ナルトの世界に転生したと思ったら、なぜか生まれたのは水の国でした。 (八匙鴉)
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第一章
とりあえず痛いのも死ぬのも嫌なので、修行して村を開拓します。


好き勝手に書いています。
気にさわる方はご注意ください。


 私──風神(かざかみ)シキには記憶がある。

 

 一つは幼き日の故郷の記憶。

 貧しい村で娯楽も何も無い寂しい村ではあったが、皆が毎日を懸命に生き抜き、それなりに楽しい日々を過ごした大切な記憶。

 

 もう一つは、この世界に無い文明を栄えた、もう一つの世界での記憶。

 今はもうどんなに恋い焦がれても戻ることの出来無い、懐かしい世界の情景。

 

 ……そんな記憶を思い出したのは、私が5才の歳の折り。

 この世界で大戦が勃発して一年後。村でたった一人、唯一の忍だった父が戦争に駆り出されて亡くなったと、そう母に泣きながら聞かされた冬の日だった。

 

 私は“忍者の娘”ではあったが忍ではなかった。

 水の国の端の端。隅っこの貧しい辺境もいいところにある村で生まれた重々平凡なただの子供だったのだ。

 だけど父が倒れた年のあの日に思い出した前世の記憶は、私にそれが厳しい現実なのだという事実を知らしめる結果になった。

 

 私、風神シキの生まれたこの時代。

 いわゆる原作よりもまだ大分前の時間軸であると気づいたとき、脳裏に浮かんだ結末は多分最悪のものだ。

 この死の連鎖渦巻く物語の世界で、普通の母子一人が生きていくにはかなり厳しい現実。

 このまま何もせずいれば、恐らく待っている未来はろくな物じゃないだろう。そう気づいたとき、私の取る行動は決まっていた。

 

 強くなろう。

 勿論、比喩ではなく現実的(忍術)な意味である。

 

 さいわい記憶のお陰で知識はあったし、やれば大抵なんとかなるものだ。だから思い立ったが吉と言わんばかりに私は見よう見まねの特訓をした。

 驚いたことは、私の身体が素質関係なしにどのチャクラの属性でも扱えたことだろうか。流石は異世界転生あるあるだと感心してしまった。

 

 ……だけど、多分それがいけなかったんだろう。

 チートな体に前世の知識。私は調子に乗りすぎたのだ。

 平和な日本生まれの日本育ちな私には殺傷事など無理だからと、忍術を争い目的ではなく生活水準値向上の目的に変換させて使っていたのも仇になった。

 私の知識を存分に盛り込んだ、この時代にはまず考えられない突飛的な発想を元にした忍術は、瞬く間に悪い意味で目立ち過ぎてしまったのだ。

 

(そりゃ…土遁で畑の土壌改善とか、水遁でそこらの手頃な岩を切り出して道路の整備とか、火遁で薪を燃やして高品質の炭を作り出して冬を越してみたりとか、普通誰も思い付くわけ無いよねぇ…)

 

 いやはや、これがいざやってみると面白いほどに次々と何でも出来てしまうから凄い。

 チャクラコントロールさえ守ればたった一人で何でもやれて、手間も掛からず人手も要らなかったのだから。まさに万能の力である。

 

 無論それだけ色々やれば膨大なチャクラの量を消費すると思っていたのだが。幸運なことに、物を運用するだけの術ならば、それほどのチャクラを使用しないことも確認できたのだ。

 これは考えようによっては忍術の概念が大きく変わるかもしれない結果かもしれないが、まあ別に私はこれで誰かと競いたいわけじゃないのだ。

 いかに効率よく、最小限のチャクラで大きな力が使えるか。今はそのやり方さえ分かっていればいいと思う。

 

 と言うわけで私は今まさに性質変化させた風のチャクラで、村と村の外れにある森までの道筋を整備するため、絶賛行動中である。

 やっているのは道端で邪魔な砂利や石を風で撤去。でこぼこに荒れた土は軽く土遁でならすというものだった。

 もうここ数週間のうちで村の内部は全面的に改善してしまったから、今度は外に繋げようと言うわけだ。

 この森は村が冬を越すための薪を調達するために頻繁に入る場所だから、せめて行き帰りの道筋くらいは楽に歩かせてあげたいと考えてのことなのだけど。

 

 そう思いながら黙々と作業を進めていたら、ふと後ろから声がかけられた。

 振り返れば肩に籠を抱えた、今からまさに森に入ろうとした格好の村の長がいた。

 

「やあシキ様。今日はこちらでお仕事ですか。精が出ますなぁ、お疲れさまです」

「おはよう村長さん。…あの、毎回言ってますけどいい加減『様』はやめませんか? 偉ぶってるみたいで落ち着かないんですよ。私ただの6才の子供なのに」

「はは! 何を言いますやら。ただの子供にはこんなこと思い付かないし出来もしませんよ。

 うちらの畑じゃ育ちの悪い野菜しか出来ないのが当たり前だったのに。野菜が育たないのは土が悪いからだ! ってあんたは畑に入ってくるわ。いきなり忍術で畑の土をひっくり返したかと思えばまるで神様みたいにあっちゅーまに死んだ土を生き返らせちまったんだから。そりゃ崇めたくなっても仕方ないってもんです」

「まあ…作物に関しては急を要すると思ったし、流石に無理をやった自覚はあるけども…」

 

 カラカラと大笑いする村長に、私は今更ながら冷や汗を流して遠くを見る。 

 急ぐ必要があったのは本当だし事実だ。どうせうだうだ悩んだって何にもならないなら早くやった方が良い、とそう思って。

 

 この村の土地は環境のせいか何か知らないが本当に土の状態が悪かった。作物を育てるのに全くといって向いてなかったのだ。

 出来ても痩せ細った野菜がちらほら顔を出すだけ。数も無いから村で共有したとしても全員に満足な量が行き渡らない。

 そのせいでこの村には毎年餓死や栄養失調で亡くなるひとがごまんといた。

 村で若い子供は貴重な労働力だ。しかし生まれてくる子供の数よりも死ぬ人数のほうが圧倒的に多いとあっては大問題だろう。

 故に私は自分がまだ幼かろうが、見た目的に可笑しかろうが、大人びた意見で村の大人衆に口を出すしか無かったのだ。

 

「今日はこの場所の道を綺麗にするんで? 村の中も綺麗にしてもらって皆歩きやすいと喜んでおりますし、本当あなた様には頭が上がりませんで。忍だったお父上も、さぞかしあの世でシキ様の成長を喜んでるでしょうな」

「……だと良いですけどね」

 

 父が亡くなるまでの私は前世の記憶は無く、ただのそこらの子供と同じ無邪気なものだったから、今の私の変貌ぶりを見たら喜ぶどころか泡吹いて倒れるんじゃないだろうか…。

 

 だって本来は戦うための忍術を、戦闘でなく農業に活かすだなんて…一体誰が想像つきますか?



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コメント感想ありがとうございます。
ふと思い付いた内容の投稿なので、今後どうなるか分からないですが、
ゆっくり考えて書いていけたら良いです\(__)


 「ところで村長さんは今から森に?」

 

 そう一目見れば分かる出で立ちの村長を見やって私は問いかけた。

 

 村で長を務めている人――とは言っても、彼の年齢はまだまだ若い。幼い二人の子供のお父さんでもある。

 そんな彼もやっぱり貧しさから身体は痩せ気味であるけど、背は高く、体つき自体は筋肉質でがっしりとしてる人で。

 そして快活な笑い顔がとても似合う、私が想像する村の男と言うような言葉が似合う人物だった。

 

 「おう! もうすぐ冬ですからな。先に火種となる薪を集めておかにゃあいけませんで」

 「でしたら、後でまた私の家の裏に持ってきてくれたら、加工して炭にしておきますよ?」

 「本当ですかい!? いやぁ去年もそれで快適に過ごせましたからなぁ。釜戸で重宝しますし助かります。しかし…私らに忍の事は良く分かりませんのですが、大丈夫なんですか?」

 「…? 何がです?」

 

 そう言葉の意味が分からなくて思わず首をひねった私に。

 

 「忍っちゅうのは【チャクラ】ってのを使って術を使うんでしょう? あなたは見ればいつも何かしら術を使ってるようだし。今も道を綺麗にするために術を使ってるじゃないですかい。そんなに頻繁に使用して疲れたりしないのかと…」

 

 「すごく助かりはするんですがね。」と、そう困惑した表情で彼が言う。

 そんな村長の姿に私は少し嬉しくなった。

 

 正直言うと私にチャクラの使いすぎによる疲れというものは今のところ無い。

 運用に関して簡単にコツを掴めた。というのもあるんだろうけど、多分それが無くてもこの体には《この世界の常識と言うもの》が当てはまらないような気がするのだ。

 詳しい理屈は分からないけど、【感覚】でそう感じるから恐らくこの考えで合っているのだろう。

 【私=転生者】という人間に【この世界=ナルト】の常識は該当されない。――――要はチート性能。

 

 しかしだ。

 

 もし私の記憶が合っているなら、今私の住むこの国は四代目水影が治める水の国だろう。

 水影やぐらは先人の意思を尊重する人で、この国はそれを引き継いで、まだ"鎖国されて他所との交流を閉ざしたままの国"だったはず。

 

 国民思想的には、他国との接触を極度に嫌う性分で【霧隠れの里】に至っては同族で殺しあいをさせてまで、強い忍を作ることに力を注ぐおぞましい国とあったようだけど。

 

 そんな国の中にある村だ。

 いくらここが辺境にあって都市部から離れていても、全く影響を受けて無いわけじゃない。

 仲間意識が低く、他人を蹴落として自分が生き残る。

 そんな価値観をもって生きる人間は少なからず居て。

 

 なのにそんな中で目の前の村長は私を慕い、そして尊重しようとしてくれている。

 そんな彼は恐らく、とても貴重で私にとっては幸運な存在以外の何物でもなく……。

 

 だからふと思う。

 …もしこれが彼やこの村の人達じゃなく、他所から来た人間だったら?

 

 私はこの世界に無い知識と、本来あり得ないような力を使う…しかも忍者ですらない人間だ。

 何も知らない人が見れば私は恐ろしい化け物のように見えるだろうし、もし私のこの能力が他人にバレれば、多分私の力は見る人が見れば喉から手が出るほど欲しい力だろう。軍事転用すれば…なんて考える人はごまんといるはず。

 

 そうなれば私は、戦争を勝ち残る呈の良い兵器のように道具として国に使われる可能性さえあるだろう。

 

 たった6歳の子供なのにだ。

  

 ………それはうん、かなり怖い。

 

 「心配してくれてありがとう。でもこれは私が自分の為にやってることでもあるから、大丈夫だよ」

 「そうですかい。過労で倒れたりされなければ、私も気にはしないんですけれどね……。ほんに無茶だけはしないで下さいよ? その恩恵に預かってる私らに言えるこっちゃ無いかもしれませんが」

 「ええ、わかってます。無茶はしませんし、出来ない事にまで手を出すつもりはないですよ。ただ私も最初は自分の生活が良くなるならって、それだけでしたし。今はただ私のしたことが皆の役にたつのが嬉しいだけですから」

 

 だから無理はしない。そう言った私の言葉にニッコリ笑ってくれた村長を森に見送って、私は再び道の整備に入るために気を引き締め直した。

 

 「とりあえず少し時間ロスしたし、チャクラ量増やしたら早く片付くかな…?」

 

 私がこのナルトの世界に生まれた意味は分からないし、まるでどこぞの小説のような体験だけど。それでも生まれた以上は長生きしたいし死にたくはないと思うのだ。

 だから私はこの場所で生き残る術を探す。私にとって今は只それだけ。

 

 ――ちなみにその後、チャクラ量を間違えて竜巻のような風が村に吹き荒れ、家に帰った後お母さんにしこたま怒られたのはまた余談のはなしである。



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 「シキ様~、深すぎます。掘りすぎですよ~!」

 

 村人達の朝は早い。鶏の(いなな)く頃には目が覚めて、みんな仕事に精を出す。

 

 「あれ? ごめんごめん、ちょっと間違えたかな――――これでどう?」

 「あ~それなら良い感じです。丁度良いですよ~」

 「了解」

 

 そんな鶏がコケコケ鳴いてる横で、家事に準ずる村人たちを横目に私は外を歩いていた。

 今日は自分だけじゃなく手の空いている者たち数名を伴っての行動だ。

 村の中でも比較的平地で開けた場所を選んで、見つけた場所に私はいま土遁で大穴を開けている、そんな最中。

 

 「しっかし、固い地面だね~。これなら液状化の心配は要らないのかな?」

 

 足下の岩盤を足でコツコツやっていたら、寄ってきた青年が二人声をかけてきた。

 

 「シキ様。ここに水を溜めるんですか?」

 「うん、そのつもり。外の滝壺まで歩いてくのは大変だからね。近くに池がある方が良いでしょ?」

 「ありがとうございます。俺らじゃこんなこと絶対に出来ないですから、シキ様が居てくれて本当に助かりますよ」

 「まあ折角力が使えるんだから有効活用しないとね。これで単純に皆の労働力が減らせると思えば軽いもんでしょ」

 

 そう。単純に考えて水の確保は土壌とともに優先的にしなければいけないことだった。ただ村には最低限地下水を汲める井戸があったし、今まではそれだけで事足りていたから先送りにしていたのだけのこと。

 だけど最近、土壌の改善と共に打ち出した策。

 今ある村の畑を大々的に拡大し、世話や管理を村人全員で共同してやっていくことで、個人の負担を減らし尚且つ収穫量を上げるという策を提案した時、村の井戸だけでは水不足に陥ることは明白だった。

 

 「ねえ、本当にここには地下水脈が通ってるの?」

 「ええ。この村の下には豊富な水脈が眠っています。ですからどこを掘っても安定して水が出ますよ」

 「へえ~。流石水の国なだけあるのかな」

 「ただ水脈の上には恐ろしく固い岩盤の層があって…そう簡単には掘り進めないんです」

 

 眉を下げて困り顔の青年が言う。

 

 「それは多分大丈夫」

 

 私は袖を上げて地面に手を着くと、堀の中心に管のような細長い穴を穿つ要領で地面を掘り進めていく。

 土からの抵抗はない。手伝いを買ってくれた住人たちも、その様子を静かに見つめていた。

 やがていくらか掘り進めて、彼の言った通り何か固いものに当たった感触に出会った。多分これが言っていた岩盤なんだろうと予想して力を込める。すぐに手のひらに固いものを貫いた感触が伝わった。

 

 「離れて!」

 

 地面から手を離し、隣で穴を覗き込んでいた青年の腕を後ろに引っ張り倒すと、直後に猛飛沫を上げて水柱が穴から吹き出した。 

 滝のような水の粒が頭の上から落ちてくる。

 

 「す、すげえ! あっという間に水が湧いた――!」

 「おおお、水じゃ、水が湧いたわい…!」

 「流石シキ様だ!」

 

 みんな思い思いに水を喜びはしゃいでいた。

 池から上がって濡れた服を絞る私の頭の中は、すでに次にやる他の事で一杯だったが、取りあえず今はこの光景を目に焼き付けることにしておいた。

 いずれこの時のことが良い思い出になるような。そんな気がして。

 

 やがて水飛沫の勢いも落ち着いて充分に溜め池に水が溜まった頃、時を見計らって私は手伝ってくれた人達にお礼を言うとその場を離れた。

 

 懸念した水は確保したのだ。なら次だろう。

 

 一人村の外に出て、よく村人達が利用する森にやって来た。

 目当ては秋のうちに木々達が落とした落ち葉だった。

 

 「農業に携わった事なんて無いから詳しいことは分からないけど、簡単に土を元気にするなら昔から肥料が一番だって言うしね」

 

 その肥料作りに、落ち葉を集めにきた次第である。

 先んじて巨大化させた畑は、溜め池に隣接した場所で作ってあった。後はそこの土に細かく砕いた落ち葉を

交ぜて腐葉土とさせるだけだ。

 

 「あ……でもこの落ち葉どうやって持って帰ろう」

 

 気が急いて入れ物を持ってくるという根本的な事を忘れていた私だった。

  

 結局荒っぽくなったが、風で集めた落ち葉を風で巻き上げて畑まで持って帰るという荒療治にでた。

 もちろんそんな光景を目にした人達は、何をしてるんだと慌てていたけど、畑作りに必要なんですと私が言えば、一応納得はしてもらえたようだ。

 

 だけどこれ、端から見ればかなり奇妙な光景に見えていたそうで。

 

 小さな幼女が一人、巨大なつむじ風を頭上に抱えて歩いていれば、それは確かに妙だろう。

 次からは自分達にも手伝いに声をかけるようにと厳命されてしまった。

 

 ……正直、自分がやりたくて勝手にしてしまっていることだから、あんまり他人に手間をかけさせるようなまねは嫌なんだけどね。

 でも言われてしまったこと次第は仕方がないから、次からはちゃんと報告しよう。――手伝わせるかどうかは別として。

 みんなニコニコと笑って私の言うことを聞いてくれる。その優しさに答える為にも。

 

……

 

 そして村の池作りが終わり。畑作りにも着手し始めて数ヵ月が過ぎる。

 ようやく寒かった冬が終わって、村には暖かい日差しの届く春がやってこようとしていた。



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かなり間が開いたので矛盾が多いですが
ご了承下さい


 冬が終わり、村の開拓を始めて3度目の春が来た。

 

 今日は村で決めた一斉の種蒔き日である。この日の為に私は村の北側にあった荒れ地を改善し、育てるものでそれぞれ別けた巨大な畑と水場を完備してきたと言っても過言じゃない。というのは建前で、本音はここまでやって来たのだからどうせなら最後までやりきりたいと言うのが心情だったりする。

 

 ――まあ改めて言うとすれば、村の開拓などそこらの子供がやるような事じゃないのが本当だが。

 

 でも私は前世を思い出した以上、少しでも美味しい物が食べたいのである。正直これは切実に。飢え死になんてもっての他。

 私の父が戦場で亡くなった以上、家計を一人で抱えることになった我が母の負担は計り知れない。

 裕福な家庭ならまだしも今は戦後間もない飢餓期だ。こんな田舎じゃ仕事どころか食うにも寝るにも困る始末。とてもじゃないが未亡人となった母に甘えてのんべんだらりと生きる事など元日本人の私には選べない。

 

 (だから私は決めた。仕事をすると!)

  

 その為に使えるものなら何でも使うつもりである。

 それが大人だろうが自分のチャクラだろうが関係なく、端からどう見られようがどれだけ可笑しな行動をしてると思われようが。私は私が生きていくために足掻くのだ。

 

 さて、とりあえず私の意思や決意というものは横に置いておくとして、問題の本日の種蒔きについてだが。

 これは大まかに、乾燥や雨に強い豆系の果菜類、それぞれの季節に育つ葉野菜、そしてもっともポピュラーだろう芋などの根菜類と大まかに決めてある。

 あとはこの日の為に土遁を駆使して作っておいた小さな家庭栽培用プランターにハーブなどを植えて試験的に育てようかとも考えてもいる。ちょっとした菜園の始動計画だ。

 

 「この国は雲が多いからな…日光が少なくても育つ野菜を選ばなきゃなんだけど」

 「シキ? 何をしているの?」

 

 あれでもないこれでもないと考えてる所に母が顔を出してきた。

 納屋の中で何やらごそごそしている自分の事が気になったのか、質素な麻の着物の上に薄い布地を羽織った姿だけの母が納屋の入り口に立って私を見てくる。私は行儀悪くも地面に腰を下ろした状態でそんな母を振り返った。

 

 「あ、お母さん。今畑で蒔く種蒔き用の種を選別してたんだよ。ほら今日が初の種蒔き日でしょう」

 「貴方が村の北に作り出した、あの畑? …あらそう、もうそんな時期なのねぇ」 

 

 どこかおっとりした言い方で頬に手を当てて小首を傾げる母に私は苦笑を覚えるしかない。のんびりとした性格の母らしい「あらあら時が経つのは早いわね」なんて言葉に思わず私の体から力が抜けた。

 私は腰を上げて立つと、両手を広げて自分の頭より高い位置の母の背中を捉えてその背を納屋の外へと力強く押し出す。

 

 「ほらお母さん、春先とはいえまだ少し寒いんだからそんな格好で外に出ちゃ駄目よ。部屋に戻る戻る! 風邪引くわ!」

 「大丈夫よぉ。今日は体調が良いから、お母さん」

 「そんなこと言って、この前具合悪くしたの忘れたの? お母さん体弱いんだから油断しちゃダメっていつも言ってるでしょ!」

 

 家に入り戸を閉める。消えかかっていた火鉢に薪を足し、火遁で再び火を強めておいた。

 この時代、現代のようにストーブやエアコンのような便利な暖房は無い。

 その中で特に発達の遅い田舎じゃ寒さをしのぐには専ら薪に火をつけて炎を炊くような方法しかなく、これも前世の快適さを知る自分には頭を悩ます問題のひとつでもあった。

 

 (いやもしかしたら辺境だからこそなのかな? 見る限り木の葉じゃ主人公が産まれている頃には水道やガスなんかの生活水準は整ってた気がするし。電気も通っていたはずだ)

 

 となると恐らく、霧隠れの里も似たり寄ったりな生活が送れていると考えて良いはず。だが、こればっかりは基本原作が戦争ものの描写に寄っていて、その辺りの情報に触れていないせいで何とも言えないのが状況だ。

 だから多分考えられるのは、水の国自体が鎖国中にあるせいで国力そのものが弱い可能性か。

 内乱が多い国なのでそれを諌める事こそに意識が向いていて、そもそも民の生活や生き死に自体に興味がないということもあり得る。排他的とはそういう意味でもあるだろう。

 秘密主義ならそういった内政不安も外に隠さなければ、敵の格好の的に成りかねない。

 

 (…考えれば考えるほど、この国って終わってるよね)

 

 そんな国に生まれ変わった私は、一体前世で何をやらかしたのか。そこまで神様に嫌われる事をしたとは思いたくない。

 

 「…シキは小さいのにしっかり者よね。お母さんが弱いから、貴女に無理させちゃったのかしら」

 「え?」

 

 突然の母の呟きに思わず私は目を白黒させた。

 

 「何言ってるの、お母さん。私は普通だよ。全然無理なんてしてないし」

 「でも、貴方が急にそうやって色々し始めたのは、お父さんが死んだときからでしょう? 私が出来ないことを貴女が代わりにやろうとしてるんだって、お母さんそう思うわ」

 

 どうしよう。言葉が出なかった。

 確かに私はまだ幼くて、端から見れば可笑しく見えることは重々承知してた。今も別にそう見えても構わないとさえ思ってる。だけどそれを身内に…それも今生の自分の母親に言われるのでは衝撃が段違いだった。

 

 現世の母――つまり目の前の彼女だが――は体が弱い。

 それは生まれつきという訳じゃないが、私が難産だったために産むときに無理をして体を壊したのだと、いつか聞かされたことがある。

 それはもしかしたら私がイレギュラーな存在だったから。

 本来なら有り得ないような力を持ってるが為に、その母体である母は体に多大な負荷をかけたんじゃないか、と私は思ってしまっている。

 こんなことを言うと身も蓋もないが、多分私が居なければ母はこんな苦労をしなかったかもしれないのだ。

 父だって戦争になんか行かず、死ぬこともなく、二人は仲睦まじく今もこの村で平穏に暮らしていたかもしれない。

 でもそれは私が誕生したことで壊れてしまったんじゃないだろうか。

 

 分かってる。こんなのただの都合の良い想像だって。

 でもしょうがない。他人と違う記憶、知識を持って生まれてしまった以上、私はこの世界に完全には馴染めない。

 私は《現代で過去を生きた私》ではなく《今を暮らす風神シキ》としてこの場所を生きていかなければ…

 

 「シキ? どうしたの?」

 「あ――」

 

 いけない。また不味い方向に思考が飛びかけていた。

 私がこの自問自答を繰り返すのも一体何度目になるんだろう。分かっていてもやってしまう、もう悪い癖のようだ。

  

 「…ごめんねお母さん、私は本当に無理なんてしてないよ。でもお母さんにはそう見えなかったから心配かけたんだよね。ごめんね」

 「シキ…いいえ…いいえ! 悪いのはお母さんのほうよ。シキは私を思ってしてくれたのよね。それはお母さんちゃんとわかってるのよ。だけど…っ」

 

 母が泣いてる。ボロボロと大粒の涙を流して、私の体を掻き抱くように力を込めてきた。

 人より特に華奢な姿の母が一体何処にこんな力を持ってたのだろうと思うほどにそれは強く。

 

 「小さな貴女に親らしい事を何もしてあげられない! 私じゃ貴女を満足に育てることも出来ない。外でクワも持てなければ、日がな一日床に居ることしか出来ない日もある。そんな私が一人前であろうとする娘に「もっと子供らしく居てほしい」なんて、そんな我が儘…っ」

 

 ああ、今ごろようやく母の気持ちが分かった気がする。

 生まれて8年。前世を思い出して約3年。私が必死だった裏で、母は一人こんな想いを抱えてたのか。

 うん。これは私が悪い。

 私は前世を知ったとき、心のどこかで私は自分がこの世界で一人ぼっちなんだと、そう決めつけていたから。だから子供でいちゃいけないって。自分を守るのは自分だって諦めて。母の気持ちに気がつかなかった。

 

 「お母さんは私に子供らしくしてほしいの?」

 「……シキ、私は貴女に貴女らしく居てほしいわ。シキがやりたいと思ったことならお母さんも応援したい。だからお母さんに教えてほしいの。…シキはどうしたい?」

 「――私、美味しい物が食べたい。だから畑を作りたかったの」

 「ええ」

 「忍術も上手くなりたい。私がお父さんから受け継いだ、お父さんの子供だって証明できるものだから」

 「ええ」

 「村の暮らしも良くしたい。皆良い人だから。笑ってほしい。私の力が役立つなら使いたいの」

 「偉いわね、シキ。こんなに優しい子を持って、お母さん幸せよ」

 「お母さん」

 

 産んでくれてありがとう。

 

 凄く自然にその言葉が出た。

 

 母はその後また泣き崩れてしまって、そのまま泣き疲れて眠ってしまった。

 そんな彼女を介抱する私の心はどこか晴れ晴れとした気持ちで一杯で。

 

 「何だか今ならどんな不可能な事でも出来そうな気分だよ、お母さん」

 

 そんなことを呟きながら、久しぶりに母の隣で寝てみようかなと私は彼女の隣で横になった。

 

 

 

 翌日、私は今後暫く村の大々的な治世は大人達に任す事を村長に伝えに行った。

 もちろんそれは今までやって来た仕事を放り出して逃げるとか、そういう意味じゃない。ただ知識と力に任せて私一人が何でも勝手にやると言うような、そんな無茶を少し弁えようというだけだ。

 

 つまり今後、私が考えてやろうとしたことを事前に村長に相談。もとい提案し、村の中で会議にかけ、そして決定してほしいということ。

 私がやろうと思っていたことは全部が前世の知識を使った計画になるから、この世界に適用させるとなると膨大な時間と手間、そして数世代をすっ飛ばすような革命となるだろう。

 いや、忍の里では既に出来ている事だからこれはそのトレースということになるかもしれない。どちらにせよ、私はやれることは全てしたいと思ってる。

 

 村長にその事を伝えると、気の良い彼でも少し悩んだようだった。

 

 「ええと、つまりどういうことで? シキ様が今までしていた街道整備や治水工事を俺たちが引き受けるってことですかい?」

 「そう。その為の知識や知恵なんかは私が提供する。貴方たちはそれが本当にこの村に必要なことかどうか判断して決めてほしい」

 「…それは構いませんが…シキ様」

 「分かってるよ。私が充分異常な事を言ってるってのは。村から出たこともない子供の私が何処にそんな知識を持ってるのか。そういうことだよね?」

 「……正直シキ様の発想力と行動には驚いてきました。道の事だってそうだ。確かに地面は荒いし歩きにくい。少しでも楽になればって考えた事くらいはあります。でもそれだけだ。まさかその地面を(なら)して道を()くなんて思わない」

 

 これは私の記憶に「道は整備されているもの」という認識が強いのが影響しているだろう。

 

 「畑の野菜に至っては、この付近で野菜が豊作になったなんて村は何処にもない。野菜は細く小さいのが当たり前。家族が食ってければそれが御の字だ。誰も野菜が育たないのは「土に栄養がないから」なんて分からない。知らないんです。肥料なんてもっての他だ」

 

 そう。それがネックだった。このままでは村は飢饉(きが)で全滅すると訴えても、皆それが普通すぎて疑問にも思わない。

 

 皆「当たり前」に慣れすぎていた。

 そんな中に現れた私は、正しく爆弾だっただろう。

 私という爆弾が勝手に破裂して皆はただその恩恵を受けるだけ。それだけで自分の暮らしが良くなっていくのだ。喜びはあれど不快には思わないだろう。

 

 「貴女は今後、今まで私たちが受けていた恩恵を自分たちの考えでやっていけと言うのですね。貴女にその不思議な知識を教えてもらいながら」

 「……気味が悪いと思うかな? ――本当言うと、私が一人でやった方が良いと思ってることは否めないよ」

 「やめる、という選択肢はないんですね」

 「ごめん。それだけはない。これは私がやりたい事だから。だから何を言われてもやめることだけはしない。協力してと言った手前で勝手だけど、断られるならそれはそれで私は今までのやり方を通すつもりでいるんだ」

 「……無理はしないんじゃなかったんですか?」

 「それもごめん。最初は軽い気持ちで始めた事だけど、今はもうそれだけじゃ足りなくなったから。だから責任は取るよ」

 「それがこの改革ですか……はぁ」

 

 溜め息をつかれた。申し訳ない。巻き込んで無茶を言ってる自覚はあるんだよ。

 しばらく村長は考え込んで、そして言った。

 

 「わかりました。とりあえず最初の一年やってみましょう。それで問題が無ければ事業として今後も続ける。構いませんね?」

 「ありがとう。それで良いよ。絶対成功させるから」

 「その自信はどこから…流石はシキ様ですよ」

 

 そうして苦笑をもらした村長に私は笑って見せた。

 



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 さて、何は兎も角、とりあえず作業を進めていこうかと思う。

 

 村の衛生面を改善させる治水工事は、まず水を各家庭に引っ張るところから。だけどこれは色々準備がある。

 問題なのは村に新たに作った水源の利用よりも、まずその水を使った後の排水をどうするか、それを決めた方が良さそうだろう。

 

 そして村の景観を良くするための街道整備や補修もろもろは、これは私が勝手に作っていた道路や邪魔な岩の撤去など、先に進めたぶんがあるので急がなくてもいい。

 他の作業をやりながら手があれば追い追いという形でも充分だ。

 

 あとはこれも問題。村の皆の食料事情を担う農園の作成。

 今まで村では各家庭でそれぞれ食料を賄っていたけど、近年それを廃止。

 

 この村は皆農業で暮らしてる人等ばかりだけど、この村の人たちに、かの日本の農家のような作物に対する知識がしっかりと備わっているかと聞かれれば答えはNO。

 

 サイクルを言うならばこの村のやり方は。まず土を耕す。適当に種をまく。出来た野菜は小さくとも無いよりはましだと、それをほそぼそと食す。そしてまた適当に種をまく。と延々この繰り返しだ。

 これでは土は痩せていく一方で、とてもじゃないが良い作物なんて育つはずがないというのが私の見解。

  

 「ねえ村長。昨日植えてもらった野菜たちは、ちゃんと計画した通りに植えて貰えました?」

  

 私は付き添ってもらった村長にそう尋ねる。

 

 「ええ。予定通りにAの土にはレタスを。Bにはじゃがいも。Cは空豆を植えました。そしてDですが、これはシキ様の指示通り空けております」

 「ありがとう。じゃあこれで収穫までしばらく見ようか」

 「はい。…しかしですなぁシキ様」

 「なに?」

 「いや…あなたの指示に従うことはもう良いとしてですよ。だけども根本的な問題が残ってませんか? この村は山間のすぐ近くで天気が不安定だ。雨は心配ないとして、しかし野菜を育てる上で大事な日光のことはどうするんです?」

 「ああ、それね」

 

 確かにそれは私も色々考えた。作物の中には日に当たらなくても育つ植物は幾らか存在する。例えば今植えたレタスやじゃがいもなんかがそうだ。

 これは半陰性植物と呼ばれていて、日照時間が一日のうち3、4時間程度でも育つと言われてる。中々太陽のお出でにならないこの村も、これなら比較的育ちやすいだろうと踏んで選んだもの。

 しかし、豆科の植物は完全な陽性植物だ。沢山日光に当たらなければ枯れてしまう。ならどうするか、私は考えた。

 

 「無ければ無理やり出してしまえば良いじゃない」

 

 そう。雲が邪魔だと言うならそんなもの吹き飛ばしてしまえばいい。雨が足りないと言うなら空から水を降らせるのだ。

 そんなこと不可能か? いいや出来るのだろう。何故ならここはパワーバランスなんてものが最終的には崩壊するような世界なのだから。

 主人公のナルトなんて最終的には何でもアリの人間兵器みたいな力を持って十尾やらカグヤやらと戦うんだぞ。そんな世界、出来ないことのほうが少ないはずだ。

 

 村長が隣でニヤリと笑みを浮かべた私の顔を見て首を傾げるのを横目に、私は掌を合わせて景気よく鳴らす。印の組み方なんて覚えてないが、やれば何とかなるだろう。

 

 イメージ的には上空で爆発する風の塊。

 形状は野球ボールみたいな球状で良いと思う。というかそもそも硬質感ある物質じゃないから、四角とか三角とかにするのが難しいだけなんだけど。

 とにかく玉だ玉。中心には超圧縮させた空気を内包させ、風の膜でそれを包むようなそんなイメージで。

 

 言ってることは無茶苦茶だし理論なんて無視した暴論と超理屈。だけどこの世界はきっとイメージが形を作る。出来るも出来ないも本人の想像と実力次第。

 なら現代での小説や漫画の物語なんてきっと想像と妄想の塊みたいなものだ。その世界に住んでた私が想像出来ないはずがない。

 有ると思い込め。それが不可能なんて思うな。だって多分それがこの世界を形作っている何か(・・)なのだから。

 

 「そら、飛んでけー!」

 

 そして弾けろ。

 

 弾丸のように空へ飛んでいった風球は、辺りに物凄い強風を撒き散らしながら一直線に空へ昇り、雲を突き抜けた。

 その余波とも言うべきものがガタガタ、バタバタと周囲の家や物が揺らす。外に出ていた人々は突然の突風に悲鳴を上げ尻餅をつく始末だ。

 暗雲が広がっていた空には風穴が空き、立ち込めていた分厚い雲は霧が晴れるように霧散していく。そしてやがて風が止むとそこにはまるで初めから何も無かったかのような青空が久しぶりに顔を出した。

 その結果に満足して頷く。

 

 「うん。初めてにしては中々上手くいったね。村長、これでもう太陽の心配は無いんじゃない?」

 「……もう驚きませんよ俺は…」

 「うん?」

 

 振り向いた先では村長が何とも言いづらい表情をして立っていた。

 あれ、太陽が顔を出したってのに、あまり嬉しそうじゃないね。と村長を見て首を傾げる。

 その視線に気づいたのか、彼はやれやれと溜め息を付くと言った。

  

 「相変わらずシキ様はスゴいなってことです」

 「うん? ありがとう」

 

 よく分からないがこれは誉められたのかな?

 村長と空を眺めながらそう思った。

 正直後はこのまま何事もなく作物がすくすく育ってくれるのを待つばかりである。

 

 

 ――――

 

 

 数日前、霧隠れの里より数十キロ離れた水の国の辺境部で、計測不明の謎の力が観測された。そしてそれと同時に里の中からは、北の山の向こうから巨大な龍のようなものが天高く登っていくの姿を見たという報告が何件か届いた。

 

 懐に忍ばせていた暗部を北部へ斥候にやり、戻ってきた者らに様子を聞いてみる。謎の力の正体はなんだった。本当に龍が居たのか、とかなんとか。

 しかし皆一様に返ってくる答えは同じものだった。

 

 曰く。国の北には何も無かったと。

 

 彼は首を傾げた。

 何もないはずはない。現に異常は感じたのだ。住民達からの報告も受けている。これで何も無かったかなどと、それはおかしなことでしかない。

 

 「何をバカな事を。ちゃんと確認してきたのか? 彼処には幾つか村があったはずだろう」

 「しかし、この目に映らないのであれば「無い」としか表現のしようがありません。ヤグラ様」

 

 これで四人目となる斥候の言葉にヤグラは苛ただしげに腕を組んだ。 

 みんな揃いもそろって無能ばかりかと悪態吐きたくなるのを抑えこむ。

 

 「いい加減にしろよお前ら? 村はある。なのに見えないとはおかしなことなんだよ。幻術の類いかもしれないだろ。解呪はしたのか?」

 「もちろん試しました。しかし何も変わらなかったのです。もしあれが幻術で作られた幻ならば、それほど強力な術は血継限界の可能性しかなくなります」

 「木の葉のうちは一族「写輪眼」か、近くに奴等が潜んでいるかもしれないと…」

 「しかし今彼らは自里の中で何かを企んでいる様子。わざわざ他国の辺境に来る意味が分かりません」

 「確かにな。木の葉じゃうちは一族は肩身が狭いんだろ? ならうちに来て何かやってる暇はねえかもな」

 

 なら余計に分からなくなる。他国による侵略じゃないならこの現象は一体なんだ?

 

 「どうも少し調べて見た方がいいかもな…」

 

 どうもきな臭い香りがするぜ、とヤグラは水影の椅子を蹴った。



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6

後書きに今までのお話しで参考としたサイトなどを載せてみましたが、
残念ながらリンクの張り方が分からずアドレスだけとなってしまいました


 

「さてシキ様、如何致(いかがいた)しますかねえ?」

「うーん……」

 

 先月の荒行により天候の心配の無くなった昼下がり。良い天候の下で私は村長の言葉に頭を悩ます。

 ここの所快晴が続くので洗濯物が干しやすくなったと家庭の奥様方からはお誉めを頂き、上々の出来で事がぽんぽんと進む仕事にホクホク顔でいられるのも少しの間だけ。

 いくら物事が上手く行くからといって、頭を悩ます仕事や問題が減ったわけではなく、むしろ成功で終わらせるためには私の頭をフル回転させて、知識なり記憶なりを手繰り寄せなければならないんだから大変も大変で。

 だから今回も私は、村の池の前に陣取って顎に手をやりながらこうやって次の作業について頭を悩ましていた。

 

「治水整備──上水に下水か~……。どうしようかな。下水菅を通す道は土遁で掘るとして、問題は『管』その物だよね。ここにはコンクリートなんて無いし、パイプを加工するような事も出来ないか…」

「──あの質問なんですがね、そのシキ様が言う下水菅というのは、いったいどんな物なんですかい?」

「ん──、簡単に言うと筒だね。中をくり貫いた円状の巨大な筒を何個も繋げて、その中に下水……家庭で使った後なんかの水や用を足した後の汚水なんかを流すんだ」

「水を……流す? わざわざ? 今のように土に埋めれば良いのでは?」

「それだと(いず)れ土が汚染されるよ。悪臭だってするだろう。悪い病気が流行ったり、酷ければ村が病気の苗床に成りかねない」

「今まで考えたこともない事ですなぁ。……シキ様の言葉は時に私には難しいですよ……」

 

 村長がそう言って首を傾げる姿に思わず苦笑する。うーん、そうか、これでも難しいのか。

 確かに衛生の重要さを知らない人間に、掃除の何たるかを教えてもぴんと来ないのは仕方ないのだろう。

 並行して下水処理場なんかも作りたいと思っていたのだが、それより先に皆へ衛生の大切さを説く講習会でも開いて知識を与えた方が良いだろうか。これは中々に難航するかもしれないぞ。

 

「とにかく、先に地下に下水道だけでも掘り進めてみようか。各家庭に穴を繋げて、地下に簡易の貯め場を造って繋げて……。ゆくゆくは浄水機能とかもつけたいけど、それには準備が必要になるから、先ずは汲み取り式にして畑の肥やしに利用を……」

 

 もはや隣の存在を忘れて一人ぶつぶつと呟く私を村長はしばらく眺めて待っていたようだが、長くなると判断したのだろう。気づけば彼の姿は居なくなっていた。

 まあ村の長だけあって暇じゃないだろうし、仕方ない。

 そんな風に私は考えていたのだが、本当はただ私の話が理解できなくて彼が逃げただけだった。

 

 ふう、と息を吐き出して空を見上げる。

 良い天気だ。だけどまた少し山際(やまぎわ)のほうにうっすら雲が架かり出しているのを見つけて、暫くしたらまた散らさないとな、なんて思う。

 この前(おこな)った雲散らしの風遁は、あれから何度か試行錯誤を繰り返た結果、何とか及第点の技にまで昇華させることが出来た。

 一発目のあれは威力が強すぎて周りに少なからず被害が出てしまったから。

 私は術の使用に夢中で気づいてなかったのだけど、聞けば人によってはチャクラの形が天に昇る龍のようにも見えたらしく、天変地異かなにかと、どうも酷く驚かせてしまったらしいのだ。

 結果、家では事情を聞いた母が大層お怒りのご様子で待っていたから、あれはかなり冷や汗ものだった。

 ……正直、今生の母は普段優しい人だけに一度怒らすとめっぽう怖い。

 

「シキ。お母さん、前に貴方に『術は皆に迷惑はかけない範囲でやりなさい』って言ったわよね? そう何度も同じことを繰り返すようなら、お母さんにも考えが有るわよ?」

 

 とそれはもう良い笑顔で脅された。

 流石に逆らうことも出来なかった私には、すいませんでした。と素直に謝るしかなかったのだけど。

 

 ……でもご免なさい。多分これからも同じことは繰り返す気がします。

 

 そんなふうに心の中で謝ったら、まるでその心の声が読まれたかのように母が目を座らせたように見えた。……恐らく私の自意識過剰による気のせい、だとは思いたいが。

 

「はたけカカシが使う《雷切》は雷を切るんだよね。なら雲を散らした私のこれは《雲散らし》? なーんて……ん?」

 

 そんな風に技の名前で遊んでいた最中、一瞬視界の中に何か違和感を感じた気がして目を凝らす。

 

「……いま何かが通ったような気がしたけど、気のせい?」

 

 それは本当に一瞬で、すぐに分からなくなる程度のものだったけど。言葉にして言うなら誰かが後ろに立ってから横切っていったような、そんな感覚? だけど、当然目に写る範囲には誰もいない。

 

「う……、気味悪いな。なんだろ…」

「──シキ?」

「──ひゃい!?」

 

 モヤモヤする感じにうすら寒い感覚を覚えていた直後、真後ろから急に名を呼ばれたことで私は飛び上がった。

 見れば立っていたのは母で、彼女は普通に呼び掛けたつもりだったのか、私が跳び跳ねてまで驚いたことに目を丸くしていた。

 あれ? というか、もしかして今の母さんだったのかな。

 

「ぁ──ごめんごめん母さん。ちょっと考え事してて驚いたってゆーかなんてゆーか」

「そうなの? ご免なさい。お母さんも急だったわよね」

「別に謝らなくても……それよりどうしたの、なにか用事? と言うかお母さん、またそんな薄着で外に出てるし……」

 

 そう呟くと母は先程のすまなそうな表情から一転、頬に手を当て艶やかに笑った。

 

「大丈夫よ。最近は調子が良いって言ったでしょう? それに私はいつも無茶をやる娘が心配でちょっと様子を見に来ただけよ~? お母さんにも考えがあるって言ったでしょう?」

「ええ!? あれってそう言う意味なの!?」

「そう言うもこう言うも無いけれど、最近の貴女が少し活発的なのは気になるわね~。ご近所さんから苦情……こほん、お話も聞いてるし、貴女が普段何してるのか気になって」

 

 ちょっと待って、お母さん今『苦情』って言ったよね? 言い直してたけど、明らかにご近所さんの『苦情』って。

 苦情ってなに? まさか私のやってること村でそんなに噂になってるの? 

 

「そ、そんなに心配しなくても特別変なことしてるつもりはないんだけど……。ただ今回のは空の雲を吹き飛ばそうとして、ちょっとやり過ぎただけで…今は術も完璧だよ?」

「……その発想からしてもう普通じゃないわよ。それにしても雲を吹き飛ばす? それであの風を? …………」

 

 あ、あれ。なんかお母さん神妙な顔になって黙り混んじゃったんだけど……。なに? 私怒られるの? なに馬鹿なことやってるのー! とか何とか怒られちゃうの? 

 どうしよう、お母さんまだ怒ってたのかな? 

 そりゃあ村のためとか言いながら結果やり過ぎて皆に迷惑かけるようじゃ本末転倒も良いところだけど、でも本当だよ? 嘘ついてないよ? わざとじゃ無いんだって! 

 

「──シキ」

「はいっ、ごめんなさい!」

「ふふ……っ。シキったら、急になに謝ってるの?」

「へ?」

 

 パニクり過ぎて咄嗟に謝ってしまった私を見た母が可笑しそうに笑う。そんな彼女の姿を見て私は目を丸くした。

 

「あ、あれ。怒ってないの?」

「怒る? 別に怒ってないわよ? ただ少し聞きたいのだけど…」

「あ、うん…なにかな?」

 

 怒ってない。そう言う母にほっとしつつ頷くと、あのね、と母に切り出される。

 

「前もそう思ったのだけど、貴女チャクラの運用は一体どうしてるの? あんな巨大な技、使用しようとしたら並大抵のチャクラ量じゃ足りないでしょう。それこそ一度使えばそれだけで倒れるくらいに効率が悪いはず。なのに貴女にその傾向は無いわよね?」

「ああ…それは何でか分かんないんだけど、私の場合は疲れを感じにくい体質みたいで…何て言うのかな…チート…じゃ分かんないよね…」 

「…チ?」

 

 当然のごとく首を傾げて困り顔の母に慌てて訂正する。

 

「ああうん何でもない! 兎に角不思議なんだけど、私は疲れとか全然気にならないみたい!」

「……そう。不思議ね」

「うん不思議。──って、お母さん? あの、私も一つ聞いて良い? ……何でそんなに詳しいの?」

 

 ちょっと質問の答えに困って焦ってしまったから気づくの遅れたけど。普通、チャクラの運用についてとか、この世界じゃ忍びでもないと分からないんじゃない…? 

 今度はこちらが疑問をぶつけると母はキョトンと目を瞬かせたあと。

 

「それはお父さんに習ったのよ~。忍者の妻になるのですもの。それくらい知ってなきゃでしょ~?」

「はあ…そういうもんですか…」

 

 コロコロ鈴を転がすみたいに母が言う。

 なにそれ、忍びの妻ってそういうことも勉強しなきゃいけないの? それは大変だね…。

 じゃあなにか。母さんがチャクラ切れについて疑問に思ったのは父さんからの受け売りだったと。

 

「言ったでしょ。お母さん、シキが無理してないか心配だって」

「うん…その点についてはほんとご免なさい。でもこれも私のやりたいことだから多目に見てほしいな…」

「分かってるわよ。貴方のやりたいことだものね」

 

 優しい目で微笑まれて、なんだかくすぐったい。

 頬を指でかき、照れたように視線を反らすと、また背中に人の気配を感じて後ろを見てしまう。しかしやっぱりというか、そこには誰も居なくて。

 

(……え、また?)

「シキ? どうかしたの?」

「…ねえお母さん。今後ろに誰かいた?」

「え? 別に誰も居なかったわよ~? どうかしたの?」

「ぁ~…ううん何でもない。ちょっと人が居たような気がしたけど、気のせいだったみたい」

 

 首を傾げてこちらを見る母に手を振って意を伝える。私と一緒に居た母が何も見ていないなら、本当にただの気のせいなんだろう。

 もしかしたら最近根を詰めすぎていたから疲れが出てるのかもしれない。それなら今日はもう帰って休んだ方がきっと良いなと、そう結論付けて私は母に向けて微笑んだ。

 

「やっぱりちょっと疲れちゃったかもだから、今日はもう帰るよ。先に晩御飯の用意しとくから、お母さん何か食べたいのある?」

「そうねえ~、最近はお(うち)も豊かになってご飯が毎日美味しいから何でも良いのだけど」

「そういうの作る側にしたらスゴく大変なんだからね」

「あらあら、裕福も楽じゃないわね」

 

 ニッコリと笑われて、なんだか(ゆる)(かわ)された気分だけど。ともかく何でも良いということだから、御言葉に甘えてここは私の食べたいものを作ろう。

 何が良いかな。そういえば去年浸けた梅がまだ残ってたはずだ。お米も充分あるし、今日は消化の良い梅粥にしようかな。冬に採った大根もおろして添えたら丁度良いだろう。

 

「…うん、決めた。今日はお粥にするわ。副菜も付けるから、ちょっと畑に寄って帰るね」

「分かったわ。気おつけてね~」

「お母さん……都会じゃ有るまいし、こんな田舎で気おつけるも何もないわよ、全く」

 

 能天気にも手のひらを振って見せる母の姿に、私は体の力が抜ける思いでその場を離れた。 

 

 

 ────

 

 

 軽快な足取りで幼き少女が走っていく。その姿を見送りながら、それまで土の中に潜っていた彼は、器用にも頭だけを地上へと忍ばせた。

 少女の姿はもう見えない。彼の前には背に肩掛けを羽織り、柔和な笑顔で少女の走り去っていった方をじっと見つめ続ける女性だけが残った。そして彼はその女性に向かって声を上げる。

 

カオリ様(……)

「ご苦労さま、フブキ。変わりは無いかしら?」

 

 女は今しがた自身でフブキと呼んだ名の青年には目もくれず、声だけで事を伝える。

 彼女の視線はまだ前を向いたまま、青年が頭を出す足下には顔も向けない。しかしそれでもフブキと呼ばれた青年は、それを気にするような事はしなかった。

 

「はい、目立つところで変わりはありません。村にかけた術にも変化は見られず、奴等に気取られた心配はないかと。………むしろ今の方が危なかったかもしれませんね」

 

 ポツリと先程感じた焦りを漏らすと、ふふ、と頭上から忍びめいた笑いが聞こえてきた。

 

「私も驚いたわ。まさか隠行している貴方に気づくなんて」

「……気配察知能力が飛び抜けて高いようですね」

「ええ、本当に。…うっかり近寄りすぎて土遁で土と一緒に掘り返されても知らないわよ?」

「…笑えない冗談ですね。………気をつけましょう」

 

 事実、本当に掘り返されては堪らない。これからは土の中ではなく離れた場所からの監視も必要か……。考えると眉間に深いしわが寄るが仕方がない。

 彼は一族の中でも特に隠密に長けた技を持っていた。そしてその腕を一族の当主たる人物に見込まれた結果、こうして彼はここでの任に就いているのだが──。

 

「カオリ様。これは里に潜っている仲間からの話ですが、聞きますか?」

「────あまり良くない知らせなのかしら?」

「いえ。ただ里に居る一人が、最近の水影の動きに疑問を持っているようでして、少し調べていたようです」

「……聞きましょう」

 

 女性の目が鋭いものへと変わり青年へ向く。  

 彼はこの前の一族の定期報告の場で聞きかじった話を女性に向かって答えた。

 それは些細な変化だったのだと、そう言っていた彼の言葉を思い出しながら。




参考資料

https://agri.mynavi.jp/2018_11_15_47739/

https://serai.jp/hobby/93890


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私は村娘であって忍者ではないんですが、何故皆さん頼りにされるのでしょうか?

誤字の報告ありがとうございます。

いまだ機能の操作に不慣れで申し訳ありませんが、
なるべく優しく見守ってくださると幸いですm(__)m

今回の話から展開を変えようと思っています。
公開より後に章の変更が有りますのでご了解下さい。


 風神シキとして生まれて物心つき、前世の記憶が甦ってから着々と村の開拓を手伝って結構過ぎたと思う。最近は栄養不足で細かった手足も年相応に太くなり、ちょっと動いただけで息が切れるようなそんな状態にはならなくなった。

 自分でもこの体のひ弱さにはてんで参っていたから、それだけでも丁度良いと安心していたのだけど。

 自分が元気になるということは当然一緒に暮らす母も一緒に元気になっていくということだったらしく。それはそれで全然良いことなのだけど、それに伴い母が家の外を出歩く事が増えたように思えた。

 まあ今までろくに歩けなかったのだから、外に出られる事が嬉しいのは分かる。でもまた倒れてやしないかと心配になるから出来るなら控えて欲しいと思うのは悪いことなんだろうか。

 そんな悶々とした気持ちを最近の私は抱えている。

 

 「で、お母さん? 今日はどこまで行ってたの?」

 「あ、あらシキちゃん……どこまでって、えぇと…」

 

 そんなこんなで今日もまた夜もふけた遅い時間に家へ帰ってきた母親を問い詰める。まさか起きているとは思ってもなかったようで、私を見つけて玄関先で驚き焦った顔を浮かべる母を前に私は溜め息を吐いた。

 これではまるで不貞を働き帰ってきた旦那へ尋問する妻のようだ。と、疲れた頭で考える。

 

 「言えないとこなの? こんな時間に帰ってきて……何処かで何かあったのか、って心配するじゃない。いくら最近は元気になったからって限度ってもんが…」

 「ご、ごめんねぇ。でも私なら本当に大丈夫なのよ? 元々貴方が心配し過ぎなだけで…。それにほら、最近やっと戦争も終わったじゃない? だから近隣の村や町に住んでる知り合いの顔も見ておきたくて」

 「他の村や町……って。どこか行ってるとは思ってたけど、まさかそんなとこまで…」

 

 呆れて言葉もない。今のところ無事に帰ってきてるから良いが、このご時世、野党が出ないとも限らないんだから女の一人歩きなんかするもんじゃない。

 

 「シキももう14歳だし、家の事も任せられる年でしょ? それに貴方は村の中でも色々やってるみたいだから頼りになるし」

 

 そう。あれから気づけば私はもうそんな年になった。

 その間の出来事で一番大きかったのは、やはり五大国の戦争が沈静化したことだと思う。全世界のビッグニュースは瞬く間に広がり、こんな田舎の方まで噂はすぐに回ってきたほどだ。

 それに彼の大国《火の国》で、大きな狐の化け物《九尾》が現れて里を襲った、というニュースも。

 今の今まで頭の片隅程度にしか考えていなかった原作の物語が、少しずつ進んでいる。

 それでも今までの私の生活が大きく代わることは無かったのだから、あまり感慨はなかった。

 何せ主人公は遠く離れた異国の地で生まれ、物語は知らない所で歩いている。当然そんなだから私が原作に関わる機会なんて一つもない。

 …まぁせっかくこの世界に生まれたんだから、少しは間近で本物を見てみたかったという欲求はあったけど。

 兎も角そんなこんなで自分の知らないところで歴史は着々と進んでいる。

 聞きかじった時系列と史実から逆算して計算するなら、恐らく私が生まれる4、5年前に戦争が始まったのだろう。

 そしてその十数年後に戦争が終わり、その後更に数年の内に木の葉の里が九尾に襲われている。だから大体私が7、8才の頃にナルトが木の葉の里で生まれた計算だろうか。…詳しくは分からないけど。

 

 私は一旦、冷える玄関の石畳から火を焚いた部屋の中へと移動する。

 

 「あのさ、確かに私は村の事色々やってるよ。その成果もあって今や村は綺麗だし、住民たちは皆健康。食べ物だって困らないようにして、…まぁ言っては無かったけど、村の近くの土地くらいなら治安を守るために警備みたいなこともしてる。でもね、それでも私の目の届く範囲でのこと。いくらなんでも隣町なんてそんなとこまでやってられないよ」

 

 だから危険だって気付いて。平和なのはこの村の近辺までなんだと理解して。そう言うと母は「それでも十分すごい事だとお母さん思うけど…」と呟いた。が違うそんなことどうでも良い。今は私の事より母の事だ。

 

 「母さんは感覚がマヒしてるだけなの。今のうちに治さないといずれ酷い目にあうからね」

 「そうさせたのはシキちゃんじゃないかしら…」

 

 何でそうなるの。いやそうかもしれないけど。

 どこまでもおっとりした反応を返す母に焦れて、どんどん私の感情がヒートアップしていく。このままでは家の薄い壁のこと、近所迷惑になりかねないと危惧したとき、誰かが家の前に立つ気配がした。

 

 しまった遅かったか…。恐らく隣の家の人が騒がしいうちの様子を見に来てしまったのだろうと私は畳を立ち上がる。

 そして戸を開けようとした私は、しかし扉の外にいる気配が妙な事に気付いて足を止めた。

 私の人の気配を読む能力は、ここ数年の体の成長、身体能力の向上といったものと同時、著しく成長していた。今となっては村の住民達の気配は全て覚え、近いところなら誰がいるかくらいはおおよそ分かるようになった。その私が今家の外に知らない人の気配を感じとったとなれば警戒するしかない。

 

 古い一階建ての掘っ建て小屋みたいな家の中。相手と自分の距離は戸をへだてても精々数メートル。訪ねてきた時間が時間だけに何者かと怪しむなという方が無理である。

 そう思いながら戸を開けるか開けまいかその場で悩んでいた矢先。

 

 「やっぱり、シキには分かるのね」

 

 後ろから突然、母が言った。何が? と私は振り返る。見れば母は今まで見たことの無いほど真剣な顔をしてこちらを、――私を見ているようだった。

 

 「薄々…いいえ、ほぼ確信していたけど、やっぱり貴方には人を超えた何か……『力』があるのね」

 「……え? …ごめん、何を言ってるの?」

 

 突然の母親の雰囲気の変わりようにも驚くが、言っている内容にはもっと混乱した。いつものほほんとしてる癖に急にこんな真面目な顔をされて、私の心情を察して欲しい。

 

 「と言うか…どうしたの? 急にそんな怖い顔して、……もしかして外にいる人知り合いなの? だったら今中に入れるから」

 「シキ、本当に成長したわね。まさかこの数年、気配だけで外にいる人物を見抜けるようになってるとは思わなかったわ。ちょっと釜をかけてみる程度のつもりだったのだけど、これなら合格よ。試すような事をして悪いけれど…。ごめんなさい。もう時間がないの」

 「いや、だから何言って…」

 「失礼します」

 

 気配もなく、当然後ろから声がした思った時には首に鈍い衝撃を受けていた。それが自分の意識を刈り取るためのものだったのだと今さら気付いても、最早私の意識は深い闇の中に堕ちていくしかないまっ最中だった――。

 

 

 …

 ……

 ………

 

 …

 ……

 ………

 

 

 「…それで、ここはどこよ?」

 「申し訳ございません。秘匿事項の為に申しあげられません」

 「秘匿? ……じゃあ貴方は誰。何で私をこんなところに連れてきたの?」

 「私の名はホムラ。シキ様をここへお連れした者は私の同僚のフブキと言います。貴方のお母君のカオリ様の命により、私たちは今回あなた様をここへお連れしました」

 

 ぎり…と歯ぎしりする。手は後ろへ回されて縛られていて身じろぎするので精一杯なこの状況。まさかと思っていた人の名前が出たことにやるせなさがにじみ出る。

 

 「何でここで母さんの名前が出るのよ? 一般人の母さんにあんた達みたいな誘拐犯の知り合いがいるはず無いじゃない」

 「カオリ様はお話ししていなかったのですね。まああの方の出時や家業は、まだ小さかった貴方には話しにくい事だったのでしょうから仕方ありませんが」

 「また訳の分からない事を、と言いたいとこだけど…ここまで来ると流石に薄々想像できるのが嫌ね」

 「…気付かれたのですか?」

 

 ホムラが目を丸くして聞く。

 

 「昔から、もしかして…と思えることは何度かあったもの。その都度それらしい言葉で濁すから、私もそんなもんなんだって納得してたけど。ここまでお膳立てされれば今はそれが嘘だったと思った方が色々つじつまが合うわよ」

 

 妙に忍術やチャクラに知識が深いところも、母が実体験の元にしゃべっていたのだとしたら頷ける。

 

 「母さんも父さんと同じく忍だった。そして貴方達が敬称で呼ぶくらいだし、格式のある家の出時なのでしょう? 恐らく、気を失う前に母さんが言ってた『私の事を試した』って台詞からして、私にとってこれから録な事にはならないのだろうけど」

 

 そう一息に言いきって私は溜め息をつくと、私の考察にホムラはまるで肝を抜かれたような表情で答えた。

 

 「若いのに素晴らしい慧眼でしたシキ様。流石、現ご当主様の娘様です」

 「…ご当主って、まさかのトップだったの…うちの母さん。それは流石に驚く…」

 「先日、一族を纏めていた前当主様が任務中に亡くなり、ご息女であったカオリ様がその跡目を継がれたのです。ですので今はカオリ様が我々の頭領で当主となります」

 「へえ…」

 

 それはそれは御大層なことで。我が母親ながら何とも大変そうな人生を歩んでらっしゃる。

 で、結局私は何でここに連れてこられたのよ。そろそろ理由を話して欲しい。…本当に嫌な予感しかないのは勘弁してほしいとこだけど。逃げらんないんだろうな。逃げらんないよね。……諦めるしかないか。

 

 「……私も貴方達のやってることを手伝えばいいの?」

 「それがご当主様の意向になりますので」

 「…はぁぁ、こうなる未来は十分予想してた筈なのに、結局私は選択を間違ったってことなのね…」

 

 好き勝手しといて今さらだけど。

 …まだ身内事であるだけましと、そう思うべきなんだろうか。

 なんせ私のような力が必要になるような場所なんて、この世界じゃ戦場以外にありえないだろうし。…こうなるのが嫌で色々やって来たのになぁ。

 

 「で? 私は何をするの? 手始めにこの国でも滅ぼせば良いのかしら?」

 「出来るのですか?」

 「食い付いて来ないで。やるつもりないし、した事ないから分からないわよ」

 「それは、やれば出来ると言っているようにも聞こえますが」

 「だから食い付くな。言ってみただけだっての」

 

 こいつら、怪しい怪しいとは思っていたけどガチの方面か。ちょっと発破をかけたらあっさりと食い付いてきた。間違いなく反政府組織の一味、というかここがその本部なのか。だから秘匿がどうこう言って場所を吐かないわけだ。

 

 「本気でこの国と戦うつもりなの? そんなことしても勝てると思えない。どれだけの忍を敵に回すか……犬死によ」

 「ですから今なのです。戦争で少なからず疲弊した今の忍ならばきっと私たちでも好機はある。これを逃せばもう次はありません」

 「だから今度は身内で全面戦争? そうやってまた戦争で…内乱で苦しむ人達が出ると分かっていながら?」

 「この腐敗した世の大名家、そしてそれに寄生して生きる里の忍たちの統治がこのまま続けば、いずれ戦争よりも多くの人々が亡くなるでしょう。彼らが居るかぎり人々に平穏な時など永遠に訪れる時は来ません」

 「確かにこの国の内政は酷いと思うよ。導いて行く立場のはずの彼らが私腹を肥やしてのうのうと暮らして、私らのような弱い立場の人間が今日明日にも死んでいくんだから。でも、それでもそんな状況を打開して今を必死に生きようとしてる人はいる。貴方達がやろうとしてるのは、そんな必死に生きている人達さえ巻き込んでの戦争だ」

 「お言葉ですが、そのように前向きになれる者はシキ様、貴方以外におりません。そして貴方に関われたごく小数の人のみだ。残念ながらこの世の大多数の人間は誰もが貴方のように心を強く持っては生きられないのですよ。早くこの飢えから脱し救われる事を神に願う。…もし自分たちを助けてくれるのなら、例えそれが悪魔だろうと人々は願い乞うでしょうね。“助けてくれ”と」

 「…………――――」

 

 ホムラは私から目をそらすこともなくそう言いきり、それに返す言葉は今の自分には無かった。彼の言うことは間違ってない。

 だってこんな苦しい世の中なら誰だって救いを求める。楽になれる道を探している。

 そんな彼らに、絶望の苦しみを知らない自分が“頑張ればたいていどうにかなるよ”なんて説いたところで反感しか買わないだろう。

 ならばお前が何とかしてくれと。自分たちを早く助けろと、怒りの矛先を向けて来さえするかもしれない。

 

 「だから我々が立つのですよ」

 

 人々を救うため、今必要なのは革命なのです。

 そう言って部屋を出ていくホムラを私は黙って見送った。

 

 

 

 翌日になって、手首にはめられていた縄はようやくほどかれた。

 どうも例のフブキさんと言う人が戻ってきたらしい。なら母さんも一緒だろうか。そう考えて私は自分に当てられた部屋で大人しく座っていた。

 

 「……ようやく屋敷の中なら気配をつかめるようになってきたわね。一族がどうとか言ってたから、結構な人が居るのかと思っていたけど、意外と少ない……出払ってる?」

 

 そこそこ広い屋敷の中、ひときわ慣れ慕んだ暖かい気配が周りに誰もつけずにポツンと一人で居るのを感じとって、これはきっと自分を待っているのだろうなと予測した。

 母が私と会うことをのぞんでいる。なら行ってやらない理由はないだろう。知りたいこともある。

 

 部屋の前に居たふたりの見張りは、幻術を使って眠らした。

 これでも相手は現役の忍びだから、私の仕掛ける術なんかに効果があるのか少し心配だったけど、どうも問題はなさそうだ。

 本当に私のスキルレベルというものは一体どうなっているのだろうか。本格的な戦闘になる前に調べておきたいかもしれない。

 手加減出来なくて相手を再起不能にとか、喧嘩もしたことない自分にはキツすぎる。

 

 人気が無いので堂々と屋敷内を歩いて母の下へ向かう。そしてある部屋の前で立ち止まり、その襖を開けた。

 そこには案の定、忍び装束に着替えた母がこちらに背を向ける位置で畳に座っている。襖を閉めて中に入ると、少し距離を開けて私はその場に静かに正座した。

 

 「ふふ、来てくれたのね、シキ。お早う。昨日はちゃんと眠れたかしら?」

 

 そう言って振り返った母の顔はいつもと変わらない様子で柔らかく接してきた母親の姿に、どことなくホッとしてしまった自分がいた。

 

 「お早う。手首縛られたままぐっすり眠れる人間がいるなら聞いてみたいよ」

 「それもそうねぇ。ごめんなさい。無理矢理連れてきたものだから、貴方に限ってとは思ったけれど、暴れられても困るでしょう?」

 「…そこは母親として、絶対大丈夫と言い切ってほしかった。で? わざわざ屋敷に人払いしてまでお膳立てしてくれたんだから、ちゃんと話してくれるんだよね?」

 「そうね、何から話したものかしら…。母さんが忍一族だって話は聞いた?」

 「聞いたよ。そこでお頭にもなったって」

 「そう。――うちはね、元々さる大名家の一人に仕える専属の忍なのよ。水の国の大名達の派閥は、他国との融和を求める穏健派と、他国を排し全てを自国の手中に治めるべきという過激派で別れていてね。私たちの主人である城主様は穏健派の一人よ」

 

 そうなんだ。そこは過激派とかじゃなくて正直良かったと思うけど。

 下手に暴力思想の主人なんて持ってしまったら、彼女らの一族がろくなものにならないのは目に見えてる。それじゃあホムラの言っていた考えとは余りに食い違ってしまうだろう。

 

 「で、その穏健派の城主さまに仕える母さんが、私を拐って戦争に加担させるのとなんの関係が?」

 「戦争…って人聞き悪いわねぇ…」

 「ホムラは革命って言ってたね。その為に私を連れてきたの? 戦うための力として」

 「ええそうよ。これまで何度も見させてもらったけど、正直貴方の力はとても魅力的だわ。疲れ知らずの体力。無尽蔵のチャクラ。威力にしたって申し分ないどころか敵知らずじゃないかしら。体術は習ったことが無いだけで、恐らく訓練を受ければ貴方なら人並み以上になれると私はふんでるわ」

 「…隠すこともしなくなったか」

 「ごめんなさい。前も言ったけど、もう時間が無いのよ」

 「………まあこの歳まで良くもったほうか」

 

 まさか革命を起こす連中が現れるなんて予想はしていなかったが、いずれこの国は終わるんだろうな、とは薄々感じていたし。

 原作じゃ四代目水影やぐらの統治に異を唱えた奴等が暗殺を企てて失敗してるけど、この世界線だとそこら辺どうなるんだろう?

 

 「ああ~っもう、色々考えんのめんどくさい! 誰を倒すの!? 過激派?」

 「張り切っちゃって、頼りになるわ~。――標的はもう決まってるのよ。この国の大名が霧隠れの忍達とズブズブなのはもう分かるでしょう? その繋がりを断ちたいの」

 「………つまり?」

 「霧隠れの水影棟に強襲を仕掛けられないかしら? そこで大暴れして注意を引き付けておいて欲しいのよ。そしたらお母さん達が後は上手くやるわ。ね? シキちゃんなら簡単よね?」

 

 そう言って母さんは悪魔のような笑顔でニッコリ笑った。

 



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 ――拝啓、天国のお父様へ。

 私のお母様は天使の顔を持つ悪魔でした(泣)

 

 というか、どこの世界に実の娘を嬉々として死地へ送るような真似をする母親がいるのですか。そこのとこ私は真剣に問い正したい。

 

 そんなことを私は、霧隠れの里のトップシークレットともいう水影棟の中に潜入してからグルグルとずっと考えている。

 …いや違うか。これは()()じゃなくて()()だったね。

 だってそれが証拠に、今私の頭の上では侵入者の来訪を告げる警報器が棟中でけたたましく鳴り響いているのだから。

 私はその音を聞きながら、もう後には引けないんだということをしみじみと感じている。

 

 とりあえず正面入り口に居た見張り二人は、術で派手に棟の中に吹き飛ばし、その身体をもってして鉄鋼造りの正門を思いっきり開けてもらった。

 物凄い轟音と共に建物が大口を開けて私を招き入れてくれる。

 そして当然鳴り響く警報器。

 

 「…さてさて、どうなることやら」

 

 思わず溜め息を吐いて一歩足を踏み出す。

 棟の構造なんて地図が無ければ分からないが、とりあえず水影の部屋は最上階だろう。地位の偉いものが高い場所にいるというのはどの話でもセオリーだ。

 

 とはいえ今日の私は水影に特に用は無く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、としか聞いていないのだから、適当に棟内を走り回って引っ掻き回し、程よいところで撤収すれば良いだろう。

 

 付け焼き刃ではあるけど、体術や忍としての身のこなし方なんかも、一通り母さん達に教わってきた。

 とは言っても、私は忍として訓練された人間じゃないから、せいぜい一般人から最低限のものを扱えるアカデミー程度に上がったくらいのものだけど。

 母さん曰く、「貴方はチャクラの扱いは飛び抜けて才能があるから、それだけでも全然問題ないわ」とのことで。

 とりあえず火遁・水遁・雷遁・土遁・風遁、それぞれ使えることをホムラさんに確認してもらってここに来ている…のだけど。

 

 「それでもやっぱり素人に任せる仕事じゃないよね…何考えてんの母さん…」

 

 正直ここに来て、話に流されてしまった自分に後悔している。

 やっぱり嫌だ、無理だ、と大声を上げてでも抵抗すれば良かっただろうか。

 どうもこの国で感覚が麻痺してしまったのは、母さんだけではなく私のほうもだったらしい。あるいはチャクラが自在に操れるからと万能感に浸っていたのか。

 

 「しまった…意識したら震えてきたかも………」

 「居たぞ!侵入者だ! 捕まえろ!」

 「おっと、ヤバ…」

 

 聞こえてきた声と足音に慌てて顔を隠す面を付けて、声とは反対側へ走り出す。

 

 「なんだアイツは…天狗の仮面の女、…か?」

 「そんなのどうでもいいから早く捕まえろ!」

 「そこの面の奴、止まれ!」

 

 足を止めるためだろう。クナイや手裏剣といった飛び道具が自分の手足に場所を問わず投げつけられる。

 それを避けれるものは避け、無理そうならば手前で風を巻き起こしてはたき落とした。そして時おり牽制のために小さな水の塊を作って追っ手へと飛ばす。

 それは私が水鉄砲の出す水をイメージした威力を伴わない普通の水だった。

 それなりの速さで飛び出す弾は、相手に怪我こそさせないものの、剥き出しの手や顔に当たればそれなりに痛いように出来ている。

 そしてその狙いどおり、驚きから一瞬足の止めた追っ手の視界から私は逃れるように死角へと走った。

 

 「うわっ!? なんだコレ! ……ただの水、か?」

 「気にするな、大した威力じゃない! 追い込んで捕らえろ!」

 「……――」

 

 いくつもの角道や十字路を狙いに付けられぬようジグザグに曲がって、ようやく階段を見つけた。何で面倒な構造なんだ。

 一足飛びに段を駆け上がり、踊り場の手すりを掴んで片手を軸に飛び越えれば、1拍遅れて追っ手達が投げたクナイが背にした壁に突き刺さる音がした。…危ない危ない。

 すぐに後ろを振り返って、追っ手が階段に迫る直前を見極め、私は練りに練ったチャクラを使って大量の水を作り出した。

 床の全部を飲み込む程の量の水。それを階段の上から下へとさながら滝のように落とす。傾斜も相まってそれはまるで津波のごとく流れ落ちた。

 

 「がふっ…、ごぼっ!?」

 「うああああぁぁっ!?」

 

 突然流れてくる水に対処出来なかった忍たちが波に飲まれていく。現代じゃ時には家さえ流す被害のそれだ。威力についてはここで説明するまでも無いだろう。

 

 もれなく一人残らず流されていった事を確認した私は、ようやく落ち着いて先に続く通路を振り返った。…いや、今もまだ警報は鳴っているからそうそう気を抜いてるわけにはいかないけれど。

 

 「さて、次だね。この階はどうしようかな……」

 

 それにしても、当てもなく道をさ迷うというのは、存外心許ないものだと、私はその場で疲れたように肩を落とした。

 

 「とりあえず下手な怪我はさせないように考えてはいるけど、戦闘のプロ相手にそれがいつまで持つか……。これがただの脅しだと分かれば、あっちも本気で追い掛けて来かねないだろうし…」

 

 あんまり長居はしない方が良いのは分かる。警備は上に行くほど厳しくなるだろうし、かといって既に出入口は封鎖されているだろうから今さら下に戻ることも出来ない。

 手っ取り早いのは人の少ない場所を見計らい、窓なり壁なりを突き破って逃げることだけど……今すぐ飛び出したんじゃ母さん達に任された陽動の意味がない。まだもう少し粘ってこちらに彼等の目を引き付けておかないと。

 

 「…とりあえずもう少し上ろうかね」

 

 何の対策かは知らないが、ものの見事にフロアにバラバラに設置されためんどくさい階段を探して、私は再び通路を行った。

 

 

 …

 ……

 

 「現在状況はどうなっている!? 誰か報告しろ!」

 

 水影棟の中枢、その中央の部屋では、腕に額当てを巻いた男が部下達に報告を求める声を上げた。

 そしてそれに呼応するように、入口のすぐそばで直立不動していた伝令係りが声を張り上げる。

 

 「報告します! 敵は追っ手を振り切りつつ上階へ逃走中! 何やら可笑しな術を使うようで、こちらの手が思うように出せない状況ですが、今のところ致命傷を負うような事態には至っていません!」

 「…不味いな、狙いは水影さまか? 警戒体制を強化しろ! 棟にいる中忍以下の者は下から、上忍は上から追い詰めるんだ。これ以上敵に好き勝手させるなよ!」

 「了解!」

 

 指示を受けた伝令が再び走り出すのを背に、男は歯噛みした。

 

 「くそっ、主要な忍達が大名家の護衛に出払っているときを狙われるとは…まさか反乱分子どもの仕業か? だとしたら不味いな…」

 「――っ、ほ、報告します!」

 「今度はなんだ!?」

 

 今度は先程出ていった者とは別の伝令兵だった。

 余程焦っているのか、転がり込むようにやって来た人物に思わず男は苛立った気持ちのまま怒鳴り付ける。

 しかしそんな男の気など知る余裕も無いのか、走ってきた彼は続ける。

 

 「会合のため霧隠れに向かっていた大名家の方々が何者かに襲撃を受け、現在我が里の忍と交戦中! こちらに至急応援を要請しています!」

 「な、なんだと!? …くそっ、やはり罠だったのか! 水影様が狙われているなら、此方から出せる要員は無い……これが狙いだとしたら敵は相当な思いきりの良い奴だ」

 

 男は焦った。たった一人の襲撃者に良いように翻弄されているのを思えば、敵は恐らく相当な腕をしている。

 そして大名たちを襲った別動隊も、それを見越してこの人物を寄越したのだとしたら、その本気さはいかがなものか。

 

 「兎に角一刻も早く侵入者を捕まえるんだ! 恐らく後はないぞ!」

 

 男は焦燥にかられるままそう叫んだのだった。

 

 

 …

 ……

 

  

 バタバタと自分を追い掛けてくる足音が背中から迫ってきた。

 それを尻目に見やりながら、私は走っていた足に力を込めて更にその場を大きく跳躍した。

 吹き抜けのホールのような場所に出て、そのまま三角跳びの容量で壁を足場に上へ上へと登っていく。

 途中追いついてきた忍達が投げてきたクナイが頬をかすり、ひきつるような感触と共に下を向くと何人かの忍が印を組んでいるのが見えた。

 

 「火遁――」

 

 何が来るのかと身構えた一瞬、聞こえてきた台詞に少し焦る。

 ゴオ――!と唸りあげながら迫ってくる巨大な火の玉に、いよいよ彼等に余裕が無くなってきたのだなと悟りながら、相殺する為の技にチャクラを込めた。

 目の前で起こる激しい爆発に、反動で飛んだ体を制御して一旦落下防止策の手すりに着地する――つもりだったのだけど…。

 

 「――どわっ!?」

 

 ……しかしそこは付け焼き刃の技術が損をした。ものの見事に足を滑らし後ろへと勢いよく落ちて床を転がったのだ。しかもちょうど背中側にあった部屋の扉を派手な音で壊して中に転がり込んで。

 

 「あいたたぁぁ~……」

 

 痛む節々に呻きながら頭を起こす。

 ここはどこだ。目の前には今しがた壊してしまった扉が見える。が、左右に広がる奥行きの良さだけでも部屋は相当に広そうだ。

 所々装飾の成された壁や柱が豪華だし、何かの来賓室だろうか。

 

 「――随分下が騒がしいと思っていたら、君が騒ぎの原因か」

 

 そんな風に考えていたら背後から突然そう声が投げられ、ひっ!と肩が跳ねた。思わず焦りから背中に冷たいものが流れる感覚を感じる余裕もなく。恐る恐る振り返り、そこに居た人物を見てさらに血の気が引いた。

 小柄な子供みたいな体型に童顔の風貌。

 しかしてその姿から溢れる雰囲気(オーラ)は紛れもない強者の証し。

 

 自分の記憶の中におぼろ気にあった人物の姿と、今目の前にいる彼の姿が一致する。

 

 《――四代目水影 橘やぐら――》

 

 「マジですか……」

 

 出会うべきではないものと出会ってしまった。冷や汗が止まらない。心境はさながら蛇に睨まれたカエルか…。

 

 「ここに何の用?――――なんて聞くだけ野暮か。…僕を殺しにきたんだろ?」

 「………」

 

 何て言ったら正解なのか分からない。下手な言い訳は直ぐ様に首を跳ねられそうな空気さえ孕んでいて喉が緊張で渇く。

 

 「答えないってことは肯定と受け取るよ?」

 「あ……」

 「ん?」

 

 殺気が視線に乗ってやって来る。

 怖い、正直怖すぎる。こんなの14年間ただの村娘として育っただけの自分が相手にして良い相手じゃないでしょうよ。…なのに何で出会うかな私。運が悪かったなんてもんじゃない。

 こんなことなら下手な時間稼ぎなんてせずにさっさと退散すべきだった。

 

 ……あそこから飛び降りれば助かるかね?

 

 思わず追い詰められかけた思考に、水影の後ろにそびえる立派な大窓へと視線が移る。

 多分、下は川だ。棟に入る前に周辺を調べておいたが、ぐるりと囲むように大河が流れていたのを確認している。ここからかなり高さはあるけど、目の前の人物と戦うよりは助かる可能性も…。

 

 「……!! …って、っうわ!?」

 

 視線を少しずらしただけなのに、次の瞬間には何か鋭利な刃が目前に迫っていた。慌てて顔をそらして避けるとそれは半円を画いた水の刃だった。

 空気を裂くように放たれた水が、背後にあった支柱の一本を易々とえぐって弾け消える。

 

 「あ~れ、避けられちゃった。見た目どんくさそうなのに、意外と反射神経は良いんだ。――じゃあ次ね」

 

 そんな軽い口調で次の術が放たれてくる。

 

 っていやいやいやいや!無理無理無理無理!

 

 それはマシンガントークならぬマシンガンウォーターとでも言えば良いのか。降ってくるのは鉛の弾ではなく水の弾だが、その威力たるやさっきの自分の水鉄砲ごときの比じゃない。

 当たれば死ぬ。撃たれ所によっちゃあ即死だ。

 それが壁や天井を抉りながら私の方へと照準が向けられ続けている。 

 さすが三尾の人柱力というか、無尽蔵のチャクラとそれをコントロールしてみせる抜群の技量で術を使い続ける彼は、やっぱり人間兵器だ。こんなの一人間が戦って勝てる相手じゃあない!

 

 母さんたちは、こんなのを相手にしようとしてたの? 

 やっぱり無謀だ。いくら国の危機でも、やれる事とやれない事の差は大きい!

 

 「帰ったら慰謝料請求してやるからな~…!」

 

 今ごろ屋敷で参謀として計画の真っ只中だろう実の母に向かって、私は情けない声を上げるしかなかった。



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「首領、こちら制圧終わりました。そちらは如何ですか?」

 

 時はそろそろ亥の刻を回ろうかという頃。

 突撃隊として編成されていた彼は、作戦の修了を告げるべく、前首領の跡目を継ぎ、此度一族の頭目と成られたカオリの下へと駆けた。

 

 今作戦、別の部隊を率いていた彼女は彼が走るまで別の者と計画を詰めていたのか、普段の穏やかな顔を隠した真剣な面持ちで彼の同僚たる同じ仲間たちと話していたが、声をかけた彼の存在に気づくと彼女はその表情を幾分か和らげた。

 

「そう。お疲れ様ホムラ。こちらも今しがた完了したところよ」

「…随分と楽に終わりましたね。里から応援が無いということは、シキ様が上手くやったということでしょうか?」

 

 言ってホムラは捕らえたばかりの目標物を目に入れた。

 そこには縄で縛りあげた麻袋の束がある。中に詰めてあるのは勿論、人だ。

 それが誰であるのかは、自分達の存在を世間に公にするような事があればきっと想像がつくだろう。

 

「そうね。やっぱりあの子に任せて正解だったと思ってるわ。…私の目に狂いは無かったってことかしら」

 

 そう言うわりには物寂しい顔を見せるものだ。

 彼女の表情は、決して大役を全うした自分の娘に対して誇るような親の顔ではない。

 

「…余り嬉しそうじゃありませんね。もしかして心配ですか?」

 

 ホムラにしてみれば、屋敷で見たあのシキの胆力を鑑みるに、彼女の心配は杞憂に思えるが、きっと彼女には彼女の──母親として見た視点での何かがあるのだろう。

 そしてまるでそれを肯定するように、彼女は──カオリはどこか遠くを見つめている。

 

「心配…と言うのかしらね、これは。私にもよく分からないのよ。あの子は物心ついた時には既にあのような感じだったから…」

「──? 随分と漠然とした返事ですが、どういう意味でしょう。私にはシキ様ほどの使い手ならば何も心配する必要は無いように思いますが」

 

 分からなくて首をかしげるホムラにカオリは返事に窮するのか、少し困った顔で笑った。

 

「そうね。確かにシキの持つ力はすごいわ。あの子は大国の忍以上…ううん、それすら霞むような素質を秘めているかもしれない。でも私にはその力が少し歪に見えるのよ」

「それは…」

 

 そうでしょうね。と言う言葉はあまりに不謹慎な気がして飲み込んだ。

 あの歳で既に並の上忍以上の性質変化を扱う上、あの膨大とも言えるチャクラの量は、彼女を普通の人間だとは言い難いものがある。…しかし、それも今まで一人も前例が居なかったというわけでもない。

 確かに数は数えるほどだが、五つの性質変化全てを扱える忍者も、人の手には余るような巨大なチャクラを有していた者も中には存在したのだ。

 だからホムラは続けそうになった言葉をこらえて、別の言葉にすり替えた。

 

「それでも、シキ様が有能なのは違いありません。使えるならばそれが何であっても使うべきです」

「忍は道具──誰かが言ってた言葉ね。でも私はあの子を忍として育ててはいない…。きっと血も涙も無い親だと恨まれるでしょうね」

 

 風神家一族の一人娘として生まれたカオリだが、彼女は夫との間にシキを儲けたときに身体を壊して前線を退いた。

 争いから遠く離れた辺境の村に越し、療養という名の暮らしを続け、そこでたった一人の娘と共に二人で過ごしていたのだ。

 そんな平和な中で育った子供はさぞ穏やかに成長した事だろう。争いを知らず。この世の歪みを知らず。だけども、

 

「…たしかに、今はそうでもきっとシキ様にも分かるときがきます。力を持つものはそれを使う義務があるのだと。ここは例えただの子供でも、戦わなければ生きられない世界なのだから」

「誰かが立たねばならないならば、先陣を切るのは我等の役目──父様の言葉ね。…ほんと酷い世界だわ…ここは」

 

 そう呟いて空を仰ぐ顔が哀愁に包まれようと、ホムラはそれをわざと見ない振りで過ごした。

 

 

 …

 ……

 

 

 キュン…と耳のそばを高い音が通り抜けて何回目だろうか。時には本棚の影を、机や椅子を、果ては床を転がりながら死の幻影を振り払って避けた弾の数はもはや両の手では足りない。

 そうやって少しずつ少しずつ削られ、磨り減らされた精神はもう限界に近い。

 

「…ふん、随分としぶといネズミだね。逃げるだけなら大したものだよ、君」

「ぜぃ……は……そ、それはどうも…」

「でももう息も絶え絶えみたいだし、そろそろ疲れたろう。どうだい? 一つ休みをいれないか? なあに簡単なことさ。少しここで永眠るだけだよ」

「いま明らかに不穏な当て字をされましたよね?」

 

 眠ると読んでも永久にとか多分そういう意味がつく感じの。

 

「俺、これでも忙しい身の上でさぁ、君にばっかりかまってる暇無いんだよね」

「だからもう帰るんで放っといて下さいって、さっきから何度も言ってるでしょう」

「君バカなの? 堂々と水影棟に忍び込んで機密を盗んだかもしれない人間をのこのこ帰せると思うのかって、俺も散々答えてるでしょ」

 

 そう言って、やぐらから弾き出された水の塊が背にした土遁の岩壁に穿たれた。

 最初は一発だったものが二発に、四発に、十六発にと増やされていき、そしてやがて最後はまるで機関銃のように水が放たれ続ける。

 堅牢になるよう多大にチャクラを込めて作った壁はその猛攻に耐えられぬとあっという間にボロボロと崩れ去った。

 舌打ちを打ちたくなる気持ちをなんとか押さえ込んで、シキは新たな壁にチャクラを送り込んだ。

 こうなったらもうただの我慢比べだ。お互いに尽きるということを知らない膨大なチャクラを当てに無駄な足掻きを続ける。

 

「…硬いなあ…。君ほんとになんなの? チャクラは中々のものを持ってるみたいだけど、扱いきれてないし動きはてんで素人。なんだかちぐはぐな奴だね」

 

 チャクラコントロールは酷く悪いのに、何だか術は普通に発動してるし、燃費のわりには本体がガス欠になる素振りもない。

 普通ならおかしい状況に、意味が分からないとやぐらが愚痴るが、そんなのはこっちがぼやきたい。

 

「…忍術なんて、ようは魔法みたいなものでしょ。呼び方が違うだけで、体内で魔力やらチャクラやらの精神力を練って、明確なイメージと共に術を出すのは魔法も忍術も変わらないよ…」

 

 よくあるファンタジー世界の話と同じだと思えば、そう難しいものとも自分には思えない。だがこの世界でそんな話をしても、当然誰も理解できるものじゃないだろう。

 現に目の前で里の最高司令官とも言える国のトップは、シキの言葉に難しい顔をしている。

 

「…ほんとに意味が分からないよ。──もういい。どうやら君とはこれ以上話していても無駄みたいだ。次は本気で行こう」

「……っ!?」

 

 そう言った瞬間のやぐらの顔から表情が抜け落ちた。同時に目の前にかざされた手のひらには、どす黒い色のチャクラの塊が現れる。

 

「(何あれ、黒い螺旋丸? ……じゃないな。アレは…確か)」

「さあ、これで終わりだ」

 

 何処かで見覚えのある光景に背中がゾッとする。とっさにシキはやぐらに向かって叫んでいた。

 

「ば…っ!? あんたまさかこの部屋ごと吹き飛ばすつもり!?」

「へえ、君にはこれが何か分かるの?」

「そんな馬鹿でかいチャクラの塊、二つと知らないわよ! それは尾獣のチャクラでしょう!?」

 

 そうだ思い出した。その禍々しいまでの巨大なチャクラは人柱力の中に封印されている尾獣たちのチャクラだ。彼らが己の膨大なチャクラを使って放つ迷惑極まりない術なのだ。

 

「こんな狭い場所でそんなもの使えば建物が…ううん、ここら一帯が吹き飛ぶわよ! あんたここにいる皆を巻き添えにする気!?」

「いいよ、別に」

「は?」

 

 あまりにあっけカランと発せられた言葉に、思わず呆けた声が喉から出た。

 彼の言葉に温度が無さすぎて、一瞬何を言われたのか分からなかった。

 

「いいよ、別に。面倒だから壊してしまおう。全てを壊して瓦礫に変えて、そして無くしてしまえば一番手っ取り早いよね。うんそうだよ、そうしよう。全部壊して無くして灰にして、立っているのは俺一人だけ。うん実にシンプルだ。楽で良い」

「………」

 

 こいつは何を言っている。意味が分からない。全部無くす? それが一番簡単だ? そんなの…そんな考えが…。

 

「…そっか、やっぱり今の貴方はただの操り人形に過ぎないんですね」

 

 人の心が無い。知っていたけどここまでとは想像してなかった。せめて仲間意識くらいは……と思っていたけど、これは当てが外れた。

 目の前には全てを灰にする巨大な力が迫ってる。後ろは壁だ、逃げ場など無い。

 目に見える《死》がそこにあった。

 

(…やばい、人って結構あっさり死ぬんだなぁ。こんなことにならなきゃ、もう少しくらい長生きしたかったんだけど…)

 

「悪りいが、そう簡単にはくたばってやらねえよ」

「え?」

 

 突如目の前が目映く閃光に包まれ、余りの眩しさに目をつむる。その一瞬に誰かの黒い背中がシキとやぐらの間に割りいるのが見えた。

 

(…この、人は…)

「…次から次へと、今日は呼んでもないのに人が多いね」

「それは悪かったなぁ。水影やぐら。その命、この俺がもらい受けに来てやったぜ」

「君が? 俺を? くく…ふはは…はーっはははは! 馬鹿じゃないのぉ? あ~お腹いたい…」

「…ちっ、おいそこのガキ」

「え、は?」

 

 たった数秒で目まぐるしく変わる状況についていけなくて馬鹿みたいに呆けるシキを、背中越しに睨み付ける男が言う。

 

「ぼけっとすんなてめえ、死にたくなきゃ今すぐここを離れやがれ!」

「いや、てか貴方は…」

「ああ!? 聞こえなかったのか! とっととここを」

「二人とも逃がさないよ。君たち纏めてここで…」

「ちっ!」

「うわ!?」

 

 混乱するシキを他所に、男は苛立った様子でシキの襟首を掴み上げた。

 その巨体に見合う筋骨が軽々とシキを持ち上げ、身の丈ほどもある武器を持っているのにも関わらず、まるで重さなど感じていない様子で大きくその腕を振りかぶり、

 

「いや、ちょっと待っ!」

「後は自分でなんとかしやがれ!」

 

 そうして力いっぱいその腕を振りきった。

 

 ガッシャ──ンッッ!! と、粉々に砕けたガラス。いくつもの破片と共に落ちる体。

 胃が浮くような不快感に襲われたのも束の間、シキの体は冷たい水の中に落ちていった。

 



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「ッゲホ……! ……うう……死ぬかと思った」

 

 

 

 棟の最上部から、ろくに受け身もとれないまま水面に叩き付けられて暫く気を失っていたせいで、どこまで流されたのか気づけば知らない川縁に打ち上げられていた。

 

 

 

「服、おもた……」

 

 

 

 体も高所から水に叩き付けられたせいか至るところが痛みを訴えているし。

 

 濡れた服は絞っても絞っても水が出て足下に大量の水溜まりを作っていく。

 

 

 

「……このままじゃ先に風邪をひいていまいそう」

 

 

 

 全身びしょ濡れのせいか、水から上がった体は容赦なく冷えた。それにこの国の気候はお世辞にも安定した穏やかな気温とは言えないのだ。濡れたままでは体調を崩すだろう。

 

 それにさっきの戦闘のせいで心身ともに非常に疲れきっていた。早く服を乾かして体も温めたいが、今からいちいち焚き火をたいて木の枝を立てて服を干して……という面倒な手間を踏む気にはどうしてもなれない。

 

 

 

「……仕方ないか。うん、仕方ない」

 

 

 

 結局悩みはしたものの誘惑に勝てなかった私は、心の中で言い訳すると風遁を使って自分の周りに風の渦を巻いて服の中の水分を全て飛ばした。

 

 次いで火遁で周囲を暖め乾燥させて服を乾かすと、なんと『お手軽忍術の簡易乾燥機』の完成だ。

 

 

 

「ふぅ、さっぱりした。……ってこんなことやってるから周りから変な目で見られるんだろうな……私」

 

 

 

 そう茶化してみたが、すぐに落ち込む私である。

 

 

 

「お姉ちゃん、だれ?」

 

「……?」

 

 

 

 一人項垂れる私のすぐ近くで声がした。

 

 誰もいないと思っていた場所だが、振り向くとそこには十才くらいの姿の幼い女の子が一人、木の幹からこちらを不思議そうに覗いていた。

 

 それに思わずギクリと体が固まる。

 

 

 

「お姉ちゃん、知らない人だね。水浴びしてたの?」

 

「服のまま全身濡れ鼠になるのを水浴びと言うならそうなんだろうね……」

 

「??」

 

 

 

 あ、だめだ皮肉が伝わって無いっぽい。純粋な瞳で見られ、たじろぐ。……というか今の現場見られてたのか。

 

 ちょっとまずったかもしれないと焦る私の所に、その少女は可愛らしくもトテテ……と走り寄って来て、おもむろに私の服の裾を掴んできた。

 

 

 

「……服、濡れてないよ?」

 

「……いま乾かしたからね」

 

 

 

 皮肉は伝わって無かったが、意味は理解してたようだ。

 

 どうやら直接触って確かめようとしたらしい。

 

 

 

「さっきの?」

 

「やっぱり見られてましたか」

 

「お姉ちゃんは忍者さんなの?」

 

「忍者……ではないかな……」

 

 

 

 歯切れ悪くなってしまったが仕方ないと思う。

 

 じゃあ何だと聞かれてもそれはそれで困るのだが、実際私は忍者ではないのでそれ以外答えようがない。

 

 しかし少女の関心はそこじゃないのか、それ以上その事を突いてくることはなかった。

 

 その事をこれ幸いと私は話をずらすことに。

 

 

 

「ところで貴女はここが何処だかわかる? 近くに住んでる子かな?」

 

「お姉ちゃんは迷子だったの?」

 

「う……っ迷子!? ……い、いや、迷子……でしょうね。……確かに、この状況じゃそうとしか言えないかもしれないけど……」

 

 

 

 この歳にもなってそれは非常に嫌な響きに聞こえる。だけど母のもとに帰るにも、今の現在地が分からなければ方向が決められないのも事実だ。

 

 ……少女の素直な物言いには内心酷くショックを受けたし、心なしかギシギシと体が錆び付いてるような気もするけど再度気を引き締めて。

 

 

 

「そ、それで? 貴女はここが何処だかわかる?」

 

「うん、分かるよ! ここにはね、私のお家があるの!」

 

 

 

 私が同じ質問を繰り返すと少女は元気よく返事をしてくれた。

 

 

 

「お家? ……かなり流されたつもりでいたけど、里からそう離れていなかったのかな……」

 

「お姉ちゃん、おうち来る?」

 

「……そうだね。行けば大人の人にも会えそうだし、そこで話を聞きましょうかね。案内してくれる?」

 

 

 

 そう答えると少女はやたら嬉しそうに「こっちだよ!」と腕を引っ張った。

 

 

 

 ……

 

 ……

 

 

 

「ここが貴女の家のある場所……?」

 

 

 

 時間にして10分と満たない距離に少女の案内する場所にはついたが、その事に正直私は困惑していた。

 

 

 

「そうだよ。一番奥にあるのが私とお母さんとお父さんが暮らしてるお家」

 

「…………」

 

 

 

 少女はそう言うが、指差されたのは野晒しの土の上、申し訳程度に作られたテントのような……家? だ。

 

 いやあれはテントだろう、間違いなく。

 

 杭で固定した雨風を凌ぐだけの道具だ。建物ですらない。

 

 

 

「こ、ここは……村、なのかな? いや、周りにも同じようなテントが幾つもあるのを見るに村ですらないのかな。……集落……いや、難民キャンプ……?」

 

 

 

 どうしよう、どんどん不安な気持ちになってくるぞ。

 

 これは流石に想定していなかった。

 

 思わず足が止まってしまった私を見て、不思議そうに少女が見上げてきた。

 

 

 

「お姉ちゃんどうしたの?」

 

「あ……いえ……なんでも」

 

「チヨ!」

 

「あ、お母さ──」

 

 

 

 さすがに善意で連れてきてもらっておいて、状況に突っ込めるような豪胆な性格はしていない。

 

 だけど、『なんでも無いよ』と答えるつもりだった声は、途中で被せられた別の声に遮られて最後まで発音出来なかった。

 

 そしてその声に反応したのは私ではなく、すぐ隣で一緒に歩いていた少女の方で。一瞬彼女が「お母さん」と発音しかけていたが、それもまた最後まで言いきれなかった。

 

 その母親がチヨと呼んだ少女に飛び付き、私の手から少女をかっさらうと直ぐ様跳ねるように距離を取ったからだ。

 

 その様、ものの数秒間の出来事である。

 

 これには私も唖然とするしかない。

 

 

 

「お母さん?」

 

「あんた一体誰だい!? うちの娘をどうする気!」

 

 

 

 さっきから状況が目まぐるしい。

 

 こちらを睨む女性はまるで毛を逆立てて威嚇する猫のようで、どうも私はチヨちゃんと呼ばれた少女の母親から警戒されてしまったようだった。

 

 ……まあね、それはこの集落の様子を見るに充分察せれた事態ですよ。

 

 驚くこともないので私はすぐに表情を改めた。

 

 こういう相手に警戒心を解かせるような笑顔を見せること、現代では確か『営業スマイル』と呼んでいたな。

 

 

 

「驚かせてすみません。私の名は『風神シキ』と言います。仕事の関係で霧がくれの里に来たのですが、情けないことにうっかり足を滑らして川に落ちてしまいまして。そのまま流されてこの近くに打ち上げられたんです。そこでそのお嬢さんと出合いまして、丁度良いと道を尋ねるために、彼女にここまで案内してもらったんですよ」

 

 

 

 まあ素直に本当のことをあげることは無いだろうと適当に理由をでっち上げる。

 

 母親はしばらく不審そうに私を上から下まで見ていたが、判断しかねたのだろう。結局自分の娘に真偽を尋ねることにしたようだった。

 

 

 

「……本当なの? チヨ」

 

「うん! あのねあのねお母さん、お姉ちゃんすごいの。火と風が凄いんだよ? 服が濡れてないの。濡れたのに、濡れてないんだよ!」

 

「え……?」

 

「あはは……」

 

 

 

 少女よ、それでは要領を全く得ないぞ? 

 

 しかしまあ、それだけ興奮しているのがひしひしと伝わるのだけれども。

 

 とにかく彼女は先程見た光景をお母さんに報告したくて仕方がないようだった。

 

 

 

「……なんだかよく分からないけれど、とりあえず娘が変な目にあっていないことだけは分かったわ」

 

「それは良かったです」

 

 

 

 とりあえず警戒が解けたのは、こちらとしてもありがたい。

 

 

 

「どうしたんだ。何の騒ぎだ?」

 

 

 

 ちなみにその後、結局三人で騒ぎ過ぎたせいか不審に思って表に出てきた旦那さんが、私を見てさっきの奥さんのように取り乱し、再び同じ問答になったのは面倒なので触れないでおく。

 

 

 

 ……

 

 ……

 

 

 

「や~、さっきはすいませんお嬢さん。え~……と、シキさん……でしたっけ? 家内共々ご迷惑を……」

 

「いえ、怪しませてしまったのはこちらですから気にしないで下さい」

 

 

 

 とりあえず何とか誤解も解けたあと、私は御詫びにとテントに入れてもらい、中で水を出された。

 

 奥さんにはお茶も出せずにご免なさいねと謝られたが、この生活の様子を見ておいて、お茶が出されないからとそれに文句を言うような無神経な人がいたなら私は殴っている。

 

 一息つく私を見ながら彼達は自分達の名が『シゲ』さんと『ヤエ』さんだと教えてくれた。

 

 

 

「……あの、失礼を承知で伺いますけど、お二人の……というか、ここの村……いや、集落……ですか? ……はどうしてこんな辺鄙なところで生活を? お世辞にもまともな生活を送ってるとは言えないようですが……」

 

 

 

 少し気になって、欠けてボロボロになった湯呑みを指で弄りながら問うてみる。

 

 夫婦は最初お互いの顔を見合わせていたが、やがて困ったようにこちらに視線を戻した。

 

 

 

「──シキさんの言われた通りです。私共は見ての通り、ここに家を構えているわけじゃありません。もともとはこことは別の場所で米作りを主体に暮らしておりました。ですがある日、戦禍を逃れた国の忍たちが現れて、突然『お国の為』だとかなんとか言って、村にあった貯蓄や食べ物を根こそぎ持っていってしまったのです。……それだけならまだ良かったのですが、何を思ったのか彼らは私たちの村に火をつけてまわって……」

 

 

 

 チヨちゃんのお父さん……シゲさんが言うには、戦時下後期、彼らの村の近くで霧隠れと敵国との戦闘が行われていたらしい。

 

 しかし戦況はこちらの分が悪く、やむなく忍達は前線を放棄。撤退した。

 

 

 

「が、話はそれだけで終わらなかった……と」

 

「はい。私共もお国の為に戦ってくれている彼らへ食料を分けることは異論ありませんでした。幸いに昨年は豊作で、備蓄も十分にありましたし」

 

「──なるほど」

 

 

 

 それで先はなんとなく読めた。

 

 多分その部隊の指揮官は、彼らの村の豊かさを見て馬鹿な想像に行き着いたのだ。

 

 敵が進軍してきた後、この村を見つけたなら、彼等は必ずここで補給しに来るだろうと。

 

 

 

 敵の補給線を断つ、というのは戦略の定石ではあるが。

 

 それで自国の村を焼き滅ぼそうなどと、愚の骨頂だ。

 

 なればその部隊の忍達が余程の馬鹿だったのか、もしくはこの国の忍が人道を思いやるという心を持たない、最早屑たちばかりの集まりなのか……。

 

 

 

「村を焼かれた私たちは、里に助けを求めようと長い道のりを歩きました。……しかし彼等はたどり着いた私達を受け入れて下さらず。里の周りで立ち往生すると途端に居座られても迷惑だと門前払いを受け、仕方なく道中に見つけたこの場所で私たちは……」

 

 

 

 中々悲惨な状況だな。

 

 

 

「……ちなみに食料の確保は出来ているのですか? 里に援助を求めていたのなら、底を尽きててもおかしくないと思いますが」

 

 

 

 村を追われてからどれくらい経っているのかは分からないが、このままここで足を止めていても良い未来が絶対に来ないことだけは分かる。

 

 はっきり言うなら、『みな漏れ無く、餓死』だ。

 

 私の質問に彼は「……一人だけ」と小さく呟いてき

 

 た。

 

 

 

「私たちの事を見てくれている人がいるのです。その人が月に一度、食糧と水、衣服などを提供してくれて……」

 

「生活品の提供……?」

 

 

 

 席を立ち、一度入り口から外の姿を見回す。

 

 小規模、とはいえそれなりの人口がありそうな村を、たった一人で支援する。

 

 果たして可能だろうか、それは。

 

 

 

「(敵に操られた水影は、まずあり得ないとしてだよ。……なら彼の政治に良くない感情を持ってる人間の援助、ということになるんだけど……)」

 

「お姉ちゃんどうしたの? ……あ! もしかしてこれから遊ぶの!?」

 

「こ、こらチヨ。止めなさいっ」

 

 

 

 外を見つめる私をどう思ったのか、腕を引っ張って外に連れ出そうとするチヨちゃん。

 

 それを慌てて勇めようと母親のヤエさんが立ち上がる。

 

 私はそれを何とは無し見つめて──そして本当に何となく、一つ思いつきを口にしていた。

 

 

 

「──分かりました。なら私も一つ手伝います。いくらその『足長おじさん』らしき人がどんなに好い人だろうと、今の生活がこのまま続けられるかは分からないし、そもそもそれ以上の向上も無い」

 

「え? 足長おじさん……? い、いやお嬢さん、いったい何を」

 

「面白いものを見せます。着いてきてください」

 

 

 

 そう言って私はさっさとテントから外に出る。

 

 そんな私の腕に飛びついてきて、楽しそうに着いて来ようとするのはチヨちゃんだった。

 

 だから一度小さな少女に目を向けて、それから後ろに視線を向けると、それまで状況を飲み込めず呆然とした様子の夫婦が、突然我に返ったように動きだした。

 

 まあ、自分たちの娘が行こうとしてるのに、親の彼彼女たちが行かないわけにもいかないだろう。

 

 こうして私たちは私の思うまま、野営地を後にするのだった。

 

 

 

 ……

 

 ……

 

 

 

 そうしてキャンプから離れてしばらく歩いた私たちは、やがて木々の生い茂った森を見つけてから立ち止まった。

 

 野営地からはそれなりに離れたこの場所なら良いかも知れない。ここなら自然の多さも良い感じに役に立ってくれそうだと思う。

 

 

 

「とりあえず、ここら辺で良いかな」

 

「あの……シキさん? こんな場所で何を……」

 

 

 

 不安そうながらも黙ってついてきた夫婦が、周りを見回しながら問う。

 

 

 

 その言葉に私は肩ごしに彼らを振り返ったが、しかし計画してやるわけでないこの思いつきを二人に口で説明するのは難しいことに気が付いた。

 

 だからとりあえず、彼らに警戒心だけ持たせないようににっこりと微笑んでおく。

 

 

 

「大丈夫。説明が手間なので省きますが、けっして悪いことじゃ無いとだけ断言しておきます」

 

 

 

 そしてチヨちゃんに離れるよう注意してから、私は自分の両手を合わせて景気良く音を鳴らした。

 

 

 

 さてまずは、まばらに生える木々の間を縫うように、土遁を駆使して石造りの簡素な家を建てていくことにしよう。

 

 玄関先や窓口部分には軒を作って雨避けを。庭先の道は平らに均して石の煉瓦で敷き詰めた路を並べる。

 

 近くには小さな池も作って軽く景観を整え、位置的に邪魔な木は伐採して皮を剥ぎ、細かく切って材料に。街道を沿える柵へと造り変えた。

 

 ついでに街灯用の松明も用意して、夜でも安心して歩けるようにしていれば良いだろう。

 

 

 

 家は土遁が基板なので見かけは石造りとなり非常に重たい印象だが、かわりにちょっとやそっとのことじゃ崩れないような頑丈設計だ。

 

 それにこれなら火でなんて燃やせないでしょう? 

 

 やり過ぎ? 命がかかってるんだから当然の補償だと思う。

 

 途中チラリと二人の方を振り返り様子を確認したら、夫婦は目の前の出来事が信じられないと言うように、目を見開き口を開けて呆然とした顔を作っていた。

 

 まあ驚いて当然だ。

 

 私もここまで大掛かりに忍術を使ったことは今までも無かった気が……いや、そうでもないか? 

 

 石ではないけど、家の補修や補強はやったし。穴も掘った。村を広げるために土地の整地もしたし。結構手を加えているな。

 

 

 

 そんな事を考えながら、周囲から粘土質の土だけ寄せ集め、それを変形させて皿ゆ椀を型どり、即席の釜を作って中で高温の炎で焼き上げた。

 

 火入れの方法が分からないので途中間違えて割れないように皿や器はチャクラを込めて何とか対処して。

 

 ついでに食事に必須の箸やスプーンは、木材を作るときに余った木の枝の部分を利用して作製しておいた。これで当面、食器類に困ることは無いだろう。

 

 あとはこれを出来上がった石家に一軒づつ、それぞれ運び入れて完了か。

 

 私は一つ息をついて笑みを浮かべると、終始静かだった夫婦を見る。

 

 

 

「シゲさん、ヤエさん、終わりましたよ」

 

 

 

 気持ち気軽に始めたが、結果結構な大規模工事になったことを彼らはいったいどう反応するか。

 

 見やった先のヤエさんは驚きの余り終始言葉も無いようで呆然としたまま顔のまま固まっていたが、かわりに何とか復活したらしいシゲさんの方が、まるで絞り出したような震えた声で言葉を発した。

 

 

 

「……こ……これはなんですか? 忍術? ……いや、こんな忍術聞いたことが……」

 

「あ~……説明すると面倒なので詳しいことは省きますけど、一応これも忍術……というか、チャクラの性質変化を利用した応用で……」

 

 

 

 これは言い出すと説明にキリがないことなので正直省きたいのが山々だ。

 

 そもそもこの世界で行使される一般的な忍術というのは、術者が扱う精神的エネルギーに大まかな方向性と威力を持たせたものを具現化させた力だとシキは捉えている。

 

 元々可視化されない不完全な力を、並々ならぬ努力と鍛練で初めてエネルギー物質として外に放出させるのだから、それはそれは大規模な威力となって当たり前だ。だが当然、力が大きくなれば成る程比例してエネルギーの消費は激しくなるのが道理。結果術者はエネルギー切れ──この世界で言うならチャクラ切れを起こして倒れるのだろう。

 

 そして術者はこれを防ぐために、きちんとしたチャクラコントロールを学ぶのが基本だ。

 

 仮にこれが上手くできていない場合、術は不発。或いは暴走といった形で現れる。

 

 だがまあ大抵の場合は脳が筋力にリミッターをかけるように、過剰な力には自然と制限をかけるので、そこまでに至ることの方が稀で、単にコントロール不足と周りに称されて仕舞いだ。

 

 

 

「ですが、これは流石にあり得ないような事でしょう……!? 家が地面から生えただけじゃなく道や明かりまで出来て……。その上これは……っ」

 

「これが私の得意分野なんです。私は忍者ではないので戦いはからっきしですが、代わりにこういうことは得意で。──こほん、兎に角ですよ。どうです? テントや野晒しの中で生活をするより、ちゃんとした屋根のある中で過ごした方が健全的だと思いませんか? ここにはチヨちゃんみたいに、小さい子達も多いみたいですし」

 

「あんな大規模な忍術を行使して、チャクラを切らすことも暴走もさせないなんて……」

 

「お父さん、お姉ちゃんすごいね! たくさんのお家、一瞬で作っちゃったよ!」

 

「あ……ああ、本当にすごい。すごいよ……」

 

「…………」

 

 

 

 目の前の光景に今だ現実を取り戻せない様子の二人がポカンと口を開けたまま立ち尽くしている。

 

 これはしばらく戻ってこれないだろうか。なんなら早く家の中に家具を運び込んで欲しいのだが。

 

 とはいえこの状況を作り出したのは自分だ。

 

 仕方なくその後しばらく私は微動だにしない夫婦の傍ら。

 

 ただただボケッと、また同じく暇をもて余してくずりだした娘のチヨちゃんと共に手遊びをしながら彼らの復活を待つことにしたのだった。

 

 




この度、ご感想の意見に対し、読者様には色々ご考察頂いていること大変驚いています。
なにぶん作者本人に原作の知識が殆ど備わってないため、所々史実と解離が生じています。
しかしそこは作者自身原作通りに進めようと思って書いている訳ではなく、あくまで原作とは別物だと考えて頂けると幸いです。
とはいえ原作とかけ離れすぎた物語も中身分かりにくいものとなりそうで、そこは要所要所、調べた限りの知識を取り込んでいたりもします。
原作好きの方には混乱させてしまうと思いますが、ご了承頂けると幸いです。
今後、意見感想で頂いた正しい原作知識などは出来る限り勉強させて頂きますので、よければお付きあい頂ければと思います。

改めて、ご意見ご感想ありがとうございましたm(__)m


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※時系列や初期の設定、考察

話を重ねるうちに訳が分からなくなりつつあるので、

一話目を作るにあたり、参考程度にまとめた時系列の一覧やその他もろもろ載せてみました。

 

が、そもそも原作そのものが元々矛盾だらけという話らしく、正しい歴史や流れが今一分かりにくいこともあり、そこは勝手な想像や予想で穴埋めしています。

 

また[]内の年数は、ナルトの世界の元号が分からず、取り合えずナルトの産まれた年を紀元(0年)とし、そこから逆算して考えた大まかな年です。

もしかしたら大きな間違いがあるかも知れませんが…。

 

 

 

[16年前] 干柿鬼鮫誕生

 

[14年前] 桃地再不斬・畑カカシ・マイトガイ誕生

 

[10年前] 風神シキ誕生(0歳) カカシ(4歳) (再不斬4歳)

 

[9年前] 仮面の男が弥彦に接触。「暁」を立ち上げさせる。

 

 

[6年前] 第3次忍界大戦勃発 シキ(4歳)

   

[5年前] うちはイタチ誕生  シキ(5歳)

 

[1年前] 半蔵・ダンゾウ騙し討ち 弥彦死亡 

      (『暁』発足から8年目)

 

紀元0年 九尾襲来 うずまきナルト誕生(0歳)  シキ(10歳)

     再不斬(14歳) 鬼鮫(16歳)

 

[1年後] 鬼鮫、水影やぐらの命により上司を処断 鮫肌を入手

 

[2年後] イタチ、アカデミー卒業(7歳) シキ(12歳)

 

[5年後] イタチ、中忍昇格(10歳) 

  半年後、暗部入隊  シキ(15歳)

 

[6年後] ナルト、アカデミー入学(6歳)

     鬼鮫・再不斬、霧隠れを里抜け(再不斬22歳) 

     鬼鮫、暁入り(24歳)

     4代目水影やぐら、死亡

     暁、活動が活発化する

 

 

年代について

 

 原作での大戦の正確な発生時期は分かりませんが、この小説の場合では主人公が生まれてから四年後くらいと設定していました。

 執筆前ではもっと早い時期――それこそ、主人公が産まれた年と同時とか――にも考えていましたが、それだと余りに主人公の歳が若すぎる…というか最早幼いと思い直し、少し後退。

 それでも5、6歳のスタートとなり大分駆け足に…。

 初めは原作の主人公と絡ませてみようかと考えていたのもあり、なら余り歳を離しすぎるのも…とかなんとか悩んでいたのですが、今はそれも除外させています。

 そもそも国が違いすぎて絡ませようが無いことに気づく。

 そんなこんなで結構ながばがば設定です。

 年代などは気づき次第、適宜修正していますが、どうしてもおかしな所は出てくると思います。気づかれた方はすいません…。

 

 

世界観、以下考察

 

作中に触れた通り、原作が基本…としたいですが、やはり二次設定に有りがちな改変は色々出てきます。本来存在しないはずの人間が居るわけですから当然といえば当然か…。

なので原作には余り触れたくは無いのが本音ですが、少し匂わせる程度には書いていこうとも思っています。

 

この作品の主人公が暮らしている幼少期の水の国は、他国との戦争後期から終結した後の時代。木の葉の波風ミナトが火影になったか、ならないか、ぐらいの時期だと思います。

 

この時期の水の国は4代目水影の恐怖政治真っ只中で、恐らく霧隠れの里は毎日お通夜のような状態で人々は暮らしているんじゃないかな、と。

そのため誰も彼もが余裕の無い、他人に冷たい人間になってます。

餓死しようが殺されようが戦争に巻き込まれようが、ああ…またか、程度。

 

大名のような偉い人達は、自分達の私腹を肥やすのに一生懸命で民たちを見返りません。

大名同士の権力争いに必死で、里の忍を囲っては暗殺だの護衛だのに力を注ぎます。長い鎖国も多大に影響して他国の情勢にも興味なし。ひたすら金と時間を貪ります。

そんな彼らは忍び達の良い金づるです。

 

 

そんな時代ですから主人公は周りに期待はしていませんね。

どころか、下手に記憶にある知識のせいで、いずれ世界は英雄に救われると分かっているので、何事にも淡白で軽いです。

とりあえず今をしのげれば戦争は終わるし暮らしだって楽になるだろう、と楽観的なので。今を必死に生きて抗おうとしてる人からしてみたら、彼女は違和感だらけの人間でしょうね。

 

幼少期の主人公はそんな時代に生まれ、そして巻き込まれていきます。

 

――こんな感じで背景については色々考察しているのですが、それを文章に全て載せるための語彙力が中々なく、読み手の方には難しい解釈を求めさせているような気がしてなりません…。

 

まだまだ短いですが、これからのお話で少しでもこう言った裏側のことも書けていけたらなと思います。

 

 



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