ハイスクールD×D/Apocrypha 魔術師達の狂騒曲 (グレン)
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プロローグ 冥界合宿と若き大王派
1 集まる若手たち


 いやぁ、二話で無理だと判断した魔術師達の狂騒曲、大幅な手直しをして第二ラウンドです。



 軸線を再調整した結果、ヘルキャット編からのスタートになります。そこはご了承ください。


 駒王学園二年生、兵藤一誠は転生悪魔である。

 

 機密事項だが既に死んでいる聖書の神が作り出した、神器(セイクリッド・ギア)と呼ばれる異能。その中でも最高峰に属する、神滅具(ロンギヌス)と呼ばれる桁違いのポテンシャルを秘めた力。そのうちの一つであり、ブリテンの赤き龍ドライグを封印した赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)に選ばれた少年である。

 

 紆余曲折あり、現四大魔王が一角であるルシファーを輩出した名門悪魔のグレモリー家が次期当主であるリアス・グレモリーの眷属悪魔になった彼は、色々と面倒ごとに巻き込まれる毎日を送っていた。

 

 自分が悪魔になる原因であった堕天使の後ろ暗い計画を阻止し、アーシア・アルジェントという少女を惚れさせる(無自覚)。

 

 主であるリアス・グレモリーの望まぬ結婚を阻止する為に、左腕を異形のそれに変えるという犠牲を払いながらも、婚約者ライザー・フェニックスを撃破して、婚約を白紙に戻してリアスを惚れさせる(これまた無自覚)。

 

 そして堕天使コカビエルによる、天使・教会勢力を含めた三つ巴の戦争再開の危機に、一丸となって立ち向かう。

 

 そして、三大勢力の事実上の和平会談を狙ったテロにも対抗する。それに前後した、リアスの眷属仲間である姫島朱乃とゼノヴィアを惚れさせた(くどいようだが無自覚)。

 

 それらの活躍を成し遂げたイッセーは、主であるリアスとその眷属悪魔である仲間達と共に、リアスの故郷である冥界へとやってきていた。

 

 リアス・グレモリー眷属は非常に来歴が特殊なメンバーだらけで構成されている。それはもう、どこぞのライトノベルの主人公かというレベルだ。

 

 そしてそれぞれがチェスの駒になぞらえて開発された悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の駒にあった役目を与えられており、それぞれが優秀な能力を持っている。

 

 サブリーダーとなる女王(クイーン)。堕天使と人間のハーフである姫島(ひめじま)朱乃(あけの)

 

 攻防に優れた戦車(ルーク)。ロリ体系だが怪力無双な塔城(とうじょう)小猫(こねこ)

 

 速度に優れた騎士(ナイト)。教会の非合法実験の生き残りにして、聖書の神の死によって発生した歪みによって特異極まりない聖魔剣の担い手である木場(きば)祐斗(ゆうと)

 

 そしてもう一人の騎士。教会の戦士だが聖書の神の死を知った事で、やけを起こして転生悪魔になった美少女。伝説の聖剣デュランダルの担い手であるゼノヴィア。

 

 魔力に優れた僧侶(ビショップ)。陽光に耐性のある吸血鬼の一種、デイライトウォーカーと人間のハーフ。更に人間の血を引くがゆえに高位の神器まで宿し、魔法すらいくつも使いこなす、通常の駒より能力の高い変異の駒(ミューテーション・ピース)に選ばれた引きこもり女装少年、ギャスパー・ヴラディ。

 

 もう一人の僧侶。教会にて癒しの聖女と呼ばれながらも、悪魔すら癒せて、しかも癒してしまったがゆえに教会を追放された薄幸のシスター、アーシア・アルジェント。

 

 そして、必要に応じてそれらの駒の特性を発揮できる兵士(ポーン)。来歴的には普通だが、神滅具に選ばれた兵藤一誠。

 

 何かしら規格外の素質を持った者達で構成されたリアス・グレモリー眷属。彼女達は、冥界で若手悪魔達の会合に参加する事になった。

 

「皆、今回の会合では喧嘩をしたりしたら駄目よ?」

 

 その会合場所のビルに入ってから、リアスはそう念押しする。

 

「今回の会合は魔王様達上役の方々も来るの。あまり変な事をすると、彼らからの心証が悪くなってしまうわ。それに、他の王達に舐められたくはないもの」

 

「そんなに凄い人達が来るんですか?」

 

 イッセーが首を傾げると、リアスは苦笑を浮かべる。

 

 イッセーは悪魔になるまで異形の世界に何の関わりもない一般人上がりだ。それも、悪魔になってからまだ半年も経っていない。

 

 だからだろう、この手の常識に疎いのは仕方のない事だった。

 

「確かにそうだね。今回の会合は特に凄い方々が集まっているからね」

 

 と、祐斗がそう言って苦笑する。

 

「……現魔王を輩出した家と、大王及び大公の次期当主が一堂に集います」

 

 小猫がそう言い、朱乃もまた頷いた。

 

「更にグレモリーと大王からは、分家出身ながら既にランキング上位と模擬レーティングゲームをして打倒した、優れた実力者が一人ずつ来るそうですわ」

 

 その言葉に、イッセーは内心で驚いた。

 

 レーティングゲームの実力者は相当の腕前だという事は分かる。少なくとも、今の自分達より遥かに凄腕だという事ぐらいは分かる。

 

 そんな実力者と模擬レーティングゲームをして勝利を掴んだ。それがどれだけ凄い事かは分からないが、凄い事だという事だけは分かる。

 

「凄まじいね。一体誰を倒したんだい?」

 

「有名な方を倒したんですか?」

 

 ゼノヴィアとアーシアがそう聞くと、ギャスパーが震えながら頷いた。

 

「バアルの方はタイトルを取った方ですけど、グレモリーの方は凄いんです」

 

 そして、それを引き継ぐ形でリアスが告げる。

 

「……レーティングゲーム、ランキング1位。皇帝(エンペラー)、ディハウザー・ベリアルよ」

 

 その言葉に、イッセーは面食らった。

 

「い、い、一位!? そんな凄い人を模擬戦で倒したんですか!?」

 

「ええ。それも試合ルールはライトニング・ファスト。短期決戦ゆえにタクティクスを持ち込む事が難しいルールで、魔王クラスであるディハウザー・ベリアルすら撃破(テイク)して勝利したそうよ」

 

 その言葉に、イッセーは愚か全員が面食らう。

 

 魔王クラスという事は、悪魔でも最強クラスの実力だという事だ。

 

 つまり、その眷属は最低でも総力をあげれば魔王すら打倒する事ができるという事だ。

 

 考えるだけでとんでもない。間違いなく、その眷属は規格外だ。

 

「……だから気を付けなさい。彼、トルメー・グレモリーはグレモリー家での影響力なら現ルシファーに選ばれたお兄様に匹敵する人物だわ」

 

 そう言いながら、リアスは扉を開け―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………殺していいかしら、殺していいかしら、イルマ」

 

「いやいやいやいや、イルマさん、別にそんな酷い事言ってないって」

 

 ……殺意を叩き付けられる緑髪の少女という、よく分からない光景を見る羽目になった。

 

 グレモリー眷属の誰もがぽかんとなった。当然だろう。

 

 揉め事を起こさないという前提で入ってきたら、既に揉め事が起こっていたのだから。

 

 見れば殺意をぶつけている側の眷属悪魔らしき人物は敵意を向けている者も多いが、叩き付けられている側の眷属らしき人達は呆れ顔の者達が多い。

 

「……シーグヴァイラ殿、すまないが殺すのだけはやめてほしい。死ななければフェニックスの涙で治療するから好きにしていいが」

 

「アイネス!? ちょ、それがイルマさんの女王(クイーン)の言葉!?」

 

 どうやら殺意を叩き付けれテイル側の女王らしい少女が、そう殺意を叩き付けている側のシーグヴァイラとか言う女性悪魔にそんな事まで言っている始末だ。

 

 イルマと呼ばれた緑髪の少女は涙目で抗議しているが、眷属達はスルーの体勢だった。

 

 というより、別々の場所にいる上級悪魔とその眷属に頭を下げている者達が多すぎる。

 

「すいません、俺達の馬鹿(キング)が失礼を」

 

「あ、徹底的に蔑んでええからな?」

 

「主が情けなさ過ぎて申し訳ありませんわ」

 

「「「「「「「「馬鹿が申し訳ありません」」」」」」」」

 

「全員マジで酷いんだけど!?」

 

 イルマと呼ばれた上級悪魔は本気でショックを受けている。

 

 なんというか、一体何をしでかしたのだろうか。

 

「……ん? ああ、リアスか」

 

「あら、サイラオーグ」

 

 と、近くにいた凄くがっしりとした体つきの男性悪魔がリアスにフランクに話しかける。

 

 我に返ったリアスもにこやかに挨拶をすると、イッセー達に振り返った。

 

「紹介するわ。彼は次期大王のサイラオーグ・バアル。私の従兄弟なの」

 

「あ、初めまして! 兵藤一誠です!!」

 

 イッセーの元気のいい返事に、サイラオーグは面白そうな表情を浮かべる。

 

「ああ、ライザー殿と戦って倒した兵士(ポーン)だな。あの戦いは中々見応えがあったぞ」

 

 そう言われて、イッセーは少し恐縮する。

 

 あの時はリアスを助ける事で頭がいっぱいだった。同じ事になったのなら同じぐらいの代償を払ってでも同じ事をする自身もある。後悔もない。

 

 だが、色々と貴族社会的に無理を通したのは事実。リアスの両親達も色々と苦労したらしい。

 

 だがサイラオーグはむしろ面白そうだった。

 

「ああいうのは好みだ。禁手(バランス・ブレイカー)を正式に至らせた時には、一度拳を交わしてみたいものだ」

 

「は、はい! 恐縮です!!」

 

「それでサイラオーグ、何があったの?」

 

 リアスが話を戻すと、サイラオーグは凄く複雑な表情になった。

 

「……シーグヴァイラが妙な事をして来たら、イルマが妙な乗っかり方をしてシーグヴァイラの逆鱗に触れたといったところか」

 

 どういう意味だろうかと思ったその瞬間、新たな声が補足説明をする。

 

「シーグヴァイラが日本のアニメである「ダンガム」を紹介したら、イルマが「コスチュームプレイの定番として大好きです」と乗っかって、シーグヴァイラがキレたのだ。シーグヴァイラも阿呆だがイルマの方が悪い」

 

 そう告げるのは、サイラオーグと同じ黒髪の男性だ。

 

 サイラオーグとは違い筋肉質ではなく、どちらかといえば貴族というイメージならこちらの方が近いだろう。

 

 そして、その雰囲気はどこか研究者的な印象をもたらしていた。

 

「久しぶりだなリアス・グレモリー殿。そして眷属の人達には名乗っておこうか。バアル分家次期当主、スメイガ・バアルだ」

 

 そう微笑を浮かべながら告げたスメイガは、その笑みを苦笑に変えながら肩をすくめる。

 

「因みにイルマは我が父であるブルノウ・バアルが後見人を務めているので、事実上の義理の妹にあたる。愚妹が馬鹿をやってすまない」

 

「スメイガ酷い! もうちょっとイルマさんに援護して頂戴な!!」

 

 その発言を、スメイガは綺麗にスルーする。

 

 なんというか、慣れている者特有の余裕と諦観があった。苦労しているらしい。

 

「イルマはグラシャラボラス家次期当主代理に選ばれたのだが、あのゼファードルと接戦になるぐらい問題になるレベルで淫乱女でな。趣味が人間界で中年男性をひっかける事だと豪語する辺り、貴族としてはアレなのが難点だ」

 

 そう断言したスメイガは、しかし不敵な表情を見せる。

 

「だが、眷属込みでならこの場でも有数の実力者だ。私達ならともかく、諸君らでも楽には勝てんぞ?」

 

 -その言葉に、誰もがピリピリした空気になった。

 

 これは明らかな挑発だ。イルマは実力があるという事を示し、そしてもう一つの裏がある。

 

 私達ならともかくと、スメイガは告げたのだ。

 

 それはすなわち、スメイガはイルマより強いという事。そしてこの場の者達ではイルマに楽に勝てないのにそんな事を言ったのは、自分達はこの場の誰よりも強いと告げたのだ。

 

「……言うわね」

 

「舐めてくれますね。本当に」

 

「ふふふ。まあ、実際にレーティングゲームをすれば話は変わるかな?」

 

「いい挑発だ。ああ、レーティングゲームで勝負する時が楽しみだ」

 

 リアスも、シーグヴァイラも、サイラオーグも、そして部屋にいるもう一人の上級悪魔も、その言葉に戦意をみなぎらせる。

 

「………何をやっているのですか、あなた達は」

 

 そう呆れ顔で、今度はソーナ達が入ってくる。

 

 ソーナ・シトリー。現レヴィアタンを輩出したシトリー家の次期当主。そしてリアスの友人でもある少女。

 

 イッセー達が通う駒王学園では、支取蒼那と名乗り、生徒会長を務めている才女でもある。

 

 その関係か、ソーナの眷属は全員駒王学園の生徒会で構成されているが、それは余談である。

 

「なあ兵藤、なんか妙な空気だけど、何があったんだよ?」

 

「あ、匙。……なんかマニアとエロい人が揉めてたって感じかな?」

 

 そのソーナの眷属である(さじ)元士郎(げんしろう)がイッセーに状況を尋ねたので、イッセーはとりあえず間違ってはいない事を応える。

 

 この匙元士郎。主であるソーナに惚れ込んでいる。ちなみに夢はソーナとできちゃった結婚をする剛の者だ。

 

 ハーレム王になる事を夢見て、当座の目標としてリアスの乳首を吸う事であるイッセーと意気投合しており、一種のライバル関係にもなっている。

 

 因みに匙の神器である黒い龍脈(アブソーション・ライン)は細分化された龍王ヴリトラの魂が封印されているらしい。余談である。

 

 そして弛緩した空気が部屋を包む中―

 

「……へぇ。中々賑やかな事になってるね」

 

 その言葉と共に、絶大な力を誰もが察知する。

 

 それは絶大。

 

 それは傑物。

 

 それは最強。

 

 それ以外に形容するべき言葉はなし。

 

 誰もが軍服のような制服を着こみ、そして仮面で顔を隠している。

 

 そんな眷属を率いて現れるは、赤い髪を伸ばした青年悪魔。

 

 彼は柔和な笑顔を浮かべながら、にこやかに挨拶する。

 

「……初めての方も多いね。私はグレモリー分家次期当主のトルメー・グレモリーだよ。よろしくね」

 

 彼は敵意を向けていない。プレッシャーも向けていない。

 

 だが、その瞬間に誰もが理解する。

 

 ……この場にいるどの眷属よりも、彼が率いる眷属が強いのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして場の空気が戻り、若手悪魔同士の集いが行われた。

 

「私はシーグヴァイラ・アガレス。大公アガレス家の次期当主です。……ダンガムを汚すものは如何なる手段をもってしても殺すので、変な暴走をしないでいただきたいですね」

 

「……イルマさんロックオンされてる!?」

 

 シーグヴァイラにジロリと睨みつけられたイルマは涙目になるが、誰もがスルーした。

 

 そして同じようにリアス、ソーナ、サイラオーグ、スメイガ、トルメーが名乗り、今度は一人会話に加わっていなかった少年悪魔が名乗る。

 

「ぼくはディオドラ・アスタロト。アスタロト家次期当主です。皆さんよろしく」

 

 一見すると優男だが、それでも純血の上級悪魔だ。相応の実力はあるのだろう。

 

 加えて言えばアスタロト家は、現ルシファーであるサーゼクス・ルシファーに匹敵する実力を持つ現ベルゼブブ、アジュカ・ベルゼブブを輩出した名家だ。相応の名門である。

 

 そして、問題の原因の一角である、緑髪の少女が会釈をする。

 

「どうも! 私はイルマ・グラシャラボラス! グラシャラボラス家の次期当主代理ってわけで、以後よろしく!!」

 

 非常に軽い挨拶だった。

 

 貴族の次期当主というよりかは、転校してきたギャル系女子高生といった雰囲気である。

 

 そしてイッセーは内心で首を傾げる。

 

 以前朱乃から聞いた話では、現魔王の弟妹は、フリーダムな現魔王の反動でまじめに育ったという話があった。だが、どう考えてもこのギャルっぷりは真面目とは程遠い人物である。

 

 正直気になったのだが、それを言葉にするのも失礼な話だ。

 

 なにせイッセーは下級悪魔。今この場で席に座っているイルマは上級悪魔の貴族である。

 

 そんな彼女に「全然真面目に見えないんですけど」なんて聞いたらもめ事確定なのぐらいはイッセーでも分かる。

 

 だが幸か不幸か、リアスが似たような疑問を浮かべていたらしい。

 

「……グラシャラボラス家とはあまり縁がないけど、次期当主は別の方だったはずだけれど―」

 

「それなんだが、お家騒動が起きたそうだ」

 

 サイラオーグがそう言うと、スメイガもまた頷く。

 

「本来の次期当主は事故で急逝されたのだ。そして代理としてゼファードル・グラシャラボラスが本家に近い血筋と能力で選ばれそうになったのだが、あの凶児が当主になれば我ら大王派の沽券に関わるのでな。父が面倒を見ていたイルマをぶつけて対抗馬とし、最終的にレーティングゲームでの勝敗の末に選ばれたという事だ」

 

「……まあ、ゼファードルよりはマシな人選だと思うけれど……」

 

 スメイガの言葉に、シーグヴァイラが複雑な表情を浮かべる。

 

 オタクとして断じて譲れない一線に踏み込んだイルマを、しかしまだマシな人選というほどの人物。どうやらゼファードルは生粋の問題児らしい。

 

 イッセー達が微妙に引き気味になっていると、部屋に使用人らしい悪魔が入ってくる。

 

「お待たせいたしました、皆様。魔王様方がお待ちでございます」

 

 ついに若手悪魔と悪魔世界の上役達の会合が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵藤一誠からすれば、これこそが大きな出会いだったのだろう。

 

 後に若手六王と称される、レーティングゲームの歴史を揺るがすほどの逸材揃いの若きエース達。その彼らの会合の場こそが、この場所なのだ。

 

 そして、イッセー達にとって短くも長い間因縁の相手となる存在。彼と初めて顔を合わせたのもこの場である。

 

 冥界最大の裏切り者。魔王派最大の汚点にして、禍の団最強の精鋭集団。

 

 トルメー・グレモリー眷属の全員を一度に見たのは、イッセーにとってこれが最初で最後なのだから。

 




オリ主タグはついているけど、いきなりイッセー視点なのは仕様です。

オリ主は事実上イルマ・グラシャラボラスですが、彼女はこの作品における主人公です。暗殺教室の殺せんせーとか、アカメが斬るのアカメみたいな感じで、そこに狂言回しとしてイッセーやオリキャラなど数名が出てくる感じですね。


さてさて、次回は本格的な若手悪魔と上役の会合です。こっからいきなり揉める予定ですので、皆さんお楽しみに!!


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2 序列12位の動乱

はい、プロローグの第二話です。

タイミング的には会合ですね。

さて、いきなり大波乱です。


 

 そして若手悪魔と上役悪魔たちとの会合が始まった。

 

 一行が通された謁見の場は、大学の講堂を思わせる、段が後方になるごとに高くなっている場所だった。

 

 一番高いところには、貴族服を着こんだ四大魔王が陣取っており、その下に、階級や立ち位置で区別されているのか何人もの丁寧な衣装が施された服に身を包む悪魔たちがいた。

 

 そして彼らに見下ろされるように、それぞれの眷属の王が前に出る形で並ぶことになる。

 

 そして全員が並んだところを見計らって、サーゼクス・ルシファーが軽く会釈をした。

 

「今日はよく集まってくれた。次世代を担う君たちが縁を結ぶことには意味があると思い、このような場を用意させてもらった」

 

「……まあ、さっそくひと悶着あったみたいだがな」

 

 そう苦笑する男性がいた。

 

 サーゼクスたちの二段下にいるその男性は、黒髪と紫の瞳をしている。

 

 それだけで、上級悪魔の王たちはバアル家のものだということを見抜けた、そうでなくても、サイラオーグやスメイガに似た雰囲気であることに気づいたものは多いだろう。

 

 そして、そのタイミングでイルマは視線をちらりとそらした。

 

 そしてそれを目ざとく見つけ、その男性は困り顔でイルマに視線を向ける。

 

「イルマ。欲望を司る悪魔が色事を楽しむなとは言わない。だが、TPOをわきまえることはしてほしいな」

 

「す、すいません。ブルノウ伯父様……」

 

 そう肩をすくめるイルマに苦笑しながら、ブルノウと呼ばれた男性は立ち上がるとサーゼクスに頭を下げる。

 

「姪が失礼いたしました、サーゼクス様」

 

「構わないよ。あの程度の口論ぐらい、若い時なら珍しくもないさ」

 

 そうサーゼクスは笑って流し、そして皆に視線を向ける。

 

「それはともかく、今前に出た八人は、いずれも家柄、実力ともに申し分ない次世代悪魔の未来を担うものたちだ。ゆえに、君たちには経験を積んで互いに競い合い、切磋琢磨していってほしい」

 

 そのサーゼクスの言葉に、サイラオーグが一歩前に出る。

 

「その経験というのは、いずれ我々も禍の団(カオス・ブリゲート)との戦いに投入されるということでよろしいでしょうか?」

 

 -禍の団(カオス・ブリゲート)

 

 無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)という、世界最強の存在を盟主として結成された、各勢力のはぐれものがあつまったテロ組織である。

 

 少なくとも、悪魔の内乱で追放された先代魔王の末裔とそのシンパが参加していることは確定で、そのうちの一人が、三大勢力の和平会談となった駒王会談に襲撃を仕掛けてきていた。

 

 更にその中には、神滅具の一つである白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)を保有する旧ルシファーの末裔という、何かの冗談かといいたくなるような存在までいる。

 

 ほかにも神滅具の保有者が数名いるとの報告もあり、その規模は下手な神話体系なら滅ぼしかねないほどだ。

 

 そしてサーゼクスの言葉から逆算すれば、最も経験を積むのなら禍の団との戦いもまた考えられるものだろう。

 

 だが、サイラオーグのその言葉にサーゼクスは首を横に振る。

 

「確かに最高峰の経験にはなるだろう。だが、それはできるだけ避けたいの言うのが私個人としての意思だ」

 

 その言葉に、サイラオーグは努めて隠そうとしていたが眉をしかめていた。

 

 納得できない。そう態度で示している。

 

「なぜです? 若いとはいえ我らは次期当主として責任があります。そもそもここまで育てていただいたご厚意を受けておきながら、何もしないというのは良心に反します」

 

 その言葉にサーゼクスは、苦笑しながらもしかし首を横に振る。

 

「その勇敢さは無謀と表裏一体だ。なにより成長途中の君たちを戦場で倒れさせるような未来は、冥界にとっての害になる。君たちは君たちが想像しているよりも尊い宝なのだ。より安全な成長をしてほしいというのが、私の本心だよ」

 

「……承知いたしました」

 

 明らかに納得できていない表情だが、しかしサイラオーグは引き下がる。

 

 それに苦笑しながらも、サーゼクスは話を切り替える。

 

「さて、それでは簡単な話をしよう。もちろん、できる限り長くならないようにさせてもらうよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてはっきり言って大半の者にとってつまらない話だが、重要性がそこそこある話をしてから、お開きとなる少し前だ。

 

「では最後に、君たちの夢や目標を聞かせてほしい」

 

 その言葉に、真っ先に動くものがいた。

 

 一歩前に出たサイラオーグは、胸を張り、堂々と、恥じることなく告げる。

 

「俺の夢は、魔王になることです」

 

 そう断言するその姿に、上役たちも感心するやら呆れるやらの表情を浮かべる。

 

「大王家から魔王か。なかなか前代未聞だな」

 

 その言葉にはどこか抵抗のようなものが感じられたが、しかしサイラオーグはさらに告げた。

 

「民が必要だと感じれば、そうなるでしょう」

 

 若手悪魔の中でも上位に位置する、大王家の第一位継承者、サイラオーグ・バアル。

 

 その男の言葉には説得力があり、思わず誰もが一瞬押し黙る。

 

 そして一歩下がったサイラオーグに続き、今度はリアスが前に出る。

 

「私はレーティングゲームでタイトルを取ることですね。最終的な目標としては、皇帝(エンペラー)すら下してレーティングゲームのナンバー1になりたいと思っております」

 

 リアス・グレモリーのレーティングゲームはお家騒動でやった一度だけだ。それも、その後イッセーが活躍したことで盛り返したが、ゲームそのものは敗北している。

 

 そのうえで、あえて告げるリアスの決意。イッセーたちグレモリー眷属は、心身を共に気合を入れなおした。

 

 そして次にソーナが一歩前に出る。

 

「私の目標は、冥界にレーティングゲームの学校を建てることです」

 

 学び舎の設立。

 

 イッセーたちから見ればこれまた立派な夢だと断言できるだろう。

 

 だが、同時に何名かが額に手を当ててため息を付いた。

 

 上役たちの何人かに至っては、怪訝な表情を隠そうともしない。

 

「レーティングゲームを教える教育機関は、既に存在しているはずだが?」

 

 お前は何を言っているのだ。そう言外に込め、その上役は尋ねる。

 

 それを真正面から見返しながら、ソーナははっきりと告げた。

 

「それは上級悪魔だけのものです。私が作りたいのは、下級中級がレーティングゲームを学べる学び舎です」

 

 その言葉に、上役たちは沈黙し―

 

『『『『『『『『『『はははははは!!』』』』』』』』』』

 

 嘲笑の合唱を響かせた。

 

「はっはっは。全く、ソーナ嬢、何を愚かなことを語っているのやら」

 

「全くだ。下級中級の選抜は、我ら上級悪魔が行ってこそ。無駄にどいつもこいつも育てるなど、金の無駄だろうに」

 

 明らかな嘲笑の言葉に、しかしソーナは表情を変えない。

 

 彼女にとってこれは想定の範囲内なのだ。そんなことは当たり前のこととして認識している。

 

 だが、それがわからないものは数多い。

 

「……なあ、今のなんでそんなに笑われなきゃいけないんだよ?」

 

 一応空気を読んでこそこそと祐斗に尋ねるイッセーだが、祐斗は静かに首を横に振る。

 

「これが現実だよ。グレモリー家のような情愛の深いものたちは数少ない。政治の実権を握っている者たちの多くは、自分たちを至高として下級中級を下等生物のように扱っているものたちだらけさ」

 

 その事実に、イッセーはかつての戦いを思い返す。

 

 かつて闘ったライザー・フェニックスは、明確にイッセーたち下級悪魔を見下していた。

 

 だが同時に、イッセーの情けない姿を見て「リアスに恥をかかせるな」という意味の忠告を残していった男でもある。それにその後との戦いでは明確に脅威と認定して本気で挑んできた。

 

 そのライザー・フェニックスをはるかに上回る醜悪な態度に、イッセーは頭痛すら感じる。

 

 そして、我慢しきれないものはもう一人。

 

「……こ、この……っ」

 

 ソーナの眷属悪魔である匙は、我慢できなかったのか一歩前に出る。

 

「なんでそこまで馬鹿にされなきゃ―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―切り裂け《Scalp》」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、匙は地面に倒れ伏す。

 

 匙は何が起こったのかわからなかったが、すぐに足元を見て、真っ青になった。

 

 まるでバターを日本刀で切り裂いたかのように、匙の両足は膝のあたりで切り裂かれていた。

 

「匙っ!?」

 

 その光景にシトリー眷属やグレモリー眷属はもちろん、いきなりの事態に上役たちすら目を見張っている。

 

 そして、そんな匙に対して冷徹な視線を向けながら、わざわざ近づいて見下すものが一人。

 

「愚か者が。私の家の名にまで傷がつくようなその愚行。仮にも高等教育を受けているものとは思えないな」

 

 そう冷徹に告げた女性悪魔は、イルマの眷属だった。

 

 女王を担当していたアイネスと呼ばれた少女は、しかしかがみこむと小瓶を取り出してその中身を傷口に振りかける。

 

「止血はしておいた。あとでグレモリーの僧侶(ビショップ)にでも治してもらえ。……適当に外に投げ飛ばしていろ」

 

 最後の言葉は匙に告げたものではない。

 

 いつの間にか少女の足元に広がっていた銀色の水たまり。それが触手のように動き出すと、匙の下に滑り込んで、そのまま風船のように膨らむ。

 

 そしてまるでトランポリンのように匙を部屋の外へとかちあげ―

 

「そこまでにしてもらおうか」

 

 -それをかすめ取ったサイラオーグが、即座にアーシア・アルジェントのもとに着地した。

 

「すぐに治してやれ。止血はされているようだが、それでも早くつないだ方がいい」

 

「は、はい!!」

 

 そしてアーシアが我に返って治療を開始するころには、その場にいたものたちも次々に我に返る。

 

「……ツヴェルフ・シトリー。……どういうつもりですか」

 

 絶対零度の視線が、ソーナから放たれる。

 

 当然といえば当然だろう。いま彼女は、目の前で眷属を傷つけられたのだ。

 

 そして、告げられた名前の通り、それをなした者の名はツヴェルフ・シトリー。シトリー家の分家出身の物である。

 

 本家の眷属に分家が害をなしたのだ。この時点でお家騒動が起きてもおかしくない。

 

 だがしかし、その時点ですでに動き出している者がいた。

 

「いや、過激ではあるが対応としては間違ったものでもないだろう」

 

「あーゴメン。ちょっとここはアイネスの味方しちゃうかなー」

 

 多少間が悪そうにしながらも、しかしスメイガおよびイルマが、眷属とともにソーナの視線をツヴェルフから遮る。

 

 一触即発といってもいい状況下に、ソーナに味方するものたちはそれに立ちふさがる。

 

「さすがに今のは見過ごせんな。それに、上役たちの対応にも思うところはあった」

 

「サイラオーグに一票。そもそも、彼は私の可愛い後輩でもあるのよ?」

 

 サイラオーグとリアスがソーナに並び立ち、そして激怒の視線を向ける。

 

 その視線を真正面から受け止めながら、ツヴェルフ・シトリーはしかし平然としていた。

 

「……偉大なる貴族たちに対して、まがい物の下級悪魔が舐めた口をきいたのだ。本来なら即座に首をはねるのが当然だろう」

 

 そして銀色の水たまりを操作して自らのもとに引き寄せると、一歩前にでる。

 

「……実に愚かなことをしたものだ。本家の跡取りがここまで愚者だったとは涙が出る。飼い犬ならぬ飼い蛇をしつけてやったのだ。礼を言ってもらえないか、次期当主殿?」

 

「……匙が分をわきまえなかったのは詫びましょう。ですが、それとこれとは話が別です」

 

「そ、そうなのよん!!」

 

 そしてセラフォルー・レヴィアタンが立ち上がり、激怒の視線を辺りにまき散らす。

 

「さっきから黙ってたらソーナちゃんのことおじ様たちがいじめてばかりで、挙句の果てにツヴェルフちゃんまでそんなこと! ちょっとレヴィアたんもぷんぷんなの―」

 

「セラフォルーさま。怒気をおしずめください」

 

 と、そこで声をかける者がいた。

 

 激怒する女性悪魔最強の存在。そんな死を覚悟しなければならないほどの存在に、しかし冷静に声をかけるもの。

 

 会談の最初の時にイルマをたしなめたブルノウが、立ち上がるとセラフォルーに毅然とした声をかける。

 

「此度の件、元をただせば下級転生悪魔の匙元士郎が狼藉を働いたことが要因。即座に治療できる怪我を負わせる程度の制裁で、魔王様まで動かれては困ります」

 

「……むー。ブルノウちゃんまでそんなこと言うの!?」

 

 一種の正論に若干押しとどまるが、セラフォルーの怒気はまだ冷めていない。

 

 だがブルノウは静かにそれをスルーすると、匙に対して視線を向ける。

 

「……たしか、匙元士郎くんだったね」

 

「へ? お、俺の名前……?」

 

 まさか上役にフルネームを覚えられているとは思わず、治療を受けている匙は戸惑う。

 

 だが、ブルノウは微笑を浮かべるだけだ。

 

「一応呼びだしたメンバーの名前と顔ぐらいは目を通しているよ。主を馬鹿にされて怒りを感じるのは忠臣の証。今回の件、確かに少々私たちの意地も悪かった」

 

 そう牽制球を上役たちに叩き込みながら、しかしブルノウは鋭い視線を匙に突きつける。

 

「だが民主主義である君の故国とはちがい、厳格な階級社会であるこの悪魔社会で先ほどのような真似はいただけない。場合によってはこの場で首をはねられても文句は言えないし、下僕の無礼は主の失態だ。あの行動は明確にソーナ・シトリーの害にしかならない。浅慮は慎みたまえ」

 

 そうしっかりとくぎを刺してから、ブルノウは席を立つとソーナの前に立つ。

 

 そして、背の高さを考慮して軽くかがみ、ソーナに目線を合わせながらブルノウはまっすぐに目を合わせた。

 

「ソーナ君。まずは君がそう思うようになった理由を聞かせてほしい。此処まで大ごとになったのなら、それ相応の筋を通さなければならないよ」

 

「……父上。いくら本家の次期当主が相手とはいえ、さすがに気を使いすぎでは?」

 

 スメイガがそう苦言を呈すが、ブルノウは静かに首を横に振った。

 

「いや、有益かどうかを判断するには材料が足りない。まずはそこを判断するための材料を知るべきだろうね」

 

 そのことばに、スメイガは一歩下がる。

 

 それを確認してから、ブルノウはソーナに改めて向き直った。

 

 そして、ソーナ・シトリーは決意を決める。

 

 ……どうやら、ここが一種の正念場だということだ。

 




 イルマの女王(クイーン)であるツヴェルフ・シトリー、愛称はアイネスで主武装は謎の流体金属。これだけで訓練された型月ファンなら彼女についてある一族を思い浮かべてくださることでしょう。

 いきなりすさまじい激戦が勃発しかけましたが、そこは新キャラブルノウによって仲裁され、しかしソーナが正念場に。

 ブルノウは大王派のできる重鎮としてのオリキャラで、スメイガの父親にしてイルマの伯父。二人の事情をよく知っている後援者でもあります。

 この三人とその眷属は派閥的には魔王派と対立していますが、イッセーたちと対立することはあっても不倶戴天の敵にはなりません。政治的な事情が絡まない場合では話の分かる大王派ともなるでしょう。アイネスに関しても、プロローグの範囲内できちんとフォローを入れる予定です。

 ……ですが、政治的な事情が絡んでいるときは敵対することも辞さないしたたかな人物でもあります。

 そんなブルノウに目を付けられたソーナの明日はどっちだ!?


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3 若き大王派筆頭、スメイガ・バアル

はい、ここからできる大王派の片鱗が見えてきます。


 

 そして、ソーナはまっすぐにブルノウの目を見返して告げる。

 

「……まず第一義として、そもそも我々は下級中級に対して不義理を働いています」

 

 その言葉に、ブルノウはわざとらしく考えこむ表情を浮かべた。

 

「ふむ、具体的には?」

 

「はい。レーティングゲームは誰もが平等に参加できる。これは魔王様がお決めになられたことです」

 

 そうはっきりと告げ、上役たちの多くは苦い顔になりながらちらりと四大魔王に視線を向ける。

 

 それを一瞥しながら、ブルノウはうなづいた。

 

「なるほど。だけどそれだけかな?」

 

「いえ、この際ですから全て言ってしまいましょう」

 

 腹をくくったのか、ソーナは一度呼吸を整えると、まっすぐにブルノウの目を見据えた。

 

 それを真正面からブルノウも受け止め、それを促しとしてソーナは続ける。

 

「私は人間界を勉強するにつれて、一つのことを確信しました。それは、家の格が低い平民であっても、しかるべき環境で学べば様々なことをなすことができるということです」

 

 これはソーナにとって推測ではなく確信でもなく、ただの事実である。

 

「私たち悪魔もまた、人間たちが開発した有用な技術を取り入れています。そしてそれら有用な技術を開発した人間の国の大半は、誰もが一定水準の教育を受けられる―すなわち義務教育制度の発達している国家です」

 

「なるほど、言いたいことはよくわかった」

 

 ブルノウはうなづくと、むしろ評価するかのように微笑を浮かべる。

 

「確かに、我々悪魔は血統で能力に大きく差は出るが、それはあくまで肉体強度や魔力量、そして魔力特性だ。しかしそれを理由にそれが関与しない学力や知能を鍛えることまで阻害している今の冥界の教育制度そのものを変えることこそが君の最終目標。レーティングゲームの学園は、その一環だね?」

 

「……慧眼、恐れ入ります」

 

 ソーナはブルノウを評価するほかない。

 

 一を聞いて十を知る。今の言葉だけで、ブルノウはソーナの言いたいことの多くを理解していた。

 

 しかし、同時に理解できないものがいることもまた事実だ。

 

「ソーナ殿。下級悪魔や転生悪魔は上級悪魔たる主に仕え、彼らに才能を見出されるのが常。そのような養成施設を作っては、伝統を誇りを重んじる旧家の顔をつぶすことになりますぞ?」

 

 実際問題、そういうものも確かに出てくる。

 

 特に大王派から出てくることは間違いなく予想できていた。

 

 血統にこだわる大王派が、血統による優遇政策を捨て去るなど嫌悪以外の何物でもないだろう。ソーナのような価値観そのものが蔑視の対象だといってもいい。

 

 だからこれはあくまで決意表明、宣戦布告として運用するもので―

 

「何をおっしゃいますか。むしろ我ら誇りを存続するためにも、ソーナ嬢の願いは尊重されてしかるべきです」

 

 ブルノウは、そう断言した。

 

 そして反論が出てくるよりも早く、しっかりと声を出す。

 

「領民達の農業技術や工業技術の上昇は、必然的に領地の発展につながります。そして発展した領地の持ち主は発言力が向上することも確定的に明らかです。それに、人間たちの世界では国家として機能していない落第点な国を「失敗国家」と呼んでいますが、その手の国家はたいていの場合、教職に給料をろくに払えていない―すなわち教育制度が杜撰なことが多いとか」

 

 その言葉に、むしろソーナが目を見開く。

 

 失敗国家という概念は、ソーナも知ってはいる。だが、その条件となる物についてまで冥界の貴族が知っているとは思っていなかった。

 

 その驚愕を知ってか知らずか、ブルノウは演説をするかのように言葉をつらつらと述べていく。

 

「そも、この場の多くの方々からしてみれば、他種族からの転生悪魔などという()()()物を貴族にしてまで取り入れることに不快感を抱く方々は多いでしょう」

 

 それをこの状況下で発言するのは、すさまじい度胸だっただろう。

 

 なにせ、この場の若手悪魔の眷属には数多くの他種族からの転生悪魔がいる。

 

 それどころか現四大魔王の眷属の中にもいる。というより、女王以外は全員他種族で構成されている。

 

 一歩間違えれば魔王に喧嘩を売る所業。

 

 だがしかし、ブルノウはあえて全方位に発言することで、それをカバーする。

 

 その言葉にむしろ納得顔や同意を見せるものたちが多くいたのだ。

 

「確かにその通りだ。使い捨ての手駒の予定が、最上級悪魔の座にすらつく手合いが何人も出てくるのは、正直不愉快だな」

 

「和平もなったことで死地に送り込むのも難しい。ならこれ以上増やさぬ努力は必須か……」

 

「そこまで考えてのことだったのか。失礼したソーナ嬢。セラフォルー様も、そういうことならもっと早く教えていただきたかったですぞ」

 

 納得し、評価し、賛同するものたちが何人も出てくる。それはいいことかもしれない。

 

 だがしかし、その対応にセラフォルー達四大魔王は複雑な表情を浮かべる。ソーナもだ。

 

 ソーナに転生悪魔を貶める意図はない。むしろ人間で構成されている自分の眷属のことは、大事に思っている。セラフォルー達も他種族からの転生悪魔を差別する気はないだろう。

 

 だが上役たちは差別意識に凝り固まり、それに理解を示していたと勝手に喜んでいる。実に不快だ。

 

 しかし、ブルノウはあえてスルーして話を進めてきた。

 

「それらをどうにかするためには、正しく悪魔である者たちが切磋琢磨し隠された素質を見つけ伸ばせる環境を作ることは必要不可欠。……そして、彼らに向上意欲を持たせるためにもそれなりの餌を用意するべきではあります」

 

 何かが違う。

 

 何か、自分たちの願いとは全く異なる方向に向かって話が進んでいる。

 

 そう感じたソーナだが、しかしすでに話の中心にいるのはソーナではなかった。

 

「……確かに魔王様が公言した内容に嘘偽りがあっては、平民たちの勤労意欲が削られてしまうかもしれません。とはいえ現在の法制度ではどうしてもこのままでは難しいことが多い。誰かが対案を考える必要が―」

 

「……では父上、このような手法はどうでしょうか?」

 

 と、そこでブルノウの言葉をさえぎり、スメイガが一歩前に出る。

 

 そこには、不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「実は私もレーティングゲームに連なる夢があります。というより、大改革を行うことを夢の一つとしておりました」

 

「……ふむ、なにかね?」

 

 上役の一人が促すと、スメイガは指を鳴らす。

 

 そして日本人らしき眷属悪魔が、一瞬その姿を消した。

 

 そして次の瞬間に、リアス達も含めた上級悪魔たちの目の前に、紙の束がおかれている。

 

 その紙の束は資料であり、その一番上には大きく書かれていた。

 

―レーティングゲーム下部リーグ構想

 

 その文字に興味深い表情を浮かべる悪魔たちに、スメイガが告げる。

 

「ソーナ嬢が言った通り、魔王様はレーティングゲームを平等にすると宣言しております。しかし現在のところ、レーティングゲームは貴族だけが独占している状況。これは今後において危険因子があるでしょう」

 

 スメイガはそういうと、静かに首を振る。

 

「三大勢力で和平を結び、更に各神話とも和議を結ばんと動いている状況下。しかし、それは同時にこれまでとは全く異なるマウントの取り合いが行われることになるでしょう」

 

 スメイガの言葉に、誰もが一瞬首をかしげる。

 

 そして、スメイガはその疑問を多くのものたちが浮かべるのを見計らってから、はっきりと告げた。

 

「我ら悪魔側の利点になる形でいうのなら、これまで他勢力が独占していた異能保有者や種族を転生悪魔にスカウトするチャンスができます。アースガルズのヴァルキリーや、オリュンポスの死神などですね」

 

 そう、各勢力には各勢力で独自の戦力がいる。

 

 悪魔でいうなら転生悪魔だ。そう言った独自戦力を保有する勢力など、それこそ腐るほどいるだろう。

 

 そして、転生悪魔は他種族から転生させることもできる。このメリットは、ある意味で莫大だ。

 

 他種族が貴族の領域を侵すことに抵抗のある上役たちも、戦力としてのヴァルキリーや死神の価値は理解できている。うまく飼い殺しができるのならそれに越したことはないと思うだろう。

 

 それに対してよだれが出てきそうになるタイミングで、しかしスメイガは火種を透過する。

 

「ですが、たいていの物事にはデメリットがあります。……具体的には、他の神話体系の文化や価値観が流れ込み、民草を惑わす可能性があることです」

 

 その言葉に、誰もが一瞬息をのんだ。

 

 デメリットがある。この発言は、和平を望み主導した魔王たちに対して一種の批判的意見となるだろう。

 

 だが、それをあえて踏み込むようにスメイガは告げる。

 

「……最悪の場合、和平による文化交流を隠れ蓑に思想を誘導、民草を暴走を誘導し、彼ら自身に神話勢力側に支配されることを望ませることで侵略の大義名分を得る。そういうことも想定しなければならないのが、現状です」

 

「待ちたまえ」

 

 サーゼクスはそれに待ったをかける。

 

 その目には明確な叱責の意志があった。

 

「それは邪推しすぎだろう。確かに可能性が全くないかと言われれば否定しきれないが、下手にそんなことをすれば、将来的に禍根を生む可能性もある。神々ともあろうものがそんな愚行をするとは―」

 

「失敗国家」

 

 サーゼクスの言葉を、今度はトルメーが遮った。

 

 魔王クラスの力を持つ、レーティングゲーム最強の皇帝(エンペラー)。そのディハウザー・ベリアルを打ち破った者の言葉に、誰もが意識を向ける。

 

 その視線を平然と受け止めながら、トルメーは苦笑を浮かべていた。

 

「人間の国家の話ですが、トップが必ずしも賢者などということはない、むしろ強大な力が権力に直結しやすい我ら異形の世界だからこそ、浅薄な考えしか持たない愚か者が盟主となる勢力がいる可能性は考慮するべきではないですか?」

 

「……ふむ、望外の援護、感謝する」

 

 そう軽く礼を言ったスメイガは、すぐに話を戻した。

 

「まあ邪推の極みなのは自覚しておりますが、しかし謀略というものは何かあることを前提として動くべきもの。ことが起こってからでは遅いですし、最悪の事態を想定して対策は取っておくべきでしょう」

 

 その言葉に、サーゼクスたちも正論ゆえに反論をやめる。

 

 そして、大王派の貴族と思しき初老の男がさらに話を勧めようとした。

 

「そして、それがレーティングゲームの下部リーグだと?」

 

「はい、詳しいことはまず資料を軽く読んでいただきたい」

 

 その資料には、いくつかのルール構成が書かれていた。

 

 現段階の冥界の技術ならば、事前にフィールドを準備すれば疑似的に悪魔の駒の特性を付与させることは可能。それこそ純粋な悪魔であろうと転生悪魔であろうと、他種族であろうと可能であることがまず各種資料とともに明言されていた。

 

 そのうえで、そのシステムが明言される。

 

 この下部リーグを人間界のスポーツで例えるなら、いわゆる草野球の類だろう。

 

 眷属悪魔と同様にリーダーとなる王を中心に女王・戦車・騎士・僧侶・兵士の役目を果たすものを用意する必要はあるが、一定人数を保有しているのならば下級悪魔が王になってもいい。

 

 特殊ルールなどを運用するために費用を用意させることが明言されているが、それさえできれば文字通り誰でも参加可能。

 

 そのための運営資金は融資による寄付で賄うことになっているが、すでに何人かの貴族がある程度の融資をしてもいいという署名をしていた。

 

「人間界のスポーツ競技におけるプロのリーグとは異なる、いわゆるセミプロの大会などを参考にいたしました。まあリタイアなどの金のかかるシステムは基本的に使用しないので本格的な戦闘にはなりません。そうですねぇ、そういう意味ではサバイバルゲームが一番近いかもしれません」

 

「さばいばるげーむ? どういったものなのかね?」

 

 興味を示した上役たちにスメイガが説明する中、ソーナは寒気を感じていた。

 

 教育機関制度の発達の重要性を認識し、ごっこ遊びにかなり近い形だが、文字通り下級中級でも参加できるレーティングゲームが公式に認められる。これはいいことではある。

 

 だが、その主導権は明確にブルノウとスメイガに奪われている。

 

 そして何より、何か根本的なものが違う。

 

 ただ民の為の想い、その為の理想を語った自分達と、彼らは明確に違う。

 

 理想を語るのではなく、現状の危険性を語る事で上役達の気を引いた二人が主導権を握っている。これは結果的に下級中級の悪魔達により良い未来を与える事ができるのなら構わない。

 

 だが、その根本にあるものが違う。

 

 そう、設計思想というべき根幹の方向性が異なっているのだ。

 

「……民主主義という人間界の政治体制を揶揄する言葉にパンとサーカスというものがあります」

 

 スメイガは、上役達にそう告げる。

 

「これは自分達に利益さえあれば愚民達はどんな人物にでもしっぽを振る事を揶揄したものだと捉えていますが、実際大半の民草に崇高な理想や誇りを理解しろとなどというのも無理な話でしょう」

 

 スメイガは、はっきりとそう断言する。

 

「残酷な事に知的生命体の多くは俗物です。理想や大義の為に生きていない以上、他勢力が自分達に利益があると思えば、もろ手を挙げて我らに害なす者達を歓迎します。そうならない為にも一定の餌や娯楽、そしてガス抜きは必要かと」

 

「……確かにその通りだが、それで我ら貴族の中に平民共に後れを取るものが出てきたら、どうするのかね?」

 

 その懸念に、スメイガは平然と答える。

 

「決まっています。そのような貴族の資格なき恥さらしなど追放すればよろしい」

 

 その言葉に、一瞬空気が凍り付いた。

 

 そしてそれをあえて無視し、スメイガは断言する。

 

「そも貴族を名乗るのであるならば、平民より上であるべき貴族として相応しい資質を見せるのが義務でしょう。下級中級より優れているからこその上級であり、翻せば下級中級に後れをとらえるのなら、それは貴族の資格なき者達だ」

 

 そう言い放ったスメイガは。はっきりと言い切った。

 

「貴族とは、血統とはブランドです。ブランドとはそれに見合った規格を維持しているからこそ価値があるのです」

 

 そして、スメイガは澄み切った眼を向けてこう言った。

 

「少なくとも、貴族足らんとする気概のないロクデナシに名門の名を与えたままにするのは良くない事かと」

 

「……ふむ、では一つ聞こう」

 

 そこに、サイラオーグが割って入る。

 

 その目には警戒と感心の二種類の色がある。

 

「この場にいる者の大半は知っていると思うが、俺は消滅の魔力を司るバアルの出でありながら、特性どころか魔力すら欠片も持っていない」

 

 なんてことの内容に告げたサイラオーグは、しかし鋭い視線をスメイガに向ける。

 

「……そんな俺を、お前の望む貴族の在り方はどう判断する?」

 

「ふむ」

 

 そう頷き、スメイガは考えこむ姿勢を見せる。

 

 そして数秒待ってから、まっすぐにサイラオーグの視線を見返した。

 

「確かに悪魔として欠陥品ではあるが、しかしそれに甘んじることなく一級の武人になったのは褒められる事だろう。少なくとも、バアルというだけで大した成果も出せない者よりは心構えは大王の家に相応しいと思うな」

 

 その言葉に嘘偽りはない。

 

 心の底から評価している。まず間違いなくサイラオーグは傑物の類であり、優れた武人であり、バアルとしての誇りに見合うものを得ていると発言した。

 

 そして、そのまままっすぐ彼の見据える。

 

 そして、はっきりと告げた。

 

「だが当主としては不適格だろう。もっと他に適任がいると思うな、私は」

 

 まっすぐに、そう言い切った。

 

 侮蔑ではない。悪意もない。見下しているわけでも断じてない。

 

 サイラオーグ・バアルという男が傑物だと断言したうえで、しかし大王バアルの跡取りとなるには不適格だと断言した。

 

 そして、それに対してサイラオーグも眉一つ動かさない。

 

 この場にいる者達には知らない者も多いが、サイラオーグは蔑まれ続けてきた人物だ。

 

 その彼からすれば、バアル当主として不適格と断じながらも、同時にその努力と成果を心から認めたスメイガにはむしろ好感が持てる。

 

 そして、だからこそあえて聞きたい。

 

「では、マグダランか?」

 

「いや、そこまでは言わんよ」

 

 意外にも、スメイガはそう言い切った。

 

 苦笑を浮かべ、スメイガは肩をすくめる。

 

「マグダラン殿は確かにバアルの力を宿しているが、悪魔としては凡庸だ。植物学への造詣は深いが、バアルというブランドの中核に似合った能力があるかどうか……という意味では少々な」

 

「なるほど、つまりこう言いたいのか。……いっそのことお前がバアルの当主の座を奪う、と」

 

 そのサイラオーグの発言に、その場の者達がざわついた。

 

 スメイガはレーティングゲームのタイトルホルダーすら撃破した逸材だ。消滅の魔力もきちんと持っている。更に先見の明を持ち、今後の和平の先を見越したプランまで提示してきた傑物だろう。

 

 だが、分家筋であるスメイガがバアルの次期当主の座をとるのは、もはやお家騒動の領域だ。

 

 一部の大王派から殺意すら叩き付けられる中、スメイガは静かに首を振る。

 

「まさか。私は私で色々とやるべき事もやりたい事もある。バアルの当主までこなせるほどの素質があるとは思っていないさ」

 

 その言葉に、大王派達は殺意を収め―

 

「……だが本家としての責務を果たせぬのなら、優秀な分家にこそバアルの未来を譲るべきではある。無能を長としては大王の血族の沽券に係わるしな」

 

 ―続く返答で一気に青ざめた。

 

 つまり、スメイガはこう言ったのだ。

 

 自分は継ぐ気はないが、現当主の血筋はバアルを率いるには不適格だと。

 

 そうはっきりと言い切ったその言葉に、サイラオーグは思わず苦笑いを浮かべた。

 

「……お前も意外と不器用だな」

 

「失礼な。腹芸や政治力がなければ立ち回れん人生を送っていると自負しているぞ?」

 

 不服そうにそう返答するスメイガ。

 

 そして、それは意外と当たっているらしい。

 

 サイラオーグは少し見渡してみれば、確実に大王派と断言できる家の者達の中でも、殺気に近い視線を向けているのはそう多くない。

 

 褒めるような表情を浮かべている重鎮も相応数いる。それも、バアルの家の者にもいる始末だ。

 

 父親であるブルノウに至っては、重鎮達が見えないのを良い事に笑っている。それも失笑でも嘲笑でもなく、本心から楽しんでいる。

 

 しっかり後援者の確保はしていたらしい。この会合の為の下準備は万全なようだ。

 

「なるほど、少なくともアドリブと根回しは俺よりできるようだ」

 

「まあな。領地を持つ貴族ともなれば、政治家としての素質は必須だろう?」

 

 この瞬間、サイラオーグとスメイガはお互いを認め合った。

 

 相容れないところはある。レーティングゲームでぶつかれば容赦はしない。政治的に対立する事も何度もあるだろう。

 

 だがしかし、少なくとも大言壮語するだけの能力と覚悟がある。

 

「お前とは長い付き合いになりそうだ」

 

「まあ、同じバアルの若手同士だ。それこそ数千年は顔を合わせるだろうな」

 

 好敵手と認め合った男同士の、友情のようでそうでないよく分からない関係が生まれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ? ソーナ会長の夢の件は?」

 

「っていうか、俺の心配が完全に忘れ去られてるんだけど……」

 

「お二人とも。この場で大きな声は出さない方がよろしいかと」

 

 完全に置いてけぼりにされたイッセーと匙が寂しげにしている中、治療の手伝いをしていたシーグヴァイラの女王がそう助言した。

 

 ちなみにこの三人、全員ドラゴンに縁のある者達である。妙な縁が生まれていた。

 




スメイガ「ぶっちゃけ、今のバアル本流ってバアルの悪魔としてはどうよ?(意訳)」

本来は別の流れで提案するつもりだったレーティングゲーム下部リーグ。ソーナが近しことをしかし馬鹿正直に宣言したので、その辺の流れを自分に引き寄せました。

まじめな話、腹芸という一点においては若手悪魔でもぶっ飛んでいるのがスメイガです。これには理由がありますが、まあタグをよく見てくださる方々ならすぐにわかるかと……。


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4 若手六王(一人除く)の集い

因みにマイナスされたのはマニアです。


 

 そして会合が終わった後に、ブルノウは一つの提案を若手眷属達にした。

 

 色々と親族が揉め事を起こして騒がしくなったお詫びとして、近くのレストランで飲み放題食べ放題を楽しんでくれと言ったのだ。

 

 リアスもソーナもそれに参加する事を決定したが、しかし表情には警戒の色もある。

 

「どうしたんですか、部長?」

 

「会長も、お詫びをきちんとしてくれる良い貴族様っぽいですけど?」

 

 イッセーと匙はそう不思議がり、大抵の眷属達も程度はともかく気前の良さには感心していた。

 

 だが、ソーナは額に指を当てると息を吐く。

 

「……バイキング形式とはいえ、大都市の中心部にあるレストランをいきなり貸し切りにするなんて横暴をする手合いではありませんよ、スメイガ・バアルというお方は」

 

 ソーナがそう言うと、リアスも腑に落ちたのか納得の表情を浮かべる。

 

 ソーナとは違い、リアスは違和感を覚えていた程度だったのだろう。この辺り、ソーナの方が謀略に向いているという事か。

 

 しかし違和感を感じているだけでも十分素質はあるだろう。むしろリアスの気質から言って、無理に謀略に頭を回すぐらいならそれに長けた味方と連携をとる方が有効ではある。リアスはむしろ前線で味方を鼓舞する方が向いている気質なのだから。

 

 そういう意味ではこの幼馴染、実に相性がいい。

 

「どちらにしても私達を招待する準備はしていたというわけね。でもツヴェルフやイルマが迷惑をかけたから、それを理由としてでっち上げた……と」

 

 リアスの推測にソーナは頷いた。

 

 そして、警戒の表情を浮かべながら皆を見渡す。

 

「何かあると考えていいでしょう。会合での姿から見て卑劣な事はしないでしょうが、皆気を付けてくださいね」

 

『『『『『『『『『『はい!』』』』』』』』』』

 

 そしてレストランに入り―

 

「イルマさまー。もう食べていいですかー!」

 

「お・す・し! お・す・し!」

 

「スメイガ様、とりあえず生頼んで時間潰させてください」

 

「君達ー!? まだゲスト来てないからねー!?」

 

 ……イルマとスメイガの兵士(ポーン)が凄まじくだらしない態度で二人に食事開始を要請していた。

 

 因みにイルマは大声を上げて制している。

 

『『『『『『『『『『………』』』』』』』』』』

 

 ………なんだこいつら。

 

 そもそも若手悪魔同士で挨拶した時から気にはなっていた。

 

 なんというか、全員が兄弟姉妹かというぐらい似通っている。合計16人いるイルマとスメイガの兵士達が、全員似通っているのだ。

 

 全体的に色素が薄め。しかもどこか人工物めいた美しさを持っている。この世界がもう少しSFじみていたら、デザイナーズチルドレンかと思いたくなるほどだ。

 

 だが、このざっくばらんな態度は違うだろう。普通に考えて、そんな事を考えて作るのならもっと忠実になるように作る。

 

「……何してんですか、一体」

 

 代表してイッセーからツッコミが入ると同時、後ろから声が届く。

 

「スマン遅れた。……ん? もう始まっているのか?」

 

 サイラオーグがそう尋ねると、スメイガは視線を少し逸らした。

 

 流石に気恥ずかしいらしい。

 

「……すまん。TPOは弁えてくれるのだが、どうやら君達相手なら無礼講でも問題ないと判断したらしい。こうなると本当に態度が雑なんだ」

 

 ……リアスもソーナもサイラオーグも、静かにイルマとスメイガの肩に手を置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、立食形式のちょっとした食事会が起き始める。

 

『『『『『『『『『『いっき! いっき! いっき! いっき!!』』』』』』』』』』

 

「こらー! 一気飲みは危険だから禁止ー! イルマさん怒るよー!!」

 

 既にイルマとスメイガの兵士達は無礼講である。イルマが止めに回っている展開だった。

 

 そしてそんな中、イッセーと匙は適当に食べ物を物色しようとして―

 

「む、匙元士郎だったな」

 

 そこに、ツヴェルフ・シトリーが目ざとく見つけて近づいてくる。

 

 イッセーも匙も思わず身構えたのは悪くない。

 

 いくら上役に身分を弁えない事をしたとはいえ、いきなり両足を切断してくるような物騒な女である。

 

 挙句の果てにシトリー家の分家でありながら、本家の跡取りであるソーナまでディスっている。警戒心が出てくる事も当然だろう。

 

「な、なんですか……?」

 

「いちいち身構えるな。こういう場で流血沙汰を積極的に起こす趣味はない」

 

 警戒心丸出しの匙にそう答え、ツヴェルフは一枚の紙を取り出す。

 

 そしてそれを渡すように突き出し、匙は何となく受け取った。

 

 イッセーが覗くと、そこには悪魔文字で何か書かれていた。

 

 ……ちなみにイッセーは悪魔文字はまだ完全には習得できていないが、単語の一つは分かった。

 

「……病院?」

 

「イルマやスメイガがある理由で協力体制をとっている病院だ。四肢の切断などの治療においてはシトリー領の病院に匹敵する。念の為、明日にでも足を見てもらっておけ、連絡は入れてある」

 

 そう告げると、近くにあったクラッカーに乗せられたキャビアを食べ、そして呆れ顔を見せる。

 

「まったく。あの場で私が派手に制裁したから上役もそれで完全に終わらせたが、そうでなければソーナ様の今後に対する悪影響が懸念されたぞ。切断はやりすぎかもしれんが、あれぐらいのインパクトがなければ後々追及されていた可能性があるのだから、今後は発言には気を付けろ」

 

 その言葉は結構辛らつだが、真剣にソーナに対する気遣いが感じられるものだった。

 

 意外な反応に、イッセーは匙と顔を見合わせる。

 

 そして、この態度なら質問してもいいかと思って、イッセーは切り出した。

 

「あの、ツヴェルフさんは……下級悪魔を見下してないんです……か?」

 

「勘違いするな。私は前世の頃から名門貴族だ。平民より上の立場だし、そうあるべく鍛錬と研鑽を欠かした事はない」

 

 凄い事を言った。

 

 これはあれだろうか、中二病なのだろうか。

 

 二人が可哀想なモノを見る目を向けそうになるのを堪える中、ツヴェルフはそのまま告げる。

 

「だが、貴族は一族の衰退する可能性も視野に入れ、より良き血を取り入れたり、一門の発展の為に素質のある者を見つけ出す義務がある。ソーナ嬢が見出した駒価値四にして、ヴリトラの残滓を宿す者には一定の評価を下すとも」

 

 そう告げ、ツヴェルフは肩をすくめる。

 

「とはいえそれが間抜けな事をしたのだ。首をはねられなかっただけマシとは言ったが、上役達は場合によっては本当にそうした可能性だってある。そうなれば、ソーナ嬢は勿論、セラフォルー様の今後にも響く恐れがあったのだぞ」

 

 実際その可能性はあっただろう。

 

 匙が盛大に制裁を受け、更に話が完全に切り替わったからこそ、問題にならなかったのだ。

 

 スメイガの言葉を受けるまで、ソーナを馬鹿にすらした連中である。もしかしたら本当にソーナにペナルティが掛けられていた可能性もある。間接的にセラフォルーに悪影響もあるかもしれない。

 

 今更ながらにその可能性に思い至って、二人はゾッとする。

 

 その二人に憐憫の視線を向けながら、ツヴェルフはため息を付く。

 

「四民平等の民主主義国家出身では分かり辛いのは認めるが、いささか迂闊だ。ひと月ほど後に若手悪魔を祝うパーティに参加する事になるだろうから、その手の知識をそれまでに頭に叩き込んでおけ。本家の者に頼めば、最低限の知識は教えてくれるだろう」

 

「あ、はい。アドバイスありがとうござます……」

 

 匙も素直に頭を下げるが、しかし少しだけ歯切れが悪い。

 

 それに対して、ツヴェルフは怪訝な表情を浮かべた。

 

「どうした? 今は半ば無礼講だから、言いたい事があるなら聞くが?」

 

 その言葉に、匙が何か言うよりも早くイッセーが先に聞く。

 

 聞きたい事は多分同じだ。そして、足を切られた匙よりも自分の方がまだ気安く聞ける。

 

「あの、ツヴェルフさんは大王派みたいですけど……会長のことお嫌いじゃないんですか?」

 

 その言葉に、ツヴェルフは苦笑した。

 

「……派閥としては合わないが、私人としては敬意に値する。少なくともイルマよりはよっぽど立派な上級悪魔だとも」

 

「アイネスー!? 聞こえてるんだけどー!?」

 

 イルマからツッコミが入ったが、しかしツヴェルフはスルーする。

 

 そしてジュースを一口飲むと、匙とイッセーの肩に手を置いた。

 

「今後政治の場では対立する事もあるだろう。だが、私としてはソーナ嬢のような高潔な好敵手こそ、スメイガやイルマの政敵に相応しいと思っている。欲の皮が突っ張った家柄だけの馬鹿などより、何百倍も張り合いがいも勝ちがいも負けがいもある相手だ」

 

 そう告げると、ツヴェルフは背を向けてイルマやスメイガの眷属達のところへと向かっていく。

 

 しかしその前に一歩止まると、不敵な笑みを浮かべながら振り返った。

 

「……貴族の目を気にしなくていい所ではアイネスと呼んでくれ。それが魂の名だし、ツヴェルフという名は気に入らんのだ」

 

 そして、今度こそツヴェルフ―アイネスは去っていった。

 

 その背中を見ながら、匙はぽつりと呟く。

 

「……嫌な人かと思ったけど、結構立派な貴族さんだったんだな」

 

「ああ、会合の時の上役より何倍も良い人だな」

 

 イッセーも考える。

 

 あの時速攻で凄まじい斬撃を繰り出した時は、正直怒りの感情も覚えた。

 

 だが、切れ味が鋭い方が治療が楽だという話をどこかの漫画で読んだ気がする。

 

 あの時あれだけ凄まじい攻撃をして匙を切り裂いたのは、派手に制裁するだけでなく、匙に後遺症が残らないようにする配慮だったのかもしれない。

 

 偉そうな人ではあるが、そこにはしっかりとした気遣いがある人だ。ノブレス何とかという言葉は、きっと彼女のような人の為にあるのだろう。

 

 こっちを見下して来るばかりの上役じゃない。礼節をきちんと弁えた人なのではないかと、イッセーは思った。

 

「……でも中二病だよなぁ」

 

「中二病だよなぁ」

 

 前世とか魂の名前とか、正直痛々しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、リアス達上級悪魔は上級悪魔で集まっていた。

 

 眷属達を気楽に食事させるためにも、そちらの方が都合がいいと判断した者が多いのだ。その辺、意外と似た者同士なのかとリアスは考える。

 

 イルマとスメイガには敵意すら感じたりした。ツヴェルフが匙に近づいた時は、ソーナが珍しく声を荒げそうになった。

 

 だが、それをイルマが止める。

 

「大丈夫大丈夫。アイネスは基本ベクトル偉そうだけど、ねちねち厭味ったらしい事はしないから」

 

「ああ、おそらく切断した足の処置の為に医者を紹介しに行ったのだろう。さっき病院に連絡していたしな」

 

 そうスメイガも続けたので、ソーナ達は若干呆気にとられたものだ。

 

 どうやら、あの割と凄惨な制裁は上役の不満を解消する為の気づかいだったらしい。

 

 できればもっと穏便な方法をとってほしかったが、まあ派手ゆえに上役もねちねちとした嫌がらせはしてこないだろう。

 

 大王派を公言する者達には魔王派として思うところがあるが、リアスは話の分かる相手の類と彼女達を認識する。

 

 なので、話を進める事にした。

 

「……それで? 呼ばれたのは若手悪魔達全員でしょう? なんで私達だけなの?」

 

 ここにいるのはホスト側であるスメイガとイルマだ。ゲストとして来ているのは、リアスにソーナにサイラオーグだけである。

 

 アスタロトのディオドラやアガレスのシーグヴァイラ、そしてグレモリー分家のトルメーの姿が見えなかったのはどこか気になった。

 

 それに対して、スメイガは肩をすくめる。

 

「三人揃って断られたよ」

 

「シーグヴァイラは絶対に外せない用事があるんだってさ。なんでも会合の所為で時間がギリギリで、ライトアップまで間に合うか自信ないとか言ってたけど、なんだろ?」

 

 イルマがそう首を捻るが、しかしリアスには心当たりがあった。

 

 会合の場でいきなり発生した揉め事。イルマのエロい意味でのコスプレ発言にキレたシーグヴァイラの態度から、ある程度の予想はつく。

 

 彼女はオタクだ。それも、ダンガムという事はロボット関係のオタクだろう。しかも相当熱意があるタイプと見た。

 

 そしてリアスが担当している日本は、ダンガム発祥の地である。

 

 なので、ダンガムのイベントだってちょくちょく行われているのだ。

 

「……たぶん、有明ね」

 

「ああ、テレビで「1分の1スケールダンガム」の駆動イベントとかやってましたね」

 

 ソーナも納得したのか、呆れ顔になりながらも頷いた。

 

「流石はオタク大国にして技術大国ニッポンだな」

 

 スメイガも理解があるのか、すぐに分かったようだ。

 

「……よく分からんが、ディオドラとトルメー殿は何で断ったのだ?」

 

 分からないなりに踏み込みすぎてはいけないと判断したらしい。賢明である。

 

 そして、確かに気になったりはする。

 

 特に問題を起こさなかったり、むしろ上役達に味方するような意見をこぼしたりしたディオドラとトルメーが、大王派の実力者として名高いスメイガの誘いを無碍にする理由は少し気になった。

 

 それに対して、スメイガは苦笑した。

 

「トルメー殿は別件で会いに行く相手がいるそうだ。なんでも関係を持っている術者と会合だとか言っていたぞ」

 

 そしてイルマも続けるが、何故か表情が険しかった。

 

「で、ディオドラは家に帰りたいんだってさ。最近忙しかったから趣味に没頭したいって……ね」

 

「……イルマ。人の趣味に深入りするのは失礼な事だぞ?」

 

 スメイガがたしなめるが、イルマは少しむっとしていた。

 

 こう言った貴族としての嗜みより趣味を優先することにいら立ちでも感じているのだろうか。などとリアスは感心し―

 

「私だってヤリモクで逆ナンしたいの我慢してるのにー!」

 

 ―一瞬でそれを投げ捨てる羽目になったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして簡単なパーティもお開きになり、それぞれ居城に戻る事を考えなければならない時間になった。

 

 イッセーは帰り支度をしながら、結局このパーティは何だったのだろうと考える。

 

 何かあると言われたが、特に何もなかった気がする。少なくとも、イッセーの視点からは普通にパーティだった。

 

「さて、それでは最後に一ついいだろうか」

 

 スメイガはそう言うと、皆を見渡した。

 

 自分の義妹にして従妹であるイルマ。

 

 現ルシファーを排斥したグレモリーの次期当主であるリアス。

 

 堂々と「バアル本家の後継に相応しくない」と告げたが、同時にバアルの貴族としての気概と武力に敬意を払うサイラオーグ。

 

 そして、イルマの眷属であるツヴェルフの本家筋であるソーナ。

 

 彼女達を見渡して、スメイガは告げる。

 

「まあ正直に言おう。イルマ以外のこの場にいる者達とは、政敵になるのは間違いない」

 

 当然と言えば当然だろう。

 

 スメイガとイルマは大王派である事を公言している。しかし、リアスとソーナは対立派閥である現魔王の妹で、家族仲も良好だ。サイラオーグはバアル家次期当主の座にいるが、スタンスは全く異なっている。

 

 政治思想で言うならば、間違いなく正反対だ。

 

 だが、スメイガもイルマも三人とその眷属に対して、好意的な表情を浮かべている。

 

「……だが、我々は後の冥界の未来を担う者達だ。だからこそ見極めたく思っていて、そして二つだけ安心材料ができた」

 

「それを見極める事が目的ですか。……で、何を見極めたかったのですか?」

 

 ソーナが納得の表情を浮かべながら深入りする。

 

 それにはイルマが答えた。

 

「善悪どっちよりの人かって事と、悪魔の未来をより良くしたいって思ってるかどうかって事」

 

 そう返したイルマは、軽く肩をすくめる。

 

「伯父様は大王派の重鎮だけど、平民達も含めて悪魔社会を豊かにしたがってるんだよね。だから、自分達だけ良ければ下民共はどうでもいいとか思ってる、大王派の主流派のことが正直嫌いなわけ」

 

 さらりと凄い裏事情を言い放った。

 

 リアス達がこれをむやみやたらにばらまいたりしないと確信したからこそ踏み込んだのだろうが、しかしまあ凄い事だ。

 

 もし大王派の主流派とかに知られたら、一気に大変な事になるだろう。それだけの事を言ってのけたのだ。

 

 スメイガもそれに頷くと、イッセー達に頭を下げる。

 

「父上は他種族からの転生悪魔を一種の食客や客将と割り切っているし、本来の悪魔がその上に立つ存在であるべく精進して初めて悪魔の社会は正しく回ると思っている。……だが、他種族からの転生悪魔を嫌悪しているわけでは断じてない」

 

「会合で上役の人達に言ったのは、あくまで方便の一種だからね?」

 

 イルマもまたそう断りを入れ、そいてイッセー達に微笑んだ。

 

「だからさ、私達が政治に参加したら色々と揉めたりする事もあると思う。相容れないところも色々あると思う」

 

「だが、足並みを揃えるべき時を見誤る事だけはしないでほしい。私達もそうするつもりだし、必要とあれば連携を要請するし要請も受けるつもりだ」

 

 そう告げ、スメイガはまっすぐにリアス達を見る。

 

「だから約束してほしい。「悪魔という種族を発展させる」という、至上の目的だけは共有してくれる事をだ」

 

 その言葉は真摯だった。

 

 時として対立する事はあるだろう。至上の目的は共通していても、その為のスタンスが異なっているのだから、完全な仲良しこよしというわけにはいかない筈だ。

 

 だが、それらは全て「自分達が思う悪魔という種族の発展」という目的の為だと、それだけは守ってほしいと。

 

「勢力外からの脅威には、最低限足並みを揃え、必要ならば派閥の垣根を越えて力を貸す。優先順位をはき違えて足を引っ張ったりしない。私達同世代の若手だけでも、その前提で動きたい。父上はその為の機会としてこの場を用意したのだ」

 

「せめて、折衝役アガレス家のシーグヴァイラはいた方が良かったな」

 

 サイラオーグはそう茶化すが、すぐに右手を前に出す。

 

「当然だろう。これの夢はきっと冥界の為になると思っている。ましてや魔王を目指すのなら、当然するべき事だからな」

 

「……ですね。というより、大王派の者に言われるとは思いませんでした」

 

 と、ソーナもまた手を伸ばし、上に乗せる。

 

 そしてリアスもまた手を重ねた。

 

「良いわね。なんていうか、大王派はともかくあなた達は気に入ったわ」

 

 その三人の行動を見て、イルマもスメイガも苦笑する。

 

 そして、二人もまた手を重ねた。

 

「では、将来政治に参画した時は冥界の為に全力を尽くすぞ」

 

「はい、いっせーのーっせ!!」

 

「「「「「ああ!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、この五人においてこの前提は基本として守られる事になる。

 

 事実リアス・ソーナ・サイラオーグは当たり前の様にこの前提を基本とする行動をとっている。

 

 この前提のするに辺り「貴族が貴族足らんとする」ことを条件とするスメイガとイルマは多少変則的な事をするが、しかし冥界の民草を守る事を両立する為に努力して行動した。更に、大王派というスタンスでありながらリアス達がトラブルに巻き込まれそうになった時は積極的に力を貸す事となる。

 

 後に若手六王と称される、若手悪魔の中でも傑物揃いの若き上級悪魔達。彼らが派閥の垣根を越えて、優先するべき悪魔という種族の未来を願う者達である事を誓い合った瞬間と、後にこの話を知った歴史家は評している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………そしてマニアの性でこれに参加しなかった最後の若手六王であるシーグヴァイラ・アガレスが、若手六王で最もネタキャラ扱いされる要因となったのは言うまでもない。

 

 

 




 とりあえず、ツヴェルフことアイネスのフォローなどといったものをする話でした。


 思想上完全な連携をとることは難しい。少なくとも、何をもって良しとするかが違うのだから、政治の場では対立することもある。

 しかし、冥界の未来を願う気持ちは同じ。私人としては好感すら持てるものたちが多い。

 だからこそ、スメイガはそれを知ってもらったうえで、派閥の垣根を超えた関係を結びたかったのです。


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5 魔術師集団、クロックワークス

さて、それではようやくオリジナルキャラ側の狂言回しの登場です。


 

 そして次の日には、上役から新たな発表がなされたのだ。

 

 それは、若手上級悪魔同士によるレーティングゲームでの交流会だ。

 

 ……もしかしたら、これはサーゼクス達によるソーナへの支援の一環なのかもしれない。

 

 ここでソーナが勝利を重ねる事ができれば、ソーナに対する評価が上がる。そうすれば、ソーナの夢に対する理解も深まるかもしれない。

 

 だが、逆に無様な戦いをしたら大変だ。そういう意味では厳しさもあるのか、信頼しているのか。

 

 そんな事があり、そしてそもそもイッセーは白龍皇ヴァーリ・ルシファーに目を付けられている事もあり、トレーニングを行う事となった。

 

 そのトレーニングの指示を出したのは、堕天使総督アザゼル。

 

 神器研究の第一人者であるアザゼルは、和平を結ぶと駒王学園の教師になり、オカルト研究部の顧問の座に収まった。事実上リアス・グレモリー眷属の関係者だ。

 

 三大勢力の重鎮から、神滅具(ロンギヌス)であるイッセーの赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)や、イレギュラーな禁手(バランス・ブレイカー)である祐斗の聖魔剣、強力ゆえに制御が未だできていないギャスパーの停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)の成長を促す為の監督を頼まれたらしい。

 

 将来的な禍の団対策の一環とのことだ。ある意味凄いコーチの誕生である。

 

 イッセーは堕天使にはあまり良い思い出はないが、朱乃やアザゼルは好感が持てる人物なので特に気にしない事にした。

 

 実際、短い付き合いだがアザゼルは良い人だ。

 

 思い付きで人を実験材料に使うところはあるが、しかしそれとは別に面倒見が良くて気の良い人物だ。

 

 実際、一からイッセー達グレモリー眷属のトレーニングメニューを作ってくれたりもしている。

 

 そこは感謝感激なのだが―

 

「いやぁあああああ! 死にたくないぃいいいいい!」

 

『だったらもう少し抵抗したらどうだ?』

 

 イッセーは涙をボロボロ流して絶叫しながら、覆いかけてくる15メートルの人型ドラゴンから逃げる毎日を送っていた。

 

 追いかけるドラゴンの名はタンニーン。これでも異形の世界ではとても有名人である。

 

 イッセーがその身に宿す二天龍のすぐ下の領域のドラゴン、五大龍王。

 

 匙が宿すヴリトラと同格とされる、傑物だらけのドラゴンと同格で、かつては彼を含めて六大龍王とすら称されていた傑物だ。

 

 今では悪魔にくだって最上級悪魔として活動しているらしいが、まあ色々あったのだろう。

 

 話をする限りはとても良い人でかつ高潔な人物なので、少なくとも悪魔にビビってしっぽを振ったとか、悪魔を利用する為にあえて傘下になったとかではなさそうだ。

 

 その辺についてはいつか聞ける時に聞こう。会って間もないのに聞いていい質問でもないだろう。

 

 それに、逃げなければ死ぬ。

 

「うぉおおおおおお! 走れ俺ぇええええええ!!」

 

『だから走るだけでなく反撃しろ』

 

 呆れ顔のタンニーンが、口から火球を放つ。

 

 それに吹き飛ばされながら、イッセーはテンションが一周回って笑い始めた。

 

「ああ、部長のおっぱいがブルンブルン揺れてるよ。……妄想なのは分かってるけど、素敵だな~」

 

『相棒、着地はきちんとした方がいいぞ?』

 

 神器の中のドライグに指摘されるが、妄想は止まらない。

 

 この妄想、現実逃避も兼ねて寝る時とかにしているのだが、最近は逃げている真っ最中でもできるようになっていた。

 

 正直、自分でも頭がいかれている自覚はある。

 

 そして受け身を取りながら再び走りだそうとする。

 

 タンニーンも再び火球を放ち―

 

「『―あ』」

 

 そのタイミングで、イッセーが思いっきりスッ転んだ。

 

 盛大に躓いたのだ。

 

 そしてタイミングが悪い事に、放たれた火球に方向変換能力や停止能力はない。

 

 とどめに、火球はイッセーがこけずに走る事を前提として放ったので直撃コースだった。

 

 ………あ、死んだ。

 

 イッセーが死を覚悟した、その瞬間―

 

「………うわっとぉ!?」

 

 ―割って入った一人の少年が、その火球を迎撃する。

 

 少年が振るうのは一振りの剣。

 

 莫大な聖なるオーラを放つ、明らかにエクスカリバーやデュランダルに並びそうな聖剣。

 

 その聖剣の腹で、少年は勢いよく火球をぶつけ、野球のように弾き飛ばした。

 

 そして弾き飛ばした少年と、我に返ったタンニーンがイッセーに近づいた。

 

「ちょっと、大丈夫かよ赤龍帝」

 

『すまんな兵藤一誠。目測を誤った』

 

「あ、大丈夫大丈夫。転んだ時に擦りむいただけだから……」

 

 そう言って立ち上がろうとするイッセーに、少年が手を差し伸べる。

 

 それを掴んで引き上げてもらいながら、イッセーはそこで漸く気が付いた。

 

 その少年、見覚えがある。

 

 あったのはつい一週間ほど前。若手悪魔の会合だ。

 

 そう、彼は―

 

「アンタ、イルマ・グラシャラボラスって人の眷属だっけ?」

 

 その言葉に、少年は不敵な表情を浮かべた。

 

「ああ。俺は麻宮鶴木(あさみや つるぎ)。イルマ姉さんの騎士(ナイト)やってるんだ、よろしくな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え、これ特訓!?」

 

 イッセーから事情を聴いた鶴木は、頬を引くつかせながら驚いていた。

 

 まあ当然だろう。

 

 誰がどう見てもこれは特訓ではない。むしろ拷問の類と言った方が遥かにしっくりくるだろう。

 

 思いついたアザゼルは鬼である。受け入れたタンニーンも地獄の極卒である。了承して応援までしてきたリアスは、トレーニング関係には手を抜かなさすぎる夜叉である。ちなみにここは冥界だから地獄である。

 

「っていうか、そっちこそ偵察ってなんだよ偵察って」

 

「イルマ姉さんから頼まれたんだよ。大王派よりのグレモリー血族が「なんかグレモリー領の山で轟音が響いていて、本家に尋ねても「訓練の一環」とか信じられない返答が返ってきたって言われたから、ちょっと様子見をってな」

 

 まあ、確かに気になる事もあるだろうとイッセーは納得する。

 

 確かにこれが特訓と聞いてそうだと納得する方が少ないだろう。

 

 地獄のしごきでもここまでのことにはならないだろう。いや、ここ冥界だから地獄だけど。とイッセーは内心でそう断ずる。

 

「禁手になる為にはドラゴンとのマンツーマンが一番とか言ってきて、俺、一週間ずっとここでサバイバル生活してんだよ」

 

「……イルマ・グラシャラボラス眷属(ウチ)も結構しっかりトレーニングするけど、これはやりすぎだろ。訴えるならイルマ姉さんに相談するぜ?」

 

 本気の声色だった。

 

 そしてそんなことを言いながら、鶴木は袋を開けるとそのまま中身を渡す。

 

「ま、それなら文明人の食事はひさしぶりだろ? 余分に持ってきてるから分けてやるよ」

 

「……ありがとう」

 

 涙をボロボロこぼしながら、イッセーはランチパッ〇を受け取った。

 

 日本円で二百円足らずの安物と笑うなかれ。

 

 イッセーは正真正銘のサバイバル生活を送ってきた。二百円程度のサンドイッチですら食べられなかったのだ。

 

 七十二柱の貴族の本家、その跡取りであるリアス・グレモリーの眷属がである。本家の里帰りに付き添いできたのにである。日本の本州に匹敵する領土を持つ大貴族の跡取りに仕える眷属悪魔がである。

 

 一生懸命頑張って、川魚を捕えたり木の実を拾ったり小動物を狩ったりした。

 

 冥界の動植物の知識など保有していないので、タンニーンに食べられるかどうかだけ確認して、頑張って火を起こして焼いて食べた。

 

 拾った鍋と水筒で水を確保するなど、サバイバル以外の何物でもない生活だった。

 

 ……貴族の配下として主の里帰りに付き合ったのに、なんでこんな目に遭っているんだろう。

 

 イッセーは、涙が止まらなかった。

 

 世の中のせちがらさ。特訓の過酷さ。人の小さな優しさ。そして久しぶりの文明の食事の味。

 

 それらすべてがとても染み入って、涙が止まらない。

 

「……大変だったな。ほら、もう一つやるから、元気出せよ」

 

「うん……うん……っ!」

 

 イッセーは涙をボロボロとこぼしながら、ランチ〇ックをガツガツを食べる。

 

 イルマ・グラシャラボラス眷属は良い人達が多いと理解した。

 

 イルマはビッチっぽいが結構ノリがいいところがあるようだ。鶴木も鶴木で優しかった。ツヴェルフことアイネスも、苛烈だがそれだけではない。

 

 リアスが大王派である以上派閥的には敵だが、そんな人達の中にも良い人がいる。それが理解できる。

 

「……ああ、人心地付いたぜ」

 

「そりゃ良かった。流石に見てられなかったしな」

 

 そう言いながら、鶴木は水筒からお茶をコップに入れると、イッセーに差し出す。

 

「ついでに飲みな。なに、こんなことで金をせびる程腐っちゃいねえよ」

 

「ああ、ありがとう!」

 

 イッセーはそう言うと、久しぶりの味のある飲み物をゆっくりと味わう。

 

 ちなみに、タンニーンは気を利かせて少し領地の様子を確認しに行っていた。いいドラゴンである。

 

 そして人心地付いてから、イッセーは鶴木と他愛のない話をした。

 

 冥界での最近のニュースとか言った程度だが、それだけでの十分嬉しい事だ。

 

 最近はタンニーンやドライグとしか話してなかった。同じ人間の姿形をした相手と話せるだけでも、だいぶ気分転換になる。

 

 それに、文明的な会話ができるのはそれだけで癒しだった。

 

「……そういや、イッセーってなんで悪魔になったんだ?」

 

「ん? ああ、堕天使に危険だからって殺された事があってさ、その時リアス部長に助けてもらったんだよ」

 

「……それでよく堕天使と仲良くできるなぁ」

 

 鶴木は少し呆れているが、しかしイッセーからすれば大した事ではない。

 

「ま、アザゼル先生も朱乃さんもいい人だからさ。そりゃ俺を殺したレイナーレはクソ野郎だったから堕天使には苦手意識あったけど、朱乃さんは朱乃さんだからな」

 

「……お前、凄いな」

 

 真剣な表情で感心された。

 

 そんな大したことをしたつもりはないのだが、鶴木からすると感心する内容だったらしい。

 

 鶴木は仕切りに頷くと、イッセーの肩をバンバンと叩く。

 

「マジですげえよ! なんツーか、大物って感じするじゃねえか!! さっすが赤龍帝だな!!」

 

 そう感心した感じでたたいてくるが、正直痛かった。

 

 どうやら結構鍛えているらしい。そう言えば、イルマ眷属もトレーニングを欠かさないとか言っていた気がする。

 

「痛いって! っていうか、連絡しなくていいのかよ! 主の指示で偵察に来たんだろ!?」

 

 イッセーは叩かれるのを避ける為にそう言った。

 

 実際問題、鶴木は大王派のグレモリー家からの頼みで来たようなものだ。それも、主でありイルマの指示で動いている。

 

 事情が分かったのなら連絡ぐらい入れた方がいいのではないだろうか。真面目に眷属としてそれぐらいの方がいいと思うのだが。

 

 だが、鶴木は軽く笑うと立ち上がる。

 

「大丈夫だよ。これもトレーニングを兼ねたちょっとした茶目っ気みたいなもんだ。本気で偵察するならスメイガさんの臣下に諜報部隊がいるから、そっちが動くだろうしな」

 

 今さらりと怖い事を言ってきた。

 

 スメイガ・バアルは自前の諜報部隊を持っているという事実に、軽く戦慄する。

 

 ソーナの発言から来たトラブルを利用して、割とうまく立ち回っていたスメイガだが、どうやらそのあたりのことを全部把握していたのではないだろうか。

 

 帰ったらリアスに相談しよう。

 

 スメイガ・バアル。悪い人ではないのだろうが、しかし油断できない相手なのは間違いない。眷属以外に自前の諜報部隊を組織している若手悪魔なんて、彼以外にいないと信じたかった。

 

 イッセーが戦慄している間に、鶴木は軽くストレッチをする。

 

 そして、ふと視線をイッセーの膝に向けるとかがみこんだ。

 

「っと。物のついでだ、ちょっと治療するから少しだけじっとしてろよ?」

 

 治療する。その言葉に、イッセーは首を傾げた。

 

 これはただのかすり傷と打ち身だ。いちいち治療するのは明らかにコストパフォーマンスが悪い。

 

 なにせ、悪魔の傷を即座に治療する力なんてそうはない。堕天使も含めて種族的に回復できる方法が限られていて、その希少さからアーシアは殺されかけたほどだ。

 

 一応フェニックスの涙というアイテムはあるが、あれはとても高価なものだ。到底軽傷の治療に使っていいものではない。

 

 そう思ったその時、鶴木は今度こそ立ち上がった。

 

「じゃ、治癒魔術をかけたから俺は帰るわ」

 

「へ?」

 

 イッセーが首を傾げた瞬間、今度こそ鶴木は走り出していた。

 

 腐っても騎士(ナイト)の駒で転生しただけあり、祐斗に匹敵するほどの足の速さだ。あっという間に見えなくなった。

 

 それに一瞬ぽかんとしたイッセーは、しかしふと気づく。

 

 そういえば、足の痛みが全くない。

 

 見てみれば、傷がきれいさっぱり消えていた。転んだ時に破けたジャージはそのままなので、なんというは違和感がある。

 

「なんだ、簡単な治療ならできる方法があるんじゃん」

 

 この時、イッセーはそうとだけ考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あり得ないわ」

 

 そう、リアスは断言した。

 

 時間は数週間ほど移り変わって、グレモリーの城。

 

 その前に一度城に戻って小猫のハードトレーニングがらみでひと悶着あったが、それは置いておく。

 

 数週間のそれぞれの特訓を終え、そして合流したリアス・グレモリー眷属はそれぞれ合流して特訓の成果を報告しあっていた。

 

 その際、イッセー以外は城もしくは別の生活拠点を用意してもらっていたという。

 

 つまり、一人だけ生活まで過酷な状況で一月近く過ごさなければならなかったのだ。

 

 断言してもいい。酷過ぎる。

 

 だが、その過程で話した鶴城による治療で、リアスは明らかに目を見張った。

 

 見れば、悪魔歴の長い者達は誰もが驚いているし、アザゼルも興味深い表情を浮かべていた。

 

「……スメイガの眷属にはフェニックス家の奴がいたはずだ。そいつの協力で涙の亜種でも作ったのか?」

 

「いえ、そんなものが開発できているのなら堂々と公表するはずだわ。でも隠しているにしてはイッセーのかすり傷程度で使うのもおかしいわね」

 

 アザゼルの思い付きを否定したリアスは、しかしすぐに思案顔になる。

 

 そして、視線を朱乃に向ける。

 

「もしかしたら、彼らが開発した魔法ではないかしら?」

 

「かもしれませんわね、ただ、魔法と形容するのは止めた方がいいかもしれませんわ」

 

 朱乃がそう言うと、悪魔歴の長い者達がはっとなった。

 

 どうやら、悪魔の社会ではそれなりに有名話らしい。

 

「あの、スメイガさん達って何かしてるんですか?」

 

 分からないなら聞くしかないので、イッセーは素直に問うた。

 

 そしてリアスは頷くと、口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私がまだ朱乃しか眷属にしていなかった頃の話になるわ。

 

 バアル分家の中でも有力な家系だったブルノウ様は、その頃から急激に人員を集めだしたの。

 

 それそのものは今でも細々と続いているけど、その年は一気に千人以上の人材が集まったわ。

 

 特に話題になったのは、その彼らに共通点といえるような共通点が欠片もなかった事よ。

 

 種族も、年代も、出身地もバラバラ。気になって調べてきた者もいたけど、全体の共通点といえるものは本当に分からなかったわ。

 

 72柱の悪魔もいた。それらとは別口の上級悪魔である、番外の悪魔もいた。貴族とは全く縁のない、下級中級の悪魔もいた。多種多様な国家から多種多様な年代の人間も参加した。中には堕天使やヴァルキリー、更には死神から吸血鬼までもが亡命してきて、ブルノウ様の庇護下になったのよ。

 

 中にはブルノウ様やその臣下の眷属悪魔になったものもいるけど、その大半は基本的に悪魔にならずにあくまで臣下や人間界での下部組織に名義を入れているわ。

 

 ブルノウ様はそんな彼らに資金援助をしたり、揉め事になった時に弁護士を紹介するなどの後ろ盾になっているの。

 

 そしてそこから、ブルノウ様は一気に権力を拡大した。

 

 彼の発言力は大王派の中でも最有力。元七十二柱の本家当主に真っ向から反論する事もできるだけの発言力があるの。これは大王バアルの分家とはいえ異例な事だわ。

 

 そして、彼はその集めた人材達の集まりをこう呼称しているわ。

 

 ………魔術師(メイガス)の集まり、クロックワークス……とね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ、魔法使いとは違うんですか?」

 

 イッセーは何となく思いついた疑問を聞いてみる。

 

 魔法使い。悪魔の能力を再現する事を試みて、独自の異能を手にした人達の総称である。

 

 様々な派閥がいるらしく、中には禍の団(カオス・ブリゲート)に与している者達も数多い。

 

 イッセーが会ったのはその禍の団の下っ端達だ。ギャスパーの停止の力とイッセー自身の乳技で一蹴した事を覚えている。

 

 魔術も魔法も呼び方の違いぐらいで同じものだと思うのだが、しかしリアスは首を振った。

 

「残念だけど違うみたい。魔術師(メイガス)達は魔法使いと取引する事もあるみたいだけど、人によっては毛嫌いしている者もいるらしいわ」

 

「なんでも「あの程度の事しかできないのに「魔法」使いを名乗る事が不快だ」と言っていたそうですわ」

 

 朱乃がそう言うと、アザゼルは首を捻る。

 

魔術師(メイガス)達にとって、魔術と魔法の間には大きな違いがあるって事か? だが、実際魔法と魔術なんてとんじるとぶたじるの呼び名程度なんだがな」

 

 どうやらアザゼルですら分からないらしい。だが、すぐに思考を切り替えたのか、アザゼルはリアスに向き直る。

 

「まあいい。流石に和平も結んだんだし、どの越えた後ろ暗い真似はしないだろう。今度会う時があったらそれとなく聞いてみるさ」

 

「そうね。腹芸はするみたいだけど、悪事を積極的に行うような方ではない筈だわ」

 

 リアスの言葉には、一定の信頼があった。

 

 ソーナの夢を賛同する振りをして、自分達が主導権を握るように話を持って行ったり、純血貴族主義の老人達に気に入られるように他種族からの転生悪魔をまがい物呼ばわりしたりはしていた。

 

 だがそれは冥界の未来を心からよりよくしたいから動いているのだと思う。少なくとも、大半の老害達よりはずっとまともな筈だ。

 

 なにより、その息子であるスメイガと、姪であるイルマのあの言葉と笑顔は信じたい。

 

 イッセーも、そこに嘘はないような気がしている。

 

 それに鶴木があっさり傷を治した事もある。

 

 後ろ暗い事をしているのなら、軽傷を治す程度の事などしないだろう。

 

 だから、きっと大丈夫。

 

 イッセーは、なんとなくそう思っていた。

 




プロローグはイッセー主体で進めますが、一章になるホーリー編からはこの鶴木も主要視点の一つにする予定です。

D×Dでは神の祝福なので本来あり得ない悪魔の異能による治療。ですが魔術師からすれば軽傷程度簡単に治療できて当然なのであります。

ブルノウの発展もこう言った能力があってこそ。Fateシリーズでいうのなら、スクラディオファミリーが一番近いですね。


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6 はぐれ悪魔、黒歌

さて、そろそろ本格的な戦闘が始まろうとしています。


 

 そして、若手悪魔を主役とするパーティが開かれる。

 

 といっても、その実態は大人たちが適当な理由を作って酒を飲むだけのことだ。

 

 実際、リアス達がつくころにはすでに出来上がっている貴族たちが何人もいた。

 

 それに呆れながらも、リアスもあいさつ回りをしてからパーティに深くかかわり始める。

 

 貴族の娘ともなれば、それなりの付き合いがあるのだ。これもグレモリー本家を継ぐ者の宿命である。

 

 そしてリアスは朱乃と祐斗を連れてパーティに混ざっていると、足音が響いた。

 

「ふっ。赤い髪とドレスがよく似合っているな、リアス・グレモリー」

 

「あら、スメイガじゃない」

 

 振り返れば、そこにいたのはスメイガだ。

 

 そこには眷属である二人の女性がいる。

 

 長身の女性が二人もいると、なかなか壮観だ。しかも美人ともなれば割とこう、威厳というか風格が備わってくる。

 

 年のころは二十台といったところだろうが、悪魔なので年齢はいくらでもごまかせる。

 

 詳しくは知らないが、大王派かつ血統重視のスメイガなら、おそらく元から悪魔なのだろう。

 

 そう思っていると、スメイガは苦笑した。

 

「……勘違いしているようだが、彼女たち二人は元人間だ」

 

「そうなの? てっきり眷属は元からの悪魔で固めているかと思ったけれど」

 

 意外そうにリアスが聞くと、スメイガは苦笑する。

 

「私は血統を重んじるが、血統以外を軽視しているわけではないよ。有能なものがいるなら他種族からも引き入れるし、彼女たちは特別優れているしね」

 

 そう告げると、二人の女性はそれぞれ挨拶する。

 

 一人は敬礼し、一人は両手を下げて深く一礼した。

 

「スメイガ・バアル様の女王(クイーン)を務めさせていただいている、陸奥鳩羽(むつ はとば)であります!」

 

「同じく、スメイガ様の騎士(ナイト)を拝命したボウゲツと申します」

 

「あらあら。私はリアス様の女王(クイーン)の姫島朱乃ですわ」

 

「リアス様の騎士(ナイト)の木場祐斗です。改めてよろしく」

 

 お互いに眷属たちがあいさつを交わすと、スメイガは不敵な笑みを浮かべる。

 

「ふふふ。この二人は自慢の眷属でな。ボウゲツは騎士の駒を二つ遣っているし、陸奥は変異の駒(ミューテーション・ピース)で転生しているのだ」

 

「………それは本当にすごいわね」

 

 リアスは唖然とするほかない。

 

 駒価値が複数いるのは珍しくはない。リアスの眷属にも兵士(ポーン)の駒を八駒全部使っている。

 

 また、通常より駒価値が増えるといってもいい変異の駒も、珍しくはあるがよくある話でもある。リアスの眷属なら、僧侶(ビショップ)のギャスパーがそうだ。

 

 だが、女王の駒が変異の駒で、更にそれが必須の相手だというのは規格外だ。

 

 その驚きの視線を隠せていなかったらしい。スメイガは結構得意げである。

 

「彼女たちを眷属にするのは、文字通り命がけだったからな。まあ、だからといって私の将来が安泰だといいきれんのが世の中の残酷さだがな」

 

「確かにねぇ」

 

 リアスもそれは納得者だ。

 

 変異の駒必須のギャスパーや、兵士の駒八つのイッセーを保有するリアスも命がけの戦いを何度もしてきた。

 

 特にコカビエルが来た時は本当に死の危機だった。

 

 しかも禍の団(カオス・ブリゲート)にはそのコカビエルを一蹴した白龍皇ヴァーリ・ルシファーに目を付けられている。

 

 彼は禍の団において独自のチームを結成しているらしい。悪魔流にいうなら、ヴァーリ・ルシファー眷属といったところか。

 

 将来的な宿敵となるのは確定だ。それも、魔王の血と神滅具の力を宿したとんでもない存在である。

 

 その仲間も相当の実力者の可能性があるらしい。少なくとも、駒王会談の襲撃の時に来たのは孫悟空の子孫だった。

 

 ……本当に、強くなりたい。

 

 間違いなく迫りくる脅威に対抗するためにも力が欲しい。それに、夢をかなえるにも力が必要だ。

 

 レーティングゲームは強敵ぞろいだ。ことリアスはトップになることが夢である以上、その道はいばらの道であることは間違いないだろう。

 

 なにせ、現トップ3の戦闘能力は誰もが魔王クラスだ。分家のトルメーは眷属まで総動員しての短期決戦とはいえ、その魔王クラスをレーティングゲームで破っている。

 

 道は険しく、更に相応の成果を見せなければトルメーの存在ゆえに評価は下がるだろう。

 

 だからこそ、強くなりたかった。

 

「……レーティングゲーム、ぶつかるときは負けないわよ」

 

「いやいや、いかに君が72柱本家の娘とはいえ、負けてやる気はないぞ?」

 

 スメイガはそう返すが、リアスはむしろうれしかった。

 

「当り前よ。接待で勝ちを譲られるなんてされたら、私は使える権力をすべて使ってでもあなたの足を引っ張ってあげるわ」

 

「怖い怖い。だが、そういう高潔な人物なら挑みがいがある」

 

 スメイガはそう言って片手に持っていたグラスをあおる。

 

 そしてそのグラスが鏡のように光って、ある人物を映し出した。

 

「………ごめんなさい、ちょっとお手洗いに行ってくるわ」

 

 そういうと、リアスは少し足早に歩きだす。

 

「あらあら、私もついて行った方がよろしいかしら?」

 

「そこまでしなくていいわよ。あなた達もこの場で交流を深めてきなさい」

 

 そう朱乃たちに返すリアスを横目で見ながら、スメイガはぽつりとつぶやいた。

 

「……ボウゲツ」

 

「皆まで仰られるな。歩き巫女の一人が動いております」

 

 その小声に、スメイガはうなづいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……イルマ、外で反応があった。どうも仙術の心得があるようだ」

 

「そりゃ怪しいねー。ちょっと様子見に行ってきて。イルマさんは伯父様につたえてくるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵藤一誠は、明らかなピンチというものを体感していた。

 

 きっかけは、パーティ会場を足早に出る小猫の姿を確認したからだ。

 

 その前に、小猫の特殊な事情を知ることができた。

 

 猫魈(ねこしょう)。猫又の中でも非常に珍しい絶滅危惧種。加えて能力もたけており、魔術妖術の類はもちろん、仙人の類しか使えないとされる仙術すら素養を持った、すさまじい力を秘めた妖怪だ。

 

 小猫はもともと白音と呼ばれており、黒歌という姉とともに両親を失っていたところを、とある悪魔に姉がスカウトされたことで眷属悪魔とその妹として生活をしていた。

 

 その姉は僧侶の駒を二つも使用するほどの素質を持っており、わずかな期間で仙術すら使えるようになっている逸材だった。

 

 だが、その仙術がすべてを狂わせた。

 

 仙術は生命に関する術式であり、万物に存在する気を操る。物理的な破壊力は低いが生命体に干渉するといった能力は高く、殺傷性能は高いうえに、感知能力としても優れている。

 

 だが、仙術は周辺の気を取り込む都合上、取り込む気の種類においては精神に悪影響が出かねないデメリットが存在する。

 

 そして、黒歌は急激に力を高めすぎたため、そのあたりの調整が全くできていなかった。

 

 彼女は力にのまれた。もとより享楽的な側面があった彼女は、血の快楽にすら飲まれるようになてしまった。

 

 その果てに、彼女は自分の主を殺して逃亡。はぐれ悪魔になる。

 

 当然の如く討伐隊が組織された。しかし才能を急激に開花させた黒歌は最上級悪魔クラスにまで己の力を高めており、追撃部隊はことごとく文字通りの全滅。結果として追撃命令は取り下げられ、黒歌は行方をくらますこととなる。

 

 問題はその後だ。

 

 妹であった白音もまた同様のことを起こすのではないか。そう邪推する者が出るのは当然の流れだった。ゆえにこそ、そうなる前に殺すべきではないかという意見もまた出てきたのだ。

 

 そこをサーゼクスが「妹にまで罪はない」とかばった結果。言い出しっぺの責任として監視する形になるが、サーゼクスの庇護下に置かれることで白音という少女は命をつなぐ。

 

 だが、白音は信頼した姉の暴走による凶事にショックを受けていた。その後の悪魔たちからの攻め立てる視線にも疲れ果てていた。精神的に限界だったのだ。

 

 そんな白音を救うべく、サーゼクスは慈愛にあふれる妹のリアスに彼女を預ける。

 

 結果としてそれは一定の成功を上げ、白音は徐々に生きる希望と感情を取り戻す。そして、リアスがそんな彼女に心機一転も兼ねて名付けた名前が「塔城小猫」である。

 

 アザゼルは今後を見据えた指導方針として、小猫には「自分を受け入れろ」という単純なオーダーを出した。

 

 それができないのなら足手まといになる。自分の本質を生かす戦い方をしろ。そう告げたのだ。

 

 ハードトレーニングで倒れたりしたが、それは単純にその指示を受け入れきれなかったからだ。

 

 小猫という少女の最大級のトラウマなのだ。当然といえば当然ではあるだろう。だが、将来的にヴァーリチームと相対することを考えれば、必要な成長でもある。

 

 なので結構気になっていたので追いかけたのだ。

 

 そしてイッセーがそうするところを見たリアスもまた合流して、ホテルの外に出て小猫を追いかけたのだが―

 

「……はぐれ悪魔、黒歌。よくのこのこと小猫の前に姿を現せたわね……っ!」

 

「姉が妹にあうのに何か問題でもあるのかにゃん?」

 

 魔力を漏らしながら殺意をたたきつけるリアスに、そう余裕しゃくしゃくの態度をとる、和服を着崩した黒髪の女。

 

 目の前にいるこの女が、黒歌である。

 

「おいおい、なんか因縁の出会いってやつか? 見ものだねぇ」

 

 その黒歌の隣で、これまた楽しそうにしているのは美候。

 

 孫悟空の末裔でありながら、禍の団に参加したテロリストの1人。そして、ヴァーリ・ルシファーのチームメイトの一人である。

 

 その二人から小猫をかばうように立ちふさがりながら、イッセーは二人をにらみつける。

 

「よう、クソ猿野郎。ヴァーリは元気かよ?」

 

「もちろんだぜぃ。……お、そっちはだいぶ鍛えたみたいだな。グレモリーの姫さんも、なんだかんだで少しは強くなったみたいだな」

 

 美候のその評価は当たっている。

 

 リアスもイッセーもひと月ほど鍛えている。それも、堕天使総督という傑物が用意したトレーニングメニューでだ。

 

 少し位強くなっていなければ泣きたくなる。実際、イッセーはだいぶ体力がついたと自負している。

 

 だが、それを一瞬で見破られるとは思わなかった。

 

 ゆえに怪訝な表情になるイッセーに、美候と黒歌は得意げな表情を浮かべる。

 

「これも仙術ってやつだよ。魔力や魔法とは違って生命力そのものに干渉するからな。こういう感知系能力としちゃぁ優れてるんだぜ?」

 

「それに、自分や相手の気の流れに干渉することも可能だニャン♪ 対処方法が魔力や魔術とは違うし、使い手が少ないから対処されにくいのも殺しには便利なのよねぇ」

 

 ……習得難易度が高いだけあって、優れた汎用性能があるということだろう。イッセーはとりあえずそう判断する。

 

 問題は、そんな厄介な術を使える二人がこんなところにいるということだ。

 

 今このホテルには、悪魔の上役がごろごろ集まっている。さらにゲストとして三大勢力の重鎮も何人かいたはずだ。

 

 一歩間違えれば、かなりまずいことになる。

 

「それで、あんたらはテロでもやるのかよ!!」

 

 テロリストがこんな要人の集まりに来る理由などそれぐらいしか考えられない。

 

 だが、美候は軽く手を振ってそれを否定した。

 

「いんや、俺たちは今は非番さね。で、暇してたら黒歌がパーティ会場をこっそりのぞきたいって言ってきたから、俺も暇つぶしについてきたってわけよ、OK?」

 

 超がつくほどふざけた話だが、嘘とも思えなかった。

 

 そして、黒歌はイッセーを見ると怪訝な表情を浮かべる。

 

「っていうか、この子誰?」

 

 どうやらまったく知られていないらしい。

 

 そして、美候は美候で適当な態度で答えた。

 

「赤龍帝」

 

「……え、このさえないのが?」

 

「さえなくて悪かったな!!」

 

 目を丸くしての黒歌の暴言に、イッセーはとりあえず吠えた。

 

 だが自由人二人はスルーすると、美候はあくびまでする。

 

「んじゃ、俺らはもうお(いとま)しようぜ? どうせ俺っちたちはあのパーティには参加できねえんだし、来といて何だけど暇なだけじゃねえか?」

 

「それもそうね~。あ、でも白音はいただいていくにゃん? あの時一緒に連れていけなかったからね?」

 

 その言葉に、小猫が体を震わせる。

 

 だがそれに気づいていないのか美候も黒歌も平然とした態度だった。

 

「おいおい、勝手につれてきたら、ヴァーリの奴もいい顔しねえんじゃねえかい?」

 

「この子の才能は私なみよ? オーフィスもヴァーリも納得してくれるニャン」

 

「いや、そうかもしれんけどさ」

 

 そんなことを平然と話す黒歌と美候に、リアスとイッセーは前に出る。

 

 怒気も殺気も隠していない。それぐらいには二人とも怒り狂っていた。

 

「……この子はリアス部長の眷属で、俺たちの仲間だ! やらせると思ってんのか!!」

 

「その通り。指一本でも触れれると思ってるのかしら?」

 

 返答次第で即座に戦線が開かれる声色だが、二人の態度は余裕のままだ。

 

「勇ましいのは認めるけどよ、今のアンタラじゃ俺らの相手は無理だぜぃ? その子もらえれば俺っちたちもさっさと帰るし、それで良しとしようじゃねえかい」

 

「そもそもその子は私の妹よ? 私には可愛がる権利があるはずにゃん」

 

 そう告げる黒歌は不敵に笑い―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「下らん。貴様にその娘の姉を名乗る資格はない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉と同時に、新たなる乱入者が現れる。

 

 足音とともに現れるは、黒髪の少女の連れられた三人の少年少女。

 

 その四人とはひと月前にあったばかり。それも、イッセーはさらに一度会っていた。

 

「つ、鶴木!?」

 

「よ、イッセー。助っ人はいるかい?」

 

 片手をあげて挨拶をしながら、麻宮鶴木は聖剣の切っ先を黒歌と美候に突きつける。

 

「禍の団の構成員とは驚いたぜ。首をはねて魔王様に献上すりゃ、俺たち何人か昇格できるんじゃね、コレ」

 

 そんな挑発をぶちかます鶴木の方に、栗色の髪をポニーテールにした少女が、たしなめるように手を置いた。

 

「いえいえ。あの二人はどちらも最上級悪魔クラスのつわものですわ。そんな皮算用はしてはいけませんわよ?」

 

 そう言いながら少女は空間をゆがませると、巨大な大砲のようなものを取り出す。

 

 そしてそれをかばうように、今度は茶髪を二つ結にした少女がため息を付いた。

 

「歩き巫女から報告が来たんで見に来たんやけど、こりゃちっとばかしめんどうやなぁ」

 

 そう言いながら魔力を身にまとう少女に苦笑を浮かべながら、最後に黒髪の少女―ツヴェルフ・シトリーが前に出る。

 

「家族なら、テロ組織に連れて行くのが何の問題もない? ……笑止千万。その腐った脳髄は役に立たんから、日本に行って八丁味噌でも代わりに入れてもらってくるがいい」

 

 そう告げると同時、ツヴェルフは空間をゆがめる。

 

 一部の戦士などが武器を格納する異空間。リアスの眷属なら、ゼノヴィアがデュランダルを格納している。

 

 そして、そこから現れたのは液体金属。

 

 水銀を思わせるその金属は、十リットルほどの体積が現れ、そして球体となってツヴェルフの隣にとどまる。

 

 そして、それと同時に後ろの三人も戦闘態勢をとる。

 

 そして彼女らを率いるように、ツヴェルフは蔑みの視線を黒歌にたたきつけた。

 

「血を分けた家族だから愛情があるなどとは言わん。だが、家族というものには一定の節度がいるものだ。それすらない貴様が家族などという言葉を使うな」

 

 冷徹に吐き捨てながら、ツヴェルフは敵意の感情を向ける。

 

「家族とは血のつながりではない。血族とは次へつなげるための宿命がある。貴様と塔城小猫は、そのどちらの関係にも合致しない。……お前はこの少女にとってただの害獣だよ、野良猫」

 

「へ~。家柄だけの悪魔が言ってくれるじゃない」

 

 とことんまでこき下ろされ、黒歌は軽く殺意をたたきつける。

 

 それを真っ向から受け止めながら、ツヴェルフは毅然と宣言する。

 

「これは戦闘ではない、誅罰だ。……だが、その能力にだけは敬意を払い、我が誇りである魂の名を知るがいい」

 

 そして一呼吸おき、ツヴェルフは告げる。

 

「アイネス・エルメロイ・アーチホール。この名を刻んで永久(とこしえ)の眠りにつくことを許そう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「………中二病?」

 

「上級悪魔で邪気眼系の中二病って、痛々しいの通り越してなんか寒気を感じるよな」

 

 緊張感という三文字が完全に吹き飛んだ。

 




 まあ、液体金属でぶった切る魔術師関係者とくれば、エルメロイ一派ですよね。各スキはこちらもなかったです。名前もケイネスやライネスからとりましたし。

 次回から、メインキャラクターであるイルマ・グラシャラボラス眷属が大暴れします。お楽しみに!!


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7 本作火力ぶっちぎり悪魔、カタナ・フールカス

そろそろ戦闘回。まずは前哨戦です。


 ツヴェルフの痛々しいセリフ回しに呆れ果てる一同だが、しかしそれはそれとして事態は窮地であることに変わりはない。

 

 その前にツヴェルフが徹底的にこき下ろした黒歌も、このまま黙って帰るつもりなど欠片もなかった。

 

「……めんどくさいから殺すにゃん」

 

 そう言い放つと同時に、何かが歪む。

 

 イッセーはよく分からなかったが、ツヴェルフとリアスは舌打ちや歯噛みをする辺り、相当高位の事象が起こったらしい。

 

「……黒歌。あなた、ついに空間を操る術まで覚えたのね?」

 

 そのリアスの言葉に、黒歌は得意げな表情を浮かべた。

 

「時間は流石に無理だけどねー。結界を作る術の応用ってやつよ」

 

「……ところ変われば品変わるとはよく言ったものだ。この森一体の空間を外界から遮断する結界とはな」

 

 得意げな黒歌にツヴェルフも感心するが、しかしすぐに冷静な表情になる。

 

「だが残念な事が二つある。一つは展開するのが遅すぎた事だ」

 

「え?」

 

 黒歌が首を傾げると同時に、それは来た。

 

 ただでさえ夜ゆえに暗い森の中に、更に影が差す。

 

 その影を生み出したのは、全長15メートルは届くだろう巨体を誇る人型のドラゴン。

 

 最上級悪魔が一画、元龍王タンニーンが、警戒の表情を浮かべながら舞い降りた。

 

 その雄姿に、彼の強さを一か月間無理やり感じさせられたイッセーは歓喜の表情を浮かべる。

 

「おっさん! 来てくれたのか!?」

 

『お前達が何人も出ていくのでな。気になってきてみればこの結界だ。流石に驚いたぞ』

 

 そう告げたタンニーンは、鋭い視線で黒歌と美候を睨む。

 

禍の団(カオス・ブリゲート)の黒歌と美候だな? 白龍皇ヴァーリ・ルシファーと行動を共にしていると聞いたが、まさかこんなところにのこのこと出てくるとはな………!』

 

「うっひょぉ! 元龍王のタンニーンじゃねえかい! こんなのとやり合えるなんて、来たかいがあるってもんだぜぃ!」

 

 気圧されるどころか歓喜すらする美候。神々と戦ってみないかという誘いを持って禍の団に鞍替えしたヴァーリと同じく、強敵との戦いに歓喜を感じる手合いらしい。

 

 だがしかし、それに水を差すようにツヴェルフは告げた。

 

「第二の誤算を忘れているぞ」

 

 そして、その言葉に釣られて黒歌と美候は視線を向けー

 

「チャージ完了ですわ」

 

 -そこに、絶望を見た。

 

 栗色の髪を何割か後ろでまとめている少女悪魔。その少女は、両手であるものを構えていた。

 

 三つの砲身で構成された、巨大な開放型の砲身。そんな大砲としか形容できないようなものを、彼女は構えていた。

 

 そして開放型砲身には莫大な魔力が込められている。それはもう、無造作に解き放てば核兵器並みの大破壊をこの辺一帯にぶちかますであろう、とんでもない破壊力が込められている。凝縮され圧縮されそして開放されようとしている。

 

 とどめにもう一つ。

 

 その砲身、ものの見事に二人に向けられていた。

 

「全力全開ですわよ! 死にたくなければ避ける事ですわね!!」

 

 ドヤ顔で断言するのも当然だろう。

 

 タンニーンですら冷や汗を流している。それが雄弁に威力を物語っていた。

 

「やっべ! カタナがでかいのぶっ放すからみんな伏せろ!!」

 

「おー、カタナの本気砲撃とか久しぶりやでぇ」

 

 鶴木と関西弁の少女がそれぞれ違った反応をしめし、そしれツヴェルフは冷徹に告げる。

 

「もう一つの見誤りはこれだ。……この程度なら力技でどうとでもなる」

 

 次の瞬間、盛大すぎる魔力砲撃が空間遮断結界をあっさりと吹き飛ばし、ついでに射線上にあった山を片手では数えられないぐらい吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おいおい、覇龍状態のヴァーリだって、もろに食らったらやばいんじゃねえか?」

 

「嘘でしょ? たかが若手上級悪魔の眷属が? 主神クラスよ、あの火力……!」

 

 黒歌も美候も度肝を抜かれる大砲撃。

 

 その射線上にチリ一つ残さない圧倒的な破壊の本流を放ったカタナと呼ばれた少女は、ドヤ顔で胸を張っていた。

 

 これほどないぐらいどやぁである。

 

「思い知りまして? これこそ、イルマ・グラシャラボラスが僧侶(ビショップ)、それも駒価値二つのカタナ・フールカスの魔力量ですわ! 一割も減ってませんことよ?」

 

 その断言に、大半の者が冷や汗を流した。

 

 身内で知っているはずの鶴木やツヴェルフまで流している。改めて威力を確認して、戦慄したらしい。

 

 悪魔の駒における僧侶は、魔力を強化する側面がある事は知っている。

 

 大抵の場合は何かしらの異能保有者がなる駒であり、また魔力運用が基本の元から悪魔だった者が転生する事も数多い。

 

 だが、流石のイッセーもこれは異常なレベルだと断言できる。

 

 というより、砲撃の威力が前代未聞だ。今までそれなりに火力の大きな相手を見てきた事はあるが、これだけの火力を放った者はいなかった。

 

 上級悪魔であるライザー・フェニックスでも出した事はない。堕天使最高クラスの存在であるコカビエルでも出してない。元龍王であるタンニーンも、こんな一撃は出していない。

 

「……おっさん。おっさん、これ出せる?」

 

『無理だな。俺は火力だけなら魔王クラスと称されたが、あれはもはや主神クラスだ』

 

『封印される前の俺やアルビオンでも楽には出せんぞ、あんな火力』

 

 自分の中に封印されている、龍王の更に上の存在である二天龍ドライグ迄もがかなりの高評価を叩き出している。

 

 ……とんでもなさすぎるじゃねえか!

 

 イッセーは内心で頭を抱えた。

 

 あんな砲撃を出されたら、一発で戦局がひっくり返る。しかも本人の言う事をうのみにすれば、あれを最低でも十回はぶっ放せるのだ。

 

 負ける。リアスとイルマのレーティングゲーム。火力に制限がなければまず間違いなく圧殺される。パワータイプが多いリアス・グレモリー眷属が、パワーで圧殺されたらもう絶望的である。

 

 本気でへこみたくなるイッセーとリアスだが、そんな二人にツヴェルフは諦観の表情で微笑む。

 

「絶望しろ。砲身が焼け付いているから一時間は発射不可能だ」

 

「え?」

 

 ぽかんとするイッセーに、ツヴェルフは苦笑を浮かべる。

 

「カタナは魔力量だけなら魔王クラスすらしのぐのだが、それを運用する能力が絶望的なまでに欠けているのだ。例えるなら、扇風機一つ動かすのに火力発電所を占有しているようなものだ」

 

 軽く頭痛を堪える様な表情で、ツヴェルフはそう告げる。

 

 実際そういうレベルならシャレにならない。溜め込んでいる魔力を運用できないのだから、才能の無駄遣いと言っても過言ではない。

 

 どれだけ絶大な魔力があっても、それを運用できなければ無駄遣いだ。魔力が欠片もないイッセーより、考えようによっては酷いだろう。

 

 それを理解しているのか、カタナと呼ばれた少女はそっと視線を逸らした。鶴木ともう一人の少女は、その肩にそっと手を置いている。

 

 断言してもいい。癖が強すぎる。

 

「今はあの三光叫喚(ディストラクション・スクリーマー)で補っているが、最大出力ではすぐに砲身が焼け付くので連射ができん。当面は役に立たないと考えていいぞ」

 

 残酷な現実である。

 

 だが、一番厄介な結界が破壊された事で事態は大きく変わるだろう。

 

 あれだけ派手な事が起きたのだから、すぐに悪魔達も駆けつけてくるはずだ。

 

 そうなれば、此方の勝ちだ。魔王クラスや最上級悪魔クラスが何人もいるのだから、いくら黒歌と美候が最上級悪魔クラスであろうと押し切れる。

 

 そう思った、次の瞬間だった。

 

「―何をしているのですか、美候も黒歌も」

 

 呆れ果てた声と共に、二人の後ろの空間が割けた。

 

 そこから現れるのは、一人の眼鏡をかけた青年だ。

 

 手には長剣を持ち、更に腰のもう一人振りの剣が携えられている。

 

 そして、その剣が問題だ。何故なら、二振りの剣はどちらも絶大な聖なるオーラを放つ、聖剣なのだから。

 

『全員気を付けろ! そいつの持っている聖剣は厄介だ!!』

 

 吠えるタンニーンの声には警戒に色がある。

 

 その視線は、新たに現れた男の手に持っている剣に向けられていた。

 

『通りのいい名ではカリバーン。異形社会では聖王剣コールブランドと呼ばれている、エクスカリバーやデュランダルすらしのぐ地上最強の聖剣だ』

 

「はい、我がペンドラゴン家の家宝を持ち出させていただきました」

 

 そう得意げに答える青年は、更に腰に差している聖剣にも視線を向ける。

 

 コールブランドに比べれば劣るが、しかし強大な聖なるオーラが漏れているあの聖剣もまた強大な聖剣だろう。

 

 少なくとも、以前戦ったエクスカリバーでも合一前では届かない。それだけで相応の聖剣であることの証明だ。

 

「これは支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)。禍の団同士での情報交換で漸く見つける事ができた、最強のエクスカリバーです」

 

 最強の聖剣だけではなく、最強のエクスカリバー。その持ち主が禍の団に所属しているという事実に、一同は警戒心を強くする。

 

 特にツヴェルフは嫌悪の感情すら強くして、その青年を睨み付けていた。

 

「コールブランドはペンドラゴン家の家宝。貴様、名門ペンドラゴン家の名に泥を塗ったか」

 

「これは手厳しい。聖王剣コールブランドを受け継ぐ者として、それがどこまで届くのか試すのはある意味で当然の行動では?」

 

 平然とそう語る青年に、ツヴェルフは心の底からの軽蔑の感情を浮かべる。

 

「貴族の責務も果たさず思うが儘に動く狂犬が。可能ならここで殺してコールブランドをペンドラゴン家に戻してやるのが貴族としての良心か」

 

 その言葉と共に魔力を流すツヴェルフに、青年は面白そうな表情を浮かべながら、コールブランドを構える。

 

 その目には強敵との戦いに歓喜する表情が浮かんでいる。どうやら彼もまた戦闘狂の類らしい。

 

「一応名乗りましょう。私はアーサー・ペンドラゴンと申します。以後お見知りおきを」

 

 自ら名乗ったアーサーは、更にもう一つ付け加える。

 

「それと悪いお知らせを。他の派閥のご厚意で、少しの間足止めをしてくれるそうです。なので私も少し遊ばせていただきましょう」

 

 その言葉と共に、戦場が動く。

 

 そう、その瞬間、避けた空間から百を超える人数のどこか虚ろな表情の透けた体の戦士達が、飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 飛び出した戦士達は魔法によるものか宙をかけ、ホテルに向かって突撃する。

 

 そして、ホテルから警戒しながら出てきた悪魔達と激突する。

 

 衛兵達は場所が場所故に相当の訓練を受けている。その結果高い練度を持ち、相応の戦闘能力を保有している。

 

 にも関わらず、戦士達はそれと互角以上に渡り合っている。

 

 その戦闘能力は中級悪魔クラスなら余裕をもって相手ができるレベルだ。上級クラスとも太刀打ちする事ができるだろう。

 

 そんな高い戦闘能力を持つ百を超える戦士達。彼らが足止めに徹すれば、すぐに突破される事はありえない。

 

 そしてそれを良い事に、ヴァーリチームは即座に動き出した。

 

「じゃ、面倒だから殺すにゃん」

 

 黒歌がそういうとともに一歩前に出て、そしてそれに合わせて小猫もまた、一歩前に出る。

 

「……姉様、そちらに行けばいいんですね。なら、部長たちは見逃してあげてください」

 

 その言葉に、迎撃態勢をとっていた誰もが目を見開く。

 

「何言ってるんだ、小猫ちゃん!」

 

「そうよ、何を言っているの!」

 

 イッセーとリアスが強く反応するが、小猫は静かに首を振る

 

「姉様の力はよく知っています。最上級悪魔クラスの姉様を敵に回せば、いくら部長たちでもとらえきれません」

 

 塔城小猫という少女は、年齢不相応に冷静で知恵が回る少女だ。

 

 だからわかってしまう。足止めが成立している短時間で、黒歌はこちらに大きな被害を生み出してしまうことを。

 

 へたをすれば、主や同胞であるリアスやイッセーが死ぬ。そうでなくても、最上級悪魔のタンニーンや大王派の希望の星であるイルマ・グラシャラボラスの眷属が死ねばリアスに大きな影響が出る。

 

 敬愛する主が、自分のせいでそんなことになるのは耐えられない。

 

 だが、そんな小猫の自己犠牲こそリアスには耐えられなかった。

 

「そんなことは認められないわ! あなたが絶望にさいなまれていた時、目の前の猫又は助けようともしなかった!」

 

 そう言い切り、殺意すら込めて黒歌をにらみつけるリアスに、黒歌は動じることなくとぼけた態度を見せる。

 

 何を言っているんだあの女は。態度でそれを雄弁に語っていた。

 

「妖怪がほかの妖怪を助けるとかないにきまってるじゃない。ただ手駒は欲しいのよねぇ、同じ猫魈どうし、私の方が白音の力を理解できるし引き出せるニャン」

 

 そう吠えた黒歌に、リアスは明確な敵意をたたきつけた。

 

「……その在り方が、小猫の心をどれだけ傷つけたと思ってるの!! 私がはじめてであったこの子に感情なんてものはなかった。肉親に裏切られ、敵意にさらされたこの子がどれだけ苦しんできたことか! 認めないわ、この子はこれからたくさんの楽しい物を見て味わって体験するの。いい、覚えておきなさい!」

 

 そして、堕天使筆頭格であるコカビエルが評価するほどの絶大な魔力をまき散らしながら、リアスは宣言した。

 

「この子の名前は塔城小猫! 私の、リアス・グレモリーの大事な家族よ! あなたみたいなやつに指一本だって触れさせたりはしないわ!」

 

「よく言った、リアス・グレモリー!!」

 

 そして、その言葉にツヴェルフも吠える。

 

 よくぞ吠えた。よく断言した。そう言い切ってくれたことに感謝する。

 

 お前こそ主の好敵手にふさわしい。そんな感情をこめて、ツヴェルフは吠える。

 

「血の繋がりは確かに重要だ。だが、そこには確かな敬意や絆、責務がいる。そのどれ一つすら持っていない貴様のような野良猫に家族など存在せん!」

 

 そう断言し、ツヴェルフは殺意すら込めて黒歌をにらみつける。

 

 失せろ獣畜生。此処は文明と知性を持つものだけがいることを許される場所だと、視線で告げる。

 

「ああ、そうだ。そうだぜ小猫ちゃん! リアス部長は本当にいいこと言いました! 俺はいろいろ感動してます!」

 

 本当に感動で涙を浮かべながら、イッセーもまた吠える。

 

 大事仲間を、彼女を想う主を大事に思いながら、イッセーは告げる。

 

「小猫ちゃんはいろいろ大変なことがあって、それで苦労してるけど、俺たちの大事な仲間だ! だから、俺たちは小猫ちゃんが困っているときは愚痴ぐらいは聞いて見せるし、小猫ちゃんを奪おうってやつがいるなら、俺たちが守る!!」

 

 そしてこぶしを握り、兵藤一誠という男は一歩前に出る。

 

「アンタが小猫ちゃんのお姉さんだろうと、小猫ちゃんが望んでないのに小猫ちゃんを連れて行かせたりなんてしない!! 無理やりにでもそうするって言うなら、俺たちがぶちのめす!!」

 

 その断言に、鶴木たちもまた微笑みを替えす。

 

「OKOK。その啖呵、気に入ったぜ」

 

「かっこええな自分。じゃ、力貸したるわ」

 

「貴族としてか弱き善人を守るは当然の責務。及ばずながら手を貸しますわ」

 

 グラシャラボラス眷属たちもまた、小猫を守るべく構えを見せる。

 

 その彼らの心強い背中を見て、小猫はぽろぽろと涙を流した。

 

 そして、心からの本音を吐露する。

 

「……行きたくない。私は塔城小猫、白音じゃない。私は……リアス部長はイッセー先輩と一緒に生きるの!!」

 

 それが、小猫の本心だった。

 

 そしてそれを聞いた黒歌は、一瞬沈黙してから苦笑し―

 

「そう。―――じゃあ死になさい」

 

 冷笑ととも放たれた宣言。それが、黒い霧とともにリアス達を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「包み込め、我が血潮」

 




今回動いたカタナは、魔術回路も悪魔としての魔力適性も魔力量特化型。ガンダムで例えるなら、Vガンダム世代の核融合炉を搭載しているのに装備はGMと同程度という超絶無駄使用。型月で例えるならイリヤの魔力量とウェイバー(zero時代)の運用能力です。約束された勝利の剣だって連射させれます。

ですが、それをとある手段で手に入れた装備で半ば克服した超絶パワータイプ。まだまだ武器は調整段階なので今回は決壊を吹き飛ばすだけで戦線離脱状態ですが、これが完成に至れば龍神化状態のイッセーと砲撃戦を可能にする砲手となります。






そして次はイッセー禁手かまで行きます。


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8 美少女のおっぱいとは男のロマンである。

はい、プロローグの戦闘で一番激しい界になります。ついでに30kb近くあるので長いです。

あと備考というか余談ですが、カタナの使用した三光叫喚のイメージは「ガンダムOO」に出てくる「ガデッサ」のGNメガランチャーです。


 

 黒い霧が一瞬でリアス達を包み込む。

 

 それを見終えた黒歌は勝利を確信したのか脱力した。

 

「……あれは何ですか?」

 

 アーサーが眼鏡をかけ直しながら告げると、黒歌は嘆息とともに一言で言いきる。

 

「毒霧」

 

 簡潔極まりないが、しかしそれだけで十分だ。

 

 妖術仙術を利用して生み出された毒霧。それは最新科学技術で開発されるBC兵器に匹敵する毒性を発揮するだろう。瞬時にゼロから創り出せるという意味では、コストパフォーマンスでも隠匿性でも科学技術製の毒ガスをはるかに凌ぐはずだ。

 

 悪魔の体は基本的に並みの兵士を凌駕する身体能力を発揮する。毒に対する耐性も大幅に凌ぐ。

 

 だが、黒歌はその悪魔の中でも最上級クラスの力量を持った存在なのだ。しかもこう言った術式の力量でその頂に至っている。

 

 断言してもいい。彼女の作り出した毒霧は、並みの上級悪魔をたやすく絶命させる。

 

「ま、薄いからすぐに死ぬ事はないにゃん。あっさり殺す気がないくらいムカついてるし、じーっくりゆっくり苦しんでもらうにゃ」

 

 そう冷徹に告げる黒歌に、タンニーンが迫った。

 

『なら、即座に貴様を潰せば終わりだな!!』

 

 最上級悪魔。それも火力だけなら魔王にも届くと称された、元龍王タンニーン。

 

 彼の力量と生命力なら、ゆっくり殺す事を目的としている毒霧程度あっさり突破できる。

 

 そして単純戦闘能力で最上級のそのまた高みに至っている彼なら、仙術や妖術などによるトリッキーな戦法を中心とする黒歌が相手でも、直接勝負に持ち込めば確実に勝てる。

 

 へたに時間をかければリアス達に後遺症が出てくる事も考慮して動いたタンニーンだが、しかしそれを妨害するサルがいた。

 

「はっはぁ! そんなこと言わずに楽しもうぜぃ!」

 

 如意棒を振るいながら割って入った美候の一撃を受け、タンニーンは弾き飛ばされる。

 

 そして空中で態勢を整えるタンニーンを追撃する為に、美候は雲を展開する。

 

「いくぜぃ、筋斗雲!!」

 

 その雲に飛び乗った美候との戦闘に巻き込まれ、タンニーンは黒歌に襲い掛かる事ができない。

 

 美候の戦闘能力は、少なく見積もっても最上級悪魔クラスだ。それも、近接戦闘においてなら上位に位置するだろう。

 

 流石は孫悟空の末裔。中国系の神仏の武闘は筆頭の血を継ぐ者。

 

 しかしこれでは救援ができない。

 

 黒歌のポテンシャルはタンニーンも知っている。仙術の恐ろしさも知っている。とどめに悪魔の天敵である聖剣トップランカーであるコールブランドの保有者までもが近くにいる。

 

 他の悪魔が増援に来てくれれば自体も変わるが、謎の戦士達によって妨害されている為これも困難だ。

 

 ゆえに、タンニーンは歯噛みし―

 

「―案ずるな、タンニーン殿」

 

 ―その力強い声が、霧の中から響き渡った。

 

 よく見れば、霧は二種類あった。

 

 明らかに禍々しい、毒霧だと断言されている黒い霧。

 

 そして、その内側に展開されている銀色の霧が、その黒い霧をリアス達から遮断していた。

 

「……何よ、その霧は!?」

 

「雑に効果だけを例えよう。……霧型のガスマスクと考えてくれればいい」

 

 驚愕する黒歌に、ツヴェルフは平然とそう告げる。

 

 そして、魔力消費ゆえか多少の疲労感をにじませながら、ツヴェルフは更に告げる。

 

「より厳密に言うのなら、霧状に展開した神霊(ウォールメン・ハイドログラム・)髄液(アドバンスド)がそれぞれ大気選別魔術を発動。事前に登録していた大気構成成分以外を外側に弾いているだけだ」

 

「……嘘でしょ? そんな超高等術式を、魔法陣もなく!?」

 

 狼狽する黒歌の反応が、この術式の凄まじさを物語っていた。

 

 しかしツヴェルフはそれに対して、むしろため息すらついてのけた。

 

「一々魔法陣なんて目立つものを展開しなければいけない貴様達の術式に無駄が多いだけだ。まあ、詠唱というタイムラグがあるこちらの術式は隙が出る故一長一短なのだろうがな」

 

 黒歌にはよく分からない事を告げたツヴェルフは、後ろで黒歌達を警戒しているリアス達に告げた。

 

「気を付けろ。神霊髄液は大半が水銀で出来ているし、ガスマスクと近しい状態だ。迂闊な行動は水銀中毒や呼吸困難を引き起こすぞ」

 

 実際問題、ツヴェルフの懸念は真実である。

 

 一般人がガスマスクに持つイメージは、「ガスマスクを着けていれば毒ガスを吸って死ぬ事はない」といったものだが、実際はそんな簡単なものではない。

 

 ガスマスクが無効化できる毒の量には限度がある。この場合は魔術で弾いているから半永久的に可能だが、毒霧を展開している黒歌と遮断しているツヴェルフのどちらがばてるかの持続力勝負だ。

 

 また、ガスマスクはフィルターで毒をこしとるのが基本である為、マスクと言っても花粉症のマスクを着けているような楽なものではない。そんなマスクですらある呼吸の負担がある事を利用したトレーニング法があるぐらいなのだ。ガスマスクに至っては呼吸法を練習していなかった素人が迂闊につけた事で窒息死したという事例がある。乱雑に呼吸を荒くしていいはずがない。

 

 そして、水銀とは基本的に人体に毒である。

 

 中国始皇帝が水銀中毒で死んだという話は割と知られているだろう。噴霧状態の水銀をうっかり吸い込めば、その影響は甚大だ。普通に寿命が縮んでもおかしくない。

 

 なので、これは事実上の膠着状態なのだが―

 

「……まあ、短時間遮断するだけならこんなものがなくても鶴木もリスンもできるのだがな」

 

 ―そういうところを仲間に頼る程度のことは、ツヴェルフにもできるのだった。

 

 そして左右から男女の悪魔が迫る。

 

 男の方は、イッセーと交友を深めた麻宮鶴木(あさみやつるぎ)。加減していたとはいえ、タンニーンのブレスすら弾き飛ばした聖剣を具現化して、黒歌に切りかかる。

 

 女の方は、イルマ・グラシャラボラスの戦車であるスリン・ブネ。こちらは魔力によって構成された被膜を両腕に纏っており、まるで龍の腕のようになっていた。

 

 そしてツヴェルフの神業に気を取られていた黒歌は一瞬反応が遅れ―

 

「いえ、そうはいきません」

 

 その左右からの攻撃を、アーサーが防ぐ。

 

 鶴木の攻撃をコールブランドで、リスンの攻撃は支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)で防ぎきる。

 

 そして瞬時に猛攻が開始され、アーサーはそれをしのぎ切る。

 

 この場において、種族的に最も脆弱なのは、純粋な人間であるアーサーである。

 

 だがしかし、単純な技量という一点において彼はタンニーンに匹敵する二強の領域だった。むしろタンニーンはどうしても基礎性能が高すぎるがゆえに、練度という意味ではアーサーの方が超えている可能性すらある。

 

 しかし、二対一とはいえ、それに拮抗するは鶴木とリスン。

 

 悪魔にとって天敵以外の何物でもない聖剣。それも、伝説に名高きエクスカリバーとコールブランド。その極限の刃を極限の担い手が振るっているにも関わらず、二人は連携を持って対応する。

 

「どうすんや鶴木! まがい物としちゃ負けても怒られへんやろうけど―」

 

 そんな軽口を叩いたリスンに、鶴木は吠えた。

 

「ありえねえよ! こんなチンピラに負けちまったら、大恩人なアーサー王に申し訳が立たねえ!」

 

 その鶴木の返答に、アーサーは怪訝な表情を浮かべながら不快な感情すら覚える。

 

 意味が分からない。どう見ても日系人である麻宮鶴木が、何故アーサー王のことを恩人というのか分からない。

 

 それに、チンピラ呼ばわりも腹立たしい。

 

 コールブランドの扱いにおいては、すでに先代である父すら超えていると自負している。歴代でも屈指の才能があると断言できる。古巣の英雄派でも、自分ほどの剣の腕を持つものは一人だけだ。

 

 その自分が、チンピラ扱い?

 

「いいでしょう。もう少し本気を出すとしましょうか?」

 

「いいぜ? 本気を出してもチンピラはチンピラだ」

 

 そう堂々と蔑みながら、ギアを上げたアーサーに鶴木もまた攻撃密度を上昇させる。

 

 そして、剣戟の密度は一気に濃厚になった。

 

 その斬撃の嵐を発生させながら、鶴木は吠える。

 

「誉れ高きコールブランドを継ぐペンドラゴン家の次期当主が、戦場欲しさにテロリストとはな! 腹切って死んで分家にでも跡目を譲るんだな!! 何なら俺が終わらせてやろうか!!」

 

「何やら不快な聖剣を持っているようですが、私をそこまで愚弄するなら相応の物を見せていただきましょうか!」

 

「いやオタクら、ウチのこと忘れんなや!!」

 

 リスンが二人の間に割って入りながら文句を言い、そして戦闘は一気に激化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその激戦の中、イッセーは窮地に迫られていた。

 

 赤龍帝の力ゆえか、毒ガスの効果はろくにない。そして、毒霧を防ぐのに集中しているため、ツヴェルフたちは迂闊に動けない。

 

 なのでオフェンスをイッセーがするほかないのだが―

 

『相棒、神器を今駆動させることができない。禁手になりかけていて、神器が作動不良を起こしている』

 

 ―などというドライグの残酷な情報提供に面食らった。

 

「すいません! 援護してください!!」

 

「駄目だ! へたに魔力を打てば神霊髄液が霧散して毒霧の餌食になる!!」

 

 どうやらそう簡単にはいかないらしい。ツヴェルフはすさまじいが、それでも限界はあるということか。

 

「くそ! こうなったら普通のパワーアップで我慢するしかないか!」

 

『お勧めしないな、この状態が次にいつ来るかわからん。下手したら一生来ないかもしれないぞ』

 

 最悪のタイミングでとんでもない状態になってしまった。

 

 この状況下を乗り切るには、禁手に至らせることが最適解。だが、その禁手に至らせるための最後の一手が足りない。

 

 通常の方法で乗り切るという手もあるが、それでは今後に対応できない。この好機を逃すのは危険だ。

 

 だが黒歌は明確な脅威だ。戦闘手段無しで切り抜けれるとは思えない。ほかのメンバーはほかの敵を相手にするので精一杯なのだから。

 

「イッセー!」

 

「イッセー先輩……!」

 

 リアスと小猫も歯噛みするほかない。

 

 魔力砲撃が主体のリアスは、神霊髄液の霧を吹き飛ばしかねないから攻撃できない。小猫も近接戦闘型なので、霧の庇護下から出るわけにいかない以上役立たずだ。

 

 ツヴェルフはツヴェルフで何やら思案しているが、しかしそれでも今は動けないのが実情だろう。

 

「ええい! こうなったらこのカタナ・フールカスが―」

 

「お前の魔術回路の性能だと毒霧から出る前に毒霧で倒れる。やめておけ」

 

 カタナはカタナでツヴェルフからダメだしされた。どうやら本当に魔力総量特化型でへっぽこらしい。

 

 真剣に作戦会議したい状況である。だが、そんなことを敵が舞ってくれるわけがない。

 

「赤龍帝ちんは戦闘不能かにゃー? でもこっちは関係ないにゃん♪」

 

 その言葉共に、黒歌の姿が何人にも増える。

 

 幻術の類だろう。それも、数が多いうえにまるで実態があるかのようにリアリティがある。毒霧で包まれていることもあって判別が困難だ。

 

 そして、一斉に魔力の弾丸が放たれる。

 

 イッセーは慌ててそれを回避する。タンニーンに鍛えられてきたことがかろうじて回避を成立させた。

 

 だが、そのうちの攻撃の一つが、ツヴェルフ達に迫る。

 

 神霊髄液を吹き飛ばせば毒霧で対応できると考えたのだろう。ツヴェルフも表情がこわばった。

 

 それを、イッセーは何とか割って入って食い止めた。

 

「ぐぁああああ!?」

 

「イッセー!?」

 

「イッセー先輩!?」

 

「「赤龍帝!!」」

 

 皆が声を出す中、イッセーは気合で立ち上がる。

 

「へたれねー。こんなのがライバルなんて、ヴァーリも可哀想」

 

 せせら笑う黒歌を無視して、イッセーはリアス達に微笑みかける。

 

「動かないでください! あいつの攻撃は俺が防ぎ―」

 

「その前にしゃがめ!!」

 

 イッセーの声をさえぎって、ツヴェルフの声が響く。

 

 それに条件反射で反応してかがみこめば、横から放たれた呪術の攻撃が素通りした。

 

 木々を十数本は吹き飛ばした攻撃だ。今のイッセーが喰らっていれば、死んでいたとしてもおかしくない。

 

 だが、この幻影の中でそれに気づくのはなかなか大変だ。

 

「……仙術で気をごまかしてるのによくわかったわね」

 

「たわけ。そんな一握りの傑物にしかわからんものをごまかすことで悦に入っているから勘付かれるのだ」

 

 黒歌にそう吐き捨てると同時、ツヴェルフは、指を鳴らす。

 

 そうすると水銀の一部が触手になって、大量の黒歌たちの1人を示した。

 

 それに対してイッセーは意味が分からずきょとんとなるが、しかし黒歌が面食らう。

 

「……勘付かれた!? 姿も気も魔力もごまかしてるのにどうやって―」

 

「そんなものははなから感知してないだけだ。さっきも言ったはずだぞ? 「一握りの傑物にしかわからんものをごまかすことで悦に入っているから勘付かれるのだ」とな」

 

 狼狽する黒歌をそう切り捨てると同時、その水銀の触手の先端から魔力の弾丸が放たれる。

 

 それをとっさに回避するが、しかしそれが致命的な隙かつ最悪の情報提供だった。

 

 回避したということは、それが本物であるという証拠。つまり彼女を狙えばいいだけである。

 

 そして、黒歌は非常に優れたナイスバディな体型をしている。

 

 最後に、兵藤一誠は煩悩が絡むと化けるのである。

 

「もらったぁ!」

 

 目に色欲を込め、イッセーは駆ける。

 

 その速度は彼の出せる最速。怒りと友情と絆と煩悩を込め、兵藤一誠は黒歌をぎゃふんといわせるべく走る。

 

 そして込めるは彼の数少ない魔力運用方法。

 

 子供でもできる転移すら不可能な魔力。それをたった一つの執念で操作することで、女性限定で大将の着衣物を粉砕する、対女性用必勝攻撃。

 

 その名を―

 

「くらえ、洋服崩壊(ドレス・ブレイク)!!」

 

 そして、イッセーの腕が黒歌の服に振れそうになり―

 

「舐めんじゃないわよ!!」

 

 ―カウンタで呪術攻撃をもろに何十発も喰らった。

 

 そのまま一気に吹き飛ばされたイッセーは、しかしツヴェルフが受け止めたことでけがを最小限に抑える。

 

「無事か、赤龍帝!」

 

「す、すいませんアイネスさん―」

 

 愛称で詫びを入れるイッセーだが、しかしツヴェルフの表情を見て顔色を変える。

 

 どうやら今の余波で毒霧を少し吸い込んだらしい。顔色が明らかに悪い。

 

 それでも霧を展開して毒霧をシャットアウトするが、しかし立っているのが困難なのか膝をついた。

 

「あらら~? こんな役立たずをかばって吸い込んじゃうなんて、なっさけないわねー?」

 

 黒歌はそういうと、あえて攻撃を入れずにせせら笑う。

 

 その目には嘲笑と憐憫がこれでもかと込められていた。

 

「なっさけないうえに泥臭い男。白音も可哀想ねー。白馬の王子さまがこんな情けない奴だなんて」

 

「……はっ! 笑わせるなよ。中二病はどちらだという」

 

 それに対して、ツヴェルフは肩で息をしながらも逆に黒歌に蔑みの視線を向ける。

 

「泥臭くとも何かであらんと血のにじむ努力を積み重ねた彼を笑う資格は貴様にはない。才能に振り回されるだけの貴様みたいな害獣にはな」

 

「ちょ、今挑発するのはダメですわよ、アイネス!!」

 

 カタナがアイネスをかばうように立ちふさがりながら、そうツッコミを入れる。

 

 そしてリアスも小猫をかばいながら、チャンスがあればすぐにでも砲撃を叩き込む体勢に入っている。

 

 タンニーンやリスン、鶴木は美候やアーサーと激戦を繰り広げている真っ最中だ。

 

 誰もが自分にできることをしている。そんな中、イッセーは何もできない自分が悔しかった。

 

「……クソッタレ!」

 

 結局いつもこうだ。

 

 最初に神器に本格的に覚醒した時、アーシアは一度死んだ。リアスが駒を余らせていなければ、あのまま彼女の人生は終わっていた。

 

 疑似的に禁手に至ったとき、そもそもレーティングゲームには負けていたのだ。サーゼクスたちが一計を案じてくれなければ、リアスは望まない結婚を強いられていた。

 

 毎回毎回、誰かが傷ついて苦しんでから力に目覚める。これでは意味がないだろう。

 

「……わかってるんだよ、自分に才能がないことぐらい。今も、小猫ちゃんを助けることすらできやしない……っ!」

 

 歯を食いしばり、涙をこぼし、そしてこぶしを握り締める。

 

 その手を、小猫がそっと包み込んだ。

 

「……駄目じゃないです」

 

 小猫はそう言って、涙をこぼしながらも微笑みかける。

 

「イッセー先輩はダメじゃないです。姉様のように力に溺れた歴代とは違って、優しい赤龍帝です。それは、とってもとっても素敵な事です」

 

 そして、小猫は恐怖に震えながらもしっかりとほほ笑んだ。

 

「イッセー先輩は、やさしい赤い龍の帝王(ウェルシュ・ドラゴン)でいてください」

 

 その言葉に、イッセーは救われた気分になった。

 

 そうだ、歴代と同じような方法で最弱だろうと、それがどうしたというのだ。

 

 なら、歴代とは違う方法で強くなればいい。歴代にはできなかったことをすればいい。そして、それはすでに成し遂げているではないか。

 

 今気づいた。

 

 自分が禁手に至る、その方法に。

 

「……部長! 俺は、禁手に至る方法に気づきました!! お力を貸してください!!」

 

「よ、よくわからないけどわかったわ! で、一体何をすればいいの?」

 

 神が作りし神器。その神器の持ち主が、劇的な精神的な覚醒を果たした時に至るといわれている、禁手。

 

 つまりは精神的な特異点。イッセーの場合、それは―

 

「―乳首を、つつかせてください!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、誰もが思考停止したことだけは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まて赤龍帝。主の胸をこんなところでさらけ出させるなどあらゆる意味で禁忌だぞ」

 

 毒霧の効果で苦しんでいるはずのツヴェルフのツッコミが最速で出てきたのは、彼女の性格的な物だろうか。

 

「あほか!? あほなんか!? 男版のイルマ姉さんなんか!?」

 

「た、確かに殿方が懸想する素敵な乳房なのは配慮しますが、この状況下で何を考えてますの!?」

 

 リスンとカタナも壮絶にツッコミを入れている。これは彼女たちが比較的正常であるからこそだ。刀に関しては少し怪しいが、それでもこの場では常識人といっていいだろう。

 

「ちょっと、美候にアーサー! 赤龍帝がなんか変なことしてるんだけど、どういうこと!?」

 

「俺っちに聞くな! 赤龍帝は俺たちとは思考回路が全く違ってるだよ!!」

 

「ですが、確かヴァーリに一矢報いたときも女性の乳房が絡んでいたとか。これはありえますかね」

 

 ヴァーリチームはむしろ真面目に考察まで始めている。

 

 リーダーのヴァーリが圧倒的な格上状態でありながらボコボコにされたときの情報を共有しているらしい。妙なところでホウレンソウができている。

 

 そして、鶴木は―

 

「アーサー! 美候! てめえらふざけんなよ!?」

 

 怒りの表情を浮かべて激高した。

 

『全くだ! そも、俺との特訓で積み重ねたものをそんなことで開放させるとか馬鹿なのか!?』

 

 タンニーンもそれに便乗して文句を言い―

 

「……この最大のチャンスを逃すんじゃねえ、馬鹿ども! 今は一時停戦してリアス・グレモリー様の乳房を見るんだ! 脳内保存急げ!!」

 

『馬鹿はお前だぁああああああああ!!!』

 

 全身全霊のタンニーンのツッコミが、鶴木にたたきつけられた。

 

 だが鶴木は聞いちゃいない。

 

 すでにガン見体勢になって、目を見開いて凝視している。

 

 後ろから殴ってやろうかと考えたタンニーンの足首を、リスンがぽんと軽くたたいた。

 

「あきらめた方がええで。鶴木はな、ビッチなイルマ姉さんが自分に手を出してこないことが不満で一週間に一度は涙こぼすぐらいスケベやねん」

 

『今この場にいる人間型の男にろくな奴はいないな!』

 

 戦闘狂が色情狂。どちらにしてもくるっている。

 

 この、常識というものをどこかに投げ飛ばしてきたイッセーの提案による混乱の中、リアスはうなづいた。

 

「いいわ。それであなたが至れるなら―」

 

 そして決意の表情を込め、リアスはドレスの胸元を開いた。

 

「うぉおおおおおおおおおお!!!」

 

 鶴木は絶叫を上げて目を血走らせるが、その隙だらけの姿を攻撃する奴は誰一人としていない。

 

 というより、展開がカオスすぎてそこまで頭が回ってないに等しく―

 

「いや見るな戯け」

 

「へぶぁ!?」

 

 ―唯一正気を保っていたツヴェルフが、毒霧にむしばまれる体を鞭打って、水銀を操って打撃を叩き込んだ。

 

 むしろ焦っているのはイッセーだ。

 

 確信はあったが、OKがあっさり出るとは思っていなかった。妙なところで常識が残っている男である。

 

「ほ、本当にいいんですか? 乳首ですよ、おっぱいにあるものですよ!?」

 

 だが混乱はしている。

 

 リアスも改めて言われて顔を赤くしているが、しかしそっぽを向きながらも決意は決まっていた。

 

「い、いいから! 早くして……!」

 

 そう言われて、イッセーもまた決意を込める。

 

 下僕の覚醒のため、恥を覚悟で乳房をあらわにする主。

 

 その情愛と献身に涙し、イッセーは覚醒のための儀式を敢行する。

 

 しかし、はたと気づいた。

 

「………皆、大変だ」

 

『今度は何だ?』

 

 タンニーンがげんなりしながら訪ね貸すと、イッセーは震えながら振り向いた。

 

「乳首は二つあるんだった! どっちをつつけばいい!?」

 

―知るか!?

 

 相当の人数の心が一つになった。

 

『どっちも同じだぁあああああ! さっさとつついてサッサと至れぇええええ!!!』

 

 タンニーンが攻撃を入れずに怒声だけで済ませているのは、彼がひとえに高潔な人格者だからである。

 

 だが、それにイッセーは気づかない。

 

 真剣な相談を適当に対応されて、イッセーはむしろ怒りをあらわにした。

 

「馬鹿野郎! 右と左が同じなわけないだろぉおおおお! 人生かかってるんだぞぉおおおおお!!!」

 

 絶叫するイッセーに、鶴木はいつの間にか近くに近づいて肩に手を置いた。

 

 いつの間にか復活していたのも驚きだが、毒霧を無視しているのもあれである。無駄にポテンシャルが高かった。

 

「赤龍帝」

 

「何だよ、鶴木」

 

 けげんな表情を浮かべるイッセーに、鶴木は透き通った瞳で告げる。

 

「俺が左を押すから、お前は右を押せ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「部長! おすすめはどちらでしょうか!?」

 

「それはセクハラですわよ!?」

 

「痛い痛い痛い痛い! せ、せめて見せて!!!」

 

 渾身の左ストレートで鶴木を沈黙させたイッセーの次の暴挙に、鶴木に関節技を仕掛けているカタナのツッコミが飛ぶ。

 

 鶴木は何とかして乳首を見ようとするが、完全に関節が決まっているのでどうしようもなかった。

 

 そしてそんなあほな空気の中、リアスは恥ずかしさが限界になったのか、吠えた。

 

「だったら両方つつきなさい!!」

 

 イッセーに天啓が走った。

 

 そして、いろいろな意味で震える手を落ち着かせ、イッセーはリアスの乳首を両手でつつく。

 

 それは、擬音でいうならずむっといった。

 

「―――ぃやん」

 

 イッセーの耳にそれが聞こえたその時、彼の魂は解放された。

 

 かつて、堕天使総督であるアザゼルはイッセーにこう言っていた。

 

「女の乳首はブザーと同じ」

 

 その言葉は真実だった。アザゼルが堕天したことを後悔してないほど、すてきな音が響いたのだ。神に仕えることよりはるかに素晴らしいことだったのだ。この宇宙の真理が込められていたのだ。

 

 そう、それは宇宙の始まりだった。

 

 イッセーは、覚醒した。

 

『―――至った! 本当に至りやがったぞぉおおおおお!!!』

 

 ドライグの驚愕の声が響く。

 

 そして、真理に至った赤龍帝が新たな次元へと突入する。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!』

 

 くすんでいた宝玉が光り輝き、そして絶大なオーラを放ちながら鎧を形成する。

 

「最悪です、優しいではなくやらしい赤龍帝です」

 

 もう色んな意味で最悪な至り方に、小猫のツッコミが静かに響く。

 

「ごめんね小猫ちゃん! だけど、こっからが反撃の時間だ!!」

 

 兜とマスクを装着したイッセーがそう謝り、そして宣言する。

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)禁手(バランス・ブレイカー)赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)!! 主のおっぱいつついて、ここに降臨!!」

 




イルマの眷属はとりあえず全員魔術回路持ちだとお考え下さい。

そしてスメイガも含めて相当数の魔術回路持ちが出てくるのがこの作品ですが、とりあえず現段階における前提条件を一つ。

とりあえず現段階で設計されたキャラクターおよび、とりあえずこの作品の着地点であるルシファー編(注:アザゼル杯編をやらないとは言ってないが、本当にそうなった場合はまた別の話になる)までに出てくる魔術回路持ちで、「魔術師」としてはスメイガとツヴェルフがツートップです。

 二人とも普通に魔術教会で色位の上位を狙える猛者です。そしてこの作品のクロスオーバーものである外典世界の特殊な状況下や、そうでない時でもロンドン☆スターの指導を受けることになれば、王冠の位階に届くレベルの超絶天才魔術師です。総合力のツヴェルフに専門分野のスメイガといったところでしょうか。

 ちなみにイルマの眷属ではカタナが人生を魔術にささげても長子どまり。リスンは頑張れば典位を狙えるレベル。鶴木は頑張っても開位の下。まだ出てきてないスメイガの眷属も、少なくとも前世では開位レベルです。

 なお、肝心のイルマは頑張っても典位にはなれないレベル。ただし魔術特性を公表すれば、とんでもないデメリットと引き換えに祭位がもらえます。

 このランク付けについてはアザゼル杯編にでも突入するまで変えるつもりはありません。ストーリーの都合上あと数名設計するつもりですし、トルメーという超強敵担当もいますが、少なくともアザゼル杯編まで話が続かない限り、「魔術師として」スメイガとツヴェルフを超える魔術回路持ちを出すつもりはございません。ちなみにトルメーは典位レベルで、絶対領域マジシャン先生の指導を受ければ色位に届く可能性があるといったところです。

 ただし、これはあくまで魔術師としての話です。

 その気になれば竹串でも人が殺せるように、魔術使い、それも戦闘という観点においてならば話は別。特に鶴木はそういう方向で魔術指導がされていますし、サーヴァント用の魔力タンクとしてならカタナが一番です。リスンやトルメーも純粋な魔術回路以外の部分でシャレになりませんし、イルマに至っては条件を限定すれば作中魔術回路持ちでの魔術戦闘なら最強になりえます。







 ちなみに、そんな超天才魔術師のアイネスがイルマの眷属悪魔になっているのはいろいろあるのです。それについてはまだ書いてない次の話で書く予定。


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9 実は女性用風俗の歴史は結構長い。性欲は男女共通だからだろう(注:話の内容の一つですが完璧に小ネタです)

とりあえず戦闘はそろそろ終了です。

そして作品全体の主人公なのにいまだ戦闘をしていないイルマは出番があるのか!?


 

 赤龍帝、兵藤一誠。主であるリアス・グレモリーの乳首を戦闘中につついて、禁手に至る。

 

 展開はギャグ以外の何物でもないが、オーラはギャグでは済まないレベルだ。

 

 オーラそのものが物理エネルギーとなり、クレータすら作り上げる。

 

 断言してもいい。フィジカルスペックに限定すれば、イッセーはこの場でも上位三人にはいる化け物となった。

 

『心底泣きたいが、とりあえずおめでとう相棒』

 

「ああ、ありがとう。あと割とゴメン。……で、どんな感じ?」

 

 イッセーはこれで逆転できるかどうかを真剣に考える。

 

 敵は白龍皇ヴァーリと肩を並べるだろう実力者たちだ。赤龍帝の鎧があれば必ず勝てるとは断言できない。

 

 だが、それでも戦況は大きく動くだろうとは思っていた。

 

『何もしなければ30分は禁手を維持できるな。最大出力で攻撃すれば五分減ると考えろ。まあ、六発目はないだろうがな』

 

「そっか、いろいろ慎重にやらないとな」

 

 大技の回数が思ったより少ない。

 

 慎重に戦わないとすぐにガス欠だ。そしたら今度こそ詰みかねない。

 

 せっかく禁手に覚醒したのだ。その勢いで勝って帰りたいものだ。

 

 そんなイッセーの考えに、ドライグは失笑を返す。

 

『おいおい相棒。真の禁手に目覚めた赤龍帝をなめるなよ。普通にオーラをためて適当にぶっ放してみろ』

 

 その自信満々の言葉に、イッセーはそうした。

 

 とりあえずホテルとは離れた方向に手を向ける。そしてドラゴンショットの感覚でオーラをちょっと込めて、発射した。

 

 狙いは黒歌。だが、禁手に慣れてなかったせいか狙いがずれた。

 

 そして、ごっそり森を吹き飛ばした。

 

 少しして、遠く離れたところが勢いよく吹き飛んだ。

 

 カタナがぶっ放した砲撃に比べれば雀の涙といってもいい。この調子では全力全開で撃ってもあっさり撃ち負けるだろう。

 

 だがそれは比較対象がおかしいだけのこと。

 

 現実問題として、ちょっとした核砲弾レベルの破壊力が具現化していた。

 

 慣らし運転を兼ねたジャブ感覚で射撃したら、必殺奥義が出た感覚だ。カタナの超絶砲撃で感覚が狂っていなかったら、はっきり言って混乱していただろう。

 

「これがイッセーの……赤龍帝の本来の力……」

 

「やるねぇ。なんとなくぶっぱしただけでこれなら、うちのメンツでも打ち合いで勝負になるのはイルマ姉さんかアイネスさんだけか。勝ち目はもちろんこっちが低め」

 

 唖然とするリアスに、鶴木も感心している。

 

 因みにカタナは比較対象からスルーされているが、これは比較対象としてはいけないので皆が突っ込まなかった。

 

 MSの火力の話をしているときにコロニーレーザーを比較対象にしてはいけない。比較対象とは適切に選ばなければならないのだ。

 

 とはいえ、これで一気に形勢は逆転した可能性がある。

 

 なぜなら毒霧も見事に吹き飛んでいる。これでアイネスも防御に意識を割かなくて済むようになった。リアスと小猫も戦闘に参加できる。

 

「ほな、そろそろこっちも終わらせた方がよさそうやな。誰からくたばるか選ばせたるで?」

 

 そう告げるリスンの言葉は、空元気でも挑発でも何でもない。

 

 毒霧の防御で動けないものが動けるようになり、更に戦力は一気に強化された。

 

 今まで多少不利だが拮抗していた戦力バランス。その天秤の片側に重りが一気に乗っかったのだ。普通に考えれば勝機の一つや二つぐらい見出すものだ。

 

 だが、それで臆するようならテロリストなどやってない。

 

「あはははは!」

 

 黒歌は高笑いをすると、両手に力を籠め、更に様々な波動を具現化する。

 

 そのどれもが高水準。僧侶の駒二駒で転生し、最上級悪魔クラスに至ったのは伊達ではない。

 

 そして、その照準はイッセーへとむけられる。

 

「だったら、妖術仙術ミックスの一発をお見舞いしてあげるわよ!!」

 

 その渾身の一撃を、イッセーはあえて回避せずに受け止めた。

 

 あまりの無防備っぷりに黒歌は呆れ、鶴木やリスン、カタナも反応は遅れる。

 

 リアスと小猫に至っては息をのんで顔を青ざめさせる。

 

 ……だがしかし、タンニーンとアイネスは平然としていた。

 

『……赤龍帝をなめすぎだ』

 

「からめ手ではなく直接勝負で仕掛けるとは、存外に頭が悪いようだな」

 

 十割呆れのその評価とともに、文字通り傷一つない鎧をまとったまま、イッセーは首をかしげる。

 

「……こんなもんか?」

 

 最上級悪魔クラスの攻撃を喰らったのに、一切ダメージを受けていない。

 

 自らの主だけでなく、追撃部隊をことごとく血祭りにあげてきたという黒歌の攻撃がこの程度だとは思っていなかったので、イッセーは余裕を通り越して困惑すらしている。

 

 当然といえば当然だろう。

 

 黒歌は確かに最上級悪魔クラスのウィザードタイプだが、その術式は妖術や仙術だ。

 

 毒霧などのえぐい手段などは豊富かつ強大だが、当人や美候が言った通り、仙術は物理破壊力という点においては他の術式体系に比べると劣っている。

 

 タンニーンのような生身で頑丈な相手なら効果はあったかもしれない。防具を付けないいわゆる怪物の類には非常に有利だろう。

 

 だが、今のイッセーは全身を鎧で覆っている。これでは仙術を通すためにはまず鎧を破壊する必要がある。

 

 一言で言おう。単純なダメージの与えあいという土俵において、黒歌はイッセーと相性が悪すぎた。

 

「調子に、乗らないでよ!!」

 

 激高した黒歌は次々に攻撃を放つが、しかしどれもイッセーの鎧を突破するには至らない。

 

 力に酔いしれる性質が災いして、完全に頭が上っていた。そのせいで相性の悪さや立ち回りを間違えていることに気づかない。

 

 そしてそのすべての攻撃を無視して、イッセーは一瞬で接近すると黒歌の顔面すれすれに拳を放った。

 

 そして衝撃波が周囲の木の葉を吹き飛ばし、戦闘の影響で脆くなっていた木々を数本吹き飛ばす。

 

「俺の可愛い後輩を泣かしてんじゃねえよ」

 

「………っ」

 

 直撃していたらどうなっていたかを本能で理解した黒歌は、その脅し文句に明確に威圧されていた。

 

 そして、イッセーからのダメ押しの脅しが付け加えられる。

 

「次小猫ちゃんを狙った時は、あんたが女だろうが小猫ちゃんのお姉さんだろうが、遠慮なく当ててやるぜ、この野郎!!」

 

「この……クソガキ……っ」

 

 歯を食いしばって憎まれ口を叩く黒歌だが、しかしこの状況下では誰が聞いても負け惜しみでしかない。

 

 だがしかし、世の中には相手が強さを見せつけるとテンションが上がるタイプの馬鹿が割といる。

 

「ヒャハハハハ! ドラゴンの親玉が二匹もいるとか、楽しむ以外に何があるってんだ!!」

 

「そうですね。聖魔剣やデュランダルとも切り結びたいですが、アスカロンを持つ赤龍帝というのも捨てがたい」

 

 美候もアーサーもむしろ喜色を浮かべている。

 

 どうやらまだ戦う事になるのだろうとイッセーは身構え―

 

「―刃渡り強化(セット)アンド切れ味強化(セット)

 

 その、聞き覚えのある声に反応して黒歌達三人は振り返った。

 

 声を放ったのは、見覚えのある薄緑の髪の少女。

 

 そして振るうのは―

 

「ハイパーイルマさんソード!」

 

 ―なんか10メートルぐらいの光の刃を形成している剣だった。

 

「おっと」

 

「危な!」

 

「ふにゃぁ!?」

 

 三者三様に声を上げながら、三人は一斉に伏せる。

 

 そして横なぎに振るわれた刃は、木々を何本か見事に両断したが、本命を切り損ねた。

 

 しかし振るった少女はそのまま走ると、イッセーと並び立つ位置まで来て振り返る。

 

 そして、いつの間にか普通サイズになった光の剣を突きつけた。

 

「スーパービッチ貴族イルマさん参上! 私の眷属と政敵候補が世話になったね!」

 

「「イルマ姉さん!」」

 

「「イルマ!」」

 

 鶴木とリスン、アイネスとカタナがそれぞれ反応し、イルマをカバーするように集まる。

 

 そして気づけば、周辺には兄弟姉妹のように似通っているイルマの兵士(ポーン)が周囲を宝していた。

 

「ほぅ。見たところただの悪魔払い(エクソシスト)の通常装備ですが、先ほどの切れ味と刃渡りは不自然ですね。あなた、超越者か何かですか?」

 

 きれいな断面の切り株を見ながら、アーサーがそう尋ねる。

 

 それに対して、イルマは苦笑しながら首を横に振った。

 

「いや、クロックワークスの基本構成員なら誰でもできる超基本技術だよ? まあ、イルマさんは燃費の悪い力技で強引に凄い結果出したけどね」

 

 その言葉に、アーサーは苦笑する。

 

 悪魔払いの光の剣の切れ味は知っている。リーチも大体分かっている。

 

 そもそも下級悪魔や吸血鬼相手の露払いが基本の下っ端の装備ゆえに、悪魔や吸血鬼相手なら特攻が入るが、こんな斬鉄剣みたいな切れ味はない。リーチも多少は調整できるだろうが、あんな長く伸ばせるはずがない。

 

 そんな切れ味と間合いを超基本技術と形容する手段でここまでの物にできる事に、アーサーはクロックワークスを評価する。

 

 禍の団(カオス・ブリゲート)では比較的クロックワークスの構成員である魔術師(メイガス)についての知識が広まっているが、どういう存在かという知識はあってもどういう事ができるかはそれほど知られていない。

 

 これは後でよく聞いた方がいいだろうと判断した。

 

 そしてそれはそれとして、アーサーは軽く苦笑する。

 

「しかし、上級悪魔が悪魔祓い(エクソシスト)の真似事とはいかがなものでしょうか? 覚えて何か得するわけでもないでしょうに」

 

 悪魔祓いの戦闘技術は、基本的に人間が悪魔や吸血鬼と戦う為のものだ。

 

 人間より強靭で魔力という異能を主体とする悪魔が、自分達を殺す溜めの技術を使用するのもどうだろうか。意味があまりない奇特な趣味ともいえるだろう。

 

 そう思ったアーサーに対して、イルマは首を傾げる。

 

「え? むしろ悪魔にとってメリットだらけだけど?」

 

 その言葉にアーサーを含め、リアスやタンニーンも軽くきょとんとする。

 

 それに対して、イルマは逆にきょとんとし返して、眷属を見渡す。

 

「特に和平結ぶ前とか重要だよね? ねえアイネス」

 

「全くだ。人間界に出る悪魔なら熟知しておいて損はない」

 

 ツヴェルフは凄まじく実感が籠った頷き方で、イルマに同意した。

 

 何というか、人生を大失敗した者が失敗した原因を語っている時のような哀愁が漂っている。

 

「悪魔が人間界で最も敵対する事が多いのがはぐれを含めた悪魔祓い(エクソシスト)だ。その奴らの戦い方、つまりは人間による悪魔の殺し方を熟知する事ができれば、逆説的に奴らに殺されない方法に詳しくなるからな」

 

『なるほど。一理あるな』

 

 タンニーンが素直に頷いた。

 

 実際中世ヨーロッパや鎖国時代の日本では、罪人を殺すことを生業とする処刑人が薬師や医師を兼業し、彼らが作った薬はよく売れてよく聞いたという話がある。

 

 現代においても窃盗で逮捕された人間が出所後、企業にそのノウハウを逆手に取った対泥棒用のアドバイザーとして野党という話があるという。

 

 その観点でいえば、悪魔祓い(エクソシスト)の武装に熟知するというのは悪魔にとってメリットがある。和平がむすばれる前なら尚更だ。

 

「和平前だとアグレッサー部隊とかに引っ張りだこだな。ま、和平結んだ今じゃ直接呼んだ方が速そうだけどよ」

 

「ですわねぇ。和平に反対して教会を抜けた悪魔祓い(エクソシスト)とかおられますし、そういう模擬戦とかも必要ですわね。鶴木は賢いですわ」

 

 と、ぽんと手を打った鶴木の頭をカタナが撫でる。

 

 ちなみにアグレッサーとは、軍隊の戦闘訓練で敵組織の役を行う部隊のことである。

 

 敵との殺し合いの為の大事な予行練習の相手なので、精鋭である事が多い。基本的に悪魔として高性能な上級悪魔で、しかも並みの悪魔祓いを歯牙にもかけない攻撃力で悪魔払いの戦闘技術を再現するイルマは適任である。

 

 だからこそカタナは鶴木を褒めたのだろう。鶴木もそういうのを恥ずかしがる年頃のはずなのに、何故か素直に撫でられていた。

 

「はぐれ悪魔の討伐とかにも便利やな。それに禍の団(カオス・ブリゲート)の最大派閥は旧魔王派らしいし、こりゃうちもイルマ姉さんを真似た方が手柄あげられるかもな」

 

 リスンに至っては何やら手柄の皮算用までしている。

 

 しかし、そう考えると悪魔が悪魔払いの戦闘技術を学ぶメリットは数多かった。

 

 素直にアーサーも感心するが、しかし両隣の黒歌と美候は何故か冷や汗を流している。

 

「……アーサー。そろそろ帰った方がよさそうよ」

 

「だな。ちょっと調子に乗りすぎたぜ」

 

「どうしました? 急に弱気になりましたね」

 

 二人の様子に首を傾げるアーサーだが、それは仕方がないだろう。

 

 如何にアーサーが優れた戦士であるとはいえ、彼は術者ではない。探知などにおいてはどうしても一歩劣る。

 

 ましてや二人は仙術の使い手だ。生命体の感知においては非常に優れている。

 

 その二人が、明確に状況を危険と認識している。その理由は、きわめて単純だ。

 

「めっちゃ囲まれてるわ。たぶん五十人ぐらい」

 

「仙術ぬきじゃ気づかなかったぜ。こりゃ、お暇した方がよさそうだ」

 

 完全に包囲されている。それも、腕利きの戦力であるアーサー達三人が気づく前に。仙術使いである黒歌と美候ですら気づくのが遅れたレベルでだ。

 

 既に戦士達も減っているし、このままでは数の暴力で圧殺される恐れもある。

 

 それを素直に認め、アーサーはコールブランドを一閃する。

 

 そして生まれた空間の裂け目の中に入り込みながら、アーサーは軽く一礼し、鶴木に視線を向ける。

 

 その目には、興味と嫌悪の二種類の感情が混ざり合っていた。

 

「そこの聖剣使い君とは、聖魔剣の木場祐斗とデュランダルのゼノヴィアとは違った意味で雌雄を決したいですね。……何故かその剣はとても不快だ。歪で醜いと感じる」

 

 その罵倒ともいえる言葉に、しかし鶴木を含めたイルマ・グラシャラボラス眷属は苦笑した。

 

「……怒らないの?」

 

 リアスが怪訝な表情で尋ねるが、イルマは肩をすくめる。

 

「理由も例えも納得ものだからねぇ」

 

「ま、チンピラ貴族にんなこと言われても、おまいう案件なんですけどね」

 

 鶴木もそう続け、そして、その聖剣の切っ先をアーサーに突きつける。

 

「まあ、次会う時は覚悟しな。―俺の聖騎士王の聖剣(カリブリヌス・キャメロット)の錆にしてやるぜ」

 

 その挑発的な言葉に、アーサーは笑みを深くする。

 

 そして戦意を一瞬ぶつけ合ってから、空間の裂け目は閉じた。

 

 全ては終わったのだろう。その後、謎の戦士達も全員が打ち取られ、事態は終了。しかし、事実上の禍の団の襲撃によってパーティは終了して色々と大騒ぎになってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして一時間ぐらい経った後だ。

 

 休憩用に与えられた一室に、イルマは疲れた表情で入ってきた。

 

 事情聴取という事で時間を取られた結果である。その為、帰るのもだるいからホテルで一泊という事になったのだ。

 

 因みに、何故かイルマが一番事情聴取が長かった。

 

 戦闘の最後の方に参加しただけのイルマが話せる事は少なかったが、これに関してはイルマにも責任がある。

 

 悪魔祓い(エクソシスト)の基本装備という、下級悪魔や下級吸血鬼と渡り合う為の武装を上級悪魔すら一刀両断できそうな高出力化をさせたのが原因だ。

 

 パーティに参加していた天界側や堕天使側が色々と聞いてきたのだ。おかげで無駄に時間がかかってしまった。

 

 最終的に「クロックワークスの内情は大王派の主要人物及び四大魔王が厳選したメンバーにしか伝えていない秘匿事項なので堪えられない」で押し切った。それでも時間がかかったが、四大魔王や現大王のとりなしもあって解放された形である。

 

「大変だったな、イルマ」

 

 ツヴェルフのねぎらいの言葉を聞き、兵士の一人がコップに入れた水をイルマは一気飲みする。

 

 そして一息つくと、肩を落とした。

 

「イルマさま、湯あみと夜食の準備は整っておりますどちらを先になさいますか?」

 

 兵士の一人がそういうと、イルマは一瞬考えこんだ。

 

 だが、彼女はすでにある手はずを整えている。なので答えが一択なのにすぐ気づいた。

 

「あ、三十分後に女性用デリヘルが来るからまず夜食で。イルマさんストレスたまったからソープごっこでストレス発散するよ」

 

 即答である。

 

 ちなみに、女性用風俗は割と存在する。日本にも存在する。豆知識である。

 

 まあツッコミどころだらけの発言だが、しかしツヴェルフは想定内だったのか、ツッコミを入れることはなかった。

 

「イルマさまって頭の中盛ることしかないのかねぇ」

 

「まあいいじゃん。やらせときゃストレス抜けるから八つ当たりされないし」

 

「聞こえてるんだけどー!」

 

 兵士たちの聞こえるように言う陰口にイルマは怒鳴るが、すぐに夜食に手を出す。

 

 野菜中心のサンドイッチをつまみながら、イルマは次の展開を完全に想定する。

 

「イルマ?」

 

「イルマ姉さん?」

 

 不満げな表情を浮かべたカタナと鶴木が、一気に詰め寄った。

 

 ……ちなみに常識的に考えれば、まあ一言言われてもおかしくない。

 

 まだ十代の女性が、敵襲があった直後にデリヘルである。色ボケ以外の何物でもない。

 

 それもイルマは貴族である。代理とはいえ72柱の次期当主である。

 

 風聞的にあれだ。風紀関係に厳しい者なら、厳罰覚悟で大説教をしているだろう。

 

 だが、これはそんな事ではない。

 

「私も混ぜてくださいまし! イルマだけずるいですわ!」

 

「男とエロい事したいなら俺がいるだろ!? なんならカタナ姉さんと一緒に3〇でもいいから!!」

 

 この二人は色ボケなのだ。

 

「……アイネス姉さん。ウチもう寝ていいか? あとうるさくなりそうやから別の部屋ないか?」

 

「そうだな、ディアクルス達も休んでいいぞ? 後は私が面倒を見ておく」

 

「「「「「「「「はーい」」」」」」」」

 

 そして周りの対応も雑である。

 

 特にアイネスが酷い。仮にも主をペットみたいな扱いで対応している。

 

 そしてイルマ達は聞いちゃいなかった。

 

「だめだめ。そういう追加要素は事前に連絡しないと相手が困るから。……あと鶴木はカタナとエッチな事しちゃだめ。これ主の絶対命令」

 

「別に私は構いませんわよ? 鶴木はなんとなく可愛くて愛しいですから。いえ、恋愛感情は感じませんが」

 

「……イルマさんの絶対命令。カタナは鶴木に欲情しちゃだめ」

 

「イルマ姉さんひでぇ! 別に眷属間で自由恋愛しようがセック〇フレンドになろうがいいじゃねえか! 最低限のTPOは守るって!!」

 

「だめー! とにかく鶴木×カタナは絶対ダメー! ヤリモクでもLOVEでも絶対禁止ー!」

 

 凄まじい内容の会話を繰り広げている。

 

 仮にも主とその眷属がするような内容では断じてない。

 

「……やれやれ。流石は色欲の大罪(アスモデウス)を輩出した血族の出だね、イルマ」

 

「いつものことだが、もう少し性的に節操を持てんのか」

 

 そして、そんなイルマ達を苦笑して見つめるブルノウと、額に手を当てるスメイガが入ってきた。

 

「あ、伯父様にスメイガ。」

 

 イルマは親族である事もあって軽い対応をするが、しかし眷属と成れば状況は変わる。

 

 漫才をしていた鶴木とカタナも、それをスルーしていたアイネスことツヴェルフも、直立不動で対応する。

 

「「「お目汚し失礼しました、ブルノウ様!」」」

 

「硬くならなくていいよ。楽にしたまえ」

 

 ブルノウはそう告げると、イルマの方を向き直る。

 

「……今後について軽く話がしたい。本格的な事はクロックワークスや血統尊重主義派とともに会議を行うが、その前に身内で軽い方針確認を行おう。……すまないが、鶴木くんとカタナ君は外の警備を私やスメイガの眷属達と共に頼む」

 

 ……今ここで、大王派の未来に大きく影響する小会議が開かれようとしていた。

 




まあ、わかっているとは思いますが、イルマが今回使用したのは強化魔術。

光の刃の発生機能をまず強化してめっちゃ長くしました。そして次の強化で切れ味を大幅に上昇させました。

前回のあとがきで書きましたが、イルマはイルマ・グラシャラボラス眷属全体でも魔術師としては真ん中レベル。魔術師として開位の上が限界の、平凡レベルです。

ただし、グラシャラボラスの次期当主代理になるだけあって、魔力の総量はかなりあります。今回は流す魔力を増大化させることで強引に魔術の効果を上乗せしました。本人も言っている通り、燃費の悪い力技です。

しかしこの話を書いているときに思いましたが、悪魔が悪魔祓いの技術を研究するのにはかなりの価値がありますね。和平結んだ今では残存悪魔祓いの悪感情を刺激しかねませんが、和平前ならかなり価値があったんではないでしょうか。

そして短文にルビを振るタイプの鶴木の聖剣。この来歴と鶴木の特殊性に関してはホーリー編で語られます。あとカタナがやけに鶴木を可愛がっていてそれをイルマが時々妨害していますが、これに関しては本編中盤まで伏線でとどめておくべき機密事項なので、もやもやしといてください。

そして次回、プロローグのエピローグです。ブルノウ、スメイガ、イルマ、ツヴェルフの三人による、彼らの派閥の大規模会議の前の一種のミーティングですね。


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10 大王派、血統尊重主義派

そういうわけでプロローグもラストです。

ちょっとした説明会としての側面が強いですが、まあそこはご愛敬ということで


 

 ホテルのスイートルームの一つ。イルマ・グラシャラボラスが急遽取った部屋。

 

 そんな部屋に、バアル家重鎮の一人であるブルノウ・バアルが、息子であるスメイガ・バアルを連れて密談をしに来た。

 

 部屋にいるのは三人及び、イルマの女王(クイーン)であるツヴェルフ・シトリーのみ。

 

 そのツヴェルフがお茶を入れようとしたが、ブルノウはそれを手で制する。

 

「気にしなくていいよ。それより、クロックワークスの次期盟主になる君にも意見を聞きたいから、席に座ってくれ」

 

「承知しました」

 

 そしてツヴェルフがイルマの隣に座り、四人の会議が始まる。

 

 外にはスメイガ、ブルノウの両眷属と、鶴木及びカタナが警護をしている。

 

 全員が最低でも中級悪魔以上の戦闘能力を保有している。鶴木はコールブランドやエクスカリバーにも匹敵する聖剣を保有しているし、カタナの三光叫喚(ディストラクション・スクリーマー)も再使用が可能な状態なので、何があっても此方が対応準備を整える事ができるだろう。

 

 むしろカタナが最大出力をぶっ放して、ホテルや要人ごと敵を消滅させないかが心配である。他のメンバーが止めてくれる事に期待しよう。

 

 あと、ミーティングと会議の中間レベルのこの会話が長引いて、イルマが呼んだ女性用デリヘルが出くわさないかも心配だ。

 

「……すっごく申し訳ないけど、手短でお願いね伯父様。デリヘルの人が恐縮しそうだから」

 

「イルマ。仮にもバアル家の有力者にその要望は駄目だろう」

 

「イルマ、なんでお前は頭の中が色欲に染まってるんだ」

 

 ツヴェルフとスメイガが同時にため息を付くが、ブルノウははっはっはと朗らかに笑うだけだった。

 

「確かに、まじめに仕事をしに来たのに余計な心労を増やさせるのも可哀想だね。じゃあ、すぐに始めよう」

 

 そう告げ、そしてブルノウの表情が鋭くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は大王派の悪魔の中では気安い人物だ。

 

 血統重視する大王派の側である事を公言しているが、有用な意見なら下級中級の意見であろうと考慮する。

 

 そも、彼は大王派だが血統以外を切り捨てているわけではない。

 

 悪魔の大きな派閥は魔王派と大王派に二分されるが、それは非常に大雑把な派閥の分け方だ。

 

 魔王派には四大魔王それぞれのシンパがいるし、中には現ルシファーであるサーゼクス及び、魔王クラスの力を持つ彼の妻のグレイフィアとの間に生まれたミリキャスの将来に投資しようと目論むミリキャス派が存在する。

 

 それに合わせるように、大王派の中にも更に派閥は存在する。

 

 現大王やその取り巻きは七十二柱の血統、それも純血を最重要視し、その筆頭であるバアル家を真の頂点とする血統至上主義派と言ってもいい。

 

 大王派真の盟主ともいえる初代バアルはそこまで苛烈ではないが、同時に七十二柱などの上級悪魔の一族以外は悪魔ではないと断じている、ある意味で現大王以上の冷徹さを持っている。

 

 彼にとって下級中級は家畜と変わりないのだ。だからこそ、転生悪魔でも有用な者ならそれなりの地位に取り入れるべきだと思っているし、家畜を従えるための飾りと認識している魔王の座に据える事も状況次第では選べるだろう。ある意味で彼が今でも現大王の方が、現悪魔は連携がとれるのではないかとすら思える。

 

 そして、ブルノウ達もまた別の派閥に属している。

 

 彼らは血統の価値を重んじる大王派だ。だが、それは血統以外を否定する事を意味しない。

 

 例え血統が良かろうと、それに見合った能力を持ってないのなら厳しく対応し、足りない能力を補う事は愚か補う努力もしないのなら家から追放する事すら考慮する。そういう、家柄に縋りつく怠惰な者を嫌悪する傾向がある。

 

 そしてそれゆえに貴族が衰退する可能性を理解している。だからこそ、新しいものを取り入れる事も考慮する。若き者達が素晴らしい成果を上げてそれを代々存続させれるのなら、新たな貴族として迎え入れる事もよしとする。

 

 そしてそんな体制を作る事で、他種族からの転生悪魔に頼り切らず、本来の悪魔がちゃんと自分達の足で立って成長する世界こそを理想とする。

 

 それこそが、ブルノウ・バアルを筆頭とする血統尊重主義者である。

 

 血統と歴史に価値を感じる事は他の大王派と同様だ。だが、そこに必須の実績などがないのなら、それは血統と歴史を汚す行いである。

 

 そして、代を重ね血をより良くする者が尊重される事も当然の権利である。そうして発展して切磋琢磨してこそ、進歩というのは訪れる。

 

 そんな血統尊重主義派は、数年前から一気に成長を遂げることになる。

 

 全ては代表であるブルノウの息子と姪である、スメイガとイルマの告白だ。

 

 それに驚愕しながらも、しかしそれを家族として受け止めたブルノウは高潔な人格者だ。そして、同時にしたたかでやり手な彼はその告白を有効活用した。

 

 彼らの告白によって知った、自分達と思想を同じくする者。

 

 血に力が宿り、その結晶を当主が背負い、代を重ねるごとに力を得る。

 

 しかし歴史に見合う力がなければ冷遇される、血統主義者と実力主義者が重なり合った異界より来訪した異能保有者。

 

 魔術師(メイガス)、または魔術使い。

 

 そしてその最大技術ともいえる力を使い、ブルノウは彼らに自分達とコンタクトを取る方法を与える事に成功した。

 

 バアル有力分家の当主として彼は冥界にも人間界にも強いパイプがあった。

 

 スメイガとイルマによって魔術師というものをよく知る事ができた彼は、それを上手く利用する方法すら理解した。

 

 魔術師にとっての家宝ともいえる魔術刻印を失い、貴族といえる立場を失い、必然的に金策を失った。そんな彼らの居場所にして後援者になる事ができた。

 

 その結果生まれた魔術回路保有者の管理支援組織。それがクロックワークスだ。

 

 魔術師達の総本山である時計塔という組織にあやかった名前だが、その在り方はどちらかというと彼らの目の上のたん瘤に近い。

 

 彼らの大半がやってきた世界とは異なる世界線。人理を肯定するものと人理を否定する者が共に強大な力を発揮する世界。偽りだらけの神秘の大決戦が行われた世界。そんな世界に存在する、アメリカ合衆国を実質的に乗っ取りかけた犯罪組織。名をスクラディオファミリー。

 

 彼らの大半がやってきた世界にて、大いなる反乱を遂げた魔術組織。1人の魔術師として以上に政治家として卓越した男と、一人の数奇な気まぐれによって呼び出された聖人によって数多くの神秘の争いが頻発する世界。そんな世界に存在する、神域の天才が作り上げた願望機を象徴として、新たなる魔術教会にならんとした組織。名をユグドミレニア。

 

 本来の魔術師達なら嫌悪するこの在り方だが、しかしこの世界の魔術師達にとって垂涎の環境は、奇しくも二つの組織の要素を取り込んだクロックワークスにこそあった。

 

 スクラディオファミリーもユグドミレニアも、魔術社会において窮地に追い込まれた者達が集まった組織である。だが、その方向性は異なるがゆえに、それぞれに大きな欠点が存在する。

 

 スクラディオファミリーは死別した恋人の見た世界が見たいという理由でギャングスタ―が魔術師の後援者になる代わりに簡単な魔術などの協力を要請した、見方によっては魔術師ごっこをする為の組織だった。

 

 ユグドミレニアはデマゴーグで魔術師としての将来を閉ざされた一人の魔術師が再起し名前を残す為に、理由は異なれど近しい窮地に追い込まれている者達をかき集めた、負け犬の集まりと言っても言い組織だった。

 

 スクラディオファミリーは魔術師と一線を引いた付き合いをしたがゆえに能力が優秀な魔術師を集められたが、魔術師としての研究成果を集めて発展する事ができなかった。

 

 ユグドミレニアは魔術師同士の集まりであるがゆえに魔術師としての研究成果を集めて発展できるが、落後者の集まりゆえにそもそも発展する為に必須の優秀な魔術師が少なすぎた。

 

 しかし有能無能に限らず窮地に追い込まれた彼らと、次代の責任者となる者が超一流の魔術師である事が、クロックワークスを二つの良いとこどりの組織へと変貌させた。

 

 魔術師として再興する為に誰もが一定の協力体制をとり、世界法則の違いゆえにある程度の研究成果の提出を許容でき、更に小国の国家予算並みの資金援助と世界各国から様々な物品を提供が受けられ、更に国家権力レベルの庇護が受けられる。

 

 こと魔術師たちの魔術には感心するべきものも多い。特に治癒魔術はいくつかのアプローチがあるが、神の奇跡や祝福によるものは主流ではないため、治療という大きな恩恵を得られる分野で躍進できたことは大きな価値があった。

 

 断言してもいい。血統尊重主義派がここまで大きくなれたのは、クロックワークスとの蜜月関係があったからである。彼らがいなければ、尊重主義派は大王派の爪弾き物だっただろう。

 

 そして大王派はもちろん魔王派がその真実に気が付いた時は、時既に遅かった。

 

 大王派血統尊重主義派は、魔王派の派閥が最低でも二つ無ければ対抗できないほどの政治的影響力を持つ、非常に大きな組織となったのだ。

 

 ブルノウ・バアルが「悪魔社会の未来をより良くする」という大前提の下に行動している事もあり、基本的には大王派ではあるが、中間管理職のアガレス家の支援をして魔王派との連携をとる貴重な立場でもある。

 

 ……だがしかし、一つだけ勘違いしてはいけない。

 

 彼らは他種族からの転生悪魔を差別したりはしない。事実上の客将として能力に見合った優遇はするし、彼らが本来の悪魔と交わっていく事を否定する気もない。事実代表のブルノウも後継者候補のスメイガもその親族のイルマも他種族からの転生悪魔を何人か入れている。

 

 だが、真の悪魔と区別している事は事実である。

 

 彼らは悪魔という種族の未来をより良くする為に行動する。

 

 そしてその大前提において他の派閥を連携をとる事を厭わない。むしろ橋渡し役を積極的に行う。

 

 だがしかし、政敵である事に変わりはない。

 

 血統「だけ」にこだわり、純血かつ特性にしか目が行っておらず、不正まみれの現大王派。彼らの主導権はいずれ握り、老害たちには引退してもらう。

 

 良くも悪くも悪魔を「一種族」としか見ていないサーゼクス達魔王派。圧倒的な能力がある彼らに負けない発言力がなければ、いつか悪魔という種族は転生悪魔に塗り替えられるかもしれない。

 

 禍の団(カオス・ブリゲート)というテロ組織やら、いきなり降ってわいた好機を逃さなかったゆえに連鎖反応で急激に進みすぎている和平。

 

 これらの大波を乗り越える為に連携は取るが、しかし牙を研ぐ事は忘れない。

 

 その切り札。それこそが魔術師(メイガス)

 

 彼らの力を下に、血統尊重主義派は動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして五分間現状を話し合い、そして本題に入る。

 

「まあ今後の展開だけど、魔術師(メイガス)と亜種聖杯戦争の情報は各勢力の重鎮には教えないとね」

 

 ブルノウの発言に反論する者は誰もいない。

 

 むしろ納得の表情を浮かべていると言ってもいい。三割ぐらいは諦観ではあるが、まあそれも仕方がない。

 

「まあ、ヴァルキリーとか死神とか吸血鬼とか、多種多様な種族になっちゃってますからねー。魔術師(メイガス)も魔術使いも」

 

 苦笑いするイルマに、スメイガもツヴェルフも頷いた。

 

「同感だ。三大勢力の和平はとっかかりを見つけてから軽く数世紀かかると踏んでいたし、各神話勢力は更にかかると思っていたから多少の亡命はごまかせると踏んだが、たかが十年未満で交流可能になれば、必ず突っ込まれるだろう。父上、頑張ってください」

 

 さらりと事態が進みすぎている事を簡潔にまとめながら、実父に面倒ごとを丸投げするスメイガに苦笑する者が多数。

 

 だがしかし、ここにいるのはブルノウ以外は若手なので、当分政治の世界には深入りできないので当然の役目である。

 

 そしてそれに内心で同意しながら、ブルノウ以外の三人では最も魔術師の在り方にも貴族的価値観にも政治謀略にも慣れているツヴェルフは事態を更に整理する。

 

「まじめな話、魔術使いはともかく魔術師(メイガス)を制御下に置くには魔王派でも各神話でもなく大王派が最適です。しかし、利権を得る為ならいかなる不正を厭わない老害共達に任せては、誇り高き貴族的思考が育まれ易い魔術師達にとっての地雷になりかねません」

 

 その言葉に、スメイガもイルマも頷いた。

 

 彼らはブルノウの価値観に共感しているからこそ彼の派閥にいる。

 

 だが同時に、魔術師という生物の価値観を理解しているからこそ、ブルノウに魔術師達の後援者を頼んだのだ。

 

 断言しよう。今後の魔術師の発展お呼び、暴走の阻止のためにはブルノウ達大王派血統尊重主義が彼らの後援者になり、さらに相応の権力を持つことが必要不可欠だ。

 

 それらの共通認識をもってして、ブルノウは話を続ける。

 

「ああ、だから君達クロックワークスの重鎮となる者達に、私は要請をする他ない」

 

 そして、まずは息子であるスメイガに目を向ける。

 

「スメイガ……いや、錬金術師という分野で超越者と呼べるアインツベルンのすぐ下、悪魔でいう魔王クラスに位置する名門家系ブロンディ家の後継者、ゼプル・ブロンディ」

 

 あえてかつての名前を告げるブルノウに、スメイガは静かに目を伏せて笑みを浮かべる。

 

 息子のその悠然とした態度に期待を浮かべながら、ブルノウは命じる。

 

「将来的に私の後継者として、クロックワークス理事の座も継ぐ君は、冥界での活動を中心にしてくれ。歩き巫女に関しても基本的には君が運用するんだ」

 

「了解です、父上」

 

 その言葉を信じ、そしてブルノウはイルマに向ける。

 

「イルマ・グラシャラボラス……いや、魔眼輩出の希少血族である、道間(どうま)家の養子、道間日美子(ひみこ)

 

「はい」

 

 静かに、かつての名を呼ばれてうなづくイルマに、ブルノウは―

 

「君は後回しだ。もうちょっと待ってね」

 

 ―そんな茶目っ気を見せた。

 

 微妙に緊張感が緩み、ブルノウ以外の三人が脱力する。

 

 そしてそんな軽い悪戯をしてから、ブルノウはツヴェルフに向き直る。

 

「ツヴェルフ・シトリー……いや、時計塔十二のロードが一人、エルメロイ一門の有力家系がアーチホール家が娘、アイネス・エルメロイ・アーチホール」

 

「はい」

 

 礼節をもって頷くツヴェルフに、ブルノウは指示を出す。

 

「君は基本的に冥界だ。クロックワークスの次期代表はゼプルに並び立てる唯一の魔術師(メイガス)である君だからね。冥界組織の運営の練習も兼ねて、イルマの領地の代官をしながら、引継ぎ作業を中心に動くこと」

 

「ご安心ください。イルマの領主作業の代行はもはや日課です」

 

「いや、イルマさん次期当主代理としての勉強も仕事もしてるけどね!?」

 

 微妙に酷い事を言われたイルマはそう反論してから、ブルノウに詰め寄った。

 

 魔術師としては間違いなく自分はスメイガとツヴェルフに劣る。それは自覚している。

 

 というかこの二人に魔術師として勝てる魔術回路持ちはクロックワークスにはいない。準ロードクラスの素質持ちが相手なのだから、比べるまでもない。

 

 魔術を利用する魔術使いとしてなら、二人をしのぐ実力を持つワイルドカードな自覚はある。だが、根本的に研究者であるべき魔術師として二人に勝つ事は永久にないという自覚もある。

 

 そういう意味ではツヴェルフが自分の眷属悪魔になっていることも問題なのだ。ツヴェルフと再会して事情を把握したときは、どっちが本家に近い血筋かなどの理由があったので自分が主になることを決めたが、一時は本気でアイネスの眷属悪魔になることも考えた。

 

 だが、ブルノウの頼みでゼファードルを次期当主代理にさせない為に政争までしたのだ。それなりに期待してほしいし、もうちょっと何かいい扱いをしてほしい。

 

「伯父様、道間日美子にイルマ・グラシャラボラスとしてやって欲しい事は何ですか? そろそろデリヘル来るから早めにお願いします!」

 

 余計な事を覚えているイルマにスメイガとツヴェルフが頭痛を感じるが、ブルノウはそれに微笑んだ。

 

「イルマ、君にはこれからの流れの主流に近づいてくれ」

 

 ブルノウはそう告げると、イルマの肩に手をおいた。

 

「具体的には駒王学園に転入ね。ディアクルスはアイネスの補佐役として残ってもらうけど、リスンと鶴木とカタナは連れて行く事」

 

 その言葉にイルマは頷き―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―数秒遅れで内容を理解し直し、首を傾げた




そういうわけで、プロローグは終了です。

とりあえずストーリーとしての続きはホーリー編ですが、その前に設定資料とサーヴァント風ステータス(暫定)を入れようかと考えております。

因みにホーリー編ではオリ敵が本格的に動きますし、イルマ眷属も大暴れします。スメイガたちもなんだかんだで動くなど、結構忙しくなる予定です。

イッセーたちの視点による魔術師達についてなどは、ホーリー編のラストで説明回をする予定。それまでちょっと待ってほしいんじゃよ。


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各種設定資料集
設定資料集


11月25日 初投稿

11月29日 追記


『各種設定』

 

◎大王派血統尊重主義派

 悪魔政権における大王派内部の派閥の一つ。リーダー格は、大王バアルの有力分家当主、ブルノウ・バアル

 

 大王派であり古来より続く血統を大事にしている事は他の大王派と共通。しかし大半の大王派各派閥とは違い、その血統に見合った能力を維持し続ける事を責務とし、それができなくとも別の形で補う者や補う為の努力をする者までは評価するが、どれにも該当しない者達は冷遇されて当然という派閥。その特性上中級下級が昇格して新しい貴族となる事には寛容だが、他種族から悪魔の駒で転生した者達に関しては一種の客将として扱うといった線引きをしている者が多い。

 

 とはいえ転生悪魔を冷遇するわけではなく、またバアルとしては無能であるサイラオーグに関しても、そのハンデを凄まじい努力による身体能力で補っている事には高評価。バアルとして凡庸な弟マグダランに関しても、植物学に対する造詣の深さに理解を示すなど、大王派の中では屈指の良心的派閥。むしろさまざな不正に手を染める老害が多い現大王派の清浄化を目論んでおり、大王派全体でいえば獅子身中の虫に近い。

 

 前提条件として「下級中級も含めて悪魔社会を豊かにする」が政治指針。アガレス家と共に大王派と魔王派の仲を取り持って連携する事も多く、結果的に大王派の中では現四大魔王などに好印象を持つ者も多い。しかし実際は「悪魔という種族」について思想の違いが明確な事もあり、手を取るべきところは遠慮なくとるが、必要とあれば遠慮なく権限を奪い取る事も画策している。政治的な対立と私人としての好感をしっかり分けるクレバーな人物が多く、不正はしないが法の抜け穴に全力投球するようなえげつない手も取る。汚い手段を極力避ける魔王派主力や、不正に染まっている大王派主力とも異なる、清濁併せ呑む中立よりの大王派というのが一番近い。

 

 本来なら大王派の中でも小規模な弱小派閥になるはずだったのだが、クロックワークスを組織してから急激に発言力を拡大。魔王派の各派閥が最低でも二つ連携しなければ対抗できないほどの勢力となっている。

 

 しかし、三大勢力の戦争終結から各勢力との和議そのものは望むところだったが、それが進む速度の計算を完全にミスしてしまっている。結果、クロックワークスに参加する為に亡命してきたヴァルキリーや死神について、アースガルズやオリュンポスの追求などに対応する為、色々と苦労する事となる。

 

 〇クロックワークス

 ブルノウ・バアルが理事兼盟主を務める魔術師(メイガス)達の集まり。

 スメイガからの情報提供で魔術師達の存在と性質を知り、彼らの暴走を抑止しつつその力を冥界の未来のために有効活用するために結成した。その過程においてごく小規模の亜種聖杯戦争を開催。それによってこの世界に転生している魔術師に連絡先と連絡方法を教え、それによって彼らを迎え入れる。そのため非常に多種多様な人種で構成されているが、この時点で数年後にいきなり急激な和平成立ブームが起こるとは想定されていなかったため、駒王会談後は突如亡命した自陣営のヴァルキリーや死神などの虎の子について各勢力からの質問攻めにあうことになる。

 世界の法則そのものが違うことから、合同研究といった時計塔ではふつう行われないような連携を取った研究が行われているのが特徴。また、この世界の魔法使いに対して不快感を抱くものも多く、魔法使い団体とは距離を置きたがっている者が多い。

 大抵の魔術師は治療魔術が使えるため、それによる医療関係でブルノウ・バアルの政治的発言力を跳ね上げている。その影響で構成員は研究費用が増えるため、これでもかというぐらいに蜜月関係。時計塔に由来する形でクロックワークスと名付けられているが、その実態はユグドミレニアとスクラディオ・ファミリーの悪魔合体に近い。

 因みに、クロックワークスの結成メンバーが基本的に新しい才能を取り立てることにも理解がある名門関係者で構成されているため、時計塔で例えるなら中立派に近い。時計塔でいう民主主義派や貴族主義派もいたが、その前提となるものが大量に失われていることもあって、ほぼ一枚岩で動いている。

 

 〇歩き巫女

 ボウゲツこと望月千代女の宝具によって強化された、大王派血統尊重主義派の諜報工作部隊。

 構成員の大半が純粋な下級中級の悪魔で構成されているが、宝具によって忍術を高いレベルで習得しているうえ、本来の宝具の特性もあって、女性メンバーは巫術なども高水準で保有する。その特性上、疑似的なアサシンのサーヴァントのようなものなので、戦闘能力が大幅に強化されている。

 ボウゲツがスメイガの眷属悪魔であることから、基本的にスメイガ・バアル眷属の下部組織。ただし、ボウゲツがスメイガの眷属悪魔になったこと自体、スメイガが将来ブルノウの跡を継ぐことを前提とした采配なので、ブルノウも相応の指揮権を保有する。

 宝具の最大補足人数である300人までが限界ではあるが、死亡以外の理由で数を減らせないのが現状。そのため現在は六人編成の部隊構成で、180人三十部隊にとどめている。

 

 

 

 

『登場人物設定』

 

 〇イルマ・グラシャラボラス眷属

 血統尊重主義派盟主である、ブルノウ・バアルの姪であるイルマ・グラシャラボラスが王を務める眷属集団。

 ブルノウの威光もあってグラシャラボラス家の次期当主代理に就任。その後。運命の変転に備えるためにブルノウの指示で一部メンバーが駒王学園に転校。もともと対立派閥である魔王派のリアス・グレモリーとソーナ・シトリーがいることもあり、二人に対するけん制役兼外交官としての役目も(一応)あるため、魔王側が監視の名目でオカルト研究部に所属することになる。

 カタナが意外なところですさまじい才能を発揮しており、それを利用する形で眷属は全員馬を使い魔にしている。

 

 

 ◇イルマ・グラシャラボラス

 本作最重要人物の1人。自作品におけるリセス・イドアル的なポジション。

 グラシャラボラス家でも本家よりの分家出身で、加えてブルノウの姪。本家次期当主の急逝に伴い、凶児ゼファードル・グラシャラボラスと次期当主代理の座を争い、最終的にレ―ティンゲームでゼファードルを下して繰り上がり当選する。

 ノリの軽いギャル気質で、眷属とフランクに接する好人物なのだが好色家。自ら堂々とビッチを名乗るほどで、バアル家有力者のブルノウの姪という立場及び支持・性格的に遥かに良識的・そもそも本家よりの血筋という三つのアドバンテージを踏まえてなお、凶児ゼファードルとの次期当主代理争奪戦が接戦になる程酷い。その為、眷属はTPOが許す場合はイルマの扱いがぞんざいである。

 実は眷属の王でありながら、「魔術師(メイガス)」としての才能は主要メンバーの中では真ん中ぐらい。ただし有力分家同士の間に生まれたサラブレッドであるため悪魔としてはリアス並みのサラブレッドであり、そのポテンシャルで強引に補っている。戦闘時においては悪魔払いの装備を強化魔術で高位の神器並みに高める戦法をとっており、その過程で悪魔祓いの戦い方に造詣があるため、対悪魔戦や悪魔祓い戦を得意とする。

 普段の一人称は「イルマさん」だが、TPOの都合や本気モードの時は前世の地が出て「私」になる。

 

 ◇ツヴェルフ・シトリー

 イルマの女王。シトリー分家の末席に連なる少女。

 シトリー分家でありながら大王派血統尊重主義派のイルマの眷属となり、イルマも所属しているクロックワークスに参加。将来的にブルノウが理事と兼任している盟主を引き継ぐ予定にもなっている異例の人物。

 割と苛烈な性格で、罵倒に値する時はあっさり罵倒し実力行使も辞さない人物。割と上から目線でものを言うが、これは実力と血統に裏打ちされたもので、当人は貴族としての責務を行使せんとする誇り高い人物。反面今の名前を好んでいないこともあり、前世の名前である「アイネス・エルメロイ・アーチホール」を部分的に名乗ることが多いので中二病扱いされる残念なところもある。

 シトリーとしては分家の分家故に純血上級悪魔としては弱いが、時計塔の名門エルメロイ一門の有力家系出身であるため魔術師(メイガス)としては最強という、イルマと真逆の組み合わせになっている。ことデスクワークにおいてはクロックワークスにおいて最高峰であり、イルマに対しては過保護気味なこともあって「彼女がするという事実そのものが重要な仕事」以外は全部自分で終わらせてしまうという悪癖がある。

 

 ◇リスン・ブネ

 イルマの戦車。人間と交わって生き残ったブネ家の少女。

 似非関西弁でしゃべる元気少女。

 魔術師としての素質はイルマより上だが記憶がないため運用技術に乏しく、また魔術回路も専門分野が把握されてない。ただし獣性魔術と組み合わせるとそのデメリットが大幅に削減される家系の一つであったこともあり、獣性魔術による近接打撃戦を好むが、あくまで獣性魔術と家計の相性によるものであり、彼女自身が獣性魔術の家系というわけではない。

 

 ◇麻宮鶴木《あさみや つるぎ》

 イルマの騎士。変異の駒で転生した、イルマ眷属唯一の人間ベースの転生悪魔。

 割とエロいのだが童貞なのを気にしており、年代的におかしいのにカタナに可愛がられるのが恥ずかしくないのが最近の疑問で、イルマが何故か自分とカタナにエロいことをさせないよう強権まで行使してくるのが悩み。

 コールブランドと打ち合える聖剣を使って戦闘を行う。魔術回路も保有しているのだが、運用のための記憶を継承していない。

 デミ・サーヴァントの完成をもくろんだ転生魔術師集団が、データ収集のためにわざと失敗することを前提とした「検体」として手に入れた孤児。しかし不完全ながら唯一デミ・サーヴァントとして機能してしまっており、その後プランそのものの廃棄に伴って殺されかけるも、血統尊重主義派やクロックワークスを引き連れたイルマに助けられ、眷属入り。

 その過程で物心ついた時の最初の記憶と彼女の対応が重なったこともあって、イルマに対して本気の恋愛感情を持っている。しかしイルマ自身が「血統孫登主義派」として婚姻を使う気でいることに理解を示しているため、結ばれたいという願望はあまりない。またそれとは別にかなりのスケベであるため、カタナなど様々な女性とエッチなことをしたいお年頃。

 

 ◇カタナ・フールカス

 イルマの僧侶。駒二つを使って転生した、フールカス分家の少女。魔術として使い魔や支配の魔術も使えることが相乗効果になったのか、馬の調教を得意とする。

 お嬢様口調でしゃべるがイルマ並みに好色家。恋愛感情ではないが鶴木のことを非常に気に入って可愛がっており、イルマが鶴木とのエロいことを強権を振りかざして妨害するのが最近の悩みの種。

 魔術師としての記憶を持っていない悪魔。しかし魔術回路も悪魔としても運用能力が最下層であり、なまじ魔力がある分サイラオーグより悲惨。ただし魔力の貯蓄量及び生成量においては双方ともに桁違いであり、現在は要改良だが専用装備を使用することで、後先考えなければ超越者クラスの攻撃力を発揮できる、一芸特化型。ただし家系特性との悪魔合体が起きたのか、馬の調教だけはすさまじくすごい。当人はバイコーン「ノダチ」を愛馬にしている。

 

 

 〇スメイガ・バアル眷属

◇スメイガ・バアル

 血統尊重主義派の若きエリートである、ブルノウの実子。将来的にブルノウの跡を継ぎ、同時にクロックワークスの理事も引き継ぐ予定。

 ソーナが馬鹿正直に夢を語った事を上手く利用し、老害に耳障りのいい形に訂正しながら近い夢を評価させるやり手。しかしそれらについてソーナ達に後でアドバイスする事もいとわない高潔な人物でもあり、王の器を持った人物。

 

陸奥 鳩羽(むつ はとば)

 スメイガの眷属。変異の駒である女王の駒で漸く転生できるという、規格外のポテンシャルを秘めた人物。

 その正体はクロックワークスの聖杯戦争で召喚された、ライダー・陸奥のサーヴァント。厳密には神滅具と戦艦陸奥の同時併用をもくろんだ日本の威光でスカウトされた、五大宗家を神滅具を持っていたことで追放された少女、櫛橋鳩羽がさまざまな特殊事情で「陸奥」として登録されたもの。

 元軍人名だけあって固いが、誇り高い性格。特に同胞である陸奥乗組員を不当に罵倒するものは断じて許さない。あと非ヒトラーはの悪魔祓いのせいで陸奥ごと撃沈されるは間接的に同胞を何人も七に送られるわされているので、当時の関係者ぐらいは一発殴りたいと思っている。

 

◇ボウゲツ

 スメイガの眷属。騎士の駒二つで転生した女性。

 その正体はクロックワークスの聖杯戦争で召喚された、アサシン・望月千代女。その宝具を最大限に生かして血統尊重主義派の諜報組織「歩き巫女」を生み出しており、そのポテンシャルは非常に優れている。

 

 

 

 〇ブルノウ・バアル眷属

 ◇ブルノウ・バアル

 大王派血統尊重主義派の盟主。スメイガの実父でイルマの叔父。

 上手く旧家が気に入るような言い回しをしながら、魔王派も評価するような政策を通すやり手の政治家。同時に私人としては温厚であり、下級中級ふくめた悪魔社会を豊かにする事を目的にしており、大王派の清浄化を目的としている。

 スメイガとイルマのある告白を機にクロックワークスを結成し、一気に勢力を増す。現在は理事と盟主を兼任している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◎禍の団

 

 〇トルメー・グレモリー眷属

 もともとはグレモリー分家出身でありながらグレモリー家最強とまで言われた眷属集団。皇帝ディハウザーすらレーティングゲームで下した実力から期待を一身に受けていたが、旧魔王派のテロに呼応する形で突如裏切り、そのテロにおける同盟側の被害の大半を引き起こした。

 その正体は魔術師であるトルメー・グレモリーが亜種聖杯戦争で召喚し、受肉したサーヴァントによって構成された集団。何かしらの形で神に恨みを持つものが大半であり、そもそも最初からトルメーの趣味の追求故に旧魔王派とつながっていた最悪の裏切り者。レーティングゲームにおいても、正体をクロックワークスに勘付かれないために「魔術師やサーヴァントとしての強みを完全に封じてかつ」ことに全力をだす縛りプレイで勝ち上がっている。

 ☆眷属構成

 王:トルメー・グレモリー

 女王:アルケイディア(アルケイデス)

 戦車:キラルナ(アクタイオン)

 戦車:デメルング

 騎士(二駒):ニスネウス

 僧侶(二駒):ゲッテル

 兵士(七駒):デュリンダナ

 兵士(変異の駒):トウケン

 

 

◇トルメー・グレモリー

 「質も量も最高峰で悲劇をまき散らしたい」という渇望に忠実に生きる、最悪の精神破綻者。質の悪いことに最終的な最高結果を得るために考えて動くため、この手のタイプにありがちな「目先の利益につられてのミス」が少ないという厄介な人物

 亜種聖杯戦争を七回かちあがってきた猛者であり、それによって「デミ・サーヴァントとしての素体への肉体変質」「アドルフ・ヒトラーのデミ・サーヴァント化」「保有する魔眼のランクアップ」「共闘できるサーヴァントの真名把握」などを行っており、その強さは才能というより文字通りのチート。その特性上純血悪魔や魔術師の天敵であり、サーゼクスを文字通り一瞬で倒すことにより、真のデビューをある意味最高の形で飾っている。



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サーヴァント風ステータス

ちょくちょく更新する予定ですが、基本的に更新段階での最新情報になりますので、ネタバレ注意です。

ある程度ばらせる人物だけばらしているので、その辺についてはご了承ください。





























11月26日投稿

11月29日更新

12月17日追記


〇イルマ・グラシャラボラス眷属

 

 ◇イルマ・グラシャラボラス

【該当クラス】キャスター

【属性】秩序・善

【ステータス】

 筋力D 耐久D 敏捷B 魔力A+ 幸運D 宝具A+

【保有スキル】

 魔の七十二柱:A+

 人間とは異なる悪魔という種族、その中でも高位の存在である事を示す。イルマはその中でもサラブレッド。

 グラシャラボラス本家に近い血筋であり、同様の近さを持つバアル分家の血も色濃く継ぐ。このスキルに由来する絶大な魔力量により、各種魔術の能力向上を果たしている。

 

 魔術:C+++

 基礎的な魔術を習得。ぶっちゃけポテンシャルは平凡。絶大な魔力量で強引に威力を向上させているに過ぎない。

 ただし宝具発動時に限り、グランドクラスのキャスターにすら迫るほどの魔術行使能力を発動可能。

 

 悪魔払い(模倣):C

 悪魔を滅する為に人間が開発した技術に造詣が深い。ただし、根幹である天使などの加護がない為純正スキルに比べると効果は低い。

 悪魔との戦闘に対して有利な補正が与えられるが、悪魔である彼女がこれを持つという事は、翻って悪魔払いの攻撃にどう対処すればいいか分かるという事であり、同系統スキルに対するカウンターとして機能する。

 

 他、一つのスキルを保有。

 

【宝具】

 現状詳細説明不可能。

 

 

 ◇ツヴェルフ・シトリー

【該当クラス】キャスター

【属性】秩序・善

【ステータス】

 筋力C 耐久C 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具B+

【保有スキル】

 転生せし七十二柱(女王):A

 元から上級悪魔なうえに、転生悪魔による調整が行われている事を示すスキル。

 幸運を除くステータスがワンランクアップしている。反面光力に対する脆弱性などもある為、完全なプラススキルにはなりえない。

 

 魔術:B

 多種多様な西洋魔術を習得。そのポテンシャルは該当時代の魔術師の中では最高峰。Aランクの頂に到達する可能性すら秘めている。 

 

 尊き副官:A

 自ら寄り添い支える者を定め、その為に力を尽くす誓いそのもの。

 同ランクまでのカリスマなどの人心掌握スキルを削減する。また、寄り添う対象を害する形の強制魔術などに対しても強い抵抗値を発揮する。

 

【宝具】

 |神霊髄液《ウォールメン・ハイドログラム・アドバンスド》

 対軍宝具 ランクB+ レンジ:1~90 最大補足:50人

 特殊なアマルガムを圧力で操作する事で攻撃・防御・索敵をこなし、更に自動操作を完全にこなす演算能力で様々な作業を行う事ができる、万能装備。

 注:一部情報を秘匿

 

 

 ◇リスン・ブネ

【該当クラス】キャスター・バーサーカー

【属性】秩序・善

【ステータス】

 筋力C 耐久C 敏捷D 魔力A 幸運D 宝具A+

【保有スキル】

 転生せし七十二柱(戦車):B

 元から上級悪魔なうえに、転生悪魔による調整が行われていることを示すスキル。人間と交わっている為ランクが若干低い。

 筋力と耐久がワンランクアップしている。反面光力に対する脆弱性などがある為、完全なプラススキルにはなりえない。

 

 龍性魔性:B

 龍を司るブネ家の血と、前世より宿した魔術回路の複合によって具現化する、封印指定一歩手前の魔術の使い手である事を示すスキル。事実上の魔の七十二柱と魔術の複合スキル。

 ブネが持つ龍の特性を獣性魔術で発現させる事により、双方の特性の利点を強化し欠点を抑制する。その戦闘能力強化はCランクの狂化に匹敵する

 

 他、一つのスキルを保有。

 

【宝具】

 詳細説明不可能。

 

 

◇麻宮鶴木

【クラス】セイバー

【属性】秩序・中庸

【ステータス】

 筋力D 耐久D 敏捷B 魔力A 幸運D 宝具A++

【クラス別スキル】

 対魔力:B

 三小節までの魔術を無効化する能力。大魔術や儀礼魔術でも負傷させることが困難なレベル。

 

 騎乗:B

 乗り物を直感的に乗りこなす能力。魔獣・聖獣ランク以外なら乗りこなすことができる。

【保有スキル】

 転生悪魔(騎士):C

 後天的に悪魔になったことを示すスキル。

 敏捷スキルがワンランクアップする。反面、光力への脆弱性なども付加されるため、完全なプラススキルにはなりえない。

 

 魔術:D

 基礎的な魔術をある程度習得。魔力量は多いが魔術の運用能力は低く、くわえて宝具制御に魔力の大半を使用されるため見習いに毛が生えた程度しか使えない。

 

 戦闘続行:E+

 往生際が悪い。あと惚れた女の前でかっこつけたい男の悲しい性。

 ダメージによる戦闘能力の低下が発生しにくい。イルマ・グラシャラボラスが近くにいるときには効果が倍増する。

 

【宝具】

 流星破装(メテオ・バスター)

 対人宝具 ランクA レンジ:1~30 最大補足:二人

 剣が保有する亜種禁手。荷電粒子を放出する一対のクローアームを具現化する。

 攻撃力は高く、両手を開けることができるため対応能力は高い。反面原型より狙いがつけにくく、射程距離も短いという欠点が存在する。

 

 聖騎士王の聖剣(カリブリヌス・キャメロット)

 対人・対軍・対界宝具 ランクA++ レンジ:

不定 最大補足:100人

 アーサー王の力を不完全に付加されたことで具現化する、麻宮鶴木の宝具。

 聖王剣コールブランドと聖剣エクスカリバーが混ざり合った形で具現化したものであり、その特性上双方の聖剣の力を発動することができる。。

 ただし、めちゃくちゃな融合によって具現化したものであるため、初期の段階ではただの強力な聖剣としか使用することができない。鶴木の魔術教育は、これの運用能力を高めることにのみ集中運用されている。

 

 他一つ宝具を保有

 

 

 ◇カタナ・フールカス

【該当クラス】ライダー・アーチャー

【属性】秩序・中庸

【ステータス】

 筋力E 耐久E 敏捷D 魔力EX 幸運D 宝具C+++

【保有スキル】

 転生せし七十二柱(僧侶):A

 純粋な上級悪魔でありながら、転生悪魔による調整が行われている事を示すスキル。

 魔力のステータスがワンランクアップしている。反面光力に対する脆弱性などがある為、完全なプラススキルにはなりえない。

 

 大魔力機関:A-

 魔力を精製する事に限定特化した特殊な魔術回路を保有する。

 上級悪魔に生まれて僧侶の駒まで使われた事が加わった彼女の魔力精製能力は超越者クラス。反面運用能力が絶対的なまでに貧弱。彼女単体ではその特性を発揮する事は未来永劫無い。

 

  騎馬調教:C++

 家系特性と使い魔生成の魔術などの複合的な理由で、馬の調教に非常に優れている。

 馬という括りに限定すれば幻獣・神獣ランクすら時間をかければ乗りこなし、魔獣・聖獣ランクも時間をかけて調教することで他者と悪魔式の使い魔契約をさせることも可能。因みに本人の愛馬はバイコーンの「ノダチ」。

 

【宝具】

 三光叫喚(ディストラクション・スクリーマー)

 対城宝具 ランクC+++ レンジ:4~99 最大補足:1000人

 ランクこそC+++だが、これはあくまで宝具の神秘。それによって初めて超高水準で引き出され放たれるカタナの魔力は、対城宝具クラスの火力を叩き出す。

 注:一部情報を秘匿。

 

 

 

 

 



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第一章 体育館裏のホーリー ディアボロス・サーヴァントの脅威
1 転校性はギャルビッチ


はい。ついに第一章です。第一章がホーリー編な作品なんてそうはないでしょう。

とりあえず何話かは、イルマ達の駒王学園転入編と、プロローグ終盤のミーティング後の、なんでそんなことをしたのかの説明となります。


 

 その日、兵藤一誠は驚愕を味わった。

 

 そもそも、ここ数日のイッセーは精神的に微妙に不安定だった。

 

 きっかけは、冥界からの帰還時に起こった出来事である。

 

 あの襲撃の後行われた、シトリーとのレーティングゲーム。結果は勝利だがイッセー達リアス・グレモリー眷属は酷評された。

 

 屋内で、かつ建築物の破壊を抑える事を前提とし、更にギャスパーの停止の力を封印した状態でのレーティングゲーム。この時点で不利であった。

 

 なにせアザゼルの指導方針は、基本的には持ち味を生かす事だ。その結果、グレモリー眷属は火力強化が行われた者達が殆どである。というより、グレモリー眷属は基本的に火力重視かサポートタイプの二極化が特徴なチームだった。

 

 これは禍の団との戦いも考慮していた為だが、結果としてこの特殊ルールとの相性が最悪だった。

 

 そして、結果としてもボロボロと言っていいだろう。

 

 まず先手を打たれて真っ先にギャスパーが脱落。更に注目株の一人であるデュランダルを使うゼノヴィアがカウンターを見事に喰らって撃破された。その上、リアス・グレモリー眷属における最大級のアドバンテージである回復担当のアーシアを、その能力を見事に逆手に取られて撃破された。

 

 そして一番評価を下げたのは、イッセーの敗北だろう。

 

 神滅具(ロンギヌス)の一角である赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)。フェニックス家の期待のルーキーであるライザー・フェニックスを、疑似的な禁手(バランス・ブレイカー)をもって倒したイッセーは注目株だ。

 

 しかも前夜に禍の団の特殊部隊、ヴァーリチームをイルマ・グラシャラボラス眷属や最上級悪魔タンニーンと共闘して退けた。その過程において悪魔社会的に忌々しい相手である、SSランクはぐれ悪魔である黒歌を圧倒。しかもその理由は正式な禁手に至ったからだ。

 

 試合前日に禁手に至るというタイムリーなニュース。あのレーティングゲームを観戦しに来た者は、少なからずイッセーの戦いに期待しただろう。

 

 が、その戦績はたった一人。

 

 ソーナ・シトリーの兵士(ポーン)。スケベで主に懸想している共通点から意気投合し、夢を語り合った同年代の匙元士郎(さじ げんしろう)。彼を殴り合いの末にリタイアさせただけだった。

 

 匙の駒価値はイッセーの半分の四で、しかも神器は禁手に至っていない。その上、一月前の会合で上役達に食って掛かった事もあって、アイネスが派手に制裁した事から溜飲は下がっているだろうが、上役の大半からの心象そのものは悪いはずだ。

 

 旧家の上役達はイッセーが圧倒する事を期待していただろう。そも、このレーティングゲームは下馬評ではリアスの圧倒的優勢だ。イッセーの禁手という唐突なアドバンテージの上昇もあり、勝って当然と認識されていた。

 

 だが、イッセーは匙相手に実に苦戦した。

 

 お互いに寿命を削る覚悟の戦いだったとはいえ、友人との殴り合いで若干気圧されていたとはいえ、匙の方が夢の為に覚悟を決めていたとはいえ、イッセーの方が性能では上だったのに、苦戦したのだ。

 

 そして、イッセーからすれば撃破されたのはイッセー自身だった。

 

 匙の持つ神器は黒い龍脈(アブソーション・ライン)。龍王ヴリトラの魂の一部を封印した神器で、ラインを繋げた相手から力を吸い取る能力を持つ。アザゼル曰く応用手段としてラインを二つ別々に繋げる事で、力を流動が可能でもあった。

 

 そしてソーナ達シトリー眷属こと生徒会は、イッセーのしぶとさと対女性における脅威度を考慮して、この神器の応用を試みた。

 

 ラインで血液を奪い取り、生存活動に影響するレベルまでイッセーの血を減らして、システムで強制的に退場させる。

 

 匙はそれを実行可能に持ち込んだ。しかもゼノヴィアの特訓傾向の一つであるアスカロンの貸与を実行していた所為で、撃破後も残っていたラインを切り裂く事ができなかった。匙元士郎という男は、兵藤一誠というグレモリー眷属の目玉を時間差で道連れにしたのだ。

 

 最終的にイッセーの新技で残りの作戦を見抜く事に成功し、祐斗達の奮戦もあってリアス達は勝利する事ができた。

 

 しかし、勝って当然の相手に最初から最後まで流れを支配され、メンバーの半分がリタイア。しかも相手は最大目標である「赤龍帝の撃破」を達成。なまじイッセーが禁手に至っていた事もあって向こうからしても望外の高評価となった。

 

 ゲストとして招かれた北欧神話体系アースガルズ主神であるオーディンは匙を絶賛。試合においても彼がMVPとなり、態々サーゼクスが直々に勲章を渡しに来るという大盤振る舞い。勝ったリアスが酷評され、負けたソーナが絶賛された。

 

 試合に辛勝して勝負に惨敗した形である。

 

 それはそれとして切り替え、そして目標を新たにしたイッセー達ではあるが、駄目な事は続くものである。

 

 駒王町に到着したリアス達、厳密にいえばアーシアの前に、一人の悪魔が現れる。

 

 アスタロト家次期当主、ディオドラ・アスタロト。

 

 なんと彼はアーシアに大怪我を治療された事があり、アーシアに恋心を抱いているのだという。実際告白までしてきた。

 

 その所為でイッセーは精神的に不安定気味だ。ディオドラのところにアーシアが嫁に行くのではないかと、不安で不安で仕方がない。

 

 ……ちなみに、アーシアはイッセーにぞっこんであるので杞憂なのだが、リアス・グレモリー眷属でそれに気づいていないのはイッセーだけである。

 

 そんな精神的に負担があり、学生生活としては体育祭が迫っている中、転校生が来るというニュースがやってきた。

 

 合計で五人くるという事になっており、しかもうち四名は美少女。残り1人も美少年。最後に、うち三名がイッセーのクラスに来るという謎の現象だ。

 

 結構クラス中大騒ぎになり、そして見事に美少女二人に美少年が来た。

 

 ……が、その相手が問題だった。

 

「紫藤イリナです、そこにいる兵藤イッセー君とは幼馴染で、ちょっと前までバチカンに住んでました! 皆さんよろしくお願いします!」

 

 快活そうな顔つきの栗毛ツインテールで、胸に十字架を下げたスタイルのいい美少女。まず彼女からして驚きだ。

 

 教会の戦士だった頃のゼノヴィアの相方で、和平のきっかけとなったコカビエル追撃の為に、球技大会があった頃に駒王町に戻ってきた、イッセーの幼馴染の人工聖剣使い。

 

 その紫藤イリナが、元気よく入ってきた。

 

 そして、次が更に問題だった。

 

「……はーい! 駒王学園の皆さんこんにちわー!!」

 

 そうトリプルアクセルを決めながら飛び込み、出るところが出ている胸を揺らすは薄緑の髪の少女。

 

 ……つい先日助けてもらった、イルマ・グラシャラボラスであった。

 

「マイネームイズ、イルマ・グラシャラボラス! この学園の二大お姉さま、リアス・グレモリーの遠縁の親戚でっす!」

 

『『『『『『『『『『えぇええええええええ!?』』』』』』』』』』

 

 いきなり衝撃の情報を告げ、注目を一気に集めに来た。

 

 ちなみに嘘で冗談でもない。それについてはイッセーもすぐに分かる。

 

「リアス・グレモリーのお母さんが、うちのお母さんの家系の本家筋なのです! 因みに私は故郷の立ち位置的にはリアス先輩とこのチョイ下レベルの貴族なので? 逆玉の輿を狙いたい人は頑張ってモーションかけてきてねぇ?」

 

 かなりギリギリのラインで個人情報をばらしている気がする。

 

 イッセーがもはや反応している余裕をなくしているが、しかしイルマの暴走は止まらない。

 

 プルンとわざと胸を揺らすと、彼女は淫靡な笑みを浮かべた。

 

 これはもうあれである。誘惑である。

 

「因みに遊びたい年頃でっす! この夏を出会い無しで過ごした童貞諸君、その気があるならイルマさんとちょっと遅めのひと夏のアバンチュールを楽しまな―」

 

 堂々とエロイ誘いをかけた次の瞬間、ハリセンが彼女の後頭部に叩き付けられた。

 

「……いい加減にしろよ、イルマ姉さん」

 

 ため息を付いて入ってきたのは、麻宮鶴木だった。

 

 鶴木はため息を付くと、苦笑をしながらイッセー達に向かって手を振る。

 

「グレモリー眷……じゃなかった、オカ研の連中は久しぶり。そうでない奴は初めまして、イルマ姉さんの舎弟兼お目付け役やってる麻宮鶴木ってんだ」

 

 そう告げた鶴木は、ジト目でイルマを睨んだ。

 

 転校して来て早々、ビッチまっしぐらの行動をしてきたのだ。お目付け役のやる事など決まっている。

 

 説教は長くしないでほしいなー……とみんなの心が一つになった。

 

 そして鶴木は復活してきたイルマにハリセンを突きつけ―

 

「まず俺とアバンチュールしてくれよ!! 俺だってエロい遊びしたい年頃だっつってんだろ!?」

 

『『『『『『『『『『そうじゃねえだろ!?』』』』』』』』』』

 

 見事に総ツッコミだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんな事になった理由は、冥界での禍の団の襲撃の後のホテルでの話に由来する。

 

 身内でのミーティングで今後の方針を決定したブルノウ・バアルは、イルマに駒王学園への転入を指示した。

 

 時間差で唖然となるイルマだったが、ブルノウは真剣だった。

 

「イルマ。スメイガとアイネスも覚えておくといい。世の中には流れというものがあり、この流れは急激に変化する事がある。人間の政治思想家マキャベリは自著で、「君主は運命の変転に備えなければならない」とも記している」

 

 そう告げるブルノウに、イルマ達は気圧される。

 

 世界の流れ。これに関しては何となくは分かる。

 

 世界というものが数多くの生命体の動きで決まる以上、そこには川の流れのような大きな方向性が出てくるものだ。

 

 そして、時としてその流れは洪水のように急激に変化する。それこそが運命の変転というものだろう。

 

「そして今がそれだと私は確信している。きっかけが二つもあったからね」

 

「……駒王会談と禍の団ですか」

 

 ツヴェルフがそう漏らす。

 

 魔術師達の集まりである時計塔。政治的な争いが日常茶飯事だった世界で、その政治的派閥の有力者一門に所属していた彼女だからこそ分かったのだろう。

 

 だが、これも言われてみればイルマやスメイガだって納得できる。

 

 駒王会談と禍の団。厳密には、駒王会談によって始まった流れと、禍の団の盟主となって急に行動を起こした者の存在が、流れの変化のきっかけになるのだろう。

 

 すなわち、三大勢力の和平締結と、連鎖的に始まった各勢力との和平交渉。

 

 すなわち、世界最強の存在である、無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィスによる今の世界への宣戦布告。

 

 どちらも、この世界の異形としてそれなりの知識があるのなら凄まじい事だと簡単に分かる。

 

「現政権の方針は君達も当然分かっているだろうが、それでも和平を行うにはきっかけもなく、また時間もかかると血統尊重主義派(我々)は想定していた。はっきり言って想定外というレベルを超えたとんとん拍子で和平は成立してしまったわけだ。完全に我々の判断ミスだね」

 

 これに関しても理解できる。

 

 かつての戦争から続く、いがみ合いと小競り合いを続けてきた三大勢力。だが悪魔としては、何とか終戦を行いたいというのが魔王派と大王派の共通認識だった。

 

 なにせ、戦争を主導してきた初代四大魔王は揃って聖書の神と相打ったのだ。その戦争で絶滅を危惧するほどにまで数を減らしたうえ、四大魔王の血族は元七十二柱を含めた貴族達にも暴政を敷いていたらしい。跡を継いだ魔王末裔達も、揃いも揃って自分達さえ生き残るのなら下級中級が全滅しても構わないという者達だらけだ。

 

 結果として壮大な規模の内乱が発生。先代魔王の跡を継いだ魔王末裔の内、早々に姿をくらましたリゼヴィム・リヴァン・ルシファー以外の魔王血族代表は、先代魔王に匹敵、もしくはそれ以上の力を持つ現四大魔王によって打ち取られ、現政権はできた。

 

 要は、現政権は種の存続と繁栄が最重要で、代替わりが遅い事もあって厭戦気分が政治関係者の大半で蔓延したままなのだ。

 

 魔王血族を含めた大半の戦争継続派はそのまま追放され、禍の団の一員となる始末。奇跡的な事に、三大勢力で一番政争が激しい悪魔こそが、この一点において真っ先に和平前提で動けていた。

 

 だが、三大勢力同士でのパイプがろくに存在しない状況では、とっかかりになる事がない。よしんばできても、どの勢力も大勢が死んだ以上、恨みつらみで和平を結ぶのには世代交代が必要なレベルだろう。そう血統尊重主義派は思っていた。

 

 と、思ったらコカビエルの暴走を機にとっかかりができ、駒王会談ではあっさり和平が結ばれた。

 

 天界は、聖書の神が死んだ今は最重要視するべきは神の子を導く事で運営陣であるセラフの意見は統一。事実上の下部組織である教会も、聖書の神の死を知る枢機卿はこの厄ネタがある以上、いつか発生しかねない混乱に対応する為にも、争いを続けるべきでないという事は大半が理解するだろう。

 

 堕天使側に至っては、トップは軒並み「戦争? 何それおいしいの?」もしくは「戦争? そんなことより研究だ!!」状態。コカビエルの暴走は運営陣で一人戦争継続主義だった事によるストレスが限界に達した事で起こした物だったのだ。

 

 そしてコカビエルのこの暴走は、結果として三大勢力が二天龍迎撃をした時以来の共闘を結果的に引き起こし、それをきっかけとして会談の段取りがトントン拍子で進んだ。

 

 そしてどの勢力も和平を結ぶ為に動いた結果、あっさり和平が成立。その勢いに乗じて、各神話勢力との和平も進められる事となっている。

 

 これだけでも、運命の変転と言っていい事態だろう。

 

 だが、事態はそこで終わらない。

 

「そしてその妨害を試みた禍の団(カオス・ブリゲート)。その盟主はあのオーフィスというわけだ。明確な第三の脅威という、敵対していた者達が手を組むのに都合がいい存在ができてしまった」

 

 ブルノウはため息を付く。

 

 そう、オーフィスの存在はそれだけのものだ。

 

 世界には数多くの強者がいる。

 

 四大魔王の内、サーゼクス・ルシファーとアジュカ・ベルゼブブは超越者と呼ばれる、悪魔の次元を超えた超常存在だ。各種神話体系でも、オーディンのような主神クラスは単独で列強国を滅ぼす事もできるだろう。そんな神や魔王すら警戒する、ドラゴンだってゴロゴロいる。

 

 そんなインフレ極まりない存在だらけのこの世界だが、その上で強さの桁ではなく次元が違う存在がオーフィスだ。

 

 一神話体系が総力を挙げても、勝てるかどうか分からない。もし勝てても壊滅的打撃を受けて没落は必須。下手をすれば他の勢力に襲い掛かられて滅ぼされるかもしれない。

 

 そんなレベルの存在が、各勢力のはぐれ者を集めてテロ組織を結成した。

 

 今までろくに外界に関心を示さなかった存在の、世界に対する事実上の宣戦布告だ。これもまた前代未聞だろう。

 

 個人戦力だけで戦略をひっくり返す事はできない。それは賢者なら当然分かる事だ。だが、オーフィスはその前提を覆しかねないほどの存在ゆえに愚者達が凄い勢いで集まるだろう。

 

 これもまた運命の変転のきっかけとしては十分だ。異形社会についに対テロ戦争の時代が発生するといっていい。

 

 そして、そんな運命の変転のきっかけがほぼ同時に二つ発生してしまった。

 

「……変な化学反応を起こしそうですね、父上」

 

「もう起きているよ、このパーティにオーディン殿が来たのが証拠だ」

 

 スメイガに対して、ブルノウはそう言い切った。

 

 いがみ合っていた大勢力が和平を結び、その流れを他の勢力にも向けようとしている。

 

 これだけなら、三大勢力に信仰を奪われてきたうえに鎖国的な体制をとっている各神話体系の腰は重かっただろう。

 

 世界最強の存在が率いるテロ組織が、堂々と活動を開始した。

 

 これだけなら、手を組むにしても足並みは揃わず、足の引っ張り合いが行われる可能性もあっただろう。

 

 だがしかし、その二つが同時に起こってしまった。

 

 大いなる冷戦状態を終わらせるきっかけと、大いなる対テロ戦争の元凶となる存在。

 

 その二つの歯車がかみ合えば、各勢力の和平は急激に進むだろう。

 

 そう、急激に進んでしまうのだ。

 

 急激すぎる変革は、大抵の場合停滞した現状などを打破するからこそ、反動なども大きくなる。

 

 既に思慮の足りない下の者達には、禍の団と接触を行う者達が出ていることだろう。この辺に関しては、そもそも戦争継続派を追放した悪魔側が一番安全かもしれない。

 

 だが、善と正義を謳う教会では、悪魔祓いを中心に悪徳と定義される者達との和平に反対意見が頻発。教会を去る者達も数多い。

 

 まず間違いなく、そのうちの何割か独断で悪魔を殺す凶行に出てくるだろう。そして、それ以外の者達もこの苛立ちを三大勢力そのものに向けかねない。

 

 他の神話体系に関してもその通りだ。真っ先にオーディンが動いたアースガルズはもちろんのこと、オリュンポスもまた和平に賛同する者が多いが、反対勢力も相応に出てきている。

 

 そして最悪な事に、世界最強の存在が率いる和平を結ぶ者達の敵がいる。禍の団という、急激な変革の反動で弾き飛ばされた者達の受け皿が存在する。

 

 同盟の首脳陣は、戦争そのものが本格的に始まるのは数年間かかると踏んでいる。それまでの準備期間があると踏んでいる。

 

 しかし、それは禍の団が賢者の組織だった場合の話だ。

 

「これは間違いなく大きな時代の変化の始まりだ。賢者達が連携をとるとっかかりができすぎ、愚者達が集まる旗頭が同時に名乗りを上げている」

 

 ブルノウは確信している。断言できる。

 

「禍の団と同盟の戦いは、急速かつ短期間かつ高密度で行われる」

 

 三人は息をのんだが、しかし納得する。

 

 別のベクトルで急激な変化のきっかけになる者が発生し、それが相乗効果で更に互いを加速させているのが、この現状。

 

 そして奇縁ともいえる事に、二つのきっかけには相対する一対の存在がいた。

 

「初代ルシファーのひ孫である、白龍皇ヴァーリ・ルシファー率いる禍の団の特殊部隊ヴァーリチーム」

 

 ツヴェルフが会敵したその強敵達を思い起こし、そしてスメイガは将来の好敵手達の一角である、紅い髪と赤い籠手を思い起こす。

 

「そして対をなす赤龍帝兵藤一誠は、現ルシファーの妹であるリアス・グレモリー率いる同盟の若手眷属、通称オカルト研究部……か」

 

 かつて三大勢力が共同戦線を組む事になった、二天龍が、それ以上の共同戦線が組まれるだろう対テロ戦争においても主力になりうる可能性を持っている。ましてや、双方ともに異なる形でルシファーにかかわる存在。止めにいえば、その二つの大きなきっかけのそのまたきっかけであるコカビエルの暴走にも深く関わっている。

 

 偶然も何度も続けば必然という言葉がある。これはもはや、運命の必然と言っても過言ではない。

 

「考えすぎかもしれないが、禍の団との戦いにおいて、赤龍帝兵藤一誠は特異点になりうる可能性がある」

 

 そうブルノウは告げ、そしてイルマの肩に手を置いた。

 

「……だから、その運命の流れの近くに寄り添って見る者が必要だと思うんだよ」

 

 つまりこう言う事である。

 

 ちょっと主人公に関わってきなさい。

 




今回、ちょっとあとがきで補足説明するので長くなります。


スメイガの発言を簡単にまとめると。

三大勢力による和平ムーブ:賢者たちは必要性を認めるが、愚者の類は反発する。

オーフィスを象徴とする禍の団:賢者たちは警戒するが、愚者たちは集まろうとする。

スメイガはこの二つが相乗効果を発揮すると踏んでいるわけです。

 原作でも各神話勢力の大半は「他の神話とか死ねやクソが! でも人類滅びかねんし禍の団とかいるから一応和平すっか」てきな感じだと帝釈天が言っており、当人も禍の団を当面の敵として和平に参加しています。反面ディオドラのような大馬鹿野郎は「和平すると趣味ができないしオーフィスの蛇があれば裏切っても勝てる」という結論の元禍の団につきました。結果として「本格的な戦争は数年先」というアザゼルの想像は大外れして、一年足らずの激戦頻発で、禍の団は壊滅し同盟も主要神格などが下手すれば一万年隔離されたのは、原作を読んでいる方なら知っての通り。

 もし禍の団がいなければ、和平の価値を認めている賢者たちも各勢力間でのいがみ合いなどが理由になって、ここまで和平は進まなかったでしょう。

 もし和平ムーブがここまで進んでいなければ、少なくともクリフォトによる悪魔祓いたちによるクーデターが起きる可能性は低く、それまでにガス抜きのイベントの側面があるアザゼル杯が間に合っていたでしょう。

 まあ結果として、禍の団を警戒して各勢力の賢者が和平を結ぶことで同盟が強化され、それに反発する愚者たちがオーフィスの力を頼りに禍の団に集まって禍の団が肥大化という結果になる。

 逆に言えば。オーフィスという絶対的な力の象徴を事態打破のカギとして愚者たちが集まることで、それを警戒して賢者たちは本音はともかく和平を結んで対処することになるともいえます。

 ブルノウはこの相乗効果を心底懸念しており、ゆえにできるだけの対策を取りたいのが現状。








 結果として、すぐに始まってとても激しくなるだろうこの戦争のなかでも、特に重要な戦いに巻き込まれそうな人物に信頼できる人物を送り込んでつなぎを取ろうと考えたわけです。






 その対象となったのは、かつての三大勢力を一時的にとはいえ共闘させるほどの影響を与えた二天龍。

 どちらも「これまでの二天龍とは何かが根本的に違い」、「悪魔の王であったルシファーに縁のある存在」。しかも何の因果か激突する二大勢力にすでにそれぞれ所属している。

 なので、同盟側ゆえに比較的楽に接触できる赤龍帝である兵藤一誠を気にして、彼女の主が納得するメンバーを送り込もうというわけですね。何が起こるかわからないなりに、今後の布石を打ったわけです。



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2 転生天使とイルマ眷属

さて、次は旧校舎での会話です。


 

「と、言う事でイルマ・グラシャラボラス眷属の有志のみんなと、紫藤イリナさんよ。あなた達の転入を歓迎するわ」

 

 放課後、オカルト研究部に集まった関係者各位が、イルマ達を迎えていた。

 

「はい、初めましての方もいれば、再会した方も結構多いですね。教会―いえ、天使様の使者として、この駒王学園に派遣されました!」

 

 イリナにぱちぱちと拍手が向けられる。

 

 そしてそれに続いて、イルマを一番前にして、イルマ・グラシャラボラス眷属も一礼する。

 

「はーい! ビッチまっしぐら次期当主代理、イルマさんと愉快な仲間達です! 大王派からのスパイとかじゃなくて、牽制及び外交官って感じでっす!」

 

「「「はい、そういうこと言わない」」」

 

 後ろから三連続でハリセンが叩き込まれた。

 

 大して効いてないようだが、しかしイルマは頬を膨らませながら後ろの眷属三人をジト目で見る。

 

「ぶー。どうせ疑われるんだから、はっきり言った方が角が立たないじゃんかー」

 

「本命は別にありますでしょう? それをしっかり告げなさいな、イルマ」

 

 カタナがそう言ってたしなめると、一歩前に出てイッセーとリアスに視線を向ける。

 

「……厳密には、ブルノウ様はリアス様と赤龍帝の二人と接点を作りたいとのことですわ。政治が絡まない限り積極的に協力するようにとのことですので、何かありましたら是非ご相談くださいませ」

 

「ま、三大勢力和平成立の地に大王派の影響力とかも入れたいんだろうけどな。あの人結構えげつない手とかも使うからよ」

 

「せやねぇ。魔王派とのパイプ作りにも余念ないし、その辺とかも考えとるんとちゃう?」

 

 後ろで鶴木とリスンがそう言っているが、しかし本気そうには見えなかった。

 

 リアスはそれに苦笑する。

 

 ブルノウが何を考えているかは分からない。実際、その全ての理由が納得できるような人物ではある。

 

 だがしかし、彼は不必要に足並みを乱すような人物ではない。そうでなければサーゼクス達も許可を出さないだろう。

 

「まあいいわ。私としても、ブルノウ様とのパイプが繋がるのは良い事だもの。ソーナはそれでいいかしら?」

 

「ええ。でも一応の事もありますので、一応オカルト研究部に在籍してくださいね」

 

 リアスに同意を示しながら、ソーナは念の為の釘をさしておく。

 

 今後悪魔として活動する事もある以上、リアス・グレモリー眷属そのものであるオカルト研究部に所属させるのが一番だろう。そういう冷静な判断だ。

 

 それに対して四人は納得を示すが、しかしカタナがふと気づいた。

 

「……乗馬部があったら兼任してもよろしいでしょうか?」

 

「残念。そもそもないわ」

 

 リアスが苦笑しながらそう告げると、カタナは肩を落とした。

 

 イッセーが首を傾げると、鶴木が苦笑いを浮かべながらカタナを指さす。

 

「フールカス家は馬に縁がある元七十二柱だからな。カタナは馬の調教が得意で、俺らはカタナが調教した馬を使い魔にしてんだよ」

 

 そう言いながら、鶴木はカタナの肩に手を置いた。

 

「元気だしなカタナ。日曜日とかに馬見に行けばいだろ? 付き合うぜ?」

 

「う~! 鶴木は本当にいい子ですわー!」

 

 涙目のカタナが鶴木に抱き着いて頬ずりする。

 

 その瞬間、イッセーから嫉妬の視線が出てきた。

 

 カタナ・フールカス。出るところは結構出ている体型で、控えめに言っても凄い美少女である。

 

 とはいえ、今はそれより先に気にする事があった。

 

 イッセーは一瞬視線をイリナに向けるとゼノヴィアに小声で尋ねる。

 

(……ゼノヴィア、イリナって、神の死とか知ってるのかな?)

 

(……少なくとも、私と別れた時点では知らない筈だ)

 

 ゼノヴィアが悪魔に転生した理由は、コカビエルとの戦闘でコカビエルが聖書の神の死をばらしたからである。

 

 それで信仰の根源がなくなった事で、ゼノヴィアは戦意喪失するほどのショックになった。

 

 結局、それが終わってからゼノヴィアは教会を去る事になった。教会としても聖書の神の死を知る者は、神が残したシステムを不調にさせる原因になりかねないので、できる限り教会から離すべき案件でもある。如何に伝説の聖剣の使い手とはいえ、一悪魔祓いであるゼノヴィアが知っていい情報ではなかった。

 

 故にゼノヴィアはデュランダルごと追放。その勢いで彼女はリアスの眷属になった。

 

 イリナとはその時に喧嘩別れになったとも聞いている。イリナは戦線離脱していたので、聖書の神の死を知らなかったから理由が分からなかったのだ。ただ、ゼノヴィアとしてはイリナが知ったら精神の均衡を崩しかねないとして、そこだけは安心していた。

 

 しかし、アザゼル・オカ研・生徒会といった聖書の神の死を知るメンバーがゴロゴロいる環境かだ。隠すのは結構大変ではないだろうか。

 

 そして、イッセーはふと気になる事に気づいた。

 

(……っていうか、イルマさん達って知ってるのかな?)

 

(どうだろうな。リアス部長達も知らされてなかった事だしな)

 

 そこに関してもどうだろう。

 

 別にこっちは知っても大騒ぎにはならないと思うが、知っているなら知っていたで、イリナと迂闊に接触させるわけにはいかないかもしれない。

 

 イッセーは真剣にどうしたものかと考え―

 

「で、聖書の神の死に関しちゃ、流石に外部スタッフには伝えないようにな。流石にそこまで厳選出来ちゃいねえからよ」

 

 ―アザゼルがイリナ達にそう指示を出した。

 

「ちょぉおおおおおおおおお!? 先生、いきなり何を言い出してるんですか!?」

 

 人が心配しているところに、何を言っているんだこの駄天使。

 

 心の底からイッセーはツッコミを入れるが、アザゼルは呆れ顔を向けた。

 

「あほ。駒王学園(ここ)は三大勢力和平の地っていうある意味重要地点だぞ? 周辺担当のサポートスタッフならともかく、ここに直接派遣される三大勢力の代表格は知ってねえ方が問題だろうが」

 

 言われてみればその通りである。

 

 しかし、ゼノヴィア曰く「イリナが聖書の神の死を知ったら、精神の均衡を崩しかねない」という判断だ。

 

 実際信仰心はかなり強いし、反動も大きそうで心配である。

 

 不安げな表情を浮かべるイッセーだが、そんなイッセーにイリナはにっこりと笑う。

 

「総督の言う通りよイッセー君。ええ、私はミカエル様に選ばれる時にしっかり教えられているわ」

 

 その言葉に、イッセーとゼノヴィアは少しほっとした。

 

 特に付き合いの長いゼノヴィアは、むしろ意外そうな表情すら浮かべている。

 

「驚いたよ。イリナが何のショックも受けずにここに来ているとはね」

 

 その感心の言葉を聞いた瞬間、イリナは硬直した。

 

 そして一瞬でゼノヴィアに詰め寄ると、大粒の涙をこぼし始めた。

 

「ショックに決まってるじゃなぁあああああい!!! あらゆるものの父たる主が死んでるなんて、ショック以外の何物でもないじゃない!! 一週間寝込んでからここに来たのよぉおおおおおお! ああ、主よぉおおおおおお!!!」

 

 絶叫しながらテーブルに突っ伏すイリナに、大半が少し引いた。

 

 どうやら、結構前に教えられていたらしい。そして相当の間引きずっていたらしい。

 

 どのタイミングで教えられたのかは分からないが、この様子では和平が結ばれてからかなり早いタイミングで教えられたからこそこの時期にこれたのかもしれない。

 

 そしてイリナが号泣している中、とりあえずの情報共有をしようと判断したのか、リスンが苦笑いを浮かべながらリアス達に向いた。

 

「ちなみにウチらはイルマ姉さんから少し前に聞かされたわ。確か、アイネスさんは眷属になったときから聞かされたとか言うとったな」

 

「うん。イルマさんとスメイガは伯父様からだいぶ前に教えられてるじゃん。ちょっと会議的な事あってね。アイネスはイルマさんの眷属になった時にその第二弾的な感じで」

 

 イルマはそう言いながら、リスンを抱き寄せると頬ずりする。

 

「いいタイミングで言ってくれたねー。リスンはそういうの得意だから助かるじゃんか」

 

「イルマ姉さん。年齢大して変わらんのやから、あんまし年下扱いせんといてーな」

 

 リスンは恥ずかしそうにイルマから離れたがっている間に、イリナは何とか復活した。

 

 何時の間にか、ゼノヴィアと共にアーシアと友情らしきものを育んでいる。

 

 何やら微笑ましい光景にイルマがほっこりしながら、しかし首をひねった。

 

「あれ、でもイリナちゃんがここに来たのって、要は三大勢力で重要地点のここのバランスをとるって感じでいいんだよね? 大王派(うち)の表向きの理由みたいに」

 

 その言葉に、イリナは頷いた。

 

「ええ。ミカエルさまは三大勢力和平の地であるここに、天使側から誰も来てないのは深刻だと懸念されておりましたから」

 

 確かに正論である。

 

 三大勢力和平の地というこの地は、精神的な意味で三大勢力にとって重要拠点だ。

 

 しかも魔王の妹二人が在学し、堕天使に至っては総督が来ている。一応バックアップスタッフは三大勢力から来ているが、それはあくまで周囲を含めたサブメンバーだ。

 

 そういう意味では。天界・教会勢力からも人員を送っておいた方がいいのは当然だ。

 

 だがしかし、一つ疑問がある。

 

「えと、イリナちゃんって教会の筆頭戦士とかそんな感じなの? なんかイッセーくんの知り合いっぽいけど、権威的なのもないと色々うるさいのが逆に突っかかってきそうだけど?」

 

「イルマ姉さん、悪魔側の筆頭はぜったい大王派(ウチ)だぜ? ブーメランじゃね?」

 

 鶴木の指摘ももっともだが、確かに懸念材料だ。

 

 三大勢力和平の地。魔王の妹にして輩出家系の次期当主が眷属込みで二組が生徒として所属。そして堕天使総督が教師として所属。そこに縁づくりの一環として、大王派有力者の銘にして、魔王輩出家系の次期当主代理も眷属数名とともに転入。

 

 これに対するバランサーとして派遣された天界・教会スタッフがイリナである。

 

 悪魔と堕天使側のそうそうたる面子と釣り合いをとる為のスタッフである以上、送られてくる人物には相応の立場が求められる。天使でも上位階級が必要だ。教会関係者なら、それこそ枢機卿クラスが必要だろう。

 

 言っては何だが、若手聖剣使い程度で務まる役職とも思えなかった。

 

 しかし、イリナはそこで凄く得意げな笑みを浮かべる。

 

「ふっふっふ。安心しなさいそこな人! 今の私は文字通り新生したのよ!」

 

 そう告げ、そしてイリナは両手を組んで祈りを捧げる。

 

 その瞬間、背中からまばゆい光とともに一対の白い翼が生えてきたのだ。

 

 その光景に大半の者が驚く中、アザゼルは感心の表情を浮かべながら頷いた。

 

「まさか、転生悪魔の技術を応用した転生天使ってことか?」

 

「はい! 悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の技術をベースに、トランプを参考にした御使い(ブレイブ・セイント)といいます。十四柱のセラフの方々を王として、試験的に編成されました」

 

 そう告げるイリナの手には、Aの文字が輝いている。

 

 トランプを元にしているという事は、おそらく(エース)という事だろう。

 

 そんなイリナをしげしげと見つめながら、アザゼルやイルマはふんふんと頷いた。

 

「なるほどな。おそらく神の子を見張る者(グリゴリ)が提供した人工神器の技術も取り込んでるな。トランプ主体ってことは駒による能力強化じゃなく、役による集団強化とか、特別戦力としてのジョーカーとかも考えられるな」

 

「王を除いた十二枚は、聖書関係だと十二使徒ともかけてるのかもね。でもAってことは結構期待されてるのかね、イリナちゃんは」

 

「そこは私も疑問なのよねぇ。でも、この名誉があれば死んでも後悔はないわ! これからはミカエル様への信奉を糧に生きていくのよぉおおおお!」

 

 微妙に変な方向に暴走している気がして、何人かが心配していた。

 

「おいおい、大丈夫かよ」

 

「自分を見失うよりかはまあいいだろう」

 

 と、付き合いがあるイッセーとゼノヴィアが言い合う中、イリナはそれに気づかず話を続ける。

 

「あとミカエルさまは、転生悪魔と転生天使の異種混合戦も見据えていらっしゃるわ。御使いの制度も将来的に上位天使様達全員に行き渡らせて、レーティングゲームのように盛り上げたいっておっしゃっていたの!」

 

 壮大なミカエルの計画に、アザゼルとイルマは再び感心する。

 

「ま、長年いがみ合っていた関係だから急な和平に不満も出そうだしな。そういう鬱憤晴らしや、相互理解の為にゃ最適か。人間界のオリンピックみたいな代理戦争になりそうだな」

 

「あ、それいいかも。伯父様とか「レーティングゲームの映像は入手しやすいから、敵対勢力に手の内が知られやすい」って不安視してたし、いっそのこと和平結んだ勢力全部を巻き込ませるような大改革とかした方が、情報戦的には良さそうじゃん?」

 

「中々凄まじい懸念をしているわね、ブルノウ様は」

 

 リアスがブルノウの不安に若干引くが、しかしレーティングゲームのグローバル化は夢が広がる内容ではある。

 

「異種混合戦とは楽しめそうですね。対神戦術を考えるのは楽しめそうです」

 

「きょ、教会を相手にするのはちょっと怖いですぅ」

 

 戦術で事実上の金星を上げたソーナと、まだ吸血鬼とは敵対している教会に恐怖するギャスパーが対照的な意見を漏らす。

 

 そしてそこから、レーティングゲームの話題を中心として盛り上がりながら、転校生達の歓迎会が行われる。

 

 それを楽しみながら、同時にイルマはブルノウの話を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは私の勘だが、おそらく禍の団との戦いにおいて、兵藤一誠は一つの特異点になるだろう」

 

 そう告げるブルノウは、静かに窓の外を見る。

 

 それは何となく気を落ち着かせる為なのかもしれない。だが、同時に遠くを見る事で何かを見据えようとしているのかもしれなかった。

 

「かつて三大勢力の共闘という、当時の誰もが考えもしなかった事態を引き起こした要因が二天龍だ」

 

 そう、二天龍はそれだけの事をした。

 

 当時総力戦の真っただ中だった三大勢力は、しかし喧嘩のついででそれに割って入った二天龍を止める為、手を取り合った。

 

 その結果として二天龍は倒され、魂を神滅具に封印される事になる。

 

 しかし全くこりていなかったのか、宿主までもが激突を繰り返し、地形を変えた事も一度や二度ではない。

 

「その二天龍が、和平を結んだ駒王会談のきっかけに深く関わり、そして駒王会談で激突した」

 

 駒王会談のきっかけとなった、コカビエルの暴走。その過程において今代の二天龍は初の出会いを遂げた。

 

 そして駒王会談において、赤龍帝である兵藤一誠と白龍皇であるヴァーリ・ルシファーは一度激突した。

 

 だがそれは、裏を返せばすぐには激突しなかった事でもある。

 

「今代の二天龍は異端なんだ。出会えばその場で殺し合いが勃発していると言ってもいいのに、見方によっては共闘一歩手前の出会いを果たしている」

 

「まあ確かに、貢献度は段違いですが共闘ですね」

 

 スメイガはブルノウの意見に賛同する。

 

 赤龍帝は主と共にコカビエルを迎撃し、そして白龍皇がそのコカビエルを鎮圧した。

 

 事実上負傷はさせたが、終始手加減されていた赤龍帝。そして不意打ち気味だがそれを一蹴した白龍皇。

 

 どれだけ役に立ったかでいえば雲泥の差だが、確かに共闘といえば共闘だろう。

 

 これまでの二天龍の関係から言って、これは異例以外の何物でもない。

 

「確か、アザゼル総督は「白は力を、赤は女を」と今代の二天龍を評していたそうですね」

 

 アイネスは、会談がらみに資料で見たアザゼルの発言を思い出す。

 

 そう、今代の二天龍はお互いの決着に対する意識が薄い。

 

 目の前の赤龍帝を蹂躙するチャンスを、むしろライバルに歯応えがない事を残念がった、白龍皇ヴァーリ・ルシファー。彼は初激突で一矢報いたイッセーの成長を期待してはいるが、アースガルズの神々との戦闘など、強者との戦いそのものを熱望して禍の団に鞍替えした。

 

 赤龍帝である兵藤一誠に至っては、そもそも強敵との戦い事態を忌避している節がある。ハーレムを作る事を第一義としており、それもレーティングゲームや悪魔の契約などで叶えるつもりで、命がけの戦いそのものを楽しむ気質が薄い。

 

 双方ともに共通しているのは、お互いに対する執着心よりも優先する事があるという事だ。また、何らかの形でルシファーに縁があるという事だろう。

 

「ルシファーのひ孫である白龍皇。ルシファーの妹を主に持つ赤龍帝。彼らはこれまでの二天龍に比べると明らかに異端だ。それが、この世界を急激に動かす二つの大きな二大勢力に所属している」

 

 和平を結び、そしてその波を広げようとしている三大勢力の若手悪魔。リアス・グレモリー眷属に赤龍帝。

 

 世界最強の存在が率い、世界に破壊と混沌をまき散らそうとしている禍の団の愚連隊。ヴァーリチームに白龍皇。

 

 ただでさえ急激かつ大きな変化を生み出し、相乗効果でお互いを激しく燃え上がらせかねない二つの大きな勢力の誕生。

 

 そのお互いに、ただでさえ大きな影響を与える二天龍が所属。その上双方ともにこれまでのパターンから外れているイレギュラー。

 

 それについて考え、イルマは頷いた。

 

「うん。間違いなく何か起こりそうですね」

 

「そういう事だ。はっきり言って、できる事なら近くに誰かつけておきたい」

 

 ブルノウの懸念も納得だ。

 

 世界を大きく動かす前代未聞の二大勢力に、異例極まりない二天龍がそれぞれ所属している。

 

 二天龍が決着をつける時が、相乗効果で膨れ上がった二大勢力によるハルマゲドンになるかもしれない。

 

「先ほども言ったが、「君主は運命の変転には備えなければならない」。私は君主ではなく盟主だが、出来れば接触可能な赤龍帝にはある程度の渡りをつけておきたい」

 

 白龍皇に渡りをつける事は不可能だ。彼は禍の団に所属している。

 

 そんな彼に接触するのは自殺行為だ。反逆者として冥界を敵に回しかねないし、そもそもブルノウ達の性質的に彼のような気質の物はあまり好めない。

 

 ならせめて、赤龍帝には誰かつけておきたいのだ。

 

「年代、実力、人格の三つを考慮して、かつ縁のある君が適任なんだ。……それに、懸念材料も一つある」

 

「と、いうと?」

 

 ブルノウの言葉にアイネスが尋ねると、ブルノウは肩をすくめた。

 

「……ベルゼブブ輩出家系アスタロトの、ディオドラが日本に向かう準備をしていると聞いたよ。……案外、彼らも同じ事を考えているのかもね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このミーティングにおける推測で、最も的外れなのはこの推測だった。

 

 ブルノウ・バアルも完全な存在ではないという事ではあった。




 この時点において、ブルノウは「ディオドラも駒王学園に興味がありそうだ」といった感じでしか見ていません。 彼も完ぺきではないので、勘違いすることも多いのです。









さて、次でようやくイルマたちの事情が明かせます。

そしたら次はサーヴァント風ステータスの大規模更新になる予定ですね。


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3 ビッチなイルマ先生による、ドキドキクロックワークス教室♪

とりあえず、ほとんどイルマによる独白で構成されています。内容も基本的にはD×Dメンバーに対する魔術師達の説明ですね。

ただし、この世界における魔術師(メイガス)の優位性や、クロックワークスの設立に関する説明でもあるので、Fateに慣れている方もできれば見てくれると嬉しいです。


 そこまで思い出したイルマは、そしてある決断をする。

 

 既に了承は得ている。この場の人材になら話してもいいだろう。

 

「……パーティの前に、ここのいる人達に言っとかないといけない事があるんだけど、いいかな?」

 

「……何かしら?」

 

 リアスがイルマに向き合いながら、怪訝な表情を浮かべる。

 

 政治的には対立しているが、私人としてのイルマはフレンドリーだ。彼女のバックにいるブルノウはえげつない手を使う時もあるらしいが、少なくとも大半の旧家とは違う。

 

 だからこそ転入についても許可を出した。一応連携や監視も兼ねてオカルト研究部に所属させる形になったが、余計な事はしないと思う。

 

 ……ビッチである事はこの際置いておこう。エロス度が高いのはイッセーで慣れている。

 

 そのイルマが空気の流れを断ち切って、今この場のメンツに対して言う事があるという。

 

「……それは、堕天使()天界(イリナ)の前で言ってもいい情報なのか?」

 

 アザゼルも、何かあると判断して少し居住まいを質しながらイルマに尋ねる。

 

 それに対して、イルマは気負いなく頷いた。

 

「うん。ブルノウ様も既に各勢力に資料を送る準備はできてるからね。一部の人達にはちょっと早めに話す事が決定したし、ここの人は条件満たしてる人だらけだから」

 

 そして、その条件とは―

 

「三大勢力及び彼らとの同盟に賛同した勢力で、かつ聖書の神の死を知る者にのみ、クロックワークスの結成に至る経緯及びその内情についての説明を行う事を、イルマさん達血統尊重主義派は提案。さっき悪魔政府でも可決されたよ」

 

 そう言いながら、イルマはいつの間にか持っていたスマートフォンを見せる。

 

 そこにはメールで簡潔に、ブルノウからその内容のメールが送られてきていた。

 

 そして、誰もが緊張する。

 

 血統尊重主義派。大王派よりでありながら、アガレス家と連携をとって魔王派と合同で政治を行なう事もある異端の派閥。

 

 しかし同時に、他種族からの転生悪魔に対して一線を引く事を前提として活動するがゆえに、対立する時は徹底的に対立する事もある、あくまで大王派であって、決して魔王派ではない派閥。

 

 大王派でも弱小派閥であった彼らは、しかしクロックワークスという他種族を中心とした下部組織を結成する事で、一気にその勢力を拡大させた。

 

 多種多様な国家の人間がいる。七十二柱や番外の悪魔、下級中級から来た悪魔もいる。果てはアースガルズのヴァルキリーや、オリュンポスの死神が亡命までして参加してきた。

 

 その彼らの集まり、クロックワークス。

 

 共通点といえるものは、調べられる限りではただ一つ。

 

 彼らは魔術師(メイガス)と名乗り、基本的に魔法使いに対して彼らがそう名乗る事に思うところがある事が多いということ。

 

 かなりの者が興味を惹かれる。

 

 故に、誰もが清聴した。

 

 それを理解し、イルマは少しだけ考え込む。

 

「まあ、とりあえずイルマさん達魔術師(メイガス)からするこの世界の現状というか第一印象何だけど―」

 

 そう告げ、イルマははっきりと告げる。

 

「……転生したらインフレバトル世界だった件 ―魔術師として終わったと思ったら、超名門が大貴族転生して受け皿作ってくれました!!」

 

 瞬間、リアスは彼女の頬をかすめるように消滅の魔力をぶっ放した。

 

「ふざけているのかしら? いくらブルノウ様の姪とはいえ、限度があるわよ?」

 

「待ってストップちょいたんま! 最近はやりの長文ラノベタイトル風に例えただけだって! ちゃんと説明するから落ち着いてほしいとイルマさん思ってるじゃんよ! あとこの題名だと主人公なスメイガだし!」

 

 そう慌てながら、イルマはすぐに話を続ける。

 

「事の発端は大体六年ぐらい前。リアスちゃんが朱乃ちゃんを眷属にしたぐらいの時だったね」

 

 そういいながら、イルマは過去を懐かしむように遠い目をし、そして語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イルマさんとスメイガは、その時になってお互いが魔術師だという事に初めて気づいた。

 

 そしてお互いに簡単に事情を話し合って、この世界に自分達以外にも大量に魔術師(メイガス)がいる可能性に気づいて、伯父様に相談したわけだよ。

 

 ……もうこの辺もぶっちゃけるけど、魔術師(メイガス)ってのは一昔前まで「真っ当な人間性を保有するなんて飛んだ欠陥品だ」とか堂々と言われちゃうぐらいやばい連中が集まってるんだよねぇ。

 

 大前提にして基本原則は「神秘は秘匿するもの」。これさえ守ってれば大抵のことは許されるっていうか、問題にもならないじゃん。そしてこれがあるから情報化発達社会で変な凶行に出る奴はいないけど、逆にこれさえ守れるのなら、最悪人口数十万人の大都市を滅ぼす事すら必要ならやってのけれる連中がイルマさんがいた時ですら結構いる。

 

 まあ最近は若手を中心にすっごいまともな人間性を持つ魔術師も増えてるんだけどね。基本的でドライで道徳心に欠けてる連中が過半数。あげく異能を持たない人間の記憶を操作するとか基本中の基本だから、監視役は必須なわけじゃん。

 

 とどめに、この世界にいる魔術師達は大事なものを色々失ってるの。

 

 先祖の頃から頑張って手に入れた、研究に適した土地。研究資金を何世代も前から用意する過程で培ってきた、名門としての家柄。そしてその歴史の中で手に入れた、オークションでかるく数百万ドルとかは出せる絶大な資金力。それらを使って集めてきた、数百年前の羊皮紙や宝石などの研究資材。更には先祖代々少しずつ強化しながら受け継いだ、当主の証である魔術刻印っていう家宝を、文字通り、完膚なきまで、徹底的に全部失ってる。文字通り追い詰められた状態なのが大多数なわけ。

 

 しかもさっき言った「神秘は秘匿するもの」っていう原則は、魔術師(メイガス)が使う神秘の特性ゆえにそうしないといけないってだけで、しかもその必要がなくなっちゃってる。そんな状態で精神的にも権力的にも財力的にもそもそも研究続行が困難なレベルで追い詰められてる。今まで魔術師が自棄を起こして表社会を混乱状態にしなかったのが奇跡ってレベルなわけじゃん。

 

 まあ、ここまでならいっそのこと駆除するって方法もあったんだけど、幾つかメリットも存在するの。

 

 一つは簡単。魔術師は貴族主義にして実力主義。

 

 基本的に魔術師ってのは一定の傾向があるの。

 

 一つ。魔術師と言うのは魔術回路っていう生命力を魔力に変換し、そして運用する疑似神経を持っている事が絶対条件。厳密にはそれを代々研鑽して研究する人が魔術師(メイガス)で、ただ金儲けができればいいって人は魔術使いって明確に区別されてます。

 

 一つ。魔術師は大抵の場合、様々な魔術の中から初代が選んだ魔術を代々研究して発展させる。この辺はこの世界の代々続く魔法使いも似てるね。

 

 一つ。魔術師は跡継ぎにさっき言った魔術刻印ってのを代々継承させる。代々当主が強化して継承させる一族専用の内蔵型マジックアイテムって感じで、物によっては宿主の魔術を自動的にサポートしたり、宿主が失神してる時とかに自動的に治療とか延命とかしたりしてくれる。

 

 一つ。魔術師は魔術回路の質と数でほぼ才能が決まるから、魔術師ってのは基本的に、自分より自分の魔術を研究し運用するのに向いている魔術回路を持つ後継ぎを生む為に色んな手段を行使する。跡継ぎになれなかった同ジャンルの名門の子供と政略結婚する優生学なんて基本中の基本。ぶっちゃけ子供の内臓を増やすようなもんだから、親になる自分の体をいじくるなんて珍しくも無し。

 

 一つ、これらの理由から魔術師ってのは血統と歴史が才能にほぼ直結してる。家紋について調べれば何が得意でどれぐらいできるかすぐ分かる。勿論例外はあるけど、大抵の実力のある魔術師は、専門分野に優れた歴史のある家系の跡取りと相場が決まってる。逆に代が浅い若手とか、基本的に才能も底が知れるから舐められやすい貴族主義的環境。

 

 一つ。だけどここ最近は血統が浅くても才能があるのなら取り入れるべきって人達も多い。特に今の現状だと条件がだいぶ平均化されてる上に復興の為に手段選んでられないから、クロックワークスではこの思想が主流になってる。

 

 一つ。だけど歴史の長さに悪い意味で不釣り合いな回路や刻印しかなかったり、刻印を発展させる事が出来なくなったり弱体化させたり、そもそも刻印を事故で失ったりした連中は基本ディスられる。

 

 ……まあ、ここまで言えば分かると思うけど、魔術師(メイガス)って人種は性質としては大王派よりで、特に血統尊重主義派とぴったりの方向性があるわけなんだよね。もう血統尊重主義派がこの世界の魔術師の受け皿になる為に生まれてきたみたいな。

 

 と、いうわけで私とスメイガの説明を聞いて、それを鵜呑みにするんじゃなくて検査とかをしたうえで信じてくれた伯父様は、二つの事を考えた。

 

 一つ。魔術師達は誰かが監督しないと何をするか分からない。それも、血統に理解があり、メリットをしっかり提供できる人達じゃないと、逆に食い殺される。

 

 一つ。彼ら魔術師お呼び魔術使いの力を借りる事ができれば、一気に勢力を増す事ができる。

 

 これまさにドンピシャ。実際魔術師(メイガス)の力を利用しようとした連中はごろごろいた。大抵は強引に言う事を聞かせようとして暗示や記憶操作で破滅したり、神秘の秘匿に無頓着で秘匿最重視の魔術師達に集団で叩き潰されたりしてるけど、上手く付き合えたとあるマフィアはアメリカ合衆国の運営にも干渉出来て、かつ危険視する魔術師達も迂闊に手が出せない勢力になったとか。

 

 そして、魔術師達の血統と歴史を尊重する方向性に理解を示し、かつ大王派有力分家っていう小国に匹敵するコネと財力とか資材とか持ってる伯父様は、見事に共生関係に成功。

 

 これに関してはスメイガやイルマさんが懇切丁寧伯父様達に魔術師達の考え方とか交渉の定番とか教えた事もあったけど、最初の大勧誘の時に来た魔術師の1人がアイネスで、彼女が真っ先に賛同してくれた事も大きいね。

 

 ぶっちゃけ、魔術師(メイガス)的にイルマさんとかぶっちゃけレアスキル持ちって程度だけど、あの二人はレーティングゲームのトッププレイヤーレベルの影響力が元から魔術師(メイガス)の世界であったから。クロックワークスメンバーだと、あの二人が魔術師(メイガス)のツートップ。

 

 ぶっちゃけ血統尊重主義派が大王派有力派閥になれたのは、魔術師(メイガス)達のおかげ。

 

 もうクロックワークス以上にこの世界で魔術師達が研究しやすいところないから引き抜かれる事を気にする必要薄いって伯父様も言ってるから、具体的にクロックワークスに協力してもらった事とかも言っちゃうね。

 

 まずは治癒魔術。ぶっちゃけ神の奇跡とかで直したりする治癒魔術とかより、損傷した体組織で体組織の代用品を錬成するっていう絶対成功する臓器移植みたいなやり方の方がまだ定番だから、神の祝福を受けられなくても問題なし! 腕利きなら内臓破裂とかの命に係わる傷も十分ぐらいで治療できるし、超一流の魔術師なら再生治療とかもできるわけじゃん。

 

 次に残留思念の再生! 魔術師なら対抗策とかはきちんと取れるけど、敵が魔術師じゃないならやるだけなら簡単! 拷問とかで殺された人の末期の視点とか文字通り体験できるから、殺人事件とかの参考資料とかにぴったり! 下手人の顔とかすぐ分かるから、あとは叩いて埃を出すだけじゃん!

 

 他に特徴的なのは宝石魔術! これは鉱物に魔力を込める魔術で、宝石を魔力タンクや魔力製爆弾に変える魔術! 基本的に使い捨てだから金はかかるけど、連戦とかで減った魔力を回復したり、チャージ時間なしで大技できたりと結構便利! 基本的に人の手に渡って長い宝石の方が持ち主の念とか籠ってる影響で効率がいいんだけど、クロックワークスでは若手が研究しやすいように、伯父様が宝石の加工してる業者から、カッティングで出てくるかけらや粉末を仕入れてきて、特殊パレットにして使ってます! イルマさんも緊急回復用に持ってるよー!

 

 因みに! リスンは専門家の家系じゃないけど、獣性魔術っていう魔術を利用して戦ってます。

 

 これは自分の内側から獣性を引き出し、魔力を纏って獣性に見合った能力を得る魔術。雑にまとめると「M.O(モザイク・オーガン)手術っぽい魔術」ってイメージでいいよ! だいたい引き出す獣性に近い魔術能力と身体能力強化がされるから。

 

 この魔術、人間性を失ったり発狂したりするから知名度はあるけど使い手は少なかったんだけどねー。ヴァプラ家とか獣を司る悪魔の家系と複合させるとデメリットが激減する事が発覚してからは、まだ家系の方向性が定まってない若手女性魔術師から凄い勢いで「妾に紹介して!」とか「愛人前提の眷属悪魔として薦めてください!」とか「そういう家系から精子買ってきてください!!」とかうるさいです! 魔術師って業が深いよね! ちなみにリスンはたまたまブネ家の血が流れてたから戦闘用に専門家に教えてもらいました!

 

 ま、そっから先は公式発表時に出てくる資料とか見てねー。クロックワークスはこの世界に合わせて魔術師の在り方も変わってるから、概要ぐらいはすぐに知れるから安心して! あ、力借りたいなら血統尊重主義派を通してね。イルマさんが引き受けるじゃん!

 

 ちなみに魔術師(メイガス)にとって魔術と魔法は明確に区別されています。

 

 魔術ってのはぶっちゃけると「金と時間さえあれば現代でも似たような結果ができる神秘」で、魔法は「現代の科学技術だとどれだけ頑張っても真似すらできない神秘」って明確に区分されて、魔術師達にとっては自分達の完全上位互換。秘匿前提の魔術師業界だから具体的に何なのか分かってる魔法は滅多にないんだけど、いわゆる並行世界(パラレルワールド)関係は第二魔法って言われてて、他にあと四つ指定されてるらしいじゃん。

 

 クロックワークスの人達が、この世界の魔法使いを嫌ってる事が多いのはそれが理由。自分達と似たような事しかできないくせに、魔法とか名乗ってんじゃねえ!! ってな感じかな。この辺は相互理解が重要だから時間は必須って感じかねぇ。一応割り切って交流してる人も結構いるけど、歴史ある家計の出身は、最低でも一線引いてるかな。

 

 さて、それじゃあそろそろ最大の疑問だね。

 

 そもそも魔術師はどこから発生したのか。

 

 そして、それが聖書の神の死を知る者にしか詳細を説明しない理由。一緒に表向きのカバーストーリーを考えてくれないと、聖書の神の死が広まる恐れがあるから、その辺一緒に考えさせる事もあって教える事が決定したんだよね。

 

 一応言っとくけど、これはあくまで仮説じゃん。そこだけは間違えないように。

 

 まず第一に、この世界が聖書の神の死で色々とバランスなどが歪んでいて不安定な事。そして、ある世界でとある大魔術儀式が頻発した事でその世界も不安定になった事。

 

 その二つが絡んだ結果、その在る世界から魔術師達の魂が輪廻転生して、この世界に生まれる時に魔術的影響を与えたという説が一番有力。

 

 根拠は簡単。クロックワークスに所属する魔術師(メイガス)及び魔術使いの大半が、ある世界での前世の記憶を持っている事。そして、一番古い人達でもこっちの年齢は数十歳程度―その魔術儀式の頻発化した時のちょっと前ぐらいの生まれだという事。

 

 因みにスメイガやイルマさんがそのパターン。イルマさんの眷属にいる魔術回路持ちだと、アイネスだね。あ、兵士達はちょっと特殊だからこの場合は完全例外ってことで。

 

 で、鶴木にカタナにリスンは記憶なし。これに関しては既に転生した魔術師が子供をなしていてそういうパターンとか、魔術回路を持っていたけど物心つく前に死んだとか、魂に干渉する魔術を喰らって死んで記憶の継承ができなかったとかいろんなパターンが考えられてる。

 

 ……あ、アザゼル先生が怪訝な表情になってるから、その辺の説明もするね。

 

 うん、たぶんソーナちゃんとかも気になってると思うよね。

 

 そもそも、イルマさんやスメイガが魔術師だと分かって、伯父様が危険性と有用性と親和性から後ろ盾になる事を決めたのはいい。それがクロックワークスの始まり。

 

 だけど魔術師は秘匿が前提で、迂闊にばれるような真似はしない。しかも地球全土の人間を調べるなんて真似、どの勢力だってできない。とどめに、クロックワークスに参加する為に亡命してきた人達の中には冥界で繋がってる堕天使はともかく、当時鎖国中のオリュンポスの死神やアースガルズのヴァルキリーがいる。

 

 それだけの人数に対する勧誘をどうやって行ったのか。そもそも、どんな手段で接触したのか。

 

 それは、さっき言ったあの世界側の歪みの理由。ある儀式にある。

 

 ……その儀式の名は、亜種聖杯戦争。

 

 魔術師の世界で聖杯って言うのは基本的に「何らかの形で願いを叶えるマジックアイテム」。聖杯って言っても神の血を受けた受けた杯ってわけじゃなくて、そういう能力を持った凄いアイテム全般を魔術業界じゃ言うんだよ。

 

 で、それをゲットする為の競争行為全般の事を、魔術世界では聖杯戦争って言う。

 

 例えば「人生で初めて孕ませた女性の体を変質させ、その者の強い願いを叶える異能保有者に変質させる特異体質」の事も聖杯と形容できるわけ。で、その初懐妊の座をゲットする為に行われるハニートラップ合戦とかお見合い合戦、最悪逆〇イプによる種絞り〇レス合戦とかも聖杯戦争というわけ。

 

 ……ただし、亜種聖杯戦争っていうのは、たった一つの聖杯戦争を模造した魔術儀式。

 

 その始まりは西暦1800年あたり。鎖国中の日本が九州にあった、その世界の日本で二番目に凄い霊地、冬木。

 

 その冬木の管理者である遠坂という新興の魔術師に、二つの魔術師の家系が接触した。

 

 一つは世界でもトップクラスの錬金術師。悪魔で言うならアジュカ様やサーゼクス様達、魔王クラスすら超えた超越者の領域にいる、超引きこもりで超お金持ちなアインツベルンという魔術師の家系。

 

 一つは大昔から生きてきたという蟲使い。レオナルド・ダ・ヴィンチやヴァン・ホーエンハイム・パラケラススとも顔見知り……つまりその時点ですら何百年も生きてる超年寄り、自分の体を蟲の集合体に作る変えるする事で、更にそのあと第二次世界大戦直前までは生きていた事が確認されている、マキリ・ゾォルケンという魔術師。

 

 彼ら御三家が作り出した、願望成就機能を保有する魔術礼装「聖杯」を完成させる為の七組のバトルロワイヤル。そのデッドコピーが亜種聖杯戦争。

 

 私達の世界には英霊という概念がある。

 

 簡単に言うと歴史上の偉人が死後精霊に昇華した存在。ほら、日本とかで徳川家康とかが神格化される事あるでしょ? あれみたいな感じ。

 

 その英霊は人間より格上だから魔術師でも召喚できないけど、RPGとかでいう職業とかみたいに、一部の側面だけを用意する事で、その分霊を召喚する事は理論上可能で、それをサーヴァントと呼ぶの。

 

 そして御三家はそのサーヴァントを生贄にして魔力に変換。その魔力を蓄え、更に方向性を与える事でちょっとした国家の一年間分の電力とかを用意できちゃう、汎用性でも出力でも他を遥かに超えるタイプの聖杯を作っちゃったの。

 

 最も、「俺達の願いを叶える為に生贄になってください!!」なんて身勝手極まりない理由で召喚に応じるサーヴァントなんていると考える方がおかしいじゃん? いや、実際のところは「条件付きでおk」とかいう奇特な人とか少しはいたらしいけど、そんな前提とか非現実的だしね。

 

 と、いうわけでその御三家及びその話に乗った魔術師合計七名が、それぞれ別々のクラスのサーヴァント七騎の依り代兼魔力供給元のマスターとなり、七組のバトルロワイヤルで他のサーヴァントを叩き潰し、そのリソースをもっていして最後の一組が願いを叶える蟲毒的な魔術儀式。……聖杯戦争のオリジナルが開催された。

 

 その規模は魔術的にはまさに戦争。サーヴァントは基本的に歴史に名を残しているから傑物揃い。一流の武闘派なら最上級悪魔にも匹敵するわけ。そんなのが鎖国中の日本の一地方でぶつかり合ったらもはや当時なら戦争レベル。願望機としての性能も、さっきも言ったけど桁違いと凄まじいレベルなわけじゃん。

 

 ただ、60周年周期で行われていた冬樹の聖杯戦争は、三回目まで魔術師達の世界ではマイナーな儀式だった。

 

 魔術師達の世界では当時の日本は色んな意味で偏狭だった事が原因なんだけど、それも第三次聖杯戦争で一変する。

 

 第二次世界大戦ちょっと前に起きた第三次聖杯戦争。この聖杯戦争は本当の意味で戦争だった。

 

 とある没落した魔術師がオカルティズムに傾倒していたナチスドイツをそそのかしてその聖杯戦争に参加して、その影響か大日本帝国軍もついでに参加。その頃にはその世界の聖書の教えも「偽物なのは確実だけど「聖杯」として機能するものをほっとくわけにもいかない」と、隠れキリシタン絡みで恩があった遠坂家の伝手で監督役として参加するとか、もう色々と大混戦。

 

 ……で、これはイルマさん達も最近入ってきた魔術師から聞いた話なんだけど、その所為で冬木の聖杯戦争はその根幹がとん挫。

 

 なんでも冬木の聖杯戦争、願望機は偶然で来た副産物で本命は別にあった魔術儀式らしいんだってさ。いや、その人も詳細を知ろうとして口封じに殺されたから本命については知らないんだけどね。

 

 で、冬木の聖杯戦争での聖杯は実は二つあって、願望機はあくまで小聖杯。開催場所の冬木にある霊脈の重要ポジションであるある山の中の洞窟に大聖杯ってのがあって、霊脈とくっついたそれがあるからこそ冬木の聖杯は凄い効果を発揮した。

 

 ……それをナチスそそのかした魔術師が持ち逃げしちゃったんだよねぇ。しかも、事前に組織していた魔術師の集まりを利用して協力してくれたドイツ軍皆殺しにして大聖杯を奪っちゃった。

 

 ……最終的に七十年ぐらいかけて調べたりして準備を整えてそのユグドミレニアって組織は魔術世界的に大戦争を開催して、魔術師達の総本山である時計塔とサーヴァント使って殺し合いが勃発。

 

 最終的に第三次聖杯戦争のどさくさに紛れて第二の生を手にしたサーヴァントが色々と裏で動いた所為で大聖杯がまた行方不明。その過程でユグドミレニアも詰みになったけど、時計塔に至っては対ユグドミレニアの為に派遣された超名門家系の魔術師が「闘う前から味方に毒盛られてアッぱらぱー状態」なわけで赤っ恥。最終的に「ユグドミレニア解散するなら全部当主の所為って事で御咎めなし」で決着ついたそうです。……なんか色々と残念な結末だよねぇ。

 

 まあ、大聖杯の行方は脱線だね。重要なのはそれまでの間。

 

 たぶんそのユグドミレニアが大聖杯を探させない為のかく乱情報としてばらまいたんだろうけど、第三次聖杯戦争がうやむやに終わってから、大聖杯とかの情報を意図的に削除した状態で、願望機としての冬木式聖杯の作り方とか願望機としての仕組みがめっちゃばらまかれた。

 

 超一流の霊地と超一流の魔術師達が組み合わさって初めてできる肝心のシステム。そういうのが基本的に欠けてる亜種聖杯は冬木の聖杯の完全デッドコピー。神器(セイクリッド・ギア)でいうなら禁手(バランス・ブレイカー)になってるかなってないかぐらい格が違う。それでも、願望機として十分すぎるぐらい高性能。

 

 その願望機としての力に目を付けた魔術師達は、冬木式聖杯戦争の模倣を頻発。

 

 勿論規模はオリジナルより遥かに格下。最小で二騎による一騎打ちから、大きくても五騎によるバトルロイヤル。そしてそもそも参戦人数に関わらず成功するのは精々100分の一。大抵そもそも形にならず、半端に出来てると爆発オチ。

 

 そんな亜種聖杯戦争で魔術師がどんどん死んでいく世界。そんな世界で様々な死因で死んで、その魂と力を引き継いだのがイルマさんやスメイガ、アイネスとかクロックワークスの魔術師達の大半だよ。

 

 ……で、さっきも言ったけど「こいつら監視しないとやばい」「こいつらの力めっちゃ欲しい」の二つの理由で伯父様は彼らを集める組織の結成を決定。

 

 ……イルマさんとスメイガが、この世界の異能とかを併用して徹底的に安全重視で作った一騎打ち形式の亜種聖杯戦争。その願望機としての機能で「記憶と能力を引き継いだ魔術回路持ちに、クロックワークスという形での居場所をブルノウ伯父様が用意してくれる事及び、伯父様達血統尊重主義派への接触方法を伝える」って事。

 

 そして生まれたのがクロックワークス。魔術師達の暴走を抑え、魔術師達の研究を助け、魔術師達の力を借りる、血統尊重主義派の相方ってわけ。

 

 ……あ、亜種聖杯戦争はクロックワークスでは原則禁止になったから安心して。

 

 あの後二回ほどやったんだけど、亜種聖杯作ろうとして失敗した人の失敗理由とか、そもそも二回成功した事でのノウハウの獲得とかで調子ぶっこいて最高規模作ろうとして合計六騎の前代未聞の亜種聖杯戦争作ったんだけど、三騎ぐらい「悪魔に願望成就なんてさせられるか!!」って感じでマスター無力化して強襲しかけられちゃって。幸いこっちが優勝して願望機で「負傷者の完全回復」に大半使ったから死人は出なかったけど、「これやっぱ危険」って事でもうしない事にしたから。

 

 ま、優勝したサーヴァント三人は全員受肉としたうえで転生悪魔になってるけど、その辺は交渉の結果だから文句は聞かないじゃん?

 

 ちなみに、鶴木やカタナやリスンはその時のあまりで「記憶のない魔術師」を探して見つけた子達。責任もってイルマさんが眷属にしてるんだよ。……あ、アイネスはさっきも言ったけど最初の願望機効果で接触図ってきた魔術師だよ。イルマさんとは前世で顔見知りです!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、信じるかどうかはそっち次第だけど、魔術回路と亜種聖杯に関しては詳細データ送るから、そっちは信じといてねっと。

 




因みにこの作品の転生者は、全員がApocrypha世界の出身という設定です。タグまでつけてるのは全員その世界線の出身だからというわけです。






 あとこれは事実上の裏設定ですが、第三次クロックワークス聖杯戦争において、ブルノウ達運営陣の本命は、「第二次クロックワークス聖杯戦争によって適合クラス及び能力、そして召喚に応じる理由から受肉及び長期契約を取る方法まで把握しているサーヴァントの確保」です。そいつについては登場は確定していますがだいぶネタバレになるので今は言えません。

 確実性を高めるためにイルマ・スメイガの二回経験しているベテラン組と、完全協力体制かつ魔術師として最強格のアイネスがそのサーヴァントを召喚するマスターとして参加。サーヴァントのシステムを最大限に利用して、それぞれ別のクラスで召喚することになりました。ちなみに該当する三クラスの内一つがバーサーカーなのですが、それだと長期契約をとってもメリットがほぼないので、バーサーカーが優勝した場合は受肉時に狂化スキルを消去することが確定済み。
 残り三名の有志魔術師には「触媒確保にかかる費用をブルノウ達が負担する」ことなどを条件に、まずイルマ達が召喚することなどを認めさせました。因みにこれはそのサーヴァントが単純戦闘能力は低いが、時間・資金・資材がそろえばすさまじい効果を発揮するアヴィケブロンのような聖杯大戦向きサーヴァントであり、かつ召喚に応じる目的が目的なので色んな意味で準備期間が必要だという事情もありました。

 ……が、肝心の三人の有志魔術師がそろいもそろって大問題。魔術師としてはスメイガやアイネスより格下とはいえ、全員イルマよりは格上で、歴史ある魔術師の家系の典位クラス。クロックワークスでの貢献度もそれなりにあったから選ばれた奴らではあります。しかしどいつもこいつもサーヴァントを「所詮は使い魔。英霊本人ではなくその陰なんだから敬意もいらないし、令呪という首輪もあるからどんな言うこともこれを盾にすれば聞かせられる」という発想のもと、人格面を全く考慮せずに触媒を捜索して、ゲットしてしまいました。
 質の悪いことに、ある程度はフェアに行くべきだと理由で、触媒の費用は提供してもどんなサーヴァントが呼べる触媒か調べないというミスを運営側がしたうえ、有志側も上記の問題だらけの考え方を前提とした気遣いで「転生悪魔として受肉させれば、魔王クラスがいない血統尊重主義派のアドバンテージとなる=対悪魔戦において優れている」サーヴァントを選ぶという余計なお世話を敢行。
 結果的に全部が悪い方向にかみ合って、運営側が奇襲喰らってあわや血統尊重主義派とクロックワークスの命運が尽きかけたので、基本的にクロックワークスと血統尊重主義派は亜種聖杯戦争を禁則事項にしました。

 因みに、召喚された有志側のサーヴァント、以下三名

 アヴェンジャー:ブディカ

 セイバー:ゲオルギウス

 バーサーカー:ジャンヌ・ダルク

 真実を知ったブルノウはこう思いましたとも

「なんでそいつらが悪魔(私たち)に協力すると思った!?」

 理由が気になる方は、自分のほかの作品を見てくれると嬉しいですと、ダイレクトマーケティングします。









 あ、明日はサーヴァント風ステータスや設定資料集の更新を主体にする予定であります。できれば見に来てUA数を増やしてくれると、グレンうれしいです!


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4 アイネス・エルメロイ・アーチホールことツヴェルフ・シトリーという女王

さて、魔術師がらみに事情も説明できて、だいぶ本番に近づいてまいりました。


 先日のトンデモ情報。今頃イッセー達は混乱したりとかしてるんだろうなー。

 

 などとぼんやり考えながら、鶴木はタイミングを見計らっていた。

 

「諸君! 体育祭とは高校生達のイベントだけど、マンネリはいけない!!」

 

 日本の高校に来たのは初めてなはずのイルマが、そう壇上で語る。

 

 まあ、彼女の前世は日本人らしいので、実は経験豊富だろうからこれはいい。

 

 そして、とりあえず勢いに呑まれているので、誰も突っ込まない。イッセー達と仲の良い女子生徒である桐生とか言うのに至っては、とても面白そうに見ている。

 

「ならどうするか? 決まってる! 私達で競技の追加を要請するのだ!!」

 

 そう告げたイルマは、勢いよく黒板を叩く。

 

 そこにはイルマが提案した、とあるマイナースポーツがあった。

 

 それはフィンランドなどで行われる、二人一組で行われる障害物競走。

 

 通称、嫁運びレース。

 

「このイルマさんの素敵な体を堪能しながら、男を見せたい奴は署名しなさい!!」

 

『『『『『『『『『『うぉおおおおおおおお!!!!!!』』』』』』』』』

 

 イッセーの悪友である松田と元浜を代表として、男子達が喝采した。

 

「因みに! 友人に頼んでイケメン王子木場祐斗のクラスの女子は買収済みだ! イケメンにお姫様抱っこしてもらう可能性で買収できたぞ! そいつに頼んでそいつのクラスの男子の署名も確保済みじゃん!!」

 

『『『『『『『『『『いやっほおおおおおおおおお!!!!!!』』』』』』』』』

 

 勝利を確信した男どもが、喝采を上げる。

 

 ちなみに女子達は悔しがっていた。具体的にはこのクラスに木場祐斗がいない事に悔しがっていた。

 

 なんでも公開授業ではリアス・グレモリーの裸婦像のオークションが開かれたらしい。イッセーが何となく作ったら凄いクオリティだったとか。何作ってんだと突っ込むのは野暮だろう。

 

 だが、鶴木が集中するべきはそこではない。

 

 彼が集中する事はただ一つ。

 

 ……この後確実に発生する、「誰がイルマをお姫様抱っこするか」に勝つ事である。

 

 イルマのビッチっぷりはよく知っている。おそらく友人というのはリスンとカタナだろう。

 

 リスンは面白がっているだけだが、カタナはおそらくイルマと同じ事を考えている。

 

 そう、二人は自分達の体と接触して興奮した男子を連れ込んで、体育祭の最中にエロい事をと目論んでいるのだ。付き合いが長いから確実に確信できる。

 

 このチャンスは逃せない。というより、逃してたまるものか。

 

 童貞卒業。それは、男のロマン。

 

 それもできる事ならいい卒業がしたい。エッチな事に手慣れている美少女ならかなりいい。

 

 特にイルマとできるのは最大のチャンスだ。イルマとエッチな事して童貞卒業など、最高の機会だ。

 

 ゆえに次のイルマの言葉に合わせる形で鶴木は一気に名乗りを上げんとする。

 

「さあ、私をお姫様抱っこしたい奴は手を―」

 

「―上げるのはあなたです」

 

 その静かな怒声とともに、教室の扉が開かれた。

 

 入ってくるのは黒髪眼鏡の美少女二人に率いられた、女子比率が多すぎる集団。

 

 ソーナ・シトリー。日本での偽名、支取蒼那が、生徒会を率いて突入してきた。

 

 それに対してイルマは明らかに動揺した。

 

 具体的には、悪戯が見つかった子供の表情である。

 

「そ、ソーナ会長!? い、イルマさんはただ面白い競技を入れたかっただけだよ!?」

 

 そう誤魔化すイルマだが、しかしソーナは指を鳴らす。

 

 その音とともに後ろ側の扉が開かれ、生徒会の一部メンバーに引っ立てられたリスンとカタナが入ってきた。

 

「すんまへんイルマ姉さん。……詰みや」

 

「最悪の事態ですわ。先読みされましたわ」

 

 涙すら浮かべて震えるリスンとカタナの表情を見て、鶴木は全てを察した。

 

 当然だが、イルマもまた全てを察した。完全に追い詰められた者の表情だった。付き合いの長さで完全に誰が動いたのかまで確信した。

 

 そう、知られたのだ。そしてソーナに告げ口したのだ。

 

 我らイルマ・グラシャラボラス眷属。そのもう一人の主ともいえるあのアマルガムの女王が。

 

「……では、通信を繋いでください」

 

「はい、会長」

 

 そしてソーナの指示に従い、副会長でありソーナの女王である真羅椿姫が、ノートパソコンを開く。

 

 そして、映し出されたのはソーナにどこか似ている少女。

 

 イルマ・グラシャラボラス眷属の女王(クイーン)。ツヴェルフ・シトリーことアイネスその人だった。

 

『イルマ。転校早々いきなりやってくれたな』

 

「な、ななな何のことかなぁ?」

 

 明らかに視線を泳がしているイルマに、アイネスはため息を付く。

 

『お前がビッチである事に拘りがあるのは知っているし、理由が理由ゆえ過度に諫めはしない。年頃の青少年の性欲が強いのは当たり前だし、我らが故郷は少し位淫行をしたところで致命傷になるお国柄でもないしな』

 

 そう理解を示すアイネスだが、しかし明らかに声に怒気が乗っている。

 

 そして、鋭い視線を叩き付けた。

 

『だが相手の性的興奮を促す競技を提案し、それにかこつけて体育祭で淫行を働くのは看過できん。それはブルノウ様も流石に問題だと判断し私に説教を一任された』

 

「………伯父様にまで勘付かれたってのかぁ」

 

 崩れ落ちたイルマを見て、クラスメイト全員が呆れ果てた。

 

 この発言で、クラス内では鶴木だけが勘付いていた本来の目的に気づかれた。

 

 そしてそれゆえに、童貞卒業の可能性を失ったという絶望に崩れ落ちる、松田と元浜という変態はこの際置いておく。

 

 そして画面越しから怒気を放つという難行を成し遂げているアイネスは、ため息を付いた。

 

『ソーナ嬢。本家の者に言う事ではないが、画面を他の生徒達の方に向けてくれないか?』

 

「ええ、構いません」

 

 そしてアイネスの姿が映った画像を、クラスメイト達は確認する。

 

 どこかソーナに似た雰囲気を持つ、そして何というか歳不相応の雰囲気を持つ少女。

 

 実際彼女は前世持ちなので、年齢不相応の雰囲気を持っていても何らおかしくない。

 

 彼女は冷静沈着かつ優美な動きを見せながら、軽く一礼する。

 

『大半の諸君とは初見になる。私はイルマの秘書のような事をしている、ツヴェルフ・シトリー。魂の名をアイネス・エルメロイ・アーチホールだ』

 

 ―なんか凄い中二病だ!?

 

 クラス中の心の声が聞こえてきたのは間違いではない。

 

 実際問題、彼女は前世持ちで、今のはその名前なのだから間違ってはいない。なので厳密には中二病ではない。

 

 しかしこんなこと言われたら大半の者達は中二病だと思うだろう。前世の家系を誇りに思うのはいいのだが、この辺問題である。

 

 だがしかし、それよりもっと差し迫った問題が鶴木にはあった。

 

 ぶっちゃけ逃げ出したいが、既にアイネスは鶴木を発見しているようだったので、逃げられない。

 

『……鶴木。お前は付き合いが長いから勘付いたうえでイルマと事に及ぼうとしていた事は推測するまでもない確定事項だ』

 

 やはり気づかれていた。

 

 だが、アイネスは少し眉間にしわを寄せながらも、あえて口調から険をとる。

 

『だが結果的とはいえ未遂だ。今後同様の行動を実行させない餌として、一つだけお使いをする事で許してやろう』

 

「……具体的には?」

 

 これで荒事だったりするのは勘弁だ。

 

 確かに自分は相応に強いが、しかし最上級悪魔クラスと一対一で戦える実力はない。

 

 最終的な素質は魔王にすら届くと言われている。実際にその根拠も提示されているし、鶴木も納得だ。

 

 だが、そのポテンシャルを引き出すにはまだまだ時間が必須だろう。

 

 神器は亜種だが使いづらい。転生悪魔としては完全人間ベースなので基礎ポテンシャルは低い。魔術回路も魔力量はカタナの次に高いが、運用能力はそのカタナに毛が生えた程度。分かり易く言えば尖り過ぎのカタナを丸くした形だ。

 

 ゆえにこそ、自分の強大さの原点である力を引き出す可能性はある。しかし、それはまだまだかかるだろう。

 

 指導能力にも優れたアイネスから、その力を運用するための魔術指導を受けているのでいずれものにできる。だが色々と前代未聞ゆえに、現段階ではアイネスたちも手探りでやっているのが現状だ。

 

 だから援護無しで難易度の高い仕事はしたくないと不安になった。

 

 だが、アイネスの告げた「お使い」は本当に「御使い」だった。

 

『放課後、夜十一時半までにウィダー〇ンゼリーを三つ買って、下宿している兵藤邸宅に戻ってこい。あとこれはイッセーでもゼノヴィアでもアーシアでもイリナでも構わんが、兵藤夫妻に「イルマとカタナとリスンは、本日夕食を別途で用意するので作らなくて構わない」と伝えておいてくれ』

 

「「「………っ!?」」」

 

 イルマ達、下手人三人が凍り付いた。

 

 今の発言を要約すればこういう事だ。

 

 今回の未遂事件の罰として、三人の夕食は夜十一時半にウィダーインゼリー一つのみという事だ。

 

 そして、アイネスは不敵な笑みを浮かべた。

 

『さて、今日の私の夕食はフランス料理のフルコースだ。本国にいる以上、私達貴族は一定頻度でそういう食事をしなければいけないが、自室で食べるのは久しぶりだ』

 

 更にそんな事を言いながら、アイネスは鋭い視線をイルマ達に向ける。

 

 その目に嗜虐的な色を浮かべながら、はっきりと告げた。

 

『あと、イルマ達三人は放課後すぐに帰宅してイルマの部屋に集合。通信機能付きプロジェクターを用意しておくように。ああイッセー。リアス嬢には「三人は急用ゆえに部活は休む」と伝えてくれ。もちろんこの会話の内容も概要だけでいいから教えてほしい』

 

「あ、はい。……イルマさん、骨は拾います」

 

 イッセーも逆らう事なく従った。

 

 鶴木も無言で敬礼をもってそれを了承する。

 

 まあ、具体的に言うとこういう事だ。

 

 本日のイルマ達の罰は、深夜のゼリー飲料だけという生ぬるいものではない。

 

 放課後から深夜まで説教フルコース。更にフルコース料理を優雅に食べる姿を空腹状態で見せつけられるという二段構えだった。

 

『では失礼する。通信設備を自室に用意しなければならないし、ディアクルス達に空腹感を刺激するフルコースを準備させる為の指示が必要だからな』

 

 その言葉とともに、映像が途切れる。

 

 そして下手人はまず第一段階の説教の為に、生徒会室に引っ立てられた。

 

 ……その後のホームルームは、十分ぐらい黙祷の為に沈黙した事を告げておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして放課後。鶴木達眷属悪魔男子組は、女装少年を除いてファーストフード店でだべっていた。

 

「……俺、今日めちゃくちゃついてる。ゼリー代すら後で送られてきたんだぜ?」

 

「俺もついてるぜ! 童貞卒業のチャンスは遠のいたけど、アーシアと二人三脚とかちょっと夢のようだぜ!」

 

「……ついてる方向性が真逆じゃないかな?」

 

「って言うか、鶴木の場合は悪運が強いって言うんじゃないか?」

 

 ホッとする鶴木とガッツポーズをするイッセーに、祐斗と匙が呆れ半分の表情を浮かべる。

 

 因みに、このだべりはたまに行われている。

 

 三人の次期当主(1人代理)の眷属悪魔で、駒王学園に通っている学友なのだ。更に女性比率が多いので若干肩身が狭い。

 

 そんな感じの交友関係として、交友を深めるために鶴木が提案。イルマとリアスはあっさり了承。そしてソーナも「不順異性交遊でないのなら」と参加を許可したのでこうなった。

 

 そして一連の大捕り物に関わり、更にはアイネスの苛烈さを身をもって思い知っている匙は肩を震わせる。

 

「相変わらず恐ろしい人だぜ。いい人だし中二病じゃないって事も分かったけど、怒らせたくねぇ」

 

「まあ、あれで面倒見はいい人だから安心しとけよ。……やるときは徹底的にやる人だけど」

 

 鶴木がフォローになってないフォローをぶちかまして、イッセーと祐斗を苦笑させた。

 

 その苦笑っぷりを見て、鶴木はシェイクを飲みながらうんうんと頷いた。

 

「お前ら、なんでアイネスさんがイルマ姉さんの下についてるのかすっげえ不思議って顔してるだろ」

 

「「「うん」」」

 

 異口同音で即答だった。

 

 だがそうだろう。

 

 イルマは完全にアイネスの尻に敷かれている。それどころか、そもそもイルマ・グラシャラボラス眷属の頂点に君臨している節がある。

 

 それに、魔術師(メイガス)としてもイルマを圧倒するほどにアイネスの方が格上だ。それについてはイルマ自身断言している。

 

 そして、詳しめの資料を貰って読んだ事で、誰もが納得している。

 

 エルメロイ一門。

 

 本来の魔術師(メイガス)達の世界における魔術師達の相互監視組織、魔術教会。

 

 その運営陣と言ってもいい、十三の学部。その学部長は事実上の領主として君臨し、独自の法すら敷ける絶対的な存在だ。

 

 そのロードの一角であるアーチボルト家。彼らが率いる一門こそがエルメロイ。そして、アーチホールはその分家の中でも本家筋に近い、バアルで言うならブルノウ・スメイガ親子のような立ち位置なのだ。

 

 そのエルメロイは亜種聖杯戦争で当主が魔術刻印ごと惨殺された事で落ちぶれてはいるらしい。だが、分家のアーチホール家の魔術刻印は無事だったから、それなりの権力は保有。ついでに言うと彼女が死んだ後から死んだ者達の話によるとエルメロイ一門はそれなりに持ち直したらしい。

 

 なんでも一門の長と揉めた新米魔術師が当初の予定である触媒を盗んで参加した事がその当主の敗因の一つらしいが、その聖杯戦争で大化けしたらしい。

 

「先生は紛れもなく優秀であり、彼が死んだ事で成長する機会が失われる人達が出てきてしまう。戦死の一因を担った者として、その責任を取らねばならない」

 

 そんな、イルマが説明してくれた魔術師像からすれば「馬鹿じゃねえの」と言われそうな理由で、その人物は一念発起。

 

 借金して彼が講師をしていたエルメロイ教室を買い取り、引退したり居場所がなくなった講師に頭を下げて協力してもらい、そして自らも一生懸命努力して、教室を存続させた。

 

 そしてその過程において「鶴木と同程度の運用能力に、イルマより下の魔力量」という魔術教会的にひいき目に見て凡人極まりないと評価するしかない彼は、魔術業界的にそのディスアドバンテージを間接的にひっくり返す才能「魔術に対する知識と考察能力」に覚醒。

 

 かつて揉める原因となった「家柄の古さがなくても才能ある魔術師はきちんと教えれば大成する」を自分以外にことごとく実践。「ちゃんと学んでも大成しない自分は正真正銘魔術師として凡人」という証明を行い続ける公開自傷行為と引き換えに、教え子達の才能をきちんと引き出す事に成功する。

 

 立派な血統の魔術師はそのポテンシャルを最大限に発揮。家柄が悪い魔術師も、才能を見抜いて教室に引きずり込んで覚醒させる。更に突然変異じみた「血統に合わない魔術に才能ある者」を発見して新たな可能性まで引きずり出す。たまに真の才能を引き出し損ねる事もあるが、それも「実家の魔術とハイブリッド体制にもっていこうと思って実家の魔術と合わない原因のフォローをしたら、他の諸事情と化学反応を起こして実家の魔術でも大成してしまった」という変則事項で、どちらにしても大成はしているという始末。

 

 結果、彼の教えを受けた魔術師は自立する頃には全員上位位階に到達。教え子達を煽れば時計塔の勢力図を変えるとまで言われてしまう。

 

 当人が権力闘争に興味が薄く、逆に自分の凡才っぷりを徹底的に突き付けられる日常ゆえにそんな気はないが、そんな彼がエルメロイ一門の代表代理「ロード・エルメロイ二世」に収まった事で、エルメロイは首の皮一枚繋がったらしい。

 

 その情報提供をした魔術師達は、「アイネスが焦って自滅しなければ、彼女はエルメロイ二世の指導によって真の意味の王冠に届いていた」「よしんばそうはいかなくても、特別待遇としてどちらにしても王冠として彼と双璧をなすエルメロイ一門の最終防壁になっただろう」「二人が手を組めばエルメロイ一門は全ロードのトップに立っていたかもしれない」とまで称されているそうだ。

 

「そりゃ、アイネスさんはシトリー家じゃ分家中の分家の出身だって会長から聞いたぜ? だから大王派的にグラシャラボラスとしてもバアルとしても本家直近のイルマさんが主になった方が体裁はいい」

 

 匙はそう言うが、しかし同時に首をひねる。

 

「でもブルノウさん達は「才能がない本家筋は当主の座を才能のある分家筋に継がせるべき」だろ? これ、矛盾してないか?」

 

 匙の言う事はもっともだろう。

 

 少なくとも、魔術師としてアイネスはイルマを凌駕している。それどころか、クロックワークスでも二強に属するそうだ。

 

 最終的に双璧をなすスメイガと、今はブルノウが兼任しているクロックワークスの理事と盟主を分け合って存続させるらしい。

 

「確かに、ブルノウ様は姪だからって理由だけでそんなひいきをするような生易しい方ではないらしいとは伺っているよ」

 

 祐斗もそう言うが、実際その意見は間違っていない。

 

 無能なりに努力する者には慈悲を向けるが、怠惰な無能は落ちぶれるべきというのがブルノウだ。それは鶴木も良く知っている。

 

 だから、アイネスに聞いた事はあるのだ。

 

「アイネスさんはこう言ってたよ。「あいつは魔術師としては凡才だが、魔術使いとしてはクロックワークスでも最強格になれる」ってさ」

 

 そう、魔術師と魔術使いは違う。

 

 魔術師は魔術を研究させる事が本懐。魔術を道具として使用する場合においては、魔術使いと条件は大差ない。

 

 そして、それ以外にも理由がある。

 

「あと、アイネスさんとイルマ姉さんは前世からの知り合いだってのはイルマ姉さんが言ってただろ? で、イルマ姉さんはアイネスさんより先に死んでるそうなんだ」

 

 その辺りについて、何故かアイネスもイルマも深くは教えてくれない。

 

 あまり深入りしていい内容でもないし、鶴木達も深く聞こうとはしていない。

 

 だが、アイネスはその時の事を思い出しながらこう語った。

 

「「私はイルマに友情も負い目も怒りも感謝もある。だから、私はイルマを従えたくない。イルマに仕えたい」ってさ」

 

 きっと、アイネスとイルマには二人にしか分からない事があるのだろう。

 

 だから、鶴木はそれ以上は聞かなかった。

 

 それを察したのか、三人もなんとなく納得の表情を見せた。

 

 そして、イッセーは何となく気になったといった表情で、鶴木に質問する。

 

「それ、イルマさん的にはどんな感じなんだ?」

 

 その質問に、鶴木は苦笑を浮かべた。

 

「「イルマさんはアイネスに心から感謝してるし、本当に迷惑をかけたと思ってる。だから、アイネスが心から望んでるなら、そうするしかないじゃん」だってよ」

 

 お互いに負い目と感謝を持ち、そしてそんな二人だからこそある絆がある。

 

 きっと、そういう事なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さて、それでは早めの夕食を開始させてもらおう。まずは前菜を十分かけてゆっくりと味合わせてもらう』

 

「この悪魔ぁああああ!」

 

「イルマ姉さん、それ只の事実や! 何の意味もあらへん!!」

 

「……く、空腹感が凄まじく刺激されますわ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時進行でこんな事が起きていると知れば、誰もが一瞬疑問を浮かべるだろうが。

 




 イルマとアイネスの過去に何があったのかは、アイネス視点である程度ホーリー編の段階で語られる予定ですが、まあイルマの紹介とかである意味ネタバレしてますので、あまり深入りはしないでね。

 そしてアイネスは本当に天才。魔術師としてはクロックワークスにおいてスメイガに並ぶ二強だし、Apo世界なら特例としてですが王冠になることは難しくないでしょう。官女がエルメロイに残存してさえいれば、ライネスとウェイバーはだいぶ楽にノーリッジを運用できたでしょうね。


 まあとにかく、アイネスとイルマの間には本気の友情があるわけです。そしてそれゆえにアイネスはイルマの眷属悪魔であることに固執しています。明日辺りにその辺の話を書き始める予定です。具体的にはアイネスが何で死んでこっちに来たのかの事情がある程度語られる予定です。


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5 設問:文字通りすべてを出した戦闘をする気で戦いながら、しかし次の試合のための伏札を大量に残す方法を述べよ。 注:ただしレーティングゲームのシステムを流用してのものとする。

 ちょっと感想で勘違いされているところがあるので、訂正を。

 アイネスがすべてにおいてイルマより格上だと思われがちですが、そういうわけでもありません。

 確かに魔術師としての才能では、総合的にアイネスがイルマをはるかに上回っています。天運にも恵まれれば正真正銘王冠の位階を得ることもできるアイネス相手に、開位の上が頑張ってようやく到達できるレベルのイルマでは、魔術師としては話にならないです。各種事務処理能力においても、間違いなくアイネスが上だと断言しましょう。

 ですが、サーヴァント風ステータスを見ればわかるように、魔力などの「悪魔としてのポテンシャル」ではイルマの方が上です。この辺、彼女は血統尊重主義派の代表を伯父に持つものとして頑張ってますし才能もありました。その上対悪魔戦闘技術を運用してくるので、純粋に勝負した場合はイルマとアイネスはいい勝負になります。
 また人の上に立つものとしても、人柄とノリで気に入られやすいイルマと実務能力などで厳格に動かすアイネスでは方向性が違います。

 ついでに言うと、実は純粋な魔術戦闘に限定しても、イルマはアイネスに勝算があります。これは、悪魔としてのポテンシャルは抜きにして考えての話です。

 アイネスが圧倒しているのは、あくまで根源を目指す研究者にして貴族である「魔術師」としてで、また、イルマの完全上位互換かというとそうではないです。魔術を運用して目的を達成する「魔術使い」としてなら、イルマは十分に勝ち目があります。

 まあ、事務作業などのデスクワークに関してアイネスがイルマに劣ることなど半永久的にあり得ませんが。この辺は完全に尻に敷かれた人生を送ることになるイルマです。


 

 そして、体育祭の練習が行われる時期になった。

 

「「うぉおおおおおおお!!!」」

 

 イリナとゼノヴィアが、自分達が悪魔や天使であることを忘れたフルスペックで走っていた。

 

 すでにオリンピックでも見れないような速さになっているのだが、大丈夫だろうか?

 

 鶴木はそう思いながら、しかし同時に全力で揺れる胸を観察していた。

 

「唸れ俺の動体視力! そして揺れる胸を心に刻み込め!!」

 

「だが、早すぎると風情がないな」

 

「ああ、適度な速度がおっぱいの鑑賞には一番だな」

 

「だけど、二人のおっぱいはやっぱりすごいぜ。ぐへへへへ……」

 

 松田、元浜、イッセーの順で、鶴木の馬鹿極まりない発言と似たり寄ったりの言葉が出る。

 

 この四人、波長が合うのか結構つるんでいた。

 

 イルマ・グラシャラボラス眷属は、基本的にリアスやイッセーの世話になっていた。

 

 ブルノウが彼女たちを派遣した目的が目的だからだろう。彼はサーゼクスたちに根回しをして、イルマ達をイッセーの家に下宿させた。

 

 元よりサーゼクスはリアスがイッセーに恋心を抱いていることを察し、更に複数の女性たちがイッセーに懸想していることまで把握していた。その結果として、イッセーの家を改築させてまで彼女たちをイッセーの家に下宿させるという手段をとっていた。

 

 さらに増えることまで予測したのか、地方都市ということを考えると駅前でもない高さのビルと化している。イリナもついでに下宿していたが、この調子だとさらに増えるかもしれない。

 

 それをちょっと改装してスペースを増やし、イルマ達も下宿しているのだ。

 

 そう、オカルト研究部という、駒王学園においては「学園最高峰の美形の集まり」といっても過言ではない集団の女子たちが、全員イッセーの家に住んでいるのだ。

 

 元からオカルト研究部は「美男美女+野獣」という評価がされている。因みに美男は祐斗であり、野獣はイッセーである。ギャスパーは美女扱いにカウントされている節があるが、とりあえずスルーする。

 

 これにイルマ達が加わり、更に美男美女の数はごっそり増えた。

 

 その過程において、祐斗とギャスパー以外の男子であるイッセーと鶴木は嫉妬されることも多い。

 

 祐斗に嫉妬すると女子たちの敵意を買う可能性が高いから、嫉妬できないのが実情だ。

 

 ギャスパーも女子人気は高いが、それ以上に男子からの人気も高い。男たちの道を踏み外させる魔性の女装少年である。

 

 しかし、覗きの常習犯である問題児のイッセーは女子人気が底辺なので、嫉妬する分には問題がない。鶴木も堂々とスケベ発言をするため、祐斗に比べると女子人気は低い。

 

 だからなんだかんだで男友達は少ないのが現状だ。だが、この二人は違う。

 

 元からイッセーの同類なのもそうだが、それを抜きにしても気のいい連中だ。悪友としてつるむ分には最高峰だといってもいいだろう。

 

 クラスも同じなので、たいてい鶴木は一緒になってつるんでいた。

 

 そして、そんな数少ない男友達の一人がさらにやってくる。

 

「お、兵藤に鶴木じゃねえか」

 

 シトリー眷属唯一の男子、匙元士郎だ。

 

「よ、匙」

 

「匙か、何やってんだ?」

 

 松田と元浜から分かれて、二人は匙との会話に移行する。

 

 ちなみに松田と元浜は女子のおっぱいに夢中だった。

 

「見りゃわかるだろ、生徒会としての仕事だよ。で、お前らは?」

 

「「揺れるおっぱいの観察」」

 

 隠すまでもなく即答だった。

 

 そのために悪魔になって強化された動体視力をフルに使っている。鶴木に至っては魔術で動体視力を強化して、フルパワーで観察していた。

 

 光り輝かんばかりの煩悩の塊である。

 

 因みに匙は少し引いていた。彼も主とのできちゃった結婚を望む変態だが、それでも二人ほどストレートにスケベをひけらかしたりはしなかった。

 

 そして、そんな匙の腕には包帯がまかれていた。

 

「……そういや、俺が転校してた時からつけてた気がするけどよ、どうした?」

 

 グレモリーとシトリーのレーティングゲームで痣でもできたかと思ったが、それにしては包帯を巻く期間が長い。

 

 そもそもクロックワークスの内情説明で、これまで恩恵を与える人員を厳選していた魔術的治療はかなり受けやすくなっている。そも、事情を教えられている匙はかなり受けやすいだろう。

 

 なのに、なぜいまだに包帯を巻いたままなのだろうかと疑問に思う。

 

 そして、匙はそれに対して苦笑いを浮かべる。

 

「いや、ゲームで兵藤の血を吸った影響かなんかわからないんだけどよー」

 

 そう言いながら、匙は包帯を視線を気にしながらずらす。

 

 その腕には、何やら黒い蛇がのたうっているかのような文様が浮かんでいる。

 

 ……魔術師(メイガス)の勉強も一応している鶴木的には、何かしらの呪術的な刻印といった印象が浮かぶ。

 

 確かにこれは包帯で隠すほかない。日本の高水準レベルの高校で入れ墨とか、間違いなく浮くレベルだろう。生徒会のメンバーという立場であることも考えると、真剣に人生に凄まじいトラブルが発生しかねない。

 

「……呪い?」

 

「イッセー。ちょっと匙の来歴的にシャレにならねえ」

 

 心底シャレにならないと思い、鶴木は何の気なしにつぶやいたイッセーにツッコミを叩き込む。

 

 匙は龍王ヴリトラの魂の一部を封印した神器の保有者である。

 

 そしてそのヴリトラは邪龍とも称されている、神話伝承的に悪役のドラゴンである。……ドラゴンの大半は敵役として登場するわけではあるが。

 

 そしてこの世界的にもあの世界的にもドラゴンというのはとんでもない存在である。

 

 如何に魂の残滓とはいえ、邪龍の残滓が何かしらの影響を与えて呪いが発現とかシャレにならない。

 

「……っていうか、この前のゲームで兵藤の血を吸ったことが原因じゃねえかってアザゼル先生が言ってたんだよ。イルマさんにも相談して、今度クロックワークスにも見てもらう予定だ」

 

 匙は禁手に到達してない龍王の残滓の神器で、禁手に到達した天龍を丸ごと封印した神滅具をもつイッセーを時間差で道連れにするという快挙を遂げた。

 

 よほど目が曇っているものでもない限り、専門知識があればこれがどれだけの快挙かなどすぐわかる。実際MVPをとるという快挙を獲得し、特別ゲストだった北欧神話体系アースガルズの主神オーディンにも褒められた。のちのレーティングゲームの歴史において、ジャイアントキリングの代名詞となるかもしれない。

 

 だが、魔術師(メイガス)的に考えると、最高レベルのドラゴンの血液とか凄まじい素材のはずだ。

 

 そんなものを取り込んだことで、邪龍の神器が影響を受けたというのはすぐイメージできる。

 

「だよなー。邪龍とか普通に厄ネタだしな。それがらみでわけわかんねえ事態起きてんなら、マジでアイネスさんあたりに精査してもらえ」

 

 鶴木として本気で心配である。

 

 だが、むしろ匙はあまり気にしてなさそうだった。

 

 神器においては専門家中の専門家であるアザゼルが検査したこともあるのだろう。おそらく彼はそこまで問題視していない節があるようだ。

 

 そして、匙は話を変えてきた。

 

「ま、クロックワークスに行くときはアイネスさんが担当厳選するとか言ってから大丈夫だろ。で、話変わるけどお前らはどの競技に出るんだ?」

 

 その質問に、鶴木ははっきりと告げた。

 

「借り物競争。ぶっちゃけ俺のスペックだと普通に走ったらギネス記録を出しかねねえから、そこは加減する方向でな」

 

「俺はアーシアと二人三脚だ! 桐生にはめられて押し付けられたけど、アーシアとできるから結果オーライだぜ!」

 

 イッセーはドヤガオだった。

 

 可愛がっている美少女と密着しての二人三脚。普通に考えれば自慢以外の何物でもない。

 

「鶴木はなんだかんだで考えてるな。あと兵藤は一度ヴリトラに呪われやがれ。俺なんてパン喰競争だぞ、畜生!」

 

「まったくだこの野郎。おい匙、黒魔術の触媒に使うからちょっと献血してくれや」

 

 嫉妬の炎を燃え上がらせる二人に、気持ち温度低めの声がとんでくる。

 

「味方に呪いをかけないでください、麻宮君。匙も、きちんと仕事をしてください」

 

「我が生徒会唯一の男でなのですから、ちゃんと働いてくださいな」

 

 生徒会長と副会長による鶴の一声に、鶴木は速攻で敬礼した。

 

「お、男同士の馬鹿話であります! 適度にスルーしていただきたい所存です!!」

 

「そして俺はすぐに動きます! あ、じゃ、俺はこの辺で!!」

 

 そして、匙もすぐに走り出し、イッセーはぽつっとつぶやいた。

 

「……鶴木。匙って会長とできちゃった婚目指してるらしいんだけど、あの様子じゃ当分無理だよな」

 

「そりゃ無理だろ。アイネスさんの本家筋だぞ? 結婚するまで避妊ぐらいはきちんとするだろ」

 

 そんな感想を言い合っていると、ドライグがふと口を開いた。

 

『どうやら、ヴリトラの魂が俺の血を吸ったことで濃くなったようだな』

 

「ん? どういうこと?」

 

 イッセーはよくわからず首をかしげるが、鶴木は魔術師的知識から反応する。

 

「……化学反応で妙な進化遂げるとか?」

 

『まあ、魂の一部だけで復活することはないだろうからそのあたりだろう。だが、ファーブニルとヴリトラの残滓が近くにいて、タンニーンの指導を受けた歴代なんて今までに無いからな。相棒は龍王に縁があるということだろう』

 

 ドライグがそう推測するが、イッセーとしては正直興味がわかない。

 

 タンニーンは素直にドラゴンとして尊敬するが、しかし雄度ではなく雌度が高くなってほしい。

 

 なので、しいて言うとするならば―

 

「出来れば、女の龍王とお近づきになりたいんだけど」

 

『スマン相棒。マジ勘弁してくれ』

 

 なぜかいきなりドライグが否定要素を入れてきた。

 

「……何かしたのか? 痴漢とか浮気とかなら、マジで謝った方がいいと思うぜ?」

 

『いや、そういうわけじゃないんだが……。ちょっと封印前にいろいろやってしまって、しかも封印されてるせいでどうしようもなくてなぁ』

 

 鶴木の野暮な推測を否定しながらも、何かやらかしたことをドライグは否定しない。

 

 それについてイッセーは何をしたんだろうとか思いながらも、しかし空を見上げる。

 

 ……短期間にヴァーリチームと二度も揉めたが、どうやら少しぐらいは平和に生きれるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最も、すぐに不穏な空気がやってくることになるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそれは、少ししてからのオカルト研究部の会議という形で具現化する。

 

「ほな部長。今日のオカ研は悪魔活動ってな感じなんかいな?」

 

 リスンがそう尋ねると、リアスは溜息を吐きたくなる表情で告げる。

 

「ええ、若手悪魔のレーティングゲームの第二ラウンドについてよ。……第一弾はまた私たちグレモリー眷属で、相手はディオドラ・アスタロトなのよ」

 

 心底うんざりした表情で告げたリアスに、他のグレモリー眷属も、程度はともかく大半が微妙な表情を浮かべる。

 

 帰ってきた直後にアーシアに求婚し、金にものを言わせたプレゼント作戦をぶちかましてきた男のことである。思うところはあるだろう。

 

 なにせアーシアはイッセーにぞっこんだ。イッセー本人こそ気づいていないが、そこに関しては短い付き合いでイルマ達グラシャラボラス眷属すらわかっている。つまり完全な横恋慕だ。

 

 なので、下宿している関係上プレゼント攻撃を知っているイルマ達もその気持ちを遅ればせながら理解した。

 

「数もそうだけど全部厳選してるってのがあれだよねぇ。アクセサリーもただ高いんじゃなくて、年頃の女子人気を考慮してるところは、できるやつだとイルマさん思ったりしてます」

 

 と、告げるイルマに小猫も同意の頷きを示した。

 

「……ただ有名ブランドというわけでなく、信徒のアーシア先輩の性格を読んで、派手さのないものにしています。相当センスがあるかと」

 

「そうですわね。このネックレス、知る人ぞ知る一品の筈ですわ」

 

 カタナまでそんなことを言っているため、イッセーがやきもきしているがこれに関しては問題外だ。

 

 むしろなぜ、お前はそこまでアーシアが揺らぐと思っているんだ。皆の心がだいたい一つになった。

 

 あと女性陣は女性陣で、アーシアが迷惑していることを一瞬置いておきたくなるほどアクセサリー談義に花を添えたくなった。ディオドラのその手の審美眼は、一応評価するべきかもしれない。

 

 そしてそれを面白そうに見ていたアザゼルが、しかし話が進まないと判断したのか指を鳴らして注目を集めさせる。

 

 そして、一枚の記憶メディアを取り出した。

 

「で、これはその若手レーティングゲームのそれぞれの第一試合を映した映像だ。ま、イルマ達はブルノウの伝手でリアスとソーナのレーティングゲームは見てるから飛ばすぞ」

 

 今回の目的はこの確認である。

 

 敵を知り、己を知ればなんとやら。相手の情報を調べ上げて、攻略法や対抗策を考えるのは近代戦の根幹といってもいい。

 

 そしてレーティングゲームは基本的にエンターテイメントとして発達しているので、映像を入手するのも容易だ。それを逃す手はない。

 

 レーティングゲームのトップランカーも、たいていは対戦相手の試合の一つや二つは確認してプランを練るものだ。何もしない方が馬鹿といってもいい。

 

 ブルノウがレーティングゲームを情報戦の面で危険視するのも、一理あるといってもいいだろう。

 

「で、試合に関してだが予定調和が二つとイレギュラーが二つ。イレギュラーの片方は、もちろんシトリー眷属の大奮戦だ」

 

 そう告げるアザゼルの言葉に反論するものは、誰一人としていなかった。

 

 あれは判定上はリアスの辛勝だが、事実上ソーナの大勝利といっても過言ではない。

 

 あの戦いでの成果は、ソーナの夢の第一歩となる。そんなことは誰もが承知していた。

 

 そして、そんな結果の一つは、グレモリー眷属のトレーニングプランと試合の特殊ルールがかみ合わなかったことでもある。そういう意味では、ソーナたちは幸運にも恵まれていた。

 

「ま、そこに関しちゃ悪かったな。ただ、将来性を考えればあれが一番才能を伸ばせると判断してのことだから、そこはわかってくれ」

 

「わかってるわよ。次の試合で勝てるようにコーチしてくれれば文句はないわ」

 

 気まずそうにするアザゼルに、リアスはそう告げてほほ笑んだ。

 

 しかし、すぐに警戒の表情を浮かべると記録メディアに目を向ける。

 

「……そしてもう一つがアスタロトとアガレスの試合。ディオドラの逆転勝利だったわね」

 

 そのことばに、警戒心を浮かべるのは全員だった。

 

 次のレーティングゲームでぶつかるリアス達だけではない。どうせいずれぶつかるイルマ達からしても、この圧勝は警戒必須だ。

 

 若手次期当主六名と、分家有望格二名。その眷属の上位バランスは、事前情報や戦闘経験からある程度は分かっている。

 

 上から順に告げればこうだ。トルメー、サイラオーグ、スメイガ、シーグヴァイラ、リアス、イルマ、ディオドラ、ソーナの順番になる。

 

 これに関しては上層部だけが把握している情報などもあるうえ、それぞれひと月でのトレーニングの成果や、後援者や自分たち自身での情報操作などもあるだろうから、あくまで目安だ。

 

 実際、ヴァーリチームと大立ち回りを演じたイルマ達は相当ごまかしているのは確実だ。この調子ではスメイガの隠し玉も一つや二つでは済まないはずだろう。

 

 だが、リアスとソーナの順位はお互いが一番よく知っている。トルメーが最上位なのはむしろ当然といったレベルだ。というよりレーティングゲーム最強のディハウザー・ベリアルを下したチームが下馬評一位でなければ逆におかしい。

 

 そしてそれぞれイルマ眷属を挟んで二チーム分は慣れているディオドラとソーナが大番狂わせを行った。

 

 ソーナはあくまで試合に負けて勝負に勝った形だが、ディオドラは逆転勝利を遂げることに成功したらしい。ソーナが金星ならディオドラは大金星だ。

 

 それも、話によると最初は追い詰められていたがディオドラの孤軍奮闘による逆転勝利らしい。ある意味見ごたえがありそうなのが微妙にむかついている面子が数名いるのはご愛敬だろう。

 

 逆に、予定調和で終わった試合。その一つはトルメーVSサイラオーグの二強決戦。そしてスメイガVSイルマの血統尊重主義派にして親族同士の対決だ。

 

 これに関しては、下馬評などから予定調和といってもいいのだが………。

 

「じゃ、とりあえずイルマの試合をまず見るか」

 

「すいません先生。アンタ鬼?」

 

 イルマがそんなことを言うが、しかし映像が映し出される。

 

 そして、映像に映ったスメイガが、真っ先に発言した。

 

『イルマ。わかっているとは思うがあえて卑劣なことを告げる』

 

『うん。わかってるじゃん』

 

 兄妹同然に育った二人の魔術師(メイガス)は、政治派閥が近いうえに前世もあるので精神年齢も高い。そして、ブルノウの判断や価値観も理解し、目の前の試合よりその先を見据えていた。

 

『ここで私たち血統尊重主義派同士が全力を出して、手の内をすぐにぶつかるだろう魔王派の若手に見せつけるのは迂闊だ』

 

『だけど、生ぬるい試合をするなんて貴族として失格。それこそ血統尊重主義派としてあり得ない』

 

 そう、この二人は誇り高く、しかし慎重に動かなければならない。

 

 リベラル筆頭の魔王派の血族が四名。中間管理職のアガレス。そして、大王派本家の跡取りだが、「実力さえ示せば血統に関係なく誰もがふさわしい職業につける」という、尊重主義派以上に魔王派よりの世界を夢とするサイラオーグも、内情は魔王派だろう。

 

 つまり、これから政敵との試合もしなければならないのに、同じ派閥同士で試合をするのだ。

 

 これで迂闊に全力決戦をするのは愚策。味方同士で足を引っ張りあい、敵に攻略法を教えるようなものだ。

 

 だが、貴族としての責務を果たさんとすることをモットーとする尊重主義派として、接待試合はできる限り避けたい事態だ。心情的に不満があっても、諸事情あって必要な時もあるかもしれない。しかし今回はそんなことをする相手でもないのだから、将来においてデメリットしかない。

 

 故に、二人は眷属を置いて前に出る。

 

『……そういうと思ったから、このレ―ティンゲームをこういうルールにしておいた』

 

 そう告げるのは、この試合の判定役を務めるアジュカ・ベルゼブブ。

 

 四大魔王の1人にして、ディオドラの親族であるアスタロトの悪魔。サーゼクスに並ぶ超越者と呼ばれる最強の悪魔。そして悪魔が誇る最高の技術者でもある。

 

 その彼が、すぐ近くに置いた箱に手を突っ込んだ。

 

『この箱にはいくつもの試合形式が書かれており、君たちは俺が引いた紙に書かれた試合をしてもらう』

 

『『はい! 全力で挑ませていただきます!!』』

 

 そう、これは決闘。

 

 数多くの上役たちが指定したルールで、選抜された代表が勝負する特殊ルール。

 

 その特殊ルールでいきなり(キング)同士で激突する。

 

 この王同士の全力勝負により、可能な限り次の試合まで情報を隠しながら、しかしいい加減な試合を一切しないという選択肢を二人は取った。

 

 それを眷属たちがかたずをのんで見守る中、アジュカは一枚の紙を取り出して―

 

『………ブルノウの提案だね。「叩いて被ってじゃんけんポン」だ』

 

 ―空気が、凍った。

 

『因みに追伸だ。「反則一歩手前の情報隠匿を行うんだから、貴族的に恥ぐらいかいてバランスを取りなさい。二人とも日本には縁があるから、ルールは知ってるし問題ないだろう?」だそうだ』

 

『『反論できない!?』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして三本先取の大激戦。一本取るまでに十分かかる熾烈な激戦の結果、イルマは一勝三敗で負けたことを伝えておく。

 

 ちなみに、周囲のメンバーは兵士たちが応援合戦でチア部もかくやの動きを見せたらしいが、完全に余談である。

 




A:「大将同士の全力短期決戦を速攻で開始して、眷属の手の内を隠す」

 いや、まじめな話、トルメー眷属の実力をもう少し広める必要もあり、彼の相手はサイラオーグにすることにしました。そしてシーグヴァイラは眷属がほとんど判明してないので、どれぐらいの戦闘をさせればいいのかがまず苦労します。

 必然的にイルマとスメイガをぶつけるしかないのですが、今後のレーティングゲームを考慮すれば、政治的に敵対しているほかの眷属に手の内をさらす行為を、同じ政治派閥でするのに躊躇しました。

 しかし血統尊重主義派の在り方としては、摂待試合は苦渋の決断として差から得ない相手にする以外にはしたくない。なので頭捻った結果、「大将同士の一騎打ち」で自分達の手の内だけさらすという苦肉の策を敢行。

 ……そしてそれを読んでいた連中によって嫌がらせじみた勝負無いようになりましたwww ブルノウも「ま、やり口が汚いからこれぐらい恥ずかしい思いはしておきなさい」と茶目っ気入れた試合内容を書きました。


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6 最強のグレモリーと、性悪のアスタロト

さて、次は本作超強敵担当、トルメー・グレモリーの眷属たちの大暴れです。

なまじ若手最強なだけにカマセに最適なサイラオーグ。いや、マジでゴメン。君大活躍するけど同じぐらい強敵に痛い目に合うポジションが似合うから、どうしてもつい……ね?


 

「……改めてみると恥ずかしいじゃん」

 

 そう顔を伏せるイルマに、眷属達はあえて何も言わなかった。

 

 そしてあえてイルマをスルーして、次の試合の映像が映し出される。

 

 最初の試合が馬鹿らしい事もあって、鶴木達はまともな試合が見たいと期待し、高揚感すら覚える。

 

 そして始まるのは、トルメー・グレモリーとサイラオーグ・バアルの試合。

 

 グレモリーの若手で文句なしに最強と呼ばれる、レーティングゲームトップランカーのディハウザー・ベリアルすら倒したトルメー・グレモリー。

 

 若手次期当主においては最強。バアルの特性どころか魔力すら持たない身でありながら、次期当主の座をもぎ取ったサイラオーグ・バアル。

 

 その試合は、圧倒的だった。

 

「……これが、トルメーの眷属達………」

 

 リアスもそれだけしか言う事ができない。

 

 サイラオーグの眷属達は、皆が凄まじい戦士達だった。

 

 上級悪魔の血族で構成されたその眷属達は、練度においてリアス達グレモリー眷属を上回っているのがよく分かる。

 

 中には人間と交わって神器(セイクリッド・ギア)を得た者までいる。リスンのように絶えたと思われた家系の生き残りもいる。番外の悪魔(エキストラ・デーモン)から参加した者もいる。

 

 彼ら全員が上級悪魔に相応しい、優れた力を持つ眷属達だ。

 

 全員が優れた才能を持ち、そして厳しい鍛錬でそれを磨き上げている。将来の大成を確信させる存在だ。

 

 ………その彼らが、相手にもなっていない。

 

 トルメーの眷属達は、一人一人が間違いなく最上級悪魔クラスの戦闘能力を発揮していた。

 

 試合形式はライトニング・ファスト。一時間という短時間で決着をつける短期決戦形式のレーティングゲームだ。奇しくも、ディハウザーを下した試合と同じ形式だった。

 

 そして、僅か十分でサイラオーグの眷属達は全滅した。

 

 そのうえで、サイラオーグは瞑目しながらも、しかし降参しなかった。

 

『見事だ、トルメー・グレモリー殿。これだけの逸材をよく集めた』

 

『まあね。私自身はそこまで優秀ではないけど、王の役目は優秀な者達を見つけ出し、彼らを生かす事だからさ』

 

 そう告げるトルメーに、サイラオーグは苦笑する。

 

 サイラオーグはむしろ、自らが最強の戦士として前に立ち、そして引っ張っていくタイプだ。

 

 どちらが優れているという話ではない。それは、きっと情勢によって変わるだろう。

 

 だが、間違いなく、この戦いの勝利はトルメーの物だった。

 

『……アルケイディア。確か、君は彼に興味があったね』

 

『ああマスター。獅子を司るヴァプラの家系の血を継いだ、拳一つで次期大王の座を掴んだ者だからな。興味があった』

 

 トルメーの言葉に、彼の女王がそう告げる。

 

 彼の名はアルケイディア。筋骨隆々という言葉をサイラオーグ以上に体現する、大男。

 

 そんな彼に、トルメーは一歩引きながら命令を下す。

 

『なら、一対一の機会を上げるよ。……勝って見せてくれ』

 

『……承知』

 

 ……そして、五分で決着はついた。

 

 サイラオーグの戦闘能力は、間違いなくバアル眷属で最強だった。

 

 拳の余波だけでフィールドの障害物が粉砕され、直撃した時は跡形も残らない。

 

「これほどの物なのか、次期大王、サイラオーグ・バアル」

 

 祐斗が目を見張る者だ。なにせこの場でも最高クラスの動体視力を持つ彼の視界に移らないレベルなのだ。戦慄する他ない。

 

 だが、アルケイディアはその遥か上を行った。

 

 彼はサイラオーグと全く同じ戦闘スタイルをとっていた。

 

 生身で、体術だけで、拳によってサイラオーグとぶつかり合う。

 

 そして、あらゆる全てにおいてサイラオーグを凌駕し、圧倒し、五分で叩き潰した。

 

「……あのサイラオーグが、まるで子供のように倒されるなんて―」

 

 寒気すら感じているリアス達に、アザゼルは更に残酷な事実を告げる。

 

「しかもあいつら、本気を出しちゃいない」

 

「……マジですか!?」

 

 イッセーが驚くのも無理はない。

 

 若手悪魔どころか、魔王クラスすら倒す者達だから圧倒的に強いと驚いていたのに、本気を出していないというのだから。

 

 そして、イッセーはどこか不満すら感じている。

 

「でも、一生懸命全力で挑んできたサイラオーグさんに手抜きで挑むなんて―」

 

「いや、それもちょっと違うだろうな」

 

 鶴木はそれを否定する。

 

 彼は、彼だけはアザゼルの言わんとする事が分かっていた。

 

 彼の中の力が。彼の転生に変異の駒を必要とする要素が、それを理解させる。

 

「本気を出すまでも無いから舐めプしたんじゃない。本気を見せるわけにはいかなかったから自分を全力で律して戦ってたんだ、あれは」

 

「ああ、鶴木の言うとおりだ」

 

 アザゼルも頷いた。

 

「ディハウザーとのレーティングゲームの映像も入手したが、あいつらは開幕速攻で特攻同然の突撃をかけて、ディハウザー達がそれに面食らった僅かな隙をつき、一気に押し切った」

 

 そう告げるアザゼルは、はっきりと言い切った。

 

「もしそうじゃなかったら、ディハウザーもまだ善戦できただろうな。いや、タクティクスや戦術がものを言うルールなら、ディハウザーは善戦どころか勝ち目も十分にあった」

 

 アザゼルは確信すら満ちた声で断言する。

 

 トルメーの眷属は、間違いなく傑物揃いだ。

 

 生まれた時代が違えば、間違いなく英雄と呼ばれていたであろう圧倒的な力。それゆえに戦闘能力は強大だ。

 

 だが、長命ゆえの経験を積んでいるディハウザークラスなら受け流し方を心得ている。

 

「トルメーがディハウザーを圧倒できたのは、ディハウザーの中にあった一瞬の油断を付いて「本気を出させる前に一瞬で潰しに行った」からだ。でなけりゃ勝てない……もしくは隠しているものを晒す事になると思ったんだろう」

 

 そして、アザゼルははっきりと告げる。

 

「サイラオーグとの戦いでもそうだ。あいつらは隠している物を開放する機を窺っている。だからこそ、あいつらは本気を出さない事に全力を出した戦いをしてたんだ」

 

 その言葉の意味を理解しかねていたリアス達の中で、首を傾げながらリスンが手を上げる。

 

「つまりあれですか? 適当ぶっパで勝てるから本気出さないでいい加減にやってるなめプやなくて、絶対に使わない手段を決めてそれを使わずに勝つ事に全力を出す縛りプレイをやっとったと」

 

「良い例えだな。少なくとも、俺はそうなんじゃないかって思っている」

 

 アザゼルの発言がそうだとするならば、確かに手抜きという言い方は違うだろう。

 

 だが、態々そんな事をする必要性が分からない。

 

 ……どこか薄ら寒いものを感じて、誰もが警戒する。

 

 今後のレーティングゲームで競い合うとするならば、間違いなく同期で最強最悪の敵となるだろう、トルメー・グレモリー。

 

 彼が、文字通り最強の難敵だろうディハウザー・ベリアルにすら開帳をためらう伏札を持つ眷属たち。

 

 一体、それは何なのか、そう思った時だった。

 

 突如、魔法陣が展開される。

 

 その魔方陣は七十二柱の家系の一つが使用する、転移魔方陣の文様だった。

 

 そして、その紋章を司る家系は、アスタロト。

 

 誰もが一人の少年の顔を思い出した時、魔法陣から一人の少年が具現化する。

 

「ごきげんよう、リアス・グレモリー。アーシアに会いに、そしてトレードの相談に来ました」

 

 ディオドラ・アスタロト。アーシアにプロポーズした、アスタロト家の次期当主が姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうやらディオドラはアスタロトとグレモリー的な大事な話があるみたいなので、イルマ達は席を外していた。

 

 そして缶ジュースでも買ってだべろうとした時だった。

 

『……イルマ』

 

 アイネスが、即座に通信を繋げてくる。

 

 そして、イルマ達は一瞬で周囲に意識を向けて人がいない事を確認した。

 

「どしたの、アイネス」

 

 速やかに、そして手身近にイルマはアイネスに説明を促す。

 

 信頼する女王(クイーン)の声色に、イルマはすぐに状況が切迫している可能性を把握した。

 

 そして、アイネスもまたそれに戸惑う事なく話を進める。

 

『ボウゲツ達歩き巫女による途中報告だ。お前の先代は事故死じゃなくて暗殺の可能性が高い』

 

 その言葉に、全員が冷静に受け止める。

 

 イルマが代理で努める事になった、グラシャラボラス家次期当主。

 

 急逝した本来の当主の死について追跡調査をキチンとブルノウ達はしていた。万が一ゼファードル絡みで何かしらあった場合、イルマの身に危険が迫る事も十分考えられる。ましてや、三大勢力の和平と禍の団の宣戦布告の二つの運命の大きな編転機に起きた事だ。調べる程度の事はして当然だろう。

 

 そしてそれは見事に正解だった。

 

「下手人は誰や? これで内輪もめの政争っちゅうオチは勘弁してほしいで、アイネスさん」

 

「和平で魔王派に調子に乗られる前に大王派の主流派が何かした……とか、絶対に私達も余波を受けますものねぇ」

 

 嫌そうな顔をするリスンとカタナだが、アイネスの声色は更にこわばる。

 

『別の意味で最悪かもしれん。下手人かどうかはともかく、暗殺の要素となる要所要所でアスタロト家本家の関係者が確認された』

 

「……寄りにもよってこのタイミングかよ」

 

 鶴木がぼやくのも当然だ

 

 ディオドラとリアスのレーティングゲームの直前というこのタイミングで、ディオドラの実家の者がグラシャラボラス家の次期当主の暗殺に関わっている可能性が出てきた。

 

 大王派と魔王派の政争というのも最悪だ。だが、魔王派同士の争いで次期当主が暗殺されたなど、ある意味もっと最悪かもしれない。

 

 大王派と魔王派は基本的にいがみ合っているから、ある意味納得だ。だが、基本仲が良い事で知られている四大魔王同士で争いが起きかねないこの状況下は、更にまずいかもしれない。

 

 むろん、大王派も魔王派もそれぞれ内部で更に分化され、時としていがみ合ったり揉めたりすることはある。魔王派も四大魔王それぞれのシンパが揉めたりする事はある。大王派に至っては、現バアルと自分達は政敵一歩手前の関係だ。

 

 しかし、魔王の血族でもある次期当主が、別の魔王の血族によって暗殺されたなど、魔王派同士で全面戦争が起きてもおかしくない。更に大王派の中から馬鹿が出て、鬼の首を取ったといわんばかりに大騒ぎを引き起こす可能性は絶大だ。

 

 この運命が大きく変わる情勢下で、和平を結んだ三大勢力の一角が内戦を引き起こす。状況が悪い意味で激変すること請け合いだろう。

 

 いつかありうる可能性はある。だが、それは今では駄目なのだ。

 

「歩き巫女の指揮は伯父様かスメイガ?」

 

『いや、ボウゲツが直接動いた。どうも近辺で高位の神器使いと思われる一団が確認されてな。此方も本腰を入れないと死人がでかねない』

 

「分かった。……ちょっとディオドラに探りを入れてみるよ。今リアス部長のところに来てるんだよねぇ」

 

『……万が一もある。アガレスとのレーティングゲームで奴は妙な事になっているから、気を付けろよ?』

 

「うん。こっちも()()を使うつもりでやらせてもらうよ」

 

 そう告げて通信を切ると、イルマは眷属を見渡す。

 

 全員が、臨戦態勢だった。

 

「じゃ、行こうか」

 

 そして四人はディオドラに探りを入れるべく、そして万が一の可能性を考慮して命がけの戦いの覚悟も決めて部室へと戻り―

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、ディオドラが帰った後のオカルト研究部では―

 

 

「朱乃! 聖別した塩を撒きなさい!」

 

「朱乃副部長、塩の聖別はしておいた。デュランダルの力を使った特別性だ」

 

「朱乃さん! ついでに赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)で譲渡しておきました!」

 

「あらあら。では忌々しいけれど姫島に由来する力を使って魔よけの力で撒くとしますわ」

 

 ―ディオドラがあらゆる意味でヘイトを稼いだおかげで、伝説の聖剣と伝説の天龍の力によって強化された塩を、日本の神道を代表する一族が清めの塩として撒こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉を開けた瞬間、下手な下級悪魔が一瞬で蒸発しかねない特別製の塩を叩き付けられるまで後一分。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ブルノウ、こっちのスパイ・暗殺を担当してるチームが、お前の息子の眷属とかち合ったんだが、心当たりあるか?」

 

『……アザゼル総督。一応聞きますがそのスパイ、魔王様か初代殿の許可を取って行動してたんでしょうね?』

 

「当たり前だろ。動いているのが旧魔王派じゃなくて英雄派なら、神滅具(ロンギヌス)を相手にするかもしれないからな。こっちもその道に長けた神滅具使いを用意するぐらいしねえといけねえだろ? っていうか私設諜報工作部隊まで持ってるとか、お前はクーデターでもする気かよ」

 

『悪魔同士での草同士でかち合う時は気を付けてますよ。裏には裏のルールというものがある事ぐらいは弁えているのでね。……まあ、そのルールの抜け穴を探し合うのが前提だとは思っていますが』

 

「……なまじ優秀かつ立派な奴だけに、お前が一番大王派で厄介だよ。当座の目的は大王派の清浄化か?」

 

『リベラルすぎる魔王派の権威削減も隙あらば狙いますよ。足の引っ張り合いはしないのでご安心ください。暴君と化したり瓦解する時の備えはきちんとしてますが、それぐらいはどこもしているでしょう?』

 

「……まあ、サーゼクスも大王派よりの役職持ちを失脚させるチャンスは狙ってるし、その時の代役は数十年も前から用意してるからお互い様か。……で、今の目的は?」

 

『ゼファードルのような愚者が頭になりかねないグラシャラボラスの精査をしてたんですよ。送り込んでおいていう事でもないでしょうが、姪が二の舞になるのは嫌ですからね。あの子には、自分のことを好きになれる第二の生を送ってほしいですから』

 

「難題押し付ける割に伯父馬鹿なことで。独り身に対する嫌味か」

 

『貴方はもう少し自分を見直せば結婚できるでしょう? ……それはともかく、本来の次期当主の死亡、アジュカ・ベルゼブブはどれぐらい関わってるんですか?』

 

「0パーセントだと断言できる。アスタロト家の連中も、動いてるのはごく一部だろう」

 

『そのごく一部の連中が本家関係なのが最悪ですがね。流石にアジュカ様の魔王退陣はこちらも困るのですが』

 

「まあ、その辺はもう少し精査だろ。ヴァーリの奴がイッセーに塩を送ったらしいし」

 

『味方の勝利より好敵手の生存ですか。総督、色々と育て方を間違えてませんか?』

 

「言うな、自覚はしてる。……だが育児放棄(ネグレクト)受けた家出少年が人生初の子育ての相手とか、無理難題にもほどがあったんだ」

 

『まあ、方向性は違えど気持ちは分かります。私の場合は息子も姪も育てられ経験があったので、そういう意味ではあまり手がかかりませんでした。ある意味では人のことは偉そうに言えなかったですね、失礼しました』

 

「お互いイレギュラーすぎる子育て経験だな。……まあいい。とりあえずアスタロト家の膿の本命だが、ヴァーリの言った内容から見てディオドラの確率が大きい」

 

『了解しました。では、此方はディオドラがどこまで家の者をそそのかしているか調べさせます。ボウゲツには、その時に()をワザと落として気を引くように告げますので、総督殿はディオドラを唆した馬鹿の方を頼んでも?』

 

「危険な仕事を引き受ける風に見せかけて、蛇どころかミドガルズオルムが出てきそうな藪つつかせるなよ。てか、お前はもう少し工作員に気を使ってやれ」

 

『こういう時に死を悼みながらも割り切る事ができねば、指導者は務まりませんよ。……それに』

 

「それに?」

 

『一手先すら読む事もできない愚者相手なら、埃に気づかせる事で逆に行動を誘導できるのがボウゲツです。奴なら自分の部下の存在に勘付かせずに埃を残せますし、その上で逃げ切れますよ』

 

「…………なあ、ボウゲツって確かお前の息子の眷属だよな? 若手の眷属悪魔にどこまで信頼置いているんだ?」

 

『彼女が駒価値二つな理由と、その来歴を知っているなら当然の信頼です。何故なら―』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『託された命を必ず果たして生還する。それこそが真の歩き巫女というものですから』 

 




私設諜報工作部隊、歩き巫女。神滅具持ちに出会って心臓が止まりかけるの巻き。








因みに、次はちょっとアイネスを中心とした話が連続で起きます。

アイネスがらみでイルマとアイネスの前世についてのある程度の情報を明かしたり、アイネスがらみの情報が出てきたりします。これからちょっと外に気分転換に出て、その上で帰ってきてからディオドラが動き出す感じですね


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7 ビッチなイルマお姉さんの、ドキドキ神霊髄液講座。―だれか、イルマさんに仕事をください(涙

……設定の仕立て直しに機能帰ってからの時間を全部使ってしまった


 

 ディオドラ・アスタロト。

 

 アスタロト家の次期当主。そしてシーグヴァイラ・アガレスを下すほどの戦闘能力を個人で持つ、実力者。

 

 彼は駒王町に移動する手はずを整えていた事が判明しており、何かしら接触する事は想定されていた。

 

 この件において、ブルノウは一つ予想をしていた。

 

 それは、ディオドラ・アスタロトが駒王学園に転入する可能性だ。

 

 グラシャラボラス家次期当主代理のイルマも転校する事は確定していた。その矢先にこれだ。

 

 おそらくブルノウが想定する最高の結果は、これいよって現魔王輩出家系の連携をとることだろう。

 

 政治派閥的にはイルマは敵だが、私人として気の良い付き合いをするなとは言われていない。その辺りをしっかり分ける事ができるのなら問題ない。

 

 また、現四大魔王が全員フリーダムな性格をしている影響で、その家族には真面目な者が多い。

 

 イルマは現アスモデウスであるグラシャラボラス本家のファルビウム・アスモデウスの直系の家族ではないのでビッチだが、それでも善良だ。

 

 だから、四人とその眷属が仲良くする事が理想だったろう。

 

 しかし、彼は決して完全無欠の存在ではない。想定が外れる事などいくつもある。

 

 いずれ彼の跡を継ぐスメイガの直轄部隊となっている、諜報工作部隊「歩き巫女」によって、アスタロトの本家が、本来のグラシャラボラス家次期当主に何かした可能性が出てきた。

 

 そしてそれに探りを入れようとしたイルマ達だが、しかし既にディオドラは帰ってしまった為それは失敗する。

 

 ……が、不安材料は更に増えた。

 

 ディオドラがリアスに持ち掛けたのは、自分の僧侶(ビショップ)のどちらかとアーシアとのトレードだ。

 

 トレードそのものは珍しい事でも何でもない。最近フェニックス家の才児ライザーが、頼み込んで僧侶にした妹のレイヴェルを母親の未使用の駒とトレードした。そも、上級悪魔で眷属を強化するといえば、権力や財力を利用してのトレードによる人材交換が主流だ。

 

 だが、懸想している相手をトレードで手に入れようとするその行動に、リアス達は嫌悪感すら示した。

 

 そもそもアーシアはディオドラの告白に了承していない。了承する事があり得ない事を差し引いても、ディオドラの行動は少々強引だろう。

 

 しかし、ディオドラはこの火種に油を注ぎ込んだ。

 

 次のレーティングゲームで自分とリアスが戦うのを良い事に、どちらが勝つかという賭けの商品としてアーシアを指定したのだ。

 

 ……何事にも例外はある。真面目な弟妹ばかりではないという事か。

 

 その場で殺し合いが勃発してもおかしくなかった。実際、イッセーはディオドラに掴みかかった。

 

 そしてここで、ディオドラはにこやかな笑顔のまま「下賤な下級悪魔に触れられたくない」と毒を吐く。

 

 まあ、由緒正しい上級悪魔ならそういうセリフを吐く事は想定内だが、色んな意味でタイミングが悪い。実際、アーシアは珍しく怒りを露わにしてディオドラを叩いたという。

 

 それにも関わらずディオドラはアーシアに愛の言葉を吐き、そしてイッセーを倒すと告げて変えていった。

 

「ディオドラ、許すまじ……」

 

 書類を確認してサインを書きながら、イルマは心底から怒りの表情を浮かべる。

 

 書類仕事の為、リアス達がボードゲームから誘いを受けたが断って仕事をしていた。鶴木達には参加を許可しているので、今頃楽しんでいるだろう。

 

 そしてそれはともかくだ。今回は非常にグレモリー眷属のストレスを高める結果になった。

 

 結果として、日本でも有数の神道の名門の娘と世界でも有数の伝説の聖剣の力と龍種でも有数の偉大なる二天龍の特性が融合した、世界でもトップクラスの清めの塩が撒かれる事になる。

 

 ……ディオドラに詰問するべくドアを開けたイルマ達に、それが襲い掛かったのだ。

 

 真剣に死ぬかと思った。断末魔を上げて、即座にアーシアの治癒の力と自分達の治癒魔術を使用する羽目になった。ディオドラに対する敵愾心が、凄い勢いで上昇したのは言うまでもない。

 

 むろんその旨はブルノウにも連絡している。

 

 だが、ブルノウからはこう指示が来た。

 

―追加指示がくるまで、ディオドラを刺激する事は禁止。事情は追って連絡する。

 

 どうやら、ブルノウの方でも何か動きを察知したらしい。

 

 歩き巫女達は、部隊長であるボウゲツの主であるスメイガがリーダーだ。そしてこれは将来的にブルノウの跡をスメイガが継ぐからである。ゆえに、ある程度の命令権をスメイガも持っている。

 

 その過程で、何か動きがあったらしい。

 

 まあ、派閥が違う為若干動きが遅くなる事もあるブルノウ達でも警戒したくなる事態なのだ。魔王派や彼らと親密な者達が優秀な諜報部隊を保有しているのなら、同じように情報を掴んでも不思議ではない。

 

 そう思いながら書類仕事をしていると、ドアがノックされた。

 

「はーい! どうぞー」

 

「悪いわね。ちょっといいかしら」

 

 と、そこで何故かエロい妄想を掻き立てるコスプレをしたリアスが入ってきた。

 

 イルマは女子もいける口だが、しかしイッセーにぞっこんなリアスが誘惑するわけがないので、即座にスルーする。

 

 おそらく、イッセーに誘惑合戦でもしていたらヒートアップして鶴木の目を気にしなくなったのだろう。

 

 高ぶって我慢できなくなった鶴木がカタナにモーションをかけないかが心配だ。仕事は明日に回して今からゲームに混ざろう。

 

 リスンならまだいい。いや、個人的にちょっと複雑だが、リスンなら問題はないのだ。リスンの貞操観念が比較的高い方なので、そうなる可能性は若干低いのだが。

 

 しかしカタナは自分に匹敵するビッチだ。その理由を本人以上に理解している身としては、そしてその元凶である自分がとやかく言う気はないが、彼女が鶴木とそういう事をするのは止めたい。

 

 問題はないのだが、問題だらけなのだ。やるとするのならイルマ自身が二人を丸ごと食べる方向性なのだが、いろいろあってちょっと覚悟か決まらない。

 

 アイネスからは「いっそのこと、オリュンポスと同盟を結ぶという事で精神的言い訳をしたらどうだ? ほら、日本神話も和平に積極的だし」と言ってくれているが、その為には時間がある。

 

 精神の均衡を保てないので、後で鶴木を強襲して失神させる事にしよう。

 

 そう結論して、イルマはとりあえず言う事を言っておく。

 

「……普通に告白した方が手っ取り早くない?」

 

「何言ってるのよ。こういうのは告白されるからいいんじゃない」

 

 なるほど、乙女心は複雑怪奇という奴らしい。

 

 まあ、年頃の少女なら当然持っている感情だろう。そして、そういう事を大事にできる世界の方がいいのも知っている。

 

 だが、質の悪い悪意はこういう相手に牙を向く事が多いのが難点だ。

 

「……命がけの実戦するかもしれないんだから、告白する前に死んだり死なれたりするかもしれないじゃん? 縁起悪いこと言うけど、いつ死んでもいいように生きるって結構大事だとイルマさん思うな」

 

「……重いこと言うわね。前世の経験?」

 

 曖昧に笑って誤魔化しながら、イルマは書類を片付ける。

 

 まあ、どうせこの書類仕事は明日もやる予定なのだ。そして明日には余裕をもって終わる程度の量でしかない。

 

 で、ゲームに入る前にとりあえず入ってきた理由を聞くべきか。

 

「ゲームのお誘い第二弾? あ、ある程度できたから受けるけどね」

 

「それもあるけど、ちょっと急用が入ったの、その事について教えておかないとと思ってね」

 

 そういうと、リアスは戸惑った表情を浮かべる。

 

「……冥界でのテレビ番組に出演する事になっちゃったのよ」

 

 なるほど。十分にあり得る事だ。

 

 三大勢力の和平成立に一枚かんだ若手悪魔。

 

 最強の四大魔王であるサーゼクス・ルシファーの妹。

 

 そして、イベントとしてある程度は映像公開されている若手同士のレーティングゲーム。

 

 その全てにおいてちょっとしたゲストとして招く程度の価値がある。テレビ番組を作る側としても、リアスのような美少女が率いる美男美女の眷属をゲストにするのは価値があるだろう。

 

「OK! なら、留守はしっかり守っとくよ! どうせ明日は仕事の残りを片付けないといけないしねっと!」

 

 その返答に喜色を見せながら、リアスは何となく視線を書類の山に向ける。

 

 ……イルマは悪魔の契約活動を行っていない。

 

 駒王学園という表の活動場所を持っており、更に他にも二人の主と眷属悪魔の組み合わせがあるからだ。周辺の土地を細分化するにも限度がある。

 

 一応、悪魔の契約仕事としてはリアス・ソーナ両眷属で増援要請が出た時に出張る事になっている。しかしそんな保険程度で済ますわけにもいかない。

 

 なので、イルマは代わりとして「当主代理として当主の仕事を一部請け負う」ことが基本だ。

 

 学業は楽しんでいる。部活も充実している。そして時々性的にはしゃいでいる。

 

 だが、遊び惚けているだけでは断じてない。

 

 そんなイルマを、リアスは少し見直した。

 

「今週は大目ね。信頼されたという事かしら?」

 

 そう評価するリアスだが、しかしイルマは肩を落とした。

 

「……アイネスを説得しただけです。「馬鹿やった分のペナルティという事で! そう、仕事を増やすのがペナルティだから!」ってごり押しして本来の仕事量送ってもらいました」

 

 その言葉の意味を、リアスはすぐに理解した。

 

 つまり、普段はツヴェルフ・シトリーが仕事の殆どを代行しているのだ。

 

 そしてもう一つの真実も分かる。

 

 イルマは「説得」「ごり押し」「ペナルティという事で」と言っていた。その結果として、本来の仕事量を送ってもらっている。そしてゲームに誘われた時も、別段うんざりした様子はなかった。

 

 つまりツヴェルフ・シトリーによる当主代理としての仕事代行の更なる代行は、イルマにとって不本意なのだ。

 

「……主として強権でも振るったら?」

 

「無理無理。「指導者として適任なのは「有能な怠け者」。自分でないといけない事以外は、それ以上にできる者に命じられるのも立派な素質だ」と切り捨てられました」

 

 明らかに沈むイルマの反応からして、どうやら本当にツヴェルフの方が仕事ができるらしい。

 

 しかも言い分には一種の正当性がある。アザゼルも、若手悪魔のレーティングゲームでの(キング)の積極的戦闘参加に呆れていた。消極的だったソーナやトルメーの方を、王として評価していた節すらある。実際適材適所に人員を配置するのは当然だ。

 

 これで強権を揮えばむしろ無能扱いされかねない。主のハードワークを阻止する眷属の鏡とツヴェルフが褒められる可能性すらある。

 

「一応、「次期当主代理がする事に意義がある」タイプの仕事は送ってくれるんだけどねー」

 

「……裏を返せば、「やるのは別に誰でもいい」仕事は全部やってしまうってわけね」

 

 今回、体育祭で大暴れしようとした事によるペナルティという言い訳で、ツヴェルフは折れたという事だろう。

 

 たまにはやらせておかないと、むしろ反省しないでやらかすという脅しまでかけた可能性がある。

 

 そこまでしてまで仕事をやろうとするイルマを主としての意識が高いというべきか、むしろ「その手間が惜しい」と言わんばかりに粗方終わらせるツヴェルフの手際が恐ろしいというべきか。

 

「何をどうすればそこまで差が出るのかしら」

 

「相性のいい得物の差って事にしときたいけど、生憎地頭も場数も負けてるからねぇ」

 

 リアスに答えるイルマは、背中がすすけてそうだった。

 

「なにせ、神霊(ウォールメン・ハイドログラム・)髄液(アドバンスド)は魔術師としての才能が凄くないと使いこなせないから、更に差がねぇ」

 

「え? あれ、戦闘用じゃないの?」

 

 イルマの漏らした言葉に、リアスは首を傾げる。

 

 神霊髄液といえば、黒歌の毒霧を完全に防ぎ、同時進行で本体を見抜いて攻撃までしたあの液体金属だろう。

 

 それを使いこなせるのが何故デスクワークにまで使えるというのか。

 

 その疑問の意味を察して、イルマは指を立てて説明モードに入った。

 

「……ん~。ちょっと説明長くなっていいなら」

 

「気になってゲームを楽しめないから教えて頂戴」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イルマさんの、ビッチビチ魔術師教室~。

 

 アイネスの愛用装備、神霊髄液《ウォールメン・ハイドログラム・アドバンスド》は、ルビに拡張(アドバンスド)とついている通り、元ネタがありじゃん。

 

 その名を月霊髄液(ウォールメン・ハイドログラム)。ツヴェルフ・シトリーの前世、アイネス・エルメロイ・アーチホールのボス、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが作り上げた魔術礼装っていうマジックアイテムの中でも、戦闘魔術としては最高の代物。

 

 これは、めっちゃ雑にまとめると形状記憶水銀。もの凄い量の行動パターンを記憶させて、必要に応じて魔術的にかけた高圧でその形状を千差万別に変化、攻撃・防御・索敵の全てを自由自在にこなせる万能武装。完全に趣味で作られた癖に、彼が持っていた装備の中じゃ最強。

 

 攻撃に使えば高圧水銀カッターで、分厚いチタンも細切れに! 防御に使えば全方位バリアで、しかも自動防御の反応速度は文字通り「マシンガン? 撃たれてから完全防御余裕でした」! 探索においても、1mm程度の隙間すら簡単に入り込む音波探知&熱源探知装置で敵を探し出す! 文字通りなんでもありな万能兵器!

 

 ……だがしかし、とある事情でこれだけで聖杯戦争のマスターを相手にする羽目になった彼は、この多機能性の根幹「水銀を高圧で操作する」に気づかれ、連鎖反応で構造上欠点をことごとく見抜かれた結果、最終的に惨殺される事になったんだよ。

 

 で、神霊(ウォールメン・ハイドログラム・)髄液(アドバンスド)は「武器としての」月霊髄液の改良型。なんでもエルメロイ復興させた人達も改良したけど、神霊髄液は「戦闘特化」で改造して、生き残りの人は「自立動作」を中心に改造してるから、別物になってるね。

 

 まあその辺は余談だから、神霊髄液の説明するね。

 

 改良点は大きく分けて二つ。

 

 一つは素材ね。月霊髄液はほぼ水銀。まあ、これでも水の十三倍重いからチート性能なんだけど、神霊髄液は一味違う。

 

 二つの世界の異能をフルに活用。比重がめっちゃ重いレニウムや、軽いけど超頑丈なオリハルコンを使ったアマルガムをベースにして、水の十七倍の比重にしてる。だから全能力が普通に使っても数段上。

 

 そしてもう一つは宝石粉末を取り込んだ事で使える、自動発動型宝石魔術。

 

 必要な時にこの宝石が瞬時に魔術を発動する事で、各種欠点を強引にカバーする能力があります。基本宝石魔術は使い捨てだから使ったら粉末補充する必要あるけど、それでも保険があるってだけでも段違い。

 

 因みに、これはクロックワークスの魔術師用装備の過半数が程度はともかく持ってるけど、ヒューズ機能があります。

 

 実はそのケイネスって人、「当時の技術じゃ超絶魔術じゃないと白兵戦だと防げない弾丸に、触れた魔術の魔力を経由して発動媒体をぶっ壊す能力を組み込んでぶっ放す」とか言うデストラップ喰らって魔術刻印をぶっ壊されたらしいんだよ。で、それ知ってるアイネスは保険もばっちり。

 

 そういう現象が起きる要素を徹底的に研究してパターンを記録。検出した瞬間に自爆して遮断します。

 

 ……で、ゴメン。此処までは実は一番肝心な説明に関係ない。

 

 あ、待って待って手に魔力込めないで! アイネスの努力を自慢したかっただけなの! 合金生成にはスメイガともう一人協力してるけど、神秘の秘匿って言う大原則があるから一部の情報しかない中で、月霊髄液の改良型作ったアイネスを褒めたかったの!

 

 で、話を戻すけど、その前身の月霊髄液。その世界の魔術師の集まり、時計塔の歴史に残る性能と機能美を誇ると言われています。

 

 そして、その中でも特に評価が高いのは、実は戦闘能力じゃない。

 

 考えても見て。超高速・超高圧・超精密な形状変化。それも「弾丸見てから防御余裕でした」なんて反応速度で。

 

 ……現代の科学技術で再現するとして、どんだけ凄いソフトとハード必須だと思う?

 

 そう、月霊髄液の最大の評価ポイントは、「戦闘時に使う10リットル」でそれだけの超絶行動を可能とする「演算能力」。ぶっちゃけ魔術版スパコンとしての能力が特に評価されてるんだよ。

 

 まあ、一流の魔術師(メイガス)はちょっとしたスマホ程度の芸当ならできるし、だから魔術師って基本的に科学を敬遠してるんだけど、それは別の話。

 

 ちなみに、復興したエルメロイの改良型は、そっちの方も改良してるそうです。疑似人格ある、会話できる、家事も少しはこなせる。あと映画見てそっくりさんの真似とかできるし、格闘技試合の実況も即興でこなせるとか無駄機能まで独自に作ったそうです。ツッコミどころ多いけど、要は水銀100%なのに視覚を再現してるって事だよね。ぶっちゃけ戦闘能力以外は完全に神霊髄液が負けてる。なんでも次期当主の護身用兼秘書として使ってるから、用途的にはピッタリな強化だよね。

 

 だけど、神霊髄液も戦闘特化ってだけで、元々月霊髄液が持ってる機能はほぼ持ってる。

 

 そしてもう一つ。実は神霊髄液は作成協力者のおかげで隠し玉があるんだけど、それ使うと再使用ができない。

 

 だからアイネスは、戦闘時に使う量はケイネスって人と同じで十リットルだけど、異空間に予備も含めてドラム缶一個分……200ℓだっけ? それぐらい持ってる。

 

 あ、それと不意打ち喰らった時の為に液体金属なのを利用して一リットルぐらい仕込んでて、匙君切ったのはそれだけど、これ余談じゃん。

 

 まあ、流石のアイネスも200ℓ全部使ったりとかできないけど、それでも演算だけなら100ℓぐらいはいけるわけ。

 

 ………魔力切れてすぐ失神していいなら、エシュロ〇だって引っ掻き回せるとか豪語してたよ。

 

 しかもアイネス、魑魅魍魎蠢き権謀術数渦巻く時計塔の政治にも関わってたから、そういうの凄く上手い。あと「魔術師は研究者が本文」だから、そっちの方が得意。

 

 だから、イルマさん仕事したいのにアイネスが一瞬で全部終わらせて来るから仕事したいのにできないんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……誰か、次期当主代理として月イチでいいから残業させてください。

 




 実はアイネスは「事務的な補佐官」という補佐官としてのポテンシャルにこそ本領を発揮するタイプです。というか、地震をそう定議しています

 魔術師を「貴族にして研究者」と痛感し、ましてやその理由が魔術界の神童であるケイネスの死によるものですから、ケイネスより魔術師として格下である自分ならなおさらと思っている節があります。レーティングゲーム的に言うなら、サポート型のウィザードタイプを当初の目標にしていました。

 ですが、それゆえに使用装備はかなりこだわっています。魔術師の力を宿したまま悪魔化したことを最大限に利用して月霊髄液を武装として選択し、更に発覚した欠点をつぶす努力までしました。そのため神霊髄液は武器としては月齢髄液の完全上位互換です。
 そして月霊髄液を主武装のベースにしたもう一つの理由が、月霊髄液が誇る演算能力。神霊髄液を演算に完全に割り振ったアイネスは、デスクワークにおいて規格外です。今後のブルノウの活動においても貢献する予定です。









 ただしその能力とイルマに対する過保護的な感情、くわえて統治者の資質における持論もあって、イルマの仕事を取りまくるという悪癖ができています。イルマとしては「当主代理としてやるべき仕事」はきちんとやりたいのに、アイネスが「当主代理という立場がが絶対に必須な仕事」だけ渡して全部やってしまうので、イルマは窓際一歩手前状態です。
 しかもイルマの魔術回路ではめっちゃ効率悪い方法を使わないと神霊髄液を使えないうえ、貴族としての教育期間の長さや資質もあって、デスクワークにおいてアイネスの足元にも及ばないから「私がやった方が早い」という意見に反論できません。

 そして、次から数話かけてそんなアイネスの過保護な理由が語られます。

 それが終わったらついにVS旧魔王派ですので、お待ちください。


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8 魔眼、その因果に捕われしある一族

イルマ・グラシャラボラスとツヴェルフ・シトリー。

その二人の関係の始まりについて語られます。


 

「……なんて事を言っていたわね」

 

 リアスは、テレビ局にある喫茶室で、そう漏らした。

 

 前回のレーティングゲームなどで注目され、リアス達はテレビ番組に出演する事になった。

 

 そして、別件で出くわした上級悪魔仲間とこうして話す機会があり、共通の話題になりうる魔術師(メイガス)絡みで説明する事になったのだ。

 

「……専用装備がスーパーコンピューターとか反則ですね。どこのターミネー〇ーですか」

 

魔術師(メイガス)とは一芸特化が基本ではなかったのか? 多芸すぎるだろう、彼女」

 

 ブルノウが三割ぐらい乗っ取った事で進み始めた学園絡みの紹介番組のゲストになったソーナが呆れ、これまた別件でテレビ番組に出演していたサイラオーグも少し引いている。

 

 あと、たぶんにイルマに同情している部分があった。

 

 ビッチ極まりない彼女ではあるが、しかし血統尊重主義派の一員としての意識はある。

 

 だからこそ、貴族の一員として立派に責務を果たそうとしているのだが、相方が有能すぎて仕事をさせてもらえない。

 

 自分から動く事の多い身としては、ちょっと同情してしまった。

 

「王として自ら動く事で引っ張るという在り方もありだろうに。あまり動かないのはあれではないか?」

 

「というより、もはや在り方が窓際に追いやられた中年サラリーマンですね。傀儡政治ですか」

 

 サイラオーグとソーナは、それぞれの観点から同情を見せる。

 

 派閥的には対立しているが、しかしイルマは立派に貴族として頑張ろうとしている。その一環として一生懸命仕事をしようとしている。

 

 それを、「もっとできる者に任せるのも立派な仕事」という正論とはいえ仕事をさせてもらえないというのはちょっと可哀想。

 

 大体そんな感じだった。

 

 これは後で何かアイネスに言った方がいいのではないかとすら思うリアスで、視線が合うと大体同意見な感じになり―

 

「……失礼な。まるで私が虐待一歩手前の行動をしているみたいではないか?」

 

 ―その肝心のツヴェルフ・シトリーの反論がいきなり飛んできた事で、思わずリアスは肩を震わせた。

 

 ちなみに、この喫茶室は上級悪魔限定の喫茶室である。

 

 なんとなく眷属達がテレビ局に興味を見せていたり、イッセーが別件で呼び出されたりしたので、こうして主達は主達で仲良くお茶会をしていたのだ。

 

 そこにいきなりアイネスが出てきたので、割と本気で驚いた。

 

 いや、アイネスも一応上級悪魔の末席である。シトリー家の分家出身なので、入れないわけではない。

 

 だが、何故彼女がここにいる?

 

「……最初から最後まで聞いていたから言うが、ブルノウ様の賛同者である経理担当からの頼みで演算処理を請け負ったのだ。ああ、内容については情報漏洩をする気はないから、しゃべるつもりはない」

 

 事前に釘を刺してから、アイネスはため息を付く。

 

「そもそも主を仕事漬けにする方が問題だろう? 主というのは非常時に動く為の余力が必要だし、代理とはいえど次期当主に収まっている以上、有事の際には動かなければならないのだ。有事以外は少しぐらい暇な程度でなければ、肝心な有事に身動きが取れないかもしれないではないか」

 

「一理ありますが、暇すぎるのも問題では?」

 

 正論という武器に正論というカウンターでソーナが反論する。

 

 こういう時、この三人では一番優位に立ち回れるのは知性派のソーナだろう。

 

 そもそも、彼女はシトリー家の次期当主。派閥は違うといえ分家の分家であるツヴェルフ・シトリーには自動でマウントも取れる。適任であった。

 

「確かにワンマン運営でもない限り、有能な部下を最適な箇所に据える人材運用能力は必須で、できる者に仕事を任せるというのは一種の在り方。そして自分が動かなければならない非常時に備えた余力を残すというのは分かります。ですが、使わない機能は衰えるのが生命体の基本です。あまり仕事をさせないと、動かなければいけない時にポテンシャルを発揮できない可能性もありますよ?」

 

「……むぅ、流石は本家次期当主殿だ。反論できん」

 

 そして、ツヴェルフ・シトリーは有能故に正論には耳を貸してくれる。

 

 そして、ため息を付くと三人と同じテーブルについて、肩を落とした。

 

「……確かにそうだ。私はどうもイルマに厳しくしようとしていながら、妙なところで甘やかすところがある」

 

「この場合、甘やかしているのか厳しくしているのか分からないのだけれど」

 

 リアスはどうツッコミを入れればいいのかが分からない。

 

 どうも前世からの縁らしいが、魔術師としてあまり才能がないらしいイルマと、名門中の名門の生まれらしいツヴェルフとの間にどうすれば縁ができるのかが分からない。

 

 しかも、過保護というべきがスパルタというべきか判断に悩むこの扱い方も、ただの友達というわけでもなさそうだ。

 

 ……貴族社会の経験から言わせてもらえば、アイネス・エルメロイ・アーチホールが前世のイルマを部下にしていると言った方がまだ理解できるのだが―

 

「……厳しくしながら甘やかす。もしかして、駒の件もそうですか?」

 

 ソーナの指摘に、ツヴェルフは肩を少し震わせた。

 

 それは一瞬すぎてソーナやリアスでは反応に確信が持てなかった。

 

 だが、動体視力において規格外が一人いる中で、この動揺は致命傷だ。

 

 若手上級悪魔でもトップクラス。圧倒的なディスアドバンテージを身体能力で補ったサイラオーグは、軽く目を伏せた。

 

「……図星か。まあ、あの一件は見方によっては血統尊重主義派にとって傷になるしな」

 

 サイラオーグとソーナの言いたい事は、リアスも分かる。

 

 ツヴェルフ・シトリーは、悪魔の駒をワンセット持っている。

 

 それは上級悪魔なのである意味当然だが、しかしある意味で問題だ。

 

 彼女は上級悪魔であると同時に眷属悪魔だ。そういう意味では少々問題視されかねない。

 

 実際、リアスの婚約者だったライザー・フェニックスは妹であるレイヴェル・フェニックスを特例で僧侶(ビショップ)の眷属悪魔にしていたが、レイヴェルはそれゆえに悪魔の駒を支給されていない。

 

 これは貰う前に転生悪魔になった事もあるわけだが、ツヴェルフは逆に貰ってから転生悪魔になったのだ。

 

 法的に問題はないが、同時にマナー的には悪い事と取られてもおかしくない。

 

 そして、その後も解せない。

 

 その確保した悪魔の駒を、ツヴェルフは一切使用していないのだ。

 

「……正直、元貴族として従者とか欲しくないの? それに、下部組織として自分の眷属を持った方が、イルマの支援にもなると思うのだけれど」

 

 というより、そうでもないのに態々こんな真似をした理由が分からない。

 

 そんな疑問を言外に込めたリアスの言葉に、アイネスは俯かせながら、軽く息を付き―

 

「……今から私は、卑劣な事をする」

 

 ―そう告げ、そして語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後まで聞いてから、そのうえで判断してほしい。

 

 まず疑問に答えるが、私が悪魔の駒(イーヴィル・ピース)を手にしてからイルマの眷属になったのは、保険の為だ。

 

 何の為の保険かは簡単だ。イルマが死んだ時の保険だ。

 

 イルマが死ねば、イルマの眷属は主を失う。そうなれば立場が悪くなる事もあるだろう。

 

 だが、一応上級悪魔でもある私が駒を余らせていれば、トレードの形で私の眷属悪魔という立場を持つ事で、そのダメージを最低限にできると思ったのだ。

 

 我ながら問題行動なのは分かっているぞ? まあ、諸君らの想像している意味ではないが。

 

 おそらく、諸君らは「主を死なせる事を前提にする」事を問題行動だと思っているだろう。それもそうだし、それも問題だと思っている。

 

 だが、私がもっと問題だと思っているのは別だ。

 

 ……私はな、これに勘付かれた場合、イルマが死に急ぐ事を問題だと思っている。

 

 はっきり言おう。イルマ・グラシャラボラスは死に急ぎたがりやすい。少なくとも、私なら死に急ぐ人生を歩むだろう。それぐらい、彼女の前世は彼女を追い詰めかねない。

 

 だからこそ保険が必要だと思い、しかしそんな事をすれば逆にイルマ自身の心理的ブレーキを緩めてしまう。

 

 ……イルマの後顧の憂いを断ちながら、イルマを自発的に死地に向かわせようとする。まったく、甘やかしているのか厳しくしているのか分からない。

 

 まあ、ここまで話してしまえば、嫌でも気になるだろう。

 

 だからまあ、話してもいいところまでは話すとするさ。

 

 その前に、長い話になるからお茶とお茶請けを頼んでおこう。まずはそこからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、準備が整ったな。

 

 では、まずイルマと私の前世について説明しよう。

 

 まあ、私については詳細資料にある程度の説明があるから軽く流す。

 

 時計塔という魔術師達の総本山。その中で、天界でいうならセラフの十四天使に近しい立場である、十二のロード。そのロードの一人である、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトに仕えるエルメロイ一門の有力分家、アーチホール家。その次期当主だったのが私、アイネス・エルメロイ・アーチホールだ。

 

 まあとりあえずエリートだと言っておこう。私は生前、時計塔の魔術師の位階において上から二番目の色位(ブランド)の末席だった。まあその中でも下の部類だが、主であるケイネス殿は上位クラスの上位とはいえ、同じ色位だからこれは凄い事だ。悪魔でいうなら魔王クラスと肩を並べられる最上級クラスになったようなものだ。

 

 真の最高位である王冠(グランド)ははっきり言って幻の称号であり、悪魔でいうなら超越者クラスだから、ロードでもごく一部しか到達できん。あの時代は魔術師の数が亜種聖杯戦争でごっそり減っていたから、ケイネス殿や私も「本来の意味とは違う名誉階級」として王冠に届いていた可能性はあるな。……いや、ケイネス殿ならいずれ正しく王冠に至っていたのであろうが。

 

 まあとにかく、私は超名門一族の有力分家の次期当主。こちらで言うならスメイガのような立ち位置だったわけだ。

 

 で、我らアーチホール家だが、エルメロイ一門でも本家であるアーチボルト家をしのぐある一面があった。

 

 ああ、魔術的な事ではない。どちらかというまでもなく俗的なものだ。

 

 ……日本通だったのだよ。

 

 源流魔術刻印の株分けをしてもらい、初代がエルメロイ一門に入った頃から、日本の文化に興味があったそうだ。私も自慢じゃないが、時々日本に行った時に卵かけご飯を食べるのが好きで、前世では多くて年数回だったから、もはやごちそうレベルだったが、これは蛇足だから話を戻そう。

 

 そんな日本通のアーチホール家は、とある日本の魔術師一族と縁を持つ事になった。

 

 本来、冬木の聖杯戦争の源流が行われたという事以外では西洋魔術世界において辺境な日本だが、しかし利点もある。

 

 そのうち一つは鎖国政策だ。これは、当時の魔術社会において「入りにくいがゆえに、外部からの干渉から逃れやすい」という利点があった。冬木が源流の聖杯戦争の開催地に選ばれたのも、アインツベルンとマキリが時計塔や聖堂教会の影響を最小限に抑えたかったからだろう。

 

 そして、その魔術師一族は厳密には帰化外国人だ。

 

 鎖国前までは普通に西洋魔術社会の出身だ。とある事情で家系間での神秘の独占をしてなかったので、魔術回路と刻印が歴史に比べると弱めの一族ではある。その反面、魔術的に貴重な特性を持っている一族だった。しかしその所為でとあるオークション組織に狙われて、彼らから逃げる為に鎖国を利用したのさ。

 

 だが、時は進んで黒船来航という出来事が発生。サイラオーグ殿には悪いがソーナ嬢とリアス嬢は確実に知っているだろうし説明は飛ばすが、その結果鎖国が終わる事をすぐに察する事ができたその一族は、とても困った。

 

 そのオークション組織が自分達を狙う理由はまったくもって健在。そいつらは金を持っているうえに様々な権威をもっている者達からも愛用されているので、日本が開国さえすれば強引な手段で自分達を狙ってくるかもしれない。質の悪い事に、そのトップはマキリとは別の方法で延命措置を行っており、たかが日本が鎖国していた期間程度では絶対死んでないし、たぶん性根が歪んでるから同じ事をしてくる事も想定できた。

 

 故に、大博打感覚で彼らは時計塔のロード達に後ろ盾になってもらう事を求めた。

 

 これに関してはそのオークション組織の影響力が凄まじい事と当時のロード達が現バアル並みに血統主義だったので失敗したが、しかし準ロードであるアーチホール家は、彼らを日本での窓口にする事が可能である事や、彼らの協力を得る事によるメリットから、後ろ盾になる事になった。

 

 結果として、オークション組織と「当人の了承をきちんと得る」「断られても強引な手段を取らない」「適正価格できちんと買い取る」などの条件を結び、なんとか彼らは一方的に狩られる側になる事はなくなった。私が死んだ後の話だが、そのオークション組織のトップは正真正銘の王冠(グランド)に選ばれた魔術師にぎゃふんと言わされて、最近だいぶ丸くなったとか。なんでも殺した後死体をミンチにしていたら後ろからそいつに襲われたとか言う、わけの分からない不死を体現している、忌み名をいう奴は恋人でも殺す事をモットーとする、実に魔術師らしい頭のねじの外れた女だとか。

 

 そして、まずイルマの来歴を説明するには、そのオークション組織と彼らが競売するものについて説明するべきだろう。

 

 オークション組織の名は、魔眼蒐集列車(レール・ツェッペリン)。駅から出発し霊脈に沿って駆動する巨大な蒸気機関車。ちなみに内部は異界化しているのでだいぶ広くなっているなど、いろんな意味で凄まじい代物だ。

 

 彼らは魔眼という特殊な目の摘出や移植技術を事実上独占。それらを最大限に発揮して、オークションを定期的に開いている。

 

 その過程で殺し合いが起きる事もあるが、まあこれに関しては魔術世界の業だから深入りは厳禁だ。それが分かっていてもなお、常連客はもちろん売却希望者は招待状をもらって参加するし、顧客拡大を目論んでいるのかフリー枠が用意されて争奪戦も開かれているしな。

 

 という事で、オークション組織についてはこれだけあれば十分だから次に行く。まあ少し触れ直す事もあるが、それについてはまず知識が必要だ。

 

 次は魔眼について説明しよう

 

 ……サイラオーグ殿のリーバン・クロセル殿や、リアス嬢のギャスパー・ヴラディが持っている神器のようなものが、魔術世界にも存在する。

 

 外界からの情報を得る、受動的な感覚器官が眼球というものだ。しかし、極稀にだが逆に外界に働きかける事ができる、魔眼と呼ぶ能力を持つ者が出てくるのだ。

 

 この魔眼、魔術師・一般人関係なくランダムで発現するタイプである天然物と、魔術師が意図的に作り替える事で発現する人工物が存在するが、オークション組織が競売するのは当然の如く前者中心だ。

 

 これは単純に性能の差だな。

 

 魔眼というのは簡単に言えば、見るという工程だけで、視界にいるものに問答無用で魔術をかけるものだ。相手と目が合うのが一番だが、大抵の場合、視界に収めてさえしまえば効果を発揮する。

 

 隠匿性と手軽さゆえに、保有する者は大抵一流。そして一流の魔術師なら人工的に魔眼を作る事ができるのはさっきも説明したが、レーマン家などの大家でなければオークションで売買されるレベルのものは作れん。それも、眼球サイズの宝石を加工して作る加工魔眼として―すなわち自分の眼球そのものは取り換える必要がある―というのが大半だ。

 

 そしてそれ以上の魔眼は完膚なきまでに天然もの。大家の全力レベルで漸く作れるレベルの、強大な能力を発揮する魔眼はノウブルカラーと呼ばれ、希少特殊能力としてカテゴライズされる。

 

 先ほどの列車のフリー枠が争奪戦になるのはこれが理由だ。もちろん参加に金がかかる上に、オークションなので更に大金を叩く必要が。しかしあの世界では、唯一金さえあれば確実に強力な魔眼を手にする機会だ。力を欲する者達が集まってくるわけだな。中には魔眼を使いこなせなかったりする者もいて、そういう者は金を貰っても手放したいからこれまたやってくる。まあ、最近になるまでは強引に摘出にやってくる事もあったらしく、件の家系はそれゆえに鎖国の壁を盾にしたのだが。

 

 で、その魔眼というのは強力なものは本当に強力なので、オークションでも莫大な金が動く。

 

 ノウブルカラークラスは強力だから当然といえば当然だ。「束縛」「強制」「契約」「炎焼」「幻覚」など、他者の運命そのものに介入する特権ともいえるものまであり、これを魔術で再現しようとしたら、魔術発動まで時間がかかるが、それなりの高級な道具を必要とする。

 

 故にノウブルカラークラスの魔眼保有者は、一芸特化型とはいえ凄まじい力の持ち主だ。さきほども言ったが眼球そのものだから携帯性も隠匿性も上、しかも一流の魔術師でも発動時間がかかる物を、見るという一工程だけで発現できるからな。

 

 ……そして、さっきも言ったが当時は強引に押し売りならぬ押し買い強盗までするオークション組織から逃げる為、鎖国確定の日本に逃げ込み、最終的にアーチホール家が仲介に入って最低限の安全を確保し、しかし組織が強引な手段を避ける頃にはアーチホール家と縁を切る事になった、魔術師および魔術使いを多く保有する、魔眼に深く関わる魔術師家系。

 

 性は道間(どうま)。イルマ・グラシャラボラスは道間日美子(ひみこ)という、本家の家に引き取られた、魔術の素養を持った孤児の少女だった。

 




一方そのころ、イッセーは子供たちと一緒におっぱいおっぱい言いながらお遊戯してます。




























………自分で書いててなんだけど、シュールだなぁ。


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9 日美子とアイネスの守れなかった末期の約束

アイネスによって語られる過去編第二弾です。

さて、結構ハードになります






















が、そのころ主人公はぽちっとぽちっと言ってるわけですよ………(^_^;)


 先ほども言ったが、魔眼というものは基本的にレアスキルもしくは高等難易度技術だ。

 

 簡単なものですら作れるのは一流の証。ノウブルカラーを作るには眼球をくりぬき宝石ベースの義眼にする覚悟が前提。天然物は魔術師でも一般人でも発現するが、どちらにしても希少能力だ。

 

 だが、どういう事か道間家は魔眼において凄まじい特異体質だった。

 

 この家系、九割ぐらいの確率で生まれてくる子供が魔眼を宿す。しかもそのうち三割がノウブルカラー。

 

 因みにノウブルカラーの魔眼は、オークションでは一千万の値が付く事も普通にある。言っておくが単位は円ではない、ドルだ。円にしたら十億以上だ。

 

 まあそれはともかく、これだけでも凄い事なのだが、道間家の凄まじさはこの程度ではすまない。

 

 そのノウブルカラーの中でも最高峰、文字通りの色に輝く「黄金」が十年に一度ぐらいの割合で生まれ、更にその上の位階である、発動時に多彩に偏光するのが特徴の「宝石」すら出る。確認されているだけで歴代に数名はいたという。

 

 希少価値でも能力でもとにかく凄い。普通のノウブルカラーで一千万ドルついたのはさっき言ったが、「黄金」の魔眼はまずそこから競売が始まりかねないし、三千万ドルになっても落札しないだろう。「宝石」に至ってはもはや魔術師一人では人生をかけても再現不可能な大偉業を可能とするだろうから、単位が一つ上がるな。新品のジェット戦闘機を買ってもお釣りがでかねん。

 

 ……よし、五分休憩だ。紅茶が冷めるし、変な事になったテンションを下げるべきだろう。

 

 気持ちは分かる。黄金や宝石クラスともなれば、それこそ神滅具やその禁手にも届く効果を発揮しかねんからな。まあ、一服して気を静めるといい。

 

 ……五分経ったな。では話を戻そう。

 

 この道間家は魔術師と縁を持った事で、この異能の制御や抑制などの手段として魔術を習得したのが始まりの魔術家系だ。その為魔術使いになる事を選ぶ者が多い。魔術師として研究をする事を選ぶ者は少ないが、そういう者達は「魔眼を極める」ことで魔術師としての道を究めようとしていたよ。

 

 でだ、私達アーチホールは彼らの後ろ盾となり、彼らによって日本通が生まれやすい自分達にとって趣味的な物の融通を頼む相手となった。その形故に大抵の場合交流はある。

 

 時折本家の者が日本に行く時は必ず世話になった。また、時計塔で政争が激しくなりそうな時は、貴重な後継者たる子供を彼らに預ける事もある。

 

 なにせ黄金クラスの魔眼を敵に回せば、サーヴァントですら油断すると一杯食わされるからな。実際亜種聖杯戦争に参加して、勝利した者もいたらしい。

 

 まあそういうわけで、政争が激しくなった為、いったん私は道間家の本家に預けられる事になった。

 

 その時の次期当主は道間誠明(せいめい)。先ほど言った十年に一度の逸材である、黄金の魔眼を持った使い手だった。

 

 彼の両親は根げ―魔術師の極みを目指していて、その模索の一環として、分家で両親を失ったりした者を支援したり、素質のある養子をとったりもした。

 

 その養子が道間日美子(ひみこ)。イルマ・グラシャラボラスの前世の名前だ。

 

 あいつはカタナとは別の意味で特化型の魔術回路持ちでなぁ。魔眼はないし運用能力も魔力量も大したことはないが、一つだけ凄い才能があった。

 

 ……魔法などを中心としたファンタジーゲームで、得意属性というものが出てくるだろう? 魔術師(メイガス)もそうなんだ。

 

 大半の者達は、火・地・水・風・空の五大元素と呼ばれる属性の内の一つを保有。それ以外の属性や、五大元素を二つ持っている者は珍しく、架空元素と呼ばれる虚や無、五大元素の属性全てに高い適正を発揮するアベレージ・ワンという者に至っては、絶滅危惧種レベルだ。

 

 より分かりやすく伝えよう。自分で言うのもなんだがエルメロイ一門の天才として若くして色位を取った私ですら、五大元素の一つである風の適正だけであり、ロードであり神童と断言されたケイネス殿ですら風と水の二重属性どまりだ。

 

 だがまあ、ケイネス殿は属性こそ二重属性どまりだが、魔力総量も魔力運用も桁違いだ。それに二重属性でも凄まじく高度な適正でな。それらが組み合わさる事で初めて使いこなせる魔術礼装、月霊髄液(ウォールメン・ハイドログラム)はまさに機能美の極限ともいえる魔術礼装だ。

 

 少しだけ脱線するが、私が使う|神霊髄液《ウォールメン・ハイドログラム・アドバンスド》は月霊髄液をこの世界の技術やエルメロイ一門ですら持っていないスメイガの錬金術、そしてイルマが第三次クロックワークス式亜種聖杯戦争で召喚し、ブルノウ様の戦車(ルーク)として受肉したとあるサーヴァントの能力を借りて再設計かつブラッシュアップしたものだが、その際魔術属性としての水がない私が使えるよう、シトリーの魔力特性に合わせて調整している。正直ケイネス殿が振るう月霊髄液には憧れがあったので、ちょっとテンションが上がった。

 

 ……で、話を戻そう。道間家の当代当主は道間家でも珍しく魔術師の本懐達成に真剣でな。日美子を迎えたのもその一環だ。

 

 何故なら、日美子の魔術属性はアベレージ・ワンだ。

 

 魔術師としての運用能力や魔力総量ではどうしても平凡程度だから大成はできない。だが、その因子を相応の魔術師が受け継ぐ事ができれば、一気にその魔術師の家系は飛躍するレベルだ。

 

 それ以外にも分家出身だが、両親を失った者である乙女(おとめ)に経済支援をし、分家を何人か集めたりしていた。

 

 特に日美子は私になついてくれたし、誠明や乙女との歓談は、人間性を美徳ではなく欠点として見る性質のある魔術師の生まれである私に、しかしそれを持つことの大事さを教えてくれた。

 

 いわゆる秘密基地作りというのは実に燃えた。しかしそこは魔術師、日美子と乙女はヘッポコ運用能力なので助手程度だが、次期当主の私と誠明が本気を出した事で、外敵に見つかりづらく外敵を発見しづらい、かなりのレべルの変則的魔術工房となってしまった。

 

 まあ、後々これが力になったのだが、話を戻そう。

 

 そしてそれゆえに私は当時の道間家当主のことが……嫌いになってしまった。

 

 魔術師としては失格だ。そう思っても、しかしどうしても嫌悪感を覚えずにはいられなかった。

 

 既に資料を見ているから知っているだろうし、リアス嬢やソーナ嬢はイルマからも聞いているだろう?

 

 魔術師は、より優秀な後継者を生む為に自らの体を弄る事すら厭わない存在だ。そして優生学は基本中の基本である。

 

 今の自分達に足りない要素を持つ魔術回路の保有者と子をなすのは、普通にありうる事だ。

 

 ……日美子を養子にしたり、両親を失った乙女の支援をしているのはそういう事だ。

 

 まあ、既に後継者がいるから当時の当主が胎盤として利用する事はないだろう。しかし誠明の次を生ませる胎盤として利用する事が最大の目的だったのは間違いない。

 

 分かっていても言い出す事は魔術師としての(さが)で出来ず、そして政争がひと段落ついた事で、私はそのまま英国へと帰還した。

 

 ……その数か月後、その先代が死亡した。

 

 死因は殺害。下手人は不明。魔術刻印は無事だったので、そのまま誠明が当主となった。

 

 とはいえ誠明もまだ成人前で、色々と揉めたらしい。

 

 ……私はそんな時、実家から時計塔での活動に集中するように命じられ、関係が疎遠になっていた。

 

 手紙でのやり取りはしていた。そして、その節々から誠明が苦労している事を察する事ができた。

 

 ある時期においては文字が歪み、涙がこぼれ落ちたのかにじんでいる部分もあり、そもそも文脈からして無理をしている事が分かっていた。

 

 私もこれ以上は耐え切れず、何とかして日本に行く為に動こうとして―全ては手遅れだった。

 

 かろうじて日本に行く為に様々な苦労を終わらせた、まさにその時だ。

 

 ……両親から、道間家との関係を完全に断ち切ったと伝えられた。

 

 当然抗議したさ。だが、その理由を聞けばそれそのものを止める事はできなかった。

 

 誠明が、道間誠明が大量殺人を行ったのだ。

 

 ターゲットとなったのは、道間家出身の魔術使い数名と、その私的な友人達。彼らが集まっていたところを魔術だけでなく魔術師達が嫌悪する傾向の強い科学まで併用して一気に殺し、更にまったく関係のない民間人が数十名巻き込まれた。挙句の果てに神秘の秘匿を投げ捨てた行動を地方都市とはいえ人口密集地で敢行したんだ。……しかも、その襲撃場所には乙女までいて、彼女はほぼ脳死状態にまで陥った。

 

 縁を切るのは当然だ。魔術教会も聖堂教会も本気で怒り狂っており、縁を切るのが後一歩遅れればアーチホール家にも多大な被害が出る所だった。

 

 そして、ゆえに私には「道間家との接触はもちろん、日本に行く事すら禁止する」との厳命が下った。

 

 断じて認められなかったさ。誠明の凶行を聞いて黙っていられる性分ではなかった。乙女がそんなことになって、冷静でいられもしなかった。ましてや、そんなことになれば本家養子の日美子もただでは済まないことが簡単に予想でした。

 

 私は強引に日本に向かおうとして大騒ぎを起こし、結果的にアーチホール家総員に取り押さえれた。

 

 移植を開始していた魔術刻印は一時的に没収。一年ほど幽閉されることにもなった。

 

 そしてその過程で先代はとんでもない情報を伝えてきたよ。

 

 ……道間家先代当主の殺害を実行したのは、誠明だというんだ。

 

 動機は、「日美子を時計塔に確保される前に、独自に標本として管理体制に持って行く事を抵抗したから」出そうだ。これに関しては魔眼の一つである過去視を使える者が調べたので、間違いないそうだ。

 

 理由を聞いて納得すると同時に、だからこそ私は日本に向かいたくなった。

 

 その誠明が守ろうとした日美子を助ける為にも。彼が同じぐらい大事にしていたはずの乙女に対して凶行を働いた理由を知る為にも。そして、私が三人の友でいる為にも。

 

 そして一年以上だった時、転機が訪れる。

 

 アーチホールが所属するエルメロイ一門の当主、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトが亜種聖杯戦争への参戦を決め、そしてその開催場所が日本だったんだ。

 

 私は直談判をケイネス殿に行った。

 

 折しもエルメロイ一門は歓喜していた。

 

 時計塔のロードであるケイネス殿が、魔術的儀式で後れを取る可能性など彼らには考えられない。ましてや、ケイネス殿は生まれてこの方失敗知らずの方で、何かに手を出せばそれすなわちその分野に新たな光明をもたらしていたからな。とどめに本気の入れ具合が違った。

 

 当時のエルメロイが担当していた鉱石科(キシュア)でも最高品質の宝石や鉱石を大量に投入して、普通の参加者なら万全という言葉すら生ぬるい準備を敢行。そして婚約者のソラウ殿の実家の担当学部である降霊科(ユリフィス)ですら迂闊には手を抜けぬような、強大な悪霊・魍魎を番犬代わりに数十体確保。各学部の君主(ロード)専用の魔力炉を三基も運搬。これら全てが陣地作成の為の資材であり、肝心の陣地場所は最高級ホテルを一階層丸ごと買い取るという大盤振る舞い。

 

 戦闘においても本腰であり、サーヴァントの触媒としてかの有名なアレキサンダー大王の触媒を本命として確保。更に万が一の為の保険として、ディルムッド・オディナやアヴィケブロン、アストルフォなどといった英雄をピンポイントで召喚できる触媒をいくつも入手。これにも湯水の如く金を使ったとも。

 

 そして自分が戦う事も考慮して、独自に開発した魔術式によってサーヴァントの魔力消費を他の物に肩代わりするという偉業を片手間に考案し実現。月霊髄液(ウォールメン・ハイドログラム)に代用されるエルメロイの貴重な礼装をまたしても湯水の如く注ぎ込んだ。

 

 断言しよう。小国で起きた内乱に米国一個艦隊を投入するが如き暴挙だ。

 

 エルメロイ一門はこれにより、ケイネス殿が唯一持っていなかった実戦武勲及び願望機の入手ができると喜び勇んだ。亜種聖杯戦争でも最高峰の、五組によるバトルロイヤルともなれば、勝利によって得られる願望機も栄光も絶大だからな。

 

 そして、そこからくる気のゆるみに付け込んで私はケイネス殿に、ついでに日本に連れて行ってほしいと頼んだのだ。

 

 ケイネス殿はこれを了承してくださった。莫大な資材を使用するがゆえに作成にも時間と手間がかかる陣地作成を手伝う代わりに、その後私に道間家の様子を見に行く時間と許可を与えてくれたのだ。しかも、反対意見が出ないように要請を通り越した命令という形にしてくださった。

 

 エルメロイ一門の長からの命令と成れば、先代も断れない。そして万が一私に何かあっても、家宝たる魔術刻印がない事もあって、ダメージは最小限だと踏んだのだろう。

 

 万が一にも私が死んだ時は、そこに付け込んでケイネス殿に願望機のリソースを分けてもらう腹積もりだったのかもしれん。ケイネス殿は己が持たぬ実戦武勲を、時計塔のロードとして相応しいレベルで欲したので聖杯戦争に参加したからな。願望機そのものに興味は薄かった。

 

 そして私は契約通りに陣地作成に協力したとも。日本語に慣れていた事もあって、その辺りの交渉も担当したのでケイネス殿からは覚えがよかった。

 

 そして、私は陣地を作成し終えると即座に道間家の管轄地だった地方都市に向かった。

 

 乙女と日美子は行方知れずになっており、誠明に殺害された者達の関係者が血眼になって探していた。

 

 ゆえに私はまず、一つの場所を探す事にした。

 

 その場所とは、かつて誠明を含めた四人で作った隠れ家だ。

 

 真剣に隠れ家としては優れているので、潜むには都合がいいという単純な理由だった。外れていても、彼女達が私に対する友情を残しているのなら何かしらのメッセージがあると思ったんだ。

 

 ………そして、私は惨劇を目撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ? なにが……どうなっている!?」

 

 戦場跡としか形容できない光景に、アイネスは息をのむ。

 

 昔四人で駆け回った裏山は、死臭と死体がそこら中に蔓延する地獄となっていた。

 

 近くにあった死体を見分すれば、魔術使いである事が察せられた。しかし、次に調べた人間は犯罪組織に身を置いているだけのただの人間だった。

 

 魔術で金を稼ぐ魔術使いが、使いっパシリとしてただの人間を使うことは普通にあり得る。魔術の存在を知った者達が、魔術師達を利用しようとする事も何度もあった。

 

 故に確信する。これは、殺し合いだ。

 

「……まさか、日美子、乙女!!」

 

 とっさに、アイネスは二人のみを心配して走り出す。

 

 幸いにも戦闘は終了しているようだ。これなら、実戦経験に乏しい自分でもなんとかなるだろう。

 

 何より、この裏山には四人で作った隠れ家がある。

 

 隠匿及び警戒においては、半端な魔術師が作った工房より優れている。だが、もし一流の魔術師が動いているのなら、子供だった自分達の技術だけでは隙をつかれる可能性はあった。

 

 そして、息を切らしてその隠れ家に駆け込んだアイネスは、それを見た。

 

 先ほどのように、惨殺された魔術師・魔術使い・そしてただの人間達の死体。

 

 その返り血をわずかに浴びながらも、魔術的な延命装置で静かな呼吸を繰り返す、道間乙女。

 

 そしてその乙女の眠るベッドに寄り添うようにしている、二人の幼子。

 

 そして、死体の群れと乙女達の間で、血まみれになって倒れ伏している、茶色の髪をツインテールにした、十代後半の一人の少女。

 

「………日美子ぉおおおおおおお!!!!」

 

 絶叫して、アイネスは慌てて駆け寄る。

 

 かろうじて残った冷静さが、彼女に解析魔術をかける余裕を生み―そして絶望した。

 

 内蔵の多くが大きく破損し、更に高度な呪詛をかけられている。その上、出血量も甚大で、魔力で無理やり存命しているだけ。端的に言って致命傷だ。

 

 病院に連れて行っても間違いなく間に合わない。アイネスの治癒魔術では対処不可能。高度な治療用礼装や霊薬があれば話は別だが、かなり無理をしてここに来た事もあり、持ち込めた装備など殆どない。

 

 一言で言おう。手遅れだった。

 

「……あれ、アイ、ネス?」

 

「日美子! しっかりしろ日美子! 何があった!?」

 

 アイネスは日美子の意識を保たせる為にも声を上げ、そして日美子は虚ろな目で、辺りを見渡す。

 

「……ねえ、乙女ねぇは? 美子は……田知は……?」

 

 その言葉に、アイネスはすぐに乙女の様子を確認する。

 

 彼女は脳死だと言われているが、呼吸は正常だ。魔術礼装による延命措置でしかないが、それに対して今のところ問題はない。

 

 そして、その乙女が寝ているベッドの近くにる、小さな子供二人も無事だ。いきなり目の前で大きな音や大暴れが起きた事で驚いている節があるが、小さい子供であるがゆえに状況を飲み込めてないようだ。

 

「乙女には傷一つない。美子と田知というのは知らないが、乙女の近くにいる幼子(おさなご)二人は無事だ」

 

 分かる事だけを告げると、どうやら推測は正解だったらしく、日美子はほっと息をついた。

 

 そして、すぐに肺に血がこもったのか血を吐いてせき込む。

 

 背中をさすりたいが、身を起させるだけで傷が悪化しかねないからそれもできない。

 

 無力な自分に怒りを覚え、アイネスは涙を流す。

 

「なんでだ! なんで、こんなことになったんだ!?」

 

 一体何があった。

 

 厄介なロズィーアンとは話がついた。道間家前当主は多少の問題行動をしているが、魔術師達を何人も同時に敵に回すような真似はしていない。ゆえに彼らは誠明の凶行の反動で来た者達だろうが、そもそも誠明はいきなり凶行を引き起こすような危険人物では断じてなかった。

 

 なのになんで、どうしてこんな事になったんだ。

 

 なぜ、彼女達がこんな事にならねばならない。

 

 理由のなき悪意などごろごろある。性善説を信奉しているつもりはない。理不尽が横行しているのが世界というものだという事は知っている。油断しているという事が罪だと断言する人種とも関わってきた。

 

 しかし、目の前の惨劇を見せられれば、それでも文句の一つぐらいつきたくもなる。絶叫して当然だ。

 

 そしてすぐに我に返り、日美子に顔を向けた時、一つのガラスの容器が移った。

 

 震える手で日美子が掲げるそれには、魔術的に加工された刻印と、粉末の薬があった。

 

 そして、日美子は口を開け、舌を見せると苦笑を浮かべる。

 

 粘膜接触等によって、魔術的な経路(パス)を精製するという方法は、普通に存在する。性行為を利用した魔術の類もある。

 

 聖杯戦争において、マスターがサーヴァントの過去を実体験することがある。これは睡眠時にマスターとサーヴァントのつながりによって発生するバグに様なもので、サーヴァントも必要ないから普通はしないが、睡眠する事があれば起きる事はあるだろう。

 

 この薬品は、要はその類に属する霊薬だ。具体的には、この薬を含みながら粘膜接触を行う事で、記憶を共有する事ができる。

 

 日美子は分かっている。自分にはもう、時間がない。そして、話は長くなる事なのだろう。

 

 だからこの霊薬によって一気に情報をアイネスに叩き込もうとしているのだ。

 

「あ~……。初キスだったらごめ―」

 

 そんな冗談を聞く気はない。

 

 何の躊躇もなく薬を飲み、アイネスは日美子の唇を奪う。

 

 舌を絡め、唾液を交換し、魔力を繋げる。

 

 そしてその瞬間、日美子が伝えたい記憶全てをアイネスは受け取った。

 

 全て分かった。誠明が凶行を起こした理由も、乙女が巻き込まれた理由も、そして二人の幼子がどういう理由でここにいるのかも。

 

 ―そして、日美子が一体どれだけ追い詰められていたのかも。

 

「………ふざけるな!!」

 

 アイネスは唇を放し、唾液を拭く事すら忘れて絶叫する。

 

 日美子はそれに、自虐的な表情を浮かべる。

 

 怒りを向けられたのだと思ったのだろう。殺意を叩き付けられたと思ったのだろう。憎しみを向けられたのだと思ったのだろう。

 

 実際、アイネスは日美子に怒りを覚えた。

 

 ……だが、それは日美子を責めるものでは断じてない。

 

「なんで、私に助けを求めてくれなかった!?」

 

 心からの怒りを日美子に叩き付け、アイネスは怒鳴った。

 

「私が信用できなかったのか!? 嫌われると思ったのか!? 手のひらを返されると思ったのか!?」

 

 アイネスが日美子に怒ったのはそれが理由だ。

 

 そう、全て知って、アイネスが日美子に対して思った怒りはそれだ。

 

 心から、アイネスは日美子が自分に助けを求めてくれなかった事を、乙女や誠明に助けを求めてくれなかった事を怒っていた。

 

「見損なうな! 友の窮状を知って助けにならんと願わぬほど、私は落ちぶれてはいない!!」

 

「……友、達? いまでも……友達……?」

 

 震える声でそう尋ねる日美子に、アイネスは別の意味で怒りを覚え、大声を出す。

 

「当たり前だ!!」

 

 その断言に、日美子はふっと微笑むと、一筋の涙をこぼす。

 

 そして、震える声で共に願う。

 

「助けて……あげて」

 

 その言葉の意味を、アイネスは嫌というほど理解する。

 

 助けてほしいではない。助けてあげてといったのだ。

 

 それは、自分を助けてもらう為の言葉ではない。

 

 もう自分は助からない。それが分かっているから、日美子は守りたいものを守ってほしいと告げたのだ。

 

「私が壊した……私が苦しめた……私が台無しにした……乙女ねぇを」

 

 悔恨の言葉を紡ぎ、日美子は最後の力を振り絞って、願いを託す。

 

「美子を……田知を……お願い、助け……て」

 

「ああ、任せろ!!」

 

 無理やり笑顔を浮かべて、アイネスは断言する。

 

「エルメロイ一門の1人として! アーチホール家の跡取りとして! 色位(ブランド)の末席として!!」

 

 実にくだらない事を言って、根拠にしようとしている。

 

 何がエルメロイ一門が誇る分家だ。

 

 何がアーチホール家の才媛だ。

 

 何が、時計塔における実質的な最高位だ。

 

 それら全てをもってして、友が何年間も苦しんでいる事一つ気づかなかった。

 

 それら全てをもってしても、友が壊れ果てるのを認識する事すらしなかった。

 

 それら全てをもってしても、友の誠実さが粉々に砕け、狂気に取り憑かれるのを遅らせる事すらできなかった。

 

「なにより……」

 

 だから、保証する根拠はそうではない。

 

 もっと大事な、手遅れだからこそ言える、大事な大事な大前提。

 

「道間日美子の友、アイネス・エルメロイ・アーチホールとして!! 私はお前の最後の願いを叶える為に全力を尽くす!!」

 

 その断言に、日美子はうっすらと微笑んだ。

 

「そっか……うん……」

 

 最後の言葉は声にならず―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 安心したぁ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその言葉をアイネスの心に残して、道間日美子は息を引き取った。

 




本当の意味でのイルマの過去については、もっと進んでから解放します。まあ、近年のグレンさんトレンドの傾向から外れてないとだけ言っておきます。





そして、この時点でアイネスには勝算がありました。三人の安全を確保するための策がありました。











しかし題名と、そして二人の転生後の年齢が同年代という事実。

これが、残酷な現実を物語っております。


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10 アイネス・エルメロイ・アーチホールの決意

以前、アイネスについての詳細が出てくる話で、クロックワークスの人たちの評価が出ていたはずですが、こう書いたと思います。

「焦って自爆」と。

今回は、具体的にどういう自爆なのかが語られます。


 ………そして、私は乙女達を守る為に速やかに行動を起こそうとした。

 

 普通に考えれば、縁切りまでした家系の分家、それも脳死状態の者を生かしたままにしろなどありえない。アーチホール家どころかエルメロイ一門自体が難色を示すだろう。

 

 だが、勝算はあったんだ。

 

 乙女は脳死にこそなっていたが、魔術回路は無事だった。そして、彼女の魔術回路の適性を使えば、あの世界でサーヴァントを聖杯の力を借りずに現界させる事ができる。

 

 そして幸か不幸か、エルメロイ一門にはサーヴァントの触媒が複数集まっていた。

 

 本命であるアレキサンダー大王の触媒こそ、ケイネス殿と揉めた聴講生が配送ミスで手に入れてしまい、そのまま彼が持ち逃げしてしまうという不手際があったが、しかし他にもいくつも触媒はある。

 

 ケイネス氏が選んだサーヴァント以外の、聖杯戦争での戦力とは別の意味で優れたサーヴァント二騎の内二つを利用する事を、私は考えていた。

 

 一つ。自身の魔力精製量が高いので、魔力総量に自信がないマスターが召喚する事も多いキャスターのサーヴァント。魔術の一ジャンルである「カバラ」の基盤を作ったゴーレムマイスター。現代の魔術師では一年かけても作り上げる事ができないレベルの超高性能ゴーレムを、その気になれば一日に何十体も作れるという、十一世紀の哲学者。ソロモン・ベン・ユダ・イブン・ガビーロールことアヴィケブロン。

 

 一つ。本来ならアーチャーのサーヴァントのクラス別スキルとして運用される、マスターの必要性を薄める「単独行動」スキルを保有するサーヴァント。フランスの英雄筆頭格「シャルルマーニュ十二勇志」の1人にして、あらゆる魔術を無効化する本を宝具として保有する騎士。そして王族に縁があるゆえに、魔術師という貴族社会にもある程度適合の余地を推測できる騎士。アストルフォ。

 

 私はケイネス殿が聖杯戦争様に編み出した魔力パスの分割を利用して、乙女の魔術回路でどちらかのサーヴァントをエルメロイ一門の客将として迎え入れるという計画を立てた。

 

 王族出身のアストルフォなら貴族志向の強いエルメロイ一門にもある程度対応できただろう。そのうえ、彼の宝具は魔術の天敵故に、魔術師が集まる時計塔において敵に回したくないサーヴァントとしてはトップクラスだろう。単独行動スキルによる低燃費もあり、用心棒として最高峰だ。

 

 魔術師であるアヴィケブロンなら、当然の如く魔術師世界にも対応できるだろう。彼のゴーレムマイスターとしての腕前は文字通り同ジャンルで最強だから、彼にエルメロイ教室の特別講師になってもらえば、時計塔のゴーレム関係者を軒並みエルメロイ一門に取り込む事も簡単だ。

 

 この影響力を持って乙女の「保全」を願い、同時に美子と田知の二人の子供を私の弟子……もしくは養子という形で保護する。これが私の計画だった。

 

 即興で考えたにしては自信があった。それほどまでに、アヴィケブロンとアストルフォは、聖杯戦争では苦戦するが魔術師相手の謀略や牽制としては頼りになる。

 

 ましてや、最大規模の亜種聖杯戦争に優勝したケイネス殿の凱旋もある。魔術師の実戦武功として最上級の物を手にして、願望機としても最高峰の物を手にする。相乗効果でエルメロイ一門全体が余裕を持っている事になるのだから。

 

 だから、私はこの案は上手く行くと確信してケイネス殿にまず確認を取り―

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が、源流魔術刻印や婚約者殿まで巻き込む形で盛大に戦死した事を知った。

 

 持ち込んだ大量の装備や資材に魔術礼装は、工房ごと爆破された事で月霊髄液(ウォールメン・ハイドログラム)以外全部が台無しになった。

 

 エルメロイ一門の至宝である源流魔術刻印は、九割が破壊されて使い物にならなくなった。

 

 婚約者であるソラウ殿も、無残に殺されたらしい。

 

 一体どれだけ圧勝をするか。ただそれだけを考えていたエルメロイ一門は大混乱だ。

 

 本家筋の娘を殺された上に大打撃をこの上なく受けた事で見切りをつけられた結果、ソフィアリ家はあっさりと一門を見放した。

 

 アーチホール家は速攻で一門から抜けることを決定した。奇跡が起きて持ち直す可能性にかけるより、被害が大きくならないうちに離縁したほうが安全性は高いと判断したようだ。

 

 そして政争渦巻く時計塔ゆえに、凄まじい勢いで様々なものが貪り食われて行っている。

 

 資材、礼装、財源、刻印。魔術師一族にとって貴重なものが、一瞬で塵になった。これはもはや没落以外の何も想像できない緊急事態だ。

 

 後に把握した事によると、ハリウッドの超大作映画を作れる程度の借金までしてしまったらしい。壮絶な没落といえるだろう。

 

 ……最も、エルメロイはそこそこ持ち直す事に成功した。

 

 件の聴講生が聖杯戦争の影響で人格的に成長し、その結果ケイネス殿が講師を務めていた教室を買い取り才能を発揮。それに目をつけた、末席なのに源流魔術刻印の残骸との適正が高くて、家の魔術刻印を移植してないという理由で貧乏くじを引いた親族のライネスが、彼を代理ロードとしてエルメロイ存続を試みたのだ。

 

 結果、エルメロイは代の浅い若手魔術師達の理想郷と化し、事実上腕利きのコネを多数抱えることになるのだが、その兆しが見えたのは三年先の話だ。

 

 私には、そんな先のことを考える余裕などなかった。

 

 私が日美子に三人の安全を確約できたのは、エルメロイ一門とその頭首であるケイネス殿の存在があってこそだ。それがなくなれば、一年どころか数か月持たせる事すらできない。

 

 焦った私はその場で亜種聖杯の開発を試みた。

 

 気分はあれだな。金に困った奴らが一発逆転の博打の為に、全財産を競馬の大穴に叩き込む形だ。

 

 当然、そんな事が上手く行くわけがない。

 

 結果は失敗中の失敗。なまじ私が天才であったがゆえに精度は高く、しかし下準備も高品質の資材も無しだったがゆえに、完成には届かなかった。

 

 つまり、私は亜種聖杯作成を試みた者が引く確率から、最悪の可能性である4パーセントを引いたのさ。

 

 亜種聖杯は爆発を引き起こしたよ。

 

 当然、爆心地にいた私は勿論、いつでもカバーできるように近くにいた三人も巻き込んだ。

 

 笑ってくれ、私は守るどころか、心中をしてしまったようなものなんだ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、気づいた時には私はツヴェルフ・シトリーになっていた」

 

 冷めた紅茶を飲んで気分を沈めながら、アイネスはそう告げる。

 

 誰もが、その壮絶な過去に何も言えない。

 

 自身もまた壮絶な過去を持つサイラオーグも、壮絶な過去を持つ眷属を多く抱えるリアスもだ。その辺りが薄いソーナも、踏み込むタイミングを掴めない。

 

 アイネスはそのままカップに視線を向けながら告げる。

 

「当時は正直沈んでいた。約束を守るどころか盛大に台無しにして死んだあげく、末席中の末席とはいえ貴族という立場で生まれ変わったのだ。合わせる顔がないとはこのことだ」

 

 しかし、生来の誇り高い気質故にぐれる事だけはせずに育った。

 

「……シトリーの序列が12だからという理由で、ドイツ語で12(ツヴェルフ)などという名前を付けられたりしたが、しかしその程度で貴族という特権が消えるわけでもない。そして、特権を持つ以上責務は果たさなければならない」

 

 故にアイネスは真面目に努力をしつつ、しかし心の傷は決して消えない。

 

 そんな時に転機が訪れた。

 

 奇跡的な巡り合わせで親戚同士で魔術師という事に気づいた、スメイガ・バアルとイルマ・グラシャラボラス。

 

 その二人の告白を聞いたブルノウの判断による、クロックワークスの結成。

 

 亜種聖杯によって突如与えられた情報から、アイネスは心の底からその意味を理解して連絡先に通信を行った。

 

 時計塔の魑魅魍魎に慣れているアイネスからすれば、必要不可欠である事は当然だからだ。

 

 そして、アイネスはイルマと再会した。

 

「分かった瞬間土下座して、全ての事情を説明したよ。殺されて当然だとも心から思った」

 

 アイネスは日本通ゆえに、下手をすると日本人よりも日本文化に精通している時がある。

 

 その一つが土下座だ。

 

 土下座という行為とは本来、命を差し出すほどの謝意を示す行動だ。彼女はそれを忠実に実行した。殺される覚悟をもって実行した。

 

「だが、イルマは私の手を握り逆に謝罪した」

 

―ごめんね。いきなり、あんな大変な事を頼んじゃって。

 

 そう寂しげに告げたイルマは、そして笑みを浮かべてアイネスを抱きしめたという。

 

「そして、心の底からイルマは私に感謝してくれた」

 

―ありがとう。三人を助ける為に、本気で頑張ってくれて。

 

 見捨てても良かったのだと、イルマは言外にそう言ったのだ。

 

 魔術師(メイガス)同士で真の友情など成立しない。そういう人格破綻者が魔術師(メイガス)という存在の基本ベクトルだと彼女は理解している。

 

 そも、一門の危機に直面していたのだ。本来そちらを優先していいだろう。

 

 それに、助ける当てがそもそもないのなら、まず自分の身の安全を優先する事は仕方がないだろう。

 

 しかし、アイネスは諦めなかった。

 

 混乱状態でのトチ狂った暴走とはいえ、アイネスは三人を助ける為に心の底から努力した。

 

 その事実をもってして、イルマはアイネスを許し、それどころか感謝したのだ。

 

「……私はその時誓ったのだ」

 

 静かに、あの時決めた決意を表明する。

 

「ツヴェルフ・シトリーであるアイネス・エルメロイ・アーチホールは、イルマ・グラシャラボラスである道間日美子の為に力を尽くそう。彼女を我が主として、生涯ともに寄り添おうと」

 

 それこそが、ツヴェルフ・シトリーがイルマ・グラシャラボラスの女王(クイーン)である理由。

 

 魔術師としてのポテンシャルなら、アイネスが圧倒している。

 

 悪魔としてのポテンシャルなら、イルマが間違いなく上をいく。

 

 だが、そんなパワーバランスなどどうでもいい。

 

 今度こそ共に道を間違えさせない。今度こそ友の力になる。友が見据えた未来を創るべく、域恥をさらしてでも第二の生を生きよう。

 

 それが、アイネス・エルメロイ・アーチホールにしてツヴェルフ・シトリーの決断である。

 

「……事情は大体分かった。だが、一つ聞きたい」

 

 サイラオーグがひと呼吸を入れてから、しかし首を傾げる。

 

 事情は分かった。誰もが分かった。

 

 ツヴェルフ・シトリーがイルマを主と認める理由も分かった。そして、彼女のことを心から想っている事も理解できた。

 

 細かい事情やそも道間日美子(イルマ・グラシャラボラス)がした罪については分からないが、それについては今の自分達で踏み込める事ではないだろう。

 

 だが、一つだけ分からない事がある。これは聞いていいだろう。

 

 ソーナも同意見だったのか、眼鏡を治しながら疑念の目を向ける。

 

「……今のどこに卑劣な事があるのですか? むしろ悲劇ではありますが最後は美談にすらなっているようですが」

 

 その疑問に、アイネスは苦笑した。

 

 目の前の三人がそういう人物だと分かっているからこそ、この話をこの三人にするのは卑劣なのだ。

 

「ここまで知れば、お前達はイルマに対して同情心や労わりの心を強く持つだろう? そうなれば、イルマが窮地の時に力になろうとするはずだ。……卑劣としか言いようがない情報戦だ」

 

 アイネスはそうはっきり言った。

 

「魔術の基本は等価交換。しかし、情に付け込んで対価を払わずに主の厚遇を勝ち取るなど、卑怯卑劣といわずして何という。少なくとも、エルメロイの価値観としては見事に卑劣だ」

 

「………あなた、頭はいいけど馬鹿なのかしら?」

 

 リアスがバッサリとツッコミを入れる。

 

 そして、表情を苦笑に変えて言い切った。

 

「そんな事知らなくたって、少なくとも私はイルマ(友達)が窮地なら力になるわよ。……気にしすぎッていうのよ、それは」

 

 そうはっきり言われて、アイネスはぽかんとした表情になった。

 

 それに、ソーナとサイラオーグは微笑で答える。

 

 まったくもって苦労性だという他ない。

 

 だが、それだけのことをしてでも誰かを助けたいという思いに、好感は持てた。

 

「レーティングゲームといった類で手を抜く気はない。だが、手を取り合うべき時に手を伸ばすのは当然だ。彼女の来歴には何ら関係なくな」

 

「そういう事です。少なくとも、リアスとサイラオーグはそんな事を知らなくても彼女を助けるでしょうね」

 

 サイラオーグとソーナの発言に合わせ、リアスは胸を張って断言する。

 

「彼女はもう、私達オカルト研究部の部員よ? だから、部長としての責任は当然果たすから安心しなさい」

 

 その自愛に満ちた言葉を受け、アイネスは静かに天井を見上げる。

 

 こぼれそうになる涙を見せないように、アイネス・エルメロイ・アーチホールは安堵した。

 

「………ああ、イルマを、頼む………っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっくしょん! ……風邪かな?」

 

 仕事を終えたイルマは、そんな話をされているのに気付かずに、とりあえず早めに寝ようと決意するのであった。




 死因「想定外の窮地にパにくって博打を行い失敗」。もっとも、二択の選択肢がどっちも胃痛案件で、片方はギャグ的だがもう片方の場合乙女の命がマジで危険な大博打である(アイネスの計画が成功した場合、召喚時系列は聖杯大戦より何年も前になります)








 まあそれはともかく、アイネスが本気でイルマの味方である決意は理解できたと思います。

 前に鶴木が語る形で、「友情も負い目も怒りも感謝もある」とアイネスがイルマのことをそう告げていますが、まさにその通りです。
 昔からの友達で、いろいろな意味で助けられなかった負い目があって、イルマのやらかしやそもそも助けを求めてくれなかったことに怒りがあって、負い目の理由を怒らないどころか、命がけで果たそうとしてくれたことに礼を言われたので感謝もある。下手なグレモリー眷属よりも忠義あります
 ……まあ、イルマの問題児っぷりも良く知っているので扱いは悪いのですが。


 そしてイルマもまた「心から感謝してるし、本当に迷惑をかけた」と思っています。実際、彼女からすれば自業自得極まりないことで彼女に重荷を背負わせて死に導いていますからね。迷惑という言葉で形容できるレベルでないし、そこまでしてまで助けようと尽力されれば感謝という言葉も生ぬるいです。





 あと乙女・田知・美子の三人ですが、本編でがっつりかかわることを断言いたします。

 









 そして次回から旧魔王派との戦いが始まります。

 ディオドラは特に強化されませんが、もう最初っから「敵」と明言していたトルメーがいろいろと動き出す戦いになるので、同盟達も苦戦必須です。最もブルノウ達も動くので、アンチ・ヘイトタグをつけるほどの事態にはなりませんが。


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11 落日の始まり

アンケートを生まれて初めて使用しました。




内容は簡単に言えば、「固有結界の詠唱の頻度」ですね。

現状の返答の偏りを考慮すると、「基本的に詠唱は初の見せ場(事実上の真の初登場)で詠唱フル。あとは大一番の最終手段レベルの要所使用の時だけ詠唱シーンを入れる」になりそうです。

こんなややこしいアンケートを出した理由は、「ロキ戦で本格使用する予定の、とある固有結界を前座で使用する」からです。ちなみにこれは予約投稿ですが、もう発動左折直前だったので急遽アンケートのテストもかねてやってみました。なので結論としてこんな形になります。








 ちなみに、今回も別のアンケートを出します。フリードについてです。

 今回出すか考えてたけど、グレンさんトレンドである「ほぼ雑魚だった初期の敵キャラを魔改造」のパターンぐらいは出したほうがいいかと判断して、奴に白羽の矢が立ちました。レイナーレはすでに死んでるし、ディオドラ自身は特に今回強化する予定がないので、あいつしか適任がいなかったとも言えます。

 一応強化の方向性は、リメイク前の狂騒曲の段階でプランはできていましたのですぐに再設計して出せます。問題はどんな塩梅にするか……って感じなので、アンケートを使用してみようかと。









 あとアイネスの計画における乙女の役割ですが、「彼女の魔術回路の方向性ゆえに、聖杯に頼らなくてもサーヴァントを現界させ続けるることが可能」といったほうが近いです。原作でいうならイリヤが戦争開始よりはるか前からバーサーカーを召喚させていたり、UBWのエンドの一つで凛がセイバーを残しているような真似を、更に余裕をもってできるといったところでしょうか?


 リアス・グレモリーがディオドラ・アスタロトとレーティングゲームを行う、一日前。

 

 約五組の眷属集団が、とある通信を聞いていた。

 

 それを繋げるのはブルノウ・バアル。そして、通信が繋がっている者の1人はスメイガ・バアルだ。

 

『……父上。歩き巫女の準備は整い、彼女達の手引きで既に悪魔側の衛兵は配置しております。事態発生と同時に、手の者が動いた瞬間に取り押さえられるかと』

 

「ご苦労様。ボウゲツには有休を増やしてあげたいところだけど、流石に事を終えてからでないとね」

 

 スメイガの報告に満足げに頷いたブルノウは、立体映像に映し出される悪魔達のリーダー格、五人の(キング)に目を向ける。

 

 彼らの大半が後ろめたさなどを覚えながら、同時に怒りを覚えている。

 

 故に戸惑いながらも今回の作戦に賛同してくれた。どうせ後で知ってから彼女達のことを心配するだろうし、ならいっそのことある程度巻き込んでしまおうと判断したのだ。

 

 追加でいえば、禍の団と同盟の戦争は長期化はしないが激しい事になると踏んでいるスメイガとしては、若手に実戦経験をある程度詰ませておき、終盤に備えておきたいという意図も会った。特に選んだ五チームは短期間で強くなっているので、ここで後詰でも戦闘を経験すれば、きっと更なる飛躍が臨めるだろう。

 

 懸念材料は断られたトルメーだ。彼は実力が高い事もあって前線側の要請を受けていたから仕方がないが、何か反応に不穏なものを感じた。大掛かり故に監視役の歩き巫女を割けない事が残念でならない。

 

 禍の団との戦争は長期化すると踏んでいる四大魔王には色々と苦言を呈されたが、今後の世界の流れの予測が違うのだから仕方あるまい。

 

 幸か不幸か相応の規模になる事が想定できたので、現役の戦力を後詰に割くより若手達に任せた方が戦力を集中できると誤魔化しておいた。実際、あの男が禍の団を手引きして彼女達を手土産代わりに殺そうとするにしても、今回の作戦の主導者達が過剰動員を渋るだろう。

 

 まあ、あくまでこれは保険でもある。

 

 スメイガとその眷属がいれば、精鋭部隊が大量に送り込まれたとしても対応できる。イルマ達がいれば、彼女達の支援はできるだろう。

 

 何より、彼が彼女達に勝つ事は不可能だ。

 

 特殊ルールによるレーティングゲームなら話は変わるだろう。実際、それによって試合に辛勝して勝負に惨敗けた事は記憶に新しい。

 

 だが、そう言った縛りがない彼女達の能力はまさに最高峰だ。既にプロのレーティングゲームで相応の成績を出している上級悪魔やその眷属にも匹敵するはずだ。

 

 奴の能力では、圧し切る事など不可能だ。

 

 むろん、その絡繰りを眷属全員に使用すれば話は別だろう。だが、それもイルマ達がフォローに回ればまた話が変わる。

 

 故に、あくまで彼らは保険として動いた人員だ。

 

 既に大体の裏は取れている。あの男が動いた瞬間に彼自身は完全に詰みとなる。

 

 万が一逃げられてもそれだけだ。それまでの投資を取り返せるほどの利益を奴らに与える事ができない以上、冷遇されて勝手に自滅するだけだ。

 

 そして、彼が引きずり込む者達に対抗する準備も万端だ。

 

 三大勢力の者達はもちろん主力を叩き込んでいる。更に同盟がある程度進んだ勢力からも相当の戦力が送られてくる事になっている。

 

 北欧神話体系、アースガルズ。神及びヴァルキリーなどの精鋭達。

 

 ギリシャ神話体系、オリュンポス。これまた神クラスがごろごろと参加。

 

 中国神話体系、須弥山。此方も神格はもちろん、仙人すら参加する。

 

 数が多い勢力だけでもこの精鋭部隊だ。相手が彼らを最初から皆殺しにするつもりだとは言え、迎撃するには十分な戦力だ。

 

 他の和平に対して乗り気な戦力も、武闘派の神までもが参加する大盤振る舞いだ。どうやら、和平によるうっぷん晴らしも兼ねて大暴れしたいらしい。

 

 そも、敵は不意打ちで押し切るつもりなのだ。逆に誘き寄せた形になっているのだから、実力差で逆に押し切れる。

 

 とはいえ油断はできない。特に、何も知らずに囮になっている彼女達の安全確保は必要だろう。

 

 故に実戦の空気に慣れるという名目で、優秀な若手の力を借りる。つまりはそういう事だ。

 

 それに、彼らも今回の下手人には腹を立てていた。

 

『……卑劣な方法でレーティングゲームに勝利するとは、断じて許せんな』

 

 サイラオーグ・バアルは、自分で殴り飛ばすつもりなのか指を鳴らす。

 

『ふふふふふ。雪辱戦の機会がこうもすぐに訪れるとは思いませんでした』

 

 シーグヴァイラ・アガレスは、特に被害が大きい事もあってか、淑女がしてはいけない顔をしている。

 

『さて、生徒会長としては、愛すべき生徒に忍び寄るストーカーは仕置きをしなければなりませんね』

 

 ソーナ・シトリーは、冷静さを持ちながらも、同時に冷徹さをこれでもかと出している。

 

『こんな間抜けに一大作戦の手引きをさせる馬鹿どもは、逆に状況を引っ掻き回しかねませんので速やかに始末しませんとね、父上』

 

 スメイガ・バアルは阿呆としか言いようがない今回の内通者に心底からの侮蔑を向けた。

 

 そして―

 

『……とにもかくにも奴は潰そうか。あ、伯父様に一つ頼みたい事があるんですけど―』

 

 ―イルマ・グラシャラボラスは、これまでにない殺意を漲らせた表情で、周囲の眷属達の大半を引かせていた。

 

 ツヴェルフ・シトリーだけがイルマに対する同意と同情が籠った視線を向けているが、それ以外は流石に追いつけなくて引いている。

 

 あと、スメイガ以外の三眷属も引いていた。

 

 そして事情をよく知るスメイガとブルノウは、返答をとりあえず決定していた。

 

『―去勢用の鋸持って行っていいですか?』

 

「『せめて一瞬で切ってやりなさい』」

 

 男として、絶対に許せない外道が相手でも、ある程度の情けをかけなければならない時があるのである。

 

 因みにこの会話内容、後で一部に流出した結果「あのサイラオーグに冷や汗を流させた女傑」として、イルマの評価が上方修正される事となるのだが、完璧な余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、リアス・グレモリー眷属はオカルト研究部の部室に集まり、戦意を高めていた。

 

 殆ど全員がやる気に満ち溢れている。

 

 なにせ敵はディオドラ・アスタロトだ。

 

 自分達の大切な仲間であるアーシアに言いより、迷惑も顧みずにアプローチを繰り返す間男。

 

 しかもトレードという手段で手に入れようとし、それを却下されれば賭けの景品扱いする始末。

 

 自分達にとってのもう一人のリーダー格ともいえるイッセーのことを愚弄した事もあり、かなり内心煮えくり返っていた。

 

 ……ちなみに一部メンバーは、その後イルマ達に起こった悲劇の全責任をディオドラにひっかぶせようかとすら考えていた。

 

 これに関してはリアス達にも責任があるので、ちょっと大人げない。

 

「……皆。そろそろ時間よ」

 

 リアスが手を鳴らし、皆の意識を自分に集めさせる。

 

「敵はディオドラ・アスタロト。あのアガレス相手に短期突入も可能な強大な王。そして、それに驕り高ぶって私の可愛いアーシアを賭けの景品にしようとした狼藉者」

 

 アーシアを特に可愛がっている1人であるリアスは、本心から遠慮なく全力でディオドラを叩き潰す気だった。

 

 情け容赦なく叩き潰す。多少のペナルティが出てこようと、下手な手加減をする気は欠片もなかった。

 

「でもパワーだけなら私達だって引けを取らない。そして、王を倒せば終わるレーティングゲームにとって、敵の王の単騎突入は望むところ!!」

 

 そう、集中砲火を叩き付けれるのなら、相手が強大とはいえ勝ち目はある。

 

 そしてそれに呼応するように、ゼノヴィアはデュランダルを構えて強気だった。

 

 寄らば切る。そんな思いが漏れ出している。

 

「安心してくれ。今度こそデュランダルの力をレーティングゲームに生かして見せる」

 

 ゼノヴィアはアーシアに強い友情を感じている、特に可愛がっている者の一人だ。

 

 最初に会った時にアーシアに対して冷徹な態度をとりながら、それを一切気にせず友として扱ってもらっている事が原因だろう。ある意味同病類憐れむ精神もあるかもしれない。

 

 そのアーシアを奪おうとする不逞の輩。元々悪魔を切り殺す事に長けている少女なので、実に頼もしくも恐ろしい。

 

 そしてそんな中、アーシアはどこか不安げだった。

 

 上記の通り賭けの対象にされてしまっている事が原因だろう。

 

 姉のように慕っているリアス。教会出身という共通点故に特に仲のいい友であるゼノヴィア。そして、思いを寄せる大恩人であるイッセーと、離れ離れになるかもしれない。

 

 そんな不安に震えるアーシアの手を、イッセーはしっかりと握りしめる。

 

「大丈夫だ。奴がどれだけ強くたって、俺は負けない!!」

 

「……はいっ。イッセーさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、決戦の時は来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……こちら、歩き巫女第二十七班。資材搬出ルートを抑えました。家宝クラスまで持ち出そうとしていましたよ』

 

『……こちら、歩き巫女十三班。連れ出される予定だった少女達の確保に成功。敵勢力の四割を始末して五割を確保しましたが、一割に逃げられました』

 

『……こちら、歩き巫女四班。他の班と共に奴が高跳びさせた銀行の資産を抑えました。表の下手人は他の不正の証拠と共に警察署に叩き込み済みです』

 

「分かった。後詰の部隊と合流して、それぞれ確保した物体及び人材を守ることを優先してくれ。特に十三班は念入りに頼む。既に撤退したなら奪い返しに来るとも思えないが、増援には最上級悪魔とその眷属を送っておこう」

 

 私設諜報工作部隊である歩き巫女の報告を聞きながら、ブルノウは速やかに指示をだし、他の裏方達を適格に動かしていた。

 

 今回の一件は相応の大規模作戦だ。各異形勢力の合同作戦という前代未聞の事態でもある為、大失敗などしたら同盟がとん挫しかねない。

 

 そして今回の件は特に悪魔側の失態でもある。内乱の結果離反した者が主体なのである程度は責任逃れはできるが、今回は内通者が内通者なので、失敗に終わったらその辺りも怖い。

 

 なので今回は各派閥が珍しくいがみ合いをゼロにして連携をとっている。ブルノウはその中で裏方を意図的に担当する事で、余計なトラブルを更に避ける方向に言った。大活躍しての躍進する可能性より、大失態を犯して失墜するリスクを考慮したのだ。

 

 今回ブルノウが指揮を執る内容は、内通者筆頭格の抑え込みだ。

 

 彼が手土産として持ち出そうとした、実家が保有する希少なアイテム類。彼が個人的にコレクションしている、可哀想な被害者達。そして、彼が逃亡に成功してからも相応の生活を送る為に散らばらせた金銭類。

 

 それらを独自に保有する諜報工作部隊を使って全部確保するのが、今回の彼の担当だ。

 

 特に重視しているのは、彼がコレクションしている少女達。

 

 イルマ・グラシャラボラスという姪を持ち、その過去を知る者としては見逃せない。私的な理由だが、他の派閥や勢力が気にしている他二つよりも此方に気を回している。天界及び教会も、イルマの過去は知らないが、彼女達の事情を知って同意を示してくれたので楽に動けた。

 

「……スメイガ、そちらは?」

 

『……思った以上に上も下も馬鹿だったようです。軽く数百人の上級中級を送り込んでますよ』

 

 その言葉に、保険を用意したかいがあったとブルノウは安心する。

 

 念には念を入れた形だが、まさかここまで敵が馬鹿だったとは思わなかった。小物の類である事は知っていたが、それが力を持っているとこうも事態はややこしくなるのかと、頭痛を感じる。

 

 仕方がない。できれば若手同士のレーティングゲームで魔王派よりとぶつかり合うまで隠し玉にしておきたかったが、そんな沽券より冥界の未来を担う若手達の命の方が大事だ。

 

 ブルノウは、即座に決断する。

 

「スメイガ、鳩羽とボウゲツに()()を出すように伝えてくれ。……そちら側の勝利条件は「全員生存」一択だと考えるように」

 

『了解です。というか、サイラオーグが神滅具を引き連れているのですが、聞いてませんよ父上』

 

 それは私も聞いていない。

 

 とりあえず、口止めしていたであろう現大王には、後で魔王派と共にしっかり追及をする事にしようと心に決めた。

 

 そして、それはとりあえず置いておく。

 

 そう言った足の引っ張り合いは、とりあえず足並みを揃えて馬鹿どもを返り討ちにしてからである。

 

「さて、飛んで火にいる夏の虫。小物どもにはさっさと退場してもらうとしよう」

 

 ちょうどいいから、ここで血統を絶やさせてもらおう。

 

 ブルノウは自分達が思い描く悪魔社会の発展の為、腐敗した過去の権威の遺物を潰す事を決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその数分前、リアス達は完全に想定外の事態に巻き込まれていた。

 

 レーティングゲームをしようかと思ったら、いつまで経っても審判役のアナウンスがならない。

 

 それに首を傾げた瞬間、転移魔方陣が展開された。

 

 まさかいきなり目の前で激突などという特殊ルールかと思ったがそれもおかしい。というか、展開されている転移魔方陣は百や二百ではきかなかった。

 

 とどめに紋章がアスタロトの物ではない。さすがに数が多すぎて把握が困難だったが、しかし一部だけでも異常事態が理解できた。

 

 テロ組織禍の団(カオス・ブリゲート)。その最大派閥である旧魔王派に傾倒した悪魔の家系の紋章だった。

 

「……よりにもよって、レーティングゲームに介入するというの!?」

 

 リアスは戦闘態勢を取りながら歯噛みするなか、現れた悪魔の一人は嘲笑を浮かべる。

 

 それは、作戦がとてもうまくいっている者が、作戦に翻弄されているものを見る視線だった。

 

「忌々しき偽りの魔王の血縁者名だけあっておろかだな。まさか内通したものたちとのレーティングゲームなどという遊戯が成立するなどと思っているとは」

 

 その言葉に、誰もが一瞬硬直する。

 

 言葉の内容を推測する知能があるのなら、誰も側かわかることだ。

 

 そう、これは内通者がいるからこそできる芸当である。

 

 そして、内通者とレーティングゲームをすることになっていたということである。

 

 つまり、内通者の正体は一人しか考えられない。

 

「………ディオドラぁあああああ!!!」

 

 イッセーは、怒りに震えながらここにいないディオドラの名前を呼び―

 

「―やあ、何かな赤龍帝」

 

「キャッ!?」

 

 返事されたということと、同時に守るべき少女の悲鳴が聞こえたことに一瞬硬直した。

 

 しかしすぐに我に返り、声のした方を振り返る。

 

 そこには、宙に浮かぶディオドラがアーシアをつかんで動きを封じていた。

 

「ディオドラぁ!! てめえ、ゲームで決着付けるって話は何だったんだ!!」

 

「馬鹿じゃないの? なんでわざわざそんな面倒な事をしなけりゃいけないんだよ」

 

 非常に醜悪な笑みを浮かべながら、ディオドラはそう答える。

 

 元から本性は相当悪いやつだと思っていた。ゆえに、端正な顔に不釣り合いなその笑顔の方が似合っているとすら思ってしまう。

 

 ディオドラは余裕の表情を浮かべ、周囲の悪魔たちを見渡してからリアス達を見下した。

 

「君たちはここで彼らに殺されるんだ。まあ君たちが腕利きなのはわかってるけど、この数の上級悪魔と中級悪魔を相手取れるわけがないだろうしね。じゃ、死んでくれ」

 

「……禍の団に通じてるだなんて、最低最悪だわ!! まして、ゲームを汚すだけでも万死に値するわよ!! なにより、私の可愛いアーシアをさらおうとするだなんて!!」

 

 リアスは即座に全力の攻撃を叩き込んでもおかしくないぐらい激高している。

 

 怨敵禍の団との内通。誇りを持って参加しているレーティングゲームの妨害。そして可愛がっている眷属のアーシアの誘拐。

 

 逆鱗の上で三回も飛び跳ねられて、激高しないものなどいるわけがない。

 

 だが、魔力による砲撃戦闘主体のリアスでは、攻撃を叩き込めばアーシアを巻き込んでしまう。ゆえに、攻撃したくても動けない。

 

 それを理解して余裕の表情を浮かべ、ディオドラは嘲笑を浮かべる。

 

「彼らと行動した方が、僕の好きな事を好きなだけできると思ったんでね。じゃあ、君達がいたぶられている間にアーシアと契らせてもらうよ。……生き残れたら神殿の奥に来てみるといい、素敵なモノが見られるよ」

 

「……イッセー! アスカロンを!!」

 

「おうよ!!」

 

 もはや逆鱗の上でタップダンスすら踊るディオドラに対して、ゼノヴィアは切りかかり、イッセーは彼女にアスカロンを投げ渡す。

 

 そして遠慮なく、ゼノヴィアはディオドラに切りかかった。

 

「私の友達を離せ!!」

 

「いやだね。特に君は趣味じゃないから尚更だ」

 

 振るわれるアスカロンを、ディオドラは魔力で迎撃する。

 

 そして距離を取った瞬間、ディオドラは空間転移を試みる。

 

「イッセーさん! ゼノヴィアさ―」

 

 アーシアの声が転移とともに途切れる。

 

 逃げられた。その事実にゼノヴィアは歯を食いしばり、イッセーは我慢できずに声を振り絞る。

 

「アーシアぁああああああああああ!!!」

 

 返事が返ってこないとは分かっている。

 

 毎度毎度仲間を危険にさらす醜態に、イッセーは自分が許せなくなる。

 

 そして、それにかられそうになったイッセーに祐斗の激が飛ぶ。

 

「イッセーくん! まずはここを切り抜ける事が先決だ! アーシアさんとディオドラはその後にしないと―」

 

 そう声を飛ばす祐斗に、悪魔の一人が狙いをつける。

 

「生き残れると思っているのか、下賤なる転生悪魔風情が―」

 

 そして魔力を放とうとしたその瞬間―

 

「……黙るがいい、下郎が」

 

 ―その悪魔の首が、跳ね飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、禍の団と各勢力の同盟による、第二の激戦が始まった。

 

 それぞれ相応の数の勢力がぶつかり合うこの激戦において、中枢を担う双方が大打撃を受ける。

 

 故に、この戦いはこう称される事もあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その通称は、魔王の落日。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先代魔王の血筋が一つ絶え、一人が失墜した日。

 

 そして今代魔王の二大巨頭が、大きくその発言力を減らす、大いなる痛み分けの始まりだった。

 




 はい、とういうわけで激戦の始まりです。









 そして始まると同時にディオドラ(の今後)が詰んでいる件www

 ブルノウ達からすれば動き出す前に完膚なきまでに叩き潰したかったのですが、それだと禍の団の最大派閥である旧魔王派がしつこく嫌がらせをしてきかねかったので、原作通りアザゼルたちがこのレーティングゲームを餌に一網打尽にする計画を立てて行動です。

 ただし、確実に自分たちの派閥の成果を上げることを考えたブルノウは、担当として自発的に「リアス達の安全確保」と「ディオドラたち内通者による、各種持ち出しの阻止」を決定。禍の団との戦いが短期集中で行われるこという推定を前提に、リアスの安全確保には若手眷属たちを中心にすることで戦争の空気を味合わせ、同時に子飼いの諜報部隊である「歩き巫女」を総動員してディオドラによる各種持ち出し行為の阻止を行っております。

 まあ後者はディオドラが小物だったこともあってあっさりできたですが、前者はディオドラも旧魔王派も小物過ぎたことが原因で「最悪の想定の斜め上を飛び越える状況」な大戦力が来てしまいました。仕方ないので伏札にしておきたかった最強戦力に「手加減禁止」を命じました。サイラオーグの手元にレグルスがいるのは、大王派同士とはいえ派閥が違ったこともあって知らなかったので、思わぬラッキーですね。









 さて、次回予告です。

 次回の大きな展開は―

「鳩羽無双 ―大艦巨砲が本気だす 付け合わせに人海戦術を添えて」

「トルメー暗躍開始 ―不殺とは、決して良心だけで行われるものではないのである」

 ―の二本立てでお送りします。








 追伸:最近の悩み事。

 「おっぱいドラゴンの歌」って、使用楽曲情報のところで入力する楽曲コードあるんだろうか? そろそろ調べとかないといけないよなぁ。


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12 超弩級戦艦と強襲揚陸艦が合わさり最強に見える中、世界でも類を見ない腐れ外道な理由の不殺が始まる

 フリード強化の方針において、「雑魚だからいいんだ」と「最終決戦まで出そうぜ」の二極化となっており、困っている今日この頃。

 ぶっちゃけフリードの強化方針は嫌でも超強化されるので、雑魚にはできない。だが、D×Dのインフレ速度での比較対象を考えると、最終決戦まで残れるかとなるとそれはそれで難しい。困ったもんです。

 個人的にはパンデモニウム編で味方増員分も含めた数合わせとして用意するつもりだったので、二番目か四番目が本命度高かったのですが、やはり読者と作者との間にはどうしても視点のずれが生まれるということか……。








 そしてついにFate(厳密にはその設定)をクロスしているからには必須ともいえる主役、サーヴァントが絡んできます。厳密にはすでに出てきてますが、それが本格t系に正体表します。

 これでも一生懸命頑張りすぎて「ぼくのかんがえたさいきょうのサーヴァント」にならないように頑張りました。宝具が強力になりすぎないように頑張りました。全部が全部A++にならないように頑張りました。

 ですが、強力な奴は強力なのです!! 中にはすっごいのいたっていいじゃない!!



 その状況を把握できたものは、ごくわずかだった。

 

 なにせ、首を跳ね飛ばされた上級悪魔は、位置取りに不意打ちを喰らいにくいところにいたからだ。

 

 ちょうど陣形でいうなら中間地点、普通に考えればそんなところにいる相手の首を切る前に、他の悪魔たちに発見されている。

 

 そして不可解なことに、その場にいただれもがその下手人を見失った。

 

 まるで気配を完全に消したかのように、誰もが一瞬完全に見失い―

 

「……!? 近づいてきてます!!」

 

「ご安心を。我々は味方です、グレモリー眷属の方々」

 

 小猫が、あわや相手の間合いにはいる瞬間に気づいて割って入り、その下手人は軽く一礼した。

 

 仙術の使用を解禁し、優れた五感との併用ですさまじい索敵能力を発揮する小猫が、しかしぎりぎりでようやく気付けたほどの隠形。ただ物ではない。

 

 これだけの隠形ができるのなら、敵の中に入り込んで陣形の中にいる者の首をはねることもできるという者だろう。

 

 そしてリアスは気づいた。

 

 彼女とは顔見知りだ。厳密には一度顔を見た程度ではあるが、あってからひと月もたってないし、それなりに注目した覚えがあるので覚えていた。

 

「あ、あなた……スメイガの眷属じゃない!」

 

 そう、彼女はスメイガの眷属だった。

 

 騎士の駒を二つも使用した、スメイガの眷属。名前は確かボウゲツと名乗っていたはずだ。

 

 兄であるサーゼクスの騎士と同じ駒価値であることから、割と印象に残っていた。

 

 そのボウゲツが、忍者刀を構えてリアス達をかばう体勢に入ってから、静かに告げる。

 

「ご安心くださいリアス様。……我々が来たからにはそう遅れは取りません」

 

 そのボウゲツの言葉に、周囲を囲む旧魔王派たちから激怒の感情が流れ出る。

 

 当然だ。不意打ちで上級悪魔が一人やられたとはいえ、増援はただ一人。

 

 下級中級はもちろん、上級までいる。さすがに若手悪魔程度に最上級クラスは沽券にかかわるので送り込んでいないが、それでも圧倒的に有利なのはこちらだった。

 

 それを、転生悪魔風情が「遅れは取らない」などと、たった一人できて発言する。

 

 当然の如く、ブちぎれるものたちが発生する。

 

「状況分かってんのかてめえら! こっちが何百人用意してると思ってんだ!」

 

「たかが十人前後で何ができる! こちらには蛇で強化したものだっているんだぞ!」

 

 言うなり攻撃を放とうとするものたちに、リアス達は警戒し―

 

「……何百人? すまんが、それでは驚けないな」

 

 ―ボウゲツは、そういうなり視線で回りを示した。

 

 具体的には、彼らが取り囲んでいる範囲の更に外側の地面を示した。

 

 それを気にして何人かが警戒しながら振り返り―

 

『『『『『『『『『『………は?』』』』』』』』』

 

 ―いつの間にか、自分達の数倍の数の人型の魔獣が取り囲んでいることに気づいて、あっけにとられる。

 

 異形技術を流用したと思わしく銃火器類で武装した、その人型魔獣たちは、完膚なきまでに旧魔王派たちを取り囲んでいた。

 

 その数、だいたい千体以上。明らかに旧魔王派を数で圧倒している。

 

 そして、それを率いるのは一人の女性。

 

 大日本帝国海軍の軍服に身を包んだ、一人の女性。

 

 名を陸奥鳩羽。スメイガ・バアルの女王にして、変異の駒で転生した悪魔である。

 

 そして鳩羽は狼狽する旧魔王派たちをにらみつけ、手に持っていた軍刀の切っ先を代表者らしきものたちに突きつける。

 

「……そこの愚者共に告げる。私は誇り高き大日本帝国海軍の魂を持つものとして恥じぬため、日ノ本の未来に貢献することを約束してくれたスメイガ・バアル様の女王(クイーン)として誇り高くあるため、貴様らに投降の機会を与える」

 

 そして、傲慢さすら感じられるほどの堂の入った態度で、断言した。

 

「選べ。何も得られない敗死か、自らの間違いを悟っての生存のどちらかを!!」

 

「ざ、ざ、ざ……ざけんなよ、このまがい物がぁ!!」

 

 当然ながら、旧魔王派の悪魔たちは激昂する。

 

 当たり前といえば当たり前だろう。

 

 転生悪魔制度を否定する旧魔王派が、寄りにもよって転生悪魔に降伏勧告を受ける。この時点で屈辱以外の何物でもない。

 

 即座に攻撃を叩き込まなかっただけでも、彼らはまだ冷静な部類だった。

 

「いかに数で勝っていようと、我らは中級悪魔に上級悪魔だぞ! 蛇の加護を承った者たちすらいる我々に、有象無象が勝てると思っているのか!!」

 

 そう言い放つ悪魔は魔力を込め―

 

「―有象無象? ふざけるなよ?」

 

 ―その殺意が込められた返答に、一瞬息を詰まらせた。

 

 それだけの怒りを込めながら、鳩羽は静かに告げる。

 

「舐めるなよ? いかに体は私が作ったつたない魔獣とはいえ、彼らに宿る魂は、国の繁栄のために命を懸けた英霊たちだ。それも、日ノ本に対する援助と引き換えとはいえ、人の身を捨て去った私に、今も力を貸してくれる同胞思いの者たちだ」

 

 怒りに震えながらそう言い放ち、鳩羽は軍刀を握る手に力を籠める。

 

 そして、本気の怒りを込めて宣言した。

 

「貴様らごとき薄汚い蝙蝠程度が、愚弄できる存在ではないと知れ、下郎!!」

 

 そして、思いっきり相手の地雷を踏みぬいた。

 

 ―上等だ。ぶち殺す。

 

 旧魔王派の悪魔の心が一つになり―

 

「―真名開放、魔弾創造(キャノンボール・メーカー)及び、七代戦艦が一角(ビックセブン・バトルシップ)同時発動!!」

 

 ―その心に沿って動き出すより早く、蜻蛉のごとき虚栄が姿を現す。

 

 軽く数十門の大砲を持つその蜻蛉は、とある分類で呼ばれる艦船と同じ姿をしていた。

 

 そう、第二次世界大戦において不名誉な撃沈を遂げながら、しかし戦後も日本に貢献した存在。

 

 世界を代表し、マニアが絶賛する、ビッグセブンの異名を持つ大戦艦。

 

「………長門級戦艦?」

 

 一人、戦艦マニアがいたらしく、ぽつりと声が聞こえた。

 

 そしてそれにうなづきながら、鳩羽は告げる。

 

「我が偽りの名、陸奥鳩羽。我が忌み名、櫛橋鳩羽。我が器の名、騎乗兵の英霊、ライダー」

 

 その言葉とともに砲門及び魔獣たちが持つ銃火器の銃口が悪魔たちに向けられ―

 

「我が真名、長門級戦艦陸奥!! 推して参る!!」

 

 ―大火力の砲撃が、悪魔たちを蹂躙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『『ぎゃああああああああああ!?』』』』』』』』』』

 

 凄まじいレベルの密度の砲撃にさらされながら、しかし旧魔王派の悪魔たちは頑張っていた。

 

 大口径の砲弾から放たれる砲弾は全部キャニスター弾頭。それも、どんな仕組みでできているのか散弾の一発一発が下級悪魔なら粉砕できる火力。

 

 魔獣たちの攻撃も、悪魔祓いの銃に匹敵する火力がポンポンぶっ放される。

 

 そんな圧倒的砲火に対して、旧魔王派たちも連携をとって障壁を張ったり砲撃を放ったりして応戦する。

 

 そんな、事実上数百体の大火力戦争を見て、リアスはぽつりとつぶやいた。

 

「……え、どういうこと?」

 

「なにを観客ムーブしてんだ、コラァ!!」

 

 そんなリアス達の態度に怒りを覚えた旧魔王派の一人が突撃する。

 

 どうやら上級悪魔クラスらしく、勢いよくその魔力をためて放つ体勢になり、しかし彼は気づいた。

 

「いや、そうはさせん」

 

 後ろから迫るその声に対して、その悪魔は振り返りながらために貯めた魔力を放つ。

 

 絶大な火力だ。平均的な上級悪魔クラスは十分ある。核シェルターの隔壁すら貫通しそうだ。

 

 だが、まったくもって無意味だった。

 

 具体的には、砲撃を真正面から拳で粉砕され、自分もまた一撃で叩き潰されるぐらいには、無意味だった。

 

「ふん! 旧魔王派の狼藉者たちには負けられんさ!」

 

 そう告げた一人の大男は、軽くこぶしを握り締めなおして調子を確認すると、周囲を警戒しながらもリアスたちに片手をあげる。

 

「リアス、それに兵藤一誠! 無事なようだな!」

 

「さ、サイラオーグ!?」

 

「サイラオーグさん!? 何でここに!?」

 

 驚くリアスとイッセーだが、状況はそれだけでは終わらない。

 

 気づけば、戦闘のどさくさに紛れて数十人の悪魔たちがリアス達をカバーするように駆けつけてきた。

 

 その誰もが見おぼえがある。っていうか、顔を合わせてから二月もたってない。しかも二セットは毎日のように顔を合わせている。

 

「シーグヴァイラ!? それにソーナにイルマも!?」

 

「久しぶりですね、リアス。……あの下郎には逃げられましたか」

 

 血走った眼で周囲を確認しているシーグヴァイラを意図的にスルーして、ソーナは周囲をすぐに確認して状況を認識した。

 

「……アーシアさんはさらわれましたか。ごめんなさい、リアス。此処までディオドラが大規模な行動に出るとはブルノウ様も魔王様たちも想定外でした」

 

 なんかとんでもないことがどんどん出てきている。

 

 なぜソーナたちがここにいるのか。そもそもディオドラの行動を想定外の規模といったが、行動を起こすことは予測できていたというのか。っていうか、ブルノウや魔王たちが動いているというのか。

 

 自分たちだけが蚊帳の外に置かれているというのだけはよくわかった。あとで絶対何かしらの関与をしているだろう兄と顧問を問い詰めよう。

 

 リアスがそう決心したとき、イルマが、リアスの肩に手を置く。

 

「で、ディオドラをそのままにする気はないんでしょ? ああいうタイプは居場所を堂々というタイプだろうしね」

 

「ええ。アーシアは私たちが助け出すわ。そもそも、ディオドラをこのままにする気なんてかけらもないわ」

 

 そう即答するリアスに、眷属たちも追随して頷きを返す。

 

 そんなリアス達に、態勢を整えなおした旧魔王派たちが動き出す。

 

 鳩羽との戦闘を半分ぐらいの数で膠着状態にまで持ち込み、残り半分でこちらを圧殺しに来る態勢だった。

 

「させると思うか!」

 

「偽りの魔王の末裔共がそろいもそろって! ここで滅ぶがいい!!」

 

 そして一斉に魔力を放とうとした、その瞬間―

 

「―いや、お前たちの好きにはさせないさ」

 

 その言葉共に、絶大な消滅の魔力が彼らを吹き飛ばした。

 

 それをなすのは、一人のバアル分家の青年。

 

 この場にいる面子を想えば、彼が出てくることは当然想定できていた。

 

 リアスは半分ほど呆れながら、彼の名を告げる。

 

「スメイガ・バアル。……この事態、ブルノウ様はどこまで把握していたの?」

 

「作戦の一部門の指揮を担当しているさ。言っておくが、父上はむしろここまで大ごとになる前に解決しようとした側だからな?」

 

 そう言いながら、ブルノウは周りを警戒しつつ、リアス達に親指を立てて見せる。

 

「ここは私たちに任せて先に行け! あ、イルマ達はリアス達のサポートに回るといい」

 

「OK! イルマさんもディオドラはぶちのめしたいから、全力でサポートするよー!」

 

 にこやかに、しかし明確に怒気を込めながら、イルマはそう宣言する。

 

 そして、それをカバーするようにサイラオーグたちが旧魔王派たちとにらみ合う。

 

「バアルの一員として、旧魔王派の暴虐は見過ごせんな」

 

「ディオドラには一発かましたかったのですが、ここは譲るとしましょう」

 

「生徒の危機を救うのも生徒会の務め。リアス、アーシアさんを助けに行きなさい」

 

 サイラオーグが、シーグヴァイラが、ソーナが、眷属たちを率いて真っ向から旧魔王派の悪魔たちとにらみ合う。

 

 そしてそれを率いるように、スメイガが一歩前に出て告げた。

 

「さあいけ! 言っておくが、父上からは「全員生存」が絶対条件と命じられているのでな。死ぬなよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これは、大盤振る舞いにもほどがあるね」

 

 そして、一人の悪魔が苦笑する。

 

 禍の団の主要派閥。旧魔王派による大規模テロ行為。

 

 内通者と怨敵の妹が、数々の神々をゲストとしておこなうレーティングゲーム。そこに全力の襲撃を仕掛けるこの計画だが、完全に迎撃態勢が整えられていた。

 

 そのあたりについては通達があったので一応伝えていたのだが、それでも強行したので被害も甚大だ。

 

勿論被害が甚大なのは禍の団のほうだ。神々までもが参戦している以上、いかにオーフィスの蛇があったとしても、質において劣っている。そんなレベルな高品質の敵が数をそろえているのだから、面ではともかく点では突破されて当然だろう。

 

 こと旧魔王末裔は、自分達さえ残っていれば悪魔という種族は安泰だと思っている節がある。被害が出てもどうってことはないと思っているのだろう。

 

「マスター。あの馬鹿どもの支援をしてやる必要があるのか?」

 

 彼の女王がそう進言するが、彼は静かにうなづいた。

 

「勝算はあるからね。あれがうまくいけば一発逆転。神々はきっと訳が分からないなりに、自分達の死を理解するはずさ」

 

 そう、それほどまでに今回の作戦には勝機があった。

 

 無謀な戦いではあるが、嵌れば大勝は確実。そして、現政権側がレーティングゲームをみすみす続行したということは、その作戦の根幹には気づかれていない。

 

 気づいていれば、レーティングゲームを本当に続行させはしない。よしんばするにしても、まず間違いなくアーシアは何らかの手段で隔離するだろう。シトリーとグレモリーの試合を参考に「ランダムで眷属の1人を隔離」とかいう特殊ルールを組み込むはずだ。

 

 ゆえに気づいた時にはもう遅い。あのレーティングゲームのフィールド内にいるものでしか対処する時間はないだろし、対処可能なものが侵入するまでですべてが終わる。

 

 どうやら魔王たちもアーシアの強引な誘拐は想定外らしく、すでにアースガルズの主神であるオーディンが侵入を試みている。しかしそれを踏まえても賭けるだけの価値はあった。

 

「うまくすればオリュンポスの神々も数多く殺せるからね。特に今回、ポセイドンを殺す好機のサポートができるってことで、ニスネウスが本腰を入れてキラルナを連れて行ったしさ」

 

 なので、後詰としてあのフィールドに入っているうえ、相方としてもう一人連れてきている。

 

 あの二人は組み合わせると実に厄介なコンボになる。そも、さっき言ったニスネウスは神に対しては反則じみた優位性を誇り、キラルナも対神の力を持つ。いかに北欧の主神といえど、あの二人を同時に相手にすれば、一人では返り討ちにあう可能性すらある。

 

 よしんば突破されたとしても本命の装置が厄介だ。神の奇跡を相当の時間使わねば、神殺しの禁じ手で作られし結界装置は破れまい。目覚めたての二天龍では、神殺しの格で劣るのでとても不可能だろう。

 

 そういう意味では、被害は甚大だがそれ以上のぼろもうけが期待できる。そしてその賭けの本質に同盟が気づいてないこともあって、この戦いはハイダメージハイリターンといったところだった。

 

 だが、どうせならもっと派手に行きたいし、失敗する可能性も考慮しよう。

 

 失敗したら旧魔王派の権威は失墜する。あくまで独立勢力ではあるが、旧魔王派のつてで参加した身なので、悪影響を受けかねない。

 

「……ディザストラを27体投入しよう。そして、彼らを盾にしながら僕たちも引っ掻き回そうか」

 

「いいのかマスター? ディザストラ27体の損失を埋め合わせるのは、マスターでも骨だろう?」

 

「大丈夫だよ。九日間の間、君が毎日二時間しっかり僕を護衛してくれれば、すぐに埋められる量さ」

 

 女王にそう告げる彼は、その表情にほっとした感情を浮かべる。

 

「幸い適性を手にした蝶魔術(ピブリオ・マジック)も慣れたから、もしかしたら七日間ぐらいで埋めれるようになるかもしれないしさ」

 

 そして、彼は後ろにいる残りの眷属たちを振り返る。

 

 キラルナと双璧をなす戦車(ルーク)、デメルング。

 

 二駒使った僧侶(ビショップ)、ゲッテル。

 

 七駒も使った兵士(ポーン)、デュリンダナ。

 

 変異の駒(ミューテーション・ピース)を使ったもう一人の兵士(ポーン)、トウケン

 

 そう便宜上名付けた彼らを従え、そして告げる。

 

「じゃあ、騎士(ナイト)のニスネウスと戦車(ルーク)のキラルナが結界装置を守っている間、僕たちは後ろから奇襲攻撃だね。ニスネウスはともかくキラルナは最後に真名名乗りそうだし、オリュンポスの連中はあえて避けて、アースガルズのヴァルキリーとか、最上級悪魔とその眷属や、須弥山の仙人とかを狙おうか」

 

 買い物に行くような感覚で、楽しそうに告げる彼は、さらに付け加える。

 

「あと追加オーダー。基本的に後遺症が残る怪我を重視して、殺しは今回は避けること。腕を引きちぎって燃やしたり、目をえぐり取って握りつぶして、絶対に治らない後遺症を負わせることを最重要視するように」

 

 そう子供がゲームをするかのような感覚で告げられる言葉に、仮面をつけた彼らはその意図を理解する。

 

 彼はこの作戦が成功することも考慮している。

 

 後遺症が残るレベルの重傷者が出てくれば、カバーする者が出るので、総合的に優位に動かせる。また、本命が発動すれば、彼らも連れて行こうとする心優しいものたちが逃げにくくなる。

 

 足手まといを増やせばそれだけこちらに有利になるし、結果的に討ち取った敵の数が増えるのだから、禍の団内部でもそれなりの発言力を手にできるだろう。

 

 また、彼はこの作戦が失敗することも考慮している。

 

 だからこそ、なおさら生かしておくのだ。重い後遺症を負わされたものたちが、最低でもキラルナの来歴を知れば、オリュンポスや三大勢力に対して不快感を抱くことを見越している。同盟の足並みを憎しみの感情で妨害する気だ。こと彼の血統とその影響力を考えれば、最強の魔王に対するヘイトもたまるだろう。

 

 ディオドラの暴挙によって、二大巨頭の片割れは足を引っ張られるだろう。そのうえでもう片方に対するヘイトもたまれば、悪魔は動きづらくなるはずだ。

 

 同盟の中枢たる三大勢力が一角の、想定外の大スキャンダルは効果的だ。大王派などの愚者が足を引っ張ってくれることも考えられる。

 

「それじゃあ、縛りプレイで特攻してまで築き上げてきた信頼を崩しに行こう。ふふふ、サーゼクス様やジオティクス様が責められる姿が見られないのだけが残念だよ」

 

 そう心から残念そうに告げ、彼は女王とともに並び立つ。

 

「―アルケイディアは帝釈天の足止めを任せるよ」

 

「承知した、マスタートルメー」

 

 女王(クイーン)、アルケイディアに指示を出し、トルメー・グレモリーが動き出す。

 

 この戦いにおける、同盟最大の想定外が動き出した。

 




 超大暴れする戦艦陸奥こと陸奥鳩羽さん。ちなみに彼女は特殊なケースでして、ライダーのサーヴァントなだけあり宝具が豊富なタイプで三つ(後天的に四つ)保有している猛者です。

 もともとは「ぼくがかんがえたサーヴァントwiki」みて考えていた長門の方をサーヴァントにする予定でした。しかしその来歴や参考にしたデータ故に宝具が特攻宝具になるので、真の力を発動させる場合死亡が必須だから、避けるために陸奥になったという経緯があります。近日活動報告で投稿予定ですので、みんな見に来てね!!

 あとボウゲツもボウゲツでサーヴァントです。まあ正体はこれまでの情報から一人確実にいるだろ的な人物が思い起こされると思いますが彼女です。これに関してはホーリー編のエピローグ的な話とかで説明します。









 そしてトルメーも本腰を入れて本性を現しました。

 彼の眷属は、推測している方もいましたが、全員が受肉したサーヴァントです。加えて超高性能な生物兵器、ディザストラを保有しており、規模は禍の団の一派閥程度ですが、質においてはかなりやばいです。

 そして、世界でもトップクラスにタチの悪い理由で不殺戦法を選択。

 旧魔王派の作戦が成功したときは、離脱する連中を減らすことができる。失敗したとしても、同盟内での不和をある程度誘発可能。そして何より、そっちのほうが個人的に楽しい。そんなすさまじく性格の悪い理由で動きます。

 こいつ、連載継続がほぼ不可能だと判断しているケイオスワールド2で出す予定だったチート能力に、さらなるプラスまで行っている規格外です。特に相性上サーゼクスは単独では天地がひっくり返っても勝ち目ゼロという化け物。超越者で一番渡り合えるのはたぶんリゼヴィムでしょう。それもお互いの相性上、先日手になるのであって勝てるわけではなし。アジュカは一応、覇軍の方程式は魔力運用形式みたいなので、こちらもサーゼクスの次ぐらいには不利ですね。

 そんなトルメーの眷属たちの化け物っぷりは、次の話をお待ちください。

 


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13 リアルに一騎当千の前衛はいなくても後衛はいる。なら、フィクションで一騎当千の前衛がいるなら後衛がいてもいいよね?

ディオドラの腐れ外道のところへと向かうイッセーたちと、それを援護するイルマたち。









だがしかし、最初の関門からしていきなり難易度マストダイ!!


 放たれる弾幕が、追いすがる旧魔王派の悪魔たちを蹂躙する。

 

 一発一発が上級悪魔の大技クラス。そして、その連射速度は秒速十発を超える。

 

 制圧射撃ならぬ制圧砲撃というべき攻撃のせいで、中級下級の旧魔王派たちは近づくことすらできなかった。

 

 そして、それをなすのは一頭の二角獣を乗りこなす一人の悪魔。

 

 ユニコーンと対を無し、不純を司る馬であるバイコーン。それを従えるには、馬の調教において優れた能力を持ち、かつ貞淑さからほど遠いものであることが求められる。

 

 元七十二柱の中で、馬を司る上級悪魔の血族。動物を支配して思い通りに操り使い魔とする、魔術師の特性を持った存在。そして、主の淫行に対して苦言を呈するどころか同伴してくれないことに文句をつける淫靡な少女。

 

 カタナ・フールカスが三光叫喚(ディストラクション・スクリーマー)を連射モードで撃ちまくりながら、迎撃を行っていた。

 

「駆けなさいませ我が愛馬、ノダチ! そして連装モードで吠えなさい、我が三光叫喚(ディストラクション・スクリーマー)!!」

 

 そう吠えながらの乱射に、敵は接近したくてもできないものが大多数だ。

 

 というか、上級悪魔が本気を出しても抜き打ちなどできない砲撃を、秒間十数発も打ち放つなど理解ができない。

 

 しかも多少のインターバルは挟んでいるが、どうも砲身の冷却のためのようで魔力が切れる様子もない。息一つ切らしていなかった。

 

「な、なんだあの化け物はぁああああああ!?」

 

 そう悲鳴を上げる者がいるのも当然である。

 

 だが、それをかいくぐることができるだけの実力者も中にはいた。

 

 弾幕は文字通りの制圧射撃で、とにかくばらまいているのが特徴だ。狙いをあえて付けないことで、広範囲に対する牽制を行っている。

 

 故に、根性があれば突貫することは可能だった。

 

「おのれ、この薄汚い偽物にすがる連中がぁ!」

 

 そして何とか砲撃をかいくぐり、そして上をとって攻撃を叩き込もうとしたその悪魔は―

 

「カタナに手を出すんじゃねえよ、チンピラ悪魔!」

 

 即座に別方向からくる砲撃を回避する羽目になった。

 

 そしてそれをなしたのは、一台のバイクを駆る一人の少年。

 

 明らかに一品ものっぽいバイクに乗った少年は、しかしバイク故に両手が使えない。

 

 なにせこちらは一応攻撃ぐらいはしているのだ。馬がある程度は自分で判断してくれるカタナ・フールカスはともかく、バイクでそれを回避するには両手による繊細な操作を必要とする。

 

 が、それは腕が()()()()()()時の話だ。

 

 今、彼の腕は四本あった。

 

 背中から生える、一対の腕。それが交互に荷電粒子の弾丸を放ちながら、カタナを狙った悪魔を迎撃する。

 

 狙いは甘いので回避こそできたが、しかしそれでもこちらをきちんと狙ってくるのでは意識を向けるほかない。

 

「カタナ! こっちも迎撃できる数には限りがあるんだから気を付けろよ!」

 

「わかってますわ、鶴木! ですが、あと少しで残敵は後退するのですから、ここがふんばりどころですもの!!」

 

「だったら貴様だけでもぉ!! 」

 

 仲がよさそうな様相を見せる二人に、その悪魔はかなり怒り狂った。

 

 いちゃつきというより家族のような掛け合いだが、男女の仲睦まじい様子は独り身にはきつい。

 

 そして、彼は独り身だった。

 

 その嫉妬の炎を燃やして、攻撃を叩き込もうとしたその瞬間―

 

「ほい、隙ありや」

 

 ―龍をイメージさせる魔力を身にまとった少女に殴り飛ばされて、その悪魔は地面にたたきつけられて失神した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せめて、一発でいいから殴りたかった。俺、彼女にフラれたばかりだったんだ………っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、捕虜になったときにそう漏らしたその悪魔は、尋問したものたちの好意でビフテキとワインを夕食におごってもらったらしい。

 

 その尋問をした悪魔は、サーゼクスのシンパであったことがあだとなって、「魔王の落日」で立場が多少苦しくなっていた。しかも、それが原因でブルノウ派に鞍替えした彼女と喧嘩別れしたこともあって、人ごとに思えなかったのだという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいまイルマ姉さん。周りはカタナと鶴木が警戒しとるし、追いかけてきた連中は全員撃退もしくは追い払い成功や」

 

「ご苦労様じゃん! ほーれよしよしよーし!」

 

 リスンはイルマに撫でられるが、それを気持ちよさそうに受け入れていた。

 

 外見年齢を考慮しなければ親子のようなその光景を、しかしイッセーは認識している暇がなかった。

 

 今イッセーたちは、巨大な馬車にのって突撃している。

 

 目的地はディオドラが「そこでアーシアと契る」などとかほざいた神殿。距離にして後30kmといったところか。

 

 走ったり飛んだりして向かうよりは体力の消費が少ないということで、万が一のためにブルノウが用意したらしい。

 

 ちなみに、馬は全部カタナが調教したものだ。

 

 イルマ・グラシャラボラス眷属の悪魔全員分が馬系統で統一されている。カタナの馬の調教センスは素晴らしく、さらに魔術的な使い魔の技術を教えたことで、すさまじい速度で馬を育てることができるとか。

 

「世が世ならライダーのサーヴァントになりかねん女だが、今はどうでもいいな」

 

 そう告げたアイネスは、素早く神霊髄液を利用して一種のモノクロ映像じみた真似までして、わかりやすく説明してくれた。

 

 曰く、ディオドラは禍の団に内通していた……どころか、かなり前から旧魔王派と接触していたらしい。

 

 曰く、ディオドラはオーフィスの蛇によって強化されていた可能性が高い。シーグヴァイラの眷属相手に無双したのは、その力によるブーストと思われる。

 

 曰く、旧魔王派はディオドラたち内通者の力を借りて、現魔王関係者の暗殺を行っていたらしい。グラシャラボラス本来の次期当主の事故死も含めて、かなりの数にかかわっているそうだ。というか、グラシャラボラス次期当主の死はディオドラが一枚かんでいることが断言できたとのことだ。

 

 曰く、このレーティングゲームのゲストに各神話の神々がいることもあって、禍の団の旧魔王派は世界転覆の狼煙として現魔王派の関係者を中心に血祭りにあげるつもりでテロを起こしたらしい。

 

 曰く、事前にディオドラを捕まえて阻止するよりもこのまま襲撃を誘発させて、迎え撃って禍の団最大派閥である旧魔王派を叩き潰す方が将来的なメリットがあると、アザゼルが提案。各神話勢力の猛者たちが乗り気だったこともあり、サーゼクスやブルノウが押し切られて、このカウンター作戦が発動したらしい。

 

 曰く、元から禍の団との戦いを「短期間かつ高密度」と判断していたブルノウは、激化する前に若手に戦争の空気だけでも経験させ、かつディオドラと旧魔王派幹部が「若手眷属一チームをつぶすためだけに戦力を多めに割く」という馬鹿でなければしない、到底低いとしか言えない可能性の保険として、会合に参加した若手悪魔たちを招集。トルメーは戦力が強大なので本命の神々側につくことになったが、それ以外はリアス達の窮地に対する保険となるために参加してくれたこと。

 

 曰く、さすがにあの質と量の併用は想定外だったので、伏札にする予定だった鳩羽の全力を開放したとのこと。こちらについてはすべて終わった後に改めてボウゲツとともに詳細を説明すると確約してくれた。

 

 曰く、それと同時にブルノウは、ディオドラによる各種持ち出しをボウゲツが隊長を務める諜報工作部隊「歩き巫女」を指揮して確保しているらしい。ディオドラは禍の団に入ったとしても先立つものがないからいつか自滅するとのこと。

 

 そして、これらはすべて余談である。

 

 ………最悪の情報は、ここからだった。

 

「………アイネスさん、イルマさん、リスン。マジなのか?」

 

 イッセーは、震える声でそう確認をとる。

 

 信じたくなかった。信じられなかった。信じることを拒否したかった。

 

 元から、ディオドラはいけ好かなかった。

 

 イケメンというだけで嫉妬心が出てくるのに、さらにアーシアを口説く間男。挙句の果てにこちらを見下しきっていた。

 

 近いイメージとしては、リアスの婚約者だったライザーだ。あの男も最初はこちらを馬鹿にしてきた。

 

 だが、今の話を聞いたらライザーに謝りたくなった。

 

 あの男は、無様をさらしたイッセーに「お前はリアスの眷属である」ということを強調し、イッセーがさらす無様はリアスの無様にもなることを遠回しに伝えてくれた。リアスのためだとは言え、わざわざ教えてくれた。決闘したときも、こっちの覚悟と性能を理解して強敵だと認識し本気を出した。

 

 だが、ディオドラは違う。

 

 ディオドラ・アスタロトの眷属や周囲の使用人について調べた歩き巫女たちが、すべてを調べてくれた。

 

 彼の眷属のうち、女性は全員が元シスターや聖女と称された人物。さらに家で囲っている使用人や愛人なども同様。それも、熱心な信徒や教会本部に近いものたち。

 

 この露骨なまでの統一は、もはや趣味としか思えない。

 

 さらにディオドラが保管していた手紙から、アーシアについて情報交換が旧魔王派との間で行われていたということが判明した。

 

 そこに乗っていたのは、教会ですら当時はわかっていなかった、アーシアの神器の詳細情報。

 

 アーシアの神器である聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)は、悪魔すら治すことができる。だが、聖書の神が死んだ現状で、悪魔を神の力がいやせるなど知られれば信仰に影響が出る。そうなれば聖書の神が残したシステムに悪影響が出るので、悪魔をいやせると判断されれば教会から追放されるだろうということ。

 

 ……簡単に結論は出る。

 

 ディオドラは、信仰心の強い女性をたぶらかして手籠めにすることに悦楽を感じる外道であり、そのためなら自分に傷跡が残ろうとかまわない、趣味のために生きる、タチの悪い男だ。

 

 そう、アーシアが追放されたのは、ディオドラ・アスタロトという一人の外道の悪意だということだ。

 

 それを、三人は静かにうなづいて認める。

 

「裏は取れてるじゃん。……ブルノウ伯父様が、保護したディオドラが部下に連れ出させようとした、使用人の一人に尋問して聞き出し終わってる」

 

 声のトーンが平たんな、怒り狂っていることが嫌でもわかるイルマの言葉がすべてを物語っている。

 

 状況証拠も証言もそろった。さらに物的証拠まで

ある。

 

 もはや語るまでもなく、ディオドラという男を許す理由はなくなった。

 

「………イルマさん。ディオドラは、一応今の魔王ベルゼブブ様の血縁者なんですよね」

 

「まあ、ベルゼブブ様は実家とは縁が薄いから大丈夫だとは思うけど、ルシファー様とは悪友らしいから、リアス部長の眷属なイッセーは殺さない方がいいじゃん」

 

 イルマにそう言われて、イッセーもこぶしを握り締める。

 

 思っていたのとは事情が違うが、しかしそれなら確かにディオドラを殺すのはまずい。

 

 いろいろと主の兄であるサーゼクスがややこしいことになるだろう。それは、我慢しなければならない。

 

 だが、イルマはこう続けた。

 

「でも(禁則事項)を引きちぎるのはイルマさんが許すじゃん。責任は全部イルマさんがとるって言うか、タマの片方はイルマさんが噛み千切っていいかな? あ、ちゃんと千切るときはつぶさずに、ディオドラの目の前でつぶすから安心して?」

 

「……すいません。ディオドラに同情したくないから落ち着いてください」

 

 一瞬でディオドラに同情心が生まれてしまった。

 

 よくよく見れば、イルマの目はいつの間にかまったく笑っていない。表情はこちらを和ませるためか笑顔なのが、余計に怖い。

 

 全くよくわからないが、どうやらディオドラはイルマの逆鱗を踏み抜いているらしい。これはまずい。

 

 ディオドラに対して手加減をしてしまうかもしれないという、とりあえず殺さない方が後々情報収集的に楽なので気にしなくてもいい不安を覚えたイッセーは、気合を入れなおす目的で神殿をにらみつけ―

 

「ん?」

 

 アイネスのその声とともに、銀色の幕が目の前を覆った。

 

 そしてその次の瞬間、それを突き破って矢じりのようなものが少しだけ姿を見せる。

 

 三秒。イッセーは思考が停止した。

 

 そして、全員が同じようにぽかんとなり―

 

「……一応、|神霊髄液《ウォールメン・ハイドログラム・アドバンスド》の自動防御を設定して正解だったか。まさかこの距離から正確に狙撃ができるわけもないし、おそらく牽制がたまたま命中コースだったのだろう」

 

 アイネスはとりあえずそう結論付ける。

 

 当然といえば当然だろう。

 

 ここから神殿まで、まだ20kmを超えている。望遠鏡を使っても、そんな距離から離れている人物を見つけるのは容易ではない。馬車の中という物陰ならなおさらだ。

 

 纏めて広範囲を吹き飛ばす砲撃なら、まあおかしくない。それならいい。

 

 だが、狙撃で当てるなど不可能だ。

 

 狙撃とくればゴル〇13とかが想定されるが、あんなものはフィクションである。

 

 考えてみるといい。上級悪魔クラスの砲撃なら、砲撃の半径がメートル単位でしかも二けた以上だから当てるのもだいぶ楽だろう。だが、狙撃とは銃弾や矢である以上、半径に換算すれば大きめに見積もってセンチ単位で、しかも一桁だ。

 

 それを当てるのがどれだけ大変かなど、言うまでもない。

 

 人間世界でいうならば。狙撃銃による狙撃の場合、1kmも離れていれば人体のどこかに当てることができただけで奇跡なのである。

 

 それが、20km先の地点から相手の頭を狙った狙撃など、できるわけがない。

 

「とはいえ、敵も迎え撃つ体制はできているというわけね。これは面倒だわ」

 

 リアスはそう判断し、警戒心を強くする。

 

 ディオドラに対する殺意は絶大だが、しかし警戒する必要が増えたことでそれを抑えるほかなくなってしまっている。

 

 そも狙撃とは、確実に命中させる以上に「狙撃されている」とう事実を認識させることが重要なのだ。

 

 そういう意味ではこの狙撃は確かに成功している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―その認識は、あまりにも敵をなめてかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、部長。とにかくディオドラの奴をどうするかですけど―」

 

 ディオドラに対する怒りで、イッセーは狙撃が命中しかけた恐怖が薄かった。

 

 そのため、すぐに動けた。リアス達のほうに近づきながら、身をひねらせる。

 

 その瞬間、食い込んでいた矢がいきなり高速で飛んできて、イッセーの服をかすめた。

 

 それに一瞬遅れて視線を矢が突き刺さっていた方向に向ければ、そこには新たに矢が突き出ている。

 

 そう、それは漫画とかの超絶技巧で見たことがよくある内容だ。

 

 狙撃で当てた弾丸に更に狙撃を叩き込み、防壁を貫通する神業。狙撃とか銃撃とかの使い手がやるタイプの超絶テクニックである。

 

「……ちょっとカタナに鶴木!? 敵確認してほしいんだけど!?」

 

 思わずイルマが絶叫するのも当然だ。

 

 いくらなんでもそんな超絶技巧。まだ十五キロ以上離れている場所からできるわけがない。

 

 つまり、敵はもっと近いところからいるはずであり、すなわち二人が確認してくれないと困るのである。

 

 だが、その二人は怪訝な表情を浮かべた。

 

「はい? 使い魔を放ってますけど何も見つかりませんわよ?」

 

「……双眼鏡で確認したけどよ、遺跡の入り口辺りに二人いるぐらいだぜ?」

 

 その二人の返答に、誰もが絶句する。

 

 何度も言うが、どんどん近づいているとはいえまだ十キロ以上余裕で離れている。

 

 そして、面制圧で広範囲を吹き飛ばす「砲撃」ならともかく、一点収束でピンポイントで貫通する「狙撃」でそんな距離を当てるのは不可能に近い。

 

 それが、一回当てた場所と同じところに当てる。それも、移動している馬車の中という、視認困難な場所でだ。

 

 へたをすれば、イッセーもたまたま狙われたのではなく、禁手に覚醒した赤龍帝という最強格の戦力が視線をそらしていたタイミングを狙い、難敵をしとめるつもり可能性すらある。

 

 断言してもいい。狙撃手は神域という領域を超えた、次元違いの化け物である。狙撃の神ならぬ狙撃の龍神だ。

 

「範囲砲撃! 一斉射撃であの辺りを吹き飛ばすよ!!」

 

「イルマ! そんなことをしたらアーシアが巻き添えになるかもしれないわよ!!」

 

 イルマが本能レベルで警戒し、面制圧でとにかく迎撃を試みようとしたのも正しい。

 

 それに対して、砲撃なんてしたら巻き込んでしまう位置にアーシアがいる可能性を警戒したリアスも、目的を考えれば正しい。

 

 だが、それで論争が勃発しかけたのが致命傷だった。

 

 そう、まさにその瞬間、矢による攻撃は数十発同時に放たれた。

 

 すべてが音速を軽く超越し、まるでガトリングガンのように大量に放たれ、そしてリアス・グレモリー眷属とイルマ・グラシャラボラス眷属の全員の脳天に狙いを付けられていた。

 

 一瞬、口論が発生しかけていたというその心理的空白を、その狙撃手は一瞬たりとも見逃さず。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、キラルナ。これで終わりか?」

 

「いや、どうやらボス格が釣れたようだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、激戦の幕は上がる。

 




 何度か申し上げましたが、トルメー眷属は全員受肉したサーヴァントで、しかも総力を挙げればアザゼル杯で優勝が狙えるレベルの超実力者です。

 現状のイッセーたちでは、一対一どころか総出で挑んでも強みをぶつけられたら全滅しかねない超強敵。とりあえず当面はトルメーが舐めプするので全員集合で仕掛けてくることはありませんが、されたら今のイッセーたちなど全滅必須です。








 その一人であるキラルナのスーパー狙撃タイム。もうこれでお分かりだとは思いますが、彼はアーチャーです。

 そう、アーチャーです。ここでアンケートです


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14 普段ふざけた一人称の人が普通の一人称にする=シリアス度合い急上昇の方程式はよくあることだ 副題:中毒という鎖

超絶技巧によっていきなり全滅の危機を迎えたグレモリー眷属とグラシャラボラス眷属。

だがしかし、ちょっと原作より遅れて助っ人が!


 その一瞬の致命的失態は、彼らでは対応できなかった。

 

 完全に急所を狙った狙撃を、大人数に対して一瞬で行われる。

 

 想定できるわけがない神業に、誰もが反応しきれない。

 

 だがしかし、それはリアス・グレモリー眷属とイルマ・グラシャラボラス眷属に限っての話だった。

 

「ほほほ。いい尻じゃのぉ」

 

「きゃっ!?」

 

 いきなりおしりをつかまれて悲鳴を上げる朱乃の声とともに、矢がすべて魔法陣によってはじかれる。

 

 範囲はせいぜい半径数十センチ。しかしその強度は上級悪魔の砲撃を防ぐこともできるレベル。

 

 それだけの精密制御の防御結界の多重展開。そんな文字通りの神業を超えた主神業。それが、神業を超える神殺し業とでもいうべき狙撃の絶技を防ぎ切った。

 

 そして大半の物がそれに唖然となり―

 

「おいおっさん! 朱乃さんの尻は俺のもんだぞ!?」

 

「へぶぁあるふぁっ!?」

 

 イッセーはまずセクハラに対する嫉妬心を燃やし、驚いてバイクの運転をミスった鶴木はそのまま転倒した。

 

『『『『『『『『『『鶴木ぃいいいいいい!?』』』』』』』』』』

 

「三秒で回収しますわ!」

 

 とりあえず大半が鶴木の心配をして、カタナが速攻で回収のためにバイコーン「ノダチ」を走らせる。

 

 そしてそのタイミングで、イッセーはそのセクハラ神業老人の正体に気づいた。

 

「あ、オーディンのじいさん! って鶴木大丈夫か!?」

 

『『『『『『『『『『いろいろ遅いよ!!』』』』』』』』』』

 

 鶴木の心配が明らかに遅れたイッセーに、ほぼ全員のツッコミが飛んだ。

 

 ちなみに、その間も狙撃はちょくちょく行われているが、オーディンがピンポイント神話バリアで防いでいる。

 

 グダグダな空気を無視した世界最高峰の激戦が繰り広げられている中、鶴木はカタナに回収されて、馬車に乗せられた。

 

 顔面を強打したみたいだが、とりあえず命に別状はないらしい。

 

「お、オーダーメイドで作ってもらった、誕生日プレゼントでもらった専用バイクが……っ」

 

 別の意味でダメージを受けているが、まあそれは置いておく。

 

 そしてその間もピンポイント狙撃とピンポイント防御の激戦が繰り広げられていたが、とりあえずそれを無視してオーディンは告げた。

 

 主神からすればこれでも会話ができる余裕を持つらしい。恐るべし主神。

 

「ほっほっほ。とりあえず全員無事で何よりじゃい」

 

「オーディン様!? な、なぜこんなところに!?」

 

 リアスが唖然となるのも無理はない。

 

 目の前にいるのは、北欧神話体系であるアースガルズの主神であるオーディンである。

 

 それが、なぜかこんなところで若手悪魔を助けに来ている。信じられない。

 

 イルマも驚いているが、こっちはどちらかというと呆れの表情もあった。

 

「オーディン様。セクハラはダメですセクハラは。若い学生とエッチなことがしたいなら、ここにイルマさんって言うビッチな美少女高校生がいますからね? お金なんて取りませんからね?」

 

「そこどうでもいいから、イルマ姉さん!」

 

 ツッコミでダメージ(精神的)を乗り越えた鶴木がツッコミを入れるが、しかしオーディンは興味深げだった。

 

「ほっほっほ。それはそれで気になるがの? 今はそれどころじゃないからまた後での」

 

 どこから突っ込んでいいかわからない反応だった。

 

 そも、最初にセクハラを敢行した老人が言っても説得力がない。

 

 しかし、その間もピンポイント狙撃は続いており、オーディンはそれをピンポイント結界で防いでいる。

 

 どんどん相対距離が短くなっていることで、密度がシャレにならないことになってきていた。

 

 そして、そんな中でオーディン神も笑みを消して真剣な表情を浮かべる。

 

「ま、今回の作戦はサーゼクスの反対を儂らが押し切ったようなものじゃからの。どうにかできる者がおるなら、そいつがどうにかするほかなかろうて」

 

 そう告げたオーディンは肩をすくめる。

 

「特にこのフィールドを包む結界が凶悪での。とにかく相応の戦力を送るべきとのことで、突入できる儂がとりあえず向かってきたんじゃが、まさか儂を一人で相手にできるやつが出るとは思わなんだ」

 

 そう言いながら、オーディンは槍を構えると、小さく告げる。

 

「―グングニル」

 

 その瞬間、速射とは思えない絶大な火力の砲撃が放たれる。

 

 一撃で最上級悪魔の全力に匹敵する火力が放たれる。しかも、チャージ必須のレベルの火力だった。

 

 それを速射でぶちかますオーディンの攻撃は絶大極まりない。

 

 増援としてこれほど頼もしい者もそうはいないだろう。彼ひとりで、ディオドラはもちろんスメイガやサイラオーグたちと戦っている悪魔を全滅させることもできるかもしれない。

 

 ……文字通りの神業に、アーシアが巻き込まれる可能性にリアス達が思い至る時間すらない。

 

 だが、その砲撃は狙撃手を滅ぼすことはなかった。

 

 最上級悪魔クラスの全力に匹敵するだろう砲撃。それが、両断された。

 

 神殿をきれいに避けながら周囲の風景を崩壊させていくグングニルの一撃。それを見ながら、二つの反応が生まれる。

 

 一つは唖然となるリアス達。もう一つは、鋭い視線で警戒の色を浮かべるオーディンだ。

 

「……全く。前衛もきちんと配備とは抜け目がないの。火力で押しつぶせるかと思ったが甘かったわい」

 

「爺さんやめて! あそこにはアーシアがいるから!!」

 

 イッセーが泣きそうな表情でオーディンの肩をゆするが、しかし問題は山のように巨大だった。

 

 絶大極まりない。壮絶極まりない。絶技による絶対的な妨害がそこにあった。

 

 オーディン神クラスの神業でようやく防げるようなピンポイント超遠距離狙撃を連射する猛者に、最上級悪魔クラスの全力攻撃に匹敵する砲撃を両断する化け物。

 

 単刀直入に言って、最上級悪魔クラスの中でも最上級。魔王クラスに片足を踏み込んだタンニーンたちの領域だった。

 

 その猛威を前に、オーディンは告げる。

 

「……状況は読めんが、どうやら悪ガキはおぬしらの仲間をさらってあの神殿にいるということか。そして、その用心棒があの二人じゃろうな」

 

 そういうなり、オーディンは槍を構えながら馬車の先頭に立つ。

 

「あの二人は儂が何とかしよう。さすがに確実に勝てるなどとはいえんが、三十分は足止めしてやる。主神の援護を若造ごときが受けれるなど、おぬしたちついておるぞ?」

 

 その言葉とともに、オーディンは魔法陣をリアス達の足元に具現化する。

 

 その内容は転移魔方陣。それも、数十キロの短距離を確実に転移させるタイプのそれだ。

 

「……我らを神殿内に転移させて、一人であの化け物共を相手するおつもりですか!?」

 

「じ、爺さんだけで大丈夫かよ!?」

 

 その意図を察したアイネスと、強敵に立ち向かおうとするオーディンのことを心配したイッセーが声を上げた。

 

 それに対して、オーディンははっきりと告げる。

 

「元シスターを救い出したら、アザゼルの若造が用意したシェルターに隠れておれ。奴ら相手ではおぬしらをかばいきる自信がない」

 

 ―主神にそれほどまでの強敵だと言わせる相手。

 

 そんなものを用心棒につけていたディオドラに戦慄しながら、リアス達は強制的に転移させられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして転移させられた神殿内部にて、全員が周囲を確認する。

 

 ある方向から凄まじい勢いの戦闘の音が響いている。どうやら、オーディンと敵二人が戦っているらしい。

 

 超遠距離にいる数十人。それも狙いをつけづらい場所にいる相手。その頭部にピンポイントで狙撃を成功させ、しかも全対象ほぼ同時に行う狙撃手。

 

 そして、魔王クラスでも速射は難しいだろう砲撃を両断する、前衛。

 

 二人掛かりなら主神に届くだろう猛者が相手では、自分達は足手まといだ。

 

 それを理解したリアスは、静かに反対方向に視線を向ける。

 

「……あそこはオーディン様に任せましょう。私たちはアーシアを助けるわよ!!」

 

 その言葉に、イルマもまた静かにうなづきながら告げる。

 

「ディオドラの奴も逃がさない。徹底的に後悔させてやるじゃん」

 

 その二人の指示に、皆がうなづいた。

 

「……ディオドラとアーシアさんの気配を察知しました。むこうです」

 

 仙術で気配を察知した小猫に先導される形で、誰もが話し出す。

 

 そして神殿内を駆けだすが、その時間ももどかしい。

 

 想像以上に広大な神殿内を駆け抜け、そして新たな神殿に突入。

 

 それを数回ほど繰り返したその時、前方を走っている小猫を追い抜いて、鶴木が聖剣を具現化させて剣を構える。

 

 そして、それに呼応するかのように十数名の転生悪魔が姿を現した。

 

 全員ディオドラの眷属悪魔だ。

 

 彼女たちは得意げに手に持っているものを見せつける。

 

 それは、何かしらの蛇の様なものだった。

 

「……あれは!」

 

「知っているのか?」

 

 目を見張る祐斗に、アイネスが神霊髄液を具現化しながら訪ねる。

 

 それに対して、祐斗は静かにうなづいた。

 

 そう、それは駒王会談での戦いで、彼が戦闘の最中に目撃したものだ。

 

 アザゼル相手に防戦を強いられいてた、旧魔王派幹部の一人であるカテレア・レヴィアタン。

 

 その彼女が三大勢力の幹部抹殺のための切り札として使用した、強大なドーピングアイテム。

 

「あれは、オーフィスの蛇です!!」

 

 そう、あれこそが禍の団の力の根源の一つ。オーフィスの蛇。

 

 その力は絶大。カテレアは、防戦を強いられていた状態から一気に互角に状態にまでアザゼルとの戦いの趨勢を持っていく。そして、ディオドラもまた、格上のシーグヴァイラ・アガレス相手に、単独での逆転勝利を手にしたほどだ。

 

 それを、十数名の悪魔全員が持って使用した。

 

 その強大な敵と向かい合いながら、リアスは告げる。

 

「……あなた達の事情は知っているわ。邪魔をしないなら、滅する気はないわ」

 

 馬車の中で、彼女たちの来歴は知っている。

 

 だから、リアスも仏心の一つぐらいは出せる。

 

 だが、眷属たちの対応は臨戦態勢だった。

 

 ……それに対して、リアスは覚悟を決めようとして―

 

「……じゃ、ここはイルマさんに任せるじゃん?」

 

 そのリアス達を押しのけるように、イルマが前に出た。

 

 そして、それに並ぶようにアイネスもまた前に出る。

 

「ディアクルスたちは私とともにイルマを援護しろ。鶴木、リスン、カタナはリアス嬢たちに同行して、ディオドラの確保とアーシア嬢の救出に迎え」

 

「待ってください! あいつら全員蛇使ってるんですよ!?」

 

 思わずイッセーがそう告げ、彼もまた闘おうとする。

 

 ほとんどの者が同意の感情を示して、ゼノヴィアもまた聖剣を構えている。

 

「そうだ。それに、私たちが事情を知っている状態で、アーシアまでもが自分達と同じような目に会おうというのに妨害するような手合い―」

 

 殺意すら込めたゼノヴィアが、相手に切りかからんとするその瞬間だった。

 

「―殺してもいい。そう思ってる子たちに任せられないから()が何とかするって言ってるんだよ」

 

 イルマは、そう断言する。

 

 イルマさんではない。私と、彼女は自分をそう言った。

 

 そこからくる普段とは違う雰囲気に、ゼノヴィアたちは気圧される。

 

 そして、イルマは苦笑を浮かべながら一同を見渡した。

 

「……薬物中毒とか、アルコール中毒とかってあるじゃん?」

 

 とりあえずは知っている。

 

 薬物やアルコールを恒常的に取りすぎて、取らずにはいられなくなる状態だ。

 

 特に麻薬中毒の場合は、一度の摂取でそうなってしまうのが基本だという、厄介なものだ。

 

 しかし、なんでそんなことを今話すのか。

 

 そういう疑問が浮かび上がるタイミングで、イルマは告げる。

 

「皆がそうだとは言わないけど、まあ何人かは間違いなくそんな感じなんだと思うわけですよ、イルマさんは」

 

 そう、イルマは少なくともそうだと判断している。

 

 だから、殺すつもりで挑もうとするリアス達と彼女たちをぶつけることを望まない。

 

 なぜなら、彼女たちの何割かがどういう精神状態化なのかがわかるから。これはもう、どうしようもないことだから。

 

「どれだけ間違っていても、今まで味わってない方向での強烈なプラスは抗いがたい魅力がある。ほら、悪い遊びをしたことない真面目ちゃんが、悪い遊びに強引に誘われて転落人生送るとか、そういう感じ?」

 

 そう、そしてそれは彼女たちにも当てはまる。

 

 清貧を旨とする教会の信徒たち。それも、聖女とまで呼ばれるのなら悪い遊びの経験なんてあるわけがない。

 

 それをわずかな心の弱みに付け込み、一気に大量の麻薬に付け込んだような男。それが、ディオドラなのだ。

 

 そして、この精神的悪影響はコンボをたたきつけることができるのだ。

 

「周りの環境が悪いと倍率ドン! プラスの感情を与えてくれるから更におぼれちゃうわけですよ」

 

 人は窮地に追い込まれた時に助けられると、救い出してくれたものに感謝の感情を抱くものだ。リアスやアーシアがイッセーに好意を抱いたのも、それがきっかけではある。

 

 質が悪いことに、これは窮地に追い込んだ元凶に救い出されたときでも効果を発揮する。軍隊でも上下関係を叩き込む際に使われることもある、れっきとした人心掌握術の一環だ。

 

 そういう意味では、ディオドラはイッセーと表裏一体の側面があるといってもいい。

 

 無論、そのうえでさらに積み重ねてきたものがあるイッセーと、更に自分以外の環境を窮地にすることですがらせてきているディオドラを一緒にしてはいけない。そしてこれはそんな問題でもない。

 

「……誰かが強引にでも引っ張り出して、すがる必要がない生活を送らせて、それなりにプラスを飼いならした対応の仕方を教える。それでも、気が緩むとまだおぼれちゃうのが中毒の怖いところなんだよ」

 

 そう、彼女たちの多くはそうなのだ。

 

 ディオドラの毒牙にかかり、そしてその中毒となった被害者たち。

 

 彼女たちは自分から抜け出すことなどないだろう。ディオドラに飼いならされている彼女たちは、まずディオドラから強引にでも引き離してましな生活を送らせなければ抜け出すことなどできはしない。

 

「みんながみんなそうだなんて言わないけどさ? 何人かはたぶんそうじゃん? だったら殺すこと前提にしちゃいけないと思うわけですよ、イルマさんは」

 

 そして、イルマははっきりと告げた。

 

「……この子たちは殺させない。少なくとも、再起のチャンスは必ず与える。スメイガは()がそうするとわかってるから、()をリアス部長の援護につけたわけってこと」

 

「知った風な口を!!」

 

 図星を疲れて激高したのか、敵の一人が武器を構えて切りかかる。

 

 それを、イルマは受け止めた。

 

 真っ向から振り下ろされた刃を防いだのは、大型のナックルダスター。

 

 かなり大型でごつい形状のナックルダスター。それが、大質量武器を受け止めた。

 

 そして次の瞬間、もう片方の手に握られたナックルダスターから、光の刃が形成される。

 

 その斬撃を回避して相手が距離をとる中、イルマははっきりと断言した。

 

「……五分で片づけて五分休憩したらそっち行くよ!! それまでディオドラに生き地獄を与えといて!!」

 

 その言葉に、リアス・グレモリー眷属はもちろん、鶴木たち三人も戸惑っていた。

 

 なぜ、彼女がそこまでするのか理由がわかりきっていないのだろう。

 

 だが、リアスは何となく事情を察する。

 

 つい先日聞いた、アイネスの話。

 

 イルマ・グラシャラボラスの、前世の話。

 

 結局、数年間の間に起きたと思われる、彼女やその義兄(あに)、姉貴分の間に何が起こったのかは直接語られなかった。

 

 だが、これはきっと―

 

「……さっきの、道間(どうま)日美子(ひみこ)の経験談?」

 

 リアスの質問に、思いっきりイルマの方が震えた。

 

 そして、ジト目でイルマはアイネスをにらむ。

 

「………アイネスぅ?」

 

「同情票を売りつけようと思ってな。まあ、実際に何が起きたのかはいってないから安心しろ」

 

 すました表情で告げるアイネスに、イルマはため息をついた。

 

「後で詳しく眷属会議じゃん」

 

 それだけ言うと、すぐに切り替える。

 

「ほら、早く行く!! ここは前世年齢も含めた年上たちに任せるじゃん!!」

 

「……わかったわ。死んだら駄目よ!!」

 

 リアスはうなづくと、そして走り出す。

 

 それと同時にイルマたちが援護射撃を行い、ディオドラの眷属たちを足止めした。

 

 そう。どちらにしても時間はかけられないのだ。

 

 ディオドラはアーシアと契るといった。それは間違いなく性的な意味だ。

 

 そんなことは認められない。なら、一刻も早くディオドラのもとに向かう必要がある。

 

 ……イルマたちが全員無事で切り抜けることを願いながら、全員が走る。

 

 そして、最後尾を担当していたリスンが、一瞬だけ振り向いて大声を張り上げる。

 

「……イルマ姉さん! ちゃんと無事でしのぐんやで!!」

 

 その言葉に、イルマは少しだけ息を詰まらせ―

 

「……約束するよ!!」

 

 そう断言し、リスンたちを見送った。

 




 ディオドラは特に強化しないといったと思います。ここにウソはありません

 ですが、ディオドラ以外を強化しないとは言ってません(キリッ!









 ……あ、ごめんごめん、石投げないで。









 いわゆる快楽堕ちしてる人って、全員がそうとは言わないけど、快楽依存とかそんな感じな側面とかあると思うんですよ。ほら、現実にもダメ男に依存するやつとか多いですし。

 時としては多少強引にでも引きはがすことで乗り越えられることもある。特に麻薬中毒とかは禁断症状の波を乗り越えるのが自力では不可能とかよく描写されてますからね。イレギュラーズのリセスとかのように強引なショック療法とかふつうないですし。

 そしてリアスは当然勘付いていますし、そもそもそのリセスの系譜であると明言しています。なのでうすうす勘付いているとは思いますが、イルマからすると当然のごとくそこの複雑な感情があるわけです。道間日美子の経験的に、見過ごせない事情なわけです。

 ちなみに、イルマは基本一人称は「イルマさん」で、いつでもどこでもちょっとしたおふざけを忘れないゆとりを持った人物です。それが「私」になるのは大きく分けて二つ。

 一つ、TPOなどの都合でふざけモードを入れる余地がない時。

 そしてもう一つは……ガチモードです。

 次回、ちょっとしか描写しないですがイルマの本気の一辺が見られます。スーパーイルマさんタイム(微量)です。


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15 スーパーイルマさんタイム(省略)の裏で(精神的)ディオドラフルボッコタイム

はい、それではそろそろディオドラがひどい目に合う時です。








みんな、m9(^Д^)プギャーの準備だ!!


 

 ディオドラの眷属達は、すぐに攻撃の狙いをイルマ達に変更する。

 

 判断としては見当違いではない。

 

 下手に此処でリアス達を追撃すれば、リアス達は迎撃に移るほかない。しかし、イルマ達は遠慮なくこちらに攻撃してくる事に変わりはない。

 

 挟撃の形になれば流石に不利だ。

 

 蛇の力で全員少なくとも中級には至っている。上の者は上級の中には至っているだろう。元から強大なディオドラは、最上級にすら届いているかもしれない。

 

 だから、真っ向から激突すればこちらが有利だと確信している。しかしそれは真っ向勝負の形の場合だ。

 

 敵も上級クラスはいるのだ。挟み撃ちの状態になればこちらも流石に不利になる。

 

 そも、自分達に蛇を統合した者のコネクションで、ディオドラのいる場所は細工が施されている。

 

 それが発動した状況下なら圧倒的にディオドラが有利。更に最上級にも届くかもしれないほど強化されたディオドラなら、リアス・グレモリーとイルマ・グラシャラボラスを片手間で殺せるだろう。

 

 なら、自分達は余計な被害を出さずに確実に敵を葬るのみだった。

 

 まずはイルマたちを皆殺しにしてから、そのうえでリアス達をディオドラと挟撃する。これが一番確実だろう。

 

 そう思い、そして動くが―

 

「うっへ~。かわいこちゃんとのマジ勝負とかなんかきっついぜ~」

 

「イルマ様~。これボーナスあとでほしいんですけどー」

 

「調教ゲームはフィクションだからいいんだよ。なんでリアルでやるかねぇ。快楽堕ちの女の子を倒すとか、心痛むぜ」

 

 などといい加減な対応をする兵士達を、押し切る事ができない。

 

 同時にアイネスが操る|神霊髄液《ウォールメン・ハイドログラム・アドバンスド》による攻撃が連携を妨害するのもあるが、兵士達一人ひとりの能力が高い。

 

 これまた中級悪魔クラスの戦闘能力を普通に発揮している。駒価値一の下級悪魔の戦闘能力ではない。というか、蛇を使っているとしか思えない。

 

 そして、その武器が厄介だ。

 

 敵の女王(クイーン)が持っている刺突剣。そして兵士達が持っているハルバード。その双方が名のある名工が優れた素材をもってして作ったのだろう。創造系神器如きでは、禁手にでもならなければできないような出来だ。

 

 しかも、此方の渾身の一撃で歪んでも、一瞬で修復する。そういう能力を持っているらしい。

 

 その所為で、向こうは強引な防御を可能としている。この武器、打ち合いによって破壊されることを避ける事に重点を置いて作られているらしい。攻撃用の武器というよりは、迎撃用の防具といった設計思想のようだ。

 

 先ほどイルマが使った、光の刃を作ったナックルダスターも同様の物だろう。おそらく、(キング)としての特権で手にした上位互換だ。

 

 それだけの力によって拮抗状態になっている中、イルマは静かに目を伏せて、何かを呟いていた。

 

「何のつもりか知りませんが! 大口を叩いておいて応援程度ですか!」

 

 あれだけ此方の神経を逆なでするような事を言っておきながら、結局自分が動いていない。

 

 まったく舐めてくれるものだ。

 

 数の差もあって此方に十分勝機はある。

 

 謎の液体金属は速いが、しかし動きそのものは意外と単調だ。これなら時間をかければ回避も楽になるだろう。

 

 兵士達は厄介だが、しかし防戦に徹すればこちらの兵士たちでも一対一で抑え込める。

 

 そう確信し、そして連携の仕方を変えようとし―

 

「―世界卵、内外反転」

 

 ―イルマのその言葉が、やけにはっきりと聞こえた。

 

「……後十秒。それでこちらの勝ちだ」

 

 そしてアイネスの言葉に、敵兵士達の動きに気合が入り直される。

 

 まずい。これは、マズイ。

 

 ディオドラの眷属達の誰もが理解し、何としてでもイルマを止めようと動き出す。

 

 だが、全てはもう遅い。

 

「心象風景、浸食開始」

 

 その言葉と共に、世界は塗り替わる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――固有結界(リアリティ・マーブル)……っ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、わずか一分で決着はついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその頃、イッセー達はディオドラのいる神殿最深部へと突入する。

 

 そこには優雅に椅子に座っているディオドラと、磔にされているアーシアの姿があった。

 

 アーシアを磔にしているのは、磔の時にイメージしやすい十字架ではない。円形の巨大な装置だ。あちこちに宝玉が仕込まれ、怪しげな文字や文様が刻み込まれている。

 

 何かしらの術式装置と思われるが、問題はそこではなかった。

 

「……イッセー……さん?」

 

 顔を上げたアーシアの、赤く腫れあがった目元こそが問題だ。

 

 明らかに精神的の大きなダメージを受けている。しかし、服装は乱れておらず、「契る」などというディオドラの言葉から想定した最悪の事態は起きていない。

 

 故に、想定できるもう一つの惨劇が答えだろう。

 

「……お前、アーシアに話したな?」

 

 イッセーの怒気の高さゆえに音量の低い詰問に、ディオドラはにっこりと笑顔を浮かべながら答える。

 

「ああ、全てね。君達にも彼女の最高の表情を見せてあげたかったよ。教会の女が堕ちる瞬間は何度見ても堪らない。勿論、記録映像にも残してるから後で見るといい」

 

 アーシアのすすり泣く声を聴きながら、ディオドラは饒舌になる。

 

「でも、まだ君達という希望があるのが難点だ。特に君だよ赤龍帝」

 

 ディオドラは、イッセーに対して嫌悪感を浮かべる。

 

 それは、自分の計画を台無しにされた者が浮かべる表情だった。

 

「君がアーシアをレイナーレから助けてしまった事が大きな誤算だったよ。あの堕天使がアーシアを殺したその瞬間に、僕が奴を殺してアーシアを眷属悪魔として転生させるのが筋書きだったのに、あのバカが寄りにもよってグレモリーの管轄区で事に及ぶとは思わなかった」

 

 ディオドラの下劣な計画に、誰もが不愉快という三文字を顔に浮かべる。

 

 アーシアがリアスの眷属になった事件の当事者達は、何故ディオドラがすぐにアーシアを取り込みにかからなかったのか気にしている者もいた。

 

 だが理由は単純明快。そして、ゲスの極みだった。

 

 レイナーレの愚かさが、結果的にアーシアを救った形ともいえるだろう。あの女の愚かさに感謝する事になるとはと思いながら、ディオドラを睨みつける。

 

「流石にリアス・グレモリーの管轄区で強引に動くわけにもいかなかった。しかも君が赤龍帝だったおかげで、レイナーレも返り討ちに遭う始末。おかげでだいぶ計画が遅れたよ」

 

「黙れ」

 

 心底うんざりとした口調と表情のディオドラに、イッセーは自分でも驚くぐらい低い声を放つ。

 

 元からいけ好かなかったが、ここまでの奴だとは思わなかった。

 

 外道、鬼畜、悪鬼、醜悪。

 

 これらの言葉を堂々と告げても、誰からも文句は言われないだろう。アスタロト本家も、反論の一つもできない筈だ。

 

 何時殴り掛かりに行ってもおかしくないイッセーに、鶴木は手を置いてそれを押しとどめる。

 

「落ち着け。とりあえず禁手の準備はしとけ」

 

「せや。それにこいつの破滅は確定しとるから安心せい」

 

 そう続けたリスンが、心底から軽蔑の感情を込めた目で、ディオドラを睨む。

 

「おい、ディオドラはん? カッコつけとるところ悪いんやけど、あんた人生詰んどるって気づいとるか?」

 

「へえ? なんでかな?」

 

 首を傾げるディオドラに、リスンは口元を歪める。

 

「……スメイガさんが保有する諜報工作部隊「歩き巫女」からの連絡や。この戦闘とタイミング合わせて持ち出そうとした、実家の貴重品とかオタクが堕とした女は全員確保したで。今は尋問もかねて、ブルノウ様の領地に保護されとるはずや」

 

 その言葉に、ディオドラはピクリと震えながら表情を険しくする。

 

 それを見て愉悦の感情を浮かべながら、リスンは更に告げた。

 

「あと、人間界の銀行の隠し口座の類は11箇所ほど抑えさせていただいたで? 金額の総数的に、あんたの個人資産は全部差し押さえやな」

 

「馬鹿な!? あいつらには相応の金を渡しているはずだぞ!?」

 

 ディオドラは余裕をなくして声を荒げる。

 

 どうやら、それなりの口止め料を払っていたらしい。それが意味をなさなかったというのだから驚くだろう。

 

 リスンはふふんと得意げに笑うと、背を逸らす事で背の高さの差を無視してディオドラを見下した。

 

「そのおかげで不正しとった銀行職員もまとめて逮捕や。現地の警察は大忙しやけど、ま、仕事増やした詫びとしてブルノウ様がお菓子の詰め合わせでも送るちゅうとったで?」

 

 その言葉を聞いて、ディオドラは怒りの表情を浮かべてブルブルと震える。

 

「ぼくの全財産をよくも! いったいどれだけしたと思ってるんだ!!」

 

「安心せいや。没収した財産はブルノウ様が「これまで悪魔が教会に迷惑をかけたお詫び」っちゅうかたちで、金に困っとる教会に寄付する予定や。……大好きなシスターの生活が救われて良かったなぁ?」

 

 そう言い放つを、リスンは勢いよく中指を突き立てる。

 

「テロ組織に鞍替えしといて、平然と今まで通りの生活送らせるわけないやろ! これで後ろ盾のないあんたは、逃げられたとしても底辺生活や、ざまぁみぃや!!」

 

 その言葉に、ディオドラは、ギリギリと歯を食いしばる。

 

「ま、あんな怪しい真似したらそりゃ警戒されるわな。詰めが甘いっての」

 

「これまで悪魔は教会に迷惑かけてきましたものね。筆頭格が裏切ってくれたのなら、その全資産を寄付に回せばイメージ回復ぐらいにはなりますわね」

 

 と、鶴木とカタナが良い事があったと言わんばかりにうんうんと頷いている。

 

 そして、すぐに全員が戦闘態勢をとった。

 

 それを代表して、リアスははっきりと告げる。

 

「……禍の団にも居場所がなくなったディオドラ・アスタロト! ここで投降するというのなら命だけは助けてあげるわ!!! 最も、命以外は徹底的に叩き潰してあげるけどね!!」

 

 これは断言である。決定事項である。

 

 大事なアーシアを苦しめた者達にかける情けはない。そも、情けをかけてやるような人物では断じてない。

 

 半殺しでは飽き足らない。生きている事が嫌になるぐらいの苦しみを与えてやろう。なに、ここには魔術師が三人もいるのだから、最低限の救命措置はできる。

 

 アーシアに治療をさせる気はない。もっとも、流石のアーシアも治療する気はないだろうが。

 

 しかし、ディオドラは気を取り直すと、肩を怒りで震わせながら、リアス達を睨みつける。

 

「いいだろう。なら、君達の首を持ち帰る事で足場を固める事から始めないといけないようだね!!」

 

 その言葉と共に、ディオドラは莫大な魔力を形成する。

 

 まず間違いなく蛇の力を受けたそれは、単純威力ならプロの上級悪魔すら超えている。

 

「この位置ならそこの化け物の砲撃もできない! つまり撃ち合いなら僕の勝ちだぁああああああああ!!!」

 

 ディオドラのその判断は正しい。

 

 まともに撃ち合いになれば、カタナの三光叫喚(ディストラクション・スクリーマー)の餌食になっただろう。

 

 上級悪魔の中では高い部類ではある今のディオドラごときで、超越者クラスのあの砲撃と勝負するなど、身の程知らずを通り越して精神異常者である。自殺志願者でもまだましな死に方を選ぶだろう。

 

 だが、位置取りがアーシアに近い事がそれを防ぐ。

 

 そして、それならまともな撃ち合いで自分が負ける道理などない。

 

 その確信と共にディオドラは砲撃を叩き込み―

 

「……こんなもんかよ」

 

 ―その瞬間、禁手化(バランス・ブレイク)を発動したイッセーが前に出る。

 

 その表情は心底からの呆れ。

 

 腐っても上級悪魔の血統。オーフィスの蛇で強化された。そして、倒すべき怨敵と思っている。

 

 その、最大火力の砲撃と向き合って、イッセーははっきり言った。

 

「お前、弱すぎだろ」

 

 そして、真正面から防ぎ切った。

 

 流石に無傷ではない。多少、装甲が欠けていたりしている。

 

 だが、それだけだった。

 

「……………は?」

 

 唖然とするディオドラにも聞こえるように、ドライグが至極平然と言う口調で告げる。

 

『何を驚いている? シトリーとのレーティングゲームを基準にしてるんだろうが、あの時は本領なんて発揮できるルールじゃなかったから参考にならん。ついでに言えば、相棒もだいぶ慣れてきたから、装甲も馬力も火力も全て数割増しといったところだ。単純な性能だけなら最上級悪魔一歩手前といったところだな』

 

 その言葉に、ディオドラは唖然という表情をこの上なく体現した顔になった。

 

 一対一でも勝ち目が薄い事に気づいたのだろう。少なくとも、性能においては大幅な開きが出ている事は理解できているはずだ。

 

「嘘だ。僕は、アスタロトの次期当主だぞ? 魔王ベルゼブブの血族だぞ? オーフィスの蛇だって使ったんだぞ?」

 

 信じたくないと言わんばかりに呟くディオドラに、カタナは侮蔑の視線を向けた。

 

「愚かな。それを生かさなかったあなたがなにをおっしゃいますか」

 

 そして、三光叫喚の砲口を突き付けながら断言する。

 

「それを磨き上げ、成果を見せる事こそが貴族の責務! 一切の努力もせずドーピングだけで勝てるなどと息巻いた時点で、貴方の負けは決まってますわ!!」

 

 ……この世で最も成果を上げれる可能性がある傾向とは、すなわち勤勉な天才である。

 

 才能が全くない方面で、如何に死に物狂いの努力を積んでも大成する可能性は低い。

 

 才能が豊富であろうと、それを努力で磨かななければ真の意味で光り輝くことはほぼない。

 

 才能と努力、その双方を重ね合わせる事ができる者が、最も成長する可能性があるのは当然の事だ。

 

 歴代最弱ではあれど赤龍帝である兵藤一誠という男は、短期間とはいえ死に物狂いの努力をしてきた。そして、ルーキー悪魔とは思えないほどの質の悪い実戦を経験した。

 

 少なくとも、そんな彼はディオドラ・アスタロトという悪魔と比べて、戦闘という点においてなら劣っている点より勝っている点の方が圧倒的に多い。これはそれだけの話である。

 

 それを認める事ができないのは、ディオドラ・アスタロトただ一人。

 

 それ以外の全員が、ディオドラを叩き潰すべく敵意を向けて構えをとった。

 




 実は固有結界使いだったイルマさん。ちなみに、今回で流れた詠唱は本作品での固有結界使いの最終詠唱として共通のものにしたいところです。ほら、Light作品とかの能力詠唱で「創造」とか「超新星」とか技名発動前に告げるのと同じ感じで。特に現在決定している二人は詠唱が共通していたほうが都合がいいのでなおさらです。
 たぶんわざわざ説明することはないのでここで書いておきますと、道間家前当主が日美子を標本にしようとしたのはこれが原因。Fate元祖主人公の士郎が下手すると封印指定されかねないといった話があったはずなので、そこに由来します。あとイルマがアベレージ・ワンなのは、士郎の属性が「剣」なのとほぼ同じ理由です。



 そしてディオドラ、すべての真相を知るの巻。ダメ押しで蛇ブーストによる最大火力があっさり敵主力に防がれて詰んでます。
 まあ、これで終わると思ったら大間違いです。まだちょっとだけディオドラは悪あがきするんじゃよ。

 それにほら、ディオドラ「は」強化しないって言いましたから……ね?


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16 ディオドラの逆襲   その結果:男衆「もうやめて! ディオドラのライフは0よ!?」 アイネス「○ジェネかけてるからあと五分」

ディオドラ・アスタロトの逆襲が始まる。









そして、魔術師(メイガス)を怒らせたディオドラの(ある意味)終焉も始まる……。







しかしアンケート、非モテ能力の比率が意外とでかいな。ネタで入れたんだけど、Lightネタを詠唱に取り入れたのが原因か……?


 完膚なきまでに、ディオドラは不利だった。

 

 なにせ、自身が圧倒的優位に立ち回れるという確信を与えていた力は、敵最強戦力であろう赤龍帝に対してかすり傷しか与えられてない。

 

 そして、今眷属達はイルマ・グラシャラボラス他数名が足止めしている……どころか、撃破された事が分かった。

 

 この神殿に仕掛けておいた細工のおかげで分かった事だ。幸い、リアス・グレモリー達は気づいていないし、イルマ・グラシャラボラス達も消耗したのか動きは見られない。

 

 だが、眷属の助けは期待できない。

 

 元々リアス達を蹂躙する予定だった旧魔王派の悪魔達は、現在スメイガ・バアル達他の若手悪魔眷属に追い込まれている。

 

 というより、スメイガの女王と騎士、そしてサイラオーグが無双状態で、増援要請が送られてきた。

 

 どう考えても上位神滅具(ロンギヌス)である魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)を使っているとしか思えない、スメイガの女王(クイーン)である陸奥鳩羽。魔獣創造の持ち主は禍の団にいるので、あり得なさ過ぎて何が何だか分からない。

 

 また、行方不明の獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)を使用して、全身鎧型の禁手となったサイラオーグ・バアル。これまた初耳である、この手の情報共有を行うという、三大勢力の同盟はどこに行ったのだ。

 

 そしてある意味一番酷いのがスメイガの騎士(ナイト)だ。気づいたら旧魔王派の精鋭の首が切り落とされており、更に砲撃で雑兵をかき消しているとか。神滅具抜きで神滅具級の成果を上げるとか反則である。

 

 ゆえに、旧魔王派の助けは期待できない。

 

 そして、神殿の外側では主神が暴れている。

 

 不幸中の幸いだが、此方の足止めは成功している。というより、想定外の増援によってむしろ押され始めていた。

 

 だが、これも当分かかるだろう。

 

 最後に。目の前の敵は兵藤一誠だけではない。

 

 リアス・グレモリー達は一対一なら敵ではないと思う。だが、最大火力という一点において超越者級のカタナがいる以上、下手に動けば消滅が確定する。しかし動かなければ赤龍帝が殴りに来る。

 

 状況はディオドラに圧倒的に不利だ。

 

 ゆえに―

 

「まさか、よく分からない最終手段に頼る羽目になるとはね!!」

 

 その瞬間、ディオドラは魔法陣を展開してある機能を具現化する。

 

 正直半信半疑だった。それが本当なら圧倒的に有利になるが、その必要もないと思っていた。

 

 だが、状況は明らかに自分に不利。それも、絶望的だ。

 

 よしんば逃げても、手土産をすべて持ち出しに失敗した以上居場所がない。手柄を上げる必要はある。

 

 だから、ディオドラはそれに賭けた。

 

 そして、それは絶大すぎる効果を発揮した。

 

『『『『『『『『『~~~~~~っ!?』』』』』』』』』

 

 声にならない悲鳴を上げ、目の前の敵のほぼ全員が悶絶する。

 

 一瞬何が起こったのか分からない。だが、好機である事だけは理解できた。

 

 ゆえに、遠慮なく魔力攻撃を叩き込もうとし―

 

「貴様、何をした!!」

 

 ただ一人、平然としているゼノヴィアが割って入ってデュランダルを振るう。

 

 それをディオドラは回避して、すぐに魔力砲撃を放つ。

 

 デュランダルの一振りでそれは薙ぎ払われるが、しかしディオドラは距離を取る事に成功する。

 

 そして同時に、悶絶しているイッセーに向けて砲撃を叩き込んだ。

 

「イッセー!? 貴様、卑怯だぞ!!」

 

「卑怯? 動かない的を狙う事の何が問題なのかな?」

 

 奇跡が起きたとすらディオドラは思っていた。

 

 聖剣デュランダルは伝説中の伝説だ。単純な攻撃力なら神滅具の禁手にも匹敵するだろう。

 

 だが、ゼノヴィアだけならどうとでもなる。少なくとも、赤龍帝よりは遥かに容易い相手だ。

 

 ゆえに、ディオドラはゼノヴィアを倒す事に全神経を集中させる。

 

 そもそも、何故ゼノヴィアにこの切り札が効いていないのかを理解しないまま………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、鶴木達は悶絶していた。

 

 理由は単純極まりない。

 

 悪魔は非常に弱点の多い存在である。

 

 こと、聖書の神のシステムによって聖書の文面を読んだりそらんじたりするだけで酷い頭痛を味わう事になる。

 

 そして、今彼らの脳裏には一つの歌の合唱が響いていた。

 

 端的に言おう。讃美歌である。

 

 普通に聞いても激痛が走るのだが、何故か激痛のレベルが桁違いに上昇している。このレベルは、かつてイッセーがライザーを倒す為に神滅具の力で強化した十字架に匹敵するだろう。

 

 鍛え上げられた若手の精鋭である鶴木達だからこそ生存しているようなものだ。下手な下級悪魔なら一瞬で死んでいても不思議ではない。

 

 そして、ゼノヴィアだけがまともに動けている事もそれで納得できる。

 

 彼女はイッセーにぞっこんだが、それはあるきっかけがあったからだ。

 

 駒王会談が終わった時、イッセーはミカエルに直談判した。

 

 それは、信仰心が強かったがゆえに時折悪魔になっても祈ってしまうアーシアとゼノヴィアを気遣った直談判だ。

 

 それによって、二人は聖書の神のシステムに対して耐性ができている。特例によるスルーともいえるだろう。

 

 それが結果として、讃美歌の影響すら防いでいるのだ。

 

 そして悶絶する中、かろうじて鶴木は魔術による痛覚干渉で状況確認ができるだけの冷静さを取り戻した。

 

 全力戦闘など不可能だが、それでも全力を出せば一回ぐらいは支援できる。そういうレベルだった。

 

「……鶴木! う……動けるか?」

 

「なん、とか……っ」

 

 同様の手段を行使したリスンと共に、反撃の機会を窺い始める。

 

 まともな戦力はゼノヴィアのみ。それも、ディオドラが接近戦闘を避けている事から不利である。

 

 魔術によって感覚制御を行っている鶴木とリスンも、ろくに動ける状態ではない。一回不意打ちを行うのが精いっぱいだろうし、失敗すれば瞬時に片手間で始末されるほどの状態だ。

 

 ちなみにカタナも魔術師だが、此方は最初から計算に入れてない。彼女の魔術回路のへっぽこ具合は尋常ではなく、この悶絶状態で痛覚干渉魔術を行使するのは不可能だ。

 

 そして、痛覚干渉を行う事ができないリアス・グレモリー眷属では戦う事もできない。

 

「くそったれ……っ。カタナを悶絶させるとか許せねえ……っ」

 

「いや……、俺達……の、心配も……して?」

 

「すまんなぁ。鶴木、イルマ姐さんとカタナのこと大好きでなぁ」

 

 鶴木の言葉に対する文句に、リスンは代わりに謝ったその時だった。

 

 二人は同時に気が付いた。

 

 この悶絶激痛状態で、なんでそんな余裕が残っているやつがいる?

 

 視線を逸らしてみれば、イッセーは悶絶しながらも立ち上がろうとしていた。

 

「……なんで、無事なん?」

 

「無事なわけねえよ。……死んだ時と同じぐらい痛いって……」

 

 そう言いながらも、イッセーは鶴木やリスンよりも立ち上がっている。

 

 動くのも困難だろう。だが、最低でも数発は殴り掛かれる。

 

 その精神力に畏怖すらいだきながら、鶴木は妙案を思いついた。

 

 この状況下をひっくり返すには、ディオドラの戦闘不能が必要不可欠。

 

 そして、ゼノヴィアだけではそれは困難。

 

 自分たちが介入するにしても、一発だけだ。それを外せば、自分達は足手まといにしかならない。

 

「……リスン、お前、()は使えるか?」

 

 魔術という道理を知らぬ者では分からぬ言葉。

 

 だが、それだけでリスンは全てを察した。

 

「安心せい。睨み付けるだけなら余裕や。……イッセー!」

 

「なんだよ……っ。ぶっちゃけ、痛いのにかわりはないんだぜ……?」

 

 だが、イッセーもまたにやりと笑う。

 

 逆転の秘策を思いついた者がいる。それを理解し、自分のすべてを託す覚悟を決めた者の目だ。

 

 そして、自分たちの、アーシアの、仲間たちの命を懸けた大博打が始まる。

 

 その最初の言葉を、鶴木は静かに唱えた。

 

抜刀術式(ブレイドコード)透明(トランスペアレンシー)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪龍覚醒(アウェイクン)!!」

 

 その声に、ディオドラとゼノヴィアは同時に視線を向けた。

 

 リスン・ブネが震えながらも立ち上がり、そしてディオドラを睨み付けている。

 

 とても戦闘が可能な状態ではないにもかかわらず、その()()に輝く瞳がディオドラを見据える。

 

「ディオドラ! あんたはここでぶちのめしたるわ!!」

 

「やめろリスン! 今のオマエでは―」

 

 無理だと、ゼノヴィアは理解する。

 

 当然だ。見ればわかるぐらいリスンは無理をしている。

 

 体中震えており、ひざが笑っている。額には脂汗すら浮かんでいる。

 

 これでは戦闘などできはしない。それが一目でわかる。

 

 これは陽動だ。ディオドラの注意を自分に引き付けるための、命がけの陽動だ。

 

 しかし、ディオドラはゼノヴィアへの警戒を崩さなかった。

 

 そして同時に、魔力攻撃の準備をきちんと向けながら、はっきりという。

 

「ふふふ。そんな様子でどうやって―」

 

 その瞬間、ディオドラの肩に赤い鎧に包まれた右手がのせられる。

 

 そして、鶴木を背中に背負ったイッセーが、姿を現した。

 

「―うちやないけどな?」

 

 してやったり。その表情を、心の底からリスンは浮かべる。

 

 そして、ディオドラはすぐに振り返ろうとし、すべては遅い。

 

抜刀術式(ブレイドコード)祝福(ブレッシング)!!」

 

 鶴木がそういうと同時に、イッセーの左腕が光り輝く。

 

 その絶大なオーラは、左腕に封じられている一つの聖剣。

 

 龍殺しの聖剣、アスカロン。

 

 駒王会談の前に、天使長ミカエルがゲン担ぎも兼ねたイッセーの強化として授けた、伝説の聖剣である。

 

 それを前に、ディオドラはガードの構えをとる。

 

 イッセーが動ている事は驚きだが、明らかに絶不調だ。本当の威力は出せない。

 

 そして、如何に伝説の聖剣とは言えアスカロンはデュランダルに比べれば威力で大幅に劣る。

 

 ガードさえ間に合えば、確実に防げる。如何に悪魔にとって聖剣が天敵とはいえ、限度はある。

 

 そう、その判断は間違っていなかった。

 

 今のディオドラが、リスンに睨まれている。その真の意味を理解してないのなら当然の判断だ。

 

 故にこそ、この一撃こそが文字通りの最後の切り札。

 

 一撃で、ディオドラの右腕は粉砕。その勢いのまま、ディオドラは壁に叩き付けられた。

 

「……………っ!?」

 

 悲鳴すら上げる事ができず、ディオドラは悶絶する。

 

 全身が焼けるように痛い。それも、聖剣の痛みだけとはとても思えない。

 

 そんな激痛に悶えるディオドラに、ゼノヴィアがぽかんとなってしまったのも無理はない。

 

 いくらイッセーがディオドラを圧倒している性能があるとしてもだ。いくらアスカロンが、伝説の聖剣であるとしてもだ。

 

 この状況下で、その真の力を発揮する事はできない。アスカロンの全力は、相手が龍でなければ発動できない。

 

 その理解不能に思考が停止したゼノヴィアに、イッセーは崩れ落ちながらもその手を掴む。

 

「―っ」

 

「ゼノヴィア……。俺達は、これ以上はきつい」

 

「リスンが、あいつを睨んでるうちに決めろ! 説明してる、余裕もない……っ」

 

 倒れこんだイッセーも鶴木も、余裕がないのは明らかだ。

 

 しかし、全力をもってここまで頑張ってくれた。

 

 このチャンスこそ、千載一遇。

 

 それを理解したゼノヴィアは、両手に聖剣を握りしめる。

 

 右手には、愛用の聖剣であるデュランダル。

 

 左手には、イッセーから託されたアスカロン。

 

 それを握りしめ、ゼノヴィアは起き上がろうとするディオドラに向き直る。

 

「私は、アーシアに酷い事を言った事がある」

 

 そう、それは初めて会った時の事。

 

 聖書の神の死を知らず、和平を望むミカエル達の意思も知らず、神の名の元に悪魔を皆殺しにする事こそ正しいと思っていた時の事。

 

 悪魔を癒し、そのうえ悪魔に成り下がった魔女。そのアーシアにある信仰心ゆえに、善意で彼女を解釈しようとした事がある。

 

「だが、アーシアは私を友だと思ってくれている。それがどれだけ嬉しかったか、貴様には分かるまい」

 

 心の底から大事だと、そう断言できる友がいる。

 

 信仰というよりどころを失った自分にとって、それがどれだけの宝だったか、目の前の屑には分からないだろう。

 

「がぁああああ!? 痛い痛い痛い痛いぃいいいいいいい!?」

 

 実際、激痛に悶えて聞いていないディオドラに言っているわけではない。

 

 それでも、ただ言いたかった。

 

「その友を助ける為ならば、命の一つぐらいかけてやろう。そして、友を苦しめた貴様だけは断じて許さん!!」

 

 故に、邪悪なるもの一切よ。この聖罰を喰らうがいい。

 

「吠えろ、デュランダル! 輝け、アスカロン!!」

 

 相乗効果で膨れ上がる聖なるオーラは、イッセーのドラゴンショットの全力砲撃にも届くだろう。

 

 その威力、最上級天使クラス。

 

「私の友を苦しめた男を叩きのめす力を! そして、私の友を助け出す為の力を、私に与えてくれぇええええええええ!!!!!」

 

 そして、ディオドラがようやく立ち上がるそのタイミングをもって―

 

「消し飛べ、腐れ外道がぁあああああああああああ!!」

 

 その聖なる斬撃は、ディオドラを包み込んで神殿を縦に両断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「索敵、解呪」

 

 魔術詠唱が響く。

 

 そして失神しかけたその瞬間、イッセーの脳内に響く讃美歌が消え失せた。

 

 激痛が消えた事で、一気に体が軽く感じる。

 

 そして、起き上がろうとすると、手が差し出された。

 

「遅れてごめんね。イルマさん達が来たからにはもう大丈夫じゃん」

 

「イルマさん!」

 

 その笑顔をに元気を与えられながら、イッセーはその手を掴んだ。

 

 そしてイルマはイッセーを起き上がらせると、同じく鶴木にも手を伸ばす。

 

 それを掴んで立ち上がりながら、鶴木は脂汗を吹きながら微笑んだ。

 

「助かったぜ、イルマ姉さん。っていうか、あれなんだったんだろうな」

 

「簡単な魔術工房化と言ったところだろうな」

 

 鶴木に答えるのは、アイネスだった。

 

 |神霊髄液《ウォールメン・ハイドログラム・アドバンスド》を神殿中に伸ばして張り巡らせながら、アイネスはそう言いながら辺りを見渡す。

 

「……専門用語を飛ばして効果だけ説明すると、指定した対象以外の脳内に、念話の類で賛美歌を聞かせるになっているようだ。それも、魔術師(メイガス)の術式体系の一種と併用することで出力が増幅するように設計されているな」

 

 そう説明するアイネスは、感心と呆れと懸念を混ぜ合わせた息を吐いた。

 

「やはり、クロックワークスに付かない魔術師(メイガス)も出たか。それも禍の団(カオス・ブリゲート)に就くとは質の悪い事態だな」

 

 イッセーは理解できなかったが、どうやら魔術師の技術らしい。

 

 その所為で全滅寸前まで追い詰められたようだ。恐るべし魔術師と、戦慄する。

 

 そしてそんな時、ガバッという音が聞こえてきた。

 

 激痛の影響でふらつきながら起き上がるリアス達の中、イルマはリスンを強く抱きしめていた。

 

「……無事で良かった………っ!」

 

「い、イルマ姉さん? ちょっと痛いから離してくれへんか?」

 

 戸惑うリスンに、イルマは苦笑しながらその要望に応える。

 

 そして、起き上がってきたカタナに半目を向ける。

 

「っていうかカタナはへっぽこすぎじゃん。流石に痛覚干渉ぐらい、即興でやってほしかったじゃん?」

 

「へ、へっぽこで申し訳ありませんわ……っ」

 

 まだ激痛でふらついているカタナを、イルマはそっと手を伸ばして痛みを和らげるように頭をなでる。

 

 その眼には、心からの労わりが籠っていた。

 

「でも、無事で良かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――全部、終わったと思ってるのか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ディオドラの声が響く。

 

 振り返った全員の視界に、ボロボロのディオドラの姿が映る。

 

 目を血走らせたディオドラは、アーシアに向けて魔力の塊を向けていた。

 

 全身の骨はいくつも折れている。体中ボロボロで、骨すら見えている個所がある。何より、明らかに冷静さを失っている。

 

 そんな状態で、ディオドラは唾をまき散らしながら吠えた。

 

「全員消えろぉおおおおおお! ぼ、僕から離れなければ、アーシアを殺してやる!!」

 

「て……めぇ……っ」

 

 その狼狽ぶりと醜悪ぶりに、イッセーが切れかけるが、しかしすぐには動けない。

 

 大半の者達は讃美歌の影響から回復しきっていない。動けたゼノヴィアも全力開放でバテ切っている。そして、アイネスやイルマも疲労の色が濃い。

 

 ついでに言うと、何故かイルマの兵士達は誰もいなかった。

 

 この状況下では、ディオドラを無力化する前にアーシアが殺される。これではどうしようもない。

 

 そんな歯噛みする状況の中、しかしイルマは一歩前に出た。

 

 それに対して、ディオドラは魔力の出力を増幅させる。

 

「来るなって言ってるだろぉおおおおお! 本当に殺してやるぞぉおおおおお!!」

 

 恐慌状態のディオドラに、イルマはゆっくりを態度を示す。

 

 ゆっくりと、ゆっくりと右腕を前に出し、人差し指を動かす。

 

「そんな三流通り越して三十流の脅しにビビって魔術師(メイガス)と殺しあえるわけないじゃん。……なめてんの? それとも精神障害? あ、シスターフェチって病気こじらせてたね」

 

 人差し指を突き付けて。絶対零度の最終通告を叩き付けた。

 

「やめれば許してやる。だけどアーシアちゃんにかすり傷でも追加した瞬間に、あんたの命を消し飛ばす」

 

 平然と、平坦に、平静の声で告げる。

 

 ディオドラの破れかぶれの脅しとは違う。

 

 正真正銘本気の殺意を込めた、全力の警告。

 

 その宣言に、未だ意識が朦朧としているリアスは、アイネスが言った事を思い出す。

 

 彼女はかつて、道間日美子と呼ばれていた時に、自分より才能のある魔術師や魔術使い、そして彼らの私兵を皆殺しにして、幼馴染と幼子(おさなご)二人を、自分の命と引き換えに守り切った。

 

 踏んだ場数が圧倒的に違う。ディオドラの完全な状況を考慮していない、そしてリアス達は知らないがこの作戦の前提を崩壊させる愚か極まりないその場しのぎで破れかぶれの脅しは、イルマには一切通用しなかった。

 

「や、や、やれないとで思ってるのか!? なら、まず指か―」

 

 そして、ディオドラが動こうとしたその瞬間―

 

「まあ、もう終わってるけど」

 

 そのイルマの言葉と同時に、ディオドラは痙攣した。

 

 とっさに胸を手で掴んでいる辺り、まるで心臓発作でも起こしたかのような状態だ。

 

 そして、この状況下でそれは致命的すぎる隙だった。

 

「包み込め、我が血潮」

 

 アイネスがそう告げるとともに、神霊髄液がディオドラを包み込む。

 

 そして動きを完全に封じ込められたディオドラに近づきながら、イルマは指先を振る。

 

「ガンドっていう、フィンランド発祥の魔術って知ってる? 人差し指で突きつけたらいけませんって話の理由の一つ。一工程(シングルアクション)でできるから、結構便利なんだよねぇ」

 

 そう言いながら、イルマはナイフを一本取り出し―

 

「―壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 ディオドラに叩き付けて、爆発させた。

 

 その理屈は分からない。だが、そんな事は問題ではない。

 

 爆発した箇所は、ディオドラの股間部分。男の絶対的急所があるところだ。それも、半分ぐらい刺さってから爆発している。結論を言えば、内側から竿が吹き飛んだだろう。

 

 イッセー、鶴木、祐斗、ギャスパーが顔を真っ青にして絶句する。そして、ディオドラに対する殺意や敵意の類を、一瞬とはいえ完全に忘れ去った。

 

 そしてそれを意に介さず、イルマはアイネスに告げた。

 

「アイネス。あとお願い」

 

「「「「更にとどめ!?」」」」

 

 男衆が悲鳴を上げるが、アイネスは半目を向けてきた。

 

「人をなんだと思っている? ちゃんと治療をしてやるだけだ」

 

 そう言いながら、アイネスはすぐに術式を操作する。

 

「死なれても困るから治癒魔術はかけるさ。それに、東洋に古くから伝わる治療方法も併用する」

 

「………具体的にどんな?」

 

 後半に痛烈な嫌な予感を覚えて、付き合いの長さから鶴木が代表して質問する。

 

 それは、東洋の治療方法として中々有名なもの。

 

 ツボを刺激する治療方法。その中でも、器物を利用する方法。

 

 そう、それは―

 

「―――鍼治療だ」

 

 ―その言葉と同時に、ディオドラの全身から、形状変化で形成された針が突き出た。

 

 しかも、ジュージュー音が鳴っている。

 

「二百度ぐらいに熱しておいた。これで温灸としての効果も期待できるだろう。治癒魔術で火傷はすぐに治るから、より効果的だな」

 

 そう、すがすがしさすら感じさせる表情で、アイネスは告げた。

 

 そのままイルマに視線を向けると、何かに期待する表情を浮かべる。

 

 そしてイルマも、にっこりと微笑むと親指を突き立てた。

 

「100点満点! これでディオドラも生きたまま確保できるし、伯父様から褒められるね!」

 

「ああ。良い事をすると気持ちがいいな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、そこまでするならいっそのこと殺してやれよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大半の者達の心が一つになった。

 




 ディオドラは強化しないとは言った。

 だが、ディオドラの陣地を強化しないとは言ってない(ドヤァ

 あ、待って待って石投げないで
 
 簡単に説明すると、音楽魔術を併用した念話を発動する魔術工房化していたのがあの部屋です。結果として音楽魔術との併用で効果が大幅増大している讃美歌をダイレクトに聞かされたことで味方の大半が悶絶しました。ジャイアンリサイタル(テレパス)とでも思っていただければ。









 まあ、結局負けましたけど。

 蛇パワーでゼノヴィアだけなら勝算あったのですが、イッセーの根性とイルマ眷属の支援(へっぽこなカタナを除く)の連係プレーがクリティカルヒット。ゼノヴィアの全力攻撃を喰らって、ぎりぎりで生き残ったディオドラもとい蛇の力はすごかった。ただ相手が悪かった……。

 個人的にオリ主勢で原作勢食うのは好きじゃないし、これがホーリー編での主人公側のラストバトルなのでね。それなりに頑張りました。小物極まりないディオドラ相手に苦戦させる方法はいろいろ考えないとね。毎回ディオドラ魔改造ってのも味気ないし。










 そしてよせばいいのに逃亡も投降もしないで悪あがきしたディオドラは(男として)完全死亡。世界でも類を見ないダイナミック去勢手術を受けました。

 やけくそ状態で作戦の根幹まで投げ捨てた馬鹿の脅迫に対するイルマの脅し返しは、ジョジョ五期のブチャラティを参考にしました。まあ、魔術師なんてマフィアとサイコパスとマッドサイエンティストを足して割ったような人種だし……ね? そんなの何人もぶち殺した人がこんなしょぼい脅しにビビってられません。

 あと、ガンドを物理攻撃じゃなく呪いとして有効活用したのが個人的にひと手間です。原作シリーズでは大抵物理攻撃に使ってますが、こういう運用方法もあるということです。

 そして、スティレット投擲噴進対装甲貫入弾(これわかる人いるのか?)……もとい壊れた幻想によるダイナミック爆発去勢からの鍼治療による応急処置。お灸も参考にした東洋医療の極致を併用した魔術治療なので、絶対に死なせないぜ!!

 ……まあ、これにより男衆のディオドラに対する同情心が思わずMAXになりかけましたがwww









 ちなみにリスンや鶴木が使った能力や、別方面で大絶賛無双タイム中の鳩羽とボウゲツの能力については、エピローグ部分で説明しますのでお待ち下さい。


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17 禍の団、絶望の時

思った以上にディオドラの惨状に引かれてなくてびっくり。女性読者が多いんだろうか、この作品。









それはともかく、最近は寝不足気味で書き溜めが減っている状況ですので、もしかした連続更新がストップするかもしれないです。

そろそろおっぱいドラゴンの歌が楽曲コードにあるかどうか調べないといけないし、設定の修正とかも逐一しているから一時滞るかもしれないので、ご了承ください


 ディオドラが地獄の拷問すら生ぬるい惨状になっている間に、誰もがとりあえず一呼吸を整えていた。

 

 音楽魔術で強化された賛美歌を念話で叩き込まれたことで、ほとんどの物は疲労困憊で消耗があまりに激しい。影響を受けていないゼノヴィアも、大技を放ったことで疲れている。アイネスやイルマもディオドラの眷属を絶対不殺を条件として無力化していたので、少し疲れていた。

 

 そのため、どうしても少し時間がかかった。

 

 そして、イルマはディオドラを見下ろしながら、ため息を一つつく。

 

「……さすがにやりすぎの自覚があるのかしら?」

 

 リアスはそう聞くが、イルマは静かに首を横に振る。

 

 そこには一瞬の躊躇も迷いもなく、むしろ手緩かった。

 

 魔術師(メイガス)という存在の業の深さをなめてはいけない。中には自分を不死の存在にするために自分の体をバラバラ死体にするとんでもなく頭のねじが外れている存在までいる人種である。

 

 そして、イルマもそんな魔術師の世界で十年以上生きてきた実績がある。

 

「……クロックワークスにも黒魔術とか死霊魔術とかあるから、上級悪魔の死体とか研究材料として価値あるじゃん。……肺と腎臓は片方とっても問題ないよね?」

 

「お願いだからやめて」

 

 心の底から止めるほかなかった。

 

 跡形もなく消滅させる気だったディオドラではあるが、こうも見事に残酷な状態になっているとその気も失せる。

 

 しかも手加減してこれのようだ。魔術師という生き物の恐ろしさを嫌というほど痛感した。

 

 しかし、これを平然とぶちかましておけるのなら、いったい何を気にしているのだろうか。

 

「いったいどうしたのよ。ここまでやってれば気も晴れたと思うのだけれど?」

 

 というか、これだけやってまだやる気なら本当に止める必要がある気がする。

 

 そんな覚悟を決めかけているリアスに、イルマは小さな声を出した。

 

「……イルマさんの前世、どこまで知ってるの?」

 

「……まあ、死んだときのこととか、養子だったこととかね」

 

 簡単に、アイネスから聞いた話をまとめて説明する。

 

 それを聞いたイルマは、苦笑いを浮かべる。

 

「アイネスもほんと甘いんだから」

 

 そう告げ、そしてイルマはディオドラに視線を向ける。

 

 怒りはある。殺意はある。敵意もある。憎悪もある。

 

 しかし、同時にそこには一種の同族意識があった。

 

「イルマさんはね、ほんとは、ディオドラのことなんて悪く言えないんだよ」

 

「……やっぱり、中毒云々は経験談ってことね」

 

 リアスも少しは納得できる。

 

 ディオドラの眷属たちに対する意識は、似たような経験を持っているからこそ生まれた者なのだろう。

 

 そして、ディオドラのことを悪く言えない理由も、それで納得できる。

 

 まさに、ディオドラの眷属と同じことをしたのだろう。

 

 自らも堕ちた存在でありながら、同じように罪のない女性を堕とすことに協力の姿勢を見せる。……そして、心の底から後悔したのだろう。

 

 それが、アイネスが知った日美子の記憶。そういうたぐいなのだろうと、リアスは察する。

 

 その経験が、彼女たちを何としても生かしたいという気持ちにつながったのだと、リアスは推測する。

 

「……そういえば、ディオドラの眷属たちは?」

 

「全員纏めてスーパーイルマさんタイム&スーパーイルマさんフィールドでKOしたじゃん。今はディアクルスたちに安全圏まで運んでもらってます」

 

 その言葉に、リアスは少しだけほっとする。

 

 イルマの兵士たちに何かあったのかとも思ったが、杞憂だった。それに、イルマの目的はしっかり達成できたようだ。

 

「カウンセラーというか、治療にも積極的にかかわるのかしら? 傷のなめあいって悪く言われるけど、気分的には楽になるでしょうしね」

 

 そう茶化し半分でリアスは告げ―

 

「……それは無理だね」

 

 ―イルマは、静かに否定する。

 

「イルマさんなんかと一緒にされたら、あの子たちがかわいそうすぎるって」

 

 そう断言するイルマは、ディオドラに再び視線を向ける。

 

 そして、小さな声で、しかしはっきりと告げた。

 

「イルマさんは…………ディオドラ(こいつ)よりもっとひどい奴なんだからさ」

 

 その言葉に、リアスは思わず問いただそうとし―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ちょ! イルマ姉さんもリアス部長もこっち来てくれ!!」

 

 慌てて鶴木は主二人を呼び寄せる。

 

 それに飛び跳ねるように振り返った二人は、その光景を見て目を見開く。

 

 そりゃそうだろう。心からの同意を鶴木はするほかない。

 

「くそ! どういうことだ……壊れない!?」

 

「よ、よし! ゼノヴィア、もう一回!!」

 

 イッセーの譲渡を受けたゼノヴィアによるデュランダルの斬撃で、ひっかき傷程度の損傷すら与えられない、アーシアを拘束している拘束具がそこにはあった。

 

 明らかに異常事態だ。というより、非戦闘員であるアーシアにつかう拘束具のレベルでは断じてない。

 

 鶴木は何をどうしたものかと考える。

 

 間違いなく最大攻撃力を発揮するだろう、イッセーとゼノヴィアによるケーキ入刀で擦過傷レベル。これはどうあがいても自分たちだけでは破壊できない。結婚式でこんな惨事が起こればいろいろと台無しである。

 

 そして、そんなものを開発するにはかなりのものが必要だろう。

 

 普通に資材を用いて作ったのなら日本円に換算しても数百億行くだろう。神器などの異能保有者が作ったとしても、この性能から考えればよほどの対価を請求されることは想像にたやすい。だまして作らせてそのあと殺すというのも、こんなレベルの物を作れる人物の希少性や、それをなせる能力の高さから言って現実的ではない。

 

 それだけのものをし払ってまで、戦闘能力に乏しいものを拘束するための拘束具を頑丈にする必要性が理解できない。

 

 そも、ディオドラごとき小物馬鹿の性癖を満足させるために、そこまでしてやる必要だってないのだ。

 

 ……何かがおかしい。鶴木がそう考えることには、誰もが嫌な予感を覚え始めていた。

 

「イルマ、リアス嬢。とりあえずスメイガたちは敵をせん滅し終えたそうだ。音から判断してオーディン殿は戦闘継続中のようだから、ボウゲツと鳩羽を援軍として叩き込むために進軍している」

 

 そして、一人建設的に事を進めていたアイネスに、リアスはうなづいた。

 

「そう。なら、スメイガやソーナの知恵を借りるべきかしら」

 

 そうでもしなければ解除方法がわからない。そして、解除しなければ安全圏に退避することはできない。

 

 そこに関してはイルマも分かっており、故に彼女たちだけが知っている方法でさらなる対処を試みる。

 

「アイネス。悪いんだけど|神霊髄液《ウォールメン・ハイドログラム・アドバンスド》を使って解析魔術かけて。……なんか嫌な予感がしてきたじゃん」

 

「了解した。全員、少しそこから離れろ」

 

 イルマの言葉に即座にうなづき、アイネスは神霊髄液を皮膜状にして、拘束具を包み込む。

 

「あの、何をするんですか?」

 

「安心しろアーシア嬢。その拘束具の神秘的機能を解析するだけだ。普通に宝具クラスを解析すると脳が壊れかねないから、こうして神霊髄液で検査し……て……」

 

 首をかしげるアーシアを安心させるように説明するアイネスが、動きを止める。

 

 そして、顔を真っ青にさせるとすぐにスメイガに通信をつないだ。

 

『……どうした? こちらは今急いでそっちに向かっているが』

 

「絶対に来るな!! すぐ近くにあるシェルターに駆け込んで結界を張れ!! 私が合図したらソーナ嬢たちに反転(リバース)を発動させるよう準備しろとも伝えろ!!」

 

 明らかに焦っている表情でそう告げると、返事も聞かずに通信を切り、アイネスは吠えた。

 

「兵藤一誠にゼノヴィア嬢!! 急いでこの結界装置を破壊しろ、急げ!!」

 

 アイネスの焦りだけで構成されたその言葉と同時に、結界装置と呼ばれた拘束具が、反応を見せる。

 

 何らかの力が渦巻き始める中、アイネスは吠えた。

 

「これはアーシア嬢を核にすることを前提に作られた一品物の結界装置だ!! 禍の団(カオス・ブリゲート)は、最初からこれで同盟要人を全滅させるつもりだったのだ!!」

 

「ちょ、アーシアの何をどうすればそんなことできるんですか!?」

 

 イッセーがそういうのも無理はない。

 

 アーシアは将来の心優しさゆえに、戦いに向いていないことにおいてはグレモリー眷属どころか駒王学園随一だ。

 

 回復能力こそ絶大だが、それどまり。その回復能力も、敵味方の識別は生涯不可能だろうから広範囲展開ではなくピンポイントでの射撃という形で射程を伸ばせとアザゼルがアドバイスしたほど。それほどまでの善良さを持っている。

 

 そのアーシアをコアとして運用したところで、回復アイテムにすることはできても攻撃に転用することなどできない筈だが―

 

「……増幅反転だ」

 

 アイネスは、その言葉を絞り出す。

 

 そして、その言葉にその場にいた者たちは、ある事を思い出す。

 

 それは、シトリーとグレモリーのレーティングゲーム。

 

 その戦いでソーナたちが多用し、アーシアを撃破した神の子を見張るものから提供された技術。

 

 そう、それは―

 

「アーシア嬢の回復効果範囲をこのフィールドおよび観覧席まで増大すると同時に、その力を反転(リバース)させる。それがこの結界装置の機能だ」

 

 その言葉に、誰もが絶句する。

 

 致命傷クラスの負傷すら一瞬で治療する、アーシアの回復の力。

 

 それが反転されれば壮絶な威力になることは、シトリーとのレーティングゲームで証明されている。

 

 そして、そんなものが観覧席を包み込めば―

 

「各勢力のトップたちが、根こそぎやられるかもしれない」

 

 自分で言った祐斗自身が身震いするほどの、最悪の事態だ。

 

「……こんなもの、ランサーがクロックワークスを総動員しても、反転(リバース)のデータが取れてからの時間では作れんぞ!! 創造系の神器を禁手に至らせたか、神器が禁手に至る過程で創造系に目覚めたか……いや、それにしてもこれは、宝具換算でA++ランクはあるぞ!? どうすれば作れるんだ!?」

 

 これまでにないぐらい驚愕しているアイネス。

 

 そのアイネスに、ドライグが警戒の色を浮かべながら告げる。

 

『おそらく、結界系神器最強の神滅具である絶霧(ディメンション・ロスト)か、創造系神器最強の神滅具である魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)だな。どちらかが亜種禁手になればできるだろうが、これはまずいぞ』

 

「まずいってどういうことだよ!? つまり、お前と同格なんだろ!?」

 

 なら、対抗することは不可能ではない筈。

 

 イッセーがそう怒鳴るが、ドライグは体があれば首を横に振るような対応をとる。

 

『いや、絶霧も魔獣創造も赤龍帝の籠手()より格上の上位神滅具に属する。覚えておけ、俺より格上が存在するんだよ、神器にはな』

 

 絶望的な事実をたたきつけられる。

 

 神滅具である赤龍帝の鎧ですらどうしようもない。それも、さっきからデュランダルと併用しているのにだ。

 

 それを、当の神滅具の本体ともいえるドライグ自身が断言した。それは、これを破壊する方法がないに等しいということだ。

 

「ど、どどどどうします!? て、停止の力をかけてますけど全然止まりません!!」

 

 実際に、ギャスパーの邪眼すら意味をなしていない。つまり変則的な方法に対抗する準備を万端だということだ。

 

 このままでは、詰む。

 

 誰もがそれを脳裏に描くと同時に、アーシアは決意を込めて顔を上げる。

 

「皆さん。私の方をどうにかすれば―」

 

「何馬鹿なこと言ってるんだ!」

 

 イッセーが、その言葉を最後まで言わせない。

 

 その選択肢はありえない。だから最後まで言わせない。

 

 しかし、アーシアはすでに悟っていた。

 

「ですが、このままではアザゼル先生もミカエル様も死んでしまいます! そんなことになるぐらいなら私は―」

 

「でもだめだ!! 俺は二度とアーシアに悲しい思いをさせないって誓ってんだよ!! 絶対に助けるから、アーシアは心配するな!!」

 

 そう断言するイッセーだが、しかし結界装置の起動は目前に迫っている。

 

 このままでは本当にそうするほかない。

 

 そう、誰もが絶望したその時―

 

「―あれ、ちょっと待てよ?」

 

 ―イッセーが、きょとんとした表情を浮かべる。

 

 そして自分の左腕と結界装置を見比べて、うなづいた。

 

「ドライグ、お前の力を信じるぞ」

 

『いや、何をする気だ相棒?』

 

 さっき勝てないって言ったばかりなのに、そんなことを言われてドライグは困惑する。

 

「アーシア。先に謝っとく」

 

「え?」

 

 そして、殺す気などかけらもないくせにアーシアにまで謝罪した。

 

 その瞬間、何名かの心にある風景がよぎる。

 

 ヴァーリチームと戦った者たちの心によぎった。

 

 兵藤一誠が禁手へと至ったときの光景がよぎった。

 

 ……すさまじく嫌な予感がしながらも、とても頼もしくなった。

 

「高まれ、俺の性欲と煩悩よ!! 洋服崩壊(ドレス・ブレイク)禁手(バランス・ブレイカー)バージョン!!」

 

 そして、絶大なオーラが結界装置に流れ込む。

 

 洋服崩壊。魔力運用能力に欠ける、兵藤一誠という男が持つ絶技レベルの魔力運用方法。

 

 あまりに強大な彼の煩悩とともに魔力を流し込むことで、任意のタイミングで対象の衣服を粉砕する、着用物破壊魔力運用方法。

 

 煩悩が前提にあるので女相手にしか使えないという欠点がある。しかし、その破壊力は確かに絶大だった。

 

 そして、高い音が響くとともに、絹が裂ける音も響く。

 

 結果として、装置ごとアーシアの服が破壊され、生まれたままのアーシアの姿が映し出されたのだ。

 

「……焼き付けろ、俺の中の記憶ぅうううううう!!!」

 

 鶴木は魂すら込めてその光景を目に焼き付ける。

 

 そして次の瞬間、大半の女性陣からの一斉攻撃を叩き込まれて吹っ飛ばされた。

 

「……何がどうなった?」

 

 訳が分からないという言葉を体現する表情を浮かべながらも、アイネスは神霊髄液を操作して幕をつくってアーシアを遮断する。

 

「あらあらたいへん」

 

 そして朱乃がすぐに服を魔力で作る出し手、アーシアに着せる。

 

 ちなみにイッセーは眼福を封じられて残念そうにし、祐斗とギャスパーは目を隠していた。

 

 ……セクハラ技で作戦の根幹が台無しになる。もし禍の団が真相を知ったら、ショックで憤死するんじゃないだろうかと何人かは思ったりした。

 

 格上の神滅具の禁手が、格下の神滅具の禁手に煩悩が組み合わさったら破られた。真剣に製作者がトラウマにならないか心配である。

 

 リアスもほっとしながらも、心から呆れていた。

 

「あの技で破壊できるってなんで思えたの、イッセー?」

 

「いや、アーシアの衣服に密着してたから、衣服扱いできるかなーって思って。ま、普通にやっても無理だとは思いますけど、ドライグの力でブーストして強引にグレーゾーンを突破した感じです」

 

「それでこの結果を出したんだから、大したものよ。……本当に、よく頑張ったわ」

 

 そう告げながら、リアスはイッセーの頭を鎧越しに撫でる。

 

 そんなイッセーに、アーシアが涙を浮かべながらだきついた。

 

「イッセーさん!」

 

「アーシア!」

 

 すべてが終わったと実感し、二人はしっかり抱きしめあう。

 

 その光景を見ながら、鶴木はほっと息をついた。

 

 まだ状況は終わっていないが、しかしこれで大局は完全に決しただろう。

 

 禍の団の作戦は根本部分が破綻したのだ。普通に考えれば撤退に移行するか、投降を開始するかのどちらかだ。

 

 ブルノウ曰く愚者たちの受け皿が禍の団らしいが、しかし近くで主神が超絶バトルを行っている場所に積極的に近づいてまで、此方に攻撃を送りにくるようなド級の馬鹿はさすがにいないと思う。

 

「……とりあえず、一件落着やな」

 

「だな」

 

 リスンとそう言いあうと、カタナもまた苦笑しながらこちらに近づいてきた。

 

「お役に立てなくて申し訳ありませんわ。いえ、もう死ぬかと思ってそれどころじゃありませんでしたし、あんな精密狙撃はできませんし」

 

「「うんうん」」

 

 あれは仕方ないだろう。

 

 念話のシャットアウトを魔術で行うには、カタナの魔術回路は一転特化すぎる。あの悶絶状態でやるのは不可能だろう。

 

 彼女の火力なら結界装置を壊すこともできただろうが、間違いなく余波でアーシアが文字通り蒸発する。これまた手が出せない。

 

 こればかりは相性の問題だ。ここに来るまでの制圧砲撃で、十分すぎるだけの活躍をしているだろう。

 

 そうフォローしようとしたとき、カタナは鶴木を抱きしめた。

 

「ふふふ。でも、二人がいなければディオドラを倒せませんでしたわ。よく頑張りましたわね」

 

「ああ。ありがとう、カタナ」

 

 鶴木はそれを心から受け入れる。

 

 普通なら恥ずかしがったり、性的に興奮するところだろう。

 

 だが、カタナとそういうことをしたい感情はあるが、こういう時にそんな風になることはなかった。

 

 親を早期に無くしているからだろうか。時々、カタナのことを親のように思う時がある。

 

 だから、この感触はむしろ宝物だ。

 

「カタナぁ? うちも頑張ったんやで? そも、この作戦はうちの魔眼があってのことやろぉ?」

 

「そうでしたわね。はい、いい子いい子」

 

「いや、撫でてほしいわけやなくてな? それはむしろイルマ姉さんにしてほしいこってな?」

 

 そう反論するリスンの頭に、ぽんとイルマが手を置いた。

 

「うん、じゃ、素直にしてあげるね?」

 

「やったー! イルマ姉さん大好きやー」

 

 そして、これまた鶴木がカタナにされるかのように受け入れる。

 

「ふふふ。アーシアもそろそろ「部長さん」呼びは卒業しなさい? 私はあなたのことを、妹のように思ってるんだから」

 

「……はい、リアスお姉様!」

 

 あちらはあちらで、ほほえましい光景が広がっている。

 

 とにもかくにも一件落着。その言葉が皆の中で共通認識となり―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チィッ! ポセイドンの野郎はこれで無事かよ! ついてねえな!」

 

「アルテミスが肉塊になり果てるのを楽しみにしてたんだがな。マジでうっぜぇ」

 

 そんなボヤキとともに、傷だらけのオーディンがこちらに吹き飛ばされる形で突っ込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大勢は決した。

 

 だが、戦いはまだ終わらない。

 




……格上の力が格下が「おっぱい」をプラスして突破してきて、作戦完全瓦解。禍の団は泣いていい。


それはともかく、ここまでは同盟のターン。









ここからが、トルメーのターンです。


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18 魔王の落日、現魔王編

とりあえず書き溜めがあるのでこっちは投稿するぜ!










完全に禍の団……もとい、トルメー・グレモリー眷属のターンです。マジ大暴れです。







 あと、トルメー・グレモリー眷属は単純な強さだけで言うならサーゼクス・ルシファー眷属と同等なイメージにしています。
 ただ、能力的なところでちょっとシャレにならないところがあり、トルメー自身の絶対的な相性ゆえにサーゼクス眷属たちだと不利です。アザゼル杯にでても、神主体チームを全員撃破して優勝するかもしれない戦力を持っております。
 ニスネウスとキラルナがオーディンフルボッコにしたのもそういうところもあります。あいつらコンビ組むと相乗効果でシャレにならないんですよ。なのでちょくちょくコンビ組んで出てくるかと。


 大勢が決するより前の時間帯にさかのぼる。

 

 イルマたちは知らなかったから完勝を確信していたが、しかしこの戦いはそんなものではなかった。

 

 のちに「魔王の落日」と称され、四大魔王制度終焉のきっかけともなったこの戦いは、総合的に見れば確かに被害の度合いでは禍の団が圧倒的に大きい。

 

 旧魔王派の運営陣であるシャルバ・ベルゼブブとクルゼレイ・アスモデウスは「自分たち二人がいれば悪魔は健在と同義」という思想を持っている。ゆえに、構成員にどれだけの被害が出ようとも構わないという発想で攻撃を仕掛けてきた。

 

 だからこそ、情報が洩れていると察しなお、対策を取らずにそのまま強襲をかけたのだ。せめて配下に「勘付かれているから本命発動までの防戦に徹しろ」とでも告げていれば、被害は大幅に削減できていただろう。

 

 へたをすれば、結界装置に巻き込ませることすら考えていた可能性すらある。それほどまでに旧魔王血族である彼らは傲慢かつ独善的で、かつ愚か。愚者の受け皿である禍の団の筆頭格にふさわしい、生粋の愚物たちであった。

 

 結果として、彼らは大いに大打撃を受けている。

 

 なにせ、襲撃が来ることを知っているという時点で、不意が打てないのだ。そこにきて、敵の戦力の化け物具合である。

 

 北欧は主神オーディンがヴァルキリーを何人も連れてきている。オリュンポスは神々が何人も観戦するつもりだった。須弥山に至っては、ノリノリで大暴れしたいのか、主神である帝釈天は側近の四天王や仙人の群れを増員した。

 

 そのうえ、三大勢力も人員を大量に派遣している。それはもう、梅雨払いぐらいは全部するつもりで大量にだ。

 

 結果として、主戦場である貴賓席は、神々による完全無双タイム。旧魔王派の構成員たちは無双ゲームに出てくる一般兵のように千切っては投げられている。

 

 さらに、旧魔王派の指導者の一人であるクルゼレイが戦死。アザゼルを狙って襲撃を仕掛けるも、彼を説得しようとしたサーゼクス相手に攻撃を仕掛けて返り討ちにあったとのことだ。

 

 オーフィスの蛇によって魔王クラスにまで高まっていた最強戦力。それも政治的リーダー格を失ったことで、更に旧魔王派は士気を大きく減衰させる。

 

 ゆえに、この戦いの勝利は間違いなく同盟側であり―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、状況は大きく動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだ、こいつらは!?」

 

 攻撃を放つ上級悪魔は、その存在に目を見張っていた。

 

 灰色の巨漢。そう形容するほかない謎の存在が、いきなり扉を開けて現れたのだ。

 

 手に持っているのは金属製の棘付きバッドのようなメイス。かなりシンプルな作りだった。

 

 そして、あっけにとられて動けなかった上級悪魔の頭部がその一撃で粉砕されて、事態は一気に混乱状態になった。

 

 まず攻撃力が高い。砲撃は使ってこないし武器もシンプルでそこまで大きい物ではないが、頑丈であるがゆえに怪力で振るわれれば殺傷性能は莫大。そしてシャレにならない怪力だった。

 

 そして動きが速い。すさまじい速度で走ってくるその敵は、一瞬で近づいてくるため近接戦闘オンリーというのが欠点になっていない。

 

 さらに固い。最上級悪魔クラスの全力の攻撃を受けたのにもかかわらず、普通に起き上がってきた。どうも痛覚も鈍いらしい。

 

 強く、速く、硬い。三拍子そろった敵は、たった一人で最上級悪魔をその眷属ごと混乱させる。神クラスですらてこずらせる難敵だった。

 

 その数は20体以上。それらの存在が不意打ちでぶちかまされたことによって貴賓席は大混乱に陥った。

 

 そして、いまヴァルキリー達が密集体系をとることで迎撃を行っている。

 

 いわゆるファランクス陣形だ。これにより、謎の巨漢たちを迎撃することに成功している。

 

「落ち着いて行動しろ! やつら、身体能力はヴィーザルさまでもてこずりそうなレベルだが、知性は大したことがない!!」

 

 リーダー格のヴァルキリーが、そう檄を飛ばして気合を入れなおさせる。

 

 実際、その巨漢は身体能力頼りの完全なパワータイプだった。

 

 ドアを開ける。静かに迫るなどの行動はできたようだが、それも事前に指示を出されていたからできたことが大半のようだ。自律的な判断能力に関しては、はっきり言って小学生程度だ。

 

 故に、動きは単純で大振りと、一定以上の技量があれば回避も難しくはない。最上級クラスに匹敵する性能を発揮しながらも、最上級クラスには絶対に勝てない程度の敵だ。上級クラスでも冷静に立ち回れば、数時間かければ倒せるだろう。

 

 倒すのに時間がかかるのが難点といえば難点だが、しかしそれだけだ。増援が来るまで持ちこたえることは十分できる。

 

 そして、その増援はやってきた。

 

「お、こっちの連中は無事らしいね」

 

 そう言って姿を現したのは、仮面をつけた中年男性。

 

 レーティングゲームの映像で見たことがある。この男は、トルメー・グレモリーの眷属の一人だ。

 

 名前は確かデュリンダナ。兵士の駒を七つも使用した存在で、あのディハウザー・ベリアルの兵士たちを蹂躙した凄腕である。

 

「ディザストラ相手によく頑張ったなぁ。あいつら、バカだけど動きは速いから露払いと動く盾には最低な連中だし、疲れたよな?」

 

 そう言いながら、デュリンダナは剣を構える。

 

 その姿にヴァルキリー達は、防御態勢を取りながらも心のどこかで安心する。

 

 同盟の実力者が増援として来てくれた、これで何とかなるだろう。

 

 そう安堵の空気が流れかけ―

 

「………っ!? 待て、そいつに気を許すな!」

 

 リーダー格のヴァルキリーだけは、気づいた。

 

 なぜだ? なぜ、彼はディザストラなどという単語を使っている? なぜ運用方法を理解している。

 

 答えは一つしかなく―

 

「いや、気を付けても全く足りないけどねー」

 

 ―すべてが遅すぎた。

 

 一瞬で、全員の足が切り落とされる。

 

 絶大な聖なるオーラを放つ、二振りの剣がヴァルキリー達の足を切断し、さらにデュリンダナは蹴り飛ばしていた。

 

「な……にぃ!?」

 

 あまりの早業に驚愕すると同時、完璧な死が迫りくることを彼女たちは確信した。

 

 この状態では、どうあがいてもディザストラにもデュリンダナにも対応できない。このままいけば殺されることは確定で―

 

「じゃ、次行こうか」

 

 ―デュリンダナは、ディザストラにそう指示を出す。

 

 それが理解できないが、しかし殺されないというのならそれはそれで問題はない。

 

 すでに旧魔王派の悪魔たちは撃破している。ここから増援が来なければ、何とかなる。

 

 故に彼女たちは安心し―

 

「あ、その足は持ち帰っとけよ」

 

 ―そのデュリンダナがディザストラに出した指示に、目を丸くした。

 

 それに従うディザストラが彼女たちの足を回収する中、デュリンダナはぼりぼりと頭をかきながら、ヴァルキリーたちを見下ろした。

 

「ま、悪いんだけど両足なくしたまま残りの人生歩んで頂戴な。ま、運が良ければ……いや悪ければ? 早死にできるからそんなに嫌な人生送らなくて済むし、最近の義足は性能高いって言うから、そう悪くない人生じゃね? 結婚とか難しそうだけど」

 

 そんなことをいうデュリンダナに、ヴァルキリーの一人がにらみつける。

 

「……何のつもりだ! 我々など、殺さなくても問題ないとでもいう気か!」

 

 相当の屈辱を感じての言葉だが、しかしデュリンダナは首を振る。

 

「いやいや主の命令だよ。ま、恨むならマスターのトルメー・グレモリーが腐れ外道だって気づかなかったサーゼクス・ルシファーか、そんな奴と和平なんて結んだオーディン神とかを恨んで頂戴な」

 

 そう告げ、そしてデュリンダナはディザストラとともに、ヴァルキリーたちの足を運びながら部屋を出ようとし―

 

「おっと、目玉とかも片方はえぐっとけって言われてたんだった。皮もはいだほうがいいかな?」

 

 その言葉ともに、彼は聖剣を構えて戻ってくる。

 

 その表情は非常に冷静で、殺意などかけらもない。

 

 純粋に買い物を済ませる一般人のような対応で、彼はその凶行を試みる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、ヴァルキリーたちが見るも無残な姿にされている間、最大の脅威もまた動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらら。クルゼレイはもうやられちゃったんだ」

 

 その言葉を聞き、サーゼクスたちは振り返る。

 

 そこにいるものは、赤い髪を長く伸ばした青年悪魔。

 

 分家出身でありながら、本家次期当主たちと並ぶ会合に参加するほどの成果を上げた、若き天才。

 

 皇帝(エンペラー)すら撃破した、トルメー・グレモリーがそこにいた。

 

「……トルメー。君は貴賓席の警備担当のはず……いや」

 

「今の発言からして、てめえ、禍の団(カオス・ブリゲート)とつながってるのか?」

 

 サーゼクスとアザゼルの反応に、トルメーはにこやかにうなづいた。

 

「ええ、旧魔王派とは悪魔政府でクーデターを引き起こすために何年か前からつながってまして。彼らが禍の団に参加したのでその流れで籍を置いています」

 

 遠慮なく、即答だった。

 

『アスタロトの次期当主だけでなく、最強のグレモリーすら裏切り者とはな。全く、ふざけた話もあったものだ』

 

 タンニーンがそう吐き捨てるが、トルメーは意にも介さない。

 

 むしろ面白そうにしながら、軽く肩を回して調子を確認する。

 

 そんなトルメーに、サーゼクスは悲しみすら浮かべる。

 

「なぜだ? 君ほどの才能が有れば、禍の団につながる理由はないだろう? 禍の団につながって何をしたい。……いや、旧魔王派とつながっていた理由はなんだ?」

 

 本心からの言葉だった。

 

 未来のグレモリーを支えてくれるだろう、圧倒的な力の持ち主。それがトルメー・グレモリーだ。

 

 彼の実力があれば、現政権で十分すぎるほどの利権が手に入る。わざわざ旧魔王派に協力する理由はない。

 

 その疑問に、トルメーは静かに告げる。

 

「最初は、貴方たち現四大魔王と現魔王派の悪魔たちという質と量のトップにするつもりだったんですよ」

 

 そう前置きし、そしてトルメーは続ける。

 

「でも、禍の団につけば戦力が増えるうえに、最強のオーフィスがいますからね。それぞれ神々と全人類にまでレベルアップすることができます。だったらもう、趣味を追求するために生きている身としては最高峰を目指してみようかと思いまして」

 

「……趣味? それって大切?」

 

 オーフィスがそう首をかしげるが、首をかしげたいのはサーゼクスたちのほうだ。

 

 主語が完全に抜けているから、意味が理解できない。

 

 確かに四大魔王より神々のほうが質は上だろう。悪魔と人類なら人類のほうが圧倒的に数が多いのもわかる。

 

 だが、それで何をするつもりなのかが全く分からない。

 

「趣味は大切だよ、オーフィス。いつ死んでもいいぐらい人生を楽しむには、趣味を追求するのが一番いい」

 

 まずオーフィスにそう説明するトルメーは、そしてはっきりと言い切った。

 

「まあ、なんて言いますか質と量を追求するにあたって、それを高めるにはそれ相応の組織が必要なんですよ。僕の観点からみて現状最高峰の趣味を楽しめる組織は禍の団だって話です。グレートレッド殺しも、最強の質ですしやってみる価値はありますね」

 

「チッ! やはりオーフィスの目的はグレートレッドの撃破か!」

 

 トルメーの言葉でオーフィスの目的は分かったが、今はトルメーのほうだ。

 

『トルメー・グレモリー! 具体的に何をする気なんだ、貴様は!』

 

 いつでも殴り掛かれる体勢を取りながら、タンニーンが吠える。

 

 それにたいして、トルメーは平然と告げる。

 

 まるで今日が何時かと聞かれたので、時計を見てこたえるかのような気軽さで。

 

「他人の人生を台無しにして、苦しんでいる顔とか、断末魔の表情や悲鳴が聞きたいんです。質も量もこだわったうえでね」

 

 そう、はっきりと言い切った。

 

 寒気が走る。正気じゃない。

 

 クルゼレイが品行方正な常識人に思えるようなことを、トルメーははっきり言いきった。

 

「あと、僕の眷属たちはほとんど「神を殺す」ことを前提として契約しているので、同盟を結ばれたら約束が守れませんから。どっちにしても、僕としては離反するしかないでしょう?」

 

 さらに厄介なことが判明するが、今はどうでもいい。

 

 この男は、危険だ。

 

 三人が三人ともそう納得した。

 

 生かしておく必要がない。一瞬一秒でも早く殺さねば、何をしでかすかわからない。

 

 そう判断し、サーゼクスは静かに告げた。

 

「……わかった。悪いが、君はここで消滅してもらう」

 

 その言葉ともに、絶大な魔力がサーゼクスからほとばしる。

 

 その出力は魔王クラスなどという次元ではない。それどころか、半端な神を圧倒するレベルに到達していた。

 

 クルゼレイを倒した時の力は、本気からは程遠いものだということがあっさりと分かる。

 

 そして、次の瞬間にそこにいたのは―

 

『―せめてもの情けだ。私の真の全力を冥途の土産にするといい』

 

 そう告げるサーゼクスは、消滅の魔力のオーラそのものだった。

 

 圧倒的すぎる。これが、現魔王最強の男の真の姿。

 

 旧魔王末裔たちが撃破されたのも当然だ。下手をすれば、聖書の神を単独で殺すこともできたかもしれない。

 

 その絶大な規格外の力が、魔力の弾丸となって形成される。

 

 圧倒的密度で形成されているその火力は、少なく見積もっても最上級クラスすら下位の物なら一撃で消し飛ばすレベル。魔王クラスですら一撃で大ダメージを負うだろう。

 

 単独でオーフィスを足止めできるかもしれない。そう思わせるほどの圧倒的な存在だった。

 

 その圧倒的な弾丸が、数十も形成された。

 

 絶望を通り越して、一周回って感動すら覚えそうな光景。

 

 それを前に、トルメーはしかし微笑を浮かべていた。

 

「すごいですね。いや、これだけの力なら主神が相手でも負けないんじゃないですか?」

 

 そう他人事のように告げ、そして一瞬目を伏せる。

 

 それと同時にサーゼクスは攻撃を叩き込もうとして―

 

「―でも、僕と相性が悪すぎですね」

 

 そして開いた眼は、明らかに人の目のそれではなかった。

 

 多彩に偏光するその眼は、まるで宝石のようにきらめている。

 

 そして、その眼がサーゼクスを見据えた瞬間―

 

『―――――――なっ!?』

 

 サーゼクスが形成した魔力球数十個が、まるで水をかけられたろうそくの火のように消え去る。

 

 そして消滅の魔力そのものとなったサーゼクスすら陽炎のごとく薄くなった。

 

『………なにが?!」

 

 とっさの本能的判断で、サーゼクスは悪魔としての姿を取り戻す。

 

 だが、明らかに消耗がひどい。

 

 顔色は真っ青で、脂汗が垂れ流されている。動悸も激しく、体中が震えている。

 

 たった一瞬。たった一瞬見られただけで、サーゼクスは圧倒的に不利になっている。

 

 それでもとっさの反撃で魔力を放とうとするが、しかしそれはトルメーの目が輝き続けると同時に、ほんの一瞬霧のように揺らめくことしかできずに掻き消えていき―

 

「「宝石」クラスの「強奪」の魔眼で超越者クラスも無力化可能かぁ。これなら、純血悪魔は敵じゃないね」

 

 その言葉とともに、一閃が振るわれる。

 

 振るわれるのは一本の槍。そこから放たれるオーラの斬撃。

 

 対して力を込めてない、ジャブのような一撃。

 

 だが、このわけのわからない事態の頻発で回避を行う余裕はなく、最悪なことにそれで十分サーゼクスにとっても警戒必須の悪夢のごとき武装から放たれたものだった。

 

 そして必然。今の弱り切ったサーゼクスには致命的な一撃であり―

 

「か、……っは」

 

 ―その斬撃で、サーゼクスは崩れ落ちる。

 

『サーゼクス!?』

 

「タンニーン下がれ! お前じゃマズイ!!」

 

 とっさにタンニーンを押しとどめながら、アザゼルはサーゼクスを抱えると距離をとる。

 

 そして、信じられないものを見るかのようにトルメーをにらみつけた。

 

 あり得ないのだ。彼はヴァーリではないのだ。

 

 血統は完全に把握されている。彼は初代のころから純潔悪魔であり、中級クラスの血が混ざったりはしているが、正真正銘100パーセントの純潔悪魔である。ヴァーリと違い、人間の血をかけらも引いていない。

 

 ましてや、禍の団のとある派閥のリーダー格がそれを保有しているという情報まではつかんでいる。強奪などという真似をするとも思えない。それだけの大派閥のリーダー格であり、禍の団を利用する気のトルメーからすれば逆効果にしかならない。

 

 しかし、それは間違いなく―

 

「―黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)、だとぉ!?」

 

 そう狼狽するアザゼルに、更にトルメーは左腕を構える。

 

 そして炎とともに、一つの盾が具現化された。

 

 十字架の意匠が描かれた、その盾を見て、更にアザゼルは驚愕する。

 

 そいつに至っては使い手の顔すら知っている。少なくとも、つい最近部下が一戦交えたばかりでまだ保有者だったはずだ。

 

 あり得ない、あり得るわけがない。そんなことが起こりうるなど、異常事態以外の何物でもない。

 

 だがしかし、明確にそれは本物の―

 

紫炎祭主の磔台(インシネレート・アンセム)……っ!?」

 

 その驚きっぷりを心から嬉しそうに受け取りながら、トルメーは二つの聖遺物の間に一つの器を具現化させる。

 

 それに、もはやアザゼルは驚愕することすら忘れた。

 

 聖槍、聖十字架、そしてこれが神滅具で存在している聖遺物なのは知っていた。

 

 知っていたが……それとこれとは別問題だ。

 

「………挙句の果てに、幽世の聖杯(セフィロト・グラール)かよ。役満じゃねえか」

 

『馬鹿な。いったいどこから、()のような真似を……っ!』

 

 驚愕するタンニーンに、トルメーはなんてことがないように、はっきりと告げた。

 

「ああ、()から強引に借りてきました。……そうですね、クロックワークスに「デミ・サーヴァント」とはなにか聞けば、説明してくれると思いますよ?」

 

 そうにこやかに告げ、しかしすぐに何かに気づいてはっとなった。

 

「……いや、デミ・サーヴァント作ってた人たちは結局失敗してたんだった。これは亜種聖杯によって影を強引に僕の体と適合させただけですので、技術的には全く別物ですね」

 

 そう告げ、聖杯の具現化を解除するトルメーは、静かに盾と槍を構える。

 

 宝石のように輝く目を、邪悪に輝かせながらトルメーは断言した。

 

「じゃあ、ちょっと慣らし運転させてください。大丈夫、サーゼクス・ルシファーは生かしておいたほうが苦労しそうなので、殺す気はありませんよ」

 




 ディザストラの外見はバイオハザードのタイラントですが、同時にヒロアカの「脳無」の要素も併せ持っています。そういうわけなので、幹部格は出てきませんが、強敵格は出てくる予定です。


 そして強さの片りんを見せつけるデュリンダナ。彼は兵士七駒使っているだけあってかなりの使い手です。ちなみにもう少ししたらアルケイディアの真名と能力の一端も見せる予定ですが、この二人はトルメー・グレモリー眷属の二強です。残り三名はラグナロク編で暴れる予定。







 そしてサーゼクスの完全敗北。ぶっちゃけ彼の能力は「連載続行ほぼ不可能なのでフォンフ・ランサーの能力を持ってきて、更にプラス要素満載」です。亜種聖杯の力でフォンフ・ランサーが取り込んだのと同じサーヴァントの力を取り込んでいます。そのうえ文字通りのチートしてるので、めっちゃくちゃ強いです。

 特にサーゼクスが相性悪い理由もその一つである「宝石」クラスの「強奪」の魔眼。発動させれば視認した魔力を奪い取ることができるので、超越者としての特性が「人の形をとった消滅の魔力の塊」であるサーゼクスにとっての天敵極まりないです。ぶっちゃけ、あと一秒とっさの解除が遅れていたら文字通りサーゼクスが「消滅」するという皮肉極まりない最期を遂げていました。
 アジュカの「覇軍の方程式」も魔力運用の一環だと当人は言っていたはずなので、見ただけで無効化しかねません。ぶっちゃけ魔力による戦闘が主体であろう純血悪魔にとって最悪の存在です。無論、リゼヴィムにとっても同じ事ですが、あいつ意外と体術でも戦闘で来てましたし、逆にトルメーの攻撃の要である神滅具を無効化されるので、お互いに攻撃の決め手が封じられるので泥仕合になります。










後トルメー自体めっちゃイカレタキャラです。なんというか個人的に、「魔人探偵脳嚙ネウロ」に出てくる犯人みたいなやつ書きたかったんで、この際だからと書いてみました。


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19 魔王の落日 旧魔王編

 とりあえず、サーゼクスが本気出して完封敗北した上に、負かした相手が趣味と実益を兼ねた悪逆非道な行動をしていることにより、いろいろと発言力が低下確実な今日この頃、皆さんいかがお過ごしでしょうか。


 頭いかれてチート級の力を手にするわが作品群のボスにふさわしいイカレ野郎トルメーによる現魔王派の大打撃。そしてそのころ旧魔王派も大打撃を受けようとしていた!









さて、これで(予約投稿時点)で書き溜めないぞー! がんばれ自分!!


 吹き飛ばされたオーディンは、しかし即座に体勢を立て直すと、即座に大量の魔法とグングニルの一撃を放つ。

 

 それらすべてが最上級悪魔クラスすら深手を負うだろう威力を持つ。まず間違いなく、絶大極まりない破壊力だった。

 

 だが―

 

「キラルナ。命令だ……「雷神の力を開放して迎撃」」

 

「いいオーダーだな」

 

 その瞬間、それらすべてに矢が突き刺さる。

 

 そして問題は、その矢がすべて莫大な雷撃をまとっていたことだ。

 

 オーディンの魔法攻撃に激突した矢は、雷撃を開放。その結果魔法はそれてすべて外れる。

 

 その絶大な威力に、誰もが息をのむ。

 

 強敵なのはわかっていた。自分たちではまだ勝てないのもわかっていた。

 

 なにせ戦闘技量が桁違いすぎる狙撃手に、抜き打ちとはいえ主神の攻撃を両断する護衛だ。少なく見積もっても最上級クラスのそのまた上位に配置するだろう。

 

 だが、それでも足りない。

 

 準魔王クラスとでも形容するべき、圧倒的な猛者がそこにはいた。

 

 そして同時に、彼らを近くで見たことで、誰もがその正体と後ろのいる者たちを理解する。

 

「……あなたたち、トルメーの眷属ね!」

 

「おうよ!」

 

 リアスの怒気のこもった詰問に、仮面をつけていた槍を持つ女が答える。

 

 騎士の駒二つで転生した、ニスネウスとかいう女戦士だ。レーティングゲームでは槍を使っていたが、それとはまた違う槍を持っている。

 

 そして、隣の男の正体もすぐわかる。

 

 仮面が壊れているから一瞬判別に困ったが、彼もトルメーの眷属だ。名前はキラルナと登録されている。

 

 戦車の片割れを務めている男。こちらも精密狙撃でディハウザーやサイラオーグの眷属を撃破していたが、そんなレベルの技量ではなかった。

 

 トルメーの眷属からうち二人がディオドラの護衛として行動。これはもう、確定事項でいい。

 

 裏切者は、トルメーもなのだ。

 

「……こりゃまずいじゃん。トルメーは貴賓席の護衛にいたから、下手したら挟撃される形になってるんじゃ―」

 

 イルマがそう漏らした懸念の声に、二人は不敵な笑みを浮かべる。

 

「まあ、あの人のことだから死人は少なめだろ。ディザストラはともかく、俺たち眷属は「ひどい後遺症を残しながら殺しは絶対しない」って感じじゃねえか?」

 

 そう告げるキラルナは、楽しそうに唇をゆがめる。

 

「アルテミスが全身の皮をはがされて延命措置だけ済まされてるとか、なってるといいんだけどよぉ?」

 

 その言葉に、誰もが敵意を強くした。

 

 オリュンポスでも有数の女神が、そんな無残な姿になっていることを願っている。それに嫌悪感をにじませた。

 

 しかし、それに対して強い敵意を向けたのはキラルナだった。

 

 まるで、当然のことを言ったらいちゃもんを付けられたかのような表情だ。

 

「……おいおい。特に赤龍帝にはそんな目で見られたくねえな。お前覗き魔なんだから、あの女はお前を惨殺してきてもおかしくねえぞ?」

 

「あ? たかが覗きなんて悪ふざけ程度で殺されるわけねえだろ? いや、いつもボコボコにはされてるけど」

 

 イッセーは心底からマジ返しするが、キラルナは心の底から同情の目を向ける。

 

「優しい世界に育ってんだな。あのガワしか能がねえクソババアはいまさらそんなことで済まして、罪滅ぼしのつもりかねぇ」

 

 その苦笑とともに、どす黒いオーラが流れ出る。

 

 いな、それはオーラではない。

 

 それは、憎悪と殺意。色を感じてしまうほどにまで濃厚な、ただの感情。

 

 その感情に誰もが気圧される中、キラルナは弓を構えつつ静かに告げる。

 

「冥途の土産に俺の名を知っときな」

 

 雷撃をまとった矢をつがえながら、キラルナは告げる。

 

「我こそはディアボロス・サーヴァントが一角、ディアボロス・アーチャー、アクタイオン」

 

 その言葉に、オーディンが得心したと言わんばかりに歯を食いしばる。

 

「なるほど。アルテミス憎しで冥府から舞い戻ったか……っ」

 

「運よく呼び出されたってのが正しいがな。ま、あのガワだけのくそ女神と手を組んだことを恨むんだな!!」

 

 その言葉とともに矢が放たれようとして―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、オーディン以外は俺がつぶさせてもらう。偽りの魔王の縁者は真の魔王の血族が滅ぼしてこそ意味があるのだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その言葉とともに、光の柱がアーシアを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その、何が起こっているのかわかっていないアーシアの声が聞こえ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、ゲオルグのやつめ手を抜いたな? やはり人間などに頼るのはよくないということか……」

 

 左右愚痴をこぼしながら現れたのは、貴族服と軽装の鎧に身を包んだ一人の男性悪魔。

 

 オーフィスの蛇で強化されたと思しきオーラは魔王クラス。単純な性能ならキラルナことアクタイオンや、ニスネウスより上だろう。

 

 そんな男が、明らかに殺意を向けてイルマたちをにらんでいる。

 

「忌々しいグレモリーの娘よ。俺は偉大なる真なるベルゼブブの末裔、シャルバ・ベルゼブブだ」

 

 そう告げるシャルバは、心からの殺意を込めてリアス達をにらみつける。

 

「……我々の作戦を台無しにしてくれた礼もある。細切れにしてからサーゼクスの前にまき散らしてやろう」

 

「………私の目の前でアーシアを殺し、更に相手を直接狙わず親族から手にかける? ………外道っ!!」

 

 状況を理解したことで、リアスの怒りは即座に限界を突破する。

 

 そして、それを見てシャルバは明らかな嘲笑を浮かべた。

 

「ふん。あいつら偽りの魔王共は、まず血縁から殺して絶望を見せねば気がすまん。それに早くしなければトルメーが殺してしまいそうだからな。少しでも絶望させるために死んでもらわねば」

 

 そのシャルバの言葉に、アイネスが怪訝な表情を浮かべた。

 

 明らかにおかしい。そう言わんばかりの表情だ。

 

「……トルメー・グレモリーが本気を出してないことはわかっていた。だが、あの超越者であるサーゼクス・ルシファーを殺しかねないだと? ……眷属でも総動員したのか?」

 

 当然の疑問である。

 

 なにせ、ブルノウ・バアル子飼いのイルマの側近であるツヴェルフ・シトリーは正真正銘冥界の裏の裏まで知っている。最低でも、超越者であるサーゼクスの戦闘能力の大まかなところはわかっている。

 

 あの戦闘能力は悪魔の領域でいうことがまずおかしいのだ。少なく見積もっても主神クラスはある。

 

 今まで本気を出さないようにしているのは分かっていたが、それにしたってサーゼクス・ルシファーを殺しかねないというのは冗談にしても限度がある。

 

 そう思った次の瞬間、映像が浮かび上がる。

 

 そこには激戦の様子が浮かび上がっていた。

 

 そこでは小柄な少女をけん制するようににらみつけているタンニーンがいた。

 

 そして、龍王の鎧を身に着けたアザゼルが、槍と盾を持ったトルメー相手に押されている。

 

 あのカテレア・レヴィアタンを一蹴した鎧状態のアザゼルが押されている。

 

 しかも、彼がかばっているサーゼクスは、虫の息といってもいい状態だ。

 

「………お兄様!?」

 

 リアスが悲鳴寸前の声を上げる。

 

 それに愉悦の表情を浮かべるシャルバの視界のなか、大半の物が唖然となっていた。

 

 あの最強の魔王が、悪魔の力の象徴たる紅の魔王が、今の冥界の象徴である最強の存在が、瀕死になっている。

 

 その事実に絶望すら覚える中、しかしイルマとアイネスはそこに注目してなかった。

 

 かろうじて動けるサーゼクスは、時折消滅の魔力を弾丸にして放とうとしている。

 

 だが、トルメーがそれに気づいて視線をそらした瞬間に、それが消え去った。

 

 ゆえに、サーゼクスが一蹴された理由を理解する。

 

 彼が超越者たるゆえんを知っているイルマとアイネスからすれば、今の現象だけでトルメーの秘密に気づくことは容易だった。

 

「………最低でもノウブルカラーの強奪の魔眼だと!? くそ、よりにもよって相性が悪すぎる!!」

 

「どういうことですの!? たしか、リアスにあなたが話した特殊能力がそんな名前だった気がいたしますが―」

 

 アイネスが歯噛みし、断片的な情報しか知らない朱乃がそれに気づく。

 

 それに気づき、アイネスは絞り出した。

 

「……発動中に視認した魔力を強奪もしくは霧散させる魔眼だ。超越者としての特性が「消滅の魔力そのものへの変化」であるサーゼクス様では、相性が致命的に悪すぎる……っ」

 

「その通り。そしてあの独裁者の聖遺物保有者としての側面を取り込んだあの男は、悪魔にとって絶対的な天敵足りうる」

 

 そう補足するシャルバは、故にこそといわんばかりに、魔力を全身から放ち始める。

 

 当然のごとく蛇の力を利用した魔王クラスの領域。リアス達が現状で対抗できる戦力ではない。

 

 アーシアの死を連想する状況。サーゼクスの完敗。オーディンの苦戦。そして、シャルバの今の力とニスネウスとキラルナことアクタイオン。

 

 状況が最悪すぎて、誰もが動けず―

 

「………強奪の、ノウブルカラー以上の……魔眼………っ」

 

 イルマが、絞り出すようにそれが見えてないかのように声を出した、その時だった。

 

『……おい、リアス・グレモリーにオーディン。ついでにトルメーの眷属とかいうそこの連中』

 

 突然、ドライグが声を出した。

 

 そして、イッセーがふらつきながら動き出す。

 

『死にたくなければ今すぐそのシャルバとかいった悪魔から離れろ。いいか、できる限り全力で離れろ』

 

 そう告げたドライグは―

 

『その馬鹿は選択を間違えた』

 

 その刹那、イッセーから絶大すぎるオーラが放たれる。

 

 まるで、鮮血のような赤色のオーラ。

 

 それを目にした瞬間、オーディンが歯噛みした。

 

「これは……覇龍(ジャガーノート・ドライブ)か!?」

 

『我、目覚めるは―』

 

〈はじまったよ〉〈はじまってしまうね〉

 

 そんな声が漏れ始め、ニスネウスとアクタイオンが素早く飛び退る。

 

「さすがにこれはまずいな」

 

「ああ、特に俺たちは、神以外にはちっとばかし押し切れねえしな」

 

 そういうなり走り出す二人を意に介さず、イッセーは詠唱を続ける。

 

『覇の理を神より奪いし二天龍なり―』

 

〈いつだって、そうでした〉〈そうだな、いつだってそうだった〉

 

 呪詛以外の何物でもない声色で放たれるそれは、明らかに危険な兆候だ。

 

『無限を嗤い、夢幻を憂う―』

 

〈世界が求めるのは―〉〈世界が否定するのは―〉

 

『我、赤き龍の覇王となりて―』

 

〈いつだって、力でした〉〈いつだって、愛だった〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「―汝を紅蓮の煉獄に沈めよう―」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を、しかしイルマは目に収めてすらいなかった。

 

 トルメー・グレモリーの圧倒的な力に目を奪われていたわけではない。

 

 だが、あの魔眼だけは彼女にとって見過ごすことができるものではなかった。

 

 強奪の魔眼。魔眼使いの家系といっていい道間家の養子になった彼女にとって魔眼は縁あるものだが、その中でも最高峰に縁がある代物だ。

 

 そう、彼は彼女が壊したのだ。

 

 彼は、彼女に壊されたのだ。

 

 道間晴明(せいめい)は、道間日美子によって何もかもを壊されたからこそ、あんなことになったのだ。

 

 その彼と同じ魔眼を持ち、彼のような力を発揮する。

 

 それ以外の圧倒の理由はまったくもってわからない。

 

 だが、あの魔眼がサーゼクスの天敵であることは間違いない。

 

 そして、本来なら彼はこんなことをする人ではなく、しかしこんなことをするような人物へとなり果ててしまっている。

 

 だから、もし彼が生まれ変わってこの世界にいるのなら、このような凶行を起こすだろう。

 

 そして、より最悪の結末を作るためだけにこのタイミングを見計らって動いたとしてもおかしくないのであり―

 

「イルマ!」

 

 その額に、全力でアイネスが額をぶつける。

 

 その激痛で我に返ったイルマは、そして状況が非常にまずいことに気が付いた。

 

 すでに神殿が消滅している。因みにディオドラは一応引っ立てられていた。

 

 そしてイルマたちの眼前には、ボロボロになったオーディンが気を失って倒れている。

 

 さらに大規模なクレーターの中心部には、巨大な赤い龍が存在する。

 

 その隣には、大規模な損傷を受けた、アーシアを拘束していた結界装置があった。

 

 そして、あの赤い龍には少しとはいえ慣れたオーラがあった。

 

「………イッセー? まさか、覇龍を?」

 

 ようやく状況を呑み込めたイルマに、多くの者が怪訝な表情を浮かべる。

 

「イルマさん? どうしたんですか?」

 

「気にするな。強奪の魔眼保有者が凶行を起こすのは、イルマにとってトラウマなんだ」

 

 比較的冷静さをたもっていた祐斗に、アイネスはそう告げる。

 

 そして、その冷静さが状況の危険度を速やかに告げている。

 

「どうする? このままでは、兵藤一誠は………死ぬぞ?」

 




ダイジェストすらされずフルボッコされたシャルバ。余計な事せずにキラルナとニスネウスに任せていればよかったのに、自分で動いたせいで勝手に自滅といってもいいです。


そしてとりあえずキラルナの真名は明かされました。かのヘラクレスの兄弟弟子にして、「たまたまエロコメハプニングしたら惨殺された男」アクタイオンです。そりゃ神殺しを対価に協力してくれます。当然のごとくアーチャーです

因みにアクタイオンとニスネウスの相性は最高です。いろんな意味でオーディンは相手が悪かったです。









そして精神的打撃でショックを受けたイルマの視点に移ったことで、一気に話は進みました。









そしてくるぜぇ、頭痛タイムがくるぜぇ……。


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20 伝説の始まり(番組的な意味で)

………世界に名をとどろかす、一人の子供たちのヒーローの伝説が始まる。


























いや、これが始まりでいいのか?


 

 状況を簡潔にまとめると、こういうことになる。

 

 アーシア・アルジェントをまず世界のはざまに転送する形で殺害するという、手の込んだ殺し方をシャルバは不意打ちで敢行した。

 

 そしてその結果、雑に言えばイッセーは切れたのだ。

 

 そして衝動的に覇龍を発動し、シャルバを一方的に蹂躙する。

 

 動揺しながらも離脱を試みたシャルバだが、なぜかイッセーはギャスパーが持っているような停止の力を発動。それを妨害したうえで、覇龍の大技であるジャガーノート・スマッシャーを発射しようとする。

 

 そこまでたってようやく皆は離脱体制に入り、一部呆然とするリアス達を強引に引っ張る形で神殿から離れる。

 

 そしてジャガーノート・スマッシャーが発射され―

 

「なぜか、オーディン殿が急に前に出て自ら受ける形で余波を防いだのだ」

 

 もっと安全な方法があったのに、なぜか急にオーディンはその身を盾にして防いだ。

 

 その理由はわからないが、しかし今はそれどころではない。

 

 とりあえず生きているし、アイネスは治癒魔術もかけている。死にはしないだろう。

 

 現状最も重要な問題は、イッセーが覇龍を解いていないことだ。

 

「……イッセー先輩の気が乱れすぎています。あのままだと、寿命にも大きな影響が………っ!」

 

 小猫が震えながらそう言い、そして誰もが歯ぎしりする。

 

 覇龍とは、もともと寿命を消費して発動する技だ。性能は非常に高いが、引き換えに早死にするといってもいい。

 

 今代の白龍皇であるヴァーリ・ルシファーは悪魔の血を最大限に生かした魔力による代用でどうにかできるらしいが、イッセーの魔力量ではどうしようもない。

 

 つまり、放っておけば確実に死ぬわけだが―

 

「だからって、どう止めれば……っ」

 

 詰みすら確信した震えるリアスの声に、答えるものは誰もいない。

 

 消耗があまりにも激しすぎるこの状況下では、誰もがどうしようもない。

 

 万全の状態のオーディンならどうにかできるかもしれなかったが、この状態ではとても不可能だ。そも気絶している。

 

「……こうなったら一ばちで、俺が出張るしかねえか……?」

 

「本当にイチかバチかだな。確かにお前の聖騎士王の聖剣(カリブリヌス・キャメロット)ならワンチャンスはあるが―」

 

 アイネスがそう判断しながら、しかし何か言おうとしたその時だった。

 

「……やめておくといい。今の兵藤一誠では、条件反射で殺しかねない」

 

 その言葉に、誰もが振り向いた。

 

 イルマ・グラシャラボラス眷属は、この状況下で聞きなれない声を聴いたことで、新たなイレギュラーに警戒して。

 

 リアス・グレモリー眷属は、この状況下でさらなる強敵が出てきたことに警戒して。

 

 そして、その新たな参入者は、戦闘する気がないことを示すように手のひらを向ける。

 

「落ち着け。俺は兵藤一誠の覇龍を見に来ただけだ。戦闘する気はない」

 

 そう告げる男は、ヴァーリ・ルシファー。

 

 この時代における白龍皇にして、初代ルシファーのひ孫である、反則存在である。

 

 そしてその後ろでは、完全に見物の体勢をとっている美候と、微妙に不快気な表情を鶴木に向けるアーサー・ペンドラゴンの姿があった。

 

 露骨に嫌そうな顔をするアイネスだが、とりあえず無言を貫いている。

 

 それ相応の血筋を持ちながら、「責務? なにそれおいしいの」と言わんばかりに自由に生きているアウトロー集団、ヴァーリチーム。

 

 貴族として責務を果たさんとすることをモットーとする、血統尊重主義派の中で右翼。前世のころから貴族のアイネスからすれば、そりが合わない相手筆頭格だ。

 

 しかし、この状況下でうかつなことをする余裕はないので、ぐっとこらえていた。

 

 そのアイネスの肩に手を置いて感謝の意を示しながら、イルマが代表して鋭い視線を向ける。

 

「……作戦台無しにした連中殺しとけば、禍の団での立場も安定じゃん? 今なら主神オーディンの首もついてくるのに?」

 

 純粋な疑問ではある。

 

 旧魔王派の総力を挙げた作戦は、現魔王側の若手たちによって台無しにされたといってもいい。しかも、あと一歩のところで寄りにもよってセクハラ技で台無しにされているのだ。

 

 禍の団的にヘイトがたまりにたまっているだろう。ここでその元凶の仲間たちを皆殺しにすれば、きっと禍の団内部で英雄扱いされるはずだ。

 

 そういう意味では、禍の団の構成組織としてとてもいいことづくめである。

 

 しかし、ヴァーリは呆れ半分の目を向けてくる始末だった。

 

「弱った神を殺して何の意味がある。俺は殺したいんじゃなくて戦いたいんだ」

 

 そう告げると、ヴァーリは半目でこの周囲の攻撃を見渡した。

 

「シャルバ達の計画もどうでもいい。この戦場には禍の団(うち)の首魁も来ているが、まったくもって別件だからな」

 

 そう告げ、そしてヴァーリはイッセーに視線を向ける。

 

「正直な話、このまま兵藤一誠の寿命が尽きるのは面白くない。ちょっとしたついでのつもりだったが、何か策があるなら協力しよう」

 

 そう告げるヴァーリに誰もが首をかしげる中、美候が一歩前に出る。

 

 彼が抱えている少女を見て、誰もが目を見開いた。

 

「あ、アーシア!?」

 

「ほらよ。お前さんとこの嬢ちゃんだろ?」

 

 唖然とするリアスに美候がアーシアを押し付ける。

 

 そして、脈などを確認するが特に変な様子はない。

 

 念のためにアイネスが神霊髄液の能力で検査するが、これまた問題がなかった。

 

「うわぁあああああん!」

 

 ゼノヴィアがマジ泣きするが、しかし状況がよくわからない。

 

 とりあえず、誰もが質問の意を込めてヴァーリ達に視線を送ると、隣にいたアーサーが眼鏡をキランと輝かせた。

 

「別件で次元の狭間にいたら、いきなりこの少女が出てきましてね。ヴァーリがあなた方の仲間だといったので、ちょっとこちらの様子を見に行くついでに連れてきたのですよ」

 

「運がよかったな。あのまま狭間を漂っていれば、無に当てられて終わっていただろう」

 

 そう告げるヴァーリは、そしてハタと手を打った。

 

 その視線は覇龍状態のイッセーに向けられている。

 

「なるほど。それでああなったのか。そういう男だったな」

 

「……ちゅーこた、アーシア見せたら元に戻るんとちゃうか?」

 

 リスンがそう判断するが、しかし危険だろう。

 

 なにせ暴走状態だ。もしかしたら近づいた瞬間に攻撃を叩き込みかねない。

 

 魔王クラスの性能を発揮すると豪語していたシャルバですら蹂躙されたのだ。疲労困憊のこのメンツでは、誰が言っても反射の攻撃にすら対応できまい。

 

 さて、どうしたものか。

 

 ヴァーリも真剣にライバルの早死にを警戒しているのか、指を顎に当てながら思案顔になる。

 

「……暴走した龍を鎮めるなら歌が効果的ではある。だが、二天龍を鎮める歌なんて存在しないしな―」

 

 となれば覇龍同士の激突でもするべきか。

 

 などと、物騒なことをヴァーリが考えたそのタイミングだった。

 

「そんなあなたに神の祝福よぉおおおおお!!」

 

 その言葉とともに、天より使者が舞い降りる。

 

 その少女の名は、紫藤イリナ。

 

 熾天使ミカエルに所属する転生天使である。

 

 彼女の登場にちょっと誰もがぽかんとするが、彼女は彼女でイッセーの姿を見てちょっと驚いていた。

 

「わー。イッセー君すごいことになってるわねー。ゴジ〇みたい! おっと、そんなこと言ってる場合じゃなかったわね!!」

 

 そんな自己完結をしながら、彼女は手に持っていたものを置いて起動させる。

 

 それは、立体映像を発生させる大型の装置だった。

 

 よくわからずだれもが見守る中、イリナはふふんと得意げな表情を浮かべる。

 

「この緊急事態は貴賓席の方々も分かっておられるわ。だから、対処できる可能性のある切り札ってことでグリゴリから提供されたものを運んできたの!」

 

 つまり、これはグリゴリが開発した、対覇用最終章地といったところなのだろう。ヴァーリのデータをもとに開発されたのかもしれない、

 

 二天龍であるヴァーリのデータをもとに開発されたのなら、つい存在であるイッセーにも効果が期待できる。そういう安心感がわいてくる。

 

 だが、映像で一体何をするつもりだというのか。

 

 そんな気になるところが出てくると同時、映像が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっぱいドラゴン、はっじっまっるっよー!」

 

『『『『『『『『『『おっぱい!』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰もが、思考を停止した。

 

 作詞が、アザゼルだった。

 

 作曲が、サーゼクス・ルシファーだった。

 

 さらにダンス振付が、セラフォルー・レヴィアタンだった。

 

 冥界を二分する勢力が、寄りにもよっておっぱいおっぱい言ってる歌を作っている。

 

 しかも、イッセーと一緒に歌って踊っているのは子供たちだった。

 

 どうもこれ、児童用番組の主題歌らしい。児童用番組風の曲調だから理解できる。だが同時に、それでおっぱいおっぱい言っているのが理解できない。

 

 乳龍帝おっぱいドラゴンの歌。そんな名前だった。

 

「……そういえば、テレビ局ではイッセーはいなかったな」

 

 すごい遠い目をしながら、アイネスがそうつぶやいた。

 

 確かに、テレビ番組撮影の時、イッセーだけ別で呼び出されていた。

 

 イッセーはその際のことを黙っていたが、どうやらサプライズ的な演出だったらしい。もっとも、言いたくても言えない気分だったのかもしれないが。

 

 そして、誰もが笑うか呆れるか思考を停止させるかしかない中、動きはあった。

 

『お、おっぱい……』

 

 覇龍状態のイッセーから、まともな単語が発せられる。

 

 だが、状況的に狂っているとしか言いようがなかった。

 

「しゃべったわ! 反応したわ、みんな!」

 

「こ、こんな時でもおっぱいドラゴン……」

 

 歓喜するリアスが正しいのか、ショックを受ける小猫が正しいのか。その答えは、きっと考えないほうがいいのだろう。

 

 だが、とりあえず効果はあったようだ。

 

 そしてそれと同時に、朱乃が何かをひらめいた。

 

「リアス! あなたの乳首をつつかせるのよ!!」

 

「……え?」

 

 狂ってなければ発せられないだろう提案に、リアスが目を丸くする。

 

 だが、朱乃の目は真剣だった。

 

「イッセー君はあなたの乳首をつついて禁手に至ったわ。なら、きっと逆のこともできるはず」

 

「……納得できたことに寝込みたくなってきたわ。なあ、もうかえって寝てもええやろ? なぁ?」

 

 リスンがそうぼやくが、朱乃はツッコミを入れる気配がない。

 

 と、いうか聞いてない。

 

 それほどまでに真剣だった。それほどまでに、大まじめだった。

 

 というより、どこか哀愁まで漂わせている。

 

 これが、そんなことを言わなければならないという絶望によるものならよかったのだが、そんなことはなかったりする。

 

「ふふふ。私の乳首では無理だわ。リアス、貴方がとても、羨ましい……」

 

「そこでうらやんだら人として終わるとおもうよ、()

 

 イルマがそうツッコミを入れるが、もはや誰も聞いちゃいない。

 

「……わかった。とりあえず動きは抑えるからすぐにやれ。できれば時間をかけないでくれると嬉しい」

 

「だな。カタナ、とりあえずけん制頼む」

 

 ヴァーリと鶴木は「これ以上かかわりたくない」という感情を言外に込め、取り押さえにかかる。

 

「と、とりあえずわかりましたわ!」

 

 もはや状況の変化についていけなかったカタナはとりあえず砲撃を叩き込み、イッセーを揺るがした。

 

 そして一瞬で回り込んだヴァーリが羽交い絞めにし、同時に鶴木がその首にロックをかけて気を散らさせる。

 

 そして、ヴァーリは視線をそらし、鶴木はまっすぐにリアスのほうを向いた。

 

 瞬間、動くものがいた。

 

乳首(それ)が本命かい!!」

 

 リスンが鶴木の煩悩百パーセントの本当の狙いに気づき、渾身の一撃を叩き込んで吹き飛ばす。

 

 そしてそんな漫才が続く中、リアスは覚悟を決めたのか胸をさらし、イッセーに近づいていく。

 

 それを、イッセーは静かに玩味しながら震えだした。

 

「お、おっぱい……俺の、おっぱい……」

 

 そして乳首がつつかれ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? これ、どういう状況?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トルメー・グレモリーは、兵藤一誠が乳首をつついて覇龍を解除するその瞬間を、視界に収めてしまった。




寝不足で大変ですが、なんとかキリがいいところまで書ききれました。明日は土曜日ですし、しっかり眠ってシリアスな話を書いて見せます!!


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21 落日の第一歩

とりあえず、すべて終わってハッピーエンド!



































…………と、その前に因縁を生み出します


 そして、倒れ伏す兵藤一誠を見ながら、トルメー・グレモリーはとりあえずヴァーリに問いかけることにする。

 

「……まったく。赤龍帝が斃れてくれるのは都合がいいんだけどね、禍の団(こっち)としては」

 

 その言葉に誰もがトルメーに気づき、動きを見せる。

 

 ヴァーリチームは特に気にしていないが、リアス・グレモリー眷属とイルマ・グラシャラボラス眷属は臨戦態勢だった。

 

 そして、一部はとっさに魔力攻撃すら放つ。

 

 上級悪魔のツヴェルフ・シトリー。魔術師の名門であるエルメロイ一門の若き才媛だった存在。アイネス・エルメロイ・アーチボルトという、可憐で高潔な少女。

 

 その彼女が、魔力を純粋な物理攻撃力として運用している。完全な速射重視の攻撃だ。

 

 悪魔としてならともかく、魔術師(メイガス)としてのメンタルが残っているならとてもしない行為だろう。ロードに近しい立ち位置の存在が戦闘で頼ったと知られたのなら、恥さらしというほかない攻撃だ。

 

 だが、それらすべてを投げ捨ててでも仲間の安全を考慮に置いた速射攻撃。

 

 自分では不意打ち以外に対処できないということを、正確に把握しているからこその判断だ。

 

 とても立派な心の持ち主だ。魔術師としては失格かもしれないが、人間としては彼女のような者こそが立派であるということで―

 

「でも残念。僕には効かないよ」

 

 ―そういうのを台無しにするのは、とても楽しい。

 

 瞬時に魔眼を発動させ、魔力を吸収及び霧散させる。

 

 速射性を重視して純粋魔力にしたのが裏目に出たといってもいい。最も、この程度の出力なら何の問題もなく霧散させれるのだが。

 

 超越者であるサーゼクス・ルシファーの本領すら瞬時に霧散したこの宝石クラスの魔眼なら、上級悪魔クラスでは太刀打ち不可能だ。

 

 この空間に残っている純血悪魔で対抗可能なのは、そもそも魔力を持ってないサイラオーグ・バアルぐらいだろう。超越者の魔力すら瞬時に無力化する自分相手に、魔力戦闘が主体になる純血上級悪魔が勝つことは不可能に近い。

 

 だが、ツヴェルフ・シトリーはにやりと笑った。

 

「その光彩、宝石ランクか……!」

 

 心から歓喜している者の表情だ。

 

 それを見て、トルメーは何となく察した。

 

 どうやら、彼女は自分の魔眼のランクを確認したかったらしい。

 

 そもそも強奪の魔眼はノウブルカラーだが、ただでさえレアスキルゆえにノウブルカラーであるのだから、そもそも通常のノウブルカラーの段階でどこまで上級悪魔に通用するかわからない。

 

 だから、サーゼクス・ルシファーを圧倒していてもその魔眼のランクがわからない。これでは危険性の判断は不可能に近い。

 

 だから、あえて純粋魔力を放つことで魔眼を使わせ、その眼の色から魔眼の格を調べたのだ。

 

 そして、宝石の魔眼ということがどういうことかをよく理解している。

 

 自分たちが元居た世界における、神々にすら通用する魔眼の位階。星の生命体をすべて滅ぼすことができる、星の究極の自衛装置クラスが保有する虹の魔眼のすぐ下の位階。それが、宝石の魔眼。

 

 敵の魔眼がそうだと知って、それが強奪の魔眼だと知って、アイネス・エルメロイ・アーチホールがそれを理解して、ほっとする理由などただ一つだ。

 

 それを理解して、トルメーは微笑みとともに告げた。

 

「さすがはアイネス・エルメロイ・アーチホールを名乗るものだね。自らの魔術師(メイガス)としての矜持を投げ捨ててまで、()()かどうかをあえて確認したのはすごいよ」

 

 素直に本心からほめる。

 

「君のご指摘通り、僕の強奪の魔眼は()()以上虹未満の宝石さ。虹でもなければ黄金でもない」

 

 そう告げながら、トルメーは魔力の塊を創造する。

 

 一発一発が並みの最上級悪魔の大技に匹敵する魔力を複数精製しながら、トルメーははっきりと断言した。

 

 その場にいる誰もが、イルマ・グラシャラボラスとツヴェルフ・シトリーだけが安堵を隠しきれてない中、トルメーは宣告する。

 

 リアス・グレモリー眷属とイルマ・グラシャラボラス眷属をおののかせ、その表情を心地よく感じながら、脅しをかける。

 

「バッドエンド回避成功と見せかけてのデッドエンド……って、他人が迎えるのを見るのはとても楽しいと思わないかい? 僕はそういうタイプなんだけど―」

 

「そうはいかない」

 

 割って入ったヴァーリを見て、トルメーは肩をすくめる。

 

 相応に怒気があるこの状況下では、もし本当に打てばその瞬間に殺し合いだろう。

 

 実際、後ろの美候とアーサーも戦闘態勢に入っている。

 

「せっかく見どころを見つけた宿命のライバルが助かったんだ。此処で余計な水を差さないでくれないかな?」

 

「そうですよ。麻宮鶴木は気に食わないですが、木場祐斗とゼノヴィアには期待しているのです。此処で詰まれるのは困りますね」

 

「まったくだぜぃ? それとも、俺たち全員を敵に回すのかい?」

 

 その挑発的な言動に、トルメーは肩をすくめた。

 

 利敵行為極まりない。ここで殺す理由としては十分だ。

 

 だが―

 

「―趣味でテロリストやってる身としては、同じ趣味人の言い分には耳を傾けないといけないかな?」

 

 ―ここで倒すのは味気ない。

 

 神々を絶望させるには相応の戦力が必要だ。魔王と神滅具の文字通りの悪魔合体は貴重な戦力になる。

 

 彼らが目的を果たせずに死んでいくのを見るのも楽しいだろうが、目先の楽しみにこだわりすぎて、最終的な最高結果を目指せなくなるのはうかつだろう。

 

 どうせなら、より良い結果を得るために布石を打たなければならない。

 

 そう判断し、トルメーはあえて魔力をかき消した。

 

「……仕方ない。だけど、このまま帰るのも味気ないし、ちょっとした衝撃の事実というのを君たちに教えておこうか」

 

 なので、口で仕掛けることにする。

 

 対象は一人。一応写真で確認していた。そのころの面影はしっかりと残っている。

 

 だから、はっきりと告げることができる。

 

「不完全なデミ・サーヴァントの麻宮鶴木くん。君をそうした連中は、禍の団の末端に属しているよ」

 

 その言葉に、理解を示したものはほとんどいなかった。

 

 そして、真っ先に反応したのはイルマ・グラシャラボラスだった。

 

「……その話、詳しく聞いてもいいかな?」

 

 瞬間的に獲物の銃口を突きつける。

 

 それを恐れず、トルメーはまっすぐにその目を見つめる。

 

 そして、誰もが状況に置いてけぼりにされる中、トルメーは返答した。

 

「ぼくも魔術師(メイガス)同士のつながりで愚痴を聞いただけだよ。なんでも「わざと失敗してそこからのデータ収集のつもりが、こっちの器が全滅して、一人だけ半端とはいえ実現したぁ!」とか泣いてたのがとても見ごたえあったっけ」

 

「へぇ~。その結果自棄起こして、全員皆殺しにしようとしたってのかぁ。……死にたくなければ禍の団(そこ)やめて一生引きこもってろって言っといてくれない?」

 

 好奇と殺意を交錯させながら、二人は視線をぶつけ合い―

 

「……落ち着けや、イルマ姉さん」

 

 鶴木が、イルマのその肩に手を置いた。

 

 イルマははっとなりながら、鶴木に目を向ける。

 

 それを笑みで受け止めながら、鶴木はトルメーに視線を向けた。

 

 そこに敵意はない。殺意もない。

 

 敵ではあるが、自分たちが戦う相手の類ではない。そういう無関心だ。

 

「ま、そいつらには俺からこう言ってたって言っといてくれや。「ざまぁ」ってな」

 

「それだけでいいのかい?」

 

 心からそう尋ねるが、鶴木は平然としたものだった。

 

 特に気にしていない。そういう心が透けて見える。

 

 本心から、彼は自らに死んで当然の術式を施したものに大してその程度の感想しかもっていない。それがよく分かった。

 

「俺はイルマ・グラシャラボラスの眷属になれて幸せだよ。そういう意味じゃあ、そのきっかけ作ってくれた連中には恩もあるしな」

 

 そう言いながら、鶴木は一つの行動をとる。

 

 ……剣の切っ先を突き付けて、静かに宣言する。

 

「アンタがイルマ姉さんや俺の仲間に危害くわえるって言うなら、たとえ死んでも一発かますぜ、俺は」

 

 敵対することはないだろう。それだけの差があり、ぶつかり合う段階に到達していない。

 

 だが、そうであっても必要とあれば叩き潰す。そういう決死の覚悟を決めたものの目だった。

 

 それが結局無意味になる。何もできずに叩き潰され、そしてそのうえで無残に仲間も殺される。

 

 もしそんなことになれば、きっといい表情を浮かべるだろう。

 

 それがとても楽しそうで、トルメーは戦いたくなり―

 

「マスター、そこを動くな」

 

 ―その瞬間、眷属の声を聴いて動きを止める。

 

 そしてそれと同時に、一つの絶大な火力が放たれた。

 

 放つのは、ボロボロになっていたオーディンの持つ槍。グングニル。

 

 その絶大な火力は、魔王クラスすら圧倒するまさに主神の頂。

 

 どうやら、会話に気を取られている間に攻撃の準備を整えられていたらしい。覇龍の砲撃の盾にさせられたとはいえ、それでもう動けるようになるとは予想外だ。

 

 もう少し念入りに命令しておけと、あとでニスネウスに伝えておこう。

 

 そう思いながら、しかしトルメーは何もしない。

 

 できないのではなくしない。その理由はとても単純だった。

 

「全く、神ごときが我らが主を害そうなどとは不遜極まりない」

 

 その言葉とともに、最も頼れる眷属である、アルケイディアが割って入る。

 

 そして、渾身の打撃とともにグングニルの一撃を弾き飛ばした。

 

『『『『『『『『『『――――――――――ッ!?』』』』』』』』』』

 

 あり得ないとでも言いたげな、ヴァーリまで含めた全員の驚愕。

 

 そして、それと同時に舞い降りる三つの影。

 

 かろうじて戦闘態勢をとれるようになった、魔王サーゼクス・ルシファー。

 

 巨体をもってしてリアス達をかばう、元龍王タンニーン。

 

 そして、龍の鎧をかろうじて維持した、堕天使総督アザゼル。

 

 その新たなる難敵の参入に、トルメーは肩をすくめる。

 

 すでにニスネウスとキラルナは撤退している。この段階で総力戦はさすがにまずい。

 

 へたに赤龍帝を巻き込むと、ヴァーリまで参戦してきそうだ。さすがにそれは骨が折れる。物理的に。

 

「……帰るよ、アルケイディア。これはさすがに難易度が高そうだ」

 

「はっ! さんざん大暴れして気はすんだってか? このサイコ野郎……っ」

 

 怒りがみなぎるアザゼルの言葉に返答はしない。

 

 返答など決まりきっている。それはもう、アザゼルもわかりきっているだろう。

 

 とても楽しかった。そう答える以外に返答などないのだから。

 

 だが、このまま無言で買えるのも味気ない。

 

 だから―

 

「アルケイディア。名乗っていいよ?」

 

「―いいのか、マスター?」

 

 アルケイディアはそう聞き返す。

 

 一応自分の真名は、死因まで明確に理解させられるから要警戒対象のはずだろう。

 

 だが、トルメーは一応味方には気を使えるのだ。

 

「あっちの名前で呼ばれたくないだろう? まあ、対策はきちんとしてあげるから……さ?」

 

 そう、手間はかかるが対策はできる。そして、それは対策をするだけの価値はある。

 

 直属の部下の士気とはそういうものだ。

 

 ゆえに、アルケイディアはどこかうれし気に仮面をとる。

 

 その素顔を見せつけながら、アルケイディアは宣言する。

 

 それを後方で後詰として待機していた撤退支援担当に連絡しながら、トルメーも一応聞いた。

 

「私はディアボロスサーヴァントが一角、アルケイディア。その真名、アサシンのサーヴァント、アルケイデス」

 

 その言葉に、ピンとこないものとピンとくるものが大きく分かれる。

 

 若い者たちはよくわからず、神話の者たちはすぐに理解した。

 

 そして、その機先を制するようにアルケイデスは告げる。

 

「……おぞましき女神の栄光などをその名とした愚物が、命捨てる時に焼き消した憎悪と人の残滓。ゆえにこの名前を覚え、そして間違えるな。その時が、貴様らの最後であるとその魂に刻み込み、誰もにわかるように伝えておけ」

 

 その言葉とともに、霧が包み込む。

 

 そして、トルメーは最後に一言告げる気になった。

 

「あ、最後にこれだけは言っておこうかな?」

 

 そして、霧に完全に包まれるその瞬間―

 

「―できれば、君たちが絶望するその瞬間を見たくてたまらないね。若い希望が砕け散るその顔は、とっても美しくて感動するからさ」

 

 ―その、最大の悪意を心から発言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局のところ、禍の団と同盟の大きな戦いであるこの戦いは、同盟側の勝利としか言いようがない。

 

 禍の団の最大派閥である旧魔王派は瓦解した。前回の駒王会談襲撃時にすでに一人死んでいた幹部がさらに一人死に、もう一人もなすすべなく蹂躙されたのだ。派閥内ならともかく、それ以外での影響力は大幅に砕け散っただろう。

 

 結果として、英雄派という組織が台頭することになるが、それはそれ、これはこれ。一気に土がついたことには違いない。

 

 だが、完全勝利などとはとても断言できない戦いだった。

 

 トルメー・グレモリーという伏札を見抜けなかったことがあだとなり、数多くの戦士たちに被害者が出た。

 

 彼が贈りこんだディザストラと彼の眷属たちによる強襲で、多くの者たちが重い後遺症を患うことになる。

 

 手足の一本や二本を失った程度ならまだ運がいい。中には腎臓や肺の片方を生きたまま摘出された者がいる。両目をえぐられたものもいる。皮膚を引きはがされて、目の前で燃やされた者がいる。

 

 そんな残酷な目にあった者たちは心を病み、それが癒えるのに長い年月がかかるだろう。

 

 その影響で、同盟に参加した各勢力の中には鎖国政策に立ち戻るべきだという者たちまで出てくる始末。こと同盟に真っ先に賛同したアースガルズは、ヴァルキリーの二割が同盟反対派に回り、同盟反対の筆頭格であるロキのもとに身を寄せることになる。

 

 また、この一件によって現魔王の発言力は大きく低下する。

 

 トルメー・グレモリーの背信を見抜けず、また文字通り一瞬で敗北した映像を公開されたサーゼクス・ルシファーの発言力は急激に低下。さらにディオドラが次期当主だった、現ベルゼブブを輩出したアスタロトは、多くの発言力だけでなく次期魔王の排出権を失うこととなる。

 

 これを好機ととらえた大王派は、二人のシンパである悪魔たちを要職から引き離すべく行動を開始。それらを防ごうとしたレヴィアタンとアスモデウスとの間の政争で、冥界は一時混乱状態になった。

 

 なにせ、大王派血統至上主義派には、サイラオーグ・バアルが神滅具保有者であることを秘匿していたという失態がある。これを鬼の首を取った気になって忘れていたことで、徹底的にそこを突かれたのだ。

 

 結果的にはそれ以上の被害を生んだグレモリーの影響力は低下し、そもそもの元凶であるアスタロトの魔王排出権は失われた。だが、血統至上主義はも多少の手傷を負うことになる。

 

 そして、それと同時期に全く違う動きを見せる者がいた。

 

 大王派血統尊重主義派のブルノウ・バアル。彼は逆に、立場を失ったグレモリーとアスタロトの者たちを保護した。

 

 かつてほどの権力はないが、能力をきちんと考慮したうえでそれなりの立場に就くことを、自分の派閥につくことを前提として明言したのだ。

 

 同時、特に眷属を集めていなかったブルノウ・バアルは二人の眷属を新たに参入させる。

 

 シキンニ・アスタロトとエルジュ・グレモリー。この二人を、駒価値二つの能力があるとはいえ、眷属悪魔として側近にしたのだ。

 

 それゆえに多くのグレモリーとアスタロトが配下となることを決意。その流れで多くの者たちが配下となる。

 

 結果として、血統尊重主義派は大きく発言力を増すこととなった。

 

 すでに彼の銘はグラシャラボラスの次期当主代理という地位についており、更に彼女の眷属悪魔はシトリーの物だ。

 

 つまり、彼は大王派筆頭格のバアル家有力分家出身でありながら、魔王派筆頭格の四家とコネクションを結び、莫大な影響力を得ることに成功したのだ。

 

 これにより、冥界は大きく変貌する。

 

 その過程において、もっとも大きな制度改革の一つとして、後世の歴史書や研究者に語られる内容がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 過去の栄光に縋りついている、四大魔王制度の完全撤廃。そして、それに変わる新たなる悪魔の盟主体制の確立。

 

 血統尊重主義派による数多くの冥界の変化、その第一歩となる大きな兆しは、この戦いをきっかけにして生まれたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それゆえに、この戦いの別称は「魔王の落日」となる。

 

 魔王という言葉が「過去、悪魔を率いていたもの」程度の認識へと変化する、その大いなる一歩を魔王自ら踏み出した、魔王血族最大の愚行。

 

 そして、その一歩は踏み出され続けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最強の白龍皇にして明星を継ぐもの、ヴァーリ・ルシファーがただの兵器によって大敗を喫するとことにより、魔王の価値は大いに暴落することとなるのだから。

 




いまだにサーヴァント風ステータスに鶴木についての詳細をかけなかった理由が、これです。

彼はデミ・サーヴァントなので、ステータスの際にクラス別スキルなどが必要なのです。とりあえず、こっからはエピローグ回なのでそのあたりで軽く説明して、そのあとでステータスを乗せることになると思います。








そして盛大に魔王たちが失墜した戦いは終わりました。

今回のトルメーの成果によって、直接的にも布石的にも魔王の価値は暴落します。それこそ「昔は魔王ってのがあくまで大きな顔できるステータスだったんだよー」とか老人が言ったりするぐらいになる感じで頑張ります。


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22 デミ・サーヴァント、トルメー・グレモリー

さて、ここからはエピローグ回となります。

まずはトルメー及び鶴木のデミ・サーヴァント組についての情報ですね。


 イルマ・グラシャラボラスは、兵藤邸の屋上で、空を見上げていた。

 

 ぼんやりと空を見上げながら、過去に思いをはせる。

 

 道間日美子として、孤児だった身から引き取られてからの毎日。

 

 今生になっても続く、アイネス・エルメロイ・アーチホールという友との出会いと、前世での別れ。

 

 そして、第三次クロックワークス聖杯戦争での死闘。その結果として、ご褒美となる願望器は大したことができない代物だったが、一応最後の余りは使うことができた。

 

 そして、特に使うことを考えてなかった……というか連敗経験と自分以外の優秀さゆえに、勝つことをまず考えてなかった……ゆえに、なんとなく気晴らしに願いを言ってみて―

 

「―叶っちゃったんだよなぁ」

 

 そのおかげで、鶴木を助け出す事が出来たのは良かった。

 

 だからこそ、ランサーを自分の眷属悪魔にする事をしなかった。

 

 イルマ・グラシャラボラスの眷属悪魔は、兵士(ポーン)のディアクルス以外は、もういらない。

 

 彼女達だけで十分だ。もし必要だというのなら、一時的なトレードだけでどうにかするつもりだ。

 

 もしそうしなくなる時が来るにしても、それはきっと何十年も後に事になるだろう。

 

 そんな事を思いながら、しかしイルマの胸の中には不安が渦巻く。

 

 道間誠明。イルマの義理の兄にして、初恋だった少年。

 

 彼と、乙女と、アイネスとの毎日は幸せだったのかもしれない。

 

 暗闇に捕われながらも、悪意にまみれながらも、しかしあの毎日は心の救いだった。

 

 ……何時からだろう。それがどこか憎しみを浮かべるようになってしまったのは。

 

 決まっている。アイネスがいなくなってからだ。

 

 あの時から、誠明と乙女の関係はより深くなっていった。恋人同士なのは誰が見てもすぐに分かるようになった。いずれそうなる事は分かっていたが、あそこからはっきりなっていったのだろう。

 

 きっかけは、誠明がイルマ(日美子)の為に両親を殺してから。それがきっかけになって、誠明は心の支えとして淡い思いを抱いていた乙女により近づくようになった。

 

 そう、引き金を引いたのは、イルマなのだ。

 

 自分で引き金を引いて、自分で引き金を引いて、そして自分で引き金を引いた。

 

 道間日美子が原因となって誠明と乙女は恋仲への道を進んでいった。道間日美子が行動したから、道間晴明は凶行を働いた。道間日美子が無理のある遺言をしたから、アイネスまでもを巻き込んだ。

 

 そう、この手は返り血よりもどす黒いもので汚れていて―

 

「―イルマ」

 

 ―その背中に、アイネスの声がかかる。

 

 それに振り向けば、アイネスは苦笑していた。

 

「アザゼル総督とリアス嬢が呼んでいる。まずは彼らに情報説明をするべきだろう。冥界政府に対しては、スメイガとブルノウ様がしてくれるだろうが、仁義は通さないとな」

 

「OKOK。私もしっかりお役目果たさないとね」

 

 そうにこやかにイルマは返答するが、しかしアイネスには全てが筒抜けだった。

 

 なので、アイネスはイルマを抱きしめる。

 

「………アイネス?」

 

「イルマ。忘れるな」

 

 イルマを優しく抱きしめながら、アイネスはあやす様に背中を叩く。

 

 そして、はっきりと告げる。

 

「誠明の強奪の魔眼は「黄金」だ。断じてトルメーのような「宝石」じゃない」

 

 その言葉を聞いて、イルマは改めて認識する。

 

 そうだ。そんな事はよく知っている。

 

 態々アイネスが確認してくれた。対処されるのを承知の上で、魔術師としてはプライドが傷つくような純粋魔力攻撃を放ってまで、トルメー・グレモリーの魔眼の格を確認してくれた。

 

 黄金のランクでないという事は、彼は道間誠明ではない。宝石の魔眼を保有する、同年代になるタイミングで死ぬような強奪の魔眼の持ち主がいる事にも驚きだが、しかし黄金ではない。

 

 敵としての脅威度では、遥かに上だろう。だが、心から安心してしまえる内容だ。

 

「……了解了解。もう大丈夫だよ、アイネス」

 

「本当に大丈夫か?」

 

 その身を離しながらも、しかし気遣う様子をみせるアイネスに、イルマは心からの笑顔を見せて告げる。

 

「大丈夫大丈夫♪ ()()()()()は本調子を取り戻したよっと」

 

 その一人称を聞いて、アイネスも心から安心したようだ。

 

 どうも、色々といつもの調子を取り戻せないと、イルマは自分のことを前世()のように私としてしまう。

 

 落ち着かなければ。イルマ・グラシャラボラスはイルマ・グラシャラボラスとしても生きるのだから、少しは昔と区切りを付けねばらならない。

 

 だから、きちんとイルマさんと自分のことを呼ばなければ。TPOが許す限り、イルマはそうすると決意している。

 

 そして心機一転して、イルマは皆がいる地下へと降りて行き―

 

「……………」

 

 アイネスは、それを静かに見送る。

 

 そして―

 

「人とは本当に、信じたくないものを認めない為なら、都合のいい言い訳を信じたくなるものだな」

 

 ―そう、ぽつりと漏らす。

 

 そう、アイネスはすぐに思い直していた。

 

 サーヴァントを召喚するには、聖杯の作成が必要不可欠レベルだ。

 

 そして、聖杯を完成させる理由など基本的に願望器として使用するためだ。

 

 そして、トルメーの眷属は最悪の場合、七人全員がサーヴァントだ。

 

 アザゼルからの情報提供で、彼はデミ・サーヴァントとなっている事が発覚している。厳密には似て異なるものだが、この場合はどうでもいい。

 

 適正を得る。サーヴァントの力を宿す。これで一つずつ使ったとしよう。

 

 なら、残り五つは?

 

 例え全サーヴァントが受肉を選んだとしても、そのうえで願望機としての機能は残っている。

 

 そう、魔眼のランクを一つ上げる程度など、決して不可能ではなく―

 

「………お前なのか、誠明…………っ」

 

 アイネスは、そう食いしばる歯から声を絞り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、兵藤邸宅の地下で、イッセーを除く全員が集合していた。

 

 その場にいる者達の視線を浴びながら、イルマは告げる。

 

「……サーヴァントの兵器としての最大の欠点。それは「英霊の人格すらコピーする」点じゃん」

 

 まずそう告げる。

 

 そして、それに誰も反応しない。

 

 彼女はきちんと説明してくれる。それを理解しているから。

 

 短い付き合いだが、それをちゃんと理解してくれるから。

 

 だから、誰もが話を無言で促す。

 

「その過程において、サーヴァントの力だけを手にする事ができればという発想に、魔術師(メイガス)が至るのは必然なわけだよ」

 

 そう、それは当たり前の内容である。

 

 ヴァーリ・ルシファーを例に挙げれば分かり易いだろう。

 

 神滅具の一つである白龍皇の光翼と、魔王ルシファーの正当たる血統を組み合わせた奇跡のような存在。その戦闘能力は、半端なサーヴァントを圧倒するだろう。単純戦闘能力なら、歴代のルシファー血族でも最強になる可能性がある。白龍皇としてなら、現在過去未来全てにおいて最強になると、神器研究の第一人者であるアザゼルに告げられた。

 

 だが、彼はその強者を求める本能に従い、神と戦う為に禍の団に鞍替えする始末。人格面において大きく問題がある。

 

 そして、大抵の英霊になるような人物は、その来歴を調べれば分かるように癖が強い人物が数多い。少なくとも、魔術師(メイガス)の定番とはそりが合わない人格である事が容易に予測できる。

 

 如何に令呪があるとはいえ、これは危険だ。有効活用するには苦労するだろう。

 

 ゆえに、合理的にそれを打開する方法が考え出されるのは必然。

 

「それが、デミ・サーヴァント。人間とサーヴァントの融合個体、開発計画」

 

「……魔術師(メイガス)の頭のねじが外れてる事はよく分かった」

 

 アザゼルがため息をつくのはよく分かる。

 

 そして、それは彼が魔術師の技術に対して相応の知識を蓄えているからこそだった。

 

「サーヴァントと通常の人間は魂の濃さが桁違いすぎる。普通にそんなことをすれば、デミ・サーヴァントの素体は耐えられないだろうな」

 

 アザゼルはそう断言し、そして静かに遠くに思いをはせる。

 

「そしてそれを克服したトルメーは亜種聖杯を使っている。つまり、成功させるにはまずサーヴァントの手綱を握って願望器を手にする必要があるわけか」

 

 圧倒的に矛盾した話だ。

 

 サーヴァントとの連携が取れないだろうから、都合のいい人物にサーヴァントの力を宿す。それがデミ・サーヴァント計画だ。

 

 それが、そもそもサーヴァントと連携を取らなければ意味がない。普通に考えて矛盾すらしている。

 

「そう。だから大抵のデミ・サーヴァント研究は失敗する。そもそも非人道的な措置を人体に施す必要もあるだろうしな」

 

 そう言いながら、アイネスも部屋に入り、そして視線を鶴木に向けた。

 

 鶴木はちょっと気まずそうにしながらも、しかし無言でその視線を受け止め、頷いた。

 

「……そんな実験を敢行した魔術師(メイガス)が、「まず失敗のデータを集めよう」として集めてきた孤児の1人にして、しかし不完全ながら成功してしまった存在。それが麻宮鶴木だ」

 

「……最低ね、その魔術師は」

 

 リアスが、拳を握り締めて震わせながらそう呟く。

 

 目が座っていて、実際に目撃していたのなら殺しに行く事も想定できるほど怒っていた。

 

 会ってまだ数か月の他人の為に、心から本気でそう思ってくれる。それは、彼女が人格者である事の証明だった。

 

 それに感謝の感情を浮かべながら、イルマは話を進める。

 

「で、それをたまたま知っちゃったイルマさんが施設に乱入した時には、既にそいつらは引き払った後で、キメラを使って証拠隠滅を図っている真っ最中。……生き残りはデミ・サーヴァントの力で戦えた鶴木だけだったよ」

 

 嫌な思い出を振り返りながら、イルマははっきりと告げた。

 

「……だけど、問題はそこじゃない」

 

 そう、問題はそこではない。

 

 結局その計画そのものは破綻しているのだ。トルメーのデミ・サーヴァント化も亜種聖杯によるもので、方向性は大きく変わる。

 

 問題は、デミ・サーヴァントとしてトルメーの力になっている存在そのものだ。

 

「参考資料として、鶴木に宿っている英霊を告げておこう。……触媒となったのは協会に所属していた歴代エクスカリバー使いの墓から盗掘された、彼らがエクスカリバーを使用する際に使用していた鞘や布、また、コールブランド家の墓から同様の物を盗掘した。そして、それらすべてを一つの触媒とすることで。「彼らの原点」ともいえる聖剣使いを宿そうと試みていたようだ」

 

 それだけで、誰もが全てを理解する。

 

 エクスカリバーとコールブランド。その歴代の所有者たちの原点ともいえる存在。

 

 その二振りの聖剣の持ち主の原点など、この世にたった一人しか存在しない。

 

「……ブリテンの王、キング・アーサーか」

 

 ゼノヴィアが、静かに片手を見つめながらそう漏らす。

 

 かつて破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)を使っていた者からすれば、感慨もあるだろう。

 

 また、かつてエクスカリバーを憎んでいた祐斗も複雑な表情を浮かべている。

 

 そして、それを受け止めながらアイネスは続けた。

 

「問題は、トルメー・グレモリーが何のサーヴァントを宿したかだが―」

 

「それについては断言できる」

 

 アイネスの言葉を遮り、アザゼルが告げる。

 

「アザゼル先生。何か心当たりがあるんですか?」

 

 アーシアが首を傾げるのも無理はない。

 

 神滅具というか、神器は基本的に一人に一つしか宿らない。

 

 それを、黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)紫炎祭主の磔台(インシネレート・アンセム)幽世の聖杯(セフィロト・グラール)の三つを宿しているのだ。

 

 反則極まりない。普通に考えれば、複数人のサーヴァントを宿していると考えるべきだ。

 

 だが、それは違う。

 

「……一人だけ、いるのよ」

 

 リアスもまた、そう告げる。

 

 それは、あまりに危険故に、一部の者にしか伝えられていない、緊急情報。

 

「……かつて、一人の男が黄昏の聖槍をもって生まれてきた」

 

 アザゼルは告げる。その男の根幹を。

 

「だけど、彼には聖槍なしでも人を導く才能がありすぎた」

 

 リアスは告げる。その男の才能を。

 

「奇しくも、その男の国は窮地に陥り、男は国を救い導く存在へとなってしまった」

 

 アイネスは告げる。その男の軌跡を。

 

「そして、その男はより強大な力を求めて、聖槍を頼りにオカルトに手を染めたじゃん」

 

 イルマは告げる。その男の暴走を。

 

「……その結果、その男は聖十字架を偶然から手にし、そして集めた者達から献上される形で、聖杯すらその身に宿してしまった」

 

 アザゼルはそう告げ、そして目を伏せる。

 

「結果、聖書の神の死を知る者たちは、セラフよりもその男を神に近いものとして信奉。その行動を黙認したことによって、第二次世界大戦はより激化した」

 

 そして告げるのは、一人の男の名。

 

「のちに三大勢力での揉め事の間に暗殺され、影武者が何とか頑張るも第二次大戦は敗北。だが、もし生き残り一つでも禁手に至らせていれば、第二次世界大戦は大きく変わっていただろうな」

 

 そう語らせるほどの存在。

 

 それだけの化け物と化した英雄。その名は―

 

「―民主主義によって選ばれた独裁者、アドルフ・ヒトラー。三つの神滅具をその身に宿す、最強最悪の神滅具使いになるはずだった男だ」

 

 ―世界を揺るがす同盟と禍の団の戦い。

 

 その戦いを彩る英雄として、彼ほど素晴らしい逸材もまた、存在しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、トルメー・グレモリーは大きな疲れを込めながら、首を揉んでいた。

 

「……ふぅ。とりあえずディザストラ四体は完成。この調子なら、今回使ったディザストラの補完は本当に一週間で終わりそうだね」

 

 そう告げるトルメーは、一瞬だけ視線を横に逸らす。

 

 それは明確にあるものを捉えていたが、近くで茶を飲みながら休息しているアルケイディア達は気づいていなかった。

 

 だが、それだけで何が起きたのかを察したらしい。ゲッテルがお茶を差し出しながら、労わる様に声を投げかける。

 

「後でお休みください。これ以上乱用すれば、汚染の処理が追い付かなくなるでしょう」

 

「そうだね。亜種聖杯で手にした蝶魔術(ピブリオ・マジック)の特性を含めても、そろそろ精神の解体清掃が必須みたいだ」

 

 苦笑しながらお茶を受け取り、トルメーは気分を鎮める為にそれをすする。

 

 蝶魔術と聖杯の合わせ技で創り出すディザストラだが、しかし聖杯を使うというのがネックだ。

 

 どうしても精神が汚染される。最近は蝶魔術に慣れてきた事もあり効率的に運用できるようになってきたが、まだまだ大量生産には程遠い。

 

 聖杯にも慣れてきたからだいぶマシになったかと思ったが、どうやらそうもいかないようだ。

 

 精神に干渉する魔術などの応用で回復できるとは言え、過剰に使用すれば汚染が酷くなる。そうなれば、追いつかなくなるだろう。

 

 だから、今日はここまでだ。

 

「マスター。そろそろ残りの亜種聖杯の使い道も決めたらどうだ?」

 

 デメルングがそう提案するが、トルメーは首を横に振る。

 

「いや、一つぐらいは他の派閥の強化に使いたいしね。その辺も考えると、もうちょっと慎重に進めたいところだよ」

 

 そう、亜種聖杯といえど無限ではない。

 

 既に残りの数は少ないのだ。だから、使いどころは見極めなくてはならない。

 

 自分自身の悪魔としての強化。本来保有していない魔術適正の獲得。そもそもギャンブルだった一回目以外の、眷属であるディアボロス・サーヴァント達の選択など、使った数は多いのだ。

 

 デミ・サーヴァント化に対しても、器になる自分の特性を強化し、そのうえで聖杯を使う事で確実なデミサーヴァント化を行っている。

 

 残りは二個しかない。だから、乱用できるものでは断じてない。

 

 だから、その辺は慎重にいかなくてはならない。

 

 折角全戦全勝したのだ。その成果は上手く使いたいではないか。

 

「……だがよぉ、マスター。結局あれはどうだったんだ?」

 

 と、そこで酒を飲んでいたトウケンが疑問符を浮かべる。

 

 その意図は簡単だ。すぐに読める。

 

「……「宝石」にまで魔眼を強化する必要、薄かったんじゃねえか? 「黄金」ってだけでも十分な気がするんじゃね?」

 

 そう、魔眼のことだ。

 

 ただでさえ、トルメーは悪魔との戦闘において最悪と言ってもいい力を保有している。そのうえで、生まれ持った黄金の魔眼までもが純血悪魔の天敵だ。

 

 わざわざ強化しなくても、サーゼクスを一蹴できたはずだとすら思う。

 

 その当然の意見に、トルメーも苦笑する。

 

「いや、念には念を入れておくって感じだったんだよ。あの頃は悪魔を絶望させるところだけを目標にしてたから、魔王クラス以上全員を同時に相手どることすら考えていたからね」

 

 ちょっとした未熟さを恥じながら、トルメーはそう真実を伝える。

 

 だが、もはや一人でそんな事をする必要はない。

 

 この戦い、思う存分楽しんで、そして世界全部を蹂躙する事ができるようになっただろう。

 

 だからこそ、慎重に聖杯を使用しよう。

 

「まあ、とりあえず二時間護衛よろしくね?」

 

 トルメーはそう告げると横になる。

 

 精神の解体清掃。一種の自己暗示系統の魔術の一環である。

 

 文字通り精神構造を解体して清掃することで、精神面での疲労を完全回復させる魔術だ。七十時間分ぐらいの精神疲労を回復可能。結果として、聖杯による精神汚染も、使用時間を最小限にしてこれをインターバルにすることで完全回復することができる。

 

 半面、二時間の間はどうあがいても無防備になってしまうという弱点もある。ゆえに護衛が必要不可欠な、諸刃の剣だ。

 

 絶対に忠実なディザストラや、契約を結び最高クラスの戦闘能力を持つディアボロス・サーヴァントがいなければとてもできない切り札である。

 

 そして精神を吹き飛ばすその瞬間、トルメーは思い出す。

 

 あの時、自分の魔眼が宝石であるという事実に安堵の表情を浮かべた、二人の悪魔。

 

 ツヴェルフ・シトリーと、その主イルマ・グラシャラボラス。

 

 ツヴェルフ・シトリーがアイネスと名乗っているのなら、もう一人の正体は確実だ。

 

 ……別に真実を明かしたいという強い願望はない

彼女の絶望は既に見ているから、興味は薄い。

 

 だが、変化球で絶望を与えるのは、一度ぐらい試してみるべきだろう。

 

 いい機会があれば試してみよう。その程度の感慨をもってして―

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、お休み」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―トルメー・グレモリー。またの名を道間誠明は、精神を解体して聖杯の悪影響の取り除きを開始した。

 




まあ誰もが想定できているだろうけど、トルメー=誠明です。

亜種聖杯戦争七連勝という奇跡をもとに、世界中の人間を絶望させるべく暗躍する存在。そして、彼がこうなったのはイルマ=日美子が原因でもあります。

その辺についての詳細説明は、まあウロボロス編ぐらいになってからになるんではないかと。









そして、トルメーの正体は誠明でした! まあ誰もが想定できたよねぇ。

とにもかくにも願望期チートで能力上昇がコンセプトです。後天的超越者といっても過言ではないですね。

残り二つの亜種聖杯の使い道は、とりあえず一つは考えています。さらに亜種聖杯を増やすという方法も取れなくはないですし、それ以外のパワーアップ方法も考えているので、実に厄介な強敵です。

さあ、自分で設計して何だけど、この因縁を乗り越えろ、イルマ!!


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23 人間、惚れる理由ってのは千差万別である(もう悪魔だけど)

そんなこんなでエピローグラストです。結構詰め込みます









あとトルメーの名前の由来を勘違いされている方が多そうなので、ここで説明します。

 まず前段階の時点でイルマの名前を決定しました。このときは見ている方は知っていると思いますが「デュリオと孤児院が同じ元悪魔祓い」という設定だったので、西欧の名前から適当に選びました。

 で、設定を変更するにあたって、その時まだ考えてなかった誠明の転生時の名前も考慮。この際方向性も含めていろいろ悩んでグレモリー家出身にすることにしましたが、名前でいいのが思いつかなかったりします。

 そんなこんなで悩んでいたら、ふと気づきました。

「あ、イルマってアナグラムしたらマイル(距離の単位)になる!」と。

 そこで、イルマの兄弟である誠明の現世の名前はメートルをアナグラムしてトルメーになりました。本当にそれだけです。

 断じて道間誠明からとるような形になってませんので、そこはご了承ください。


 デミ・サーヴァントについての説明が終わり、そして解散になった後だ。

 

 鶴木は疲れたので、早めに寝ようとする。

 

 だが、その背中に声がかけられた。

 

「麻宮君、少しいいかな」

 

「ああ、私からも少しいいか、麻宮」

 

 そう聞いてきたのは、木場祐斗とゼノヴィアだった。

 

 それに対して、鶴木は首を傾げながらも振り返る。

 

 何やら真剣な表情をしている。どうやら真面目な話なようだ。

 

「どうした? 悪いが眠くて頭が働かなくてな。できれば手短かかつ簡潔に頼むぜ?」

 

 まあおそらく、この二人が聞いてくるという事は―

 

「……君は、エクスカリバーやアーサー王に対して思うところはなかったのかい?」

 

 ―やはりこれだ。

 

 後ろでは紫藤イリナもちらちら盗み見ているし、どうやら気になるのだろう。

 

 エクスカリバーは、教会にとって重要であると同時に色々と面倒な事を引き起こした存在である。

 

 かつての大戦で七つに砕け、そして七本の聖剣として再精製されたエクスカリバー。うち一本である支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)こそ行方不明になり、挙句の果てにテロリストの手に渡っているが、基本的に教会の武装である。

 

 しかし、その使い手は非常に生まれづらい存在だった。ただでさえ希少な才能である聖剣使いのなかでも、ごく一部しか使用できないというものだった。

 

 その聖剣使いが聖剣使いたる理由である聖剣因子を見つけだしたバルパー・ガリレイの功績によって、聖剣使いそのものはある程度は量産できるようになった。これは元々エクスカリバーの使い手を見繕うものであり、実際効果は絶大だろう。

 

 だが、そのバルパーが外道だった所為で、初期の被験者は因子を抜き取られた時に全員殺されるという憂き目にあっている。祐斗はその唯一の生き残りだそうだ。

 

 そして、エクスカリバーとくればアーサー王である。

 

 ある意味で、アーサー王の力を手にする為の生け贄にされかけた鶴木に思うところがあるのだろうが。

 

「悪いが、俺は特にその辺気にしてねえんだわ。恨み節で共感が欲しいなら、他を当たってくれや」

 

 鶴木は、あえて本音でそう言った。

 

「そうなのかい? 聞くところによると、ぼく達とは違って最初から「実験体」である事を隠されてもなかったようだけど」

 

 そういえば、祐斗は元々は「神に選ばれる為」というお題目で集められたらしい。

 

 そう言ったところも影響があるのだろう。だからこそ、恨みも深かったのだ。

 

 だが、実際鶴木は本当にそこまで強い憎しみなどはないのだ。

 

「ま、魔術師(メイガス)なんてもんの性質見てると「その程度」のよくある事でいちいち切れるのもめんどくさくてな。ムカつかねえとは言わねえが、限定的にとはいえデータ採取用の俺だけ成功して、本命の素体が全滅した時点であいつらのメンタルにダメージ与えてると思うと、既に俺はやり返してるわけだからな」

 

 実際そこはとても大きい。

 

 鶴木は本当なら死ぬはずなのだ。というより、失敗する事を前提にデミ・サーヴァント化の処置を行い、そこから得られたデータで成功体にする為の素体を調整するのが彼らの目的だった。

 

 だが、結果は真逆。データ取りのはずの鶴木が生存し、そこから得られたデータで開発された素体が全滅するという結果だ。実験そのものは盛大に大失敗と言っていい。

 

 この時点で意趣返しはできている。そういう意味では、恨みつらみに関してはそれなりにやり返せているのだ。

 

「……ま、不完全だから宝具としてのコールブランドとエクスカリバーが混ざってわけわかんねえ事になってるがな」

 

 そう言いながら、鶴木は聖騎士王の聖剣(カリブリヌス・キャメロット)を具現化する。

 

 それを軽く回転させながら、鶴木は苦笑する。

 

 アーサー王が使用したという聖剣は、実は数多い。

 

 カレドヴルッフ。カリブリヌス。エクスカリボール。エクスカリバーやコールブランドを含めると膨大な数になる。

 

 それらの伝承が「一つの聖剣」として混ざり合ってしまったのが、この聖騎士王の聖剣だ。

 

 アーサーが本能的に敵意を向けてきたのもそれが理由だろう。おそらく、聖騎士王の聖剣に混ざっているコールブランドの力を察したのだ。

 

 言わば紛い物というか、海賊版である。コールブランドに愛着があるのなら、嫌悪感の一つぐらいは起きてもおかしくない。

 

「因みに、俺単体だとこれただの聖剣としてしか使えねえんだよ。だから、アイネスさんの指導の下、魔術でエクスカリバーやコールブランドの特性を引き出してんのさ」

 

 そう言いながら、鶴木はポケットティッシュを取り出すと、放り投げる。

 

 そして、聖騎士王の聖剣を軽く振りながら、魔術を起動する。

 

「―抜刀術式(ブレイドコード)断空(カリバーン)

 

 その言葉とともに、切っ先が空間を切り裂き、そして離れたところにあるポケットティッシュを串刺しにする。

 

 今回使用したのは、コールブランドの力だ。

 

 それに祐斗達が目を見張る中、鶴木は聖騎士王の聖剣を解除すると、ニカリと笑う。

 

「便利っちゃぁ便利だし、おかげで俺はイルマ姉さんの眷属として不自由ねえ生活送れてるんだ。感謝する気はねえが、既にぎゃふんと言わせてんのに態々追いかける気もねえよ」

 

「……なるほど。中々強いな、君は」

 

 ゼノヴィアは感心するが、そんないいもんでもない。

 

 ……多少気恥ずかしいが、ここまで来たら話すべきか。

 

「ま、俺、イルマ姉さんのこと大好きだからさ。……会えて良かったって、心から思ってる」

 

 そして、鶴木は思い出しながら、語り始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 物心がついたぐらいの時の話だ。俺は、ある言葉を言われた事があるのだけは覚えている。

 

「……守るよ、必ず守るから」

 

 そう言って微笑む、茶髪をツインテールにした二十歳ちょっとぐらいの女性の、悲しそうな微笑み。