私はこういうアットホームな感じは好きだよ~♪ね~、黄龍?」

 

続いて現れたのは少し前に一度別れた後輩の百鬼黄龍と同じく生徒会の新メンバーの会計を務めるミラーカ・ヴォルデンベルグさんだ。純血の吸血鬼でギャスパーのようにデイライトウォーカーではない為、学園で見かける時は常に太陽光を遮るように全身マフラーや帽子、サングラスで完全武装しているからぶっちゃけ今回初めて素顔を見たな

 

吸血鬼よろしく青白い肌に人形のように整った容姿で白銀の長髪の持ち主だ。見た目だけなら滅多に表に出ない深窓の令嬢でも通じそうではある。ただ、どうやら実際は明るい性格のようでさっきから元気よくピョンピョン動いてるから、何だか病気になった人がハイテンションになっているようにすら見えて違和感を感じるな

 

要は第一印象は『見た目と中身にギャップのある人』だ

 

活発系かつ病弱系・・・みたいな?

 

いや、第一印象はモコモコの完全武装だからこの場合第二印象か?・・・如何でも良いか

 

「おう、百鬼も来たんだな・・・まぁ俺もイッセーも女性陣の押しが時々変な方向にぶっ飛ぶのが悩みの種と云えなくはないかな?」

 

「モテない男子が聞いたらキレそうな悩みですね」

 

松田と元浜は基本日に三回はキレてくるぞ

 

「でも黄龍だって婚約者が二人居るじゃん。それに多分もう一人くらいは増えるんじゃないの?」

 

そこにミラーカさんが百鬼の顔を下から覗き込むように見ながら女性関連の事情をバラすと、すぐさま反応したイッセーが叫ぶ

 

「なぁにぃぃぃ!?百鬼お前後輩のクセに婚約者が二人も居るだと!?バラ色の高校生活かよ!」

 

「お前がキレんなイッセー。てかお前は自分の事(美少女ハーレム形成)を棚に上げてなんでそんな素直に相手を妬めるんだよ?」

 

完全非モテ時なら分からんでもないけど、今のイッセーがそのことでキレるのは理不尽過ぎるぞ―――もっと心を広く持てって

 

「あははは・・・実は五大宗家の次期当主レベルの男子なら血を残す為にも3人くらいまでなら同時に結婚も出来るって国にも裏で許可されてるんですよ。同じ五大宗家の櫛橋(くしはし)家に許嫁が居るんです。それと吸血鬼のカーミラ派との取引もあってミラーカの事も娶る事になってます」

 

「イエーイ!娶られるよ~♪♪」

 

か、軽いな・・・それにしても幾ら和平を結んだと言っても五大宗家筆頭が人類の敵としてのイメージの強い吸血鬼のお姫様を嫁に迎えるってかなり大胆な改革だよな?

 

「・・・家の為、国の為の取引だとしても最初はミラーカとも結婚するのは櫛橋の許嫁に対しても引け目みたいなのを感じてたんですが、多くの女性に囲まれながらも不和を起こさない兵藤先輩と有間先輩の様子を見て政略結婚だろうと男なら自分の嫁くらいは全員幸せにする度胸と度量が必要だと思ったんです!マジで先輩方は色んな意味で尊敬してます!」

 

お、おう、そうか・・・女の子に囲まれている事を羨ましいとか妬ましいとかじゃなくて尊敬されるなんて言われる日が来るとは思わなかったよ

 

「てかミラーカさんは戦えるのか?同じ吸血鬼のお姫様のエルメンヒルデはそこまで戦闘が得意って訳じゃなかったみたいだけどさ?」

 

そう言えばイッセーは年明けに祖母の家のある田舎で軽く一緒に戦ったんだっけ?

 

「あ~、エメちゃんにも得意な技は有るんだけど下準備が必要だからねぇ―――私はだいじょ~ぶ!私って実は脱いだら凄いんだよ♪」

 

「ぬぁあにぃぃぃっ!!え?脱ぐの?戦場のド真ん中でストリップショーしてくれるの!?そりゃあ俺達男の士気は向上するだろうけどさ―――有難うございます!!」

 

「アホか。脱いだらってのは夜ならって意味だろ・・・だよな?」

 

この世界だと割とマジで脱ぎかねない気がするんだけど大丈夫だよね?・・・それはそれとしてさっきの発言は際ど過ぎな気がするけどさ

 

「あははは、夜のミラーカが本気を出せば辺り一帯が地獄絵図になりますからね。戦いが始まったら間違っても彼女には近づかないで下さいよ?」

 

百鬼の次期当主にそこまで言わしめる程にエグイ能力を使うのか。ちょっと気に為るな

 

他にもこの島には時間を追うごとにどんどんと戦力が集中しつつあるようで八坂さん以外にも妖怪の主クラスもそれなりに参戦しているな。正直島には入りきらないから飛べる奴は飛んでる感じだ

 

全方位を海に囲まれた日本という国の関係上、放送でもあったように戦闘の余波で沿岸部が危ないけどその辺りは日本の神様が対処して下さるみたいだし、ちらほらとなら神の気配もこの島に在るので前線に出て戦う神様も居る様だ

 

そんな中で誰かがふと海の向こうを見やるとこの場に居た他のメンバーも釣られてそっちを向く

 

視線の向こうからは大量の邪龍となによりトライヘキサの重苦しい威圧感(プレッシャー)が漂って来ているからついつい気になってしまうのだ

 

「いよいよ・・・だな・・・」

 

「ええ、そうね。リゼヴィムから始まったこの因縁も今日で断ち切りましょう!」

 

「『了解!』」

 

リアス先輩の喝に皆が応え、それぞれが戦闘配置に付いて行く―――程なくして水平線の向こう側に黒い影が見え始めてきたのだった

 

今日という戦いが世界の明日を左右する。その事に怖気付く者は一人として居なかった

 

 

 

[保護者 side]

 

 

イッキたちが無人島へ転移して行ってから程無く、有間家のリビングにはイッキとイッセーの両親が揃っていた

 

駒王町は三大勢力が裏で様々な防備を整えているので人間界としては安全度が高い。しかしそれでも伝説の怪物であるトライヘキサの狙いの一つが日本である以上は確実に安全とは言い難い

 

オーフィスとリリスが揃って待機している以上は七分割しているトライヘキサの流れ弾程度はなんとか出来そうだが、万全を期す為にも固まっている方が良いのだ・・・イッキの両親は出掛ける前に息子からいざとなったらリビングの赤いボタンを押すようにとは言われているが、それが『月までぶっ飛ぶ緊急離脱装置』と知らないのは幸せなのかも知れない

 

また安全の観点以外にも超常の存在と繋がっている子供を持つ親という共通点を持つ者同士で集まる事による情報の共有や心の平定を望んだところも有った

 

五郎(ごろう)さん、奥さんも良く来て下さいました。さぁどうぞ上がってください」

 

兵藤夫妻を招き入れた有間一輝の父親である有間一義(かずよし)が出迎える

 

「これはどうも、お邪魔させていただきます」

 

「お邪魔致しますわ。ですが宜しければ私の事も三希(みき)と名前の方で呼んでくださいな。両家の親が集まったなら『奥さん』ではそのうち混乱してしまいそうですから」

 

「それもそうですね。では今後は僭越(せんえつ)ながら三希(みき)さんとお呼びさせて頂きます」

 

そうして三人がリビングに移動するとそこにはお茶を用意している一義(かずよし)の妻である有間光里(ひかり)が居た

 

そしてお互いに名前呼びにする事を伝えると全員でテーブルを囲む

 

今までも隣に住む者同士で交流は有ったが、イッキとイッセーの二人が裏の事情を話してから一つの卓を囲むのは初めてであった

 

二つの家は大所帯である為に親だけで自然と集まれる機会は少なかった上に息子や将来の娘たちがテロリストと戦う組織に身を置いているという事実へ何時話が飛び火するか分からなかったからだ

 

特に兵藤三希(みき)は子供たちが暴力の渦中にいる事に否定的な傾向が強い

 

しかしトライヘキサの人間界への進出によってそんな段階はとうに過ぎ去ってしまったのだ

 

「それにしてもトライヘキサですか・・・私達からしたら余り親しみの無いものでしたが一度くらいは聖書というものに目を通すべきなのかも知れませんな」

 

リビングにも設置されているテレビを軽く見ながら五郎が切り出す

 

トライヘキサという名前も今まさに冥界のチャンネルで出てきたから知った名前だ

 

人間界のチャンネルでは日本とヨーロッパに謎の巨大生物たちが出現としか流れていないが裏のチャンネルならばその限りではない

 

時折兵藤家にも訪れていた紅髪の美丈夫であるサーゼクスがスーツ姿ではなく豪華な装飾の施された鎧を着こんで『魔王』としてテレビに出ている姿を見るのは妙な気分である

 

特に一人息子が王様に対して無礼を働いてないかなどが気に掛かるところだ

 

プライベートでのサーゼクスや貴族の当主というジオティクスに知らぬこととは云え今まで散々庶民として対応してきたのだから心配するのも当然かも知れない

 

「それも良いかも知れませんね。私達の場合は妖怪大百科とかが有ればそっちも見るべきでしょうかね」

 

そんな五郎の切り出しに一義もお茶で軽く喉を鳴らしてから答える

 

息子の周りにはなにかと妖怪の影が多い気がするからだ

 

「ははは!それを言ったらこちらも北欧神話を読む必要が出てきますな・・・暫く前にオーディンという名のご年配の方が家に泊まってた事も有ったのですが、今思うと北欧の主神様だったのだと思いますよ」

 

「なんと!神様がお泊りになられていたとはそれはまた御利益が有りそうですな」

 

大物という意味でなら『百鬼夜行の主』と称されるぬらりひょんも有間家には来た訳だが、流石に神様という響きには敵わない

 

「・・・あの子たちは・・・大丈夫でしょうか・・・?」

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

三希が小さく溢してしまった声に他の3人も一瞬言葉が出なくなる

 

多少おどけた態度を取っていようとも結局のところこの場には子供を心配する親しかいないのだ

 

「あらやだ、御免なさいね。空気を悪くしちゃって」

 

「いいえ、寧ろ助かりました。誰かが切り出さなくてはいけない事でしたからね」

 

「それにきっと大丈夫ですよ美希さん。うちの息子なんて『ちょっと世界を救ってくる』だなんて近くのコンビニにでも行くような感じで出て行ったくらいですし、私達が思っているよりずっと安全なのかも知れません」

 

「―――あらあら、一輝くんはうちの一誠と違ってしっかりしてますからね。こっちなんて行き先もなにも告げなかったんですよ?一誠もそれくらい余裕のある態度を身に付けてくれたら私や夫ももう少し安心出来ましたのに・・・孫の顔は見れそうなのは安心ですけど」

 

無論、人間界でも四方を国に囲まれたヨーロッパ方面では最初期に戦闘機が幾つも撃墜された事は表のニュースにも挙げられている上に、今もこの場に居る彼らが冥界のテレビを点けながらもその内容を極力見ないようにするという矛盾的な行動をしている事からも窺えるように本気で大丈夫だと楽観視している訳ではない

 

それでも今出来る事は戦場へ向かった子供たちの無事を祈る事だけだ

 

「はっはっはっはっは!お互い、将来は孫に囲まれた生活を送れそうですな―――いっその事我が家とそちらの家の間にある塀を取り払って広めの庭に改造してしまっても良いのかも知れませんな。イッセーもイッキくんもお嫁さんは綺麗どころばかりですし、可愛い孫たちが同じ庭を駆け回ってボール遊びをする様子をそれぞれの縁側で眺める・・・う゛う゛ぅ・・・想像したら幸せで涙が出て来そうです」

 

「全くあなたったら袖を濡らしながら言うセリフじゃありませんよ?」

 

号泣している五郎にハンカチを渡す三希は少しだけ気が楽になったのか笑みを浮かべる

 

「うふふ、でもそんな未来も素敵ですね」

 

「ええ、その為にも我々が出来る事は、少ないですが重要ですよ。子供たちの無事を信じて、あの子達が返ってきた時に温かいご飯とごく普通の『おかえりなさい』を言う事です」

 

一義の一言に皆が小さく頷き、様々な想いと祈りを籠めつつテレビに目を向ける。子供たちの無事を祈るように―――例え一瞬でも自分達の大事な子供たちが映ったなら精一杯応援出来るように

 

 

[保護者 side out]

 

 

[Boss side]

 

冥界のとある堕天使領。冥界に現れたトライヘキサの進行方向である首都リリスとは別方向に位置するとあるVIP向けのリゾートホテルのプールにその少年は居た

 

プールの傍でパラソルを立てデッキチェアに座りながらプールの水面を興味深げに覗き込む彼の目には聖書のハルマゲドンを始めとした様々な神話に多く描かれる世界の終わりを告げる大戦争とも云える戦いの映像が見えている

 

神々や伝説の戦士などが参戦しているこの戦いでは既に多くの死者が出ていた

 

トライヘキサが時折放つブレスの直線状に居たならばそれだけで神々だろうと防げず、全力で回避するしかない上に早々避け切れるものでもない

 

更には量産型の邪龍と赤龍帝も一般兵士が相手取るのは命懸けだ

 

既に各地に設置された野戦病院では回復術師たちがフル稼働しており、怪我人も最低限動けるようになったらまた邪龍の群れに突撃するという最低なサイクルが出来上がりつつある

 

トライヘキサ復活までの間にアポプスとアジ・ダハーカが夥しい数の量産型邪龍を揃えた為に物量に押し潰されているのだ

 

そんな各地の様子を見ながらテーブルに展開していた盤上遊戯の駒を動かす

 

「チャトランガ・・・チェスや将棋の起源となったとされるボードゲームでしたね」

 

青白く光る髪を持った少年が声を掛けられてそちらに視線を向けるとそこには緑色の髪の妖艶な雰囲気を纏う美丈夫が立っていた。それを彼は出迎える

 

「やぁアジュカ。キミは戦いに行かなくて良いのかい?サーゼクスたち他の魔王は前線に赴いたようじゃないか」

 

「それをおっしゃるならばシヴァ様の方もインド神話にもトライヘキサが現れているのですからトロピカルドリンクを飲んでいる場合ではないのでは無いですか?」

 

「ハハッ、神だって休日にバカンスを楽しむ時も有るさ。何千年も神をやってる連中が不測の事態の一つや二つで慌ててトップに指示を貰わなきゃ動けないだなんて滑稽だろう?―――っま、僕が直接動くと色々事後処理が厄介になるから出来るだけ働くなって部下に頼まれてる手前も有るんだけどね。それに幸いトライヘキサが降り立ったのはインドラの管轄する場所だから安心して他勢力への援軍を向かわせることも出来る・・・冥界にもそろそろ僕の陣営の神が何柱か到着するんじゃないかな?インドラも最近は自陣を太らせ続けてきてたんだから戦争(メタボ)になる前に一度軍縮(ダイエット)を挟んだ方が良いとも思うしね」

 

「それについては同感ですね。かの神が自主的に戦争(ダイエット)を始めたならばきっと色んな者達が巻き込まれた事でしょう・・・神話の枠を超えてね」

 

「アイツも昔から派手好きだからねぇ。ただ、時代が移ろいだ現代(いま)でもお祭りと戦争を(イコール)で結び合わせるのは如何かと思うよ?」

 

挨拶代わりの軽口を叩き合ったところで少年の姿をした神。シヴァは「さて」と一度視線を切る

 

「それで、どんな用かな?」

 

どこか挑発めいた視線でアジュカを見やる彼に当のアジュカも妖艶で考えの読めない笑みで応える

 

「トライヘキサの討伐依頼を三大勢力からお受けしたとお聞きしましたが」

 

アジュカはシヴァのチャトランガの置かれたテーブルの対面に座りながらその駒を一つ動かす

 

それを見たシヴァも応じる形で駒を動かした。二人の動かした駒の動きはゲームのルールからすれば出鱈目だ。しかし観る者が見ればそれは今の世界の趨勢の略図だと気づいただろう。リゾート地の一角で彼らが駒を動かせば各地の戦局がその通りに動く

 

リアルタイムの情報収集能力と破格の頭脳を持っているからこそのものだが、まるで彼らが世界を直接掌握し、弄んでいるかのような光景だった

 

「ま、一応ね。だがこれは・・・想定外かな?恐らく世界を巻き込む程の『戦争』でなければ、アレを封じる事はできない」

 

「封じる・・・ですか。破壊の神たる貴方が世界を巻き込んででも封じる事しか出来ないと?」

 

アジュカの言葉にシヴァは肩をすくめる

 

「流石の僕でもアレを殺しきるのは不可能さ。それが出来るとすれば全盛期のオーフィスかグレートレッドくらいのものだろう―――それはキミやアザゼルだって解ってた事じゃないのかな?

『破壊』はするさ。けれどそれだけで殺せる程やわな存在じゃないだろう?あの666(トライヘキサ)君は」

 

今のトライヘキサは元々のタフさに加えて聖杯と生命の実の力で、例えるならゲームのレイドボスに蘇生魔術と回復魔術を重ね掛けしてあるような状態だ。一度や二度破壊した程度ではほとんど意味を為さない

 

「それよりも僕が気になるのはキミらが急遽用意したもう一つの作戦とやらの事かな?最終手段の一歩手前に差し込むという割には僕らにも詳しい内容は教えてくれなかったしね」

 

「あらゆる勢力に迷惑はお掛けしませんよ。それに詳細は現地で・・・という事で話は終わっていますから」

 

「まっ、僕らの用意した檻をキミらがどう扱うのか。精々楽しませて貰うよ」

 

ニヤリと笑うシヴァの傍でトロピカルドリンクの氷がカランと音を立てた

 

「さて、世間話はこの辺りにして私の用事が何かという事でしたが、二点有ります。一つは我が友サーゼクスの邪魔をさせない事。もう一つはあなたがこれを機に『破壊』を始めないか見定めさせていただく事です」

 

アジュカの背後には何時しか蒼い長髪の冷たい雰囲気を宿した美女が立っていた。強大なドラゴンのオーラを隠す気は無いようで、その正体が五大龍王最強のティアマットだと察せられた

 

そんな彼女の手には一つの携帯電話が握られている

 

それは恐らく神滅具(ロンギヌス)に関係するものであるとシヴァは見抜く・・・が、覇軍の方程式(カンカラー・フォーミュラ)を操る超越者の用意したソレが本物か、はたまた偽物なのかまでは流石のシヴァでも瞬時に看破は出来なかった。なんにせよ目の前の悪魔がこちらに揺さぶりを掛けにきているのは確かだ

 

「へぇ、僕がトライヘキサと共に世界を破壊するとでも?」

 

「いいえ、あなたが破壊するのがこの世界だとは一言も―――しかし異世界が標的となるという事ならば話は別です。アナタはあくまでもトライヘキサの抑止力を買って出ただけ」

 

「あはは!なかなか面白い考察だけど、異世界に手を出すつもりは無いよ―――多分ね」

 

「ええ、そうでしょうね。ですが私はこの場に留まりアナタと共に居る事により、その僅かな可能性に対する抑止力となりましょう」

 

今のやり取りからシヴァは思う。成程、各勢力の神々がもう一人の超越者よりも目の前の悪魔の方を警戒するのも頷ける―――彼は神々の事をよく分かっている(・・・・・・・・)

 

世界中に散らばる神話を読み解くと分かる事だが大抵の神々というのは頭のネジが2つか3つは外れている連中ばかりだ

 

最近だと神々の黄昏(ラグナロク)にご執心だったロキなど、その行動原理は人間とは逸脱している

 

無論。長い年月を生きる中で人と触れ合う内に人間の感性にある程度共感し、所謂丸くなった神も居るが、大半は傍迷惑な趣味や理念の持ち主たちだ

 

目の前に座るこの神々からすれば年若い悪魔はそんな複雑怪奇な思考回路すらも本質的に捉えている節がある―――それは単に頭が良いだけなのか、それとも彼も同類(・・)なのか

 

「―――神と超越者の考えている事はよく分からないわ」

 

今まさに世界が崩壊しそうだという時にただの世間話のように火花を散らしている二人の様子を見ていたティアマットは溜息を吐く

 

「単純な話です。アイツの敵になるのなら、私の敵になるというだけです」

 

熱を帯びた友情に厚い言葉だ

 

普段はのらりくらりとしている男の珍しく表に出した本心なのだろう

 

「良いだろう。ならば共に見定めようじゃないか―――この世界の行く末を」

 

 

戦う者。祈る者。俯瞰(ふかん)する者―――表も裏も、神も人も入り混じり、トライヘキサと邪龍の先に待つ未来を想うのであった

 

 

[Boss side out]




次回から本格戦闘に入れそうですww


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第八話 ビキニ、アーマーです?

日本のトライヘキサ迎撃混成部隊は妖怪、人間、天使、堕天使、悪魔、そして少ないながら神々が合わさりその数は一万を超えていた

 

夏季休暇に俺がぶっ飛ばした妖怪たちも当然のように浮遊している・・・と云うか明らかに以前よりも全体的にオーラが力強くなってるし世紀末感が増している気がする

 

そこの骸骨は骸骨のクセにモヒカンヘッドで釘バット持つなよ

 

そのモヒカン骸骨の隣に首だけ浮かんでる妖怪の踊り首はどんだけ咬筋鍛えたんだ?どこぞの格闘漫画の地上最強の生物(オーガ)みてぇな顔してんぞ?絶対あれ超金属(オリハルコン)だって噛み砕けるって

 

そんな感じに皆かなりトゲトゲしくなっている―――えっ、俺将来こいつ等も纏め上げなくちゃならなくなるの?普通にイヤなんだけど・・・

 

「俺達のアニキや九重の姉御の居るこの(シマ)ァ荒そうたぁどうやらあのトカゲ共に慈悲は要らねぇみてぇだな!なぁそうだろう野郎どもオオオ!!」

 

「オオオオオオッ!!」

 

「ぶっ殺せエエエエエッ!!」

 

「ヒャッハー!九重ちゃんのおみ足ペロペロオオオ!!」

 

そんな雄たけびが一部から聞こえて来る

 

・・・うん。なにも見なかった事にしよう。あと最後の叫びは聞かなかった事にしよう

 

それに今の彼らなら量産型邪龍程度なら十分相手取れるだろうし、心配する必要もない

 

無視だ無視!

 

だが内容は兎も角として彼らの上げた雄たけびは、この場に集まった混成軍に自らを鼓舞する叫びへと変換されて味方全体に広がっていく

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

どっかの変態のペロペロ発言の後に皆が一体となって叫び始めたように聞こえるけど、遠くの人達からしたら声が混ざってなにを言ってるかは理解出来ないから仕方ないよね!

 

この辺り一帯に響き渡る音圧に海面が激しく震えていく

 

そうして何処かの指揮官的な人が放った「掛かれエエエエ!!」の一言と共にこちらの陣営が一斉に火を噴いた

 

対する邪龍軍団も一斉に口を目一杯開いてドラゴンの代名詞たるブレスを放つ

 

色とりどりの攻撃が混ざる俺達の陣営と紅蓮の炎一色のぶつかり合いは両陣営の中間地点で盛大に弾けていった

 

しかし一般兵士の練度は量産型邪龍と大差はない上に向こうの方が数が多い

 

それ故、ならばとばかりに質で勝る一騎当千の実力者たちも動き出す

 

『さぁ焼き尽くしてくれようぞ邪龍共よ!九重よ、準備は良いな!』

 

「はい。母上!」

 

最初に大きく動いたのは九尾状態となり頭の上に九重を乗せた八坂さんだ

 

そしてその九重が純度の高い神聖で力強いオーラを纏い始める

 

外見も金髪から白髪へと変化し、その状態で八坂さんにオーラを同調・上乗せする事で八坂さん自身も金の毛並みが白く染まる

 

そうして吐き出された神秘を含んだ狐火は邪龍の弱点属性という事も相まって灰も残さずに焼き払っていく

 

『イッキ殿が九重に贈った【神性】の加護ともう一つ在った龍の加護を発現する事で九重は白面金毛(はくめんこんもう)狐龍(こりゅう)。この二つの神獣の特性を合わせ持った存在となったのじゃよ。今は私が九重の力の表面だけを借りておるが・・・いやはや我が娘ながら将来が楽しみで仕方ないぞ』

 

はい。確かに九重たちには新年に俺の加護としてなにかと役に立ってる【神性】を与えましたね。流石に俺と同等の【神性】という訳にはいかないけど早速活用してくれてるようで何よりだ

 

それと九重にもう一つ付いてる龍の加護はオーフィスだろう。龍と云うか龍神の加護だからか【神性】だけなら九重が4人の中で一番高いかな

 

まぁ加護として与えた【神性】はアンリ・マユ由来の神器を直接宿す俺みたいに邪気も受け止められる感じではないようで、黒歌や白音は『邪人モード』は扱えないんだけどね

 

あくまでも極々普通の【神性】だ

 

八坂さんを皮切りに他の皆も大盤振る舞いで技を放っていく

 

「全く!大地を司る黄龍だってのに敵が海上かつ上空ばっかってのはやり難いぜ!」

 

やり難いとか言いつつもドラゴンのオーラと闘気を混ぜ合わせた闘気弾をマシンガンのように連射して島に近づく邪龍を叩き落しているのは百鬼だ。大地に足を着けていれば霊脈を通して無尽蔵に力を引き出せるらしいので基本は迎撃に徹するつもりだろう

 

次に島から少し離れた位置にミラーカさんが一人で邪龍の群れに立ち向かっている―――アレを一人と表現して良いのかは多少意見が分かれるかもな

 

「皆、敵はトカゲさん達だよ。襲っちゃえ~♪」

 

彼女は吸血鬼の固有能力である自身の影から獣やら毒虫やらを生み出す能力を使っているのだが、その数がエグイ!疑似的な魔獣創造(アナイアレーション・メーカー)って感じだ

 

一匹一匹の力は邪龍と比べるべくもないけど彼女の領域に飛び込んだ邪龍は一瞬で全身に纏わり付かれて墜落していく

 

軍隊アリとかアフリカナイズドミツバチ(別名:殺人蜂(キラー・ビー))みたいな感じと言えば大体伝わるだろうか?割と普通にSAN値直葬案件なので検索する時は気を付けて欲しいアレだ

 

確かにアレには色んな意味で近づきたくはない

 

一瞬でモジャモジャの団子状になるから味方が巻き込まれても気付けないかも知れないな

 

「やるわよ。朱乃!」

 

「はい。朱雀お姉様!!」

 

見た目はそっくりな二人が生み出す荘厳な雰囲気を纏う巨大な炎の鳥と雷光の龍が邪龍の群れを焼き払いながら戦場を飛び回る

 

ミラーカさんの生み出す地獄のような光景と打って変わって魅入ってしまいそうな美しさが有る

 

「私達だって負けてられないわ!行くわよゼノヴィア!!」

 

「ああ!特訓の成果を見せてやろうじゃないかイリナ!!」

 

聖剣コンビのゼノヴィアとイリナさんが飛び出し、手に持つ聖剣に莫大なオーラを滾らせる

 

イリナさんの背中からは三対六枚の天使の羽が広がり、頭の上の光輪も二重のものへと変わった

 

「さぁ、先ずは私からいくわよ!―――おいで、八白!」

 

なんとイリナさんがこの戦場に呼び出したのはペット・・・もとい使い魔となった元八岐大蛇(ヤマタノオロチ)である八つの頭を持つ白蛇だ。イリナさんはその八白をオートクレールに纏わり付かせると刀身に吸い込まれるように一体化させた

 

「八白は元々聖杯の力で神剣と一体化するように調整されていたわ。そして私のオートクレールの浄化の力を受けた事で親和性も上がってるみたいなの」

 

イリナさんが振り上げた白く輝く刀身から浄化の力で半物質化した神々しい八岐大蛇の頭が飛び出し、近くの邪龍達を片っ端からその巨大な(アギト)で噛み砕いたり丸呑みにしたりしていく

 

数に勝る邪龍も攻撃を加えていくがブレスで少し形が崩れても直ぐに元に戻ってダメージは無く、直接攻撃しようものなら攻撃した箇所が削れていく程だった

 

そのイリナさんの背後になんとか回り込んだ邪龍たちが突貫を仕掛けるがイリナさんは軽く後ろを振り向くだけでオートクレールの柄頭から新たに鋭く伸びた八本の光の刺突で邪龍達を貫いた

 

「蛇なんだから、ちゃんと頭だけじゃなくて尻尾も有るわよ。こっちは私が完全に制御してるの。元ミミックの使い手を舐めないでよね!」

 

イリナさんは半自動(セミオート)の八岐の頭と手動(マニュアル)の八岐の尻尾の斬撃(+オートクレールの斬撃)で群がる邪龍を一切寄せ付けないで蹂躙していった

 

「ふん。イリナに後れを取る訳にはいかないな!私も精々派手にいくとしよう!」

 

そう言ったゼノヴィアはイリナさんを超える聖なるオーラをデュランダルとエクスカリバーに纏わせる―――元々天然のデュランダル使いだった彼女ならば、単純な聖剣の因子の力はゼノヴィアの方が上回るからな

 

「先ずは挨拶代わりだ!―――クロス・クライシス!!」

 

滾らせたオーラの×(バツ)字の斬撃が彼女の前方の邪龍を遥か後方まで切り刻む

 

開幕ブッパしたな。ゼノヴィアらしいけどさ

 

だがゼノヴィアの猛攻はここからだったようでゼノヴィアが瞬時にその場から消え去る

 

天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)の高速移動で邪龍の視界から外れたゼノヴィアはまたもや二つの聖剣を構えてクロス・クライシスを放つ

 

「まだまだあああ!!」

 

そのまま再度チャージするのを邪龍がブレスで防ごうとするが、ミミックの形態変化で剣の一部を盾状に変化させて受け止めてからクロス・クライシス

 

透明と夢幻の力で本物ゼノヴィアの位置を邪龍に誤認させてクロス・クライシス

 

祝福と破壊の力でクロス・クライシスの威力を更に底上げした上で飛ばした斬撃を支配の力で操った追尾型クロス・クライシス

 

エクスカリバーの各種特性の全てを必殺技(クロス・クライシス)につぎ込んだ脳筋戦法だった

 

「ははははは!クリスタルディ先生の因子を頂いてからこれだけオーラを放っても大して疲れなくなったぞ!やはり持つべきものはパワーだな!」

 

いやまぁ雑魚狩りには全体化攻撃で只管ボタン連打するのが一番効率良いし、力も有る程度はセーブしてるみたいだけど傍から見るとかなりバカっぽい戦い方だ

 

てかゼノヴィアの発言が既にバカっぽい

 

折角エクスカリバーの各種特性というテクニックに活かせるはずの能力が全部パワーの引き立て役になってるから、少し遠くに居る祐斗から発せられる物悲しい気配がここまで漂って来てるぞ

 

「全く、私の眷属は皆次々に新しい力に目覚めていくから私も気が抜けないわ。でも、私達はチームなのだから時にはコンビネーションも大事よ―――イッセー!アレをやるわよ!」

 

「了解、リアス!!」

 

主の命令にイッセーが応えて鎧の各所の宝玉からワイバーン・フェアリーを生み出すとその小さいドラゴン達は赤く変化してリアス先輩の全身に張り付いて行く

 

そして一瞬眩く光った後にリアス先輩が赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)を着た状態で佇んでいた

 

イッセーとリアス先輩の二人の赤龍帝だ・・・向こうは偽の赤龍帝が数千単位で居るし、他六ケ所も同じだけ居るなら最低2万は居る計算だけどね!

 

「ワイバーン達は常に動き回るからどうしても俺の意識が散漫に成り勝ちだからな。一時的にリアスに鎧として貸し与える事でもっと効率よく、強力に能力を扱えるようにしたんだ!これが俺とリアスの合わせ技―――『深紅の滅殺龍姫(クリムゾン・エクスティンクト・ドラグナー)』だ!!」

 

成程ね。流石にイッセーの着ている鎧程の性能は出せないはずだが核の部分にイッセーよりも基礎スペックでは圧勝しているリアス先輩が着こむ事でその差を埋めている訳だ。やってる事としてはユーグリット・ルキフグスの鎧に近いのかな?

 

ただなぁイッセー。俺はそんなの(・・・・)は認めねぇぞ!!

 

俺は邪龍の群れをかき分けて鎧の片方であるイッセーに接近する

 

「イッセー!お前は俺にケンカ売ってんのか!?」

 

「はぁ!?いきなり何をキレてんだよイッキ!?」

 

ッチ!心底理解出来ないって声音しやがって!

 

俺は"ビシッ"と隣のリアス先輩に指を差す。よそ様に指を差しちゃいけないってのはこの場では無視させて貰うぜ

 

「この間俺が嫌いなのがミスマッチ的なものだって言ったよな!?なのになんだそのリアス先輩の格好は!上半身に行くにつれてゴツさが増すフルフェイスなビキニアーマーの何処に需要が在るってんだ!今すぐ綺麗な服装に仕立て直せ!!」

 

※アニメ3期オリジナル基準

 

「そこかよ!?お前今世界の命運掛けて戦ってんだぞ。それにビキニアーマーになってんのはちゃんと理由が有るんだよ。小型のワイバーン達の数だけじゃ全身鎧を再現できるだけのパーツが不足してたんだからさ!」

 

だとしてもアンバランス過ぎだろう。露出してるのはリアス先輩の太ももとお腹くらいで他は割とガッツリとした鎧が装着されてるからD×Dの代名詞のエロさすらも感じないわ!

 

「それでも技名に龍の姫なんて単語が入ってるならもっと姫っぽくする努力をしろよ!これじゃあビキニアーマーでも鎧でもライダースーツでも何でもないただの変な格好だよ!」

 

俺が渾身の想いを籠めて叫ぶとリアス先輩がどんよりとした空気を纏って項垂れてしまった

 

「へ、変な格好?私とイッセーの力の結晶が変な格好・・・二人で鎧姿ならお揃い(ペアルック)だと思ってたのに・・・間違いだったって言うの・・・?」

 

「リアス先輩。色恋は人の目を曇らせます。鎧と鎧をお揃いで着こんで喜ぶような恋人関係なんてこの世に存在しませんから!」

 

恋は盲目とか恋は病とか云うけれどリアス先輩が変な方向に拗らせていらっしゃる

 

「・・・いや、でもイッキ。俺って一番最初に契約を取れた相手がスーザンっていう戦国鎧の女の子で西洋甲冑の堀井ってヤツに恋文を届けて(相手の(あたま)に矢文をダイレクトメール)カップルとして成立させた事も有るんだけど・・・」

 

居るのかよ!?目ん玉飛び出るレベルの珍事じゃねぇか!

 

いや!ここで諦めたらダメだろう

 

「イッセーもよく考えろ。つまり今のお前とリアス先輩がその時のカップルと同じ道を辿ろうとしてるんだぞ?お前はそれで良いのか?」

 

これで『それでも良い!!』って返されたら最早なにも言えないんだけどさ

 

「い、いやぁそれはちょっと・・・ってかその話は後にしない!?さっきから邪龍達が襲って来てるから考える時間もねぇんだからさ!」

 

確かにここまで話しながらでも闘気弾や狐火を四方八方にばら撒いているし、イッセーもドラゴンショットを撃ちまくってるからな。だからと言って退く訳にもいかねぇんだよ!

 

「イッセー。要するに時間さえ稼げれば良いんだな?」

 

そう言ってイッセーの答えも聞かぬままに皆が戦ってる戦域より少し上に飛び立ち大剣状態の右歯噛咬(ザリチェ)を順手で、左歯噛咬(タルウィ)を逆手で持ち、刃を水平に限界まで体を独楽のように捻る

 

そうして俺は渾身の回転斬りをその場で放つ

 

「第七秘剣・天照―――日輪の太刀!!」

 

【一刀羅刹】を用いて振るわれた360度の斬撃が日本の空を彩り、邪龍の塊とも云える群れを上下に分断した。普通の量産型邪龍とかグレンデルやラードゥンに赤龍帝の偽物のような強い力を持った量産型とか関係無しに全部だ

 

恐らく宇宙から地上を見てたなら炎の円環が日本全土を覆いつくすような光景がその目に映った事だろう

 

唯一トライヘキサにぶち当たった斬撃だけはかの獣の胸の部分を斬り焼いて衝撃で大分後退させたけど、傷は直ぐに戻るだろうし見た目程のダメージは無いだろうな

 

今回の戦いで俺達『D×D』のメンバーは一人につき二つフェニックスの涙を持たされている

 

でも俺はこの場では攻撃手段として使用させて貰うぞ!あの鎧に物申す為に!!

 

 

~何処かのリゾート地~

 

「・・・・・・待ったは有りですか?」

 

「あははは、まぁアレは僕にも読めなかったしね。ここの施設の宿泊費で許してあげるよ。後で領収書送ろうか?」

 

「ッ//////」

 

盛大に戦況を読み違えて駒を別の箇所に配置し、破壊神に揶揄(からか)われ、龍王に声を殺して笑われる超越者が居たらしい

 

~何処かのリゾート地(完)~

 

 

邪龍を葬った俺はすぐさま空いた空白地帯にイッセーを引っ張り出して詰め寄る

 

「ほらイッセー。俺達の周囲の敵はだいぶ減ったから少しだけなら皆に任せても大丈夫だ。直ぐにデッサンするぞ」

 

俺は亜空間から鉛筆とキャンパスノートを取り出す

 

「イッキお前どんだけ本気であの格好嫌ってんだよ?ここまで否定されると俺も泣きたくなってきたんだけど?つーか戦場のド真ん中でお絵描きし始めんな!」

 

イッセーのもっともなツッコミも無視して俺は筆を奔らせる。大丈夫だ、問題無い。パクリだけどデザインは頭の中に既にある―――寧ろ『そんな装備で大丈夫か?』という話を俺にさせたのはイッセー達だろうが(責任転嫁

 

そうして身体操作をフル活用して書き上げたのはFateの正しく『顔役』のア○トリア・ペンドラゴンのドレスアーマーだ。彼女はあの世界で『赤き龍』の心臓を持つ人物だ。ドライグの鎧を女性版として表すのにこれ以上の格好が在ろうか?・・・まぁ色合い的には流石に薔薇の皇帝っぽくなってしまうだろうが、そこは仕方ない

 

僅か20秒程で描き上げたその新しい鎧をイッセーに見せる

 

「どうだ!これなら文句ないだろう!!」

 

俺の広げたノートのデッサンを見てイッセーが首を捻る。まだなにか気に掛かるところでも在るってのか?

 

「う~ん。でもこれって頭部を守る部分が無いからなぁ―――鎧を着てリアスもガンガン前に出るなら急所はちゃんと守っておきたいんだけど・・・」

 

まぁ『顔は女の命』とも言うし、自分の恋人なら余計に心配になる気持ちは分かるがな

 

だけど最初のビキニアーマー(?)の時もおへそ丸出しだったから割と急所晒してなかったっけ?

 

「だったらイッセーのワイバーン達って赤と白を混ぜる事って出来ただろ?それで頭の部分にティアラとしてくっ付けて『反射』で頭部を守れば防御力も視界も確保出来ないか?」

 

リアス先輩の紅い髪にもよく映えると思うしさ

 

「成程な!それならバッチリだ。ドライグ、俺のイメージを元に鎧を再構築してくれ!」

 

『お前たちは一体なにをやっているのだ・・・まぁ良い。有間一輝が使い物にならない・・・戦果を挙げてるのが質が悪いな。ともあれこのままでは落ち着いて戦う事も出来んからな』

 

なんかドライグがぶつくさと言っていた気もするけど、やっとリアス先輩の真の鎧姿がお披露目される。さぁ型月ワールドにおける吸血鬼の真祖と並ぶ二大ヒロインの姿をこの世界に魅せ付けてやって下さい!

 

「・・・なんだか酷く疲れたわ」

 

当の本人はなんだかいまいち覇気が足りてないみたいだけどね

 

そうして再び紅い光に包まれたリアス先輩がそのドレスアーマーの姿を世界に晒す

 

籠手に脚甲に腰からサイドの太もも辺りを守る装甲・・・あれ?なんかサイドの装甲小さくない?

 

疑問を余所に次に目に入ったスカートの部分には大胆にスリットが入っていて生足が見え、そして頭にはⅯ字っぽくも見える白銀に耀くティアラ!!

 

「ってジャンヌじゃねぇかあああああ!!俺が描いた絵とちょっと違うんだけど!?」

 

俺のツッコミに対して最初のジャンヌの叫びは聞こえて無かったのかイッセーは改変の理由を話してくれた

 

「いやだってイッキの絵は綺麗だったけどやっぱりエロさが足りて無いからさ。せめてこれ位はさせて貰うぜ。おっぱいだってその形が強調されるように金属鎧からドラゴンの皮を重ねた感じでフィットさせたものを適用したんだ!」

 

確かにリアス先輩の二つのお山の形がハッキリ分かる仕様変更が施されてる・・・もはや完全にFateのジャンヌ・ダルク(色違い)だ

 

―――まぁ良いか。当初の方向性の見えない謎アーマーとは雲泥の差とも云える出来栄えとなったし、俺は満足だ

 

「なにを」

 

「やってるのかにゃ?」

 

俺がその場で腕を組んで"うんうん"と頷き、イッセーがリアス先輩を褒めちぎってると俺とイッセーの頭にダブル猫又姉妹かかと落としが炸裂した

 

今の衝撃で30メートル位は高度が落ち込んだぞ!

 

「「うおおおおお!!脳天が割れるうううう!!?」」

 

遠慮ゼロで攻撃したな!脳天じゃないけどイッセーの兜はかち割れたぞ!

 

「全く。リアス様も乗せられないで下さいまし。イッキ様の暴走をもっと早く止めに入れなかった我々にも非は有りますが、指揮官でもある貴女様がそんな事でどうしますの?」

 

近くではレイヴェルがリアス先輩に説教をし始めた

 

リアス先輩も流石に不味いと思ったのか素直に謝っているようだ

 

「一番悪いのはイッキ先輩ですからね?反省して下さい」

 

「御免なさい!」

 

もしも必要なら空中土下座を披露する勢いで頭を下げた。それでも本当に許せなかったんですよ、あのミスマッチアーマーは!

 

「にゃははは~。如何やらイッキはちゃんと反省してないみたいだし、後で私達の言う事を何でも一つ聴く罰でも与えましょうかにゃ~?」

 

内心で言い訳してたの見破られた!その場凌ぎ無しで反省出来てないとバレますか!

 

「あ、折角だし私達とイッセー達の家に住んでる全員分の願いを聴くようにね♪勿論だけど九重もそこに数えておいてにゃ♪」

 

うおおおい!なんか一気に被害が拡大したぞ

 

もしかして俺やイッセーの御両親相手に『戦場でバカやった罰です。命令して下さい』って態々説明するの?精神的にキツイわ!

 

しかしそこで俺はトライヘキサのオーラが高まる予兆のようなものを感知する

 

咄嗟にそちらに視線を向けると邪龍の群れの奥でトライヘキサが大口を開けてオーラを集めようとしている姿が目に入った

 

射線は・・・俺達の居る場所とはズレている。この間2秒未満でそれを判断してオープンチャンネルで叫ぶ

 

≪トライヘキサのブレスが来るぞ!全員退避ぃぃぃっ!!≫

 

戦場の味方の目が一瞬でトライヘキサに集まるとその直ぐ後に特大の炎がその口元から発射され、射線上に居た敵も味方も関係無しに一瞬で塵に変えた

 

範囲内に居た味方で逃げ切れたのは元々当たるか当たらないかの位置に居た奴らだけだな。範囲内の味方の九割以上は持っていかれただろう

 

量産型邪龍も一緒に消滅してたけど慰めにもならない

 

だが漸く最前線の量産型邪龍の群れを殲滅してグレンデルたちの強力なレプリカたちが蔓延る層まで接近した。ここから先は更なる激戦だろう

 

こいつ等を突破して闇の獣となったギャスパーに背負われたヴァレリーさんと手元にトライヘキサを封じる為の数百の魔法陣を展開させているロスヴァイセさんの二人を護衛しつつ、アポプスと聖杯の下へ辿り着かないといけない

 

「皆、ここからが正念場よ!邪龍達を滅ぼして世界を救うわよ!」

 

「『はい!』」

 

リアス先輩が新しい衣装で皆に檄を飛ばす

 

世界の命運を掛けた最終決戦、その第二幕が上がろうとしていた

 

 

 

・・・自分で蒔いた種だけどリアス先輩のコスプレ感が酷い

 

 

*いまいち締まらないイッキであった

 




アニメ三期のあのリアスの格好が好き!って人は逆にどれくらい居ますかね?


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第九話 神、神、神です!?

なんとか一週間以内に投稿できた~!!


俺達がトライヘキサとアポプスに近づく為に更なる進撃を仕掛けようとした時、ついにトライヘキサの頭上辺りに陣取っていたアポプスが動いた

 

手元に出現させた聖杯に手を翳すと聖杯が強く輝いて俺達が押し進めた前線の前衛組と最初に俺達が居た無人島近くで援護してくれていた後衛組の間に大量の魔法陣が展開され、そこから量産型邪龍の大群が現れた・・・ご丁寧に強力な邪龍達をメインに据えた構成となっている

 

「さぁ、これからが本番だ。進めば私の下へ辿り着けよう。しかし後ろの者達に甚大な被害が出る事になるぞ?壁役の居なくなった後衛ほど脆いものは無いからな―――私も早く貴様らと戦いたいが、手を緩めるような無粋な真似をする気は無い。頭を回し、死力を尽くし、貴様らにとって最も価値のある勝利へと続く道を歩んでみせろ。その先でこそ、私は待つ」

 

アポプスのセリフが風に乗ってこちらまで届いてくる。前門の虎、後門の狼と云うか前も後ろもドラゴンばっかだ

 

「っく!あれ程容易く戦力を補充出来るなんてね!しかも強力な邪龍ばかり。ここで島まで邪龍を蹴散らしつつ後退すれば取り敢えずの被害は抑えられるでしょうけど、減らした端から補充されたら焼け石に水だわ。それにファーストインパクトで兵隊たちの力は大分消耗しているから今回は凌げてもその次からは死者が大量に出始めるわね」

 

「邪龍の増援がどれだけ残ってるは判らない以上は消耗戦に持ち込むのは下策ですわね。当初の予定通り、素早く邪龍の囲いを突破して本丸に乗り込むしかないでしょう」

 

頭脳派のリアス先輩とレイヴェルが多少予想より損害が増えるのは無視してでも前に進むべきと口にする。確かに無限湧きする中ボスなんていちいち相手にしてられない。しかしアポプスは更にこちらに畳み掛けるように仕掛けてきた

 

「そうだろう。貴様らは戦士として自分のすべき事を理解している。ならばもう少し後ろ髪を引いてやるとしよう」

 

アポプスが再度聖杯に手を翳すと今度は最初に俺達が居た無人島を中心に展開していた後衛組の背後にも邪龍の軍団が出現した。これで前衛組も後衛組も関係なく邪龍達に完全包囲された形だ

 

「さて如何する?今ならば転移で逃げて立て直す事は出来るだろう。しかしその間に我らは貴様らの後ろにある国に乗り込む。人が、建物が、自然が、その多くが破壊され、再び貴様らが我らに挑むとしても眼下の戦場は焼け野原となるだろう。冷静にして冷酷な判断で撤退するか、刺し違える覚悟で進撃し、その蛮勇を勇気と称えられるものへと昇華させるのか、貴様らの魂の指し示す奇跡を魅せてくれ」

 

クソ!どこかの人間讃歌を謳いたい魔王っぽいようなセリフを吐きやがって!

 

完全に潰しに来ているな・・・いや、その上で自分と相対する勇者を望んでいる感じなんだろうけど、この一ヵ月で聖杯なんてチート級アイテムでせっせと邪龍を量産してたこいつ等が本気の物量をぶつけてくるとか面倒ってレベルじゃねぇ―――このまま戦って勝ったとしても双方全滅での勝利とか勝利と呼びたくはないし、如何動くべきか

 

てかトライヘキサをなんとかしようと色々頑張ってた訳だけど、原作よりも時間が有った分だけ前哨戦の難易度は寧ろ上がってねぇ?

 

すると俺達の背後の無人島から極大の光の柱と呼べる斬撃が放たれ、襲い掛かる邪龍の群れの一部を薙ぎ払った

 

「それは好都合。『奇跡』がご所望ならばやはりこの場は俺の出番のようだな」

 

手に持つ聖槍で肩をトントンと叩きながら余裕の表情を浮かべながら現れたのは曹操だった

 

禁手(バランス・ブレイカー)の七宝の浮遊と瞬間転移の能力で大量の邪龍の隙間を縫って俺達の傍までやって来る

 

「曹操!?お前なんで此処に!?」

 

イッセーが驚きと共に質問すると何時もの飄々とした態度のまま答えてくれた

 

「なに、帝釈天に遣わされてな。遅ればせながら俺も参戦させて貰おうとこの島にやって来たのだが、中々良いタイミングだったようだな」

 

「あれを見ろ!」

 

そこで戦場に居た誰かが島の付近の空中に指を差して叫ぶとそこから空間転移で五大龍王の一角である玉龍(ウーロン)が現れた。更には頭の上に複数の人影が見え、そのうちの一人が手に持っていた如意棒を巨大な柱に変化させて邪龍の群れを纏めてぶっ叩いた

 

「ほっほっほ、今まで中々一緒に戦ってやれんですまんかったのぅ。さてさて、その分働かせて貰うぞい」

 

筋斗雲に乗って戦場を駆り始めたのは初代の孫悟空だ・・・確かに『D×D』の副リーダーって肩書の割に数回出会っただけだったからな

 

とはいえ帝釈天の遣いとして殆ど単騎で世界を飛び回ってクリフォト相手に暴れてたみたいだから流石に文句は付けられん

 

そんな孫悟空に続いて戦場に飛び出した二つの影

 

片方は年老いた豚の獣人のような風貌でもう片方はドクロの数珠を首から掛けた髭の長い老人だ

 

「ブヒッとな。まったく、この歳で大喧嘩たぁ老体には堪えるぞ」

 

「まったく、まったく、儂らの中で現役なのは悟空だけだってのに、儂らまで無理矢理引っ張ってきおってからに」

 

文句を言いつつ豚の獣人は口から極大の火を噴き、ドクロ数珠の爺さんは眼下にある海水を無数の獣の形に変えて邪龍達に向かわせていた

 

「そう言うない。悟浄(ごじょう)八戒(はっかい)。それに何時も若い者には負けんと言っとったのは何処の誰じゃったかの?」

 

そりゃあアンタ等なら大抵の若い奴らには負けないでしょうよ

 

『そりゃあ暴れないと嘘だよな!』

 

「「「いの一番に引退したぐーたら龍は黙っとれ!!」」」

 

玉龍(ウーロン)が盛大に火を噴きながら吼えると三弟子からの総スカンを喰らった

 

西遊記メンバーの中での玉龍(ウーロン)の扱いがヒデェ

 

悟浄(ごじょう)八戒(はっかい)!?って事はあれが西遊記の!」

 

イッセーが孫悟空と関連付けて増援に来た二人の正体に辿り着く。沙悟浄(さごじょう)猪八戒(ちょはっかい)孫悟空(そんごくう)―――日本でも有名な伝説たちが増援に来た事で少し声が弾んでいるようだ

 

そんな伝説のメンバーに増援に来ていた最後の人影が声を掛ける

 

「悟空、悟浄、八戒、玉龍。私語を慎め、世界の危機だ。今こそ積んだ徳の見せどころなのだぞ」

 

見た目は青年一歩手前くらいで蓮の花を思わせる衣装を着こみ足元に車輪がくっ付いてそこから火を噴き、手には炎を纏った槍を持っている。他に目を引く物は腰布と手首の輪っかだな。どれもが最高峰の武具だと解る

 

哪吒(なた)太子。玄奘三蔵(げんじょうさんぞう)法師の三弟子だけでなく、須弥山(しゅみせん)の主戦力まで援軍に出しているのだからな。帝釈天も本気という訳だ」

 

お~!哪吒(なた)太子も参戦してるのか。って事は炎の槍は火尖鎗(かせんそう)で空を飛ぶ為の車輪が風火輪(ふうかりん)。腰布が混天綾(こんてんりょう)で手首の輪っかは乾坤圏(けんこんけん)か―――確か哪吒(なた)太子って他にも伝説の武具を複数使いこなすんだったよな?多芸な事だ

 

「でも曹操。確か今って帝釈天の領域の須弥山にもトライヘキサが出現してるんだろ?幾ら戦神の多いインド神話つっても最強の神滅具(ロンギヌス)の持ち主のお前に哪吒(なた)太子に伝説の三弟子までこっちに回す余裕が在るのか?」

 

「っふ。どうやらかの神はライバル視している破壊神が各勢力に悠々と援軍を送っている事がお気に召さないらしくてね。『俺達はシヴァ神の陣営と違ってトライヘキサに襲われてる状態でも各勢力に援軍を送る程度余裕だし!』・・・と、見栄を張りたいのさ」

 

「うっわぁ、面倒クセェ上司だな」

 

『帝釈天も本気』って本気の出しどころ間違えてるだろ

 

曹操も否定も肯定もせずに肩を竦めるだけだし・・・まぁお陰でこっちは助かってるからこれ以上は俺も控えるか。それに対トライヘキサ戦でありとあらゆる勢力に恩が売れる機会とも言えるから、そこまで可笑しい判断とも云えないしな―――部下は大変だけど

 

そんな彼らは確かに心強い援軍だけど広範囲に広がる戦線を支えるには流石に手が足りない。そんな想いに応えるかのように更に援軍がやって来た

 

極大のブレスと極大の聖剣の波動が邪龍の群れを薙ぎ払う

 

「どうした?お前たちの力はこんなモノではないだろう。お前たちの全てを俺はまだ見ていないのだ。タンニーンへの義理立ても有り、今は力を貸そう」

 

「久しぶりだな、若人たちよ。すでに引退した身だが、世界の危機とあっては立ち上がらなければ主に顔向け出来ないのでな。この老骨に鞭を打ってやって来たのだよ」

 

新たな援軍は邪龍最強のクロウ・クルワッハに最強の聖剣使いのストラーダ猊下だ。二人の圧倒的な攻撃力の前ではグレンデルとラードゥンの硬い防御も布切れのように破られていく

 

更にそこにダメ押しとして曹操が動いた

 

曹操は聖槍を掲げる様に両手で持つ

 

「さぁ、先程のアポプスの『奇跡を魅せろ』とのリクエストに応えるとしよう!」

 

曹操に気合が入ってるのは良い事だけど懸念事項が一つ有るんだよな

 

「大丈夫か曹操?天界の時みたいにおっぱいの奇跡を手繰り寄せたりしないよな?」

 

乳神降臨(日本の)とか既に前科一犯なんだし

 

「・・・この場で赤龍帝を多少女性の胸関連で強化したとしてもこの戦場全体の戦局を変えるような『奇跡』は聖書の神の遺志とて引き起こせないだろう―――大丈夫だ。問題無い」

 

ニヒルな笑みを浮かべながら問題しか起きそうにない返しは止めなさい!そう思うのも束の間、曹操は最強の神滅具(ロンギヌス)の真の力を解放する為の呪文を唱え始める

 

「槍よ、神を射抜く真なる聖槍よ。我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの狭間を抉れ―――汝よ、遺志を語りて、輝きと化せ!覇輝(トゥルース・イデア)!!」

 

曹操の掲げた槍の穂先から神聖で莫大な光が天をも貫く柱となり、夜の戦場を昼間かと見紛う程の明るさで照らし出す

 

そして直ぐに戦場に『奇跡』による変化が訪れた

 

『・・・・・おっぱい』、『・・・おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』、『おっぱい』

 

四方八方、上下も含めて全方位から聞こえてくるのは言い訳のしようも無く『おっぱい』だった

 

そしてそのおっぱいコールを連打してるのはアポプス達が用意した偽物の赤龍帝達だ

 

「こ、これは一体どうなってやがるんだ?」

 

彼らのオリジナルであるイッセーが状況に付いて行けない中、リアス先輩が何かに気付いたようだ

 

「―――っは!?そうよ!あの偽物の鎧たちはサイラオーグとのレーティングゲームのフィールドに残されたイッセーの血液や鎧の欠片を基にして量産されたものだったはずよ!つまり、あの試合で乳力(にゅ~・パワー)で強化復活したそのコピーと云う事・・・あの鎧たちは赤龍帝のコピーであると同時に『おっぱいドラゴン』のコピーでもあるのよ!!」

 

「そうか!『おっぱいドラゴン』のコピーならば乳に関する奇跡も通用するという事だな!」

 

リアス先輩の推理にゼノヴィアも得心がいったらしい・・・曹操よ。如何やらこの戦場全体にはとっくにおっぱい要素が詰め込まれていたみたいだぞ?

 

「で、でもでも!大丈夫なのこれ!?偽物のイッセー君たちがなにか(おっぱい)を求めるように手をゆらゆらと突き出してるんだけど、その内私達の胸が狙われない?」

 

あ、確かにそれはダメだ。俺はイッセーの兜を両手で掴んで"ゴチッ"と額を突き合わせて緑色のレンズの奥のイッセーの瞳を覗き込む

 

「イッセー。例え偽物でも黒歌たちの胸を揉もうものならお前に神の子を見張る者(グリゴリ)謹製の『賢者の薬』を一気飲みして貰うからな」

 

なんか今凄く平坦な声が喉から出た気がする

 

言われたイッセーは高速で頭を縦に振った・・・と云うか全身が震えてる気がするな

 

「絶対阻止する!死んでも阻止するわ!!」

 

おう、その意気だイッセー。マジでその時は容赦しねぇからな?

 

だが如何やらこのおっぱいの奇跡は終わってはいなかったようで、戦場を照らしていた光の柱から一柱の神が降臨した。トーガを身に纏ったブロンド短髪で天使の羽のようなものを生やした男神だ

 

「アレは!?ギリシャ神話の恋愛と性愛を司るとされる神―――エロス!!」

 

戦場の誰かがその正体を知っていたのか叫ぶ・・・っておいおい。仮にも『聖書の神』の起こす奇跡なのに日本神話の乳神やらギリシャ神話のエロスやらを引っ張って来るとか聖書の神様の遺志も随分と腰が軽いな。和平を結んだせいか?

 

そして敵味方関係無く今の状況に困惑してる中、降臨したエロスがその声を―――否、神の啓示を彷徨える偽乳龍帝たちに(もたら)

 

≪OPPA~I、に目覚めた愛し子達よ。残念ながら鎧姿のキミたちはOPPA~I、を揉む事は出来てもその柔らかさも温かみも感じる事は出来ない≫

 

なんでおっぱいだけ『OPPA~I』なんてカタコト英語みたいな発音なんだよ?あとさり気に残酷な事実を突きつけてるな。偽赤龍帝改め、偽乳龍帝軍団に隠しきれない動揺が広がっているぞ

 

だがそんな苦難の道を敷かれて生まれてきてしまった新たなおっぱいの信徒たちに進むべき道を示すのもまた(エロス)の役目らしく、彼らに天啓を授ける

 

≪OPPA~I、に触れもしないならそんな肉体(うつわ)は棄ててしまえば良い。今こそ仮初の体から抜け出し、OPPA~I、への愛をもってOPPA~I、の精霊としてその魂を昇華させ、世の女性たちのOPPA~I、を抜き身の心で抱きしめて祝福(あい)を授けるのさ≫

 

エロス神は戦場の偽乳龍帝たちに≪OPPA~I、包ンダラ、イイジャ~ン。OPPA~I、ウズメタラ、イイジャ~ン≫と無駄に神々しく告げる

 

≪さぁ、キミたちの新たな門出を祝う為にこの曲を贈ろう。キミたちにこれ以上相応しい応援歌は無いだろうからな≫

 

慈愛に満ちたその表情で指を"パチン"と打ち鳴らすと無駄に豪華な音楽が奏で始める。ただパイプオルガンだとか高級な楽器テンコ盛りの音だけどリズム自体は凄く聞いた覚えがある曲だ

 

≪と~ある国の隅っこに おっぱい大好きドラゴン住んでいる☆≫

 

ああ、はい。解ってましたよ。これが『おっぱいドラゴンの歌』だって事ぐらいはさ

 

エロス神もノリノリで歌い始めて周囲の偽乳龍帝も歌うという機能は無い代わりにセラフォルーもとい魔王少女レヴィアたんが振付したダンスを踊っていく・・・イッセーは鎧の状態で今までも沢山踊って来たから鎧の記録に残ってるのかな?

 

そう云えば聖槍の起こす奇跡には相手を祝福して心を得るものも有るって前に言ってたっけ?多分今目の前で起きている奇跡がその類なんだろうな

 

≪おっぱいドラゴン今日は寝る いろいろおっぱいあったけど

 

どうしてもスイッチ姫が大好き おっぱいドラゴン明日も飛ぶ!≫

 

そのまま2番の歌詞までFullで歌い(おどり)きったエロス神は天へと還っていき、戦場の偽乳龍帝たちも表情は読めないものの満足しきったと解る態度でピンクの光に包まれて魂が昇華してゆき、残された鎧の体は魂が抜けた影響で土くれとなって崩れていった

 

「・・・・・なぁ曹操。おっぱいによる奇跡なんて起こらないんじゃなかったのか?」

 

「有間一輝・・・俺はもう二度と(聖書の)神など信じないと誓うぞ」

 

※この日を境に世界の美乳・巨乳の誕生率が3割増しになった(未来の神の子を見張る者(グリゴリ)統計)

 

「ん゛っうん゛!確かに予想外過ぎる事態だったけれどこれでグレンデルにラードゥン。赤龍帝と普通の邪龍の軍団の四つの勢力の内、一つが消滅したわ。大分戦い易くなったはずよ」

 

リアス先輩がなんとか頭を回して状況の把握に努めている

 

確かにパワーも有って『譲渡』の力も有る偽赤龍帝たちが居なくなったのはデカいな―――内容に目を瞑れば素晴らしい『奇跡』であり戦果だ

 

「因みに本物のおっぱいドラゴンであるイッセーはさっきの状況をどう見るんだ?」

 

「いや・・・本当にもう訳が分からないぜ・・・」

 

「お前って自分から変態的な事をする時は割と突き抜けるのに、周囲が変態的な事をすると途端に一般人になるよな」

 

 

~何処かのリゾート地~

 

 

「う~ん。待ったしても良いかい?」

 

「先ほどの領収書を受け取らなくても良いのであれば、どうぞ」

 

「―――あなた達いい加減普通に観戦したら?」

 

おっぱいドラゴンとオール・エヴィルの齎す変化は神にも超越者にも読めなかったようである

 

 

~何処かのリゾート地(完)~

 

 

偽赤龍帝軍団が居なくなった事で戦況は五分にまで持ち直した・・・あれだけの事が有ってもまだ五分なのだから追加で召喚された邪龍の数も大概で有る事が伝わるだろう

 

「皆さん、トライヘキサの束縛術式が出来上がりました。ただ、これを発動する為にはトライヘキサに触れ合うくらいの距離まで近づかなければなりません。更には各勢力と連絡を取り合ってタイミングを合わせて七か所同時に発動する必要が有るので下手をすればトライヘキサの近くで待機する必要が有ります・・・アポプスの動向も気になりますし、如何したものでしょうか」

 

「どちらにせよ、聖杯を取り戻さないとなにも始まらないわ。多少危険でもトライヘキサに近づいてギャスパーとヴァレリーが聖杯の奪取。そのままトライヘキサに張り付く形で邪龍達からロスヴァイセを私達で守るわよ」

 

「『了解!』」

 

皆が再度気合を入れ直す。しかし堅牢さに定評のあるグレンデルとラードゥンの群れを普通に突破しようとすれば時間が掛かってしまう

 

そこで今まで力を温存していた皆も動き出す

 

「ここからは出し惜しみは無しでいくわよ―――アーシア!」

 

「はい!」

 

リアス先輩の指示を受けて邪龍四兄弟の背に乗って龍王であるファーブニルに守って貰いながら俺達及び周辺の味方の回復役を担っていたアーシアさんが奥の手を披露する

 

ファーブニルを召喚する際に契約の対価として既に渡していたパンツとはまた別にパンツを3枚取り出したのだ

 

「ファーブニルさん。つ、追加の対価(パンツ)ですぅぅ!」

 

「あれは!アーシアの勝負パンツにお気に入りのパンツに今日の体育の着替えの時に穿いていたはずのパンツじゃないか!―――まさかアーシア!その三枚目のパンツは脱ぎたてなのか!?今はノーパンなのか!?」

 

「ち、違いますゼノヴィアさん!これは家を出る直前に履き替えたものなので今の私はちゃんと穿いてますぅぅ!」

 

『追加のお宝、頂きました。アーシアたんの体温がほんのり残ってるパンティー。クンカクンカ―――俺様超本気出す』

 

渡されたパンツを一通り堪能したらしいファーブニルは口を大きく開くとそこから様々な伝説のアイテムを吐きだしていく。強大な力を秘めた魔剣、聖剣、聖槍、魔槍、盾、弓矢、斧、それ以外にも香炉など如何戦闘に用いるのか一見しただけでは分からないようなものまでファーブニルの黄金の波動を纏って空中に展開された・・・お前どこの英雄王だよ?

 

これだけの伝説のアイテムを同時に操るなど如何に龍王と云えども消耗が激しいだろうにアーシアさんのパンツを受け取った変態龍王(ファーブニル)はテンション上がったのか普段の何倍ものオーラを身に纏ってそれらを操り周囲の邪龍達を串刺しにしていく

 

この場において守られる立場のアーシアさんとヴァレリーさん(+ギャスパー)にロスヴァイセさんは一か所に固まって動いているので実質あの二人も一緒に守ってる状態だ。これならば俺達アタッカーも後ろを気にせずトライヘキサへの道を拓く事だけに注力出来る

 

アーシアさんの犠牲と献身(トリプルパンツ)を無駄にしない為にも全力を尽くさないとな

 

「皆、俺が道を拓くから60秒でトライヘキサの下まで走り抜けてくれ。今から一分間。皆の命と安全は俺が預かるけど、問題有るか?」

 

最速でトライヘキサの近くまで移動する為に皆に俺を信じられるかと問うと呆れたような顔をされてしまった

 

「バーカ。今更イッキの『全力』を疑う奴なんて居ねぇよ。そうだろ、皆?」

 

イッセーの言葉に皆が頷いてくれる。それに多少こそばゆさを感じながらも前を向く

 

そうだな、こんな時だし折角なら気合を入れていこう

 

士気を上げるのも大切だからな

 

「だったら遅れるなよ。しっかりと―――俺の後ろについて来い!!」

 

こんなセリフも夏季休暇に京都の妖怪たちと討ち入りした時以来だな

 

多少の懐かしさを感じながらも俺は能力を解放する

 

「【一刀修羅】!!」

 

先程俺が発動した【一刀羅刹】に比べたらその出力は60分の1しか無いが、多少硬い程度の量産型邪龍なんて【一刀修羅】でも十分豆腐を斬るかのような手ごたえに変貌する

 

イッセー達からすれば俺の影を追う事も難しいだろうスピードで周辺の邪龍を高速で動き回ってなで斬りにする

 

放った斬撃はそのまま遠方の邪龍達も切り裂くので今はイッセー達の周囲全方位に絶えず斬撃が舞っている状態だ。そしてそのままトライヘキサへ続く道を俺が造るとイッセー達も出来たばかりで邪龍の肉片がバラバラと落ちているその空間に跳び込んで来る

 

・・・肉片も出来るだけ吹き飛ばすか。なにせ手ごたえ無くスパッと切れるから衝撃で吹き飛んだりしないのだ

 

俺の姿はほぼ見えて無いだろうが、無数の斬撃を放ちながら突き進むイッセー達に遠くに居てギリギリ無事だった邪龍達がブレスを放ってきたりもしたが【一刀修羅】で全てがスローモーションに見えていた俺は少し荒めの斬撃を放って衝撃波でブレスを消し去っていく

 

う~む。味方を守りながらだとあんまり綺麗過ぎる斬撃は少しマイナスだな。飛んでくる銃弾を刀で真っ二つにしても結局自分に当たっちゃうような感じだ

 

攻撃を切り裂いても斬られた方がそれに気付かないから推進力もそのままにこっちに向かって来るって云うね・・・ル○ン三世の五右衛門とか斬った後の銃弾どう処理してるんだろう?

 

思考も加速しているので余裕のある考察をしつつも宣言通りに60秒でトライヘキサの近くまでやって来た。そして【一刀修羅】の効力が切れて一瞬酷い虚脱感と共に落ちそうになるが、それと同時にフェニックスの涙を飲んで体力を全回復する

 

「来たか。だが、この一撃はどう防ぐ?」

 

俺達の事を見ていたアポプスが指示を出したのかトライヘキサの口に先程放たれたものよりも更に強力なオーラが集まり始め、そんなトライヘキサの顔の方向へ立ち塞がるように量産型グレンデルとラードゥンが隙間なく密集する。時間を稼いで俺達ごと吹き飛ばすつもりか!

 

「させん!」

 

俺達がその状況を打開する為に動き出す前に黄金の鎧を纏ったサイラオーグさんが別方向から突撃して来た。見れば彼の進行方向の邪龍達はそれぞれが虹色のシャボン玉に包まれて文字通り嵐のような攻撃に晒されている―――更にその周囲に居る邪龍達もシャボン玉が障壁となって中心を突っ切るサイラオーグさんに攻撃を加えられないでいるようだ

 

当然ながらその光景を生み出したのはデュリオさんだ。丁度サイラオーグさんと一緒に戦ってたようで、こっちの状況を見るや直ぐさま彼に道を造ったのだろう

 

しかしサイラオーグさんだけではトライヘキサのブレスを如何にかする手立てはない。だからこそ彼はここで禁じられた呪文を口にする

 

「此の身、此の魂魄(いのち)幾千(いくせん)千尋(せんじん)に堕ちようとも!」

 

『我と我が主は、此の身、此の魂魄が尽きるまで幾万と王道を駆け上がるッ!』

 

サイラオーグさんとレグルスが交互に呪文を唱える

 

それは彼のこれまでの人生であり、これから歩む道への決意の表明でもあった

 

「唸れ、誇れ、屠れ、そして輝けッ!」

 

『此の身が魔なる獣であれどッ!』

 

「我が拳に宿れ、光輝(こうき)の王威よッ!」

 

「舞えッ!」

 

『舞えッッ!』

 

「『咲き乱れろッ!!』」

 

「『覇獣(ブレイクダウン・ザ・ビースト)解放(クライム・オーバー)ァァァアアアアアアア!!』」

 

二人の呪文が重なりレグルスの黄金一色だった鎧はバアル家を象徴する色である紫を加えて新たな輝きを得た

 

「サイラオーグさん。ヴァーリの覇龍(ジャガーノート・ドライブ)と同じ事を!?」

 

驚くイッセーの言うように彼は魔獣を封じた神器(セイクリッド・ギア)の奥の手を解放したのだ。しかし体に掛かる負担は相当なものなのか発動したばかりで既に口元から血を流している

 

ヴァーリは魔力を糧に一時的に覇龍(ジャガーノート・ドライブ)を扱っていたけど、変則的な所有者であるサイラオーグさんの場合は更に負担が大きいのだろう

 

神滅具(ロンギヌス)の力を解放してデュリオさんのシャボンの道を一瞬で駆け抜けたサイラオーグさんはトライヘキサの顔面に向かうが量産型邪龍達が俺達の前に居る邪龍達のように彼の道を塞ごうとする

 

「ゆくぞ、レグルス!」

 

『ハッ!』

 

「『昇格(プロモーション)『女王』!!』」

 

サイラオーグさんが覇獣(ブレイクダウン・ザ・ビースト)を発動させたその上でレグルスを昇格(プロモーション)させる。その反動で彼の口から血の塊が吐き出されるがサイラオーグさんはそれを無視して思いっきり息を吸い込んだ

 

「『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッツ!!』」

 

放たれたのは二人の獅子王が魔力を乗せた渾身の絶叫

 

文字通り爆発するような音圧と威圧に近くに居た邪龍達は一瞬身動きが取れなくなり、その隙にサイラオーグさんが口を開けたトライヘキサの顎下に潜り込む

 

アレがサイラオーグさんとレグルスの魔力を用いた特殊技か・・・サジは「旦那が変な技開発してた」って言ってたけどそんな可笑しな所有ったか?

 

「『獅子王の咆哮(レグルス・ロア)』・・・まさかこの俺が仮にでも魔力を使う事になるとはな」

 

何処か可笑しそうに笑うサイラオーグさんは握り締めた拳でトライヘキサの顎にアッパーを繰り出した。衝突した拳と顎はこの戦場全体にも響きそうな音を鳴らしてトライヘキサの顔の向きを僅かに上を向かせる

 

「まだまだアアアア!!」

 

そのままサイラオーグさんが只管顎下に連続で拳と蹴りを加えていき、トライヘキサの顔が俺達から逸れた時、かの獣のブレスが解き放たれて大分遠くの海に落ちた

 

津波とかは沿岸部を守ってる神様とかが何とかしてくれるだろう

 

それでもブレスの範囲が範囲なので味方にも少なくない被害が出たようだが

 

「―――情けない。今の俺ではこの程度か」

 

覇獣(ブレイクダウン・ザ・ビースト)昇格(プロモーション)を加えた事で全身ボロボロになったサイラオーグさんは既に通常の鎧に戻してフェニックスの涙を使用したらしい

 

いやいや、多分トライヘキサの顎砕けてるか最低でも罅入ってましたよ?もう治ってるだろうけど魔王級の攻撃でもかすり傷程度のはずだから十分凄いでしょ

 

だがそんなライバルの雄姿を見て血が滾ったのかリアス先輩も高めた魔力で滅びの球体を何発も撃ち出していく

 

「負けてられないわね!私達も一気にアポプスを叩くわよ!!」

 

「よっしゃ!ギャスパー、準備は良いか!」

 

≪とっくに出来てるよ、イッセー先輩!聖杯は必ず止める!≫

 

「うふふ、頑張りましょうね。ギャスパー」

 

闇の獣の姿で格好良くキメているギャスパーもヴァレリーさんがポヤポヤ笑顔で頭を撫でているからいまいち締まらないな

 

さて、ここで以外にもアポプスに突撃する為に最初に前に出たのはレイヴェルだった

 

「ギャスパーさんが大切な方の為に頑張ろうとしているんです。友人として私もここは一つ派手にいきますわよ!」

 

そんなレイヴェルは全身に猛々しくも神々しい炎を纏っている。いや、アレは俺が与えた【神性】を全開にしているというよりはレイヴェルがその全身を禁術の贄として捧げているのか・・・今までは腕や足など体の一部だったのに全身となると威力は比較にならないだろう

 

レイヴェルの背後に展開されている北欧式の魔法陣に巨大な樹の紋様が描かれている

 

「北欧の主神オーディン様はその昔ルーン文字を得る為に世界樹ユグドラシルの下で自分()を生贄に捧げたと言いますわ。そして今の私は仮にも【神性】を宿す者。それを贄とする事で原初のルーンの力を一時的に引き出す事は出来ますのよ!」

 

レイヴェルの突き出した指が素早く空中に縦に三本、左右の斜めにも三本ずつ、計九本の線を奔らせる。ルーン文字の原典にして原点であるマザールーンと呼ばれるものだ

 

「これが北欧における始まりにして創成の炎!神や巨人たちですらも焼き尽くす原初の(ほむら)ですわ!母なる劫火に還りなさい―――ムスペルヘイム!!」

 

神話の一節を再現するその一撃は前方の邪龍の群れを焼き払い、トライヘキサの表面も焼き、アポプスにすら原初の水による防御態勢を取らせる程だった

 

たった一発。されど間違いなく神クラスの一発だったな。禁術使いの面目躍如ってところか

 

「元北欧の戦乙女(ヴァルキリー)であるロスヴァイセさんからして今のレイヴェルの一撃はどう見ます?」

 

「・・・恐ろしい限りですね。同じ術式を戦乙女(ヴァルキリー)で再現しようと思ったら何人がその命を捧げなければならないのか分かりません。当たり前ですけど不死身という特性が強すぎます」

 

ですよね。再生能力だけならトライヘキサとタメを張るだろう。まぁトライヘキサは有り余るエネルギーで無限コンテニュー可能だけどさ

 

「レイヴェルにだけ良い格好させられません。ギャー君の友達なら私も当てはまるんですから」

 

「にゃははは♪白音もレイヴェルも九重も張り切るなら私はイッキのお嫁さんという枠組みで参加しようかにゃ?邪神(イッキ)の女は皆が神の力を振るえるって世界に魅せ付けるわよ」

 

「はい。黒歌姉様!」

 

なんとも恥ずかしい宣言をした二人が浄化の炎に【神性】を練り込んだ神聖なる炎を身に纏う―――彼女達が悪魔とか妖怪とか言われても中々に信じ難いだろう

 

白音も今までは三又モードの時は小柄なままだったが、この状態では大人モードとも併用出来るようだ

 

更に言えば二人はそれぞれ神聖な炎で編み込まれた透けるような羽衣を纏っている。まるで天女のような姿に惚れ惚れするし、何よりあの羽衣はより高濃度の浄化の炎で形作られているようなのでアレに触れれば量産型じゃないグレンデル達でも一瞬で燃え尽きるかも知れないな

 

「私の白猫神(はくびょうしん)モードと黒歌姉様の黒猫神(こくびょうしん)モード―――イッキ先輩の隣に居るには神様くらいにはならないとやってられないんです!」

 

俺の彼女の期待値が重い!別に俺能力で彼氏彼女の関係を結んだ訳じゃないよ!

 

俺がなにか云う前に白音と黒歌は神浄の炎で邪龍達を容易く葬っていく

 

九重は八坂さんの手を借りた形だけど俺の将来の嫁さん達が皆して神の炎をブッパしていく・・・それに比べて俺はと云えば邪炎を邪龍に浴びせて邪龍達がつんざく様な悲鳴を上げながら燃え落ちていく様を量産していってるというこのギャップよ!

 

「あはは、まぁ聖と邪が合わさってある意味バランスは取れてるように見えるんじゃないかな?」

 

俺一人と黒歌達四人でバランス取れてるって如何いう意味ですかねぇ、祐斗さん?

 

邪神要素が強すぎですか、そうですか!

 

悲しい気持ちになりつつも俺達はついにアポプスの下まで辿り着いたのだった



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第十話 邪龍 VS 赫龍帝です!

俺達は聖杯を傍に浮かせたアポプスの前までやって来た

 

それによりギャスパーが低い唸り声を上げながらその双眸を妖しく輝かせる。聖杯を目の前にした事で感情が抑えきれなくなったのだろう

 

≪アポプス!ヴァレリーの聖杯を返して貰うぞ!≫

 

啖呵を切ったギャスパーにアポプスは興味深げな視線を送る

 

「ほう。バロールとはまた懐かしい気配だな。封印された訳でもない貴公がまさか神器(セイクリッド・ギア)憑代(よりしろ)に復活を果たすとは、面白いものだ」

 

≪勘違いするなよ。魔神バロールは既に滅んだ存在だ。力も記憶も一部しか受け継いでいないからな。今の僕はリアス・グレモリー様の眷属―――ギャスパー・ヴラディだ≫

 

「そうか、では認識を改めよう。その上でその身に刻むがいい―――生命の理を捻じ曲げる聖杯の(もたら)す奇跡という名の絶望を!」

 

アポプスが聖杯を掲げてその力をなんらかの形で解放しようとするがギャスパーの上に乗っていたヴァレリーさんがネックレスに加工した神滅具(ロンギヌス)紫炎祭主による磔台(インシネレート・アンセム)を両手で持ち、シスターが祈るような姿勢をとると聖杯の輝きに対抗するようにネックレスも強く輝き、二つの光がぶつかると聖杯の力が目に見えて弱くなる

 

「それ以上聖杯を使わないで下さいね。皆さんが困ってるみたいなので」

 

「―――成程、その波動。そのネックレスも聖遺物(レリック)か。原理は分からないが貴公の近くでは聖杯は扱えないようだな」

 

アポプスが聖杯を一瞥して納得したように頷く。トライヘキサが復活した今、聖杯は戦いを楽しむ為のスパイスの一つ程度にしか捉えていなかったのか特に動揺した様子はない

 

「聖杯の力は抑えた。お次は杯そのものを返してもらうよ―――ギャスパー君。リアス元部長の『全力を出せ』という命令を果たしていないのは後は僕とキミだけだからね。ここは僕らの魅せ場だとは思わないかい?」

 

聖杯の力を抑えて次に聖杯の奪取に動こうとすると祐斗が俺達の前に立ってギャスパーに呼びかけ、ギャスパーも祐斗の提案を聴いて可笑しそうにクツクツと笑った

 

≪祐斗先輩も戦い方はテクニックタイプだけど考え方は大概パワー寄りだよね≫

 

まぁ祐斗は騎士道精神の持ち主だからな。剣の師匠は武士道の歩み手だし、決闘とか名誉ある戦いとか大好きだもんね

 

「あははは、僕も結構イッセー君の影響を受けてるのかもね―――それとも僕のお誘いじゃ気が乗らないかい?」

 

≪いいや。普段クールな祐斗先輩からの熱血なお誘いなんて断ったら勿体なさ過ぎて破産しちゃいそうだよ≫

 

軽口を叩き合った二人が前に出る・・・ギャスパーの上にはヴァレリーさんが乗ってるから正確には三人だけどな

 

「・・・イッセー君。僕とギャスパー君でアポプスと聖杯を引き剥がす。イッキ君はこの後トライヘキサに対処して貰わなきゃいけないからね。アポプスを倒すのは任せても良いかい?」

 

「ああ、勿論だ!今日この日の為だけのスペシャル技は用意済みだぜ!」

 

イッセーの言葉を聞いて祐斗は「そう来なくっちゃね」と返しつつ亜空間より魔剣を引き出す

 

「・・・魔剣、ノートゥングか。てっきり最強の龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の魔剣であるグラムを出してくると思っていたのだがな」

 

「幾らグラムが最強だからってグラムしか使わないのは僕元来の戦闘スタイルとはズレてしまうんでね。それに最強の武器が最適な武器とは限らない―――今からそれを貴方の体に直接刻んで差し上げましょう」

 

「良くぞ言った!お前がその伝説たちを握るに足る者なのか魅せてみろ!!」

 

アポプスのその言葉と共に祐斗が踏み込んだ

 

一瞬でアポプスとの距離を縮めた祐斗が大きく振りかぶって大上段から振り下ろす

 

「そのような大振りの攻撃など・・・」

 

アポプスは自分と祐斗の間に漆黒の色をした原初の水を盾として余裕を持って差し込む。しかし一瞬祐斗の背に隠れていた魔剣から聖なるオーラが揺らめいているのが見えたのか盾をそのままに横に跳ぶと直後に原初の水が断ち切られた!

 

「成程。貴公の聖魔剣と伝説の魔剣の融合という訳か」

 

アポプスが祐斗が手に持つ剣の姿を見て冷静に分析する

 

俺は聖なる力を高めた聖魔剣を発現させた祐斗に合体剣の構想を教えてやったのだ・・・アレだ。ファイナルなファンタジー7の自称ソルジャーの剣みたいな感じだ

 

「ええ、僕は且つての同士たち全員の聖剣の因子を取り込んだ事で魔の力より聖の力の方が強くなってしまっています。新たに洗練された聖魔剣ならば多少聖と魔のバランスが片方に寄っても剣の状態を維持できますが、効率的とは言えません―――僕の聖魔剣の本質は聖と魔の狭間である事。足りない魔の部分をこの魔剣たちに担って貰ったんです」

 

祐斗は伝説の魔剣を核とした聖魔剣なノートゥングをアポプスに突き付ける

 

「普段は僕の体を気遣って出力を勝手に抑えてしまう魔剣たちも反目する聖の属性で均衡を保ち、全力を振るえるようになる。本来であれば高い負担(リスク)を伴う剣だけあって、性能はお墨付きですよ」

 

普通なら相反する聖の力で魔剣の呪いを抑えようとすれば出力も相応に下がってしまいそうだが、真に聖と魔が融合した今の聖魔剣ならば十全に力を振るえるという訳だ

 

「面白い!貴公らの中でも私と一対一(サシ)でも戦いになるのは有間一輝と赤龍帝に猫又の姉のみと思っていたが、貴公もその領域に足を踏み入れてるようだ」

 

「天龍クラスとされる貴方にそう評価されるのは悪い気はしません・・・ね!」

 

魔剣を核とした聖魔剣を構え直した祐斗がセリフの終わりと共に再び強く踏み込む

 

高速で迫る祐斗にアポプスは今度は原初の水を盾ではなく、鋭い棘状にして何十本も撃ち出す

 

如何に祐斗の剣閃が疾いと言ってもあの数の攻撃を一瞬で捌けるほどアポプスの攻撃は(のろ)くはない

 

祐斗がトップスピードに乗ったのと同時にカウンターを仕掛けてきた感じだ

 

「防ぐのが難しいのであれば迎撃するまで―――お次はこれを如何躱す?」

 

アポプスとしてはこの程度は凌げて当然と云わんばかりだ。そして祐斗もその期待に応えるだけのモノを持っていた―――祐斗が手に持つ魔剣に力を籠めるとその刀身に暴力的なまでの風が纏わりつき、その剣を横に薙ぎ祓う

 

「嵐よ!その身を刃と変えよ!!―――バルムンクッ!!」

 

局所的に発生した殺人風が原初の水を吹き飛ばす

 

原初の水も『水』という形を取っている為か吹き飛ばし系の技はそれなりに有効なようだ・・・まぁ吹き飛ばし系と云ってもそこら辺の上級悪魔程度なら一瞬で血しぶきになるレベルだけどな

 

「新たな魔剣か!持ち替えた瞬間が分からなかったぞ!」

 

高速武器交換(クイック・チェンジ)は僕の必須技術でしてね!」

 

祐斗の言葉にアポプスはならばとばかりに大量の原初の水を溢れさせる

 

空の上だと云うのに津波の如き質量だ

 

「そちらが吹き飛ばすならこちらはそれを押し流すとしよう!」

 

バカみたいな水量が視界を埋め尽くす中で祐斗は今度は剣に凍えるような冷気を纏わせた

 

「死を司る貴方の水を凍てつかせ、コキュートスを再現致しましょう―――ダインスレイブ!!」

 

祐斗が氷の魔剣の力を解放すると迫りくる黒色の津波が凍り付いた。そして祐斗はそのまま黒い氷塊に突撃する

 

「砕け放て!―――ディルヴィング!!」

 

破壊力重視とされる魔剣であるディルヴィングで目の前の氷塊を破砕すると大量の黒い氷の飛礫(つぶて)がショットガンのようにアポプスに飛んでいく

 

だがアポプスはその攻撃に晒されてもノーダメージだった。アポプスに当たった飛礫はアポプスの体に吸収されるように消えていく

 

「狙いは良い。しかし想定が甘かったな。原初の水は私自身でもある故に、私を傷つける事は出来ない」

 

氷塊を砕いた勢いのままアポプスに突貫していた祐斗に欠片も怯みもしなかったアポプスが攻撃を加えようとする。しかし、その直前にアポプスの体は停止してしまった

 

≪今貴方と戦ってるのは祐斗先輩だけじゃないんですよ。僕の事を忘れないで下さい!≫

 

そう。アポプスの動きを停めたのはギャスパーだ

 

「馬鹿な!貴公の今の力では私を一瞬でも停める事など!」

 

アポプスが驚きながらも視線をギャスパーの方に向けるとギャスパーの上のヴァレリーさんが二つの小瓶を持っている事に気が付いた。そしてその小瓶の縁に血が付着している事も

 

「そうか、今の貴公は吸血鬼でもあったのだったな」

 

≪ええ、これは赤龍帝であるイッセー先輩の血と邪神・・・高い【神性】を宿す人間であるイッキ先輩の血です≫

 

おうギャスパー。お前後日学園の屋上か体育館の裏に来いよな

 

冗談とかじゃなく素で間違えただろ?

 

因みにだが以前吸血鬼のエルメンヒルデとそのお供に俺の血を飲ませて上げた時には酷い事になっていたけど、アレはあくまでも前日に身を清めて神性に神聖を僅かながらにでも付与していたせいだからな。それでも試しにとギャスパーに俺の血を飲ませる時はあの時の惨状を思い出してかギャスパーは涙目だったが「イ・・・イッキ先輩から搾られた体液(コレ)・・・飲まなきゃダメですかぁ?」とか言ってきた時に偶々近くに居た椿姫先輩(ふじょし)が鼻を抑えて蹲ったのは記憶から消したいがな!

 

あの人は祐斗がメインではあるけど、他の腐った組み合わせも十分イケるのだろう

 

あの後高速でメモ帳にペンを奔らせてたし・・・

 

なにはともあれ龍と神の力の宿った血を飲んだ事で一時的に能力値が爆上がりしたギャスパーの魔眼がアポプスを停めたのだ

 

それも時間停止の神器である『停止世界の邪眼(フォービドウン・バロール・ビュー)』の効果だけではなく、ギャスパーは周囲に多くの闇の獣を生み出してそれぞれの眼から麻痺やら石化やら重力やらの拘束系の魔眼の力を解放したようだ・・・逆に言えばそれぐらいしないとアポプスを一瞬でも停止させられないって事だけど、それだけ在れば祐斗がアポプスの懐に入るには十分だった

 

「ナイスサポートだよ、ギャスパー君!これで最後だ。突き穿て!―――グラムッ!!」

 

祐斗が放ったのは全身のバネや反動を一点に集中した突き技・・・不完全ながらも俺の第一秘剣・犀撃(さいげき)を模した一撃をアポプスに叩き込んだ

 

別に教えた訳じゃ無かったけどコッソリと練習してたんだな

 

「ッグぅぅぅ!!」

 

咄嗟に原初の水と腕で防御態勢を取ったアポプスだったが衝撃を完全に殺す事は出来なかったようで高速で吹っ飛んでいく

 

「ギャスパー君!」

 

≪分かってます!≫

 

アポプスの態勢が崩れて吹き飛んだ先はギャスパーの程近くだ。アポプスが立て直す前にまだ俺とイッセーの血で身体能力も含めて強化されているギャスパーが高速で動いて聖杯を掠め取る

 

「やった!」

 

誰かがそれを見て叫んで、ギャスパーと祐斗を後ろに庇う

 

俺とイッセーの血を飲んで使える魔眼を全解放したギャスパーも伝説の魔剣を一本ずつ全力で振るった祐斗も既に肩で息をしているからだ

 

アポプスに通じるだけの攻撃を繰り出せると言っても今の二人では消耗が激し過ぎる訳だが、それに見合った戦果を挙げる事は出来た

 

ヴァレリーさんが自分の下に還って来た聖杯を胸元に持っていくと自然と聖杯は彼女の中に戻っていった

 

祐斗に飛ばされたアポプスもその光景を見たのか引き返してくる事も無く、丁度眼下にあった俺達が最初に居たのとは別の無人島に降り立っていく

 

その際にアポプスはイッセーに戦意の籠った視線を向けていた―――先程のイッセーがアポプスの相手をするという会話は聞こえていたのだろう

 

「んじゃ、俺も行きます」

 

そう言ってドラゴンの翼を羽ばたかせて島に向かうイッセーの背中にリアス先輩が声を掛ける

 

「イッセー、勝ってきなさい」

 

「はい!」

 

短くも信頼の籠ったセリフにイッセーも元気よく答える

 

飛んで行ったイッセーを皆で見送った後、暫くトライヘキサ封印術式を発動直前でキープしているロスヴァイセさんを皆で守りながら戦っていると各勢力でも封印準備が整ったとの連絡が入った

 

「トライヘキサを、止めます!!」

 

ロスヴァイセさんが気合と共に束縛の魔法陣を発動させるとトライヘキサの巨体を多量の魔法陣が包み込んでいく

 

トライヘキサは苦しむような声を上げて身じろぎしようとするがどんどんと動きが鈍くなっていき、遂には身動き一つ取れなくなったのだった

 

如何やら上手くいったようだな―――さて、ここからは俺の見せ場になるかな?

 

ったく、主人公っぽい事は柄じゃないんだけど、仕方ないか―――そんな事を思いつつ俺はトライヘキサを見下ろしたのだった

 

 

[イッセー side]

 

 

俺はアポプスが降り立った無人島に辿り着いた

 

「来たか、赤龍帝・・・正直に言えば私の相手をするのは有間一輝か、もしくはお前たち全員同時だと思っていた」

 

あらら、そんな風に思われてたんだな・・・まぁ以前アウロス学園で戦ったのはイッキと黒歌さんだったし、再戦を意識しても可笑しくはないか

 

「まっ、確かに合理的に考えるならそうなるよな。知ってるか?イッキの奴最近はクロウ・クルワッハと殴り合いしまくってるんだぜ?アイツ絶対に人間じゃねぇよ」

 

もはや何度同じ感想を抱いたか分からない位にイッキは人間辞めてると思う

 

いい加減諦めて邪人じゃなくて邪神を名乗ったら良いのにな

 

「ふっ、それは中々にクロウ・クルワッハが羨ましいと感じるな。前回有間一輝と戦った時は消化不良で終わらせてしまったからな。今一度戦いたいものだ」

 

アポプスの目線が上空の仲間たちの居る方に向けられる

 

「イッキの、いや、仲間の下には行かせねぇよ。お前の『最後』の相手は俺達(・・)赤龍帝だ・・・それか余所見する気なんて起きないようにこう言ってやろうか?」

 

俺はアポプスを挑発し、また自分を鼓舞する為にも奴の眼を真っ直ぐ見つめて告げる

 

「俺はリアス・グレモリーの『兵士』にして今代の赤龍帝、兵藤一誠!」

 

『同じく、ウェールズの赤き龍にして二天龍の片割れ、ア・ドライグ・ゴッホ!』

 

「『原初なる晦冥龍(エクリプス・ドラゴン)アポプスに決闘を申し付けるッ!』」

 

俺とドライグの宣言が重なる

 

これがドラゴン流の決闘の名乗りだとドライグに教えて貰ったのだ

 

俺達の申し出を聴いたアポプスは今まで基本冷静な表情を崩さなかったのが初めて凶悪な程に喜悦に満ちたものとなる

 

「ハハハハハハハハハッ!!ここまで気持ちが高ぶったのは何時以来か!我は太陽を飲み込む蛇、アポプス!そなた達赤龍帝の宣言を受け取る!」

 

その言葉と共にアポプスから爆発的なオーラが発せられる

 

そしてこの島全体を結界で包み込むと悪魔の瞳でも暗く感じる程に世界が昏くなり、頭上には日食の時のように光輪が浮かび上がり、アポプス自身もドラゴンの姿へと変貌する

 

真暗の色合いの百メートルくらいの長さの東洋タイプの龍だ―――黒い体の所々に銀色の宝玉の輝きが見える

 

おいおい、ひょっとしなくても二天龍以上なんじゃねぇのかアレ?

 

『ああ、明らかに以前出会った時よりも力が増大しているな。確実に生前の俺やアルビオンよりも強いぞ。一体なにが在った?』

 

「これか?貴公等が以前リゼヴィム王子と戦った時になにが在った?」

 

アポプスの問いかけに俺はリゼヴィムがウロボロスの魔法陣を握りつぶした光景が頭を過ぎった

 

「まさか!リリスの蛇か!?」

 

「そうだ。まさかあの王子が強化用の蛇を一匹しか出していないと思っていたのか?私もアジ・ダハーカも龍神の『蛇』で強化されている。元より聖杯の恩恵を受けている我らが龍神の力だけを拒む理由も無いという事だ―――我らは邪龍!力と闘争を求める存在だ!」

 

アポプスから発せられる圧倒的で禍々しいオーラに体が震える

 

『なんだ相棒、怖じ気付いたのか?今からでもお前の仲間たちを呼び寄せるか?』

 

小馬鹿にするようなドライグの声音に俺は無理矢理笑みを浮かべる

 

「ハッ!バカ言うなよドライグ。ここでそんな情けねぇ真似出来るかってんだ!それにこれは武者震いってやつだぜ!」

 

『それで良い。ここで逃げ出すようならお前の魂を焼き尽くすところだったぞ―――さぁ、次は俺達の番だ。アポプスの度肝を抜いてやろうではないか!』

 

ドライグに促され、俺は先ず使い魔召喚で竜子を呼び出し鎧と融合させる

 

融合(フュージョン)!―――赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)龍襲(・オーバーコート)!!」

 

リゼヴィムと戦った時はぶっつけ本番だったがあれから調整も進み一体化していられる時間も大分増えた―――オーラの最大値が魔王級の俺と龍王・魔王クラスのラードゥンを取り込んだ竜子と合体する事で今の俺は単純に考えれば魔王クラスの2倍のオーラ量を誇る

 

イッキも邪人モードでは魔王級の2倍のオーラだからオーラ量なら同等となったんだぜ!

 

だけどコレだけではアポプスには勝てない。同じオーラ量でも戦闘技術に秀でているイッキがクロウ・クルワッハに模擬戦では負けている以上、今の俺がアポプスに勝とうすれば望外の幸運でも降りてこない限りは勝率はゼロに近いだろう

 

だけどなアポプス。俺の切り札は竜子じゃねぇんだよ

 

俺はそこから更に魔力で異空間に仕舞ってあったこの日の為に用意したアイテムを取り出した

 

漆黒の龍の顔に三つの銀の瞳を宿したアポプスが俺が取り出したものを見て(いぶか)しむ

 

『それは・・・桃?いや、人間の雌の乳房のようにも見えるな』

 

俺が取り出したのは七つ(・・)のピー乳だ

 

「俺はこの日の為に竜子と協力して毎日リアス達の乳力(にゅ~・パワー)を注ぎ続けてきたんだ!」

 

形は同じでも見れば分かる!こっちはリアスのピー乳。あっちはアーシアのピー乳!

 

それぞれに分けたピー乳が六つに竜子が仕事で色んな女性のおっぱいから集めた乳力(にゅ~・パワー)を詰めたピー乳の計七つだ

 

俺の少年漫画の聖典(バイブル)であるドラグ・ソボールで七つのドラグ・ソボールを集めるとゴッド・ドラゴンが喚び出せるのを参考にしたぜ!・・・この一ヵ月、乳力(にゅ~・パワー)を吸い取る時の皆の素晴らしい光景は当然音声データ付きで脳内保存済みだ!

 

「さあ、暴れる時間だぜドライグ―――サモン!おっぱ~い!!」

 

『うおおおん!その呼びかけはヤメロオオオオッ!!』

 

ドライグが悲痛な叫びを上げながらもピー乳に蓄えられた莫大な乳力(にゅ~・パワー)を俺を通してオーラに変換。それを糧として俺の左腕の籠手から赤龍帝、ア・ドライグ・ゴッホが現世に蘇った

 

『まさか! まさか まさか まさかこんな光景が見られるとはな!赤龍帝が並び立つなど想像も出来なかったぞ!』

 

本当なら七つ以上の専用のピー乳を用意出来たなら良かったんだけど、六つ(+汎用ピー乳一つ)でもドライグを短時間復活させることは可能だったんだぜ?

 

『ううぅ・・・ぐすんっ・・・相棒よ、何故そこでおっぱいなのだ。この俺の久しぶりのデビューだったのだぞ?その果実が宙に浮かんでたのは仕様上仕方ない事だとしてもあの掛け声は俺には必要ないものだろう』

 

お、おう・・・テンション爆上がりのアポプスと泣きが入ってるドライグの温度差がヒデェ

 

「わ、悪いドライグ。気合を入れようとしたらついよく叫んでるセリフが出ちまってよ。次からは気を付けるからさ」

 

俺は謝るのも程々にアポプスに向き直る

 

多分ここはさっさと話を進める方が良いだろう

 

「さ、最初に言ったよな?『俺達』赤龍帝がお前の相手だってな!」

 

『そうだな。赤が二人・・・赤龍帝、否!『赫』龍帝が相手とはなんとも心躍る展開だ!』

 

『スーハーッ、スーハーッ・・・クックック!俺もこの体では久方ぶりの実戦だからな。リハビリに付き合って貰うぞ―――最も、そのまま倒してしまうだろうがな!』

 

深呼吸をしてなんとか平静を取り戻したドライグがアポプスに向かってニヤリと笑う

 

凄い自信だな。今のアポプスは生前のドライグよりも強いって自分で言ってたのに

 

『っふ、相手が自分より強ければ最初から戦いを諦めるような軟弱者では到底『ドラゴン』を名乗れんのだよ、相棒。そこに邪龍も天龍も無い』

 

まっ、そうかもな。思い返せば俺の今までの戦いって殆ど格上の敵ばっかだったし、必死こいて気が付いたらなんとか勝利って辛勝しか体験してない気がするぜ

 

『お互いに準備は整ったようだ―――始めるか』

 

アポプスの開始の宣言と同時にこの島の結界内に黒い水が溢れ始めて地面を浸していく

 

このままでは然程時間を掛けずに結界内は触れば溶けるあの原初の水で満たされてしまうだろう

 

『相棒、如何やら悠長に戦う暇はないようだぞ!』

 

「ああ!一気に行こうぜドライグッ!!」

 

俺達は翼を広げて空中に居るアポプスに向かって同時に突貫する

 

それに対してアポプスはドラゴンのその大きな口を開いて闇の塊のような弾をばら撒いてきた

 

俺もドライグも空中で体を捻って弾幕の外に出るが俺の翼に掠った闇がドラゴンの翼を一瞬で溶かしていく

 

「ヤベッ!?」

 

咄嗟に闇に蝕まれた片翼をパージして新たに翼を生やして態勢を整える

 

おいおいこちとら単純なオーラ量ならタンニーンのおっさんとかグレンデルとかの倍くらいは有るんだぞ?それでも瞬時に溶かされるってどんだけだよ?

 

俺は視線をドライグに向けるとドライグはさっきの攻撃が足に少し掛かっていたらしく、そこから煙を上げている

 

『ふん!俺の鱗を溶かすとはな。だが掠った程度では俺の肉体にまでは及ばぬようだ。では次は此方の番だ!』

 

ドライグが口を開けてお返しとばかりに極大の炎をアポプスに向けて放つ!

 

スゲェ!一瞬で結界内の温度が上昇した

 

普通の人間だったらこの場に居るだけで丸焼きになってたぜ!・・・っと、いけない いけない

 

今のアポプスには『俺達』の全力でぶつからないと勝てないだろうから、俺もやらせて貰うぜ!

 

未だ炎が渦巻いている中からアポプスの闇がドライグの炎を喰い尽くす

 

『良い炎だ。だが私を燃やしたければ太陽神でも引っ張って来るといい』

 

そういやアポプスって太陽神と対立してるんだっけか?炎の威力では天龍のドライグが上だろうけど、太陽神の炎は弱点特効が入るのね

 

「だったらオーラで直接吹っ飛ばす!―――喰らえ!ドラゴン・ブラスタアアアアアッ!!」

 

最大限まで高めた魔力砲を両肩のキャノンから撃ち出すがその攻撃はアポプスに当たった途端に闇に呑まれるように消えてしまった。今のアポプスは人間形態の時以上に闇そのものって訳か!

 

クロウ・クルワッハは人間の姿とドラゴンの姿で戦闘力が特段変化しないって前に言ってたけど、アポプスの野郎はドラゴンの姿の方が明確に厄介で強いって事だな

 

遠距離攻撃が効かないなら接近戦で直接殴る・・・のは止めておいた方が良いな。十中八九殴りつけた腕ごと消滅するから試しで行うにはリスクが高すぎる

 

そう思いつつも俺はアポプスに向かって距離を詰める

 

『Brade!!』

 

左腕の籠手から飛び出た刃は聖剣アスカロンだ

 

さっき木場が戦っていた時にグラムの一撃が原初の水の防御を正面から突破してダメージを与えていた。詰まりは龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)ならばちゃんと効果が有るって事だ!

 

「おらああああああああ!!」

 

『Transfer!!』

 

『Penetrate!!』

 

連続して籠手から音声が漏れる

 

高めた力をアスカロンに譲渡してそこに透過の力も加える

 

そうしてアポプスを斬り付けたが手ごたえこそ感じたものの当のアポプスはどこ吹く風だ

 

『赤龍帝・・・いや、兵藤一誠。『水』を斬り付けても効果は薄いぞ?』

 

ああ、そうかい!それでも龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)と聖なる攻撃自体は無駄じゃないはずだろ!一撃でダメなら連撃で叩き込むまでだ!

 

だが次の瞬間、アポプスの懐にまで潜り込んだ俺に大量の闇の弾丸が襲い掛かる

 

『させるか!』

 

ドライグが横合いから強力なブレスを吐き出し、その隙に俺もその場から離脱する。しかし戦っている内に既に地面の殆どを飲み込んでいた原初の水が形を変えて幾重もの槍の束となって俺とドライグを襲う

 

俺は竜子が取り込んだ事で使えるようになった結界を張ってみるが、やはりと言うべきか容易く溶かし貫いてくる

 

それを見て瞬時に回避に全力を注ぐがアポプスの苛烈な攻撃に上下で挟まれた事で遂には黒い水の槍が俺の腹部を貫通してしまった

 

「がああああああああああっ!!?」

 

痛てぇ!痛てぇ!痛てぇ!貫かれた傷口が闇の力でどんどん侵食されて広がってるみたいだ!

 

そうして余りの激痛に動きが鈍ったところにアポプスの追撃が迫る

 

痛みで明滅する視界の中でも何とか体を動かして躱すがそれでも新たに手の甲と太ももに攻撃を受けてしまった・・・畜生、やっぱり俺って何時もスマートにはいかねぇな

 

だがそこで追撃が止まったのでなんとか頭を上げると丁度ドライグがアポプスを直接殴り飛ばしているところだった・・・スゲェよドライグ。流石は力の塊と称されたってだけはあるよな。相手が液体だとかそんな理屈をパワーで押し通してやがる

 

とは言えドライグも無事では済まなかったようで、殴りつけた拳が激しく煙を立てている

 

もう後3~4発も同じ手で殴れば腕が無くなるかもな

 

クソッ、先ずは回復だ!

 

そう思って俺は懐からフェニックスの涙の入った小瓶を取り出すがその中身は黒く染まってしまっていた。慌ててもう一つの小瓶も確認するが同様にフェニックスの涙はその効力を失っている・・・恐らく先程腹を貫かれた時に近くに在ったフェニックスの涙がアポプスの闇のオーラの余波を浴びてしまったのだろう

 

「へへ、仕方ねぇか。無茶苦茶痛いけど、このまま行くしかねぇみたいだな!」

 

俺の攻撃はアスカロンと『透過』を用いてもアポプスに有効打を与えられなかった

 

普通に考えたらこんなボロボロの俺が行っても戦力にならないどころか足手纏いなんだろうけど、こっちにはまだ切り札以外にも奥の手ってのは残ってるんだぜ?

 

痛みから少しでも気が紛れるように兜の下で無理やりに笑みを浮かべて上を向く・・・もう地面は全部原初の水で満たされちまってるな

 

まぁ良い。元々退く気なんてさらさら無いんだからよ!

 

今一度ドラゴンの翼を広げて上空でぶつかり合ってるドライグとアポプスの下へ向かう

 

『来たか。兵藤一誠』

 

「当たり前だ。これでも舞台では主役を張ってる身でね。悪役にやられたまま途中退場なんて脚本は用意されてねぇんだよ。何故なら俺はおっぱいドラゴン!子供たちのヒーローなんでね!」

 

『ヒーロー・・・私のような邪龍が相手をするに最も相応しい存在だ!』

 

へっ、嬉しそうな声出しちゃってよ・・・つってもこっちは未だに体に穴が開いてる状態だ。あんまり戦略的な立ち回りは出来ないだろう

 

「ドライグ、アレをやる!悪いがサポートしてくれ!!」

 

『応!―――なに、相棒のサポートなど何時もの事ではないか』

 

そうだな、戦う時は何時も一緒だった。そしてそれはこうして肩を並べてる今でも変わらねぇ!

 

俺が空中で踏ん張りを効かせると鎧の腹部と胸部がスライドしてゆき、その奥から巨大な緑の宝玉・・・いや、砲門が現れた

 

その宝玉に馬鹿みたいな量のオーラが集中していく

 

『飛ばすぞ相棒!日輪に向かって撃てっ!!』

 

俺は相棒(ドライグ)の言葉に瞬時に反応して射線を修正。アポプスの生み出した偽りの日食に向ける

 

ドライグはと云えばなんとアポプスを鷲掴みにしてゼロ距離でブレスを放つところだった

 

『グハァァアアッ!!』

 

流石のアポプスもこれにはダメージを禁じえなかったようで吹き飛んでいく・・・でもなアポプス。そこに居ると危ないぜ?

 

「これが月に一度限りの必殺技!神滅具(ロンギヌス)と云う器に溜まった力を解放する純粋なパワー!」

 

丁度腹部の宝玉に臨界までオーラをチャージ出来た俺は遠慮なくその力を解き放つ

 

「脳筋ゴリ押しでいかせて貰うぜ!―――ロンギヌス・スマッシャアアアアアアアアッ!!」

 

ドライグのゼロ距離ブレスと俺のロンギヌス・スマッシャーに半ば挟まれる形となったアポプスを爆炎が包む・・・これなら流石に倒せたんじゃねぇのか?

 

「はぁ・・・はぁ・・・や、やったか!?」

 

―――って、しまった!このセリフはフラグだって前にも言われたじゃねぇか!

 

俺が内心で自分の迂闊さに毒づいていると爆炎の中からボロボロのアポプスが現れた

 

畜生!ジンクスってのは意外と馬鹿に出来ねぇな!

 

アポプスの奴はボロボロではあるけど戦意は微塵も衰えてねぇ!

 

『・・・神をも消滅させる程の一撃だ。正しく神滅具(ロンギヌス)の名に恥じない一撃だった。しかし今の私は神が恐れた天龍を超える力を持っている。神殺しではなく天龍殺しの一撃を用意すべきだったな』

 

天龍殺しの一撃なんてそうホイホイ用意出来る訳ねぇだろ

 

「はは・・・まっ、次が在ったら考えとくよ・・・」

 

その為には先ずコイツをぶっ倒さなきゃいけないってのが頭の痛すぎる問題だけどな

 

この場に居る俺もドライグもアポプスも全員がボロボロの状態だ

 

だけど俺はもう奥の手も出しちまったし、一番死に掛けてもいる―――そんな俺になにが出来るかって?決まってる。只々(ただただ)全力をぶつけるだけだ。俺は頭脳派じゃないからな。手札を全て晒した後はもう『わるあがき』しか選択肢が残ってねぇんだよ!今までもそれで乗り切って来たんでな!

 

「ドライグ!まだやれるな?」

 

『俺よりよっぽど重症のお前が問うのか。普通は逆ではないか?』

 

「へっ、んなもん訊いたもん勝ちってね。見栄を張るのも主演(おっぱいドラゴン)の役回りってやつさ!」

 

息をするのも苦しい中で俺が吼えると俺の中に声が響いてきた

 

≪イッセー、我の声、聴こえる?≫

 

この声は・・・オーフィスか?

 

この場に彼女は居ない・・・念話のようなものを飛ばしてきたって事か?

 

≪イッセー。我の最初の友達。我をあの家に誘ってくれた―――だから、一緒に(うた)おう≫

 

謳・・・?

 

≪・・・そう。イッセーの体、よく分からない力で満ちていたから調整が難しかった≫

 

ゴメン!多分それ『NEW BorN(乳房)』で取り込んだ乳力(にゅ~・パワー)の事だと思うわ!!

 

≪でも、ついさっき手伝ってくれる存在が現れたからやっと声を届ける事が出来た≫

 

ん?協力者って事?乳力(にゅ~・パワー)を扱えるのなんて俺以外に居るのか?

 

疑問に思う俺に更に別の声が頭に響いてくる

 

≪おっぱいドラゴンよ。私の(こえ)が届いていますね?私は異世界の乳神、チムネ・チパオーツィです≫

 

・・・遂に・・・遂に異世界の乳神ご本人降臨キタアアアアアアア!!

 

マジで来ちゃったよ異世界の乳神様!今までは乳神の眷属だったり日本の乳神だったり、少しジャンルは違うけどギリシャのエロス神だったりしてたのが満を持しての登場かよ!

 

『おい、如何した相棒!固まってしまっているがお前も戦うんじゃないのか!』

 

「ちょ、ちょっと待っててくれドライグ!今異世界の乳神様と話をしてるんだ!」

 

『またか!またおっぱいなのか!?もうこの場にはおっぱいの介入する要素は残されていないと思っていたのに何処までもおっぱい要素が憑いて回るって言うのか!?』

 

うん。如何やら周囲におっぱい要素が無ければ次元を隔ててでもおっぱいが押し掛けてくるみたいだ・・・まぁ『おっぱいドラゴン』からおっぱい引き離したらそれはもうただのドラゴンだもんな

 

≪おっぱいドラゴンよ。つい先程そちらの世界に大量の乳を司る精霊が生まれました。そちらの世界の乳力(にゅ~・パワー)が力強くも安定した為にこうして貴方に私の聲を届ける事が出来るようになったのです。そしてそちらの龍神と共同で貴方の力を調整しました≫

 

へ、へぇ、そうなんですか

 

曹操の齎した奇跡はまだまだ終わって無かったんだな・・・聖書の神様マジパネェ

 

≪イッセー。我の創った唄。一緒に謳ってくれる?≫

 

頭の中に再びオーフィスの声が響く―――ああ、当然だぜ!一緒に謳おう。オーフィス!

 

俺が応えると頭の中に自然と唄の歌詞が浮かび上がってきた

 

そして俺は龍神が創りし無二の呪文(うた)を口にする

 

「我に宿りし紅蓮の赤龍よ、覇から醒めよ」

 

右腕の籠手の宝玉から真紅のオーラが解き放たれる

 

『我が宿りし真紅の天龍よ、王と成り啼け』

 

続く詠唱をオーフィスが唱えると今度は左腕の籠手から漆黒のオーラが溢れ出す

 

濡羽色(ぬればいろ)の無限の神よ」

 

真紅のオーラが俺の全身を覆う

 

薄紅色(うすべにいろ)の異界の神よ』

 

そこから更に漆黒のオーラが真紅のオーラごと俺を包み込む

 

「『際涯(さいがい)を超越する我らが禁を見届けよ』」

 

俺とオーフィスの呪文(うた)が重なると全身の鎧が今までよりも有機的に変化し、紅色の鎧に所々漆黒のパーツが増える

 

そして更に鎧に刻まれていた樹木の刺青に薄紅色の果実が実った

 

「『―――(なんじ)燦爛(さんらん)のごとく我らが(ほのお)にて(みだ)れ舞え!』」

 

最後の一節を唱え切ったと同時に全ての宝玉から壊れたような音声がけたたましく鳴り響く

 

「『≪D∞D(ディーディー)!! D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)!! D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)!! D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)!!!! D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)D∞D(ディーディー)!!!!!!≫』」

 

宝玉の中心には無限を表す『∞』のマークが浮かび上がり、よく見ればその二つの丸の中心にはピンクの点が灯りまるでおっぱいのようだ!

 

「『≪Dragon(ドラゴン)(インフィニティ)Drive(ドライブ)≫!!!!!!』」

 

俺が纏っていたオーラが爆発し、その余波でアポプスがこの島の周囲に張った結界全体に大きく罅が入る

 

『これは!オーフィスの力!?・・・いや、感じた事のない神格の波動も感じる。これが異世界の乳神とやらの波動か!』

 

アポプスもドライグも一時的に戦いを止めてでも俺の変化を凝視する

 

分かるぜ。今の俺からは自分でも怖いと思える程の圧倒的なパワーが渦巻いてるからな

 

『ハハハハハハハ!そう来なくてはな!やはり英雄と云うのは追いこまれた時こそ真価が試されるのだ!―――貴公は見事、新たなステージに立った!さぁお互いの力の全てを存分に酌み交わそうではないか!』

 

高笑いするアポプスの求めに応じる形で俺は瞬時にその場から消え去る

 

この形態を維持できるのは1分?それとも10秒?判らないけど体が内側からバラバラになりそうである以上はそう長く持たない事だけは確かだ

 

単純に移動したその衝撃波だけでもさっき木場がバルムンクという魔剣を解放した時のような破壊がまき散らされる

 

顎下に潜り込んだ俺が渾身のアッパーを見舞うとアポプスの頭部が大きく仰け反った

 

殴った俺の籠手の部分も半ば溶けてしまったが俺の籠手は生身のドライグと違って修復可能だ

 

『ッグ!凄まじいパワーだ!オーフィスと異界の神の力を得た今の貴公の状態・・・龍神化とでも呼べばいいのか。全く、決着を付けるのがここまで惜しいと思った戦いは初めてだぞ!』

 

出来れば永遠にバトルしてたいってか?生憎だけどそんな女の子とイチャイチャする暇もないのなんてゴメンだね!闘いよりもおっぱい揉んでたいんだよ、俺はさっ!!

 

それから俺とドライグのタッグがアポプスを追いこんでいく

 

俺かドライグの攻撃がアポプスの攻撃を相殺してその隙にもう片方が強烈な一撃を叩き込む感じだ

 

だがそれでも倒れない!既にアポプスの体の一部は抉れてしまって修復も出来ない箇所が目立つというのにアポプスの攻撃は苛烈になるばかりだ。僅かずつ俺達にも手傷が増えていく

 

―――そうだよな。お前はかなり理知的なキャラだから忘れかけてたけど、邪龍の本領はこの尽きることない闘争本能だったよな!

 

俺の龍神化もドライグの初めての顕現も体の大半が崩れているアポプスも誰もが時間に余裕が無い。ここら辺で勝負を付けないと不味い!

 

微かに心の中に焦燥が浮かび上がろうとしていると戦っていたドライグがふと遠くに目を向け、そして唐突に笑い始める

 

『クックック!アルビオンめ、如何やら二千年ぶりに吹っ切れたようだな』

 

「ど、どうしたドライグ?」

 

『なに、白龍皇とアジ・ダハーカの方もかなり盛り上がってるらしいというだけだ』

 

ヴァーリの方も?まぁアイツならアポプス並みに強いだろうアジ・ダハーカとの戦いも心底愉しんでそうだけどさ

 

『ならば俺も一つ昔を思い出すとしよう!』

 

ドライグが吼えると俺の頭の中にとある技が浮かんできた―――これは!?

 

『そうだ相棒!ソレこそが俺元来の必殺技。俺が唯一名前を付けた赤龍帝、ア・ドライグ・ゴッホの絶技だ!』

 

それを聴いた俺はすぐさま腹にオーラを溜めて思いっきり息を吸った。そして鎧の頭部を収納すると隣にドライグが降り立ってくる

 

『久しぶりの必殺技だからな。俺様の復活と相棒の龍神化を祝って豪華二本立てでいこうか!』

 

ニヤリと笑いながら横目で見て来るドライグに俺も同じ笑みを浮かべて頷いて返す

 

『最後の一撃か。ならば此方も全てを出し尽くそう!』

 

俺達が莫大なオーラを腹に溜めたのを見たアポプスが眼下に広がっていた原初の水を全て操って自分の周囲に圧縮し撃ち放ってきた

 

横向きの黒い水の竜巻のようだ。渦を伴った黒い水の奔流が俺達に迫る

 

それに対し俺とドライグも文字通り息を合わせたブレスを放つ

 

「『―――燚焱(いつえき)炎火(えんか)!!』」

 

ぶつかった炎は相手が仮にも水である事などお構いなしに延焼してゆき大元に居たアポプスすらも飲み込んだ!

 

『この炎は対象を燃やし尽くすまで決して消えぬ炎だ―――且つてこの炎に耐えたアルビオンですら2発同時であれば消滅していただろう。お前の敗けだ、アポプスよ』

 

ドライグに敗北を告げられたアポプスは燃え盛る炎の中で銀色の眼を細めた

 

『ああ・・・そのようだ・・・見事であったドライグ、そして兵藤一誠よ。私は今世で其方らと死合う事が出来て心より幸せであったぞ・・・兵藤一誠。また・・・何時か・・・私と・・・』

 

そこまで告げたところでアポプスは完全に焼失した

 

「ああ、またお前が悪さをするってんなら俺がぶっ飛ばしてやるよ」

 

アポプスの居なくなった空間に語り掛けるとアポプスの満足そうな笑いが聞こえた気がした

 

 

[イッセー side out]




・サモン!おっぱあああい(リアスver)→「来たわよおっぱいドラゴン!おっぱいフラアアアッシュ!!」

・サモン!おっぱあああい(竜子ver)→「シャギャアアアア!!」

・サモン!おっぱあああい(ドライグver)→「うおおおおん!うおおおおおおおん!!」


次回はヴァーリとアジ・ダハーカですけど、ヴァーリチームとかほぼ弄ってないのでサイラオーグ戦の時のようにほぼ原作通りになるかも知れません。明確に違うのってサラマンダー富田くらいですし・・・


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第十一話 黒と、紅です!

思ったよりも長くなりそうだったのでヴァーリ編は二話に分ける事にしました


空中都市アグレアス奪還作戦が開始される2週間ほど前の事、今代の白龍皇であるヴァーリ・ルシファーは三大勢力が同盟を結んだ北欧神話サイドからとある一報を受け、憎き祖父の捜索を一時仲間に任せて欧州の山間部の田舎町へと足を運んだ

 

正確にはその田舎町の近くにある山の中腹辺りに身を隠しながら高性能の望遠鏡を覗き込んでその町の様子を窺っているところだ

 

彼はレンズの向こうに映る人々から目的の人物を素早く見つけ出さんと集中して視線を奔らせてゆき、遂に一人の女性の姿を見出した

 

年の頃は大体40前後といったところだろうか

 

長い黒髪をした今の年齢でも十分に美しいと表現出来る女性だ

 

目的の人物をレンズ越しに見つけてヴァーリは静かに息を吐く

 

ヴァーリ・ルシファーは悪魔と人間のハーフだ

 

ヴァーリの祖父は初代ルシファーの息子であるリリンことリゼヴィムであるが父母については父親がリゼヴィムの息子の悪魔であり、母親が普通の人間だ

 

ヴァーリの父親がある時戯れに母親に手を出したようで、その結果生まれたのがヴァーリだった

 

詳しく聞いた事などないが父親は魔王の直系というには小心者のクズであった事は覚えている。なにせ幼少期から父親はヴァーリにもその母にも酷い虐待を繰り返していたのだから大恋愛の末結婚してその後に破綻したなんてストーリーすらも無さそうだ

 

幼心にそう確信する事が出来る程度には酷い家庭環境だったと言える

 

幼かったヴァーリが魔王の孫である父の虐待を受けながらもなんとか生きていたのは生来の魔力の高さと白龍皇のドラゴンの力ゆえだろう

 

そして何より望まぬ子を産まされたにも拘らずヴァーリのことを必死に守ろうとしてくれた母のお陰で精神の均衡を保てていたのだ

 

虐待そのものを止める力は母には無かったが、それでも父や祖父にばれないように薄い味付けのパスタをこっそりと振舞ってくれたりした精一杯の優しさは忘れない

 

ある時、リゼヴィムに仕えていた使用人の下級悪魔が伝手を辿って神の子を見張る者(グリゴリ)に連絡を入れた上でヴァーリを逃がし、ヴァ―リは無事にアザゼルに引き取られた。そしてその使用人は程なくして連絡が途絶えたという

 

使用人としても賭けだったのだろうが神の子を見張る者(グリゴリ)に殺されるでもなく居着く事が出来たヴァーリはその使用人が消息を絶った事と母親が記憶を消された上で放逐された事を知った

 

それ以降、ヴァ―リは祖父を斃し母を見つける為にも力を求める事となる

 

父親は祖父と生まれたばかりの自分にすら怯えてるような者だったので優先順位は低かった・・・それが仮にも父親を殺す事を幼かったヴァーリが無意識に拒絶した為なのかは判らないが、少なくとも父親には憎しみよりも憐みの感情が強かったのは確かだ

 

無論。母にした事への落とし前は付けさせるつもりではあったのをリゼヴィムが先に殺してしまった訳だが、仕方ない事だろう

 

あの男はきっと生きていても終生なにかに怯え続けるだけの人生だった―――死を美化したい訳ではないが、あの男に関してはこれでも良かったと思っている

 

そして今、やっと見つけた母親の姿を望遠鏡越しに見たヴァーリは懐かしい気持ちと新鮮な気持ちが両方同時に飛来した。何故なら庭で物干し竿に洗濯物を干している彼女の表情は穏やかであり、また楽し気でもあったからだ

 

ヴァーリの記憶に在る母親の顔は何時も曇っていた。泣いているか、(うつむ)いているか、幼い自分に悲しそうに謝っている姿しかヴァーリは見た事がなかったのだ

 

そんな彼女が今、人生をきちんと笑って活きて(・・・)いる

 

ヴァーリは母親の安否の確認の為にここへ来たが一つ決めかねている事が有った

 

母親と出会うべきか否かだ。普通に日々を過ごしている彼女に今更一緒に暮らしたいとか言うつもりは無いが、それでも自分は生きているのだと、ただそれだけでも伝えたい気持ちはあった

 

今の彼女は父の事も祖父の事もそして自分の事も忘れている

 

彼女の消された記憶は今のヴァーリの魔力ならば思い出させる事も可能だろう。だがそんな必要は無い。例えそれを伝えた彼女が訳も分からず首を傾げたとしても思い出させるという選択肢の方が在り得ないからだ。笑っている今の彼女を見れば余計にそう思う

 

ただ一方的に言いたい事を言うだけの自己満足にヴァーリは躊躇(ちゅうちょ)している。そんな自分の意外な精神的な弱さを心のどこかで自嘲していると視線の先に思いもよらなかった光景が舞い込んで来た

 

彼女の住んでいる家から二人の子供が飛び出てきて母親に抱き付いたのだ

 

母親も二人の子供・・・男の子と女の子を優しい笑顔で迎え入れ、抱きしめながら頬と頬と擦り合わせて親愛を表現する。ヴァーリは確信した。あの子達は自分の父親違い(はらから)の弟と妹なのだと

 

「結婚・・・してたんだな」

 

思わずポツリと口から声が零れた

 

且つては夫と祖父とその子供の所為で酷い目に遭っていた彼女が今、間違いなく幸せな家庭を築いている。母親とそして自分と半分血の繋がった弟妹(ていまい)の表情を見れば夫も含めて家族仲も極めて良好だと解る程だ

 

ヴァーリは最後にもう一度仲睦まじい家族の様子を見つめてから望遠鏡をそっと眼から外して立ち上がった

 

『・・・もう良いのか?』

 

アルビオンが静かに訊いてくる―――行かなくても良いのか?とは訊かない。訊く必要がない

 

「ああ」

 

短く返したヴァーリだがその心には一つの決意が在った

 

あそこに自分が欠片でも割り込む隙間なんて無い・・・だけど

 

「あなた達の事は俺が必ず守ろう―――なにが起ころうとも、必ず」

 

次の瞬間、ヴァーリの姿はその場から消えていた

 

 

 

 

ヨーロッパにある某山岳地帯。そこが日本近海とは別の人間界におけるトライヘキサとの戦いの場だった―――初めは周辺国から戦闘機が発進してミサイルを撃ち込んでいたりもしたのだが、全く手ごたえが無い上にその多くが撃墜された事と人間界の一部の上層部と繋がりのある神々がコンタクトを取った事が相まって今は表側の人間の軍隊は派遣されていない

 

今、トライヘキサ及び量産型邪龍たちと戦っているのは三大勢力にこの地区を支配領域としている神々や魔物、吸血鬼などがメインだ。幸いと言って良いのかトライヘキサが出現している影響で空には分厚い雲が掛かっているのでデイライトウォーカー以外の吸血鬼も夜程では無いが十分動く事が出来る

 

それ以外に大きな一団で云えば幾つかの魔法使いの集団の姿も見受けられる

 

この辺りは日本で云う陰陽師みたいなものだろう。魔法使いとしてのローブに身を包んだ魔女、魔法使い達が魔法陣から様々な属性の魔法を放っている・・・最も、彼らは基本研究者というだけあってか中にはかなりクセの強い者達も混じっているようだが

 

その中でも紅い瞳が特徴的な魔法使いの一団が前に出て声高に叫ぶ

 

「肉片も残らず消え去るがいい。我が心の内より生まれる、闇の炎によって!」

 

「悠久なる凍土に沈み、かの地を汝の棺と化せ!世界が終焉に至るまで、去り行く歴史をその凍える瞳に焼き付けよ!」

 

悪辣(あくらつ)・・・暗澹(あんたん)・・・空虚(くうきょ)・・・惨烈(さんれつ)・・・陰陰滅滅(いんいんめつめつ)―――我が頭の中の地獄を再現致しましょう。瘴気に包まれ果てるがいい!」

 

「今こそ大いなる時空(とき)に反逆を!生まれしばかりの邪龍(こひつじ)を輪廻の環に押し返さん!」

 

それぞれが莫大な魔法力を放ち、黒い炎や氷、毒霧、逆転する時計を背後に出現させて最後の一節唱える

 

「「「「ライト・オブ・セイバアアアアアアアッツ!!」」」」

 

解き放たれた巨大な光の斬撃が迫りくる邪龍達の多くを薙ぎ払った

 

その様子を邪龍を如意棒で叩き落しながらも見ていた美猴(びこう)が筋斗雲に乗りながらヴァーリの近くにやってくる

 

「おいおい。アイツ等一体何者だよ?さっきからずっとあの調子で上級クラスの魔法を発動させ続けてるぜぃ?てか呪文と魔法の現象が噛み合ってねぇし、あの魔法使い達が居る場所だけ天界のジョーカーさまが暴れてるみたいな天変地異っぷりだしよ・・・いや、容赦がねぇ分アレよりヒデェ気がするな」

 

※演出魔法とライト・オブ・セイバーは別魔法

 

「あの方々はとある秘境に住んでいる『紅魔族』と呼ばれる方々なのですよ。一族単位で長年『格好良い魔法』の研究を続けてきたとても熱心な一族なのです」

 

魔法の箒に横座りしたラヴィニアが合流して彼らについてヴァーリ達に説明する

 

雑談をしながらでも彼女の神滅具(ロンギヌス)である永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)は独立具現型の神器なので勝手に周囲の邪龍を氷塊に変えているところだ。ヴァーリや美猴も一塊で動いていれば量産型程度は特に意識を割かずとも処理出来る

 

「いやいや、氷姫さんよ。格好いい魔法とかもそうだけど、なんでそれがあんなに強いんだよ?」

 

「なんでも『強くて派手なのはそれだけでも血が滾る』・・・だそうですよ?」

 

一族全員で凄まじいまでのバイタリティを下敷きに格好良さを追い求めた結果があの惨状なのだ

 

それを聴いた美猴はなんとも形容し難い表情となった

 

なんと言えば良いのか判らなかったのだろう

 

「ったくよぉ。俺っち達も結構世界中の色んな不思議を見て回った気がすっけどまだまだこの世界にゃ愉快なモンが多そうじゃねぇか?なあ、ヴァーリ?」

 

「・・・・・イイ」

 

「・・・はい?」

 

美猴は仕方なしとばかりに隣に居るヴァーリに苦笑いしながら同意を得ようとするがヴァーリの小さな呟きが耳に届いてしまった

 

「カッコイイじゃないか!紅魔族!あんな集団が居るとはな―――ああ、この戦いが終わったなら次の目的地は紅魔族の住んでいるという秘境に決まりだ!」

 

いきなり精神年齢が下がったかのようなヴァーリの様子に美猴は目を白黒させる。愉快なものが多そうと言った手前紅魔族の住む地に観光に行くのも頭には在ったがまさかヴァーリがこんな反応をするとは思いもよらなかったようだ

 

「おいおいおいおいヴァーリお前正気か!?あんな痛々しい奴らの事を格好いいだなんて」

 

そこまで言い掛けたところで氷姫のラヴィニアは嬉しそうに手を合わせる

 

「やっぱり♪ヴァーくんならきっとそう言うと思ったのですよ。一度紅魔の里にお邪魔した時もヴァーくんが且つて書いた格好いいセリフ集の『心の書』や魔力や魔法の独自理論を書いた『術の書』、必殺技を描いた『技の書』が在りましたが、まるであの本たちの中に入り込んだかのようでしたから、何時かヴァーくんに紹介したいと思っていたのです♪」

 

なんだその中二病(くろれきし)ノートは?

 

一瞬理解が追い付かなかった美猴だが彼よりも先にヴァーリが正気に戻る

 

ヴァーリにとってその三つの書物は禁じられた過去(アンタッチャブル・メモリー)なのだ。しかも『技の書』は回収及び処分したのだが、それ以外の二冊については行方知れずという有様である。その名が出た事が気付け薬の効果を発揮してヴァーリの精神を現実に呼び戻した

 

「ラ、ラヴィニア。勘違いするなよ?俺はもうあの時の俺とは違うんだ。彼らの里に行くと云うのもあの強力な魔法の術式自体は更なる強さを得るのに有用だと思ったからだ」

 

「はいなのです♪あっ、そういえばヴァーくんの『術の書』には魔法や魔力を発動させる時のポージングの挿絵も在ったのです。紅魔族の方々も格好いいポージングの研究もされているそうなので是非一度意見を擦り合わせてみると良いのですよ♪」

 

どの世界でも共通だが、天然系キャラは始末に負えない

 

ヴァーリの隣の美猴は既に腹筋が壊死する寸前までいっていた

 

ヴァーリは今この場で美猴の頭を記憶ごと吹き飛ばすべきかどうか真剣に検討した

 

考えた末の行動として隣の猿の背中を蹴り飛ばし、邪龍がより固まっているところにまで案内した

 

「どうわあああああああっ!?ヴァーリテメェいきなり何しやがる!!?」

 

「なにをもなにもサボっているようだったのでな。さっさと邪龍を片付けて来い」

 

如意棒を必死に振り回している猿にヴァーリはシレッと返す。笑う方が悪いのだ

 

そうして暫く戦っていると戦況に一つの変化が訪れた。戦場の天空が神々しい光に満ちたと思えば量産型邪龍の中の偽物の赤龍帝軍団が突然動きを停めたのだ。その上少しすると何処かから音楽が流れてきてダンスを踊り出す始末

 

「これは・・・なにが起こっている?」

 

「如何やら曹操の『覇輝(トゥルース・イデア)』の効果らしいな。聖書の神の遺志がおっぱいドラゴンの奇跡を各戦場に齎したらしい」

 

同じ戦場に居たアザゼルが耳元に魔法陣を展開させながら状況を説明してくれる。話によれば七か所の戦場全てで同じ事が起こってるらしい。流石は神の奇跡。無駄に壮大である

 

ヴァーリとしてはいまいち理解が及ばなかったがダンスを踊り切った偽赤龍帝軍団が成仏(精霊への昇華)した事で負担が減ったのは喜ばしい事実だ

 

白龍皇のライバルである赤龍帝の偽物軍団と戦うのは二天龍のライバル同士という在り方を穢されている気がして地味にストレスが溜まっていたのだ

 

そこへ黒い刃で偽グレンデルの硬い体をバラバラに切り刻んでいた幾瀬鳶雄が告げる

 

「ヴァーリ、戦局が動いた。今のでトライヘキサの封印部隊もそう遠くない内に準備が整うだろう。キミはアジ・ダハーカの下へ行くといい。決着を付けたかったんだろう?」

 

確かに量産型の中で一番厄介な力を持っているのが偽物の赤龍帝軍団だった。それが居なくなった今、各地の強者たちがトライヘキサまでの道をこじ開けようと動くことは目に見えている。そうとなればこのヨーロッパの戦場で最も危険な存在に取って代わるのはアジ・ダハーカだと言える

 

神々も多く居るこの戦場の強者の殆どを招集してアジ・ダハーカと戦えば恐らく普通に勝てるだろうが、それをやれば今度は量産型邪龍を止める事が出来なくなる。『誰か』が代表としてかの邪龍を打倒す事が出来ればベストなのだ

 

「こいつ等だけなら兎も角、かの邪龍が暴れれば此処だけではなく長閑(のどか)な田舎町にも被害が及ぶ」

 

その一言でヴァーリは彼があの事を知っているのだと理解した

 

ヴァーリがリアス・グレモリー達に日本で戦った方が気合が入ると言ったのと同様にヴァーリもこのヨーロッパ近郊でこそ絶対に敗けられない理由があったのだ

 

「そうなのです。ここは私やトビーやヴァーくんのお友達に任せるのです」

 

ニッコリ笑いながら邪龍の群れを凍らせていってるラヴィニアの言葉にチームの仲間も同調する

 

「カッカッカ!そういうこった。さっさとあの邪龍をぶっ倒してこいっての」

 

「リーダーらしい所を見せて下さい。かの騎士王の末裔である私とコールブランドが今世において選んだのは赤き龍ではなく白き龍なのですから、間違いだったなんて思わせないで下さいよ?」

 

「私、今世の二天龍はどっちも好きですよ!ライバル対決、何時か見せて下さい!」

 

フェンリルとゴグマゴグもロケットパンチや牙や爪でヴァーリにアジ・ダハーカの気配のする方向への道を創り出す

 

「―――ッフ、戦いが終わったなら戦勝祝いにキューカンバーカクテルでも奢ってやろう」

 

※キュウリを搾ったキュウリ汁にお酒を混ぜて野菜スティック(キュウリオンリー)を数本差し込んだ一品

 

「それは遠慮しておこう」

 

仲間達の言葉に胸に熱いものがこみ上げて来ていたヴァーリの心が一瞬で冷めた

 

断られた河童のサラマンダー・富田は「そうか」と短く切って再び戦いに赴いて行ったその背中が微妙に哀愁が漂っている気がしたが、ヴァーリに慈悲は無い

 

「さて、ヴァーリにだけ苦労を強いる訳にはいかないな。そろそろ俺も本気でやらせて貰おう・・・いいな、刃?」

 

幾瀬鳶雄が足元の狗に語り掛けると刃は一度だけその尾を振って応える

 

そして鳶雄の周囲に在る影が黒い霧が闇が集まり出し、彼自身からも闇が噴き出し始める

 

≪―――人と(ことわり)を斬るなら千まで()こう≫

 

何処までも広がる闇は地平線の先まで覆い尽くさんばかりに全てを闇で覆っていく

 

≪―――化生(けしょう)凶兆(きょうちょう)斬るなら幾万まで謳おう≫

 

闇が身体に纏わりついてその姿を異形のものへと変貌させてゆく

 

≪―――遠き深淵に届く名は、極夜と白夜を(かた)(まが)いの神なり≫

 

刃も足元に広がる闇に沈み込む

 

≪―――汝、我らが漆黒の魔刃で滅せよ≫

 

狼男というよりは二足歩行の狗と云える姿となった鳶雄が闇の中から浮かび上がり、足元に広がる闇からも大量の狗が出現する

 

≪―――(はかな)きものなり、超常の創造主(かみ)よ≫

 

呪文の最後の一節を唱えると同時に狗たちが一斉に遠吠えを上げ、鳶雄は闇の中からせり出した死神が持っているような漆黒の大鎌をその手に取る

 

そしてこの場に広がったあらゆる闇から歪な刃が生えていき、ただそれだけで近くに居た邪龍達は斬り裂かれていった

 

「行くぞ、刃」

 

主たる鳶雄の命令に無数の狗達が一斉に戦場に生えた刃を口に咥えて引っこ抜き、それを武器として邪龍の軍団に襲い掛かる

 

鳶雄自身もその大鎌を一振りするだけでグレンデルの鱗もラードゥンの結界も纏めて真っ二つにしていった

 

黒刃の狗神(ケイニス・リュカオン)』の禁手化(バランス・ブレイク)は元来『夜天光の(ナイト・セレスティアル・)乱刃狗神(スラッシュ・ドッグズ)』とされているが幾瀬鳶雄は生まれた時からその禁手化(バランス・ブレイク)に至っていた異端児だ

 

そんな彼は禁手化(バランス・ブレイク)の力を研磨し、深く深く神器の深奥まで同調していった。いや、同調出来てしまったのだ。その上で彼にはその異端で異常な力を征するだけの才覚が有った―――事、神器の扱いという一点に関しては彼こそがその頂きに立っているのかも知れない

 

深淵なりし(ペルフェクトゥス・)冥漠の獣魔、(テネブラエ・リュカオン・)英傑であれ常夜刃の狗神(エト・フォルティス・デンス・ライラプス)

 

それこそが彼が後天的に亜種として目覚めさせた禁手(バランス・ブレイカー)だった

 

「さぁ行くのですよヴァーくん。此処はもう直ぐ氷と刃の世界に変わってしまうのです」

 

自分の為にお膳立てしてくれている彼らに有難うの一言を言おうとしても喉の辺りで引っ掛かってしまう自分にもどかしさを感じつつヴァーリはアジ・ダハーカの気配のする場所へ翼を広げる

 

直後、彼女の言葉通りの世界がヴァーリの背後に築き上げられた

 




可笑しい・・・原作通りに話が進むと思ってたのにギャグへと変わっていく

サブタイは正確には黒(歴史)と、紅(魔族)です!ですねw


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第十二話 その名を、受け入れます?

山岳地帯を高速で飛行していたヴァーリはとある山の頂に辿り着いた

 

そこには三つ首の邪龍であるアジ・ダハーカが邪龍軍団と連合軍の戦いを見物していた

 

そしてやって来たヴァーリに計六つの視線を向ける

 

『よぉ、来たか白いの』

 

『やっほー☆』

 

『遅かったじゃないの!』

 

だが挨拶だけしたアジ・ダハーカは再び視線をヴァーリから外す

 

アジ・ダハーカの見つめる先は眼前に広がるヨーロッパの戦場だけではない

 

魔法で幾つもの映像を空中に映し出しており、その先に他六ケ所のトライヘキサと各勢力の連合軍との壮絶な戦いの光景を流している

 

そんな映像をヴァーリにも見やすいように移動させたアジ・ダハーカは問い掛ける

 

『なぁヴァーリ・ルシファー。此処やアポプスの居る日本、他の神話世界でも行われている世界の終焉とも云える極大の破壊風景を見てなにを思うよ?』

 

『どんな感じ?』

 

『ぶっちゃけ如何よ?』

 

真ん中の首の質問に左右の首も軽いノリで追従してくる

 

そしてアジ・ダハーカは元々返答を待つつもりは無かったのかそのまま自分の感想を述べ始める

 

『俺としては―――まっ、こんなもんだよなってのが素直な気持ちだ』

 

『うんうん☆』

 

『想像通り!』

 

『今は三大勢力の同盟を切っ掛けに各神話も仲良しこよしの態勢を造りつつあるけどよ。もっと昔はそれこそ世界中のあらゆる神話体系が大々的に争ってた。今の段階じゃあまだ昔の再現すら届いてるか微妙なくらいだ・・・まっ、このまま続けば世界は終わるんだろうけど『破壊』なんてのは経過も結果も見慣れたもんだ』

 

確かに、とヴァーリは思う。表の戦争も裏の戦争も規模が違うだけで爆炎の後に死体と焦土が残るだけという結末に変わりは無い

 

『だがそこに異世界なんてもんを知っちまった。そこにはもしかしたら俺達の誰も知らない何か別の答えが待っているかも知れない!そう考えたらワクワクしたんだよ―――勿論、単純な戦い、殺し合いも変わらず大好きだぜ?だがそれだけで良いんなら別に異世界の事は後回しにして、先ずこの世界の強い連中全員と決着を付けてからでも良かった・・・だけどよ、そこまで待てないくらいに俺は期待に惹かれちまったのさ』

 

アジ・ダハーカが子供のようにキラキラした瞳で空の向こうを見上げる

 

最凶クラスの邪龍とされる彼の語る姿は余りにも無邪気と呼べるものだった

 

『―――『E×E(エヴィー・エトウルデ)』っていう、機械生命体と精霊が争ってる世界なんだとよ。今んところ分かってるのは精霊を司る善神レセトラスってのと機械生命体を司る邪神メルヴァゾアってのが世界を二分して支配してるって事だけだ・・・この世界のありとあらゆる文献や伝説にも残ってない世界だからな。リゼヴィムたちが必死こいて調べた上で判明したのはその二柱の神の名前くらいだ。あとは精々乳神ってのが居るって事くらいだな』

 

それはヴァーリとしても初めて聴く異世界の情報だった。確かに岩人形(ゴーレム)とかならまだしもロボットか、もしくはアンドロイドが出てくる神話などと云うのは聞いた事が無い。それもSFとファンタジーが正面戦争してるとなれば尚更だ

 

『グックック、『D×D(ドラゴン・オブ・ドラゴン)』たるグレートレッドを超えた先に待っているのが『E』を冠する世界ってのは中々しゃれているとは思わねぇか?もしかしたら観測出来てねぇだけで他にももっと沢山の異世界が存在するのかも知れねぇよな』

 

『『E×E』の次は『F×F』?』

 

『それかこの世界が『D×D』なら『C×C』や『B×B』なんて世界も有るのかな?』

 

―――成程。確かにそれは夢の有る話だ

 

まだまだこの世界一つですら周り切れていない自分からすれば漠然した感覚でしか掴めない程に壮大で、太古から生きている目の前の邪龍が自分以上に興味を惹かれるのも頷けるというものだ

 

『どいつもこいつも世界征服だの世界平和だのと御大層な名目掲げてるけどよ。俺から言わせれば皆おんなじだぜ。ガキンチョが思い描くような夢に邁進するバカばっかりだ。それなのに利権だの愛だの名誉だのと途中で余所見する奴が多すぎるんだよな―――でもよ。俺ぁ違うぜ?俺は強い奴と戦って面白いもんが見れればそれで良いんだ。それ以外のもんは俺には必要ねぇ』

 

『シンプル・イズ・ベスト☆』

 

『一番愉しい事だけやってたいの!』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ヴァーリは目の前の邪龍の純粋な言葉に思わず無言になり、その様子を見たアジ・ダハーカは軽く肩を竦めた

 

『ガキだって思うか?それとも傍迷惑だと蔑むか?別に構わねぇぜ。言われ慣れてるからよ・・・俺はこの生き方を変えるつもりは無ぇ。それが邪悪だと云うのならそれで良い。邪龍で十分だ』

 

「―――いや、あまりにも単純明快で潔い答えだと思ってな。俺個人としては好感すら覚えるよ」

 

『ハハッ、まぁ万人受けする答えじゃねぇってのは分かってるがよ。時々オメェみたいな奴も現れるんだよな』

 

ヴァーリの返答に今度はクツクツと笑いを溢すアジ・ダハーカを見てヴァーリは思う

 

成程、目の前の邪龍は邪悪なのだろう。だが同じ邪悪でもリゼヴィムとはまた違う

 

リゼヴィムは邪悪であろうとする故に破壊と闘争を振りまいたがアジ・ダハーカは破壊と闘争を求めた結果が他者から見た場合邪悪なのだ

 

他人を気にするリゼヴィムと己が道を往くアジ・ダハーカでは役者も違えば根底に根差すモノも違うのだ―――リゼヴィムが見限られたのも当然と云える

 

『なぁ、また闘ろうぜ?ヴァーリ・ルシファーにアルビオン。前の時みたいにお互い血だらけになりながらガツンガツンと身も心も砕けるまでよ』

 

『二天龍を倒して地上最強の称号を得る!』

 

『邪龍こそ最強なり!』

 

「ああ、やり合おうアジ・ダハーカ。俺もその為に此処へ来た」

 

ヴァーリが応えるとアジ・ダハーカは体から強大なオーラを(ほとばし)らせる

 

例え上級悪魔であっても今のアジ・ダハーカの隣に無防備に立っていれば焼かれて死ぬだろう。

それ程に絶大なオーラだった

 

だがそんな凶悪なオーラと戦意を真正面から受けたヴァーリも歓心こそすれど恐怖までは抱かない

 

強さを求める彼にとってはどんな状況でも格上との戦いは強くなる上で最高の糧となるからだ

 

恐怖とはまた似て非なるゾクゾクとした高揚感が全身を支配した・・・彼も大概戦闘狂(バトル・ジャンキー)なのだ

 

睨み合って数秒。示し合わせたかのように両者はその場から消え去り、天空高くで激突した

 

 

 

空中でぶつかった両者はお互いに口元を僅かに切って血を流しながら距離を取る

 

音の壁を瞬時に突破してアジ・ダハーカの顔面の一つを殴りつけたヴァーリをアジ・ダハーカも間髪入れずに殴り返した構図だ

 

『・・・魔法による遠距離戦が得意なお前が初手から肉弾戦とはな』

 

てっきり距離を詰める自分と魔法で応戦して近寄らせないアジ・ダハーカという形で勝負が進むと思っていたのだが、当の邪龍は魔法を発動させる素振りさえ見せずに拳を固く握るだけだったのだ

 

『なぁに、お前が真っ直ぐに向かってきやがるからよ。ケンカの始まりを告げるのはやっぱり顔面パンチの方が盛り上がるだろう?』

 

今のはアジ・ダハーカにとっては単なる挨拶だったのだ

 

まるで合理的では無いが目の前の邪龍の目的は愉しむ事だと考えれば辻褄は合う・・・要するに大バカ者なのだが、見ていて気持ちの良いバカだ

 

「始まりの合図か。ならば次はウォーミングアップの時間だな」

 

ヴァーリはそういうと空中に無数の魔力弾と北欧式の魔法陣を展開させて撃ち放つ

 

それを防御魔法陣で防いだアジ・ダハーカはお返しとばかりに凶悪な魔法をヴァーリに打ち込む

 

Half(ハーフ)Dimension(ディメンション)!!』

 

同じく防御魔法を張ったヴァーリだが瞬時にそれだけではアジ・ダハーカの魔法を防ぎきれないと察した事で片腕を前方に突き出し、向かい来る魔法を半減領域で威力を削る

 

何度か半減させた魔法はヴァーリの障壁に当たると重い手ごたえを伴ったものの防ぐことが出来た

 

「―――やはり、遠距離戦では向こうが数段上だな」

 

『ああ、アジ・ダハーカは様子見の一撃だったのだろうが今の攻撃、本気で防いだだろう?』

 

アルビオンの言うようにそれだけの力量差が彼我の間には有るのだ

 

『さあ!どんどん魔法を増やしていくぜえええエエエエエエエ!!』

 

最初のヴァーリに合わせたであろう数十発の魔法だったがこの戦域にあらゆる場所に物凄い勢いで魔法陣が増えていき、そこから多種多様な属性・効果を持った魔法が撃ち放たれる

 

ヴァーリも半減領域を展開させるが、ただそこに留まって集中砲火を半減させても十分にヴァーリにダメージを与える威力を保っている事は先の一撃で実証済みだ。それ故ヴァーリは戦場を縦横無尽に飛び回り、弱めた魔法を自分の魔法で迎撃して相殺する

 

だがしかしヴァーリが処理する魔法よりもアジ・ダハーカが新たに生み出す魔法の速度の方が上だ。周囲一帯に展開される魔法陣の数は既に五桁に届き、今も尚増え続けている

 

『ウォーミングアップって言ったよなアアア?なら、それも終わりにしてこっからは禁術も混ぜていくぜエエエ!!』

 

アジ・ダハーカのオーラが更に爆発し、そのオーラを糧に血の涙を流す聖母、目を合わせただけで死にかねない一つ目巨人(サイクロプス)、おどろおどろしい人の手の形をしたナニカ。それ以外にもレイヴェル・フェニックスの使っているような単純に魔法の威力を底上げしたものまで禁術だけでもこれ程の数が有るのかと驚くほどの禁忌が戦場を埋め尽くした

 

それらの禁術を見た瞬間ヴァーリは禁手(バランス・ブレイカー)の更に先に手を伸ばす

 

「我、目覚めるは、律の絶対を闇に堕とす白龍皇なりッ!無限の破滅と黎明(れいめい)の夢を穿(うが)ちて覇道を往く!我、無垢なる龍の皇帝と成りてッ!―――汝を白銀の幻想と魔道の極致へと従えようッ!!」

 

Juggernaut(ジャガーノート)Over Drive(オーバードライブ)!!!!』

 

禁術が完成して放たれるまでの僅かな時間にヴァーリは白銀の鎧を身に纏う。過去最高に早口で唱えた呪文のお陰でギリギリこちらの準備も間に合った

 

解き放たれた禁術の数々になりふり構わず全力を籠めた能力を解放する

 

Compression(コンプレッション)Divider(ディバイダー)!!!!!』

 

やっている事は『Half(ハーフ)Dimension(ディメンション)』と変わらない。しかし白銀の鎧を着こんだ状態で放たれるこの技は神クラスの最上級死神のプルートでさえ瞬殺する程に逸脱した力を持つ

 

そのあらゆるものを原子レベルまで圧縮し、消滅させる必殺技を防御に使い・・・無数の魔法がヴァーリの体を撃ち抜いた

 

「ガッハアアアアアッツ!!?」

 

『おっ♪スゲェじゃねぇか。今のは俺様も本気を出した攻撃だったのに消滅はしなかったか』

 

アジ・ダハーカの禁術がヴァーリの防御でも相殺しきれずにダメージを負った理由は単純だ。アジ・ダハーカの方が強いから・・・ぐうの音も出ない程に分かり易い図式である

 

『大丈夫か!ヴァーリ!?』

 

「っぐ!問題無い。アルビオン・・・少し全身の骨が砕けた程度だ」

 

まるで大丈夫じゃないダメージ報告をしながらもヴァーリは支給されていたフェニックスの涙で回復する。だが怪我と体力は回復したが精神的にはかなりの衝撃を受けてしまっている―――全力中の全力を注ぎ込んでも防御すらもままならなかったからだ

 

以前ヴァーリが仲間たちと戦った時より明らかに強くなっている・・・もしも前回ですら今ほどの力を振るっていたなら死者の一人か二人は出していただろう

 

『グックック、前に戦った時ぁまだ体を聖杯で調節中だったからよ。『本気』で戦ってはいたが『全力』じゃあ無かったんだよ。だが調整が済んだ事で更にリゼヴィムの野郎が持ってたオーフィスの蛇の力も取り込めたって訳だ』

 

「―――成程。最強格の邪龍に龍神の力も加わったのか。道理で強い訳だ」

 

ヴァーリは砕けてしまった白銀の鎧の各所を修復しつつも納得する

 

これ程の力を無制限に八方に振りまく事が出来る全盛期のオーフィスもそれと同格とされるグレートレッドやトライヘキサも神クラスまで昇りつめたと云える今のヴァーリですら足元にも及んでいない規格外の存在なのだと

 

「全く、超え甲斐のある目標だ」

 

『んあ?トライヘキサの事か?そうだな、今は異世界が先決だが俺も邪龍最強を謳う以上はいずれはぶっ倒したい相手だぜ』

 

一瞬だけヴァ―リの意識がトライヘキサの方向へ向いたのに気付いたのかアジ・ダハーカも同意する―――強さを求める邪龍にとってトライヘキサやグレートレッドを標的にしない理由も無いのだ

 

もしやすると昔に直接ケンカを売ったことすら有るかも知れない

 

『だけどよ。今はお互い目の前の相手に集中しようや―――なんだったら白龍皇の真の力ってのを使ってもいいぜ?且つては(どく)龍皇なんて揶揄(やゆ)されたオメェの力を見てみてぇもんだなぁ。なぁ?

アルビオン・グウィバー(・・・・・)?』

 

『毒龍皇!毒龍皇!』

 

『毒々しいキミの力を僕らに魅せて☆』

 

アジ・ダハーカがその名を呼ぶとヴァーリ鎧の宝玉が明滅する

 

『・・・その名と力は棄てたものだ』

 

聞こえてきたのは何時にも増して不機嫌な声だ

 

アルビオンの後半の名前であるグウィバーとは『毒蛇』を指す言葉だ

 

昔はそのまま毒を振りまいて戦い、それだけでも十分神々ですら恐れるだけの力を持っていた―――しかしある時赤龍帝のア・ドライグ・ゴッホと出会いその毒が効かない初めての相手に驚愕し、またそのシンプルに強いドライグのドラゴンの在り方に憧れたのだ

 

それ以降、アルビオンは『毒』以外の力を求めた

 

そうして生まれた力が『半減』であり『吸収』であり、『反射』なのだ

 

今此処で『毒』の力を使うという事は『毒』ではなく『己』を高めてドライグのライバルたらんとする向上心に対する裏切り行為だ

 

それはアルビオンにとって決して容認できない手段だった・・・そう、『だった』のだ

 

アルビオンが『毒』の力を封じた背景には神々すらも忌避する力という在り方が嫌いでもあったからだ。汚い言い方をすれば周囲が自分の事を汚物やヘドロでも被ってるかのように扱い、遠ざかるからという理由も有った

 

しかし今世でヴァーリ・ルシファーを宿主としてからアルビオンは多くの経験をした

 

先ず宿主であるヴァーリは祖父も父も毛嫌いしているが悪魔の父(ルシファー)の肩書には少なからず誇りを持っているようだった・・・決して中二病の琴線に触れたからではないと思いたい

 

続いてライバルである赤龍帝のコンビも乳龍帝やおっぱいドラゴンなどと云うふざけた名称で精神を病むドライグの姿や、自分自身も二天龍そのものが穢されたかのような感覚に号泣してドライグと傷をなめ合う日々も有った

 

大体忌避される猛毒も今の有間一輝の邪気に比べれば可愛いものである

 

有間一輝は邪気を操る際は相手に邪気が流れないように抑えてパワーだけを出来るだけ引き出しているが、それが無ければ模擬戦の度に阿鼻叫喚の地獄絵図が顕現するだろう・・・有間一輝が模擬戦でも全力の邪気の特性を振るうのは現状クロウ・クルワッハか白銀の鎧のヴァーリくらいだ

 

邪気の扱いにも慣れてきた今の有間一輝は『触れるな危険』としての格がかなり上昇している

 

触らぬ神になんとやらだ

 

そんな天龍の価値観にすら影響を及ぼす者達に囲まれているアルビオンにも少しずつ心境の変化が訪れつつあったのだ

 

『・・・・・・・・・・』

 

アルビオンが思い悩んでいるとアジ・ダハーカは今度はヴァーリに話し掛けてくる

 

『ヴァーリ・ルシファー。お前さんも前に殺り合った時とは少し変わったよな―――その目はよく知ってるぜ?なにか大切なモンを守ろうとする奴の目だ。仲間・・・じゃねぇよな?お前は身内は大切にするタイプに見えるが、お前の仲間は必死になって守らなきゃいけないような弱い奴らじゃなかった。とすると・・・女でも出来たか?』

 

アジ・ダハーカの言葉によく見ているとヴァーリは思う

 

これが例えばグレンデルのような粗暴な邪龍であったならそのような細かな変化など気にも留めなかっただろう

 

「ッフ、女というのは否定はしないが兵藤一誠のような色恋とかじゃないさ。昔、とても・・・そう、とても世話になった女性が居てね。まぁこんな俺にも一家族くらいは守りたい者達が出来たというだけだ。軽蔑するか?弱弱しく感じるか?これでも存外悪く無いと思っている」

 

母を守ろうという気持ちは以前から有ったが、あの時、母以外にも弟と妹が居るその情景を見てから、ただそれだけでもヴァーリの守護する対象は一人から一家族に変わった

 

あの家族の『幸せ』を守るなら誰一人として欠けてはならないからだ・・・そう、自分以外の誰一人として

 

それを聴いたアジ・ダハーカは楽し気に笑いながらもその瞳に真剣な色を混ぜる

 

『いいや、寧ろ逆だぜ。家族や恋人、友人、主従。関係は様々だが、誰かを守りたいって想いを軸にしてる奴らは例外なく強者だった。どれ程力の差が有ろうとも命が燃え尽きるその瞬間まで勝つつもりで立ち向かってきやがる―――邪龍の俺が舌を巻く程のしぶとさでな。だからよ、それを聴いた以上はオメェの事はより一層油断のならねぇ相手だと認識させて貰うぜ!!』

 

刹那、アジ・ダハーカの構築した魔法陣から眩い光が放たれ世界を覆った

 

攻撃が来るかと身構えたヴァーリは頭がグラつくのを感じる

 

直接的な攻撃ではなく、精神に作用するタイプの禁術を使われたと理解した時には抗えないところまで術に嵌ってしまい、深い深い幻術(ゆめ)の世界へと堕ちていった

 

 

 

ヴァーリは暖かくて安らぐ素朴な香りのする布団を掛けて寝ている事に気が付いた。だが布団とはまた別の重みが自分に乗っかっているのも感じる

 

この感覚からして小さな子供が乗っているのだと理解するが不思議と嫌な感じはせず、寧ろ抱き寄せたい衝動すら有った

 

そしてゆっくりと目を開けると[一度だけ見た/毎日見ている]自分と似た顔立ちの少年が目を覚ました自分を覗き込んで満面の笑みを浮かべていた

 

「やった!お兄ちゃんが起きた!朝ご飯がもう直ぐ出来るから起こしてこいってさ!」

 

「あ・・・ああ・・・」

 

パチクリと瞬いてなんともマヌケな返事をしてしまったが当の少年はヴァーリが起きたてでまだ寝ぼけているのだと思ったのか、気にも留めてないようだ

 

すると部屋の扉が開いて入口から小さな人影が入って来る

 

そちらにヴァーリと少年が同時に視線を送ると部屋の中の様子を見て可愛らしく頬を膨らませた少女が両腰に手をやって"ムスッ"としたポーズを取る

 

「ああ、もう!お兄ちゃんをそんな乱暴に起こしちゃダメって何時も言ってるでしょ?」

 

少女としては寝ている人の上に乗っかってはしゃぐと云う起こし方はアウトだったらしい。如何やら少年はやんちゃっ気が強くて少女はしっかり者の性格をしているようだ

 

少年・・・弟がベッドから起き上がったヴァーリの手を引く

 

「ほら!お兄ちゃん、早く早く!」

 

されるがままに部屋を連れ出されたヴァーリは向かう先から芳ばしい匂いが漂って来るのを感じた―――手を引く弟に後ろから付いてくる妹。ならばこの先で朝食を用意しているのは

 

「あら、ヴァーリも起きたのね。貴方が一番遅いなんて大学のテストも大変ね。昨夜も遅くまで勉強を頑張ってたんでしょう?」

 

―――在り得ない。そう何処かで否定しようとしていた心が目の前に現れた母親の優しい笑みと言葉によって大きな罅が入る音がした

 

それから丁度出来上がったらしき料理の配膳を手伝い、家族四人で(・・・・・)席に着く

 

そうして食べ始める彼らを見ながら自分の分に手を付けないヴァーリを見て母親は心配そうな表情となる

 

「食べないの?ヴァーリ?ひょっとして具合が悪かったりするのかしら?」

 

その言葉に弟と妹がすぐさま反応した

 

「え!?お兄ちゃん病気なの!?」

 

「わ、私救急箱取って来る!」

 

「い、いや、大丈夫だ!昨日は日が回るまで起きてたから少しボーっとしてただけだから、心配はいらない」

 

弟妹の楽しそうな表情を崩してしまった事に慌てたヴァーリは咄嗟に言い訳をする

 

そこで自分は元気だとアピールする為に朝食を少々豪快にガッツいたのだが、驚く事となる・・・とても暖かく美味しかったのだ

 

純粋な味覚から感じる美味しさもそうだが、なによりもこの『家族の食卓』が心の奥底からヴァーリを満たしていく

 

自然と顔が(ほころ)んだヴァーリが次々と皿の上の料理を胃に流し込んでいく様に母親も弟や妹も安心したようで家族での食事が再開される

 

『―――今、お前が居るのは俺の創った幻術の中だ。対象の深層心理を読み取り、本人が一番幸福だと感じる仮初の世界を映し出す』

 

不意に頭の中にアジ・ダハーカの声が響いてくる

 

やはりこれは幻術の中なのか

 

これは自分の心の真実を映す偽りの世界

 

『―――グックック、歴代最強と名高い白龍皇の望んでいるものが、至極ありふれた一般家庭の暮らしだったとはな』

 

可笑しそうに、されど決して(さげす)んでいる訳ではないアジ・ダハーカの笑い声にヴァーリは言い返す事も出来ない―――あの時、たった一度だけ見た家族の情景にここまで自分が焦がれているとは思わなかったのだ

 

『お前が望むならその世界で生き続ける事も可能だぜ?やり方は簡単だ。お前がその世界を心から・・・魂から受け入れる事だ。そうする事でこの禁術は完成する。例え現実の肉体が滅びようともお前の魂を幸福で満ちた結界に捕らえるのさ。永遠にな―――考える時間はたっぷり有る。よく考える事だな。今までも何百何千という強者がこの『幸せ』に膝をついていった』

 

アジ・ダハーカの言葉が終わると同時、ヴァーリの片腕が再び弟に引っ張られた

 

「お兄ちゃん!サッカーしようよ!」

 

そうすると今度は反対側の手も掴まれて引っ張られる

 

「ダーメ!今日は私がお兄ちゃんにお勉強見てもらうんだから!」

 

弟と妹はヴァーリを挟んで目から火花を散らせるとそれぞれが後ろに体重を掛けて引っ張る。ヴァーリを中心にまるでヤジロベーのような恰好となった

 

「こーら、そんなに引っ張ったらお兄ちゃんの腕が取れちゃうわよ?」

 

食べ終えた食器を片付けていた母親が兄妹仲睦まじい様子を見て微笑ましいものを見るような顔となる。如何やら助けてはくれないようだ

 

結局午前は妹と一緒に勉強をして午後からは弟とサッカーをするという形で話を纏めた

 

二人の面倒を見つつ昼食後の皿洗いや夕刻には洗濯物を取り込んだりといった家事を軽く手伝って夜が完全に遅くなる前に今日は兄妹三人で一緒のベッドに入る

 

ヴァーリはまたしても衝撃を受ける。家族と共に眠るというだけの行為がここまで心地よい安心感を(もたら)すものだとは思わなかったのだ

 

今日一日過ごしただけで一体幾度(いくたび)価値観が揺らいだか判らなかった

 

「お休み!明日もまた遊んでね。お兄ちゃん!」

 

「お兄ちゃん。お休みなさい」

 

「ああ、お休み」

 

弟と妹のあどけない寝顔に挟まれたヴァーリは思う―――これが普通の幸せ

 

これ程に満たされるものが世間ではありふれたものだと云うのが信じられなかった

 

次の日は朝から母親も交えてボードゲームやカードゲームなどでそれこそ一日中盛り上がった

 

ヴァーリはそのひと時を真剣に見つめる―――勝ったり負けたりで一喜一憂する弟妹の姿や人生ゲームで借金を背負わされたと戦慄する母親などの表情を一瞬たりとも見逃さないように、真剣に

 

そして一通り遊んでもう直ぐ夕食という辺りでヴァーリは静かに立ち上がった

 

覚悟はしていたはずだがそれだけの動作で悲壮な想いが顔に出てしまったのだろう。対面に居た弟と妹がまた心配するような表情となる

 

「お兄ちゃん?どうしたの?」

 

「お兄ちゃん?苦しいの?」

 

下から見上げるように覗き込まれた事でヴァーリは溢れる涙を堪え切れなくなる。そして二人をその腕の中に抱き寄せた

 

「俺は―――」

 

一度声が詰まる―――昨日の朝の時のように誤魔化すような真似はもう出来ない

 

俺はお前たちの名前を知らないんだ―――どれ程願い望んでも、弟と妹の名を呼んでやる事が出来ない。アジ・ダハーカの禁術と云えどもヴァーリ自身が識り得ない願いまでは叶える事が出来なかった。だからこそ、この世界が偽りだと強く認識出来る

 

「行かなくてはいけない所が有るんだ。これ以上、お前たちと遊んでやれない事を申し訳なく思う・・・ゴメンな」

 

最後にもう一度腕の中の彼らを強く抱きしめ直す。その中に感じる温もりを決して忘れないように

 

これは夢だ。幻だ。現実のものなんて一つだって有りはしない・・・それでも

 

「俺はお前たちと出会えて、一緒に遊べて幸せだった。それだけで俺はこの先も何千年、何万年だって生きていける!戦っていける!」

 

二人を抱きしめていた手を放して一歩下がり、その顔を見据えて告げる

 

「名前を呼んでやれなくてゴメンな。だからこそ、俺は行くよ。お前たちを守る為に」

 

ヴァーリは二人に背を向け、玄関に視線を送る。その傍には悲し気な顔をした母親が立っていた

 

「母さん。もう会えないだろうけど、話せないだろうけど、俺は何時までも遠くからあなた達の事を見守っているよ・・・俺は、あなたの息子で幸せだった」

 

ヴァーリはそれだけ告げて母親の隣を通り過ぎて玄関のドアノブに手を掛ける。弟や妹と同じように抱きしめてしまったら、きっとこの決意が鈍ってしまうと思ったから

 

扉を開く直前、後ろから声が掛けられる

 

「行ってらっしゃい、ヴァーリ」

 

「っ・・・行ってきます。母さん」

 

この世界はヴァーリの心の願いを映す。だから今のヴァーリの背中を押す言葉も、きっと彼が欲しかった言葉なのだろう

 

扉をくぐった先は庭先などではなく、ただの白い空間だった。そこに父親らしき影が見える。自然と『父親』だと認識した影はヴァーリの実の父親でもあの家族の父親でもない

 

十二枚の堕天使の翼を広げるアザゼルの姿だった・・・成程、これが俺の父親像かとヴァーリは自嘲する。本当に深層心理というものは自分の事だと言うのにちゃんと理解出来ていない事ばかりなのだな、と

 

「行くのか?」

 

アザゼルが静かに訊いてくる

 

ヴァーリはアザゼルに近寄りそのすぐ隣で立ち止まる

 

「ああ、行くよアザゼル。俺は現実のあんたに会えて本当に良かった―――俺は、ヴァーリ・ルシファーだ」

 

帰ろう。大切な者達が待つ、あの世界へ

 

決意を胸にヴァーリは一歩を踏み出し、世界の全てが光に包まれた

 

 

 

ヴァーリがゆっくりと目を開けると目の前にはアジ・ダハーカが佇んでいた

 

遠くでは戦闘による無数の爆炎が巻き起こっている様を見てあの幻術の世界は現実では精々数秒程度の出来事だと理解する

 

『良い夢は見れたか?』

 

その問いにヴァーリは晴れやかな笑顔で応える

 

「ああ、最高の夢だったよ、感謝する。お陰で俺は大切なもの、守りたいものを再認識出来た」

 

ヴァーリの答えを聴いたアジ・ダハーカは油断や慢心などといった感情の一切を排した。ここから先の闘いにそのようなモノが介入する隙などないのだと

 

『白龍皇ヴァーリ・ルシファーよ。下劣な術にて貴公を陥れようとした事を謝罪する。そして貴公こそが我が最大の好敵手であると認識させて貰う』

 

「俺の方こそ、お前と闘える事を心の底から誇りに思う。この命と誇りに掛けてお前を打倒し、俺はあの家族を絶対に守り切るッツ!!」

 

仲間達と一緒に戦う時はお互いに守り合う・・・支え合う戦いだ。だがただ只管(ひたすら)に『守る』という一念のみが今のヴァーリを動かす原動力となる

 

このような気持ちで戦うのは初めてだが成程。過去、歴戦の強者(ツワモノ)達が奮い立つ理由が分かった気がするとヴァーリは独り言ちる

 

とめどなく溢れるこの気力が有れば何度だって立ち上がれるだろう

 

『―――ヴァーリよ。私はあの幻の世界でお前の覚悟を見た。ならば私も且つては忌避したその名も受け入れようではないか!』

 

ヴァーリとアルビオンが自分の心と向き合った時、鎧の宝玉からオーフィスの声が響く

 

『・・・ーリ、ヴァーリ。我の声、聞こえる?』

 

「オーフィスか?」

 

『そう。イッセーが我と共に謳った。だから次はヴァーリの番。我と共に謳おう?』

 

(うた)・・・か。龍神との二重奏(デュエット)ならば、それはさぞや素晴らしいものとなるのだろうな

 

『イッセーには我の力を貸した。でも、ヴァーリは違う。ヴァーリは自分自身の力を極めてその先に行きたいと言っていた。だから我はそう在れるように、そっと手を添えるだけ―――ヴァーリとアルビオンが自分を受け入れたからこそ、出来ること』

 

導いてくれると云うのか、最強の龍神が―――それはなんと心強い事なのか

 

『ヴァーリ。我と話してくれて、ありがとう』

 

それはオーフィスがまだ禍の団(カオス・ブリゲード)の一応のトップだった頃の話だ。シャルバ達旧魔王派も曹操達英雄派も、他の誰であってもオーフィスとまともに関わろうとはせずにただ「蛇が欲しい」としか口にせず、オーフィスもまた一方的に「グレートレッドを倒して故郷に帰りたい」くらいしか言わなかったのだ。酷い会話のキャッチボールである

 

そのような中でヴァーリだけはオーフィスと時折きちんと『対話』をしていたのだ・・・途中からルフェイも参戦したが、始まりはヴァーリである

 

―――ああ、こんな俺で良ければまた何時でも話し相手になってやろう

 

仲間でも無ければ守るべき家族でもない・・・恐らくこれが『友』と呼べるものなのだろう

 

『私も一緒に謳おう、オーフィス、ヴァーリ。折角の門出を祝う唄なのだ。二重奏(デュエット)よりも三重奏(トリオ)の方が映えるだろう?』

 

アルビオンの言葉に口元に薄く笑みを浮かべたヴァーリは頭に浮かび上がった呪文を唱える

 

「我に宿りし無垢なる白龍よ、覇の理をも降せ」

 

ヴァーリの白銀の鎧の各所に漆黒が色付き始める

 

『我が宿りし白銀の明星(みょうじょう)よ、黎明(れいめい)の王位に至れ』

 

続くアルビオンの唄に光の翼も黒く染まり、新たな翼も次々と生えていく

 

「濡羽色の無限の神よ」

 

白銀のオーラが全身を包み

 

玄玄(げんげん)たる悪魔の父よ』

 

オーフィスの唄で漆黒のオーラが更に全身を包み込む

 

「『窮極(きゅうきょく)超克(ちょうこく)する我らが(いましめ)を受け入れよ』」

 

ヴァーリとアルビオンの声が重なり鎧の全ての宝玉にルシファーの紋様が浮かび上がる

 

「『『―――汝、玲瓏(れいろう)の如く我らが耀(かがやき)にて跪拝(きはい)せよッツ!!』』」

 

最後に三人の唄が世界に響く。新たな『王』の誕生に平伏せよと

 

『『『LLLLLLLLLLLLLLL(ルルルルルルルルルルルルルルル)LLLLLLLLLLLLLLL(ルルルルルルルルルルルルルルル)LLLLLLLL(ルルルルルルルル)Lucifer(ルシファー)!!!!!!!!!』』』

 

『『『Dragon(ドラゴン)Lucifer(ルシファー)Drive(ドライブ)!!!!!!!!!!』』』

 

連続するエラー音のような音を響かせて白銀と漆黒のオーラが爆発した

 

白銀と漆黒の耀きの中から現れたヴァーリは今までとは一線を画した濃密なオーラを滾らせる

 

流麗なフォルムとなった鎧姿はある種の美しさすら感じられる

 

「魔王の血筋たるルシファーの力と白龍皇、アルビオン・グウィバーとしての力。その全てを発現させたこの形態。貴様にぶつけよう、アジ・ダハーカッ!!」

 

ヴァーリの荘厳な姿を見たアジ・ダハーカは狂わんばかりに歯をむき出しにして(わら)った

 

嬉しさのあまり全身がブルブルと震えている―――最高潮に興奮しているようだ

 

『いいぜ!最高だ!やっぱりリゼヴィムの野郎は魔王の息子でも魔王としての器は無かったんだな。今のお前から放たれる王気(オーラ)がその証拠だぜ!―――お前こそが『ルシファー』だッ!!』

 

「ああ、今なら自信を持って告げられそうだ―――我が名はルシファー。真に魔王の血脈(ほこり)を継し、ヴァーリ・ルシファーだ!!」

 

『―――ほぅ、これは・・・クックック!』

 

ヴァーリの言葉に三つ首を天に向けて歓喜の遠吠えをするアジ・ダハーカとは別にアルビオンからは興味深いといった声が漏れ、その後隠しきれない笑いへと変換される

 

「どうした、アルビオン?」

 

『いやなに、同じオーフィスの唄を謳った影響かドライグたちの様子が伝わって来てな。まさかドライグが現世に蘇って兵藤一誠と共に暴れているとは思わなかったぞ』

 

アルビオンの言葉を聴いたアジ・ダハーカが天に吼えていた顔を元に戻す

 

『なんだなんだ?ドライグが復活してるって?なんだよ、アポプスの奴も最高に愉しんでるみてぇじゃねぇか!―――おい、アルビオン。ドライグが復活したならお前も復活は出来ねぇのか?』

 

問われたアルビオンは難しい声を上げる。兵藤一誠達と違ってヴァーリとアルビオンは復活を前提とした準備などしていなかったからだ

 

『むぅ・・・今は無理だな。術式によると向こうは事前に造った絶大なパワーを蓄えた七つの宝玉(乳玉(にゅ~・ボール)とは言わない)を糧として復活したようだが、俺達はそのようなものを用意してはいなかったからな』

 

『そうか、そりゃあ残念だ』

 

目の前に架空のエサだけ見せつけられた形となってしまったアジ・ダハーカは僅かに落胆する。正直今のヴァーリでも十分だが敵に更に上の領域が有るというならその全てを味わい尽くしたいタイプなのだ。その上で勝つ為に

 

だがそこに思わぬ人物が舞い込んできた

 

「お困りのようだな。雇い主(リーダー)

 

「サラマンダー・富田!何故此処へ!?」

 

「なに、お前たちの闘いは流れ弾一つでも十分危険故にある程度の状況は把握していたのだが、アルビオンの復活にこちらが使えるのではないかと思ってな。急遽(きゅうきょ)用意したのだ」

 

サラマンダー・富田はニヒルに笑いながら手元から濃密なエネルギーの球体を七つ取り出した

 

「凄まじいエネルギー体だ。しかし急遽だと?サラマンダー・富田、これは一体・・・?」

 

そう。あれ程のエネルギーは普通なら直ぐに用意出来るものではない。時間を掛けて溜めるか、それとも別に特別な手法を用いる必要があるだろう

 

そして彼はその疑念に答えてくれた

 

「ッフ、これは尻子玉(しりこだま)だ」

 

「『は?』」

 

「尻子玉だ。聖剣使いや孫悟空の末裔、元総督殿など、この戦場に居た並み居る強者のケツから取り出した河童だけが扱えるエネルギー・・・さあ、アルビオンよ。お前は先程自らが忌避した名も受け入れると言ったのだろう?ならばこれで示せ!乳龍帝のライバル、尻龍皇ここに在りと!!」

 

『ち、違う!私が受け入れようと言ったのは毒龍皇の名の方だ!例えその尻子玉が純粋なエネルギー体だとしてもそんなのでパワーアップしたら外堀が埋まってしまう!おい、何故ヴァーリの後ろに回る?何処に突っ込む気だ?おい止めろ。ヴァーリもなにが起こっているのか判らないって顔をするんじゃない!やめ、やめ・・・アアアアアアアッ!!?』

 

ドライグの『真の理解者』となったアルビオンは後日失語症となり、先駆者(ドライグ)の介抱でなんとか持ち直す事に成功した




書く前→原作通りで少しセリフを弄る程度かな~?
書いた後→アイエエエエ!?河童!?河童なんで!?

あと二話に分けるって言ったのも無理だったのでなんとか今日中にもう一話上げます!だってGWだし!


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第十三話 明星の、白龍皇です!

本日二話目です


七つの尻子玉の力を背後から入れられたヴァーリはその莫大な力でアルビオン復活の術式を組む。フルフェイスの鎧を纏っていた事もあってか『何処から』入れられたかは見えなかったようだ

 

鎧とか関係無しに少なくとも物理的に突っ込まれてはいない

 

サラマンダー・富田は戦闘中にいきなり尻子玉を抜かれて虚脱したところに配給されていたフェニックスの涙をぶっかけられたアザゼル、美猴、アーサー、ゴグマゴグ(何故か取り出せた)、幾瀬鳶雄、少し離れた場所で戦っていた元龍王のタンニーンに後で殺されない事を願うしかない・・・因みに最後の尻子玉はサラマンダー・富田自身のモノだ。決してルフェイやラヴィニアなどのレディーに手を出さない辺りは紳士である

 

最も仮に手を出していたなら聖王剣と狗神と白龍の逆鱗に触れただろうが、ギリギリ戦いの後でボコボコにされる程度で済む事だろう・・・フェンリルにも手を出していないところを見るに紳士云々(うんぬん)ではなく命の危険を察知しただけかも知れないが・・・

 

兎も角彼はNINJAの修行(クンフー)を受けし者。有間一輝ではないが、使えるモノはなんでも使うのだ

 

尻子玉はその者の魂と言われる程のモノである為アザゼルたちから取り出したソレはアルビオンを復活させるに足るだけの力を内包していた

 

最もサラマンダー・富田が実力者である彼らから抜き出せたのは味方に対する油断と未知の感覚による困惑によるものなので、基本は戦闘中の敵対者には使えない河童固有の技である

 

「俺の役割はこれまでのようだ・・・もしも『おっぱいドラゴンの歌』のようなテーマソングをお望みなら『尻子玉ラプソディー』をケツ龍皇バージョンでお届けするぜ」

 

サラマンダー・富田は人差し指と中指を揃えて立てて顔の傍で"スチャッ!!"と小粋に振る。もうこの場に用は無いので自分の戦場に戻るのだろう

 

『待て!この腐れ河童!今すぐ頭の上の皿ごと噛み砕いてやるから帰るんじゃない!待て!待てエエエエッ!!』

 

鎧から投射された光から徐々に生前の肉体の輪郭を取り戻しつつあったアルビオンの言葉はサラマンダー・富田には届かなかったようで完全に復活した時には既に彼は居なくなっていた

 

獲物を逃したドラゴンの咆哮が戦場に虚しく響く

 

『ハッハッハ!随分とヒデェ事になってるじゃねぇか、アルビオン。どうだ?ドライグみてぇに正式にケツでパワーアップした気分は?最高かよ?』

 

『ケツ龍皇!ケツ龍皇!』

 

『ヒップドラゴン誕生だ☆』

 

アジ・ダハーカの幼稚な煽りを受けたアルビオンは額に血管を浮かび上がらせる。血が滾り過ぎて白龍皇から赤龍帝にクラスチェンジしそうな勢いだった

 

白い鱗の下はとっくに真っ赤に染まっている事だろう

 

『・・・ヴァーリよ。最初だけ、最初だけで良いから私一人にやらせてくれ。絶対にアイツの顔面を殴り飛ばす』

 

ヴァーリもアルビオンの言葉に頷いて返す

 

ここで否と言えば三つ巴の乱闘にすら発展すると思ったからだ

 

『なんだなんだ?最初はアルビオンからか?俺は構わねぇぜ、順番だろうが同時だろうが、お前らを両方しっかりと味わえるってんならよオオオオオッ!!』

 

『ヴァーリ、よく見ておけ!お前は戦闘において『半減』の力を重視し過ぎている。私が直々に白龍皇としての能力の扱い方をレクチャーしてやろう!』

 

アルビオンとアジ・ダハーカが同時に天高く飛び上がり、先程アジ・ダハーカが繰り出したのと同じように万にも届く数の魔法をアルビオンに撃ち放っていく

 

『フンッ!!』

 

アルビオンが気合と共に広範囲に『半減』の領域を展開し、迫りくる魔法の威力を減衰させていく。そして『半減』させ切れなかった魔法がアルビオンにぶつかる瞬間に全方位に圧倒的なオーラの波動を振りまいて攻撃を相殺した

 

そんな馬鹿みたいな量のオーラを消費したはずのアルビオンは息も切らせていない

 

「禁術に含まれるオーラを『吸収』したのか!」

 

『その通りだ。確かに直接的に『半減』が効きづらい相手は神々クラスとなればそれなりに居る。だがこうして敵の攻撃を『半減』で防御出来るなら、そこに含まれるオーラを取り込めるのもまた道理という訳だ!』

 

説明もそこそこにアルビオンは真っ直ぐに全速力でアジ・ダハーカに突撃する

 

『どうしたアルビオン?確かに(はや)いがそんなんじゃカウンターを狙ってくれってなもんだろう!』

 

自身の持つ最高速度というのは容易に軌道修正出来るものではない。アジ・ダハーカは迫りくるアルビオンが避け切れない範囲で迎撃に極太のレーザーのような魔法を何発も撃ちこむ

 

それをアルビオンはその速度を維持したまま全く無秩序な軌道を描いて攻撃を避け切った

 

そのままアジ・ダハーカが新たな魔法を展開するよりも先にその顔面の一つにアルビオンの拳が突き刺さる

 

『―――『反射』の力も弾く方向を気を付けながら自分に掛けてやればこんな真似も出来る。丁度ヴァーリがリゼヴィムにやった慣性の『半減』と合わせて使えば更に小回りが利くだろうな。上を目指すなら、面白い能力の使い方も模索してみると良い』

 

アジ・ダハーカはアルビオンの拳で流した鼻血を鼻息で吹き飛ばして熱い視線を送る

 

『良~いパンチだったぜぇ!やっぱり強えぇなあっ、二天龍ってのはよぉ―――だったら俺もこの場で命を使い果たす気でいかせて貰うぜエエエエッツ!!』

 

元々禁術使いのアジ・ダハーカは魂を削るような攻撃も普通に織り交ぜてはいるがそれは魂レベルでタフな邪龍故に他者が扱う時と比べて危険度が低くなっているだけだ

 

しかしトライヘキサに異世界の進出という命令自体はインプットしておいたのなら、この場で命を燃やし尽くしても次に復活する時には異世界への扉は開かれている公算が高い

 

ならばもう細かい事を考える必要は無い―――目の前の二天龍を斃す為に命の全てを禁術という炉にくべる。勝った後に生き残るか如何かなど運任せで十分だ

 

『お前も一緒に掛かって来いよ、ヴァーリ・ルシファー!決着を付けようぜエエエッ!!』

 

空を埋め尽くすばかりだった万を超える魔法が更に数十倍の規模で展開されるのを見てヴァーリは舌を巻く。本当に後先考えない全力だ。此方が欠片でも力を緩めたら喰い潰される

 

只々(ただただ)一歩でも早く前に踏み込んで己の全てをぶつける駆け引きほぼゼロの刹那の決着をアジ・ダハーカは望んだのだ

 

アジ・ダハーカの禁術がヴァーリ達を飲み込むのが先か、ヴァーリ達が死ぬよりも先にアジ・ダハーカを消滅させるのが先か・・・一歩、いや、半歩でも先に相手の命に届いた方が勝利となる

 

「面白い!受けて立とう!!」

 

三匹のドラゴンが縦横無尽に空を我が物顔で飛び回る

 

ヴァーリが突き出した手のひらから撃ち出した魔力弾は巨大な山の頂を掠めただけで消失させ、アルビオンのブレスは天を覆っていた分厚い雲を両断する

 

自身の慣性の『半減』や『反射』で一瞬にして様々な角度から襲い来る攻撃にアジ・ダハーカも全ては避けれずに防御魔法の上から体を撃ち抜かれていく

 

対するアジ・ダハーカの禁術もヴァーリやアルビオンの半減領域すらも力でゴリ押して全身を滅多打ちにしていった―――鎧や鱗は爆ぜたり砕けたりしてどんどんその機能を低下させていく

 

迫りくる致命傷となり得る攻撃だけを体に残っている鎧や鱗で受け止めて最低限死なないように立ち回り、お返しとばかりにアジ・ダハーカの腕を、翼を、首を、胸を穿っていく

 

一発一発で体の表面が弾けるヴァーリ達と体がゴッソリ抉れるアジ・ダハーカでは今のところヴァーリ達の方が優勢だろうか

 

しかしそこで彼らの視界の端に量産型邪龍(よけいなもの)の姿が映る

 

アジ・ダハーカを助けにきたのではなく(そんなプログラムは絶対にしない)この戦場で絶大な力を振りまくヴァーリ達を優先して排除すべき敵と認識して攻撃を加えに来たのだろう

 

『俺達のケンカの邪魔をするんじゃネェエエエエエエエッ!!!』

 

当然愉しい時間に水を差されたアジ・ダハーカは烈火の如く怒り狂い量産型邪龍達を消し飛ばす

 

『ったく、量産型つっても最低限意思は有るってのによぉ。どいつもこいつもケンカの本質ってのを解ってねぇ―――グレンデルの時も邪魔が入ったってのに』

 

以前ヴァーリチームと戦った時に途中からグレンデルが乱入してきた時の事を言っているのだろう。あの時も横やりを入れられたアジ・ダハーカはヴァーリ達そっちのけでグレンデルと殺し合いをしていたくらいだから、本当に嫌いなのだろう

 

とは言えその心境には同意せざるを得ないヴァーリは翼を広げて邪龍達がまだいる広範囲に危険でおどろおどろしいオーラをドーム状に降らせる

 

Venom(ヴェノム)!!』

 

そのオーラの範囲内に居た邪龍達は突然苦しみだし、どんどんと体が細くなりながら血を吐き出して墜落していった

 

『―――ほぅ、これが『毒蛇』の力か』

 

その光景を見ていたアジ・ダハーカも歓心した様子だ

 

「そうだ。これが毒龍皇とも呼ばれたアルビオン・グウィバーの毒の力・・・『減少』だ」

 

アルビオンの本来の力であった『減少』は無機物以外ならば何であれソレを構築する要素を消失させていく力だ・・・有機物である生命ならばその魂すらも例外にはならない

 

魂レベルで傷付いたのならば神々ですら容易に復活どころか回復も出来ない

 

それ程までに凶悪な毒なのだ―――周囲の量産型邪龍達は全身の体組織が『減少』してゆき、結果として致命傷となって墜落していった

 

『・・・俺様にはその毒を使わないのか?』

 

そう、ヴァーリが毒の力を振りまいたのは戦いに無粋に介入しようとしていた邪龍達だけで、アジ・ダハーカにはその力を向ける素振りすら無かった。そしてそれに答えたのはアルビオンだ

 

『言ったはずだ。既に棄てた力だとな。高みを目指す為の力は己で研鑽し高めた『半減』などの能力と牙と爪、この肉体だけで十分だ。俺達が『毒』を使うのは何かを守る為の戦いにおいて周りに居る木偶人形やリゼヴィムのような下劣な輩などの一切の慈悲も遠慮も必要無い相手のみ』

 

『なんだ?俺様みたいな邪悪な邪龍は対象外なのか?』

 

世界にケンカを売っている邪龍も十分遠慮が要らないの範疇に入るのではないかと問うが上空で毒を散布し終わったヴァーリが今度はアルビオンへの質問に代わりに答える

 

「それも言ったはずだ、アジ・ダハーカ。お前の在り方を俺は好ましく思うと」

 

世間における評価など関係ない。使うも使わないも決めるのは己の意思一つなのだと、己が道を往くドラゴンらしい理由だ

 

「お前は俺達が何時か『真なる白龍神皇』に至る為に必要な糧であり、強者・・・そうだな。ライバルというやつだ」

 

『グックック!お前のライバルは赤龍帝達じゃねぇのかよ?そこに俺様も含めて良いのかい?』

 

白龍皇のライバルとは赤龍帝である。確かにそれはこの先も変わらぬ答えだがそれだけで済ませてしまうのは勿体ない―――答えの形は一つではないのだ

 

「っふ、『ライバル』がお一人様限定などと誰が決めた?俺は闘争に生きるドラゴンであると同時に欲深い悪魔でもある。好敵手が何人も居る方が俺としては嬉しいがね」

 

『はっ!違いねぇ!そりゃあ遊び相手は多い方が良いに決まってるよなぁあああ!それにしても悪魔でドラゴン・・・赤龍帝と合わせて『D×D(ディアボロス・ドラゴン)』とでも呼ぶべきか?』

 

それを聴いたヴァーリは『D』を冠する世界において今代の二天龍を表すのに相応しい名称だと素直に思う

 

チーム名である『D×D』も元々は様々な『D』の集まりとして名付けられた経緯を持つ。その中で新たに『D×D』という称号が付くというのもまた粋であろうと

 

「良い名だ。だが悪のドラゴンと聞けば中には邪龍を連想する者も居るだろう―――故に、この場でお前を倒して今代の二天龍のみの称号として世界に知らしめてやろう」

 

兵藤一誠とドライグがアポプスに敗北する事など無い

 

そして自分もまた目の前の邪龍に敗けやしない―――邪龍が最強?いいや違う。地上最強のドラゴンは今も昔も天龍なのだ!

 

彼らは再び極大の力でぶつかり合う。会話の最中に壊れた鎧や抉れた体は修復したが、体力は相応に消費される。三者共にもう長くは持たない有様だ

 

アジ・ダハーカの禁術も最初に比べて数が減るが、ならばとばかりに逆に距離を詰めて出来る限り至近距離で魔法を放つ事でヴァーリ達に少しでもそのままの威力の禁術をぶつける

 

対するヴァーリとアルビオンも拳や爪に乗せた莫大な魔力やドラゴンのオーラで殴りつけ、切り裂いていく―――勝負は血で血を洗う壮絶な近接戦へとなだれ込んだ

 

ヴァーリとアルビオンがそれぞれ放った魔力弾とブレスでアジ・ダハーカの左右の首の根本が弾け飛んだが、首だけとなったアジ・ダハーカがそのままヴァーリ達に噛み付ついて本体のアジ・ダハーカが体から切り離された長い首根っこを両手で掴まえて地上に投げつける

 

まさかそんな戦術を使って来るとは思わなかったヴァーリとアルビオンはそのまま地面に叩き付けられて盛大に粉塵を巻き上げた

 

一瞬アジ・ダハーカの居場所を見失ったヴァーリにかの邪龍は捨て身の突撃を決行してその腹部に噛み付いた・・・もう回復どころか攻撃に回す魔法力すら残ってないのだ

 

アジ・ダハーカが勝利するには本体であるヴァーリの命をここで噛み切るしかない

 

「ッグッアアア!!」

 

鎧を貫通しどんどんと肉体に沈み込んで来る巨大な牙の感触に明確な死が頭を過ぎる。だが激痛で眩く明滅する意識の中で浮かんで来たのはあのたった一つの守り抜くと誓った家族の姿だ

 

その情景を見た瞬間ヴァーリの腕は自らを噛み殺さんとする邪龍の牙を逆に捕らえていた

 

そしてヴァーリの鎧の腹部がスライドしてそこに現れた巨大な宝玉に絶大なパワーが溜まっていく

 

兵藤一誠がアポプスに放った神殺しの一撃である『ロンギヌス・スマッシャー』だが赤龍帝の一歩前を歩く彼はそこに更にルシファーの耀きを上乗せする

 

「これで終わりだ。アジ・ダハーカッ!!」

 

『『『LLLLLLLLLLLLLLL(ルルルルルルルルルルルルルルル)LLLLLLLLLLLLLLL(ルルルルルルルルルルルルルルル)LLLLLLLL(ルルルルルルルル)Lucifer(ルシファー)!!!!!!!!!』』』

 

『『『Satan Lucifer Smasher(サタン・ルシファー・スマッシャー)!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』』』

 

白銀と漆黒に彩られた極大のオーラ砲である『天龍殺しの一撃』は地平線の更に先まで消えない一本線をこの星に刻み付けた

 

それ程の攻撃を喰らったアジ・ダハーカは・・・まだ生きていた

 

だがそれも頭だけの状態だ。口の最奥でオーラ砲を発射した関係で喉から上が偶々残ったのだろう

 

足を引き摺りながら首だけとなったアジ・ダハーカに近づくヴァーリに邪龍はそれでも不敵に笑う

 

『おりゃあ、十分満足のいく闘いが出来たと思ってるぜ?・・・ちぃっとばかし、数千年程待ってろよ。また復活してお前とケンカしに来るからよ・・・また何時かケンカしようぜ。ヴァーリにアルビオン・・・明星の白龍皇よ』

 

悪魔でありドラゴン。ルシファーであり白龍皇でもある彼らを最後にそう讃えるとアジ・ダハーカの頭部は塵となって消えていった

 

「―――ああ、何時かまた今日のような互いの誇りと存在を掛けた戦いをしよう。我が好敵手、アジ・ダハーカよ」

 

ここにもう一つの邪龍と天龍の戦いが幕を閉じたのだった

 

 

 

アジ・ダハーカとの戦闘が終わり時間経過とダメージの蓄積で現界状態を維持できなくなったアルビオンが宝玉の中に戻り、ヴァーリ自身も体力の消耗を抑える為に通常の禁手(バランス・ブレイカー)の鎧に戻る

 

ヴァーリがそのままトライヘキサと邪龍達の戦場に飛んで行くとトライヘキサの巨体が複雑怪奇な魔法陣で全身を包まれて微動だにしないでいる光景が目に入った

 

「そうか・・・トライヘキサは予定通り停止させられたようだな」

 

「ああ、ついでに言やぁ日本側でヴァレリーとギャスパーが聖杯を取り戻したらしい。これで後は量産型の邪龍共も減る一方だぜ」

 

ヴァーリの呟きに上から声が降ってくる

 

見上げると堕天使の翼を広げたアザゼルが降りてきたところだった

 

「よお、勝ったみてぇだな。遠目にだがお前の進化を見させて貰ったぜ―――あれがお前の出した答えなんだな。リゼヴィムなんかよりもよっぽどルシファーらしかったぜ」

 

それを聴いたヴァーリは気恥ずかしい想いとなる。アジ・ダハーカの幻術の世界でアザゼルの事を心の底では『父親』として慕っていたのだと文字通り見せつけられたばかりだからだ

 

そして美猴(びこう)やラヴィニアなどヴァーリの仲間たちもヴァーリの健闘を讃える為に集まって来た

 

・・・サラマンダー・富田が全身妙にボロボロになっているのはきっと彼なりの激戦があったに違いない。具体的に言えば尻子玉関連で熱きバトルが勃発したのだろう

 

後に彼は語る。あの夏の日の『河川敷頂上決戦』にも劣らない戦いがそこには有ったと

 

「さて、トライヘキサも止まりアジ・ダハーカと聖杯の問題が片付いたのであれば、後は私達はこのまま邪龍の殲滅を続ければ宜しいので?」

 

アーサーの質問にアザゼルは頷く

 

「ああ、それで良い。ヴァーリがアジ・ダハーカを倒し、日本ではイッセーもアポプスをやっつけたらしいからな。これで次の作戦に邪魔が入る事は無いだろう」

 

アザゼルは動けないトライヘキサの更に上空に視線を移す

 

それに釣られて皆も視線を向けるとトライヘキサの頭上の空間に亀裂が入りそのまま一気に空間に穴が開く・・・その先に見えるのは次元の狭間ではなく真暗で特に何も無い世界だ

 

「あの先に広がってるのは悪魔のレーティングゲームの技術とアジュカの運営する『ゲーム』に天界の『システム』、神の子を見張る者(グリゴリ)の長年の研究成果、北欧のユグドラシルなど、同盟を結んだ勢力の技術を結集して創り上げた結界空間だ―――只管頑丈さだけを(・・・・・・・・)追求して造られた空間だよ(・・・・・・・・・・・・)

 

アザゼルの説明にヴァーリは感心する。自分達に内緒でこんなものまで用意していたとは相変わらずの手際の良さだと

 

だが続く言葉にヴァーリは自分の耳を疑った

 

「まっ、これはイッキの奴のリクエストなんだがよ。アイツがトライヘキサと気兼ねなく一対一(サシ)でやり合える場所が欲しいっつってな」

 

「なに?では有間一輝が提示した作戦というのは?」

 

「単純だ。アイツが一人で黙示録の獣(トライヘキサ)を真正面から打倒(うちたお)す。それがアイツの作戦だ」

 

なんだそれは?と皆の意見が重なる。そんなものは無謀なんて言葉では到底足りない愚かな行為だ

 

疑念が深まる中、トライヘキサの体が徐々に頭上に広がる世界に吸い込まれて行く

 

見ればアザゼルが手元に魔法陣を展開して捕らえたトライヘキサの座標を変更しているらしい

 

「トライヘキサ単体を結界に放り込んでも相手はあの規格外の化け物だからな。それだけだとそう遠くない内に結界が破られちまう。だからそれ以外の手を打つ必要は有るのさ―――俺達も中の様子は確認出来るようにしなきゃいけねぇから映像は繋がるようになってるぜ・・・まぁ見てろよ。イッキの言う事を信じるなら、これから始まるのは一方的な蹂躙劇だ」

 

トライヘキサが居なくなった事で各戦域にはロスヴァイセの邪龍弱体化結界が張られるようになる。各神話の戦士や神々は弱体化した邪龍達を殲滅しながら世界の行く末が左右される一戦をその目にするのだった




やっとイッキを邪神に・・・ゲフンゲフン!ヒーローに出来るぜ!


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第十四話 邪人?いいえ、邪神です!

二話連投です


[イッセー side]

 

アポプスをドライグと一緒に倒した事で俺達の戦っていた島を覆っていた結界が崩れ去ったが、アポプスの消滅を確認した俺は少し気が緩んでその場に片膝をついてしまう

 

『相棒、フェニックスの涙はもう無いのだろう?俺もこの肉体を維持するのが限界に近い。今の内に通信でアーシア・アルジェントを呼んでおけ』

 

確かにドライグの言う通りでこのままじゃ普通に死んじまうからな

 

俺は言われた通りに通信で上空に居るリアスに通話を繋いで状況を伝えると程無くして皆が揃って島までやって来てくれた

 

「イッセーさん!お怪我を診せて下さい!」

 

使い魔となった量産型邪龍の内の一匹から飛び降りたアーシアが駆け寄って来たので鎧を一度解除すると直ぐに暖かい緑の光に全身が包まれていく

 

流石に幾つも体に大穴が開いてる状態なので速攻で完治とはいかないが、それでもしっかりと目視出来る速度で急速に怪我が塞がりつつある

 

それと俺が鎧を解除した事でドライグもその実体が光となって消えていった

 

「イッセー、よくやったわ。ドライグもちゃんと顕現出来たみたいだし、何よりも途中から感じた貴方の圧倒的なオーラは見事なものだったわ」

 

「ははっ、有難うリアス・・・と言ってもアレは俺の力って言うかオーフィスと異世界の乳神様が手を貸してくれたからなんだけどさ」

 

頭を掻いて軽く謙遜(けんそん)するとリアスは優しい微笑みで返してくれた

 

「それでも良いのよ。周囲の手を借りて巨悪に立ち向かう・・・それもヒーローの一つの形だとは思わないかしら?」

 

何時も力を貰っているスイッチ姫に言われたら返す言葉も無いな

 

「―――それに私はただヒーローの活躍を遠くで眺めてるヒロインなんて御免だわ。貴方の隣で貴方を支えられる方が良い。だから私はイッセーを孤高の英雄(スーパーマン)になんてさせないわ。皆で力を合わせる戦隊ヒーローの方が私は好みよ?」

 

周りに居る皆も強い眼差しで俺を見てくれている

 

この様子じゃ俺も少しでも気を緩めたら逆に追い抜かれちまうな

 

そんな風に感動しているとリアスの下に突如として通信が繋がった

 

通信画面に映っていたのは赤黒い人型のシルエットだった・・・誰だ?

 

≪リーアたん!今、リーアたんが戦隊ヒーロー(サタン・レンジャー)が大好きだって心の声が聞こえたよ!うんうん♪やっぱりリーアたんは私の事が―――"バジッ!!"≫

 

リアスが拳に纏った滅びの魔力の裏拳で通信画面を術式ごと破壊した!てか今のってサーゼクス様かよ!?いや、確かによくよく思い返せばシルエットはサーゼクス様のものだった。もしかしてアレがサーゼクス様の戦闘形態・・・所謂(いわゆる)超越者モードってやつか?

 

周りの皆が今度は苦笑したりリアスは何も言わないけど顔を真っ赤に染めている中、アーシアによる治療で体の怪我は完治した

 

アポプスは倒したけど戦いはまだ続いているんだ。俺はその場で立ち上がったがそこで喉の奥からせり上がって来るものを感じた

 

「ッぐっぷ!!?」

 

咄嗟に口を手で塞いだから吐き出した大量の血がアーシアに掛かる事は無かったぜ・・・でも、これは!?痛ってェェェ!!なんだコレは!?全身が内側から引き裂かれるみたいに痛い!いや、実際に体中から血が噴き出してやがる!

 

「イッセー!?」

 

「イッセーさん!?」

 

「イッセーくん!?」

 

「イッセー先輩!?」

 

皆の心配する声が聞こえる中、俺は既に口元を抑えていた手すら放して四つん這いで全身を痙攣させていた―――アーシアの治癒の光が再び体を包み込むのを感じるが傷が治る気配が無い

 

『相棒。今、お前の中でオーフィスの力が暴れまわっているのだ・・・乳神とやらの力はお前自身が乳力(にゅ~・パワー)みたいなところが在ったからそこまでの悪影響は出していないようだが、無限の龍神の力はお前が発現させるには強力過ぎたのだ。アーシア・アルジェントの治癒の力が届いてないのも制御が完全に外れたオーフィスの力に弾かれてしまっているからだろう』 

 

ドライグの説明に近くからアーシアの「そんな!?」という焦った声が聞こえる・・・そっか、散々才能が無いって言われてきた俺の力じゃオーフィスの力を受け止め切れなかったんだな

 

だが朦朧(もうろう)としてきた意識の中で誰かが俺の額に指を一本押し当てるのを感じた

 

「まっ、こんな事だろうとは思ったけどな」

 

そう聞こえてたかと思えば俺の体の中で暴れまわっていたオーフィスの力が急速に静まっていくのを感じる。同時にずっと治癒を掛け続けてくれていたアーシアの力がちゃんと機能するようになったのか全身の怪我も治っていく

 

「はぁ・・・はぁ・・・い、イッキ?」

 

霞んだ視界が元に戻っていくと俺の額に触れていたイッキの姿が映る

 

「おう。仙術でお前の気を整えたからもう大丈夫だろう。立てるか?」

 

「あ、ああ・・・」

 

口元を盛大に汚していた血を拭ってふらつきながらも立ち上がる

 

そっか。イッキが治してくれたのか・・・いやでも待てよ?確かにイッキは生命の気を操るのに長けてるみたいだけど、俺の中で荒れ狂ってたのはオーフィスの無限の力なんだぞ?それをこうも簡単に制御出来るものなのか?

 

てか死ぬほどキツイ状態は脱したけど、まだ体が内側から膨満してるみたいにエネルギーが詰まってるような感じがする

 

「オーフィスの力はなんとかしたけどイッセーの中のやたらと質の高くなってる乳力(にゅ~・パワー)は手ぇ付けて無いからな。お前さり気に異世界の乳神とか言ってたからその影響なんだろうけど、そのまま放っておけばその内馴染むはずだ」

 

あ~、乳神様の置き土産でもう一度『NEW BorN』を発動したような感じになるって訳ね

 

それで強くなれるんなら暫く全身が痛いって程度は耐えなくちゃな!

 

「イッセーさん、良かったですぅ!一時は如何なる事かと・・・」

 

「イッセー!もう、心配させないでちょうだい」

 

「あらあら、全くですわぁ。流石に今回のは胆が冷えましたのよ?」

 

するとそこで俺がもう大丈夫だと安心したのかリアスやアーシアに朱乃さんが抱き着いて来た!ああ~、皆のお胸に包まれるとダメージとかどうでも良くなる~♪・・・っていかんいかん!心配させた事はちゃんと謝らないとな

 

「ごめんな。もう大丈夫だからさ―――それに俺は皆を残して死んだりなんかしねぇって」

 

俺はまだリアスにしかちゃんと好きと伝えて無いし、皆の処女だって貰わなくっちゃ死んでも死に切れねぇよ

 

「そうだな。イッセーが死んでしまったら子作りが出来なくなってしまう。それは困るぞ」

 

「もう、ゼノヴィアもそんな(ひね)た言い方しなくても・・・ああ、でも確かに将来私とダーリンの間に生まれる天使と悪魔のハーフっていう和平の象徴とも云える子が生まれないのも一大事だけど」

 

こ、子供か~。流石に今の段階じゃ実感湧かないな・・・俺達まだ高校生だし

 

しかしそんな未来に想いを馳せていると黒歌さんのお叱りの声が聞こえてきた

 

「ちょっと!回復したんならさっさと邪龍の殲滅に戻って欲しいんだけどにゃ!」

 

あ!そう言えばイッキの奴も何時の間にか島に向かって来る邪龍を焼き払ってるし、白音ちゃんにレイヴェルにマジメなロスヴァイセさんも一緒に迎撃してる!

 

そりゃそうだよな。俺達の感動シーンとか邪龍達からしたら関係ない訳だし、襲って来てるよね!

 

俺達は再び空へと飛び立って邪龍達を勢い良く撃墜させてゆく。するとそこでイッキの耳元に通信用魔法陣が展開された

 

「了解です、アザゼル先生。ヴァーリがアジ・ダハーカを倒したならもう問題無さそうですね」

 

通信先はアザゼル先生か―――ひょっとして俺がアポプスを倒した事は既に伝えたのかな?

 

でも問題無いとは一体?―――疑念に思ってるとイッキはそのまま黒歌さんに声を掛けた

 

「黒歌!トライヘキサの現れてる全七か所とも準備完了だ。一丁頼む」

 

「了解にゃ!」

 

黒歌さんが応えると同時に巨大な魔法陣を構築するとトライヘキサの頭上の空が割れてその空間に結界に捕らわれたままのトライヘキサが徐々に吸い込まれていく

 

「す・・・スゲェ・・・!」

 

あれだけ猛威を振るっていたトライヘキサがロスヴァイセさんが造ったっていう封印で完全に動きが止められている事もそうだけど、天空のその奥に広がる闇にあの巨体が飲み込まれて行く様は奈落を彷彿とさせるぜ・・・まぁ奈落に堕ちると言うよりは昇っていってる訳だけど

 

そうしてトライヘキサが完全に飲み込まれて天の巨大な亀裂が閉じると自然とこの戦場に喝采が上がった。しかし変化はそれで終わりでは無かったようで量産型邪龍が未だ(ひし)めく戦域全てを超巨大な結界が包み込み、量産型の邪龍達の力が封じられる

 

邪魔者(トライヘキサ)が居なくなった時点で後方で待機してたこの国の神様達が邪龍封じの結界を張ってくれる算段になってたのよねぇ―――ノーマルの邪龍は飛ぶこともままならなくなるし、グレンデルとラードゥン印の邪龍も今なら一般の兵士たちでも十分戦えるはずにゃ」

 

黒歌さんの説明を聴いた俺は勢いよく右手の拳と左手の手のひらをぶつけて打ち鳴らす

 

「よっしゃ!てことはトライヘキサをどっかに跳ばした今の内に邪龍達を全部掃除してその後でトライヘキサを皆でやっつけるって事なんだな!―――イッキ。悪いがその時はもう一度龍神化の力も使うと思うからよ。またオーフィスの力の制御を頼むわ!」

 

少し後ろに居たイッキの方に振り返りながらお願いをする。本当なら自分で制御出来るようにならないといけないんだけど、今はそんな事言ってられないからな・・・トライヘキサとの戦いが終わった後でも修行に身を入れねぇとな

 

だが振り向いた先にはさっきまで居たはずのイッキの姿がどこにも無かった

 

「あ、あれ?イッキの奴どこ行ったんだ?」

 

リアス達もトライヘキサの方に気が盗られていたのかキョロキョロと周囲を見渡すばかりだ

 

「イッキ先輩ならあそこです」

 

そんな中で白音ちゃんが指を差す方向はトライヘキサが吸い込まれた場所だった

 

たださっきと違うのは巨大な空中スクリーンが投射されてそこに七体のトライヘキサと、それと対峙するように一人佇んでいるイッキの姿だ

 

「んな!?なんでイッキが一人だけであんな所に居るんだよ!?」

 

「それは、私達が居るとイッキ様が本気を出せないからですわ。今から始まる戦いに巻き込まれたら命は有りませんのよ?」

 

今度はレイヴェルがにわかには信じられないような事を言う

 

イッキが一人でトライヘキサと戦う!?・・・いや、でも黒歌さんもレイヴェルも白音ちゃんもこの事は既に知っていたのか落ち着いた様子だ。イッキが先走ったとかではなくてちゃんと計画された事なのだろう

 

「にゃっはははは♪まぁ弱った邪龍を片手間に狩りながらでも見てなさいって。この一ヵ月は私達も裏でそりゃあもう涙ぐましい努力をして今日の日に備えたんだから・・・ねぇ?レイヴェル?」

 

「く、黒歌さん!その話はしないで下さいまし!」

 

ん?なんでレイヴェルは顔を真っ赤にしてるんだ?あと白音ちゃんも釣られてか一緒に顔を紅くしてしまっているし、一体どんな準備をしたんだよイッキ?

 

詳しい内容は聞けそうになかったので再び上空に映し出された映像に目をやると結界に捕らわれていたトライヘキサ達が少しずつその檻を壊そうとしているみたいだった。既に結界の各所に罅のようなものが入っているのが見える

 

このままでは程なくトライヘキサ達はイッキに襲い掛かるだろう

 

そしてそんなトライヘキサ達の様子を眼前に見据えたイッキは静かに呪文(うた)を謳いだす

 

≪偽り望まれし亡霊よ、今こそ[真/神(シン)]たる頂きに至れ≫

 

イッキから解き放たれ可視化した・・・いや、物質化した呪いがイッキの背後の上空に昇っていく

 

罪架(ざいか)を纏いし堕天の蛇よ、円環(えんかん)司る蛇の残響を喰い千切れ≫

 

赤黒い泥のようなそれは丸い円を描く・・・アポプスと戦った時の疑似日食に近いけど、おどろおどろしい泥を纏ったソレはまるで暗黒の太陽のようだ

 

≪この()矮小(わいしょう)なる(うつわ)であれど、我が魂は万象の(おり)を受け入れし(さかずき)なり≫

 

イッキの全身に神器の能力を発動させる時の禍々しい青白く光る刺青が浮かび上がり、赤黒い泥の一部がオール・エヴィルのボロボロのバンダナと、同じくボロボロの長いマフラーになった・・・マフラーの方は腰布を流用した感じか?

 

ソレは映像越しだと言うのに目にしているだけで背筋に冷たい汗が流れ落ちるのが伝わって来る

 

≪汝、我が(そそ)ぎし混淆(こんこう)たる(けがれ)()み干さん≫

 

ああ、本能で理解出来たぜ。今のイッキは俺達が今感じている恐怖心すらも呑み込んであらゆる負の感情を取り込んだ存在―――邪神オール・エヴィル(この世すべての悪)だってな

 

≪グルヴゥァァァアアアアアアアアアア!!!≫

 

イッキの準備が整った事で危険な敵であると認識したのか七体の内の一体が首だけ動かしてイッキに極大のブレスを放とうとする。あの攻撃は例え別れた状態のトライヘキサであろうと直撃すれば神クラスであっても容易に消し飛ばす威力を誇る。それなのにイッキの奴はそれを見ても避けるどころか防ごうとする素振りさえ見せない

 

「あのバカ!なにボサッとしてんだよ!?」

 

俺が悲鳴染みた声を上げたその直後に放たれたブレスは恐ろしいまでの威力と範囲で画面の向こうを紅蓮の地獄へと変えた

 

だが乱れた映像が回復するとそこには何事も無かったかのように無傷で佇むイッキの姿が映る

 

「・・・当たって無かったのか?」

 

「いいえ、直撃したように見えたけど・・・」

 

つい口から出た疑問にリアスも困惑したように否定する

 

トライヘキサはと言えばさっきの一撃で結界のタガが外れたのか全ての拘束術式を解除してそれぞれの獣の体が融合し、七つの首に獣の王冠の証である角を十本生やした黙示録に記されたままの姿へと回帰した

 

そして今度は全ての首が口元に極大のブレスをチャージしていく・・・映像越しでもイッキの纏うオーラとトライヘキサの纏うオーラでは一つに戻ったトライヘキサの方が明らかに強いのが判る!―――次の瞬間、画面が真っ白に染まりイッキもトライヘキサの姿も見えなくなる

 

あのブレスが放たれたのだろう・・・あれじゃ幾らイッキでも致命傷だ!イッキの得意とする気の一点集中防御とやらも全身隈なく攻撃されたら意味が無い!

 

絶望感が俺の中に広がるが、画面の向こうに人影が見えた

 

そしてまたしても無傷(・・)のイッキが現れる

 

映像の向こうのイッキはたった今本気のブレスを見舞ったトライヘキサに向かって薄く不敵に嗤う

 

≪今、なにかしたか?≫

 

イッキにはかすり傷だって付いてはいないようだった

 

おいおい、一体なにが起こってんだよ?

 

―――俺達の困惑を余所に黙示録の獣と邪神の戦いは本格化していくのだった

 

[イッセー side out]



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第十五話 特典、解放です!

二話同時です。一話前からお読みください




俺はトライヘキサがこの決戦の為に用意された空間に吸い込まれるのと同時に専用の術式で結界の中に入った。そしてトライヘキサの封印が破られる前にオーフィスの無限の特性の加護で俺の【神性】を『この世すべての悪』を受け止められるまでに拡張・強化する

 

本来であれば脆弱な人間の肉体の俺がオーフィスの力なんて発現させたら次の瞬間破裂してしまう・・・ヴァーリが覇龍(ジャガーノート・ドライブ)負担(リスク)を魔力で受け持っていたように闘気で同じ事が出来ないかとも考えたけど闘気はそこまで万能じゃない。さっきもサイラオーグさんがレグルスの力を解放すると同時に血を吐いてたようにな。てかイメージすれば大体の事が叶う魔力が便利過ぎるんだよ

 

毎日お参りしたりお菓子を献上したりでオーフィスの力を借りる了承を得た俺がどうやってその無限の力を扱うのかだが、俺の中の究極の龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)のサマエルの力を使う事にした

 

簡単に言えばオーフィスの力を使った時の反動の流れを操作して魂の奥のサマエルの居る部分にダストシュートしてしまうという訳だ。反動と言えどもドラゴン由来の力ならば消し去る事が出来る。先程イッセーの中の制御不全に陥ったオーフィスの力の残滓も俺が抜き取って俺の中のサマエルに消させたのだ・・・サマエルはゴミ箱と化したのだ

 

トライヘキサの二度のブレスを敢えて喰らって体の調子を確かめた俺はこの端が何処に在るのかも判らないくらいに広大な結界空間全体にすら行き渡るくらいに邪気を振りまいていく・・・味方が居ない時ならフィールド効果の『邪邪風風』も遠慮なく使えるってもんよ!

 

トライヘキサがブレスが効かないならば接近戦とばかりに距離を詰めて来るのを俺からも近づいて殴りかかる―――だが巨体の癖にオーラゴリ押しで圧倒的な速度を出したその拳を避け切れずに殴り飛ばされてしまった

 

今の一撃で遥か遠くまで飛ばされた俺に追撃でブレスを放ちながら再度接近するトライヘキサの懐に潜り込んで殴り返すとその巨体が僅かに後退する

 

「う~ん。やっぱり単体で世界とケンカ出来るトライヘキサ相手じゃ幾ら戦いに向いている邪気つっても単純なオーラ量の差が出るな」

 

聖杯と生命の実で耐久値とHPを爆上げしてるはずだから尚更にな

 

独り言ちていると目の前のトライヘキサから困惑するような気配が伝わって来た

 

今の俺のオーラはトライヘキサの半分以下

 

それなのにトライヘキサの攻撃がもう何度も直撃しているにも関わらず、防御も碌にしてない俺がケロリとしているのが不思議でならないんだろう

 

だから俺はトライヘキサに裏のカラクリについて教えてやる事にした・・・何故そんな俺らしく無い事をしようとしてるのかと言えば、外のお偉いさんたちが結界内の様子を見て万が一この邪神モードともこの世すべての悪(アンリ・マユ)モードとも云える形態の効果が無かったり破られたりした場合に、各勢力のVIPだけが知っているという極秘の作戦を発動させると言う都合上、どうしたって俺とトライヘキサの戦いは中継されるからだ

 

それならばどうせなら首脳陣だけでなく文字通りに全国ネットで中継して貰おうと思ったのだ

 

理由としては将来俺が嫁に貰う黒歌達の中でも今回は特に九重とレイヴェルの為だな。二人ともそれぞれ妖怪と悪魔の世界では由緒正しい良家のお嬢様だからやっかみが酷そうなのだ

 

超常の存在は基本脆弱な人間を下に見る傾向が強いから人間(おれ)との婚約・結婚に陰口を叩いてくる奴らが沢山出て来るだろう・・・夏休みに京都の妖怪の問題は粗方片づけたけど日本の妖怪組織って結構バラついてるからね。そんな奴らの口を事前に紡がせる布石になる訳だ

 

そして俺にトライヘキサの攻撃が通らなかった理由は今の俺が『この世すべての悪』―――すなわち悪性の頂点(・・・・・)となっているからだ

 

俺の持つ【神性】はFate時空由来。そしてあの世界における善性の頂点の一柱として描かれた神であるケツァルコアトルはアニメでこう言っていた―――「善き力で私を倒すのは難しい」と

 

同じように今の俺は悪しき力では傷一つ付かないのだ!

 

「そう言う事だからよ、トライヘキサ。俺を倒したかったら光の勇者か正義のヒーローでも連れて来るんだな!」

 

言葉がどれだけ通じているかは判らないけど指を差しながらビシッと決める・・・あれ?なんか今地上の皆さんが一律に変な顔をしている様子が目に浮かんで来たんだけど、気のせいだよね?

 

気を取り直してトライヘキサを見つめ直す・・・正直ここまでだと状況は五分に近いが、ぶっちゃけトライヘキサの方が有利だ

 

何故なら俺の攻撃もトライヘキサの攻撃も決定打にはならないからだ・・・まぁ今の俺ならトライヘキサのタフネスチート具合を考えても一万年も掛けないで倒しきれるだろうが、それは俺が不眠不休で動けたらの話だ

 

少なくとも丸一日や二日程寝ずに戦っても倒しきれないだろうし、俺が疲れて眠っちゃたりしたら折角与えたダメージも回復しちゃうからな

 

俺が寝ている間に邪神モードが解けたら一瞬で塵にされるし、そうでなかったとしても俺の邪魔が入らない内にせっせと結界破壊に勤しめばいい

 

コイツを逃がしてしまえば実質俺の敗北だ。そうなればアザゼル先生たちの極秘作戦(隔離結界領域)に頼る事になってしまう

 

だから悪いがトライヘキサよ。こっから先は血で血を洗う互角の熱い勝負とかそんなちまちまとした戦いを演じる気は毛頭ないんだよ!

 

俺は懐からアザゼル先生に頼んで作ってもらった神の子を見張る者(グリゴリ)謹製のビー玉くらいの丸い物体を取り出すとそれをそのまま呑み込んだ・・・金丹を飲んだ時と違って今回はちゃんと水も用意したぜ(仙術で)

 

「待たせたな、トライヘキサ。これより―――世界の半分(この世すべての悪)をお前にくれてやる」

 

ドラゴンでクエストしてる世界の大魔王なセリフを吐く俺がなにか仕掛けて来るのが判ったのかトライヘキサはブレスにパンチに尻尾ビンタと様々な攻撃手段で俺を近寄らせまいとする

 

だけど元々が巨体のトライヘキサと小さい人間の俺という構図なのだ。幾度か俺の事を捉え切れなかった攻撃がそのまま隙となり俺は七つの首の生えてる首元辺りにタッチする

 

「悪いなトライヘキサ。さっきは世界の半分つったけど少し訂正するわ。俺の最後の必殺技は威力200%計算なんでね!―――【じばく】!!!」

 

俺が唱えると同時にもはや規模が大き過ぎてどれ程の範囲に広がっているかも分からないレベルの爆発が巻き起こった

 

恐らくだが今の一発を地上で放とうものなら地球が(かじ)られたリンゴのように抉れるだろう

 

至近距離でその爆発を喰らったトライヘキサは全身がボロボロに炭化して首も2~3本消滅しているような状態となっている

 

「まっ、やっぱ直ぐに回復するよな」

 

そう。それだけのダメージを負ったはずのトライヘキサは見る間に体をアホみたいな勢いで修復させてしまったのだ

 

そして七つの首の計十四個の瞳が明確に俺に対して怒りの感情を籠めた眼光で射抜いてくる

 

今までは『敵』と見なしながらも存在力の差からこちらの事を格下にしか思ってなかったのだろうが、攻撃が効かない上に大ダメージまで受けたから認識を改めたようだ

 

七つの首が口元にまたしてもブレスを溜める。しかし今までバラバラに撃っていたものと違い中心に在るドラゴンのような首を他の六つの首が囲うようにして全てのブレスを一つに纏める

 

まるで小さく圧縮された太陽がそこに在るかのような膨大な熱量が収束する・・・恐らくは最低でも魔王クラスの力でも無ければこの場に立つ事すら出来ないはずだ

 

それ以下であれば焼かれて死ぬね、アレは

 

そんなトライヘキサ渾身の火球は放たれる直前に一気に人間一人の半身を飲み込む程度の大きさにまで圧縮された

 

"ピィィィィィィッ!!!"

 

かの『黙示録の皇獣(アポカリプティック・ビースト)』の攻撃とは到底思えないような目の前のたった一人の人間を殺す為だけに圧縮に圧縮を重ねた余計な破壊すらも生み出さないレーザー砲は闇の世界に一本の光の線を奔らせた。先程の俺の【じばく】が地球を抉る攻撃なら今のトライヘキサの攻撃は地球を容易く貫通する攻撃だろう

 

「・・・今のがお前の精一杯(切り札)って事で良いか?」

 

まぁ俺には関係ないんだけどな。裏の世界じゃ感情を籠めた攻撃ってのは中々馬鹿に出来ない威力の向上を齎すが、選んだ(チョイス)した感情が悪かったな

 

「怒りってのも一つの負の感情だ。それで高められた攻撃なんて俺にとっては意味が無い。怒りというならせめて義憤の念を抱いてから出直しな」

 

無傷の俺がゆっくりと距離を詰めるとトライヘキサが僅かに後退した。それを見た俺は自分の口元が"ニチャアアッ"と弧を描くのを感じる

 

ああ、それで良い。ただ俺に感情の無い木偶人形のように破壊されるだけでは足りないんだ

 

お前が俺に恐怖心などの負の感情を強く抱いて心と体が弱れば弱る程に、俺が周囲に撒いた邪気は魂の深奥まで徐々に侵していく

 

ここからはアザゼル先生たちにも話してない事だけど、そもそもとしてトライヘキサを倒した後、目の前の獣が復活しない(・・・・・)などと誰が決めた?

 

俺達が今まで散々相手取って来た邪龍達を筆頭に魂レベルでしぶと過ぎる連中はこの世界には多く居る。ましてやトライヘキサは聖杯と生命の実という伝説のアイテムで強化されてるときたもんだ

 

仮に原作通りに各勢力の首脳陣が一万年掛けてトライヘキサを倒しきったとしても数千年どころか数百年も経たない内に復活を果たしても可笑しくは無いんだ

 

それに時間を掛けて封印の術式を編み出してもトライヘキサの存在が皆が知る所となった以上は何時か第二のリゼヴィムみたいな無駄に力と行動力だけは有るバカが現れるだろう

 

幾ら各勢力で封印してもトライヘキサの封印の監視に常に世界中の戦力を結集させ続ける事なんて出来ないしね・・・万が一を考えれば対トライヘキサ特攻術式をもっとトライヘキサを直接的に研究して編み出した方が良いのだ。その為には如何すれば良いか?その答えは『トライヘキサを使い魔(ペット)にする』―――これだ。モルモットにしてしまえば研究も捗るだろうからな

 

他にも異世界の邪神の勢力とやらが居る様に次元世界単位で見た場合、そいつらが何時かこの世界に侵略戦争を仕掛けて来ないとも限らない。その時にトライヘキサという頼れる戦力(にくかべ)が居るか居ないかで交渉一つ取ってもかなり違いが出るだろう

 

・・・俺は邪龍戦役後の原作の世界を識らない。だから何が起きても対処出来るようにトライヘキサなんて大きな力をただ消滅させるなんて真似はしたくないのだ

 

勿論今後二度とトライヘキサの力を使う時なんて来ない可能性も有るが、全勢力が管理するトライヘキサの最後の手綱を握るのは俺だ

 

別に戦力も権力も欲してる訳じゃないけれど、平穏に暮らすにも力ってのは必要なんだよ・・・順当に考えて残りの寿命一万年。それを見据えた行動をとるのがこの世界で生きるって事だろう

 

「―――だからさ。悪いがお前の心がポッキリ折れるまで、俺に甚振(いたぶ)られてくれよ」

 

≪ガアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!≫

 

トライヘキサ的に答えはNOらしく、俺に殴りかかって来るのを片手を前に突き出して止める。拳の衝撃波だけで空間そのものが大きく(たわ)むが、ブレスのようなエネルギー系の攻撃だろうが質量攻撃だろうが『悪』に属する以上は俺に届くことは無い

 

「そうだよな。今のお前は俺に多少の恐怖心を抱いてくれてるようだけど、一発喰らわせた程度じゃ絶望というには足りてないよな」

 

恐怖というのはそれを抱く者にとって害を及ぼすかどうかだ

 

それは物理的なダメージかも知れないし、精神的なダメージかも知れない

 

だからもしも圧倒的強者であろうとナニカ(・・・)に対して欠片でも恐怖を抱くなら、その瞬間そいつは『無敵』ではなくなるのだ

 

次に一口に恐怖と言っても強弱がある。立ち向かい、振り払える恐怖と反抗する気力すら湧かない絶対の絶望だ―――トライヘキサが俺に立ち向かって来るのはまだ俺を『如何にか出来る』という希望が有るから

 

「その間違い(きぼう)を今此処で根こそぎ摘み取ってやろう」

 

俺とトライヘキサの視線が交差した時、ニッコリ嗤って告げてやる

 

「【じばく】」

 

俺の言葉と共に極大の爆発が巻き起こり、またしてもトライヘキサの体が半分以上吹き飛んだ。しかし、巨体であるにも関わらず数秒も有れば全回復しそうな勢いで体の欠損が修復し始める

 

「【じばく】」

 

本日三度目の【じばく】。自滅技を使いながらも爆発の中から普通に現れた俺の眼の前にトライヘキサの爪による攻撃が迫る―――打撃が駄目なら斬撃だと自分の体の修復を待たずに攻撃してきたようだがその爪が態々届くのを待ってやる必要も無い

 

「【じばく】」

 

俺の近くまで迫っていた腕ごと爆散したトライヘキサは最早下半身と尻尾の一部しか残ってない。そして頭も再生してない状態でも本能なのか俺に向かって尻尾を叩き付けようとしてくる

 

「【じばく】」

 

トライヘキサが『ずつき』を―――

 

「【じばく】」

 

『けたぐり』を―――

 

「【じばく】」

 

『かみつく』を―――

 

「【じばく】」

 

『たいあたり』を―――

 

「【じばく】」

 

『のしかかり』を―――

 

「【じばく】」

 

『ほえる』を―――

 

「【じばく】」

 

・・・『にげる』を

 

「―――(ようや)く『わるあがき』を止めてくれたんだな。なら、これで仕上げだ」

 

俺に背を向けたトライヘキサを逃がさないようにゼロ距離に迫る

 

知ってるか?邪神(ラスボス)からは逃げられないんだぜ?

 

俺は胸一杯に空気を吸い込むと言霊を乗せながら一気に吐き出した

 

「【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】【じばく】ッ!!!!!!」

 

最初の10発くらいでトライヘキサの肉体は完全に消し飛んで丸く光る核のようなモノが露出したのでそこに張り付いて連続で【じばく】する―――【じばく】でどんどんと弱らせつつも邪気の泥を懇々(こんこん)と流し込むのも忘れない

 

―――何故全エネルギー消費技の最後の特典である【じばく】をこれ程までに連発出来るのか

 

その答えは先程呑み込んだ球体に在る。アレには俺が【じばく】を発動させると自動で専用の空間に溜め込んだフェニックスの涙を適量放出する効果が有るのだ

 

そのフェニックスの涙ことレイヴェルの涙を装置に溜める為、この一ヵ月でそりゃあもう大量に涙を搾り取る事になった。普通は涙なんて容易く流せるものではないのだが、世界を救う為にもレイヴェルには毎日号泣レベルで涙を流して貰う必要が有ったからだ

 

具体的に言えば天界式ドアノブの神の子を見張る者(グリゴリ)バージョンの色んなお部屋でレイヴェルがしっかりと俺を意識して涙を流せるように色々凄い事をする事となったのだ。その部屋の中でレイヴェルが流した涙は自動で回収、保存出来る機能を取り付けてな・・・まぁそうなれば当然エロ猫(黒歌)も黙ってるはずもなく、白音も看過は出来ないと便乗してこの一ヵ月は例の『クラスビースト変貌薬』にお世話になったりもした

 

そういえば最初にアザゼル先生の紹介でバラキエル(ドM)さんと女幹部のベネムネ(ドS)さんの心得講座と役立つサポートアイテムを丁寧に説明してくれたサハリエル(マッドサイエンティスト)さんの講座が在ったな~(遠い目)

 

具体的な手段については皆さんのご想像にお任せするが、兎に角俺はレイヴェル(と、便乗した黒歌と白音)を()かせて、()かせて、()かせて、()かせて、()かせて、()かせたのだ・・・最初に提案した時の黒歌達のドン引き具合や白音の久々の「サイテーです」は今でも鮮明に思い出せる。

なお、この準備の内容については可能な限りで秘匿して貰っています、はい

 

まぁでも当のレイヴェルも『クラスビースト変貌薬』の話題が最初に出た時から「ちょっと早い」と言うだけで割と乗り気だった・・・のだと思う

 

この一ヵ月は結構寝不足にもなったけど、黒歌達は可愛かったとだけは言っておこう・・・と云うか白音も「サイテーです」と言いつつちゃっかり参戦してくる辺りはやっぱり黒歌の妹なのかもな

 

トスカさんと桐生さんがお泊り会した時に桐生さんが「有間君のドSメーターが振り切れてるのが見える」って言ってたの、ぶっちゃけ確信持ってただろうしな

 

なんにせよこの戦いが終わったら今回に関してはレイヴェルを中心に全力で甘やかす所存です

 

頼み事とか有れば全部叶える気概で望ませて貰うわ。いやマジでな

 

ともあれそんな感じに非常に合理的に俺の普段なら使えねぇ【じばく】を決戦仕様に昇華させたのがこの惨状という訳だ

 

連続した【じばく】で露出したトライヘキサの核が悲鳴を上げるような気配を色濃く漂わせる

 

「じゃあなトライヘキサ。復活した際には俺のところに服従のポーズを取りに来いよ」

 

最後に一言添えてから俺の邪気が魂の奥底まで浸透しきった次の瞬間、トライヘキサの核は砕け散ったのだった

 

これが後に『邪龍戦役』と呼ばれた大戦争において、世界中の人々の悪意の力がこの星の未来を勝ち取った瞬間であった

 

因みに俺はこの戦いの後でイッセーやヴァーリ達の新たな名である『D×D(ディアボロス・ドラゴン)』と同じように悪神―――『D×D(ディアボロス・デウス)』なんて呼ばれるようにもなった

 

なお「俺一応人間なんだけどなぁ」という本人の主張は誰も耳を貸してくれなかった

 

・・・畜生!

 

 

 

[Boss side]

 

世界の()を見据えて世界の行く末を見届けていた破壊の神と悪魔の王は静かに中継されていた映像を切った

 

「いやぁ、これは流石に予想外だったかな?まさかかの獣を封印するでもなく斃してしまい、さらにそれを成したのが人間だなんてね・・・まぁ彼はもう(がわ)以外は既に人間を逸脱してるけど、悪魔を逸脱してるキミなら親近感でも湧いたりするのかな?」

 

「いいえ、私もサーゼクスも彼とは逸脱の度合いに差があり過ぎて比べる気にもならないですね―――しかし、面白い結果だとは思います。超常の存在が暴れまわる今回の戦いで一番の手柄を上げたのが有間一輝なら2番目もまた人間なのですから」

 

「あの聖槍使いくんの事かい?まっ、全ての戦場から偽物の赤龍帝軍団を消し去ったからね。戦いがもっと長期になっていれば今代の二天龍がその座に着いてただろうけど、(いくさ)の規模に反して直ぐに決着となったからね」

 

「しかしそれでも決して安い被害だとは言えません。各神話世界から人間界まで、その地図から勢力図まで書き換える必要が有るでしょう」

 

「まぁね。消滅した神々も中には居るけど、彼らと次に会えるのは何千年後かな?―――ははっ、僕ら神々も邪龍がしぶといなんて愚痴を言える立場じゃなかったかな」

 

「三大勢力が和平を結んだ時にアザゼル元総督殿が言っていたそうです。『神が居なくても世界は廻る』と―――しかし世界を円滑に(・・・)廻す為には、やはり神は必要だと思いますね」

 

「キミたちは神と敵対してたはずの悪魔や堕天使まで一丸となって聖書の神(アイツ)の死を擬装し続けてきてたからねぇ。傍から見てたら滑稽(こっけい)だったよ・・・さて、神が人間界にまだ必要だとしても今回は彼らが識るには早すぎる情報が多く流れ過ぎた。世界中の人々の記録や記憶を改竄する必要が有るだろう」

 

「ええ、それに関しては直ぐにでも各勢力の神々からの同意が得られるでしょう。三大勢力(われわれ)も天使や堕天使と連携を取りつつ最大効率で仕事を回していかないといけません」

 

「ふふ、聖書陣営は広いからね。勢力が縮小している今のキミらは暫くてんてこ舞いだろう?」

 

「そうですね。今日から最低数日は書類の山が私の敵となりそうです」

 

「―――さて、結局のところリゼヴィムと邪龍。少なくともアポプスとアジ・ダハーカについてはかの地についての情報をある程度掴んでいたって事なのかな?」

 

「そのようです。まぁトライヘキサを見つける事も出来た聖杯です。おそらくはそこからアクセスしたのでしょう。私も神滅具(ロンギヌス)を介して接触を図っていますからね」

 

「此方からは僅かずつしか情報を得られていないのに対して向こうはアッサリとこっちに干渉して来ちゃうんだけどね。そっちのおっぱいドラゴンが今度は直接加護を賜ったみたいじゃないか」

 

「今の処彼を介せば精霊神とやらの陣営とは話し合いの席には着けそうなのは幸いですがね・・・場合によっては彼を『E×E(エヴィー・エトウルデ)』への親善大使に任命するかも知れません」

 

「彼が交渉事に向いているとは思えないけど、なんでかな?悪いようにはならない気がするよ―――しかし、将来『E×E(エヴィー・エトウルデ)』の善神レセトラスとやらの陣営と接触する時が訪れるなら、当然邪神メルヴァゾアの陣営も此方の世界にやって来れるという事だ。しかも如何やら僕らにとっての招かれざる客の方が先に到着する見込みの方が強いんだろう?」

 

「そうですね。アグレアスにリゼヴィムが残した異世界に関するデータが有りました。如何やら彼は偶々連絡の繋がった異世界の邪神たちに罵詈雑言を吐いた上でこの世界の座標と転移術式に関するデータを一方的に送信していたようです」

 

「―――異世界と戦争が出来るなら、自分から異世界に行こうが、向こうが攻めてこようが関係無かったって訳だ。まったくあのテロリズムの塊は本当に場を引っ掻き回す才能だけは一級品だったよ。死んでも尚、これほどの問題を残してくれるんだからね」

 

「相手も邪神と言えど、有間一輝に任せる訳にもいきませんからね」

 

「当然だとも。そもそも彼のあれ程大規模で見境の無い破壊技が使えたのは、我々が事前に専用の戦場の用意とトライヘキサを封じて連れていけるだけの準備が出来たからだ。有間一輝だけでは異世界の邪神に対する防波堤にはなれても勝利する事は難しいだろう・・・文字通りにこの星ごと【じばく】するなら両軍が敗者となる引き分けには持ち込めるかも知れないけどね」

 

「そうならない為にも我々は戦力を整える必要が有ります。異世界の邪神の陣営がリゼヴィムが送ったデータを解析し、次元の壁を突破するまでに掛かる時間はアザゼル元総督と私のベルゼブブの研究機関が試算した結果、約30年後だと予測されています」

 

「―――短いね。僕たち超常の存在からしたら、瞬き程の時間でしかない。となればやはりあの案は実行に移すべきだろうね。一部の者達だけでは足りない。『戦争(ゲーム)』は『駒』が揃ってこそだ。世界中の強者を育て上げるお祭り、『レーティングゲーム国際大会』・・・僕も一枚噛ませて貰おうじゃないか。何時だって強者は闘争の中でしか生まれないものだからね」

 

[Boss side out]




イッキ「もっとも尊敬する忍びは卑劣様です!」(連続一点集中爆破的な意味で)

いや~、イッキは一体何をやったんでしょうねぇ?レイヴェルを膝の上に乗せてホラー映画やラブロマンス映画でも見て感動泣きでもさせてたんでしょうか?(すっとぼけ

あと、国際レーティングゲームに関してはちゃんと書くつもりないのでご承知下さい。異世界の問題自体は次回辺り書くと思います


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第十六話 戦後処理と、新たな仲間です?

ちょっと遅れてしまいました


邪龍軍団及びトライヘキサとの戦いに終止符が打たれてから数日、俺達は戦後処理でてんやわんやして過ごしていた

 

裏方担当のスタッフさん達がここぞとばかりに馬車馬の如き仕事量で圧壊されそうになっているのに比べたら『D×D』のような戦士組はまだマシだったけど、リアス先輩とかは自身の縄張りである駒王町の一般の人々への対処とかは完全に裏方に任せる訳にもいかなかったようなので疲れた様子だった

 

俺や黒歌なんかは『D×D』の中でも比較的身軽に動けるからか地方に赴いてテロリストの拠点潰しとかを請け負ったりもしたな・・・トライヘキサとの戦いで色んな世界が大きく揺らいだ事に変わりは無いのでそれに触発されて計画性もないような木っ端テロリストが各地で散発的にヒャッハー!してたのでプチっと潰す作業だ

 

スタッフ総出で一般人への隠蔽工作とかしてる中で暴れられるとか面倒極まりないので早々にご退場願う訳だ

 

勿論各地にはそこに常駐する裏側の軍やら警察的な組織も居るけどトライヘキサとの戦いは文字通りに世界規模だったから馬鹿共の出現率も相対的に跳ね上がったんだよな

 

まぁこのクソ忙しい時に余計な仕事を増やすテロリストなんて各勢力の対テロ組織の人達の神経を逆なでする行為なので世界各地でテロった次の瞬間には過剰なまでの蹂躙劇が繰り広げられたみたいだけど、犯罪者に慈悲は無しで良いだろう

 

ただまぁ偶々俺が出向いた場所では初手で思いっきり邪気を纏った状態で近づけば降伏勧告するまでもなく敵さん方が「うわぁぁぁ!邪神が来たぞ~!!」とか「うぇへへ♪もう終わりだ~♪」とか戦意喪失したり気が狂ったように笑ったりその場で意識を手放す奴もいた

 

誠に遺憾である。あの戦いでオーフィスの力を発現させた影響で俺の【神性】が【A+】から【A++】に引き上がった事で邪人モードも準邪神モードみたいな感じになったから下級程度のゴロツキテロリストには少し刺激が強かったかも知れないがな!

 

今の俺は単純なオーラ量だけを見るなら魔王クラスの約四倍ってとこだろう・・・比率としては正と邪の気が1:3って感じだ

 

以前シトリー眷属と模擬戦した時に俺の邪人モードを観たセラフォルーさんが原初の悪神並みのオーラに感じると言っていたけど、今の俺は彼らにどんな風に見えているのか・・・まぁザコ相手ならこうして無血開城出来るんだから(物理面では)とっても優しい力だよね?

 

とはいえ今のままでは圧倒的格下を強制的に戦闘不能に陥らせる程度の効果しか無いし、もう少し効果の高い『邪邪風風』は味方が完全に周りに居ない状況じゃないと使いづらいから邪気の別の運用方法とか無いものかね?そんな事を考えてると上級悪魔程度の力を持ったテロリストが震えながらも此方に魔力弾を撃ち出そうとしてるのが見えた

 

一人だけレベルが違うから多分コイツは用心棒的な立ち位置だったんだろうけど、あの邪龍戦役ではノーマルの量産型邪龍も上級悪魔程度の力が有ったし、それらを羽虫をバーナーで炙るように殲滅した後だからコイツ一人が歯向かったって如何だって話なんだが・・・まぁ一応量産型邪龍よりは強そうだけどね

 

「ふむ。待てよ?試してみるか」

 

普通に倒しても良かったのだがふと思いついた事が有ったので魔力弾を向けられた状態で顎に手をやって思案顔になると、舐められていると感じたのかテロリストの悪魔が渾身の魔力弾と云うか魔力砲を撃ち出してきた

 

「この人間風情がッ、見下してんじゃねぇぞオオオッ!!死ねぇぇぇぇぇえええええ!!」

 

迫りくる魔力砲を敢えて避けずに正面から喰らった俺は額から僅かに血を流す

 

微かとはいえダメージを負った俺の様子に目の前の悪魔は気を良くしたようにはしゃぎだす

 

「は・・・はは!ハハハハハハッ!!なんだよ、そのオーラは見せかけだけで実際は大した事もねぇハリボテ野郎だったのかよ!」

 

男はまだ周囲に諦めたかのようにして残っていた他のテロリスト達に檄を飛ばす

 

「オメェ等!ボサッとしてねぇで魔力を溜めろ!一斉攻撃でアイツをぶっ殺すぞ!そうすりゃ俺達の組織に一気に拍が付く―――あの戦争の時のような力は今のアイツには無ぇみたいだが、今此処で殺しちまえば一躍俺達は神殺し(ゴッド・スレイヤー)として闇の世界のトップランカーの仲間入りだぜ!!」

 

力こそ正義な裏の組織で一番の実力を持っていたであろう目の前の男の言葉と俺が少しとは云え血を流してる様子に意気消沈していた他のテロリスト達の瞳に希望の光が灯り始め、それぞれが炎や氷、単純な魔力弾など自身が得意とする力をチャージする

 

てか俺って一応人間だから殺しても神殺しの称号は得られないんじゃないかな~?

 

「撃てぇぇぇえええええええッ!!」

 

呑気な事を考えていると男の号令と共に一斉に俺一人に様々な攻撃が突き刺さり、爆炎に包まれる。しかしそれだけでテロリスト達の攻撃は止まずに彼らが息切れする事で(ようや)く爆心地の様子が把握出来るようになってくる

 

そんな攻撃の嵐に晒された俺はと言えば全身にかすり傷を負った状態だ

 

「う~ん。もうちょっと調整が必要だろうけど、初めてならこんなもんかな?」

 

今は僅かに血を流しちゃったりしたけど、もう少し練習を重ねれば『薄皮一枚程度の傷』を敢えて受ける事も出来るようになりそうだ―――例え小さくても傷は傷。さらに脆弱な人間の肉体はその程度の傷でも放置したら治るのに一週間は掛かる

 

「なにをぶつくさ言ってやがる?クックック!その全身ボロボロの状態で後何回俺達の攻撃に耐えられるかな?」

 

周囲の皆さんが反撃もしない俺の様子に恐怖より欲望が(まさ)ったのかニヤついた表情を浮かべていらっしゃる・・・ボロボロつっても表面だけでこの程度ならアーシアさんの治癒が無くても自力で回復出来る程度なんだけどな

 

てかダメージを受ける為にオーラを抑えてるから邪気の圧力も減ってるせいも有るんだろうが、ちゃんとお礼はしないとね

 

俺は全身に『報復』の能力を使う時の青白い刺青を浮かび上がらせる

 

「まっ、自業自得ってやつだぜ?―――【歯止めの利かない復讐者(アンリミテッド・アヴェンジャー)】」

 

「『!?アアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!?』」

 

俺が能力を発動させると同時に俺に攻撃を加えたテロリスト達が同時に発狂し始めた

 

俺が神器を禁手(バランス・ブレイカー)に至らせた時にタナトスに一度だけ使用した【歯止めの利かない復讐者(アンリミテッド・アヴェンジャー)】は全勢力満場一致で禁止令が出ているサマエルの呪いを相手に流し込むという特性の為に以後の使用を禁じられた

 

だけどこの能力の本質はあくまでも相手に『呪い』を流し込む事だ・・・サマエルの力なんて所詮は後付けの物でしかない訳だしね

 

邪気を扱えるようになった今ならば、サマエルの呪いではなく『この世すべての悪』を相手に直接流し込む事も出来ると思ったのだが、上手くいったみたいだな

 

今回のようにザコ敵相手に使う技じゃないけど、強敵にも十分効く上に『邪邪風風(フィールド効果)』と組み合わせたり使い分けたりすればかなり使い勝手が良くなるだろうな

 

「よし!折角テロリスト(モルモット)は沢山居るんだし、今の内に出来るだけ汚染(とっくん)していくか!」

 

・・・後日聞いた話だと俺が捕まえたテロリスト達は尋問で「有間一輝を呼ぶぞ?」と(ささや)くと拷問の必要もないくらいに口が軽くなったらしい

 

裏方のスタッフの負担まで軽減出来るとか思っていた以上に有効みたいだからこれからも使って行こうと思う・・・中には発狂して廃人になった奴も居るみたいだから敵に合わせた手加減をもう少し見極めないとダメだけどな

 

 

 

そんなこんなで数日間は前線組の俺達ですら色々慌ただしく動き回った訳だけど、後は裏方に任せて通常業務と云うか日常に戻って良いよとお偉いさんたちにも指示されたので今はイッセーの家に集まって休息しつつここ数日の皆の仕事やら愚痴やらを言い合っていた

 

そして丁度今俺の活動を報告したところだ

 

「・・・イッキ。お前は悪魔か?」

 

「・・・この一年で何回同じ事聞くんだよ?悪魔はお前だろう?」

 

「種族の事じゃねぇよ!もっと概念的な意味で訊いてんだよ!」

 

対面のソファーから勢いよく立ち上がったイッセーが吼える・・・行儀が悪いからヤメロって。開封したポテチの中身が飛び跳ねそうだったじゃねぇか

 

それにしても人の心の在り方を概念という括りで線引きし、定義付ける事が出来るか否かか・・・中々難しいテーマだな

 

「・・・イッキ先輩はもう邪神で良いと思います」

 

「にゃははは♪まっ、それが一番しっくりくる答えよねぇ」

 

「イッキ様は今まで出来るだけ目立たないように動いている節もありましたが、今回の件で世界の認識は最早邪神や『D×D(ディアボロス・デウス)』、そしてイッキ様のおっしゃっていた『この世すべての悪(アンリ・マユ)』で固定されつつありますからね」

 

黒歌達としては別に気にしてないのか『もう邪神で良いんじゃね?』という方向性のようだ

 

「そうね。私もここ数日は各地の報告を聴いて指示を出したりするのが主だったけど、時々『邪神が〇〇(どこどこ)を壊滅させた』とかいう報告が幾つか在ったわね」

 

そこにリアス先輩も何処か面白がった顔で追加情報をくれる。別に聞きたくは無かったですよ

 

「いやいや、リアス先輩。別に邪神や悪神って云うのは他にもそれなりに居る訳ですし、なんでそれが俺個人を特定するワードになってるんですか?」

 

「あらあら、うふふ♪簡単ですわ。イッキくん以外の各神話の邪神さまや悪神さまがテロリスト相手に大暴れする理由なんて在りませんもの。今の時期は邪神(イコール)イッキくんで伝わりますのよ?」

 

時事ネタかよ!つぅか俺はあくまでも人間だって!

 

「『いや、それはない』」

 

「異口同音にツッコマないでくれません!?泣きますよ!?」

 

て云うか皆して要所要所で心を読んで来るけど、この世界の創造主って実はサトリ妖怪だったりしないよね!?―――「全ての生命には私の血が流れている」的な感じでさ!

 

それから皆の話を聞いてみたところによれば大体グレモリー眷属とシトリー眷属のどちらかが人間界及び駒王町で動き、もう片方が冥界で動く事が多かったらしい

 

冥界を始めとしてトライヘキサの襲撃を受けた各神話世界は人間界よりも先に攻め込まれた分被害も大きかったらしく、悪魔の名門であるグレモリーとシトリーの次期当主が復興に欠片も顔を見せない訳にもいかなかったようだ・・・まぁ二人が拠点としているこの町に直接的な被害とかが無かったのも一因だろうけどね

 

他に敢えて挙げるとしたらアーシアさんや白音なんかの治癒・治療が出来る二人は基本冥界の病院関係で動き回ってたりしたらしく、レイヴェルも実家でフェニックスの涙の精製に追われたようだ

 

アーシアさんが傍に居る事で忘れ勝ちだけど本来治癒の力は裏の世界でも希少だからな。種族関係なく回復出来る力なら尚更だ

 

そう言う意味では仙術も種族とか関係無しに治療も出来るけど、怪我の治療ならアーシアさんの広範囲回復(サークルヒール)で十分なので白音は主に邪龍との戦いで体に邪気や毒素が溜まってるのを抜き取ったり、体力を消耗してる人に活力を与えたりとアーシアさんの手の回らない所を補っていたようだ

 

次にレイヴェルの・・・と云うよりはフェニックス家も今回の戦争でフェニックスの涙が世界中で品薄になったから再配給に奮戦してるらしい

 

コチラは大規模戦争が終わった後なので今すぐ治療に使う訳ではなく、万一に備えてストックしておきたいといった感じだな

 

お陰でフェニックス家の財政が滅茶苦茶(うるお)いそうだが反対に涙は枯れそうだ

 

・・・そう言えば昨夜にライザーから通信が有って(半分は自慢話だった)レイヴェルが正規のフェニックスの涙を精製する時に最初の2~3回程『無色の涙』を流すのを失敗したと「珍しい事も有るもんだ」と感想を溢していた―――きっとレイヴェルは涙を流すのに条件反射でナニカ(・・・)を思い出して雑念が入ってしまったのだと思うけど、ライザーは気づいて無かったみたいなので相槌だけ打っておいたな

 

黒歌?彼女は後方で回復よりも暴れる方が性に合ってるから俺とは別の地方でテロリストたちを毒霧の海に沈めてたみたいだ

 

元々黒歌は『D×D』発足前からアザゼル先生とかから時折暇つぶしに敵性施設の破壊活動のアルバイトとかもしてたみたいだから、それと変わらないな

 

「ふふ♪なんにせよ皆お疲れ様。まだ暫くは忙しさも残るでしょうけれど、緊急且つ重要な案件で呼び出される事はほぼ無くなるはずよ。一先ずは一段落といった処かしら?」

 

リアス先輩がグラスに注がれたジュースを軽く掲げて俺達を労う・・・リアス先輩が持ってるとただのリンゴジュースが高級シャンパンに見えるから不思議だ。しかし肩の力を抜いた様子のリアス先輩とは裏腹にイッセーはどことなくソワソワした雰囲気だ

 

「いや、一段落と言うには俺としてはまだデカイ案件が舞い込んで来たばかりで落ち着かないんですが・・・」

 

「そうね。イッセーには上から上級悪魔昇格の話が降りてきたばかりだものね・・・でもそれを言うなら私や朱乃達だってイッセーの式が終わったら卒業式が控えてるのよ?」

 

そう。如何やら今までの功績にプラスして今回の戦争の戦果と劇的なパワーアップが合わさってイッセーに上級悪魔昇格の話が来たらしい。しかしイッセーとしてはどうにも腑に落ちないといった感じに首を捻っている

 

「そうですけど俺の場合急すぎて頭が付いて行かない感じがして・・・それになんで昇格の話が俺だけなんですかね?皆だって滅茶苦茶強くなったし邪龍も倒しまくってたから功績なら十分だと思うんだけど・・・?」

 

まぁグレモリー眷属ってアーシアさんは別枠として今や全員が最上級クラスの力は有るもんな。寧ろそれ以上の実力者の方が多いというインフレ具合だ。そんな中でもイッセーだけが上級悪魔に昇格出来る理由か

 

「まっ、有名税みたいなもんだろうな」

 

「如何いう事だよ?」

 

「サーゼクスさん達としては冥界への明るいニュースとしてヒーローである『おっぱいドラゴン』が昇格するって話を特別なスポットを当てて冥界に発信したいんだろう。多分だけどイッセーが昇格した後で1年以内には他の皆も順次昇格していくんじゃないのか?」

 

要するにイッセーの昇格の話をより特別感満載のマスコミ垂涎(すいぜん)なイベントにしたいのだ

 

「ええ、イッキの答えで概ね合ってるわ。実は既にゼノヴィア、ロスヴァイセ、アーシア、ギャスパーへの中級悪魔昇格の話も来ているの。上級悪魔と違って中級悪魔への昇格はそこまで騒がれる類のものじゃないから普通に通知が届いたわ。ただ上級悪魔・・・すなわち新たな『王』の誕生は先ずはイッセーだけに絞りたいみたいよ」

 

「きっと魔王様方は冥界に舞い降りた新たな『D×D(ディアボロス・ドラゴン)』を象徴的なものにしたいんだろうね。もう一人の『D×D(ディアボロス・ドラゴン)』である白龍皇と併せて超越者の領域に至った今代の二天龍、冥界(ここ)に在りってね・・・まぁヴァーリに関しては彼はもう北欧の主神のオーディン様の養子だけど冥界では『ルシファー』名が持つ力は未だに健在だからね。リゼヴィムの時は悪い方向にそれが働いたけど、今の彼ならば少なくとも悪い使い方はしないだろうから」

 

リアス先輩の説明に祐斗の考察が続く

 

寧ろヴァーリが権力を使う姿が想像出来んな。精々旅が好きだから悪魔領の中で立ち入り許可が必要な所に入る時に使ったりする程度か?・・・それ以外の場所だったら今まで通りコッソリ侵入するんだろうけどさ

 

それにしてもこれでグレモリー眷属は全員が下級悪魔から脱する訳か・・・まぁ中級悪魔昇格の試験に今挙げられたメンバーが落ちるとは思えないしな

 

それどころか試験自体が免除されてるかも知れんな。実際イッセーの昇格は確定事項みたいだし

 

・・・貴族出身ならそれだけで上級悪魔の肩書は生まれつき付くし、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)も幼少期から貰えるんだからその辺りの融通は幾らでも効くんだろうな

 

「はぁ・・・それにしても上級悪魔とか目標にしてたから嬉しいっちゃ嬉しいけど、こうして目前に控えると不安だな。眷属集めとかって募集の張り紙でも作れば良いのか?それともリアスみたいに出会いを大事にゆっくり決めていけば良いのかな?」

 

イッセーのボヤキを聴いたゼノヴィアは床下のクッションの上であぐら座りのまま腕を組んで思案顔になる

 

「う~む。正直ポスターで広く募集するのは今のイッセーだと選定が大変だと思うぞ?元々の『おっぱいドラゴン』の知名度に加えてあの戦場でアポプスを倒した事もそうだが、映像には顕現したドライグの姿も残っているみたいだからな。そんなイッセーの眷属になれるかも知れないとなればそれこそ冥界以外の全勢力からだって人員が集まるだろう・・・俗な言い方だが、誰だって勝ち馬に乗りたいという気持ちは有るさ」

 

「そうねぇ。ダーリンの眷属になるのってもうそこら辺の新米上級悪魔の眷属になるのとは一線を画しているものね」

 

権威を笠に着る事のみを目的にセクシーポーズで眷属入りを迫る人とか居そうだな。この町に居るうちは相手側にサーゼクスさん達に相当顔が効くようなコネクションの持ち主くらいしか来れないだろうけど、イッセーの方から募集を掛ければその限りじゃないもんな

 

「う゛っ・・・確かに募集とかを掛けるならせめてもうちょっと後にするよ。でも、俺がそうならイッキは如何なんだよ?トライヘキサをぶっ飛ばした張本人だぜ?」

 

俺にも配下とか眷属とかの話が来るんじゃないかって事か?でも、それは無いな

 

「いやぁ、それは無いなイッセー。俺って一般人で部隊とか持ってる訳じゃないからな」

 

「オメェみたいな一般人が居るか!如何考えても逸般人だろうがッ!!」

 

俺は激昂するイッセーを(たしな)めるように続ける

 

「いや、現実をしっかり観ろよ。俺って生まれは一般家庭で裏との繋がりは無いだろう?次に現在所属してる『D×D』はリーダーと副リーダー以外は基本は一隊員に過ぎないから『D×D』内における部下ってのも造れない。最後に京都を束ねる八坂さんの娘の九重の婚約者と言う立場も別に部下が必要って訳でも無いし、正式に九重と結婚するまでは実質的な影響力を無視すればギリギリ一般参加の『D×D』の隊員って事になるんだよ」

 

思えば『D×D』の中で俺と黒歌だけはやろうと思えばかなり融通を利かせられる立ち位置に居るんだよな・・・俺の場合油に浸したタコ糸に火をつけてその上に立つくらいの不安定さだけど

 

「まぁ色々言ったけど、要は俺の場合は学生生活が終わるまでは部下とか仕事とかとの関りは最低限で済ませられそうって事だ。イッセーが権力やら配下選びやらで慌てふためくさまを悠々と見物させてもらうぜ」

 

てか俺達って高校生の内からガッツリと働き過ぎな訳だけどな

 

俺はイッセーに見せつけるように無駄に優雅にワイン(ぶどうジュース)を口にしてリラックスモードに入るがそこで生粋の貴族であるリアス先輩とレイヴェルが首を横に振る

 

「―――甘いわね」

 

「はい、甘いですわね。イッキ様は名声の持つバイタリティを低く見積もり過ぎですわ。それこそ自腹を切ってでもイッキさまの配下という肩書が欲しいという方は出てきますのよ?」

 

なにそれ?給料も払わなくて良いって事?それ最早従属契約を結んだ使い魔の領域じゃん

 

この駒王町に来れる程の権力を持った相手がそんな扱いを自ら望むなんて流石に物好き過ぎて居ないだろうよ(フラグ)

 

「イッセー、貴方もよ。普通の上級悪魔であっても眷属以外に臣下や従者を雇う事は常識の内よ―――私の場合はグレモリー家の使用人達がそれに当たるわね。上級悪魔になる事できっと今までとは違う側面からそれを感じる事も増えていくでしょうけれど、私で良ければ何時でも相談に乗るという事だけ心に留めておいてね」

 

「は、はい!」

 

イッセーがリアス先輩に返事をしている横でレイヴェルもグっと近づいて俺の眼を覗き込んでくる

 

「イッキ様もですわ。そう言った話でしたら私や八坂様がお力になれると思いますので頼ってくださいな。眷属こそ持っていませんが、これでも人を使うのは貴族の娘として慣れていますのよ?」

 

「分かった。その時が来たら頼らせて貰うよ」

 

近くに寄ったレイヴェルの頬を軽く撫でながらそう返すとその俺の手を取って体温を感じるように目を閉じて甘えて来る・・・ああもう、可愛いなぁ

 

「あらあら♪私達もレイヴェルちゃんに負けていられませんわね♡」

 

俺達の様子に感化されたのか朱乃先輩がイッセーに大胆に抱き着き、それを切っ掛けに女性陣が俺とイッセーのそれぞれに引っ付いて来た!

 

暫く揉みくちゃにされた後は解散してそれぞれの家に戻り数日ぶりに全員揃ってベッドに入ると黒歌がもう我慢できないとばかりに息を荒くしながら這いよってきた。既に発情期モードを発動させてるらしく、普段の倍は艶っぽい

 

「ねぇイッキ・・・たった数日お預けくらっただけなのにもう気持ちが抑えきれないのにゃ。ここ最近はずっとイッキに虐められてたから体が覚えちゃって・・・女としての本能もそうだけど、イッキの【神性】が上がった事で猫又としての本能も刺激されてヤバかったのにゃ」

 

黒歌の縦の瞳孔が完全に開いている。そして今度は白音も既に半裸になり掛けながら近づいてきた

 

「―――イッキ先輩。発情期を仙術で抑えるのは体に良くは無いんです。赤ちゃんを作る訳にはいかなくても、私達の体が錯覚(・・)するまで付き合ってくれませんか?」

 

グッハ!?なにそのエロイ言い回し!?何処で覚えてきたんですか!?

 

「イッキ様。配下の話も大事ですが、今度一度将来の『家族』の話も致しましょう?」

 

―――その夜。俺は再びケダモノと化した・・・もう珍しくもないけどな!

 

 

 

後日、俺とイッセーにそれぞれ客が来たらしく駒王町の地下空間で出会う事になった

 

燚誠(いっせい)の赫龍帝。兵藤一誠殿!」

 

「邪悪なる者の覇者たる有間一輝殿!」

 

「「私/(それがし)めを貴方さまの臣下にして頂きたい!!」」

 

俺達はそれぞれ目の前で頭を下げている大物相手に口元を引きつらせる事になるのだった

 



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第十七話 闇の、頂点です?

イッセーの上級悪魔昇格の儀式とリアス先輩や朱乃先輩方最上級生組の卒業式が目前に迫った駒王学園のとある放課後。俺達は授業も部活もまったりとした惰性モードを滲ませながら過ごしていると部室にアザゼル先生とリアス先輩がやって来た

 

「イッセー、イッキ。お前らにそれぞれ客人だ。ちょいと付いて来て貰うぞ」

 

客人?アポも無しに?それに俺とイッセーで相手が違うのか?

 

「それはまたいきなりですね。そのお客と云うのはどなた何ですか?」

 

俺が質問するとアザゼル先生は渋面を作り、リアス先輩も困ったような表情となる

 

「悪いが此処では言えん。そいつ等はお忍びだからあんまりこの町に来た事を漏らしたくはないんだとよ。特に片方は余所に知られれば要らぬ誤解だって招きかねない相手だからな」

 

「兎に角今は付いてきて頂戴。事情は本人たちが話してくれるでしょうから」

 

誤解すら招きかねないって相手なのに突っぱねないで面会を許可したって事ですか?

 

思わず近くに居たイッセーとパチクリと視線が交差するがお互いに心当たりは居ないというアイコンタクトに終わり戸惑いの気持ちを抱えながらも二人に付いて行く事となった

 

 

 

駒王町の地下に住民たちには内緒で広がる空間の内の一つに転移するとそこには10m級の巨体を誇るドラゴンと闇色のオーラが人型をした存在が漂っていた

 

「いやなんだよあのバリバリの神格?」

 

つい思った事が口をついて出てしまったがぶっちゃけこの空間では最上級悪魔クラスの内在オーラを感じるドラゴンより闇色のオーラの存在感が半端ない。多分全盛期のフェンリルとかと殆ど遜色ない実力の持ち主だ。世界の強者トップ10まではいかなくてもそれに近しい神様だろう

 

威圧してる訳じゃないけど隣のドラゴンさんも実力差を感じ取ってか微妙に縮こまっているようで巨体の割に変に小さく感じるぞ

 

そんな彼らだが俺とイッセーの姿を認識したら二人とも素早く片膝をついて(こうべ)を垂れる騎士の礼と云うか臣下の礼を取る。因みに俺の前に人型の闇でイッセーの前にドラゴンだ

 

そして先ずは格上の闇のオーラの方から自己紹介してくれた

 

〔お会いできて光栄でございます。有間一輝殿。私はゾロアスター教における最高神の一柱、アンラ・マンユと申します〕

 

アンラ・マンユ!?いや、それも驚きだけどなんで最高神が俺に対して片膝付いてんだよ!?

 

隣のドラゴンも如何やら正体は知らなかったのか驚愕の表情で固まっている

 

気持ちは分かるけど挨拶の途中なので続きを促す事にした

 

「えっと初めまして。けど先ずは自己紹介だけ済ませておきましょう―――ほら、イッセー」

 

そっちのドラゴンはお前の客みたい何だからお前が正気に戻せと言外に込める

 

「あ、ああそうだな!その・・・覚えのあるオーラなんだけど、もしかしてタンニーンのオッサンの親戚かなにかだったりする?」

 

「―――ハッ!?これはお恥ずかしい所をお見せ致しました。貴方様のご推察の通り、某めは魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)、タンニーンが三男ボーヴァと申します」

 

イッセーに声を掛けられた事でショックから脱したのか彼も挨拶をしてくれた。てかタンニーンさんに子供って居たのか。そこら辺の話は聞いた事無かったな

 

それにしても元龍王の息子に最高神とか単なるお客にしてはメンバーが豪勢過ぎませんかね?特に最高神の方が突き抜けてるんだけど、確かにこれはアザゼル先生でも断れないわな―――前に改心した(させた)ハーデスが土下座しに来た時も有ったけどさ

 

「それでは如何にもお二方が同時にここに居るのは偶然のようですが、ご用向きは別々にお伺いした方か宜しかったでしょうか?」

 

仮にも相手には最高神が混じっているので言葉に気を付けて俺達の下に来た理由を問う・・・まぁプライドの高いドラゴンや神様が臣下の礼を取っている時点で半ば諦めている節は有るけどな

 

アンラ・マンユ神が頭を下げたまま返事をする

 

〔いいえ、それには及びません。我ら、見据える相手は違えども心に秘めたる思いは同じなようです。先ずは我らの主張をお聞き届け下さい〕

 

アンラ・マンユとボーヴァの二人が俺とイッセーに一層頭を下げてこの広い空間にもよく通る強い意思の籠った声で宣言する

 

燚誠(いっせい)の赫龍帝。兵藤一誠殿!」

 

〔邪悪なる者の覇者たる有間一輝殿!〕

 

「「私/(それがし)めを貴方さまの臣下にして頂きたい!!」」

 

その言葉を聴いた俺はこめかみを指でグリグリと押し、イッセーは天を仰いだ・・・如何してこうなった?

 

 

―――あれから取り敢えず俺とアザゼル先生にイッセーとリアス先輩がそれぞれの客の話をちゃんと聞く為に別室に移動した

 

俺の前には出された紅茶を飲んでいるアンラ・マンユが座っている・・・給仕の人とか呼べる訳ないので俺が淹れたのだが〔そのような雑事、私めがやらせて頂きます!〕とか言ってないで大人しくしてて欲しいと切に願う

 

「で、本気なのか?仮にも最高神の一角を担うお前さんがコイツのもとに下るってのは?」

 

全員が席に着いたら早速アザゼル先生が切り出してくれた。こういう時にはアザゼル先生の司会進行能力の高さは有難い

 

〔ああ、その通りだ。元堕天使の頭目よ―――私はあの戦争を見て識ったのだよ。比喩でも何でもない。本物の『この世すべての悪』というものを〕

 

アンラ・マンユ神はオーラで出来た体の目の部分を細めて感慨深い顔となる・・・意外と表情豊かに表現出来るんだな

 

〔アレを識ってしまった以上は恥ずかしくてもう『この世すべての悪』だなどと名乗れんよ〕

 

いえ、全然名乗って貰って結構です。まぁけれども確かにFate時空のアンリ・マユは『悪』という概念そのものの結晶みたいな存在だったから間違ってはいないんだろうけどさ

 

「成程な。圧倒的格の違いを魅せ付けられた事で偽物と本物の立場を入れ替えようとした訳だな」

 

あれですか?偽物が本物に敵わない道理は無いってやつですか?

 

「アンラ・マンユさま」

 

〔有間一輝殿。どうか私の事は呼び捨てて下さいますよう〕

 

一応俺の問題なので質問しようと名前を呼んだら(うやうや)しい態度を取られた。やり難いなぁ、この悪神さまは!・・・もう砕けた口調で良いか

 

「では失礼して・・・アンラ・マンユ。俺は別に『この世すべての悪』を扱う事は出来るけど、俺個人としては戦争やら憎悪やら悲鳴よりも平和でほのぼのとした日常の方が好みだ。仮にアンタを臣下にしたならその方針に従って貰う事になるぞ?それにゾロアスター教の悪の陣営がやんちゃをしたら直接臣下にしたのがアンラ・マンユ一人でも主人になった俺にまで迷惑が掛かるからアンラ・マンユの配下の手綱も握った上で世界に向けてそこら辺の関係をハッキリと宣言して貰う必要が有る・・・俺は別にゾロアスター教の最高神の地位なんて欲しくはないからな」

 

君臨すれども統治せず。人間に首を垂れて部下と他の神話の神様達との板挟みで色々苦労するだろうという話だ―――ぶっちゃけアンラ・マンユ神になんのメリットも無いはずだし、これで諦めてお帰り願えないかな

 

〔問題在りません。私は貴方様の敵対者にはナチュラルに外道にもなり得る所にも惹かれておりますので、その程度ならば苦労の内にも入りません〕

 

・・・俺は今貶されているのか?それとも褒められてるのか?

 

俺が思案していると隣に座って話を聞いていたアザゼル先生が耳元に囁いてくる

 

『おいイッキ。お前マジでコイツを臣下にするつもりは無ぇだろうな?』

 

『流石にこの場で返事はしませんよ。どう考えても最低でも八坂さんには相談しないといけないでしょう』

 

一神話体系の半分が俺の下に着くとか幾ら何でも俺の一存で決めて良いレベルを超えている

 

『いやいや、コイツは仮にも悪の神なんだぞ?胡散臭さじゃ正直堕天使の親玉張ってた俺よりも上だろう。普通は第一声で「NO」と突き返しても可笑しくないぞ』

 

俺に取り入るふりをして何か厄介ごとを企んでるって話かな?

 

『う~ん。でもこのアンラ・マンユって俺に対して特に悪意を向けてきてないんですよね。この至近距離なら心理部分でもその程度は判別出来ますし、嘘は吐いてないはずですよ?』

 

確かにデカい話だけどそうなれば後はメリットとデメリットの話でしかないと思うんだよね

 

『・・・お前なに自然と悪意を司るレベルで扱いだしてんだよ?神かお前は?』

 

『人間に決まってるじゃないですか!』

 

アザゼル先生の冗談にツッコミを返した後、取り敢えずアンラ・マンユには一考した上で後日返答すると言い含めてお帰り頂いた。如何やらイッセーの方も似たような感じで上級悪魔に為った後に返答する事にしたようだ・・・因みにボーヴァ曰く為りたいのは『臣下』であって『眷属』ではないとの事

 

如何やらイッセーが眷属を女の子で囲んでハーレム王に為りたいという野望を知っていたらしい・・・まぁイッセーもインタビューとかそれなりに受けてるから情報は流布されてるもんな

 

「それにしても臣下か。眷属悪魔って事ならそれこそ俺自身の経験を元にしてチラシ配りから初めて人間と契約を結んでいくって流れになるんだろうけど、臣下って何をやらせたら良いんだ?」

 

「そうね。彼はイッセーのドラゴンとしての強さに憧れを抱いているみたいだけど、冥界では『破壊のボーヴァ』の蔑称で知られる程の荒くれ者よ。あの様子ならイッセーの言う事には従いそうだけど、臣下に置くにしてもお試し期間を設けるにしても即座にフォローが利く内容の仕事を振り分ける必要は有るでしょうね」

 

彼自身がイッセーとの出会いを機に変わろうとしてるのだとしても、仕事中にうっかりやんちゃ坊主の側面が出てしまうかも知れないって感じか

 

「う~ん。だからと言ってあの巨体で給仕ってのも変だし、ボディーガードとかも学生がメインの今の俺だと殆ど必要無いからな~・・・ドラゴンっぽく門番をってのも俺とイッキの家には最強の無限の龍神(セコム)が既に居るしな」

 

半分に割れててもアポプスやアジ・ダハーカより一回りか二回りは強そうだもんね・・・自宅警備員にしてはレベルが高過ぎだとは思う。二人合わせてレベル∞とか贅沢過ぎだろう

 

"うんうん"と頭を捻って唸っているイッセーの隣で俺はと言えば深くため息を吐く

 

「イッセーはまだ良いじゃねぇか。俺とか下手したら一つの神話勢力の半分が下に付きそうなんだけど・・・リアス先輩。今度サーゼクスさん相手に相談できる機会とか設ける事とか出来ませんか?アザゼル先生や八坂さんを始めとして知り合いのトップ陣には出来るだけ話を聞いて貰いたいくらいの案件なんですけど」

 

あの場では『臣下に為っても責任は取りません』とは言ったけど実際それがどれだけ通じるかって言ったら微妙だし、俺も裏の社会の政治的な駆け引きとかはまだまだ知らない事が多いからな

 

「ヤベェ・・・イッキの話のスケールが違い過ぎて付いて行けねぇよ」

 

俺だってしたくてしてる訳じゃねぇよ!

 

「そういう話なら私よりもアザゼルから話を繋いで貰った方が良いわね。お兄様が『ルシファー』を継いだ魔王である以上は一貴族の次期当主でしかない私があんまりプライベートなお願いをする訳にもいかないわ」

 

ああ、そう言えばそうでしたね・・・いかんな。まだ思考回路が痺れてるみたいだ

 

「なぁ、それって普通に断るって訳にはいかねぇのか?」

 

「一度断ってそれで万事丸く収まるならそうするんだけどな。幾らお忍びつっても勘のいい神様とかならアンラ・マンユが動いた事に気付いているだろうし、これからあの神様が〔私が『この世すべての悪』を名乗るなど烏滸がましい〕とか発言するようになったら外堀から埋められて行きそうだし・・・割と詰んでる気がするんだよな」

 

あの時の臣下の礼に熱の籠った視線からして絶対に一度断った程度で諦めないと思うんだよな

 

本当に俺って悪意の無い相手とか苦手だわ。潰して終わりに成らねぇんだもん

 

そんなこんなでブルーな気持ちを抱えたまま帰宅して先ずはという事で八坂さんに通信を繋いだのだが返って来た言葉は「別に構わないのではないかの」との事だった

 

≪元々イッキ殿はあの戦争で世界に対して圧倒的な『個』の力を示したじゃろう?じゃが、その力に見合ったイッキ殿と直接繋がる組織としての力が足りて無かったと言える。イッキ殿は三大勢力に所属している訳ではないし、『D×D』は良くも悪くも混成部隊じゃ。ならば京都はと聞かれても私の支配領域は一島国の関西一円と勢力としては乏しいからの≫

 

要するに今のままだと分かり易い箔と云うか権威付けが足りてないから俺を如何にかする為に搦め手でテロってくる奴らが出て来そうだから『組織』を味方につけろって事になるのか

 

京都なんかは霊脈の力が有るから防衛に徹すれば勢力以上の力を出せるんだろうけど、その場合俺や家族が今すぐ京都に引っ越してずっと引きこもる事が前提に為っちゃいそうだもんな。流石にそれは御免だわ

 

≪うむ。私としてはぬらりひょん殿と盃を交わしたり、神在月にでも出雲の地でこの国の神々との渡りでも付けられればと思っておったのだがの、神を臣下に出来たなら此方の方はそんなに急ぐ必要も無いじゃろうな・・・寧ろイッキ殿はこのまま世界の悪神・邪神を次々と配下に加えて行って神々の方から挨拶に足を運ぶ流れにしても面白そうじゃのう。そちらの方が最終的には面倒は少なくて済むかも知れんぞ?悪の神々を束ねる者。目指せ、邪神王じゃ!≫

 

「目指しませんよそんなけったいな役職!邪神だ邪神だって呼ばれてる現状もなんだか納得いかないのに邪神王って八坂さんは俺に如何なって欲しいんですか!?」

 

≪む?じゃから邪神王じゃろ?それとも悪神王の方が良かったかの?私としては邪神王の方が語呂が良くて好みなのじゃが・・・≫

 

小首を傾げる八坂さんは絶対に内心爆笑してやがる!畜生、相談する相手を間違えたかな?

 

だが後日他のトップ陣にも話してみると「おう、やれやれ。そっちの方が面白そうだ」とか「イッキさんが彼らのトップに立てば神話間での争い程度であれば十分抑止力となりそうですし、それも良いかも知れませんね」とか「ふむ・・・仮にイッキくんが最終的に悪神たちを束ねたなら魔王はどう動くべきだろうか?」とかそんな役に立たない意見ばっかりだった

 

そうだよね!貴方方からしたら胡散臭い各神話の悪の陣営とか仮にでもトップに知り合いの俺が付いた方が色々都合が良いよね!(半ギレ

 

邪神王は兎も角としてアンラ・マンユ個人を配下として扱う程度は別に良いんじゃね?というお偉いさん方の有難い助言に悶々としながらもイッセーの上級悪魔昇格の日がやって来た

 

式には何時ものメンバー以外に一般枠としてイッセーの御両親も招待されている

 

俺の両親の場合は白音が上級悪魔に昇格する時に冥界入りになるのかな?流石に息子の友達の式に参加ってのも変な話だから良いんだけどさ

 

先ずは冥界のグレモリーのお城に入って全員が正装に着替えて暫く待機。その間イッセーとリアス先輩はこのお城の式場で本番の動きの最終確認。その後は列車で冥界の首都リリスまで移動してそこで儀式の本番となる訳だ

 

「おお!」

 

儀式の主役はイッセーな訳だけど俺としては着飾った黒歌達の姿を拝める方が先に来る重要案件だったりするんだけどね。俺達って基本客席で見てるだけだしさ

 

彼女達がグレモリー家の方で用意されたドレスを身に纏っているのは目の保養になるし、最近のトップ陣の人達に揶揄われた俺のささくれ立った俺の心を解してくれる

 

・・・まぁ綺麗というだけなら他の女性陣もそうなんだけど、ギャスパーにも普通にドレスが用意されている辺りはグレモリー家の使用人達の認識の度合いが窺えるというものだ

 

因みにだが俺も祐斗も髪型はオールバックに整えられてしまったのだがイッセーはいつも通りだったんだよな。ただ仕立ててくれた人達の言によれば首都リリスの式場でイッセーもオールバックに変わるらしい・・・オールバックが今の冥界の若い層では流行ってるのだとか

 

俺はそんな感じだけど黒歌は何時もの和装ではなくて濃い紺色のドレス姿で髪型もサイドポニーとなっている

 

白音は黒歌とは対照的な薄い水色のドレスで軽く半デコになる感じに片側の額の辺りの髪の毛が編み込んである

 

レイヴェルは黄緑色のドレスで後ろでアップに纏めているのはレイヴェルのお母さんに近いかな?式の場という事も有ってかもう少し編み込まれている感じだ

 

う~む。三人の何時もと違ったこの姿を見られたならもう帰っても良い気がしてきた

 

「うぉいイッキ!流石にそれは酷すぎだろ!俺の一誠一大の晴れ舞台なんだぞ!?」

 

後ろから戻って来たイッセーからツッコミが被せられた

 

「おうイッセー。最終確認はもう良いのか?」

 

「サラッと流すんじゃねぇよ!まぁこれ以上はな。後は本番の緊張感に打ち勝てるかどうかだよ」

 

そればっかりは練習できないからな。手のひらに『人』って書いて呑み込んでみるか?

 

「皆、準備できてるわね。そろそろ列車に移動しましょうか」

 

イッセーに続いて部屋に入って来たリアス先輩の言葉で何時ものメンバーとイッセーとリアス先輩の御両親が列車に乗り込む

 

アザゼル先生は今回は堕天使の要人枠なので別途で式場に向かってるらしい

 

城から列車までの短い間に記者の方々の無数のフラッシュに「兵藤一誠様!今の正直なお気持ちは!?」とか「眷属のご予定はどれ程埋まっているのでしょうか!?」とか色々質問が飛び交っていたけど総スルーして列車に乗り込んだ

 

・・・首都に到着するまでの間にグレモリー家が新しく商品化する予定だという「おっぱいドラゴン牛乳」を試飲させて貰ったけど、普通に美味しいのがなんとも言えなかったがな

 

列車から降りたら再びフラッシュと質問の嵐の中を突破してリムジンに乗り込み警備車両に囲まれながら交通整備された道路を走っていく・・・サーゼクスさん達今回の儀式にお金かけすぎでしょう。絶対に他の上級悪魔の昇格の儀式ってこんなに大仰じゃないよね?

 

一応リムジンはグレモリー眷属が乗るのとその他の俺達が乗るので2台用意されていたので白音とは別々だ

 

今は黒歌がリムジンの中に設置されている冷蔵庫からワインを引っ張っている。自由だなコイツも

 

「黒歌。式場はそんなに遠くないんだからワインじゃなくてそっちのノンアルコールのシャンパンにしとけって」

 

流石に酒の匂いを漂わせている訳にもいかんだろう

 

「むぅぅ。そんなの用意してる方が悪いのにゃ」

 

「はっはっは!それは確かにその通りですな。ではそちらのモノはお土産の一つとしてお持ちください」

 

黒歌がふくれっ面になるとジオティクスさんが豪快に笑う

 

「と云うか黒歌さんはそんなにお酒を飲まれるような方でしたか?」

 

「別に有れば飲むけど無ければ飲まないって感じね。それでも折角目の前にただ酒が有るなら飲んじゃうにゃん♪」

 

う~む。詰まりはジュースもお酒も特に変わらないってタイプか?まぁお酒が大好きなのよりはそんな感じに気楽な付き合いの方がもしかしたら良いのかもな

 

「そう言えばイッキくん。『おっぱいドラゴン』の敵役のキミが今度闇の儀式を超えて邪人から邪神になる訳だが、キミが闇の組織の一幹部というのも可笑しいという意見が強まっててね。どうせなら組織のボスを討ち取って正式にキミをラスボスとした第二期に突入しようという案が有るのだが、どうだろうか?」

 

おいぃぃぃっ!その意見を出したのってアザゼル先生辺りじゃねぇだろうな!?闇の頂点に立てとかって時期的にピンポイント過ぎて疑っちまうぞ

 

如何でも良い事で微妙に疑心暗鬼になりつつも程なくして式場に到着し、イッセーとリアス先輩と別れて俺達は儀式が良く見える特等席の一つに案内される

 

別の場所にはシトリー眷属やサイラオーグさんやこっそりと気配を薄れさせてるヴァーリとかも居るな。アザゼル先生もVIP席だ

 

そしてイッセー達の準備が整ったのかファンファーレが会場に鳴り響き巨大な門から入場して来るイッセーとリアス先輩の二人を会場の皆が立ち上がって拍手で出迎える

 

壇上にはサーゼクスさんを始めとしてアジュカさんにセラフォルーさんにファルビウムさんと四大魔王が勢ぞろいだ・・・やり過ぎじゃね?と思わなくもない

 

二人が壇上の椅子に座ると次は祝福の歌が披露されるらしい

 

「将来の息子にもなる彼の為にも冥界随一のオペラ歌手にオファーを掛けていたのです。彼女ならば間違いなく素晴らしい歌声でイッセーくんの新たな門出を祝ってくれるでしょう」

 

直ぐ近くからジオティクスさんがイッセーの御両親にそんな事を告げているのが聞こえてきた

 

そうして壇上に現れた歌手の方がマイクスタンドの前に立つ

 

そしてゆっくりと息を吸うとそれこそマイク無しでも会場に響き渡りそうな美声を披露し始める

 

『と~あるぅ国のぉ、隅っこにぃ、おおおおっぱい大好きぃ、ドラゴォン住んでいるゥゥゥッ♪』

 

新喜劇なら漏れなく全員が"ズコーッ!!"と倒れる事請け合いだ

 

ジオティクスさんは満足そうに頷いて目尻に感動の涙まで見て取れるけどなんで『おっぱいドラゴンの歌』を選曲したのか小一時間程問い詰めたいよ!

 

ほら!リアス先輩とかドレスのスカート握り締めてるしアザゼル先生とか既に腹筋が崩壊してるのか丸くなった背中しか見えねぇぞ!

 

『スウィッチ姫のぉ、おっぱぁぁぁいはぁ、とっても素ぅ敵だぁアアアッ♪』

 

オペラ歌手の女性もよくこの仕事を引き受けたな・・・いやまぁ冥界だし実はノリノリで歌ってるのかも知れないけど、そうじゃ無かった場合は権力で押し切られたって事だよね?どっちも嫌だけどせめて前者であって欲しい

 

そうして会場を混沌の渦に陥れた曲が終わり司会の方は何事も無かったかのように次に移る

 

サーゼクスさんが上級悪魔の承認証をイッセーに渡し、次にリアス先輩が自身の前に跪いたイッセーの頭に王冠を被せ、最後に悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の製作者であるアジュカさんが祭壇に手を翳すと上空から黒い石碑が降りてきた

 

「さぁ、新たな『王』兵藤一誠。石碑に手を」

 

促されたイッセーが石碑にオーラを籠めた手で触れると石碑が紅く輝き、次第に収まっていった

 

「キミなら、必ずこれを手に出来ると信じていたよ」

 

最後にイッセーがサーゼクスさんから悪魔の駒(イーヴィル・ピース)が納まっているであろう小箱を手渡され、二人が退場した事で上級悪魔昇格の儀式が無事終了したのだった

 

因みに翌日リアス先輩に「あっ、そう言えばアーシアとゼノヴィアは駒をトレードしてイッセーの眷属になったから」と告げられた時はビックリもしたけどな

 

まぁ眷属間でのトレードなら私生活には大した影響も出ないだろうし、良いのかも知れないけど

 

リアス先輩達の卒業式は既に明日に控えているので部活をするのもアレという事で普通に授業の終わりに解散をして今は白音とレイヴェルと一緒に軽くショッピングをしてから帰宅している

 

あまり時間の取れない俺達はこういうプチデートも大切だからな

 

まぁクリフォトも居なくなったならこれからはもう少しプライベートな時間も確保出来るか

 

「それにしてもイッセーにも早速眷属が出来たならそのまま『王』として悪魔の仕事をしていく事になるのかな?」

 

「リアス元部長の眷属もイッセー先輩が入って来るまでは3人だったから、多分そうです」

 

そりゃ3人も2人も大して変わらないわな

 

「そうですわね。今の時期にこの駒王町以外をイッセーさんにいきなり任せるのも問題が有りますし、リアス様の縄張りの一部を分譲するという形になるのではないかと思いますわ」

 

皆駒王町住まいだもんな。いきなり変わり過ぎても困惑するだけか

 

そんな事を思いながら帰宅していると俺達の進行方向に夕陽を背にしたゴスロリの世紀末覇者が歩いて来た

 

「にょ?そこに居るのはイーたんだにょ。久しぶりに会えて嬉しいんだにょ♪」

 

「お、お久し振りですミルたんさん」

 

気付かなかったぞ!感知タイプの俺でも視界に映るまで存在を認識出来なかった!

 

「そっちの白い髪の悪魔さんは一度会ったんだにょ。金髪の悪魔さんとは初めましてだにょ」

 

ああ~、白音はレイナーレの時に一度出会ったっけ?

 

白音は以前と同じように全力で俺の後ろに隠れているし、レイヴェルは表情が且つて見た事がないレベルで引き攣ってるけどな

 

「えっとミルたんさん。以前に引き渡した彼ら(はぐれエクソシスト10名)はその後どうなりましたか?」

 

彼らがあの後ミルキーに目覚めたのは知ってるけど、あれから時間も経ってる現在の状態はどうなっているのだろうか?

 

「にょ!ミルたん達はミルたんのお友達とウンディーネさんとも一緒に色んな場所で困ってる人を助ける為に活動してるんだにょ!この間は精霊さん達がいっぱい居る世界で悪いアンドロイドさん達が暴れているみたいだったから一緒に戦ったんだにょ☆ミルキーの力はまた一つの世界を平和に導いたんだにょ♪」

 

・・・へぇ、それはまた可哀そうな奴らも居たもんだ。精霊と機械生命体(アンドロイド)の世界というのに凄い既視感を感じるけど、世界は沢山有るんだし多分勘違いだろう

 

ミルたんと別れた後は異世界の事への思考を放棄して過ごし、そのまま床に就いたのだった



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第十八話 卒業式と、サプライズです!

次回辺りで最終回ですかねぇ


よく晴れたこの日。リアス先輩達の卒業式の日がやって来た

 

流石に今日は合同の模擬戦とかは無しになったので運動は軽いジョギングなどで体が怠けない程度に抑えて、余った時間は自室で負荷の軽い新技を試していた

 

俺の『器』に周囲から少しずつ邪気を集めていく様子が気になったのか黒歌が近づいてくる。白音とレイヴェルは母さんの朝食作りを手伝ってるな

 

「うにゃ~?そんなにゆっくり邪気を取り込んで何してるのかにゃ?それに集めた邪気も何時も程嫌な感じもしないわね。邪気の性質が変わってるのかにゃ?」

 

流石に自分の部屋で全力で邪気を集めてる訳じゃないし周囲への影響も極力出ないように身の内に留めてるんだけど黒歌程の術師に至近距離で探られたら違和感を感じ取れちゃうか

 

「ああ、今『この世すべての悪』を選別して取り込めないかなって実験してるんだよ」

 

そう返すと黒歌は"コテン"と首を傾げた―――可愛い

 

「如何いう意味よ?」

 

「いや、俺の扱う『この世すべての悪』ってありとあらゆる相手に分け隔てなく凶悪な呪いをプレゼントする能力な訳だけど」

 

「・・・改めて聴くと酷い能力にゃ」

 

説明の途中に茶々入れないでくれませんかねぇ?―――俺は気を取り直して説明を再開する

 

「・・・逆に言えば無駄も多いんじゃないかって思ってさ。例えば天使にこの力を使う時に悪魔とか堕天使へ向ける悪意をぶつけても『こうかはいまひとつ』なんだよな。だけどもし世界に漂う悪意から天使に対する悪意を取捨選択して俺の『器』に取り込めるだけ取り込めたならドラゴン特効のサマエルの呪いの別バージョンを生み出せるんじゃないかってさ」

 

サマエルの呪いは確かに凶悪ではあるがアザゼル先生とかタナトスとかドラゴン以外の相手に使用しても精々体調不良になる程度だ。他にも全盛期のオーフィスに邪神モードの『この世すべての悪』をぶつけたとしてもオーラ量では圧倒的に劣るサマエルの呪いの方がダメージは上だろう

 

流石に世界に漂う邪気も無限じゃないから邪気を選別していたらサマエル級の呪いに成長させるのに時間は掛かりそうだけどな

 

黒歌が先程集めている邪気に何時も程の拒否感を感じないと言ったのも悪意に指向性が持たされていたからだ―――因みに悪意は下手な影響が出ないように小石に対する悪意とかって如何でも良いのを選択しておいた。今、俺の下には小石ですっ転んだり誰かが蹴った小石が偶々クリーンヒットした人とかの恨みが集まってる訳だ・・・マジでどうでも良いな

 

「ふ~ん。時間さえ掛ければ聖書の神の在り得ないとされる禁忌の呪いに匹敵しうるものを敵対者に合わせて調合出来るって訳ね・・・一体どんな相手を想定してるのかにゃ?」

 

「まぁ備えあれば患いなしって言うだろ?」

 

黒歌の質問は少しはぐらかして答えるがこれは『E×E(エヴィー・エトウルデ)』の機械生命体とかみたいな一つの種族単位が攻めてきた場合の切り札に為り得ると考えた為だ

 

ミルたんとその仲間達に蹂躙されたような気がしなくもないが、そうだと決まった訳でも無いしもしかしたらかの世界の精霊たちが敵対するかも知れない

 

原作の今後の展開とか知らない以上は打てる方策は全部打っておきたいのだ―――臆病で結構。予防線は何重にも張るのが基本である

 

「必要だからって主神が存在を掛けた禁術クラスのモノをホイホイ用意出来るイッキも大概にゃ」

 

「まだ実験段階だし色々欠点も多い能力なんだけどな・・・俺達『D×D』みたいな混成部隊相手だと意味ないし、特定の悪意のチャージに時間が掛かる上に力を使えば直ぐに補充する事も出来ないから短期決戦だと回数制限付くんだよな。この能力を当てたい本命に辿り着くまでは下手に戦えないから戦争規模だと割と味方必須な力かもな」

 

サマエル級の呪いを再現できそうと言っても呪いが内側から滾々(こんこん)と湧き出るサマエルと違って周囲の悪意を搔き集めて濃縮しないといけないから下位互換な能力なんだよね。その代わり対象がドラゴンだけに縛られない訳だけどさ

 

「・・・朝っぱらから何を物騒な話をしているんですか?」

 

黒歌と話し込んでいると白音が部屋に入って来た。如何やら俺と黒歌の会話は悪魔の耳なら廊下にまで届いていたらしい

 

「まぁ良いです。イッキ先輩の邪悪が突き抜けるのは何時もの事なので・・・」

 

白音が息を吐きながら独り言ちるけどそれって一体如何いう認識!?

 

「朝食の用意が出来ましたので二人とも降りてきて下さい」

 

「やった♪朝ご飯にゃ♪ん~、この香りは味噌汁にサンマね!」

 

食べる事が大好きな黒歌はその言葉にスキップ混じりに扉まで移動して宙に漂う匂いを嗅ぐ

 

「はい。後は冷やっこにだし巻き卵にキュウリの漬物ですね。キュウリの漬物はサラマンダー・富田さんに頂きました」

 

ああ、うん・・・多分凄く美味しいんだろうな

 

そう思いつつ俺も修行を取りやめて食卓に向かい家族全員で席に着く

 

そうして無駄に良い意味で素材の味の際立つキュウリの漬物を含めた朝食を食べ進めていると俺と黒歌に白音の感知タイプ組がふと視線を外に向ける

 

「あら、どうかされまして?」

 

「ああ、なんかイッセーとリアス先輩に朱乃先輩がもう登校してるみたいでさ」

 

普段だって別にギリギリに登校してる訳ではないのに今日はそこから更に40~50分位は早い

 

「あら、それはきっと今日が最後だから感慨深くなってしまったのね」

 

「私にも覚えが有るぞ。学園で過ごす最後の日となると妙に落ち着かなくてな。普段と違う事をしたくなったりもするものだ」

 

両親も昔を思い出しているのかリアス先輩達の行動に理解を示す

 

リアス先輩達ならお世話になった教室の窓ふきとか部室で紅茶を一杯とかやってそうだな

 

「私の場合は男友達と一緒に購買のパンを根こそぎ買い尽くしたっけな」

 

他学生に迷惑掛けてんなよダメ親父!

 

「はっはっは!卒業式の日に購買を利用する奴なんて居ないさ。直ぐ近くにコンビニだって有ったしな・・・今考えるとよくあの日まで開店していたな?」

 

ホントにね!店開いても採算合わないだろうに―――学園の購買とかって売上制なのかな?日当制な気もするけど、どうなんだろう? 

 

「―――ですが少し水臭いです。最後に部室に行くというなら部員も一緒の方が良いと思います。あそこはもう皆の思い出の場所なんですから」

 

白音が少しふくれっ面で拗ねると携帯電話にアーシアさんからの通話が届いた

 

如何やら向こうの家でもイッセー達が居なくなった事に気が付いたようでそれならばいっその事卒業式前に新旧オカルト部員の最後の部活動をしようという話だった

 

俺としても異論は無かったし白音なんかはアーシアさんの会話が漏れ聞こえていた為に俺の通話の横でギャスパーの方に連絡を入れていた。祐斗もギャスパーと同じ部屋に住んでるので同時に祐斗にも伝わった事だろう

 

そうして俺達は急いで朝食の残りを片付けてから学園へ向かう。因みに黒歌は「オカルト研究部の集いなんでしょ?私もそこに突っ込む程野暮じゃないにゃ―――まっ、スイッチ達の卒業式自体はルフェイでも誘って見に行くわよ」との事だった

 

俺とイッセーの家に住んでいて部員じゃないのは黒歌とルフェイとオーフィスとリリスだからな

 

流石に無限の龍神姉妹を結構人外や異能者の居る駒王学園でしかもその親御さんも集まる卒業式という場に連れて行くのは問題だから龍神姉妹は今回はお留守番だ

 

そうして家を出ると丁度アーシアさん達も出てきたところみたいで皆で一緒に小走りにならない程度の早歩きで学園に向かう

 

俺たちが学園の正門に辿り着くとそこではソーナ先輩と椿姫先輩が箒で掃き掃除をしていた

 

「あら、おはようございます。貴方達も早くに来たのですね」

 

その言葉によくよく周囲を見渡すと他のシトリー眷属も掃除を手伝ってるらしい

 

「最初は私と椿姫だけだったのですけどね。どこから嗅ぎつけたのか他の子達もやって来てくれたのですよ。その様子では貴方達も似たような状況だったようですね」

 

正門で俺達と軽い挨拶を交わしたソーナ先輩はそう言って可笑しそうに笑った

 

オカルト研究部も生徒会も示し合わせたように同じ行動をしてるのが面白かったらしい

 

「リアス達も軽く学園を廻った後なので今頃は旧校舎に付いている頃でしょう。早く行って上げなさいな」

 

ソーナ会長の朗らかな笑顔に見送られて旧校舎の部室に辿り着くとイリナさんが勢いよく扉を開けて部屋の中に入って行く

 

「もう!リアスさんに朱乃さんにイッセーくんまで私達に内緒で先に登校してるんだから!」

 

「全くだ。思い付きの行動だとしても今更遠慮するような間柄でもあるまい?」

 

イリナさんの言葉にゼノヴィアも続く

 

「ではリアス部長(・・)本日の活動は如何いたしますか?」

 

祐斗が敢えてリアス先輩を部長と呼ぶとリアス先輩も嬉しそうな微笑を浮かべる。久しぶりに正面から『部長』と呼ばれたのが良かったのだろう・・・そう云えば俺やイッセーたちが部活に入った時も『先輩』ではなく『部長』と呼ぶようにと拘りを見せていたな

 

「そうね。掃除も行き届いてるみたいだし、皆で色んな昔話にでも花を咲かせましょうか―――朱乃、お茶を淹れてくれる?」

 

「あらあら、うふふ♪畏まりましたわ部長」

 

二人が部活を引退してから基本的には給仕はレイヴェルが引き継いだのだが今回は朱乃先輩もとい朱乃副部長にお任せする事になった

 

「~♪♬」

 

朱乃さんが鼻歌混じりに上機嫌で紅茶を淹れていると部室に更に銀髪美女ことロスヴァイセさんが入って来る

 

「皆さんが集まっていると聞きましたよ!顧問の私をのけ者にしないで下さい!」

 

よく見ると少しだけ涙目だ。別に忘れた訳じゃないですよ?

 

「いや~、だってロスヴァイセさん先生じゃないですか。寧ろここに来て良かったんですか?」

 

教師となれば普通に仕事が有るだろうし真面目な彼女にサボってこっちに来てとは流石に言えなかったのだが―――するとロスヴァイセさんは胸を張って答えてくれた

 

「そこは大丈夫です。アザゼル先生が「ここは俺に任せて先に行け」と言って下さったのでお任せしてきました。普段サボってばかりのあの人もこんな日くらいは配慮をしてくれたみたいです」

 

うん。そのセリフだけど後ろを見ながらもう一度言って欲しいな

 

俺達の視線がロスヴァイセさんから微妙に逸れているのに気が付いたのか後ろを振り返るとそこにはロスヴァイセさんの分も仕事をしてるはずのアザゼル先生がニヤニヤしながら立っていた

 

「なぁ!?ななななな何で此処に居るんですか!?」

 

「そりゃあ「先に行け」っつったんだから後で追い付くって意味だろうよ。心配しなくても俺とロスヴァイセの代わりとして俺達の受け答えパターンを記録した高性能擬態ロボを置いておいたから短時間ならボロは出ないはずだ―――第一俺達職員だって卒業式当日にそんなに確認事項が在る訳でも無いだろうがよ?」

 

そう言ってアザゼル先生もソファーに"ドカッ"と腰かける

 

まぁ神の子を見張る者(グリゴリ)の無駄にSFに傾いた謎技術ならア〇モくんもビックリのロボットも造れるだろうけど、先生なら軽く暗示を掛けるだけで何とか出来ちゃいますよね?仕事を完全に放り出す形だとロスヴァイセさんが拒否しそうだから最低限仕事も出来る身代わりを置いたんだろうけど、絶対性能テストとか諸々兼ねてるよね?

 

 

~駒王学園職員室にて~

 

「いやぁ、とうとうこの日が来ましたねぇ。ロスヴァイセ先生としては教師として巣立つ生徒を送り出すのは初めてになりますかね?」

 

「そっだすな。おらさ今日っちゅう日が来て欲しかったような来て欲しく無かったかのような変な気持ちだべさ」

 

「ロ・・・ロスヴァイセ先生・・・ひょっとして緊張してらっしゃいますか?」

 

「い、いんや!そんなことさ無ぇだべ!」

 

「・・・自分で気づいて無いのか。と云うかロスヴァイセ先生って緊張すると方言になるとはなボソッ

 

「?そんなにわたすの顔見てなんか有りましたか?―――っは!?もすかすで化粧が剥がれちまってたり!!?」

 

「いえいえ!ロスヴァイセ先生は今日も変わらずお美しい限りですよ。粗野な男視点で申し訳ないが化粧も可笑しなところは見当たりません。で・・では私はこれで失礼致します。良い式となると良いですね。ははははははは!」

 

緊張状態のロスヴァイセは無意識に方言が出るという無駄に凝った再現性を誇るロボットだが癖の設定の数値を微妙に間違えたロボが職員室で方言を連発してしまう事となる

 

本人(ロボ)が気づいて無いという事で他の教師から暫く生暖かい目で見られるロスヴァイセの未来が決定した

 

~駒王学園職員室にて(完)~

 

 

「!・・・何でしょう。今、何かが決定的に崩れたような気がするのですが?」

 

ロスヴァイセさんがよく分からない独り言を呟いてるけど、特に変な気配は感じなかったから多分気のせいだと思うんだけどな

 

「ったく、肩の力の抜き方を覚えろって前にも言ったろ。何時も無駄に肩ひじ張ってるからそんな有りもしねぇ不安が襲って来たりするんだぜ?―――だらけろ、だらけろ」

 

「アザゼル先生は怠けすぎなんですよ!全く、なんで授業内容もよく脱線すると聞く貴方の担当する生徒はそれでも成績が良いんですか・・・」

 

「そりゃ遊び盛りのガキ共に一時間も延々と教科書の内容を語り聞かせても集中力が持つわけねぇだろう?ちょくちょく面白い小話を挟んで俺の話に集中出来る心理状態を形作ってやれば勉強が苦手な奴らでも自然と頭に入るもんだ。これでもお前らとは経験が違うんだよ、経験がな」

 

アザゼル先生に軽くあしらわれてロスヴァイセさんが悔し気に"ぐぬぬ!"状態になっている

 

まぁでも確かにアザゼル先生の授業って何時どこで面白いエピソードやトリビアがねじ込まれるか分からないから自然とワクワクとした心持ちで残りの授業も聴く事になるからな

 

そしてそれだけの話のネタが有るのも先生の言うように経験の為せる業なのだろう

 

本当にこの人って総合的なスペックだけは無駄に高いんだよな

 

「まっ、そんな俺でも表の人間の学園の教師をやるのも旅立っていく生徒を見送るのも流石に初めてだからな。これでも結構感慨深くは思ってるんだぜ?」

 

アザゼル先生の視線がほんの一瞬だけ俺を捉える

 

実はトライヘキサ戦の戦後処理が一段落した時にアザゼル先生とサーゼクスさんにミカエルさんという三大勢力のトップ及び元トップにオフレコ情報としてコッソリと各神話体系のトップ陣の秘密の作戦である『隔離結界に自分達ごとトライヘキサを封じて最悪一万年頑張る作戦』を教えて貰った上で感謝の言葉を貰ったのだ・・・実は知っていたなんて野暮な事は無しとしてね

 

流石にそんな面子がホイホイ集まれる訳でもないからサーゼクスさんとミカエルさんは通信だったが、兎に角アザゼル先生達はトライヘキサ復活の時期がより正確に識れた当初は卒業式に出席する事は無理だろうと思っていたらしい―――まさか俺が世界を滅ぼせるだけの攻撃を何百発とトライヘキサにほぼノーリスクで叩き込めるとは考えなかったようだ・・・当たり前か

 

それからは時間ギリギリまで今のメンバーで行える最後の部活動である雑談大会を行った・・・途中から男子メンバーの恥ずかしい過去話に移行して俺とイッセーと祐斗とギャスパーは生贄となってしまったが本日のメインであるリアス先輩と朱乃先輩が笑顔だったのでチャラという事にしよう

 

そうして刻限となり俺達は一度教室に戻ってから式場である体育館に移動する

 

1~2学年の生徒及び保護者の方々が次々と入って来て用意された椅子に座るのだが俺達が入った時には既にリアス先輩のお父さんのジオティクスさんとサーゼクスさんにセラフォルーさんにバラキエルさんという親バカ兄バカ姉バカ組が最前列の一番いい席で対戦車バズーカのようなカメラを入念にお手入れしてるようだ・・・恐らくそれぞれの家や組織の最新鋭の物を用意したのだろう。夏休み前の授業参観の時に持ち込まれたというカメラよりも高性能なんだろうな

 

他にはリアス先輩のお母さんであるヴェネラナさんにグレイフィアさんにその息子のミリキャス。黒歌とルフェイになんとサイラオーグさんとライザーも並んで座っている

 

まぁライザーはサイラオーグさんとよくスパーリングする仲になったみたいだからな

 

う~む。授業参観の時よりも保護者組の戦力がエグイ事になっているな。あの人達が臨戦態勢に入ったらそれだけで駒王学園どころか駒王町そのものが崩壊しそうだ。一応この町は無駄に強固な結界が張り巡らされてるからそんな事にはならないだろうけどさ

 

保護者席の一部から異様なオーラが立ち昇るのを無視しながら暫く待つとついに音楽と共に卒業生が入場してきた―――バラキエルさんとか入場行進の段階で号泣してその様子をチラリと見た朱乃先輩が恥ずかしそうにしているのが判ったくらいだ

 

保護者バカ組が涙でぼやけた視界の中でもカメラの操作だけは一ミリのズレも妥協しないでいるのが鬼気迫るような気配から伝わって来る

 

卒業証書授与式を終えると在校生代表として生徒会長であるゼノヴィアが送辞を行い卒業生代表であるソーナ先輩が答辞でもって応える

 

次ぎに国家斉唱と校歌斉唱。最後に卒業ソングとして『仰げば尊し』を謳うのを〆として卒業生が体育館から退場するのを見送る

 

式を終えた3年生たちは校門の付近で抱き合う者、笑い合う者、胴上げする者、意を決して校門の境界線を踏み越える者と色々だ

 

リアス先輩達が校門を潜る前に保護者組と話したりしてるのを俺達現オカルト研究部メンバーなどは校門から丁度出た場所で彼女達が来るのを先回りして待っている

 

リアス先輩達が明確に学園から巣立つその時だからこそのサプライズが有ったからだ

 

校門という学園の敷地の最後の一線を跨いで駒王学園生徒の肩書を全うしたリアス先輩と朱乃先輩を先ずは「ご卒業おめでとうございます」といった感じにそれぞれが祝いの言葉で出迎える

 

「ええ、有難う皆。嬉しいわ」

 

「あらあら、うふふ♪有難うございますわ・・・それにしてもあの部室には悪魔の仕事でまだ通うというのに、こうしてたった一歩学園から出ただけで随分と遠くに感じますわねぇ」

 

嬉しさと一抹の寂しさのようなものを()い交ぜにしたような表情を浮かべる二人の前に白音と祐斗とギャスパーの三人が緊張した面持ちで立つ

 

「あ・・・あの・・・」

 

普段の祐斗からは見られないようなキョドった態度だ

 

「改めて、ご卒業おめでとうございます。それで・・・卒業されてオカルト研究部からも完全に引退されましたので・・・えっと・・・」

 

顔を真っ赤にした三人の中で祐斗が代表して喋るけど完全にどもっている。祐斗ファンが見たら鼻血を吹き出すこと請け合いだ

 

「もう、どうしたの?白音やギャスパーまで目が泳いでるし、言いたいことが有るならハッキリ言わないと・・・」

 

そんな三人の様子に苦笑したリアス先輩が続きを促すと三人はおずおずとしながらも小さな声でその『言いたいこと』を口にする

 

「―――リアス姉さん」

 

「リ、リアス姉様」

 

「リ、リ、リアスお姉ちゃん!」

 

「―――え?」

 

愛しい眷属の三人に『姉』と呼ばれたリアス先輩は思考が停止してしまったのか呆けた表情で完全に固まってしまった

 

「部長や元部長と呼ぶよりはそちらの方が合っている気がしまして・・・」

 

「『リアス様』やイッキ先輩のように『リアス先輩』とここで呼んでしまうと次の大学のご卒業までそれで固定されてしまいそうで・・・」

 

「こ、これでも前々から『家族』としてそう呼んでみたかったんですぅ!」

 

今まで祐斗達はリアス先輩の事を元部長と呼んでいたが卒業式を終えた今はもうその呼び方は出来ないから祐斗達としても節目というか良い機会だったのだ

 

それを聞いたリアス先輩はポロポロと涙を零すと両手で顔を覆ってしまった

 

その様子に三人はオロオロと慌てだす。てんぱってるせいでリアス先輩の涙の意味にすら気づいて無いようだ

 

「へ、変でしたか?失礼でしたか!?」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「す、すみませんですぅ!」

 

それを聞いたリアス先輩は顔をフルフルと横に振って涙を拭いながら顔を上げる

 

「違うの・・・これは嬉しくって・・・もう、まさか校門を潜ったら卒業式よりも感動することを言われるなんて思わなかったわ」

 

それからテンション上げ上げとなったリアス先輩が何度か三人にお姉ちゃん呼びをリクエストしてまだまだ気恥ずかしさが抜けない祐斗達がそう呼ぶ度に小躍りするレベルで舞い上がっていた

 

そこに二大お姉様の片割れでもある朱乃先輩が自分もお姉ちゃんと呼ばれたいと言うがギャスパーの「今回はリアスお姉ちゃん呼びする心の準備で精一杯でしたぁぁぁ!!」という叫びでお流れとなった。とは言え三人とも朱乃先輩の事を姉と呼ぶ事自体はほぼ確約されたようなものなので朱乃先輩も笑いながら許してくれたようだ。朱乃先輩としては何時呼んでくれるように為るのか期待が膨らむ感じだろう

 

その後イッセーがリアス先輩を連れて物陰の方でプロポーズしてたり、遠くでは匙がソーナ会長と花戒さんと二村さんの三人を前に顔を赤くしてなにかを伝えたりしていた

 

イッセーの方はサイラオーグさんとのレーティングゲームが終わった時に「好きだ」と伝えていたのが今回は「結婚してくれ」にランクアップしてたし、匙の方が多分アイツもハーレムルートに入ったかな?四人全員がモジモジとしている様子から察するに悪い結果じゃなさそうだしね

 

卒業式に中てられて皆青春しているようだ

 

イッセーもプロポーズまで言えたなら他のイッセーラヴァーズへの告白もあと少しだろう・・・つぅかここまで来て告白しなかったら殴り倒すわマジで

 

今日という日の一大イベントを無事に終えた俺たちは新鮮な気持ちで帰路に付く

 

最後にそれぞれの家の前で一旦別れる前にリアス先輩にこっそりと胸ポケットにしまってた神の子を見張るもの(グリゴリ)製のペン型カメラを取り出してみせる

 

「リアス先輩。実は例の高性能カメラで『祐斗、白音、ギャスパーの初めての「リアスお姉ちゃん」呼び大作戦』を録画しておいたんですが」

 

「言い値で買うわ!」

 

超喰いつかれた

 

うん。やっぱりリアス先輩ってジオティクスさんの娘でサーゼクスさんの妹だわ

 

なんだかんだで今日はグレモリー家の方々の『家族』の絆を感じ取れた一日でもあったのだった

 



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第十九話 国際、大会です!

最終回になりませんでした。多分!多分次でエピローグ!


リアス先輩たちの卒業式も終わり、続いて在校生組の終業式も終わったことで十日間に満たないほどの春休み期間となる。オカルト研究部も卒業旅行に繰り出し(黒歌とルフェイも参加)北海道から沖縄まで日本を縦断したのだ・・・まぁ転移を使って要所要所を回ったスピードツアーだったのでなんと一日で行程を消化してしまったのだが、時にはこういう慌ただしい旅行も良いのかも知れない―――その内『太陽を追いかけながら世界一周一日の旅』とか企画するかもな。白夜もビックリで時間感覚が可笑しくなりそうだけどね

 

旅行で特筆することが有るとすれば沖縄に行った時にゼノヴィアが何処かからシーサーを捕まえてきて「使い魔にする!」と言い出した事くらいだ―――本人(本狗)曰く名前は『ファイナル・デスシーサー』で階級は『四覇将』で二つ名は『彷徨大元帥』らしいけど設定が凝りすぎだろう・・・あれ?そういえば京都をよく下らない内容で荒らしてるペンタグラム伯爵も自分のことを『四覇将』とか名乗ってなかったっけ?もしかして知り合いだったり?・・・まぁいいか

 

因みにイッセーは卒業旅行が終わったその日のうちに眷属であるアーシアさんとゼノヴィアを連れて何処かのビーチで眷属との友好を深めに行ったみたいだ。どうせ今頃だらしない顔でオイル塗りとかのスキンシップに励んでいるのだろう

 

ならば俺はと言えば所謂家族旅行のまっ最中だ。メンバーは俺と黒歌に白音にレイヴェルに九重に俺の両親も含めた計七人で両親の仕事の事も考えて日本時間で休日に一泊二日で駒王町に帰る予定である

 

あの戦争で頑張った将来の嫁さんたちへと心配させた両親への労いも含めた旅行だな

 

・・・実を言えば九重にはストッパー的な役割も有ったりする

 

仮に九重以外のお嫁さんメンバーで何処かの旅館なりなんなりへ疲れを癒しに行けばここ一か月でかなり激しくなった夜のプロレスごっこ(意味深)を何処だろうと展開してしまいそうだったからだ・・・今回はあくまでもまったりとした旅行である

 

そんな俺たちが今どこに遊びに来ているのかと言うと周囲に何もない荒れ果てた荒野がただ広がる空間だ。しかしそんな場所でも九重などははしゃいで走り回っている

 

「おお!体が軽くて面白いのじゃ!まさか『月』まで来れるとは思わなかったぞ!」

 

そう。実は旅行に出かける上でどこに行こうか迷っていた俺はふと神の子を見張る者(マッドサイエンティスト)製の我が家は月まで行ける事を思い出したのだ

 

以前は自宅で宇宙旅行をする気はないと思ってたし事実その案は頭の中で却下したのだが丁度黒歌に「な~に考えてるのかにゃ?」と訊かれてその冗談のような内容を"ポロっ"と溢したら「それは面白そうにゃ!」とあれよあれよのうちに『自宅で月まで一泊二日計画(プラン)』が練られてしまったのだ・・・先ほどは何もない荒野だと説明したが実を言えば俺たちの後ろには少し前までは駒王町に鎮座してたはずの自宅が突っ立っている

 

・・・マジで来れちゃったよ自宅で月まで

 

ついでに言うとこの家が建てられた当初では多段ロケット方式で駒王町に戻るころには一番上の階しか残ってないはずだったのだが、各神話勢力と和平を結んで様々な技術を吸収・研究した神の子を見張る者(グリゴリ)は自宅のアップグレードを重ねていったらしく、自宅を切り離す必要は無くなったそうだ―――それに俺たちのように強いオーラを持つ者が搭乗していればエネルギーの肩代わりや補充も出来るらしい

 

なんだかんだで実力者が揃ってるからエネルギーを肩代わりした場合は時間と負担を無視すれば火星往復ツアーとか出来そうなのが怖いところだ

 

「・・・地球は青かったです」

 

白音が感慨深いといった面持ちで瞳の中に小さく映る地球を見つめて、誰もが知っているであろう有名な偉人のセリフを口にする

 

「ユーリイ・アレクセーエヴィチ・ガガーリンの残した言葉ですわね。私も貴族として数々の宝石を目にしてきましたが、これを上回る青い宝石(サファイア)は見たことありませんわね」

 

・・・ごめんなさい、嘘言いました。ガガーリンのミドルネームとか知らんかったわ

 

でも歴史の教科書にも『ユーリイ・ガガーリン』としか載ってなかったし、別に良いよね?―――良いって事にしとこう

 

因みに俺たちは今は別に宇宙服とかは着ないでいる。自前で防御結界を身に纏ったりイヅナに結界を代行してもらったりしている訳で九重と両親は後者に当たる

 

空気に関しては自宅の空気を小規模転移陣で常に供給してるので問題なしだ

 

まぁ裏の世界はまだまだ初心者な両親は宇宙服も無しに外に出るのは流石に難易度高かったのかリビングの窓(宇宙空間にも耐えられる仕様)から外の様子を眺めてるようだ

 

「あれ?そういや黒歌は?」

 

九重は目の前で飛び跳ねてるし、白音とレイヴェルは適当な岩に腰かけていた俺の両脇に同じく座っているのだが黒歌の姿が見えない

 

「黒歌姉さまなら「折角月まで来たんだし『つきのいし』でも探すにゃ♪これで私も新たな進化を遂げるのにゃ!」と言ってスコップ片手に出ていきました」

 

「おいいいいい!!それダメなヤツうううう!!世界観狂っちゃうヤツうううう!!?」

 

『つきのいし』で進化出来るネコと言えばエネコ〇ロで説明文が『 マイペースで 自由気ままな 暮らしを 好む。気の向くまま エサを 食べたり 眠ったり しているので 1日の リズムが バラバラだ』な上に特性が『メロメロボディ』とか割と黒歌に合致してるけどさ!―――てかそれならもう既にエネ〇ロロじゃん!進化する必要ないじゃん!

 

すると丁度遠くの方から黒歌が手に何かを持ちながら小走りてこちらに向かってきた

 

「お~い、見て見て!こんなモノ見つけちゃったにゃ~♪」

 

掲げた手の中に納まっているのは夜空のように真っ黒な石のようでその中心には三日月のような紋様が刻まれており、なにか強いオーラが凝縮されていた

 

「そぉいッ!!」

 

認識した瞬間思わず俺はその石を黒歌から奪い取って遥か宇宙(そら)の彼方にぶん投げた

 

「あ~!いきなり何するのよイッキ!!」

 

「黒歌。埋め合わせなら幾らでもするからあの石だけはダメだ!多分あの石が有るとそこを起点にしてポケットに収まっちゃうモンスターとかが現れかねないから!」

 

怒る黒歌の両肩を掴んで必死に説得する。黒歌からすれば訳が分からない内容だったはずだが元々ただの拾った石で俺に貸しが出来るならと直ぐに興味を無くしてくれたみたいだ

 

良かった。まだ『E×E(エヴィー・エトウルデ)』がどうなったのかとか一応は判らない状態なんだしここで異世界ネタを新たに追加するのは拙いだろう

 

そうして心の中で汗をぬぐう俺だった

 

 

~暫く後の神の子を見張る者(グリゴリ)研究所~

 

「よぉシェムハザ。実は面白いもん見つけてよ、コイツを見てくれ」

 

「・・・アザゼル。貴方も総督を引退したと云ってもそれなりに仕事は有るのですからサボるのも程々にして下さい。それでこちらはまた妙な力を感じる黒い石ですね。黒曜石などとはまた違う質感だ。中央のマークは三日月ですか?これを何処で?」

 

「ああ、実は昨日人間界に隕石が降ったって情報が有ってな。丁度近場に居たからちょいと探してみたらコイツが見つかったって訳だ。面白れぇだろ?軽く調べたが大気圏突入したにも関わらずその形を保ってたみてぇだ。今からじっくり調べてその謎を全部解き明かしてやるぜ!」

 

「それは構いませんがその前に先月神の子を見張る者(グリゴリ)の予算が勝手に貴方名義で借りられた施設に大量に流れている痕跡を見つけたのですが―――」

 

「あばよ~、シェムハザアアアッ!!」

 

「待ちなさいこの横領常習犯がアアアッ!!」

 

それから数年後に『動物図鑑にも載ってない不思議な不思議な生き物』が召喚されたとかされなかったとかという事が有ったらしい

 

~暫く後の神の子を見張る者(グリゴリ)研究所(完)

 

 

それからは飽きるまで皆で月を歩いたり跳ねたりして探索したり地球を眺めたり地球の六分の一の低重力ボール遊びなどをして楽しんだ

 

夕飯として(夕方もなにもないが)一時的に家の屋上にも結界と空気を張り巡らせてBBQ(バーベキュー)をした後は天体観測用の望遠鏡を覗く・・・因みに食後のデザートとして月見団子が何故か用意された

 

「いやぁ望遠鏡で月を見ることはあってもまさか月から地球を見られるなんてね。一度で良いから月まで行ってみたいなんてのは大体の人が頭の片隅で一度は考える事だと思うけど、本当に感動してしまうね」

 

さっきから望遠鏡から目を離さない父さんが感無量といった感じにしみじみと言う

 

まぁ確かに今の時代表の技術でも月まで来ようと思えば来れるもんね。絶対に手が届かない話じゃないなら夢想くらいはするか

 

「ふふふ♪義父上(ちちうえ)殿もはしゃいでおるの。しかし気持ちは同じなのじゃ。イッキよ、何か他に面白そうな事は無いかの?」

 

俺に肩車する形で飛び乗って来ていた九重が更なる娯楽をお求めになった

 

「う~ん。そうは言っても月じゃ娯楽施設とかは無いからなぁ・・・これで遊園地みたいなアトラクションでも在れば月の重力下で普通とは違った感覚を楽しめたりもするんだろうけどさ」

 

お姫様のお望み(わがまま)は叶えてやりたいけど、どう足掻いても月は無人の荒野でしかないからな。今日明日はまだ良いけれど、次回また同じように旅行に来たら多分速攻で飽きると思う

 

それならば例のアレ(・・)で良いか?アザゼル先生じゃないけど折角なら性能テストも兼ねてみるか

 

しかしそれ単体だと面白さ半減だと思うしもう一工夫は必要か

 

≪黒歌、ちょっといいか?≫

 

≪にゃ?なんで態々念話を繋げてるのにゃ?≫

 

俺は黒歌に念話で俺の思いつきに対して確認を取ってみる

 

念話なのは九重へのサプライズ感を高めるための気配りというやつだ

 

≪それで・・・・・・・・(これこれこういう)訳なんだけど明日までに準備出来そうか?≫

 

≪にゃははは♪それくらいならお安い御用にゃ。それにそういうバカなノリは私は好きよ。ドーンと任せておくのにゃ!≫

 

黒歌がやる気になってくれたみたいなので九重には「明日のお楽しみイベントがある」とだけ伝えてお風呂を挟んでから何時ものメンバーに九重を加えてベッドで眠る事になった

 

お風呂は別々に入るという案は提案する前に女性人たちの無言の圧力で却下となったが九重も居る手前タオル装備で入浴だ。ただ月の低重力下でのお風呂は水の動きがゆったりと幻想的に跳ね回り俺たちはまたのぼせる寸前まで遊び惚けたのは良い思い出となった

 

次の日の朝(日本時間的な意味で)に久しぶりの九重のモフモフ尻尾を堪能しつつ窓の外に母星たる地球を風景として観賞するという贅沢な目覚めをした

 

因みに今回はベッドを上から覗いたとして左から順に黒歌、九重、俺、レイヴェル、白音の順だったな。今は会える回数の少ない九重が俺の隣なのは普通に決まって黒歌も「なら今回は九重を抱き枕にしようかにゃ?」と大人の対応(?)をして戦線離脱してくれたので残る白音とレイヴェルが真剣勝負(ジャンケン)の末にレイヴェルが勝利を手にしたのだ

 

まぁ起き上がって隣に視線を移せば白音は白音でレイヴェルに抱き着いているようだし、仲が良いのが見て取れるがな

 

皆寝顔は可愛らしいし、こういう穏やかな時間は素晴らしいものだ

 

今回は無駄に壮大に宇宙へ飛び出して月まで来てしまったけど次は京都で花見かな?去年の春とかは俺と黒歌だけだったけど、今年はそこに白音とレイヴェルになんだったら新旧オカルト研究部員も加えても良いだろう

 

白音たち一年生組は秋の修学旅行に先んじて京都に行く事になってしまうが、既に年明けに冬の京都へお参りに行ってるんだから今更だしな

 

それに秋の紅葉に染まる京都と桜の花びら舞う京都はどっちも見ものだ・・・他にも裏京都には霊脈の影響で一年中桜が咲き誇る狂い桜なんてのも在ったけど、態々春に見に行ってもあれだから今回はパスだな

 

そうして暫く未来の予定をぼんやりと考えてる。はてさて今年はどんな一年になるのか俺の識る原作のこの世界線はまだ完結してなかったけど、俺がやった原作ブレイクは少しはこの世界の運命(Fate)を良い方向に変えられたのかね?

 

少しだけ感傷的な想いに浸った後でゆっくりと息を吐く―――そうだ。元々大雑把にでも未来が分かっていたこの一年が変だっただけで普通は未来なんて分かる訳がないのだ

 

周りの皆に人間なのに神だ邪神だ言われてる俺だけど、俺としては寧ろ漸く読者(かみ)から登場人物(ただ人)に成り下がる事が出来た気もするな

 

俺はもう一度黒歌たちのあどけない寝顔を見渡して頷く

 

やる事は変わらない。俺の物語が完結するまで精々精一杯生きるだけだ。彼女たちと一緒にな

 

それから起きだした黒歌たちと一緒に朝食を食べた後はこの家に新しく搭載された機能であるロボットハウスで自宅を変形ロボにして月の裏側で黒歌の用意した幻術の敵性体を相手に一通り大暴れしてから地球へと帰還する事になった―――ゲームセンターとかに置いてある搭乗型ダンガムの遊具の超発展版みたいなものだ

 

九重はゲームでもこういうFPS的なものは触ったこともないのか最初のうちは操作に戸惑っていたが基本熱中して敵(幻術)を撃ち抜いていた

 

逆にこの家のゲーム帝王である白音は「お前は何処の名誉ブリタ〇ア人の枢木ス〇クだアアア!」と言いたくなるレベルでアクロバティックな近接戦闘も混ぜ込んで撃破数を重ねていった・・・白音なら人型ロボットで戦争する世界に生まれ変わっても生きていけるんだろうな

 

そうしてお昼前には地球へ向けて高速航行で駒王町に帰り始めて近づいてくる地球を眺めながらのディナーを堪能したら夕方前には無事に地上に降り立つ事に成功したのだった

 

「か・・・体が重いにゃ・・・」

 

「大体月に居たから無重力って訳じゃないし、一泊二日程度なら筋力的にはそこまで影響してないはずだけど、怠いな」

 

地上に舞い降りて庭先で地球の空気を吸い込んだ俺たちの第一声はそれだった。まだ普通の事である一倍重力に体というより認識(あたま)が付いてこないのだ

 

「堕落する時は一瞬です」

 

「良い意味でも悪い意味でも慣れとは怖いものですわね」

 

白音とレイヴェルも追従する。あれかな?一度クーラーを知ったら扇風機の時代には帰れない的な

 

「うむ。しかしやはりこうしてしっかりと地に足の着いてる感触の方が落ち着くのじゃ。向こうは終始フワフワし過ぎじゃったからのう」

 

九重はその場で軽く飛び跳ねて感触を確かめているらしい

 

そんな可愛らしい挙動を見守りながらも京都へ連絡を入れて九重のお迎えを寄こしてもらうように八坂さんに手配をお願いし、程無く地下の転移の間に移動した俺たちの前に転移の鳥居と九重のお迎えの狐の従者のお姉さんが二人現れた

 

「では皆、次は花見の席で会おうぞ。今年の桜の見頃は確か2週間後辺りじゃったからの」

 

まぁ俺と黒歌にレイヴェルは時間が取れるだろうけど、グレモリー眷属の白音はその辺り微妙だよな・・・いざとなれば久しぶりに悪魔の契約召喚カードで白音を呼び出す形で花見に連れていくとしますかね―――遊びじゃなくて仕事なら問題ないよね?ってやつだ

 

最後に九重が「またなのじゃ~♪」と大きく手を振りながら鳥居の奥に消えていく姿を見送った事で俺たちの『自宅旅行』は幕を閉じたのだった

 

 

 

次の日にイッセーの家に出向くと開口一番イッセーに「『旅行に行ってくる』とだけ伝えてお前が家ごと居なくなってたの本気でビビったんだからな!」と怒られてしまった

 

「大丈夫。問題ない。ちゃんとリアス先輩とアザゼル先生には行先含めて詳細を事前に伝えておいたから」

 

正面のイッセーの肩をポンポンと叩きながらそう告げる

 

流石に俺だって管理者だったり監督役だったりするあの二人に許可も取らないで自宅を月まで飛ばしたりしないさ

 

「知ってるけど!後でリアスに教えてもらったけど、もうちょっと位情報は周知しようぜ!」

 

はっはっはぁ!まぁ伝えなかったのは態となんだけどね、ドッキリ的な意味で

 

「心臓に悪過ぎだボケェェェェェッ!!」

 

イッセーの渾身の叫びが響き渡る

 

「あははは・・・でも旅行で月とかイッキ君は相変わらず話のスケールが大きいよね。それが出来てしまう神の子を見張る者(グリゴリ)の技術が凄いのかそんな冗談みたいな機能を実際に使ってみようとするイッキ君の度胸がずば抜けているのか判断がし辛いや」

 

いえいえ、俺だって最初は自宅で月まで行こうとか思ってなかったんですよ佑斗くん?

 

「ぼ、僕はハーフとは言え元バンパイアですし、月に降りたら強化されたりするんでしょうか?」

 

月面の吸血鬼は異形界にて最強!・・・とかは聞いたことないけど、どうなんだろうな?

 

「ああ♪でも月から眺める地球なんてロマンチックよねぇ♪」

 

「はいぃ!きっととても素敵な光景なんだと思いますぅ♪」

 

イリナさんとアーシアさんが遥か蒼き地球の様子を夢想してウットリとした表情になっている。これはイッセーたちの何時か行くデートスポットの一つに月が登録されたな

 

「あっ、皆さんそろそろ時間ですわよ」

 

部屋の中で別々に話し込んでいたメンバーがレイヴェルの一言に反応して一斉に視線をその場に有る大型テレビへと向ける。今日俺たちが集まっているのは冥界を含めた各勢力から全国同時配信で重大発表がなされると告知があったからだ

 

どんな事が発表されるのか色々と憶測が流れていたようだけど情報規制はしっかりしていたようで確定情報は流出したりはしてなかったな

 

それから冥界のチャンネルに繋げてあるテレビの記者会見場の映像にこれまた豪華な面子が映し出された

 

「お兄様にアジュカ様、ミカエル様。オーディン様にゼウス様にアザゼルまで・・・他にも各勢力の代表とも云える方々が集まっているわね―――ここまで盛大だとは思わなかったわ」

 

まだ内容は発表されてないがリアス先輩を始めとして皆がこれから彼らが語る内容が自分たちの想像以上のものだと理解した

 

因みに冥界の代表に魔王が二人居るのはアジュカさんがレーティングゲームの創始者という枠組みだからで、冥界の代表自体はサーゼクスさん一人という事なのだろう

 

≪皆様、お忙しい中よくお集まりいただきました。魔王の一人、サーゼクス・ルシファーです≫

 

全勢力へ向けた通信だからか軽い自己紹介を挟んでサーゼクスさんが切り出した

 

≪今から約半月前に巻き起こった邪龍戦役は各世界に大きな爪痕を残しながらも我々の勝利で幕を閉じました。しかし同時に多くの戦士や神々、そして少なくない一般人にも被害が出たのも目を背けてはいけない事実です≫

 

≪そこで前々から構想の在ったとある企画を亡くなった者たちへの葬礼祭及び戦勝祝いとして大々的に執り行おうという訳じゃ≫

 

≪ガハハハハッ!これぞ、その催しに最も相応しい武の祭典だ!種族、老若男女、立場を問わずバカ騒ぎの果てに最強の冠を奪い合う邪龍どもとの戦争にも負けない規模のケンカ祭り!≫

 

サーゼクスさんの言葉に杖を突いた眼帯で髭の長い老人である北欧神話のエロジジ・・・もとい北欧の主神オーディンが説明を引き継ぎ、更にはトーガを着た見るからに暑苦しい筋肉だるまたるオリュンポスの主神ゼウスが祭りの内容を告げる

 

≪行われるのは私の創り上げた冥界発祥のゲームです―――今ここに『レーティングゲーム国際大会』の開催を宣言致します!≫

 

アジュカさんの宣言と共にトップ陣の方々の後ろにデカデカと垂れ幕が下がり、記者の人たちの『おお~ッ!!』という感嘆の声とカメラのフラッシュが会場を埋め尽くした

 

ゼウス神の言からして今回の大会には普段はその力を大々的に振るう事のない神々ですらも参加可能だというのが判ったからだろう。まさしく史上初の規模となる祭典となる事は疑いようが無かったのだ

 

一緒にテレビを見ていた皆もこの大き過ぎるニュースに興奮を隠しきれていない

 

「―――国際の、レーティングゲーム大会!!」

 

「やっべぇ!噂自体は前から在ったけど実際に開催って聞くと鳥肌が止まらねぇぜ!」

 

『王』の二人は身震いしながら顔を輝かせて画面に見入っている

 

「レーティングゲームとの事でしたがルールはどうなるのでしょうか?悪魔の駒(イーヴィル・ピース)のシステムをこの大会でどのような形で導入するかで参加出来る選手の質や数が大きく左右されますわね」

 

レイヴェルの疑問の答えは新たに前に出た青み掛かった髪色の青年一歩手前の少年が答えた

 

≪やぁやぁ、僕はシヴァ、インドの破壊神さ。ゼウスやオーディンと違って普段引きこもってたから自己紹介を入れさせて貰ったよ≫

 

「ぬっ!インドのシヴァと言えば全勢力の神々の中でも最強と名高い神じゃないか」

 

「ゼノヴィアの言う通りね。でも、基本は何が有っても動かない不動の神だったはずよ。資料でもそのお顔は見たことも無かったわ」

 

さっきまで盛り上がっていた会場の記者たちもシヴァ神の登場に動揺しながらもその言葉を聞くためにすぐに喧噪を収めていった

 

≪今大会は悪魔たちのレーティングゲームを下地に置いてるけど、当然細かいルールには色々と違いが有る。この場でその全てを話していたら時間が足りなくなってしまうから詳しいルールの内容が知りたかったらこの記者会見が終わった直後に全勢力のインターネット、本屋の雑誌、新聞、テレビ、ラジオ、広告まであらゆる媒体を用いて大々的に告知する手はずとなっているからそちらを参照してくれ≫

 

イッセーがテレビから目を離さないまま部屋に置いてあるパソコンの電源を速攻で立ち上げた

 

だがまだシヴァ神の説明は終わっていないようだ

 

≪ただし、その代わりにこの場ではこの大会の優勝賞品について発表させて貰おうかな≫

 

この世界における真の最強を決めんとする大会の『優勝賞品』という情報に皆が固唾を吞む

 

≪今大会の優勝チームに与えられる賞品は『あらゆる願いを可能な限りに叶える権利』となる≫

 

その言葉に会場が静まり返っている様子が映る

 

如何やら頭が付いていかなかったらしい

 

≪ふむ。少し抽象的過ぎたかな?一応この上なく的確な言葉なんだが、補足しようか―――優勝したチームにはここに居る神々や魔王などの権能や各勢力が保有する技術、伝説のアイテム、財力を駆使して優勝した者たちの願いを叶えるという事だ。叶えられる願いに『世界に破滅などの混乱を齎すものは省く』と条項は加えさせて貰うがそれ以外ならば大抵の願いを叶えられると思ってくれて良い。そうなると疑問も浮かぶだろう。即ち叶えられる願いとは一チームにつき一つなのか?これはイエスでもあり同時にノーでもある≫

 

この説明には皆が首を傾げた。場合によりけりって事か?

 

≪『願い』という千差万別の曖昧なものを賞品とする関係上これに関しては詳しく言えなくてね。僕らでも叶えるのが難しい大きな願いならばチームで一つとなる場合もあるが逆に小さな願いならば複数叶える事も出来るって訳さ・・・一応この後告知されるルール説明の中に願いの例を幾つか載せておくからそれを参考にしてくれたまえ。勿論キッチリ事前に確認したければそれ専用の部署も用意してあるからそちらを利用してくれ―――ただ一つ言えることが有るとすれば、こうして各勢力のトップが集まって発表した優勝賞品で叶えられる願いの大きさがケチ臭いものになる事は無いって話かな?≫

 

成程ね。確かに本人にとっては重要な願いでも神々からしたら簡単に叶えられる願いとかも有るだろう。そしてどれだけの願いを叶えられるかもシヴァ神の言うように生半可では今テレビに映っている代表たち全員の顔を潰す行為だ

 

―――正しく『あらゆる願いを可能な限りに叶える権利』となる訳だな

 

≪出場選手の登録受付もルールの告知と同時に受け付ける形となる。実を言えばこの壇上に居るメンバーの中にも暴れたいと内心うずうずしてる者達も居るくらいだ≫

 

あ~、今テレビに映ってる方々とか本来なら隔離結界領域でトライヘキサと一万年ほどバトルするつもりだったんだもんな。その気持ちを大会で発散したい神とかも居るわけだ

 

≪それではルールの内容が気になって仕方ない人たちがテレビの前に溢れていると思われますので記者会見はここまでとさせて頂きます。どうぞ奮ってご参加下さい≫

 

サーゼクスさんが最後に会見を終わらせる挨拶をして彼らが出ていった処で映像はニュースキャスター達のスタジオに切り替わった

 

彼らが≪いやぁ、全くとんでもない内容でしたね~≫とかコメントをし始めているのを後ろに置き去りにして、皆がイッセーのパソコンの前に陣取ろうとしたり自室のネットを立ち上げに向かったりとグレモリー眷属とは思えないバラバラなバタバタ具合だ

 

暫くは皆が話にならない状態になりそうだし俺自身も腰を据えてルールを見たかったのでイッセーとリアス先輩に「もう帰ります」とだけ告げて帰宅する事にした・・・二人とも「おう・・・」とか「ええ・・・」と生返事だったから正気に戻った時に「あれ?イッキ達は?」とかやりそうだ

 

そうして調べたところ国際レーティングゲームの着目すべきルールは以下の通りだった

 

 

・『王』から『兵士』まで一チームの最大参加人数は16名で強力な使い魔には制限が入る

 

・『王』以外の選手は試合ごとに駒の役割を変更する事が出来る―――これは例えば悪魔の駒(イーヴィル・ピース)で『騎士』として転生した者を『戦車』としてその試合に登録した場合、試合のフィールドに入った時点で一時的にその駒の効果が『戦車』に上書きされる。また転生悪魔以外も一時的に登録した各駒の能力が付与される

 

・神々が参加する事が前提なので駒の制限が緩和されているが主神・戦神クラスともなれば『騎士』、『僧侶』、『戦車』の駒を二つ使用し『兵士』の駒も7~8個は消費する可能性が高い

 

・予選と本選に分かれており予選はレートを奪い合うポイント制なので勝ち星が決め手とは必ずしもならない(勿論全戦全勝出来ればそれが理想)

 

・本選は予選最終日の上位16チームのトーナメント戦で競い合う

 

・予選落ち、又は大会を途中棄権したチームのメンバーであっても本選出場チームに登録し直す事は可能(ただし制限在り)

 

 

細かいことまで言い出したらキリがないが大きくはこんなところだろう

 

正直トライヘキサ辺りの原作をぶっ壊したからこの国際大会が何時頃開催されるのかは予想が立て難かったがメンバー構成はある程度考えてあったから後は交渉次第だな

 

「ふふ♪イッキも珍しくやる気かにゃん?」

 

後ろから抱き着いてきた黒歌の相も変わらずなボリューミーな感触に意識を持っていかれないように努めて返答する―――え?今まで散々堪能してるだって?この先一万年は堪能する予定なんだから全然足りてないわ!

 

「具体的な願いとか決めてる訳でもないけどな。黒歌はどうだ?賑やかに暴れるのは好きだろ?」

 

「まぁね♪イッキが参加するなら私も出るし、仮にイッキが出ないならその場合白音はスイッチ姫のチームに入るだろうから便乗させて貰うにゃん・・・でも、出るんでしょう?」

 

俺の顔を横から覗き込む黒歌の瞳には好戦的な色が宿っている。なんだかんだ言っても黒歌の猫魈(ねこしょう)という種族は戦闘種族なんだよな・・・猫魈(ねこしょう)は大抵は女性みたいだが父親は他種族でもその子供は猫魈(ねこしょう)となるある意味逆オーク的な強靭な遺伝子みたいだけどそれでも数が少ないって云うのはもしかしたら戦いに突っ込む性格のせいだったりするんじゃないか?まぁ黒歌や白音レベルの実力で搦め手系の能力者が敵側に居ても俺の【神性】の加護がある程度弾くからよっぽどの事がない限りは大丈夫だとは思うけどさ

 

「だれが逆オークにゃ!」

 

「グハッ!?」

 

何時ものごとく心を読まれて至近距離となっていたその頭部による頭突きが突き刺さった。超痛い

 

「せめてサキュバスって言って欲しかったです・・・正直それも微妙ですが」

 

「今のはイッキ様が悪いですわね」

 

白音とレイヴェルもそれぞれルールは見終わったのか俺の部屋に入ってきて苦言を呈された

 

「いや、その、悪かったです・・・」

 

て言うか俺謝ってるけど口に出してないんだから失言も当然してないはずだよね。思考の自由とは何処に消えた?いや謝るけど!謝るけどさっ!!

 

「それでイッキ様がこの大会に出場なさるというのであれば当然私も出場したいですわ・・・メンバーは如何されるおつもりですの?」

 

「そうだな。先ず黒歌とレイヴェルは俺の『僧侶』枠として迎え入れたいと思ってる。態々他の駒の役割を任せる理由も今のところ見当たらないしな・・・で、問題は白音だな」

 

レイヴェルも大会参加には乗り気な事に内心安堵しつつもそう言うと俺たちの視線が白音に集中する。当の白音は複雑そうな表情で猫耳も少し垂れてしまっているな

 

「わたしは・・・」

 

白音がなにかを言い掛けるもそのまま止まってしまった様子を見て軽く苦笑する

 

「白音が悩むのも答えが出ないのも仕方ないさ。正直俺も、十中八九参加を表明するリアス先輩も白音は欲しい。だからこの後リアス先輩と俺とで白音争奪戦が始まるかな?―――ただ今回の大会は高い確率で一回やって終わりって事にはならないだろうから次回の大会の時は白音も俺とリアス先輩の内、もう一つのチーム選手として出場すれば良いさ」

 

そうすれば白音としてもどちらのチームに着いたとしても後ろめたさは感じないだろう。しかし折角なら記念すべき第一回大会は白音も一緒に出場したいから多少強引でもリアス先輩から白音を奪い取らせて貰う―――なに、布石はもう仕込んであるから大丈夫だろう

 

「―――と言うか自然と大会に参加するって決めちゃったけど黒歌たちは優勝した時の願い事になにか希望とか有るのか?」

 

「ん~?私はお祭りを楽しむ事がメインだから特にないわねぇ。白音とレイヴェルはなにか有るかにゃ?」

 

「・・・美味しいものが食べたいです」

 

おぅ、白音さんや。それは別に神々への願い事である必要ないよね?

 

「私もフェニックス家の者として望めば大抵のモノは手に入りますし、『願い』を使ってまでのものは無いですわね―――敢えて今欲しいものを挙げるならその・・・またイッキ様と二人でデートに行きたいという処でしょうか」

 

レイヴェルも微妙に庶民には出来ないお嬢様発言してるな―――あと後半部分声を潜めて顔を赤らめて言ってるところとかグッドです

 

まぁ結局神々へ願う内容じゃない訳だけど

 

「あ、良いわねレイヴェル。じゃあ私たちの望みはイッキと二人っきりデートと私たち全員でのデートに決定にゃ♪」

 

「いやそれ質問の趣旨ずれてるから。賞品として欲しいものの話だから・・・まぁ俺も一番の望みを訊かれたら『黒歌たちと一緒に幸せになる事』になるから神々の介入とか要らないんだけどさ」

 

態々『なんでも叶う権利』なんて使わなくても本当の望みには手が届く俺たちは十分幸運な立ち位置に居るんだろうな

 

「まっ、優勝賞品に関しては試合を進めていく内に見えてくるものも有るはずにゃ。取り敢えず今のところは私の分の願いの権利もイッキに預けておくわよ♪」

 

黒歌の意見には白音とレイヴェルも特に反論は無いようだった

 

「イッキ先輩はなんだかんだでお人好しですから結局は誰かの為になるような願いをする気もします。和平会談の時も黒歌姉さまの恩赦と佑斗先輩の昔の仲間の因子の事を頼んでましたし」

 

「それは流石に買い被り過ぎだと思うけどなぁ・・・」

 

そりゃ確かにあの時はそう願ったし他にも万能薬でもある『異世界のスッポンの生き血』もサイラオーグさんに譲ったりはしたけど、自分が明確に損するような選択は流石にしなかったとも思うぞ

 

「ふふふ♪ならばこう思えば良いのです。『情けは人の為ならず、巡り巡って己が為』―――これからのイッキ様は人脈と功績が多くある方が有利に働くのですから誰かに恩を売りつけるつもりで願いを使ってみるのも面白いかも知れませんわよ?」

 

恩や貸し借りの方を取る・・・ね。確かにこれからはそう言った方面にもちゃんと目を向けないといけないよな

 

win-winな関係かそこまで行かなくともギブアンドテイクを目指しましょうってね

 

ならば今回は恩を売るより先に取り立てる方から動いていきますか!

 

それから俺はまたイッセーの家に突撃してリアス先輩に「先日言い値で買うと言っていたのを貸し一つとしましたが、それで白音が欲しいです」と交渉しに行くのだった

 

ふっふっふ!原作知識のストックはもうほぼ無いけどレーティングゲームの国際大会が間近に開催される可能性も考えて『お姉ちゃん呼び大作戦』を売りつけていたのだとは流石のリアス先輩も思うまい。交渉もケンカもより多く布石を置いてる方が勝つんですよ

 

アザゼル先生から学んだ事だ。遊びにも全力を尽くせってね!

 

家に戻ってからも次々と通信を掛けていく俺の様子に黒歌たちの表情が引きつき始めていた事なんて知らないねぇ!

 

 

―――後日、大会の開会式が終わってから発表されたイッキのチームに好戦的な強者のチーム以外は戦慄したらしい

 




未来でポ〇モン使い魔ブームが到来したとかしなかったとか・・・


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最終話 エピローグ

投稿を始めて一年と七か月。ようやく最終話を迎える事が出来ました


春休みも終わりが近づきぶっちゃけ明日には新学期が始まるという今日この日に俺たちはとある無人島に釣りをしにやって来ていた

 

「よぉし!今日は魚を取る日だ。釣りで分からない事があれば遠慮せずに聞いてくれ」

 

「カサゴなんかはよく釣れる代わりにトゲに毒が有るから気を付けるようにな」

 

イッセーの父親と俺の父親がフィッシングベストにキャップも着用しながら竿を高く掲げている

 

「お腹が空いたらこっちにおにぎりや飲み物も用意してますからね~」

 

「広めのテント(屋根だけ)に椅子も用意してますから悪魔や吸血鬼の体質で体が怠くなった時も安心してくださいね」

 

岩場から少し離れた平地スペースでは俺とイッセーの母親組が休憩スペース及び補給物資の配給を行ってくれるらしい

 

「我、テント、立てる」

 

「たてる、たてる」

 

関係者ばかりの無人島という事もあってオーフィスとリリスもご来訪して母親組を手伝ってる

 

それにしてもお隣さん且つ話題にも事欠かないからか本当に両家の親たちの交流も深まったよな

 

「ったく、父さんも年甲斐も無くはしゃいじゃってさ」

 

「いいじゃねぇかイッセー。俺の両親も月まで行った時とか滅っ茶はしゃいでたぞ?」

 

「イッキのソレはまるで参考にならねぇよ!宇宙まで飛び出したら誰だってテンションMAXになるわッ!!」

 

釣り針にエサ付けてる時に耳元で喚くなよ。危ないだろうが

 

「フッ、月か。有間一輝、月の裏側には何も無かったと言っていたが月の中心・・・内部構造まで調べたのか?月には裏側か、もしくはその内部に知られざる古代文明の遺跡が眠っているというのが通説だ」

 

するとイッセーを挟んでその向こう側で釣り竿のラインの調子を見ていた銀髪イケメンことヴァーリが話しかけてきた

 

実は今日はオカルト研究部以外にもヴァーリチーム他数名がこの無人島に釣り糸を垂らしに来ているのだ。最初は何時ものメンバーだけのはずだったのが、あれよあれよの内に話が広がって集まれるヤツは集まる運びとなったのだ

 

俺はヴァーリチームの面々に視線を移す

 

少し離れた場所ではルフェイが釣り針にエサの虫を付けられずに涙目になって兄のアーサーが苦笑しながら代わりに付けてやってたりフェンリルが美猴(びこう)を噛んでぶん回した後で海の彼方へ放り投げてたり河童のサラマンダー・富田が大きめの岩の上でそこら辺から連れてきたという人魚(巨大な生魚に手足が生えたようなクリーチャー)をバックダンサーにラップを熱唱している

 

因みに人魚魚人2匹はエラ呼吸の為か既に死にそうになりながら踊っているな

 

彼の新曲らしい『河童だって回転しない寿司屋で働きてぇ』の観客は白音だけだ

 

河童と寿司を安直に繋げて安く見られる世間の常識に対する反骨精神をハードボイルドに歌い上げた内容のようだ

 

「最高です!こんなところでサラマンダー・富田さんの新譜を独り占め出来るなんてっ!!」

 

既に虫の息になっているバックダンサーに見向きもしないで白音が感動の涙を流している

 

「・・・ヴァーリのチームでまともなのはルフェイとアーサーだけかよ」

 

「いやイッキは現実を直視しろよ!カオスな状況の中に白音ちゃんが普通に混ざりこんでるじゃねぇか!!」

 

「良いんだよ。白音は可愛いからそれだけで何も問題は無い。それ以外は些事だ」

 

「松田や元浜が言い出しそうな事を言うな!」

 

うるっせぇ!頭空っぽの理論武装でもしないとやってらんねぇんだよ!分かれやっ!!

 

俺とイッセーが顔を突き合わせて威嚇し合っているとサイラオーグさんが難しい顔で唸りながら質問してきた

 

「むぅ・・・俺も釣りは初めてなのだがこのルアーというのはこれ程種類が有るのか。どれを使うのが正解なのだ?」

 

サイラオーグさんは俺たちの間で釣りに行く話が持ち上がった時に偶々『D×D』としての模擬戦をしにやって来ていたので「時間が合えば一緒にどうですか?」と誘ったのだ。様々な色と形のルアーを前にしてどれを選んだらいいのか判らないらしい

 

「そうですね。色に関しては気にしなくても良いですが今の海の魚の分布だと中層くらいに集まってるみたいなので少し浮力の小さいこの辺りのルアーを使うのが良いと思いますよ」

 

本来なら狙う魚の特性や長年の経験を頼りに正解のルアーや釣りポイントを選ぶものなのだろうが、今日は釣りの道へ進むための集まりではなくて楽しむための日なので少しずっこいが仙術で魚の気配を感知して良さげなルアーを紹介する

 

「そうか。感謝する、有間一輝」

 

サイラオーグさんがそう言っていそいそと準備を進める

 

筋骨隆々で傷だらけその大きな手で小さなルアーをカチャカチャと取り付けている様子はどこか可笑しい感じがするな

 

「おい有間一輝。俺様も態々誘ったならこの辺りで一番の大物が釣れるポイントとエサをさっさと見繕え!」

 

そう、実はこの場にはライザーも誘っていたりする

 

なぜライザーかって?基本『D×D』のメンバーって忙しい場合が多いし、その点ライザーはレーティングゲームのプロプレイヤー以外の仕事はしてないから誘いやすかったんだよね

 

最初に誘った時は≪なぜ俺様がそんなトロ臭い遊びに参加しなければならないのだ≫と拒否ってたが「釣れる自信が無いの?」と煽ったら≪そんな訳あるか!誰よりもデカイのを釣り上げてやるわ!≫と喰いついてきたのだ・・・ッフ、ちょろい

 

それにしても思いっきり俺の仙術を当てにしてる辺りは処置無しだな

 

仕方ないので一番頑丈で太っい針に異空間から取り出したリンゴをぶっ刺して適当な方向を指さす

 

「ほら、あっちの一番高い岩場から思いっきり竿を振れば大物が掛かるはずだ。ただしこの辺のヌシクラスだろうから丸一日粘る必要は有るかもな」

 

「おい。釣りの餌にリンゴ丸々一個などと聞いたことが無いぞ。ふざけてるのか貴様ァアア!!」

 

ライザーが俺の胸倉を掴み上げて吊るしてきたので落ち着かせるように肩を叩く

 

「ライザーは人間界に疎いから知らなかったのも無理はないけどな。釣り餌に果物を使ってこそ超大物が釣れるんだよ。ただの魚だってヌシクラスともなれば皆グルメなのは釣り師たちの間では秘匿された常識だぜ?」

 

ライザーの目をまっすぐに覗き込んでさも当然のように言う

 

人間ってのは不思議なものでハチャメチャな理論でも力強く告げられたらそれだけでそれを本当の事だと錯覚してしまう生き物だ。まぁライザーは悪魔だけど精神構造は人間とほぼ同一だからな

 

「そうだよな。釣り初心者のライザーは知らなくても当然の事だったよな。仕方ない、仕方ない」

 

「―――っ知ってるわ!今のはお前の知識を少し試してやっただけだ!見ていろ、貴様ら全員が度肝を抜く特大の大物を釣り上げてきてやるからな!!」

 

加えて軽く煽りを入れてやればこの通りだ

 

肩を怒らせて俺の指定した岩場に向かっていくライザーをひらひらと手を振って見送る。リンゴを丸呑みに出来るような超大物が釣れると良いな

 

「・・・イッキ。ライザーを揶揄い過ぎじゃねぇか?なんだよ「秘匿された常識」って矛盾してんじゃねぇか」

 

「別に、邪龍戦役が終わってから毎日のようにフェニックスの涙の製造に追われて暴れられない事の愚痴を聞かされ続けた私怨なんて込めてないぞ?」

 

こっちはこっちでテロリストの鎮圧で忙しかったのにライザーがスッキリ暴れられるこっちの状況の方が良いって愚痴ってくるんだぜ?いやまぁ確かに日がな一日特殊な魔法陣の上で心を無にして家族皆で涙を流してる状況よりは良いのかもしれないけどさ

 

事情を知らない人たちからして見ればかなりアレな光景だよな

 

「はっはっは!なに、心配いるまい。我がバアルのリンゴならばクジラも喰いつくだろう」

 

「いやいや、サイラオーグさん。それだとライザーの方が逆にクジラの餌になっちゃいそうなんですが・・・と言うかその前に竿が折れますって」

 

サイラオーグさんの天然にイッセーからのツッコミが入る

 

「そこは大丈夫だろう。ライザーもあれで優秀な上級悪魔なんだから竿やラインを魔力で強化してクジラ相手でもやり合えるようにする事は出来るはずだぞ?」

 

平均的な上級悪魔くらいの魔力でも山頂を吹っ飛ばす程度の力は有るんだしさ

 

「あんた等どんだけライザーをクジラと戦わせたいんだよッ!!」

 

「でも海獣と不死鳥の世紀の一戦と言えばちょっと見てみたくないか?」

 

え?レイヴェル?レイヴェルにそんな真似させる訳がないだろう?頭大丈夫か?

 

「お前の頭が大丈夫じゃねぇええええ!!」

 

なんかイッセーが頭を抱えて虚空に向かって叫んでいる

 

そんな中、他の参加者の様子も見渡してみる

 

「去年の夏にイッセー達の釣りの様子を見て実は内心ウズウズしてたのよね。朱乃、今日は付き合ってもらうわよ」

 

「あらあら、うふふ♪そんな闘志の宿った瞳で見つめてきたら私だって負けられませんわねぇ―――そうですわ。折角なら今夜のイッセーくんの隣で寝る権利を賭けません事?そしてそのまま朝までしっぽり・・・うふふふふふ♡」

 

「聞こえてるわよ朱乃!イッセーの初めては私が貰うんだから貴女なんかに渡さないわっ!」

 

「あらあら、そのセリフ。勝負に負けた後でも言えるかどうか見ものですわねぇ」

 

二大お姉さま方は二人だけの頂上決戦を行うつもりのようだ。まぁどうせ釣った魚が同数になって魔力合戦の果てに有耶無耶になる未来が見えるけど、止める理由もないな

 

「ゼノヴィア!どちらがより多く釣り上げるか勝負しましょう!」

 

「望むところだイリナっ!」

 

「はうぅ!お二人とも待ってくださぁぁあいっ!!」

 

イリナさんとゼノヴィアは邪念ゼロの釣り勝負の為に良い感じの釣りポイントを探してダッシュして行き、アーシアさんが各種荷物を持って必死に後を追っている。聖剣コンビは相方よりも先に釣るという事しか頭に無くてガチで釣り竿しか持ってない有様だ。エサを現地調達してキャッチアンドリリースで数えるつもりだったのだろうか?―――いや、何も考えてなかったんだろうけど

 

と云うかアーシアさんも色んな荷物を持って走ってる辺り悪魔に転生した当初よりなんだかんだで基礎体力もアップしてるよな

 

「うふふふ♪ずっとお城の中だったから釣りをするなんて考えた事も無かったわ」

 

「あっ!ヴァレリー。釣り針を扱うのは危ないからそこは僕がやるよ!」

 

ハーフヴァンパイアの二人はデイライトウォーカーと言えども悪魔で吸血鬼と二重の意味で太陽に弱いギャスパーとまだ病み上がりとも云えるヴァレリーのコンビなので、日除けの麦わら帽子を被って木陰の有るスポットを見つけてそこで釣りを楽しむつもりのようだ

 

因みにヴァレリーはアポプスから取り戻した聖杯はちゃんと体内で安定しているようで、もう出掛けるのに聖杯の欠片のペンダントも特殊な結界も必要としないようだ

 

「私は素潜りして楽しんできます」

 

ロスヴァイセさんはダイビングスーツに銛という恰好だ。去年の夏に俺と黒歌も海に潜って海の幸を捕まえたけどあれは素手で且つ海老とか貝とかがターゲットだったからな

 

「釣りなんて生まれて初めてですわ」

 

「私もサバイバルで魚が欲しかったら水辺に雷落として採ってたからにゃ~。めんどいから今回もそうしようかにゃ?」

 

「それでは他の方々の釣りも台無しになってしまいますし、ロスヴァイセ様が感電死しますわよ!絶対に止めて下さいな!」

 

黒歌が物騒な事を口走ってレイヴェルが咎めている

 

黒歌よ。それは遊びじゃなくてただの漁だから

 

「トスカ、これが海だよ」

 

「わぁ!お水がこんなに沢山!」

 

佑斗とトスカさんの二人はスゲェほのぼのした雰囲気で癒されるわ

 

最後にチラリともう一度だけ白音の方に視線を向ける

 

「今日の俺様の熱いソウルはまだまだ続くぜっ!―――河が何時か海へ繋がるように(ガキ)だって何時しか大人になる。上流(きれい)だったあの頃と違って酸いも甘いも混ぜ込んでな。それでも、世間の荒波に揉まれても童心だけは無くしちゃいけねぇのさ・・・・『河童が大海泳いじゃダメなのかい?』。聴いてくれ」

 

「キャァアアアアアッ♪」

 

・・・白音が「キャァアアアアアッ♪」とか叫んでるの初めて聞いたわ

 

うん。アイドル的なアレとは云え仮にも自分の彼女が他の男性に釘付け状態な訳だけど、欠片も嫉妬とかの感情は浮かんでこないな。幾ら何でもあの空間はあまりにも異次元過ぎた・・・てかバックダンサーの魚もうご臨終してない?サラマンダー・富田も白音も気にしてないみたいだけどさ

 

そんなこんなで一部異空間が展開されながらも皆がそれぞれ釣りに移っていく

 

俺とイッセーにヴァーリとサイラオーグさんの四人はお互いの邪魔にならない程度の距離しか空けずに手頃な場所で竿を振る。話したい事が有ったので自然とこの布陣になった感じだ

 

とは言え先ずは適当な雑談(ジャブ)から入る為にイッセーが切り出す

 

「釣りかぁ・・・ヴァーリは世界中旅してて野宿も多いんだろ?さっきも釣り竿弄るのも手際良かったし、やっぱ魚釣ったりするのか?」

 

「ふっ、そうだな。釣りは神の子を見張る者(グリゴリ)に居た頃に時折アザゼルに付き合わされてな。その時に基本は一通り覚えた形だ。禍の団(カオス・ブリゲード)に居た間は街中での食料の調達も容易とはいかなかったから割と重宝したよ」

 

旅のお供って言うか指名手配犯のお供とした訳ね。非常食(カップメン)にも限りは有るだろうし

 

「そういやサイラオーグさんは釣りは初めてっぽかったみたいだけど、今までは武者修行で山に籠って自給自足の生活とかした事無かったんですか?」

 

「俺か?当然有るぞ。冥界のイノシシや熊などとはよく取っ組み合いをしたものだ―――釣りをした事が無かったのは川を泳ぐ魚を直接追いかけて素手で捕まえる方が食料の調達と修行を両立出来て効率が良かったからだな。最も、最初の内はイノシシに轢かれたり、日が暮れるまで魚を追い回して結局捕まえる事が出来なかったりで散々な目には遭ったがな」

 

俺は俺でサイラオーグさんならサバイバル的な訓練で釣りくらいはした無かったのかと思い質問したが何ともサイラオーグさんらしいと言えばらしい答えが返ってきた。己が身一つでサバイバルって原始人でも石槍くらい使うぞ

 

まぁ今の彼なら拳一発水面に叩き付ければ衝撃波で周囲の魚が気絶して浮いてくるとは思うけど

 

「・・・あと、約三週間後か」

 

ヴァーリがどこか感慨深いと言った面持ちで今日一番の話題を切り出す

 

「・・・ああ、そうだな」

 

「うむ」

 

イッセーとサイラオーグさんもそれを聞いて何処か海の彼方に視線を向ける

 

「お!真鯵(マアジ)フィィィィッシュ!!」

 

「イッキィイイイッ!!空気読めよお前ぇえええ!!」

 

仕方ないじゃん。ヒットしたんだから釣らないとさ―――空気を読まなかったのは俺じゃねぇ!真鯵(マアジ)だ(キリッ!

 

「『キリッ!』じゃねぇよ!・・・はぁ、はぁ、まぁいい。それで三週間後のレーティングゲームの開催式の事だな」

 

イッセーが話題の軌道修正を行ってくれた。ありがたやありがたや

 

「ああ、強者との戦いを求めてきた俺にとっては公式に世界中の神々を含めた強者との試合に挑めるなんてのはまたと無い機会だ。丁度初代孫悟空からかの三弟子の子孫たちを預かっているからな。彼らも加えて大会には参加するさ。既に登録は済ませてあるし、現時点で参加を表明しているチームには神々も多い。今から待ち遠しくてワクワクしてしまうね」

 

「大会の参加者では神々の参戦がメディアでは大きく取り上げられているようだが我々『D×D』からの出場者も負けておらん。天界の切り札(ジョーカー)刃狗(スラッシュ・ドッグ)など、普段温厚な彼らですら駆り立てられているのだからな。寧ろこの場で参加を表明していないのは兵藤一誠、お前だけだぞ?」

 

そうだ。最初にこの場に集まっていたのはイッセー以外全員が大会における『王』なのだ・・・ライザーはどっか行っちゃったけど、一応彼も眷属と共に『王』として登録を済ませている

 

唯一イッセーだけがまだ登録してないのだ。大会登録期間は一ヵ月でまだ一週間程度しか経ってない訳だが

 

「それなんだよなぁ。正直言えば迷ってるんだよ。俺も上級悪魔としての『王』には成り立てで眷属も二人しか居ねぇし、俺の夢の一つが最強の『兵士』となってリアスをゲーム王者にするってのだったから『兵士』として参加するか『王』として参加するか、どっちが良いのかなってさ」

 

人数不足という現実的な問題に加えてイッセー自身も『王』となったから独立してやってみたいと云う思いで『兵士』か『王』かで板挟みになってるんだな

 

「フッ、俺はキミがちゃんと参戦するならば文句は無いさ。リアス・グレモリーの下で戦うキミも自分だけのチームを率いるキミも、どちらも最高の強敵となり得そうだ」

 

「そうだな。神々も多く参戦する大会だ。正直絶対にお前たちと戦えるとは言えん。しかしあの激動の日々を共に戦い、高め合ってきた戦友たちが同じ大会に参加すればそれだけでも心の底から滾るというものだ」

 

ヴァーリとサイラオーグさんは参加するなら何でもいいというスタイルか

 

なら俺はイッセーと同じく確定の参加メンバーが黒歌とレイヴェルの二人しか居なかった(白音は確定では無かった)『王』としての助言でもしますかね?

 

「イッセー。自分だけのチームを作るのが難しいと思ってるみたいだけど、今のお前は大会のチームと上級悪魔としての眷属をごっちゃにして考えてないか?一生ものの眷属を決めようって話じゃないんだからもっと気楽に思いついた相手にオファーを掛けろよ。お前が積極的にメンバー集めをし始めたとなれば直ぐに噂も広まるだろうから意外な知り合いが接触してくるとも思うぞ?まっ、それもそろそろ動き出さないと手遅れになるだろうけどな」

 

リアス先輩だってイッセー、ゼノヴィア、アーシアさんが参加するかしないかでメンバー構成をかなり変更しなければならない。『兵士』にしても『王』にしてもあと2~3日以内には決めた方が良いだろう

 

「カァアアアッ。流石その日の内に参加登録したイッキは違うぜ。一体どんなメンバーを集めたんだよ?」

 

「それはお楽しみってやつだよ。てか仮にもライバルに下手に情報渡すかってんだ」

 

他の参加チームが対策を立てる時間なんてのは一秒でも削れる方が良いに決まってるからな

 

イッセーの悩みに軽くアドバイスを入れながらもその後も釣りを楽しんでいく

 

まぁここで言う『悩み』とは結局イッセーのチームメンバーをどう集めるのが良いかって話だから、なんだかんだ言ってイッセーは今回の大会で『王』として自分のチームを率いて戦う気持ちが強いのかもな

 

そんな風に雑談していると島の何処かで雷光と滅びの魔力がぶつかり合うような音が聞こえた

 

リアス先輩と朱乃先輩が予想通りに直接対決を始めたみたいで俺たちの意識も外に向く

 

「フハハハハ!どうだイリナ、去年のアザゼル先生の『堕落した釣り人の(ダウンフォール・フィッシャー・)略奪者達(プレデターズ)』を参考にさせて貰ったぞ!」

 

「むむむぅ!だったらこっちは素潜り漁よ。さぁ八白!海の中に顔を突っ込んで直接魚を採ってきて!今のあなたなら呼吸は必要ないでしょう!」

 

『キュイッ!!?』

 

別の場所ではゼノヴィアが擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)の力で竿(聖剣)の先端を枝分かれさせてはしゃいでたり、それに対抗するためにイリナさんがオートクレールに使い魔の八白を憑依させて全自動追尾型の釣り竿(?)として扱おうとしていた

 

―――中々に混沌としてきたな

 

そんな喧噪を背景に予定の時間まで釣りを楽しんでいざ帰ろうと皆が集合場所に集まると最後に遠くからライザーが戻ってきた

 

「ハーッハッハッハッハ!どうだ貴様ら、俺はこの近海の王を激闘の末ついに釣り上げたぞ!」

 

彼が背中に背負っていたのは巨大な鮭だ。ただし先ほどサラマンダー・富田のバックダンサーとしてその使命を命と共に全うした魚に人間のような手足だけが付いた存在ではなくもう少し人間寄りの外見をした魚人(クリーチャー)だった―――人間でいう背中の部分に背ビレが生えてたりしている

 

「これが鮭たちの王。キング・サーモンだ!」

 

激闘・・・と云うのにガチンコバトルも含まれていたのかサケの魚人は全身を不死鳥の業火でこんがりと上手に焼かれてしまったようで、俺たちの鼻腔に非常に質の良い油の乗った美味しそうな香りが漂ってくる。ただ見た目が最悪なので食欲は欠片も湧いてこない

 

「キ、キング・サーモンと呼ぶな。俺様の名前はサーモン・キングだ・・・ガクッ」

 

キング・サーモン改めサーモン・キングはそれだけ言うとまた気絶してしまった

 

皆の顔が引き攣る中、最終的にアーシアさんが最低限の治療を行ってからキャッチアンドリリース的に海に解放する事になったのだった

 

「どうだ有間一輝。初めてでありながら近海の王すらも釣り上げる俺様に義兄としての尊敬の眼差しを向ける事を許してやっても良いんだぞ?」

 

なにを期待してるんだ、なにを!

 

「ワーッ、スゴイデス、アニウエ、ブラボーッ!」

 

「ハーッハッハッハッハッハ!そうだろう。そうだろう!」

 

俺が褒めるとライザーは上機嫌となりそのまま冥界に帰っていった

 

「全く、お兄様ったら一体なにをしでかしているのか。恥ずかしいったらないですわ」

 

「ははっ、まぁライザーもなんだかんだで俺とレイヴェルが将来結婚する事を認めてるって発言でもあったし、今回は許してやろうぜ」

 

本日の夕食は釣った魚を焼いたり刺身にしたり煮たりして魚料理のオンパレードだ

 

大食漢の黒歌と白音を有する我が家ならばこの程度は問題ない

 

「はぐはぐっ、でもあの鮭。間違いなく今までの人生の中でも最高級の一匹だったのに逃がすなんて勿体無かったです」

 

白音はアレを食べる気有ったの!?

 

「―――流石にアレは私も勘弁にゃ」

 

思わず視線が白音と同じ猫魈(ねこしょう)の黒歌に向かうが首を振って否定された

 

その事に安堵しつつ夕飯やお風呂などを済ませて自室で寛ぐ。白音とレイヴェルは新学期に向けて授業内容を思い出す為に軽く勉強をしているようだ・・・う~む。マジメだ

 

「それを言うならイッキだってレーティングゲームの形式や特殊ルールの資料を読み込んでるんだから十分マジメだと思うけどにゃ」

 

俺が机の上に冥界のレーティングゲームの資料を並べている様子を黒歌が椅子に座っている俺の首に後ろから抱き着きながら言う・・・本当に抱き着いてくるの好きだよね

 

「まぁ俺も『王』として登録した以上は最低限の知識は必要だからな。とはいえ今の時期から根を詰めても仕方ないし、今日はこの辺りにしておくか」

 

俺は抱き着いてる黒歌をやんわりと外して回転椅子を反転させて黒歌に向き合うと彼女の腰を掴んで黒歌も同じように反転させて白音やレイヴェルによくやってるように膝の上に座らせる

 

「にゃん?イッキからこういう事するのも珍しいわね?」

 

「まぁ偶には良いかと思ってさ。ベッドの上だとこうして穏やかな感じに抱き合う事って余り無いしな」

 

「にゃはは♪房中術を駆使してイッキは絶倫に為れるからね。それに若い男女が同じ場所で大人しく眠れる訳なんて無いにゃ♪」

 

黒歌は俺に背を向けた状態から体をずらして横抱きに近い形に座り直す

 

「でも確かに偶にはこういうひと時も良いかもね♪初心な恋人みたいな距離感もイッキとなら飽きそうにないにゃ」

 

俺と黒歌は少しだけお互いの顔を見つめるとそのままキスをする

 

それから暫く黒歌を膝の上に乗せたままイチャついていると白音とレイヴェルが部屋に入ってきた

 

「むぅ!黒歌姉さまにもイッキ先輩の膝の上というポジションを譲るつもりはありませんよ」

 

「白音の次は私もですわよ!今日からイッキ様に"ギュッ"とハグされたまま甘々恋人プレイはローテーション制の日課にする事を進言致しますわ!」

 

そんな二人の様子に俺と黒歌は軽く笑ってから皆で寝るためにベッドに潜る

 

・・・今日の白音とレイヴェルは何時もより少し積極的だったのは気のせいではないだろう

 

「それじゃあこれからも宜しくお願いするよ」

 

「はい」

 

「にゃん♪」

 

「勿論ですわ」

 

改めて眠りにつく前にこの日常をこれからも共に過ごす約束をするのだった

 

この先の俺の識らない未来(あした)に思いを馳せる。ただ、きっと愉快な物語には為るのだろう

 

―――なにせこの世界は『ハイスクールD×D』なのだから

 

 

~fin~




イッキの国際大会のメンバー

「チーム・ラスボス」

・『王』―――有間一輝

・『女王』―――サーゼクス・ルシファー

・『戦車』―――塔城白音

・『戦車』―――アザゼル

・『騎士』―――ハーデス(駒2つ消費)

・『僧侶』―――塔城黒歌

・『僧侶』―――レイヴェル・フェニックス

・『兵士』―――アンラ・マンユ(駒8つ消費)


アンラ・マンユは臣下だから出ろと言い、ハーデスはタナトスやプルートをけしかけた迷惑料として、アザゼルとサーゼクスは隔離結界の事を一つの貸しとして勧誘した


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主人公と嫁たちのステータス(最終話時点)

最後に軽くイッキのステータスを載せておきます。今まで自分の拙い文章にお付き合いして頂いた皆様に感謝を

次回作の予定は今のところ微妙です。ぶっちゃけ自分でもよく判りません

それでは皆様また何時かお逢いできる日を祈って<m(__)m>

※ちょっとイッキのステータスだけだと寂しかったので黒歌たちのステータスも追加しておきましたww


◎有間一輝(本作主人公) 誕生日:9月6日

・種族

 

人間(?)

 

〇転生特典

・【一刀修羅】

 

一分の間、ありとあらゆるリミッターを外して全力を出し尽くす能力

 

強化時間をそれなりに圧縮した【一刀餓鬼】や、たった一秒で全てを出し尽くす【一刀羅刹】は当初は身体強化のコントロールをミスして発動する度に血だらけとなっていたが初代孫悟空の課した修行の下、完全制御に成功する

 

・【偽り写し記す万象(ヴェルグ・アヴェスター)

 

この世界の神器という形で貰い受けた特典で自分が相手から受けたダメージをそっくりそのまま相手に返す『報復』の呪い。この呪いで付いた傷はイッキ本人の傷が癒えるまで消えない。ただし『報復』の能力は同じ相手には二度と通用しない

 

副次効果として所有者にFate時空由来の【神性】が付与される。最終決戦後は【神性 A++】という驚異の値を誇る

 

禁手(バランス・ブレイカー)は【歯止めの利かない復讐者(アンリミテッド・アヴェンジャー)

 

『報復』の能力が同じ相手に二度と通じないという制限が24時間に一度に緩和され、イッキの操る呪いそのものを相手に直接送り込み続ける事が出来る能力に昇華した

 

曹操たちとの戦いでサマエルを取り込んでいるが、その神の呪い自体は全勢力が使用を禁じている為に使えない

 

・【じばく】

 

イッキのオーラの最大許容量を基準に2倍計算で破壊を撒き散らす能力。また相手の防御力も半減するという凶悪っぷり。ただし使うと『ひんし』になる

 

イッキが邪神モードを発動させた場合の【じばく】の威力は一撃で地球がえぐれて実質滅ぶ程の破壊力が有った

 

 

〇基礎能力

・仙術使い

 

世界に漂う様々な気を扱える能力

 

扱えるオーラ量は通常の仙術使いたちが扱う正の気が魔王級、世界に漂う邪気が魔王級の約3倍で合計で魔王級の約4倍のオーラ量を誇る。ただし扱っているのが『この世すべての悪』という凶悪過ぎる呪いの為、その破壊力は実質二天龍にも引けを取らない

 

中国の伝説に在る不老の秘薬である金丹を飲んでいる為に金属との親和性が高く人間の肉体の脆弱性を一部補っている

 

仙術の一部である闘気を用いた剣術と体術が基本でとある落第騎士の主人公の『秘剣シリーズ』を一部アレンジして扱える

 

 

〇最強(凶)形態

・邪神モード

 

オーフィスの加護によりイッキの持つ【神性】を一時【神性 ∞】とする事で『この世すべての悪』を取り込み、単体で世界規模の力を持つグレートレッド、オーフィス(全盛期)、トライヘキサの約半分の出力を叩き出せる

 

一応そこに魔王級の正の気も加わっているので正確に世界の半分の出力という訳ではない

 

一度邪神モードを体験した事で以降、邪気のコントロールのコツを掴みかけている

 

この状態では『悪性の頂点』である為にあらゆる『悪』に属する能力はイッキに対して無力となる

 

 

△使い魔

・名前:イヅナ

 

京都を束ねる九尾の狐である八坂から貰い受けた特別性の管狐

 

最大75匹まで分身可能で本体のイヅナと基本的に同調している。その繋がりを利用して様々なサポートを行える

 

イヅナのオーラ量は主人であるイッキの力に依存し、最終話時点ではそこそこ優秀な上級悪魔程度―――具体的にはこの世界線の最初期のリアス程度のオーラ量×75匹

 

国際大会が終わった辺りではイッキの素の実力も引きあがったので一匹辺り夏季休暇が終わった辺りのリアス程度になった(原作のリアスで云えばロキ戦の後くらいの強さ)

 


 

◎塔城黒歌 誕生日:10月1日

・種族

 

猫魈(ねこしょう)→転生悪魔(『僧侶の駒』×2) 

 

〇基礎能力

・仙術 妖術 魔力 魔法を高度に組み合わせて扱う後衛職のウィザード&テクニックタイプで前衛職で身体強化が得意な一輝と違って幻覚と毒霧などで相手を翻弄しつつジワジワと倒すスタイル

 

黒歌は普段は三又で最終決戦時にはギリギリ魔王級。強化形態である四又モードでは大戦を勝ち抜いた魔王であるセラフォルー・レヴィアタンやグレイフィア・ルキフグスにも引けを取らない

 

国際大会終了時には五又モードにも至れるようになったが普段の生活で尻尾が沢山有っても邪魔なので基本は三又で過ごしている

 

・【神性 D】(イッキの【神性 A+】時)→【神性 C】(イッキの【神性 A++】時)

 

〇火車

猫魈(ねこしょう)が持つユニークスキルで死者の魂をあの世に誘う力が有るとされる。それ故に吸血鬼やゾンビ、ゴーストタイプの敵には無類の力を発揮する。また、浄化の力としての側面も持つ為に死者でなくとも悪魔や魔物など『悪』に属する相手にも十分な威力を誇る

 

※黒歌の火車の炎は黒色

 

黒猫神(こくびょうしん)モード

イッキから【神性】の加護を受け取った事でそれを軸にして火車の炎を発現した状態。通常の浄化の炎より高威力な上に悪タイプの相手へのダメージ値が数段増加している

 


 

◎塔城白音 誕生日:11月23日

・種族

 

猫魈(ねこしょう)→転生悪魔(『戦車の駒』×1)

 

〇基礎能力

・戦車の駒の膂力と防御力に仙術の闘気による身体強化を合わせた近接戦を得意とするタイプで殴ったついでに相手の気を乱す事で各種デバフを掛ける事が出来、これは主に仙術と妖術の合わせ技で魔力(パワー)+仙術(パワー&デバフ)+妖術(デバフ)といった感じ―――姉である黒歌の指導で魔法も扱えるが事前に仕込むトラップや封印術式など腰を据えた状態で発動出来るものが中心となっていて自身の激しく動き回る近接戦に自在に織り交ぜられるレベルではない

 

国際大会の予選時には常時三又になれるようになり、本選では一時的な四又モードにもなれるようになった

 

・【神性 D】(イッキの【神性 A+】時)→【神性 C】(イッキの【神性 A++】時)

 

〇火車

姉である黒歌と同上

 

※白音の火車の炎は白色

 

白猫神(はくびょうしん)モード

姉である黒歌と同上

 


 

◎レイヴェル・フェニックス 誕生日:6月3日

・種族

 

純血悪魔(元72柱フェニックス侯爵家)

 

〇基礎能力

・『僧侶の駒』で魔力及び魔法力を高めた純血悪魔で家の特色により炎と次いで風を操るのが得意なウィザードタイプ

 

・ロスヴァイセの指導により北欧式の魔法の技術も収めており、国際大会が終わった辺りでは実戦での使用も十分慣れてきた為に悪魔式の魔法の習得にも力を入れる事となる

 

・【神性 D】(イッキの【神性 A+】時)→【神性 C】(イッキの【神性 A++】時)

 

〇不死鳥(不死身)

・その名の通り不死鳥フェニックスの能力により頭や心臓を含めて体が消し飛ぼうが瞬時に復活出来るほどの再生能力を誇る。ただし再生には体力・精神力を消費する為に無限に復活が可能な訳では無く、魔王クラスの一撃を真面に喰らえばやられてしまうと言われているが、これは本人の実力によって多少上下すると思われる(流石に要検証とはいかない)

 

〇禁術

・魔法において自らの肉体を対価として差し出す事で莫大な威力を叩き出せるタイプの禁術を習得している

 

イッキから【神性】の加護を受け取った事で肉体の贄としての価値が高まっているのでより高威力の禁術を放てるようになった

 

前述の不死身の特性によって本来ハイリスク・ハイリターンの禁術をローリスクにて使用可能―――ただし肉体は不死身で直るが魂や寿命などを差し出すタイプの禁術は肩代わり出来ないので習得していない

 

消耗こそ激しいが魔王クラスどころか神クラスの一撃も使用可能だが神クラスの一撃ともなれば体力の大半を消費するので現状では2発が精々で連続使用しようものなら疲労困憊でぶっ倒れる故に魔王クラスの攻撃を小出しにするのが望ましい

 


 

◎九重(学園に通う際は八坂 九重(やさか くのう)) 誕生日:9月9日

・種族

 

妖怪(九尾の妖狐)

 

〇基礎能力

・種族は九尾ではあるが現状では実力不足の為に尻尾は6本。実力は下級悪魔上位程度だがイッキとの霊脈同調や最終決戦での八坂との同調・補助によって莫大な力を扱う為のコツを掴みかけてる

 

国際大会終盤時には中級悪魔クラス、駒王学園中等部1年時後半には上級悪魔クラスに成長した

 

・仙術と妖術を扱い、地脈・霊脈の豊富な地では実力以上の力を発揮できる。特に九尾の狐のテリトリーであり日本最大の霊脈の集積地帯である京都では更なる力を使用可能。ただし現在京都の霊脈の要となっているのは母親である八坂である為に京都だからと言ってそこまで他の土地と差異が有る訳ではない

 

・【神性 C+】(イッキの【神性 A+】時)→【神性 B+】(イッキの【神性 A++】時)

 

※この世界でも最高クラスの神性持ちであるイッキとオーフィスに直接的な加護を受けた事で黒歌や白音、レイヴェルよりも1.5ランク上の【神性】を宿している―――具体的には主神と人間のハーフに神の加護をおっ被せたくらい

 

神龍白狐(しんりゅうはっこ)モード(白面金毛+狐龍)

・神性持ちの九尾が発現出来る白面金毛モードと神性+ドラゴンのオーラ持ちの妖狐が発現出来る狐龍モードの合体形態

 

『悪』や『魔』の者への特効もそうだがこの状態では九尾の狐の神獣としての側面が非常に強く出る為、日本屈指の神社・仏閣を有する京都での霊脈操作が将来的には母親である八坂を軽く上回る事が予想されている

 




追伸・コロナを始め、体調には気を付けましょう


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