ユキアンのネタ倉庫 ハイスクールD×D (ユキアン)
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ハイスクールD×D ゼオン編

神に間違って殺されてから早16年、目の前に居るのはオレの婚約者として紹介されたリアス・グレモリーと言う少女だ。

 

「はじめまして、リアス・グレモリー。オレはゼオン、ゼオン・ベルだ」

 

間違えて殺されたオレは『金色のガッシュ』に登場するゼオンの才能とマントとブローチを貰って転生したのだが、転生したこの世界では悪魔や天使、堕天使に神話の神々や生き物が普通に居る世界で、オレは悪魔として産まれた。産まれた時にマントとブローチを着たまま産まれて来たのでそれは気味悪がられ、生きるために必要な最低限の世話以外は干渉されることのない生活を送って来たが、それも学園に入学してから一変する。

 

ゼオンの才能と悪魔の肉体スペック、それと自分で動ける様になってから続けた鍛錬と実家の書庫を漁って身に付けた知識の成果は半年で上級生を含めた学園の全生徒と大半の教師を恐れさせるには十分だった。

 

入学してから1年程経ったある日、魔王ルシファー様から特別にレーティングゲームを行うから、何人か眷属候補を連れてくるように言われたのだが生憎とそんな候補は一人も居らず数ヶ月前に拾って保護している猫又の姉妹が居る程度だ。

 

仕方ないので一人でレーティングゲームに参加し、適当に負けようと思っていたのだが誰一人としてマントを超える攻撃を出来る者は居らず、ザケルだけで完勝してしまった。後で聞いたのだが対戦相手は中堅のランカーだったらしい。それを学生のオレが完勝してしまったことに上層部は荒れたらしい。そして、特例として学園を飛び級で卒業させられ(放逐とも言う)悪魔の駒を渡されて上級悪魔となってしまった。それからは家族とは腫れ物を扱う様な、そんな距離感で暮らしている。

 

それからの2年間は人間界で猫又の姉妹と一緒にラーメンの屋台を引きながら放浪し、姉妹と似た境遇の半妖や人間の子供を保護しながら眷属として領地を与えて独り立ちが出来る様にしながらレーティングゲームに一人で参加して全勝をおさめ、つい先日上位ランカーに昇格して最上級悪魔となった。さすがに上位ランカーにまでなるとマントだけでは防げない攻撃をしてくるのも居るのだが、マントで無理ならラシルドで、それでも無理ならザグルゼムで強化して、それも無理なら最初からラウザルクの強化で回避するので問題無い。

 

この前のフラッグ戦は反則ギリギリの方法でなんとか勝利をもぎ取ったけどな。フラッグは相手チームにしか触れないから地面ごとまとめて引き抜いて別の場所に移したり、担いだまま戦ったら次回からは禁止されてしまった。一人だとフラッグを守り続けるしかないからやり辛いのだが、それも仕方ない事なのだろう。

 

そしてしばらく前に弟が産まれるとすぐに婚約の話が上がって来た。オレを家から追い出したいのがよく分かる。そして今日リアス・グレモリーの誕生パーティーに招待され、初めて顔を合わせる事になった。

 

「はじめまして、リアス・グレモリーです。ゼオン様の噂は色々と聞こえて来ていますわ。先日、最上級悪魔に昇格された事も」

 

「ゼオンで結構だ。堅苦しいのは大人になってからで十分だ。今は子供らしく楽しむ時期だ」

 

そう言ってから懐から用意しておいたプレゼントの入った小箱を手渡す。中には人間界の山奥で知り合った銀細工師の老人に作って貰った髪飾りが入っている。

 

「綺麗」

 

隣に居たグレモリー卿に促されて小箱を開けたリアス嬢は髪飾りに見惚れる。

 

「生憎と誰かに贈り物をする事など無かったから悩んだのだが、気に入ってくれたなら何よりだ」

 

「ええ、とても気に入ったわ。ありがとう」

 

年相応に笑うリアス嬢を見て、オレもそんな風に笑いたかったと思ってしまう。無論、それを外に出す様な真似はせずにリアス嬢に笑いかける。

 

その後、他の招待客にも挨拶の必要のあるリアス嬢達と別れて会場の端の方で招待客を眺める。その多くがオレの方を見てから近くに居る者と何かを話す。聴力を強化して盗み聞きをしてみると、オレに対する陰口ばかりで中には何処から知ったのかオレのマントとブローチの出処を話している。

 

不愉快ではあるがこの程度なら適当に流せば良いだけだ。そう思っていたのだが

 

「お前が噂のゼオンか、大した事なさそうだな。まあ産まれる前から魔道具に包まれている位だからな。所詮はその程度の存在か」

 

まさか正面から喧嘩を売られるとは思ってもみなかった。生まれ変わってから初めての経験だな。相手を見てみると、オレと同年代位で趣味の悪い赤いスーツを着崩している。若干何処かで見た覚えがある様な無い様なそんな男だ。まあその程度の安い挑発には乗らないけどな。

 

「この分ならお前の弟とやらも大した事無いのだろう」

 

前言撤回、こいつは殺す。いや、殺すと面倒だからトラウマを植え付ける。この喧嘩買うぞ。だが、オレから仕掛けるのは駄目だ。どうにか正式にゲームまで持ち込まなくてはならない。若干漏れた殺気を抑えると、殺気に反応したグレモリー卿達がやってくる。その中に魔王ルシファー様が居た。

 

「今日は妹の誕生パーティーなのに何事だい?」

 

「いえ、将来の宣戦布告を受けただけです。魔王ルシファー様」

 

すぐさま臣下の礼を取りながら答える。オレに喧嘩を売って来た男も慌てて臣下の礼を取りながら首を縦に振る。

 

「ははっ、そうかい。中々元気があるみたいだね。なんなら余興で今からやりあってみるかい?ゼオン君にしてもリアスに良い所を見せたいだろう?」

 

ルシファー様の言葉に内心でガッツポーズを取りながらも表には決して出さずに答える。

 

「ルシファー様、私はそれでも構わないのですがそれでは彼に勝ち目がありません。何かハンデを与えたいと思うのですが」

 

「そうだね。君、どんなハンデが良いんだい?余程の事でなければ認めよう。無論、ゼオン君に勝てれば褒美もあげるよ」

 

「ならば、マントの使用を禁じて下さい」

 

「それだけで良いのか?なんならもっとハンデを付けてやっても良いぞ」

 

「オレを、ライザー・フェニックスを舐めるな!!貴様ごときマントが無ければどうとでも出来るわ!!」

 

ほう、フェニックスだったか。なるほど、どこかで見た事があると思えばルヴァル殿に似ていたのか。まあ中身はそうでもないようだがな。ルヴァル殿なら確実にオレの雷を禁止してきたはずだからな。

 

「では十分後に開始しようか」

 

そう言ってルシファー様は離れていき、オレを挑発したライザーも眷属を呼びに離れて行った。

 

「あの、大丈夫なの?確かそのマントって攻撃にも防御にも使ってるんでしょう?」

 

リアス嬢が心配そうな顔でオレの事を見てくる。

 

「ついでに言えば文字通り産まれた時から身に纏っている身体の一部みたいな物だな。だけどな、眷属も連れていないオレが最上級悪魔でいるのは他にも手札を握っていると言う事だ」

 

試合開始直前まで体内で魔力を循環させていつでも術を使える準備をしておく。そして転送される直前にマントを脱いでそのままリアス嬢に預ける。

 

「誰にも預けた事の無い物だ」

 

それを告げてレーティングゲーム会場へと転移する。

 

 

 

 

 

転移先は障害物が幾つかある闘技場の様な場所であり、大きさとしては直径2km程と思われる。

 

『皆様、ようこそおいでくださいました。私はこのたびグレモリー家開催のレーティングゲームの審判(アービター)を仰せつかりましたグレモリー家使用人、グレイフィアと申します。我が主、サーゼクス・ルシファー様の名の下に今回のゲームを見守らせて頂きます。早速ですが、ゲームのルールを説明いたします。今回のゲームの舞台は軍で使われる訓練場に障害物を配置した簡易的な物となっております。そして転移先が本陣となっております。兵士(ポーン)の方々はプロモーションする際には敵本陣周辺までお越し下さい。また、今回はハンデとしましてゼオン・ベル様のマントはお預かりしております。それではゲームスタート』

 

試合開始と同時に今まで抑えていた魔力を全開まで高め、ライザー・フェニックスの魔力を感知してその方向に右腕を差し向ける。

 

「ラージア・テオザケル」

 

オレのイメージを元に魔力が雷に変換され、訓練場の一角を雷が飲み込む。

 

『ラ、ライザー・フェニックス様の兵士8名、戦車2名、僧侶1名、騎士2名、女王1名、リタイア』

 

ほう、今の一撃で生き延びる者が居たか。雷が通り過ぎて障害物が粉々になり、煙が晴れた先にはボロボロの姿のライザー・フェニックスとリアス嬢よりも幼い少女が姿を現す。

 

「どうした、今のはオレの中では中級の上位程度の術だぞ。この程度で根を上げるなよ」

 

煙が晴れると同時に全力で走り、ライザーの後ろに回り込んで囁く。

 

「いつの間に!?」

 

「ザケル」

 

振り向く前にその背中にザケルを叩き込み吹き飛ばす。

 

「ジケルド」

 

「何だこれは!?」

 

続いてジケルドを撃ち込む。この訓練場の土には大量の砂鉄が含まれていたので短時間の拘束には十分だ。

 

「さて、これ以上痛い目を見たくなければ早々にギブアップするんだ。オレも君の様な少女をいたぶる趣味はない」

 

「は、はいいぃ、ギブアップ!!」

 

ギブアップ宣言を受けて少女が訓練場から転送される。

 

「この程度か?これならルヴァル殿の方が全然強いぞ」

 

「黙れええええ!!」

 

ライザーが全力の炎を出して砂鉄を融かしきり、その炎をオレにぶつけてくる。

 

「はぁ、やったぞ!!フェニックスの炎は龍の鱗をも焼き尽くす。魔道具に守られていない奴ならこれで」

 

「ふむ、オレも随分と安く見られたものだな。ラージア・ザケル」

 

地面に向けてラージア・ザケルを叩き込み、周囲の炎を吹き飛ばす。

 

「馬鹿な、無傷どころか服さえも燃えていないだと!?」

 

「残念だったな。この服は特注でな、魔力を込めればフェニックスの炎位なら十分に防げる。最も、マントの方が防御力があるから活躍する機会はほとんど無いがな。さて、そろそろ終わりにしようか。バルギルド・ザケルガ!!」

 

ライザーの頭上からザケル程度の規模の雷が落ち続ける。

 

「ぐあああ、ぎゃああああああああ、あああああああああああああ!!」

 

「この術は威力の割には激痛が走る術でな、肉体が滅びるより先に精神が壊れる物だ。貴様ごときには上級の術は勿体ないからな。オレ自身を非難するのは別に構わん、だが弟のガッシュを侮辱した貴様の罪は重い。十分に苦しめ」

 

少しずつバルギルド・ザケルガの威力を上げていき、精神が壊れるギリギリの所で術を止める。それと同時にライザーが訓練場から転移される。

 

『ライザー・フェニックス様のリタイアを確認。この試合、ゼオン・ベル様の勝利です』

 

オレの勝利のアナウンスと同時に元の会場に転移される。会場に戻ると静寂が訪れていた。

 

「……あの、これ」

 

そんな中、リアス嬢がやってきてマントを返してくれる。

 

「ああ、ありがとう。すまんな、戦いになるとどうもな。今日はこれで帰らせてもらおう」

 

マントを受け取ったオレはそれを羽織り直し、そのまま会場を後にする。会場から離れようとする間も、招待客達は何かを囁き合っているが聞く必要も無い悪口だろう。外に出て転移しようとした所にリアス嬢が駆け寄って来る。

 

「今日は、貴方の事が知れて良かったわ」

 

「そうか。アレだけがオレの全てとは言わんが、あまり知られたくはなかったな」

 

「いいえ、私は知れて良かった。少なくとも貴方は噂されている様な冷徹な人じゃないって分かったから」

 

「そうか。そう言われたのは初めてだ」

 

「今度は私の方から会いに行くから」

 

「ああ、いつでも歓迎しよう。基本は人間界の方に居るがな」

 

「ならその時は人間界を案内してくれるかしら?」

 

「構わんよ。これでも人間界での顔は広い方だからな」

 

「楽しみにしているわ」

 

リアス嬢の見送りを受けてオレは自分の屋敷へと転移する。

 



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ハイスクールD×D 防人衛編

神に間違って殺されてから早17年と少し、オレ、防人衛は『武装錬金』に登場する各登場人物が使用する武装錬金に固定された核金と錬金術の知識を貰い、生まれ変わった。名前の影響からか鍛えれば鍛えるだけ強くなれた。そして身体がある程度出来あがった2年前からキャプテンブラボーとして街を守るボランティアを行っている。その中には人間とは違う、悪魔との戦いも含まれる。

 

そう、オレが転生したこの世界には悪魔や天使や堕天使が存在している。詳しい情報は分からないが、どうやら領地的な物が各地に存在するようで他の勢力の土地に攻め込んだりする様な者は少数派のようだ。

 

そして今までは大丈夫だったのだが、とうとうこの春にオレの弟分である兵藤一誠が堕天使に襲われ、オレはそれから守り、この地を治めているリアス・グレモリーと接触する事になった。グレモリーが言うには他にもオレが通う駒王学園の生徒会長である支取蒼那と生徒会のメンバーが悪魔であると言う事が確定した。何となくではなくが予想していたのだがな。1年の時に少ししつこく生徒会に誘われたからな。

 

そして兵藤を殺そうとした堕天使をグレモリー達と共に討伐してからしばらく経ったある日、オカルト研究室から今までに感じた事の無い悪魔の気配を感じ、キャプテンブラボーとして様子を見に行った所、メイドが居た。ただし、一目見た瞬間戦闘になればヴィクター化も視野に入れなければならない程の強者であることを見抜いてしまった。

 

それでも緊張や動揺は見せずに普通に副部長である姫島に茶を入れてもらい飲む事にした。それにしてもグレモリーの機嫌が悪いな。何かあったのだろうか?

 

そんな感じで過ごしているとグレモリーの婚約者とか言うチャラい悪魔が自分のハーレムを自慢して喧嘩を売って来たのでとりあえず兵藤に押し付けようと思ったらあっさり負けていたのでがっかりした。少しは鍛えておけよ。折角人間とは違う限界になったんだから。オレだっていつかは限界が見えてくる。というより見えて来てるんだから。あとはそれをどれだけ維持出来るか、そう言う所まで来てしまっているんだ。

 

怠けるなよ。お前の夢のためには力が要るだろうが。オレはどれだけお前の面倒を見れるのか分からないんだぞ。いくら大量の核金と錬金術の知識、そして防人衛の身体能力があっても20年戦えれば十分だ。それ以上は、人間相手ならともかく人外相手には不足する。オレは今日、あのメイドを見て確信した。

 

翌日から兵藤やグレモリー達は修行に出かけた。オレもキャプテンブラボーとして誘われたのだが断った。街をそれほど開けたくはなかったし、堕天使を討伐した際に貰った報酬でオレの初めての核金精製を行っている途中だったからだ。

 

屋上で弁当を食いながらこれからどうするかを考える。グレモリーとその婚約者は結婚をかけてレーティングゲームという模擬戦らしき戦いをするらしいのだが、オレに戦う理由が無い。このまま放置が正しいのだろうが、オレも喧嘩を売られているし参加した方が良いのだろうか?だが、兵藤が覚悟を決めるためにはグレモリーが敗北した方が良い。だがそれでグレモリーの人生を捨てさせていいのかと問われれば答えはNOだ。

 

どうするかを悩んでいると支取がやってきた。どうやら支取も昼食を摂りに来たようだ。一人の様だったので屋上に上がって来ただけでは分かり難い位置にあるアウトドアに使う折りたたみ式のイスを取り出して勧めると、溜息をつき、苦笑しながらもイスに腰掛ける。ついでとばかりに弁当箱を置ける小さなテーブルも用意する。怒らないのかと聞けば、自分も利用してるからと笑って返された。

 

支取の方はオレを見て悩み事があるなら相談に乗ると言ってきた。まあ、キャプテンブラボーであることは隠しているので例え話として相談してみた。帰って来た答えは厳しくも温かい言葉だった。

 

 

 

その言葉に従ったオレはレーティングゲームは観戦だけ行い、翌日に最後までゲームを諦めていなかった兵藤の家に向かう。ヘルメスドライブで部屋の中に兵藤とアルジェントしか居ないのを確認してから転移する。

 

「心は折れていないか、兵藤?」

 

「「キャプテンブラボー(さん)!?」」

 

「ふむ、傷は治療済みのようだがダメージは残ったままか。昨日のレーティングゲームは見させてもらったが、感想はどうだ」

 

「負けたよ。散々な結果だったよ。貴方が居てくれたら違ったかもしれない」

 

「確かにな。だが、それで本当に良かったのか?これが本当の戦いなら命を落としていてもおかしくない。辱められてもおかしくない。そういう点で見ればこの敗北には意味があっただろう。いつでもオレが助けに行ける訳では無いのだから」

 

「それは、それはそうだけど」

 

「オレも悩んだ末にお前達を見守る事にした。そしてお前達は敗北の意味を学んだ。だからこそ今、オレはお前達に力を貸そう」

 

「力を貸してくれるのか?」

 

「オレはこの街の平和を守っているんだ。その住人が悲しみに襲われているのなら、その原因を取り除くためにこの拳を振るうのに躊躇いなど無い」

 

そう言って精製が終了したばかりのNO.CIの核金を兵藤に投げ渡す。

 

「そいつを持っていろ。多少は活力が漲るはずだ」

 

「これは、何なんだ?」

 

「我が錬金術の成果の一つ、核金だ。詳細は教えられんし、グレモリーを助け終われば返してもらう事になるが、今だけはお前の力となってくれよう」

 

「ああ、ありがとう」

 

「それから、そこで聞いているんだろう、グレイフィア殿」

 

「気付かれていましたか」

 

扉を開いてグレイフィア殿が現れる。その手には一枚の紙切れがある。

 

「この魔法陣はグレモリー家とフェニックス家の婚約パーティー会場へ転移出来る物です。それからサーゼクス様からのお言葉をお伝えします『妹を助けたいなら、会場に殴り込んできなさい』、だそうです」

 

「ブラボーだ。これで堂々と正面から殴り込みをかけれる」

 

グレイフィア殿から魔法陣を受け取る。

 

「準備は良いな、兵藤」

 

「いつでも」

 

魔法陣をグレイフィア殿に起動してもらい、転移する。転移した先は果てしなく広い廊下の一角だった。このまま真直ぐ行った所に多くの気配を感じられる。歩くのも辛そうな兵藤を担ぎ上げて廊下を突き進む。そして会場の入り口と思われる扉の前で兵藤を降ろし、扉を蹴破る。

 

「ここに居るみなさん、それから部長のお兄さんの魔王様!!自分は駒王学園オカルト研究部の兵藤一誠です。部長を、我が主であるリアス・グレモリー様を取り返しに来ました!!」

 

「ついでに売られた喧嘩を買いに来てやったぞ、ライザー・フェニックス!!利子もまとめて払ってくれてやる!!」

 

オレ達の乱入に会場中がざわめき始める。それを鎮めたのは一人の男性だった。

 

「私が用意した余興ですよ」

 

その男を見てオレは絶対に勝てないと本能で感じ取った。そしてこれが魔王なのかと心が震えた。

 

「ドラゴンの力と、我々の知る錬金術とは違う錬金術の力が見たくて、ついグレイフィアに頼んでしまいました」

 

「サーゼクス、お前は何がしたいんだ?」

 

「父上、私は妹の婚約パーティーを派手に行いたいのですよ。フェニックス対ドラゴンと新たな錬金術士。最高の催しだと思いませんか?」

 

魔王様の言葉に会場中が静まり返った。

 

「ドラゴン使い君、そして錬金術士君、お許しは出たよ。ライザー、もう一度私とリアスの前でその力を見せてくれるかい?」

 

「いいでしょう。サーゼクス様に頼まれたのであっては断れるわけもない。このライザー、身を固める前の最後の炎をお見せしましょう。それにそこの銀コートには恥をかかされたままですのでちょうど良い!!」

 

「決まりだね。ドラゴン使い君、そして錬金術士君、君たちが勝った時の代価は何が良い?」

 

「サーゼクス様!?」

 

「悪魔なのですから、何かをさせるなら代価を払うのは当然でしょう。爵位かい、それとも絶世の美女?」

 

「リアス・グレモリー様を返して頂きたい」

 

兵藤は一切の躊躇も迷いもなくそう答える。

 

「オレはフェニックスの涙を二つ貰えれば良い」

 

オレは特に何も欲しい物が無かったので適当に答えておいた。

 

「いいだろう」

 

こうしてオレ達とライザーの戦いがこの会場で行われる事になった。

 

 

 

 

 

会場の準備が行われている中、オレと兵藤は作戦会議とまではいかないまでも方針だけを決めていた。

 

「兵藤、お前も何か秘策を用意しているようだが基本はオレが前面に立って戦う。お前は後ろで倍化の力を貯めてサポートしろ」

 

「大丈夫なのかキャプテンブラボー?あいつは本気で強いぞ」

 

「任せておけ。オレも十分強い。安心しておけ」

 

方針を決めたオレは身体を解しながら会場を見渡す。その中に気になる人物を見かけた。アニメの魔法少女みたいな格好をして支取に似た顔立ちの少女とその隣で恥ずかしそうにしている支取だ。支取の方もオレが見ているのが分かったのか咳を一つしてから真面目な顔をして頭を下げて来た。負けられない理由が一つ増えたな。

 

「試合を開始して下さい」

 

今回の決闘を取り仕切る男性悪魔の開始の合図と共にライザーの懐まで一気に飛び込む。

 

「なっ、ただの人間が」

 

「直撃・ブラボー拳!!」

 

ライザーの鳩尾に全力の正拳突きを叩き込み、壁まで吹き飛ばす。すぐに跳び上がり天井を蹴って、壁に埋まったままのライザーに向かって一直線に向かう。

 

「流星・ブラボー脚!!」

 

ブラボー脚によって腹を貫かれ、炎となって再生を始めるライザーに追撃をかける。

 

「粉砕・ブラボラッシュ!!」

 

馬乗りになった状態で再生が終了した部分にひたすら連打を浴びせる。ライザーも再生しながらオレを燃やそうとしているのだが、シルバースキンを抜く程の火力を出せないでいる。このままなら押し切れると思ったのだが、翼で弾き飛ばされてしまう。空中で体勢を立て直して着地する頃にはライザーの再生が終わっていた。

 

「貴様、一体何者だ!?ただの人間ではないな」

 

「ふむ、そう言えば自己紹介がまだだったな。オレは錬金戦団の遺産を受け継ぐ者、錬金戦士キャプテンブラボー」

 

「巫山戯るな!!」

 

「オレは真面目だ!!」

 

ライザーが飛ばしてくる炎弾を再びラッシュで撃ち落とす。段々と火力が上がっているのか少しずつシルバースキンが剥がれて再生を繰り返して行く。

 

「そんなチンケな炎でシルバースキンを抜けると思うな!!」

 

「ならば喰らうが良い。これがフェニックスの全力の炎だ!!」

 

今までの炎と違い、込められた魔力が尋常ではない炎弾が飛んでくる。両腕を交差させて防御し、シルバースキンが抜かれると判断して別の核金を取り出して発動させる。

 

「武装錬金!!」

 

着弾するとシルバースキンの上半身を覆う部分が吹き飛び、オレの身体を炎が包み込む。シルバースキンはすぐに再生したのだが炎はオレを包み込んだままだ。

 

「どうだ、これがオレの炎だ!!」

 

「よくもブラボーを!!」

 

ライザーと兵藤がオレが死んだ様に扱うが、勝手に殺さないでもらいたいものだ。

 

「何を勘違いしている。貴様の炎など既に消えているぞ、ライザー」

 

「何っ!?」

 

炎と化したオレを見て会場に居る全員が驚いている。

 

「焼夷弾(ナパーム)の武装錬金、ブレイズ・オブ・グローリー。その特性は所有者の火炎同化。今のオレは炎そのものだ。そして同質の物同士をぶつけた場合、力の弱い方は飲み込まれる。貴様の炎は全て取り込ませてもらったぞ」

 

その言葉に自信が折れたのか、ライザーが一歩下がる。

 

「兵藤!!」

 

「ブラボー、こいつを使ってくれ。ブーステッドギア・ギフト」

 

兵藤から十字架を投げ渡され、それをブーステッドギア・ギフトによって強化する。オレはそれを握り込んで炎化したままライザーに突っ込む。

 

「喰らえ聖拳、ブラボーナックル!!」

 

「がっはあああ!!」

 

十字架を握り込んだ拳による一撃によってライザーが血反吐を吐く。そのまま休ませる程オレは敵に優しくないので連続で十字架を握った拳を叩き付ける。段々と再生の速度が下がって来た所で止めを刺す事にする。

 

「この一撃を持って、勝負にケリを付けるぞ!!」

 

「ま、待て!!この婚約は悪魔の未来にとって必要で重要な事なんだぞ!!貴様の様なよく分からない人間ごときがどうこう言う事じゃないんだぞ」

 

「全くもってその通りだ。だがな、この決闘そのものとオレ達が勝った時の代価は魔王サーゼクスの名の下に許可が降りている。つまり、ライザー・フェニックス、貴様が勝って当然であると思われているのだよ。すなわち貴様が負ければ、魔王サーゼクスの顔に泥を塗ると言う事だ。そしてオレは人間だ。悪魔の事情など知った事ではない!!オレはキャプテンブラボー、駒王の街とそこに住む者を守る者だ!!駒王に住む兵藤に助けを請われ、駒王に住むグレモリーが泣いていて、そのグレモリーのために人間であるオレに頭を下げる者がいる!!それだけの理由があればこの拳を振るう事に躊躇いは無い!!」

 

「ブラボー、これが今のオレの全力の倍化だ!!」

 

兵藤の倍化によって人間であるオレですら感じ取れる聖なる力を宿した十字架を真上に放り投げ、それを飛び越える様に跳躍する。そして新たな核金を取り出して発動する。

 

「武装錬金!!全身甲冑(フルプレートアーマー)の武装錬金、破壊男爵(バスターバロン)!!」

 

さすがに全身を構成する程の場所が無いので右腕だけを構築し、放り投げた十字架を握り込んでライザーを叩き潰す。武装解除した後には、拳の形に大きく陥没した床と、血まみれで気絶しているライザーが残されている。

 

「オレ達の勝ちで問題無いな」

 

「そうだね。約束通り妹は連れて行くと良い。それからこれがフェニックスの涙だ」

 

魔王サーゼクスから小ビンを二つ渡され、一つを懐に入れてもう一つを兵藤に投げつける。

 

「そいつはサービスだ。核金は返してもらうぞ」

 

「ああ、ありがとうキャプテンブラボー」

 

フェニックスの涙を使った兵藤が核金を投げ返してきたのをキャッチする。

 

「また、助けが欲しければ言え。手が空いていれば助けてやる。また会おう」

 

ヘルメスドライブを使ってオレは会場から去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

グレモリーの婚約パーティーから数日後の昼休み、弁当を食べ終わり授業が始まるまで昼寝でもしようかと新しく持ち込んだハンモックを準備している所に支取がやってきた。

 

「おう、支取か。今日はどうしたんだ?」

 

「相変わらず貴方は自由ですね防人君」

 

「それがオレだからな。イスはいるか?」

 

「いえ、今日はお礼を言いに来ただけです」

 

「礼を言われる様な事をした覚えは無いんだが」

 

「そうですか。ならこれは独り言です。ありがとうございます、リアスを救ってくれて」

 

そう言ってパーティー会場の時と同じ様に頭を下げる支取を見て、正体がばれている事に気付く。

 

「はぁ~、まさかこの短期間で正体がばれると思わなかったよ。なんで気付いた?」

 

シルバースキンを纏いながら支取に答える。

 

「貴方もキャプテンブラボーも根っこの部分は全く同じ様に感じましたから。それにちょっとだけですが、顔も見えましたし」

 

「よくあの一瞬で分かったな。他に誰か気付いているのはいるか?」

 

「いえ、たぶん私だけだと思いますよ」

 

「なら黙っていてくれ。悪魔の契約で構わんから」

 

「何故そこまで頑に正体を隠そうとするのですか?」

 

「まあ、色々と理由はあるが一番の理由はその方がカッコイイからだ」

 

「……冗談ですよね」

 

「大真面目だ」

 

その答えに支鳥が頭を抱えるが個人の感性なので許して欲しい。

 

「まあ他にも理由があると言っただろう。オレは人間でこうやって高校生でもある。正体がばれれば面倒しかない。それにさ」

 

そこで一度区切る。こんな事を支取に言っていいのか少しだけ悩んだからだ。まあ結局は話すんだがな。

 

「いつまでこうやって元気でいられるか分からない。人間の寿命なんて良くて100年。その内、全盛期と呼ばれる期間は多く見積もっても20年。それを超えれば後は弱くなって行く一方だ。それでも小手先の技術などを使えば更に10年から20年は戦えるかもしれない。無理をすれば生涯現役だって出来なくはないだろう」

 

「そうですね。スタイルが変わればいくらでも行けるでしょう」

 

「ああ、だがな、それだけの人生になる。人助けや戦闘だけの日々、食って行くだけの金があったとしても寂しい人生だな。だから、オレはいつでも逃げ出せる様にキャプテンブラボーを名乗ってる。周りの期待や重圧に耐えきれなくなった時に逃げ出して、ただの防人衛として生きていくために。人間は弱い、特にオレなんかはな」

 

「……」

 

「昔、死にかけたことがある。だから余計に色々な物が怖くなった。だけど、同時に色々な物を愛おしく感じる様にもなった。だから、耐えきれなくなるまでは守ろうと思う様になった。特に兵藤だな。あいつはあんなスケベな奴だが、根は真直ぐで理不尽に真っ向から立ち向かえる、まるでヒーローみたいな奴だ。あいつは今に大きな男になるさ。昔っからそう思ってたし、悪魔に成ってからは余計にそう感じる。だから、つい手を貸したくなる」

 

「それは、その」

 

「逃げだよな。どう考えても。オレは勝手にあいつの事を期待してるんだ。自分はいつでも逃げれる様にしているのに他人には恩を押し付けて逃げれない様にして。最低だろう。だから、礼はいらない。いや、礼なんて貰う資格なんて無いんだよ」

 

ハンモックに寝転がり、顔を隠す様に帽子を顔に乗せる。

 

「……確かに防人君は弱いのかもしれません。ですが、それは私達一人一人にも言える事だと思います。そして悪魔も、私もそうです」

 

「支取?」

 

「今日はお礼を言いに来ただけと言いましたけど、本当はキャプテンブラボーの正体を盾に貴方を勧誘しようかと思ってもいました。私には夢があります。悪魔社会では笑われる様な物です。ですが、絶対に必要になってくる物だと思っています」

 

「それは、何だ?」

 

「学校を作りたいと思っているのです。それも中級や下級を対象にした。今までに無かった物ですから、笑い者にされたりすると思います。ですが、私は身分に関係なく、誰もが通える学校を作りたいのです」

 

「そうか、学校か」

 

「はい。ですが、その為には力が必要になってきます。冥界では家の身分以外にもレーティングゲームのランキングが発言力に関わってきます。だから、少しでも力を借りれればと思って」

 

「そうだな、興味自体はある。だから正体を内緒にする変わりにそれに手を貸すのは構わない。だが、今はその誘いに乗る気にはなれんな。すまないが返答は待ってくれ。こっちも色々と考えなくちゃならない」

 

「構いません。いきなり手を貸してくれるとは思ってもいませんでしたし、それに貴方の事もちゃんと考えなければなりませんから」

 

「助かる。出来れば悪魔に関しても、正確に言えばそっちのことに関しても詳しい話を教えてくれ。基本的に昼休みは此所に居るからな」

 

「ええ、分かりました。それではまた」

 

屋上から去って行く支取を見送りながらシルバースキンを解除する。本当にこのまま悪魔になっていいのか悩む。

 

オレには貫き通す信念が無い。それさえ見つかれば少しは強くなれるんだがな。オレは弱いな。兵藤や支取が羨ましい。

 



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ハイスクールD×D ゼオン編 もし連載する場合の第1話

 

 

「なんでこうなったかな」

 

縦1cm横1cm高さ1cmのサイコロ状の材木をマントを使って積み上げて人形サイズの城を築き上げながら、隣で山の様に大きな岩に延々と体当たりを続けて少しずつ押して行く。始めたばかりの頃はどちらか片方、しかもここまで細かいことや大きな岩を動かす事は出来なかったが3年も続ければ慣れた。

 

午前中の日課の訓練を終え、昼食として用意したサンドイッチにかぶりつく。微妙に前世で食べた物と違うが、多少の違和感があるだけでおいしい。

 

前世で神に暇つぶしで殺されて早6年、オレは『金色のガッシュ』に登場するゼオンの才能とマントとブローチを貰って転生したのだが、転生したこの世界では悪魔や天使、堕天使に神話の神々や生き物が普通に居る世界で、オレは悪魔として産まれた。産まれた時にマントとブローチを着たまま産まれて来たのでそれは気味悪がられ、生きるために必要な最低限の世話以外は干渉されることのない生活を送っている。

 

朝に目を覚まし服を着替えて自室に運び込まれる朝食を食べ、同じく用意されている昼食を持って裏庭の奥深くにまで転移し、マントの制御と肉体強化の訓練を行い、午後からは礼儀作法などの勉強を行い、朝食と同じく自室に運ばれた夕食を食べ、両手の間で雷を圧縮してプラズマになるまで魔力を放出して、魔力が空になれば風呂に入って眠りに着く。

 

誰かと話すのは礼儀作法などの勉強を行っている時だけで、そんな生活を3歳から続けている。若干と言うか、かなり寂しい。オレに礼儀作法を教える家庭教師は詳細を伝えられていないのか普通に接してはくれるが、屋敷の者のオレに対する対応を見て若干離れた位置からの接し方だ。オレも彼らに迷惑はかけたくないので自分から歩み寄ろうとはしない。

 

 

 

そんなある日、オレは父親に呼ばれて書斎に出向いた。

 

「人間界ですか?」

 

「そうだ。将来の為にも人間界のことをよく知っておく必要があるだろうから、しばらくの間行ってこい。金は用意してある」

 

机の引き出しから3本の札束を取り出して投げ渡してきたのでマントで回収する。それを見て父上が眉を顰めるが気にしないでおく。

 

「何かあればロンをやる。それまでは人間界に行っていろ」

 

「……分かった。明日の朝一に向かおう」

 

厄介払いか。それもよかろう。ちょうど肉体変化の魔法は覚えたからな。前世と同じく屋台を引いて暮らさせてもらおう。

 

 

 

翌朝、オレは父親に貰った転移の魔法陣で人間界にあるベル領の屋敷(管理をしていないのかボロボロで廃墟同然)に転移し、肉体変化で自分が成長した姿をとり、ホームセンターに駆け込む。屋台に使う材木やタイヤに工具、ラーメンを作る為の鍋などを買い込み、そのまま駐車場の片隅に結界を張ってその場で屋台を組み立てる。前世でも自作して定期的にメンテも行っていた上に、今ではマントもあるので楽に組み立てる事が出来た。

 

「道具はこれで良しっと。あとは材料を買ってきて、試作を作らないとな。とりあえずは6年前の味を取り戻さないと」

 

屋台を一度収納の魔法陣の中に放り込み、スーパーではなく市場を捜しに空を飛ぶ。幸いにも近くに港があった為に魚介類の購入は楽にすんだ。あとは鶏ガラや豚骨、トッピング用のチャーシューなどを用意しなくては。

 

 

 

それから一週間程、人間界の屋敷を拠点にしながら不眠不休でひたすらラーメンを作り続けた。

 

「うむ、これなら行けるな」

 

さすがに6年も前の味を完全に再現する事は不可能だったが、納得のできる味には仕上がった。これから旅をしながら味を改良していけばいいだろう。

 

「さて、ラーメン屋台『雷帝』開店と行くか」

 

屋台を引きながらオレは日本全国を旅する事にした。無論、天界や堕天使の領地、日本神話の領域には入らない様に注意してだ。まったく面倒な種族に産まれてしまったな。

 




ちなみに眷属の方は確定してます。黒歌と白音以外は殆ど登場する機会はありませんが一応紹介しておきます。

僧侶     黒歌
戦車     白音
僧侶(変異) 桃地美雪
騎士     桜咲刹那
騎士     レイフォン・アルセイフ
兵士     犬神小太郎
兵士2個   ハムリオ・ムジカ
兵士2個   グレイ・フルバスター

となっております。共通点としては全員がたぶん両親が居ないと言う所ですね。


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ハイスクールD×D 防人衛編 2

 

「無事か、匙」

 

「防人先輩?なんで此所に居るんですか。先輩は会長の護衛のはずでしょう!!」

 

「その会長からのオーダーだ。お前は下がって会長の護衛に回れ。と言う訳だイッセー。ここからはオレが相手になろう」

 

右手に突撃槍を持って禁手化しているイッセーと対峙する。匙は苛立ちながらも渋々退がっていった。

 

「お前と戦りあうのはいつぶりだろうな」

 

「たぶん、中学の時の騎馬戦以来かな?あの時は酷い目に遭った」

 

「ああ、あの時か。となると3年ぶりか。あの時からどれだけ強くなったのか確認させてもらう。行くぞイッセー!!」

 

悪魔に転生してからの初めての全力戦闘だ。まずは突撃槍の基本攻撃である突撃(チャージ)を行う。全力で踏み込み、イッセーのど真ん中を突く。しかし、その突撃も鎧を貫くことは出来ずにイッセーを壁に叩き付けるだけに終わってしまった。

 

「ごほっ、見えなかった?どんだけ早いんだよ。本当に転生したばっかなのかよ?」

 

立ち上がるイッセーに更に連続で突きを放つ。間接部分を狙って突くが、やはり全て鎧に弾かれる。ならば少し攻撃方を変える。体を独楽のように一回転させて突撃槍で横腹を叩く。今度はかなりの衝撃が伝わったのかたたらを踏んでいる。その足に突撃槍を引っ掛けて地面に転がし、うつぶせになるように踏みつけてその首に突撃槍を叩き付けようとする。

 

「くそっ!!」

 

もう少しで槍の先端が首に触れようとした瞬間、地面が爆ぜる。おそらくはイッセーが地面に向かって魔力弾を放ったのだろう。一度仕切り直してやろう。爆発の流れに逆らわずにイッセーから距離を取り、突撃に適した場所まで移動する。そして、今度は手加減無しでやるために飾り布を突撃槍の穂先に巻き付ける。

 

「とりあえずその鎧の性能は分かった。その程度なら貫いて砕いてみせる。そしてそのままグレモリーにまで突撃槍を突きつけよう。その程度の力で自惚れるなら今此所で完全に壊してやる!!」

 

発破をかけるだけの挑発だが、単純なイッセーは怒りを露にして魔力が爆発的に高まっていくのを肌に感じる。これが赤龍帝の力か。強大な力だ。だが、負けてやることは出来ない。老害共に笑われようとも、自分の意志をはっきりと示して覚悟を見せた支取。その姿にオレは見惚れた。支取の為ならオレは逃げることはない。

 

これが終われば、オレはイッセーやグレモリー達よりも支取を支える。イッセーはいつかオレを越えたいと言っていた。だけど、そのオレは変わる。だからこれはけじめだ。この一撃が最後のチャンスだ。

 

「来い、イッセー!!」

 

「行くぞ、先輩!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost』

 

赤龍帝の鎧から倍加のチャージ音が聞こえる中、オレは突撃槍に、サンライトハートにエネルギーを叩き込む。今までと違い、エネルギーを送り込まれたサンライトハートはその名の通り、山吹色のエネルギーを放ち始める。そのエネルギーを飾り布に溜め込み、溜まり切った所で突撃を行う。

 

「エネルギー全開!!サンライト・スラッシャー!!」

 

「ドラゴンショット!!」

 

倍加の力で高められた魔力砲に対してオレが取った行動は、突撃だった。真正面から魔力砲にサンライトハートを突き入れ、割っていく。飾り布が少しずつ千切れていくが、気にすること無くまっすぐに突き進む。魔力砲を突き抜ける頃には飾り布は全て千切れてしまい、サンライトハート自体にも大きな罅が入ってしまった。だが、魔力砲を突き抜けた先には驚いて硬直しているイッセーが居る。

 

そのままイッセーにサンライトハートを突き刺す。だが、赤龍帝の鎧には罅が入っただけでダメージは入っていない。イッセーも硬直から回復して、サンライトハートに拳を叩き付ける。そしてサンライトハートは砕け散り、その中に隠された短槍を赤龍帝の鎧の罅に突き刺す。

 

鎧を突き破り、肉に刺さった手応えを感じながら短槍から手を離して顔を守る。次の瞬間、イッセーに殴り飛ばされる。壁に叩き付けられながら思う。イッセーは強くなった。ガキの頃からの付き合いで、初めてその拳がオレにまで届いたのだから。もう、オレが守ってやる必要は無くなった。少し寂しいと思うが、それでもオレが守って支えたい相手が出来たからな。いつかこんな日が来るとは分かっていたことだ。だから、ここからは対等な男同士の戦いだ。

 

瓦礫を押しのけた先には、胸の辺りを押さえながらもしっかりと立っているイッセーが居た。

 

「強くなったな、イッセー」

 

「ああ、初めて先輩を殴り飛ばせた。一発届いたんだ。なら、次は二発、三発、そして最後には倒してみせる!!部長の為にも!!」

 

「それはオレも同じだ。オレも、会長を、支取を支えたいと思った。だから、これからはお前を以前までのように気にかけてやれん」

 

「構わないさ。いつまでも先輩に頼ってばかりじゃいられないから」

 

「そうか。なら、ここから本気でやらせてもらうぞイッセー!!」

 

「神器が壊れたのに?」

 

「何を勘違いしている、お前が半壊させたサンライトハートは神器などではない。武装解除」

 

オレの手元に壊れていたサンライトハートが核金へと姿を戻す。

 

「それは、核金!?それじゃあ、先輩は」

 

「そう、お前の予想通りだ」

 

サンライトハートの核金とは別の、シリアルナンバーCの核金を取り出す。

 

「武装錬金!!」

 

銀色の六角形のプレートが大量に現れてオレの体を覆っていく。

 

「防護服の武装錬金、シルバースキン!!」

 

正体を隠す為に深く被っている帽子を少しだけあげて名乗りを上げる。

 

「オレは錬金戦団の遺産を受け継ぐ者、錬金戦士キャプテンブラボー!!」

 

「先輩が……ブラボー!?」

 

「イッセー!!」

 

「!?」

 

「戦うと決めたのなら戦え。迷うな。どんな夢想であろうとも貫けたのならそれが真実だ」

 

一番戦いやすい戦闘スタイルである格闘戦の構えを取る。イッセーも動揺から立ち直る。

 

「行くぞ!!20あるブラボー技(アーツ)が一つ、迅雷・ブラボータックル」

 

シルバースキンに防御を任せ、全ての力を敵に突っ込むことだけに費やす。サンライトハートでの突撃の時よりも鋭い突撃にイッセーはガードすることしか出来なかった。そのまま腕を取り、一本背負いで地面に叩き付ける。更に追撃で罅が入っている胴体を思い切り踏みつける。

 

「ごはぁ!!」

 

兜の隙間から血が流れる。内蔵にダメージが入ったようだな。だが、まだ退場した訳ではない。素早くマウントを取り

 

「粉砕・ブラボラッシュ!!」

 

赤龍帝の鎧は確かに固い。だが鎧だ。中身のイッセーが強くなっている訳ではない。オレの拳の衝撃を逃がすことの出来ない地面に叩き付けられ、それでも反撃で殴り掛かってくるがシルバースキンの防御性能に完全に防がれる。

 

赤龍帝の鎧とシルバースキンでは防御性能が違う。赤龍帝の鎧はただ堅いだけだ。だが、オレのシルバースキンは堅い上で脆い。一定以上の衝撃を受けた際に自らこられることで衝撃を逃がし、超速再生で次の攻撃も防ぐ。シルバースキンの正確な性能を知らないイッセーではオレを傷つけることは出来ない。イッセーの抵抗が弱まった所でオレはトドメの一撃を放つ。

 

「一撃必殺・ブラボー正拳!!」

 

「そいつを待っていた!!」

 

ブラボー正拳にカウンターを決めようとイッセーの拳が迫る。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost』

 

まずい、このままでは相打ちになる。いや、今ならまだ間に合う!!

 

「シルバースキン・リバース!!」

 

オレを覆っているシルバースキンが崩れ、裏返しとなってイッセーに纏わりつく。シルバースキン・リバースの能力により、カウンターの威力が明らかに下がった。オレはブラボー正拳を無理矢理止めてイッセーの拳を受け止める。

 

「くっ、なんだこれ!?動きが」

 

「今のは危なかった。リバースが間に合ってよかった」

 

「これは一体なんなんだ!?」

 

「シルバースキンは外からの攻撃を寄せ付けない防護服だが、裏返せば内からの力を封じ込める拘束服となる。お前はこのまま試合が終わるまで拘束させてもらう」

 

「くそ、卑怯だぞ先輩!!」

 

「ルール違反は一切行っていないんだ。批判される謂れは無い。最後のカウンターに免じてトドメはささないでおいてやる。シルバースキンを押さえられたと思って諦めろ」

 

「畜生」

 

「ではな、イッセー。武装錬金、チャクラムの武装錬金、モーターギア。スカイウォーカーモード」

 

モーターギアを両足に装備して空を翔る。そしてイッセーから見えなくなった所で手の痛みに顔を歪める。確実に手のひらの骨が折れている。リバースに拘束されながらもこの威力か。休んでいたいが、まだ木場が残っている。あいつの聖魔剣を抑えなくては危険すぎる。

 

しばらく移動した所でようやく木場を見つけた。かなりの距離が開いているというのに聖魔剣のオーラに気持ち悪くなる。

 

「ちっ、武装錬金、AT・シルバースキン」

 

海賊風のシルバースキンを身に纏うことで嫌悪感を無くす。さて、もう一仕事と行くか。

 

「流星・ブラボー脚!!」

 

オレの接近に気づいた木場は聖魔剣を盾にする。オレはモーターギアで着地点をずらし、木場の目の前に降り立つ。

 

「両断・ブラボーチョップ!!」

 

そしてブラボーチョップで聖魔剣を叩き折る。

 

「なっ!?あなたは」

 

「リバース!!」

 

驚いている木場をリバースで確保して地面に転がす。右手を見ると小指と薬指が折れている。これ以上無理をすれば右手が完全に壊れると判断して、物陰に隠れて気配を消す。

 

「核金の治癒能力を持ってしても丸一日は動かさない方が良いだろうな」

 

シャツを千切って包帯代わりに巻き付けて固定する。周囲を気にしなくていいのならもっと楽なんだがな。それとレーティングゲームのルールが無ければ激戦での治療が出来たんだが、今回は此所までだな。幸いなことにグレモリー達の中で危険度の高い3人は既に戦闘不能だから気が楽だ。

 

そんなことを考えていたのだが、アナウンスでこちらもかなりの戦力が削られたことが告げられた。というか、オレと支取しか残っていない。支取にはシークレットトレイルを貸してあるから無事だとは思うが、またオレが無理をするしか無いか。

 

「この試合が終わったら全員を鍛えるか」

 

物陰に隠れたままオレは新たな核金を取り出す。あまりのエネルギーの消耗度が高すぎて完全には扱えない武装錬金の核金を。

 

「武装錬金、月牙の武装錬金、サテライト30!!」

 

本来なら30人の本体でもあり分身でもある存在を生み出す武装錬金なのだが、オレは5人を出すのが精一杯である。一応、本来の本体であるオレを残して残りの4人を支取の元に向かわせる。しばらくするとグレモリーの退場のアナウンスが流れ、オレ達シトリー勢の勝利が確定した。

 

まあ、色々と反省点はあるだろう。オレ自身もそうだ。だけど、とりあえずは目の前の勝利を祝おう。支取の夢に一歩近づいたことを。

 



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ハイスクールプリニーッス

 

朝食良し、着替え良し、時刻良し。それじゃあ今日もお嬢を起こさねば。

 

「お嬢、朝ッス!!起きるッス!!」

 

お嬢の部屋の扉を叩いて大声をあげる。しばらくするとお嬢が身体にシーツだけを巻き付けて現れる。

 

「おはよう、プリニー。今日も相変わらずかわいらしいわね」

 

「おはようッス。何回も説明してるッスけど生前はイケメンだったんッスよ。かわいらしいは止めて欲しいッス。朝食と着替えは準備出来てるッス。オイラはいつも通りマンションの整備をするッス。なにかあったらすぐに呼ぶッスよ」

 

「分かってるわよ。ああ、小猫がまた貴方のお菓子が食べたいそうだから放課後に持ってきてちょうだい」

 

「了解ッス。大量に作っていくッス」

 

「よろしくね」

 

シャワーを浴びに行くお嬢を見送ってから認識阻害のバッジを装備してマンションの整備を始める。いやぁ〜、それにしてもプリニーとしては破格過ぎる扱いを受けれて良かった。一日辺り16時間労働で給料は月8万で月に二日の有給、三食おやつ付き(ただし自作。材料費は請求可)で自室(6畳)まで貰えるなんて、お嬢に拾われて本当に幸運だ。ただし、赤い月が無いから転生出来ない。まあこのままプリニーの勝ち組として生きていけば良いかな。

 

 

 

盗賊魔王として名を馳せていたオレはもちをうっかり喉に詰まらせて死んでしまい、プリニーとして転生しヴァルバトーゼ閣下の元で出荷待ちをしていた所、突如空間に開いた穴に飲み込まれ、目の前で魔犬に襲われていた幼いお嬢、リアス・グレモリーの保護者が現れるまでかばったことにより、お嬢の使い魔として上記の扱いを受ける事になった。

 

幼かったお嬢も今はボン、キュ、ボンのナイスバディに。たまに抱き枕にされますけど、何か?役得です、ありがとうございます。まあ、幼い頃から世話してるんで邪な考えが沸かないんですけどね。

 

学園に向かうお嬢を見送り、放課後に持っていくお菓子を作り終えれば自己鍛錬の為にアイテム界に突撃する。生前からお世話になる事が多過ぎた為に魂にまで刻み込まれてしまったアイテム界への挑戦のおかげでお嬢を悪い虫から守れた。

 

あの焼き鳥を倒す為にお嬢には3年も我慢させる羽目になったけど、ボコってさらし者にしてからはオレを見るだけでビビって使い物にならなかったのでそのまま裏でいじめてやったら、使用人としての師匠であるグレイフィア様にぼこられた。仕事を忘れるなって。その後に焼き鳥をぼこった事を褒められた。グレイフィア様はサーゼクス・ルシファー様と敵対する相手だったのに大恋愛の末に結婚してるから恋愛結婚推奨派だからね。

 

その後もお嬢に婚約者の話が出るたびに闇討ちして破談させてきた。お嬢が認めた相手じゃなければ全部消してやる。気分は父親だ。お嬢が欲しければオレを倒していけ!!まあお嬢が本気ならそれで良いんだけどね。代わりにお相手はアイテム界に引きずり込んで鍛え上げるけど。プリニーなオレは成長率が悪過ぎて泣きそうなんだよ。たぶん今のレベルは600位だと思うけど、生前のオレのレベル600と戦ったらデコピン一発で殺される。泣きたい。

 

 

 

アイテム界から戻ってきて部屋の掃除や選択を済ませてから放課後に認識阻害のバッジを着けたまま風呂敷を担いで街を歩く。そしてちょっと寄り道だ。学園の近くを捜索すると首にオレが巻いたバンダナ着けた黒猫が居た。

 

「今日も差し入れを持ってきたッス」

 

認識阻害のバッジを着けたままなのに黒猫はオレの方にやってきて催促をする。ここ一年程のマイブームがこの黒猫の世話なのだ。会える時は大体学園の近くに居るので放課後にお嬢の所に行く際に立ち寄るのだ。

 

「今日はマドレーヌッス。一杯あるッスから好きなだけ食べるッスよ」

 

返事をしてマドレーヌを食べ始める黒猫を一度撫でてから戦闘用のナイフを取り出して枝毛をカットしたり、ノミを取ったりする。それが終わればとなりに座ってのんびりする。

 

そろそろ行かないと小猫が五月蝿いと思うので立ち上がりマドレーヌを幾つか残して風呂敷を担ぎ上げる。

 

「それじゃあオイラは行くッス。また差し入れを持って来るッスから元気にしてるんッスよ」

 

 

 

 

「プリニー宅配便ッス。開けて欲しいッス」

 

部室の前で大声を出すと中から扉が開けられる。

 

「遅いです。待ちくたびれました」

 

「申し訳ないッス。また猫に追われたッス」

 

風呂敷を部室の扉を開けた少女でオレにお菓子をリクエストした張本人、塔城小猫に手渡す。小猫はそれを受け取るとそのままソファーまで持っていき、風呂敷を解いてマドレーヌを食べ始める。

 

「いつも通り、一個だけ凄いのが入ってるッス」

 

マンションの点検を終わらせてからマドレーヌを焼き、昼食を終えてからマドレーヌのアイテム界に入り浸っていたため一つだけ凄い事になっている。

 

「あらあら、それは楽しみですね」

 

奥でお茶を入れていた副部長の姫島朱乃がやってくる。

 

「いつも思うんだけど、どうやったら一個だけ凄い味になるんだい?」

 

ついでに騎士(笑)の木場祐斗もやってくる。騎士の上に神器で幾らでも魔剣を作れるくせに全然強くならないから騎士(笑)と呼んでいる。そんなんでエクスカリバーを破壊しようだなんて笑える。

 

「企業秘密ッス。オイラの作ったこのナイフを壊せる魔剣を作れたら教えてやっても良いッス」

 

アイテム界で鍛えに鍛え上げた愛用ナイフを取り出して言ってやる。ATK2500越えはさすがだ。祐斗は精々200が限界だからな。

 

「くっ、いつか壊してみせるさ」

 

「頑張るッス。応援位はしてやるッス」

 

「昔はそこまで切れ味とか良くなかったはずなのにいつの間にかもの凄いことになってるのよね。どうしても教えてくれないの?」

 

「例えお嬢でも教えられないッス。グレイフィア様にはぼこられて吐かされたッスけど、サーゼクス・ルシファー様以外に誰にも教えないって約束したッス」

 

「そう。なら、私もぼこれば良いのね」

 

「グレイフィア様にお嬢には早いから絶対に教えるなって言われてるッス。オイラもその意見に賛成ッス。どうしてもっていうならグレイフィア様に許可を貰って来るッス」

 

敬礼しながら即答する。バアル家の滅びの魔法は強力すぎる。死ぬのは勘弁だ。

 

 

 

 

 

 

深夜、お嬢が寝た後に再びアイテム界へ。最近、ハンド系のアイテムが使えそうな気がしたけどそんな事はなかった。生前ではアイテム界に来る以上に使いまくっていたのに魂には欠片しか残っていないようだ。生前の能力を取り戻したい。

 

 



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赤龍帝な日々

 

 

あ〜、あの神め、今度会う事があれば恨み言を受け付けてもらうからな!!覚悟してろよ!!

 

「五月蝿いわ!!黙って食われろ!!」

 

目の前の狼っぽい動物の首を噛みちぎる。そのまま力つきて倒れる狼の肉を食らって腹を満たす。むぅ、焼いた方が美味かったか?前回は焼いたら臭くて食えた物じゃなかったが。

 

次は南の方に行ってみるか。川がそっちの方に流れていっていたから海か湖でもあれば良いんだがな。翼を広げて空を飛び川沿いを移動する。たまに同族である龍の縄張りを通る事もあり、何度も戦闘になるがオレの能力の前にどうする事も出来ずに、その命を散らしていく。

 

海まで辿り着いたオレは海の幸を堪能し、またもや縄張りを荒らされて怒った海竜を食い殺す。はぁ〜、面倒だし疲れるから戦いたくないと言うのに。やはりこの目立つ巨体が悪いのだろうか?ちょっと人間に変化出来ないか試すか。諦めたらそこで試合終了だ。どうせ寿命は腐る程あるんだからな。

 

肉体変化を完璧に行える様になるまで五百年かかった。同種の龍以外になんか悪魔っぽい奴らからも襲われ始めて三百年程忙しい時期があったからな。人の姿を得たオレはそのまま悪魔の街で普通に暮らしている。日雇いの仕事であぶく銭を得て、そのまま安さと早さが売りの大衆食堂などで同じ様な奴らと飯を食ったり風俗に連れ込まれたりなど、前世に近い生活環境を得た。それから結構な時間が流れた気がする。

 

このままこんな風に生きるのも良いかと考えだした頃、悪魔と天使と堕天使で戦争が起こったそうだ。まあここら辺は辺境だし、軍事拠点がある訳でもないので安全だと思ってフラグを建ててみる。

 

 

 

 

 

 

 

何も起こらずに戦争は激化し、あっちこっちで戦火が広がり疎開してくる者がいる位オレの暮らしている街は平和だ。多少混乱が見受けられたりするが、そこら辺は仕方ないと割り切ろう。

 

オレは貯金を崩しながらも疎開してきた者達が最低限の暮らしていけるだけの建物を仕事仲間達と共に次々と建てていった。疎開してきた者の中で変に元気な奴らを殴って従わせながら治安維持の為の見回りも行う。

 

小さな子供達や女性には郊外に趣味で作っていた畑に案内して畑を耕せさせて種をまかせる。それから必要な養分を計算して肥料を蒔き、オレの固有の力で一気に成長させて収穫して配給として配る。

 

とりあえずこれで食うのには困らないだろう。そうすりゃあ、少しは混乱は治まるだろう。そう思い、今日も日雇いの仕事に励みながら住民のまとめ役みたいなことをしている。

 

 

 

 

 

オレは数年に一度、腹を満たす為に街を離れて魔獣狩りを行う。戦争中ではあるが、オレも食わなければ生きていけない。顔見知りの奴らに一声かけてから街を離れて久々の狩りに精を出す。数日後、街に戻ってくると

 

「おい、これは何の冗談だよ」

 

面影すら無い程に破壊し尽くされた街と、弄ばれたかの様な死体の山が広がっていた。オレはすぐに街に駆けつけて生存者を捜す。大声を上げ、瓦礫を吹き飛ばし、必死に捜した。そして、ようやくの事で8歳位の死にかけの子供を見つけた。

 

「おい、何があった!!」

 

「……あっ、なな…….はね、てんし」

 

「おい、しっかりしろ、死ぬな!!」

 

目の前でその子供は死んでしまった。聞き出せたのは七枚羽の天使。だが、それだけ聞ければ十分だ。

 

「仇はとってやる。安心して眠れ」

 

本来の龍の姿で街の上空からブレスを吐いて、全てを土に帰す。そして全力で飛翔する。目指すは天使と悪魔の最前線だ。

 

 

 

 

前方に天使と悪魔の軍勢が見えてきた。同時に今の今までオレの固有能力を使ってまで抑えていた魔力を全て解放し、咆哮をあげる。

 

「GUOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」

 

戦場の注目がオレに集り、それらを無視して中央に降り立つ。

 

「貴様らに宣言する。七枚羽の天使、奴はオレに喧嘩を売った。よってオレは天使がオレに喧嘩を売ったと判断し、ここに殲滅を宣言する!!」

 

宣言と同時に天使が固まっている場所に威力を捨て、広範囲に放射するブレスを吐き、倍化の力(・・・・)で強化を施す。一瞬にして勝敗は決した。9割の天使が一撃の下に消滅したのだから。

 

「今生き延びている天使は戻って上に報告しろ!!貴様らはこのオレに喧嘩を売ったのだと理解しろ!!貴様らはその為だけに生かされたのだ!!行け!!」

 

逃げ帰っていく天使を睨み続け、最後の一人が見えなくなるまで視線を外さない。それが終われば今度は悪魔達と対峙する。

 

「この軍の責任者は誰だ?」

 

視線が一箇所に集る。そこにいたのは一人の少女だった。

 

「えっ?私?隊長は、負傷してる?他に上級士官は、戦死してるの?嘘!?」

 

「混乱している所悪いが、お前が今の所の責任者と認識して良いんだな?」

 

「ええっと、一応そうなります?セラフォルー・シトリーです。お名前の方をお尋ねしても?」

 

「オレか?ふむ、かなり以前になるがこう呼ばれていたな。赤龍帝」

 

その言葉に驚いている悪魔達にもう一度告げる。

 

「オレは赤龍帝、赤龍帝ドライグだ!!」

 



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ハイスクールプリニーッス 2

 

「攻撃力高すぎッス!!インフレ反対ッス!!」

 

目の前に迫ってくるフェンリルの牙をヘッドスライディングで躱してお腹にナイフを突き刺す。跳躍されて躱され、毛が多少切れただけに終わる。

 

「イッセーもぼやっとしてないで突っ込むッスよ」

 

「いやいやいや、オレの力量であれを捌くのは無理だって!?」

 

「何事も慣れッス。プリニーに遅れを取ったら、オイラ達の世界じゃ一生引きこもりを覚悟するッスよ。突撃ッスよ!!お嬢をやらせるわけにはいかないんッスから!!」

 

牽制用のナイフを投げながらフェンリルに接近して足を狩りにいく。再び跳躍されて逃げられる。ああ、もう、速い。

 

「イッセー、突っ込まないならオイラの足を強化するッス。追い付けたらオイラがなんとかするッス」

 

「お、おう」

 

倍化の力を譲渡してもらい、何とか追い付ける様になる。

 

「往生するッス!!」

 

右前足に微かに傷を負わせ、続けて牙の一本を叩き折る。だが、同時にATK2500の愛用ナイフが砕け散った。

 

「ちょっ!?マジッスか!?」

 

転がって逃げながら予備のナイフを取り出す。強化途中のためATKは1700しかない。2500ですら傷をつけるのがやっとだと言うのに、かなり追い込まれた。これは最終手段を取らねばならないか?カバンを覗いてアレが入っているのを確認する。オレ達プリニーを神の兵器に改造する究極防具、宇宙筋肉。

 

「……ペンギンごときが息子に傷を負わせるだと?」

 

「ペンギンじゃないッス、プリニーッス!!これでも他の世界で前世は魔王やってたんッスよ!!フェンリルごときにビビってられないッス」

 

実際、前世のオレならこの程度のフェンリルごときに苦戦もせずに倒せたはずだ。ちくしょう、正月だからってもちなんて食うんじゃなかった。

 

「おもしろい存在だが、ここで狩っておかねばならないようだ」

 

ロキがオレを敵と認識した。ふぅ、やるしかないな。まあ、そこそこ楽しいプリニー生だったな。カバンから宇宙筋肉を取り出して装備する。

 

「イッセー、オイラを持ち上げるッス」

 

「何か秘策があるのか?」

 

「オイラの切り札を切るッス。確実にフェンリルだけはやってやるッス」

 

「どうすればいい」

 

「倍化の力で、ゲームで言うオイラのHPを強化するッス。そしてオイラをフェンリルに向かって投げつけるだけで良いッス。あとは、オイラがなんとかするッス」

 

「分かった。やってみる」

 

倍化の力でHPが増えたのが感覚的に分かる。僅かなSPを使ってギガヒールで完全にHPを回復させる。

 

「行くぞ、プリニー!!」

 

「逝くッスよ!!」

 

イッセーがオレを持ち上げて振りかぶる。そして、投げ出される直前に告げる。

 

「イッセー、お嬢の事、頼んだッスよ」

 

「えっ?」

 

投擲されたオレは片っ端の武器を取り出して投げつけてフェンリルとロキの動きを封じる。そして、フェンリルの牙を身をよじって、左手一本を犠牲にする。最初から左手を切り捨てるつもりだったのでHPはそこまで減っていない。そうだ、最後にちゃんと言っておかないとな。

 

「お嬢、今まで楽しかったッスよ。さよならッス!!」

 

そしてフェンリルとロキの中間地点に落ちたオレは、体内から大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

side リアス

 

 

「お嬢、今まで楽しかったッスよ。さよならッス!!」

 

イッセーに投げられたプリニーがそう叫び、地面に落ちた途端大爆発を起こす。一体、何が起こったのか理解したくなかった。あのプリニーが、私の大切な家族が死んだのだ。

 

「がはっ、我が息子がバラバラになるとは!?」

 

爆煙が晴れた先には原型を留めていないフェンリルの死体とボロボロの姿で血を吐いているロキの姿が見える。

 

「くっ、ここは退かせてもらおう。次はこうはいかんぞ、あのペンギンはもういないのだからな!!」

 

そう言ってロキは転移で逃げていった。私の眷属達よりも強かったプリニーが居なくなり、次に襲われたらどうすることもできない。何より、プリニーは私達の戦闘の中心になっていた存在だ。戦場を走り回って、適切にフォローしてくれる存在で、戦闘以外でも世話になっていて。

 

考えれば考える程、プリニーは私達の事をいつも支えてくれていたのだと言う事を実感してしまう。初めて出会ったあの時から。プリニーはずっと私の傍に居てくれた。

 

そのプリニーが居なくなってしまった。そう理解してしまうと、自然と涙が零れる。

 

「うぅ、プリニー。傍に居なさいよ、プリニー!!」

 

「呼んだッスか?」

 

目の前に転移の魔法陣を潜ってプリニーが姿を現す。

 

「「「「「「えっ?」」」」」」

 

周りの皆もプリニーの事を悲しもうとしていたのだが、目の前に元気そうなプリニーが現れたおかげで、口をぽかんと開けている。私は無言でプリニーを触って確かめる。子供の頃にいたずらして破れて補修した部分もある。私が知っているプリニーだ。

 

とりあえず、持ち上げて遠くに投げる。

 

「ちょっ、お嬢、待つッス!?」

 

地面に落ちたプリニーは先程よりは小さい物の、爆発を起こして散っていく。

 

「来なさい、プリニー」

 

「酷いッスよ、お嬢。かなり痛いんッスから」

 

私が呼ぶとプリニーが再び魔法陣を潜って現れる。

 

「この、馬鹿!!あんな遺言みたいなことを言って、本当に死んだと思ったじゃない!!」

 

「いや、オイラも死ぬつもりだったんッスけどね、ちょっとオイラの出身世界の異次元っぽい所に流れ着いて治療して貰ったッス。ぼったくり価格ッスけど。お嬢に投げられた分を合わせてオイラの貯金が亡くなったッス」

 

カバンから財布を取り出して、逆さにして中身が無い事をアピールして涙を流すプリニーにちょっとだけ罪悪感が芽生える。

 

「まあ、生前の倉庫とか金庫とかの利用が出来たんで円はともかくHellは大量にあるんッスけどね」

 

そう言って別の財布から見た事もない硬貨を大量に取り出す。と言うかどんどん出て来て山を築き始めている。

 

「ちょっと、ストップストップ。分かったから片付けなさい」

 

「了解ッス」

 

財布に見た事もない硬貨を戻していくプリニーを待つ間に聞き出したい事をまとめていく。

 

「プリニー、色々とその倉庫とか金庫から引き出してきているみたいだけど、なんですぐに戻って来なかったのよ」

 

「最初はすぐに戻ろうとしたんッスけど、オイラが辿り着いた場所に次元の渡し人って言う他の世界に転移させてくれる人が居なかったんッス。おかげで半日程待ちぼうけッス。お嬢に呼んで貰ってようやく帰って来れたッス」

 

「それじゃあ、どうやって金庫とか倉庫とかを維持してるのよ」

 

「さあ?詳しい事は全然知らないッス。企業秘密らしいッス。オイラ達は安心して利用出来てたッスから余計な詮索はしなかったッス。利用出来なくなると色々と面倒ッスから」

 

「ふ〜ん、そうなの。あれ、確か貴方、盗賊魔王って名乗ってなかったかしら?」

 

「そうッスよ。戦闘中に相手の武器とか防具を盗んでとんずらするッス。格上程良いもの持ってるッスから毎回命がけッス」

 

「何やってんのよ」

 

「いや、歴史に名を残そうと頑張ってたんッスよ。もうちょっとで名前を残せそうだったんッスけど、正月にもちをのどに詰まらせてころっと逝っちゃったッス。プリニーになってから一番最初にやったことは笑い転がる事だったッス」

 

「もちをのどに詰まらせて死ぬ魔王って」

 

「魔王クラスが死ぬのなんて魔王クラスでの殺し合いか、窒息が基本ッス。クリチェフスコイなんて魔界温泉まんじゅうをのどに詰まらせて死んでるッス。他にもガムとか蜜柑とかをのどに詰まらせてるッス。魔王の死因の7割位がそんな感じッス」

 

「それで良いのかよ魔王!?」

 

「魔王クラスになると殆どの攻撃がかすり傷にもならないッス。フェンリルの牙も効かないのとかごろごろ居るッス。だから逆に窒息でよく死ぬッス。魔王も生物ッスから、食べ物と空気は必要ッス。やろうと思えば宇宙にも行けるッスけど。逆に餓死は聞いた事が無いッス」

 

「話がそれてきたわね。確認するけど、あとどれだけ自爆が出来るの?」

 

「ざっと5億ッス」

 

……ぼったくり価格で治療されるんじゃなかったのかしら?

 

「これでも盗賊稼業が長かったッスから。部下も定住地も持たずにあっちへふらふらこっちへふらふら、風の吹くまま気の向くまま、自由な一人旅ッス。たまに1年位街に滞在してる時もあるッスけど」

 

「盗賊稼業が長かったって、何歳なのよ」

 

「ええっと、確か20代後半で魔族化して、500年程は冒険者とかとレジャーハンターみたいな事をして、それから2000年程魔王カンダタ様の元に仕えてて、カンダタ様が超魔王バールに殺されてから盗賊稼業を始めて3000年程経って魔王を名乗り始めて、2500年程経った後にもちをのどに詰まらせて死んで、プリニー養成所でヴァルバトーゼ閣下の元で50年程研修を受けて、出荷待ちの所を異次元の狭間に落ちて、なんとか異次元の狭間から抜け出してお嬢の傍に落ちたッス」

 

「ざっと計算しても8000年は生きてるな。妙に戦闘経験が豊富だと思ったらその所為か」

 

「儂としては異世界の方に興味があるのう」

 

今まで会話に参加していなかったアザゼルとオーディン様がプリニーの話に興味を示す。

 

「暇になったら時間が許す限りは話しても良いッスよ。平日はお嬢も学校に行ってるッスから、一通りの仕事を済ませれば暇ッスから」

 

「それは良い。その仕事もこちらから人員を派遣すれば省けるな」

 

「まあ、そうなるッスけど、政治面で面倒な事になるッスから上には通しておいてくださいっす」

 

「それ位は任せておけ」

 

勝手に話が進んでいるけど、仕事が無ければ自由にして良いと言ってしまっているからどうする事も出来ないわね。まあそれで私が損をする訳でもないけど、私の知らないプリニーを知る事になるのね。

 

その後、解散する事になった私達は家に戻り、自室でプリニーを呼び出す。

 

「どうかしたッスか?」

 

私は何も言わずにプリニーを抱きしめてベッドに倒れ込む。

 

「お嬢?」

 

「本気で心配したんだから」

 

抱きしめる力を強くして呟く。

 

「あんな遺言みたいなことを言って、目の前で爆発して、本当に悲しかったんだから」

 

あの時の事を思い出して、また涙が零れる。

 

「申し訳ないッス。オイラの力不足が原因ッス。でも、もう自爆なんてしなくても大丈夫な様に色々と持って来たッス。安心するッスよ。お嬢は絶対に守るッス」

 

「本当に?」

 

「大丈夫ッスよ。オイラは絶対にお嬢を守るッスよ。お嬢が要らないって言う日まで、傍に居て守るッスよ」

 

「なら、ずっと傍に居なさい。私が死ぬまで」

 

「了解ッス。オイラの命、お嬢に全部預けるッス」

 

その言葉を聞いて安心出来たのか、急に睡魔が襲ってくる。久しぶりにこのまま寝る事にしましょう。

 



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ハイスクールプリニーッス 3

 

 

ようやくお嬢を発見したかと思えばかなりピンチなご様子で。

 

「ふん、プリニーと赤龍帝が居なければ所詮はこの程度かリアス・グレモリー」

 

「くっ、曹操!!」

 

「終わりだ」

 

お嬢に向かって曹操が黄昏の聖槍を叩き込もうとする。

 

「おっと、そいつは困るんだよね」

 

ダッシュで二人の間に割り込み、魔王時代の愛用ナイフで黄昏の聖槍を弾く。

 

「くっ、何奴!?」

 

「ははは、口より先に手と足を動かさないと時間は有効に使おうな」

 

受け答えしながらもぶんどりハンドで黄昏の聖槍とズボンのベルトをパクって別の世界から流れ着いた勇者が持っていた無限収納道具袋に納める。

 

「黄昏の聖槍が、ってベルトまで!?」

 

「……戦闘中に相手の武器を奪うって、まさか貴方、プリニーなの!?」

 

ずれ落ちそうになるズボンを慌てて引き上げている曹操を尻目にお嬢がオレの正体に気付く。

 

「おっ、気付いてくれて嬉しいですよ。お嬢の所に来るのが一番最後になりましたけど黒歌以外誰も気付いてくれないんですから。薄情者ばかりですね」

 

トレードマークなのに皆がトレードマークだと認識していないバンダナを外してプリニーの皮を頭に被って分かりやすくする。

 

「改めて聞くけど、お嬢のお守役、クビになってないよね?」

 

「馬鹿、もう少し遅かったらクビよ!!」

 

「そいつは良かった。転生するのに思ったよりも金がかかって金欠気味だったからな」

 

曹操は上着を脱いでそれをベルト代わりにしながら普通の槍を取り出す。さて、真面目に戦うとしようか。

 

「リアス・グレモリーが使い魔、プリニー改め盗賊魔王ジンが相手になってやるよ。来いよ曹操、装備なんて捨ててかかって来い。持って来るなら全部毟り取ってやるからよ」

 

曹操が踏み込むと同時にパンツ以外の全てをぶんどりハンドで奪い取る。そして素早く対魔獣用の鎖でグルグル巻きにする。

 

「ほい、一丁上がり」

 

「ば、ばかな!?」

 

「えっ、いつのまに!?」

 

二人とも驚いているが、オレ自身もレベルがかなり落ちている事に驚いている。ざっと2000程レベルダウンした様なステータスだ。それでもプリニー時の300倍程度のステータスだ。

 

「くっ、またしばらくはアイテム界で修行か」

 

「これ以上強くなってどうするのよ」

 

「30%近くも弱くなってたら鍛え直さないと不安になるんですよ」

 

お嬢に説明しながらも抵抗されない様に曹操を絞めて落としておく。

 

「それでお嬢、あのデカイのって何なんですか?」

 

「英雄派が神滅具で作り出した魔獣よ」

 

「潰せば良いんですか?」

 

「出来るの?」

 

「あの程度ならプリニーの底力を見せれば」

 

「プリニーの底力?」

 

「ちょっとばかり拝借してきたプリニー達の血と汗と涙と魂と命と尊厳と金と金と金の結晶」

 

「金ばっかりじゃない!!」

 

お嬢のツッコミをスルーして高らかにその名を告げる。

 

「超薄給で酷使されてるプリニー達がちょっとずつ出し合って製造した決戦用兵器プリニガーZ!!」

 

テストも兼ねて強だゲフン、拝しゃ、もとい、テスト運用として借りて来た全長60mのプリニーを模したロボットを召還して乗り込む。

 

「プリニー、ゴー!!」

 

プリニーサイズのコックピットに身体を丸めて無理矢理乗り込みレバーを操作して魔獣に向かって突撃する。基本装備であるナイフを構え、至近距離まで接近し

 

「食らえ、プリニービーム!!」

 

両目からビームを発射して攻撃する。何処かで色々なツッコミを貰った気がするが無視だ無視。頭部を半分失って倒れそうになっている魔獣を持ち上げて隣の魔獣に投げつける。予想外の行動にそのまま更に隣の魔獣も巻き込んで倒れる。

 

「自分で攻撃した方が早いわ、ペタファイア!!」

 

3体の魔獣がオレの放ったペタファイアの業火に焼かれて灰すら残さず綺麗に燃え尽きる。冥界にも殆どダメージは残っていない。そして、魔獣を持ち上げた事で関節部分に異常が出てしまったためプリニガーZはもう使えない。

 

「ええい、所詮はプリニー製か。まあいい、ペタファイアで沈むならこいつで十分だ」

 

道具袋からアマルガムの戦火を取り出して残りの魔獣のコアに銃弾を普通に叩き込むだけで消滅していく。やっぱり向こうの世界に比べるとこの世界の生物は弱いな。さすがに一番大きい魔獣には通常攻撃では傷が付く程度でしかないが

 

「クイックショット、クイックショット、クイックショット!!」

 

特殊技であるクイックショットの3連射でコアを撃ち抜き、消滅していく。それと同時に空間に罅が入り、赤い龍とイッセーとオーフィスが姿を現す。あの龍はヤバいな。バールとゼタが一緒に戦っても仕留めきれそうにない。というか、あれ実体というか、本体が居るのか?生物と言うより、現象とかそっち系だろう。

 

まあ良いか。イッセーも何とか生き返ったみたいだし、オーフィスの力は弱くなってるがまだオレよりも強いみたいだし、オレはのんびり家政夫ライフを送らせてもらおう。

 



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赤龍帝な日々 2

 

 

駐屯している街で、宿舎として使っている建物の屋根の上でタバコを咥えているオレの元にセラフォルーがやってきた。

 

「あっ、こんなところに居たんだ」

 

「うん?ああ、セラフォルーか。どうした?」

 

「......見つかったよ、7枚羽の天使。いいえ、正確には堕天使が」

 

「どういうことだ?街を焼いて堕天しやがったのか」

 

「ううん、特別な術式で翼を染めてたみたい。それと堕天使として行動するときは義手みたいな翼を付けてたみたい。アザゼルちゃんがそれに気づいてこっちに情報を流してくれたの」

 

「堕天使の総督だったな。ちょっと性格があれな」

 

「そうそう。だけど、本気で怒ってたよ。研究施設から押収した資料に色々と非合法なこととかやってたから。それからドライグが住んでた街を焼いた理由も分かったよ」

 

「ほう、それで?」

 

「……敵側の非戦闘員を殺して戦争を激化、泥沼化させることで自分の研究を推し進めるため。それから」

 

そこでセラフォルーは言い淀む。この件で言い淀むとなると

 

「オレを狙ってやがったか」

 

「……うん」

 

「そうか」

 

咥えていたタバコに火をつけて一服してから線香のように立てて黙祷を捧げる。

 

「これも宿命なのだろうな」

 

ドラゴンは争いを呼び込む。それがよく分かる。オレに平穏は似合わないのだろうな。完全に能力と特性を捨てればと、無駄なことを考える。

 

フィルターまで燃えたところで揉みつぶして携帯灰皿に吸いがらを入れる。

 

「それで、そいつは今どこに居やがる?」

 

「アザゼルちゃん達を振り切って東の方に、つまりはこっちの方に来てるみたい。追撃にバラキエルを出したみたい。天使の方でも数少ないけど追撃を出すって」

 

大体の方向の気配を調べる。特におかしな気配は感じないが

 

「無策、というわけではないだろうな。何かをされる前に殴り込んだ方がよさそうだな」

 

「行っちゃうの?」

 

「ああ、世話になったな。7枚羽を殺れば、オレは消える。人間界の方で今までみたいに適当に暮らしながら旅をする。会うことはもうないだろう」

 

「そっかぁ、寂しくなるね」

 

そう言いながらセラフォルーが後ろから抱きついてくる。

 

「あのね、私はものすごく強いドラゴンなのに気さくで子供達と一緒に遊んだり、階級にこだわらずに気の合う人たちと馬鹿騒ぎしたり、実は女の人を扱うのが苦手な癖に上手だったり。そんなドライグを愛してます」

 

「すまんな。オレはそれに応えてやれない。今回のことでよくわかった。ドラゴンがもたらすのは破壊だけだ。どんなにオレ自身が平穏を望んでも安らぎはこないようだ」

 

自らの特性で力を封印し、生きるために最低限の力しか持たず、破壊にしか使えないと思っていた能力を成長や回復に使えるようにし、周りと同じ姿を得て、結局はオレが原因でオレの居場所を失った。

 

「そう言うと思った。だから今日だけで良いの。今日だけはあなたの時間を頂戴。それで諦めるから。お願い」

 

「……ああ、良いだろう。今日だけはお前を愛そう、セラ。これがオレの、ドライグとしての最後だ。その後は、赤龍帝として破壊の限りを尽くして冥界を去ろう」

 

「ありがとう、ドライグ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく会えたな。七枚羽」

 

「ふん、余裕そうだな赤龍帝」

 

「無論だ。何か罠を仕掛けているようだが、関係ない。全てを力と意志でねじ伏せる。貴様はオレの逆鱗に触れたのだ!!ただで死ねると思うなよ!!」

 

「それはこいつを相手にしても言えるかな?」

 

足元の魔法陣が輝き出し、白い龍が現れる。

 

「あん?なんだこいつは?」

 

「貴様、忘れたのか!?」

 

「ええっと、あっちゃんだっけ?」

 

「ふ、ふざけるのも良い加減にしろーー!!」

 

白い龍がブレスを放ち、周囲が吹き飛ぶ。この威力と魔力は、微妙に覚えがあるな。そう、赤龍帝と呼ばれだした頃に、ああ、思い出した。

 

「他力本願龍か」

 

その言葉に白い龍はさらに怒りをあらわにするが、事実を言ったまでだ。それに対策はすでにできている以上、怖くもなんともない。

 

「とりあえず、邪魔だから吹っ飛べ」

 

倍化に加えて、新たに覚醒させた透過の力を使って、他力本願龍の半減の力を無視して殴り飛ばす。

 

「なっ!?」

 

遥か彼方に飛んでいく他力本願龍を見て七枚羽が驚いている。

 

「で、これだけか?」

 

「ば、バカな。こんなあっさり、二天龍同士の争いが決着するなど」

 

「奴とは一回だけやりあったが、あの時はこっちの魔力を半減して吸収しやがるから千日手になっただけだ。対策がある現状、負ける気がせんな。それで、もう終わりか?他の手があるなら早くしろ、ハリーハリーハリーハリーハリー!!」

 

「くっ、こいつならどうだ!!」

 

オレを囲むように大量の魔法陣が展開して、そこから光線が放たれる。

 

「龍殺しの術式を織り込んだ光線だ。食らえばただではすまんぞ!!」

 

「当たらなければどうということはない」

 

龍の姿から人の姿に変化し、すり抜ける。それを見て七枚羽が驚いている。

 

「なんだ?オレが人の姿になれることを知らなかったのか?この程度のことも調べられなかったとは。もう良い、ここからはずっとオレのターンだ」

 

とりあえずは他力本願龍と一緒に葬るために同じ所まで飛ばすか。貫通力は抵抗を倍加させて衝撃は普通に倍加させてっと

 

「吹っ飛べ!!」

 

適当に殴り飛ばすのと同時に龍の姿に戻って追いかける。七枚羽が途中で落ちそうになれば翼で打って再び距離を伸ばす。そして他力本願龍の口に向かってシュート、超エキサイティング!!何かのCMだったフレーズを唐突に思い出した。そうだな、人間界に行ったら時代に合わせて娯楽を増やそう。今から楽しみになってきたな。

 

「ふはははは、オレに敵対したことを後悔するがいい!!」

 

殴れば簡単に割れるぐらいの極少量の魔力で全身を覆い、他力本願龍を殴り飛ばす。

 

「なぜだ!?なぜ吸収できない!?」

 

「対策済みだと言っただろう。このままサンドバックだ!!」

 

接触するたびに全身を覆う魔力を張り替えて七枚羽が他力本願龍の中から出てこれないように殴り飛ばす。念のために龍の姿でも格闘戦ができるように練習しといてよかった。噛みつきとかの長時間接触しないといけないタイプはこいつにやると逆効果にしかならないからな。一気に喰いちぎれば違うんだが。

 

「お前が、泣いて、謝っても、殴るのを、止めない!!」

 

虫の息になるまで殴り続けた所で他力本願龍の姿が消える。おかしな光力も感じたので龍の姿に戻って警戒する。しばらく待っていると聖書の神が機械らしき翼を備えて現れる。その周りには護衛らしき上級天使が控えている。その中にはミカエルたちまでいる。かなり怪しい。

 

「何の用だ。何もないのなら立ち去れ」

 

「こちらの方から巨大な力を感じたものですから。どうやら目的を逃したようですね」

 

「ああ、誰かの介入があったからな。今のオレは機嫌が悪い。とっとと消えろ」

 

「いえいえ、そういう訳にはいかないのですよ。貴方に伝えたいことがありますので。周りに聞かれると少し面倒ですのでそちらに寄っても?」

 

何かを仕掛けてくる。長年の勘からそれがわかる。あの機械の翼が仕掛けだ。そこまではわかる。ならばどうする。罠は正面から食い破るのが一番楽だ。

 

「良いだろう、こっちに来い」

 

「ええ」

 

俺が許可を出すと聖書の神はオレの耳あたりにまでやってきて、オレに触れると同時に仕掛けがわかった。奴の機械の翼に他力本願龍が封じられている。その能力でオレの力を半減して弱った所を他力本願龍のように何かに封印する気だ。すでに半減と封印のマーキングが終わってしまった以上、オレに出来る対抗手段はこれだけだ。マーキングされてしまった龍の体とオレの特性以外を強化して人間の体のアバターを作り出してそちらに移る。同時にオレの龍の体と特性が赤い籠手に封印され、それを奪い取って、全力で聖書の神を魔力砲で冥界の地形ごと消滅させる。

 

「ちっ、聖書の神め。欲を出さねばこれ以上手を出すつもりはなかったのだがな。覚悟はいいな、天使共?貴様らはまたオレを怒らせた!!」

 

人間の体になったためにかなり弱体化してしまったが、この場にいる天使共を滅ぼすぐらいなら問題ない。特性の方は、制限を設けられている?面倒なことをしやがって。強引に力を流し込めば問題ないだろう。ここをこうして、こうだ!!

 

「むっ、籠手が鎧に変わったのか。ふむ、まあ制限が解けたなら構わないか」

 

制限が解けたことで内部出力が外部出力に変わったことで発生する僅かなタイムラグを除けば、ほぼ変わらない能力を取り戻せた。むしろ防御力は上がったか?いや、叩いてみてわかったが龍の鱗と同じ材質でできた鎧のようだ。むしろ本来の姿に戻れない以上は広域殲滅力がダウンで弱体化としか言えないな。さて、考え事は後にしてっと蹂躙するか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖書の神は居なくなり熾天使の半分が重体、堕天使の幹部もそこそこ討たれ、悪魔は四大魔王のルシファーが欠けた。あのままやり続ければ天使が一番不利だったのをオレが強引に話をまとめたおかげで表面的には三者共平等の休戦を認めさせた。お前との契約通りだ、ガブリエル」

 

「……はい」

 

「代価としてお前は自分の全てを差し出した。間違いないな?」

 

「はい」

 

「では、荷物をまとめてこれに着替えてこい」

 

「えっ?これは」

 

オレが渡したのは今の人間界の西洋圏の文化レベルの旅装だ。

 

「とりあえずは人間界で一番でかい大陸の西から数年おきに東へ東へ住処を変えていく。気に入った場所があれば10年程度は滞在することもあるだろう」

 

「ちょっと待ってください。一体何を言っているのですか?」

 

「あん?何って、これからの予定だが。それがどうかしたのか?」

 

「いえ、そういうことではなく、私を、その、だ、抱かないのですか?」

 

最後の方はほとんど聞こえないぐらい小さな声だったが、生憎なことに特性の込められた籠手は出しっぱなしになっているので聴力を倍加させれば普通に聞こえる。

 

「抱かねえよ。元々性欲は薄いし、同意の上でというのがオレのポリシーだ。なにより、そんなことが目的でお前を傍に置くと決めたわけではない。ほとんどの天使にとって一番恐れる堕天を覚悟してまで、他の天使共を助けようとしたその覚悟を買ったからだ。だから、面倒だがああいう風にわざわざ出張ってまで休戦に持ち込んでやったんだよ。まあその分は」

 

「やっほ〜、準備できたよーー、って、ああ!?なんでここにガブリエルちゃんがいるのよ!!」

 

ノックもせずに笑顔で部屋に突撃してきて、ガブリエルを見るなり怒り出すセラに説明する。

 

「落ち着け、セラ。ガブリエルは今回の停戦のためにオレに全てを捧げるという契約を交わしている」

 

「つまりは欲望に身を任せてガブリエルちゃんにあんなことやこんなことを......するわけないっか。それで、どうするの?」

 

「一緒に連れて行くさ。実験も兼ねるから二人にはオレを守ってもらわないと困るからな」

 

「本当に力を封印しちゃうの?そんなことをしたら簡単に死んじゃうかもしれないよ?」

 

「だから守ってくれと言っているんだ。力を封印すれば、龍の宿命から逃れられるかもしれないからな。それを調べなければならない。もし宿命から逃れられたら、ゆっくりと暮らしたいものだ」

 

そんな時が来たら、オレの子を産んでほしいと言おう。そう誓い、三人で人間界へと移る。

 

 

 




なんか変な方向に流れたけど気にしない。


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赤龍帝な日々 3

「はい、これでおしまいですよ」

 

「ちょっ、兄貴、踏み固めた地面に両手を封じた変形パイルドライバーはマジ勘弁!!」

 

「耐えれるでしょうが。それ!!」

 

「いや、そうだべっ!?」

 

今のは完全に決まったな。頭が地面に埋まってやがる。

 

「そこまでだ。セリス、前回の反省点を解消しているな。今の調子で鍛えていくと良い。エルクはもう少し見を鍛える必要があるな。見え透いたフェイントに引っかかるようではまだまだだ」

 

「はい」「……ぶはっ、うぃっす」

 

「では、今日はここまでだ。来週の日曜は龍の姿の方だ。冥界の方だぞ」

 

「げぇ、冥界かよ。あんまり空気が合わねえんだよな」

 

「単に気分の問題だ。エルもそう言っている。大戦期は元気だったぞ、天使共」

 

「あ〜、やっぱり?個人的には人間界が一番落ち着く。生まれも育ちも此処だし」

 

「そうですね。私も冥界が過ごしやすいとは思いません。違和感しかないですね」

 

「だろうなぁ。オレはどこで生まれたのかすら曖昧だからほとんど気にしないが。それよりも今日はこれから駒王学園の合格発表だろう。ちゃんと身だしなみを整えていけ」

 

「はい」「うぃ〜っす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、エルクはどうしたんだ?」

 

入学式から帰ってきてから床で身悶えているエルクを指差しながらおそらく一緒にいたであろうセリスに確認する。

 

「それが、駒王学園に純血の悪魔が二人、同期として入学してるんだけど、その片方に一目惚れした上に眷属に誘われたらしいんだ」

 

「「「女性不信のエルクが一目惚れ!?」」」

 

オレだけでなくセラとエルまでもが驚く。

 

「それだけまっすぐで公正な魂の持ち主だったんだよ!!」

 

今まで身悶えていたエルクが立ち上がって叫ぶ。だが、すぐに落ち込んでしまう。

 

「だけどさぁ、駒のコスト が、兵士8個でも足りなかった」

 

「あ〜、ハーフとはいえドラゴンのオレの血を引いている上に、もう半分が上級天使のエルの血を引いてるからな。並大抵の才能じゃ無理だな。セリスも半分は悪魔の中で最も魔力の多いセラの血を引いてるから才能の塊みたいだからな」

 

「まあ、私は今のところ誰かの眷属になる予定はないですね」

 

「親父ぃ〜、なんか手はないか?」

 

「無くもないぞ。幾つか手はある」

 

「さすがは親父だ!!で、その手は?」

 

「一つ、眷属を諦めて使い魔をやる。あれには才能は関係ないからな。二つ、お前の能力を封印する。龍としての身体と魔力ぐらいなら封印してやれる。た だし、その場合お前は天使として認識されることになる。三つ、オレの力で強引に駒のリソースをあげる。これは研究の必要があるから時間がかかるだろうがな」

 

「三つ目って俺でも出来る?」

 

「まあ、それなりに練習すればいけるだろう。そういえば聞き忘れていたが、その純血悪魔の二人とは誰だ?」

 

「一人はこの地の管理を任されているリアス・グレモリー。エルクが一目惚れしたのがソーナ・シトリーです」

 

「......シトリーだと?」

 

「どうかしましたか?」

 

大人組が、特にセラが一番渋い顔をしているのを疑問に思ったのかセリスが尋ねてきた。

 

「シトリー家とは仲が悪く てな。オレたちのことは話さないほうが良いぞ」

 

「若い頃にやんちゃした結果ですか?」

 

「いや、まあ、なんだ?次期当主が勝手に出奔してな、その原因がオレにある。それ以降仲が悪いというか、顔を合わせづらいというかな」

 

「はぁ、それでその次期当主は今どちらに?」

 

オレは無言でセラを指差す。セリスとエルクがそちらのほうを見て、いやいやと首を横に振る。だが、オレもエルもそれに対して首を横に振る。そして今まで黙っていた本来の名を告げる。

 

「セラの本名はセラフォルー・シトリー。大戦期にオレと共になって、説明もせずに抜け出した元凶だ。あと、エルも本名はガブリエル、熾天使の一人だっ た。そして、オレ、ドメル・レイフォードも偽名だ。真の名はドライグ、世間で天龍や赤龍帝と呼ばれている」

 

「「えっ、なにそれこわい」」

 

そんなにハモられてもな。まあ、人間界でも超有名な悪魔と天使と龍だからな。あっちこっちの戦史に名が残ってるから。一番最近だと第2次世界大戦でアメリカの太平洋艦隊を焼き払ったり、中国の半分を更地にしたり、ロシアの一部が海に沈んだ件だっけ?

 

龍の宿命から逃れるのを諦めて、危険かもしれないがそれでも二人に子を産んでほしいと、プロポーズしてイチャイチャし始めた時期に戦争を起こしやがって腹が立って焼き払ったんだったか。日本には長いこと住み着いていたから守護龍としても拝まれて いた上に、あちこちで暴れていたこともあって神格も得ている。

 

本来なら天下を統一した織田信長との契約で東国はオレの領土なんだけどな。いつの間にかなかったことになっている。別に気にしてないけどな。代わりに色々な寺に祀られてるから。

 

ちなみにセラとかエルも祀られてる。芸能関係と恋愛関係で。オレは戦関係に勉学関係、あとは農業関係だったはず。

 

「話すと面倒にしかならない理由はわかったな。あまり言いふらすな。だが、必要だとオレの名と紋章を見せつけろ。知らん奴の方が少ないだろうからな。特に人外の上層部はそれをよ〜く知っている。特に天使はな」

 

そう説明するとエルが苦笑いしている。

 

「なにを、したの?」

 

「大戦期にオレに喧嘩を売ってきたのが少し特殊な奴でな。天使と堕天使、その両方で活動していた奴が居たのだ。それに気づいたのは大戦期の終盤でな、オレは大戦期中盤から悪魔側として天使を削りに削り回っていた。それだけならまだマシだったのだろうがな。聖書の神がさらにオレに喧嘩を売ってきたから殺して、熾天使の大半を半殺しにした」

 

「お、おう。それでよく不平等条約とか結ばれずに、ああ、母さんが親父と一緒になったからか」

 

エルクが勘違いの結論を出して納得しているが逆だ。

 

「エルが自分を差し出してどうにかしてほしいと頼んだからだ。そこから力技で今の状態に持ち込んだ。調 子に乗った魔王が一人散った程度で済んで楽だったわ」

 

「親父、あんた鬼だな」

 

「失礼な。オレは紳士で通ってたんだぞ。龍の姿を封印してる時は」

 

売られた喧嘩は速攻で買うけどな。

 

「話を戻すが、そういった事情を話すかも自分で決めろ。どこまで話すのかも全部自分でだ。セリスも一緒だ。お前たちもそろそろ自分のことを決めるぐらいはしていかないとな。でかい失敗をすればケツぐらいは拭いてやる。力技になるから環境がガラッと変わる可能性が高いがな」

 

「そうならないように頑張ります」

 

「それじゃあ親父、ちょっくら報告に行ってくるわ」

 

「うむ、ついでに卵を 買ってこい。Lサイズの10個入りだ」

 

「そっちは私が行きますよ。私の方もグレモリーさんの方に説明に行ってきますから。彼女が駒王の管理をするそうなので」

 

「そうか。前任の悲劇は繰り返さないように念を押しておけ。でないとOHANASHIに行くぞと上に伝えろとも」

 

「?わかりました、伝えておきます」

 

 

 

 

 

結局、エルクは一月程かけて駒のリソースを大幅に上げることに成功してソーナ・シトリーの眷属になった。これで龍と天使のハーフで転生悪魔とかいうカオスな存在になったな。そして、主人であるソーナ・シトリーにちょうきょ、げふん、しつ、でもないな、そう、教育を施されて言葉遣いと態度を直された。

 

まあ、あれは女性不信なエルクが身を守るために身につけたものだからな。女性の保護下にあるのなら必要ないな。根は素直な良い子だからな。

 

戦闘面での連携も問題ない。性格以外は母親と一緒だからな。精密操作と持久力ではエルをも上回る才能を持っている。まあ、経験の差で負けばかりだがな。伊達に大戦期を生き抜いてないから。

 

セリスの方は悪魔とは一定の距離感を保ちつつも、学園では普通に友人として接するようだ。まあ、どうせ龍の宿命に巻き込まれるだろうから、いずれは関係が変わるだろうけどな。

 

そろそろまた戦いに巻き込まれそうだな。他力本願龍が目覚めるのもそろそろだし身体を作っ ておくか。ああ、他力本願龍は神器、その中でも神をも殺せるほど強力で同時期に二つ以上の出現が見られない神滅具として何度も人に取り憑き、度々襲い掛かってきては返り討ちになっている。前回から考えるとそろそろ襲ってきても不思議ではない。面倒なんだよな、あいつ。場合によっては息子たちの糧にしてやろうか。

 

 



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ハイスクールD×D 妖狐伝

うむぅ、なんだろう?何かに包まれ、あっ、鼻に何かが入っ

 

「くちゅっ!!」

 

オレらしくない可愛らしいくしゃみだこと。それにしても目が開けられんな。

 

「おおっと、すまんのう。大丈夫じゃったか十束」

 

これはどうもご丁寧?十束?誰のことだ。と言うか揺られてるんだが。くっ、目さえ開ければ。また眠くなってきやがった。寝てたのかよ、オレ。ああ、ダメだ。お休み。

 

 

 

 

 

 

とりあえず目が開かない理由とか色々なことが判明した。オレ、赤ん坊になってた。あれだ、転生とかいう奴だな。羞恥プレイは勘弁してくれよと言いたい。もう諦めたから問題ないけど。それからどうやらオレは妖怪らしい。それもかなり高位の生まれみたいだ。母が周りに大将や長、八坂様と呼ばれているからな。あと、たぶん尻尾もある。ふかふかの布団と思ったら母の尻尾に揺られていたりするからな。ふさふさで暖かくて気持ちいいんだこれが。これを自前で持っているとか、かなり嬉しい。

 

それから前世の頃の記憶が記録になっていた。意味が分かりにくいだろうが、オレも説明しづらい。こう、思い出せるんだけど、第三者の視点で見てるというか、記憶という名の本を読んでる感じ?だから、未練とかがほとんどない。決して尻尾に釣られたわけではない。とりあえず早く目が開くようになりたい。寝る子は育つと言うわけでお休み〜。

 

 

 

 

 

 

そこそこ成長して3歳、とりあえず色々まとめてみた。まず、この世界はかなり混沌としているが、格としては低い世界くさい。正確に言えば神秘が神秘でないというか、さすが多神教国家日本。日本書紀の神様がゴロゴロいる。そんでもって気安い。ちょっとした異次元にいるけど、簡単に降臨しちゃうのでありがたみはほぼ0だ。他の神話体系もそんな感じ。けどクトゥルーは未確認。というか確認したくない。居ても地球に来ないでほしい。

 

そしてその配下というか眷属というか、天使とか悪魔とか妖怪とかは年々数を減らして衰退中。やはり人間が生物として異常なのがよく分かる。あれだけ虐殺が起こっても以前より数を平気で増やすんだから。まあ、最近と言っても良いのかよくわからないけど、悪魔は道具を使って人間を悪魔に転生させれるようになっているらしい。新撰組の沖田が悪魔にいるらしい。

 

そしてオレこと十束は妖狐であることが判明した。この世界の妖怪は基本的に人間の姿になれ、全力を出す時のみ本来の妖怪の姿となり、人間の姿でもある程度の力を出すためには妖怪の姿の一部を出す必要があるようだ。妖狐の場合、尻尾とか耳だな。今の所一つしか尻尾がないが、母である八坂様は九つ、つまりは九尾の妖狐である。さらっと確認してみたけど、大陸の方にいた奴とも安倍晴明と戦った奴でもないらしい。ちなみに尻尾は力が高まれば増えるそうだ。つまりはいずれ自前の尻尾寝袋が出来ると?やべぇ、頑張らないと。

 

とりあえず目標は決まった。修行して自前の尻尾寝袋をゲットするのと母のあとを継ぐことだな。と言うわけで情報収集を兼ねて街に出かけよう。京の街は独特な味があって好きなんだよ。あと、鯉伴と一緒だと色々と無茶がきくし、色々ないたずらを教えてくれるから楽しいのだ。今日はどこに連れて行ってくれるだろうか。

 

 

 

 

 

オレは今、分水嶺に立たされている。裏を知る人間と妖怪の間で商売上の問題が発生したのだ。年々人間側の職人の質が下がり後継者も居ないところがあり徐々に終焉を迎えているのに対し、妖怪側は長命の職人が多く、平安時代から物を作っている職人がいるぐらいだ。さらには妖力を込めたりするからちょっとした効果がついたりする。つげ櫛なのに手入れの必要がなくなったりとか、油のノリがよくなって毛が綺麗になるのとか。尻尾の手入れにお世話になってます。話が逸れたな。

 

まあ、そんな感じで不信感が募っている中で地上げ屋がとある店を妖怪の力も借りて無理やり買い取ったと人間側が訴えてきたのだ。だが、妖怪側に立って言い分がある。妖怪の力を借りたと言っても単に工房の維持管理のために妖怪の力で支えるという説明して見本を見せた上で十分な金を妖怪のことを秘密にするという約束もあるので上乗せまでして払っている。工房の維持も店側の要求だったのに訴えられるのはおかしいと争う姿勢を見せている。

 

このままだと人間と妖怪がぶつかることになる。そうなれば、人間の住む京都か、あるいは妖怪の住む裏京都が壊れることになる。それを止める手段がオレにはある。だが、それをすればオレは戻れなくもなる。オレは京都も裏京都も愛している。だからそれが壊れる姿は見たくない。

 

そこまで考えてふと思う。いずれはそうなると思っていたが、それが早くなる。ただそれだけだと思い直し、母さんの元へ向かう。

 

 

 

 

 

 

「こんばんわ、久世さん」

 

「お前は、鯉伴と八坂の」

 

「息子の十束と申します」

 

「久世さん、お下がりを」

 

裏を知る人間のまとめ役をしている久世宗兵さんの屋敷に鯉伴と共にやってきた。鯉伴とは別の方法で隠れながら護衛の陰陽師を躱してきたのだが、陰陽師の護衛のまとめ役が傍から離れず、むしろこの場で纏めて話し合いに巻き込んだ方があとが楽だと考え直して姿を表したのだ。

 

「よう、火室。久しぶり」

 

「鯉伴、何をしに来た!!」

 

「今日は十束のお守りだよ。それ以外は今日は何もしねえって。八坂の大将にもきつく言い含められてきてるからな」

 

「何?」

 

火室と呼ばれた陰陽師がオレの方へとキツい目を向けてくるが、大したことではない。どうやら陰陽師の質も下がっているようだ。

 

「まずはご挨拶を。妖怪のまとめ役、九尾の八坂が息子、十束と申します。この度の事件について妖怪側からの提案があり、使者としてそれをお伝えに参りました」

 

「妖怪が提案だと?はん、こんな子供を使いに出す無礼な奴らの言い分など聞く必要は」

 

火室がそこまでいったところで鯉伴が首に刀を突きつけていた。

 

「今は八坂の大将が正式に使者として送った十束と久世宗兵が話し合おうってんだ。ただの護衛が口を挟むんじゃねえよ」

 

「貴様!!」

 

「よい。火室、お前は部屋から出て行け。ここまですんなり入られていては護衛の任を全う出来ているとは考言えぬ。この二人がその気なら儂は既に殺されているだろう」

 

「ですが」

 

「諄い!!」

 

久世さんが怒鳴り、ようやく火室が退出する。

 

「さて、これで話が進められるな。だが、その前に座るがいい」

 

「失礼します」

 

勧められるままにテーブルを挟んで対面の座布団に座る。そして口を開く。

 

「まずは無作法を働いたことを謝罪申し上げます。何分、時間が残されていなかった物ですから」

 

「火室一派か」

 

「はい。既に裏京都の境界線上に集結し、境界を操作し始めています。こちらも境界線の維持のために境界線上に高位の妖怪が集まっています。衝突すれば、一瞬で陰陽師が壊滅するでしょう。そうなれば、どちらも引くに引けない状況に陥るでしょう」

 

「地脈は其方に抑えられている上に、警備を軽々と超えられる以上そう見るべきだな。それで、そちらの提案とは?」

 

「そもそもの発端、原因は何処にあるとお考えでしょうか?」

 

「率直に来たな。ちなみに小僧、お前は何処にあるか明確に示すことができるか?」

 

「ええ。母、八坂も気づいていませんでしたが、私には見えています。久世さんも?」

 

「ふん、これでも長生きしてきたからな。そもそもの原因」

 

「それは」

 

「「金」」

 

同時に発した答えに鯉伴が驚いている。

 

「鯉伴、貴方も気づいているでしょうが年々京都の街から活気が減っていってるでしょう。不景気も相まって観光客が減って、それがそのまま職人の収入に影響を与えているのですよ。人が減り、需要が減り、利益が減り、寂れた所に新たな職人を目指そうと思う者が付くと思いますか?」

 

「......妖怪ならともかく、人間には辛いだろうなぁ」

 

「この件、根はそこにあります。それを解決しないことにはこのような事件がなんども起こるでしょう」

 

「中々キレる坊主だ。これが妖怪どもの頭になれば京都などあっという間に乗っ取られるわ」

 

「そんなことはしませんよ。私は京都も裏京都も愛していますから」

 

「坊主のくせに一丁前なことを言う。お前に京都の何がわかる」

 

「……団子屋の米さんにはよくおまけを貰ってます。この和傘は傘職人の与一さんにオーダーメイドで、腰につけてる狐の面は京都で唯一の面職人の吾郎さんに作りかたを教えてもらいながら私自身で作り上げた物。みんな、オレが妖怪だと気づいていながら気づかないふりをしてくれて、本当の孫のように接してくれた方々だ。街というのは人そのものだ。私は、あの人たちの助けとなりたい」

 

睨む久世さんから視線をそらさずにそう言い切る。暫し沈黙が流れ、久世さんが口を開く。

 

「嘘ではないようだな。そこらのガキ共よりもしっかりとしてやがる。小僧もう一度名を聞かせてくれ」

 

「十を束ねると書いて十束、そう申します」

 

「十束だな。儂は久世宗兵、京都一帯の表と裏を管理する者だ。それで、妖怪側の提案とは一体なんだ?」

 

「根本的な原因は先ほども話した通り、金です。今は日本全体が不況となっており、何処も厳しい。むしろ、京都は世界的に見ても観光地ということで他よりはマシと言った所です」

 

「まあそうだな。ギリギリだが、なんとかやっていけてるからな」

 

「ええ。ですが、このままだと厳しいのも現実。ここで我々が利権で食い争うのは下策。小さなパイを奪い合うぐらいなら自分たちで大きなパイを焼いて貪り食う方が建設的です」

 

「ふむ、だがその大きなパイをどうやって作る」

 

「ターゲットは悪魔。あそこは金が余っていますからね。まあ、それと同時に天使と堕天使もターゲットに加えます。三者に干渉しなければ変な疑いを向けられてしまいますからね」

 

「なるほど、そう来るか。危険も大きいが返りもでかそうだな。どうやって危険を減らす」

 

「現在の所、京都に入る際には他種族は許可証を持った上で緊急時以外裏京都には入れず、指定された区域で許可を得た行動しかできません。それを条件付きで解放します。条件は表裏京都から何名かの案内役兼監視役兼護衛を付けること。付ける人数によって常識的な金を払うこと。大まかにはそんな所でしょう」

 

「ふむ、そんな所だろうな。だが、日本神話勢はどうする?あそこは京都自体に干渉しないが自分たちの領域にはうるさいぞ。そこが一番の観光地なのにだ。そちらはどうする?」

 

「ああ、そちらは既に交渉済みです。力ずくでしたが最終的には大人しくするのであれば普通の参拝や拝殿を見学する程度で、被害が出れば修繕などは我々妖怪が責任を持って行うことで許可してくれました」

 

「力ずくだと?」

 

「ええ、少し大変でしたが」

 

「鯉伴、どういうことだ?儂には十束が日本神話勢を力で押さえつけたように聞こえるが」

 

「ああ、そうだよ。八坂の大将にこの話を持って行く前に十束の馬鹿は日本神話勢にカチコミを掛けやがったんだよ、一人で」

 

「なんだと!?」

 

「名は体を表すって言うだろう。今見えてる尻尾に騙されるな」

 

ちぇっ、ネタばらしが早いよ、鯉伴。久世さんが凝視してくるので束ねていた尻尾を解きながら膨らませる。左右に同じ数だけ向けて数えやすいようにする。

 

「七、八、九、十尾だと!?」

 

「潜在能力じゃあ大将を越えてんだよ、このいたずら子狐は」

 

あざとく可愛らしいポーズをとって狐っぽく鳴いてやる。

 

「齢七にして八坂を超える力を持つか」

 

「力を持ってるだけで使いこなせてるとは口が裂けても言えないですが」

 

「その硬い口調も止めにしろ。本当にいたずら好きな奴だな」

 

「我々の未来に関わる話です。硬くて結構。それで、この提案のっていただけますでしょうか?」

 

「乗ろう。だが、火室達はどうにもできぬぞ」

 

「鯉伴、奴らは主流か傍流、どちらだっけ」

 

「傍流も傍流。上は不況で生き残りのために運営方針切り替えてるからな。妖怪を退治したって金がもらえるわけじゃないからな。依頼があって初めて金になる。だから維持するために副業を考えてたぞ」

 

「なら、ああいう跳ねっ返りは閉まっちゃった方がいいんだよねー。ねぇ、おじさん」</div>

 

 

 

 

 

 

 

 

 

活気に溢れる街っていうのはいつ見ても良いものだ。いやぁ〜、2年前に一肌脱いで大正解だったな。まあ忙しすぎるのも問題なんだけどねぇ〜。組の立ち上げなんてまだまだ先で良いって言ったのに。それだけの力があるんだから若いうちから経験を積めだなんて。オレはまだ気ままに過ごしたいんだけどねぇ。

 

いつものように裏通りを和服に和傘に狐のお面に下駄と時代に喧嘩を売ってる格好で、よく考えたら裏京都じゃ普通か。表側だと観光客によく注目されるけど。一緒に記念撮影したりとか。綺麗なお姉さん達にだきしめられたりして役得です。さりげなくお世話になっている店に誘導したりしてますよ。客寄せパンダも兼ねてます。

 

そんないつもの休日に変化が訪れた。十字路の横から紅色の塊が突撃してきたのだ。

 

「きゃっ!?」

 

「ごはぁ!?」

 

気を抜いていたところに横からの衝撃に耐え切れず押し倒される。一瞬だけ尻尾を出して衝撃を殺したので怪我はない。とりあえず何が起こったのかを確認するために紅色の塊に視線を移す。そこには綺麗な長い紅色の髪を持った少女と言うか幼女と言うか、まあ年下の悪魔の女の子が居た。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん。それより、私行かないと」

 

「案内役から逃げてきたのか?」

 

逃げてきたという言葉にビクッと反応する少女にため息をつきながら立ち上がらせて、一緒に和傘の下に入らせる。

 

「静かにしてろよ」

 

「えっと」

 

「隠してやるよ」

 

そう言って妖力で傘の外側に貼っていた呪符を内側に貼り直す。絵柄が変わり、本当に誰かが覗いている目のような形に少女が驚く。

 

「ひぅっ!?」

 

「大丈夫だ。あの札は蛇の目と言ってな、傘の内側を曖昧にするものだ。怪しい行動をしなければ見られてもばれないさ。さあ、歩こう。ゆっくりで良いさ」

 

そのまま歩き出すと少女が後を追ってきてオレの帯をぎゅっと握る。

 

「ああ、帯はやめてくれ。服自体を掴んでくれ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「うむ、次からは気をつけてくれれば良いさ」

 

ちょうどその時、後ろからやってきた案内役の妖怪の姿を確認する。天狗の桔梗だと?つまりこの娘はかなり良いところの出か。はぁ、オレが面倒をみるしかないか。折角の休日が潰れるか。歩きながら式神を落として桔梗に事情を話しに行かせる。

 

「それで、なんで逃げてきたんだ?」

 

「だってつまんないんだもの。似ているようなところばっかり行くんだもの」

 

なるほど、確かに子供には神社は面白みがないからな。なら裏京都の方に連れて行くか。

 

「なら少しは楽しめる場所に案内してやろう。だがその前に腹ごしらえだ」

 

「腹ごしらえ?」

 

「この先に美味い団子屋があるんだよ。奢ってやるから着いて来な」

 

「うん」

 

歩いて5分程のところにある馴染みの団子屋に向かい、店の前の椅子に少女を座らせて傘を持たせる。それから店に入り店主の米さんに声を掛ける。

 

「米さ〜ん、いつもの団子2人前にいつものお茶と、子供でも飲みやすい甘めのお茶一つね」

 

「誰か一緒なのかい?」

 

「ちょっとね、外国の観光客の子供だよ。神社を回ったりするのに飽きちゃったみたいだからオレが相手してるんだ」

 

「そうかい。ちょいっと待っておくれよ」

 

そう言って米さんが年齢を感じさせない軽やかな動きで団子とお茶を用意してくれる。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとう。それじゃあ、これが代金ね」

 

財布から二人分の代金を払って戻ると、子供らしく足をぶらぶらとさせながら傘を回して遊んでいた。

 

「お待たせ。食べようか」

 

少女の分の団子とお茶をお盆ごと渡してやり、隣に座って団子に齧り付く。少女も食べようとしたところで傘に手を塞がれていることに気づき落ち込んでしまったので、尻尾で傘を持ってやる。

 

「ふわぁ、綺麗な尻尾」

 

「ふふっ、自慢の尻尾だよ。動物系の妖怪は尻尾がステータスになる重要な物でね、数が多ければ強さが、綺麗であるほどお金持ちであることが一目で分かるんだよ」

 

「どうして?」

 

「尻尾は力の塊なんだ。だから、数が多いほど力が大きい。尻尾を綺麗にするには、こまめに手入れをする必要もあるし、道具もいい物を使わなければならない。それにはお金がいっぱい必要なんだ。面倒だって思う人も多いしね」

 

「へぇ〜、そうなんだ」

 

興味深そうに尻尾に手を伸ばしてきたので遠ざける。

 

「勝手に触っちゃダメだ。力の塊だから何かあると問題が出るから。触る時はちゃんと許可を取ってからだな」

 

「ごめんなさい」

 

「素直な子は好きだぞ」

 

軽く頭を撫でてから傘を肩に担ぎ、おしぼりで手を拭いてやってから尻尾を差し出す。

 

「優しくな」

 

「いいの?」

 

「ああ、構わないよ」

 

少女はおそるおそる尻尾に手を伸ばして尻尾に触れる。

 

「ふわぁぁ、すごい手触り!!それにあったかい」

 

少しずつ大胆に触り始め、最後には抱きついて頬ずりまでする。まあ、気持ちはわからないでもない。今でもオレは尻尾に包まれて眠っているからな。しばらくして十分に堪能したのか尻尾から離れる。髪が乱れているのをオレのつげ櫛で梳いて整えてやる。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして。それよりも団子、硬くなっちまうぞ」

 

そう言うと慌てて団子を食べ始める少女を見て少しだけ笑みがこぼれる。良い所の出でも、子供らしく出来ているということは良い家族なのだろう。そう思いながら、尻尾の手入れをする。櫛を通して枝毛を爪で切り、隣で団子を喉に詰まらせている少女の背中を叩いてお茶渡してやる。団子を食べ終わり少しだけゆっくりした後に裏京都への入口へと誘う。

 

「ここは?」

 

「この小屋から少しは楽しめる場所に入れるんだよ」

 

少女の手を引いて小屋へと入る。

 

「おや、坊。そっちの子は?」

 

門番のヌリカベの土門が声をかけてくる。

 

「何、神社巡りに飽きた子の案内だよ。オレが付いているから、通してくれるか」

 

「まっ、妖怪の懐で暴れるような馬鹿もめっきり減ったし、坊が付いてるなら問題ないじゃろう。お嬢ちゃん、坊から離れるなよ。ちぃっとばかし乱暴者というか、酔っ払いがいるからのう」

 

「またこんな時間から呑んだくれてる、ああ、鬼どもか」

 

「うむ、あれはああいう種族だから気にしたら負けじゃ。さて、ようこそ裏京都へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

疲れ切って眠ってしまった少女を背負い、肩には蛇の目を貼った傘を担ぎ、桔梗から知らされているホテルへと向かう。良い所の出だとはわかっていたが、まさか現魔王の一角を輩出したグレモリー家だったのは予想外だった。グレモリー家が宿泊しているホテルに近づくと、入口の所に紅髪の若い男性と銀髪の女性が立っていた。

 

うわぁ〜、男の方、魔王サーゼクス・ルシファーじゃないか。ってことは隣の女性がグレイフィア・ルキフグスか。戦いになることはないが、戦えば京都は壊滅だな。こっちも全力の十尾の妖狐形態じゃないとどうしようもない力を感じる。嫌いなんだよね、妖狐形態。尻尾と耳が生えるだけの獣人形態はともかく、巨大な狐となる妖狐形態はメリットよりデメリットの方が大きくて嫌いだ。獣性を強くなるからコントロールも難しい。メリットなんて龍脈の力を使った大掛かりな術式を使えるぐらいだよ。

 

さて、現実逃避はやめてと。蛇の目を剥がして姿を現すと件の二人が驚いている。とりあえず今のうちに畳み掛ける。

 

「グレモリー家の方でよろしいでしょうか?」

 

「あ、ああ、そうだよ」

 

「グレモリー家のご令嬢をお連れしました。まあ、見ての通りお疲れになって眠ってしまいましたが」

 

よだれで肩が冷たいから早めに抱きかかえてあげてほしい。

 

「すまない、グレイフィア」

 

「はい」

 

グレイフィア・ルキフグスが背中の少女を抱きかかえる。そういえば結局お互い自己紹介をしていなかったな。

 

「では、私はこれで」

 

「少しだけ良いかな?」

 

「なんでしょう」

 

「君の名前を教えてもらえるかい?」

 

「妖獣会総大将八坂が息子、十尾の十束と申します」

 

オレの名前を聞いて二人が驚いている。うん、その反応には飽きた。2年前からオレの名前を聞いた相手は全員そんな顔をするから。

 

「君があの。いや、失礼した。私はサーゼクス・グレモリー。隣にいるのは妻のグレイフィアだ。今日は魔王とは関係なく来ている。妹が迷惑をかけたようで」

 

「いえ、構いませんよ。京都と裏京都を好きになってくれたのならそれで」

 

「君は故郷を愛しているんだね」

 

「ええ。大好きです。だから、面倒でも十尾を晒して日本神話にカチコミをかけました。それだけの価値がここにはある。だから、貴方方も好きになってくれたら、嬉しいです」

 

別れる前に少しだけ妖力を使って狐火と幻術を利用して周囲の風景を幻想的に彩らせる。

 

「それでは最後まで京都の旅をご堪能ください」

 

一礼をしてから再び蛇の目を貼り直してその場から離れる。

 

 

 

 

 

 

 

グレモリー家のご令嬢の裏京都の案内を終えて一月後

 

「また来ちゃった」

 

「いや、まあ、オレが指名された時点でなんとなく分かってたけど、今回は一人なのか?」

 

「ううん、グレイフィアも一緒に来てる」

 

「お久しぶりです、十束様」

 

前回会った時は私服だったグレイフィアさんが今日はメイド服を着ている。恐ろしいぐらいにミスマッチしていて視線が集まる。

 

「えっ?グレイフィア、名前知ってるの?」

 

「はい。お嬢様がお眠りになっていた時に送ってくださいまして、その時に」

 

「ずるい!!私は聞いてないのに」

 

「聞かれなかったからな。おっと、仕事口調に直した方がよろしかったですか?」

 

グレイフィアさんに確認を取る。

 

「いえ、そのまま普段通りで構いません。その方がお嬢様もいいそうですので」

 

「ならこのままで。さて、改めて自己紹介だな。オレは十束だ。前みたいに狐のお兄ちゃんでも構わんぞ」

 

「私はね、リアスって言うの。リーアでいいよ」

 

グレイフィアさんが軽くため息をついているところを見ると礼儀作法に関しては習い始めてはいるようだ。まあ、ここでは一人の少女として過ごさせてあげてください。

 

「じゃあリーア、表と裏、どっちを案内してほしい?」

 

「裏が、やっぱり最初にお団子屋さん!!あと、狐のお兄ちゃんみたいな服を着てみたい!!」

 

「はいはい。それじゃあ、前と一緒の団子屋に行こうか」

 

「うん」

 

前と同じように手をつないで歩き出す。これがオレとリーアの長い付き合いの始まりとなった。

 



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ハイスクールD×D 妖狐伝 2

妖怪に関しては独自設定です。ただ、変にしっくりきた気がします。皆さんはどう思います?


 

 

 

「う~ん、妖怪?」

 

「……なんでしょうか?」

 

「もう一度聞くけど、本当に妖怪?」

 

「何故疑問なんですか?」

 

「いえ、私って妖怪によく会うと言うか、よく裏京都に遊びに行くから妖怪と触れ合うことが多いんだけど、妖怪っぽくなさすぎて。微かに妖怪っぽい気配はあるから妖怪?何かの残滓に憑かれたりしてるだけって落ち?ダメだわ、専門家に聞いたほうがいいわね」

 

「存在を全否定してそれはひどいです」

 

新しい眷属候補の自称猫又系妖怪の小猫のことを専門家に聞くために携帯を取り出す。案内の仕事は最近ほとんどしてないって言ってたからたぶん大丈夫だろう。

 

「あっ、十束、今大丈夫かしら?」

 

『どうかしたのか、リーア?』

 

「それがね、私の新しい眷属候補の娘なんだけどね、本人は猫又系の妖怪だって言ってるんだけどあまり妖怪っぽくないのよ」

 

『大体は予想がついたな。その娘、妖怪の知識がほとんどないな。治療の名目で特別許可証を発行するからオレの組本部に連れてくるといい。出来るだけ早く連れてきたほうがいいな』

 

「それじゃあ、30分後に連れて行くわ」

 

『こちらも準備を済ませておく』

 

「わかったわ。というわけで小猫、30分後に京都に行くわよ。まあ、特に何か必要ってわけじゃないけど」

 

「あの、先ほどの電話のお相手はどういった方なんですか?」

 

「十束?妖狐の妖怪で表と裏、両方の京都を守護する京盛会の会長補佐兼裏京都を守護する妖獣会会長八坂様の実子で直系若葉組の組長よ」

 

「……ヤの付く自由業の方ですか?」

 

「そこまで物騒じゃないわよ。初期型のマフィアに近いかしら」

 

「あまり変わりませんよね、それって。堂々と看板を出してるかどうかの違いだけで」

 

「大丈夫よ、あくまで自警団っぽい形から抜け出してないから。シノギを奪い合ったりもしてないし。元々の設立理由が不況を乗り越えるために閉鎖的だった京都を他種族にも開放して、その他種族が暴れないように見張る自警団だから。今はこの状況を維持しつつ世代交代を潤滑に行うための幹部育成の為と合法的に観光収入を増やす為の金策の為に幾つかの組が増えているだけだから。武闘派がいないとは言わないけど」

 

「全然大丈夫じゃないように聞こえるんですけど」

 

気にしないでおこう。八坂様や十束が居る限り妖獣会の方は問題ないはずだ。京盛会も同じく。問題があるとすれば表側の安晴会の過激派たちだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、裏京都へ。オレが十束だ。君がリアスが言う眷属候補か?」

 

「はい、塔城小猫です」</div>

 

「話は長くなるだろうし、立ち話もなんだ、奥に茶と団子を用意してある」

 

小猫とリーアを奥に案内して一服してから話を始める。

 

「そもそも、妖怪とは何なのか?話はそこからになる。分かっていればここまで力を落としているわけがない」

 

「そうなのですか?」

 

「ああ、そこらへんも詳しく説明する。まず、妖怪とは何なのか。それは人々の恐怖などの感情、畏れから生まれた現象が起源となる隣人だ」

 

「現象?」

 

「そう、最初は人間たちが理解できなかった自然現象や、作り話などから畏れが生まれ、それが一定以上の力を得たことで生まれた存在だ。今のオレたちの世代はそうして生まれた現象から生まれた、この世に安定して生まれた存在、それが妖怪だ。厳密には違うが精霊と幻想種と普通の動物の中間ぐらいの存在だ」

 

「いきなり分かりにくいんだけど」

 

「まあそうだろうな。起源に関してはあまり重要ではない。重要なのは畏れの部分だ。オレたちの元になった存在は畏れの塊だ。つまり妖力と呼ばれるものはこの畏れを指す言葉だ。そしてこの畏れは恐怖などの感情から生まれる。畏れはオレたちの存在そのもので力だ。その畏れを得る為にオレたちはわざと自分たちの話を人間の間で広めた。今でも実際に話通りのことを行って畏れを得ることもあるし、人間たちが都市伝説扱いしだした話で生まれた現象もいる。紹介した方が早いな。メリー、少し来てくれるか」

 

しばらく待つと奥の部屋から西洋人っぽい少女が現れる。

 

「呼んだかしら、十束」

 

「すまないな、今は妖怪と現象についての説明をしていてな。近くにいる現象が今は君しかいないのでな」

 

「ああ、分かりにくいからね。はじめまして、私はメリー。『メリーさん』って怪談話を聞いたことはあるかしら」

 

「確かメリーさんという女の人から何度も電話がかかってきて、今何処何処にいるのって言う場所がどんどん近づいてきて」

 

そこまでリーアが話したところですでにメリーが力を使い、認識をずらして念話をリーアの携帯に繋げる。何も考えずにリーアが携帯をとり、あのセリフが聞こえる。

 

『私、メリーさん。今、あなたの後ろに』

 

振り返ろうとするリーアの頭を抱きしめて振り返らせない。

 

「メリー、止めろ。怒るぞ」

 

「は~い」

 

力を封印したのを確認してからリーアを放す。

 

「大丈夫だな、リアス」

 

青ざめているリーアの体調を確認する。うむ、大量の畏れがメリーに流れ込んだだけだな。これならすぐに回復するだろう。

 

「い、今、体を止めれなかった。話を、知っていたのに」

 

「それが現象の力だ。話通りのことしかできないが、強制力は半端ではない。振り返っていたらメリーに首を刈られて死んでいた。そして、今メリーを恐れたことで大量の畏れがメリーに流れ込んだ。少し休めば大丈夫だ。メリー、もういいぞ」

 

「はいは~い。それじゃあね」

 

メリーがまた奥の部屋に戻り、しばらくしてリーアが落ち着いてから話を続ける。

 

「あれが現象だ。現象が誰かと交わって産まれた子供が第1世代の『メリーさん』の妖怪だ。大きな違いは話通りにしか力を使えないか、それを発展させることができるかが現象と妖怪を分ける」

 

「違いは分かったわ。それじゃあ小猫が妖怪っぽくない理由って畏れが少ないから?」

 

「ほとんど残ってないな。今はギリギリ名前の補正分だけしか畏れの供給源がないにも関わらず、色々なものに怯えたのか溜め込んでいた分を全部使ってしまったのだろうな。とりあえず、詳細な種族を特定してそれに合った供給方法を確立、それから別の供給源を用意した上で畏れの使い方を覚えないとな。とりあえず心構えその1、誰かと戦う際には名乗りを上げて挑発する。ちょっとでもビビらせれば小石のような量だが畏れは得られるし、倒せばそれなりに貰える。驚かす前、驚かした後に自分であると見せつけるのが重要だ。分かりやすく説明する前にちょっとだけ畏れを渡しておく。馴染まないから1日も持たないが応急処置だ」

 

尻尾を伸ばして腕に巻きつけ少しだけ畏れを渡す。くすぐったそうにしているが仕方ないことだ。自分にあった畏れではないからな。その分、離れやすくもある。ある程度渡したところで小猫に見えないように合図を出す。同時に小猫の背後に大きなタライに乗った赤ん坊を抱っこした女性が降ってきて大きな音を立てる。それに驚いた小猫の隠れていた耳と尻尾が現れる。それと同時に異変に気付いたようだ。

 

「実感した通りこんなのでも畏れは得られる。ありがとう、沙耶さん。弥生も元気に育てよ」

 

釣瓶落としの沙耶さんが帰るのを見送ろうとしたらリーアが弥生が気になるようで部屋の隅に移動する。

 

「というわけでしばらくの間は誰かに着いて行ってその補助で畏れを貯めることから始めるぞ。このままだと妖怪として完全に死ぬからな。というか、尻尾が1本ってことは化け猫か。桜組の吉野に任せるか。リーア、猫又になるまでは吉野の所に預けるぞ」

 

「構わないわよ。ただ、あまり悪魔には関わらせないであげて。お姉さんが主人を殺してはぐれ認定されているから、その所為もあって保護という形で私の眷属にする予定だったの。だから、悪魔の中にはまだ眷属じゃない小猫にって、京都にいるんじゃ問題ないか。ここで暴れるような馬鹿は、今でもいるの?」

 

「酒飲んで暴れる馬鹿は今でもちらほらいるぞ。まあ、それぐらいは可愛い物だ。お祭り扱いで処理できるから」

 

「あの、どうしてそこまでしてくれるんですか?」

 

「なに、数少ない同族を助けるのに理由がいるのか?よっぽどでない限りオレたちは同族を受け入れるよ。それにウチの若葉組は身寄りのない者や力のない者を育て上げるという理念の元に動いているのでな、これも仕事なのだよ。ちなみに本人の意思が尊重される。嫌なら出て行っても構わないが、最低限の知識を得てからの方がいいだろう」

 

「何故でしょうか?」

 

「悪魔に転生しようともベースは妖怪だ。畏れの使い方を知らねば肉体的成長は絶望的だと言っておこう」

 

たぶん、ほとんど成長できないだろうな。

 

「お世話になります」

 

素直に頭を下げてくる小猫に満足して吉野に電話をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小猫を預かって半年、本名の方も教えてもらい、予想よりも早く畏れを集め、使い方を熟知し、尻尾が二股になる。傍にいて分かったが仙術の素質もある。これは本気で化けると思ったのだが本人がそれを嫌がったために手をつけないでおく。それでも、基礎の基礎だけは叩き込んでおく。いつでもその力を使えるように。それと同時に保険もかけておく。世界の悪意を精神ではなく肉体に作用させるように。そして手本を見せておく。失敗した時がどうなるかも。

 

「これが成功時だ。畏れ以外の力が感じられるはずだ。気配も変になっているだろう」

 

「はい。それに匂いも薄い感じがします」

 

「自然に近づくからだな。そして扱いを誤れば精神か肉体に影響をもたらす。こんな風に」

 

袖をまくり上げて狐に近づいた肌を見せる。完全に飲まれれば知能を持たない妖狐になるだろう。

 

「リミッターをかけておいた。白音も飲まれれば精神ではなく肉体の方に影響をもたらすようにな。悪魔に転生してから完全に飲まれれば、おそらくは4~7周目の猫になるだろうな」

 

「周目?」

 

「ああ、知らないのか。西洋の方にある話だ。ネコは9つの命を持っているという妖怪だ。輪廻転生を繰り返すうちに力と知恵を身につける。100万回死んだネコとはそれの現象にして起源だ。悪魔に転生することで転生に触れてしまうからな。おそらくはそっちに流れる」

 

ネコの妖怪は多いからな。吉野は細分化が難しいと言ってたな。

 

「仙術とは世界の気を取り込んでその気を扱う術だからな。そして自然とは時に恵みを時に災害をもたらす。それが陰と陽、悪と善となる。だが、これらは表裏一体。自分たちの得になる物を善、害になる物を悪と呼び習わしているだけであり、本質的には同義であり、世界は常に回っている。それを一番理解して表現しているのがこの陰陽玉だな。全くの同一の大きさに切れば絶対に陰と陽を完全に分けることはできない。これは世界の一つの縮図と言っても過言ではない。これを見て、昔を思い出し、少し考えてみるといい。オレからは以上だ。転生悪魔になればこれまでのように自由に京都に来れなくなる。まあ、他の悪魔に比べれば簡単には来れるだろうがな。それじゃあ、リアスが迎えに来るまでの3日間は好きに過ごすといい」

 

「はい」

 

白音が屋敷から出て行き、十分に離れたところで話しかける。

 

「妹は先に進もうとしているぞ。お前はそれでいいのか、黒歌」

 

「にゃ~」

 

「都合の悪い時だけ猫になるんじゃない。お前もそろそろどうしたいのかを見定める時期だ。別にこの組に居るのは構わん。だが、ここは仮の宿だ。いつかは巣立つ日が来る。いずれ、な」

 

話はそれだけだと茶を啜る。黒歌は何も言わずに猫のままでオレの膝の上に乗る。姉妹の会合は果たされずに時は進む。

 

 

 

 

 

</div>

 

 

 

 

白音は小猫として悪魔となり、黒歌も若葉組を離れてしばらく、ようやく成人を迎えて酒を飲み始める。妖怪の体というのは不思議な物で酔おうと思えば酔えるし、酔いたくなければ酔わない。鬼どもが酔っ払って乱痴気騒ぎしているのはわざとなのだと理解する二十歳の夏。オレは危機に陥っていた。命ではなく貞操だけどな!!しかもよりにもよってなんでこの人なんだよ!?

 

「ほらほら、こわくないこわくない。ぜ~んぶ、お姉さんに任せてくれればいいのよ。私も初めてだけどなんとかなるって」

 

「お客様、ガイドへの過度のお触りは禁止されてます。というか、力ずくになると後始末が面倒になりますけどこのまま犯られるぐらいなら殺りますよ」

 

押し倒されている状態で気を取り込んで尻尾を全て展開する。龍脈の一部に触れて完全な戦闘態勢をとる。この人相手に手加減などしてたまるか。というか魔王の初めての相手なんてやったら面倒なことにしかならんわ!!

 

「もぅ~、いけずなんだから~」

 

「こんな若造を相手にしなくても貴女なら選び放題でしょう?私は今のところそういう願望はありませんので」

 

「ぶぅ~、リアスちゃんにはあんなにべたべた触らせてるのに~」

 

「小さい頃から遊んでますからね。それに仕事じゃなくてプライベートで会ってますから」

 

「ずるいずるい、私ともプライベートで会え~!!」

 

「お断りです!!せりゃ!!」

 

巴投げで覆いかぶさっていたセラフォルー・レヴィアタンを投げ飛ばして起き上がり、結界を張る。

 

「これ以上やるなら、こちらも全力ですよ。妖獣会直系若葉組組長、十尾の十束、ガチで命取りにに行かせてもらうぞ!!」

 

「ごめん、待って、今のでお酒が回って、気持ち悪い」

 

本気で気持ち悪そうにしているセラフォルー・レヴィアタンを見て完全に毒気を抜かれる。そりゃあ、オレを酔わそうと自分もかなりのハイペースで飲んでたからな。いざという時のエチケット袋を渡して背中をさすってやる。ある程度落ち着いたところで水を飲ませて、膝枕をリクエストされたので呆れながらもしてやり、サービスで尻尾で覆ってもやる。はぁ、甘いよな、オレって。

 

 

 

 

 

 

 

 

「修学旅行に京都とは、あまり見るところがないな、リアス」

 

「入り浸りすぎたからね。まあ、ソーナたちは違うし最近表の方のお店には行ってないから大分変わったんでしょう?」

 

「まあ、色々変化はあるな。ただ、また安晴会の過激派がなんか企んでいるらしくてな、ちょっと行動範囲を制限させてもらうことになる。ガイドも直系の組長・若頭クラスだけで回している。万が一があってはこまるからな、すまん。おっと、自己紹介が遅れたな。事前に聞いていると思うが、オレが今回のガイドを務める妖獣会直系若葉組組長、十尾の十束だ。ガイドによって案内できる範囲が変わってくるが、オレは表裏何処でも案内できる。短い間だがよろしく頼む。さて、どういった場所を案内しようか?」

 

「ソーナたちは神社とか仏閣って興味ある?」

 

「それ以外に何か見るものでもあるのですか?」

 

「食べ物も美味しいし、着物とか櫛や簪みたいな小物とか、地元民しか知らないような名所とか、裏の方で鬼とお祭り騒ぎとか」

 

「商魂逞しく着物や小物はレンタルとかもやっているぞ。着付けも店側で行ってくれる。食べ物も店によってはお土産として長期保存できるように加工も行う。裏のお祭り騒ぎはいつものことだが、日によって宴会芸が変わるな。やってみたいこと、見てみたいものがあるなら言ってくれれば最大限便宜を図るぞ。不況がトラウマになってるからな。金持ち相手には職人の拘り以外は捨てる覚悟がある」

 

「トラウマですか?」

 

「まあ簡単に説明すると、不況が原因で京都を焼きかけた」

 

リーアも初めて聞いたのか絶句している。

 

「それぐらいヤバかったんだよ、表と裏の軋轢が。不況に職人の後継者問題、陰陽師の過激派と乱痴気騒ぎを起こし回る鬼ども。色々な要因が積み重なってそうなりかけた。それをなんとかするために奔走した結果が今の京都だ。本当に焼かれなくて済んで良かったと心から思ってるよ。それを理解している奴らは職人としての最後の一線以外は投げ捨てるぞ。おかげで外国人や悪魔の弟子がそこそこいる」

 

「外人はともかく悪魔の弟子なんて見たことないんだけど」

 

「会ってるぞ。米さんの所のジンはそうだ。とある上級悪魔の三男だ」

 

「えっ、嘘!?魔力が全然感じられなかったのに!?」

 

「リアス、そこも驚く所ですが上級悪魔の三男が弟子入りしている所も驚く所ですよ。あと、逗留が認められている所も」

 

「えっ?私、普通に逗留を認められてるけど」

 

「「「えっ?」」」

 

「えっ?」

 

「ああ、あまり知られてないが逗留許可は直系組織の組長、または京盛会の審査委員会が出せるんだが、審査の基準はそれぞれだ。ただ、その相手が京都全体にとって害にはならないと判断するのが最低条件だ。飲兵衛共は鬼が簡単に逗留許可を出すから比較的多いな。ちなみにリアスは京盛会の方からの許可だな。グレモリー家がかなり京都に落としてくれたからな、そちらの方から許可が下りていたはずだ。オレも個人的に出しているけどな。リアスとは付き合いが長いし、昔はしょうもないことで家出まがいなことをしてこっちに来て遊んで、疲れて眠った所をグレイフィアさんに回収されていってたからな。一々許可を取っていたグレイフィアさんに同情して逗留許可制度を作ったんだし」

 

「リアス、貴女」

 

「ち、小さい頃だったんだから仕方ないでしょ!?」

 

「ああ、そうだな。3歳の時に暇だからと脱走してオレにぶつかったのが付き合いの始まりだもんな」

 

「十束はちょっと黙ってて!!」

 

「はっはっはっはっは、グレイフィアさんにとことん弄るように言われてるから無理だな。力の抜きどころを増やせってことだな。仮面を被らなくてもいい相手を増やせ。肩肘張りすぎだと思われてるんだろう」

 

「それを言うなら十束だって」

 

「リアスが知らないだけでオレは肩肘など張っていないさ。今も昔も暇を見つければ組を抜け出しては京都中を練り歩いているからな。オレは京都が大好きだからな」

 

閉じていた傘を広げて肩に担ぐ。子供の頃とは違い可愛らしいという評価よりも今では歌舞いていると言われるぐらいには様になった行為。傘自体も独特の模様で畏れを含むそれに周囲から音が飲まれる。話の腰を折るには最適だ。

 

「オレが好きな京都を君たちにも好きになってほしい」

 

大好きというよりも愛していると言った方が正しいか。だが、そのためにオレは縛られている。何かを得るためには何かを手放さなければならない。状況によって手放すものは変わるが、オレが今欲しい物は京都を愛している限り得ることはできない。ままならない物だ。なあ、リーア。

 

 



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ハイスクールD×D 妖狐伝 設定

十束 原作開始時24歳

 

前世はしがない調達屋。前世もD×D世界と同じく神秘にあふれた世界(神系統はいない。あくまで魔術師が多いだけ)で、依頼を請け負って触媒を調達して報酬をもらう仕事をしていた。調達屋としては珍しく、専門の魔術系統を持たずにどんな魔術系統の触媒も調達することができるが専門の超一流には敵わなかった。あらゆる魔術系統をかじっていたために神秘の気配に恐ろしく敏感であり、解析もお手の物なために対抗魔術を編むのも得意。才能に恵まれなかったために戦闘力は大したことはなかったが、逃げ足と精密作業だけは神秘なしで人外クラス。魔術結社同士の争いに巻き込まれ、インフルエンザで弱っていた所、流れ弾によって死亡。享年32歳独身。

 

今世では八坂の長子として生誕。尻尾の魅力にとりつかれて前世の知識もフル活用して力をつけた。今世では才能に恵まれたために戦闘力は超越者クラス。だが、逃げ続けた前世のためか戦い自体をあまり好まない。性格も前世を引きずっているために人間より。その所為か面白そうな術に手を伸ばしては肥やしになっている。忍術とか仙術を宴会芸にしか使わないので師匠に嘆かれている。

 

全力を出す際には二つ名の通りに巨大な十尾の妖狐となるが、獣性が強くなるので好きではない。周りがうるさいので15歳で独立、京盛会会長補佐兼妖獣会直参若葉組に就任。力の弱いものや身寄りがいない妖怪を集めて独り立ちができるまで育て上げていく。

 

趣味は京都の散策。好きな食べ物は米さんの店の団子。常に和服を着て櫛と和傘と狐の面を持ち歩いている。和傘がトレードマークで、これを見せつけることで種族として得られる畏れを自分自身に集中させる術式を確立。ニートや隠居勢を労働力に変える。妹の九重には恥ずかしがられて逃げられることが多く若干凹み気味。

 

普段は若葉組の面倒を見ながら魔王クラスの者が京都を訪れる際のガイドを務めている。今、一番欲しいものは色々なしがらみから諦め気味。だが、あり得ないだろうが、しがらみを無視、あるいはすべてが解決するチャンスが訪れたなら、真価を見ることになるだろう。

 

 

 

 

リアス・グレモリー

 

原作とは違い京都で十束と出会ってからよく京都を訪れる。悪魔よりも妖怪の方が知り合いが多いし、顔も売れている。妖怪独特の種族特性に触れることが多かったために滅びの魔力の扱いが上がっている。また、十束世代の妖怪は十束を真似て道具を使って種族ではなく、自分自身をアピールすることによって畏れを効率的に集めていたのを見て、仲間はずれが嫌でそれを真似て深紅に金色の蝶を入れた扇子を持ち歩いている。あと一歩でサーゼクスとは別方向で超越するが…

 

周囲にバレバレとまでは言わないが、それでも誰かを思っているのはグレモリー家中にバレている。原作とは違い婚約者がまだいない。これが後の火種にならないといいなぁ~(小並感)

 

原作とは違い、変な日本文化に毒されていない。まあ、本物の忍者とか侍には会っているので若干感性がずれているが。

 

 

 

 

 

塔城小猫

 

原作とは違い尻尾は二股に。髪を伸ばし、身長は平均よりも上だが、装甲は薄い。そのためマスコット扱いはされていない。原作よりも防御力はすごいが装甲は薄い。大事なことなのでもう一度、『装 甲 は 薄 い(ちっぱい)

 

原作とは違い妖術の扱いはお手の物。幻影や幻術が得意。魔力は肉体強化が得意。また自分だけの特性として溜め込むことと一気に放出することに特化している。遠距離攻撃が投擲しかないことに若干悩んでいる。だが、とある紳士の言葉で悩みがなくなる。『逆に考えるんだ。遠距離攻撃なんていらないと』高機動による一撃離脱が基本スタイル。高機動の癖に高い防御力と攻撃力を持っている一種の反則くさい性能である。

 

一応十束世代と見なされるために漆塗りで金で猫の肉球の模様が入っている印籠を持っている。中身は兵糧丸10粒。1粒で5000キロカロリー。

 

フードファイターとして駒王周辺の早食い大食いチャレンジの店の店員から恐れられている。預けられていた桜組は遊郭も経営しており、組長の吉野は花魁なため、その影響もあって若干妖艶な空気を醸し出すことも。装甲は薄いけど。最近は女子高生フードファイターとしてテレビに出演。効率よく畏れを集めている。

 

 

 

 

 

黒歌

 

原作よりも妖術の扱いに長ける。一時期は若葉組に身を寄せており、ちゃんとした妖怪の教育を受けたために実力が上がっており尻尾も三股になっている。着物を着崩していたのは吉野から遊女でもない癖に着崩して男に媚びるのは遊女を舐めているとブチ切れられたためにちゃんと着こなしている。

 

例に漏れずに十束世代のために、強靭である女郎蜘蛛の糸を織った羽衣に自分の血で楽譜を刻み込んだ物を持っている。

 

羽衣での畏れの効率化を上げるために音を利用することが多い。和楽器を使うこともあればただの音に畏れを混ぜたり、言霊を扱うことも。

 

 



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ハイスクールD×D 万の瞳に映るもの

 

包装されているビニールを開けてお気に入りのあんパンをかじる。

 

「はぁ、また手を洗いもせずに」

 

背後から声をかけられるが聞こえないふりをする。

 

「聞いてるんでしょう、修。ちゃんと手を洗ってからにしなさいと何度言えばわかるのですか」

 

「間にビニールがある。直接触っているわけではない」

 

「そうでしょうけど」

 

「それより、何の用だソーナ?頼まれている物はまだ完成していないぞ」

 

「今日は調律の日でもうすぐ時間ですよ。忘れているだろうと思って迎えに来たんですよ」

 

「もうそんな時間だったか。すまないな。時間だけは誰かに教えてもらわないと分からないものでな」

 

「知っていますよ。それにしても、何度見ても凄いですね。目が見えていない状態で作ったとは思えない」

 

「五感の一つを失おうとも、残った感覚がそれを補ってくれる。聴覚と触覚で大体のことがわかるようになる。あとは慣れだ」

 

道具をまとめて残っていたパンを口に押し込み、エプロンと作業服のツナギを脱ぎ捨てる。無論、下には普通に服を着ている。

 

「いつもの場所だな?」

 

「ええ。そうです」

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

作業部屋から修が出て行った。酒井修、10年前にお姉さまが保護した人間の男の子で私の幼馴染で、自ら目を封じた芸術家。何故、目を封じたのか理由を聞いても答えてくれず、常に目を特殊な布で覆っている。芸術者としては色彩を捉えられない絵画以外は万能で、特に音楽と舞踊に長けている。だが、一番評価されているのは彫刻で今も何処かのホテルのロビーに飾るための彫刻を作っている。

 

目を封じているにもかかわらず、まるで全てを見通していると思われるぐらいに歩く姿に迷いは見えない姿にある種の憧憬を抱いたこともあった。だが一度だけ、寂しそうに、苦しそうに、涙を流している姿も見たことがある。それがとても印象に残っている。そんな修は私と同じ年齢ながらも芸術家としての才能をフルに発揮し、数々の賞や名声を得ている。人間界の方に持ち込んでもそれは同じことでやはり数々の賞を受賞している有名人である。

 

だが、人付き合いが、正確には人ごみが苦手な修の顔を知る者は少ない。私たちシトリー家の者と親交が深い家の数人と言ったところだろう。だからだろう、私が間違えられたのは。

 

 

 

 

 

 

 

調律の途中でソーナが拐われたとシトリー家内が騒がしくなった。現場は僕の作業場。おそらくは僕に間違えられたのだろう。なんでいつも悪い方にしかならないのだろう。この目もそうだ。僕はただ普通の目が欲しかっただけなのに。

 

僕は、所謂転生者というやつで、しかも転生特典を神と名乗る何かから与えられて。僕は前世では生まれつき盲目だったが、それが逆に功を制したのか芸術に関する才能を開花させた。だが、どうしても自分の作品を見るということができなかった。そして神を名乗る何かは強く願った物を与えると言い、僕は目を望んだ。

 

だが僕の思いが強すぎてありとあらゆる魔眼をを宿してしまった。僕はそれを憎み、自ら再び目を閉ざした。目を閉ざすための特殊な布を貰う代わりに、僕は自分の前世での作品を作り、それを布をくれて保護してくれているセラフォルー・レヴィアタンに引き渡す生活を送っていた。だが、それも終わりだろう。これ以上、迷惑はかけられない。最後にソーナを助けてから再び、この命を絶とう。自室に戻り、今まで世話になった礼のメモと魔眼殺しの布を机の上に置き、13年ぶりにその目を開く。

 

さて、全てを終わらせよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは突然だった。

 

修と間違えられて拉致された私は貞操の危機に陥っていた。だが、それは青い光線によって遮られる。青い光線に飲み込まれた誘拐犯の一人が消し飛ぶ。

 

「眼魔砲。ほとんど消耗無しでここまでの威力があるとはな」

 

青い光線を放ったと思われる者の声が聞こえ、驚愕する。ここに居るわけがない。そしてこんな力など持つはずのない人間。顔を声の聞こえた方に向けると青く光る左目と周辺の神経が膨張している赤く光る右目を開いた修が立っていた。

 

「右方向に2回ころがれ!!」

 

修の命令に違和感もなく従い転がると同時に私が居た位置に飛び込んできた男の上半身が捻れて消え去る。

 

「くっ、神威は疲れるな。ソーナ、そこから動くな。すぐに終わる」

 

その言葉通り、残っていた者たちが倒れる音が聞こえてくる。そして初めて見る修に驚く。

 

「は、ははは、ちくしょうが!!何故そっとしておいておくれなかったんだ!!こんな力、望んで手に入れたわけでもないのに!!ただ普通に世界を観れる眼が欲しかっただけなのに!!また世界は僕から光を奪うのか!!」

 

感情が暴走して叫び続ける修に私は声をかけることができなかった。しばらくして落ち着いたのか私の方を振り返った修の両眼が黒い瞳の中に羽を広げた鳥のような物に変わっていることに気づく。

 

「すまないが、記憶を書き換えさせてもらう。僕は自らの命を絶つ。だけど、誰かを悲しませたくはないから、僕という存在を消させてもらう」

 

本能的にあの眼を見てはダメだと思い、修に抱きつき、顔を胸に埋める。

 

「離れろ、ソーナ。眼を見るんだ」

 

「嫌です。眼を合わせるタイプの魔眼なのでしょう。絶対に見ません」

 

「別にこれ以外にも記憶を変える魔眼はある。痛いかどうかの違いだ」

 

「それならそちらを使えばいいでしょう」

 

顔を胸に埋めている分、鼓動の揺れが分かりやすい。記憶を書き換えるには眼を合わせる必要がある。絶対に眼を見てはならない。どれだけ時間が経ったのか分からないが、我慢比べは私が勝ったようだ。修がため息をつく。

 

「もういい。あとはセラフォルー様だけだ。不意打ちで書き換えてソーナは放置する」

 

「ダメです。逃がしません。修が諦めるまでこのままです。覚悟がない修には絶対に負けません」

 

「……僕に覚悟がないと思うな!!」

 

そう言って、修は私の右肩に手を置き、骨を握りつぶす。あげそうになる悲鳴をかみ殺していると今度は左肩を握りつぶされる。抱きついていた腕に力を入れれなくなる。このままでは引き剥がされると思い、服に噛み付く。

 

「ソーナ、お前……」

 

「ぜっひゃいに、はなひまひぇん」

 

「…………ちっ、僕の負けだ。記憶はこれ以上書き換えない。肩の治療をするから離れろ。こいつは視界に入れないと効果がないんだよ。僕の今までの人生に賭ける」

 

「……きぇいやきゅでぇしばりましゅ」

 

「構わない」

 

素早く意思同意のみの簡易的な契約を結んで少しだけ離れる。もしかしたらこれだけでは抜けられるかもしれない。だけど、今までの人生にかけると言った修を信じたい。

 

「こいつは、時間がかかる。フェニックスの涙のような即効性はない」

 

今度は瞳が暗い翡翠のような色になっている。それと同時に少しずつ肩の痛みが引いていく。確かに即効性はないようだが、それでも悪魔を治療できる魔眼は初めて聞く。また無言が続き、私の肩が完全に癒えたところで修は壁を背にして座り込み、手で顔を覆い隠す。そこに居たのは今まで見たこともないぐらいに、それこそお姉さまに引き取られた頃よりも弱り切った修だった。

 

「修、話してもらえませんか。貴方が、いえ、貴方の……」

 

何を聞けばいいのだろう。魔眼のことか?お姉さまに拾われる前のこと?これからどうするのか?違う、もっと根本的な所を聞かなければならない。ならば、何を聞けばいい?何かがあるはずだ。この10年の記憶を思い出せ、今ここで引き留められる何かを掴まなければ何処かへ行ってしまう。一刻も早く修の心を開く鍵を見つけなければ。もっとも本音が出やすいのは喜怒哀楽が激しい時、つまりは先ほどだ。あの時修が言った言葉で鍵になりそうなものは、あった!!

 

「また世界は僕から光を奪うのか、とはどういう意味ですか」

 

その言葉に修の肩が少しだけ揺れる。

 

「貴方は望んで魔眼を、光を手放していたはず。自ら手放し、自ら命を絶とうとしても『また』にはならないはず」

 

「…………ふぅ~、ただの戯言だ。僕には前世の記憶がある。前世では魔眼がないだけで今と変わらない。ただ、生まれつき全盲だった。そして、何かの拍子に死に、声に導かれるまま強く願った。眼が、世界を捉えられる眼が欲しかった。ただ見えるだけで良かったんだ。だが、僕は魔眼を得てしまった。それも多すぎるぐらいの、眼を起点とする力さえも得てしまった」

 

覆っていた手を退けると、瞳に十字架が浮かび上がっている。

 

「ソーナの肩をも砕ける力」

 

続いて先ほどの赤い眼

 

「すべての呪力を見通し操作する力」

 

そして先ほどの怪我を治した暗い翡翠色の瞳

 

「見るものを癒す、汚れし力」

 

様々な色や形に変化し続ける、まるで万華鏡のような修の魔眼。

 

「僕の想いが強すぎた結果が、この魔眼群。普通の眼は一つもない。ただ、そこにあるものを見たかっただけなのに。見たものを表現したかっただけなのに!!」

 

そう言って再び顔を覆ってしまった。だが、鍵は見つかった。

 

「修、その魔眼で私を見ましたよね」

 

「……ああ」

 

「彫刻、掘って下さい。私の」

 

「なぜだ?」

 

「いいから、いつも通りに。アトリエは残っているのでしょう?」

 

「一応な」

 

「作れば、私が言いたいことがわかるはずです」

 

 

 

 

 

 

 

ソーナに言われるままアトリエに向かい、言われたままにソーナの彫刻を彫り始める。いつも通り、10年前からつけている目隠しをして、彫る前に対象物に触れて形を覚え、彫り始めて気付く。今までのように彫れない。今まで以上に彫れてしまう。途中で腕が止まる。

 

「私が言いたいことはわかりましたか?」

 

「……ああ。だが、それでも僕は」

 

「なら、私が言葉にしてちゃんと刻み込んであげます。修、例え魔眼であろうとも、その眼には世界が映っています。世界は貴方を否定していない。ただ貴方が閉ざしただけ。世界は貴方を受け入れてくれている」

 

「……逃げていたのは僕自身か」

 

目隠しを外し、眼を開く。開く魔眼は鷹の目。ただ単に遠い所の物も見えるようになるだけの害は無い魔眼だ。

 

「この世に生を受けて、初めて見た世界に僕は感動を覚えた。そして初めて見た母のその顔が恐怖と嫌悪であることを知って、その感動を忘れてしまっていた。忘れていた、感情とは喜怒哀楽で無限の存在。それを芸術で表現する僕が一番それを理解していなかった」

 

彫りかけだった物を壊して新しく材料を取り出す。

 

「ソーナ、もう一度作り直す。今度はこの眼で、僕の最初で最後の眼で見て作る彫刻だ」

 

「今までの作風を守るためですか?」

 

「いや、けじめだ。盲目の芸術家、syuはこれで死ぬ。そして新たな、魔眼持ちの芸術家、酒井修が生まれるだけだ」

 

「そうですか。なら、これが最後を飾る作品ですか」

 

「そうだ。芸術家の思い(怨念)が詰まった傑作だ」

 

話しながらも手を休めることなく動かし、魔眼に映るソーナを作品として作り上げる。それをソーナに渡すと同時に万華鏡写輪眼で意識を奪う。

 

「不意打ちですまん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

修は消えた。アトリエも綺麗に片付けられ、修が存在したという記録は作品だけ、修を覚えているのは私とお姉さまだけ。どこで何をしているのかも分からない。だけど生きてはいる。時折私とお姉さまに届く絵画がその証拠だ。修は世界に向き合おうとしている。だから、修が世界に向き合えるその日まで私は待っていようと思う。そして帰ってきたら一発殴る。

 




完全にスランプに陥りました。他の長編が全く書けません。ネタもそろそろ切れてきた。一度HSDDから離れたネタを書くかな。何かリクエストがあればメッセージでもどちらかのネタ倉庫の感想でも構いませんのでご一報お願いします。


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ハイスクールD×D 妖狐伝 3

会社の方針が変更になり、ストレスからスランプを抜け出せたっぽいです。
10人未満の会社なのに超一流企業からの外注が2本に、社長が昔作っていた無料のアプリというかシステムというか、それを金を取れるぐらいにしっかりしたものに作り変える仕事に加えて細々と小さい仕事も受け続ける方針です。手持ちのお金はどんどん減っていくのに資産はどんどん跳ね上がっていく状況に。仕事がないよりはマシだと割り切って頑張ってます。


 

寝る前のブラッシングを屋敷に転移反応を感じる。向かってみようと立ち上がると襖を開いてリーアが現れる。そしてそのままオレに抱きついてくる。

 

「どうしたんだ、リーア」

 

「お願い十束、私を抱いて」

 

「おい、リーア、落ち着け」

 

 

「初めてだけどなんとかなるはずよ。だから、今すぐ「リーア!!」っ!?」

 

「リーア、落ち着いたな。一つずつ訳を話せ。オレも出来る限り手を貸してやる」

 

「ごめん。だけど、抱いて欲しいのは嘘じゃない」

 

落ち着いたリアスから事情を聞くと、フェニックス家の三男と無理矢理婚約させられそうになっているそうだ。とうとう、この時が来たのかと思いながら話の先を促す。リアスの仕方のないことだと思っていたのだが、相手が悪すぎた。眷属は全て女性で肉体関係を持っている。この時点でほとんどの女性から嫌悪される。その上で定職に就くこともなく、たまにフェニックスの涙を作って売る程度。典型的なダメ悪魔だな。そんな相手だがフェニックス家というのがグレモリー卿が強く出ることを許さないのだろう。たぶん、三男はそのことをわかってやっているな。

 

「そんなのが相手だなんて絶対に嫌!!私は、私は貴方が」

 

最後までいう前に再び屋敷内に転移反応を感知し、目の前に魔法陣が現れる。魔力からしてグレイフィアさんか。

 

「やはりこちらにお出ででしたか、お嬢様」

 

「グレイフィア」

 

「十束様、お嬢様のことは?」

 

「話を聞き終えたところです。それで」

 

「お話の手間が省けて幸いです」

 

「私は帰らないわよ、グレイフィア」

 

「構いません。私は十束様に用があるだけですので。お嬢様に関しては特に指示を受けていませんので」

 

「「えっ?」」

 

「私はグレモリー家当主様から十束様への言伝を預かってきているだけです」

 

「言伝ですか?」

 

「はい。この度、リアスお嬢様の婚約者を決めるにあたり、大々的にお相手を募集することになりました。条件などはお嬢様の嫁入りだけです。グレモリー家時期当主はミリキャスが継ぐことになります」

 

条件は嫁入りだけ。そんなバカなことが。

 

「グレイフィアさん、本当に条件はそれだけなのですか?」

 

「はい、身分や種族も関係ありません。婚約者を決めるために期間内でどれだけの物をグレモリー家に収められるか、有り体に言ってしまえばお嬢様にどれだけ価値を付けるのかを競わせる試練を用意しております。その際、グレモリー家からの補助以外は自分の『力』のみで物を入手するという条件があります」

 

「なっ、そんな!?」

 

リーアはフェニックスが有利だと考えたのだろうが、違うな。『力』の意味を履き違えている。

 

「なるほど。それで、私にもそれに参加するようにと?」

 

「ご本人の意思次第です。参加する場合は監視と補助を兼ねた人員がグレモリー家から付きます」

 

「そうですか。リーア、今日のところは戻れ。これだけ状況が動けばどうとでもしてやる」

 

「……分かったわ」

 

リーアが魔法陣の転移で帰るのを見送ってから再びグレイフィアさんに対峙する。

 

「オレも参加させてもらおう」

 

「分かりました。グレモリー家にそう伝えておきます。それから監視と補助には私が付くことになります。それから、これはグレモリー家に仕えるメイドではなく、あの娘の義姉として尋ねます。何故今まで動かなかったのですか?」

 

「動けなかったからとしか言えない。お互いの立場を考えて。リーアは次期当主であろうと肩肘を貼り続けていた。だから、他種族の、しかも立場のある相手と結婚などは考えられなかった。リーアとリアス・グレモリーの立場に挟まれて動けなかった。そして動かされることも嫌った。動きたいはずなのにだ。だから、手が出せなかった。ただ、京都に来た時だけはリーアで居られるようにしてやることしかできなかった。だが、状況は動いた。オレの本気、見せよう」

 

部屋の隅の畳を剥がし、地下への階段を開く。それを降りた先に広がるのは前世で使っていた道具を今世で手に入れた物で再現・発展させた物だ。

 

「グレイフィアさん、とりあえず行方が分かっていない魔剣や聖剣の情報を貰えますか?」

 

道具を準備しながらグレイフィアさんに情報を尋ねる。

 

「そうですね、まずはエクスカリバーの最後の一振りが一番価値がある物でしょうか。まあ、大戦期に失われたので完全に行方が知れませんが」

 

「銘は?」

 

「エクスカリバー・ルーラーですが」

 

地図を広げその上にペンデュラムを垂らす。過去を思い出しながらこの世界とは異なる魔力をペンデュラムに通す。

 

「告げる世界に存在する名はエクスカリバー・ルーラー彷徨えるは幾星霜担い手もなく流れるのみ」

 

即興で探知術式を組み上げてこの世界の魔力で強引にブーストをかける。するとペンデュラムが円を描き始める。中心点を割り出した後に、拡大した地図を数度切り替える。最終的にペンデュラムが指し示したのはフランスの田舎の小さな雑貨店だった。上手いことに三勢力の領域外ということもあり、すぐに現地に飛ぶ。無論、グレイフィアさんも連れて。懐疑的な態度で着いてきていたが、目的の店に近づくにつれて驚愕の感情が浮かび上がる。店に入り年老いた主人に剣を置いていないかと聞くと昔から家に伝わってるガラクタならあると言われ、それを大金を積んで引き取る。

 

「封印された影響で錆びたように見えるだけのようだな。封印にガタが来ているから力が漏れている。封印を解いてやれば、エクスカリバー・ルーラー発見。再封印っと」

 

「わずか30分足らずで。十束様、貴方は一体」

 

「オレはオレですよ。京盛会会長補佐兼妖獣会直系若葉組組長、『十尾』の十束。それだけですよ。さて、これでオレの探知能『力』は見せました。次は、晴安会直系大谷組に行きましょうか」

 

 

 

 

 

 

フランスから戻って夜遅くにだが晴安会直系大谷組を訪ねる。

 

「で、今日は何の用だ?利息の振込み日はまだ先だろうが」

 

「いえね、少しこちらの都合が変わりまして、今すぐ全額耳を揃えて出すか、物納してもらおうかと。もちろん、全額耳を揃えて出すことができるのは知っています。組の屋台骨が折れるでしょうが」

 

「都合が変わった?それに物納でかまわないだと?何を求めるんだ?」

 

「霊媒『燕石』をね」

 

「『燕石』?確かにあれは貴重なものだが、借金の方が値段的には高いだろうが。それに霊媒としてもそこまで、うん?おい、まさかそっちの意味で使う気なのか!?」

 

「はい。ようやく、動ける状況になりましたので。まさか、このような状況になるとは思ってもいませんでしたから。時期が悪いのですよ」

 

「なるほどなあ。大勝負にはあれがあった方がいいだろうからな。分かった。これで借金はチャラでいいんだな」

 

「ええ、後ほど屋敷にまで運び込んでいただければ引き換えに証文をお渡しいたします」

 

「時期が時期ならお主が自分で採取できたであろうにな」

 

「これが最初で最後のチャンスですから。多少の散財など気にして入られませんよ」

 

「そうか。上手くいくことを祈っておこう」

 

「ありがとうございます」

 

「他の奴らには伝えてあるのか?」

 

「妖獣会の方では伝えてあります。大々的に動くために個人的な伝や貸借りも全て投入します」

 

「本気なのだな。なら、こっちも話の通じる奴らに通しておいてやる」

 

「助かります」

 

大谷組から屋敷に戻る道すがらグレイフィアさんが尋ねてきた。

 

「十束様、妖獣会を動かすのですか?」

 

「動かす。とは言っても若葉組だけだろうな。あとは、個人的に貸しを作っている奴らと善意で動く奴らだろうな」

 

「それでは貴方だけの『力』ではないのではありませんか?」

 

「試さないでください。若葉組はオレ自身で作り上げた権『力』だ。それに貸しと善意もオレが今まで築き上げてきた縁という財『力』だ。オレ自身の『力』、そういうことなんでしょう?」

 

「幼き頃より政争に明け暮れた結果というわけですか」

 

「少し考えれば分かることですよ。自分一人でなんでもできると勘違いしている内は絶対に気付けないだろうが」

 

「そうですね。ところで、先ほどの燕石とは一体?」

 

「ああ、あれには別名がある。むしろそちらの名の方が有名だな。まあ、これから行く所で分かるさ。裏京都の更なる深淵に行けばな」

 

表から裏へと通り、そして今は使われていない表への境界線に移動する。そこで特殊な術式を打ち込んでから境界を開く。

 

「出来れば此処のことは内密に。気難しい人の隠れ家ですので」

 

「分かりました」

 

境界をくぐり抜けた先に待ち受けたのは大きな屋敷と、多数の兎と兎の獣人の使用人だ。

 

「あっ、十束だ」

 

「ひさしぶりだ」

 

「ひさしぶり」

 

「他に女の人を連れてる」

 

「メイドだ」

 

「冥土?」

 

「使用人」

 

「いっしょだ」

 

群がってくる兎の獣人達を尻尾で持ち上げながら移動する。

 

「輝の所に通してもらうよ」

 

「姫様退屈」

 

「ごろごろ」

 

「ぐるぐる」

 

「ぐーぐー」

 

「ばたばた」

 

「相変わらずみたいだね。自分から引きこもったのに」

 

「あ、あの、十束様。この方達は?」

 

「此処の主のお付きですよ。今はこの空間に引きこもってますが、有名人ですよ」

 

10分ほど屋敷内を走って、ようやく目的の部屋にたどり着く。

 

「輝、居ますね」

 

「う~ん、あっ、十束。いらっしゃい」

 

着物姿で畳の上でごろごろしていたのか髪も乱れたままの女性、輝に声をかける。

 

「淑女としてその格好はどうなんですか?」

 

「どうせ兎しかいないから問題ないわね。それで、今日は何の用?」

 

「いえ、実はですね、この度、とある女性に求婚を求めようと思いましてね。蓬莱の玉の枝を頂きたいのです」

 

「なにそれ、どゆことどゆこと」

 

輝が興味津々で聞いてきたので事情を全て話す。

 

「な~るほど。中々理にかなっている試練ね。娘がちゃんと守られるかを見るにはそういうのは重要よね。けどそれなら蓬莱の玉の枝はいらないんじゃないの?」

 

「まあ試練の方には関係ありませんね。ですが、認められた後に正式に求婚を求める際にあった方が良いでしょう?」

 

「中々分かってるわね。うん、合格。好きなだけ持っていって良いわよ。どうせ腐る程あるし」

 

「まあそうでしょうね。それじゃあ、貰っていきます。ああ、それといつもの店、主人がとうとう倒れてしまいましてね。弟子が跡を継ぐことになりました。味は後一つ足りない状態ですけど、どうしますか?」

 

「そうねぇ、とりあえずその後一つ足りない状態を食べてからかしら。また持ってきて頂戴」

 

「はい。では、失礼します」

 

部屋から出て、そのまま庭に出て適当な大きさの枝を折って手にする。

 

「それが蓬莱の玉の枝なのですか?ただの木の枝にしか見えませんが」

 

「ああ、そう見えるだけですよ。持って近くで見てください」

 

「これは、見た目より重い。それに本当に伝承のように金銀玉で出来ている。宝石でありながら自己主張がなく、本物の木に見える。これが蓬莱の玉の枝」

 

「そういうことです。自然界ではありえないでしょう?この屋敷に生えている木は全てそれです。輝、彼女は本当の名は輝夜。不老不死の存在ですよ」

 

「では、先ほどの燕石は」

 

「燕の子安貝。あとは、火鼠の衣、よりも反物の方が良いか。それと龍の首の玉、正確に言うと首に逆鱗を持っている龍の逆鱗の全部で4つは試練とは別口で収集します」

 

「そこまで本気だったのですか?」

 

「リーアがリーアで居られたように、オレがただの十束で居られて恋愛感情を持っているのはリーアだけですよ。ただ、その感情に蓋をしていただけで」

 

 

 

 

 

「よう、聞いたぞ。とうとうリーア嬢ちゃんに求婚するために試練を受けてるんだってな。こいつは鬼瓦印の一斗瓶だ。祝いとは別にやるよ」

 

「私たちからは龍の髭を加工して作った扇子。貼ってあるのは銀弧の毛を溶かし込んである和紙に呪装を施したものよ。もちろんお祝いとは別よ」

 

「浅打ばっかだけど、草薙の剣とか日本原産の神剣類を持ってきてやったぞ」

 

「ヒヒイロカネ、余っているインゴット」

 

「持ち運びやすいように宝船、預かってきてるよ。くれてやるって、じいちゃんが」

 

 

 

「すまないな、みんな。ありがとう」

 

「あ、あの、十束様?これらを本当にグレモリー家に納めても大丈夫なのですか?」

 

「うん?一級品は出てきてるけど超一級品は出てきてないから問題ないですよ。なあ、みんな」

 

「「「「おう!!」」」」

 

「これらより上があるのですか?」

 

「閉鎖的だったから積もりに積もって埃かぶってるのを誰かの祝い事のたびに使いまわしたり新しく作ったりしてるのが知られてないだけだな」

 

「それでも、現時点で勝ちは決まったようなものですが」

 

「グレイフィアさん、リーアにどれだけの価値を付けるかって言ったよね。勝ち負け以前の問題だよ」

 

「そこまで本気だったのですか!?」

 

「そこまで本気です。とりあえずリストの作成お願いします。たぶん、まだ増えるでしょうし、他の行方知れずの魔剣とか聖剣を拾いに行ってきますし、拾いに行かせます」

 

「お待ちください。グレモリー家に増援を要請しますので」

 

「では、しばらくの間さっきみたいに探索してますので」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グレイフィア、疲れ切っているようだが大丈夫かい?」

 

「サーゼクス様、私たちは十束様を甘く見過ぎていたようです。事前に覚悟だけはしておいてください」

 

「……それはどのような?」

 

「今日で、三勢力の政治バランスは大きく変わります。ええ、それはもう大きく。無論、冥界内でも」

 

「な、何をしたんだい、彼は?」

 

「十束様が納める物の目録です」

 

「厚さが1cmはあるんだけど」

 

「重要度の高い順に並べてあります。というより最初の1ページ目の物だけでバランスに大きく影響を与えます」

 

サーゼクスが目録を開いてゆっくりと閉じる。

 

「……どこで見つけたんだい?」

 

「フランスの田舎の小さな雑貨店です。探し始めて30分もしない内に確保されました。また7割ほどが贈り物ですが、門外不出だった代物が多数見受けられます。本人たちは閉鎖的だったために外に流れていないだけで超一級品は出していないということです。それでもかなりの物が、浅打とはいえ神剣なども見受けられます。残りの3割もそれほど時間をかけずに見つけて、若葉組の者が回収に走った結果です。危険な物はご自分で確保されていましたが。中には戦闘で相手を殺してでも確保した物が。相手は最近、活動が活発になっている『禍の団』の構成員でした」

 

「それだけの量をどうやって運んでくるんだい?」

 

「宝船が3艘。これらも納めるそうです」

 

「まさか、ここまでとは。そんなに入れ込んでいたとは」

 

「本人曰く、感情に蓋をしていただけだそうです。やはり、あの一人で日本神話に殴り込みをかけたというのは事実なのでしょう。動くまでは全くそんなそぶりを見せていないのに、動くと決めれば自重しませんから」

 

「怖いなぁ。さすがの私でも単騎で一つの勢力に喧嘩を売るような真似はしたくない。それを平然として生き残っている。私よりも強いかもしれないね。リーアのお相手はほぼ十束君で決まりかい?」

 

「ライザー様もかなりの量のフェニックスの涙を用意したようですが、目録の中程3ページ分でお釣りがきます」

 

「となると実力行使に移る可能性もあるね。力を見せろと言ってしまっているから」

 

「十束様も予想しています。交友のある組長たちが傍に隠れて潜むそうです。おそらくは鯉伴様か吉野様の隠密術で。武闘派の赤石様、坂田様、岸沢様は最低でも潜んでおられるかと」

 

「直参組長が最低でも5人か。ライザー君ではどうすることもできないだろうね。特に坂田殿がいるということはフェニックスの再生は意味を持たない。赤石殿の一撃もかなりの物だ。高位の仙術使いの吉野殿はもちろん、鯉伴殿も確か退魔刀を持っていたはずだ。岸沢殿は一撃一撃が重い方ではないからライザー君も大丈夫なのだろうが、眷属たちはダメだね。言わずもがな、十束君は文字通り桁違い。ははっ、出来レースだね」

 

「最初からそのつもりでしたのでしょう?種族問わずの時点で、結果はわかっていたのでしょう?」

 

「過程が大分斜め上方向にそれたけどね。エクスカリバー・ルーラー、見ることはないと思っていたのだが」

 

「私もです。ただ、探知術式なのですが、既存の技術とは別の物、詠唱も明らかに即興の物でした。基本はどの探知系とも同じですし、術式自体も変わったところは見られませんでした。ですが、次々と今まで誰にも知られていなかった、あるいはテロリストが秘匿所持していた物を見つけ出していました」

 

「そちらの方は調べる必要はないよ。おそらくだが、依頼すれば適正価格で探し物をしてくれるはずだ。グレイフィアに見せたのは、おそらくだがその事実もグレモリー家に納める物の一つなのだろうね。手の内を晒したのはそういう意味だろう。あれでまだ20を過ぎたばかりだとはね。まあ、昔からそうだったか」

 

 

 

 

 

 

 

「納得できるか!!」

 

放たれた炎を傘を回しながらボール状に丸めて傘の上で走らせる。弱い炎だな。もう消えかけてやがる。

 

「納得できない?それはグレモリー家を信じられないというのと同意義だと分かっての発言だな」

 

炎が消えたので傘をたたんで降ろす。

 

「ただの妖怪ごときが純血の悪魔と結ばれるなど許されるはずがないだろうが!!」

 

「何を言っているんだか。身分や種族も関係ないと最初に説明されていただろうが。それにお前はフェニックスの涙を500個用意した。オレはそれ以上の物を大量に用意した。それだけの事実だ。そんなこともわからないのか?」

 

「自分の力で用意していないのだろうが。一人であれだけの量と品を用意できるはずがない!!」

 

「ふふっ、ルールすらもきちんと理解できていない馬鹿か。いや、それはオレ以外の全員か。オレは自分が持つ全ての力を使っただけだ。権力や財力、それらも力だ。そんなことも理解できずに冥界を治められるのか?貴様らが考えているほど社会は甘くないぞ。契約を扱う悪魔がこの程度すら理解できないようなら、人間以下だ。やり直してこい」

 

再び放ってきた炎を同じように傘で防ぐ。

 

「宴会芸の練習にはちょうどいいか。で、グレモリー卿、魔王ルシファー様の前でこんなことをして許されるとでも思っているのか?」

 

再び炎が消えるまで傘の上を走らせてから傘をたたむ。グレモリー卿は冷めた目でオレと反論しなかった数名以外の婚約者候補を見ている。

 

「もういい、見苦しい。お前たちのような奴らにリアスはやれない。ルール上問題はなく、お前たちの言う自分の力で集めた物だけを換算しても十束殿が圧倒している。それはグレイフィアが確認している」

 

「お待ちください、グレモリー卿!!」

 

「黙れ!!」

 

「グレモリー卿、よろしいですか?」

 

「むっ、なんだね、婿殿」

 

「彼らは大層自分の力に自信があるようです。なら、その自信、完全に折りましょう。許可を頂けますか?」

 

「ほぅ、そういえば婿殿は強いと噂だけは聞くが実際に戦う姿を見たことはないな」

 

「僕も見てみたいね。妖怪の力はそれほど知られていないしね」

 

「妖怪の力なら既にお見せしていますよ。鯉伴、吉野」

 

「「はいよ」」

 

オレが合図を出すのと同時に、反抗的な態度をとっていた奴らの後ろから連れてきていた組長たちが姿を表す。傍にいたことに気づけずにいた悪魔たちは驚き、悠々とオレの前に5人が並ぶ。

 

「潰そうと思えばいつでも潰せた。まだ心が折れぬのなら、妖獣会直参組長の力をとくと味あわせてやろう」

 

肩に担いだ金棒を突きつけながら叫ぶのは鬼の中でもっとも力強い男。

 

「はっはぁ~、ようやく暴れられるか。妖獣会直参犬坂組組長、『重石』の赤石!!」

 

懐から小刀を取り出し鞘に入れたままペン回しのように回すのは鎌鼬の中でもっとも速い男

 

「くくっ、堂々と悪魔と戦えるとは運がいい。妖獣会直参鳥井組組長、『旋風』の坂田!!」

 

見た目的には一番歳をとっているように見えるメガネをかけた男はもっとも畏れを集めた第一世代のこっくりさん

 

「面倒ではあるが、十束の為だ。一肌脱ごう。妖獣会直参魚見組組長、『離岸流』の岸沢だ」

 

派手な着物を着崩して妖艶な空気を醸し出すのは猫系の妖怪ということしかわからない特殊個体の女

 

「惚れた女の為に力を振るう。それに手を貸さなきゃ女が廃るってものよ。妖獣会直参桜組組長、『朧月』の吉野よ」

 

煙管を吹かしながら腰に差した刀に手を伸ばすのはオレと一番付き合いが長くて深い信用できる遊びの師匠

 

「目出度い出来事を己が私欲で汚そうなんて、醜いの一言だな。妖獣会直参遊騎組組長、『遊び人』の鯉伴」

 

いつも通りに傘を開きながら肩に担ぐ。

 

「種族と自分の血にしか目を向けない輩に教えてやろう。妖怪は、最も恐ろしい存在であると。妖獣会直参若葉組組長、『十尾』の十束!!恐れないなら叩き潰して恐怖を植え付ける!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これで残りはお前だけになったな、ライザー・フェニックス」

 

「馬鹿な、こんなことはあり得ない。なんなんだ貴様らは!?」

 

既にライザー・フェニックス以外の悪魔とその眷属は各組長が粉砕した。ライザー・フェニックスの眷属も既に全滅している。それには妹のレイヴェル・フェニックスも含まれる。

 

「妖怪だよ。ただ力を外に向けて振るう機会が無かっただけの。さあ、先手は譲ってやろう。炎対決だ」

 

「くっ、炎と風を司るフェニックス相手に炎対決で勝てると思うな!!」

 

ライザー・フェニックスから、いや、焼き鳥でいいか。焼き鳥が出した炎を見て呆れて何も言えない。

 

「後悔してももう遅いぞ、死ね!!」

 

「はぁ~、その程度で炎を司るなんてな」

 

爪先に灯した炎を指で弾く。傍目から見ればオレの炎が飲まれて終わりなのだろうが、オレの炎と焼き鳥の炎が触れ合った瞬間、オレの炎が大爆発を起こし、焼き鳥の炎を全て吹き飛ばす。

 

「お前は炎を理解していない。だから、こうなる。炎を消すには酸素を奪うか、散らすかだ。爆発には弱いのが炎だ。そして攻撃に使うのなら収束させるのが基本中の基本だ。こんな風に」

 

収束させて白く光る熱線で焼き鳥を斬り払う。焼き切られたことに呆然とする焼き鳥だったが、体が崩れ始めたことでようやく理解して苦しみだす。

 

「あああああ!?フェニックスの体が、焼かれるだと!?」

 

「より強力な炎で焼き切ったからな。さて、炎対決はオレの勝ち。次は特性か?フェニックスの再生に対してオレは狐火。ほれ、火力は抑えてやる」

 

全身を焼き鳥の炎より2~3度低い狐火で包み込む。絶叫がさらに増す。

 

「狐火は魔を払う特性がある。よく間違われるが、妖怪は魔に属しているわけではない。個体ごとにバラバラの属性に属している。ちなみにオレの場合は狐火は聖だが、幻術類は魔に属している。再生も限界に近づいてきているようだな。これもオレの勝ちか」

 

狐火を止めて回復するのを待ってやる。焼き鳥が懐から小瓶を取り出して中身をかぶる間にオレも団子を取り出して食べている最中だ。狐火は燃費が悪いからあまり使いたくないんだよな。回復した焼き鳥の炎を使って団子に焼き目を入れる。

 

「うむ、団子を焼く分には丁度いい火力だな」

 

さらに煽るだけ煽ってみるが、そろそろ面倒になってきたな。

 

「それじゃあ、最後の一撃だ。頑張って耐えてみろ」

 

使うのは最初と同じ普通の炎だ。ただ、分かりにくい場所に発生させる。効果はすぐに現れる。焼き鳥が喉を抑えて苦しみ出し、気を失って転送される。

 

「焼き払うだけが炎じゃない。肺の中に炎を灯してやった。生物である以上、酸欠からは逃れられない。感覚で使うから理解が及ばないんだよ」

 

純血でフェニックスといえどこんなものか。酔っ払いの鬼どものほうがまだ強い。終了を告げるアナウンスとともに転送される。軽く服の汚れを落としてからみんなでグレモリー卿たちが居る観戦室に移動する。

 

「おお、婿殿。見事な戦いぶりだったよ。これなら安心してリアスを嫁に出せる」

 

「ありがとうございます」

 

「別室にリアスを待たせてある。今日、婚約者が決まるとしか告げていないからな。早く会ってあげて欲しい」

 

「分かりました。鯉伴、あとは任せるよ」

 

「はいよ、行ってきな」

 

「では十束様、こちらになります」

 

グレイフィアさんに案内され、リアスが居る部屋の前まで案内される。扉の前で二人してため息をつく。

 

「相変わらずの度胸ですね」

 

「迂闊に入ると滅びの魔力で意識を狩りに来ますね。全く、あの娘は」

 

「もしかしてオレが参加してることを伝えてないんですか?」

 

「はい。完全に監禁してましたから」

 

「はぁ~、分かりました。自分でなんとかします」

 

「申し訳ありません。それから、リアスのこと、お願いします」

 

さてと、とりあえずいつものように蛇の目を傘に正しく貼ってから畏れを使って短距離転移で部屋の中に入る。部屋の中にはドレスを着せられたリアスが扉に向かっていつでも魔力を放てるように待機している。

 

「お転婆はいくつになっても変わらないか」

 

「っ、十束!?」

 

「やぁ、リーア。迎えに来たぞ」

 

「……ダメよ、十束。私は行けない」

 

「諦めるのか?」

 

「いいえ、貴方に迷惑をかけられないだけ。私は、自分の力でなんとかしてみせる」

 

「この場を潜り抜けてからどうするつもりなんだ」

 

「それは、その」

 

「ちょっとは考えような。まあ、それはおいておいて」

 

部屋のテーブルの上に蓬莱の玉の枝、燕の子安貝、火鼠の反物、龍の首の玉を並べる。これを見てリーアもオレが何を言いたいのかわかったようだ。

 

「竹取物語の輝夜は求婚者にこれらの物を求めた。これらを入手できるぐらいに強くなければ、故郷の者に敵うはずがなかったから。リーア、お前のことが好きだ。オレと結婚してくれ。オレがお前を守ってみせる」

 

「……えっ?だって、そんな風に見えなかった。私のためにって、無理を」

 

「していない。オレはお前のことが好きだ。だが、環境が許さなかった。だけど、状況は変わった。オレはリーアが欲しい。そのために試練に参加して、ついでに文句を言ってきたやつも全て伸した。あとは、リーアがオレと一緒になることを望んで欲しい」

 

「ほ、本当に?私の婚約者が、十束?」

 

「ああ、そうだ。グレモリー卿も魔王ルシファー様も認めた。オレが、リーアの婚約者だ」

 

リーアがオレに抱きついてきたので優しく抱き返す。

 

「無理だと思ってた。十束と結ばれることなんて絶対にないと思ってた」

 

「オレもだ。だけど、諦めたくなかった。思いを捨てずに待った甲斐があった。リーア、もう一度聞く。オレはリーアのことを愛している。オレと結婚してくれ」

 

「私も貴方のことを愛しているわ。私のこと、離さないで」

 

「ああ、絶対に離すものか」

 

どちらからともなく、唇を触れ合わせる。ああ、我慢しないと。さすがにまだ我慢の必要が、必要が……

 

 

 




どうなったかはご想像にお任せです。


今年はこれとあと一本か二本ぐらいかな?

木場君も更新したいけど匙君の方が変に人気があるんだよなぁ。
あとは完全にお遊びでプロットで終わりが確定しているオリキャラで懇親会でもやろうかな。


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ハイスクールD×D×D

「絶対にあの邪神は許さない!!」

 

新たに見つけたロイミュードをトライドロンで跳ね飛ばしてから降り、既にチャージ済みのシンゴウアックスを叩き込む。

 

「ナンバー056の破壊を確認」

 

コアが砕けたのを確認して次の場所に移動しようとしたところで少女が襲われそうになっているのが目に入る。そちらを向けば更に2カ所で少年たちが襲われている。迷う暇もなく俺は告げる。

 

「行け、シフトカー、シグナルバイク!!」

 

『スピ!スピ!スピード!!』

 

少しでも時間を稼がせるためにシフトカーとシグナルバイクを少年たちに送り、シフトレバーを3回倒して高速移動で少女を助けに行く。少女を抱きかかえ、そのままトップスピードでプロトトライドロンの元まで戻り、少年たちも同じように助け出す。三人揃ったところで幼いながらも前世で見覚えのある顔を見て、邪神の思惑に踊らされているのを感じながらもそれに乗ってやることにする。黒い髪の眼鏡をかけた少女にはシフトスピードプロトタイプのシフトカーを、茶髪の髪の少年にはシグナルマッハを、金髪の少年にはシグナルチェイサーを渡す。シフトカーとシグナルバイクによって三人が重加速の影響から解き放たれる。

 

「普通に動ける!?」

 

「他人には話すな。そのシフトカーとシグナルバイクの存在もだ。それはお前たちに貸しておいてやる」

 

話すためにしゃがんでいたので立ち上がるとこの辺りにいたロイミュードたちが俺に気づいたのか走ってやってくる。

 

「7体か。なら、ひとっ走り付き合えよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

その日、オレ達は一人の英雄に出会った。世界中で時間が極端に遅くなり、その遅くなった時間の中を普通に動き、破壊活動を行うアンドロイド『ロイミュード』達が歴史上初めて姿を現した事件『グローバルフリーズ』

 

その事件に一人で立ち向かった赤い戦士。黒い車、白いバイク、赤と青のブースターを付けた赤い車か白い車、時折自転車なんかやスケボーで駆けつける彼を人々は仮面ライダーと呼んだ。

 

そして、オレ達は彼の力の一部を借り受けることができた。シフトカーとシグナルバイク、ロイミュードが発生させる重加速空間、世界が遅くなる現象、通称『どんより』の中でも普通に動ける力。何を思ってオレ達にこれを貸してくれたのかは分からない。だけど、それに恥じないようにオレ達は自分を鍛え上げた。

 

オレはあの赤い姿の速さに、元士郎は黒い姿の力強さに、ソーナ先輩は緑の姿の器用さに憧れた。あと、オレと元士郎はバイク、ソーナ先輩は車にも興味を持った。やっぱり、渡された物が物だからな。とりあえず免許だけは16歳になってから速攻で取ったけどな。ソーナ先輩も18歳になってすぐに免許を取ってる。二輪も四輪もだ。オレと元士郎も来年は四輪の免許を取ると思うけどな。

 

あとは、ソーナ先輩が悪魔だとも教えられた。人外の存在って結構いるらしい。教えてもらったのも駒王学園に入学してからで、転生悪魔についても説明された。元士郎のやつはすぐにソーナ先輩の眷属に転生した。なんだかんだで10年近い付き合いのオレ達だ。元士郎がソーナ先輩に惹かれていたのはなんとなく分かってる。オレもソーナ先輩のことは好きだけど、愛情とかじゃなくて友愛とかそっち方面だな。

 

だからオレは悩んだ末に断った。あの人もたぶん人間で、それに人間のままで追いつきたい。それがオレの夢で転生するとしてもそれからだ。そう言って断ると羨ましいと返された。元から悪魔であるソーナ先輩には望めない夢だから。だけど、ソーナ先輩は笑ってその夢を応援してくれた。元士郎もだ。それが嬉しかった。

 

そんなオレの夢は脆くも崩れ去った。重加速空間を生み出せる堕天使の女によって。

 

 

 

 

 

 

 

転生悪魔になった翌日の放課後、オレは生徒会室を訪ねていた。

 

「イッセー、お前!?」

 

「まさか、リアスに無理やり!?」

 

オレを見て、ソーナ先輩と元士郎が驚いていた。とりあえず誤解を解いて、話しておかなければならないことがある。

 

「いや、違う。グレモリー先輩には蘇生させてもらった。オレを殺したのは堕天使で、オレの神器を狙ってきた。それだけならまだマシなんだけど、重加速空間を生み出しやがった。それもその中で普通に動きやがる」

 

『『『!?』』』

 

オレの言葉に生徒会の皆が驚く。悪魔の弱点である光を扱えて、その上で動きを封じれる重加速空間を生み出せる。対抗できるのは重加速空間でも相手より早く動ける、通常空間でも超高速機動ができる上位者とシフトカーとシグナルバイクを持つオレ達だけだ。

 

「まずいですね。リアスにこの事は?」

 

「まだです。これから行ってきます」

 

「そうしてください。私も上に報告を上げておかなければなりませんね」

 

「イッセー、終わったらもう一度こっちに来いよ。魔力の使い方とか教えてやる。どうせ不器用だから肉体強化しか使えねえだろうしな」

 

「レベルを上げて物理で殴るのが一番だからな。あと、やっぱりあの速さがな」

 

「まあ、分からないでもないな。それじゃあ、とっとと説明を済ませてこいよ。こっちも仕事を片付けとくから」

 

「おう、行ってくるわ」

 

 

グレモリー先輩に朝言われた通りにオカルト研究会に顔を出して眷属の紹介だけしてもらい、オレを殺した堕天使が重加速空間を生み出した事を報告してから元士郎に魔力の扱い方を学んで帰宅する。

 

「ただいま~」

 

「あっ、一誠。あなたに荷物が届いてるわよ。懸賞にでも応募してたの?バイクが届いているわよ」

 

「えっ、バイク?」

 

「それと一緒にこのアタッシュケースも。書類とかが入ってるんでしょう」

 

母さんから渡されたアタッシュケースの表面に入っているマークを見て息が詰まる。シグナルバイクの後輪部分にも掘られているRをエンブレムにしたようなそのマーク。ひったくるようにそれを受け取って自室に飛び込んで鍵をかける。恐る恐るアタッシュケースを開けると、そこにはベルトと説明書のような冊子にバイクの書類、それとメッセージカードが一枚入っていた。

 

「『この力が正しく使われることを祈る。ひとっ走り付き合えるか?』間違いない。あの人からだ!!」

 

自室から飛び出して庭に置かれているバイクを見れば、それはあの人が乗っていたこともある白いバイクだった。それとヘルメットとゴーグルとグローブまで付いている。

 

「そんなに慌てちゃって、よっぽど嬉しかったみたいね」

 

母さんが後ろで何か言っているみたいだったがその声も聞こえていなかった。それ位、嬉しいことだった。あの人に認められたみたいで。自室に戻ってバイクの書類を確認する。名義がオレ宛になっているってことは完全にオレの物ってことだ。名前はライドマッハー?

 

冊子の方はベルトの説明と使い方、そして使用した姿と説明、ライドマッハーに搭載されている武器の扱い方が書かれていた。読み込んでいてふと気がつく。オレだけに届いているのか?慌てて携帯を取り出して元士郎に連絡を入れる。

 

『イッセーか!?まさかお前の方にも』

 

「届いてる!!ということはそっちにも?」

 

『ああ、会長にはベルトと車が。それもあの時の赤い車の色違いでシフトカーと同じ黒色だ。ベルトは同じで、マッハドライバー炎だ。でも会長が変身する姿、あの人のプロトタイプみたいでプロトドライブって名前みたいだ。ああ、オレはチェイサー。お前は?』

 

「オレはマッハだ。バイクはライドマッハー」

 

『ってことはお前のが基本なのか?マッハドライバー炎って名前だし。オレはバイクでライドチェイサーだな。会長はプロトトライドロン改。あの人が乗ってるトライドロンの試作機を会長に譲るために改良したものみたいだ。それにしてもこれであの堕天使に対抗できそうだな』

 

その言葉に少し詰まってしまう。この力で誰かを傷つけてもいいのかと?ロイミュードから人間を守るために戦っていた。どうすることもできない人たちを救うために。だが、悪魔の上位者なら重加速空間でも戦うことができる。なんとかする手段はそこに存在する。果たして、オレはいざという時にこの力を振るうことができるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー、何処に行くつもり」

 

「アーシアを助けに」

 

「駄目よ、許可できないわ」

 

「許可なら他から降りてます。重加速への対抗手段がないなら許可できないって言われているなら、オレにはその対抗手段がある」

 

部室から出て、携帯を取り出し、元士郎に連絡を入れる。

 

「元士郎、手伝ってくれ」

 

『例の堕天使か?』

 

「ああ、街離れの教会だ。宣戦布告もされてる。一応、ソーナ先輩にも」

 

『会長もオレもまだ学校に残ってる。会長にはオカ研に行ってもらう』

 

「すまん」

 

『戦えるのか?』

 

「戦うさ。オレは勘違いをしていた。あの人はどうすることもできない相手からどうすることもできない人を守っていたんじゃない。目の前にいる助けれる人のために戦っていたんだ。何より、オレに助けを求めてきた相手がいる。それを見過ごして、あの人の前に堂々と立てるわけがない!!」

 

ライドマッハーのエンジンに火を入れてドライバーを確認して、いつでも使えるようにドライバーを装着する。校門まで移動して少し待っていると旧校舎付近で重加速空間が発生する。急いで戻るか考えていたところで元士郎がライドチェイサーでこちらに向かってきた。

 

「向こうは会長が抑える!!オレ達は教会に行けって!!礼を考えとけよ!!」

 

「帰ったら先輩にケーキでも差し入れるさ!!」

 

二人で並走しながら夜の街を駆ける。教会付近でも重加速空間が発生しているのが分かる。教会にライドマッハーとライドチェイサーにのったまま突っ込み、悪魔稼業先であったはぐれ神父を跳ね飛ばす。あいつは重加速の影響を受けてないな。まあ、気絶したからいいだろう。

 

「イッセー、地下から力を感じるぞ」

 

「行くぞ、元士郎!!」

 

オレはゼンリンシューターを、元士郎は信号機に斧がくっついたような物を持って地下への階段を降りていく。扉を蹴りやぶった先にオレを殺した堕天使と大勢のはぐれエクソシストと気を失って十字架に磔にされたアーシアが居た。

 

「ふぅん、本当に重加速の影響を受けないのね」

 

「そっちこそ重加速を発生させられるとはな。ロイミュードを研究しやがったか」

 

「さあね、私は便利だからと渡されたものを使ってるだけよ。それで、何をしに来たのかしら?」

 

「必要ねぇだろうが、行ってやるよ。アーシアを助けに来た!!それだけだ!!」

 

「オレはその付き添いだ。まあ、重加速を生み出せて犯罪を犯し放題なんてことにはさせない!!」

 

「はん、あんた達みたいなガキに私の目的の邪魔はさせないわ!!やってしまいなさい!!」

 

「行くぞ、元士郎!!」

 

「ああ、イッセー!!」

 

ドライバーのパネルを上げてシグナルバイクを挿入してパネルを叩いて下ろす。

 

『シグナルバイク!!ライダー!!マッハ!!』

『シグナルバイク!!ライダー!!チェイサー!!』

「「変身!!」」

 

一瞬のうちにオレ達の体がスーツとアーマーに覆われる。

 

「なっ、仮面ライダー?」

 

オレ達以外が驚いて少しだけ動きが止まるが、すぐにあの人とは違うのに気づいて構え直す。

 

「こいつは、あの人が、仮面ライダードライブがオレ達に与えてくれた力!!」

 

「この力が正しく使われると信じて託された力だ!!」

 

こっちも武器を構える。

 

「「さあ、ひとっ走り付き合えよ!!」」

 

先制でゼンリンシューターでアーシアを拘束する鎖を撃ち抜く。完全に拘束が解かれるまでの間に雑魚を片付ける。ゼンリンシューターのタイヤを回してマッハドライバー炎のボタンを4回、エンジンを吹かすように叩く。

 

『ゼンリン!!』

『ズーット!!マッハ!!』

 

高速で走り、オレはゼンリンシューターで一人ずつ確実に殴り飛ばし、元士郎は信号機のような斧でまとめて吹き飛ばしていく。

 

「なっ、なんなのよ、アンタ達!?」

 

オレを殺した堕天使がそういう頃には全てのはぐれエクソシスト達は倒れ、アーシアもオレの腕の中だ。だから、答えてやる。

 

「ただの英雄に憧れる悪魔だよ!!」

 

アーシアを元士郎に預けて堕天使に向かって歩き出す。

 

「オレを殺した分は、まあいい。オレが弱かっただけだからな。だが、何の罪もないアーシアを騙し、その命を自分が成り上がるためだけに殺そうとした!!それだけは許さない!!」

 

一番いい距離でドライバーのパネルを上げてからスイッチを押してパネルを叩いて下ろす。

 

『ヒッサツ!!フルスロットル!!マッハ!!』

 

「悔い改めやがれ!!」

 

飛び上がり前方宙返りを何度も繰り返して加速を付けて蹴りを叩き込む。蹴りを受けた堕天使が吹き飛び、十字架にぶつかって爆発!?

 

「なんだ!?」

 

「イッセー、見ろ!!コアが浮かび上がってるぞ!!」

 

ロイミュードが爆発した時に現れるコアのナンバーが爆発の中から飛び出してくる。

 

「逃がすか!!」

 

逃げようとするナンバーを掴んで地面に埋め込む。

 

「ナイスだ、トドメはオレがやってやる」

 

元士郎がドライバーからシグナルバイクを外して信号機のような斧に差し込む。

 

『ヒッサツ!!』

 

そして、手元のボタンをって、えっ、そのデザインって!?

 

『マッテローヨ!!』

 

ボタンを押すとその音声と共に赤信号が灯る。

 

「……すげえセンスだな」

 

「高火力を出すためのチャージ時間なんだよ。すげえセンスなのは否定しない」

 

『イッテイーヨ!!』

 

今度はその音声と共に赤から青へと変わりあのメロディーが流れる。そんな間抜けた音とは裏腹に刃の部分にものすごいエネルギーが溜まっているのがわかる。

 

「キックマッハーとは段違いなエネルギーだな」

 

「だな。よっしゃあ、それじゃあトドメだ!!」

 

『フルスロットル!!』

 

押しボタンとは違うトリガーを引いて元士郎が信号機をコア目掛けて振り下ろす。横断歩道のエフェクトがみえた気がするが気のせいにしておこう。コアが粉々に砕けたのを確認して、重加速空間が消滅したのを確認する。

 

「終わったか」

 

「だな」

 

二人してシグナルバイクを取り出してからパネルを戻して変身を解除する。

 

『『オツカーレ』』

 

「「Nice Drive!!」」

 

二人でハイタッチを交わして後始末をする。はぐれエクソシストの死体から共通点の装備を探して、同じバンドを右手首に着けているのを見つける。おそらくはこいつが重加速空間でも普通に動けるようにする道具なのだろうと外したところで灰になってしまった。他の物でも試してみたが全部が灰になり、腕を切り離してもダメだった。それどころか触っていない物まで灰になり始めたので携帯でムービーを撮っておき、灰も一応回収しておく。仕事は終わったとアーシアを抱えてライドマッハーまで戻った所でふと気がつく。

 

「なあ、元士郎」

 

「どうした?」

 

信号機をライドチェイサーに戻しながら元士郎が答える。

 

「はぐれエクソシストは普通に動いてたけど別に重加速空間を発生させていた感じじゃなかったよな」

 

「ああ」

 

「そしてあの堕天使の姿をしたロイミュードを倒したら重加速は止まった」

 

「あっ」

 

「急いで学園に戻るぞ!!向こうにもロイミュードが居る!!」

 

「イッセー、先に行くぞ!!」

 

元士郎がライドチェイサーを飛ばしていく。オレも追いたいが、アーシアを放ってはおけない。

 

「アーシア、起きてくれ。アーシア」

 

「……イッセーさん?」

 

「ああ、そうだ、アーシア。助けに来たぞ。ここから離れる」

 

抱き上げてライドマッハーに乗せて予備のヘルメットを被らせる。

 

「えっ、あの、どういうことですか?」

 

「あとで説明はする。今は何も聞かずに着いてきてくれ」

 

オレもライドマッハーに跨りエンジンに火を入れる。

 

「飛ばすからしっかり掴まっていてくれ」

 

「は、はい」

 

アーシアがしっかりと抱きついて背中に柔らかい物が潰れる感触にドキっとしながら全速で学園を目指す。学園付近には未だに重加速空間が存在しているということは、まだ戦闘中ってことだな。重加速空間ギリギリでライドマッハーを停める。

 

「アーシアはここにいてくれ、変身!!」

 

ゼンリンシューターを取り出してアーシアに動かないように言ってから素早く変身して重加速空間に突入すると同時に再びドライバーのボタンを4回叩いて加速する。その判断が小猫ちゃんの生死を分けた。ロイミュードらしき奴が放ったエネルギー弾の一発が小猫ちゃんに命中しそうになっていた。オレは迷うことなく射線に飛び込んでゼンリンシューターと体で受け止める。

 

「間一髪ってか?怪我は無さそうだな」

 

「イッセー君ですか、助かりました」

 

先輩が黒い車のドアのような銃でロイミュードを牽制しながらこちらに寄ってきた。

 

「先輩、遅くなりました!!」

 

オレもゼンリンシューターで同じように弾幕を張って近づけさせないようにする。

 

「元士郎と共に切り込んでください。リアスたちは私が」

 

「了解!!」

 

残っているロイミュードは1体と、ロイミュードなのか怪しいコウモリっぽいのが1体。元士郎の奴はコウモリっぽいのに手こずっている。

 

「元士郎、コウモリは任せろ」

 

「すまん。こいつ、飛ぶわ、速いわで武器の相性が最悪なんだよ」

 

まあ、その信号機じゃ相性は悪いよな。チェイサーもパワータイプに分類されるから余計に。

 

「おら、ここからはオレが相手だ、ひとっ走り付き合えよ!!」

 

ゼンリンシューターの銃弾を叩き込んで元士郎と入れ替わる。逃がさないように戦ってみてわかったのだが、こいつ、普通のロイミュードとは性能が段違いだ。だが、対応できないわけではないし、あの人どころかオレ達にも遠く及ばない。相手のパンチに合わせて横にすり抜けてアームロックをかけて、ゼンリンシューターを接射する。暴れて離れようとするがアームロックはガッチリと決まっているので腕を切り離さない限り逃れることはできないだろう。元士郎の方に目をやれば、信号機でコアごと真っ二つにしたところだった。

 

「イッセー君、トドメは私が。そいつを抑えていて」

 

先輩は気付いたみたいだが、この状況だと両手が塞がっていてトドメを刺せない。アームロックの状態から羽交い締めに移行する。

 

「上手く躱してくださいよ」

 

『ヒッサツ!!フルスロットル!!スピード!!』

 

先輩がドライバーのパネルを上げてからスイッチを押してパネルを叩いて下ろす。それから3歩助走をつけてから飛び上がり前方宙返りからの飛び蹴りを放つ。その蹴りが命中する直前にコウモリ野郎の背中を蹴って上に飛ぶ。

 

先輩の飛び蹴りが炸裂してコウモリ野郎が吹き飛ばされて爆発する。同時に現れたコアをゼンリンシューターで撃ち抜いておく。同時に重加速が解けた。一応他に敵がいないのを確認してからドライバーからシフトカーとシグナルバイクを取り外して変身を解除する。

 

『『『オツカーレ』』』

 

「「「Nice Drive!!」」」

 

今度は先輩も混じえてハイタッチを交わす。って今はそれどころじゃない!!

 

「そうだ元士郎!!」

 

「あっ、そうだったな!!」

 

元士郎と二人ではぐれエクソシストからバンドを外そうと走る。

 

「会長!!エクソシスト達の右手首のバンドを!!」

「部長達もお願いします!!こいつが重加速を防いでたみたいで!!」

 

色々な手段を試してみたがやはり全てが灰になってしまった。

 

「ちくしょうが、どういう構造してやがるんだ?」

 

「千切ってみてもダメだな。魔力とか生命力に反応してるのか?」

 

「本当にこれが重加速を防いでいるのですか?」

 

「ロイミュード以外が全員着けてて重加速空間内で動いていたんですよ。なら、原因はこれでしょう」

 

「ねぇ、そろそろ私たちに説明してもらいたいんだけど」

 

オレ達が話し合っていた所に部長が混ざってきた。

 

「見た通りですが?堕天使がロイミュードで、彼らは重加速空間内でも動ける技術を持っている。それだけでしょう」

 

「けど、たぶん堕天使が技術を持ってるんじゃなくてロイミュードを新たに作った奴が持ってるっぽいですよ。結局、堕天使は全員ロイミュードだったんですから」

 

「そうだよな。それよりイッセー、あのシスターは?」

 

「やべっ、校門近くに置き去りにしたままだった」

 

「あっ、こら、イッセー!!」

 

「上に報告を上げないといけませんね。最悪、第2のグローバルフリーズが冥界や天界でおきます」

 

「あの人もそれを見越して私達に送ってきたのかもしれません」

 

「でしょうね。あの人に誇れるように努力は怠らないようにしましょう」

 

「はい、会長」

 

「ちょっと、ソーナまで!!」

 

「報告を早くあげないと問題ですよ、リアス。最悪、在野のはぐれまでロイミュードに入れ替わられますよ。対応、できないと簡単に殺されますよ。まあ、イッセー君もいますからある程度は対応できるでしょうが」

 

「そうよ、それよ。なんで貴方達は動けるのよ」

 

「グローバルフリーズはただ恐怖をばら撒いただけではないってことですよ。小さいけれども闇を払う希望の光が確かに存在した。その光の一端を預けられただけです」

 

「それが、そのベルトなの?」

 

「いえ、これはおまけですよ。ふふっ、行きましょうか、元士郎。報告書、今日中にまとめるように」

 

「分かりました」

 

「あっ、ちょっと、私にもちゃんと説明しなさいよ~!!」

 



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ハイスクールD×D×D 2

「我慢しろよ、イッセー!!」

「耐えてくださいよ、イッセー君!!」

 

『ヒッサツ!!フルスロットル!!チェイサー!!』

『ヒッサツ!!フルスロットル!!スピード!!』

 

二人のキックが同時に決まり、吹き飛ばされて変身が強制的に解除される。

 

「イッセーさん!!」

 

アーシアが駆け寄ってきて聖母の微笑で傷の治療を行ってくれる。

 

「これで全員暴走ですか。デッドヒート、次の段階へはまだ早いということですか」

 

「短時間の変身でも肉体への影響は大きい上に全力を出せば出すだけ暴走への時間が短くなる。超短期決戦と割り切るか、なんとか暴走しないようにするしかないのかな?」

 

「だけど、あまり力を抑えると普通にマッハやチェイサーやプロトの方が強いぞ、イテテテテ」

 

「まだ動いちゃダメですよ」

 

起き上がろうとしてアーシアに止められたので転がったままになる。

 

「仕方ありませんね。当分は鍛え直して行くしかないでしょう。悪魔稼業の方は順調ですか?」

 

「まあ、なんとかやってます。はぐれの討伐もドライグのおかげでなんとかやれてます」

 

「そうですか。リアスとの相性はどうですか?」

 

「正直微妙なんですよね。若干放任主義というか、踏み込んでこないんで何も話せていない状況ですし。今だにオレが今代の赤龍帝で禁手に至っていることすら知ってませんし」

 

「はぁ~、相変わらず甘いというか。トレードしようにも駒の価値が出てきますし」

 

「さすが赤龍帝、兵士8個とは」

 

『ふん、8個程度にまで抑えてやったんだ。動揺して堕天使ごときに、いや、ロイミュードだったな。まあ、殺されるとは覚悟が足らなかったな』

 

「それに関しては何も言えねぇ。重加速を生み出せるのはロイミュードだけって思い込んでたからな。姿を擬態できるようになっていたなんて気付くかよ、普通」

 

あの時、パニックを起こさなければ禁手で逆に堕天使を殺すことだってできた。それができなかったのはオレのミスだ。シグナルバイクも持ち歩いてなかったしな。

 

「今は大丈夫だよ。常在戦場の覚悟で行動してるからな。ニュースで見てるだろ、あの擬態できるタイプとは別のロイミュードの事件」

 

「ええ、世界各国でロイミュードの犯罪に対処するために私達のシステムとは別系統で重加速に対応、ロイミュードとの近接戦も考慮して強化外骨格の生産が始まったみたいですね」

 

「名前だけはネットに上がってたな、確かG3だっけ」

 

「名前からしてG1、G2もありそうなんだけどな。型番なだけだと思うけど量産されるとどうなるんだろうな?」

 

「まあ、正式配備されてからは気をつけておきましょう。正体がバレると面倒になるでしょうから」

 

「普段からプロトトライドロンとかライドマッハーを乗り回してるどころか通学に使ってる時点で今更な気もしますけどね」

 

「気にしない方向で」

 

「「あっ、はい」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~、いきなり殴りかかってくるのがフェニックス家の挨拶の流儀なんですかね。どっちが下等なんだろうな」

 

棒で殴りかかってきた女を置き去りにライザーとか言う奴らの背後に回りこんで挑発する。

 

「いつの間に!?」

 

「あれぐらい躱せないでどうする。で、もう一回だけ聞くがどっちが下等なんだよ?いきなり相手に襲いかかる獣以下のフェニックスさんよぉ!!」

 

「舐めるなよ、小僧!!」

 

フェニックスの名の通り全身から炎を吹き出すが、それがどうした!!セラフォルーさんの一面銀世界にする方がよっぽど怖いわ!!ドライバーと神器、どちらを使おうか悩んだところでグレイフィアさんに止められる。

 

「ライザー様、それ以上するというのなら私も黙ってはおりませんが」

 

「ちっ、最強の女王である貴女に言われれば引くしかありませんね」

 

「……グレイフィアさん、グレモリー卿に再度確認を取ってください。本当にこんな奴をグレモリー家に婿入りさせていいのかを。礼儀知らずで力の強い者には簡単に尻尾を振り、立場の弱い者には傲慢であり、女性に不誠実。正直、婚姻を結ぶデメリットの方が大きいと思うんですが」

 

「貴様、まだいうか!!」

 

「何度でも言ってやるさ。お前には覚悟が全然足りない!!オレは10年間ソーナ先輩を、ソーナ・シトリーという悪魔を見てきた。姉があんなので幼い頃から次期当主の重責を背負い、自分の夢や目標や憧れを押さえつけて、悪魔の未来を憂いて挫けそうになりながらも再び立ち上がって走り出す姿を!!お前にはそういった物が一切感じられない!!三男で、フェニックスという特性にただ胡座をかいているお前に、誰かの心を動かせる物なんてない!!お前の価値なんて、先祖代々の物だけだ!!」

 

飛んできた炎弾をゼンリンシューターでたたき落として、ゼンリンシューターを振った勢いを乗せて顔面を蹴り飛ばす。ソファーから転がり落ちるライザーを見下す。

 

「口だけなんだよ、お前は。何もかもが軽い」

 

「そこまでです。これ以上は見過ごすことができません」

 

仲裁に入ったグレイフィアさんに頭を下げて部屋の隅に移動する。何を苛立ってるんだろうな、オレ。

 

 

 

 

 

 

 

山を駆け上がり、頂上にたどり着けば麓まで駆け下りる。麓で足に重りをつけたらまた頂上まで全力で走り抜ける。道を踏み固めれば場所を移して繰り返す。延々とそれを繰り返す。誰よりも速く、あの人を越えれる速さを求めて。元士郎もソーナ先輩も居ないから手合わせもできないし、最近はライドマッハーに乗ることが多くて自分の足で走っていなかったから鍛え直すにはちょうどいい。

 

気が済むまで走ったら今度は格闘のコンビネーションの精度を上げる。回転しながら連続で蹴りを主体に放ち、勢いを殺さずに少しずつ速度を上げて威力を上げていく。その次は走りながらのコンビネーション、走り抜けるコンビネーションと少しずつ負荷を上げる。それが終われば再び走る。悪魔になってから体力も速度も限界が上がった。それでも元士郎やソーナ先輩はなんとか食らいついてくる。つまり、オレの速度に付いてこれない木場は力量不足ってことだな。

 

大丈夫なのかよ、部長は?速度に秀でる騎士が素の兵士に速度で劣るって。しかも、同期の眷属にも負けるって。小猫ちゃんのパワーもたぶん元士郎に負けてるし、オレとどっこいどっこい位か?特に武術を齧ってるようにも見えないしな。部長も副部長も精密操作はソーナ先輩に劣るし、オレと同じぐらい、元士郎はちょっと下辺りかな?ああ、オレたち三人の劣化版だと考えればいいのか。なら、木場は鍛えてやれるな。剣はともかく、足は鍛えれる。

 

そう思って木場を探す。何やら素振りをしているみたいで様子を伺っていたんだが、なんだこれは?部活か何かなのか?しかも趣味の。本気で甲子園を目指している奴らの方が熱心だぞ。まさかと思い他のみんなを確認するが、予想通りだった。

 

「ああ~、もう、全員集合!!!!」

 

倍化の力で声を大きくして集合をかける。みんなが不思議そうな顔をして集まる。

 

「どうしたのイッセー?」

 

代表として部長が声をかけてきた。

 

「部長、ここには何の為にやってきたんですか」

 

「それは特訓に決まっているでしょう。今更、何を言っているの?」

 

「ええそうですよね、特訓です。特別訓練、略して特訓。お遊びに来てるんじゃないでしょうが!!」

 

「なっ!?お遊びですって!!」

 

「お遊びですよ!!木場、お前がさっきまでしていた特訓を見せてみろ!!」

 

魔剣創造で剣を作ってそれを素振りする。止まっている相手を切るように。

 

「それだよ、それ!!お遊びで集まってる部活じゃないんだろう!!部長の人生がかかってる、負けられない戦いだ。それに向けての特訓だ」

 

「そうだけど」

 

「じゃあなんでお前のイメージでは相手が棒立ちなんだよ!!」

 

そう言われてようやく皆が気がつく。

 

「レーティング・ゲームのフィールドがどんな場所かもわからない。それを想定して多種多様な環境がある山を選んだんじゃないんですか、部長!!」

 

「それは、その、使ってない別荘があって周りに迷惑がかからないから」

 

「木場、お前はその剣一本で戦うのか?色々な魔剣を作ってどんな相手や状況でも対応が出来るのがお前の利点なんじゃないのか?騎士は敏捷が上がるんだろう、なんで広い空間で棒立ち相手への素振りなんだ!!」

 

「……い、今までがそうで」

 

「小猫ちゃん、キミも木場と同じだ。力ももっと付けようとしているのはわかる。だけど、その力を発揮出来る技術はあるの?」

 

「……なんとかなってきたので」

 

「副部長、優雅さは戦いに必要なんですか?自分の攻撃で起こった砂埃の汚れを気にして、注意をそらして。相手を仕留め損なっていたら、どうなんですか?」

 

「……仰る通りで」

 

オカ研に入ってから募っていった苛立ちの原因がわかった。ソーナ先輩たちとの熱意の差だ。オレ達はあの人の背中を追いかけて、どうすれば少しでも早く近づけるのかを常に考え続けていた。互いに意見を交わし、試し、切磋琢磨してきた。ソーナ先輩の眷属もソーナ先輩の熱意に打たれて共に切磋琢磨してきた。その差に苛立っていたんだ。

 

「部長、貴女もライザーと一緒で何もかもが軽いんですよ。オレ、そんなんじゃ着いていけないですよ。オレや元士郎やソーナ先輩が目指してるものはもっと遠くにあるんですから」

 

「……ソーナ、ソーナって、貴方に私達の何が分かるって言うのよ!!」

 

「何も知りません。付き合いは短いし、腹を割って話したこともない。それで何を分かれって言うんですか!!放任主義も大概にしてください!!」

 

「なっ!?なら、勝手にしなさい!!」

 

「そうさせてもらいます。主の許可は得たんだ。はぐれ認定もされないんでね」

 

駄目だ、グレモリー先輩とは相性が悪すぎる。売り言葉に買い言葉。これ以上は話すだけ悪化する。荷物をまとめて長期休暇の時に使う山に向かう。あそこならキャンプ道具を置きっぱなしにしてある。公休扱いの残りも自分を鍛えられる。あと、セラフォルーさんに相談だけしとこう。オレより長生きしてるし、外交担当だったはずだから何かいい知恵がありそうだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやっほう~!!」

 

ライドマッハーでパーティー会場に指示通り突撃する。

 

「イッセー!?」

「小僧!?」

 

「はっはー、時間ピッタリ、ご依頼どおり、オレ、参上!!」

 

普段とは全く違う喋り方な上にポーズまで決めるオレに、誰の指示か察したのかソーナ先輩と元士郎が頭を抱えている。

 

「何をしている!!そいつを摘み出せ!!」

 

ライザーが衛兵に命令するが誰も動かない。なんせ、オレは魔王様方に依頼されて指示どおりに登場しただけのパフォーマーだからな。

 

「なぜ誰も動かない!?」

 

「言っただろう、ご依頼どおりってな。最初からこれは決まってることなんだよ」

 

ライドマッハーから降りてヘルメットとゴーグルとグローブを外す。

 

「私から説明しよう」

 

先日、セラフォルーさんから紹介されたサーゼクス様が姿を表す。

 

「今回のゲームが決定する前に彼はライザー君がグレモリー家の婿にするには不適格だと発言した。それに関して私の方でも調査してが、あまり否定はできないね。だが、ゲームで強さは見せてくれた。だから、ライザー君にチャンスを与えようと思ってね。僕からの刺客を倒せば、魔王公認だ。誰にも文句を言わせない」

 

「その刺客がオレだ。分かりやすくてシンプルだろう」

 

「ふん、逃げ出した奴がオレに敵うとでも思っているのか」

 

「主に好きにしろって言われたから。特訓の成果って奴を確認させてもらっただけだ。まあ、想像どおりの結果だったけどな。オレが居ても結果自体は変わらなかっただろうけどな。逆にオレ単騎なら負けはしない」

 

「たいした自信だな」

 

「自信?違うな、事実だ!!」

 

「ゲームのフィールドは既に準備できている。5分後に始めるよ」

 

話し終えたサーゼクス様が下がり、ソーナ先輩と元士郎が傍にやってくる。

 

「何をやってるんですか。ゲームに居ないと思ったら」

 

「いや、性格の不一致が酷過ぎてまともな手を打っていたらどうしようもないもんで。なんだかんだで、嫌いな奴との結婚なんてさせたくはなかったんで、セラフォルーさんに相談したらこんな具合に」

 

「セラフォルーさんに相談したのはすぐに分かったよ。あんなポーズやセリフの時点で」

 

「まだ、マシだぞ。マッハの方で変身後の名乗りまで指定されちまった。無論、ポーズ付きで。練習もさせられた。もうお婿にいけねぇ」

 

手で顔を覆い隠して泣き真似をする。あの人の奇行には慣れてるから大して恥ずかしくもないんだけどな。

 

「それで、どうやるつもりなんですか?」

 

「初っ端から紅葉おろしで行こうかと。面倒なんで」

 

「げぇっ、あれかよ。かわいそうに」

 

「あの、先輩」

 

上着の端を摘まれて振り返ると小猫ちゃんがそこにいた。

 

「どうしたの?小猫ちゃん」

 

「その、大丈夫なんですか?」

 

「ああ、余裕余裕。変に油断しない限りは大丈夫だよ。生身のままだと仕留めきれないかもしれないけど、ちゃんと準備してあるし。それは魔王様方にも確認してもらってるから。ああ、そうだ、小猫ちゃん。強くなりたいなら元士郎にメニューを組んでもらうといいぞ。小猫ちゃんと同じでパワーファイターだから。重量物で殴り飛ばすのが得意だけど、素手でもかなり強いから。小猫ちゃんのスペックアップ版が元士郎だから」

 

時間になったのでそれだけを告げて転移魔法陣に飛び込む。フィールドはコロシアムで、向こうは眷属も全員固まって怒気を放っている。セラフォルーさんに比べればそよ風に近いけど。オレはクラウチングスタートの構えをとって、スタートの合図を待つ。グレイフィアさんの説明が続く中、いつでも走り出す準備をする。

 

『それでは、試合開始』

「禁手化!!」

 

赤龍帝の鎧を纏うと同時に脚力を強化してまっすぐ走り、右脚の鎧を猛禽類の爪の様に変形させて飛び蹴りでライザーの顔面を掴んでその後頭部を地面で紅葉おろしにする。コロシアムの壁が近づいたところで体を持ち上げて、コロシアムの壁で全身を紅葉おろしにする。1周する頃にはほとんど炎だけになったので払い捨てる。この間1秒未満で、ライザーの眷属がソニックブームで吹き飛ばされてボロボロになる。

 

「ドライグ、今のタイムは?」

 

『0.98秒、紅葉おろしの分遅かったな。まあ、絶望へは十分なタイムだな』

 

「な、なにがあああぁ!?」

 

再生を始めたライザーの顔を踏み潰す。

 

「このままぷちぷち潰してればいつかはリタイアするだろう」

 

『一気に吹き飛ばしてやれば良いものを』

 

「獣のしつけには時間がかかるものだろう?礼儀も知らないんだからな」

 

全身を何度も踏み砕いているとようやく眷属の何人かが立ち直ってきていたので、再び走り抜けてソニックブームで吹き飛ばしておく。そのままライザーを潰す作業を再開しようと思うと、重加速が発生する。見ればライザーの女王と双子の兵士、初めて会った時に棒で殴りかかってきた奴がロイミュードの姿に、さらに言えばコウモリ野郎の様な進化した奴ばかりになる。他の奴らは重加速の影響を受けている。

 

「まさか悪魔の眷属にまでロイミュードが混ざっているとはな」

 

赤龍帝の鎧を解除してドライバーを装着する。それに合わせてソーナ先輩と元士郎もドライバーを装着してやってくる。

 

「武器無しか。ゼンリンシューター位持ってきてくれても良かったのに」

 

「お前だけに楽はさせるかよ。デッドヒート、少しは扱える様になったんだろう」

 

「暴走すれば止めますので、最初から全力で行ってください」

 

「信じてますよ」

 

三人でシグナルバイクとシフトカーを構えてドライバーに挿入してパネルを叩き下ろす。あ~、セラフォルーさんが見てるってことはやるしかないんだよな。

 

『シグナルバイクシフトカー!!ライダー!!デッドヒート!!』

『シグナルバイク!!ライダー!!チェイサー!!』

『シフトカー!!ライダー!!スピード!!』

「Let's「「変身!!」」」

 

変身後終わると同時に名乗りをあげる。左手で相手を指差しながら

 

「追跡」

 

右脚を軸に右回転をして右の手のひらに左の拳を叩きつけ

 

「撲滅」

 

体を左に捻り右手を掬い上げるようにあげ

 

「いずれも」

 

両手を打ち合わせて広げる

 

「マッハ~!!」

 

右腕を3回回し、右脚を今にも駆けだすようにあげ

 

「仮面ライダ~~」

 

右に重心を乗せて体を大きく開く

 

「マッハー!!」

 

左手を軽くスナップさせてから走り出す。

 

「「「ひとっ走り付き合あえよ!!」」なさい!!」

 

元士郎が元棒使いの蛇っぽいのをソーナ先輩が蝙蝠っぽい元女王を、双子の蜘蛛っぽいのをオレが担当する。バーストしないように気をつけながら普段通りの動きで双子を押していく。性能はやはり普通のロイミュードより上がっているが動きが双子の物とほとんど変わらない。そもそも何時からこいつらは本物と入れ替わっていたんだ?そもそも何処までコピーしてやがる。

 

「とっとと倒れやがれ!!ライザーもまだボコらなきゃならないんでな!!」

 

「そんなことさせない。ライザー様は私たちが守るんだ!!」

 

「ぽっと出のあんたなんかにライザー様を否定させない!!」

 

「主人を諌めることもできないただのセフレが何を言ってやがるんだよ!!ぽっと出のオレだけじゃなくてサーゼクス・ルシファー様が否定してるんだよ!!」

 

「切っ掛けを作ったのはあんただ!!邪魔をする仮面ライダーは倒す!!」

 

「私たちは至上の存在なんだ!!私たちが世界を制する!!」

 

こいつら、完全に元になった奴をコピーしてやがる。記憶や感情も全て。ロイミュードとしての記憶や行動原理も残ってる。厄介にも程がある。だが、今は

 

「お前たちはまだ罪を犯していないかもしれない。だが、ロイミュードは機械だ。ウィルスなんかで目的を統一される可能性がある。そして、またグローバルフリーズを起こされるわけにはいかない!!」

 

ドライバーのブーストイグナイターを4回叩き、加速する。バーストギリギリまでパワーを上げて二人が重なるように蹴り飛ばす。パネルを上げてブーストイグナイターを押してパネルを下ろす。

 

『ヒッサツ!!フルスロットル!!デッドヒート!!』

 

二人同時に決めるためにキックマッハーのように前方宙返りで威力を高める時間はない。シンプルにソーナ先輩と同じように助走をつけて飛び蹴りを叩き込む。だが、それでもデッドヒートのパワーは強大なのか、二人のボディを砕いてしまった。振り返ると元士郎はボディだけを砕いてコアを確保している。ソーナ先輩はこれからトドメを差すところだ。

 

『ヒッサツ!!フルスロットル!!スピード!!』

「これで終わりです!!」

 

「まだよ、こんな所で終わるわけにはいかない!!私たちのためにも、ライザー様のためにも!!」

 

元女王のロイミュードが全身から蒸気を発したかと思えば、ソーナ先輩の飛び蹴りを受け止めて弾き飛ばした。

 

「まさか、デッドヒートと同じなのか!?」

 

「イッセー、援護に入るぞ!!」

 

「ああ!!」

 

限界は近いが、それでもソーナ先輩に追撃をかけようとする元女王の前に飛び込み元士郎が後ろから飛びついて抑え込む。だが、強引にオレ達を振りほどき意味不明な言葉を叫びながらオレ達にエネルギー弾を撃ち込んでくる。

 

「やべえな、完全に暴走してるぞ」

 

「いえ、完全ではありません。私たちの暴走とは違って明らかに敵だけに襲いかかってきています。ですがボディがスペックに追いついていないみたいです。このまま攻撃をしのいで自壊を待ちましょう」

 

確かにこのまま放っておけば自壊は早そうだ。ガードに徹すればそこまでダメージを受けずに済むだろう。だが、オレはそれを選ばない。たぶん、ボディだけじゃなくコアまで自壊すると思うから。ライザーのために本気で命を賭けてるんだ。それに応えなければ、あの人の背中がまた遠ざかる気がしたから。

 

「うおおおおおおっ!!」

 

「イッセー!?」

「イッセー君!?」

 

立ち上がって走り出し、警告を無視して更にパワーを引き出す。次の瞬間、タイヤがバーストしたのを感じながら暴走しそうになる体を根性でねじ伏せて元女王のロイミュードを殴り飛ばす。結構、きつい。だが、前みたいに耐えられない訳じゃない。あの人の背中を追いかけるという気持ちが折れない限り、オレは戦える!!

 

「ボディだけ粉砕してやる!!お前にはそれだけの重さがある!!」

 

殴り飛ばした元女王がこちらに駆け出すのに合わせてどうやればボディだけを砕けるかを考える。ただの飛び蹴りでも2体のロイミュードのボディを粉砕したとなると蹴りは危険だな。となると、パンチ、それも軽いのを連打で浴びせるのが一番か。パネルを上げてブーストイグナイターを押してからパネルを下ろす。

 

『ヒッサツ!!フルスロットル!!デッドヒート!!』

 

相手のパンチをギリギリで躱し、打ち上げ打ちおろし後ろ回し蹴りで加速をつけた裏拳のコンビネーションで吹き飛ばす。ボディが完全に砕け散り、コアにもヒビが入ってしまったがなんとか終わらせることができた。重加速空間も消え去った所でイノベイドバイザーを上げて余剰エネルギーを強制排気する。全身から蒸気が上がり、メーターが急速も下がっていくのを確認し終えてから変身を解除する。

 

『オツカーレ』

「あ~~、しんど!!」

 

髪をかきあげながら地面に座り込む。元士郎とソーナ先輩が変身を解除しながらやってくる。

 

「無茶をして。心配をかけさせないでください」

 

「すいません、先輩。でも、あの元女王さんは生かすだけの価値があると思って」

 

「生かす価値ですか?」

 

「主人のために命まで懸けれるんですよ。口だけの奴よりよっぽど生きる価値がある。だから、なんとかしてやりたかった。とは言ってもコアだけになっちまってるんで研究サンプルにされるかもしれないんですよねー。色々と尋問もされるでしょ禁手化!!」「禁手化!!」

 

魔力が高まるのを感じて元士郎と共にソーナ先輩を庇う。元士郎も鎧型の禁手なために障壁を張らずとも十分な防御力を持っている。二人で庇えばこの程度の炎なら完全に防げる。

 

「しつこい野郎だな。まだ抵抗するか」

 

「貴様ら、ユーベルーナ達に何をした!!」

 

「オレ達は何もしてねえよ。見ての通り、ロイミュードに入れ替わられていただけだ。普通にロイミュードの記憶や行動原理も残ってたからな。気づこうと思えば気づいたはずだぞ。もしくはここ数日に入れ替わられていたってんならご愁傷様だ。こいつらがどうやって擬態しているのかは知らないが、擬態した以上本物は邪魔だ。消されてるぜ」

 

「擬態するロイミュードに関して報告を上げてありますが、知らないということは上が情報を伏せていたのでしょう。まあ、目撃者が多数増えてしまったので意味がなくなってしまいましたが。それと、ボディを失っているだけなので生きてはいますよ。ボディの修復仕方は知りませんが」

 

「ある意味で失態を重ねてる気がするが、仕方ないと思うぜ。擬態を解くまでさっぱり分かんねえから。まあ、それは横に置いといて、Let’s Cooking!!」

 

炎弾を飛ばしてきたライザーをゲーム開始時よりは優しく紅葉おろしの刑に処す。炎耐性を倍加しておけば熱くないし、疲れた体は倍加の力で自然治癒力を高めることで消耗よりも回復の方を上回らせる。先輩達がコアを回収してフィールドを離れたところで再度ゲーム開始時のスピードで紅葉おろしにして10分ほどでようやくリタイアしやがった。先輩達、どれぐらい説明してくれたかな?

 




マッハの名乗りの時のポーズ、言葉で書こうとすると難しすぎて結構適当になってます。動画を見てくれとしか言えないです。


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ハイスクールD×D 光の使者

side ソルド

 

ウルトラ星人として産まれて早1万8000年。たまに前世のことをふと思い出す程度になってしまったが、楽しく、楽しく?生きています。普通の一般的なシルバー族として真面目に体を鍛え、光線技のバリエーションを増やし、特殊な技術を覚え、宇宙警備隊に所属し、行動範囲や戦闘力を高めるためにウルトラコンバーターやウルトラブレスレットを開発し、技術長官にまで出世した。

 

ウルトラマンが地球に降り立ってからは派遣された宇宙警備隊の援護に何度か地球を訪れる機会もあったが、ウルトラマンの姿ではエネルギーの消耗が激しすぎた。人間で例えるなら成層圏ギリギリを普段着で活動するような物だ。人間態や同化して初めてまともに活動することができる。生前の謎が解けたな。

 

そして1万年ほど月日が流れ、ブルトンによるギャラクシークライシスによって様々な平行世界や宇宙が混ざり合った。私は科学者として地球人達との架け橋となり、様々な技術を提供したりされたりした。そしてギャラクシークライシスを引き起こしていたブルトンを倒したことで少しずつ世界が元の形に戻っていった。

 

平和になったのも束の間、収監されていたベリアルが脱獄しウルトラの星へと復讐を企んだ。偶々星から離れていた私は無事だったメビウスと共に地球人と地球のレイオニクスと協力してなんとかベリアルを倒すことができた。だが、問題はそこじゃない。

 

「おい、セブン!!お前、こんな大きな子供がいるなんて聞いてないぞ。それに今まで知らなかったってことは認知してないのかよ」

 

「い、いや、それはだな」

 

「お前、地球にいた時も女が原因でウルトラアイを何度も奪われていたと思ったら、こっちじゃ子供を認知していないとか。というか、籍も入れてないだろう?」

 

「ま、まあ」

 

「そりゃあ息子がグレてプラズマスパークに力を求めようとするわけだわ。かわいそうにな。同期として謝っておくぞ、ゼロ。お前、今何歳だよ?」

 

「えっ、7000歳だけど」

 

「となると、母親は銀十字団のジョアンか。酔わせて持ち帰った時か」

 

「あっ、こら!!」

 

「気をつけろ、ゼロ。学生時代からこんな感じで女をとっかえひっかえしているからな。ジョアンの時はこいつも結構飲んでいたから避妊に失敗したんだろうな。そんでもってセブンの野郎は逃げたんだろうぜ」

 

「親父」

 

「ち、違うぞ。逃げたわけでは」

 

「どもったぞ。これは益々怪しい」

 

ちょっと引きながらゼロをかばう位置に立つ。マンやダイナ、レオ達からも怪訝な目で見られ始める。無論、地球人達にもだ。

 

「よ~し、それじゃあ本人に突撃インタビューをやるか。ヒュウガ船長達も行くだろう。私はこのスペースポートと同じバリアを張れるからな、私の手に乗れ。案内しよう」

 

メディカルセンターに突撃インタビューをかけたのだが、ジョアンが迷惑になるからと内緒にして産んで育てたらしく、セブンがゼロが息子だと知ったのもウルトラの星から追放された後だったそうだ。結局、そこそこの人数に知られてしまった為に正式に籍を入れて結婚式を派手にやった。結婚式はそれはもう大変だった。多くの女性が集まり号泣だ。このプレイボーイめが。ゼロもさすがに呆れてたぞ。

 

そしてしばらくして再びベリアルが光の国へと侵攻を開始した。ゼロをアナザースペースへと送り込むために持てる技術の全てを使いコンバーターとブレスレットを合わせたゼロブレスレットを開発。予算の都合上量産は不可能なワンオフとなってしまったにも関わらず、ゼロが帰還した際にバラージの盾と呼ばれているウルトラマンノアのノアウィングを吸収してしまったために整備も調査もできなくなってしまった。結構な自信作だったのに、完全に私の手元から離れてしまったことにショックを受け、数年ほど落ち込んでいた。

 

そんなことがあった為か最近は親やゾフィー隊長やケン大隊長にお見合いを勧められるが、独身の方が楽なんだよな。それに、根っこが地球人な所為かあまりウルトラ族の醜美感覚からずれてるんだよな。おかげで言ってはなんだが、美人と言われても『はぁ、そうなんですか』としか返せない。

 

「ソルド長官、N81星雲に謎の空間の歪みを感知しました」

 

「謎の歪み?近くにいる技術部所属の警備隊か恒星観測員は?」

 

「問い合わせたところ誰もいないそうです」

 

「分かった。私が出よう」

 

「はっ、宜しくお願いします」

 

「念のためにコンバーターとブレスレットを持って出るぞ」

 

「了解しました」

 

宇宙警備隊への連絡を任せてN81星雲に急行する。

 

「おかしいな。報告があった宙域はこのあたりのはずなんだが。正常に戻ったのか?」

 

確認の為にウルトラサインで光の国に報告を送り、返事が来るまで待機する。しばらく待ち、返信に驚く。ただ逃げろとしか書かれていなかった。嫌な予感がして全速で飛び始めるが、遅かった。今までの静寂が嘘だったかのように空間が一気に歪み、歪みに飲み込まれる。少しでも助かる確率を増やす為に身体を丸めてバリアで覆って耐える。コンバーターのエネルギーも根こそぎ使い切り、カラータイマーが鳴り始めた頃、ようやく安定した空間に投げ出されたが今度は重力に捕まり、この空間に投げ出された時の力が合わさり墜落は免れないようだ。冷静に計算するが、身体がギリギリ耐えれるかどうかといったところだ。

 

「こんな所で死ねるか!!」

 

ウルトラブレスレットを盾に変化させて空気抵抗を少しでも増やす。気持ち速度が落ち、木々を押し倒しながら墜落し、生きていることを実感しながらエネルギーの節約の為に人間態に変化して意識を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐうぅっ!?」

 

思い出したかのように全身に痛みが走り目がさめる。視界には見覚えのない天井が広がっていた。痛みに耐えながら身体を起こすと手当てがされており、調度品を見る限りかなり上流階級の者に助けられたのだろう。問題は持ち物が何もないということだろう。変身の為のプラズマ鉱石を埋め込んだ多機能腕時計にディファレータ計測器、ガッツブラスターとカプセル怪獣のカプセルの中身入りが1つと空が2つ、それに着ていた服が脱がされて病院着らしきものに着替えさせられている。コンバーターとブレスレットは変身時に構築されるので問題はない。他の問題は、この星の環境が恐ろしく合わない。地球だと3分だが、この星だとコンバーター無しで1分が限界だろうな。人間態での活動なら問題はないみたいだが、エネルギーの回復は遅いだろう。

 

「現状は確認できたな。とりあえず、情報を集めないことにはどうすることもできないな」

 

寝かされていたベッドから起き上がり扉の方へ近づくと、向こう側から開かれ銀髪の女性が現れて驚いている。

 

「もう動けるのですか!?」

 

「まだ辛いですが、なんとか動けます。貴方が私を助けてくれたのですか?」

 

「いえ、すぐに主人をお呼びいたしますのでお待ち下さい」

 

そう言って扉を閉めて出て行くのを見送るのだが、会話に違和感があった。疑問に思うが、とりあえずはベッドに腰掛けて主人を待つことにする。しばらく待っていると先ほどの銀髪の女性とその後ろに紅髪の男性が現れる。

 

「驚いたね。まだ動けないと思ったんだけどね」

 

「貴方が私を助けてくれたのですか?」

 

「見つけたのは私の妹だがね。私はサーゼクス・ルシファーだ。君の名前を聞いても?」

 

「ソルドです。この度は命を救っていただき、ありがとうございます」

 

「気にしなくて構わないよ。ものすごい幸運の持ち主だしね。流星が落ちた場所に倒れていたんだ。ボロボロの姿でね。持っていた物は拾える限り拾ってあるよ」

 

そう言って銀髪の女性がトレイに乗せて私の所持品を見せてくれた。ガッツブラスターはトリガー部分が折れていて使い物にならないな。全体的に溶けてるし。カプセルの方は問題ない。中にいる怪獣も同じく無事だ。ディファレータ計測器は破損しているがこれぐらいなら簡単に直せる。そして多目的腕時計は

 

「プラズマ鉱石がなくなっている!?」

 

よりにもよって一番厳重に作っていたプラズマ鉱石の収納部分が破損し、プラズマ鉱石がなくなっていた。まずいにも程がある。あれがなければ、私は二度とウルトラマンに戻ることができない。しかもエネルギーも尽きかけていたからただの石にしか見えないぞ。

 

「重ねて申し訳ないのだが、私が倒れていた場所に案内してもらえないでしょうか?」

 

「プラズマ鉱石とかいうのを探しにかい?」

 

「あれがないと私は故郷に帰るどころか連絡すら取れないのです」

 

いや、ウルトラサインなら時間はかかるが機械を作れば行けるか?まあ今は伏せておこう。プラズマ鉱石を見つけ出せば問題ない。

 

「そんな体で大丈夫かい?」

 

「今見つけないと二度と帰れなくなりますから」

 

そして、グレイフィアさんに案内された先で連日捜索を続けたが、プラズマ鉱石は見つからなかった。だが、私はウルトラ一族の中で最も諦めが悪いと自負している。ウルトラマンに戻れないのなら、ウルトラマン以外の力で光の国に帰還するまでだ。幸いなことにスペースペンドラゴンのライブラリーの中身を完全に覚えている。つまりは地球の技術は完璧に覚えきっている。それを再現すれば時間はかかるが帰還は可能だ。

 

本来なら技術提供はまずいのだが緊急事態として対応することにする。情状酌量されるとは思うが、最悪は1万年ほど幽閉されるかな?まあ、未来のことは未来のことだ。

 

サーゼクスさんとアジュカさんから援助を受けてまずは装甲材としてガッツイーグルの装甲材を作りながらサーゼクスさんの妹で私を見つけてくれたリアスを人間界の遊園地に遊びに連れて行ったり(この時にここは平行世界であることが判明。ウルトラサイン発生装置の開発を断念。ウルティメイトイージスによる時空の穴を開ける方法を解明していて良かったと心から安心する)、エネルギー源として基礎を積むためにマキシマオーバードライブを開発しながらリアスに簡単な格闘技を教え込んで人間界の動物園に一緒に行ったり、金のためにリパルサーリフトを開発しながらリアスの眷属候補を鍛え上げてリアスと二人で水族館に行ったり、とりあえずの集大成として上記三つを組み合わせたアートデッセイ号と艦載機としてガッツウィング1号と宇宙開発に便利な宇宙服としてガッツアーマー、スーパーGUTSメット、スーパーGUTSバックルを名前を変えて発表。人間界は宇宙開発時代に突入する傍らリアスの悪魔稼業デビュー祝いに正式に使い魔契約を交わすことになる(本当は眷属にしようとしたのだがコストが足りずに渋々使い魔契約にした)。使い魔として戦闘も行われることを想定して、ウルトラ一族を模した戦闘外骨格ウルトラマンスーツを開発。基礎技術が発展したのでネオマキシマオーバードライブを発表しながら、リアスにランジェリーショップに連れまわされる。

 

ここまでで12年の歳月が流れるが、ウルトラマンの寿命から言えば僅かな時間にすぎない。この調子ならあと50年程で帰れるだろうな。むしろ、誰か迎えに来る方が早い気もする。だからこそ油断していた。私を飲み込んだ次元の歪みが奴の居る空間に似ていたことを、私は忘れていた。

 

 

 

 

 

「バキシム、それにベロクロンにドラゴリーまで。馬鹿な、なぜ超獣がここに!?」

 

リアスとライザー・フェニックスの結婚をかけたレーティングゲームの終盤。突如としてゲーム会場の空間が割れて奴らが現れた。

 

「くっ、グレイフィアさん、ゲームは中止だ!!早く回収を!!」

 

通信機を起動させるが繋がらない。

 

「リアス、念話は?」

 

「だめ、繋がらない」

 

3体の超獣がゆっくりと近づいてくる。

 

「ええい!!不利だが頑張ってくれ、グドン!!」

 

ウルトラマンスーツの中からカプセルを取り出し、校庭に向かって投げる。そしてカプセルが光り、両腕が鞭になっている怪獣、グドンが姿を表す。グドンが両腕の鞭を振り回しながら超獣達に立ち向かう。

 

「さて、これで少しは時間が作れるな。ライザー・フェニックス、そちらは念話や転移は可能そうか?」

 

「オレに指図するな!!」

 

「なら、ここで死ね。言っておくが、あれは先兵だ。後ろには軍団規模で控えているぞ。奴らはいくらでも量産され、何度でも襲ってくる」

 

「なぜそんなことを知っている」

 

「戦ってきたからだ。何度もな。だが、今の私は本来の力を発揮できない。このスーツの力でも、なんとか1体を葬ってエネルギー切れで終わりだな」

 

「っ、何を冷静にしているんだ!!」

 

「慌てたところで事態は変わらん。むしろ間違った選択をする。そうならないために常に冷静でいろ。考えを働かせろ、今何ができて、何をすればいいのかを。そのすべての最善を掴み取った先が死なら、それ以上の最善を掴み取れ。それが生きるってことだよ」

 

グドンは頑張って時間を稼いでいてくれている。その時間を使い、考えを巡らせる。私はもう3万年近く生きた。ここで死んだとしても構わない。だが、リアス達はこれからだ。何としてでもリアス達だけは逃がさねばならない。例えウルトラマンの姿に戻れなくても、心は、魂はウルトラマンなのだから。

 

「な、何!?」

 

突如、リアスの胸元に光が集まり始める。リアスが慌てて胸元からロケットを取り出す。出会った時から身につけているそれに光が集まっている。そしてその光の集まり方を私は何度も目にしている。

 

「リアス、それを渡してくれ」

 

リアスが何か言いたそうにしながら、私にロケットを渡してくれた。中を開けてみると、そこには予想通りの物が入っていた。

 

「プラズマ鉱石」

 

「ごめんなさい!!ソルドが昔からそれを探してたのは知っていたけど、渡したら貴方がいなくなっちゃうと、二度と会えなくなると思って。それで、何も、言えなくて」

 

怒られると思ったのか、どんどんとその眦に涙を溜めるリアスを昔みたいに撫でてやり落ち着かせる。

 

「捨てずに持っていてくれてありがとう。これで私はリアス達を守れる」

 

ちょうどグドンが押し倒されてピンチになっている。

 

「戻れ、グドン」

 

ドラゴリーの止めのスタンピングをカプセルに戻すことで回避させる。同時にプラズマ鉱石を多機能腕時計に、ウルトラブレストに収めると同時にプラズマ鉱石から光を取り出していく。

 

「これが私の本来の姿だ!!」

 

屋上から飛び出すのと同時にプラズマ鉱石の光を完全に解放する。光の中、私は12年ぶりに本来の姿に戻る。宇宙警備隊技術庁長官、ウルトラマンソルドの姿に。

 

 

 

 

 

side リアス

 

 

「これが私の本来の姿だ!!」

 

そう言ってソルドが屋上から飛び出すのと同時にまばゆい光がソルドの全身を覆い、その光が巨人を作り出す。これがソルドの本来の姿。ウルトラマンスーツに似たその姿に、ウルトラマンスーツは本来の自分を模して作ったのだと理解する。

 

『その姿、ウルトラマンソルド!?生きておったのか!!』

 

割れた空間の先に新たな影が現れ、声が聞こえてくる。

 

『ヤプール、おとなしいと思えば平行世界に進出していたとはな。宇宙警備隊として侵略行為は見逃すわけにはいかない!!』

 

『ええい、やれ超獣達よ!!ウルトラマンソルドを抹殺せよ!!』

 

『返り討ちにしてやるよ!!』

 

超獣と呼ばれた3体の内、真ん中の緑色の奴に対してソルドが飛び蹴りを決める。そのまま流れるようにオレンジ色の頭をしている奴の足を払い、最後の1体には円鋸みたいなものを投げて首を落とす。転がっている超獣の尻尾を掴み、ジャイアントスイングで最初の1体に投げつけてから、両腕をクロスさせて光線を発射する。光線を受けた2体は爆発し、死体も残らなかった。それに業を煮やしたのか、空間の割れ目がどんどんと広がり、ゲーム会場が崩壊し始める。

 

『ここから脱出する。乗れ』

 

そう言ってソルドが左手をこちらに差し伸べる。私はすぐに飛び乗るがライザー達は躊躇している。

 

「ぐずぐずしないの!!死にたいの!!」

 

『早くしろ!!時間が無い!!』

 

それでも乗ろうとしないライザー達をソルドが右手で掴んで握りこむ。そしてそのまま飛び上がり、額の結晶体らしき部分から先ほどの光線とはまた違う光線が発射されて、空間に穴が開く。その穴をくぐり抜けた先は見慣れた実家の前だった。穴はソルドが抜けるのと同時にふさがり、ソルドが私たちを屋敷の前に下ろす。

 

『グレイフィアさん達に連絡はつくか?』

 

「ダメ。繋がらない」

 

『向こうも似たような状況だろうな。私はこのまま救助に向かう。情報を集めておいてくれ。ハァッ!!』

 

ゲーム会場から戻ってきたように、再び穴を開けて何処かへと、おそらくはお兄様達の元へと向かったのだろう。あれがソルドの本来の姿と力。私が大好きな人。子供の頃にあの石を素直に返していたら、多分二度と会えていなかったと思う。それが嫌で、私はずっと嘘をつき続けてきた。そばに居たかったから。

 

「リアス!!なんなんだ、あの化け物は!?」

 

そんな大好きな人をライザーは貶す。女好きで自分勝手な性格以上にそれが一番許せない。

 

「邪魔よ、どきなさい!!情報を集めるように指示を出す必要があるんだから」

 

「あんな奴の言うことを」

 

顔面に滅びの魔力をぶつけて黙らせる。再生する前にライザーの体を蹴り飛ばして踏みつける。ライザーの眷属達は一歩も動けないでいる。そして再生したライザーの胸ぐらをつかむ。

 

「何もできずにただ助けられただけの貴方より、助けてくれたソルドの指示はお兄様達が戻られた時に必要なことよ。それすらも理解できていないのなら、貴方の価値はその程度よ。分かったら引っ込んでいなさい!!」

 

用は済んだとばかりにライザーを捨てて屋敷に入る。

 

「お嬢様!?どうしてこちらに!?」

 

「今すぐ、現時点で次元の狭間を利用している人たちの安否を確認してちょうだい。お兄様達やお父様とも連絡が取れない状況なの」

 

「えっ?」

 

「いいから早く!!」

 

「は、はい!!」

 

使用人達に指示を出して情報を集めさせる。やはり私たち以外にも安否が不明になっている人たちが多い。幸いと言っていいかわからないけど、冥界には超獣は現れていないようだ。ソルドの本来の姿を見た何人かが怖がっているが、説明は後に回す。しばらくして再びソルドが現れる。使用人達が慌てるが、ソルドが怪我人を降ろし、そばにお兄様達がいることを確認して少しずつ落ち着きを取り戻す。ソルドも怪我人を降ろし終えた後、元の、いえ、私たちが見慣れている姿へと戻る。

 

 

 

side ソルド

 

 

ヤプールの第一次侵攻を食い止め、後始末がある程度済んだところでようやく私に関しての説明ができるようになった。参加者はリアスとその眷属、魔王様方とその眷属、グレモリー夫妻とその眷属だ。

 

「さて、改めて自己紹介をしましょう」

 

大きさは変わらずにウルトラマンの姿に戻る。

 

「私はこの世界とは別の、平行世界から事故で迷い込んだ宇宙人です」

 

「それが、君の本来の姿なんだね」

 

「はい。M78星雲ウルトラの星、光の国にある宇宙警備隊技術庁長官。それが私の肩書きです」

 

「宇宙警備隊?」

 

「私の世界では数多の宇宙人が存在しています。中には他の種族を滅ぼそうとする者や、侵略行為を行う者、ただ破壊を振りまく者なども存在します。そう言った宇宙のバランスを崩す存在を倒すのが我々宇宙警備隊の使命なのです」

 

「先ほど技術庁の長官だと言っていたが、あの超獣とやらは君たちから見ればそれほど強くはないのかい?」

 

「いえ、宇宙警備隊でも最精鋭であるウルトラ兄弟に名を連ねるだけの実力を私が持っているだけです。また、我々ウルトラ星人は環境によってその活動時間が変化します」

 

「つまり、戦いやすい環境だったの?」

 

「いえ、今まで生きてきた中で最も劣悪な環境です。今までは地球の、こちらでいう人間界が一番の劣悪環境でしたが、冥界は更に劣悪です。人間界での活動限界は約3分。冥界では1分が限界でしょう」

 

「そんなに!?けど、先日は明らかに1分どころか3分以上その姿だったはず」

 

「それはこの右腕につけているウルトラコンバーター、あ~、外付けバッテリーです。これのおかげで、活動時間がかなり伸びていただけです」

 

「では左腕についているのは?」

 

「こちらはウルトラブレスレット、ええっと、形状記憶合金に近い性質を持った万能兵器です」

 

「初めて会った時、君は故郷に戻れないと言っていたが、今なら戻れるのかい?」

 

「はい、戻れます。ですが、再びこの世界に来れるかは分かりません。それにヤプールの件もあるので帰還は延期するつもりです」

 

「ヤプール?」

 

「あの超獣を製造し、侵略兵器として扱う私の世界にいる異次元人ヤプール。奴らは怨念のような存在で負の感情をエネルギーとして吸収できるために完全に滅ぼすことができない存在なのです。これまでにも何度も倒してきたのですが、私たちの宇宙を諦めてこちらの世界へ侵攻してきたのでしょう。また、超獣は原生生物とヤプールの住む次元の素体と融合させることで生み出されます。こう言ってはなんですが、素材集めかもしれません」

 

おそらく、私がこの世界に飛ばされた時の時空の歪みはヤプールの実験か何かだったのだろう。

 

「一応、援軍の要請は済ませてありませが、それがいつになるかは、またどれだけの規模になるかは不明です。それに私が今まで音信不通だったために急に連絡が届いてもすぐには動いてはもらえないでしょう」

 

それが一番の問題なんだよな。個人的には何人かが動いてくれるかもしれないが、宇宙警備隊が大きく動くことはないだろう。ウルトラ兄弟の誰か、おそらくはエース辺りが派遣される位だろうな。

 

「超獣だが、我々でも対処は可能だろうか?」

 

「厳しいでしょうね。単純に大きさが違います。奴らはサイボーグでもありますから普通の生物よりも強い存在です。生半可な攻撃では歯が立ちません。対応できる武器としてはアートデッセイ号のデラック砲が一番手っ取り早いですね。さすがにアートデッセイ号の量産は時間も予算も人員もかかりすぎますので、私が実験に使っていたイーグルに武装を換装中です。というか、人間界の方にもヤプールが侵攻していたみたいで開発の依頼が入っていましたから、ちょうど良かったと言えます。問題は悪魔にパイロットがいないということでしょうか」

 

「揃えるのにどれぐらい時間がかかる?」

 

「イーグルの方は冥界の場合はラインから組み立てる必要があるので、とりあえずは人間界の方に発注をかけた方がいいですね。人間界には隕石破壊のために最低限の武装を施したイーグルのラインがありますから。コネを使えば3機位は回してもらえるはずです。当面はその3機で防衛しつつ、生産ラインを作るしかないですね。こちらの方はラインを作るのに4ヶ月、1機作るのに1ヶ月。これは慣れればスピードが上がるはずです。問題はパイロットの方ですね。民間の航空社から今の路線に影響がないように引き抜いたとしてベテランで3ヶ月、それ以下で6ヶ月はかかるとみてください。それからイーグルは最低人員が3名必要です。まあ、分離機構を組み込んでいるせいなんで、オミットすれば1名、いや、やっぱり2名は欲しいか。それから整備員も必要になりますし、格納庫も用意する必要がありますね。完全な防衛体制の構築まで最短で1年ですね。人間界の方は3ヶ月もかからないでしょうが」

 

「それほどかい!?」

 

「ないないづくしですからね。これでもかなり甘く見ていますし。撃墜されようものなら更にひどいことになります。イーグルがネオマキシマを搭載しているおかげで、防空圏は冥界全土をカバーできていることがせめてのも救いでしょうか」

 

「短縮は出来ないのかい?」

 

「転生悪魔の中に空軍パイロットでも居れば。しかし、整備員が足りなければ2、3度の出撃が限界ですね。その分、私がカバーしますが」

 

現場までは転移で送ってもらえれば、あとは私がある程度戦える。

 

「随分辛い状況だね」

 

確かにそうだが、今までのツケが回ってきたと見るしかない。それ以上に気になることがある。

 

「私からも質問よろしいですか?」

 

「なんだい?」

 

「天界や冥府、各神話勢力の拠点にヤプールの侵攻は?」

 

その言葉に魔王様方が息を飲む。

 

「大至急各勢力に確認しろ!!こちらの情報を与えても構わない!!冗談抜きで全ての勢力が滅びるぞ!!」

 

「連絡が取れない場合は強行偵察も行え!!」

 

「念のために救護班の用意もね!!」

 

「ソルド君、すまないが」

 

「まだ暴れているようなら出ます」

 

「ありがとう」

 

結局、天界や他の神話勢力の所にも超獣は送り込まれていた。不幸中の幸いは破壊活動のみで素材として回収された者はいないということか。だが、代わりに悪魔以外の陣営は壊滅状態と言ってもいい。悪魔もそこそこの被害が出ている。むしろヤプールが空間をつなげやすいのか、第一次侵攻後もかなりの数の超獣が送り込まれた。その結果、被害が拡大し一般市民以外にも老害と言われる奴らも1割ほど死んでいる。さすがにこのような状況では強気に出れなかったのか全人外勢力での協定が結ばれることになった。協定の内容を簡単にまとめるとこうだ。

 

過去のことは一旦棚上げにして一つの集団として再編成して協力し合う。各勢力から代表を出してその人たちで情報交換を行う。これに反対する者は、種の滅亡を望む破滅主義者として徹底的に潰す。向こうの言い分は一切聞かない。期限はヤプールを潰し終わるまでとなっている。また、潰した後の未来で再び複数の種の存亡がかかった際にはこの協定を再び持ち出すことがあるで同意した。

 

そして、それとは別に対超獣部隊が設立された。私は参加していない。私は個人で動くことになっている。正確に言えば組織には属さずに戦うのが正しいな。情報のやり取りなどは行うし、必要になるであろう技術の提供はしてある。あと、年齢の話をしたら驚かれた。一番年上だったらしい。私なんてまだまだ若いのにな。ケン大隊長なんて23万歳なのにな。高々2万8000歳で驚かれても反応に困る。

 

 



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ハイスクールD×D 歩き始めた男

導入部みたいな物なのでいつもより短いです。


 

「ディケイド、いや、大ショッカー首領、門矢士!!オレは貴様を許さん!!」

 

「オレの名はプロト・ディケイド。貴様のディケイドより前のコンセプトで改造された改造人間だ」

 

「ディケイドの為に人としての姿を奪われたオレたちの怒りを受けろ!!」

 

「なぜだ!?何故勝てない!?貴様の為に犠牲になったものたちを忘れ、のうのうと生きている貴様に!?」

 

「ここまでか。みんな、すまない。仇を打てなかった。だけど、子供を見捨てるなんてことはできなかった。望まない体だけど、それでもオレは仮面ライダーだから。門矢士、もう二度と忘れるな。お前のその力は多くの犠牲の元にある。それに恥じない姿でいてくれ。お前が仮面ライダーを名乗るなら。それを忘れた時、オレはまた貴様の命を狙う為に蘇る。必ずだ、必ず蘇ってやるぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

全身に痛みが走る。オレは、まだ世界に存在するのか?

 

「大丈夫ですか!?しっかりしてください!!」

 

声からして少女だろう。その少女がオレを起こそうとするが、生憎とオレの体は変身していなくとも200kgを超える。簡単に動かせるような重さではない。ライダーパワーもほとんど残っていない所為で重力低減装置と重力制御装置も稼働していない。ああ、これはやばいな。自己修復装置に回すライダーパワーすら残っていない。ギリギリ生きているだけか。

 

「む、りを、するな。オレ、は、たすか、らん」

 

視覚系統が不調なのか視界がぼんやりしている。いや、意識もぼんやりとしているか。

 

「諦めちゃダメです!!」

 

諦めちゃダメか。ああ、オレだって諦めたくはない。だが、近くにオレを修復できる施設と技術者がいないのなら無理だ。そう思っていた。体の一部が暖かくなり、そこの生体部位が修復されるのを感じる。

 

「どうして!?傷が治りきらない」

 

「いや、それを、全、身に、頼む」

 

何をされているのかはわからない。だが、生体部位が修復されるなら生命維持装置に回すライダーパワーを自己修復装置に回せる。どれだけ時間が経ったかはわからないが、それでも自覚できるぐらいに死の危機から脱することができたようだ。体を起こし、傍に生えている木にもたれかかる。

 

「助かった。ありがとう」

 

ようやくはっきりとオレを助けてくれた少女を見ることができた。金髪碧眼の若いシスターのようだ。

 

「まだ傷が」

 

「いや、これ以上は君の力でも無理だ。オレの体のほとんどは機械だ。生身の部分はもう治っている。生身の部分だけでも治ってくれれば命は繋げる」

 

すでに体の修復は始まっている。変身機構とエネルギー生成のタイフーンを最優先で。

 

「君はオレの命の恩人だ。名前を聞かせて、ああ、オレの自己紹介がまだだったな。オレは千石恭弥だ」

 

「千石さんですか。私はアーシア・アルジェントと申します。アーシアとお呼びください」

 

「それじゃあ改めて、ありがとう、アーシア。君のおかげで死なずに済んだ」

 

深く頭を下げて感謝を伝える。

 

「頭を上げてください。それに私は完全に治療出来たわけでもないですし」

 

「それでもアーシアが傷を癒してくれなければ死んでいた。その分の感謝は受け取ってほしい」

 

「分かりました。ですから、頭を上げてください」

 

強く言われては従うしかないな。謝礼として渡せる物は、大した物がないな。その時、センサー内に急に反応が現れた。悪意のある気配から敵の可能性が高い。生き残る確率を増やすために何かがないかを探し、相棒が少し離れた位置にあることに気づき、呼び寄せる。

 

「ああ、いたいた。あれが今回の目標だよ。傷つけずに捕まえて。男の方は殺せ」

 

センサーで感知した通り、11人、男が1人に残りは女、それもシスターらしき服装だが雰囲気がマッチしない。つまりはそういうことなんだろう。

 

「逃げるぞ、アーシア」

 

起き上がり、アーシアの前に立ち準備しておく。

 

「ダメです。仙石さんだけでも逃げてください。私は大丈夫ですから」

 

「何、一緒に逃げても労力は変わらないからな。オレの相棒がすぐ傍まで来ている」

 

同時に現れた奴らの背後からオレの相棒が、専用バイクのトルネードが奴らを跳ね飛ばしながら目の前に停まる。アーシアをシートの後ろに座らせてメットを渡し、ベルトを出してから素早く跨り、ベルトからライドルを引き抜いてロープに変化させて互いが離れないように結んでから、アクセルを全開にして森を駆け抜ける。

 

背後から追いかけてくるのがわかるが、ミラーには姿が映らない。不思議に思っていると上から高エネルギーが降ってくるのをセンサーが捉えたので回避し、空を見上げると、全員が同じ翼を広げて飛んでくる。はっ、長いレースになりそうだ。

 

既に2時間近く走っているが、未だに奴らは諦めない。森はとっくに抜け出し、近くの町に寄ってみたが人一人いない異様な空間も駆け抜け、今は郊外を走っている。オレはともかくアーシアの体力の限界が近い。仕方ないが、最終手段だ。ライドルロープを一度解き、アーシアをトルネードに結びつける。そしてトルネードを自動で走らせてオレは飛び降りる。完全とは言えないが、この2時間近くで戦えるぐらいには修復が終わった。

 

「とうとう観念したか」

 

「観念。違うな、面倒になっただけだ。貴様らのような外道は此処で討つ!!」

 

右手を腰に左手を右上に伸ばし、そこから左手を左へと回していく。そして、左上まで回したところで左手は腰に、右手を左上に伸ばす。

 

「変身!!」

 

ベルトのタイフーンが周囲の空気を勢い良く吸い込み、オレの姿は1号からZXまでの力をすべて搭載したライダーに、仮面がマゼンタ色の1号、プロト・ディケイドに変身する。

 

「な、なんだそれは!?何かの神器の禁手化!?」

 

修復にライダーパワーを回してしまったために技は使えて3発。長時間の戦闘も推奨されない。そして敵は空を飛んでいる。導き出す答えはこれしかない。

 

「ライダーパワー、全開!!きりもみシュート!!」

 

両手を伸ばして上半身を大きく捻り、反動をつけて逆側に一気に捻り、竜巻を起す。竜巻に煽られて敵が竜巻の中央に集まる。オレは残っている右足にライダーパワーを集中させる。右足で飛び上がると同時に捻りを加えて、右足をドリルの先端に見立て燃え上がる。

 

「ライダー穿孔火柱キィィィック!!」

 

4人が魔方陣らしきものを出して防ごうとしていたが、それらも全て蹴り貫く。後に残ったのはバラバラに燃え上がる肉片だけとなる。着地すると同時に全てのライダーパワーを使い切った影響で変身が解ける。右足が若干動かしにくいが、ライダーパワー不足で不完全な火柱キックのおかげでこの程度で済んだと見るべきだな。

 

「やれやれ、悪はどこにでも存在するんだな。なら、そいつらから人々を守ろう。それが仮面ライダーだからな」

 

離れているトルネードを呼び戻しながら、オレは歩き始める。これがオレの仮面ライダーとして歩み始めた最初の一歩だ。

 



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ハイスクールD×D 歩き始めた男 2

アーシアと別れてから、オレは世界を放浪した。フリーのジャーナリストと身分を偽り、紛争地帯や貧困地域でボランティア活動を行っていった。こういう場所には弱者を食い物にする奴らが多いからな。そういうことをしていると世界の裏側がよく見えるのだ。

 

この世界には比喩でもなんでもなく、悪魔や天使が存在する。というか、オカルト全般がごちゃまぜで存在する。中には人間を食い物としか考えていない下衆な存在もだ。そういう奴らから人々を守るために、この身体は便利なのだ。

 

無論、話が分かる相手もいる。そういう相手と情報交換することで互いに便宜を図ることができる。特に紛争地域で出会う天使たちとは人々を安全に逃がせるルートとか、オレが囮を有効に行える時間や場所なんかだな。それとは別に世間話なんかもな。だが、その世間話でおかしな話が聞けた。

 

「アーシアが魔女扱いで教会から追放された?」

 

「知り合いだったのか?彼女は化け物を助けたことから魔女を烙印を押されたのだが」

 

「何時だよ?」

 

オレと別れた次の日、ということはオレを助けたからだと?

 

「おい、その化け物ってのは何なのか分かってるのか」

 

「いや、ただ普通の人間ではないだろうな。悪魔の屍体が付近で見つかっているからな。そんな凶暴な者を癒した以上は」

 

「その凶暴な化け物は目の前にいるオレだよ!!」

 

そういうと付き合いの長い男の天使が驚く。

 

「なんだと!?どういうことだ」

 

「その日、確かにオレはアーシアに命を救ってもらった。そしてそのすぐ後に悪魔どもがアーシアを拉致してオレを殺そうとした。最初はオレも事を大きくしないようにアーシアを連れてトルネードで逃げ回っていたんだがな。あまりにもしつこく、何度も魔力弾で攻撃されたからな。反撃して全滅はさせた。その後、アーシアを教会に送り届けて明らかに戦闘の心得を持つ神父に懺悔室で事情を説明した」

 

「つまり、何処かで情報が悪意を持って捻じ曲げられているのか。上に話を持って行くにも何か証拠になるような物はないのか?」

 

「証拠なら今用意する」

 

トルネードからカートリッジケースを取り出してこちらに来てから開発したカートリッジを右肘に装填する。

 

「クラックアーム!!」

 

電子機器のクラッキング用に開発したクラックアームに、オレ視点からのあの日の出来事を記憶媒体にコピーする。そしてコピーの終わったそれを付き合いの長い天使、パワーに手渡す。

 

「オレの視点からのあの日の出来事だ。オレはアーシアの保護に向かう。何か足取りは分からないのか?」

 

「極東の日本に向かったらしい。詳しい情報は日本に飛んでからだ。私は天界に戻り、この事を伝える。日本の教会、そこそこ大きなカトリック系の教会にいる神父にこれを見せてくれ。私からの情報が回るように調整しておく」

 

パワーからカードを受け取り、それをトルネードに収納する。

 

「分かった。また会おう」

 

「ああ、まただ」

 

トルネードを飛ばして海へと一直線に飛ばす。そのまま海に飛び込んでから変身し、海底を全力で飛ばして日本まで不眠不休で密入国する。そのままパワーの指示通り一番近いそこそこ大きいカトリック系の教会に向かい、パワーから渡されたカードを神父に手渡す。

 

「千石恭弥様ですね。お話は伺っております。ここではなんですから奥へ」

 

「すまない」

 

奥へと通してもらい、パワーからの情報を伝えてもらう。アーシアの直近の足取りは日本の駒王に向かったということで、その街は今は悪魔の領域に当たる。そのため、教会はないのだが、年若い悪魔が治めているために嘗められているらしく、堕天使とはぐれエクソシストが何かを起こそうとしているそうだ。おそらくはアーシアはそれに巻き込まれているのだろう。パワーも熾天使に報告を終え次第、駒王に向かうそうだ。そのため、オレには先行してアーシアの保護を求められている。

 

「了解した。オレはこのまま駒王に向かう。パワーに伝えられるのなら出来る限り穏便には済ませるが場が混乱する前には来てくれと伝えておいて欲しい」

 

「分かりました。貴方に神のご加護があらんことを」

 

教会から全速力で駒王に向かう。駒王に入ると同時に改良型V3ホッパーを打ち上げる。改良型V3ホッパーは魔力探知機能が付いている。それを使い不自然な場所を探す。反応は幾つかあるが、それらのほとんどは悪魔の住居だろう。反応が集まっているのは2箇所、ひとつはこの町の学園、もうひとつは廃教会。年若い悪魔が治めていると言っていたから、学園ではないだろう。ならば廃教会か。事態は一刻を争う可能性がある。廃教会の扉をトルネードで突き破り、中にいた銀髪のはぐれエクソシストを跳ねる。どうやら地下に集まっているらしく、そのまま地下への階段を降りて入り口の扉と同じように突き破ってから止まる。

 

扉を突き破った先は広い空間で、4人の堕天使と大勢のはぐれエクソシスト、そしてアーシアが磔にされていた。

 

「千石さん!?」

 

「助けられた恩を返しに来たぞ、アーシア」

 

「貴方、一体何者かしら?フリードはどうしたの」

 

「オレは千石恭弥。天使パワーの代理としてアーシアを保護しに来た。大人しくアーシアをこちらに渡せ」

 

「天使の中でも武闘派のパワーの代理だと!?」

 

「ちっ、魔女の烙印を押しておいて今更回収しようだなんて。すぐに儀式を終わらせて逃げるわよ!!」

 

「敵対意思有りとみなす。すぐに助けてやるぞ、アーシア。変身!!トォ!!」

 

変身すると同時に跳び上がり、天井を蹴ってはぐれエクソシストが集まっている部分を狙う。

 

「ライダー反転キック!!」

 

直撃した者は誰もいないが、衝撃で周囲のはぐれエクソシストが吹き飛び、戦闘不能に陥る。

 

「なっ!?何が目的なの!?それにその姿は一体!?」

 

「正義。仮面ライダー、プロト・ディケイド!!」

 

襲いかかってくるはぐれエクソシストを殺さないように無効化していく。面倒ではあるが、ここは悪魔の領地だ。処分は悪魔に任せなければならない。パワーの代理を名乗ってしまったから、今のオレは天使陣営でもある。面倒ではあるが、それがルールで礼儀だ。はぐれエクソシストを全員無力化した後は堕天使だ。

 

「覚悟はいいな。我欲のために弱き者を食い物にする奴をオレは許しはしない!!」

 

「ちっ、全力で殺すわよ!!」

 

光の槍を構えて4人の堕天使が突っ込んでくる。オレもそれに対抗してベルトからライドルを引き抜く。

 

「ライドルスティック!!」

 

ライドルで打ち合えることは既に試してある。そして、こいつらは4人いてもパワーに劣る力しかない。連携も拙い。ゆえに無力化も可能となる。

 

「ロングポール!!」

 

まずは離れたところから光の槍をなげようとしていた青い髪の女の堕天使の鳩尾にライドルの先端を向けてロングポールに変化させて叩き込む。

 

「ロープ!!」

 

次に金髪の女の堕天使をライドルロープで拘束して壁に叩きつける。

 

「Xキック!!」

 

ポールを空中で固定させ、それに捕まり大車輪の要領で勢いをつけてコートを着た男の堕天使と黒い髪の女の堕天使をまとめてXキックで吹き飛ばす。全員を無力化したところでアーシアを拘束している鎖を引きちぎって十字架から降ろす。それから変身を解除して薄着のアーシアにオレの着ていたライダージャンパーを着せてやる。

 

「大丈夫か、アーシア」

 

「はい」

 

「とりあえず、君は天使パワーの元で保護されるはずだ。今はパワーが上層部に、熾天使に君の身の潔白の証拠とともに訴えている。オレは先に君を保護するようにパワーに頼まれてきた」

 

「そうなのですか?それより、千石さんはどこでパワー様と?」

 

「アーシアと別れてからは紛争地帯や貧困地域でボランティア活動をしていてな、そこで知り合った。ああいう地域にはそれを食い物にしやがる奴らがいるからな。そういう奴らを共に討伐したり、戦闘に巻き込まれた非戦闘員を逃がしたり、安全地帯の情報を交換したりなんかしててな。今回のアーシアの件も偶々世間話の一環で出てきたんだよ。だから急いで来た。すまないな、オレの所為でこんなことになって」

 

「いえ、そんな。千石さんの所為じゃありません!!」

 

「まあ、全部が全部、オレの責任って訳じゃないが、切っ掛けはオレだろう。だから、元の生活に戻れるまではオレが君を守る」

 

そこまで話したところでこの教会に近づく魔力を持つ者をV3ホッパーが捉える。この地の治める悪魔だろう。とりあえずは交渉と堕天使達を引き渡さないとな。

 

「悪魔がこっちに向かってきている。いざとなればあの時みたいに逃げることになるかもしれない」

 

「……いえ、多分大丈夫だと思います」

 

「知り合いか?」

 

「こんな私でも友達だって言ってくれたんです」

 

「そうか」

 

なるほど。まともな悪魔であることを祈るよ。優しい顔して近づくゲスも多いからな。地下からトルネードを押して地上に戻り、ちょうど教会に飛び込んできた3人の悪魔と対面する。

 

「何者だ!?」

 

金髪の青年の悪魔がどこからともかく剣を生み出して構える。茶髪の青年の悪魔は左腕に赤い籠手を出して、白い髪の少女の悪魔と共に構える。

 

「オレは、天使パワーの代理でアーシアを保護しに来たものだ。まずは領地で勝手に活動したことを謝罪しよう。緊急を要したため、そちらへの通達を後回しにしたのはオレの責任だ」

 

それに対してオレは自分の身分と謝罪を行う。それが想定外だったのか、悪魔の青年達は同様する。

 

「え、えっと、質問いいですか?」

 

茶髪の悪魔が混乱しながらも質問してもいいかと尋ねてくる。

 

「ああ、話せる限り話そう」

 

「アーシアとはどう言った関係で?」

 

「昔、命を救われた。それがアーシアが魔女の烙印を押される原因の一つとなったと聞いて、調べると何やら堕天使に利用されかけているとわかって駆けつけた」

 

「それじゃあ、堕天使達は?」

 

「全員無力化させてある。今は地下で転がっている。ああ、一人も殺していないから。処分はそちらに全て任せる」

 

「ええっと、すみません、今から僕たちの主人を呼ぶから待ってもらえますか?」

 

「もちろん構わない。パワーもしばらくすれば来るはずだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく待ち、この地を治め、魔王サーゼクス・ルシファーの妹であるリアス・グレモリーと魔王セラフォルー・レヴィアタンの妹であるソーナ・シトリーとその眷属達、そして中級とは名ばかりの戦闘経験の塊のパワーと体を弄られていない部分が無い改造人間のオレ、そして生物なら何でも傷を治療できる神器を持つアーシアか。中々にカオスだな。自己紹介を終えてふとそう思う。

 

「まずは緊急とはいえ領内で勝手に行動したことを謝罪する。すまなかった」

 

最初はパワーからの謝罪から始まる。それから天使側から見た今回の事件の見解を伝える。最後に、アーシアをこちらで保護したいが、ちょっと上がゴタゴタしているのでこのまま駒王の地に滞在することを許してほしいと要請する。無論、悪魔の仕事に干渉することは無いと言い切って。

 

「ミカエル様からはアーシアの保護を優先するようにとのお達しだ。そのため、消極的自衛以外でそちらに干渉するつもりは無い」

 

「消極的?」

 

「つまりは襲われたら反撃、逃げたら追撃は無し。そういうことだ」

 

「逆に積極的自衛ってのはこちらから先制攻撃を持って敵、および敵になりうる存在を全て排除して自衛することを指す」

 

オレの補足にリアス・グレモリーが顔をしかめるが、ソーナ・シトリーに肘を突かれて普通に戻す。まだまだ青いな。

 

「住居はどうするの」

 

「この教会には寄宿舎がある。確認したが、はぐれエクソシストがある程度整備したのか暮らす分には問題無い」

 

「貴方ほどの天使がそんな場所でいいの?」

 

「そんなに悪いか?」

 

リアス・グレモリーの言葉にパワーと二人で首をかしげる。

 

「屋根があって壁があって銃弾や砲弾が飛び交ってなくて」

 

「綺麗な水があって食物や薬なんかも手に入りやすくて怪我人が居ない」

 

「狂気に走る者がいない」

 

「希望も何もなくて人形のような目をした者がいない」

 

「「十分以上に快適だな」」

 

二人して笑顔を見せれば全員が少し引く。

 

「日本は良い国だ。平和ボケしているなんて言われるが平和で何が悪い」

 

「弱き者、運が無い者から死んでいく貧困地域や紛争地域に比べればまさに天国のような国だ」

 

オレたちが居たのはそういう場所だ。ある程度は小康状態に持ち込んだからこそあそこから離れられたとも言える。

 

「あの、私なんかのためにこちらに来られてもよろしかったのですか?」

 

そして、こんなことに巻き込まれたというのにアーシアは他人を気遣おうとする。

 

「ああ、私たちがこれ以上介入することは彼らが立ち直る為の害悪となる。不必要に干渉しては自然の流れを壊すことになるからな」

 

「オレたちに出来るのは少しの手助けと外からの干渉を排除するだけだ。時間が空いていたからこそ世間話でアーシアの話題が登ってここまで来た。だから助けに来れた。日頃の行いが良かったのだろう」

 

「それで、我々の滞在を認めていただけるかな?」

 

「そうね、もう一つだけ質問。貴方、千石恭弥さんでしたか。貴方は、あ~、教会の人間では無いわね。なぜ天使であるパワーとそこまで仲が良いのかしら?」

 

「活動地域がかぶっていたからな。紛争地帯や貧困地域でボランティア活動を行っていたんでな。悪魔とか天使の知識は戦場で教えてもらった。弱き者を助けたい。目的が一緒なら細かいことは気にし無い性格なんでな、お互いに」

 

「似た者同士という奴だ。話がわかる奴でもあるし、肩を並べるに値する男だ」

 

「そう。そこまでパワーに信用されるなら構わないわ。領内で勝手に行動していた件だけど、貸し1でいいわ」

 

「堕天しそうなこと、三勢力のバランスを大きく崩すようなこと以外で個人的な物であればそれで構わない」

 

「オレも、そうだな。活動地域での犯罪行為でなければ付き合おう。まあ、それが犯罪行為でも弱き者を救えるなら躊躇わないだろうがな」

 

この返答にはパワーも苦笑いだ。理解はできるが、承知はできないって奴だ。お互いに良い大人だから何も言わないだけだ。そうしてリアス・グレモリーの許可をもらい駒王の地の滞在許可を得ることができた。さてと、とりあえず寝よう。精神的に限界だ。

 

 



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ハイスクールD×D 神様のレシピ

掃除してたら見つかったとある漫画に出てくる能力を全て持って原作知識なしで投入です


 

 

「バンカーにMAXベットだ」

 

バンカーサイドにこのテーブルに設定されているMAXベットを置く。周囲の観客が見守る中、カードがめくられる。結果はバンカーが3、6。プレイヤーが3、A。よってバンカーの勝ちだ。

 

「これで10連勝だ!!」

 

「いつもながらバカラだけは強いな!!」

 

「いやいや、配当が2倍程度ならどれでも強いな!!」

 

「はっはっはっ、いつも応援ありがとう、紳士淑女の皆々様。とりあえず一杯奢らせてもらおう」

 

最後の配当をそのままカジノ側に回して酒を振る舞う。さてと、情報通りならそろそろ来るはずだ。つまらなそうな顔をしていると支配人が寄ってくる。

 

「お客様、どうやら退屈なようですね。よろしければ当カジノ一押しのギャンブルがございますが如何でしょうか?」

 

通訳を兼ねる銀髪の女性がまたかという顔を見せるが仕方ないだろう。これでこのギャンブルも三回目だからな。

 

「噂には聞いていたが、これがあるのか?」

 

指で銃の形を作ってこめかみに当てるジェスチャーをする。一応、通訳を通して言葉も伝える。

 

「ええ、もちろんですとも」

 

「そいつは楽しみだ。案内してもらおうか」

 

山のように積まれたチップを台車に乗せて支配人に案内されて地下へと向かう。全面コンクリートで囲まれた広い部屋の真ん中にポツンとテーブルと2脚の椅子、そしてテーブルの上にはリボルバーと銃弾が置いてある。椅子の片方には仮面をかぶった年配の男性が座り、その後ろにSPらしき黒服の男が3人立っている。

 

「ようこそ、超VIPルームへ。私は当カジノのオーナーを勤める者です。仮にJとでも名乗っておきましょうか」

 

「ああ、よろしく頼むよ、J。それでルールとレートは?」

 

全て銀髪の女性を通訳として会話を行う。

 

「まずは銃ですが、装弾数8発。多少の改造を施し、どこから見ても弾倉の中身が見えないようになっております。その弾倉に1発の銃弾。これでロシアンルーレットを行ってもらいます」

 

「銃と弾を確認させてもらっても?」

 

黒服がJの前に立って肉の壁となってから銃と銃弾が1発手渡される。装填せずにまずは銃の確認をする。Jの言う通り弾倉の中身はどこからも見ることはできない。そのままトリガーを引いて動作に異常がないかを確認する。次に銃弾を装填して部屋の隅に用意されている防弾チョッキを着ているマネキンに発砲する。異常は見当たらないな。

 

「銃にも弾にも異常は見受けられないな。ルールの続きを確認しよう」

 

「ええ。では、ルールですが、私がディーラーを行います。命を張るのはお客様のみとなっております」

 

「だろうな。それはまあいい。その分、レートは上げてもらうぞ」

 

「もちろんですとも。そして銃弾を装填して弾倉を回すのも引き金を引くのも私が行います。つまりお客様が銃に触れることは一切ありません。銃弾1発の重さでも慣れた者なら分かってしまいますからね」

 

「なるほど。だが、それはJにも言えることだ。負けが嫌で引き金を引くかもしれない」

 

「だから貴方も連れてきているのでしょう。悪魔を」

 

「そういうそっちは3人も連れてきちゃって」

 

「これでお互いに契約を交わすことができます。公平でしょう」

 

「ああ、そうだな。良いだろう、ディーラーに関してもそっちにお任せしよう」

 

「では、ルールの続きです。最初にベットを行い、引き金を引いた回数分レートが上昇していきます。降りればそこまでの配当が支払われます。そして降りる際に次に引く分で銃弾が出るにそこまでの分の配当をベットすることが出来ます。外れれば配当は没収の上で同額を支払ってもらいます。当たれば配当金が上がり、御祝議として10倍をお支払いします」

 

「OKだ。MINベットとMAXベット、それからレートは?」

 

「MINは1000$+命、MAXは10000000$+命。1回ごとに3倍々とさせていただきます」

 

「つまり、1発で3倍、2発で9倍、3発で27倍って感じだな?」

 

「そうです。そして最低でも5ゲームを行う。それがルールでございます」

 

「それじゃあ、悪魔との契約内容だが、相手のイカサマによる危害から契約者を守る、自分の身を守る以外で魔力・能力を使えない。また、イカサマは見破らなければならない。あとは、守秘義務と、ああ、死んだ際は残っている配当を契約の対価として引き払うかな」

 

「それに追加しまして神器をお持ちでしたらそれの使用をゲーム中はご遠慮していただきます。現在も能力下でしたら解除をお願いいたします」

 

「それに関してだが、席に座るまでは許してほしい。足が悪くてね。神器の力で立っているものでね」

 

「ええ、構いません。では、ゲーム開始時に解除するに変えましょう。そして最後に支払いが不可能な場合は契約している悪魔への借金となります。よろしいですか?」

 

「ああ、いや、ちょっと待ってくれ。オレは立てなくなるからベットは彼女がテーブルに置く。揉めるかもしれないから事前にな」

 

「ええ、もちろん構いません。以上でしょうか?」

 

「ああ。では、ゲームを始めようか」

 

契約を交わし、椅子に座ると同時に神器の能力を切る。

 

「それではゲームスタートでございます」

 

「MAXベットだ」

 

銀髪の女性が10000000$をテーブルの上に置く。それを見てからJが銃弾を入れて弾倉を回してから狙いをオレにつける。

 

「それでは、引きますか」

 

「引こう」

 

即答に少しだけJが驚くが、そのまま引き金を引き、カチッという乾いた音が響く。

 

「続けて「引くぞ」

 

言葉を被せるように告げ、再び乾いた音が響く。

 

「それでは」

 

そこで初めて長考するふりをして、そして絞り出すように告げる。

 

「降りる。それから次に弾丸が出るのにフルベットだ」

 

これは外れる。むしろ外しに行ったのが正解だ。狙うは一撃必殺のみ。乾いた音が響き、10000000$と追加で90000000$を払う。

 

「次はいくら掛けますか?」

 

「再びMAXだ。死ぬ可能性がある以上は当然だろう」

 

「ええ。では」

 

Jが銃弾を入れて弾倉を回してから狙いをオレにつける。ゲームを続けていき、5回が終了したところで収支は+30000000$となる。

 

「ふぅ、これで5回が終了したことになるが、これ以降はどうなるんだ?」

 

一度休憩が入り、ペットボトルの水を飲む。

 

「ここからはいつゲームをやめていただいても構いません。ルールは同じです」

 

「そうか。では続けよう」

 

体をほぐしてから再びゲームを続行し、11回目にとうとうチャンスが訪れる。

 

「引くぞ」

 

乾いた音が響く。流れ出る汗を乱暴に袖で拭い捨てる。今ので6発目。そして次で弾丸が出る。

 

「降りる。それから次に弾丸が出るのにフルベットだ」

 

「本当によろしいのですか?足りない分は契約している悪魔への借金となるのですよ」

 

「構いませんわ。もしもの際はグレモリー家が問題なく支払わさせていただきます。契約は遵守するものですから」

 

「い、いいでしょう。それでは最後の1発です」

 

最初の銃の確認の際に弾倉を回転させないギミックが隠されていることは分かっている。だからこそ、自信を持って引けるのだろう。そいつは甘い考えだ。そのギミックは今壊させてもらった。銃声が響き、Jと黒服が驚く。

 

「オレの勝ちだな。グレイフィア、いくらになる?」

 

「19683000000$ですね」

 

「支払いは一括しか認めないぞ。契約に支払い方法を決めなかったのがそっちの落ち度だ」

 

「イ、イカサマだ!!」

 

「ほう、では何がどうイカサマなのか証明してくれ。銃も弾もオレは最初の確認で触っただけだ。まあ、仮にイカサマだとしてそれを見破れていない以上ゲームは有効だ。契約にちゃんと含まれているだろう」

 

「くっ、こいつらを殺せ!!」

 

「それも無駄。支払いまでがゲームの一環だ。魔力も能力も使えないし、襲いかかってくれば身を守るために魔力も能力も使える。そして、気付いていないようだが既にカジノの運営費以外から徴収を終えた。足りない分はそっちの悪魔の家から徴収中だ。絞れるだけ搾り取るみたいでな、家が残るといいな。というわけでばいば~い」

 

懐から転移魔法符を取り出してグレイフィアさんと共に逃げる。

 

 

 

 

仕事の終わりのたびに案内されるホテルのスウィートルームで報酬の確認を行う。

 

「それじゃあ、いつも通り取り分はオレが7でグレモリーが3で。いつも通りの口座に振り込みで」

 

「はい、確かに」

 

「それにしても、悪魔の島の奪い合いにギャンブルが関わってくるとはね。まっ、日本の賭博業界から締め出されたオレにとっちゃ渡りに船だったが」

 

「今まではあまりお聞きしませんでしたが、そこまでギャンブルがお好きなのですか?」

 

「いや、手っ取り早く金を稼ぐのにギャンブルが一番だっただけ。で、まあ、オレも若かったものでね、今も若いけど。荒稼ぎしすぎて何処も出禁を食らったんだよ。そんで金に困ってるところに悪魔からのお誘いだ」

 

「なぜ、そこまでお金を?」

 

「ウチの爺さん、それに親父が孤児院を作ってね。身内は全員死んで残ったのが結構な数の孤児院とその借金だ。さすがに路頭に迷わせるわけにはいかないからな。年を誤魔化して賭博でなんとかやりくりしてるんだよ。まっ、今回の件で借金も利息込みで返せたし、あと1回か2回もやれば、オレが死ぬまでは金に困ることは無いだろうよ」

 

「そのあとは、どうされるのですか?」

 

「そうだなぁ、普通に学園を卒業して、大学に入ってそこらの会社に就職して、まあ、普通の人生を送って死にたいな。今回みたいなギャンブル事なら協力してもいいけどな」

 

「そうですか。では、次は麻雀なのですが」

 

「あ~、すまん。麻雀はダメだ。オレの能力外だ」

 

「能力外?」

 

「つまり、種も仕掛けもあるんだよ。オレのギャンブルには」

 

「それは、一体?」

 

「何回か仕事を一緒にこなして信頼してるから話すけど、あまり話は広めないでくれ。そんでもって神器とは別のくっだらない能力だ。それでも聞くか?」

 

「出来れば聞いておきたいです。お任せしたい時が来るかもしれませんので」

 

「OKだ。まあ、オレはこの能力をこう呼んでいる『10分の1=1』オレは確率が10%までの事象なら確実に当てる事ができる」

 

「確率が10%。つまりバカラやロシアンルーレットのような、いえ、ですが、何度か外して」

 

「そう、外して生き残っている。それがオレの能力、そして演技力だ。後者は必死で身につけた。さすがに海外のカジノのブラックリストに載るわけにはいかないからな。ある程度、エンターテインメントに見せかけて一撃で喉元を食い破る。それが今のスタイルだ」

 

実際にグレイフィアにコイントスを10回させて、その様子を見ずに全て当てたり、サイコロの出目も完璧に当てて見せた事で信じてもらえた。まっ、他にもくだらない能力が1つ、応用が利く能力が1つ、危険な能力が1つあるんだけどな。そこまではまだ信用が足りない。

 

「というわけで、確率10%までを当てる仕事があればご一報を。世話になった分も含めてある程度の無理はさせてもらいますよ、グレイフィアさん」

 

「ここぞという一番の大仕事でお呼びさせていただきましょう」

 

「そいつは責任重大だ。意地でも負けるわけにはいかないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「また仕事帰りですか、安藤君」

 

「おや、次期生徒会長様じゃありませんか。でかい仕事帰りですよ。おかげで綺麗な身になれましてね。今日はかなり機嫌よく眠れるそうですよ」

 

「はぁ~、堂々とサボり宣言ですか」

 

「ため息をついてると幸せが逃げるぞ」

 

「幸せが逃げるからため息をつくんですよ」

 

オレが寝転がっている貯水タンクの上に軽く跳んで上がってくるとは、相変わらず悪魔のスペックはすごいと思いつつ上半身を起こす。そのままだとスカートの中が見えるからな。

 

「そんで、何かご用で?」

 

「不良生徒の注意、は、また今度ですね。今日は、第三者に話を聞いてみたい事があるんです」

 

「それは真面目な話で?」

 

「はい」

 

「なら、放課後にここで。時間がかかるでしょうし、ここには色々と機材を隠してますし、天気もいいんで」

 

「相変わらず学園に不要物を持ち込んで」

 

「バレなきゃいいんですよ、バレなきゃ」

 

「私が生徒会長になったら一番に撤去して見せます」

 

「なら、新しい隠し場所を探さないとな」

 

お互いに軽口が叩けるぐらいには仲の良い支取蒼奈、本名ソーナ・シトリーと放課後に約束を取り付けて昼寝と洒落込む。

 

誰かに揺すられているのを感じて目を開けると、支取がオレの顔を覗いている。

 

「やっと起きましたか。まさか昼休みからそのままですか?」

 

「お~ぅ、おはようさん。ご推察の通りだ。ちょっと待ってくれよ」

 

携帯ガスコンロでお湯を沸かせながらインスタントコーヒーを用意してお湯を注ぐ。支取にも渡して砂糖とミルクもつける。

 

「手際の良い事で」

 

「所詮はインスタントだからな。それで、話って?」

 

濃い目に作ったコーヒーをすすりながら尋ねる。

 

「私の夢に関してなんです」

 

支取がいうには上級悪魔、つまりは貴族だけが出場できる模擬戦、レーティングゲームの学校を作りたいのだそうだ。それも下級、中級悪魔のだ。

 

「あ~、うん、なるほど。それの第三者の意見が欲しいと」

 

「はい。率直な意見をお願いします」

 

「う~ん、情報不足だからなんとも言えないが、もし、オレの想定する最悪が現実となるならやめたほうが良いし、最良が現実になるならあまり賛同はできないな」

 

「どうしてでしょう?」

 

「支取の話を聞く限り、できる限り早く、そんでもって規模をでかくしたい。ここまでは大丈夫か?」

 

「はい、そうです。絶対に必要になってくると思っています」

 

「そう、必要になるのは認める。そんで出来るだけ早く作りたい、これも理解できる。だがな、いきなりでかい規模でやるのは止めた方が良い。これは確実だ」

 

「続きを」

 

「まずは、運営側にノウハウがないという事だ。上級悪魔に関しての学校はあるが、それ以外はない。つまりは全く新しい試みだ。予想は出来るだろうが、所詮は予想だ。思わぬアクシデントが発生する事だってある。ここまでは理解できるか?」

 

「大丈夫です。ですが、私達にも眷属を育成する事が」

 

「そこだ。眷属っていうのは身内だ。何かあっても身内内の事だし、それがはぐれ悪魔にならない限り失敗を笑いはしない。だが、支取の想定する学校ではそうはいかない。眷属を鍛えるのと生徒を鍛えるのを同一に見るのは間違いだ。生徒は法的に守れない。失敗をすればそれはそのまま嘲笑や批評になる。それは支取達だけでなく生徒にも向く。これはその後の運営に致命的ダメージを与える可能性がある。だから、最初はカバーできる人数で私塾みたいな形で進める。最低でも5年はノウハウの獲得に費やす。もちろん、少しずつ人数を増やしていくのは構わないだろうがな。その後、生徒の中から誰かが成果をあげるまでは規模を広げる事はしない。実績っていうのは重要だ。実績っていうのはそのまま信頼につながる。そこから再び規模をおきくしていく。その際に教師側も新たに増やしていく。この教師は生徒からだな。利点は話さなくてもわかるな。こういう風に少しずつ規模を大きくしていかなければ危険が多い。だから、学校は反対だ。絶対に支取の想定は甘い。断言してやるよ。お前のお姉さんにも覚悟を決めて話してみろよ。似たような事を言われるさ。もしくは力づくで解決するか?」

 

「いえ、ですが、そんな」

 

「下の為の道が必要だっていうのは認めるさ。だが、想定の甘さで周りを巻き込むなら止める。よ~く考えろ。考えるってのは高等生物にのみ許された至上の行為だ。相談ならいくらでも乗ってやる。ただな、時間をかけるっていうのも間違いじゃないって事を覚えておけ。走り出したら立ち止まってる暇がないような夢だ。こける事も許されない。しっかり考えて、相談して、またしっかり考えろ。自分や種族全体だけでなく、それを与えられる下の者の立場にもなって考えてみるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~、グレモリーの奴は何やってんだか」

 

深夜にコンビニに買い物に行った帰り、見事にはぐれ悪魔に絡まれた。

 

「貴様の所為で我が家が!!」

 

訂正、オレが原因だったか。使い魔らしい大量のコウモリがオレに襲いかかってくる。仕方ない、当方に迎撃の準備あり。右手の人差し指を眉間に押し当てて念じる。

 

「なっ、何が!?」

 

相対する悪魔が驚く。何故なら全てのコウモリが叩き落とされて潰されているからだ。これがオレの能力の一つ、『空気の手』だ。自由に動かすことのできる圧縮された空気、それが『空気の手』だ。

 

コウモリの迎撃を終えて、空気の手で悪魔を拘束する。そして近づきながらメガネと左目のコンタクトレンズを外して、顔を掴んで相手を凝視する。

 

「オレの目を見ろ!!」

 

数秒目を凝視した後に放してやる。悪魔はそのままどこかへと歩いて消える。メガネとコンタクトレンズを戻して能力を封じておく。次の日にはあの悪魔は自殺体で見つかるだろう。そういう目だからな。オレの裸眼の両目を見ると、良心の呵責から自殺したくなる。そういう厄介な能力。これら能力と一番くだらない能力『腹話術』、肉体強化系では最も弱い『血脈の祝福』と共にオレは生きて行く。

 

全ての命には生まれてきた役目がある。全ては神様のレシピの通りに。

 



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ハイスクールD×D 歩き始めた男 3

「何をやってるの、貴方たち?」

 

休日の昼間にグレモリーがオレとパワーがアルバイトをしている現場の近くを通りかかった。

 

「見て分からないのか?土建のバイトだ」

 

「体を鈍らせずに金も貰える一石二鳥だが」

 

天界の上層部がドタバタしているのでオレたちはオレたちで暇なのだ。その暇な時間を有効に使おうと土建のバイトをしているのだ。集まった金はオレたちが再び紛争地域に訪れた際の弱き者の救済のために使われると思われる。まあ、普段の生活費にも若干流れてるけどな。それぐらいは許容範囲だろう。

 

「武闘派って聞いていたんだけど」

 

「話のわかる武闘派という奴だな。武力を行使することも厭わないだけで、話し合いで簡潔に解決するならそれでいい」

 

「オレと会ってから話し合いで解決したのはオレだけだったけどな」

 

二人して変な苦笑がもれる。血の気の多い奴らばかりだったな。

 

「平和な世界に馴染もうと努力してるのだよ。三勢力、その全てが過去の大戦規模の争いになれば全てが共倒れになる。それがわかっていない者は多い。武闘派と呼ばれる者の7割はそういう連中だ」

 

「戦争なんて起こすなら世界征服を目指す方が生産的だと思うんだけどな。ショッカーみたいに」

 

「ショッカー?」

 

「こっちの話だ。それより、そろそろ休憩時間が終わるからな」

 

「むっ、そんな時間か。では、午後からも元気よく働くか」

 

互いに被らなくても問題が無い程に頑丈な体だが安全のためのヘルメットを被り、問題が無いことを確認して午後からも労働に汗を流す。

 

 

 

 

 

 

 

 

「千石さん、貸しの件なんだけど返してもらえるかしら?」

 

「内容によるな」

 

ライダーパワーの充填の為にトルネードで駆けようとしたところでリアス・グレモリーが寄宿舎を訪ねてきた。貸しがあるので事情を聞く。

 

「簡単にまとめると親に決められた婚約者が嫌いだからぶっ飛ばして破断にする。その為に訓練とぶっ飛ばす試合に参加してくれでおk?」

 

「そうよ」

 

「場所と日程は?」

 

「試合自体は10日後の深夜0時、訓練は明日からよ。訓練に使える場所までは転移で行くから迎えにくるわ」

 

「ふぅむ、すまんが訓練は1日遅れての参加だな。バイト先に休むと伝えなければならないからな。それから訓練中の食住は任せてもいいのか?」

 

「それぐらいは構わないわ」

 

「分かった。準備しておこう」

 

ふむ、赤心少林拳を試すチャンスだな。データは刻まれているが、実際に使う機会がなかったんだよな。現場監督に10日程休むと伝え、パワーにも事情を話してからグレモリー達の訓練に参加する。

 

「知っているだろうが千石恭弥だ。これからしばらく世話になる。戦闘はそこそこの数をこなしている。足は引っ張らんよ」

 

「そういえば、武器は使うのかしら?」

 

「一応棒術と短剣術、それよりは劣るが剣術も身につけている。だが、素手のほうが戦いやすいな」

 

「それじゃあ、お互いの力量を測る為にも最初に小猫と模擬戦をしてもらおうかしら」

 

「よろしくお願いします」

 

「その前に聞いておきたいのだが、オレはレーティングゲームのことを全く知らない。禁止事項などはあるのか?」

 

「ゲームごとによって設定されてるけど、転移の禁止、フェニックスの涙っていう回復アイテムは2個までっていうのが今回の禁止事項よ」

 

「それ以外は何をしてもいいんだな?」

 

「基本わね」

 

「分かった。では、力量を計らせてもらおう」

 

変身せずに構える。まだ、悪魔側にライダーの姿を見せる理由がないからな。

 

「行きます」

 

掛け声と同時に真っ直ぐな突きが飛んでくるのを内から外へと流していく。10手合わせた時点でわかった。こいつらは『戦い』を知らない。梅花の型の練習にもならん。一度大きく弾き飛ばし、距離を離し、再び近づいてきたところに目の辺りに木屑をばらまく。目を閉じた瞬間に距離をこちらから詰め、喉に手刀を差し込む。無論寸止めだが、この結果にグレモリーは不満そうにする。

 

「今のは、卑怯じゃない?」

 

「実戦でそれが言えるのか?『戦い』は過程は無視される。結果だけが全てだ。結果で死ねばそれで全てが終わりだ。卑怯だ、なんて言うことすらできない。ルール上、問題もない。お前たちは格上と戦うのだろう?こいつは卑怯でもなんでもない。歴とした技だ。リアス・グレモリー、これはお前の人生がかかっている戦いだと聞いた。お遊びではないのだろう!!」

 

「それは、そうよ」

 

「余裕はあるのか」

 

「……ないわ」

 

「では、聞く。オレは紛争地域で生き残るために使ってきた技を使わないほうがいいのか?」

 

「……いいえ、使ってちょうだい」

 

「分かった。他の者にも言っておく。レーティングゲームは娯楽だとも聞いている。魅せられるような試合だってあるだろう。そういう物を否定するわけではない。だがな、引けない何かがかかっている『戦い』に綺麗事を求めるな。無様だろうが、卑怯だと言われようが、最後まで戦場に立ち、目的を果たした者が勝者だ。敗者の反論は全て負け犬の遠吠え、傍観者の批判は無価値。それが『戦い』というものだ!!」

 

多くの戦いを潜り抜け、武闘派で有名なパワーと肩を並べられるということもあって全員が真剣に話を聴く。

 

「だが、こういった技は抵抗があるのは分かる。だから、咄嗟の時でいい。ふと、思い出せばいい。こう言った目潰しは使っていいんだと。その心構えが勝敗を分ける時がある。では、一人ずつ手合わせをして、感想を言っていこう。まずは小猫だったか。武術の心得がないようだな。あとで基本の型を幾つか教える。それだけで大分変わるだろう」

 

次は木場か。先にどういったスタイルなのかを聞いておく。特殊能力を持った剣をいくらでも生み出せると。なるほど。面倒ではあるが、ここは大人の余裕を見せねばな。さりげなく電磁ナイフを引き抜いて袖に隠す。誰も気づいてないな。開始の合図と同時に正面から突っ込む。本当に剣を生み出し、それで斬りかかってきたので電磁ナイフで受けて、電流を流す。電気が流れて硬直したところですかさず投げ伏せる。

 

「相手も特殊な武器を使ってくることがある。見た目だけで判断するのは危険だぞ。それからその剣は炎を操るんだろう?見た目は全て統一しろ。相手に情報を与えるな」

 

あらかじめ取り出してトルネードに乗せておいた十字手裏剣と衝撃集中爆弾を見せる。見た目は同じだが、ダイヤ以上の硬度を持つ刃が飛び出す十字手裏剣と、オレの指令通りの威力と指向性を持たせることのできる衝撃集中爆弾。十字手裏剣を近くの木に投げつけて貫通し、衝撃集中爆弾で貫通した木そのものを吹き飛ばす。

 

「戦場ではイミテーションのおもちゃでも兵士を驚かせて隙を作ることができる。先入観ってのはかなり恐ろしい物だぞ」

 

次は姫島か。始まると同時に空に飛んで雷を落としてくるのでトルネードからスコップと網を引っ掴み、森に隠れて落とし穴の要領で内部に隠れる。待ち続け、様子を見るために降りてきたところで穴から飛び出し、反射で放ってきた雷にスコップを投げつけて網も投げつける。絡まったところで網の端を持って、周囲の木に叩きつける。

 

「油断大敵だな。試合を中止にするなら他の奴に声をかけさせながらこっちに寄こせばよかったな。まあ、最初に空に逃げたのは正解だ。あれで、オレの攻撃手段は大きく制限された。あと、気になるところは網を食らった時になぜ雷を止めたのかだな。少なくとも網に流せば最後の叩きつけはできなかったんだがな」

 

「自分も感電してしまいますから」

 

「それでも耐性位は有るだろう。普段から使わないものよりはな。あとは、静電気程度でも隙を作ることはできる。一瞬の隙が敗北を引き分け、この場合は道ずれに持ち込むこともできる。頭の隅にでも置いておけ」

 

次はグレモリーか。王が戦うなと言いたいが、それでも戦えないよりは戦える方がいい。まっ、まともに戦う気はないがな。開始の合図と同時にゲリラからパクったスモークグレネードと煙幕発射装置で隠れる。そして虚像投影装置で撹乱。そのまま煙幕が無くなるまで撹乱し続ける。

 

「頭が固いな、リアス・グレモリー。索敵することができないのは危険だ。弱めの滅びの魔力で煙幕を消し去って視界を確保する。動きが制限されるものを丁寧に処理するだけで安全度はぐっと上がる。お前は絶対に倒れてはダメだ。自分の身の安全を第一に考えるんだ。そして何より、辛い状況が訪れようと折れぬ心、眷属を、仲間を信じる心をしっかりと持て!!それが人の上に立つ者というものだ」

 

そして最後に兵藤。話を聞いて、体付きを見て手合わせをする前から答えは出たが、とりあえず身を持って体感させるのが一番か。合図と同時に一気に近づいて双手刈からのパワーボムでダウンさせる。

 

「宝の持ち腐れだ。付きっ切りで徹底的に鍛え上げてやる。前提条件を満たしてないからな」

 

さてと、その前にパワーに連絡してアーシアを連れて来てもらうか。こいつは大仕事だな。

 

 

 

 

 

 

 

パワーにアーシアを連れて来てもらい、二人して徹底的に兵藤の肉体改造を行う。初日から死にかけだが、相手のフェニックスの能力査定からこれぐらいは普通にやり遂げてもらう必要がある。アーシアの神器を使って超回復も行わせて、プロテインも十分に飲ませてるから効率は最高だな。ある程度回復したところで露天風呂で裸の付き合いを行う。

 

「相変わらずすごい筋肉だな、パワー」

 

「これでも余分な分を落としたんだがな」

 

「うらやましいわ。オレの場合、再改造を施す必要があるからな。施設がないから精々メンテナンスで限界なのに」

 

「メンテナンスが行えるだけマシなのか?」

 

「そうだな」

 

「なんか物騒な言葉が聞こえるんだけど、本当に機械の体なんですか?」

 

「ああ、こんな感じで」

 

右腕を引き抜いて見せてやる。

 

「改造の手が入っていない部分はないな。脳も弄られてるし。神経系統ぐらいか?」

 

赤心少林拳の極意を使うために末梢神経まで全て移植されてるはずだからな。

 

「ど、どうしてそこまで?」

 

「ああ、別に自分で望んだわけじゃない。実験体として拉致られて改造されたんだよ」

 

その言葉に3人が驚く。

 

「戦場で生き残るために自分を改造したと思っていたら他人に無理やり改造されていたのか」

 

「まあなんだ、世界征服を企む悪の組織に改造され、悪の組織の首領に復讐を誓ったんだけどな、それよりも尊い命を守るために復讐を諦めちまったのさ。まあ、何度かその首領と戦って、そいつの存在の歪さからそうするしかなかったってのも理解できたからっていうこともある。こればっかりは、今でも間違えたんじゃないかと思うときもある。だが、それでも変わらないことは一つ。尊い命を救うということは間違っていないということだな」

 

右腕を元に戻しながら頭に乗せていたタオルで顔を拭く。

 

「まっ、こんなかだらだからこそ救える命があるんだ。腐ってる暇があるなら前を向いて歩くさ。立ち止まっていても答えが得られるわけじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後まで眷属を信じ、諦めなかったな。危機的状況において本性とは一番浮き出てくる。リアス・グレモリー、そして兵藤一誠、オレの力、お前たちに貸そう」

 

右腕のロープアームを解除してベルトを出現させる。

 

「見ろ!!これが人間を捨てさせたれた代償に得た力だ!!変身!!」

 

タイフーンが周囲の空気を吸い上げ、オレの身体をプロト・ディケイドの姿へと変化させる。

 

「千石、さん?」

 

「今のオレは仮面ライダープロト・ディケイド。以前話した悪の首領の力とは別のコンセプトで改造された姿だ」

 

グレモリー達に背中を向けたまま、対戦相手であるライザー・フェニックスを相手に構える。

 

「貴様、一体何者だ!?」

 

「ただの改造人間だよ。そしてお前の敵だ。マイクロチェーン!!」

 

まずは邪魔になる女王を相手にする。手首からマイクロチェーンを上空にいる女王に放ち、腹部を貫通して巻き付いたのを確認する。

 

「エレクトリックファイア!!」

 

マイクロチェーンに高圧電流を流して数秒で女王が消える。改造人間に比べれば弱いな。

 

『ライザー・フェニックス様の女王、リタイア』</div>

 

「まずは邪魔な狙撃は潰させてもらった」

 

「よくもユーベルーナを!!くたばれ!!」

 

ライザー・フェニックスが炎弾を飛ばしてくる。避ければ後ろにいるグレモリー達に被害が及ぶ。オレは素早くライドルを引き抜き、ポールにして高速で回転させる。

 

「ライドルバリア!!」

 

炎弾はライドルバリアにかき消され、同時に煙幕発車装置と虚像投影装置でグレモリー達を隠す。

 

「くっ、リアス達をどこへやった」

 

「それを敵であるお前に話すと思うか?」

 

ライドルをベルトに戻しながら答える。

 

「さて、お仲間がいないと戦えないようだからな。案内してやる」

 

炎の翼を広げて逃げようとするライザー・フェニックスをジャンプして捕まえて校庭に投げつける。そこにはまだ健在の眷属がいるからな。だ、それこそがオレの狙いだ。分散されてグレモリー達が襲われてはたまらない。だからこそまとめたかった。立ち上がったライザー・フェニックスの背後に降り立ち、背後から組みつく。

 

「吠えろ、マーキュリー!!真空地獄車!!」

 

マーキュリー回路からのエネルギーを使い、組みついているライザーごと車輪状に高速回転をして地面に何度も頭を叩きつけ、その回転に他の眷属を巻き込んでいく。最後に組みついているライザー・フェニックスを放り投げてから跳躍し

 

「地獄車キック!!」

 

真空地獄車の勢いを乗せたキックを叩き込む。

 

『ラ、ライザー・フェニックス様の騎士1名、戦車1名、僧侶1名、兵士2名リタイア』

 

これによってライザー・フェニックス以外の全員がリタイアする。ライザー・フェニックス自身もかなり足元がふらついている。高速回転に三半規管がやられたのだろう。

 

「レイヴェルまでもが!?き、貴様、この婚約が、どれだけ大事なことなのか分かっているのか!!」

 

「知らんな。オレは人間だ。悪魔の事情など知ったことか!!」

 

「くっ、この化け物が!!」

 

ライザー・フェニックスが全身から炎を撒き散らし、校庭が火の海に包まれる中、ライザー・フェニックスが空高く飛翔する。

 

「地上を這いずり回ることしか出来ない虫ケラが!!嬲り殺しにしてやる!!」

 

上空から更に炎弾を飛ばしてくるのを躱しながら、相棒を呼び寄せる。トルネードがこちらに向かってくるのと同時に、オレもトルネードに向かって走り、同時に跳躍する。そのままトルネードが反転し、タイヤを足場に更に跳躍する。

 

「翼も持たない貴様が、空中で勝てると思うな!!」

 

ライザー・フェニックスはオレから大きく距離を放すが甘い。タイヤを足場にした際にアクセルを全開にしたおかげでブーメランのように回転が加わっている。それを利用すれば軌道修正は可能だ。バランスを調整し、軌道が変わったことにライザー・フェニックスが驚いているがもう遅い。

 

「V3マッハキック!!」

 

回転を乗せた後ろ回し蹴りがライザー・フェニックスの身体を上半身と下半身で真っ二つにする。バラバラになったライザー・フェニックスの側に着地すると再生が始まっていたが、最初ほどの速度ではない。それに目に力を感じない。これは心が折れかかっているな。

 

「醜い姿の化け物が。今は良くても、いずれは排斥されて惨めな屍を晒すことになるなるだろうよ」

 

「そうだろうな。だが、決して望んだ姿ではないが、それでも、この姿でしか守れないものもある。だから、この化け物の身体が今のオレのプライドだ」

 

兵藤の応急処置を施す為に背中を向けるが、ライザー・フェニックスから攻撃が来ることはなかった。

 

「化け物の身体をプライドと呼ぶか。でかい、男だな」

 

改造された聴力だからこそ拾えた小さな声の後、ライザー・フェニックスは静かにギブアップを宣言する。

 

 




仮面ライダーSPIRITSは名台詞、名シーンの宝庫ですね。


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ハイスクールD×D 英雄を求めて

 

side ロスヴァイセ

 

魔術が使えない。それが私のたった一つの、とても重い問題だ。術式に問題はない。魔力だってある。なのに、何も起こらない。稀にだが先天的に魔術を使う才能が欠如していてどんな魔術も魔法も使えない者がいる。それが認められず、私は努力をし続けた。ありとあらゆる魔術書を読んだ。だけど全てを覚えただけで駄目だった。高名な魔術の使い手に師事を請うた。でも魔力量が増えただけで駄目だった。悪魔と契約した。それでも駄目だった。

 

何もかもが嫌になり、それでもやっぱり諦められずに、心のどこかでどうせ駄目だと思いながら、一人で練習できる場所を探して森を彷徨い、偶然見つけた開けた場所で私は運命の出会いをした。

 

「こんな森の深くまで女一人でやってきて、悪い奴に何かされても文句も言えないぞ」

 

フード付きの空のような水色の服装、空よりも深い海のような青い髪、対照的に目立つ赤い瞳と槍。それが私の戦いの師にして、初恋の人。リンとの出会いだった。

 

 

 

 

side リン

 

 

軽く自己紹介したあとに事情を聞いてやる。まだ中学位の女がこんな森の奥深くまで一人で来るなんて自殺行為だ。まあ魔術が使えれば問題ないと思っていたんだが

 

「魔術が使えねえ?」

 

軽く見た所、魔力は問題ない。知識も問題ない。それでも使えない?直接見てみるしかないな。

 

「ほれ、最高品質のヤドリギだ。とりあえず初歩の矢で良いから見せてみろ」

 

懐のポケットからヤドリギを取り出して投げ渡す。少しだけ躊躇した後に術式を編んで、発動直前に解かれたのを見逃さない。

 

「次だ。ルーン魔術だ。氷で構わん」

 

そしてルーン魔術も発動直前に解かれた。暗示の類でも掛けられてるのか。仕方ねえな。

 

「手伝ってやるからもう一回だ」

 

背後から抱きしめてルーンを描く右手を握る。

 

「ちょっ、ちょっと!?」

 

「いいから集中しろ」

 

男に対する免疫が無いようだが今は無視する。同じように氷のルーンを描き、発動直前で解こうとする瞬間にオレの魔力を背中に流して驚かせ、頭を空っぽにさせて暗示を強引に超えさせる。次の瞬間、目の前に氷の塊が現れる。

 

「お前が魔術を使えないのは才能とか病気じゃねぇ。単純にお前が発動直前に解除してるだけだ。何処の誰が仕掛けたのかは知らないが、趣味の悪い奴がいたもんだ」

 

暗示の位置は分かったので気付かれないように破魔のルーンを打ち込んで暗示を解いておく。これで問題はないだろう。

 

「一度でも暗示を乗り越えれば問題ないはずだ。今度は一人でやってみな」

 

離れて近くの切り株に腰掛ける。もう一度氷のルーンが描かれ、再び氷の塊が現れる。

 

「ほ、本当に、私が」

 

「ほれ、ヤドリギも試してみな」

 

もう一度ヤドリギを渡してやり、初歩である矢として撃ちだす。

 

「問題はないみたいだな。知識も魔力も足りてるんだ。あとは慣れれば一丁前の魔術師だ」

 

そう言ってやると、少しの間だけ固まり、ぼろぼろと大粒の涙を流し始める。

 

「わ、私、いらな、娘だって、ずっと、ずっと」

 

「あ~、そりゃあ、辛かったな。だけど、それも過去のことだ。これからは今までの努力が認められるようになる。誰もバカにしたりなんてしねぇよ」

 

抱きしめて軽く背中を叩きながら泣き止むのを待つ。しばらく待っていると、顔を赤くしながら離れた。時間にして10分ほどだろうな。

 

「お恥ずかしいところをお見せしました。それから、本当にありがとうございます」

 

「おう、気にすんな。だが、気をつけろ。お前に暗示をかけた相手の目的がわからねえ。成長を促すために身内がかけていたのなら問題はない。そうでなかった場合、お前の不幸を求めた奴か、お前を自分の物にしようと考えた下衆が居やがる。身を守れる自信はあるか?」

 

「それは……」

 

「まあ、ないだろうな。仕方ねえ、乗り掛かった船だ。多少の戦闘の手ほどきをしてやる」

 

「いいのですか?」

 

「構わねえよ。とは言え、オレが教えてやれるのはルーン魔術とケルト魔術、それと槍だけだ。むしろ槍と体術がメインになるな」

 

「槍。やっぱりクー・フーリンに憧れて?」

 

「まあ、そんなところだな」

 

ある意味でクー・フーリンに最も近い存在と言ってもいいかもしれないが、どうでもいいことだ。オレはオレなんだからな。

 

それから2週間ほどロセに槍と体術の最低限の基礎を教え込んだ。魔術に比べればそこまで才能はない。とは言え、並よりは上。上の下位の才能だな。体捌きだけは徹底的に叩き込んだから同格の相手に手こずるようなことはないだろう。

 

この2週間の間、ロセには魔術を以前と同じように失敗するように言いつけてある。暗示をかけた相手が誰か判明するまでは人前で魔術を使わないように言ってある。だが、それでも相手は気付いたのか、ロセの後をつけてオレ達の前に姿を現した。

 

「お前か!!オレの邪魔をしていたのは」

 

「あん?なんだ、てめぇは?」

 

やってきた男は金髪でオッドアイでそこそこ鍛えられている割には呼吸が多少乱れて、魔力量は多いが全然安定していない、なんともチグハグな男だった。

 

「折角ロスヴァイセを優しく攻略しようと暗示をかけておいたのによ」

 

「知り合いか?」

 

「いえ、知りません。なんで私のことを?それに暗示をかけたって」

 

「まだ妄想事を垂れてやがるが、アレは殺した方がいいな。見たこともない相手に暗示を簡単にかけれるんだ。どんな隠しダネがあるかわからない。見たくないなら目をつぶっていろ」

 

「いえ、見届けます」

 

「じゃあ、見てな。槍術と体術にルーン魔術を加えた最高の一撃を!!」

 

全力で踏み込むと同時に原初のルーンを刻んだゲイ・ボルグで心臓を貫く。

 

「はっ、無駄だ!!オレはアーカードのごふぅ、な、なぜ再生が、命がどんどん減って」

 

「アーカードだかなんだかは知らねえが、オレの槍にぶち抜かれて無事に済むわけないだろうが」

 

「い、いやだ、こんな所で死んでたまるかああああ!!」

 

「しぶといな。ならばその命、捧げてもらおうか。燃やし尽くせ木々の巨人、灼き尽くす炎の檻ウィッカーマン!!」

 

呼び出すのはドルイドの儀式において造られる人形の檻であり、自分ごと体内に取りこんだものを神へと捧げる業火を身にまとう。今回は人一人分だけの大きさなのでそこまで大きくないが、それでも3m程の大きさがある。木で出来た巨人が男を檻に閉じ込めて業火によって自分ごと全てを燃やし尽くした。

 

「ドルイドの儀式に使われる祭壇に似ていますね。ですが、あれを捧げても良かったのですか?」

 

「あとでちゃんとまともな物を捧げ直しておくさ。それに昔から人を生贄にしてたからな。たぶん大丈夫だろう」

 

「それにしても、一体何だったんでしょうか?心臓を貫かれても少しの間は平気そうでしたが」

 

「おそらくは蘇生魔術の重ねがけだろうな。だが、その再生が覚束なくて焦ってたんだろう」

 

ルーン系統って訳じゃなかったな。悪魔由来の物か?

 

「念のためにもうしばらくだけ擬態しとけ。それが終わったら、存分にその力を周囲に見せつけてやれ」

 

「はい」

 

その後は平和なもんだった。探査のルーンでも奴みたいなのは他にはいないとわかったからな。ロセも制限を解禁して一気に頭角を現した。その結果、すり寄ってくる奴らがウザいらしい。代わりに、オレの方で問題が発生してきた。ギリギリまで引き延ばして、その後はトンズラだな。

 

 

 

 

side ロスヴァイセ

 

 

リンに出会ってから半年。私の実力が認められてオーディン様付きの戦乙女になることが決まった。私はそれを両親やおばあちゃんよりも先にリンに伝えるためにいつもの森の広場に向かった。そこにはいつものようにリンが切り株に座って私を待っていた。

 

「リン!!」

 

「よう、ロセ。何かあったか?」

 

「ええ、私、オーディン様付きになれたの」

 

「良かったじゃねえか。ついでに丁度良いとも言えるな」

 

そう言ってリンが、自分の赤い槍とは別に銀色の槍を私に手渡す。

 

「卒業祝いと就職祝いだな。ちょっと特殊なルーンを刻んである。槍の練習を怠るなよ」

 

「リン?」

 

今になって気づいたが、何処か雰囲気が違う。

 

「何かあったの?」

 

「ああ、ちょっとな。いや、はっきり言っておくか。オレは此処を離れる。正確に言えば、親から逃げる」

 

「どういうことですか!?」

 

「言葉通りの意味だ。このままだと、オレは歩みたくもない道を歩まされる。だから逃げる。それがダメなら戦って、最終的には死を選ぶ」

 

「なんで!?そこまで追い詰められているのですか?歩みたくもない道って?」

 

「ロセ、『英雄』を知っているか?一般的な意味ではなく、裏の意味の?」

 

英雄。確かそれは

 

「過去の英雄といわれる偉人の魂か肉体をもって生まれた人。まさか、リンも?」

 

「いや、違う。オレは『英雄』ではない。だが、『英雄』に近い存在である。オレの親父はクー・フーリンの魂を、お袋はクー・フーリンの肉体を持つ『英雄』だ。つまり、オレは両方を引いているとも言える。そして、この槍は神器にも組み込まれずに現存しているゲイ・ボルグ。今はルーンで封印しているがな。リンと名乗ってるが、親父達にはクー・フーリンと名付けられた。そして親父や他の『英雄』共は英雄の名を汚すことを計画してやがるらしい。オレはそれには賛同できない。そして決起した時は潰しにかかる!!だが、それは最終手段にしたい。だから、逃げる」

 

「リン、それは本当なの?だったらオーディン様にも報告しないと」

 

「無駄だ。まだ何もしていない奴を裁くことはできないし、どんなことをするのかも分からないんじゃな。今逃げ出さないとゲッシュを結ばれる可能性がある。そろそろ行くわ。最後に会えてよかった」

 

「待って!!もう、会えないの?」

 

「さあな、分からん。まあ、お互いに生きていればいずれ会う機会はあるだろうさ」

 

ダメだ、リンを止めることはできない。もう決めちゃってる。もしかしたらこれが本当に今生の別れになるかもしれない。そう思うと涙がこぼれ落ちる。

 

「あ~、もう、泣くなって。側には居てやれないが、半年前のあいつみたいな奴から身を守れるものをやるからよ」

 

リンが右耳に付けていたイヤリングを外して、それを私が付けていたものと付け替える。

 

「そいつにはオレのルーンを片っ端から組み込んである。そいつがオレの代わりに守ってくれる」

 

「でも、貴方じゃない」

 

「聞き分けてくれ。ゲッシュはクー・フーリンを殺した原因であると言ってもいい。それだけの物がある。死ぬことはまあいい。だが、英雄を汚す行為に加担はしたくない。誰もが憧れる英雄。それを汚すっていうのは親殺しよりも罪深いことだとオレは思っている」

 

「私は、私はそれでも構わない。英雄なんて過去のことよりも、私を救ってくれた『リン』っていう英雄の方が大事なの!!」

 

「例え、英雄を捨てたとしても、オレはこのままなら使い捨ての道具にされるだけだ。だから、側には居てやれない」

 

本当は分かっている。だけど、それでも、リンに側にいてほしいと私の心が叫んでいる。

 

「許せ、ロセ。世界は動乱期を迎えようとしている。久々の動乱期だ。あちこちで不満が大爆発する。それらが全て片付いたら、オレは再び戻ってくる」

 

リンが見たこともないルーンを刻んでいる。

 

「これがロセにしてやれる最大限の祝福だ」

 

私の意識が遠のいていく。ああ、私を置いてリンは行ってしまう。せめて、これだけは

 

「愛、してま、す」

 

「すまんな。今は答えてやれない」

 

 

 

 

side ゲンドゥル

 

 

夜になってもロセが帰ってこない。遅くなるときは必ず連絡を入れてきたあのロセが。森のどこかへと入っているのは分かっている。だが、後を追いかけさせてもロセを見失ってしまう。何らかの魔術による結界で隠蔽されているのはわかったが、それだけだった。その結界が急に消え去った。戦えるものが臨戦態勢で森の入り口に集まる。精霊たちが入り口から奥へ奥へと向かっていくからだ。精霊の申し子とも言えるものがいる。誰もが緊張しておった。そして、それが現れる。

 

全てが青色で固められた服に深くかぶったフードの奥からはみ出している青い髪。対照的に目立つ赤い槍を背負う男がロセを抱きかかえて現れる。

 

「この子の家族はいるか?」

 

若い男の声が響く。儂が一歩前に出ると、男が歩み寄ってくる。意識がないロセは見たこともない銀色の槍を抱きしめている。

 

「この子から、俺の記憶を封印してある。再び俺と出会うか、こいつを使えば封印は溶ける」

 

そう言って男がロセと共にペンダントを渡そうとして、ロセが服を握り絞めていることに気づき、優しく丁寧に指を一本ずつ緩めていく。それだけで大体の関係がわかった。記憶を封印して去ろうとする理由も。

 

「こいつをかけてやれば封印は解ける」

 

「なぜ、そんなことを?」

 

「色々あるんだよ。騒がせたようですまないな。森はもう元に戻っている。俺はここから離れる」

 

男はそのまま踵を返して去ろうとする。

 

「待て!!」

 

「何か用か?」

 

男は歩みを止めずに背中越しに返事を返してきた。

 

「この子が、孫のロセが色々世話になったようじゃな。魔術が使えるようになったのも、お主のおかげじゃろう。ありがとう」

 

「気にするな。人助けは趣味みたいなものだ。俺も出来る限りの事をしてやったから、もう大丈夫のはずだ」

 

「そうかい。それでもありがとう」

 

男は軽く手をあげるだけでそのまま去っていった。あれは、いい男だ。同時にひどい男でもある。巷で言われる『英雄』共よりも英雄に近い魂を持つ男だ。過去の英雄たちの中に紛れておっても、違和感などない。だから、いい男だ。同時に、英雄は女を泣かせてばかりだ。あの男もロセが泣くと分かって記憶を封印した。泣かせたくないから。ロセも難儀な男に惚れたものだ。泣かずに済むには、背中を預けれるほど強くなるしかない。共に戦えるほどの強さと覚悟を。全てを叩き込んでも追いつけるかどうか。まあ、ロセ次第か。それ自体もあの男がどれぐらい記憶を封印したかにもよるじゃろう。願わくば、ロセが笑顔で入られますように。

 



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ハイスクールD×D ぼくと先生と『私達』

たぶん、この設定は誰も書いてないと思います。そんな自信があります。


 

おやおや、またしても『私達』が増えてしまいましたか。今度の『私達』は、なるほど、敵対勢力に襲われてですか。かわいそうに。大丈夫。ここには『私達』が居ます。寂しくなんてありませんよ。おやっ?引っ張られるとは、なるほど。蘇生しようとしているのですか。ですが、力が足りないようですね。仕方ありませんね、『私達』が力を貸して差し上げましょう。行きますよ、『私達』。おやっ?これは、少しまずいですね。『私達』も引っ張られるとは。なるほど、類稀なる魔力量だ。自らの身体が媒体となりますか。まあ、いいでしょう。『私達』は座にも居ます。擬似サーヴァント的な何かなるでしょうが、彼自身も『私達』です。さあ、『私達』、お出かけですよ。

 

 

 

 

4年前、妊娠中に襲われ一時は危険な状態に陥ってしまった我が子のミリキャス。後遺症らしきものもなく、元気に育ってくれている。サーゼクスはあの事件から私を傍から離し、メイドとしての仕事からも離した。無論、私も異存はない。過保護と言われて何が悪い。我が子を失う恐怖に比べれば周りからの嘲笑などゴミだ。

 

ただ、友達が居ないのはかわいそうだと思っている。できるだけ私が一緒に遊んであげているけど、それでも同年代の子との接触が一切ないのは将来に不安が残る。探してはいるのだが、出生率の低下から友好的な家の同年代はほぼいない。

 

そんな考え事をしているとミリキャスが石に躓いて転んでしまった。慌てて駆け寄ると膝から血を流していた。

 

「ミリ、大丈夫?」

 

「痛いけど、大丈夫。泣かないよ」

 

「偉いわね、ミリ」

 

抱き上げて屋敷に戻り、傷口を洗い流す。それから治療薬を取りに行こうとしたところでミリキャスが針を握っていることに気づく。それを傷口に刺した!?

 

「何をやっているのミリキャス!?」

 

「ふぇ?傷を治してるんだよ。先生が教えてくれたんだ。ジャック達も練習に付き合ってくれたんだよ。ほら」

 

ミリキャスの膝の擦り傷が治っている。それに針も見当たらない。既存の治療術とは全く異なるそれと、それを教えた先生の存在に恐怖する。それにジャック達とは一体誰なのか。怖がらせないように優しく問いかける

 

「ミリ、その先生っていうのは誰?お母さんはあったことがあるかしら?」

 

「ううん。先生はね、夢の中で会うんだよ。ジャックお兄ちゃん達やジャックお姉ちゃん達も夢の中だけで会うの。みんな優しくて、僕は『私達』から外れちゃったのに一緒にいてくれる。だから寂しくないんだ」

 

夢のなかで会うというのはまだ分かる。人間の魔術師にそんな術を使うものがいると聞いたことがある。それが複数同時に使うというのもまだ分かる。だけど、ミリキャスが『私達』から外れたとはどういうことだ?なんとも言えない恐怖が走る。後遺症は見えなかっただけで存在しているのではないのか。『先生』の目的がわからない。問いただしたいが、ミリキャスが信頼しきってしまっている。なんとかできないだろうか。

 

「ねえ、ミリ、お母さんもその先生に会えるかしら?」

 

「分からない。今度先生に会ったら聞いてみる」

 

「そう。ありがとう」

 

その日、ミリキャスを寝かせた後にすぐサーゼクスの元へと向かい、全てを打ち明けた。最初はノイローゼを疑っていたが、それでも最終的には私のことを信じてくれた。翌日には、ミリキャスが先生はいつでも訪ねると、その間はジャック達が面倒を見ると伝えて欲しいと言ってくれた。ジャック達が面倒を見るということはミリキャスが寝た後ということだろう。そして、サーゼクスの時間が空いている日を伝え、当日を迎える。ミリキャスが眠った後、しばらくして気配が変わる。ベッドから起き上がり、どこからかコートを取り出してそれを羽織る。

 

「初めましてだ。私が先生だ」

 

「君は、一体なんなんだ?ミリキャスに取り付いているのか?」

 

「ある意味ではそうだ。まあ、イレギュラーが発生した結果こうなっていると告げよう。これは私に取っても『私達』に取っても想定外の出来事だ」

 

「『私達』?なんらかの組織を指しているのか?」

 

「違う。『私達』は組織でもなく、名前でもない。そうだな、説明が難しい。強引に解釈するのであれば『私達』は生まれてこれなかった命であり、漂ってしまった命だ。それらは私を中心として集まり、『私達』を構成する。『私達』はただ帰りたいのだが、帰れない。帰れないのは寂しい。温もりを強引に求めてしまうこともある無垢なる邪悪。言語化するのは難しい。つまり何が言いたいのかといえば、ミリキャスは一時『私達』になっていたがそれを引き戻そうとする力があった。私はそれを手助けしたのだが、予想以上に引っ張られてしまった。心当たりがあるはずだ」

 

先生の言葉に思い当たる節がある。お腹の中のミリキャスが流産しそうになったときのことだ。確かに最初は蘇生に手応えがなかった、諦めかけたその時に急に手応えを感じた。先生の話と合致する。

 

「つまり、ミリキャスに害を及ぼさないと思っていいのかい?」

 

「無論だ。『私達』を害するつもりはない。私は須らく子供の味方である。同時に殺人鬼でもあるがね」

 

「「殺人鬼!?」」

 

「正体がわからなければ不安だろう。くくくっ、だから私が誰か当ててみたまえ。私は生前は人間だ。望まぬ殺人を多数行ない、望んだ殺人を多数行ない街を恐怖のどん底に陥れた殺人鬼だ。狂ったわけではない、殺人が好きだったわけでもない。だが、やらねば耐えきれなくなった弱い人間だ。だけど、『私達』は私のそばに集まってきた。だから私は『私達』に私の全てを与える。いつか『私達』がここ以外の場所でも生きていけるように。ヒントはほとんど与えている。さあ、私は誰だ?」

 

先ほどの話のキーワードは殺人鬼、人間、望まぬ殺人、望んだ殺人だろう。これだけではさっぱりわからない。いや、『私達』に私の全てを与えると言っている。全て、それには名も含まれているのではないだろうか?だからミリキャスはジャックお兄ちゃん達、ジャックお姉ちゃん達と言ったのではないだろうか。ジャックの名を持つ殺人鬼で真っ先に思いついたのがこの名前だ。

 

「切り裂きジャック、ジャック・ザ・リッパー」

 

「正解だ。堕胎と言う望まぬ殺人を行なわされ、それを行わせる娼婦を望んで殺した存在。まあ、交じり物の贋作だがね」

 

「交じり物の贋作?」

 

「あの事件は未だに解明していない。無論、犯人も不明だ。そして私自身も名を忘れてしまった。だが、明らかに私が殺した覚えのない者の殺人の記憶がある。つまり模倣犯の物や物語の物、簡単に言えばジャック・ザ・リッパーの全てが本来のジャック・ザ・リッパーに混ざってしまったのだよ。よって私は贋作だ。贋作であるが心は本来のジャック・ザ・リッパー。それが私だ。むっ、そろそろ私は引っ込むとしよう。これ以上はミリキャスの負担となる。できる限り、そちらからの会談を受け入れよう。ミリキャスの負担にならない程度にな。では、また会おう」

 

その言葉と同時に気配がミリキャスのものに戻り、コートが消え、ミリキャスが倒れる。確認してみてもただ眠っているだけのようだ。

 

「サーゼクス、どうします?」

 

「予想の斜め上を行かれてしまったね。なんと言えばいいのだろうね。ミリキャスを救ってくれたのは感謝する。あのままだったら死んでいたというのは、多分本当だろう」

 

それは私にもわかる。

 

「『私達』とミリキャスを大切に扱っているのも、本当のことだろう。問題は先生自身だ」

 

「それは、どういうこと?」

 

「彼が切り裂きジャック本人だというのはこの際どうでもいい。だが、混ざっているといったよね。私もジャック・ザ・リッパーの本はいくつか読んだことがある。その多くは享楽殺人犯や狂人だった。そちらに流れてしまうのではないか。私はそれが怖い。そしてそれにミリキャスが影響を受けるというのも」

 

「……私は、それはないと思うわ」

 

「なぜだい?」

 

「少しだけ、『私達』、ミリキャスが言うジャックお兄ちゃん、お姉ちゃん達の話を聞いたの。『私達』は本当に純粋な子供達ばかりだっていうのがミリキャスを通して観れたわ。むしろ怖いのは『私達』の方ね」

 

「それはどうしてだい?」

 

「言っていたでしょう。温もりを強引に求めてしまうこともある無垢なる邪悪だって。悪気はなくてもやってしまう。子供としてはごく当たり前の行動。それがどう出るのかがわからないわ」

 

「なるほど。そちらもあったか。難しいな。こんなに悩むなんて。相談は、できそうにもないな」

 

悩みは増えてしまったが、それでもジャック・ザ・リッパーはこちらに協力的であるだけでも収穫があったと言えるだろう。

 

その後も週一でジャック・ザ・リッパーとの会談は続いた。基本的に肉体の主導権はミリキャスが所有し、寝ている時やミリキャスが強く願ったとき以外は表に出てくることはない。夢の中でのみミリキャスとのパスが繋がりやすいため、そこで色々と『私達』と同様に知識を与えてくれている。戦う方法を遊びを取り入れて教えているので本人は遊んでいる感覚なので、命の尊さを教えるのはこちらに丸投げされた。人間の感覚と悪魔の感覚は違うだろうからと言っていたが、あれは明らかに面倒だからだろう。しかも、戦い方が暗殺者のそれだ。霧の生成、印象操作、気配遮断、音を出さずに走る方法、人体の急所の位置、ナイフやメスの扱い方・手入れ法。完全にジャック・ザ・リッパーの戦い方だ。

 

それとは別に色々な動植物の知識に、人間界の各国の童謡や童話などの子供のための知識も豊富だった。自分と似たような存在に誰かのための物語(ナーサリィライム)がいるそうだ。ミリキャスや『私達』はそれが大好きでいつも楽しそうに私に聞かせてくれる。

 

医療魔術の方に関してはちょっとした切り傷やすり傷を治せる程度。ジャック・ザ・リッパーならちぎれた腕をくっつける程度は出来るそうだ。医者としての技量がそのまま回復力に繋がるため、医者だったのは本当なのだろう。腕は確かだ。まあ、ミリキャスが再現しようとしても荒さばかりが目立ちます。練習には刺繍がいいらしく頑張っているが、まあ、年齢を考えれば上出来といった腕前だ。ナイフさばきは洒落になりませんが。他にも普通の応急処置の仕方なども教えているようです。

 

元気で素直なのもいいことですし、概ね問題はないでしょう。ちゃんと直接お会いして歓迎できないということだけは惜しいですが、本人は気にする必要はないとおっしゃってくれていますが、ミリキャスの命の恩人ですしね。

 

 

 

 

 

 

 

「先生」

 

「どうかしたかい、ミリキャス?」

 

「先生は猫さんの怪我も治せる?」

 

「あまり得意ではないけど大丈夫だよ」

 

「お願い、助けてあげて」

 

「わかったよ。それじゃあ、代わろう。歌は覚えているかい?」

 

「うん。此より開幕。私達は歌手、役者、交響団。終幕までの夢を此処に」

 

「「霧の中の殺人鬼(ジャック・ザ・リッパー)」」

 

ミリキャスと私の意識を入れ替える。目の前にはひどい怪我を負っている猫の姿に化けた転生悪魔がいる。さて、どうしたものか。まあ、頼まれた以上は助けよう。後のことはグレイフィアに任せよう。

 

「聞こえているか?これから治療する。もう少しだけ頑張りたまえ」

 

魔力でスキル【外科手術】に必要な縫合用の針と糸を作り出し、傷口を縫い合わせていく。体内の異物は同じく魔力で生み出したメスとピンセットで取り除く。やれる限りの事をやった後はハンカチを裂いて包帯代わりに巻きつける。

 

「とりあえずはこんなところだろう。これにて幕は降り、夢は覚める」

 

再び意識を入れ替える。頼まれたから治療した。それだけだ。だが、グレイフィアは納得しないだろうな。案の定、ミリキャスが眠った後にグレイフィアに会って欲しいと頼まれたので表に出る。

 

「昼間の件か」

 

「分かっているなら何故!!」

 

「ミリキャスに頼まれたからだ。情操教育に関しては親に一任すると言ったはずだ。危険であれば私も対処したが、重傷相手にそこまで危険は感じなかった。治療後に意識もなかったからな。それで、件の転生悪魔はどうした?」

 

「ミリキャスのこともありますから監視をつけるだけにしてあります。ただし、グレモリー家でもトップクラスをですが」

 

「それに関しては私は何も言わない。ミリキャスに危険が迫らない限り、私が自主的に動くことはない。さらに言えば危険から遠ざかるのを優先するつもりだ。私の優先順位はミリキャスだ。今回は傷ついた生き物を救いたいという純粋な願いだ。これだけなら問題がない。むしろ、優しい良い子だ」

 

「それは、そうですね」

 

「問題だったのは相手側だ。その点で私を責めても御門違いという奴だ」

 

「……申し訳有りません」

 

「いや、子供を大切に思う気持ちは尊いものだ。気にすることはない。問題はこの後だ。あの転生悪魔をどうするか。ミリキャスは飼いたそうだぞ」

 

「そこが問題なんですよね」

 

「まずい相手なのか?」

 

「SS級のはぐれ悪魔、主人殺しの黒歌です」

 

「主人殺しのはぐれ悪魔か。ふむ、あれが?」

 

「何か疑問が?」

 

「はぐれ悪魔とは欲から体に変質をもたらすと聞いていたが、それにしては綺麗な体をしていたな。生物学的観点から言わせて貰えば種の変化は悪魔になった時のみだろう。その主人殺し、主人側に問題があったのではないのか?」

 

「本気で言っているのですか?」

 

「これでも多くの人を見てきた。あの眼は精々スラム街で生きている子供ぐらいの曇り方だ。十分矯正は可能だな。調べる価値はあるだろうな」

 

「基準がわかりにくいのですが」

 

「生きるために悪いと思っていてもやるしかない。そういう奴の眼だ。うん?やれやれだ、まだ完治していないのにな」

 

たまたま視界に件の猫が見えた。気配遮断でグレイフィアを振り切り、魔力で肉体を強化して走り、そのまま拾いあげてミリキャスの部屋の窓からこちらの方を見ているグレイフィアに向かって投げる。投げる瞬間に攻撃態勢と認識されたのか、私の姿を見て驚いている顔と目が合いましたが、まあ頑張って耐えてください。ここから部屋まで1kmほどありますから、全力で投げるんで。

 

甲高い猫の鳴き声が聞こえる中、見事にグレイフィアがキャッチするのを見届けてから再び気配遮断を行ってからゆっくりと部屋に戻る。気配遮断を切ると同時にグレイフィアと黒歌が振り返る。

 

「相変わらずの隠密性ですね」

 

「自慢の技だ。それで話は終わったのか?」

 

「とりあえずわね。調べ終わるまでは監禁させてもらうわ。ミリにはちゃんとした病院で診てもらっていると話を合わせて」

 

「分かった。それでは私は引っ込ませてもらおう。それではまた、いや、少しだけ」

 

針と糸を作り出し、黒歌の開いた傷を再び縫合しておく。

 

「無理だけはしないように。それではまた会おう」

 

ベッドに戻り、寝る体制を整えてから内側に戻る。そこではミリキャスと『私達』が誰かのための物語(ナーサリィライム)の劇をやっている。ここは夢の中だからこそ何でも出せる。それにも関わらず加工しやすい紙や段ボール、テープや絵の具を使って舞台や簡単な衣装を作っている。私はそれを生み出した椅子に座って微笑ましく眺める。

 

少しずつではあるが、『私達』の数が減っている。満足して流れに乗って次の命として生まれるために。座の方の私の元には新たな『私達』が生まれているのでしょうが、ミリキャスの中にいる私の元には生まれてこない。パスが微妙に絶たれているようですね。いずれは私を含めて誰もいなくなってしまうでしょう。まあ、ミリキャスが大人になる頃でしょうから焦る必要はありません。それまでにミリキャスには多くのものを残してあげましょう。それが私という存在ですから。

 




型月のジャック・ザ・リッパーが元ネタですが、型月の設定だけではどう考えてもジャック・ザ・リッパーになることはないと考え、中心核となる先生を用意してみました。

ちなみにジャック・ザ・リッパーとは日本やアメリカで言う名無しの権兵衛やジョン・ドゥと同じで特定の人物を指す言葉ではありません。なぜなら未解決事件群であるからです。犯人がわからず、類似事件らしきものが混ざったりしてしまったために何人のジャック・ザ・リッパーが存在したのかがわからないのです。色々な小説や漫画で登場するジャック・ザ・リッパーはどれもが本物であり、どれもが偽物である。そんな不確定な謎の殺人鬼。それがジャック・ザ・リッパーの魅力でしょうね。


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ハイスクールD×D 聖剣使いは平和が好き

 

「またこんなところでサボっているんですか」

 

教会の屋根の上の十字架に隠れるように居眠りをしていた俺の傍に誰かがやってきた。

 

「んあ?ああ、ガブリエル様ですか。まあ、元々無神論者の俺に真面目に神父のフリをしろって方が無茶ですよ。むしろ、なんでこんな身分を与えたんですかねぇ。外部協力者みたいな形にしてもらえた方が自由気ままでいられたんですが」

 

迂闊に女を買いに行くことすらできねえとか勘弁して欲しいんだけど。

 

「相変わらずですね。ですが、外部協力者に聖剣を預けることはできないとうるさい人が多いですから」

 

「あ~、やだやだ。人を疑うことしかできないなんて。聖書の教えに歯向かってどうすんのよ。それで、何かご用で?」

 

「担い手がいなかった聖剣3本がコカビエルに奪取されました」

 

「担い手がいない奴は天界で保管しといた方が良いって言ったのにな。それで、奪還が仕事で?」

 

「それと同時に残り二人の担い手の教育もです。貴方に比べればまだまだ未熟です。おそらく足手まといになるでしょうが、貴方なら何とかなるでしょう」

 

「まあ、どの程度にかもよりますけど。とりあえず、分かりました。準備を整えて現地に飛びます」

 

「頼みましたよ」

 

「了解しました」

 

そのまま屋根の上から飛び降り、自室で任務用の装備の点検を行いエクソシストの本部へ向かう。詳しい仕事の内容と任務に当たる支度金を受け取り、同行する二人の少女たちの元へ向かう。

 

「よう、お前たちが擬態と破壊の担い手か?」

 

「では、貴方が祝福の?」

 

「おうよ。祝福の担い手、シドムルファス・オルランドゥ。シドで構わん。嬢ちゃん達の面倒を見てやれとガブリエル様に言われていてな、交渉やらなんやらも仕込んでやるつもりだ。出世したいなら覚えておいたほうがいいぞ」

 

え~っと、適合率が破壊のほうが37%、擬態のほうが33%かよ。素人じゃねえか。これを教育するとか面倒だな。というか、本人たちに自覚あるのか?

 

「とりあえず、現地に飛んで拠点の確保だ。準備はできているな?」

 

「「はい」」

 

「うっし、行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「やめんか、馬鹿共が」

 

『魔女』アーシア・アルジェントを殺そうとする馬鹿二人の頭にゲンコツを落とす。

 

「聖書の原文に魔女狩りをやれなんて書いてないだろうが。お前らが読んでる奴は人の政治に干渉するために手を加えられてるものだ。帰ってから申請して読め。不快な思いをさせて申し訳なかった。二人に代わり謝罪する。すまなかった」

 

「え、い、いえ、そんな謝らなくても」

 

「そうは言ってもな、そもそも君の追放は不当だっていうのが熾天使の見解だからな。上が知る前に下が勝手にやってしまったから恥の上塗りにならないようにと追放以外の処置が取られていないのだし」

 

「えっ、なんですかそれ!?」

 

「初耳なんだが!?」

 

「すまんな。これが教会の現状なんだよ。まともな奴にしか正しい情報は回ってこないんだ。残りは目が曇っている奴らだ。この二人みたいに」

 

俺の言葉にショックを受けたのか部屋の隅でのの字を書き始めた二人の首根っこを掴んで持ち上げる。

 

「まあ、この馬鹿二人には言い聞かせておく。話は戻るが、これ以上恥の上塗りが起きないように出来れば今回の件には触れないようにしてもらいたい。上はともかく中間層と下がうるさいだろうからな」

 

そのまま二人を引きずってドアに向かう。

 

「そういうことでよろしく頼む。ああ、積極的に関わらないなら別にいいから。こう、襲われたりしたら全力で滅ぼしちゃっていいから。俺の仕事はこいつらの教育と聖剣の回収だから。それさえ出来れば俺は怒られないで済むから」

 

「待て」

 

退出しようとしたところで、ずっとこちらを睨んでいた男が声をかけてきた。

 

「何か用か?」

 

「僕は、元君達の先輩だ」

 

「ああ、バルパー・ガリレイが主導していたあの計画の生き残りか。残念だが、俺たち全員天然の聖剣使いだから関係ねえや。俺なんてあの計画以前から聖剣の担い手だし。人工物と一緒にされてもねぇ」

 

俺の言葉に男が揺らぐ。あの実験の詳細は知っているから教会を恨んでいても仕方ないな。それと、イリナだけは天然とは言えない。本人は知らないから別にいいだろう。詳細も天然を人工的に強化した感じだし。

 

「あっ、そうだ。君と一緒で生き残りがもう一人いるよ。神器に目覚めて毒ガスから生き残ったんだ。仮死状態だったけど2年ほど前に目覚めたよ」

 

「馬鹿な!?みんなが逃がしてくれた僕以外に生き残りなんて!?」

 

「いやいや、実際救出した本人が言うんだから本当だって。名前はトスカだったな。なあ、イザイヤ君」

 

トスカから聞いていた名前を告げると同時に完全に崩れ落ちた男の前に近寄り、耳元で囁いてやる。

 

「会いたいなら、こっそりと合わせてやる。君に対しても負い目があるからな。上に掛け合ってもいいぞ」

 

それから肩を軽く叩いて今度こそ二人を引きずって部室から退出する。

 

 

 

 

 

 

 

「あ~、もう、やだやだ。二人は使い物にならないどころか仕事を増やすし、予想以上に悪魔が使えないし、コカビエルはただのバカだし、聖剣(おもちゃ)で遊ぶバカ二人もいるし。なんで世界はこんなんなんだろうな?」

 

教会の真実を知って腑抜けになった二人を放っておいたら襲撃されて聖剣を奪われていた。コカビエルからの招待状を受け取ってパーティ会場にやってきてみればグレモリー眷族とシトリー眷族がボロボロの姿で今回の事件の主犯者共達と対峙していた。

 

「ほう、最後の獲物が自分からやってきてくれるとはな」

 

「バルパー・ガリレイか。いい歳したおっさんがいつまでもガキみたいな夢を見てるんじゃねえよ。そんなにこいつが欲しいならくれてやるよ」

 

背負っていた祝福をバルパー・ガリレイに投げ渡してやると困惑しながらも核を抜き取り、白髪のエクソシストの持つ聖剣に移植する。

 

「へへへ、これで更に聖剣ちゃんがスーパーパワーアップだぜ!!お礼に一思いにクビチョンパしてやんよ!!」

 

聖剣の能力を引き出して白髪のエクソシストが突っ込んでくる。適合率は28%か。生ぬるいな。透明で姿を消して、天閃で速度をあげ、擬態で使いやすい形にして、破壊で攻撃力を上げる。普通に考えれば恐ろしいのだが

 

「使い方がなってねえんだよ!!」

 

剣戟を躱して頭をつかんで地面に叩きつける。頭が地面に埋まり、首の骨が折れているのを確認して聖剣を奪い取る。

 

「お勤め御苦労。聖剣は返してもらうぞ」

 

「馬鹿な!?聖剣が破れるだと!?」

 

「使い手が弱すぎるんだよ。まともに使いこなせてない。こいつなんて3割も力を引き出せてない。だからこうなるんだよ」

 

「そんな!?では、私の研究は」

 

「劣化品を作るので精一杯。貴様に見せてやるよ、聖剣の力を100%引き出したときにのみ見られる現象を!!」

 

6本を束ねた物の全力解放か。初めてだが、バラバラの時は成功しているんだ。要領は同じだ。聖剣の全てを読み取り、力を解放していく。同時に夜の闇を払うかのように周囲から光が聖剣に宿っていく。

 

「綺麗」

 

誰が呟いたのかわからない。もしかしたら俺以外の全員が呟いたのかもしれない。

 

「エクスカリバーはかなり特殊な聖剣だ。人々のこうあって欲しいという思いが集まって生み出された聖剣だ。人の思いこそがこいつの正体」

 

聖剣という殻を破り、真の姿を表す。光と力そのもの。それこそがエクスカリバーの真の姿だ。剣の形は人が使いやすい姿を取っているだけであり、これこそが真のエクスカリバーと言えるのだ。

 

「エクスカリバーよ。人々の平和を乱そうとする敵は奴だ。やれ!!」

 

次の瞬間、光がコカビエルを貫き、何も残さずに消え去る。

 

「刀身形成」

 

再び砕けちった殻を纏い、エクスカリバーが聖剣の姿を取る。それを鞘に収めて封印の布で覆う。

 

「さて、バルパー・ガリレイ。投降するも良し、自刃するも良し、歯向かうのも良し、逃げるも良しだ。俺の仕事は終わったからな。あとは、悪魔に任せる形かな」

 

 

 

 

 

 

「聖剣の回収、お疲れ様でした」

 

「いえ、二人の教育に失敗しましたので」

 

「やはりそうですか。今回の件のこともありまして、エクスカリバーはそのまま貴方が全てを所持していてください」

 

「了解です。まっ、その方が良いでしょう。全く、昔の担い手共の勘違いの所為で本来の姿を失ったのがそもそもの原因ですしね」

 

「人の思いが破れた結果ですか」

 

「破れたんじゃなくて間違ったんですよ。対悪魔・対龍戦を想定していない剣にそんなことをさせたのが砕けた原因ですよ。こいつも特化型の聖剣、人が平和に暮らせるために力を振るう剣だ。人の平和を悪魔が、龍が脅かさなければこいつは力を発揮できない。それが砕けた原因ですよ」

 

人間に関係ない冥界での戦いに利用したのが悪い。

 

「結局の所、アーサー王すらこいつを使いこなせていなかったんじゃないですか?聖剣としてしか使われた形跡が残ってませんし。というか、キリスト教と相性悪すぎるんですよ、エクスカリバー。やってることが神降ろしに近い行為なんですから。むしろ無神論者の日本人が使った方が力を簡単に引き出せますよ」

 

やってることは付喪神を降霊させてるようなものだからな。

 

「全く、何で平和に馴染めないかな。聖剣なんて物は使われずにいた方がいいっていうのに」

 

そう思いながら俺は平和を満喫するために屋根に寝転がり、聖剣を背負っていたのを忘れてバランスを崩し屋根から転がり落ちる。

 

「あら~!?」

 

「はぁ、剣聖と呼ばれ、エクスカリバーをアーサー王以上に扱うことができるのに。能力と性格が合わないとは。神よ、これも貴方が居られぬ影響なのでしょうか?」

 



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ハイスクールD×D 魔鳥と異世界記

 

 

やっほ~、ボディランゲージの無限の可能性を感じているチョコボだ。ああ、何を言っているのかわからないやつに一言で言うならチョコボに生まれ変わっちまったんだよ。しかもだ、卵の時に拾われたから飼われてるんだよね。うん、完全に首輪付きだ。鞍と鐙と手綱もセットだ。今日も小さな主をその背に乗せて駆け出すぜ!!

 

「チョコボは鳥なのになんで飛べないの?」

 

「キュピィ、キュキュ、キュピー」

 

「へぇ~、大人になったら飛べるんだ」

 

ああ、そうそう、チョコボといっても俺はかなり特殊なチョコボだ。どう特殊かと言われるとだな、なんと全FF作品のチョコボを混ぜ合わせたようなチョコボだ。つまり、雑食で粗食に耐えらえれてチョコボ専用魔法が使えてクリスタルの力を引き出せてジョブチェンジができ、ついでに川を走れて山を走れて海を走れて空が飛べる。さらに言えば変わった袋も装備している。おそらくは不思議なダンジョンの袋だろうな。個数制限で物を質量保存の法則を無視して収納できる。あとは、動物や魔物を殺した時にFF作品のアイテムが稀に手に入る。俺のことはそんなところだろう。

 

「そろそろ帰らないとグレイフィアに怒られるかな?」

 

「キュィ」

 

「そうだよね、それじゃあ帰ろう」

 

背中に乗る主であるリアス・グレモリー、お嬢の手綱に合わせて向きを変えてグレモリー邸へと引き返す。入り口の前でお嬢を降ろして使用人に鞍などを外してもらう。

 

「またね、チョコボ」

 

「キュイキュイ」

 

翼を広げて別れを告げてから厩舎へと向かう。真夜中まで眠ったあと、日課であるAp稼ぎを始める。成長システムがFFT仕様で助かった。動物とか魔物を狩る必要がないからな。いつも通り育てるジョブにチェンジしてからアビリティに基本技をセットして延々と最大値まで力を”ためる”そして”エール”を自分に送る。続いて死なない程度に自分を黒魔法で痛めつけてからチョコケアルで回復をMPが切れるまで繰り返す。成長システムは同じでも成長率は最悪なのだ。すべてのジョブをマスターするまで何年かかるかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

「キュッ、キュッ、キュッ、キュピィ!!キュッ、キュッ、キュッ、キュピィ!!」

 

「そうそう、上手上手」

 

「本当に不思議な魔物ですね」

 

お嬢の手拍子に合わせてアイルーダンスっぽい物を踊る姿をお嬢の友達のソーナ・シトリーに見せている。

 

「卵の時から一緒なの。まだ子供だけど、力持ちよ」

 

”ためる”を使いまくってるからな。

 

「ソーナも一緒に乗せれる?」

 

「キュピィ」

 

右側の翼を上げて答える。

 

「なぜか意味が伝わりますね。それじゃあ、よろしくお願いします」

 

装備を使用人に用意してもらってから二人のそばにしゃがみ込む。二人ともが乗ったのを確認してから立ち上がる。

 

「GO、チョコボ」

 

「キュピピー!!」

 

「えっ、ちょっと、速い!?」

 

ちょっとずつ加速なんて知りません。ダッシュと急ブレーキが俺のデフォだ。まあ、相手にもよる。さすがにもっと幼い頃はちょっとずつスピードを上げていたが、悪魔は頑丈だと知ってからはダッシュと急ブレーキがデフォになった。

 

「行け行け~!!」

 

「ちょっと、リアス、止め「キュピキュピィーーー!!」

 

更にヘイストをかけてスピードを上げる。

 

「チョコボの好きな野菜で更に倍!!」

 

そう言って鼻先にお嬢がギザールの野菜を吊るす。チョコボの味覚に一番合っている野菜だ。むろん、それを求めてスピードを上げる。ふはははは、お嬢がスピードに耐えられなくなると食えるのだ。ここは全力で応えるしかないな!!

 

「ちょっ、まっ、あっ!!」

 

その言葉と共に背中が軽くなる。ちっ、調子に乗りすぎたか。アビリティに白魔法をセットしてテレポで向きだけを変える。そのまま地面に叩きつけられそうになっているソーナと地面の間に体を滑り込ませてキャッチする。

 

「ごめん、ソーナ。大丈夫だった?」

 

「待ってって、言ったのに、グスッ」

 

ガチ泣きされてしまい、一人と一羽でなんとか色々と慰めてから、テレポで屋敷に戻る。戻ったあとはお嬢と一緒にグレイフィアからお説教される。調子に乗ってマジですみませんでした。お嬢が解放されたあと、俺はそのまま連れて行かれ能力を全て見せるように強要された。今回はマジで反省しているので素直に系統別に分けて今の所出来ることを全てと将来的にできそうなこと、さらには鞄からポーションやエリクサーなどのアイテムも献上した。

 

「他に隠していることは?」

 

「キュピ、キュッキュッ」

 

「聞かれたことは全部答えたと」

 

「キュッキュキュ」

 

「これ以上、何を話せばいいのかもわからないですか」

 

「キュッ」

 

「なら、逆に聞きたいことは?よく考えればここまで話をしたこともありませんでしたから」

 

「キュ~、キュピィ、キュキュキュ?」

 

「同族ですか。私は見たことがありませんね。図鑑にも載っていませんでしたし、名前もリアスが付けたものですから」

 

う~む。前世から性欲は薄いから問題ないんだけど、生物的に問題じゃねぇか?というか、寿命がわからないってのが結構怖い。

 

「そういえば、大人になれば飛べると言っていましたが、どのぐらいになれば大人なのですか」

 

「キュピィ」

 

「わからないと。感覚的な物ですか」

 

「キュッ」

 

「分かりました。明日、戦闘力の確認に連れて行きますのでそのつもりで」

 

戦闘力の確認か。ということは結構ヤバい奴と戦わされるんだろうな。準備だけは万全にしておかないと。マバリアの解放まではもうちょいだったか。急いで習得しないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余裕そうだけど、ライザー。私の切り札はまだ残っているわよ」

 

「切り札?赤龍帝は既にリタイアしているぞ。それ以上があると言うのか?」

 

「ええ、私の最高の騎士よ。来なさい、チョコボ!!」

 

「クエエエエ~~!!」

 

召喚の魔法陣から飛び出して、翼を広げて威嚇する。

 

「何が『呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん』よ。まあいいわ、私以外は全部敵よ。分かりやすくていいでしょ。目の前にいるライザーは一番最後でいいわ。あっ、テレポは禁止だからね」

 

お嬢が背中に騎乗しながら状況を教えてくれる。訓練が足りないんだからと思いながらも戦闘態勢を整えてお嬢と自分にマバリアをかける。これで準備よし。

 

「GO、チョコボ!!」

 

「クエッ!!」

 

屋上から飛び出し、グラウンドに集まっている女性陣に挨拶代わりのチョコメテオをプレゼントする。翼を広げて滑空して地面に降り立つ頃には、ドレスを着た金髪の少女以外は全滅していた。あれま、リレイズ持ちか。たぶん、フェニックス家の能力か。ならば、殺すつもりの全力ホーリーで、いや、算術連続ホーリーのほうがいいか?そんなことを考えながら、屋上とさらに上空から飛んでくる魔法を走り回って回避する。

 

「フェニックスは再生するけど、特に耐性があるわけじゃないから状態異常にすれば問題ないからね」

 

じゃあ、毒とブラインドでいいや。ちょちょいと少女にポイズンとブラインをかけて、壁を走ってそのまま空高くジャンプで舞い上がる。そのまま露出の高いドレスを纏ったケバいオバさんよりも高く舞い上がり、ヒップドロップの要領でジャンプを決める。着地の際になんかヤバい音が聞こえたけど気にしない。死んでなければ治療できるし、魂が残ってれば蘇生も余裕で出切るから。

 

「はい、ってな感じであなたの眷属は全滅よ」

 

「な、なんなんだ、そいつは!?」

 

「チョコボよ。卵の時に拾った私が一番信頼する友達であり、騎士であり、使い魔。五大龍王ぐらいなら鼻歌交じりに粉砕するわよ」

 

「クエックエッ」

 

「『さすがに粉砕は無理。逃げられるから』?貴方なら追えるでしょうが」

 

話しながらも小刻みにステップを踏んで、ついでにダンスを踊って挑発する。狙うは相手の最大火力の魔法だ。お嬢もそれが分かっているのかライザーを無視してくだらない話に付き合ってくれる。そして、とうとうキレて放ってきた魔法をリフレクで反射する。その現象に唖然として体を焼かれているライザーを翼で指差して二人で笑う。炎が消え、体の再生が終わってもまだ理解できていないライザーにトドメの魔法を使う。

 

「クエ(トード)」

 

「あらら、トードを受けちゃったか。ライザー、説明してあげるわ。今の貴方はカエルっぽい何かよ。姿通りの力しかないからフェニックスの再生も出来ないわよ。無論、しゃべれないからリタイアも出来ないわね」

 

お嬢がニヤニヤしながらカエルに向かって説明する。

 

「チョコボ」

 

お嬢の手綱に合わせてカエルに向かってゆっくりと歩み寄る。必死に逃げ回るカエルを踏み潰すギリギリで追いかけ回す。元気がなくなれば、ちょっと爪で押してやれば再び元気になる。

 

『あの、リアスお嬢様、それ、元に戻せるんですか?』

 

さすがにトードを見せたことはなかったのでグレイフィアさんがゲームを無視して確認を取ってくる。

 

「放っておいても1ヶ月程で戻るわよ。チョコボも解こうと思えば解けるし。あと、殺しても元に戻ったっけ?あっ、言っておくけどカエルで死んで、フェニックスの死体が出来上がるだけよ」

 

わざと踏まれようとしたライザーが慌てて逃げ出す。

 

『えっ、はい。ライザー・フェニックス様はゲーム続行不能とみなし、リアス・グレモリー様の勝利とみなします。ですので、元の姿に戻してもらえますか?』

 

「嫌よ。ルール上、対戦相手には相手への治療責任はないわ。治療は大会責任者、今回だと進行役の責任。私達がライザーを元に戻す義務はないわ。それに逆恨みとか平気でしてきそうだし、身の危険を感じるわ。トード状態で社会的に困るわけでもなし。人の眷属をバカにして、私を物のような扱いまでして。自分の力に自信があったんでしょう?なら、自力でなんとかしなさいってのが私の言い分」

 

「クエックエ」

 

「あら、チョコボは優しいのね。元に戻す薬を売ってもいいけど、そっちはどんな物で買い取るのかしら?」

 

『お嬢様、それ以上は』

 

「約束を反故にしてきたのはそっちが先よ。大学を卒業するまでは自由だったはずなのに、急に押しかけて来て、私の眷属を傷つけて貶して。代案っぽく今回のレーティングゲームを提案してきたけど、明らかに私が不利な条件。ふざけるんじゃないわよ!!こっちにはフェニックスの涙の価値を暴落させる札があるのよ!!それを公開してあげましょうか!!」

 

『リアス、それがなんなのか聞いても?』

 

「お兄様もグレイフィアも知っているでしょうが、チョコボが何処からともなく拾ってくる傷を治すポーション、魔力を回復させるエーテル、毒とか呪いをまとめて治せる万能薬。それらの調合レシピです。回復量が過多のフェニックスの涙よりも使いやすく、原材料の栽培から調合、販売によって大量の雇用も生まれる金の卵。これを冥界中にばら撒く準備があるって言っているんです。フェニックス家にこれまで以上の繁栄は絶対にありえず、凋落すらあり得る。これを冥界中にばら撒かれるか、グレモリー家が有効利用するか。二つに一つよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、みんな頭が固すぎるんだから」

 

「クエ~」

 

「いいのよ。家はミリキャスがいるから。それよりも大丈夫なの、その旅の扉っていうのは?」

 

「クエ」

 

「完全に別世界ね。向こうに行った後に壊せば二度と帰ってこれなくなるのね。う~ん、じゃあ隠蔽だけしといて。数百年もすれば問題ないでしょ」

 

「クエエ」

 

「『そこまで生きてる自信がない』って?大丈夫よ。はい、ルークの駒。これで寿命は考えなくてもいいでしょ。さあ、行きましょう」

 

「クエッ」

 

「私が自分勝手なのは昔から知ってるでしょ。行くわよ、お兄様達も文句言えないぐらい強くなりに!!」

 

「クエ~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁい、なんだか大変そうだから来てみたけど、助けはいるかしら?」

 

適当にテレポ関係の道具を混ぜ合わせて作った旅の扉をくぐった先は何かのドラクエの世界だった。適当にモンスターを倒してゴールドを稼ぎながら、とりあえず情報収集のためにロモス城までやってきたのだが、大量のモンスターが城を襲っていた。お嬢は上流階級と顔をつなげるチャンスと判断して城へと突撃した。そこにいたのは王様と兵士、それから魔法使いっぽい青年と戦士っぽい少年に悪魔の目玉に拘束されている女性と結界っぽい物に囚われている鬼面導師、それと対峙しているピンク色のワニのモンスターだった。

 

「なんだ、貴様は?貴様もアバンの使徒か!?」

 

一番最初に行動してきたのはピンク色のワニだった。

 

「アバンの使徒?私はただの旅人よ。まあ、ちょっと変わった魔法使いでもあるわね。この子は私の相棒のチョコボよ。あなたがこの国を襲っている大将で間違いないわね」

 

「そうだ、オレが百獣師団を率いるクロコダインだ!!」

 

「ふぅ~ん、なるほど。とりあえず、ここから退場してもらうのが一番かしらね。チョコボ、エアロラ!!」

 

「クエエエ!!」

 

お嬢の指示通りエアロラでクロコダインを壁に空いている大穴から吹き飛ばす。

 

「すげぇ、バギクロス並みの威力だ!!」

 

ラ系で最上級扱いかよ。やべえな。お嬢は悪魔の目玉を打ち抜いている。こっちも一撃。まあ、一撃でもおかしくないだろう。鬼面導師は敵意がないので放置。倒れている少年は麻痺っぽいので万能薬を投げつける。

 

「騎上から失礼します。貴方がロモス王でしょうか?」

 

「そ、そうじゃが、お主は一体?」

 

「リアスと申します。旅人です。たまたまこの国に訪れた際にこの騒ぎで、急ぎ参上したしだいです」

 

「そうか、助かった」

 

「それで、外で暴れているのを除けば敵はあのクロコダインだけでしょうか?」

 

「おそらくはそうであろう。できれば協力してもらえると助かるのじゃが」

 

「ええ、そのつもりで来ていますから」

 

お嬢の話が終わる頃には少年は立ち上がり、魔法使いの青年も悪魔の目玉に拘束されていた女性からベホイミをかけられて回復を済ませる。

 

「あの、ありがとう。助かったよ、オレはダイ」

 

「私はリアス・グレモリーよ。この子はチョコボ。私たちに任せて下がっていてもいいわよ」

 

「それじゃあダメなんだ。あいつとはオレが決着をつけないと」

 

「う~ん、それで負けても困るわね。チョコボ、補助系だけかけてあげなさい」

 

補助系か。ヘイストは慣れてないと危ないからプロテスとリジェネでいいか。麻痺ってたってことはやけつく息か?シェルで防げるかな?とりあえずかけとけばいいか。

 

「これは!?すごい、力が湧き上がってくる!!」

 

「あくまで傷と体力がちょっとずつ回復するのと、物理抵抗が強くなっただけよ。過信しすぎてはダメ。王様達は私達が守ってあげるから、後ろは気にしなくてもいいわ。全力で頑張りなさい」

 

「うん、ありがとう!!」

 

ダイとクロコダインの戦いをロモス王達を守りながら眺めているのだが、あの斧は道具として使えばバギが使えるんだろうな。海波斬は聞いたことがないな。大地斬もだ。だが、明らかに通常攻撃じゃない。特技とかに分類される技だな。呪文とか覚えれたら楽しそうだなぁ。

 



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ハイスクールD×D 欲と罪

 

 

力が欲しい。そう願った。守れる力が。命以外の全てを投げ打ってでも、力を得られるのならそれでいいと。そして残ったのは、命と、守りたかった者の心の傷跡だった。投げ打ったのは、狂おしいほどまでに求めて得た全て。

 

周りの大人に頼んで、真実は闇に葬ることにした。あの娘たちに知らせる必要はない。オレを過去の存在にして、新しい立場と役割であの娘たちの傍に。

 

 

 

 

 

 

「ルー君、また兵藤達なんだけどお願いできる」

 

またあの餓鬼どもか。いい加減大人しくしろと言いたいんだがな。悪魔にもなってフェニックス家との婚約をご破算にしておいてまだ覗きなんかをやってるのか。呆れながら立ち上がり、匂いが濃い方向に歩いていく。後ろにはラケットや竹刀で武装した女子生徒が続く。そして体育倉庫のドアの入り口で吠える。

 

「ここにいるのね、ありがとう。あんた達、覚悟はできてるんでしょうね!!」

 

「げえっ!?どうしてここが!!」

 

後ろから聞こえる喧騒を無視してお気に入りの木陰に戻る。オレと言う存在を過去にした今の俺はソーナの使い魔にしてペットの大型犬だ。本来は魔狼なのだが犬と狼を見分けられる一般人などほとんどいない。首輪もしているし、傍にいるには適している本来の姿。この姿が嫌いなわけではなかった。ただ、この姿よりも憧れた姿があった。

 

遠くから眺めるだけだった悪魔の家族。羨ましかった。同じ姿だったらあの中に入れたのだろうかと。無茶をやって似たような姿を得ることができた。そして、運良く彼女達の輪に入ることもできた。家族というわけではなく半使用人という形でだが、それでもよかった。色々な知識や技術を身につけれたのはおまけで、一緒に笑えるだけでよかった。

 

それも一つの切欠で壊れてしまった。運を全部使ってしまったかのようなありえない最悪を引き、それから生き残るために全てを投げ打って最悪の結果を少しはマシに戻した。その結果が今だ。

 

俺はもう、あの娘たちの傍にいる以上の幸福を求めない。だが、あの娘たちのためなら、この幸福すらも投げ打とう。それが身の程を知らぬ願いを叶えてしまった俺への罰だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

勝手に行動している兵藤と匙を連れ戻すために匂いを追う。ある程度匂いを追った所で光力を感知する。ソーナ達に着いてくるように吠えてから全力で走る。分かりやすいように魔力のマーキングを施しながら走り、聖剣を振り回している神父の腕に喰いつき、骨を噛み砕く。

 

「っ、てめえ!!」

 

聖剣を逆の手に持ち替えて振ろうとしてくるのを感じ取り、股下を潜って足首に蹴りを放つ。体制が崩れた所で更に蹴りを当てたのとは逆の足首に噛み付いて骨を砕く。倒れ切った所で足首を放し、喉へと喰いつき、引き千切る。肉はまずいので吐き捨てておく。

 

そのまま反応がなくなるまで油断なく聖剣を持つ腕を押さえつけておく。完全に反応がなくなったのを確認してから逃げようとしている兵藤と匙に唸り声を上げる。しばらく待っているとソーナ達が追いついてきた。

 

「これは、ルー、あなたがやったの?」

 

肯定の声を上げる。弱かったぞ、こいつ。

 

「さて、匙。どういうことか、全て話してもらいましょうか」

 

うむ、勝手に行動して主人に迷惑をかけるのは問題だからな。俺も口周りに着いた血を洗い流しておこう。押さえつけている野生が起きると面倒だからな。一度は悪魔に近づいたが、俺の本質は魔狼だ。野生の本能は眠っているだけで、それを起こせばただの畜生だ。十分に気を配る必要がある。

 

魔術で水球を生み出し、そこに口元を突っ込んで血を落とす。口の中の血も同時に洗い、それが終われば水球を電柱の裏に捨てておく。うむ、これで野生が目覚めることはないな。

 

背後で兵藤と匙の悲鳴が聞こえるが無視だ無視。神父から聖剣を咥えて奪い取り、回収に訪れている二人のエクソシスト前に置いて差し出す。戸惑いながらも青い髪のエクソシストが聖剣を拾い上げて頭を撫でてきたのでそれを受け入れてからソーナの傍に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

コカビエルが宣戦布告をしてきた。それはいい。予想できたことだ。だが、そのコカビエルから特徴的な匂いを感じ取ってしまった。その瞬間、俺は駆け出した。ソーナの制止を振り切り、学園に急ぐ。隠蔽用の結界をくぐり抜けた先にいたのは、コカビエルと魔獣の中でも最強クラスの魔獣。陸の王者、キングベヒーモス。あの娘達のトラウマの一つ。出くわせば、取り乱して危険だ。だから、先に排除する。

 

「なんだ、シトリーの飼い犬か。時間すら守れぬ、いや、飼い犬の躾すらできていないとはな」

 

コカビエルが何かを言っているが気にする余裕はない。時間との勝負だ。あの娘達に見られるわけにはいかない。自分の中の野生と力を叩き起こす。銀色の毛が黒に染まり、体が3周りは大きくなり、体の作りが変化し、力を欲した結果に人の姿を捨てて得た人狼の姿となる。俺の変化に一瞬驚いたキングベヒーモスの一番太い頸動脈を爪で切り裂く。

 

これだけで死ぬような奴ではないが、余裕はなくなっただろう。短期決戦に持ち込むには退かせるわけにはいかない。気合いを入れ直し、キングベヒーモスの突進を飛び上がって躱し、背中に飛び乗り、爪に魔力を集中させて背中に突き刺して引裂いていく。暴れるキングベヒーモスの尻尾をつかみ、振り回してコカビエルに投げ飛ばす。

 

キングベヒーモスの巨体に隠れるように俺は跳躍し、コカビエルが躱した方向から飛び出し、頭を噛み砕く。俺の姿を見た者は生かして帰すわけにはいかない。それにキングベヒーモスを倒すためにはドーピングが必要だ。噛み砕いたコカビエルだった血と肉片を喰らい、野生の本能を全開にする。

 

今の俺はただの畜生だ。だが、畜生だからこその力がある。畜生の本能が力の効率的な扱い方を教えてくれる。その効率的な力に技を組み合わせてキングベヒーモスを相手取る。

 

巨体というのはそれだけで厄介だ。人狼の最大の武器である牙が必殺となりえない。むしろ隙ができるために使うべきではない。人狼の本能が選ぶ戦術は消耗戦。だが、時間という縛りがある以上それを選べない。真っ向から力づくで殺す!!

 

魔力を踏み込むための足と右腕、特に爪に集中させる。狙うは心臓の一点のみ。頭は恐ろしく硬い頭がい骨と突進によって鍛えられた皮膚と筋肉が存在する。対して、心臓の周りはある程度鍛えられた筋肉のみ。多少、奥まで狙う必要があるが、頭よりは楽だ。

 

キングベヒーモスの突進に合わせて、こちらも突っ込み、頭部の角を交わしてスライディングで巨体に潜り込む。あとは、全身を地面から生える一本の槍として心臓を貫く。さらに、強化に回していた魔力を開放して内臓を吹き飛ばす。弛緩して重くなったように感じるキングベヒーモスを投げ捨てる。これでいい、これで最低限は済んだ。あとは、魔狼の姿に、姿に……

 

 

 

 

 

気づけば、目の前にはミンチとなったキングベヒーモスの肉片があり、振り返るとあの娘たちが、ソーナとリアスが憎悪の目で俺を見ていた。大量の血を浴びて、理性が飛んでいたのだろう。その理性がソーナとリアスの声で呼び戻された。やってしまった。あの娘達には見られるわけにはいかなかったのに。

 

俺がオレを捨てなければならなかったあの事件、オレは力を望み、人の姿を捨てて人狼の姿を得た。相手はベヒーモスで、オレは辛くも勝利を得た。そして、あの娘たちは見てしまったのだ。血だらけのオレの服の端切れがぐちゃぐちゃになった肉片の側に落ちているのを。

 

あの娘たちはそれをやったのが俺だと思い、怒りと憎しみで魔法を魔法撃ってきた。当時のオレはなんとか誤解を解こうとしたが、人の姿を失ってしまったことが分かっただけだった。オレは咆哮に魔力を乗せてあの娘たちを気絶させ、屋敷へと引き返した。そして、オレは死んだことにして俺が産まれた。

 

その生活ももう終わりだな。キングベヒーモスの死体を振り返り、肉片の一部を拾って食らうと同時に使い魔のパスを切る。これでいいんだ。これで俺も死んだ。これほどまでにあの娘たちを苦しめた俺は、もう傍にいられない。

 

あの時と同じように咆哮に魔力を乗せて目眩ましを行っている間に逃げる。逃げて逃げて逃げて、魔狼の姿に戻る。楽しかった日々を思い出に、夜の街を駆ける。

 



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ハイスクールD×D×D 3

 

今日からイッセー先輩達の朝練にご一緒させてもらうことになった。まあ、今日は見学なんですけど。朝練と言っても模擬戦だけらしいです。放課後には個人個人で訓練を行って、この朝練でブラッシュアップするのがお決まりなんだとか。今は支取会長とイッセー先輩が仮面ライダーに変身して模擬戦を行っている。結界は張ってあるし、アーシア先輩がいるから怪我の心配はないとはいえ、結構本気っぽい気がするんですが。

 

「本気でやらないでどうするんだ?本番と同じようにしておかないと訓練の意味がないだろう?決着も基本的にはどっちかの技がクリーンヒットするか、変身が強制解除されるまでだな。ああ、ベルトだけは狙わないってルールがあるぐらいだな」

 

「そこまでですか!?」

 

「中学からはこれが普通だな。生身でだったけど」

 

これは、あのレーティングゲーム前の特訓が遊びと言われるわけだ。

 

「みなさん、すごいですね」

 

『ヒッサツ!!フルスロットル!!マッハ!!』

 

「別に凄かねえよ。オレ達の中で一番すごいのはイッセーの野郎だ。あいつは生半可な鍛え方をしてない。マッハはチェイサーとプロトスピードにスペックで劣るけど、それでもあいつ自身の能力でそれをひっくり返す。決着がついたみたいだから今度はオレだな」

 

『シグナルバイク!!ライダー!!チェイサー!!』

 

匙先輩が変身して信号機状の斧を持ってイッセー先輩に飛びかかっていく。入れ替わるように支取先輩がアーシアさんに肩を借りて戻って来る。

 

「相変わらず、イッセー君の格闘のセンスは凄いですね」

 

「大丈夫ですか?」

 

「いつものことですから。どうです?見学をしてみて」

 

「予想より激しくて驚いてます。あの、会長の眷属のみなさんもこれぐらい?」

 

「いえ、他のみんなは週1ですね。土曜日の午後から複数のシチュエーションでの模擬戦ですね。護衛だったり死守だったりバトルロイヤルだったり。レーティングゲームのルールを応用してやっています」

 

部長は慌てて勉強していましたっけ。ここでも差が出てしまっています。

 

「そんな顔をしなくても大丈夫ですよ。同年代では私ぐらいなものですよ、こんな訓練をしているのは。でも、それが必要になる時が来ると信じています。私には悪魔として叶えたい夢があります。そのためには大きな発言力が必要になってきます。それを得るにはレーティングゲームのランクを上げるのが一番の近道ですから。眷属のみんなもその夢のために力を貸してくれているんです」

 

「夢ですか?」

 

「夢というよりはやらなければまずいことです。ですが、年寄りは反対するのが目に見えていますので強行します。こればかりはお姉さま、魔王様にも協力してもらうつもりです。だから夢なんです」

 

「どういうことですか?」

 

「力のない個人から言えば夢想の類ですが、実現すれば多くの者に希望を与えることができる。それを夢と言わないで何を夢というんですか」

 

「そうですね。いい夢だと思います」

 

「ええ、ありがとう。イッセー君もそう言って、個人的に手伝えることを手伝ってくれるってね」

 

「仲がいいんですね」

 

「もう10年の付き合いですから。あのグローバルフリーズの時からの」

 

「グローバルフリーズの時ですか?」

 

「たまたま3人が近くにいて、ロイミュードに殺されそうになった時に、仮面ライダーに助けられて、3人で憧れてその背中を追い続けてきた仲です。たぶん、イッセー君がその憧れに一番近い場所に立っているでしょうね」

 

「イッセー先輩がですか?」

 

「イッセー君が悪魔に転生したのは最近だけど、元士郎は去年から悪魔に転生していたわ。でも、朝練でイッセー君が負け越しているわけではないの。むしろ、元士郎がようやく食らいつけるようになったというべきかしら。それぐらいイッセー君は格闘のセンスと努力の量がずば抜けているの」

 

「努力の量、ですか」

 

『シグナルコーカン!!カクサーン!!』

 

「なんだよそれ!!」

 

「ええ。赤龍帝の籠手無しでも、十分強いですよ。その下地は努力で用意しているのがイッセー君です。才能があるのは格闘のセンスだけでしょう」

 

「昨日幾つか届いた!!試し撃ちだ!!」

 

「それが走ることですか?」

 

「うおっ!?弾が拡散しやがった!?」

 

「でしょうね」

 

流れ弾を会長がハンドルが付いた剣で払い、アーシアさんはしゃがんで躱し、私は転がって躱す。

 

「流れ弾が多すぎですよ」

 

「すいません、先輩」

 

「隙あり!!」

 

「ちょっ、のわぁ!?」

 

『ヒッサツ!!マッテローヨ!!』

 

「なんの!!」

 

『シグナルコーカン!!トマーレ!!』

 

「な、なんだよこれ、動けねぇ!?」

 

「ふはは、スペックに劣ってるんだから許せよ」

 

『ヒッサツ!!フルスロットル!!マッハ!!』

 

「のわああああああ!?」

 

吹き飛ばされて転がってきた匙先輩を会長が足で止める。

 

「また負け越しですか。元士郎、無事ですか」

 

「システムにちょっと負荷がかかってるんで休ませてください。あと、目が回って」

 

「仕方ありませんね、少し休憩としましょう」

 

「了解です」

 

イッセー先輩がポーズを取る。それからバイザーを上げて強制排気を行ってから変身を解除する。

 

『オツカーレ』

 

「またお姉さまの指示ですか」

 

「慣れたもんですたい」

 

「そんな死んだ魚のような目で言うなよ」

 

「知らないだろうけどな、今冥界でこの前のライザーとのレーティングゲームの映像が出回ってんだよ。ロイミュードとの戦いも含めて、というかむしろロイミュード戦がメインで編集して他の眷属とかが映っていなくて不都合な会話もカットした奴が。もうな、特撮の撮影が始まってるんだよ。というか収録してきたんだよ。再来週から放送だってよ。その内二人にも声かけられるぜ」

 

「「うわぁ~~」」

 

三人して落ち込んでしまったが、すぐに立ち直る。恒例行事みたいなのもなのだろうか?

 

「まあ、ドラマパートはほとんど出ないよ。そこらへんは向こうでなんとかするって。バトルパートで幾つかのパターンとたまにイベントを開くからそれの参加を頼まれた位だ。たぶん、先輩が全力で嫌がるだろうから変身ポーズもだいぶ簡素な物に仕上げてくれるはず。オレが派手な分、対比で際立つだろうからって説得はしときました」

 

「それなら、まだ、ましでしょうね」

 

「派手で軟派なアクションはオレが受け持つことになるよ。しっくりくる部分もあるし。さてと、元士郎が回復するまで小猫ちゃん、一手願おうか。もちろん、手加減はするから思いっきり来るといいよ」

 

「絶対後悔させてやります」

 

まあ、ガードさせるどころか、かすりもしないで足払いメインでトドメに鳩尾に鋭い蹴りが一発食らうだけで負けてしまいましたが。結構、容赦なく蹴られました。ちょっと皮肉ってみると

 

「それを実践で言えるのか?」

 

と真顔で返されました。さすがに何も言い返せなかった。これが私達とイッセー先輩の意識の違い。それがそのまま特訓への熱意の差になる。

 

「すごいですね、イッセー先輩の努力は」

 

「いや、オレなんかよりも先輩や元士郎の方がすごいさ。オレはさ、まっすぐ一直線にしか走ってない。だけど、先輩は悪魔の未来を憂いて遠回りな道を走っている。元士郎はそんな先輩を手伝うために共に遠回りをしている。道が違うだけで、走った距離はむしろ先輩たちの方が長いんじゃないかな?まあ、隣の芝は青いって奴だ」

 

「羨ましいんですか?」

 

「どうだろうな?ただ、先輩の悪魔としての夢は誰かの為になる尊い物だ。それがオレには眩しく映るんだ」

 

「誰かの為になる夢」

 

「たまに不安になるんだ。あの日のあの人の背中を追い続けてきたけど、本当にそれでよかったのかって?他にも道はあるし、先輩達と共に歩む道もあったはず。何より、10年も前の話だ。それが余計に不安にさせて、それを振り払う為に余計に真っ直ぐ走るしかなくなってる」

 

「イッセー先輩」

「イッセーさん」

 

「ごめんな、愚痴に付き合わせちゃって。今のは忘れてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「男子はバスケかよ。そんなに得意じゃないんだけど」

 

「だよなぁ、ぶっちゃけ球技がそこまで得意じゃないしな。陸上競技とか器械体操ならお手の物なんだけど。まあ、強引になんとかしようぜ、イッセー」

 

「それ以前に細かいルールを覚えてないんだけど」

 

「とりあえず、接触だけに気をつければいいんじゃないか?」

 

球技大会とはいえ面倒なんだよな。これが体育祭なら何も考えずに楽なんだけど。まあ、元士郎と一緒なら大抵のことは余裕だ。

 

「なあ、元士郎」

 

「どうした、イッセー?」

 

「あいつって、バスケ部のレギュラーじゃなかったっけ?」

 

「そうだった気がするな」

 

「先に謝っとこうぜ」

 

「そうだな」

 

二人して相手チームのバスケ部のレギュラーに手を合わせて謝っておく。心が折られたらかわいそうだが、勝負事で負けるのは嫌なのだ。試合開始と同時にバスケ部のレギュラーにボールが周り、見事なドリブルでこっちのゴールまで突っ込んでくる。そしてシュートの放ち、手から離れた瞬間に横からボールを掻っ攫って元士郎にパスすると同時に相手のゴールまで走る。パスを受け取った元士郎がその場から直接ゴールを狙い、ボードに弾かれたのを空中でキャッチしてそのままダンクを決める。一瞬、体育館からボールが跳ねる音以外が消え去る。ボールを拾って一番近くの相手チームにボールを投げ渡す。そこでようやく事態を受け入れた観戦していた女子達から黄色い声援が湧き上がる。

 

「きゃあああああ、兵藤君、かっこいいー!!」

 

「匙君と合図も無しに完璧なタイミングですごい!!」

 

「あんなに綺麗なダンクシュート初めて見た!!」

 

まだ相手チームが唖然としている間に再び匙の近くまで走って下がる。途中で気づいて、慌ててパスを繋ごうとしたので再びカットして元士郎にパスする。そして再びその場でシュートを放ち、今度は入るコースだったのでそのまま元士郎のそばまで歩いていく。

 

「ナイスシュート」

 

「ナイスダンク」

 

軽くハイタッチを交わすと同時にボールがゴールを潜る。そしてそのまま試合は一方的に進み、94対7で試合が終了する。無論途中からはオレと元士郎はサポートに回っていたのだが、たかがレギュラー、それも一人ではどうすることもできずにこの結果に終わった。

 

次の試合までの合間に女子のテニスの見学に向かう。ちょうど先輩と部長の試合中だったのだが、部長が息を切らしているのに対して先輩は平気そうな顔をしている。スコアを見ると先輩の圧勝のようだ。まあ、普段からの運動量の差が明確に出たと思ったのだが、先輩のボールコントロールがうますぎるだけだ。自由自在にネットにかすらせてギリギリ届かない位置に落としたり、左右への振りが大きくて部長が走り回された結果っぽい。

 

「なにあのコントロール怖い」

 

「会長、器用にも程があるって。別にテニス部って訳でもないのに」

 

そのままとんとん拍子で会長が優勝する。テニス部の部長が唖然としているのが印象的だった。という訳で昼休みに三人で反省会を開くことに。

 

「「「本気で部活をやっている人には悪いけど負けるのが嫌いだから後悔はしていない」」」

 

以上、反省会終了。そのまま生徒会に紛れて昼食をとる。部長たちよりも生徒会のメンバーの方が付き合い長いから気楽なんだよな。

 

「昼からは部活対抗のドッジボールか。ドッジボールなんていつぶりだ?」

 

「中学の時にレクでやったぐらいだっけ。たぶん、イッセーもそんなところだろ」

 

「だっけかなぁ?走ってるか鍛えてる記憶しかないな。あとは、ほら、去年の夏休みn「それ以上は言うな!!」まだトラウマになってるのかよ」

 

逃げ切れずに氷漬けになってたからな、元士郎は。オレはギリギリ逃げ切ったけど。ちょっと背中が凍ったけど、逃げ切ったから。レヴィアタン様本気出しすぎですって。そりゃあ、大事な妹に男が内緒で近づいてたんだからある程度はわかりますけど、オレ、普通の人間だったんですよ。

 

今思い出すと、よく普通の人間なのに逃げ切れたよな。手加減してくれたって感じじゃなかった。自分を中心に冷気を広げていたからな。

 

「静電気が弾けるような音が背後から迫り、本能から逃げ出し、逃れられずに動きが遅くなっていく。振り返ることすらできずに限界まで走り、本能が大丈夫だと言ったところで振り返ると一面銀世界。そして氷像となっている元士郎。恐怖に染まったその顔はマジでやばいと思ったな」

 

「だから、言うな!!」

 

「忘れられるわけないだろうが。あれは、ガチで怖かった。そのあと、会長に蹴り飛ばされて氷の上を滑っていくレヴィアタン様を見ても笑えなかった」

 

「悪魔に転生して丈夫なせいで逆に意識が残ってるんだぞ。本気で死んだかと思った」

 

二人してため息を吐くと、会長以外の皆が引いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそが、ロイミュードの数が多すぎる!!」

 

「口を動かす暇があるなら手を動かせ!!」

 

『ヒッサツ!!フルスロットル!!デッドヒート!!』

 

「やってるだろうが。くそっ、シグナル交換に使うシグナルバイクで重加速を振り切れればよかったのに!!」

 

「シグナルマッハ1個余ってるだけ良かったと思えよ!!」

 

『ゼンリン!!』

 

「それだけは同感!!」

 

「やべっ、一匹抜けた!!」

 

「任せろ!!」

 

『キュウニ、デッドヒート!!』

 

先行させてあるシフトカーからの音声を聞きながら速度を上げる。念のための切り札を付近に隠しながら現場にガードチェイサーごと突入してロイミュードを何体か跳ね飛ばす。

 

「G3-X、現場到着。仮面ライダーを2名確認。共にロイミュードを殲滅します」

 

ガードチェイサーに積んであるGX-05 ケルベロスを手に取り、暗証番号を入力して起動させる。近寄ってきていたロイミュードを蹴り飛ばし、倒れ込んだのを無視して弾丸を広範囲にばらまいて二人が態勢を整える時間を稼ぐ。

 

「元士郎!!」

 

『ヒッサツ!!マッテローヨ!!』

 

「分かってらぁ!!」

 

『イッテイーヨ!!フルスロットル!!』

『ヒッサツ!!フルスロットル!!デッドヒート!!』

 

時間を稼いだところで二人がロイミュードをまとめて葬っていく。最初に蹴り飛ばした一体はGM-01 スコーピオンを全弾叩き込んで破壊する。

 

「あ、貴方は一体?」

 

マッハが、兵藤一誠がオレの正体を尋ねる。

 

「オレはクリム・スタインベルト。G3、及びG3-Xに搭載されている重加速軽減機の開発者だ」

 

「重加速軽減機?」

 

「その名の通り、重加速の影響をほぼ0にまで軽減してくれる装置のことだ。これによって我々は重加速空間内でも活動することができる」

 

「あの、オレ達を仮面ライダーって呼ぶってことは10年前の、グローバルフリーズを止めた仮面ライダーのことを知っているんですか!?」

 

さて、どう答えようか。まだ正体は明かさないほうが良い気もする。だが、邪神の好みから言えば明かさなければならない状況に追い込まれる気も

 

「危ない!!」

 

上から降ってきた光の矢から彼らを守るために盾になる。激しい衝撃と共に重加速軽減機が破損したのかどんよりの影響が少しずつ現れる。完全に影響に囚われる前にキーのスイッチを押す。

 

「くそっ、よくもクリムさんを!!」

 

「コカビエル、貴様もロイミュードに成り変わられてやがったか!!」

 

「くくっ、少し違うな。オレは成り代わられたんじゃない。堕天使の身体を捨ててロイミュードのボディに魂を移植したのだ。成長の限界まで来ていた堕天使の身体よりもロイミュードの身体は良いぞぉ。重加速によって大半がオレよりも弱くなる。あのヴァーリですらオレの前に膝を着いた!!二天龍をも超える力をオレは手にした!!世界はオレのものだ!!」

 

「はっ、そんなくだらない野望、オレ達仮面ライダーがぶっ潰してやるよ!!」

 

向こうが盛り上がる中ようやくシフトスピードがオレの手元にまでやってきた。重加速の影響から離れ、準備だけをしておく。

 

「ふん、空も飛べない虫けらどもが。何の音だ?」

 

重加速の中、色々なクラクションの音が聞こえることにコカビエルが首を傾げ、その背中に大量のシフトカーがぶつかっていく。

 

「「シフトカー!?」」

 

地面に落ちてくるコカビエルをキーで操作したトライドロンで更に撥ねる。

 

「トライドロンだ」

 

「まさか」

 

トライドロンのドアを開けて、誰も降りてこないことに不思議に思っている二人の前でG3-Xを脱ぐ。

 

「なんで、重加速の中で!?」

 

驚いている二人を置き去りにして、トライドロンの中からドライブドライバーとシフトブレス取り出して装着する。それと同時にプロトトライドロン改がやってきて、中からプロトドライブが降りてくる。

 

「どういう状況なのですか?」

 

「それがオレ達にもよく分からなくて」

 

「何、簡単だ。コカビエルは敵であり、そしてオレは」

 

ドライバーのイグニッションキーを回し、シフトブレスにシフトスピードを装填してシフトブレスを倒す。

 

「変身!!」

『ドライブ!!タイプスピード!!』

 

ドライブの装甲がオレに装着され、最後にトライドロンからタイヤが射出され、襷掛けにタイヤを装着する。

 

「仮面ライダードライブ。10年ぶりだな。詳しい話は後にして、ひとっ走り付き合えるか?」

 

「「「は、はい!!」」」

 

「いい返事だ。行くぞ!!」

 

ハンドル剣とドア銃を装備して走り出す。それを追うように三人も武器を構えて走る。その間にコカビエルも態勢を立て直して大量の光の槍を投げ放ってくる。オレはそれをスライディングで躱し、そのままタイヤを回転させて滑りながらドア銃を撃つ。

 

「ぐっ」

 

更に追撃でイッセーとソーナのゼンリンシューターとドア銃、元士郎はG3-XからGM-01 スコーピオンを拾って追撃を入れる。

 

「おのれ、雑魚の分際で」

 

「それはこっちのセリフだ!!」

 

ハンドル剣で光の槍と切り結び、コカビエルの背後からマッハがゼンリンシューターで殴る。転がっていくコカビエルにプロトドライブと共にドア銃で追撃を駆け、立ち上がった所にチェイサーがシンゴウアックスを振り抜いて吹き飛ばす。

 

「遅れるなよ!!」

 

叫びながらシフトブレスを三回倒して走り出す。

 

『スピ!!スピ!!スピード!!』

 

『キュウニ、デッドヒート!!』

『ズーット、チェイサー!!』

『ズーット、スピード!!』

 

ワンテンポ遅れで三人共が高速移動で追いかけてくる。まだ吹き飛んでいるコカビエルに追いつき、ハンドル剣で斬って走り抜け、ゼンリンシューターで殴って走り抜け、ハンドル剣で地面に縫い付けて走り抜け、シンゴウアックスを叩きつけられてボディにヒビが入る。

 

「トドメだ!!」

 

イグニッションキーを回し、シフトブレスのボタンを押して、シフトブレスを倒す。

 

『ヒッサツ!!フルスロットル!!スピード!!』

 

コカビエルを囲むようにタイヤ状のエネルギーが現れてコカビエルを取り押さえ、トライドロンがその周囲を高速で走る。そこに走り込み、コカビエルに飛び蹴りを食らわせ、そのままピンボールのように高速で周囲を走るトライドロンを蹴って再びコカビエルを蹴り、またトライドロンを蹴るのを繰り返す。そして、完全にボディが砕け、逃げ出そうとするコアを三人が撃ち抜く。

 

「お見事」

 

重加速が解除されたのを確認してからシフトブレスのボタンを押してシフトカーを抜く。三人もドライバーからシグナルバイクとシフトカーを引き抜いて変身を解除する。

 

「改めて自己紹介をしよう。オレはクリム・スタインベルト。G3、およびG3-Xの重加速軽減装置の開発者であり装着者であり、仮面ライダードライブだ」

 



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ハイスクールD×D×D 予告打ち切り

タイトルの通りです。
なので、とりあえず書き始めた時にやりたかったことだけを抜粋してお送りします。


「兵藤一誠、お前は確かに強い。赤龍帝としても、仮面ライダーとしてもだ。だが、それぞれの強さが噛み合っていない。それではオレには届かん!!」

 

鎧を砕かれながらも致命傷だけは避けた。だけど、サイラオーグさんの言葉が胸に刺さる。仮面ライダーになってから、それは分かっていた。だから、それを出来る限り磨り合わせてきた。その限界がこの結果か。超えられないと、頭では分かっているはずなのに、何故か立ち上がってしまう。鎧も再生させて、再び正面から殴り掛かる。何度殴られ、蹴られ、倒れても立ち上がる。何故、オレは立ち上がる。そんな時、声が聞こえてきた。

 

『頑張れーー!!』

『立って、赤龍帝!!』

『負けないで、仮面ライダー!!』

 

ああ、そうか。今、分かった。子供の頃からクリムさんに憧れたように、オレは憧れられる存在になっていたんだ。だから、子供達に格好悪いところは見せられないよな。

 

「なあ、ドライグ。神器ってのは、思いによって変わるんだよな」

 

「そういうこともあるな」

 

「だったらさ、変わってくれないか。勝手に変えたら悪いからな」

 

「好きにしろ。退屈しのぎにはなるだろう」

 

「ああ、絶対に楽しいだろうさ」

 

立ち上がり、鎧を解除してマッハドライバー炎を装着する。そして左手にシグナルマッハを握る。

 

「考えるのはやめた。オレは、まっすぐにしか走れない。器用に二つの道を走るなんて真似もできない。だから、道を一つに!!」

 

赤龍帝だ、仮面ライダーだなんて別々に考えるのは無理だ。どっちもがオレで、オレはただ走るだけだ!!

 

「オレの思いに答えろ!!」

 

すべての力をシグナルマッハに強引に注ぎ込む。できるかどうかじゃない、やるだけだ!!そして赤龍帝の籠手が分解され、シグナルマッハに注ぎ込まれる。新たな赤い姿になったシグナルバイクをドライバーに装填する。

 

『シグナルバイク、ライダー、マッハブースト!!』

「Let’s、変身!!」

 

いつもどおりの変身ポーズを取り、新たな姿のマッハに変身する。

 

「追跡、撲滅、いずれも~、マッハーー!!仮面ライダー、マッハ!!」

 

新たなマッハの誕生に会場中が盛り上がる。

 

「どうよ、楽しいだろう、ドライグ?」

 

「クククッ、まさか禁手化の亜種ではなく基本すらも捻じ曲げるか。本当に面白いな」

 

お互いに笑いながらゼンリンシューターのホイールを回す。

 

『ゼンリン』

 

そしていつもどおりにブーストイグナイターをエンジンを吹かす様に叩く。エンジン音と共にboostの音声が入る。そいつは予想済みだ。

 

「行くぜ、サイラオーグさん!!こいつがオレの全力だ!!」

『ズーット、マッハブースト!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こいつは中々良いな、相棒」

 

ドライグの奴、シグナルバイクに魂が移ってから楽しそうだな。

 

「外では目立つなよ」

 

「分かっているさ。それにしても自由に動ける身体があるのは良いことだな。自身と比べれば弱すぎる身体だが、これはこれで面白い」

 

シグナルバイクで部屋中のあちこちを走りながら楽しそうにしている。それを見るのを止めてリペイントの続きを行う。籠手が無くなって赤龍帝としては片落ちになっちまったからドライバーを赤龍帝の籠手のデザインにリペイント中なんだよな。撮影の方でも今回の進化を話に盛り込むことが決定してるからリペイントを急がないと。応援してくれる子供達のためにも頑張らないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身することもできず、憧れの背中と相棒に親友を失って、なお戦いを挑むか」

 

「当たり前だ!!オレが止まることを誰も望んじゃいない!!オレはまだ走れる。オレが走ることで誰かの笑顔が守れるならオレは、何処迄も走り続けてやるよ!!正面からじゃ勝てないからって不意打ちで弱点をつくことや人質を取らないと表にも立てない自称英雄ごときに負けるかよ!!」

 

生徒会の皆が子供達を逃す時間を稼ぐ必要がある。シグナルマッハブーストもシグナルデッドヒートも壊されて生身で立ち向かわなければならないけど、そんな理由で逃げるわけにはいかない。構えた所で横から銃撃が飛んできてオレと曹操たちの間に着弾する。

 

銃弾が飛んできた方を見れば、親友がライドチェイサーで駆けてくる。

 

「待たせたな、イッセー」

 

「元士郎、無事だったのか!?」

 

「完全に無事ってわけじゃない。だけど、十分希望は残ってる」

 

元士郎がシグナルチェイサーを投げ渡してくる。

 

「おい、これを渡して、お前はどうするんだよ!?」

 

「こいつが、完全に無事じゃない理由なんだよ」

 

そう言って、サーベルの柄のような形をした銃を取り出す。そして、銃口に掌底を叩きつけてから離す。

 

『BREAK UP!!』

 

銃口を真上に上げてトリガーを引き、タイヤ状のエネルギーを身に纏い

 

「おい、まさか!?」

 

「これが、魔進チェイサー。今のオレの、ロイミュードとしての戦闘体型だ」

 

何処かチェイサーをスクラップから作り上げたような姿に、元士郎の悲しい声が響く。

 

「本来の身体は、サマエルの毒に侵されて解毒処置が済むまで冷凍保存されている。そして、オレとヴリトラとドライグの魂をオレはロイミュードに、ヴリトラとドライグはシグナルバイクに移して生きながらえた。だけど、その作業のためにロイミュードのボディはなくなりクリムさんの身体は失われちまった」

 

「ふ、ふははは、そうか。仮面ライダードライブは、クリム・スタインベルトは死んだのか。ならば後はお前たちを殺せば、第2のグローバルフリーズは止められない」

 

「何を勘違いしてやがる。仮面ライダードライブは死んでないし、クリムさんだって死んでいない」

 

元士郎の言葉を証明するようにトライドロンが駆けつけ、運転席から会長が降りてくる。

 

『間に合ったようだな。調整に少し時間がかかってね』

 

会長が装着しているドライブドライバーからクリムさんの声が聞こえる。モニター部分には簡易的な人の顔のような表示がされている。

 

「クリムさん、なのか?」

 

『そのとおりだ、イッセー君。今のオレのボディはドライバーそのものだ。生物学的にはクリムは死んだ。これからはベルトさんとでも呼び給え』

 

「……随分余裕ですね」

 

『過去を振り返ってばかりではイカンな。それにこの姿だからこそできることもある』

 

「それって」

 

『では、見せてあげようか。オレとソーナが出したドライブの最高の姿を』

 

「そうですね。その前に私からも一言、英雄派を名乗るテロリストたちに言わせてもらいます」

 

「まだオレ達をテロリスト呼ぶか!!」

 

「何度だってそう呼びますよ。そもそも三国志の曹操は漢から見ればテロリストでしょうが。そんなこともわからないのですか?大きな偉業を成し遂げて、それを讃えられた者が英雄なんですよ。貴方達はただのテロリストです。誰にも讃えられていないでしょう?そして、そんなことはどうでもいい」

 

「どうでもいい!?」

 

「私、こんなに怒ったのは初めてです。容赦は一切しません!!命乞いも許しません!!」

 

会長がドライバーのキーを回して、あれはトライドロンのシフトカー!?

 

『Fire All Engines』

「変身!!」

 

クリムさんが使っていた、全てのシフトカーが会長の周りを走り、トライドロンが変身とは逆回しのように分解され、会長とシフトカーに覆い被さるように装着される。

 

「仮面ライダードライブ、タイプトライドロン!!」

 

『私達の心のエンジンに火が灯って初めて生まれるドライブの最高の姿さ。さあ、三人共、君達に尋ねよう。ひとっ走り付き合えよ』

 

ああ、身体を失おうともクリムさんは、いや、ベルトさんはベルトさんだな。立ち上がり、ドライバーにシグナルチェイサーを装填する。

 

「変身!!」

『シグナルバイク、ライダー、チェイサーマッハ!!』

 

ボディースーツとレガースとグローブがチェイサー、それ以外がマッハというごちゃまぜな姿ながらも力が湧き上がる。

 

「「「ひとっ走り、付き合いますよ!!」」」

 



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ハイスクールD×D 超闘士激伝

 

 

私はここではないどこかで生きていた記憶と思いがぼんやりと存在している。そこで私がどんなことを成し遂げたのか、何を思っていたのかは分からない。ただ、私は戦い続けていた。多くの異形の者と仲間達とともに戦い続けた記憶が。そしてなんのために戦っていたのかは分からないが、その思いが、私を突き動かす。強く、優しく、そして暖かくあろうと、私を突き動かす。私は、誰だ?

 

 

 

 

 

悪魔と天使と堕天使の戦争が始まり、戦地に近かった私の住む街に避難命令が出た。それは十分に間に合うはずの避難命令だったが、護衛として派遣された上級悪魔の方たちが多すぎたために、逆に標的にされてしまい、多くの天使たちが攻め込んできてしまった。避難を続ける中、段々と交戦する音が近づいてきている。市民である私達は戦うことを許されていない。だが、このままでは多くの者達が死んでしまう。その中に私を拾い、育ててくれた年老いた両親が混ざるかもしれない。ならば、私の命で皆が助かるのなら、それで構わない。

 

「父さん、母さん、すみません。拾っていただいた恩も返せずに死ぬかもしれない私をお許し下さい」

 

「後悔だけはないね」

 

「ここで戦わないほうが、後悔すると思っています」

 

「なら、貴方にできる精一杯をしなさい。私もお父さんも貴方を見守りましょう」

 

「ありがとうございます。行ってきます!!」

 

すべての魔力を心臓に集める。それによって凝縮された魔力が胸の中心に青く光る。血管を通し、全身を駆け巡る魔力で肉体を強化して飛び上がり、目の前に居た天使を最速で七回殴って吹き飛ばす。

 

「此処から先は一歩も通さん!!」

 

いつもより魔力の循環がスムーズに行われ、力がみなぎってくる。私の中に昔からある記憶と思いが力を貸してくれるように感じられる。そんな私の前に新たに3人の天使が現れる。遠巻きに光の槍を飛ばしてくる3人に腕を十字に構えて魔力を放出し、光の槍ごと3人を撃ち落とす。

 

それによって私を脅威だとかんじたのだろう。避難民を狙う者と私自身に襲いかかる。避難民を狙う光の槍を撃ち落とすのを優先し、傷が増えていく。だが、私はここで命を捨ててもいいという覚悟がある。致命傷を避け、時には片腕を犠牲にして避難民を守る。片腕しか使えなくなり、魔力の放出が安定せず、高火力で放つしかなくなった。魔力が大幅に減っていく。それでも構わない。一分でも一秒でも、少しでも長い時間を稼げるならそれでいい。

 

 

 

 

 

 

 

私が戦場にたどり着いた時、その光景に目を疑った。ぼろぼろになりながらもその背後に負傷した兵たちを庇い、10の上級天使と30の中級天使を相手に戦い続ける者が居た。驚くことにボロ布になった服装から判断すれば我々が守るべき市民が戦っているのだ。そして、また一人の上級天使の首を手刀で切り落とし、背後の負傷兵を狙おうとする5人の中級天使を拳撃を飛ばして一瞬で吹き飛ばす。中級天使の殆どは手傷を負い、上級天使はきれいな死体が幾つか見つけることが出来た。

 

彼はこの状況下においても冷静に、生きることを諦めていない。自分が倒れれば後ろにいる者が危険に晒されるから。彼を失う訳にはいかない。彼は多くの者の希望となれる存在だ。私は嫌っていたはずの自分の真の姿になってまで戦いを早期に終わらせた。

 

彼を改めて見ると、右手の傷が少ないだけで全身から血を流している。そして血とは別に、心臓の前辺りに明滅する赤い光の玉がある。そんな彼に問いかける。

 

「君は、死ぬのが怖くないのかい?」

 

「怖い。だけどそれ以上に、私の手の届く範囲で誰かが傷付く方が、辛い。私が手を差し伸べることで誰かを救えるのなら、傷付き倒れたとしても、後悔はない」

 

赤い光の玉が消え、彼の全身から力が抜けて落ちていく。私は急いで彼を抱きかかえ、両親が用意してくれた虎の子のフェニックスの涙を彼に与えた。私は自分の直感を信じる。彼こそが、この戦争に光明をもたらすと。彼の心が未来を作り出してくれると。現に、守られていた兵士たちの顔を見れば分かる。心底、彼に惚れたのだろう。フェニックスの涙で意識を失ったままとは言え完全に回復した姿を見ているのに、心配そうな顔をしたままだ。家柄でも力でもなく、その心で人を惹きつける。英雄と呼ばれるような存在になるだろう。そんな彼の行く末が見てみたい。

 

 

 

 

 

 

そして彼は英雄の道を歩み始めた。更なる力を得るために過酷な修行を行い、戦場では負けを知らず、民のために身を粉にして救助や復興に手を貸し、その心に惹かれて共に戦う者達も増え、彼に恋する者も現れる。それと同時に、拳を交わし、互いを理解してライバル関係になる者や、成果を疎み、排除しようとする者も現れる。様々な者達との出会いが彼を強くし磨き上げていく。

 

その結果、彼は悪魔の陣営から離脱、第4勢力を立ち上げ、どの陣営からも離反者が続出して彼の第4勢力に参加した。規模としては小さなものだが、戦力で言えば引けを取っていない。最上級戦力の離反者がどの陣営からも出ているのだ。活動範囲自体は狭くともそれが逆に少数精鋭を最大限に発揮させる。彼らはどの戦場にでも現れ、訴える。このまま戦いを続ければすべての種族が滅びると。自分たちのように3陣営は手を取り合うことも出来るんだから、停戦でも休戦でも出来るはず、陣営としての屋台骨が折れる前に戦争を止めるんだと訴え、できるだけ殺さないように全ての陣営と戦った。

 

彼らが現れた戦場は誰も勝者がいない。彼ら以外の陣営は負傷者多数で撤退、彼ら自身は戦争を止めることが出来ていない。それが続き、完全な膠着状態と負傷者の多さに自然と休戦状態になっていた。そして士気の関係上、これが最後になるであろう戦いに第5勢力が現れる。

 

赤龍帝と白龍皇の2頭の龍の乱入により、各陣営に多大な被害が出た。各陣営が最上級戦力のみを残して撤退する。そして彼一人が赤龍帝の相手をして時間を稼ぎ、残りの者で白龍皇を仕留めることになった。戦況は僅かに私達が押していた。彼は赤龍帝を完全に抑えてくれて、私達はなんとか白龍皇にダメージを負わせられていた。だが、突如彼を除いて私達は転移させられてしまった。彼を殺すために、戦争を続けようとしていた者達が種族を超えて結託したのだ。

 

彼の言うとおり、種族の違いなどちっぽけなものだった。それが悪い方向に働いた。セラフォルーが怒りに任せて私達を転移させた者達を殲滅し、急いで戦場に戻る。そして、私達は見た。彼に初めて会った時以上に目を疑う光景を、いや、奇跡を。冥界の夜の闇を晴らすほどの光でありながら暖かく包み込むような優しい黄金の輝きを。まるで彼の心その物のように感じられる光を放つ彼が二天龍と互角に戦っている光景を。そして、遂には二天龍を、彼が放つ最大の光波熱線が飲み込み、再び闇が訪れる。

 

時間にして3分ほどであろう奇跡を起こした彼を迎えに向かった私達を待っていたのは、立ったまま、光波熱線を放った体勢のままで息絶えた彼の亡骸だった。この日、3陣営の中で最も未来を憂いていた英雄が永遠の眠りについた。

 

英雄の名はシン。彼は一切家名を名乗らなかった。ただ一人の悪魔として護りたい者のために戦い抜いた闘士。私達が彼を忘れることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は人間として再び生を得た。シンとして生きていた頃の記憶はすべて残っている。だが、私が生きていた時代から時間が経ちすぎていた。父さんも母さんも生きてはいないだろう。私に付いて来てくれた者達がどうなったのかは気になるが、今の私には調べる勇気がない。全てを押し付けてしまった私に、彼らに顔を合わせる資格などない。それなのに身体を鍛えているのは何故だろう。もう全てが終わってしまったことなのに、あの時の最後の力を使いこなそうとしているのは何故?疑問に思い続ける日々が続き、私は再び出会った。私の半生を変えた、紅色の髪を持つ者と。

 

リアス・グレモリー

 

私の半生を変える力となってくれたサーゼクス・グレモリーの身内だろう。懐かしい感じの魔力に涙腺が緩みそうになる。他にもセラフォルーの身内と思われる支取蒼那にも出会った。セラフォルーとは性格なんかは似ていないが、心根はそっくりだ。

 

二人に出会って分かった。私が再び生を得た理由が。私の力が必要になる時が来るのだと。時間がどれだけ残されているかはわからない。だが、出来る限りのことはしよう。それが私だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私がこれほど驚いたのはあの奇跡以来の事だろう。最近、リアスお嬢様が気にしておられる殿方がいると眷属の方から話があったのでどのような方なのかを遠目から見に行ったのだが、その方があまりにもあの人に似ていることに。

 

シン

 

サーゼクスが戦時中に市井の中から見つけ出し、色々と便宜を図り、最後には英雄として祀られるまでの功績を立てた奇跡そのもの。その逞しい姿に魅了されたものは多い。それは男女の仲だけではない。戦友、師弟、好敵手、色々な関係であの人に魅了された。私は戦友として、サーゼクスは親友として、セラフォルー様とガブリエル様は男女として、アザゼル様は理解者として、コカビエル様は好敵手として。多くの者があの人に魅了され、嫉妬を覚えるものも多かった。

 

お嬢様やソーナ様は気づいておられないようですが、戦時中に激戦区に居て生き残った者なら誰でも気づくはずです。なにせ、生き写しの姿をしておられるのですから。思わず逃げてしまい、それから冷静になって考える。単にそっくりなだけであろうと、そう思っていた。だけど、眷属の方たちからの話を聞く限り、ますますあの人だと思ってしまう。まるであの人が蘇ったように。私はこのことをサーゼクスに相談した。そして、一計を案じてくれた。

 

「ライザー君を利用しよう。リアスの婚約を早めさせて、件の彼をリアスに巻き込ませるんだ。おそらくだが、リアスは処女を失って婚約を破棄させようとするはず。その場に踏み込めば、見極めることが出来るはずだ」

 

「よろしいのですか?」

 

「また、彼の力が必要になるかもしれない。第4勢力として戦っていた君なら分かるだろう?不満が溜まっているだけじゃない。少しずつだが融和を考えている彼らが処理されているんだ。それに他にも裏で色々暗躍している者達がいる。私達は権力を得たが、フットワークが重すぎる。フットワークが軽く、信頼できて、力のある者が必要なんだ」

 

「それを彼に?」

 

「彼なら進んでやってくれると信じているさ」

 

「そうですね。あの人ならそうでしょう」

 

「ああ、そういえば件の彼の名前は?」

 

「早田進一郎です。普通の一般家庭の優秀な方ですね。そこもあの人と似ている所です」

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と遠回りなことをしたのだな、サーゼクス」

 

正体を明かしていないリアスがいきなり転移で現れた時は驚いたが、その後にグレイフィアが現れたことで大体を理解し、第4勢力内の暗号で確認を取ればサーゼクスが会いたいと告げてきた。恨み言などを言われるのかと思ったが、快く私を迎えてくれた。

 

「本当にシンなんだね」

 

「今の私は早田進一郎だ。シンではないよ。だが、シンではあった」

 

「また会えて嬉しいよ、友よ」

 

「まだ私の事を友と呼んでくれるのか」

 

「ああ、君はいつだって誰かのために戦っていた。そんな君を最前線、激戦区に送るしかなかったことにいつも苦しんでいた。君が第4勢力を立ち上げたと聞いた当初は、嫌気が差したのではないかと思った。だけど、君は出会った当初と変わらず、ただ大きくなっただけだった。そんな君のことを私は羨ましく、そして誇らしく思うよ。何故、我々に接触してくれなかったのかだけが疑問だがね」

 

「私は、怯えていたのだよ。事を起こしたにも関わらず道半ばで倒れて、残りを押し付けてしまった。皆恨んでいるのでは、そう思うと何も考えられなくなった。それでも、私は身体を鍛え続けた。そして私が再び生を得た理由を見つけた。私のこの力が必要なときが来るのだと。その時が来たのだな?」

 

「たぶん、近い。君がいない間に起こったことと現状を説明しよう」

 

そうして要約しても長い説明を2時間ほど受けた。

 

「そうか。私の所為で多くの者が苦しんでいるのか」

 

「君だけの所為ではない。私達もあまり有効な策を打てていないのが現状なんだ。だけど、ようやく最後のピースが揃うかもしれない。君の力を貸してほしい」

 

「私の返事はあの時と一緒だ。戦いの先に皆が平和に暮らせる世界があるのなら、私の全てを捧げよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君がライザーかい?」

 

「なんだ、貴様は?」

 

「詳しくはグレイフィアに聞くと良い。私は顔合わせに来ただけだ」

 

「貴様!!たかが人間風情がグレイフィア殿を呼び捨てになど!!」

 

「別に構いませんわ。私とは友人ですから」

 

「「へ?」」

 

「古い友人だ。無論、サーゼクスともだ。気安く付き合える友人だ」

 

私達の答えに全員が驚いて混乱している。

 

「いつの間に?いえ、それどころか私達が悪魔だということも知っていたの!?」

 

「その髪とグレモリーの名で知っていた」

 

「そ、そんな前から」

 

「そういうことだ。悪魔の事情にも精通している」

 

「くっ、それで貴様と顔合わせの意味がわからんのだが!!」

 

「落ち着いてください、ライザー様。それを今から説明いたしますので」

 

立ち上がっていたライザーがソファーに座りなおす。あまりシュラウド殿に似ていないな。あの方は常に礼儀正しかったのだが。いや、酔っている時はグダグダだったな。

 

「リアスお嬢様とライザー様とのご婚約ですが、この度白紙撤回になりました」

 

「「はい?」」

 

「この件はグレモリー家、フェニックス家、両家合意の元でご破断となりました」

 

「な、何故そのような事がオレに伝わっていないのですか!?いえ、それどころか何故!?」

 

「それだけ日頃の態度が悪かったということでしょう。ですが、サーゼクス様が最後のチャンスを与えるとのことです」

 

「1週間後にレーティングゲームのルールで私を倒せれば再び婚約者に戻すということだ」

 

それを聞いてライザーは厭らしい笑みを浮かべる。再びこのような笑みを見る羽目になるとは、これも罰の一つなのだろう。

 

「はっ、たかが人間ごときを相手にして勝てばいいとは。サーゼクス様はオレとリアスを結婚させたいようだな」

 

そう言って笑いながらライザーが転移するのを見送る。それと同時にリアスがグレイフィアに食って掛かる。

 

「グレイフィア、こんなの酷すぎるわ!!彼を殺そうというの!!」

 

「私はサーゼクス様からの決定をお伝えしているだけに過ぎません。それに」

 

「それに?」

 

「彼が負ける姿を想像できませんから」

 

「えっ?」

 

「進一郎様、例の場所ですが準備のほうが整いました。ご案内してもよろしいでしょうか」

 

「頼む。家族にはある程度の事情は話してあるが再度の説明を頼む」

 

「分かりました。それではご案内させていただきます」

 

グレイフィアに転移で連れて行ってもらったのは、かつてサーゼクスに紹介された修行場だ。高温高圧高重力というおよそ生物が住めない環境で周囲は冥界一の硬度を誇る鉱石で覆われている。今ではかつての英雄が修行をした聖地として扱われて多くの者が利用しているのだが、無理を言って1週間貸し切ってもらったのだ。

 

「では、試合開始12時間前にお迎えに上がります」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうすぐ私の婚約を賭けたレーティングゲームが始まる。だと言うのに、私はそれに参加することが出来ない。ただ、見ていることしか出来ない。それにしても朱乃や小猫や祐斗がどこか落ち着かないでいる。何かあったのだろうか。

 

「あの、部長、なんか、周りの人がそわそわしてませんか?」

 

最近眷属にした赤龍帝を宿す一誠がそう耳打ちしてくる。言われてみれば確かにそわそわしている。それに魔王様が皆揃っているのも異常だ。他にもグレモリー家にもフェニックス家にも縁が遠いような家の者までいることに気づく。一体何があるのだろうか?そう思っていると、更に異常なことが発生する。

 

「最後の招待客の方が到着しました」

 

グレイフィアがそう告げて、観客席に入ってきたのは熾天使のガブリエルとメタトロン、神の子を見張るもの(グリゴリ)のアザゼルとバラキエルだった。何故彼らが此処に招待され、しかも受け入れられているのかが分からない。

 

「何が起きているのか分かっていないようだね、リアス」

 

「お兄様、これは一体?なぜ、熾天使やグリゴリのトップたちが?」

 

「此処にいる皆はね、確認にやってきたんだ」

 

「確認?」

 

「大戦後の安定期から待ち望んでいた最後のピースをね」

 

「何をおっしゃられているのですか?」

 

「此処にいるほとんどはね、歴史の教科書には乗っていない大戦期の第4勢力の者たちなんだ。彼らは、ある一人の悪魔が先導し、共に駆け抜けたんだ。未来へ希望を残すためにね」

 

「第4勢力?それに希望?」

 

「その悪魔はね、いつも誰かのために、守るために戦っていた。グレモリーは慈愛の家系だと言われているが、彼に比べればちっぽけなものだ。彼の慈愛は身内どころか敵にさえ、違うな、彼にとって敵なんてものはほとんどいないのだろうね」

 

「敵がいない」

 

「彼はいつでも真っ直ぐで、とても強く、優しく、暖かかった。それに魅了されて、彼と共に種族の衰退・破滅を憂いた者達が各陣営から離反して立ち上がったのが第4勢力なんだ。今回は代表としてあの4人が来ているが、数はともかく質は他の3陣営と引けを取らない勢力だったね。歴史の教科書に乗っている終盤の硬直状態は彼らが戦場をかき乱した結果さ」

 

「それはわかりましたが、何故そんな方々が今日、此処に集まるのですか?」

 

「彼らの先頭に立っていた悪魔はね、皆が知っている。だけど、最後は二天龍を倒すために全ての力を使い切り、この世を去った。そんな彼がね、時を越えて、種族を超えて、現代に蘇っていたんだ」

 

「まさか」

 

「リアスも知っている超闘士シン。彼は早田進一郎として、再び舞い戻ってきたんだ」

 

その言葉と共に、ゲーム会場に進一郎が現れ、観客の方々が驚きの声を上げ、うり二つという言葉があちこちから聞こえる。そしてゲームが始まる。

 

進一郎が圧倒的な強さを見せつけてライザーを一方的に叩き潰す。一撃にしか見えないけど、ライザーが炎となって散る姿から連撃であると判断できる打撃に、凄まじい勢いで地面に叩きつけクレーターが出来る投技、ライザーが一切捉えることのできない速度、一撃一撃が強力な攻撃魔法。いつも柔らかい笑みを浮かべている進一郎初めて見る真剣な表情に顔が熱くなる。

 

「全盛期には程遠いな。6割強から7割って所か?どう思うよ、サーゼクス」

 

「アザゼルか。それは仕方のないことだと思うよ。彼は今まで人間界で人知れず体を鍛えていたそうだからね。土台も人間だし、修行環境も恵まれたものではない。それが1週間で此処まで鍛え上げ直したんだ。すぐにでも全盛期を取り戻すはずだ」

 

「いえ、既に全盛期を超える力を身に着けておられです。今、合図がありましたので声を中継します」

 

ライザーが再生に時間が掛かる中、トドメの攻撃魔法が放たれ、ライザーが会場から退場する。それから進一郎が語りかける。

 

『皆にはすまないことをしたと思っている。道半ばで倒れ、全てを押し付けてしまったことを。そして、今まで皆に私の事を知らせなかったことを。私は皆に会う勇気がなかった。重荷を渡してしまった皆に恨みをぶつけられるかもしれないと。そのはずなのに、私は体を鍛えてきた。何のためにか分からずに。だがサーゼクスに再会し、皆がまだ私を必要としてくれていると知った。一度は全てを放り出し、逃げてしまった私を、まだ必要してくれるだろうか?』

 

その問に会場から待っていたや、お帰りなどの声が上がる。こちらの声を届けていたのか、進一郎が頭を下げる。

 

『ならば、私は再び立ち上がろう。皆が平和に暮らせる世界を照らすために!!この力を、皆に貸そう!!』

 

そしてお兄様に小さい頃から教えてもらっていた奇跡の光を見た。冥界の夜の闇を晴らすほどの光でありながら暖かく包み込むような優しい黄金の輝きを。これが伝説の英雄、超闘士の輝き。

 



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ハイスクールD×D 器用で不器用な赤龍帝 1

テンプレ転生でイッセーの物を書いたことがなかったので書いてみたら寝ぼけて他のネタと合体事故を起こしました。
今後トモヨロシク


 

 

う~む、テンプレな転生をやってしまったな。よりにもよってドラゴンボール並みにインフレの激しいハイスクールD×Dとは。しかも主人公の一誠か。モブで引きこもってたかった。とりあえず、引きこもった際のメリット・デメリットを書き出してみよう。

 

 

メリット

・平凡な人生を送れる?(デメリットによって送れない可能性大)

 

デメリット

・アーシア死亡(蘇生はされるのかな?)

・リアスがライザーと結婚(確定。デメリット?)

・コカビエル戦で全滅の恐れあり(むしろ、駒王が吹き飛ぶんじゃあ?)

・ギャスパーが処理される可能性中(むしろ神器を抜き出して他の人に移植したほうが…)

・白音が黒歌に拉致られる(確定)

・朱乃が仲違いのまま(確定)

・フェンリルで全滅の恐れあり(ヴァーリ達が味方になりそうにない)

・京都が吹き飛びそう(ほぼ確定)

・冥界が豪獣鬼・超獣鬼によって被害甚大(確定)

 

 

オレの知識が途中までしかないからこれだけだが、デメリットしか存在してないじゃねえかよ!!駒王に住んでる限り、死の危険が伴いすぎだろ!!大半の主要メンバーが不幸になってるしな。逆に出来る限り原作に近い状況に持っていけた場合のメリット・デメリットを書き出してみよう。

 

 

メリット

・寿命が長くなります(詳しいのは分からないけど精神的に老いなければ万年単位で生きれそう)

・美女、美少女に囲まれます(個人的には一人を深く真摯に愛したいのですが)

・子供達の人気者です(だけどおっぱいドラゴンは勘弁してください)

・お金持ちになれます(お金持ちにはお金持ちの苦労があるんです。中流階級の上の方ぐらいが一番気楽そう)

・将来安泰(ただし闘争に塗れてそう)

 

デメリット

・人間辞めます(まあ仕方ないよね。悪魔に転生しなくても竜にはなっちゃいそうだし)

・死にます(最悪2回。頑張れば0回に出来るはず)

・自由がちょっとばかし減ります(これは許容範囲)

・政治に関わる必要がありそうです(人外の政治家って政治ってものを理解してなさそうで苦労しそう。老害も多いみたいだからディスガイアの議会システムを導入したい)

・命がけの戦闘が多い(勘弁してよ~)

 

 

うわっ、引きこもってる方より苦労が多い上にメリットが薄い。前世での二次小説で喜んでいた奴らの気が知れない。努力はするけど、努力はするけど辛いよ。確か一誠の才能って低いんだよな。どうするか。鍵は赤龍帝の籠手か。倍加の力の使い方次第で全てが決まるな。とりあえずは使えるようにならないと話しにならないんだよな。さて、現実逃避は止めるか。母さん、オレのマイサンを見て微笑まないで。まだ赤ん坊なだけなんだから、成長したらビッグな男になるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレ、勘違いしていたみたいだ。倍加の力って全体強化しかなかったのかよ。部分強化って譲渡の力なのかよ。あれ?むしろ弱くなってねえか?そう思ったオレは悪くないはずだ。

 

あっ、ちなみに現在3歳です。イリナちゃんからの新聞紙ブレードを防御するために神器が出ました。赤龍帝の籠手も体に合わせて小さいですが、宝玉内に赤龍帝の紋章も浮かんでます。

 

原作の一誠の弱さが際立ちます。お前、3歳児が怪我を防ぐための防衛本能で起動してるんだぞ。どんだけ気合が入ってなかったんだ。

 

赤龍帝の籠手が出せるようになってからイリナちゃんの打ち込みが強くなりました。左手だけじゃ捌ききれなくなってきたので右手も寄越せと強く念じると右手にも籠手が出ました。ふはははは、これでイリナちゃんの二刀流に対抗できるぜ。喰らえ、四の字固め!!君が、泣いても、謝るまで、許さない!!あっ、ちょっ、ひっくり返らなあだだだだ!?イリナちゃんの方が体格が良いから返せないいてててててて!!タップ、タップ!!

 

関節技はやっぱり痛いです。

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず神器が出たんだからこれを使いこなさないと話にならない。イリナちゃんとの体力が完全に切れるまで全力バトルで身体を作りながらおやつと昼寝で回復する。イリナちゃん、抱きつくまではともかく上に乗るのは勘弁して。その所為でこの前ファーストキスを奪われちゃったんだから。顔がヨダレまみれにもなったし、母さんが写真に残しちゃってるし、散々だったんだから。

 

さて、原作ではとにかく体を鍛えるとあったが、力を使いこなすためには使いまくるのが一番のはずだ。意識を籠手に向ければカウントを感じ『boost』の音声に合わせて力を発動。そのまま効果が切れるまでの時間を数えながら、再びカウントを始める。これを寝たふりをしながら続ける。これを続けてタイミングを完璧にって、いたたたたた!?イリナちゃん、寝ぼけて噛みつかないで!!母さん、ヘルプヘルプ!!

 

 

 

 

 

 

イリナちゃんのお父さんがなんだか暗い顔で引っ越すことになることを告げてきた。ああ、もうそんな時期なのかと思っていると泣いているイリナちゃんに押し倒されて後頭部を床に叩きつける。イリナちゃんと一緒にいると生傷が絶えなかったから痛みには随分と強くなった。イリナちゃんのお父さんが複雑そうな顔をしている。確かヴァチカンに行くんだっけ?ってことはイタリアでの生活のはず。手紙ぐらいは送ってあげよう。第2外語でイタリア語をとっててよかった。簡単な手紙ならかける。美人を見たら口説かないと失礼だから口説くためのセリフ集とかいうテストだったせいでそっち系のボキャブラリーは豊富だ。それを分解すれば多少の日常会話の手紙を書くことは可能のはずだ。

 

イリナちゃんと別れてからは体を鍛える効率が下がった。同年代が相手にならない身体能力を身に着けているため組手もどきの相手がいなくなってしまった。諦めて普通の筋トレをしながら小学2年生で待望の譲渡を扱えるようになった。

 

色々試してみて確信した。譲渡こそがオレの修行の相棒であると。譲渡の力は倍加の力を他人や一部に集中して渡すことが出来る力だ。継続時間は倍加の力と同じで倍率は下がる。これが基本だ。そして、一番重要なのは見えない物にも譲渡することが出来るということだ。別に重力とかそういうものという意味ではない。言葉の上でしか存在しない物と言ったほうが良いか。最も簡単な説明をするなら、ゲームで例えるのが良いだろう。

 

経験値取得率(・・・・・・)熟練度取得率(・・・・・・)を倍加出来た。

 

今のオレは普通の倍加で16倍、持続時間は30秒。譲渡に寄って倍率は10倍。つまりは最初の溜めに40秒使った後は、30秒間経験値10倍、10秒の休憩後にまた30秒間経験値10倍を繰り返せる。疲れれば自然治癒力を10倍にして休憩してそれを繰り返す。ネトゲの課金アイテムなんかも目じゃない高密度・高効率の修行が可能だ!!ヒャッハー、もう我慢できねえ!!

 

 

 

栄養失調で倒れました。自然治癒力を高めるってことは新陳代謝も10倍にするってことが頭から抜けてました。自然治癒力を高めるのはお蔵入りになりました。危ないな、勉学系にも使おうと思っていたけど、ブドウ糖を直摂取で10倍の量を摂取しないといけないとか罰ゲームに近い。勉強は真面目にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

中学2年生になりました。オレは今、オリンピック100m走決勝会場に立っています。

 

どうしてこうなった。もう一度言おう。どうしてこうなった。

 

そもそも陸上部にも入っていないオレがなんでこの場に立ってるんだよ。思い返すは1年の頃、陸上部の短距離のエースで表は優等生だけど裏では不良たちのトップで女の子を泣かせている3年の先輩の鼻の面をへし折ってことが始まりだっけ?

 

正々堂々あの手この手で妨害してきて、靴を隠されたから裸足で走って、トラックに仕掛けられていた爆竹もガン無視してぶっちぎってやったらタイムがおかしいとか言われて、今度はちゃんと靴を履いて走って更にタイムが縮んで、なんか大会に出場させられた記憶はある。

 

あれ?公式記録を残してるじゃん!?何やってんのオレ!?

 

『今頃気づいたのか相棒』

 

(今頃気づいた。鍛えることと優等生であることしか考えてなかったから。教えてくれても良かったじゃんドライグ。うわぁ、真面目に陸上やっている人ごめんなさい。終わったら完全引退宣言するんで今回だけはすみません。負けるのは嫌いなんで)

 

100m、200m、400m、800m、走り幅跳び、走り高跳び、砲丸投げ、ハンマー投げで世界記録更新、4×100mリレーで銀、4×400mリレーで銅を取りました。その後、さらに追加でドーピング検査や色々な検査を受けることに。途中、なんか悪魔にも魔法で調べられたけど特に異常は見受けられずに不正はなかったと証明された。魔力を使った肉体強化なんてすぐにバレるような物を使う訳ないでしょうが。その後、会見が開かれたのでオレだけの追加検査を利用して引退宣言をしました。

 

「高々14歳の子供に対して薬物やその他諸々の不正を疑う恥知らずな大人達の行為に失望した。未だに何か不正があるはずだという声も聞こえてくる。オレは主催者の指示通りに素直に検査を受けた。それも2週間もだ。その結果、白だと判明もしている。それでもまだ不正があるというのなら、オリンピックの公平性というものは存在しないのだろう。オレは一切の記録を放棄して完全に引退する。がっかりだよ、この世には夢も希望もないようだ」

 

ここまで派手にしてやれば陸上に関わらなくても問題ないだろう。いやあ、残りの3年でしっかりと鍛えないとな。そろそろ武術の練習でもするか。柔剣道に空手、ボクシング、中国拳法、ムエタイ、色々あるからな。何から手を付けようか。

 

 

 

 

 

 

無事に駒王学園に入学できた。これで原作に近い状況には持っていきやすいはず。最悪、オレが生き残れれば良いだけだから多少のズレは気にしない方向で。というか、既にオレがおっぱいおっぱい言ってない時点でずれてるしな。

 

それにしても設備が充実してるよな。さすが元お嬢様学校。さすがに筋トレ器具はなかったが、大抵のスポーツは可能だな。まあ、大会には一切出るつもりはない。あのオリンピックの時から無理矢理公式大会に出されても記録は全て破棄を宣言している。国はあの手この手でオレを陸上選手に復帰させようとするが、それから逃げ続けている。

 

格闘技の方は基本は大体修めた。あとは実戦経験を積むしかない。オレの実戦経験って精神世界内での対ドライグ戦と対先輩方戦しかないからな。実際のところ、オレがどれだけ戦えるのか分からないんだよな。

 

 

 

 

 

 

 

町外れの廃工場で初めての実践を行っている。相手は英雄派の幹部たちだけど

 

『はっはー、温いぞ、英雄共』

 

「修行が全然足りてないぞ~。右右左右右右足で行くから受け切れよ」

 

適当に拾った鉄パイプを強化してジークフリートの6本の魔剣と切り結ぶ。ヘラクレスは既に沈んでいるし、ジャンヌは逃げ出したから放っておいている。

 

「ただの鉄パイプに魔剣が砕かれる!?」

 

「はい、次~」

 

鉄パイプで股間にゴルフショット!!大丈夫大丈夫、玉が潰れてもフェニックスの涙なら治せるって。鉄パイプを投げ捨てて、足元に転がっている空き缶を蹴り飛ばす。さっきから隠れてチョロチョロ動いているゲオルグの顔面に粉々になった空き缶が突き刺さる。やっといてなんだけどアレは痛い。ゲオルグが集中できなくなったのか絶霧の結界が解ける。

 

「おいおい、この程度の力で世界を壊すなんてよく言えるよな。英雄の力でって言うけど、人外であるヤハウェの力の神器と神滅具に頼ってるし、何がしたいんだ?あと、オレは英雄でもなんでもないぞ。ただ、超高効率で鍛えてるだけの一般人だぜ。まあ、今はドライグの力も借りてるけどな」

 

両手の籠手を打ち鳴らしてから再び構えを取る。この程度なら禁手化する必要もないな。

 

「貴様、何故オレたちの思いが分からん!!」

 

「いやいや、人外が居るからって何か不都合でもあるか?普通に生きていれば関わることなんて滅多にないし、普通に出会うぐらいなら普通の他人と変わらないだろう?」

 

「はぐれに殺されたり、食い物にされている者もいるんだぞ」

 

「人間同士でも殺したり食い物にするだろうが。お前さあ、ただ持ってる力で好き放題したいだけなんだろう?建前は良いから本音で言えよ。オレの心には全く響かないな」

 

オリンピックの時からそういう人の心を読むのに慣れた所為で曹操の心が手に取るように分かる。ようするに中二病なんだよ、こいつ。自分は選ばれた人間なんだ。だから普通の暮らしなんて嫌だ。皆に崇められたい、持て囃されたい。そんな気持ちでいっぱいなんだよ。その分、ヘラクレスの方が良いな。あいつは自分に正直だ。暴れたいから暴れる。実にシンプルで分かりやすい。まあ、暴れたい気持ちはさっぱりだから絶対に混じり合うこともないけどな。

 

「とりあえず、力不足だ。出直してこい」

 

黄昏の聖槍を殴り砕き、曹操をパワーボムで沈める。黄昏の聖槍を砕いた時に何か光のようなものが赤龍帝の籠手に触れた気がするが気のせいだろう。

 

「ジャンヌだっけ?隠れてるのは分かってる。とっとと全員連れて帰れ。それから伝言を預かってろ。お前らは一流の使い手に出会ったことがないから神器なんて物に頼りっきりになるんだよ。もっと人間の力を信じろよってな」

 

 

 

 

 

 

「あの、兵藤一誠さんっすよね?ファンです、サイン下さい」

 

「久しぶりにストレートに言われたな。いいよ」

 

いきなり原作から外れたけどこの程度なら大丈夫のはずと自分に言い聞かせながら差し出された手帳にサインを書く。あと、本当に純粋なファンなんだろうな、ミッテルト。涙が出そうだぜ。

 

「ちょっ、どうしたんっすか!?いきなり泣き出して」

 

「……ごめん、久しぶりにまともな会話ができて嬉し泣きに近い」

 

「……あの、時間があるならちょっと話でもどうすか?」

 

「ありがとう」

 

学園でも家でも腫れ物扱いに近いからぼっちなんだ。ぼっちでも平気な人たちを尊敬するわ。結構キツイよ、ぼっち。そんな愚痴に付き合ってくれるミッテちゃん、マジ天使。あっ、堕天使だったか。どっちでもいいや。

 

「有名人ってのも大変なんですね」

 

「まあ、オリンピック委員会と世界陸上連盟を真正面から批難して世論を味方につけたからな。今度のオリンピックから陸上競技が外れるみたいだし、かなりの人数のスポーツ選手が引退しちゃったしな。スポーツ業界から恨まれまくってる。この前も潰れたスポーツ用具専門店の社長に襲われたしな。返り討ちにしたけど」

 

「そう言えば捕まってましたね」

 

「はあ、何処で人生間違えたんだろうな。オリンピックになんて出るつもりはなかったのに」

 

「そうなんっすか?」

 

「おうよ。真面目に陸上をやっている人たちには悪いけど、オレはただ体を鍛えてただけで、陸上のための努力なんてしたことがない。それなのに世界記録なんて出して、金メダルの総ざらい。手を抜けばよかったんだろうけど、オレは勝負事で負けたくなかった。そうしたらオレだけ追加の検査で2週間も拘束されたってのに、まだ不正を疑う大人に愛想が尽きた。だからあんな発言をしたんだ。今の生活のことを考えると後悔してるけど反省する必要性は感じられないな」

 

そんな話をミッテちゃんに愚痴って心がスッキリした。ドライグは適当に聞き流して相槌すら打ってくれないから、あまり心の整理にはつながらないんだよね。

 

「今日はありがとうね、ミッテちゃん。また会えると嬉しいんだけど」

 

「しばらくはここらへんにいるっすよ」

 

「そっか。それじゃあ、今度会った時はお礼させてよ」

 

 

 

 

それからミッテちゃんと何回か会ってデートもどきを繰り返して、友達以上恋人未満程度にはなれたと思う。だから、この現状に後悔はないさ。

 

「貴方は、兵藤君?」

 

「どうも、グレモリー先輩方。助けに来たぜ、ミッテちゃん」

 

グレモリー先輩にとどめを刺されそうになっていたミッテちゃんをお姫様抱っこで拉致って助けた現状をオレは受け入れよう。前提条件が違うんだ。原作だなんだってことは目安にすらならない。それがどうした。今、オレが抱いているのは確かな現実だ。誰でもないオレが決めた道だ。

 

「ば、バカっすか!?何しに来たんっすか!!折角レイナーレさん達にも報告誤魔化して殺さないで済むようにしてたのに」

 

「ミッテちゃんが殺されちゃうとまたぼっちだからね。それだけで助ける理由には十分だよ」

 

「いくら人間の中じゃあ最高峰の身体能力を持ってるからって悪魔を相手にするなんて無理っすよ!!」

 

「無理だったらその時は一緒に死んでやるさ。まあ、そんな未来は訪れないさ」

 

ミッテちゃんを降ろして盾になるように前に出て、両手に赤龍帝の籠手を装備する。

 

「改めまして私、生まれも育ちも駒王で、性は兵藤、名は一誠。皆様共々人には言えぬ秘密があります。不思議な縁もちましてたった一人の女のために粉骨砕身、闘争に励もうと思います。天界へ行きましても、冥界へ行きましても、とかく土地土地のお兄さんお姉さんに御厄介かけがちなる若造でござんす。以後、見苦しき面体お見知りおかれまして今日後万端引き立って宜しく御頼ん申します」

 

口上で稼いだ時間分の倍加の力を開放して木場の顔面を殴り飛ばす。唖然としている姫島先輩を殺さない程度に鳩尾に蹴りを叩き込み、塔城さんの頭を掴んで埋める勢いで地面に叩きつける。この間2秒と掛ってない。

 

「えっ?」

 

「早く手当してやらないと大変ですよ。ミッテちゃん、終わったぜ。オレの平凡な人生もね」

 

「それ、赤龍帝の籠手じゃあ」

 

「そうだよ。オレが今代の赤龍帝。歴代の中で最も才能がない赤龍帝さ」

 

『ふん、その代わりに歴代の中で最もオレの力を使いこなしている歴代最強の赤龍帝だ、相棒』

 

ミッテちゃんを再び抱き上げて廃教会を後にしようとしたところで高まる魔力を感じて横に飛ぶ。滅びの魔力が通過するのを見てため息をつく。

 

「後悔、してもらいますよ」

 

出しっぱなしの赤龍帝の籠手の倍加を更に使って首を狙って回し蹴りを放つ。障壁を貼ろうがお構いなしに強引に蹴り抜いてグレモリー先輩の首から嫌な音が聞こえたけど死んではいないからセーフ。グレモリー先輩の服を漁って携帯を回収して、電話帳に会長の名前があることを確認してから廃教会を後にする。

 

自宅に戻って着替えと通帳を回収して書き置きを残して出る。中学までは色々と楽しかったんだけどな。親不孝なオレを許さなくていいから元気に生きて欲しい。そういう願いを込めて家に向かって頭を下げる。

 

歩きやすいようにミッテちゃんをおんぶしてグリゴリの拠点の一つに向かって歩きだす。駒王から離れたところで会長の携帯に連絡を入れてグレモリー先輩たちの回収をお願いする。

 

「本当にいいんっすか?今からでもグレモリーを皆殺しにすれば元の生活に帰れるんっすよ」

 

「それだとミッテちゃんが大変でしょ?詳しいことは分からないけど、ドライグから大体の話は聞いてるから。戻っても処刑か飼い殺しでしょ」

 

「まあ、そうなるっすかね。ウチみたいなちんちくりんだと飼い殺しはまず無いっすね」

 

「そうなって欲しくないから一緒に付いていくよ。赤龍帝ならそれぐらいの価値があるはずさ」

 

「けど、どうやって上に報告するっすかね?」

 

「ミッテちゃんの魅力にメロメロになったとでも報告すればいいよ」

 

「……いやいや、それはないっしょ」

 

「オレ、廃教会での口上、結構本気だよ」

 

「……いやいや、嘘っしょ」

 

「う~ん、ストレートに言った方が良い?」

 

「……本気なんすか」

 

「本気だね。一人の男としてミッテちゃん、ミッテルトと一緒にこれからを歩んでいきたい」

 

「ウチ、こんなちんちくりんっすよ」

 

「可愛らしくていいじゃない」

 

「話し方も変だと思わないんすか」

 

「それでミッテルトの魅力が減るどころか増すね」

 

「本当にウチでいいんっすか?」

 

「ああ、ミッテルトが良い。オレが相手じゃ駄目か?」

 

「そんなことないっす!!だけど、ウチとイッセーじゃ釣り合わないっすよ」

 

「言いたい奴には言わせておけ。釣り合わないと思うのなら釣り合うように引き上げてやるよ。それがオレには出来る。二天龍クラスまでとは言わないけど、周りにあれこれ言われないよう位にしてやる。それも短期間でな」

 

「でも」

 

「ミッテルト、余計なことは全部オレがねじ伏せてやる。だから、お前の素直な気持ちを聞かせて欲しい」

 

やばい、超緊張する。オリンピックなんかより全然緊張する。背中で何度も何かを言おうとして口を噤んでしまう気配を感じながら無言で歩き続ける。どれだけ時間が経ったのか分からなくなった頃、本当に小さな声でミッテルトが気持ちを伝えてくれた。

 

「……ウチも、一緒にいたいっす」

 

 

 



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ハイスクールD×D 器用で不器用な赤龍帝 2

原作から離れていく3・4巻編です。


 

「大丈夫か、ミッテルト」

 

ぎこちなく歩くミッテルトに声をかけて確認する。

 

「うぅ~、まだ、入ってる感じが。それにちょっと痛いっす」

 

「だからミッテルトは小さいからやめておこうって言ったんだよ」

 

「イッセーさんが大きすぎなんすよ」

 

「まあ、そうだけどよ」

 

「それに処女のまんまでメロメロにしたとか、信じられない可能性のほうが高いっすよ」

 

「だからって」

 

「……嫌だったっすか?」

 

ええい、そんな不安そうな顔で袖を掴んで上目遣いは反則だぞ。

 

「そんなことはないよ。嬉しかったし、気持ちよかったさ。言わせんな恥ずかしい」

 

「と言うか、イッセーさん本当に初めてだったんすか?手慣れてる感じがしたんっすけど」

 

「言っただろう、人の感情に敏感になったって。ミッテルトの反応を見ながらそれに合わせれば手慣れてるように感じるんだろう。内心テンパってたんだよ。最後の方は気遣う余裕もなかったしな」

 

「ケダモノ」

 

「否定できないな。ちょっとばかし感情のコントロールが不安定になってる。今まで押さえつけてた分が暴れてる感じだな。もう完全にミッテルトにメロメロだな。大抵のお願いなら聞いちゃうぜ」

 

「……なら、今夜もいいっすか?」

 

「……いいのか?」

 

「いや、まあ、痛かったけど、それ以上に気持ちよかったっすから」

 

ああ、もう、可愛いことを言いやがって。我慢できなくなるだろうが。こんなに性欲強かったっけ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠以外でまともに打ち合えるやつなんて久しぶりだが甘々だな」

 

「くっ、本当に貴様は人間なのか!?」

 

「オレより強い人間なんてまだまだ居るさ!!」

 

それに驚いてヴァーリに隙が出来る。

 

「食らえ、バックドロップ!!」

 

まともに受け身がとれずにバックドロップを食らってフラフラしているヴァーリをドロップキックで吹き飛ばす。

 

「英雄派の奴にも言えたけど、力だけに頼りすぎ!!技を磨け技を!!防御も回避も甘いし、基本中の基本の受け身が下手とか死にたいのか!!」

 

人外連中の悪い癖だ。すぐに力に頼りやがって。三角絞めでヴァーリの意識を落としてトレーニングルームから引きずって外で待機していた堕天使に預ける。

 

「お前、本当に人間だよな?」

 

「総督自ら検査したじゃないですか。人間だったでしょうが」

 

「そう不機嫌になるな。こっちだって驚いているんだ。ヴァーリだってアレで弱くない。むしろ上から数えたほうが早いぐらいに強い」

 

「あの程度で?」

 

「ヴァーリをあの程度って言える時点でお前は普通じゃないんだよ」

 

「いや、だって、少なくともオレの武術の師匠の方が強いですよ。今でもオレ負け越してますし。というか、魔力とかがあるせいで格闘技術が甘くなるのが人外なんですか?魔法方面しか鍛えてないのが丸分かりですよ」

 

「そんな奴ほとんど居やしねえよ」

 

「対軍戦ならともかく、対人戦なら必要な技術じゃないんですか?」

 

「なまじスペック差で押し切れることが多いからな」

 

「はぁ、人間よりも遥かに長生きなのに。武闘家からしたら舐めているとしか言いようがないですね。ちょっとがっかり」

 

「ドライグなんかもどっちかと言うとこっち側だぞ」

 

『まあ、姿形からして違うからな。格闘技と言うものはオレたちにはない。噛みつき、ひっかき、尻尾を叩きつける、踏みつける、翼で打つ、体当たり。それぐらいだな。悪魔や天使をブレスを倍加して薙ぎ払ったりしてたな』

 

「ドライグのあの姿じゃあそれぐらいが限界か。まあ、比べるものじゃないでしょう、人形とドラゴンじゃあ」

 

「そうなんだけどな」

 

なんというか、人間と人外って姿形は似ているけど根本は全くの別物って感じだな。

 

 

 

 

 

 

 

ミッテルト達みたいに勝手に行動している奴の処分を命じられて帰ってきました駒王に。グレモリー先輩達には勝手に行動しているコカビエルへの刺客を差し向けるとだけ連絡が行っている。だけど、初動が遅すぎる気もする。天界勢が動き出して1週間も経ってから動き出すとは。いや、裏で情報収集なんかはしてたんだろうが。戦争はしたくないけど戦力は削りたいっていう思惑が透けて見える。まあ、ギリギリ間に合ったと言えば間に合ったな。

 

赤龍帝の鎧を纏ったまま結界を潜り抜け、そのまま背後からコカビエルを手刀で貫き、心臓をえぐり取る。腕を突き刺したまま、コカビエルに見えるように目の前で心臓を握りつぶす。全身の力が抜けて落ちていくコカビエルを放っておく。

 

エクスカリバーを持ったフリードはまだ元気で、グレモリー先輩に加えてライザーの眷属の姿が見えるが、そちらはボロボロ。街を破壊する儀式術式は尚も健在か。やれやれ、ボランティアになるがもう一仕事終わらせますか。

 

まずは儀式術式の無効化だ。魔法陣に触れて、自然消耗の倍率を13万倍程倍加させる。それだけでみるみるうちに暴発しそうだった光力が霧散する。

 

「なっ、何をしたのだ!?」

 

「儀式の邪魔。それから、エクスカリバーも手放してもらおうか。そいつはおもちゃじゃないんでな。子供に持たせておく訳にはいかない」

 

フリードの懐に飛び込み、手刀で腕を切り落とす。何か反応する前に殺さない程度に、いや、殺しても問題ないか。返す刀でフリードをフリ/ードにする。そして余分な知恵を持っている元司教にもこの世から消えて貰った方が良いだろう。フリードと同じく、元/司教になってもらう。これでボランティアは終了だ。イリナちゃんを一目見ておきたかったけど、グレモリー先輩達には顔を合わせづらいからね。とりあえず、エクスカリバーはちゃんと返還しておかないとね。

 

「君が教会から派遣されているエクソシストであってる?」

 

「あ、ああ、そうだ。ゼノヴィアという。お前は?」

 

「グリゴリ所属の赤龍帝。コカビエルの処分にやってきた。フリードとバルパーはおまけで、儀式の邪魔はボランティア。イリナちゃんとは友達だからね」

 

「そうか、お前がイリナの言っていた一誠か。協力に感謝する。これでイリナの奴も報われるだろう」

 

「……えっ?」

 

「イリナは、主の元へと旅立った。お前に渡してほしいと預かった」

 

そう言ってゼノヴィアが渡してきたのは、去年のイリナちゃんの誕生日にちょっと奮発して贈ったブローチと髪飾りだった。所々壊れてて、血が付いていて、最後の時に身に着けていたのが分かる。

 

「……ゼノヴィアさん、イリナちゃん、苦しまずに逝った?」

 

「泣いていた。色々と後悔もしていた。前のオリンピックの時からずっと、お前のことを気にかけてた。手紙を読んでも、お前が無理してるって、ずっと言ってた」

 

「そっか。そっか。バレてたんだ。手紙じゃあ、そんなこと、一言も書いてなかったのに。ずっと心配かけてたんだ。それなのに、オレは」

 

甘く見ていた。この世界で17年も生きているくせに、現実だと理解していなかった。既に原作から乖離しているのに大丈夫だと、心の何処かで楽観視していた。覚悟が足りなかった。その結果がイリナちゃんの死。ミッテルトと一緒に生きていくと決めたことに後悔はない。そのために駒王から離れたのも。だけど、積極的に原作に関わるべきだった。受け身でいた所為でイリナちゃんを失ってしまった。

 

そこからなんとかコカビエルの羽を回収してアザゼル総督に報告して自宅に戻る。

 

「おかえりなさいっす、イッセーさん」

 

出迎えてくれたミッテルトを抱きしめる。

 

「ちょっ、どうしたんっすか!?」

 

「ごめん、ちょっとだけこのままで」

 

ミッテルトのぬくもりを感じながら、ミッテルトを失わずに済んだのは間違いじゃなかったんだと再認識する。

 

「大丈夫っすよ。ウチは傍にいるっすよ」

 

「ああ、そうだな」

 

「今日はもう寝ちゃいましょう。寝て起きたら、多少は落ち着くっすよ。話はそれからで十分っす」

 

「すまん」

 

そのままミッテルトに誘導されるままにベッドに寝かされる。その間もミッテルトを抱きしめたままだ。

 

「お休みなさいっす、イッセーさん」

 

「ああ、お休み、ミッテルト」

 

ミッテルトのぬくもりを感じながら眠りにつく。このぬくもりを手放した時、オレは修羅となろう。この世を滅ぼす悪となろう。そしてのたれ死のう。オレにはそれしか出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

三種族会談による和平締結前に世界を変えるだけの力を持つヴァーリとオレが何を望んでいるのかを問われる。

 

「最後にイッセー、お前はどんな事を望む」

 

「オレのこの手の届く範囲が平和であればそれでいい。あまり遠くまで手を伸ばすつもりはない。力が有るから、無いからなんて関係無い。個人の力に義務は存在しないとオレは考えている。個人の力が組織に組み込まれることによって義務と権利が発生する。今のオレはグリゴリ所属だ。グリゴリという組織のために力を使う義務、コカビエルの討伐なんてのはその最もだ。そういう義務を果たすことで、オレ個人ではどうすることも出来ない拠点の確保なんて対価を得る権利を有している。他にも、アザゼル総督には色々と恩がある。恩には恩を、仇には仇を。それだけだ」

 

線引は既に済んだ。オレの一番はミッテルトで、その次に両親、借りを作っているアザゼル総督、そしてグリゴリ、その他大勢。オレの優先順位はそれだと決めた。

 

「周りがうるさかろうと自分の周囲の平和が保てれば良いときたか。もっと上を目指すことも出来ると思うんだけど」

 

サーゼクス・ルシファーがオレに問いかけてくる。暗に悪魔陣営に来ればもっと良い立場に付けられるぞと言ってきているが、悪魔のくせに人間の心が分かっていない。

 

「上を目指して何になる。今、その地位にいて、本当によかったと思えているか?オレはゴメンだ。何故顔も知らない者のために大事な者に苦労をかけなければならない。そんなものをオレは望んでいない。悪魔なのに人間の欲が全然見切れていない。その点、アザゼル総督は分かっている。普通の一軒家に生活に苦労しない程度の資金と重要度は高いが拘束が少ない仕事に、仕事の際に自由に動ける権限。どれもがオレに合っている、合わせてくれている。だからオレはアザゼル総督に恩を感じた上で、グリゴリに所属している。今の対応だけで分かる。悪魔の現政権の足元はぐらついている。統率が取れていない。和平を締結しなければ一番最初に衰退して滅びる。焦りが見えすけている。上に立つ能力が、資格がない」

 

オレの言葉にグレモリー先輩方から怒気を感じられる。だが、事実だ。サーゼクス・ルシファーとセラフォルー・レヴィアタンが何も言い返せずに俯向く。それが駄目だ。嘘でも良いから言い返さなくてはならないのが政治だ。

 

そして、その直後にカテレア・レヴィアタンが現れ、旧魔王派と呼ばれる悪魔の3割が現政権に対して離反を宣言。並びに『禍の団』として三勢力に宣戦布告を行う。こいつも馬鹿だ。興奮して隙だらけの姿を晒している。予め出していた赤龍帝の籠手の倍加を発動して手刀で達磨にして、鳩尾を殴って気絶させる。

 

「捕虜は多い方が良いか、総督」

 

「容赦ねえな、お前」

 

「奴らはオレの手の届く範囲の平和を脅かすと宣言した。その時点で滅ぼすべき敵だ。こいつからはどんな手段を使ってでも全ての情報を吸い尽くして、奴らは殲滅する」

 

「はぁ、捕虜はカテレアだけで十分だ。殲滅しろ」

 

「待ってくれ。カテレアをどうするつもりだい」

 

「何でもだ。二天龍の片割れに喧嘩を売ったんだ。見せしめのためにもなんでもするさ。馬鹿が出ないように、殉死にすらさせないために、最後には自分から死を望むまで追い詰める」

 

「そんなことが許されるわけがない!!彼女をこちらに引き渡すんだ!!」

 

「それは悪魔の都合だ。オレ達は宣戦布告されたんだ。それも、和平が締結される前にだ。禍の団は各種族に自分達以外に宣戦布告、しかも殲滅までも宣言した。これは政治的な戦争でも経済的な戦争でもない。生存戦争なんだよ!!どっちかが滅びるまで続ける必要がある。それが理解できないのなら引っ込んでいろ!!第一、貴様はオレに命令する権限を持ち合わせていない!!」

 

「っ、アザゼル!!」

 

サーゼクス・ルシファーがアザゼル総督に助けを求めるが無駄だ。アザゼル総督は出来る大人だからな。

 

「あ~、残念だがイッセーの言い分が正しいな。和平の締結は、まあ、条件を変えなくても良いや。本来なら悪魔が不利になるような条件をつけるところだが、それぐらいはまけてやる。だが、旧魔王派殲滅する。それが駄目ならオレはミカエルとだけ組むよ。足の引っ張り合いならまだしも、引っ張られるだけなら手を結ぶ意味がない」

 

「私も同じ考えですね。下が納得しないのなら意味がありませんから。条件をまけるだけでもうるさいでしょうが、それ位ならなんとかしましょう。ああ、でも言うべきことは言ってもらいましょうか。格下以外に譲ってもらうのですから、言うべきことはありましょう」

 

「そんな、そこをなんとか出来ないのかい」

 

「無理だな。オレ達は慈善団体じゃないんだ。利益があるから手を結ぶ、不利益を軽減できるから手を結ぶ。利益を上回る不利益をもたらす相手と手は結べない。分かるだろう?」

 

「それは、分かる。だが、確認のために時間が」

 

まだ言い訳をしようとするが無駄だ。総督もミカエルもリアリストな政治家だ。十分譲歩もしている。

 

「まずは離反を宣言した旧魔王派を殲滅すると宣言、向こうに同調していない者たちは命乞いでも何でもしてくる。そこで分ければいい。残りは殲滅だ。後から命乞いしてくるような奴らも殲滅だ。生温い対応をするならオレはイッセーを冥界に乗り込んで暴れさせるだけだ。それによって無関係の者も死ぬかもしれないが、知ったことじゃない。これは生存戦争だ。疑わしきは罰せよだ」

 

「そんなことをしたら暴動どころの騒ぎじゃすまない!!」

 

甘い。甘すぎるぞ!!王を名乗りながら醜態を見せ続けやがって!!

 

「今までに下をまとめきれなかったツケだ。それを払うときが来ただけのことだ。とっとと選べ。旧魔王派を切り捨てるか、切り捨てないか!!」

 

苛立ちから叫ぶが総督もミカエルも何も言わない。代弁をしたと考えていいだろう。黙り込むサーゼクス・ルシファーに失望する。ここは切り捨ての一択しかない。その後に裏で動けばいいだけなのによ。攻撃が激しくなり、騒々しくなる。

 

「総督、安全の確保のために殲滅する」

 

「ああ、任せる。ヴァーリもだ。二天龍の力を存分に見せつけるといいさ」

 

「そうさせてもらおうか」

 

ヴァーリが鎧を纏い、裏門の方に飛び出していくのを見送り、正門の方から攻めてくる奴らを相手にすることにする。鎧を纏う必要はない。やることはワンアクションと譲渡を2回だけだからな。上着を脱いで広げて横に仰ぎ、発生した風を65000倍程にする。一瞬にして爆風が起こり、校庭に居た奴らが結界に叩きつけられて潰れたトマトみたいになる。そして、爆風が他に被害を出す前にエネルギーの拡散率を13万倍にしておく。

 

「これで終わりっと。この程度で世界を変えようだなんて笑えてくるよ。そうは思わないか、ヴァーリ」

 

ヴァーリも片付け終わったのか校庭までやってきていた。やっぱり戦うのしかないのかな。

 

「一誠、お前は何故そこまで強くなった」

 

「そうだな、子供の頃、3歳ぐらいだったか。夢で未来っぽいものを見た。成長したオレが色んな者を相手に死にかけになりながらも仲間と共に戦い続ける夢を。ただそれだけだ。ただの夢だと切り捨てても良かった。だけど、それができなかった。何とも言えない強迫観念に襲われて、ただ力を磨いた。最初は楽しかったさ。今みたいに冷めちまったのは言わずと知れた3年前のオリンピック。気付かされたんだよ、オレが一般人から外れちまったんだってな。それからは、ただ夢の通りの出来事が起きれば良いとすら思い始めた。一般人から外れてしまったのなら、外れた先の非日常なら居場所があるはずだと」

 

そうして出会っちまったんだよな、レイナーレではなくミッテルトに。

 

「そして、夢の一番最初の出来事が外れた。出会う相手が違った。その時の気持ちがわかるか、ヴァーリ。オレは信じてきたものにさえ裏切られた」

 

あの時は内心かなり乱れていた。日頃から感情を出すことをやってなかったから表面上は普通に見えただけだ。それでも涙が溢れるくらいには辛かった。

 

「だけど、その出会いがオレを救ってくれた。ミッテルトは周りに流されるように生きながらも、自分で決めた芯をしっかりと持っていた。それだけで彼女は輝いていた。そして理解した。周りから影響を受けたものではなく、自分自身でこれと決めた芯を持っているものは美しく尊いものだと。そんな彼女と共に生きていきたいと」

 

赤龍帝の鎧を展開して身構える。

 

「これはお前が見たの夢の一部か?」

 

「そうだよ。戦う理由は黙っといてやるし、殺しもしない。離反する理由は、そうだな、和平を結ぶと自分の力を試せる場がなくなる。だから外側に出るとな。そういう理由にしといてやる。組織名は名乗るな。それが見逃してやる条件だ。だが、それとは別に敗北は刻ませてもらおう。白と赤の差ではない、オレとヴァーリの差を!!」

 

「面白い。やれるものならやってみろ!!」

 

ヴァーリの構えを見て、以前と異なり空手を習ってきたのだろう。武術を習った以上、前回よりは強くなっているだろう。だが、問題ない。体の限界である4000倍まで全身をブースト、思考速度は4000倍から更に2倍、最後に新陳代謝を通常の0.00025倍にする。これによって消耗を最小限にすることが出来る。今のオレは倍加の力ではなく等倍の力と呼んでいるこの力は0.00001倍から13万倍までを自由に乗算することが出来る。身体の限界のために部分毎に上限と下限は存在するが、譲渡で結果に乗算することで望む結果を手繰り寄せることが出来る。

 

態とヴァーリと打ち合い、半減と吸収と放出を発動させ、半減と吸収を0.0001倍、放出を100倍になるように譲渡してやるだけでヴァーリが地面に倒れ伏す。

 

「な、なにを、した!?力が、抜けて」

 

「言ったはずだ。これがオレとヴァーリの差だ。オレとお前は鍛える物が異なる。その差がこの結果だ。敗北を噛み締めろ」

 

殺さない程度にラッシュを浴びせ、上空に打ち上げる。美猴と思われる男が慌ててヴァーリを回収する姿が見えた。これでなんとか生き残れるだろう。次までにヴァーリがどこまで鍛えてくるか。オレも更なる力を付けなければな。

 

 

 




あっ、リアスはライザーに普通に負けました。やったね。


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ハイスクールD×D おっさんは辛いよ

 

 

「姉貴、いつの間に結婚してたんだ?そんな腹を膨らませて?相手は誰だよ」

 

「詩樹?貴方こそ今までどうしてたのよ。家を飛び出してフリーで活動しているのは風の便りに聞いていたけど」

 

「オレはオレで色々とね。潰れかけの結社を幾つか統合してまとめあげたりする調整者としてあっちこっち飛び回ってたんだけど、ある程度落ち着いたから別の仕事を探して神社巡りしてるんだよ。なんか仕事はある?表でも裏でも身内料金でやるけど」

 

「私はともかく夫の方なら仕事があるでしょうね。仕事が多すぎてあまり帰ってこれないもの。あとは、この子が産まれたあとに、叔父としてちょっとだけ手ほどきしてくれればいいぐらいかしら」

 

「それぐらいならいいけどさ。夫って誰?」

 

「バラキエル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじちゃま~」

 

オレの姿を見て走り出して胸に飛び込んできた朱乃ちゃんをキャッチしてくるりと一周してから抱き上げる。

 

「朱乃ちゃん、おじさまじゃなくてお兄さんね。オレまだまだ若いんだから」

 

「でも、おかあちゃまはおじちゃまってよびなしゃいて」

 

「姉貴、止めてくれよ。おじさんって年じゃないのに」

 

理解できずに?を浮かべている朱乃ちゃんの頭を撫でて箒で落ち葉を掃いている姉貴の下に向かう。

 

「朱乃から見れば叔父さんでしょう?それにしても、暇なのね?」

 

「所詮は雇われの人間だからな。どうしてもバラキエルとは仕事の量が違う。オレに出来る分を全部かっぱらったんだがな。その分を回してきやがる脳筋共が多いんだよ。育児休暇でもとるか、離反してしまえと言いたいがな。金ならあるんだし、必要ならオレが貸してやっても良いんだから」

 

「おじちゃま、おじちゃま」

 

服を引っ張って自分をアピールする朱乃ちゃんの方を見る。

 

「ほら」

 

小さい掌の上で以前教えた式紙が動いていた。

 

「おおぅ、もう式紙を操れるようになったのか。朱乃ちゃんはすごいな~」

 

オレはそれを覚えるのに半年もかかったのに。嫉妬の炎が燃えあがりそうだぜ。

 

「えへへ」

 

くっ、そんな純粋で綺麗な笑顔を見せるんじゃありません。眩しくて目が潰れそうになるでしょうが。

 

「おじちゃま、もっとおちえて」

 

発音がおかしいから詠唱系は難しいよな。式紙も簡単な文字だけで使える簡易的な物だしな。ううん、今後のことを考えて念糸でいいか。

 

「よ~し、それじゃあ新しい遊びを教えてやろう。いつも言ってる頃だけど、見せて良いのはオレとお母さんとお父さんにだけだぞ」

 

「うん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鎮魂の姫島も落ちたものだな。怖い親父が居ない時間に婦女子に襲いかかろうなんて言うんだから。姉貴、無事か?」

 

間一髪だったが間に合ったな。

 

「ええ、なんとか」

 

「貴様もか詩樹!!この落ちこぼれが!!」

 

「はいはい、兄貴に比べれば鎮魂の才能はねえ落ちこぼれだよ。だが、鎮魂以外の才能はそこそこあったんでね。ご覧の通り、親父殿のチンケな術程度なら一動作の結界術でも十分防げるさ」

 

相性の悪い攻撃術なんて覚える暇があったら鎮魂術の精度を上げろよな。

 

「で、親父殿はなんのようで姉貴達を襲ってるんだ?」

 

「決まっておるだろう。姫島の名を汚す愚か者共をこの世から消し去るためだ!!汚れしものと交わった朱璃とその娘は絶対にこの世から消し去らねばならん!!」

 

「汚れしものね。オレから言わせれば俗世に染まりきった親父殿の方が汚れしものだ。博打の借金で御神体の香木を売っ払いやがって」

 

「何故それを!?」

 

「オレが買い取ったからだよ。ったく、こっちの足元を見やがって、買い取りの50倍の値を付けやがったんだぞ。兄貴が頭を下げたからタダで元に戻したけどな。代わりに姉貴のことはそっとしといてくれとも頼んどいたんだけどな。相変わらず兄貴は甘いよ。だけど、その甘さがオレは嫌いじゃない。親父殿達を止めてくれと涙ながらに頼まれた。だから、殺しはしない。惨めな目には会ってもらうがな!!」

 

話している間に準備は全て完了している。式紙で五芒星の陣を敷き、結界の中に封じ込める。そして、オレが編み出した秘術を使う。こんなことに使うような術ではないのだが、惨めな目に合わせるにはこれが一番なのだ。人形(ひとがた)に名を刻み込み霊的に繋ぐ。そして人形に呪符を貼り付け、引き剥がす。

 

「な、何をした」

 

結界を破ろうとしていた親父殿が膝をつきながら尋ねてくる。

 

「親父殿の霊的才能を全部剥がし取った。もう術を使うことは出来ないし、霊を見ることもない。ただの一般人の老いぼれだ。術式で弱った足腰を強化してたんだろう?もう、まともに動くことも出来まい。死ぬまで惨めに介護を受けながら生きていけ。金ぐらいは出してやるよ。おっと、自殺も出来ないように縛っておいてやるからな」

 

 

 

 

 

 

 

「バラキエル、お前の娘だろうが。止めろよ。姉貴は朱乃ちゃんの味方だからお前がなんとかしろよ」

 

スルメを噛みちぎりながら義兄に文句を言う。

 

「ふっ、妻と娘の一大事に駆けつけれずに何もできなかった私にはどうすることも出来ない。だが、朱乃に手を出したら殺す」

 

ウィスキーをかっ食らいながらテーブルに突っ伏す義兄に冷たい視線を送る。ドMだから微妙に今の状況を楽しんでやがるな。

 

「おい、アザゼル。こいつを現場から外してやれって何回も言っただろうが。なんで外様のオレが割を食ってんだよ」

 

役に立たない義兄を放って上司に文句を言ってやる。

 

「それは分かってるんだが人手不足なんだよ」

 

ええい、組織運用に関してのレクチャーもしてやっただろうが。

 

「だからあれほど事業を縮小させろって言ってるだろうが。手広くやりすぎで下の方を有効に扱えずに勝手に行動しているのとか居るんだろうが。で、そいつらのケツを拭くために仕事が増えて堂々巡りなんだろうが」

 

「そうは言ってもよぅ」

 

「朱乃ちゃん、正直言って鎮魂の姫島の才能が高いんだよ。オレの結界とか普通に破れるようになってきてる。まだ中1だぜ?それなのにこの道20年のオレに匹敵するとか勘弁してくれ。最近は術に頼らない方法で感知して夜這いを回避してるんだぞ」

 

「お前、中1に夜這いを仕掛けられるとか大丈夫かよ」

 

「見た目が姉貴にそっくりだから勃たねえよ。昔からひどい目に合わされてるからな。それに独り身のほうが身軽で楽だからな」

 

「それでもあっちこっちから見合い話は来てるんだろう?」

 

「全部年下の未成年ばっかだぞ。朱乃ちゃんと同い年の娘とかもいたしな。調べたら神器持ちで、その家、神器について知らないからって微妙に迫害してるんだよ。厄介払いを兼ねてオレとくっつけようとしてるんだぞ」

 

「あ~、貰っちまえば?」

 

「オレはロリコンじゃないんでな。姉貴の毒牙にかかって苦労しているバラキエルを見てると一生独身でいいわと思える。ドSとドMで組み合わさりやがって」

 

「だけどよ、身を固めちまうのも一つの手だと思うぜ」

 

「その程度で止まるような気質じゃねえよ。姉貴の娘だぞ」

 

こうと決めたら絶対に曲がらんぞ。姉貴の気質を受け継ぎすぎだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

中3になった朱乃ちゃんと境界の森羅から強引に押し付けられた椿姫ちゃんを引き連れて退魔の仕事に連れて行くようになったんだが、後衛3人ってバランス悪すぎだろ。守りきれなくなる前に伝手を使って前衛の退魔師を探してみたところ、猛士が見つかった。日本全国に散らばって活動している退魔師集団で古い歴史を持つ集団だ。まあ、近年ではその活動は縮小されているようだが、それでも119人の戦鬼、戦闘班が存在している。彼らは名の通り、自らを鍛え上げることで鬼のような姿となる。そんな彼らと業務提携、技術提携が出来れば互いに助かると思い、新しい組織の設立のために全国を飛び回ることにする。これで朱乃ちゃんから襲われる心配をしなくてすむな。

 

そう思って安心していたのが駄目だった。猛士を含め、以前から付き合いのある中小結社を再編し直した大結社を立ち上げて1年ぶりに戻ったその日、一服盛られた。気付いた時にはどうしようもなかった。両脇には裸の朱乃ちゃんと椿姫ちゃんが眠っていて性臭がする。未成年、しかも片方は姪に手を出してしまったとか、首を括るしかないだろう。

 

「そこは腹を括りなさいな」

 

「姉貴、どんだけ強力な薬を盛りやがったんだよ。記憶すら曖昧なんだが」

 

「ビデオに録画してるけど見る?」

 

「見たくねえ。と言うか、オレをどうしたいんだよ」

 

「朱乃と椿姫ちゃんの幸せのための贄?」

 

「実の弟を平気で贄にすると言い張れるとは、とことんドSだな」

 

「三十路過ぎてるのに身も固めずにフラフラしている弟を心配してあげてるんじゃない。責任、ちゃんと取ってあげなさいよ。とりあえず、籍は椿姫ちゃんと入れて朱乃は事実婚の重婚でいいわよ」

 

「余計なお世話だよ。ったく、匂いのキツイものばかりだと思ったら薬の匂いを消すためかよ」

 

「あと、精力の付く物もたっぷりとね」

 

「本気で首を括りたくなるから止めてくれ。未成年に手を出すとか最悪だ。年上よりは年下のほうが好きだけどさ」

 

「なら良いじゃないのよ」

 

「だからって未成年を相手にとか犯罪者、まさか!?」

 

「ようやく気づきましたか」

 

「ちょっと、自首してくるわ。5年ぐらい入ってそのまま身を隠す」

 

「腹を括って二人を幸せにしなさい」

 

「いやいや、そういうのは若い者同士でだな、こんなおっさんを捕まえる必要ないじゃん。もうアラフォーだぜ」

 

「一番油の乗ってる時期じゃないのよ。身体の方も引き締まって良い感じじゃない」

 

「そりゃあ、組織同士の調整中に戦鬼になれるように修行したからな。おかげでちょっと気になっていた姉貴みたいに摘めるお腹も引き締まるどころかきれいに割れた」

 

「詩樹、ちょっと裏に行きましょうか」

 

「まっ、下位は履かせて!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1つ質問いいですか?」

 

「何でしょう?」

 

「上級まで昇格するのに大体の目安のようなものはありますか?」

 

「能力にもよりますので、これと言った目安のようなものは。早ければ5年、遅いと100年は見る必要があります」

 

「……そうですか」

 

「何か気がかりが?」

 

「ええ。私の婚約者なんですけど、その人もこちらに引きずり込めないかと」

 

「私の駒はまだありますから、私が転生させても構いませんが、どんな方なのです?」

 

「一言で表すなら退魔のデパートと言ったところですか。退魔師の家系なのですが、自分の家系の退魔の才能がないからと、早々に見切りをつけられて片っ端から退魔術を習得されたのですが、どの流派も2流止まりです」

 

「それは、何と言うか」

 

「微妙と感じますよね。ですが、知識では他の者を圧倒し、流派を混ぜ合わせて使用することで才能に因われない強さを身に着けています。ですが、それ以上に重要なのが組織運用と人と人を繋げる調整力ですね」

 

「何か実績が?」

 

「日本最大の退魔結社『縁』設立の立役者です」

 

「近年統廃合によって設立された結社でしたね。なるほど、確かな実績ですね。ですが、人と人を繋げる調整力とは?」

 

「縁の設立にあたり、23の結社が1つになるのです。それはもう大変な苦労があるのは想像しなくてもわかりますよね」

 

「そうですね。仲の悪い結社だって存在していてもおかしくありません」

 

「ですが、縁の設立時に闘争や買収は一切発生せず、会食と酒宴だけでなんとかしているのです。仲の悪い結社同士でも、思うところはあるけれど手を結んでやってもいいよ位にしてしまうおかげで、裏ではツンデレ製造機なんて呼ばれてますが」

 

「それは、また、すごいと言うか、濃いと言うか」

 

「貴女の夢が新しい学校作りなら、絶対に抑えておいたほうが良い人材です。新しいことを成そうとすると既得権益を守ろうと潰しにかかってくる相手は多いでしょう。詩樹さんならそれをなんとかしてくれるはずですから。それに若いのばかりで固めずにアドバイスをくれる人生経験豊富な大人が一人ぐらい傍にいると安定しますよ、色々と」

 

「なるほど。ですが、どうやって誘うつもりですか」

 

「任せて下さい。とっておきの味方がこちらには居ますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また姉貴に盛られた上にソーナちゃんにまで手を出しちゃった」

 

起きれば両脇には裸の椿姫ちゃんとソーナちゃん、その奥に朱乃ちゃんが眠っていて性臭がする。ソーナちゃんとは半年前に椿姫ちゃんが転生悪魔になる時に知り合い、それから度々相談を受けたり、愚痴を聞いたり、椿姫ちゃん達と一緒に買物に付き合って上げる程度の仲だったはずなのに、どうしてこんなことを。

 

しかも、今回は微妙に薬に抵抗ができていたのか記憶は残ってるんだよな。ソーナちゃん、ものすごいテンパってたけど、嫌々って雰囲気じゃなかったよな。と言うか、一番貪欲だった。6、いや7回か?って、それよりソーナちゃん、セラフォルーの妹だったよな。やっべぇ、殺される可能性大、いや、幽閉されて飼われる可能性の方が高い!!」

 

「へぇ~、お姉さまにも手を出していたんですか」

 

「ちぃ、姉妹揃って回復まで早いか。最初に言っておくが手を出したんじゃなくて、今回みたいにオレが薬を盛られて犯されたんだよ」

 

オレを放置して帰ったアザゼルは翌日戦鬼の姿で殴り飛ばしておいた。音撃打をかまさないだけありがたく思え。

 

「こんなおっさんを捕まえてどうする気だよ。才能なんて精々2級のロートルだぜ」

 

「はぐらかそうとしても無駄です。才能がないことは百も承知です。詩樹さんの魅力はそこではありませんから。安心して全てを預けられる安心感を与えてくれるんです。なんだかんだ言っても、支えてくれる逞しさもありますし。軽く見せているだけなのでしょう?女はそういうのに敏感なんです」

 

「なんで、皆そういう風に誤解するのかな。オレは誰かを縛りたくも誰かに縛られたくもないから軽いの。独身なのもそういう意味」

 

「嘘ですね。どう見ても首にリードが着けられてるようにしか見えませんね。姫島さんや椿姫が危ない目にあったら、なんだかんだ理由をつけて助けに入りそうですし」

 

「……さ、さあな」

 

「間が空いた上にどもるとか、分かりやすい反応ありがとうございます」

 

「おう。普通に演技だからな。これぐらいの腹芸ができんと結社をまとめるなんて出来ないからな。今からでも勉強しといたほうが良いぞ。見抜く方もだが、見抜いた上で空気を読むこともな」

 

「そんな風に手を貸してくれているじゃないですか」

 

「おっさんは若い子が頑張る所を見るのが大好きな人種なんだよ」

 

「そういう人、周りに居ないんです。誰に頼って良いのかも、誰に相談すれば良いのかも、何も分からないんです。不安でいっぱいで、でも、付いてきてくれると言った眷属の子たちには問題ないように見せて、一杯一杯なんです。誰かに支えてほしいんです」

 

「……さっきも言ったが、オレは誰かを縛りたくも誰かに縛られたくもない。だから眷属にはならん」

 

「……そうですよね」

 

「だがな、生きていくには金がいるんでな。仕事は募集中だ。新しい組織を作ったり調整したりは得意中の得意だ」

 

「詩樹さん」

 

「何をどうしたいのか、何処まで出来ているのか、何処まで許容できるのか、ある程度資料をまとめてろ。見積もりを立てて、色々調整して、仕事としてなら手伝ってもやるし支えてもやるよ。妥協点はそこだ」

 

「ありがとうございます、詩樹さん!!」

 

「仕事だからな。それはともかくとして離れなさい。人の腕で慰めるのはよしなさい」

 

「少しでも先払いをしておこうかと」

 

「薬を盛られて前後不覚にならないと未成年を相手なんかしないよ」

 

「なるほど。椿姫、姫島さん」

 

椿姫ちゃんに背後から拘束されて、朱乃ちゃんが何やら薬類を取り出す。

 

「は、ははは、おっちゃん、年だから、なっ、止めとこうぜ。明らかに普段とは別で賢者タイムに入ってるから。や、やめ、やめろおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「詩樹さん、新しい企画書です」

 

「そこの企画書入れに入れといて」

 

「詩樹さん、魔王府営のカジノの収益表です」

 

「見せて。何処かでちょろまかしてるバカが居る。査察団を送り込め。徹底的に調べ上げろ。ルシファー様の直筆の令状があるから騒いだ奴はしょっ引け」

 

「詩樹さん、例の地図が出来上がりました」

 

「そこの壁にかけて。ピンはオレの手元に」

 

「詩樹さん、聞き取り調査が終わりました」

 

「グラフにまとめて誰でもが分かりやすいようにまとめて提出」

 

「詩樹さん、視察の件ですが3日後なら大丈夫だそうです」

 

「予定を入れといて。その日に簡単な書類が集中するように調整」

 

「詩樹さん、研究室から追加予算の要望が」

 

「現時点での成果物を見せるように指示。何もないようなら全員クビだ。失敗作でもいいから見せろ」

 

「詩樹さん、ソーナ様が新しい眷属に紹介をしたいから本屋敷の方に来れないかと」

 

「もう世間じゃ学生は夏休みだっけ?2日後に戻ると伝えといて、今忙しいから。3日後の視察は直接現地に向かうから」

 

「詩樹さん、有給届けが」

 

「同じぐらいの能力の生贄も提出しろと返せ。新人が入ってある程度使えるようになる10月頭まではそうすると通達しろ」

 

「「「横暴です!!」」」

 

「じゃかましい!!オレなんてこの半年休み無しだ!!睡眠時間も削りに削ってるんだぞ。と言うより、よく政権が保ってるよ。地球だったら革命起こってるぞ!!」

 

イライラしながら書類を捌いていく。地盤が安定してないにも程が有るぞ、魔王政権。災害に慣れてる感じもしないし、しぶとさもなさそうだ。どれだけ自分達の政権が危ないのか理解してないだろ、これ。

 

中途半端な政策を取りやがって、半分ぐらいが言うことを聞かない奴らとかどうよ。危険分子も多いし、証拠が簡単に集まってるんだが。敵も味方も足元がお留守過ぎるぞ。

 

ソーナちゃんの依頼を簡単に引き受けるべきじゃなかったな。上の足元がぐらつきすぎて安心して作れないとか。こりゃあ十数年掛かりの大仕事だぞ。とにかく立て直しを最優先。古い慣習とか老害に感情論なんかも全部切り捨て。徹底的に地盤工事からやらないと。魔王達が仕事に復帰したらこの案件を全部飲ませないと悪魔だけ倒れる。

 

堕天使も結構ぐらついてたけど、此処まで酷くはなかったぞ。ガチでやばい。なんで呑気でいられるかな。

 

「詩樹さん」

「詩樹さん」

「詩樹さん」

 

「はいはい、全部聞くから順番に報告!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、君らがソーナちゃんの新しい眷属?オレは姫島詩樹。魔法結社とか、グリゴリとか、魔王府のスーパーアドバイザーなんかをやってる2流の退魔師だ。顔を合わせる機会は少ないだろうが、よろしく頼むよ」

 

「……あの、顔色が、少し危ないような」

 

ソーナちゃんが心配してくれるが、職場の奴らは全員そんな感じだ。

 

「この半日の時間を絞り出すのに3ヶ月かかってる。あまり大きな声じゃ言えないが、オレが関わってないと数年のうちに無政府状態か群雄割拠に陥ってもおかしくない状態だ。それなのに、魔王様方全員がバカンス休暇だよ。おかげでしわ寄せが全部こっちに来てる。ちょっと失礼。どうした、ああ、その件は明日の視察後だ。準備だけはしておけ。他は、よし、余った分で一番きつい栄養剤を買い込んどけ。おう、お疲れ」

 

「えっと、大変なようでしたらすぐに部屋を用意しますけど」

 

「後でいいよ。ただの顔合わせじゃなくて手合わせもするんでしょ。それ位の体力は残してる。というわけで新顔諸君。まとめて相手をしよう」

 

音角を取り出し、指で打ち鳴らして額の前に掲げる。全身に力がめぐり、全身が燃え上がる。それに新顔が驚く中、炎を振り払って姿を晒す。

 

紫我楽鬼(しがらき)

 

オレの戦鬼としての姿を見て新顔連中が恐怖に顔を歪める。

 

「こんな姿ですが、詩樹さんは普通の人です。人間は特別な修行で鍛え上げればこの戦鬼の姿になれます」

 

「ちなみに登録されてる戦鬼は全部で126人だ。退魔の力は群を抜くが、少し特徴的でな。魔に直接清めの音を叩き込んで祓う。種類は打・管・弦に分かれる。オレは打と弦を修めている。今日は音撃棒しか持ってきてないがな」

 

腰から音撃棒を取り出し、微妙に草臥れているのを確認してしまった。この前の河童の魔化魍の所為だな。無駄に繁殖しやがって。また屋久島まで行かないといけないのか。

 

「ほら、先手は譲ってやるからこいよ」

 

挑発して一番最初に殴りかかってきた金髪の男に鬼火を真正面からノーモーションで浴びせて火だるまにする。

 

「わはははは、バカめ、よくわからない相手に真正面から挑むからそうなる」

 

「相当に参っているようですね。椿姫、アレを」

 

「深夜テンションで少しおかしくなっていますね。火力の調整ができていませんから。準備できてます」

 

後ろでソーナちゃんと椿姫ちゃんがなにか言ってるけど気にしない。そう思っていたのだが、背中に何が刺さる感覚が。振り返ると椿姫ちゃんが吹き矢を構えていた。また薬かよ。意識が暗転していく。

 



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ハイスクールD×D 革新のリアン 1

ハイスクールD×Dを読んでいて、というかラノベ全般を読んでいて思うのが、もっと上層部が真面目に働いていたらもっとスマートに問題が片付いているんじゃないの?ですね。

ハイスクールD×Dでは四大魔王様、政治センスがなさすぎな気がして。普通、旧魔王派に監視位付けますよね?不満を持ってるのは分かってるんですから。なあなあで済ませた結果が禍の団行きですし、その後の対応もしてたのかな?資産の凍結とか、領地の没収とか。

あと、眷属だけが戦力って絶対に無駄ですよね。ある程度は魔術を使えた方が良いに決まっているのに。戦いは数だと昔から言いますから。

そんな不満な点を色々付いていきたいです。


 

 

 

転生って信じるか?オレは信じるしかない。記憶を持ったまま生まれ変わっちまったからな。まあ、それは良いんだが、悪魔に転生ってどういうことよ?

 

グレモリー家の次男として産まれたオレなのだが、オレが次期当主らしい。赤ん坊のオレだが、周りが話していることを理解できるからな。何でもオレの兄は魔王らしい。その影響で家を継げないらしい。しかも大分年が離れているようだ。継承者争いなんてせずにすんでよかったよ。そんなことになったら一目散に逃げ出すぜ。

 

前世からして軍師・呪術師タイプのオレに戦闘なんて不可能だ。しかも、汚れ仕事専門の傭兵旅団所属のだ。真っ向勝負なんてやってられるか。まあ、生まれが卑しいからって理由だけで汚れ仕事専門に結成された騎士団だったんだけどな。上が喧嘩を売りすぎたせいで国が崩壊。巻き込まれるのを避けて傭兵になっちまっただけなんだがな。

 

今回は貴族の次期当主だから色々楽だわ。汚れ仕事に慣れたとは言え、騎士としての誇りを捨てたわけではなかったから辛いのなんのって。だから今回は楽でいいわ。

 

成長するに伴い行動範囲が伸び、追加の情報を得られた。ここは冥界で、他に人間界に天界があり、次元の狭間も存在し、種族は悪魔、天使、堕天使、妖怪、吸血鬼、ドラゴン、etcetc。大分入り乱れている上に種族ごとにも派閥があってかなり複雑なことになっている。一応相関図的な物を作ってみたけど、文字の大きさを2歳のオレの大きさに合わせて書いているのにA1サイズ2枚分に広がっている。これが子供のオレで集められる範囲でこれだとすると大分酷いことになっている。

 

前世の文字で書いてるから落書きにしか見えないだろうけど、相関図を見ながら頭を抱えているオレを使用人が生暖かい目で見守っているので復帰する。

 

とりあえず悪魔関係だけで纏めて考察を、纏め、いや待ってよ、嘘だろう。おいおいおいおい、待て待て待て待て。旧魔王派?力づくで現政権が成立?こんな特大の地雷が埋まってるのかよ!?仕事してるの兄上様!?

 

簡単な歴史書を見る限り、今の四大魔王様方の治世は結構経ってる。おい、なんでこんな不穏分子に対して対策を一切してないんだよ!!オレが旧魔王派の当事者だったら既に現政権を転覆させれたぞ!!全然楽に暮らせるようなものじゃないぞ!!お願いだからオレがある程度成長するまでは暴発してくれるなよ。

 

えっ、どうかしたのマリータ(側付きのメイド)?兄上様の同僚のオレと同い年の妹さんが遊びに来る?今それどころじゃないんだけど、付き合い上は必須か。ちょっと折りたたむのを手伝って。本はそのままでいいから。抱きまくら兼ベッドみたいになってるぬいぐるみはどうするかだって?それもそのままに決まってるだろうが。それを片付けたら殺風景な部屋になるだろうが。あとはトランプとお菓子とジュースを用意しておいて。遊ばせて満腹にでもさせればすぐに沈むだろう。考えがゲスい?それが大人のやり方というものだ。あっ、オレ子供だった。何処でそんな知識を手に入れたって?父上の書斎の一番左の棚の辞書の左から三番目の本から。中身が辞書じゃなくて小説で、うん?どうかしたの、マリータ。母上に報告に行ってくるって?別に普通じゃないのか?兄上の部屋にも似たようなものがあったが。

 

 

 

 

 

兄上様の同僚のセラフォルー・レヴィアタン様の妹であるソーナ・シトリーとは予定通り手品とお菓子で満足させてぬいぐるみの海に沈めたことで仲良くはなった。なんだかんだでよく遊びに来るので手品のネタを準備するのに苦労している。このままではまずいと思い、他の者を用意しようとするのだが、冥界にはあまり娯楽と呼べるものが少ない。仕方ないので前世のボードゲームを自作して用意する。

 

何?似たようなものが人間界にある?というか豊富にある?よし、買いに行こう。まとめて買って手品の練習をせずに済むように。父上達に頼み、マリータに連れられて人間界に来た。う〜む、オレの前世はこの世界で言うところのWW2位の科学技術と魔術技術が色々と混ざっていたから、一概にどうとは言えないが結構発展してるんだな。そんなことを思いながらマリータに連れられて黄色い潜水艦の看板の店に入る。ガラスのショーケースにはトレーディングカードのシングル販売が行われているようだ。そちらには用がないのでお目当てのカード・ボードゲームコーナーに向かう。

 

小箱は直感で、大箱はじっくりと吟味する。中箱が一番判断に困るんだよな。悩んでいた所に店員さんから声をかけられる。

 

「僕、こういうゲームに興味がある?」

 

「うん、好きではあるよ」

 

「今、試遊会をやってるんだけど参加してみない?色んな人が集まって遊んでいるんだけど、どう?」

 

興味はあるんだが、大丈夫か?

 

「あ〜、マリータ?」

 

「旦那様と奥様が心配なさるかもしれませんが、1時間程度なら」

 

このやり取りに何かを感じ取ったのか、店員さんが少し離れてマリータと話す。マリータが上手く説明してくれたのか、店員さんに誘導されて試遊会が行われているフリースペースに向かう。試遊会を取り仕切っているオジさんに挨拶をして気になっていた中箱のゲームをやってみたいと言えば、参加者の一人が貸してくれたので何人かでプレイする。サイコロを振って出目によって自分の持っている物件からの上がりを手に入れて特定の物件を4つで購入することで勝者になれる。うむ、買いだな。

 

他にオススメのゲームを聞いてみればトランプのように複数のゲームが楽しめるカードを紹介された。とりあえず一番簡単なルールでプレイする。全員がカードを1枚持ち、合図と同時に表向ける。カードには複数のマークが描かれており、他の参加者のカードに自分の持っているカードと同じマークが一つだけ存在している。それを見つけて上に重ねるように押し付けるゲームだ。人数が多いほうが楽しめるな。これも買い。

 

さらにゲーム的には完成度が高いけど、何故そんな所に力を入れたのがよくわからない通称バナナ建築。建築会社の社長としてどんどん建物を立てるのだが、建設の際に手札を消費する。その手札は建築物の設計図と、コスト用のバナナカードの2種類である。そしてバナナカードに書かれているバナナは写真なのだが、全てが絵違いという何故そんな所に力を入れたのか分からないゲームだった。ゲームとしての完成度も高いので買い。

 

それからちょっと変わったカルタ。読み札も取り札も漫画の一コマのような絵がかかれており、吹き出しは空欄となっている。読み手がその一コマに適している言葉を読み上げて取るというカルタなのだ。持っていて損はないな。

 

時間が押しているために礼を告げると月に何回かやっているから時間のある時に遊びに来るといいと言われてチラシを貰った。皆、気の良い人達ばかりだった。再来週の集まりではオレと年の近い子も来るそうだ。ふむ、ソーナを誘ってみるか。

 

 

 

 

 

 

 

ボードゲームの試遊会に参加するようになって3年、そろそろ魔術に関しての勉強をするということで座学かなと思ったら、いきなり実践からだった。えっ、母上、どういうこと?魔力は感じられるけど、手に集めて、体内から押し出すようにって。いや、それぐらいは普通にできるけど、なんでそんなに褒めるの?えっ、あとは魔力を自在に扱えるようになりなさいって、それだけ?

 

「マリータ!!冥界の本屋に行くぞ!!」

 

「どのような本をお求めでしょうか?」

 

「種類の多い、専門書なんかも手に入るデカイ本屋だ」

 

「かしこまりました」

 

マリータと共に1週間ほど冥界一の本屋を捜索したが、魔術書などが見つからなかった。垂れ流しの魔力を強引に属性変換なんかをして操作するだけ。悪魔には馬鹿しかいないのか!?やばい、市井の教育状況とかめちゃくちゃ気になってきた。教科書類を見てみれば人間界の物と変わらない。文字が冥界語なだけでな。

 

駄目だ。酷すぎる。下克上をするしかない。衰退する一方じゃないかよ。純粋悪魔とその配下だけが戦力とか。しかも魔術の研究が盛んに行われているわけでもなく、血による特殊魔術がメインとか。こんなんじゃあもう一度大戦が起これば滅ぼされる。頭の固い老害どもは全部排除しないと。

 

とりあえず魔術書は自作しよう。前世の分をこっちに合うように変換して初級以下の魔術書も、それこそ入門編の魔術書から作らないと。

 

「ああ、もう、オレがなんでこんなことを」

 

実験を繰り返して適応化を施して効率を図った上で簡易性も上げる。連日連夜の実験と調整にマリータも突き合わせて心身共にボロボロになりながら入門編を書き終えて初級編の作成に取り掛かる。マリータは限界で倒れているが、オレは莫大な魔力を惜しげもなくつぎ込んで肉体を強化して疲労を誤魔化している。正直言って子供の身体にかなりの負担をかけてしまっているが、このツケはできるだけ早めに払っておこなければ危険だ。

 

 

 

 

 

 

歳の離れた弟のリアンがおかしな行動を取っていると両親に相談されて、久しぶりにリアンの部屋に入れば、床に側付きのメイドであるマリータが倒れており、リアンも机に突っ伏している。慌てて二人を部屋から担ぎ出させ、医師に診察させた所、過労だと診断された。二人共全く起きる気配がないので改めて部屋を確認する。

 

慌てていたためにちゃんと部屋を見ていなかったのだが、部屋中紙だらけで見たこともない魔法陣が描かれている物や、魔術の手引書と思われるものもある。共通しているのは魔術関連であるということだ。

 

「グレイフィア、どう思う?」

 

「豹変したのが魔術の使い方を教えてからですし、魔術に魅入られたのでしょうか?」

 

「それにしては、明らかに入門のような、いや、なんだこれは?」

 

「どうかしましたか?」

 

「全く新しい概念の魔術理論が書かれている。しかも既存の物より効率が良い。まるで何百年と改良が続けられたような整然さが見られる。そんなことはありえない。これがあれば、市井の底上げになる!!直接的な戦闘は無理だろうけど、補助には使える。いや、そんなことはどうでもいい。リアンがコレを書き上げたのか?」

 

昔から利発的な弟だとは思っていたが、今は恐ろしさすら感じる。たった50枚ほどの紙でこれだ。他にも何かがある可能性が高い。

 

「グレイフィア、口の固い者だけを集めて部屋をひっくり返す!!何が隠れているかわからないぞ!!」

 

急ぎ口の固い者をかき集めて部屋の捜索を始める。見つかったのは何度も実証を繰り返したのか、まとめられた資料に記載されているものよりも複雑な術式に関する資料が多く発見された。丸められた紙には、簡易化していく過程での失敗作が書かれている。これらは全て複写して時系列順に纏める。

 

そんな資料の中から一際変わった物が見つかった。

 

一定の規則性を持った子供の落書き。そう見えるが矢印から何かの相関図と見て取れるA1が2枚分の紙が見つかった。

 

「何だと思う?忌憚無く意見を出して欲しい」

 

「何らかの相関図でしょうか?紙自体の劣化から2、3年前の物かと。ですが、所々にインクが新しい部分もあります」

 

「おそらくですが、この部分は数字だと思われます。同じような物が多く見られますから。日本語の漢数字に近い気がします」

 

他にも色々な意見が出たが、これが何なのかまでは分からなかった。ただ、僕の直感がこれを危険なものだと警鐘を鳴らし続けている。念のためにこちらも複写させておく。これ以上は何も出てこないだろう。

 

結局その日はリアンもマリータも起きてこなかったために話は聞けなかったが、アジュカに資料を精査してもらう必要性があったので良かったとも言える。アジュカには既に連絡を入れてあったので深夜だが複写した資料を持ち込んで精査を依頼した。部屋を借りて仮眠を取り、翌日、徹夜で資料を確認したアジュカに途中経過を聞いた。

 

「はっきり言おう。簡易化前の初期段階の術式の完成度は異常の一言だ。こっちの入門の手引と思われる資料と読み比べ、そして正しく理解できるのなら誰もが魔術を扱えたのだろうな」

 

「扱えた?」

 

「順を追って説明しよう。まずは時系列順に並べられた資料だが、順番が間違っていた。まずは複雑化し、簡易化され、また複雑化し最終的に手引書の物となる」

 

「何故そんなことになるんだい?簡易化を求めていたはずだ。それが複雑化するのはおかしいんじゃないかい?」

 

「そうだな。普通ならそうだ、だから分からなくなる。前半部の術式では一切魔術は使えないことがな」

 

「どういうことだい?」

 

「前半部は、おそらくだが起点になった術式が効率化し過ぎで拡張性がなくなっていたのだろう。そこに付け足して複雑化することで拡張し、それを簡易化と共に効力なども下げていったのだろう」

 

「それはまだ分かる。だが、何故もう一度複雑化するのかが分からない」

 

「言ったはずだ。前半部の術式では何も起こらない。だが、この2度目の複雑化後からの術式は発動する。この違いが何か分かるか?」

 

「前半部が不良品、な訳がないか」

 

「最初はそう思ったのだがな初級編の方を読んで理解出来た。簡単なことだ。前半部の術式は悪魔が使う魔力とは全く別の魔力で作動するんだよ。初級編の方には大気中に存在する魔力をマナと名付けてるがな。入門には悪魔の魔力で作動する術式、初級からはマナで作動する術式、おそらく中級以降は合一させる術式だろうな。いや、どちらかと言えば触媒を利用する形か。結論を言おう、こいつを作ったのは天才なんかじゃない。一流ではあろうが、知っていたことを応用させただけだ。つまり、何故こんな完成度の高いにも関わらず魔王でも知らないような術式を知っているか、それが問題だ」

 

「……そうか」

 

「相関図の方もおおよその予想はついたぞ」

 

「そちらは何だったんだい?」

 

「種族に関する相関図。大きな括りではあるが、間違いではないだろう。一般的に公開されている知識から言えばかなり丁寧に調べられているのだろうな」

 

「そうか、もっとものすごいことが書かれているのかと思っていたんだけど、僕の勘も当てにならないね」

 

「……なるほどな。サーゼクスはそう思えたか。あの術式を書いた者がこれを書いたのだろう?何を思ったのか、興味が無いといえるのか?」

 

「それ、は、どういう?」

 

「この相関図のこの部分、一番記述が多い部分、これが悪魔を示す部分だが、よく見ると似たような部分があるだろう?」

 

「まさか、旧魔王派!?」

 

「だろうな。新しく記入されているのは此処が一番多い。どういう手段かは分からないが集中的に調べている。危機感を持っているとも言える。何を考えたか大体の意図は読み取れた。サーゼクスより政治センスがあるぞ。確かリアンと言ったか?」

 

「さすがに誰が書いたのか分かるか。そうだけど、リアンが何を見たのか分かるのかい?」

 

「少し考えれば分かるだろう?リアンは旧魔王派を排除された後のことを考えているのだろうな。現時点でも残っている旧家の2割強が旧魔王派だ。これら全てを排除して、それからの悪魔勢力の立て直し。そのための促成栽培用の術式。最悪、下克上まで考えてるんだろうな。そん時は下手な芝居でもして魔王の座を明け渡すさ。上手くやるだろうよ。やる気の無い奴らがやるより、能力が無い奴らがやるよりな」

 

現魔王(やる気の無い奴ら)旧魔王派(能力が無い奴ら)がやるよりもか。子供にすら心配されている、いや、頼りにならないと思われているか。情けなくて首を吊りたくなるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「移動フェイズ、3、5、5、6、カウンターが一個進んで平地、森、森、森でリソースを3回復させて挑戦。戦闘で2成功が条件。共闘はする?」

 

「しますよ。よっと、3、3、3、4の1成功っと」

 

「よっ、1、4、6でクリティカル分が3の2成功。よって達成っと。経験値が1入って、お宝は寝込みを襲うっと、1点ダメージっと」

 

「順調ですね。私の番ですね。移動フェイズ6、6、6!?」

 

「ちょっ、バカ!!なんて目を出してやがる」

 

「仕方ないでしょう!!カウンターが3つ進んでアクションが2回。1回目、街が燃える。2回目、出目が最も低いキャラのリソースが0」

 

「マリータ、意地でもデカイ目を出せ。ソーナ、1を出せよ。ほっ、って2!?」

 

「リアン様がそんな調子でどうするんですか。4ですね」

 

「すみません、また6です」

 

「と言うわけで、オレの回復したばかりのリソースが全部失われるっと」

 

その後もゲームは続き、ソーナが使っていたグラディエーターが骨付き肉で体力が全快だったのにいきなり丸呑みで死んで、見事ドラゴンに全滅させられてしまった。

 

「あ〜、今日は駄目だな。まあ、こんな日もあるか」

 

「ゲーム自体の完成度も高くて面白いのですが、リアルすぎてドラゴンに勝てませんね」

 

「試遊会のメンバーでもドラゴンを狩ったことがある奴が一人もいないものな。まあ、追い詰めるまでは結構行くんだけどな」

 

遊んでいたボードゲームを片付けながら感想を言い合う。

 

「それにしてもこのメタルフィギュアを見てると悪魔の駒が安物に見えるな」

 

「それはそうですけど、量産品と、いえ、悪魔の駒も量産品でしたね」

 

「そういうこと」

 

消灯部を卒業して貰った悪魔のコマが入ったケースを指先で回転させながら遊ぶ。既に3個使ってしまったのでバランスが悪いために落としてしまう。

 

「はぁ、貴重な物で遊ばない」

 

ソーナに溜息を付かれて拾われる。

 

「ぶっちゃけると、オレはこいつが気に食わない。気に食わないが利用できるから使っているのが現状だ」

 

「リアン?」

 

最初は面倒くさい相手だと思っていた。恥ずかしがっている幼女の相手はおっさんには難しかったからな。だけど、今は信頼できる同族の友人だと思っている。共に上が魔王で苦労している点なんかもな。

 

「ソーナのことは信用も信頼もしている。だからこそ、オレの7年の成果を見せよう」

 

マリータに持ってこさせたのは昔からある相関図の最新バージョンと旧魔王派、現魔王府の動き、そこから導き出される未来予想図。状況は7年前より悪化している。暫くの間、ソーナが資料に目を通すだけの静かな時間が流れる。だが、その空気はどんどん硬くなる。

 

「……これは、リアンが?」

 

「そう。小遣いから色々人間界の方で増やして独自のコネなんかも作って新鮮さはともかく精度はお墨付きだ。はっきり言おう、今の四大魔王様にも旧魔王派にも任せておけば衰退する一方だ。だから、オレは王を目指す。その過程で犠牲を生んででも、9のために1を犠牲にしてでも。その1に兄上達が含まれたとしても」

 

「なっ、本気で言っているのですか!?」

 

「本気だよ。自分の種族が、衰退し滅んでいく姿なんてオレは見たくない」

 

「だからと言って、家族までも犠牲にするというのですか!!それでは誰も着いて来ません!!」

 

「着いてくる必要はない。犠牲となったものを足場として、その他全てをオレが引き上げる!!」

 

「そんな独りよがりで振り回される者の気持ちを理解しないでどうするんですか!!」

 

「そんなことを気にしている余裕が無い位に追い詰められてるんだよ!!その事に気づいている者すらどれだけいるかも分からないんだぞ!!」

 

「それでも対話を忘れて力で推し進めようとするのは間違っています!!」

 

「コレ以上遅れれば、それこそ取り返しがつかなくなる!!間に合ったとしても、そのために3の犠牲が出るのなら意味なんてない!!」

 

「リアンの言う1の犠牲すらも救う手立てはあるはずです!!」

 

「ない!!ソーナは心を、善性を信じすぎている!!下の者にそれを求めるのは良い。だがな、上の者はそんなものを捨て去らなければ何も出来なくなる!!今の魔王様それが出来ない!!だからこんなことになっている!!」

 

ソーナにみせた資料を叩く。そこには旧家の3割弱が旧魔王派として脱税や人体実験などの違法行為を行いながら外部と手を組んで戦力を増強している証拠だ。この件は既に兄上に報告したが、その後、動いた様子はない。

 

「家の数だけで言えば3割弱だがな、領地の人口で見れば3割強。それだけの下級が巻き込まれる可能性があるんだぞ!!」

 

「犠牲を前提にするなんて絶対に間違っています!!」

 

「ゲームじゃないんだ、犠牲を前提になんてしたくないに決まってるだろうが!!だけどよ、駄目なんだよ。何もかもが足りない!!環境も時間も人材も力さえも足りない!!考えたんだよ、出来る限り、考えつく限り、賭けになるようなことまで!!でもな、もう被害は出ているんだ!!」

 

考えに考えた。前世のように汚い仕事をしたりすることも考えた。だけど、それでも

 

「分かるか、ソーナ、このオレの絶望が!!どうすることも、出来ないんだよ。今も、苦しんで、犠牲になっている奴らが、この瞬間にもいるんだ。腐っている奴らはいくらでもいて、今のオレの力じゃ何も出来ない。兄上から一定期間の間だけ、それも局所的な権限を与えられて、ようやく二人だけを、救うなんて言えない程度に悪化させずに済んだだけなんだよ」

 

悪魔の都合で人生を滅茶苦茶にされた猫趙の姉妹。姉の方は杜撰な捜査の所為で一時とは言えはぐれ認定され、妹の方は転生悪魔ですらないと言うのに周囲から姉の罪を被せられて私刑にされそうになって。

 

オレが兄上に妹の方を任された時点で、既に深い心の傷を負ってしまったのが見て取れた。兄上は妹の方を眷属にして守ってやれと言いたかったのだろう。その上から目線で守ってやるというのが耐えられずに捜査権を強引にもぎ取り、姉の主であった悪魔の屋敷を徹底的に捜査すれば簡単に犯罪の証拠が転がり出てくる。その中には拉致してきた人間を拷問して遊ぶための地下牢などもあり、まだ生きている少年がいた。生きているだけで心が死んでいた少年をオレは首を絞めて安らかに眠らせた。

 

その後も屋敷の使用人が自分たちの犯罪行為を曝露されるぐらいならと襲い掛かってきたのをマリータと共に殲滅し、罪を更に上乗せして、姉の方のはぐれ認定も解除させて、賠償金もふんだくって、それを姉妹に渡した。コレだけの額があれば一生を遊んで暮らせる。そう思っていた。

 

だが現実は厳しいものだった。一度疑いをかけられた以上、姉妹は敵視されていた。それこそ、オレが姉妹の戸籍なんかを改竄するために目を離していた隙に襲われていた。その襲撃者は杜撰な捜査をしていたために解雇された者が中心となっていた。駆けつけた時には既に遅く、妹の方が息を引き取ったばかりだった。

 

こんなことは言うべきではないはずなのに。後を追わせてやっても良かった。怒りと呪いを撒き散らせてやっても良かった。なのに、オレはそれを選べなかった。姉妹が過去の自分達に重なって見えてしまったから。だから渡してしまった、悪魔の駒を。悪魔へと転生する妹を見て、自分勝手さに胃の中の物を全て戻し、胃液だけになっても戻し続けた。転生したばかりで体調が優れないはずの妹にまで心配されるぐらいに。

 

「力が欲しいんだよ、多くを動かせるだけの権力と暴力が」

 

「リアン」

 

「ソーナ、お前の言っていることは正しいさ。正しいけど、それが絶対に達せれるわけでもない。オレのは夢も希望もないかもしれない。だが、現実的な物だ。どちらが正しいかなんて陳腐なものはない」

 

サイコロを回転させるように投げる。

 

「全てはサイコロと一緒だ。結果が全てだ。過程も大事だと言う奴が居るが、それは間違いだ。その過程もその時点での結果でしかない。過程によって結果が出ているのだし、結果があるから過程がある。何処までを見るかでそれが過程なのか結果なのかが違うだけだ。ソーナ、お前はお前の信じた道を進めばいい。オレはオレの信じた道を進む。アレだけ熱く語ったが、オレと同じ道を歩んでくれなんて言うつもりはない。ただ、オレが進む道はこんな道だって知っていて欲しかっただけだ」

 

サイコロの回転が止まる。出目は4。そのまましばらく無言が続き、しばらくしてソーナがサイコロを拾い上げて回転させるように投げる。

 

「私にはリアンが何を思い、何を決断したのかを全て理解することは出来ません。私達の意見は永久に平行線だと思います。お互いにぶつかりあうこともありましょう。ですが、向かう方向だけは同じだと信じています。私は私の道を行きます。貴方をこちらに引き込むつもりもありません。ですから競争です。何方がより遠くまで行けるか、勝負です」

 

サイコロの回転が止まる。出目は3。真逆の出目が出るか。ソーナは夢想を追う正道を、オレは現実を追う邪道を。ある意味で相応しい出目だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソーナが帰った後の自室で、オレはマリータに膝枕をされながらソファーに寝転がっていた。

 

「よかったんですか、リアン様?リアン様ならソーナ様を納得させれるはずですが」

 

「良いんだよ、マリータ。夢を追うことは悪いことじゃない。夢を追って現実とすり合わせないのが問題なんだ」

 

「そういうことじゃなくて、お好きでしたのでしょう?」

 

マリータの言葉に胸が痛む。

 

「そうだな、ソーナのことは好きだ。だから、汚したくなかった。オレが進む道は血と汚泥に汚れた道だ。邪道ってのはそういう道なんだ。脅迫、買収、暗殺、粛清。正道じゃ扱ってはならない手段も扱える。無論、下手をこくような三流はすぐに破滅する道だがな」

 

その点、オレは慣れている。嫌というほどに。まあ、最後は破滅したから三流だな。足を洗って二流、最後まで生き抜ければ一流だ。

 

「では、黒歌様と白音様はどうされるのでしょうか?」

 

「表向きの行事にだけ参加させる。これから眷属になるやつも同じだ。例外はお前だけだ、マリータ。我が女王よ」

 

今世において最も信頼を置くマリータにオレは変異の女王の駒を受け取って貰った。これから先にオレがすることを全て明かした上で。その上でマリータは私を楽しませ続けてくれるならと受け取ってくれた。

 

「光栄です、リアン様」

 

「いずれは手元に眷属とは違う裏の直属部隊が欲しいな。宛がさっぱり無いけど」

 

「ですね。おそらくですが、悪魔で探すことが間違いだと思われます。それに表側でも協力者を得ないことには」

 

「表側には少しだけだが宛がある。そっちは任せて欲しい。マリータには当分、裏側で苦労を掛けると思う」

 

「その分、楽しませて頂けるのでしょう?」

 

「最終的には歴史の教科書に載るさ。悪名かもしれないがな」

 

「それはそれで楽しいでしょうね」

 

「ああ、そうだな。一括りにされるより、個人の名を歴史に刻み込む。楽しいことだよ。それが派手な行いによってなら尚良」

 

オレは裏方ばっかだったけどな。今世の立ち位置なら両方を兼任するのが一番だ。

 

「5年で足場を完全に固める」

 

「承知しました」

 

 

 

 




作中のボード・カードゲームは実在のものなので名前を伏せてあります。


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ハイスクールD×D 革新のリアン 2

 

「堕天使と人間のハーフねぇ」

 

ハインリヒが隣にいるオレと同じ年齢の少女の説明を聞きながら、じっくりと目を覗き込む。恨み、妬み、恐怖、不信、悲しみがごちゃ混ぜになりすぎている。このままではまともな答えも出せないだろう。ただ、流される存在になる。

 

「というわけでして、リアン様の眷属にどうかと」

 

「なるほどね。理解はした。彼女はオレの方で預かろう。マリータ、すまないが少し世話をしてやってくれ」

 

「かしこまりました。姫島様、こちらへ」

 

マリータに連れられて姫島朱乃が部屋から出た途端、嫌悪感を丸出しにする。

 

「ハインリヒ、オレが何故、お前ではなくマリータを眷属にしたのかがわからないらしいな」

 

「それはどういうことでしょうか?」

 

「気に食わんな。バラキエルと姫島家へのホットラインを懐に持ってるんだろうが。それを出せと言っている。プレゼンテーションが下手なんだよ、お前は。商品の扱いも下手だしな。2流と言ったところだ。だから、マリータを評価しているんだよ。ホットラインを置いて下がれ」

 

「……失礼します」

 

ハインリヒが置いていったバラキエルと姫島家へのホットラインのコードを手に取り、バラキエルに通信魔術を繋げる。映像に映るバラキエルは覇気を失っている。何処か諦めているようにも思える。

 

「はじめましてだ、バラキエル。オレはリアン・グレモリー。アンタの娘を保護することになったのでな、挨拶ぐらいはしておいたほうが良いと思って連絡を入れた」

 

『……そうか。その、朱乃はどうしてる』

 

「まだ1週間しか経っていない上に環境が変わり続けているからな。酷く混乱している。しばらくは接触しようとするな。ある程度落ち着くまで時間がかかるからな」

 

『どれぐらいだ?』

 

「さあな?コレばかりは何とも言えない。まあ、眷属にする気はない。出来ればそちらに帰してやりたいからな」

 

『なに?だが私は』

 

「奥方のことは大変気の毒だった。甘く見ていたことも原因だろう。だが、娘は生きている。生きていればやり直すことだって出来る。やり直す気がないのなら、オレの好きにさせてもらうが?血筋は良いからな。それに成長すれば奥方に似て美しくもなろう。使い用はいくらでもある。意味、分かるよな?」

 

『そんなことは絶対にさせない!!』

 

バラキエルに怒気と共に覇気が戻る。それを見て満足して首を縦に振る。

 

「よろしい。その覇気を忘れるな。手のひらから零れ落ちたものを思うのは悪いことではない。だが、そればかりに気を向けて手のひらに残ったものを見失うな。お前にはまだ残っているのだからな」

 

『あ、ああ、分かった』

 

「落ち着いたら連絡をするし、場もセッティングする。だが、再び後ろばかり振り返っているようなら好きに使わせてもらう。取り戻そうとしても手遅れにして使うからな。脅しだと思うなら、そう思えばいい」

 

実際にバラキエルが再び不抜けるようなら容赦なく利用させてもらう。心の壊し方なんて拷問で慣れているからな。心情的にやりたくはないが、やった方がメリットが有るならやる。

 

「それから身辺整理をしておけ。放っておいたからこのようなことになったのだからな」

 

『分かった。シェムハザ達に相談する。朱乃には手を出すなよ』

 

「出さないよ。オレは疑い深いんでな、会ったばかりの者に気を許すなど考えられないし、出自が出自だ。面倒事のほうが多い。それに、アレは女ではなく子供だ。全く興味が無いな」

 

正直言って食指が全く動かん。これは精神年齢の問題だろう。あと、姫島が心身共にボロボロだから余計にだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全く、悪魔は馬鹿ばかりだ。力にしか目を向けない。呆れるしかないな。

 

「ハインリヒ、オレは言ったはずだよな。プレゼンが下手だと、商品の扱いも下手だと。何も分かっていなかったようだな。2度までは許す。下がれ」

 

「……失礼します」

 

ハインリヒが部屋から出ると同時にマリータが口を開く。

 

「あれは理解していませんね」

 

「だろうな。さて、イザイヤだったか。とりあえずは座れ。本人の口からもこれまでのこと、これからのことを聞きたい。長くなっても構わん。マリータ、茶と菓子を。お前も座ると良い」

 

要約させずにその場面ではどう思ったのかなどを詳しく聞きながら2時間ほどを過ごす。

 

「なるほどな、お前がバカなのがよく分かった」

 

「なっ!?」

 

「本当ですね。何故そんな結論に至ったのか分かりません」

 

「どういうことですか!!」

 

「イザイヤ、お前を家族とも言える同士が出会えたのは何故だ」

 

「それは主の思し召しで」

 

「あ〜、宗教感はどうでもいい。それで言うならお前の不幸も神の思し召しになるだろうが。思考の停止は一番最低な行為だ。常に自分という物を持っていろ。外から公平な目で説明してやるよ」

 

「公平な目?」

 

これだから宗教にどっぷりと漬かってる奴らは嫌いなんだよ。狂信まで行ってないのが救いだな。神のためなら何だって許されると勘違いしている馬鹿が多いからな。非人道的なこととかも平気でやりやがる。

 

「結論から言えば怒りの矛先がおかしいんだよ。ちょっとだけ痛いぞ」

 

右手の中指に滅びの魔力をうっすらと纏わせてデコピンを食らわせる。何かの術式を破った感触と共に素早く退避してマリータがイザイヤにゴミ箱をもたせる。次の瞬間、イザイヤが胃の中の物を吐き出し続ける。落ち着くまで待ってやり、再び説明に戻る。

 

「今なら何がおかしいのか分かるだろう?」

 

「はい。なんで聖剣に恨みが向かったのか分からないです。今は頭の中がすっきりとして、あの男、バルパー・ガリレイに対する恨みとか怒りで一杯です!!」

 

「まあ、これが大人のやり方だ。全員が全員じゃないが、大人は先が見えるようになって、時間がないと思えばどんな手でも使いたくなるんだよ。魔術による軽い暗示程度で良かったな。ガッチガチの説経による思考操作だと面倒だからな。今みたいにデコピン一発でどうにかなるような代物じゃないから。さて、話を戻すが、バルパーに復習したいのは分かった。だが、今のままでは確実に失敗する。資金も情報も権力も力も無い君には無理だ。無駄死にだな」

 

「ストレートですね」

 

「ここは変化球を投げる場面じゃないからな。だから全てストレートだ。簡単に強くなりたいなら、オレの眷属と成れ。悪魔に転生することになるが、色々とサポートしてやる。基本的な拘束はレーティングゲームと呼ばれる模擬戦のようなものへの参加と最低限のマナー、それから冥界語の習得程度だな。それを断るのなら」

 

「殺しますか?」

 

「なぜそんな面倒なことをしなければならないんだ?断るのならウチの馬鹿が面倒をかけた分の慰謝料を払って開放する。それと護衛を兼ねた監視をつける」

 

「護衛?」

 

「お前を連れてきたハインリヒが馬鹿をやらかすかもしれないからな。悪魔全体に言えることだが、無意識的に他種族を見下している。まあ、上級悪魔なんて言われているのは生まれから貴族か、成り上がりだ。元から上に立つ存在だからな、見下していなくても見下している状態なのがデフォルトだ。オレも何処かで見下しているんだろうな」

 

こういうことは自分ではわからないからな。元平民の成り上がり騎士から傭兵で貴族だからな。価値観なんかは結構庶民的ではあるが、見下していないとは言い切れない。

 

「さて、どうする?答えは一週間後に聞かせてもらう。聞きたいことがあるのなら何でも答えよう。まずはゆっくりとすると良い。マリータ、任せる」

 

「分かりました」

 

マリータに連れられてイザイヤ君が部屋から出た後、ソファーに体を預けて大きく溜息をつく。全く、反吐が出そうになるぜ。タバコと酒が欲しい。特に酒。一時でも嫌な現実を忘れさせてくれる命の水。蒸留酒が飲みたい。現実から逃避させてくれよ。ああ、もう、嫌な世の中だぜ。それでも多少はまともな世界にしてやりたいよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マリータに治療の指示を出してハインリヒが連れてきた眷属候補を退出させる。このままでは死んでしまうだろうからな。それからハインリヒの処分だな。

 

「はぁ、ハインリヒ、お前にはがっかりだ。何も分かっていない。二度とオレに面を見せるな。下がれ」

 

だが、ハインリヒは下がろうとしない。

 

「オレは下がれと言った。それすらも出来ないのか」

 

「……私の何がいけないと言うのですか!!これほど有能な者を用意しているのに!!」

 

「ハインリヒ、それはお前の評価だ。オレは有能だと見ていない。根本から間違っているんだよ。プレゼンが下手だと言ったよな」

 

「ええ」

 

「オレの趣味は知っているな?」

 

「古臭いゲームだということは」

 

「その時点で間違っている。例えばだが、今オレの手元にあるこのカードゲーム、キャッチョコだが、発売されたのは2年ほど前だ。他にもこのカードは昨年、大学の教授が研究の一環で生み出したものだ。お前の趣味の携帯ゲームは3年前のものだったな」

 

オレに趣味がバレていることにハインリヒが目を大きく見開く。

 

「何処が古臭い?お前の先入観で物の真実を図れていない。正しく物を見れていない者の提案を飲む馬鹿はいない。そして古臭いと言うのはマイナス評価になりえない。古臭いとは伝統とほぼ同意義であり、それを受け取った側の感性によって変わるからだ。本題に戻ろう。趣味の時点でこれだけの考えの差が開いている。それなのになぜ眷属にしようと考える者が一致していると考えられる?」

 

「ですが、イザイヤは眷属にしたではないですか」

 

「そうだな。お前が裏でイザイヤを襲おうと画策していたからな。保護するために眷属にした」

 

「……馬鹿な、知っているはずが」

 

「お前は眷属にしか目を向けていないからな。愚かな。オレの手足はもっと長い。が、それを知ってしまい、オレの御眼鏡に適わなかったお前には」

 

言い切る前にオレの手足の一人がハインリヒの首を180度曲げて殺した。

 

「ご苦労。死体の処理も任せる」

 

無言のまま首を縦に振り、目の前の者がハインリヒの死体と共に消える。やはり、日本の忍者と呼ばれる者たちは優秀だな。日本人の気質の誠実には誠実を持って返すという面と、主のために全てを差し出せる献身性。それらを持ちあわせた上で裏の仕事が出来る。実に素晴らしい。手足として十分以上に働いてくれている。

 

さて、ゴミの処理は済んだ。一先ず、ハインリヒが連れてきた眷属候補の様子を確認しに行こう。結構ボロボロだったけど、まあ、生きてるだろう。傭兵団の連中ならあの程度はいつものことだからな。気合さえ充実してれば生き残れるだろう。そう言えばあいつ、気合は充実してたっけ?ええっと、資料資料。

 

おぅ、ハインリヒの奴、なんでこう能力が高くて環境が最悪な奴を見つけてこれるんだ?姫島の時とは違って調査資料がかなり詳しくなっているし、努力の方向性がとことん噛み合わないやつだな。とりあえず急がなければ。あんな環境で気合が充実しているわけがない。死んでいたら悪魔の駒で蘇生させてやらないと。

 

母の実家であるバアル家の滅びの魔力の扱いに慣れたオレは、悪魔の駒の悪魔への転生機能の部分のラインに滅びの魔力を纏わせて転生機能を封じ込めてある。おかげで気軽に蘇生アイテムとして利用できる。今は更に繊細なコントロールを身に着けようとしている。出来れば黒歌と白音とイザイヤを転生悪魔から元の種族に戻してやれるようにしたいからな。

 

「マリータ、彼の様子は?」

 

「2分前に死亡確認です」

 

「全く、ハインリヒの馬鹿が。コストは、ルークで足りないだと?仕方ない、変異のビショップを使う」

 

ケースから変異のビショップを取り出して死んでいる彼の胸元に置く。駒が身体の中に沈んでいき、再び生命の鼓動が宿る。

 

「治療は任せる。しばらくは体を癒やすことを優先させろ」

 

「かしこまりました」

 

「それにしても、女装癖があるとはな。別にオレが狙われない限りは良いけどさ」

 

「本当に似合っておられますしね。それにしても女装に関して理解があるとは思っていませんでしたが」

 

昔、任務のために際どい格好の踊り子に扮した事があるなんて言えるか。変に人気が出たことは忘れるんだ。

 

「セラフォルー様の趣味に巻き込まれただろう?」

 

「可愛かったですね、リアン様。ソーナ様にもせがまれて嫌々付き合ったら泣き落としも食らってノリノリで遊んでたのは」

 

アレはガキの頃だからノーカンだ。ソーナの黒歴史でもあるから話に上がることはほぼ無いから。

 

「この話はここまでだ。オレは姫島のところに行ってくる」

 

「豆ですね」

 

「情緒が不安定すぎるからな。自虐タイプじゃない分だけ楽だよ。自虐タイプは治療と依存が紙一重だからな。はっきり言って苦手だ」

 

「リアン様の性格ならそうでしょうね。一方的に寄り掛かるのはするのもされるのもお嫌いでしょうね」

 

「そういうこと。まあ、多少支えてやる程度はするさ」

 

バラキエルとの約束もあるからな。踏み込む前の下準備はそろそろ終えても良いぐらいには落ち着いてはいるんだけどな。カウンセリングは専門外なんだけどな。こればっかりは始めたオレが最後まで関わらなければ見捨てられたと思って二度と誰にも心を開かなくなる。

 

「面倒だとは思わないさ。ある程度は気持ちはわかるからな」

 

信頼していた父親に裏切られたように感じているのだろう。オレも信じていた国に裏切られたから、裏切られる気持ちはわかる。バラキエルに関しては本当に運が悪かったとしか言えないがな。いや、現実を甘く見すぎていたと言ったほうが良いか。まあ、全ては過去の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「13です」

 

「15にゃ」

 

「21」

 

「21!?えっ、ってことは24」

 

「コヨーテ」

 

マリータの宣言と共にカードを全員が見えるように置く。

 

「16。くっ、普通に引っかかった」

 

イザイヤが悔しそうにしている。馬鹿め。ハッタリを使わないと泥沼になるのがこのゲームだ。次のゲームに移ろうとした所でドアがノックされる。

 

「なんだ」

 

「リアン様。サイラオーグ様がお越しです」

 

「通せ」

 

扉を開けて入ってきたのは従兄弟であるサイラオーグ・バアルだ。つい最近になるまでバアルとして認められていなかった男だ。ゆえに付き合いは短い。だが、わかりやすい男で、気持ちのいい男だ。成り上がりというのも評価できる。だが、こいつの夢はオレが粉々に砕くことになる。こいつに魔王の座はやれん。こいつは魔王の座を力の象徴としか見ていない。そんな甘いものじゃないんだよ、上の座はな。覚悟がないものがその座に着いている所為で今に繋がっているのだ。

 

「お前が急に訪れるとは何かあったのか?」

 

額の前にカードを掲げてゲームに入る。

 

「巫山戯ているのか?」

 

「そういうゲームだ。遊びの中のひらめきこそがオレの武器だ。で、なんのようだ。見ての通り眷属との交流を深めているのだが」

 

「……手合わせを願いたいのだが」

 

「いいぞ。そんでもって、参った。はい、終了。お帰りはあちらだぜ。遊ぶのなら座ってけ」

 

「巫山戯るな!!」

 

「巫山戯てなんかいないさ。手合わせを了承して、すぐに降参した。手合わせは成立しているな」

 

「そんなのは屁理屈だろう」

 

「じゃあ、オレが何故こんなことをしたのか説明してやる。理由は3つある。1つ、手合わせにオレのメリットがない。2つ、先程も言ったが眷属との交流を深めている。こちらのほうが大事だ。一番大きな理由の3つ、面倒くさい!!」

 

「……それで巫山戯ていないと言えるのか!!」

 

「だってなぁ〜、もう終わっているし」

 

そういった次の瞬間、サイラオーグが倒れる。

 

「気持ち悪くて吐きそうだろ?足は攣ったように動かないだろうし、腕はどんどん力が入らなくなっている。熱いのか寒いのかも分からない。面倒くさいってのは後始末が面倒って意味でな。端からお前に勝ち目がないから言ってやってるんだよ。ああ、気合とかでどうにかなるものじゃないから頑張るだけ無駄だ」

 

全身から脂汗を流すだけで耐えることしか出来ないのか目だけをこちらに向けてくる。

 

「自分が何をされたか分かるまでは再戦は無しだ。来ても同じ目に合わせるだけだ。力だけでオレに勝てると思うな。努力だけではどうにもならないことはこの世に確かに存在している。お前がバアル家の滅びの魔力が使えないようにな」

 

さて、これを正しく受け取れないようならサイラオーグは使えない人材だ。まあ、期待はしないでおくさ。滅びの魔力を指先に集めて額を小突いて意識を刈り取る。

 

「サイラオーグはお帰りだ。丁重に送ってやれ」

 

使用人にサイラオーグをバアル家へ送り返すように指示を出す。

 

「一体何をしたのにゃ?」

 

黒歌がオレがサイラオーグに何をしたのかを質問してくる。

 

「ああ、簡単に言えば呪いだな。人差し指の呪い、ガンドって奴だ。術式は簡単だし、素人が使えば風邪をひく程度の呪いだ。さっきのは複数の病気に同時にかけただけ。知ってれば簡単に防げる。アレンジすれば物理衝撃も加えられるけどな」

 

滅びの魔力は使っているのがすぐにバレる欠点があるからな、純粋な魔力そのものに呪詛を乗せて撃ち出すガンドは便利の一言に尽きる。

 

「まあ、あの程度で魔王を目指すなんて甘いな」

 

現役の超越者と呼ばれている魔王がガンドで苦しんでいた事実からは目をそらしておく。

 

「簡単だから覚えておくか?3日もあれば軽い風邪ぐらいなら引かせられるぞ。ちょっと特訓すれば見えなくなるしな」

 

とりあえず眷属には仕込んでおいて損はないはずだ。マリータも使えるしな。ちなみにサイラオーグにガンドを打ち込んだのはマリータだ。派手に動いて視線を誘導し、こっそり打ち込ませて効き目が回る時間を稼ぐ。完璧なコンビネーションだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほうほう、これが『停止結界の邪眼』ね。しょっぱい能力だな」

 

滅びの魔力を使うまでもなく、日頃から展開している呪術遮断結界で無力化出来ている時点で怖くもなんともないな。強力だって言うから期待していたんだがな。マリータは停止結界の邪眼の範囲内の物を調べている。

 

「なんで二人共動けるんですか!?」

 

「うん?常に防御魔術を展開しているからな。全く効かんな。強力だって言うから期待していたが、これなら簡単に防げる。あと、資料に停止結界の邪眼のコントロールが出来ずに暴発させるとなっているが、原因も特定できたから説明してやる」

 

マリータに説明用の道具を取りに行ってもらい、その間に眼の前に居る眷属のギャスパー・ヴラディの改造計画を立てる。とりあえず、暴発だけは押さえてやらないとな。それが済んでからは、最低限の護身術を叩き込んでやるか。あとは、こいつの希望次第だな。

 

そこまで考えた所でマリータが頼んだ物を持ってきてくれた。

 

「それじゃあ、暴発の原因をこの銅線と豆電球と電池で説明してやる。豆電球が光っている時が発動している状態な。電池が発動させるのに必要な体力云々、銅線が術式ラインだな。でだ、お前の暴発はこの回路そのもの、簡単に言えばスイッチがないんだ。だからびっくりしただけで電池から離してある銅線がくっついて電気が流れて暴発する。それを此処にスイッチを付けてやり、スイッチの切替の条件を口頭分にでもしておけば暴発することはない」

 

と言うより基本中の基本だと思うんだけどな、暴発対策の。実践では無詠唱は基本中の基本だけど。大規模な物は除くけど。呪術系の大規模な物は下準備とか詠唱とかが死ぬほど面倒だけど効果は抜群だからな。疫病を流行らせたり、水を腐らせたり、作物を毒化させたり。呪術返しだけは気をつけないと酷い目にあうから余計に手順が増えるんだよな。

 

「どういう方式でスイッチを作る?強引にオレが外側から作ってやってもいいし、地道に作り上げるのもいいし、方法はいくつかあるな。このまま何もしないというのなら存在そのものを封印する必要があるが」

 

「ひいぃぃ!?そんなのいやですぅ〜」

 

「ならスイッチは作る方向でいいな。時間をかけるのとかけないのはどっちが良い?」

 

「えっと、その違いは?」

 

「予算云々だったり、痛かったり、しんどかったりの差だな。オススメは強引にスイッチを取り付ける方法。このガラス玉を飲み込めば終了。まあ、ちょっと大きめだから飲み込むのが大変なのが欠点だ」

 

暴走していると報告書で読んだ時点で用意しておいたビー玉よりも若干大きなガラス玉を見せる。前世では幼少期に粉末状の物を複数回に渡り飲ませて魔術の暴発を防ぐスイッチを作り出すための物だ。大人になると一気飲みじゃないと効かないのが欠点なんだが、普通は幼少期から飲ませるために欠点にならないはずなんだけどな。稀にだが、幼少期に使った魔道具の量が少なかったりするのが原因で大人になってからスイッチが壊れて取り付けるために使われる程度だ。

 

「これ以外だとどうなるんですか?」

 

「ええっと、背中に入れ墨を入れるのと、外部から強制的に魔力を操作してもらって慣れる方法、地道にスイッチを作る方法。ここまでがやってやれる方法で、これ以上はなぁ、ヤバイから止めておけ」

 

ショッカーも真っ青な大改造手術がまだマシだろう。絶対に人に馴れない魔獣を強制的に騎獣にするための手術だからな。

 

「入れ墨は、あれだ、ヤの付く自由業の奴が彫ってるようなのを背中一面に入れることになる。外部から強制的に魔力を操作して慣れる方法は、不快感が激しいぞ。好き勝手にされるという意味だからな。最後のは時間がかかる。2年は見る必要がある」

 

基本的にはこの魔道具で研究は発展してないんだよ。と言うか、残りの方法は知識として知っているだけだから選んでほしくない。

 

「とりあえず、何も対処しないというのだけは無しだ。どれかを選んでやってもらう。オススメは最初にも言ったがこいつを飲み込む方法だな。ちょっと苦しいだろうが、一番楽だ」

 

悩んだ末に10分ほどの格闘の末にギャスパーはなんとか魔道具を飲み込んだ。動作の確認は簡単だ。オレの手足の一人がギャスパーの後ろで膨らませた紙袋を叩き割って大きな音を出す。

 

「よし、魔道具は正常に作動しているな。今度は自分の意志で使ってみようとしてみろ」

 

嫌そうな顔をしながら、それでも発動させようとして発動しないことに戸惑っている。

 

「じゃあ、スイッチを入れるぞ。スイッチを入れる時のキーワードは『起動(ブラスト)』切る時は『停止(オフ)』だ。日常的に使うことがない『起動(ブラスト)』だけはいざという時のために覚えておく程度でいい。『停止(オフ)』は分かりやすいだろう?さあ、やってみな」

 

「は、はい。『起動(ブラスト)』」

 

キーワードを告げてから、少し力んで停止結界の邪眼が発動する。

 

「そのままでスイッチを切れ」

 

「『停止(オフ)』」

 

力のラインが切られて停止結界の邪眼の発動が止まる。問題はないな。

 

「よし、機能に問題はない。違和感は?」

 

「えっと、今までとは止まり方が違うからちょっとだけ。けど、問題ないと思います」

 

「スイッチの効きが甘いと思ったらすぐに言え。調整ぐらいなら簡単に済ませてやれる。あと、コミュ障をどうにかするためにレクには強制参加な」

 

「な、何をするつもりなんですか!?」

 

「アナログゲーム、つまりはボードゲームやカードゲームだな。携帯ゲーム機なんかの一人で楽しむ物ではなく、他人とわいわいやったり、駆け引き、場外戦が必要になってくるゲームだ」

 

「……後ろの方が想像がつかないんですけど」

 

「そうか?簡単に言えばポーカーフェイスの逆とか、ちょっとした発言からの心理戦とかだな。露骨にやりすぎると顰蹙を買うことになるが、適度に場に合わせた場外戦をやるんだよ。協力プレイのゲームなんかもあるけどな」

 

「はぁ?」

 

「まっ、想像しにくいのは分かるよ。とりあえず、お試しでやってみればいい。軽いものから重いものまで色々あるからな。軽いのは子供でも大人でも楽しめるし、重いのは大人にこそオススメだったりする。まあ、ブラックジョークがキツイゲームも多いがな。ホームパーティーを開いて近隣住民を高血圧なんかにして心臓発作で殺すゲームとか」

 

「ブラックにも程があり過ぎますよぉ〜!!」

 

「じゃあ、積み木で城を作って王様と将軍を配置してハンマーで物理的に破壊し合うゲームとか、ぼくのかんがえたさいきょうのうちゅうせんで他のプレイヤーのうちゅうせんと戦うゲームとか、歴史学者達が手柄の独り占めのために他の歴史学者チームを突き落とすゲームとか、クトゥルフの邪神を呼び出して他のプレイヤーのSAN値を直葬するゲームとか」

 

「ヒィィ!?どれも酷すぎですぅ!?もうちょっと穏やかなのはないんですか!?」

 

「穏やか?プレイヤー全員でゾンビから逃げながらアイテムを揃えて脱出するゲームとか、カードに書かれたアクシデントを手札のアイテムで華麗に切り抜けてそれを他のプレイヤーに評価してもらうゲームとか、テロリストと爆弾処理班に分かれて爆弾を解体するゲームとか」

 

「まだ、酷いですぅ」

 

「じゃあ豆を育てて売るゲームとか、バンジージャンプをするゲームとか、庭園を作るゲームとか、ピラミッドを作るゲームとか、日本庭園を作るゲームとか、街道を作るゲームとか」

 

その後も軽いものを中心にゲームを紹介していく。2週間後のレクにはギャスパーの好みのゲームを中心に遊ぶか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

姫島朱乃が落ち着いたと判断したオレは、半年ぶりに屋敷に招くことにした。世間話から始め、ある程度の緊張感を徐々に出していけばバラキエルとのことで呼ばれたのを察したのだろう。では、本題に入ろう。

 

「まずはオレの思っていることから話しておこう。オレはまた姫島がバラキエルと一緒に暮らして欲しいと考えている。それを受け入れられないというのも分かる」

 

「だったら、何故お招きに?あの人への報告なら適当にでっち上げればいいではないですか」

 

「オレは家族は共にある方が良いと思っているからな。今のお前達親娘はお互いにこれ以上傷つきたくないと逃げているようにしか見えないからな」

 

「私は逃げてなどいない!!あんな人と一緒に居るなんて絶対に無理よ!!」

 

激情してあれこれと口に出していく中で、どうしてもあの一言、いや、二言が出ない。その時点で答えは出ているんだよ、姫島。

 

「母親の一大事に何もできなかったバラキエルを恨んでいるのか?」

 

「当たり前でしょう!!」

 

「では、殺したいほど憎んでいるか?一言もそんなことを言っていないが」

 

その言葉に今までの激情が嘘のように止まる。本人も気づいていなかったようだ。オレは懐からボイスレコーダーを取り出して先程激情していた時の言葉を再び流す。

 

「あれだけ激情していても、『殺したい』とも『憎んでいる』とも言っていない。喜怒哀楽には、特に哀と怒には本音が乗りやすい。つまりはそういうことだ。母親を助けてくれなかったことを恨んではいても、それでも憎しみまではいっていないし、殺したいとも思っていない。ただ、認めたくなくて我儘を言っている子供だ」

 

「そ、そんなことは、そんな、ことは」

 

「あとな、バラキエルの奴、グリゴリから離れた。いつでもお前を、家族を受け入れて、今度こそ守り通すために。今は、人間界のグレモリー領地に移り住んで在宅プログラマーとして四苦八苦してるよ」

 

在宅で出来る仕事はないかと聞かれた時は答えに窮したが確実にプログラマーとしての仕事に慣れてきている以上、間違いではなかったようだ。需要はこれからも伸び続けるだろうからな。今は大きな仕事は出来ないだろうが、5年もすれば問題もないだろう。

 

「バラキエルが今住んでいる家の住所だ。恨んでいるなら恨んでいると言えばいい。憎んでいるなら憎んでいると言えばいい。殺したいと思っているなら、殺せばいい。今のバラキエルはそれら全てを受け入れるさ」

 

男は肝が据わるまでに時間が掛かるが、肝が座れば女よりも覚悟がある。女は逆に肝が据わるまでは一瞬だが、簡単に折れる。まあ、折れた後の立ち上がりが早いのも多いが、姫島は遅い方に属しているからな。

 

「好きにすると良い。これからも援助は続けていくから生活を心配する必要はない。自分の心が指し示すままであればいい」

 

これは本音だ。誰もが自分の心が指し示すままでずっと居られれば、それは誰もが満たされているってことだ。だけどな、世の中の幸せの絶対値って奴は存在していて、増やせても微々たるもので、幸せを奪い合うのが知的生命体なんだよ。そんでもって汚い大人ほど幸せを奪うのが得意なんだよ。目の前の姫島が奪われたように、前世のオレたちがそうであったように。

 

今世のオレは奪われる側を少しでも減らそうとそう思っているんだが、その分、自分の幸せを取りこぼしている。苦労ばっかり背負い込んでいるが、前世の騎士としての矜持って奴の所為だ。困っている奴が居ると、つい助けてやりたくなる。困ったもんだぜ。

 

 

 

 

 




今回もボードゲームなどのタイトルはできるだけ伏せてあります。
ゲーム名が隠れてないのが2つほどありますが気にしない方向で。

次回、ヒロイン確定。


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ハイスクールD×D 革新のリアン 3

 

 

超気まずい。なんでこんなことになってるのか。父上と母上は何を考えているのか。おいマリータ、ニヤニヤしてるんじゃねえよ。お前全部事情を知ってるだろうが。

 

紅茶を口に含み、対応方法を考える。向こうも同じなのか考え込む時の癖が出ている。未練がましいな。まだちょっとした癖を覚えているとは。出そうになる溜息を飲み込む。何か切り口が欲しい。

 

マリータ、そろそろニヤニヤするのを止めて助けてくれ。あっ、やっぱりいらない。だからその獲物が罠にかかったって顔をするんじゃない。

 

「リアン様、ソーナ様、この度のご婚約おめでとうございます」

 

ソーナと二人してマリータのことをジト目で見る。マリータの言ったとおり、オレが婿入りの形でソーナとの婚約が決まったのだ。仲がこじれて既に2年、その間の交流は一切なし。月一の試遊会ですら、顔を出していない。そのことは両家とも知っている。それなのに今回の婚約だ。正直言って困惑が激しい。ソーナも同じようだ。

 

「2年というのは短いようで長い時間です。どう過ごしてきたか、それによって色々と変化もあるでしょう。特に2年前は子供から大人への成長途中、行動力も増して少しは現実に触れられたことでしょう。リアン様も色々と計画を変更しているようですし」

 

「貴方が計画を変更?」

 

ちっ、確かに計画は変更しているが、こんな助け舟は欲しくなかった。ソーナはオレが話すまでは絶対に引かないって顔をしてやがる。まあいいだろう。深くは話さない。

 

「当初の計画よりも賛同者の数も質も大幅に上回った。眷属や使い魔とは別に配下も手に入れてな、2年前よりはマイルドになった。だが、それは絶対数が減っただけだ。お前が否定した誰もがという訳にはいかない。鋭く切り込むことで余計なものまで切らずに済むようになっただけだな」

 

逆に言えばそれだけオレの手足は情報収集を的確に行ったとも言える。やはり優秀な情報源があると楽でいい。気持ち的にも動きやすくなる。

 

「オレの目的は変わらない。全てが倒れる前に腐った部分を切り落とす。倒れないように土台を補強している暇はない」

 

結局はそこに行き着く。多少マイルドになっても結構な数を殺す必要がある。殺さなくても拘束して隠居という名の幽閉も行わなければならない。

 

「もう一度言おう。何もかもが足りないんだ。ある程度はましになった。だが、ある程度だ。特に時間が足りない。信用や信頼を築く時間が、情報を精査する時間が、金を稼ぐ時間が、そしてデッドラインを超えるまでの時間が」

 

あと10年、今の状況が10年前に揃っていれば穏便に事を運べた。だがそんなIFを考えるのは老後の趣味でいい。オレは再び戦乱を駆け抜けるまでだ。

 

「そっちの2年はどうだった?」

 

「……私なりに世の中を調べてみました。リアンの言うとおり、限界に近いのでしょう。貧富の差は激しく、治めている家ごとに領民の社会保証はバラバラ、妙な視線で見られていると思えば襲われたこともあります。それほどまでに追い詰められた人や、希望を持てずに唯生きているだけの人も見てきました。それでも、多少でも混乱すればその人達の命が失われるかもしれないのです。私はその人達を見捨てられない」

 

多少は現実を見たようだな。それでも浅い部分だけだ。裏側はどっぷり漬かって戻れない所まで行って初めて分かることが多い世界だ。ソーナが見たのは表側からでも手を伸ばせる範囲だな。

 

「まあ、そこが変わっていないのは予想通りです。所でソーナ様、分かっておられますでしょうか?リアン様の案とソーナ様の案、両立は可能ですよ。リアン様は仕事量から何方かしか取れないように言っていますが、全然別の部分をご主張されてますので。言うなればアクションフェイズと購入フェイズ位の違いがあります」

 

あっ、余計なことを言うんじゃない。わざと対立するように誘導したのがバレるだろうが。

 

「……どういうことですか、リアン」

 

「……言わないと駄目か?」

 

「私が納得できるように説明してください。場合によっては2年も無駄に消費したことにもなるんですよ」

 

「いや、完全に無駄にはならないだろうけどよ」

 

「それを判断するのは私自身です。ほら、初心者へのインストのごとく説明しなさい」

 

これは完全に引き下がるつもりはなさそうだ。けど、言わないと駄目なのか?マリータに視線を向ければGOサインを出しやがるし。クソッ、なんでこんな目に合わないといけないんだよ。いいよ、言えば良いんだろう!!

 

「……惚れた女に裏の汚い世界なんて見せたくなかったから」

 

「……はい?」

 

「だから、惚れた女に純粋で綺麗なままでいてもらいたいと思うのはいけないことか!!」

 

絶対今のオレの顔は真っ赤になっている。前世を含めて女に告るのは初めてだからな。なんでこんな形で告らねばならないんだよ、ちくしょうめが。おいマリータ、笑いを我慢出来てないのが丸分かりだぞ。くそったれ。タバコと酒が欲しい、切実に。

 

「えっ、はっ、あぅ!?」

 

ソーナもようやく理解したのかオーバーヒートしている。落ち着くまで大分時間がかかった。落ち着いてもお互いに視線が微妙にずれている。ちらっと見たソーナは顔がまだ赤いし、多分オレも赤いだろう。そんなオレたちを無視するようにマリータは続ける。

 

「リアン様は結構繊細な方でして、あの日から数日気落ちしたままの上に2年経った今でも最後にプレイしたゲームを露骨に避けるようになったりと、見ていて楽しいんですが、今回の婚約の件は良い切欠だと思っております。お互いの目標と目的、手段、権限をすり合わせたパターンもリアン様は構築済みですから」

 

えっ、なにそれ知らないんですけど。なにしれっと嘘をついてるんだよ。徹夜で仕上げろ?徹夜程度で仕上がるわけ無いだろうが!!分かったよ、態と突き放してたのをやめろっていいたいんだろう?

 

「……その、見せてもらっても?」

 

「見せるほどのものじゃない。単に手が回らない表側の面での調整が入るだけの計画書だ。見ても、あまり意味はない。そっちに使う時間はなかったからな」

 

まっさらなんて言えません。いや、プロトタイプの計画書があったか?

 

「あ〜、ぶっちゃけよう。オレが表側の計画書を作ったとしてもソーナはそれのとおりに動かないのは分かりきっている。それはオレの性根の問題だからだ。付き合いのある少数ならともかく、不特定多数の善性は信用できない。別に嫌いというわけじゃない。じゃないと試遊会なんかにも参加できない。信用出来ないっていうのは、政治面に関してだ。群衆っていうのは操ろうと思えば簡単に操れる。だから、出来るだけ計画上では排除する。夢も希望もあったもんじゃない」

 

裏の汚れ仕事の思考がべっとりとこびり付いて落ちないんだよな。頑固な油汚れよりも落ちにくい。その所為か、ゲームならともかく政治面での計画には一切の楽観を持てない。最後があれだった分余計にだ。

 

「正直、ソーナが好き勝手やって、それをフォローするのが一番楽な道だ」

 

「……協力してくれるのですか?」

 

「何故そこでぽかんとした顔になる。ここまで下呂らされているんだ。元から致命的になりそうな部分はフォローするつもりだったんだ。それをもう少し踏み込んで行うだけだ。世間でよく言われる、惚れた弱みってやつだ」

 

一度吹っ切れるとある程度は普通に口に出せるものなんだな。

 

「……なんでそんなに普通に言えるんですか」

 

「開き直りってやつだな。今回の婚約の件だって、2年前のあれがなければ喜んで受けていただろうよ。まあ、その場合は何処かで不満がお互い爆発してただろうがな」

 

そういう意味では2年前のことは運が良かったとも言える。結果論だがな。

 

「マリータも言ったが、獲得点を得るっていう方向性は同じでもアクションフェイズと購入フェイズ位やることは違うんだよ、オレ達は。だから、協力することは出来る。要らないならそれはそれでっていた!?」

 

「リアン様、またそんな挑発じみた発言でソーナ様を遠ざけようとするのはおやめください」

 

マリータに殴られて止められたみたいだが、深い所までは連れて行きたくないんだよ。オレの半身とも言えるマリータやオレの手足はともかく。

 

「ソーナ様、リアン様はこの通り素直ではない所が多く、油断も出来ませんが、ソーナ様を思う気持ちは本物です。ですが、性根が捻じ曲がっていますので、こうやって何度も引き離そうと考えるでしょう。昔から自分のことを低く見る傾向がありますから。しっかり握っておかないとある日ふらっと居なくなりますよ」

 

「失礼な。ふらっと居なくなるわけないだろうが」

 

「ええ、そうでしたね。どちらかといえばドロンと派手に居なくなりますね」

 

そう考えていたから言い返せない。

 

「はぁ〜、もういいです。私が言いたいことは一つだけです。どっちに転んでも私的には楽しめそうです」

 

「「言うと思った」」

 

ソーナもマリータの性格は知っているからな。同じ答えにたどり着いてもおかしくはない。

 

「さて、後は若いお二人に任せて退散させていただきますね」

 

「自分は若くないって言ってるぞ」

 

「これでもジオティクス様よりも長いこと生きていますので。では」

 

マリータはそんなことを言いながら一礼をして部屋から出ていく。父上より年上だったのかよ。それよりも任せるとは言われてもオレが言いたいことは全部話したしな。

 

「……リアン、聞きたいことがあります」

 

「何でも聞くといい。答えるかは分からんがな」

 

「どうして自分を低く見るのですか」

 

「どうして低く見るかねぇ。どうしてだろうな?こういう性分だからとしか言いようがないな」

 

「性分、ですか」

 

「そう。何ていうのかな、ソーナみたいに下の者に手を差し伸べてやりたいとは思う。だけどな、オレ自身が汚れる手段しか選べない。正確に言えば、1回選んだ所為で、もう汚れる手段しか取れなくなった。この手は真っ黒に汚れている。差し伸べられた相手が躊躇うほどに。なら、オレに出来ることは影からこの手を汚すことで救われるべき者を減らすだけだ」

 

それが元呪術師でお人好しの騎士だったオレに出来ることだ。そんなオレの頬をソーナは思いっきり叩いた。うむっ、いい音だ。めちゃくちゃ痛い。多少は鍛えているとは言え油断していたから痛い。

 

そして、胸倉を掴まれて唇を奪われる。お互いの歯で唇を切ってしまい血が流れるが、ソーナはそれを無視する。オレはオレで混乱して身動きが全くできなかった。何処で覚えたのか舌まで入れてきてお互いの唾液と血が混ざり合う。しばらくして解放されたと思えばソファーに押し倒されてマウントを取られる。

 

「……どういうつもりなんだ、ソーナ」

 

「これで私は貴方に汚されてしまいました。だから逃げようとしないでください」

 

「はっはっ、逃げるのは大得意だ、恥も外聞も全部捨ててスタコラサッサと……そんな目で見るな。今のはオレが悪かったよ。だがな、オレは臆病なんだよ。特に誰かを懐に抱き込むのが怖い。オレがオレの目的に巻き込めたのはマリータと元から裏の汚れ仕事を専門にしている者だけだ。そこを分かって欲しい」

 

「分かっています。ですが、惚れた相手と同じ色に染まりたいと思うのは間違いでしょうか?」

 

「……いや、間違いなんかじゃない」

 

腹筋だけで起き上がり、ソーナを抱きしめる。

 

「すまん。幸せにはしてやれないかもしれない。それでも傍にいてくれるか」

 

「幸せの形は色々ありますが、それでも努力することだけは忘れないでください。それから最後まで足掻いて欲しいです」

 

オレの言葉の裏に隠された言葉をソーナは正確に読み取ってくれた上でそう言ってくれる。

 

「すまん、ありがとう、好きだ、愛している。あと、盗撮されてる」

 

「そうはっきり言われると、今なんて言いました?」

 

「すまん、ありがとう、好きだ、愛している」

 

「続きがあるでしょう!!」

 

「マリータが見過ごすわけがないだろう。録画して両親たちにも流してるだろうよ。さすがに音声はカットしているみたいだがな」

 

危ない言葉が出るのはマリータも分かっているからな。盗撮用の術式を滅びの魔力で撃ち抜いて破壊する。先程までの行為を振り返ってソーナが再びオーバーヒートして言葉にならない物が口から零れている。そんなソーナを抱きしめて、子供の頃のようにあやす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅむ、やっぱり熟成が進まないな」

 

「低位魔獣しか居ませんからね」

 

「塵も積もれば山となる方式でやるしかないか」

 

「むしろ、人間界のそういうスポットに向かわれた方がよろしい気がしますが」

 

「ああいう場所は時間が立ちすぎて周囲がそれで安定しているところがあるからな。下手に手を出すと大災害になる。多少ちょろまかす程度しか無理だな」

 

少しがっかりしながら奥の手のための儀式場を後にする。

 

「仕方ない。人間界に新しく作るか。確か日本には肝試しとかいう文化があったな。あれを利用させてもらう」

 

「そんなものでいいんですか?」

 

「オレが使う呪術はな。見た目からしてなんかヤバそうな雰囲気の場所は地脈やらなんやらの影響で陰気を溜め込みやすい。そこに何かの意志が混ざることで熟成された物を利用するんだよ。そんでもって知的生命体ってのは陰気を溜め込みやすいし、吐き出しやすい。数が集まれば地脈にも多少の影響を与える。そこに細工を施して場を形成する」

 

向こうの世界でなら、今までの貯金で楽ができるんだがな。強くてニューゲームはできな、環境とかを考えると強くてニューゲームだったな。それでも得意分野の貯金をほとんど吹き飛ばされたのは痛い。

 

「はぁ、とりあえず人間界の領地の下見に行くか。態々女子校を共学にしたとか兄上から聞いたけど」

 

「サーゼクス様がオーナーを勤めておられますから。それに学生の数も年々減少していたようですね。多少早すぎる気もしますが、共学化の話は前々からあったようです」

 

「だとしても、オレの同期の男子は少ないんだろうな。進学校ではあるから入試試験も中々の物だな」

 

昨年の駒王学園の入試試験に目を通していきながらそんなことを考える。

 

「歴史は壊滅ですか」

 

「人間界の歴史なんて勉強してる暇がなかったからな。他の物は普通に使うし、外語は転戦してたからな。使えないと騙されるから必須だった」

 

まあ、歴史なんて暗記物だし、背景はどこも似たり寄ったりだ。年数とその時の政治体系さえ覚えておけば大抵はカバーできる。地理は軍師としての経験を活かせば余裕だ。数学は呪術には必須だし、古典も言ってしまえば古文書だ。こちらも呪術を扱う上で必須だった。貴族としての礼儀作法やダンスは元騎士であるため応用も効きやすかった。こっちの貯金は色々使えてよかったよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日を持って正式にボードゲーム同好会として格上げだ。これで部室の確保ができた。予算は対して付かないが、それでも部室として旧校舎の一階の部屋は全て確保した。あとは、各自で持ち寄れば問題ないな」

 

「リアン、注意事項なんかはどうなってるんだ?」

 

駒王学園において数少ない男子である斎藤が質問してくる。

 

「校則を守れ、火気厳禁、戸締まりをちゃんとする、異常があった場合は報告する、賭博行為の禁止。それぐらいだな。とりあえず麻雀はしばらくお預けだな。あと、ギャンブルっぽく見られるものは控えるぞ。マーカーなんかもチップ類は止めておいたほうがいいな」

 

「えっと、ブラックジョーク系は?」

 

同じく数少ない男子で線の細い三宅が尋ねてくる。

 

「微妙だな。ある程度なら構わないだろうが、目立つ場所にはおかないでおこうか」

 

「はいはーい、掃除用具なんかの備品は?」

 

クラスメイトの谷口さんからの質問は良い点だな。

 

「それが抜けていたか。確認を取ってくる。最悪は本年度の予算で揃える」

 

他に質問はなかったようなので現状の確認のために旧校舎に向かう。木造建築だが耐震性は現在の物をクリアしているみたいだな。中に入ると埃っぽいが腐っている感じもしないし、カビの匂いもない。一番手前の教室の鍵を開けて入ってみれば廊下と同じく埃っぽいが問題は見当たらない。電気と水道は通っていないが、これは復旧される手筈となっている。

 

「掃除さえすれば問題はなさそうだな」

 

「徹底的に掃除しないといけませんけどね。まあ、仕方ありませんか」

 

ソーナ、人間界では支取蒼那と名乗っている、がつぶやく。

 

「とりあえず、手前から開拓していくか。週1で一部屋ずつ開拓すれば自由度が上がるだろう。いずれは一部屋丸々を倉庫にしたいな」

 

「既に実家に倉庫があるでしょう」

 

「気にするな」

 

とりあえず窓を開けて風が通る状態にしてから生徒会に掃除用具などの備品の確認を取ってから掃除を行う。掃除が終わる頃には大したものをやる時間がなくなっていたので、特殊なしりとりのゲームを行う。

 

「ま、マドリード」

 

「徳利」

 

「リセット2枚」

 

「リスタート」

 

「トリスメギストス」

 

「スカイダイビング、口減らし、シンメトリー、イングランドであがりだな」

 

シックスワイルドを投げ入れて終わる。

 

「相変わらず一気に投げ入れるのが得意ですね」

 

ソーナが残っていたカードを箱に投げ入れる。他の皆もカードを投げ入れる。

 

「基本的には出されたカードと自分の手札のカードで言えるものを考える隙に予め組み立てておいた言葉を並べるだけだからな。あと、カードを投げるのは慣れ。ダイス目だって自在にコントロール出来るからオレだけ常にダイスタワーを使ってるんだよ」

 

サイコロを懐から3つ取り出して同時に投げる。それを6回繰り返し、結果は1ゾロ、2ゾロ、3ゾロ、4ゾロ、5ゾロ、6ゾロ。

 

「練習すれば誰でも出来るぞ。まあ、手品師で食っていけるだけの練習量がいるけどな」

 

今度はサイコロを回転させて人差し指のつま先に乗せて、更にその上に回転させたサイコロを乗せて、更にサイコロを乗せる。

 

「まあ、今の手品師はここまでの技術がなくても道具のタネで食っていけるんだよな。悲しいことに手品師の技量の問題で消えていった手品があるっていうのがな」

 

「えっ、それってガチの種無しなの?」

 

「ただの技術だよ。昔はこれ位簡単にできる手品師が多かったんだけどな。今は、大掛かりなセットとタネを用意して派手にやることでテレビなんかの出演料でごまかしてるのが多いんだよな。実際、これよりもテレビで見るやつの方が派手で面白いだろう?」

 

回転が落ちてきたサイコロを人差し指から落として握り込んで開けば、そこにサイコロは存在していない。

 

「今のが基本中の基本の錯覚を用いた消失マジック。タネは握り込んだように見せかけて袖の中に放り込むだけ」

 

袖からサイコロを3つ取り出してみせる。

 

「こうやってテーブルを挟む程度なら何をやっているか分かるが、ちょっと離れると途端に何をやっているのかがわからなくなる。何をやっているのかがわからないと客から不満が上がり、結局は派手なものにシフトせざるを得なくなる。これは他のことにも言えるんだけどな。政治家だって声がデカくて周りを乗せれる奴が強いみたいな風潮だろう?それが正しいかどうかなんて関係なく、デカイ声で相手を批判してどうでもいいことを突き回して、自分が不利になると知らんぷり。未だに民主主義が完璧な政治体制だなんて勘違いをしているしな。不完全な人間からどうやったら完璧なものが生まれるんだよ。おっと、話がそれ回ったな。というか、何の話をしてたんだっけ?ああ、練習すれば大抵のものはどうにかなるって話だったな。頑張れ、以上。片付けて帰るぞ。来週は月曜日に掃除だ。この部屋と隣の部屋のな」

 

予定を告げて解散する。戸締まりは基本的にオレかソーナが担当する。そのまま二人で一緒に帰る。本来ならマンションで一人暮らしの予定だったのだが、婚約者だし面白そうだからとソーナと同棲生活を送る羽目になったのだ。下手人はマリータだろう。引っ越し初日は盗撮術式の破壊から始めたからな。今も定期的に掃除のついでに破壊して回る日々だ。

 

「もやしが危なかったはずだし、ミートソースの余りも使ってミートソースグラタンでも作ろうかな。チーズも良いやつがあるからトマトと一緒にカプリチョーザも用意しよう」

 

週替りになっている食事当番をこなすために冷蔵庫の中身を取り出しながら料理を作っていく。ああ、ワインが欲しくなる。一人暮らしだったら裏で調達して満喫するつもりだったのに。後4年はキツイ。タバコは欲しくなくなったが、酒だけは欲しい。切実に。

 

「くっ、普通に私より料理が上手いなんて」

 

「プロの料理人は男の方が多いぞ。料理を仕事と捉えるか家事で捉えるかの男女の思考の差ってやつだな」

 

夕食を共に取るとソーナがいつもの様に悔しそうな顔をする。あの時代の独身生活が長い奴らはこれぐらいは普通に作るぞ。ソーナだってお菓子以外はまともに作れるんだけどな。初めてソーナの作ったクッキーを食った時は本気で怒らせて毒を盛られたのかとすら思ったほどだ。さすがにソーナも異変を感じ取ってくれたのだが、気を失えたほうが楽だった。わずか半日で体重が5kgも落ちたからな。駆けつけたマリータも驚くぐらいの重体だった。それ以降は常にオレが隣について見張っている状態でしか作らせていない。

 

「そう言えば、ある程度眷属を見つけたんだって?」

 

「ええ、一人は駒王学園にも通っています。あとは下級生ですが、この近辺に住んでいます」

 

「なるほどね。オレの方は変わらず、マリータと黒歌と白音とイザイヤとギャスパーだ。知っての通り、黒歌は駒王に通っている。他の眷属もマリータ以外は年齢に合わせて駒王を受験するそうだ」

 

「そうですか。ところで、先日の呼び出しは何だったのですか?」

 

「大したことじゃないさ」

 

「その翌日からフェニックス家の三男が引きこもりになったとメイリアから聞いたのですが」

 

「メイリア?」

 

「ああ、私の側付きのメイドですよ。それで、貴方は関係ないと?」

 

「あの程度で心が折れるならオレに敵対したのが悪い。まあ、あの戦車の眷属には悪いことをしたとは思っているが、ライザー・フェニックスに関しては自業自得だ」

 

「何をしたんですか」

 

「馬鹿なことを言い出してな、二度と馬鹿が言えないようにしただけだ」

 

誰がソーナを渡すかよ。調子に乗ってレーティングゲームを吹っかけてきたからマリータすら置いて一人で参戦して、炎の魔剣を持った戦車の眷属の顔面に鞘ごと剣を叩きつけて、怯んだ所を蹴り倒してマウントを取って、投げつけた剣を拾い直して鞘付きの剣先を叩き込み続けてちょっと人様には見せられない状態にしてから前髪を掴んで笑顔で他の眷属に脅しをかけてリタイアさせ、残ったライザーを水を硫酸に変化させた池に叩き込んだだけだ。水に落ちた焼鳥を棒で叩くだけの簡単な作業だった。あの程度の痛みで何も出来なくなるなんて、根性が足りないにも程がある。

 

マリータ以外の観戦者がドン引きしていたが知るか!!人の恋路を邪魔した罰だ!!ついでに手足にライザー個人を貶すように噂をばらまかせた。フェニックス家や眷属たちには同情が集まるようにも指示を出しておいた。

 

「大分派手なことをしたんでしょう」

 

「まだ生温い手を使ったんだけどな。イカサマをした覚えもないしな」

 

「バレなければイカサマじゃない方式?」

 

「いや、普通に何もしてない。ルールに則った上で正々堂々と決着を付けたさ」

 

レーティングゲームの会場の水を硫酸に変化させてはいけないとか、顔の原型がなくなるほど痛めつけてはならないとか、脅してはならないなんてルールはないからな。問題ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予想外。いや、正確に言えば想定以上であり想定外だったというのが正しいか。ライザー君とその眷属には本当に悪いことをしてしまったと思っている。リアンはアレだけの残虐性を見せたのにも関わらず、ライザー君への批判ばかりが世間に出回っている。

 

女をアクセサリーのように取っ替え引っ替え、実の妹すらそういうのが居た方が良いだろうと発言、地位だけを求めて婚約に割り込もうとし、挙句に年下一人に眷属全員でかかって返り討ち。しかも虎の威まで借りて、それに恐れなければみっともなく命乞いまでする醜態を晒した。

 

噂は大体こんな感じだ。殆どが事実ではあるが、事実である私達が関与していることが全く伝わっていない。意図的に噂を操作して世論を完全に味方につけている。今後、この手は一切使えない。

 

リアンの力を図るために用意した場は、リアンの力の一割も引き出すことができなかった。マリータが言うには最も苦手な体術の一部と容赦の無さ、それと池の水を変質させた呪具だけだった。それだけを聞いた私にマリータの目は失望していた。意味がわからなかった。だが、その目を見るのはこれで二度目だった。

 

祖父の代からグレモリー家に仕えているマリータは代々側付としての役割を担ってきている。父上も私もマリータが側付だったが、一定の時期になると側付きから離れる。そして離れる直前にあの目で見られた。父上も同様だ。

 

そして、マリータが側付きを離れる時期は既に過ぎ去っている。だが、マリータがリアンの側付きから離れる気配はない。つまり、リアンはマリータから認められたということなのだろう。

 

マリータはリアンに何を見たのか。リアンは私たちに無い何かを持っている。それは、アジュカすらが理解できなかった術式なのか、それとも残虐性なのか、分からない。私には何もわからない。

 

「グレイフィア、私は、リアンのことを恐ろしいと思っている。実の弟だと言うのに」

 

「分からなくもないわ。私だって恐ろしいと思うことがあるわ。だけど、ミリキャスは懐いているし、今回の件はただ逆鱗に触れてしまっただけなのでは?」

 

「逆鱗か。それだけソーナさんのことが大事ならいいんだが、一時期仲が悪かっただろう?」

 

「ですが、マリータが盗撮したあの場を見る限りは完全に和解したようにも見えたでしょう」

 

「それは、確かにそうだ。あの初々しさは紛れもなく事実だ」

 

「あまり心配しなくてもよろしいのでは?まだ15なのですよ」

 

「それもそうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「その程度の浅い考えだからこそ私が仕えるに値しないのですよ、サーゼクス」

 

盗聴魔術をオフにしてつぶやく。

 

「ジオティクスもそうだけど、慈愛と甘さは全く別の物。それを理解できないからこそ先代のギルデイン様やリアン様に劣るのですよ。グレイフィアも同じですね。ミリキャスは既に私達の実験台になっているのに気が付いていないなんて。まあ、害はないですし、根っこの方の思想を調べるのは難しいですからね」

 

ミリキャスの教師役は既に私達の手のものに入れ替えてありますからね。ちゃんとした帝王学を今の内に刷り込んでおけば後々の行動が楽になりますから。

 

「ギルデイン様、貴方が望んだ悪魔の繁栄。ようやくその道筋が出来上がって参りました。この命にかけましても、必ずや叶えてみせます」

 

リアン様ならそれが出来る。腐った老害や身体と欲望だけが膨れ上がった我儘な餓鬼共を一掃し、次代の優秀な者を守ることが出来る。そして、リアン様が守った次代をソーナ様が育て上げることで再び繁栄する事ができる。

 

二人の仲を取り持ちつつ、甘い部分を補佐すれば十分に可能だ。やっと、ギルデイン様への恩返しが出来る。最下層の住民であった私を掬い上げてくれたギルデイン様に。

 

リアン様も私の思いを正確ではないにしろ理解をしている。その上で問題はないと私に各種技能や権限を与えてくださる。リアン様がアクションフェイズ、ソーナ様が購入フェイズなら、私はゲームの進行を円滑に進めるインストラクターだ。お二人とは目的そのものが違う。

 

私の場合、誰がゲームに勝利しても構わない。つまり、最終的に悪魔が繁栄するなら誰が指導者でもかまわない。現在のプレイヤーは3組。旧魔王派、現政権、そして仮称ではありますがリアン様達を新魔王派とでも名付けておきましょう。その中で最も効率良く動いているのが新魔王派でありインストラクターでもあるのが現状です。

 

インストラクターとは言え、プレイヤーである以上ある程度勝利を目指しますからね。負けてもゲームをちゃんと行わせて楽しませることができれば勝ち。そういう状態になるまで長い年月が経ちました。まだまだ現役とは言え、希望がない時間を過ごすというのは辛いものですから。

 

長年の夢を叶えるという楽しみを私に与え続けることを祈ると言うよりは働かせましょうか。あと、出来れば早めにリアン様とソーナ様のお子様が出来て欲しいです。ギルデイン様の血筋が絶えることだけは避けてほしいですから。

 

 

 



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ハイスクールD×D 革新のリアン 4

 

 

 

おい、嘘だと言ってくれよ。

 

「えっ、なあ、本気なのか?本気でその程度の力しかないのか?えっ、嘘だろう!?真面目にそれが限界なのか!?いやいやいやいや、手加減したんだよな!?接待プレイだよな!?」

 

倒れ伏すマリータを除いたオレの眷属達とソーナとその眷属達に尋ねる。

 

「リアン様、これが現実なのです。落ち着いてください」

 

「いや、だって、嘘だろう?オレのギリギリ及第点の正統剣術だけに負けるってどうなのよ?」

 

刃こぼれ一つしていない血塗られた数打ちの直剣を手に混乱する。前世のオレは最低限の自衛程度しか出来ない完全後方型だった。その後方に攻め込まれることはそこそこあったから経験だけは積んでいた。その経験が錆びついたオレにボロ負けする実力しかないなんて。一体どういうことなのかを思考の海に沈んで考えようとした所で黒歌が外氣を取り込んで自然治癒を促し始めた。

 

「えっ、もしかして内氣を使ってないのか?」

 

「仙術を使えるのは私と白音だけだけど?」

 

「やっぱりそういうことか!?仙術は外氣を扱う術で内氣を扱う術とは別物だ!!」

 

気を失っていない奴らが驚いているようだ。

 

「ああ、もう、そんなことも知らなかったのかよ。ということは、一般的に使ってる奴らのは偶然かよ。ええい、全員に仕込んでやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

「はい、授業を始めま〜す。今日は氣の違いについてと内氣の初歩的な使い方ね」

 

模擬戦の翌日の日曜日、駒王学園のボードゲーム同好会の部室に集めて授業を始める。

 

「まず、氣とは何なのかの説明から入るぞ。簡単に言えば氣っていうのは無機有機生命体その他もろもろの全てのものに存在する生命力的な何かだだ。簡単に言えば重力とか熱量とかそういうのと一緒の括りだと思って構わない。詳しく語ると一週間以上掛かるから要点だけ簡単に説明していくからな。そんでもって内氣っていうのは自分自身の氣のことを指し、それ以外の氣を外氣という括りで分ける。ここまではOK?」

 

誰も質問してこない以上は問題ないのだろう。

 

「そして氣っていうのは非常に変質、というか染まりやすいとでも言えば良いのかな。他の氣と触れ合ううちにどんどん混ざりあっていく。だからこそ内氣を直接撃ち出す技術ってのは殆ど無い。あっても至近距離で炸裂させる程度だ。そして氣が染まりやすい性質を利用して魔力の代用品として扱うのが一般だな。そこら辺は黒歌が一番分かっているはずだ。感覚的でも何かに変化させるのが容易いはずだ」

 

「それは、確かにそうだけど」

 

「ちなみに氣は魔力とは異なり自然回復か仙術で外氣を取り込むしか回復手段がない。これは既に試してある。多少自然回復量を増やせる薬もあるが、恐ろしく苦い。その上5%増えるかどうかだ」

 

ソーナの手作りのお菓子に比べればマシだが、比べる相手が問題だからな。

 

「で、仙術を使うと暴走するっていうのは氣の染まり易さから、外氣を取り入れた際に内氣を染められてしまうことによって発生する事例だな。源泉すら染められると二度と帰ってこれないが、それ以外なら時間が立てば戻ってこれるし、一度に大量に氣を放出させればすぐに戻ってこれる。やりすぎると死ぬけどな。なんせ生命力みたいなものなんだから」

 

ケラケラ笑うと皆が顔を青ざめる。

 

「まあ、メガンテみたいなことも出来るには出来るがするつもりはないよ。教える気もない」

 

それを聞いてほっとする一同に授業の続きを行う。

 

「さて、長々と説明しているが外氣を扱うのには危険が伴う。ほとんどセンスの問題だ。だから使えないなら使えないで良い。だが、内氣は別だ。内氣とは自分そのもの。スポーツなんかでもよく言われているが、本来の力を発揮するには全身を万遍なく動かさなければならない。その動かしていない部分が内氣だ。俗に言う達人級と言われる人間の武道家は全員がこの内氣を無意識の内に扱っている。そして経験的に学び、弟子に伝えていっている。オレが教えるのはその先、経験的なものではなく、理論的に身に付ける術だ。とは言え、オレも教えれるのが肉体の活性化位でな。簡単に言うと、肉体強化と人間だと年をとっても若々しく見える位だっけ?」

 

女性陣の目の色が変わったな。男所帯の騎士団では大して見向きもされなかったのにな。肉体強化の方が本命なのに。

 

「とりあえず黒歌から教えるぞ。オレの内氣の流れを覚えれば黒歌も教師役に成れるはずだからな。あと、マリータも教師役を手伝ってくれ。二人程度でかまわないから」

 

「分かりました。では、イザイヤ様と椿姫様は私が」

 

「ということでやるぞ。仙術が使える分、抵抗は容易いだろうが、受け入れろ」

 

互いの両手を重ね合わせる。

 

「集中しろ。慣れるまで続ける」

 

少量の内氣を黒歌に送り込み、染め上げられる前に一通り内氣の通り道を一周させる。

 

「今のが経路だ。もう一度、流す。分かるか?」

 

「血管じゃなくて、骨に近い?だけど流れは、噴水?けどポンプに当たる部分がない?」

 

「よしよし、中々良いセンスだ。少し手伝ってやるから仙術で外氣を取り入れる要領で内氣を動かしてみろ」

 

「う〜んっと、こうかにゃ?」

 

「さすがに仙術を使えていただけはあるな。その感じだ。最後、オレが内氣を送り込んだように、今度は黒歌がオレに送り込んでみろ。最初は抵抗する」

 

「え〜っと、なんだろ、スライムを突いているみたいな感じ?」

 

「抵抗する時は強固な壁を作るんじゃなくて粘つかせる感じが一番効率が良い。それじゃあ、受け入れるぞ」

 

ああ、外氣を取り込むのは気持ちが悪い。才能が無いから特にそう思う。正確に言えば、純度の高い内氣に染まりきっているから余計なものが入ってくるとそれに抵抗できない。それが嫌悪感と嘔吐感としてオレに現れるんだよな。

 

「よし、これで教師役は任せられるな」

 

それから黒歌にも教師役を任せて全員に基礎を教え込んだのだが、嘔吐感が酷すぎて教卓に完全に身体を預けた上に口元を抑えた状態で今日の授業を締める。

 

「日頃から、うっぷ、内氣を動かす、練るように、うぇ、強化は、今度な。ごめん、限界」

 

そのまま床に転がって目元を覆い隠しながら内氣を整え直す。総量が3割ほどになり、濁った氣を元に戻すのには2日は掛かるだろうな。

 

「リアン、大丈夫ですか!?」

 

「あんま、だいじょばないです」

 

ソーナがかけよってくるが今だけはそっとしていて欲しい。薬とかで治るものでもないから。マリータと二人がかりで運ばれて婚約者で同棲してるのがバレました。後日、ソーナの眷属がソーナが真っ赤になって可愛かったと言っていた。もちろん同意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全く、自慢の頭脳とやらが聞いて呆れます。高々チェスと将棋とリバーシと囲碁とバックギャモンの同時打ちが出来ないなんて。しかも、どれか一つでも勝てればいいなんてハンデまであげたと言うのに、あまりに暇すぎて左手だけで5×5のルービックキューブを5個も揃えてしまいましたよ。

 

「ルービックキューブも飽きましたね。メイリア、500ピースの白板のパズルがあったはずですからそれを」

 

それに怒ったのか、チェスと将棋の盤をひっくり返し、駒が囲碁の盤面をめちゃくちゃにしましたが無駄です。時計を止めて全く同じ盤面に整え直して差し上げて時計を再度動かす。1分もかかっていないだろうその行為に心が折れたのか下を向いてブツブツと何かを呟いている。はぁ、面倒ですね。大体先が読めます。私が取った黒のナイトを右手に隠し持ち、飛びかかってきた相手の顔面に叩きつける。

 

「チェックメイト!!」

 

全く馬鹿ですね。ここはイカサマがなかったと証明するために監視術式と記録術式が仕込まれているのを知らないのですかね。時間の無駄でしたね。なるほど、リアンの機嫌が悪くなるはずです。これと似たようなことに引っ張り出されたのでしょう。折角の休日をこんな無駄に付き合わされれば機嫌も悪くなる物です。

 

「時間の無駄でしたね」

 

メイリアにコートを着せて貰い部屋から退出する。

 

「お嬢様、よろしかったのでしょうか?」

 

「何がです?」

 

「きちんと勝敗が決していませんが」

 

「ああ、そのことですか。あの盤面からひっくり返すことは不可能ですよ。ネチネチと甚振っていただけですから。それに王様は討ち死にしたでしょう?配下の騎士の裏切りで」

 

持ってきてしまった黒のナイトを手元でいじりながら答える。

 

「それに不正を二度もされたんです。これで文句を言ってこようものならリアンが動きます。というよりは、もう動いているでしょうね」

 

物凄く嫉妬深いですからね。あと、バレバレの不正が大嫌いです。巧妙に隠された不正には敬意を表した上で敵対しているなら叩き潰し、そうでないのなら目をかけて育て、敵対した時点で叩き潰す。そして、叩き潰しても生き残った者を配下に誘う。乗れば手厚く遇する。乗らなければすっぱりと終わらせる。

 

それとなく浅い部分だけではあるがマリータがそれを教えてくれる。たぶん、全てを隠していると私が余計な部分まで探ろうとするからだろう。だから初めから知られても問題のない部分だけを選別して教えてくれているのだ。それがリアンの妥協点なのだろう。不満ではあるが、リアンの思いも知っているから我慢できるし、ストレスの発散も手伝ってくれる。

 

いえ、ストレス発散は言い方が悪いですね。結果的にストレスが発散されるだけですから。正確に言えば多幸感に溢れるが正しいでしょう。女の幸せってやつですね。リアンはタフな私に最後まで付き合ってくれますし、気持ちよくしてくれますし、意外と鍛えられている身体に抱きしめられるのも……

 

ちょっと思い返すだけで顔が熱くなる。しっかりしなくては。

 

「それにしても、あの短慮さで頭脳派とは笑えますね」

 

「お嬢様やリアン様とお比べになる方が間違いかと。普通ルービックキューブを文字通り片手間で揃えるほうがおかしいのですから」

 

「両手で1個ずつとかも出来ますよ。リアンのように器用ではないので4個も5個もジャグリングしながら揃えるなんてことは出来ませんけど」

 

「……ノーコメントで」

 

でしょうね。あんなの他に誰が出来ると言うんでしょうね。

 

「では、私は戻ります。父上たちには相手方の馬鹿な行いをちゃんと伝えておいてください」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

転移で人間界の自宅に戻るとリアンがキッチンで何かをしていた。

 

「おかえり、ソーナ」

 

「何を作っているのですか、リアン」

 

「ああ、ちょっとした染料だ。街の結界の強化に使うんだよ。最初から張ってある結界、魔力不足から穴だらけなんでな。ちょっと弄るのに必要なんだよ」

 

結界に穴?予めグレモリー家が張っている結界が?

 

「何故半年以上も放置していたんですか?」

 

「メンツの問題があるだろう?若造の方が鋭敏な結界を張れるなんて言われたら商売が出来なくなる。半年以上も放っておいたのはそこそこランクの高いはぐれが来るのを待ってたんだよ。潜り抜けられたからこっちでも別個の強化をするとか何とか言って元ある結界を強化するんだよ」

 

鍋で温めていた染料を幾つかのボトルに詰めていきながら答える。

 

「あとは一晩寝かせて完成だ。それで、自称頭脳派はどうしたんだ?」

 

「知っていたのですか?」

 

「先週、オレが叩き潰した。折角タイマーとかも全部相手が有利になるようにしてやったのにな。暇すぎてルービック・キューブが5個も完成して文庫本が3冊も読み終えたな」

 

「考えることは同じですか」

 

「あ〜、じゃあ、盤をひっくり返してきて」

 

「全く同じ盤面に整え直しました」

 

「ならまだましか。オレは地面に落とさずに空中で整えて元に戻したからな。ついでに詰ませた」

 

それはプライドがずたずたでしょうね。

 

「全く、無駄な時間を使わせられるのが増えてきたな」

 

「そうですね。平日にも呼び出される時がありますし」

 

放課後ならまだ良い。だが、昼間に呼び出されて今日のような無駄な時間を使わされるのが面倒だ。リアンが言うにはサーゼクス様が裏で動いているようだけど、そろそろ弾切れだそうだ。それまでは我慢しよう。その分、リアンには頑張ってもらいましょう。

 

「えっと、まだ日が傾き始めたばかりなんだが」

 

「駄目でしょうか?」

 

「最近、そればかりで鈍ってるだろ。それにそろそろ眷属に使い魔を持たせたいと言っていただろう。ザトゥージがそろそろ調査を終えて戻ってくるそうだ。鍛えなおしておいたほうが良いぞ。学園でもたまにだが色ボケ状態になってるぞ」

 

「むぅ、確かにそうでしたね。それにしても色ボケですか。気付かれてます?」

 

「眷属にはバレてるな。気が緩んでいると出やすいみたいだ」

 

「くっ、これではお姉様のことを言えなくなりますね。ふぅ、分かりました。代わりと言っては何ですが、多少の手ほどきをしてもらっても?」

 

「構わないといいたいところなんだが、もう少しで奥の手その2が完成しそうなんでな。それの最終調整に時間をかけたいんだよ」

 

「奥の手、その2ですか」

 

「その1は超限定的で現在使用不能だからな。その2は普段使いになるが、これが完成した暁にはオレは、兄上を上回る力と汎用性を得ることになる。生まれつきの才能を努力でねじ伏せる。くくく、これほど心が沸き立つことは珍しい」

 

珍しくリアンが興奮と自信に満ち溢れている顔をしている。昔から作った笑顔はよく見せても感情に従った表情を見せることが少ないリアンのその顔に下腹部が熱くなるのを感じますが我慢です。後で貪り尽くさせて貰います。

 

「それにしてもルシファー様を超える、ですか。それはどういう?」

 

「説明は難しいな。理論上は行けるはずなんだが、制御に手こずっている感じだ。だが、制御が完璧になれば絶対的な汎用力を得ることになる。滅びの魔力をただ目の前のものを滅ぼすことにしか使えない兄上には絶対に踏み込めない領域だ」

 

「具体的には?」

 

「う〜ん、見せたほうが早いな。とは言っても3割程度しか成功しないんだよな」

 

そう言ってリアンが見せてくれた奥の手は、絶対的な汎用力を持った既存を超越した極みとも言えるものであった。これを完全に扱えるようになれば、史上3人目の、いえ、もしかすればルシファー様が転落する可能性すらあった。

 

ルシファー様のは言っては悪いがバアル家の滅びの魔力が極端に大きいだけと言える。色々とブーストを掛けまくれば理論上は再現可能だ。それに対してリアンの奥の手は再現はほぼ不可能だ。才能を努力でねじ伏せると言っているが、生まれつきのセンスがなければ再現は出来ないだろう。逆に言えば滅びの魔力とセンスさえあれば、莫大な努力を元にたどり着ける領域でもある。

 

その分、危険も少なくない。リアンのことを危険視する者も必ず出てくる。だが、気付いた時には既に遅いのだろう。三人の協力者によってリアンの計画は更に加速している。リアン以上に悪魔らしい悪魔はいないだろう。私も悪魔(リアン)に魅了されてしまった口だからだ。誰にも止めることは出来ないのでしょうね。

 

 

 

 

 

 

 

あ〜、泥まみれで隠密行動なんて前世以来だな。

 

『見えるか、リアン坊』

 

直ぐ側にオレと同じようにザトゥージも泥まみれで匍匐状態でいる。隠密行動中のために短距離念話で話しかけてくる。

 

『200m先、1時40分の方向、高さは1mちょいって所か?』

 

『そうだ。幼体だが、あれが擬態中のオオナズチだ。アレがあと4倍ぐらい大きくなると平均だ』

 

眷属の使い魔候補をザトゥージに案内してもらっているのだが、相変わらずザトゥージのオススメはやめたほうがいいな。初心者に扱える相手じゃない。

 

『アレの4倍かよ。龍にしては小さい方だな』

 

『その分、擬態が凄いだろう』

 

『天然の光学迷彩は恐れ入ったな。おい、目があったぞ』

 

『逃げるぞ!!』

 

匍匐状態から素早く立ち上がり背中を向けて走る。オオナズチは光学迷彩のままこちらに走ってくる。

 

『注意点は!!』

 

『カメレオンが毒を吐くと思え!!』

 

カメレオンが毒を吐くってことは注意点は舌か!!微かに聞こえた風切音に合わせて飛翔する。あまり高く飛ぶと他の龍に気付かれるために高度は低く滑空するように飛ぶ。そして目の前をオオナズチの舌が通り過ぎるのがわかった。至近距離で目を凝らせばなんとか見える程度の光学迷彩なのだろう。森でなければもっとはっきりと見えたかもしれない。

 

『ザトゥージ!!こいつは狩っても良いのか!!』

 

オレの前を走るザトゥージに確認を取る。

 

『保護対象だ!!殺さない程度に撃退してくれ!!』

 

『難しい注文だなっと!!』

 

再び襲い掛かってきた舌を手刀に滅びの魔力を纏わせて切り落とす。痛みによって擬態が解けたのかオオナズチの姿がくっきりと浮かび上がる。なるほど、確かにカメレオン系の顔をしてやがるな。

 

『距離を一気にとる!!リアン坊、しっかり付いてこいよ!!』

 

『任せる!!』

 

速度を上げるザトゥージを追いかけるために木を蹴りながら羽を使って滑空と方向転換を駆使する。ザトゥージが下級悪魔にも関わらずこの森の管理を任せられるはずだ。並の上級悪魔を超える身体能力と魔物相手の絶対的な経験値を積んでいる。何より、森に慣れている。

 

今もオレ以上の速度で走っているにも関わらず、足を置く場所は必ず木の根か石の上、大型の魔獣の足跡のみである。自分の足跡を残さない。森で行動する上での常識だ。足跡ほど存在をひけらかす物は存在しない。ついで匂い、音と続く。体臭を誤魔化すために全身に泥を塗りたくり、同時に迷彩を施す。音は草や葉に触れないように身を捩り、巧みな体重移動によって着地音を消す。

 

素で戦っても十分に強いだろうが、どちらかと言えば前世のオレ達側の存在だ。だが、引き込もうとは考えない。こうやって何度も付き合っていると分かる。ザトゥージは魔獣以外に興味がないのだ。だからここの管理を任せる限りは何処にも手を出さない。そういうやつなのだ。

 

だからこそ魔獣を使い魔にするというこの森の管理人の仕事には真摯に応える。こうやって前日からおすすめできる魔獣をリストアップするぐらいにな。

 

「リアン坊、とりあえずはこんなところだぜぃ。運が良ければ渡り鳥タイプが増えるだろうが」

 

「了解した。まあ、あとは個人の感性に合う合わないがあるからな。気長に探すとしよう」

 

「じっくり探すと良い。そういうリアン坊は使い魔は持たないのかい」

 

「ああ、既にいる。紹介しよう」

 

体内に潜んでいる使い魔に合図を送る。そうすれば左腕から黒い霧のようなものが顔を出す。

 

「ゴーストの亜種ってところか?それにしては自我らしきものが残ってやがるな。ドロドロとした感覚から弱くもないな。なんだ、こいつ?」

 

「初見でよくそこまで言い当てるな。流石だな。こいつはオレの負の念を食って育つ怨獣という人工生命体だ。オレのとっておきだ。普通の使い魔の仕事はさせられないが、それは別の物で補っている」

 

無論、オレの手足たちのことだ。最近は他の流派を吸収して多様化してきてもいる上に潤沢な予算を使用して次世代の育成にも余念がない。

 

「感情のコントロールか?効率的ではあるが」

 

「余計なものまで操作されないか心配か?」

 

「そうだな。懐いてもやはり根本は違う。それが魔獣だからな。いつ本能をむき出しにするか分からん」

 

「だからこその人工生命体だ。出来る限り設定を施した上で特定の行動しかしないように調整してある。定期的に新しいものに交換もしているしな」

 

「使い捨てかよ。態々生命体を使っている理由は?」

 

「念ってのは生命体が生み出して、生命体か土地か物に定着する。どれに定着しやすいかは念の種類にもよる。また定着まで時間がかかる。その非効率を解消するのが念が定着しやすい人工生命体だ。ちなみにこいつで23代目だ。軽蔑するか?」

 

「いや、その為に生み出されたのなら使命を果たして死んで逝くのが一番だろう。命に関しては何処まで行っても対立する。そこに口を出すつもりはない。だからこちらにも口を出すな。それがオレの持論だねぃ」

 

「そうか」

 

人工生命体を再び体内に戻して念を食わせる。しっかり育ってくれよ、奥の手その3。

 

 

 

 




次ぐらいから原作に入ろうかな。


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ハイスクールD×D 照らし出す光

 

 

「ここでこうして、こうやって、こう!!」

 

時間は今までのベストを更新。

 

「よっしゃあ!!」

 

「先生、うるさい」

 

「授業をサボってるグレモリーさんに言われたくありません」

 

ゲームをセーブして電源を落とす。ベッドの一つを占領して寝ていたグレモリーさんに答える。この娘は3年になっても変わらないな。自由で不自由で傲慢で寛容で背反が両立している不思議な娘だ。これがパラドの言うメインキャラクターなのだろう。歪でありながら美しいと思えるのが特にそう思う。

 

「ところで先生、マイティの噂を知ってる?」

 

「何?裏技とか隠しコースとかは全部暴いてるけど?」

 

ゲーム機を見せながら見当違いの答えを出す。

 

「あ〜、先生に曖昧な聞き方をした私が悪かったわ。夜な夜なマイティとかゲームのキャラクターが現実に現れてるって噂」

 

もちろん知ってるさ。

 

「是非ともサインを貰いたいな。あと、握手と写真撮影も」

 

「やっぱりそういう反応か」

 

「僕に何を期待してたのさ」

 

「……小猫が先生がマイティになるところを見たって」

 

見られていたか。よし、脅そう。

 

「ふ〜ん、夢でも見てたんじゃない?」

 

グレモリーさんに背中を向けて引き出しからゲーマドライバーを取り出して装着する。ガシャットは、何方を使うか。見た目から威圧するならこちらだな。

 

「隠しても、何、それは」

 

「君には消えてもらう。僕の、オレ達の平穏な日常を荒らされる訳にはいかない」

 

マキシマムマイティXガシャットとハイパームテキガシャットを構え、両方のスイッチを入れる。

 

『マキシマムマイティX!!』

『ハイパームテキ!!』

 

同時に背後にゲームのタイトル画面が投影される。

 

「うぇっ!?一体何が」

 

驚いている隙に変身を終わらせる。マキシマムマイティXガシャットをゲーマドライバーに挿入し、ハイパームテキガシャットを構える。

 

『ガッチャーン!!レベルマーックス!!』

 

「ハイパー大変身!!」

 

ハイパームテキガシャットをマキシマムマイティXガシャットと合体させ、マキシマムマイティXガシャットのアーマライドスイッチとハイパームテキガシャットの上部のスイッチを押し込む。

 

『ドッキーング!!パッカーン!!ムーテーキー!!』

 

オレの姿がマイティアクションレベル2に変わり、頭上に現れたマキシマムゲーマに収納され、マキシマムゲーマに金色の流星が流れ込む。そしてマキシマムゲーマが崩れる。

 

『輝け!!流星の如く!!黄金の最強ゲーマー!!ハイパームテキエグゼイド!!』

 

まだ混乱が続いている内にステージセレクト機能を使用して、いつもの採石場のステージを選択する。

 

「て、転移!?何も感じなかったのに!?」

 

保健室から急に採石場に移動したことに驚いているようだな。

 

「さっきも言ったけど、知られるだけなら別に放っておいた。だけど、オレ達の日常に干渉するのならゲームを終わらせる」

 

『おいおい、永夢。巻き込まれる可能性は十分にあるって最初に説明しただろう』

 

今は僕の中にいるパラドがオレを止めようとする。だけど、今はそれを無視する。パラドは一人ぼっちだったオレの友だちになってくれた。それに厄介事も全部引き受けてくれた。それが嬉しくて、心苦しくて、手伝いを申し出たのに失態を犯した。犯したミスは自分で決着をつける。

 

『分かった。だが、殺すなよ。余計に面倒が増えるぞ』

 

分かってる。我儘に付き合ってくれてありがとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界に転生して最初に思ったのは、あの神は邪神とか悪神とかそういう類の輩だったらしい。確かに注文通りガシャットとドライバーに関する知識を与えてはくれた。そこは感謝しよう。ハイスクールD×Dの世界なのも最初にちゃんと教えてくれた。それも感謝しよう。だが、オレの体はバグスターとして、それもまともな体を構成できないほどの量のバグスターウィルスでしかなかった。あのままなら消滅していただろう。そんなオレは勘頼りに感染できる相手を探した。そして、この世界の宝生永夢を見つけた。

 

原作同様一緒に遊んでくれる友達を求めていた永夢に取り付き、ウィルスを培養させた。最初は完全に利用してやるつもりだったのだが、永夢は純粋で良い子ちゃんだった。そんな永夢に絆されて、平穏で楽しく過ごせるように脅威を排除するためにガシャットを作成して力を使ってきた。

 

それでも大学時代に一度だけ事件に巻き込まれ、永夢の目の前でパラドクスに変身して戦ったことから本人も守られるだけでは嫌だということで喧嘩にもなった。オレは戦わせたくない、永夢はオレだけに戦わせたくない。最後にはオレが折れる形でガシャットとゲーマドライバーを作成して渡した。

 

代わりにゲーマドライバーに細工を施しプロトマイティアクションXガシャットオリジンのコンティニュー機能を搭載した。これは永夢にも秘密にしてある。コンティニュー出来るからと無謀になられては困るからだ。もっともオレがそんな状況には追い込ませない。

 

十分に鍛え上げもした。大抵の相手に負けはしない。それにハイパームテキエグゼイドが負けることはない。目的を達せないことはあるだろう。だが直接的に負けることだけはない。ハイパームテキエグゼイドはそういう存在なのだ。

 

衝撃はあるがダメージはない。特殊能力の類を一切受けない。この世界で分かりやすく言えば、神滅具の攻撃をくらおうが吹き飛ばされるだけ、白龍皇の半減は無意味、滅びの魔力も無意味。世界そのもの改変と変身前に潰す以外での攻略法はない。

 

改めてチートだよな。確か無敵の主人公が無双するゲームだったか。実際に発売されたら30分ぐらいは楽しめそうだ。

 

そんな風に過去を思い返している内に決着は付いていた。ハイパークリティカルスパーキングが直撃する直前にデータを書き換えてダメージを1に固定しておく。そしてリアス・グレモリーが倒れ伏す。意識はあるみたいだな。

 

「オレ達に関わらないでくれ。この力はただ降りかかる火の粉を払うための力なんだ。君達の事はある程度知っている。だからこそ余計に僕達を巻き込まないで欲しいんだ」

 

『落ち着いたか、永夢』

 

『ごめん、パラド。大丈夫だよ』

 

『いいさ。オレはお前でお前はオレなんだ。苦労なんかは二人で半分ずつ、楽しさは二人で倍に。それがオレ達だろう』

 

『そうだね。ありがとう、パラド』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから暫くの間は永夢に付きっきりでリアス・グレモリー達が何か仕掛けてくるかを警戒していたのだが、どうやらオレ達のことには触れない方針でいてくれるようだ。それならいいさ。原作も始まったみたいだしな。兵藤一誠は悪魔へと転生した。しばらくすればアーシア・アルジェントも悪魔に転生する。オレ達は介入するつもりはないが、コカビエルの時ぐらいはこっちもヤバイから介入する可能性はある。それまではゲームを楽しもうぜ。

 

毎日のように通っているゲーセンでドレミファビートのランキングを確認する。此処の所、このゲーセンのランキングにオレと永夢以外の名前が乗ることがたまにある。それを塗りつぶす作業だ。パーフェクトを出し、スコアが同じ場合は新しい方のスコアが優先される。そのシステムを利用して蹴落とす。

 

「見つけたッス!!毎日のようにウチの記録を潰してまわってるのはアンタッスね!!」

 

ちょうど記録を塗り替えた所で背後から声をかけられる。マナーを守ってるのは良いのだが、ここでは声を大きくする必要がある。

 

「外に出るぞ。周りの迷惑だ」

 

ゲーセンの中では声を大きくする必要がある。それを避けるには外に出るのが一番だ。それに気持ちを切り替えるには一番だ。なんでこいつがゲーセンに入り浸ってるんだよ。外に移動して近くの自販機からオレンジジュースを購入する。もう一本購入して投げ渡す。

 

「とりあえずは自己紹介だ。オレは天才ゲーマーコンビ『MP』のP、パラドだ。一番得意なのはパズルゲームになるな」

 

「知ってるッスよ。コンビで年収2億円以上と言われる天才ゲーマー。その伝説はウチが破ってみせるッス。ギリギリチャンバラで勝負!!」

 

「面白い、良いだろうと言いたい所だが、ここのギリギリチャンバラの筐体は劣化が酷くてな。主にオレとMがやりすぎたせいなんだが。店を変えよう。隣町まで行くぞ。幻夢コーポレーションの店があるからな。時間は大丈夫か?」

 

「あ〜、今日は微妙ッスね。偶々見かけてとりあえず声をかけただけッスから」

 

「日によってはMも来れるはずだ。オレ達コンビに勝てるかな?」

 

「ふん、絶対に勝って最強ゲーマーの座を奪ってやるッス」

 

「ふふっ、いいぜ、オレを熱くさせてみろよ」

 

「ふふん、Pもそうっすけど、Mにも勝ってゲーマー界でMと言えばウチのことを指すようにしてやるッス」

 

「ほうMをねぇ」

 

「あっ、自己紹介がまだでした。ウチはミッテルト。これでも成人してるんすよ」

 

まあ、人外だからな。見た目と年齢が合わないのは知っている。見た目と年齢が合ってるのもいるけど。

 

その日は連絡先を交換して別れ、次の土曜日にMと共に返り討ちにしてやった。人外のスペックでかかってくるのかと思えば、人間に合わせたスペックのみで己のセンスと努力でゲーマーとしての実力をつけてやがった。たまに大会に賞金目当てで参加している人外がいる。それらを真っ向から潰してきたオレ達に食らいつく時点でこいつはすげぇやつだ。チョイ役とは思えないぐらいにな。気に入った。だから、こんなことをしている。

 

「よう、ミッテルト」

 

「パラド!?どうやってここに来たんすか!?」

 

「はん、これでもオレも人外でな。この世でひとりぼっちの種族、バグスターだ。オレの能力を使えば忍び込むなんて分けないのさ」

 

旧校舎を覆うように張られている結界内に最初から忍び込み、実体化したオレを見てその場にいた奴らの動きが止まる。

 

「なんで来たんすか」

 

「永夢の奴がおせっかいであのシスターを助けに行ってな。オレもミッテルトを、楽しませてくれた礼に最後ぐらいは楽しいゲームで生を終わらせてやろうと思ってな」

 

「助けてくれるとは言わないんすね」

 

「助けてやってもいいが、これからもクソみたいに使い捨てにされ続けるぞ。それ位なら最後ぐらい楽しんで死ね」

 

「ははっ、厳しいッスけど、優しいッスね」

 

ゲーマドライバーを装着し、ガシャットギアデュアルを装填する。

 

『The strongest fist! What’s the next stage?』

 

「マックス大変身!!」

 

パネルを開く。

 

『マザルアップ!赤い拳強さ!青いパズル連鎖!赤と青の交差!パーフェクトノックアーウト!』

 

現れたスクリーンを潜ると共に仮面ライダーへと変身を終える。ゲーマドライバーを見た時点でリアス・グレモリーが少し怯えていたが、パラドクスの姿を見て若干安心したようだ。

 

「さっきのスタート画面はパーフェクトパズルとノックアウトファイター。それにその姿は」

 

「仮面ライダーパラドクス パーフェクトノックアウト。これがオレの力だ」

 

ステージセレクト機能を使ってミッテルトだけをギリギリチャンバラのステージに引きずり込む。

 

「ここは、ギリギリチャンバラのステージ?」

 

「そうだ。ミッテルト、後悔を残すなよ」

 

パネルからガシャコンブレイカーを選択してAボタンを押して構える。ミッテルトも光で自前の刀を作り出す。

 

「いいっすね~、コンティニューが出来ないギリギリチャンバラッスか。ゲームだからこそ真剣に」

 

「一度しか出来ないからこその楽しみ」

 

「「燃える」ッス」

 

同時に駆け出し一瞬の交差、それで終わった。ミッテルトは鮮血を流しながら倒れ、オレのライダーゲージのメモリが減る。タイミング的にはミッテルトの方が速かった。手加減したつもりはない。つまりあの一瞬だけ、ミッテルトはレベル99を超えるだけの力を発揮したのだ。

 

「オレの負けか」

 

振り返りミッテルトに近づくとまだ息がある。側に寄って抱き起こす。

 

「へへっ、ウチの、勝ちッスね」

 

「そうだな。オレの負けだ」

 

「やっぱり、ゲームは楽しいッスね」

 

「ゲームは誰かを楽しませるためにあるものだからな」

 

「そうっすね。ウチも、随分、楽しませてもらって」

 

そこまで言った所でミッテルトが泣きながら溜め込んでいたものを盛大に吐き出す。

 

「ウチは、楽しいことが、したいだけだったのに!!誰にも迷惑をかけずに、ゲームで!!楽しんだだけで堕天させた神なんてクソ食らえ!!堕天使だからって反社会的だと決めつける奴らなんて全部滅びろ!!誰も傷つけたくなんてないのに!!」

 

そういうことか。この世界のミッテルトは弱くはないんだ。ただ誰も傷つけたくない心が力を発揮させないだけなのだ。オレが死なないと分かったからこその一撃がさっきの斬撃だったんだな。このまま治療するだけならエナジーアイテムの回復を与えれば大丈夫だろうが、それでは完全にはぐれの堕天使になってしまう。ならオレに出来るのは一つだけだ。

 

「ミッテルト、バグスターとして生まれ変わるつもりはあるか」

 

オレはプロトガシャットを取り出して尋ねる。

 

 

 

 

 

 

 

廃教会の前に兵藤君と木場君と塔城さんがいるのを見つけてバイクを側に止める。

 

「宝生先生?なんで此処に?」

 

「まあ、君と同じ理由になるのかな、兵藤君」

 

「オレと同じって、アーシアを?なんでそれを知っているんですか」

 

「僕の相棒が教えてくれたんだ。ちょっとしたおせっかいかな」

 

パラドが言うには相手はこちらの話を聞かない狂信者ばかりで治療は不可能だそうだ。だけど、相手は人間だ。命を奪うことまではしたくない。

 

「さて、ちょっとだけ準備をさせてもらうね」

 

ゲーマドライバーを装着してマイティアクションXガシャットのスイッチを入れる。

 

『マイティアクションX』

「変身!!」

 

ガシャットをゲーマドライバーに装填して展開されるキャラクターパネルからアクションマイティを選択する。

 

『レッツゲーム!!メッチャゲーム!!ムッチャゲーム!!ワッチャネーム!?アイム ア カメンライダー!!』

 

「本当にマイティに変身するんだ。著作権的に大丈夫なんですか?」

 

「ああ、幻夢コーポレーションって僕の相棒の会社だから。このゲーマドライバーも相棒が作ったものさ」

 

一人ぼっちだった僕と友だちになってくれたパラド。最初は打算的な目的があって僕と友だちになったって後から正直に話してくれたけど、それでも良かったんだ。打算的であったとしても、寂しい思いをせずに済むようになったから。パラドに出会ってからは特にそう思う。ゲームをしてもパラドは僕に付いてきてくれた。いつの間にかゲーマー界のトップみたいに扱われるようになってもそれは変わらない。出会った頃に書いていた子供のぼくのかんがえたげーむを作る会社も建てて一緒に遊んでくれる。

 

そんな貰ってばかりの僕はパラドの好きなものをあげたいって思っている。そしてパラドの好きなものは笑顔。誰の笑顔でも良い。ただ笑顔で楽しそうにしている人達をみたり、一緒に楽しむことが何より大好きなんだ。だから、一番多感的でその後の人格形成や交友関係を気づきあげていく学生たちの力になりたいと養護教諭への道を進んだ。

 

カウンセリングの資格も持っているから多くとはいえないけど、笑顔になれない子に笑顔になれるように。出来る限り力になってきた。だけど、そんな子たちを裏で食い物にしている奴らもいる。それに対抗するための術をパラドは用意してくれた。その力で今回はあのシスターを救う。それだけだ。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

そう言って教会の扉の前にまで移動して扉を背にする。

 

「何をするんですか?」

 

塔城さんが首を傾げながら尋ねてくる。兵藤君は僕が何をするのか気付いたようだ。

 

「あの、もしかしてアレをするんですか?」

 

「そうだよ。と言うわけで場所を開けててね」

 

場所を開けてもらってから壁に向かって走り、壁を蹴った勢いを使って跳ねるように転がりながら教会のドアを吹き飛ばして中にいた神父も跳ね飛ばす。だが、運が悪いことに突っ込んだ先に地下への道があった所為でそのまま地下へと転がっていき、その先にある広い空間まで転がり込む。そしてそのまま転がっていき、十字架に激突して折ってしまった。そしてそれに縛り付けられていたシスター、アーシアさんをキャッチする。

 

「一体何なのよ!?」

 

隣で黒い翼が生えた女性が怒鳴っている。堕天使の仕業か。とりあえずはアーシアを逃さないと。側にあるブロックを壊して中からエナジーアイテムを取り出す。

 

「よっしゃあ、高速化GET」

 

運が良いことに手に入った高速化を使って入口に向かって跳ねる。空中で足元にチョコブロックを精製しながら跳ねる。ちょうど入り口に当たる部分まで戻ると兵藤君達もやってきた。

 

「よし、早くアーシアさんを逃してあげて」

 

兵藤君にアーシアさんを渡してガシャコンブレイカーをパネルから選択して取り出す。

 

「いや、先生、相手はあの数なんですよ!?それにそんなリーチの短さでハンマーって」

 

「そこまで心配することかな?まあ、安心できないって言うなら、だ〜い、変身!!」

 

僕を心配する木場君を安心させるためにゲーマドライバーのレバーを開く。

 

『ガッチャーン、レベルアーップ!!マイティジャンプ、マイティキック、マイティマイティアクション!!エックス!!』

 

スクリーンを潜り抜け、2等身から通常の等身へと戻る。このレベルアップに木場君達以外に神父服の男たちや堕天使の動きが止まる。

 

「これで問題はないでしょ。さあ、ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

アーシアを助けてから数週間の時が流れた。アーシアは宝生先生のツテで幻夢コーポレーションに入社して働いている。今日は、新入社員には自社のゲームがどんなものなのかをちゃんと理解してもらうために幻夢コーポレーションのゲームセンターのクーポン券が渡されるのでアーシアに誘われて隣町のゲームセンターに向かっているのだ。

 

「アーシア、新しい生活は大丈夫なのか?」

 

「はい。皆さん良い人ばかりですし、しゅらば、ですか?そういう時期じゃなければ大丈夫だってパラドさんが言ってました」

 

「パラドさん、先生の相棒のバグスターだっけ?」

 

「あまり詳しくは教えてもらえませんでしたけど、悪魔や天使みたいな括りで言うとバグスターって種族で世界のバグで生まれたとだけ聞きました。パラドさんは宝生先生と一緒に遊べるならそれでいいって」

 

そんな話をしながらゲームセンターに入ってみるとイベントでもやっているのか一角にものすごい人だかりが出来ている。確か前に来た時はギリギリチャンバラが置いてある場所だっけ?気になったのでアーシアと一緒に向かってみると見知った姿がギリギリチャンバラをクリアしているところだった。

 

「疾っ!!」

 

ラスボスの必殺の居合をしゃがみながら鞘で上方に反らし、返しが来るまでの一瞬での抜刀でラスボスの刀を切り捨て、返しで胴体を薙ぎ払うゴスロリ服を着たプレイヤー。周りからノーコンティニューでクリアしたことに賞賛の拍手が上がる。

 

「どうもどうも〜」

 

周りの観客に手を振り、こちらに気付いて思いっきり手を振る。アーシアも振り返す。なんであいつにそんな風に笑顔で手を振り替えせるんだよ。あいつは、あの堕天使はアーシアの命を狙ってたんだぞ。それに死んだはずだ。部長達が目の前で消滅するのを見ている。それなのに何故!?

 

アーシアも話がしたいのか休憩スペースまで移動する堕天使の後を追う。

 

「ウッス、ウチはミッテルト。堕天使を止めてバグスターになったからそこんところよろしくッス」

 

「そんな簡単に種族をやめれるのかよ!?」

 

「そういうアンタだって人間やめて悪魔やってるじゃないッスか」

 

そう言われると言い返せない。

 

「ああ、ちなみにウチはしがない下っ端でレイナーレさんの命令で仕方なく敵対していたわけで、めんどくさい柵がなくなった今は自由気ままに当分ヒモ生活ッスね。バグスターの体にも慣れる必要があるッスから。見た目はともかく中身は全然違うッスからね。完全なパワーアップってわけでもないッスけど、弱くなったかと言われれば答えはNO。色々試すのにはギリギリチャンバラとかバンバンシューティングが結構使えるッス」

 

どちらも幻夢コーポレーションが玄人向けに開発したゲームだ。世間で一流だと言われる古武術の先生や色々な勲章を持つ軍人よりもゲーマーの方が成績を出せる。文句は多く寄せられたが

 

『ゲームだからこそ真剣になれる。ゲームだからと慢心した結果が君達(大人)のスコアだ。大人が子供のようにみっともなく泣きわめくんじゃない』

 

その一言が世間を味方に付けた。何方のゲームも何度もゲームオーバーになりながら攻略方法を身につければそこそこまではクリアできるようになっているのだから。

 

「さっきのギリギリチャンバラも感覚がずれてるせいで最後に鞘で弾くモーションを入れる必要があるって分かっただけ収穫物ッスよ。前までなら向こうの居合を居合で切り捨てるなんて出来たのに」

 

「はぁっ?ちょっと待てよ!!お前、まさかレイナーレより強いのか!?」

 

「ウチ、グリゴリの中じゃ下からより上から数えたほうが早いッスよ。レイナーレさんは下から数えたほうが圧倒的に早いッスけど。まあ、一定以上の障壁を張れる相手には勝てないッスけど」

 

いつの間にかその手には光の刀が握られていて、服に隠れていない部分の肌の産毛が飛び散る。認識できないほどの速度であの刀で剃られたのだとようやく気がついた。

 

「こんな具合っすね。女の子とのデートなんスから身だしなみはちゃんと整えておくッスよ」

 

「そんなデートだなんて」

 

アーシアが照れて顔を赤くしているが、オレの顔は逆に青くなっているだろうな。ミッテルトが本気だったら何も分からずに首が飛んでいた。光の刀はまたいつの間にか消えている。

 

「……何が目的なんだ?」

 

「楽しくゲームで遊ぶ。それだけッスよ。それじゃあ、バイバ〜イ。また何処かで」

 

休憩スペースから離れていくミッテルトをオレは見送ることしかできなかった。あの時もそうだ。宝生先生のエグゼイドがはぐれの神父達を倒す中、オレ達は何もできなかった。もっと、オレに力があれば……ちくしょう。

 

 

 



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ハイスクールD×D 革新のリアン 5

久しぶりの更新です。
とりあえず、1巻の終盤辺りまで。



また人外が結界に引っかかったか。いつも通りの手順で警告が行く。それを無視するまでは良い。普通に領地内で暮らしたりする分も良い。勧誘はギリギリだ。それ以上を行おうとした時点で排除して証拠の一切を消し去る。いつも通りだ。

 

手足の長からの定期報告を読みながらコーヒーを啜る。最近になって懐かしの黒い泥水をようやく発見することが出来て上機嫌なのだ。未だにこんなものが生産されていたとは知らなかった。最近の軍隊でもここまで酷いものは飲まれていないだろう。ボードゲーム同好会でも大不評でオレしか飲まない程だ。オレは前世で慣れ親しんだ味だからこちらのほうが落ち着く。こいつと至近距離からの拳銃を受け止めて砕けないハードビスケットがオレ達のお供だったからな。

 

切り崩しは進んでいるな。よしよし、証拠もこれだけあれば言い逃れは出来ないな。別件でテレビ局の買収も出来ている。予算が豊富って最高だよな。色々とやりくりで頭を悩ませる必要がないって楽だわ。

 

計画を更に細かく修正している最中、少し前から領内にいる堕天使の一人が神器持ちに接触したと報告が入った。相手は、三エロの兵藤か。多少、龍の気配も感じられたからな。それに惹かれたか。中忍一人に下忍四人を護衛に当たらせる。それからバラキエルのコネで手に入れたアザゼルへのホットラインをつなぐ。

 

「久しぶりだな、アザゼル」

 

『おぅ、リアンか。どうした?』

 

「オレの管理する地域に不法に滞在する中級1、下級3の堕天使の集団が神器持ちに接触した。場合によっては排除するが構わんな?」

 

『あ〜、穏便に回収する可能性は?』

 

「対象は高校生、至って健康体。よほどのことがなければ死ぬのは当分先だな」

 

『分かった。現行犯でならこっちは文句はない。警告はしてるんだろう?』

 

「当然だ。おとなしくしていたから放っておいたが、はぐれ神父も揃え始めている。排除は決定事項だが、話を通しておくのが筋だろう」

 

『そうだな。さっきも言ったが、現行犯でなら文句はない。どう扱ってもかまわない』

 

「了解した」

 

通信を切り、手足に伝えておく。前世からの占星術に用いる札を取り出して兵藤の先を大まかに見る。

 

「戦いの神、命の女神、戦いの女神、恨みの神、妬みの女神、道化の神。中々楽しい結果だな」

 

英雄の相が出ている。今時の人間には珍しい相だな。だが、道化の神で微妙にぶれているな。場合によっては昔のオレ達のように堕ちるな。禍の団には人間だけで構成された部隊があったはずだ。堕としようはいくらでもあるな。囲い込むか?一旦は保留にしておくか?監視に留め置くか。

 

一応、ソーナにも伝えておくか。警戒はしてもらわないとな。釣りを行われたらたまらない。

 

 

 

 

 

 

 

それは一瞬のことだった。夕麻ちゃんがオレに死んでくれとか言って、光の槍のようなものが現れた瞬間、光の槍を握る腕に苦無のようなものが大量に突き刺さり、御札が張られてる鎖分銅のようなものが夕麻ちゃんに巻き付いていき、引きずり倒す。

 

「堕天使レイナーレ、我らが警告を無視し、あまつさえ一般人に危害を加えようとした貴様の罪は重い」

 

オレの背後から漫画なんかの忍者じゃなくてちゃんと忍んでいる忍者が姿を表した。よく見れば、鎖分銅の先にも忍者達が居た。

 

「貴様の処分は主がお決めになる。連れて行け!!」

 

「「「「はっ!!」」」」

 

鎖分銅を持っていた忍者とともに夕麻ちゃんが一瞬で消え去る。

 

「な、なんなんだよアンタ達は!?」

 

「我らはこの地を管理する主の手足。詳しくは明日、主に直接会って聞け。お前は狙われやすい。奴はそれを狙ってお前に近づいた。それを覚えておけ」

 

それだけを告げてオレの背後から現れた忍者も一瞬で消えてしまった。夢だったのかと思ったが、血溜まりを見て夢じゃないとはっきり理解させられる。その日は、家に帰ってそのままベッドに倒れ込んだ。翌日も学校には登校したけど、ずっと上の空だった。そして放課後、帰ろうとした所で先生に呼び止められた。

 

「生徒会から呼び出しだ。調子が悪そうだが大人しく行って来い」

 

「分かりました」

 

生徒会室に向かい扉をノックする。

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

生徒会室に入ると、生徒会長以外に学園では有名な先輩が待っていた。

 

リアン・グレモリー先輩。紅い長髪を三つ編みにして垂らし、物腰が柔らかく、動作の一つ一つが洗練されていながら、趣味がボードゲームやカードゲームで付き合いやすい。顔も良いし、金持ちだし、ほぼ万能な人だ。欠点らしい欠点は泥水のようなコーヒーをよく愛飲していることぐらいじゃないかと言われている。

 

「よく来てくれたな。昨日のことをちゃんと受け止めているようだな」

 

そんな先輩の口から出た言葉に背筋が凍る。

 

「緊張するなとは言わない。まずは座って、それから君が知りたいことを教えよう」

 

口調はいつもと変わらない。だけど普段の柔らかさも暖かさもない言葉にただただ静かに従う。

 

「さて、まずは秘匿されている常識の説明をしておこう。悪魔や天使や堕天使、龍、妖怪、神、そう言った神話なんかや昔話に出て来る存在、それらは全て実在している。まあ、話が盛られているものも数多いがな」

 

「えっと、新作のボードゲームのサマリーですか?」

 

「残念だが、今月は宇宙商人物だ。それと現実逃避は良くないな。昨日、オレの手のものが間に入らなければ死んでいたぞ」

 

そう言ってリアン先輩の右手に黒い靄のような物が集まり、つまみ上げた紙がボロボロに朽ち果てていく。

 

「見ての通り、オレもこんなことが出来る。とりあえず、事実として受け止めてくれ。話が続けられないからな」

 

「は、はい」

 

「では続ける。なぜ命を狙われたのか。それは神器が関わってくる」

 

「神器?」

 

「人間だけに備わることがある特殊能力を秘めた道具、それが神器だ。宝くじが当たったとでも思えばいい。殺してでも奪い取られる可能性がある宝くじだがな」

 

「……ネタですよね?」

 

「兵藤一誠はねんがんのアイスソードを所持していたのが発覚した」

 

どこからともかくフリップボードを取り出す。そこには

 

そう かんけいないね

=>殺してでも うばいとる

ゆずってくれ たのむ!!

 

「馬鹿をやっていないでちゃんと説明してあげなさい」

 

生徒会長にツッコミを入れられて渋々フリップボードを先程の紙のようにボロボロにして片付ける。

 

「一般人相手に説明って難しいんだよな。まあ、冗談でもなく真面目に神器を持つ限り命を狙われる確率が高くなる。駒王の地にいる限りはオレの手のものが護衛につける。陰ながらだがな。急に近づいてくるやつが居たら警戒しろ。初手ぐらいは躱してくれると助かる。ちなみに後2人、昨日の堕天使の仲間が居るからな」

 

懐から2枚の写真を取り出して見せてくれる。この季節にコートを来て帽子を被っている中年ぐらいの男と青い髪の仕事のできる女の写真だった。

 

「他にも居たが、昨日の様子を見ていて自首してきてな、中々肝も据わっていて期待できる逸材だった。くくっ、鯱には笑わされたぜ」

 

「私は何も言えなかったわよ。何よ、鯱って」

 

「一体何が?」

 

「自首してきた時にオレの手のものがロープでぐるぐる巻きにしててな、脅しながら最後の言葉ぐらいは聞いてやろうと言ったらちょっとロープを緩めろってな。そんで緩めてやったらうつ伏せの状態で足を上げて鯱ってな。笑わせてもらったよ。殺されるかもしれない雰囲気の場で一発ネタだ。後で聞けば自分が殺される可能性は低いはずで、けど、尋問で精神的に疲労してポカをするぐらいなら先に場を壊してしまえばなんとかなると思ったそうだ。見事に読みきったそいつは街から離れたよ。再就職先を紹介してな」

 

「就職先?」

 

「人外でもな、ある程度の知能があると最終的には人間とほぼ変わらない社会構成になるんだよ。更に言えば人間社会よりも厳しい。生まれで殆どが決まる。努力で何とかするやつも居るが、能力の上限を破ることは難しい。下っ端はよほどの運がなければ上には上がれない。上のやつに目を付けてもらえないとな。その一発逆転にアイスソードを」

 

「そのネタを引っ張るのは止めなさい」

 

「まあ、宝くじを賄賂に上に上がろうとしてるんだな。覚醒させていなければ遅れを取る可能性は低いから。それでめでたく狙われたってわけだ。オレの管理する土地でよかったな。他の奴の管理地なら死体が一個増えて終わりだ」

 

「まじですか?」

 

「まじ。そこだけは運が良かったな」

 

リアン先輩が笑っているが、目だけは笑っていない。

 

「さて、危機はまだ去ったわけでもないし、今後も狙われることが確定している。オレもいつまでこの土地を管理しているか分からない」

 

「私もですね。長くとも、2年か3年というところでしょう」

 

「そんな、じゃあ、オレはどうしたら」

 

「いくつかあるが、どれを選ぶかは任せる」

 

「ほとんど選択肢が無いようにも思えますが、まずは神器を覚醒させるか、させないかでしょうね」

 

「覚醒させるメリットは物によっては価値が上がり自力で生き残れる確率が増える。デメリットは価値が上がればそれだけ殺してでも」

 

「奪い取ると。覚醒させない場合は逆でいいんですか?」

 

「そうなるな。まあ、しょっぱい物が出れば逆に安全にもなるんだが、さっきも言ったとおりアイスソードなんだよな」

 

「つまり、貴重で強力だと」

 

「龍の気配が感じられるからな。一番しょっぱいのだと大丈夫だろうけど、覚醒前から龍の気配を感じるから最低でも五大龍の1個下か」

 

「それってどれぐらいすごいんですか?」

 

「現在確認されている龍系統の神器が32種、ランクとしては4段階あって一番上のランクの下位は確定。ランクがもう一つ下ならまだ安全だったんだがな。分かりやすく言えば、SR以上確定ガチャを回す感じだな」

 

「急にしょぼくなった気がするんですけど」

 

「分かりやすさを優先したからな。とりあえずガチャを回す時間だな」

 

 

 

 

 

神器ガチャにスキップ機能を搭載するための魔法陣を敷いてその中に兵藤を立たせる。

 

「ええっと、どうしろと?」

 

「準備は既に出来ている。まずは深呼吸、緊張していてもどうにもならんからな。落ち着いたら右手を上げろ。それからゆっくりと下ろす。最後に自分が最も強いと思うものを強く心に思い描け」

 

本来なら黒歴史も更新しなければならないのだが、術式をオレが更新したためにそこはカットできる。兵藤がオレの指示通りに動き、左腕に籠手が現れると同時に圧倒的な龍の気配に頭を抱える。

 

龍の籠手(トゥワイス・クリティカル)?」

 

「SR以上確定でHR下位なんて出るわけ無いだろうが。最悪だな、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)だ」

 

「よりにもよってURですか」

 

ソーナが頭を抱える。兵藤がオロオロしているが、こっちがしたい。アザゼルの元に白龍皇がいて戦闘狂の脳筋だと情報は来てるんだよ。こいつら二人共殺して十数年の猶予を得た方が良い気がしてきた。兵藤はまだ説得したり身内に引き込むのが楽だから良い。巨乳の女を宛てがっておけば良いんだからな。調教したレイナーレでも良いぞ。今は色々な薬の実験体になっているから人形みたいな状態で引き渡すことになるだろうが。

 

「ええっと、結局どういう状態なんですか?」

 

「アイスソード以外にアルテマウェポンとロトの剣を確定ドロップするレベル1の村人。盗むだけで済んだら一生分の運を使い切ったと言っていいな。基本的にぶんどるしか使えないやつのほうが多いから。ぶっちゃけ処分した方が楽でいいかと思い始めてる」

 

わざとらしく指を鳴らしながら結界を生徒会室に張る。部活動に励む生徒の声が聞こえなくなり、兵藤が慌て始める。

 

「言い残すことはあるか?」

 

右手に魔力を集中させて滅びの魔力を視認させる。急いで扉を開けて逃げようとするが鍵がかかっているように開かないことに諦めたのかオレに向き直る。

 

「死ぬ時は、でっかいおっぱいに包まれて死にたかった」

 

「ネタなのか本音なのか分からないのを遺言にするんじゃないの」

 

精々強めのデコピン程度の威力にまで絞った魔力を飛ばして脅しを終了する。結界は解かない。

 

「さて、真面目に面倒だな。兵藤、選べる道は2つだ。本当に死ぬか、それとも悪魔に転生して死んだ方がマシだと思える修行をして生き残るか」

 

「一択にしか聞こえないんですけど」

 

「ああ、じゃあ、もう一つ、悪魔に転生せずに死んだほうがマシ、むしろ殺せーと叫びたくなるような地獄を通り越した何かをして生き残るかだ。いや、待てよ。むしろショッカーもドン引きするほどの大改造もあるなぁ」

 

「ひいぃぃ、どんどん酷くなっていってますよ」

 

「う〜ん、簡単に説明すると種族差のポテンシャルの違いが原因でな。ソーナでも普通にりんごを握りつぶせると言えば分かるか。それで強いかと言われればソーナは後衛だ。後衛の中では力は強い方だが前衛に比べれば大したことではない」

 

「ちなみにリアン先輩は?」

 

「後衛寄りだが、別に前衛をやれないことはないし、斥候職もやれる。ゲームで言うと、デバフが充実している魔法剣士が一番近いか?」

 

「どちらかといえば呪術の使える忍者では?真正面からでも下位職の前衛ぐらいなら完封できるでしょうが。ああ、ちなみに私は攻撃系の魔術師ですよ。あとは護身用に多少ですが剣を扱える程度です。眷属には剣士、拳士、攻撃系魔術師、人狼などですね」

 

「オレの方はオレの下位互換、剣士、仙術使い、デバフ持ちの後衛だな。それとは別に忍者集団もいる。昨日、見たと思うが彼らだ。ちなみに人間だからな。戦国時代以前から存在している皇室直属だったんだがな。まあ、時代の流れで皇室警護から外され、同じく衰退していた伊賀とか甲賀とか日本全国のそれらが集合したのを金と評価を与えてまとめ買いした」

 

「まとめ買いって、一体幾らつぎ込んで?」

 

「うん?そうだな、ざっと3兆程を一括払いだな。安い買い物だったな」

 

3兆と聞いて兵藤がフラフラとしているが、安いだろう?一定水準以上の能力を持った裏の仕事が出来る組織、構成員は800人ほどで家族を合わせても2000人程の人材を高々3兆ドルで手元におけるんだから。現在も規模は拡大中だしな。

 

問題はその中に何故かメタトロンが混ざっていたことだ。忍者に興味があって忍者の修行をしていたそうだ。さすがにメタトロンに仕事は任せられないのが、こちらの仕事に干渉しないのを条件に忍者の修行を続けている。予算が潤沢になって修行の質が上がったことに喜んでいたな。

 

「えっと、悪魔って儲かるんですか?」

 

「個々人の才能によるな。グレーゾーンを突っ走るのは大得意だ」

 

伊達に10年以上傭兵旅団を率いていない。

 

「まあ、眷属だと結構金も地位も名声も得やすいな。力さえあれば」

 

「最終的には力ですか」

 

「人間だって変わらないだろう?金か地位かコネで殆どが決まる。野球の勝者はルール整備を行ってそれに従わせている野球協会だろう?」

 

「あ〜、確かに」

 

「重犯罪を犯そうが、金を積めば味方になってくれる弁護士がいる。奴らは詐欺師に近いぞ。それに勝つには裁判官を買収するしかない。脅迫でもいいぞ。裁判で一番力を持っているのは裁判官だからな。将を射んと欲すれば将を撃ち殺せだ」

 

「それって将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、じゃあ?」

 

「それは力のないやつの発想だ。騎馬で駆けてくる将を射れないから射やすい馬を射ることで落馬させ、そこを討ち取るんだからな。そんなことをするならマシンガンで将も馬も纏めて始末すればいいだろうが。一足飛びでどうにか出来るならどうにかする方がいいに決まっているだろう?まあ、最終的には勝てば良いんだよ。勝ち方にこだわる必要があるなら、また違う手を使うがな」

 

「話がまたずれてきてますよ。兵藤君、運が悪かったとは思いますが転生して死んだほうがマシだと思える修行を行うのが幸せをつかめる唯一の方法です。その他では途中で楽になりますよ」

 

「死んで楽になるっていうことですよね、それって!?」

 

「死んでもすぐなら悪魔に転生させることは出来ます。その後は再び地獄以上の何かを見るでしょうが」

 

「それだけ厄介だと理解しろ。お前はもうハイリスク・ハイリターンな生き方しか許されなくなった」

 

「リスクのヤバさは理解できたんですけど、リターンは?」

 

「そうだな。まず、金に困ることはなくなるだろう。リスクを跳ね除け続ける限りは幾らでも積んでやる。領地も分け与えるし、優秀な代官も用意しよう。特に指示を出さなくても利益だけが懐が入るようにしてやる。それから、ハーレムを作るのが夢だと言っていたな。悪魔の法に背かない範囲、力づくとかは許されないが、それ以外なら大抵が許されるし、強いとモテる。そこは努力次第だ。ああ、奴隷は許されていないが裏道はある。必要なら言えばいい。昨日のレイナーレ、天野夕麻だったか?アレが欲しいと言うなら処理を施した後にやってもいいぞ」

 

「そんな!?夕麻ちゃんを物扱いなんて!!」

 

「ああ、既に物ですらないぞ。書類上はもう何処にも存在していない。ドラマや映画で見たことがないか?いつの間にか主人公が死人扱いになっているっていうのを。国に歯向かうっていうのはそういうことなんだよ」

 

オレとアザゼルはそこまで甘い存在ではない。兄上達なら適当にお茶を濁すだけだろうが、そんなことが許されるほどの余裕はない。

 

「兵藤。オレは私生活では寛容だ。多少のことで怒りはしないし、適切な罰を与える程度だ。だが、公人のオレは一線を超えたなら躊躇なく排除する。警告を態々与えたのにそれを無視し、オレの治めている領内でテロ行為を行おうとしたんだ。排除一択だな。お前は今、排除か取り込むかの境目に立っている。排除した方が楽だが、その後の処理も若干面倒だなぁと感じている。別にどっちでも良いというのが本音だが、放置だけは決してない。最低でもお前たち三馬鹿相手に裁判を起こして刑務所、未成年だから院になるか、そこにぶち込んででも遠ざけたい。選ばせているのはオレの今の時点での慈悲だ。選ばないというのならサクッと殺す」

 

「……選択肢がないじゃないですか」

 

「苦労がしたくないなら死ねばいい。楽に殺してやるし、上手い具合に処理もしてやる。半端ではない苦労を背負えば、享楽にふけることが出来る。分かりやすくていいだろう?」

 

その日、オレは新たな眷属を得ることとなった。同時に白龍皇を殺す手段として呪具を用意する羽目になった。不意打ちで速攻で殺らねば術者が死ぬ危険な物だが何とかなるだろう。こいつ、前世だと術者殺しで有名なんだけどな。前提条件が多いし、呪殺まで時間がかかるし、有名すぎて解呪方が知られすぎてるのが欠点だが、この世界ならまだ誰にも知られていない。使う機会はそれほどないだろうが、白龍皇を殺すならぴったりだな。白いし。

 

 

 

 

 

 

 

「え〜、ちょっと待てよ。よし、鉢巻を巻いたワニがトラックに乳製品とメロンとパンを積んでサンタの真似事をやろうとして煙突に引っかかってレスキュー隊に救助された夢を見たような気がしないでもない」

 

「くっ、パーフェクトですね。よく全部を覚えた上で順番を組み替えて話を作れますね。7問正解していてパーフェクトでプラス2点ですね」

 

「もっと面倒な暗記物とかも得意だからな。ほい、次はイザイヤの番な」

 

付けていたアイマスクを外してイザイヤに渡す。

 

「ええ〜、さすがに僕はそこまで出来ませんよ」

 

「まあルールだからな。一人一回夢を見る人が回ってくる。3個ぐらいなら覚えきれるだろう」

 

イザイヤがアイマスクを付けた後に役のカードをシャッフルして参加者に配って役を確定させる。オレの今回の役はブギーマンか。一番面倒なものが回ってきたな。正解と不正解を均等になるように調整する役か。

 

全員が確認した所で砂時計をひっくり返してイザイヤから時計回りにキーワードのヒントを言っていく。途中で砂時計がエラーを起こしたために再度やり直したために記憶がこんがらがったイザイヤが頭を抱えながら解答したキーワードをつなげて夢を作ろうとするも途中でリタイアした。

 

「砂時計のエラーでもう無理です。その前後で自分が何を言っていたのかわからなくなりました」

 

「砂時計のエラーはどうしようもないな。やはり付属品ではなくマイ砂時計を使うか」

 

部屋の隅にあるサプライボックスから砂時計を取り出す。特注品で1分毎に10分まで計れる砂時計の中から2分用を取り出す。

 

「ほれ、一誠」

 

普通の高校生なら絶対に取れない速度で砂時計を投げつけ、それを楽々キャッチする一誠を見て安心する。

 

「とりあえずの基礎は出来上がったみたいだな」

 

「この一週間で何回死にかけたことか分からないですから」

 

「安心しろ。一回も死にかけてないから。あんなのは準備運動だ」

 

「嘘だ!!一週間でこんなことが出来るようになってる時点で絶対に嘘だ!!」

 

「普通に学園に通い夕食後から就寝までの間に限定して基礎を仕込んでいる最中だ。それが終わるまでは潰さないようにしてるだろうが。夏休みは冥界の方で集中的に鍛え上げる。前にも話したが、お前の対になる白龍皇は10年鍛えてきている。その10年分をこっちは1年で鍛え上げる。今は地獄の一丁目の前で整理番号を配られてるだけだ」

 

立ち上がったついでに専用のコーヒーメーカーから泥水をカップに入れる。その隣に置いてあるハードすぎるビスケットも手に取って口に放り込み、噛み砕く。それを見ていたメンバーが驚いている。至近距離で撃たれた拳銃の弾を受け止める硬さのビスケットをふやかさずに噛み砕いているからな。それからテーブルに倒れ込んでいる一誠に人参をぶら下げてやる。

 

「ああ、そうそう、今週の金曜日の夜から土曜日にかけての予定を開けておけよ。約束通り例の場所に連れて行ってやるよ」

 

「マジっすか!?」

 

「この程度のことで嘘なんか言わないさ。持ち物は特に持ってこなくていいぞ。貴重品位だな。ああ、準備運動もその時だけは免除してやる」

 

「ありがとうございます」

 

そんな話をしたのが月曜日で、現在は金曜の夜。オレは一誠を連れて冥界へと向かうオレ専用の列車で移動中だ。

 

「こことここにサイン、こっちにはさっき渡した判子を。サインは冥界の言語で書く必要があるからこれを真似して書いてくれ。このサインだけは練習しておくように」

 

「これ、何が書いてあるんですか?」

 

「領地の権限の移譲書。眷属になる前に言っただろう。金は幾らでも積んでやるとな。レートや物価なんかも後で教えてやる。まあ、ドルに近いからなんとか分かるはずだ。このカードのここにサインとこっちの書類のここにサインと血判」

 

「クレジットカード?」

 

「冥界の物だがな。領地からの利益が入る口座と使うためのクレジットカードだ。上限はないから好きに使え。よっぽどの買い物、それこそ他の悪魔から領地を買い取ろうとする以外なら大抵のことは出来る。裏の奴隷商館を丸ごと買い上げてみるか?」

 

「いえ、結構です」

 

一誠が恐ろしいものを見るようにクレジットカードを見ている。

 

「ちなみにオレの眷属は全員持っているぞ。面倒事は金で解決できることなら金で解決しろ。冥界用の携帯だ。予め必要そうな相手は入れてある。日本語に対応させてある。操作は変わらない。あと、冥界での屋敷とそれを維持管理する奴隷の契約書、ここにサインな」

 

「あの、何処まで奴隷ネタを引っ張るんですか?」

 

「ああ、言い忘れていたがオレの財源の一部は奴隷産業だからだ。まあ、奴隷と言っても幾つかの種類がある。大きく分けると借金奴隷、犯罪奴隷の2種類。借金奴隷の方は強制労働が基本だ。強制と言っても日本のブラック企業よりホワイトな職場だ。そのホワイトな企業もオレがオーナーだ。あと、借金奴隷でも冥界の労働基準法に満たないものは教育を施して専門職として育てている。奴隷と言っているが派遣会社だと思ってくれて構わない。それに対して犯罪奴隷は一誠が思っている奴隷で間違いない。主に娯楽や実験体として引き取られていく。あとは語るまでもないだろう奴隷の割合は30:1程度だな」

 

「随分と借金奴隷が多いですね」

 

「これが冥界の現状でな。一般市民が大企業に務めるにはコネが必要になる。コネと聞くと悪いイメージが強いだろうが、推薦入学と聞けば話が変わるだろう。この労働者はこれだけの能力があると私が保証しますよ、と口頭で言うのがコネだ。推薦入学だと書類などが一緒に付いてくる。悪魔でコネを持つのは貴族家に長年務める執事やメイド、御用商人ぐらいな物だ。冥界では貴族の力がなければ絶対に上には上がれない制度になっている」

 

「まるで中世ですね」

 

「中世よりはまだましだが、近代とも言い難い。それが500年ほど続いている。信じられるか、これでもマシになったほうなんだぜ」

 

「なんというか、なんで続いているんですか?」

 

「簡単だ。冥界の政治でトップは4大魔王なんだが、やる気が無い、能力が無い、政治センスが無い。表向きはどの貴族達も従っているが、実際は裏で好き勝手やっている。しかも、その4大魔王は戦闘力で選出されている。オレの兄はやる気はあるが政治センスが致命的に不足している。ソーナの姉は能力が無いとは言わないが低い。残りの二人はやる気がない。それでも500年程前に起こった大戦期より前よりはマシになっているのが現状だ。中世の暗黒時代を知っているか?アレより酷い状態だったんだぞ」

 

そこだけは評価できる。だが、そこからが続かない。独自の技術の発展はなく、技術は人間界からの輸入と模倣のみ。その家独自の血統魔術も混血により薄まってすらいるにも関わらずそれに気付いても居ない。むしろ、血が薄いはずの兄上の方が本家のバアル家の誰よりも力が強い時点で察せない時点で未来はない。オレは鍛え上げたから例外だ。

 

「独自産業もなくなんとかやって行けているのは、人間から巻き上げているからだ。だが、それもいつまで続くことやら。歴史がそれを証明しているんだがな」

 

「歴史が?」

 

「神話と言ったほうが正しいか。堕天使が産まれたのは、天使だけが持つ知識や技術を欲した人間がハニトラで堕天させたのが始まりだ。本人が言ってた」

 

「本人って」

 

「普通に生きてるぞ、堕天使アザゼル。元から研究者の資質があってな。女体の神秘に触れてそれを追求する内にな。ちなみにまだマシな方でな、SMプレイだったり、レイプだったり、スカトロだったり、結構酷いぞ。今は他にも娯楽が多いからな。ゲーセンに嵌って堕天したり、ケーキバイキングに嵌って堕天したり、競馬に嵌って堕天したり」

 

「落差が激しすぎませんか!?」

 

「あまり気にしすぎるとハゲるぞ。書類はこれでOKだな。最後に、右手を出して」

 

リーダーで一誠の右手を読み込んで登録を終わらせる。

 

「これでいつでも冥界に転移できる。一度は絶対にこういう列車で冥界に入らないといけないのが欠点なんだよな。ああ、それから、あまり女にハマりすぎるな。死ぬぞ」

 

最後に釘を差しておく。あまりに酷くなりそうなら地獄の調教も施す。傭兵団でも新人がたまに陥る病のようなものだ。矯正仕方は熟知している。まあ、超一流の相手だ。上手いことコントロールしてくれるだろう。そして前世からの癖で書類を仕上げた後に懐からタバコを取り出そうとして空振って苦笑する。

 

もう18年も吸っていないのに癖は何時までたっても抜けない。飴でも突っ込んでおこうかと思いながら代わりに逆の内ポケットから護符を取り出し、問題がないかを確認する。やはりというべきか、呪いを扱う相手はほとんど居ないのだろう。自然劣化している分以外は全く問題がない。

 

専門の使い手がいないことに若干寂しく思いつつ、呪い返し合戦等といった危険な行為をする機会が少なくて済むといったことに嬉しく思う。

 

列車が冥界のオレの領地に着いた所で書類を持って一誠と共に降りる。そこには既にマリータとその直属で手足から引き抜いたメイドと執事が揃っている。

 

「お待ちしておりました、リアン様」

 

「ご苦労。明日香、新しい眷属だ。顔を覚えさせておけ。和弘、一誠を着替えさせてくれ。浩史、書類は揃っているからあとは任せる」

 

メイドと執事に次々と仕事を振ってこの場から離れさせる。その仕事ぶりを正確に評価し褒美を与える。それが正しく出来る者が居なかったために手足の者たちは燻っていた。

 

過剰な評価や褒美は害にしかならない。情をかけてはならない。道具として扱い、道具としての評価を与え、道具として処分する。それが出来ない相手とは付き合いを持たずにストイックに生きてきた隠密集団。オレ達傭兵団と同じ生き方をしてきたからこそ扱える逸材だった。全くもって良い買い物だったと改めて思う。

 

「マリータ、今回は何件だ」

 

「3件です。材料はすべて手配済みです」

 

マリータから差し出された『主夫のお供~フレンチ編~』と書かれたレシピ本を速読してから滅びの魔力で消滅させる。見た目はレシピ本で中身も一見普通のレシピに見えるが、実際はこれから密会を行う貴族達の弱みが暗号で書き綴られていた。

 

「中々の仕事ぶりだ。次はイタリア南部の物を頼む」

 

これも次のターゲットを示す隠語だ。稚拙なものだが、これだけで悪魔の誰にも気づかれることもない。

 

「かしこまりました。それから、駒王町にシスターが入ったようです」

 

「いつも通りで構わないだろう」

 

「それが、少々厄介と申しますか、『聖女』アーシア・アルジェントなのです」

 

「何?あの『聖母の微笑』持ちのか?詳細は」

 

「分かっている時点では教会を追放されたということだけです」

 

「破門ではないと?」

 

「はい。どうも、中途半端です。調査のために現地に数人送り込みました」

 

「最優先で支援しろ。生まれから全てひっくり返せ。罠の危険性もある。護衛に上忍と中忍を追加で付けろ」

 

「手配しておきます」

 

出来るだけ密会を早く終わらせる必要があるな。どうしてこう厄介事が降ってくるのか。前世の行いが悪かった所為か?圧制者をよくしばき倒していたけど、その祟りか?お祓いはきっちりやってるんだけどな。ため息を付いて、一誠をVIPとしてオレが経営しているそっち系の店に放り込んでやる。酒と煙草以外は好きにして構わないと店の方には言ってある。あと、どんなプレイをしたのかをこっちに報告させるようにもな。矯正にはこれが一番効くのだ。

 

 

 

 

 



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並行世界の可能性を覗いてみた 前編

スランプです。
こんなものでお茶を濁しておきます。


 

 

 

 

ああ、世の中は不思議なことに満ちている。まさか、まさか

 

「平行世界のオレが女ぁ!?」

 

「えっとぉ、とりあえず状況を説明してくれない?」

 

 

 

 

 

 

「はぁ、アザゼルさんが作った実験機でホムンクルスとドッペルゲンガーの間の子みたいなのに平行世界から同一人物の意識をコピーしてみたと。とりあえず、兵藤一誠、25歳です」

 

「そうだ。まあ、意識だけだからそんなに強くねえし、問題ないだろう」

 

「う~ん、外部供給系の能力を持ってる人が身内にいるんであまり安心できないです」

 

「身内?リアスの眷属でか?」

 

「ああ、いえ、そうじゃなくてリアスの夫の眷属です」

 

部長の夫!?まさか、ライザーのこと、いや、でもライザーの眷属にそんなの居たかな?

 

「えっと、そっちの私の夫って誰なのかしら?」

 

「あれ?こっちだと婚約者は誰なんですか?」

 

「前は居たけど今は居ないわ。以前はライザー・フェニックスだけど」

 

「ライザー・フェニックス?ああ、三男の。次男のローウェルさんやその眷属の人達とはよくお茶するけど、三男の人とはあまり会わないから女癖が悪いってことぐらいしか知らないけど、そんな人が婚約者だったの?もしかしてこっちだと家族仲が良かったのかな?」

 

「えっと、こちらにも分かるように説明してくれないかしら?」

 

「じゃあ、ゼオン・ベルという悪魔はご存知ですか?」

 

「「「ゼオン・ベル?」」」

 

「ベルねぇ、大戦期にそんな名の悪魔が居たと思うが、現在はそんな家はなかったはずだな」

 

「そうですか。ゼオン、結構影響力を持ってるから、こっちとの差異が大きそうだなぁ」

 

「そのゼオンってのはどんな悪魔なんだ?」

 

「番外の悪魔でランキング1位、非公式ですけどサーゼクス様をタイマンで降してます。今はグレモリー家に婿入りして表向きは病気療養で隠居中です。本当のところは多角経営と子育てで忙しいのが真実ですけど」

 

「多角経営って、何をやってるのよ」

 

「ホテルの経営に映画とかドラマの撮影に使うセットを作る会社にテレビ局も持ってたっけ、他にも観光業の会社にカジノと酒造と牧場と競馬場に大農場、動物園、水族館、遊園地、サーカス団もあります。それからIT系関連にその周辺機器の会社。孤児院も結構な数を持ってて、ボランティア団体も運営してます。あとは、食品加工の会社もやってて、趣味で屋台を引いていたのをチェーン店に切り替えて、屋台そのものがミシュランで星2つとってます」

 

「屋台で星2つ!?」

 

あれって確か店そのものや従業員の質とかも見られるのに、それなのに屋台で星2つ!?と言うか、人間界の方でも商売してるのかよ。

 

「子供は全部で5人にお腹の中にいるのが3人。というのも一夫多妻だからそんな事になってって、あっ、ちなみに一番上の子は私の子供なの」

 

今日一番のショックがオレを襲った。というか、TSしているとは言え、自分が子供を産んでいるというのに変な感じがした。

 

「そ、そう言えばそっちは平和なんだな」

 

「まあ、ゼオンが暴れに暴れたから。その、こっちってヴァーリは生きてる?」

 

「えっ、あいつ死んだの?」

 

「うん。こっちであったかは知らないけど、三大勢力の和平交渉の際に裏切って、ゼオンを怒らせるようなことを言って、アザゼルさんしか見てないけど、校庭に空けた大穴の底で黒焦げのミンチになってたって。英雄派は大分頑張って後一歩の所まで追い詰めたんだけど、やっぱり怒らせてチリ1つ残らずに。その時の怪我を理由に表舞台からは姿を消したけど、裏ではやっぱりクリフォトを殲滅したり、トライヘキサを雷で焼き殺したり、老害がいつの間にか消えてたり」

 

「聞いたことのない固有名詞があったが今は置いておこう。眷属の方は」

 

「グレイとハムリオさんとレイフォンの3人でサーゼクス様以外の魔王様達と渡り合える位には強いです。でも、とっておきは別にいます。あと、使い魔のシュナイダーも最強の魔獣として名を馳せてます」

 

「眷属まで化物揃いかよ」

 

それはオレも思った。

 

 

 

 

 

 

 

「初っ端から凄いのを引き当てちまったが、続けるぞ。次は」

 

「私です」

 

小猫ちゃんが当たりくじを引いたみたいだけど、どうなることやら。

 

「それにしてもこっちの小猫ちゃんって弱々しいよね。しっぽも一尾だし」

 

異世界のオレ、ちょっと黙っていて。アザゼル先生の作った機械から平行世界の小猫ちゃんが出てくるんだけど、これはまた外見から異なる。モデル体型のスラッとした美人さんだった。おっぱいは小さいけど。再びアザゼル先生が事情を説明すると途端にがっかりする平行世界の小猫ちゃん。

 

「くっ、これから番組の収録だったのに」

 

「えっと、ちなみに何の番組?」

 

「予約半年待ち某有名ホテルのバイキングで値段以上を食べきれるか」

 

「「「はぁ!?」」」

 

「なにそれ羨ましい!!」

 

こっちの小猫ちゃん、ちょっと黙ってて。

 

 

 

 

 

 

「はぁ、なるほど。とりあえず事情は分かりました。ひとまず自己紹介を。妖獣会直系紅揚羽組若頭、決壊の白音。以後お見知りおきを」

 

「ツッコミどころしかないじゃない!!何がどうなってるのよ!?」

 

「何がって、紅揚羽組の組長はリアスの姐さんなんですけど」

 

「ふぁ!?」

 

「リアスの姐さんが妖獣会会長九尾の八坂様の嫡男である妖獣会直系若葉組組長、十尾の十束の叔父貴に嫁いで、眷属を合法的に裏京都なんかでも行動できるように紅揚羽組を作ったんですが」

 

「何があったのそっちの私!?」

 

「普通に恋愛結婚ですよ?ああ、いえ、政略結婚でもあったのですが、婚約者であるリアスの姐さんの為にどれだけのものを貢げるかって競争をやって、叔父貴が本気を出しただけで。それが行われるまでは最後の一歩がお互いに踏み出せない状態だっただけです。ほら、妖怪と悪魔ですし。それが公的に認められるってなった途端、グレイフィア様が目眩を起こすような、物凄い一品を大量に、宝船3艘ごと中に満載して収めたって。結納品に行方不明だったエクスカリバーとか神剣の影打ちとか門外不出の物とかがあったおかげで勢力図が一気に傾いた原因でもあります。よっ、傾国の美女」

 

「本当に何があったの!?」

 

「あと、英雄派は調子に乗った所為で百万鬼夜行、1万の百鬼夜行を1つに纏めて纏う究極奥義で魂まで滅っされました。愉快愉快」

 

「小猫ちゃんが黒い」

 

「本当に調子に乗っていたんですから向こうの責任ですよ。妖獣会に喧嘩を売るなんてただの自殺ですのに」

 

「けど、彼奴等神滅具持ちが何人か居たのに」

 

「10Lのタンクが10個以下でダムに勝てるとでも?百万鬼夜行は文字通り百万の妖怪の妖力を主に託す奥義です。1万の百鬼夜行の主全員が主と認めるだけの実力がある上に百万の妖怪の力全てが集約するんです。神も魔王も全てをひれ伏させるだけの力があります。その上、十束の叔父貴は龍脈、つまりは星そのものの力を操ることすら可能です。星そのものに勝てますか?最近、月とか火星とか金星から龍脈を引っ張れないか研究してましたよ」

 

聞きたくないことが大量に出てきてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「これが結婚式の写真だよ」

 

「良いなぁ、ゼオンさんでしたか、イケメンですし、優しいんでしょう?」

 

「そうなんだけど、二人きりだとちょっとだけ控えめに甘えてきて、それがもう母性本能をね。しかも、私にだけってところがもうね」

 

「分かります。私もそんな彼氏が欲しいなぁ。もうね、バカップルが傍にいると独り身には辛いんですよ。双子と三つ子の子供が居るってのに、未だに新婚気分で所構わずイチャイチャと。あっ、これがその子達の写真です。逆光源氏計画でもやろうかな」

 

平行世界組が楽しそうにしている中、部長がソファーでぐったりとしている。次は副部長だけど大丈夫かな。

 

 

 

 

 

 

 

「事情は一通り理解しましたわ。姫島朱乃、28歳です。一児の母ですが、結婚はしていません」

 

「またのっけから酷い!!」

 

「仕方ありませんわ。相手は叔父様ですから」

 

「叔父様?比喩じゃなくて?」

 

「ええ。母の弟に当たりますので」

 

「ガチの身内に手を出すとか、どんなクズ野郎なんだ」

 

「ああ、いえ、私が叔父様を襲っただけです。他にも大勢の方が叔父様を襲ってますから」

 

「何がどうなってんの!?」

 

「才能は二流でも知恵と工夫で超一流と渡り合う頼りになる大人の男性ですもの。夢を追いかける若者を笑うでもなく、その夢に届くように土台を作って背中を押してくれる。そんな大人な殿方に惹かれない女はいませんわ。まともに仕事をしない政府トップや自分達が楽しむために未来を見ない老人達から若者を守るために身を粉にして東奔西走されてましたから。最近は仕事が落ち着いて逃げ回っていますが。私達から」

 

 

 

「それは、どういう意味だ?」

 

「子供を産んだとは言え、まだ若い身の上ですもの。一時期は本当に忙しそうにしていましたが今は落ち着いていますし、周りと相談したところ囲ってしまおうかと。それに気付かれて逃げられてる最中なのです」

 

つまり捕まると種馬生活か。羨ましいような、そうじゃないような。

 

「叔父様が把握できていないだけで叔父様の子供は23人居ますし、子供達も父親に会いたがっていますから。把握している子供には養育費や誕生日やクリスマスなどの時に匿名でプレゼントを送って来るのですが、絶対に会おうとはしないのです。家系が複雑過ぎて子供が混乱するからと」

 

「どれだけと関係を持ってるんだよ!?」

 

「さあ?正確な人数は私達でも把握できていません。あちらこちらで女性を無自覚に引っ掛けて、襲われていますから。身内に対して脇が甘くなるので薬を盛られたり、当て身で気絶させられたりはデフォルトですから」

 

種馬よりも酷い生活を送ってやがる。そりゃあ、逃げるよ。むしろよく仕事をこなしてるよな。

 

「私が把握していて皆さんも知っていそうで子供を産んでいるのが椿姫さんにソーナさんにその眷属の半分、セラフォルー様、ゼノヴィアさん、ロスヴァイセさん、辺りでしょうか?」

 

「何やってるのよソーナー!!」

 

ぐったりしていた部長が叫び、今度は倒れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが極一部が物凄く元気になる薬で、こっちが意識を混濁させる薬で、意識を混濁させる薬とこちらを同時に飲ませるとで野獣のように激しく襲わせる薬の調合方法です。全部無味無臭で魔法の探知すらも潜り抜ける一品ですわよ」

 

「もうちょっと大人しめの薬ってないですか?いきなりこれは危険な気がするんですけど」

 

「大丈夫ですよ。いくら鍛えているとは言え、人間の叔父様が耐えられるのですから」

 

「それより豊胸剤はないんですか?」

 

「残念だけど、豊胸剤は個人個人に合わせた調合をしないと危険なの。ごめんなさいね」

 

平行世界組が恐ろしい話をしてるけど、アザゼル先生は部長の平行世界体を呼び寄せて事情を説明している。

 

 

 

 

 

 

 

「リアンだ。書類上は既に死人で元大魔王の26歳だ。今は魔王府の裏方を担当している。情報操作から暗殺まで何でもやっている。アザゼルに簡単に聞いたがよく三大勢力で和平なんて結べたな。何年持つのか楽しみだ。5年持つと良いな」

 

「辛辣だな。そっちじゃ和平になってねえのか」

 

「無論だ。和平会談で全勢力の火種に着火させて内乱を勃発させたからな。悪魔は旧魔王派、現政府、つまりは兄上達四大魔王の派閥、そしてオレを筆頭に若手で構成された新魔王派の三つ巴戦だったが、それも1年経たずに新魔王派の勝利に終わった」

 

「はぁ!?サーゼクス達が負けただと!?」

 

「ああ、誤解させてしまったな。兄上以外は最初から新魔王派で義姉上もこちら側。兄上は義姉上とミリキャスに抑えさせ、冥界全土のライフラインは掌握済みで旧魔王派のリストを全土に公開、並びに資産凍結を初日に食らわせた。あとは、混乱して集まった所を全戦力を叩きつけて綺麗に掃除して終了だ。その後の復旧や領土の再編に半年ほどで、老害共は強制的に隠居してもらった。そして5年間不満を溜め込ませて爆発させ、書類上は死人になったことで平民の怒りを老害共に向けさせて掃除。妻を新たな大魔王として開明的な政治を行っている最中だ。人口が大幅に減ったからな。勢力としては小さくなってしまったが、天使と堕天使はそれ以上の被害を受けていて勢力として数えることが出来なくなっているから問題ない」

 

「ちょっ、勢力として数えれない!?そっちのオレは?」

 

「ウチに亡命してきている。最後の最後まで踏ん張ってはいたが背中から刺されてな、失意のどん底で弱っていた所を保護されて一研究者として働いている。もう部下は持ちたくないと助手を二人だけとって色々やってるさ」

 

「そんなことに」

 

「内乱にちょっかいを出そうとした人間が居たが、全て呪殺して養分にさせてもらった。神滅具がいくらか手に入ったが、倉庫の肥やしになってる状態だ。アジトに毒ガスを流し込んで一網打尽にしてくれてやったわ」

 

「過激すぎ!?」

 

「所詮は中二病患者共だ。現代戦に慣れていない脳筋など幾ら来ても怖くないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「政略結婚だが、その前から友人関係でな。直前までとある件で喧嘩というか疎遠になって2年ほど音信不通だったんだが、まあ、幼い頃からの傍付きに諭されて小っ恥ずかしい告白まがいのことをやった」

 

「なんて告白したの」

 

「あ~、当時からオレは裏側の汚い世界で生きてた。人を騙して裏切って殺して、そんな世界だ。それで、あ~、惚れた女に裏の汚い世界なんて見せたくなかったから。惚れた女に純粋で綺麗なままで居てほしいと思うのは間違ってるのかって」

 

「え~、そんな告白したんですか?もうちょっと言葉を選んだ方が良かったのでは」

 

「今更だが、当時はこれで一杯一杯だったんだよ。疎遠になってたのをちょっとずつ埋めていこうとな。オレはそう思っていたんだが、一気に踏み込まれた。強引に唇を奪われ、押し倒されて、これで汚れたから勝手に離れていこうとするなって。お互いのやりたい事が殆ど交わらないのは仕方ない。だけど、一緒に幸せになろうと努力するのを諦めないでと言われてな」

 

「きゃあ~、男前」

 

「それに対してオレが出来たのは抱きしめ返して、すまん、ありがとう、好きだ、愛している、あと盗撮されているだったな」

 

「なんでそこで盗撮!?」

 

「お節介な傍付きのメイドの仕業でな。利用し合う関係ではあるが、アレには頭が上がらん。伊達にお祖父様の傍付きから父上や兄上の子供の頃から側に付いているようなやつだからな。最も、父上も兄上もお眼鏡に叶わなかったのか途中で側付きから離れたがな。オレはお眼鏡に叶ったようで、側で色々とお節介を焼くんだよ。あと、子供はまだかとな。オレも欲しいけど、もうちょっとで政権が落ち着くからそこまでは我慢しようって話し合ってる。ちょっとだけ政権をとったのを後悔してる」

 

 

 

無視だ、無視。気になるけど無視するんだ。アザゼル先生が倒れたことで今日はこれでお開きとなった。他のみんなは翌日に繰越となるそうだ。呼び出された並行世界の皆はライザーとのレーティングゲームの時に修行で利用したコテージの方に泊まるそうだ。

 

 

 

 



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ハイスクールD×D 斉天大聖

 

とりあえず今一番言いたいことはこの言葉だな。

 

泣けてくるぜ。

 

何が悲しくてサイヤ人に産まれなければ、それもよりにもよってカカロットとして産まれなければならないんだよ。ドラゴンボールで速攻で不死になって仙豆も大量に確保して蘇りパワーアップをしないとやってられない。普通の武術も大事だけど、ドラゴンボールの世界で一番重要なのは戦闘力だ。

 

たまに勘違いしているやつが居るが戦闘力に極端な差があるとダメージが入らない。よく気円斬が反論例としてあげられるが、あれはナッパが油断していることと物理法則で説明ができる。気弾なんかに比べて接触面が小さい分、力が加わりやすい。接触面が増えれば増えるだけ力が拡散するっていうやつだ。紙で指を切ることがあるのに近いな。

 

それはさておき、本題として、ブロリーのミルクは全部奪って少しでも栄養を確保しておく。どうせ1回でも奪った時点でねちっこく覚えているだろうから、それならば全部奪っても怒りは変わらん。むしろ、これで餓死してくれ。

 

ブロリーとの奪い合いで戦闘力が若干上がったがそれでも地球送りは免れなかった。まあ戦闘力4じゃなあ。

 

そして、とうとうポッドに乗せられて惑星ベジータから地球に向かって飛ばされた……はずだったんだけどな。何が起こったのかポッドで休眠している間に平行世界に流されたっぽい。

 

まず、オレを拾ったのは堕天使のアザゼルだった。何を言ってるのかわからないが、オレを抱き上げているこのちょい悪オヤジがあの堕天使のアザゼルらしい。黒い翼とかたまに出してるからな。一応、堕天使が集まった組織グリゴリのトップでもあるみたいだけど、本質は研究者みたいで神器とかいう人間にだけ宿る特殊能力を持った物を研究している。おかげで基本的にはミッテルトお姉ちゃんとカラワーナお姉ちゃんに面倒を見て貰っている。

 

見た目ロリっ子とキャリアウーマンみたいな見た目だけど、実年齢はちょっと控えさせてもらう。オレが老衰で死ぬ頃になっても若々しい姿を保ってるとだけ明言しておく。

 

悲しいことに上の目は下の者にまでは届かないことが多く、赤ん坊の面倒なんて普通の組織ならありえないような仕事でもトップからの直々の指令なんてまずないから結構喜んでいるみたいだ。だけど、カラワーナお姉ちゃんからは愚痴も溢れる。ミッテルトお姉ちゃんは後方勤務で給料も良いし、逆光源氏計画でオレを自分の好みに合うようにしようとか欲望がよく零れている。だからちょっと引いてカラワーナお姉ちゃんの方になついておく。

 

とりあえず赤ん坊でも頑丈なサイヤ人の特性を利用して舞空術を身につける訓練を行う。舞空術はドラゴンボールでは威力の高い気弾を撃つことよりも簡単な技術だ。でないとフリーザー軍の兵士があんなサイコガンを態々装備することなんてないはずだからな。

 

まあ、戦闘力=気の大きさだから、ある程度成長するまではお預けかと思っていたんだが、立って歩くよりも先に舞空術を身につけれた。正確に言うと立ち上がるために勢いをつけたらそのまま飛び上がって天井に頭を打ち付けて、痛みで集中が切れて舞空術も解けて床に頭から落ちてたんこぶが出来た。1歳にもなってないのにそれだけで済むってさすが戦闘民族サイヤ人。

 

あっ、ちなみに名前だけどアザゼルがポッドを弄って翻訳したおかげでカカロットと名付けられた。悟飯じいちゃんに拾われてないし中華圏でもないから悟空にはならなかった。というか、アザゼルすげえな。サイヤ人の言語を翻訳できたのかよ。うん?サイヤ人の言語だったっけ?宇宙共用語とかそっちだったような?まあ、大した違いはないな。ちなみに睡眠教育でオレは普通に読める。まだまともに喋れないから無意味だけどな。

 

とりあえず、早く立って歩いて走れるようになりたい。サイヤ人としての本能が戦いを求めてるんだよ。ハイハイと舞空術を併用した立ち上がりは出来るようになったんだ。歩くぐらい直ぐにできるようになってやる。だから部屋から抜け出そうとするオレを止めるために尻尾を引っ張らないで。まだ鍛えてないから力が抜けちゃう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さすが戦闘民族サイヤ人ボディだ!!

 

3歳にして普通の人間の大人よりも強いし、ミッテルトお姉ちゃん達が使う光の槍を使うように舞空術で消費している力を操作すれば気弾も使えるようになった。一日5発ぐらいが限界だけど、それも成長と共に増えるはずだ。

 

そして何より重要なのがこれだろう。気を高めてオーラの様に発する。飛びかかる前とかに力を込めている時に出てるアレ。ゲームとかだと技を使うための気力を貯める時にやるアレ。やってみて分かる。日常時と戦闘時の切り替えはこれでやるんだなってのが。日常シーンでチチやブルマがサイヤ人とハーフサイヤ人にたんこぶを作れるはずだよ。

 

数値がないと分かりにくいだろうから簡単に説明しよう。今のオレの日常時の戦闘力は15だ。銃を持ったおっさんの3倍。そして模擬戦でそのまま戦ってヒートアップしても20ぐらいが限界だ。しかもじわじわと上がりつつ、良いのをもらうと下がる。そんな戦闘力が10秒程の溜めで一気に50位まで上がる。3倍以上強くなるんだ。

 

50まで上げればミッテルトお姉ちゃん達と1体1なら負けない。いや、まあ、手加減してもらってるのだとは思うけどな。重症を負わないように。むしろ負わせて治療してくれたほうがサイヤ人としては嬉しいことになるんだけどな。

 

それはともかく、一応の父親であるアザゼルと会うことが基本的にない。この3年で30回程度しか会っていない。月に1回見かけるかどうかだ。研究職みたいな物だから仕方ないだろうよ。今もポッド型宇宙船を調べてるみたいだからな。

 

逆によく顔を見るのがバラキエルという堕天使でオレと同い年の娘さんがいるそうだ。まあ、お相手が人間のためにハーフで友達を作ってやれないと愚痴を3歳児に言われても。ミッテルトお姉ちゃん達も対応に困ってるぞ。幹部と下っ端じゃどう対応していいか分からないだろうな。

 

「バラキエルのおっちゃん、オレなんかよりもその朱乃ちゃんの所に行ってやれよ」

 

「私もそうしたいところなのだが忙しくてな」

 

「だからってこまめに会っとかないと忘れられて叔父さん呼ばわりだぞ。アザゼルはそれで結構落ち込んでた」

 

「それは困る、いや、だが、やはり困る」

 

「仕事は暇してるコカビエルのおっさんに押し付ければ大丈夫だって。と言うか、仕事をしないおっさんが多い気がするんだけど」

 

自分勝手な奴らが緩い感じでつながっているのがグリゴリという組織だ。幹部陣はほとんど自分の好き勝手に動いている。むしろ真面目に働いているのは3割程度だったはず。アリかよ。

 

「ほら、今ある分を終わらせちまえよ。中級あたりで遊んでいる奴らにおっちゃんの確認だけで済む所までやらせろよ。下級で仕事がないやつとかでもいいからさ。ちゃんと部下を育てないと。事務仕事専門の奴が居たほうが良いって」

 

「だが、納得するか?」

 

もうこのおバカは。書類の束から特定の2種類のものを引き抜いていく。束の中の3割が下級がやらかした後始末に関する物だ。そして束の中の2割が幹部陣にまで届く必要のないくだらない書類だ。

 

「仕事が半分近くなくなれば簡単に帰れる。それすらも理解できないなら愚痴は聞かない。こっちもヒマじゃないんだよ」

 

「まだ3歳なのにか?」

 

「尻尾を鍛えてるんだ。強く握られると全身の力が抜けて立つことすら出来なくなるから。ミッテルト姉ちゃんによく引っ張られて連れ回されるから逃げるためにも鍛える必要があるんだ」

 

正直言って尻尾は切り落としたほうが良いかもしれない。出来る限り夜は早めに寝て一度も大猿化していないが、危険だからな。鍛えるふりをしてなんとか引きちぎるか切り落とすかをしないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く行け、おっちゃん!!こいつらはオレが相手する!!」

 

「しかし」

 

「グズグズするな!!手遅れになるぞ!!」

 

「っ!?すぐに援軍を送らせる!!それまで死ぬな!!」

 

バラキエルのおっちゃんが朱乃ちゃんと重傷を負っている朱璃さんを連れて空を飛ぶ。転移妨害の結界を越えて、二人を預けて戻ってくるまで3分と言ったところだろう。それだけなら

 

「ふん、けがれ」

 

何か喋ろうとした一番の年寄りの顔面に気弾を放って粉々に吹き飛ばす。空気が凍る中、一番最初に動こうとした男に素早く近づき、首を思い切り蹴る。首がもげてサッカーボールのように飛び、木にぶつかって潰れる。そこでようやく理解したのか、一斉に逃げ出そうとし、連続で放った気弾で爆散していく。それでもオレの気分は晴れない。何もかもを破壊したくなる衝動を抑えられない。ここが朱乃ちゃん達との思い出の場所でなければ気爆破で吹き飛ばしていた。

 

何より一番問題なのは、オレを覆っているオーラに多少ではあるが緑がかった金色のオーラが混ざっていることだ。この衝動に身を任せたらブロリーのような伝説の超サイヤ人として暴れ続けることになる。普通の超サイヤ人で戦闘力が50倍程度上がると仮定して、今のオレの戦闘力は体感で300ちょい位。それが50倍で1万5000。初期のベジータに近い戦闘力だ。誰も止められないぞ。

 

くそっ、亀仙流の教えに従って鍛えてるのにサイヤ人には成れても悟空には成れないということか。まあいい、オレはカカロットだ。地球で堕天使に育てられたサイヤ人の下級戦士。それがオレだ。まあ、しっぽだけは引きちぎろう。今すぐに。こいつがサイヤ人の本能に直結してやがるからな。結構痛そうにしてたけど、一体どれぐらいの痛みなのやら。せえのっ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、言い訳はあるっスか?」

 

「何もかもぶっ壊したくなった。しっぽが原因だと思ったから引きちぎった。めちゃくちゃ痛かった」

 

「めちゃくちゃ痛かったで済む話じゃないッスよ!!出血多量で死ぬ一歩手前だったんスよ!!」

 

「やったね、パワーアップできた」

 

実際目が覚めた時点で力が2割ぐらいアップしてる。高効率で回せば

 

「世界を滅ぼせる、か」

 

嫌になるぜ。だから、これが正しいかどうかは分からない。それは結果でしか分からないことだ。オレはグリゴリから家出することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家出してから早十数年、1年前の身長と今の身長を比べると80cmぐらいの差がある。サイヤ人の体って不思議だなぁ。そして、この十数年の間に肩書が酷いことになった。悟空は地球育ちのサイヤ人。オレは地球で堕天使に育てられた斉天大聖にして悪魔の婚約者持ちのサイヤ人だ。

 

簡単に説明すると家出して旅に出たオレは闘戦勝仏のじっちゃんに拾われ、オレの持っていた悩みを真摯に受けとめ、道を示してくれた。どこかの研究馬鹿なのに組織のトップを張っている書類上は父親になるバカよりも立派な人物だった。だから素直にこの人の全てを引き継ぎたいと思った。

 

この世界での気の扱い方である仙術、考え方としては元気玉の先の技術と言えるものだったそれらや、簡単な術式、棒術、調薬や心構えなどを兄弟子である美猴と共に学んでいたのだが、あいつは斉天大聖を継ぐつもりはないと戦闘関連以外は適当にやっていた上に、早々とどこかへと旅立っていった。あんな中途半端な強さで何がしたいのか分からない。闘戦勝仏のじっちゃんに拾われた頃のオレよりも弱いのに。

 

闘戦勝仏のじっちゃんの教えと亀仙流の教えを忠実に守り、ドラゴンボールで悟空の師匠として教えを授けた各師匠たちの言葉を思い出しながら体のキレを鋭くしていく。飽きっぽい上に忘れっぽい悟空とは異なり、元は勤勉で変態な日本人の精神を持つオレにとって一度染み付かせた教えは簡単には離れない。

 

だからこそだろう。超サイヤ人よりも先に身勝手の極意の方に覚醒した。武天老師様、カリン様、ピッコロ神様、界王様、じっちゃんの、武闘家の教えは最終的に身勝手の極意へと辿り着く物だったのだ。正確に言えば武闘家の目指す先は身勝手の極意へと繋がっているのだ。

 

暴走の危険がある超サイヤ人よりは身勝手の極意の方が個人的には合っていたし、何より身勝手の極意に覚醒して分かったことは、身勝手の極意自体に戦闘力を向上させるような能力はない。無駄を完全に省くことで戦闘力が上がっているように見えるだけなのだ。それと同時に無駄というのは人生にとって重要なことなのだとも理解させられた。

 

無駄がないというのはつまらないのだ。正の感情も負の感情も全く生まれない。感情が一番の無駄として省かれているのだ。つまり、悟空の目覚めた身勝手の極意は道半ば、それより先にたどり着いてしまったのだろう。だから戦闘中にしか発動させないことを決めた。あと、解除後に荒れた。荒れる前にじっちゃんに謝ってから1週間ほど荒れに荒れた。

 

暴飲暴食に分身の術を使った自分との全力スパーリング、意味もなく寝続けたり、認識阻害の結界を張っての全力での舞空術などなど。無駄な行為ばっかり行い、精神をなんとか戻す。驚くことに性欲だけは全く沸かなかった。沸いたら沸いたで問題だったけどな。たぶん、まだ少年期だったからだろう。

 

落ち着いて帰る途中に女の子が変態にアレな感じに襲われそうになっていたので助けた。そのまま放置しようとしたら帰り方がわからないと言われてしまった。話を聞くと悪魔で、今まで冥界で暮らしていて人間界に来たことがない。人間界にも領地というか、縄張りがあるけど、それがどこかも知らない。仕方なく連れて帰ったらじっちゃんにからかわれた。

 

まあ、すぐに真面目な顔に戻って彼女、レイヴェルの家、フェニックス家に渡りを付けてくれたので次の日には家族の元に返しに行った。そこでフェニックス家の三男に絡まれたけど、本当に一瞬だけだが身勝手の極意を使い、軽い一撃で沈めておいた。再生できるそうだが、再生が始まらずに苦しそうにしていた。頭は拳で撃ち抜かれたと幻痛を生み出し、身体は無事という状態による結果だ。何より幻痛というのがポイントだ。自傷行為で再生しても、脳はダメージを負ったままだと判断して痛みが消えないのだ。

 

さすがにまずかったかと思ったが、フェニックス家のご当主様達からは最近天狗になっていたから丁度いいとむしろ喜ばれてしまい、そのままじっちゃんと共に歓待まで受けてしまった。じっちゃんはマナーなんて知らないとばかりに酒をカパカパ空けていく。だけど、貫禄からそれが様になっている。オレは見様見真似でフェニックス家の人たちを真似てみるが、やはり日常的に行っているものとは練度の差が出てくる。

 

それから、何故か毎週のように冥界の屋敷に招待されて悪魔の上流階級としても恥ずかしくない教育を施されることになった。うん、まあ、別にそれは良い。ただ、年々ダンスの練習で相手を務めてくれるレイヴェルとの身長差が年々開いていくのが結構心に来ていたりする。それは昨年解決したけどな。

 

あとは、よくライザーに絡まれる。そのたびに返り討ちにしてるけど、少しずつ強くなっていった。亀仙流の5つの教え、よく食べ、よく休み、よく遊び、よく学び、よく動く。それがライザーに合ってたんだろう。今では少年期のピッコロ大魔王ぐらいの強さがあるんじゃないかな?(お遊び状態で簡単に地球全土を更地に出来るような方。ドラゴンボールは初期から結構インフレがひどかったのがよく分かる)

 

そして昨年、身長が一気に伸びてある程度様になるようになってから正式に斉天大聖の称号を受け継ぎ、レイヴェルとの婚約が決まった。いや、レイヴェルが相手というのに不満があるわけじゃないけど、オレは闘戦勝仏のじっちゃんの全てを受け継ぎたいんだ。斉天大聖が悪魔陣営と繋がっちゃっていいの?上には話をつけてあるとライザーがツンデレ気味に答えてくれた。どうも、結構骨を折ってくれたらしい。

 

まあ、レイヴェルとは付き合いも長いし、身長が伸びてからは性欲なんかも出てきて、意識してたし、嬉しいといえば嬉しい。うん、だから亀仙流の代名詞とも言えるあの技を教えた。コツは両手を後ろに引いた時に莫大な気を圧縮することにある。これによって気の密度が上がり威力が上がるのだ。

 

今までもグリゴリにいるミッテとカラワーナお姉ちゃん、バラキエルのおっちゃんには手紙を書いていたが詳細を記してはいなかった。精々、元気にしてるだとか、季節の挨拶とかを一方的に送りつけるだけだったのだが、さすがに斉天大聖を受け継いだことと婚約者が出来たことはちゃんと報告しておかないといけないし、色々と言いたいこともあるだろうからコツコツと賞金首を狩って稼いだ金で購入した一軒家の住所も認めておく。ちなみにレイヴェルと同棲中。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はぁ~、嫌になるっすね。カカロットが家出してから手紙を寄こすまであっちこっち捜索に出て以来、バラキエル様のご息女の模擬戦の相手だったり書類仕事をやってた頃が懐かしいッス。

 

「ミッテルト、アーシアから神器を取り出すのは明日になるそうだ」

 

「そうッスか。はぁ~、アーシアをそのまま連れて帰るだけで十分評価されるってのに、わざわざ取り出すなんて面倒をやるなんて。何を考えてるんッスかね?」

 

「我々はカカロットのおかげで上と繋がりがあるからな。だから、上が望むものが分かっている。その差だろう」

 

「そんなものッスか。どうするッスかね?拉致って上に報告でも?」

 

「そうなるとレイナーレ様に目を付けられて捨て駒にされるな」

 

「はぁ~、アーシア、良い子ちゃんだから殺したくないんッスけどね」

 

「そうだな。昔ならともかく、カカロットの世話をしてからはな」

 

「手紙だけを一方的に送ってくるだけッスから、今はどれだけ成長したんだか」

 

カラワーナとカカロットのことの愚痴を言い合っているとバラキエル様から通信が入る。

 

「へい、来々軒ッス」

 

バラキエル様相手だからこんな適当な返事を返せる。カラワーナは未だに硬いままだけど、ウチは楽にやらせてもらってる。

 

『緊急事態だ!!朱乃が飛び出した!!』

 

「また喧嘩ッスか?」

 

カカロットが家出してから情緒不安定な朱乃様はよくプチ家出をする。そのままストリートファイター的なことをやって鍛えたりもしている。たまに負けて犯されそうになるのを必死に助けたりしてるのでウチラも下級の枠に囚われない程度に強くなっている。今回は何が原因なんすかねぇ?

 

『違う!!カカロットからの手紙に住所が書かれていた』

 

「ほほぅ、初恋の人の元に飛び出したと。馬に蹴られるのは嫌ッスけど」

 

『それだけなら良かったんだがな。カカロットのやつ、斉天大聖を受け継いだ上に悪魔の婚約者が出来たそうだ』

 

「「はい?」」

 

一瞬では理解が難しい。何度か反芻してようやく飲み込めたが混乱したままバラキエル様に聞き返した。

 

「斉天大聖って、あの斉天大聖?」

 

『うむ、闘戦勝仏殿の元で世話になっていたようだ。それから偶然にフェニックス家の令嬢と出会って、そこからの付き合いらしい。それと写真が同封されていてな』

 

通信の向こうには腕を組んで嬉しそうにしている金髪の女の子と成長したカカロットが映っている写真が見える。う~む、時の流れは早いッスね。いつの間にか重鎮に出世して婚約者までいるなんて。

 

「私を放って浮気なんかして、嫌よ、捨てないでって所ッスか。刃傷沙汰になっていないことを祈っててくださいよ」

 

『そうなる前に止めろと言っているのだ』

 

「無理でしょう?一応、頑張るッスけど、ウチラもちょっと出てるもので」

 

『何?』

 

「中級のレイナーレ様の命令で神器所有者を騙して抜き取ろうとしてるのを手伝わされてます」

 

バラキエル様が苦虫を噛んだような顔をしている。小言でアザゼル様をボコるとか聞こえたけどスルーしておく。

 

『こちらで連絡を入れておく。神器所有者の保護もな。とにかく朱乃を追ってくれ』

 

「アラホラサッサー」

 

というわけでアーシアに迎えが来るからそれまでレイナーレ様に近づかないように指示を出しておく。ドーナシークにもアーシアを守るように伝えておく。最悪、後ろからバッサリ殺れと。責任はバラキエル様がとってくれるからと伝えておいた。

 

「というわけで急ぐッスよ!!場合によっては撤退するッスけど」

 

「撤退?なぜだ」

 

「カカロットが寝技に持ち込んでいたら時間を置いたほうが良いっしょ?」

 

「寝技?ああ、なるほど。だが、そんなことになるか?」

 

「なんだかんだでフェニックス家の令嬢を落としてるんすよ?そっち方面も鍛えてたらどうするんッスか」

 

「ほぅ、そっち方面を仕込もうとしていた本人が言うと説得力があるな」

 

「逃した魚はデカかったッスね」

 

本当に惜しいことをした。結構好みな見た目に成長してたのは本当に惜しい。母親ポジションでおちょくるしかないッスね。

 

送られてきた住所を訪れてみれば、都会とまでは行かずともそこそこ発展している地方のちょっと片田舎で、豪邸とまでは行かないけどそこそこ金持ちと思われる家だった。周りは畑が広がり、裏には山がある。ちょっと調べればそれら全てが私有地っぽい。意外でもないが手堅いチョイスだ。

 

「くっ、本当に逃した魚はデカかったッス」

 

「後回しにしろ。それよりも朱乃様はまだ到着してないのか?」

 

「どう見ても既に到着してるじゃないッスか。外からでも見えるぐらいに不死鳥と八咫烏のオーラが見えるじゃないッスか」

 

争い合う気配はまだないけど、睨み合いにはなっている。ここは待ちの姿勢ッスね。犠牲は一人で良いッスよ。

 

「と言うわけで撤退ッスよ。街に戻ってケーキバイキングに立て籠もるッス!!」

 

「おい、仕事を放棄して良いのか」

 

「修羅場に突撃したいと?さすがにカカロットに会いに行く道中で襲われてたりしたら戦うッスけど、女同士の修羅場なんて絶対に嫌ッス!!あと、別に命の危機は無いッスからセーフセーフ」

 

「確かにそうだが」

 

「ほら、あとは若いのに任せて年寄りは年寄り同士仲良くしましょ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

睨み合いになること10分、そろそろ介入したほうが良いだろう。

 

「レイヴェル、すまないがしばらく席を外してもらえるか?」

 

「カカロット様、ですが」

 

「後で色々と話すよ。すまない」

 

「……わかりました。少しだけ出てきます」

 

「ごめんね。それから近くに知り合いの堕天使の気配が合ったから、金髪と青髪の二人に出会っても争わないでほしい」

 

「はい。信じてますから」

 

そう言ってレイヴェルがリビングから出ていく。信じてるって浮気するなでいいのか?まあ、スタイルでは完全に負けてるからな。まあ、朱乃ちゃんは昔のイメージのほうが強いからそういう気持ちにはならない。

 

「さて、改めてだけど久しぶり、朱乃ちゃん」

 

「……本当にお久しぶりですね」

 

朱乃ちゃんが平静を装えたのはそこまでだった。ボロボロと涙をこぼし、オレに抱きついてきた。

 

「ずっと、ずっと、お礼を言いたかった、謝りたかった!!」

 

「うん」

 

「お母様を助けてくれてありがとうって!!」

 

「うん」

 

「私の所為で迷惑をかけてごめんなさいって!!」

 

「うん」

 

「どうして、どうして何も言わずにどこかに行っちゃったの!!」

 

う~む、朱乃ちゃんになら話しても良いか。殆ど知っているのはじっちゃんだけである程度知っているのがアザゼルとその周りだけのはずだ。

 

「……朱乃ちゃんはオレのことをどれだけ知っている?そうだな、例えばオレの実の父、生まれ故郷、そして種族。どこまで知っている?」

 

「それは」

 

「オレの実の父はバーダック、生まれは惑星ベジータ、そして種族はサイヤ人。簡単に言えば、オレは宇宙人というわけだ。それもとてつもなく科学の発達している宇宙人だ。成長に伴い刷り込まれていた知識が蘇ってきた。その中に、目覚めさせちゃいけない力についての知識もあった。それが覚醒しそうになったから皆の元から離れた」

 

あの頃は本気で道に悩んでいた。力を持て余す未来に怯えていた。それを闘戦勝仏のじっちゃんが救ってくれた。だから、今のオレに自分に対する迷いは無い。

 

「それからはあてもなく彷徨って、闘戦勝仏様に拾っていただいて、心を救っていただいた。オレに出来るお礼は斉天大聖を継ぐのを嫌がる兄弟子に代わり、斉天大聖を継ぐことだと思った。それまでは、他のことに関わるつもりはなかった」

 

「じゃあ、あの子は何なのよ!!」

 

「レイヴェル・フェニックス。斉天大聖への修行の途中で出会った。拉致監禁されていて強姦未遂なところを助けた。そこからの付き合いだ。それから兄のライザーは悪友みたいなものだな」

 

「そんなことを聞いてるんじゃない!!婚約者ってどういうことなのよ!!」

 

「フェニックス卿に気に入られたのもあるし、闘戦勝仏様が乗り気であったのもある。だが最終的にはお互いに惹かれたから、違うな、受け入れて貰えたからだな」

 

惹かれてはいた。だが、一緒になることに抵抗があった。オレがサイヤ人の血を引く以上、ここで絶やすべきでは無いのかと。悩んでばかりの人生だなと思い返しながらそれでもはっきりと言葉にする。

 

「レイヴェルもまた、闘戦勝仏様とは別の意味でオレを救って、抱きしめてくれた。受け入れてくれた。それがとても嬉しかったんだ」

 

たぶん、かなり良い笑顔で朱乃ちゃんに語ったのだろう。朱乃ちゃんはそれを見て、瞳に憎しみと殺意を宿らせて飛び出していった。やはりこうなったかとため息を付いてから保護者代わりに近くまで来ている二人の元に向かう。最近できたケーキバイキングの列に並んでいる見上げるばかりだった母のような姉のような存在を親猫が子猫にやるように首元を掴んで持ち上げる。

 

「仕事を放り出してケーキバイキングとは、立派になったものですね、ミッテルトお姉ちゃん、カラワーナお姉ちゃん」

 

「やっほ~、修羅場は終わったッスか?」

 

「久しぶりだな。見違えるほどだな」

 

十数年経っても変わらない二人の姿に種族差を感じる。

 

「それを止めて朱乃ちゃんを回収するのが仕事でしょうが。朱乃ちゃんにあそこまで思われてるなんて想定外だよ」

 

「えっ、普通に考えれば分かるっしょ?」

 

「普通に考えれば分かるだろう?自分も母親も死にかけた。それを救ってくれた幼馴染の男の子。女なら一度は憧れるシチュエーションだな」

 

「そういうものなのか?普通ならトラウマものだと思うんだが」

 

そう答えれば二人揃ってため息を付かれた。

 

「言っとくッスけど、朱乃様は下手な上級堕天使よりは強いッスからね。ウチラじゃ止められないッスから。ほら、婚約者のピンチっすよ」

 

「あ~、まずいな。レイヴェル、下手な上級悪魔より強いライザーより強いぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雷光とでも呼ぶべきでしょうか。まあまあ痛いですが、それだけですね」

 

帯電もせずにただ流れただけ。雷が疎かになっている証拠です。

 

「そんな!?」

 

「そんなに驚くことでしょうか?私はフェニックス、炎と再生を司る悪魔なのですよ。それに守られるだけの存在でもない。カカロット様を一人になど絶対にさせない!!」

 

今までの手加減していた一撃とは違い、意識を刈り取るだけの威力にまで高めて、一気に踏み込んで叩き込む。

 

「遠距離ばかりでは懐に潜られた時に対応できませんわよ」

 

倒れ込む彼女を抱きとめ、再び雷光をその身に受ける。意識を失う直前に出せるだけ出したようですね。

 

「その根性だけは認めてあげましょう。ですが、独りよがりな貴方をカカロット様の側に置くわけには参りませんわ」

 

結界をすり抜けるように気配が3つ増える。1つはカカロット様で残りの2つは家の側にまで来ていた気配。

 

「うわちゃぁ~、朱乃様大丈夫ッスか?」

 

「ふむ、軽傷とは言えんが致命傷でもないな」

 

金髪ゴスロリでちょっと変わった喋り方、青髪でキャリアウーマンのような堕天使。カカロット様が語ってくださった親代わりの方たちですね。

 

「すまないな、レイヴェル。迷惑をかけた」

 

「構いませんわ。ちょっとしたお遊びみたいなものです。それよりもそちらの方々を紹介していただいても?」

 

「昔話したと思うが、金髪のほうがミッテルト、青髪の方がカラワーナ。オレの母で姉のような存在だ」

 

「どうも~、逆光源氏計画を立ててたけど家出されてポシャった方のミッテルトで~す。カカロットのちっちゃい頃のアルバムあるけど幾らで買う?」

 

「何を言っているんだ、ミッテルト。私はカラワーナだ。カカロットは母で姉のような存在と言ってくれたが、どちらかといえば教師だな。ああ、後は料理は私がやっていたからな。一応、母親の味は私になるのか?」

 

「どちらのお話も興味深いのですが、まずは、はじめましてレイヴェル・フェニックスと申します。カカロット様の婚約者をさせていただいております」

 

「これからも朱乃様がちょっかいを掛けるかもしれないッスので先に謝罪しときます」

 

「この程度なら問題ありませんわ。完全に心が折れるまで、何度でもお付き合いしますわ」

 

 



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ハイスクールD×D 照らし出す光 2

「これで修羅場終了!!」

 

キーボードを叩き終え、椅子に全身を預ける。パソコンから伸びるケーブルの先には再調整を行ったガシャットと新造したガシャットが1つずつ繋がっている。ミッテルト用に調整したマイティ仕様のギリギリチャンバラと、まだ外側だけのガシャットギアデュアルγだ。

 

「あとは、ゲーマドライバーか。そっちの方は今度でも良いだろう。オレのドライバーを渡しておけば問題ない」

 

オレのゲーマドライバーをガシャットの横に置いて椅子から立ち上がり体を伸ばす。肉体的な疲労はともかく、精神的な疲労が限界に近づいている。少しの間休養を取るためにデータに戻って目の前のパソコンからマイルームに戻る。原作のポッピーがドレミファビートの筐体に部屋を持っていた形で幻夢コーポレーションのサーバーの1台にオレの部屋が存在する。前世のオレの部屋をモチーフにしたマイルームのベッドで眠りにつく。

 

 

 

 

 

 

 

パラドがミッテルトのためにガシャットを作成しているために3日ほど会っていない。まだ時間がかかると連絡があったけど、そんな時に限って厄介事が舞い込む。

 

「えっと、あの、宝生先生」

 

「また授業をサボったの?と言いたいところだけど、何か悩み事のようだね。カウンセラーの資格も持っているから話してみるといいよ」

 

携帯ゲーム機をポーズで止めて机に仕舞い込む。

 

「いえ、カウンセリングではなくて、その、力を貸してもらえませんか?」

 

「随分と抽象的だね。もうちょっと詳しく話してもらわないと」

 

そこからグレモリーさんが話してくれた内容は微妙だった。すごい、ザルすぎる契約に頭を抱える。

 

「とりあえず、今日の放課後に来るっていう婚約者の前に、グレモリー家の方からの立会人の人をここに連れてきて」

 

「どうして?」

 

「このまま放課後になると圧倒的に不利だから。グレモリーさんの主観的な話じゃなくてちゃんとした取り決めなんかを精査しておかないと。ほら、あんまり時間がないんだから急いで」

 

「う、うん」

 

保健室から出ていくグレモリーさんを見送ってから椅子を用意しメモなどを用意した上で白衣の左ポケットにガシャットを入れて左手で握り込んでおく。スタート画面は防御に使えるとパラドから教わっている。それで凌いで素早く変身すれば一安心。そこからハイパームテキに繋げれば完全に安心できる。それからステージセレクト機能で離脱する。

 

準備を整えた所でグレモリーさんがメイドさんを連れて現れた。一瞬疑問に思ったが、家の方から送られているならメイドか執事かと思い至り疑問を飲み込む。

 

「長丁場になるかどうかはわからないけど、とりあえずは席にどうぞ」

 

グレモリーさんは椅子に座り、メイドさんはグレモリーさんの後ろに立つ。

 

「私はこのままで結構です」

 

「そう。それならそのままでいいよ。それじゃあ、早速だけど現状から説明しておこうか。僕はグレモリーさんに力を貸して欲しいと頼まれた。グレモリーさん個人からの話を聞いたところだけど、実際の取り決めとの差異を確認したい」

 

「分かりました」

 

メイドさんとの確認を行った結果、余計に頭を抱える。契約が杜撰すぎる。正当性は当主間での酒の場での口約束のみ。当主が命令すれば婚約自体は成立だからいいのだが、向こうが言い寄ってくるのを無視したり拒絶するのも問題ない。婚約を盾にとってもそれが正式なものではないから拒絶しても問題ない。このまま平行線で終わらせても何の問題もない。この婚約を成立させれるのは当主の合意だけだ。もしくは魔王からの命令。平行線だからレーティングゲームという模擬戦で決める?プロとアマチュアを戦わせてハンデは一切なしとかどうなのよ。

 

「悪魔って、バカばっかなんだね」

 

問題点をつらつらと並べると二人とも落ち込んでいる。

 

「グレモリーさん、実家に戻って父親を説得するのが一番手っ取り早いよ。そうだね『定職についてしかるべき年齢に達していながら遊び呆けていて女癖も悪くナルシストが相手なんて生理的に受け付けない』とでも言えばいい。欠点なんていくらでも出てくるでしょう?その相手も同じ席に付かせておくと尚良しだね。暴力に訴えさせないのが重要、いや、暴力をふるわせてもいいね。そんな相手に娘を差し出すようなら、メディアにその事実を暴露して全員の評判を道連れにすればいい」

 

「そこまでやるの!?」

 

「パラドに任せると命にかかわるからまだマシだと思うよ。それも自分の痕跡は完全に消して完全犯罪を達成させる。そういう手段を持っているのはグレモリーさんも知っているでしょう?」

 

「それは、まあ」

 

「それと、父親の説得に失敗してレーティングゲームになるのなら、ハンデは絶対に貰うこと。相手の人数を減らすんじゃなくて助っ人を呼べるように。最低でも3人は追加してくれたら僕の方からパラドとミッテルトを説得してあげてもいい。ゲームって名前が付いてるから食いついてくるとは思うけどね」

 

ゲームから産まれた存在であるパラドはプレイヤーを楽しませるということに比重を置く存在だ。その為に他のゲームでも自らに取り込むために積極的にプレイする。ゲームと名がつくとほいほい寄ってくるはずだ。

 

 

 

3日後、レーティングゲームの開催が決定され5名まで追加メンバーをもぎ取ってきたとグレモリーさんが告げてきた。ゲームの開催自体もグレモリー家としては渋々のようだ。あのメイドさん、裏で色々頑張ってくれたそうだ。息子さんが幻夢コーポレーションのファンらしいからお礼にテストプレイヤーに推薦しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅いし弱いッス!!」

 

ミッテルトの木刀でグレモリー勢が地面に沈められる。

 

「へいへいへい、下級堕天使に負けて悔しくないんッスか。まあ、ウチは下手な上級堕天使よりは強いッスけどね。折角ウチもガシャットとドライバーを貰ったのに出番なしッスか?」

 

「予想以上に弱いな。そんなので大丈夫か?」

 

パーフェクトパズルの能力で回復のエナジーアイテムをばらまいてグレモリー達を治療する。

 

「ハングリー精神が足りねぇんだよ。変に生活が安定していることがここぞという時の気合に繋がらねえ。ぬるま湯は気持ちいいからな」

 

「これだけは、って言える拘りを貫く鉄の意志と鋼の強さが感じられないッス。もっとギラギラした面を押し出さないと」

 

「そういう貴方達はどうなのよ」

 

グレモリーが起き上がりながら不満そうにそう告げる。

 

「所詮、オレにとってはお前が気に食わない相手と結婚させられようが赤の他人のことだ。それに素のミッテルトに負けている時点で余裕だな。それにな、オレは常に命をかけてゲームを作っている。誰も楽しませれなくなればオレに存在する価値はない」

 

「右に同じッス。それにウチはハングリー精神でここまで鍛え上げたんッスよ。生きるために身体を売ること以外は何でもしたッスよ。そんな中でぼろぼろになった心を救ってくれたゲームは全身全霊を持って遊び倒す。バグスターになってからはその気持が強くなったッスね。ゲームを楽しめなくなったらウチに存在する価値はない」

 

「「それだけの覚悟を持てるか」」

 

「命を捨ててでも果たしたいことではなく」

 

「果たせなくなった時に命を捨てる」

 

「そういう覚悟を持てない奴に真の力は宿らない」

 

「怒りや憎しみはその場でしか莫大な力をくれない」

 

「妬みや嫉みは力を歪める」

 

「求めなければならないのは純粋なまでの思い」

 

「その思いが純粋な強さに繋がる」

 

「純粋な力を応用するのは容易い」

 

「純粋で莫大な力は心を歪めない」

 

「それが心に余裕と自信を持たせる」

 

「「それがないから焦っているのが丸わかりだ」ッス」

 

思い当たるフシがあるのか、全員が何かを考え込む。

 

「そういうわけだ。今日はもう上がれ。で、考えろ。自分だけの1を見つけろ。自信を持って言える1をな。ミッテルト、オレが相手になってやる」

 

ミッテルトがステージセレクト機能でグレモリー達を追い出してガシャットを取り出す。

 

「待ってました。楽しみだったんスよ、こいつで遊ぶのは」

 

ミッテルトがゲーマドライバーを装着し、ガシャットギアデュアルγを右に回す。

 

『ギリギリチャンバラロード』

「段位五十段!!」

 

ガシャットギアγをゲーマドライバーに装填する。

 

『My walk is one way!』

 

そしてレバーを開く。

 

「変身!!」

『デュアルアップ!!全ての答えは斬り捨てた先、ギリギリチャンバラロード』

 

スクリーンを潜り抜けたミッテルトが紅いライダーへと姿を変える。左手には新規製造のガシャコンウェポン、ガシャコンブレードを持っている。ガシャコンブレードは他のガシャコンウェポンと異なり、刀と鞘、大剣、両剣の3種類のモードを切り替えて扱うことが出来る。

 

「仮面ライダーブライ、チャンバラロードゲーマーレベル50ッスよ」

 

「ほぅ、もう50を使えるようになっていたか。ならこっちの方が戦いやすいな」

 

それに合わせてオレもホルダーに装着しているガシャットギアデュアルを手に取り、2回左に回してスイッチを入れてベルトに戻す。

 

『KNOCK OUT FIGHTER! The strongest fist! "Round 1" Rock & Fire! DUAL UP! Explosion Hit! KNOCK OUT FIGHTER!』

 

頭部が180度回転し、両肩のマテリアライズショルダーが外れて前後が反転しマテリアライズスマッシャーとなり両腕に装着され、胸の表示がノックアウトファイターに切り替わる。

 

「仮面ライダーパラドクス、ファイターゲーマーレベル50」

 

ブライがガシャコンブレードを刀と鞘の二刀流で構え、オレはマテリアライズスマッシャーを打ち合わせると同時に走り出す。すれ違いざまに刀と拳が打ち合う。今回はブライの調子を確認するためなので殺さない程度にやりあう。少しずつ打ち合い、切り合いが激しさを増していき、何方かがクリーンヒットを貰えば離れて回復のエナジーアイテムを使用する。10分ほどそれを繰り返した後からが本番だ。

 

遊びが混じっていた空気が、殺気が混ざった空気に一変する。ステージ内のドラム缶や重機を使った攻撃、回復以外のエナジーアイテムを使った攻防、ゲーマー特有の能力まで使用する。オレはパーフェクトパズルとノックアウトファイターを何度も切り替え、ブライは片っ端からガシャコンウェポンを使用する。かろうじてキメワザだけは使わないでいるが、本気で相手を倒そうと戦っている。

 

夕暮れ時から始まったブライとの戦いは月が傾き出した頃にマテリアライズスマッシャーが大剣モードのガシャコンブレードを叩き割り、そのままブライを吹き飛ばし、変身が解除されたことで終了する。

 

「だあぁっ!!クソがっ!!強すぎだぞ、ミッテルト!!」

 

悪態をつきながら変身を解除して転がる。

 

「それはこっちのセリフッスよ!!というか、パズルゲーマーの能力が酷すぎ!!エナジーアイテムを好き勝手に使えるとか!!」

 

「戦闘中にパズルの操作を行う難しさを考えろ!!3回も邪魔されるはチャンバラロードゲーマーの能力で5回もフィニッシュを回避されるとか、どんな見切りをしてんだよ!!」

 

チャンバラロードゲーマーは左腕が籠手状になっており、そこにゲージが表示されている。ゲージは3本まで貯めることが出来、1本を使用することで0.1秒だけ攻撃をすり抜けることが出来る能力を有している。このすり抜け回避を3回連続で成功させ、尚且つその間に被弾・防御を行わなかった場合、全てのゲージが全回復する仕様となっている。おかげでライダーゲージも何回か全回復された

 

並大抵の反射神経では絶対に出来ないことだが、ギリギリチャンバラをガード縛りでノーコンクリア出来るミッテルトはそれを熟してしまった。攻撃力の不足を補えば幹部クラスに入っていてもおかしくないと自分で言っていたのは嘘じゃなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レーティングゲームも終盤に差し掛かり、グレモリーの采配ミスによって窮地に陥っている状態でようやくオレたちが動く。ダメージが危険なイッセーを気絶させて退場させた所で永夢とミッテルトがゲーマドライバーを装着する。ちょっとだけ悩んで二人共ガシャットを2つ取り出す。

 

「とりあえず、あの空に浮いてるのはウチが貰うッス。段位五段」

 

『ギリギリチャンバラ』『ドラゴナイトハンターZ』

 

「ならオレはグラウンドに居る奴らだな」

 

『PERFECT PUZZLE! What’s the next stage?』

 

「そうなると僕がライザーになるか」

 

『マイティアクションエックス』『ゲキトツロボッツ』

 

「大大大「「変身!!」」」

 

『ギリギリチャンバラ!!アガッチャ!!ド・ド・ドラゴ!!ナ・ナ・ナ〜イト!!ドラ・ドラ・ドラゴナイトハンターZ』

『DUAL UP! Get the glory in the chain! PERFECT PUZZLE!』

『マイティアクションエックス!!アガッチャ!!ぶっ飛ばせ!!突撃!!ゲキトツパンチ!!ゲ・キ・ト・ツロボッツ』

 

急に表示されたスタート画面と、スクリーンを潜ってライダーへと姿の変わったオレ達を見てライザーが混乱から硬直する。その間にブライは飛び上がり、エグゼイドはライザーに向かって走り、オレは校庭に飛び降りる。

 

「何者ですか、貴方は」

 

「グレモリー側のお助けキャラだよ。まあ、オレは時間稼ぎをするだけだ。永夢の奴がライザーを倒すまでのな」

 

「あら、大した自信なのですのね。ですが、お兄様を倒すなんて不可能ですわ」

 

「あの程度で不可能というのならウチのゲームをクリアするなんて夢のまた夢だな。まあ、とりあえずお前たちはここで大人しくしとけ」

 

パズルゲーマの能力で校庭に散らばるエナジーアイテムを掻き集め、2面のパズルを作成し、両手で別々にスライドさせる。三人分のエナジーアイテムがあるおかげで選びたい放題だ。

 

「今回はこいつらだ。手間を掛けさせるなよ」

 

2面のパズルから6つのエナジーアイテムが飛び出し、それらをライザーの眷属に付与する。

 

『混乱、停滞、鈍速、睡眠、麻痺、石化』

 

「おとなしくしていろ。そうすりゃ痛い目に遭わなくて済む」

 

倒れたり動けなくなったライザーの眷属共を放置して屋上とその上空を眺める。角度の問題で永夢はよく見えねえが、ミッテルトは問題なくドラゴナイトゲーマの力で遊んでいるみたいだな。見えない爆破魔術のようだが、腕の動きで見切れるのだろうな。余裕で回避して甚振っている。

 

『ゲキトツクリティカルフィニッシュ!!』

 

おっと、ライザーが上半身が吹き飛んだ状態で落ちてきた。キメ技を食らったな。ミッテルトの方はキメ技を使うまでもなく倒していた。そして二人共がグラウンドに降りてくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜ん、やっぱりコントローラーがないと微妙ッスね。武器の種類が多くなった所為で設置するのが難しいのは分かるッスけど」

 

「やっぱりか。他のテスターからも同様の意見が来ているが、どうしても複数の武器を使うとなるとな。両手にグレートソードとかロマンだろう?」

 

「割り切って大型化するしかないッスよ。弓と接近時の刀なんて組み合わせもあるっしょ?」

 

「投げ捨ても可能だからコントローラーの破損も気になる。怪我をされても困るし、講習会を開かないとダメか?」

 

「ガワだけでクッション性の高い物でいいっしょ?重すぎてもプレイヤーを選ぶし」

 

「う〜ん、ギリギリチャンバラのコントローラーを基準に用意させよう。いや、若干軽めにした方が良いな。その分重心にこだわらせよう」

 

「あっ、槍だけは頑丈にしておいた方が良いッスよ。絶対棒高跳びするのが居るはずッスから」

 

考えることは一緒だな。

 

「当然だな。既にやって折った」

 

「やるッスよねぇ。ああ、もう一つ、チュートリアルは絶対でスキップ不可。ローディング中も禁止事項をこれでもかと表示」

 

「当然だな。ギリギリチャンバラでもあれだけ馬鹿をやらかす奴らが居たんだからな」

 

馬鹿が怪我人を出して幻夢コーポレーションが叩かれることは過去にもあった。その度に裁判で全て勝ってきたがな。世論操作もお手の物だ。そもそもバグスターとネット上で戦うのが間違いだ。

 

ミッテルトが新製品であるギリギリチャンバラロードのテストプレイを終え、要望を纏め始めるのを横目にバグルドライバーを設計する。

 

「なんすか、それ?」

 

「ライダーとしての力ではなくバグスターとしての力を発揮するためのガジェットだ。ミッテ、お前も分かっているはずだ。ライダーの力が馴染まないことにな」

 

「……はぁ〜、確かに馴染まないッスよ。まるで互換性はあるけど完全じゃないコントローラーを使ってる気分ッス」

 

「当然だ。オレたちはバグスターだ。ヒーローかヴィランか、どちらかと問われればヴィラン一択だ。属性が合わないんだよ。だから本気で戦うにはこのバグルドライバーと専用のガシャットが必要になる。いずれは受け入れろ」

 

「気づいてたッスか」

 

「出来るだけ有機生命体であろうとしているんだろう。体調を崩す前に宿主を見つけろ」

 

「分かってるッスよ。寄生しないと生きれないんでしょ。耳タコッスよ」

 

「初期症状は出ているはずだ。早めに見つけることだ。ほい、バイト代」

 

茶封筒に入れたバイト代をミッテルトに渡す。

 

「分かっているだろうが」

 

「社外秘ぐらい分かってるッス。その分バイト代に色を付けてもらってるッスから」

 

「それなら良い。おつかれ、また何かテストを回す時は頼む」

 

「はいは〜い、バイト代は忘れずに」

 

部屋から出ていくミッテルトを見送り、バグルドライバーの設計図の裏からゲムデウスに関するデータを呼び出す。

 

「さて、こいつをどうするべきか」

 

ライダークロニクルはフルダイブゲーム機として開発中だ。運用も専用の施設で万全のバックアップスタッフを用意した上でプレイする。そのラスボスにゲムデウスを使用するか否か。序盤は各ゲームのボスキャラ達を使い、お助けキャラのライダーはレベル2まで。大型アップグレードでレベル5までのガシャットとボスとしてゲンムゾンビゲーマーレベルXの実装までは予定している。

 

「とりあえずは保留だな。実装するならクロノスも実装する必要がある」

 

ライダークロニクルガシャットは開発できるが、変身することは出来ない。あれは少し特殊な抗体が必要になる。この世界に来た当初のオレなら何とか出来たかもしれないが、今はパーフェクトパズルとノックアウトファイターに馴染んでしまっている。その影響で他のガシャットはマイティブラザーズダブルエックスしか使えない。

 

「やはり保留だな。そもそもライダークロニクルがまだ先の話なんだ」

 

そう結論づけて仕事を切り上げる。

 

 

 



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ハイスクールD×D 革新のリアン 6

相変わらずアーシアが眷属やヒロインにならないなぁ。
嫌いじゃないし、むしろ好きな方のキャラなのに、不思議な事もあるものですねぇ。


 

娼館にドハマリして入り浸りそうになったイッセーをプレイ内容を公開すると脅し、成果を出せば再び連れて行ってやることを約束して人間界へと戻してからも、オレは冥界に留まり書類を片付けていく。ちなみにイッセーが気に入っていたプレイはまだ普通だ。世の中にはもっとぶっ飛んでいる奴らが多いからな。あの程度は普通の範疇だろ。まあ、赤龍帝の籠手で精力を強化していたのは笑えたが。ドライグが泣くだろうな。

 

「この資料は確かなのか?」

 

アーシア・アルジェントに関する資料をおいてマリータに確認する。

 

「私も目を疑いましたが、事実です」

 

もう一度資料に目を通して、絶滅してしまったとされる動物を実際に見てしまった気持ちになる。

 

「こんなのが未だに生息していたなんて。裏から手を回して囲い込んでおこう」

 

「取り込まないのですか?」

 

「いや、なんか手に余りそうだ。直視すると自分の汚れっぷりに目が潰れるかもしれん」

 

「まあ、分からなくもありませんが。裏で手を回しておきます。護衛の方も専属で付けておきます。それとこちらはどうします」

 

「消せ。眷属ごと纏めてだ」

 

「かしこまりました」

 

この一言で数日の内にとある悪魔とその眷属が姿を消すことになる。遅いか早いかの違いだけで消すこと自体は決まっていたことだ。

 

「それからルシファー様よりレーティングゲームの要請が」

 

「兄上もしつこいな。まあ良い、今少しの間だけだ。付き合ってやろう。イッセーを鍛えるのにもちょうどいいしな」

 

「それが、ルールがダイスフィギュアなのですが」

 

「ダイスフィギュアか。レーティングゲームのコスト制のルールは作りが甘いからな。10面ダイス目に眷属を配置、出た目の選手同士で対決。各眷属は2箇所まで配置可能。それを5回行う形で勝敗の数で勝負を決める。目に所属する眷属が全滅している場合は不戦敗だ。それでなら受ける。これを基本に交渉で詰めろ。断るようならレーティングゲームの存在を公表しろ。同時に裏で詳細の噂を流せ」

 

「かしこまりました」

 

「ああ、処刑場の方はどうだ?」

 

「リアン様の設計通りに進めております。あとは、魔法陣の設置だけですが、指定された染料の調達が難航しているようです」

 

「遅らせることだけは罷り成らぬ。金と人材はいくらでも注ぎ込め」

 

「現場に伝えます」

 

処刑場が稼働すれば、オレの力は更に増すことになる。負の感情ってのは放っておくと悪質に変化するからな。おいしく利用させてもらうことが出来るのが呪術師だ。餌も大量に手に入るしな。

 

「買収した企業は赤字だが、これは問題ないな。あれは慈善事業だし、ブラックをホワイトにした結果だからな。あとはこれを正常な利益が出る企業に変えていくだけだ。グループ化は済んでいるから、余分な贅肉を落とせば健全な企業になるな。とりあえず重役のゴミは纏めて排除して、使えない天下りも排除。手足から一時的に人材を派遣して立て直しを図らせる。余分な部署も統廃合させれば何とかなるな」

 

「赤字だらけですが、トータルでは黒字ですね」

 

「やはりカジノの収入はデカイな。プロのディーラーとそれを差配する支配人が優秀なら上がりは十分だ。目玉の巨大スロットは見えっ張りなジジイ共に大受けで何よりだ」

 

「溜め込みすぎですね。お金は廻してこそ意味があるというのに。宝石や芸術品を溜め込むのは分かりますが」

 

「コレクションしたいという気持ちはよく分かる。古銭をコレクションするのもな。レア物の現金のコレクションも理解できる。だが、普通の金を溜め込んでもなぁ。所詮は紙と数字なんだよ。それを、いや、経済そのものを理解できていないんだろうな」

 

経済っていうのは生き物なんだよ。金は血液だ。血液を体内の一箇所に溜め込めば生き物は死んでしまう。まあ、流れる血液の量が多くても駄目なんだが、そこはうまく調整する必要がある。今まで誰も調整した跡がなかったのは、そもそもの金銭に関する概念を人間たちから模倣しただけなのだろう。足元がお留守にも程が有るぜ。

 

「もう少しでライフラインの会社を全て抑えられる。金融機関も半分まであと少し。楽に革命ができそうだわ」

 

「旧魔王派はこれでチェックメイトですね。現政権も既に天守に籠った城主を残すのみですか」

 

「それから先は外交になってくる。まあ、どうとでもしてやるさ」

 

懐からシガレットチョコを取り出して咥える。う〜む、カカオ90%とは言えタバコとは違うな。やはり本物のタバコが欲しい。どうせ隠密用に加工するだろうけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

「各陣営はそれぞれ1から10までの数字に眷属を配置する。眷属は2箇所にまで配置することが出来る。両陣営が配置終了後に配置を発表。その後、審判が各陣営の色のついた10面ダイスと一回り大きな6面ダイスを振り、その目に配置された眷属が6つの会場のどれかに転送される。それを5回繰り返し、先に3勝した方の勝ち。いいだろう、これで受けよう」

 

今日の夕食のメインの鶏肉から余分な脂身を取り除きながら通信魔術陣の先にいるマリータに答える。片栗粉をまぶし、皮の方から焼いていき、アルミホイルを被せて重しを乗せる。その間にゆで卵とピクルスをみじん切りにして自家製マヨネーズを入れてタルタルソースを作る。

 

「中々大変そうですね」

 

ソーナがボードゲーム試遊会のチラシを作りながら相槌を打つ。

 

「アレだけボコって再び立ち向かう気になったこととダイスフィギュアでオレに暴れさせないように考えたのは評価に値するが、情報収集を怠ったな。まあ、眷属はマリータしかお披露目していないからな。他は大したことはないと勘違いしたのだろう」

 

「そう言えばそうでしたね。なぜまた急に?」

 

「まあ、イッセーの経験値稼ぎだな。基礎はある程度積み終わったから実戦も積ませないとな。はぐれは速攻で狩るから態々遠征する必要があるからな」

 

「そうですね。私も匙に実戦を積ませたいのですが。遠いのがネックなのですよね。魔獣とはまた違いますから」

 

「レーティングゲームも実戦とは違うんだけどな。会話が成立する相手を殺せるかどうか、殺した後に壊れないかどうか」

 

火が通った鶏肉をひっくり返す。うむ、良い焼け目だ。鶏皮から出た余分な油をキッチンペーパーで取り除き、そこにポン酢と砂糖で作ったタレを入れる。タレを焦がさないようにスプーンで掛け回しながら火を通す。

 

「転生悪魔と純粋悪魔の一番の違いですか。こればっかりは試してみないとどうしようもありませんね」

 

「兄上達のように戦乱期の人間を転生させれればそこは簡単にクリアできるんだけどな」

 

はぐれになる原因の一つである命を奪うという行為。慣れていなければ簡単に心が壊れる。壊れなくても原因を求める。それが主からの命令に結びつき、憎悪し、殺害に移る。それが理解できないのが悪魔なのだ。姿は似ていても、精神の有り様が異なるのだ。なまじ姿が似ている所為で余計に分からないのだろう。

 

「さすがに現代では厳しいですね」

 

先に千切りにしておいたキャベツが盛られている皿に鶏を盛り付けてタレを少量かけ、タルタルソースをたっぷりと乗せればチキン南蛮風ソテーの出来上がりだ。

 

「日本で見つかったら逆に怖いな」

 

「見つけたら寧ろ消さないと危険すぎます」

 

「たまにプロが入国してるみたいだけどな。依頼成功率99.9%の超A級スナイパーがな。まあ、銃のパーツを砥いで貰っていることが多い。たまに依頼で来てるみたいだけど関わらない限り問題ない」

 

話を一度打ち切り、夕食をテーブルに並べる。チキン南蛮の衣があまり好きではないのでソテーにしてみたが、はたして結果は。うん、美味い。衣を取り除き、余分な脂肪も取り除いているから普通のチキン南蛮よりはあっさりしているが、メインとしては十分なボリュームだ。

 

「相変わらずレシピ本に無いようなアレンジをしますね」

 

「突拍子も無い組み合わせをしようとしなければ大抵は大丈夫だよ。レンチンしたかぼちゃにミントアイスをぶち込んだり、牛すじと金柑を蜂蜜と醤油で煮込んだりしなければな」

 

「なんですか、それは?」

 

「とある知り合いが客に出して店から追放された料理」

 

ちなみに現在はイッセーを放り込んだ娼館のNO.1だったりする。客に料理を振る舞わせないように細心の注意を払っている。本人は美味しいのにとか言っているが、味の許容範囲の下限が広いだけだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭が痛い。なんでこんな苦労が多いんだろう。やめて欲しい。

 

「現実逃避はそのくらいにしてください」

 

「世界が滅ぶのを特等席で眺めるだけの方が楽な気がしてきた」

 

ソーナに突っ込まれながら眼の前に居るオレの手足に保護されたアーシア・アルジェントに向き直る。

 

「はじめましてだ。私はリアン・グレモリー、この地の管理を任されている者だ」

 

「はじめまして、アーシア・アルジェントと申します」

 

何も分かっていない笑顔で挨拶を返される。頭痛が酷くなる。

 

「自分がどんな目に会いそうになっていたのか理解されていないようだな」

 

「はい?」

 

「レイプ、貞操の危機だったと言っているんだ」

 

「えっ?」

 

「今時の小学生でも引っかかりそうにない言葉に釣られてな。良かったな、神器を持っている有名人で。そうじゃなければ放っておいたところだ」

 

本当に頭が痛い。簡単に丸め込まれてホテルに連れ込まれる直前に警察官に変装した手足が職質をかけて保護したのだ。

 

「なっ、えっ?」

 

「有名人だぞ、アーシア・アルジェント。『聖女』と呼ばれながら悪魔を癒やし、教会から追放された『魔女』様。ちなみに君が癒やした悪魔は極刑に処して首は教会に届けられた。奴は聖女好きでな、伝承にあるような悪魔らしく聖女を堕落させて自分の者にするのが好きな奴でな。その所為で同族がどうなろうと知ったことではないという奴だから処分した」

 

ついでに言えばテロリストと手を組んでいたし、旧魔王派でもあった。兄は魔王なのにな。だからさっぱりと処分した。心不全に見せる毒でな。

 

「中途半端な知識しかない君に言っても仕方ないことだが、この街は悪魔の領地でな、10年ほど前の事件によって教会はこの地への干渉は行わないという契約も存在する。土地の権利は教会側が持っているので何も言わないし、建物自体にも何も言わない。ただし、整備を行ったり管理人を送り込むのも禁じていた。教会に問い合わせた所、君が教会から追放されたとは伝えられた。ここで面倒なのが、追放されただけで破門されたわけではないということだ。この違いが分かるか?」

 

「いえ」

 

「簡単に説明すれば復帰出来るか出来ないかだ。追放の場合、恩赦によって復帰が認められる可能性がある。破門なら不可能だ。この差はデカイ。ただでさえ他の領地では一般の信者の希望で悪魔の領地に教会を建てられて、侵略されることすらあるのだからな。最近は経済戦争をこっちからふっかけて空き領地を増やしてやってるがな」

 

ブラックすれすれのグレーゾーンの地上げで教会をどんどん潰してるからな。手足を挟んでいるからオレまでたどり着けない。空いた領地に紛れ込むように誘導したはぐれに密かに援助して被害を出させ、管理能力不足で天界から奪いさり、それを新魔王派でやる気も能力もある新人に任せている。手足が視察しているので問題があれば業務改善命令も出すし、場合によっては研修や会合も開いている。

 

「水面下で激しい闘いがあるんだよ。ここ数年は悪魔が勢力を伸ばしている。教会は落ち目だ。信仰心はあまり関係ない。いや、関係なくはないのか。だが、経済という名の魔物が強大すぎるだけだ。資本主義バンザイ」

 

「貴方は、神を信じられていないのですか?」

 

「いや、信じてるよ。オーディンの爺とかはちょくちょく会ってるし。ああ、キリスト教の神、ヤハウェなら死んでるから信じる何もない」

 

「……えっ!?」

 

「まあ、知らないのも無理はない。今はミカエルがヤハウェの残した装置を使って代理を行っているからな。だが、使い切れないミカエルでは取りこぼしが多く出てしまう。ああ、ちなみに上の方の悪魔とか堕天使とか他の神話勢力はヤハウェが死んでるのは知ってるぞ。下に教えないのは、まあ、鏡を見れば分かるだろう」

 

半分も理解できていないだろうが、それでも十分に絶望している顔が鏡に映されている。

 

「希望がないから生きていけないって言うなら、殺してやる。確か自殺は禁じられてただろう?苦しまずに送ってやるよ。その方が楽でいい」

 

「リアン、本音が出すぎです」

 

「別に構わないだろう。出会ったばかりの悪魔の戯言を鵜呑みにするような、考える力を奪われ、簡単に折れる心しか持たない元シスター。オレの興味は尽きた。これまでの活動から気が引けていたが、どうということはなかった。好きに生きればいい。無知な子羊として生涯を過ごすが良い」

 

回復系の神器は珍しいから他の勢力に奪われないように護衛は付けるが、それだけだ。アルジェントの経歴が全てを分かった上で行っていたとしたら畏敬の念から恐れていた。だが、無知によるその場その場の行動であるというのなら恐れる理由はない。前世に居た、俺たち傭兵団が、まともな感性を持つ全ての武力を持つ人間が恐れた、あの聖人と違う存在なら掃いて捨てるほど見てきた。今まで見てきた偽物の中では一番近い存在だっただけだ。

 

興味がなくなったアルジェントをソーナに任せて自宅に帰る。マリータに連絡して警戒度を落とさせる。それで全てが終わったと思ったのだが、数日後にレーティングゲームに備えて眷属たちと調整していた所にソーナがアルジェントを連れてきた。

 

「何か用か?」

 

「貴方にしては対応が雑だと思いましてね。じっくりと育てるのが得意な貴方が早々に手放すと、逆に興味がわきまして」

 

「ああ、なるほど。ソーナは出会ったことがないのか。彼女は薄っぺらい、考えることを放棄した人間だ」

 

「ふむ。もう少し詳しく」

 

「狂信者までは行っていないが、そういう素質は持っている。性格的に狂信までは行かなかっただけだな。歴史上はそこそこの人数が居たが、近代化に伴い数は減らした。近代化には教育も含まれてくるからな。宗教は無垢で無知であると染まりやすい。教育されてしまえば、それに絶望しない限り染まりにくいからな」

 

「ですがリアンなら上手く扱えるでしょう?」

 

「まあ扱えるが面倒だ。聖女だ何だと言われてる奴らは一度折れると立ち上がらせるには何かに依存させるしか無い。何故なら心に芯がないからな。普通は成長に伴い人生経験から芯という物が形成されるが、その人生経験が薄い生活しかしてこなかった弊害で誰かに支えられないと立てない。そして支えられているうちに芯が支えてくれている相手に染まる。ソーナ、彼女は自分でここを訪ねようとしたか?違うな、ソーナが連れてきただけで能動的に動こうとはしていない。そんな者に掛ける時間は生憎持ち合わせていない」

 

話はそれだけだ。イッセーの仕込みの最終段階なんだ。それでこの先は自己流で仕上げさせることが出来るんだからな。多少怠け癖があるが、そこは飴と鞭を適切に使えば問題ない。娼館の一つの貸し切り程度で十分に鍛え上げた赤龍帝を使えるなら何の問題もない。これで性格がクズだったり、扱いにくいのなら話は別だがな。

 

 

 

 

 

 

 

人間性の薄っぺらさ。なるほど、確かに彼女はそれが薄い。自分というものが薄いと少しのきっかけで簡単に折れてしまう。逆に言えば、依存させれば裏切ることはない存在となりますね。リアンがいらないというのなら私の方でもらいましょう。手間はかかるかもしれませんが、十分なリターンはあります。駒は騎士しか余っていませんが、底上げという意味では間違いではないでしょう。

 

さて、じっくりと心の隙間に忍び寄らせてもらいましょう。悪魔らしくね。なに、私は身内には優しいですから。このまま放流するよりは幸せにしてあげますよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「各陣営はそれぞれ1から10までの数字に眷属を配置する。眷属は2箇所にまで配置することが出来る。両陣営が配置終了後に配置を発表。その後、審判が各陣営の色のついた10面ダイスと一回り大きな6面ダイスを振り、その目に配置された眷属が6つの会場のどれかに転送される。それを5回繰り返し、先に3勝した方の勝ち。各試合のインターバルは試合前後に5分ずつ。リタイアからの復帰はありか。眷属が配置されていない、もしくは復帰できていない目が出た場合は不戦敗。ご丁寧にフェニックスの涙の使用制限が入ってない」

 

「相手は大量のフェニックスの涙を持ち込んでくるでしょう。対策は?」

 

「簡単なことを聞くな。所詮は傷と魔力を回復するだけだ。体力は回復しないし、体調も回復しない。何より心は絶対に治らない。まあ、多少の細工を施させてもらう」

 

ルール表を見てから軽くゲームプランを組み立てる。そろそろライザー・フェニックスには飽きてきた。完全に心を折る。そのために必要なのは圧倒的な戦力、シチュエーション、そしてパフォーマンスだ。

 

眷属達の仕上がりは十分だ。シチュエーションは現場で細工するだけだし、パフォーマンスに必要な台本も用意してある。

 

罠を仕掛けたと思っている馬鹿を力技で罠ごと食いちぎりにレーティングゲーム会場に向かう。長々としたルール説明を無視して配下のグループからの報告書に目を通す。設備を最新の物に切り替えたにもかかわらず赤が減っているのは順調な証だ。重鉄鋼は抜き打ちの監査だけで問題ないな。他のところも軒並み問題なし。新規部門は赤だけだが、問題なし。

 

「貴様、舐めるのも大概にしろ!!」

 

ライザーが怒鳴り散らすが仕方ないだろうが。

 

「定職についていないお前と違って学生と財閥の掛け持ちをしているオレは忙しいんだよ。オレの1時間とお前の1時間は等価じゃないんだよ。オレの1時間の稼ぎに300人の生活がかかっている。いい加減諦めろ。グダグダとするのは男を下げるだけだとまだ分からんか。私だ、例の土地を買い上げろ。そうだ、新しい工場を立てる。地盤整備からしっかりとやれ。ルールは理解しているからとっとと始めろ」

 

「すぐに吠え面を掻かせてやる!!」

 

「やれるものならやってみろ。ところでだが、審判さん、あんた、ディーラーをやってるらしいな。ダンタリオンの所で」

 

「それがどうされました?」

 

「おいおい、分かんねえか。悪魔じゃあ珍しく魔力を使わない技術でダイス目を操作できるイカサマディーラーさんよぉ」

 

マリータに合図を出し、こいつの秘密の練習風景の盗撮動画を流す。ポーカーフェイスを崩さずに視線も泳いでないが、一瞬強張ったな。一流ではあるが超一流ではないな。

 

「ついでにこれもどうだ」

 

フェニックス家の執事が屋敷から出て審判に金を積んでいる映像だ。ライザーのやつは顔に出ているな。甘っちょろい餓鬼だな。

 

「場外乱闘がご所望で?兄上、どうせ見ているのでしょう。とっとと公平に見える審判を連れてきてくださいよ。何度も言っていますが、忙しいのですよ。ああ、それとお前の顔は賭博業界に流す。指を切り落とさないだけ有情だ。連れて行け」

 

今まで潜んでいた影たちがイカサマディーラーを捕縛して消え去る。

 

「さて、弁解を聞こうか、ライザー・フェニックス。先程の動画には続きがある。あの執事がお前へ報告している続きがな。杜撰にもほどがあったな。貴様程度ではオレと同じ舞台に立つことは出来ない。今まではお遊びに付き合ってやったが、暇ではないのでな」

 

置かれていたサイコロを拾い上げ、こいつがイカサマディーラーに頼んでいた目を出してやる。

 

「ほらよ、こいつが出したかったんだろう。お望み通りにしてやろうじゃないか」

 

出した目は、イッセーしか配置されていない目と、ライザー達全員が配置されていて、闘技場のフィールドの目だ。

 

「あれぐらいのサマはオレは普通にできる。出来るという事実を知らずに目の前でサマをやろうなんて、笑わせてくれる。これが格の差って奴だ。一つ勉強になったな」

 

先程まで青くなっていた顔色が赤くなったライザーを無視してイッセーに向かい合う。

 

「さて、イッセー。事前に伝えた通りだが、お前には一人でライザー達の相手をしてもらう」

 

「本当にオレ一人でやるんですか?イザイヤ達の方が」

 

「ああ、イザイヤ達の方が安定して勝てるだろう。だが、それでは意味がない。それに投資した分の成長を見せて貰わないとな。損切はしたくない。意味はわかるよな」

 

「投資家としてのリアン先輩を信じろと。やってみます。ただ、アドバイスが有ると嬉しいんですけど」

 

訓練の成果はちゃんと出ているな。情報を得ようとする姿勢があるのとないのでは大きく違う。

 

「うむ、慎重なのは良いことだ。では奴らの目安を教えてやろう。カーラマイン、あの鎧を着ているのしかオレの準備運動を熟せる奴が居ない」

 

「えっ!?」

 

「それとレイヴェル、あのドレスを着ている子だな。あの子とライザーは兄妹で、超再生能力があるが、加減して殴れば痛みはしっかり残る。レバーブローを叩き込んで沈めればいい。振り回して三半規管を狂わせても良い。あれは再生しようが治療されないからな。ライザーの隣りにいるドレスの女は空間爆撃を行うが、見た目ほどの威力はないし爆破までに多少の時間と違和感を与える。双子の餓鬼共はチェーンソーを獲物に持っているがそれに振り回されてるだけでさほど怖くはない。剣で斬られるのとチェーンソーで斬られるので結果が変わるわけではないからな。あのポニーテールの奴だが、多少の不意打ちや一騎打ちの割り込みをする程度の良い子ちゃんだ。あとはどうとでもなる」

 

「えっ?いや、えっ?あの、平均以下?」

 

「中堅どころの平均だな。ほとんどライザーに頼ったチームだ」

 

「あの、それじゃあオレたちって」

 

「本格的にレーティングゲームに参加すればすぐに上位陣に食い込める。それだけのことを叩き込んだ。とはいえ、ルールによっては本来の実力が出せないような状況に追い込まれることもあるだろう。が、今回はそんな心配は全く無い。存分にやると良い。それからもう一度言っておこう。悪魔は強ければモテる」

 

「頑張ります!!」

 

 

 

 

 

 

 

初めての観客に見られながらの模擬戦に緊張する。相手は16人、先輩が言うには大したことのない相手だが、それでも緊張する。左手に赤龍帝の籠手を呼び出して倍化の力を溜める。

 

深呼吸してライザー達に向き合った所で違和感を感じる。なんだろうな、この感覚は?ライザー以外の子たちから変な感じがする。こういう時は見に回る。先輩の教え通りに動く。最初に突っ込んできた猫耳の二人の拳をそらして足払いと同時に背中を軽く押して転がす。チャイナ服っぽい棒術使いは突いてきた棒を掴んで思いっきり引いて投げ飛ばし、チェーンソーでの飛びかかり切りをしゃがんで躱して足の裏を掴んで投げる。投げの慣性を利用してそのままバク転で背後から迫っていた剣の一撃をかわし、片手で着地して回し蹴りで蹴り飛ばす。

 

そこで一度攻撃の波が止む。全方位を囲まれたのだが、今の調子なら問題ない。問題ないんだが、違和感が更に濃くなった。余分な力が入りすぎていて、何かに怯えている。

 

「転生したばかりの相手に何をやっている!!」

 

ああ、なるほどね。だいたい理解した。この子達はライザーに怯えているんだ。妹だと言っていたレイヴェルって子は眷属の子たちを守ってあげたそうにしているが、出来ないでいる。先輩が適当にあしらうはずだ。先輩が嫌いなタイプの性格だ。

 

決めた。今から馬鹿をやろう。先輩には頭が可哀想な子を見るような目で見られるかもしれないけど、馬鹿をやる。頭が可哀想な子でも、先輩なら見捨てたりしないって分かっているからオレは馬鹿を堂々とやれる。

 

カーラマインって名前の騎士の攻撃を動きに問題ない程度に受けて血を流す。他の眷属の子たちの攻撃も全て受けて血を流す。眷属達の子はそれに驚きながらもすぐに立ち直って攻撃を続けてくる。殴られ、切られ、焼かれ、見た目上はひどい状態だろう。まあ、訓練時よりは全然余裕なんだけどな。

 

最後に笑いながら炎を飛ばそうとしたライザーにオレの血で作った泥団子を顔に叩きつけてキャンセルさせる。

 

「泥だと、貴様、オレの顔にどっ!?」

 

二個目の泥団子を口の中に放り込んで黙らせる。ついでに血がたっぷりの三個目を股間に投げつけておもらしをしたみたいにする。

 

「殺す!!」

 

「ヌルいわ!!」

 

速度優先だったであろう炎弾をキャッチして投げ返す。どってぱらに炎弾を受けて仰け反るライザーに飛び蹴りを食らわせてダウンしたところで両足を持ってジャイアントスイングで投げ飛ばす。回転数は大分多いからしばらくは立つことすら出来ないだろう。

 

ライザーを投げ飛ばすと同時にまた眷属の子たちに攻撃されるのを致命傷にならないように受ける。

 

「貴方、一体何を考えているのです!!先程からわざと攻撃を受けて、何がしたいんですか!!」

 

とうとうレイヴェルって子がキレる。他の眷属達の子達も攻撃を一度止めて距離を取る。

 

「あ〜、礼儀作法はまだ勉強中だから無作法があったらごめんなさい」

 

「そんなことを怒っているわけじゃないわ!!」

 

「うん、それは馬鹿なオレでも分かる。それで何故わざと攻撃を食らうのかだっけ?それはオレが馬鹿だからだ!!」

 

「……何を言っているの?馬鹿でも最初にあれだけ動けたのだから身を守ることぐらいできるでしょう」

 

「ああ、オレの身を守るぐらいならな。だけど、それだと君らの心が守れない。最近になってから怒鳴られ続けてるんだろう」

 

オレの言葉に反応はしても同意の声は上がらない。上げれないが正しいんだろうけどな。

 

「リアン先輩が見飽きたというセリフ。正式なレーティングゲームにそこそこ参加しているはずなのに異常な緊張。ライザーに怒鳴られて何人も手元が震える。馬鹿なオレでもこれだけ材料が揃っていればなんとなくでも現状が分かる。だから、ライザーの言う指示を達成させる」

 

「ば、馬鹿ですか!!そんなことをして、貴方に何の得もないじゃないですか!!」

 

「だから、馬鹿だって言ってるだろう。そんな馬鹿で無駄かもしれないけど、苦しそうに怯えている女の子を見て何もしないなんてオレには出来ない。幸い、もっとやばい訓練を施されてるからこれぐらい余裕余裕」

 

実際、最初の方に食らった傷は自然治癒済みだ。足りなくなった血液も造血量を倍加させて回復済み。問題は空腹がちょっと辛い。今度から先輩みたいにチョコレートでも懐に忍ばせておこう。防弾チョッキにあのビスケットも仕込んどこう。

 

「まっ、女好きのわがままだとでも思ってくれ。ほら、いくらでも来い。絶対に倒れるつもりはないし、ライザーを先に倒すけどな!!」

 

倍化で強化した身体能力で眷属の子たちを置き去りにしてライザーに飛びかかる。

 

「見よ、リアン先輩の地獄のような特訓で身につけた身体能力による見かけ倒し!!筋肉族三大奥義が一つ!!」

 

未だに立つことすら出来ていないライザーを空高く放り投げ、追いかけるようにジャンプし、首と左足と両腕を固定してエビ反りのようにクラッチ。体の硬いライザーから色々と砕ける音が聞こえる。そのまま背中合わせになるようにしてから手足を固定し、そのまま地面に首から叩きつける。

 

「未完・マッスルスパーク!!」

 

相互理解とその後の和解への道を残す気がない今のオレが打てるのは未完でしかない。オレはライザーの敵であり続けて構わない。自分のことを慕ってくれている女の子を苦しめる奴と和解なんてしたくない。ついでにこれで勝負が決まることもない。

 

ライザーの体が炎に包まれて、フラフラしながらも立ち上がってくる。回転による酔いが抜けてきたのだろう。これがフェニクス家の再生能力か。手頃なサンドバックだよな。

 

「き、貴様!!たかが転生悪魔風情がよくもこのオレを!!お前たち、なn」

 

「必殺シュート!!」

 

余計なことを言わせないように顔面を蹴り飛ばす。そのまま追撃して再生した所で更に顔面を殴る。これ以上余計なことは喋らせないようにさらに追撃をかけようとする。

 

「お待ちになってください!!」

 

急にレイヴェルちゃんに静止を促されるけど、車は急には止まれない。加速の付いた赤龍帝も止まれない。終いには変に転んでライザーに組み付いてしまったので慣性を活かしてそのまま真空地獄車に発展させてライザーをボコる。よし、さらに酔ってしばらくは動けないはずだ。

 

「何かようか」

 

「ええ、決めましたの。私達はリザインします。これ以上、お兄様に付き合うつもりはありません」

 

「はい?」

 

「あんなのでも昔はもう少しはまともで優しかったんです。それがリアン様に負けてからあのように。いつかは元に戻ってくれると思っています。でも、決めました。元に戻るきっかけを待つのではなく、きっかけを作ると。その覚悟を持たせてくれた兵藤様に感謝を」

 

そう言ってカーテシーだったか?あの、こうお嬢様がやるスカートをちょっと持って礼をするあれを見せてくれた。そしてリザインを口にしようとした所でレイヴェルが炎弾に貫かれた。オレに対する殺気がなかったせいで反応ができなかった。誰がやったかなんて聞くまでもない。

 

「自分が何をやったのか、分かってるのかライザー!!」

 

レーティングゲームにはサクリファイスという戦術がある。囮にかかった敵を囮ごと吹き飛ばす戦術だ。だが、今のはただのフレンドリーファイアですらない。

 

「黙れ小僧!!お前たち、何をしている!!早くその小僧を殺せ!!」

 

ライザーの言葉を聞いても眷属の子たちは誰も動かない。それどころか武器から手を離す。

 

「もう止めましょうライザー様。これ以上はもっと評判が悪くなるだけです」

 

「そうです。もう止めましょう。レイヴェル様だって謝れば許してくれるはずです」

 

とうとう説得まで始まってしまう。これ、貴族的に致命傷のような気がするのはオレだけ?若干怒りのボルテージが下がり、冷静とは言わないまでも

 

「黙れ!!女は黙ってオレに使われていれば良いんだよ!!」

 

あ〜、うん、リアン先輩ごめんなさい。言いつけ破ります。最大出力と思われる炎の壁に向かって突撃し、禁手化して炎を散らす。

 

「ライザー、オレ、お前のこと大っきらいだ。お前のことを心配してくれる女の子があんなにも居るって言うのに、使うだと?巫山戯るな!!彼女たちはお前の承認欲求を満たすための道具じゃない!!」

 

最初とは違い、今度は本気でライザーの顔面を張り手する。首から上だけが吹き飛ぶ。右手の篭手を爪状に変化させ、残っている体を引き裂く。眷属の子たちを見るとレイヴェルが再生を終えていてオレを心配そうに見ていた。

 

「とっとと、リザインして会場を離れてくれ。それと出来ればこの後の惨状を見ないでくれ」

 

「ですが、いえ、愚かな兄ではありますが、どうか命だけは」

 

「分かってるよ。さすがにそこまではしないけど、徹底的にやりたいんだ」

 

「よろしくお願いします。それではごきげんよう」

 

リザイン宣言をして会場から退場する眷属の子たちを見送り、手頃な石を拾い上げる。再生中のライザーの歯をへし折りながら石を口の中に突っ込む。これでリザイン宣言は出来ない。

 

「さて、ライザー。覚悟は良いな?オレは3日ほどなら不眠不休で戦えるぞ」

『馬鹿なことをしたな。こいつは歴代の赤龍帝の中でも怒らせたらヤバイやつだ。まあ、赤龍帝の恐ろしさ、その身に刻み込め』

 

今まで黙っていたドライグの宣告と共にライザーを地獄に叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくやった、イッセー。序盤の馬鹿はあれだったが、世論は味方に付いた」

 

丸一日ほどでライザーの反応がなくなったので拷問は終了し、戻った第一声がそれだった。

 

「お前が拷問に入るまでの試合風景を撮影した物が何者かによって流失してな、ライザーの評価は地に落ち、レイヴェルやその眷属は主の忠臣として評価され、馬鹿で女好きだが頼りになるヒーローって感じだな。さて、特別報酬として欲しいものはあるか?」

 

何者かって言うけど、先輩の手足がやったんでしょう。口に出さないけど、皆そう思ってるはずだ。

 

「とりあえず飯を食わせてください。腹が減って気持ち悪いんです」

 

「別室に用意させてある。着替えもな。この後、オレは残務処理がある。特別報酬の希望はメールで送ってくれ」

 

「了解です」

 

先輩の手足の一人に別室に案内されて状態保存の魔法陣の上に置かれた食事にありつく。白音ちゃんには負けるけど、戦闘後は食べる量が多いオレに合わせた量の食事をしながら特別報酬を考える。とはいえ、特に欲しい物ってないんだよなぁ。あ〜、でも、ライザーの眷属の子たちは本当に大丈夫なのか?しばらくしてから会って現状を確認させてほしいとかで良いかもしれないな。うん、そうしよう。

 

 

 



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ハイスクールD×D 照らし出す光 3

何回目の挑戦か分からない。
何故こうなった?


 

「ヒャッハー、次の獲物が来たッスよ!!者共、突撃ーー!!」

 

「「「ヒャッハー、姉御に続けーー!!」」」

 

ギリギリチャンバラロードのβテスト最終日、初日から入り浸っている廃人達とクラン”モヒカン連合”を結成し、追い剥ぎのごとく各地を転戦しながら少人数をボコリ、同じ人数からは逃走を繰り返すロールプレイを楽しんでいる。クラン人数は登録できる最大の30人。武器は棍棒か手斧の2択。アバターにモヒカン装備は必須。階級によってダブルモヒカンやトリプルモヒカンになる。もちろんウチはトリプルッス。

 

そんなモヒカン連合の次の獲物は手斧使いと大剣使いの二人組ッスね。歩き方から素人っぽさが、うん?素人臭すぎるッスね。つまりあれは擬態!?というか、絶対MPの二人ッスね!!

 

「撤収!!」

「「「姉御!?」」」

 

先頭で走っていた状態から背中を見せて猛ダッシュッス。ぼっちならともかくコンビ組まれて勝てるわけ無いッス。

 

「へっ、速っ!?巻き取られた!!」

「ちょっ、弾き飛ばしで!?」

「素手で捌かれた!?」

 

ほらやっぱりあの二人だった!!ひぃっ、足の長さで追いつかれるぅ〜!!

 

結局逃げ切れずに生き残った部下たちと粘れるだけ粘ってみたッスけど、結局は全員討ち取られたッス。その後、スマホにパラドからメッセージが飛んできた。

 

『初期症状が出ているはずだ。時間は残っていないぞ』

 

分かってるッスよ。だけど、踏ん切りがつかない。生きるために誰かに寄生しなければならない。そのことにどうしても二の足を踏んでしまう。自分のために誰かを犠牲にすることをためらってしまう。

 

だから、ギリギリまで答えを出さないことにしたのだ。正確に言えば流れに身を任せることにしたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何度も言うけど、ここは休憩所じゃないんだよ。本当に体調が悪い人のためのベッドなんだから」

 

「混んできたら出ていくわ。寝不足なのは本当なのよ」

 

「見ただけで疲労していると分かるけど、ちゃんと規則正しい生活を送ること。適度な運動と休息、適量の食事だけで健康は保てるんだから。それとは別に多少の娯楽があると心身とも健康でいられる。はい、鉄分とかビタミンで足りてなさそうな錠剤」

 

水と錠剤を渡す。パラドが言うには人間よりは頑丈なだけで殆ど変わらないらしい。

 

「そう言えば、あのマイティに変身できる道具って誰でも使えるの?」

 

「パラド達の協力がなかったらウィルスに感染して最終的には消滅するよ。僕はある程度抗体が出来たから多少なら大丈夫だけどね」

 

そう言いながらグレモリーさんが専有しているベッドにシャカリキスポーツのIDガシャットを投げる。

 

「ひぃっ!?」

 

慌ててガシャットから距離を取るグレモリーさんを笑ってからガシャットを拾い上げる。

 

「これは幻夢コーポレーションのシャカリキスポーツのアーケード筐体の個人スコア記録用で変身に使うものじゃないよ。戦闘用はここにスタータースイッチが存在しているから」

 

マイティアクションガシャットを見せて説明する。

 

「押すと押した人の身体にウィルスが流れ込む。そのウィルスをゲームとして指向性を持たせてドライバーを通して再現する。それがパラドの作ったライダーシステムさ」

 

まあ、パラドは模倣しただけで本来は檀黎斗っていう人が作ったものらしい。ハイパームテキは檀黎斗神が作ったとか。同一人物なのかと聞けば微妙に違うとだけ返された。たぶん、堕天使の頃のミッテルトとバグスターになったミッテルトとの差のようなものなのだろう。

 

「パラドがライダーシステムをばらまくことはないよ。さっきも言ったけど、これはウィルスなんだ。増殖はするし、感染もする。環境が整えば爆発的に増える、つまりはパンデミックが起きる。結構危険な代物だからね」

 

マイティアクションガシャットを手元で回しながら説明を続ける。

 

「ウィルスは基本的にガシャットから感染する。もしくはバグスターであるパラドとミッテルトの意思で散布することでも感染するだろう。だけど、ウィルスの塊であるパラド達の存在そのものを散布する以上、命がけでもある。だから滅多なことじゃあバグスターが増えることはない」

 

まあ、増殖させれば問題ないんだよね。群体型ウィルスってところに気づけるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと便利な剣を手に入れた程度で本当の強者に勝てるわけないっしょ。勉強代としてこいつは貰ってくッスよ」

 

レイナーレさんの所にいた時に集まったはぐれ神父の一人が調子に乗っていたからしばき倒して財布の中身と聖剣を頂く。財布の中身は大分湿気てるッス。まあ、フリーランスという名の無職ッスからこんなもんすかね?

 

「臨時収入も入ったことですしアーシアを誘ってパフェでも食べに行くッスよ」

 

スマホを取り出してバグスター的に直接繋がってメールを送る。ここらへんはバグスターの利点ッスね。了承の返信が来たので集合場所まで歩いて行く。

 

「で、いつまで覗き見してるんッスか?不審者として通報するッスよ」

 

「気づいていて放っておいたか」

 

はぐれ神父を殺してからウチのことをじっと見ていた相手に相対する。この悪人顔はコカビエルッスね。

 

「グリゴリで見かけたことがあるな。堕天使ならオレを手伝え」

 

「お断りッスよ。ウチはもう堕天使じゃないッスからね。今のウチはバグスター。命令される謂れはないんッスよ」

 

ああ、殺る気に満ちているッスね。ゲーマドライバーを装着してギアデュアルγを構える。コカビエルが光の槍を生成した所でギアデュアルを装填してレバーを開く。変身しながら堕天使の翼で空を駆け上がり、ガシャコンブレードで翼を切り落とす。

 

「貴様!?」

 

「へいへい、その程度で戦争がしたいとかへそで茶がわかせるッスよ」

 

ステージセレクトで廃工場に連れ込もうとした所で全身にノイズが走り体が動かせなくなる。

 

「がっ、な、なんで悪化が!?」

 

初期症状だった体の不具合が一気に深刻化する。

 

「まさか、レベルアップ!?時間がないってそういうことだったッスか!?」

 

ヤバイヤバイヤバイ!!コカビエル相手に棒立ちは不味いにも程がある!!ライダーに変身しているからウィルスに戻ることも出来ない!!

 

「何が起こっているかは分からんが、許さんぞ!!」

 

コカビエルが投擲した光の槍がスーツやアーマーを貫通して全身に突き刺さっていく。それなのにライダーゲージの消耗が少ない。ダメージ判定の機能までバグが発生しているらしい。

 

「こんなところで、死ぬ訳にはいかないッス!!」

 

根性で体を動かし、ギアデュアルを引き抜いて変身を解除してウィルスに戻って逃げる。今までならウィルスに戻ればある程度はましになったはずの不具合が全く治らない。傷も治らない。ウィルス量が足りない。体が少しずつ崩壊していっている。

 

「ここがウチのゴールッスか」

 

2ヶ月ほどの命だったッスね。今度は納得して死ねそうッスね。生き長らえる方法を教えられていたのに、結局それを選ばなかった。自分で選んだ結果だから、納得できる。それでも最後にアーシアに話すぐらいはするべきだろう。メールに乗りこむ形でアーシアのスマホにまで移動する。メールにはちょっと人目につかない場所に移動して欲しいと頼んでおいた。アーシアからの返信を受け取って、スマホから出て実体化する。

 

「ははっ、大分ノイズが走ってるッスね」

 

「ミッテルトさん!?」

 

「時間もあんまり残されてないっぽいから手短に。ごめんッス、寿命が目の前にまで来たみたいッスね。最後のお別れに来たッスよ」

 

「お別れって、そんな!?」

 

「まあ、これも中途半端なバグスターの運命ッス。前にも話したことがあるッスけど、納得のできない死を迎える間際に、パラドにバグスターとして生きるチャンスを貰ったんスよ。そして今度は納得のできる死を迎えられる。こんなに良いことは中々無いっしょ」

 

敵じゃない誰かに看取られるなんて堕天使の頃じゃあ考えることすらなかったし。

 

「それとウチの持ち物でこいつだけは知ってる人にしか渡せないッスから、アーシアが貰って欲しいッス」

 

ゲーマドライバーとギアデュアルγ、各種ガシャットの入ったケースをアーシアに手渡す。それと一番やりこんだギリギリチャンバラのアーケード筐体の個人スコア用のガシャットを渡す。

 

「最後のはウチが確かに存在していた証ッス」

 

これで納得して逝ける。もう喋ることすら億劫になり、それでも最後の挨拶をしようと深呼吸した所で聞き慣れた音声が耳に入る。

 

『ギリギリチャンバラロード』

「えいっ!!」

 

アーシアがギアデュアルγを起動して自分の体に突き刺した。アーシアの体が高レベルのバグスターウィルスに感染して体が消滅していく。慌ててアーシアに取り付いてウィルスを抑制する。アーシアのウィルスを抑制すると同時に体の調子が戻るのがよく分かる。そして、抑制が限界で完全に除去することが出来ない。

 

お互いに落ち着いた所でアーシアの中から外に出る。

 

「アーシア、自分が何をしたのか分かってるんスか!!」

 

「ミッテルトさんこそ、自分が何をしたのか分かっているのですか!!」

 

アーシアが今まで見せたことのない怒気と共に言い返してきた。それに一瞬飲まれてしまった。

 

「パラドさんから全部聞きました。そしてミッテルトさんは最後まで宿主を選ぶことなく消滅を選ぶって」

 

「ちっ、パラドの奴、最初から全部見抜いてたッスか」

 

「どうして、どうして生きようとしないのですか」

 

「あ〜、色々と理由はあるッスけど、そうッスね、一方的な搾取が嫌だったからが一番ッスね。宿主が居ないとウチラは存在を保てない。それだけなら悩まずに済んだッスけど、宿主にデメリットが多いんスよ。バグスターウィルスに感染することになるし、同化している時は一方的に宿主の情報が分かるッス。特にストレスがはっきりと。アーシアがこれだけストレスを溜め込んでいたとは思わなかったッスけど」

 

びっくりするぐらいアーシアの抱えるストレスは大きかった。それを表に出すのが物凄く下手なだけで、溜め込んでいたのだ。聖女として扱われるのもストレスだし、魔女として追い出されたのもストレス、そもそも教会に預けられたこと、親に売られたことが一番のストレスであり、それを誤魔化すように信仰を捧げている自分の醜さがストレス。他にも色々なストレスが存在していた。ストレスの塊で許容値が極端に大きいのがアーシアという存在なのだ。

 

「私の人生はストレスとの二人三脚の人生です。表に出せばさらなるストレスを押し付けられる。だから私は上手く付き合ってきたつもりです」

 

「合理化、いや逃避っすかね?神から与えられた試練に置き換えて誤魔化していたんッスね」

 

「そうなるのでしょうね。そんな人生の中で私がストレスなく付き合えたのはミッテルトさんだけなんです」

 

「赤龍帝がいるでしょ」

 

「その、やっぱり男の人はちょっと怖くて。それにちょっと視線が、その」

 

「ああ〜、うん、なんとなく言いたいことはわかったッス。吊り橋効果で好意はあるけど、あの女にだらしない面はNGと。まあ、分かるッスよ」

 

「その点、ミッテルトさんは女性ですし、何より初めてだったんです。何の打算もなく誰かと笑い合うのって」

 

「えっ、あの暇潰しに一緒にやったマイティブラザーズのことッスか?」

 

そういえばあれ回収忘れてるッスね。取りに行かないと。

 

「ミッテルトさんにとっては本当に気まぐれで、誰でも良かったのかもしれません。ですが、それが嬉しくて、楽しかったんです。誰もが私を聖女の、魔女のフィルターを通してでしか見てくれなくて」

 

「粗雑に扱われて嬉しいとか言わないで欲しいッスよ」

 

「私自身を見ないのは粗雑に扱っていると思いますよ。極論、無関心なんですから」

 

「なるほど。それでも命をかける程ではないと思うッスよ。そのまま道連れに死んでいたかもしれないッス」

 

「それもまた良いのではないでしょうか?少なくとも残されて寂しくなることはないですから」

 

「寂しくない、か。そうッスね。寂しいのは嫌ッスね」

 

「はい。だから、勝手に逝こうとしないでください。ミッテルトさんが納得できたとしても私は納得できませんから。自殺だけは絶対に許しません」

 

「はぁ〜、普段は自分の主張をしないアーシアがここまで我を押し出したんッス。よぉござんしょ。ストレスごと相乗りで地獄を楽しむッスかね」

 

「地獄ですか」

 

「クソみたいな、他人を食い物にするような奴らがゴロゴロいる場所を地獄と言わないで何だって言うんッスかね?その分、信頼も信用もできる奴らに会える場所でもあるんッスけどね」

 

パラドや永夢、それにアーシア。ウチにはもったいない奴らばっかりッスよ。

 

 

 

 

 

 

 

「社長、ミッテルト様とお連れの方がお会いしたいと」

 

「此処に通せ。それとコーヒーを3人分」

 

「かしこまりました」

 

思ったよりも早い来訪に完成がギリギリ間に合っていない。後少しで完成する以上、待たせてでも今日中に渡すべきだろう。

 

「チーッス、色々文句とお礼参りに来たッスよ」

 

「遅くにすみません」

 

「おぅ、そっちのソファーで少し待っていてくれ。ちょっと手が離せなくてな」

 

秘書が持ってきたコーヒーとお茶菓子を楽しませている間に完成させる。完成した物と以前から存在している物をミッテルトに投げ渡す。

 

「なんすか?これ」

 

「バグルドライバーと今のお前の元になったプロトギリギリチャンバラガシャットだ。バグスターとしての本来の力を引き出すために使う。ゲーマドライバーとギアデュアルγはアーシアに預けておけ」

 

「へぇ〜、っと、そうじゃなくて、よくもアーシアを危険な目に」

 

「お前が宿主を決めていれば何の問題もなかった。アーシア本人に相談もされたから話した。何か異論は」

 

「……ないッス」

 

「まあ、そういうわけだ。どうやって生きていくかは二人で話し合え。ある程度はサポートしてやる。それとアーシアにもゲーマドライバーの扱い方を教えてやれ。巻き込まれることは確定だ」

 

「教えるのは良いッスけど、ガシャットは?」

 

ギアデュアルγを指差す。

 

「いきなりレベル50を使わせるんッスか!?」

 

「相性的にそれしかないな。レベル1はタドルクエスト、バンバンシューティング、爆走バイクがあるにはあるが、扱いきれると思うか?」

 

「この運動音痴にそんなの扱えるわけ無いっしょ」

 

「はぅぅ」

 

アーシアが胸を抑えているが、運動音痴は否定出来ないからな。あと、一度慌てると行き着く所まで行かないと止まらない。

 

「その点、ギアデュアルγのもう1つはドラゴナイトロードXYZ、領地とドラゴンを育てて他のロードと戦い頂点を目指すシミュレーションRPGだ。無論、ライダーも少し癖が強い。専用のガシャコンウェポン、5頭の龍型ガジェットを育てる必要がある」

 

「つまりその龍型ガジェットを育てれば本体は棒立ちでも問題ないと?」

 

「それは育て方によるだろう。タンク型に育てるのか、騎龍として足代わりにするのか、攻撃も物理寄りなのかブレス寄りなのか、サイズ調整も必要だ。その調整を手伝ってやる必要がある」

 

「うわぁ、素人にやらせると泣きを見る奴じゃないッスか。どれ位のタイプがあるんッスか?」

 

「エナジーアイテムを餌代わりに与えて、指示の仕方で性格なんかが変化する。一定以上の強力なダメージを受けると死んでまた1から育て直しだ」

 

「厳選までしないといけないとか勘弁してほしいッスよ。成長指数表を寄越せッス」

 

「残念ながら未知数としか言えないな。本気で龍を育てると考えたほうが良い」

 

「リアルポケモンとかクソ食らえッス。とりあえず了解ッス。デバックルームを借りるッスよ」

 

「一応業務扱いだからタイムカードをちゃんと切るように。残業時間もあまり長く取りすぎるな。お上がうるさいからな」

 

会社である以上お上には逆らえんのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえずデバックルームにアーシアを連れてやってきた。まずは変身の負荷を調べないことには先に進めない。

 

「それじゃあ、始めるッスよ」

 

「はい!!」

 

「まずはゲーマドライバーを装着するッス。腰辺りに押し当てれば自動でベルトが巻かれるッス」

 

「出来ました」

 

「次にギアデュアルγのダイヤルを左に回すッス」

 

『ドラゴナイトロードXYZ』

 

「そっち側はアーシア専用ッスからね。次にゲーマドライバー左側のスロットにガシャットを装填してレバーを右側に引っ張るッス。ウチラはノリでレベルを名乗ったり変身って叫ぶッスけど、アーシアの好きにしたら良いッスよ。ウチは段位1〜5段か50段ッスね。アーシアも名乗るなら50で名乗ると良いッスよ」

 

「えっと、今日の所はなしで」

 

『Grow up and grow up together』

「その、へ、変身!!」

『デュアルアップ!!育ち育て全てを手にしろ、ドラゴナイトロードXYZ!!』

 

恥ずかしいのか顔を赤らめながらレバーを引くアーシア。そのアーシアの周りをセレクトパネルが周り、最後に見たことのないライダーのパネルがアーシアの前で停まる。あのパネルって止まるものだったんッスね。普通に目押しでショートカットしてたッス。永夢なんて下の方をタッチしてパネルを上に弾いて上半身から変身する技まで持ってる位ッスから。

 

「それを触ればOKッス」

 

「はい」

 

アーシアがパネルに触れてスクリーンを潜ると黒を主体に金色で装飾が施されたちょっと悪役が入っている騎士姿のライダーが姿を現す。

 

「ふ〜む、仮面ライダーデュークはなんか不味そうなんで、マーキス、カウント、違うッスね、マーセナリーにでもしとくッスかね。マーセナリーナイトロードゲーマレベル50」

 

「マーセナリー?」

 

傭兵なんて普通は使われる言葉じゃないッスから分かんないでしょうねぇ。内緒にしとこ。

 

「それより、体に異変はないッスか?ヤバそうならすぐに解除するッスよ」

 

「いえ、特には。ちょっとピリピリするぐらいで」

 

外から見ると大分ノイズが走ってヤバそうなんッスけど。

 

「えっと、ちょっと失礼」

 

もう一度アーシアと同化してチェックしてみる。うぇっ!?体の崩壊と神器による回復が釣り合って表面が崩れているように見えるだけで本当に大丈夫そうだ。抗体も徐々に出来上がっているからそのうち、表面が崩れるのも落ち着くはずだ。分離して問題なしとだけ伝えておく。

 

「さて、仮面ライダーには特別な能力がいくつもあるッスが、共通で便利な能力としてステージセレクト機能があるッス。簡単に言えば戦いやすい異次元に引きずり込む機能ッス。腰の左側にあるスロットの横にあるボタンを押せば引きずり込みたい相手ごと異次元に取り込まれるッス。とりあえず、今回はウチを一緒に取り込んでみてくれッス」

 

「このボタンであってます?」

 

「それそれ」

 

アーシアがステージセレクトボタンを押してデバックルームからいつもの海岸に到着する。

 

「これは基本機能ッスからすぐに扱えるように練習するッスよ。周りに被害が出ないッスから。それじゃあ、少し歩いてみたりジャンプしてみたり準備運動をしておくッスよ。ウチもこいつの扱い方を覚える必要があるッスから」

 

パラドに渡されたバグルドライバーとガシャットを軽く振ってみせる。それに納得したのかマーセナリーは頷いて歩いたり走ったり転んだり跳ねたり転んだり起き上がろうとして波に足を取られて転んだりしている。

 

色々ツッコミたいけど、今は自分を優先する。バグルドライバーはベルト部分とバックル部分が分離する。バックル部分は携帯ゲーム機のような形をしている。ガシャットのスロットも1つだけあるのでここに装填すれば良いのだろうが少し違う気もする。こう、ウチのバグスターとしての本能が微妙に違うと囁いている。

 

ライダーシステムはそもそも対バグスターシステムだ。そもそもが違うのだろうか?バグスターとしての力を引き出すというのなら、ウィルスの数を増やす?それとも質を上げる?つまり、アーマーを着込むのではなく、この身体自体を作り変える感じッスかね?

 

そんでもってこのバックル部分、うん?こいつもガシャコンウェポンなんすかね?ガシャコンバグヴァイザーって名前みたいッスね。とりあえずAボタンとBボタンがこれだけ存在を主張してるし、Aボタンから。おっ、待機音声が流れ始めたってことは

 

「ええっと、ウィルスだから、培養!!」

 

ベルト部分との接続面を右腕に押し付けてみればバグヴァイザーを通して自分の体がレベルアップしていくのが分かる。

 

『インフェクション!!レッツゲーム!!バッドゲーム!!デッドゲーム!!ワッチャネーム!!ザ バグスター!!』

 

「おおぅ、本当に出来た。なんというか、普段のウチにカイデンを混ぜたような姿ッスね。おっ、翼は出せるみたいッスね」

 

これは便利ッスね。レベルは70前後って所。ブライよりもレベルが高いってやっぱりバグスターなんだと実感させられる。

 

マーセナリーと同じように体を動かしてみる。うん、ブライ以上に理想的な動きができる。ガシャコンウェポンは呼び出せないけど、自前の刀と光力での武器の生成は可能な上にバグヴァイザーがチェンソーとビームガンになるので問題なし。これならパーフェクトノックアウトにも対抗できるッスね。自分の体のことを確認した所でマーセナリーの元に飛ぶ。

 

「アーシア、そろそろマーセナリーの力は分かったッスか?」

 

「あうぅ、なんとか」

 

「いや、ライダーゲージが減るようなことになってる時点でダメダメにも程があるッスよ!?」

 

1メモリだけだがはっきりとゲージが減っている。中々の防御力があるはずなのに。そう思っていると何もしていないのにゲージが1メモリ減る。

 

「げっ、何かの条件で消耗ッスか!?ああ、餌ってそのままの意味も持ってやがるんッスね!!アーシア、ガシャコンウェポンって念じて」

 

「はい」

 

出現するガシャコンウェポンのパネルには5色のドラゴンが表示されている。ただし、どれもが点滅している。

 

「とりあえず全部選択して召喚するッスよ」

 

マーセナリーがパネルをタッチすると元気のない5色のガシャコンドラゴンが出現する。

 

「やっぱり空腹を補うためにライダーゲージを食ってるみたいっすね。ちなみにライダーゲージの残量は左胸に表示されているゲージッス。それが全てなくなるとゲームオーバー。文字通り消滅することになるッスから注意するッスよ」

 

「ええ!?ど、どうすれば」

 

「変身を解除するのが一番ッスけど、時間はまだまだ残ってるッスからこの子達の餌、エナジーアイテムを集めるッスよ。エナジーアイテムってのはそこらに転がっているものや、ステージに似つかわしくないオブジェクト、あの旗とか巻藁を壊すと出てきたりするッス。縁なら持てるッスからこれを、ほらおいでおいで」

 

近くに居た黄色のガシャコンドラゴンに鋼鉄化のエナジーアイテムを見せる。黄色のガシャコンドラゴンはどうして良いのか分からずにマーセナリーとウチを交互に見ている。

 

「アーシア、ほら許可を出してあげて」

 

「えっと、ミッテルトさんは友達ですから大丈夫ですよ」

 

マーセナリーが許可を出すとすごい勢いでエナジーアイテムにかじりつく。

 

「本当に食べるんですねぇ。アーシア、他の子にもエナジーアイテムを食べさせてあげるッスよ。この子はウチが面倒見るッスけど」

 

ある程度攻撃ができてアーシアを守れるガード屋に仕立て上げないと。エナジーアイテムを厳選していろいろと訓練させないと。他の4頭が戦えなくてもこの子だけで戦えるように。

 

 

 

 

 

 

 

「つまらない意地や面子で命を失うなんて馬鹿げているよ」

 

「全くだ。死んだら何も楽しめないのにな」

 

「天国も地獄もあるッスけど、単にそう呼ばれる領域があるだけッスからねぇ。コンティニューも出来ずにキャラメイクからスタートッスよ。リアルという名の人生ゲームの」

 

「すぐに治しますから待っていてください」

 

夜の学園の校庭に現れた堕天使とケルベロスの群れ。ちょっと実戦慣れしようかと連れられてきました。

 

「コカビエルはウチがもらうッスよ。この前は限界が来たせいで逃げるのに精一杯だったッスからね、汚名挽回ッスよ」

 

「ちなみに汚名挽回は色々な説がある。間違った使い方ではないから覚えておくように。ちなみに汚名は雪ぐものだから汚名を返上するも汚名を挽回するも存在しないので注意しろ。たまに一般常識問題として面接で聞かれるからな」

 

「馬鹿やってないで行くよ!!」

 

私と永夢さんがゲーマドライバーを装着し、パラドさんがギアデュアル、ミッテルトさんがガシャコンバグヴァイザーを構える。

 

「マックス大「「「変身!!」」」「培養!!」

 

『レベルマーックス!!最大級のパワフルボディ!!ダリラガン!!ダゴズバン!!マキシマムパワーX!!』

『DUAL UP! Explosion Hit! KNOCK OUT FIGHTER!』

『デュアルアップ!!育ち育て全てを手にしろ、ドラゴナイトロードXYZ!!』

『インフェクション!!レッツゲーム!!バッドゲーム!!デッドゲーム!!ワッチャネーム!!ザ バグスター!!』

 

「なんかウチだけぼっちになってるんッスけど」

 

「ゲーマドライバーは製作中だ。というか、オレの分も足りてないだろうが。予定以上にガシャットを作る羽目になったからな。何処かの誰かさんの所為でな」

 

「ウチが今度そいつを怒ってやるッスよ」

 

「馬鹿な掛け合いをやらないと生きていけないの?」

 

「「娯楽がないと消滅する」ッス」

 

ため息を付きながら永夢さん、エグゼイドさんがガシャコンキースラッシャーとガシャコンマグナムを取り出してケルベロスに銃撃を加える。

 

「今回はRTAなんだから急ぐ!!」

 

「おうよ、超協力プレイで」

「クリアしてやるッスよ!!」

 

「が、頑張ります!!」

 

「あ、アーシア、レモンの側から離れちゃ駄目ッスよ」

 

このマーセナリーナイトロードゲーマの力で呼び出せる5頭のドラゴンには名前をつけることになった。容量制限とかいうので6バイトしか駄目らしいのでバニラ、チョコ、イチゴ、ミント、レモンと名付けました。その中でレモンだけはミッテルトさんに私の護衛として育ててもらいました。他の子と比べて体格が大きく、既に5m近い体長を持ち、私を守るようにカンガルーのようなポケットをお腹に持っています。ポケットの中に入っているとライダーゲージやバニラ達が回復するんです。

 

今は必要ないのでレモンに守ってもらいながらイッセーさん達を治療する。バニラ達が頑張って運んでくれて、レモンが盾になってくれているので安心して治療ができます。仮面ライダーに変身すると神器を含めて魔力なども使えなくなるらしいのでナイトロードゲーマの力であるエフェクトチェンジで対応します。エナジーアイテムを自分に使えない代わりにその効果を弱体化した能力を使うことが出来ます。回復のエナジーアイテムをミントに拾ってきてもらい、その力でイッセーさん達を治療します。

 

時折ブライさん達の方を見ると、エグゼイドさんがケルベロスのしっぽを掴んで振り回したり、パラドクスさんが正面から殴り飛ばしてボウリングみたいなことになっていたり、ブライさんが光の槍の全てを切り落としていた。

 

全員の治療が終わり、合流しようとすると、見たことのない白い鎧の人が金色のエグゼイドさんにボロボロにされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

捕縛したヴァーリを幻夢コーポレーションに連れて帰り、バグスターウィルスのワクチンを打ち込んでからガワが未完成のゲーマドライバーを装着させて爆走バイクのレベル2に変身させる。まさか拘束具として使うことになるとは思ってなかった。

 

とりあえずこの部屋は立入禁止だな。絶対に触るなと見れば分かるように鎖でぐるぐる巻きにしてバイオハザードマークの張っておく。人工AIの試験中なので声が聞こえても無視するようにと立看板も用意しておく。これでよし。

 

餓鬼に現実を見せるにちょうどいい。孤独にどれだけ耐えられるかな?さあ、実験を始めようか。

 

 

 



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ハイスクールD×D 血塗れの騎士

肥やしをサルベージ。
ほぼ骨だけの存在です。本来ならこれに肉付けするのですが…


 

敵、化物は全て敵、敵は殺す!!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……またか」

 

目の前の惨状を見て呟く。また、暴走していたのか。まあいい、ゴミが一つ減って生ごみが増えた程度のことだ。体を見れば、白い鎧が血と体液でドロドロに汚れている。少し離れた場所に移動してから鎧を解除する。ビンゴブックにバツが自動で記入されているのを確認して次の獲物を選ぼうとしたところで全てにバツが付いていることに気づいた。

 

「ちっ、新しいビンゴブックを貰いに行かねばならないか。

 

転移の魔法陣を展開して主の元へと飛ぶ。

 

「ビンゴブックが切れた。更新を頼む」

 

「タカヤ!?ちょうどいいタイミングで帰ってきてくれたわ!!」

 

「何かあったのか?眷属も増えているようだが」

 

周りを見ると、確か主が通っている学園の部室だったはずだ。

 

「これからレーティングゲームなのよ。貴方は契約上ビンゴブックが切れている時か緊急事態でしか召喚できないから困っていたのよ」

 

「分かった。もう始まるのか?」

 

「ええ、もうすぐよ」

 

「開始と同時に突撃する。だから近寄るな」

 

それだけを告げて壁に体を預ける。

 

 

 

 

 

 

「おい、木場。誰だよ、あいつ」

 

「部長のもう一人の騎士で相羽タカヤさん。通称血染めの騎士って呼ばれてるはぐれハンター。その、はぐれ悪魔に目の前で家族や親戚を殺されてから酷くはぐれ悪魔を憎んでいて、徹底的に殺し尽くして返り血で神器の白い鎧が元の色が分からないぐらいになることからそんな通称で呼ばれてるんだ」

 

「強いのか?」

 

「たぶん、このレーティングゲーム、僕達の出番はない」

 

「へっ?」

 

そんな話をしていると、グレイフィアさんがやってきて相羽さんを見て少しだけ驚き、魔法陣の上に案内する。転移された先は

 

「あれ、失敗?」

 

「違うよ。ほら、グレイフィアさんが居ないでしょ。たぶん、学園と全く同じフィールドを用意したんだろうね」

 

そして、学園のスピーカーからグレイフィアさんの声が流れ、ルールの最終確認が行われ、チャイムが試合開始の合図としてなり

 

「テックセッター!!」

 

相羽さんのその声と同時に緑色の光が部屋中を覆う。そして壁が壊れる音が聞こえ

 

「クラッシュイントルード!!」

 

何かが崩れる音が断続的に続き、それが収まるとアナウンスが入る。

 

『ライザー・フェニックス様、キングを除きリタイア』

 

「一体何が起こって」

 

「ボルテッカァァァァァ!!」

 

眩しい光が空から降ってきて校舎を粉砕する。

 

『ライザー・フェニックス様のリタイアを確認しました。このゲーム、リアス・グレモリー様の勝利となります』

 

「えっ?」

 

レーティングゲームが始まったと思ったら次の瞬間には終わってしまった。アーシアも状況について行けずにポカンとしているけど、他の皆は何事もなかったのようにしている。

 

「はぐれが相手じゃないからすんなり終わったわね。いつもこんな感じで側にいてくれればいいんだけど」

 

「それでも出会った当初よりは丸くなられましたわ。多少の受け答えはしてくれますし、何より鎧を纏っていない時は殺気を出しませんから」

 

そんなことを話していると、白とオレンジ色っぽい赤色の鎧が空から降ってくる。

 

「これでいいんだな」

 

「ええ、ありがとう。そうそう、ビンゴブックの方だけど、今回は少し時間がかかるわ。貴方がほとんど狩ったおかげで、数が少ない上に潜っちゃったのが多いのよ」

 

「分かった。ならば俺は何時もの所にいる。何か用があればそっちまで頼む」

 

鎧を解除した相羽さんが自前の魔力で転移して姿を消す。その後にオレ達も元の部室に転移される。

 

「あの、相羽さんはどこに行ったんですか?」

 

「姉様の所です。相羽さんは時間が余っているときはずっと、姉さまの傍から離れようとしませんから」

 

「えっと、それってそういうこと?」

 

「……そうだったら、どれだけよかったか」

 

「えっ?」

 

「ごめんね、イッセー。ちょっと複雑でデリケートな話なの。私達の中では身内の小猫と、私しか知らないの。あまり話にも出さないように」

 

「分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノックをして返事がないままに病室へと入る。そのままベッドの傍に置いてある椅子に腰掛ける。

 

「また、痩せたな」

 

ベッドで眠る黒歌の髪を梳きながら話しかける。答えが返ってくるとは期待していない。慣習となった近況報告を行って、ただ傍にいるだけだ。

 

かつて共に旅をし、オレを獣から人へと戻したことが原因で3年も意識が戻らないままでいる。オレにできることは彼女が犯した罪を代わりに償うためにはぐれ悪魔を殲滅することと、彼女の妹を守ること。それしかオレには残されていない。

 

「黒歌、もう一度、お前の声を聴かせてくれ」

 

オレの言葉に返事はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれだけ啖呵を切っておいて聖剣も奪われるとは、教会の奴らは何を考えているのやら。まあ、オレには関係ないな」

 

「ほう、貴様、血塗れの騎士か。まさかお前がこの地にいるとわな。少しは余興になるだろう」

 

「くだらんな。コカビエル、貴様はオレのビンゴブックのトップを飾った。故に、貴様の未来は死のみだ!!テックランサー!!」

 

2本のテックランサーを連結させて両刃としてコカビエルに突っ込む、フリをしてランサーを投げつけると同時にクラッシュイントルードで背後から掴みかかり、そのまま回転しながら飛んでくるテックランサーに突撃する。テックランサーがコカビエルの身体に突き刺さり、その傷を抉るようにテックランサーを動かす。

 

「この程度の痛みで苦しむようではオレには勝てん!!」

 

両刃から二刀へと戻し、首を刎ねて終わらせる。

 

「戦いなんてものに楽しみも糞もあるか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦うための力など、オレは欲しくなかった!!あの時に皆と死んでいれば、オレはここまで苦しまずに済んだ!!だけど、オレは力を得て生き残った。この力を復讐にしか使うことができなかった。それを黒歌が変えてくれた。理不尽な力によって産まれるオレのようなものが一人でも減らせるようにと、その身を掛けて黒歌が教えてくれたことだ!!だから、自らの欲望で戦いを望む貴様を殺す!!見ろ、これが進化したオレの力だ!!」

 

光がオレを包み、全身の装甲が一回り大きくなって羽が生える。

 

「禁手化か!?」

 

「違うな。オレのこの力は神器ではない。この進化をオレはブラスター化と呼んでいる」

 

「ブラスター化」

 

「さあ、ヴァーリ、覚悟は良いな?お前を生かして捕らえようなどと甘い考えはオレにはない!!テックランサー!!」

 

装甲が一回り大きくなったことに合わせて大きくなったテックランサーを両刃にしてヴァーリに突っ込む。

 

「クラッシュイントルードか!!だが、追える!!それに!!」

 

テックランサーを魔力でコーティングした四肢で弾くようにして戦うヴァーリが半減の力を使う。それがどうした!!

 

「クラッシュイントルード!!」

 

「なに!?」

 

クラッシュイントルードを発動させヴァーリを置き去りにするスピードで全身を切り刻んでいく。鎧を、翼を、肉を、骨を、全てを切り刻む。テックワイヤーで空高く放り投げ、テックランサーを投げつけて結界に磔にする。

 

「肉片の一片たりとも残しはしない!!」

 

両肩と両腕のフェルミオン放射口を開き、放出される高密度のフェルミオンを一つにまとめる。その余波だけで大地が、空気が大きく揺れていく。

 

「ボルテッカアアアアアアアアァァァァァァーーーーーー!!!!」

 

フェルミオンの光が、その全てを飲み込み分解していく。後には空一面を覆っている厚い雲の一角がポッカリと空き、星空が見える。

 

 

 

 

 

 

少しだけ時間を稼いでほしいと相羽さんに頼まれて曹操の挑発に向かう。挑発の内容は私なりに英雄と英雄派を調べてきたので問題ない。調べれば調べるほど、英雄派はただの子供なんだとわかった。

 

「フェルミオン増幅反射能力を持った超獣鬼がいる限り、血染めの騎士も恐くはない。病院からも姿を消したそうじゃないか」

 

「貴方は何も分かっていないんですね、英雄が聞いて呆れます」

 

「なんだと?」

 

「相羽さんを止められるのは、死だけです。敵が強いとか、身体がボロボロだとか、そんなことではあの人を止めることなんて出来ません。あの人の心にあるのは罪と罰と流すことを許されない涙だけです。名前に流されて自分に価値がないと思いこんでいるバカたちとは違います」

 

「オレたちが馬鹿だと!?」

 

「バカですよ。英雄なんて存在は居ないほうが良いんです。英雄が求められるのは時代が疲弊している証拠です。何も頼ることができる存在が居ない。そんな嫌な時代を終わらせてくれる英雄を求めて初めて英雄が生まれる。英雄と偉人を混同するから名前に躍らされるんですよ。そんな貴方達をバカと言わず、誰をバカと言いましょう。ああ、それとこんな格言がありましたね『生きている英雄よりも死んだ英雄』ようするに生きている英雄は自分勝手なのが多かったのでしょう」

 

「過去の英雄まで侮辱するか!!」

 

「事実を侮辱と感じるのなら心の何処かで貴方がそう思っていたのでしょう。自分で自分達を貶めているんです。バカじゃないと出来ませんよ。まあ、これ以上恥ずかしい思いをすることはないでしょう。来ましたよ、貴方達に終止符を打つ騎士が」

 

一番端に居た豪獣鬼が吹き飛び大穴が空き、その隣の豪獣鬼はバラバラに切り刻まれる。更にその隣のは首を切り落とされ、私の目の前に相羽さんが止まる。既にブラスター化も行っている。それを確認してから相羽さんの影に隠れるようにそっと離れる。これも指示通りだ。

 

「のこのこと殺られに来たか、血染めの騎士」

 

「死ぬのは貴様らの方だ!!自分の欲求に振り回される獣に殺されるオレではない!!」

 

両肩と両腕の装甲の一部がスライドする。いきなりボルテッカの構えだけど、大丈夫なのだろうか?チャージが終わり放たれたボルテッカが超獣鬼に吸い込まれる。出力が上がっているのか、前回よりも超獣鬼の身体の発光が激しい。だが、やはり増幅して反射される。駄目だったのかと思った次の瞬間、反射されたボルテッカを球状にまとめ上げて空高く投げ上げた。

 

「クラッシュイントルード!!」

 

そして、それを追うようにクラッシュイントルードで空高く舞い上がり、ボルテッカを纏って超獣鬼を貫いた。体内からフェルミオンの光が溢れ、超獣鬼が消滅する。漏れ出したフェルミオンを浴びて曹操も消滅した。確かにすごい技だけど、相羽さんは大丈夫なのだろうか?

 

 

 

 

 

 

「オレのコピーか」

 

オレたちの前に少しくすんだ色をしているテッカマンブレードたちが立ちふさがる。

 

「どうだ、自分のコピーに出会った感想は」

 

「ふん、心まではコピーせずに操り人形にしているんだろうが、それが失敗だと言わせてもらおう。そいつらが何人いようが、このオレは殺せん!!」

 

コピーたちの群れに突っ込み、テックランサーを振るうたびにコピーが両断されていく。

 

「ば、バカな!?完全に能力はコピーしたはずなのに!?」

 

「心をコピーしていない木偶人形とオレを一緒にするな」

 

「何をやっているんだ!!ブラスター化でケリをつけろ!!」

 

コピーたちが一斉にブラスター化し、次々と落ちていく。そしてクリスタルが砕けるようにして消えていく。

 

「何が、何が起こったと言うんだ!!」

 

「心をコピーしなかったのが貴様の敗因だ。ブラスター化はリスクを伴う強制進化だ。並の精神ではショック死を起こすような激痛に苦しむ。それに耐えれなかっただけだ」

 

そして目の前でブラスター化を果たす。ユーグリッドをあざ笑うかのように。

 

「見えるものしか見ない貴様に、本当の力を引き出せるわけがない!!」

 

テックランサーにフェルミオンをまとわせてユーグリッドを両断する。命を弄ぶ外道に生きる道はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが幽世の聖杯」

 

リゼヴィムが自ら口に出していたヴァレリー・ツェペッシュから奪った神滅具の一部。この力を十全に使えれば、黒歌を目覚めさせることができるはず。幽世の聖杯を拾い上げ、ボロボロの身体をテックランサーを支えに歩く。

 

「長かった」

 

人から獣へ、獣から人へ、人から悪魔へと移り変わり戦い続けてきた。その戦いに一つの区切りがもうすぐ着く。それが終われば、どうするか。大抵のはぐれや反乱分子は処分したからな。昔の夢だった天文学者でも目指すか。いや、その前に黒歌のリハビリが先だな。

 

「だから、まだ死ねないんだよ!!」

 

目の前に現れる邪龍の残党に向かって吠える。オレの思いに応えて幽世の聖杯がオレの身体を僅かながらも治療する。これでまだ戦える。

 

「死ねええええええええええ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、黒歌」

 

「……タカヤ?それに、白音?」

 

幽世の聖杯を預けた白音によって黒歌が目を覚ます。痩せ細った手を握れば、握り返してくれる。それだけのことなのに涙が止まらない。これで区切りは着いた。全身から力が抜ける。

 

 

 



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ハイスクールD×D 斉天大聖 2

ライザーが婚約を早めるためにレーティングゲームを行うことになり、フェニックス卿、養父上に観戦に来ないかと誘われたのでライザーの婚約者が気になり付いてきた。

 

「ほぅ、ライザーとまともに打ち合えるとは。最近眷属に引き入れたとは思えないほどに優秀なようだね」

 

「そうですね、養父上。ですが、これまで一人でやってきたのでしょう。まだまだ荒いです。むっ、さらにギアが上がったようですね」

 

ライザーの婚約者であるリアス・グレモリーはライザーの好みの性格をしていた。強気で自分に反抗する気概がある。そこを気に入っていると以前言っていた。その婚約者が最近になって眷属に男を加えた。今までは女だけで固めていたのに、そしてその眷属と良い雰囲気になっていると。

 

これが主と眷属という関係での良い雰囲気ならライザーも心の中では多少不満に思っても表には出さなかっただろう。正面からライザーのことが嫌いで、眷属の男のほうが良いと言うのなら嫌味の一つや二つをぶつけて、グレモリー家にある程度の代価を引き出させて身を引いただろう。

 

それを一方的に婚約破棄の手紙を送りつけてきただけで、グレモリー卿達は何も知らず、多少の騒ぎになった。さすがにこれにはライザーも軽くキレた。自分が女にだらしないのを理由に嫌われるのは自業自得だ。それに関しては仕方ないと思っていた。だが、これはフェニックス家に泥を塗る行為だった。

 

当初の約束通り大学卒業まではあまり干渉するつもりはなかったライザーだが、これには激怒した。あれだけ派手な女好きみたいなくせに、未だに清い身体だったりする。というか、眷属の女の子たちも保護の方がメインだったりする。女王であるユーベルーナ以外は転生悪魔で、他の悪魔が原因の色々な事情があって男性不信になってたりする子もいる。それを眷属として囲うことで他の男共から守っているのだ。つまり、好みとは真逆の子で固めているのだ。好みではなくても女の子なので優しいけどな。

 

男に塩対応なのも理由がある。人格形成に重要な幼少期にフェニックス家からのおこぼれを狙ったゴマすりしか集まらなかったのだ。上の兄二人は親友と呼べる者を得られたが、ライザーは得られなかった。それで多少歪んだが、根は真っ直ぐな男だ。4,5回も叩きのめせばある程度真っ直ぐに戻った。女好きは治らん。

 

「それにしてもライザーの戦い方は以前とは全くの別物になったな。殆ど再生を使わずにいるが、それも婿殿の教えかな?」

 

「多少アドバイスした程度です」

 

初めて出会った時に再生することが出来ない攻撃がトラウマになったのか、攻撃を大げさに回避したり、障壁で防御するようになってしまったライザーを殴りまくって痛みに慣れさせただけだ。それから再生中の炎の体を殴り続けてちょっとずつ身体を削ったりしたのも理由だろう。だが、再生範囲を絞ることで速度を上げたり、レイヴェルと格闘技を磨いてそもそもの被弾を減らしたりと、色々と努力している。

 

今のライザーは青年編の巨大化ピッコロぐらいの強さがある。それと打ち合える赤龍帝はすごいと思う。だが、まだまだ甘い。ライザーと赤龍帝が打ち合う後ろでレイヴェルとカーラマインがリアス・グレモリーの戦車と騎士をリタイアしない程度に戦闘力を奪い、リアス・グレモリーを簀巻きにしている。無論、騎士と戦車もまとめてだ。ライザーもそれが分かっているからこそ態と接戦を演じて後ろを振り向かせないでいる。

 

それにしてもあの赤龍帝、違和感があるな。まだまだ力を隠しているような。だが、なにか焦っている感じもする。リアス・グレモリーが捕まっていることに気づいている感じでもない。

 

ゲームはそのままライザーが押す形で続き、大技を出そうとした赤龍帝を簀巻きにした3人を盾にして不発させ、ライザーのかめはめ波でまとめて吹き飛ばして終わった。

 

 

 

 

 

 

 

クソ、一体どうなってるんだ!?朱乃さんはいないし、アーシアは行方知れずだし、ライザーがあそこまで強いなんて想定外だ!!それにかめはめ波だって!?こっちの世界ならドラゴン波のはずなのに、それがかめはめ波だ!!オレ以外に転生者はいないし、あとから生まれてくることもトリップ系の転生者が現れることもないと言われていたのにだ。

 

だが、現実にドラゴンボール関連のチート持ちがいる。そうでなくては強くなっているのはともかく、ライザーがかめはめ波を使える要因がない。このままではライザーにリアスを奪われることになる。寿命を犠牲にしてでも覇龍を使う覚悟を持って、グレイフィアさんに持たされた転移魔法陣で婚約式場に乗り込み、サーゼクス様が余興だと原作のようにゲームの準備を始めてくれ

 

「既に龍と不死鳥の決着はついた。むしろ余興だというのなら私の義弟になる男と龍を戦わせればいい」

 

話がまたズレてきた。

 

「逃げるのかライザー!!」

 

これ以上原作を崩されてたまるか!!

 

「言ったはずだ、決着は既についた。何度やろうと結果は変わらん。大事な主と自分の未来がかかっている状況で切り札を切れないような三下以下に何が出来る。覚悟なき暴力で何が掴める!!貴様は今その背に何を背負い、どれだけ支えられているのか理解しているのだろうな!!いや、そもそもどれだけの迷惑を既にかけているのか理解しているのか?」

 

「どういう意味だ」

 

「はぁ〜、そのままの意味だ。まあいい、全てが終わった後に説明してやる。カカロット、相手をしてやれ!!」

 

カカロットだと!?まさか、悟空のチート能力かよ!!

 

「いきなりすぎるぞ、ライザー」

 

パーティーの客の中からカンフー服を着た男が前に出てくる。その声と姿に身体が硬直する。本来の姿と異なり髪を伸ばしているが、それによって彼の兄や3段階目の変身に近い姿。見間違える方が難しい、ドラゴンボールの主人公である孫悟空が現れる。

 

「まずは皆様にご挨拶を。私は先日、闘戦勝仏様よりその号を受け継いだ今代斉天大聖孫悟空。そして、フェニックス卿にご息女、レイヴェルを託された者だ。これは既に魔王府にも認められている。文句があるなら掛かってこい!!わざわざ遠回しにはぐれを送り込むんじゃなくな!!我が千里眼は過去視に特化している。因果をたどれば誰が干渉していたのか位手に取るように分かる。言っている意味が分かるか?見えているぞ」

 

特定の人物だけに殺気を叩きつけたのか、何人かの悪魔が倒れる。本当に過去視が出来ているのかは分からないが、いや、そんなことよりもこいつの強さが問題だ。青年の姿だが、何処まで変身できるのか、それが一種の目安になる。

 

「さて、赤き龍よ。私に挑戦する気概はあるか?どうやらそちらはこちらのことをある程度理解しているようだが」

 

やはりこいつも転生者!!

 

「お前、一体何が目的だ!!」

 

「目的?何を、いや、ふむ、なるほどなるほど、そういうことか」

 

「一人で何を納得してやがる!!」

 

「哀れな存在だな、赤き龍よ。話して欲しければ私に勝つことだ」

 

「上等だ!!」

 

禁手化を行い、全力の倍加で殴りかかり、全身に激痛が走り、何かに支えられる形で宙に浮いている。それもすぐに投げられる形で床に転がる。俯けの状態で咳き込むと同時に大量の吐血を吐き出すほどにボロボロなのに意識だけははっきりしている。

 

「い、一体何が起こったのだ!?」

 

「イッセー!!」

 

サーゼクス様の驚きの声と、リアスの悲鳴が聞こえる。だけどそれ以外は全身に力が入らなくて顔すら上げられないので状況がつかめない。何をされた!?

 

「蹴り上げて、天井にぶつかる前に蹴り落とし、床を砕かないように宙に浮いた状態で減衰なしで受け止めてやっただけだ。ああ、別に本気でも何でも無い。ちょっと力を込めすぎただけだな」

 

馬鹿な!?ここまで差があるなんて。

 

「ああ、ライザーは今のと打ち合えるぞ。普段はゲームになるようにちゃんと手加減しているがな。さて、余興としては興冷めさせてしまい申し訳ない。あまりにも相手が脆かったもので。赤き龍そのものならともかく、所詮は宿主次第ということでしょう」

 

「さすがはカカロットだ。だが、確かに余興としては興冷めだったな。代わりの余興として久しぶりに相手をしてもらおうか」

 

「ああ、構わない。だが、相当に身体が鈍っているのだろう?ハンデだ、左腕一本でやってやる」

 

「上等!!」

 

ライザーのその言葉と同時にドラゴンボールで聞いたことのある乱打戦の音がすぐ近くで聞こえる。会話もなくそれが続くということは、本当に左腕一本で戦っているのだろう。ライザーと打ち合ったときも、あんな音は出なかった。つまり手加減されて、それを強いと思っていた。自分の弱さに涙が溢れる。

 

 

 

 

 

 

 

婚約式が終わった後、最低限の治療だけ施されたオレは、ドラゴンボールのチート持ちによって部屋に運ばれて拘束された。神器も何らかの手段で封印されたのかドライグの声さえも聞こえない。そして、チート持ちが指を鳴らすと映像が浮かび上がる。その映像にはライザーとリアスが映っている。

 

「さて、まずは今回の騒動によって発生したグレモリー家が受けた社会的損失についての講義を始める」

 

「『はい?』」

 

「基本的に悪魔の貴族はグループ会社を持っている。無論、各家ごとに特色があり得意分野も存在する。まあこれぐらいは常識だな」

 

『そこのトカゲは知らないだろうが、フェニックス家は医療と学習塾関係で、グレモリー家はサービス業全般だ』

 

フェニックス家が学習塾関係をやってるのは驚きだが理解は出来る。

 

「そして、ライザー・フェニックスとリアス・グレモリーの婚約によって新しいジェネリック医薬品の販売権が格安で譲渡されることになっていた。他にも学習塾のノウハウだったり、色々なものがお互いの家の利益になるような契約がわんさか」

 

『私は物じゃない!!』

 

「8人」

 

リアスが物のように扱われていることに怒鳴ったのに対してこいつは人数を返した。

 

『「?」』

 

「33世帯、12社、900人超、3800億円」

 

『リアス、お前のわがままで不幸になった人数だ。把握できているだけで自殺が8人、33世帯が激しい取り立てにあい、12社の零細企業が潰れ、900人超がリストラや厳しい降格処分や減給処分にあっている。被害総額は3800億円ってところだな。リアス、お前のわがままの結果だ。そいつら全員を集めてやろうか?』

 

『な、なんでそんなことに』

 

「貴族というのはよく見られているんだよ。裏で話を通さずにストレートに動いた結果が今回の混乱を招いた」

 

『お前たちにハンデとして与えた1ヶ月の間にこっちはそれの処理を行ってたんだよ。なんでフェニックス家がグレモリー家の尻を拭くハメになるのやら』

 

「ライザーの女好きのせいだな。いらない苦労を買ってまでやらなくても良かっただろうに」

 

『それで倍以上の被害を出せと?いやはや、そんな鬼畜なことオレには出来ないな』

 

ライザーとチート持ちが笑っているがオレたちは笑えない。そんな事が起こっているだなんて知らなかった。

 

「知らないで済ませたいか。その気持はわかるぞ。だが、駄目だ。貴族とはどういうものなのか、政略結婚とはどういうものなのか、それを正しく理解していなかったのが悪い。裏から交渉して内々に済ませれば此処まで酷くもならなかったし、金でなんとかなった。何故こんな馬鹿なことをした。ライザーとの婚約破棄なんて本来なら簡単に出来ることだ」

 

『いや、まあ、確かに簡単かもしれないが、そこまではっきり言ってくれるな』

 

「なら女好きを少しは抑えろ。さて、話を戻すが、今のはグレモリー家の負った負債だ。フェニックス家も負債を負っている。家じゃなく、自分だけを見て欲しいだったか。見てやろうじゃないか、フェニックス家が負った負債をお前個人にな。楽しい楽しい契約の時間だ」

 

ライザーが契約書をリアスに見せ、写しらしき物をチート持ちがオレに見せる。それを見て怒りがこみ上げる。

 

「こんなの不可能じゃないか!!」

 

ヤミ金業者よりも酷い契約だ。こんなの絶対に不可能だ。

 

「今まで貴族として扱って貰っていたのを辞めると言うんだ。貴族を保護する法律が適応されないとこうなる。グレモリー家を勘当させるための下準備が死ぬほど大変だった。なんで斉天大聖のオレがこんなことをやってるんだ?」

 

『知識があり、弁が立ち、度胸があるからだな。弁護士にでもなるか?』

 

「畑を耕してたまに狩りをするだけの生活が良いな」

 

『狩りは狩りでもはぐれ狩りだろう?ああ、リアス、契約書の期限は3日後だ。それまでにサインをしないのなら甘んじてオレの妻となれ。それと、全く別となるがこれだけは飲むように』

 

ライザーの奴が小瓶を取り出してテーブルに置く。

 

『別に怪しい薬でも何でも無い。ただ、絶対に飲め。これだけは選択権はない。飲まないというのなら死ね』

 

『何の薬よ?』

 

『バカをやらかした奴への罰ゲーム。半日は味覚がバカになるような苦いだけの栄養剤だ。稀にだが体質が合わずに腹を下すがな』

 

『……分かったわ』

 

リアスが嫌そうにしながらも小瓶を一気飲みしてお腹を抑えながら走っていった。

 

『はぁ〜、カカロット、そっちのトカゲは任せる。オレは帰るぞ』

 

「レイヴェルに胃薬と頭痛薬をもたせてある。それと精神安定に聞く茶もな、それを飲んでゆっくり寝てろ」

 

『そうする』

 

頭痛に耐えるようにしながらライザーが手を振ると映像が消える。

 

「さて、これでようやく話ができるな。だが、その前に」

 

チート持ちがいきなりオレの手の指から爪を剥いだ。

 

「ぎいっ!?」

 

「いい加減に現実を見ろ。ここは物語の世界なんかじゃない。現実だ。お前の反応から理解したが、お前は望んで転生した上に、この物語の原作の知識を有して主人公にでも転生したんだろう?」

 

「ぐぅう、そういうお前こそ、悟空に望んで転生したんじゃないのかよ!!」

 

「残念だったな。オレは死んだと思ったらいつの間にかカカロットとして産まれていた。そしてポッドで地球に送り込まれ、孫悟飯に拾われなかった。しかも、ドラゴンボールとは違う地球だ。さらに言えばこいつだ」

 

チート持ちの黒髪が金髪になる。超サイヤ人なんだが

 

「なんで微妙に緑掛かって、まさか、伝説の超サイヤ人!?」

 

「そうだよ。あまり長時間変身してると意識が飛んで暴走する。はっ、笑えよ。オレはカカロットの体を持ってる。だがな、カカロットそのものじゃないんだよ。それはお前も同じだ。兵藤一誠という体を持つ同類よ。お前は絶対に兵藤一誠にはなれない」

 

はっきりとそう告げられ、心あたりがあるので何も言い返せない。

 

「物語は描写されている範囲だけの世界だ。だが、ここは現実。前世と違って、魔法や多種族なんかもいる。だが、前世と変わらない現実なんだ。それを考えずに動いた結果が8人、33世帯、12社、900人超、3800億円になる。知らなかったでは済まされないレベルの被害だ。いい加減に目を覚ませ。今回だけは甘い対応をとってやっている。本来ならリアス・グレモリーに選択権はなく、純血悪魔を産むためだけに生かす。お前は神器を引き抜いて打首でもおかしくはなかった。サーゼクス・ルシファーが手を出そうとしたからそれの牽制も面倒だったし。次はないからよく考えて、ちゃんと世界に向き合え。薬は此処に置いておく。お前も3日、正確に言えばリアス・グレモリーの契約保留期間の間は謹慎だ。飯は届けるから大人しくしていろ。部屋からは絶対に出るな。出た時点でオレが殺しに走ることになっている。何かあれば飯の時に言え」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です、カカロット様」

 

同類らしき兵藤一誠の元からフェニックス家に戻ったオレをレイヴェルが出迎えてくれる。

 

「今回は本当に疲れた。なんで弁護士みたいなことをやってるんだよ。ライザーは?」

 

「薬を飲んで眠られてます。さすがにあそこまで考えなしだとは思ってもいなかったみたいで。それにあの薬であの反応ということは」

 

「妊娠してたんだろうな。違和感がないように腹を下すように仕込んであるからな」

 

リアス・グレモリーに飲ませたのは栄養剤と偽った堕胎薬だ。初期症状が出ていない状態にしか効かないが、母体に影響なく流すことが出来る。副作用として腹を下すが、下したということは流れるものが有ったということだ。

 

「全く、わがまま姫にも困ったものだ。場合によってはライザーは更に寝込むことになるだろうな」

 

「流石に此処まで追い詰めたのです。馬鹿な真似はしないでしょう」

 

「そうだと良いがな」

 

翌日、リアス・グレモリーと赤龍帝が逃亡したと知らされた。誰かの手引きは一切ない。眷属も置き去りにして、二人で何処かへと消えた。それを通信越しに聞いた時、2回ほど聞き返して、監視カメラの映像を見せられて頭を抱えた。そこには食事を運んできた悪魔を襲って逃げ出す二人が映っていた。それぞれが自分の意志でだ。これを伝えてきたグレモリー家の執事も何も言えずに顔を伏せていた。

 

「すまん、対応は追って伝える。そちらも大変だろう。明日一番にそちらに集まるということで纏めて欲しい」

 

グレモリー家の執事が深く頭を下げて通信を切る。頭を少しかいて、抜けた毛を使って分体を作ってリアス・グレモリーと赤龍帝の確保に向かわせる。

 

「ライザーはどうしている」

 

フェニックス家の執事に尋ねる。最初の通信はライザーが受け取り、丸投げしてきたからな。どうしているのかが気になる。

 

「ライザー様はそうか、とだけ。少し出かけるとも」

 

「そっとしてやれ。それから食事を運んだ悪魔に見舞金を出せ。口止め料込でだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見つけ出した赤龍帝とリアス・グレモリーは休憩に使うホテルに居たので流石に我慢の限界が来た。赤龍帝は神器ごと心臓をぶち抜き凍りづけにして蘇生は出来るようにしておく。リアス・グレモリーは仙術で魔力を完全封印して気絶させる。そのまま人間界に用意してある隠しアジトの一つに拘束して監禁する。ライザーだけを連れて隠しアジトに案内し、耳元で囁く。

 

「ここにリアス・グレモリーが居ることはオレとライザーしか知らないし、赤龍帝は蘇生できる状態で保存してある。魔力は完全に封印してあるから見た目通りの力しか無い。好きにすると良い。何も考えずに、欲望の赴くままに。レイヴェルのことは本当に感謝している。だからこれはオレからのお返しだ。必要なものがあればオレの方で手配するからいつでも声をかけてくれ」

 

その後、リアス・グレモリーがどうなったかはオレは知らない。ライザーもしばらく帰ってこなかったが、戻ってきた時には未練もないような顔をしていたし、たまにふらっと居なくなることもあるようだが問題ないようだ。

 

他に問題なっているのはリアス・グレモリーの赤龍帝を除いた眷属たちと、リアス・グレモリーが管理していた駒王の地をどうするかだ。駒王にはもう一人の純血悪魔であるソーナ・シトリーが居るのでそちらに任せてはどうかという話だったのだが、リアス・グレモリーの赤龍帝への思い入れから何らかの精神操作を行っていたのではという疑問から経過観察を行うことになり、一時的にレイヴェルが現地入りすることになった。無論、オレもそれに付いていくことにした。

 

レイヴェルは生徒として駒王学園に転入し、オレは保険医として潜り込むことになる。

 

リアス・グレモリーの眷属たちは管理者をレイヴェルとして、以前と殆ど変わらない状態で過ごすことになる。多少の制限がかかるが、遠出するのに事前に届け出が必要なのとリアス・グレモリーから連絡があればそれを伝える義務ぐらいだ。むしろ、眷属の一人であるギャスパー・ヴラディの封印解除が行われることになっている。

 

さらに言えば、戦力としては磨かれていない、あるいは磨き方を間違えている原石ばかりだとレイヴェルが言うので稽古を付けることになった。確かに原石としては価値が高いので徹底的に磨き上げることにする。

 

塔城小猫は亀仙流の教えに従い身体作りから始める。中度のストレスを継続的に受けている影響でホルモンバランスが崩れていることで身体が出来上がっていないのだ。それを亀仙流の、のびのびとしたストレスを感じさせない修行でゆっくりとストレスを解していく。外気を扱う才能もあるみたいだが、それが重度のストレスを産み出してしまうので後回しにしておく。

 

木場裕子も亀仙流の教えに従い身体作りとストレス緩和を行っていく。それに加えて彼女の持ち味である神器魔剣創造に対する扱い方の勉強を施す。魔剣創造はどんな能力・形状の魔剣でも創造できるという利便性の高い神器だ。だからこそ固定概念に囚われてしまう。形状からどのような能力なのかがひと目で分かり、斬る・突くことで能力を発揮するように作ってしまう。そんな彼女のために参考書として漫画を用意した。死んでいるのか生きているのかよくわからない死神のOSRバトル漫画だ。名前が可愛らしくなっていたが、中身はほぼブリーチだったから問題ない。嵌って若干腐ったが問題ない。交友関係が広がるのは良いことだ。

 

ギャスパー・ヴラディも亀仙流の教えに従い身体作りとストレス緩和を行っていく。というか、どいつもこいつも問題を放置されていて目に見えない形で多大なストレスを抱えて悪循環に陥っている。ちゃんと面倒を見ろと言いたい。とにかく出来る限り肯定してやり、少しずつ心を解きほぐしていく。神器の力が強すぎて制御できないのなら制御できるように身体を鍛え上げればいい。健全なる精神は健全なる身体に宿る。健全なる精神は強い意思を宿す。神器は意思によってその力を変える。明確なる目標を立て、そこまでの道筋を立て、それを支え会える仲間がいれば問題ない。

 

三人共、暗い過去を持つ。だからこそ、何も暗い過去を持たない者たちよりは気を許すことが出来る。彼女たち三人なら環境さえ整えてやれば切欠一つで乗り越えてくれるだろう。

 

それはそれとして亀仙流が有能すぎる。さすが長生きしている武天老師様の教えだ。5つの教えの中に人生を楽しく過ごすための全てが詰まっていると言っても過言ではない。このまま亀仙流を布教するのも吝かではない。

 

 



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ハイスクールD×D 黒龍伝説 X

お遊び回です。


 

「あん?なんだここは?」

 

ええっと、オレは確かシトリー領内に発生した次元の歪みの調査をしていて、留流子を庇って飲み込まれたか?それなのに眼の前では死んだはずのコカビエルや若いイッセー達が居る。一瞬、過去に戻ったかと思ったが、統合されたエクスカリバーを持っているのがオレの知るエクソシストと違うことに気づく。おそらくは平行世界の過去に飛ばされたようだな。全く、よりにもよってこれから一番忙しくなる時期に飛ばされるとはな。戻る手段を探すためにもオレも再び闘争に身を委ねるとするか。この世界のオレがどんな奴なのかも気になるしな。この間、わずかに1秒にも満たないのだが、エクソシストが既に動き始めていた。その行動は逃走。なるほど、野生の勘か。

 

「だが、逃がさん」

 

学園を覆っている結界に干渉してエクソシストの逃げ場を完全に封じ、透明なラインで全身を拘束して血中酸素を奪って意識を奪い取る。そのまま拘束して転がしておけばいいだろう。

 

「貴方は、一体何者なの?」

 

グレモリーさんがオレに訪ねてくるが、甘いのは相変わらずか。たぶん、オレの知るグレモリーさんとあまり変わらないのだろう。

 

「とりあえず敵ではないとだけ言っておこう。オレも、あまり状況がわかっていないからな。とりあえず、コカビエルを潰すのが先だ」

 

エクスカリバーの統合と残った力で爆発するであろう魔法陣からラインで光力を吸い上げておく。ついでにエクスカリバーを回収しておく。うむ、そういえばこの時期はこの程度の力しかなかったな。オレの中にある自分を感じ取って困惑しているのか拒絶反応もない。

 

「ば、ばかな!?何故悪魔がエクスカリバーを持つことができる!?」

 

「お前がそれを知れば、お前の今までの人生を否定することになるから聞かないほうがいいぞ」

 

少し太っている神父にそう言ってからコカビエルに向き直る。この時点でオレの力を感じ取れていない時点でこいつの弱さがよくわかる。人間だったオレに殺されるぐらいだからな。

 

「貴様、何者だ?」

 

「ただの飼いドラゴンだよ」

 

この世界のエクスカリバーを肩に担いでコカビエルを挑発する。簡単に挑発に乗ったコカビエルに呆れながら、肩に担いでいたエクスカリバーにラインをつないでから、肉体を倍加の力で強化して投げつける。光速を超えた速度でエクスカリバーがコカビエルを貫き、何処かに行ってしまう前にラインを手繰り寄せて回収する。地面に落ちてきたコカビエルを踏みつける。急所は外しておいたし、ラインをつないでギリギリのところで生かしてある。

 

「で、こいつは殺してよかった?」

 

「ええっと、抵抗されても困るから羽さえ残れば」

 

「了解」

 

苦しまないようにエクスカリバーで首を刎ねて殺す。

 

「コカビエルをこんな簡単に倒すなんて。飼いドラゴンって言っていたけど誰かの眷属なのかしら?」

 

「一応は。まあオレに関しては上のほうの人たちが集まってからってことで。そちらとこっちの情報に差がありすぎますし、おそらく信じられないことのほうが多いでしょうから」

 

それだけを説明して大人しくしておく。後片付けが終わってから結界が解かれて、生徒会のメンバーが姿を表す。生徒会のみんなは記憶とほとんど同じだが、この世界のオレだけはかなり異なる歴史を歩んできたみたいだな。これは、詳細は隠したほうがいいな。さらにしばらく待っているとルシファー様とグレイフィアさん、そしてレヴィアタン様がやってくる。うむ、あの格好から察するに今のところはオレが特殊な世界なようだ。念のために懐から解呪用の葉巻を取り出して持っておく。

 

「ふむ、君がリアス達の言う、エクスカリバーが統合されると同時に少しだけ割れた次元の狭間から現れたドラゴンかい?」

 

「ええ、そうです。サーゼクス・ルシファー様。手っ取り早く説明するなら、自分は平行世界の未来から事故でやってきた者です」

 

「平行世界の未来から?何か証拠はあるかい?」

 

「はい。少なくともオレの中にある悪魔の駒を少しだけでも調べてもらえれば平行世界からやってきたということだけは証明できるはずです」

 

「少しだけということは感知だけで、何?これは」

 

サーゼクス・ルシファー様は話しながらも軽く悪魔の駒の魔力を感じた疑問からセラフォルー様を見やる。

 

「えっ、何々?って、えっ?あれ?」

 

セラフォルー様も感じ取ったのか悪魔の駒のケースを取り出して中身を確認している。そこには変異の騎士が収まっている。

 

「本当に、平行世界から来たようだね。それもセラフォルーの騎士だとは。それにもう一人、これは、ソーナ嬢か」

 

その言葉にこの場にいる全員の視線がオレと、この世界のオレに集まる。

 

「さて、自己紹介をしよう。オレは匙元士郎、こっちとは大分違う人生を歩んでるがな」

 

「オ、オレーー!?」

 

「「「「「「嘘っ!?」」」」」」

 

まあ、驚くのも仕方ない。容姿は大分変わっているし、なにより貫禄や覇気からして違うからな。

 

「ちなみに25歳妻子持ちの上級悪魔だ」

 

「7年で匙がここまでになるのかよ!?」

 

イッセーが驚いているがどうだろうな。

 

「たぶん、無理だな。さっきも言ったがこっちのオレはかなり違う人生を歩んできているみたいだからな。ちなみにオレの方の世界でもこの事件は起きた。で、解決したのは人間のオレだ。この時点で転生悪魔になっているこっちのオレとじゃあ力の差は歴然だな」

 

「人間がコカビエルを倒したと?」

 

サーゼクス・ルシファー様が尋ねてくるので首を縦にふる。

「エクスカリバーも使いましたけど、余裕でしたね。ちなみにオレが悪魔に転生したのは約1ヶ月後です。おそらくですが、こっちとここの世界の相違点はオレが起こした影響のみだと思います」

 

「なぜ、そう思うんだい?」

 

「オレの記憶する限り、相違点がそれしかないからですね。例えばそこにいる兵藤一誠、左腕が龍の物になっていますよね。おそらくは、ライザー・フェニックスとの戦いで強制的に禁手化するために対価としてドライグに捧げた。違うか?」

 

「そうだけど、向こうのオレってそんなことしていないのか?」

 

「ああ、なんせライザー・フェニックスとの戦いにオレが参戦して倒しているからな。くくっ、なかなか面倒だったがほぼ完封だ」

 

「「あのライザーを完封!?」」

 

グレモリーさんとイッセーが驚いている。向こうのイッセーも今では普通にライザー位簡単に倒せるけどな。

 

「まっ、そういうわけでオレが関わった件に関しては大きく変わっている可能性が大ってところですね」

 

オレの言葉にこちらの世界のオレが尋ねてくる。

 

「何が、何がこれだけの差を生み出したんだ」

 

「何もかもだな。家族は?」

 

「えっ?」

 

「家族構成だ」

 

「オレと両親だけど」

 

「オレには妹がいた。1年と生きられなかったがな」

 

「えっ?」

 

「虐待を受けていたんだよ。生き残るために幼少期にオレは神器に目覚め、生きるために妹を犠牲にした、してしまった!!生きるという意味をわずか4歳にして理解してしまった。そして妹を殺した事実に10年以上苦しむことになる。オレとお前の差はそれだ。埋めることなど無理と思った方がいい」

 

虐待という言葉にこちらの世界のオレはひどくショックを受けている。

 

「どうやら、こちらの世界のオレの両親は良い親なのだな。羨ましいよ」

 

「ほ、本当に親父とお袋が?」

 

「オレとお前は似ているようで違うんだ。大切にしてやれ。オレの方は塀の向こう側だし、縁も切った。オレの家族は妻子と義理の父と母だけだ」

 

「すまん!!」

 

「気にするな。もう決着がついたことだ。他に何か聞きたいことはあるか?ああ、未来に関しては話すつもりはない。宛てにされても困るからな。状況は似ているが、全く同じになるとも限らないからな」

 

「そうだね。それに何が正しいかなんて決めることもできないはずだ。だからこれからのことを決めよう。君はこれからどうするんだい?」

 

「無論、元の世界への帰還を目指します。次元の狭間を経由してここに来た以上、もう一度次元の狭間を経由する必要があります。次元の狭間への道を開くのは容易ではありませんが、半年以内にそれが開かれる機会に恵まれる可能性がありますのでその時までは一悪魔として協力させていただきます」

 

「そうしてもらえると助かるよ。何か要る物はあるかい?」

 

要る物か。とりあえずは

 

「駒王での悪魔稼業の許可を貰えますか?あとは、接触しやすいように学園の方に在籍させて頂ければそれだけで十分です」

 

「それだけで良いのかい?」

 

「金銭は十分持ち歩いていますし、悪魔稼業で稼ぐのも簡単ですので。とある方面で指名数1位ですので」

 

「とある方面?」

 

「美容方面ですね。ニキビとかそばかすの除去とか。特に余分な脂肪を取り除いたり場所を移したりとかできる唯一の悪魔ですので」

 

その瞬間、女性陣の目がぎらつく。うむ、向こうと全く同じ反応だな。

 

「ちなみに聞きたいんだけど、良いかしら?」

 

グレモリーさんが代表で尋ねてきた。

 

「対価はどれぐらいなのかしら?」

 

「美容関係フルコースで週1の4〜6回の施術で、5万円程度。守秘義務からオレ自身にギアスをかけますので個人情報の秘匿も完璧です。注意事項としては他人への脂肪の受け渡しは拒絶反応が怖いのでやっていません。あくまでも自分の体で場所を移し替えるだけですから、女性にこう言ってはなんですが、多少は太ってないとどうにも出来ないんです。というか、太っている方が調整しやすいですね。余分な分は除去できるんで」

 

それを聞いて塔城さんがショックを受けてorz状態になる。希望が見えたと思ったらそれが幻想だと知らされたのだからな。向こうでもそうだったが、問題はすでに解決している。

 

「塔城さん、安心するといい。向こうでは既に解決済みだ。体質を変化させることも可能だ」

 

「本当ですか!?」

 

「オレに出来ないことは少ない。ついでにオレの力の一端も見せておこう」

 

持っていた葉巻を咥えて火をつけて煙を飲み込む。同時にオレの封印が解かれて肌に呪紋が浮かび上がる。それを見て全員が一歩下がる。

 

「その姿は一体?」

 

「オレには禁手化以外にもう一つリミッターが存在します。それを解放したのがこの姿、正確に言えば毒と呪の天龍ヴリトラの力を解放した姿です」

 

「ヴリトラが天龍?ではそちらの世界には、赤龍帝と白龍皇、ドライグとアルビオンはいないのかい?」

 

サーゼクス・ルシファー様の質問に答える。

 

「いえ、二頭ともいます。ですが、2年前にオレが天龍の名を奪取しました。天に佇むは赤でも白でもなく黒紫。次世代はわかりませんけどね」

 

オレの答えに驚いているようだが、周囲に認めさせるのは大変だった。イッセーもヴァーリもドライグもアルビオンもオレの方が上だと認めていても、それを周知させる舞台を用意できなかったのだ。2年前にようやくその舞台が整い、晴れて天龍の名を奪取したのだ。

 

おっと、とりあえずいつまでも呪紋を展開するわけにはいかないな。塔城さんの方へと近づく。

 

「とりあえず呪で体質を変化させるんで右手を出して。手の甲の方に呪紋を刻むから。普段は見えないから安心して。体質を変化させるのも少しだから今の生活を維持するのを心がけて、異常があればすぐに言うように」

 

差し出された右手を握って、手の甲に素早く呪紋を刻み込む。それから再び自分に呪いをかけて呪紋を封印する。

 

「これで明日には馴染んでいるはずだ。急激な変化は身を滅ぼすことになるから体重とかをきっちり計っておくように」

 

「わかりました」

 

「とりあえずはこれで良いか。ああ、一応オレのチラシを渡しておく。何かあればこれで呼んでくれ」

 

チラシをみんなに配り、その日は解散となった。オレはこちらの世界のオレの影に潜り込み、この世界のオレの両親の様子を伺う。ああ、この人たちはこんな風に笑えたんだ。それを息子に見せれたんだ。オレはその事実に訳が分からない涙を流す。

 

 

 

 

 

 

「その程度しかできないのか、元士郎」

 

同じ名前なためにオレはこちらの世界のオレを元士郎と呼び、オレはアナザーと名乗っている。

 

「そう言われても、難しいぞこれ」

 

臨時教師として駒王学園に勤めながらこちらのシトリー眷属とグレモリー眷属を鍛えることになったのだが、こちらのオレ以外はオレの世界と変わらないのでメニューは簡単に組めたのだが、こちらのオレは恐ろしく弱くて付きっ切りで鍛える必要が出てきたのだ。

 

「ラインの本数が増えるということは可能性を広げるのと同義。最低でも100本を同時に自在に扱えなければ意味がない」

 

「100本とか無理だって」

 

「なら目の前で会長を失う覚悟をしろ。お前よりも遥かに強いオレが3度死にかけた未来が来るかもな」

 

どれも自業自得なんだけどな。それでもこれから半年でそれだけ大変なことが起きるのだ。

 

「それは」

 

「経験則。どう転がっても、ほとんどオレの世界と同じか類似した事件が起こるだろうな。それはもうひどい戦いになる。その中心にはいつもオレが立っていたからな。誰が死ぬことになるかなぁ」

 

「助けてくれねえのか?」

 

「いや、助けるよ。世界が変わろうが、同じ眷属で主なんだから。グレモリー眷属とも長い付き合いだ。だけどな、あまり付き合いを深くすることはできない。オレは向こうに妻子と眷属を残してきてるんだ。絶対に帰るけど、こちらの者を連れて帰ることはない。良いのか、オレが颯爽と助けても。吊り橋効果って結構きついぞ」

 

「それってつまり」

 

「全員落とす自信はあるぞ」

 

「ちっくしょうーーーー!!負けてたまるかーーー!!!!」

 

走り去る元士郎を見送り建物の陰に入ると同時に影に入り、遠くからオレのことを見ていたアザゼルの背後の影から這い出て聖魔剣エクスカリバーとアロンダイトを首に突きつける。

 

「覗きとは、あまり良い趣味ではないですね」

 

「おいおい、全く分からなかったぞ。何処をどうやったらあいつがお前みたいになるんだよ」

 

「経験と役割の差って奴ですかね。主の邪魔になる者を内密に排除するのがオレの役目なのでね」

 

それだけを告げてアザゼルが振り返る前に影に再び飛び込む。これでオレの強さを印象付けられただろう。全く、手間がかかる。

 

 

 

 

 

 

 

ギャスパーの部屋に配置しておいた分身体が敵を排除してしばらく経つと向こうの世界の時と同じで襲撃を仕掛けてきた。分身体にギャスパーを連れてくるように思考を一時だけリンクさせる。さて、話ではここでカテレア・レヴィアタンが来るはずだったな。

 

「すまないがアナザー君、外の魔術師たちを任せても良いかい?」

 

おや、そうきたか。まあいいや、ラインは既に繋いであるから呪い殺そう。

 

「10秒で十分ですね」

 

解呪の葉巻を吸い、透明なラインを通して外にいる魔術師たちを呪殺する。きっかり10秒で外の音がなくなる。全員が驚いている中、生徒会室の扉が開かれ、分身体のオレが禁手化状態でギャスパーを担いでやってくる。

 

「外の気配が静かに消えたと思ったら呪殺したのか」

 

「手っ取り早いだろう。そっちも問題なかったようだな」

 

「いや、もう驚いて泣いて命乞いしながら神器を暴走させて大変だったから気絶させて連れてきた」

 

ギャスパーをラインを並べて作った即席のベッドに寝かせてから分身を解除して芯にしていたグラムを体内に回収する。

 

「今のは、使い魔?いや、ドッペルゲンガーか何かか?」

 

「秘密だ。まあ、オレの見せ札の一枚とだけ言っておこう」

 

ギャスパーの様子を見るふりをして背中を見せれば、予想通り簡単に釣れた。わざとそのまま殴られて生徒会室の窓を突き破って校庭に落ちながらも、呪でマーキングを施す。ヴァーリはイッセーとオレを鍛えるのにちょうどいい練習台になるからな。ここで首輪をつけておけば先が楽になる。

 

「ふむ、こちらでもオレの敵になるか、ヴァーリ」

 

「ふん、それが分かっていてわざと背中を見せた癖に。何を考えている」

 

「何、便利な小間使いが欲しくてな。首輪を付けて調教してやるよ、白龍将」

 

「白龍将?」

 

「オレの世界で天龍の名を剥がされた貴様の名だ。皇と王と帝、それらは許そう。竜に龍、無論これらも許そう。だが、組み合わせるが許されるのはオレのみ!!天を征するのは毒と呪の天龍、黒蛇龍王ヴリトラだ!!地面に這いつくばれよ」

 

既に呪のマーキングと共にラインは仕込んである。あとはそこにオレの周囲の重力を吸い上げて流し込むだけだ。ほう、まだ耐えるか。なら旧校舎一帯の重力もプラスだ。地面に這いつくばるヴァーリを足蹴ににやにやする。向こうじゃ手の内がばれてるからここまで一方的にはならないんだよなぁ。まあ、誰が相手でもものすごい警戒されるのが基本になったからな。

 

「何故だ、何故アルビオンの力が通用しない!?」

 

「対策済みなんだよ。お前とはよく戦りあったからな。今のお前じゃあ足元にも及ばねえよ。まあ、オレの世界でも勝てないんだけどな。とりあえず、眠っとけ」

 

呪で眠らせて、ついでに色々とリミッターも施しておく。ギアスはさすがに同意の元でやらなければ効果は薄いので諦める。ついでにやってきた美猴もラインで縛って引きずる。いいもの拾ったぜ。

 

 

 

 

 

 

 

「アナザーさん、無理を承知で聞かせて欲しいのです。私の夢は間違っているのでしょうか?」

 

昼間のカビの生えた爺共の言葉で迷いが出たか。オレの世界ではオレの状態が酷かったせいでそっちの方に気をとられることはなかったのだがな。さて、どうするか。言うべきか、言わざるべきか。悩んだときはサイコロの神様に聞くのが一番だな。特製のサイコロを取り出した投げ渡す。

 

「4以上が出れば未来を話そう。3以下なら未来のことを交えずにオレの私見を話そう」

 

甘いよなぁ〜。甘いんだけど、折れる姿は見たくない。これはオレのエゴだ。そして、出た目は4。

 

「オレがいなければ致命的な失敗になっていた。想定が色々と甘かった。焦り過ぎであった。苦い思い出だ」

 

「何が、あったのですか」

 

「1期生、2期生の卒業生の大半によるクーデター1歩手前まで行った。そして、オレが秘密裏に一人残らず殲滅することで何とか難を逃れた。しかし、そのことにショックを受けた君は学園を閉鎖した。改革ってのは下だけ、上だけではダメなんだ。上と下両方が変わらなければならない。オレたちは致命的なミスをした。後にそれはあのクソ爺共が裏で手を回していたのが判明し、騒乱罪として7家が没落することになる。その後、色々とごたごたあるが割愛。今は小さな私塾を開いて、そこから再び歩き出しているところだ」

 

オレの世界での事件を聞いて、へたり込んでしまうこちらの世界のソーナ・シトリー。あの時程とは言わないが、それでもそんな姿は見たくなかったな。

 

「いきなり、でかい学校なんてやるべきじゃなかった。教師も新人ばかりでノウハウもない。魔術を専攻して教えていたせいで道徳心の育成にも力を入れるべきだった。何より、他者の悪意を甘くみすぎていた。油断がオレたちを殺しにかかった。オレが殺した中にはオレ自らが教えていた生徒もいた」

 

「......そうですか。やは「だがな、間違っていたなんて思っていない」えっ?」

 

「確かに後悔はしたさ。それでも、必要だと分かっているからこそ天使も堕天使も似たようなことをしている。悪魔とは環境が違うせいか今の所大きなミスはなかったが、オレたちの事件が起こった後に徹底的に欠点の洗い出しをしたって言っていたからな。少しずつ賛同者を増やしていけば問題ないはずだ」

 

そこで一度切ってから言霊に乗せてちょっとした呪を込めておく。サービスしすぎだろうが、惚れた女と同一の存在が相手じゃねぇ。

 

『君の夢は間違いなんかじゃない』

 

これで今回みたいに迷うことは少なくなるだろう。これ以上は情が移りすぎるから手は貸せない。帰るチャンスが近づいているからな。あと一ヶ月程か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光に飲み込まれそうになったアルジェントさんの足首を掴んで影の中に引きずり込む。

 

「無事なようだな」

 

「ほぇ?アナザーさん?」

 

「そうだ。今向こうに戻してやる。それからこれを持って行ってくれ」

 

アルジェントさんに渡すのは、グレモリー眷属とシトリー眷属の特訓メニューと個人的な手紙を置いておいた場所を記してあるノートだ。

 

「これは?」

 

「すまないが説明している時間はあまりない。次元の狭間が閉まってしまうからな。ここでお別れだ。イッセーを止めてやれ」

 

それだけを一方的に告げてイッセーの影から出るようにアルジェントさんを突き飛ばす。それからすぐに目的の影を探す。

 

「あった、グレートレッドの影だ」

 

影から影へと移動してグレートレッドの影へとたどり着く。あとはグレートレッドからオレの世界の繋がりが深い誰かの影へと移るだけだ。最も深い繋がりがある相手は、やはり妻だろう。魔力の波長をたどり、潜り込む。

 

「お帰りなさい」

 

オレが影を渡ってきたことに気づいたのか、妻が影に向かって話しかける。

 

「遅くなってすまない。ただいま、ソーナ」

 

影から出て抱きしめ合う。しばらくしてから離れて、オレが次元の歪みに飲み込まれてからのことを聞く。

 

「時間差があって助かったな。まさか六日しか経っていないとは」

 

「それでも、心配しました。他のみんなも、特に一緒に居た留流子が酷い有様です。出産から復帰したばかりであんなことが起こってしまいましたから」

 

「後で慰めに行ってくるさ。今は?」

 

「智流の世話をしています。それしかさせていません」

 

落ち込んでるなら仕方ないな。入学式前で忙しいが、産休を延長すればなんとかなるからな。

 

「ゆがみの原因は判明したのか?」

 

「いえ、未だに不明です。突発的すぎて観測も不十分でしたから」

 

「そうなるか。とりあえず報告書をまとめて上に上げるしかないか。最悪、他の場所でも発生するな。たまたま平行世界の過去に落ちたから無理やり帰ってこれたが、普通は帰ってこれないぞ」

 

「そうでしょうね。それで、その平行世界はどうでした?」

 

「オレだけが恐ろしく弱い世界だ。だから、鍛え方のメモと3年前のクーデターの件だけは噓をついて警告しておいた」

 

「あれは本当に危ないところでしたね。気付くのが後1日遅れていたら全員殺されていたでしょう」

 

「ついでにオレたちの責任問題にされていただろうな。まっ、杜撰なおかげでカウンターを決めて一撃で終わらせれたからよかったがな。あの手の輩はちまちま潰すとすぐにバラバラに逃げるからな」

 

「そうですね。それにあの事件のおかげで逆に注目が集まったのは怪我の功名でした。脅威に感じて露骨に排除しようとすれば簡単に裏が取れて合法的に排除でき、下級悪魔たちには夢を見せることができましたから」

 

「卒業生で優秀なのがバフ・デバフ要員ばかりだからな。ゲームで目立ちにくいのも考えものだ」

 

「......生徒の身を守るために意図的にそうした癖に」

 

「何もかもお見通しで」

 

「ふふっ、何でもとは言いませんが大概は分かるようになりました。分からないと、昔みたいに無茶をされて......物凄く怖かったんですよ!!」

 

力強くソーナが抱きついてくる。オレは優しく抱き返す。

 

「ごめん。それから、これからも心配をかけると思う。オレだって心配をかけさせたくない。やっと、やっと家族を手に入れられたんだ。危険なことだってやりたくない。だけど、その家族に危機が迫るのならオレは、止まらない。止められない」

 

「分かっています。私だって逆の立場なら同じことをします。でも、分かっていても」

 

「止めたい」

 

「だから私は、私たちは何度でもこうします。少しでも止められると信じて」

 

「ごめん。最低だよな、オレは」

 

「そんな最低な貴方を私たちは好きになったんです。最低な貴方を引き上げてみせるって。多少はマシになったんですよ」

 

「出会った頃からは大分変わったってのは分かるんだけどな。それがプラスなのかマイナスなのか分かりづらい」

 

「まあ、あっちへふらふら、こっちへふらふらしている気もしますが、それでも確実に前に進んでいますよ」

 

「なら、それでいいさ。留流子の所に行ってくる。当分はおとなしく引っ込んでいるよ」

 

「ええ、そうしてください。心配かけた分、たっぷりと皆んなを愛して、ね」

 

当然だな。こんな最低野郎と一緒になってくれたんだ。そのことを後悔させるようなことはしないさ。どっかの赤みたいにな。なんであんなに痴話喧嘩を起こせるのか不思議なんだよな。

 

 

 



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並行世界の可能性を覗いてみた 後編

部長の体調が気になるところだけど、残りのメンバーも見てみることにしている以上頑張ってもらう。前日呼び出した平行世界チームは物凄い和気藹々としている。オレもそっちに混ざりたかった。

 

本日一人目はアーシアだ。色々と覚悟をしておいたほうが良いはずだ。

 

「幻夢コーポレーション広報部第1広報課のアーシア・アルジェントです」

 

「同じく幻夢コーポレーション広報部第1広報課のミッテルト・バグスター」

 

「「二人合わせてゲーマーコンビ、トゥインクル☆シューティング★スターズ」」

 

おおぅ、この世に神はいないのですか。死んでたな。

 

「相変わらず色々突っ込みどころが多すぎて頭が痛ぇ。ミッテルトは何処から出てきたんだよ」

 

「チィ~ッス、平行世界の明星P、話はアーシアの中で聞いてたッスよ。まあ、色々違うんでしょうッスけどとりあえず簡単に自己紹介を。ウチ、バグスターって種族に転生したウィルス生命体ッス。アーシアはその宿主ッスね。かれこれ同棲5年目ッス」

 

「ええっと、はじめましてでいいのでしょうか。アーシア・アルジェントです。駒王に来てから宝生永夢さんに助けていただいて、パラド・バグスターさんのお世話になっていま す。ミッテとは夜も仲良し(・・・・・)です。反応からしてこちらには幻夢コーポレー ションは存在していないのでしょうか?」

 

「なんだよ、明星Pって。オレのことか?」

 

「仮面ライダークロニクルでのアバター名ッスね。仮面ライダークロニクルってのは没入型アクションゲームのことで、世界最大のエンターテイメントとして確立した施設でもあるッス」

 

「最近はザイアエンタープライズ・ジャパンが技術盗用を行ってきたので裁判で争ってますけどね」

 

「あそこの1000%社長、次々と証拠をぶちまけると面白いぐらい慌てて楽しいッスよね。 事業達成率が1000%とか、計画書のミスでしょ」

 

二人して思い出し笑いを上げるんだけど、他人をあそこまで笑えるなんて、アーシアが汚された感じがする。あと、夜も仲良しの詳細を。

 

「その点、飛電インテリジェンスの社長は良いッスね。元が売れない芸人だった2代目のボンボンで不安だったッスけど、苦労してきていた分、人間出来てるッスから」

 

「何故売れなかったのでしょう?あんなに面白いのに」

 

「アーシア、笑いのセンスがズレてるって何度も言ってるでしょ」

 

「不破さんも笑ってるじゃないですか。パラドさんだって」

 

「ゴリラと人外を混ぜない」

 

アーシアが理解できないと首をかしげるがミッテルトは軽く流している。いつものやりとりなんだろうな。

 

「裏の方はどうなってるんだよ」

 

「たまにMPの二人が呼ばれて超協力プレイでクリアしてる位しか伝わってこないッスよ。 種族混同のレーティングゲームには仮面ライダーズとして参加してるッスけど、基本そっちとはノータッチ!!」

 

「一度だけパラドさんとミッテが消滅しかける寸前まで行ってからはあまり関わらないようにしています。ここからもう少し未来の話ですね」

 

ヤバそうな未来は確定か。

 

 

 

 

 

「ヒャッハー、ハイドラゲッツ!!」

 

「ニードルで死ね!!」

 

「なんの、A連打!!」

 

「ミッテ、次ハイジャンプですよ」

 

「さ、さっきまで乗ってたスクーター何処行ったッスか!?」

 

「頂いていきますね」

 

向こうでは懐かしいゲーム大会が始まっている。地味にアーシアのテクニックが半端じゃない。というか、完全にゲーマーの目つきになってる。

 

「次、ギャスパー。たぶん、安牌だろう」

 

「アザゼル先生、アーシアでさえあれなんですよ」

 

いつの間にかこっちのアーシアに別のゲームを勧めはじめている。リズムゲームっぽいな。

 

「……大丈夫なはずだ」

 

アザゼル先生も不安になってきたみたいだ。

 

 

 

 

「えっと、どちら様?」

 

ギャスパーみたいな女の子というよりは中性的な顔立ちながらも鍛え上げられた肉体に長身、そして鋭い目つき。190はあるし、細マッチョだろう、というかすごい美人だ。これなら掘られても、やっぱなし。とにかくどういう突然変異が起こったらこうなるんだ?

 

水瓶座(アクエリアス)のギャスパー。聖域所属の黄金聖闘士です」

 

言葉や態度からは女々しさを一切感じない。思わず膝を付きそうになる。これがカリスマなのか!?

 

「話はアザゼルさんから聞きました。あまり未来のことに関して言及するのは止めておいたほうが良いでしょう。先入観は恐ろしいですから。ただ、そうですね、こちらの私に神 器に関してのレクチャーぐらいはしましょう。未だに安定せずに発動していますから」

 

「え、ええ、よろしくお願いします」

 

部長も平行世界のギャスパーの雰囲気に飲まれている。こっちのギャスパーは、気絶してやがる。平行世界のギャスパーは気絶しているギャスパーを抱き上げて部屋を出ていった。見た目から父親と娘にしか見えなかったは内緒だ。ところで平行世界組が物凄く静か なんだけど何かあったのか?

 

「お前ら、幸せものだな。アザゼルは分かったんだろ」

 

リアンが代表して答えてくれたけど、平行世界組は臨戦態勢を取っていた。そんなにやばかったのか?

 

「これも経験の差か。あのギャスパーのヤバさを理解できないって本当に幸せだな」

 

そう言ってアザゼル先生が可哀想な者を見る目でオレたちを見てきた。向こう側のアーシアとレイナーレの取り巻きだったミッテルトにもそういう風に見られたのはちょっと胸に来た。

 

 

 

 

 

「コンビニのありあわせで作ったミニピザお待ち」

 

「コーヒーもどうぞ」

 

「近くのゲーセンでお菓子のパーティーパック取ってきたッスよ」

 

「大将仕込みの団子もどうぞ」

 

ギャスパーが戻ってくるまで休憩ということにして平行世界組がちょっとしたパーティー が始めた。こっちはぐったりしているメンバーの方が多い。金をどうしたのかと聞いたら 昨日のうちにヤの付く自由業の方々とお話し合いをして快く出して貰ったそうだ。能力とかは再現されてないはずなのにどうやったのか聞かないほうが良いのだろう。

 

「ピザ、美味っ!?本当にコンビニのありあわせッスか、リアン?」

 

「生地は餃子の皮か春巻の皮を2、3枚重ねる。その際に皮と皮の間に薄く油を塗っておく。具材は惣菜のポテトサラダといかの塩辛とチーズ。オーブンで焼いてレモン汁を少し 振りかければ完成だ」

 

へぇ、結構簡単なんだな。

 

「餃子の皮は万能といっても良いぞ。タネをりんごのコンポートにして焼けばミニアップルパイの出来上がりだ」

 

「おおぅ、本当に万能ッスね」

 

楽しそうだなぁ。オレは胃薬で我慢するけど。

 

 

 

 

 

 

「木場裕斗です。断罪の剣、治安維持部隊という解釈で大丈夫ですが、そちらの頭領をやらせていただいています。まあ、今はほとんど隠居の身なのですがね」

 

白い髪に杖を付いている木場がそんな事を言う。

 

「えっと、私の眷属ってわけじゃないのよね?」

 

「元ですね。治安維持部隊設立と同時に抜けました。他の上下関係があると面倒のほうが多いので」

 

「えっと、その髪はどうしたんだい?」

 

「こちらの僕か。大したことじゃないよ、ちょっと呪物に汚染された結果だから。この足もそうだね。少しの間なら戦えないこともないけど、その後はしばらく歩けなくなる。それぐらい、僕の身体はぼろぼろでね。まあ、頼れる相棒が三人も居るから問題ないよ」

 

「呪物に汚染って、どんな世紀末なんだよ」

 

「アザゼル先生呪物ってなんですか?」

 

「簡単に言えば呪いの一品だよ」

 

アザゼル先生はそう答えるけどリアンさんが否定する。

 

「違う違う取り扱いの難しい力の籠もった一品だ。呪物、呪いは十八番分野だからな」

 

「どちらかといえば後者の方ですね。外なる神を討ち滅ぼすための魔導書。その力に当てられた結果です」

 

「ぱっと見でも分かる。よく帰ってこれたものだな。オレ本体が君の本体に直接会えれば日常生活に問題ない程度には払ってやれるんだが」

 

「いえ、大丈夫ですよ。もう2年になりますから慣れました。それに支えてくれる人も居ますから」

 

物騒な話はよくわからなかったけど、支えてくれるってのは女の子のことだよな、たぶん。

 

「それにしても、また元気そうなアザゼルさんを見れてよかったですよ」

 

「へっ?そっちのオレは死んだのか?」

 

「……いえ、生きてはいます。ただ、狂気に飲まれて狂人として収監されています。僕達を救うために外道の法に触れて」

 

「外道の法ねぇ、そんなにやばい物なのか?」

 

「種類と言いますか、魔導書があるのですが、一冊でも使いこなせるのなら魔王様方でも 敵いません。それだけ外なる神は強大です。毒には毒をもって毒を制す、そのままなんです。アザゼルさんはその中でも最高位の物に手を出して、暫くは保ったのですが、残念です」

 

アザゼル先生に同情の目が集まる。

 

 

 

 

 

「短い付き合いだけど杖、調整してやるよ。微妙にあってないんだろう?」

 

「ああ、これはどうも。確かにちょっとだけ使いづらかったんだ。ちょっとだけ短くお願いできるかい?」

 

「ちょっと待ってな。こんなもんだろう」

 

「うん、丁度良い長さだ。それに丁寧な仕上げだね」

 

「昔取った杵柄って奴だ。生き残るためには負傷状態でも逃走できないと不利だからな」

 

相変わらず並行世界勢は楽しそうにしている。こっちはアザゼル先生までダウンしかけなのにな。それでも最後だからと頑張っている。

 

 

 

 

 

 

 

並行世界のオレに部長もろとも押し倒される。いきなり何をするんだと言おうとすると、頭上を炎が通り過ぎて行った。

 

「呪装!!」

「決壊!!」

「培養!!」

 

リアンと白音さんとミッテルトが姿を変えながら飛び出す。

 

「あらあら、光力がないと不便ですわね。邪魔にならないように下がりますわよ」

「回復役がぼさっとしてはダメですよ。狙われやすいのですから自分の身は自分で守らないと」

「姿勢は低くしたままで素早く移動するよ」

「無理矢理だけど、力を借りるよ」

 

朱乃さんがテーブルとソファーにお札を貼って盾に、アーシアさんがアーシアを連れてソファーの後ろに回り込み、一誠さんに連れられてオレと部長もソファーの後ろに回り込む。他の皆もテーブルやソファーの後ろに隠れ、木場さんは木場の神器を強引に使い、魔剣で結界を構築する。戦闘は広がり、旧校舎全体を使った激戦に発展している。流れ弾が結界を叩くがそれだけだ。ただし、流れ弾が弱いのではなく結界が強固なだけだ。弾幕のような流れ弾の一発一発が部長の溜めた一撃のような威力だ。

 

「アザゼル先生がいうには力なんてないはずなのに」

 

「昨日も言ったけど、リアンと白音ちゃんは外部供給型なの。リアンの方は負の思念、恨みとかそういうのを蓄えて利用する交霊術がベースになった術式で、白音ちゃんの方は仙術と力を溜め込むことに特化した妖怪としての性質を合わせた術式だよ。ミッテちゃんのはたぶんバグスターの性質なんじゃないかな?」

 

「そうですね。簡単に説明するとウィルスなので、私という寄生先がある限り、ストレスを栄養として増殖します。そしてウィルスの質と量によってミッテは力を増します」

 

一誠さんとアーシアさんが説明してくれるけどそれだと相手はどうなんだ?

 

「並行世界のロスヴァイセさんはルーン魔術がベースのようですわね。ルーンは文字自体が力を持ちますから、それが原因でこれだけの力があるのでしょう。おじ様がガス欠の時によく使われていたのに似ていますわね」

 

「それ以外にあのイヤリングだ。わずかだが周囲の魔力を吸収して蓄えている。それも利用しているようだ。それに加えて中々の槍捌きだね」

 

朱乃さんと木場さんが解説してくれるけど、確かに凄い槍捌きだ。それを素手でいなしたり、刀で捌く三人も凄い。だが、それに見ほれるようなことはない。それ以上に並行世界のロスヴァイセさんの形相がやばいからだ。目の下にくっきりと隈が出来ており、全体的にくたびれているのがよくわかる。何があったのだろう。

 

 

 

 

 

 

「そういうわけで恩知らずな悪魔達が大嫌いです。これが記憶転写でよかったですね。召喚だったら私は止まる気はなかったです。それと彼、リアンにも感謝するように」

 

戦闘はギャスパーさんが止めてくれた。圧倒的な力でロスヴァイセさんを氷漬けにして、それからリアンが何とか説得してくれた。アザゼル先生は最初の一撃で重傷を負ったが、今はアーシアがアーシアさんに治療のコツを聞きながら治療してくれている。そして事情を説明されて文句も言えなかった。

 

冥界のためにその身を犠牲にした英雄を都合のいい道具として再利用しようとして失敗。そのまま以前の脅威以上の脅威となって冥界は滅茶苦茶。魔王様もセラフォルー様は戦死、アジュカ様も2年経っても意識が戻らず、サーゼクス様も片腕を失い、悪魔の人口が7割削られても再度の封印が限界って、どんだけすごいの?ロスヴァイセさんはその人と恋仲で、暴走の原因の除去のために研究を重ねている最中らしい。

 

「つまりだ、除去という方向では肉体の崩壊は免れない。ただ単に回路が出来ているだけならまだしも影とはいえ魔槍を100本も取り込んでまともな訳がない」

 

「では如何しろと」

 

「そもそもの暴走の原因が器、彼の容量不足が原因だろう。だから容量の大幅に増強すれば暴走の危険性はぐっと下がる。問題は彼の自我がどうなっているか分からないということだな。こればかりはこちらから干渉するのは難しい。干渉するにしても容量の増強が先だな。術式はルーンを元に力ある文字の組み合わせで対処する。þnmkfuここにaを加え、これらをベースに六芒星の陣と梵字で細かく調整することになるだろう。これで整えてから容量の増強、これはオレが使っている呪術回路を利用する。こいつの特徴の成長する点にある。刻む際に設定した方向で自動で成長する。これを容量増大向けに調整した物を用意するから覚えろ。むしろこの情報を元の体に送り込む方が難しい」

 

「つまり意味がないと?」

 

「慌てるな。100%全てを伝えれるわけではない。だが天啓を得るような形できっかけにはなるはずだ。まあ、並行世界勢全員の力が必要だがな。この世界の奴らに迷惑をかけるわけにもいかんしな。ギャスパーさんと白音さんには結構負担をかけると思いますが」

 

「さすがに並行世界に干渉を続けるのはまずいですから、協力しますよ」

 

「はぁ、まあ私の場合は準備が必要なんで早目に言ってください。あと、予算もください。食べ放題で食いだめしないといけないので」

 

「予算は出しますので今からでも行って来てください。こっちはこっちで色々と準備をします。というわけでロスヴァイセさんは資料を用意するので術式を構築してください。ギャスパーさんは後ほど準備にご協力を」

 

リアンさんが纏めてくれたおかげでなんとか危機は去ったとみていいだろう。残るはゼノヴィアだけど、大丈夫かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ、なんというか、馴染みのない組み合わせで戸惑っているよ。ゼノヴィアだ。今は、フリーの傭兵とでも言えばいいかな。色々あって教会とは切れた。並行世界だと聞いたが、本当に色々と違うんだな」

 

なんというか、今までの並行世界組と比べると表面上は大きな差はない。ゼノヴィアが大人になるとこんな感じになるだろうなぁという見た目だ。髪を伸ばしているのに違和感を感じるぐらいだ。

 

「私の世界との違いといえば、赤龍帝は悪魔に転生せずにグリゴリで始末屋をしていて結婚しているぐらいだな。それとイリナが死んでいるぐらいだと思う」

 

「えっ、どういう経緯をたどったらそんなことに!?」

 

イリナが死んでいることに並行世界組以外が驚く。

 

「赤龍帝は私の世界では自分のことをこう呼んでいる。歴代で最も器用な赤龍帝だと。彼の倍加は単純に力を増やすだけに留まらない。彼は数値に干渉することが多い」

 

「「「数値?」」」

 

「へぇ、そういう使い方かぁ。私もゼオンに言われたことがあるけど、捉えきれなくてロスが多いんだよねぇ」

 

並行世界のオレはどういうことか分かったようだ。なんだろう、スリーサイズの数値を倍加するのかな?

 

「彼と白龍皇は相性が最悪だ。半減して吸収して、吸収しきれない分を排出。その排出に干渉して排出量を数百倍にして枯渇させるんだ」

 

思っていたより凶悪だった。

 

「更には時間にすら干渉するし、0.5倍に倍加することで半減などを疑似的に再現したりもする。その分、禁手には未だにたどり着いていないが、それでも世界中から注目されている。最も本人は戦うことを好まずに奥方と田舎に引っ込んでいるよ。私もイリナの縁で一時期世話になった。おかげで天界勢力から実力で足抜け出来たからな」

 

「足抜け。私のようにか?」

 

「私は悪魔ではないよ。天使でも堕天使でもない。ただの人間だ。自分の芯を自分の外に置くような子供でもない。ただ、少し疲れたかな。ふふっ、独り身というのは意外と堪える。イリナが共に居た時はそんなことは思わなかったよ。あれには色々と振り回されたが、寂しいと思うことはなかった。すまない、湿っぽくなった」

 

物凄く声がかけづらい。

 

「なあ、こちらの赤龍帝、本当に大事なものを見失うな。私の世界の赤龍帝は守りたいものが少なかったから、イリナを失った時のダメージが酷かった。心が砕け散る様を目の前で見せられた。奥方によって最悪は避けられ、再び立ち上がったが、あれは酷い物だ。私が言うと意外に聞こえるかもしれないが、我々の持つ信仰などちっぽけなものだ。誰かに与えられた物と、自ら手にした物。それの差がはっきりと見せつけられた。だから私は教会から離れた。信仰自体は捨ててはいないが、昔ほど狂信的に信じることも出来ない。進んで破戒的なことをするつもりはないが、必要なら平気で足を踏み出すよ。どっち付かずの人間、それが私だ」

 

ゼノヴィアさんの話はそれで終わり、そのまま解散となった。

 

翌日、世界を揺るがすほどの激震を残して並行世界のオレたちはこの世界から消えた。

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、最後におさらいだ。多重並行世界論で言えば、並行世界とはX軸Y軸Z軸で構成される。今回一番重要なのはZ軸だ。アザゼルは並行世界から情報を引っ張ってきたというが、世界と世界の壁は厚い。簡単には超えられない。それでも干渉出来たとすれば、Z軸の+方向に穴を開けた可能性だ。ごくごく小さい穴でも情報だけならば往来はまだ可能だ。そして+方向、つまり上側ならば引っ張らなくても零れ落ちてくるのを拾うだけだ。逆に情報を+側に押し上げるには莫大なエネルギーが必要になる。ここまでで質問は」

 

「はい」

 

「はい、アーシア」

 

「穴を開けたりするのはエネルギーさえあれば出来るのは分かるんですが、どうやってロスヴァイセさんの世界を特定するんですか?」

 

「それは逆に簡単なんだよ。なにせ零れ落ちた情報の塊だから世界に縁の紐がくっついてる。それをたどるだけだ。もっとわかりやすく言うと、オレたちはペットで首輪にリードまでしっかり付いてる状態だ」

 

「なるほど。分かりました。それで私たちはどうすれば?」

 

「それは今から説明するが、基本的には指示した場所に立っていてくれるだけでいい。魔法陣の上に置く触媒だから。手順は、そこで気持ち悪そうにしている白音さんがタンクなんだけど、容量的に足りなかったので更にギャスパーさんに小宇宙を燃やしてもらい、それをオレの体をコンバーターにして白音さんと同時に魔法陣を起動するだけだ。成功すれば、夢とか天啓みたいな感じに記憶が元のオレたちに届く。最優先は陣の中央に立つロスヴァイセさんだが、オレたちも影響下にいるから影響を受ける。それじゃあ、行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「とまあ、そんな夢を見たんだよ」

 

「中々楽しそうな夢ですね、リアン」

 

「まあな。世界ってのは広いよな。こっちじゃあ、ゲーセンのダンスゲームをノリノリでパーフェクトを出すアルジェントなんて絶対に見れないわ」

 

「それは見てみたかったですね」

 

「今度やらせてみるか?」

 

「混乱して転びそうですけどね」

 




さて、次は雷帝をどうにかするか。


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