ダンガンロンパリゾート (M.T.)
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プロローグ 零から始まる世界
プロローグ


タイトル変更しました。
ぶっちゃけ、プロローグはどうでも良くね的な感じになっちゃってたのですが、タイトルは統一した方が気持ちええやろという事でボカロ縛りにしました。
元ネタ『零に還る世界』です。


「…あれ?」

 

 

 

俺の名前は菊池論(キクチ サトシ)。『超高校級の弁護士』として、この春から希望ヶ峰に進学する予定だった。

 

【超高校級の弁護士】菊池(キクチ)(サトシ)

 

だが、どういうわけか、今は何故か砂浜にいた。

普通なら、広大な海を眺めながら、トロピカルジュースでも飲んで寛ぐところなんだろうが、今はそれどころじゃない。

ここに来るまでの記憶が全く無い。

目が覚めたら、砂浜で寝ていた事に気がついた。

ここは一体どこなんだ。

「…とりあえず、状況を整理するか。」

まず、俺は砂浜に一人で寝ていた。

周りに人がいた痕跡が見られる。どうやら、無人島というわけではなさそうだ。

…最悪だ。せっかく入学式用に新調した制服が砂まみれだ。

「他に何か無いか探そう。」

 

 

 

砂浜を歩き回っていると、一艘のボートが打ち上げられているのに気がついた。

恐る恐る近づいた。

…人が乗っていた。

見たところ、10歳くらいの女の子だ。

ボートに横たわっていて、意識は無いようだ。

「…ま、まさか死体じゃないよな…?」

そっと女の子の肩を揺すってみた。

 

「…んっ。」

微かに声が聞こえた。

…とりあえず、息はあるみたいだな。

一安心して、ため息をついた瞬間だった。

 

ゴッ

 

「!!?!?!??!?」

目の前で星が回っている。これが本当のキラキラ星か。

額に痛みが走る。

一瞬何が起こったのか、理解できなかった。

数秒後、急に起き上がった女の子が、俺に頭突きしてきたのだと理解した。

俺が混乱しているのを気にも留めず、そいつは背伸びをした。

 

「ん〜〜〜〜〜ッ!!よく寝たー!!…って!えぇえ!?ここどこ!?青い空、白い雲、アーンドだだっ広い海!!なんであーちゃんこんなとこにいんのー!!?」

「…おい。」

「ほにゃ?おにーさん誰?…はっ!!まさか!!ユーカイハンなの!?あーちゃんにランボーする気でしょう!?エロ同人みたいに!!」

…なんで余計な事を知ってるんだこのクソガキは。

俺は舌打ちをした。

「あー!今舌打ちしたな!?知らないの?舌打ちすると、ジュミョーが1秒ちぢむんだよ!!ってゆーか!おにーさんだれなの!?言わないとデコピンすっぞ!!」

 

こ の ク ソ ガ キ ! !

 

「…俺の名前は菊池論。高校1年生だ。『超高校級の弁護士』って呼ばれている。」

「ふーん。ドラマで見た事あるよ。ベンゴシ…たしか、ヒコクニン?を守る人だよね。…でも、あーちゃんはサトにいみたいな顔面偏差値40のベンゴシに守られなくないなー。」

 

ぶ ん 殴 り て え 

 

「お前は?」

「あーちゃんはあーちゃんだよ!!」

「本名を教えてくれるか?クソガ…お嬢ちゃん?」

「今クソガキって言おうとしたな!!あーちゃんはコドモじゃないよ!!」

「どう見ても子供だろ…」

「失礼しちゃうわプンプン!!あーちゃんは、サトにいと同い年なんだぞ!!」

「ホワッツ!!?」

「こう見えても、華のフィフティーンなのだ!!」

そうか、今日はエイプリルフールか。

「えっと…今日は4月1日だっけ?」

「エイプリルフールぢゃねーし!!あーちゃんは、キボーガミネのピカピカの1年生なんだぞ!!」

クソガキは、偉そうにしていた。

「希望ヶ峰…?俺と進学先同じじゃねえか!…お前、『超高校級』の才能は何だ!?」

「サイノー?…えっとね、忘れちゃった!!」

 

…は?

 

「才能を忘れた!!?何だよそれ!!」

「知らないよ!!だってあーちゃん忘れちゃったんだもん!!」

クソガキがわめいていると、ポケットからスマホのようなものが落ちた。

「おい、なんか落ちたぞ。」

「ほぇ?」

クソガキは、スマホを拾い上げてまじまじと見つめていた。

「…どうした?」

「えっと、チョーコーコーキューのみんなは、マップに記されているモノモノリゾートホテルのロビーに集合!だって。」

どういう事だ?なぜ、そんな案内が書かれたスマホを、このガキが持ってる…?

念のため、俺は自分の服を探してみた。

「…あ。俺のポケットにも入ってら…」

ジャケットの内ポケットに、見覚えのないスマホが入っていた。

電源を入れると、ご丁寧に俺の名前が表示された。

「あれ…?これ、俺のスマホじゃないよな…だったら何で俺の名前が…?」

『超高校級』についての記載があったという事は、希望ヶ峰学園からのサプライズなのかもしれない。

とりあえず、ロビーに向かうか。

ふと横を見ると、クソガキが居なくなっていた。

 

「…あれ?」

視線をずらすと、ガキは遠くまで歩いていた。

「おい!!勝手にほっつき歩くなよ!!」

俺はガキを追いかけた。

「なんでついてくるのよー!!サトにいのストーカー!!ハンザイシャヨビグン!!」

「お前が勝手に移動するからだろうが!!」

「だって、ロビーに8時に集合って書いてあるんだもん!!」

「…は?」

慌ててスマホの時刻を確認した。

時刻は、7時57分だった。

「もうあと3分しか無えじゃねーか!!そういう事はもっと早く言え!!」

「だって、サトにいにいちいち教えてたら、間に合わないもーん!!」

つくづくムカつくガキだ。

絶対こいつより先に到着してやる。

俺の中で、謎の対抗心が芽生えた。

俺は、砂浜をダッシュで駆け抜けた。

 

 

 

ホテルに、時間ギリギリに着いた。

外装は、セレブが好みそうな豪華なホテルだった。

「何全力疾走してんだこのヤロー!!大人気ねーぞ!!」

後ろでガキがわめき散らしていた。

「…おい、着いたぞ。」

俺たちは、ホテルの入り口のドアを開けた。

ドアを開けると、そこには巨大な空間が広がっていた。

壁には壁画や大理石の柱などの豪華な装飾が施されていた。

「…まるで城だな。」

 

 

「あれ?また誰か来たみたいだよ!」

そこには、14人の人間がいた。

 

 

 

「初めまして!君たちも、『超高校級』なのか!?」

いきなり、爽やかなイケメンが話しかけてきた。

「まあな。俺は、『超高校級の弁護士』菊池論だ。…で、こっちが…」

「あーちゃんです!!」

「そっか。俺は、『超高校級のサッカー選手』玉木勝利(タマキ カツトシ)だ!よろしくな、菊池にあーちゃん!」

 

【超高校級のサッカー選手】玉木(タマキ)勝利(カツトシ)

 

玉木勝利…聞いた事あるな。確か、中学生の頃にJリーグに出場して、大人チーム相手に圧勝した天才キャプテン…だっけ。

「…こちらこそよろしく、玉木。」

「ああ!困った時は、いつでも俺に頼ってくれよな!!」

「カツにいよろぴく!!」

 

「カッちゃん!その人達も、『超高校級』なの?」

小柄な女子が話しかけてきた。

「あんたは?俺は、菊池論。『超高校級の弁護士』だ。」

「あーちゃんだよ!!」

「ウチは近藤夏美(コンドウ ナツミ)!『超高校級のパティシエ』だよ!」

 

【超高校級のパティシエ】近藤(コンドウ)夏美(ナツミ)

 

近藤夏美。確か、超一流のパティシエだ。お菓子だけじゃなくて、料理なら基本何でも作れるらしい。

「パティシエ?って、お菓子作る人だよね?」

「そうだな。」

「サトにい、ナツねえと仲良くしたら、お菓子いっぱい食べれるかな?」

「かもな。」

「…。」

「あーちゃん、だったよね?よろしく!!」

「本名アリス、年齢15歳、誕生日は1月1日、やぎ座のAB型、希望ヶ峰に進学予定の新高校1年生です!!」

急にペラペラ喋りやがったこいつ…

お菓子が目当てだな、多分。

「えっ!?あーちゃん、ウチと同い年なの!?しかも、希望ヶ峰!?」

「うん!!」

「じゃあ、才能もあるんだよね?教えて!」

「忘れました!!」

「…え?」

「忘れました!!」

「…そんな事ってあるんだね。」

 

【超高校級の???】アリス

 

「ナツねえは、お菓子とか作れるの?」

「うん。一通りはね。…あとで作ってあげよっか。」

「わーい!!」

単純な奴だ…

 

「ねえ、君たちは何を話してるの?」

整った顔立ちの女子が話しかけてきた。

…なんか、どっかで見た事ある顔だな。

「あっ!!うぇすにゃん!!」

「アリス。知ってるのか?」

「知ってるよ!!チャンネルトーロクシャスー500万人越えの、Y●uTuberだよ!」

「どうも!生身でははじめましてですね。私、うぇすにゃんこと、猫西理嘉(コニシ アヤカ)です。『超高校級の実況者』って呼ばれてます。」

 

【超高校級の実況者】猫西(コニシ)理嘉(アヤカ)

 

「俺は菊池論。『超高校級の弁護士』だ。よろしく。で、こっちがアリスだ。」

「あーちゃんです!うぇすにゃんのチャンネル、トーロクしたし、ドーガもいっぱい見たよ!!」

「私のファンなの?めっちゃ嬉しい!よろしくね、あーちゃん!!」

猫西は嬉しそうにアリスの手を握った。

 

「貴方方ですか、集合時刻の37秒前に到着したのは。」

メガネをかけた女子が話しかけてきた。

「集合時刻の5分前までに集合するのは常識です。以後気をつけてください。」

「わ、悪い…俺は、菊池論。で、こっちがアリスだ。…アンタは?」

「申し遅れました。私、速瀬吹雪(ハヤセ フブキ)と申します。『超高校級の秘書』などと呼ばれております。」

 

【超高校級の秘書】速瀬(ハヤセ)吹雪(フブキ)

 

速瀬吹雪。聞いた事あるな。確か、中2で県知事からオファーをもらって秘書を務めた完璧超人だったっけ。

「菊池様とアリス様ですね。よろしくお願いします。」

速瀬は、美しい姿勢でおじぎをした。

「あーちゃん知ってるよ!!ヒショって、たしか社長とフリンする人でしょ?

「んなっ…!!」

「失礼を承知で申し上げますが、初対面でその発言は失礼ではありませんか?…申し上げておきますが、ああいった行為は、フィクションの中だけで行われているものです。実際のところ、書類の作成やチェっク、スケジュール管理など、秘書の仕事は一日中ございます故、貴女の仰るような行為をする時間の余裕など無いのですよ。それが大手企業の社長、大臣や知事などの秘書であれば尚更です。」

「…ふーん。ドラマみたいなお熱い展開とかは無いんだ。」

「ございません。第一、私は高校生です。」

「…だよねー。あーあ、つまんねーの。」

 

「おや、面白い方達がお揃いですね。」

西洋人の顔付きの美男子が話しかけてきた。

「お初にお目にかかります。私、ジェイムズ・D=カークランドと申します。『超高校級の大学教授』として、日本の希望ヶ峰に進学する予定でした。」

 

【超高校級の大学教授】ジェイムズ・D=カークランド

 

…見た目から想像はできていたが、やはり外国人だったか。

「なあ、アンタって、もしかして…」

「はい。私は、英国から日本に来ました。いわゆる留学生ですね。」

「サトにい!エーコクって何?」

「イギリスの事だよ。」

「わーお!」

…希望ヶ峰って、色んなところから生徒集めてくるんだな。

「高校生なのにキョージュなの?面白いね!!」

「はい。11歳で大学を卒業し、12歳の時に、大学教授の資格試験に合格しました。私の国では、飛び級制度があるので。」

今さらっとすごい事言わなかったか…?

「ふーん。なんでキョージュがわざわざ高校に進学したの?」

「そりゃあ、日本が大好きだからですよ。…私、日本の文化には幼い頃から憧れていまして…希望ヶ峰に進学が決まった時は、舞い上がりそうになってしまいました。こうして『超高校級』の皆さんと同じ空間にいるのが夢のようです。よろしくお願いしますね。」

ジェイムズは、早口で喋り始めた。

 

「そんなに早口で喋ってもわかんないでしょ…」

西洋人の顔付きの女子が、あくびをしながらこっちに来た。

「ふわぁあ…眠い。」

「俺は菊池論、こっちがアリスだ。よろしくな。アンタは?」

「…リタ・アンカーソン。『超高校級の』…ふわぁあ…外務大臣…ですぅ。」

リタは船を漕ぎながら自己紹介をした。

 

【超高校級の外務大臣】リタ・アンカーソン

 

「彼女は、ノヴォセリック王国の外務大臣です。彼女とは、幼い頃からの知人でして…いつも眠そうにしていますが、外務大臣としては優秀ですよ。」

ジェイムズが、リタの紹介をした。

「Zzz…」

「寝た!!リタねえ?おーい!!!」

アリスが、リタの耳元でけたたましく声を張り上げるが、リタは全く起きる気配がない。

 

「無駄っスよ。一度寝たら、起きないっス。」

楽譜の記号のヘアピンをつけた女子がこっちに来た。

「俺は菊池論、こっちがアリスだ。」

「よろ!!」

「アンタは?」

「自分、小川詩音(オガワ シオン)っていうっス。『超高校級の演奏家』って呼ばれてるっス。顔と名前くらいは覚えてくださいよ〜。」

 

【超高校級の演奏家】小川(オガワ)詩音(シオン)

 

小川詩音…確か、3歳でピアノのコンクールで準優勝して、9歳でプロの演奏家として海外のオーケストラで演奏した天才だっけ。

「菊池先輩にアリス先輩っスね。よろしくっス。」

「なんで同い年なのにセンパイってゆーわけ?」

「癖っス。気にしないでくださいよ。」

「ふーん。変なの。」

 

「なんか盛り上がってるな?俺も混ぜてくれ。」

大柄な男子が来た。

「でけー!!巨人かよー!!おにーさんだれー!?」

「俺は、郷間権蔵(ゴウマ ゴンゾウ)だ。『超高校級の庭師』って呼ばれてる。」

 

【超高校級の庭師】郷間(ゴウマ)権蔵(ゴンゾウ)

 

「本当は、大工になりたかったんだがな…たまたまお袋に庭掃除をしろって言われて、仕方なく掃除したら、それを近所のジジイに見られちまって…気がついたら、希望ヶ峰にスカウトされてたってわけよ。」

「ふーん。意外なサイノーをハッキしちゃったんだね。」

「ここにいる奴は、みんな兄弟だ!!よろしく頼むぜ、弟に妹!!」

…俺は弟かよ。

「よろしく。」

「よろぴく!!お兄ちゃん!!」

 

「吾輩抜きで盛り上がるなど、言語道断でありますぞ!!」

いかにもオタクっぽい男子が話しかけてきた。

「俺は菊池論。こっちがアリスだ。」

「吾輩は、織田兼太郎(オダ ケンタロウ)、『超高校級の漫画家』であります。以後お見知り置きを。」

 

【超高校級の漫画家】織田(オダ)兼太郎(ケンタロウ)

 

「織田先輩は、ド変態なんで気をつけた方がいいっスよ。さすがエロ漫画家っスよね。」

「んなっ!!」

「そーなの?」

「何を言いますか!!吾輩は清く正しい織田兼太郎であります!!」

「わかったよ。キモくいやらしいケンにい。」

「アリス氏!!辛辣であります!!」

 

「あ…あの…」

後ろから、小柄な女子が話しかけてきた。

「あれ!?いつからいたの!?」

「えっと…ずっと前から話しかけてたんですけど…なかなか気づいてもらえなくて…」

「そうだったの!?ゴメン!!」

「いえ…いつもの事ですし…」

「あーちゃんはあーちゃんだよ!おねーさん、お名前は?」

「あ…えっと…床前渚(トコマエ ナギサ)です…『超高校級の幸運』です…よろしくお願いします…」

 

【超高校級の幸運】床前(トコマエ)(ナギサ)

 

「私、なんの取り柄もなくて…ただ運で選ばれただけなので…」

「でもさ、そのラッキーって、逆にサイノーじゃない!?」

「…アリス先輩、何スか。『逆に』って。」

 

「あー、かったりい…」

ガラの悪い男子が口を開く。

「俺は菊池論、こっちがアリスだ。アンタは?」

「テメェに教える義理があるかよ。」

「せめて名前くらいは教えてくれないか?じゃないと、お前を『ウンコ座り』って呼ばなきゃいけなくなるぞ。」

ウンコ座りは、舌打ちをするとめんどくさそうに自己紹介をした。

「狗上(イヌガミ)。『超高校級の操縦士』だよ。」

 

【超高校級の操縦士】狗上(イヌガミ)理御(リオン)

 

「狗上先輩は、下の名前を『リオン』っていうっス。」

「えー!?女の子みたい!!」

「うるせぇ殺すぞ。」

狗上は、俺達を睨んできた。

「リオンにいこわいー!!」

「殺すぞクソガキ。」

 

怒りのボルテージがてっぺんまで達していたので、アリスを連れて逃げるように立ち去った。

そして、とりあえず近くにいた怪しい男子に声をかけた。

「…なあ、アンタ名前は?俺は菊池論。こっちがアリスだ。」

「フッ…俺は、『超高校級の超能力者』森万羅象(モリヨロズ ツラノリ)だ。」

 

【超高校級の超能力者】森万(モリヨロズ)羅象(ツラノリ)

 

「超能力者あ!?あの、スプーンとか曲げるヤツだよな?」

「あんなチンケな手品と一緒にするな。俺のは、本物の超能力だ。」

「ビームとか出せる!!?」

「…調子が良ければ。」

「スッゲー!!」

う さ ん く せ ぇ 〜 ! ! !

「おい、もう行くぞ。」

「えー…あーちゃんビーム見たいー!!」

「多分出せねえよ。ほら、行くぞ。」

「ビーム見たいー!!」

アリスはガキみたいに駄々をこねた。

 

あとは、自己紹介が終わっていない女子二人に声をかけた。

「俺は菊池論。アンタらは?」

「…射場山祐美(イバヤマ ユミ)。『超高校級の弓道部』。」

 

【超高校級の弓道部】射場山(イバヤマ)祐美(ユミ)

 

「アンタは?」

「…アンタ?テメェ、誰に向かって口利いてんだ!!私は天才すぎる美人外科医、神城黒羽(コウジロ クレハ)様だぞ!!」

 

【超高校級の外科医】神城(コウジロ)黒羽(クレハ)

 

「跪け!!媚びろ!!そしてこの私を崇めろ!!」

「…。」

あまりのぶっ飛んだ態度に、言葉が出なかった。

すると神城は、俺のスネを蹴って転ばせた。

「いっっっっっっっってぇ!!!」

「…ん。」

神城は、蹲る俺の前に足を出した。

「お前を蹴ったせいで靴が汚れた。舐めろ。」

「…は?」

「早く舐めろ。」

屈辱的な命令だった。

すると、アリスが割り込んできた。

「ねえねえ、靴っておいしいの?あーちゃん、テレビで見た事あるよ!たしか、靴って革だから食べれるんでしょ?」

「…はぁ?」

さすがの神城も、訳の分からない質問をされて戸惑っていた。

「あーちゃん、靴食べてみたいなー!ねえ、舐めさせてくれるってことは、食べてもいいよね?ねえ!」

アリスは食い気味に神城に詰め寄った。

「わ、私に気安く触るな!!愚民が!!」

神城は、腹を立てながら立ち去っていった。

…まさか、アリスのブッ飛んだ好奇心に助けられるとはな。

 

 

 

全員の自己紹介が終わった。

『うぷぷ…全員自己紹介が終わったみたいですね?』

ロビーに甲高い声が響き渡る。

「誰だ!!」

『オマエラ、おはようございます!!』

ロビーのフロントから、白黒のクマのぬいぐるみが現れる。

「おはようございます。」「ふむ…おはようございます。」

速瀬とジェイムズは、挨拶を返した。

「わーい!!クマちゃんだ!!かわいい〜!!」

アリスは、ピョンピョン飛び跳ねていた。

 

『ちょっとちょっと〜!』

後ろから、白と茶色のハムスターのぬいぐるみが飛んできた。

『オイラを忘れないでくだちゃいよ!ちぇっかく準備ちてきたのに!』

『わっとっと!ごめんごめん。許してチョンマゲ!』

ぬいぐるみのプチ漫才が始まった。

『ほら校長、皆様に自己紹介!』

『そうだったね!ボクはモノクマ!希望ヶ峰学園の、学園長なのだ!!』

『オイラはモノハム。希望ヶ峰学園の教頭でちゅ!』

ぬいぐるみ達は、自己紹介をした。

「希望ヶ峰学園…という事は、これは学園の催し物ですか?」

ジェイムズは、ぬいぐるみに質問した。

『そうなるね。唐突ながら、オマエラには才能強化合宿に参加してもらうよ!』

「ガッシュクー!?わーい、あーちゃんおとまり大好きー!!」

『皆様には、今からこのホテルで共同生活を送っていただきまちゅ。』

『このリゾート地は貸し切りで、どこに行こうとオマエラの自由!『超高校級』のオマエラのために、全てにおいて最上級のホテルを用意しました!』

「最高っスね!!」

「帰ったら、弟達に教えてやりてえな…今度は、一緒に連れてこようかな。」

「動画のネタになりそう…」

『おやおや?皆様、何か勘違いちゃれていまちぇんか?』

「?」

 

『オマエラは、一生ここから出られません!!もちろん、ボク達は、オマエラを解放する気なんてこれっぽっちも無いからね!!』

…は?

「はぁあ!?どういう事だよ?ふざけんじゃねえよ!!」

狗上は、怒りを露わにしていた。

『ふざけてんのはオマエの名前でしょ?その顔でリオンって…キミの両親は相当クレイジーだね!』

「テメェ…ぶっ殺すぞ!!」

『全く、これだから最近の若者は…教育がまるでなっていまちぇんね。』

『じゃあそこのキラキラネームは放っといて、説明するとしますか。これからオマエラには、合宿生活をしてもらいます!みんな、秩序を守って仲良く暮らすように。』

モノクマは、勝手に説明を始めた。

「そんな…。早く家に帰らないと、視聴者の皆さんに迷惑かけちゃうよ…」

『まあ、そうなるよね。そんなオマエラに朗報です!!』

「もしかして、家に帰れるの!?」

『こっちとしてもさ、ルール守らないヤツと一緒に合宿なんてしたくないわけ。だからルールを破ったヤツには、このリゾート地から出て行ってもらうよ!!その名も、『帰郷』ルール!!』

「帰郷…一体、何をしたら帰郷になるんでしょうか?」

『うぷぷ…それはね…』

 

 

 

 

『…人を殺す事だよ。』

 

…は?

ちょっと待て、どういう事だ?

『方法、時間、場所はなんでもいいよ!!とにかく、人を殺したヤツは、ここから出て行ってもらうからね!!』

『学校とちても、殺人犯を合宿生活の一員とちて認めるわけにはいかないので。』

「そんな…そんな事、できるわけないじゃん!!」

「そんな事を強制して、一体何が目的なんですか?」

『うぷぷ…ボクはね、見たいんだよ。『超高校級』という『希望』同士が殺し合う『絶望的シチュエーション』をね!』

「…話になりませんね。そんな事を言って、どうせ誰一人ここから出さない気でしょう?貴方方が約束を守るという保証は?」

『うるさいなあ、とにかく殺せばいいんだよ!!』

「さっきから黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがってよ…このポンコツオモチャ共が!!そんなに殺しが好きなら、まずはテメェらから潰してやろうか!!?」

狗上が、モノクマを引っ掴む。

『キャー!!学園長への暴力は、ルール違反だよ!?』

『が、学園長…!!?あわわわわ…』

 

ピピピピピピ…

モノクマから変な音が聞こえる。

「!!?」

危険を感じた狗上は、咄嗟にモノクマを空中に放り投げる。

その瞬間、モノクマが爆発した。

『学園長ー!!!』

「きたねえ花火だ」

『誰がアトミックボムじゃい!!』

フロントから、しれっとモノクマがもう一体出てくる。

「あれれ!?クマちゃん、もう一体いたの!?」

『ボクは一体だけじゃないからね〜。』

「テメェ…マジで殺そうとしやがったな!!?」

『アタリマエじゃん。ルール違反するのがイケナイんだよ。今回は警告音だけで許すけど、次から気をつけてよね。』

『モノクマ&モノハムは、リゾート地の至るところに設置ちゃれておりまちゅ。変な事ちたら、今みたいなグレートな体罰をプレゼントちまちゅ。』

「…あの、先程から気になっていたのですが。」

ジェイムズが手を挙げて発言をした。

「このスマートフォンは、一体何ですか?」

『おっと!説明するのを忘れてたよ!それは、『電子しおり』です!合宿生活をする上での必需品だから、失くさないようにね!それじゃ、まったねー!!』

モノクマとモノハムは去っていった。

「チッ…あのヌイグルミ共、好き勝手しやがって…」

「この私を閉じ込めて、愚民共と共同生活を送らせるなんて…絶対許さない。ギタギタに踏み潰してサメのエサにしてやる…!」

「なあ、とりあえずしおりを確認しようぜ。」

玉木が提案した。

「…そうだな。」

しおりを起動すると、さっき見た画面になった。

合宿の心得という項目を見てみた。

 

 

1.生徒達はこのリゾート地だけで共同生活を行いましょう。共同生活の期限はありません。

2.夜10時から朝7時までを『夜時間』とします。夜時間は立ち入り禁止区域があるので注意しましょう。

3.就寝はホテルに設けられた個室でのみ可能です。他の場所での故意の就寝は居眠りとみなし罰します。

4.希望ヶ峰学園及びリゾート地について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません。

5.学園長ことモノクマと、教頭ことモノハムへの暴力を禁じます。監視カメラの破壊を禁じます。

6.仲間の誰かを殺したクロは『帰郷』となりますが、自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません。

7.なお、合宿の心得は順次増えていく場合があります。

 

 

「ねえねえ、6番の、誰かに知られちゃいけないってどういう意味だろうね?」

「人を殺すなら、隠れて殺せって事だろ。」

「知られたらどうなんのかな?」

「殺す前提かよ…」

「何その決めつけ!!あーちゃんはサイコキラーぢゃねーし!!」

「…とりあえず、何もわからないままでは埒があきません。リゾート地を調べてみましょう。」

「…そうだな。」

速瀬の提案に賛成した。

ーこうして、俺たちのコロシアイ合宿が始まった。



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合宿参加者一覧

挿絵その他諸々追加しました。(現時点)

挿絵は、CHARAT様で製作したものです。

ICV原作とダダかぶりだったんで、一部のキャラは変更しました。

あくまでもゲームの方のキャラのかぶりを避けただけなんで、アニメの方は考慮してません。



【超高校級の弁護士】菊池(キクチ)(サトシ)

 

「それは違うぞ!!」

 

性別:男

身長:171cm

体重:57kg

胸囲:80cm

誕生日:7月10日(かに座)

血液型:O型

好きなもの:法学、すき焼き

苦手なもの:子供、水泳

趣味:読書(特に法学の本)

特技:論破

出身校:鳳条学院中等部

得意教科:法学、政治学

苦手教科:物理

ICV:神谷浩史

キャッチコピー:真実を求める雄弁家

外見:中肉中背の青年。黒髪のウルフカット。瞳は灰色で、ツリ目。

服装:紺色の制服と白いワイシャツ、赤いネクタイを着用。靴は茶色いローファー。

人称:俺/お前、アンタ/アイツ、みんな/苗字呼び捨て。例外…ジェイムズ、リタ、アリスは名前呼び捨て。

 

主人公兼語り手。コロシアイ合宿の参加者。高校生にして弁護士資格を持っており、負け知らずの弁護士。死刑確定とまで言われた被告人の無実を証明したという功績から、希望ヶ峰学園にスカウトされた。メンバーの中では比較的常識人なので、振り回される事が多い。普段は冷静だが、ペースを乱されると子供っぽい一面が露わになる。正義感の強い性格だが、子供が苦手。中学生の優秀な妹がいる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【超高校級の???】アリス

 

「サイノー?…えっとね、忘れちゃった!!」

 

性別:女

身長:128cm

体重:25kg

胸囲:60cm

誕生日:1月1日(やぎ座)

血液型:AB型

好きなもの:ショートケーキ、お泊り

苦手なもの:キモチ悪いおにーさん、にんじん、グリンピース

趣味:遊ぶこと!

特技:あーちゃんってめっちゃかわいいよね!

出身校:わかんない!

得意教科:わかんない事を知るのって面白いよね!

苦手教科:でも学校のベンキョーは大っ嫌い!

ICV:大谷育江

キャッチコピー:天真爛漫な幼女高校生

外見:腰まである金髪ツインテール。アホ毛が生えている。くりくりした目をしており、瞳は青色。

服装:赤いリボンのついた白いワンピースを着ている。革のサンダルを履いている。

人称:あーちゃん/あだ名/アイツ、みんな/菊池「サトにい」玉木「カツにい」近藤「ナツねえ」猫西「うぇすにゃん」速瀬「ブキねえ」ジェイムズ「ムズにい」リタ「リタねえ」小川「シオねえ」郷間「お兄ちゃん」織田「ケンにい」床前「ナギねえ」狗上「リオンにい」森万「ツラにい」射場山「ユミねえ」神城「クレねえ」

 

自称15歳の幼女。超高校級の才能があるらしいが、思い出せない。周りからは『超高校級の幼女』などと呼ばれる。精神年齢や身体能力は、10歳程度。非常に好奇心旺盛。空気の読めない言動で周りを引っ掻き回している。毒舌かつ自意識過剰なので、周りからはよくウザがられる。話し方が絶望的にわかりにくい。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【超高校級のサッカー選手】玉木(タマキ)勝利(カツトシ)

 

「困った時は、いつでも俺に頼ってくれよな!!」

 

性別:男

身長:183cm

体重:73kg

胸囲:85cm

誕生日:5月13日(おうし座)

血液型:O型

好きなもの:サッカー、唐揚げ

苦手なもの:協調性のないヤツ

趣味:サッカー

特技:サッカー

出身校:慧政学院中等部

得意教科:体育、数学

苦手教科:美術

ICV:梶原岳人

キャッチコピー:リーダー気質の天才キャプテン

外見:長身のイケメン。褐色肌。赤毛のミディアムヘア。切れ長の目をしており、瞳は琥珀色。

服装:青と白を基調としたユニフォームを着用。黒い靴下と赤いシューズを履いている。

人称:俺/お前、君/アイツ、みんな/苗字呼び捨て。例外…ジェイムズ、リタは名前呼び捨て。アリス「あーちゃん」

 

爽やかなイケメン。ノリが良く、社交的な好青年。常識人なので、ツッコミ役になる事が多い。Jリーグに出場し、大人チームと対戦して勝利を収めたという経歴を持つ天才キャプテン。その天性の才能とリーダーシップから、スポンサーからのオファーが殺到しているという。リーダー気質で、仲間想いな性格。運動能力だけでなく、学校の成績も優秀。男性陣の中で唯一の彼女持ち。

 

 

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【超高校級のパティシエ】近藤(コンドウ)夏美(ナツミ)

 

「ウチのお菓子食べて元気出しなよ!」

 

性別:女

身長:143cm

体重:38kg

胸囲:75cm

誕生日:3月3日(うお座)

血液型:O型

好きなもの:スイーツ(特にドーナツ)

苦手なもの:お肉

趣味:お菓子作り

特技:お菓子作り

出身校:星華中学校

得意教科:家庭科、フランス語

苦手教科:数学、理科

ICV:潘めぐみ

キャッチコピー:スイーツを極めたゆるふわ女子

外見:小柄。髪は濃いピンク色のふわっとしたボブカット。ハート型のアホ毛が生えている。円らな目をしており、瞳は緑色。

服装:髪にハート型のヘアピンをつけている。白とピンクを基調とした、赤いリボンがついたセーラー服を着用。ピンクのニーハイと茶色いロングブーツを履いている。

人称:ウチ/君、アンタ/アイツ、みんな/「苗字+っち」例外…玉木「カッちゃん」ジェイムズ「ムズっち」リタ「リタっち」アリス「あーちゃん」

 

小柄な女子。社交的で明るい。凄腕のパティシエ。彼女の作るスイーツを食べると昇天しそうになるほど幸福感に満たされると言われ、海外の著名なパティシエ達も一目置いている。人懐っこく、誰とでも仲良くできる。お菓子だけではなく、料理全般得意。スイーツに対する情熱は並大抵のものではなく、一度スイッチが入ると味に一切妥協出来なくなる。料理にこだわりがあり、素人に手を出されるのが嫌い。

 

 

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【超高校級の実況者】猫西(コニシ)理嘉(アヤカ)

 

「どうも!生身でははじめましてですね。私、うぇすにゃんこと、猫西理嘉です。」

 

性別:女

身長:169cm

体重:52kg

胸囲:78cm

誕生日:2月22日(うお座)

血液型:A型

好きなもの:猫、動画、お魚

苦手なもの:きゅうり

趣味:ゲーム、猫の世話

特技:ゲーム、リアクション芸

出身校:帝貫大学付属中学校

得意教科:数学、理科、英語、音楽

苦手教科:国語

ICV:下田麻美

キャッチコピー:世界を癒す愛猫家

外見:ちっぱい。美少女。毛先にピンクのグラデーションがかかった黒髪のツインテール。ツリ目で、瞳は琥珀色。右目に泣き黒子がある。ナチュラルメイク。

服装:頭に黄色いリボンを付けている。鈴が付いたチョーカーをつけている。黒と金を基調とした、白猫の飾り付きの金色のリボンが付いたセーラー服を着用。靴下は黒いニーハイ。靴は、赤い革靴。

人称:私/君/あの子、あの人、みんな/男「苗字+君」女「苗字+さん」例外…アリス「あーちゃん」

 

話題沸騰中の実況者。『うぇすにゃん』という名前で活動している。チャンネル登録者数は500万人強。ゲーム実況や歌ってみた、罰ゲーム系など様々なジャンルの動画を投稿している。最近は、ドラマやバラエティ番組にも度々出演している。美人で、信者の中には彼女にガチ恋をしている者も少なくない。ゲーム全般得意。ファンに対して神対応。比較的常識人。猫が大好きで、家では種の違う猫を10匹飼っている。

 

 

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【超高校級の秘書】速瀬(ハヤセ)吹雪(フブキ)

 

「貴方方ですか、集合時刻の37秒前に到着したのは。」

 

性別:女

身長:178cm

体重:61kg

胸囲:95cm

誕生日:4月16日(おひつじ座)

血液型:B型

好きなもの:読書、緑茶

苦手なもの:不規則なもの

趣味:読書、音楽鑑賞

特技:情報管理

出身校:桜苑女子学院中等部

得意教科:数学

苦手教科:道徳

ICV:進藤尚美

キャッチコピー:仕事熱心な超人女子高生

外見:長身でスタイル抜群の美人。藤色の髪のシニヨン。ツリ目で、瞳は菫色。

服装:メガネをかけている。黒いスーツ。黒ストと黒いピンヒールを履いている。

人称:私/貴方、貴女/あの方、皆様/「苗字+様」例外…アリス「アリス様」

 

中学生で県知事の秘書になった才女。倒産しかけた会社を、次期社長と共に大企業へと発展させた功績を持つ。冷静沈着で、文武両道な優等生。非常に神経質な性格で、メジャーや時計を常に持ち歩いている。裏で人の手助けをする事に喜びを感じており、あまり目立つタイプではないが、秘書として雇い主をサポートしている。その日の気分で、メガネを替えているらしい。

 

 

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【超高校級の大学教授】ジェイムズ・D=カークランド(James Doyle Kirkland)

 

「こうして『超高校級』の皆さんと同じ空間にいるのが夢のようです。よろしくお願いしますね。」

 

性別:男

身長:189cm

体重:68kg

胸囲:89cm

誕生日:12月1日(いて座)

血液型:AB型

好きなもの:学問、紅茶、日本

苦手なもの:ありません

趣味:学術書を読む事、旅行

特技:暗記

出身校:ゲンブリッジ大学(大学教授)

得意教科:数学、物理学、日本語、ラテン語

苦手教科:あるかもしれません

ICV:松岡禎丞

キャッチコピー:博学多才な英国青年

外見:長身痩躯の美青年。中性的な美人顔。長い猫っ毛の銀髪を三つ編みにしている。瞳は暗赤色。ちなみに、アルビノではない。

服装:シルクハットを被っている。白いワイシャツ、ダークグレーのベスト、赤いネクタイの上に黒い背広を着用。手袋を着けている。左耳にピアスをつけている。靴は黒い革靴。

人称:私/貴方、貴女/あの方、皆さん/「苗字+さん」例外…アリス「アリスさん」

 

11歳で大学を首席で卒業し、12歳で大学教授になった天才少年。英国出身。日本の文化に憧れている。博学多才なオールラウンダー。仕事柄、大抵のスキルは人に教えられる程度には磨いている。基本冷静で紳士的な好青年だが、ド天然。リタとは旧知の仲。飛び級でスカウトされているため、他の参加者よりひとつ年下。左利き。実はアイドルオタクで、うぇすにゃんと舞園さやかの大ファン。

 

 

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【超高校級の外務大臣】リタ・アンカーソン(Rita Ankerson)

 

「ふわぁあ…眠い…」

 

性別:女

身長:156cm

体重:45kg

胸囲:83cm

誕生日:6月17日(ふたご座)

血液型:O型

好きなもの:睡眠、ホットミルク

苦手なもの:朝、ブラックコーヒー

趣味:寝る事

特技:外国語

出身校:インユーテロ校

得意教科:外国語全般、経済学

苦手教科:体育

ICV:釘宮理恵

キャッチコピー:語学を極めたスリーパー

外見:少し巨乳。髪は緑色で、寝癖がついたセミロング。タレ目で、瞳は青みがかった緑色。

服装:深緑のジャンパースカートの上にベージュ色のパーカーを羽織っている。白いニーハイと茶色いロングブーツを履いている。

人称:僕/君、あんた/あの人、みんな/苗字呼び捨て。例外…アリス「アリス」

 

ノヴォセリック王国の外務大臣。どんなに悪い関係の国同士でも、彼女を挟むとたちまち良好な関係になるという。僕っ娘。非常に語学が堪能で、60以上の言語を操れるマルチリンガル。いつも居眠りを繰り返している。ロングスリーパーで、一日のほとんどを寝て過ごしている。一度寝たら、起こすのに30分以上かかる。ジェイムズとは旧知の仲。

 

 

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【超高校級の演奏家】小川(オガワ)詩音(シオン)

 

「自分、小川詩音っていうっス。『超高校級の演奏家』って呼ばれてるっス。顔と名前くらいは覚えてくださいよ〜。」

 

性別:女

身長:160cm

体重:48kg

胸囲:80cm

誕生日:11月6日(さそり座)

血液型:B型

好きなもの:楽器、炭酸飲料

苦手なもの:匂いのキツいもの

趣味:演奏

特技:演奏

出身校:丘路音楽大学付属中学校

得意教科:音楽

苦手教科:国語、数学

ICV:小見川千明

キャッチコピー:音楽を愛する楽天家

外見:標準体型。濃い水色のボブカット。ツリ目で、碧眼。そばかすあり。

服装:ト音記号とヘ音記号の形のヘアピンをつけている。茶色を基調としたブレザーを着用。紺色のソックスと茶色いローファーを履いている。

人称:自分/〇〇先輩/あの人、皆さん/「苗字+先輩」例外…アリス「アリス先輩」

 

凄腕の演奏家。海外の有名なオーケストラの団員だった事もある。楽天的な性格。サバサバ系女子。常識人なので、ツッコミ役になる事が多い。幼い頃から楽器を演奏してきたので、非常に優れた聴覚を持っている。幼い頃からの努力で『超高校級』まで上り詰めた。才能では周りより劣っている事を自覚しているため、他の『超高校級』に敬意を払って「先輩」呼びしている。

 

 

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【超高校級の庭師】郷間(ゴウマ)権蔵(ゴンゾウ)

 

「ここにいる奴は、全員兄弟だ!!よろしく頼むぜ、弟に妹!!」

 

性別:男

身長:214cm

体重:120kg

胸囲:131cm

誕生日:8月2日(しし座)

血液型:B型

好きなもの:建築、炭火焼

苦手なもの:庭仕事、甘い物

趣味:親父の手伝い

特技:建築、庭仕事(あんまり好きじゃねえ)

出身校:怒羅言中学校

得意教科:体育

苦手教科:英語

ICV:中村悠一

キャッチコピー:兄貴肌のガーデナー

外見:大柄で、筋肉質な体型。褐色肌。茶髪のベリーショート。切れ長の目で、瞳は茶色。

服装:白いTシャツと青いジーンズを着用。腰に赤い上着を巻いており、左肩に黒いバンダナを巻いている。靴は黒いスニーカー。

人称:俺/お前/アイツ、みんな/名前呼び捨て。

 

大柄な男子。本当は家業の大工を継ぎたかったらしいが、手入れした庭をたまたまプロの庭師に気に入られて、『超高校級の庭師』として有名になった。彼の手入れした庭は、10億円以上で売れるという。しかし本人は、自分の才能に対してあまり納得がいっていない。仲間想いな性格で、合宿参加者達を兄弟のように大切に思っており、「弟」か「妹」と呼んでいる。

 

 

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【超高校級の漫画家】織田(オダ)兼太郎(ケンタロウ)

 

「何を言いますか!!吾輩は、清く正しい織田兼太郎であります!!」

 

性別:男

身長:157cm

体重:43kg

胸囲:71cm

誕生日:2月8日(みずがめ座)

血液型:B型

好きなもの:漫画、オムライス、女性

苦手なもの:運動、トマト

趣味:漫画

特技:漫画

出身校:坂松中学校

得意教科:美術

苦手教科:体育

ICV:塩屋翼

キャッチコピー:二次元を愛するアーティスト

外見:小柄で痩せ細った体型。黒髪の、ウェーブがかかったロングヘアー。三白眼で、瞳は黒。出っ歯。

服装:眼鏡をかけている。黒を基調とした学ラン。靴は茶色いローファー。リュックを背負っている。

人称:吾輩/〇〇氏/あの人、皆さん/「苗字+氏」例外…アリス「アリス氏」

 

週刊少年誌で大人気の連載漫画を描いている天才漫画家。彼の手掛けた作品は爆発的にヒットし、海外で実写映画化されたという。漫画やアニメをこよなく愛するオタクの中のオタク。『超高校級の同人作家』の影響を受けて漫画家を志望した。自分を清く正しい漫画家だと言っているが、根っからの変態で、女性陣からは蔑みの目で見られている。

 

 

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【超高校級の幸運】床前(トコマエ)(ナギサ)

 

「私、なんの取り柄もなくて…ただ運で選ばれただけなので…」

 

性別:女

身長:152cm

体重:40kg

胸囲:84cm

誕生日:9月5日(おとめ座)

血液型:A型

好きなもの:小鳥、桃、お風呂

苦手なもの:虫、運動

趣味:読書

特技:ないかもしれないです…

出身校:三丘第二中学校

得意教科:国語

苦手教科:体育、数学

ICV:千菅春香

キャッチコピー:幸運に選ばれた女子高生

外見:小柄。巨乳。暗めの茶髪のセミロング。タレ目で、瞳は水色。

服装:桜の髪飾りを付けている。白と黒を基調とした、青いスカーフがついたセーラー服を着用。襟と袖口とスカートに白いラインが入っている。黒いソックスと茶色いローファーを履いている。

人称:私/あなた/あの人、皆さん/「苗字+さん」例外…アリス「アリスさん」

 

抽選で希望ヶ峰に進学する事になった、ごく普通の女子生徒。…という事になっているが、本人曰く、人に言いたくない秘密があるらしい。影が薄く声が小さいため誰にも気付いてもらえない事が多い。引っ込み思案で、目立った事が苦手。小川のように人の言動にツッコんだりはしないが、常識人。

 

 

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【超高校級の操縦士】狗上(イヌガミ)理御(リオン)

 

「あー、かったりい…」

 

性別:男

身長:181cm

体重:74kg

胸囲:85cm

誕生日:7月31日(しし座)

血液型:A型

好きなもの:メカ、フライドチキン

苦手なもの:めんどくさい事、名前

趣味:機械いじり

特技:機械いじり、ケンカ

出身校:輪門中学校

得意教科:工学、体育

苦手教科:国語

ICV:杉山紀彰

キャッチコピー:一匹狼のメカニック

外見:長身。赤毛を逆立てたツンツンヘアー。ツリ目で、瞳は赤色。ヒゲを生やしている。

服装:黒を基調とした学ランを着崩している。インナーは白いTシャツ。靴はグレーのスニーカー。ピアスやネックレスなどのアクセサリーをつけている。

人称:俺/テメェ/アイツ、コイツら/菊池「陰キャ」アリス「クソガキ」玉木「サッカー野郎」近藤「チビ」猫西「猫女」速瀬「カタブツ女」ジェイムズ「外人」リタ「居眠り女」小川「バカ女」郷間「デカブツ」織田「キモヲタ」床前「地味女」森万「インチキ野郎」射場山「仏頂面」神城「クソサド」

 

不良の男子生徒。凄腕の操縦士で、乗り物全般乗りこなせる。ドローンの競技大会で、圧倒的な実力差で優勝したという経歴を持つ。機械に強く、乗り物以外にも、機械なら大抵扱える。普段は面倒臭がりな性格だが、機械に対する情熱は本物。猜疑心が強く、他人との距離を縮めようとしない。自分の名前が嫌いで、下の名前を呼ばれる事に不快感を感じている。

 

 

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【超高校級の超能力者】森万(モリヨロズ)羅象(ツラノリ)

 

「あんなチンケな手品と一緒にするな。俺のは、本物の超能力だ。」

 

性別:男

身長:173cm

体重:60kg

胸囲:82cm

誕生日:11月11日(さそり座)

血液型:A型

好きなもの:トランプ、林檎

苦手なもの:科学、見た目が気持ち悪い食べ物

趣味:超能力の鍛錬

特技:超能力

出身校:真風呉中学校

得意教科:超能力

苦手教科:体育

ICV:子安武人

キャッチコピー:今世紀最大のサイキック高校生

外見:標準体型。セミロングの白髪。オッドアイ。右が金眼で、左が赤眼。ツリ目。

服装:灰色のマフラーを巻いており、黒を基調とした制服を着ている。靴は黒いブーツ。

人称:俺/お前、貴様/アイツ、みんな/苗字呼び捨て。例外…アリス「アリス」

 

自称今世紀最大の超能力者。誰一人として、彼が起こした摩訶不思議な現象を科学的に解明できた者はいないという。迷子になった総理の飼い猫の居場所を一瞬で見抜いたという功績から、超能力者として有名になり、希望ヶ峰にスカウトされた。本物の超能力者かどうかは定かではない。意外にも臆病な性格。厨二病を拗らせており、いわゆる闇属性っぽい物を好む。ちなみに、オッドアイは生まれつき。

 

 

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【超高校級の弓道部】射場山(イバヤマ)祐美(ユミ)

 

「…別に。犯人の思い通りに動きたくないだけ。」

 

性別:女

身長:167cm

体重:53kg

胸囲:87cm

誕生日:12月18日(いて座)

血液型:A型

好きなもの:弓道、あんみつ

苦手なもの:会話、辛い料理

趣味:弓道

特技:弓道

出身校:東抄女子学園中学校

得意教科:弓道、書道、国語

苦手教科:音楽

ICV:能登麻美子

キャッチコピー:鷹の目を持つクールビューティー

外見:巨乳。茶髪ポニーテール。ツリ目で、瞳は菫色。口の左側に黒子がある。

服装:紺を基調とした、赤いリボンがついたセーラー服を着ている。襟は、白地に紺色のラインが入っている。白いソックスと茶色いローファーを履いている。

人称:私/あんた/アイツ、みんな/苗字呼び捨て。例外…アリス「アリス」

 

凄腕の弓道家。高校生にして十段を修得しており、女子の国内記録を更新し続けている。銃の扱いも一流で、200m離れた的にも正確に当てられる。冷静沈着。口数が少なく、他人に対して素っ気ない態度をとる。文武両道な優等生。超人的な視力を持ち、『鷹の目』と呼ばれる。しかし本人は、自分の才能を過小評価している。本当に楽しい時に、楽しそうな表情をできないのが悩み。

 

 

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【超高校級の外科医】神城(コウジロ)黒羽(クレハ)

 

「跪け!!媚びろ!!そしてこの私を崇めろ!!」

 

性別:女

身長:175cm

体重:58kg

胸囲:98cm

誕生日:10月14日(てんびん座)

血液型:A型

好きなもの:美人で天才すぎる自分、はちみつ

苦手なもの:愚民、蒟蒻

趣味:愚民を蔑む事

特技:私の存在そのもの

出身校:桜苑女子学院中等部

得意教科:生物学

苦手教科:あるわけがない

ICV:伊藤静

キャッチコピー:世界を見下す天才外科医

外見:長身でスタイル抜群の美人。女性陣で一番の巨乳。プラチナブロンドの、ウェーブのかかったロングヘアー。(地毛はストレートヘアー。)ツリ目で、瞳はピンクに近い赤。アルビノ。化粧をしている。

服装:チョーカーをつけており、赤と黒を基調としたセーラー服の上に白衣を着用。靴は赤いピンヒール。

人称:私/テメェ、貴様/アイツ、愚民共/菊池「モブ」アリス「子供」玉木「サッカー」近藤「スイーツ」猫西「猫」速瀬「メガネ」ジェイムズ「帽子」リタ「居眠り」小川「騒音」郷間「ウド」織田「キモヲタ」床前「地味」狗上「犬」森万「ペテン」射場山「無口」

 

高校生にして医師免許を持つ天才外科医。不治の病で瀕死だった患者を、たった1時間のオペで完治させたという功績を持つ。天才故に超がつくほどの自信家で、たとえ相手が目上だろうと高圧的な態度をとる。その傍若無人な態度から、『超高校級の女王』とも呼ばれる。自分以外の全てを見下しており、自分以外の人間を奴隷のように扱っている。外科医になった理由は、『国家試験に受かったから』という適当なもの。左利き。

 

 

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【学園長】モノクマ

 

『これだよこれ!!これこそ、ボクが求める『絶望的シチュエーション』だよ!!』

 

性別:なし

身長:65cm

体重:?

胸囲:?

誕生日:?

血液型:なし

好きなもの:絶望

苦手なもの:希望

ICV:大山のぶ代orTARAKO

外見:白黒のクマのぬいぐるみ。左目が、赤い悪魔の羽のような形になっている。

人称:ボク/キミ、オマエ/キミ達、オマエラ、みんな/男「苗字+クン」女「苗字+サン」例外…アリス「アリスサン」

 

自称希望ヶ峰学園の学園長。コロシアイ合宿の首謀者。『絶望』が大好きで、『超高校級』達が殺し合うというシチュエーションにドキドキワクワクしている。

 

 

 

【教頭】モノハム

 

『皆様には、今からこのホテルで共同生活を送っていただきまちゅ。』

 

性別:なし

身長:60cm

体重:?

胸囲:?

誕生日:?

血液型:なし

好きなもの:絶望、優等生

苦手なもの:希望、不良

ICV:間宮くるみ

外見:モノクマと色違いのハムスターのぬいぐるみ。半分白く、半分茶色い。

人称:オイラ/アナタ/皆様/「苗字+様」例外…アリス「アリス様」

 

自称希望ヶ峰学園の教頭。モノクマの助手的存在。モノクマよりも礼儀正しく、マイルドな性格。ドジっ子で、ヘマをやらかしてはよくモノクマに怒られる。

 

 

【挿絵表示】

 

 




モノハムの挿絵を追加しました。
(メモ機能で描いたので絶望的に汚いです。)


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第1章 命を侵されている
第1章(非)日常編①


章タイトル変えました。

元ネタは『命に嫌われている』です。


俺は…いや、俺たちは、ぬいぐるみ達によってリゾート地に閉じ込められた。

それも、全員『超高校級』。

…犯人は、一体何を企んでいるんだ?

「サトにい!!」

「うおっ!!?」

「うおっ、じゃないよ!!タンサク進めるよ!!」

「わ、悪い…考え事してた。」

「じゃあ、サトにいはタンサク続けて。あーちゃんは休んでるから。」

「ふざけんな。お前も手伝え。」

「ぶー…なんでサトにいと一緒にタンサクしなきゃいけないんだよ全くー。」

「こっちの台詞だよ。」

「二人とも、真面目に探索しようね?」

猫西に怒られた。

「…ごめんなさい。」

「狗上君も探索手伝って。」

「うるせぇ。俺に指図すんじゃねえ。」

「そういうの困るなぁ。協力してよ。」

…マトモなのは猫西だけか。

なんで俺がこんな事に…

 

 

 

ー数分前ー

 

「本当に、毎日ここで暮らすの…?」

「そんなブルーになんないの!!ウチのお菓子食べて元気出しなよ!」

「迷っている時間はありません。まずは、この敷地の探索をしてみましょう。」

「じゃあ、探索をするならまずはチーム分けだな。とりあえず、バランス良くなるようにチームを組んでみたから見てくれ。」

 

Aチーム 郷間、速瀬、床前、射場山

Bチーム ジェイムズ、森万、リタ、小川

Cチーム 玉木、織田、近藤、神城

Dチーム 菊池、狗上、アリス、猫西

 

「…なんかDチームが、チーム分けであぶれた奴で出来たチームに見えるのは俺だけか?」

「そんな事無えよ!菊池の弁護士としての知識と人を説得する力は役に立つし、狗上だってパワーはありそうだし機械に詳しいだろ?猫西は、頭良いし常識人だし…あーちゃんは、アレだ。元気があるしな!」

「何その取ってつけたようなほめ言葉!!もっとあーちゃんほめる事あるだろ!!」

「私は別に全然いいけど…他のみんなは、このチーム分けで大丈夫?」

「私は構いません。」

「…別に。」

「わ、私も大丈夫です…」

「兄弟同士、仲良くしようぜ!」

「眠い…僕は決まれば…なんでも…いい…ですぅ。」

「自分はこれでいいっスよ。」

「私も構いませんよ。いざとなれば、森万さんが超能力でなんとかしてくれますし。…そうですよね?」

「あ、ああ…俺に任せとけ。」

「…カークランド先輩、しれっと無茶振りしたっスね。」

「はい?私がいつ無茶振りを?」

「先輩、意外と天然なんスね…」

「ウチは、みんなと仲良くできればなんでもいいよ!」

「フン、賢くて美しい私のために全身全霊を尽くせ愚民共!」

「…。」

「…なんだ、キモヲタ。その目は!…まさか、愚民の分際で私に文句があるわけじゃあねえよな!?」

「い、いえ…別に。」

「フン。愚民は黙って私の言う通りにしていればいいんだよ!」

「チッ…勝手にやってろ。」

反論は無さそうだ。

「じゃあ、決まりでいいな!!」

こうして、チームが決まった。

12時にロビーで報告会をする約束をして、解散した。

俺たちは、しおりのマップの東エリアの探索を担当する事になった。

 

 

そして現在に至る。

今は、エリア内の売店にいる。

売店には商品棚が並んでおり、その中に食品や日用品などが並んでいる。

広さは、売店というより倉庫といった感じだろうか。

天井が高く、棚の一番上の商品を取るのに脚立が要る。

上の方の調査は、猫西が進めてくれている。

不思議な事に、売店にはレジが無かった。

「…タダで持って行けって事か?」

「ねえサトにいー!!つーかーれーたー!!」

「静かにしろ。っていうか、叫ぶ元気があるなら探索を手伝え。こっちは今手が離せないんだ。」

「ぶー…サトにいのバカ!ドケチ!エロガッパ!もう知らないもんねー!あっかんべろべろべー!!」

…一個変なの混じってるぞ。

アリスは、右目の下瞼を指で下に広げ、舌を揺らしながら売店を後にした。

「チッ…これだからガキは嫌いなんだ。」

俺が呆れていると、後ろの方からカタカタと音がした。

「?」

振り返ると、脚立がグラグラと揺れていた。

 

「わっ、きゃあぁあああ!!」

「い゛ッ!!?」

脚立の上から、猫西が落ちてきた。

俺は、咄嗟に両手を前に出して飛び込んだ。

ドサッ

「うおっ」

猫西が、俺の腕の中に落ちてきた。

「ーッ」

俺は猫西をお姫様抱っこでキャッチしたのだが、腕にかかる負荷は想像以上のものだった。

急に人が落ちてきた衝撃で、腕がつりそうになった。

しかし、相手は女子だ。重いと言うわけにはいかなかった。

「…大丈夫か?」

「あ、ありがとう…」

猫西は、顔を赤くして俺から目を逸らした。

「…あ、あの、重い…よね。」

「いや、そんな事無えよ…」

…気にさせてしまった。

少し気まずくなった。

俺は、うまく言葉が出なかった。

「あ、そろそろ降ろすぞ。」

「う、うん…そうだね…」

俺はゆっくりと猫西を腕から降ろした。

「よいしょっと。…菊池君。なんかごめんね。脚立のネジが緩んでたのかな…」

猫西は、まだ顔を赤くしていた。

…さっきの事をまだ気にしてるんだろうか。だとしたら申し訳ないな…。

「お、おう…あ、そうだ。ところで、上の方になんかあったか?」

「…うん。棚の上の方に、こんなものが置いてあったんだけど…なんだと思う?」

猫西が、コインのようなものを見せる。

「描かれてるのは、モノクマか…?」

「…どうすればいいんだろうね、これ。」

 

「ねーえーサートーにーいー!!」

売店の外から、耳障りな声が聞こえる。

「…なんだよ、俺なんかもう知らないんじゃなかったのか?」

「遊びたい!!お金よこせ!!」

…なんてガキだ。人を呼び出すなり、金をせびってきやがった。

「持ってない。第一、何で遊ぶ気だ?」

「これ!!」

アリスが指を指した方向には、ガチャガチャがあった。

「…建物の裏にあったから見落としてたね。これ、なんだろうね。」

『ズバリお答えしまちゅ!!ちょれは、『モノモノマシーン』でちゅ!!』

急にモノハムが現れて説明を始めた。

「モノモノマシーン?」

『猫西様、試ちに拾った『モノクマメダル』を入れて『モノモノマシーン』を使ってみてくだちゃい。』

「えっと…さっき拾ったコインの事かな?普通のガチャガチャと同じようにやればいいんだよね?」

猫西は、ガチャガチャを回した。

「…なんかカプセルが出てきた。これがどうかしたの?」

『この『モノモノマシーン』には、売店には置いていない『変わりダネ』が入っておりまちゅ!何がゲットできるかは、引いてみてのお楽ちみ!気になるあの子or殿方へのプレゼントにもピッタリ!ジャンジャン使ってくだちゃいね!』

「でも、メダルがいるんでしょー?」

『『モノクマメダル』は、リゾート地内のあらゆる場所に隠ちゃれておりまちゅ!隠れミ●キーを見ちゅける感覚で見ちゅけると楽しいでちゅよ!』

「お宝探しみたーい!!あーちゃんメダルいっぱい集めて、いっぱいガチャガチャやるー!!」

「…相変わらずハイテンションだな。」

「とりあえず、これ開けてみよっか。」

猫西は、出てきたカプセルを開けた。

 

「…。」

猫西は、口をあんぐりと開けて顔を赤らめていた。

耳まで真っ赤で、体はプルプルと小刻みに震えている。

「どうした?何が入ってたんだ?」

「…これをどう使えと?」

猫西は、震えながらエロ下着を広げる。

「…。」

「ねえ、何が入ってたのー?…って!何それ!!ほぼヒモじゃん!!見えちゃうでしょこんなの!!」

「ホンットに…」

猫西は、下着をグシャグシャに丸めてカプセルに戻した。

そして、それを近くの茂みの中に勢いよく放り投げた。

「…サイッテー!!」

「わぁあ…茂みの中に投げちゃったよ。あれは草さんたちの今晩のオカズかな?なんちゃって!」

ゴツン

「あだっ!!何すんだよサトにい!」

アリスが下品な発言をしたので一発ゲンコツを喰らわせた。

「お前ちょっと黙ってろ。」

「いーけないんだ、いけないんだ!!サイバンショに言っちゃーお!!」

「いや、俺弁護士なんだけど。多分訴えたところでお前に勝ち目無えぞ。」

「それはあーちゃんのセリフ!いたいけな幼女に手をあげてる時点で、サトにいに勝ち目があると思ってんの!?」

「子供じゃないんじゃなかったのかよ…」

…付き合ってられねえ。

「チッ…うるせえな…」

狗上は、足を組んでベンチに座っていた。

「お前も少しは手伝ったらどうなんだ?」

「俺に指図すんじゃねえよ。」

…話にならないな。

「…わかった。じゃあ、お前はずーっとそこで座ってろ。()()()()?」

「なっ…!!」

「リオンにいってさー、女の子みたいな名前だよねー!!ずーっと何もしないでそこにいるってことは、名前だけじゃなくて内面も女々しいんじゃないの?やーい、タマ無し!女の子!!」

アリスも調子に乗って挑発した。

「クッソが!!テメェら、マジで覚えてろよ!!」

狗上は顔を真っ赤にして立ち上がった。

…子供相手に本気でキレるなんて、器の小さい男だ。

「なんだ、手伝ってくれる気になったのか?」

「チッ、機械以外は協力しねえからな!」

「狗上君、ありがとう!」

「…チッ。」

狗上は、黙りこくったまま頭を掻き毟った。

猫西の純粋な笑顔を見て、俺も狗上もこれ以上喧嘩する気が失せた。

「なあ、狗上。下の名前いじって悪かったよ。もうしないから、他のみんなと壁作んのやめろよ。」

「…うるせぇ。」

狗上は、咄嗟に目を逸らした。

「え?リオンにいツンデレなの?その見た目で?気持ち悪っ!!」

「うっせぇ!!オロすぞクソガキ!!」

「まあまあ…」

 

売店の探索を終えた俺たちは、港へ探索に行った。

港には、クルーザーが停泊していた。

「でっかい船!!」

「…ねえ、もしかして、アレで脱出できるんじゃない?」

「おい、狗上。お前の得意分野だろ。」

「…チッ。」

俺たちは、クルーザーに乗り込んで探索をした。

豪華な船内だった。

「すっげー!!広ーい!!床がフカフカー!!」

アリスは、相変わらずハイテンションだった。

…疲れたとか嘘だろ。

「…クソッ!!」

ガン、と金属でできた何かを蹴る音と共に、狗上の声が聞こえた。

俺たちは、声の方へ駆けつけた。

「どうしたの?」

猫西が狗上の様子を伺う。

狗上は、どうやら腹が立っているらしかった。

「操縦席に行けねえんだよ!!下らねえ細工しやがって…!」

目の前には、『この先立ち入り禁止 入りたければ誰かを殺ちてくだちゃいね』と書かれた貼り紙が貼られたシャッターが降りていた。

「…まあ、モノクマ達の事だ、そう簡単に脱出させてくれる訳無いよな…」

「でも、脱出経路が分かっただけでも大きな収穫だよ。とりあえずクルーザーの探索の続きをしよう?」

「そうだな。」

俺たちは、クルーザーの中をくまなく探した。

結局、俺が見つけたのはモノクマメダル数枚だった。

 

「よし、東エリアの探査が終わった事だし、一度ホテルに戻ろう。」

「そうだね。他に行ける場所もなかったし…。」

「やっと休めるー!!」

「お前はずっと休んでただろ。」

「ギクッ…」

俺たちは、ホテルに戻った。

 

 

 

まずは、ゴミ処理室を調べてみた。

ゴミ処理室は、開放されていた。

中央に、巨大な焼却炉がある。

あそこにゴミを入れて燃やすのだろうか。

しおりに、ゴミ処理室についての説明が書かれていた。

 

ゴミ処理室は、夜時間は立ち入り禁止区域となっております。夜時間中は解錠不能の柵が降ろされるので、閉じ込められないように注意してください。

 

…他には、特にめぼしいものは無いかな。

そろそろ移動しよう。

 

 

俺は、次にマップに書かれている赤い扉に向かった。

赤い扉には取っ手が無く、開かなかった。

「これ、どうやって開け閉めするんだよ…」

特にこれといって収穫が無かったので、個室に行ってみることにした。

 

ホテルには、全員分の個室があった。

「俺の部屋はここか…」

「サトにい!お部屋にカギがついてるぞ!あーちゃんの寝込みをおそったりできなくて残念だったな!」

「誰がお前みたいなクソガキを襲うか。」

「クソガキぢゃねーし!!言っとくけど、変な事しに来たらマヂで許さないかんな!!」

「しねえっつってんだろ。…お前、もしかして一人で個室で寝るのが怖いのか?」

「そ、そんな事ないもん!!あーちゃんは一人でも平気だもんね!!ただ、気がついたらママのお布団に入っちゃってるだけだもん!!」

平気じゃねえだろそれ…何を誇らしげに言ってるんだ。

「…そうかよ。じゃあ、俺は部屋を調べるから少し静かにしてろ。」

「人を問題児みたいに言うなー!!」

…どの口が言うか。

 

俺は、逃げるように個室の中に入った。

「…ふう。さてと、個室を調べるか。」

うるさいガキの声が聞こえない。どうやら完全防音のようだ。

それにしても…

…流石は、最高級ホテルだ。

家具は全て超高級ブランド、ジャグジーやキッチンも完備している。

さらに、窓の外に取り付けられたバルコニーから一望する景色は、まさに絶景だ。

そして、『超高校級の弁護士』である俺のために、数多の種類の裁判にまつわる本が揃った本棚と、俺が普段着る服が入ったクローゼットが用意してあった。

それらだけを見れば、俺はモノクマ達の優しさに涙し、そして感謝しただろう。

だが、すぐに現実に引き戻された。

ベッドの横にある引き出しには、ロープと手紙と鍵が入っていた。

鍵には、ご丁寧に俺の名前が彫られていた。

俺は封筒を開け、中の手紙を読んだ。

 

 

 

モノクマ学園長&モノハム教頭からのお知らせ

部屋の鍵には、ピッキング防止加工が施されています。鍵の複製は困難なため、紛失しないようにしてください。

部屋には、ジャグジーと洗面所が完備されていますが、夜時間は水が出ないので注意してください。

最後に、ささやかなプレゼントを用意してあります。個室には、生徒の皆さんそれぞれにぴったりの凶器をご用意しました。

菊池クンには、ロープをご用意しました。首を絞めて殺害するのが効果的と思われます。

他にも、拘束して動きを封じるなり、そういうプレイに使うなり、ご自由にご利用ください。

 

 

 

…クソったれ。

何がプレゼントだ、人を弄びやがって。

俺は、手紙を丸めてゴミ箱に捨てた。

「…ん?」

ゴミ箱をよく見ると、メダルが入っていた。

メダルを回収しておいた。

一通り、部屋を調べ終わった。

部屋を出ると、早速耳障りな声が聞こえてきた。

 

「きゃっほーい!!すっごーい!!ジャグジーじゃん!!何この広さ!!銀河並みに広いじゃん!!サイッコー!!」

 

…部屋は防音だったはずだが。

部屋のドアくらいちゃんと閉めろよあのバカ…

廊下に声がダダ漏れだよ。

「ベッドふかふかー!!あーちゃん、このお部屋だったらずっとここにいられるわー!!」

…呑気な奴だ。

とりあえず、そろそろ報告会の時間だし、ロビーに行くか。

俺は、アリスの部屋のドアの隙間から呼びかけた。

「…おい。」

「ん?サトにい何か用?はっ!まさか、セクハラしに…」

…このガキは、一体俺の事をなんだと思っていやがるんだ。

「報告会の時間だ。行くぞ。」

「ホーコクカイ…なんか楽しくなさそうな響き…あー、そういえばあーちゃん、頭痛で頭が痛かったような気がするなー。」

「三文芝居はいいから黙って来い。」

「お芝居じゃないし!!マジで頭痛で頭が痛すぎて死んじゃうんですけど!!」

「本当に頭痛い奴はそこまでハキハキ喋らねえよ。ほら行くぞ。」

「いーやーだー!!」

 

ダダを捏ねるクソガキを無理矢理引っ張って、ロビーに着いた。

ロビーには、既に全員集まっていた。

「おう、菊池にあーちゃん。やっと来たか。」

「遅いです。5分前行動をしろと申し上げましたよね?」

「…悪い。こいつが、どうしても報告会に参加したくないとダダを捏ねてな…」

「ぶー…。」

「…ははっ、そいつはご苦労様。よし、全員集まった事だし、報告会始めるぞ!」

玉木が、報告会を始めた。

「じゃあ、まずは俺らから報告な。北エリアには、レストランと診療所があった。」

「ご飯は、レストランで食べよう!ウチがご飯作るよ!」

「フンッ、どうしても私に診てもらいたい奴は跪け!!この愚民共!!」

「レストランの食料は、毎日自動で追加されるのであります。餓死の心配はありませぬな。」

「それとこのリゾート地自体は、希望ヶ峰の合宿のためにモノクマが買い取ったものらしい。…Cチームの報告は以上だ。」

「じゃあ次は俺らだな。西エリアには、ハイキングコースと遺跡があった。詳しく知りたい奴がいれば、いつでも聞いてくれ!」

「…ハイキングコースと遺跡には、立ち入り禁止区域があった。」

「それと、調べた結果、この島では外部との通信が不可能という事が判りました。さらに、この島の直径1000km以内には、他の島は存在しません。太陽の動きを見る限り、おそらくここは南半球かと。」

「あーちゃん知ってる!南半球って、ブラジルとかオーストラリアがあるとこでしょ?ってことは、あーちゃんは今外国にいるって事?わーい、すごいすごーい!!」

「…え、Aチームの報告は以上です…。」

「ええと、次は自分らっスね。南エリアには、海水浴ができるビーチと、小さな遊園地があったっス。」

「わーい!!あーちゃん、海も遊園地大好きー!!」

「それと、森万さんに、テレパシーで外部と連絡が取れないか試していただこうと思ったのですが、生憎調子が優れないそうです。」

「フッ、そういうわけだ。今はテレパシーの調子が悪くてな…」

「そういう訳ですから、調子が戻り次第、再度お願いしてみましょう。」

「!!?」

ジェイムズが、笑顔で無茶振りをした。

「何か問題でも?」

「あ、いや…別に…」

「…なんか、森万先輩がかわいそうになってきたっス。」

「…はて?私、何か不都合な事を言ったでしょうか?」

言い出したジェイムズ本人は、首を傾げていた。

「…Zzz」

「アンカーソンさん、いけませんよ。報告会中に居眠りをしては。起きてください。」

リタが居眠りをしている事に気がついたジェイムズは、そっと彼女をゆすり起こした。

「…んあっ、マカンゴ!!」

「は?」

リタは、起きたかと思うといきなり意味不明な単語を発した。

「くっ…アンカーソンさんったら…寝ぼけているようですね…くくっ…ぷふふっ…」

ジェイムズは、なぜか笑いを堪えるのに必死だった。

…今のどこにツボる要素があったんだ?

「これ以上は収拾がつかなくなりそうっスね…Bチームの報告は以上っス。」

「じゃあ、次は俺らだな。東エリアには、売店と港があった。」

「港にはねー、おっきなクルーザーがあったよー!!」

「な、なんですと!?」

「じゃあ、それを使って脱出すれば…」

「…操縦席には近づけなかった。クソが!」

狗上は、床に唾を吐き捨てた。

「…まあ、お気になさらず。学園長達がそう簡単に脱出させてくれる訳無いですしね。」

「売店の方はどうだったの?」

「…ば、売店には…『モノモノマシーン』っていうガチャガチャがあって、リゾート地の至る所に隠されてる『モノクマメダル』で遊べるらしいから、使ってみるといいよ…」

猫西は、モジモジしながら話していた。

「あのねあのねー!!ちなみになんだけど、うぇすにゃんは、ガチャでエッチなおパンティーを引いてたよ!!」

「んなッ!!」

 

こんのク・ソ・ガ・キィイイイイ!!!

何いらん事報告しとんじゃボケ!!

お前もう黙ってろ!!

 

「ちょ、ちょっと…!あーちゃん!!なんでそういう事報告するの…!?」

「んぶっ」

猫西は、顔を真っ赤にしながらクソガキの口を塞いだ。

「マジかよ。」

「…最低ですね。」

「…不潔。」

玉木、速瀬、射場山の三人はドン引きしていた。

「あわわわわ…」

床前は、顔を真っ赤にしながら狼狽していた。

「フン、下衆が…」

森万は、平然を装ってはいるものの、顔は真っ赤で、かなり動揺しているようだ。

…仕方ないか。コイツも一応年頃の男子だからな。

「ほう…なるほど、他国の文化は一通り勉強していたつもりでしたが…このような興味深い習慣を持つ国が存在していたとは…これは勉強のし甲斐がありますね!!」

ジェイムズは、目を宝石のようにキラキラと輝かせながら、真剣にメモを取っていた。

「カークランド先輩!?違うっスよ!?多分、こんなのこの島の文化じゃないっス!!こんな下品な事するの、モノクマ学園長達以外にいないっスよ!!」

「そうなのですか?」

「そうっスよ!!こんなアタオカな文化、あるわけないでしょう!?」

「日本の文化も、いい意味で斜め45度行ってますけどね。私の国では考えられない事だらけですよ?」

「そういう事を言ってるんじゃなくて!!」

「…ムフフ、もちろん、エッチなおパンティーとやらに興味がありますが…それよりも、その単語に赤面をしている女性達はドチャシコでありますぞ!!」

…どんな性壁だ。

「…織田君、いつにも増して元気だね。」

「猫西氏、パンティーはロマンでありますぞ!!普段は見られるものではないからこそ、そこには無限大の夢が…」

「ふ、ふうん。」

「はっ!…猫西氏、もしや下に例の下着を…」

「履いてるわけないでしょ!!捨てたよそんな物!!」

「んなっ!?捨てたとな!?どこに捨てたんです!?探しに行かねば!!」

「えーっとね、売店のしg」

「あーちゃん、お願いだからもう黙ってて!」

猫西が再びアリスの口を塞ぐ。

「むぐー。」

 

「…そろそろ別の話題に移りましょう。」

痺れを切らした速瀬が、話を切り出した。

「だな。」

「まず、このホテルの個室は、防音のようです。行ける階も限られています。」

「そうだな、それは俺も調べた。」

「あと、ゴミ処理室と、何故か開かない赤い扉があったよね。」

「…ところで、個室には、それぞれ異なる凶器が置いてあるそうなのですが。私の部屋には、十徳ナイフが置かれていました。」

「そういえばそうだったな。俺のところは砲丸だったぞ。」

「自分は吹き矢だったっス。…管楽器を吹いてたからっスかね?」

「…あ、私は、ナイフが置いてありました…えっと…金箔で装飾されたナイフです。」

「!!?」

ガタッ

森万が、いきなり席を立った。

「うおっ!?どうした?」

「フッ、なんでもない…」

森万の体は、小刻みに震えている。

…もしかしてコイツ、先端恐怖症なのか?

それも、話を聞いただけでこのビビり様…相当重症だな。

「とりあえず、全員凶器を持ってるって事はわかった。変な気を起こさないためにも、凶器を教え合わないか?」

「そうだな。俺のところには金属バットがあったぞ。」

「私は、化学薬品の調合キットでした。」

「あーちゃんは、日本刀だったよ!」

「日本刀!?アリスさん、後で見せて頂いても!?」

「うん、いいよー!!」

「ウチは、なんかよくわかんない菌の培養キットだったよ!」

「私は拳銃だったよ。…シューティングゲームやってたからかな?」

「ねむ…僕は裁縫セットですぅ…」

「吾輩の部屋には、バールが置いてありましたぞ!」

「フッ、俺は手品セットだ。」

「…俺も言っとくか。俺は、ロープだった。」

わかった凶器は以下の通りだった。

 

俺 ロープ

アリス 日本刀

玉木 砲丸

近藤 菌

猫西 拳銃

速瀬 十徳ナイフ

ジェイムズ 化学薬品

リタ 裁縫セット

小川 吹き矢

郷間 金属バット

織田 バール

床前 金箔のナイフ

森万 手品セット

 

結局、狗上、射場山、神城の三人は自分の凶器を言わなかった。

「お前らも教えてくれよ!兄弟に隠し事は無しだろ!?」

「うるせェウド!!いつ私がテメェのような愚民の兄弟になった!?痴がましいにも程があんだろうが!!」

「…教える義理は無い。」

「…チッ、めんどくせぇ。」

「まあ、言いたくないものを無理に言わせるのもな…とりあえず、別の話題に移らねえか?」

「…あの、私から皆さんに提案があるのですが。」

ジェイムズが笑顔で話を切り出した。

「おう、どうしたジェイムズ。」

「…今度から、合宿の心得に『夜時間の移動は禁止』というルールを追加しませんか?」

「えー!?あーちゃん、夜のお散歩したかったのにー!!」

「はぁ!?ふざけんじゃねえよ帽子!!テメェ如きがこの私を束縛する気か!?身の程を知れ、この愚民が!!」

「カークランド君。なんでそんなルールを増やさなきゃいけないのか、教えて欲しいな。」

「まあ、反対派の方がいらっしゃるのも無理はありません。…しかし、このままずっと殺害されるかも知れない恐怖に怯えていては、身が保ちません。鍵付きの個室があるとはいえ、疑心暗鬼に陥った状態では精神衛生上宜しくないでしょう。せめて、夜くらいは緊張感から解放され、快眠出来るようにしたいのですが。」

…一理あるな。24時間ずっと他の全員を疑う生活を続けていたら、気が狂いそうだ。

「確かに、ジェイムズの言う通りだ。みんな、夜時間の移動は慎むように。」

「おう!」

「…わかった。」

「あーちゃん了解っ!!」

「カッちゃんが言うなら…」

「そうだね、夜くらいゆっくり寝たいし。」

「私も賛成です。」

「睡眠の妨害なんてされたらストレスっスからね。」

「…眠い。」

「フッ。異論は無い。」

「賛成でありますぞ!!」

「…わ、私も…」

「…別に構わないけど。」

「チッ、めんどくせぇ…なんでそんなルール守んなきゃなんねえんだよ。」

「テメェらが私に命令するな!!」

「破りたきゃ破ればいいんじゃない?…でも、もしそれで誰かが死んだら、その時はその人が犯人で決まりだね!!」

「んなッ…」

「ちょっと、あーちゃん縁起でもない事言わないで!!」

「ごめーん。」

「ふ、ふざけるな!なぜ、この私が貴様ら愚民に疑われなきゃいけないのよ…!」

「フッ、愚かなのはお前の方だ。初めから疑われるような行動に走るなど、愚の骨頂…」

「森万先輩、その言葉思いっきり自分に返ってるっスよ。」

「存在そのものが怪しさの塊だもんね、しゃーない!」

「う…」

森万は、黙りこくった。

「よし、じゃあある程度話し合いも済んだ事だし、そろそろお開きにするか。」

「だな。」

報告会が終わった後は、自由時間となった。

 

「さてと…」

俺は、今日集めたメダルの枚数を確認した。

「…5枚か。とりあえず、ガチャ引いてみるか。」

早速売店に向かった。

俺は、5連続でガチャを引いた。

運動用シューズ、花柄のエプロン、七色のペロペロキャンディ、猫のヘアピン、ハーモニカが出てきた。

「…俺が使えそうな物は無いかな。…これで誰かと話してみるか。」

俺は、景品を持ってホテルに戻った。

…誰と話をするか考えておかないとな。




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第1章(非)日常編②

俺は、はじめに玉木と話をする事にした。

「なあ、玉木。」

「おう、菊池か。なんか用か?」

「いきなりで悪いんだが、二人きりで話さないか?」

「…?おう、いいぜ。とりあえず、俺の部屋来いよ。」

俺たちは、玉木の部屋に向かった。

 

 

『超高校級のサッカー選手』の個室

 

「…おぅ。」

さすがは、『超高校級のサッカー選手』の個室だ。

何種類ものサッカーの道具やトレーニング器具、サッカーに関する本が置いてあった。

ベッドの横にミニチュアのフィールドが置かれており、壁にはトップ選手達の顔写真が飾られている。

俺は、玉木の個室に釘付けになった。

「…すげぇ。」

「んで?なんだよ話って。」

「あ、悪い。そうだったな。…いや、俺たちまだ他人同士だろ?だから、互いの事をちゃんと知っておきたいなって思ってさ。…あと、お前に渡したい物もあるしな。」

「ん?何だよ、何かくれんのか?」

「使うかどうかわかんねえけど…こんなの、気に入るんじゃないかと思って。」

俺は、ガチャで当てたシューズを渡した。

「…。」

「要らなかったか?」

「いやいやいや!むしろ逆だよ!!めっちゃ嬉しい!!ありがとな!!いやあ、でも逆に汚しそうで使えねえな…」

そんなに大喜びする程のものか…

だが、渡した物を喜んで受け取って貰えるというのは、悪い気分はしないな。

「喜んでくれたんなら何よりだ。」

「いやぁ、ホントにありがとう!俺も、何かお返ししないとな…菊池、お前何か欲しい物とかあるか?」

「いや、特に…あ、じゃあ、お前の話を詳しく聞かせてくれないか?お前の事をもっとよく知りたいんだ。」

「え?そんなんでいいのか?」

「ああ。お前の話を聞いてみたい。」

「よっしゃ!じゃあ、なんでも答えるから、質問があったらジャンジャン聞いてくれ!!」

「えっと…じゃあ、お前が『超高校級』に選ばれた理由を教えてくれるか?」

「そうだな…大した話じゃねえんだけどよ、俺は、親父が元々無名のサッカー選手でよ。それでガキの頃からサッカーを教えられてきて、ずっとサッカー選手になるのが夢だったんだ。最初は下手クソだったし何回も挫折したけど、それでも諦めたくなくて、毎日練習してたんだ。それで、コーチやチームメイトのみんなの協力、家族やサポーターの応援のおかげで中学の頃、Jリーグに出場できたんだよ!大人チームにも勝ったんだぜ!?あん時はホント嬉しかったな。みんなも大喜びしてたよ。その後、『超高校級のサッカー選手』として希望ヶ峰の推薦枠に選ばれたんだ。みんな俺の事を誇りに思ってくれたし、俺自身、ガキの頃からの夢で『超高校級』に選ばれたのが何よりも嬉しかったんだ。今の俺があるのは、俺を支えてきてくれた人達のおかげだ。みんなには、ホントに感謝してるよ。…でも、俺はまだまだだ。もっと強くなって、いつかは世界のトップ選手達と戦いあってみてぇんだ!!」

正直、意外だった。

玉木勝利は、文武両道で爽やかな天才キャプテンだと聞いていたんだが。

…案外熱血漢で、地道な努力家だったんだな。

「…なるほどな。じゃあ、どうしてこの合宿に参加させられてるのか、心当たりは無いか?」

「全然無えな。ちょうど希望ヶ峰の入学式に参加するってところで、気がついたら観覧車の中で寝てて…あの時は、正直おっ死んで天国に行ったのかと思ったな。その後しおりを見つけて、希望ヶ峰の入学式のサプライズかもしれないって思ってロビーに行ったんだが…心当たり、ねえ。ここにいる奴らは全員『超高校級』これが本物の希望ヶ峰の合宿とは思えねえし…犯人は、何が目的なんだろうな?俺たちに殺し合いをさせるなんて、イカれてやがる…」

「…ここに来る前の経緯は俺と同じだな。じゃあ、外に出たらやりたい事とかあるか?」

「そうだな、やっぱりサッカーを続けてぇな!みんなに恩返しもしてぇし…まあでも今は、ここにいるみんなと仲良くやっていきてぇと思ってる!よろしく頼むぜ、菊池!」

閉じ込められても尚、他人のために行動できるんだな、コイツは。

これがリーダーの素質ってヤツなのか?

「おう。…えっと、じゃあ、趣味とか特技とか教えてくれないか?あと、好きな物とかあったりするか?」

「もちろんサッカーだ!あと、家では割とトレーニングしながら音楽聴いたり本読んだりして過ごしてるな。好きな物は…やっぱり、サッカーに関する物かな。」

「へえ。…ところで、そのユニフォームは、お前のチームのユニフォームか?それとも学校の?」

「俺のチームのユニフォームだ。チームが結成した時コーチが、徹夜で全員分こしらえてくれてよ。こいつには、俺たちチームの思いが詰まった宝物だ!いっつも着るか持ち歩くかしてるよ。」

玉木は、ユニフォームを自慢げに見せながら強く言った。

「…なるほどな。色々ありがとな。おかげで、お前の事をよく知れたよ。」

「おう!今度は、お前の話を聞かせてくれよな!」

「…ああ。じゃあ、また後でな。」

俺は、玉木の部屋を後にした。

 

《玉木勝利の好感度が上がった》

 

「…次は誰と話そうかな。」

「あ!いた!サトにい!!」

耳障りなソプラノヴォイスが聞こえてきた。

「ったく!メッチャ探したんだぞ!!」

「またお前か。…何の用だ?」

「遊園地で遊びたい!!付き合え!!」

「…俺、そういうのあんまり好きじゃないんだけど。」

「いいから来いー!!」

俺は、クソガキに引っ張られて遊園地まで来させられた。

 

 

遊園地

 

「サトにいー!!まずはアレやろー!!」

「…チッ。」

クソガキは、無理矢理俺をコーヒーカップに乗せた。

耳障りなモノハムの歌声に連動してカップが回る。

いかにも子供が喜びそうな仕掛けだ。

…だが、こうしてゆっくり回っているだけなら、暇を潰すのには良いかもしれないな。

「ねえねえ、もっと面白くしよー!!」

「はぇ?」

クソガキはハンドルを掴むと、勢い良く回した。

コーヒーカップは徐々に回転速度を上げていき、周りの景色が全て繋がって無数の筋に見える程高速で回転した。

「◉×*♢⬛︎☆@#〜!!!」

「きゃはははははは!!」

 

「…う゛ぇええぇ…」

頭がガンガン鳴っている。

俺の体は吐き気と頭痛で限界を迎え、平衡感覚は完全に鈍って酔っ払いのようになっていた。

「きゃはは!!あー、面白かった!!」

クソガキは、あの高速回転にもかかわらず、ピンピンしていた。

…なんて事しやがるこのクソガキ…!

おかげで、死ぬかと思ったじゃねえか。

「…ちょ、ちょっと休憩…」

「えー、つまんないのー!あーちゃんまだ遊び足りないよー!!」

「俺の体が保たねえんだよ。」

「じゃあ、このままずっと遊び続けてサトにいが死ねば、あーちゃんはサトにいを殺して「キキョー」になっちゃうね!みんなとお別れするの寂しいな〜。」

俺への罪悪感は0かよ。

っていうか、簡単に死ぬとか殺すとか言い過ぎだろこのクソガキ。

「ふざけんな。そんなしょうもない死に方してたまるか。」

「あーちゃんもっと遊びたいなー。」

どうにかこのガキを大人しくさせねえと、今コイツが言った事が現実になっちまう…

…あ、そういえば。

「…なあ、アリス。」

「何?サトにい。そんなブルドーザーで轢かれて太平洋に二度漬けされたゾンビみたいな顔して。口から汚物ぶちまけるのだけはやめてよ?あ、ごめん。顔がすでに汚物だったね!」

喩えが絶望的に分かりにくかったが、コイツがどうしても俺をバカにしたいというのはよく理解できた。

…ここまで女子を本気で殴りたいと思ったのは初めてだ。

俺はこみ上げる怒りを抑えて、笑顔でペロペロキャンディーを差し出した。

「…おいしいお菓子あげるから、お兄さんと一緒にお話しようか?」

「わーい!!」

アリスはキャンディーをひったくると、バリバリと音を立てて噛み砕いた。

「んー!!おいしー!!七色全部味が違ってるのがいいね!赤がイチゴ、オレンジがみかん、黄色がパイン、緑が青リンゴ、水色がソーダ、青がブルーベリーで、紫がブドウかな?」

キャンディーは、数秒でガキの口の中へと消えた。

「あー、おいしかった!!」

「…なあ、アリス。俺と話さないか?」

「えー?どうしよっかなー。あーちゃん長話きらーい!」

「お菓子あげたら話す約束だったろ?」

「そんなの知らないもんねー。」

ク ソ ガ キ ! !

「…約束をしたのに、それを守らない。それって立派な契約違反だよな?民法415条の債務不履行による損害賠償に則って訴えてやろうか?そうしたら、もっと長話しなきゃいけなくなるぞ?」

不誠実な態度に腹が立ったので、十八番の脅し文句を使ってみた。

「あー!!あーちゃんサイバン嫌い!!わかった、サトにいのクソつまんない話に付き合うからー!!」

…売店で裁判所に訴えるとか言ってた奴が言う事か。

「わかればいいんだ。…早速、聞きたい事があるんだが。お前、ここに来る前の経緯とかわかるか?」

「イキサツー?んーっとね、たしか、キボーガミネのニューガクシキに参加しようとしてたんだけど、気がついたら船で寝てたみたいで…気がついたから起きたんだけど、石みたいなものに頭を思いっきりぶつけちゃってさ!」

…誰が石頭だ。

「俺や玉木と同じだな…。じゃあ、お前外に出たらやりたい事とかあるか?」

「まず、あーちゃんをヤラシー目で見たサトにいをケーサツに引き渡すでしょ?それから、パンケーキ食べまくる!!カラースプレーと生クリームがいっぱいトッピングされてあるやつ!!」

お前はマジで一生この島にいろ。そうすれば全員笑顔だ。

「…そうかよ。えっと…趣味とか特技とかあるか?好きな物とかも教えてくれ。」

「シュミ?えっと、遊ぶ事と食べる事!!トクギは、このかわいさ!!好きな物はショートケーキとお泊まり!!」

…何だよ、かわいさが特技って。

甚だ憎たらしいガキだ。

俺は怒りを堪えて話を続けた。

「ありがとう。お前の事をよく知れたよ。」

「サトにい質問しすぎ!!あーちゃん、ノドがビッグバン並みに渇いてるんですけど!!人にばっか話させてないで、サトにいも何か話したらどうなの!?」

「そうだな。俺は…」

「あー、長くなりそうだからやっぱいいわ。」

自分から言わせておいて、なんて失礼なガキだ。

…まあ、失礼なのは今に始まった事じゃないが。

「あーあ、サトにいと一緒にいても楽しくないなー。」

こっちこそ願い下げだ。

「ま、でもキャンディーはありがたくいただいたよ!ごちそうさま!」

…なんで上から目線なんだ。

 

《アリスの好感度が上がった》

 

「あ、菊池先輩にアリス先輩!!」

小川が俺たちを呼びに来た。

「夕食の時間っスよ。レストランに集合っス。」

「ごはん!!?わーい!!あーちゃんごはん大好きー!!」

…飯か。

そういえば、昼食はなんだかんだで食えなかったし、ここに来て初めての食事だな。

こんな状況で、飯を食うのか…

いや、こんな状況だからこそ、体調を保たないとな。

 

 

レストラン

 

「やっと来た!!」

近藤が、フライ返しで俺を差して出迎えた。

レストランには、豪華な食事が並んでいた。

室内にほんのり立ちこめる蒸気と食欲を唆られる芳香に、思わず俺は腹の虫を鳴らした。

「おいしそー!!」

アリスは、ツインテールを揺らしながらピョンピョンと飛び跳ねていた。

俺も、口の中に溜まった唾を飲み込んだ。

「…これ、全部近藤が作ったのか?」

「まあね!料理なら、ウチにお任せ!おかわりいっぱいあるから、遠慮せずどんどん食べてよ!」

「おう。じゃあ全員揃った事だし、食うか!」

「いただきまーす!!」

各々が食事を食べ始めた。

早速、目の前の器に入ったホワイトシチューをスプーンで掬って口に運んだ。

「!!!」

口の中に広がるコクと野菜の甘み、そしてブイヨンが利いたとろみのあるスープ。天にも昇るようなこの幸福感。

…一言で言うと、すごく美味い。

俺はハイスピードでシチューを完食し、他の料理にも箸をつけた。

「おいしー!!何これ!!アルゼンチノサウルス並みに美味しいんですけど!?サイコーじゃん!!ナツねえマジで神ってるね!!」

「あーちゃんありがと!どんどん食べてね!」

「近藤様、お料理お上手ですね。」

「いやあ、それ程でも…」

「このローストビーフ美味えな!」

「こっちのパスタも美味しいね。」

「このスープ最高っス!!」

「日本食がこんなに…どれも文献で読んだ事はありますが、食べた事は無い物ばかりです…!」

レストラン内は、平和な空気に包まれた。

そんな中、その空気を壊すヤツがいた。

「…フン、お前ら、人が作った飯をよく食えるな。毒が入ってるかもしれねぇのによ。」

狗上は、レストランの端でカップ麺をすすりながら言った。

「ぶふぉあっ!!?」

「…も、森万さん!?大丈夫ですか!?」

「きたね。」

「べ、別に…力が暴走しただけだ。」

「急に狗上先輩が毒って言ったのに反応したんでしょ…」

「え!?これ毒入りなの!?嘘でしょ!?」

「わ、吾輩は遠慮させていただくであります…」

「よくもこの私にそんな危ない物を食べさせようとしたわね!!」

次々と食事をする手が止まった。

「…み、みんな。」

近藤は、悲しそうな顔をした。

「…。」

そんな中、玉木と郷間は食事を続けていた。

「美味え、これホント美味えよ、夏美!こんな美味いメシ作るヤツが、毒なんて入れるわけねえだろ!」

「…郷間っち。」

「みんな、近藤を信じろよ。せっかく作ってくれたんだ、食べなきゃ勿体ないだろ。」

「…カッちゃん。」

近藤は、二人の優しさに涙を零した。

続けて、ジェイムズも食べ始めた。

「んなっ!?帽子、貴様正気か!?」

「貴女方こそ、ここで餓死するつもりですか?…私なら大丈夫です。万が一何かあったら、森万さんがなんとかしてくれます。」

「!!?」

「そうだね、ツラにいがいるなら安心だね!!よーし、食うぞー!!」

「根拠が頼りないっスけど…まあでも、自分も近藤先輩を信じたいっス!」

「近藤さんがせっかく作ってくれたのに、残したらもったいないよね!」

「…あ、えっと…森万さん、何かあったらよろしくお願いしますね?」

「おっ、おう。俺に任せろ!!」

「…みんな。…よーし、どんどん作るから、残すんじゃないよ!!」

レストランに、平和な空気が戻った。

「…チッ。」

狗上だけは、不満そうにしていた。

俺たちは、食事を再開した。

 

 

「あー、食った食った。」

「美味かったー!!」

俺の舌を満足させられる食事だった。

食事が終わった後は、自由時間となった。

「…さてと、誰と話そうかな?」

俺は、猫西と話をする事にした。

「なあ、猫西。」

「なあに、菊池君?」

「この後、二人で話さないか?」

「えっ!!?…そ、それってつまり、菊池君と私で、二人きりでお話を…!!?」

猫西は、顔を赤らめながら手をパタパタと振った。

「嫌か?」

「ううん、全然!!…えっと、じゃあ、後で私の部屋に来てくれる?」

「ああ。わかった。」

俺は身支度を整えた後、猫西の部屋に向かった。

 

 

『超高校級の実況者』の個室

 

「…ほぅ。」

壁や家具全てが猫の柄になった部屋だった。

部屋にはゲーム機やメイク道具、スライムや激辛調味料から雑学やクイズの本まで、動画のネタになりそうなものが置かれていた。

さらに、猫に強い思い入れがあるのか、猫のぬいぐるみや飼育セットも置かれている。

「ごめんね。散らかってる部屋で。」

「あ、いや…全然。」

「ねえ菊池君。お話って何?」

「そうだったな。…はい、これ。」

俺は、猫のヘアピンを渡した。

「さっきガチャでゲットしたんだけど…よかったら受け取ってくれ。」

「…え?くれるの?私に?」

「嫌か?」

「全然!」

猫西は、嬉しそうにヘアピンを受け取った。

「ありがとう!…菊池君からのプレゼント…えへへ。」

「なあ、猫西。少し話さないか?俺も、お前の事をよく知りたいし。」

「え!?菊池君が私の事を…?」

猫西は、恥ずかしそうにツインテールをいじった。

「…嬉しいな、私も君とお話がしたかったんだ。」

「良かった。…じゃあ早速聞くけど、お前はなんで『超高校級の実況者』になったんだ?」

「…えっとね、私…親が厳しくてね。総合病院の院長なんだけど…だから、私にも同じ道を歩んで欲しいみたいで、小さい頃から厳しく躾けられてきたんだ。そんな時、隠れて実況動画を見て…映ってる実況者さんが、すごく輝いて見えたんだ。自由で、生き生きしてて、動画を見てるみんなを笑顔にしてくれる…私も、そんな風になりたいって思って、実況を始めたんだ。そしたら、たくさんの人達が私の動画を見てくれて、私は人気実況者の仲間入りを果たしたの。…ずっと、叶えたいって思ってた夢が叶って、嬉しかった。それで、私は『超高校級の実況者』として希望ヶ峰学園にスカウトされたんだ。」

…言われてみれば、頭の回転の早さといい、姿勢の正しさといい…英才教育を受けてきたというのも納得できた。

しかし、猫西がそんな事情を抱えていたとはな。

いつも明るくて自由な『うぇすにゃん』からは想像できないような、束縛された人生を歩んでいたんだな。

「…ありがとう。…じゃあ、どうしてこの合宿に参加させられてるのか、心当たりは無いか?」

「うーん…ちょっとよくわからないかな。入学式に参加しようとしてたんだけど、気がついたらビーチチェアで寝てて…」

やっぱり、みんなここに来る時の経緯は同じだな。

「…あ。…心当たりなんだけど、その…無くはないよ。」

「ホントか!?」

「…うん。…言いづらいんだけど…」

「何だ?」

「…ネットで一時期騒がれてた都市伝説なんだけど、『エカイラ』って知ってる?」

「エカイラ?」

「『超高校級の死神』って呼ばれてる高校生殺人鬼らしいんだけど…エカイラが目撃されたっていう確かな証拠は未だ見つかってないんだって。だから、誰かが流したデマなんじゃないかっていう結論で片付いて、今はもう風化した都市伝説なんだ。…でももしエカイラが実在してて、今回の合宿を企画したとしたら…」

「…ソイツは、俺たちをここに閉じ込めて皆殺しにしようとしているのかもしれない、お前が言いたいのはそういう事か?」

「うん…ごめん、こんな話全然信用できないよね。」

「いや、いいんだ。頭の隅に置いておく価値はある。…ところで、外に出たらやりたい事とかあるか?」

「まずは、動画の更新だね。長い間音信不通になっちゃってたから、その事を視聴者の皆さんに謝らないと。…あとは…」

「あとは?」

「…なんでもない。」

「そうか。…じゃあ、趣味とか特技とか…あとは好きな物があれば教えてくれるか?

「うーん…やっぱりゲームかな。後は…都市伝説とか、猫の世話とか…好きな物は、猫と動画とお魚!」

「…猫が好きなんだな。」

「うん。だって、可愛いじゃん!自由気ままだし、愛くるしいし…最高じゃない?一番のお気に入りは、やっぱりボンベイかな〜。」

猫西は、猫への愛を語り出した。

結局、30分くらい延々と語られた。

「…というわけで、猫のモフモフは至高の癒しだよね!」

「…ああ、うん。」

「今日はありがとうね。…今度は、菊池君の話を聞きたいな?」

「ああ。こちらこそ、話してくれてありがとう。じゃあ、また明日な。」

「うん。おやすみなさい。」

俺は猫西の部屋を後にした。

 

《猫西理嘉の好感度が上がった》

 

「…さてと。」

部屋を出て廊下を歩いていると、曲がり角で近藤に会った。

「うぉっ、近藤。」

「菊池っち!今ね、ご飯の片付けが終わったとこ。…どうする?一緒にお話でもする?」

「…そうだな。」

「じゃあ、ウチの部屋に来なよ!」

俺は近藤に引っ張られて、近藤の個室に入った。

 

 

『超高校級のパティシエ』の個室

 

「…おぉ。」

さすがは『超高校級のパティシエ』の部屋だ。

部屋には、他の部屋より何倍も広いキッチンが用意され、そこには数多くの調理器具が並んでいた。

冷蔵庫の中にはお菓子作りに必要な食材が一通り入っており、バルコニーの畑にはフルーツやハーブが植えられていた。

本棚には、お菓子のレシピが並んでいる。

「菊池っち!お菓子作ってあげよっか。何食べたい?」

「俺、甘すぎるのはあんまり…」

「じゃあスナック系がいいかな?すぐ準備するから待ってて!」

近藤はキッチンに入ると、ハイスピードで調理を始めた。

キッチンの奥から、油で何かを揚げる音や弾ける音が聞こえる。

「お待たせ!!」

近藤は、皿にポテトチップスとポップコーンを盛ってキッチンから出てきた。

「どうぞ!」

「ありがとう。…すごいな。」

「どんどん食べて!」

「ああ。」

ポップコーンを口に運ぶ。

…美味い。

あまりしつこくなく、食感も絶妙だ。

シンプルな塩味で、俺好みだ。

…こんなの食ったら、映画館のポップコーンが食えなくなりそうだな。

「おいしい?」

「…ああ。ありがとな。」

「いーえ!」

「そうだ、礼と言っちゃなんだが、お前に渡したい物がある。」

「何?」

「こんなの、使ったりしないか?」

俺は近藤にエプロンを渡した。

「え?いいの?」

「お菓子を食べさせて貰ったしな。」

「ありがとう!大切に使うね!」

近藤は、嬉しそうにエプロンを受け取った。

「なあ、近藤。お前に聞きたい事がいくつかあるんだが、聞いてもいいか?」

「うん、いーよ!」

「お前、どうして『超高校級のパティシエ』になったんだ?」

「あのね、ウチ小さい頃はパパとママの都合でパリに住んでたんだ。向こうにめっちゃ仲がいい友達がいたんだけど、その子のママがお菓子職人で、ウチらも一緒にお菓子作ってたんだよね。…あの頃は楽しかったなぁ。それで、作ったお菓子を学校で配ってたらめっちゃ話題になってさ!日本に戻ってきた時に、『超高校級のパティシエ』として希望ヶ峰にスカウトされたの!」

近藤は、屈託のない笑顔で語った。

その笑顔は、『超高校級のパティシエ』というより、無邪気な子供のようだった。

「…へえ。じゃあ、なんでこの合宿に参加させられてるのか、心当たり無いか?」

「全く!入学式に参加しようとしてたら、いつの間にかテラスで寝てたみたいで…なんでこんなところにいるんだろうね、ウチら!」

やっぱり、ここに来た経緯はみんな一緒か。

…エカイラの件は伏せておこう。

不安を煽って疑心暗鬼にでも陥ってしまったら元も子もない。

「お前も何もわかってない状況なんだな。」

「うん!」

「えっと…趣味とか特技とかあれば教えてくれるか?あと、好きな物とか。」

「やっぱお菓子作りだよね!好きな物はお菓子!特に、ドーナツが大好物なの!」

「なるほど。…お前、ここから出たらやりたい事とかあるのか?」

「うーん…そうだな、自分のお店開きたい!それでね、パリの友達みんな招待して、パーティーするの!ここにいるみんなも、全員呼ぶよ!!」

「…そうか。それは楽しみだな。その時は、美味しいお菓子作って待っててくれよ?」

「うん!約束!」

近藤は、小指を立てた右手を差し出した。

俺たちは、指切りをした。

「今日は楽しかった!ありがとね!今度は、菊池っちの話も聞かせてよ!」

「ああ。じゃあ、また明日。」

「うん!」

俺は、近藤の部屋を後にした。

 

《近藤夏美の好感度が上がった》

 

「さてと、そろそろ夜時間だな。部屋に戻るか。」

部屋に戻り、部屋の風呂に入った。

暇潰しに本を読んでいると、インターホンが聞こえた。

「…何だ?」

部屋のドアを開けると、視界には誰もいなかった。

嫌な予感がして視線を下に落とすと、案の定クソガキがいた。

「…チッ。お前か。どうした?」

「一人で寝るの怖い〜。」

は?

「…えっと、お化け屋敷に入ったのがトラウマになっちゃったみたいで…一晩お部屋に泊めてあげてくれませんか?」

同伴していた床前が、ひょっこりと顔を出した。

「…なんで俺の部屋まで連れてきた。お前が部屋に入れてやればいいんじゃないのか?」

「…えっと、その…アリスさん、菊池さんと一緒にいるのが一番安心みたいなので…」

「サトにいはエロガッパだけど、この中じゃ一番人を殺すドキョーが無さそうだからな!」

後半は反論しかねるが、前半は聞き捨てならん。

それが人に物を頼む態度なのか。

「そういう口の利き方するなら、一人で寝てろ。俺はガキが嫌いなんだ。」

「あーちゃんガキじゃないもん!!もう高校生だもんね!!」

「だったら尚更一人で寝ろ。」

「やーだーやーだーやーだー!!!あーちゃんは寂しいと死んじゃうのー!!」

…うさぎかよ。

だが、このままじゃ俺まで恥ずかしい。

他の誰かにこんな所見られたら最悪だ。

 

カツン、カツン…

 

廊下の奥から足音が聞こえてきた。

「やべっ!!」

こんな所で醜態を晒すわけにはいかない。

「わっと!!」

「じゃ、床前!おやすみ!」

「…お、おやすみなさい…」

俺はアリスを部屋の中に引っ張って放り込むと、急いでドアを閉めた。

「いてて…ちょっとー!急に何すんの!?このツヤッツヤのガーネットスター並みにビューティフォーなお肌に傷が付いたらどうすんの!?」

「…今日だけは部屋に泊めてやる。その代わり、大人しくしてろ。俺の睡眠の邪魔をしたらすぐに部屋から追い出すからな。」

「あーちゃん了解っ!あ、そうだ!お風呂借りまーす!!…見たら冷凍したハンマーヘッドシャークの平たい部分で頭カチ割んぞ!!」

…許可してないのに、勝手に風呂を使われた。

しかも、話し方が相変わらず絶望的に想像しにくい。

…しかし、いちいち反応していてもエネルギーの無駄遣いだ。

俺は本を読み進めた。

「きゃっほーい!!このお風呂めっちゃ泡出るー!!モコモコ〜!!」

…五月蝿いな。

「世界があーちゃんにシットする〜!!」

…何やってんだアイツは。阿呆なのか?

クソガキは、そのまま30分ほど燥ぎ続けた。

そして、風呂から上がってきた。

膝まであるストレートの金髪からは、雫が滴っている。

そして、部屋から持ってきたであろう高級感のあるパジャマを着ている。

「あー、気持ち悪かった!サトにいの後のお風呂なんて最悪だよね〜!!」

…散々燥いでおいて、何を言っているんだコイツは。

「じゃああーちゃんもう寝るね!」

「ぜひそうしてくれ。向こうにソファーがあるから、そっちで寝ろ。」

「おやすみー!!」

…コイツ、人のベッドを奪りやがった…。

しかも大の字で寝やがって…これじゃあ俺が寝るスペースが無えじゃねえか。

「はあ…」

俺は毛布を体にくるんで、ソファーに寝転がった。

…こんな事になるなら、泊めてやるんじゃなかった。



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第1章(非)日常編③

目を覚ますと、時計は6時50分を指していた。

合宿生活の二日目が始まった。

「痛て…」

顔に痛みが走ったので、鏡を見てみた。

「!!?」

俺の顔の左側に、くっきりと子供の足跡のようなものが付いている。

俺は、振り返って床を見た。

床には、クソガキがうつ伏せになって寝そべっていた。

クソガキの髪には、カーペットの繊維が絡まっている。

「…まさか、ベッドからソファーまで寝たまま転がってきたのかコイツ…どんだけ寝相が悪いんだよ。」

やっぱり、こんな事なら泊めてやるんじゃなかった。

 

シャワーを浴びて、私服に着替えた。

「もう7時か…ん?」

カーペットがめくれて、モノクマメダルが出てきた。

「こんなところに隠れてたのか。」

早速、メダルを拾った。

 

『オマエラ、おはようございます!!起床時間です!!』

耳障りな声が響いた。

その声で起きたのか、もう一つの耳障りな声が聞こえた。

「ふぁああ…よく寝た!!…ん?サトにいどったの?そんなミナミゾウアザラシの尾ヒレで引っ叩かれたみたいな顔して。」

お前に蹴られたんだよ!!

「ってか、なんであーちゃん床で寝てんの!?はっ!!まさかサトにい…」

「俺じゃねえ。お前が勝手に寝ぼけて落ちたんだろ。」

「あー最悪!!サトにいのせいで、体がホコリまみれ!!」

「俺のせいにするな。」

「どう考えたってサトにいのせいでしょ!!あ、そうだ!あーちゃん着替えるから、部屋から出てって!」

「…俺の部屋なんだが。」

「何?まさか覗く気…」

「…散歩行ってくる。」

いくら相手がクソガキとはいえ、冤罪で変態のレッテルを貼られるのは御免だ。

「何だよ!!ちょっとはあーちゃんにキョーミ持てよ!!」

…なんなんだ。

 

さてと。

どこに行こうか?

…コイン拾ったし、売店に行ってみるか。

売店に行くと、既に先客がいた。

床前と神城だ。

床前は、棚の上の方を見上げながら立ち止まっている。

「どうかしたのか?」

「あ…えっと…これが欲しいんですけど…」

床前は、上の方を指差した。

指を指した先には、イヤホンがあった。

なるほど、届かないのか。

「私の部屋のイヤホン、壊れちゃって…新しいのを売店から持って来ようと思ったんですけど…」

「これか?ほらよ。」

イヤホンの箱を手に取って、床前に渡す。

「あ…ありがとうございます…」

ふと疑問に思った。ここには、伸縮自在の脚立があったはずだ。それを使えば、俺が来るのを待つ事無かったのに。

「なあ、どうして脚立を使わなかったんだ?」

「えっと…使おうとしたんですけど、先に神城さんが使ってて…用が済んだら貸すようにお願いもしたんですけど…すみません、気づいて貰えなくて…」

 

床前が後ろの方に目をやると、神城が脚立の上に乗っていた。

床前は影が薄いからな…神城の性格から考えて、一緒に売店にいる事すら気付いてない可能性も高いか…

「ふはははははははは!!!高所というのは、私にこそふさわしい場所だ!!愚民共を見下すのにちょうどいいな!!」

どう見ても遊んでるよな…

そんなお遊びで脚立占領すんなよ。

「おい、神城!!」

「ん?ああ、誰かと思えばモブか!!それと…えっと…ソイツは誰だ?」

「は?」

コイツ、もしかしてここに来てからずっと床前に気付いてなかったのか?

「マジかよ…メンバーの存在ごと忘れるか普通…」

「菊池さん…いいんです、慣れてますから…」

「そんな事より、愚民風情がこの私に何の用だ!!」

「…お前なあ、脚立はみんなで使うものなんだから、用が無いなら使うんじゃねえよ!」

「愚民が私に命令するな!!今から、この脚立は私の物になったんだから、どう使おうと私の勝手じゃねえかよ!!」

話にならない。

「…はあ。」

「ふはははははは!!ついにこの私に屈服したか!!それでいい、愚民は賢く美しいこの私にひれ伏せていればいいんだよ!!」

『神城様!!迷惑行為はやめてくだちゃい!!』

いきなりモノハムが現れ、神城の頭をポコン、と叩いた。

「き…貴様…!?齧歯類の分際で、今この私を…殴ったのか!?愚民風情が、この私に気安く触るな!!」

『あわわわ…!?オイラはただ、不良生徒を注意ちようとちただけなのに…!?も、モノクマ学園長〜!!』

『呼ばれて出てきてうぷぷぷぷ!!みんなの学園長、モノクマだよ!!』

モノクマがいきなり現れた。

『神城サン、みんなの迷惑になる行動は控えてよね!コロシアイ以外のゴタゴタなんて、正直見たくないんだからさ!』

「フン、愚民の都合なんて知ったこっちゃねえ!!目障りな熊め、早く消え失せろ!!」

『…しょうがないなあ。そんな不良生徒には〜。』

 

『テッテレー!!ガトリングガン〜!!』

モノクマが、ガトリングガンの銃口を神城に向ける。

『ボク言ったよね?共同生活をしろって。ちゃんと仲良く生活できないなら、蜂の巣になってもらうよ!!』

「はぁ!?ふざけんなよ!!なんで私が貴様なんかに殺されなきゃなんないのよ!!」

『本当は、こんな死に方して欲しくなかったけど…でも、モラルに欠ける言動をする輩には、おしおきが必要だよね!…3、2』

「ふ、ふん!!今日は、特別に貴様ら愚民に合わせてやろう!!私の寛大さに感謝するんだな!!」

ガトリングガンにビビっただけだろ。

『えー。ここではボク達の方が立場が上なんだけど…まあ、仲良く生活する気になってくれたんだったら良しとしましょう!こんなところで死なれたらつまんないもんね!』

『くれぐれも、二度とこんな事ちないでくだちゃいね!』

モノクマとモノハムは去っていった。

 

「ふはははははは!!愚かな綿埃共め、ついにこの私にひれ伏したか!!」

自分から降参しといて何言ってんだコイツ。

「…まだ朝なのに疲れた。」

「だ、大丈夫ですか…?」

「ああ、別に…疲れるのは慣れてるからな。」

「あ…えっと…その…さっきは、ありがとうございました…」

「?…あ、ああ… …」

「…?」

箱を持っていた床前は、違和感を感じたのか、すぐに箱を開けた。

「どうした?」

「…あ。」

箱の中には、イヤホンと一緒にモノクマメダルが入っていた。

「おお、さすが『超高校級の幸運』…」

「そんな…私は、抽選で選ばれただけですよ…」

床前は、メダルを持った手を俺の方に差し出した。

「…あの、これ…受け取ってください。」

「え?いや、お前が見つけたんだからお前が持っとけよ。」

「この箱を取ってくださったのは、菊池さんです。菊池さんが持っていてください。」

「…いいのか?」

「はい、さっきのお礼です。」

「ありがとう。…じゃあ、俺はガチャ引いてくるから。」

「は、はい…では、また後で…」

俺は、ガチャを引きに行った。

今回は、赤い手拭いと、高級感のあるメガネ拭きが出てきた。

「…誰に渡そうかな?」

ふと見上げると、視界に時計が映る。

時計は7時45分を指していた。

「あっ、もうこんな時間だ。そろそろレストランに行かないと。」

俺はレストランに向かった。

 

「おっ!菊池っち!今日は珍しく早いね!」

「…まあ、否定はしないけど。朝食はお前が作ってくれたのか?」

「そうだよ!今日はね、洋食にしてみたよ!」

テーブルには、朝食が並べられている。

スクランブルエッグからは、バターの芳香が湯気と共に舞い上がり、室内を包んでいた。

だがその幸福感も、あの忌々しいソプラノヴォイスによってかき消された。

「おまたセントビンセントおよびグレナディーン諸島!!」

「あ、あーちゃん。席取っといたよ。私の隣来る?」

「わーい!!うぇすにゃんの隣ー!!…あれ?サトにいどったの?そんなカスピ海の水面に叩きつけられた後エベレスト山の頂上で天日干しされたみたいな顔面して。」

どんな顔面だ。

「よっしゃ!!じゃあ、全員揃ったし飯にするか!!」

「あーちゃん、もうマリアナ海溝並みにお腹空いてるんですけど!!」

「わかったわかった。…それじゃ、いただきまーす!!」

各々が朝食を食べ始めた。

狗上は、パンとヨーグルトだけで済ませていた。

…いけ好かない野郎だ。少しは近藤を信用してやればいいのに。

 

朝食が終わった後は、自由時間となった。

「よお、論。」

「…郷間か。どうした?」

「ちょっと、兄弟同士で話し合わねえか?」

「…構わないが。」

「うっし!じゃあ、後で俺の部屋来いよな。」

郷間に言われるまま、俺は郷間の部屋に向かった。

 

 

『超高校級の庭師』の個室

 

「…ほう。」

さすがは『超高校級の庭師』の個室、と言ったところだろうか。

バルコニーには樹木が植えられており、花壇や盆栽がセットされている。

室内にはなぜか水車と小さな木があり、本棚には庭の手入れに関する本が並んでいる。

「…こんなものセットされても、俺は庭になんて興味無いんだけどな。この木を切り倒して、家を建てたりしたいもんだぜ。」

「一本だけじゃ無理だろ…小人用の家でも作る気か?」

「おお!それいいな!よっしゃ!じゃあまずは、ノコギリ用意しねえとな!」

俺が冗談で言ったのを、郷間は実践しようとしていた。

…純粋というか、バカというか…。

「郷間、せっかく部屋に呼んでもらったんだ、俺から渡したいものがあるんだが。」

「なんだ?なんかくれんのか?」

「…ほら、これ。汗かいたりするだろうから、使うだろうな、って思って。」

俺は、郷間に手拭いを渡した。

「えっ、いいのか!?」

「ガチャの景品だ。…良かったら使ってくれ。」

「ありがとな!!」

郷間は、嬉しそうに手拭いを受け取った。

「いやあ、俺も貰ってばっかじゃ悪いよな…お前なんか欲しい物あるか?」

「…いや、特に。…じゃあ、お前の話を聞かせてくれるか?」

「そんなんでいいのか?」

「ああ、話してくれるか?」

「あたぼうよ!ちゃんと聞いてろよ?弟!」

…やっぱり俺は弟なのか。

「じゃあ、お前の過去について詳しく教えてくれるか?」

「いいぜ!俺の家は、代々続く大工の一家で、俺の親父も大工なんだ。俺は、親父を尊敬してる。親父みたいなすげぇ大工になるのが、ガキの頃からの夢だったんだ。でもある日、お袋に庭の掃除をしろって言われて仕方なく庭掃除をしてたら、それを近所のジジイに見られちまってよ。そのジジイは、世界中で注目されてるプロの庭師でよ、そいつにいい才能持ってるって言われて、半ば強制的に弟子入りさせられたんだよ。それで、気がついたら『超高校級の庭師』として希望ヶ峰にスカウトされてたってわけよ。…他のみんなと違って、俺はやりたい事で才能を認められたわけじゃないから、それがコンプレックスなんだよな。」

…そういえば、本当は庭師になりたかったわけじゃないって言ってたな。

「逆に言えば、お前は自分自身も知らなかった才能を開花できたって事だろ?…夢ばっかり追いかけてても、報われない事もある。そんな時、それ以外で目指せるものを見つけるのって、そう簡単に出来る事じゃない。そういう意味では、お前は凄い奴だと俺は思うぞ。」

「…そうか。そうだよな。なんかゴメンな!俺らしくなかったよな!よっしゃ、じゃあ気を取り直してジャンジャン話すぞ!」

「お前、なんで合宿に参加させられているのか、心当たりは?」

「んー、無えな。希望ヶ峰の入学式に参加しようとしてたら、森の中で寝てたな。」

「なるほど、やっぱりみんな同じか…じゃあ、ここから出たら何したい?」

「そうだな、まずは家族のみんなに会いてえな。でも今は、お前らが俺の兄弟だ。俺を兄貴だと思って、どんどん頼れ!」

「…はは、相変わらずお前らしいな。じゃあ趣味とか特技とか、あとは好きなものとか教えてくれるか?」

「趣味かあ。やっぱ、親父の手伝いとか…あとは体鍛えたりとかだな。好きなものは、建築だ!」

「…ありがとう。お前の事をよく知れたよ。」

「おう。今度はお前の話を聞かせてくれよな、弟!」

俺は、郷間の部屋を後にした。

 

《郷間権蔵の好感度が上がった》

 

「…さてと、次はどうしようかな?」

俺は廊下を彷徨いていた。

「あっ、先輩!!」

後ろから、小川の声が聞こえた。

「こんなところでバッタリ会うなんて、奇遇っスね!」

「…そりゃあ、ホテル内を彷徨いていれば誰かしらには会うだろ。」

「にしし!!それもそうっスけどね!!…どうっスか?ちょっとお話しないっスか?」

「…そうだな、俺もお前に渡したい物があるしな。」

「え?何スか!?楽しみっス!!じゃあ、自分の部屋に来てくださいよ!!」

小川は俺の手を引っ張って、部屋まで連れてきた。

 

 

『超高校級の演奏家』の個室

 

「ここが自分の部屋っスよ!」

「…おぉ。」

個室には、何種類もの楽器が置かれていた。

壁には音楽家の肖像画が飾られており、本棚には楽譜や音楽史の本が並んでいる。

面白い事に、ベッドやソファーには体重をかけると音が鳴る仕組みが施されている。

「…ここにある楽器、全部演奏できんのか?」

「もちろん!『超高校級の演奏家』ナメないでくださいよ!!」

小川は、自慢げに言った。

「それはそうと先輩、渡したいものって何スか?」

「…そうだったな。はい。」

俺は、小川にハーモニカを渡した。

「え!?これ本当にいただいちゃっていいんスか!?結構高級そうだけど…」

「音楽に疎い俺が持ってるより、お前が持ってた方がいいだろ?受け取ってくれよ。」

「そういう事なら、ありがたく頂戴するっス!」

小川は、上機嫌でハーモニカを受け取った。

「その代わり、お前の話を聞かせてくれないか?」

「了解っス!!」

「まず、お前はなんで『超高校級の演奏家』になったんだ?」

「んー…やっぱり、楽器が好きだからっスかね。自分は、ピアニストの両親の間に生まれて、物心ついた時から楽器を演奏してたっス。楽器を弾くのが楽しくて、ずっと続けてたんスよ。自分、やるって決めた事には一直線になっちゃうタイプっスから。他に趣味も特技も無かったし…楽器だけが、自分を熱中させてくれてたっス。そしたら、いつの間にかそれが『才能』になって、『超高校級の演奏家』として希望ヶ峰学園にスカウトされたっス。」

一直線にやりたい事に突き進んだ結果、それが『才能』になった。

…そう思うと、小川ってある意味郷間とは真逆のタイプなんだな。

「…ありがとう。そうだ、お前はなんで合宿に参加させられてるのか、心当たり無えか?」

「無いっスね。入学式に参加しようと、校門をくぐったところで意識が飛んで、気がついたら港の近くで寝てたっスよ。…犯人は、自分らをここに閉じ込めて、何が目的なんスかね?こんな大規模な事すれば、警察が動きそうな気がするっスけど…新手の愉快犯っスかね?」

「目覚めた場所は違うが、やっぱり大体みんな同じか…ありがとう。何かわかった事があれば、教えてくれ。」

「了解っス!!」

「お前、何か外に出たらやりたい事とかあったりするのか?」

「そうっスね…今回の合宿の思い出を、曲にしてCD出したりとかっスかね?…なーんつって、にしし!」

「…お前らしいな。あと、趣味とか特技とか…好きな物とかあれば教えてくれ。」

「もちろん楽器っス!!っていうか逆に、それ以外無いっスよ!!」

「…シンプルでいいな。」

「褒め言葉いただきました!ありがとうございます!!」

「…お前さ、メンバーの中では割と常識人だろ?疲れたりとかしないのか?」

「そりゃあ疲れますよ。特にアリス先輩やカークランド先輩は、ツッコミどころが多すぎてツッコミ疲れするっス。…厄介なのはカークランド先輩っスね。アリス先輩は狙ってやってる節があるからまだしも、カークランド先輩は無自覚でやってますからね。天然インテリとか、誰得なんでしょう。」

「…お前も苦労してるんだな。」

「お互い様っスよ。…先輩こそ、アリス先輩と一緒にいてよく今まで正気でいられたっスね。」

「わかってくれるか!?」

「ええ。自分も、アリス先輩みたいな人に何度も振り回されてきましたし。」

俺たちは互いに愚痴り合った。

抱えていたものを話したおかげで、スッキリした。

「おっと、そろそろ昼飯の時間だな。」

「そうっスね。一緒に行きましょうよ。」

「だな。」

俺たちは、レストランに向かった。

 

《小川詩音の好感度が上がった》

 

「近藤。今日の昼飯はなんだ?」

「見ての通りだよ。いっぱい食べてね!」

昼食も、昨日の夕食みたいに豪華な食事が並んでいた。

「なんで菊池君と小川さんが一緒にレストランに来たの!?」

猫西が驚きながら言った。

床前は、俺を悲しそうな目で見た。

…俺、なんかまずい事したか?

「いや、なんでって言われても…普通に部屋で愚痴り合ってただけだよな?」

「そうっスね。別にそれくらい普通っスよね?」

「あっそう!!」

猫西は、頬をフグのように膨らませていた。

「なんで怒ってんだよ。」

「別に怒ってませんけど!!」

「あー、そういう事っスか。」

小川は、全てを察した様子だった。

「いやー、菊池先輩とは性格的に合わなかったっスよ。話してみてわかったっスけど、絶対付き合いたくないっスね〜。全然タイプじゃないし。まあでも、社交辞令っスよ、社交辞令!」

何を言っているんだコイツは。

さっきまであんなに楽しそうに話していたくせに、酷い言い様だ。

しかも、コイツの言葉を聞いた途端に、猫西も床前も安心してるし…なんなんだ一体。

「…それじゃ、上手くやってくださいよ。」

小川は、ニヤニヤしながら席についた。

上手くやるって、何の事だ?

席に座っていた玉木が話しかけてきた。

「よっ、ニクいね!色男!」

「…は?何の事だ?」

「…え?嘘だろ!?今の流れでわかんなかったのか!?」

「全く。…さっきからなんなんだ?おかしいぞお前ら。」

「…っはー、お前、それでよく今まで弁護士やってこれたな。」

「は?どういう事だよ、なんか知ってんのか?教えろよ。」

「やなこった。俺から言う事じゃねえよ。」

「何だよ…お前、そんなケチな奴だったか?」

「ケチで結構。ほら、飯食うぞ。」

「やっほー!!おくれてやってきマスタースパーク!!…あれ?サトにいどったの?モーリシャスドードーが節分の日にブローニングM2重機関銃喰らったような顔面してさ。」

「…どんなデンジャラスな鳩の豆鉄砲の喰らい方だよ。…実はな、かくかくしかじかで…」

全てアリスに話した。

「…うん、それは500億%サトにいが悪いね!!」

「そんなに!?」

「ホントベンゴシ失格だよねー。失業したらどうすんの?豪華客船に乗って、地下行くの?」

「なんで豪華客船で負ける前提なんだよ。っていうか、俺そこまで金に困ってねえし。」

「君たち、ギャンブル漫画の話で盛り上がってないで早くウチのご飯食べなよ。冷めちゃうよ。」

「はーい!いただきまーす!!」

 

昼食が終わった後は、自由時間になった。

「…そうだな、まずは遺跡の探索にでも行ってくるか。」

俺は遺跡へと向かった。

 

 

遺跡

 

遺跡は全て石造りで、古代都市のような風景が広がっていた。

石の壁の隙間に、モノクマメダルが挟まっていた。

メダルを回収しつつ、遺跡の奥へと進んでいった。

一番奥まで進み、石の扉を開くと、中は黄金で埋め尽くされていた。

「すげぇな。…これ、全部純金か?」

部屋の中央には、モノクマの顔のツタンカーメンもどきのミイラと、その横に設置されたモノハムの顔のアヌビスもどきの黄金像があった。

…これ、エジプト神話とツタンカーメン王への冒涜じゃないのか?

よく見ると、ミイラの下に宝箱があった。

開けてみると、モノクマメダルが3枚入っていた。

「…いくら黄金で埋め尽くされていても、売りつける相手がいなきゃ価値が無いのと一緒だな。メダルだけ貰っていくとするか。」

俺はメダルをポケットに突っ込んで黄金の部屋から出た。

部屋を出ると、速瀬が立っていた。

「…おや、中に誰かいるとは思っておりましたが…貴方でしたか。」

「速瀬か。後で、二人でゆっくり話さないか?…渡したいものもあるしな。」

「…承知しました。では、14時に私の部屋までいらしてください。…できれば、5分前に来て頂けると有り難いのですが。」

「わかった。5分前だな。次はちゃんと来るよ。」

俺は、遺跡の外へと出て、ホテルに戻った。

ホテル内の談話室で適当に時間を潰した後、速瀬の部屋に向かった。

 

 

『超高校級の秘書』の個室

 

「ここか。」

俺は部屋をノックして、ドアを開けた。

「…13時48分26秒。やればできるじゃないですか。…部屋をノックしてからドアを開けるまでの間隔も、配慮が行き届いていらっしゃいます。さすがは、『超高校級の弁護士』を名乗るだけの事はありますね。」

「まあ、クソガ…」

速瀬が俺を睨む。

「…アリスがいないからな。」

「言葉遣いが汚いのが気に障りますが…それ以外は及第点ですね。どうぞお掛け下さい。」

「…じゃあ、お言葉に甘えて…」

高級感のあるソファーに座って、部屋を見渡した。

部屋の至る所に時計があり、本棚には商業や政治についての本が並べられている。

デスクの上の筆記用具は全て高級品だ。部屋の隅には、観葉植物が植えられた植木鉢が置かれている。

「さて、そろそろご用件を伺いましょうか。」

速瀬はテーブルの、俺が座っている場所の近くに淹れたての紅茶を置いた。

「ああ、ありがとう。…えっと、これをお前に渡したかったんだ。」

俺は、メガネ拭きを速瀬に渡した。

「…これを、私に?」

「ああ。よかったら使ってくれ。」

「…有り難うございます。大切に使わせて頂きますね。」

「気に入ってくれたんならよかった。そうだ、この機会にもう少し話さないか?」

「畏まりました。何からお話しましょう?」

「そうだな、じゃあ、なんでお前は『超高校級の秘書』になったのか、教えてくれるか?」

「承知しました。…私の父は、とある中小企業の社長でした。決して裕福とは言えない家庭でしたが、私は父を尊敬しておりました。しかし、父は私が幼い頃に亡くなりました。聞いた話によると、詐欺の被害に遭って多額の借金を抱え、首が回らなくなって自殺したそうです。私は、父が遺したものを守るために、社長を継いだ兄の秘書になりました。それから数年後、会社は大企業へと成長し、私は県知事から秘書のオファーを頂きました。私は、喜んで承諾しました。県知事ほどの方にお仕えする事ができるのですから。そして、県知事の秘書を務めてから2年後、『超高校級の秘書』として希望ヶ峰学園にスカウトされました。…これが、私の過去です。」

「そうか…話してくれてありがとな。」

「教えて欲しいとのご命令を頂いたので。」

「別に命令じゃねぇけど…じゃあ、なんで合宿に参加させられてるのか、心当たりは?どうやってここに来た?」

「…さあ。希望ヶ峰学園の入学式会場に行くため、校門をくぐったところで意識を失い、気がついたらテラスの椅子に座って寝ておりました。今回の合宿は、私は『超高校級狩り』による計画だと睨んでおります。」

「『超高校級狩り』…?」

「希望ヶ峰学園の生徒は、『超高校級』の才能故に、犯罪組織に拉致されて裏社会に高値で売り飛ばされたり、嫉妬の対象となって虐殺されたりなどといった事件に巻き込まれる事が多いそうです。そういった者達を、多くの方々はこう呼びます。『超高校級狩り』と。」

「『超高校級狩り』、か。もしそんな奴にここに連れてこられたとしたら、厄介な事になりそうだな。」

「他にご質問は?」

「そうだな、えっと…じゃあ、外に出られたら何がしたい?」

「そうですね、まずは知事にお会いしたいと思っております。今まで私を雇ってくださったご恩を返さなければ。」

「そうか。…じゃあ、趣味とか特技とか…あと、好きな物とかあるか?」

「趣味、ですか。読書と音楽鑑賞ですね。特技は、情報処理とスケジュール管理でしょうか。好きな物は、小説ですね。」

「なるほどな。ありがとう。お前の事をよく知れたよ。」

「礼には及びません。また何かご用があれば、何卒。」

「それじゃ、そろそろお暇しようかな。また後でな。」

俺は、速瀬の部屋を後にした。

 

《速瀬吹雪の好感度が上がった》

 

俺は海辺を散歩した後、売店に向かい、ガチャを引いた。

「…4枚か。何が出るかな?」

今回は、赤い装飾の付いた十字架のペンダント、花札、小鳥のワッペン、美少女フィギュアが出てきた。

「おっと、そろそろ飯の時間だな。」

俺はレストランに向かった。

 

「やっほー!菊池っち!ご飯できてるよ!!」

今回も、俺の期待を裏切る事のない豪華な食事だった。

…よく毎回こんなに作れるよな。

その後、アリス、狗上、リタ、神城が来て、各々が食事を始めた。

相変わらず、狗上は近藤が作った料理を食べなかった。

…いつか体壊しても知らないぞ。

 

食事の後は、自由時間となった。

部屋に向かおうと曲がり角を曲がると、森万と出会した。

「…フッ、誰かと思えば菊池か。」

「…。」

「おっと言うな。お前の考えはわかっているぞ。さしずめ、話をする相手を探している、と言ったところだろう?俺は超能力者だからな、人の心を読むなど容易い事だ。」

そりゃあ、こんな時間帯に個室のある廊下を彷徨いてる奴は、話し相手を探してる奴しかいないだろ。

「…すごいな。その通りだよ。なあ森万、良かったら俺の話し相手になってくれないか?」

「フン、いいだろう。…貴様と話をすれば、いい事が起こりそうだからな。」

…コイツ、ペテン師のくせに、俺がプレゼントを持ってる事に勘付いてやがる。

「俺の話を聞きたければ、部屋まで来い。」

「わかった。」

俺は、森万に言われるがまま個室に向かった。

 

 

『超高校級の超能力者』の個室

 

「…へえ。」

いかにも、という感じだった。

部屋全体が黒い布で覆われており、星座の写真や水晶などが飾られていた。

部屋の本棚には、超能力や黒魔術の本が並んでいる。

「フッ、どうだ俺の部屋は。」

…よくこんな痛々しい部屋で生活できるな。ダサすぎて見ていられない。

「…いいんじゃないか?個性的で。」

「フッ、お世辞は結構だ。そんな見え透いた嘘が俺に通用すると思ったか。」

チッ。

「それはそうとお前、俺に渡したい物があるんじゃないのか?」

「…エスパーかよお前は。ほらよ。」

俺は森万に、厨二臭いペンダントを渡した。

「…ほう、悪くない。ありがたく受け取るとしよう。」

森万は早速ペンダントを付けた。

痛い痛い痛い!!自分で渡しといてなんだが、痛すぎるから今すぐ外せ!!

「どうした?お前、どこか怪我してるのか?さっきから痛がっているが?」

心を読むな!!痛いって物理的な意味じゃねえし!!

「フッ。いいなこれ。お前、俺の好みをわかってるじゃないか。エスパーの才能あるぞ。」

「…そりゃどうも。」

「なんだ貴様、俺の過去が知りたいのか?いいだろう、教えてやる。」

いきなり語り出したぞコイツ…

「俺は、幼少の頃から超能力の天才でな…ありとあらゆる学者達が、俺をペテン師と言って調べたが、最後は誰もが俺の超能力の前に屈服した。しかし、特別な力を持つというのは、必ずしもいい事ばかりではない。中学校では、俺の超能力を恐れる者達によって随分と迫害されてきた。」

単にお前がイキってるだけの貧相な陰キャだったからパシリにされてただけじゃないのか…?

「だが、俺は『超高校級の超能力者』として希望ヶ峰学園にスカウトされた!!世界が、俺の力を認めたのだ!!ふはははははは!!」

いくら未来を約束されている希望ヶ峰学園に入学できたからって、大袈裟すぎだ。

「さてと、昔話はこの辺にして、次は合宿に参加した経緯と犯人の心当たりを教えてやろう。俺は、入学式に参加しようとしたら、気がついたら遺跡にもたれかかって寝ていた。俺たちを閉じ込めた犯人は、恐らく秘密結社『モノミナティ』の仕業と踏んでいる。ククク、奴らめ…『超高校級』の俺たちを利用して、世界征服を企んでいるようだな。」

今適当に考えたろ。イルミナティをちょっといじっただけじゃねえか。

モノクマだからモノミナティか、超能力には恵まれてもネーミングセンスには恵まれなかったようだな。

「フッ、まあ…この話はこの辺でいいだろう。外に出たら何がしたいか…ねえ。ククク、決まっている。まずは『モノミナティ』を壊滅させて、世界を救うのだ。これも、強大な力を持って生まれた者の宿命…」

勝手にベラベラ喋るなコイツ。

「次は趣味と特技と好物か。フン、そんなに俺に興味があるならそう言えばいいのに。」

さっきからお前が自分で話してるんだろうが。

「フッ、趣味は、力を高めるための修行だ。特技はもちろん超能力、好物は最初の人間達が口にした、赤き衣を纏いし知恵の果実だ。」

リンゴの事だろ。いちいち回りくどい言い方するな。

「フン、俺の凄さを少しは体感できたか?今日はここまでにするとしよう。では、また明日。」

…あれっ?結局、俺ほとんど何も話してなくね…?

 

《森万羅象の好感度が上がった》

 

俺は森万の部屋を出て、自分の部屋に戻った。

「…はあ、今日も疲れたな。寝るか。」

俺は風呂に入って、そのままベッドで寝た。

「…ああ、ここに来て初めてのベッド…」

クソガキに楽しみをとられた分、感じる幸福感は倍になっていた。

俺はフカフカのベッドに癒されながら眠りについた。



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第1章(非)日常編④

コロシアイ合宿生活3日目。

俺は、7時前に目を覚ました。

クソガキや半分色違いのぬいぐるみに起こされる事なく、心地の良い朝を迎えた。

だが、快適な朝の時間も、束の間の幸福だった。

『皆様、おはようごぢゃいまちゅ!!7時でちゅ!!起床のお時間でちゅ!!今ちゅぐ全員起きてくだちゃい!!』

日替わりでローテーションするな。鬱陶しい。

俺はハムスターの気色悪い声のせいで憂鬱な気分のまま身支度を終えた。

散歩をして暇を潰した後、レストランに向かった。

 

レストランには、すでに近藤、玉木、速瀬がいた。

「おう、菊池!」

「おや、貴方でしたか。」

「おっ!菊池っち珍しく早いじゃん!!でもまだ朝ご飯の用意ができてないから、ジュースでも飲んで待っててよ。」

「俺も何か手伝おうか?」

「ダメ!!ウチにはウチのこだわりがあんの!!手出しは許さないよ!!」

「ああ、そう。」

俺は野菜ジュースを飲みながら近藤が朝食を作り終えるのを待った。

しばらく待っていると、郷間、ジェイムズ、床前、猫西の順にレストランに来た。

「おう、お前もう来てたのか、論!!」

「珍しくお早いですね、菊池さん。」

「…あ、菊池さん…おはようございます…」

「おはよー、みんな!ラッキー…菊池君の隣に座るチャンス…!

次に射場山、小川、織田、森万が来た。

「あれ?先輩?今日は早いっスね。」

「むむっ!?見た事ないメンツでありますぞ!!」

「フッ、ホテルに貴様の気配を感じないと思ったら…もう着いていたのか。」

最後にリタ、神城、狗上、アリスが来た。

「ふわぁ…僕まだ眠いですぅ…」

「ふははは!!おいスイーツ、今日の朝飯も期待してるぞ!!」

「おまたセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシ!!早くご飯食べよー!!」

各々が朝食をとった。

「おっ、美味えなこれ!!」

「…お魚♡」

「どんどん食べてね!!」

やはり、今日も狗上は近藤の料理を食べなかった。

「…あんた、いつまでそうやって意地張ってるつもり?…体調崩して死にたいわけ?」

珍しく、射場山が発言した。

「うるせぇ。俺の勝手だろ。」

「…ちゃんと食べないなら、レストランから出てってくれる?食欲失せる。」

「…チッ。」

狗上は、一人でレストランから出て行った。

「ねえ、射場山っち。さすがに言い過ぎじゃない?ウチだって、狗上っちがご飯食べてくれないのは嫌だけどさ…」

「…私、食事のありがたみがわからない奴嫌いだから。」

「まあそうだけど…」

…射場山って、無口だし言動が冷たいからわかりにくかったけど、意外と熱血っぽいとこあるんだな。

レストラン内が重い空気になる中、アリスが手を挙げて発言した。

「ねえ、みんな!あーちゃんからテーアン!!後でさ、みんなで海行かない?」

「…海か。いいね!」

「たまには、こういう楽しみも必要っスよね〜。」

「確か、ビーチの更衣室に水着があった気が…」

「よっしゃ!!今日は思いっきり遊ぶぞ!!」

全員で海に行く事が決まった。

 

食事が終わった後は自由時間となった。

海に行くまでにはまだ時間があったので、まだ話をしてない奴と話す事にした。

「…なあ、織田。この後、一緒に話さないか?」

「吾輩は、美しいレディとしか話したくないであります。」

「美少女フィギュアあるよ。」

「話をしましょう!!とりあえず、吾輩の部屋まで来てください!!」

チョロいな。

 

 

『超高校級の漫画家』の個室

 

「…うへぇ。」

個室の中には、美少女フィギュアが山ほど置いてあった。

ほとんどの家具や壁には、アニメキャラの美少女の絵かグラドルの写真で埋め尽くされていた。

机の上には漫画を書く上で必要な道具がそろっており、本棚には漫画が並べてあった。

「いかがでしょう!?吾輩の聖地は!!」

…性地の間違いだろ。なんだこの煩悩剥き出しの気持ち悪い部屋は。

「…いいんじゃないか?個性的で。」

「むむっ!?わかっていただけたでありますか!?」

「ま、まあ…」

「そういえば、フィギュアはどこにあるんです!?同志よ!!」

勝手に同志扱いすんな。

「そうだったな。ほらよ。」

「こ、ここここれは…!!『魔法少女 窓から☆マギカ』の激レアフィギュアではありませぬか!!ど、どこでこれを…!?」

「ガチャでゲットしたんだ。欲しいならやるよ。」

「あっ、有り難き幸せ…!!」

織田は、フィギュアを抱きしめていた。

「な、なあ…俺は、お前と話したくてここにいるんだが。」

「左様でありました!!菊池氏、吾輩に聞きたい事があれば、なんでも言ってくだされ!!」

「ええと…じゃあ聞くが、お前はなんで『超高校級の漫画家』になったんだ?」

「それは、『超高校級の同人作家』に影響を受けたからであります!!彼の描く同人誌に強く惹かれ、吾輩も作品を描いて、認められる人間になりたいと思ったのであります!!…そうすれば、美しいレディも振り向いてくれるかもしれないでありますし…ぐへへ…」

「脱線するな。」

「…ゲフンゲフン、失敬。それで、漫画を描き始めたのであります。最初は、どの出版社に持ち込んでも相手にされませんでしたが、ある日突然思い付いて一気に描きあげた読み切りが、大手出版社から高い評価を得まして…それから、その出版社での連載が決まったのであります!!そして、吾輩は『超高校級の漫画家』として希望ヶ峰学園にスカウトされたのであります!!尊敬する先輩と同じ高校に通えるなんて、夢のようでした!…これが、吾輩の過去であります。」

「なるほどな…じゃあ、なんで合宿に参加させられてるのか心当たりは?」

「むむむ…申し訳ございませぬ、全くありませぬ。ただ、入学式に参加しようとしたら、気がついたら観覧車の中で寝ていた事しか…」

「ここに来た時の経緯は大体みんな同じか。…お前、趣味とか特技とかあるか?好きな物もあれば教えてくれ。」

「もちろん、漫画であります!!読むのも描くのも、好きでありますし、得意であります!!…好きなものは、美しいレディであります。…ぐへへ。」

気持ち悪っ

「へえ。お前、ここから出たらやりたい事とかあるのか?」

「…菊池氏、それは死亡フラグであります。」

「じゃあお前は、自分が夢を話したところで死ぬと思ってるのか?」

「ぐぬぬ…死にたくないであります。」

「じゃあ話したっていいだろ。…何がしたい?」

「…ムフフ、ここから出たら、アニメと漫画をレンタルしまくって、美しいレディをナンパしまくるであります!!」

やめとけ。どうせ不審者扱いされて通報されるのがオチだ。

「へえ。」

「…菊池氏は、さっきから吾輩に喋らせてばっかりであります!!もっと話しませぬか!!例えば、女性陣の中では誰が気になってるとか…!!」

「変態トークに俺を巻き込むな。…別に、誰が好きとか無えよ。」

「左様でありますか。ちなみに、吾輩の最推しは猫西氏であります!APP18以上はあるあの美貌…これだけは、他の女性陣は勝てませぬな!!…ただ、アリス氏や近藤氏のロリ体系や神城氏の爆乳も捨てがたいであります!アンカーソン氏や床前氏の隠れ巨乳も尊いですな!」

マジかよ。コイツ最低だな。

こんなの、女子に聞かれたら殺されるぞ。

…そろそろ引き上げないと、コイツの事が嫌いになりそうだ。

「…じゃあ、俺はそろそろ行くわ。ありがとな。色々話してくれて。」

「えっ、もう行くのでありますか!?まだまだ女性陣の魅力を語り足りないであります…」

「また今度な。」

ドアを閉めた。

 

《織田兼太郎の好感度が上がった》

 

…アイツが、あんなに変態だと思わなかった。

そうだ、口直しにジェイムズの所にでも行くか。

「なあ、ジェイムズ。」

「おや、菊池さん。どうかされましたか?」

「ちょっと、一緒に話さないか?」

「ええ、勿論!私で良ければ、是非!…そうだ、私の部屋にいらしてください。そこでお話しましょう?」

「ああ、そのつもりだ。」

俺は、ジェイムズの部屋に向かった。

 

 

『超高校級の大学教授』の個室

 

「ここが私の部屋です。」

「…すごいな。」

扉側とバルコニーのある窓側以外の壁が一面本棚になっており、本棚は全てありとあらゆる学術書で埋め尽くされていた。数学や物理学から、哲学や宗教学まで、ほぼ全ての学問のジャンルが網羅されており、書かれている言語も日本語や英語、フランス語や中国語など様々だ。筆記用具や家具は全て超高級ブランドで、全て左利き専用になっている。部屋の説明書きは、全て英語で書かれている。

「この部屋、とても配慮が行き届いていると思いませんか?私、ここに住みたいくらいです。…少し部屋が狭いのが難点ですが。」

…これで狭いって、どんな豪邸に住んでたんだよお前は。

「それで菊池さん、お話と云うのは?」

「そうだったな。…使うかどうかわからんが…はい、これ。」

俺はジェイムズに花札を渡した。

「え?これを、私に?本当に頂いても宜しいんですか?」

「ああ。受け取ってくれ。」

ジェイムズは花札を受け取ると、目を輝かせながら言った。

「ありがとうございます!!…これが日本のカードゲーム…花札…文献で読んだ事はありますが、実物を見るのは初めてで…早速、遊んでみたいのですが…お相手、お願いできますか!?」

「あ、いや…俺はちょっと…」

「そうですか…では、他の方に聞いてみますね!」

ジェイムズは、本当に純粋な奴だ。

…織田も少しは見習って欲しいものだ。

「なあ、ジェイムズ。いくつか聞いていいか?」

「ええ、なんでも聞いてください。」

「じゃあ聞くが、お前がここに来るまでの過去を教えてくれるか?」

「はい。…私は幼い頃から学問が好きでしたので、毎日学術書に触れていたら、学校の勉強では足りなくなってしまいました。自分の知識欲を満たすために進級を繰り返していたら、大学を卒業し、博士号を取ってしまいまして。ですから、今度は人に教える事で、より学問を深く理解したいと思いました。そして試験に合格し、晴れて大学教授になりました。私が14歳になってから暫くして、日本の希望ヶ峰学園から『超高校級の大学教授』としてスカウトされました。両親には猛反対されましたが、両親の反対を押し切って、私は希望ヶ峰学園に進学する事を決めました。日本という素晴らしい国で高校生として過ごせるなんて、夢のようでした。残念ながら日本での高校生生活はしばらくお預けとなってしまいましたが、こうして『超高校級』の皆さんと一緒に合宿ができるなんて、毎日がお祭りのような気分です!」

「なるほどな。お前、ここに来るまでの経緯とか、合宿に参加させられてる心当たりとかは?」

「経緯、ですか。ええと…確か私は空港のホテルから直接希望ヶ峰学園に向かい、入学式に参加するために校門を潜りました。そこで意識を失い、気がついたら診療所のベッドで寝ていました。」

…やはり、ここに来るまでの経緯はみんな同じか。

「心当たりについてですが、これと同じような状況を文献で読んだ事があります。」

「何!?詳しく聞かせろ!!」

「予告なしに無人島に隔離し、外からの情報を完全に絶った場合、人は一体どうなってしまうのか、という実験についての文献です。結果は、被験者の殆どが殺し合いを始め、結局最後まで正気を保っていられたのは僅か数人だったそうです。」

「俺たちは、犯人に実験されてるって事か?」

「まだ確証は持てませんが。」

「…わかった。ありがとう。…なあ、ところで一つ気になってたんだけど…お前って、意外と超能力とかそういうの、信じるタイプなの?」

「私は、超能力は存在すると考えていますよ。超能力について本気で研究している学者もいますし…マサイ族の驚異的な視力だって、考えようによっては超能力ですよね?」

「ま、まあそうだけど…」

「現在の科学では解明できない事を無かった事にして、表面上の科学の万能性を示すのは、はっきり言ってナンセンスです。『かもしれない』という視点を持たなければ、本当の意味での科学の進歩などできないのですよ。」

…無闇に超能力を信じているわけじゃなくて、超能力が存在すると仮定して、それを裏付けるために森万に無茶振りしてたって事か。

そう考えてみれば、ある意味学者らしい考えだな。

「なるほど。…ところでお前、ここから出たらやりたい事とかあるのか?」

「…そうですね。まず、日本に観光に行ってから帰国し、合宿と日本の旅行で学んだ事を元に、エッセイを書きたいです。もちろん、皆さんにもお配りしますよ。」

「へえ、楽しみだな。」

「一冊当たり10£になります。」

「金取んのかよ!!」

「ええ、まあ。売り出そうと思っていたので。」

「…はあ。じゃあ、なんか趣味とか特技とか…あとは好きな物とか教えてくれるか?」

「そうですね…趣味と特技は、学術書を読む事でしょうか。好きな物は、日本と紅茶です。好きな日本人は、菅原道真と、うぇすにゃんさんと、舞園さやかさんです。」

「お前、サヤカーだったのかよ。」

「はい、新曲のCD買いました!彼女達、very cuteですよね!えっと、日本語では『萌える』って言うんでしたっけ?」

「猫西のファンだったのは意外だけど?」

「はい、私も彼女のフォロワーなんですよ。チャンネル登録もしてますよ〜。」

「へえ。ありがとう。…なんかお前、面白い奴だな。」

「え?私、コメディアンではありませんけど?」

そういう意味じゃねえよ。

「じゃあ、また後でな。」

「はい。今度は、菊池さんのお話も聞きたいです。」

「ああ。」

俺は、ジェイムズの部屋を出て、ビーチに向かった。

…何ていうかアイツ、『お嬢様』なんだよなぁ。…男だけど。

 

《ジェイムズ・D=カークランドの好感度が上がった》

 

 

「きゃっほーい!!海だー!!」

アリスは、相変わらずハイテンションだな。

幼児体型のくせに、背伸びしてビキニ着てやがる。

…俺は、海はあんまり好きじゃないんだがな。

泳ぐの得意じゃないし、体格も貧相だし…何より。

「わぁ、キレイ!!」

「あっ、向こうに屋台みたいなのがあるよ!ウチがお昼ご飯作るね!」

「…こ、近藤さん、今日もよろしくお願いします。」

「ふはははは!!海よ!!今から私が入る事を感謝しろ!!」

「神城先輩は相変わらずっスね。」

「…眠い。」

…目のやり場に困る!!

なんで女子って、あんな露出度が高い格好できるんだ!?見てるこっちが恥ずかしい!!

「サトにい、何考えてんの?まさか、あーちゃんのビキニ姿見てコーフンしてんの?」

「するか。お前が着るには100億年早えよ。」

「キャー、サトにいのエッチ!ハンザイシャヨビグン!!」

ぶん殴りてえ。

ジェイムズと玉木と森万は、向こうで何かやっているようだ。

「森万さん、見てください。ウミウシですよ〜。可愛いでしょ?」

ジェイムズが、ウミウシを捕まえて見せびらかしている。

…よくあんな物素手で触れるよな。

「くぁwせdrftgyふじこlp!!?」

森万は、後ろに大きくジャンプして、砂浜の上をスライディングする。

「おや。今のは、何ていう超能力ですか!?もっと見たいです。…ほら!」

「…やめてやれ。見てて可哀想になってきた。」

「?」

「お前、やっぱ天然鬼畜だよな。」

「見てください!口から大量の泡を吹き出しました!蟹に擬態する能力ですかね?」

「多分違う。早く診療所に連れてってやろうぜ。」

「はい…。」

ジェイムズと玉木が、森万を診療所に運んでいく。

…何をやっているんだあそこは。

「ムフフ。やはり海は最高ですなあ。レディ達の水着姿…ぐへへ、鼻血が…」

織田がニヤニヤしながらカメラを構えていると、背後に棒を振りかぶった射場山が立っていた。

 

ゴッ

 

射場山が振り下ろした棒が織田の脳天に直撃し、織田は気絶した。

「…不潔。」

「汚物は消毒しなければいけませんね。」

速瀬は、気絶した織田を海に放り込む。

…おいおい、そんな事したら死ぬだろ。

こんな所で帰郷する気か、あいつら…。

こんなやり方で誰かが帰郷する所なんて、俺は見たくなかったぞ。

その近くでは、郷間が狗上を誘っていた。

「おい、理御!!お前も混ざれよ!!」

「ケッ、クソが。下の名前で呼ぶんじゃねえよデカブツ。オロすぞ。」

「そんな冷てぇ事言うなよ兄弟!!」

「…チッ。」

 

そんなこんなで、各々が海で遊んで一日を過ごした。

織田は、かろうじて生きていた。

意外としぶといなアイツ。

遊び終わってから夕食まで、まだ時間があった。

「…ビーチでも2枚メダルゲットできたし…ガチャ回しに行くか。」

売店に行き、ガチャを回した。

今回は、ヒツジのぬいぐるみとラジコンが出てきた。

「…ガチャ回してるんですかぁ?…ふわぁ。」

後ろから、リタが話しかけてきた。

「リタか。お前もガチャ回しにきたのか?」

「違いますぅ…僕は、ただの暇潰しですよぉ。寝ちゃうと、夕食までに起きられなくなっちゃうので…こうして、適当に歩いて暇を潰しているのですぅ。」

「なあリタ、この後時間あるか?」

「ありますぅ…」

「一緒に話さないか?俺も、お前の事をよく知りたいし。」

「…長話は得意じゃないので、寝ちゃうかもですけど…それでも良ければ…」

「ありがとう。場所はどこがいい?」

「僕の部屋に来てください…ふわぁ。」

「わかった。」

俺はリタの部屋に向かった。

 

 

『超高校級の外務大臣』の個室

 

「…へぇ。」

さすがは『超高校級の外務大臣』の個室、と言ったところか。

本棚には、各国の資料や新聞が並べられており、部屋の壁には世界地図が広げられている。

さらに、部屋にはリタのために安眠グッズが揃えられているようだ。

「ふわぁあ…話ってなんですかぁ?」

「これを、お前に渡したいと思って。」

俺は、リタにぬいぐるみを渡した。

「これを、僕に…?ふわぁあ…ありがとうございますぅ。」

リタは眠そうにぬいぐるみを受け取った。

「リタ、この機会だから、いくつか質問してもいいか?」

「はい…寝ないように頑張りますぅ。」

「お前は、なんで『超高校級の外務大臣』になったんだ?」

「ふわぁ…僕の両親は、仕事のために海外を飛び回っていたので…その影響で、僕自身も海外の文化に触れる事が多かったのですぅ。それで色々お勉強してたら、王国の中では一番外交に詳しくなって…それで、外務大臣に任命されて、『超高校級の外務大臣』として希望ヶ峰にスカウトされたのですぅ。ちなみになんですけど、僕の国の王女様も、希望ヶ峰の留学生なんですよぉ。」

「なるほどな。ここに来るまでの経緯とか、合宿に参加させられてる事についての心当たりとかはわかるか?」

「わかんないですぅ…寝ちゃって、全部忘れちゃったので…ふわあ。」

寝て全部忘れただと…?それって、外務大臣として致命的じゃないのか…?

「…そうか。お前、ここから出たらやりたい事とかあるか?」

「…おうちでいっぱい寝たいですぅ。」

それって、ここから出なくてもできるよな。

「…へえ。じゃあ、趣味とか特技…あとは好きな物とかあれば、教えてくれ。」

「趣味はお昼寝…特技は、外国語とお昼寝…好きな物はお昼寝ですぅ。」

「そうか。そういえばお前、ジェイムズとはここに来る前から知り合いだって言ってたな。」

「ジェイムズとは…僕が仕事で訪れたイギリスでたまたま知り合って…それ以来、たまに連絡とかするようになったのですぅ。」

「へえ、なるほど。…話してくれてありがとな。」

「Zzz…」

「寝てんじゃねえか!!ほら、飯食えなくなるぞ!!起きろ!!」

「Zzz…」

「クソッ、ダメだ…全然起きねえ…」

結局、リタを起こすのに30分かかった。

「はぁ、はぁ…」

「すみません…いつの間にか寝ちゃいました…」

「ほら、もう飯の時間だ、行くぞ。」

「はぁい。」

俺たちは、二人でレストランに向かった。

 

《リタ・アンカーソンの好感度が上がった》

 

レストランには、既に全員集まっていた。

…なぜか猫西と床前は不機嫌そうだった。

俺たちは、近藤が作ってくれた食事を食べた。

「おっ、狗上。今日はお前も食うんだな。」

「…あのチビに毒を盛る度胸が無えのがわかったからな。悪いかよ。」

素直じゃないな、アイツ。

 

食事の後は、自由時間となった。

今回も、誰かと話してみようかな。

「なあ、床前。」

「は、はい…私ですか?」

「お前以外に床前っていう名前の奴いねえだろ。…この後、時間あるか?」

「えっ、あ、ありますけど…」

「二人で話さないか?」

「えっ!?え、ええと…」

「ダメか?」

「い、いえ…ダメとか…全然そういうんじゃない、です…どっちかっていうと、むしろ…」

「むしろ、何だ?」

「い、いえ!なんでもありません…!」

「…そっか。じゃあ、この後話そう。場所はどこがいい?」

「えっと…その…わ、私の部屋とか…どうですか?」

「いいのか?」

「はい、お待ちしていますね。」

「ああ。また後でな。」

俺は、部屋に戻ってシャワーを浴びた後、床前の部屋に行った。

 

 

『超高校級の幸運』の個室

 

「約束通り、来たぞ。」

「…はわわ…」

床前は、なぜか急に泣き出した。

「おい、どうした?どこか痛いのか?それとも俺、なんかまずい事した?」

「い…いえ…私、約束してもすぐに忘れられてしまうので…ちゃんと約束を守ってくださったのが、嬉しくて…」

約束守っただけで泣くとか…今までどんだけ約束すっぽかされてきたんだよ。

床前の影が薄いのか、人間関係に恵まれなかったのか…或いはその両方か。

「おい、もうわかったから、泣くなよ。」

「はい…ご心配おかけして、すみません…。…ここが、私の部屋です。」

床前がドアを開けた。

女子の部屋って感じだった。

壁や家具はパステルカラーで統一され、ベッドにはひよこのぬいぐるみが置いてある。

妹の部屋もそうだったけど、女子ってぬいぐるみが好きなのか…?

「すみません…散らかってる部屋で…」

「全然そんな事無いけど…そうだ、床前。お前に渡したい物があるんだ。気に入るかどうかわかんないけど…良かったら受け取ってくれ。」

俺は、床前にワッペンを渡した。

「…え?こ、これを…私に…?」

「気に入らなかったか?」

「…いえ、私…家族以外の人からプレゼント貰った事ないので…嬉しくて…ありがとうございます…」

床前は、泣きながらワッペンを受け取った。

「わ、私…このプレゼントのお礼は必ずします。私に出来る事があれば、なんでも言ってください。私…菊池さんのためなら、なんでもしますので。」

「…そうだな、じゃあ、お前の話を聞かせてくれるか?」

「…わ、わかりました。」

「まずはお前の、ここに来るまでの過去を教えてくれ。」

「は、はい…ですが…一つだけ約束してもらえませんか?」

「何だ?」

「本当の私を知っても、今まで通りの態度で私に接してください。…ご、ごめんなさい。厚かましい、ですよね…」

「何言ってんだ。態度を変えるも何も、お前はお前だろ。それ以上でも以下でもない。今から話すことが何であれ、その事に変わりは無え。」

「…ありがとうございます。では、話しますね。…私…抽選で『超高校級の幸運』に選ばれたって言いましたよね。」

「言ったな。」

「…違うんです。本当の私を知ったら気味悪がられると思ったので、皆さんの前ではそう言いました。『超高校級の幸運』って、毎年一人平均的な高校生が抽選で選ばれるんですけど…ほとんどの『超高校級の幸運』は、本当にたまたま抽選で選ばれただけの、普通の高校生です。…でも、ごく稀に、本物の『幸運』がいるんです。」

「『本物』の幸運…?」

「はい…『幸運』という才能を持った高校生です。人を幸運にする才能、逆に人の運気を奪って自分だけが幸運になる才能…私の場合は、

『不運を代償に本当の幸運を引き寄せる才能』です。」

「どういう事だ…?」

「例えば、インフルエンザで修学旅行に行けなくなった事で、ハイジャックされた飛行機に乗らずに済んだり…森で迷子になった時、落とし穴に落ちたおかげで見つけてもらえたり…足を怪我して入院した事で、抱えていた病気が発見されたり…私の身の回りでは、そういう事がよく起こるんです。」

「…不幸中の幸いってヤツか。お前は、それを引き起こす才能を持ってるんだな。」

「はい…でも、『不幸中の幸い』が起こると、必ず誰かが死ぬんです。ハイジャックされた飛行機の中で乗客が殺されたり、私が病気の手術を受けている間に他の患者さんの容態が悪化して亡くなってしまったり、迷子になった私を助けようとした救助隊の方が、足を滑らせて落とし穴に落ちて、打ち所が悪くて亡くなってしまったり…『不幸中の幸い』が起こってから3日以内に、私の『幸運』のせいで誰かが死ぬ…小学校では『死神』なんてあだ名をつけられてましたね…」

ふと、『超高校級の死神』エカイラが頭に浮かんだ。

…いや、まさか。床前が殺人鬼なわけ…ないよな。

「だから、中学校の時は、出来るだけ人との関わりを避けて過ごしてきました。…そのせいで誰からも気付いて貰えなくなってしまいましたけど。でも、ある日『超高校級の幸運』に選ばれた事で、また死人が出てしまったんです。…私の才能が、誰かを殺しているんです。こんな呪われた才能、幸運でも何でもない…もう、私のせいで誰かが死ぬのは嫌なんです…!」

「考えすぎだ。お前が殺したわけじゃない。全部、ただの偶然だ。偶然お前にちょっとした不運が起こって、その直後に偶然幸運が起こって、偶然3日以内に誰かが死んだ。お前が呪いだと思ってるのは、全部偶然の重なりだ。だからもう、自分を責めるな。」

「…はい、ありがとうございます…」

「話題を変えよう。お前、ここに連れてこられる前は何をしてた?」

「ええと…入学式に参加しようと、校門をくぐろうとして…気がついたら、遊園地のコーヒーカップの中にいて…」

ここに来るまでの経緯はみんな同じか。

「ありがとう。…そうだな、お前、ここから出たらやりたい事とかあるか?」

「…え…ええと…その…」

「何だ?」

「…や、やっぱりなんでもありません…」

なんなんだ一体。猫西も同じような事言ってたしな…

「まあ、言いたくないなら別に…じゃあ、趣味とか教えてくれるか?あと特技とか好きな物とか…なんでもいいぞ。」

「ええと…読書です。好きな物は、桃と小鳥、です。」

「そうか、今日はありがとな。色々話してくれて。」

「は、はい…こちらこそ、ありがとうございました。」

「そろそろ10時だし…俺行くわ。じゃあ、また明日な。」

「はい、おやすみなさい。」

俺は、床前の部屋を後にした。

 

《床前渚の好感度が上がった》

 

俺は部屋に戻った後、すぐに眠りについた。

こうして、合宿生活3日目が終わった。



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第1章(非)日常編⑤

合宿生活4日目。

「…眠い。」

7時前に目が覚めた俺は、朝の支度を済ませた。

7時丁度には、モノクマの耳障りな声が部屋中に鳴り響いた。

小一時間散歩をしてから、レストランに向かった。

レストランに着くと、既に10人集まっていた。

「菊池っちおっはー!」

「おっす、おはよう菊池!」

「おはよう、弟!!」

「菊池君おはよう。」

「お、おはようございます…」

「お早うございます。」

「お早うございます、今日も良い天気ですね。」

「おはようございます先輩〜!」

「おはようございます、同志よ。」

「…おはよ。」

「…ああ、おはようみんな。」

暫くして、残りの5人が来た。

全員が揃ったところで、各々が食事を始めた。

今日は、狗上もちゃんと近藤の飯を食べていた。

 

食事の後は、自由時間となった。

「なあ、狗上。」

「…あぁ?」

「少し、話さないか?」

「…チッ、めんどくせぇ。断る。」

「お前に、渡したい物があるんだよ。それだけでも受け取ってくれよ。」

「…罠とか仕込んでねえだろうな?」

「そんなの仕込んでねえよ。な、いいだろ?」

「…チッ、くだらねえモン寄越しやがったら張り倒すぞ。」

「くだらなくないかは保証出来ねえけど…こんなの、お前なら喜ぶんじゃないかと思って。」

俺は、狗上にラジコンを渡した。

「…。おい。テメェ、これどうした?」

「ガチャでゲットしたんだよ。…気に入ったか?」

「別に、そんなんじゃねえよ。」

完全に、ラジコンに見惚れている。

気に入ったんだろお前。だったらそう言えばいいのに。

「…おい。」

「なんだ?」

「…少しだけなら、話してやってもいい。」

すごく気に入ってんじゃねえか。

「そうか、ありがとう。…じゃあ早速聞くが、お前はなんで『超高校級の操縦士』に?」

「知りてぇなら、まずはテメェの話をしろよ。」

「ああ、悪い…俺は…」

「チッ、クソつまんなさそうだからやっぱいい。」

なんなんだ。このやりとり、なんかデジャヴだな。

「…俺は、ガキの頃から乗り物が好きでよ。整備したり、隠れて運転してたりしてたら、『超高校級の操縦士』としてスカウトされた。それだけだ。」

短いな…もっと、自分の才能についての思いとか努力した経験とか、語る事は無いのだろうか。

「…んだよ。なんか文句あんのか?」

「あ…別に。お前、なんでここにいるのか、心当たり無いか?」

「あるわけねえだろうが。入学式にパッと出て帰ろうと思ってたのによ。気付いたら、石だらけの場所で寝てたしよ。クッソ、なんなんだよ一体。」

石だらけの場所…遺跡の事だろうか?

…やっぱり、ここに来るまでの経緯はみんな同じだな。

「ここから出られたら、何がしたいんだ?」

「決まってんだろ。こんなクソみてぇなマネしやがった犯人をブッ殺す。」

「殺した後はどうするんだ?」

「考えてねえよ。」

「なるほどな。お前、趣味とか、特技とかあるか?」

「…機械いじりだ。」

「好きな物は?」

「機械だよ。…チッ。」

「…そうか。ありがとな。話してくれて。」

「チッ…早く失せろ。」

「あ、ああ…」

 

《狗上理御の好感度が上がった》

 

「…もうプレゼントも無くなったし、まだ行ってなかったハイキングコースにでも行ってみるか。」

ハイキングコースに向かい、歩いているとメダルを1枚見つけた。

さらに歩くと、モノクマ茶屋と書かれた小屋を見つけた。

小屋には饅頭が並べられており、小屋の中には、田舎の婆さんの格好をしたモノクマがいた。

『うぷぷ…よく来たねえ、お兄さん。秘伝のレシピで作ったモノクマ茶屋の自家製モノクまんじゅうだよ。食べていってね。』

饅頭には、モノクマの顔の焼印が押されている。

俺は、一番手前の饅頭を一個取って食べてみた。

…。

まっっず!!!

「ぶふぉあっ!!」

『ちょっとー!何すんだよ汚ねーな!!』

俺は、あまりの不味さに、口の中に含んだものを全て吹き出した。

なんだこれは。

とても人間様が食えた代物じゃない。

近藤の料理で舌が肥えたのを差し引いても、この不味さはもはや殺人級だ。

形容し難い禍々しい風味が、まだ口の中に広がっている。

こんな物を食い物として認めるのは、食に対する冒涜だ。

このリゾート地は、全てにおいて最高級なんじゃなかったのかよ。

俺は、饅頭を地面に叩きつけた。

潰れて花のように広がった汚物をよく見ると、モノクマメダルが入っていた。

「…異物混入じゃねえか。こんなの、この島じゃなかったら店ごと潰れてるぞ。」

『メダルゲットできてラッキーじゃん!!文句言わないの!じゃあ、そんなラッキーな菊池クンには…ジャジャーン!!もう一個プレゼントしまーす!!』

 

う そ だ ろ ! ?

 

『ほら、おいしいおいしいモノクまんじゅうだよ!食べたら天国に昇るような心地になれるよ!うっぷっぷ!』

ガチで昇天するヤツだろそれ。

『とにかく、持っていかないとルール違反とみなすよ!』

結局脅しじゃねえか。

俺は来た道を戻って、ホテルへ向かった。

「おかえりサトにい!!さては、あーちゃんのビューティフルフェイスを拝みに戻ってきたんだな!?あーちゃんったら、美少女すぎて、シットで殺されないかチョー心配!!美しさは罪ってゆーもんね!!」

すぐに殺すとか言い過ぎだ。少しは慎む事を覚えたらどうだ。

「くだらねえ事言ってねえで、早く昼飯を食いに行く支度をしろ。」

「ん!!?サトにい、なんか美味しそうな匂いがする…なんか隠してんの!?」

「別に。さっき、モノクマに饅頭を押し付けられただけだ。」

「え!?おまんじゅー!?あーちゃん食べたい!!」

「やめとけ。食ったら死ぬぞ。」

「あー!わかったー!!そんなこと言って、さてはあーちゃんを騙して一人で全部食べる気だな!?食べたら死ぬとか言っといて、本当はゲロうまなんだ!!そうなんでしょ!?」

なんだコイツ。どんだけ俺が食い意地張ってると思ってんだよ。

「附子じゃねえんだから…そんな事するか。本当にやめとけ。」

「あーちゃん、騙されないもんね!!本当はそのおまんじゅー、すごいおいしいんでしょ!?」

「その逆だ。死ぬ程不味いぞ。」

「ふーんだ!その手には乗りませんよーだ!!さ、カンネンしておまんじゅーよこせ!!」

しつこい。いい加減にしろ。

俺はここまで忠告したんだ、これでどうなっても自己責任だ。

「…本当に食うんだな?」

「うん!!」

「…ほらよ。後悔しても知らないからな。」

「いただきマスカット・オマーン!!」

クソガキは、饅頭をひったくると口の中に放り込んだ。

コイツ、一口で全部食いやがった。

どうなっても知らないぞ。

「まっっっっっず!!!何コレ!?オェエ!!まっず!!え、何この不味さ!!あり得ない!!エンジェルフォール並みに不味いんですけど!?何この腐ったヌートリアの肉をダンプカーで挽肉にしたものをオジサンが3日連続で履いた靴下に入れて下水に一週間くらい漬けた後ガソリンと生ゴミをトッピングしたみたいな味!!これ作ったヤツ、マヂでチョウチンアンコウのチョウチンをノドに詰まらせて死ねばいいのに!!」

…絶望的に分かりにくい例えだが、この汚物を食った身としては、言いたい事はなんとなくわかる。

これは、この世のものとは思えない程おぞましい代物だった。

「てかサトにい!!なんでこんな物押し付けたわけ!?ゴミクソ不味いんですけど!!」

押し付けてない。お前が自分で食ったんだろ。

俺は、ちゃんと忠告をした。それで勝手に食ったお前が悪い。

「でも、そんだけ不味いモン食っとけば、昼飯は一段と美味く感じるだろうよ。ほら、飯の時間だ。行くぞ。」

俺たちは、二人でレストランに向かった。

「おっ、あーちゃん珍しく早いね!菊池っちと一緒だから?」

「ねえ、ナツねえ聞いてよー!サトにいが、あーちゃんにゴミみたいな味のおまんじゅーを押し付けてきたんだよ!?サイアクだよね!?」

「…押し付けてない。コイツが自分で食ったんだ。俺は食うなと忠告した。」

「…どんだけ不味かったの、そのお饅頭。」

「そりゃあもう、地獄のような味だったよ…。」

「はは、見つけても食わねぇようにするわ。」

二人だけ、その饅頭に好奇心を示す奴がいた。

「ふむ…それだけ不味いのであれば、逆に気になりますね。お二人共、どこでそれを手に入れたのか教えて頂けませんか?」

「私も、動画のネタに使ってみたいな…カークランド君、後で一緒に行こう?」

「猫西さんに誘って頂けて光栄です。勿論、一緒に行きましょう。」

…チャレンジャーだな、あの二人。

こんな所で二人一気に脱落とか、洒落になんねえからやめてくれよな…?

そんな話をしていると、全員揃った。

全員で食事の挨拶をし、昼食を食べた。

 

昼食の後は、自由時間となった。

俺はまず、売店に向かい、ガチャを引いた。

今回は、花のブローチと、大きなダイヤモンドの付いたアクセサリーが出てきた。

景品をポケットにしまって戻ろうとすると、射場山と会った。

「…あれ、菊池じゃん。何やってんのこんな所で。」

「ああ…ちょっとガチャを回しにな。」

「ふうん。」

「お前は?」

「散歩。」

「…なあ、射場山。この後時間あるか?」

「なんで?」

「ちょっと、お前の話を聞きたいと思ってな。」

「…人と話するの苦手なんだけど。…まあ、今やる事ないし…いいよ。」

「ありがとう。じゃあ、場所どこにしようか?」

「そこのベンチでいいんじゃない?」

「そうだな。」

俺たちは、売店のベンチに座った。

 

「…。」

「…。」

「…なんか喋ってよ。気まずいんだけど。」

「…ああ、えっと…あ、そうだ。お前にプレゼントがあるんだ。こんなの、どうだ?」

俺は、射場山に花のブローチを渡した。

「…私に?」

「ああ。よかったら受け取ってくれ。」

「…ありがと。」

「なあ、射場山。お前の話を聞かせてくれるか?」

「…プレゼント貰ったし、いいよ。話してあげる。」

「じゃあ聞くが、お前はなんで『超高校級の弓道部』に?」

「…別に、大した話じゃないけど…小さい頃から弓道やってて、それ以外に特技とか無かったから、弓道ばっかりやってたら『超高校級の弓道部』にスカウトされたってだけの話。周りからは『鷹の目』なんて呼ばれたりするけど、それだって弓道ばっかりやってたから自然と目が良くなっただけだし。…みんなそう。私は大してすごい才能を持ってないのに、『超高校級』だってだけでチヤホヤして…ホント口ばっか。私は、何も知らないくせにそうやって表面だけの言葉を並べる奴が嫌いなの。」

射場山は、他人以上に自分に厳しいタイプだ。

何も知らない連中に、結果だけを褒められるのが気に食わないんだろうな。

「射場山。…俺、お前の事勘違いしてたよ。てっきり、孤高の天才って感じだと思ってたんだが…本当は全然そんな事無くて、自分を律してお前なりに必死で努力してたんだな。今の話聞いててよくわかったよ。…けどな、お前の才能は、決して大した事なくなんてないぞ。もっと自分に自信を持ってみろよ。」

「…ん。」

射場山は、照れ臭そうに下を向いた。

「そうだ。ここに来るまでの話とか、聞かせてくれるか?」

「…入学式に参加するために、校門をくぐろうとしてた。…そしたら意識を失って、気付いたらちょうどここで横になってた。」

「ここに連れて来た奴に心当たりは?」

「…無い。あんたはあるの?」

「色んな奴から話を聞いたけどやっぱり、誰が何の目的でこの合宿を主催してるのかはわかんねえままだな。」

「…ふうん。」

「お前さ、ここから出たらやりたい事とかあるのか?」

「…それ、言っていいの?それを語り出した奴が死ぬってフィクションではよくあるパターンだけど。」

「それはフィクションの話だろ?お前は、やりたい事を話しただけで死ぬなんて事、あり得ると思ってるのか?」

「…まあ、そうだけど。…私は、まだ決めてないかな。何をしたいかは、ここを出てから決めたいと思ってる。」

「そっか。見つかるといいな。やりたい事。」

「…ん。」

「じゃあ、趣味とか、好きな物とか教えてくれるか?」

「…弓道。」

「だけ?」

「悪い?」

「…いや、悪かねえけど…」

「…。」

「射場山、ありがとな。色々教えてくれて。」

「…ん。」

俺は、射場山に礼を言って、売店を後にした。

 

《射場山祐美の好感度が上がった》

 

『ピンポンパンポーン!!オマエラ、今すぐレストランに集合してくださーい!!』

…何だ?

今まで何も干渉してこなかったくせに、ここに来て召集…

何を考えているんだ一体。

俺はレストランに向かった。

 

レストランに着くと、既にいつもの10人は集まっていた。

饅頭を食いに行った二人は、なんと生きていた。

「あのお饅頭、大して不味くなかったですね。期待して損しました。」

「だよねえ。動画にするんだから、もうちょっとインパクトがある味が良かったな〜。」

何を言っているんだ。

動画のために不味い物ばっかり食って慣れてる猫西はまだわかる。だがジェイムズよ。なぜお前があのダークマターを完食できたのだ。

「そういえばさ、なんかあの遺跡、変な事すると呪われるらしいよ。」

「…こ、怖いですね…。」

近藤と床前が何か話している。

しばらくして、マイペース5人衆がレストランに来た。

『遅いでちゅ!!皆様が全員集合ちゅるのに30分かかりまちた!!全く、最近の若者はこれだから!!』

『そうそう。今すぐ集合って言われてるんだから、少なくとも10秒後には集まってないとねえ。』

「無茶言うなっス!!」

「ア●ムなら出来そうですけどね。」

「カークランド君、妙にアニメとか色々知ってるよね。」

『コラー!!そこ、脱線しないの!!』

『…学園長、オイラたち、完全にナメられてまちぇん?』

『まあ、ボクみたいなベリーキュートなクマをペロペロしたい気持ちは分からなくもないけど!』

「何の用だ綿埃共!!くだらないことでこの私を呼びつけたんだとしたら、ギッタギタに踏みにじってすり潰すぞ!!」

『へえ、そんな口利くんだ。へえ。ボクは、そういう威勢のいいヤツ嫌いじゃないけどね…うぷぷ!』

モノクマの左目が、朱く光る。

「神城、無闇に刺激するな。下手したら殺されるぞ。」

「…チッ。今だけは、愚民共に合わせてやる。ありがたく思え!!」

『ふう…良かったでちゅ。危うくゲームの駒が減るところでちた。』

「…それで、何なのさ。全員をここに呼び出すなんてさ。」

『…オマエラさあ、もう4日だよ!?なんで誰一人殺してないわけ!?オマエラ、最初はあんなに帰りたがってたくせに、もうどうでも良くなっちゃったんだ!?』

『オイラ悲ちいでちゅ。皆様が、ここまで不良生徒だとは思いまちぇんでちた。』

「君たちさ、ウチらをずっと離島に隔離してふんぞり返ってるみたいだけどさ、そのうち、警察がウチらを見つけるよ!!そうしたら、君たち二匹とも牢屋行きだよ!!」

『警察…?ぴきゃきゃ…皆様、本気でちょんなものをアテにちているんでちゅか?』

「…笑い声『ぴきゃきゃ』なんですね。」

「カークランド先輩、黙っててくださいよ。」

『残念でしたー!!この島には、警察自衛隊海軍空軍だーれひとり来ません!!オマエラは、この島に隔離された事を誰にも知られずに一生過ごさねばなりません!!オマエラってさあ、本っ当に…バカだよねー!!』

「ライア●ゲ●ムのフ●ナガじゃん。」

「黙ってろ。」

「…それで、用件は何ですか?私達を侮辱するためだけに呼び出したわけではありませんよね?」

『オイラ達は、皆様より100京倍忙ちいんでちゅ!ちょんなくっだらないことでわぢゃわぢゃ呼び出ちゅわけないでちょうが!!』

「だったら、早く話せよ。俺らも、お前らのドタバタ漫才に付き合う義理は無い。」

『うぷぷ…では、お話しましょう。ボクね、気付いちゃったんだ!!いくら外に出してあげるっていう条件をチラつかせても、小心者のオマエラには自分に実害の無い他人をいきなり殺すなんて事できないってね!!…足りないものがあったんだよ。』

「…足りないもの?」

 

 

 

動機だよ!!動機が足りなかったんだ。』

 

「動機…だと!?」

『今回、チキンな皆様のために、チュペチャルな動機をご用意ちまちた!こちらでちゅ!!』

モノハムは、クロッシュが被さった皿を持ってきて、クロッシュを開ける。

 

「…チキン?」

モノハムが持っている皿の上には、こんがりと焼かれたチキンが乗っていた。

「…は?なんだよこれ?」

「臆病者だけに、チキンって事?あっはは!そのジョーク、マイナス273.15℃!!」

「絶対零度ですね!」

頭のネジが飛んでる2人が、変なところで盛り上がっている。

「…そこは一体何を盛り上がってるんだ。」

『冷蔵庫の中も確認ちてみてくだちゃい?』

「おわぁあ!?何これ!?冷蔵庫の中が、全部鶏肉になってる!!」

「…ほんとっス。全部カシワになってるっス!!」

「カシワ?柏餅の葉っぱですか?」

「…鶏肉の事だよ、カークランド君。」

『これが動機だよ!ボクは今日から、鶏肉以外の食べ物は一切持って来ないよ!売店のインスタント食品も、全部撤去させていただきました!!』

「くだらねぇ。確かに、毎日鶏肉しか食えねえのはキツいかも知れねえけど…そんなしょうもないイタズラで、俺らが人を殺すと思ってんのか?」

『うぷぷ…殺すよ?早ければ今日か明日にでも、この中の誰かが死体になってるかもね!じゃあね!』

モノクマとモノハムは去っていった。

「…ケッ、好き勝手言いやがって。」

「全くだよ。鶏肉で殺人なんて起こるわけないじゃん。」

「…で、でも、この中に鶏肉が嫌いな人がいたら…」

「だからって、兄弟を殺すような奴はこの中にはいねえ!!」

「近藤さん、美味しいお料理をお願いしますね?」

「任せて!!いくら素材のバリエーションが少なかろうと、それで音を上げるようじゃ料理人失格だっつーの!」

今日は、鶏肉パーティーだった。

材料が一種類しか無かったが、それでも近藤の料理は、俺の舌を全く飽きさせなかった。

 

食事の後は、自由時間となった。

「あと話をしてないのは…」

俺は、ホテル内を歩き回った。

「…いた。おい、神城。」

「あ?なんだモブ。愚民如きが、この私に何の用だ!!」

「神城、お前に渡したい物があるんだ。この後時間あるか?」

「フン、テメェら愚民のために割いてやる時間なんて、1秒も無えんだよ!!…だがまあ、私は女神のように優しいからな。貴様の態度と私への貢ぎ物次第では、貴様と話をしてやらんでもない!!」

「…くっ、お…お願いします神城様。お話を聞かせてください。」

「フン!」

グリッ

「!!?」

一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

次の瞬間、右足の甲に激痛が走る。

「〜〜〜〜〜〜ッ!!!」

っふぅおぁあああああああああ!!!

痛っっっっっっってぇええええええええええええ!!!

…コイツ、ヒールで人の足を踏みやがった…!

あまりの痛みに、俺はその場で転げ回った。

神城は、俺の顔の前に左足を突き出した。

「フン、愚民には地べたがお似合いだ。貴様のせいで靴が汚れた。…舐めろ。」

「っっっっ…」

「どうした?早く舐めろ。…舐めろっつってんだろうがモブがッ!!」

神城は、俺のプライドをズタズタにへし折ってくる。

「くっ…」

俺は、右足の激痛に耐えつつ、神城に近づいた。

「…おい。テメェ今、私のパンツ見たろ。」

…は?

「テメェ…愚民のくせに、いい度胸してるじゃねえかよ!!この変態野郎!!あぁん!?」

完全に言いがかりだ。

誰がお前のパンツなんか見るか。

「テメェには、キツいおしおきが必要らしいなぁ…立て!!」

「…。」

「オラァ!!」

「ぐっふぅ!!?」

っっっ、痛っっっっっっっっっっっー!!!

あまりの痛みに、俺はその場に蹲り、悶え苦しんだ。

ソイツは、俺の、男の体で一番大事な部分を蹴りやがった。

「フン、今日の私は機嫌がいい。特別に、私の部屋に入れてやる。ありがたく思え!!」

…コイツ、もしかして最初から金的がしたかっただけなんじゃ…。

 

 

『超高校級の外科医』の個室

 

「フン!!どうだ愚民!!私の部屋は!!」

「は…はぁ…非常にエレガントかつマーヴェラスです。さすが神城様のお部屋ですね!」

「ふはははは!!だろ!?もっと褒めてもいいんだぞ!!」

神城の部屋には、あらゆるところに過激なプレイをするための道具が置かれていた。

本棚には、申し訳程度に医学や薬学の本が並べられている。

もう『超高校級の外科医』って言うより、『超高校級の女王様』だろ。

「それで愚民、私に貢物があるって言ってたな!!何が貢ぎたいのか、物によっては受け取ってやらん事も無えぞ!!さっさと見せてみろ!!」

「…お気に召すかはわかりませんが、このような物をご用意させて頂きました。」

神城にアクセサリーを渡す。

「へえ、本物のダイヤじゃねえか。50カラットはあるな。貴様のような愚民がよく用意できたな!褒めて遣わす!!」

「あ…ありがたき幸せ…」

「フン、まあ、私は宇宙より広い心を持ってるからな。貴様の功績を称して、この私が自ら話をしてやろう!!」

「ありがとうございます…」

「おい愚民。足がむくんだんだけど。ちょっと四つん這いになれよ。」

ぶん殴りてえ…

「くっ…こうですか?」

「そうそう。…あー、いいわこれ。おい愚民、今日から貴様を足乗せ係に任命してやろう!ありがたく思え!!」

 

ふ ざ け ん な

 

「あ、ありがとうございます…」

「モブ、貴様に質問する権利をやる。質問によっては、私が自ら答えてやろう。」

「ありがたき幸せ…で、では…神城様は、なぜ『超高校級の外科医』に?」

「ほう…貴様、この私の才能に興味があるのか。いいだろう。特別に教えてやる!!…神が創造した最高傑作は楽園でも、この世界でも、キリストでもない。この私だ!!いや、私こそが神そのものだ!!」

大丈夫かコイツ…一度医者に診てもらった方がいいんじゃないか?

あ、そっか、こいつが医者だった。

「さすが神城様…ですが、俺のような愚民の低脳では、神城様の崇高なるお言葉を理解できませんでした。…もう少し、このモブめにわかるように説明して頂けませんか?」

日本語訳:頭おかしすぎて何言ってんのかわかんないからちゃんとわかるように説明しろ。

「フン、しょうがねえな全く。…私は、生まれた瞬間からその他共とは違っていた。親ですらも、私の前ではただの『その他』に過ぎなかった。そうして15年生きてきてわかったが、この世界の私以外の全ての人間は猿も同然だ。生まれ持った才能が、全てにおいて私より遥かに劣ってるんだよ!…いや、そもそも完全無欠のこの私が、愚民共と比べられる事自体が屈辱なんだよ。私はな、完璧すぎたんだ。あまりにも天才すぎた。私が完璧すぎるが故に、世界が私について来られなかったんだ。常に私は、愚民とは違う景色を見ていた。小銭稼ぎのために医師国家試験を受けてみたんだが、それも余裕でクリアしちまってな。それで、私は『超高校級の外科医』に選ばれたんだよ。全く、愚民風情が私の肩書きを決めるなんておこがましすぎんだろうが!!…でも私は女神のように寛大だからな。仕方ないから、私が愚民共に合わせて『超高校級の外科医』を名乗ってやった。」

あたかも周りが悪いみたいな言い方をしているが要するに、自分が他人に合わせる事が出来なかったから孤立して、結局やりたい事も見つからないまま、適当に選んだ道で『超高校級』という肩書きを手に入れたって事かよ。

希望ヶ峰学園に入るために毎日必死で努力してる奴や、あと一歩で『超高校級』に手が届かなかった奴、進みたい道とは違う才能で『超高校級』に選ばれてもその才能を磨くために切磋琢磨してる奴…そういう奴らだっているっていうのによ。そういう奴らを見下して、適当にやったらなんとなくできたから『超高校級』を名乗るっていうのは、なんかいけ好かないな。

「いやあ、素晴らしいですね、神城様は。さすが、俺らのような愚民とは違った世界を見ていらっしゃいます。このモブめも肖りたいものですなあ。」

「フン、貴様如きがこの私に1ミリでも近づこうなんて、5000阿僧祇年早えんだよ!!」

いちいち癇に触る女だ。まさかたった4日で、本気で殴りたい女が2人も見つかるとはな。

「そういえば、神城様は、なぜこの合宿に参加させられているのか、心当たりは無いのですか?」

「愚民の分際で、私に許可なく話を変えるんじゃねえよ!!」

痛い痛い痛い!!ヒールで踏むな!!

「フンッ、仕方なく愚民共が主催する入学式に、この私が直々に参加してやろうと校門をくぐった途端、意識が途切れて…気がついたら、診療所の診察室に突っ伏していたんだ。しかもその後、たまたまベッドで寝てた帽子と遭遇して…アイツは、なんでこの私にひれ伏さねえ!?まるで自分が私と対等かのような態度で接してきた上に、頭のおかしい言動でこの私を振り回しやがって…本っ当に屈辱!!」

頭がおかしいのはお前の方だろ。自覚しろ。

しかし、コイツもジェイムズの天然発言には勝てなかったか。

「まあどうせ、神であるこの私に、恐れ多くも嫉妬した愚かな塵芥が仕組んだ事だろうな。…だが、自分を『超高校級』などと名乗って、他のクズ共とは違う存在だと錯覚してる愚民共と同じ扱いをされているのが気に食わねえ。」

俺も、お前が仲間に対してそんな事を言うクズだとは思わなかったぞ。

「…おいモブ。もうこの話題は飽きた。次の話題を用意しろ。」

「そうですね…神城様は、ここから出られたらまずは何をするおつもりですか?」

「フン、いいだろう。教えてやる。もちろん、私にこんな屈辱的な仕打ちをしたゴミに制裁を加えに行く。」

「それは素晴らしい事ですね…」

「当たり前だ!…おいモブ、次の話題。」

「ええと、神城様。ご趣味とご特技、あとはお好きな物はなんですか?」

「フン、趣味は、愚民を憐む事。特技は、この私そのもの。好きな物はもちろん、完璧すぎるこの私だ!!」

腹立つなコイツ。

まあ、それは今に始まった事じゃないが。

「なんだテメェ。面白い質問はできねえのか!!つまんねえモブだな!!もういい、早く私の部屋から出て行け!!部屋が汚れる!!」

神城は、俺を部屋の外に追い出した。

…自分から部屋に招き入れておいて、なんだこの女は…。

俺は、部屋に戻って寝る支度をし、そのまま眠りについた。

 

《神城黒羽の好感度が上がった》

 

 

コロシアイ合宿生活5日目

俺は、7時前に目を覚まして、朝の支度をした。

ちょうど7時になると、モノハムの甲高い声が鳴り響く。

…この合宿も、今日で5日目か。

モノクマは、殺人が起こるって言ってたが、そんな事あるはずがない。

…そうだ、今日は、近藤が朝飯を作る所を見に行こう。

この時間なら、まだ作り終えていないはずだ。

俺は、レストランへと向かった。

 

レストランに着いた。

「…あれ?」

おかしい。

普段なら、とっくに近藤が朝飯を作り始めてる時間なんだが。

レストランの照明が点いていない。

「おい、近藤?まだ来てないのか?」

返事はない。

レストラン中を見渡しても、近藤の姿は見当たらない。

…アイツが遅刻するとは思えないんだが。

一応、ホテルの方も見てみるか。

俺はホテルに戻った。

 

「あっ、おはようサトにい!…どったの?さっきまで外にいたの?はっ!まさか!あーちゃんに会いたくなったんだな!?」

「おい、近藤知らねえか?」

「ナツねえ?知らないよ?まだ寝てんじゃないの?」

「…もう飯を作り始めてる時間なんだが。」

「さあ?きっと、カローで倒れたんだよ!ずっとみんなのごはん一人で作ってたもんね!ロードーキジュンホーを守れー!!」

「縁起でもない事言うな。」

 

 

 

 

『オマエラ、死体が発見されました!!モノクマーメン遺跡にお集まりください!!』

 

 

 

 

…え?

嘘だろ?

死体…?

そんな馬鹿な話があるか、殺し合いなんて起こるわけ…

俺は、モノクマの放送を信じられなかった。

それでも、走って遺跡へと向かった。

ぬかるんだ道を駆け抜けて、遺跡の中へと入っていった。

…頼む、どうか嘘であってくれ…!!

そう願いながら、俺は最奥の黄金の部屋の扉を開けた。

そこには…

 

 

 

目を疑う光景が広がっていた。

いいや違う、わかっていたはずだ。

わかっていたはずなのに、俺の頭が、それを受け入れる事を拒んだんだ。

その場に立ち込める腥い匂い。

床に広がる、暗く、それでいて強烈な緋の色。

胸に深く突き刺さった、照明の光を浴びて煌々と輝く緋色に染まった刃物。

ソイツは、電源が切れたかのように全ての活動を停止し、ただそこで無気力に転がっていた。

目の前の光景は、俺に痛烈なまでに現実を突きつける。

まるで、俺たちの日常を、思い出を、希望を…その全てを嘲笑うかのように。

…どうしてお前が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『超高校級のパティシエ』近藤夏美は、そこで死んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コロシアイ合宿生活 残り15名



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第1章 非日常編①(捜査編)

『ウチのお菓子食べて元気出しなよ!』

 

 

 

 

…どうして。

昨日まで、あんなに元気だったのに。

みんなのために飯作ったりとかしてくれてたのに。

今までの全てを否定するかのように、体温を失った近藤は横たわっていた。

昨日まであんなに輝いていたその瞳は、濁りきって何も映さなくなっていた。

産まれて初めて目の当たりにする惨殺死体。

俺の頭は完全に思考を停止し、声を出すことすらままならなかった。

 

「…うっ…うう…」

 

その声に、我を取り戻した。

部屋の隅で、床前が蹲って泣いていた。

…多分、床前が第一発見者だったんだろう。

「大丈夫か?…って、大丈夫じゃないよな。…立てるか?」

「…は、はい…すみません…。私…近藤さんの事が心配になって、探してたんですけど…見つけたらこんな事に…私、ショックで気を失ってしまって…すみません…!」

「床前は悪くないよ。とりあえず、一旦落ち着こう。…って言っても、こんな状況じゃすぐには落ち着けないよな。」

「…すみません、私…怖くて…」

「…そうだよな。でも、みんなが来るまで、ここで一緒に待とう。な?」

上着を床前の肩に被せる。

「…はい、ありがとうございます。」

 

開いた扉の奥から、人影が迫ってくる。

その人影は、走って部屋にやってきた。

「遅れて登場セーラーあーちゃん!月に代わってオシオキよ!…って、サトにいどうしたの?コ●ンの被害者の第一発見者みたいな顔して。」

「…珍しく絶望的に分かりにくい例えが的中したな。」

「ほぇ?それってどういう…」

アリスは、近藤の死体を見た。

「はぎゃあああああ!?な…ナツねえ…死んどる!!そうだ、とりあえずオソーシキの準備しとこ!でもオソーシキってつまんないからあーちゃん嫌ーい!…まあ、出た事無いんだけどねー。」

「黙れ。」

クソガキが不謹慎な発言をしているうちに、他のみんなも集まってきた。

「…おい、嘘だろ…?」

「クソッ…畜生ッ…守れなかった…クソォッ!」

「…なんて事。」

「近藤さん…」

「そんな、こ、近藤が…」

「わぁあああああ!!?こ、近藤先輩!?」

「…嘘でしょ。近藤さんが、なんで…!」

「…近藤、あんた…なんでこんな…!」

「ぎゃあああああ!!こ、近藤氏が、近藤氏が…!!」

「これもまた定めか…人死んだマジで怖いお家帰りたい

「ケッ、こんな事だろうと思ったよ。情けねえな、愚民が。」

「…チッ。」

目を見開いて驚く玉木と射場山。

目の前の悲劇に動揺しつつも冷静に状況を分析する速瀬とジェイムズ。

ショックのあまり、その場に座り込むリタ。

壁を殴りながら自分の非力さを悔いる郷間。

叫び声を上げて慌てふためく織田と小川。

口を手で塞ぎながら泣く猫西。

ガクガクと震えながら強がる森万。

普段と何も変わらない神城と狗上。

それぞれが、仲間を失って、悲しみ、そして犯人への怒りを抱いた。

 

『うぷぷぷぷ!全員揃ったみたいだね!…全く、あんだけ啖呵切ってたくせに、こんなにあっさり殺されちゃってさ!なっさけない女だよね!!』

『全くでちゅ!…まあ、こうなるのは()()()()()んでちゅけど。』

『ちょっと、そういう事言わないの!このポンコツハムスター!』

『ひぃいい〜!ごめんなちゃ〜い!!』

突然現れた二匹のぬいぐるみが、目の前でプチ漫才を始めた。

「あ、クマちゃんにハムちゃん!」

「おっ、お前らは…!」

「おい、郷間。一旦落ち着け。」

『あれ?なんかボクたち、嫌われてない?モノクマ&モノハムといえば、希望ヶ峰学園の二大マスコットだよ!』

「うるせぇ。」

「ねえ、嘘でしょ…?近藤さんが死んだなんて…ドッキリかなんかだよね…?」

『猫西サン、このご時世、『実は生きてました』とか、『実は全部ドッキリ』でした、なんてオチが許されると思ってんの!?ねえ、モノハム教頭。』

『ちょの通りでちゅ!ちょこに転がってるのは、紛れもなく近藤様の死体でちゅ!』

「お前らが…夏美を…兄弟を殺したのか…!」

『は?何言ってんの?頭大丈夫オマエ?そのゴリゴリの筋肉に、脳みその栄養全部持ってかれてない?』

 

『もうわかっているはずでちゅ。近藤様を殺ちたのは、紛れもなく皆様のうちの誰かなのでちゅ!』

 

…そうだ。

本当はわかっていたはずだ。

この中に、殺人犯がいるんじゃないかって事は。

でも、そうじゃないって信じていたんだ。信じたかった。

その信頼は、モノハムの一言によって、いとも容易く砕かれて散った。

 

「じゃあなんだ、夏美を…俺たちの兄弟を殺した犯人は、ひとりで帰郷したいって事かよ…クソッ、そんなの…まかり通っていいのかよ…!?」

『うんうん、そうだよね!みんなからしたら、大切な仲間の命を奪った殺人犯が、のうのうとここから抜け出すのを黙って見逃すわけにはいかないよね!…という事でオマエラに、罪人を裁くチャンスを与えます!』

「チャンス…?」

『皆様、合宿の心得の6ちゅめを覚えていまちゅか?』

「…『誰かを殺したクロは帰郷となるが、誰かに自分がクロだと知られてはいけない』というルールでしたね。」

『ちょうでちゅ!今から、ちゃんとルールを守って殺ちぇてたのかどうかの審査を行なうのでちゅ!』

『ルールは簡単!今から一定時間、オマエラには近藤サンの殺人事件の捜査をしてもらう。その後行われる全員参加型の学級裁判で、近藤サンを殺したクロが誰かについて議論をし、見事クロを当てられたら…』

全員が、息を飲んで次の言葉を待つ。

 

 

 

『…そのクロを、おしおきしまーっす!』

 

は?

なんだそれは。

完全に後付けルールじゃないか。

「おい、なんだその後付けルール!聞いてねえぞ!」

『うっさいなあ!これだから最近の若者はさあ!すーぐに『聞いてない』『知らなかった』とか言って責任転嫁しようとするんだから!ホントそういうの良くないよ!』

「…お、おしおきって、一体何されるんですか…?」

『うぷぷ…それはね…裁判が終わってからの、お楽s『ざっくり言ってちまうと、処刑でちゅ!ぴっきゃっきゃ!』

『コラァー!何ネタバレしてくれてんの!?オマエそろそろクビにするよ!?』

『わぁあああ〜!オイラまたやっちゃいまちた〜!オイラのかわいちゃに免ぢて許ちてくだちゃ〜い!!』

『どこがかわいいの?どこぞのとっとこハムスターみたいな声して、あざといんだよオマエ!今回は特別に許すけど、次やったらおしおきだからね!』

『お、おちおきは勘弁ちてくだちゃ〜い!』

二匹は、また漫才を始めた。

「…先程『見事クロを当てられたら』と仰いましたよね?…外した場合は、どうなるのですか?」

『おっ、さすが速瀬サン!いい質問!…もし間違った人をクロにしちゃった場合は、真犯人は約束通り帰郷、それ以外のみんなには、おしおきを受けてもらうよ!』

「…そ、そんな…!」

「なんスかその無理ゲー!自分らはまだ、近藤先輩があんな事になって動揺してるのに…」

『ちょちたら全員死ぬだけでちゅよ?死にたくないなら、ちょの足りないおちゅむをフル回転ちゃちぇて、クロを見ちゅけてくだちゃいな。』

無茶だ。

こんな状況下で、冷静に正確な判断が下せる人間はそういない。

それに、俺たちは警察でも探偵でもない。

死体現場の調査に関しては、全員素人だ。

そんな状態で真実を暴くなんて、不可能に等しい。

…だが、今の俺たちに、モノクマの無茶な提案に抵抗するだけの力も勇気もあるはずがなかった。

ただ一人を除いては。

 

 

「ふざけんな!!」

『おや?郷間クン、どうしたの?』

「何が学級裁判だ、何がおしおきだ。ふざけんな!結局、どうなっても最低一人は死ぬって事じゃねえかよ!そんなの、俺は認めねえ!たとえ人殺しでも、兄弟の中に殺されていい奴なんているわけないだろ!」

『な、なんと〜!?まちゃか、学級裁判をボイコットちゅるちゅもりでちゅか!?』

『そんなの、許されるワケないだろー!!どうしても裁判をやめさせたきゃ、ボクたちを倒してからにしろー!』

『えぇえ!?が、学園長…ボク()()って、ちゃりげなくオイラを巻き込まないでくだちゃいよ!』

 

ゴッ

 

郷間が、モノクマとモノハムを掴んで壁に叩きつける。

『ぎゃぶっ!』

『ぐえっ!』

「悪いな。こっちは毎日鍛えてんだよ。大工の息子ナメんじゃねえ!」

「いいぞお兄ちゃん!もっとやれー!」

「そうだウド、そのまま綿埃共をギッタギタに踏みつけてボロ雑巾にしろ!」

バカ女二人が、調子に乗って郷間に便乗した。

「今すぐこんなフザけたマネをやめろ!」

『ひぃいい!!最近の若者は怖いでちゅ〜!が、学園長〜!このDQNなんとかちてくだちゃいよ〜!』

『ボクに言わないでよ、ボクは万能な青ダヌキロボットじゃないぞ〜!た、たすけて〜!グングニルの槍!』

モノクマが叫んだ瞬間…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザシュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

郷間の身体に、無数の槍が突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かっ…あ…なん、だ…こ、れ…俺…まだ、しにたく…な…」

 

その言葉を最期に、郷間は息絶えた。

郷間の周りには緋い水溜りが広がり、独特の、吐き気を催すような生臭い匂いが部屋中に立ちこめた。

さっきまでの『郷間権蔵』という人間を全否定するかのように、郷間は、物言わぬ屍となった。

 

…え?

え?え?え?嘘だろ?

さっきまであんなに元気だったのに、なんでこんなにあっさり…

おい、嘘だよな…こんなの、全部悪夢だ。

早く覚めろ。…覚めてくれ。

 

 

 

 

…これ以上、俺を絶望させないでくれ。

 

 

 

 

 

「うえ゛ぇええええええ!!お兄ちゃんが、あーちゃんの大好きなお兄ちゃんが死んじゃったよー!!」

「おい、嘘だろ…なあ、郷間…?」

「嘘でしょ…こんなの嫌…いやぁあああああああああ!!!」

「…あ、あああ…郷間さんが…郷間さんが…」

「ぎぃやぁあああああああ!!!ご、郷間先輩が郷間先輩が郷間先輩が…」

突然の出来事に動揺する玉木。恐怖のあまり叫ぶ猫西。

立ち尽くして、抜け殻のようになる床前。ショックで冷静さを失う小川。

わざとらしく泣くアリス。

「ひぎゃああああああああ!!郷間氏が…郷間氏が…!!」

「…そんな、郷間様が…」

「郷間さん…!」

「…そんな、郷間が…!」

ショックで叫ぶ織田。いつものポーカーフェイスを崩す速瀬。

常にうっすら笑っている顔を驚きの表情に変えるジェイムズ。

いつも眠そうな目を見開くリタ。

「…嘘。」

「嫌だもう無理こんなの耐えらんない早くお家帰りたい誰か助けて…」

「ひっ、ひぃいいいい!!か、完璧なこの私に同じようなマネしたら地獄行き確定だぞ!」

「…ケッ。悪趣味な野郎だ。」

呆然と立ち尽くす射場山。恐怖のあまり本音を漏らす森万。

郷間に便乗していた事で、処刑されるのを恐れる神城。

モノクマ達への怒りを露わにする狗上。

みんな、大切な仲間を目の前で失って、動揺と悲しみに打ちひしがれていた。

 

『うっぷぷぷ!まーったく、オマエラ調子乗りすぎ!!学園長と教頭への暴力は禁止って言ったじゃん!見せしめだよ見せしめ!これに懲りて、もう逆らおうなんて考えないでね!』

『ちょこのおちゅむの軽いおふたりも、郷間様と同ぢような事ちたら今みたいに串刺ちにちゅるから、気をちゅけてくだちゃいね!』

「あーちゃんおつむ軽くないもん!!」

「天才のこの私に指図するな!」

そうは言いつつ、自分の事言われてるって自覚してんじゃねえか。

 

『じゃあ、勝手に死んだ脳筋は置いといて、捜査を開始しちゃいましょう!オマエラには特別に、こちらをプレゼントします!』

しおりが急にバイブしたので確認すると、『モノクマファイル』と書かれたファイルが転送されていた。

「な、なんですかこれ…」

『ド素人の皆様では、殺人現場の調査は難ちいと思いまちて。オイラ達からの、心ばかりのプレゼントでちゅ!殺人現場の詳ちい状況が書かれていまちゅ。ぢぇひ、有効に活用ちてくだちゃいな!』

「…ふうん。じゃあ、便利なファイルも貰った事だし、早く捜査始めないと。」

『おや?射場山サン、やけに積極的だね!脳筋が死んだ事で吹っ切れた?』

「…別に。犯人の思い通りに動きたくないだけ。」

射場山の言う通りだ。

俺だってまだ、気持ちの整理ができていない。

仲間を二人も失って、冷静でいられるわけがなかった。

…それでも、俺たちはやるしかないんだ。

俺は覚悟を決めた。

 

 

 

 

ー《捜査開始》ー

 

…とりあえず、まずはモノクマファイルを確認しよう。

 

 

モノクマファイル

被害者は『超高校級のパティシエ』近藤夏美。

死体発見現場は、西エリアのモノクマーメン遺跡内部の黄金の間。

死亡推定時刻は1:30頃。

死因は、心臓部の負傷による失血及び心停止。

胸部に刺し傷が一ヶ所あり、心臓に到達している。

また、被害者の全身には打撲痕が見られる。右腕と、肋骨が数本骨折していると思われる。

 

コトダマゲット!【モノクマファイル】

 

「…次は、死体を調べないと…」

近藤の死体は、衣服を脱がされてキャミソール姿になっていた。

全身に、生々しい痣が見られる。

…犯人にやられたのか。

こんな小さな体に…さぞ痛かっただろうに。

「…ごめんな。こんな事になるまで気づいてやれなくて。苦しかったよな。」

「き、菊池氏…なぜ、近藤氏は制服を脱がされているんでしょうかねえ?」

「…お前、よくこんな無残な死体に興奮できるな。」

「はっ!…さては、そういうプレイが行われていたんじゃ…」

「やめろ。近藤の前で。不謹慎だろ。」

 

コトダマゲット!【衣服を脱がされた死体】

 

「…検視は誰がする?」

「できれば、医療に詳しい方にお願いしたいのですが。」

ジェイムズが、神城の方を見る。

「フン!愚民が私に命令する気か!?恥を知れ!!」

「チッ…このクソサド女。」

「えーっと、自分は神城先輩のゴッドハンドをぜひ見てみたいっス!自分みたいな愚民の厚かましいお願いではありますが、拝見させていただいてもよろしいっスか?」

「…騒音、テメェは自分の立場をわきまえてんじゃねえか!いいだろう、今日の私は機嫌がいい。特別に、この私が一肌脱いでやるよ!!」

…扱いやすいのかにくいのかどっちなんだ。

「これで、検視役は決まった…」

「しかし、仮に神城さんが犯人だった場合、証拠隠滅の可能性が考えられます。見張りを付けた方が宜しいのでは?」

「テメェ、愚民の分際で私を疑ってんのか!?この恥知らずが!!」

「そうだな…ジェイムズは頭脳派だから捜査の方に回ってほしいし、射場山の目の良さと集中力も捜査向きだしな…」

「…あ、あの…私がやりましょうか…?」

名乗り出たのは、床前だった。

「いいのか?」

「…はい、私、特に役に立つ才能が無いですから…私が一番適任だと思います。他の皆さんは、捜査をしてください。」

「念のため、もう一人見張りをつけとくか…そうだな、リタ、お願いできるか?」

「ふわぁ…僕ですかぁ?」

「…え、アンカーソンさんでいいの?この子、すぐ寝ちゃうよ?」

「捜査中に寝られる方が厄介だからな。床前もいるし、大丈夫だろ。」

「…まあ、そうだけど。」

「…僕も、見張りの方がありがたいですぅ。僕は疲れるの嫌いですぅ。」

「よし、じゃあ決まりだな。頼むぞ三人とも。」

「フン、検視なんざこの私が秒で終わらせてやんよ!!」

「…え、えっと…アンカーソンさん、一緒に神城さんの見張り、頑張りましょうね。」

「…ふわぁ。床前の事も見張りますよぉ。僕、寝ないようにがんばりますぅ。」

結局、遺跡内は神城が検視を、狗上が遺跡内の探索を、床前とリタが見張りをする事になった。

 

 

 

ー遺跡前ー

 

「何かめぼしいものが無いか、探さないと。…ん?」

足元の地面に、何かが埋まっているのに気がついた。

「…うわっ、すごいぬかるんでるな。」

ここ数日雨なんて降ってないのに、なんでこんなぬかるんでんだよ。

 

コトダマゲット!【ぬかるんだ地面】

 

俺は、地面を掘り起こしてみた。

そこには、割れた石のカケラが入っていた。

「…あれ?なんか文字が書いてある…」

俺は、石のカケラの回収を始めた。

「うげっ…手がグチャグチャだ。汚ねぇな。」

「…これ使う?」

「うおっ、射場山か。…なあ、この石版…何か心当たりあるか?お前は、最初に遺跡を探索してたよな?」

「…モノクマーメンの呪い。」

「え?」

「…この部屋を探索した時に見つけた石板に書かれてた内容。この島には、古代に『モノクマーメン』っていう王がいて、その墓がこの遺跡らしい。この部屋で王に無礼を働くと、王に呪いをかけられて死ぬっていう話。」

「俺が探索に来た時は、そんなの無かったけどな…」

「…もし、あんたが持ってる石がその石版なら、誰かが割って、そこに埋めたのかも。」

 

コトダマ入手!【モノクマーメンの呪いの石版】

 

「そっか…なあ、射場山。アリバイを聞いてもいいか?俺は部屋で寝てた。お前は?」

「…あの時間帯じゃ、誰も証明なんてできないし…個室にいたからなんとも言えないけど。…同じく部屋で寝てた。」

「まあ、そうだよな。夜時間は出歩き禁止って事になってるし。」

「なあ、一応お前の凶器を教えてくれるか?…お前の事を疑いたくない。」

「…ライフル。」

「…随分と物騒だな。ありがとな、教えてくれて。」

「…ん。」

「えっと、確かジェイムズ達はホテルのゴミ処理室の探索に行ってたな。俺もそっちに向かうか。」

 

 

 

ーゴミ処理室ー

 

「おう、ジェイムズ、玉木、速瀬、森万。そっちは順調か?」

「ええ、まあ。幾つか、発見した事があるので、報告しておきますね。」

「…ここに来る途中に、泥のシミのようなものが点々と続いていました。」

「泥のシミ…?」

「ああ。あと、ここに泥溜まりが…」

 

コトダマゲット!【泥の痕】

 

「それから、焼却炉のスイッチを切って中を確認した所、焼却炉の中からこんな物が。」

速瀬は、黒く焼け焦げた何かを見せてきた。

見たところ、近藤のセーラー服と、誰かの靴のようだ。

靴の方は完全に炭化して誰の物かはわからないが、近藤のセーラー服は燃え残り、よく見たらかなり汚れている。

 

コトダマゲット!【汚れたセーラー服】

 

コトダマゲット!【炭化した靴】

 

「でも、おかしいよな。」

「何が?」

「ゴミ処理室は、夜時間は立ち入り禁止だった筈だ。立ち入り禁止の柵も降りてた筈だし…」

「犯人がこんなものを仕込んだとするなら、どうやって中に入ったんだろうな。」

「森万さんなら、犯行時の状況が解るのではありませんか?」

「フン、悪いなカークランド。生憎、俺は調子が悪くてな…」

ダメだこりゃ。

「まあ、手がかりになるかはわかんねえけど、こんな物を見つけたぞ。」

玉木は、壊れた機械のようなものを見せた。

見たところ、ドローンのようなものらしい。

「どうしたんだこれ?」

「焼却炉の近くに落ちてたんだ。」

 

コトダマゲット!【壊れたドローン】

 

「森万さん、本当に事件当時の事は解らないんですか?この儘では、全員処刑されてしまいますよ。…例えば、死体に刺さってた刃物は、誰が持っていたのかとか…」

「ひっ!!?」

「おい、ジェイムズ。おどかしてやるなよ。」

「?」

「こちらからの情報は以上です。」

「…なるほどな。」

 

コトダマゲット!【森万の弱点】

 

「なあ、最後に、お前らのアリバイを聞いてもいいか?」

「私は、部屋で寝ていましたね。」

「俺もだな。」

「私も、同じく。」

「お、俺は、ずっと気配を探っていたが、なぜか昨日は調子が悪くてな…」

「なるほどな、ありがとう。」

…確か一応売店の方に猫西が探索に行って、一緒に織田、アリス、小川がくっついてったんだっけ。

俺も行ってみよう。

 

 

 

ー売店ー

 

「おう、猫西。お前、なんで売店の探索を?」

「いや、売店から何か持ち出されたものがあるかもって思って。その確認にね。」

「何かわかったか?」

「うーん…証拠になるかはわかんないけど…こんな物が落ちてたよ。」

猫西が、小さな玉のような物を見せてきた。

見たところ、アクセサリーのビーズらしい。

 

コトダマゲット!【売店のビーズ】

 

「なるほどな。…他に、なんか気づいた事とかあるか?」

「探索中に気付いたことじゃないんスけど。」

「何だ?言ってみろ。」

「…昨日、近藤先輩の様子がおかしかったんスよ。」

「と、いうと?」

「自分の料理に、全く手をつけていなかったっス。…おかしくないっスか?」

「…確かに。一口も食ってなかったのか?」

「ええ。そりゃあまあ。」

 

コトダマゲット!【料理に手をつけない近藤】

 

「吾輩からも、ちょっとした報告があります。」

「何だ?」

「昨日の夜目が覚めて、一応怪しい行動をする者がいないかどうか、ドアをうっすら開けて外の様子を見ていたのであります。」

「お前の方が怪しいだろ…」

「…確か、1時過ぎだったでありましょうか。部屋から、近藤氏が出ていくのを見たのであります。」

「だろうね。遺跡で見つかったわけだし。…それで?」

「数分後、人が出ていくのを見たのであります。」

「それは誰だったんスか?」

「…確か、床前氏でありました。」

「嘘、床前さんが…?」

「ナギねえが犯人だったのかー!!」

「まだそうと決まったわけじゃねえよ。…だが一応、頭の隅には置いておく必要がありそうだな。」

 

コトダマゲット!【織田の証言】

 

「あ、そうそう!あーちゃんからもホーコク!」

「くだらねえ事しか言わねえ気なら聞く気は無えぞ。」

「くだらなくねーし!!聞けよ!!ナツねえの事!!」

「近藤の…?おい、詳しく聞かせろ!」

「え?何?サトにい、もしかしてナツねえの事好きなの〜?」

「いいから聞かせろ!!」

「…ナツねえがね、昨日、変な事言ってたんだ。」

「変な事…?」

「えっとね、確か『やるしかない。みんなごめん。』って言ってたかな、うん。」

「…。」

 

コトダマゲット!【近藤の独り言】

 

「そういや、お前ら事件当時は何してたんだ?…ずっと覗きをやってた織田はさておき。」

「あーちゃんは夢の中にいたよ!昨日はね、あーちゃんがプ●キュアになって、怪人キチクサトーシを倒す夢だったよ!」

「人を勝手に怪人にするな。…お前らは?」

「私も寝てたね。」

「自分も寝てたっスよ。」

「なるほど、これで全員の仮のアリバイを聞いたわけだ。」

そろそろ、神城が何か情報を掴んだ頃だろうか。

俺は、再び遺跡に戻った。

 

 

 

ー黄金の間ー

 

他のみんなも、遺跡に集合した。

「なあ、狗上。何か遺跡におかしなところとか無かったか?」

「…特に。荒らされた形跡とかも無かったよ。」

「そうか。」

「おい、愚民共!!検視が終わったぞ!!」

「二人とも、神城が変な動きしたりとかしなかったか?」

「はい、大丈夫です…!」

「…大丈夫でしたよぉ。」

「神城、なんかわかった事はあったか?」

「なんだモブ。今日はやけに私に対する敬意が薄いんじゃないのか!?えぇ!?」

「人が死んでるんだ、そんな事気にしてる場合じゃねえだろ!」

「はああ!?モブキャラのくせに生意気なんだよ!!」

「まあまあ…神城先輩、お願いできませんかね?」

「フン、騒音が言うなら話してやらん事も無い!…この死体に刺さってた刃物、どうやら金箔で装飾されているナイフらしい。」

 

コトダマゲット!【金箔のナイフ】

 

「あと、この死体に見られる外傷は全部、約8〜9時間前に、それも全部短い間隔で負傷したものだと分かった。あと、打撲痕が胴体に集中してる。これが何を意味するかわかるか?」

「わかんないっスね。」

「チッ、これだから愚民はよぉ!!全部説明しなきゃわかんねえのかよ!!…要するにスイーツは、犯人から一方的に暴力を受けてたって事だよ!!手足よりも胴体の方が、面積が大きくて殴りやすいからな!」

 

コトダマゲット!【近藤の打撲痕】

 

「…なるほどな。…なあ、神城。一つ聞いてもいいか?」

「なんだモブ。くだらん事だったらハリ倒すぞ!!」

「…鶏肉が食えない病気とかってあったりするか?」

「…なんだその質問?バカなのかテメェ!」

「いいから教えてくれ。」

「チッ…まあ、弱っちい老人とガキが生の鶏肉を食ってカンピロバクターに感染して、食中毒でおっ死ぬって言う話はよく聞くけど…そうじゃねえんだろ?」

「違うな…そういうんじゃないんだ。」

「そうじゃないとすると…」

神城は顎を触りながら、上を向いて考え込んだ。

「あ。」

「どうした?」

「あるぞ。心当たりがな。」

「本当か?教えてくれ。」

「…アナフィラキシーショックだよ。」

「あ、あなふぇ…?なんスかそれ?」

「アナフィラキシーショックだっつってんだろうがバカが。…アナフィラキシーショックは、外来抗原に対する過剰な免疫応答が原因で、好塩基球表面のIgEがアレルゲンと結合して血小板凝固因子が全身に放出され、毛細血管拡張を引き起こす事で起こり、最悪の場合死に至る。ハチ毒で起こる事が多いが、アレルギー食品でも十分起こり得る病気だ。鶏肉の場合、アレルギー患者数自体が少ないからなんとも言えんが…アレルギー食品である以上、あり得ん話じゃない。」

 

コトダマゲット!【アナフィラキシーショック】

 

「床前、リタ。お前らもお疲れさん。」

「…あ、菊池さん…お疲れ様です…」

「なあ、お前ら。何か気になった事とか無いか?」

「…ええと、そういえば、その…こんな状況になってしまって、言いにくいんですけど…」

「どうした?」

「…私のナイフが、盗まれてしまって…」

「は!?」

「…今朝、引き出しを開けたら無くなってて…そのナイフが、こんな形で見つかってしまって…言ったら疑われると思って、言い出せませんでした…」

 

コトダマゲット!【床前の証言】

 

「…部屋の中にあって盗まれたって事は、部屋に招いた奴に盗まれたんじゃないのか?誰か、動機発表後に部屋に入れたりしたか?」

「えっと…はい。猫西さんと、近藤さんをお部屋に入れました。」

 

コトダマゲット!【『超高校級の幸運』の個室の立ち入り状況】

 

「そういや、お前ら犯行当時は何してたんだ?」

「…ふわぁ。寝てましたぁ。」

「…チッ、部屋で寝てたよ。」

「この私がアリバイを話してやろう!!私は、部屋で寝ていたぞ!!」

「えっと…私は…なかなか寝付けなくて、売店に行っていました。…ご、ごめんなさい…夜時間は出歩いてはいけないのは知っていましたが、どうしても眠れなくて…確か、1時過ぎくらいでしょうか。」

「散歩でもして時間を潰そうとしてたわけか。その事を証明出来たりとかするか?」

「えっと…証明になるかはわからないですけど…実は売店で、猫西さんに貰ったビーズのブレスレットが突然切れてしまって…急いでビーズをかき集めて、部屋に戻ってからはブレスレットを作り直してました。」

床前は、ポケットからブレスレットを取り出した。

虹色のグラデーションのビーズが、キラキラと輝きながら環状に並んでいる。

だが、グラデーションは完全なものではなく、一箇所だけ不自然な色の並びだった。

 

コトダマゲット!【床前のブレスレット】

 

…これで、一応全員分のアリバイは聞けたわけか。

 

コトダマゲット!【事件当時のアリバイ】

 

「なあ、神城に狗上。お前らは、自分の凶器を言ってなかったよな。…俺も、お前らを疑いたくない。教えてくれないか?」

「…チッ、工具セットだよ。」

「フン、特別に教えてやろう!!医療用メスだよ!!」

…これで、全員の凶器が判明したな。

 

コトダマゲット!【配布された凶器】

 

『オマエラ、時間切れです!ついにこの時がやってきました!お待ちかねの学級裁判、始めるよ〜!5分以内に、ホテル一階の赤い扉まで集合してね〜!』

『遅刻欠席は許ちまちぇん!!問答無用でおちおきちゃちぇていただきまちゅ!!』

…赤い扉。

そういえば、そんなのあったな。

しおりのマップにも書いてあったし。

…間に合うように、そろそろ移動しないと。

じゃあ、近藤、郷間。行ってくるよ。

 

 

 

ー赤い扉前ー

 

俺が扉の前に着くと、既に10人は集まっていた。

ちなみに、一番乗りは森万だったらしい。

…やっぱりビビりなんじゃねえか。

いつもはレストランに遅れてくる狗上と神城は、珍しく早く来ていたようだった。

アリス、ジェイムズ、リタは俺より後に来た。

「…眠い。」

「ごみーん!!待った〜?」

「申し訳ありません…遅れました。」

「貴方方、ギリギリ過ぎます!あと9秒遅かったらお仕置きを受けていましたよ!?」

「すみません…途中、珍しい蝶が飛んでいたもので、つい…」

「あーちゃんもちょうちょにムチューになって追っかけちゃった!ごみーん!」

蝶に気を取られるってお前ら…

よっぽど図太いのか、それともこの状況を理解していないのか…

『オマエラ、ちゃんと時間内に来たね!そこの不思議トリオはギリギリだったけど!』

『とりあえぢゅ扉は開けておいたので、エレベーターに乗り込んでくだちゃい!皆様を裁判場へとお送りちまちゅ!』

そう言うと開かずの赤い扉が開き、エレベーターが現れる。

俺は、エレベーターに乗り込んだ。

エレベーターの内部は、広々としており、高級感の漂う空間だった。

全員がエレベーターに乗り込むと、エレベーターの籠が動き出す。

 

震えが止まらない。

俺たちは、今から命を懸けて戦わなければならない。

それも、ここにいる全員と。

この中に、近藤を殺した犯人がいる。

そいつを指摘できれば、そいつが死んで俺たちは生き残る。

でももし間違えたら…

…全員で一人を見殺しにするか、死ぬか。運命は二つに一つだ。

どちらにせよ、誰かが死ななきゃならない。

…それでも、俺は戦うと決めた。

志半ばで死んでいった、近藤と郷間の無念を晴らすために。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

『ここで、皆様にクイヂュのお時間でちゅ。この中で、近藤様を殺害ちた犯人は誰だと思いまちゅか?』

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の???』アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級のパティシエ』近藤夏美

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉

 

『超高校級の秘書』速瀬吹雪

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の庭師』郷間権蔵

 

『超高校級の漫画家』織田兼太郎

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の操縦士』狗上理御

 

『超高校級の超能力者』森万羅象

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

 

 

『…ちょうでちゅか。…ではでは、答え合わちぇは、またの機会に。』

 



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第1章 非日常編②(学級裁判編)

チーン、という聞き慣れた音と共に全員を乗せたエレベーターの籠が止まった。

エレベーターの扉が開く。

視界の先には、証言台が環状に並んでいた。

奥の方にはモノクマとモノハムの席があり、二匹が座っていた。

『全員着いた〜?それじゃ、みんな自分の名前が書いてある席に立ってちょうだいね!』

俺は、自分の席に着いた。

席は、時計回りに玉木、小川、狗上、速瀬、郷間、リタ、織田、射場山、俺、アリス、ジェイムズ、床前、森万、近藤、猫西、神城の順番に並んでいた。

目の前に、胸糞悪い光景が広がっていた。

 

近藤と郷間の席には、無邪気な笑みを浮かべる近藤と郷間のモノクロ写真に、赤いペンキで大きくバツが書かれた遺影が置かれていた。

「なんなんだよこれは!!」

『見ての通りでちゅ。亡くなった近藤様と郷間様の遺影でちゅよ。』

「悪趣味なマネしやがって…一体何が目的だ!?」

『目的って言われてもなあ。だってさ、二人をのけ者にしちゃかわいそうでしょ?』

『これは、仲間を亡くちて絶賛傷心中の皆様へのチャプライヂュでちゅ!今、どんな気持ちでちゅか?死んだ二人にまた会えたみたいで嬉ちいでちゅか?』

「人の事をコケにしやがって…!」

『は?オマエラなんて、コケ以下の雑菌だっつーの!』

『学園長!お口が悪いでちゅ!』

『あらら。失礼〜。それじゃあ、全員席についた事だし、始めよっか!!ドキドキワクワクの学級裁判を!!』

 


 

コトダマ一覧

 

 

 

【モノクマファイル】

被害者は『超高校級のパティシエ』近藤夏美。

死体発見現場は、西エリアのモノクマーメン遺跡内部の黄金の間。

死亡推定時刻は1:30頃。

死因は、心臓部の負傷による失血及び心停止。

胸部に刺し傷が一ヶ所あり、心臓に到達している。

また、被害者の全身には打撲痕が見られる。右腕と、肋骨が数本骨折していると思われる。

 

【衣服を脱がされた死体】

近藤の死体は服を脱がされ、キャミソール姿になっていた。

 

【ぬかるんだ地面】

遺跡前の地面がぬかるんでいた。

 

【モノクマーメンの呪いの石版】

割れた石版が、地面に埋まっていた。

モノクマーメンの呪いについて書かれた石版らしい。

 

【泥の痕】

ゴミ処理室の近くまで続いていた。

 

【汚れたセーラー服】

焼却炉の中に入っていた。おそらく近藤のものだろう。

防火素材だったため、燃え残ったようだ。

 

【炭化した靴】

焼却炉の中に入っていた。

持ち主は不明。

 

【壊れたドローン】

焼却炉の近くに落ちていた。

 

【森万の弱点】

『刃物』という単語を聞くだけで震え上がるほど重度の先端恐怖症らしい。

 

【売店のビーズ】

売店に落ちていたのを、猫西が発見した。

 

【料理に手をつけない近藤】

近藤は昨晩、何故か自分の手料理に全く手をつけなかったという。

 

【織田の証言】

1時過ぎに、近藤が部屋を出て行った後で、床前が部屋から出ていくのを見たという。

 

【近藤の独り言】

近藤は昨日、『やるしかない。みんなごめん。』と言っていたらしい。

 

【金箔のナイフ】

近藤殺害に使われたナイフ。金箔で装飾されている。

 

【近藤の打撲痕】

近藤の打撲痕は、胴体に集中している。何者かから暴力を受けたらしい。

 

【アナフィラキシーショック】

アレルギー物質が体内に入り込むと起こる病気で、最悪死に至るという。

 

【床前の証言】

昨晩、部屋からナイフが盗まれたらしい。

 

【『超高校級の幸運』の個室の立ち入り状況】

床前は昨晩、近藤と猫西を部屋に入れたという。

 

【床前のブレスレット】

昨晩、売店でブレスレットが切れてしまい、拾ったビーズでブレスレットを作り直したらしい。

よく見ると、グラデーションが一箇所だけ不自然だ。

 

【事件当時のアリバイ】

床前以外は、全員部屋で寝ていたとの事。

床前は、寝付けなくて売店を彷徨いていたらしい。

 

【配布された凶器】

俺はロープ、アリスは日本刀、玉木は砲丸、近藤は菌、猫西は拳銃、速瀬は十徳ナイフ、ジェイムズは化学薬品、リタは裁縫セット、小川は吹矢、郷間は金属バット、織田はバール、床前は金のナイフ、狗上は工具セット、森万は手品セット、射場山はライフル、神城は医療用メスが配布されていた。

 

 

 


 

 

 

学級裁判開廷

 

 

 

速瀬「まずは何から話し合いましょうか。」

狗上「…おい陰キャ。テメェの本職だろうが。ボサッと突っ立ってねえで、なんか言えや。」

菊池「俺に言ってるのか?…そうだな、まずは被害者の状況とかを話し合うのが定石だろうな。」

ジェイムズ「それでは、モノクマファイルを確認するのは如何でしょうか?」

菊池「そうだな、まずはファイルを確認すべきだ。」

玉木「あ、じゃあ俺が読み上げるわ。」

 

玉木「被害者は『超高校級のパティシエ』近藤夏美。死体発見現場は、西エリアのモノクマーメン遺跡内部の黄金の間。死亡推定時刻は1:30頃。死因は、心臓部の負傷による失血及び心停止。胸部に刺し傷が一ヶ所あり、心臓に到達している。また、被害者の全身には打撲痕が見られる。右腕と、肋骨が数本骨折していると思われる。…と、こんなところか?」

アリス「なんでナツねえは死んじゃったのかなー?」

菊池「さあな。…まずは、犯行の状況について議論してみたらどうだろうか。」

速瀬「そうですね、状況が分からなければ、議論を進行できません。」

狗上「…んだよ、サッカー野郎もカタブツ女も外人もやけに慣れてんな。」

速瀬「まあ、仕事柄裁判に出席した事があるので。…そんな事より、議論を始めましょう。」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

床前「近藤さんは、どうやって殺されてしまったんでしょうか…」

猫西「さあね…それを今から話し合わないと。」

ジェイムズ「…とりあえず、近藤さんは刺殺されたと言う事だけは判るのでは?」

織田「全身に打撲痕があると言う事は、撲殺の可能性も考えられますぞ!!」

小川「そうっスね、刺殺だと決めつけるのは良くないっス!」

 

【撲殺】←【モノクマファイル】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「織田、近藤の死因は撲殺じゃないぞ!!」

織田「な、なんですと!?」

菊池「モノクマファイルをよく見て欲しい。死因は、心臓部の負傷による失血死及び心停止とある。そして、胸部に刺し傷…これって、鋭利な刃物で胸部を刺されて殺されたって事だよな!?」

リタ「…ふわぁ。確かに、近藤の胸からは血がたくさん出てましたぁ。」

神城「スイーツの胸にも刃物が刺さってたしな。おそらく、あれが凶器だ。」

アリス「はい!あーちゃん、わかっちゃった!!」

玉木「おう、どうしたあーちゃん?」

アリス「あのねあのね、あーちゃん、一人怪しい人知ってるよ!」

小川「ホントっスか!?誰っスかそれは!?」

アリスは、左側を指差して言った。

アリス「ツラにいだよ!!」

 

森万「…俺!?」

森万は、一瞬なぜ自分が疑われたのかわからない、という様子だった。

ジェイムズ「アリスさん、何故森万さんが犯人になるのですか!?」

アリス「だってさ、ツラにいは超能力者なんでしょ?どこにいたって、シュンカンイドーとかサイコキネシスとかで人一人くらいカンタンに殺せるじゃん!」

ジェイムズ「だからって…森万さんに限って、そんな事あり得ません!!」

森万「…フン、カークランドの言う通りだ。俺は、自分の信条に反する能力は使わん。」

射場山「…どうだか。…少なくとも、殺人を実行できる能力を持っている事は、みんなの前で言ってるわけだし。それで犯人にされても文句言えないわよね?」

森万「そ、それは…」

狗上「ケッ、そういうこった。このインチキ野郎。このままペテンを続ける気なら、テメェは人殺しの超能力者って事になるぞ。…それが嫌なら、潔くペテンを認めるんだな。」

森万「うっ、うう…違うもん…俺は超能力者だけど、本当にやってないもん…」

森万が泣き始めた。

…なんか見ててかわいそうになってきたし、弁護してやるか。

 

【人殺しの超能力者】←【森万の弱点】

 

「異議あり!!」

 

論破

 

菊池「…森万、安心しろ。自分に不利な供述をする必要は無い。なぜなら、()()()()()()()()()()()()()()()んだからな!!」

狗上「あぁ?インチキ野郎にだけは、犯行は不可能だったってどういう事だよ?」

菊池「みんな、よく思い出してみてほしい。…森万は、刃物という単語を聞いたり連想したりするだけで震えあがっちまうような、極度の先端恐怖症だったんだ!!」

猫西「うーん、それなら犯行は無理そうだね。…だって、仮に森万君が本物の超能力者だったとしても、サイコキネシスで刃物を動かす時点でアウトなわけだもんね?」

森万「フ、フン!そういう事だ!」

森万(まさか、俺の恥ずかしい弱点が決め手になるとはな…)

ジェイムズ「そうです、だから言ったじゃないですか。森万さんは、殺人なんてしていません!」

アリス「そうなのかー。ごみーん、あーちゃん間違えちゃったー!」

菊池「…お前なあ、そうやってすぐに人を犯人だって決めつけるもんじゃねえぞ。現代日本の司法は、推定無罪が原則だ。」

アリス「でもさー、今のサイバンと実際のサイバンって、全然違うよね?全員殺す気でやらないと、自分が死んじゃうんだよー?」

菊池「だったら尚更だ。安易な判断で寿命を縮める気か。…あと、あんまり死ぬとか殺すとか平気で使うな。」

アリス「はーい!じゃあ、ちゃっちゃとギロンの続きやろーよ!」

菊池「…そうだな。」

猫西「うーん…じゃあ、次は近藤さんが殺された時の状況について、もう一回考えてみない?ファイルの読み上げじゃ、不十分だったと思うし。」

速瀬「そうですね。」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

菊池「…モノクマファイルによると、打撲や骨折…刺殺による怪我以外にも、色々怪我してるな。」

床前「酷い…近藤さんが、なんでこんな目に…」

猫西「じゃあさ、この打撲痕がなんでついたのか、話し合ってみようよ。」

小川「転んだ…とかじゃなさそうっスね。」

リタ「…ふわぁ、どこかに体当たりしたんじゃないですかぁ?」

ジェイムズ「誰かから暴行を受けたのでは?」

 

【暴行を受けた】←【近藤の打撲痕】

 

「その意見、賛成だ!!」

 

同意

 

菊池「…近藤は、誰かから暴力を振るわれて殺されたんだと思う。…そうだよな、神城。」

神城「ああ、モブの言う通り、スイーツの身体の打撲痕は、暴力を受けた奴によく見られるものだった。」

アリス「なる…じゃあナツねえは、フルボッコにされたあげく殺されるくらい犯人さんに恨まれてたのかな?」

猫西「でも、それと犯行の関連性はまだわからないままだよね。」

速瀬「…兎に角、今は事件の概要を明らかにする事が先決です。…そうですね、まずは凶器の特定でしょうか。何方か、凶器に心当たりがある方は?」

菊池「…あれがそうじゃないか?」

 

コトダマ提示!

 

【金箔のナイフ】

 

「これだ!!」

 

菊池「近藤の腹に刺さってた金箔のナイフ。おそらく、それが凶器だ。」

小川「あれ?ちょっと待ってくださいっス。…それだと、もう犯人は決まっちゃったんじゃないっスか?」

アリス「それな!!犯人さんカクテーイ!!」

猫西「菊池君、この中にナイフの持ち主がいるよね?」

 

ナイフの持ち主。…それは。

 

 

 

人物指定

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の???』アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級のパティシエ』近藤夏美

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉

 

『超高校級の秘書』速瀬吹雪

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の庭師』郷間権蔵

 

『超高校級の漫画家』織田兼太郎

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の操縦士』狗上理御

 

『超高校級の超能力者』森万羅象

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

 

 

菊池「このナイフの持ち主はお前だ、そうだな?床前!」

床前「え…ええと…」

 

反論!

 

アリス「ちょっとそれはナットクできないかなー。」

 

 

 

アリス「ねえねえー、そうやってすぐ決めつけんの良くないんじゃない?ナギねえがナイフ持ってたっていう根拠は?」

菊池「…お前はどっちの味方なんだ。」

アリス「それは置いといて、あのさ。なんでナギねえがナイフの持ち主って事になるのさ?ナギねえの配布された凶器がナイフだからって、ナギねえが犯行に使われたナイフの持ち主とは限らなくない?他にも同じナイフを持ってる人がいたかもじゃん!」

今のアリスの発言はおかしい!

 

コトダマ提示!

 

【配布された凶器】

 

「その愚論、切らせてもらう!」

 

菊池「報告会の時に、全員の凶器を確認したな?…犯行に使われたナイフを持っていたのは、床前しかいないんだ!」

床前「…!」

狗上「ケッ、まさかテメェが犯人だったとはな。地味女。」

神城「よくもこの私を欺こうとしたな!!覚悟はできてんのか!?あぁ!?」

アリス「ナギねえが犯人だったんだね!!あーちゃん、ナギねえに騙されて悲しいな〜。」

猫西「…床前さん、本当の事を言って。」

床前「えっと…私は…」

菊池「待ってくれみんな。…俺は、床前がナイフの持ち主だとは言ったが、床前が犯人だとは一言も言ってないぞ。」

神城「あぁ!?テメェが、地味が怪しいっつったんだろうがよ!!今更都合いい事言ってんじゃねえぞ!!」

ジェイムズ「まあまあ…とりあえず、床前さんの言い分も聞いてみましょうよ。それで、床前さんが犯人かどうかを判断すれば良いじゃないですか。」

…ジェイムズの言い分が正しい。

床前を一方的に犯人だと決めつけるべきじゃない。

 

 

 

議論開始

 

 

 

玉木「誰か、床前の昨晩の行動がわかる奴はいないか?」

床前「えっと…私は…」

神城「はあ!?もう犯人は地味で決まりだろうが!!今更話す事なんて何も無えよ!!」

アリス「そうだそうだー!これ以上サイバンを引き延ばすなー!あーちゃんもうだるーい!!」

射場山「…うるさい。あんたたち静かにして。床前の声が聞こえないでしょ。」

床前「あ…私の声が小さすぎるせいですよね…ごめんなさい。」

菊池「床前、無理して言う事無いぞ。俺が説明する。」

 

コトダマ提示!

 

【事件当時のアリバイ】

 

「これだ!」

 

菊池「…床前は昨日、寝付けなくて売店にいたらしい。部屋を出たのは1時過ぎだったそうだ。」

猫西「それが本当なら、売店と遺跡は逆方面だし、犯行時刻までに売店から遺跡まで行くのは無理だから、アリバイが立証できそうだね。」

ジェイムズ「…しかし…夜時間は部屋の出入りを禁止していた筈です。何故不用意に彷徨いたんですか。」

リタ「…そうですよぉ。夜くらいは、大人しく寝ててくださいよぉ。」

狗上「外人と居眠り女の言う通りだぜ。疑われるような事してんじゃねえよ。…それとも、お前がチビを殺したのか?」

床前「そ、それは違います…!」

狗上「じゃあなんで外を彷徨いた?」

床前「ご…ごめんなさい…なかなか寝付けなかったので…私、寝る前に少し外の空気を吸わないと眠れないので…」

神城「信用できねえな!おい、誰か地味女を見てた奴はいねえのかよ!?」

…あの証言が役に立つだろうか。

 

コトダマ提示!

 

【織田の証言】

 

「これだ!!」

 

菊池「織田が、犯行時刻の少し前に床前の姿を見ている。外に出ていたのは間違いない。」

狗上「おいキモヲタ!テメェなんでそれを早く言わなかった?」

織田「そ…それは…わ、忘れていて…」

森万「…フン、ごまかしても無駄だ。…大方、姿を見はしたものの、それが床前が犯人だという事を証明する確たる証拠になり得なかった、と言ったところだろう。」

小川「もし床前先輩が犯人じゃなかったら、今度は言い出しっぺの織田先輩が槍玉にあげられるかもっスからね。」

織田「うっ…」

射場山「保身のためにあえて情報を公開しなかったって事?…最低。」

織田「し、辛辣でありますぞ射場山氏!!吾輩にも、言いたくない事はあるのであります!!」

神城「でもまあ、これで犯人が決まったな!!やっぱり、犯人は地味女だったんだよ!!」

リタ「ふわぁ…そうですねぇ。…床前が犯人としか考えられないですぅ。」

床前「そ…そんな…!み、皆さん…私、本当に殺してないんです!信じてください!」

ジェイムズ「…本当に自分の事を信じて欲しいなら、約束は守って欲しかったです。」

床前「…!」

アリス「あのさー、ナギねえ。自分はみんなとの約束破ったくせにさ、みんなには自分をシンヨーしろってゆーのは、ちとムリがあんぢゃないの?」

床前「えっと…」

射場山「…終わったわね。」

床前「違う…私、本当に…」

ちょっと待て、本当にこれでいいのか?

本当に、床前が犯人なのか?

…いや、違う。…真相は、もっと奥深くに眠っているはずなんだ。

『そろそろ、犯人は決まったみたいだね!それじゃあ、投票ター…』

 

「ちょっと待って!」

 

 

 

学級裁判中断

 

 

 

声を上げたのは、猫西だった。

猫西「…まだ、結論を導くのは早すぎるんじゃない?そうでしょ、菊池君。」

菊池「ああ。この議論はまだ、事件の真相にたどり着いていない。」

狗上「あぁ?んだよ猫女。地味女が、チビを殺してねえ証拠でもあんのか?」

猫西「うん。床前さんは、近藤さんを殺してないんだよ!…今からそれを証明したいんだけど、菊池君。手伝ってくれるかな?」

菊池「ああ。一人じゃ不安なら、お前の事は俺が弁護(まも)ってやる。」

猫西「え…菊池君が私を…?えへへ…」

菊池「?ニヤけてないで、早く始めてくれ。」

猫西「あっ、ごめん…コホン、じゃあ説明するね。私は、床前さんは本当に売店にいたんだと思うよ。それなら、犯行時刻までに遺跡には辿り着けないから、床前さんの無実が証明できるよね。床前さんが売店にいたっていう証拠なら、菊池君。君は知ってるはずだよね?」

床前が、犯行時刻の数分前に売店にいた証拠。…それは。

 

コトダマ提示!

 

【売店のビーズ】【床前のブレスレット】

 

「これだ!!」

 

菊池「みんな、これを見てくれ。」

俺はブレスレットを提示した。

神城「はぁ!?これがどうしたんだよ!!」

菊池「これは、猫西が床前にプレゼントしたブレスレットだ。…ちなみに床前はこのブレスレットのビーズを売店でぶちまけちまって、そのビーズをかき集めてブレスレットを作り直したらしいんだ。」

小川「でもそれだけじゃあ、証拠にならないっスよね?」

猫西「じゃあこれならどう?」

猫西がビーズを提示した。

速瀬「何です、それは?」

猫西「私が売店で見つけたビーズだよ。…ねえ、みんな。菊池君が見せてくれたブレスレットをよく見てみて。何かおかしな所は無い?」

ジェイムズ「…あ。このブレスレット、グラデーションが完成していませんね。…使い忘れたビーズがあったのでしょうか?」

猫西「そう。そのブレスレットは、虹色のグラデーションのはずなんだけど、よく見たら完全なグラデーションとは言えないんだ。…そこでこのビーズを、その部分に重ねると…」

小川「あっ!!ピッタリ合ったっス!!」

菊池「それもそのはず。猫西が拾ったビーズは、床前のブレスレットの一部だったんだ。床前は、ビーズを一個だけ回収し忘れたんだろうな。それで、不完全なグラデーションのブレスレットになっちまったんだ。」

射場山「…それが売店で見つかったって事は。」

菊池「そう、床前は、嘘をついていなかったんだ。」

ジェイムズ「…そうだったのですね。床前さん、疑って申し訳ありませんでした。」

床前「いえ…誤解が解けて良かったです。菊池さん、猫西さん、ありがとうございました。」

織田「ん?ちょっと待ってください?では、犯人は誰なんでありましょう!?」

 

 

 

議論開始

 

 

 

織田「近藤氏殺害に使われたナイフは、間違いなく床前氏のものでした。…では、あのナイフは一体誰が、何のために?」

速瀬「恐らく、床前様に罪を着せるためでしょう。…しかし、最大の疑問は、何故床前様のナイフを犯人が持っていたのか、という事でしょうか。」

アリス「ナギねえのナイフは、ナギねえの部屋に置いてあったんでしょ?じゃあさ、やっぱりナギねえが殺したんじゃないの?」

玉木「あーちゃん、さっき、床前は犯人じゃないっていう話になっただろ。」

アリス「あ、そうだったね。ごみんごみん!あーちゃんうっかり〜!テヘペロブスカイト構造☆」

…犯人がどうして床前のナイフを持っていたのか。…それは。

 

コトダマ提示!

 

【床前の証言】

 

「これだ!」

 

菊池「床前は、部屋に置いてあったはずのナイフを盗まれたと言っていた。…そうだな、床前。」

床前「はい…なぜか、ナイフがなくなっていて…皆さんの事を疑いたくないですが、やっぱり誰かに盗まれたのかなって…」

速瀬「部屋の鍵は、鍵自体を盗まれない限り、本人しか開閉出来ない筈です。…床前様の発言が真実だとするなら、床前様が部屋に招き入れた人物が、床前様の目を盗んでナイフを持ち出したという事になりますね。」

射場山「…ねえ、誰か、誰が床前の部屋に入ったのか把握してる奴はいないの?」

猫西「私は床前さんの部屋に行ったよ。…あ、だからって私が犯人じゃないからね!」

神城「信用できっかよ!!」

菊池「…床前の部屋に誰が入ったのか、俺は知ってるぞ。」

…そうだ。アレを提示してみよう。

 

コトダマ提示!

 

【『超高校級の幸運』の個室の立ち入り状況】

 

「これだ!!」

 

菊池「動機が発表されてから近藤が殺されるまでに床前の部屋に入ったのは、猫西と近藤の二人だけだ。」

神城「ほら見ろ!!やっぱテメェが犯人じゃねえかよ猫!!」

猫西「私じゃないってば…私は、ただ床前さんとお話してただけで…」

小川「でも、床前先輩の部屋に入ったのは、近藤先輩以外には猫西先輩しかいないっス。」

ジェイムズ「…近藤さん以外には…」

ジェイムズが、小さな声で呟いた。

ジェイムズ「Was it possible (そんな事あり得るのか)…?Well(いや)Assuming that (そうだとするなら)…」

ジェイムズが英語でブツブツと独り言を言い始めた。

菊池「…どうかしたのか?」

ジェイムズ「あ、いえ…菊池さん、床前さんの部屋には、本当に近藤さんと猫西さんしか入室されていないのですよね?」

菊池「そのはずだが…」

ジェイムズ「もし猫西さんが犯人ではないとなると、可能性がもう一つ考えられます。…そして、その可能性が仮に真実だった場合、全ての辻褄が合うんです。」

狗上「チッ、どうしたんだよ外人。言いてぇ事があんならさっさと言いやがれ。」

ジェイムズ「…突拍子の無い事を申し上げる自覚はありますし、今から私が申し上げる事を不愉快に感じる方もいる事でしょう。…それでも、本当に申し上げて宜しいんですか?」

菊池「…言いにくそうだな。大丈夫だ、俺は、お前が何を言おうと覚悟はできてる。今はみんなの命がかかってるんだ。どんな小さな気づきでも、人前で言えないような事でもいい。教えてくれ。」

ジェイムズ「…それでは申し上げます。」

 

 

 

ジェイムズ「近藤さんは、誰かを殺害しようとしていた可能性が高いです。

 

 

 

…え?

 

 

 

今、なんて言った?

 

そんな、嘘だ…

 

あの近藤が、殺人を計画していたというのか…?

 

 

 

玉木「おいジェイムズ!今なんて言った!?いくら命懸けの学級裁判だからって、言っていい事と悪い事とあんだろうが!!」

ジェイムズ「落ち着いて下さい。私はただ、可能性の一つを述べたまでです。…私の中での、そうでなければいいのに、という最悪の想定でした。しかし残念ながら、今のところその可能性が高いです。」

速瀬「確かに…猫西様が犯人でないとするなら、ナイフを持ち出したのは近藤様としか考えられませんね。」

玉木「そうかもしれねえけど…アイツが誰かを殺そうとしてたなんて、信じられっかよ…」

ジェイムズ「菊池さん。先程の調査で、昨晩近藤さんにおかしな言動が見られたという情報を入手しませんでしたか?」

…アレの事か?

 

コトダマ提示!

 

【近藤の独り言】

 

「これだ!!」

 

菊池「…そういえば、アリスが近藤の独り言を聞いたって言ってたな。」

アリス「うん!ちゃんと聞いてたよ!!たしか、『やるしかない。みんなごめん。』って言ってたよ!」

速瀬「…これで決まりですね。近藤様は、何方かを殺害して『帰郷』しようとしていらっしゃったようです。」

小川「え…じゃあ、近藤先輩が誰かを殺そうとした動機って、一体なんなんスか!?まさか、たかが鶏肉で殺人を計画したわけじゃないっスよね!?」

菊池「…いや、そのまさかかもしれない。」

 

コトダマ提示!

 

【料理に手をつけない近藤】

 

「これだ!!」

 

菊池「小川、近藤は昨日、料理を全く食べなかったらしいな。」

小川「そうっスね。全然食べてなかったっス。それがどうかしたんスか先輩?」

菊池「…もしかして、近藤は鶏肉が食えなかったんじゃないのか?」

速瀬「その可能性はありますね。鶏肉が食べられないとなると、食べる物が無くなりますから。」

玉木「それでアイツは、自分が餓死しないために誰かを殺そうとしたって事かよ…クソッ!!」

 

反論!

 

床前「えっと…すみません。…その推測は、やっぱり信じられないです…」

 

 

 

床前「本当に、鶏肉が食べられなかった事が、近藤さんの人殺しの動機だったんでしょうか?」

菊池「どういう事だ?」

床前「仮に近藤さんが鶏肉を食べられなかったとして、それを事前に私達に言わなかったのはおかしくないですか?…だって、万が一の事もありますよね?」

森万「フッ、アイツの事だ。食えない食材があるのを打ち明けるのは、料理人としてのプライドが許さなかったのだろう。」

床前「…それはそうかもしれませんけど…でも、やっぱりおかしいです!鶏肉が食べられないってどういう事ですか?鶏肉が食べられなかったからって、それがどうして動機と繋がるのかがわかりません!命がかかっている状況なら、好き嫌いなんかしている場合じゃないはずです!それで餓死するかもしれないから誰かを殺そうとしたっていうのは、おかしいんじゃないですか?」

今の床前の発言はおかしい!

 

コトダマ提示!

 

【アナフィラキシーショック】

 

「その愚論、切らせてもらう!!」

 

菊池「…もし、近藤が重度の鶏肉アレルギーで、鶏肉を口にしたらアナフィラキシーショックによって命を落としたかもしれないとしたら?」

床前「な、なんですかそれは…」

ジェイムズ「アナフィラキシーショック…確か、アレルゲンに対する過剰な免疫応答が原因で、好塩基球表面のIgEがアレルゲンと結合し血小板凝固因子が体内に放出され、毛細血管が拡張される事によって起こるⅠ型アレルギー反応の一種…でしたよね、神城さん?」

神城「ああ。帽子の言った通りだ。まあ、重度のアレルギー反応だと思えばいい。」

小川「…そういや、何年か前にアレルギーで人が死んだってニュースでやってたっスね。近藤先輩も、それと同じヤツだったんスか?」

菊池「かもな。近藤はこの島にいる限り、自分から毒の塊を食って死ぬか、飢え死にするか、どっちにしろ生き延びる事は不可能だった。…だからアイツは生き残るために、最悪の手段を選んじまったんだ。」

床前「そんな…!」

アリス「なる〜。でさ、ケッキョクのところ、ナツねえを殺したのは誰なのさ?」

玉木「えっ…」

アリス「だってそうじゃん!今は、ナツねえを殺したのは誰なのかをギロンしてるんでしょ?ナツねえが誰かを殺そうとしてた事をいつまでもギロンしたって、時間のムダじゃない?」

猫西「うーん…確かに、一理あるね。みんな、犯人について考えるのを忘れてないかな?もう一回、犯人について議論してみようよ。」

菊池「…そうだな。」

俺たちは、再び犯人探しを始める事になった。

 

 

 

議論開始!

 

 

 

猫西「ねえ、菊池君。近藤さんの死体に、不審な点はなかった?どんな小さな事でもいいから、教えてくれると嬉しいな。」

狗上「おい猫女!そんな質問に、なんの意味があんだよ?」

猫西「近藤さんの死体に、犯人の特定につながる重要な手がかりがあったかもしれないんだ。それを、専門家の菊池君なら知ってるんじゃないかと思って。」

…不審な点?

アレの事か?

 

コトダマ提示!

 

【衣服を脱がされた死体】

 

「これだ!!」

 

菊池「近藤の死体は、服を脱がされていた。…なんの意図があったのかはわからないけどな。」

床前「そんな、酷い…!」

小川「うーん…犯人が近藤先輩の服を剥ぎ取ったとすると、なんで服を剥ぎ取ったんスかね?」

アリス「コレクションにしたかったんじゃないの?」

神城「知るかよ!気まぐれじゃねえの!?」

狗上「はあ?なんだよそれ。適当言ってんじゃねえぞクソサド女。」

織田「ムフフ…きっと、 過激なプレイが行われていたのであります!」

射場山「…最低。」

織田「い、射場山氏…!!?」

猫西「うーん… 証拠隠滅のためじゃないかな?」

…近藤は、犯人に暴力を振るわれた。そして、調査の結果アレが見つかった。

だとするなら、猫西の意見が正しそうだ。

 

「その意見に賛成だ!!」

 

【証拠隠滅】←【汚れたセーラー服】

 

同意

 

菊池「…犯人は、証拠隠滅がしたかったんじゃないか?」

床前「しょ、証拠隠滅…ですか?」

菊池「ああ。…これを見てくれ。」

汚れたセーラー服を提示した。

リタ「ふわぁ…なんですかこれ?…布切れですかぁ?」

菊池「そうだ。…みんな、よく思い出してみてくれ。近藤は、肋骨が折れる程激しい暴行を受けた。それに加えて、焼却炉から見つかった近藤の服…その二つの事柄から察するに、犯人は、重大な証拠を服に残してしまったと考えられないか?犯人は証拠隠滅のために服を剥ぎ取って処分したんだ。」

射場山「…犯人が隠滅したかった証拠って、何なの?」

菊池「…それは。」

…犯人は、もしかしてアレを隠したかったんじゃないか?

 

コトダマ提示!

 

【炭化した靴】【ぬかるんだ地面】【泥の痕】

 

「これだ!」

 

菊池「…服に付いた足跡。犯人が隠したかったのは、おそらくこれだ。」

小川「あ、足跡っスか!?って事は、近藤先輩は誰かに踏まれまくったってことっスか!?」

菊池「…そうなるな。あの遺跡の前の地面はぬかるんでいて、靴に泥がべったりついて滴り落ちる程だった。そんな道を歩いたせいで靴に泥が付いて、その靴で近藤を踏みつけたから、服に靴の痕が残ったんだ。それに気がついた犯人は、証拠隠滅を図ったんだ。泥の痕がゴミ処理室まで続いていたのは、犯人がホテル内に足跡を残さないために、泥の付いた靴を脱ぎ、手に持って歩いたからだろうな。そして、犯人は靴を服と一緒に焼却炉の中に放り込んで燃やしたんだ。」

猫西「…なるほどね。それなら、全部の辻褄が合うね。」

 

射場山「…話の水差すようで悪いんだけど、思い出した事言っていい?」

菊池「なんだ、どうした射場山?」

射場山「…菊池、あの石版はどうしたの?」

菊池「石版?」

射場山「…あんたがぬかるんだ地面の話をしたから思い出したんだけど。あんた、遺跡の近くで石版を掘り起こしたでしょ?」

速瀬「石版、ですか。…探索した時に見かけましたね。もう一度探索に行った時に無くなっていて、誰かが盗んだのだと思っておりましたが…」

菊池「ああ、あれなら文字が読める状態じゃなかったし、汚かったからちゃんとした状態で持って来られなかったんだ。すまん。」

射場山「…ふうん。」

狗上「ケッ…犯人は、仏頂面の言う石版を割って埋めてたって事を言いてえんだろ?だがその石版がここに無えんじゃ、証拠になんねえな。」

アリス「そうだそうだ!ここに無い物の話したってイミないぢゃん!!時間返せー!!」

小川「…まあ、石版の事は事件と関係無さそうだし…スルーでいいんじゃないっスかね?」

 

…あれ?

 

ちょっと待てよ…?

俺、わかったかもしれないぞ。

犯人は今、明らかにおかしな発言をした。

正直、仲間を疑うのは気が引けるが…もう、アイツしかいないだろう。

 

…その人物は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人物指定

 

 

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の???』アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級のパティシエ』近藤夏美

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉

 

『超高校級の秘書』速瀬吹雪

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の庭師』郷間権蔵

 

『超高校級の漫画家』織田兼太郎

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の操縦士』狗上理御

 

『超高校級の超能力者』森万羅象

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

菊池「…狗上、お前が犯人だったんだな。」

 

俺は、向かって正面右側にいる狗上を指差して言った。

 

狗上「は?…はぁああああ!?俺かよ!?」

狗上は、顔を真っ青にしながら慌てふためいていた。

全員が、一斉に狗上の方を見た。

狗上「何言ってんだよ陰キャが!!俺が犯人だって言いてぇのか!?冗談も休み休み言いやがれ!!」

小川「そうっスよ!…確かに狗上先輩は、自分らに冷たい態度取ってきましたけど…それで犯人だって決めつけるのは良くないっス!!」

床前「そ、そうです…狗上さんが犯人だなんて、信じられません…!」

狗上「バカ女に地味女の言う通りだ!俺は犯人じゃねえっつってんだろうが!!」

菊池「…いや、二人には申し訳ないが、やっぱり狗上が犯人としか考えられないんだ。」

狗上「はぁあ!?どういう意味だよ!?俺が犯人だっつー証拠でもあんのかよ!!?」

…証拠。

それは、お前自身がわざわざ提示してくれたじゃないか。

 

コトダマ提示!

 

【モノクマーメンの呪いの石版】

 

「これだ!!」

 

菊池「…おい、狗上。お前さっき、なんて言ったか?」

狗上「はぁ!?何だよいきなり!」

菊池「…確か、『犯人は、石版を割って地面に埋めた』といったいったような事を言っていたな?」

狗上「それがどうしたんだよ!!」

菊池「…俺は、石版が割れた状態で発見されたなんて一言も言ってねえし、ましてや近藤殺しの犯人と石版を割った奴が同一人物だって事を知らなかったわけだが?」

狗上「っえ…!!」

菊池「…だよな?」

神城「初耳だよ、そんな情報!!んだよ、知ってたんならもっと早く言いやがれこの愚民が!!」

ジェイムズ「私もそんな情報、知りませんでした。狗上さんが何故そのような事を知っているのか、正直疑問でしたよ。」

リタ「僕も聞いてないですぅ。」

射場山「…私は、後ろで菊池が何かやってんのを見てたから、石版が割れてるって事だけは知ってたけど…」

菊池「…この通りだ。石版が割れている事を知っているのは、俺と射場山と犯人だけ…そして、石版を割った奴が近藤を殺したって事を知ってるのは犯人だけだ!…お前はなんで、犯人が石版を割った事を知っていたんだ?」

狗上「そ…それは…」

菊池「…ついでに言うと、これは憶測になるが…狗上、お前は、石版を割っちまった事を近藤に知られて、それをネタに揺すられて黄金の間に行ったんじゃないのか?お前の反応から察するに、あの石版が今回の事件と全くの無関係とは到底思えねぇし…」

狗上「ち、ちげぇ…俺は、犯人じゃ…」

菊池「狗上、もう犯人はお前しかいないんだ。認めてくれ。」

狗上「…。」

 

 

 

 

 

狗上「うるっせぇな!!!

 

 

 

狗上は、突然今まで出した事のないような大声を張り上げて言った。

 

菊池「狗上…?お前…」

狗上「うるせえ!!!」

 

反論!

 

 

 

狗上「さっきから黙って聞いてりゃあよ、ただの揚げ足取りじゃねえかよ!!そんなモンで犯人にされてたまるかっつーの!!俺が殺ったっつー証拠でもあんのかよ!?証拠も提示せずに疑うだけ疑う気か!?冗談じゃねえ!!証拠を出せ証拠を!!俺が殺ったっつー明確な証拠をよ!!」

狗上は、声を荒げて反論した。

顔は真っ赤になり、額にうっすら青筋が浮かび上がっている。

今の狗上は完全に冷静さを失い、ただ拙い言葉で自分を庇護するのに必死になっている。

口だけの弁論じゃ、話を聞いて貰えなさそうだ。

何か、証拠があれば…

 

コトダマ提示!

 

【壊れたドローン】

 

「その愚論、切らせてもらう!!」

 

菊池「ゴミ処理室に、壊れたドローンが落ちていた。もちろん、昨日まではあんなものなかった。そうすると、夜時間中に犯人が仕掛けたものだと考えられる。…あれ、お前のドローンだろ。」

狗上「はぁああ!!?ち、違えし!!大体、なんでゴミ処理室にドローンが落ちてんだよ!?意味わかんねえし!!それにな、お前、肝心な事をハッキリできてねェじゃねえか!!夜時間中に、どうやって服とか靴とかを処分したんだよ!?テメェの憶測は、穴だらけなんだよ!!」

 

…狗上は、どうやって夜時間に服と靴を処分したんだ…?

何か思いつけ…!

…壊れたドローン、処分…もしかして。

 

 

 

 

閃きアナグラム

 

 

 

 

頭の中に、言葉の断片が浮かび上がる。

それを、素早く拾って組み合わせ…完成させる!!

 

「これだ!!」

 

 

エ ン カ ク ソ ウ サ

 

【遠隔操作】

 

菊池「…遠隔操作。お前は、自分のドローンを遠隔操作して、ゴミ処理室に侵入させ、焼却炉のスイッチを入れたんだ。そして、服と靴を処分した…違うか!!?」

ジェイムズ「そんな細かい機械操作ができるのは、狗上さん!貴方だけです!!」

狗上「ぎっ…ぐ、ぅうううう!!」

森万「フン。そして、操作ミスをしてドローンを壁か天井に激突させて壊してしまい、夜時間中で回収したくてもできなかった…そんなところか?」

ジェイムズ「森万さん、体調が回復したようですね。」

森万「フン、カークランドよ。心配かけてすまなかったな。俺の超能力も、今は本調子だ。」

猫西「…いや、それくらい誰でも想像できる気が…いや、言わないでおこうかな。」

菊池「これが、お前が服を処分したトリックだ。何か反論はあるか!!?」

狗上「ぎっ、ぐっ…がぁああああああああ!!ち、違う…!!俺はぁ…俺はぁああああ!!!」

アリス「ねえねえ、リオンにい苦しそうだよ?早くトドメ刺してあげたら?」

菊池「言い方やめろ。」

 

…だが、これ以上議論を引き延ばす理由はない。

これで、全てを終わらせる…!!

 

 

 

 

クライマックス推理

 

 

 

 

頭の中に、漫画が浮かび上がる。

そこに、ジグソーパズルのように適切なピースを当てはめ…

これが事件の真相だ!!

 

 

 

Act.1

今回の事件は、モノクマ達が用意した動機が発端だった。

一見、バカバカしく思える動機だったが、一人、その動機に殺人を決意した人間がいたんだ。

…それは、今回の事件の被害者の、近藤だった。

近藤は鶏肉のアレルギー持ちで、人を殺さないと生き延びられないから、今回の事件の犯人を殺す事にしたんだ。

そのためにまずは床前の部屋に行って、ナイフを盗んだ。

 

Act.2

4日間の自由時間中に犯人が遺跡の石版を割り、それを隠した事を知っていた近藤は、おそらくそれを利用して上手いこと遺跡に誘導した。

多分、「呪いが降りかかるから遺跡に行かない方がいい」とでも言ったんだろう。

猜疑心の強い犯人なら、その言葉に反発してすぐに遺跡に向かうだろうからな。

だが、それすら近藤の読み通りだったんだ。

近藤は、まんまと遺跡に向かった犯人の跡をつけて、黄金の間で犯人に襲いかかった。

 

Act.3

だが、ここで事件は終わらなかった。

犯人が咄嗟に反撃し、近藤は右腕を負傷した。

その時近藤は持っていたナイフを落としてしまい、それを犯人に拾われてしまったんだ。

…ここで退いておけばよかった。

だが、犯人は理不尽に自分が狙われた事に逆上し、腕を負傷して反撃の術を失った近藤を何度も蹴ったんだ。

その時、犯人は近藤の服に、自分の靴の形の泥の痕を残してしまった。

その事に気が付いた犯人は、咄嗟に近藤の服を剥ぎ取ったんだ。

 

Act.4

 

それでも犯人の怒りは収まらなかったのか、犯人は持っていたナイフで近藤を刺し殺し、遺跡を後にした。

犯人は、近藤の服と自分の靴を処分するために、ゴミ処理室に向かった。

だが、その時は夜時間で、ゴミ処理室に入れなかった。

そこで犯人は、ある方法を思いつき、一旦服と靴をその場に置いてから、急いで自分の部屋に向かった。

部屋から運搬用ドローンを持ってきた犯人は、それを操縦してゴミ処理室の中に侵入させ、焼却炉のスイッチを入れた。

さらに服と靴をドローンで運んで、焼却炉に放り込んだ。

…だが、犯人はそこで致命的なミスを犯してしまったんだ。今思えば、人を殺してしまった事による動揺のせいだろう。普段は、そんなミスしないような奴だったからな。

ドローンの操縦を誤り、壁か天井に激突させて壊してしまった。

ドローンを回収したくても、ゴミ処理室に立ち入る事は禁止されていた。

だから犯人は、仕方なくドローンの回収を諦め、その場を後にしたんだ。

 

 

 

「これが事件の真相だ。…そうだろ?」

 

 

 

 

『超高校級の操縦士』狗上理御!!!

 

 

 

 

 

狗上「ぎっ、ぐうう…があああああああああああ!!!ふ、ふざけんじゃねえ!!俺は、俺はやってねえぞ!!」

ジェイムズ「でしたら、その靴を貸して頂けませんか?」

狗上「…は?」

ジェイムズ「…その靴、犯行時に履いていたスニーカーと同じ物ですよね?それなら、セーラー服の足跡と一致する筈です。もし自分が犯人でないと言うのであれば、靴を貸して下さい。」

狗上「そ…それは…」

ジェイムズ「まさかとは思いますけど、『犯人が自分と同じ靴を持っていた』、なんて苦しい言い訳は無しですよ?」

猫西「個室に用意されていた服は、全部自分が普段着る服だもんね。靴を見せられないなら、狗上君、君が犯人で決まりだよ!!」

 

狗上「ぐっ…がぁああああああああああああああああ!!!」

 

モノクマ『うぷぷ…どうやら犯人は決まったようですね?ではでは、投票ターイム!!』

モノハム『必ぢゅ、一人一票投票してくだちゃいね!』

俺は、証言台のボタンを睨みつける。

重い腕を動かして、俺は投票した。

 

モノクマ『うぷぷ…ではでは、結果発表ー!!!』

モノハム『皆様の運命はいかに!?』

 

目の前に巨大なスロットマシーンが現れ、俺たちの顔を模したドット絵が回転する。

回転速度は徐々に遅くなっていき、ついに止まった。

そこには、狗上のドット絵が三つ並んでいた。

スロットマシーンにGuiltyの文字が浮かび上がり、ファンファーレのような機械音が鳴り響く。

スロットマシーンからは、大量のモノクマメダルが吐き出された。

 

…果たして、俺たちは正しい選択をしたのか。それは誰にもわからない事だった。

俺たちはただ、突きつけられた運命を、その目に焼き付ける事しかできなかった。

 

 

 

学級裁判閉廷

 



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第1章 非日常編③(おしおき編)

『うぷぷぷ…お見事大正解ー!!『超高校級のパティシエ』近藤夏美サンを殺した殺意まみれのクレイジーサイコクロは…一匹狼気取りぼっちDQNネーム野郎の『超高校級の操縦士』狗上理御クンでしたー!!』

モノクマとモノハムが、勝利した俺たちを祝福した。

…いや、嘲笑ったと言うべきか。

二匹のぬいぐるみは、ケタケタと笑いながら高らかに投票結果を発表した。

俺の目に、投票結果が焼印のように刻み込まれる。

…俺が、狗上に投票したから、こんな結果に…

『今回は、クロの狗上様以外は、全員満場一致で狗上様に投票ちていまちた!いやあ、仲間をあっちゃり見殺ちにちゅるなんて…皆様も意外と薄情なんでちゅね!ちなみに、クロの狗上様は、近藤様に投票ちてまちたー!』

 

 

…誰も、反論できなかった。

認めたくないが、モノハムの言う事は正しい。

俺は、俺たちは…『全員のため』『真実を確かめるため』という綺麗事を免罪符に、狗上を生贄に差し出したんだ。

最初から、こうなる事は分かっていた。

それでも、いざ現実を突き付けられると、受け入れられない自分がいる。

俺は、覚悟が足りていなかったんだ。

その覚悟が足りるほど、俺は非情になれなかった。

 

 

 

…人を見殺しにするという覚悟が。

 

 

 

「おい、狗上…お前、なんでこんな事したんだよ!!?」

玉木が、狗上に言葉を投げかけた。

「お前…この4日間で、変わったじゃねえかよ!最初は誰の事も信用してなかったのに、近藤の飯食って、一緒に海行ったりして…捜査や議論だって、力を貸してくれたじゃねぇか!!…なんで、お前が近藤を殺したんだ!お前は、仲間を殺すような奴じゃなかっただろ!!」

 

「うるせえ!!!」

 

「ひっ…!?」

いきなり狗上が怒鳴り声を上げ、猫西がビクッと身体を震わせた。

「テメェらに何がわかんだよ!!いきなり後ろから襲われて殺されそうになった俺の気持ちがよ!!なあ、わかんのかよオイ!!わかんねえよな!?」

「狗上…」

 

「…おい、綿埃。結局、スイーツが犬を狙った理由って何だったんだ?」

神城が、モノクマに質問を投げかける。

『綿埃って何だよ!それってボク達の事!?呼び方酷くない!?』

『まあまあ学園長、落ちちゅいて…』

『おっと、ごめんごめん。じゃあ、近藤サンの動機を説明しちゃうね!近藤サンは、知っての通り鶏肉アレルギーだったから、みんなのうちの誰かを殺して帰郷しようとしていたのです!…そこで選ばれたのは、なななんと!狗上クンでした!』

「…なんで狗上が狙われたの?」

『…それはね、殺しやすかったからだってさ!』

「殺しやすい…どういう事?狗上君は、このメンバーの中では体格は圧倒的に有利だし…警戒心も強いし…むしろ殺しにくかったんじゃないの?」

『あのでちゅね、殺しやちゅいっていうのは、何も物理的な意味だけぢゃないんでちゅよ!狗上様は、猜疑心が強く、誰の事も信用ちようとちまちぇんでちたよね?近藤様が頑張って作った料理も、殆ど食べなかったちょうぢゃないでちゅか。だから、この中では一番罪悪感を感ぢぢゅに殺ちぇるって近藤様は判断ちたようなのでちゅ。』

「それに、狗上様の猜疑心の強すぎる性格は、一周回って逆に利用し易いですしね。」

「ふーん、だからリオンにいは狙われたんだー。」

 

『全く、体格差も考えずにお粗末な作戦で狗上クンを殺そうとしてたなんてさ、逆によくあんな愚策で人を殺せると思ったよね!おつむが全部スポンジケーキでできてんじゃないのかな?死んで当然、同情の余地無しです!うぷぷぷぷ!!』

「そうだ、俺は悪くねえぞ!!全部、あのチビが悪いんだ!!アイツが俺を殺そうとしなきゃ、こんな事になんなかったんだからよ!!あれは正当防衛だよ正当防衛!!俺は無罪だ無罪だ無罪だ無罪だ無罪だぁああああああああああああ!!!」

「狗上君…!」

完全にただの屁理屈だ。

今の狗上には冷静さの欠片もなく、奴はただ感情に任せて怒鳴り散らしていた。

狗上の剣幕に気圧されて、俺は何も言い返せなかった。

…俺の隣に居た、ソイツを除いては。

 

 

 

 

 

「人を殺しといて、イイワケするんだ〜?」

 

アリスは、無邪気な笑みを浮かべながら狗上の顔を覗き込んで言った。

「…はっ?」

「あーちゃん知ってるよ。セートーボーエー?って、自分が殺されそうになったから仕方なく相手を殺して自分を守る事でしょ?…でもさ、どんなにいい人ぶってても、ケッキョクは人殺しに変わりないよね!」

「違う!!俺は、アイツに襲われたから…」

 

 

「ふーん。でもさ、サイシュー的にナツねえを()()()()()リオンにいでしょ?」

 

 

「ッー!!」

「ナツねえがリオンにいを殺そうとしてた事なんてどうでもいいよ。結果的に、人を殺したのはリオンにいなんだから!」

「お、俺は…」

「…狗上さん、本当に殺意は無かったのですか?」

「は…?」

「狗上さん、貴方程の身体能力であれば、近藤さんから自分を守る方法は幾らでもあった筈です。それに、肋骨に罅が入る程無抵抗の女性を何度も蹴り付けるという行為は、どう考えても正当防衛の範囲を超えています。これでもまだ言い逃れをするのは、流石に苦しいと思うのですが。」

ジェイムズが冷静に狗上を諭す。

「う…うるせぇ!!殺されかけた事もねェくせに、偉そうな口利いてんじゃねえよ!!俺は無罪だっつってんだろうがよ!!勝手にゴチャゴチャほざいてんじゃねえ!!!」

 

「…この期に及んで、まだ自分を庇護するつもりか?」

 

気がついたら、口が動いていた。

狗上の言い分もわかる。

いざ自分が死ぬってなったらこうなるのは当然だ。

…だけど、だからってそれが許される事とは思えなかった。

こんな生半可な覚悟しか無い奴に近藤が殺されたというのは、納得できなかった。

納得なんて、したいわけがなかった。

「自分の行動に責任を持たないからこうなるんだ。そもそも、お前が近藤に、みんなにもっと信用されていたらこんな事にならなかったんじゃないのか?全部、軽率に行動したお前が悪い。自分の行動一つ一つに全てを懸ける覚悟が無いなら、最初から殺人なんて犯すな。」

自分でも、最低な事を言っているのはわかっていた。全部、俺の自己満足だ。

それでも、人の命は、こんな簡単に奪われていいものじゃない。

その事を、狗上に訴えたかった。

「…お、お前らに何がわかんだよ!!俺があの時どんな気持ちだったか、お前らに…」

「わかるわけないじゃん。バカなの?死ぬの?ってかさ、リオンにいはナツねえを殺して、あーちゃん達を全員殺して生き延びようとしたわけじゃん?それなのにさ、自分が死ぬってなった途端にギャーギャー言うの?それってさ、ツゴー良すぎじゃない?」

「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさーい!!!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!!おい、バカ女、サッカー野郎、猫女!!誰でもいい、こいつら今すぐ黙らせろ!!!お前ら全員耳障りなんだよ!!俺は無罪だっつってんだろうがぁああああああああ!!!」

 

『黙るのはオマエの方だよ、バーーーカ!!』

 

さっきまで傍観していたモノクマが、ついに口を開いた。

 

「なあ、おい、俺は悪くないよな…?悪いのは全部、あのチビだよな…?」

『はぁ?何言ってんの?オマエが悪いに決まってんじゃん。バカなのかな?』

「は?は?え?おい、ちょっと待て!!なんで俺が悪いんだよ!!俺は殺されかけた被害者だぞ!!あれは正当防衛だ!!俺は悪くない!!」

『黙らっしゃい!!!』

「ッ!!」

『ホント、オマエしつこいよ!人を殺した時点で、罪に重いも軽いも無いの!いい加減認めなよ、このゴミクズ。』

『ちょうでちゅ!狗上様は、近藤様を殺ちた立派な人殺ちでちゅ!ちょれ以上でも以下でもありまちぇん!』

「ふざけんな!!こんなの無効だ、今すぐ処刑をやめろ!!こんな裁判、不成立だぁあああああ!!!」

『あの、もう無駄口は無視ちゅる方向でいいでちゅかね?』

「…え。」

『もう時間が押ちておりまちゅので、早くおちおきを開始したいのでちゅ!わぢゃわぢゃ、オイラ達が貴方の戯言に耳を傾けて差ち上げる義理なんて無いのでちゅ!』

「ま、待ってくれよモノクマ!」

『ほえ?玉木クンどうしたの?』

「…確かに、こんな事になったのは、狗上の軽率な行動のせいかもしれねえけど…けどよ、今回は仕方なかったんじゃないか!?俺だって、同じ立場だったら近藤を殺しちまってたかも知れねえし…だから、何も狗上を殺さなくても…」

 

『ふーん。…投票の時は狗上クンを見殺しにしようとしたくせに、今更いい人面するんだ?』

「ッー!!…け、けど…」

『けどもでももhoweverもないの!っていうか、ぶっちゃけ殺人の動機とかどうでもいいんだよ!そもそも学級裁判でクロになった奴をおしおきするってルールだったわけだし、ちゃっちゃとおしおき始めちゃうよ!』

『狗上様、最期に、5日間を共に過ごちたお仲間達に言い残ちておく事はありまちゅか?』

「い、いやだああああああああああああああああああああああ!!!死にたくない死にたくない死にたくない!!!うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

狗上は、叫びながら裁判場から逃げ出した。

靴が脱げ、躓いて転びながらも、死に物狂いで裁判場から遠くへ逃げようとしていた。

その姿は、あまりにも見苦しかった。

『うっぷぷぷぷ!!おお、無様無様!!逃すわけないでしょ、バーカ!!』

『逃げ切れば時間が何でも解決ちてくれるとでも思ってるんでちゅか?本当、最近の若者はこれだから…みっともないでちゅね!』

『それでは、今回は『超高校級の操縦士』狗上理御クンのために!!スペシャルなおしおきを用意しましたっ!!ではでは、おしおきターイム!!』

 

モノクマの席の前から、赤いスイッチがせり上がってくる。

モノクマはピコピコハンマーを取り出し、ハンマーでスイッチをピコッと押す。

 

 

 

 

 


 

 

GAME OVER

 

イヌガミくんがクロにきまりました。

 

オシオキをかいしします。

 

 

狗上は、逃げようと走るも、首をアームで掴まれて引きずられる。

何か喚いているようだが、おしおきはモニター越しで、狗上の声は俺たちに届く事はなかった。

しばらくして、狗上の首を掴んでいたアームは、その手を離した。

アームから解放された狗上は、ジェットコースターのような乗り物に乗せられた。

コースターに設置されたディスプレイには、文字が表示されていた。

 

発車まであと10秒

安全ベルトを装着してください

 

次の瞬間、狗上の体はベルトで拘束される。

狗上は、不安そうに周りを見渡す。

どうやら、周りはトンネルのようだった。

コースターは、レールの上で静止している。

そこに、点検係の格好をしたモノクマとモノハムが、誘導灯を持って現れた。

モノクマが誘導灯で指した先に、ポップな文字が映し出された。

 

 

 

ノンストップ!絶望超特急の旅

 

【超高校級の操縦士】狗上理御 処刑執行

 

 

 

次の瞬間、コースターの上に設置された信号機の一番左のランプ点灯し、1秒毎に右隣のランプが点灯する。

三つ並んだランプの、一番右のランプが赤く点灯した瞬間、コースターが発進する。

モノクマとモノハムは、手を振ってコースターを見送った。

コースターは次第に加速し、ディスプレイに文字が現れる。

 

1st STAGE 普通コース

 

コースターが加速し終わり、速さが一定になる。

しかし、ほとんど整備されていないレールの上をコースターが走り、車体がガタガタと大きく揺れる。

目の前のレールが二方向に分かれ、左側のレールには、5枚程度設置された円形の刃物が高速回転をしている。

このままでは、コースターごと刃物の餌食になる。

どうにかしようともがいた狗上は、ちょうど手元にレバーがあるのに気がついた。

身体は拘束されていて動かないが、右腕だけは動かせる。

狗上は、レバーを思い切り右へと引いた。

するとコースターは右へと傾き、右のレールへと車線変更した。

狗上が一安心していると、ディスプレイの画面が切り替わる。

 

2nd STAGE 快速コース

 

コースターが加速し始め、1回目の加速よりも短い時間で加速する。

加速と振動の衝撃で、狗上は苦悶の表情を浮かべる。

身体のあらゆる所が内出血しており、痣となっていた。

次は、今にも落下しそうな剣山付きの重石がセットされたコースだった。

今度は、左に舵を切って罠を回避する。

次の瞬間、重石が落下した。

罠を避けた狗上は、安堵の表情を浮かべた。

すると、またディスプレイの画面が切り替わる。

 

3rd STAGE 特急コース

 

コースターが急激に加速する。

狗上は目や口から血を垂れ流し、充血して赤く染まった白目をひん剥いていた。

もう、狗上は意識を失っていた。

今度は、クロスボウが大量にセットされたコースだった。

ギリギリのところで目を覚ました狗上は、急いで右に舵を切る。

しかし、舵を切るのが少し遅れたため、矢を何発か喰らった。

狗上は、矢が身体を穿つ激痛で、顔を歪めた。

しかし、狗上の身体はすでに満身創痍で、もう叫ぶだけの元気はなかったようだ。

それでも、またディスプレイの画面が切り替わる。

 

FINAL STAGE 超特急コース

 

コースターは容赦なく加速し、ついには超音速まで達する。

その加速に比例するように、狗上の身体に膨大な量のダメージが蓄積されてゆく。

狗上はもう、虫の息だった。

全身の骨は折れ、身体中のあらゆるところから血を吹き出していた。

目は充血し、口からは血と吐瀉物が混ざり合った何かが溢れ出ていた。

そして、それに追い討ちをかけるように、目の前に信じがたい光景が広がる。

コースターの数百m先は、レールが途中で切れており、その下にはマグマが煮え滾っていた。

その数十m先には、レールの続きが敷かれた岸があった。

狗上は覚悟を決め、レバーを思い切り前に押した。

するとコースターは加速し、空中に飛び出した。

コースターは空中に投げ出されながらも、加速を生かして向こう岸へと進んでいく。

あと少しで、岸に辿り着く。

 

…が、岸だと思って突っ込んだのは、向こう岸の絵がリアルに描かれた鉄壁だった。

超音速で空中を進む車体は勢いよく鉄壁に激突する。

コースターの車体と狗上の体は、バラバラに砕けた。

そしてついに、

 

 

落ちた。

 

 

マグマは白煙を上げながら、狗上を飲み込んでいく。

狗上の最期の顔は、絶望で染まっていた。

そして、鉄壁の後ろからヘルメットをかぶったモノクマが現れ、呆れたようにため息をつく。

鉄壁の裏には、

 

工事中につき運行中止

 

と書かれていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

『イヤッホォオオオオオオオオイ!!!エクストリィイイム!!!』

『いやあ、やっぱりこれが一番でちゅね!アドレナリン500%でちゅ!!』

モノクマとモノハムは、上機嫌でモニターを見ていた。

…狗上が死んだ。

目の前で、二度も人が殺された。

しかも今回は、郷間の時とは比べ物にならない程残酷な方法で。

俺は、目の前の惨劇に戦慄し、頭が真っ白になった。

「あびゃー!!リオンにい、死に方えっぐ!!あーちゃんこんな死に方したくないよぉ!」

「…フン、下衆が。」

「狗上さん…」

「畜生…狗上、なんでだよ…!」

わざとらしい驚き方をするアリス。

真っ青な顔をしながらも、平気な振りをする森万。

俯きながら仲間の死を悔むジェイムズ。

悔しそうに拳を握りしめる玉木。

「あっ、ああああ…狗上君が…」

「マジかよ…こんな残酷な方法で殺されんのかよ…!?」

「…外道ですね。」

「狗…上…先輩…そんな、嘘っスよね…?」

目の前の惨劇に狼狽る猫西。

処刑の恐怖に怯える神城。

モノクマ達に対して怒りを露わにする速瀬。

目の前の出来事を受け入れられずにいる小川。

「い、狗上氏が…!わ、吾輩は…吾輩は…」

「…嘘でしょ。」

「狗上さんが…どうして…!」

「…ホント悪趣味。」

パニックになる織田。

ただ呆然と立ち尽くすリタ。

泣き崩れる床前。

モニターから目を逸らす射場山。

それぞれが、目の前の惨状に対して反応をした。

 

…俺たちに突きつけられた現実は、あまりにも残酷すぎた。

未だに、狗上の死を受け入れられない自分がいる。

『うぷぷぷ!オマエラ、なんでお通夜みたいなテンションなわけ?ほら、せっかく問題児が消えてくれたわけだし、もっとアゲてこうよ!』

『ちょうでちゅ!皆様、狗上様とは大ちて仲良くなかったんでちょう?どうちて今更ちょんなリアクチョンちてるんでちゅか?』

「ふざけんな!!…お前らが、お前らのせいで、狗上は…!」

モノクマとモノハムの耳障りな発言に、玉木の中では怒りがこみ上がっていたようだった。

玉木は、モノクマ達に詰め寄り、拳を握りしめながら二匹を睨んでいた。

『そう言われてもなぁ。アレは、狗上クンが勝手にやった事だし?ボクは、ただクロを処刑しただけだもんねー。』

「…お前ら、絶対許さねえからな!!」

『おやあ?玉木クンてば、なんか殺る気満々じゃん!ほらほら、そこで睨んでばっかいないで、かかってきなよ?無能キャプテン君?』

「なんだと…!」

『わわわ!?ちょっと、何煽ってるんでちゅか!』

『いーじゃん。どうせ何もできないよ。…だって、何もできなかったせいで、大事な仲間を三人も死なせちゃったんだもんね?』

「この野郎!!」

玉木が、モノクマを殴ろうと、拳を振りかぶる。

「おい、やめろ玉木!!」

 

ゴッ

 

気がついたら、身体が動いていた。

俺は、モノクマ達を庇って、玉木に殴られた。

左頬に、痛みが走る。

俺はそのまま吹っ飛ばされて尻餅をついた。

『キャー!本当に殴ってくるとは思わなかったよ!菊池クンサンキュー!ってか大丈夫?顔腫れてない?』

「き、菊池…!?」

玉木が一瞬怯んだ。

その瞬間、ジェイムズが玉木を羽交い締めにした。

「おい、ジェイムズ!何すんだよ、離せよ!!」

玉木は、ジェイムズの拘束を振り解こうと暴れる。

「らしくないですね。貴方のような聡明なリーダーが、こんな愚行に走るなんて…一旦、頭を冷やして下さい。」

「…!」

玉木は、我に返った。

「…悪い。…俺、なんか熱くなってたみたいだな。ごめん。」

「貴方は、私達のリーダーです。こんな所で失う訳にはいきません。」

「…そうだな。悪かったよ。」

玉木は、深く頭を下げた。

「目ェ覚めたかよ、玉木。」

「菊池。俺、ついカッとなって…本当にごめん。…あと、ありがとう。俺の事、庇ってくれて。」

「いいよ別に。俺はただ、お前が馬鹿な事をして死ぬのを見たくなかっただけだ。」

「本当にごめんな。…大丈夫か?いや、大丈夫じゃねえよな。」

「いや、いいよ。そんな事より、お前が殺されずに済んで、本当に良かった。」

「菊池…」

『ねえ、何男同士でイチャイチャしてんの?…オマエラ、もしかして付き合ってんの?』

『いちゅまでも茶番に付き合わちぇないでくだちゃい。こっちも忙ちいんでちゅ。』

「君たちの都合なんて知ったこっちゃないよ、この人でなし。」

『うっわー、猫西サン辛辣!ボク泣いちゃうよ?』

「勝手に泣けば?」

『うっわ!射場山さんまでそんな事言っちゃうんだ!ふーんだ、もうボク知らないもんね!スロットのメダルは好きに持っていってどうぞ!!気分悪いから帰る!!プンプン!!』

「どんな気まぐれっスか。」

モノクマは、頭から漫画の吹き出しのような湯気を出しながら去っていった。

『わわわ、学園長!まだ皆様にお知らちぇがあるでちょうが!』

「はぁ!?おい綿鼠!今なんつった!?知らせって何だ,教えろ!!」

『…ああ、学園長の代わりに、オイラがお伝えちておきまちゅ。』

 

 

 

『…実はこのコロチアイ合宿、世界中に生中継ちゃれておりまちゅ!』

「んなッ…!!」

『いやあ、こういう刺激的なゲームを求める変態様って、結構多いんでちゅよね。おかげで視聴率バッチリでちゅよ!』

「そんなの、信用できっかよ!!お前らが嘘ついてるんじゃないのか!?」

『やでちゅよ、オイラみたいなえげちゅない程のピュアハムチュターが、嘘なんて吐くわけ無いでちょうが!』

「後付けルール押し付けといて、何言ってんだよ…」

「そんな…じゃあ、そういうゲームを望んでる人達のために、私達は殺し合いをさせられてるって事…!?」

『まあ、一ちゅ目はちょうでちゅね。ちょういう変態様が喜ぶような刺激的な企画をちゅれば、お金がガッポガッポ入ってくるのでちゅ!オイラお金大好き!まあ、ただ単にオイラ達が、こういうコロチアイが大好きっていうのもありまちゅけど。』

「クソッ、このクズが!!」

「…あの、今一つ目は、って仰いましたよね?まだ他にも、このゲームには目的が?」

『うっわあ、速瀬様勘良ちゅぎ!…ちょんなに知りたいでちゅか?』

「当たり前だろうが!!さっさと教えろ!!綿埃!!」

『じゃあ…』

 

 

 

 

『教えまちぇん!!!』

「んなっ…」

「はぁああああ!?ふざけんじゃねえ!!この私をおちょくりやがって!!」

「そーだよ!!あんまりあーちゃんの事バカにすると、激おこぷんぷんマルゲリータだぞ!!」

『このコロシアイの真の目的をお話ちちゅるにはまだ早いでちゅ!ちょのお話ちは、人数が2、3人くらいになったらお話ちちまちょうかね?ぴきゃきゃ!』

「うーん、じゃあそれまであーちゃん達はコロシアイをしなきゃって事だよね?あーちゃん、みんなを殺してまでそんな事知りたくないなぁ。」

『えっ、ちょっち方面っちゅか!?コロチアイをちゅる方ぢゃなくて!?…まあいいでちゅ。ちぇいぢぇい頑張ってくだちゃいな。ちょれぢゃ、またお会いちまちょう!とうっ!!』

モノハムは席から飛び降り、去っていった。

こうして、命懸けの学級裁判が終わった。

…胸糞悪いエンディングだった。

近藤だって、狗上だって、死にたくないっていう思いで自分なりに足掻いたというのに。

郷間も、俺たちのために怒ってくれたのに。

…その思いを、モノクマ達は踏みにじった。

全ては金儲けのため、そして自分達の娯楽のために。

 

「ハッ、くだらねえ。私もう帰る。」

「ちょ、ちょっと…神城さん…」

「あ?んだよ、地味のくせに、この私に指図する気か?」

「あ…えっと…そういうわけじゃ…」

「だったら黙ってろ、愚民が!私は、テメェらみたいな愚民と同じ空間で息をしてるだけで不愉快なんだよ!じゃあな!」

神城は、一人でエレベーターに乗り込んだ。

裁判場内には、再び静寂が訪れた。

「ねえー、あーちゃん喉乾いちゃった。冷たいクリームソーダ飲みたいな〜。みんなもそろそろ戻ろうよ〜。」

口を開いたのは、アリスだった。

「アリス先輩、この状況でよくそんな事…」

「このジョーキョーって何?そこでいつまでも突っ立っててもさ、三人が帰ってくるわけじゃないでしょ?」

「お前…!」

「だったら、落ち込んでる時間なんて無いよね?今日死んじゃった三人はダメだったけど、あーちゃんたちは生きてるんだよ?だったら、がんばって生きなきゃって思わない?」

「…!」

「…そうですね、いつまでも落ち込んではいられません。行きましょう。」

アリスの言葉をきっかけに、全員がエレベーターの中へと移動した。

 

一日で、三人も仲間を失った。

何も出来なかった。してやれなかった。

もう、これ以上仲間が死ぬのは嫌だ。

二度とこんな裁判、開かれるべきじゃないんだ。

もう、これで最後にしよう。

…志半ばにして死んでいった、三人のためにも。

俺は、強く心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

第1章『命を侵されている』ー完ー

 

 

 

 

コロシアイ合宿生活 残り13名

 

 


 

 

 

 

 

「いっやぁ、初っ端からエキサイティングなショーだったね!久々に、生きてるって実感したなあ。あの映像だけで、ご飯百杯はイケちゃうね!」

「…そうですか。」

「あ?んだよ、乗り気じゃねえな。もっとアゲてこーぜ!」

「…。」

「おやや?どうしたんスか?自分の顔になんかついてるっスか?」

「…いえ。さっきから、口調が一致してないんで。混乱するんで、統一してもらえませんか?」

「ふふふ、だって…こうやって喋っておかないと、万が一貴方が裏切った時、正体を言いふらされてしまうではありませんか。」

「…信用できませんか?」

「んー、まあ…そういうわけじゃないけど…言っちゃえば保険だよね、保険!僕ちゃんは、万が一の事も考えてリスクマネジメントしているのだ!!」

「そうですか。…ところで、本当に約束は守ってくれるんですよね?」

「あたぼうよ!!俺は、ダチとの約束は死んでも守るぜ!!」

「…あなたが裏切らないという保証は?」

「だーっ、もううっせぇな!!下っ端は下っ端らしく、俺の言う事聞いときゃいいんだよ!んな事より、例の件についてなんだが…」

「例の件…あなたが言ってた計画ですか。」

「そうそう。そろそろ役者も揃う事だし、次の段階に進めちゃおっかな〜?あ、ちゃんと準備はしてあんだろーな!?」

「はい、予定通り進行中です。」

「フン、それなら一安心だな。引き継ぎ、見張りとゲームの準備の方は頼んだぞ。」

「わかりました。」

 

 

 

 


 

「…あら?外が騒がしいわねえ。アタシ抜きで楽しそうな事やってんじゃないでしょうね?そんな事してたら、アタシもう激おこぷんぷんマルビナス諸島よ!」

 

「…っていうか、アタシはいつになったらここから出して貰えるのかしら?あーあ、早く外に出たいわぁ。うふふふ…」

 

To be continued…




【論リゾこぼれ話】

いやあ、今回は理御クンがクロだったわけですけれども。
実はですね、結構おしおきシーンには拘りました。
理御クンの死に方には、実は意味があります。
壁に衝突、空中を飛ぶ乗り物、マグマ。
勘のいい方なら、これらから、理御クンがドローンを使って証拠を隠滅しようとしてた時の状況と似ているという事が想像できると思います。
まあ言ってしまえば、「お前が操作ミスったせいで壊れたドローンの立場考えてみろよ!」って事なんですが、実は、もう少し深い意味があるんです。
いい加減な使い方のせいで物をダメにし、調子が悪くなったからと言って捨てたという人はいると思います。
理御クンのおしおきは、まさにそれを再現しています。
乱暴に扱われ、使い物にならなくなり、最後には用済みになって捨てられる。
お前がぞんざいに扱った物と、お前の価値に大差なんてない。
お前なんて所詮はその程度の存在だ。
そういうメッセージが込められております。



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第1章 【シュガーシンキングとビターデス】

タイトル元ネタはシュガーソングとビターステップです。


それではどうぞ!


【近藤夏美編】

 

…ウチは、モノクマから動機を見せられた瞬間、頭が真っ白になった。

他のみんなは、鶏肉っていう動機をバカにしてたりしたけど、ウチにとっては毒の塊を食べるのも同然だ。

小さい頃から鶏肉がダメで、一度食べて倒れた事がある。

ウチは、鶏肉を食べるとアナフィラキシー?っていうのが起こっちゃうみたい。

他のみんなには、苦手な食べ物があるなんて言えなかった。

このままじゃ、ウチは何も食べられずに飢えて死んじゃう。

…こんなところで、死にたくない。

ウチは、何がなんでも生き残って、おうちに帰りたいんだ。

モノクマは、誰かを殺した人間だけをここから出してくれると言っていた。

…アイツの言う事を信じるわけじゃないけど、それしか生き残る方法がないなら、やるしかない。

やっちゃいけない事だってわかってる。

でも、しょうがないじゃん。

ウチは、絶対にこんなところで死にたくないんだ。

ウチは、床前っちに話しかけた。

「…ねえ、床前っち。あとで、お部屋でお話しない?」

「…えっ、あ、はい…。わ、私で良ければ…」

 

 

 

…うまくナイフを盗み出せた。

校則の6番目に、誰かを殺した事がバレちゃいけないって書いてた。

それを破っちゃったら、何か良くない事が起こるのかも。

自分の凶器を使ったら、ウチが殺ったってバレるに決まってる。

…ごめんね、床前っち。

ウチが生き残るために、罪を被ってもらうよ。

 

 

 

…いざ誰かを殺すとなると、急に震えが止まらなくなる。

一体、誰を殺せばいいのかな…

床前っちとカッちゃんは、ウチのお友達だ。この二人は絶対殺したくない。

郷間っち、ムズっち、菊池っち、猫西っち、小川っちの5人も、できれば殺したくない。短い間だったけど、ウチなんかと仲良くしてくれた、大切な人たちだ。

あーちゃんもやめとこう。まだ小さいから、殺しちゃうのはかわいそうだ。

射場山っちとリタっちは、あんまりお話できなかったけど…

この二人もやめとこう。そもそも、ウチが誘導できる相手じゃない。

森万っちと速瀬っちは、勘がいいからすぐバレそうだし…

神城っちも、ウチの言葉を聞いてくれなさそうだし…

となると、残るは織田っちか狗上っち…

 

…決めた。狗上っちにしよう。

狗上っちの疑り深い性格は逆に利用できそうだし、何よりみんなとコミュニケーションをとろうとしなかった。

ウチのご飯も全然食べてくれなかったし…多分、いざ殺すってなっても、一番罪悪感が薄いと思う。それに、狗上っちは遺跡の石版を壊したっていう弱みを抱えてるし…もし途中で勘付かれても、他のみんなと仲良くしようとしなかった狗上っちなら、誰も助けてくれなさそうだし…

そうと決まれば、早速準備に取り掛かろう。

 

ーホテル前ー

 

…狗上っち、やっぱりここにいた。

いっつも、夜はルールを守らずにここら辺うろついてるもんね。

大丈夫、揺さぶる材料もあるし…うまく引っかかってくれるよね?

…チャンスだ。

「狗上っち。」

「あぁ?んだよ、こんな時間に。とっとと失せろ。」

「あのさ、狗上っち、モノクマーメン遺跡の石版、割ったよね?」

「!?…おい、なんでそれを知ってんだ。」

「ごめん…狗上っちが、石版のカケラを埋めてるところを見ちゃって…」

「んだよ、盗み見かよ。趣味悪いな。」

「そんなつもりじゃなかったんだけど…」

「で?それを確認して、どうする気なんだよ?あのクマにチクんのか?」

「別に…ただ、狗上っちが心配になって。あのさ、遺跡には行かない方がいいと思うよ。」

「あぁ?」

「だって、狗上っちは遺跡の石版を割っちゃったんでしょ?これ以上下手に行動したら、ひどい目に遭うかも…あの遺跡で変な事すると呪われるらしいし…」

「うるせぇ。俺が呪われるとでも言いてえのか?ケッ、くだらねえ。…お前、アレか?そんな事言って、俺を嵌める気だろ?」

「違う…そんなわけじゃ…」

「俺はな、テメェら全員信用してねぇんだよ。人を信じるなんて、お人好しのバカがやる事だ。飯作ったり声かけたりして、点数稼ぎのつもりだったか?そんな見え透いたモンでテメェを信じるわけねえだろうが。」

「そんな…ウチは、点数稼ぎなんて…」

狗上っちは、遺跡の方に目を向けた。

「お前、あそこで何か見つけたんだろ?だから俺に近づかれたくなくて、ハッタリで俺を遺跡に行かせないようにしたんじゃねえのか?」

「違うよ…そんなんじゃ…本当に危ないから行かない方がいいって!」

「うるせぇ。自分の身くらい、自分で守れる。…これ以上喋りかけてくんじゃねえ。耳障りなんだよ。…どけ。」

ドンッ

「あっ、ちょっと、狗上っち…!」

…計画通り。

やっぱり、まんまとお願いした事と逆の行動を取ってくれた。

これで、狗上っちを人目のつかないところで殺せるし、呪いのせいにする事ができる。

みんなに呪いを信じてもらえなかったとしても、床前っちに容疑をなすりつけられるし…

ウチはバレない程度に距離を取って、一歩ずつ確実に近づいた。

 

ーモノクマーメン遺跡ー

 

「…ここに、何が隠されてんだ?脱出経路とかか?」

…そんなもの、こんな所にあるわけないじゃん。

狗上っちって、意外と頭悪いんだな。これなら簡単に殺せそうだ。

「クソッ、あのチビ…それを知ってて黙ってやがったんだな?こっから出たら真っ先にシメ上げてやる。」

何バカな事言ってるの?

君は、ウチを締め上げるどころか、ここから出る事もできないのに。

…やっぱり、狗上っちをターゲットに選んで正解だった。

ウチのご飯を食べてくれた時は、仲良くなれるかもしれないって思ったけど…親切に忠告してあげたのにこんな事言うようなクズは、やっぱり殺しても問題ないよね。

狗上っちは、遺跡の中に入っていった。

ウチも、狗上っちの跡をつけて遺跡の中に入った。

「ケッ、何が呪いだ。くだらねえ。自分の命くらい、自分で守れるっつーの。」

ウチがここにいるのに気づきもしないくせに、よくこんな大口が叩けたもんだよね。

そんなに自分の腕に自信があるなら、見せてもらおうじゃんか。

まあ、ここまで接近を許してる時点で、こんなバカを殺すのなんてワケないんだけど。

 

「…あぁ?」

(…!!)

狗上っちが、いきなり後ろを振り向いた。

「…気のせいか。」

…良かった、近くにちょうどいい死角があって。

一瞬ヒヤッとしたけど、あとちょっとで黄金の間に辿り着く。

…そこで、狗上っちを殺すんだ。

「…この部屋、プンプン臭うな。」

狗上っちは、黄金の扉を開け、中に入っていった。

扉がゆっくりと閉まっていく。

ウチも、扉が閉まらないうちに急いで黄金の間に入った。

 

ー黄金の間ー

 

「…このどデケェミイラが臭えな。」

狗上っちは、完全にミイラに気を取られて、ウチが背後に近づいているのに全く気づかない。

…ここまで近づけば十分だ。

あとは、やるべき事をやるだけ。

ナイフを取り出し、狙いを定める。

 

…ごめんね。

ウチが生き残るために…死んで!!

 

「!!?」

 

 

 

バキッ

 

 

 

…え?

 

………あ。

 

「ぎゃあ゛ぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!

腕が、ウチの腕が、痛い、痛いよぉお!!!

え?え?なに、なになになに?何が起こったの?

腕が痛くて全然動かない…なんで!?

なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!!?

「ーッ、こんの…クソアマがぁあああああ!!!」

 

ゴッ

 

「あっ、がはっ…」

え?え?なんで?

ウチは、いつの間にか床に倒れていた。

頭がクラクラする…

腕が痛い…うまく動けない…

次の瞬間、狗上っちの爪先が目の前に迫ってきた。

 

ゴスッ

 

「!!?」

 

 

「ッ、あがっ…おえ゛ッ…」

お腹痛いよ…

気持ち悪い…

なんで、なんでウチがこんな目に…怖いよ…誰か助けて…

 

狗上は、容赦無く何度も踏みつける。

 

ガッ

 

ゴスッ

 

バキッ

 

グシャッ

 

ドゴッ

 

「ふざけんなよこのクソアマがぁあ!!調子に乗りやがって…ザコのくせに、俺を殺そうとするたぁどういう了見だ!?なあオイ!!テメェみてぇなチビが、俺を殺せるとでも思ったのか!?俺も随分とナメられたもんだなァ!!クソッ、やっぱりテメェみてぇなゴミに一瞬でも気を許した俺がバカだった!!さっきはよくもやってくれたなァ!!死ねッ、死ねッ、死ねッ!!テメェみてぇなクサレ女は、この世から消えろォ!!!」

痛い…怖い…お願い、もうやめて…お願いします…もうしませんから…なんでもしますから、もう許して…もう痛いのは…怖いのは嫌だ…

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

もう誰かを殺そうとなんかしないから…カッちゃん…郷間っち…菊池っち…お願い、誰か助けて…

 

「オラァ!!!」

 

グシャッ

 

「…あ。」

 

足が視界に迫ってきて、直撃した。

だんだんと視界がボヤけて、意識が遠のいていく。

 

 

 

 

 

「あーあ。死んじゃったよ。相手との体格差も考えずに、好き嫌いでターゲットを決めるような中途半端な覚悟と、猿でも思いつくようなお粗末な計画で人を殺そうとするからこうなるんだよ全く。動機から作戦決行まで、何もかもがショートケーキみたいに甘ったるい…だからオマエは失敗したんだよ。そんな半端者のくせに真っ先に人を殺そうとしたオマエが、一番の愚か者だよ。せいぜいあの世で後悔するんだね。」

 

 

 

 

 


 

【狗上理御編】

 

「あっ。」

 

ガシャンッ

 

…やっちまった。

遺跡の中をうろついてたら、石版を落としちまった。

…これ、バレたら絶対やべえよな。

…とりあえず、近くに埋めて隠しとくか。

 

ー遺跡前ー

 

…よし、なんとか全部埋め終わったな。…うわっ、手が汚くなっちまった。ハイキングコースにあった川で、手ェ洗っとくか。

 

ガサッ

 

「…?」

…誰もいねぇ。

確かに物音が聞こえたんだが…気のせいか。

あー、かったりい。

ホテル戻って寝るか。

 

 

 

ー合宿4日目 夜ー

 

クマ共が、くだらねえモンを見せてきた。

…何が動機だ。鶏肉なんかで殺意なんか湧くわけねえだろ。

マジになって聞いた俺がバカだった。

あー、なんかイライラしてきた。

…散歩でもするか。

外人は、夜に外出歩くなっつってたけど、知った事か。

 

「狗上っち。」

…チッ。

うるせぇバカチビが話しかけてきやがった。

めんどくせぇ…

「あぁ?んだよ、こんな時間に。とっとと失せろ。」

「あのさ、狗上っち、モノクマーメン遺跡の石版、割ったよね?」

…?

こいつ、なんでそんな事知ってやがんだ…?

「!?…おい、なんでそれを知ってんだ。」

「ごめん…狗上っちが、石版のカケラを埋めてるところを見ちゃって…」

…チッ、あの時の物音はコイツかよ。

「んだよ、盗み見かよ。趣味悪いな。」

「そんなつもりじゃなかったんだけど…」

「で?それを確認して、どうする気なんだよ?あのクマにチクんのか?」

「別に…ただ、狗上っちが心配になって。あのさ、遺跡には行かない方がいいと思うよ。」

「あぁ?」

「だって、狗上っちは遺跡の石版を割っちゃったんでしょ?これ以上下手に行動したら、ひどい目に遭うかも…あの遺跡で変な事すると呪われるらしいし…」

嘘臭え。なんだコイツ。

もしかして、コイツ俺を嵌める気か?

「うるせぇ。俺が呪われるとでも言いてえのか?ケッ、くだらねえ。…お前、アレか?そんな事言って、俺を嵌める気だろ?」

「違う…そんなわけじゃ…」

「俺はな、テメェら全員信用してねぇんだよ。人を信じるなんて、お人好しのバカがやる事だ。飯作ったり声かけたりして、点数稼ぎのつもりだったか?そんな見え透いたモンでテメェを信じるわけねえだろうが。」

「そんな…ウチは、点数稼ぎなんて…」

顔を見りゃ、ソイツがどう思ってんのかくらいわかる。

コイツは、やっぱり俺を嵌める気なんだな。

こんな奴と一瞬でも馴れ合おうなんざ考えた俺がバカだった。

…コイツの事だ、どうせ遺跡で何か見つけて、それを独り占めするために俺に釘を刺しに来たんだろ。

お前の思い通りになんか動いてやるかよ。

「お前、あそこで何か見つけたんだろ?だから俺に近づかれたくなくて、ハッタリで俺を遺跡に行かせないようにしたんじゃねえのか?」

「違うよ…そんなんじゃ…本当に危ないから行かない方がいいって!」

「うるせぇ。自分の身くらい、自分で守れる。…これ以上喋りかけてくんじゃねえ。耳障りなんだよ。…どけ。」

ドンッ

「あっ、ちょっと、狗上っち…!」

後ろから話しかけてやがるが、気にせずそのまま遺跡に向かった。

アイツが何を言おうと知った事か。俺は、俺が良けりゃそれでいいんだよ。

 

ーモノクマーメン遺跡ー

 

「…ここに、何が隠されてんだ?脱出経路とかか?」

一見、最初に来た時と何も変わってねぇ。

だが、アイツの反応から察するに、絶対に何かが隠されてるはずだ。

…チッ、あのチビ、何を知りやがったんだ…?

あー、イライラしてきた。

あのクソアマ、こっから出たら絶対ブン殴ってやる。

「クソッ、あのチビ…それを知ってて黙ってやがったんだな?こっから出たら真っ先にシメ上げてやる。」

考えてみたらムカついてきた。

アイツ…後で絶対覚えてろよ。

…だがまあ、今は遺跡を確かめるのが最優先だ。

とっとと探索終わらせるか。

俺は、遺跡の中に入った。

 

ー遺跡内部ー

 

…んだよ。

やっぱ何も起こんねえじゃねえか。

一応、護身用にスパナ持ってきたってのによ。

「ケッ、何が呪いだ。くだらねえ。自分の命くらい、自分で守れるっつーの。」

呪いなんざ、あるわけねえだろ。

あのメンツじゃ、俺に勝てる奴なんてデカブツとサッカー野郎くらいしかいねえし…

その二人は律儀にルール守って部屋で大人しくしてやがるから、殺される心配も無えしな。

 

カツン…

 

…ん?

今、足音が一回多くなかったか?

…まさか。

「…あぁ?」

 

…誰もいねえ。

「…気のせいか。」

確かに聞こえたんだが…

チッ、空耳かよ。ヒヤヒヤさせやがって。

先に進むか。

 

…やっぱ、怪しいのはここしかないよな…

「…この部屋、プンプン臭うな。」

…入ってみるか。

重い扉を押して、中に入った。

 

ー黄金の間ー

 

…相変わらず金ばっかだな、ここ。ギラギラしてやがる。

「…このどデケェミイラが臭えな。」

真ん中にある、ダセェデザインのミイラに目を向けた。

ここに、なんか隠してあんのか…?

ミイラに手を触れようとした瞬間だった。

 

「!!?」

 

 

 

バキッ

 

 

 

反射的に体が動いた。

気がつくと、俺は懐にしまっていたスパナを持って振るっていた。

「ぎゃあ゛ぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」

声の方を振り向くと、俺がスパナで何を殴ったのか、すぐにわかった。

チビが、腕を押さえてもがき苦しんでいる。

近くには、ナイフが落ちている。

ナイフを拾い上げ、ソイツの顔を見た。

…ムカついてきた。

絶対に許さねぇ。

…殺られる前に、殺ってやる。

「ーッ、こんの…クソアマがぁあああああ!!!」

 

ゴッ

 

「あっ、がはっ…」

頭をスパナで殴ったら、目の前のクソ女はその場に倒れ込んだ。

このクソブス、ザコのくせに調子乗りやがってッ…!!

…ブッ殺してやる。

 

ゴスッ

 

「!!?」

 

 

「ッ、あがっ…おえ゛ッ…」

今度は、腹を蹴ってやった。

うわっ、吐きやがった。汚えな。

あーっ、イライラすんなぁ!!

こうなったら、死ぬまでボコボコにしてやる。

俺は、蹲るソイツを何度も踏みつけた。

 

ガッ

 

ゴスッ

 

バキッ

 

グシャッ

 

ドゴッ

 

「ふざけんなよこのクソアマがぁあ!!調子に乗りやがって…ザコのくせに、俺を殺そうとするたぁどういう了見だ!?なあオイ!!テメェみてぇなチビが、俺を殺せるとでも思ったのか!?俺も随分とナメられたもんだなァ!!クソッ、やっぱりテメェみてぇなゴミに一瞬でも気を許した俺がバカだった!!さっきはよくもやってくれたなァ!!死ねッ、死ねッ、死ねッ!!テメェみてぇなクサレ女は、この世から消えろォ!!!」

なんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がなんで俺がふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

蹴り付ければ蹴り付ける程、次々と怒りがこみ上げてきて、また蹴る、の繰り返しだった。

いくら蹴っても、全然抵抗しねえ。

俺が襲われた時とは、完全に立場が逆転していた。

そろそろ嬲るのにも飽きたので、トドメの一発をブチ込んでやった。

 

「オラァ!!!」

 

グシャッ

 

「…あ。」

 

顔を思いっきり蹴ったら、あっけなく気絶しやがった。

スカッとしたから外に出ようとした、その時だった。

 

「!!!」

 

服に、無数の足跡がこびりついていた。

…ここに来る途中の道がぬかるんでたから、泥が服に付きやがったのか。

クソッ、これじゃあ俺がやったってすぐバレんだろうが。

…とりあえず、証拠隠滅しとくか。

あー、めんどくせぇ。

俺は泥まみれになった服を脱がせた。

「チッ、なんで俺がこんなヤツの服なんざ回収しなきゃなんねェんだ。クッソメンドクセー…。」

…あー、このまま目ェ覚ましたら、厄介な事になんだろうな。

下手に襲われたとか言われて騒がれたら迷惑だ。

その時、ある考えが俺の頭をよぎった。

 

 

 

 

「…殺すか。」

 

 

 

 

一度思いついちまったら、行動に移すのは難しい事じゃなかった。

元々、コイツが仕組んだ事だ。

その結果こうなったんだ、自業自得だ。俺は悪くねェ。

恨むなら、俺を狙った自分を恨むんだな。

俺はナイフを右手に持ち替えて、狙いを定めた。

 

 

そして、胸にナイフを振り下ろした。

 

 

 

 

 

死んだ。

 

案外、あっけなかった。

 

チビの体からは血が大量に出て、そこに血溜まりができていた。

 

 

 

 

 

「これ、なんとかしねぇとな。…あー、めんどくせぇ。」

俺は剥ぎ取った服を持って、ホテルに戻った。

 

 

ーホテル前ー

 

「とりあえず、焼却炉にでもブチ込んどくか。…あーっ、そうだった。夜は焼却炉使えねぇんだった。どうすっかなぁ…」

その時、ある考えが思い浮かんだ。

「あ。」

俺は、服と脱いだ靴をその場に置いて、急いで部屋に戻った。

部屋に戻って、ドローンを持って焼却炉の前に向かった。

「これがあれば…」

ドローンを操作して、ゴミ処理室の中に移動させる。

焼却炉のスイッチを入れた。

「よし、うまくいった。あとは、コイツを中にブチ込むだけだ。」

戻ってきたドローンに服と靴を乗せて、もう一度侵入させる。

ドローンが焼却炉の真上に来たところで、ドローンを傾けて焼却炉の中に落とす。

「よし、あとはドローンを回収するだけ…」

 

ガチャ…

 

「!!?」

…ビビったぁ。

空耳かよ、おどかしやがって…

 

ガシャンッ

 

「!?…何の音だ…?」

恐る恐るゴミ処理室の中を覗くと、砕けたドローンが地面に転がっていた。

あーッ!!

クッソ、やっちまった…!

どうすんだよ…回収できなくなっちまったじゃねえか!!

クソ…ここは一旦退くか…

俺は、そのまま部屋に戻った。

大丈夫、俺は悪くない。

俺は無罪だ俺は無罪だ俺は無罪だ俺は無罪だ

 

ー同時刻 フロントー

 

「どうしよう…猫西さんにもらったブレスレット、壊しちゃった…そうだ、部屋に戻ったら作り直そう。」

…本当は夜に外出ちゃいけないってみんなと約束してたんだけど、どうしても眠れなくてつい外に出ちゃった。

みんなには、明日謝ろう。

大丈夫、みんななら許してくれるはず…

 

 

 

 

 

「あーあ、殺っちゃったよ。全く、軽率に行動するからこうなるんだよ。初めから、意地張らずにコミュニケーションとってたら襲われなかったかもしれないのにね。なーにが正当防衛だ、悪いのは全部オマエだろうが。同情の余地無し、紛うこと無き罪人だよ!せいぜい、あの世で自分の愚かさを悔いるんだね。」

 

 

 

 

 


 

【郷間権蔵編】

 

夏美が死んだ。

妹同然の大事な仲間が、俺たちの中の誰かに殺された。

守れなかった、何もしてやれなかった。

クソッ、俺にもっと力があれば…

夏美が死ぬ事も、兄弟に殺しをさせる事もなかったのに…

俺は、自分の無力さを呪う事しかできなかった。

まだ心の整理ができていない中、モノクマがとんでもない事を言い出した。

俺たちで学級裁判をして、クロかそれ以外の全員を殺すっつー、後付けのクソゲーの説明を始めた。

ふざけんな。

なんで俺たちが、また兄弟を殺さなきゃなんないんだ。

ここで出会えた大切な仲間たちを、もう失うわけにはいかないんだ。

 

 

 

「ふざけんな!!」

気がついたら、体が動いていた。

言いたい事、全部言ってやる。こんなゲーム、誰かが終わらせなきゃいけねぇんだ。

『おや?郷間クン、どうしたの?』

「何が学級裁判だ、何がおしおきだ。ふざけんな!結局、どうなっても最低一人は死ぬって事じゃねえかよ!そんなの、俺は認めねえ!たとえ人殺しでも、兄弟の中に殺されていい奴なんているわけないだろ!」

『な、なんと〜!?まちゃか、学級裁判をボイコットちゅるちゅもりでちゅか!?』

『そんなの、許されるワケないだろー!!どうしても裁判をやめさせたきゃ、ボクたちを倒してからにしろー!』

『えぇえ!?が、学園長…ボク()()って、ちゃりげなくオイラを巻き込まないでくだちゃいよ!』

 

ゴッ

 

モノクマ達を、壁に叩きつけた。

腕には自信がある。ケンカじゃ、誰にも負けた事がねェ。

案外、あっさり二匹を押さえつけられた。

『ぎゃぶっ!』

『ぐえっ!』

「悪いな。こっちは毎日鍛えてんだよ。大工の息子ナメんじゃねえ!」

「いいぞお兄ちゃん!もっとやれー!」

「そうだウド、そのまま綿埃共をギッタギタに踏みつけてボロ雑巾にしろ!」

「今すぐこんなフザけたマネをやめろ!」

もう、ここまで来たらやってやる。

何が何でも、こんなゲームをやめさせてやる。

『ひぃいい!!最近の若者は怖いでちゅ〜!が、学園長〜!このDQNなんとかちてくだちゃいよ〜!』

『ボクに言わないでよ、ボクは万能な青ダヌキロボットじゃないぞ〜!た、たすけて〜!グングニルの槍!』

自分達がピンチになった途端、わめき散らしやがって。

…勝負あったな。

あとは、力尽くで押し通せば…

 

 

 

 

ザシュッ

 

 

 

…え?

 

身体に、無数の槍が突き刺さった。

身体に激痛が走るが、叫ぶ事もできない。

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 

「かっ…あ…なん、だ…こ、れ…俺…まだ、しにたく…な…」

 

嫌だ、嫌だ嫌だいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ…いやだ!まだ、こんなところで死にたくねえよ…論…勝利…ジェイムズ…誰でもいい、頼む…誰か助け…て…

 

感覚が鈍くなり、視界がボヤつく。

意識が遠のき、ついには何も感じなくなった。

 

 

 

 

 

 

「あーあ。死んじゃったよ。後先考えずに、好き勝手するからこうなるんだよ。家族でもない赤の他人に情が移っちゃったのが運の尽きだね。元気があるのはいい事だけど、そういうのは勇敢って言わないよ。…そういうのはね、無謀って言うんだよ。そこんとこ、はき違えてたんじゃないの?」

 

「ねえ、みんな。こいつらの共通点、何かわかるかな?…それはね、自分の行動に責任を持てない愚か者達だよ。これでちょっとはわかってもらえたかな?…まあ、今更どんなに後悔したって遅いけどね。」

 



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第2章 だれかの希望になれたなら
第2章(非)日常編①


章タイトル元ネタ『だれかの心臓になれたなら』です。


『ウチのお菓子食べて元気出しなよ!』

 

『ここにいる奴は、みんな兄弟だ!!よろしく頼むぜ、弟に妹!!』

 

『あー、かったりい…』

 

聞き慣れた声が聞こえる。

後ろを振り向くと…

 

『うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ…』

『ぴきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ…』

耳障りな甲高い声が二つ、鳴り響く。

そこにはナイフを胸に刺された死体、無数の槍が刺さった死体、バラバラに砕けて灼けた死体が転がっていた。

死体が目を開き、こちらを向いた。

死体が口を開いて、掠れ声で叫んだ。

 

オ マ エ ノ セ イ ダ

 

…そうだ、俺があの時何もしなかったせいで…

俺のせいで…

 

「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

「…ッはッ!?」

周りを見渡すと、俺の部屋だった。

さっきまでの死体は無く、俺はベッドで横になっていた。

…夢か。

 

合宿6日目の朝。

昨日あんな事があって、心身共に疲弊しているはずなのに、いつもより早く目が覚めた。

…最悪の目覚めだった。

朝の支度を済ませて、俺は部屋を出た。

散歩をした後、レストランに向かう。

レストランに入ると、既に何人か集まっていた。

 

「…おはよう。」

「おう、菊池。おはよう。」

玉木が返事を返した。

手には、今日の朝食と思わしき皿を持っている。

「…お前もしかして、朝飯作ったのか?」

「いや、ほとんど俺は何もしてねぇよ。厨房で速瀬、猫西、ジェイムズ、射場山、床前の5人が朝飯を作ってんだ。俺はその手伝いだよ。」

…早起き組は朝から料理か。

「…そっか。今までは近藤が作ってたもんな。これからは、飯は全部俺たちが作るんだな。」

「…。」

玉木の顔が曇った。

…しまった。

つい、言ってはいけない事を言ってしまった。

「あっ、悪い…」

「…いや、いいんだ。」

そこへ小川、織田、森万が来た。

「おはようございます、先輩方。」

「おはようございます、同志よ。」

「ああ、三人ともおはよう。」

「フン、菊池に玉木か。…そういえば、カークランドはどこに行った?今朝、姿を見なかったが。」

「ああ、ジェイムズなら、厨房で飯作ってるよ。」

「ほう…アイツが料理か。フッ、楽しみだな。」

…こいつらなんだかんだ言って仲良いな。

しばらくして、リタ、神城、アリスが来た。

「ふわぁ…おはようございますぅ。」

「ハッ、私に跪け!愚民共!!」

「やっほー!!おはヨークシャー・テリア!世界が羨むスーパー美少女あーちゃんが来たよ!!」

…朝からハイテンションだな、こいつ。

昨日あんな事があったのに、もう忘れちまったのか。

「皆様、食事の準備が出来ました。」

「やったー!!早く席座ろー!」

 

全員が席についた。

…空席が三つ、そして、それぞれに花の入った花瓶が置かれていた。

「…これは?」

「…あ、えっと…私が置きました。…その、私が亡くなった方たちにしてあげられる事は、これくらいしかないと思って…」

「…あ、そうっスよね。もう近藤先輩も、郷間先輩も、狗上先輩も、いないんっスよね。」

「…。」

それ以降、全員が言葉を発さなくなった。

…思い出してしまった。

そうだ。昨日、俺たちの仲間が三人も死んだんだ。

みんな、本当は生きたかったはずなのに。

あんなゲームさえ無きゃ、今頃ここに集まって、全員で飯を食ってたはずなのに。

重い空気の中、ソイツは口を開いた。

 

「なんかさー、この空気ブラックホール並みに重くない?タイクツだから、あーちゃん歌っちゃお!」

…は?

何を言ってるんだコイツは。

「パンのおかわり自由だしっ♪ジュースも飲みホウダイ〜♫レストランは〜サ〜イ〜コ〜ッ♬」

クソガキは、くだらない歌を歌い始めた。

「…アリス先輩?何スかそれ…」

「ん?ああ、これ?あーちゃんがサクシサッキョクした、『飯処』ってゆー歌だよ!あーちゃん、ヴィヴァルディ並みに音楽のセンスあると思わない?」

「思いません。ヴィヴァルディを舐めないで下さい。」

おい、ツッコミどころズレてるぞ。

「ふーんだ、センスない人の言葉なんて聞きたくないですよーだ!あーちゃんは、聞きたい人のためだけに歌うからね!じゃあ次は、『宿屋』ってゆー歌ね!」

「…あんた、頭おかしいの?なんでこんな状況で歌ってんのよ。」

「ほぇ?」

射場山が、苛立ちながら言った。

「…ホント、空気読めない奴嫌い。子供だからって何してもいいわけじゃないでしょ。」

「射場山さん…ちょっと言い過ぎじゃない?」

「…じゃああんたは、昨日の事を忘れたわけ?それなのに、こんなふざけた事をしてるコイツの神経がおかしいって言ってるの。」

「きのうの事って?きのうはきのう、きょうはきょうでしょ!いつまでもネチネチしなーいの!」

「…あんた、本気で言ってる?昨日あんな事があったのに、それを忘れて歌うなんて、信じらんない。」

…全員、口には出さなかったが、多分射場山と同じ意見だ。

こんな状況で、ふざけられる訳がない。

もしふざける奴がいたとするなら、それは近藤や郷間、そして狗上に対する冒涜だ。

 

「きのうあんな事があったから、歌ってるんだよ。」

 

アリスは、射場山の顔を覗き込みながら言った。

「ユミねえはさ、誰かが死んじゃったら、その人のために悲しむのがレーギだって思ってるみたいだけどさ、あーちゃんはちょっと違うんだよね!」

「…あんた、バカにしてるの?」

「ううん、全然?あーちゃんだって、死んじゃったみんなの事を忘れたわけじゃないよ。だって、人は死んじゃったら二度と生き返らないもんね。」

「何が言いたいわけ…?」

「二度目はない人生だからこそさ、思いっきり楽しんじゃおって事!死んじゃった人はそれまでだけど、生きてさえいればウルトラハッピーなんて、いつでもやってくるんだよ!それを台無しにしちゃうなんてさ、死んじゃった人へのレーギでもなんでもなくない?そんな事に時間をローヒするくらいだったら、あーちゃんは一秒でも長くふざけるよ!」

…クソガキの言葉は、存外深く突き刺さった。

人は、死んでしまったらそこまでだ。

だからこそ生きてる俺たちは、前に進み続けなきゃならない。

その事を、コイツは一番よくわかっていた。

わかっていたから、ふざけて場を盛り上げようとしていたんだ。

それが、俺たち、そして死んだ仲間への、コイツなりの礼儀だったんだ。

 

「…あー、今の俺らしくなかったな!悪い悪い!ほら、早く食わねえと、飯が冷めちまうよ。」

玉木が、気持ちを切り替えて、元気に振る舞った。

「そうですね…アリスさん、その歌、後で教えて下さい。デュエットしましょう。」

「先輩、それを言うならトリオっスよ。自分も混ぜてくださいよ。」

「おっ、この歌の魅力に気づいた!?しょーがないなぁ、じゃあ特別に教えてあげるよ!」

場の空気が、明るくなった。

…まさか、クソガキに励まされる日が来るとはな。

「ほら、射場山も!いつまでも暗い顔してないで、朝飯食え!」

「…。」

玉木の言葉に眉をひそめながらも、射場山は箸を持った。

…俺もそろそろ食わねぇとな。

俺は、朝食を口に運んだ。

…さすがに近藤までとはいかなかったが、店出せるくらい美味かった。

あいつら、料理得意だったんだな。俺も見習わないと…

 

 

 

全員、食事が終わった。

俺と玉木、小川、織田、森万で皿洗いをする。

小川は、楽器を鳴らすようにリズミカルに皿を洗っている。

…織田は、手つきがいやらしいな。見てて吐き気がする。

意外にも、玉木と森万の手際が良かった。

「いやあ、今日の朝飯美味かったな!」

「…玉木、お前結構手際いいな。」

「そうか?まあ俺、部活の合宿とかでしょっちゅう飯作ってたからな。」

「…へぇ。森万、お前も結構手際いいな。」

「フッ、当然だ。」

「…お前、もしかしてちゃっかり料理できたりする?」

「フン、まあ…少し齧ってはいる程度だ。」

「…へ、へぇ。」

俺は、声を震わせながら言った。

「…菊池先輩、どうしたんスか?…もしかして、料理できないんスか?」

「あっ、えっ…うん。」

いきなり小川に見破られて、ぎこちない返事をしてしまった。

「情けないでありますね、このメンツだと、料理できない派は少数派でありますぞ。」

「…うっ。…まあ、飯はロボットが勝手に作ってくれてたしな。」

「ふぁッ!!?おま、どんなハイテクな家だよ!」

「いや、別に…妹がちょっと家を改造しただけだけど。」

「妹!?先輩の妹さん、どんだけすごいんスか!?」

「…なあ、今のでピンときたわ。…お前の妹、『菊池破奈(キクチ ハナ)』だろ。」

「なんで知ってるんだ?」

「いや、逆に知らないのおかしいからな?中1の時点で既に希望ヶ峰へのスカウトが決まってはいるが、『超高校級の優等生』『超高校級の生徒会長』『超高校級の工学者』『超高校級の数学者』などなど、希望ヶ峰にスカウトできる才能が多すぎて、偉い先生方がどの才能でスカウトしようか頭を悩ませてるっつー噂だぞ。」

「…なんか、自分の事褒められてるみたいで照れるな。」

「先輩じゃないっスよ。」

 

皿洗いが終わって、席に戻った。

『うぷぷ…全員揃いましたね…?』

不愉快な声と共に、二匹のぬいぐるみが姿を現した。

『呼ばれて出てきてなんとやら〜!』

「別に呼んでねぇよ。…失せろ。」

『わわわっ!?菊池様、辛辣でちゅね!君は善良なる優等生だって信ぢてたのに!』

『そーだそーだ!そんな態度とってると、ボク怒っちゃうよ!お前ら、クマ当たり悪すぎ!』

『ハム当たりも悪いでちゅよ!』

「…うるせぇ。昨日の事、忘れたとは言わせねぇぞ。」

『あれは、後先考えないバカ共が勝手にやった事だし?ボク達知らないもんねー。』

「なんだと!!」

「おい、玉木、落ち着けって…!」

『だってそうじゃん?殺すも殺さないもオマエラの自由だったわけで、()()()()近藤サンが返り討ちに遭って、()()()()狗上クンが近藤サンを返り討ちにして、()()()()郷間クンがボク達に刃向かったんでしょ?』

「…そうなるように仕向けたのは、全部君たちだよね?近藤さんたちは、君たちのくだらないゲームに巻き込まれただけだよ!」

『やだなぁ、別にボク達は、きっかけを作っただけだもんね!だってさ、いくら食べられないものがあったとしても、自分が手を汚す以外にその状況をどうにかする方法はいくらでもあったはずじゃん?近藤サンが()()()()それで殺人をするような脳みそスポンジケーキ女だったおかげで、ボク達はこのゲームを楽しめたんだからね!』

『猫西様も不良の仲間入りでちゅか!?オイラ悲ちいでちゅ…』

モノクマ達は、ヘラヘラしながら俺たちを挑発した。

『ちょんな事より、皆様にお話ちちたい事がありまちゅ!』

「話って何だ、綿埃共!くだらねぇ事だったら引きちぎんぞ!!」

『や、やめてくだちゃいよぉお…!オイラたちはただ、皆様に有益な情報を与えに来ただけでちゅよ〜!!』

「その話が有益である保証は?いつも、碌な話をなさらないではありませんか。」

『速瀬サンまで!?みんな冷た過ぎ!マイナス273度かよ!!ボクそろそろ怒るよ!!』

「…そんな事より、早く本題入ってくださいよ。」

『いけね。そうだったそうだった。じゃあ、早速本題に入っちゃうよ!』

 

『前回、学級裁判を頑張ったオマエラへのご褒美だよ!新しくエリアを解放したから、確認してみてね!』

しおりを確認すると、マップに新たなエリアが増えていた。

「更衣室とプール、スポーツセンターに水族館…あとは図書館か。」

「フン、どうせ殺人現場を増やしただけだろう。」

『ヂャッチュライ!!皆様には、新ちく解放したエリアで、ぢゃんぢゃん殺ちまくって頂きたいのでちゅ!』

『今回も、エクストリームな事件を期待してるよ!それじゃあね!』

モノクマとモノハムは、それだけ言って帰っていった。

「…とりあえず、エリアの探索始めるか。」

しおりにざっくりと目を通してから、提案してみた。

「そうですね…今回は、グループ分けはこんな感じで宜しいですか?」

速瀬がサラサラと紙に書いた。

 

更衣室 男子…菊池様 女子…私

プール…森万様、カークランド様、小川様

水族館…アリス様、猫西様、アンカーソン様

スポーツセンター…玉木様、織田様

図書館…神城様、射場山様、床前様

 

「わーい!水族館〜!あーちゃんお魚大好き!!しかも、またうぇすにゃんと一緒だー!」

「またまたよろしくね、あーちゃん。」

「…ふわぁ。眠いですぅ…。」

「フン、またカークランドと一緒か。」

「はい、宜しくお願いしますね。」

「先輩、ちゃんと見張ってますからね。」

「ぬぁああああああ!!!速瀬氏!!なぜ吾輩のグループに、レディがいないのでありますか!!しかも、よりによって(イケメン)と同じグループにするなど…!!」

敵と書いてイケメンと読ませるな。

「…日頃の行いのせいだろ。織田、お前は俺と行動な。」

「ぬぁああああああああ!!!」

「…ねえ、コイツどうにかならなかったわけ?」

「ふはははははははは!!!私に媚びろ!!愚民共!!おい無口、地味、私のために身を粉にして働け!!」

「…あ…えっと…」

「しょうがないだろ。どっかのグループには入れてやんねぇと。神城は頭は良いし、図書館の探索で役に立つかもだろ?」

「はっ、おいサッカー!!なんで私が探索に協力する前提なんだ!!」

「…やってらんない。」

…射場山と床前は苦労しそうだな。

「じゃあ、とりあえず解散にする?」

「そうですね。…では、皆様は各エリアの探索に向かって下さい。」

俺たちは、そのまま解散した。

 

 

 

ー男子更衣室ー

 

「…ここが更衣室か。」

青い男子マークが描かれたドアの前に立つが、開け方がわからない。

「…これ、どうやって開けるんだ?」

『ズバリお答えしましょう!』

「うおっ!?」

後ろから、いきなりモノクマが現れた。

『ちょっと、ビビりすぎじゃない?』

「…その現れ方、心臓に悪いからやめろよ…」

『じゃあ、もっとやろーっと。』

…コイツ。

『菊池クン、ドアの開け方がわからないって言ってたね?ドアの右側をよく見てごらん?』

「…バーコードリーダーみたいなのが設置されてるな。」

『自分のしおりを、そこに置いてみてよ。』

「…こうか?」

 

ポゥン…

 

変な音と共に、扉が横にスライドした。

「開いた…」

『そう、この更衣室は、電子しおりによってのみ開閉が可能なのです!そこにしおりをセットすると、生徒の情報が読み込まれて、ロックが解除される仕組みだよ!』

なるほど、破奈が作った機械の劣化版か。

『ああ、そうそう。ちなみになんだけど、仮に男子更衣室のリーダーに女子の、女子更衣室のリーダーに男子の個人情報が読み込まれた場合、即座に上にあるガトリングガンが火を吹くからね!風紀を乱すような行動は許しません!!』

…物騒だな。

だが、織田あたりにはちょうどいいかもな。

「話はそれだけか?とっとと失せろ。」

『うっわ!せっかく親切に説明してあげたのに、辛辣ゥ〜!もう怒った!!ボク帰る!!』

モノクマは頭から湯気を出しながら去っていった。

…中を探索するか。

 

中には、ロッカーとダンベルやベンチプレスなどのトレーニング器具が置かれていた。

…そして壁には、グラビアアイドルの顔をモノハムにしたクソコラ画像のようなものが貼られていた。

相変わらず、余計な事しかしないのかこいつら。

気持ち悪すぎて吐き気しかしない。

「…特に目ぼしい物も無いし、そろそろ行くか…」

 

カタン…

 

ロッカーの方から、音が聞こえた。

「…?中になんか入ってるのか…?」

ま、まさか死体が入ってたりしないよな…

恐る恐る音がしたロッカーを開けると…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全身黒ずくめの男が、ロッカーの中から俺を睨んでいた。

 

「おわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」

 

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁあああああああああああああああああ!!!?」

 

俺は、突然の出来事に思わず腰を抜かして、大声で叫んだ。

部屋中に、二つの叫び声が響き渡る。

「ぎゃあああああああああ!!し、しししし…死体ぃいいいいいいい!!!」

「きゃああああっ、って!!誰が死体よ!!」

…ん?

見ると、ロッカーの中の男が、俺同様腰を抜かして叫んでいた。

俺は冷静さを取り戻し、目の前の男に歩み寄る。

2m近くあるロッカーにギリギリ入るくらいの長身、右目が隠れるほど長く艶のある漆黒の前髪、吸い込まれるような漆黒の瞳とは対照的に真っ白な肌をした美青年だ。

…だがよくよく見てみたら、化粧をしていたり、爪に黒いマニキュアを塗っていたり、右耳にピアス開けてたり…おかしな格好をした男だ。

「なあ、アンタ一体…」

「ヒィイイ!!ちょっと、なんなのよぉお!!いきなりロッカーが開いたと思ったら、急にどデカい叫び声が聞こえて…ビックリするじゃないの!!」

「それはこっちの台詞だ!!アンタこそ、なんでロッカーに入ってたんだ!!死体かと思ったじゃねぇか!!心臓に悪い現れ方すんな!!」

「知らないわよぉ!!アタシだって、気がついたらここに…あれ?」

男は、俺の方をじっくりと見つめる。

「アンタ、もしかして…」

男がいきなり俺の手を掴んで、嬉しそうに燥ぐ。

「ヒッ…!?」

 

「サトシちゃんじゃな〜い!!久しぶり〜!元気してるぅ〜?」

「は、ぁああ…?」

「あ、そうだ!カツトシちゃんは?ゴンゾウちゃんは?リオンちゃんは?ナツミちゃんは?みんな元気?」

「えっ、ええ…?」

突然の出来事に、俺は混乱して、間抜けな返事をしてしまった。

どうやら、この男は俺の事を知っているらしい。

俺の事だけじゃない…この合宿の参加者全員の事を知っていた。

…だが、俺はこの男を全く知らない。

「もうっ、心配してたんだからね!乙女心を傷付ける男はモテないわよ、プンプン!!」

「おいおい、ちょっ、待て待て待て!!」

「ん?どうしたのサトシちゃん?」

「どうしたのって…そっちは俺らの事色々知ってるみたいだが、俺はアンタの事なんて全然知らないぞ!?」

「ふぇええええええ!!?嘘でしょぉおおお!!?アタシの事、忘れちゃったの!?うぇええええん、覚えてないなんて噓よぉおおおお!!!」

男は、わざとらしく泣き出した。

…なんかデジャヴだな。

「どう言う事だ…?俺らは、アンタの知り合いだったのか?」

「そうよ?アタシ、みんなとずっと仲良くしてたのよ!この前だって、二人でアツい夜を過ごしたじゃない。ウフフ…♡」

「はっ!?お前、俺の記憶が無い間になんて事してんだ!!俺の身体に何をした!!」

「今のは冗談よ。」

「紛らわしい事言うな!!」

…全く、一瞬俺の貞操が奪われたと思ったじゃねえか。

「…はぁ、じゃあ…アンタは俺の事知ってるみたいだから、自己紹介はいらないな。…アンタ、名前は?」

「えー…そんな事も忘れちゃったの?ショックー。…まあいいわ。教えてあげる。」

 

 

「…アタシの名前は鈴木咲良(スズキ サクラ)。『超大学生級のオネエ』よ。」

 

【超大学生級のオネエ】鈴木(スズキ)咲良(サクラ)

 

「…『超大学生級』?『超高校級』じゃなくて?」

「そうよ?アタシ、こう見えても大学生なのよ!」

「…アンタ、今いくつだ?」

「あら、乙女に年齢を訊くなんて、失礼な男ね。…と、言いたいところだけど、教えてあげる。今は18よ。今年19になるわね。」

…大学1年生か。

「ウフフ…わざわざアタシを助けてくれるなんて、嬉しい♡…やっぱりサトシちゃんとアタシは、運命の赤い糸で結ばれてるのね♡」

「気色悪い事言うな。俺はそっちの趣味は無い。」

「つれないわねぇ。」

「流石に、アンタをずっとここに置いておくわけにはいかないからな。…行くぞ。」

「行くってどこに?」

「レストランだよ。そこに、みんなと一緒に集まる事になってる。」

「ふーん。」

俺は、部屋を後にする。

…が、鈴木が付いてきていない。

「…何やってんだ?早くレストラン行くぞ。」

「あぁん、サトシちゃん!待ってェ!」

「…なんだ。」

「サトシちゃん、よく見て?アタシ、動けないのよぉ〜!」

「…あ。」

鈴木の手足は、手錠で拘束されている。

「ちょっと待ってろ。何か外す物持ってくるから。」

売店に向かい、ペンチを持って更衣室に戻る。

「…お待たせ。ちょっとじっとしてろ。今鎖を切ってやる。」

「あぁん、ありがと♡」

 

パチン

 

パチン

 

二つの鎖が切れた。

「ふぅ〜、やっと自由に動けるわぁ。んー、自由っていいわねぇ。」

「じゃあ、動けるようになった事だし、レストランに向かうぞ。」

「ガッテン承知の助〜♡」

俺と鈴木は、レストランに向かった。

 

ーレストランー

 

レストランには、すでに探索を終えたみんなが集まっていた。

「みんな、お待たせ。」

「おう、菊池…と、その人は誰だ?」

「キャー!カツトシちゃんじゃな〜い!!お久しブリリアント・カット〜!」

「えっ、えぇっ…?」

「何と言うか…個性的な格好をされた方ですね。」

「キャー!もしかして、ジェイムズちゃん?大きくなったわね〜!このままじゃ、アタシ背抜かれちゃうかも〜!」

「はて…何処かでお会いしましたか?」

「えぇえ!?もしかして、みんなもアタシの事覚えてないのぉ!?イヤ〜ン、ショック〜!」

「みんな()って事は、菊池君も、この人の事知らないんだよね?」

「…ああ。さっき初めて会った。…だが、コイツ曰く、俺たちは初対面じゃないらしい。」

「そうよぉ!みんな、あんなにアタシの事『咲良ちゃん』って呼んで慕ってくれてたのに!」

「ふーん。じゃあさくらちゃん。」

「さくらちゃんじゃなくて咲良よ!!さくらちゃんだと、オーガちゃんになっちゃうでしょ!?」

「どっちでもいいっつーの!あーちゃん漢字苦手なんだよ!!察してよ!!」

「ちょっとは勉強しときなさいよ!!」

二人が喧嘩を始めた。

「…あの、先ずは貴方のお名前をお伺いしても?」

「あ、そうね。みんなはアタシの事知らないんだもんね?じゃあ、自己紹介しましょう。」

 

「はじめまして。…本当は、はじめましては少しおかしいんだケド。アタシは鈴木咲良。『超大学生級のオネエ』よ。」

「『超大学生級』の…」

「オネエ…?そんな才能、初めて聞いたっス…」

「…私、実物のオカマの方は初めて見ました。私の家の近所には、生息していらっしゃらなかったもので…」

「ジェイムズちゃん!!人を珍獣みたいに言わないで頂戴!!生息って何よ生息って!!あとアタシはオカマじゃなくてオ・ネ・エ!!そこんとこ、間違えないでよね!!」

「どっちも同じようなもんだろうがよ、オカマ野郎!!」

「…黒羽ちゃんちょっと歯ぁ食いしばりなさ〜い?」

「…あの。」

「うるせぇ!!愚民が気安く私の名前を呼ぶな!!」

「アンタいっつも頭が高すぎなのよ!!」

「…えっと、」

「オカマ野郎!!」

「うっさいわね虐めっ子!!」

「おい、二人とも。そろそろやめろ。床前が話したそうにしてるぞ。」

「あっ、ナギサちゃんごみんに〜!気づかなかった〜!」

「鈴木、お前なぁ…」

「菊池さん、いいんです。慣れてますから…」

「ナギサちゃん、話したい事ってなぁに?」

「えっと…今、『超大学生級』って仰いましたけど…鈴木さん、もしかして希望ヶ峰学園の卒業生なんですか…?」

「そうよ。アタシは、希望ヶ峰に通ってたわ。この前卒業したけど。」

「えっ、さくらちゃん今いくつ!?」

「あら。全く…乙女にそんな質問するなんて、失礼な娘。…まあでも、教えてあげるわ。…18よ。」

「…普通に考えたら大学1年生か。そうなると、私達が入学するちょうど数日前に卒業したって事か…鈴木さん。あなたは、どうして私達の事を知ってるんですか?仮にあなたの話が本当だったとして、希望ヶ峰での、私達との接点は無いですよね?」

「…ああ、気づいちゃった?うぇすにゃん?」

「…理嘉です。本名、猫西理嘉って言います。」

「あ、そうだったわね。アヤカちゃん。」

「鈴木さん、どうしてあなたが私達の事を知ってるのか、教えてくれませんか?」

「んー…それはね〜、ちょっと言わない方がいいかしらね〜。」

「はぇえ!?ちょっとー!ちゃんと説明しろよー!!さくらちゃんのバカー!!アンポンタン!!オカマオーガ!!」

「誰がオカマオーガよ!!全部忘れたアンタ達が悪いんでしょうが!!それとアタシは『さくら』じゃなくて『咲良』だし!!オカマじゃなくてオネエだし!!ちゃんと覚えときなさいよ!!」

「…まぁ、仰って頂けないのであれば仕方ありません。今無理して問い質す事では無いでしょう。」

「やー、さすがフブキちゃんは話がわかるわねぇ!」

「…その代わり、私は貴方の事を全く信用出来ません。その事は、ご承知置き下さい。」

「…辛辣ゥ。」

 

『やっほー!!みんな元気ー?』

『またまた出てきたでちゅ!!』

忌々しいぬいぐるみ共が、姿を現す。

「あっ…!アンタ達!!」

鈴木は、モノクマ達を指差して言った。

「…鈴木、知ってるのか?」

「…思い出したのよ。知ってるも何も、アタシ、コイツらにロッカーに閉じ込められたのよ!!」

『うぷぷ!ご機嫌麗しゅうオカマ野郎!シャバの空気を吸えて良かったね!』

「誰がオカマ野郎よ!!オネエだっつってんでしょ!!」

『まあまあ、あんまり怒ると、お肌に悪いでちゅよ?』

「くっ…」

そこはあっさり退くのか。

「で?君たち、一体何の用なのさ!またくだらない事言いに来たわけ?」

『くだらないなんてとんでもない!ボク達は、鈴木クンの合宿への参加を認めに来たんだよ!!』

「合宿?何よそれ。アタシに何をさせる気?」

『オイラ達は、入ってくる人達はウェルカムなのでちゅ!鈴木様、これをお受け取りくだちゃい!』

「あら。何これ。スマホ?」

『ちょれは合宿のしおりでちゅ!合宿生活で必要になるから、絶対になくちゃないでくだちゃいね!』

『じゃっあねー!』

「あっ、おいこら待て!!」

モノクマ達は、大事な事を言わずに去っていった。

 

「ふーん、合宿ねえ。随分と勝手な事してくれるじゃない。…まあでも、面白くなるんだったらアタシは大歓迎よ。」

…面白い?

このゲームが、面白いわけがない。

鈴木はまだ、何も知らないんだ。

このコロシアイ合宿という地獄を…

 

 

 

 

コロシアイ合宿生活 残り14名



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合宿参加者一覧②

【超高校級の弁護士】菊池(キクチ)(サトシ)

 

「それは違うぞ!!」

 

性別:男

身長:171cm

体重:57kg

胸囲:80cm

誕生日:7月10日(かに座)

血液型:O型

好きなもの:法学、すき焼き

苦手なもの:子供、水泳、家事

趣味:読書(特に法学の本)

特技:論破

出身校:鳳条学院中等部

得意教科:法学、政治学

苦手教科:物理

ICV:神谷浩史

キャッチコピー:真実を求める雄弁家

外見:中肉中背の青年。黒髪のウルフカット。瞳は灰色で、ツリ目。

服装:紺色の制服と白いワイシャツ、赤いネクタイを着用。靴は茶色いローファー。

人称:俺/お前、アンタ/アイツ、みんな/苗字呼び捨て。例外…ジェイムズ、リタ、アリスは名前呼び捨て。

現状:生存

 

主人公兼語り手。高校生にして弁護士資格を持っており、負け知らずの弁護士。死刑確定とまで言われた被告人の無実を証明したという功績から、希望ヶ峰学園にスカウトされた。コロシアイ合宿の参加者。メンバーの中では比較的常識人なので、振り回される事が多い。普段は冷静だが、ペースを乱されると子供っぽい一面が露わになる。正義感の強い性格だが、子供が苦手。中学生の優秀な妹がいる。家事は全て妹が作ったロボットに任せていたため、家事が苦手。

 

 

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【超高校級の???】アリス

 

「サイノー?…えっとね、忘れちゃった!!」

 

性別:女

身長:128cm

体重:25kg

胸囲:60cm

誕生日:1月1日(やぎ座)

血液型:AB型

好きなもの:ショートケーキ、お泊り

苦手なもの:キモチ悪いおにーさん、にんじん、グリンピース

趣味:遊ぶこと!

特技:あーちゃんってめっちゃかわいいよね!

出身校:わかんない!

得意教科:わかんない事を知るのって面白いよね!

苦手教科:でも学校のベンキョーは大っ嫌い!

ICV:大谷育江

キャッチコピー:天真爛漫な幼女高校生

外見:腰まである金髪ツインテール。アホ毛が生えている。くりくりした目をしており、瞳は青色。

服装:赤いリボンのついた白いワンピースを着ている。革のサンダルを履いている。

人称:あーちゃん/あだ名/アイツ、みんな/菊池「サトにい」玉木「カツにい」近藤「ナツねえ」猫西「うぇすにゃん」速瀬「ブキねえ」ジェイムズ「ムズにい」リタ「リタねえ」小川「シオねえ」郷間「お兄ちゃん」織田「ケンにい」床前「ナギねえ」狗上「リオンにい」森万「ツラにい」射場山「ユミねえ」神城「クレねえ」鈴木「さくらちゃん」

現状:生存

 

自称15歳の幼女。超高校級の才能があるらしいが、思い出せない。周りからは『超高校級の幼女』などと呼ばれる。精神年齢や身体能力は10歳程度。しかし地頭はかなり良く、たまに核心を突くような発言をする。非常に好奇心旺盛。空気の読めない言動で周りを引っ掻き回している。毒舌かつ自意識過剰なので、周りからはよくウザがられる。話し方が絶望的にわかりにくい。

 

 

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【超高校級のサッカー選手】玉木(タマキ)勝利(カツトシ)

 

「困った時は、いつでも俺に頼ってくれよな!!」

 

性別:男

身長:183cm

体重:73kg

胸囲:85cm

誕生日:5月13日(おうし座)

血液型:O型

好きなもの:サッカー、唐揚げ

苦手なもの:協調性のないヤツ

趣味:サッカー

特技:サッカー

出身校:慧政学院中等部

得意教科:体育、数学

苦手教科:美術

ICV:梶原岳人

キャッチコピー:リーダー気質の天才キャプテン

外見:長身のイケメン。赤毛のミディアムヘア。切れ長の目をしており、瞳は琥珀色。

服装:青と白を基調としたユニフォームを着用。黒い靴下と赤いシューズを履いている。

人称:俺/お前、君/アイツ、みんな/苗字呼び捨て。例外…ジェイムズ、リタは名前呼び捨て。アリス「あーちゃん」

現状:生存

 

爽やかなイケメン。ノリが良く、社交的な好青年。常識人なので、ツッコミ役になる事が多い。Jリーグに出場し、大人チームと対戦して勝利を収めたという経歴を持つ天才キャプテン。その天性の才能とリーダーシップから、スポンサーからのオファーが殺到しているという。リーダー気質で、仲間想いな性格。運動能力だけでなく、学校の成績も優秀。男性陣の中で唯一の彼女持ち。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【超高校級のパティシエ】近藤(コンドウ)夏美(ナツミ)

 

「ウチのお菓子食べて元気出しなよ!」

 

性別:女

身長:143cm

体重:38kg

胸囲:75cm

誕生日:3月3日(うお座)

血液型:O型

好きなもの:スイーツ(特にドーナツ)

苦手なもの:お肉(特に鶏肉)

趣味:お菓子作り

特技:お菓子作り

出身校:星華中学校

得意教科:家庭科、フランス語

苦手教科:数学、理科

ICV:潘めぐみ

キャッチコピー:スイーツを極めたゆるふわ女子

外見:小柄。髪は濃いピンク色のふわっとしたボブカット。ハート型のアホ毛が生えている。円らな目をしており、瞳は緑色。

服装:髪にハート型のヘアピンをつけている。白とピンクを基調とした、赤いリボンがついたセーラー服を着用。ピンクのニーハイと茶色いロングブーツを履いている。

人称:ウチ/君、アンタ/アイツ、みんな/「苗字+っち」例外…玉木「カッちゃん」ジェイムズ「ムズっち」リタ「リタっち」アリス「あーちゃん」

現状:死亡(1章シロ)

 

小柄な女子。社交的で明るい。凄腕のパティシエ。彼女の作るスイーツを食べると昇天しそうになるほど幸福感に満たされると言われ、海外の著名なパティシエ達も一目置いている。人懐っこく、誰とでも仲良くできる。お菓子だけではなく、料理全般得意。スイーツに対する情熱は並大抵のものではなく、一度スイッチが入ると味に一切妥協出来なくなる。料理にこだわりがあり、素人に手を出されるのが嫌い。実は鶏肉アレルギーで、モノクマに島中の食材を全て鶏肉に変えられた時は、生き残るために狗上を殺そうとした。しかし、返り討ちに遭って虐殺された。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【超高校級の実況者】猫西(コニシ)理嘉(アヤカ)

 

「どうも!生身でははじめましてですね。私、うぇすにゃんこと、猫西理嘉です。」

 

性別:女

身長:169cm

体重:52kg

胸囲:78cm

誕生日:2月22日(うお座)

血液型:A型

好きなもの:猫、動画、お魚、菊池論(?)

苦手なもの:きゅうり

趣味:ゲーム、猫の世話

特技:ゲーム、リアクション芸

出身校:帝貫大学付属中学校

得意教科:数学、理科、英語、音楽

苦手教科:国語

ICV:下田麻美

キャッチコピー:世界を癒す愛猫家

外見:ちっぱい。美少女。毛先にピンクのグラデーションがかかった黒髪のツインテール。ツリ目で、瞳は琥珀色。右目に泣き黒子がある。ナチュラルメイク。

服装:頭に黄色いリボンを付けている。鈴が付いたチョーカーをつけている。黒と金を基調とした、白猫の飾り付きの金色のリボンが付いたセーラー服を着用。靴は、赤い革靴。

人称:私/君/あの子、あの人、みんな/男「苗字+君」女「苗字+さん」例外…アリス「あーちゃん」鈴木「鈴木さん」

現状:生存

 

話題沸騰中の実況者。『うぇすにゃん』という名前で活動している。チャンネル登録者数は500万人強。ゲーム実況や歌ってみた、罰ゲーム系など様々なジャンルの動画を投稿している。最近は、ドラマやバラエティ番組にも度々出演している。最近は、ドラマやバラエティ番組にも度々出演している。美人で、信者の中には彼女にガチ恋をしている者も少なくない。ゲーム全般得意。ファンに対して神対応。比較的常識人。猫が大好きで、家では種の違う猫を10匹飼っている。英才教育を受けているため、頭は良い。菊池に対してとある感情を抱いており…?

 

 

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【超高校級の秘書】速瀬(ハヤセ)吹雪(フブキ)

 

「貴方方ですか、集合時刻の37秒前に到着したのは。」

 

性別:女

身長:178cm

体重:61kg

胸囲:95cm

誕生日:4月16日(おひつじ座)

血液型:B型

好きなもの:読書、緑茶

苦手なもの:不規則なもの

趣味:読書、音楽鑑賞

特技:情報管理

出身校:桜苑女子学院中等部

得意教科:数学

苦手教科:道徳

ICV:進藤尚美

キャッチコピー:仕事熱心な超人女子高生

外見:長身でスタイル抜群の美人。藤色の髪のシニヨン。ツリ目で、瞳は菫色。

服装:メガネをかけている。黒いスーツ。黒いピンヒールを履いている。黒ストと黒いピンヒールを履いている。

人称:私/貴方、貴女/あの方、皆様/「苗字+様」例外…アリス「アリス様」

現状:生存

 

中学生で県知事の秘書になった才女。倒産しかけた会社を、次期社長と共に大企業へと発展させた功績を持つ。冷静沈着で、文武両道な優等生。非常に神経質な性格で、メジャーや時計を常に持ち歩いている。裏で人の手助けをする事に喜びを感じており、あまり目立つタイプではないが、秘書として雇い主をサポートしている。その日の気分で、メガネを替えているらしい。常に冷静で、一歩離れたところから周りを見ている。

 

 

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【超高校級の大学教授】ジェイムズ・D=カークランド(James Doyle Kirkland)

 

「こうして『超高校級』の皆さんと同じ空間にいるのが夢のようです。よろしくお願いしますね。」

 

性別:男

身長:189cm

体重:68kg

胸囲:89cm

誕生日:12月1日(いて座)

血液型:AB型

好きなもの:学問、紅茶、日本

苦手なもの:ありません

趣味:学術書を読む事、旅行

特技:暗記

出身校:ゲンブリッジ大学(大学教授)

得意教科:数学、物理学、日本語、ラテン語

苦手教科:あるかもしれません

ICV:松岡禎丞

キャッチコピー:博学多才な英国青年

外見:長身痩躯の美青年。中性的な美人顔。長い猫っ毛の銀髪を三つ編みにしている。瞳は暗赤色。ちなみに、アルビノではない。

服装:シルクハットを被っている。白いワイシャツ、ダークグレーのベスト、赤いネクタイの上に黒い背広を着用。手袋を着けている。左耳にピアスをつけている。靴は黒い革靴。

人称:私/貴方、貴女/あの方、皆さん/「苗字+さん」例外…アリス「アリスさん」

現状:生存

 

11歳で大学を首席で卒業し、 12歳で大学教授になった天才少年。英国出身。日本の文化に憧れている。博学多才なオールラウンダー。仕事柄、大抵のスキルは人に教えられる程度には磨いている。基本冷静で紳士的な好青年だが、ド天然。菊池曰く『お嬢様』。リタとは旧知の仲。飛び級でスカウトされているため、他の参加者よりひとつ年下。左利き。実はアイドルオタクで、うぇすにゃんと舞園さやかの大ファン。

 

 

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【超高校級の外務大臣】リタ・アンカーソン(Rita Ankerson)

 

「ふわぁあ…眠い…」

 

性別:女

身長:156cm

体重:45kg

胸囲:83cm

誕生日:6月17日(ふたご座)

血液型:O型

好きなもの:睡眠、ホットミルク

苦手なもの:朝、ブラックコーヒー

趣味:寝る事

特技:外国語

出身校:インユーテロ校

得意教科:外国語全般、経済学

苦手教科:体育

ICV:釘宮理恵

キャッチコピー:語学を極めたスリーパー

外見:少し巨乳。髪は緑色で、寝癖がついたセミロング。タレ目で、瞳は青みがかった緑色。

服装:深緑のジャンパースカートの上にベージュ色のパーカーを羽織っている。白いニーハイと茶色いロングブーツを履いている。

人称:僕/君、あんた/あの人、みんな/苗字呼び捨て。例外…アリス「アリス」ジェイムズ「ジェイムズ」

現状:生存

 

ノヴォセリック王国の外務大臣。どんなに悪い関係の国同士でも、彼女を挟むとたちまち良好な関係になるという。僕っ娘。非常に語学が堪能で、60以上の言語を操れるマルチリンガル。いつも居眠りを繰り返している。ロングスリーパーで、一日のほとんどを寝て過ごしている。一度寝たら、起こすのに30分以上かかる。ジェイムズとは旧知の仲。寝ぼけると母国語が出てしまう。(ジェイムズは、それがツボらしい。)

 

 

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【超高校級の演奏家】小川(オガワ)詩音(シオン)

 

「自分、小川詩音っていうっス。『超高校級の演奏家』って呼ばれてるっス。顔と名前くらいは覚えてくださいよ〜。」

 

性別:女

身長:160cm

体重:48kg

胸囲:80cm

誕生日:11月6日(さそり座)

血液型:B型

好きなもの:楽器、炭酸飲料

苦手なもの:匂いのキツいもの

趣味:演奏

特技:演奏

出身校:丘路音楽大学付属中学校

得意教科:音楽

苦手教科:国語、数学

ICV:小見川千明

キャッチコピー:音楽を愛する楽天家

外見:標準体型。濃い水色のボブカット。ツリ目で、碧眼。そばかすあり。

服装:ト音記号とヘ音記号の形のヘアピンをつけている。茶色を基調としたブレザーを着用。紺色のソックスと茶色いローファーを履いている。

人称:自分/〇〇先輩/あの人、皆さん/「苗字+先輩」例外…アリス「アリス先輩」

現状:生存

 

凄腕の演奏家。海外の有名なオーケストラの団員だった事もある。楽天的な性格。サバサバ系女子。常識人なので、ツッコミ役になる事が多い。幼い頃から楽器を演奏してきたので、非常に優れた聴覚を持っている。幼い頃からの努力で『超高校級』まで上り詰めた。才能では周りより劣っている事を自覚しているため、他の『超高校級』に敬意を払って「先輩」呼びしている。

 

 

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【超高校級の庭師】郷間(ゴウマ)権蔵(ゴンゾウ)

 

「ここにいる奴は、全員兄弟だ!!よろしく頼むぜ、弟に妹!!」

 

性別:男

身長:214cm

体重:120kg

胸囲:131cm

誕生日:8月2日(しし座)

血液型:B型

好きなもの:建築、炭火焼

苦手なもの:庭仕事、甘い物

趣味:親父の手伝い

特技:建築、庭仕事(あんまり好きじゃねえ)

出身校:怒羅言中学校

得意教科:体育

苦手教科:英語

ICV:中村悠一

キャッチコピー:兄貴肌のガーデナー

外見:大柄で、筋肉質な体型。茶髪のベリーショート。切れ長の目で、瞳は茶色。

服装:白いTシャツと青いジーンズを着用。腰に赤い上着を巻いており、左肩に黒いバンダナを巻いている。靴は黒いスニーカー。

人称:俺/お前/アイツ、みんな/名前呼び捨て。

現状:死亡(1章ルール違反)

 

大柄な男子。本当は家業の大工を継ぎたかったらしいが、手入れした庭をたまたまプロの庭師に気に入られて、『超高校級の庭師』として有名になった。彼の手入れした庭は、10億円以上で売れるという。しかし本人は、自分の才能に対してあまり納得がいっていない。仲間想いな性格で、合宿参加者達を兄弟のように大切に思っており、「弟」か「妹」と呼んでいる。モノクマが近藤殺しの犯人探しをするための学級裁判の説明をした際、仲間を守るために、果敢にもモノクマ達に立ち向かったが、あっけなくグングニルの槍で惨殺された。

 

 

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【超高校級の漫画家】織田(オダ)兼太郎(ケンタロウ)

 

「何を言いますか!!吾輩は、清く正しい織田兼太郎であります!!」

 

性別:男

身長:157cm

体重:43kg

胸囲:71cm

誕生日:2月8日(みずがめ座)

血液型:B型

好きなもの:漫画、オムライス、女性

苦手なもの:運動、トマト

趣味:漫画

特技:漫画

出身校:坂松中学校

得意教科:美術

苦手教科:体育

ICV:塩屋翼

キャッチコピー:二次元を愛するアーティスト

外見:小柄で痩せ細った体型。黒髪の、ウェーブがかかったロングヘアー。三白眼で、瞳は黒。出っ歯。

服装:眼鏡をかけている。黒を基調とした学ラン。靴は茶色いローファー。リュックを背負っている。

人称:吾輩/〇〇氏/あの人、皆さん/「苗字+氏」例外…アリス「アリス氏」

現状:生存

 

週刊少年誌で大人気の連載漫画を描いている天才漫画家。彼の手掛けた作品は爆発的にヒットし、海外で実写映画化されたという。漫画やアニメをこよなく愛するオタクの中のオタク。『超高校級の同人作家』の影響を受けて漫画家を志望した。自分を清く正しい漫画家だと言っているが、根っからの変態で、女性陣からは蔑みの目で見られている(特に射場山から)。イケメンの玉木を一方的に敵視している。

 

 

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【超高校級の幸運】床前(トコマエ)(ナギサ)

 

「私、なんの取り柄もなくて…ただ運で選ばれただけなので…」

 

性別:女

身長:152cm

体重:40kg

胸囲:84cm

誕生日:9月5日(おとめ座)

血液型:A型

好きなもの:小鳥、桃、お風呂、菊池論(?)

苦手なもの:虫、運動

趣味:読書

特技:ないかもしれないです…

出身校:三丘第二中学校

得意教科:国語

苦手教科:体育、数学

ICV:千菅春香

キャッチコピー:幸運に選ばれた女子高生

外見:小柄。巨乳。茶髪のセミロング。タレ目で、瞳は水色。

服装:花の髪飾りを付けている。白と黒を基調とした、青いスカーフがついたセーラー服を着用。襟と袖口とスカートに白いラインが入っている。黒いソックスと茶色いローファーを履いている。

人称:私/あなた/あの人、皆さん/「苗字+さん」例外…アリス「アリスさん」

現状:生存

 

抽選で希望ヶ峰に進学する事になった、ごく普通の女子生徒。…という事になっているが、実は、『誰かの死と多少の不運を代償に、本物の幸運を引き寄せる』というとんでもない才能の持ち主。影が薄く、誰にも気付いてもらえない事が多い。引っ込み思案で、目立った事が苦手。小川のように人の言動にツッコんだりはしないが、常識人。菊池にとある感情を抱いており…?

 

 

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【超高校級の操縦士】狗上(イヌガミ)理御(リオン)

 

「あー、かったりい…」

 

性別:男

身長:181cm

体重:74kg

胸囲:85cm

誕生日:7月31日(しし座)

血液型:A型

好きなもの:メカ、フライドチキン

苦手なもの:めんどくさい事、名前

趣味:機械いじり

特技:機械いじり、ケンカ

出身校:輪門中学校

得意教科:工学、体育

苦手教科:国語

出身校:輪門中学校

ICV:杉山紀彰

キャッチコピー:一匹狼のメカニック

外見:長身。赤毛を逆立てたツンツンヘアー。ツリ目で、瞳は赤色。ヒゲを生やしている。

服装:黒を基調とした学ランを着崩している。インナーは白いTシャツ。靴はグレーのスニーカー。ピアスやネックレスなどのアクセサリーをつけている。

人称:俺/テメェ/アイツ、コイツら/菊池「陰キャ」アリス「クソガキ」玉木「サッカー野郎」近藤「チビ」猫西「猫女」速瀬「カタブツ女」ジェイムズ「外人」リタ「居眠り女」小川「バカ女」郷間「デカブツ」織田「キモヲタ」床前「地味女」森万「インチキ野郎」射場山「仏頂面」神城「クソサド」

現状:死亡(1章クロ)

 

不良の男子生徒。凄腕の操縦士で、乗り物全般乗りこなせる。ドローンの競技大会で、圧倒的な実力差で優勝したという経歴を持つ。機械に強く、乗り物以外にも、機械なら大抵扱える。普段は面倒臭がりな性格だが、機械に対する情熱は本物。猜疑心が強く、他人との距離を縮めようとしない。自分の名前が嫌いで、下の名前を呼ばれる事に不快感を感じている。近藤に殺されかけたところを返り討ちにして逆に近藤を殺した事を学級裁判で見破られ、モノクマにおしおきされた。

 

 

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【超高校級の超能力者】森万(モリヨロズ)羅象(ツラノリ)

 

「あんなチンケな手品と一緒にするな。俺のは、本物の超能力だ。」

 

性別:男

身長:173cm

体重:60kg

胸囲:82cm

誕生日:11月11日(さそり座)

血液型:A型

好きなもの:トランプ、林檎

苦手なもの:科学、見た目が気持ち悪い食べ物、刃物

趣味:超能力の鍛錬

特技:超能力

出身校:真風呉中学校

得意教科:超能力

苦手教科:体育

ICV:子安武人

キャッチコピー:今世紀最大のサイキック高校生

外見:標準体型。セミロングの白髪。オッドアイ。右が金眼で、左が赤眼。ツリ目。

服装:灰色のマフラーを巻いており、黒を基調とした制服を着ている。靴は黒いブーツ。

人称:俺/お前、貴様/アイツ、みんな/苗字呼び捨て。例外…アリス「アリス」

現状:生存

 

自称今世紀最大の超能力者。誰一人として、彼が起こした摩訶不思議な現象を科学的に解明できた者はいないという。迷子になった総理の飼い猫の居場所を一瞬で見抜いたという功績から、超能力者として有名になり、希望ヶ峰にスカウトされた。本物の超能力者かどうかは定かではない。意外にも臆病な性格。厨二病を拗らせており、いわゆる闇属性っぽい物を好む。ちなみに、オッドアイは生まれつき。実は、重度の先端恐怖症。常に平静を装っているが、自分が追い詰められると泣きがち。最近、ジェイムズと仲がいい。

 

 

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【超高校級の弓道部】射場山(イバヤマ)祐美(ユミ)

 

「…別に。犯人の思い通りに動きたくないだけ。」

 

性別:女

身長:167cm

体重:53kg

胸囲:87cm

誕生日:12月18日(いて座)

血液型:A型

好きなもの:弓道、あんみつ

苦手なもの:会話、辛い料理、織田兼太郎

趣味:弓道

特技:弓道

出身校:東抄女子学園中学校

得意教科:弓道、書道、国語

苦手教科:音楽

ICV:能登麻美子

キャッチコピー:鷹の目を持つクールビューティー

外見:巨乳。茶髪ポニーテール。ツリ目で、瞳は菫色。口の左側に黒子がある。

服装:紺を基調としたセーラー服を着ている。襟は、白地に紺色のラインが入っている。白いソックスと茶色いローファーを履いている。

人称:私/あんた/アイツ、みんな/苗字呼び捨て。例外…アリス「アリス」

現状:生存

 

凄腕の弓道家。高校生にして十段を修得しており、女子の国内記録を更新し続けている。銃の扱いも一流で、200m離れた的にも正確に当てられる。冷静沈着。口数が少なく、他人に対して素っ気ない態度をとる。しかし、冷淡な性格というわけではなく、意外にも情熱家。文武両道な優等生。超人的な視力を持ち、『鷹の目』と呼ばれる。しかし本人は、自分の才能を過小評価している。本当に楽しい時に、楽しそうな表情をできないのが悩み。エロに対して異常なまでの拒絶反応を示しており、一度織田を殺しかけた。

 

 

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【超高校級の外科医】神城(コウジロ)黒羽(クレハ)

 

「跪け!!媚びろ!!そしてこの私を崇めろ!!」

 

性別:女

身長:175cm

体重:58kg

胸囲:98cm

誕生日:10月14日(てんびん座)

血液型:A型

好きなもの:美人で天才すぎる自分、はちみつ

苦手なもの:愚民、蒟蒻

趣味:愚民を蔑む事

特技:私の存在そのもの

出身校:桜苑女子学院中等部

得意教科:生物学

苦手教科:あるわけがない

ICV:伊藤静

キャッチコピー:世界を見下す天才外科医

外見:長身でスタイル抜群の美人。女性陣で一番の巨乳。プラチナブロンドの、ウェーブのかかったロングヘアー。(地毛はストレートヘアー。)ツリ目で、瞳はピンクに近い赤。アルビノ。化粧をしている。

服装:チョーカーをつけており、赤と黒を基調としたセーラー服の上に白衣を着用。靴は赤いピンヒール。

人称:私/テメェ、貴様/アイツ、愚民共/菊池「モブ」アリス「子供」玉木「サッカー」近藤「スイーツ」猫西「猫」速瀬「メガネ」ジェイムズ「帽子」リタ「居眠り」小川「騒音」郷間「ウド」織田「キモヲタ」床前「地味」狗上「犬」森万「ペテン」射場山「無口」鈴木「オカマ」

現状:生存

 

高校生にして医師免許を持つ天才外科医。不治の病で瀕死だった患者を、たった1時間のオペで完治させたという功績を持つ。天才故に超がつくほどの自信家で、たとえ相手が目上だろうと高圧的な態度をとる。その傍若無人な態度から、『超高校級の女王』とも呼ばれる。自分以外の全てを見下しており、自分以外の人間を奴隷のように扱っている。外科医になった理由は、『国家試験に受かったから』という適当なもの。左利き。意外にもビビり。

 

 

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【超大学生級のオネエ】鈴木(スズキ)咲良(サクラ)

 

「アタシはオカマじゃなくてオ・ネ・エ!!そこんとこ、間違えないでよね!!」

 

性別:男

年齢:18歳

身長:191cm

体重:71kg

胸囲:92cm

誕生日:12月31日(やぎ座)

血液型:AB型

好きなもの:タピオカ、かわいい子、コスメ

苦手なもの:ブラックコーヒー、にんじん、グリンピース

趣味:おしゃれ

特技:家事、メイク

出身校:希望ヶ峰学園

得意教科:家庭科、体育、美術、理科

苦手教科:道徳

ICV:小野坂昌也

キャッチコピー:性別を超越した漢女(オトメ)

外見:長身痩躯の美青年。黒髪黒眼。右目が前髪で隠れている。ツリ目で、睫毛が長い。左目に泣きボクロがある。化粧をしている。

服装:髪にドクロのヘアピンをつけている。右耳にピアスを開けている。白黒のチェック柄のパーカーに黒いジーンズ、その上に黒い白衣を着ている。靴は、黒いピンヒール。爪を黒く塗っており、右手薬指にドクロの指輪をしている。両手首と両足首の手錠は気に入ったらしく、付けっ放しにしている。

人称:アタシ/アンタ/アイツ、あの子/名前+ちゃん。

現状:生存(2章登場)

 

大学1年生。更衣室のロッカーに監禁されていた。どうやら、合宿参加者達の事を知っているらしい。自分の事をオネエだと言い張っており、『オカマ』と言われるとブチ切れる。女子力が高く、料理や化粧などの腕は一流。バイセクシャルで、気に入ったら男だろうと女だろうとお構い無しにアタックする…らしい。線が細い割に怪力。

 

 

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【学園長】モノクマ

 

『これだよこれ!!これこそ、ボクが求める『絶望的シチュエーション』だよ!!』

 

性別:なし

身長:65cm

体重:?

胸囲:?

誕生日:?

血液型:なし

好きなもの:絶望

苦手なもの:希望

ICV:大山のぶ代orTARAKO

外見:白黒のクマのぬいぐるみ。左目が、赤い悪魔の羽のような形になっている。

人称:ボク/キミ、オマエ/キミ達、オマエラ、みんな/男「苗字+クン」女「苗字+サン」例外…アリス「アリスサン」

 

自称希望ヶ峰学園の学園長。コロシアイ合宿の首謀者。『絶望』が大好きで、『超高校級』達が殺し合うというシチュエーションにドキドキワクワクしている。

 

 

 

【教頭】モノハム

 

『皆様には、今からこのホテルで共同生活を送っていただきまちゅ。』

 

性別:なし

身長:60cm

体重:?

胸囲:?

誕生日:?

血液型:なし

好きなもの:絶望、優等生

苦手なもの:希望、不良

ICV:間宮くるみ

外見:モノクマと色違いのハムスターのぬいぐるみ。半分白く、半分茶色い。

人称:オイラ/アナタ/皆様/「苗字+様」例外…アリス「アリス様」

 

自称希望ヶ峰学園の教頭。モノクマの助手的存在。モノクマよりも礼儀正しく、マイルドな性格。ドジっ子で、ヘマをやらかしてはよくモノクマに怒られる。

 

 

 

【その他】

 

菊池(キクチ)破奈(ハナ)

 

「別に、お兄ちゃんと同じ高校進めて良かったとか、全然思ってないんだからね!」

 

性別:女

年齢:論の2つ年下

身長:155cm

体重:42kg

胸囲:82cm

誕生日:8月29日(おとめ座)

血液型:AB型

好きなもの:お兄ちゃん(本人には内緒)、プリン、子供

苦手なもの:豚足

学校:桜苑女子学院中学校

ICV:斎藤千和

外見:アホ毛の生えた黒髪。瞳は、灰色がかった緑。ツリ目。紺を基調としたゴスロリのような制服を着ている。

 

論の妹。中学生にして、家を丸ごとハイテクハウスに改造する程の天才児。生徒会長を務めている。中1の時点ですでに希望ヶ峰学園への進学が決まっているが、スカウトできる才能が多すぎて、どの才能でスカウトするかで教員達が頭を悩ませている。論の事が好きで好きでたまらないブラコンだが、本人の前では素直になれずにいる。本編では登場しない。

 

{IMG61240}

 




咲良クン登場させたくてずっとうずうずしてました。

オネエキャラ好きっすわぁ…



キャラ設定一応拘ってます。
こんな感じです。
キャラポジは、あくまでこんなポジションのキャラ欲しいなぁ…って思って無理矢理埋めようとしてこんな感じのキャラができました、というものです。

菊池論…名前の由来:論破の論 参考にしたキャラ:斉木楠雄、成歩堂龍一その他諸々。ザ主人公。
アリス…参考にしたキャラ:おジャ魔女のハナちゃん。キャラポジは王馬クンorアンジーちゃん枠。
玉木勝利…名前の由来:玉と勝利。キャラポジは、百田クン枠。
近藤夏美…名前の由来:ドーナツ。キャラポジは朝比奈ちゃん枠。
速瀬吹雪…名前の由来:冷静そうな名前。参考にしたキャラ:カリファ、シビラ・ベッカーその他諸々。キャラポジは斬美ママ枠。
猫西理嘉…名前の由来:可愛さとカッコ良さを併せ持つ名前。キャラポジは赤松ちゃん枠。
ジェイムズ…名前の由来:賢そうな英国紳士っぽい名前。キャラポジはソニアちゃん枠。
リタ…名前の由来:覚えにくすぎない英語の名前。キャラポジは夢野ちゃん枠。
小川詩音…名前の由来:Bachの日本語訳と、サッパリしてそうな名前。キャラポジは澪田ちゃん枠。
郷間権蔵…名前の由来:職人っぽい名前。キャラポジは大和田クン枠。
織田兼太郎…名前の由来:私の好きな漫画家さんの名前を一部変えたもの。キャラポジは、山田クン兼花村クン枠。
床前渚…名前の由来:苗木誠のアナグラム。キャラポジは不二咲ちゃんと罪木ちゃんを足して2で割った感じ。
狗上理御…名前の由来:DQNネーム。キャラポジは、十神クンの性格のキツさと桑田クンのキャラを足して2で割った感じ。
森万羅象…名前の由来:森羅万象のアナグラム。キャラポジは田中クンと真宮寺クンを混ぜた感じのキャラにするつもりが、何故かネタキャラに。
射場山祐美…名前の由来:『射』という字が入った苗字と、弓。キャラポジは春川ちゃん枠。
神城黒羽…名前の由来:厨二病っぽい名前。参考にしたキャラ:ビッチ先生。キャラポジは入間ちゃん枠。
鈴木咲良…名前の由来:日本人女性に有りがちな名前。キャラポジは、当初は天海クン枠のつもりがいつのまにかキャラが暴走。→修正きかないからこのままいってしまえ。



とまあこんな感じです。


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第2章(非)日常編②

三人、仲間を失った。

でもその翌日、このコロシアイ合宿に新たな仲間が加わった。

…鈴木咲良。奴は一体何者なんだ…?

 

ーレストランー

 

「…じゃあ、報告会始めるぞ。みんな、席についてくれ。」

「私に命令するな!」

そうは言いつつ、神城は素直に席に座った。

「ねえ、アタシはどこに座ればいいの?あ、これどこでもいい感じ?じゃあ、適当にそこら辺座るわね〜。」

鈴木は、近藤の席に堂々と座った。

「あっ、そこは…」

「あー、よっこいしょういち。ふーんふーん♪」

床前の静止を聞かずに、鈴木は椅子に座りながら鼻歌を歌う。

「ねえ、アタシ喉渇いちゃった。なんか飲み物無い?あー、でもアタシ苦いの嫌い〜。そうだ、タピオカ無いの?」

 

ガシャンッ

 

鈴木が座りながら厨房に体を向けると、肘が花瓶に当たって花瓶が落ちる。

「きゃっ!?ちょっと、何!?うわっ、肘ビシャビシャなんだけど!?ってか、なんでこんな所に花瓶置いてあるのよ!邪魔でしょうが!誰か片付けときなさいよ!!」

 

ピシャッ

 

「…いい加減にしてよ!!いくら参加したばっかりだからって、無神経過ぎるよ!」

鈴木の空気の読めない言動に痺れを切らした猫西が席から立ち上がり、鈴木の頬をピシャリと叩いた。

「おい猫西、落ち着け。鈴木はまだここに来たばっかりで、何も知らないんだよ。」

「…ッ、ごめんなさい。私、つい…」

猫西は、鈴木への怒りを抑えながら頭を下げた。

「…え?何?こっわぁ…アヤカちゃん、急にどったの?アタシ、なんかイケナイ事した?」

「…おい、鈴木。お前はしばらく大人しくしててくれないか?みんな、精神的に参ってんだよ。」

「ふぅん。なんかあったのね〜。ご愁傷様〜。じゃあアタシはタピオカ飲んで静かにしてるわ。」

「あー、あーちゃんもタピオカ飲むー!!」

二人は厨房に行った。

「…なんなのアイツ。」

「無神経にも程があるっスよね…」

「あ、あの…皆さん、お花の事なら、心配なさらないでください。私が新しいものを用意しますから…」

「悪いな床前。せっかく用意してくれたのに。」

「そんな、菊池さんが謝る事じゃないです…」

 

「おまたセント・バーナード!!」

「ごめんなさいね。お話の途中に抜け出しちゃって。我慢できなかったのよ。」

しろよ。

二人がタピオカミルクティーを持って戻ってきた。

「じゃあ、そろそろ報告会とやらを始めましょうよ。あー、タピオカおいしい♡」

「…なんでお前が仕切ってんだ。」

「じゃあまずはサトシちゃん、何があったのか教えてくれる?」

「聞けよ。」

「…更衣室は、しおりをかざして開けるシステムだった。もし女子が男子の、男子が女子の更衣室に入ろうとしたら、ガトリングガンで蜂の巣にされるそうだ。」

「ぬぁあああああ!?では、吾輩達男子は、女子更衣室に入れないと言う事でありますか!?そんな殺生な!!」

「…当たり前でしょ。逆に、そのルールが無かったら入ろうとしてたわけ?」

猫西が呆れながら言った。

「あと、更衣室の中には、トレーニング器具とモノハムのグラビアアイドルのポスターがあった。」

「…あら、そちらは教頭のポスターだったのですか?」

女子更衣室の探索をしていた速瀬が聞いた。

「そちらは、って事は、女子更衣室の方は違ったのか?」

「はい。学園長の顔を貼り付けた男性アイドルユニットのポスターが貼られていました。」

「モノクマ学園長のアイドルユニット写真なんて、誰得なんスかね…」

「それな!!クマちゃんがアイドルとか、ムリムリ!」

「学園長と教頭って、さっきのぬいぐるみの事?」

「そうだ。クマの方がモノクマ、希望ヶ峰の学園長らしくて、ハムスターの方がモノハム、教頭だそうだ。」

「…ふーん。」

「…おや、貴方は、希望ヶ峰学園の生徒だったんですよね?なぜ、学園長先生と教頭先生の事を知らなかったのですか?」

「いや、アタシが通ってた時は、あんなぬいぐるみじゃなかった気が…」

「フッ、まあ、アイツらが本当に希望ヶ峰の教員であるかどうか自体怪しいがな。」

「だよね。嘘ついてるかも…」

「ちょっとちょっと、変な方向に話を持ってかないでよ!混乱するじゃないの!とりあえず、今はクマちゃんが学園長、ハムちゃんが教頭を名乗ってるって事はわかったわ。」

…お前が言い出したんだろ。

「話を元に戻すけど、アタシは男子更衣室のロッカーに閉じ込められてたらしいの。それで、サトシちゃんに助けてもらったってわけ。」

「身長2mのオカマがロッカーに入ってたとか、ある意味ホラーだよね。」

「あーちゃん、ちょっと黙りなさい?」

「はーい!」

「じゃあ、次は森万。報告してくれ。」

「フッ、いいだろう。プールの方は、ウォータースライダーとか波の出るプールとか、色んな種類があったな。」

「後は、水の量を調節する操作室があったくらいですかね…」

「…カークランド先輩、操作室の機械いじりすぎっスよ。出禁にするっスよ?」

「…申し訳ございません。一度やってみたかったもので…」

「子供か!!」

「なるほどね…じゃあ次は、私が話すね。水族館には、色んな種類のお魚がいたよ。真ん中に巨大なサメの水槽があったね。」

「おいしそうだった!!」

「…ふわぁ。」

「なるほどな。じゃあ、次は俺の番か?スポーツセンターには、色んなスポーツができる設備があったぞ。」

「ぐぬぬ…なぜ吾輩が、敵と一緒に好きでもないスポーツセンターの探索などせねばならなかったのか…」

「あはは…日頃の行いのせいじゃないかな?」

「こ、猫西氏…!!」

「おい、神城。次はお前だろ?報告しろ。」

「私に命令するな!!」

「…はあ、私が言う。色んなジャンルの本があった。以上。」

「え、ええと…特に怪しい所とかは無かったですかね…」

「ふぅん。…ねえ、ところで、さっきからずっと気になってたんだけど…」

 

 

 

「なんでゴンゾウちゃんとナツミちゃんとリオンちゃんがいないの?」

「…!」

「さっきから姿を見ないんだけど…探しに行った方がいいんじゃない?」

「…。」

「…あら?みんなどうしたの?アタシ、なんか変な事言った?」

「…だよ。」

「え?何、カツトシちゃん?ちゃんと聞こえるように言って?」

「…死んだよ。…モノクマ達のクソみたいなゲームに巻き込まれてな。」

「え?死んだ?ゲーム?何それどゆこと?これ、合宿じゃないの?ちょっと待って、頭がついてきてないんだけど…」

鈴木は、目を見開いて全員の顔を見た。

「…誰かを殺したクロだけがここから脱出できるが、クロだってバレたら処刑される…そういうゲームだ。」

「ん?じゃあ、ここにいない子達は、全員殺されたって事?ねえ、誰かわかりやすく説明してくれる?」

鈴木は混乱した素振りを見せるが、明らかに声が落ち着いているし、驚き方が嘘臭い。

…コイツ、わざとやってるのか。

「えーっとね、リオンにいは、ナツねえに殺されそうになったからハンゲキして殺しちゃって、おしおきされたの!お兄ちゃんは、クマちゃんに逆らったから、おしおきされちゃったんだよねー!」

…今に始まった事じゃないが、クソガキのテンションの高さには腹立つな…

「…ふぅん。じゃあ、クマちゃんには逆らわない方がいいし、極力人も殺さない方がいいって事?ガッテン承知の助〜♡」

…仲間が死んだと聞かされたのに、なんだコイツの反応の薄さは…

「極力っていうか、絶対だよ!二度とあんなゲーム、行われちゃいけないんだ!」

「…はーい。気をつけるわねぇ。」

鈴木は、みんなから向けられる不満をのらりくらりと躱しながら、口に含んだタピオカをモキュモキュと噛む。

「じゃあ、これで解散って事でいいのかな?」

「そうだな。」

俺たちは解散し、自由時間となった。

…メダル何枚か持ってるし、売店行くか。

 

 

 

ー売店ー

 

メダルをマシーンに入れて、ガチャを引いた。

…グロテスクな色合いのマニキュアと、飛行機のおもちゃと、木製の家形の時計と、リンゴの形をしたタイマーが出てきた。

誰にプレゼントしようか?

 

「ねえ、サ、ト、シ、ちゃん!」

後ろから鈴木が話しかけてきた。

「うおっ、ビックリしたぁ。」

「んもう!そこまで驚く事ないじゃない!プンプン!!」

「いや、お前…そのガタイの良さでその言動は、もはやホラーだぞ…」

「酷ーい!!ちょっとでも可愛くなろうと思って、お肌のお手入れと筋トレ毎日やってるのに!」

…絶対それのせいだろ。

オシャレするか鍛えるかどっちかにしろよ…

「ねえ、一緒にお話しない?」

「…生憎その気分じゃない。」

「えぇ〜!?アタシ、サトシちゃんとお話しないと寂しくて死んじゃうんだけど!!」

うさぎかよ。

…ん?なんかデジャヴだな。

「ねえ、いいでしょ?オネエのお、ね、が、い☆」

鈴木は身体をくねらせ、軽く握った両方の拳を顎の下に当て、アヒル口でウインクをした。

気色悪い。せっかくの端麗な顔が台無しだ。

もうすぐ二十歳になる男がしていい仕草じゃない。

「…部屋に戻っていいか?」

「ちょっと!何よそれ!んもう、サトシちゃんのバカぁ!!」

 

バチン!!

 

…え?

 

一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

左頬に、バズーカで撃たれたような衝撃が走った。

次の瞬間、俺の身体は空中に浮き、十数メートル離れた所に着地した。

「ぐほぁ!!」

「きゃああああ!!どうしよう…やりすぎちゃった!んもう、アタシのバカバカバカぁ!!いっつもこうなっちゃうから今度こそ気をつけてたのにぃ!!ごめーん、サトシちゃん大丈夫!?」

「…う。」

なんとか生きてた。

顔中が痛い。

これ、下顎骨粉砕骨折しててもおかしくないんじゃないか…?

クソッ…なんて事してくれてんだこの筋肉オバケが…一瞬三途の川見えたじゃねえか。

…まあでも、なんとかこの世に踏みとどまったのは何よりだ。

死因がオネエのビンタだなんて、死んでも御免だからな。

「診療所行く?アタシ、連れてってあげよっか。」

正直コイツに連れてって貰うのは屈辱だが…この重体じゃ、そんな贅沢言ってられなさそうだ。

結局、診療所には鈴木に連れてって貰う事になった。

 

 

ー診療所ー

 

「あぁ?んだよ、モブにオカマじゃねえか。プッ、なんでオカマがモブをお姫様抱っこしてんだよ。ウケるんですけどwww」

「クレハちゃん!急患よ!」

「どうしても私に治療して貰いたかったら、跪け!!この私に媚びろ!!」

「クレハちゃん、サトシちゃんが、大変な事に…すぐに手当てしてほしいの!」

「…あの。」

「貴様がここに連れて来たと言う事は、貴様のせいでこうなったのか?」

「そうよ…こんなつもりじゃなかったんだけど…」

「なんだ?励みすぎてケツの穴ブッ壊れたか?ハッ、お遊びも大概にするんだな。」

「…えっと、」

「そんなジョーク言ってる場合じゃないでしょ!早く手当てしなさいよ!」

「なんだテメェ!私に口答えする気かよ!?」

「…すいません、話を聞いてください…」

「つべこべ言わずに手当てしろって言ってんの!アンタ、それでも医者なの!?」

 

 

 

「…う。」

どうやら、鈴木に運んで貰っている最中に気を失っていたらしい。

俺は、朧に翳む視界の中に、うっすらと映った奴の名前を呟いた。

「…と、こま…え…」

意識がそこで途切れた。

「菊池さん…!」

「んもう!サトシちゃんたら、ナギサちゃんと間違えて…アタシだってば!…全く、なんでナギサちゃんとアタシを間違えるのか…ん!?」

「は!?」

「え!?ナギサちゃんいつからいたの!?ゴメン!!気づかなかった!」

「おい地味!いたならいたって言え!!」

「…すみません、さっきからずっと呼んでたんですけど…気づいてもらえなくて…」

「ゴメーン!!アタシ達、ずっと無視しちゃってた!?…もしかして、なんか言いたい事とかあったりした?」

「えっと…何か手伝える事ないかなって思って…」

「あら、そうなの?じゃあ、一緒にサトシちゃんの手当てしましょっか。クレハちゃんは手当てしてくれないみたいだからね〜。」

「は、はい…」

「は!?え、ちょ、ちょっと待て!!私の仕事奪んなよ!!」

「…結局手当てしてくれる気あるのか無いのかどっちなのよ。」

 

 

 

 

ー30分後ー

 

「…う。」

俺は、再び目を覚ました。

白く無機質な天井が、視界を埋め尽くす。

見たところ、ここは診療所らしい。

「あら!サトシちゃ〜ん!目を覚ましたのね!嬉しいわぁ♡さっきはホントごめんね〜」

「菊池さん…よかったです…!」

「…ああ、鈴木、床前…世話になっちまったな。」

「ちょっと!私への感謝を忘れてんぞ!!」

…神城が治療してくれたのか。コイツにも感謝しないとな…

「…ああ、ありがとう。」

「ふははは!!もっと褒め称えたっていいんだぞ!!」

 

体調が回復してきたので、鈴木の話を聞くことにした。

「なあ、鈴木…さっき、話があるって言ってたよな。ここで話さないか?」

「え?アタシの話を聞いてくれる気になったの?…てっきり、さっきので嫌われたと思ってたのに…うふふ、嬉しいわぁ♡」

これ以上下手な発言したら殺されるからだよ。この筋肉おばけ。

「…まあ、お前の事を知っておかなきゃって思ってな。お前に渡したい物もあるしな。」

「え?渡したいもの!?なになに!?…もしかして、サトシちゃんの…ジュ・ン・ケ・ツ?うふふっ♡」

「黙れ。」

「酷いわぁ。冗談じゃないのよぉ。」

「…お前なら、こういうの気にいるんじゃないかと思ってな。…これ、やるよ。」

鈴木にマニキュアを渡した。

「え!?これをアタシに?…ホントにいいの?」

「…まあ、俺が持ってても使わないしな。」

「ありがと♡」

鈴木は、爽やかな笑みを浮かべた。

…コイツ、やっぱり素材は良いんだな。

大人しくしとけば、間違いなく一流モデルかそれ以上のルックスなんだが。

「なあ、鈴木。」

「なあに、サトシちゃん?」

「お前、もしかして高校時代も同じ才能だったのか?」

「んー…高校時代も、っていうか…アタシ、高校にいた時は『超高校級のオネエ』って呼ばれてたから、そのノリで『超大学生級』って名乗ってるだけよ。まあ、言っちゃえば自称ね、自称。」

「なんで『超高校級のオネエ』に?」

「んー…期待させちゃって申し訳ないけど、特に理由とか無いわねぇ。ただオシャレしたり、雑誌のインタビュー受けたり、女友達とお喋りしてただけなんだけど…気がついたら『超高校級のオネエ』として希望ヶ峰にスカウトされてたわね。…やっぱり、この年代のオネエ自体がマイノリティだから、それで選ばれたっていうのが大きいのかしらね〜。」

…なんだそれ。なんかズルいな…。

「あ。今、なんかズルいなって思ったでしょ。」

ギクッ

「甘いわ!これでもね、毎日オシャレに気を遣ってるのよ!!それなのにアンタ達ときたら、なんでもかんでも『オカマ』って一括りにして…オネエナメんじゃないわよ!!」

…なんか知らんが急にキレられた。

「悪かったって…じゃあ、ここに連れて来られるまでの経緯とか覚えてるか?」

「えー?アタシ覚えてないわ〜。」

「俺たちの事を知ってるらしいが、いつから知ってたんだ?」

「言わなきゃわかんないかしらー?」

コイツ…

…俺は、鈴木に少し気になる事を聞いてみた。

俺たちの事を以前から知っていたなら、もしかしたら知っているかもしれない。

「…なあ、唐突な質問で悪いんだが。」

「なあに?」

 

「エカイラって知ってるか?」

「…さあ?」

「知らないのか?」

「ええ。知らないわ。何それ?」

「…そうか。知らないなら、別に。」

「あら。そう。」

…やはり、知らないか。

もしかしたら、って思ったんだがな。

「どうしたのサトシちゃん?」

「ああ、いや。…そうだ、お前ここから出たらやりたい事とかあるのか?」

「あら。それ、死亡フラグじゃナイ?…まあいいわ。…そうねえ。特に考えてなかったけど…サトシちゃんのお嫁さんになっちゃおうかしら?うふふ♡」

「それだけは本当にやめてくれ。俺にそっち系の趣味は無い。」

「つれないわねぇ。…今のは冗談よ。…本当は、ここから出たらやりたい事、ちゃんとあるのよ?」

「それを先に言えよ。…何だ?やりたい事って。」

「…家族と一緒に暮らしてみたい。」

「家族と…?どういう事だ?」

「…アタシ、物心ついた時から、親がいなかったの。唯一の肉親の妹も、アタシが兄貴だって知らないし…だから、ここから出たら、家族というものがどんなものなのか、知ってみたいわ。」

「…そうか。会えるといいな。」

「うふふ、ありがと♡…他にご質問は?」

「そうだな…じゃあ、趣味とか特技とかあるか?」

「そうねえ…アタシ、お料理得意なのよ。」

「へえ…得意料理とかあるのか?」

「うーん…グリーンカレーとか、ニシンのパイとか…あとは、パクチーのパスタとかかしら?」

…なんでちょっとマニアックな所狙ってくんだよ。

「他にご質問は?」

「えっと…好きな物とかあったりするか?」

「それはもちろん、サ、ト、シ、ちゃ「ふざけるな。」

「ちょっとぉ!まだ言い終わってないじゃないの!冗談でしょ冗談!」

「お前は冗談が多すぎるんだよ。」

「わかったわかった、真面目に答えるわよぉ!コスメよコスメ!」

「…へえ、なるほどな。…話してくれてありがとな。」

「どういたしまして♡またお話したくなったら、いつでも呼んでね♡」

鈴木は、投げキッスをした。

…やめてくれ。傷に響く。

 

《鈴木咲良の好感度が上がった》

 

ちょうど昼食の時間になったので、レストランに向かった。

レストランには、すでにみんな集まっていた。

「先輩、遅かったっスね…って!?なんスかそのケガ!!」

「菊池君大丈夫!?」

「ああ、これはちょっと…」

「うっわ!!何そのケガ!!サトにいロケットランチャーでも喰らった?」

「バズーカかも知れませんよ。」

「あーちゃん!ジェイムズちゃん!酷い言い様だわ!!アタシがサトシちゃんにビンタする時、つい力加減間違えちゃったのよ!」

「…え゛。じゃあこれ、鈴木先輩が引っ叩いてできたんスか?どう見てもビンタのケガじゃないっスけど!?」

「…そういう事だ。コイツ、俺を殺そうとしやがった。」

「…あはは、鈴木さんには失礼な態度とらない方がいいね…」

俺たちは、席に座って昼食をとった。

…鈴木は、反省せずに近藤の席に座っている。

「ん〜、おいしい。これ、誰が作ったの?」

「私です。お口に合いましたでしょうか。」

「フブキちゃんが作ったの?道理でおいしいわけだ。」

「じゃあこっちは?」

「私です。」

「アヤカちゃんもお料理得意なのね〜。…これは?」

「私です。どうですか、お味は。」

「おいしいわ!さすがジェイムズちゃん!…でも、こうした方がもっと美味しいんじゃないかしら?」

鈴木は、料理に思いっきり練乳をぶっかけて混ぜ始めた。

「ふ〜んふ〜ん。こうすると、甘みが出てまろやかになるのよね〜。」

「ちょ、ちょちょちょ!!何やってんの!?さくらちゃん、ベロがバカなの!?」

「あら。おいしいのに。みんなもどう?」

「…え、遠慮しときます。」

「面白そうですね!その発想は無かったです!」

ジェイムズが、鈴木のマネをし出した。

…マジかよ、コイツ。

自分の料理を台無しにされた虚しさとかは無いのかよ。

「…あ、すごく美味しいです!皆さんもどうですか?ほら。」

「そんなゲテモノ食えるか!!」

「そうですか?美味しいのに。」

…意外な発見だったな。

俺は怖くて試せないけど…

 

食事の後は、自由時間となった。

…まだプレゼントも残ってるし…誰かと話そうかな?

廊下を歩いていると、近藤の部屋が視界に映った。

「…あ。」

ドアの前に立った。

「…開いてる。」

躊躇いながらも、俺は近藤の部屋に入った。

 

 

『超高校級のパティシエ』の個室

 

部屋の中は、5日前に入った時とさほど変わらない様子だった。

…パステルカラーで、明るい雰囲気の部屋のはずなのに、何故か仄暗い。

…そうか。もう、近藤はここに居ないんだった。

あの無邪気な笑顔が、笑い声が、今はもう戻らないものとなってしまった。

…ここから出たらパーティーに誘ってくれるって、約束してたのにな。

「…ごめんな。約束、守れなくなっちまったな。…安らかに眠れよ。」

俺はタイマーを置いて、部屋を出ようと振り返った。

すると、ドアに貼られた紙に気が付いた。

 

『この部屋は、そのままの状態にして残してあります。必要な資材などがあれば、ご自由に持ち出してください。ただし、しおりと凶器は回収させていただきました。それでは、絶望的なコロシアイライフを。』

 

…ナメやがって。

俺は、部屋を出てドアを勢いよく閉めた。

どこまで人をバカにすれば気が済むんだ。

 

 

ー談話室ー

 

フロントの横の談話室に行ってみると、不思議トリオ、森万、速瀬、鈴木の計6人が何かやっていた。

「…こうですか?」

「フン、カークランドよ。なかなか筋が良いな。流石は我が弟子だ。」

「本当ですか!?」

「おぉ…すげー!!これがイリュージョンか!!」

「なかなか面白いじゃないの。」

「…私も暇では無いのですが。」

「…ねむ…」

「お前ら、何やってんだ?」

「フッ、菊池よ。いい所に来た。実はな、今超能力講座をやっているところなんだ。貴様も参加してみるといい。」

「…え、遠慮しとこうかな。速瀬、リタ。お前らまでなんでここに?」

「…昼食の食器を片付けていたら、アリス様に此処へ連れて来られまして。…帰るのも無作法だと思いましたので、不本意ながら授業を見学しております。」

不本意って…昼食が終わってから3時間は経ってるぞ?

…速瀬、お前…律儀にも程があんだろ。

「ふわぁ。僕はジェイムズに連れて来られましたぁ。」

リタの方は、眠そうにはしているが、満更でもなさそうだった。

「あ!そうだ!!ツラにい、あれやってよ!!雷斬るやつ!!」

「…え。」

「ああ、戸次鑑連の雷切の逸話ですね。私も見てみたいです。森万さん、お願いできますか?」

「え…、いやあれ、超能力とかそういうんじゃないし…大体、雷なんて斬れるわけ…あ、そうだ!フッ、ふははははは!!残念だったな!!ここの天気は、一週間後まで快晴だ!!雷など落ちん!!」

「…宜しければ落としてみましょうか?」

「…え゛?」

「あら。そんな事できるの?」

「ええ、まあ。一度、大学の講義用に人工雷発生装置を作った事があったので。これで、サイキックショーができますね!」

「え…でも、なんか悪いし…」

「全然そんな事ありませんよ!寧ろ、森万さんの超能力を見られるなら、装置なんて喜んで作りますよ!」

「…嘘だろ?」

「あら。ツラノリちゃん、もしかしてできないの?」

「…は!?で、できないわけないだろう!!俺様を誰だと思っている!!今世紀最大の超能力者、森万羅象様だぞ!!おいアリス、日本刀を貸せ!!雷だろうがなんだろうが斬ってやる!!」

「わーい!!」

「流石です、森万さん!」

「ふわぁ…僕は眠いんで、君達で勝手にやっててくださぁい…(うずうず」

「はぁ…万が一の時のために駆け付けて頂けるよう、神城様にお願いして参ります。」

…もうカオスじゃねえか。

死人出さないように気を付けろよ。

こんなのが死因なんて、洒落になんないからな。

 

 

ーレストランー

 

レストランには、織田と猫西がいた。

「猫西氏!!『窓マギ』の新作ゲームは、もうプレイ済みでありますか!?」

「まあね。でも私、ガチャ運無くてさ…クリアするのに、ほとんど他のプレイヤーさんに頼っちゃったよ。」

「猫西氏の心中、お察しするであります。1日目のガチャでおパンティーを引いた時は…」

「5日も前の事蒸し返さないでよ!!あれはもう無かった事になったでしょ!?…ったく。」

「ところで猫西氏、喉が乾きませんか?吾輩が、何か飲み物を用意しますぞ。」

「本当に?ありがとう。…じゃあ、ミルクティーでも淹れて貰おうかな?」

「了解であります!!この織田兼太郎、猫西氏のために、命懸けて極上のミルクティーを淹れて参りますぞ!!」

「いや、命懸けなくていいから…」

織田が厨房へと走る。

…もしかして、織田は猫西の事が好きなのか?

猫西の方も満更でもなさそうだし…

おいおい、ここに来て早速カップル誕生か!?

それも、よりによって一番無いと思ってた織田が!?

チクショウ!俺だって彼女欲しいよ!

「あっ。」

猫西と目が合った。

…なんだアイツ。急に顔真っ赤にして目を逸らしたぞ。

俺の顔になんか付いてたのか?

 

 

ー図書館ー

 

図書館には、床前と小川がいた。

「床前先輩は、菊池先輩の事どう思ってるっスか?」

「え、ど…どう思ってるって?」

「好きなのかって事っスよ!」

「ふぇえ!?…そ、そんなんじゃありません!…き、菊池さんは…皆さんと同じ、大事なお友達…です!」

「分かりやすいっスね。…あ、噂をすれば本人が来たっスよ。それじゃ、自分は隠れてるんで、あとは頑張ってくださいよ。」

「えぇえ!?ちょ、ちょっと!小川さん!」

「…お前ら、何の話してたんだ?」

「き、菊池さん!?…え、ええと…その…」

「?」

床前は、何か言いづらそうな様子だった。

…よく見たら、小川が陰でニヤニヤ見てるし。

なんなんだ一体。

「…あ、そうだ!この本読みませんか!?私のお気に入りなんですけど…」

床前は、持っていた本を俺に押し付けると、一目散に図書館から逃げ出した。

おい小川、お前はなんで舌打ちしてんだ。

 

ースポーツセンターー

 

スポーツセンターには、玉木と神城と射場山がいた。

「お前ら、何やってんだ?」

「おう、菊池か。いや、ここ数日間ずっと運動してなかったから、身体が鈍っちまってな。ここで軽く動いてたんだよ。」

「…ん。」

二人は、キャッチボールをしているようだった。

「ったく、なんで私がこんな事しなきゃいけねえんだ。ケガするかもしんねぇから見てろだと?ハッ、テメェらのケガなんて知った事かよ。」

神城は、舌打ちをしながらベンチにふんぞり返って座っている。

「菊池、お前もやるか?」

「いいのか?」

「…ん。三人になっても、別に。」

「そうだな…俺も最近運動不足だし、混ぜてくれ。」

「おう!」

こうして、三人でキャッチボールをする事になった。

 

ー30分後ー

 

「あべしっ!!」

ボールが顔に直撃する。

「…嘘でしょ。なんで今ので当たるの?」

「はっはははははは!!おいモブ!無様だな!!あはははは!!」

「…わ、悪い…ちょっと、疲れてきちまってな。」

「バテんの早すぎだろ。お前、ホントに運動不足なんだな。」

「…う。」

「そろそろ飯の時間だ。レストラン行くぞ。」

「私に命令すんじゃねぇ!!」

「…はあ。」

 

今日はどっと疲れた。

夕食が終わった後、俺はすぐにベッドに行った。

…合宿生活も、明日で1週間か。



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第2章(非)日常編③

合宿7日目の朝。

今日も、モノハムの不快な声がホテル全体に鳴り響く。

…うるさい。少しは静かにできないのか。

廊下を彷徨いていると、後ろからアイツが話しかけてきた。

「サ、ト、シ、ちゃんっ!」

「うぉあっ!?」

「もう!いい加減慣れなさいよ!!」

「…どうした?」

「ねえ、サトシちゃんどうせ暇でしょ?今日の朝ごはんは、二人で作らない?まだみんな起きてないみたいだし。」

「…え。でも、俺は料理は…」

「いいから!二人でおいしい朝ごはん作りましょうよぉ!アタシが手取り足取り教えてあげるから!」

「…はあ。」

俺と鈴木は、レストランに向かった。

 

 

ーレストランー

 

「さてと、じゃあ早速お料理しましょうか。やっぱり、朝はパンケーキで糖分摂らなきゃね〜。あ、パンケーキくらいなら作れるわよね?粉混ぜて焼くだけだし。」

鈴木はそう言うとエプロンをつけて、手を洗って手拭いで拭いた。

…近藤にやったエプロンと、郷間にやった手拭いだった。

「おい、お前…それ…」

「ああ、これ?空き部屋入ったら置いてあったのよ。気に入っちゃったからネコババしちゃった♡」

「…。」

…ふざけるな。

それは、近藤と郷間にやったプレゼントだ。

間違っても、お前が持っていていい物じゃない。

俺は、怒りを隠し切れなかった。

「えぇ!?ちょっと、なんで怒ってんの!?アタシ、なんかサトシちゃんを怒らせるような事した!?」

「…空き部屋に置いてあったからって、盗むのは良くないと思う。」

「えー。だってぇ。貼り紙に、ご自由に持っていってくださいって書いてあったもん!ほら、そんなに怒った顔してると、パンケーキがまずくなっちゃうわよ!お料理ってね、その時のコンディションがすぐに味に出ちゃうんだから!」

鈴木は、両手で無理矢理俺の口角を上げた。

「さっ、そうと決まれば咲良ちゃんのお手軽クッキングのお時間よ♡サトシちゃんは初心者だから、アタシが教えてあげるわ。まず、薄力粉とお砂糖とベーキングパウダーを、よく混ぜて…って!なんで混ぜるだけでそんな全身真っ白になんのよ!!あと、牛乳と粉類の混ぜる順番が逆!!」

「…悪い。間違えた。」

「んもう!最後まで聞いてからやりなさいよ!」

「…わかった。」

「粉類全部混ぜた?じゃあ、次は牛乳と卵とサラダ油入れて、ダマにならないようによく混ぜて。」

「こうか?」

「ちょっとちょっと!!なんで混ぜるだけで袖が生地まみれになるわけ!?あと、グチャグチャ混ぜすぎ!それじゃあ、焼いた時にうまく膨らまないわよ!もっと、切るように混ぜなさいよ!」

「切るようにって…どうやるんだ?」

「あーっ、もう!ちょっと貸しなさい。こうやるのよ。」

鈴木は、プロのような手つきでボウルの中身をサクサクと混ぜる。

粉が、粘りすぎず均等に混ざる。

「簡単でしょ?やってみて。」

「…ああ。ちゃんと見てたから俺でもできるぞ。」

グッチャグッチャベッチャベッチャ

ボタボタボタボタ

「ちょっと!口では得意げに言ってる割にはできてないじゃないの!!中身こぼしすぎ!ああ、もう!あとはアタシがやっとくから、出来上がった生地を焼いてみて頂戴!」

鈴木がボウルを取り上げた。

…俺、そんなに下手だったか?

「じゃあ、弱火でフライパン温めて、温まったら軽く油ひいて、生地をおたまで流し込んで頂戴。ひっくり返すタイミングは、アタシが言うわ。」

「なんだ、それくらいだったら俺にもできるな。」

ジュウウウウ…

「ちょっとぉ!!アタシ、弱火でって言ったわよね!?なんで思いっきり強火で焼いてんの!?」

「えっ嘘!?」

「バカなの!?ああもう、焦げちゃってるじゃないの!!しかも、生地入れすぎ!!これじゃあひっくり返せないじゃないのよ!!」

「矢継ぎ早にケチつけんな!!さっきから文句ばっかで…わがままかよお前!」

「わ、わがまま!?勝手に我流で進めちゃうサトシちゃんに言われたくないわよ!」

「んだと…このオカマ野郎!!」

「言ったわねこのもやし野郎!!」

 

バンッ

 

厨房の入り口から、思いっきり壁を叩く音が聞こえた。

振り返ると、射場山がいた。

「…うっさい。」

射場山は、ドス黒いオーラを放ちながら、鬼のような形相で俺たちを睨んだ。

「…はい、すんません。」

「菊池。あんた、食べ物無駄にしすぎ。これ以上は見てらんないから厨房から出てって。」

「…はい。」

「…鈴木。あとは菊池の代わりに私がやる。」

「そ、そうね…それがいいかもね…」

俺も鈴木も、射場山の剣幕に気圧されていた。

俺は厨房から追い出され、二人は黙々とパンケーキ作りを始めた。

俺は手持ち無沙汰になったので、とりあえず粉まみれになったトレーナーを着替えに部屋に戻った。

俺がレストランに戻った時には、人数分のパンケーキが完成していた。

「わーい!!いい匂い〜♡今日は、もしかしてパンケーキ!?」

「そうよぉ。主にアタシとユミちゃんで作ったの。まあ、数枚誰かさんがダークマターにしちゃったけどね〜。」

鈴木が、俺を見ながら言う。

「おい、お前ら俺が作ったやつも食えよ。頑張って作ったんだから。」

「やだ!!こんな漆黒のパンケーキ食べたら、あーちゃん体が真っ二つになって時が止まっちゃうんですけど!?」

「わざわざブラックホールに喩えるとか、性格悪いなお前。」

「…悪い、菊池。親友としてすげぇ言いにくいんだけど…俺は遠慮しとくわ。」

「た、玉木!?」

「じ、自分も遠慮しとくっス…」

「ふわぁ。僕も食べたくないですぅ。」

「吾輩も遠慮させていただくであります。」

「フン、見ているだけで吐きそうだ。」

「誰が食うかこんな産業廃棄物!!」

「そんなに言う程か!?」

「あ、私は食べてみたいかな。」

「わ、私も…」

「本当か!?そう言ってくれるのはお前らだけだよ!ほら、どんどん食え!」

「アヤカちゃん、ナギサちゃん!わざわざこんなメシマズ男を甘やかさなくていいのよ!それで死んじゃったら洒落になんないでしょ!」

結局、俺のパンケーキを食べてくれたのは、猫西、床前、ジェイムズ、速瀬の4人だけだった。

「…(この前食べたお饅頭よりは)美味しいですよ。」

「カークランド先輩、何スかその不自然な間は。」

「…フブキちゃん、よくこんなブラックホール食べれるわね。」

料理に練乳ぶっかける奴に言われたくない。

「『食え』とのご命令を承りましたので。」

「いや、そんなに律儀に守んなくていいのよ?自分の健康が第一なんだし。」

みんな、俺のパンケーキを毒か何かみたいに言いやがって。

確かに多少焦がしちまったけど、そんなにまずいわけ…

 

…。

…。

…。

…みんなゴメン。俺、料理の腕上げとくわ。

 

朝食の後は、自由時間となった。

俺は、郷間の部屋に行った。

 

 

ー『超高校級の庭師』の個室ー

 

部屋は、この前入った時とほとんど変わらない様子だった。

「…あ。」

机の上を見てみると、作りかけの小さな家があった。

…そういえば、小人用の家作るって言ってたっけ。

コイツ…本当に作ってたんだな。

俺は、溢れ出る涙を拭って、時計を机に置いた。

「…ごめんな。お前は勇気を出してみんなを解放してくれようとしてたのに、俺は勇気が出なかった。…安らかに眠れよ。」

部屋を出ようとした時、棚の隅に花瓶が置いてあるのに気がついた。

…あの花の生け方…床前が置いていったのか。

アイツ、三人が死んだ時、誰よりも悲しんでたからな。

それでも、アイツは立ち直ろうとしていた。

…それに比べて、俺は弱い人間だ。

何が『超高校級の弁護士』だ。仲間一人護れず、いつまでも一人で引きずってる癖に。

俺も、アイツみたいに、強くならないといけないんだ。

俺は、決意を固めた。

 

 

ーフロントー

 

ロビーのフロントに行くと、何人かが集まっていた。

玉木と、速瀬と、射場山と、鈴木だった。

「どうした?」

「…これ見ろよ。さっき置かれたらしいんだが。」

玉木が指を差した先には…

 

3人のしおりと、金属バットと工具セットと菌の培養キットが置かれていた。

その横には、血文字で『ご自由にお使いください』と書かれた札が置いてあった。

「…なんだこれ。」

「…見ての通り。」

「いや、そういう事聞いてるんじゃなくて。」

「亡くなられた方のしおりと凶器ですね。…そういえば、貼り紙に『しおりと凶器は回収した』と書かれておりましたね。恐らく、ここから自由に持って行って使え、という事なのでは?」

「ふぅん、なるほどねぇ。」

「ナメやがって、また俺たちに殺し合いをさせる気か!クソッ!!」

…ここに凶器があるのか。

もし、誰かがここから凶器を持ち出したりなんて考えると、不快な冷たい空気が背中の側を流れた。

…もう二度と、モノクマ達にあんなゲームをさせちゃいけないんだ。

 

 

ーモノクマーメン遺跡ー

 

心の整理をするためにも、俺は遺跡に向かった。

重い足取りで最奥の部屋へ向かい、重い扉を開ける。

 

「…あれ?…死体が、無い…?」

そこには、近藤と郷間の死体どころか、血の一滴も落ちていなかった。

「どういう事だ…?誰かが片付けたのか…?」

『ズバリその通ーり!!』

今度は、正面からモノクマが現れた。

「うおぁあっ!!?」

『ちょっと!ビビりすぎ!!オマエが背後から現れんのやめろって言うから、わざわざ正面から出てきてやったのにさ!』

「それはそれで慣れてないからビックリしたんだよ!」

『はぁ!?ワガママだなオマエ!!』

「うるせえな!…はあ、それで?ここの掃除はお前がやったのか?」

『その通り!だってさ、いつまでもこんな所に死体なんか置いといたら、気持ち悪いでしょ?と言うわけで、処分させていただきました!』

「…その死体は、一体どうしたんだ?」

『うぷぷ…回収した後、焼却炉にブチ込んで発電機の燃料にしちゃったよ。』

「んなっ…!」

『近藤サンも郷間クンも本望だったんじゃないの?お仲間が生きるための糧になれてさ!』

「ッ、お前…!」

『ねえねえ、今どんな気持ち?お仲間を燃やして作った電気で生活してる気分は?』

どこまで悪趣味な野郎だ。

人の死をバカにしやがって。

俺は両手を固く握りしめた。

「…お前、覚えとけよ。」

『ほぇ?』

「ここから出たら、絶対ブッ潰してやる。」

『うぷぷ…できるといいね!その前に、誰かに殺されちゃわなきゃいいけど。』

モノクマは、左目を赤く光らせながら不気味な笑みを浮かべた。

『じゃ、引き続き、みんなで仲良く楽しい合宿生活を送ってね〜!』

モノクマは、陽気に去っていった。

「クソッ、舐めやがって…」

部屋から出ようとした時、花束とジュースの缶が置かれているのに気が付いた。

「…あ。」

花とジュースの缶が、1ミリのズレもなくきっちり左右対称に置かれている。

この置き方は、床前じゃないな…

そこへ、俺が想像した人物が、花束とジュースを持って現れた。

 

「…速瀬。」

「…菊池様も、ここにいらっしゃいましたか。」

「なあ、これ…速瀬が?」

「…ええ。」

速瀬は俯いて、次の言葉を発した。

「…私は感情表現が苦手ですので、このような場合、どのような顔をすれば良いのか理解出来ません。ですが私自身、お三方が亡くなられた事は、大変気の毒に思っております。…私は、人の幸福を共に喜んだり、不幸を共に悲しんだりする事が出来ません。…皆様が、当たり前のようになさっている事なのに。私に感情があれば、皆様のお痛みを理解して差し上げられるのに。…私に出来る事は、こうして毎日お三方へのお供物を用意する事だけでございます。」

「…速瀬、お前は自分が思ってる程薄情なヤツじゃねえよ。」

「…はい?」

予想外の返答だったのか、速瀬は少し驚いた表情を見せた。

「こうやって毎日花とジュースを持ってきたり、みんなのために真剣に悩んだりするヤツが、無感情なわけあるかよ。少なくとも俺は、お前が俺たちの気持ちを理解しようとしてる事も、お前が冷たいヤツじゃないって事も知ってる。だから、お前はそのままでいればいいんだよ。」

「…有り難うございます。」

速瀬は、うっすらと笑みを浮かべていた。

「ほらな、やっぱりちゃんと感情あんじゃねえか。」

「私、今そんなに可笑しな顔をしておりましたか?」

「ニヤニヤしてたぞ。」

「ニヤニヤって…言い方が宜しくないですね。微笑んでいた、の間違いでしょう。」

「ムキになってんじゃねえか。」

「…。」

 

ゾワッ

 

「!!?」

「…どうかなさいましたか?」

「…ああ、いや…ちょっと寒気が…」

「お身体が冷えたのでは?あまり長居も宜しくないでしょう。そろそろ、ホテルに戻りましょう。」

「…そうだな。」

…なんだろう。

今、どこからか視線を感じた。

それも、監視カメラやモノクマ達のものじゃない…

明白な『殺意』を持った誰かの視線だった。

…そんな、俺達の中に、本気で誰かを殺そうとしてる奴がいるって事か…?

一体誰が、何の目的で…

 

 

ーレストランー

 

レストランでは、猫西と織田と鈴木が昼食の準備をしていた。

…今日の昼食はオムライスか。

で?アイツらは一体何やってんだ?

「これで完成っと。」

「猫西氏!!重要なトッピングを忘れておりますぞ!!」

「え?何それ。」

「『萌え』であります!!」

「も、萌え?」

「猫西氏、今は何も言わずにこのネコミミをつけて、手でハートマークを作りながら『おいしくなぁれ』と言ってみてくださいませ!」

「やるわけないでしょそんな恥ずかしい事!」

「あら。アンタ、動画やテレビの前ではアイドルの真似事を平気な顔してやってるじゃない?」

「営業用です!あれはカメラが回ってるから…」

「…カメラなら回っておりますぞ。」

「なんか違う!監視カメラで見られてるからいいって問題じゃない!」

「つべこべ言わずにやりなさいよ。アタシ,アヤカちゃんのかわいい所見てみたいわ。」

「猫西氏のッ!ちょっといい所見てみたいッ!それネコミミネコミミネコミミ!!」

「イッキみたいなコールすんな!!…わかったよ、やればいいんでしょやれば!!」

猫西は、ネコミミをつけてポーズを決める。

「…お、おいしくなぁれ…」

猫西は、羞恥のあまり耳まで真っ赤になっていた。

「ドヒャー!!猫西氏の、恥じらいの『おいしくなぁれ』頂きましたぞ!!」

「キャーかわいい!!アタシ、これをおかずにご飯100杯イケちゃうわ!!」

「あ゛あああああああ!!!はっず!!穴があったら入りたい!!っていうかもう誰か穴掘って!!」

…やめてやれよ。猫西の奴、もうトマトみたいになってんぞ。

まあ、さっきのは可愛かったけど…って!俺は一体何考えてんだ!

 

そんなこんなで、昼食が完成した。

全員がレストランに揃い、席に座った。

「わーい!!今日はオムライスだー!!いっただっきまーす!!」

「おや、中々美味ですね。」

「ムフフ、それもそのはず…今日のオムライスは、ただのオムライスではありませぬぞ!!」

「…ふわぁ。見た所、変わった所はありませんけどぉ?」

「今日のオムライスは、猫西氏の『萌え』入りであります!!」

「も、萌えっスか…?」

「成程…道理で美味しい訳です!」

「うぇすにゃんの萌え入りオムライスおいしい〜!」

「そう言いながら人参とグリンピースを人の皿に避けんのやめろよ…おい鈴木!お前もかよ!!」

「アタシ、人参とグリンピースはどうしても嫌いなのよぉ〜。」

「やめてくれます!?俺だけチキンライスと人参とグリンピースの比率がおかしい事になってるから!!…ったく。」

俺は、オムライスを口に運んだ。

「…お、美味ェな!」

「本当!?…えへへ。」

猫西は、髪の毛をいじりながら照れ臭そうにしていた。

いや、そんなに嬉しいのかよ。

 

全員が、昼食を食べ終わった。

その後は、自由時間となった。

「…さてと。この後はどこに行くかな。」

とりあえず、水族館に行ってみる事にした。

 

 

ー水族館ー

 

水族館には、様々な種類の海の生物が水槽の中に入っていた。

「…デケェ。」

目の前の巨大な水槽には、大きなサメが泳いでいた。

見たところ、ホホジロザメだろうか。

俺が中央の巨大な水槽を見ていると、後ろから森万に話しかけられた。

「フン、貴様がここに来るとはな。」

「びゃっ!!?」

サメを見ている最中に後ろから話しかけられたので、変な声で反応してしまった。

「…驚きすぎだろう。そんなにサメに集中してたのか。」

「わ、悪い…」

「貴様、なぜここへ来た?」

「な、なぜって…ただ、気分転換にでもって思ったんだが…そう言うお前は?」

「フン、いい質問だな。実は今、サイキックショーの準備を進めているのだ。」

「サイキックショー?」

「明日の午後10時に開演予定だ。俺の鮮やかなる超能力に酔いしれるがいい。」

「いや、酔いしれるも何も、行くと決めたわけじゃ…」

森万は、手作りのビラを俺に渡した。

…まさかコイツ、これを全員に配ってるわけじゃないだろうな。

「なあ、森万。お前、これまさか…」

「フッ、そうだ。全員に配っているが?それがどうした。」

嘘だろ!?マメだなお前!!ってかコイツどんだけ暇人なんだよ!!

「森万さ〜ん!!」

奥の通路から、ジェイムズが走ってきた。

…なんでコイツベネチアンマスクつけてんだよ。

「おう、Mr.K。どうした?」

Mr.K?コイツ、ジェイムズにあだ名つけてたのか。

「そろそろ打ち合わせの時間ですよ!持ち場に居ないから探しに来たんです!」

「フッ、それは悪かった。今向かう。先に準備を進めていてくれ。」

D`accordo(了解)!」

なんでイタリア語なんだよ。

ジェイムズは元気良く返事をすると、通路の奥へと走っていった。

…アイツ、何と言うか…賢いバカなんだな。

「なあ、今のは一体…?」

「フッ、アイツは俺の一番弟子だ。俺のショーの助手をしてくれる。」

いつの間にか助手に昇格してるし…なんなんだ一体。

「ついでに、二番弟子のミスAもいるぞ。」

…アリスの事か。何やってるんだアイツ。

「フッ、明日のショーを楽しみにしているがいい。」

「…ああ、わかった。行くよ。」

…ここまで自信満々に言っといて誰も来なかったら、コイツ泣きそうだしな。

行っといてやるか。

 

ゾワッ

 

「!!!」

…まただ。

また、殺気を感じた。

…偶然、じゃないよな。

まさか、俺を殺す気なのか?

俺に生きていられたら困る奴がこの中にいるって事か…?

…いや、考えすぎか。

今のはなかった事にしておこう。

いちいち反応してたら、精神的に疲れるしな。

 

 

 

「…今回の犠牲者は、もう決まったかな?…全ては、あなたのために…」

 

 

 

その後はホテルに戻って、床前に押し付けられた本を読み進めた。

内容は、面白くもつまらなくもない…ありふれた恋愛小説だった。

一冊読み終わる頃、夕食の時間になった。

「…そろそろ行くか。」

 

 

ーレストランー

 

「あら、サトシちゃん!ご飯にする?お風呂にする?それとも、ア、タ、シ?」

「レストランに来てる時点で後者二つは無えだろ。」

「あら。冷たいのね。アタシ泣いちゃうわよ?」

「勝手にしてくれ。」

鈴木がビンタの手を構えだしたので、咄嗟に話題を逸らす。

「今日の夕食はなんだ?」

「…うふふっ、今日はアタシのお手製料理よ♡味わって食べてね♡」

「お前一人で作ったのか?」

「そうよぉ?」

…鈴木が一人で作った飯か。

少し嫌な予感がするな。

俺は、席について目の前の料理を見た。

「…なんだこれは。」

「イチゴとアスパラのサラダよ。」

「…これは?」

「鴨肉のみかんソース煮込み。」

「…これは?」

「ビーツとココナッツのスープ。」

「なんでそういう果敢なメニューばっかり選ぶんだよ!!スイーツ食いにきたわけじゃねえんだぞ!!」

「酷いわ。全部アタシの得意料理なのに。」

「お前なぁ…普通の飯は作れないのかよ。」

「うっさいわね!ブラックホールパンケーキ作った誰かさんに言われたくないわよ!!」

「はあ…ったく。」

まあ、料理に練乳ぶっかけるヤツだからな。最初から信用はしてなかったが。

全員が揃い、席に座った。

「…いただきます。」

正直箸が進まなかったが、渋々料理を口に運んだ。

「…は?」

え、いやいやちょっと待て?

普通にすごく美味しいんですけど!?

なんで!?なんであの組み合わせでここまで美味しくなるかな!?

チラリと正面を見ると、鈴木がドヤ顔していた。

ムカつくなコイツ。

クッソ…これじゃあ、俺が勝てる要素無えじゃねえか。

まともな料理を作る気があるって点だけは、俺の方がマシだと思ってたのによ。

俺も、料理の腕上げとかねぇと…

 

全員が、夕食を食べ終わった。

俺は、みんなに一つ提案してみた。

「…なあ、みんなに提案があるんだが。」

「おう、なんだ菊池?」

「…いや、フロントに凶器が置いてあったろ?…それで対策をしなきゃと思ったわけだが…心得に、『フロントの凶器を持ち出してはいけない』っていうルールを追加しねぇか?」

「えー!?またルール追加ー!?あーちゃん、ルールに縛られんのきらーい!!」

「そぉ?アタシは逆に束縛されると興奮するけど…ンフフ♡」

「…鈴木さん、しれっとそっち方面に持ってくのやめましょうよ。…うーん。私は全然いいんだけど、それって意味あるのかなぁ。だって、前回もルールを破った人がいたせいであんな事になっちゃったわけじゃん?」

「…ご、ごめんなさい…」

「いや、いいよ。床前さんは無実だったわけだし、もう終わった事だよ。今してるのは、今後の話。…ルール作るのはいいけど、それをみんなが守ってくれなきゃ話にならないよね?」

「確かに…全員がルールを守るという保証が何処にもありませんからね。」

「これ以上私を束縛するようなら、テメェらギッタギタに踏み潰すぞ!!」

猫西と速瀬と神城は、ルールを追加する事に否定的だった。

「…フン、何も無いよりはいいんじゃないか?誰も信用できないのが、一番良くない状態だ。信用できない奴を絞り込むという意味でも、ルールはあるに越した事はないと思うがな。」

「…まあ、多少は抑止力になるでしょうね。」

「自分は変な気起こさない自信ありますし…いいと思うっスけどね。」

「わ、私…前回、皆さんとの約束を破ってしまって…もう信用されないんじゃないかって思ってましたけど…でも、もう一度皆さんがお互いを信じ合えるようにしたいです!」

森万、ジェイムズ、小川、床前は、ルールの追加に肯定的だった。

…マズいな。自分で話題を振っといてなんだが…意見が割れてしまった。

「…じゃあ、多数決とったらどうですかぁ?」

リタが、唐突に解決策を提案した。

「うし、じゃあ多数決とるぞ。」

全員が、自分の意見を言った。

その結果、こうなった。

 

ルールを追加する派…菊池、玉木、森万、ジェイムズ、小川、織田、鈴木、床前

追加しない派…アリス、猫西、速瀬、神城、リタ、射場山

 

「…じゃあ、多数決の結果、ルールを追加する事になった。みんな、ルールを守るように心がけてくれ。」

「はぁい。」

「ご命令を承りました。」

「うん。ルールが決まったなら、ちゃんと守らないとね。」

「こ、今度こそちゃんと守ります…!」

「あ、いけね!言い忘れるとこだった!!あーちゃんからテーアン!!」

アリスが、元気良く手を挙げた。

「…どうした?」

「せっかくプールが解放されたわけだしさ、明日プール行こうよ!!」

「あ、いいねそれ!」

「楽しみです!」

…おい、ちょっと待て。話が勝手に進んでないか?

俺は泳ぎは得意じゃないから、遠慮させて貰いたいんだが…

「あ、いや…俺はちょっと…」

「あら、もしかして、サトシちゃん泳げないの〜?うふふ。」

「なっ…」

「うっわー、サトにい泳げないのー?…そういえば、海行った時も乗り気じゃなかったもんねー。うっわ、だっさ〜!」

「あっはははは!!モブの奴、およ…泳げねぇのかよ!!あっはははは!!ダッセェ!!!」

「これは吾輩も勝てるかも知れませぬな!」

 

プチン

 

俺の中で、大事な何かが切れた。

「お、泳げないとは一言も言ってねえだろうが!!」

「あー、ムキになった。ガキ臭いぞサトにいー!!」

「フン、威勢を張っても碌な事が無いぞ。」

「…森万君、そのセリフ思いっきり自分に返ってるからね。」

「威勢だと!?そんなの、やってみなきゃわかんねぇだろ!…よし、じゃあこうしよう!明日、誰が一番早く泳げるか、勝負しようじゃねえか!!」

「…先輩それ、自分で自分の首絞めてません?」

「同感。やめといた方が賢明だと思うわ。」

「うるせぇ!やると言ったらやる!!」

「…ありゃりゃ。こりゃあ、テコでも動かないっスね。」

「おもしれぇ!菊池、俺は参加するぞ!!」

「すごく面白そうです!私も参加させて頂きますね!」

「え…ちょっと、二人とも?やめといた方がいいんじゃないの?これ、絶対後で言い出しっぺの菊池君が後悔するパターンだからさ。」

「フッ、面白い…せいぜい喚いてろ、雑魚共が。」

「ヒキオタの底力を発揮する時であります!!」

「うふふ…サトシちゃんがそこまで本気なら、付き合ってあげてもいいわ!」

「なんでみんな乗り気なのかな!?ねえ、誰か止める人いないの!?」

「おにーさん達盛り上がってるね!じゃあさじゃあさ、あーちゃん達は女子同士で勝負しようよ!」

「あ、あーちゃん!?」

「はっはっは!!勝つのはこの私に決まってんだろうがよ!!」

「…ご命令とあらば。」

「なんか、この空気で参加しないのは逆にダサいっスよね。」

「…私は別にどっちでも。」

「ふわぁ…最後まで寝ちゃわないようにがんばりますぅ…!」

「…わ、私は…皆さんが参加するなら…」

「あー、もう!結局全員参加する事になっちゃったよ!…もう!参加すればいいんでしょすれば!」

「わーい!うぇすにゃんもキョーエーするんだー!」

こうして、全員でプールに行く事になった。



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第2章(非)日常編④

合宿生活8日目。

 

…しまった。

俺はなんで昨日、あんなバカな事を言ってしまったんだろう。

感情に身を任せて、つい短絡的な発言をしてしまった。

俺のバカ…なんで自分で自分の首を絞めるようなマネを…

…追い詰められると精神年齢が10歳くらい下がるのは、俺の悪い癖だ。

でも今更、辞退するなんて言えねえしなぁ…はあ。

 

朝食の前に、外を散歩してからレストランに向かった。

「おう、菊池!おはよう!」

玉木がエプロン姿で厨房から顔を出した。

「…ああ、おはよう。…その格好、今日はお前が朝飯を作ったのか?」

「ああ、喜べ!今日の朝飯は、特製カレーだ!」

「へ、へえ…それは楽しみだな…」

「ん?どうした?顔と台詞が合ってねぇぞ。もしかして、カレー嫌いだったか?」

「いや…別に嫌いじゃねえけど…なんで朝飯にカレー?」

「今日はプール大会だろ?全力で泳げるように、栄養つけとかなきゃと思ってな!コーチから教わった秘伝のメニューで作ったから、遠慮せずどんどん食えよ!」

…まさか、そこまで本気度が高かったとは。

なんか、申し訳なくなってきた。

ますます、やっぱりやりたくないなんて言えなくなっちまった。

「あ、この匂い…もしかしなくてもカレーだな!?」

「あーちゃんご名答!今日の朝飯は、特製カレーだ!」

「わーい!!」

…わーいって言ってはいるが、どうせ人参を俺の皿に避けるんだろ?

やめろって言っても聞かねぇし…本当にやめてもらいたい。

そんなこんなで、全員がレストランに集まった。

「いただきまーす!」

「んー!!おいしー!!大マゼラン雲並に元気いっぱいなカレーだね!!」

「わかるわ〜。」

相変わらず喩えが絶望的に分かりにくい。

鈴木だけは、何故か今の喩えで共感できたらしい。

二人とも、早速俺の皿に人参を乗せてきた。

「だからやめろっての。自分で食え。」

「やなこったテラコッタパンナコッタ!!」

「人参は栄養あるんだから、ちゃんと食べなきゃダメよ。サトシちゃん。」

「だったら尚更自分で食え。人に押し付けるな。」

全く…コイツらの相手をするだけで、倍疲れる。

「あ、そうだ。何か足りないと思った。」

鈴木はそう言うと、カレーにココナッツミルクを投入した。

「は!!?」

「こうすると美味しいのよね〜。あと、ちょっとだけチョコレートも入れてっと。」

ダメだ…コイツ、完全にイカれてやがる。

昨日もココナッツ入りスープ作ってたし…ココナッツ推しかよ、アイツ。

でも、食材の組み合わせが頭おかしい癖に、ちゃんと料理になってるんだよな。

一体どうやって料理したらあんな風になるんだ。

 

「ごちそうさまでした。」

全員、朝食を食べ終わった。

「よし、じゃあ早速プール行くぞ!!」

「あぁん、待ってェ。」

言い出した手前、文句を言えないのはわかっている。

だが、敢えて言わせてもらおう。

…本当に、参加しなきゃいけないのか。

俺は、みんなの前で醜態を晒さなきゃならないのか。

…あ、そうだ。いっその事、仮病を使っちまえば…

「菊池!今日のプール大会、楽しみだな!俺は絶対負けねぇからな!お互い、頑張ろうな!」

…ああ、これだからアウトドア派のイケメン様は。キラキラと眩しいオーラに、もはや激痛さえ感じる。

いつもなら玉木の言葉に励まされていたところだろうが、今日ばかりは、コイツの一言一言が俺の心の傷を抉ってくる。

ここで仮病なんて使ったら、それこそ俺は玉木達を裏切った最低の屑野郎になっちまうじゃねえか。

玉木の眩しい視線に何も言い出せなくなり、ついに俺はプール大会を棄権するチャンスを失ってしまった。

心に不安が募ったまま、重い足取りで俺はプールに向かった。

 

 

ー男子更衣室ー

 

「…うぅ。これだから水泳は嫌いなんだ。」

何しろ、俺は泳ぎが得意じゃない。

それに、体格も貧弱だ。

他の男子は、織田以外は全員俺より背高いもんな…

何が悲しくてこんな貧相な身体を晒さなきゃならないんだ。

…あ、言い出したのは俺だったな。

「おい、聞こえたぞ。…貴様、言い出しっぺの癖に弱腰か?フッ、情けないな。」

着替え終わった森万が、俺に声をかけてきた。

ダボダボの水着を着ており、すぐに折れてしまいそうな貧相な体格をしている。

…コイツ、運動出来そうな見た目じゃねえけど…なんでこんな自信満々なんだ…?

「よっしゃ!絶対一位になるぜ!」

玉木は、やる気満々の様子だ。

玉木の身体は、筋肉が程よくついたアスリートらしい体型だ。…所謂細マッチョというヤツだ。

しかも、競泳用の水着と帽子を装備する程の徹底ぶりだ。

…俺、絶対コイツには勝てねぇわ。

「んふふ。アタシ、本気出しちゃおうかしら♡」

「…私、そんなに運動が得意な訳ではないんですが…でも、『超高校級』の皆さんの実力がどれ程の物か、楽しみです!」

鈴木とジェイムズは、190cm前後のモデル体型だ。

二人とも、線が細い割には意外と筋肉がある。

鈴木はフリル付きのイチゴ柄の海パンを、ジェイムズは和柄の海パンを履いている。

…コイツらにも勝てる気しねぇわ。

もうお前らの勝ちでいいよ。

「フフフ、ヒキオタの血が騒ぎますぞ…!オタクの力を世間に知らしめるチャンスであります!!」

織田は変なポーズを決めながら、自信満々に高笑いしていた。

…その自信は一体どこから湧いてくんだよ。

…だが織田は、男子の中でダントツで貧弱だ。

背が俺たちの頭一つ分以上低い上に、ガリガリで骨と皮だけの身体だ。

水着は、学校用の海パンのようだ。

全員が揃い、プールへと向かった。

 

「遅いぞー!!」

「みんな来たね。」

「ブヒャー!!プールは最高でありますぞ!!」

「フン…悪くない眺めだ。」

織田と森万の視線は、水着姿の女子に釘付けだった。

森万の奴、むっつりスケベかよ。

「何ジロジロ見てんの!?サトにいのエロガッパ!!ハンザイシャヨビグン!!」

「見てねぇし。冤罪だろ。」

クソガキは、相変わらず背伸びしてビキニなんか着てやがる。

「…あはは。織田君は相変わらずだね。」

猫西は、呆れながら二人を見ている。

丈の長いキャミソールのような水着の下に、短パンを履いている。

「更衣室にストップウォッチが置いてありました。これでタイム測定が出来ますね。」

「…不潔。」

射場山が、織田を睨んだ。

速瀬と射場山は、競泳用の水着を着ている。

「ふははははははは!!!残念だったな、愚民共よ!!この私が参加した時点で、このプール大会は準優勝を決める戦いでしかなくなった!!」

「神城先輩、すごい自信っスね…」

神城はビキニを、小川はセパレートの水着を着ている。

「…ふわぁ。眠いですぅ。最後まで寝ちゃわないようにがんばりますぅ。」

「み、皆さんすごい気迫ですね…」

リタはワンピースのような水着を、床前はスクール水着を着ている。

「じゃあ、全員揃った事だし、早速始めるか!!」

他の男子が、次々とプールに入る。

俺も慌てて入水した。

「ふはははは!!愚民同士、せいぜい醜く争い合うがいい!!」

「み、皆さん頑張ってください…!」

「…それでは、位置について…用意…」

 

ピーーーッ

 

速瀬の笛を合図に、全員が一気にスタートする。

え、ちょっと待って…泳ぐのって、こんなにしんどかったっけ…?

必死に水を掻くが、全くスピードが出ない。

…ちょっと待て、今俺の前を泳いでるのは…織田じゃねえか!!

クッソ、コイツにだけは負けてたまるか!!

って、おいおい…みんなどんどんゴールしてくんですけど!?

俺、まだ25mも泳ぎ切れてないんですけど!!

いや、それより今は織田だ。

見てろよ、絶対追い越してやる!!

 

 

ー結果ー

 

1位 鈴木咲良(22秒68)

2位 玉木勝利(23秒49)

3位 ジェイムズ・D=カークランド(24秒97)

4位 森万羅象(49秒05)

5位 織田兼太郎(1分09秒13)

6位 菊池論(1分13秒08)

 

 

「や〜ん、優勝しちゃったわ〜♡咲良ちゃん嬉しい〜♡」

嘘だろ!? 20秒台が3人とか…この化け物共め!!

特に鈴木!お前…なんでオネエがしれっと優勝してんだよ!この筋肉おばけが!!

「クソッ、鈴木に負けた!絶対一位狙えると思ってたのに…!」

「皆さんお速いですね!流石は『超高校級』の方達です!とても楽しい勝負でしたよ。」

…おいジェイムズよ。それは嫌味か?

絶望的に泳ぎが遅い俺への当て付けか?

お前は運動得意じゃないんじゃなかったのかよ。この嘘つきめ!!

「バカな…この俺様が、弟子に20秒も差をつけられて敗れるなど…無念…!」

「くっ、なんと屈辱的な敗北…!次こそは、オタクの底力を見せてやりますとも!」

二人とも、よくご覧なさい。

君たちの下に、俺がいます。

…はあ、なんでこんな大会やろうなんて言い出しちまったんだろ。

「おっ、女子の方も記録が出たみたいだな。」

 

 

ー結果ー

 

1位 速瀬吹雪(24秒00)

2位 射場山祐美(29秒16)

3位 神城黒羽(31秒48)

4位 猫西理嘉(35秒27)

5位 小川詩音(40秒19)

6位 アリス(51秒53)

7位 床前渚(58秒95)

8位 リタ・アンカーソン(1分54秒72)

 

 

「…おや、私は1位ですか。」

「速瀬さんも射場山さんも速いね!」

「…別に。これくらい普通。」

「いや、十分速いっスよ。射場山先輩。」

「はっ!!?なぜだ…私が一位じゃないだと!!?この私が…メガネと無口如きに…負けた!!?噓だッ!!これは何かの間違いだ!!」

「いや、厳正な勝負の結果だよ。あと、しれっと某ひぐらしの名台詞吐くのやめなよ神城さん…」

「あー、面白かった。」

「…皆さん、すごいですね…」

「…ふわぁ。途中で疲れてウトウトしちゃいましたぁ。」

なん…だと…!?

女子にすら、途中で睡魔に襲われたリタ以外に負けただと…!?

…あれっ…プールで泳いでたはずなのに、目から海水が…

「…おや、菊池さん。泣いていらっしゃるんですか?私、ハンカチ持っていますよ。使いますか?」

「うるせぇ!泣いてねぇし!塩素が目に滲みただけだし!!」

「…ふわぁ。…僕、ビリになっちゃいましたぁ。」

「…見た感じ、アンカーソン先輩は途中で睡魔に襲われただけで、菊池先輩みたく絶望的に泳ぎが遅いわけじゃないんスよね。途中まで床前先輩といい勝負だったっス。」

「…あはは。確かにそれは否定できないね。」

「と、言う事は、このメンツでの底辺は、菊池氏という事になりますな!」

「やーい、サトにいビリッケツ〜!!」

「はいはい俺が悪うござんした!!もうほっといてくれ!!っていうかほっといてください!!お願いします!!」

「…菊池君、大丈夫かなぁ。」

「あらあら、ちゃんと立ち直れるかしら?」

 

プール大会は、散々な結果に終わった。

そうだよ…元はと言えば、言い出しっぺは俺じゃんか。

こうなったのは全部、自業自得…

…そう思うと、余計に泣けてきた。

やっぱり森万の言う通り、余計な意地を張っても碌な事が無いな。

もう虚勢を張るのはやめよう。自分が惨めになるだけだ。

俺は、着替えを終えて部屋に戻った。

部屋に戻って少し休憩した後、狗上の部屋に行ってみた。

 

 

ー『超高校級の操縦士』の個室ー

 

「…ほう。」

流石は『超高校級の操縦士』の個室と言うだけの事はある。

部屋には無数の乗り物の模型や部品が置いてあり、飛行機の操縦の練習用の部屋もある。

本棚には、乗り物に関する本が並んでいる。

「…!」

机の上に、一冊のノートが置いてあった。

「…これは、読んでもいいのか?」

読んでいいものかどうかはわからなかったが、それを確認すべき本人はもうこの世にはいない。

「…悪い、狗上。ちょっと読むわ。」

俺は、ノートを開いてみた。

そこには、俺がやったラジコンやクルーザーの設計図のようなものや、合宿生活での発見が事細かに書かれていた。

…アイツ、意外と几帳面だったんだな。

パラパラとページをめくっていく。

前半こそびっしり書かれていたが、後半は殆ど白紙だった。

しかし、最後のページに、見落としそうになる程小さく、細い字で何かが書かれていた。

「…なんて書いてあるんだ?」

ノートを顔の前に寄せ、目を細めて文字を見た。

 

 

 

 

死にたくない

 

 

 

 

「…。」

 

狗上は、臆病な奴だった。

誰も信用していないんじゃない。誰かを信用するのが怖かっただけだ。

アイツは誰も寄せ付けないように振る舞っていたが、本当は救いを求めていたんだ。

俺たちはそれに気付いてやれず、一方的にアイツを見殺しにしちまった。

今更悔いても、アイツはもう返ってこない。

俺たちに出来る事は、こんな目に遭うのを、狗上で最後にする事だけだ。

もう、誰も見殺しにはしない。いや、殺し合いなんてさせない。全員でこんなゲームを終わらせるんだ。

俺は、飛行機のおもちゃを机の上に置いて、部屋を出た。

 

ちょうど、昼食の時間になった。

俺は、レストランに向かった。

今日も、レストラン内に食欲を唆る香りが立ちこめている。

「…旨そうな匂いだな。」

「おや、菊池さん。いらっしゃったのですね。」

モノクマの顔が中央にプリントされたエプロンをつけたジェイムズが、厨房から顔を出して言った。

「正直、昼食を召し上がれるかどうか、心配していたんですよ?ほら、先程のプール大会の事で、落ち込んでいらっしゃるのではないかと…」

心配してくれているんだろうが、心なしかバカにしているように聞こえるのは俺だけだろうか?

「人の黒歴史を蒸し返さないでくれよ…せっかく忘れようとしてたのに。」

「あっ…すみません。私とした事が、つい無神経な発言を…事実でも、言っていい事といけない事とありましたね…」

ジェイムズは、軽く驚きながら言った。

事実でもって言うなし。

本人は反省している様子だが、発言に気をつけるどころかますます俺の心の傷を抉ってくる。

それも、わざとやってるんじゃないかっていうくらい的確に。

コイツの一番厄介な所は、本人に悪気が無いという事だ。

全部俺を心配した上での発言だから、無下にするような発言をしたら逆に俺が悪人みたいになっちまう。

「…はあ、もう気にしてねぇよ。心配してくれてありがとな。ところで、今日の昼飯は何だ?」

「ローストビーフとパイの料理です。デザートに、チョコレートプディングもありますよ。」

「へえ、それは楽しみだな。」

「ふわぁ。眠いですぅ。…これ、どこに運んだらいいですかぁ?」

「そのテーブルに置いて下さい。」

「はぁい。」

リタが、昼食の手伝いをしていた。

「…。」

コイツら仲良いな…

そういえば、合宿に参加する前から知り合いだったんだっけ?

…まさかとは思うが、付き合ってないだろうな。

…流石にないか。お嬢様系男子と、睡魔に負けっぱなしの女子だもんな。

 

「わーい!いい匂い〜!!あーちゃんおなかすいた!!」

「…今日はカークランド氏の手料理でありますか。」

「どうした、織田。テンション低くねぇか?」

「…男子が作った料理だからじゃないっスかね。玉木先輩の時も、織田先輩テンション低かったっス。」

「あら、男女差別?イケナイ子ね。」

「…最低。」

「鈴木氏、射場山氏!!誤解であります!!」

「どこがどう誤解なのかがよくわかんないけど…」

「猫西氏まで!?」

「フン、今日はカークランドの手料理か。」

「なんだペテン。貴様、最近帽子と仲良いな。貴様ら、もしかして付き合ってんのか?男同士で?キッショ!」

「フン、俺達が付き合っているだと?冗談も休み休み…「神城様。お言葉ですが、同性愛者を頭ごなしに否定するのは如何なものかと。」

「まず付き合ってないから!!そこ訂正させて!?」

「…あの。」

「え?私達、付き合っていますよね?」

「カァアアアアクランドォオオオオオオ!!?」

「…モノクマ学園長達のゲームに。」

「なんだ、そういう意味っスか。」

「カークランドよ、紛らわしい言い方をするな!一瞬嫌な汗かいただろ!」

「えっと…」

「え?付き合っているとは、そういう意味ではなかったのですか?」

「えっと…合ってるけど違うね。」

「日本語って難しいね!!」

「み、皆さん…とりあえず座りませんか…?」

「難しいですよね、分かります。だからこそ、日本語の勉強は楽しいです。」

「えー?あーちゃんはオベンキョーきらーい!!」

「皆さん、話を聞いて…」

「おい、みんな。床前が、席に座れって言ってるだろ。早く座れよ。」

「あっ、悪い床前!!気づいてやれなくて…」

「ごめんねナギサちゃん。聞こえなかったわ。」

「席座ってっていつ言った?あーちゃんのハチノスツヅリガ並みにユーシューなチョーリョクを持ってしても聞き取れなかったよ!」

「お前らなあ…どいつもこいつも集団無視しやがって、床前がかわいそうだろ。」

「…すみません、私の声が小さいせいで…」

「別にお前が謝る事じゃないだろ。そんなに気にすんな。」

「はい…ありがとうございます。」

「よし、じゃあ全員揃った事だし、飯にするか。」

全員が席に座り、昼食を食べ始めた。

今日の昼食も、俺の舌を満足させてくれる味だった。

前から思ってたが、見るからに御曹司のジェイムズが料理ができたとは、意外だったな。

ジェイムズといい、鈴木といい、玉木といい…料理できる男子多すぎんだろ。

…俺も、少しは見習わないと。

 

昼食を食べ終わった後は、自由時間となった。

「…さてと、どこ行くかな…」

俺は、暇潰しに遊園地へと向かった。

「次はあれやりたーい!!」

「あーちゃん、そんなに急がなくても…」

猫西とクソガキが、既に遊園地で遊んでいた。

クソガキが、俺に気付いたらしい。

「あ!あそこにサトにいいるよ!」

「えっ、菊池君が…!?どこ?」

「そこ。入り口のとこ。ちょっと声かけてくるね。」

「ちょっと、あーちゃん…!」

クソガキが俺の方に走ってきた。

「サトにい!何してんのこんな所で!!あーちゃんは今、うぇすにゃんと遊園地デート中なの!ジャマすんな!引っ込め引っ込め!!」

「…デートって。お前、猫西に迷惑かけてないだろうな?」

「全然!!うぇすにゃんは、あーちゃんが何しても笑ってくれるもんね!」

「ガッツリ迷惑かけてんじゃねえか。お前がガキだから、笑って許してくれてるんだよ。」

「えー!?なんでそんな事ゆーの!?クーキ読めよサトにい!!」

「お前が読め。生憎俺は、相手がガキだからって笑って許すような広い心は持ち合わせてねぇんだよ。」

「菊池君!」

猫西が、俺の方に走ってきた。

猫西の顔は、何故か軽く火照っている。

そんなに全力疾走してたようには見えなかったが…?

「ごめんね。引き留めちゃって。なんか用事とかあった?」

「いや、特に無いけど…でも、二人で楽しんでる中お邪魔みたいだし、俺はいない方が良かったか?」

「全然!良かったら、一緒に遊園地回らない?」

「いいのか?」

「もちろん!一緒に行こう。」

「えー!?うぇすにゃん正気!?こんなドスケベエロガッパハンザイシャヨビグンと一緒に行動すんの!?サトにいの奴、絶対スキあらばうぇすにゃんにヤラシー事しようとするよ!?」

「しねえよ。余計な事吹き込むな。」

「…むしろ、私としてはしてくれた方が嬉しいかな。」

!!?

は!?

え!?

おいおい、何言ってんのお前!?

「…あはは、菊池君ビックリしすぎ。冗談だよ。」

「…よかった。寿命が5年くらい縮んだぞ。」

「え!?サトにい大丈夫!?今の内にオソーシキの準備しとく!?」

「なんで俺があと5年しか生きられない前提なんだよ。お前、本当に俺の事なんだと思ってるんだ。」

「あはは、なんか…菊池君とあーちゃんって、本当に仲良しだよね。羨ましいなぁ。」

「は!?どこが!?マヂありえないんですけど!!」

合宿生活を8日間送って初めて、クソガキと意見が一致した瞬間だった。

俺は、クソガキのセリフに合わせて猫西に反論した。

「同感だ。猫西、本気でコイツと俺が仲良しだと思ってるのか?」

「…ほら、息ぴったり。」

「うぇすにゃん!こんなバカほっといて、早く行くよ!」

お前の方がバカだろ。

「あ、ちょっと。あーちゃん!」

クソガキの右足のサンダルはヒモが切れ、今にも脱げそうになっている。

…これ、言ってやんなきゃダメか?

「おい、待て…」

 

ガシッ

 

「…あっ。」

アリスの腕を掴もうとして、間違えて猫西の手を握ってしまった。

「わ、悪い…」

「う、ううん…気にしないで…」

猫西は、振り解くように俺の手を離した。

…そんなに手を握られるのが嫌だったのか?

「あ!!言ったそばからセクハラしてんじゃん!!サトにいのドヘンタイ!!」

「今のは不可抗力だろ!」

「エロガッパの苦しいイイワケなんか聞きたくないですよーだ!!」

「うるせぇな!」

「…わざとだったら良かったのにな。」

「なんか言ったか?」

「…ううん。なんでもない。」

「?」

猫西の奴、なんか顔赤いし…熱あるんじゃないか?

体調悪いのに、遊園地で遊ばせるのもな…ここは、一旦ホテルに戻って休憩した方がいいんじゃ…

 

ゾワッ

 

「!!!」

…まただ。

また、あの殺気だ。

しかも今回は、今までで一番強い。

「あれ?菊池君どうしたの?顔色悪いよ。」

「しかもめっちゃ震えてんじゃん!!あ、もしかしてあーちゃんがミス・ユニバース並みにスーパー美少女だから、同じ空気を吸うのが恐れ多すぎて震えてんだな!?」

「…少し、寒気を感じただけだ。」

「大丈夫?体調悪いんだったら、無理して遊ばない方がいいんじゃないかな。ホテルで休憩する?」

「…ああ、そうするよ。…なんか悪いな。せっかくの楽しい時間を台無しにしちまって…」

「そんな事より、菊池君の体の方が心配だよ。お大事にね。」

「ああ、ありがとう。」

…間違いない。

あの殺気は、俺に向けられている。

俺が、誰かに恨まれるような事をしたのか?

…いや、自分のために殺し合いを強要するようなふざけたゲームだ。

恨み、と一言で片付けられるものでもないのかもしれない。

一体誰が、なぜ俺の命を狙っているんだ…?

 

その後は、夕食の時間になるまで、部屋で仮眠をとって時間を潰した。

少し眠ったら、大分気分が良くなった。

俺はレストランに向かった。

 

 

ーレストランー

 

レストランには、すでにみんな集まっていた。

「フッ、遅いぞ菊池よ。寝てたのか?」

森万が、笑いを堪えながら俺を見ている。

よく見たら、席に座っているみんなは、速瀬と射場山以外は笑っている。

「お前ら、どうした?」

「…菊池君。鏡見てごらん。」

猫西がコンパクトを貸してくれた。

蓋の部分に、鏡が付いている。

どれどれ…?

…うわっ。

酷い寝癖だ。

部屋を出る前に、身嗜みを整えておけばよかった。

俺は髪を軽く整えた。

…これで少しはマシになったか?

「ありがとな。猫西。これ返すよ。…どうだ、直ってるか?」

「うん、かなり良くなったよ。」

「さっきよりはマシっスね。」

まあ…さっきよりマシならいいか。

「そうだ。今日の晩飯は、誰が作ったんだ?」

「フッ…俺だ。」

森万は、ドヤ顔しながら言った。

…そういえば、コイツも料理できるみたいな事言ってたっけ。

クッソ…料理できない男子は俺だけじゃねえか。

いや、待てよ…まだ織田がいる。そうだ、あとは織田に賭けよう。うん。

「ツラにいが作った料理?なんかコワーイ!」

「変なクスリとか入ってそう。」

「え?入れてるんですか、森万さん?」

「入れるか!!」

「まあ、こんな所で変な物盛って死人でも出たら、森万君が犯人になっちゃうもんね。普通に食べていいんじゃない?」

「…猫西先輩、縁起でもない事言わないでくださいよ。」

「あ、ごめんごめん。」

「よし、じゃあお喋りはこの辺にして…みんな、飯食うぞ!」

全員が、夕飯を食べ始めた。

夕食は、普通に美味かった。

これがお袋の味というヤツなのか?

…俺の場合、ロボットに全部任せてたからよくわからんが。

 

全員が食事を終えた後は、食後のコーヒーを飲んでまったりしていた。

…そんな中、平穏をかき乱すクマとハムスターがいた。

『やっほー!!』

『でちゅ!』

モノクマとモノハムが、レストランの天井から、回転しながら降りてきた。

「あら、クマちゃんにハムちゃんじゃない。」

『呼ばれて出てきてなんとやら〜!うぷぷ…オマエラ、すっごい余裕だね!コロシアイもせずに、プール大会に食後のティータイムに…一体何やってんのかな?』

『オイラ悲ちいでちゅ。アナタ達は、外に出たくなくなっちゃったんでちゅか?』

「うるせぇ。失せろ。」

「あーあ、またうるさいのが来たっス。」

『うわぁ!菊池クンも小川サンも辛辣ゥ!オマエラ、『超高校級の毒舌家』名乗ってみたら?』

『お二人が、ちょんな暴言を吐くような不良生徒だと思いまちぇんでちたよ!』

「それで?急に出てきて、何の用なのさ?」

『そんなに急かさないでよ!ちゃんと順を追って…『皆様に、第二の動機をお配りちにきまちた!』

『コラァ!何人の台詞の上に被せてんだ!!このポンコツハムスター!』

『ヒィイイ!ちゅみまちぇ〜ん!!』

二匹は、俺達そっちのけで漫才を始めた。

「…あの、今『第二の動機』と仰いましたが?」

『うぷぷ…そのまんまだよ!あまりにも緊張感が無いオマエラのために、新たな動機をご用意しました!』

「そんな物、誰が欲しいって言った?さっさと失せろよ。」

『…ふぅん。これを見ても、そんな口利けるの?菊池クン。』

モノクマがスイッチを押すと、天井からモニターが降りてくる。

モニターに、映像が映し出される。

 

 

 



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第2章(非)日常編⑤

2月8日は兼太郎クンの誕生日です。
兼太郎クンたんおめ!


モニターに、映像が映し出される。

 

 

 


 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論クンの動機映像!

 

劇場のようなイラストが描かれた画面が映し出された数秒後、映像が映る。

壁の至る所に絵画が飾られており、ロボットが動き回っている豪邸…

…あまりにも、見慣れた景色だ。

映ったのは、俺の家だった。

親父とお袋と破奈が、並んでソファーに座っている。

『サトちゃん、入学おめでと〜!』

『よくやったな、論!あの希望ヶ峰に進学できるなんて…さすがは父さんの自慢の息子だ!』

『サトちゃん、本当に良かったわねぇ。入学通知が来た時、ママはつい嬉しくてはしゃいじゃったわ。』

『ほら破奈。お前からも、兄ちゃんに何か言ってやれ。』

『か、勘違いしないでよね!別に、お兄ちゃんと同じ高校進めて良かったとか、全然思ってないんだからね!』

『あらあら、この子ったら。サトちゃんの入学が決まった時、すごく嬉しそうにケーキまで焼いてたじゃない。』

『い、いつの話よ!』

俺の尊敬する親父、おっとりしていてどこか抜けているお袋、優秀だが俺にだけなぜか厳しい妹。

三人はいつも通りの様子で、俺の希望ヶ峰への入学を祝福していた。

『論、改めて入学おめでとう。希望ヶ峰でバリバリ才能伸ばすんだぞ!』

『サトちゃん、何か困った事があったら、すぐにパパかママに連絡ちょうだいね。』

『か、風邪とか引かないでよね!お兄ちゃん、あたしがいないとなんにもできないんヅーッ、だかrーザザッ…rrrrrrrrrザザッ…ザーーーーーーーッ』

 

ザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ

 

急に映像が乱れた。破奈の声は壊れたラジオのように繰り返され、不気味なノイズが混じる。

映像に無数の筋のようなものが映り、映像が乱れる。

やがて映り込んだ筋が画面を埋め尽くし、砂嵐になる。

…なんだ?何が起こった…?

おい、早く続きを見せろ!

そう思った瞬間だった。

砂嵐だった映像が、元に戻った。

 

 

「ーーーーーーーーーッ。」

 

目の前の映像に、目を疑った。

そこには、さっきまでの平和なやりとりとはかけ離れた惨状が映し出されていた。

家具や絵画は破壊され、カーテンやカーペットには、赤いシミができていた。

モノクマの被り物を被った数人の男が、赤く染まったバットや鉄パイプを持って、部屋の中を土足で歩き回っていた。

そいつらは、持っている凶器を振り回し、手当たり次第に家具を壊していく。

モノクママスクの一人が、足元にある何かを踏みつけて、奥の部屋へと進んでいく。

…そいつの足元には、

 

 

 

血塗れになった親父とお袋が倒れていた。

 

 

 

え?

え?え?え?え?え?え?

おい、ちょっと待て。

なんだこれは。

なんで、親父とお袋がこんな事になってるんだ。

こいつらは一体誰だ。

俺の家族に、一体何をした。

「親父…お袋…?…おい、なんだこれ!!どうなってんだよ!!こいつら誰だ、親父とお袋に何しやがった!!」

 

『キャアアアアアアアアアアア!!!』

 

「破奈…?…破奈!!」

『あ…あああ…いや、やめて…来ないで…来ないでよ…!』

破奈が、顔面蒼白になりながら後退りをする。

足が覚束なくなり、ついには尻餅をついた。

壁際に追い詰められた破奈の周りを、モノクママスク共が取り囲む。

「破奈…破奈!…おい、なんだお前ら…破奈に一体何する気だ…!?おい、やめろ…やめてくれ…やめろって言ってんだろうが!!よくも俺の親父とお袋を…破奈から離れろ!!」

俺は無我夢中で、モニターを殴った。

『ちょっとちょっと!それ以上やると、モニターが壊れちゃうよ!これ買うのに、いくらしたと思ってんだよ全く!』

『大人ちく映像を見ててくだちゃい!』

 

『いやだ…やめて…お願い、誰か助けて…お兄ちゃ…』

次の瞬間、画面が真っ赤に染まった。

 

ブツンー

 

そこで映像が途切れ、劇場の画面に戻る。

劇場にモノクマが現れ、不快なダミ声で喋り出す。

『ご家族から暖かい愛情を受けて、幸福で平穏な生活を送っていた『超高校級の弁護士』菊池論クン!しかし、ご家族の身に何かあったようですね!?では、ここで問題!果たして、論クンのご家族に一体何があったのでしょうかッ!?そして、彼の妹サンはこの後どうなってしまうのか…正解発表は、『帰郷』の後で!』

 

 

 


 

嘘だ。

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ

親父が、お袋が、破奈が…あんな目に遭ってるなんて嘘だ。

きっとこれは、モノクマの奴が俺を動揺させるために用意した罠で、三人は今もいつも通り平和に過ごしている筈だ。

…そうだ、これは嘘だ。

…嘘だと言ってくれ。

『うぷぷぷ!菊池クン、ものすごく参ってるようだね!大丈夫?ボクのおっぱい揉む?』

『学園長、おっぱいなんてないでちょ。』

『失礼な!見た目は平らかもしれないけど、結構モフモフなんだからな!ほら、試しに揉んでみろ!』

『や、ちょっと、痛いでちゅ学園長!逆チェクハラで訴えまちゅよ!』

「君たちの漫才なんてどうでもいいよ!なんなのさこれは!!君たち、菊池君の家族に何をしたの!?」

『ムッキー!そうやってすぐにボク達のせいにする気だな!?ボク達は別に何もしてないっつーの!』

『あれは、勝手にああなったんでちゅよ。オイラ達はただ、起こった事を()()()()()録画ちて、皆様に見ちぇたまででちゅ。』

「起こった事をそのまま…?…まさか、この映像、人数分あるんスか!?」

『もっちろん!鈴木クンの映像は、さっき超特急で編集したけど…全員分の映像を、各個室にご用意させて頂きました!気になる人は、自分の部屋のテレビにDVDをセットして映像を見てね〜!』

その言葉を聞いた瞬間、みんな一目散に個室に向かった。

 

個室に向かったみんなが、レストランに戻ってきた。

みんな、自分の映像を見たようだ。

顔面蒼白になり、何人かは泣いている。

「…嘘っス、あんなの絶対嘘っス…!」

「嫌だ…あんなのってないよ…あんまりだよ…」

「クソッ…みんな…!」

「…そんな、嫌だよ…お姉ちゃん…」

「ケッ、胸糞悪いモン見せやがって…」

「お父様…お母様…皆さん…」

「…嘘ですよね、あんなの…」

「…あんなの、嘘に決まってる…。」

「…気分の悪い物を見ました。」

「フッ、下衆が…」

「あ、あんなの吾輩は信じませぬぞ!!」

「本当、悪趣味な事するわ…」

「にゃああああ!!どうしよう!これ絶対外に出なきゃじゃん!!でもそのためには誰かブチ殺さないと!」

アリスがワシャワシャと頭を掻き毟りながら放った発言に、全員が我に返り、互いの顔を見合わせた。

 

…俺は今、何を考えた?

この中の誰かを犠牲にして、破奈を助けようと考えたのか俺は…

…いや、俺の中でもう答えは決まっているはずだ。

たった一人の妹の命と、ここ1週間一緒に過ごしただけの他人の命…

どちらを優先するべきかなんて、最初から決まっている。

…だが、本当に…

 

 

 

人 を 殺 す の か ?

 

 

 

…ダメだ。そんな事をしてまで助けたって、破奈はきっと喜ばない。

いや、そんなの、人を殺す度胸が無いのを言い訳するための綺麗事だ。

…だけど。

「…一度、頭を冷やすか。どうするかは明日考えよう。」

俺は、部屋に戻ろうと、廊下を歩いていた。

「あっ!サトにい!」

「…お前か。どうした?」

「さっきの映像に映ってたの、ハナちゃんでしょ?」

「…知ってたのか。」

「有名人だもん!ねえ、どったの?顔色悪いよ?大丈夫?おっぱい揉む?って!何しようとしてんだこのドヘンタイ!ハンザイシャヨビグン!!」

…自分から言い出しておいて、なんなんだコイツは。

「…はあ、少し黙ってくれないか?耳障りだ。」

「耳障りだと!?あーちゃんのアリアナ・グランデ並みの美声を、耳障りだとォ!!?ジョーダンも休み休み言え!!」

「お前こそ冗談は大概にしろ。俺は今気分が悪い。」

「サトにいの気分なんか知ったこっちゃないんだよ!今はとにかく、あーちゃんのドーキエーゾーを一緒に見てほしいの!」

…どこまでわがままなんだコイツは。

しかも、動機映像を一緒に見ろだと?

ふざけるのも大概にしろ。

「そんな事をして何の意味がある。俺にトラウマでも植え付ける気か?」

「ちげーし!!アンドロメダ銀河より広くてブラックホールより深い心を持ったあーちゃんが、そんな事するわけないでしょ!!バカなの!?死ぬの!?…エーゾーを見て、ちょっとナットクできない事があったんだよ!」

「それを、俺に考えろと言ってるのか?」

「そーゆーこと!」

「…他当たれ。」

「サトにいじゃなきゃいやなのー!!」

「なんでだ。わがままな奴だな。」

「だって、全員がドーキ知ってるのって、サトにいだけでしょ?だから、サトにいになら殺されなさそうだなーって思って。」

「…お前、俺の事ナメてるだろ。」

「うん!!」

…はっきり言ったな、コイツ。

どうするかな。

ここで断ったら、このクソガキ、絶対うるさくするだろうしな…

「…はあ、動機を見るだけだぞ。動機を確認したら速攻帰るからな。」

「そーそー!最初から黙ってあーちゃんのゆー事きーときゃいいの!」

うるせぇ。

「じゃあ、早速なんだけど…」

アリスは、ワンピースのポケットからDVDを取り出した。

「おい。」

「何?」

「まさかとは思うが、俺の部屋で見る気じゃないだろうな?」

「え?何言ってんの?サトにいの部屋で見るに決まってんじゃん!誰がサトにいなんかをあーちゃんのサンクチュアリに踏み込ませるかっつーの!」

ふざけんな。

わがままにも程があるだろ。

これ以上俺を怒らせるな。

「…どうしても俺の部屋じゃないとダメか?」

「うん!ゼッタイ!」

「…はあ、勝手にしろ。その代わり、少しでも部屋を汚したりうるさくしたりしたら、すぐに追い出すからな。」

「イェーイ!!はしゃぎまくるぞー!!」

話を聞けないのかコイツは。

クソガキは、俺の部屋のドアの前まで走り、ドアを何度も叩いた。

 

ドンドンドン

 

「あーけーろー!!!」

「…うるせぇ。今開けるから静かにしろ。」

「早く開けろよ!サトにいのグズ!!」

 

イラッ…

 

「うるせぇな。そんな事言うなら入れてやんねぇぞ。」

鍵を鍵穴に差し込んで回した。

「…ほら、開けたぞ。いいか、絶対大人しくしろよ。できなきゃ追い出す。」

「わかってるって〜!さてと、早速VTRスタートといっきまっすかー!!」

「聞けよ。」

アリスは俺の忠告を最後まで聞かずに、勝手に部屋に入り込みやがった。

クソガキはDVDをレコーダーにセットして、テレビのリモコンをつけた。

 

 

 


 

 

 

『超高校級の???』アリスサンの動機映像!

 

劇場の映像が終わった後、映像が映し出される。

子供のラクガキのような背景に、聞き慣れた陽気な音楽と共に、マスコットキャラクター達が現れる。

マスコット達は変な踊りを踊りながら、変な歌を歌う。

『ミーセスーシュークリームのーおいしいシュークリームー♪』

『一度食べたらやめられないー♫』

ポワン、という効果音と共に煙が上がり、16〜17歳くらいの少女と6〜7歳くらいの三人の子供が現れた。

『みんな、『Mrs. chou à la crème』のシュークリーム買ってきたよ!』

『わーい!ボクはカスタード!』

『私はイチゴ!』

『ボクはチョコ!』

『いただきまーす!』

『おいしーい!!』

『おいしいって幸せ!『Mrs. chou à la crème』!今なら、期間限定でスパイシーサラミ味と肉じゃが味とタピオカミルクティー味発売中!ぜひ一度は食bbbbbbbbb…ザッ…食べttttttt…ザザッ…』

 

 

 

ザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ

 

急に映像が乱れた。少女の声は壊れたラジオのように繰り返され、不気味なノイズが混じる。

映像に無数の筋のようなものが映り、映像が乱れる。

やがて映り込んだ筋が画面を埋め尽くし、砂嵐になる。

しばらくして、映像が元に戻った。

 

赤く染まった街が映し出される。

建物は崩壊し、信号機や街灯が全て破壊されて、街は目に貼りつくような赤色だけを残して、それ以外の色彩を失っていた。

モノクママスク達は、街を徘徊しては破壊行為を繰り返していた。

そんな中、ポップな字体で『Mrs. chou à la crème』と書かれた店に、何人かのモノクママスク達が入っていった。

…もちろん、客としてではなかった。

モノクママスク達は、店の窓ガラスやガラスケースを割り、店を荒らしている。

モノクママスク達の凶器には、べったりとクリームがこびりついている。

店の床には、幾つもの潰れたシュークリームが落ちていた。

 

ブツンー

 

そこで映像が途切れ、劇場の画面に戻る。

劇場にモノクマが現れた。

『大人気のシュークリーム専門のチェーン店、『Mrs. chou à la crème』!アリスサンも、『Mrs. chou à la crème』の常連客でした!しかし、お店に何かあったようですね!?では、ここで問題!この後、『Mrs. chou à la crème』は閉店へと追い込まれてしまうのですが…『Mrs. chou à la crème』の閉店の理由とはッ!?正解発表は、『帰郷』の後で!!』

 

 

 


 

「こんなの見せられたら、絶対外に出なきゃって思うじゃん!?」

「思わねぇよ。なんだこのふざけた映像は。…おい、まさかとは思うが、この動機映像を見て、人を殺す事が頭をよぎったりとかはしなかったよな?」

「ギクゥ!!そんなわけないじゃ〜ん!」

今ギクって言ったよな。

なんだこのクソガキは。

シュークリーム如きで、人を犠牲にしても仕方ないと一瞬でも思ったっていうのか…?

「…お前にとって、人の命はシュークリームと同価値なのか?」

「なんでそーゆー言い方すんの!?逆でしょ!?シュークリームが、人の命くらい大事なの!」

…なんだコイツ。

今まで色んなクズを見てきたが、ここまで清々しいタイプは久々に見たぞ。

「どっちも同じようなもんだろ。人の命を、シュークリームに負ける程度にしか思ってないっていう点ではな。」

「全然ちげーし!バカなの!?死ぬの!?」

「…まさかとは思うが、こんなくだらない事のためにわざわざ俺の時間を使ったんじゃないだろうな?」

「くだらないゆーな!!…言ったでしょ?このエーゾーを見て、どうしてもナットクできない事があったの!」

「納得できない事…?言ってみろ。」

「『Mrs. chou à la crème』ってね、シュークリームの超有名チェーン店なの!シュークリーム自体のおいしさもさることながら、そのバリエーションの多さがウリなんだよね!カスタード味とかチョコ味みたいなフツーのシュークリームから、納豆味とかバーベキュー味みたいなマニアックなシュークリームまで、いろんな味があって、老若男女がおいしく味わえるってゆーんで、SNSでも話題になってたんだよ!サトにいの大好物のすき焼き味もあったよ!」

「そんな気持ち悪い味のシュークリーム食えるか。某魔法使い映画のジェリービーンズじゃねぇんだから。…それで?何が納得できなかったんだよ。」

「あーちゃんね、『Mrs. chou à la crème』のシュークリームの味は、全部覚えてたんだよ。新発売の味とか、期間限定の味とかもね。…でも、スパイシーサラミ味と肉じゃが味とタピオカミルクティー味は、あーちゃんも知らなかったんだ。」

「ただ単にお前が調べてなかっただけなんじゃねぇのか?」

「そんな訳ねーし!あーちゃん、新発売の味が出るたびにネットで全部チェックしてたもんね!フレーバー一覧表だって手作りしたんだから!」

なんだその無駄な作業は。

ゲテモノシュークリームのためにそこまでするか普通。

コイツ、どんだけ暇人なんだよ…

「…なんでドーキエーゾーのCMでは、あーちゃんの知らない味がショーカイされてたのかなー?」

「…さあな。外の世界で何かあったか、それともこの映像自体が嘘なのか…それ以外に何か考えられるか?」

「うーん。」

アリスは、親指と曲げた人差し指で顎を軽く挟みながら考え始めた。

 

「…ここに来てから、実はかなり経ってたりして。」

 

「…え?」

「いや、もしもの話だよ?クマちゃんがあーちゃんたちをここに連れてきてから今日までがイッシューカンどころじゃなくて、何ヶ月…何年も経ってたとしたら、さくらちゃんがあーちゃんの事を知ってたのも、あーちゃんが知らない味がCMで紹介されてたのもナットクできるなーって。」

「…そんなバカな話あるか。第一、それが仮に本当だったとして、なんで俺たち全員がその事を覚えてないんだ。」

「んー…キオクソーシツ?あーちゃんも、自分のサイノー忘れちゃってたしね〜。」

「…くだらんな。真面目に聞いた俺が馬鹿だった。」

「だよねー!そんなカンタンに、人のキオクを消したりできるわけないもんねー!」

「じゃあなんで言ったんだよ。」

「ジョーダンだよジョーダン!」

「…まあ、真面目に言ったにせよ、冗談で言ったにせよ、可能性が低いのは一緒だな。」

「まあそうなんだけどさー。ほら、一度はこーゆーセリフ言ってみたかったわけ!」

「…今そのおふざけに付き合ってた俺の時間を返せ。」

「返せって言って返ってきたらクローしないよね!」

「うっ。」

初めてコイツに論破で負けた。

「なんかおしゃべりしてたら眠くなっちゃった。ここで寝ていい?」

「ふざけんな。自分の部屋で寝ろ。…ほら、DVDは返す。それ持って出て行け。」

「にゃあああああああ!!追い出す事ないだろー!!サトにいのドケチー!」

俺はクソガキを摘み出して、ドアを閉めた。

ああ、邪魔者が消えてくれた。

…これで静かな夜が過ごせる。

俺は近くの本を手に取って読み始めた。

 

 

数時間後、インターホンが聞こえた。

…誰だろうか?

俺は警戒しつつも、ドアを開けた。

「あら、サトシちゃ〜ん!ちゃんと起きてたのね。」

鈴木が、ピョンピョンと飛び跳ねた。

もうすぐ二十歳になる男がしていい仕草じゃねぇだろ…

時計を見ると、もうすぐ午後10時になろうとしていた。

…もうすぐ夜時間のはずだが?

「…こんな時間に何の用だ?」

「一緒にツラノリちゃんのショーを見に行きましょうよぉ!」

「…ショー?」

「あら?知らないの?今から、ツラノリちゃんのサイキックショーがあるのよぉ!」

…そういえばアイツ、そんな事言ってたっけ。

俺は、机に置きっ放しにしておいたチラシを見た。

…本当だ。確かに、日付が今日の午後10時になってる…

…っていうか、なんでコイツら、夜時間にショーなんてやってんだよ。

「…夜時間は出歩き禁止じゃなかったのか?」

「カタい事言わないの!今日は、ト、ク、ベ、ツ!ほら、早く行きましょうよぉ!」

「あ、おい、ちょっと…」

鈴木は俺の腕を引っ張って、無理矢理俺を部屋から引きずり出し、一言付け加えた。

「…ツラノリちゃん達が、みんなの心の傷を癒すために考えてくれた企画なんだから、ね?」

「…わかったよ。」

俺は、森万の事を誤解していたのかもしれない。

アイツは、虚勢を張っていたんじゃない。

俺たちのために、平然を装っていた。

俺たちの心が不安や恐怖で壊れないように、平気なフリをしていたんだ。

だったら、俺がアイツの想いに応えないと。

 

 

 

ー水族館ー

 

水族館には、すでにほとんど全員集まっていた。

なぜか、正面の巨大な水槽には、幕がかかっている。

「楽しみだね、床前さん!」

「は、はい…」

「ムフフ…これだけ暗ければ、レディーを凝視していてもバレないのであります!」

「…最低。」

「い、射場山氏…!?なぜ吾輩の視線に気づいて…!?」

「…目には自信がある。…あんた、本当にいい加減にしな。」

「ハッ、なんでこの私がペテンのショーになんか付き合ってやんなきゃなんねぇんだ!!」

「神城、森万達は俺たちのために企画してくれたんだぞ。文句言わずに見ろよ。」

「ケッ、そんなの知ったこっちゃねぇ!!」

…神城は相変わらずだな。

…あれ?これで全員か?

「あれ?ジェイムズとアリス…いや、それだけじゃねぇな。速瀬も、リタも、小川もいねぇな。」

「ああ、その5人なら、ショーの手伝いがあるらしくて、今は控え室にいるわ。」

「…へぇ。速瀬とリタと小川もか。意外だな。」

…まあ、リタは森万に興味津々だったし、速瀬と小川は真面目そうだからな…

『レディース・アンド・ジェントルマン!!ようこそ、『超高校級の超能力者』森万羅象のサイキックショーへ!!今宵皆様を、イリュージョンの世界へとご招待いたします!!』

水族館に設置されたスピーカーからジェイムズの声が流れ、水族館中に響き渡る。

巨大な水槽の前に用意されたステージに二人の人影が現れる。

パチン、と指を鳴らす音と共にステージがスポットライトで照らされる。

そこには、煌びやかな衣装を着た森万と、ベネチアンマスクをつけ、バーテンダーの格好をしたジェイムズが、ステージの上に立っていた。

『フッ、貴様ら。今宵は、俺のショーのために集まってくれて感謝する。俺はお馴染み『超高校級の超能力者』森万羅象、こっちは俺の一番弟子で助手のMr.Kだ。早速だが、今宵は特別に貴様らに俺様の力を見せてやるとしよう。』

森万は手始めに、手から火の玉を出して、指先で操ってみせた。

『さて、ここでMr.Kの実力も見せておこうか。Mr.K。』

『はい、むむむ…!』

ジェイムズが火の玉に向かって念のようなものを送ると、火の玉が赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青、紫と変色していく。

みんなは、目を丸くして驚いていた。

…神城だけは、バカにしたような目で見ていたが。

「…ケッ、くだらんな。炎の磁気と炎色反応を利用した子供騙しのトリッ」

ドスッ

神城が最後まで言い終わらないうちに、鈴木が神城を肘で小突いた。

「なっ…貴様、この私に何を…」

「黙って見なさいよ。」

 

その後も二人は、物を空中に浮かせたり、カードを当てたり、リンゴを一瞬でジュースに変えたりと、次々と手品を披露した。

どれも、俺の目を飽きさせない、完成度の高い芸だった。

「…次のプログラムで最後かぁ。早いなぁ。」

「もっと見たかったね。」

「でも、最後のショーはとっておきを披露するらしいわよ?うふふ、楽しみだわ。」

「ケッ、またくだらん手品じゃねぇだろうな。そんなくだらねぇ事で私の貴重な時間を奪う気なら、踏みつけてボロ雑巾にしてやる。」

「クレハちゃん!せっかくやってくれてるのに、そういう事言わないの!」

「うるせぇオカマ野郎!!」

「言ったわねこの売女!!」

「ちょっと、二人ともやめなよ!そろそろ次のショーが始まるよ!」

『さあ、このサイキックショーも、終わりが近づいてきてしまいました!本当はもっと皆様にお見せしたい超能力があったのですが、お見せ出来ないのが残念です。しかし!最後は、森万さんのとっておきの超能力で締め括りたいと思います!!…森万さん、自身の程は?』

『フッ,絶好調だ!いつでもOKだ、始めてくれ!』

『自信満々ですね!それでは、森万さんの超能力、『奇跡の大脱出』をご覧下さい!!』

ジェイムズが指を鳴らすと、ベネチアンマスクをしたアリスが、更衣室から拝借してきたと思われるロッカーを台車に乗せて運んできた。

『あー、どっこいしょ。』

『フッ、ミスAよ、ご苦労。』

『いやあ、それ程でも…ありあり!じゃあ、Aちゃんはそろそろごタイジョー!』

アリスは、ステージを後にした。

『それでは、可愛らしい助っ人が手伝ってくれたところで、今から超能力をお見せします!!』

ジェイムズは、ポケットからロープを取り出し、森万の手足をきつく縛る。

『痛っ…ちょっ、おい…おまっ…そんなにキツく縛る事無いだろ!』

マイクが森万の声を拾い、水族館中に響く。

…大丈夫なのか、あれ。

『では、森万さんには、このロッカーに入って頂きましょう!』

ジェイムズは、森万をロッカーに押し込む。

『では、イリュージョンの世界へ…レッツゴー!』

『あっ、おい…ちょまっ…』

バタンッ

 

…今『おい…ちょまっ…』って言ったぞ。

アイツら、ちゃんと打ち合わせしたのか?

見ててすごく不安なんだが。

『さて、では今からこのロッカーを頑丈に封じます!!』

ガンガンと、ロッカーの内側から叩く音が聞こえる。

中からは、『出してくれ』『予定と違う』などと、必死な叫び声が聞こえる。

ジェイムズはその声を完全に無視して、ロッカーにグルグルと鎖を巻き付け、南京錠を施錠した。

…アイツ、鬼畜すぎんだろ。

『さて、これで下準備は完了です!では今から、このロッカーを破壊したいと思います!!』

ジェイムズは、腰につけた剣を引き抜くと、ロッカーをメッタ刺しにし始めた。

次に、上からロッカーを鎖で引き上げて勢いよく落下させたかと思えば、ジェイムズは床に置いてある箱から小型のガトリングガンを取り出し、ロッカー目掛けて放った。

ガトリングガンからは大量のBB弾が打ち出され、亜音速で大量の弾がロッカーに当たり、ロッカーがボコボコに変形する。

そして、トドメと言わんばかりに、箱から50KGと書かれたハンマーを取り出し、大きく振りかぶる。

そして、勢いよくハンマーを振り下ろした。

ロッカーは、ハンマーの重みでペチャンコに潰れる。

…容赦ねぇなアイツ。

相当ストレス溜まってたのかな。

『おやぁ?どうやら、森万さんは中にはいないようですね!先程、脱出出来ないように閉じ込めた筈なんですけど…』

『フッ、どこに目をつけている。俺様ならここにいるぞ。』

森万の声が鳴り響いた。

『はっ、その声は…森万さん!?…今、確かにこの奥から声が聞こえました!もしかして、この奥に…森万さんがいらっしゃるのでしょうか!?それでは、イリュージョン!!』

ジェイムズが合図を送ると、水槽の幕を上がる。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーーッ」

 

全員が目を見開いて、固まっていた。

それは決して、奇跡が起こったからではなかった。

目の前には、目を疑う光景が広がっていた。

水槽の水はわずかに濁り、赤みを帯びていた。

水槽の中のサメは、水の濁りなどお構いなしに…いや、寧ろ上機嫌で水の中を泳いでいた。

…ソイツは、信じ難い物を咥えていた。

…それは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『超高校級の超能力者』森万羅象の身体だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コロシアイ合宿生活 残り13名

 

 

 



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第2章 非日常編①(捜査編)

…え?

嘘だよな?

お前は、今世紀最大の超能力者なんだろ…?

こんなところで、簡単に死ぬわけないよな…?

 

…頼むから、奇跡を起こしてくれよ…!

 

俺を…俺たちを、絶望させないでくれ…

 

「いやぁあああああああああああああああああああああああああ!!!」

「あ…あああ…」

「おい…嘘だろ…?森万…?」

「…!!」

「わぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!?」

「あああ、そんな…ツラノリちゃんが…アタシ、もう見てられない…!」

猫西と織田の悲鳴が、水族館に響き渡る。

玉木と床前は、突然の出来事に動揺していた。

射場山は、ショックで言葉が出なくなっていた。

鈴木は、顔を手で覆って、水槽に背を向けた。

そんな中神城だけは、顔面蒼白になりながらも高笑いしていた。

「は、ははは!なんだ、隋分と悪趣味なパフォーマンスだな!!今度は一体、どんなトリックだ!?」

…パフォーマンス?

そうだ、これはきっとショーなんだ。

なんだよ、おどかしやがって…一瞬、森万がサメに喰われたと思ったじゃねえか。

全く、今度はどんなトリックを使いやがったんだ?

…ほら、ジェイムズ。早く『ドッキリ大成功』でも、『イリュージョン』でも、なんとかいいやが…

 

That is impossible(そんな馬鹿な)!…Rubbish.(嘘だ) He cannot die so easily (彼がそう簡単に死ぬ筈が無いんだ)…!」

 

ジェイムズは、かつてないほどに動揺し、英語で何かをブツブツと呟いていた。

近藤と郷間が殺された時でさえ、冷静に状況を分析していたアイツが。

顔面蒼白になり、完全に冷静さを失っていた。

ジェイムズは、つけていたマスクを外して床に放り投げると、水槽に駆け寄り、水槽を何度も叩いた。

やがてアイツは、水槽を叩く気力さえ失い、その場に座り込んで項垂れた。

「… Please(頼むから)Tell me it is not true(嘘だと言ってくれ)…」

「…ジェイムズちゃんがここまで動揺してるって事は…残念だけど。」

鈴木はそれだけ言うと、泣き崩れるジェイムズにそっと上着を着せて、背中を撫でた。

…ようやく、頭が現実を理解し始めた。

…いいや、現実なんて、最初からわかり切っていた事じゃないか。

今まで、理解できなかったんじゃない。理解したくなかったんだ。

…本当は、現実を見なきゃいけない事はわかっているはずなのに。

俺の頭が、それを受け入れる事を拒絶したんだ。

俺は、電池が切れたかのように、ただ無気力にそこに立ち尽くす事しかできなかった。

「…クソッ、なんでまたこうなっちまうんだよ!!」

玉木は、仲間を失った悔しさに地団駄を踏んだ。

…正直、俺もまだ心の整理がついていない。

悲しい。

悔しい。

泣きたい。

叫びたい。

言いたい事は山程ある。

…だが、それは他のみんなも一緒だ。

だからこそ、俺が冷静でいなければならなかった。

俺は、玉木に声をかけた。

「なあ、玉木。大丈夫か?」

「あぁ?何がだよ。」

「お前だって、こんな状況におかれて、精神的に参ってるんじゃないのか?」

「…参ってるに決まってんだろ。お前は、森万があんな風になっちまって、悔しくねぇのかよ!!?」

「…悔しいよ。それは俺だって、ここにいる他のみんなだって一緒だ。」

「だったらなんでこんな状況で、そんな風に冷静でいられんだよ!?」

「…こんな状況だからこそだ。悔しがる事も、泣き叫ぶ事も、後でいくらでもできる。今冷静にならなきゃ、それこそ犯人の思う壺だ。俺は、森万をあんな風にした犯人の思い通りになんかなりたくない。」

俺の言葉に、射場山が同調した。

「…同感。私はこんなところで死ぬ気ないから。」

「わ…私もです…!」

「うふふ…せいぜい醜くのたうち回るといいわ、犯人ちゃん!」

 

しばらくして、モノクマの不快なアナウンスが鳴り響く。

 

『オマエラ、死体が発見されました!!中央エリアの水族館へとお集まりください!!』

 

放送を聞きつけたアリス達が、水族館へと駆けつける。

「にゃあああああああああああ!!?ツラにいが…ツラにいが…ホホジロザメにおいしくいただかれてるー!!?」

「…!そんな、森万様が…!如何して…!」

「あ…あああああ…そ、そんな…!森万先輩が…!」

「嘘でしょ…森万が…なんで…!」

全員が、目の前の惨状に対してリアクションした。

『うぷぷぷぷ!あーあ、死んじゃったよ。あんなに、『俺に任せろ』だの『俺様に不可能は無い』だの息巻いてたくせにね!案外あっけないもんだね、自称超能力者(笑)クン!…で、カークランドクンはかなりご傷心のようですね!?そんなに相方が死んだのがショックだった?うぷぷぷぷ!』

「…うっ…うう…森万さん…」

『っていうか、超能力があるなら、早く蘇りでもちゅればいいのに。まあ、ちょんな事できたらの話でちゅけど!ぴっきゃっきゃ!!』

『カークランドクンも、いつまでも泣いてないで、あんなペテン師の事なんて忘れちゃいなって!』

What do you know(お前達に何がわかる)…?」

「お前らが…お前らが、森万を殺したのか…!?」

『はいド低脳〜!善良な希望ヶ峰のマスコットがそんなエグい事するわけないじゃ〜ん!森万クンを殺したのは、間違いなくオマエラの中の誰かなんだよ!』

『全く、最近の若者はこれだから…ちゅぐに責任を他人に押ちちゅけようとちゅるのはいけないと思いまちゅ!たまにはイチャモンをちゅけられる側の立場にもなってくだちゃいよ!』

『そうそう!なんでもかんでもボク達のせいにするんじゃないよ全く!!あんまりボクを怒らせると、モノクマファイル配ってやんないぞ!!』

「ねえ、何?そのモノクマファイルって。アタシ、初耳なんだけど。」

『あ、そっか。鈴木クンは初めてだったね。じゃあ、改めて説明するよ!今からオマエラには、制限時間内に今回の事件の調査を行ってもらいます!その後は全員参加型の学級裁判を行い、森万クンを殺したクロが誰なのかについて議論をしてもらいます!見事クロを当てられたらクロだけおしおき、クロを当てられなかったらクロ以外がおしおきっていうルールだよ!みんな、気をつけて調査してよね!』

「ふぅん。…おしおき、ね。ロクな事が起こらなさそう。」

『ちょんな事ないでちゅ!実際体験ちてみたら、案外面白いかもでちゅよ!』

どの口がほざいてやがる。

「ふーん。ホントにロクな事しなさそうね、アンタ達。…まあでも、今一番ロクでもないのは、ツラノリちゃんをあんな目に遭わせて、平然とシロのフリしてアタシ達の中に紛れ込んでるおバカさんかしらね〜。」

鈴木は、俺たち全員をジロジロと見る。

…そうだ。この中に…信じたくはねぇけど、森万を殺した犯人がいるんだ。

『ちゃて、ちょろちょろお喋りはこの辺にちて、モノクマファイルを配っちゃいまちょうか!』

しおりを確認すると、モノクマファイルが追加されていた。

『じゃ、ファイルはあげたから、調査の方頑張ってね〜!』

モノクマ達は、不気味な笑みを浮かべながら去っていった。

…まだ、俺たちは続けなければならないのか。

あの地獄のようなデスゲームを。

 

 

 

 

 

ー《捜査開始》ー

 

まずはモノクマファイルに目を通しておこう。

 

 

モノクマファイル

被害者は『超高校級の超能力者』森万羅象。

死体発見現場は、中央エリアの水族館内部にある、ホホジロザメ『モノサメちゃん』(♀)の水槽内部。

死亡推定時刻は22:55頃。

死因は窒息死。

死体はモノサメちゃんに食べられたため、死体の状況の詳細は不明。

 

…窒息死?

だとすると、状況的にやはり溺死か?

せめて死体があれば…クソッ、情報が少なすぎる…!

「あら、このファイル…やけに詳しく書かれてるじゃない?」

『まあね!ボク達は、犯行の瞬間をこのつぶらなおめめでバッチリと目撃していたのだ!だから、そういう詳しい資料を作成できるんだよ!』

「ふうん。ここに嘘が書かれている可能性は?」

『うっさいなぁ、そんなにボク達を信じられないなら、自力で調査すればいいだろー!!』

「無理に決まってんじゃない、アタシ達ド素人なんだから!!…はあ、じゃあ、調査中と裁判中だけは、クマちゃんとハムちゃんを信じてあげるわ。」

『なんでちゅかその上から目線は!!腹立ちまちゅね!オカマの分際で生意気でちゅよ!』

「うっさいわね!!誰がオカマよ!!アタシはオ・ネ・エ!!気安くオカマなんて呼ばないで頂戴!!オネエナメんじゃないわよ!!」

「おい、落ち着けって…」

…コイツといると、倍疲れるな。

誰かを思い出す。…面倒臭いっていう意味で。

だがまあとにかく、これで少しは森万が殺された時の状況が理解できた。

 

コトダマゲット!【モノクマファイル】

 

…次は、犯行現場の調査だな。

水槽を見てみると、さっきまで泳いでいたサメがいなくなっていた。

「あれ…?サメがいない…」

『ああ、モノサメちゃんなら、捜査の邪魔になっちゃうだろうから、今は別の水槽でおねんね中だよ!』

サメをあんな短時間で水槽から出して、別の水槽に移し替えただと…?

…やっぱりこのぬいぐるみ共、只者じゃねえな。

「水槽の調査は誰がやる?」

「あの…出来れば、私は別の所にして頂けると有り難いです…」

…そうだな、ジェイムズにとっては辛いよな…大事な友達が、あんな風になっちまったんだからな。

「うふふ、じゃあアタシが調べるわ。アタシ、結構血生臭いのには耐性ある方だから。」

「…鈴木様は、放っておいたら何をするか分かりません。私が監視させて頂きます。」

「ちょっとぉ!信用ないわね、フブキちゃん!」

「当然です。共に過ごした時間が短い貴方が、一番怪しいです。」

「酷いわぁ。アタシはサイコキラーなんかじゃないわよぉ!」

「…でも、二人だけだと心許ないよね。私も水槽を調査するよ。」

「俺も、出来る事があれば協力するぜ!」

結局、鈴木、速瀬、猫西、玉木の4人が水槽を調査する事になった。

「…私達はどうする?」

「そうだな…じゃあ、アリス達の持ち場を調査するか。アリス、リタ、小川。お前達は、自分の持ち場じゃない所を調査してくれるか?」

「なんでー!!?」

「…自分達が、証拠を隠滅するかもしれないからって事っスよね。分かったっス。自分がいた所は、先輩方が調査してください。」

「ふわぁ…僕は殺してなんてないですけど…信用できないならしょうがないですねぇ。」

結局、速瀬の持ち場は神城が、アリスの持ち場は射場山が、小川の持ち場は織田が、リタの持ち場は床前が調査する事になった。

「あーちゃん、とりあえず心当たりありそうなとこ探してみるよ!とうっ!」

アリスは、俺たちの担当決めが終わらないうちに話し合いの場から抜け出し、舞台を調べ始めた。

「…なんなのアイツ。」

射場山は、呆れながらアリスを見た。

「…本当、意味不明っスよね。…あれ?アリス先輩、どこ行ったっスか?」

舞台に登ったはずのアリスが、いつの間にかいなくなっていた。

「あのクソガキ…!どこ行きやがった…」

俺は、舞台に登った。

舞台をよく調べてみると、蓋のようなものが見つかった。

…なんだこれ?

 

コトダマゲット!【舞台の蓋】

 

「にょきっ!!」

いきなり、蓋の中からアリスが現れた。

「うおわぁあああっ!!?」

「サトにい、なんでそんなにビックリしてんの?あーちゃんはただ、男子コーイシツに行こうとしてただけだよ!」

「余計わけわからなくなった!!心臓に悪い現れ方すんな!!…っていうか、女子が男子更衣室入んなよ!」

『うぷぷ…今回は特例で許可します!』

モノクマが後ろから現れた。

「あ、クマちゃん!」

「…今回は特例で、ってどういう事だ?」

『いやあ、オマエラだってさ、ボクが決めたルールのせいで調査の範囲が狭まるのは嫌でしょ?だから調査中のみ、非公開中のエリアを除いて自由に出入りできるようにしました!!これで好きなだけ犯人探しができるね!』

「じゃ、そーゆー事だから!」

…男子更衣室に行くって、どういう事だ?

…一応、男子更衣室に行ってみるか。

 

 

ー男子更衣室ー

 

…特に、これと言って変わったところは…

「にゃああああああ!!」

アリスが、いきなりロッカーの中から出てきた。

「うおぁあっ!!?」

「あーちゃんトーチャク!!」

「だから心臓に悪い現れ方すんなっての!」

「え?何?あーちゃんが可愛すぎてドキドキしちゃう?そんな、照れる〜!」

「うっせぇ!」

 

コトダマゲット!【男子更衣室のロッカーから現れたアリス】

 

部屋の中をよく観察してみると、床にスパンコールが落ちていた。

…あれ?これって…

もしかして、森万の服についてた装飾か?

だとすると、なんでこんなところに…

 

コトダマゲット!【更衣室のスパンコール】

 

「ねえねえ、そんな事より、チョーサの方ガンガン進めてこーよ!」

「…うるせぇ。叩くな。」

クソガキは、俺の背中を叩いて、プールの方へと急かした。

 

ープールー

 

「ここに何があんだよ。」

「ジャーン!!」

アリスは、無色透明の箱を見せた。

「なんだこれは。」

「サイキックショーで使う予定だったんだよ!本来ならこの中に入って、水槽の中にドボンするつもりだったんだよー!」

…コイツ、しれっと種明かししたな。

「おい、いいのか?」

「何が?」

「全部種明かししちまっていいのかって事だよ。」

「えー、だってキンキュージタイだし?しょーがないじゃん?」

…まあ、それは否めないが。

 

コトダマゲット!【透明の箱】

 

…あと、気になるのは目の前のどデカい貯水タンクか。

これで水槽やプールの水量を調節するのか。

俺は、タンクを調べてみる事にした。

タンクの蓋は開いていて、中を調べる事ができた。

…ん?排水口のところに、何か巻きついてるな…

これは…ロープ?

 

コトダマゲット!【タンク内のロープ】

 

…あと、気になるところは…ん?なんだこれ?

プールの床に、文字が書かれている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

エイチ…なな…とる?

これは…一体なんだ?

 

コトダマゲット!【謎のメッセージ】

 

…ん?

近くに、ビート板が落ちていた。

ビート板はなぜか真っ赤に染まっている。

「…なんだこれ。」

 

コトダマゲット!【真っ赤なビート板】

 

「…。」

「サトにい、どったの?そんなアホ面して。」

「うるせぇ。誰がアホ面だ。…いや、このタンクに入れないかと思って。」

「ふーん。」

「…なあ。」

「まだなんかあんの!?」

「ここって、夜時間に入れないエリアだったよな?」

「そーだよ。たしか夜時間は、ソーサシツとタンクの中には入れないよ。入ったらおしおきされちゃうんだよ!…てかさサトにい,なんであーちゃんにわざわざ聞いたのさ?自分でカクニンしろよー!!」

「…悪い。…一応、な。」

 

コトダマゲット!【夜時間】

 

「…なあ、アリス。」

「まだなんかあんのかよ!?」

「…お前は、わかるか?」

「は?何が?」

「誰がこんな事をしたのかとか…心当たりとかあったりしねぇか?」

「はぁ?わかるわけねーぢゃん!!そんなモン!なんであーちゃんに聞くのさ!!」

「…お前ならなんとなくこういうのわかりそうな気がして。」

「なんだそのテキトーな理由!…まあでも、あるテードは犯人絞れるんじゃない?…ほら、今回のバアイ、けっこう現場がトクシュじゃん?」

「…現場が特殊、ねえ。…あ。」

「どったの?」

「いや、更衣室って、同性の更衣室しか入れねぇようになってるだろ?だから、もしクロが更衣室に出入りしていたとしたら、ある程度犯人が絞れると思ったんだが…」

「フッ、あまあまだね!」

「はぁ?」

「サトにいはおバカちんだから、ガッシュクのココロエの穴に気づかなかったんだね!」

「…穴?なんだそれは。」

「説明めんどい!自分で考えろ!」

「…。」

…なんてガキだ。

仕方ない、自分でルールを再確認するか…。

俺は、しおりを見てみた。

 

…!

 

…そうか、そういう事か。

 

コトダマゲット!【合宿の心得】

 

コトダマゲット!【心得の穴】

 

「…あと、最後に一つだけいいか?」

「ほにょ?」

「お前、犯行時何してたんだ?」

「ああ、持ち場でコドーグのヨーイしてたよー!」

「…なるほど。」

…もう、ここで調べられる事は無さそうだ。

そろそろ、みんなの所に戻らないと。

 

 

ー水族館ー

 

「玉木、水槽の方はどうだった?」

「ああ、色々見つかったぜ。…まずは、これを見て欲しいんだけどよ。」

玉木は、自分のしおりで撮影した画像を見せた。

そこには、紐状のものが写っていた。

「…なんだこれは?」

「…さあ?見たところ、ベルトっぽいけど…水槽の中に落ちてたんだ。…なんで水槽の中にこんなものが沈んでたんだろうな?」

「森万の服のベルトじゃねえのか?」

「いや、アイツのじゃないっぽいんだよな…」

 

コトダマゲット!【水槽のベルト】

 

「他に何か見つからなかったか?」

「あとは、このような物が見つかりました。」

速瀬は、別の画像を見せた。

見たところ、麻でできた袋とロープの切れ端らしい。

「なんだこれは…麻袋と…ロープか?」

「…恐らく、そのようですね。ベルトといい、麻袋といい…何故水槽の中に沈んでいたのかは謎ですが…」

「そもそも、森万がなんで水槽の中にいたのかもまだ謎だしな。」

 

コトダマゲット!【麻袋とロープ】

 

「…あと、これだね。」

猫西が別の画像を見せた。

よく見ると、布のようだ。

ん…?どっかで見たことある色合いだな…

ついこの前、俺が持っていたような…俺の持ち物か…?

いや、そんなわけないか。

 

コトダマゲット!【見覚えのある色合いの布切れ】

 

「ああ、そうそう。アタシからひとつ言っておく事が。」

「なんだ。」

「ツラノリちゃんが殺された時、アタシ達はここにいたからアリバイがあるじゃない?」

「…そうだな。俺たちには、犯行は不可能だった。…できるとすれば、持ち場にいた奴らか…」

「実はね、もう1人犯行が可能だった子がいるのよ。」

「…何?」

「実はね、ショーの最中、ケンタロウちゃんが水族館から抜け出してたのよ!」

…何?織田が…?

「なあ、それは本当なのか?」

「うん、ホントだよ。織田君は、ショーの最中にトイレに行くって言って出てったね。」

…そうだったか?

あの時はかなり真っ暗だったし、俺はショーに集中してたから気づかなかったけど…

まあ、二人が言うなら水族館を出て行ったのは確かだろうな。

「そうだ速瀬。お前はその時何してた?」

「私は、持ち場で照明の調節をしておりました。」

「そうか。ありがとな。」

「御礼には及びません。」

 

コトダマゲット!【鈴木の証言】

 

「神城、お前は速瀬の持ち場で何か見つけたりとかしたか?」

「テメェ、愚民の分際で気安く話しかけんじゃねぇよ!!」

ああもう、めんどくせぇなコイツ。

「フン、どうしても知りたいなら教えてやらねぇこともねぇが?」

なんで上から目線なんだ。

まあ、コイツの傍若無人っぷりは今に始まった事じゃねえけど…

「こんなものがゴミ箱に捨ててあった。」

神城は、腕時計を見せた。

よく見ると、赤い何かが付いている。

「…これがゴミ箱に入ってたのか。赤い何かがついてんな。なんだこれ?…でも、そんなについてるわけじゃじゃないし…まだ使えそうだけどな。」

「知るかよ。あのカタブツメガネの事だ、どうせそれが気になって捨てたんだろ。」

まあ…速瀬は異常なまでに神経質だしな。

あり得なくはないか。

 

コトダマゲット!【赤い何かがついた腕時計】

 

「織田、小川の持ち場には何かあったか?」

「ムフフ、実は、こんな物が。」

織田は、カセットテープを取り出した。

「どうしたんだ?これは。」

「小川氏の持ち場にあったのであります!このテープには、どうやら森万氏の声が録音されているようですぞ。」

…スピーカーに繋げるタイプか。

 

コトダマゲット!【カセットテープ】

 

「ありがとう。…なあ、織田。」

「なんでありますか?」

「お前、ショーの最中にトイレに行ったって本当か?」

「なっ…もしや、吾輩を疑っているのでありますか!?」

「…ただの事実確認だ。ああ、シラを切ろうとしても無駄だぞ。目撃者がいるんだからな。」

「…うう、行きましたとも!これで満足でありますか!?」

「ああ、用件はそれだけだ。ありがとな。」

…ウラもとれたし、証拠として提出して問題ないだろう。

「床前、お前の方は何かわかったか?」

「ええと…すみません、特にこれといって気になるところとかはありませんでしたね…」

「そうか。」

「…それと、私の方は、調査が早く終わったので…別のところも探索してたんですけど…」

「そうか。何かわかったか?」

「ええと…ステージの上に、こんなものが…」

床前は、壊れたヴォイスレコーダーを見せた。

「…これは…」

なぜこんなものがステージの上にあったのか、謎は深まるばかりだ。

 

コトダマゲット!【ヴォイスレコーダー】

 

「射場山、お前の方は?」

「…手品の道具が色々あったけど、特にこれといって気になるものは。」

「…そうか。一応、どんなものがあったとか教えてくれるか?」

「えっと…よくわかんない液体とか…リンゴジュースの手品で使ったジュースとか…あとは、カード当てマジックで使った封筒とスタンプとか…」

…スタンプ?

 

!!!

 

…まさか。

…そういう事か。

「どうしたの?」

「…なあ、射場山。ハンコって押した事あるか?」

「はあ?何その質問。」

 

コトダマゲット!【ハンコ】

 

「先輩、お疲れ様っス!」

「ふわぁ。」

小川とリタが水族館に戻ってきた。

「…お前ら、どこに行ってたんだ?」

「すいません。ちょっと、ロビーに行ってたっス。」

「ふわぁ…もしかしたら、フロントから何か持ち出されたものがあるんじゃないかと思って…一応調べたのですぅ。」

リタがあくびをしながら説明した。

「…どうだった?」

「あったっスよ。持ち出されたものが。」

 

「…郷間先輩のしおりっス。」

「郷間の…?持ち出されてたのは、それだけか?」

「ええ。それだけだったっスよ。それが何か?」

「…やはりか。」

「?」

 

コトダマゲット!【郷間の電子しおり】

 

「…そうか。ありがとう。…そうだ、お前ら二人は、犯行時何してた?」

「持ち場で、スピーカーのボリュームとか調節してたっス。」

「うとうとしちゃって覚えてないですけど…多分、持ち場で小道具の確認とかしてたと思いますぅ。」

「なるほどな。ありがとう、二人とも。」

 

「…あとは、確認しておく事があるな。」

俺は、ジェイムズに声をかけた。

「…おい、ジェイムズ。大丈夫か?」

「…はい、もう大丈夫です…ご迷惑をお掛けして申し訳ございません…」

ジェイムズは、涙を拭いて立ち上がった。

「話、できそうか?」

「はい…お話くらいなら…私に仰っておきたい事がおありなら、何でも仰って下さい。」

「じゃあ、ちょっと気になる事があるから確認したいんだけど…」

「何でしょうか…?」

「好きなタイミングで容器の中の水を流す方法ってあるか?」

「…はい?」

「ああ、いや…えっと…容器に手を触れたりとか、遠隔操作とかナシで好きに水を容器から出す方法とかがあれば教えてほしいなって…ほら、お前そういうの知ってそうだから…」

「…。」

ジェイムズは、徐に俯いた。

「あ、ごめん…そんな方法、あったら苦労しないよな。悪い、変な事聞いちまったな。」

「有りますよ。」

「そうか。やっぱりな。あーあ、アテが外れたな。他の手がかり探すか…」

…。

…。

…。

「あるの!!?」

「え、あ、はい。」

「それ本当か!?詳しく教えろ!!」

「ええと…菊池さんは、『サイフォンの原理』をご存知ですか?」

「…いや、全く。」

「ああ、教訓茶碗のやつでしょ。」

猫西が、後ろから割り込んできた。

「教訓茶碗…?」

「えっとね、水を入れ過ぎると、入れた水が全部流れ出ちゃう不思議な茶碗なんだけど…確か、サイフォンの原理が利用されてるんだよね。」

「猫西さん、よくご存知ですね。」

「…一回、動画で紹介した事があってね。」

「なるほど…で?その…サイフォン?の原理って何だ?」

「ええとですね、高い所から低い所へ管を使って液体を流す際、管の途中に出発点より高い地点があっても、液体が流れ続けるんです。詳しい仕組みをご説明しますと…」

「ああ、もういい。俺、物理は苦手なんだよ。聞いても多分わかんねぇよ。」

「…そうですか。」

ジェイムズは少しつまらなさそうな顔をした。

…そんなに説明したかったのかよ。

 

コトダマゲット!【サイフォンの原理】

 

…一通り調査は終わったかな?

「ありがとな、ジェイムズ。話してくれて。」

「はい…」

…あとは、全員分のアリバイか。

 

コトダマゲット!【全員分のアリバイ】

 

『オマエラ、時間切れです!ついにこの時がやってきました!お待ちかねの学級裁判、始めるよ〜!5分以内に、ホテル一階の赤い扉まで集合してね〜!』

…ついに、この時が来た。

来て欲しくもなかった、この時が。

 

ー赤い扉前ー

 

俺は、重い足取りでエレベーターに乗り込んだ。

その瞬間、次第に心音が速くなっていく。

…正直、2度目でも全く慣れる気がしなかった。

今回もまた、犠牲者が出てしまうのか…

俺は、エレベーターを降りて、歩を進めた。

向かう場所は、一つだった。

そして、ついに足を踏み入れてしまった。

 

裁判場という名の、処刑場へ。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

『ここで、皆様にクイヂュのお時間でちゅ。この中で、森万様を殺害ちた犯人は誰だと思いまちゅか?』

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の???』アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉

 

『超高校級の秘書』速瀬吹雪

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の漫画家』織田兼太郎

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の超能力者』森万羅象

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

『超大学生級のオネエ』鈴木咲良

 

 

 

『…ちょうでちゅか。…ではでは、答え合わちぇは、またの機会に。』

 

 

 

 



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第2章 非日常編②(学級裁判編)

全員が裁判場に到着し、証言台の前に立つ。

今回は、玉木、小川、狗上、速瀬、郷間、リタ、織田、射場山、俺、アリス、ジェイムズ、床前、森万、近藤、猫西、鈴木、神城の順になっていた。

そして、赤くバツ印が書かれた遺影が2枚増えていた。

…気怠げな表情を浮かべる狗上の遺影と、不敵な笑みを浮かべる森万の遺影だった。

「クソッ、悪趣味なマネしやがって…!」

玉木は、悔しそうに証言台を叩いた。

『おやおや?玉木クン、ご機嫌ナナメ?カルシウム不足じゃないの?小魚食べな小魚!』

「うるせぇ!」

『おー、こわ。』

『玉木様は、超エリート優等生の皮を被った不良だったんでちゅね!オイラ、悲ちいでちゅ…』

「ねえ、いい加減黙りなよ。耳障りなんだけど。」

猫西は、舌打ちをして、吐き捨てるように言った。

『わわわ!?猫西様まで!?』

『なんだオマエラやんのかコノヤロー!!』

「…茶番はいいから、早く初めてくださいよ。」

小川は、呆れながら言った。

『それもそうだね!オマエラの小生意気な発言にいちいち反応するのも時間の無駄だしね!じゃあ、全員揃ったみたいだし、学級裁判はじめちゃいますよー!』

 


 

コトダマ一覧

 

 

 

【モノクマファイル】

被害者は『超高校級の超能力者』森万羅象。

死体発見現場は、中央エリアの水族館内部にある、ホホジロザメ『モノサメちゃん』(♀)の水槽内部。

死亡推定時刻は22:55頃。

死因は窒息死。

死体はモノサメちゃんに食べられたため、死体の状況の詳細は不明。

 

【舞台の蓋】

何故か、ステージ上に蓋のようなものがあった。

 

【男子更衣室のロッカーから現れたアリス】

ステージの上を調査していたはずのアリスが急に姿を消し、男子更衣室で発見された。

 

【更衣室のスパンコール】

おそらく、森万の衣服の装飾と思われる。

 

【透明の箱】

ショーで使う予定だったガラスの箱。

プールに置いてあった。

 

【タンク内のロープ】

タンクの排水口に、ロープが絡まっていた。

 

【謎のメッセージ】

床に赤い文字でH七トルと書かれていた。

 

【真っ赤なビート板】

メッセージの近くに落ちていた。

 

【夜時間】

夜時間は、操作室とタンクの中には入れない事になっていた。

 

【合宿の心得】

男子は女子更衣室に、女子は男子更衣室に入れない。

 

【心得の穴】

上記の心得には、どうやら穴があったらしい。

 

【水槽のベルト】

水槽に沈んでいた。

 

【麻袋とロープ】

水槽に沈んでいた。

 

【見覚えのある色合いの布切れ】

水槽に沈んでいた。なぜか、どこかで見た事がある。

 

【鈴木の証言】

織田がトイレに行ったのを見たという。

 

【赤い何かがついた腕時計】

速瀬の持ち場に捨てられていた。

赤い何かが付着しているが、十分使える。

 

【カセットテープ】

小川の持ち場で見つかった。

森万の声が録音されている。

 

【ヴォイスレコーダー】

ステージ上で見つかった。

 

【ハンコ】

今回の事件を解く上で、重要な手がかりになるかもしれない。

 

【郷間の電子しおり】

フロントにあったはずのしおりが、いつの間にか持ち出されていた。

 

【サイフォンの原理】

高い所から低い所へ管を経由して水を流すと、管が高い位置にあっても水が流れ続ける。

 

【全員分のアリバイ】

俺、玉木、ジェイムズ、猫西、鈴木、神城、射場山、床前は、水族館にいた。

速瀬、アリス、小川、リタは持ち場にいた。

織田は、トイレに行っていた。

 

 

 


 

 

 

学級裁判開廷

 

 

 

『じゃ、好きに議論を進めてくださーい!』

小川「えっと…まずは何を話せばいいんでしたっけ?」

菊池「…じゃあ、そうだな。まずは事件の概要をおさらいしておこうか。」

速瀬「そうですね。それが宜しいかと。私がファイルを読み上げます。被害者は『超高校級の超能力者』森万羅象。死体発見現場は、中央エリアの水族館内部にある、ホホジロザメ『モノサメちゃん』(♀)の水槽内部。死亡推定時刻は22:55頃。死因は窒息死。死体はモノサメちゃんに食べられたため、死体の状況の詳細は不明。…以上です。」

菊池「よし、じゃあ森万が殺された時の状況を整理しておこう。」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

玉木「森万はなんで殺されちまったのかな…」

神城「ケッ、理由なんてどうでもいいだろ。人を殺した時点で、殺人犯なのには変わりない。」

アリス「そーそー!それにさ、犯人さんは、ツラにいをモノサメちゃんに食い殺させたクレイジーサイコパスタなんだぞー?」

小川「え、えげつない殺し方っスね。」

 

【モノサメちゃんに食い殺させた】←【モノクマファイル】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「森万の死因は、サメに食われた事じゃない!!」

アリス「な、なんだとぉおおう!!?」

菊池「森万の死因は…窒息死だ。モノクマファイルに書いてあるだろ。」

アリス「あ、確かにそーだね!あーちゃんうっかりさんだったよ!てへペロポネソス半島!」

鈴木「じゃあ何?ツラノリちゃんは、死んだ後でモノサメちゃんに食べられちゃったって事?」

速瀬「そういう事になりますね…」

ジェイムズ「…モ、モノサメさんに食べられた訳じゃないなら、まだ良かったです…ホホジロザメに食い千切られるなんて、絶対痛くて苦しいじゃないですか。」

アリス「うんうん、絶対痛いよね!あーちゃん、それだったら200億倍チッソクの方がマシだよ!」

リタ「ふわぁ。窒息死は、比較的楽に死ねると本で読んだ事がありますぅ。」

猫西「うーん…カークランド君、あーちゃん、アンカーソンさん…そういう問題じゃないと思うなぁ。」

玉木「…お前ら、真面目にやろうぜ。」

小川「そうっスね。じゃあ次は、森万先輩がどうやって殺されたのか、話し合うっスか?」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

猫西「うーん…状況的には溺死かなぁ。」

織田「どこかに密閉したという可能性もありますぞ!」

床前「こ、絞殺されたのでは…?」

 

【絞殺】←【水槽のベルト】

 

「その意見、賛成だ!!」

 

同意

 

菊池「森万は、ベルトで絞め殺されたんじゃないか?」

床前「そ…そうなんですか…?」

鈴木「え、何…分からずに言ってたの?」

床前「はい…そうじゃないかな、という想像というか…でも、どうして絞殺だってわかるんですか?」

菊池「水槽の中に、ベルトが沈んでいた。あれは、森万のものじゃない。…となると、あのベルトが凶器になったと見ていいだろう。」

 

反論!

 

猫西「うーん…ちょっとごめんね。」

 

 

 

猫西「ごめん。ちょっとそれは納得できないかなぁ。」

床前「な、納得できない…とは?」

猫西「あのさ、水槽の中から持ち主不明のベルトが見つかったからって、それが凶器とは限らないよね?もしかしたら、水死させた後、それを隠すためにわざとベルトを水槽に入れたのかもよ?」

菊池「いや、そんな事をする意味は無いんだ。どうせサメに食われるんだから、死因をミスリードさせる必要はない。」

猫西「反論の答えになってないよ。もしかしたら、森万君がサメに食べられちゃうのは、犯人にとって想定外だったかもしれないじゃない。」

小川「…サメ入りの水槽に死体が入ってて、食べられるのが想定外だったっていうのは苦しいと思うっスけどね…むしろ、死因をわからなくさせるためにサメ入りの水槽を選んだと考えた方が自然じゃないっスか?」

猫西「さっきから、私の意見の非合理性を主張してるだけじゃん。証拠はあるの?」

 

コトダマ提示!

 

【更衣室のスパンコール】

 

「その愚論、切らせてもらう!!」

 

菊池「いや、やっぱり水死とは考えられない。」

猫西「どうして?」

菊池「更衣室に、スパンコールが散らばっていた。おそらく、森万のものだ。」

猫西「それがどうしたの?」

菊池「多分、更衣室で森万が暴れたんじゃないか?その時に、スパンコールが剥がれたんだ。」

ジェイムズ「なるほど…森万さんが溺死したと仮定して、そうなると水がある所を犯行現場とするでしょうから、更衣室ではなくプールが犯行現場となるでしょう。しかし、暴れた形跡はプールではなく更衣室にあった…これは、溺死したという仮定と矛盾します。したがって、元の命題が正しいと言う事ですね。」

鈴木「こんな時に背理法使って証明しなくていいわよ…」

射場山「…いい加減、真面目にやんな。」

菊池「お、おう…そうだな。」

玉木「じゃあ、俺が話題ふっていいか?」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

玉木「誰か、手がかりみたいなのを見つけたやついねぇか?」

鈴木「え、いきなりその話題?」

玉木「だって、このままグダグダ話しててもしょうがねぇだろ。」

アリス「手がかりだとー?そんなもの、そう簡単に見つかっていいわけねーでしょーが!」

…手がかり?アレを提示してみようか?

 

コトダマ提示!

 

【謎のメッセージ】

 

「これだ!!」

 

菊池「手がかりになるかもしれないものなら、もう見つけたぞ。」

アリス「はぇ!?あんの!?」

菊池「ああ。これを見てくれ。プールの床に書かれていたんだ。」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

織田「エイチ…なな…トル?なんでありますか!!この意味不明な文字列は!!」

速瀬「意味不明と言う訳ではないかも知れません。犯人の名前だったりするのでは?」

アリス「そーなの!?はい、エイチななトルさーん!!この中にいたら返事してくださーい!!」

小川「そんなんで名乗り出るわけないでしょう。…第一、H七トルが犯人の名前かどうかすら怪しいっスよ。」

リタ「こんな言葉、どの言語にも無いですぅ。」

ジェイムズ「…そのままでは、メッセージとして成立しないのでは?工夫して読まなければならない文字なのかも…」

菊池「その可能性が高い。」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

アリス「何言ってんの!そのまま読むに決まってんでしょお!?メッセージはH七トルで決まり!!」

神城「そのままじゃ読めねぇから言ってんだろうが!!バカかテメェは!!」

猫西「逆から読む…とかでもないか。」

鈴木「反転させてみたらどうかしら?」

射場山「アナグラムの可能性は?」

 

【反転】←【ハンコ】

 

「その意見、賛成だ!!」

 

同意

 

菊池「…メッセージは、ハンコになっていたんだ。」

ジェイムズ「は、判子…?確か、赤ベコに使われる…」

猫西「それは張子だよ。」

ジェイムズ「間違えました…」

神城「おいモブ!!メッセージがハンコって、どういう事だ!?」

菊池「おい、誰か薄い紙持ってねぇか?それと、油性ペン。」

神城「チッ…ほらよ。」

菊池「H七トルって書いて、それを向きを変えて、裏から見ると…本当のメッセージが浮かび上がる。」

俺は紙に書いた後、裏面をみんなに見せた。

 

「「「…あ!!!」」」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

織田「エ、エカイラですとぉおおお!!?…でも、エカイラってなんでありますか!?」

小川「確かに…文字としては成立したっスけど、まだ意味不明っスね。」

猫西「…エカイラ…!」

小川「ん?どうしたっスか?猫西先輩。」

猫西「…ネットで一時期噂になってたんだ。…エカイラ。『超高校級の死神』だよ。」

織田「ちょ、『超高校級の死神』ィイイイ!!?そんな『超高校級』、アリなんでありますか!!?」

ジェイムズ「そんな才能、聞いた事ありません。猫西さんは、ご存知なのですか?」

猫西「『超高校級の死神』…その姿を誰も捉える事ができない程鮮やかな手口で、世に蔓延る悪人達を次々と葬っていく高校生殺人鬼だよ。あまりにも現実離れした犯行現場から、実は5人くらいいるんじゃないかとか、そもそも誰かが流したデマなんじゃないかとか言われてるらしいけど…」

アリス「超能力者のツラにいも、シニガミには勝てなかったのかー!?」

速瀬「…成程、判子でしたか。ですが、それには、判子となる物が必要です。それはどの様に調達したんです?」

菊池「ああ、それなら…」

 

コトダマ提示!

 

【真っ赤なビート板】

 

「これだ!!」

 

菊池「…ビート板だ。ビート板に書かれた文字が、床に付着したんだ!!」

神城「そうか、じゃあそん時プールにいた野郎がビート板に文字を書いて、それをプールの床に写してやがったんだな!?はっはっは!こんな重要な事に気付けるなんて、私天才すぎかよ!!」

織田「いや、今のは、菊池氏が言った事をそのまま…」

神城「あぁ!!?」

織田「ヒッ…!」

猫西「あはは…じゃあ、エカイラは一応犯人候補に挙げられるって事だね。そろそろ、他の話題に移らない?」

菊池「そうだな。じゃあ、次は何から話そうか?」

 

コトダマゲット!【不自然な発言】

 

コトダマゲット!【織田の反応】

 

 

 

議論開始!

 

 

 

神城「テメェら、重要な事を話し合うの忘れてんぞ!!」

鈴木「重要な事?何かしら。」

神城「なんでペテンが水槽にいたのかっつー事だよ!!」

玉木「確かに。森万は、ジェイムズにロッカーに閉じ込められていた筈だ。」

神城「じゃあ帽子が犯人か!?」

ジェイムズ「違います!!」

神城「テメェ、あの時ペテンが入ったロッカーをギッタギタに潰してたじゃねえかよ!!ペテンになんか恨みでもあんのかっていうくらい容赦無くな!!」

ジェイムズ「あれは、ああする()()だったからで…あっ。」

鈴木「予定?予定って何?ジェイムズちゃん。」

ジェイムズ「あ…いや…今のは、やっぱり無しで。忘れて下さい。」

玉木「できるかぁ!!なあ、何隠してんだよ。言えよ!」

ジェイムズ「ワタシガイジンデスカラムズカシイ日本語ワーカリーマセーン。アイドントアンダースタンドジャパニーズ。」

鈴木「ああ、なんだ。日本語わからないならしょうがないわねー…ってェ!!そんなのまかり通るワケないでしょ!!ナメてんの!?とぼけ方雑か!!」

リタ「なんで今一回ノってからツッコんだんですかぁ?」

猫西「アンカーソンさん、今それ突っ込むとこじゃないよね?」

リタ「ふわぁい。ごめんなしゃぁい。」

射場山「ねえ、バカはほっといて、今はなんで森万が水槽にいたのか話し合うべきなんじゃないの?」

玉木「…そうだな、じゃあ、森万がいたステージ…あそこに何か仕掛けがあったのかもしれないな。誰か、そういうの見つけた奴いねぇか?」

仕掛け…

アレしか無いだろうな。

 

コトダマ提示!

 

【舞台の蓋】【男子更衣室のロッカーから現れたアリス】

 

「これだ!!」

 

菊池「…ステージの上を調べていたアリスが急に消えて、男子更衣室のロッカーから現れたんだ。それでステージを調べてみたら、ステージの上に蓋みたいな物があった。」

床前「よ、要するに…?」

菊池「…俺が思うに、ステージと男子更衣室は、隠し通路で繋がってるんだ。森万は、その隠し通路を通って、男子更衣室に行ったんだ。」

猫西「そこで、犯人に絞め殺されちゃったんだね…」

神城「ん?じゃあ、帽子がロッカーをブチ壊す前にロッカーから聞こえたペテンの声は一体何だったんだ?」

菊池「それなら、心当たりがある。」

 

コトダマ提示!

 

【ヴォイスレコーダー】

 

「これだ!!」

 

菊池「森万は、ロッカーの中にヴォイスレコーダーを入れておいたんだ。俺たちが聞いたのは、森万の声じゃなくて、ヴォイスレコーダーの音声だったんだ。」

神城「はぁ!?何だよそれ!!タネと仕掛けだらけじゃねえか!!あのペテン野郎、愚民の分際でこの私を騙しやがって…!」

猫西「…まあ、マジックってみんなそんなもんだよ。」

床前「じゃあ、水槽の幕が上がる前に聞いた森万さんの声は…?」

…それは。

 

コトダマ提示!

 

【カセットテープ】

 

「これだ!!」

 

菊池「あれは、小川が流したカセットテープの音声だ。そうだよな?小川。」

小川「はいっス。自分は、持ち場で音響の調節をしてたっス。」

神城「んだよ!!テメェら、なんでその事を黙ってやがった!?ペテンの野郎も、ショーの最中に抜け出しやがって…一体何が目的なんだテメェら!!」

…森万達の目的。それは…

 

 

 

森万と小川たちが俺たちを騙した目的は?

A.【コロシアイ】

B.【サイキックショー】

C.【捜査の撹乱】

D.【全員を出し抜いて先に脱出】

 

 

 

B.【サイキックショー】

 

「これだ!!」

 

菊池「そう、森万たちが俺たちに黙ってた事は、サイキックショーのトリックだった…森万は、最後のショーの準備のために俺たちを騙して、男子更衣室に向ったんだ!!」

鈴木「あら。なんでそれに気づいたの?何か証拠でもあった?」

…それは。

 

コトダマ提示!

 

【透明の箱】

 

「これだ!!」

 

菊池「…更衣室に隣接するプールで、透明の箱を見つけたんだ。森万はそれを、ショーで使おうとしていたんだ。」

鈴木「じゃあ、さっきジェイムズちゃんが失言を無かった事にしようとしたのは…」

ジェイムズ「…暴露てしまっては仕方ありませんね。…そうです。森万さんは、最後のパフォーマンスの為に隠し通路を通って男子更衣室に向かい、そこで準備をして、水槽に現れる予定でした。」

神城「テメェ、なんでその事を黙ってた!?もっと早く言ってりゃ、ここまで裁判が長引かなかったんだぞ!!テメェは、私の命より、ショーの方が大事なのかよ!?」

猫西「そうだよ。なんで、みんなもっと早く言ってくれなかったのさ。もしそれで間違った犯人を指名しちゃったら、私たち全員死んじゃうところだったんだよ?」

ジェイムズ「…森万さんが、最期に皆さんにお見せしたショーだったので…台無しにしたくなかったんです…!…本当に申し訳ございませんでした…!」

小川「…。」

速瀬「…。」

玉木「神城、猫西。もうやめてやれ。ジェイムズは、命を懸けて森万の名誉を守ろうとしたんだ。小川達も、ジェイムズの気持ちを汲んで、あえて黙ってたんだ。」

アリス「そーそー!!全部言っちゃったらさ、ムズにいとツラにいがかわいソーメンタンメンボクイケメンじゃん?だからあーちゃんは、お口チャックしてたわけ!IC1101より広い心を持ってて、ヘレネーより美人なあーちゃんを責めたら、宇宙が爆裂しちゃうぜ!!」

俺にはあっさり種明かししたくせによく言うよ。

アリス「それにさー、もっと責めるべき相手がいるんじゃないの?ソイツには、是非とも地獄の業火でミディアムレアに焼かれた後、血の池にディップされて、エンマ様にオヤツ感覚でパックンチョされちゃえばいいのにね!」

菊池「例えが怖い上に分かりにくいんだよお前…でも、コイツの言う事は一理ある。みんな、ジェイムズ達を責めてる暇があったら、先に犯人を見つけるべきだ。」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

速瀬「先ずは、事件当時のアリバイを確認しましょうか。」

鈴木「誰か、全員分のアリバイ知ってる子はいない?」

全員分のアリバイなら、俺が調査した。

 

コトダマ提示!

 

【全員分のアリバイ】

 

「これだ!!」

 

菊池「全員分のアリバイなら、俺が調査した。ショーは主に森万とジェイムズが、そして裏方の4人が持ち場でショーの手伝いを、あとの全員はショーを見ていたはずだ。」

猫西「そうなると、やっぱり怪しいのは裏方4人だね…」

小川「ん?でも、そうするとちょっとおかしくないっスか?」

玉木「何がだ?」

小川「犯行の状況からして、犯人は男子じゃないかと思うんスよね。でも、裏方4人は全員女子っス。なんかおかしくないっスか?」

神城「はぁ!?なんで犯人が男ってわかんだよ!!さては、テメェが裁判を撹乱するために、わざと男って言ったんだろ!?」

小川「違うっスよ…ちゃんと根拠はあるっス。」

…小川が、犯人は男だと思った根拠。…それは。

 

コトダマ提示!

 

【合宿の心得】

 

「これだ!!」

 

菊池「合宿の心得に、男子は女子更衣室に、女子は男子更衣室に入れないっていうルールがあった。森万が殺されたのは男子更衣室だから、必然的に犯人は男子って事になる…小川が言いたいのは、そういう事だろ?」

小川「はいっス!」

リタ「ふわぁ。そのルールがある以上、犯人は男子で良さそうですねぇ。…でも、裏方は女子だけですぅ。だったら、誰が森万を殺したんですかぁ?」

猫西「私達の中にも、アリバイが立証できない男子がいるよね?菊池君。」

菊池「…ああ。一人だけいる。アリバイが無い男がな。」

 

 

 

人物指定

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の???』アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉

 

『超高校級の秘書』速瀬吹雪

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の漫画家』織田兼太郎

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の超能力者』森万羅象

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

『超大学生級のオネエ』鈴木咲良

 

 

 

菊池「…織田、お前だ。」

織田「わ、吾輩ィイイイイイイ!!?」

菊池「お前、確かトイレに行ったって言ってたよな?」

織田「わ、吾輩、そんな事言いましたっけ…?わ、わわわ…吾輩は、水族館にいましたぞ…?」

 

【水族館にいましたぞ】←【鈴木の証言】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「織田、隠そうとしたって無駄だぞ。お前が水族館を抜けるところを、鈴木が見てたんだからな。」

織田「な、なあ…!!」

菊池「ついでに言うと、お前、捜査の時、ちゃんとその事を認めたよな?なんで今になって嘘をついた?」

織田「そ、それは…」

射場山「…最低。」

猫西「うん、もうこれは犯人決まっちゃったね…」

織田「射場山氏、猫西氏…!」

玉木「おい、お前ら待てよ…!織田が犯人だってまだ決まったわけじゃ…」

床前「そ、そうです…!」

神城「いや、ここまで来たらもう決まったも同然だろ。」

アリス「にゃははー!サイコパスタカルボナーラ犯人さんはー、ケンにいで決っまりー!!」

ジェイムズ「まだ結論を出すには早いです!!」

菊池「そうだな。これで間違っていたら、俺たちはまとめて処刑だ。」

速瀬「…参りましたね、完全に意見が分かれてしまいまいした。」

『おーっと、お呼びですかな!?』

モノクマが、急に裁判に口を挟んできた。

神城「テメェ、何の用だ!!」

『意見が対立しちゃった時は、ボクにお任せ!それポチっとな!』

モノクマがボタンを押すと、証言台が移動した。

鈴木「きゃああああ!!?何コレ!?浮いてる!?」

アリス「きゃはは!おもしろーい!!」

対立するように、席が並ぶ。

『じゃあ、ジャンジャン話し合ってね!』

 

 

 

意見対立

 

議論スクラム

 

 

 

織田兼太郎は犯人か?

 

『犯人だ!』アリス、猫西、リタ、射場山、神城、速瀬

『犯人じゃない!』菊池、鈴木、玉木、ジェイムズ、小川、織田、床前

 

 

アリス「だってさー、ケンにいにはアリバイがナッシングじゃんかー!」

ジェイムズ「それは、織田さんに限った話じゃありません!!」

猫西「そもそもさ、ショーの最中にトイレに行く事自体怪しいよね。普通、先にトイレ行っとくでしょ。」

玉木「それは常識の問題だろうが!!」

リタ「ふわぁ… 織田は日頃の行いが悪いじゃないですかぁ。きっと、今回も犯人ですよぉ。」

床前「真面目に考えてください!日頃の行いで判断してはいけません!!」

射場山「… 私達を騙して殺そうとしてたのよ?」

鈴木「それは、こうなる事がわかってたからじゃナイ?ケンタロウちゃんは、人を殺せるような子じゃないわよ。」

神城「ケッ、疑われる事をする方が悪いんだよ!!」

小川「だからって、簡単に犯人と決めつけたら、自分達は処刑されるかもしれないっス。」

織田「そうですぞ!吾輩は犯人ではありませぬ!!」

速瀬「先程から主張ばかりですが、根拠はお有りなのですか?」

菊池「…根拠?それは…」

 

コトダマ提示!

 

【根拠】←【織田の反応】

 

「これだ!!」

 

「「「「「「「これが『俺達』『私達』『アタシ達』『自分ら』『吾輩達』の答え『だ』『です』『よ』『っス』『であります』!!!」」」」」」」

 

菊池「さっき、ハンコの話をしたよな?」

速瀬「ええ…しましたね。それが何か?」

菊池「…あのダイイングメッセージは、おそらく犯人が書いたものだ。」

鈴木「更衣室で殺されてたツラノリちゃんが書けるわけないものね。かと言って第三者が書いたのかといえば、それも違うわ。そんな事をする理由はないし、犯人に現場を荒らした事を悟られずに現場にあんなものを残す余裕もないはず…そうなれば、やっぱりあれは犯人が書いたものよ。」

菊池「ああ。そうなれば、織田が犯人の可能性は低い。」

猫西「どうして?」

菊池「…それは、織田がエカイラの事を知らなかったからだ。」

アリス「えええ!?そーなの!?」

鈴木「ええ、エカイラの名前が出た時、ピンときてないような顔してたわ。あれが演技とは思えないし…多分、エカイラって名前自体聞いた事無いんじゃナイ?」

小川「つまり、織田先輩は、エカイラに罪を着せることができなかった…だから犯人じゃないって事っスね!?」

織田「そ、そういうわけであります!!ほら見なされ、吾輩は犯人ではありませぬぞ!!」

射場山「…急に元気になったわね。」

神城「言っておくが、私はテメェがした事を許してねぇかんな!!」

織田「は、犯人じゃないと証明されただけでも御の字であります!!それより、犯人であります!!犯人を特定しましょうぞ!!」

猫西「菊池君、君はもう犯人がわかったんじゃないの?」

菊池「あ、ああ…」

犯人はさっき、明らかにおかしな発言をした。

まだ証明できていない事も多いが、言うしかないだろう。

 

…その人物は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人物指定

 

 

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の???』アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉

 

『超高校級の秘書』速瀬吹雪

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の漫画家』織田兼太郎

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の超能力者』森万羅象

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

『超大学生級のオネエ』鈴木咲良

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

菊池「…速瀬、お前が犯人だったんだな。」

俺は、ゆっくりと速瀬を指名した。

 

「…はぁ?」

 

速瀬は、呆れたように言った。

速瀬「馬鹿馬鹿しいですね。何故私が?」

菊池「お前しかいないと思ったからだ。」

速瀬「質問の答えになっていません。何故私が犯人だと断言したのか、お教え頂けますか?」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

速瀬「何故、その様に仰るんです?私が犯人だと言う根拠など、何処にも無いではありませんか。」

 

【私が犯人だと言う根拠など、何処にも無い】←【不自然な発言】

 

「異議あり!!」

 

論破

 

菊池「…お前さっき、変な発言したよな?」

速瀬「はて…変な発言とは?心当たりがございませんが…」

菊池「お前は、H七トルが犯人の名前だと言っていたな。」

速瀬「それが何か。」

菊池「そんな事を言えるのは、元のメッセージを知ってる奴だけだ。お前は、なんで元のメッセージを知っていたんだ?」

速瀬「ーッ!!」

猫西「確かに…元のメッセージを知らなかったとしても、反転した文字を読んで解読するわけだから、それなりの時間がかかるよね。いくら『超高校級の秘書』でも、メッセージを一瞬で解読して、それが人名だって事まで判別するのは無理なんじゃない?」

菊池「それだけじゃねえ。そもそも、大半の奴がエカイラが人名だって事も知らない筈だ。…あのメッセージは、お前がエカイラに罪を着せるために書いたんだ。…違うか?」

速瀬「…成程、流石は菊池様です。一瞬で其処まで判断してしまうとは。」

神城「じゃあなんだ、罪を認めるのか!?」

速瀬「そんな訳無いでしょう。こんな揚げ足取りに躍らされて堪る物ですか。…菊池様、貴方の憶測には穴が多すぎます。」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

速瀬「そもそも、貴方は根本的な勘違いをなさっているようですね。」

菊池「根本的な勘違い…?」

速瀬「合宿の心得でご確認になった筈です。女性は男子更衣室に入れないのですよ?私が如何やって森万様を殺害したと仰るのです?」

 

【女性は男子更衣室に入れない】←【心得の穴】

 

「それは違うぞ!!」

 

論破

 

菊池「あの心得には、()があった。お前はその穴を突いて、男子更衣室に侵入したんだ!」

床前「あ、穴…ですか?」

菊池「ああ。心得には、『男子更衣室のリーダーに女子の個人情報が読み込まれた場合、おしおきが執行される』としか書いていなかった。つまり、しおりの性別と入るべき性別の更衣室とが一致さえしていれば、誰が中に入ろうと関係無いんだ!」

猫西「つまり犯人は、女子でありながら、男子のしおりを使って更衣室に入ったって事?…でも、そんなに都合良くしおりを貸す男子がいるかなぁ。」

菊池「それなら、心当たりがある。」

 

コトダマ提示!

 

【郷間の電子しおり】

 

「これだ!!」

 

菊池「…フロントから、郷間のしおりが消えていた。…速瀬、お前が盗んだんだろ?」

速瀬「そ、それは…」

鈴木「あら。明らかに表情が変わったわね。これはもう決まりでいいんじゃナイ?」

速瀬「そんな訳無いでしょう!!まだ議論は終わらせませんよ!!」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

速瀬「百歩譲って、皆様の仰る通り、私が森万様を殺害したとしましょう。然し、どの様に森万様を水槽内に移動させたのですか!?」

アリス「確カニクリームコロッケ!!それが謎だよね!!」

菊池「それなら、もうわかっている。」

 

コトダマ提示!

 

【タンク内のロープ】

 

「これだ!!」

 

菊池「プール内の貯水タンクに、ロープが絡まっていた。速瀬、お前は、森万を紐でタンクの管と結びつけて、タンクが放水する時の水圧で一緒に森万を水槽へと流したんだ!ロープは水圧で解けて、森万だけが水槽に落ちた…こんなところか?」

アリス「でもさでもさ、そううまくいかないんじゃない?ほら、手足が管を塞いじゃうかもでしょ?」

菊池「速瀬は、その対策もちゃんとしていたんだ。」

 

コトダマ提示!

 

【麻袋とロープ】

 

「これだ!!」

 

菊池「おそらく、森万を殺した後、死体を麻袋で包んだ後ロープで縛ってタンクに落としたんだ。そうすれば、水の抵抗を減らす事ができるし、スムーズに管を通り抜けられるからな。」

速瀬「菊池様、やはり貴方は肝心な事を忘れていらっしゃるようですね!!」

菊池「何…!?」

速瀬「貴方のトリックを実現する為にはまず、操作室へ入ってタンクの元栓を開かなければなりません。しかし、私にそれは不可能だった筈です!!」

菊池「そうだな。お前は、確かに操作室には入れなかった。」

 

コトダマ提示!

 

【夜時間】

 

「これだ!!」

 

菊池「そう、森万が水槽で発見された時には、既に夜時間だった。夜時間は操作室に入れねぇから、操作室でタンクの元栓を開けるのは無理だ。」

速瀬「そういう事です。私には、犯行は不可能でした。」

アリス「あれれ?じゃあ、やっぱブキねえは犯人じゃない?あれれー?フリダシに戻っちゃったー!!」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

速瀬「犯行時刻が夜時間であった以上、私が操作室に入って元栓を開け、放水するのは不可能でした!!そうなれば、貴方のトリックは破綻します!!何故なら、私は貯水タンクの水を放水する事が出来なかったのですから!!」

 

【貯水タンクの水を放水する事が出来なかった】←【サイフォンの原理】

 

「それは違うぞ!!」

 

論破

 

菊池「…速瀬、お前はやっぱり、操作室に入る事は出来なかった。」

速瀬「漸くご理解頂けましたか。そう…私は、」

菊池「だがお前が犯人で決まりだ。お前は、森万を貯水タンクを使って水槽に流したんだ。」

速瀬「はあ?貴方、頭が可笑しくなったのですか?ですから、私は操作室に入れなかったと何度言ったら…」

菊池「いや、正直操作室に入れたか否かはどうでもいいんだ。なぜなら、お前は操作室に入る事無くタンクの水を抜いたんだからな!!」

速瀬「ハ、ハッタリです!!そんな方法、有る訳…」

菊池「速瀬、お前はサイフォンの原理を使って、操作室に入る事無くタンクの水を抜いたんだ。」

アリス「サーモンと玄米?何それ。お寿司の話?あーちゃん、寿司ネタはイクラがお気に入りだよー!」

小川「アリス先輩、黙ってて下さいよ。それで、何スか?その…裁縫の原理?って。」

菊池「…サイフォンの原理だ。高い所から低い所に管を使って水を流す際、たとえ途中に出発点より高い地点があっても、最後まで水が押し出される、っていう原理らしい。」

ジェイムズ「ええとですね、何故そうなるのかを簡単にご説明しますと、高い地点の方が低い地点より、かかる圧力が、液柱の高さ分にかかる重力の大きさ分大きくなるんです。その圧力差を駆動力に、液体が高い方から低い方へと流れます。」

菊池「…まあ、そういう事だ。詳しい事が知りたい奴は、ジェイムズに聞け。…話を続けるぞ。速瀬、お前は夜時間の前に元栓を開いた状態にしておいて、水の高さを、ちょうど水が流れ出ない高さに調節しておいた。その時に、長めのロープも一緒に括り付けてな。そして、森万を殺し、ロープを繋いだ死体入りの麻袋をタンクの中に放り込んだ。そうする事で、タンク内の水面の高さが変わって、水が流れ出たんだ。」

速瀬「ーッ、」

菊池「速瀬、もうお前が犯人としか考えられないんだ、認めてくれ!」

速瀬「…み、」

 

速瀬「認める訳無いでしょう!!」

 

 

 

反論!

 

速瀬「確かにトリックはそれで説明できます…ですが、私が犯人だっていう証拠が無いでしょう!?」

菊池「…それは。」

 

コトダマ提示!

 

【赤い何かがついた腕時計】

 

「これだ!!」

 

菊池「速瀬、お前の持ち場のゴミ箱から、赤い何かが付いた腕時計が見つかった。…ダイイングメッセージを書いてる時に、インクか何かがついたんだろ?それを裁判場で指摘されるのが怖くて、腕時計を外したんだ。違うか!?」

速瀬「違います!!確かに、私は汚れが気になって腕時計を捨てました。ですが、それは事件とは関係のない物です!!」

玉木「確かに…その可能性も無くはねぇんだよな。」

クソッ、失敗か…!

アリス「あーあ、言い逃れされちゃったよ。サトにいどうすんの?」

菊池「焦る事はない。だったら、別の証拠をぶつけるまでだ。」

速瀬「別の証拠…?そんな物、出せる物なら出してみなさいよ!!」

 

コトダマ提示!

 

【見覚えのある色合いの布切れ】

 

「その愚論、切らせてもらう!!」

 

菊池「…水槽から、布切れが見つかった。…速瀬、これお前の持ち物だろ?」

速瀬「あっ、そ…それは…」

アリス「え?なになに?どったの?」

神城「なんだモブ!!貴様、その布が何か知ってんのか!?」

菊池「ああ。俺はこれがなんなのか、よく知っている。」

…それもそのはず。

だってこれは…

 

 

 

閃きアナグラム

 

 

 

 

頭の中に、言葉の断片が浮かび上がる。

それを、素早く拾って組み合わせ…完成させる!!

 

「これだ!!」

 

 

プ レ ゼ ン ト ノ メ ガ ネ フ キ

 

【プレゼントのメガネ拭き】

 

菊池「これは、俺が速瀬にプレゼントしたメガネ拭きだ。これが水槽から見つかったって事は、犯行を認めてくれるな、速瀬!?」

速瀬「あ…ああああ…!」

速瀬の顔が、みるみる青ざめていく。

もう、自分に勝ち目は無いと悟ったらしい。

アリス「わああ!ブキねえ、顔色悪いよー?大丈夫?顔がコトル湾並みに青いよ?ねえねえ、これ早くトドメ刺してあげた方がいいんじゃない?」

菊池「お前はもっと自重するって事を覚えろ。」

アリス「にゃぱぱー!ごめんねー?」

菊池「速瀬、俺が引導を渡してやる。」

速瀬「嫌…やめて…お願いします、やめて下さい…!」

菊池「…これが、事件の真相だ!!」

もう裁判を引き延ばす理由はない。

あとは、真相を話すだけだ。

これで、全部終わらせてやる…!

 

 

 

 

クライマックス推理

 

 

 

 

頭の中に、漫画が浮かび上がる。

そこに、ジグソーパズルのように適切なピースを当てはめ…

これが事件の真相だ!!

 

 

 

 

 

 

Act.1

昨日の夕食の時、モノクマは俺たちに動機を与えた。

それは、俺たちの大切な人や、真実を確かめたいもの…どうしても外に出たいと思わせる映像が映されたDVDだった。

おそらく、犯人はこれを見て、殺人を決意してしまったんだ。

そしてサイキックショーの手伝いをすると言って、水面下で殺人の準備を進めていたんだ。まず犯人は、麻袋とロープ、そしてベルトを用意し、フロントから郷間のしおりを盗んだんだ。

プールに行った犯人は、操作室に入ってタンクの元栓を開け、ちょうど水が流れ出ない高さまで水面の高さを調節した。

 

Act.2

そして、タンクの中に入り、排水口にロープを括り付け、タンクの外に出るようにロープを垂らしておいた。

これで、トリックの下準備は終わった。あとは郷間のしおりを使って男子更衣室に侵入し、森万が来るのを待つだけだった。

ショーが終盤に迫り、森万は、ステージと更衣室を繋ぐ隠し通路を通って、男子更衣室へと向かった。

…俺たちがショーの最中に聞いた森万の悲鳴は、ヴォイスレコーダーに録音された音声だったんだ。

そして、森万が更衣室に着くと…待ち伏せしていた犯人に、いきなりベルトで首を絞められた。

なんとかしようと踠くも、犯人とは力の差があり、呆気なく殺されてしまったんだ。

 

Act.3

森万を殺した犯人は、予め用意しておいた麻袋に森万の死体を入れて、その上からさっきとは別のロープで縛った。

犯人は、あらかじめタンクから垂らしておいたロープと袋を結びつけて、袋をタンクの中に投げ入れた。

森万の死体が水の中に入ったことで水の体積が増加し、水面が上がり…水が、管を通って流れ始めた。

その時の水圧で、森万は一緒に管の中を流れていった。

ロープは、スムーズに管の中に死体が入るようにするため、麻袋は、管の中でつっかえる事なく死体が流れていくようにするための工夫だったんだ。

そして、水圧でロープが解け、袋と水が管の中を流れ、ついには水槽の中に放たれた。

…だが、犯人はここで一つ目のミスを犯してしまったんだ。

なんと、メガネ拭きをタンクの中に落としてしまった。

メガネ拭きは一緒に水槽へと流れ、回収が不可能となってしまったんだ。

それが、犯人を決める決定的な証拠となったんだ。

 

Act.4

水槽の中に飛び込んだ死体は、水槽内を泳いでいたサメに食いちぎられた。

おそらく犯人は、サメに証拠を隠滅してもらうために、水槽を死体発見場所に選んだんだ。

そして、犯人は、自分が疑われないようにするために、ビート板にダイイングメッセージを書いておいた。

…そのメッセージが床に写って、訳の分からない文字列になってしまったのは、犯人の意図した事なのかはわからないがな。

だがここで、犯人は二つ目のミスを犯してしまったんだ。

…なんと、自分の腕時計に、ダイイングメッセージを残す時に使った赤い液体が付着してしまった。

その事に気付いた犯人は、このままでは自分が疑われると思ったんだろう、自分の持ち場のゴミ箱に、腕時計を捨てたんだ。

 

 

 

「これが事件の真相だ。…そうだろ?」

 

 

 

『超高校級の秘書』速瀬吹雪!!!

 

 

 

速瀬「あ…ああああああああ…嫌…嫌…私は…私は…!」

菊池「…ふう。」

俺の推理は、正直穴だらけだった。

反論しようと思えば、幾らでもできただろう。

だがどれも、速瀬にとって暴かれたくない所を的確に突いていた。

こんな不完全な推理でも、速瀬の戦意を喪失させるには十分だった。

速瀬は、ついには何も言い返せなくなった。

猫西「そんな…速瀬さんが…どうして…?」

床前「あなたは、いつでも最善を尽くしてきたのに…どうしてこんな事を…!」

速瀬「ああああ…私は…」

鈴木「聞いてないわね。」

玉木「速瀬…?おい、嘘だよな…?お前が犯人なわけないよな…?おい、誰か反論しろよ!なあ、おい!!」

誰も、速瀬を庇わなかった。

玉木も、本当はわかっているはずだ。

犯人は、どう考えたって速瀬しかいない。

それをわかってるからこそ、今こうやって必死に庇おうとしているんだ。

射場山「…終わったわね。」

ジェイムズ「…速瀬さん…」

モノクマ『うぷぷ…どうやら犯人は決まったようですね?ではでは、投票ターイム!!』

モノハム『必ぢゅ、一人一票投票してくだちゃいね!』

俺は、最後まで迷っていた。

本当に、投票してしまっていいのだろうか?

…でも結局、速瀬1人の命と俺達全員の命を天秤にかけた結果、俺は速瀬を殺す決断をしてしまった。

 

モノクマ『うぷぷ…ではでは、結果発表ー!!!』

モノハム『皆様の運命はいかに!?』

 

目の前に巨大なスロットマシーンが現れ、俺たちの顔を模したドット絵が回転する。

回転速度は徐々に遅くなっていき、ついに止まった。

そこには、速瀬のドット絵が三つ並んでいた。

スロットマシーンにGuiltyの文字が浮かび上がり、ファンファーレのような機械音が鳴り響く。

スロットマシーンからは、大量のモノクマメダルが吐き出された。

 

…また、始まってしまう。

悪夢のような惨劇が。

 

 

 

学級裁判閉廷

 




2章から議論スクラム導入します。
(最初は6章までナシでいく予定でしたが、入れた方が面白いかなと思いまして。)
作者がポンコツなのでワンパターンになりがちです。


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第2章 非日常編③(おしおき編)

『うぷぷぷ…お見事大正解ー!!『超高校級の超能力者』…もとい、『超高校級のペテン師』森万羅象クンを殺したイカレ殺人犯のクロはー…完璧秘書の皮を被った、神経質サイコ女の速瀬吹雪サンでしたー!!』

『今回、クロの速瀬様は織田様に、ちょちてちょれ以外の皆様は満場一致で速瀬様に投票ちてまちた!!お見事でちゅよ、皆様ー!!』

「うっ、うううううう…ごめんなさい…ごめんなさい…」

速瀬は泣きながら、誰に向けたものかもわからない謝罪の言葉を繰り返していた。

「…速瀬さん、どうしてこんな事を…?」

「そうです、速瀬さん…貴女はいつでも正しかった。常に最善の行動を執り、私達の為に尽くして下さいました。そんな貴女が、如何して道を踏み外してしまったのですか…?」

『うぷぷ!ボクが説明してあげるよ!』

「モノクマ…!」

『ポチッとな、でちゅ!』

モノハムが、手元のリモコンを押すと、天井からモニターが出てくる。

…まるで、俺が動機を見せられた時のように。

『ねえみんな。なんで速瀬サンが、こんな愚行に走ったのか知りたいでしょ?その答えは、全部速瀬サンの動機DVDにあるよ!』

「速瀬さんの…動機DVD…?」

『ちょれでは…VTRチュタート!!』

モノハムが再びリモコンを操作した。

モニターの電源が付き、映像が映し出される。

 

 

 


 

 

 

『超高校級の秘書』速瀬吹雪サンの動機映像!

 

劇場のようなイラストが描かれた画面が映し出された数秒後、映像が映る。

映ったのは、荘厳な雰囲気を醸し出している部屋だった。

部屋の中に、中年男と20代後半くらいの男がいる。

中年男の方は、見覚えがある。

確か、県知事だ。

恐らく、速瀬は以前この男の秘書をしていたんだろう。

『吹雪、希望ヶ峰での生活はもう慣れたか?お前の事だから、知事と俺の事を心配してるんじゃないかと思ってな。安心しろ、お前の心配は、今の所全部杞憂だろうから。』

『速瀬君、君が居ない間の私の秘書は、君のお兄さんに代わりをして貰う事になった。彼は非常に優秀でね。私達の事なら、心配は要らないよ。』

『そういう訳だ、吹雪。お前は、何も心配しなくていい。俺達の心配なんかせずに、希望ヶ峰で友達と仲良くやってくれればそれでいい。俺もみんなも、お前の事を応援してる。』

『速瀬君、希望ヶ峰学園を卒業したら、是非ともまた私の秘書になってくれないか。君に頼みたい仕事が山ほどあるんdddddddddd…ザザッ…あるnnnnnnnnnn…ザッ…ザザッ…ザザーーーーーーーーーーーーーーッ』

 

ザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ

 

急に映像が乱れた。知事の声は壊れたラジオのように繰り返され、不気味なノイズが混じる。

映像に無数の筋のようなものが映り、映像が乱れる。

やがて映り込んだ筋が画面を埋め尽くし、砂嵐になる。

砂嵐だった映像が元に戻った。

 

「ーーーーーーーーーーえ。」

 

映し出されたのは、変わり果てた街だった。

建物は破壊され、信号機や街灯は全て消え、街はたった二色を残して、それ以外の色彩を全て失っていた。

一色は破壊された街や空模様の灰色、もう一色は、辺りに散る大量の血の緋だった。

街中を彷徨くモノクママスク達が、次々と罪の無い一般市民を虐殺していく。

そんな中、街の中央にある、一際大きく、高級感のある建物が映し出された。

モノクママスク達は、警備員や建物内の人間を次々と殺し、ついには最奥の部屋へと辿り着く。

『貴様ら、一体何者だ!!こんな事をして…一体何が目的だ!!…知事、ここは私に任せて、お逃げ下さい!!』

秘書が、モノクママスク達を足止めする。

しかし、モノクママスクのうちの一人が、知事の方へと向かう。

『知事、危ない!!』

 

ザクッ

 

『…あっ、』

秘書の肩に、斧が振り下ろされる。

肩からは大量の血が吹き出し、部屋の壁を緋く染める。

秘書は、肩を押さえながらその場に倒れ込む。

『は、速瀬君…』

モノクママスク達が、知事を取り囲む。

 

『やめろ…貴様ら、何をする…市民の皆様に、速瀬君に何をした…私をどうする気だ…やめろ、やめてくれ…あ゛あああああああああああああああ!!!』

次の瞬間、画面が真っ赤になる。

 

ブツンー

 

そこで映像が途切れ、劇場の画面に戻る。

劇場にモノクマが現れ、不快なダミ声で喋り出す。

『市民からの信頼が厚く、人徳に優れた県知事に絶大の信頼を置かれ、さらには亡き父の会社を継いだお兄様から大いに期待されていた速瀬吹雪サン!しかし、彼女の守るべき知事と市民達、そして最愛のお兄様に何かあったようですね!?では、ここで問題!果たして、この腑抜けなオッサンと無能な秘書、そして民度の低い市民達は一体どうなってしまうのでしょうかッ!?正解発表は、『帰郷』の後で!!』

 

 

 


 

『速瀬サンは、自分の兄と市民達を救うために自らの手を汚して『帰郷』しようとしていたのでしたー!!いやはや、守るべき物が多すぎるのも困り物だよね!』

「そんな…!」

「ひでぇよ…こんなのアリかよ!!?」

「うーん、これは、クロにならざるを得ないよね…だって今助けに行かなかったら、自分の故郷がなくなっちゃうもん。もし私が速瀬さんの立場だったら、やっぱりクロになっちゃってたかな…」

「まさか、速瀬さんがこんなに大きな物を抱えていたなんて…速瀬さんが早まってしまったのも、無理はありません。…私達は、そんな事とは露知らず、速瀬さんを追い詰めてしまっていたのですね。」

「ごめんなさい…ごめんなさい…私は…どうしても、故郷を…皆様を守りたかった…」

 

「あのさ、なんでみんなブキねえを庇うの?意味わかんなくない?」

 

「…どういう意味だ。」

「故郷のためだかなんだか知らないけどさ、結局はただの人殺しじゃん。ブキねえがやった事に、それ以上も以下もないよ。あーちゃんがブキねえの立場だったら、タショーのギセーを出してでも、自分のメーヨは自分で守り抜くけどなぁ。」

「お前…それ以上言ったら、たとえガキだろうとなんだろうと、許さねェぞ。」

「うっわ!なんでサトにいが怒ってんの!?こっわ!!」

『ぴきゃきゃ。アリチュ様の言う通りでちゅ。故郷の為だとか、家族の為だとか,ちょんなのはただの人を殺ちゅという最低な行為を正当化ちゅる為の言い訳なんでちゅ!』

「…モノハム教頭、一つ伺っても宜しいですか?」

『ん?なんでちゅか?カークランド様?』

「速瀬さんは、何故森万さんを殺害したのですか…?森万さんに、何か怨みでもあったんですか…!?」

『ぴきゃきゃ…ちょれは、本人から聞くのが一番いいんぢゃないでちょうか?』

『そういうわけだよ、ほら、早く話してあげなよ!』

モノクマとモノハムが、速瀬に話をするように催促する。

速瀬は、泣きながらも冷静さを取り戻し、話し始めた。

「…私は、動機DVDを見た瞬間、人を殺す事を決意しました。知事と兄…そして、故郷を救う為には、何としてでも此処を出なければならないと思いました。…そこで私は、森万様を殺害する事に決めました。」

「速瀬さん、貴女が、私達を犠牲にしてでも護りたかった物がどれ程価値が重い物かは、承知しているつもりです。それ程の物を危険に晒されて、殺人を決意してしまった事は、責めるつもりはありません。ですが、どうして…どうして森万さんでなければならなかったのですか!!?彼に怨みでもあったのですか!!?」

ジェイムズは、証言台を叩きながら、速瀬に怒鳴りつけた。

速瀬は、言いづらそうに、重い口を動かして言った。

「…私の父は、私が物心付くか付かないか位の頃に、多額の借金を抱えて自殺しました。…後で聞いた話に拠ると、詐欺に遭ったそうです。私の父は、詐欺師に殺されたんです。森万様…彼も、人を欺いていたという点では、父を殺した者達と同類でした。私は、彼に父を殺した者達を重ね、彼に殺意を抱いてしまいました。」

「そんなの、只の私情じゃないですか!!森万さんは、貴女の勝手な私怨の所為で殺されたんですか!!?」

「おいジェイムズ、最後まで速瀬の話を聞けよ…」

「…私は、森万様を殺害する為に、男子更衣室で待ち伏せていました。…彼は、私に気付きました。」

「え…?」

…森万は、速瀬の存在に気付いていたのか…?

気付いていたなら、なんで黙って殺されたんだ。

「彼は、私に向かってただ一言、こう仰ったのです。」

 

「…『救えるといいな』と。」

「…え。」

「私は、その言葉を聞いた瞬間、全てを理解しました。彼が私の気持ちを知っていた事も、私の気持ちを汲んで、自分の命を私に譲ろうとして下さった事も。だから、彼を殺害したんです。」

「では、森万さんは、わざと貴女に殺されたという事ですか…?一体、どうしてそんな事を…私の知る彼は、そんな方ではありません!」

『うぷぷ…知りたいよね?なんで森万クンが、速瀬サンに殺されたのか。その答えは、森万クンの動機DVDにあるんだな!』

『はいでちゅ!』

モノハムは、リモコンを操作した。

モニターに、映像が映る。

 

 

 


 

 

 

『超高校級のペテン師』森万羅象クンの動機映像!

 

劇場のようなイラストが描かれた画面が映し出された数秒後、映像が映る。

映ったのは、小さな孤児院のような施設だった。

施設の前には、子供達が並んでいる。

『おにーちゃん、きぼーがみねのにゅーがくおめでとう!』

『おにーちゃんは、どんなにつらいことがあっても、ちょーのーりょくでみんなをえがおにしてくれる、わたしたちのヒーローだもんね、にゅーがくできるってしんじてたよ!』

『おにーちゃん、きぼーがみねににゅーがくしたら、ぼくたちとははなればなれになっちゃうけど、げんきでね!』

『ぼくたち、おっきくなったらおにーちゃんとおなじきぼーがみねにいきたいんだ!そしたら、みんなdddddddddd…ザッ…みんnnnnnnn…ザッ…ザザッ…ザザーーーーーーーーーーッ』

 

ザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ

 

急に映像が乱れた。子供の声は壊れたラジオのように繰り返され、不気味なノイズが混じる。

映像に無数の筋のようなものが映り、映像が乱れる。

やがて映り込んだ筋が画面を埋め尽くし、砂嵐になる。

砂嵐だった映像が元に戻った。

 

「ーーーーーーーーーーッ!!!」

 

映し出されたのは、変わり果てた孤児院だった。

建物全体が真っ赤に染まり、窓ガラスや家具が破壊されている。

建物内には、モノクママスク達が土足で彷徨いていた。

よく見ると、床に子供の死体が転がっている。

それも、一人や二人じゃない。数十人はいる。

モノクママスクのうちの一人が、生き残っている子供を捕まえた。

『いやだ、いやだあああ!!だれか、たすけてよぉお!おにーちゃん!』

 

グシャッ

 

モノクママスクが子供の頭に鉄パイプを振り下ろすと、子供の頭は呆気なく潰れ、脳漿を吹き出した。

『きゃああああああああ!!!』

また別の子供が、モノクママスクに取り囲まれる。

…おそらく、今叫び声を上げた少女が、最後の生き残りだ。

『いやだ…やめて…だれか、たすけて…おにーちゃああああああああ』

 

パァン

 

ビシャッ

 

空気が破裂するような音と共に、壁に血が飛び散る。

次の瞬間、画面が真っ赤になる。

 

ブツンー

 

そこで映像が途切れ、劇場の画面に戻る。

劇場にモノクマが現れ、不快なダミ声で喋り出す。

『産まれた時から過ごしてきた孤児院で、子供達と共に幸せに暮らしていた森万クン!彼の自称超能力者という設定は、子供達を喜ばせるためのものだったんですねぇ。しかし、子供達の身に何かあったようですね!?では、ここで問題!この孤児院は、間もなく潰れてしまうのですが、その理由とはッ!?正解発表は、『帰郷』の後で!!』

 

 

 


 

「そんな…こんな事って…」

『森万クンは、この映像を見て、どうやら生きる気力を失くしてしまったようですね!?だから速瀬サンにわざと殺された、という事だったのだー!!』

「そんな、嘘だろ…?」

あれ程、ショーの最中には生き生きしていたアイツが。

本当は、もう生きる気力を失くして、ただ誰かに殺されるのを待っていただけだったっていうのか…?

そんなの、信じられるかよ。

「…森万様の衣服に、お手紙が入っているのを見付けました。」

速瀬は、折り畳まれた手紙を開いて、俺達に見せた。

 

 

 

この手紙を読んでいるあなたへ

 

あなたがこの手紙を読んでいるという事は、俺はもうこの世にいないという事でしょう。

まず、あなたに告白しておきたい事があります。

それは俺が、今までみんなを騙していたという事です。

俺が騙してきたのは、みんなだけではありません。

友達を騙し、学者達を騙し、大勢の人達を騙しました。

俺は、誰かにとっての『希望』になりたかった。

だから、大勢の人達を騙す事にしました。

でも、俺にとっての『希望』は、もうどこにもない。

だから俺は、自分の命をあなたに託す事にしました。

俺を殺して、外の世界に行き、救いたいものを救ってください。

俺の犠牲が、あなたにとっての『希望』である事を願っています。

最後に、俺の親友のカークランド君には、『騙して悪かった』と伝えてください。

 

森万羅象ヨロズより

 

 

 

「…これが、事件の真相です。」

「…そんな、そんな事って…」

「ヨロズ…?え、何この最後のやつ。」

『ちょれは、森万様の本名でちゅ。森万様は、名前もちゅけられぢゅに、ご両親に、孤児院に置いていかれたちょうでしゅ。『ヨロヂュ』というお名前は、孤児院の院長に名付けられた名前だちょうでしゅよ。ちょの後彼は、施設の子供達を喜ばちぇるために超能力者を騙り、『森万羅象』と名前を変えて、世界中にその名を轟かちぇたのでちゅ。』

『うぷぷぷ…理由がなんだろうと、ウソはダメだよね!同情の余地なし、死んで当然のクズだよ!』

「…。」

『おやぁ?カークランドクン、どったの?お友達が死んだのがそんなにショックだった?…それとも、今まで自分を騙してたこと?』

『ぴきゃきゃ、ちょんなに気を落とちゅ事ないでちゅよ!ヨロヂュは、ぢゅっとアナタを騙ちて、心の中ではバカにちてたのでちゅから!』

「…知ってましたよ。」

『知ってた?何が?』

「森万さんが…いえ、ヨロズが、超能力者ではない事は知っていました。」

…え?

…知ってただと?

「ジェイムズ…お前、アイツの事信じてたんじゃなかったのか…?」

「…私が、そこまで馬鹿正直に見えますか?彼が、今まで嘘を吐いていた事は、初めから分かっていましたよ。」

『嘘つけ!知ってたなら、なんで騙されたフリしてたワケ!?』

「…彼は、最期までその嘘を貫き、私達の『希望』であろうとしていました。…だったら、それに付き合って差し上げるのが親友としての礼儀と言うものでしょう…?」

「…!!」

ジェイムズは涙を堪えながら、声を絞り出すように語った。

「モノクマ学園長、彼は()()()()()()()です。彼をペテン師呼ばわりする事は、この私が許しません。」

「ジェイムズ、お前…」

『くっさ。オマエの友情ごっこなんてどうでもいいんだよ!そんな事より今は、クロの速瀬サンをおしおきしなきゃいけないんだからさ!』

『ちょうでちゅ!オイラ達は、アナタ達より500那由多倍忙ちいのでちゅ!アナタ達の茶番になんて付き合ってる時間はミヂンコの毛程もないんでちゅよ!罪人には凄惨な死を!おちおきタイムでちゅ!』

「おい、待ってくれよ…今回は、仕方なかっただろ…?何も殺さなくてもいいだろ!」

『ねえ、玉木クン。そのくだり、飽きたんだけど。』

『自分は速瀬様に投票ちたくちぇに、何を今ちゃらわめいてるんでちゅか?』

「それは…速瀬が、まさか故郷を守るために森万を殺したなんて思わなかったから…」

『ちょんなの、ただの言い訳でちゅ!全く、最近の若者は、『知らなかった』『こうなると思わなかった』で済まちぇようとちゅるんだから、ホント良くないでちゅよ!』

「お前ら…!!」

『さーてと、速瀬サン。何かみんなに言い残しとく事はない?』

「う…ううう…ごめんなさい…森万様…折角私に命を譲って下さったのに、無駄にしてしまいました…」

『それでは、今回は『超高校級の秘書』速瀬吹雪サンのために!!スペシャルなおしおきを用意しましたっ!!ではでは、おしおきターイム!!』

 

モノクマの席の前から、赤いスイッチがせり上がってくる。

モノクマはピコピコハンマーを取り出し、ハンマーでスイッチをピコッと押す。

 

 

 

 

 


 

 

GAME OVER

 

ハヤセさんがクロにきまりました。

 

オシオキをかいしします。

 

 

速瀬の首が、アームのようなもので掴まれて、上へ上へと引っ張り上げられる。

やがて速瀬を引っ張っていたアームが止まり、周りの景色が変わる。

どうやら、会社の事務室のような空間らしい。

サラリーマンの格好をしたモノクマが、デスクの上のカップラーメンの蓋を開け、熱湯を注ぐ。

そこで画面が切り替わり、タイトルが現れる。

 

 

 

時をきざむ少女

 

【超高校級の秘書】速瀬吹雪 処刑執行

 

 

 

画面が切り替わり、アームで吊し上げられた速瀬が映る。

速瀬を吊し上げていたアームが移動し、巨大な砂時計の上に固定される。

砂時計には砂が入っておらず、代わりに風車のような形状の刃物が、砂時計のくびれたガラス管の上部に取り付けられている。

速瀬は、今から自分の身に何が起こるのかを悟り、顔面蒼白になって冷や汗をかいていた。

モノクマがカップラーメンの蓋を閉じて、上に割り箸を置くと、モノハムが砂時計のスイッチを入れた。

すると、刃物が火花を散らしながら高速回転し、アームがゆっくりと下へ降りてゆく。

速瀬の体が、少しずつ刃物に近づいていく。

…そして。

ついに、爪先が刃物に触れた。

刃物は速瀬の足を切り刻み、肉塊に変えた。

緋い鮮血が砂時計の中に飛び散り、ガラス管の下部に落ちる。

速瀬は、足を失った激痛に顔を歪める。

それでもアームは容赦無く下降し、ついには膝下まで肉塊と化す。

流れ出た血が、ガラス管の下部に落ちていく。

アームは、止まること無く下降していく。

即死させないように、ゆっくりと。

速瀬は、もがき苦しみ、体を揺らして暴れ、助けを求めるかのように叫んだ。

だが、厚いガラスの中の声は、外に届く事はなかった。

モノハムは、何もせずにただ砂時計を見ていた。

モノクマは、身体をリズミカルに揺らしながら、待ち遠しそうにカップラーメンを見ていた。

 

下半身が全て肉塊と化し、速瀬は意識を失う。

砂時計のガラス管の下部に血が溜まる。

すると、アームに電流が流れ、速瀬は再び意識を取り戻す。

また苦痛を味わう事となった速瀬の顔は、絶望に染まっていた。

意識を失っては電流で強制的に意識を取り戻させられる、の繰り返しだった。

電流と刃物のオンパレードの末、速瀬はついに息絶えた。

アームが下降し、腹、胸、首と次々と肉塊と化していき、ついには全身が切り刻まれ、最後の一滴の血が下部に落ちた。

砂時計の下部には、見慣れた緋い液体が溜まっていた。

まるで、砂時計の砂が全て落ち切ったかのように。

それを見たモノクマは、急いでカップラーメンの蓋を開き、割り箸を割る。

そして、速瀬の死を嘲笑うかのように、カップラーメンを頬張った。

砂時計の中に残ったのは、大量の緋い液体と、速瀬吹雪()()()肉の塊だけだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

『イヤッホォオオオオオオオオイ!!!エクストリィイイム!!!』

『ぴっきゃっきゃ、やっぱりコレはいちゅ見ても飽きまちゃんね!』

…また一人、仲間を失ってしまった。

俺達は、速瀬が処刑されるのをただ見ている事だけしか出来なかった。

「いや…嘘でしょ…速瀬さんが…!もうやだよ…こんなの、あんまりだよ…!」

「あああ…そんな…速瀬さんが…速瀬さんが…!」

「…速瀬さん。」

「速瀬先輩が…速瀬先輩が…」

「クソッ!!なんでまたこうなっちまうんだよ!!」

「うげぇえええ…マジかよ…」

「にゃあああああああ!!!ブキねえ殺され方グッロ!!あーちゃんはああはなりたくないよぉ〜!」

「ホント、ゲスい事するわね…」

「そんな、…速瀬が…!」

「…悪趣味。」

「うぎゃああああああ!!速瀬氏ぃいいいいい!!!」

『おやあ?みんな、そんなに速瀬サンがジュースになったのがショックだった?』

『皆様、何か肝心な事を忘れていまちぇんか?』

「肝心な事…?」

『速瀬様は、ヨロズ様を殺ちた立派な殺人犯だったのでちゅ!悪人が裁かれて死んだんだから、もっと喜ぶべきでちゅ!』

「ふざけんな!!お前らに、速瀬の何がわかる!!速瀬と森万の命を弄びやがって…!」

『うぷぷ…何がわかる、だって?少なくとも、たった一週間かそこらしか速瀬サンと過ごしてないオマエラよりは十分速瀬サンの事をよく知ってるつもりだったんだけどなぁ。』

「何…?」

『うぷぷ…ボク達はね、オマエラの事をよく知ってるんだよ?好きな食べ物や家族構成から、経験人数やホクロの数と位置までなーんでもね。』

「はぁああ!?テメェ、勝手に私の事を調べやがったのか!?気色悪りい、プライバシーの侵害で訴えるぞ!!」

『何言ってんの?オマエラが勝手に教えてくれたんじゃん。』

「何…!?」

勝手に教えただと…!?

そんな馬鹿な話があるか、俺は、モノクマに個人情報を話した事なんかねぇぞ…?

あれ…?待てよ?

そもそも、なんでコイツは俺の家族の事を知ってたんだ…?

あの動機DVDは、俺の家族の事をよく知ってなきゃ作成できないはず…

「ねえ、私達が君達に勝手に話したってどういう事?」

『ちょれを知ってる人が、アナタ達の中にいるはぢゅでちゅ。ちょの人に聞けばわかるんぢゃないでちゅか?』

俺達は、一斉に鈴木を見た。

鈴木は、視線を向けられると、咄嗟に天井をを見上げながら口笛を吹いた。

『それにしても、オマエラ今回も本当によく頑張ったよ!ご褒美にメダルあげるよ!みんなで仲良く分け合ってね!それじゃ、まった『学園長!』

『のわぁ!?ビックリすんなぁ、急に大声出さないでよね!このポンコツハムスター!!』

『ひぃいいいい!?ごめんなちゃぁい!学園長が、皆様にお話をちぇずに退場ちようとなちゃっていたので、止めた方がいいと思いまちて…』

『オマエのせいで、話そうと思ってたけど話す気失せた!』

『宿題か!ちょんなワガママ言わないでくだちゃいよ!オイラの仕事量が増えるぢゃないでちゅか!!』

『仕事量?何それ!力×距離?』

『合ってるけど違いまちゅ!』

『じゃあ、ボクは眠いからもう帰る!あとよろしく!』

『あああ、ちょっと〜!学園長〜!!』

モノクマは、モノハムの制止を無視して去っていった。

『あうう…結局こうなるんぢゃないでちゅかぁ。パワハラでちゅ、ブラックでちゅう…』

「で?なんなんだよ、話って!!くだらねぇ事だったらキ●ワイプで顔面の凹凸を削ぎ落とすぞ!!」

『ひいいい!?やめてくだちゃいよ神城様!キム●イプで強引に擦られると、結構痛いんでちゅよ!ちゃんと話ちまちゅから、キムワ●プの刑は勘弁でちゅ!』

「だったら早く話しなよ…」

『ちょうがないでちゅね、特別にお話ちて差ちあげまちゅ。』

 

 

 

『…実は、皆様の中に、『超高校級』の才能を偽っている方がいらっちゃいまちゅ。』

「!!?」

『ちょちて、ちょのうちの一人は…『超高校級の死神』伏木野エカイラ(フシギノ エカイラ)様でちゅ!』

…え?

ちょっと待て。

頭がこんがらがってきた。

どういう事だ…?

エカイラが実在して…しかも、俺達の中にいるっていうのか…?

「ねえ、今『そのうちの一人』って言ったよね?他にも、本当の才能がわかってない人が何人もいるって事?」

『ちゃあ?ちょれはまだ言う事ができまちぇん!…でちゅが、ちょうでちゅね…実は、もうひとちゅお伝えちておく事があるので…ちょれで判断ちてみては?』

「もう一つ…?」

『ヂュバリ!!皆様の中に、オイラ達の用意ちたスパイがいまちゅ!!』

…。

…。

…は?

「スパイって…どういう事だよ!?」

『ちょのままの意味でちゅ。カメラとかおちおきの舞台のチェッティングとか、チュムーヂュにコロチアイが進むようにゲームを内側から調整ちたりとか、絶賛お役立ち中でちゅ!』

「テメェ!そんな事をわざわざ教えて、一体何がしてェんだよ!?」

『オイラ達はただ、より絶望的なコロチアイを望んでいるだけでちゅよ。…ちょれでは、オイラはこの辺で。またお会いちまちょう!』

モノハムは去っていった。

「クソッ、あの野郎…好き勝手言いやがって…!」

「おい、スパイって一体誰だ?エカイラはどいつの事だよ?今ここで白状しやがれ!!名乗り出ねェなら、ギッタギタに踏み潰すぞ!!」

「神城先輩、落ち着いてくださいよ。そんなんで名乗り出るわけないっス。」

「うるせぇ!!さてはテメェがスパイか!!?」

「ち、違うっスよ!」

「…あらら。ダメだこりゃ。」

「にゃははー!こわーい!あーちゃん殺されちゃうかもー!」

この一日で、あまりにも多くの事が起こりすぎた。

…森万が速瀬に殺された。

その速瀬は、残虐な方法で処刑された。

…そして今、俺達の中にスパイとエカイラがいる事が明かされた。

正直、頭も心も全くついて来れていない。

二人の死を悲しむ時間すら、俺達には用意されていなかった。

それでも俺達は、前に進み続けなきゃならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

第2章『だれかの希望になれたなら』ー完ー

 

 

 

 

コロシアイ合宿生活 残り12名

 

 


 

 

 

 

 

「いやあ、今回もハラハラドキドキの学級裁判だったね!」

「…そうですね。」

「おやあ?どうかなさいました?何か、考え事でもしていらっしゃるのですか?」

「…いえ、なんでもありません。」

「あー!!隠し事したな!?いーけないんだ、いけないんだ!!せーんせーに言っちゃーお!!」

「…いちいち口調変えるの、やめて貰っていいですか?正直聞いてて疲れます。」

「あ、ごめごめ。じゃあ今からやめるわ。」

「案外あっさりやめるんですね。」

「うん。口調変えてもあんま意味ない事に気付いた今日この頃のオレ。」

「…はあ。」

「それにしても、オマエ本当に優秀だよね!やっぱ、オマエを選んで正解だったよ。」

「…それはどうも。そんな事より、約束はちゃんと守ってくださいよ?」

「あーあー、わかってるって!『彼』の事なら、ボクがなんとかしとくから!じゃあ、引き続き、スパイの方よろしくね〜!」

「…分かりました。」

 

 

 

…正直、コロシアイなんてどうでもいい。『彼』をあんな目に遭わせた『アイツ』も、いつか殺す。

でも、今は『彼』のために、仕方なく『アイツ』に従っている。

これだけ『彼』のために頑張ってるんだもん、少しは認めてくれるよね?

『彼』のためなら、なんだってできる。…いや、なんだってする。

 

 

 

 

 

あなたがいれば、どんな世界でだって生きてゆける。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『超高校級の???』の個室

 

「いっやあ、まさか才能を暴露されちゃうとはね。折角今まで隠し通してきたのにさ。今までの苦労返せよ。って言って帰ってきたら苦労しないんだけど!」

 

「…さーてと、次の生贄はだーれだ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued…




【論リゾこぼれ話】

今回は、吹雪ちゃんがクロでしたね。
今回のおしおきシーンも、拘って執筆させて頂きましたでござるよ!
実はですね、まあ言わなくてもわかると思いますが、『刻む』という言葉が、時間と身体、両方にかかっていました。いわゆる掛け言葉ってヤツです。(ん?ちょっと違う?)
身体を刻みながら時を刻む、洒落の利いたおしおきでしょ。
そして、今回のおしおきのキモは『時間』です。
今まで、異常なまでに神経質に時計を気にしていた吹雪ちゃんが、自ら時計になったわけです。
自分の残りの寿命の『3分間』を計るための道具にされる…ある意味、彼女にぴったりのおしおきだったんじゃないでしょうか。



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第2章 【HOPE YOU ONLY】

タイトル元ネタ『LOVE YOU ONLY』です。


【速瀬吹雪編】

 

私には、心から愛する父が居りました。

父は、御世辞にも潤っているとは言えない中小企業の社長でしたが、常に自分の仕事に誇りを持っていました。

私は、そんな父を尊敬していました。

父の背を追い、常に父のような人間に為りたいと思っておりました。

…しかし父は、私が物心付く前に、自ら命を絶ってしまった…。

後日知人から伺った話に拠ると、詐欺師に投資の話を持ち掛けられ、騙されて多額の借金を背負い、首が回らなくなってしまったとの事でした。

私はその日から、もう二度と誰にも隙は見せまいと決めました。

私は、兄と二人で父が遺した会社を大企業へと発展させました。

其の功績が評判と為り、遂に私は県知事の秘書に任命されました。

此れは、そんな私が、合宿で苦楽を共にし、希望ヶ峰学園に共に入学する予定だった仲間を、殺めてしまう迄の物語です。

 

 

 

 

 

…私は、夕食の後、学園長に配られた動機DVDを拝見しました。

見ようと思わなければ良かった。

今思えば、悲劇は其処から始まったのかも知れません。

 

 


 

 

 

『超高校級の秘書』速瀬吹雪サンの動機映像!

 

劇場のようなイラストが描かれた画面が映し出された数秒後、映像が映りました。

其処に映っていたのは、見慣れた荘厳な部屋…私が以前秘書を務めていた、県知事の御宅でした。

其処には、知事…そして、お兄様が映っていました。

 

「…お兄様…?知事…?」

 

『吹雪、希望ヶ峰での生活はもう慣れたか?お前の事だから、知事と俺の事を心配してるんじゃないかと思ってな。安心しろ、お前の心配は、今の所全部杞憂だろうから。』

『速瀬君、君が居ない間の私の秘書は、君のお兄さんに代わりをして貰う事になった。彼は非常に優秀でね。私達の事なら、心配は要らないよ。』

『そういう訳だ、吹雪。お前は、何も心配しなくていい。俺達の心配なんかせずに、希望ヶ峰で友達と仲良くやってくれればそれでいい。俺もみんなも、お前の事を応援してる。』

 

何という勿体無きお言葉…希望ヶ峰学園に入学し、秘書を辞任した後も、知事は私の事を忘れずにいて下さったのですね。

其れだけでなく、お兄様を秘書として雇って下さっていらっしゃる…これ程嬉しい事が有りましょうか。

 

『速瀬君、希望ヶ峰学園を卒業したら、是非ともまた私の秘書になってくれないか。君に頼みたい仕事が山ほどあるんdddddddddd…ザザッ…あるnnnnnnnnnn…ザッ…ザザッ…ザザーーーーーーーーーーーーーーッ』

 

ザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ

 

 

???

 

急に映像が乱れました。知事の声は壊れたラジオのように繰り返され、不気味なノイズが混じっていました。

其れはまるで、菊池様の動機DVDの様な映像の乱れ方でした。

軈て、画面が砂嵐に為りました。

私は、不安を募らせながらも、映像の続きを待ちました。

突如、砂嵐だった映像が元に戻りました。

 

「ーーーーーーーーーーえ。」

 

映し出されたのは、変わり果てた故郷でした。

建物は破壊され、信号機や街灯は全て消え、最早私の知る故郷の面影は其処に有りませんでした。

画面の向こうでは、街中を彷徨くモノクマの被り物を被った方々が、次々と罪の無い市民の方々を虐殺していました。

そんな中、知事の御自宅が映りました。

モノクママスク達は、警備員や建物内の方々を次々と殺し、ついには最奥の部屋へと辿り着きました。

『貴様ら、一体何者だ!!こんな事をして…一体何が目的だ!!…知事、ここは私に任せて、お逃げ下さい!!』

「お兄様…?知事…?一体、何がどうなっているの…!?」

お兄様が、モノクママスク達を足止めしました。

しかし、モノクママスクの内の一人が、知事の方へと向かいました。

『知事、危ない!!』

 

ザクッ

 

『…あっ、』

 

「お兄様!!」

 

お兄様の肩に、斧が振り下ろされました。

お兄様は、肩を押さえながらその場に倒れ込みました。

 

あ…あああああ…お兄様が…

私のお兄様が…如何して…

 

『は、速瀬君…』

モノクママスク達が、知事を取り囲みました。

「知事!!お逃げ下さい!!」

 

『やめろ…貴様ら、何をする…市民の皆様に、速瀬君に何をした…私をどうする気だ…やめろ、やめてくれ…あ゛あああああああああああああああ!!!』

次の瞬間、画面が真っ赤になりました。

 

ブツンー

 

そこで映像が途切れ、劇場の画面に戻りました。

劇場にモノクマ学園長が現れ、仰いました。

『市民からの信頼が厚く、人徳に優れた県知事に絶大の信頼を置かれ、さらには亡き父の会社を継いだお兄様から大いに期待されていた速瀬吹雪サン!しかし、彼女の守るべき知事と市民達、そして最愛のお兄様に何かあったようですね!?では、ここで問題!果たして、この腑抜けなオッサンと無能な秘書、そして民度の低い市民達は一体どうなってしまうのでしょうかッ!?正解発表は、『帰郷』の後で!!』

 

 

 


 

…何もかも、全て奪われた。

理不尽に、そして残酷に、私の大切な物は全て壊された。

お仕えしていた知事も、お兄様も、故郷も、其処に住む市民の方々も、全て。

行成り現れた巫山戯た格好をした者達の手によって、奪われた。

 

…否、未だ救えるかも知れない。

お兄様も知事も、亡くなったシーンがはっきりと映されてはいなかった。

未だ生きていらっしゃるかも知れない。

今行けば、救える命が有るかも知れない。

もう一度、故郷を取り戻せるかも知れない。

私は、僅かながらに希望を抱きました。

そして、人として最低の行動が、頭を過ってしまったのです。

 

 

 

誰 カ ヲ 殺 シ タ ラ 外 ニ 出 ラ レ ル ヨ ネ ?

 

 

 

私は、一瞬躊躇しました。

…然し、たった数日過ごしただけの方々と、16年間暮らしてきた故郷の方々…何方を優先すべきか等、初めから判り切っていた事でした。

殺るしかない。そう決めたら、私はもう立ち止まって等いられませんでした。

 

 

「フッ、カークランドよ。そっちの準備は整っているか?」

当然啦(勿論です)!」

「ふわぁ…なんで中国語なんですかぁ?」

「気分です!」

「森万様、私は予定通り、照明の操作をすれば宜しいのですね?」

「ああ、頼むぞ速瀬よ。」

「承知しました。」

…駄目だ。

頭では分かっているのに…

如何しても、森万様に…

父を殺した詐欺師を重ねてしまう。

如何しても、彼に殺意を抱かずにはいられなくなってしまう。

 

私は、悩んだ末森万様を殺害する事に決めました。

私は、殺人のトリックに必要な道具の調達を始めました。

先ずは麻袋とロープを数本、動きを封じる為のベルト、そしてフロントから郷間様のしおりを持ち出しました。

次にプールへ行き、貯水タンクの水の高さを調節し、排水口に用意したロープを結び付けておきました。

此処まで来たら、後はもう森万様が予定通り更衣室に姿を現すのを待ち、殺害するだけでした。

私は、郷間様のしおりを使用し、男子更衣室で森万様を待ち伏せました。

 

 

ー男子更衣室ー

 

…大丈夫、彼なら必ず更衣室に姿を現す筈…

時が迫り、次第に心拍が速く、そして鼓動が大きくなっていく。

大丈夫、必ず上手くいく…

そして、その瞬間がやって来ました。

森万様が、更衣室のロッカーから現われました。

 

ー来た!!

 

私は、気配を消したまま、彼の背後に回り込み、殺そうとした…つもりでした。

彼は、即座に私の存在に気付きました。

此の時の私は、自棄に為っていました。

気付こうが気付かまいが同じだ、このまま殺してやる…そう思って、彼を殺めようとした、その時でした。

彼は、抵抗する事もせず、微笑みながらただ一言、こう言ったのです。

 

 

『救えるといいな。』

 

 

ーーーーーーッ!!

 

私は、全て悟りました。

彼が、私の殺人計画、そして私の抱える事情に勘付いていた事…

そして、其れを踏まえた上で、私に自分の命を譲ろうとしている事を。

私は、覚悟を決めて、ベルトで森万様の首を絞め上げました。

「がぁっ、ぎいぃいっ、あ゛っ…!」

森万様は、首を絞められる苦痛に悶えはしたものの、決して私に反撃しようとはしませんでした。

そして、遂に彼は息絶えました。

「…ごめんなさい…ごめんなさい…」

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 

カサッ

 

森万様の服の胸ポケットから、折り畳まれた紙が落ちました。

「…手紙、でしょうか…?」

私は、其れを拾い上げて読みました。

 

 

 

この手紙を読んでいるあなたへ

 

あなたがこの手紙を読んでいるという事は、俺はもうこの世にいないという事でしょう。

まず、あなたに告白しておきたい事があります。

それは俺が、今までみんなを騙していたという事です。

俺が騙してきたのは、みんなだけではありません。

友達を騙し、学者達を騙し、大勢の人達を騙しました。

俺は、誰かにとっての『希望』になりたかった。

だから、大勢の人達を騙す事にしました。

でも、俺にとっての『希望』は、もうどこにもない。

だから俺は、自分の命をあなたに託す事にしました。

俺を殺して、外の世界に行き、救いたいものを救ってください。

俺の犠牲が、あなたにとっての『希望』である事を願っています。

最後に、俺の親友のカークランド君には、『騙して悪かった』と伝えてください。

 

森万羅象ヨロズより

 

 

 

「…!」

私は、とんでもない過ちを犯してしまった事に気付きました。

彼のして来た事は、大勢の方々を騙した…許されざる行為です。

彼は、私の父を殺した詐欺師とは、全く違った人間でした。

私は、彼の罪だけで彼を判断し、いつの間にか彼に私の仇を重ねてしまっていたのです。

然し、折角彼が託してくれた命を無駄にする様な事は出来ない。

私はもう、立ち止まる事等出来なかったのです。

「…申し訳ございません、森万様…いえ、ヨロズ様。貴方の死は、決して無駄には致しません。」

私は、彼の御遺体を麻袋に入れ、ロープで縛りました。

 

 

ープールー

 

縛った御遺体は、タンクから垂らしておいたロープに結び付け、タンクの中に投げ入れました。

 

ドボンッ

 

…大丈夫、私の計算が正しければ、タンクの中身は勝手に水槽に押し出される筈…

上手く事が運べば、水槽内の鮫が証拠を隠滅してくれるかも知れない。

私は、不安を胸に募らせながら、タンクの中を覗き込みました。

…其の時でした。

 

「!!!」

私にとって、最大の誤算が其処で生じてしまいました。

なんと、菊池様から頂いた眼鏡拭きが、タンクの中に落ちてしまったのです。

 

どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう

 

私は、急いで回収を試みました。

然し、夜時間のルールを思い出し、断念しました。

此の儘では、私は真っ先に犯人だと疑われてしまう…

其処で私は、他人に罪を擦り付ける事にしました。

私は、エカイラとやらの噂を思い出し、近くに有ったビート板に、偽装工作用に持って来た赤いインクで『エカイラ』と書きました。

…此の儘でも良かったのですが、出来れば皆様に真実に辿り着いて欲しくない…そう考えた私は、更にもう一工夫加えました。

ビート板を床に押し付け、床に文字を写したのです。

偽のダイイングメッセージを残す為に使ったビート板は、元の文字が判らない程度に汚しておき、近くに置いておきました。

…然し其処で、二つ目の誤算が生じてしまいました。

なんと、インクが腕時計に付着してしまったのです。

私は急いで腕時計を外し、持ち場に戻りました。

 

 

ー持ち場ー

 

私は、急いで持ち場に戻ると、腕時計を塵箱の奥に突っ込みました。

そして、何事も無かったかのように、与えられた指示通り、仕事に戻りました。

…次の瞬間、水槽の幕が上がり、皆様が水槽に注目しました。

其処には、鮫に喰い千切られたヨロズ様が居ました。

…申し訳ございません、皆様。

私は、故郷の方々の為に皆様方を殺し、外に出ます。

 

私はもう、後戻り等出来ないのです。

 

 

 

 

 

「あーあ、殺っちゃったよ。人間、追い詰められると何するか分かったもんじゃないね全く。故郷のためとかなんだとか言っても、そんなもの、結局は自分の過ちを正当化するための言い訳だよね。一途で融通の利かない完璧主義者…だからオマエは立ち止まれないんだよ。せいぜいあの世で自分の過ちを悔いるんだね。」

 

 

 

 

 


 

【ヨロズ編】

 

俺は、物心つく前からずっと孤児院にいた。

後から聞いた話によると、俺の両親が、俺の目の色が左右で違うのを気味悪がって俺を捨てたらしい。

孤児院での暮らしは、毎年のように新しい兄弟が増えて、里子が見つかった奴から出て行く…そんな日常だった。

俺は、最後まで里子が見つからず、気付けば最年長になっていた。

ある日の事だった。

総理の飼い猫が行方不明になったかなんかで、大ニュースになった。

あらゆる道に長けた専門家達が必死こいて探しても、見つからなかったらしい。

俺は、偶々その猫を見つけ、後日新聞の一面記事に載る事となった。

その事がきっかけとなったのかは分からないが、次々と俺の周りで不思議な出来事が起こった。

…本当に、全部ただの偶然だった。

だが、世間は俺を好奇の目で見るようになり、いつしか俺を『超能力少年』と呼ぶようになった。

最初は、俺は何もわかっていない奴らに腹立たしささえ覚えた。

…だが、新しく来た孤児院の弟の一言が、俺の人生を大きく変えた。

 

「すっげー!!ヨロズおにーちゃん、ちょーのーりょくしゃなんだね!」

 

ソイツの目は、今まで見た事もない程輝いていた。

孤児院にいた奴らは、全員死んだ目をしていた。

親に捨てられて、本当の家族じゃない奴らと一緒に過ごす日々…

そんな毎日に、心の中では孤独を感じていたんだろう。

だが、弟妹達は、ソイツに同調するように、俺を褒め称えた。

俺は思った。

今の俺なら、弟妹の目に光を灯してやれるかもしれない。

 

誰かの『希望』になれるかもしれない。

 

「フッ、いかにも。俺は、本物の超能力者だ。」

俺は、この嘘を一生貫くと決めた。

たとえ、嘘つき呼ばわりされても構わない。

誰でもいい、たった一人でもいい、誰かの『希望』になれたなら。

そう思った。

 

その後、俺は『森万羅象』と名を変えて、世界中にその名を轟かせた。

嘘で塗り固められた肩書きを使って、世界中を騙した。

これは、そんな俺が、生きる理由を失い、そして仲間に『希望』を託すまでの物語だ。

 

 

 

 

 

俺は、夕食の後、モノクマに配布されたDVDを見た。

ここで、見ないという選択をしていれば、俺の未来は違ったのかもしれない。

だが、そんな事は誰にもわからない。

…未来がわかる人間なんて、いるわけがないのだから。

 

 

 


 

 

 

『超高校級のペテン師』森万羅象クンの動機映像!

 

劇場のようなイラストが描かれた画面が映し出された数秒後、映像が映る。

映ったのは、見慣れた孤児院だった。

施設の前には、弟妹達が並んでいる。

弟妹達は、無邪気な笑みを浮かべていた。

『おにーちゃん、きぼーがみねのにゅーがくおめでとう!』

『おにーちゃんは、どんなにつらいことがあっても、ちょーのーりょくでみんなをえがおにしてくれる、わたしたちのヒーローだもんね、にゅーがくできるってしんじてたよ!』

『おにーちゃん、きぼーがみねににゅーがくしたら、ぼくたちとははなればなれになっちゃうけど、げんきでね!』

『ぼくたち、おっきくなったらおにーちゃんとおなじきぼーがみねにいきたいんだ!そしたら、みんなdddddddddd…ザッ…みんnnnnnnn…ザッ…ザザッ…ザザーーーーーーーーーーッ』

 

ザザーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ

 

急に映像が乱れた。弟の声は壊れたラジオのように繰り返され、不気味なノイズが混じる。

映像に無数の筋のようなものが映り、映像が乱れる。

やがて映り込んだ筋が画面を埋め尽くし、砂嵐になる。

砂嵐だった映像が元に戻った。

 

「ーーーーーーーーーーッ!!!」

 

映し出されたのは、変わり果てた孤児院だった。

建物全体が真っ赤に染まり、窓ガラスや家具が破壊されている。

建物内には、モノクママスク達が土足で彷徨いていた。

よく見ると、床に子供の死体が転がっている。

それも、一人や二人じゃない。数十人はいる。

…全員、俺の弟妹達だった。

 

え?

え?え?え?

何がどうなってるんだ?

なんで、アイツらがこんな目に遭ってんだ?

 

モノクママスクのうちの一人が、生き残っている弟を捕まえた。

…ソイツは、何の意味も見出せなかった俺の人生を変えた、最初で最後の存在だった。

『いやだ、いやだあああ!!だれか、たすけてよぉお!おにーちゃん!』

やめろ…いやだ、やめてくれ…!

 

グシャッ

 

モノクママスクが弟の頭に鉄パイプを振り下ろすと、頭は呆気なく潰れ、脳漿を吹き出した。

「あ…あああああ…」

『きゃああああああああ!!!』

妹が、モノクママスクに取り囲まれる。

…おそらく、コイツが最後の生き残りだ。

やめろ…やめてくれ…そいつらは、俺の生きる理由なんだ…

頼む、殺さないでくれ…!

『いやだ…やめて…だれか、たすけて…おにーちゃああああああああ』

 

パァン

 

ビシャッ

 

「ーーーーーーーーーー。」

空気が破裂するような音と共に、壁に血が飛び散る。

次の瞬間、画面が真っ赤になる。

 

ブツンー

 

そこで映像が途切れ、劇場の画面に戻る。

劇場にモノクマが現れ、不快なダミ声で喋り出す。

『産まれた時から過ごしてきた孤児院で、子供達と共に幸せに暮らしていた森万クン!彼の自称超能力者という設定は、子供達を喜ばせるためのものだったんですねぇ。しかし、子供達の身に何かあったようですね!?では、ここで問題!この孤児院は、間もなく潰れてしまうのですが、その理由とはッ!?正解発表は、『帰郷』の後で!!』

 

 

 


 

…なんで?

 

なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで

 

…何もかも、全て奪われた。

理不尽に、そして残酷に。

俺は、得体の知れない奴等に、生きる理由を奪われた。

弟妹達の生死を確かめるという発想は、俺には浮かばなかった。

浮かんだとしても、きっと、遅かれ早かれ結果に絶望していただろう。

わかっていた。

あんな風に体を壊されれば、人は死ぬ。

アイツらが生きている可能性なんて、0に等しかった。

叶う事のない望みを抱いて後で絶望するよりかは、ここで諦めてしまった方がいくらか楽だった。

アイツらは、俺の『希望』だった。

その『希望』が潰えた今、俺に生きる意味は無い。

 

みんなと解散した後、俺は、部屋に戻り、手品セットに入っていたナイフを見つめた。

俺は、自ら命を断とうとした。

…だが、俺は思い出した。

ここには、俺と同じ、外の世界に大切なものがある奴らがいた事を。

ここじゃなくても、死ぬ機会はいくらでもある。

俺は、DVDを見て、外に出たいと思った奴に殺してもらう事にした。

俺を犠牲にする事で、誰かが外に出られるなら、それが一番いい。

…だが、その他のみんなは、そのせいで処刑される。

…いや、そんな事はもうどうでも良かったな。

全く、本当に不思議なものだ。

いざみんなが処刑されるとなると、今までの思い出が、走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

…カークランド。

アイツは、俺の事を子犬みたいに追いかけ回してたな。

アイツの行き過ぎた好奇心には散々振り回されたが、まるで孤児院にいた弟みたいで、アイツといると幸せな気分になれた。

アイツは、いい奴だった。

人を殺すような奴じゃない。

きっと、間違った奴に投票して、処刑されるのがオチだ。

…アイツには、悪い事しちまったな。

そうだ、遺書を遺しておこう。

アイツには、そこで謝ろう。

俺は、遺書を書いた。

 

 

 

この手紙を読んでいるあなたへ

 

あなたがこの手紙を読んでいるという事は、俺はもうこの世にいないという事でしょう。

まず、あなたに告白しておきたい事があります。

それは俺が、今までみんなを騙していたという事です。

俺が騙してきたのは、みんなだけではありません。

友達を騙し、学者達を騙し、大勢の人達を騙しました。

俺は、誰かにとっての『希望』になりたかった。

だから、大勢の人達を騙す事にしました。

でも、俺にとっての『希望』は、もうどこにもない。

だから俺は、自分の命をあなたに託す事にしました。

俺を殺して、外の世界に行き、救いたいものを救ってください。

俺の犠牲が、あなたにとっての『希望』である事を願っています。

最後に、俺の親友のカークランド君には、『騙して悪かった』と伝えてください。

 

森万羅象ヨロズより

 

 

 

こんなところか。

俺は、書いた手紙を内ポケットにしまった。

 

ピンポーン

 

インターホンの音がした。

…俺の部屋に用事がある奴なんて、一人しかいないがな。

俺は、ドアを開けた。

「フッ、カークランドよ。どうした?」

カークランドは、ベネチアンマスクを付けたまま、俺の部屋を訪ねてきたようだ。

…普通、部屋をノックする前に外すよな?

地頭はいいくせに、どこまで間抜けなんだコイツは。

「『どうした?』じゃないですよ!時間になっても待ち合わせ場所に来ないから、探しに来たんですよ!ショーの準備、早く進めますよ!」

…ショーか。

そういえば、そんな事言ってたな。

「ああ、悪い。今行く。」

「森万さん、どうかなさいましたか?顔色が悪いですよ?」

「フッ、そんなわけあるか。俺様は絶好調だぞ。」

「…そうですか?」

「フン、無駄なお喋りはこの辺にして、ショーの練習に行こうではないか。」

 

 

ーショー本番ー

 

『それでは、可愛らしい助っ人が手伝ってくれたところで、今から超能力をお見せします!!』

カークランドは、ポケットからロープを取り出し、俺の手足をきつく縛る。

『痛っ…ちょっ、おい…おまっ…そんなにキツく縛る事無いだろ!』

俺は、わざと全員に聞こえるようにオーバーリアクションをしてみせた。

『では、森万さんには、このロッカーに入って頂きましょう!』

ジェイムズは、俺をロッカーに押し込んだ。

『では、イリュージョンの世界へ…レッツゴー!』

『あっ、おい…ちょまっ…』

バタンッ

ここまでは計画通りだ。

ロッカーの中に、ダミーの音声も残しておいた。

俺は、素早く足元の蓋を開け、下に飛び降りた。

あとは、カークランドがロッカーを破壊した後、俺がガラスの箱に入って水槽の中に現れるだけだ。

俺は、地下の隠し通路を通り、男子更衣室へ向かった。

 

 

ー男子更衣室ー

 

…おかしい。

人の気配を感じる。

ここに人を配置する予定は無かった筈だが…

…もしや。

俺の勘は正しかった。

背後から、何者かが襲ってきた。

…この気配は、恐らく速瀬だろう。

速瀬だけは、あんな動機に躍らされないと思っていたが…

やはり、速瀬にとって、俺達の命より優先すべきものがあったという事か。

俺を狙った理由も、なんとなく想像できた。

おそらく、俺が気に入らなかったのだろう。

父親を死に追いやった奴と同じような事をしている俺の事が。

俺は、速瀬に反撃し、問い詰めるつもりは全くなかった。

速瀬には、人を殺してまで守りたい、『生きる理由』があった。

俺は、俺に無い物を持っている速瀬を、羨ましいとさえ思った。

だから俺は、コイツに託す事にした。

それは別に、大切な存在を脅かされた速瀬に同情したからでも、コイツの父親を死に追いやった奴等と同じような事をした事に罪悪感を感じたからでもなかった。

…速瀬になら、殺されてもいいと思えたからだ。

俺は、笑顔で速瀬の幸福を祈る事にした。

 

「救えるといいな。」

 

その言葉が、俺の最期の言葉だった。

速瀬は、ベルトで俺の首を絞め上げた。

…よかった。

速瀬は、俺の気持ちをわかってくれた。

ありがとう。

 

首にベルトが食い込み、呼吸ができなくなる。

少しずつ、視界がボヤけてくる。

そして、意識が途切れた。

 

 

 

 

 

「あーあ、死んじゃったよ。今まで自分を立ててくれてた親友を裏切ってまで自分の事しか考えられない愚かな女に自分の命を譲っちゃうなんてさ、オマエの目も随分と曇ったもんだね。あ、最初からオマエも自分の事しか考えてなかったからお互い様か。せいぜい、命を譲る相手を間違えた事を、あの世で後悔するんだね。」

 

「ねえ、みんな。コイツらの共通点、何かわかるかな?…自分の事しか考えられない事にすら気付けない愚か者達だよ。故郷のためだとか、『希望』のためだとか、そんなのは結局、自分の正しさを守るための免罪符でしかないんだよ。少しは勉強になったかな?…って、もう死んでたね。うぷぷぷぷ…」



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第3章 人生最後の告白を
第3章(非)日常編①


章タイトル元ネタ『地球最後の告白を』です。


森万と速瀬が死んだ。

あまりにも残虐な方法で殺された。

森万は生きる理由を失くし、自らの命を速瀬に譲った。

速瀬は、生きてここを出て故郷を救うために、森万を殺した。

二人とも、いい奴だったのに。

DVDを見るまでは、普通に楽しくみんなで過ごしていたのに。

その全てを否定するかのように、裁判は胸糞の悪い終わりを迎えた。

裁判の後は、みんな部屋に戻った。

誰も、外に出て何かをする気にはなれなかった。

9日目の夜は、何をする事もなく、ベッドの中で横になっていた。

疲れているはずなのに、ほとんど眠れなかった。

俺はベッドの中で、永遠にも感じる数時間を過ごした。

 

合宿生活10日目。

二人が死んでから最初の朝を迎えた。

俺は重い体を起こし、朝の支度をしてレストランへ向かった。

 

 

ーレストランー

 

レストランには、既にみんな集まっていた。

「…おはよう。」

「…おう、菊池。おはよう。」

「おはよう菊池君。」

「お、おはようございます…」

「おはようございます先輩。」

全員、暗い面持ちだった。

当たり前だ。あんな事があって、暗くならないわけがない。

「はっはっは、愚民共がガン首並べてマイナスイオン放って通夜モードかよ!!私の食う飯だけは不味くすんなよな!」

「みんなごキゲンがピサの斜塔だね!どうでもいいけどあーちゃん本場のジェラートが食べたい!」

「みんな、そんなに暗い顔してちゃお肌に悪いわよ!」

アリスと神城と鈴木は、結構元気なようだが。

「Good morning、Bonjour、Guten Morgen、Buenos dias、Buongiorno 、Chào buổi sáng 、Доброе утро、सुप्रभात、早安、안녕、おはようございます!!」

厨房から出てきたジェイムズは、ハイテンションで朝食の皿を全員に配りながら、一人ずつ違う言語の『おはよう』を言った。

「…あらら?滑ってしまいましたか。大学の生徒達は、元気良く返してくれたんですけどね…でも、まだ色々ネタは有りますから!爆笑必至、大学内でも大人気のネタをお見せして差し上げましょう!」

…何をふざけているんだアイツは。

昨日の事を忘れちまったのか?

お前が一番仲良くしてた森万が死んだんだぞ…?

それなのにお前は、なんでそんなに明るく振る舞っていられるんだよ。

「あの、ヨークシャーテリアっているじゃないですか。その犬が…」

「いい加減にしろよお前!!」

玉木が、勢いよくテーブルを叩いた。

「お前…昨日の事忘れちまったのかよ!?」

「やだなぁ、玉木さん。私、まだ十代ですよ?私の脳はまだボケて等いませんよ!昨日の食事は朝昼晩とも覚えておりますとも!」

「ふざけんな!!忘れてねぇなら、なんでそんなに明るく振る舞えんだよ!?昨日、あんな事があったんだぞ!?」

「昨日は昨日、今日は今日です!気分を切り替えて、今日も一日頑張るぞい、です!」

「お前、何言って…」

「さ、早く朝食を食べましょう。早く食べないと冷めてしまいますよ。」

「いい加減に…あ。」

玉木がジェイムズに詰め寄った。

その時、気付いたようだ。

ジェイムズの両目が、真っ赤に腫れている事に。

リタは、玉木のユニフォームの裾を掴んで言った。

「玉木ぃ…ジェイムズを責めないでください…ジェイムズは、森万が速瀬に殺されて、すごく悲しんでたんですぅ。」

「そうだよ…カークランド君、昨日も寝ずに一晩中泣いてたんだよ。」

…そうだった。

思い出した。

俺達がエレベーターに乗り込んだ後も、ジェイムズは最後まで裁判場に残って泣いていた。

それでも、親友の死を乗り越えて、俺達のために無理して明るく振る舞ってたんだ。

「…悪い。俺、頭に血が上ってたな。よし、気分も切り替えた事だし、朝飯食うぞ!」

「…はい!」

「あらら。まさかジェイムズちゃんに励まされる日が来るとはね。この合宿で、一番成長したのは彼だったのかもね〜。」

 

全員が、朝食を食べ終わった。

そこへ、2匹のぬいぐるみが現れた。

『やっほー!』

『でちゅ!』

「テメェら、どこから湧いて出やがった!!」

『うわぁ!神城サンひっど!早速ボク達をゴキブリみたいに言っちゃってさ!』

「あまり長居する様なら、イミプロトリンとメトキサジアゾン撒きますよ!!」

『カークランドクンまで!っていうかそれ、ガチのゴキブリ扱いじゃん!』

『酷いでちゅ!オイラ達は皆様のためを思って、有益な情報を与えに来たのに!』

「どうせまたくだらない事でしょ。」

猫西が呆れながら言う。

『失礼な!ちゃんと有益な情報でちゅ!今回も、新たにエリアを開放ちまちた!今回は、展望台と美術館、あとは銭湯でちゅ!』

「え!?マヂ!?ねえねえハムちゃん、おふろって、温泉?」

『もちろん、最上級の温泉を使用ちておりまちゅ!』

「やった!!あーちゃん、温泉大好き!!」

「って、アリス先輩。喜んでる場合じゃないっスよ。」

「ぶー。」

『それともう一つ、オマエラにプレゼントがあります!』

「プレゼント?へえ?何を渡す気?」

『うぷぷ…それはね…『第三の動機でちゅ!』

『オイコラ!オマエほんとに反省しないよね!割り込むなっつってんじゃん!!』

『ひぃいいい…!ごめんなちゃいでちゅうう…』

…第三の動機、だと?

一体どういうつもりだ?

前の2回は、合宿生活スタートから3、4日後に動機を発表されてたはず…

まだ、学級裁判が終わってすぐだぞ?

「それで、動機とは何なのでありますか?」

『うぷぷ…ズバリ、『人に言えない弱み』だよ!』

弱み…?

『みんな、誰にも言えない弱みの一つや二つはあるよね!もしかしたら、無自覚に抱えてる弱みもあるかもしれない…午後0時に、その『弱み』を、それぞれのしおりに送ります!ちゃんと目を通しといてよね?言っとくけど、見ないとかナシだから!』

「はあ!?何よそれ!!」

「つまり貴方達は、私達がその弱みを死守する事で殺し合いが起こる事を期待していると、そう言う事ですね?」

『ちゃちゅがカークランド様!理解が早くて助かりまちゅ!』

「はっ、んだよそんなモン、しおりを全員置きっぱにしときゃあ楽勝じゃねぇか!はー、私天才かよ!!」

「…そもそも、全員がその約束を守るかどうかだけどね。」

「おいテメェら!!もししおりを部屋の外に持ち出したら、メスを爪と肉の間にブチ込むぞ!!」

「結局脅しじゃないっスか。」

『ん?オマエラ、何自分達だけで話を進めちゃってんの?ボク、全員に『弱み』を配るって言ったけど、それが本人のものだなんて一言も言ってないよ?』

…え?

「はあ!?どういう事だよそれ!!」

『今日からは、日替わりで午後0時に誰かの『弱み』を配布ちまちゅ!誰の秘密を見る事になるのかは、ちょの時までのお楽ちみ!』

『うっぷっぷ、ドキドキのロシアンルーレットだね!オマエラ、ギャンブルは好き?』

「貴様ら…」

『それじゃ、まったねー!』

2匹のぬいぐるみは、去っていった。

 

「…クッソ、好き勝手言いやがって…!」

「玉木君、落ち着いて。いちいちあんな奴らの挑発に乗る事ないよ。」

「…ああ、悪い。」

「…そんな事より、どうする?」

「射場山氏、どうする、とは?」

「…決まってんでしょ。探索よ。」

「た…探索…?動機の話をされた後で、探索…ですか。」

「そんなの、やる気しないわよね〜。」

「うーん、でも12時になるまで弱みは送られて来ないから、それまでに探索終わらせちゃった方がいいんじゃないかな。みんな、誰が誰の弱みを知ってるのかわからない状態で探索するの嫌でしょ?」

「…一理あるな。よし、じゃあ担当決めるか。」

俺達は、それぞれの探索の担当を決めた。

 

美術館…玉木、アリス、射場山、床前

展望台…俺、ジェイムズ、猫西、小川

銭湯…織田、鈴木、神城、リタ

 

珍しい組み合わせだな。

猫西はなぜかガッツポーズしてるし…

なんなんだアイツ。

織田が気になってるんじゃなかったのか?

「ムフフ、今回はレディと同じグループになれたであります!!」

「…あら。アタシで良ければ、相手してあげようかしら?」

「え゛。」

「ふわぁ…男湯と女湯の探索は別々ですぅ。…織田、君に逃げ場はなくなったのですぅ。」

「え!?嘘でありますよね!?」

「うふふ、ケンタロウちゃ〜ん♪」

「ぎゃああああああああああああああああ!!!吾輩は食べてもおいしくないですぞ!!」

「んふふ、気にする事ないわよ!アタシ、こう見えて雑食なのよ。ノンケだろうとアブノーマルだろうと美味しくいただいちゃうわよぉ〜!」

「ぎゃあああああああああああああ!!!やめてくだされぇえええええええ!!!」

逃げる織田を、鈴木が追いかける。

…なんか、織田がかわいそうだな。

「あっはははは!!!キモヲタが逃げ回ってやがる!!滑稽だな!!せいぜいやり過ぎてケツの穴使いモンにならなくなんねぇように気をつけろよ!!」

「神城さん、下品だよ。」

「うるせぇ!愚民が私に気安く話しかけんな、猫!!」

「ごめん…」

「うわぁ…このままだと収拾つかなくなりそうっスね。そろそろ探索に移るっス。」

「…だな。」

俺達は、各担当場所の探索を始めた。

 

 

ー展望台ー

 

俺達4人は、展望台に登った。

展望台は、島中を一望できるようになっていた。

望遠鏡やベンチなども設置されている。

「わあ、結構高いね。」

「お二人共、気を付けて登って下さいね。宜しければ、手をお貸ししましょうか?」

「ありがとう。でも自分で登れるかな。」

「自分も、ご心配には及ばないっス。」

「そうですか、では、落ちないように気を付けて下さいね。何かあったら、私が駆け付けます。」

「それは頼もしいっスね。」

…あれ?

二人?

おいジェイムズよ、誰か一人を忘れてるぞ。

…いや、そんな訳ないよな?言い間違えただけだよな?

「俺は?」

俺がジェイムズに聞くと、ジェイムズは少し驚いた表情を見せた。

「あっ…も、勿論菊池さんの事も心配していますよ!何かあれば直ぐに私を呼んで下さいね!」

…コイツ、やっぱり俺の事忘れてやがった。

最初から女しか心配してなかったのかよ。チクショウ。

 

そんなこんなで、全員が展望台に登り終わった。

「それにしても、いい景色だね。私、ここ気に入ったな〜。」

「同感です。これ程景色の良い場所は、ここ以外には無いでしょうね。」

「自分は、高すぎてちょっと怖いっスけどね。」

「大丈夫です!ファイト一発、ですよ!」

何が大丈夫なんだろうか?

「いやそれもう落ちてるじゃないっスか。なんで落ちる前提なんスか?」

「…おい、落ちるなんて縁起でもない事言うなよ。」

「…ごめんっス。」

「…はあ。」

俺は、展望台を一周し、怪しいところがないか見てみた。

「…ん?なんだこれ。」

床に、一枚の写真が落ちていた。

写真を拾い上げてよく見てみた。

 

そこには、展望台の上で肩を組みながら自撮りをしている鈴木と郷間と狗上、そして3人の前でしゃがんでダブルピースをしている近藤が写っていた。

明らかに、俺の記憶と矛盾している写真だった。

少なくとも、鈴木はこの3人には、この島に着いてからは会っていないはずだ。

「…なんだこれ?こんな写真、いつ撮られたんだ?」

…そういえば、鈴木は、俺達の事を知ってたらしいけど…

一体、何がどうなってんだ?

「…どうしたんスか?」

3人が、写真を覗き込んだ。

「ああ、いや…この写真、変だと思わねぇか?」

「…あ。確かに。この3人は、鈴木先輩と面識がないはず…それに、このエリアが開放されたのは、今日の事っスよね?」

「そうだね。どう見ても不自然すぎるよね。…一体、どういう事なんだろうね?」

「…取り敢えず、この写真に写っている鈴木さんに、後でお話を聞いてみましょう。」

「だな。他には怪しいところは無さそうだったし、一旦レストランに戻って報告会するか。」

俺達は、展望台から降りて、レストランに向かった。

 

 

ーレストランー

 

「ふー、楽しかったわ♡」

「い…生きた心地がしないであります…」

「あはは、織田君は大変だったみたいだね。」

「こ、猫西氏!」

「よし、全員集まったな。じゃあ報告会するか。…まずは俺らからだな。」

「…美術館には、絵とか彫刻とかがあった。」

まあ、美術館なんだから当たり前だよな。

「…あ、でも…一つ気になる事が…」

「あーちゃん、タイクツすぎてガチの夢の国に行っちゃうところだったよ!!夢の国っていっても、ネズミはいないよー!多分!」

「アンタそれ、よくおしおきされなかったわね。故意の居眠りはルール違反じゃなかった?」

「えへへ…」

「…あ、あの…」

「ふわぁ…探索中に寝ちゃダメですぅ。」

「お前が言うな!!」

「カツにいツッコミのキレがいいね〜!さすがキャプテン!」

「それ、なんか関係あるんスか?」

「…えっと、」

「おい、お前ら。一回静かにしろよ。床前が何か言いたがってるだろ。」

「えっ、嘘!?ごめん、聞こえなかったわ!」

…お前、それ前も言ってなかったか?

どいつもこいつも、なんで床前を無視すんだよ。

「ごめんなさい、私の声が小さいせいですよね…」

「別に俺は気にしてねぇよ。…そんな事より、気になる事って?」

「…えっと、美術館に、私達の肖像画が展示されてたんです。」

床前は、自分のしおりの画面を全員に見せた。

そこに写っていたのは、俺達全員分の肖像画だった。

…うっわ、俺こんなにモブ顔だったか?

自分ではもう少しイケてる部類に入る顔だと思っていたんだが…

こりゃあモテないわけだ。

って、違う。気にするのはそこじゃない。

なんで、美術館に俺の絵があんのかって事だ。

…ここまで繊細なタッチで描かれてるって事は、俺の顔を間近で見ていた奴が描いたって事になるんだろうが…

そもそも、こんな絵のモデルになった事なんてないはずだしな…

一体誰が、いつ描いたんだ…?

さっきの鈴木達の写真といい、謎はより一層深まるばかりだ。

「あーちゃんの絵だー!!やっぱ、あーちゃんは絵でもW2246−0526並にスーパー美少女だね!!」

「ふはははは!!絵の中の私も美しいが…やはり、私の美しさは誰にも表現できんようだな!!まあ、だいぶ甘めに見て50点ってところか!!」

「…そうですかぁ?そっくりですけどぉ…」

「テメェ、愚民の分際で私の美しさを推し量る気か!?身の程を知れ!!」

「ふわぁ…うるさいですぅ。」

「…私、こんなに鼻高いですかね。」

「カークランド氏、それは嫌味でありますか?現実も絵もブサメンの吾輩に対する嫌味なのでありましょう!?」

「はい?どういう意味ですか?」

…ああ、ダメだコイツら。

完全に自分の肖像画の事に興味が移ってやがる。

お前ら、もう少しこの絵に違和感持てよ。

「うーん、不自然だね。」

やっとまともな感想が出てきた。

そうだよ、普通そうなるだろ。

「私、こんな絵のモデルになった事無いんだけどなぁ。」

「ああ、だよな。こんな絵、誰がどうやって描いたんだろうな。」

俺は、席から立ち上がり、猫西のしおりを覗き込むようにして言った。

「ひゃあっ!?み、見ないで!!」

猫西は、顔を真っ赤にしながら跳び上がり、急いでしおりの電源を切った。

さっきまで、普通に織田とかにも見せてたくせに…なんで俺は見たらダメなんだよ。

「え?そんなに見られたくないのか?別に、言ってもただの肖像画だし…ちょっとくらいいいだろ。」

「やだ!!絶対ダメ!!どうしても見てほしくないの!!」

猫西は、顔を真っ赤にしたまま両手でしおりを握りしめていた。

…なんでここまで嫌がるかなぁ。別に如何わしい写真が写ってたわけじゃねぇだろ。

「…まあ、そこまで嫌がるなら無理には見ないけどよ。床前、他に気になる物とかはなかったか?」

「えっと…そうですね、あとは…謎の女性の像があったくらいでしょうか。」

床前は、しおりをスクロールして、別の画像を見せた。

そこには、ツインテールのギャルの像が写っていた。

非常に精巧に造形されたブロンズ像で、まるで生きているかのようにも錯覚した。

像の下部に、名前が彫られているらしいが、写真が粗くてよく見えない。

この女は…一体何者なんだ?

 

「…江ノ島盾子。」

鈴木が、ボソリと呟いた。

「…え?」

全員が、鈴木に注目した。

「鈴木、お前今何て…」

「え?ああ、この像の下に彫られてる字を読んだだけよ。…ん?どうしたのみんな?アタシ、何か変な事言ったかしら?」

「いやいやこの画像、結構粗いっスからね!?そんなのまかり通るわけないっス!」

「ありゃりゃ。やっぱりごまかせなかったかー。」

「はぁ!?ごまかすって何だよ!!きなクセェなこのオカマ野郎!!さてはテメェがスパイか!?」

「クレハちゃん!!アタシはオカマじゃなくてオネエだって何度言ったらわかるの!?」

…まだ、わからない事は多い。

俺たちがどうやってここに来て、どうしてこんなゲームに参加させられているのかすら、わからないままだ。

今は、何でもいいから情報が欲しかった。

俺は、思い切って鈴木に質問した。

「…なあ、鈴木。」

「ほぇ?なあに、サトシちゃん?」

「単刀直入に聞くが…お前は、一体()()()()知ってるんだ?」

「…き、菊池さん…?…一体何を…」

「んー…その質問、どういう意味?」

「そのままの意味だ。お前は、この合宿について、何か知ってるんじゃないか?」

「ちょっと待って。言ってる意味が全然わかんない。ちゃんと説明して?」

「…展望台で、変な写真を見つけた。これ、お前だろ。」

俺は、写真を鈴木に見せた。

「…あー。そうね。確かにアタシね。うん。」

「これを見ても、何も心当たりが無いって言えるのか?…お前、やっぱり何か知ってるんだろ。」

「ええ、知ってるけど?」

 

は?

 

え、ちょっと待って。

頭がついてきてないんですけど!

…いや、確かに質問はしたけど…まさかここまであっさり白状されるとは…

なんか逆に調子狂うな…

「ま、待て!…なんであっさり認めた?」

「んー、そんな写真見せられたんじゃ、ごまかしてもムダっぽかったし?だったら認めちゃってもOK的な?」

「的なってお前…」

「でもごめんね。やっぱり、話さない方が身のためだと思うわ〜。」

「はぁ!?どういう事だよそれ!!」

「さあね。少なくともアタシは、なんでアンタ達がここにいるのかも、外の世界で何があったのかも知ってるわ。」

「だったら…!」

「でも、アタシから話す事は何も無い。そんなに知りたかったら、自分で調べてみたら。」

「えー!?そんなのアリー!?さくらちゃんのケチ!!」

「テメェ、やっぱりスパイだったか!!」

「にゃはは、スパイどころか、黒幕だったりしてー!」

「ちょっと、やめてよ三人とも…!こんな時に、疑心暗鬼になるような事言わないで!」

「そうっスよ!ただでさえこれから動機が発表されるっていうのに…もう、この話題はやめましょうよ!」

「…私も賛成。いつまでも、こんな気味が悪い奴の話なんて聞きたくない。」

「ちょっと、ユミちゃんひどくない!?アタシ泣きそうなんだけど!」

「…じゃあ、色々思う所もあるが、とりあえずこの話は一旦なかった事にして…いいよな、菊池?」

「…あ、ああ。」

今無理に聞いても何も出てこないだろうからな。

俺も、情報が欲しいあまり、冷静じゃなくなっていたようだ。

軽率な発言で、みんなを不安にさせちまった。

一旦頭を冷やそう。

「そうだ、神城。お前らの方はどうだった?」

「フン!!私に気安く話しかけんじゃねぇよサッカーバカが!!」

「ふわぁ…広い日本式のお風呂でしたぁ。変わったとことかは特になかったですぅ。」

「男湯も、変わった所は特に無かったわ。」

「ヒッ…」

織田が、鈴木の視線に怯えている。

…さっきは、よほどのトラウマを植え付けられたらしいな。

「なるほどな…じゃあ菊池、お前らの方はどうだった?」

「展望台には、さっき見せた写真が落ちてた。あとは、望遠鏡があったくらいだな。」

「ボーエンキョー!?わーい、あーちゃん後でテンボーダイ行こーっと!!」

「うん、その他には特に報告する事とかは無いかな。…あれ?って事は、報告は全員終わったって事でいいのかな?」

「そうっスね、時間もちょうどいいし…そろそろ昼食にするっスか?」

俺達は、小川の提案で、少し早めの昼食を食べる事となった。

 

今日も、鈴木の個性的な料理だった。

…コイツ、変なところ攻めてくるくせに、ちゃんと美味く作れてるから腹立つんだよな。

俺の方を見ていちいちドヤ顔してくるのも腹立つ。

チクショウ、人の事をバカにしやがって…

「美味しいですね、鈴木さん。」

「うふふ、ありがと♡ジェイムズちゃんには、特別にアタシの秘密のレシピを教えてあげようかしら?」

「本当ですか!?是非お聞かせ下さい!!」

「…カークランド氏、やめた方がいいですぞ。…下手に手を出すと、喰われますぞ。」

「喰われる…?鈴木さんは、カニバリストなのですか?」

「そういう意味の喰うじゃねえよ!!そんな事もわかんねぇのかよ、間抜けが!!」

「いや、むしろ知らない方がいいんじゃないの?食事中にする話でもないし。」

「ふわぁ…僕としては、ジェイムズには純粋なままでいてほしいですぅ。」

「あの、皆さんは、意味を知っていて仰っているのですよね?宜しければ、私にも教えて頂きたいのですが。」

ジェイムズは、首を傾げながら、無邪気な子供のように質問を投げかけた。

…マジかよ、コイツ…何でも知ってそうな顔して、そういう事は全く知らないんだな。

いくらなんでも無垢すぎんだろ。…何というか、やっぱり箱入りなんだな、コイツ。男だけど。

「カークランド君…教えてあげる代わりに、もう外ではその話しちゃダメだよ。」

「…?はい、分かりました。」

「じゃあ、耳貸して。」

猫西は、赤面しながらジェイムズに耳打ちした。

「…おやまあ、先程織田さんが仰ったのは、そう言う意味だったのですね。配慮が足らず、申し訳ございませんでした。」

流石に、食事の場に相応しくない質問をしてしまった事にはマズいと思ったらしい。

ジェイムズは、深く頭を下げて謝罪した。

「ねえねえ、みんなさぁ、ア●●フ●●クの話してないでさ、早くご飯食べようよ。冷めちゃうよ?」

「ぶふぉあッ!!!」

クソガキの爆弾発言に、つい飲んでいた麦茶を吹き出した。

「うっわ!!きったね!!私の美しすぎる体にテメェの汚物がかかったらどうしてくれんだよ!!」

「…汚い。」

「き、菊池さん…大丈夫ですか…!?」

床前が、ハンカチを貸してくれた。

「…ああ、悪い。ありがとう。」

俺は、床前のハンカチで口を拭いた。

 

こんのクソガキィイイイイイイイ!!!

なんで人がわざわざ聞こえないように言ったことを、微塵もオブラートに包まずにデカい声で言うんだよ!?

っていうかそもそも、なんでお前みたいなガキがそんな事知ってんだよ!!

もうお前は黙ってろ!二度と口を開くな!

 

俺達は、なんとも言えない空気の中で、昼食を食べた。

全員の食事が終わり、動機発表の12時まであと30分となった。

食後の後片付けをしていると、猫西がみんなに言った。

「…ねえ、私から、みんなに気をつけて欲しい事があるんだけど。」

「んー?なあにうぇすにゃん?」

「今から動機が配られるじゃない?…その時、見終わるまでは部屋にいてもらいたいんだ。」

「えー!?なんでー!?」

「…誰かが、秘密を覗き見するかもしれないからって事?」

「うん…やっぱりさ、私はみんなの事を疑いたくない。でもさ、何もしないと、何かあった時に、誰かを疑わなきゃいけなくなっちゃうでしょ?…だからお願い。私は、みんなの事を信じたいんだ。」

「そう言う事でしたら、喜んで協力しますよ。」

「そうっスね、その方が安心っスかね。」

「うふふ、アヤカちゃんが言うなら、アタシ喜んで協力しちゃうわ〜。」

「うぇすにゃんがゆーならしょーがないなぁ、あーちゃんも約束守るよ〜。」

「…わ、私も…」

「猫西氏との約束ならば、命懸けで守りますぞ!!」

「…別に、命懸けなくていいけど…みんな、ありがとう。」

「猫西、お前が言うなら協力するよ。」

「菊池君…えへへ、ありがとう。」

猫西は照れ臭そうに言った。

…そんなに嬉しいのかよ。

俺達は解散して、それぞれ個室に向かった。

 

ちょうど12時になった。

 

ヴーーーーーッ

 

しおりからバイブ音が聞こえる。

…ついに来たのか。

『誰にも知られたくない弱み』とやらが…

俺は、しおりを確認した。

…一体、誰の弱みを見ることになるんだ?

 

 

 

【超大学生級のオネエ】鈴木咲良クンの弱み

 

…鈴木の弱みだと?

アイツ…何か知ってそうな雰囲気だったけど…

もしかして、ここでアイツが何を知ってるのか知れたりしないか…?

俺は、ゆっくりと画面を下にスクロールした。

画面は、空白が続く。

下に動くたびに、心音が大きくなる。

…鈴木の秘密…

一体、アイツは何を知っているんだ…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーえ。」

俺は、思わずしおりを床に落とした。

そこに、信じられない内容が書かれていたからだ。

それが本当だなんて、俺は信じたくなかった。

…そんな、鈴木…

お前は…

 

 

 

 

 

 

【超大学生級のオネエ】鈴木咲良クンの正体は、元【超高校級の死神】伏木野エカイラクンです!

 

 

 

 

 



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第3章(非)日常編②

【超大学生級のオネエ】鈴木咲良クンの弱み

 

『超大学生級のオネエ』鈴木咲良クンの正体は、元『超高校級の死神』伏木野エカイラクンです!

 

 

 

…嘘だろ?

そんな…

鈴木が殺人鬼だったなんて…

この事は、本人に確認すべきか…?

いや、でも…

 

ピンポーン

 

「!!?」

思わず、飛び上がってしまった。

…ドアの向こうに誰かいるのか。

俺は、恐る恐るドアを半分だけ開けてみた。

「…?」

そこには、

 

右手にナイフを持った鈴木が立っていた。

「ヒッ!!?」

俺は、思わず尻餅をついた。

「…あれ?サトシちゃん?どうしたのそんなにビビっちゃって。」

「ど、どど…どうしたもこうしたもねぇよ!なんでナイフなんて持ち歩いてんだよ!それ、一体どうする気だ!?」

「…ああ、これ?」

鈴木は、左手に持っていた皿を差し出して言った。

「梨剥いたんだけど、サトシちゃん食べる?」

…は?

梨…?

「…ははっ、なんだよ…ビビらせやがって。紛らわしい事すんじゃねぇよ。」

「アラヤダ。ごめんね〜。脅かすつもりはなかったんだケド。」

「大体、こんな状況でナイフを持ち歩くなんてどうかしてるだろ…」

「ごめんってば〜。もう一個あるけど、良かったら剥いてあげましょっか?」

「…いや、遠慮しとくよ。」

「ふーん。そうなの。」

鈴木は、ユラユラと身体を揺らしながら、俺の部屋に入ってきた。

…入れてやるなんて一言も言ってないんだが。

すると鈴木は、いきなり予想外の質問をしてきた。

「ねえ、サトシちゃん。…アタシの弱み、見たでしょ?」

「…いや?見てねぇけど?」

俺は、咄嗟に嘘をついた。

…もし弱みを握っている事がバレたら、何されるか分からないからな。

「…ふぅん、ホントに見てないんだ〜。」

 

「じゃあ、アタシの弱みがなんなのか…今ここで教えてあげましょうか?」

「ッ!!?」

鈴木は、持っていた果物ナイフの刃先を俺に向け、ゆっくりと俺に近づいてきた。

弱みを教えるって、コイツ何する気だ…?

まさかとは思うが、今ここで俺を殺したりとかはしないよな…?

「はあ、…やっぱり見たんじゃない。アタシの弱み。」

鈴木は、ナイフをしまい、ため息をついた。

「…え?」

「サトシちゃんさ、今身構えようとしたでしょ。…普通、いきなり刃物向けられて凄まれたら何も出来なくなるわよ。」

あれ?俺…もしかして、カマかけられてた…?

しまった。まんまと嵌められた。

…まずいな。コイツに、俺が弱みを知ってる事がバレてしまった。

「…ねえ、そんなに冷静に状況を分析できるって事は、アンタやっぱりアタシの弱みを知ってるんでしょ。…ねえ、なんでさっきは知らないなんて嘘ついたの?」

…ここは、正直に話すか。

「…俺はただ、あんなものを信じたくなかっただけだ。だが、あえて聞かせてもらう。…お前は、『超高校級の死神』だったのか…?」

 

 

「ですけど?」

…え?

…。

…。

…え!?

ちょっと待て、前にもこんな事あったけど、コイツ色々あっさり認めすぎだろ!

…なんというか、情報を引き出すまでの駆け引きとか全然ねぇよな!?

聞いたこっちが調子狂わされるんだが…

「こういう事言っちゃうと、仲間外れにされそうだったから黙ってたのよ〜。あー、やっと吐き出せた!ねえ、サトシちゃん…」

「ま、待て!ちょっと頭の中整理するから、5秒くれ!」

「…ちょっと、どうしたの急に。」

 

正直、全然頭がついてこれてねぇけど…

少し頭を冷やして、冷静に考えてみるか。

…認めたくはなかったが、やっぱり鈴木は『超高校級の死神』エカイラで間違いないだろう。

そしてどういうわけか、その事をみんなに黙ってたと…

「…よし、少し頭の整理ができてきた。…お前は、本物のエカイラで、それをみんなには黙ってたと…そういう事でいいんだな?」

「ええ、そうね。」

「…一応聞くが、なんで黙ってた?」

「えー、だって、みんなだって殺人鬼と一緒に合宿なんてしたくないでしょ?アタシがエカイラだって言ったら、ハブられると思ったから黙ってたワケ。」

…コイツ。

「なんで人を殺してたんだ。…お前、一体なんなんだ。」

「アタシはエカイラちゃんだって言ってるでしょ?人を殺したのは、そうねぇ…ウザかったから?」

コイツ、よくそんな外道な事を平気で言えるもんだな。

「ああ、別に何もしてない一般人をいきなり殺したりとかはしてないわよぉ〜。ただ、クスリとか人とかを売りさばいたりとかしてたオジサンとかをサクッと殺っちゃったり〜」

「もういい。…お前は、今は誰かを殺す気はねぇのか?」

「ええ。今言っても説得力無いかもしれないけど、アタシ、みんなとは仲良くしたいと思ってるのよん?アタシはみんなの事が大好きだもの♡…第一、人を殺したのがバレたらおしおきされちゃうものね〜。」

今更何を言っているんだコイツは。

そんな事を聞かされて、仲良くしろというのは無理があると思わないのか。

「…今は誰も殺す気が無いと分かっただけでも十分だ。」

「うふふ、もちろん、サトシちゃんの事もだーい好きよ?」

「やめろ。…ところで、お前は誰の弱みを見たんだ?」

「ああ、それね。アタシは、ケンタロウちゃんの弱みを見たわ。」

「…へえ。」

織田の弱みを見たのか。

内容までは知ろうとは思わねぇけど、誰が誰の弱みを知ってるのかくらいは知ってて損はないな。

「ケンタロウちゃんのエッチな本の隠し場所は、本棚の裏らしいわよ。」

はっ!?

何勝手に人の弱みを言いふらしてんだコイツ!!

「誰が言えっつった!?」

「アラヤダ。知りたいのかな、って思って。」

「簡単に言いふらすなよ…お前の弱みじゃねぇんだぞ。」

「そうねえ。次からは気をつけるわ〜。」

「次からじゃ遅えよ。」

「キャー、ごめ〜ん♡」

「…はあ、なんかお前と一緒にいると疲れるな。そろそろ出て行ってくれないか。」

「えー、サトシちゃんのケチー。」

鈴木…もとい、エカイラは不満そうに俺の部屋を出て行った。

「…なんなんだよ、アイツ…」

 

部屋の外に出ると、全員が弱みを見終わったらしく、みんな部屋の外を歩いていた。

「…まさか、アイツがエカイラだったなんて、誰も思わねぇだろうな。」

「サトにい!!」

後ろからクソガキが話しかけてきた。

「…なんだ。」

「あのね、あーちゃん、サトにいのヒミツ見ちゃったんだ!!」

…何?

俺の弱みを…?

マズいな…コイツ、絶対言いふらすぞ…

「おい、声がデカい。あんまり無闇に人の弱みを…」

「サトにいは中2までバタ足すらできなかったってマジ!!?」

「だから声がデカいっつってんだろ!!もう喋んな!」

ふと目線を上に上げると、射場山が白い目で俺を見ていた。

織田は、俺の事を小馬鹿にしたような目で見ていた。

言っておくがお前の弱みも、人の事をバカにできねぇからな!?

…そしてお前は視線が冷たすぎんだよ、射場山。

チクショウ…俺の印象最悪じゃねぇか。

せっかく高校に上がるまでにはなんとかカナヅチを克服したのによ。

まさかこんな所で黒歴史を掘り起こされるとは思わなかったぞ。

なんて事してくれたんだ、このクソガキ。

「えへへ〜。」

えへへじゃねえよこの野郎…

よくも俺の黒歴史を言いふらしやがって。

ガキだからって、許される事と許されない事とあんだろうが。

お前はもう二度と口を開くな。そうすりゃ全員笑顔だ。

…しかし、この後どうしようか?

こんな状態で、誰かと一緒に行動するなんて、それこそ地獄でしかないんだが。

…とりあえず、人が集まらなさそうな水族館にでも行ってみるか。

 

 

ー水族館ー

 

水族館にある巨大な水槽は、水を入れ替えられて綺麗な状態に戻っていた。

サメも、ここで森万が死んだ事を忘れたかのように、呑気に泳いでいる。

森万羅象なんて人間は、最初から存在しなかったと言わんばかりに、全てが元通りに戻っていた。

「…ん?」

ふとステージを見ると、花束が置かれていた。

多分、床前が置いたんだろう。

…やっぱり、全てが元通り、ってわけにはいかないよな。

「…お前の無念は、絶対に晴らしてやる。」

俺は、そう心に決め、水族館を後にした。

 

その後は、売店に行った。

裁判でゲットしたメダルをマシーンに入れてガチャを回す。

中から、マジック用のコインに万年筆、ゲーム機、そして桜のペンケースが出てきた。

…自分で持ってても使わねぇんだよなぁ。

誰に渡すかな。

 

俺は、その後美術館に向かった。

…さっきの公開処刑の件と言い、やっぱり今は誰とも一緒に行動したくねぇんだよな。

できれば、絵でも見て心を落ち着けたいものだ。

 

 

ー美術館ー

 

…。

なんだこれは。

 

美術館には、絵画や彫刻が展示されていた。

肖像画と銅像以外は、どれも有名な作品の顔をモノクマやモノハムに変えたものだった。

心を落ち着けるどころか、吐き気しか催さない。

…アイツら、どこまで要らない事をすれば気が済むんだ。

「…あ、あの…」

後ろから声が聞こえたので、振り返って確認した。

後ろには、床前がいた。

「…床前か。どうした?」

「…!」

床前は、いきなり泣き出した。

「えっ…おい、どうしたんだよいきなり。俺、何か変な事したか?」

「…いえ、気付いて貰えると思わなかったので…つい…」

声に気付いただけで嬉し泣きするって…どんだけ今まで無視されてきたんだよ。

「おい、わかったからもう泣くなよ。」

「はい…すみません、私…影薄いし…声が小さいから、すぐに忘れられてしまって…こんなにすぐに気付いていただけたのは、初めてで…すごく嬉しくて…つい、感情が溢れ出てしまいました。」

「それは別にいいけどよ…とりあえず、一回落ち着けよ。」

「…はい。わかりました。」

「…よし、じゃあ聞くけど…お前も、ここに暇潰しに来たのか?」

「は、はい…暇潰しでここに来ただけだったんですけど…菊池さんに会えたので、ラッキーでした。」

床前は、嬉しそうに言った。

…そこまでラッキーな事かなぁ。

適当に彷徨いてたら、誰かしらには会うだろ。

…床前も、こんなふざけたゲームに巻き込まれて、心細くなってたって事なのか?

「…あ、そうだ。そういえば、さっきガチャでゲットしたんだけど…」

「はい、なんでしょうか…」

「これ、やるよ。」

俺は、床前にペンケースをプレゼントした。

「…え?いいんですか…?」

「俺が持ってても使わねえし、お前が持ってたほうがいいだろ。」

「…いえ、でも…この前のプレゼントのお礼もまだ出来てないし…」

「そんなのいいから、気に入ったなら受け取ってくれよ。」

「そんな…私なんかより、他の皆さんに…」

「なんだ、要らないのか。気にいると思ったんだけどな…」

「いえ、全然そんな事無いです!すごく嬉しいです!…でも、本当にいいんですか!?」

「お前もしつけぇな。さっきからやるって何回も言ってるだろ。」

「…あ、ありがとうございます…大切に使わせていただきますね…」

「まあ、別にどっちでもいいけど…あれ?この前やったワッペン、つけてるのか。」

「は、はい…最初は汚してしまうのが嫌でなかなかつけられなかったんですけど…これをつけていれば、菊池さんに気付いていただけるかと…」

そこまで言ったところで、床前は急に顔を真っ赤にした。

『しまった』と言いたげな様子だった。

「…気づく?俺、お前の事を無視した事あったっけ?むしろ、他の奴の方が…」

床前は、俺が何もわかってない事に対して、安堵しているようにも、残念に思っているようにも見える表情をした。

…気づくってなんだよ。全く心当たりねえんだけど。

「…そうですか。…えっと、あの…」

床前は、何か言いたそうだった。

…何を言いたいのかは、大体察しがついた。

「…なあ、良かったら一緒に暇潰さないか?この前読んだ本の話でもしてさ。」

床前は、とても嬉しそうな表情をした。

「…は、はい…!私で良ければ…!」

 

それから、俺たちは二人でこの前読んだ本の話や、中学時代の話などをした。

床前は、あまり自分の話はしたがらなかったが、俺の話は面白そうに聴いてくれた。

…普通、俺が話そうとしたら大抵の奴は逃げるぞ?

今思えば、小坊の頃から『妖怪ロンパ小僧』って下級生にあだ名付けられては街中の住民に言いふらされたりしてたっけ。

「…俺の話なんか聞いても、面白くないだろ?なんでそんなに笑ってんだ?」

「…いえ、本当に面白かったので…あの、不快…でしたか?」

「いや、別に全然そんな事は無いんだけど…お前、変わってるな。」

「…そ、そうですか?私は、菊池さんとお話しできて楽しかったですよ…?」

今までそんな事を言われた事がなかったので、逆に調子が狂った。

…いや、別にだからって逃げられんのが嫌じゃないっていうわけではないんだが。

「…ふふっ、菊池さんとこんなに楽しい時間が過ごせるなんて、ラッキーでした。」

「『超高校級の幸運』だけにってか?」

「…。」

床前の顔が暗くなった。

…しまった。つい、軽率な発言をしてしまった。

そうだった。コイツは、自分の『才能』が嫌いなんだった。

「…ごめん。今のはデリカシーなさすぎたな。…大丈夫か?」

「…菊池さん、私の心配なんてなさらないでください…こうなってしまったのは全て、私のせいなんです。」

「なっ…」

「私の『才能』のせいで、皆さんが亡くなったんです…私が幸福になればなるほど、他の皆さんが亡くなっていく…」

「おい、もうやめろ!お前のせいじゃない。自分を責めるな!」

「いいえ、全部私のせいです。私の『才能』は、皆さんを不幸にするんです。…それなのに、本物の『幸運』を手に入れれば人が死ぬってわかっているはずなのに、それでも私は幸せでいたいって思ってしまうんです…!…だから、私みたいな最低な人間は、生き残っちゃいけないんです。…こんな事なら、近藤さんが殺される前に死んでおけばよかった…!」

 

「いい加減にしろ!!」

「!!」

「さっきから聞いてりゃ、全部自分のせいだのみんなを不幸にしているだの好き勝手言いやがって…挙句の果てに、死んでおけばよかっただと!?ふざけんなよ!言っておくけどな、お前が死んだところで、こうなる事は避けられなかったんだよ!」

「でも、私は生きてちゃ…」

「生きてちゃいけねぇ奴なんて、いるわけねぇだろ!それがたとえ殺人鬼でも、人の命を平気で粗末にするバカでもな!」

「私は、生きてるだけで周りを不幸にするんです…!」

「そんなのただの偶然に決まってんだろ!仮にお前の『才能』が本物だったとしても、誰もお前のせいだなんて思ってない!だからもう自分を責めるな!」

「…こんな私でも、幸せになっていいんですか?」

「当たり前だろ!」

「…ありがとうございます。」

床前は、泣きながら微笑んでいた。

「…私、自分の『才能』も、自分の事も嫌いだったんです。でも、あなたのおかげで、少しだけ…生きていたいって思えました。…ありがとうございます。」

「…別に、俺は何もしてねえよ。ただ、これ以上仲間が死ぬのを黙って見ていられなかっただけだ。」

「…ふふっ、私…菊池さんのそういう所がす…」

そこまで言ったところで、床前は顔を真っ赤にした。

「…そういう所が、なんだ?続きを言えよ。」

「な、なんでもないです…!忘れてください…!」

床前は、俺をポカポカと叩いた。

「おい、痛…くはねえけど、やめろよ。っていうか続き話せよ、気になんだろうが!」

「きゃっ!?」

「おわっ!?」

俺が肩を掴むと、床前が急に転んだ。

つられて俺も転んだ。

 

ドサッ

 

俺は、床前に覆い被さる形で倒れた。

「痛って…おい、大丈夫か…」

右手に、柔らかい感触があった。

「…。」

恐る恐る見てみると、俺は右手で床前の胸を掴んでいた。

床前は、顔を真っ赤にしながら涙目で俺を見ている。

俺は、反射的に土下座をした。

「ごめん!!本当にごめん!!ごめんなさい!!」

「…あ、えっと…その…足元を確認しなかった私のせいですから…」

「いえ、全部俺のせいです!!誠に申し訳ございませんでしたァ!!」

俺は、地面に額を擦り付けて全身全霊の土下座をした。

俺とした事が、不可抗力とはいえ女子にセクハラしてしまった。

これじゃあ、織田以下…いや、織田なんかよりよっぽど屑野郎じゃねえか。

俺の額は擦れようとなんて事はないが、床前は、好きでもない男にいきなりこんな事をされて傷ついたに決まっている。

俺が額から血が出る程土下座しても、絶対に許される事じゃない。

「あっ…えっと、菊池さん…もうよしてください。菊池さんは、私のドジに巻き込まれただけで、何も悪くないです…」

なんて優しいんだ床前は。

こんな最低のセクハラ野郎を許すばかりか、庇ってくれるというのか…

天使…いや、女神かこの人は。

 

俺が女神(とこまえ)の慈悲に感動していると、いつの間にか夕食の時間になっていた。

「き、菊池さん…もうそろそろ、行きましょう。」

「…そうだな。」

 

《床前渚の好感度が上がった》

 

 

ーレストランー

 

レストランには、すでにみんな集まっていた。

「あれ?菊池先輩に床前先輩じゃないっスか。珍しい組み合わせっスね。…二人とも、なんかあったっスか?」

「…ああ、いや?別に…」

床前の顔をチラッと見ると、さっきのハプニングが思い出されてしまった。

…柔らかかったなぁ。

ーって、俺はなんて想像をしているんだ!?

女神(とこまえ)に許してもらえた後でこんな想像するとか、それこそ本物の屑じゃねえか!

…クソッ、あまりにも不潔すぎる想像をしてしまった。

もうマトモに床前の顔見れねぇよ…

「…菊池さん、今日は楽しかったです。ありがとうございました。」

床前、お前はなんていい奴なんだ。

…それに比べて俺は…今すぐにでも消えたい。

「アラ?サトシちゃんどうしたの?早く食べないと、冷めちゃうわよ。」

「…ああ、そうだな。…いただきます。」

全員で夕食をとった。

「あー、ねえねえそういえばさ、エカイラって誰なんだろーねー!?」

「この中にいると言う話でしたけれど…」

「ああ、それね。アタシよ。」

…。

…。

…。

…えっ!!?

「…と、いうと?」

「アタシが、元『超高校級の死神』エカイラよ。みんな、これからはアタシの事、『エカイラちゃん』って呼んで構わないわよ♡」

「お前かよ!!?」

玉木と小川と神城の怒涛のツッコミが、レストラン中に響き渡る。

…そりゃそうだ。

いくら隠し通せなくなったからって、いきなり白状する奴があるか。

「…え、ちょっと待ってよ…じゃあ君は,ネットの噂通り殺人鬼なの…?」

「ええ、そうよ。気に入らない人間は、何人も殺してきたわ。あ、もちろん、みんなの事は殺さないわよ?エカイラちゃん、みんなの事大好きだもん♡」

「信用できるか!!」

「まあ、殺人鬼宣言した後で人殺したら真っ先に疑われておしおきされることぐらい、鈴木さんもわかってるだろうし…そこだけは信用してもいいんじゃないかな?」

「や〜ん、アヤカちゃん優しい〜♡アタシ嬉しすぎて泣いちゃう〜♡」

…ダメだ、やっぱりコイツといると疲れる。

 

全員が夕食を食べ終わった後は、みんな話し合っていた。

「ねえねえ、あーちゃんからテーアン!!この後さ、みんなで温泉行こーよ!」

「いいっスねそれ!後で全員で行きましょう!」

「…あ、私行きたいです…。」

「…ん。」

「ふわぁ…」

「フン、私は女神のように寛大だからな!たまにはテメェらのような愚民に合わせてやらんでもない!!」

お前、本当は一緒に行きたかったんだろ。

「うぇすにゃんはー?」

「あー、私はいいかな。あんまり広いお風呂だと逆に落ち着かないんだよね、私。部屋のお風呂に入ろっかな。」

「ふーん。じゃあ、6人で行くぞー!!」

女子は、みんなで温泉に行くのか。

俺も後で行ってみようかな。

 

 

ー温泉ー

 

「おや、菊池さん。こんばんは。」

男湯から、浴衣を着たジェイムズが出てきた。

「こんばんはって…ついさっきまで一緒にレストランにいたけどな。お前は、もう温泉に入ったのか?」

「ええ、お先に上がりました。…私、つい日本式のお風呂に興奮してしまって…走り回っていたら、転んでしまいました。」

ジェイムズは、手当てをした膝を見せた。

風呂上がりのせいか、絆創膏が真っ赤になっている。

「…お前、それ大丈夫なのか…?どう見てもその絆創膏じゃ間に合ってねえだろ。」

「これしか持ち合わせておりませんでしたので…」

「へえ、そうなんだ…」

「菊池さん、ここのお風呂は素晴らしかったですよ!これぞ日本の銭湯、という感じでした!…つい、テンションが上がりすぎて走ってしまうくらいfantasticでした!」

「それは楽しみだな。…でもあんまり風呂場で走らない方がいいと思うぞ。」

「反省しております。えっと…てへぺろ、です。」

反省してねぇじゃねえか。

…今まで勘違いしてたけど、ジェイムズって意外と子供なんだな。

そこへ、何故か風呂敷を顔に巻いて、泥棒のような格好になった織田が、カメラを持ちながら男湯へ入っていった。

「おや、織田さん!どうかなさったのですか?」

「シーッ」

織田は、人差し指を口に当てた。

そして、俺達が黙ると、男湯の方へと手招きした。

「…おい、どうしたんだよ織田。」

「シッ、声が大きいですぞ、菊池氏!」

「お前こそ、そんなヒソヒソ声で何やってんだ?」

「…ムフフ、それは…覗きであります!」

「の、覗きィ!?」

「シーッ!!声が大きいですぞ!」

「ですぞ、じゃねえよ!何しようとしてんだよお前!男としてやっていい事とやっちゃダメな事とあんだろうが!」

「…nozokiですか。日本の漫画で何度か読んだ事がありますが…あれは、日本の文化なのでしょうか?」

「違う!断じて違うぞジェイムズ!だから早まんな!!」

「ムフフ、カークランド氏よ。我が国の事をもっとよく知るいい機会ですぞ。吾輩に協力しなされ!」

何変な事吹き込んでんだ!

お前はもう黙ってろ!

「はい、勉強させて頂きます!」

お前もお前でピュアすぎんだろ!

もう少し疑う心を持て!

「あら。アンタ達何やってんの?」

後ろから、エカイラが話しかけてきた。

「す、鈴木氏!?」

「アラヤダ。もうエカイラちゃんって呼んでもいいって言ったじゃない?」

「…そうですか、では…エカイラちゃんさんも、お風呂に入りに来たのですか?」

「エカイラちゃんさんって!どっかのユ●セフの大使じゃないんだから!普通に呼んで頂戴!…って、話が逸れたわね。ええ、アタシもお風呂に入りに来たのよ。…アンタ達こそ、こんなところでコソコソ何やってんの?」

「…えーっとな、「nozokiです!I am studying Japanese culture(日本の文化を勉強しているところです)!」

「んなぁ!?カークランド氏!?何言いふらしてるんです!」

「…アラ、そういう事なの。…ジェイムズちゃんも、変な事吹き込まれて大変ねぇ。」

「…あれ?怒らねぇのか?」

「うふふ、いいじゃないそういうの。青春っぽくて。アタシも参加させて貰おうかしらん?」

嘘だろ!?

「まあ、エカイラちゃんさんもお仲間ですね!なんだか心強いです!」

「ムフフ、4人集まれば、敵などおりませぬぞ!」

…4人?

いやいや、聞き間違いだろ?

「…おい、まさかとは思うが、俺もパーティーに入れられてたり…なんて事はないよな?」

「何を言っているのでありますか!ここまで付いてきたのです、菊池氏も共犯ですぞ!」

…。

…。

…。

 

う そ で し ょ ?

 

「さあ、そうと決まれば作戦会議よぉ〜!ケンタロウちゃん、何か策はあるの?」

「もちろんであります、付いて来なされ!」

織田は、俺たちを露天風呂の方に引っ張っていった。

「…こんなところに連れてきて、どうするの?」

「ムフフ、この仕切りの向こうは、女湯になっているのであります!隙間からうまく覗けば…」

「これです!これこそが私の求めていた“aoharu”です!」

「…多分違うと思うぞ。」

「うふふ、ここまで来たら、楽しませて貰うわよぉ〜!」

コイツら、平気でこんな犯罪紛いに手を染めやがって…

後でどうなっても知らないぞ…って、俺もそんな事言えない立場だった。

「…くっ、湯気が邪魔であります!…もう少し…」

織田が、竹の仕切りに顔面を押し付ける。

…凄いな、コイツの執念。

「見え…」

 

ズヌッ

 

「!!?ぎゃあああああああああ、ああああああ!!目が、目がぁああああああ!!」

いきなり織田が目を押さえて転げ回った。

「キャアアアアアア!!ケンタロウちゃーん!!」

「織田さん!しっかりして下さい!まだバ●ス言ってませんよ!」

恐る恐る仕切りの隙間を見ると、射場山が鬼のような形相でこちらを睨んでいた。

よく見ると、人差し指をこちらに向けている。

その瞬間、織田が何をされたのかを全て理解した。

「ああん、もうバレちゃったわ!ここは退散よ!」

「えええ!?もう行くんですか!?まだaoharu出来てません!」

「今はそれどころじゃないわ!ほら二人とも、急い…で…」

エカイラが振り向くと、そこには玉木がいた。

「…なあ、お前ら何やってんだ?」

玉木は、笑顔で話しかけてきた。

「え、えーと…夜風を浴びに…」

「全部見てたぞ。…もう一度聞くぞ。…ここで何してた?」

玉木は、笑顔で一歩ずつ近づいてくる。

だがその笑顔には、怒気が宿っていた。

「…な、なあ玉木…俺たち親友だろ?…は、話せばわかるって…」

 

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

ーレストランー

 

俺たち三人は、主に玉木と射場山にボコボコにされたのち、キツい説教を喰らった。

「…最低。」

「やっぱサトにいはハンザイシャヨビグンだったんだー!!」

「ふわぁ…みんな変態ですぅ。」

「ホント、何考えてるんスかね…」

「ケッ、テメェらよくも私の神聖な体を見ようとしやがったな!?この罰当たり供が!!」

「…あ、えっと…」

「…お前ら、これに懲りて二度とやるなよ。」

「はい…すいません…もう二度としません…」

「ね…ネバーギブアップ…で…ありま…す…」

「アララ、完膚無きまでにボコられちゃったわね〜。」

エカイラは、あれだけ殴られたにもかかわらず、ヘラヘラしていた。

…よくこんな状況で笑えるよな。

コイツのメンタルは鋼鉄で出来てんのか?

「あの、玉木さん、射場山さん…皆さんはただ、aoharuしようと…」

「また変な事吹き込まれて…」

「…反省しろ。」

ポコンッ

「Ouch.」

玉木は、ジェイムズの頭に軽くゲンコツを入れた。

…え?それだけ?

お前ら、なんでジェイムズには甘いんだよ!?

年下だからか?天然だからか?それとも両方か!?

クソッ、理不尽すぎんだろ!

乗り気じゃなかった俺でさえ散々な目に遭ったのによ…

「え?何?みんなどうしたの?」

猫西が、レストランに入ってきた。

「こ、猫西氏!?」

「実は、かくかくしかじかで…」

玉木が、事情を全部説明した。

「…君たちさ、いい加減にしなよ。マジで。」

…呆れられてしまった。

 

 

ー個室ー

 

なんか、今日はエカイラの件といい、ハプニングや覗きの件といい、どっと疲れたな…

今日はもう寝るか。

 



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第3章(非)日常編③

合宿生活11日目。

…昨日のキズがまだ癒えない。

今日も、7時ちょうどになると、モノハムの不快な声が部屋中に鳴り響く。

俺はいつも通り朝の支度を済ませ、レストランに向かった。

 

 

ーレストランー

 

レストランでは、射場山が朝食を作っていた。

射場山は俺を汚物を見るような目で見た。

…いや、本当に悪かったって。

そもそも、俺は巻き込まれただけだし。

だからその目本当にやめて?

そんなこんなで、全員が集まった。

「わーい、朝ごはーん!!」

「今日は射場山さんの手料理?楽しみ!」

俺たちが席に座ったところで、射場山が朝食の皿を机の上に置いた。

「…え?」

なぜか、俺と織田とエカイラの皿だけには、クッキー一枚だけしか乗っていなかった。

「あのー…射場山さん?これは一体どういう…」

「…別に。変態達のために調理をするのが癪だっただけ。」

「い、射場山氏…まさか昨日の事を根に持って…」

「…。」

射場山は、ムスッとした顔をしていた。

「いやいやいや!だからって流石にこれはないでしょ!いい加減許して貰えないのアタシ達は!?」

「い、射場山さん…流石にこれはやりすぎでは…?」

「…じゃあ何?あんたは、コイツらのした事忘れたわけ?」

「そ、それは…」

「ねえねえ、面白そうだから、3日くらいご飯抜きにしてあげたら?」

お前は何を言ってるんだこのクソガキ!

「いいなそれ!!ふはははは!!せいぜい私を楽しませろ愚民共!!」

「ふわぁ…調理する手間が省けますぅ。」

神城さん、リタさん。あなた達まで、俺達に死ねと言うのですね?

「…なあ、お前ら。俺の分分けてやるから、もうあんな事すんなよ。」

玉木が、自分の朝食を俺達に分け与えてくれた。

「…た、玉木…!」

「私の分も差し上げます。どうやら私は、aoharuがしたいが為に最低な行為に手を染めてしまっていたようなので…私も、皆さんの事は責められません。」

なんか、自分は俺達とは違うみたいな言い方してんのが少し腹立つけど…

ジェイムズなりの気遣いと言うことなのか?

「そうっスね。流石にちょっとかわいそうになってきたっス。自分の分もあげるっスよ。」

「わ…私も…」

「しょうがないなぁ、私も分けてあげるよ。」

「…ああ、ありがとう。」

「うふふ、ありがと♡」

「有り難き幸せ…!」

「おいおい、お前ら。あげすぎだぞ。三人だけ多くなっちまったじゃねえかよ。」

「え。じゃあちょっと返して。」

クソガキが、どさくさに紛れて俺の分を取ろうとした。

「何が『返して』だよ。お前からは一口ももらってねぇんだけど。」

「ギクッ…ふーんだ、サトにいのドケチー!!」

何開き直ってんだコイツは。

本当に『ギクッ』って言う奴初めて見たぞ。

 

全員が朝食を食べ終わった。

玉木達が少し分けてくれたおかげで、腹は満たせた。

…この後は自由時間か。

俺はまず売店に向かった。

 

 

ー売店ー

 

持っているコインをマシーンに入れ、ガチャを引いた。

今回は、ガムが出てきた。見たところ、ミント味らしい。

俺は食わねぇし…誰かにあげるか。

…さてと、次はどこ行くかな…

 

 

『超高校級の超能力者』の個室

 

「…悪いな。ちょっと入るぞ森万。」

部屋は、俺がこの前入った時とあまり変わらなかった。

…だが、やっぱりアイツがいないと広く感じる。

「…ごめんな。何もしてやれなくて。安らかに眠れよ。」

俺は、机の上にコインを置いた。

「…ん?」

机の引き出しが少し開いており、中に手紙のようなものが入っているのに気がついた。

「これは…」

俺は、手紙を引き出しから取り出して読んでみた。

 

…う。

手紙は書きかけで、全部英語で書かれていた。

それも、ところどころスペルや文法を間違えている。

これ…もしかして森万が書いたのか?

…一体何のために?

手紙の下の方を見ると、宛名と思われる文字が書かれていた。

「…えっと…」

かろうじて、ジェイムズ・ドイル=カークランドと書きたかったのだろうな、というのは理解できた。

友達の名前のスペルくらい正しく書けよ…

「…あ。」

手紙から視線を離すと、机に和英辞典が置いてあるのに気がついた。

…コイツ、ジェイムズに手紙を書こうとしてたのか。

「あれ?」

手紙の束に、何か挟まっていた。

見たところ、写真らしい。

何枚か挟まっているようだ。

「…?」

一枚ずつ見てみた。

どれも、森万とジェイムズが一緒に写っている写真だった。

だが、一枚だけ違和感のある写真があった。

そこには、三人の少年が写っていた。

一人は森万、二人目はジェイムズ、そして三人目はなぜか俺だった。

「…俺?」

俺は、コイツらと一緒に写真を撮った事は一回も無い。

明らかに、俺の記憶とは矛盾する写真だ。

…そういえば、この前も変な写真を見たな。

 

『…ここに来てから、実はかなり経ってたりして。』

 

…いや、まさか。ありえねぇだろ。

 

『有り得ない、なんて事は有り得ないよ。』

 

「…え?」

なんだ、今のは…

今、頭の中で何か聞こえた気が…

いや、でも…俺は、こんな声聞いたことないはず…

…じゃあ、今のは一体…?

 

俺は、手紙と写真を持ち出して、森万の部屋を後にした。

「…さて。この後はどうするかな。」

俺はまず暇潰しに図書館に行ってみた。

 

 

ー図書館ー

 

「…本でも読むか。」

俺は適当に本を手に取って、椅子に座ろうとした。

「…あ。」

「ふわぁ。」

既に先客がいたようだ。

リタは眠そうにこっちを見た。

「お前もここで暇潰ししてんのか?」

「そんなとこですぅ。」

「そっか。…ここ座ってもいいか?」

「どーぞぉ。」

リタの許可が下りたので、椅子に座った。

「…。」

座って前を見ると、リタが船を漕ぎ始めた。

「…おい!!」

「はっ!…また寝ちゃうところでしたぁ。あんまり寝すぎるとおしおきされちゃいますぅ。」

「…ったく、気をつけろよ。」

俺たちは、図書館で小一時間ほど本を読んだ。

「…。」

「おい、起きろ!」

「はっ!…すいましぇん。」

…何回目だよこのやりとり。

そこへ、モノクマがやってきた。

『やっほー!!オマエラ、こんな所で何イチャイチャしてんの?いやあ、お熱いですねぇ!ヒューヒュー!』

「してねぇし。っていうか、図書館内は私語厳禁だぞ。静かにできないなら出て行け。」

『うわっ!辛辣!そしてド正論!!ボク泣いちゃうよ!?』

「勝手に泣け。…そんな事より、本題に入れ。」

『そうでした。ボクは、アンカーソンサンに注意しに来たのです!』

「ふわぁ…なんですかぁ?」

『キミの場合、わざと寝てるわけじゃないから特別に見逃してあげてるけど、あんまりやり過ぎるとそろそろおしおきしちゃうよ!裁判中も危なかったから、くれぐれも気をつけてよね!』

「ふわぁ…気をつけますぅ。」

『うぷぷ…それじゃあ、楽しいコロシアイ合宿を!』

そう言うとモノクマは陽気に去っていった。

「…ふわぁ、寝ないようにって…どうすればいいんでしょうかね…。」

「…ガムでも噛んでればいいんじゃねえか?」

俺は、持っていたガムをリタにあげた。

「ふわぁ…これで寝ちゃわなくていいですね。ありがとうごじゃいましゅぅ…」

リタは、ガムを受け取ると口に放り込んだ。

「…。なんか、これあんまり好きじゃないですぅ。」

リタは、眉間に皺を寄せて言った。

…ああ、なるほど…ミント味が嫌だったのか。

「でもそれ噛んでれば目が覚めるだろ。」

「…まあ、それはそうですけど…なんか口の中が気持ち悪いですぅ。」

「居眠りするよかいいだろ。」

「…ふわぁ、そうなんですけど…」

「あっ、いけね。そろそろ昼飯の時間だ。おい、行くぞ。」

「ふわぁい。」

 

《リタ・アンカーソンの好感度が上がった》

 

 

ーレストランー

 

レストランに行くと、小川と猫西が昼食を作っていた。

「サトにいの席無いもんねー!」

クソガキが、席を二つ占領していた。

「おい、座れねえだろ。どけよ。」

「やだよーだ!!なんでサトにいのためにわざわざどいてあげなきゃいけないワケ?マヂイミフー!地べたにでも座ればいいでしょー!?」

流石にイラッとしたので、黙って椅子を一つ引き抜き、そのまま座った。

「にゃあああ!何すんだよー!!いきなりイス引き抜くとかヒキョーだぞー!あーちゃんの100不可思議年に一度のベリーキュートな体にアザができたらどうすんの!?世界中の人類が泣いて自殺すんぞ!」

「するか。勝手に人の席を占領するな。」

「ふーんだ、サトにいのスカポンタン!」

誰がスカポンタンだ。

人の席を占領しといて、そんな事言える立場か。

「二人とも、ケンカはダメっスよ。」

小川は、昼食を持って厨房から出てきた。

「…悪い。気をつけるよ。」

「まあ悪いのは5億%サトにいだけど、あーちゃんは優しいから許す事も考えてあげなくはないよ!」

良くて考える止まりかよ。

っていうか、ほとんどお前が悪いだろ。

…あーあ、飯の前に気分を害されちまった。

「先輩、食事の前にそんな顔するのはよくないっスよ。」

「…ああ、悪い。」

…マジか。

俺、そんなに不快そうな顔してたか…?

 

 

飯を食べ終わった後、ちょうど12時になった。

全員が部屋に戻り、動機を確認する。

…今日は、誰の弱みを見る事になるんだ?

 

 

【超高校級の演奏家】小川詩音サンの弱み

 

『超高校級の演奏家』小川詩音サンは、『超高校級の演奏家』として希望ヶ峰学園に進学するはずだった弟切(オトギリ)魅音(ミオン)サンの代わりにスカウトされた生徒です!

 

 

 

…え?

小川が…『超高校級の演奏家』の…代理?

一体、どういう事だ…?

 

秘密を見終わった後、俺は小川に話しかけた。

「…なあ、小川。ちょっといいか?」

「はい、何スか先輩?」

「そうだな…動機に関する話だから、出来れば人目のつかないところで話したいんだが。」

「だったら、自分の部屋に来るっスか?あ、でも、猫西先輩達に見つからないようにしないとっスね。」

「なんで猫西に見つかるとマズいんだ?」

「…。」

小川は、ありえない物を見るような目で俺を見た。

なんなんだよ一体。

「…一緒に話しますから、ついてきてくださいよ。」

「ああ、わかった。」

俺は、小川の部屋に行った。

 

 

『超高校級の演奏家』の個室

 

「…それで、話ってなんスか先輩?」

「ああ、実は俺…さっきお前の弱みを見たんだ。」

「自分の弱みっスか。…何が書いてあったんスか?」

「えっと…確か、お前は『超高校級の演奏家』として入学するはずだった生徒の代わりだって…どういう事だ?」

それを聞いた瞬間、小川は少し驚いたような顔をした。

『なんで知ってるんだ』と言いたげな表情だった。

「…そうっスか。そんな事が書いてあったっスか。」

「…本当なのか?」

「ええ。本当っスよ。本来なら、弟切魅音っていう、自分の友達だった子が入学するはずだったんスよ。」

「友達…?」

「そうっス。自分が通ってた中学校は、数多くの著名なミュージシャンを輩出してきた音楽の名門校なんスよ。自分も、そこで努力を重ねて、中3の時には音楽の成績で、学年で2番目まで上り詰めたっス。でも、どうしても超えられない壁があったんス。」

「…まさか。」

「ええ。自分の学年でのトップはいつも弟切さんだったっス。弟切さんは美人で頭も良くて、楽器演奏の天才で、いつもみんなの憧れの的だったっス。自分にはただでさえ演奏しか取り柄がないのに、それでさえ弟切さんには勝てなかったっス。」

「…ソイツが、俺たちの同級生になるはずだったのか?」

「ええ。自分は弟切さんの事を尊敬してましたんで、弟切さんが希望ヶ峰にスカウトされた時は、『やっぱりすごいな』って思いましたね。彼女は、自分の一番尊敬する親友だったっス。」

「…()()()?」

「…殺されたんスよ。以前から彼女に付き纏っていたストーカーに。」

「えっ…」

「いきなり乱暴されて、顔もわからないくらいメッタ刺しにされて、山奥に捨てられていたらしいっス。…自分は、弟切さんが殺されてしまって、とても悲しかったっス。でもそれ以上に、弟切さんの未来が、自分の知らないどこかの誰かに台無しにされたのが何よりも許せなかったっス。」

「…。」

「そして、さらに許しがたい事が起こったっス。弟切さんが殺されたニュースが流れた次の日、自分のところに希望ヶ峰からの入学通知が届いたっス。」

「…。」

「…自分は、もちろん弟切さんの『代わり』としてスカウトされた事に納得してなかったっスけど…それよりも、自分の親友が、無くなったらすぐに代わりを用意されるような消耗品扱いされた事が許せなかったっス。…これが、自分が抱えていた弱みっスよ。」

「…。」

小川の口から真実が告げられた。

あまりにも理不尽で残酷な真実に、俺は言葉が出なくなっていた。

本来『超高校級の演奏家』として入学するはずだった弟切魅音は小川の中学校時代の親友だった事、その親友がどこぞの馬の骨に呆気なく殺されて今はもういない事、そして小川は亡き親友の代わりとして希望ヶ峰学園にスカウトされた事…

これが、小川が誰にも言えない弱みだというのか…

「…だから、自分は決めたっス。希望ヶ峰で弟切さんの分まで才能を磨いて、いつか自分を『代わり』としてスカウトした学園を見返してやろうって。」

「…小川、お前は…」

「ああ、別に今は落ち込んでないっスよ。弟切さんの身に起こった事は絶対に忘れないし、今でも許せないって思ってるっスけど…それを今くよくよ悩んでたって、仕方ないっス。それより今は、ここからみんなで出るために頑張らなきゃっスよ!」

小川は、さっきまでの暗い表情を一瞬で笑顔に塗り替え、ガッツポーズをしながら元気よく言った。

「…強いな、お前は。」

「えへへ、そんな事ないっスよ。…ただ、平気なフリしてないと心が保たないだけっス。…近藤先輩や郷間先輩、森万先輩があんな事になった時も、自分は何もできなかったっス。むしろ、ああいう時冷静にみんなを導ける菊池先輩の方が強いと思うっスよ。」

「そんな事ねぇよ。」

俺だって、強いわけでも、冷静だったわけでもない。

ただ、死にたくないって気持ちが、3人が死んじまったショックに勝っちまっただけだ。

もしこんな糞ゲーに巻き込まれなかったら、今頃学園で肩を並べながら笑い合っていた仲だったかもしれなかったのに。

クロだった狗上や速瀬とも、もしかしたら友達になれたかもしれなかったのに。

…今となっては、そんな事を考えても仕方ないが。

「あー、やめやめ!この話はもうやめましょう!いつまでも落ち込んでちゃダメっス!みんなで頑張って、ここを出るっスよ!!」

小川は今までの話を全て無かった事にして、元気よく拳を前に突き出しながら言った。

…いいなあ、小川は。

俺は、そんなに前向きになれねぇよ。

…おっと、またマイナス思考になっちまったな。

俺の悪い癖だ。

いい加減直さないとな。

 

ゾワッ

 

「!!!」

「?どうしたんスか先輩?」

「…いや、ちょっと寒気が…」

「もしかして、この部屋寒いっスか?暖房つけましょうか?」

「いや、もう大丈夫だ。ありがとう。」

「…?そうっスか。」

「じゃあ、俺はこの辺で…色々話してくれてありがとな。」

「いえいえ!こちらこそ、抱えていたものを吐き出せてスッキリしたっス!また色々話しましょうね。…あ、猫西先輩達がいないところで。誤解されちゃうっスからね〜。」

「だから、なんで猫西に気を遣う必要があんだよ。関係ないだろ。」

「…はー、先輩はホントダメっスね!女心をまるでわかってないっス!」

「いや、そう言われても…俺は男だしな…」

「そういう所っス!そんなんだから今まで女の子にモテなかったんじゃないんスか!?」

「…うっ。い、今はそれ関係ねぇだろうが!!」

急に痛いところを突いてきたな、コイツ。

「はいはい、じゃあ夕食の時にまた会いましょう。」

「…そうだな。じゃ、また後でな。」

俺は、小川の部屋を後にした。

…また、あの殺気を感じた。

一体誰が、何のために俺を殺そうとしてるんだ…?

「…夕食までまだ少し時間があるな。」

部屋に入ろうとした、その時だった。

 

「うおっ!?」

 

ドアに、花が挟んであった。

見たところ、黒い薔薇らしい。

造花のようだが、花びらが真っ黒であまりにも不気味だ。

「…なんでこんな物がこんなところに?」

わざわざ丁寧に挟んであるという事は、誰かが意図的に置いて行ったんだろうな。

…何か意味があったりするのか?

俺は、花を手に取って、部屋のゴミ箱に放り込んだ。

「…気持ち悪い。」

夕食の時間になるまで、部屋で本を読んで時間を潰した。

 

《小川詩音の好感度が上がった》

 

…そろそろ飯の時間だし、レストラン行くか。

 

 

ーレストランー

 

レストランでは、床前と玉木が飯の準備をしていた。

織田と猫西は、食事の準備を手伝いながら楽しそうに話している。

…やっぱり、コイツらデキてんじゃねえのか?

クッソ、うらやましいなオイ。

「サトにいー!!邪魔だどけーい!!とうっ!!」

「ぐほぁ!!」

クソガキが、いきなり後ろからドロップキックを仕掛けてきやがった。

「痛ってぇ…何すんだこのクソガキ!」

「クソガキって誰の事?あーちゃんはピチピチのフィフティーンだっつーの!!」

「15歳はいきなり人にドロップキック仕掛けたりしねぇよ…お前、本当にいい加減にしろよ…!」

「おい、モブ!!通行の邪魔だ!!そんな所で寝てると踏み潰すぞ!!」

「ぐはぁっ!!」

今度は神城に蹴られた。

…もう、俺の心と身体はボロボロだよ。

「菊池くん、大丈夫?」

猫西は、俺を心配して駆けつけてきた。

「…ああ、なんとかな。」

「…ねえ、今日も顔色悪いみたいだけど、大丈夫?」

「別になんともねぇよ。」

「そっか、なんか困った事とかあったら言ってね。いつでも相談に乗るよ。」

天使か?天使通り越して神なのかお前は?

「…ああ、ありがとう。」

「えへへ…」

猫西は、わかりやすく照れた。

いや、そんなに嬉しいのかよ。

「うぇすにゃん、あんまりサトにいを甘やかすとバカが感染るぞー!!」

誰がバカだコラ。

 

そんなこんなで、全員が集まって夕食を食べた。

シンプルな和食だったが、普通に美味しかった。

全員が夕食を食べ終わり、小川とエカイラが二人で皿洗いをした。

…さて、夜時間まで時間がある事だし、誰と話そうか?

「…あの、菊池さん。少々お時間宜しいですか?」

ジェイムズが小声で話しかけてきた。

「おう、ジェイムズか。どうした?」

「…菊池さんと、どうしてもお話しておきたい事があるのです。動機に関わる事ですので、場所を変えたいのですが。」

「…動機か。なら、少し場所を変えた方が良さそうだな。どこがいいか?」

「宜しければ、私のお部屋にいらして下さい。お話は、そこで。」

…俺にどうしても話したい事って何だ?

まあ、俺も渡したい物があるし…丁度良いと言えば丁度良いんだが。

俺は、ジェイムズの部屋に向かった。

 

 

『超高校級の大学教授』の個室

 

「…で?話って何だよ、ジェイムズ。」

「菊池さん、今日は貴方の弱みがしおりに届きました。」

「俺の…弱み?」

「はい。このしおりによると、菊池さんは中学生の頃は全く泳げなかったそうなのですが…本当ですか?」

…くっ。

なんで2回も記憶の奥底に葬り去った黒歴史を掘り起こされなきゃなんないんだ。

「…本当だよ。バカにされんのが嫌で、中3の時に猛特訓して、なんとか50mは泳げるようにまでなったんだがな。」

「そうなのですか。」

「…それで?俺に話って、それだけか?」

「あ、いえ。私だけ菊池さんの弱みを知ってしまっている状態では不公平だと思います故、私の弱みをお話しする為に貴方を呼び出した次第です。」

「お前の弱み…?」

「私は昨日、自分の弱みを見ました。…何故学園長がそれを知っているのか、という内容でしたが。」

…やっぱり、みんなそうなのか。

そういや、俺が泳げなかった事も、誰にも言ってないはずだしな。

「自分から話してくれるんならありがたいな。…話してくれるか?」

「…はい。私、ジェイムズ・D=カークランドの弱みは…」

 

「希望ヶ峰学園への進学を決意した真の目的は家出だ、という事です。」

…え?

家出?

「家出って…どういう事だ一体?」

「我がカークランド家は、約800年前から続く伯爵一家で、作家や音楽家から軍人までありとあらゆる著名人を輩出してきた一族なのですが、その当主となる者には、幼い頃から帝王学やテーブルマナー等を徹底的に叩き込まれ、代々受け継がれてきた当主としての人生を送る事を余儀なくされます。私の父も、その一人でした。」

「…へえ、それで?」

「私が当主の最有力候補なのです。私の兄は病弱で寝たきりですし、弟もまだ幼く…あとは全員女兄弟ですので。」

「…お前、一体何人兄弟いんだよ。」

「兄一人姉三人、あと弟と妹が一人ずつです。」

多いな。某暗殺者一家かよ。

「なるほどな…お前は、当主になりたくなくて逃げてきたってわけか。」

「まあ、そうなりますね。だって、窮屈じゃないですか。15歳になったら強制的に当主にさせられて、16歳になったら親が決めた相手と結婚させられるんですよ?そんなの嫌ですよ!」

「まあそうだな…ところで、相手はもう決まってんのか?」

「ええ、まあ。その方には何度かお会いした事があるのですが、私はあまり好きにはなれませんでした。」

「…と、言うと?」

「何というか…重い、って言ったら良いのでしょうか?私の事を愛して下さっていますし、悪い方ではないのですが…彼女と居ると、私が疲れてしまいます。嫌いとかそういう事では無いのですけれど…」

なるほどな。だいぶオブラートに包んで言ってるけど、要はタイプじゃなかったって事か。

「…その相手と結婚するのが嫌で逃げてきたのか?」

「そうです。私は、愛の無い結婚なんて嫌です!もっとaoharuしたいです!だから日本まで逃げてきたんですよ!」

「まあ…確かにな。レールを敷かれた人生ほど退屈なものは無いな。」

「そう思いますよね?本当に、あんな仕来りどうかしてますよ!」

「…だったらいっその事、お前が当主になって、ルールを変えちまえばいいんじゃねえの?」

「…!!」

ジェイムズは、驚いた顔をしていた。

「…どうした?」

「…その手が有りましたか。私とした事が、一生の不覚…!」

…そこに気付かなかったのか。

コイツ、意外とアホなんじゃないか?

「…そうだ、ジェイムズ。」

「…はい、なんでしょうか?」

「お前に渡したいものがある。」

俺は、森万の手紙を渡した。

「…この字は、ヨロズの…」

ジェイムズは、手紙を手に取ると、じっくりと読み始めた。

そして、読み終わった時には、目から涙が溢れ出ていた。

「…本当に、人の気持ちも考えないで…勝手な方ですよ。あの方は。…ヨロズ。貴方とは、コロシアイ等という巫山戯たゲームの無い世界で、きちんとした形でお友達になりたかった…そうすれば、もっと二人で楽しい事が出来た筈なのに。…どうしてこんな事に…!」

ジェイムズは、手紙に大粒の涙を垂らしながら泣いていた。

しばらくして、ジェイムズは泣き止んだかと思うと、俺の目を見て言った。

「…菊池さん。ありがとうございました。貴方のお陰で、ヨロズの伝えたかった事を知る事が出来ました。…決めました。私は、彼の為にも、ここから生きて脱出してみせます。勿論、他の皆様も一緒にです。…その為には、貴方の御力が必要です。私に、力をお貸し下さい。」

ジェイムズは、右手の手袋を外すと、右手を前に出した。

「…もちろんだ。俺も、みんなで一緒にここから出たいと思ってる。協力させてくれ。」

俺は、ジェイムズの手を力強く握った。

何故だか、絶対に諦めないという思いが、心の底から湧き上がってきた。

 

「…ありがとな。じゃあ話は済んだようだし…そろそろ部屋に戻るよ。」

「はい。また明日お会いしましょう。おやすみなさい。」

俺は、ジェイムズの部屋を出ようとした。

「…あ。」

俺は、ふとジェイムズに聞きたかった事を思い出した。

「菊池さん?どうかなさいましたか?」

「…あ、いや…お前さ、黒い薔薇の花言葉って知ってるか?」

「黒い薔薇…?なぜそれを急に?」

「あ、いや…ちょっと気になってな。知ってれば教えて欲しいんだけど。」

「…あー、すみません。以前調べた事があったのですが、忘れてしまいました。また今度調べておきますね。」

「そっか、お前も知らないならしょうがないか。…ごめんな、変な事聞いちまって。」

「いえ…こちらこそ、お役に立てず申し訳ございません。」

「いや、もういいよ。明日調べてみるから。…じゃあ、また明日な。」

「はい、おやすみなさい。」

俺はジェイムズの部屋を後にした。

…あの薔薇は、一体どういう意図で置かれたんだ…?

クッソ、そういう知識は全然ねぇからな。

…今悩んでも仕方ない。明日考えるか。

俺は、部屋に戻って、シャワーを浴びた後ベッドに入った。

 

《ジェイムズ・D=カークランドの好感度が上がった》

 

 

 

 


 

「…申し訳ございません、菊池さん。申し上げない方が身の為だと判断し、私は敢えて存じ上げないと嘘を吐きました。この言葉を知ってしまえば、きっと貴方は後悔なさるでしょう。」

 

 

 

 

 

 

 

「黒い薔薇の花言葉は、『あくまであなたは私のもの』です。菊池さん、呉々も気を付けて下さいね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




弟切魅音の名前の由来は、言うまでもなくひぐらしです。
弟切という苗字は、弟切草(花言葉:秘密)からきてます。


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第3章(非)日常編④

2月22日は理嘉ちゃんの誕生日です!
理嘉ちゃんハピバ!!


合宿生活12日目。

今日も朝っぱらからモノクマの不愉快なダミ声が部屋中に響き渡った。

…毎日毎日ローテーションでフルボリュームの放送かけやがって、うるせぇんだよアイツら。少しは生徒の鼓膜の心配もしたらどうだ。

…って、怒っても仕方ないか。

さてと。レストランにでも行くか。

俺は、朝の支度を簡単に済ませ、レストランに向かった。

 

 

ーレストランー

 

「アラ、サトシちゃんいらっしゃい。」

厨房では、エカイラが朝食を作っていた。

…またマニアックな料理を作る気か?

「おはよウルトラ美少女あーちゃん参上!!」

「い゛っ!!?」

クソガキがレストランの中に駆け込み、テーブルの上に飛び乗ろうとした。

 

ゴツンッ

「にゃぶっ!!」

厨房からお玉が飛んできて、クソガキの額に勢いよく当たった。

「ぶにゃっ!!」

クソガキは、そのまま地面に落ちた。

「にゃううー…痛いなぁー!全く、誰だよ!お玉なんて投げたの!あーちゃんのマウナ・ケア山並みにベリーキュートなおでこにアザが残ったらどうすんだボケ!!」

「コラァ!土足でテーブルに乗るんじゃないわよ!!」

厨房から、エカイラが怒りながら出てきた。

「さ、さくらちゃん!?」

「もうエカイラちゃんでいいって言ったでしょ?って!そんな事言いに来たんじゃ無いわよ!!アンタ、何土足でテーブルに飛び乗ろうとしてたの!?殴るわよ!?」

「まだ飛び乗ってねーぢゃん!!『殴るわよ』って、もう殴ってんぢゃん!!」

飛び乗る寸前だったから防いだんだろ。

「ほら、ふざけてないで朝ごはんの準備手伝いなさいよ!」

「あーあ、全く…天使遣い荒いよね!エカイラちゃんは!」

なんで自分で自分を天使って言ってるんだ。

「…おい、この皿はここでいいのか?」

「ちょっとちょっと!なんでそこに置くワケ!?普通ここでしょお!?バカなの!?死ぬの!?」

エカイラは、俺から皿を奪い取ると、別の場所に置き直した。

「ね!?こっちの方が見栄えが良く見えるでしょ?」

「いやわかんねぇよ。」

俺が朝食の準備を手伝っていると、みんな集まってきた。

「おっす、おはようお前ら。」

「おう、おはよう玉木。」

「おはよう、菊池君、あーちゃん、伏木野さん。」

「おはようっス先輩方。」

「お、おはようございます…」

「ムフフ、いい朝ですね!」

「おはようございます!皆さん!」

「ふわぁ…まだ眠いですぅ。」

「…ん。」

「はーっはっは!!おいテメェら!!この私が来てやったぞ!さっさと跪け豚共!!」

「…神城さんは朝から元気だねぇ。」

「…よし、準備は大方終わったな。じゃあ全員集まった事だし、食うか。」

「そうっスね。」

「おい、ちょっと待て。今日の朝食の当番は誰だ?」

「アタシよ。」

「はあああああああ!!?おい、ふざけんな!オカマテメェ殺人鬼なんだろ!?まさかとは思うが、毒とか盛ってんじゃねぇだろうなぁ!?」

「ど、どどど毒ですと!?」

「…織田君、ビビり過ぎだよ。」

「ちょっと!まさか、アタシの事疑ってるワケ!?」

「当たり前だろうが!!逆に、こんな逃げ場のねぇ所に殺人鬼がいるってのに、一緒にワイワイやってる方がおかしいだろーがよ!!」

「…まあ、それは否めないっスね。」

「酷いわ!みんなしてアタシを疑って!失礼しちゃうわプンプン!」

エカイラは、乙女チックな口調とは裏腹に、指をボキボキと鳴らしながらドス黒い殺気を放っている。

…完全に、これは人を殺るヤツの目だ。

そこへ、玉木とジェイムズが仲裁に入った。

「おい、お前らやめろよ!エカイラはそんな事しねぇよ!!」

「皆さん、一旦落ち着きましょう。…大丈夫です、エカイラちゃんさんは、恐らく何もしていません。」

「カツトシちゃん、ジェイムズちゃん!」

「おい帽子!一体何の根拠があってそんな事ほざいてんだ!あまり私を愚弄するようなら、タマだけ抉り取って帰国させんぞ!!」

「神城先輩、下品だからやめてくださいよ…」

「別に貴方の言う事を頭ごなしに否定する訳ではありません。ですが考えてみて下さい、神城さん。もし、仮にエカイラちゃんさんが初めから私達を殺す気で紛れ込んだなら、とっくに何かしている筈です。…皆さんも、一度エカイラちゃんさんを信じてみては?」

「…そうだね。カークランド君の言う通りだよ。伏木野さんの正体がわかったからって、今更警戒するのもおかしな話だよ。」

「フン、貴様ら愚民の分際で、ここまで私に楯突くとはいい度胸じゃねえか!…だが、そういうバカは嫌いじゃねぇ。特別に、貴様らの意見を採用してやろう!!ほら、私に感謝し、崇め、そして媚びろ!!この私の女神の様な寛大さに、感激の涙を流してもいいんだぞ貴様ら!!」

神城は、大人しく席に座った。

…案外素直なんだなコイツ。

そんなこんなで俺たちは各自席に座り、エカイラが作った朝食を食べた。

…悔しいが、エカイラの飯は美味かった。

いちいちドヤ顔すんなよムカつくな。

 

全員が朝食を食べ終わると、自由時間になった。

…さてと、まずはどこに行くかな。

「サトにいー!!」

後ろから、クソガキに勢いよく押された。

「うわっ!?」

「暇だ!!構え!!」

…そんなに堂々と言う事じゃねぇだろ。

もっと遠慮がちに言えよ。

「…急に構えって言われてもな。」

「じゃあ、あーちゃんのゲボクになるか、あーちゃんのドレーになるか、選ばせてやる!あーちゃんは優しいからね!」

それ実質一択だろ。

「そんな生意気な口利くなら、遊んでやんねぇぞ。お前の為に割いてやる時間なんてコンマ1秒もねぇんだ。」

「ふーんだ!!サトにいのドケチ!!エロガッパ!!もういいもんね!サトにいがナギねえにエッチな事したの、みんなに言いふらしちゃうから!!」

はっ!?

「じゃあね、ハンザイシャヨビグンさーん!それじゃあトンズラスタコラサッサ〜!」

「おい、待てコラ!」

「ほえ?何だよサトにい!!さてはオメーストーカーだろ!?ケーサツにゆっちゃうぞ!」

「うるせぇ!そんな事より、なんでお前がその事知ってんだよ!」

「え?ホントにしてたの?」

「えっ…?」

「うっわー!!ホントにしてたんだー!!さすがハンザイシャだねー!!引くわー!」

…えっと、俺…もしかして今、カマかけられた?

うっっっわ!!クッソ、やられた!!

俺とした事が、こんなクソガキに嵌められるとは…!

「ねえねえ、サトにい。この事をみんなにバラされたくなかったら、どうすればいいのかな?)

「くっ…一緒に遊ばせてくださいお願いします!」

「うんうん、いい子いい子。特別に、君をあーちゃんの遊び相手に任命してしんぜよう!」

 

ふ ざ け ん な

 

…っていうか、前にもこんなパターン無かったか?

「さーて、じゃあサトにい!遊園地に行くぞ!」

俺は、クソガキに引っ張られて無理矢理遊園地に連れて行かれた。

 

 

ー遊園地ー

 

「じゃあまずは、ジェットコースターに乗るぞ!」

…嘘だろ?

アレに乗るのか?

いや、だって途中レールが無ぇし、高さが普通のヤツの3倍はあるぞ。

…あんなの、普通建設規定に引っかかるだろ。

あんなの乗ったら気絶どころじゃ済まないぞ?

クソガキは、俺の袖を引っ張って、ジェットコースターの列に並んだ。

…列に並んだっつっても、前にいるのはモノクマとモノハムのバカップルだけだけど。

『怖くなったらいつでもボクにしがみつきな。』

『や〜ん、モノクマキュンイケメンでちゅ〜♡』

…見てて吐き気しかしない茶番を延々と見させられた。

なんでコイツらこんないらん事しかしないんだ?

「おい、サトにい!次だぞ!」

クソガキは、どんどん前に進んでいく。

そこへ、ヘルメットを被ったモノクマが現れた。

『やっほー!オマエラ、モノモノランドの絶望コースター、楽しんでいってね!』

…なんだその客ウケ悪そうな名前。

『えーと?二名様でよろしいですか?』

「…おい、ちょっと待て。俺は…」

「うん!いいよー!早く出発させてー!」

クソガキは、俺の意見などお構い無しにジェットコースターに飛び乗った。

「おい、勝手に乗るんじゃ…」

『早く乗って!出発できないでしょ!』

「うっ!?」

いきなりモノクマに尻を蹴られ、無理矢理ジェットコースターに乗せられた。

『じゃあ安全レバー装着しまーす!』

モノクマは、コースターのレバーを下げた。

 

ガチャン

 

「おい、ちょっと待て。乗るなんて一言も言ってねぇぞ。これ早く外せ!おい!」

『うぷぷ…それじゃ、行ってらっしゃーい!』

「おい、俺の話を聞け…」

俺が言い終わらないうちに、ジェットコースターが勢いよく発車した。

そして…

「…ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

コースターがいきなり急降下した。

身体が浮き上がるような感覚を覚え、今朝食った物が全部出そうになった。

それから後の記憶は、あまり無い。

 

「…あー、死ぬかと思った…」

俺は、ふらつきながらコースターから降り、その場に倒れ込んだ。

「…きゃはは!あー、楽しかった!…あれ?サトにいどうしたの?そんなマリアナ海溝に突き落とされて、そのままエアーズロックの上で干物にされたゾンビみたいな顔して。」

どんな顔面だ。

お前のせいで、寿命が10年縮んだぞ。

「じゃあ次はアレだ!!」

クソガキは、フリーフォールを指差した。

「…マジすか。」

俺は、また三途の川を見るのか。

もういい加減にしてくれ。

俺の身体が全力で危険信号を出している。

これ以上は本当に命が保たん。

っていうか、なんでお前はそんなに元気なんだよ。

 

結局、その後3つくらいアトラクションに乗せられた。

その度に俺は綺麗な川を見ては意識を失った。

…逆に、ここまで生きていられたのが奇跡なんじゃないかって思う。

そんな危険なアトラクションを連続で体験したにもかかわらず、クソガキは平気な顔をしてドタドタと走り回っていた。

「あー、楽しかった!!サトにい、あーちゃんと遊べて楽しかったか!?」

「…ええ、そりゃあもう。」

「じゃあ、またヒマになったら構えよな!」

クソガキは、俺を置いて遊園地を出て行った。

…なんなんだアイツは。

 

《アリスの好感度が上がった》

 

…さてと、クソガキから解放された事だし、次はどこに行こうか?

「…あ。」

俺は、ガチャで万年筆をゲットしたのを思い出した。

「…速瀬の部屋に行くか。」

 

 

『超高校級の秘書』の個室

 

速瀬の個室は、前とほとんど変わらなかった。

…だが、何故か前より広く感じる。

ついこの前まで、生きていたはずなのに。

このソファーに座りながら、昔話をしてくれたのに。

速瀬が居ない。

もう、アイツはこの世の何処にも存在していない。

「…速瀬、ゆっくり休めよ。」

俺は、内ポケットから万年筆を取り出して、机の上に置いた。

「…あ。」

机の上に、アルバムが置いてあった。

「悪いな速瀬。ちょっと見るぞ。」

俺は、アルバムを開いた。

アルバムには、幼い頃の速瀬の写真が挟んであった。

速瀬の家族も一緒に写っている。

どれも、無邪気な笑みを浮かべた速瀬の、幸せそうな写真だった。

…なんだよ、感情が無いって言ってたけど、ちゃんと笑えてるじゃねえかよ。

「…速瀬、もしみんなでここを出られたら、お前が守りたかったものは俺たちが救ってやる。だから、安心して眠れ。」

なんとしてでも、今生き残っているみんなでここを出る。

そして、今まで死んでしまったみんなの分まで、俺たちで大切な人達を守るんだ。

俺は決意を固め、アルバムを閉じようとした。

「…あ、いけねぇ。」

うっかりアルバムから写真を落としてしまった。

「…あ。」

俺は、落ちた写真を見た。

そこには、5人の高校生が写っていた。

一人は速瀬、一人は森万だった。

だが、残りの三人は、俺が全く知らない三人だった。

どうやら、地図のようなものを作成している速瀬の前で、森万が手品を披露し、それを女子生徒二人が驚きながら見ている写真らしい。

そして、もう一人の男子生徒は、速瀬に茶を淹れてやっているようだ。

「…あれ?」

何故か、男子生徒の顔にだけは見覚えがあった。

「なんか…この顔、どっかで見た事あるんだよな…どこだったかな?」

思い出そうとしても、頭に靄がかかって思い出せない。

「ん…?」

写真の裏に、何か書いてあった。

 

 

速瀬ちゃんへ

タカヒロより

 

 

…なんだこれ?

タカヒロ…?

もしかして、この男子生徒の名前か?

一体、この写真はなんなんだ…?

 

『有り得ない、なんて事は有り得ないよ。』

 

…まただ。

また、頭の中で声が響いた。

こんな台詞を、どこかで聞いた事あったか…?

じゃあこの『声』は一体…?

記憶に矛盾する写真といい、まだわからない事だらけだ。

モノクマは、残り3人になったら話すと言っていたが、そんなのを待つくらいなら、俺たちが謎を解き明かしてやる。

俺は、アルバムを机の上に戻し、速瀬の部屋を出た。

「…腹、減ったな。」

そういえば、もう昼飯の時間だ。

今日の昼飯はなんだ?

楽しみだな。

 

 

ーレストランー

 

厨房では、射場山と小川が昼食を作っていた。

「小川、何作ってんだ?」

「蕎麦と出汁巻き玉子っスよ。」

…おおう。これはまた美味そうな。

「俺も手伝うよ。」

「…。」

射場山が俺を睨んだ。

…厨房にすら入れて貰えないのか俺は。

「わーいお昼ごはーん!!え、今日はおそば!?やったー!」

「ふわぁ…おそば、ですかぁ。ちょっと…」

「…あ、成程。」

リタは、少し嫌そうな顔をしていた。

…蕎麦嫌いなのかな。

ジェイムズは、なんでリタが嫌がってんのか知ってるっぽいけど。

そんなこんなで、全員が集まって席に座った。

「いただきます。」

ズゾゾゾゾ…

蕎麦をすすり始めた途端…

 

Be quiet(静かにして)‼︎」

 

リタは、今まで聞いた事無いくらい大きな声で叫んだ。

「…アラ?リタちゃん?どうしたの?」

リタは、不機嫌そうに俺の方を睨んできた。

え?俺何か変な事したか?

「…ああ、皆さん、知らない方もいらっしゃるかと思いますが…実は、欧米諸国では麺を啜るという行為は、マナー違反なんですよ。彼女は、それで不愉快に感じたようです。」

ジェイムズが、リタの言いたい事を代弁してくれた。

…ああ、なんだ。そう言う事だったのか。

まあ、何が良くて何がマナー違反かは、国によって違うよな。

「あ、そうだったんスか。だったら別のメニューにすれば良かったっスね。」

「…なんかごめんなさぁい。でも、ちょっと耐えられないですぅ…」

「あ、じゃあこうすればいいんじゃない?」

猫西が、ティッシュで耳栓を作ってリタに渡した。

「これで、音を気にせずに食べられるでしょ?」

「ああ…なるほど、猫西は頭いいですね。」

「いや、それ程でも…」

リタは、耳栓を耳に詰めた。

「あ、これで大丈夫ですぅ。」

…どうやら、周りの音が聞こえなくなったらしい。

ああ、やっと食える。

俺なんか、麺を麺つゆの中に落としたまま呆然としてたから、すっかり伸びちまってるよ。

こうして、全員が昼食を食べ始めた。

 

 

昼食が終わった後は、12時になるまで部屋で待機していた。

 

ヴーッ

 

ちょうど12時になり、動機が送られてきた。

俺は、恐る恐る動機を見た。

…今日は、誰の弱みだ?

 

 

 

 

 

【超高校級のサッカー選手】玉木勝利クンの弱み

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利クンは、人を殺した事があります!

 

 

 

…え?

 

そんな、嘘だ。

玉木が、人を…殺した?

いや、違う。そんな訳ない。

アイツが、人を殺す訳がない。

きっと何かの間違いだ。

 

ピンポーン

 

インターホンが聞こえたので、ドアを開けた。

そこには、玉木がいた。

「玉木…?どうしたんだ一体。」

「…ああ、今日はお前の弱みを見ちまってな。…だから、その事について二人で話そうと思ったんだけど…」

「そうか、そういう事なら俺の部屋で話そう。」

俺は、玉木を部屋に入れた。

玉木に本当の事を聞くなら今しかない。

…でも、本当に聞いていいのか?

「…それで?俺の弱みを見たって言ったよな。」

「ああ。お前が、中学までカナヅチだったっていう内容だった。…本当なのか?」

「ああ、本当だよ。恥ずかしい事にな。」

「あはは、人には誰にでも秘密の一つや二つあるし、そこまで恥ずかしがる事ないだろ。」

「まあ、そうだけどよ。」

「…だって、お前の弱みなんて、まだ可愛いもんじゃねえか。」

え。

まさか、玉木は本当に人を殺した事があるとでもいうのか…?

いや、そんなはずはない。

俺はいてもたってもいられなくなり、ついには思い切って聞いてしまった。

「…なあ、玉木。」

「おう、なんだ菊池?」

「実は俺、お前の弱みを見たんだ。」

「…へえ、奇遇だな。…なんて書いてあった?」

「お前が人を殺した事があるって。…本当なのか?」

「…!」

玉木はやはり、『なんで知っているんだ』と言いたげな顔をした。

玉木はゆっくりと俯くと、か細い声で言った。

「…ああ。本当だよ。俺は、中学の頃親友を殺した。」

「えっ…」

「…でも、俺が直接手にかけたわけじゃない。厳密に言えば、殺したというよりは、親友が死ぬ原因を作っちまったんだ。」

「それって…」

「…今から順を追って話す。…俺には、小学校の頃からの親友がいたんだ。ソイツは、ちょっと抜けた所があってお調子者だったけど、いつも明るくて、俺を笑わせてくれてたんだ。中学に上がってからは、ソイツが引っ越して学校は別々になったけど、手紙とか電話とかで連絡取り合って今まで通り仲良くやってたんだ。…あの時までは。」

「あの時…?」

「ソイツ、いじめられてたんだよ。同じ部活の先輩にな。でも、俺はその話を信じられなくて…だから、『一度その先輩と話し合ってみたらどうだ』って電話でアドバイスしたんだ。…そしたら次の日の夜、電話がかかってきたんだ。」

「…電話?」

「…『今までありがとう』。たったそれだけだった。…その一言が、俺が聞いたアイツの最後の言葉になっちまったんだ。」

「まさか…」

「…次の日の朝、家で死んでたんだよ。聞いた話によると、部屋で首を吊って自殺したらしい。」

「そんな…」

玉木の口からは、信じがたい真実が語られた。

俺は、なんて言葉を返せばいいのかわからなかった。

「アイツは、俺のアドバイス通り、先輩に話をしに行ったんだ。そしたら、こっぴどくいじめられて…それで、自殺を決意したらしい。…俺が余計な事を言わなければ、アイツは死ななかったかもしれないのに。アイツは、俺のせいで死んだんだ。俺が、アイツを殺したんだ。」

「それは違うぞ。」

「…え?」

「お前がそんな事を言わなきゃ、その友達が死ななかったかどうかなんて、今となっちゃ誰にもわからない。…結局、死ぬ事を選んだのはソイツだろ。お前は何も悪くねぇよ。」

「…菊池、俺…わかんねぇんだよ!なんでアイツが死ななきゃならなかったのか…!」

「玉木、…友達の事は、残念だったな。…けど今は、その友達のためにも、お前が生きなきゃダメだろ。」

「菊池…お前…」

「生きて、みんなでここを出るんだよ。その友達には、その後で謝ればいい。今すべき事を考えろ。お前が、今までそうしてきたように。」

「…そうだな。悪い、今のは完全に俺らしくなかったな。」

「全くだよ。お前は、俺達のリーダーだろ?しっかりしてくれよ。」

「リーダーって…お前が勝手に決めたんだろ?」

「いや、他のみんなも、みんなお前がリーダーだと思ってるけど?」

「…マジかよ。あはは、そりゃあこんな所で死ねねえよな。…わかったよ、菊池。俺は、生きてここを出るよ。もちろん、お前も一緒にな。…力を貸してくれるか?」

「ああ、もちろん。」

俺達はお互いに笑い合いながらハイタッチをした。

「あー、なんか話したらスッキリしたわ。ありがとな、菊池。」

「それはお互い様だろ?こっちこそ、お前と話ができて良かったよ。…また、二人で話しような。」

「ああ、楽しみにしてる。」

玉木は、俺の部屋を出た。

…そういえば、合宿生活がスタートしてから一番初めに話をしたのは玉木だったな。

俺が今一番仲良いのも、アイツだしな。

アイツといると、絶対に全員で生きてここを出たいっていう強い思いみたいなものが湧き出てくるんだよな。

…これが、希望ってヤツなのかな。

 

《玉木勝利の好感度が上がった》

 

玉木と話した後は、展望台に行ってみた。

「…探索の時以来だな。確か、ここから眺める景色が絶景なんだよな。」

俺は、展望台に登った。

 

 

ー展望台頂上ー

 

「…うわ、結構高いな。」

「あれ?菊池君?」

ベンチに座っていた猫西が、話しかけてきた。

「…猫西、お前ここにいたのか。」

「うん。ここからの景色が綺麗でさ。ほら、夕方の時間帯って、ちょうどここから夕焼けが見られるでしょ?」

「…そうだな。方角的には…ここから見るのが一番よく見えそうだな。」

「でしょ?…ねえ、せっかくだし、ちょっとお話しようよ。」

「…そうだな。」

俺は、ベンチに腰掛けた。

すると、猫西がいきなり俺の右手を握ってきた。

「なっ…」

「えへへ、温かい?」

猫西の手は、思ったより柔らかくて温かかった。

つい、手を強く握り返してしまった。

「…あれ?意外と積極的じゃん。」

猫西がニヤニヤしながら言った。

「うるせぇな!ってか、お前は織田と付き合ってんじゃねえのかよ!?俺とこんな事してていいのか?」

「え?織田君とは付き合ってないよ?」

「…へ?」

「織田君とは、ゲームとかアニメとかの話で盛り上がってただけだよ。織田君そういうの詳しいから、一緒に話してて楽しいんだよね。…変態だけど。」

「へえ…」

あれ?なんで俺は安心してんだ?

…あ、カップルがまだ誕生してなかったからか。

織田にだけは先越されたくなかったもんな。

「あ、そうだ猫西。」

「なあに菊池君?」

「お前にプレゼントしたい物があるんだ。」

「え!?なになに?」

「…お前なら、気にいるんじゃないかと思ってな。良かったら使ってくれ。」

俺は、ゲーム機をプレゼントした。

「え?私に?」

「そうだ。お前、ゲームとか好きだろ?」

「うん、すごく嬉しい!ありがとう!」

猫西は、満面の笑みを浮かべた。

…コイツ、やっぱり可愛いな。

って、俺は何オッサンみたいな事考えてんだ。

「あ、これ対戦できるよ。ねえ菊池君。一緒にやろうよ。」

猫西は、俺にゲーム機を差し出した。

…たまには息抜きも大事かもな。

「おう、勝負だ、猫西!」

こうして俺達はゲームで対決をした。

 

 

ー3時間後ー

 

「喰らえ!!論・破・砲!!」

「フフン、甘いよ菊池君!」

「何っ!?フェイントだと!?」

「トドメだよ!喰らえ、百花繚乱拳!!」

「じゅ、16連打だとぉう!?…え、ちょっと待って、もう俺のライフが…」

「えいっ☆」

「ぐはぁっ!!」

「えへへ、これでまた私の勝ちだね!」

「くっ、お前強すぎんだろ!ちょっとは手加減しろよ!」

「あはは、菊池君。君がそれを言うのはどうなの?」

「うっ…」

結局、30回くらい勝負したけど、一回も勝てなかった。

さすがは『超高校級の実況者』だな。ゲームの腕はプロゲーマー級だ。

「菊池君、今日はありがとう!とっても楽しかったよ。」

「あ、ああ。俺も、お前とゲームできて楽しかったよ。」

ボロクソに負かされたけどな。

「あのさ。」

「?なんだ。」

「えっと…また、一緒にゲームしたりとか、お話したりとかしようね?」

「ああ、待ってろ!次やる時までに、腕上げとくからな!」

「あはは、楽しみにしてるよ。」

「…おっと、そろそろ飯の時間だな。」

「えっ、もうそんな時間!?急がなきゃ!」

俺たちは、急いでレストランに向かった。

 

《猫西理嘉の好感度が上がった》

 

 

ーレストランー

 

「ごめんお待たせ〜!」

「あー、うぇすにゃんやっときたー!!」

「悪い、待たせた。」

「別にサトにいの事は待ってないし。外で女郎グモ食べてろ!」

うるせえクソガキ。

「お二人共、食事の準備は出来ていますよ。早くお席にお座り下さい。」

今日の食事当番は、ジェイムズとリタか。

…ほう、今日はビーフストロガノフか。美味そうだな。

「では、皆さんお揃いのようですので、そろそろ頂きましょう。」

「そうだな、いただきます。」

俺達は、ジェイムズ達が作った夕食を食べた。

今日の夕食も、とても美味かった。

これは明日も楽しみだな。

 

全員が食事を終えた後は、自由時間になった。

…さてと、風呂入りに行くか。

俺は、銭湯に向かった。

 

 

ー銭湯ー

 

「…なんだ、やっぱり先客がいたか。」

籠に衣服が入っていた。

既にエカイラが入っていたようだ。

俺は、脱いだ服を籠の中に入れ、露天風呂に行った。

 

 

ー露天風呂ー

 

「夜風が気持ちいいな…」

「アラ、サトシちゃんいらっしゃい。」

既に風呂に入っていたエカイラが話しかけてきた。

「うふふ…ねえ、二人っきりね。」

「…気色の悪い事言うな。」

「アラヤダ冷たいわねぇ。せっかくだし、仲良くしましょうよぉ〜!」

エカイラは、身体をくねらせながら俺にべったりとくっついてきた。

「おい、やめろよ。俺にそっちの趣味はないぞ。」

「アラヤダ、サトシちゃんったらツンデレなのね〜!大丈夫よ、優しくしてあげるから♡さあ、新しい扉を開きましょぉおお〜!!」

「ぎゃあああああ!!来んな来んな来んな!!一生開きたくないわそんな扉!!」

「うふふ、待て待て〜♡」

「待ちませーん!!」

俺は、その後もエカイラと地獄のような鬼ごっこを続けた。

危うく襲われそうになったが、なんとか貞操は死守した。

疲れを取るために風呂に来たってのに、逆に疲れたぞ。

その後は、部屋に戻ってベッドに入った。

…全く、散々な一日だった。

 

 



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第3章(非)日常編⑤

合宿生活13日目。

今日もいつも通り、モノハムの不快なモーニングコールで起こさた。

アイツら、毎日毎日ホントいい加減にしろよ。

朝っぱらから気色悪い放送かけやがって、そろそろストレスで精神病むぞ。

俺は、身支度を済ませてレストランに向かった。

 

 

ーレストランー

 

…最悪だ。

なんでよりによってアイツしかいないんだ。

「おっすサトにい!!今日もあーちゃんのイータカリーナ星雲並のスーパー美少女っぷりに癒されに来たのか!?でも、あーちゃんスマイルは有料だぞ!残念だったな!このエロガッパめ!」

別に金払ってまで見るもんじゃねえし。

いちいちムカつくガキだな。

「…おい、まさかとは思うが、今日はお前が朝飯作んのか?」

「あったり前じゃーん!見てろサトにい!男はみんなあーちゃんのまな板ショーに釘付けだぞ☆」

その言い方卑猥に聞こえるからやめろ。

「さーてと、じゃああーちゃんのカンタンクッキングの時間だよ!目玉ひん剥いてその目に焼きつけるんだぞ!」

クソガキは、包丁を両手に持って振り回し始めた。

危なっかしすぎて目を離せない。

…もう別の意味で釘付けだよ。

「まずは一品目!」

クソガキは、生米を碗の中に入れると、その上に思いっきり生卵を叩きつけた。

…おい、ちょっと待て。まさか、これって…

「はいできた!!あーちゃんシェフ特製の地中海風卵かけごはんだよ!」

は!?

おい、どこが地中海風なんだよ!

簡単クッキングにも程があんだろうが!

あと生米はねぇわ!せめて炊けよ!!

人間の食い物を作る気あんのかコイツ!!

「じゃあお次は二品目〜♪」

クソガキは、鍋の中に水と鍋の素を入れ、さらに板チョコとフランスパンを入れて混ぜ始めた。

頼む。もうやめてくれ。

「はい完成!あーちゃんシェフ特製の地中海風アホスープ!」

絶対地中海風って付ければいいと思ってんだろコイツ。

もうどう見てもアホスープじゃなくて阿保スープだろ。

「はい続けて三品目〜!」

…ああ、この地獄は一体いつまで続くんだろうか。

だが、案外それはすぐに終わりを迎えた。

「…え。」

厨房の奥の部屋から、食材を持った床前が出てきた。

厨房での惨劇を目の当たりにした床前は、顔面蒼白で、その場に立ち尽くしていた。

「床前…?お前、ずっとそこにいたのか?」

「あっ、き…菊池さん…えっと、そうです。…皆さんの朝ご飯を作ろうと思って、食材を取りに行ったのですが…どうやらアリスさんに、私の事を忘れられてしまったみたいで…厨房に戻ろうとしたら、既に使われてて…アリスさんには、一緒にお料理するように言ったんですけど…」

何?このクソガキ、床前の事を忘れてやがったのか。

「おいコラアリス!!」

「にゃああ!?うるさいぞサトにい!!あーちゃんの、クレオパトラもシットするエレガントなコマクが破れたらどうしてくれんの!?」

「そんなの知った事か!それよりお前、床前の事忘れてたんだろ?」

「…はっ!!」

クソガキは、急に思い出したような表情をした。

…コイツ、本当に忘れてやがったのか。

「はっ、じゃねえだろ!早く床前に謝れよ!床前がかわいそうだろうが!」

「き、菊池さん…もういいです…私の存在感が無いのが悪いんです。」

「良くねぇだろ!お前、何度も何度も忘れられて、悔しくないのかよ!?」

「…えっと、でも…」

「でもじゃねえ!自分の事を忘れられてんだから、怒っていいんだよ!…お前は、もっと自分に正直になれよ!」

「…自分に、正直に…?」

「そうだよ。みんなに無視されたら、不満をぶつけてみろ。そしたら、何か変わるかもしんねぇぞ。」

「…わ、わかりました。やってみます…」

「うっわ!なーにが『もっと自分に正直になれよ』だ!くっさ!!一週間履き古した靴下にクサヤとシュールストレミングブチ込んでピータンの汁に5度漬けしたんじゃないかってゆーくらいくっさいわ!!」

どんだけ臭いのかが絶望的に分かりにくい。

…っていうか、厨房で食欲失せるような事言うな。

「おい、まだ床前に謝ってないだろ。早く謝れ。」

「あ、そうだったそうだった。ナギねえ、ごみーんに☆」

「…あ、えっと…もう気にしてませんから…それより、早く朝ご飯作らないと…」

「じゃあ、俺はこのガキ見張ってるから、床前は朝飯作っててくれよな。」

「あ、おいコラ何してんだサトにい!!まだあーちゃんのカンタンクッキング終わってないんだけど!おい、聞いてんのかこのヘンタイ!アンポンタン!潰れアンパン!!」

「黙れ。いいから来い。」

俺は、クソガキを厨房から引きずり出した。

 

しばらくして、みんながレストランに来た。

「おはよう、お前ら。お、今日の当番は床前か。」

「あーちゃんもいるぞ!」

「…アンタ何もしてないじゃない。」

「…あまりにも危なっかしいから、俺がクビにした。」

「ああ、なるほど…っていうか、サトシちゃんも人の事言えないわよ?」

「…うっ。」

そうだった。そういえば俺も、アリスの事をバカにできないレベルのメシマズだった。

「み、皆さん…朝ご飯の準備ができました…」

「よし、じゃあ全員揃ってるみたいだし、朝飯にするか。」

全員で床前の作った朝食を食べた。

薄味だったが、普通に美味かった。

 

朝食が終わった後は、自由時間となった。

…動機が配られるまでは暇だし、売店にでも行くか。

 

 

ー売店ー

 

売店は、相変わらず品揃えが豊富だった。

ふと、右手の商品棚が視界に入ったので、近くにあった箱を手に取ってみた。

箱には、『極薄!モノクマ印の0.01mm!』と書かれていた。

…見てはいけないものを見てしまった。

俺は、箱を静かに元あった場所に戻した。

…うん、俺は何も見なかった。そういう事にしておこう。

俺がその場を立ち去ろうとすると…

「おい、モブ!」

「ひっ!?」

目の前に、神城が立ちはだかった。

「こ、神城…」

「様をつけろ!言われなきゃわかんねぇのかこの愚民が!!」

「…神城様。こんなところで、一体何の用で?」

「フン、愚民には分からんだろうな!!私は、薬の材料を取りにきたんだよ!!」

「薬…?一体、なんの…」

「決まってんだろうが!このクソみてぇな状況をパーッと忘れさせてくれるクスリだよ!!」

…は?

おい、それってドラッグじゃないのか?

「おい、まさかクスリに逃げる気か!?そんなのダメに決まってんだろ!!」

「はぁ?テメェ何言ってんだ?まさか、この私がシャブに逃げるとでも思ってたのか!?ハッ、だとしたらテメェの脳ミソの出来はアリ以下だな!!」

「…違うのか?」

「…フン、睡眠薬だよ睡眠薬。愚民があんなグロい死に方した後じゃ、ロクに快眠出来ねぇからな。オマケに、直前に体験した事を一時的に忘れさせる効果が出るように調合しようと思って、その材料を探しに来たんだよ。」

…神城の買い物カゴには、大量の薬の材料が入っていた。

どう見ても、1人分の薬を作る量じゃない。

…もしかして、コイツ…みんなの分も作ろうとしてるのか?

みんなの心が壊れないように、コイツなりに色々考えてるんだな。

「あぁ!?何見てんだよ。このエキストラが!!」

「…いや、別に。ただ、張り切ってるなって…」

「フン、愚民が軽々しく口を開いてんじゃねえ!!それ以上薄汚い目と口を開くようなら、爪と肉の間にプレパラートブチ込むぞ!!」

恐ろしいな。

コイツの事はあまり刺激しない方が良さそうだ。

「…おい、愚民。今日は私は機嫌がいい。特別に、私が薬を作る所を間近で見せてやろう!!今すぐ診療所に来い!!」

「いや、でも俺は…」

「なんだ貴様。まさかとは思うが、モブキャラの分際で、この私の誘いを断ろうなんざ考えてんじゃあねえよなぁ!?私が来いっつったら来るんだよ!わかったかモブ!!」

「…はい。」

「よろしい。じゃあついて来い。この私の世紀の大発明をその目に焼き付けられる事をありがたく思うんだな!」

「…は、はあ…」

俺は、神城の薬の調合を間近で見ることになった。

 

 

ー診療所ー

 

「…うわ。」

診療所は、完全に神城好みにカスタマイズされていた。

…こんな所に過激なプレイの道具置くなよ。

一体、誰に使う気だ…?

「よし、じゃあ早速神の儀式を始めるぞ!!」

神城は、近くにあった椅子に座ると、早速薬の調合を始めた。

正確かつスピーディーに、薬の材料を混ぜていく。

「どうだ私の神の手捌きは!!」

「…さ、さすがですね。」

「ふははははははは!!いいぞ!!もっと褒め称えろ!!この私に跪け!!そして媚びろ!!神である私を崇め、酔いしれろォ!!ふははははははははははは!!!」

神城は、無駄口を叩きながらも、1ミリの狂いもなく材料を混ぜる。

喋っててよく手元狂わないよな。

「あ、あの…」

「なんだモブ。くだらねぇ事なら言わなくていいぞ。神は愚問が嫌いなんだ。」

「…神城様の才能って、外科医でしたよね…薬剤師の才能もあったんですか?」

「はっはっははははは!!当たり前だろうが!!この私を誰だと思っていやがる!!全知全能の神、神城黒羽様だぞ!!図が高いわ愚民風情が!!」

よく恥ずかしげもなく自分の事を神だなんて言えるな。

…だが、どうやらその全知全能の神様でも、モラルと国語力には恵まれなかったようだな。

「おいモブ!!」

「は、はいなんでしょうか?」

「…なんか、ちょっとモチベ折れそう。なんかおもしろい事やれ。ほら、早く。」

は!?

何急に無茶振りしてくれてんのコイツ!!

っていうかそんな事してる暇があるなら薬の調合に集中しろよ!

…あ、ダメだ。コイツ、メチャクチャ器用だから会話してても手元狂わないんだった。

「どうした?早くやれ。」

「…では、謎かけを…ええと、希望ヶ峰学園とかけまして、砂糖とときます。…その心は、どちらも『てんさい』が多いです。」

「つまらん。0点。」

えぇ…

「このポンコツがァ!!」

ゴッ

「ぐほぁッ!!」

神城は、近くに置いてあったロウソク立てで俺の頭を殴った。

…どうやらこの神様は、鈍器選びのセンスには非常に恵まれたようだ。

「よし、できたぞ。見ろ!!これぞ、神の薬だ!!名前は…そうだな、クレハミンXとでも名付けるか!!どうだ私の作ったクレハミンXは!!ふははははははは!!」

まだ使ってもいないのに感想を求められたんだが。

「…え、えーっと…」

ゴッ

「い゛ッ!!?」

いきなり神城に殴られた。

「な、なんで…」

「…プッ、あっははははははは!!!ダッセェ!!チョーウケるんですけど!!あ、ヤベ…ツボに入った…ブフッ…あははははははは!!!」

俺の醜態がツボに入ったらしい。

神城は、腹を抱えて転げ回りながら大爆笑していた。

…もしかして俺、気分で殴られた?

「ヒィ、ヒィィ…ちょっと待って…超腹痛てェ…ぷくくっ…ふふっふふふふっはははははははは!!」

いつまで笑ってんだコイツ。

「はー、こんなに笑ったの久々だわ。愚民のくせに私を笑わせるなんて、大したヤツだな!芸人の才能あるぞ貴様!」

「は、はあ…どうも。」

さっきの謎かけは酷評だったけどな。

もうお前のツボがわかんねぇよ。

 

ゾワッ

 

「!!!…誰だ!?」

またあの殺気を感じた。

俺は即座に振り向いたが、後ろには誰もいなかった。

「なんだ?どうしたモブ。誰もいねぇじゃねえかよ。…さてはテメェラリってんだろ?」

「いや…ただ、ちょっと寒気を感じて…後ろに誰かいるんじゃないかと思ったんですけど…」

「なんだそういう事か。…寒気に効く薬を出してやろうか?フン、どうしても薬が欲しいなら、跪いて地面に顔面を擦り付けろ!!そうしたら薬を出す事を検討してやらん事もないぞ!!」

「…え、遠慮しときます。」

「はぁあ!?なんだテメェ!!エキストラの分際で、神である私に逆らう気か!!もしテメェがその気なら、タマ引きちぎってホルマリン漬けにすんぞ!!」

じゃあどうすればいいんだよ。

俺に逃げ場は無いのかよ。

「お、俺急用ができたんで…それじゃあ!」

「あっ、テメェ待てコラ!!誰が逃すかよ!!」

『でちゅー!』

そこへ、モノハムがやってきた。

「んなっ…またテメェか!!齧歯類の分際で何の用だ!!」

『ぴきゃきゃ、菊池様と神城様が、面白ちょうな遊びをちてたので、オイラもまぢぇてもらいに来たのでちゅ!』

「遊びだぁ!?テメェに付き合ってる時間はねぇんだよ!!」

『神城様とかけて、忌み数とときまちゅ!ちょの心は!?』

「はぁ!?なんだそのわけわかんねぇ質問!!」

…忌み数?確か、4とか9とか不吉とされててよく飛ばされる数字だよな。

…あ、わかったかもしれない。…でも、絶対言ったら神城に殺されるから黙っておこう。

「綿埃の分際で気安く私の名を口にするな!!」

ああ、モノハムの言いたい事がわかる気がする。

『おやおや?もちかちて、わからないんでちゅか?』

「ンなわけねぇだろ!!バカかテメェは!!私は全知全能の神だからな。もちろん答えはわかってはいるが、即答したら貴様がかわいそうだから、あえて言わないでやってんだよ!!どうしても答えを言いたいなら、さっさと言ってみろ!!」

この口ぶりは、絶対答えわかってないと思う。

『ぴきゃきゃ、ちょの心は、どちらも『間』が抜けている…ちゅまり、マヌケでちゅ!ぴっきゃっきゃ!』

あーあ、言っちゃったよ。

「んなっ…!貴様、綿埃の分際で…今、この私をマヌケと言ったのか…?…ブッ潰す!!ギッタギタに切り刻んで家畜の餌にしてやる!!」

コイツ、煽り耐性なさすぎだろ。

『あわわわ!?教頭への暴力はルール違反でちゅよ!?』

「うるせぇ!!神を愚弄した事を後悔させてやる!!」

神城は、怒り狂ってモノハムを追いかけ回した。

…モノハム、珍しくグッジョブ!

そのまま神城を煽っててくれ、俺はそのスキに逃げる!

俺は、診療所から全力疾走して逃げ出した。

 

《神城黒羽の好感度が上がった》

 

 

ーレストランー

 

ああ、神城のせいでエラい目に遭った。

レストランに駆け込むと、中では猫西と織田が何かやっていた。

机の上にノートを広げて二人で何か描き込んでいる。

「ここは、こういう感じで…」

「むむっ、なるほど…さすが猫西氏であります!」

「お前ら、何やってんだ?」

「あ、菊池君。今ね、織田君と一緒に、アニメのコンセプト考えてたんだよ。」

「コンセプト…?お前ら、もしかしてアニメ作るのか?」

「ご名答であります!!実は先日猫西氏と、ここから無事に出られたら、アニメを共同制作しようという話になりましてな!」

「へえ…今どんな感じになってるのか、ちょっと見ていいか?」

俺がノートを見ようとすると、織田が取り上げた。

「菊池氏!!けしからんですぞ!!完成してからのお楽しみであります!」

「…そ、そうなのか。悪い。」

「菊池君、完成したら見せてあげるから。だから、なんとしてでも全員で生きてここを出ないとね!」

猫西が俺の手を取り、笑顔で言った。

「…ああ!」

「お、お二人共!!吾輩を忘れるなど言語道断でありますぞ!!」

「あ、ごめんね。…ほら、織田君も一緒に!」

「なっ、猫西氏…!そんな大胆な…!」

猫西は織田の手を取り、三人で手を重ね合った。

織田は、何かブツブツ言っている。

「うへへへへへへへ…猫西氏の手…柔らかくてスベスベしておりますなぁ。」

気色悪っ。

あと手つきがいやらしいぞお前。

猫西、お前もそんなに満面の笑み浮かべてないで、嫌なら嫌って言っていいんだぞ。

「菊池君、織田君、約束だからね!」

「…ああ。約束だ。必ず、生きてみんなで帰郷する。」

「当然であります!猫西氏との約束とあらば、吾輩は絶対に生きてここを出ますぞ!!」

良かった。

みんな、俺と同じ気持ちだ。

今度こそ、みんな信じ合える。

みんなでここから脱出して、早くこんな糞ゲー終わらせるんだ。

 

ゾワッ

 

「!!!?」

…まただ。

またあの殺気を感じた。

しかも、今までで一番強い憎悪を孕んでいる。

誰だ…?誰が、何のために俺を殺そうとしてるんだ…?

「菊池君、どうしたの?手、震えてるけど。」

「…なんでもねぇよ。」

「むむっ、さては、猫西氏と手を繋げた嬉しさのあまり震えているのですな!?」

「うるせぇ。今更だっての。」

「い、今更…とな!?さ、さては…今までに、手を繋いだ事が…?」

「向こうからだったけどな。」

「えへへ…」

「んなぁっ!!そ、そんなバカな…!」

すげぇショック受けてる…

なんか申し訳ないな。

「あ、そろそろお昼の時間だね。お昼ご飯作らないと。今日は私作るから、二人とも手伝って。」

「おう、わかった。」

「喜んで!!吾輩、猫西氏のために命を懸けてお手伝いしますぞ!!」

「別に命懸けなくていいから…」

こうして、三人で昼飯を作った。

 

《織田兼太郎の好感度が上がった》

 

そうこうしていると、全員がレストランに集まってきた。

「わーい、お昼ごはんだ〜!!」

「アリスさん、走っては危ないですよ。」

「お、今日の昼飯の当番は猫西か。」

「クッソ…あの齧歯類め…絶対許さねェ…!この私をコケにしやがって…!!」

「…すごい圧っスね、神城先輩…」

神城はまだやってたのか。

「よし、じゃあ全員集まった事だし、飯にするか!」

全員が自分の席に座り、昼食を食べた。

今日は、猫西の手作りチャーハンだった。

…なんでどいつもこいつも料理上手なんだよ。チクショウ。

全員が昼飯を食べ終わった後は、各自部屋に戻った。

これから、4つ目の弱みが明かされる。

…今日は、一体誰の弱みを見ることになるんだ…?

 

 

ー個室ー

 

ちょうど12時になり、動機が配られた。

俺は、ゆっくりと画面をスクロールした。

そして、ついに動機を見る時がやって来た。

…今日は、誰の弱みだ?

 

 

 

 

 

【超高校級の弓道部】射場山祐美サンの弱み

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美サンは、左目の視力がほとんどありません!

 

 

 

 

何…?

射場山は左目が見えないだと…?

そんなバカな話あるか。

だって、アイツは寸分の狂いもなく的を射抜く『鷹の目』だぞ…?

…今まで、片目が不自由な事を隠してたっていうのか?

俺は、直接本人に確認する事にした。

俺は、射場山と話すため、エリア中を探し回った。

 

 

ー売店ー

 

射場山は、売店のベンチに座って本を読んでいた。

そういえば、5日目もここで話してたな。

ここがお気に入りの場所なのかな。

「…いた。」

俺は、早速射場山に話しかけた。

「…なあ、射場山。」

「…何。」

「ちょっと話いいか?」

「…はあ、どうせ私の弱み見たんでしょ。」

「え、なんで知って…」

「3日前も、おとついも、昨日も聞かれた。まあ、どうせそれ以外の用で私に話しかけるような物好きなんていないだろうけど。」

うわぁ…すげぇ卑屈。

「そんな事無いと思うぞ。そんなに自分を卑下するな。」

「…じゃあ何?あんたは、別の用で私に話しかけたわけ?」

「うっ…」

慰めたそばから痛いところ突いてくるな、コイツ。

「…ほら、やっぱりね。…はあ、別にここには私達以外誰もいないし、言いたい事があるならさっさと話せば?」

本当に聞くのか…?射場山が誰にも言いたくないような弱みを、今ここで…?

でも、これ以上話を先延ばしにしても仕方がない。

俺は、思い切って射場山に聞いた。

「あの…射場山、お前…左目が見えないって本当なのか…?」

射場山は、無言で俺を睨んできた。

…やっぱり、聞いたらマズかったか?

「…ホント。」

「えっ…」

「…中2の時、ちょっとした事故に遭って入院して…その時、目が覚めたら左目が見えなくなってた。…幸い、右目まで失明せずに済んだから、あんまり生活には困ってないけど…弓道の腕は、前よりは落ちた。前の状態に戻そうと頑張ったけど、やっぱり元通りってわけにはいかなかった。」

「そんな…なんでその事を今まで黙ってたんだ?」

「…同情されたくなかったから。もし言ったら、軽々しく『かわいそう』って言われると思った。それが気に入らないから、今までずっと隠してた。」

「いや、でも何かしら困る事とかあるだろ…」

「私は、目が不自由なのを言い訳にして周りに助けて貰おうなんて思ってないから。…話はそれだけ?」

射場山は、本を閉じてベンチから立ち上がり、その場を去ろうとした。

「…おい、待てよ射場山!」

 

俺は、射場山の左手を掴んだ。

「ちょっと、なんなのあんた…」

俺は、振りかぶっていた拳を、射場山の顔目掛けて振り下ろした。

「…!!」

次の瞬間、俺は空中に浮いたかと思うと、地面に叩きつけられた。

「ぐはっ!!」

「…いきなり襲ってくるなんて、どういうつもり?」

「…ほらな。やっぱり見えてないから反応が遅れただろ。」

「ーッ、だから何?バカにしたいわけ?こんな状態の私の攻撃もかわせなかったくせに、よくそんな…」

「お前、意地張りすぎなんだよ。困った事があれば、誰かに助けてもらえばいいじゃねえか。なんでもかんでも一人で抱え込もうとしてんじゃねえよ。」

「…そんな甘え、許されない。」

「何固くなってんだよ。たまには甘えたっていいじゃねえかよ。お前が困ってたら、俺が助けてやる。他のみんなだって、きっとお前の力になってくれる。だから、辛くなったら俺に言ってくれよ。」

「…今の私に投げられてるようなヤツに、私の事を助けられると思えないんだけど。」

「うっ…そ、それは専門外なんだよ!そういう事はエカイラに言えエカイラに!」

「結局丸投げしてんじゃん。…でも、少し肩の荷が降りた。…ありがと。」

「別に、俺は当たり前の事しか言ってねぇよ。」

でも、射場山の緊張を少しでも解けたなら、俺が言った当たり前の事も、意味があったに違いない。

俺は、射場山が少し微笑んだのを見て、つい笑顔が溢れてしまった。

「…何ニヤニヤしてんの?キモいんだけど。」

「うるせぇな!別にニヤニヤしてねぇよ。お前こそ、いつもそんなに笑ってねぇだろ?」

「は?意味わかんない。別に笑ってないし。」

「何ムキになってんだよ。」

「…ホント、あんたといると調子狂う。」

俺達は、二人でベンチに座りながら話をした。

射場山は、口調こそキツかったものの、普段は絶対に見せないような表情を見せた。

…最初は無口な奴だと思ってたけど、意外と可愛いとこあるんだな、コイツ。

…って、俺は一体何考えてんだ。

織田じゃないんだから、女子の前で変な事考えんなよ俺…!

 

その後も、射場山としばらく話をした。

結局、あれから30分くらい話したのかな?

「ありがとな、射場山。色々話してくれて。お前と話せて楽しかったよ。」

「…ん。」

射場山は、分かりやすく照れた。

コイツ、意外と顔に出やすいタイプなんだな。

「…こっちこそ、色々今まで言えなかった事とか言えた。…ありがと。」

「いいよ、礼なんて。また一緒に話そうな。」

「…ん。」

 

《射場山祐美の好感度が上がった》

 

「…さてと、次はどこに行こうかな?」

俺は、ベンチから立ち上がり、その場を去ろうとした。その時だった。

 

 

「誰か助けてぇえええええええええ!!!」

 

 

「!!?」

展望台の方から、声が聞こえた。

「ねえ、今の声…まさか…」

「ああ、猫西の声だ。展望台の方からだな、急ぐぞ!」

俺と射場山は、全力で展望台へと走った。

まだ、助けられるかもしれない。

これ以上、仲間を死なせるわけにはいかないんだ…!

…頼む、無事でいてくれ…!

俺は、まだ猫西が生きていると信じて、ただ展望台へと一直線に走った。

 

 

ー展望台ー

 

「おい、射場山!お前は、下にいてくれ。俺が上を見てくる。」

「…ん。わかった。」

俺は、展望台を登った。

…まだ、無事だよな?

約束したもんな?

お前は、こんな所で死ぬわけないよな…?

登るたびに、少しずつ不安が募る。

それでも、俺はただ信じて登るしかなかった。

そして、展望台を登り切った。

…そこには。

 

 

 

「…猫西!!」

展望台の床の端に横たわっている猫西がいた。

見たところ、外傷はない。

「猫西!!おい、大丈夫か!?しっかりしろ!!」

俺は、ひたすら猫西の肩を揺すった。

頼む、生きていてくれ…俺を、絶望させないでくれ!

「…う。」

猫西が目を覚ました。

「…あれ?私、なんでここで寝てたんだっけ?」

「猫西…よかった!どこも怪我してないよな?」

「…う、うん。ちょっと頭がぼんやりするけど…大丈夫みたい。」

猫西は、立ち上がると周りを見渡した。

「…うん、やっぱりなんともな…」

猫西は、急に固まった。

「ん?どうした?」

 

 

 

『オマエラ、死体が発見されました!!展望台前までお集まりください!!』

 

 

 

…え?死体だと…?

展望台前って…ここじゃねえか。

でも、猫西は生きてるし…だったら、一体…?

「…き、菊池君…あれ…」

猫西は、顔面蒼白になって、展望台の外を指差していた。

「…?」

展望台の外を覗き込むと、そこには…

「…え。」

…嘘だ。

そんなはずがない。

お前が死ぬわけないよな…?

お前、生きてここを出るって言ってたじゃねえかよ。

なんで、なんでお前がこんな事になっちまったんだよ…!

その嘆きは、決してソイツに届く事はなかった。

目の前の残酷な現実は、容赦無く俺の幻想を嘲笑うかの如く打ち砕いていく。

見慣れた緋色は、眼球に絡みつくかのように、俺の目に飛び込んでそして刻まれた。

まるで、今までの思い出を、約束を、全て否定するかのように、ソイツは全身バラバラになって転がっていた。

なんでお前が…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『超高校級の漫画家』織田兼太郎は、そこで死んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コロシアイ合宿生活 残り11名

 

 



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第3章 非日常編①(捜査編)

「嘘でしょ…こんなの嫌…いやあああああああああああああああああ!!!」

…嘘だろ?

織田、お前が死ぬわけないよな?

約束したじゃねえかよ…

お前、全員でここから出るんじゃなかったのかよ…!

「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

俺は、尻餅をついて後退りをした。

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ

「…菊池君。」

これは何かの間違いだ!

…そうだ、きっと夢に決まってる。

目が覚めたら、きっと織田がいつも通りバカやってて…

そうだよな?これは夢なんだよな?

…だから早く覚めろよ。覚めてくれ。

俺から、これ以上奪わないでくれよ…!

「菊池君!!」

「…あっ。」

猫西の声で、俺は現実に引き戻された。

…そうだ、これは夢なんかじゃない。

織田は、もう返ってこないんだ。

猫西は、声を振り絞るようにして言った。

「…行こう。」

「…ああ。」

いつまでも悲しみに打ちひしがれてはいられなかった。

俺は覚悟を決めて展望台を降りた。

 

 

ー展望台ー

 

「…織田ッ…!」

織田は、全身バラバラになって展望台の真下に転がっていた。

内臓や骨まで丸見えで、とても見ていられない状態だった。

そして周りには、トマトを潰したように大量の血が飛び散っていた。

…俺がさっきまで気づかなかったのは、展望台の死角になっていたからだろうか。

「…!!」

「…射場山!」

射場山は、顔面蒼白になり、その場で尻餅をついて呆然と目の前の惨劇を眺めていた。

…おそらく、射場山が第一発見者だったんだろう。

「…射場山、大丈夫か?」

大丈夫なわけがない。

それでも、こうやって声をかける以外に、俺がしてやれる事なんて何もなかった。

「立てるか?」

「…ん。平気。1人で立てる。」

射場山は、ゆっくりと立ち上がった。

「射場山さん…」

そこへ、みんなが駆けつけてきた。

「ちょっとぉ、なんなのよ今の放送…って、キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!?け、けけけ…ケンタロウちゃん!?」

「にゃあああああああああああああああああああ!!?ケンにいが、アスファルトに咲いた花になってるぅう!?あああ、見たくなかったよこんな汚ねぇお花!!」

「そんな…嘘だろ…!?クソッ、織田ッ…!!」

「織田さん…!」

「嘘…織田が…なんで…!」

「あああ、織田先輩が…織田先輩が…!」

「そんな…織田さんが、どうして…!」

エカイラとアリスは、惨状を目の当たりにして叫んでいた。

玉木は、悔しそうに拳を握り、死体から目を逸らした。

ジェイムズとリタは、目を見開いて呆然と立ち尽くしていた。

小川と床前は、その場で泣き崩れていた。

…そして。

「おい、なんの騒ぎだ…?って、キモヲタが死んでんじゃん!さては、私の神聖なる身体を穢れた眼球で覗き見ようとしたから天罰が下ったんだな!?はっはっははははは!!人の運命さえ自在に操るとは、さすが私だな!!神である私を冒涜するからこうなるのだ!!」

神城は、惨状を目の当たりにして何故か高笑いしていた。

俺は、思わず神城に怒鳴った。

「黙れ神城!!」

「はぁあ!?テメェこそ黙れこのモブキャラが!!神である私に逆らうつもりなら、テメェも同じ目に遭わせてやろうか!?」

「上等だ!!天罰でもなんでも下してみろ!それより俺は、織田がこんな事になったのに笑ってられるお前が許せねぇんだよ!!」

「二人とも、喧嘩はダメっス!」

『そうだよ!やめなよ二人とも、DQN同士の言い争いなんて、正直醜すぎて見てらんないからさ!』

「この不愉快な声は…!」

『やっほー!みんな大好き希望ヶ峰のマスコット、モノクマと、』

『モノハム参上、でちゅ!』

モノクマとモノハムは、どこからとなくハイテンションで登場した。

「テメェら…!」

「…貴方方が出てきたと言う事はやはり…」

『うっぷっぷ、さすがカークランドクン!察しがいいね!そうです、今回もまた、オマエラには学級裁判で頑張ってもらいます!今回もモノクマファイル送っといたから、捜査でジャンジャン活用してください!』

『ぴきゃきゃ…今回は、裁判がどう転ぶか楽ちみでちゅね、学園長!…何ちぇ、今回の殺人はイレギュラーでちゅからね!』

『コラァ!余計な事言わなくていいんだよ、このとっとこもどきが!!』

『ヒイイイイイ!!ごめんなちゃいでちゅぅう!許ちてくだちゃいでちゅぅう!!』

二匹は、俺たちそっちのけで漫才を始めた。

「お前ら…ふざけんなよ!」

『おやあ?玉木クン、かなりお怒りのようですね!まあ、気持ちはわからなくもなくないけどさ!』

「つまり分かっていらっしゃらないという事ですね…」

「テメェ…」

『おっと、ボク達に怒りの矛先を向けるのはお門違いなんじゃないのかな?いい加減認めちゃいなよ!織田クンは、間違いなくこの中の誰かに殺されたんだよ!』

「…ッ!」

『とにかく、ボクはお前らに期待してるからね!今回もボク達を楽しませて頂戴ね!それじゃ、まったねー!』

モノクマとモノハムは、陽気に去っていった。

「…なんなの、アイツら。」

「さあ…ですが、今は悩んでいる時間など有りません。捜査を始めましょう。」

…そうだ。

俺達には、悩んでいる時間なんて無いんだ。

それよりも今は、織田を殺した犯人を見つけ出す…

それが今、俺たちにできる最善だった。

俺は、覚悟を決めて織田の死体に歩み寄った。

 

 

 

 

ー《捜査開始》ー

 

…とりあえず、まずはモノクマファイルを確認しよう。

 

 

モノクマファイル

被害者は『超高校級の漫画家』織田兼太郎。

死体発見現場は、東エリアの展望台の真下。

死亡推定時刻は13:15頃。

死因は、全身打撲による内臓損傷及び大量出血。

全身が骨折しており、死体の断片は四方八方に散らばっている。

 

コトダマゲット!【モノクマファイル】

 

「…次は、死体を調べないと…」

俺は、神城の方を見た。

「なあ、神城。検視して貰えるか?」

「はぁああああ!?テメェ、どの面下げて私に命令してんだこの砂利が!!大体、なんで私がこんな汚ねぇモンを見なきゃいけねぇんだよ!!」

「仕方ありませんね。では、私が検視を…」

ジェイムズが、死体に歩み寄った。

「おい、待てクソ帽子テメェコラ!!さては、現場を荒らす気じゃねぇだろうな!?」

「え…?私は、神城さんに代わって検視をしようと…」

「テメェは信用できねぇんだよ!!どけ。私がやる。」

あ、結局やってくれるんだ。

「あとは監視役か…エカイラ、アリス、頼めるか?」

「うふふ♡任せて頂戴サトシちゃん。」

「えー。あーちゃん、こんな汚いアスファルトに咲いた花を見なきゃいけないのー?」

「汚い言うな。厳密には、織田じゃなくて神城を見てろ。何か怪しい事しないようにな。」

「はーい。あーちゃんはすさまじく素直だからね!コルカ渓谷並にフホンイだけど、しょーがないからクレねえを見ててあげるよ!」

…さてと、これで監視役は決まったな。

あとは、展望台の上の調査役と、下の調査役…それと聞き込み役か。

俺達は話し合った結果、このように捜査を分担することになった。

 

検視役…神城、エカイラ(監視)、アリス(監視)

展望台付近…玉木、小川、猫西

展望台頂上…ジェイムズ、リタ、床前

聞き込み…俺、射場山

 

「じゃあまずは、展望台付近を探索してる玉木達に聞いてみるか。」

「…ん。」

 

 

ー展望台付近ー

 

「あ、菊池君!」

「猫西、そっちは何か見つけたりとかしたか?」

「うーん…まだ何も見つかってないかな。」

「そっか…なあ、ところで…さっき、『誰か助けて』って叫んでたよな。あれは一体何だったんだ?」

「え?私、そんな事言ったっけ?」

「…へぁ?」

「…あんた、どういう事?私も、あんたが叫んだの聞いてたよ。まさかとは思うけど、忘れたなんて言わないわよね?」

「うーん、ごめんね?そのまさかみたい。私、ちょっと覚えてないかな。気がついたら、展望台の上で横になってたんだけど…それより前の記憶が曖昧でさ。」

どういう事だ…?

覚えていない、だと…?

「ちょっと、あんたどういうつもり?そうやって言い逃れしようってんじゃないでしょうね?」

「いや、本当に覚えてないんだって。…私、もしかして織田君の事殺しちゃったのかなぁ…?でも、覚えてない以上、なんとも言えないや。ごめんね。」

「あんた、いい加減に…」

「おい、落ち着け射場山。貴重な情報だ。…ありがとう、猫西。」

「えへへ…」

 

コトダマゲット!【猫西の叫び声】

 

コトダマゲット!【猫西の証言】

 

「玉木、小川。そっちは何か見つけたか?」

「ああ、一応な。こんな物が落ちてた。」

玉木は、織田のしおりを見せた。

「…ごめんな、織田。ちょっと見るぞ。」

俺は、織田のしおりを起動させて、中身を見た。

…え。

織田のしおりには、弱みが表示されていた。

その内容は、信じがたいものだった。

 

 

 

 

 

 

【超高校級の実況者】猫西理嘉サンの弱み

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉サンは、今まで織田クンの事を誑かして楽しんでいました!

 

 

 

 

 

 

 

「…おい、なんだこれ。」

「…どういう事?」

「ちょっと見せて。…え!?何これ…!?」

猫西は、驚いた表情で画面を睨んだ。

「…猫西、ここに書いてある事は…」

「嘘に決まってるでしょ!私は、織田君を誑かしたりなんかしてないよ!!なんで、こんなデタラメが書かれてるわけ…!?」

「それは自分も保証するっスよ。その弱みは、偽物っス。猫西先輩の弱みは…」

小川は、そこまで言ったところで言い淀んだ。

おそらく、猫西に気を遣ったんだろう。

「…小川さん、言っていいよ。こんな状況だし…隠し事なんてしてる場合じゃないもんね!」

「…じゃあ言うっス。…猫西先輩の弱み…それは、握手会で一回だけお客さんを叩いた事がある事っス。」

「ふうん。…本当なの?」

「うん…ジュース撒き散らしたり、おもちゃの爆弾で脅かしたり…他のファンの方達にまで迷惑かけてたから、頭にきてつい…」

「…そうだったのか。ごめんな。秘密にしてたのに…」

「ううん、こんな状況だもん。…それに私、記憶が曖昧だから…せめて、自分が出来る事をやりたいんだ!」

 

コトダマゲット!【偽物の弱み】

 

「…なるほどな、ありがとう。…なあ、ところでお前らは死亡推定時刻には何してた?」

「自分は、玉木先輩と談話室で話してたっス。」

「ああ、間違いない。…あとは、リタとアリスもそこにいたな。」

「…じゃあ、とりあえずその4人にはアリバイがあるって事ね。…ありがと。」

「次は、展望台の上にいるヤツらに話を聞いてみるか。」

「…ん。」

 

 

ー展望台頂上ー

 

「お前らは何か収穫あったか?」

「ふわぁ…収穫って言っていいのかわかんないですけど…こんなものを見つけましたぁ。」

リタは、ハンカチのような物を見せた。

「…これ、薬品が染み込んでる。」

「ふわぁ…そうなんですかぁ…?」

 

コトダマゲット!【薬品の染み込んだハンカチ】

 

「床前、ジェイムズ。お前らの方はどうだ?」

「…あ、えっと…こんなものが置いてありました…」

床前は、脱ぎ捨てられた靴を見せた。

…多分、織田の靴だ。

「…なんでこんな所に…」

 

コトダマゲット!【織田の靴】

 

「…ふうん、なるほどね。…ねえ、あんた達は死亡推定時刻は何してたの?」

「…ふわぁ、談話室でアリスとお話してましたぁ。」

「え、えっと…私は、銭湯に行っていました。」

「私は、部屋でアニメを見ていましたよ。『とっとこモノハムたん』というアニメでした。」

なんだその著作権に引っ掛かりそうなクソアニメは…

「クスッと笑えるアニメだったので、暇な時にいつでも見られるように面白かったシーンだけ抜粋して録画しました。…あのアニメ、今日の13時から13時半にしかやってないアニメで再放送が無いので、こうやって録画するしか無かったのですよ。」

全く、テレビに録画機能くらいつけとけよ…

「これがその映像です。」

ジェイムズはしおりを起動し、しおりの動画を見せた。

『とっとこ〜走るぞモノハムたん♪だーい好きなのはーみーんなの絶望ー♬』

歌がモロアウトじゃねえか。

こんなのが世に出されたら、炎上確定だぞ。

「本当に日本のアニメは素晴らしいです!是非我が国のアニメーション業界も見習って頂きたいです!」

ジェイムズよ、騙されるんじゃない。こんなの日本の誇るべきアニメじゃないぞ。

…っていうか、捜査中に何やってんだよ。

頼むから真面目に捜査してくれよ。

「…もうわかったから、くだらない事やってないで捜査に戻りな。」

「はい…分かりました。」

 

コトダマゲット!【アニメの録画】

 

「…ねえ。」

射場山が、ジェイムズを引き留めた。

「はい、なんでしょうか射場山さん?」

「あんた、さっきから膝気にしてるけど…どうしたの?」

「ああ、これですか。実は、銭湯で転んで怪我をしてしまいまして。その時の傷が、どうも気になってしまいましてね…大した怪我ではないのですが。」

…ああ、あの時のケガか。

「ふうん、お大事に。」

「ありがとうございます。」

 

コトダマゲット!【ジェイムズの証言】

 

「…さてと、展望台の頂上から集められる情報はこのくらいか…」

「そうね。…どうする?そろそろ、検視の方の調査結果訊く?」

「…そう、だな。色々確認したい事もあるし…一旦、降りるか。」

 

 

ー展望台前ー

 

「おい、神城。お前の方は、調査終わったか?」

「ハッ、愚問だな!!とっくの昔に終わってるよ!!」

「だったら、早く話しな。」

「ケッ、おい無口!!テメェ、どの面下げて神である私に命令してんだこのゴミ屑が!!」

「…早く話せ。」

射場山が、ドス黒いオーラを放ちながら神城を睨んだ。

何故だろう、もう春の筈なのに冷や汗が止めどなく溢れ出す。

「て、テメェ…ぐ、愚民のくせに私にそんな態度とっていいと思つてんのかよぉ…!」

神城は、射場山の威圧感に気圧されて、いつもの元気を失っていた。

「ひううううう…怖いよぉ…!話すから、もう睨むなよぉ…!」

あーあ、とうとう泣いちゃったよ。

「それで?検視の結果は?」

「…ぐすん、ファイルに書いてある通り、それはもう全身がバラバラのグチャグチャになってたよ。…状況を見る限り、おそらく死因は転落死だ。」

「…転落死か。」

「それも、地面に叩きつけられて即死した可能性が高い。」

 

コトダマゲット!【織田の死因】

 

「なるほどな…おい、神城。他に何か気づいた事は無かったか?」

「フン、貴様ら、質問も大概にしろ!!神に質問攻めなど、おこがましいにも程があんだろうがよ!!」

「…。」

射場山が、無言の圧力をかけてきた。

「ひいいいいいいいいいいい!やめろよぉ…話すからぁ!」

射場山は、対神城兵器になりそうだな。

今度神城にロックオンされたら、射場山のところに逃げよう。

「…ク、クレハミンXが盗まれてたんだよ!!」

「…何?」

「誰かに私の天才的な発明を悪用されないように、診療所にあった金庫に入れておいたんだけど…さっき見てみたら、数が減ってたんだよ!」

「…金庫、ね。どんな形状の金庫だったんだ?」

「オーソドックスなタイプの金庫だよ。3桁の暗証番号を入力すると、開く仕組みになってるんだ。」

「…ちなみに、どんな暗証番号にしたんだ?言いふらしたりしないから、教えてくれ。」

まさかとは思うが、968だったりしないよな?

968(クレハ)に決まってんだろうがよ!!バカかテメェは!!」

ああ、やっぱりか。暗証番号安直すぎんだろ。

そりゃあ開けられますわ、うん。

 

コトダマゲット!【盗まれたクレハミンX】

 

「…ねえ、さっきからクレハミンXって言ってるけど、なんなのそれ?」

「フン、いいだろう!教えてやる。クレハミンXは、私が調合した究極の睡眠薬だ!!」

「…睡眠薬?」

「ふふふ、やっと興味を抱いたか愚か者め!!クレハミンXは、安眠効果が期待できるだけじゃなくて、直前の記憶を一時的に失わせる効果があるんだ。グロい死体を見せられた後でなんて、とてもじゃねえけど快眠できねぇからな!!」

「…ふうん。どんな薬なの?見た目とか匂いとかの特徴は?」

「ああ、えっとな。確か少し独特な匂いのする、無色透明の液体だった。神城が作ってるのをその場で見てたから、間違いない。」

「ちなみに、知ってるのは私とモブだけだぞ。作ってすぐ金庫に入れたからな。」

「…あっそ。」

 

コトダマゲット!【クレハミンXの効果】

 

コトダマゲット!【クレハミンXの特徴】

 

「なあ、ところで、神城。」

「なんだモブ。つまらん質問で空気中の酸素を浪費する気なら、ケツにオキシドールブチ込むぞ!!浪費した分は自分で作り出せってな!はっはっは!」

なんで質問するだけでそうなるんだよ…。

「…黙れ。下品。」

「ひいいいいい!」

射場山、お前怖すぎんだろ!俺でもビビったぞ今のは!?

「射場山、もうやめてやれ。」

「…ん。」

「あのさ、診療所に誰が来たのか覚えてるか?」

「…あ?」

「お前の薬を盗んだ犯人を特定するためにも必要な情報だ。教えてくれ。」

「フンッ、そういう事なら教えてやろう。私も、クレハミンXを盗んだ野郎は許せねぇし、見つけ出してギッタギタに踏み潰してやろうと思ってんだ。…えーっとな、確か…モブ、お前と、帽子と、あとは…あれ?誰かもう一人いたような気がすんだけど…誰だっけ?」

「…床前か?」

「そう!ソイツだよソイツ!いやー、スッキリした。」

マジかよ。

コイツ、本当最低だな。

忘れてんじゃねえよ。床前がかわいそうだろうが。

 

コトダマゲット!【診療所への立ち入り状況】

 

「ふぅん、で、あんたは死亡推定時刻は何してたの?」

「クレハミンX盗んだ奴の事を探してたよ!」

「…わかった。話してくれてありがとう。」

…神城から集められる情報は、このくらいか。

アリスは、織田の死体の前でしゃがんで何かを見つめていた。

「…お前、何やってんの?」

「のわあ、サトにい!ふっふっふ、あーちゃんはな、超絶天才的な大発見をしてしまったのだよ!」

「天才的な大発見…?」

「見ろ!!」

アリスは、自信満々に織田の死体を指差した。

「死体がどうかしたのか?」

「ちげーよバーカ!!こっちだよこっち!」

アリスは、再び指を差した。

その先には、血で文字のようなものが書かれていた。

 

 

Kの上はハイ

 

 

…なんだこの意味不明な文字列は?

「なんだこれ…?」

「ダイイングメッセージだよきっと!」

「ダイイングメッセージだと…?」

「でもさ、『Kの上はハイ』ってどゆこと?もっとわかるように書けケンにいテメェこの野郎!!」

アリスは、血溜まりの水面を蹴った。

「おい、やめろって…」

ピチャッ

「あ゛。」

飛び散った血が、ダイイングメッセージの上に付いた。

「にゃあああああ!」

「ほーら言わんこっちゃない。お前、これどうすんだよ?見えなくなっちまったじゃねえかよ。」

「てへ☆」

「『てへ』じゃねえだろお前!大事な証拠を消しやがって!」

「にゃああああああ!ごみーんに?あーちゃんの可愛さに免じて許してチョモランマ!」

「…チッ、俺が写真撮って無かったら証拠が無くなるところだっただろうが。」

「え!?写真撮ってたの!?じゃあなんであーちゃん怒られたんだよ!マヂイミフ!」

 

コトダマゲット!【ダイイングメッセージ】

 

…もう、このガキから得られる情報は無さそうだな。

さてと、エカイラにでも話を聞くか。

「…なあ、エカイラ。」

「うふふ、なあに?サトシちゃんにユミちゃん。」

「あのさ、お前は何か気になった事とか無いか?ホントに、なんでもいいから教えてくれないか?」

「アラヤダ。随分と積極的じゃない?…いいわよ。教えてあげる。…実はねえ、ちょっと気になる事があったのよ。」

「気になる事…?」

「ええ。…さっきのケンタロウちゃんの様子よ。なーんかね、見るからにおかしかったのよねぇ。」

「何…織田の!?何だ、言ってみてくれ!!」

「んー…何ていうかね、魂が宿ってない感じだったわ。無気力っていうか…完全に絶望してるっていうか…何かあったのかしらねえ。」

 

コトダマゲット!【織田の様子】

 

「…なるほど。ところで、あんたは死亡時刻には何してたの?」

「んー…お風呂に入ってたわねぇ。あ、そうそう。その時に、ナギサちゃんの声も聞こえたわよ。だから、ナギサちゃんにも犯行は不可能だったんじゃナイ?」

床前の…?

じゃあ、さっきの証言は嘘じゃなかったって事か…

「…なるほどな、ありがとう。参考になったよ。」

「…これで床前のアリバイは確定したわね。」

 

コトダマゲット!【エカイラの証言】

 

「…ん?あれ?ちょっと待てよ?」

「…何。どうしたの?」

「あ、いや…俺の思い違いだったらいいんだけど…なあ、射場山。ちょっと頼み事があるんだが。」

俺は、射場山に耳打ちした。

「…は?」

「頼む、今すぐ行ってきてくれ。」

「…いいけど、なんで?」

「どうしても確認しておきたいんだ。」

「…わかった。」

 

…さてと、俺はその間に…

「おい、モノクマ!」

『やっほー!呼ばれて出てきてなんとやら!菊池クンどうしたの?』

「…死体発見のアナウンスは、どういう条件で流れるんだ?」

『ああ、それね。今回は、死体を三人が見た時点でアナウンスをかけたよ!』

…三人?

「なんで三人が見るのを待つ必要があったのよ?」

『シロとクロの公平性を保つための考慮だよ!どっちかに肩入れしたら、ゲームがクソつまんなくなっちゃうでしょ?そしたら視聴率取れないからね〜。全く、デスゲーム運営も楽じゃないよ。』

「…なるほどな。もう行っていいぞ。」

『はあ!?なにそれ!ボクとキミは、呼び出すだけ呼び出して、用が済んだらポイ捨ての関係だったんだね!酷いなぁ全く!』

なんだそのワンナイトラブみたいな言い方。

 

コトダマゲット!【死体発見アナウンス】

 

「菊池!」

射場山が、捜査から戻ってきた。

「射場山。例のものは?」

「あったよ。あんたの読み通りね。…ほら証拠写真。」

射場山は、撮った写真を俺に見せた。

「…フフ、やっぱりな。」

「え?何…気色悪っ。」

「気色悪い言うな!!」

 

コトダマゲット!【射場山の写真】

 

…あとは、全員分のアリバイの整理か…

 

コトダマゲット!【全員分のアリバイ】

 

 

『オマエラ、時間切れです!ついにこの時がやってきました!お待ちかねの学級裁判、始めるよ〜!5分以内に、ホテル一階の赤い扉まで集合してね〜!』

…ついに、この時が来た。

来て欲しくもなかった、この時が。

「…。」

「何ボサっと突っ立ってんの?行くよ。」

「…あ、ああ。」

俺は、迷いながらも赤い扉へと向かった。

 

ー赤い扉前ー

 

俺は、思い足取りでエレベーターに乗り込んだ。

全員がエレベーターに乗り込み、エレベーターの籠が動く。

…すでに2回も経験したはずなのに、身体中の震えが止まらない。

もちろん、一歩間違えば死ぬかもしれないゲームに身を委ねる事への恐怖もある。

…だけど、それ以上に、今まで仲間だと思ってた奴をまた見殺しにするのが怖かった。

本当にこの中の誰かが織田を殺したのか、まだ信じられない自分がいた。

それでも、俺は定められた運命に身を委ねるしか無かった。

運命は、二つに一つだ。クロが死ぬか、俺が死ぬか…

…いや、俺だけじゃない。間違えば、クロ以外のみんなが処刑される。

それだけは、間違っても辿ってはいけない運命だ。

…決めた。

俺は、たとえ何があろうと、織田を殺したクロを…真実を暴き出す。

そして、たとえそれがどんな真実でも受け入れよう。

俺が迷えば、みんなが死ぬ。

だったらもう、迷わずに進むしかない。

それが俺に…いや、俺たちに唯一許された道だから。

 

 

 

 

…随分と悩んでいるようだね。

今回はちょっとスパイスを加えたから、結構難しいかもね〜。

調子に乗り過ぎちゃったし、『アイツ』に怒られちゃうかな〜?

あ、その前に心配する事があったよね。

『彼』はちょっと詰めが甘いからな〜。

もしかしたらミスってクロ以外おしおき、なんて事もあり得ちゃうかも☆

正直、そんな事になったら全然面白くないんだよなぁ。

…いや、そんな事、起こるわけないか。

だって…

 

『彼』と私は、運命で結ばれてるんだから。

 

 

 

 

それぞれが、それぞれの思いを胸に抱いて刻を待つ。

数時間にも感じる数秒が過ぎていく。

そしてついにその刻がやってきた。

エレベーターが止まり、ドアが開いた。

もう、泣こうが喚こうが運命は変わらない。

クロが勝つか、クロ以外が勝つか…運命がどちらに傾くのかは、まだ誰にもわからない。

今、まさに命懸けのデスゲームが始まる。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

『ここで、皆様にクイヂュのお時間でちゅ。この中で、織田様を殺害ちた犯人は誰だと思いまちゅか?』

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の???』アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の漫画家』織田兼太郎

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

元『超高校級の死神』伏木野エカイラ

 

 

 

『…ちょうでちゅか。…ではでは、答え合わちぇは、またの機会に。』

 



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第3章 非日常編②(学級裁判編)

挿絵追加。

ー注意ー
夜眠れなくなるかもです。


チーン、という聞き慣れた音と共に全員を乗せたエレベーターの籠が止まった。

エレベーターの扉が開く。

全員が裁判場に到着し、証言台の前に立つ。

そして、赤くバツ印が書かれた遺影が2枚増えていた。

ポーカーフェイスの速瀬と、なんとなくやらしい笑みを浮かべた織田の遺影だった。

「ホント、いい趣味してるわよねぇ。」

「…同感。」

『ちょっと!オマエラ、なんか…えーっと、あれなんだっけ。』

モノクマが上を見ると、すかさずモノハムが『殺気』と書かれたカンペを見せた。

『あ、そうそう。オマエラ、なんかコロッケ立ってない?』

『ヂュコー!!学園長!コロッケぢゃなくて『チャッキ』でちゅよ!』

『あ、ごめんごめん。『サッキ』って読むんだね。ボク間違えちゃったよ〜!』

「変な間違え方しないで下さい!コロッケだと美味しくなっちゃいます!」

ジェイムズ、そこはツッコむところじゃないぞ。

『さてさて、無駄なお喋りが過ぎたね。じゃあ全員揃ったみたいだし、学級裁判始めちゃいますよ!』

 


 

コトダマ一覧

 

 

 

【モノクマファイル】

被害者は『超高校級の漫画家』織田兼太郎。

死体発見現場は、東エリアの展望台の真下。

死亡推定時刻は13:15頃。

死因は、全身打撲による内臓損傷及び大量出血。

全身が骨折しており、死体の断片は四方八方に散らばっている。

 

【猫西の叫び声】

事件直前、猫西が『誰か助けて』と叫んでいた。

 

【猫西の証言】

猫西は、展望台頂上で横たわった状態で発見されており、それ以前の記憶がないという。

 

【偽物の弱み】

玉木が拾った織田のしおりに、偽物の猫西の弱みが表示されていた。

 

【薬品の染み込んだハンカチ】

展望台頂上に落ちていた。

 

【織田の靴】

展望台頂上に転がっていた。

 

【アニメの録画】

ジェイムズが録画したアニメの映像。このアニメは、丁度犯行時刻の間にしか放送されていなかった。

 

【ジェイムズの証言】

銭湯で転んで膝を擦り剥いたという。

 

【織田の死因】

おそらく転落死、それも即死のようだ。

 

【盗まれたクレハミンX】

金庫に保管されていたクレハミンXが盗まれていた。

 

【クレハミンXの効果】

神城が調合した睡眠薬。安眠効果だけでなく、記憶を一時的に消す効果もあるようだ。

 

【クレハミンXの特徴】

無色透明で独特の香りを放つ液体。この情報を知っているのは、俺と神城のみ。

 

【診療所への立ち入り状況】

神城以外で今日診療所に足を踏み入れたのは、俺、ジェイムズ、床前の3人。

 

【ダイイングメッセージ】

血文字で『Kの上はハイ』と書かれていた。

 

【織田の様子】

織田は、無気力で生気を感じられなかったという。

 

【エカイラの証言】

銭湯で床前の声を聞いたという。

 

【死体発見アナウンス】

死体を3人が発見した時点でアナウンスが流れる。

 

【射場山の写真】

射場山が撮ってきてくれた写真。

ヴォイスレコーダーが写っている。

 

【全員分のアリバイ】

猫西は、展望台の頂上で眠っていた。

俺と射場山は展望台に向かっていた。

玉木、小川、リタ、アリスの4人は談話室で話していた。

床前とエカイラは、銭湯に行っていた。

神城は、薬を盗んだ犯人を探しに島中を捜索していた。

ジェイムズは、部屋でクソアニメを見ていた。

 

 

 


 

 

 

学級裁判開廷

 

 

 

『じゃ、好きに議論を進めてくださーい!』

ジェイムズ「あの、少し宜しいですか?」

『ほえ?何?』

ジェイムズ「前々から伺おうと思っておりましたが、仮に1人の人間を2人で殺した場合はどうなるのでしょうか?」

『あ、ごめんごめん。その説明忘れてたね。そういう場合は、直接被害者を手にかけた実行犯のみがクロとなります!共犯者は、他のシロと同じ扱いになるので気をつけてください!』

ジェイムズ「つまり、共犯には殆どメリットが無いという事ですか。」

『そっ!』

猫西「うーん、そういうの、事前に説明しておくべきだよね?」

『うるさいなあ、しょうがないじゃん!今まで誰も疑問に思わなかったみたいだしさ、言わなくても一緒じゃん?って思って!』

小川「開き直らないでくださいよ…こっちは命かかってるんスから。」

菊池「おい、お前ら一旦落ち着け。色々言いたい事はあるだろうが、時間が無いんだ。早く議論を始めよう。まずは事件当時の状況の把握からだな。」

射場山「…私がファイルを読み上げる。被害者は『超高校級の漫画家』織田兼太郎。死体発見現場は、東エリアの展望台の真下。死亡推定時刻は13:15頃。死因は、全身打撲による内臓損傷及び大量出血。全身が骨折しており、死体の断片は四方八方に散らばっている。…以上。」

菊池「じゃあ、まずは死因からかな…」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

アリス「ケンにいはどうやってブッコロがされたのかなー!?」

小川「死体がグチャグチャになってて、死因が分かりにくいっスけど…」

リタ「ふわぁ…とりあえず、犯行現場は展望台エリアでよさそうですぅ。」

エカイラ「ふふふ、甘いわリタちゃん!」

リタ「ほぇえ?」

エカイラ「…もし、犯人がケンタロウちゃんを殺してから移動させたとしたら…?」

小川「そ、その可能性があったっスか…!」

 

【殺してから移動させた】←【織田の死因】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「エカイラ、犯行現場は展望台エリアで間違いない。織田は、展望台から落下して即死したんだ。」

エカイラ「んなッ…!!」

アリス「テンラクシ…って事は事故だな!はい解決!ガッキューサイバンおっしまーい!」

小川「いやそんな簡単な話じゃないっスよ!真面目に考えましょうよ先輩!」

アリス「ぶー。」

猫西「あはは…じゃあ次は事件当時のアリバイかな?」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

玉木「誰か事件当時の全員のアリバイを把握してる奴はいねえか?」

菊池「ああ、それなら俺が調べた。」

 

コトダマ提示!

 

【全員分のアリバイ】

 

「これだ!!」

 

菊池「全員分の事件当時の行動をまとめておいた。俺と射場山は展望台に向かっていて、玉木、小川、リタ、アリスは談話室で話を、床前とエカイラは銭湯にいて、神城は島中を走り回ってて、猫西は展望台の頂上で寝ていて、ジェイムズは部屋でアニメを見ていたそうだ。」

アリス「それをショーメーできないのは、クレねえとうぇすにゃんとムズにいだね!」

ジェイムズ「う…。」

猫西「ねえ、伏木野さんと床前さんのアリバイは?お互いに、姿を見たわけじゃないでしょ?」

菊池「その二人なら、ちゃんとアリバイは証明できる。」

 

コトダマ提示!

 

【エカイラの証言】

 

「これだ!!」

 

菊池「エカイラが、床前の声を聞いている。つまり、二人は銭湯にいたってことだ。」

アリス「なる。」

エカイラ「ねえ。…アタシ、お風呂出た時に、クレハちゃんが血眼で何かを探してるのを見たけど…それは参考にならないかしら?」

菊池「それはいつの話だ?」

エカイラ「うーんと、死体発見のアナウンスが流れる1、2分前かしら。」

菊池「…だったら、神城がクロって線は無さそうだな。」

小川「アナウンスが流れたのは、1時20分くらいっスからね。」

床前「と、とりあえず…神城さんは、無実という事で…」

 

反論

 

リタ「あのぉ、ちょっといいですかぁ?」

 

 

 

 

リタ「ふわぁ…死体発見のアナウンスが流れた1、2分前に姿を見たからって、それで犯人じゃないっていうのはちょっと無理があるんじゃないですかぁ?」

神城「はああああ!?おい居眠り!!テメェどういうつもりだコラ!!私は無実だって言ってんだろうが!!私にはアリバイがあんだよ!!」

リタ「でもぉ、死体発見アナウンスが流れたのが、織田が死んでから結構経ってたとしたら、それってなんの意味もないですよねぇ。神城が殺してないっていう証拠はあるんですかぁ?」

 

コトダマ提示!

 

【モノクマファイル】

 

「その愚論、切らせてもらう!!」

 

菊池「リタ、織田が死んだのは1時15分…アナウンスが流れる5分前だ。そんな短い時間でアリバイ工作なんて、できないと思うぞ。」

リタ「ふわぁあ…そうですかあ。じゃあ神城に犯行はムリですねぇ。」

神城「おい居眠り!!よくも神である私を疑ったな!!恥を知れ!!」

リタ「くぁあ…ごめんなしゃい…」

アリス「ねえねえ、さっきからずっとツッコむタイミング伺ってたんだけどさ!」

菊池「…なんだ。」

アリス「うぇすにゃんは、なんで展望台の上で寝てたわけ?そんなとこで寝たら危ないじゃん!」

猫西「うーん…なんでだったんだろう。わかんないや。ごめんねあーちゃん。」

ジェイムズ「個室以外の故意の就寝は、心得に則って罰せられる筈です。という事は、眠ってしまったのは猫西さん自身の意志では無いのでは?」

猫西「うーん、そうなのかなぁ?」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

アリス「きっとうっかり寝ちゃったんだよ!」

玉木「転んで頭打った…とかではないよな。」

ジェイムズ「何者かに眠らされたのでは…?」

 

【眠らされた】←【薬品の染み込んだハンカチ】

 

「その意見、賛成だ!!」

 

同意

 

菊池「猫西、お前は何者かに眠らされたんだ。」

猫西「え、そうなの?」

菊池「展望台から、薬品の染み込んだハンカチが見つかった。多分、それを吸わされて意識を失ったんだ。」

リタ「薬品、ですかぁ。でも、そんないきなり人の意識を奪うような薬品あるんですかぁ?」

ジェイムズ「クロロホルムでも、意識を失うまでに5分は掛かりますからね。…そんな都合の良い薬品、私は存じ上げません。」

…もしかして、アレじゃないか?

 

コトダマ提示!

 

【盗まれたクレハミンX】

 

「これだ!!」

 

菊池「なあ、その薬品って、もしかして『クレハミンX』じゃないか?」

猫西「く、クレハ…?なんなのそれは?」

菊池「神城手作りの睡眠薬だそうだ。金庫に厳重に保管していたらしいが、盗まれたらしい。」

アリス「盗まれた、ねえ…何やってんだよクレねえ!!セキュリティガッバガバぢゃねーか!!」

神城「うるせぇ子供!!誰がヤ●マンセキュリティだコラァ!!」

射場山「黙れ。」

神城「ひいいい…!」

猫西「ねえ、誰か手がかりを知ってる人はいないの…?」

射場山「…さあ。」

…アレを提示してみよう。

 

コトダマ提示!

 

【診療所への立ち入り状況】

 

「これだ!!」

 

菊池「診療所に入ったのは、俺とジェイムズ、あとは床前だ。この中の誰かが盗んだ可能性が高い。」

床前「そんな…!」

エカイラ「ふうん。じゃあもう犯人は決まっちゃったわね。」

猫西「…え?」

エカイラ「みんな、思い出してご覧なさい。1人だけ、アリバイが無くてかつ診療所に行ってる子がいるわよね?」

…それって。

 

 

 

人物指定

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の???』アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の漫画家』織田兼太郎

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

元『超高校級の死神』伏木野エカイラ

 

 

 

菊池「…ジェイムズ、お前だ。」

ジェイムズ「わ、私ですか…?」

ジェイムズは、少し驚いたような表情を見せた。

 

 

 

議論開始!

 

 

 

ジェイムズ「確かに、この中で一番怪しいのは、恐らく私です。その事に関しては認めます。」

神城「じゃあ犯人だって認めんのか!?なあこの窃盗犯!!」

ジェイムズ「そんな訳無いじゃないですか。私は、織田さんを殺していなければ、薬品を盗んでもいません。」

神城「嘘つけ!!第一、今スゲェ挙動不審じゃねえか!!」

ジェイムズ「これは、膝の傷が気になってしまって…」

神城「傷だと!?…そうかわかったぞ!さてはテメェ、キモヲタに抵抗されて怪我したんだろ!?」

 

【抵抗されて怪我した】←【ジェイムズの証言】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「神城、残念だがその怪我は、織田に抵抗されてできたものじゃない。織田が女湯を覗こうとした日に、ジェイムズが風呂場で転んで擦りむいたんだ。」

神城「何ィ!?ば、バカな…神の推理が崩れただと…!?」

猫西「うーん、だったら事件とは無関係だね。」

アリス「でもさー、だからってムズにいがやってないって事にはならないんじゃない?」

エカイラ「そうよ。まだ疑いは晴れたわけじゃないわ。犯人はジェイムズちゃんで決まりよ!」

玉木「おい、お前ら!勝手に決めつけんなよ!!」

射場山「…あんたたちさ、死にたいの?」

猫西「どうしよう…意見が分かれちゃったね。」

『はいはーい!ちょんな時は、オイラの出番でちゅ!』

モノハムがボタンを押すと、証言台が移動した。

対立するように、席が並ぶ。

『では、好きなだけ話ち合ってくだちゃいね!』

 

 

 

意見対立

 

議論スクラム

 

 

 

ジェイムズ・D=カークランドは犯人か?

 

『犯人だ!』アリス、エカイラ、神城、小川、リタ

『犯人じゃない!』菊池、玉木、ジェイムズ、猫西、射場山、床前

 

 

アリス「だーかーらー、ムズにいが犯人だっつってんじゃん!!」

玉木「ジェイムズは犯人じゃねえ!!」

リタ「くあぁ…ジェイムズは、診療所に行ってました…」

猫西「診療所に行ってたのは、カークランド君だけじゃないよ。」

床前「そうです…!私も、診療所に行ってました…!」

エカイラ「どうせ、本当はケンタロウちゃんを殺したんでしょ?」

ジェイムズ「だから殺していません。私は、部屋でアニメを見ておりました。」

小川「カークランド先輩は、薬学にも精通してるっス。」

射場山「はあ、それだったら神城もだと思うけど?」

神城「テメェら、さっきから私らの言う事を否定してるだけじゃねえか!!証拠がねぇんだよ証拠が!!」

菊池「証拠ならあるぞ。」

 

コトダマ提示!

 

【証拠】←【アニメの録画】

 

「これだ!!」

 

「「「「「「これが『俺達』『私達』の答え『だ』『です』『だよ』『よ』!!!」」」」」」

 

菊池「みんな、この映像を見てくれ。」

俺は、アニメの録画をみんなに見せた。

神城「はあ?そのクソアニメがどうしたんだよ!!」

菊池「これは、この時間帯にしかやってないアニメで、再放送は無いらしい。そのアニメが録画されているという事は、ジェイムズは犯行時刻に部屋にいたって事だ!!」

アリス「ぬわんだとぉおおう!!?」

ジェイムズ「だから言ったではありませんか。私は織田さんを殺した犯人ではありません!」

猫西「うーん、だったら薬を盗んだ犯人は、1人しかいないよね。」

…クレハミンXを盗んだ人物。

…それは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人物指定

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の???』アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の漫画家』織田兼太郎

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

元『超高校級の死神』伏木野エカイラ

 

 

 

菊池「…床前、お前だ。」

床前「え…!?私、ですか…!?」

猫西「床前さん、君が薬を盗んだの…?」

床前「違います…!」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

床前「菊池さん、先程私にはアリバイがあるという話になったじゃないですか。それでもまだ私を疑うんですか…?」

 

【アリバイがある】←【射場山の写真】

 

「それは違うぞ!!」

 

論破

 

菊池「床前、確かにさっき俺はお前にアリバイがあると言ったな。」

床前「そうです…!ですから…」

菊池「だが、そもそもその前提が間違っていたんだ。…まんまとお前に嵌められるところだったよ。」

床前「…え?」

菊池「これを見ろ。」

俺は、射場山が撮ってきてくれた写真を見せた。

そこには、茂みに隠されたヴォイスレコーダーが写っていた。

菊池「これは、射場山が女湯で撮ってきてくれた写真だ。…おい、床前。これに見覚えはあるよな?」

床前「え、えっと…」

菊池「お前は、予め犯行時刻になると音声が再生されるようにヴォイスレコーダーを設定して、茂みに隠しておいたんだ。エカイラが聞いたのは、その音声だったんだ。…これでアリバイが崩れたな。」

床前「で、でも…それで犯人にされては困ります!織田さんの死体を目撃したのは射場山さん達だけ…私は何も知りません!」

 

【射場山さん達だけ】←【死体発見アナウンス】

 

「それは違うぞ!!」

 

論破

 

菊池「床前、死体発見アナウンスが流れる条件を教えてやる。アナウンスは、死体を3人が見た時点で流れるんだ。あの時死体発見アナウンスが流れる前に死体を見たのは、猫西と射場山だけ…つまり、死体を見た人間がもう1人いるって事だ。他のみんなにアリバイがある以上、それはお前しかあり得ないんだ。」

床前「で、ですが…!」

神城「ケッ、いい加減認めやがれこのメス豚!!テメェは、私の薬を盗んで猫を眠らせたんだよ!!」

床前「どこにそんな証拠があるんですか!?」

菊池「…なあ床前。お前が薬を盗んだ事は、エレベーターでお前の近くに立った時からバレバレなんだよ。いい加減認めろ。」

床前「まさか、薬品臭いからとか言いませんよね!?そんな事で犯人にされる筋合いはありません!」

 

【薬品臭い】←【クレハミンXの特徴】

 

「それは違うぞ!!」

 

論破

 

菊池「なあ床前。今、完全に墓穴を掘ったな。」

床前「えっ…」

菊池「俺は、クレハミンXが匂いのする薬品だなんて一言も言ってないぞ。」

床前「…ッ!!」

菊池「もちろんこの情報を知ってるのは、薬を作った神城と、それを見てた俺だけだ。…なあ、なんでお前がその情報を知ってるんだ?」

床前「…。」

射場山「…終わったわね。」

神城「ケッ、悪足掻きしやがって…さっさと地獄に堕ちやがれメス豚!!」

 

床前「…ふ。」

床前は、顔を手で押さえた。

そして…

 

 

 

床前「ふふふ…あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」

アリス「にゃあああ!?ナギねえが壊れた!!」

神城「なんなんだコイツ…!」

 

床前「…あーあ、バレてないと思ったのに。…さすがは菊池さんです。私の見初めた男性というだけの事はありますね。」

菊池「お前…!」

床前「そうです、私がやりました。私が、神城さんの薬品を盗んだんです。」

アリス「な、ナギねえ!?めっちゃキャラ変わってるけど、大丈夫!?」

床前「…はあ、あの。少し黙って貰えませんか?私は今菊池さんとお話しているんです。その他の声なんて雑音でしかありません。非常に不愉快なので、金輪際口を開かないで貰えませんか?」

菊池「床前!お前、一体どういうつもりだ!!」

床前「…うふふ、ねえ菊池さん。あなた、私に言ってくれたでしょう?『お前はもっと自分に正直になっていいんだ』って。…それに、あなたは私の才能を知っても、その他とは違って気味悪がらなかった。だからこれからは、いい子のフリはやめて、自分に正直に生きるつもりです。」

菊池「…は?」

床前「あ、そうだ!せっかくだから、菊池さんに私の本当の才能を教えてあげます。」

菊池「…お前の…本当の才能だと…?」

床前「私、あなたの前では、人の命を代償に幸運を得る才能だって言いましたけど…本当は、ちょっと違うんです。」

菊池「…え?」

床前「…私の本当の才能は、必然を偶然に、偶然を必然に見せる才能なんです。」

菊池「は…?」

床前「そうそう、あなたに良い事を教えてあげます。私があなたに『偶然死んだ』と言った人達…あれは全部、私が殺したんですよ。」

菊池「は!?…どういう事だ…お前、一体…!?」

床前「あなたの前では才能を偽らないと、人殺しだと思われて嫌われちゃうと思ったので、言えなかったんです。…あー、でもやっと吐き出せた。」

菊池「お前、さっきから言ってる事がワケわかんねぇよ!!」

床前「…だから、言ってるじゃないですか。近藤さんも、狗上さんも、郷間さんも、森万さんも、速瀬さんも、…そして織田さんもみーんな、私が殺したんですよ♪」

菊池「…なっ!」

床前「…思い出してみてください。近藤さんにナイフを盗まれたのも、最初の殺人の現場を最初に目撃したのも、ぜーんぶ…私でしょう?」

そうだ。

考えてみれば、あの殺人は、床前が近藤にナイフを盗まれなければ起こらなかった。

今までの殺人は全部、床前が引き起こしていたっていうのか…?

菊池「お前…なんでそんな事したんだよ!?」

 

 

床前「…そんなの、楽しいからに決まってるじゃないですかぁ。」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

菊池「…は!!?」

床前「菊池さん…私はね、人が無惨に死ぬのを見るのが大好きなんです。その瞬間、私は絶対にこの人よりは幸せだ、生きてて良かったって心の底から思えるんです!!…分かっています。人を殺すのがいけない事だって事くらい。でも、なんでダメなのかがわからないんです!だって私は、人を殺す事でこんなにも幸せになれる…私のせいで誰かが死ぬのが、快感すぎて堪らないんですよ!!」

菊池「お前…自分が何言ってんのかわかってんのか!?」

床前「ええ、もちろん。菊池さん。あなたは、こんな救いようもない私に、『自分に正直になっていい』と言ってくださった…その瞬間、私は救われました。あなたが私を求めてくれたから、私は堂々と生きていいんだって思えたんです。」

菊池「そんなつもりで言ったんじゃ…」

床前「でしょうね。わかってましたよ?あなたが『こんなつもりじゃなかったのに』って思ってる事は。でもね、菊池さん。私にとっては、あなたが全てなんです。あなたがいれば、私はたとえどんな世界でだって生きてゆける。世界中の誰よりも、あなたの事を愛してる。」

神城「コイツ…イカれてやがる…!」

床前「自分の事を神だと勘違いしている痛々しい女に言われたくないです。…さて、茶番にも飽きちゃったので、そろそろ種明かしといきましょうか。」

菊池「種明かしだと…?」

床前「さて、私の愛しい愛しい菊池さんに問題です。織田さんは、何のために展望台に向かったのでしょうか?」

菊池「…織田が展望台に向かった目的…?」

…そう、俺はわかっている。

なぜ織田が、展望台に向かったのか。

…だけど、本当に言っていいのか…?

 

 

 

閃きアナグラム

 

 

 

 

 

頭の中に、言葉の断片が浮かび上がる。

それを、素早く拾って組み合わせ…完成させる!!

 

「これだ!!」

 

 

ト ビ オ リ ジ サ ツ

 

【飛び降り自殺】

 

菊池「…飛び降り自殺。アイツは、自らの命を絶つために展望台に向かったんだ。」

玉木「と、飛び降り自殺だと…!?そんなバカな話あるか!!」

猫西「そうだよ!私達、一緒にみんなでここを出ようって約束したじゃん!」

菊池「…残念だが、織田が飛び降り自殺を図った根拠ならちゃんとあるんだ。」

 

コトダマ提示!

 

【織田の様子】【織田の靴】

 

「これだ!!」

 

菊池「展望台の頂上に、靴が脱ぎ捨ててあった。恐らく、飛び降りる為に脱いだんだろう。…それと、エカイラが見た織田の様子…アレから察するに、織田はその時からすでに自殺を考えていたんだと思う。」

床前「さすがは菊池さん!満点回答です!…さて、では第2問目です。そんな愚かな織田さんが、自らの命を絶とうとした理由は?」

菊池「アイツが自殺しようとした理由…?」

 

コトダマ提示!

 

【偽物の弱み】

 

「これだ!!」

 

菊池「…織田のしおりに表示されていた、猫西の偽物の弱み…多分、それが織田の自殺の動機だ。」

ジェイムズ「なっ…!」

床前「すごいです菊池さん!2問目も大正解!その通りです!彼は、猫西さんに心酔していました。それこそ、彼女のためなら本気で命を投げうてる程にね。だから、彼女に誑かされたと知った時は、さぞショックだったでしょうねぇ。まあ、全部私が流したデマだったんですけど。…ホント、根拠の無いデマで自殺しようとしちゃうなんて…愚か極まりないですね。」

玉木「テメェ…!!」

床前「あなたは黙っててください、無能リーダーさん。…さて、菊池さん。これが最終問題です。…実は、織田さんは自殺に失敗し、この中の誰かに殺されてしまったのですが、織田さんは一体誰に殺されたんでしょうか?」

アリス「はぁー!?そんなのわかるわけないじゃん!!わかってるならさっさと答え言えこのヤロー!!」

床前「…あなた、本当にわかってないですね。今は、私と菊池さんでゲームをしているんです。邪魔をするなら、子供だろうと容赦しませんから。…菊池さん、安心してください。ちゃんとヒントはあげましたから。」

菊池「ヒントだと…?」

床前「そうです。…あの犯行現場、何かおかしな点はありませんでしたか?」

…それって。

 

コトダマ提示!

 

【ダイイングメッセージ】

 

「これだ!!」

 

菊池「…織田の死体の近くにあったダイイングメッセージか?」

床前「そうですそうです!私、菊池さんのために頑張って犯人の手がかりを残したんです!」

アリス「はぁあああああ!?アレ、ナギねえが書いたの!?」

床前「当たり前です。…逆に、あなた達は今まで、あれを織田さんが書いたとでも思ったんですか?展望台から落ちて即死したはずなのになんでメッセージを残せるのかとか、明らかに不自然な点だらけだったのに、何も疑問に思わなかったんですか?だとしたら、本当にバカですねあなた達は。あれは、私が菊池さんに向けて残した愛のメッセージです。」

猫西「何が愛だよ…そんな事をして、一体何の得があるのさ!」

床前「あなた達、本当にうるさいですよ。黙れと何度言ったらわかるんですか。…さて菊池さん、耳障りな生ゴミは放っておいて、メッセージの解読のヒントを教えてあげます。」

菊池「何…!?」

床前「メッセージは、『Kの上はハイ』です。これを、『K/の上/は/ハイ』に分けます。」

菊池「…ッ。」

床前「あら、素晴らしいです菊池さん!もう解けたんですか!?…では、答え合わせといきましょうか。…カークランドさーん、この文字列、全部英訳してください。」

ジェイムズ「えっと…K on is Hiです。」

小川「ーあ!!」

…全員が、理解してしまった。

織田を殺した犯人。

…それは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人物指定

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の???』アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の漫画家』織田兼太郎

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

元『超高校級の死神』伏木野エカイラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

菊池「…お前が犯人だったんだな、猫西。」

猫西「えっと…菊池君、ごめんね。ちょっとよくわかんないかな…」

エカイラ「わかんないって、どういう意味よ。…まさか、この暗号の意味がわからなかった、なんて言わないわよね?」

猫西「うん、確かにこのダイイングメッセージに書かれてるのは私の名前だね。…でも、ごめんね。私、織田君を殺しちゃったのかよくわからないんだ。」

神城「はあああああ!?わかんないってどういう事だよ!?すっとぼけようったってそうはいかねぇぞ!!」

猫西「本当にわかんないんだよ…!なんで私が織田君を殺しちゃったのか、そもそも私が織田君を殺したのかも、全部わからないの!!」

エカイラ「わかんないわかんないって、アンタさっきからそればっかじゃないの!!」

ジェイムズ「ちょっと、エカイラちゃんさん!女性に対してその言い方は、無礼にも程があります!」

菊池「…いや、エカイラの言う通りだ。さっきから、猫西の発言には、おかしな点が多い。」

 

コトダマ提示!

 

【猫西の証言】

 

「これだ!!」

 

菊池「…猫西は、展望台で目を覚ましてから、それ以前の記憶が無いんだ。」

アリス「えええええええ!?何その都合よすぎなキオクソーシツ!!」

ジェイムズ「そうです!そんな、その記憶だけがスッポリ抜け落ちるなんて都合の良い事ある訳が…」

菊池「…いや、心当たりならある。」

猫西の記憶喪失の原因…それは。

 

コトダマ提示!

 

【クレハミンXの効果】

 

「これだ!!」

 

菊池「クレハミンXには、直前の記憶を一時的に失わせる効果がある。多分、猫西が事件当時の事を覚えていないのも、クレハミンXによるものだ。」

リタ「ふわぁあ…じゃあ猫西は、その薬を床前に嗅がされたせいで寝ちゃって、その記憶を失くしちゃったって事ですかぁ?」

小川「そんな…」

猫西「…私、分かんないよ…!なんで私が織田君を殺しちゃったのか…本当に私が織田君を殺しちゃってたなら、彼に謝りたい。でも、なんで私が織田君を殺しちゃったのか、思い出せないの!!」

床前「菊池さん、あなたはもうわかってるでしょう?なんで猫西さんが織田さんを殺してしまったのか…」

菊池「…え?」

床前「…あれ?答えにくかったですか?では、質問を変えます。猫西さんは、犯行時刻に、あの場所で何をしていたんでしょうか?」

…猫西がやっていた事。それは…

 

 

 

 

猫西が犯行時刻に展望台にいた理由は?

A.【デートの待ち合わせ】

B.【コロシアイ】

C.【人命救助】

D.【気分転換】

 

 

 

C.【人命救助】

 

「これだ!!」

 

菊池「…猫西、お前は、自殺しようと飛び降りた織田を助けようとしたんだ。」

猫西「…え。」

エカイラ「ちょっと待って?それ、勝手な憶測になってない?どこにそんな根拠があるの?」

猫西が織田を助けようとしたという根拠…それは。

 

コトダマ提示!

 

【猫西の叫び声】

 

「これだ!!」

 

菊池「…猫西、お前は覚えてないかもしれないけど、お前は確かに『誰か助けて』と叫んだんだ。お前はその手で、織田を救おうとしていたんだ。」

小川「…え、それじゃあ…」

エカイラ「…利用されたのよ。そこの売女にね。」

床前「殺人鬼に言われたくないです。…だって、しょうがないじゃないですか。ウザかったんですもん。さて、めでたくクロに決まっちゃったわけですけど、猫西さん。今どんな気持ちですか?ねえ、教えてくださいよ。ねえ、ねえ、ねえ!」

 

 

 

 

猫西「もうやめて!!!

「!!!」

猫西は、証言台を叩いた。

そして、涙を流して言った。

猫西「…菊池君、私…全部思い出したの。…なんで今まで忘れちゃってたんだろう。…そうだった、私が…織田君を殺した。」

菊池「猫西…お前…!」

猫西「…もう、言い訳はしない。織田君を殺したのは、床前さんじゃない。私は、この手で織田君を殺した最低で最悪の人殺しなんだよ!!だからお願い…もう楽にして。私を殺して…!」

床前「あらあら。案外潔いですね。正直見ててつまんないです。ほらほら、もっと醜く足掻いてくださいよ!」

菊池「黙れ!!!」

床前「…はぁい。」

菊池「…猫西、俺が引導を渡してやる。…これが、事件の真相だ!!」

 

 

 

クライマックス推理

 

 

 

 

 

頭の中に、漫画が浮かび上がる。

そこに、ジグソーパズルのように適切なピースを当てはめ…

これが事件の真相だ!!

 

 

 

 

 

 

Act.1

今回の事件の発端は、床前の流したダミーの犯人の弱みを、織田が見た事だった。

織田は犯人に、それこそ自分の命をかけられるほどに心酔していたんだ。

だからこそ、犯人に裏切られたという偽情報を掴んだ時は、さぞショックだっただろうな。

犯人に騙されたと勘違いした織田は、自殺を決意してしまったんだ。

 

Act.2

そして、織田は展望台から飛び降りて自殺しようとしていた、ちょうどその時犯人がそこに来た。

しかし時すでに遅し、織田は飛び降りてしまっていた。

すると犯人は、急いで織田の体を掴み、引き上げようとしたんだ。

そして、自分一人では織田を救えないと思った犯人は、誰かに助けを求めたんだ。

 

Act.3

しかし、その直後悲劇が起こった。

犯人の背後には、事前に神城の金庫からクレハミンXを盗み出し、それを染み込ませたハンカチを用意した床前がいた。

床前は、背後から犯人の顔にハンカチを押し当て、犯人を眠らせたんだ。

そして、犯人の身体に薬が回り、犯人は眠ってしまった。

その時、犯人は織田から手を離してしまったんだ。

 

Act.4

犯人の手を離れた織田は真っ逆さまに落ちていき、そして地面に叩きつけられた。

それを確認した床前は、織田の近くに血文字でダイイングメッセージを残した。

そして、あらかじめ女湯にセットしておいたヴォイスレコーダーの音声が再生され、それをエカイラが聴いたことで、床前はアリバイを証明できたかのように見せかけたんだ。

そして俺達が展望台に駆けつけた時、犯人が目を覚ました。

…だが犯人は、クレハミンXのせいで記憶を失っていたんだ。

 

 

 

「これが事件の真相だ。…そうだろ?」

 

 

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉!!!

 

 

 

猫西「う…ううう…織田君…ごめんなさい…ごめんなさい…!」

射場山「…終わった。」

床前「…うふふ、なんて醜いんでしょうね。」

玉木「クソッ、こんなの不可抗力じゃねえか!!」

小川「そんな…猫西先輩が…どうして!」

エカイラ「ほーんと、世の中って歪んでるわよねぇ。」

モノクマ『うぷぷ…どうやら犯人は決まったようですね?ではでは、投票ターイム!!』

モノハム『必ぢゅ、一人一票投票してくだちゃいね!』

俺は、最後まで迷っていた。

本当に、投票してしまっていいのだろうか?

…それでも、俺は選ぶしかなかった。

俺は躊躇いながらも、猫西に投票した。

 

 

モノクマ『うぷぷ…ではでは、結果発表ー!!!』

モノハム『皆様の運命はいかに!?』

 

目の前に巨大なスロットマシーンが現れ、俺たちの顔を模したドット絵が回転する。

回転速度は徐々に遅くなっていき、ついに止まった。

そこには、猫西のドット絵が三つ並んでいた。

スロットマシーンにGuiltyの文字が浮かび上がり、ファンファーレのような機械音が鳴り響く。

スロットマシーンからは、大量のモノクマメダルが吐き出された。

 

…また、始まってしまう。

悪夢のような惨劇が。

 

 

 

学級裁判閉廷



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第3章 非日常編③(おしおき編)

『うぷぷぷ…お見事大正解ー!!『超高校級の漫画家』織田兼太郎クンをブチ殺した愚かな殺人犯のクロはー…悲劇のヒロイン気取りの偽善者、『超高校級の実況者』猫西理嘉サンでしたー!!…いやあ、今回はクロでさえ自分が殺したのを知らなかった殺人だったわけだけどね、実に面白かったよ!オマエラホント頑張ったよね!』

『でも、今回は満場一致ではなかったんでちゅよね〜。』

『そうそう!クロの猫西サンが自分に投票したのはちょっと意外だったけど…それより玉木クン、小川サン!!オマエラさ、クロが猫西サンだってわかってて床前サンに投票するとか、どういうつもり?オマエラの命だけじゃなくて、みんなの命が懸かってるって事、ちゃんと自覚してる?』

「自分は…自分は、猫西先輩がクロだなんて思いたくなかったんス!!」

『いや、認めろよ。織田クンを殺したのは、猫西サンなんだよ!』

「違う!…だって、あんなの不可抗力だろ!!殺人を計画したのは床前じゃねえか!!だったら、クロは床前だろ!!」

「…玉木さん。残念ながら、今回は猫西さんがクロです。」

ジェイムズは、うつむきながら悔しそうに言った。

「なんでだよ!?猫西が織田の手を離しちまったのは、どう考えても床前のせいだろ!!だったら床前がクロになるべきだろうが!!」

「…あのね、玉木さん。私はあくまで殺人を()()()()()()であって、それを()()()()のは猫西さんです。つまり、今回クロとして裁かれるのは、実行犯の猫西さんだけです。織田さんと猫西さんを操って殺人を起こさせた私は、裁かれずに生き延びるんです。残念でしたね、無能リーダーさん?」

床前は、不敵な笑みを浮かべながら余裕綽綽と玉木を煽る。

…悔しいが、床前の言う事は正しい。

このゲームのルールの性質上、今回の裁判で床前を裁くことはできない。

床前は、そのルールを利用して、猫西に織田を殺させた。

猫西は、最初から床前の掌の上で転がされていたんだ。

「床前…お前、よくも織田と猫西を…!テメェだけは絶対許さねェ!!」

「あら。許さないなら、どうしますか?私を殺して、実行犯としておしおきされますか?ん?」

「テメェ…!!」

玉木は、床前を殴ろうとした。

だが、床前の前に立ちはだかるヤツがいた。

…猫西だった。

「玉木君、もうやめて。」

「猫西…お前…!」

「…全部、床前さんの言う通りだよ。私は、織田君を殺して、それを忘れちゃってたんだ。…許される事じゃない。だから、今回の裁判は、私がクロにならなきゃいけなかったんだよ。」

「違うっス!先輩は、何も悪くないっス!!」

「クソッ…チクショウ!…なんで、なんでこうなっちまうんだよ…!」

『うぷぷ、ズバリ教えてあげます!どうしてこうなってしまったのかをね!』

「何…!?」

『織田クンは、オマエラの読み通り、自殺しようとしていたのです!それも、自分の勝手な思い込みでね。そのおバカな行動のせいで、彼の愛する人がクロになっちゃうとも知らずにさ!そして、そんなバカを助けようとしたのが猫西サンでした!でも、どっかのメス豚の作った薬を盗んだ床前サンに邪魔されて、その手を離しちゃったんだ!そして、その薬の副作用のせいで、猫西サンは自分がクロだって事も忘れてのうのうとシロのフリをして学級裁判に参加してたってワケ!!…いやあ、まさか人を助けようとした結果、逆にその手で殺しちゃうなんてさ、ホント皮肉だよね!』

『ぴきゃきゃ…あちょこで織田様を見捨てていれば、少なくとも自分がクロになる事はなかったのに…世の中、正義が必ず勝ちゅとは限らないんでちゅよ!時には、人を踏み台にちゅる冷酷ちゃも必要なのでちゅ!』

「うるせェ!!黙れ!!!」

俺は、ありったけの声で叫んでいた。

「猫西が織田を助けようとした事は、たとえ何があろうと、絶対に間違ってない!猫西の、仲間を助けようとした勇気を、優しさをバカにするんじゃねェ!!」

『菊池クン、オマエホント口だけだよね。そんな事言ってはいるけどさ、オマエ猫西サンに投票してんじゃん!』

「ッ…!!」

そうだ。

俺は、猫西の命よりもみんなの命を選んでしまった。

これだけは、俺が今更何を言おうと揺るがない真実だ。

「お、俺は…」

「モノクマ、やめて。菊池君は何も悪くない。菊池君は、あーちゃんや玉木君…みんなの事を守ろうとしただけなんだよ!」

「猫西…俺は、お前に投票したんだぞ…?なのになんで…」

「…菊池君。みんなの事を守ろうとした君の判断は、たとえ誰がなんと言おうと、絶対に間違ってないよ。だから、私なんかのために自分を責めないで。」

「お前…一体何を…!」

「悪いのは、全部私だ。だから、私が裁かれなきゃいけない。…そうでしょ?」

『おやおや、随分と潔いでちゅね!こっちとちては、もっと醜くのたうち回って欲ちかったんでちゅけど…まあいいでちょう!おちおきをはぢめちゃいまちゅよー!』

「…最後に、1つだけお願いがあるの。」

『ほぇ?何?』

「私はおしおきを受ける。それはもう受け入れた。…その代わり、ここにいる私以外のみんなと、外にいるみんなの大切な人達には何もしないであげて。」

「おい、やめろよ…何言ってんだよお前…!」

『うん、いいよ。…ただし、オマエが大人しく死ねば、だけどね!』

「…わかった。早く始めて。」

「おい…何言ってんだよ…1人で勝手に死のうとするなんて…そんなの、絶対に許さねェぞ!!」

「そうだ!!こんな裁判、無効だ!!今すぐおしおきをやめろ!!」

「そうっス!こんな理不尽な結果、認めないっス!!」

『うるせぇよバーカ!!誰かを殺したクロはおしおきって言ったじゃん!例外も特例もエクセプションもないの!!とにかく、とっととおしおき始めたいからこれ以上の反論は無視するよ!』

『アナタ達の戯言に付き合っていられる程、オイラ達も暇ぢゃないのでちゅ。わかったら、大人ちくお席にお戻りくだちゃい!』

「おい、テメェふざけんな!!そうだ、おい猫西!俺達が時間を稼ぐから早く行け!!港にクルーザーあったろ、それ使って島の外に逃げろ!!」

「そうっス!!早く逃げてください!!」

「おしおきなんて、受ける必要はありません!!私達の事はいいですから、早く行って下さい!!」

俺、玉木、ジェイムズ、小川がモノクマ達に立ち向かった。

歯向かったら、俺が死ぬかもしれない。

…でも、何故か恐怖は沸き起こらなかった。

それよりも、こんな理不尽な結果を許すわけにはいかなかった。

覚悟はできている。殺すなら殺せ。

その代わり、俺達の仲間は絶対に逃す。

猫西が死ななきゃいけないのが運命だとするなら、そんな運命、俺達がねじ曲げてやる!

『ちょっと、オマエラ何その反抗的な態度!!ふーんだ、もういいもんね!オマエラがその気なら、ボクだって本気出しちゃうぞー!!』

『ぴきゃきゃ…本当に、皆様がちょろいもちょろって不良生徒で、オイラは悲ちいでちゅ。…仕方ありまちぇんが…貴様ら全員ここで死ねぇえええええええーい!!!』

モノクマとモノハムの目が赤く光り、爪が伸びる。

「上等だコラ!!やれるもんならやってみろ!!テメェらの相手は、俺達だ!!」

「おい猫西!!早く行け!!」

「菊池君、もういいよ。…みんなも、こんな私なんかを、命を懸けて護ろうとしてくれてありがとう。…嬉しかった。」

「おい、何言ってんだよ…早く逃げろよ…!逃げてくれよ…!」

「…でも、ごめん。私は、逃げるつもりはない。私が逃げれば、みんなが死ぬ。それに、みんなの大切な人達に何かされるかもしれない。それだけは、絶対にあっちゃいけないんだ。だから私は逃げない。」

「そんなの、俺達がなんとかする!何もお前が死ぬ事ないだろ!!」

猫西は、静かに首を横に振った。

「とにかく私は、みんなに迷惑かけてまで生き延びようとは思わない。私は、織田君を殺した大罪人だ。だから裁きはちゃんと受けるよ。」

「違う…お前は…」

「短い間だったけど、君達と過ごした時間はすごく楽しかった。…ありがとう。」

「やめろ…頼む、そんな事言わないでくれ…!」

猫西は、俺の肩に手を置いて言った。

「菊池君、私は君の事が好きだよ。」

「…え。」

「…最後に、これだけは伝えておきたかった。…じゃあね。」

猫西は、それだけ言い残すと、モノクマ達の方へ歩み寄った。

「…ねえ、もうやめて。私がおしおきを受ければ、みんなには何もしない約束だったでしょ。」

『猫西サン!キミなら逃げないと思ってたよ。オマエラも彼女を見習って、反抗的な態度は慎むように!』

「やめろ…やめてくれ…!」

『それでは、今回は『超高校級の実況者』猫西理嘉サンのために!!スペシャルなおしおきを用意しましたっ!!』

「バイバイ、みんな。」

「嫌…いやあ…!!先輩が…!」

「…やめろ。」

『…ではでは、おしおきターイム!!』

「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

モノクマの席の前から、赤いスイッチがせり上がってくる。

俺は、モノクマに向かって突進した。

だが、間に合わなかった。

モノクマはピコピコハンマーを取り出し、ハンマーでスイッチをピコッと押した。

 

 

 

 

 


 

 

GAME OVER

 

コニシさんがクロにきまりました。

 

オシオキをかいしします。

 

 

猫西の下の床が開き、猫西は下に落ちる。

猫西は下へ下へと落ちていく。

そして、着地した。

着地した場所は、パステルカラーの壁で、部屋中にぬいぐるみや化粧セットなどが置かれた部屋だった。

猫西は、部屋の椅子に座らされ、椅子に拘束される。

猫西は、不安そうに周りを見渡す。

すると画面が切り替わり、タイトルが浮かび上がる。

 

 

 

聖宮炎上ガール

 

【超高校級の実況者】猫西理嘉 処刑執行

 

 

 

 

部屋の中に、ボディビルダーのような姿のモノクマと、給食当番の格好をしたモノハムが、巨大な管付きのアルミ鍋とカセットコンロを運んできた。

モノハムは、『火気厳禁』と書かれたドラム缶を持ってきて、鍋の中に中身を注ぐ。鍋は、ドラム缶の中の真っ白な液体でいっぱいになった。

モノハムはカセットコンロのダイヤルを回した。コンロが点火して鍋が熱せられ、鍋の中身があり得ない速度で沸騰する。

鍋の中身は、ブクブクと泡立ち、白煙が上がっている。

するとモノクマは、透明な管のついた筒を取り出し、猫西の口に無理矢理突っ込んだ。

そして、管の端を鍋の管に結合した。

その瞬間猫西は、自分の身に何が起こるのかを悟り、顔面蒼白になってカタカタと震えた。

モノクマは、鍋の管に取り付けられたハンドルを高速回転させる。

その瞬間、鍋の中の大量の白濁液が一気に管の中を通り、猫西の口の中に注がれる。

猫西は、超高温の液体によって身体中に大火傷を負い、悶え苦しむ。

猫西は白目を剥き、汗が大量に噴き出す。

口や鼻からは、白濁液と血が混ざった液体が大量に溢れ出した。

拘束を解こうと暴れるも、拘束具は頑丈に固定されており、ビクともしない。

どんなにもがこうと、マグマのように煮えたぎった白濁液は、容赦無く体内に注がれていく。

そしてついに、鍋の中身が全て放出された。

猫西の周りは、部屋を埋め尽くす程の白濁液で染まっていた。

猫西の目は虚ろになっており、もう意識があるのかもわからない状態だった。

だが、これだけでは終わらなかった。

マッチョモノクマは、部屋の隅に置いてあった釘バットを手に取り、猫西の顔面目掛けてフルスイングした。

猫西は抵抗する術もなく、バットを顔面に喰らった。

顔は殴られた衝撃で潰れ、バットと床には返り血が飛び散る。

モノクマは、これだけでは満足できなかったのか、猫西をバットで何度も殴る。

殴れば殴るほど、バットと猫西の体が赤く染まる。

猫西の顔は、誰だかわからない程に変形し、両サイドに結った髪もほどけ、全身ボロボロになる。

トドメと言わんばかりに、モノクマは渾身の一撃を喰らわせた。

そして、バットをフルスイングした勢いで、近くに置いてあったキャンドルにバットが当たり、キャンドルが床に落ちる。

キャンドルの火が白濁液に点火し、部屋は怒涛の勢いで燃え広がる。

それを確認したモノクマとモノハムは、猫西を置いて急いで撤収した。

部屋全体が燃え広がると映像の範囲が広まっていき、部屋の外の映像が映し出される。

猫西が処刑された部屋があると思われる城は燃え上がり、朱い炎が夜空を照らす。

その様子を、森の影から、パーカーを羽織ったモノクマがスマホで撮影する。

そして、『殺人鬼の家にリア凸したらまさかの大炎上なうw』と書き込み、写真と一緒に発信した。

 

 

 

 

 


 

 

『イヤッホォオオオオオオオオイ!!!エクストリィイイム!!!いやあー、ゾクゾクしちゃうね!』

『ぴきゃきゃきゃきゃ!これだけハデにおちおきちたら、視聴率アップ間違いなちでちゅね!』

「ぁああああ…そんなぁ…猫西先輩が…!」

「クソッ…チクショウ…!!なんで…なんでだよ!」

「そんな…猫西さんが…!」

「にゃあああああああ!!うぇすにゃんがぁあああ!!もううぇすにゃんチャンネル見れないよ〜!」

「…本当、毎度毎度懲りもせずにいい趣味した事するわね。」

「…最低。」

「嘘でしょ…猫西が…!」

「ひぃいいい!マジかよ…たまたま殺っちゃっただけでここまでされんのかよ…!」

俺達はまた、仲間が処刑されるところを見ることしかできなかった。

…猫西が死んだ。

あまりにも理不尽な最期だった。

その死は、アイツが犯してしまった過ちに比べ、あまりにも残酷すぎた。

なんで…織田を助けようとしたアイツが、俺達を庇ってくれたアイツが、こんな方法で殺されなきゃならなかったんだ。

俺は、織田と猫西の命を弄んだモノクマ達と床前が許せなかった。

…だがそれ以上に、猫西を助けられずに、逆にアイツに助けられた自分が、何より許せなかった。

『おやあ?菊池クン、なんでそんなに泣いてんの?惚れた女がブッ殺されたのがそんなにショックだった?』

「…え。」

モノクマに言われて初めて気がついた。

今まで、自分でも気付いていなかった。

俺は、誰よりもみんなの事を考えていたアイツに、いつの間にか惹かれていたんだ。

…でもアイツは、もうこの世の何処にもいない。

今更気付いたって、どんなに後悔したってもう遅い。

俺がアイツに甘えていたからこんな事になったんだ。

俺の甘さが、アイツを殺したんだ。

『いやあ、それにしてもオマエラホントによく頑張ったよ!ご褒美にメダルはあげるから、好きにシェアしてね!』

『ぴきゃきゃ、ではまたお会いちまちょう!』

モノクマとモノハムは、陽気に去っていった。

俺は、猫西が居なくなってしまった事で空いた心の穴を、いつまでも塞げずにいた。

…だが、こんな状況で1人だけ笑うヤツがいた。

 

「…うふふ、ふふふ…あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」

床前は、今までに聞いた事もないような大きな声で高笑いしていた。

「お前…何が可笑しくて笑ってんだ!!」

「…うふふ、なんで笑ってるのか、ですって?…そんなの、愉快だからに決まってるじゃないですか。」

床前は、狂ったような笑みを浮かべて言った。

「…本当、最高の気分ですよ。菊池さんにすり寄ってくる邪魔な虫が計画通りに消えてくれたんですから。…うふふ、やっぱり私と菊池さんは、運命で結ばれているんですね♡」

「お前…何言ってんだよ!?」

「…簡単な話ですよ。私にとって、猫西さんがクロとして処刑されるのが、私にとっての『幸運』だった。だから、そうなるように彼女の運命を操ってあげたんですよ。」

「お前にとっての…『幸運』…だと…!?」

「ええ。そうです。…では、菊池さんに問題です。なんで猫西さんは、死ななきゃいけなかったんだと思いますか?」

「そんなの、わかるわけないだろ…!アイツは、誰よりもみんなの事を想ってた。なのに、なんでアイツが殺されなきゃならなかったんだよ!!」

「…うふふ、答えは簡単です。」

 

 

 

 

「…彼女が、菊池さんに恋心を抱いていたからです。」

…は!?

そんな、さっきのアレはそういう意味だったのか…?

俺はてっきり、likeの方だと思ってたぞ…

「嘘だろ…?アイツが、俺の事を…?」

「いや、アンタそれ今更だから。逆に、あれだけ好意寄せられて、よく今まで気づかなかったわね。」

「サトにいはドンカンのキワミだね〜。」

そんな…じゃあ、俺は今まで…

「彼女もかわいそうでしたよね。菊池さんが鈍すぎるせいで、最後の最後まで結ばれなかったんですから。…まあ、それも私にとってはラッキーだったんですけど♫」

「どういう意味だ!?」

「菊池さん。私は、あなたの事を心の底から愛しています。私は、あなたと私が結ばれればそれはどんなに幸せな事だろうかと毎日そればかりを考えていました。…でも、そのためには、あなたにすり寄る他の女が邪魔だったんです。だから、私は猫西さんを殺す事に決めました。」

床前は、裁判場の席の周りを回りながら言った。

「…でも、そんな時、私は猫西さんに話しかけられたんです。もちろん彼女は、私が菊池さんを好きだって事は知ってましたから、私に対して嫌味の一つや二つ言いに来るんだろうなって思ってました。…いや、むしろそっちの方がまだ良かったのかな?…でも、彼女はとんでもない事を言い出したんです。ねえ菊池さん。彼女がなんて言ったと思いますか?」

「…知るかよ。」

「『お互い頑張ろうね』ですって。…彼女は、私の菊池さんへの恋心を知った上で、私の事も応援してくださったんです。」

「…だったら、なんで…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって、ムカつくじゃないですかぁ。」

 

 

 

 

 

…は?

 

「人を殺して楽しんでる私に、最初から勝ち目なんてない事はわかってました。猫西さんは見た目が良くて、気配りもできるので、菊池さんは絶対猫西さんの方を気に入るだろうな、とは思ってましたよ。実際、その通りでしたしね。…そんな状態で優しい言葉なんてかけられたら、彼女との差が浮き彫りになるだけじゃないですか。…だから私は、猫西さんをクロにしたんです。」

「なんだと…!?」

「…要するに、私と菊池さんが結ばれるという私にとっての『幸運』が叶うためには、彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でなくてはならなかったんですよ。」

「なんだそのゴミみてぇな理由は!!昼ドラの女優みてぇな事してんじゃねえぞこのクソビッチが!!」

「あなたにだけは言われたくないですよ神城さん。耳障りなので黙っててください。」

床前に睨まれると、神城は大人しくなった。

「…とにかく、私は賭けに勝ったんです。そのおかげで、菊池さんと私の恋路を邪魔する魔女は自滅してくれましたよ。これでもう、私は菊池さんのモノ…うふふ、私ったら、なんて幸福なんでしょう!!」

「頭おかしいだろお前!!」

「やだなあ、菊池さん。私、これでもずっといい子を演じてきたつもりだったんですよ?おかげで、目障りな駒達はみーんな私の思惑通りに動いてくれてましたよ♡」

…駒だと?

まさか、コイツが今まで人を殺してきたのは、全部ゲームだったとでもいうのか…?

 

「ふざけんな!!!」

「きゃっ!?」

俺は、床前の胸ぐらを掴んで拳を振りかぶった。

そして…

 

「ッ…!!」

…殴れなかった。

コイツは、みんなの命を弄んだ屑だ。

それでも、女に手をあげるのは、俺のプライドが許さなかった。

「まあ紳士♡…私、ますます菊池さんの事が好きになっちゃいました。」

「…クソッタレ!!」

 

「…あの、一つ宜しいですか?」

ジェイムズが手を挙げて発言した。

「…なんですか?私は今、菊池さんとお話しているんですけど。」

床前が、舌打ちをしながら面倒臭そうに聞いた。

「さっきからずっと伺おうと思ってタイミングを見計っておりましたが…織田さんのしおりに表示されていた猫西さんの弱みって、床前さんが用意したんですよね?」

「…ですけど?…言いたい事があるなら早くしてください。」

「あのしおりの機能だけでは、あの様な物を作成する事は不可能です。貴女は何故、あの様な物を作成出来たのですか?」

…あ。

そういえばそうだ。

あのしおりには、最低限の機能しか無い。

あれだけの機能で、モノクマに配られた『弱み』のダミーを作成する事なんて、不可能なはずなんだ。

「ああ、なんだ。その事ですか。…それは、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が、モノクマ学園長達の内通者だからですよ。

 

 

 

 

 

…。

 

…。

 

…。

 

は?

 

「お前が、内通者…だと…?」

「ええ、そうですよ。私が内通者でーす。」

「にゃあああああああああ!?ナギねえがクマちゃんのスパイだったの!?嘘でしょぉ!?」

「嘘じゃないです。監視カメラの設置や動機の作成等、色々頑張ったんですよ?…全ては、」

 

 

 

「菊池さん。あなたのために。」

「…俺?」

「え!?スパイがサトにいのため!?ちょっとマヂゆってることがイミフ!一体どゆこと!?」

「…単純な話です。私は、どうしても菊池さんの事だけは守りたかった。だから、一番菊池さんの事を守りやすいポジションを確保するために、自ら学園長達に売り込んだんです。…私だって、菊池さんを裏切るのは心苦しかったんですよ?でも、仕方ないじゃないですか。だって、この世界で一番優先されるべきものは、愛なんですから。」

「愛…?」

「そうです。菊池さん、私はあなたの事を、世界中の誰よりも愛しています。私は、あなたのためならなんだってします。あなたが生き延びるためなら、私は喜んで敵に魂を売ります。あなたを殺そうとする者がいるなら、喜んで殺します。…そして、あなたが私に死ねと言うのなら、私は喜んで死にます。私は、あなたが喜んでくれるなら、何もいりません。あなたにだったら、たとえ何をされたとしても、私にとっては幸せなんです。」

床前は、俺の腕を掴んで無理矢理自分の手を握らせた。

「ーーーーーッ!!?」

「気持ち悪りぃ…!」

「引くわー。」

神城とアリスは、顔を青白くしながら声を漏らした。

「…触んな!!」

俺は、床前の手を振り解いた。

「菊池さん、もしかして、私は邪魔ですか?だったらいつでも言ってくださいね。喜んで死にますから。」

「床前さん、そんなのは愛じゃありません!!You are wrong (貴女は間違っている)‼︎」

ジェイムズが声を張り上げて言った。

「…あら、ではあなたの言う愛は、きっと愛ではありませんね。」

「どういう意味ですか!?」

「…その人のためなら、なんだってするのが愛です。私は、菊池さんのためならなんだってできるんです。だって、私は菊池さんの事を愛してるから。」

「…アンタ、絶対いい死に方しないわよ。」

「ご忠告ありがとうございます、エカイラさん。そして耳障りなのでこれ以上話さないでください。…さて、菊池さん。目障りなゴミも消えてくれた事ですし、これから二人でお話でもしませんか?」

「…チッ、付き合ってられっかよ。」

俺は、一人でエレベーターに乗り込んだ。

「あら、菊池さん。どちらに行かれるんです?」

「…気分悪いから部屋に戻って寝る。」

「あら。もうお戻りになられるんですか?でしたら、言い争いで喉が疲れているでしょうし、ハーブティーでも淹れましょうか?私の部屋に、安眠効果のあるハーブがあるんですけど…」

床前は、ズカズカとエレベーターの中に入ってきた。

「うるせェ、ついてくるな!!」

「菊池さん…」

「…今すぐ俺の視界から消えろ。そして二度と俺の前にその面を見せるな!」

「きゃっ!」

俺は、床前をエレベーターの外へ突き飛ばしてエレベーターを作動させた。

 

 

 

…最悪の気分だ。

織田が死んだ。

猫西は、俺が想いを伝える事も、俺がアイツの想いに気付く事もないまま処刑されてしまった。

そして、今まで仲間だと思って信頼していた床前が実はモノクマの手先で、しかも人の命を平気で弄んで楽しむ異常者だった。

織田と猫西は、最期まで床前の操り人形だった。

織田は、床前のシナリオ通りに偽物の弱みに騙されて自殺を図った。

猫西は、そんな織田を助けようとした優しさを床前に利用され、織田殺しの罪を着せられた。

…二人だけじゃない。今までに死んでしまった奴等は、みんな床前の掌の上で転がされて殺された。

全ては、あの女の自分勝手な殺人欲求を満たすための茶番劇に過ぎなかった。

 

『世の中、正義が必ず勝つとは限らない』

 

…まさにその通りだ。

自分の正義を貫こうとした猫西は織田を殺したクロにされて、みんなを欺いて散々弄んだ床前はのうのうと生きている。

良く生きれば報われるなんて、そんなのはただの幻想だと思い知らされた。

真実は、時には虚構以上に醜く、理不尽で、そして残酷だ。

…俺は、こんな歪んだ真実に、どう向き合ったらいいんだ。

答えは見つからないまま、俺は部屋に戻ってベッドに横たわっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3章『人生最後の告白を』ー完ー

 

 

 

 

コロシアイ合宿生活残り10名

 

 


 

 

 

 

「…いっやあ、床前のヤツ流石に調子に乗りすぎっしょ!まあ、アイツは色々優秀だから、特別に目を瞑ってあげるけどさ。これ以上引っ掻き回されると、正直興醒めなんだよなー。…んー、まあでもアイツの仕事ぶりを考えたら、まだ泳がせといた方がこっちにとってはプラスだよね。…菊池クンの事が大好きすぎるヤンデレの変態っていうのが玉に瑕だけど。…さーてと、そろそろボクの出番かな〜?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued…

 




【論リゾこぼれ話】

今回は、まさかの理嘉ちゃんがクロでしたね!
そして渚ちゃんの豹変っぷり…w
だんだん狛枝臭が漂ってきたので、これからは敬意を持って『トコマエダ様』と呼ばせて頂きます。
下はトコマエダ様のステータスです。

トコマエダ様
レベル999
論破力0.8コマエダ
ウザさ1.2コマエダ
狡猾さ0.9コマエダ
狂気10コマエダ

うーん、手強い。



さて、理嘉ちゃんのおしおきですが、これはちょっと拘らせて頂きました。
もうお気づきの方が殆どでしょうが、今回のおしおきはピンク要素アリです。
苦手な方は見ない事をお薦めします。
まず最初のアツアツ地獄ですが、アレは、(お察しください)の隠喩表現です。
次に釘バットですが、あれはネット用語の『叩く』を意味しています。
そして、最後の炎は、ネット用語の『炎上』です。
つまり、あれはネットアイドルの売春行為がバレてネットで散々叩かれまくった挙句大炎上、というストーリーを(物理)で再現しているわけです。
論クンの前でそんなストーリーの再現をさせられる事自体、彼女にとっては耐えがたい仕打ちだったのではないでしょうか。


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第3章 【恋は悲劇の火種也】

タイトル元ネタ『恋は混沌の隷也』です。


【織田兼太郎編】

 

吾輩…いや、僕には、心から愛する女性がいました。

猫西氏です。

彼女は、こんな僕にも、明るく接してくださいました。

僕は、そんな彼女に惹かれていました。

しかし最後は、彼女に裏切られた。

これは僕が、命を絶つまでの物語です。

 

 

 

ー13日目 11時57分ー

 

あと3分で、弱みが送られてくる。

…今日は、一体誰の弱みを見ることになるんだ?

 

ヴーーーーッ

 

しおりから、バイブ音が聞こえた。

…ついに、送られてきたのか。

 

 

【超高校級の実況者】猫西理嘉サンの弱み

 

 

 

…猫西氏の?

「ムフフ、どんな弱みなんでありしょうか…なんか如何わしい物を見るような気分ですが…で、でもルールで弱みを見なきゃいけない事になってますし?だったら吾輩も見なきゃいけないはずでありますし?…猫西氏、申し訳ありませんが、見させていただきますぞ!!」

僕は、ちょっとした好奇心と下心で、猫西氏の弱みを見ようと画面をスクロールしました。

…でも、それが間違いだったのかもしれません。

「…え。」

僕は、あまりのショックにしおりを落としました。

そこには、信じられない内容が書かれてあったのです。

 

 

 

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉サンは、今まで織田クンの事を誑かして楽しんでいました!

 

 

 

 

…え?

…嘘だ。

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ

 

猫西氏が、僕を誑かして楽しんでいた…?

いや、そんな馬鹿な話あるか。

だったら、彼女が今まで僕に向けてくれた笑顔は、優しさは、全部演技だったっていうのか…?

嘘だ!!

こんなの、絶対モノクマ学園長達が、僕を動揺させるために用意した偽情報に決まってる。

僕の知っている猫西氏は、そんな酷い事をする人じゃない!!

…そうだ、本人に聞いて確かめよう。

きっと、誤解だってわかるはずだ。

僕は、猫西氏を信じる事にしました。

大丈夫、彼女なら、ここに書かれているような事はしないはず。

僕は、真実を確かめようと、猫西氏を探しました。

 

 

ー美術館ー

 

「…いた!」

エリア内を探し回って、僕は猫西氏を見つけました。

彼女は、床前氏と一緒にいました。

「…何か話しているのか?」

今ここで話しかけるのはマズいと思い、僕は咄嗟に物陰に隠れ、聞き耳を立てていました。

…一体何を話しているんだ?

 

「あ、あの…猫西さん、お話ってなんですか…?」

「ねえ、床前さん。君さ、菊池君の事好きでしょ?」

「へ!?い、いや…そ、そんな事ないです…!き、菊池さんは、大事な仲間で…だから、す、好きとか…そんなんじゃないです…!」

「あはは、わかりやすいなあ。」

 

 

 

「…実はさ、私も菊池君の事好きなんだ。」

 

…。

…………………………………………………………………………………。

 

…………………………………………………………………………………。

 

………………………………………………………………………………え。

 

その瞬間、僕の中の世界は粉々に打ち砕かれました。

そんな…猫西氏は、菊池氏の事を…?

…だったら今まで、あなたは僕の気持ちを知っていて、僕があなたに報われる事のない愛を捧げているのを、心の中で馬鹿にしていたというのですか?

…あは。

あははははははははははははははははははははははははははははははは。

あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。

…終わりだ。

僕にはもう、生きてここから出る理由はなくなった。

僕は、あなたが優しくしてくれたから、生きてここを出たいって思えたんだ。

でも、そのあなたにさえ裏切られた。

だったらもう、僕はこれ以上生きながらえたくはない。

…このゲームから逃れる方法は、2つしかない。

殺るか、殺られるかだ。

それ以外に逃げ道がないというなら、僕は自分を殺そう。

どうせ、この先生き残ったって、辛い思いをするだけだ。

だったらいっその事、全て終わらせてしまおう。

僕は、覚悟を決めて展望台へと向かいました。

 

 

ー展望台頂上ー

 

「…フヒ、フヒヒ…」

一度死ぬと決めてしまえば、今まで怖かったこの高さも、なぜか全く恐怖を感じなかった。

これだけの高さがあれば、楽に死ねるはずだ。

もう、思い残す事は何もない。

…あったかもしれないけど、全部幻想だった。

猫西氏への愛も、生き残りたいという思いも、ここに来てからの思い出も。

全部、まやかしだった。

…灯りを消そう。

僕は、靴を置いて、一歩前に踏み出した。

その時、後ろから声が聞こえた。

 

「織田君!!」

 

振り返ると、そこには猫西氏がいました。

「ねえ、何しようとしてるの?そんな所にいたら、危ないよ!」

「…見ての通りであります。吾輩にはもう、生きる意味はなくなった。だから、今から命を断つのであります。」

「そんなのダメだよ!!みんなで生きてここを出ようって約束したでしょ!?何か辛い事があったのかもしれないけど、それでも生きなきゃ!!生きていればきっと、どこかに望みはあるはずだから…!」

 

「…その望みは、全部お前が壊したんだろうがよぉお…!」

「え…!?私が…?私、織田君に何かした?」

この女は、この期に及んでまだ点数稼ぎをするつもりか。

どうせこれで最期だ。

言いたい事、全部吐き出してやった。

「とぼけてんじゃねぇよ!!今まで僕の事を、散々弄んだくせによぉお!!」

「え…!?なんの事?私、そんな事してないよ?」

「うるせぇえ!!今まで、僕を誑かして楽しかったかぁ?僕と一緒にいた時の笑顔は、全部演技だったんだろ!?なあ…そうなんだろ!?」

「それは誤解だよ!私、織田君と一緒にいて本当に楽しかったんだよ!?それだけは、絶対に嘘じゃない!」

 

「…だったら、僕の事好きになってくれんのかよ?」

「…は?」

「誑かしてないって言うんなら、僕の事好きになってくれんのかよ!!」

「えっと…それはできない。ごめんなさい。…私、好きな人がいるの。」

「ほらなぁああ!!やっぱり誑かして遊んでたんじゃねぇかよぉおお!!」

「だから、それは違うよ!」

「おい猫西ィ!!僕はなぁ、お前のために全てを捧げようとしてたんだぞ!?僕の事を好きじゃないって言うんなら、僕の時間を返せこの泥棒女ぁああ!!」

「織田君!言ってる事が滅茶苦茶だよ!…確かに、私は織田君に恋愛感情を抱いてるわけじゃないけど…でも、織田君と一緒に過ごした時間が楽しかったのも、織田君が私の事を考えてくれてたのが嬉しかったのも、絶対に嘘じゃない!!お願いだから、自殺なんてバカなマネはやめて!!私には、君が必要なんだよ!!」

「うるせぇええええ!!これ以上近づくんじゃねぇよ…俺は、もう死ぬって決めたんだからな…へへ…これ以上近づいたら、お前も道連れにしてやるぅううううう!!」

「織田君!!!」

跳んだ。

視界に空が映り、下へ下へと落ちて…

…いかない?

上を見上げると、猫西氏が僕の腕を掴んでいた。

「…織田君!!お願いだから死なないで!!…独りにしないから、ずっと傍にいるから…だからお願い、生きて!!!」

猫西氏は、僕を引き上げようとした。

…僕は、なんて過ちを犯してしまったんだ。

愛する人を信じようとせず、自分のわがままに巻き込んでしまった。

猫西氏は、僕の事を誑かしてなんかいなかったのに。

 

『最低。』

 

…全く、今になって射場山氏の言葉が胸に刺さるとはな。

僕は、最期の最期まで最低なヤツだったなぁ。

 

『もう、思い残す事は何もない。』

 

…いや、ひとつだけあった。

アニメだ。

猫西氏と、外に出たらアニメを一緒に作る約束をしていた。

…やっぱり、僕は生きたい!!

こんなクソみたいなゲームを終わらせて、猫西氏と一緒にアニメを作るんだ!!

それまでは、絶対に死んでたまるかぁああああああああああああああ!!

「くっ…!」

僕は、猫西氏の腕を掴んで、展望台の上に這い上がろうとした。

しかし、猫西氏の腕一本では、僕の体重を支えきれずに、僕は少しずつ下へと落ちていく。

「このままじゃ、織田君が…!…お願いします…誰か…誰か助けてぇえええええええええ!!!」

 

「てこずってそうですね。手伝ってあげましょうか。」

 

床前氏の声が聞こえた。

…正直、床前氏の筋力では心細いが、床前氏が僕を引き上げるのを手伝ってくだされば、僕は助かるかもしれない。

「と、とこ…まえ…し…!わ、わがはいを…早く…たす…け…!」

「言われなくともそのつもりですよ?助けて差し上げましょう。」

「良かった、床前さん!早く、織田君を引き上げて…」

ガシッ

「むぐっ!!?」

「…え?」

床前氏は、猫西氏の口に何かを押し当てている。

猫西氏の、吾輩の腕を掴む力が弱くなっていく。

…嘘だろ!?

いやだ。

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ

いやだ!!

僕は、猫西氏と一緒にアニメを作るまでは死ねないんだ!!

いやだ、死にたくない…死にたくない死にたくない死にたくないぃいいいいいいいい!!!

 

「あっ。」

 

ついに、猫西氏の手が、僕の腕を離した。

いやだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

手を掴もうと必死で空気を掻くも、その足掻きは虚しく身体は下へ下へと落ちていく。

僕の願いは、誰にも届く事はなかった。

僕はついに、自分が死ぬ事を悟った。

今更どんなに足掻いたって、もう結果は覆らない。

今になって、猫西氏との思い出が脳裏に浮かんでくる。

…これが走馬灯というヤツか。

結局、僕は最期の最期まで最低なヤツだったなぁ。

でも、もうどうでもいいか。

空を見ると、晴天の真上に昇った太陽が、眩しい程に僕を照らした。

…ああ、綺麗だなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

グシャッ

 

 

 

アスファルトの地面に、見慣れた色が華のように散る。

一人の女をただひたすらに愛した男の生涯が、今終わりを告げた。

何処までも愚かで、醜い結末だ。

 

 

 

「あーあ、死んじゃったよ。全く、なーにが愛だよ。オマエみたいなブサイクが、最初から相手にされるわけないだろバーカ。しかも散々人に迷惑かけといて、結局最後は心変わりするとかさ、都合良すぎだよね〜?愛だとか色々ほざいてたみたいだけどさ、結局はオマエの自己満足だろ?オマエはあの世でもそうやって裏切られ続けてろ、この勘違い野郎。」

 

 

 

 

 


 

【猫西理嘉編】

 

私は、幼い頃から親に束縛された人生を歩んできた。

そんなある日、私はたまたま人気実況者の実況動画を見て、それに夢中になった。

私は、自分とは正反対の世界に生きる実況者に憧れを抱いた。

その日から、私の夢は世界一の実況者になった。

私は、実況者として活動を始めてから着実にファンを増やし、いつしか『超高校級』と呼ばれた。

これは、そんな私が、大切な友達を殺してしまうまでの物語だ。

 

 

ー13日目 12時ー

 

ヴーーーーッ

 

…今日も、弱みが送られてきた。

今日は一体、誰の弱みを見る事になるんだ…?

 

 

【超高校級の幸運】床前渚サンの弱み

 

 

…床前さんの?

あの子の弱み…本当に見ていいのかな。

でも、ルールで見なきゃいけない事になってるし…

見るだけ見て、内容が内容なら見なかった事にしよう。

私は、画面をゆっくりとスクロールした。

 

『超高校級の幸運』床前渚サンの本当の才能は、必然を偶然に、偶然を必然に変える才能です!

 

…え?

これは一体、どういう事なのかな?

床前さんは、抽選で希望ヶ峰にスカウトされたわけじゃなかったって事?

…ちょっとよくわからないし、本人に確認するのもどうかと思うし、とりあえずは見なかった事にしようかな。

 

…あ、そうだ。

床前さんに、言いたい事があったんだった。

…床前さんは、多分、っていうか絶対菊池君の事が好きだ。

私も菊池君の事が好きだから、取り合いになっちゃうかもな。

本当なら、彼女の事を応援してあげたかったんだけど、私も菊池君の事諦めたくないし…

せめて、床前さんが菊池君と仲良くできるように後押しくらいはしてあげたいな。

床前さんに会ったら、その事をちゃんとお話しよう。

 

 

ー美術館ー

 

私は、床前さんを美術館に呼び出した。

ここは、床前さんのお気に入りの場所だし、ちょっとは安心して話して貰えるかな?

私が床前さんを待っていると、案外早く床前さんは来た。

「ごめんなさい…お待たせしてしまって…」

「ううん、全然待ってないよ。それより、ごめんね。急に呼び出しちゃって。」

「い、いえ…私なんかを誘っていただいて、ありがとうございます…」

「そんなにかしこまらなくていいよ。ねえ、ちょっと話があるんだ。歩きながら話そうよ。」

「…は、はい…」

私達は、美術館を歩き回った。

飾られている絵や彫刻はどれもモノクマとモノハムの顔になっていて、吐き気しか催さなかった。

でも、それ以外は、開放感があって心地のいい雰囲気の美術館だった。

「いやあ、ホントいい所だよね。…モノクマ達の絵さえなければ。」

「は、はあ…」

私は、気まずそうにしている床前さんに声をかけた。

すると、床前さんは私に質問をしてきた。

「あ、あの…猫西さん、お話ってなんですか…?」

そうだな、そろそろ本題に入らないとな。

私は、思い切って床前さんに聞いた。

「ねえ、床前さん。君さ、菊池君の事好きでしょ?」

「へ!?い、いや…そ、そんな事ないです…!き、菊池さんは、大事な仲間で…だから、す、好きとか…そんなんじゃないです…!」

床前さんは、顔を真っ赤にしながら必死に否定していた。

その反応が、何よりの証拠じゃん。

…ちょっとかわいいな。

「あはは、わかりやすいなあ。」

私は、正直に自分の気持ちを打ち明ける事にした。

床前さんにとってはちょっとかわいそうかもしれないけど、私だって菊池君の事諦めたくないし。

今ここで打ち明けなかったら、後で後悔しそうだし。

嫌われる覚悟ならもうできた。

…言おう。

「…実はさ、私も菊池君の事好きなんだ。」

「…え。」

「…だからさ、お互い頑張ろうね!」

私は床前さんに、菊池君への想いを話した。

私は菊池君に、私の事を好きになってもらいたい。

でも、友達として、床前さんの事も応援してあげたい。

だから、私は彼女の背中を押してあげる事にした。

「…わ、私は…猫西さんが菊池さんとお付き合いすればいいと思います…私なんかじゃその、菊池さんに申し訳ないですから…」

「そんな事ないよ!床前さんは可愛いしいい子だから、むしろ羨ましいくらいだよ。」

「そ、そんな事…」

「ほら、そうやって自分を卑下しない!卑屈な女の子は嫌われちゃうぞ!もっと自信持って!」

「じ、自信…ですか…正直あんまりないですけど…でも、頑張ってみます…」

「うんうん、いい心がけだね!…あー、なんか話したらスッキリした!じゃあお話したい事は全部話したし、私はそろそろ戻ろうかな?今日はありがとね!」

「いえ…こちらこそ、ありがとうございました。」

私の頭の中に、ふと床前さんの才能の事が浮かんだ。

「…あのさ。」

「は、はい、なんでしょうか?」

言われて気がついた。

私は、つい口走ってしまった。

…才能の事を気にしてるかもしれないし、さすがに今聞くのはデリカシー無さすぎかな?

やっぱり、弱みについて安易にズバズバ聞くのはやめておこう。

「…あ、いや。やっぱりなんでもない。ごめんね。」

「そ、そうですか…」

「うん、話はそれだけ!じゃあ、また後でね!」

「は、はい…」

私は、美術館で床前さんと別れた。

床前さんとお話できて楽しかったな。

また、二人でお話できるといいな。

 

 

ー展望台付近ー

 

…今日は、床前さんと色んなお話ができたな。

明日は、誰と何を話そうかな。

そうだ、織田君とアニメの話でもしようかな?

あと、菊池君ともお話したいな…

…ふふっ、なんか明日が楽しみになってきた。

そうだ、ちょっと展望台からの景色でも眺めてから部屋に戻ろうかな。

私は、展望台の方を振り返った。

 

「…ん?」

展望台の頂上に、人影が見える。

それも、安全柵の外側に立っている。

立っていたのは、織田君だった。

え!?

ちょっと待ってよ、そんな所に立ってたら危ないじゃん!!

今すぐ止めに行かなきゃ!!

考えている暇なんて無かった。

私は、無我夢中で展望台を駆け上がった。

織田君、お願いだから早まらないで…!

自殺なんてバカな事考えないで!

私はもう、これ以上仲間を失いたくないんだ!!

私は、心の中で必死に祈りながら、展望台の頂上へと向かった。

そして、ついに展望台の頂上にたどり着いた。

 

「織田君!!」

 

私は、織田君に向かって叫んだ。

彼は、私の声に反応して振り返った。

「ねえ、何しようとしてるの?そんな所にいたら、危ないよ!」

「…見ての通りであります。吾輩にはもう、生きる意味はなくなった。だから、今から命を断つのであります。」

そんな、織田君…どうして!?

みんなで生き残るって約束したのに…!

私は、織田君を説得しようとした。

…お願いだから、考え直して…!

「そんなのダメだよ!!みんなで生きてここを出ようって約束したでしょ!?何か辛い事があったのかもしれないけど、それでも生きなきゃ!!生きていればきっと、どこかに望みはあるはずだから…!」

私は、必死に織田君にお願いした。

すると、次の瞬間、彼はとんでもない事を言い出した。

 

「…その望みは、全部お前が壊したんだろうがよぉお…!」

…え!?

え?え?え?

ちょっと待ってよ、それってどういう事?

私が、織田君の望みを壊した…?

え、待って。何を言っているのか全然わかんないよ!

「え…!?私が…?私、織田君に何かした?」

「とぼけてんじゃねぇよ!!今まで僕の事を、散々弄んだくせによぉお!!」

え!?

なんの事?

私はそんな事してない。

私は、そんなの知らない。

彼は一体何を言っているの?

なんでこんなに私を疑ってるの?

「え…!?なんの事?私、そんな事してないよ?」

「うるせぇえ!!今まで、僕を誑かして楽しかったかぁ?僕と一緒にいた時の笑顔は、全部演技だったんだろ!?なあ…そうなんだろ!?」

なんで?

なんで信じてくれないの?

私、嘘なんかついてないのに…織田君と色々一緒にやった事は、全部本当に楽しかったのに…。

完全に自分の世界に入ってて、私の話は少しも聞いてもらえなかった。

それでも私は説得を試みた。

生きてさえいてくれれば、誤解なんて後でいくらでも解けるはずだから。

「それは誤解だよ!私、織田君と一緒にいて本当に楽しかったんだよ!?それだけは、絶対に嘘じゃない!」

私は、正直に自分の気持ちを打ち明けた。

どんなに疑われたって、彼が悪い人じゃない事を、私は知ってる。

だから、訴え続ければいつかは私の話を聞いてくれるって信じてた。

でも、彼は私の予想を裏切るような発言をした。

 

「…だったら、僕の事好きになってくれんのかよ?」

「…は?」

え?

ちょっと待ってよ。

こんな時に、君は何を言ってるの?

「誑かしてないって言うんなら、僕の事好きになってくれんのかよ!!」

「えっと…それはできない。ごめんなさい。…私、好きな人がいるの。」

私は、正直に言った。

確かに、織田君と一緒にいてとても楽しかった。

でもそれはあくまで友達としてであって、好きとかそういうのは全然考えもしなかった。

それに、私は菊池君の事が好きなんだ。

その気持ちだけは、嘘をつくわけにはいかなかった。

「ほらなぁああ!!やっぱり誑かして遊んでたんじゃねぇかよぉおお!!」

「だから、それは違うよ!」

誑かしたって一体何の事!?

ちゃんと説明してくれなきゃわかんないよ!

お願いだから私の話を聞いて!

「おい猫西ィ!!僕はなぁ、お前のために全てを捧げようとしてたんだぞ!?僕の事を好きじゃないって言うんなら、僕の時間を返せこの泥棒女ぁああ!!」

完全に言っている事が支離滅裂だ。

織田君が私のために色々してくれたのは嬉しかったけど、だからってそれで好きになるかって言ったらそれはちょっと違う。

それなのに、なんで好きになれなかったからってここまで言われなきゃいけないの?

私が、織田君に悪い事をしたの?

どうしても、君の事を好きにならなきゃいけなかったの?

 

…いや、そんな事ないはずだ。

私には、どうしても君が必要なんだ。

だからこそ、君には生きてほしい。

これだけは絶対に嘘じゃない!!

「織田君!言ってる事が滅茶苦茶だよ!…確かに、私は織田君に恋愛感情を抱いてるわけじゃないけど…でも、織田君と一緒に過ごした時間が楽しかったのも、織田君が私の事を考えてくれてたのが嬉しかったのも、絶対に嘘じゃない!!お願いだから、自殺なんてバカなマネはやめて!!私には、君が必要なんだよ!!」

私は、思ってる事を全部言った。

私は、どうしても織田君に生きていて欲しかった。

それでも、彼は私の事を拒絶した。

「うるせぇええええ!!これ以上近づくんじゃねぇよ…俺は、もう死ぬって決めたんだからな…へへ…これ以上近づいたら、お前も道連れにしてやるぅううううう!!」

「織田君!!!」

跳んだ。

織田君は、下に落ちていく。

 

…助けなきゃ!!

 

考える前に体が動いていた。

私は咄嗟に柵まで駆け付け、織田君の腕を掴んだ。

彼は、私の話を聞かずに私を拒絶した。

…でも、そんなのどうでもいい。

私はただ、君が生きてさえいてくれればそれでいいんだ。

「…織田君!!お願いだから死なないで!!…独りにしないから、ずっと傍にいるから…だからお願い、生きて!!!」

私は、織田君に懇願した。

…そしてついに、私の願いが彼に届いた。

「くっ…!」

織田君は、私の腕を掴んで這い上がろうとした。

…良かった。

やっぱり、最後には考え直してくれた。

…そうだよ、二人でアニメを作るって約束したじゃん。

それまでは、絶対死なないんでしょ!?

だったら、なんとしてでも生き残ってよ!!

私は、織田君を引き上げようとした。

…でも、さすがに腕の力に限界がきていた。

私は、織田君の体重を支え切れずに、少しずつ下に落ちていく。

いやだ。

いやだいやだいやだいやだいやだ!!

ダメ、こんな所で死ぬなんて絶対にダメ!!

「このままじゃ、織田君が…!…お願いします…誰か…誰か助けてぇえええええええええ!!!」

私は、ありったけの声で叫んだ。

お願い、誰でもいいから早く来て…!

私が無我夢中で願い続けていると、後ろから声がした。

 

「てこずってそうですね。手伝ってあげましょうか。」

 

…床前さん!?

良かった、床前さんが助けに来てくれた!

「と、とこ…まえ…し…!わ、わがはいを…早く…たす…け…!」

「言われなくともそのつもりですよ?助けて差し上げましょう。」

床前さんは、私達の方へ歩を進めた。

これで織田君が助かる…!

「良かった、床前さん!早く、織田君を引き上げて…」

ガシッ

「むぐっ!!?」

いきなり、後ろから薬品臭いハンカチを顔に押し当てられた。

 

え?

え!?

え!?

待って、床前さん!

これは一体どういう事!?

なんで!?

何やってんの!?

今、そんな事してる場合じゃないでしょ!?

早くしないと、織田君が…!

 

…あれ?

なんだろう、だんだん視界がボヤけてきた。

腕の力も、少しずつ弱くなってきた。

待って…今手を離したら、織田…く、ん…が…

そこで、私の意識は途切れた。

 

 

 

「はい、いっちょ上がり。ほら言ったでしょう?助けてあげるって。織田さん、あなたの『死にたい』という願いを叶えてあげましたよ?感謝してください。…うふふ、これで…菊池さんに擦り寄る虫はクロとしておしおきされて、私と菊池さんは…うふふふふ…考えただけで興奮してきちゃいました。…ああ、菊池さん菊池さん菊池さん菊池さん菊池さん!!待っていてください…今度こそ、いっぱい愛してあげますから…♥︎」

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、殺っちゃったよ。助けようとした結果逆に殺しちゃうなんてさ、こんな皮肉な事ってないよね!全く、自己満足で軽々しく人助けなんかしようとするからこうなるんだよ。オマエがやってるのは、ただの偽善だよ。せいぜい、あの世で自分の過ちを後悔するんだね。」

 

「ねえみんな。コイツらの共通点、何かわかったかな?…満たされる事を愛や正義と勘違いしている愚か者達だよ。ちょっとは理解して貰えたかな?…オマエラみたいな救いようのない屑は、あの世でも永遠に満たされる事なく飢え続けてろ。」



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第4章 独りんぼエンプティー
第4章(非)日常編①


章タイトル元ネタ『独りんぼエンヴィー』です。

今、コイツらが1日に4回も飯食ってる事に気づいたので急いで編集。
遅めの朝飯と言う事にしました。許してチョンマゲ☆


…裁判は、今までにない程胸糞の悪い終わり方だった。

織田と猫西が死んだ。

二人とも、床前に嵌められた。

猫西は床前のせいで、助けようとした織田を逆に殺してしまった。

そしてその猫西も、その過ちに見合わない程残虐な方法でおしおきされた。

俺自身、アイツへの想いに気付く事も無いまま、アイツを死へと追いやってしまった。

全部、床前の仕組んだ罠だった。

二人だけじゃない。今まで死んだみんな、床前に嵌められて死んでいった。

全てはあの女の、どこまでも醜く歪んだ欲望を満たすために。

 

 

 

 

 

目を開けると、見慣れた天井が見えた。

…合宿14日目の朝だ。

そうだ、俺はあの後部屋に戻って寝たんだった。

枕元の時計を見ると、すでに7時を過ぎている。

モノクマのうるさい放送を聞いても目が覚めなかったくらい、深く眠りについていたのか。

それ程までに、昨日の裁判で疲弊していたという事か。

…無理もない。昨日は、色んな事がありすぎた。

でも、いつまでも悲しみに打ちひしがれてはいられなかった。

俺は、身体を起こして部屋の中を見渡した。

…だがそこには、あるはずのない、信じられない光景が広がっていた。

 

「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!?」

 

「あら、おはようございます論さん。ダメですよ、朝からそんなに大声を出しては。」

俺の部屋には、なぜかヤツが…裸ワイシャツ姿の床前がいた。

多分、っていうかどう見ても俺のシャツを着ている。

「お、お前…どうやって入ってきた!?部屋には鍵がかかってたはずだが!?」

「うふふ、私を誰だと思ってるんですか?この合宿を主催している黒幕のスパイですよ?マスターキーくらい持ってますよ♪」

床前は、胸ポケットから鍵を取り出し、指先でクルクルと回す。

無断で人の部屋に入り込むなんて、何考えてるんだコイツ。

もはやストーカーだろ…今すぐ告訴したいところだ。

「おい、それと何だそのふざけた格好は!!」

「うふふ、論さんのシャツ大きいです♡それに、すごく論さんのいい匂いがします。」

「人のシャツを勝手に着るな!!今すぐ脱げ!!」

「あら。論さんってば、案外積極的なんですね。」

「そういう意味じゃねぇよ!!お前のせいでシャツが汚れんだろうが!!」

「うふふ、さすがは論さんです。朝からナイスツッコミですね。痺れちゃいます♡」

「うるせぇ!!」

「あ、そうそう。論さん、キッチンお借りしてますね。朝ごはん作ったんですけど、コーヒーと紅茶どちらがお好みですか?」

「うるせぇ、ここは俺の部屋だ!早く出てけよ!!あと、下の名前で呼ぶのやめろ!不愉快なんだよ!!」

「まあまあ、そう興奮なさらず。でも私は、私にだけは冷たい論さんも大好きですよ?」

「俺はお前の事が大っ嫌いなんだよ!…よくも猫西を…みんなをッ…!!」

 

 

 

「…だったら、殺しますか?」

「え…」

「言ったでしょう?私は、あなたのためなら喜んで死ねるんです。ましてや、あなたに殺されるなら、これ以上の幸福はありません。」

「…ッ!!」

床前は、俺のベッドに乗り込み、馬乗りになった。

俺は、恐怖で身体が動かなくなっていた。

「さあ、どうぞ私を殺してください?」

「…!!」

床前は、顔を紅潮させながら俺の顔を覗き込んできた。

俺は、床前に迫られて声が出なかった。

「…ッ」

俺は、床前から目を逸らした。

「あら、結局殺してくださらないんですか。」

「…お前を殺したせいで処刑なんて御免なんだよ。」

「ああ、なるほど…ところで、どちらに行かれるつもりです?」

「…決まってんだろ。着替えてレストランに行く。」

「せっかく朝ごはん用意したのに…」

「うるせぇ。お前が作った飯なんて二度と食いたくない。自分で作った分は自分で食ってろ。」

「…そうですか。あなたが食べたくないと言うなら、今日の所は諦めます。でも私、あなたの事は諦めませんからね!」

「お前、俺のためならなんでも出来るんじゃなかったのか?…本当に俺のためを思ってるなら、目障りだから今すぐ消えろ。」

「うーん、できることならそうして差し上げたいんですけど、それはちょっとできないお願いですかね。」

「…何?」

「だって、あなたを好きにさせておいたら、また意地汚い虫が擦り寄ってくるかもしれないでしょう?アリスさん、小川さん、アンカーソンさん、射場山さん、神城さん…彼女達があなたに寄って来ない保証がない限り、私があなたを守るのは必然…自然の摂理なんですよ。だから、私はどうしてもあなたから離れるわけにはいかないんです。」

「…うるせぇ。何が自然の摂理だ。好き勝手言いやがって。俺の事を考えてるとか口では言ってるけど、結局自分の事ばっかりじゃねえか。…どけ。」

「退きません♪」

「なっ…」

「ねえ論さん。私、思いついちゃったんです。関わるから、変な虫が寄ってくる。だったら、あなたを他の皆さんと関わらないようにすればいいんです。この部屋で、二人でずっと一緒にいましょう?そうすれば、何も心配する事はありません。」

は!?

何言ってんだコイツ!?

「おい、お前…自分が何言ってんのかわかってんのかよ!?こんな監禁紛いの事をして…なんで嫌がる相手にこんな事すんだよ!?俺の事を想ってるんじゃなかったのか!?」

「やだなあ、私はちゃんと論さんの事を考えてますよ?むしろ、あなたの事しか考えてませんよ。…だから、ずっと二人で一緒にいましょう?」

「ヒッ…!」

床前は、俺に抱き付くと、身体中をベタベタと触り始めた。

「うふふ、怯えた論さんも可愛いです。あ、そうだ。この部屋に二人きりじゃ論さんも寂しいでしょうし、私達の子供を作りませんか?」

は!?

お前何言ってんの!?

完全にセクハラじゃねえか!!

「何言ってんだお前!!そんな事するわけ無いだろうが!!」

「大丈夫ですよ?肩の力を抜いてください。痛い事しませんから。」

「お前マジでふざけんなよ!早くどけ!!俺にそんな趣味は無え!!」

「あら、怒った論さんも素敵ですよ。私、ますますあなたの事が好きになっちゃいました。さあ、邪魔者もいなくなった事ですし、今度こそ一つになりましょう?」

そう言うと、床前は俺の部屋着に手をかけた。

…その時、

 

『菊池クン!床前サン!今すぐ部屋から出てきなさい!!10秒以内に出てこないとおしおきするよ!!』

「…チッ、『アイツ』…余計な事を…」

床前は、嫌そうに俺から離れた。

…助かった。

まさか、モノクマに助けられるとはな。

俺はベッドから起き上がると、すぐに部屋の外に出た。

 

『遅い!!やっと出てきたよ。』

モノクマは、部屋の外で腕組みをして立っていた。

「…急になんですか?私は今から、論さんと愛し合おうと…」

『はー、これ以上放っておいたら、モザイク無しで放送できなくなっちゃうところだったよ!モザイクは立派な日本の文化だけどさ、こんな形で使いたくないんだよ!特に床前サン!オマエさ、いくら内通者だからって、監禁とか調子乗りすぎ!オマエの働きっぷりが優秀だったから、今まで奇行のひとつやふたつは多目に見てきたけど、今回は流石にそういうわけにはいかないのだ!!』

「どうしてですか?あなたには、私と論さんの仲を取り持つ事を条件に協力すると言ったはずです。…それに、ルールには違反していないでしょう?個人的な事にまで首を突っ込まないでください。」

『あのさ、ボクはあくまでコロシアイ合宿がしたいわけ!誰もモブ男とストーカー女の薄い本みたいな展開なんて求めてないんだよ!!これは、健全なるクマとハムスターによる健全なる視聴者様達のための健全なる合宿なの!!そんなに●●●とか××××とかがやりたきゃR –18カテゴリでやれ!!床前サン、オマエに関してはたっぷりお説教するから、覚悟しな!!』

真面目な事言ってるように思わせといてしれっと下ネタ挟むのやめろ。

全く、売店にはアレが置いてあったくせに、何が健全な合宿だ。

言ってる事とやってる事が矛盾してんだろ。

「…はぁい。」

床前は、不満そうにモノクマを睨んだ。

これでちょっとは大人しくなるといいんだが。

「…なあ、そういえば、エリアはどうなってるんだ?今回も開放されたんだろ?」

『ああ、そうだったね!その話をしなきゃ!ゴホン、今回は、新たにコンサートホールとカジノ、あとは会議室が解放されたよ!』

「…そうか。もう行っていいぞ。」

『あーっ、助けてあげたのに何その雑な扱い!!ホントクマ使い荒いよねオマエラ!!もういいもん!!』

モノクマは、ドスドスと足音を立てて、床前を引きずりながら去っていった。

…さてと、レストランに行くか。

俺は部屋に戻って着替えを済ませ、レストランに向かった。

 

 

ーレストランー

 

「…おはよう。」

「おはようって…先輩、もう9時っスよ。」

「遅いぞサトにいー!!」

「悪い、遅くなった。」

「…菊池、お前なんかすげェやつれてないか?」

「…ああ、ちょっとな。」

「…床前(アイツ)に絡まれたの?」

「まあ、そんなところだ。」

「ふわぁ。体調がすぐれないなら、寝てた方がいいですよぉ。」

「アンカーソン先輩は寝過ぎっス。」

「ごめんなしゃあい…」

「おはようございます皆さん、今日も相変わらず能天気そうで何よりです。」

床前は、貼り付けたような笑顔でレストランに入ってきた。

何故か、右手の人差し指が血塗れになっている。

「床前さん、それ…どうなさったのですか?」

「ああ、これですか。ちょっと調子に乗りすぎちゃったみたいで、モノクマ学園長におしおきされちゃったんですよ。ペンチで爪をちょっとね。」

「い゛ッ!?」

もうそれは説教ってレベルじゃないだろ。

こんなヤツの事なんて微塵も心配しねぇけど。

「それは痛いですね…お大事に。」

「おいジェイムズ、こんな女の心配なんてするな。」

「あら、皆さん私に冷たくないですか?」

「…逆に昨日のアレで冷たくならないと思ったわけ?」

「あっそうですか。それより、論さんに指一本でも触れたら、どうなるかわかりますよね?」

「テメェ…!!」

「うふふ、怒ったところで何もできやしないでしょう?だったら黙っててください。酸素の無駄遣いです。」

「ホント生意気ねアンタ。死ぬ時後悔する事になっても知らないわよ?」

「ご心配ありがとうございます。でも私はたとえこの肉体が滅んだとしても、永遠に論さんの心の中に生き続けるので、ご心配には及びませんよ。」

「ホントキメェなお前!神である私の前にその廃棄物みてぇな面晒すな!!このストーカー変態女が!!」

「それはこっちの台詞です。あなた達こそ、私の論さんを汚い目で見ないでください。論さんが毒されてしまいますので。」

床前が、みんなを煽ってヘイトを高めていく。

コイツの目的は、あくまで俺と結ばれる事だ。

その為ならなんでも利用するし、要らなくなれば排除する。

…こんな化け物が、今まで本性を隠して俺達と一緒に過ごしてきたとはな。

 

そんな中、床前の挑発に躍らされずに、冷静に提案するヤツがいた。

「あの、取り敢えず探索の分担を決めましょう。先ずエリアを探索しなければ話になりません。」

ジェイムズは、手を挙げて提案した。

「そうですね。では探索の担当分けは私が考えたので、皆さんそれに従っていただけますか?」

 

コンサートホール…カークランドさん、アンカーソンさん、小川さん、射場山さん

カジノ…玉木さん、アリスさん、エカイラさん、神城さん

会議室…論さん、私

 

「はぁああああああ!!?ふざけんじゃねぇぞ!!何勝手に決めてんだストーカー女テメェコラ!!」

「ナギねえ、何コレ!!完全に私欲丸出しの分担ぢゃねーか!!」

「なんです?文句があるなら、私を殺してみますか?ん?」

「まあまあ…皆さん、落ち着いて…ええと…取り敢えず問題箇所だけ修正して、それ以外は大方この分担で宜しいのでは?」

「問題箇所?この分担のどこに問題点があるんですか?」

「まず、コンサートホールとカジノが4人に会議室が2人というのはどう考えてもバランスが悪すぎます。神城さんも会議室の担当にすべきです。」

「…カークランドさん。あなた、自分がどうなってもいいんですか?私は、論さんに悪い虫が近づかないようにするためにも、彼と二人きりになる必要があるんです。」

床前は、殺気を放ちながら言った。

このままだと、コイツはまた誰かを殺しかねない。

俺は、決断した。

「おい、床前。」

「…あら、論さん。やっと自ら私に話しかけてくださったのですね。」

「…床前、ずっと俺の近くにいていい。分担も、これを採用する。」

「は!!?」

「うふふ、やっと私の事を見てくださったんですね。私、嬉しすぎて弾け飛んじゃいそうです!」

「なっ…せ、先輩!?正気っスか!?」

「おい菊池!!ソイツは、みんなを殺したんだぞ!!今すぐ考え直せ!!」

「菊池さん!彼女が何をしたのかお忘れですか!?貴方は間違っています!!」

「失礼しちゃいますよね、全く。論さんは、私を受け入れてくださったんです。…ねえ?」

「…悪い、みんな。俺は本気だ。」

「そんな…!」

「うふふ…そういうわけです、皆さん。論さんは私の事を見てくださっているのですから、指一本触れさせませんよ。」

「テメェらふざけんなコラ!!おいモブ!!テメェがそんなに女の趣味悪りいと思わなかったぞ!!」

「はいはい、負け犬の遠吠えなんて聞こえません。ほら、行きましょう論さん。」

「…ああ。」

…仕方がない。

下手に逆らったら、みんなに迷惑かけちまう。

床前の目的は、俺だ。

俺さえコイツの機嫌をとっておけば、少なくとも他のみんなは殺されずに済む。

俺一人が我慢すれば、みんなは助かる。

これ以上、コイツのせいで誰かが死ぬのは嫌だ。

…これが、最善なんだ。

 

 

ー会議室ー

 

俺は、床前と2人で会議室に来た。

正面には巨大なホワイトボードがあり、数百人分の席が並んでいる。

「…広いな。」

「そうですね、こんな広い場所を探索してたら、疲れて喉とか渇きますよね?」

独り言に勝手に反応して、床前は話しかけてきた。

「あ、お茶淹れてきたんですけど、飲みますか?」

「…お前、中に何か入れてないだろう「いいえ?」

即答かよ。

逆に怪しいぞ。

「別に喉は渇いてないし、遠慮しておくよ。」

「あら、そうですか。」

ものすごく不本意だが、俺は探索がてら床前に色々質問してみることにした。

「…なあ、床前。」

「はい、なんですか?」

「お前、黒幕の内通者なんだろ?…黒幕は誰なんだ?」

「んー…すみません、私もよく知らないんです。希望ヶ峰学園にいた生徒だって事は知ってるんですけど…なにしろ話すときは、常に音声を通してだったので。」

…まあ、こんなところで聞き出せたら苦労はしないよな。

「…今まで顔もわからない奴の言う事聞いてたのか?」

「ええ、黒幕に従った方が論さんを守るのに好都合だと判断したので。」

普通顔もわからんヤツの言う事ホイホイ聞いたりしないだろ。

コイツ…本当に俺さえ守れれば後はどうでもいいんだな。

「…お前は、また誰かを操って殺すのか?」

「んー…今のところはそのつもりはないですね。だって、あなたが私を見てくれてるんですから。でも、あなたが他の人の所に行ったり、他の皆さんが論さんに何かしようものなら、皆さんの命は保証しませんよ?本当なら、私とあなた以外の全員を殺したいくらいなんですけど、あんまり調子乗ると怒られちゃいます。」

俺以外の全員を殺すだと…?

前から思ってたけど、コイツ本当に頭おかしいな。

「…そうか。」

「うーん、ここには特に怪しいところとかは無いですかね?」

「…待て。」

机の中に、何かが入っているのを見つけた。

見たところ手作りの卒業アルバムらしい。

中を開いて見てみた。

「…え。」

 

そこには、目を疑う内容が書かれていた。

「どうかされましたか?」

そこには、79期希望ヶ峰学園卒業生の名簿が書かれており、そこには俺の名前があった。

「…俺?」

どういう事だ?

俺は2週間前に希望ヶ峰に入学する予定だったはずだ。

なのに、なんで卒業生の名簿に俺の名前が…?

俺だけじゃない。アリスも、玉木も、みんな名簿に載っている。

…そして何故か、俺達より年上のはずのエカイラの名前も。

「…なあ、床前。」

「はい、なんでしょうか?」

「…お前は、これについてどう思う?お前は、何か知ってるんじゃないのか?」

「…ああ、それですか。黒幕から聞きました。論さんが私に聞いてくださったので、特別に論さんにだけお教えします。」

黒幕に聞いただと…?

コイツら、一体どこまで協力関係にあるんだ?

色々聞きたい事は山ほどあったが、俺は床前の話を聞いた。

 

 

 

「…実は私達、もう3年間もここにいるらしいですよ。」

 

…。

…。

…え?

「は!?え、いやいやいや!!どういう事だよそれ!!俺達はつい2週間前にここに来たばっかりだぞ!?」

「…でも、ここに連れて来られた正確な時間はわからないんでしょう?」

「まあ、そうだけどよ…」

「『アイツ』の話によれば、私達は3年前に希望ヶ峰学園に入学していて、それからはずっとここで合宿生活を送っていたそうなんです。」

「3年前…!?」

「はい。私も詳しい事は知らないんですけど、3年前に外の世界で何かあったみたいで、私達はこの島から出られなくなっちゃったらしいんです。それからはずっと79期生全員でそれなりに平和に合宿生活を送っていたみたいですが、ここ最近に全員が殺し合いを始めて、私達はその殺し合いの生き残り、という事らしいです。そしてその生き残り達は、その記憶を全部消去されて、今に至っているわけです。まあ、エカイラさんだけは記憶の消去が不十分だったみたいですけど。」

十分詳しく知ってんじゃねえか。

コイツ、今までそんな大事な事を黙ってたのか。

…アリスの推測は、図らずも当たってたって事か。

「うふふ、私達、知らない間に3年間もずっと一緒にいたんですよ?なんか、運命感じちゃいますよね。…もしかすると、記憶を失う前は、私と論さんは恋人同士だったかもしれないんですよ?」

「それはねぇだろ。」

「あら、素っ気ないあなたも大好きです♪私、あなたの言う事ならなんでも聞きますから、何かあったらすぐに私に行ってくださいね?」

「…勝手にしろ。」

これ以上コイツに反抗しても、埒があかない。

ここは好きにさせておくのが得策だろう。

俺が変な気を起こさなければ、コイツもみんなには手を出さないみたいだしな。

…こんな女の事を信用するわけじゃねぇけど。

「そろそろ報告に行くぞ。」

「えぇ…もう行くんですか?」

「さすがに報告くらいはしないとマズいだろ。お前が俺から離れなきゃいいだけだろ?」

「…まあ、それはそうなんですけど…」

「俺の言う事はなんでも聞くんじゃなかったか?」

「…わかりました。探索の報告をしに行きましょう。」

 

 

ーレストランー

 

レストランには、すでにみんな集まっていた。

「悪い、待たせた。」

「お待たせしました。」

「遅いぞサトにいー!!ナギねえにまたストーカーされたのかー!?」

「あら、失礼な。論さんは、ちゃんと私の事を見てくださっているんです。私が一方的に追いかけ回しているみたいな言い方しないで貰えません?」

実質一方的に追いかけ回してるようなもんだろうが。

「本当は、アンタの顔なんて二度と見たくなかったんだけど。なーんか、殺したくなっちゃうくらいウザいのよね、アンタ。」

「うふふ、それはこっちの台詞ですよエカイラさん。私の方こそ、あなたのような殺人鬼と同じ空気を吸うのが不快でしかありません。学級裁判のルールがなければ、今すぐ殺していたところですよ。」

「アラ。アタシを殺すなんていい度胸してるじゃナイ?やれるもんならやって見なさいよ。」

「まあまあ、二人とも落ち着いて…先ずは報告をしましょう。話はそれからです。」

「…そうですね。こっちは何もありませんでした。以上です。」

「それだけっスか!?」

床前は不服そうに報告をした。

あまりにも報告が雑だったので、俺が付け加えた。

「部屋の内装は、よくある会議室だった。そこに、俺達の学年の卒業証書が置いてあった。」

「はあああああああ!?卒業証書だと!?どういう事だそれは!!」

「俺達は、実は3年間ずっとここにいて、既に希望ヶ峰学園を卒業しているらしい。その記憶を全て消されて今に至っているそうだ。」

「えぇえええええええ!!?ちょっと待って!!頭の中がマヂでタンブルウィードなんですけど!!え!?3年間!?キオクを消された!?マヂでどゆこと!!?」

「サトシちゃんが言った通りよ。アタシ達は、元々クラスメイトだったの。元は希望ヶ峰の合宿でここに来てたんだけど、なぜか帰れなくなっちゃったのよね。それでもみんな割と平和に過ごしてたんだけど、ある時どういうわけか殺し合いを始めちゃって、クマちゃんがコロシアイ合宿生活を提案した日にこの島にいた17人が、その最後の生き残りってワケ。まあ、私もボンヤリとしか当時の記憶はないけどね。」

「おい、エカイラ…記憶があるなら、その説明をもっと早くしてくれよ。」

「アラ。ごめんね?どうせ説明したところで信じて貰えないと思ってたから、みんなが手がかりを掴んだところで全部話しちゃおう、的な?」

「的なって…随分と雑っスね。」

「でも、ずっとこの島にいたって…マジかよ…」

みんな、信じられない、といった様子だった。

当然だ。

いきなり、実はここに来てから3年も経ってました、なんて言われたら混乱するに決まっている。

「って事は、あーちゃんフィフティーンじゃなくて華のエイティーン!?マヂかー!!」

「既にもう3年も経っていたんですか。…ああ、道理で日本に来た時より声が低いと思いました。」

「ふわぁ…確かに、背もすごく伸びてますよね、君。」

「いや、さすがにそれは気付けよ。」

「…すみません、全然違和感が無かったので…」

「…あの、そんな事より早く報告をし合ってください。いつまでもこの空間にいるのは不愉快です。」

「…だったら早く出てけば?」

「そうしたくてもできないんですよ。私は、あなた達から論さんを守らないといけないので。」

「…はあ、もうこんな屑放っといて、報告会さっさと済ませるよ。」

「ふわぁ…一理ありますぅ。僕達が探索したコンサートホールは、正面にステージがあって、どの角度からでも見やすいように席が配置されていましたぁ。その他は、特にこれといって怪しいところは無かったですぅ。」

「入り口に貼ってあったモノクマ先生達のポスターには、吐き気を催したっスけどね。」

アイツら…ほんといらん事しかしないよな。

「…コンサートホールの報告はこれだけ。あとは、自分で行ってみた方が早いと思う。」

「なるほどな…カジノの方はどうだった?」

「なんかね、面白そうなゲームが色々あったよ!!」

「ルーレットとかスロットマシーンみたいなギャンブルの設備からダーツとかビリヤードまで、色んなゲームが用意してあったわ。ギャンブルに関しては、モノクマメダルがチップ代わりになるらしいわ。」

「ふははははははは!!!誰か遊びたいヤツはいるか!?ゲームで勝ったら、私にメダルを貢ぐ権利をやろう!!」

誰もいらんわそんな権利。

「…ふわぁ。報告会はこのくらいでいいですかねぇ。朝ご飯がまだですし、そろそろお腹に何か入れたいですぅ…」

「そういえばそうですね。床前さんの一件について皆さんで話し合っていて、食事を摂っていなかったので…では、本日は私がお作りしますよ。」

「カークランドさん、私と論さんの分は作らないでください。」

「何故ですか?」

「あなたに配布された凶器は、確か化学薬品でしたよね?それを論さんの食事に盛る可能性が捨てきれない以上、あなたの作ったものを論さんに食べさせるわけにはいきません。」

「ああ、成程…一理ありますね。」

無ェわ。納得してんじゃねえよ。

「そうでなくても、あなたの作ったものなんて、食べるのも、論さんに食べさせるのも不愉快です。」

「はて…私のお料理、もしかしてお口に合わなかったでしょうか?」

コイツ…自分が嫌われてる事に気付いていないのか?

やっぱり、賢いアホだよお前は。

「おい床前。もうやめろ。普通に飯くらい食わせてくれ。」

「…そうですか。では、私が毒味しますね?」

コイツ、今まで俺が飯食ってた時は何も言ってこなかったくせに、なんで今更こんなに警戒すんだよ。

「だから、普通に食わせろって言ってんだろ。」

「…はぁい。」

床前は、少し不機嫌そうに返事をした。

その日は、ジェイムズとエカイラが作った朝食を食べた。

床前は、警戒心剥き出しで二人を睨んでいた。

どうやら、二人が俺の食事に何か盛ったんじゃないかと警戒しているらしい。

今まで、二人がそんな事した事ないだろ。

確かに、みんなを守るためにも、床前には近くにいていいって言ったけど…

頼むから飯くらいは普通に食わせてくれ。

このままだと化学薬品云々の前に、お前のせいで発狂死しそうなんだが。

 

朝食の後は、自由時間となった。

まあ自由時間と言っても、俺にとっての自由な時間なんて1秒も無いんだが。

…とりあえず、売店にでも行くかな。



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合宿参加者一覧③

番外編のキャラを追加しました。

クッソどうでもいいんで、見なくても構いません。


【超高校級の弁護士】菊池(キクチ)(サトシ)

 

「それは違うぞ!!」

 

性別:男

年齢:18歳

身長:171cm

体重:57kg

胸囲:80cm

誕生日:7月10日(かに座)

血液型:O型

好きなもの:法学、すき焼き、猫西

苦手なもの:子供、水泳、家事

趣味:読書(特に法学の本)

特技:論破

出身校:鳳条学院中等部

得意教科:法学、政治学

苦手教科:物理

ICV:神谷浩史

キャッチコピー:真実を求める雄弁家

外見:中肉中背の青年。黒髪のウルフカット。瞳は灰色で、ツリ目。

服装:紺色の制服と白いワイシャツ、赤いネクタイを着用。靴は茶色いローファー。

人称:俺/お前、アンタ/アイツ、みんな/苗字呼び捨て。例外…ジェイムズ、リタ、アリス、エカイラは名前呼び捨て。

現状:生存

 

主人公兼語り手。コロシアイ合宿の参加者。高校生にして弁護士資格を持っており、負け知らずの弁護士。死刑確定とまで言われた被告人の無実を証明したという功績から、希望ヶ峰学園にスカウトされた。メンバーの中では比較的常識人なので、振り回される事が多い。普段は冷静だが、ペースを乱されると子供っぽい一面が露わになる。正義感の強い性格だが、子供が苦手。中学生の優秀な妹がいる。家事は全て妹が作ったロボットに任せていたため、家事が苦手。猫西にかすかな恋心を抱いていたが、自分自身ですらその想いに気がつかないまま、猫西がおしおきされる形となった。以降、床前に執拗に追いかけ回されている。

声のイメージは『斉木楠雄のΨ難』の斉木楠雄or『デュラララ!!』の折原臨也。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【超高校級の???】アリス

 

「サイノー?…えっとね、忘れちゃった!!」

 

性別:女

年齢:18歳

身長:128cm

体重:25kg

胸囲:60cm

誕生日:1月1日(やぎ座)

血液型:AB型

好きなもの:ショートケーキ、お泊り

苦手なもの:キモチ悪いおにーさん、にんじん、グリンピース

趣味:遊ぶこと!

特技:あーちゃんってめっちゃかわいいよね!

出身校:わかんない!

得意教科:わかんない事を知るのって面白いよね!

苦手教科:でも学校のベンキョーは大っ嫌い!

ICV:大谷育江

キャッチコピー:天真爛漫な幼女高校生

外見:腰まである金髪ツインテール。アホ毛が生えている。くりくりした目をしており、瞳は青色。

服装:赤いリボンのついた白いワンピースを着ている。革のサンダルを履いている。

人称:あーちゃん/あだ名/アイツ、みんな/菊池「サトにい」玉木「カツにい」近藤「ナツねえ」猫西「うぇすにゃん」速瀬「ブキねえ」ジェイムズ「ムズにい」リタ「リタねえ」小川「シオねえ」郷間「お兄ちゃん」織田「ケンにい」床前「ナギねえ」狗上「リオンにい」森万「ツラにい」射場山「ユミねえ」神城「クレねえ」エカイラ「エカイラちゃん」

現状:生存

 

自称15歳の幼女。超高校級の才能があるらしいが、思い出せない。周りからは『超高校級の幼女』などと呼ばれる。精神年齢や身体能力は10歳程度。しかし地頭はかなり良く、たまに核心を突くような発言をする。非常に好奇心旺盛。空気の読めない言動で周りを引っ掻き回している。毒舌かつ自意識過剰なので、周りからはよくウザがられる。話し方が絶望的にわかりにくい。

声のイメージは『おジャ魔女どれみ』のハナちゃん(成長時)。

 

 

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【超高校級のサッカー選手】玉木(タマキ)勝利(カツトシ)

 

「困った時は、いつでも俺に頼ってくれよな!!」

 

性別:男

年齢:18歳

身長:183cm

体重:73kg

胸囲:85cm

誕生日:5月13日(おうし座)

血液型:O型

好きなもの:サッカー、唐揚げ

苦手なもの:協調性のないヤツ

趣味:サッカー

特技:サッカー

出身校:慧政学院中等部

得意教科:体育、数学

苦手教科:美術

ICV:梶原岳人

キャッチコピー:リーダー気質の天才キャプテン

外見:長身のイケメン。褐色肌。赤毛のミディアムヘア。切れ長の目をしており、瞳は琥珀色。

服装:青と白を基調としたユニフォームを着用。黒い靴下と赤いシューズを履いている。

人称:俺/お前、君/アイツ、みんな/苗字呼び捨て。例外…ジェイムズ、リタ、エカイラは名前呼び捨て。アリス「あーちゃん」

現状:生存

 

爽やかなイケメン。ノリが良く、社交的な好青年。常識人なので、ツッコミ役になる事が多い。Jリーグに出場し、大人チームと対戦して勝利を収めたという経歴を持つ天才キャプテン。その天性の才能とリーダーシップから、スポンサーからのオファーが殺到しているという。リーダー気質で、仲間想いな性格。運動能力だけでなく、学校の成績も優秀。男性陣の中で唯一の彼女持ち。過去に、図らずも親友を自殺に追い込んでしまった事がある。非常に正義感の強い性格で、猫西がおしおきされそうになった時は必死に庇おうとした。

声のイメージは『ブラッククローバー』のアスタ。

 

 

 

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【超高校級のパティシエ】近藤(コンドウ)夏美(ナツミ)

 

「ウチのお菓子食べて元気出しなよ!」

 

性別:女

年齢:18歳

身長:143cm

体重:38kg

胸囲:75cm

誕生日:3月3日(うお座)

血液型:O型

好きなもの:スイーツ(特にドーナツ)

苦手なもの:お肉(特に鶏肉)

趣味:お菓子作り

特技:お菓子作り

出身校:星華中学校

得意教科:家庭科、フランス語

苦手教科:数学、理科

ICV:潘めぐみ

キャッチコピー:スイーツを極めたゆるふわ女子

外見:小柄。髪は濃いピンク色のふわっとしたボブカット。ハート型のアホ毛が生えている。円らな目をしており、瞳は緑色。

服装:髪にハート型のヘアピンをつけている。白とピンクを基調とした、赤いリボンがついたセーラー服を着用。ピンクのニーハイと茶色いロングブーツを履いている。

人称:ウチ/君、アンタ/アイツ、みんな/「苗字+っち」例外…玉木「カッちゃん」ジェイムズ「ムズっち」リタ「リタっち」アリス「あーちゃん」

現状:死亡(1章シロ)

 

小柄な女子。社交的で明るい。凄腕のパティシエ。彼女の作るスイーツを食べると昇天しそうになるほど幸福感に満たされると言われ、海外の著名なパティシエ達も一目置いている。人懐っこく、誰とでも仲良くできる。お菓子だけではなく、料理全般得意。スイーツに対する情熱は並大抵のものではなく、一度スイッチが入ると味に一切妥協出来なくなる。料理にこだわりがあり、素人に手を出されるのが嫌い。実は鶏肉アレルギーで、モノクマに島中の食材を全て鶏肉に変えられた時は、生き残るために狗上を殺そうとした。しかし、返り討ちに遭って虐殺された。

声のイメージは『ハピネスチャージプリキュア!』の白雪ひめ。

 

 

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【超高校級の実況者】猫西(コニシ)理嘉(アヤカ)

 

「どうも!生身でははじめましてですね。私、うぇすにゃんこと、猫西理嘉です。」

 

性別:女

年齢:18歳

身長:169cm

体重:52kg

胸囲:78cm

誕生日:2月22日(うお座)

血液型:A型

好きなもの:猫、動画、お魚、菊池君

苦手なもの:きゅうり

趣味:ゲーム、猫の世話

特技:ゲーム、リアクション芸

出身校:帝貫大学付属中学校

得意教科:数学、理科、英語、音楽

苦手教科:国語

ICV:下田麻美

キャッチコピー:世界を癒す愛猫家

外見:ちっぱい。美少女。毛先にピンクのグラデーションがかかった黒髪のツインテール。ツリ目で、瞳は琥珀色。右目に泣き黒子がある。ナチュラルメイク。

服装:頭に黄色いリボンを付けている。鈴が付いたチョーカーをつけている。黒と金を基調とした、白猫の飾り付きの金色のリボンが付いたセーラー服を着用。靴下は黒いニーハイ。靴は、赤い革靴。

人称:私/君/あの子、あの人、みんな/男「苗字+君」女「苗字+さん」例外…アリス「あーちゃん」

現状:死亡(3章クロ)

 

話題沸騰中の実況者。『うぇすにゃん』という名前で活動している。チャンネル登録者数は500万人強。ゲーム実況や歌ってみた、罰ゲーム系など様々なジャンルの動画を投稿している。最近は、ドラマやバラエティ番組にも度々出演している。美人で、信者の中には彼女にガチ恋をしている者も少なくない。ゲーム全般得意。ファンに対して神対応。比較的常識人。猫が大好きで、家では種の違う猫を10匹飼っている。英才教育を受けているため、頭は良い。菊池に対して恋心を抱いていた。その事で床前の妬みを買い、織田の自殺を止めようとした所を襲われ、クロを押し付けられる形でおしおきを受けた。

声のイメージはVOCALOIDの鏡音リン。

 

 

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【超高校級の秘書】速瀬(ハヤセ)吹雪(フブキ)

 

「貴方方ですか、集合時刻の37秒前に到着したのは。」

 

性別:女

年齢:19歳

身長:178cm

体重:61kg

胸囲:95cm

誕生日:4月16日(おひつじ座)

血液型:B型

好きなもの:読書、緑茶

苦手なもの:不規則なもの

趣味:読書、音楽鑑賞

特技:情報管理

出身校:桜苑女子学院中等部

得意教科:数学

苦手教科:道徳

ICV:進藤尚美

キャッチコピー:仕事熱心な超人女子高生

外見:長身でスタイル抜群の美人。藤色の髪のシニヨン。ツリ目で、瞳は菫色。

服装:メガネをかけている。黒いスーツ。黒ストと黒いピンヒールを履いている。

人称:私/貴方、貴女/あの方、皆様/「苗字+様」例外…アリス「アリス様」

現状:死亡(2章クロ)

 

中学生で県知事の秘書になった才女。倒産しかけた会社を、次期社長と共に大企業へと発展させた功績を持つ。冷静沈着で、文武両道な優等生。非常に神経質な性格で、メジャーや時計を常に持ち歩いている。裏で人の手助けをする事に喜びを感じており、あまり目立つタイプではないが、秘書として雇い主をサポートしている。その日の気分で、メガネを替えているらしい。常に冷静で、一歩離れたところから周りを見ている。故郷を守るために森万を殺して外に出ようとしたが、学級裁判でクロがバレておしおきされた。

声のイメージは『ONE PIECE』のカリファ。

 

 

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【超高校級の大学教授】ジェイムズ・D=カークランド(James Doyle Kirkland)

 

「こうして『超高校級』の皆さんと同じ空間にいるのが夢のようです。よろしくお願いしますね。」

 

性別:男

年齢:17歳

身長:189cm

体重:68kg

胸囲:89cm

誕生日:12月1日(いて座)

血液型:AB型

好きなもの:学問、紅茶、日本、森万さん

苦手なもの:ありません

趣味:学術書を読む事、旅行

特技:暗記

出身校:ゲンブリッジ大学(大学教授)

得意教科:数学、物理学、日本語、ラテン語

苦手教科:あるかもしれません

ICV:松岡禎丞(希望ヶ峰入学時のICV:茜屋日海夏)

キャッチコピー:博学多才な英国青年

外見:長身痩躯の美青年。中性的な美人顔。長い猫っ毛の銀髪を三つ編みにしている。瞳は暗赤色。ちなみに、アルビノではない。

服装:シルクハットを被っている。白いワイシャツ、ダークグレーのベスト、赤いネクタイの上に黒い背広を着用。手袋を着けている。左耳にピアスをつけている。靴は黒い革靴。

人称:私/貴方、貴女/あの方、皆さん/「苗字+さん」例外…アリス「アリスさん」、エカイラ「エカイラちゃんさん」

現状:生存

 

11歳で大学を首席で卒業し、12歳で大学教授になった天才少年。英国出身。日本の文化に憧れている。博学多才なオールラウンダー。仕事柄、大抵のスキルは人に教えられる程度には磨いている。基本冷静で紳士的な好青年だが、ド天然。リタとは旧知の仲。飛び級でスカウトされているため、他の参加者よりひとつ年下。左利き。実はアイドルオタクで、うぇすにゃんと舞園さやかの大ファン。森万とは、ショーの手伝いをする程仲が良かったようで、彼が殺された時は珍しく取り乱していた。

声のイメージは『魔界王子』のシトリー・カートライトor『マギ』のティトス・アレキウス。間違っても鬼滅の伊之助ではない。幼少期の声は『魔法少女サイト』の奴村露乃。

 

 

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【超高校級の外務大臣】リタ・アンカーソン(Rita Ankerson)

 

「ふわぁあ…眠い…」

 

性別:女

年齢:18歳

身長:156cm

体重:45kg

胸囲:83cm

誕生日:6月17日(ふたご座)

血液型:O型

好きなもの:睡眠、ホットミルク

苦手なもの:朝、ブラックコーヒー

趣味:寝る事

特技:外国語

出身校:インユーテロ校

得意教科:外国語全般、経済学

苦手教科:体育

ICV:釘宮理恵

キャッチコピー:語学を極めたスリーパー

外見:少し巨乳。髪は緑色で、寝癖がついたセミロング。タレ目で、瞳は青みがかった緑色。

服装:深緑のジャンパースカートの上にベージュ色のパーカーを羽織っている。白いニーハイと茶色いロングブーツを履いている。

人称:僕/君、あんた/あの人、みんな/苗字呼び捨て。例外…ジェイムズ「ジェイムズ」、アリス「アリス」

現状:生存

 

ノヴォセリック王国の外務大臣。どんなに悪い関係の国同士でも、彼女を挟むとたちまち良好な関係になるという。僕っ娘。非常に語学が堪能で、60以上の言語を操れるマルチリンガル。いつも居眠りを繰り返している。ロングスリーパーで、一日のほとんどを寝て過ごしている。一度寝たら、起こすのに30分以上かかる。ジェイムズとは旧知の仲。(にもかかわらず、彼の背丈と声の変化には全く気付いていなかった様子。)寝ぼけると母国語が出てしまう。(ジェイムズは、それがツボらしい。)

声のイメージは『ONE PIECE』のシュガー。

 

 

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【超高校級の演奏家】小川(オガワ)詩音(シオン)

 

「自分、小川詩音っていうっス。『超高校級の演奏家』って呼ばれてるっス。顔と名前くらいは覚えてくださいよ〜。」

 

性別:女

年齢:18歳

身長:160cm

体重:48kg

胸囲:80cm

誕生日:11月6日(さそり座)

血液型:B型

好きなもの:楽器、炭酸飲料

苦手なもの:匂いのキツいもの

趣味:演奏

特技:演奏

出身校:丘路音楽大学付属中学校

得意教科:音楽

苦手教科:国語、数学

ICV:小見川千明

キャッチコピー:音楽を愛する楽天家楽天的な性格。

外見:標準体型。濃い水色のボブカット。ツリ目で、碧眼。そばかすあり。

服装:ト音記号とヘ音記号の形のヘアピンをつけている。茶色を基調としたブレザーを着用。紺色のソックスと茶色いローファーを履いている。

人称:自分/〇〇先輩/あの人、皆さん/「苗字+先輩」例外…アリス「アリス先輩」

現状:生存

 

凄腕の演奏家。海外の有名なオーケストラの団員だった事もある。サバサバ系女子。常識人なので、ツッコミ役になる事が多い。幼い頃から楽器を演奏してきたので、非常に優れた聴覚を持っている。幼い頃からの努力で『超高校級』まで上り詰めた。才能では周りより劣っている事を自覚しているため、他の『超高校級』に敬意を払って「先輩」呼びしている。弟切魅音という名前の親友がおり、本来なら彼女が希望ヶ峰に進学するはずだったのだが、死んだ彼女の代わりとしてスカウトされた。

声のイメージは『ソウルイーター』のマカ=アルバーン。

 

 

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【超高校級の庭師】郷間(ゴウマ)権蔵(ゴンゾウ)

 

「ここにいる奴は、全員兄弟だ!!よろしく頼むぜ、弟に妹!!」

 

性別:男

年齢:18歳

身長:214cm

体重:120kg

胸囲:131cm

誕生日:8月2日(しし座)

血液型:B型

好きなもの:建築、炭火焼

苦手なもの:庭仕事、甘い物

趣味:親父の手伝い

特技:建築、庭仕事(あんまり好きじゃねえ)

出身校:怒羅言中学校

得意教科:体育

苦手教科:英語

ICV:中村悠一

キャッチコピー:兄貴肌のガーデナー

外見:大柄で、筋肉質な体型。茶髪のベリーショート。切れ長の目で、瞳は茶色。

服装:白いTシャツと青いジーンズを着用。腰に赤い上着を巻いており、左肩に黒いバンダナを巻いている。靴は黒いスニーカー。

人称:俺/お前/アイツ、みんな/名前呼び捨て。

現状:死亡(1章ルール違反)

 

大柄な男子。本当は家業の大工を継ぎたかったらしいが、手入れした庭をたまたまプロの庭師に気に入られて、『超高校級の庭師』として有名になった。彼の手入れした庭は、10億円以上で売れるという。しかし本人は、自分の才能に対してあまり納得がいっていない。仲間想いな性格で、合宿参加者達を兄弟のように大切に思っており、「弟」か「妹」と呼んでいる。モノクマが近藤殺しの犯人探しをするための学級裁判の説明をした際、仲間を守るために、果敢にもモノクマ達に立ち向かったが、あっけなくグングニルの槍で惨殺された。

声のイメージは『侵略!イカ娘』の嵐山悟郎or『鋼の錬金術師(FA版)』のグリード。

 

 

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【超高校級の漫画家】織田(オダ)兼太郎(ケンタロウ)

 

「何を言いますか!!吾輩は、清く正しい織田兼太郎であります!!」

 

性別:男

年齢:18歳

身長:157cm

体重:43kg

胸囲:71cm

誕生日:2月8日(みずがめ座)

血液型:B型

好きなもの:漫画、オムライス、女性(特に猫西氏)

苦手なもの:運動、トマト

趣味:漫画

特技:漫画

出身校:坂松中学校

得意教科:美術

苦手教科:体育

ICV:塩屋翼

キャッチコピー:二次元を愛するアーティスト

外見:小柄で痩せ細った体型。黒髪の、ウェーブがかかったロングヘアー。三白眼で、瞳は黒。出っ歯。

服装:眼鏡をかけている。黒を基調とした学ラン。靴は茶色いローファー。リュックを背負っている。

人称:吾輩/〇〇氏/あの人、皆さん/「苗字+氏」例外…アリス「アリス氏」

現状:死亡(3章シロ)

 

週刊少年誌で大人気の連載漫画を描いている天才漫画家。彼の手掛けた作品は爆発的にヒットし、海外で実写映画化されたという。漫画やアニメをこよなく愛するオタクの中のオタク。『超高校級の同人作家』の影響を受けて漫画家を志望した。自分を清く正しい漫画家だと言っているが、根っからの変態で、女性陣からは蔑みの目で見られている(特に射場山から)。イケメンの玉木を一方的に敵視している。猫西のためなら命を懸けられるほどに彼女に心酔していた。彼女が自分を誑かしていたという秘密(床前が流したデマ)を真に受けて自殺しようとしたところを猫西に助けられたが、結局床前に嵌められた猫西によって殺害された。

声のイメージは『はれときどきぶた』の武蔵小金井くん。

 

 

 

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【超高校級の幸運】床前(トコマエ)(ナギサ)

 

「仕方ないじゃないですか。だって、この世界で一番優先されるべきものは、愛なんですから。」

 

性別:女

年齢:18歳

身長:152cm

体重:40kg

胸囲:84cm

誕生日:9月5日(おとめ座)

血液型:A型

好きなもの:論さん、絶望

苦手なもの:論さん以外の人間

趣味:人が絶望する所を見る事

特技:犯罪行為全般

出身校:三丘第二中学校

得意教科:国語

苦手教科:道徳

ICV:千菅春香

キャッチコピー:幸運に選ばれた女子高生 悪運に選ばれた異常者

外見:小柄。巨乳。茶髪のセミロング。タレ目で、瞳は水色。

服装:花の髪飾りを付けている。白と黒を基調とした、青いスカーフがついたセーラー服を着用。襟と袖口とスカートに白いラインが入っている。黒いソックスと茶色いローファーを履いている。

人称:私/あなた/あの人、皆さん/「苗字+さん」例外…アリス「アリスさん」、エカイラ「エカイラさん」

現状:生存

 

抽選で希望ヶ峰に進学する事になった、ごく普通の女子生徒。…という事になっているが、実は、『誰かの死と多少の不運を代償に、本物の幸運を引き寄せる』という才能の持ち主。影が薄く、誰にも気付いてもらえない事が多い。引っ込み思案で、目立った事が苦手。小川のように人の言動にツッコんだりはしないが、常識人。

 

 

 

というのは表の顔で、実は人を殺したり絶望に突き落とす事に快楽を感じるサイコパス。本当の才能は、『偶然を必然に、必然を偶然に見せる』という才能。その才能によって、恋敵である猫西を陥れてクロを押し付けた。モノクマの内通者でもあり、今までゲームを影で操っていた。菊池に対して異常なまでに執着しており、菊池のためならどんな事でも平気で行う。

声のイメージは『殺戮の天使』のレイチェル・ガードナー。

 

 

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【超高校級の操縦士】狗上(イヌガミ)理御(リオン)

 

「あー、かったりい…」

 

性別:男

年齢:18歳

身長:181cm

体重:74kg

胸囲:85cm

誕生日:7月31日(しし座)

血液型:A型

好きなもの:メカ、フライドチキン

苦手なもの:めんどくさい事、名前

趣味:機械いじり

特技:機械いじり、ケンカ

出身校:輪門中学校

得意教科:工学、体育

苦手教科:国語

出身校:輪門中学校

ICV:杉山紀彰

キャッチコピー:一匹狼のメカニック

外見:長身。赤毛を逆立てたツンツンヘアー。ツリ目で、瞳は赤色。ヒゲを生やしている。

服装:黒を基調とした学ランを着崩している。インナーは白いTシャツ。靴はグレーのスニーカー。ピアスやネックレスなどのアクセサリーをつけている。

人称:俺/テメェ/アイツ、コイツら/菊池「陰キャ」アリス「クソガキ」玉木「サッカー野郎」近藤「チビ」猫西「猫女」速瀬「カタブツ女」ジェイムズ「外人」リタ「居眠り女」小川「バカ女」郷間「デカブツ」織田「キモヲタ」床前「地味女」森万「インチキ野郎」射場山「仏頂面」神城「クソサド」

現状:死亡(1章クロ)

 

不良の男子生徒。凄腕の操縦士で、乗り物全般乗りこなせる。ドローンの競技大会で、圧倒的な実力差で優勝したという経歴を持つ。機械に強く、乗り物以外にも、機械なら大抵扱える。普段は面倒臭がりな性格だが、機械に対する情熱は本物。猜疑心が強く、他人との距離を縮めようとしない。自分の名前が嫌いで、下の名前を呼ばれる事に不快感を感じている。近藤に殺されかけたところを返り討ちにして逆に近藤を殺した事を学級裁判で見破られ、モノクマにおしおきされた。

声のイメージは『被虐のノエル』のフーゴ・ドレッセル。

 

 

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【超高校級の超能力者】森万(モリヨロズ)羅象(ツラノリ)

 

【超高校級のペテン師】ヨロズ

 

「あんなチンケな手品と一緒にするな。俺のは、本物の超能力だ。」

 

性別:男

年齢:18歳

身長:173cm

体重:60kg

胸囲:82cm

誕生日:11月11日(さそり座)

血液型:A型

好きなもの:トランプ、林檎

苦手なもの:科学、見た目が気持ち悪い食べ物、刃物

趣味:手品の練習

特技:手品

出身校:真風呉中学校

得意教科:美術

苦手教科:体育

ICV:子安武人

キャッチコピー:今世紀最大のサイキック高校生

外見:標準体型。セミロングの白髪。オッドアイ。右が金眼で、左が赤眼。ツリ目。

服装:灰色のマフラーを巻いており、黒を基調とした制服を着ている。靴は黒いブーツ。

人称:俺/お前、貴様/アイツ、みんな/苗字呼び捨て。例外…アリス「アリス」

現状:死亡(2章シロ)

 

自称今世紀最大の超能力者。誰一人として、彼が起こした摩訶不思議な現象を科学的に解明できた者はいないという。迷子になった総理の飼い猫の居場所を一瞬で見抜いたという功績から、超能力者として有名になり、希望ヶ峰にスカウトされた。本物の超能力者かどうかは定かではない。意外にも臆病な性格。厨二病を拗らせており、いわゆる闇属性っぽい物を好む。実は、重度の先端恐怖症。常に平静を装っているが、自分が追い詰められると泣きがち。合宿参加者の中では、ジェイムズが1番仲が良かった。最期は、故郷を守ろうとした速瀬に全てを託し、自ら望んで彼女に殺された。

声のイメージは『魔人探偵脳噛ネウロ』の脳噛ネウロ。

 

 

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【超高校級の弓道部】射場山(イバヤマ)祐美(ユミ)

 

「…別に。犯人の思い通りに動きたくないだけ。」

 

性別:女

年齢:18歳

身長:167cm

体重:53kg

胸囲:87cm

誕生日:12月18日(いて座)

血液型:A型

好きなもの:弓道、あんみつ

苦手なもの:会話、辛い料理、織田兼太郎

趣味:弓道

特技:弓道

出身校:東抄女子学園中学校

得意教科:弓道、書道、国語

苦手教科:音楽

ICV:能登麻美子

キャッチコピー:鷹の目を持つクールビューティー

外見:巨乳。茶髪ポニーテール。ツリ目で、瞳は菫色。口の左側に黒子がある。

服装:紺を基調としたセーラー服を着ている。襟は、白地に紺色のラインが入っている。白いソックスと茶色いローファーを履いている

人称:私/あんた/アイツ、みんな/苗字呼び捨て。例外…アリス「アリス」

現状:生存

 

凄腕の弓道家。高校生にして十段を修得しており、女子の国内記録を更新し続けている。銃の扱いも一流で、200m離れた的にも正確に当てられる。冷静沈着。口数が少なく、他人に対して素っ気ない態度をとる。しかし、冷淡な性格というわけではなく、意外にも情熱家。文武両道な優等生。超人的な視力を持ち、『鷹の目』と呼ばれる。しかし本人は、自分の才能を過小評価している。本当に楽しい時に、楽しそうな表情をできないのが悩み。エロに対して異常なまでの拒絶反応を示しており、一度織田を殺しかけた。実は、中学生の頃に遭った事故が原因で、左目の視力がほとんど無い。

声のイメージは『HUNTER×HUNTER(2011年版)』のカルト=ゾルディック。

 

 

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【超高校級の外科医】神城(コウジロ)黒羽(クレハ)

 

「跪け!!媚びろ!!そしてこの私を崇めろ!!」

 

性別:女

年齢:18歳

身長:175cm

体重:58kg

胸囲:98cm

誕生日:10月14日(てんびん座)

血液型:A型

好きなもの:美人で天才すぎる自分、はちみつ

苦手なもの:愚民、蒟蒻

趣味:愚民を蔑む事

特技:私の存在そのもの

出身校:桜苑女子学院中等部

得意教科:生物学

苦手教科:あるわけがない

ICV:伊藤静

キャッチコピー:世界を見下す天才外科医

外見:長身でスタイル抜群の美人。女性陣で一番の巨乳。プラチナブロンドの、ウェーブのかかったロングヘアー。(地毛はストレートヘアー。)ツリ目で、瞳はピンクに近い赤。アルビノ。化粧をしている。

服装:チョーカーをつけており、赤と黒を基調としたセーラー服の上に白衣を着用。靴は赤いピンヒール。

人称:私/テメェ、貴様/アイツ、愚民共/菊池「モブ」アリス「子供」玉木「サッカー」近藤「スイーツ」猫西「猫」速瀬「メガネ」ジェイムズ「帽子」リタ「居眠り」小川「騒音」郷間「ウド」織田「キモヲタ」床前「地味」狗上「犬」森万「ペテン」射場山「無口」エカイラ「オカマ」

現状:生存

 

高校生にして医師免許を持つ天才外科医。不治の病で瀕死だった患者を、たった1時間のオペで完治させたという功績を持つ。天才故に超がつくほどの自信家で、たとえ相手が目上だろうと高圧的な態度をとる。その傍若無人な態度から、『超高校級の女王』とも呼ばれる。自分以外の全てを見下しており、自分以外の人間を奴隷のように扱っている。しかし、みんなが悪夢にうなされる事なく眠れるようにと睡眠薬を調合するなど、根は優しい。外科医になった理由は、『国家試験に受かったから』という適当なもの。左利き。意外にもビビり。

声のイメージは『暗殺教室』のイリーナ・イェラビッチ。

 

 

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【超大学生級のオネエ】鈴木(スズキ)咲良(サクラ)

 

【超高校級の死神】伏木野(フシギノ)エカイラ

 

「アタシはオカマじゃなくてオ・ネ・エ!!そこんとこ、間違えないでよね!!」

 

性別:男

年齢:18歳

身長:191cm

体重:71kg

胸囲:92cm

誕生日:12月31日(やぎ座)

血液型:AB型

好きなもの:タピオカ、かわいい子、コスメ

苦手なもの:ブラックコーヒー、にんじん、グリンピース

趣味:おしゃれ

特技:家事、メイク、殺人

出身校:希望ヶ峰学園

得意教科:家庭科、体育、美術、理科

苦手教科:道徳

ICV:小野坂昌也

キャッチコピー:性別を超越した漢女(オトメ)

外見:長身痩躯の美青年。黒髪黒眼。右目が前髪で隠れている。ツリ目で、睫毛が長い。左目に泣きボクロがある。化粧をしている。

服装:髪にドクロのヘアピンをつけている。右耳にピアスを開けている。白黒のチェック柄のパーカーに黒いジーンズ、その上に黒い白衣を着ている。靴は、黒いピンヒール。爪を黒く塗っており、右手薬指にドクロの指輪をしている。両手首と両足首の手錠は気に入ったらしく、付けっ放しにしている。

人称:アタシ/アンタ/アイツ、あの子/名前+ちゃん。

現状:生存(2章登場)

 

大学1年生。更衣室のロッカーに監禁されていた。どうやら、合宿参加者達の事を知っているらしい。自分の事をオネエだと言い張っており、『オカマ』と言われるとブチ切れる。女子力が高く、料理や化粧などの腕は一流。バイセクシャルで、気に入ったら男だろうと女だろうとお構い無しにアタックする…らしい。線が細い割に怪力。

 

 

 

実はその正体は、都市伝説と化した殺人鬼『超高校級の死神』エカイラ。法で裁けない悪人達を何百人と葬ってきた。殺しの手口は、実は何人もいるのではないかと噂される程鮮やかで、人間業とは思えないという。合宿参加者達の元クラスメイト。

声のイメージは『Axis Powers ヘタリア』のフランス。

 

 

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【学園長】モノクマ

 

『これだよこれ!!これこそ、ボクが求める『絶望的シチュエーション』だよ!!』

 

性別:なし

身長:65cm

体重:?

胸囲:?

誕生日:?

血液型:なし

好きなもの:絶望

苦手なもの:希望

ICV:大山のぶ代orTARAKO

外見:白黒のクマのぬいぐるみ。左目が、赤い悪魔の羽のような形になっている。

人称:ボク/キミ、オマエ/キミ達、オマエラ、みんな/男「苗字+クン」女「苗字+サン」例外…アリス「アリスサン」

 

自称希望ヶ峰学園の学園長。コロシアイ合宿の首謀者。『絶望』が大好きで、『超高校級』達が殺し合うというシチュエーションにドキドキワクワクしている。

 

 

 

【教頭】モノハム

 

『皆様には、今からこのホテルで共同生活を送っていただきまちゅ。』

 

性別:なし

身長:60cm

体重:?

胸囲:?

誕生日:?

血液型:なし

好きなもの:絶望、優等生

苦手なもの:希望、不良

ICV:間宮くるみ

外見:モノクマと色違いのハムスターのぬいぐるみ。半分白く、半分茶色い。

人称:オイラ/アナタ/皆様/「苗字+様」例外…アリス「アリス様」

 

自称希望ヶ峰学園の教頭。モノクマの助手的存在。モノクマよりも礼儀正しく、マイルドな性格。ドジっ子で、ヘマをやらかしてはよくモノクマに怒られる。

声のイメージは『とっとこハム太郎』のハム太郎。

 

 

 

【その他】

 

菊池(キクチ)破奈(ハナ)

 

「別に、お兄ちゃんと同じ高校進めて良かったとか、全然思ってないんだからね!」

 

性別:女

年齢:?(論の2歳年下)

身長:155cm

体重:42kg

胸囲:82cm

誕生日:8月29日(おとめ座)

血液型:AB型

好きなもの:お兄ちゃん(本人には内緒)、プリン、子供

苦手なもの:豚足

趣味:ロボ製作、日向ぼっこ

特技:ロボ製作、勉強、家事etc…

学校:桜苑女子学院中学校

得意教科:数学、理科、家庭科

苦手教科:思いつかないです

ICV:斎藤千和

外見:アホ毛の生えた黒髪。瞳は、灰色がかった緑。ツリ目。紺を基調としたゴスロリのような制服を着ている。

 

論の妹。中学生にして、家を丸ごとハイテクハウスに改造する程の天才児。生徒会長を務めている。中1の時点ですでに希望ヶ峰学園への進学が決まっているが、スカウトできる才能が多すぎて、どの才能でスカウトするかで教員達が頭を悩ませている。論の事が好きで好きでたまらないブラコンだが、本人の前では素直になれずにいる。本編では登場しない。

 

{IMG61240}

 

 

 

姫月(ヒメヅキ)小美(コハル)

 

「申し遅れました。私、勝利さんとお付き合いをさせていただいております、姫月小美と申しますわ。」

 

性別:女

年齢:?歳

身長:163cm

体重:47kg

胸囲:83cm

誕生日:4月24日(おうし座)

血液型:O型

好きなもの:和菓子

苦手なもの:爬虫類

出身校:聖條女学院

ICV:早見沙織

外見:黒いロングヘアーを姫カットにしている。瞳は、灰色がかった青。タレ目。

服装:女学生のような薄紅色の着物。

 

玉木の彼女。大和撫子を絵に描いたようなお嬢様。浮世離れした、古風の美少女。誰に対しても穏やかに接する。玉木曰く、料理が得意とのこと。本編では登場しない。

 

{IMG63865}

 

 

 

嫌島(ヤジマ)幽禍(ユウカ)

 

「学生とはどうあるべきか、丁寧に叩き込んであげます。」

 

性別:女

年齢:?歳

身長:173cm

体重:53kg

胸囲:87cm

誕生日:10月31日(さそり座)

血液型:B型

好きなもの:コーヒー、教育

苦手なもの:不健全な物

出身校:希望ヶ峰学園

ICV:浅川悠

外見:黒髪ロングヘアー。瞳はダークブラウン。ツリ目。

服装:白いブラウスに黒いロングスカート。黒いピンヒールを履いている。

 

菊池のクラスの担任。希望ヶ峰学園の71期卒業生で、元『超高校級の生徒会長』。見た目は美人だが、素行不良の生徒には心が折れるまで容赦なく説教をする鬼教師。本編では登場しない。

 

{IMG63866}

 

 

 

【超高校級の俳優】タカヒロ

 

「菊池クン、クラスメイトの顔覚えてないとかゲロヤバなんだけど!」

 

性別:男

年齢:?歳

身長:不明

体重:不明

胸囲:不明

誕生日:6月2日(ふたご座)

血液型:不明

好きなもの:演劇

苦手なもの:朝

出身校:不明

ICV:緒方恵美

外見:天使の羽のような白いメッシュが入った黒髪ショートボブ。瞳は緋色。

服装:黒い革ジャンに黒いジーンズ。ロングブーツを履いている。

 

中性的な見た目の美少年。菊池のクラスメイトだったが、現在は行方不明になっている。どんな役でも完璧にこなす天才役者。昔はビジュアル系ではなかったらしい。

 

{IMG63867}

 



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第4章(非)日常編②

3月3日は夏美ちゃんの誕生日です。
夏美ちゃんたんおめ!


俺は売店に向かい、ガチャを引いた。

今回は、漫画のペンと猫のぬいぐるみが出てきた。

…あとで二人の部屋に行こう。

さてと、まずはどこに行こうか?

「論さん、どちらに行かれるおつもりですか?」

「…別にどこだっていいだろ。」

「私、ご一緒させていただきますね。」

「…勝手にしろ。」

 

 

ーカジノー

 

「あっ、サトにい!!」

カジノには、先客がいた。

クソガキは、ルーレットで遊んでいるようだった。

だが、手元にはモノクマメダルが一枚もなかった。

「…お前、メダルどうしたんだ?」

「えへへ…負け続けちゃって、全部なくなっちゃった!でも、このルーレット、面白いんだよ!ねえサトにい!もっかいやるからメダルよこせ!!」

「やなこった。人にたかるな。」

「そうです。論さんにたからないでください。不愉快です。」

「サトにいのドケチ!!スカポンタン!!ろくでなし!!ヤドカリの食べれない部分!!」

最後のは一体どういう意味なんだ。

「メーダールーよーこーせー!!」

クソガキは、しつこく俺にたかってきた。

すると、床前が俺とクソガキとの間に割って入った。

「人に迷惑をかける事しかしない害虫の分際で、気安く論さんに近づかないでください。」

その台詞が自分にも返ってる事は言わないでおこう。

「ふーんだ!!何さ!!ナギねえのヘンタイ!!ストーカー!!サイコパスタ!!」

「あら。口が悪い子には、お仕置きが必要ですかね?」

二人が喧嘩をし始めた。

「おい、やめろ。…もういい、メダルは貸してやるからこれ以上騒ぐな。」

「わーい!!サトにいマヂYDK!!」

これ以上面倒を起こしたくないだけだ。

「床前も、これ以上みんなに悪態つくのをやめろ。」

「はい。論さんが言うなら、それに従います。」

床前は、さっきまで剥き出しにしていた殺意をあっさりと引っ込めた。

「よーし、メダルが手に入ったことだし、ルーレットで遊ぶぞー!!」

アリスは、再びルーレットで遊ぼうとしていた。

そのルーレットは白、黒、赤のどれかに賭けるルーレットのようだ。

ルーレットに描かれているのは、今までのデスゲームの犠牲者の顔だった。

「…おい、これ…」

「まあまあ見てなって。」

アリスは、玉をルーレットに落とした。

玉は、ルーレットの周りをクルクルと周る。

「よし、今度こそ赤こい赤!!」

そう言ってアリスが全額を赤に賭けた。

玉は、郷間の顔が描かれた溝に落ちた。

すると、ルーレットに付けられた電光掲示板にCongratulations‼︎と表示され、ファンファーレが鳴り響いた。

ルーレットからは、大量のメダルが吐き出される。

…ようやく、これがどういうゲームなのか理解した。

これは、コロシアイの被害者か、クロか、ルール違反をした生徒か、どのパターンに該当する生徒の所に玉が落ちるのかを予想するゲームだ。

「やったー!!勝った!!メダルがガッポガッポだー!!これでもう一回できるよ〜!ねえ、サトにいもやる?」

「やるわけねぇだろ。」

なんて悪趣味なゲームだ。

俺は、思わず吐き気を催した。

「ふーんだ!!サトにいのバーカ!!もういいもんね!あーちゃんがオクマンチョージャになっても、サトにいにはメダルはビタ一文もやらん!!」

元はと言えば俺のメダルだろ。

「いらねぇよ。勝手にやってろ。」

「一円を笑う者は一円に泣くって言うぞ!!あーちゃんにメダルを分けてもらえなかった事を後で後悔するんだな!!」

少なくとも、悪趣味なギャンブルでメダルを無駄遣いして俺に借金まで作ったお前が言っていい台詞ではない。

「…はあ、貸した分は返せよ。」

「やだね!!もうあーちゃんのメダルだもん!!」

全く…なんなんだコイツは。

だから貸したくなかったんだよ。

でも、コイツに取り立てたところで、どうせ俺が疲れるだけだな。

まだメダルは残ってるし、今回は諦めるか。

「…もういい。」

「論さん、待ってください!」

「お?もう行くの?やったー!!勝った!!あーちゃん、サトにいをロンパしたぜ!!」

クソガキは、なぜか勝手にはしゃいでいた。

俺は、カジノの2階へ向かった。

 

 

ーカジノ 2階ー

 

「…はあ。」

「論さん、大丈夫ですか?うるさい子供に絡まれて災難でしたね。」

「床前、お前も少しうるさいな。黙っててくれないか。」

「まあ!私の声が嗄れないように、気を遣ってくださったんですね!こんな救いようもない私の事を心配してくださるなんて、論さんはなんて優しいんでしょう!」

…なんなんだコイツ。

「そうだ!そんな優しい論さんには、メダルを貢いじゃいます!」

「…は?」

「さっき、アリスさんにメダルを奪われたでしょう?その分のメダルも、元に戻さないとですし。私、論さんのために頑張ってメダルを稼ぎますから!」

そう言うと、床前は目の前にあったゲームにメダルを入れて遊び始めた。

コイツが今までの床前なら、ここまで尽くして貰えて、俺もうまく喜べてたんだろう。

だが今は、コイツに何かされても全く喜べない。

…あの頃は、まだ良かったな。

なんて今考えても仕方ないが。

それから床前は30分くらいゲームをし続けて、メダルを数千枚も稼いでいた。

どんだけ勝ち続けたらこんなに稼げるんだよ。

『超高校級の幸運』の実力も伊達じゃないってか。

「論さん!見てください!私、こんなに稼いじゃいました!」

「お前、どうやったらここまで勝てるんだよ。…まさか、イカサマとかしてないだろうな?」

「やだなあ、そんな事するわけないじゃないですかぁ。どれもこれも、きっと全部愛の力ですよ。私の、論さんを想う気持ちが、奇跡を起こしたんです。うふふ、やっぱり私とあなたは運命で結ばれているんですね♥︎」

「…気色悪い事言うな。」

「うふふ、私には冷たい論さんも魅力的です。」

そう言うと床前は、メダルがギッシリ詰まった籠を俺に差し出してきた。

「このメダルは全部差し上げますので、好きな事に使ってください。…あ、ただ、他の皆さんへのプレゼントなら、私が全て没収させていただきますね。」

コイツ…

「いらねぇよ。自分で持ってろ。」

「あら、自分で持ってろだなんてなんて優しいんでしょう!でも、そういうわけにはいきません。論さんのために稼いだんですから、使ってください。」

「いらねぇっつってんだろ。しつこいぞお前。」

「あら…そうですか。では…」

床前は、メダルを全てゴミ箱に捨てた。

「え!!?ちょ、お前何やってんの!!?」

「え?何って…見ての通りですよ。」

「そういう事を聞いてんじゃねぇよ!なんでメダルを捨ててんだよ!」

「…ああ、だって…論さんがいらないって言ったでしょう?だったらこんなもの、いくらあってもゴミの塊も同然です。論さんに必要とされない物に価値なんてありません。」

いや、確かにいらないとは言ったけど…

よく躊躇なくゲームのチップを捨てられるよな。

やっぱコイツ、色んな意味でブッ飛んでるな。

こんな奴が今まで本性を隠して普通の女子高生のフリをしていたと思うとゾッとするよ。

「…そろそろ飯の時間だし、レストランに行くか。」

「私もご一緒させていただきますね。」

床前が後ろからついてきた。

もう、コイツに反応するのはやめた。

いちいち反応していたらこっちが疲れるだけだ。

 

 

ーレストランー

 

レストランでは、玉木が昼食を作っていた。

玉木は、床前の顔を見るなり不機嫌そうに言った。

「…またお前か。」

「あら、ご機嫌麗しゅう無能リーダーさん。あなたも、論さんの食事に何か盛るつもりですか?」

「おい、床前!!いい加減にしろ。玉木がそんな事するわけないだろ。コイツは、俺達のリーダーだ。間違っても、そんな事をする奴じゃない。」

「あのね論さん。人間なんて、いつ裏切るかわからないものですよ?論さんはお優しいから、親友だと言ってすり寄ってくる輩に騙されないか心配です。」

お前が一番怪しいんだよ。

「…そういうお前は信用できんのか?」

「あら。信用してくださらないんですか?安心してください。私が論さんを裏切るなんて事は絶対にあり得ませんよ。だって、この世界に愛以上に信用できるものなんて無いんですから。もちろん、私は論さんの事を信じてますよ?…まあ、あなたが何をしようと、私にとってそれが愛おしいのには変わりはないんですけど。」

「…そうかよ。」

「あ、だからって、他の女と仲良くしていいって事ではありませんからね?そんな事したら私、その人の事を殺しちゃいます。余計な人間を全員排除して、私とあなただけの理想郷…なんて素敵なんでしょう!考えただけで心が躍ります♪」

やっぱりコイツ、頭おかしいな。

他の奴と喋るのを制限されたら、かなり行動の範囲が狭まるだろうが。

でも、コイツのせいで誰かが死ぬくらいなら、俺が我慢するしかないだろ。

「…俺が他の奴と仲良くしない限り、お前は誰も殺さない。そうだろ?もうお前以外の奴とは仲良くしないから、俺以外の全員を殺すのはやめろ。」

「なっ…おい、菊池!!正気か!?」

「うふふ、さすが論さんです。物分かりがよろしいようで安心しました。皆さん、命拾いしましたね。」

「うるせぇ!!テメェ、どれだけ人を苦しめれば気が済むんだ!!」

「玉木さん、私、論さんの次に絶望が大好きなんです。せいぜい絶望のどん底でもがき苦しみながら死んで、私を楽しませてくださいね。」

「テメェ…!」

床前は、玉木を煽って楽しんでいる。

普段ならこんなにわかりやすい挑発に乗らないであろう玉木が、床前に対して怒りを露わにしている。

…コイツ、正義感は人一倍強いからな。

これ以上親友を悪く言われるのは気分が悪かったので、俺が止めに入った。

「…おい、床前。やめろ。飯が不味くなる。」

「はぁい。」

床前はあっさり玉木を煽るのをやめ、俺の隣の席に座った。

全員が揃い、席についた。

俺達は、玉木が作った飯を食べた。

「論さん、いけません!そんな毒入りの食事を食べては!」

「…。」

「アンタ、しつこいわよ。」

「…あなたは黙っててください。エカイラさん。」

「…。」

「てかサトにい、さっきからなんで黙りこくってんの?」

「…。」

「はっ、どうせ私の魅力に慄いて、声も出なくなってんだろ!?仕方あるまい!!私は神なんだからな!!だが、いつまでもその仏頂面晒されんのも不愉快だ。特別に私と会話をする権利をやろう!!」

「…。」

「はぁあああああ!!?おいモブテメェコラ!!私が話していいって言ってやってんだぞ!!テメェ、神を冒涜する気か!!テメェのその耳と口はチンカスでできてんのか!!?」

「…黙れ。」

「ひぃいいいい!!」

射場山に凄まれて、神城は大人しくなった。

俺だって、みんなを無視したくてしてるわけじゃないんだよ。

でも、こうする他にねぇだろ。

「…神城先輩、菊池先輩の事はそっとしておきましょう。今無理して話したって、菊池先輩にとっても迷惑っスよ。」

「…チッ、モブはモブらしく一生地味に生きてろ!!」

神城は、俺に捨て台詞を吐き捨てた。

「…。」

俺だって、みんなを無視する事に心が痛まないわけじゃない。

でも、誰かが死ぬよりはマシだ。

これ以上犠牲を出さないためにも、俺がみんなと仲良くしちゃいけないんだ。

 

 

「ごちそうさまでした。」

「論さん、大丈夫ですか?無能リーダーの作った食事のせいで、お口の中が毒されているのでは?」

「しつこいぞ。別になんともないって言ってるだろ。」

「まだ油断はできませんよ!遅効性の毒が入っているのかも…」

「お前なあ、いい加減にしろよ。」

「…はぁい。」

「あー、なーんだ!!ナギねえに話しかけられたらフツーに話すんじゃん!!なんだよ、サトにいのバーカ!!フンヅマリ!!腐ったゴキブリ!!」

最後のは一体どういう意味なんだよ。

お前の絶望的に分かりにくい話し方は全然変わんねぇな。

一周回って逆に安心したよ。

「それじゃあ、私達はお先に失礼させていただきます。」

「何方に行かれるのですか?」

「…別にどこだっていいでしょう?あなた達がいる空間に、論さんを留まらせるのは不愉快極まりないので。さ、行きましょう論さん。」

お前といる方が不愉快だよ。

「ああ…」

床前は、俺の手を取ると足早にレストランを後にした。

 

 

ー談話室ー

 

床前は、自販機で飲み物を買って、俺に手渡した。

「どうぞ、論さん。あんな無能リーダーの食事なんて食べて、お口の中が気持ち悪いでしょう?お口直しにお茶でも飲んでください。そこにシンクもありますから、しっかりお口を濯いでくださいね。」

「これ以上玉木を悪く言うのはやめろ。」

「あら、あんな人達の味方をするんですか?論さんは優しいですね。でも、嫌だったら嫌だって正直に私に相談していいんですよ?」

お前と一緒にいる方が嫌だって正直に言えたら、どんなに気が楽だっただろうか。

俺はほうじ茶の缶を受け取った。

「熱っ!!」

俺は、思わず缶を落とした。

「あら論さん、大丈夫ですか?」

「なんとかな。」

落とした缶を拾い上げた。

…まさかあったかい方だったとは。

「冷たい飲み物ではお身体が冷えると思いまして、温かい飲み物を買ったんですけど…熱いものが苦手なら、今すぐ冷たい飲み物を買ってきますね。」

「別に苦手とは言ってねぇだろ。あったかい方だとは思わなかったから、驚いただけだ。」

「そうですか…うふふ、缶の熱さにビックリする論さんも可愛いです。」

「…気色悪い事言ってんじゃねえよ。」

俺は、缶を開けて中身を少し飲んだ。

「…なあ、床前。」

「はい、なんでしょうか論さん!?」

「一応確認だが、お前は俺のためならなんでもしてくれるのか?」

「…ええ、もちろん。私は、あなたのためならなんだってできるし、なんだってします。…あなたにだったら、たとえ何をされても構いません。私は、あなたの所有物(モノ)です。」

床前は、俺の手を掴んだ。

…コイツ、華奢な見た目のくせに、なんでこんなに握力強いんだよ!?

手が痛くて折れそうなんだが!?

「ですから、どうぞ壊れるまで私をこき使ってくださいね。」

床前は、俺の腕を引っ張って自分の胸を触らせた。

「んッ…」

床前は顔を赤らめて艶かしい声を漏らす。

男ならこういうシチュエーションで普通興奮するものなんだろうが、俺はコイツの本性を知ってしまっている以上、興奮どころか恐怖しか感じない。

初めて家族以外の異性にここまで面と向かって愛情を向けられたのがまさかこんなサイコ女にだなんて、考えただけで涙が出そうだ。

「…やめろ。何させてんだお前は。」

「あっ、失礼しました。…ところで論さんって、今までに女性と付き合った事ってあるんですか?」

「無えけど、それがどうしたんだよ?」

「…なら良かった。」

そう言うと床前は俺に近づき、そして…

 

 

 

 

「んッーーー!!?」

 

一瞬、頭の中が真っ白になり、何が起こったのか理解できなかった。

俺のファーストキスは、目の前の女に奪われた。

「ご馳走さまでした♡」

床前は、恍惚とした表情で俺を見ていた。

「ーーーーーーッ!!?」

俺は、床前を押し除けて急いでシンクに駆け込んだ。

そして、大量の水で口を濯いだ。

口の中があり得ないくらい気持ち悪い。

俺は、あんな女に、無理矢理口の中を…

考えただけで吐き気がする!

口の中に大量の水を含み、シンクに勢いよく吐き出した。

「もう、論さんってば、そこまでしなくていいじゃないですか。私だって、さすがにちゃんと歯くらい磨いてますよ。」

そういう問題じゃねえよ!!

「ふざけんなよお前マジで!!お前…なんて事してくれたんだよ!?」

「だって、このままあなたを放っておいたら、他の女に目移りしちゃうでしょう?私、他の女に穢された論さんなんて見たくないので。そんな事になる前にいただいちゃいました♡」

たった今、お前に汚されたんだが。

「本当は、私の全てをあなたにあげたかったんですけど…これ以上やると、また痛い事されちゃいます。」

逆に、モノクマに言われなかったら俺を襲う気だったのかコイツ。

「ふざけんな!!本当に俺のためになんでもできるんだったら、二度とこんな事すんな!!」

「…はぁい。気をつけまぁす。」

床前は、ヘラヘラと笑いながら椅子に座った。

「…ふわぁ。」

そこへ、リタが来た。

「…眠い…ほにゃぁ?君たち、そこで何やってるんですかぁ。」

リタは、あくびをしながら俺達の方に近づいて、話しかけてきた。

「邪魔しないでください。私と論さんは今、二人で愛し合っているところなんです。」

違う!!断じて違うぞリタよ!コイツが一方的に迫ってきただけだ!

「ふわぁあ…君たち、そういう関係だったんでしゅね…お幸せにぃ。」

お前も何誤解してんだ!!

リタは、自販機で買い物をした。

「ふわぁあ…ホットココアが飲みたいですぅ…」

リタは買い物を終えると、俺達の方に振り向いた。

「…あ、あんまり遊びすぎない方がいいですよぉ。あんまりやりすぎると、R –18タグがついちゃいますぅ。お遊びは、R –15の範囲にしてくだしゃあい。」

誰がそんな事するか!!

「ご忠告ありがとうございます。では、そうさせていただきますね。」

お前、さっきモノクマの制裁喰らったばっかだろ!?

全然反省してねぇじゃねえか!!

「…はあ。」

俺は席から立ち上がり、談話室を後にした。

「あ、論さん!待ってください!」

床前は、談話室から出て行く俺を追いかけてきた。

 

 

ーホテル 廊下ー

 

俺は、ガチャの景品を持って織田の部屋に行った。

「…。」

織田の部屋は、以前とほとんど変わらなかった。

だがアイツがいない分、広く感じた。

「…織田、ごめんな。俺のせいでこんな事になっちまって…」

コイツは、猫西の事を誤解したまま自殺をしようとしていた。

そして、床前のせいで、互いに望まずに愛する者の手によって殺されてしまった。

俺が床前に目をつけられさえしなければ、今頃は漫画の話で盛り上がったり、また女湯を覗いては射場山あたりに追いかけ回されたりして仲良くやっていたのかもしれない。

こんな事になったのは、床前のせいだけじゃない。俺の責任でもある。

織田の無念を晴らすためにも、俺が床前を止めて、このゲームを終わらせなきゃいけない。

俺は、机にペンを置いて部屋を出ようとした。

 

「…あれ?」

本棚の中に、卒業証書が入っていた。

中を開いて見てみた。

中には、写真が何枚か挟まっていた。

そこには、猫西と織田が一緒に写っている写真が何枚かあった。

…だが、その中で2枚だけ気になる写真があった。

1枚は、織田が中性的な見た目の男子生徒と一緒に写っている写真だった。

フワッとした黒髪に、羽根のような白いメッシュが入った髪型…間違いない。

ソイツは、速瀬の部屋にあった写真にも写っていたヤツだった。

「…タカヒロ?」

俺は、そう呟いていた。

…なんかコイツ、どこかで最近見たような気がするんだよな。

だが、どこでその顔を見たのかは全くわからない。

そして、2枚目の写真は、見た瞬間に吐き気を催した。

「ーーーーーーーッ!!?」

写っていたのは、血塗れの会議室だった。

床には、大量の惨殺死体が転がっている。

真ん中に、大量の返り血を浴びたモノクママスクが、左手でピースサインを作って立っていた。

ソイツは革ジャンと革の短パンと革のロングブーツを身につけ、右手に拳銃を握っていた。

「なんだこれは…!?」

…このマスク、もしかして俺の動機ビデオに映っていたヤツの仲間か…?

…いや、単なる仲間というわけでもないかもしれない。

「…また謎が増えたな。」

俺は独り言を呟き、アルバムを閉じた。

部屋を出ると、案の定床前が待ち伏せしていた。

…まあでもコイツの今までの行いを振り返れば、俺と一緒に部屋に入らないだけマシか。

「うふふ、用事は済みましたか?では、行きましょうか論さん。」

「お前が俺の行き先を決めんなよ。」

「…あ、ごめんなさい。」

床前は、素早く俺の3歩後ろのポジションについた。

俺は、猫西の部屋へと向かった。

「…なあ、床前。」

「なんでしょうか論さん?」

「お前は、みんなの事をどう思ってるんだ?」

「…うふふ、そんなの、どうだって良くないですか?私があなたを愛している、それだけで十分じゃないですか。」

「質問の答えになっていない。俺の質問に答えろ。」

「失礼しました。…ええと、そうですね。アリスさんと神城さんは論さんを苦しめる害虫なので、今すぐにでも殺したいです。エカイラさんも、個人的に嫌いなので絶望のどん底に叩き落として殺したいですね。玉木さんとカークランドさんは、論さんと仲良くしすぎなのでムカつきますけど、スルーでいいです。あなたに男色の趣味がない事は把握済みですから。小川さん、射場山さん、アンカーソンさんの3人は、論さんへの態度次第ですかね。論さんと一定距離を保ってくれるなら、私からは何もしません。でも、もし私から論さんを奪うようなマネをしたら、すぐに殺します。…まあでも、アンカーソンさんに関しては、ほとんど懸念要素は無いですね。私達の事を応援してくれているみたいですし。」

興味ないから適当にあしらっただけだろ。

「…とまあ、こんな感じです。ああでも、あくまでそう思ってるだけですよ?それを行動に起こすほど私も鬼じゃないですよ。」

どの口が言うか。

今まで、自分が楽しいからっていう理由で7人も殺したくせに。

…床前のターゲットは、アリス、神城、エカイラ、小川、射場山の5人か。

コイツらとは、特に仲良くしないようにしないとな。

そんな話をしていると、猫西の部屋に着いた。

「あら、着きました。…では私は外で待機しているので、用が済んだらすぐに出てきてくださいね。」

「…お前は一緒に中に入らないのか?」

さっきもそうだったけど、コイツは何故か俺が人の部屋に入る時は一緒に入ろうとしないんだよな。

「…うふふ、それは私を誘ってくださっているんですか?」

「違ェよ。純粋な疑問だ。大体、そういう事はダメだってモノクマに言われてんだろ。」

「…まあ、それはそうですけど…」

「それで?なんでお前は一緒に部屋に入らないんだ?」

「だって、穢らわしい『その他』が生活していた空間に入るなんて、不愉快極まりないじゃないですか。本当は、論さんにもおぞましい『その他』の部屋になんて入って欲しくないんですよ?」

「…そんな事だろうと思ったよ。もういい。1人で入る。」

俺は、猫西の部屋へと足を踏み入れた。

 

 

「…え。」

俺は、部屋に入った瞬間に目を疑った。

部屋の中が、何者かに荒らされていた。

ゲームは全て破壊され、ぬいぐるみは全て引きちぎられて床に転がっており、化粧品は全て瓶を割られて中身が部屋中に飛び散っている。

壁やベッドには、おびただしい切り傷があった。

そして、口紅で『魔女』『売女』『地獄に堕ちろ』などといった悪口が部屋中に書かれていた。

「なんだこれは…!?」

今までの部屋は、以前と殆ど変わらない状態に保たれていた。

という事は、これは明らかにモノクマとモノハムの仕業ではない。

…こんな事をする奴は、1人しか考えられなかった。

「…床前の奴…」

俺は、猫西の部屋を、出来るだけ綺麗な状態に片付けた。

死んだ後もこんな嫌がらせをされたんじゃ、アイツも報われない。

アイツも、俺と床前のせいで死んだ哀れな犠牲者の1人だ。

せめて、どんな形でもいいから償いがしたかった。

俺は、部屋を一通り片付けた後、猫のぬいぐるみを部屋に置いた。

「…ごめんな。俺のせいで、こんな事になっちまって。」

コイツも、俺が床前に好かれなければ、死なずに済んだのに。

…好きだったのに、なんでこんな事になっちまったんだよ。

俺は、悔しさを胸に抱きながら、部屋を後にした。

「あら、遅かったですね論さん。あんな女の部屋にずっといたら、お身体に悪いですよ?だって、この部屋にいた女は、論さんを誑かした魔女…」

 

ドンッ

 

「きゃっ!?」

俺は、床前に詰め寄り、渾身の力を込めて壁を殴った。

「お前…一体どういうつもりだ?あんな嫌がらせして、何が楽しいんだ!!」

「さ、論さん…?わ、私…なんで論さんがそんなに怒ってるのかちょっとわからないです…」

「とぼけんな!!なんで猫西の部屋を荒らした!?あんな事して許されると思ってんのか!!?」

「…許すも何も、もう本人は()()()()()()()じゃないですか。だったら、私が何をしようと誰も何も言いませんよ。」

その言葉を聞いて、俺の中で大事な何かが切れた。

「…もういい。お前なんかに人間性を求めた俺が間違ってた。…お前は、やっぱり救いようのないクズ女だよ。…俺が今すぐ殺してやる。」

俺は、床前の首を絞め上げた。

「ぐっ…さ、さと…し…さん…?」

「うるせェ。二度と口を開くなゴミ女。」

「く…くるし…わ、たし…さ…とし…さんに…ころ、さ…れる…?」

床前の顔は血の気が引いて青白くなっていく。

だが、その表情は恍惚としていた。

「…最っ高♡」

…トドメだ。

俺は、床前の首を強く絞めようとした。

その時、俺の制服の懐からゲーム機が落ちた。

…猫西に借りたまま返せなかったゲーム機だ。

 

『なんとしてでも全員で生きてここを出ないとね!』

 

「…!!」

その瞬間、俺は我に返った。

そうだった。俺は、なんて過ちを犯そうとしていたんだ。

その場の感情に任せて、自分の背負った責任を、命ごと放棄しようとしていた。

俺は、なんとしてでも生きてここを出て、償いをしなきゃいけなかったんだった。

…そんな大事な事、なんで一瞬でも忘れてしまったんだろう。

俺は、床前の首から手を離した。

「…さっきは殺そうとして悪かったよ。大丈夫か?」

「ケホッ、ケホッ…あーあ、結局死に損なっちゃいました。せっかく、論さんに殺して貰えると思ってたのに。…それにしても、そんなゲーム機で気が変わっちゃうなんて、論さんも甘いんですね。まあ、そんなあなただから好きになったんですけど。」

床前は、少し残念そうに俺を見た。

俺は、落としたゲーム機を拾い上げた。

…そうか、猫西…お前が、俺を止めてくれたのか。

ありがとな、猫西。

俺は、絶対にここを生きて出るよ。

だからいつか償える時まで、どうか待っていてくれ。

 




ついにAまで来ちゃいましたよ。
どんどんトコマエダ様がヤバくなってきましたね。
ちなみに、トコマエダ様の性格は、典型的なサイコパスを意識して練り上げてみました。

・第一印象は良い
・自己中心的
・欲求不満
・狡猾
・罪悪感の欠如
・共感の欠如
・衝動性
・多種類の犯罪行為

…ね?全部当てはまってるでしょ?


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第4章(非)日常編③

アンケートありがとうございました!
まだ結果が同票なので、先にこちらを出させて頂く事にしました。

ちょっと(っていうかガッツリ)編集しまーす(棒)


さっきは、危うく床前を殺しそうになった。

でも、猫西の貸してくれたゲーム機のおかげで、踏み止まれた。

…ありがとな、猫西。

俺は、なんとしてでも生き残るよ。

生き残って、こんなゲーム終わらせてやる。

「さーとーしーさんっ!」

「うおっ!?」

床前が後ろから話しかけてきた。

「大丈夫ですか?さっきから上の空でしたよ?」

「…あ、ああ。」

「論さん、どうしたんですか?顔色悪いですよ?」

コイツ…さっき殺されかけたのに、なんでこんなにヘラヘラ笑ってられんだよ。

「…なあ、床前。」

「はい、なんでしょうか論さん?」

「お前は、俺を恨んでないのか?」

「…恨む、とは?」

「いや、さっきお前を殺しかけただろ。その事で俺を恨んでないのかって事だよ。」

普通、未遂とはいえ殺されかけたら誰だって相手の事を恨むだろ。

…実際、近藤だってそれで狗上に殺されたわけだし。

「うーん…質問の意図がちょっとよくわからないですね。だって、私が論さんを恨むなんて事は絶対あり得ませんから。…むしろ、殺して貰えなくて残念だったくらいです。」

「何…?」

「だってそうでしょう?論さんが私を殺してクロとしておしおきされれば、あなたと私は天国で永遠に一緒になれます。逆にあなただけが生き残る結果となっても、あなた以外の邪魔者を全員地獄に叩き落とせます。ね?どっちに転んでも、私にとっては悪くない結末でしょう?」

コイツ…

自分を殺そうとした相手を恨むどころか、殺して貰いたかっただと?

前から思ってはいたが、コイツは本当にヤバいな。

今すぐにでも精神科の受診を勧めたいところだ。

「…うふふ、でもね論さん。殺して貰えなかったのは残念でしたけど、さっきのは中々()()()()ですよ?」

「良かった?」

「さっき、私を殺そうとしてくれていたじゃないですか。」

床前は、顔を真っ赤にしながら言った。

「…実は、あの時ちょっと感じちゃったんです♥︎」

…。

…。

…は!?

え、いやいやいや!!何言ってんのコイツ!!

「人間、死ぬ時はすごく気持ちいいって聞いた事あるんですけど…本当だったんだなぁって思いました!それも、論さんに殺して貰えるなんて…あの時は久々に満たされたって感じがしました!」

床前は顔を紅潮させながら、スカート越しに股間を触っていた。

コイツはもう冗談抜きで手遅れだ。

周りの奴らはなんでこんなになるまで放っといたんだよ。

「…私、すごく気持ちいい気分になって、ついイってしまいました。」

気色悪っ!!

もうストーカーとか変態とかそんな生易しい次元じゃねえぞ!

俺は、今までこんな化け物と一緒に合宿してたのか…!?

「…論さん、私の事を殺したくなったら、またいつでも殺してくださいね。そして、私を気持ち良くしてください。」

なんなんだコイツ…!?

イカれてやがる…!

「気持ち悪い、もう二度とするか!!」

「…あら、そうですか。」

「…はあ、もうここには用はねぇし、行くぞ。」

「あっ、はぁい。」

俺と床前は、猫西の部屋を後にした。

 

 

ー展望台ー

 

「…。」

そこには、もう織田の死体は血の一滴たりとも残っていなかった。

まるで、織田兼太郎という人間の全てを否定するかのように、アイツの残骸はきれいさっぱり取り払われていた。

「…あ。」

そこでは射場山が、丁度織田の死体があったあたりに花を置いていた。

「…菊池。…と、床前。」

「あら、ご機嫌麗しゅう射場山さん。論さんを殺す気なら、先に死んで頂きますよ。」

「…あんたこそ、これ以上好き勝手するようなら私も黙ってないから。」

2人がドス黒いオーラを放つ。

俺を挟んで殺気放ち合うのやめて!?

「い、射場山!お前、ここで何してたんだ!?」

咄嗟に話題を変えた。

すると、射場山は床前を警戒しつつも、殺気を解いた。

「…ん。見ての通り。」

射場山は、さっき置いた花を指差した。

「…織田は、変態で最低なクソヤローだったけど、アイツと一緒にいた時間は、正直悪くはなかった。だから、猫西にアイツを殺させた床前も、こんなゲームを仕掛けた黒幕も許せないと思ってる。」

射場山は、床前を睨みながら言った。

「えぇ…私ですか?私を恨むのはお門違いじゃないですか?だって、実際に手を下したのは猫西さんじゃないですか。恨むなら彼女を恨んでくださいよ。」

「…うるさい。全部、お前の差し金だろ。」

「あら、殺る気満々ですね♪…どうしますか?今すぐ憎い私を殺しますか?でもそんな事をすれば、あなたも死んじゃいますよ?」

「…黙れクソ女。」

「おお、怖い怖い♬」

二人とも、俺を挟んで喧嘩をするのはおやめなさい。

威圧で今にも押し潰されそうだ。

「お、おいお前ら…その辺にしないか…?」

俺は、震え声で2人を止めた。

「…ん。ごめん菊池。私、ちょっと熱くなってた。」

「ごめんなさい論さん。私とした事がついこんな女と喧嘩を…」

「…あ?」

「おい、いちいち反応すんなよ。床前も、わざわざ敵を増やすような発言をするな!」

「…はぁい。」

「はぁ、もうケンカすんなよ。」

床前の奴、自分からケンカ吹っかけてコロシアイのきっかけを作ろうとしてるんだよな。

結局、俺が止める羽目になるし。

本当に迷惑だからやめてもらいたいんだが。

「…そうだ、そろそろ夕飯の時間だし、レストラン行こうぜ。」

「はぁい。」

「…ん。」

俺達は、レストランに向かった。

 

 

ーレストランー

 

レストランにはすでにみんな集まっていた。

「悪い、待たせた。」

「…。」

「おや、こんばんは皆さん。」

「ご機嫌ようカークランドさん。汚い口で論さんに話しかけないでください。」

「…失礼しました。毎食後に歯は磨いていたんですが、それでも汚いですか。では、歯磨きの回数を1日5回に増やします。」

そういう意味じゃねえだろ。歯茎ただれるわ。

やっぱりバカなのかコイツ。

「あーあ、またうるさいのが来たわ。」

「テメェ!!神の前にその面晒すなって何度言えばわかる!!このキ●ガイ女が!!」

「ご機嫌麗しゅうエカイラさんに神城さん。あなた達こそ、その汚い口を閉じてください。あなた達の息で論さんが毒されたらどう責任を取ってくれるんです?」

「どっちかってゆえば、毒してるのはナギねえの方じゃね?」

珍しくアリスが正論を言った。

…なんかもう、床前のヤバさに比べたらコイツらが可愛く見えてきた。

床前に四六時中くっつかれてるくらいなら、アリスに振り回されたり神城に罵倒された方が100倍マシだ。

俺も相当麻痺してんのかな。

「…はあ、あなた達は本当に不愉快ですね。論さん、あんな奴らの言葉なんて聴いちゃダメです。耳が腐ってしまいますよ。」

むしろお前の声をずっと聴いてると精神を病みそうなんだが。

頼むから俺の平和な日常を壊さないでくれ…

「皆さん、そろそろ夕飯食べるっスよ。冷めちゃうっス。」

「あ、そうだな。」

「…ん。」

「今日は誰が夕飯を作ったんだ?」

「自分っスよ。皆さんにも手伝っていただきましたが…」

「はあ、あなたが作ったものなんて、食べたくないし論さんに食べさせたくもないんですけど…」

「…じゃあ食べなきゃいいでしょ。」

「そういうわけにはいきません。論さんが食べるものが安全かどうか、私には確かめる義務があるんです。」

「…別に変な物入れてないっスよ。疑り深すぎっス。」

「あなたの言う事なんて信用できません。人間、そうやってみんな人を陥れようとするんです。」

お前が言うな。

「自分の目的のために、人を騙して破滅へと追い込む…ホント、生きてる価値のないクズばっかりですよ。」

床前さん、気付いておいでですか?

今までの発言全部、特大ブーメランです。

「私にとって、論さん以外の人間は全員敵です。いつまでも論さんをあなた達と同じ空間にいさせては、論さんが腐ってしまいます。」

私利私欲のためだけにモノクマ達に魂を売ったお前の方が敵だろ。

お前と同じ空間にいるだけで俺は心も身体も腐りそうだよ。

「はいはい、自己紹介はそこまでにして、さっさと食べるわよ。」

エカイラグッジョブ!!

「はあ、じゃあ私達も食べましょうか論さん。」

「…そうだな。」

俺達は全員席について、夕飯を食べ始めた。

「…。」

「論さん、あーん♡」

「やめろ。自分で食える。」

「…あら。論さんってば、周りの目を気にしてるんですか?照れ屋さんなんだから〜♪」

ただ単にお前に食べさせられるのが不愉快なだけだ。

「…なんでこんな気持ち悪い茶番劇見ながら食事しなきゃいけないわけ?」

「同感だな。」

「Je suis d'accord(同感) avec toi. Je me sens nauséeux.(吐き気がする)

「気持ち悪いってなんですか?私達は、愛し合っているんです。…あとアンカーソンさん。フランス語で言えばバレないと思いましたか?バレバレですよ。…皆さん、酷いです。」

「…酷いのはどっちよって話。」

「あら、あなた達に何がわかるんです?誰かを本気で愛した事なんてないくせに。」

「床前さん、本気で菊池さんを愛しているなら、彼を自由にしてあげて下さい。そして、こんなデスゲームを今すぐ止めさせて下さい!…今の貴女は、菊池さんを本気で愛してなどいません!」

「…失礼ですねカークランドさん。結婚が嫌で家出したあなたに何がわかるんですか。あなたはもう二度と、『愛してる』って言葉を口にしないでください。」

「…ッ!!」

「おい、床前!もうやめろ!!」

「あら、ごめんなさい論さん。今すぐやめまぁす。」

床前は、席について大人しく夕飯を食べた。

「おい、菊池!お前、こんな奴とずっと一緒にいる気かよ!?」

「…ああ。そのつもりだ。」

「菊池さん、考え直して下さい!床前さんは普通じゃない!!She is crazy(彼女は狂っている)‼︎」

「今更考えを変える気はない。頼むから、放っておいてくれ。俺は、これでいいと思ってるんだ。」

俺は、小川の作った飯に箸をつけた。

「そういうわけです皆さん。これ以上、私達の愛を邪魔しないでください。」

「…。」

「…菊池先輩…!」

「ハッ、本人がいいっつってんだからほっときゃあいいじゃねえかよ。こんなモブの心配なんて、するだけ時間の無駄だ。」

「そーそー!!ヘタな事したら、あーちゃん達ナギねえに何されるかわかんないよ!?」

「賛成。確かにナギサちゃんはムカつくけど、今のところサトシちゃんは逃げる気ないみたいだし、ほっとけばぁ?」

「ふわぁ…面倒ごとは嫌いですぅ。」

「お前ら…仲間の事を助けたいと思わねぇのかよ!?」

「そうです!!菊池さんをこのままにしておくなんて、絶対間違ってます!!」

「皆さん、何度も菊池先輩に助けてもらったでしょ!?だったら、今度は自分らが菊池先輩を助けるのがスジってもんじゃないんスか!?」

「…あんた達、あんな女の思うように動くなんて、悔しいと思わないわけ?」

「じゃあさ、サトにいをどうするかは多数決で決めよーよ!!」

「…多数決か。」

「絶対みんなどっちかには手をあげてね!!」

俺と床前以外のみんなが多数決をした。

 

助ける派…玉木、ジェイムズ、小川、射場山

放っておく派…神城、アリス、エカイラ、リタ

 

「うわぁ…真っ二つに割れちゃったね!」

「…ふわぁ。じゃあこの件は保留という事で…」

「いい訳ねぇだろ!!俺は、お前らがなんと言おうと菊池を助けるからな!!」

「玉木さん、助太刀します!!」

「自分も、菊池先輩に恩返ししたいっス!!」

「…あんな女の思い通りになるくらいなら、あんた達に協力する。」

やめろ、みんなやめてくれ。

全部、俺の責任なんだ。

俺さえ我慢すれば、誰も犠牲にならずに済むんだ。

…わかってくれ、これが最善なんだよ…!

 

「覚悟のある奴は、俺と一緒に菊池を助け出すぞ!!」

…玉木、ごめん。

 

ゴッ

 

「!!?」

俺は、渾身の力を込めて玉木を殴った。

「せ、せん…ぱい…?」

「…うるせぇんだよ。リーダー気取りの偽善者が。」

「菊池…?お前…」

「余計なお世話なんだよ。俺は、床前と一緒にいたいって言ってるだろ。それなのに、俺達の事情に勝手に首突っ込んで、仕舞いには俺を助けるだと?それでいい事したつもりか?偽善者のくせに自惚れてんじゃねえよ。」

「菊池さん、言い過ぎです!!今すぐ玉木さんに謝って下さい!!」

「うるせぇ。大事な友達(森万)を守れなかったくせに生意気言ってんじゃねえよ。甘ったれたボンボンが。」

「…菊池さん、私そろそろ怒りますよ!?」

「勝手に怒ってろ。俺はな、最初からお前らの事が大っ嫌いだったんだよ。でも、そんな事言ったらいつ誰に殺されるかわかったもんじゃねぇからな。だから、お前らのくだらねェ友情ごっこに付き合ってやってたんだよ。」

「そんな…先輩…!」

「わかったら二度と俺達に話しかけるな。この偽善者共が。」

「うふふ、そういうわけです皆さん。論さんは、私と結ばれたがっているんです。これ以上私達の愛を邪魔するようなら、全員排除しますよ?」

「テメェ…」

俺は、床前に歩み寄った。

「…ごめんな、床前。俺、今までバカな事考えてたよ。お前と一緒にいる以外の幸せなんて、あるわけないのにな。」

「うふふ、論さんが私の事をやっと見てくださって、嬉しいです。さっき、玉木さんを殴った時はスカッとしましたよ。」

「ああ、俺も同じ事考えてた。」

「あら、それってもう運命ですよね!?」

「…そうだな。」

「んッー」

俺は、床前とキスをした。

「にゃああああああ!!?何やってんのサトにい!?」

「うわぁ…」

「…不潔…!」

「…愛してるよ、渚。」

「論さん…!私もです!!」

「ふざけんなよお前ら!何が愛だ!!おい菊池、お前も絶対許さねェからな!!今度は2人まとめてブッ潰してやる!!覚悟してろ!!」

「菊池さん、貴方がそんな方だとは思いませんでした!!I am done with you(お前とはもう絶交だ)‼︎ I cut engacho(エンガチョ切った)‼︎」

「うふふ、醜いですねぇ。皆さん、今まで散々論さんにお世話になったくせに、あっさり手の平返すんですね。まあでも、二度と論さんに近づかないでくれるなら好都合です。」

「そうだな、渚。飯はもういい。行くぞ。」

「はい!!」

「あっ、ちょっと先輩方!!話はまだ終わっていないっス!!」

俺達は、レストランを後にした。

 

 

ー廊下ー

 

「論さん!」

「なんだ?」

「あの、さっき、私の事を名前で…」

「…ああ、だって、俺達もう恋人同士だろ?」

「…!!…私と論さんが…恋人…!?」

「嫌か?」

「全然!!嬉しすぎて弾けちゃいそうです!!私、ずっとあなたと結ばれる事を夢に見てたんです。論さんは、やっと私の事を見てくださったんですね!!」

「…まあな。今まで悪態ついて悪かったよ。俺、今までなんでお前の愛に気付いてやれなかったんだろうな。…お前、今まで俺の事を愚かだと思ってたか?」

「いいえ?私にとっては、どんなあなたも魅力的です。」

「…それは良かった。」

「…あの、論さん。」

「なんだ?」

「…えっと、私達、恋人同士になったじゃないですか。」

「うん。」

「…その、論さんと…したいなって…」

「え?お前それ…」

「ダメ、ですか…?」

「いや、そういうわけじゃねえけど…また痛い事されるんじゃねえのか?」

「そんなのどうでもいいですよ!論さんと結ばれるなら私、どんな事にだって耐えてみせます!」

「いいのか?」

「全然構いません!!」

「…じゃあ、俺はまだやる事があるから、後で俺の部屋に来い。9時に俺の部屋の前で待ち合わせな。」

「はい!!」

…正直、こんな事絶対にしたくなかった。

こんなイカれたストーカー女が初めての相手だなんて、屈辱以外の何物でもなかった。

でも、コイツを本気で怒らせたらそれこそみんなの命の保証はない。

床前は、俺以外には興味が無い。

コイツを満足させておけば、みんなの事は放っておくはずだ。

そうなれば、全員が生き残れる確率が上がる。

…これで良かったんだ。

 

 

ー9時ー

 

「論さん、お待たせしました!」

「来てくれたんだな、渚。」

「…はい。」

「どうした?」

「い、いえ…その…私、こういう事するの初めてなので…少し緊張してしまって…」

朝は俺に襲いかかってきたくせによく言うよ。

「安心しろ。痛くしないから。…多分。」

「…多分?もしかして、論さんも…」

「悪いかよ。」

「いえ、むしろ嬉しいです!もしそうじゃなかったら、相手の女を殺してたところでした!!」

さらっと恐ろしい事言うな。

「…じゃあ、中入れ。」

「はい、お邪魔します。」

床前が俺の部屋の中に入ろうとした瞬間…

 

 

 

 

 

「待てーい!!!」

いきなり、聴き慣れたソプラノヴォイスが廊下に響き渡った。

「この耳障りな声は…」

「とうっ!!」

「ぐはぁっ!!?」

「論さん!!?」

俺はいきなり何者かのドロップキックを喰らい、吹っ飛ばされた。

「…あなたは!!」

「ケンゼンなよい子のみんなが見てるのに、イチャイチャして…けしからんぞ!!●●●か!?●●●しようとしてたのかこの歩くコウゼンワイセツ共め!!そんな悪いヤツらは、月にかわっておしおきよ!!魔法少女あーちゃん爆☆臨!!」

「お、お前は…」

魔法少女の格好をしたアリスが、廊下のど真ん中で変なポーズをしていた。

「怪人女王トコマーエダとその手先、怪人キチクサトーシ!!今日こそあーちゃんがショウバイしてくれる!!」

それを言うなら成敗だろ。

「…あなた、よくも私の論さんを蹴り飛ばしましたね。…どうやらあなたにはキツいお仕置きが必要なようですね。」

床前は、ドス黒い殺気を放つ。

…ヤバいぞこれ。

おいアリス逃げろ!!コイツを怒らせたら殺されるぞ!!

「ふふふ、情けないわねえ。」

「大丈夫ですかアリスさん!!」

エカイラとジェイムズが現れた。

「エカイラちゃん、ムズにい!」

「助太刀します!!」

「うふふ、張り切っていくわよぉ〜!!」

『キューティー・プリズムパワー・メイクアップ!!』

二人が早着替えをし、魔法少女の姿になった。

やめろやめろやめろ!!色んな所から怒られるぞ!!

ってかお前らよく恥ずかしげもなくそんな服着れるな!!

『魔法少女エカイラ&ムズ美参☆上!!』

「…なんなんですかあなた達。論さんにそんな汚い物見せないでください。論さんの目が腐ってしまいます。」

「あら、汚いとは失礼ね。アタシは、こう見えてもアンタとは違って清らかな漢女(オトメ)よ。…さあ、覚悟なさい怪人共!!」

「私、日本のアニメのコスプレを一度やってみたかったんです!…あ、じゃなくて…漢女の鉄槌を喰らいなさい!!」

「あなた達、そんな格好をして人として恥ずかしくないんですか!?…この、変態野郎が!!!」

『お前が言うな!!』

俺を含む4人全員がツッコんだ。

「まあいいです。女装した汚い男が2人増えたところで、排除する人数が増えただけです。論さんに手出しする前に、3人まとめて始末します。」

「アラ。いいのかしら?アタシ達を殺せば、アンタはクロになっちゃうわよ?」

「…殺さなければいいだけの事でしょう?殺さずに痛めつける方法なんていくらでもありますよ。皆さんまとめて手足を切り落とし、目玉をくり抜いて生きたまま標本にして差し上げます。」

「おお、こわいこわい。やれるもんならやってみなさいよ!!」

3人が床前と謎のバトルを繰り広げた。

…俺が完全に蚊帳の外なんだけど。

「こっちっスよ。」

「えっ?」

小川が俺の手を引っ張った。

するとエカイラが、俺たちの方に向かって合図を送った。

『10分稼いであげる。行きなさい。』

小川は頷くと、俺の手を引っ張って走り出した。

「えっ?おい、どこに連れてく気だよ!?」

「いいから黙って来てくださいよ。」

Take that(これでも喰らえ)‼︎奥義・ショーロン砲!!」

「…ふざけてるとその無駄に高い鼻削ぎ落としますよ。…って、論さん!?」

「何余所見していらっしゃるんですか。貴女の相手は私達ですよ。」

「…あなた達、いい加減にしてください。私は、今すぐ論さんを守りに行かなきゃいけないんです。…生まれてきたことを後悔したくなかったら、今すぐ退きなさい。」

床前がより一層強い殺気を放った。

…大丈夫かなアイツら。

 

 

 

『超高校級のサッカー選手』の個室

 

「先輩、床前先輩が来る前に早く入ってください!!」

「え、ちょっと待て、お前ら一体何を…」

「いいから早く!!」

「おわっ!?」

小川は、俺を部屋の中に押し込み、素早くドアを閉めて鍵をかけ、ドアにもたれかかった。

部屋の中には、魔法少女(笑)共と床前以外の全員がいた。

「…これでしばらくは入って来れないはずっス。」

「菊池、安心しろ。俺達がついてる。」

「…ん。」

「ふわぁ…」

「ケッ、神である私がなんでこんな事を…」

「おい、お前ら…さっきの3バカの魔法少女ごっこといい、俺をここに連れてきた事といい、一体なんなんだよ!?」

「悪い、説明が無くて。…実は全部、床前をお前から引き剥がすための作戦だったんだ。」

「作戦…?」

「…ん。あの女、あんたが狙われた途端に冷静さを欠くから、そこを突けばあの女をあんたから引き剥がせるんじゃないかと思って、玉木と小川とカークランドと一緒に作戦立てた。」

「…あの気持ち悪いコスプレも?」

「あれは、アリスの提案に2人が乗っかっただけだが…」

何考えてんだアイツら。

「レストランで俺がお前をブッ潰すっつったのも、作戦のうちだ。…黙っててごめんな。」

「いや…そんな事より、なんでこんな事したんだよ!?頭おかしくなったのか!?」

「なんでそんな事したか、っスか。…そんなの、」

 

 

「…仲間を助けたいから。…それ以上の理由が要るっスか?」

「え…?」

「わかってたよ。レストランでのお前の台詞は全部、本心じゃねぇって。お前は、俺達を守ろうとしてくれてたんだろ?」

「…だって、しょうがねえだろ!?そうでもしないと、床前が何するかわかんなかったんだよ!!だから頼むよ、もう俺の事は放っておいてくれ!!それが最善なんだ、リーダーのお前ならわかってくれるだろ!?」

「うるせぇ!!」

 

ゴッ

 

「!!!」

左頬に痛みが走る。

俺は、玉木に殴られたのか。

「そんなの、わかるわけねぇだろ!!お前が苦しむ未来なんて、そんなの最善じゃねえ!!」

「でも、俺は…」

「聞け!!…いいか。あの女が何を言おうと、お前一人が全部背負い込むのは絶対許さねェからな!!」

「ッー!!」

…なんでだよ。

俺は、本心じゃなかったとはいえお前らを裏切ったんだぞ?

なのに、なんでそんなに俺のために必死になるんだよ…

それじゃあ、俺が惨めになるだけじゃねえかよ。

…頼むから、俺を嘲ってくれ。軽蔑してくれよ。

 

俺は、最低な裏切り者なんだ。

 

「俺は、お前らを裏切ったんだ…今更、お前らを頼れるかよ…」

「…。」

射場山は、無言で俺に近づいた。

…そして、

 

 

ビシッ

 

 

「痛っ!!?」

射場山は、俺の脳天に鋭いチョップをかましてきた。

「…うっさい。」

「い、射場山…!?」

「男がいつまでもみっともなくウジウジ言うな。聞いてて腹立つ。」

「お前…!」

「…いい加減本心を言いなよ。」

「ッえ。」

「そうっスよ。いい加減本音言えっス!!」

「ふわぁ…御託はもう聞き飽きましたぁ。」

「フン、たまには特別に神である私がテメェの愚痴を聞いてやろう!!」

「…本当に、正直に言ってもいいのか?」

「はぁ!?バカかテメェは!!神が言えっつってんだから言えコラァ!!」

「…みんな、俺は最低だよ。みんなを裏切って、今まで仲間を殺してきた女に魂を売って…親友の事も殴っちまった。…それなのに、やっぱりお前らの仲間でいたいって思っちまうんだよ…!…完全に俺のわがままだし、厚かましい頼みだって事もわかってる。…だけど、もう一度、俺と友達になってくれねぇかなぁ…」

「何言ってるんスか先輩!!今更すぎっスよ!!」

「…小川。」

「最初から絶交なんてしてねぇっての。お前が困ってたら、俺達がいつでも助けてやるよ。」

「…玉木。」

「…ん。…やっと本心聞けた。」

「射場山…」

「ふわぁ…さっきから、何当たり前の事言ってるんですかぁ。」

「リタ…」

「ハッ、テメェは一生他の愚民共と一緒に私の奴隷でいろ!!このクソモブ!!」

「神城…みんな、ありがとう。…それとごめん。」

「あー、もう暗いのは耐えられないっス!!ここはパーッと盛り上がりましょう!!」

「だな!じゃあ冷蔵庫からジュース取ってくるわ!」

「…ん。私も手伝う。」

「…。」

「…なに。…あんたもジュース飲むの?」

「…あ、えっと。」

やっぱり、ここは遠慮しとかないといけないのかな…

そうだよな、さっきまで散々みんなに迷惑かけたし…

「…早くしてよ。何味がいいか早く言わないと、飲みたいやつなくなるよ?」

「…!…ああ。じゃあ、麦茶あるか?」

「は?ジュースじゃないじゃん。」

 

 

 

ー一方その頃ー

 

「…何この子…化け物なの…?」

「エカイラちゃんさん!諦めちゃダメです!当たって挫けろ、です!」

「くじけちゃダメでしょ!!それを言うなら当たって砕けろ、でしょ!?」

「間違えました…」

「うふふ、そろそろバテてきたようですね。…では、私は論さんの所に行ってきます。」

「スキありーっ!!」

「!!?」

アリスがハンカチを床前の口に押し当てた。

「アリスさん、ナイスですね!」

「ジェイムズちゃんなんで某監督を知ってるワケ?」

「日本のコメディアンがモノマネしてました!」

「ああ…」

「にゃはははは!!どうだクレハミンXの力は!!そのまま夢の国のリゾートラインに乗ってしまえー!!」

「…!」

床前は、そのまま意識を失い、その場で眠った。

「…ふう、やっと封じたわ。」

「どうしましょうかね、これ。」

「面白そうだからトイレにでも縛り付けちゃえば?」

「いいわねそれ。ジェイムズちゃん、運ぶの手伝って。」

「はい!」

ジェイムズとエカイラは、眠った床前を運んでトイレに縛りつけた。

「…このロープを縛ってっと。こんな化け物に暴れられたら、命がいくつあっても足りないわね全く。」

「エカイラちゃんさんは、怪力で殺人鬼なのに意外と押されてましたね。」

「うっさいわね!意外と殺さないようにして戦うのって難しいのよ!…これでよし。」

「序でに塩も撒きましょう!」

「アラ。いいわねそれ。頭に盛り塩乗せてあげましょう。」

「Oh…これがmorishio… It is very beautiful!(とても美しいですね)

「さてと、厄除の盛り塩も盛った事だし、そろそろみんなと合流するわよ。」

「賛成です!」

 

 

 

 


 

 

 

「うっわぁ…何やってんの床前。めっちゃ無様なんだけど。…人選ミスったかな?まあいいや。多少の誤差は生じたけど、ちゃんとシナリオ通りに進んでるからね〜。オマエラには、まだまだ絶望してもらうよん♪」




もう色々カヲスです(遠目)。
…だが、一度こんな展開をやってみたかったんだ。
許してつかぁさい。

個人的に、盛り塩のくだりは書いてて楽しかったです。
エカイラ君とジェイムズ君は、これからは愛を込めて盛り塩コンビと呼ばせていただきます。


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第4章(非)日常編④

やっと投稿できたー!!
最近スランプ気味で、なかなか書けませんでした。
遅れてゴメンナサイ。

そして現る無断編集常習犯☆


ートイレー

 

「…ん。」

あれ…?

私、確か論さんを狙う変態共と戦っていて…

それで…

「!?」

ちょっと、何これ!?

ロープで縛られてて動けないんだけど!

あと、何故か身体が塩まみれになってるし!?

…あの変態共の仕業ね。絶対許さないから。

「…ブッ殺す。」

 

 

ーレストランー

 

合宿15日目の朝。

俺は、思い足取りでレストランに入り、声を振り絞ってみんなに挨拶した。

「みんなおはよう。」

「おう、おはよう菊池!」

「おはようございます。」

「アラ。おはよ。」

「おはようっス。」

「ふわぁ。」

「…ん。」

「朝から汚ねぇ面見せんな!!」

「おっはー!!」

…良かった。

みんな返してくれた。

「…あのさ、みんな昨日は本当にごめん!みんなに迷惑かけた上に助けてもらっちまって…」

「先輩、早く朝ご飯食べないと冷めるっスよ?」

「サラダのドレッシング、どれにしますか?」

「おい、菊池。早く座れよ。」

「いや、みんな昨日は…」

「あー、もううっさいなぁ!そーゆーのいいから!」

「えっ…でも…」

「アラ。食べる気無いならアタシが食べちゃうわよ〜♪」

「やめろ!!」

俺は席に座り、エカイラが食べようとした俺の朝食を奪い返して食べた。

「…あ。」

「アラ。ちゃんと食欲あるじゃないの。」

「いや、今のは…」

「なーに暗い顔してるんスか、先輩!」

「そうだぞ!お前らしくないな!」

「みんな…俺、みんなに酷い事したのに、怒ってないのか…?」

「何言ってるんスか、最初から怒ってないっスよ。菊池先輩が、自分らのためを思ってあんな事をしたのはわかってましたから。」

「逆に、嫌いな相手に対してあんな演技が出来るのは凄いと思います。私だったら、床前さんと一緒なんて絶対耐えられませんよ。」

「お前ら…」

責められるどころか、みんな俺の気持ちをわかった上で今まで通り接してくれた。

…こんなクソみたいなデスゲームに巻き込まれて、ロクな事がないと思ってたけど、ひとつだけ良かった事があった。

俺は、コイツらと出会えて、本当に良かった。

「…ありがとう、みんな。本当にごめん。」

「あー、もう謝るのはナシっス!!」

「…ん。」

「…あれ?そういえば、床前は?」

「ああ、ナギサちゃんならトイレに閉じ込めたわ。」

「あと、盛り塩も盛っておきました!悪霊退散!彦麿です!!」

「…も、盛り塩…」

何やってんだよコイツら。

絶対床前ブチ切れてんだろ。

まあでもアイツを自由にしたら何しでかすかわかんないし、俺的には助かったと言えなくはないのか。

…とりあえず、朝飯だけは持って行ってやるか。

 

 

ートイレー

 

個室に入ると、床前が便器に縛り付けられていた。

どういうわけか、身体が塩まみれになっている。

 

『あと、盛り塩も盛っておきました!悪霊退散!』

 

…ああ、そういえばそうだった。

「あっ、論さん!無事で何よりです!私がいない間に、皆さんに何かされていたらどうしようかと…」

コイツ…こんな状況でよく人の心配ができるな。

「飯だ。」

「わぁ、私のためにわざわざ持って来てくださったんですね!嬉しいです!」

「お前、塩まみれだぞ。待ってろ。今全部払うから。」

流石に塩まみれのままは色々とマズいからな。

ロープだけは絶対に解かんがな。

「ありがとうございます。ついでに、このロープ解いてくれませんか?」

「嫌だ。」

「…はい?論さん、今なんと…」

「嫌だっつったんだよ。お前みたいな頭おかしい奴を自由にしたら、何しでかすかわかったもんじゃねェ。」

「え!?ちょっと待ってください。なんでそんな事言うんですか?論さんは、私の事を愛して…」

「そんな訳ないだろ。俺は、お前をその気にさせておけばみんなを守れると思ったからお前のご機嫌を取ってただけだ。そうじゃなかったらお前みたいな人殺し、好きになるわけないだろ。」

「じゃあ…あなたが私にかけてくださった言葉は、全部嘘だったんですか…?」

「ああ。俺はな、お前の事が死ぬほど嫌いなんだよ。わかったら二度と俺達に関わるな。」

「そんな…あ、わかった!私がいない間に、皆さんに唆されたんですよね!?そうですよね!?」

「うるせェ。人の事を唆してんのはお前の方だろ。二度と口を開くな。」

「論さん…そんな、嘘です…!正気に戻ってください!!」

「…正気じゃないのはアンタの方でしょ?」

「…エカイラ。」

「あ、あなたは…よくも私を論さんから引き剥がして、論さんを唆しましたね!?」

「はぁ?アンタ何言っちゃってんの?」

「とぼけないでください!!あなた達が論さんを唆して、ひどい事を言わせるように仕向けたんでしょう!?そうですよね論さん!?私の事、本当は愛しているんでしょう!?」

「…。」

俺は、静かに首を横に振った。

「論さん、どうして…」

「いい加減現実見なさいよ。アンタ、フラれたのよ。」

「勝手な事言わないでください!!あなた、今すぐ黙らないとすぐに死ぬ事になりますよ!?」

「フン、檻の中のライオンなんて、いくら吠えようと怖くないのよ。そこで大人しくしてなさい。さ、こんなメンヘラ女ほっといて行きましょサトシちゃん。気分転換にカラオケにでも行きましょ。」

「そうだな。」

「ちょっと!待ってください!!エカイラさん、論さんに何かしたらただじゃおきませんからね!」

俺達は、床前をトイレに置き去りにして、カジノに向かった。

 

 

 

 

 

「…あのオカマ、後で絶対殺す。」

「全く、菊池クンの事になると目の前が見えなくなるの、キミの悪い癖だよ。だからキミはこんな事になったんだよ。」

「!?」

「やあ、笑っちゃうくらい無様だね、床前サン。助けてあげようか。」

「あ、あなたは…!」

「シー。あんまり大きな声出さないでよ。ボクは、いない人間なんだからさ。」

「…無駄口はいいです。何の用ですか?」

「いやあ、こっちとしてもさ、キミにはまだ内通者を続けて貰いたいんだけど、キミ暴走しがちだから、ちょっと今のままじゃ任せられないんだよね〜。」

「じゃあ、例の約束は取り消しって事ですか?それなら、今ここであなたを殺します。」

「…いんや、逆だよ。キミに、お願いがあって来たんだよね。」

「お願い…?」

「うん、お願い。今まで通りボクの協力者としてコロシアイを円滑に進めてほしいんだ。」

「…それは、あなたの態度次第ですね。…見返りは?」

「そうだね、菊池クンの命を保証してあげるのは当然として、例の物を見せてあげる。これでどうだい?」

「…本当に、約束は守ってくれるんですか?」

「そうしたいと思ってるよ。…あ、わかってると思うけど、もしこれ以上ゲームをブチ壊すようなら、今の話はなかった事になるからね。」

「…わかりました。とりあえず、反省したので助けてくれませんか?」

「オマエ、言ったな?また菊池クンと変な事しようとしたり、今回みたいにヘマやらかしたらおしおきするかんな!?」

「…はぁい。」

「よろしい。じゃあ、助けてあげるよ。…引き続き、スパイの方よろしく〜。」

「はい、わかりました。」

 

 

 

 

 

ーカジノー

 

俺達は、カジノにあるカラオケボックスに入った。

「お待たせ〜♪」

そこには、すでにみんな集まっていた。

…コイツら、待ち合わせしてたのかよ。

「さーてと、じゃあパーッと歌っちゃいましょっか。まず誰から歌う?」

「そりゃあもちろん菊池先輩からっスよ!」

「えっ、俺…?」

そんなに歌は得意じゃないんだがな…

俺は、勧められるまま歌った。

「先輩、結構うまいじゃないっスか。」

「そ、そうか…?」

「はーい、じゃあ次はあーちゃん!!」

アリスは、マイクを手に取って大きく息を吸った。

エカイラは、それを見て咄嗟に耳を塞いだ。

「…エカイラ?」

「みんな、耳を塞いでおいた方がいいわよ。」

「はぇ?」

曲のイントロが始まった。

そして…

「ボエーーーーーーーーーーーー!!!」

「ーーーーーーーッ!!?」

クソガキの喉からは、その見た目からは想像もつかないほど禍々しい歌声が放たれた。

地獄のような歌声に、鼓膜が悲鳴を上げた。

ディスプレイにヒビが入り、テーブルの上に置いてあるドリンクが腐っていく。

小川に至っては、あまりの酷さに失神していた。

なんだコイツ!?

音痴にも程があんだろ!?

「ふわぁ…なんかデュエットしたくなりましたぁ。」

リタがマイクを握り、一緒に歌い出した。

歌声の禍々しさがさらに増した。

二人は、鼓膜を抉るような不快極まりないハーモニーを奏でた。

コイツもかよ!!?

もはや拷問じゃねえか!!

「どうだ、あーちゃんのビセーに酔いしれたか!?」

「…だ、誰か…助け…」

「あれ?みんなノびてんじゃん。あー、多分あーちゃんの声が、キゼツするほど清らかだったからだな!うん!」

「ふわぁ…眠い…」

「おい、どけ!次は私の番だろうが!!」

「おや、次は神城さんですか。」

「ふはははははははははははははは!!!私の美声に酔いしれろ愚民共!!!」

曲のイントロが始まった。

神城は、曲の歌詞をガン無視して、ただ自分の素晴らしさをアピールするだけの替え歌を歌い始めた。

なんだコイツ!!?

自分大好きすぎかよ!!

もはやナルシストなんて生易しい次元じゃねェからな!?

他の奴らを見てみると、全員必死で笑いを堪えていた。

「じゃあ次はアタシね。」

エカイラはマイクを手に取り、歌い始めた。

…コイツ、メチャメチャ上手いな!!

聴いていて惚れ惚れする歌声だった。

「伏木野先輩、上手っスね!」

「エカイラちゃんさん流石です!」

「アラ、嬉しいわ。次は誰歌うの?」

「じゃあ次は俺だな!」

今度は、玉木が歌った。

…くっ、さすがはイケメン様だ。

結構上手いじゃねえかよ。

「玉木先輩も上手っスね!」

「そうか?ありがと。じゃあ次は誰歌う?」

「では、次は私が参りましょう。」

ジェイムズが歌い始めた。

…コイツ、やっぱりドルオタなんだな。

歌ってる曲が全部可愛らしいアイドルの曲だ。

しかも歌っててなぜか様になるのが腹立つ。

「ふふっ、楽しかったです。次は誰が歌いますか?」

「じゃあ、そろそろ自分が行くっス。」

次は小川が歌い始めた。

小川は、今までの奴らの中で一番上手かった。

「おぉ…」

俺は、思わず聴き入ってしまった。

「…どうっスかね?」

「Brilliant‼︎素晴らしいです小川さん!!ずっと聴いていられますね!!」

「そ、そうっスか…?なんか恥ずかしいっス。」

小川は、照れ臭そうにソファに座った。

…コイツ、褒められ慣れてないのか。

「じゃあ最後は射場山先輩っスね!」

「えっ…いや、私はいい。」

「遠慮すんなって!ほら!」

「いや…でもホントに歌下手だし…」

「大丈夫だって。多分下の奴らが2人いるから。」

「…菊池先輩、サラッとアリス先輩達の事ディスりましたよね?」

「仕方ない。ただの事実だ。」

「見事な開き直りっスね!」

「ねえ、こういう場なんだし、せっかくだから歌ってみましょうよ。ね?」

「…じゃあ、一曲だけ…」

射場山は、恥ずかしそうに小さな声で歌い始めた。

歌い方はぎこちなかったが、音痴というわけではなかった。

…なんだよ、普通に歌えてんじゃねえか。

「…羞恥で吐きそう。」

「射場山先輩、上手じゃないっスか!」

「同感です!全然下手じゃないですよ!」

「…そ、そう…?」

射場山は、恥ずかしそうにソファに座った。

それから、俺達は2時間ほどみんなで歌った。

「みんな、楽しかったよ。ありがとな。」

「先輩が元気になってくれたなら何よりっス!」

「じゃあそろそろお開きにして、お昼にしましょうかね〜。」

エカイラは、レストランに向かった。

…今日は何作ってくれんのかな。

楽しみだな。

 

 

ーレストランー

 

「…は?」

嘘だろ。

なんでお前がここにいるんだ。

「論さ〜ん♡」

「お、お前…!!なんでここにいんだよ!?」

「うふふ、愛の力ですよ。言ったでしょう?私、論さんのためならなんでもできちゃうんです。」

「お前ッ…」

「というわけで、脱出させていただきました。皆さん、仲良くしてくださいね?」

「ふざけんじゃねえ!!神である私の前にその汚ねェ面晒すな!!テメェなんか二度と便所から出てくんじゃねえよクソ便器が!!」

「やだなぁ、私はまだ身も心も清いままですよ。…あなたとは違ってね♪」

「テメェ、踏み殺すぞ!!」

「あら、いいんですか?私を殺したら、おしおきされちゃいますよ?」

「…クソがッ!!」

「…お前、何の用だ。」

「あら、論さんから私に質問してくださるなんて、嬉しいです!」

「ナギねえ、まさかあーちゃんたちをコロスケぢゃないだろうな!?」

「それを言うなら殺す気、ですね。」

「あ、そーだった。あーちゃん間違えちった☆」

「…うふふ、愚問ですね。あなた達の事は、確かに殺したい程嫌いですけど…でも、今のところは殺しませんよ。」

「なんで!?」

「実は、ちょっとメタい話になっちゃうんですけど、ちょっと調子に乗りすぎちゃったせいで、視聴率が今ガタ落ちなんですよ。だから、これ以上勝手な行動はしません。私、いい子だからちゃんと反省してます。…と、いうわけで、これからは皆さんとそこそこ平和にやっていくつもりですので、よろしくお願いします。」

「ウソクセェな!!そんな事言って私達を唆す気だろ!?キナ臭せェんだよテメェ!!臭せェのはテメェの割れ目だけにしやがれこの乳首レーズン垂れ乳女が!!」

「どうやらあなたは、頭だけではなく口も悪いようですね。そんな汚い言葉を聞かされている論さんがかわいそうなので、今すぐ黙りなさい。」

「ひぃいい…!」

神城の奴、意外とビビりなんだな。

「さて、では全員揃った事ですし、食事にしましょうか。エカイラさん、準備できてますか?」

「…。」

「あら?無視ですか?酷いですね。…まあ、あなたの声なんて聞きたくもないんですけど。では私はここに座りますね。」

全員が床前の近くを避けて座った。

「あれ?皆さん、私から離れすぎじゃないですか?もっと近づきましょうよ。私、皆さんともっと仲良くしたいです。」

「…どうせ、内心では俺達と近づきたくないって思ってんだろ?」

「ああ、なんだ。バレてましたか。…やれやれ、やっぱり本性は隠しておくべきでした。…あ、そうだ。また以前の引っ込み思案に戻って差し上げましょうか?」

「それはそれで今更ですよ。」

「ですよね。やっぱり、本当の自分を周りに知られていると結構不便なものですね。」

…やっぱりコイツは何を考えているのか全然読めない。

よく今まで本性を隠して正常者のフリをしていられたな。

気味の悪い女だ。

「ごちそうさまでしたっと。皆さん、これから予定とかあるんですか?」

「…。」

「尽く無視ですか。私、悲しいです。」

床前は、嘘泣きをしていた。

「おや、大丈夫ですか床前さん。私のハンカチ使いますか?」

「ジェイムズ!…そんな奴の嘘泣きに騙されんな。」

「えっ、あ…嘘泣きだったんですね。」

「なーんだ、バレてたんですか。まあ、皆さんに心配してもらっても全然嬉しくないんですけど。」

じゃあなんで嘘泣きしたんだよ。

「ましてや、カークランドさんみたいなおバカさんになんて、死んでも同情されたくないですよ。」

わざわざ心配してくれた奴に向かってその態度かよ。

相変わらずふてぶてしい女だ。

「…まあ、今のがガチ泣きだったとしても、無視すればいいと思うけどね。」

「エカイラさん酷いです。仲良くしましょうよ。」

「今更図々しすぎんのよアンタ。」

「トイレと盛り塩の事は全部水に流しますから。ね?」

「トイレだけに!?」

言うと思ったぞクソガキめ。

全員が昼食を食べ終わった後は自由時間となった。

 

 

「…さてと、売店でガチャでも引くかな。」

俺は売店でガチャを引いた。

今回は、扇子と指揮棒が出てきた。

「後で誰かにプレゼントしてみようか。」

 

 

ーコンサートホールー

 

コンサートホールに行くと、そこでは小川がピアノを演奏していた。

あまりの心地の良い音色に惚れ惚れとした。

音楽に疎い俺でも、小川の演奏が『超高校級』だって事はわかる。

…あの音痴二人組の死神の歌声とは大違いだ。

俺は、小川に拍手を送った。

「あ、先輩!」

「凄かったぞ、今の演奏。」

「そうっスか?ありがとうございます。」

「ところで、なんでここで演奏を?」

「ああ、せっかくコンサートホールがあるから、ちょっと楽器を弾いてみたいな〜って思ったんスよ。にししっ。」

「へえ…」

「先輩、せっかくだしちょっとお話しないっスか?」

「いいぞ。俺も、お前に渡したい物があるしな。」

「えっ、また何かくれるんスか?なんか、貰ってばっかりで申し訳ないっス…」

「そういうのいいから、受け取ってくれよ。」

俺は、小川に指揮棒をプレゼントした。

「えっ、これを…自分に?」

「嫌なら無理に受け取る事ねえけど…」

「いやいや!そんなわけないっス!ありがとうございます!」

良かった、気に入ったみたいだ。

「…なあ、小川。なんの話をしようか?」

「んー…そうっスね、床前先輩の話とか…」

「え、おいおい…なんでアイツの話?どうせなら、他の話しようぜ?」

俺は、小川が冗談を言っていると思って、笑いながら話題を変えようとした。

「真面目な話っスよ。」

小川は、真顔で言った。

「あ、ハイ…すいません。」

つい敬語になっちまった。

「はぁ…今まで先輩の元気が無さそうだったから話すのを遠慮してたっスけど…いつかは話そうと思ってた事なんで、今この場を借りて話をさせてもらうっス。大丈夫っスよ。床前先輩なら、今玉木先輩とアンカーソン先輩が一緒にいるっスから、聞かれる心配はないっス。」

「お、おう…それで、話って…」

「…先輩、床前先輩の事で、ちょっとでも嫌な事あったら自分に相談してくださいね。」

「えっ…」

「そんな驚く事じゃないっスよ。プレゼントのお礼っス。愚痴くらいは聞くっスよ。…それに、床前先輩が菊池先輩に付き纏うのは、多分自分にも原因があるんじゃないかって思ってるっスから。」

「…お前に…?一体どういう事だよ…?」

「自分、床前先輩があんな風になるまでは、床前先輩の恋愛相談に乗ってたんスよ。自分、床前先輩があんな人だと思ってなかったから、菊池先輩と床前先輩の恋を応援したいなって思って…菊池先輩の事いろいろ喋っちゃったっス。もし、床前先輩のストーキングを自分が手伝っちゃってたんじゃないかって思って…だからこの場を借りてお話をしたのは、まあ言い方はアレっスけど…要は、先輩に罪滅ぼしがしたかったんスよ。」

「お前のせいじゃねえよ!みんなそうだよ。床前の事を、あんな奴だと思ってなかったんだ。…少しドジで引っ込み思案だけど、優しくてみんなの事を第一に考える奴だと思ってたのに。なんであんな事に…」

「先輩、自分にできる事があったら何でも言ってくださいね。自分、何があっても先輩の味方っスから!」

「小川…」

「今まで、自分は床前先輩の恋路を応援してたっスけど…今度からは、全力で阻止するっス!!さとなぎカップルなんてクソくらえっス!!」

小川から、真っ赤なオーラが湧き出てくる。

コイツも、床前の事で相当ストレス溜まってたのかな。

「先輩、絶対に床前先輩なんかと付き合っちゃダメっスからね!あんな人、本気で先輩の事を愛してなんかないっス!!」

小川は、俺の目を見て言った。

「その人のためならなんだってできるのが愛っス。…床前先輩は、菊池先輩を束縛しているだけで、全然愛してないっスよ!だから、床前先輩が何をしてこようと、先輩は言う事を聞く必要はないっス!」

「でも、アイツがイカれてるのはお前も知ってるだろ?アイツが何をしてくるかわかんねぇぞ。」

「ここに『超高校級』が何人いると思ってるんスか!自分らをナメないでくださいよ!たかが『幸運』なんかには負けないっス!!」

「…頼もしいな、小川は。」

「えへへ…全然そんな事ないっスよ。」

「いや、お前は凄いよ。…ありがとな。なんか元気出てきた。」

「それは何よりっス!あ、そうだ!景気づけにもう一曲演奏するっスよ!」

小川は、さっきとは別の曲を演奏し始めた。

さっきの落ち着いた雰囲気とは対照的に、明るくダイナミックな曲調だった。

俺は、小川に拍手を送った。

「ありがとうございます。…あ、先輩も一曲弾いてみます?」

「え?なんで俺が弾くんだよw」

「いいから、一曲だけ弾いてみましょうよ。」

「いや、俺全然弾けないんだけど…」

「きらきら星とかは簡単っスよ。一緒に弾いてみましょうよ。」

「じゃ、じゃあ…」

俺は、小川と一緒にきらきら星を演奏した。

最初はぎこちなかったが、演奏するうちに俺も少しずつ上手くなった。

「先輩、筋がいいっスね!…自分より才能あるっスよ。」

「そんな事ねえよ。『超高校級の演奏家』のお前に勝てるわけねえって。」

「いや、自分は弟切さんの代わりにスカウトされただけだし…才能なんて全然ないっスよ。」

「でも、お前はずっと楽器を続けてきたんだろ?夢を一途に追いかけられるって、それだけで凄い才能だと思うぞ。」

「えへへ…ありがとうございます。」

小川は、照れ臭そうに俯いた。

「あっと、長居しすぎちまったな。そろそろ玉木とリタが心配だ。」

「そうっスね。」

俺達は、コンサートホールを後にした。

 

《小川詩音の好感度が上がった》

 

「小川、今玉木達はどこにいるんだ?」

「えっと…美術館で床前先輩を足止めして貰ってるっス。」

「じゃあ早く行かないと…床前に何かされてたらって思うと、気が気じゃねえよ。」

「同感っス。急ぎましょう。多分、長くは足止めできないっス。」

俺達は、急ぎ足で美術館に向かった。

 

ー美術館ー

 

「あれ…?いない…どこだ?」

「あ、先輩。もしかして、ここじゃないっスかね?」

小川は、地下フロアにあるアトリエを指差した。

「…だろうな。行こう。」

俺達は、アトリエに入った。

「は!!?」

ちょっと待って!?

なんで全員いんの!?

「あら、論さん!来てくださったんですね!」

「おい!!なんで玉木とリタ以外の奴までいんだよ!?」

「にゃーっはっは!実は、みんなでお絵かき対決をしてたんだよ!!」

「は?お絵かき対決?」

「ふわぁ…みんなで菊池の似顔絵を描いてたんですぅ。」

そう言うリタの持っていたスケッチブックには、単調な線で俺の似顔絵が描かれていた。

さほど上手ではなかったが、特徴は捉えていてどこか味のある絵だった。

所謂、ヘタウマというヤツだ。

「…ん。」

射場山のスケッチブックには、端の方に細い線で小さく似顔絵が描かれていた。

シンプルで可愛らしい絵柄だった。

…普通に上手いし、もっと自信持って描けばいいのに。

「あーちゃんの絵も見ろ!!これが二十一世紀のシャガールの実力だ!」

自分で自分をシャガールって言うな。シャガールに謝れ。

…どれ、見てやるか。

「…は?」

そこには、鼻毛がボーボーに生えており、タラコのような唇から汚い形の歯が飛び出ており、さらには汚らしい無精髭が生えたオッサンがクレヨンで描かれていた。

「おい、俺の似顔絵を描いてたんじゃなかったのか?」

流石に、これが俺の顔じゃない事くらい、俺でもわかるぞ。

「うん、そうなんだけどさー。なんか途中で田吾作おじさんの顔が思い浮かんじゃって。気がついたら田吾作おじさんになっちゃってた。まあでもサトにいの顔ってこんな感じじゃん?」

ふざけんなクソガキ!!

なんで人の顔を描いてる途中でオッサンの顔になるんだよ!!

これのどこが俺に似てんだよ!!全然似てねぇし!!

っていうか田吾作おじさんって誰!?俺の知らない人間が普通に会話の中に出てきて怖いんだけど!!

「おい愚民!!特別に私の絵も見せてやろう!!」

別に見たくないです。

…ん?

なんだこれ。

美化して描かれた神城の足元で、棒人間が踏み台にされている。

「あの…神城様、もしやこれは…」

「ん?モブ、貴様の絵だが?愚民なんて、みんなこんな感じだろ。描いてやったんだから感謝しろ。」

えぇ…

俺の扱い雑すぎやしませんかね…

棒人間ってお前…

「うふふ、できたわ。」

「完成です!」

エカイラとジェイムズのスケッチブックには、非常に繊細なタッチでデッサンが描かれていた。

「おぉ…」

二人とも、絵上手いな。

本職の織田には及ばないものの、この上手さなら十分食っていけるんじゃないか?

「論さん、私も完成です!…私の画力では、論さんの素晴らしさを十分に再現できませんでしたが…」

「うげっ…」

床前のスケッチブックには、少女漫画に出てきそうな美少年が描かれていた。

周りにバラ咲いてるし…特徴は掴んでるから辛うじて俺だってわかるけど、いくらなんでも盛りすぎだろ。もはや別人じゃねえか。

こんだけ美化して描かれたら、逆に肩身が狭いんだが…

「あの、床前…お前これ…美化が過ぎないか?」

「美化?私はただ、見たままを描いただけですよ?むしろ、論さんの魅力をうまく再現できなくて残念です。」

マジかよ。

コイツ、もう病気だろ。

「おい、菊池、小川!お前らも描けよ。」

「え、自分もっスか?」

「いや俺もかよ!自画像なんて描いたことねえよ!」

「対決なんだから描けコノヤロー!!」

俺は、クソガキにスケッチブックを押し付けられて渋々自画像を描いた。

「…まあ、こんな感じか。」

「おや、菊池さんお上手ですね!」

「ホント。料理の才能は壊滅的なのに、絵の才能はあるのね。」

「う、うるせェな!!」

「おや、小川さんも完成したようですね。」

小川も?どれどれ…

…うーん、お世辞にも上手いとは言えない絵だな。

「す、すいません…自分、絵の才能はからっきしで…」

音楽も絵も同じ芸術だから、小川も絵心があるとばかり思っていたが…同じ芸術でも、やっぱり得手不得手は分かれるんだな。

「よっしゃ!俺も完成だ!!」

お、玉木も完成したみたいだな。

まあ、玉木は完璧エリートのイケメン様だから、さぞ上手く俺を描いてくれてんだろ…

…は?

おい、ちょっと待て!!

なんだその悍ましいナニカは!!

「やー、ちょっと鼻高くし過ぎたかな?」

いやいやいや!!もうそんなレベルじゃねえから!!

何この化け物!?人間を描いたとは思えないんだが!!

あまりの酷さに、俺は卒倒しそうになった。

…まさか、ここで玉木の意外な弱点が明らかになるとはな。

「あ、もうこんな時間っスか。そろそろ夕飯にしませんか?」

「だな。」

俺達は全員美術館を出て、レストランに向かった。

今日は、射場山が夕飯を作ってくれた。

夕飯を食い終わった後は、部屋に戻って時間を潰した。

…やれやれ、今日も疲れる1日だったな。



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第4章(非)日常編⑤

遅れて申し訳ないです。

※時間設定に無理があったので編集。


「くっ…!」

「…お前らが黒幕だったんだな。ついに追い詰めたぞ、モノクマ、モノハム!!」

「クマちゃんとハムちゃん覚悟しろー!!」

「こ、こんな所で終わってたまるかぁああああああ!!!」

「喰らえ!!グングニルの槍!!」

「無駄だ!!喰らえ!!弾・丸・論・破!!!」

「「ぐわぁあああああああああああああああああ!!!」」

「…終わった。」

「やったー!!ついにクマちゃんとハムちゃんをやっつけたー!!サトにいカックイ〜!!」

「論さんすごいです!!」

「うふふ、さすがね。サトシちゃん。」

「やるな菊池!!」

「…ん。」

「ふははははははは!!愚民にしてはよくやった方だ!!褒めて遣わす!!」

「先輩!あれ見るっス!!海の向こうから船が来るっスよ!!」

「…どうやら、誰方かが私達を見つけてくださったのですね。やった、私達やっと出られます!!」

「ふわぁ…やっとゆっくり寝られますぅ。」

 

「おーい!!みんなー!!」

…ん?あれは…猫西!?

いや、それだけじゃねえ…近藤も、郷間も、狗上も、森万も、速瀬も、織田もいる…!

「皆さん…どうして…!」

みんなを乗せた船が、リゾート地に着いた。

「久しぶりだな!迎えに来たぜ兄弟!」

「お前ら、なんで…!死んだんじゃなかったのか…!?」

「んー、なんかよくわかんないんだけど、ウチが死ぬってなった時に、誰かに助けてもらったんだよね。それで、なんとか島から脱出して、みんなを迎えに行く準備を整えてたってわけ。」

「『あの人』の提案で、モノクマ達の目を欺くため、死を偽装させて頂きました。今まで騙していて申し訳ございません。」

「なんだよ、そういう事だったのかよ…!!お前ら、人の気も知らねェで…!!」

「菊池君、ごめんね。つらい思いをさせちゃって。でも、この通り私は生きてるから!」

「猫西…お前…!」

「ねえ、菊池君。こうしてまた会えたから、伝えておくね。…私、菊池君の事が好きなんだ。」

「猫西…俺も…俺も、お前の事が好きだったんだ!!…だから、えっと…その…俺と、付き合ってくれないか!?」

「菊池君…もちろん!これからもよろしくね!!」

「おぉ、新たにカップル誕生っスか!?おアツいっスねェ!ヒューヒュー!!」

「これからもお友達として仲良くしていきましょうね、菊池理嘉さん!」

「カークランド君!?勝手に結婚した事にしないでよ!」

「よっ、新婚夫婦〜!!」

「ちょっ、やめろお前ら!!」

「そうは問屋が卸しませんよ!!猫西さん、今更現れて、私の論さんを奪うなんてどういうつもりですか!?」

「そうですぞ!!菊池氏!!抜け駆けなど卑怯ですぞ!!」

「黙れ変態コンビ!!フラれた者同士仲良くやってろ!!」

「うえぇん…酷いです皆さん。ふーんだ、もういいですよ!せいぜいお幸せに!」

「ふはははははは!!ざまぁみろストーカー女!!」

「みんな、もうあんまり時間がないから船乗るよ!」

全員、船に乗り込んだ。

 

「ねえ、菊池君。」

「なんだ猫西?」

「色んな事があったけどさ、私達、今生きてるんだね。」

「…ああ。」

「あのさ、私は、あの島に閉じ込められた事、今では良かったって思ってるんだ。…だって、みんなと、こうして出会えたんだもん。」

「…そっか。」

「おい、そこのバカップル!!着いたぞ!!」

「誰がバカップルだクソガキ!」

「まあまあ…」

全員、船から降りた。

 

「…帰ってきたのか、俺たちは。」

港には、三つの人影が見えた。

「お兄ちゃん!」

「論!!」

「サトちゃん!」

「!!…破奈、なのか…?親父とお袋まで…」

「お兄ちゃんのバカッ!!なんで急にいなくなっちゃったの!?心配してたんだから!!」

「…ごめん。寂しい思いをさせたな。」

「なっ…!別に寂しくなんてなかったんだからね!?」

「…ったく、素直じゃねえな。」

 

「良かったね、大切な人に会えて。」

 

後ろに、全身黒尽くめの男が立っていた。

「誰だ!?」

「…どうか幸せに。…じゃあね。」

「おい、待ってくれ!…アンタが、近藤達をこっそりあの島から逃したのか!?アンタは、一体誰なんだ!?」

 

『うぷぷ…さて、謎の救世主は一体誰だったんでしょうね?』

『ぴきゃきゃ…幸ちぇちょうで何より()()()。』

 

「!!?」

後ろから、倒したはずのモノクマとモノハムの声が聞こえた。

そして、さっきまで一緒にいたみんながいなくなり、辺りが何もない真っ黒な空間になった。

「お、お前ら…なんで…!?」

『うぷぷ、楽しい時間ってさ、長続きしないもんだよね。』

『ちゃて、思い出ちてみてくだちゃい?』

 

 

 

『『オマエの本当の望みは一体何なのか。』』

 

 

 

「はっ!!?」

視界に、見慣れた部屋が映る。

「…夢か。」

そうだよな、あんな簡単に黒幕を倒せたら苦労はしないよな。

…それに、死んだ奴が戻ってくるわけないだろ。

「あー、変な夢見ちまった。」

俺、疲れてんのかな。

…とりあえず、朝飯を食いに行こう。

 

 

ーレストランー

 

「…おはよ。」

「おはようございます論さん!…あら?論さん、今日はやけに元気ないですね。どうかしましたか?」

なんだコイツ。

一瞬で俺の体調を見抜きやがった。

…さすがはストーカーだな。

「…なんでもない。」

夢の話をするのはやめておこう。

人の夢の話なんてつまらないだけだし、話したところで何の解決にもなりゃしねェ。

「…もしかして、変な夢でも見ちゃいましたか?」

「!!?」

「うふふ、その顔は図星ですね♪…実は、私も今日不思議な夢を見たんです。」

「不思議な夢…?」

「はい、論さんと私の恋路を邪魔する害虫共が全員排除されて、論さんと私だけがこの島で生き残ったという夢です。この島に2人きりになってから数日が経った頃、論さんが私を部屋に呼び出してベッドに押し倒し、私達は体を重ね合わせ…」

床前は、恍惚とした表情で涎を垂らしながら語っていた。

それもうお前の願望だろ。

…ん?願望?

「…とまあ、至福の時を過ごしていたその時、モノクマ学園長とモノハム教頭が現れて、私に尋ねてきたんです。『オマエの本当の望みはなんだ』と。」

…え?

ちょっと待て、それ、俺が見た夢と似てないか!?

「あ、おはよサトにいにナギねえ!実は、あーちゃんも今日変な夢見たよ!」

「お前もか?どんな夢だったんだ?」

「うーんとね、サトにいをドレーにして、おいしいお菓子を食べまくる夢!でもね、トチューでクマちゃんとハムちゃんに変な事聞かれたの!『オマエの本当の望みはなんだ』って!」

「おや、皆さんもですか。実は、私もそのような夢を見ました。」

「ジェイムズもか!?」

「ええ、クワガタをチョップしたらどういう訳か江戸時代にタイムスリップし、日本文化を学ぶという夢を見たのですが…やはり途中でモノクマ学園長とモノハム教頭に皆さんと同じような質問をされました。」

おい、ちょっと待てよ…?

全員が全員似たような夢を見るなんて事あり得るのか…?

「話を聞いてた限りじゃ、全員の夢の共通点はざっくり2つだな。1つは、みんな自分の願望に関する夢を見てるって事、2つ目は、多少違いはあれどモノクマとモノマムに全員同じような質問をされてるって事だ。」

「不思議なものですね。ここにいる皆さん全員そのような夢をご覧になったのですよね?」

全員、静かに頷いた。

 

『うぷぷ…オマエラ、いい夢見れた?』

二匹のぬいぐるみが、レストランに現れた。

『うぷぷぷ!!おはようございますオマエラ!!』

『おはようごぢゃいまちゅ!』

「おはようございます。」

ジェイムズだけは二匹に挨拶を返した。

「テメェら…!何の用だ!!」

『うぷぷぷ…なんでボク達がわざわざ現れたのか、誰か勘付いてるんじゃない?』

「…動機の発表、っスか?」

『うぷぷぷ…小川サン、その答え…』

 

『不正解です!!』

「アラ。違うの?」

『まあ、半分正解で半分不正解でちゅ。オイラ達は、皆様に動機の説明に来たのでちゅ。でもオイラ達は、アナタ達に動機を渡ちたりはちまちぇん!』

「はぁああああああああ!!?どういう事だよそれ!!」

『…うぷぷ、オマエラならもうわかってるんじゃないの?』

 

『動機は、既に配られてるんだよ。』

動機がもう配られているだと…!?

Motivation(動機)I can only assume that.(あれしか考えられないな)

「ムズにい、何ぶつぶつ言ってんのかな?」

「…あの、モノクマ学園長。その動機とは、もしや私達が今朝見た夢の事では?」

『うぷぷ!さすがカークランドクン!相変わらず冴えてるね!そうです!ボク達がキミ達のために用意した動機とは、キミ達の夢です!』

『夢だけに、アナタ達が心の奥底に持っている未来への『夢』を、特殊な装置を使って夢とちて見ていただきまちた!』

「…ふむ、人に都合のいい夢を見せる技術なんて、あったでしょうか?」

それを言うなら、俺達から記憶を抜き取った技術だって、なんであるのか疑問だよ。

「…夢?」

『まあ、ざっくり言っちゃえば、アナタ達が叶えたいと思っている、一番強い欲望でちゅ!』

「はっ、くだらねェ!!そんなモン見せて、何になるってんだよ!!そんなんで殺人なんて起きるワケねェだろ!!バカなのかテメェらは!!」

『うぷぷ…いいや、起こるね。早ければ今日にでも、この中の誰かが死体になってると思うよ。…ああ、それと言い忘れてたけど、ルールもう一つ追加ね!』

「追加ルールだと…!?」

『そうです!今から、同一のクロが殺せるのは2人までとします!!』

「なんでー!?」

『ちょうちないと、自分以外の全員を殺ちて脱出ちようなんておバカな方が現れるかもちれないでちょう?ちょんなの興醒めなので、殺ちぇるのは2人までとちゃちぇていただきまちた!』

『そういう事!3人以上殺したヤツは、その場でオシオキだから覚悟しといね!』

『では、また会いまちょう!』

二匹は、陽気に去っていった。

「…なんなのアイツら。」

「まあ、クマちゃんがやる事がイミフなのは今に始まったことじゃないわ。」

「…一番強い欲望、ですかぁ。」

リタは、ボソリと呟いた。

一番強い欲望…それを俺達に見せて、モノクマ達は一体何を考えてるんだ…?

「…多分だけど、これアレじゃない?夢の中で自分の欲望を思い出しちゃった誰かが、その欲望を叶えるために外に出ようとする事が狙いなんじゃナイ?」

「…あ。」

エカイラに言われて初めて気がついた。

…アイツら、それが狙いで…

「…まあ、夢ごときで躍らされて誰かを殺しちゃおうなんておバカさんが現れない事を祈ってるけどね。」

「そうですね。そんな愚かな人間に論さんが殺されちゃわないかと思うと、不安で夜も眠れません。」

「うるせェオカマにメンヘラ女!!テメェらが一番怪しいんだよ殺人鬼共が!!」

「うるさいのはアンタの方よ!!このクソサド女!!」

「…あの、今更なんですけど、エカイラちゃんさんって殺人鬼だったんですね。」

「ちょっとぉ!!ジェイムズちゃん、アタシの才能忘れるとか酷くない!?」

「…すみません、らしくなかったので。殺人鬼って、床前さんのような精神に異常がある方のイメージが強かったもので…」

「酷い偏見ね!!殺人鬼って言ってもみんながみんなサイコパスってわけじゃないわよ!!」

「…っていうか、人を精神病患者みたいに言うのやめてください。不愉快です。」

いや、みたいに、じゃなくてガチの精神病患者だろ。

…あれ?なんか話が脱線してないか?

「あの、やっぱりエカイラちゃんさんは、殺人鬼らしくないです。本当に殺人鬼なんですよね?」

「…まあ、よく意外だとは言われるわね。ウフフ。アタシ、こう見えても巷じゃ有名なシリアルキラーなのよん。」

「はーい!あーちゃん知ってるよー!シリアルって、あのおいしいヤツでしょ?」

「アンタちょっと黙ってなさいよ!… 何年か前に、鯉津和瑠夫っていうクズ政治家が暗殺されたってニュースあったでしょ?あれは、アタシがやったのよ♪政治家は金持ち多いから、殺したついでにお金をこっそり貰ったりとかはよくやってたわね。アタシお金だーい好き♡」

「ケッ、気持ち悪りい野郎だ。」

「エカイラちゃんさんは、なぜ人を殺したんですか?」

「おっと、それ以上漢女に問い詰めるのは失礼なんじゃなくって?この続きは、アタシが無事生き残ったら話してあげるわ。」

「テメェ、そんな事言ってホントは話す気ねェんだろ!?」

「あらヤダ。クレハちゃん、アタシの話に興味あるの?」

「うるせェ!!テメェが肝心なとこを言わねえから気持ち悪いんだよ!!」

…まあ、話のオチを言わないまま次の話題に移るようなもんだからな。

神城の気持ちはわかる。

…って、さっきから話が脱線してんじゃねえか。

「あの、先輩方。脱線してないで、これからの事を話し合いましょう。」

「あ、悪い。そうだったな。」

小川ナイス。

「それで、自分ちょっと考えてみたんスけど…今夜、カジノでパーティーでもしませんか?」

「パーティー?」

「ほら、色々あって先輩方も気分が暗くなってるでしょうし…パーッと盛り上がってリフレッシュしましょう!」

「素晴らしい考えですね、小川さん!私も参加させて頂きます!」

「わーい!あーちゃん、パーティー大好きー!!パリピパリピ〜!!」

「あーちゃん、すごい元気だな。」

こうして、みんなでパーティーを開く事になった。

話し合いの後、俺達は玉木が作った飯を食った。

飯の後は、みんなパーティーの準備で盛り上がっていた。

…俺も何か手伝った方がいいのかな?

「なあ、俺も何か手伝おうか?」

「…あんたは絶対何かやらかすから部屋でじっとしてて。」

「あ、ハイ…すいません。」

結局、俺は時間になるまで部屋で時間を潰した。

 

 

ーカジノー

 

「わーい!!あーちゃんあれやるー!!」

クソガキは、スロットマシーンの方に走って行った。

「アラ、アンタなかなか筋がいいわね。」

「そうか?」

「凄いです玉木さん!」

エカイラ、玉木、ジェイムズの3人はビリヤードで遊んでいた。

「ふははははは!!!貴様らに特別に、私が作ったデザートを食わせてやろう!」

神城が全員分のデザートを持ってきた。

…普段こういう事しない奴がいきなり優しさ見せてくると逆に気持ち悪いな。

「神城先輩の手料理っスか…ちょっと気になるっスね。」

「…ん。」

神城の奴、料理できたのか。

意外だな。

「…どれ?」

…。

…。

…。

まっず!!

なんだこれ!!

見た目いいのに味最悪じゃねえか!!

クッソ…!

水だ水!!

俺は、ドリンクバーに駆け込んだ。

「…あー、クソ不味かった。」

俺は、水の入ったグラスを持ってドリンクバーを後にした。

「…ん?」

帰る途中に、プレイルームがあった。

「…入ってみるか。」

プレイルームには、俺達の姿を模した17体の人形が置いてあった。

手前には、拳銃が置いてある。

「重っ…まさか、本物じゃないよな?」

試しに、俺の人形の頭を狙って撃ってみた。

 

バンッ

 

「ッ〜〜〜〜〜!!?」

肩にとてつもない衝撃が走る。

拳銃の銃口からは、独特の匂いと共に煙が出ていた。

「本物じゃねえかコレ!!しかも実弾入ってんじゃねえかよ!!」

目の前を見てみると、俺の人形の顔に穴が開き、中から赤い液体が噴き出していた。

…目の前の人形が的で、それを撃つゲームって事か。

なんて悪趣味なゲームだ。

上に設置されていたモニターを見てみると、俺のスコアが出ていた。

「…90点?」

『うぷぷぷ!初めての割には結構上手いじゃん!』

後ろからモノクマが話しかけてきた。

「うおっ、ビックリしたぁ。」

『これ、昨日新しく用意したゲームなんだけど、どう?楽しんでくれた?ボクの用意したゲームは。』

「ああ、あまりの悪趣味さに吐き気を催したよ。」

『うぷぷ、褒め言葉と受け取っておくよ。』

「…何の用だ。」

『うぷぷ、ちょっとこのゲームについての注意事項を説明しに来たんだよ!』

「注意事項…?」

『うん、実はね、このゲーム、1日1回しか遊べないの!2回目以降にこのプレイルームに入ったら、部屋中に仕掛けられたガトリングガンが火を吹くよ!』

「…物騒なゲームだな。」

『菊池クンは、今日もう遊んだから、明日になるまでは入れないよ!それじゃあね!』

モノクマは、相変わらず陽気に去っていった。

「…なんなんだアイツ。」

どっちみちこんな悪趣味なゲームに興味はない。

俺は、プレイルームを後にした。

「論さん!」

後ろから耳障りな奴が話しかけてきた。

「あの、私ゲームでメダルいっぱいゲットしたんですけど、良かったら使ってください!」

コイツ、またメダルを貢ぎに来たのか。

「いらねぇっつってんだろ。アリスにでもあげてこい。」

「え、アリスさんにですか?」

床前は見るからに嫌そうな顔をした。

「露骨に嫌そうな顔すんな。」

「だって、アリスさんになんてあげたくないですもん!あの人にあげるくらいなら、ドブに捨てた方がマシです!」

アリスはドブ以下かよ。

「…はあ。」

「おや、どちらに行かれるんです?」

「別にどこだっていいだろ。ついてくるな。」

「…はぁい。」

俺は、2階の休憩スペースに行った。

 

 

ー休憩スペースー

 

「…あ。」

「…ん。」

休憩スペースで射場山に会った。

「お前、どうしたんだそんなところで?」

「…こういう場所に慣れてなくて。ちょっと休憩してた。」

「そうなのか。…なあ、少し話でもしないか?」

「…ん。」

射場山は、小さく頷いた。

俺は、射場山の隣に座った。

「なあ、お前こういう所に慣れてないんだろ?なんで来たんだ?」

「…ダメだった?」

「ダメってわけじゃねえけど…」

「…別に。みんなで行くっていう空気になったから来ただけ。…あとは、」

「あとは?」

「…みんなと友達になりたくて。」

射場山は、小さな声で恥ずかしそうに言った。

「なーに言ってんだよ!俺達、もう友達だろ!」

「…え?」

「少なくとも、みんなはそう思ってるよ。」

「ホント?」

「当たり前だろ!」

「…ん。」

「あのさ、射場山。…これ、いるか?」

俺は、射場山に扇子を渡した。

「…!」

「ガチャでゲットしたんだ。良かったら使ってくれ。」

「…ありがと。」

射場山は、照れくさそうに扇子を受け取った。

「あのさ。」

「おう、なんだ?」

「…あんたには、教えてあげる。私が、夢で何を見たのか。」

「お前の…夢?」

「…うん。私、今よりももっと弓道の腕を上げる夢を見たの。誰からも同情されないくらい、高みに行く夢。」

「それが、お前の夢か?」

「…何?」

「あ、いや…てっきり、ほら…視力が回復する夢を見たのかと思ってたから…」

「…私は、左目が見えるようになりたいとは思ってないから。今更そんな事を悔いても仕方ないし、『目が見えなくなったから』なんてただの言い訳だから。私は、今のままで周りを追い越さないといけない。」

「…凄いな、お前は。」

「どこが?」

「ハンデを前向きに考えられる人間なんて一握りだぞ?それを言い訳にして逃げ出すのが普通だ。…俺は、自分の力不足を言い訳に何度も逃げた。だから俺は、お前を尊敬してるんだ。」

「…ありがと。」

射場山は、顔を真っ赤にして俯いた。

「…大丈夫か?熱でもあるのか?」

「は?なんで?」

「いや、だって顔真っ赤だぞ?」

「うるさいわね!私は全然平気だから!!」

射場山は、今まで聞いた事ないくらい大きな声を張り上げた。

「…あ、ごめん。うるさくしすぎた。」

「ははっ。」

「…何笑ってんの?」

「いや、お前、意外と大きな声出せるんだなって思って。」

「…バカ。」

「うるせェ。」

俺達は、2人で笑い合った。

射場山も、思ったより元気があるみたいで良かった。

「じゃあ、俺はそろそろ遊んでこようかな?」

「…ん。…話、してくれて、ありがと。」

「いやいや、こちらこそ。」

「あの…!」

「…どうした?」

「…さっきの夢の話だけど、続きがあったの。」

「続き…?」

「…夢の中で、あんた達が私の応援に来てくれたの。」

「…そうか。じゃ、またな。」

「…ん。」

俺は、休憩スペースを後にした。

 

《射場山祐美の好感度が上がった》

 

「せーんーぱいっ!」

「うおっ!?」

「見てたっスよ!ニクいっスね色男!」

「は?なんの話だ?」

「…あれ?なんか、前にもこんなパターンありませんでしたっけ?」

「そうだったか?」

「論さん!!」

「うわっ、ビックリした!」

「私を差し置いて、射場山さんと仲良くお喋りするなんてひどいです!」

「別にいいだろ。話くらいしたって。」

「ふわぁ…もうそろそろ本当に眠くなってきちゃったので、僕はお部屋で寝てきますぅ。」

リタは、一人で部屋に戻っていった。

「アンカーソン先輩、行っちゃったっスね。」

「まあ、元々夜が弱い奴だし、しょうがないんじゃないか?」

「そんな事言ったら、一日中船漕いでますけどねあの人。ナマケモノじゃないんだから。」

「それは否定できないけどよ…」

「さてと論さん、一緒に遊びましょう。」

「うるせェ。くっつくな。」

「あーん、論さんのいけず〜!」

なんか、コイツうざくなってきたな。

コイツ、こんな気持ち悪い仕草するような奴だったか?

…いや、逆か。今までのアイツが演技だったわけだしな。

俺は、無理矢理床前とのゲームに付き合わされた。

「トランプがありますね。一緒にポーカーでもしませんか?」

「…一回だけだぞ。」

「わーい!」

2人でポーカーをする事になった。

「キングと9のフルハウスです!…論さんは?」

「…エースのファイブカード。」

「わあ、すごい!さすが論さんです!」

「…お前、イカサマしただろ?」

1回目でエースのファイブカードが出るなんて、どう考えてもおかしい。

「はてさて、何のことでしょう?」

…コイツ、白々しいな。

「…そういえば他の奴は?」

「ああ、射場山先輩なら、さっきドリンクバーに行ったっスよ。」

「小川、いたのか。」

「ちょっと!いたのか、とはなんスか!!さっきからずっと一緒にいましたよ!ゲームに熱中しすぎっス!!」

「あ、悪い悪い。」

「あと、カークランド先輩はリズムゲーで遊んでます。」

小川は、ジェイムズの方を指差した。

ジェイムズは、テンポの速い電脳の歌姫の曲でプレイしていた。

…そういえば、アイツオタクだったな。

「アリスと玉木とエカイラと神城の4人は?」

「神城先輩以外の3人は、クレーンゲームで遊んでるっス。」

3人が、クレーンゲームの前に集まっていた。

エカイラは、デカいチンアナゴのぬいぐるみを狙っているようだ。

「ふふふ、見なさい!アタシの手捌きを!」

「エカイラちゃんプロみたい!」

「でしょ?…あっ。」

チンアナゴがアームから落ちた。

「きゃはは!エカイラちゃんだっさ!」

「う、うるさいわね!ちょっと手が滑っただけよ!」

「それ、デカすぎて掴んで落とすのはムリなんじゃないか?」

「くっ、もう一回よ!今のでコツを掴んだわ!」

エカイラの奴、やけに張り切ってんな。

「神城は?」

「ああ、神城先輩なら、1階で遊んでくるって言ってたっス。」

「…そうか。」

時間が気になったので、しおりを見てみた。

しおりのホーム画面には、0時10分と示されていた。

「もう日付変わってんじゃねえか!!」

「あ、ホントっスね!…これ、そろそろ切り上げないとっスね。1階の先輩方を呼んでくるっス!」

「ああ、頼む。俺達は、4人に声をかけるよ。」

俺は、ジェイムズに声をかけた。

「Yeah‼︎ I did it(やってやったぜ)‼︎」

「おい、ジェイムズ。」

「はわっ!?き、菊池さん!?お、お恥ずかしい所をお見せしてしまいました!」

「いや、それはいいけど、もう日付変わってるぞ。そろそろ切り上げないと…」

「あ、そ、そうですね…」

「論さん!3人を呼んできましたよ!」

床前が、玉木達を連れてきた。

アリスは、チンアナゴを抱えている。

…結局取れたのか。

「もうゲームおしまい?あーちゃんもっと遊びたかった!」

「わがまま言うな。帰るぞ。」

俺達は、1階に降りた。

 

「ぎゃわあああああああああああ!!!」

 

小川の声が響いた。

「何事だ!?」

俺達は、小川の叫び声が聞こえた方に向かった。

プレイルームの前には、神城が立っていた。

神城はなぜか顔を真っ青にしている。

「遅せェぞ愚民共!!今まで何やってたんだよ…!」

神城は、震える手でプレイルームの方を指差していた。

プレイルームの中には、青ざめた顔で尻餅をついた小川がいた。

俺は、小川の視線の先を見た。

 

「!!!」

 

視線の先には、赤い液体塗れになった射場山の人形が、他の人形と同じように椅子に座らされていた。

…いや、違う…!

嘘だ。

こんな事、あるはずがない…!

頼む、どうか嘘であってくれ…!

なんでお前が…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美は、そこで死んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、アナウンスが流れた。

『オマエラ、死体が発見されました!!カジノ1階のプレイルームにお集まりください!!』

「にゃあああああああああああああ!!!?ゆ、ユミねえ!!?」

「そんな…嘘だろ…!?なんで射場山が…!」

「キャアアアアアア!!!ゆ、ユミちゃん!?」

「射場山さん…!」

「あらあら、また殺人が起こってしまいましたね。」

「リタはまだ来ねェのか!?」

「…寝てるんじゃないですかね…寝てくるって言ってましたし…」

「クッソ、アイツ、こんな時に何やってんだよ!」

「菊池先輩!落ち着いて…ん?」

「にゃあっ!?」

「どうしましたか小川さん、アリスさん?」

「…何か変な音が聞こえませんか?」

「…いや、別に?強いて言うなら、ゲーム機の音が少し響いてるくらいか…」

「にゃああああ!!キモチ悪ーい!!何この音!!」

…小川とアリスにだけ聞こえているらしい。

「ちょっと気になるっス。確かめに行ってくるっス!」

「あ、おい待て!小川!」

小川は、カジノの入り口の方へと走って行った。

 

 

ー10分後ー

 

「…あれ?おかしいな…アイツ、戻ってこないぞ…?クソッ、小川まで何やってんだよ!」

「あの、私達も確かめに行ったほうがいいんじゃないでしょうか?」

「…だな。床前、アリス!お前ら一緒に来い!それ以外の奴はそこで待ってろ!」

「了解です論さん!」

「なんであーちゃんまでー!?」

俺は、2人を連れて小川が走っていった方に向かった。

そこには、リタがいた。

リタの顔はなぜか青ざめている。

「リタ!?お前、なんでここに…」

「えっと…アナウンスが聞こえたから、急いでカジノに向かって…そしたら、小川の姿が見えたから、様子を見に行ったら…」

リタは、ゆっくりと女子トイレの方を指差した。

「サトにい!!これ以上入るなヘンタイ!!あーちゃんが見る!!」

「私も確認してきますね。」

2人は、女子トイレに入った。

 

「にゃああああああああああああ!!?」

 

トイレから、アリスの声が聞こえた。

その直後…

 

『オマエラ、死体が発見されました!!カジノ1階の女子トイレにお集まりください!!』

 

…え?

死体…?

そんな、嘘だろ…?

俺は、女子トイレに駆け込んだ。

…頼む、嘘であってくれ…!!

俺は、床前とアリスを押しのけてトイレの個室の中を見た。

 

「!!!」

 

ソイツは、トイレに顔を埋めるようにして、頭から見慣れた赤い液体を流しながら、糸の切れたマリオネットのように動かなくなっていた。

床には、赤く染まった金属の球が転がっていた。

そんな、嘘だ…!

なんでお前が…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『超高校級の演奏家』小川詩音は、そこで死んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コロシアイ合宿生活 残り8名




ついに被害者2人!!
しかも、ちょっとずつ作者の中での株が上がってた2人が…!


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第4章 非日常編①(捜査編)

射場山と小川が死んだ。

その死は、あまりにも突然だった。

さっきまで一緒に話したり、ゲームしたりしていたのに。

まるで今までの日常を、2人の夢を、嘲るかのように、見慣れた緋色が目に飛び込んでくる。

それは、俺に残酷な現実を突きつけてきた。

それでも俺は、2人の死を受け入れられずにいた。

…受け入れられるわけがなかった。

なんで2人が死ななきゃならなかった。

…一体誰が、どんな理由で2人を殺したんだ。

「にゃああああああああああああああああ!!ユミねえー!シオねえー!!」

「嘘だろ…なんで2人が…クソッ!!」

「フン、誰が殺ったのかは知らんが、下衆な事しやがって。」

「あらあら、またコロシアイが起きちゃいましたね。」

「…そんな、射場山さんと小川さんが…どうして…」

「射場山…小川…なんで…」

「…また始まるのね。」

慌てふためくアリス。

壁を殴りながら悔しがる玉木。

歯を食いしばりながらみんなを睨む神城。

余裕綽綽とした様子の床前。

俯いて二人の死を嘆くジェイムズ。

顔を手で覆い、蹲るリタ。

周りを警戒するエカイラ。

全員が、2人の死を目の当たりにした。

だが、俺達は嘆き悲しむ事さえ許されなかった。

 

『うっぷぷぷぷぷぷぷぷぷ!!まーた起こっちゃったね、コロシアイが!!お前ら、仲良しこよしじゃなかったの?』

『ぴきゃきゃ、全くでちゅ。あれだけ大口叩いといて、情けないでちゅね!』

モノクマとモノハムが相変わらずのハイテンションで現れた。

「お前らッ…!!」

「玉木さん、学園長達に怒りを向けるのはお門違いですよ。」

「何ッ…!?」

「うふふ、玉木さん。あなただって、本当はわかってるはずでしょ?お2人を殺したのは、紛れもなく皆さんの中の誰かなんです。」

「ッ…」

「皆さんの中に、お2人を殺した最低最悪の殺人犯がいるはずです。さて、犯人さん。いたら手を挙げてください!」

…コイツ、そんな事を言って俺達の不安を煽ろうっていう魂胆か。

ナメやがって。

「ふわぁ…そんな事言って、どうせ君が殺したんじゃないんですかぁ。」

「…うふふ、私が殺したのか、ですって?…アンカーソンさん、それはあなたが一番よくわかってるはずですよ?」

「えっ…」

「おい、やめろお前ら!今は争っている場合じゃない。…そうだろ、モノクマ。」

『いやあ、菊池クンは理解が早くて助かるよ!ってまあ、同じ事3回もやってたわけだから当前か!』

『ぴきゃきゃ、皆様はもうお分かりでちょうが、今から捜査時間を設けまちゅ!捜査時間の後は、全員参加型の学級裁判でクロを見ちゅていただきまちゅ!ちぇいぢぇい、生き残れるように頑張ってくだちゃいな!!』

「…いよいよ始まるのね。」

俺は、大切な仲間を2人も失って、完全に絶望したと思った。

2人がいなくなってしまった今、俺に未来はあるのかとさえ思う。

でもそれ以上に、怒りがこみ上げてきた。

どんな理由があったとしても、俺は2人を殺した犯人が許せない。

絶対に、2人の命を奪った奴になんか負けたくない。

俺は、なんとしてでもクロを見つけ出してみせる!

全員で生きてここを出るため…そして、2人の仇を討つために…!

 

 

 

 

ー《捜査開始》ー

 

…とりあえず、まずはモノクマファイルを確認しよう。

 

 

モノクマファイル①

1人目の被害者は『超高校級の弓道部』射場山祐美。

死体発見現場は、南エリアにあるカジノの1階プレイルーム。

死亡推定時刻は22:56頃。

死因は、全身に大量の穴が開いた事による失血死。

身体中に無数の弾痕がある事から、死因は銃殺と思われる。

 

コトダマゲット!【モノクマファイル①】

 

モノクマファイル②

2人目の被害者は『超高校級の演奏家』小川詩音。

死体発見現場は、南エリアにあるカジノの1階女子トイレ。

死亡推定時刻は00:35頃。

死因は、頭蓋骨陥没及び脳挫傷。

後頭部に、球状の物が衝突したと思われる打撲痕あり。

 

コトダマゲット!【モノクマファイル②】

 

…次は死体を確認しないとな。

「えっと…今回は、検視と見張りは誰がやる?」

「そうだな…この中で、検視ができんのは神城とジェイムズ、あと…」

「アラ。アタシも、そういうの得意よ。」

…今まで散々人を殺してきたからなのか?

いや、今はそれは気にする事じゃないな。

「そうですね、エカイラちゃんさんが検視が出来ると仰るなら、お手伝いをお願いしたいです。私も、検視に関しては素人同然ですし…」

「あら、じゃあ2人でやりましょ。」

「…あ、ですが…その前に一つ問題が。」

「アラ。何?」

「いや…私達、二人とも男性じゃないですか。然し、被害者はお二人とも女性…私達がお二人のご遺体を調べるのは、その…あまり好ましくないと思うのですが。」

「言ってる場合か。この中で検視ができるのはお前ら3人だけなんだぞ。そんな事で犯人を見つけられなかったら洒落にならんだろ。」

「…そうですね。エカイラちゃんさん。宜しくお願いします。」

「ウフフ、一緒に色々調べましょ。ジェイムズちゃん。」

「よし、じゃあジェイムズとエカイラが射場山の検視、神城が小川の検視、んで俺が神城を見張る。それ以外は各自で探索…とまあこんな感じでいいか?」

「ああ、問題ない。」

「ふわぁ…OKでぇす。」

「いいよー!!」

「そうですね…それで問題ありません。…射場山さん、ごめんなさい。どうか、私達に力をお貸しください。」

「じゃあ、早速検視しましょ。」

2人はプレイルームに向かった。

「うふふ、論さん。一緒に調査しましょう?」

「言われなくてもそのつもりだ。お前を1人にしたらロクな事が起こらんからな。」

「…信用してくださらないんですね。」

「当たり前だ。お前は、モノクマ達の内通者なんだろ。」

「…まあ、そうですけど…」

「言っておくが、俺はお前が一番怪しいと思ってるからな。」

「やだなあ論さん。私にはアリバイがあるのをお忘れですか?…私、論さんに疑われて悲しいです。」

床前は嘘泣きを始めた。

「時間がねぇからそのくだらん三文芝居をやめろ。…いいか、また変な気を起こしてみろ、すぐに大声で言いふらすからな。」

「…変な事なんてしませんよ。…まあ、大声で叫ぶ論さんが見てみたい気持ちもちょっとありますけどね。うふふ。」

コイツ、冗談抜きで気色悪いな。

同じ空気を吸ってるだけで不愉快だ。

自分でも、こんなヤツの事が好きな芝居ができた俺を尊敬するわ。

「さ、時間が無いんで早く調査始めちゃいましょう?」

お前がダラダラとくだらない事で時間を浪費したんだろ。

「チッ…なんで私が愚民の言う事なんか…」

「おい、神城。死にたくないならわがまま言ってないで俺と一緒に来い。」

「フン!今だけは貴様の言う事を聞いてやる!!感謝するんだな!!」

…アイツはなんで上から目線なんだ。

まあ、それは今に始まった事じゃねえけどよ…

さてと、俺達は俺達で捜査をしないとな…

とりあえず、全員に事情聴取をして情報をまとめるか。

 

 

ープレイルームー

 

「ここでは確か、ジェイムズとエカイラが検視をしてたはず…」

ん?入り口近くの床が少し汚れてんな…

「おや、論さんどうなさいましたか?」

「…床前、少し静かにしてくれ。」

「…はぁい。」

どれ、もう少し調べてみるか…

「私にも見せてください。…あぁ、それ、血ですね。」

は!?

サラッと何言ってんだコイツ!?

「乾き具合からして、2時間程度経っているようです。それを踏まえて考えると、射場山さんの血だと考えるのが自然かと。…論さんは、今まで気づかなかったんですか?」

…プレイルームのカーペットが赤いから、今まで気づかなかったぞ。

よく見たら、人形が座っているところまで引きずった痕があるし…

これは有力な情報だな。

 

コトダマゲット!【プレイルームの血痕】

 

あと、気になるのは…

「ねえ論さん。これ、なんでしょうね?」

床前は、壁に開いた穴を指差した。

「…大きさから考えて、弾痕じゃねえか?ここには本物の拳銃があるし…流れ弾が壁に当たったのかもな。」

「なるほど、銃ですか。さすが論さんです。かなりいい線いってるんじゃないですか?」

いい線…?何言ってんだコイツ。

…もしかして、コイツ、今回の事件について何か知ってんじゃねえのか?

 

コトダマゲット!【プレイルームの弾痕】

 

床前は、壁をジロジロと見ている。

「…はて、この穴は本当に拳銃でできたものなんでしょうか?」

「どういう意味だ?ここには拳銃があるし、これで撃った弾が当たったんじゃないのか?」

「うふふ、論さんも甘いですねぇ。本当に拳銃でできた穴なら、こんなに壁に穴が開いたりしませんよ。…何か他の凶器が使われたのかも?」

「…何が言いたい。…お前、まさかとは思うが犯人を知ってるんじゃないだろうな?」

「ええと…すみません、ちょっと質問の意図がわからないですね。犯人を知ってて言わないなんて、そんなのただの極悪人じゃないですか!」

どの口が言うか。

前回の裁判では、くだらねェ理由で猫西にクロを押し付けたくせによ。

「とにかく、私は誰も殺していませんし、何も知りません。」

「嘘つけ。じゃあ、あの発言は一体何だったんだ。」

「…あの発言?」

「リタに、『お前が一番よく知ってる』とかなんとか言ってただろ。お前、リタの何かを知ってんのか?」

「…ああ、あれは、ただのジョークですよ。」

「…は?」

「いや、いつも眠そうにして余裕こいてるアンカーソンさんがクロだと疑われて泣き喚く姿が見たかったものですから。…勿論、私は彼女がクロかどうかなんて知りません。」

何言ってんだお前。

全員の命が懸ってるこの状況を理解できてないのか、この期に及んでスリルを味わおうなんて糞みたいな事考えてるのか…

コイツの場合、後者だろうな。

…コイツ、やっぱり頭おかしいわ。

「私は犯人を知りませんが、一応疑っている人はいますよ。…そうですねぇ。個人的に怪しいと踏んでるのは、森万さんの時におもちゃのガトリングを乱射していたカークランドさんか、殺人鬼のエカイラさんですかね。」

「…あら、アタシを疑うなんて心外だわ。」

エカイラは、床前の後ろに回り込んで、顔を覗いていた。

「…エカイラ!」

「…それ、やめてください。不愉快です。」

「アンタに言われたくないわ。」

「菊池さんに床前さん。先程検視が終わった所で、皆さんにその結果の報告をしようと思っていたので丁度良かったです。」

「…どうだった?」

「やはり、射場山さんの死因は銃殺のようです。身体中に100発以上の弾痕が見付かりました。」

「…そうか。」

 

コトダマゲット!【射場山の弾痕】

 

「それと、面白い事がわかったわよ。」

コイツ、射場山が死んだのになんでこんなにヘラヘラ笑ってんだ。

床前程じゃねえけど、コイツも大概だな。

「…なんだ。」

「ユミちゃんの身体からアルコールが検出されたのよ。…あの年で呑んだくれてたって事かしら?イケナイ子ね。」

…そういえば射場山の奴、俺と話してた時顔真っ赤だったし、やけに声が大きかったな。

あれは具合が悪いんじゃなくて酔っ払ってたのか。

でも、真面目なアイツが酒なんか飲むか?

「言ってる場合か。…アルコール、ね。ありがとな。参考にさせてもらうよ。」

 

コトダマゲット!【アルコール】

 

…そういえば、神城がデザートを配っていたな。

不味すぎてほとんどの奴がゴミ箱に捨てた今確かめる術はないが、一応裁判で言う必要があるかな。

 

コトダマゲット!【神城のデザート】

 

『うぷぷ、どう?捜査は順調?』

俺達がエカイラの報告を聞いている最中に、モノクマが割り込んできた。

「…モノクマ、ちょうど良かった。お前に聞きたい事があるんだが。」

『ほえ?何?』

「このプレイルームについて教えてくれ。」

『えー?ボクに聞くのー?ちょっとそれズルくない?』

「…この捜査時間は好きに捜査していいんじゃなかったか?」

『うーん、そう言われると返す言葉がないなぁ〜。じゃあ、特別に教えてあげましょう!』

「…助かる。じゃあ聞かせて貰うが、この部屋、清掃時間とかあるのか?」

『うん、一応あるよ。午後11時から0時の間の1時間は、この部屋にはロックがかかる仕組みになってるんだ!その間の1時間で、部屋の掃除をするってワケ!その間に、この部屋はリセットされてるよ!』

「…それ、人が入ってたらマズくないか?」

『まあそうなるね!1時間ずっと部屋に閉じ込められたままになっちゃうね!』

「…っていうか、その掃除のせいで事件の証拠を消しちゃったりとかしてないでしょうね?」

『うーん、それは何とも言えないなぁ。この部屋の掃除は全部、この部屋にある掃除機能が行なってて、全部建物に内蔵されてるAIが管理してるからね!AIが感知した汚れや傷、紛失物とかはその時に元の状態に戻されるってわけ!って言っても、さすがにあそこまで傷とか汚れがひどいと完璧に元に戻すのは無理だったみたいだけどね。…ああ、さすがに人まで掃除したりとかはしないから安心しなよ。』

あそこまで…?

清掃時間前の部屋の状態は、そんなに酷かったのか?

「…なるほどな。その時に撃った人形も追加するのか?」

『人形の追加は、プレイヤーが出て行ったらすぐ行われてるよ!』

「そうか。もうわかった。行っていいぞ。」

『うわっ!なんかボクの扱い雑じゃない?ボクなんて、オマエラにとっては所詮それっぽっちのカンケイだったって事!?ボクは使い捨てのクマじゃないクマよー!!』

「ワンナイトラブで捨てられたみたいな言い方しなくていいから、早く視界から消えなさいよ。」

『ふーんだ、もういいもんね!あとは勝手に進めてどーぞ!!』

モノクマは不貞腐れながら帰っていった。

 

コトダマゲット!【清掃時間】

 

コトダマゲット!【プレイルームの人形】

 

「なあ、お前らは事件当時何してた?俺はゲームしてたけど…」

「私もです。ネギちゃんさんとうぇすにゃんさんの曲でリズムゲームをしていました。」

「アタシもゲームしてたわ。あーちゃんがどデカいチンアナゴのぬいぐるみが欲しいって駄々こねてね。」

…お前も張り切ってやってただろ。

…あと、この部屋について付け足す情報はアレか。

 

コトダマゲット!【プレイルームのルール】

 

ここで得られる情報はこのくらいかな。

そういえば、トイレの方はどうなってるんだ?

 

 

ートイレー

 

「神城、玉木。お前らの方はどうだった?」

「…チッ、モノクマファイルには嘘は無かったよ。やっぱり死因は撲殺だ。凶器は、おそらくこれだ。」

 

コトダマゲット!【血の付いた金属の玉】

 

「…ん?ちょっと待てよ?玉木の凶器って、確か砲丸じゃなかったか?」

「ああ、そうだな。でも、これは俺のヤツとは違うぞ。俺の凶器は、テニスボールくらいの大きさだったからな。」

…だったら違うと考えて良さそうだな。

この玉はボウリングの玉くらいの大きさだしな。

「でも、ちょっと変なんだよな…」

「何がだ?」

「いや、リタの証言通り、アイツが小川が死んだ後に駆けつけたとしたら、小川は10分間1人でここにいたって事になるんだ。だったら、どうやって犯人は小川を殺したんだろうなって思ってよ。」

「…そっか。俺たちは、小川の死亡推定時刻には、プレイルームの前にいたもんな。」

「だったら、玉が勝手にが小川を襲ったって事か?」

「超能力じゃないんだから…あ、でもこれって金属の玉だよな?だったら磁石とか使えば…」

「はっ、バカかテメェらは!!」

神城が割り込んできた。

「磁石で引き付けられるって事は、その玉の材質が鉄じゃなきゃなんねえんだよ!…見ろ!」

神城は磁石を取り出して玉に近づけてみた。

だが、何も起こらなかった。

「な?これでわかったろ?この玉の材質は鉄じゃねえから、磁石を使って殺すのは無理なんだよ!」

「…確かに。」

「っていうか、なんでお前は磁石なんか持ってるんだ。」

「…ああ、神城が、確かめたい事があるからっつって売店まで走ってったんだよ。その時に売店から持ってったんじゃねえの?」

「玉木、その間ちゃんと小川の事は見てたか?」

「おう、バッチリだ。」

…なるほどな。

磁石説は消滅か…

だったら、やっぱりリタが嘘をついていて、アイツが小川を殺したのか…?

いや、まだ決めつけるべきじゃない。

他の可能性を探すしかないな。

「…ん?」

トイレの壁に何かが貼り付けてあった。

見たところ、何かの機械のようだ。

「…なんだこれ?」

俺は、その機械のスイッチを入れてみた。

だが、何も起こらなかった。

「…何もない、か。」

「にゃあああああああああああ!!!」

アリスがドタドタとトイレの中に駆け込んできた。

「ちょっと!誰この音鳴らしてんの!!めっちゃ気持ち悪い!今すぐやめて!!」

…音?もしかして、この機械か?

「あ、悪い。」

機械のスイッチを切った。

「あー、やっと止まった。サトにい!よくもあーちゃんにキショク悪い音聞かせたな!?ケツの穴にスイカ詰まらせて死ね!!」

「ごめんってば。わざとじゃないんだよ。」

…やっぱり、この機械が原因か。

でも俺には全然変な音なんて聞こえなかったぞ?

アリスにしか聞こえてないのか?

 

コトダマゲット!【トイレの機械】

 

コトダマゲット!【変な音】

 

「…なるほどな。…ん?」

小川のピン留めが外れている。

近くを探してみたら、床にピンが落ちていた。

「…ここに落ちてたのか。」

大事な証拠かもしれない。

悪い、小川。裁判が終わったら必ず返すから、ちょっとだけ借りるぞ。

俺は、ピン留めを回収した。

 

コトダマゲット!【ピン留め】

 

…あとは…

「ん?」

ここのトイレの天井だけ、照明が無いな…

道理で少し暗いわけだ。

ちょっと高すぎて調べられないな…

そうだ、便座に乗って見てみよう。

「よいしょっと。」

「論さん!大丈夫ですか?」

「床前、ちょっと黙っててくれ。真面目に捜査してるんだ。」

「…はぁい。」

ここに何か重要な手がかりがあるかもしれない。

「!?」

俺が持っていた小川のピン留めが、天井に貼り付いた。

「…これ、もしかして…」

 

コトダマゲット!【トイレの天井】

 

「…よいしょ。」

「論さん、大丈夫でしたか?」

「…いちいち話しかけてくんな。…ここで得られる情報はこのくらいかな…お前ら、事件当時は何してた?」

「俺はあーちゃんと一緒にクレーンゲームやってたな。」

「私は、VRのゲームで遊んでたよ。」

「…なるほどな。ありがとう。」

そろそろ別の場所の探査もしないとな…

 

 

ー1階 VRエリアー

 

「ここで神城は遊んでたっつってたな…」

俺は、VRエリアを調べてみた。

「あの、論さん。一応報告しておかなければならない事が。」

「…何だ。」

「実は、射場山さんの死亡時刻に、神城さんがここで遊んでいるところを小川さんが見たそうです。…話しかけても返事をしなかったから、よっぽど集中しているのだと思い、邪魔をしては悪いと思い姿だけを確認して上のフロアに上がった、と言っていました。」

「…それ、いつ聞いたんだ?」

「私達がゲームをしている最中ですね。小川さんが教えてくれました。尤も、論さんはゲームに集中していて聞いていなかったようですが。」

「…お前、知ってたならなんで早く言わなかった。」

「だって、あんな下品な女の味方をするような発言をするなんて、不愉快なだけですし。」

…コイツ。

だが、小川が嘘をつく理由はないし…コイツの言ってる事が本当なら、神城には犯行は無理だな。

 

コトダマゲット!【小川の証言】

 

…ここにはもう調べられる事はないか。

「…ん?窓が開いてる…?」

…一応外も調べておくか。

 

 

ーカジノ裏ー

 

外には、大きな排水溝があった。

「…流石に深すぎて中を調べるのは無理そうだな。…ん?」

排水溝の縁に、金色の細い糸のようなものが絡まっていた。

「これは…?」

「髪の毛…と思いましたが、微妙に違いますね。人工的なもののようです。」

「…一応回収しておくか。」

 

コトダマゲット!【排水溝の糸】

 

ここにはもう調べられる事は無さそうだ。

他の場所の調査に行こう。

 

 

ーカジノ入り口ー

 

入り口には、アリスとリタがいた。

「あっ、サトにい!!さっきはよくもあーちゃんに気持ち悪い音聞かせたな!?冷凍みかんに頭ぶつけて死ね!!」

「論さんに向かってその口の利き方はなんですか。あなたこそ四肢を捥がれて死んでください。」

「…やめろ。…お前らにもちょっと聞きたい事があんだよ。」

「ふわぁ、なんですかぁ。」

「リタ、アリス。お前らの方も調査は順調か?」

「…ふわぁ。はぁい。」

「バッチシだよー!!」

「なあ、アリス。」

「ほぇ?何?」

「お前、カジノのパーティーの準備に来てた奴全員わかるか?」

「うーんっとねえ、確か、あーちゃん、カツにい、ムズにい、シオねえ、ユミねえ、クレねえ、エカイラちゃんの7人だったよ!」

「リタ、床前。お前らは手伝わなかったのか?」

「ふわぁ…眠かったので。」

「皆さん、私と口を聞いてくださらなかったので。嫌になって、部屋に逃げちゃいました。」

「そういう菊池はどうなんですかぁ。」

「…俺は、射場山に手伝うなって釘刺された。」

「…ふわぁ。なるほどぉ。」

 

コトダマゲット!【パーティー準備のメンバー】

 

「射場山って、その時プレイルームに入ったりしたか?」

「してたよー!あーちゃん見てたもんねッ!!確か、クレねえとシオねえも一緒に入ってたよ!!」

 

コトダマゲット!【プレイルームに入った射場山】

 

「射場山の奴がドリンクバーに行ったのっていつだっけ?」

「えーっとね、確かシボージコクの3分前くらいだったんじゃないかな?」

…行く途中か帰る途中に殺されたって事か。

 

コトダマゲット!【ドリンクバー】

 

…でも、待てよ?

あの射場山が、簡単に殺されるか?

…いや、アイツの弱点をつけばできるかもしれない。

アイツの、絶対に人に知られたくなかった弱点…

 

コトダマゲット!【射場山の弱点】

 

「お前は、その時はクレーンゲームで遊んでたんだよな?」

「そだよー!!エカイラちゃんがね、でっかいチンアナゴを取ってくれたの!!」

「…ああ、そう。それは良かったな。」

コイツから聞き出せる情報はこのくらいかな…

あとは、リタに話を聞いてみよう。

「おい、リタ。」

「ふわぁあ…なんですかぁあ…」

「お前からも報告する事はあるか?」

「ふわぁ…えっとぉ、売店の砲丸が1個減ってましたぁ。…僕が調べたのはそれだけですぅ。」

 

コトダマゲット!【売店の砲丸】

 

あとは…

「お前、射場山の死亡時刻には、部屋で寝てたんだよな?」

「ふわぁ…そうですよぉ…」

…なるほどな。

「一応確認だけど、射場山の死亡時刻の前後にプレイルームに入ったりはしてないよな?」

「…ふわぁ、そもそも、プレイルームってなんなんですかぁ。」

「…は?」

「僕、そんな部屋があるの知りませんでしたぁ。場所を知ったのだってさっきですよぉ。」

「それ、本当かよ。」

「ふわぁい。小川の様子を見に行ったのだって、プレイルームの場所を聞こうと思ったからですぅ。…まさか、トイレの中で死んでるなんて思ってませんでしたけどぉ…」

「小川さんの様子を見に行き、そこで小川さんの死体を見たにも関わらず私達が駆けつける間まで誰かを呼ぶ事もなくそこでただ見てたって事ですか?ますます怪しいですね。」

「ふわぁ…ごめんなしゃい…腰が抜けちゃって、声も出なくて…何もできませんでしたぁ…」

「そんなの、信用できると思ってるんですか?あなたはいいですよね。すぐに『寝ちゃってた』の一言でごまかせるんですから。」

「ごまかしてなんかないですぅ…僕は、本当に眠くなっちゃうんですぅ…」

「おい、やめろ床前。時間がないんだ。今は捜査に集中しろ。リタが犯人かどうかは、学級裁判ではっきりさせればいいだろ。」

「えぇ、でも論さん!殺人犯候補を問い詰めるチャンスなんですよ!」

「…聞こえなかったのか?」

「…はあい、論さんがそこまで言うならやめます。」

…コイツ、やっぱりすごく疲れるな。

 

コトダマゲット!【リタの証言】

 

…あとは、全員分のアリバイをまとめておこう。

 

コトダマゲット!【全員分のアリバイ】

 

『オマエラ、時間切れです!ついにこの時がやってきました!お待ちかねの学級裁判、始めるよ〜!5分以内に、ホテル一階の赤い扉まで集合してね〜!』

「あら、もう時間切れですか。行きましょう論さん。」

「邪魔だ。くっつくな。」

「論さんてば、ツンデレなんですね!」

「デレてねえし。…もう置いてくぞ。」

「あ、待ってください論さん!」

俺は、赤い扉に向かった。

 

 

ー赤い扉前ー

 

扉の前では、既に玉木と神城が待機していた。

俺と床前が到着した後、残りの4人が来た。

全員がエレベーターに乗り込み、エレベーターの籠が動いた。

…ただでさえ広々としたエレベーターが、余計に広く感じる。

たった2週間で、仲間を半分も失ってしまった。

正直、不安と恐怖で押し潰されそうだ。

だが、俺達はもう立ち止まれない。

なんとしてでも、クロを暴き出す…

それが、俺が2人にしてやれる最初で最後の罪滅ぼし…そして、2人の命を弄んだ奴にしてやれる唯一の反撃なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

『ここで、皆様にクイヂュのお時間でちゅ。この中で、射場山様と小川様を殺害ちた犯人は誰だと思いまちゅか?』

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の???』アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

『超高校級の死神』伏木野エカイラ

 

 

 

『…ちょうでちゅか。…ではでは、答え合わちぇは、またの機会に。』

 




コロナで世界中が大パニックの中、『金属の玉』というワードが一瞬金玉に見えて爆笑していた作者は爆死すべきですな。


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第4章 非日常編②(学級裁判前編)

エレベーターが止まり、扉が開いた。

全員が裁判場に到着し、証言台の前に立つ。

そして、赤くバツ印が書かれた遺影が3枚増えていた。

満面の笑みを浮かべる猫西と小川、そして無表情の射場山の遺影だった。

「…。」

「お二人が、どうしてこんな事に…」

「…小川、射場山…」

ほぼ全員が、3人の遺影から目を逸らした。

「壮観ですね。」

床前を除いて。

「テメェ!!」

「あら、怖いですよ玉木さん。私に怒りの矛先を向けている場合ですか?」

床前が、誰もいない豪華なイスの方に目をやると…

 

『おや?わかってくれるかい床前サン!さすがはボク達のスパイだね!』

『ぴきゃきゃ!皆様、今回も大いに期待ちてまちゅよ!』

目障りな二匹が現れた。

「テメェら…!」

『うわっ!玉木クンこっわ!あんまり反抗的な態度取るとおしおきするよ!?』

「…チッ。」

『ぴきゃきゃ、ちゃちゅがにここで暴動をおこちゅわけにはいかないでちゅよね?』

「…ずいぶんと楽しそうじゃない。ホントいい趣味してるわね。」

『うぷぷ、褒め言葉と受け取っておくよ。さてさてさーて、全員揃った事だし、始めちゃおっか!ハラハラドキドキの学級裁判を!』

 


 

コトダマ一覧

 

 

 

【モノクマファイル①】

1人目の被害者は『超高校級の弓道部』射場山祐美。

死体発見現場は、南エリアにあるカジノの1階プレイルーム。

死亡推定時刻は22:56頃。

死因は、全身に大量の穴が開いた事による失血死。

身体中に無数の弾痕がある事から、死因は銃殺と思われる。

 

【モノクマファイル②】

2人目の被害者は『超高校級の演奏家』小川詩音。

死体発見現場は、南エリアにあるカジノの1階女子トイレ。

死亡推定時刻は00:35頃。

死因は、頭蓋骨陥没及び脳挫傷。

後頭部に、球状の物が衝突したと思われる打撲痕あり。

 

【プレイルームの血痕】

プレイルームの入り口付近にあった血痕。

乾き具合から、射場山の血と思われる。

 

【プレイルームの弾痕】

プレイルームの床や壁に弾痕があった。

 

【射場山の弾痕】

射場山の身体から100発以上の弾痕が発見された。

 

【アルコール】

射場山の体からアルコールが検出された。

 

【神城のデザート】

パーティー中に振る舞われた神城手作りのデザート。

見た目は完璧なのにクソ不味い。

 

【清掃時間】

プレイルームの清掃時間は、23時から0時の間の1時間。

その間は部屋にロックがかかり、中で部屋のリセットが行われる。

部屋の清掃は全てAIが管理しており、あまりにも部屋の損傷がひどいと完全にはリセットできないらしい。

 

【プレイルームの人形】

プレイルームに置かれていた、全員分の等身大の人形。

本人そっくりで、中には赤い液体が入っている。

 

【プレイルームのルール】

プレイルームに入れるのは、1日1回だけ。

2回以上入るとプレイルームに取り付けられたガトリングガンで蜂の巣にされる。

 

【血の付いた金属の玉】

女子トイレに落ちていた。

ボウリングの球程の大きさ。玉木の凶器とは別物。

 

【トイレの機械】

トイレの壁に取り付けられた機械。

スイッチでオンオフが切り替えられる。

 

【変な音】

機械から出る音らしい。

アリスと小川にだけ聞こえる。

 

【ピン留め】

小川のピン留め。

トイレに落ちていた。

 

【トイレの天井】

何故か、小川が死んでいた個室の上の天井だけ照明が無かった。

ピンを近づけると、ピンがくっついた。

 

【小川の証言】

神城は、事件当時VRで遊んでいたという。

話しかけても返事がなかったようだ。

 

【排水溝の糸】

排水溝の近くで見つけた。

白銀色に近い金色で、髪の毛に似ている。

 

【パーティー準備のメンバー】

パーティーの準備をしていたのは、アリス、玉木、ジェイムズ、小川、射場山、神城、エカイラの7人。

俺、床前、リタは参加していない。

 

【プレイルームに入った射場山】

パーティーの準備中に、射場山がプレイルームに入っている。

神城と小川も一緒だった。

 

【ドリンクバー】

射場山は、事件前にドリンクバーに行っていた。

おそらく、行きか帰りに殺されたと思われる。

 

【射場山の弱点】

俺のしおりに送られた弱み。

射場山は、左目がほとんど見えない。

 

【売店の砲丸】

売店から砲丸が一つ持ち出されていた。

 

【リタの証言】

リタは、プレイルームの存在を知らなかった。

女子トイレに向かう小川を追いかけたのは、プレイルームの場所を聞くため。

 

【全員分のアリバイ】

射場山が殺害された当時、俺と床前はゲームで遊んでいた。

小川は、俺達と一緒にいたが、一度1階に降りた。

アリス、玉木、エカイラの3人はクレーンゲームで、ジェイムズはリズムゲームで遊んでいた。

リタは、部屋で寝ていた。

神城は、VRゲームで遊んでいた。

小川が殺害された当時、リタ以外は全員プレイルームの前にいた。

 

 

 


 

 

 

学級裁判開廷

 

 

 

『じゃ、好きに議論を進めてくださーい!』

ジェイムズ「あの、少し宜しいですか?」

『ほえ?何?』

ジェイムズ「今回は被害者が2人ですが…その場合は、どうなるのでしょうか?」

『そうだったね、その説明を忘れてたよ!被害者が複数人の場合は、特別ルールがあります!もし1人でも当てられていないクロがいたらその時点で、最初の殺人のクロ以外は全員おしおき、逆にクロを全員当てられた場合は、最初の殺人のクロのみをおしおきします!』

ジェイムズ「最初の…つまり、射場山さんを殺した犯人はクロとして扱われ、小川さんを殺した犯人は私達と同じシロとして扱われる、という事ですか?」

『そういう事!じゃあ、頑張ってねー!』

玉木「クソッ、納得いかねえよ…!小川を殺した犯人がシロだと?ざけんな!!俺にとっちゃ、射場山を殺した奴も、小川を殺した奴も、ただの殺人犯だ!!」

菊池「玉木、今は感情に任せている場合じゃない。議論をするのが先決だ。まずは、事件の概要からだな。今回は誰がファイルを読み上げる?」

エカイラ「アタシがやるわ。1人目の被害者は『超高校級の弓道部』射場山祐美。死体発見現場は、南エリアにあるカジノの1階プレイルーム。死亡推定時刻は22:56頃。死因は、全身に大量の穴が開いた事による失血死。身体中に無数の弾痕がある事から、死因は銃殺と思われる。2人目の被害者は『超高校級の演奏家』小川詩音。死体発見現場は、南エリアにあるカジノの1階女子トイレ。死亡推定時刻は00:35頃。死因は、頭蓋骨陥没及び脳挫傷。後頭部に、球状の物が衝突したと思われる打撲痕あり。…こんなところかしら?」

菊池「じゃあ、まずは死因からかな…射場山の方から紐解いていこう。」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

リタ「ふわぁ…射場山は、どうやって殺されたんですかぁ。」

ジェイムズ「射場山さん…あんなに酷い殺し方をした犯人が許せません!」

アリス「ユミねえは血まみれだったし、刀でぶっ刺したとか?」

床前「だとしたら自動的に犯人が決まってしまいますけどね、アリスさん?」

アリス「ほえ?」

床前「アリスさん、日本刀を持っているのはあなただけですよ?」

アリス「にゃあああああ!?あ、あーちゃんは犯人さんじゃないよぉお!?」

おいおい…自分で自分の首絞めてどうすんだ。

 

【刀でぶっ刺した】←【モノクマファイル①】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「アリス、射場山の死因は銃殺だってモノクマファイルに書いてあるだろ。」

アリス「ほにゃ!ホントだ!見落としてた!あーちゃんうっかりさんだねー!」

床前「アホなんですかあなた。」

アリス「あーちゃんアホぢゃねーし!!」

菊池「キレんなキレんな。」

床前「論さん、おバカでうるさいアリスさんを黙らせてくださってありがとうございます。」

菊池「お前もお前だ、床前。挑発してる暇があったら議論に参加しろ。」

床前「…はあい。」

神城「おいテメェら!!私は天才的な大発見をしてしまったぞ!!」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

玉木「どうしたんだよ神城。」

神城「聞け!プレイルームには、拳銃が置いてあっただろ?」

菊池「そうだな。」

神城「銃殺って事は、アレが凶器に違いねえ!!」

アリス「ぬわんだとぉおおう!!?」

神城「無口は拳銃で殺された、これが神である私の答えだ!!」

リタ「ふわぁ…そんなに簡単に決めつけていいんですかぁ?」

神城「なんだテメェ!!私に逆らう気か!!」

待てよ?本当に射場山は拳銃で殺されたのか?

だとすると、少しおかしいんじゃないか?

 

【拳銃で殺された】←【射場山の弾痕】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「神城、射場山は拳銃で殺されたんじゃないと思うぞ。」

神城「はあああああああああああ!!?テメェ、愚民の分際で神に逆らう気か!!無口は拳銃で殺された、それ以外に考えられねえだろうがよ!!」

菊池「ジェイムズの検死結果をよく見てみろ。射場山の身体には、100発以上の弾痕があった。エカイラや床前ならともかく、俺達高校生が同じ人間を狙って100発も拳銃を撃つなんて、できるわけないだろ。」

エカイラ「アタシもそう思うわ。そんなに撃たなくても人は簡単に死ぬし、ただの弾の無駄遣いじゃない。拳銃で100発も撃つ理由がないわ。」

菊池「そういう事だ。そんなに弾を消費する理由が無いし、それだけ撃ってほとんどを命中させられるような腕も俺達には無い。」

神城「そ、それは…メチャクチャ近距離で撃ったのかも…」

菊池「だとしたら、射場山にその痕跡が残ってる筈だろ。ジェイムズ、そんな痕跡はあったか?」

ジェイムズ「いいえ。近距離で撃たれたような痕跡は見当たりませんでした。」

菊池「ほらな。やっぱり、凶器は拳銃じゃないんだよ。」

神城「うっ…」

リタ「ふわぁ…だとしたら、凶器はなんなんですかぁ…」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

アリス「ロケットランチャーだよきっと!」

エカイラ「そんなのブッ放ったら部屋丸ごと焼け野原よ。」

玉木「ガトリングガンとかじゃねえか?」

リタ「ショットガン…とかではないですよねぇ。」

ジェイムズ「一発撃った時点で身体に風穴が開きますよ。」

 

【ガトリングガン】←【プレイルームの弾痕】

 

「その意見、賛成だ!!」

 

同意

 

菊池「…凶器は、ガトリングガンじゃないか?それなら、壁や床に弾痕があったのも説明がつく。」

リタ「射場山は、ガトリングで蜂の巣にされたって事ですかぁ?」

ジェイムズ「物騒ですね…」

エカイラ「でも、ガトリングガンで撃つなんてそんなダイタンな事、どうやってやったの?」

玉木「確かに…普通、そんな事できねえよな…」

確かに、普通に考えればガトリングガンを使って射場山を殺す事は不可能だ。

でも、アレを利用すればできるかもしれない。

 

コトダマ提示!

 

【プレイルームのルール】

 

「これだ!!」

 

菊池「射場山は、犯人に直接殺されたというより、処刑されたんじゃないか?」

ジェイムズ「と、申しますと?」

菊池「プレイルームには、1日1回しか入れないというルールがあった。2回目にはガトリングガンが発砲されるらしい。」

リタ「なんですかその物騒なシステムはぁ…」

アリス「マッタクだよ!クマちゃんとハムちゃんはホントアタマオカピーナッツだね!」

玉木「それで、そのルールがどうしたんだ?」

菊池「おそらく、射場山は2回プレイルームに入ってしまったから、処刑されたんだ。」

ジェイムズ「そんな…」

エカイラ「自身満々に言ってるけど、ウラは取れてるの?」

菊池「ああ、その事なら、ちゃんとウラはとったよ。」

 

コトダマ提示!

 

【プレイルームに入った射場山】

 

「これだ!!」

 

菊池「射場山は、パーティーの準備の時に一度プレイルームに入っている。その時、神城と小川が一緒だったらしい。」

エカイラ「アラ、そうなの?」

神城「ああ、そうだよ。無口と騒音と一緒に、プレイルームに入ったんだ。まさか、あんな悪趣味なゲームが用意されているとは思わなかったけどな。」

リタ「悪趣味なゲーム、ですかぁ?」

リタは、プレイルームの事を知らないんだったな。

菊池「中には、俺達を模した人形と、拳銃があったんだ。拳銃で人形を撃つっていうゲームらしい。」

リタ「ふわぁ…そうですかぁ…」

玉木「なあ、神城。お前らはなんでプレイルームに入ったんだ?」

神城「パーティーの準備で、調べてない部屋があったら不都合があると思ったんだよ!!…クソッ、こんな事になるなら入らなきゃ良かった!」

エカイラ「…まあ、まさか後で人が死ぬ事になるだなんて思わないわよね…」

 

反論

 

「へいちょいまち!!」

 

 

 

 

アリス「あのさー、まだユミねえがプレイルームでおしおきされて蜂の巣にされたとは言い切れないんじゃないの?」

菊池「どういう意味だ?」

アリス「そのまんまの意味だよ!もしかしたら、誰かが本当にガトリングをブッ放ったのかもしんねーぢゃん!!500那由多歩譲ってリゾート地に最初からセッチされてたガトリングがユミねえの体を蜂の巣にしたとしてもだよ?なんでユミねえが他界他界しちゃったのがプレイルームだってわかんの?ガトリングなら、コーイシツにだってあるじゃん!それがわかるのって、もしかしてサトにいが犯人だからじゃないのかーっ!!?」

床前「アリスさん、論さんに向かってその口の利き方はなんですか。あなたがその気なら、私にも考えがあるんですよ。」

菊池「…やめろ床前。話がこじれる。」

だが、アリスの発言にはおかしな点があったな。

 

コトダマ提示!

 

【プレイルームの血痕】

 

「その愚論、切らせてもらう!!」

 

菊池「アリス。やはり、射場山が殺されたのはプレイルームで間違いない。」

アリス「なんでー!?」

菊池「プレイルームに血痕が残っていた。床の色が似てるからわかりにくいが、一箇所に広がるように汚れができている。…それって、そこで射場山が死んだって事だよな?」

アリス「なるぅー。」

床前「少しは頭使ってくださいよ。」

アリス「うっさいぞナギねえ!!」

ジェイムズ「まあまあ…成程、射場山さんの死因は、ガトリングガンによる射殺ですか。では、そろそろ小川さんの死因についても議論しませんか?」

菊池「そうだな。小川の死因についても解き明かさないとな。」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

ジェイムズ「小川さんは女子トイレで亡くなっていたのですよね?」

菊池「そうだな。モノクマファイルに書いてある。」

アリス「ベンピこじらせて死んじゃったとか?」

神城「はっはっは!!これが本当のクソ女ってか!!!」

床前「アリスさん、神城さん。これ以上調子乗ると、私怒りますよ。」

神城「じょ、冗談だろうがよぉお…」

リタ「ふわぁあ…あのー…トイレで死んだって事は、やっぱり溺死なんじゃないですかぁ?」

玉木「溺死?」

リタ「便器に顔突っ込まれてゴボゴボって…」

エカイラ「…最悪の死に方じゃないのそれ。」

アリス「ばっちいー!!」

神城「はっはっは!!!クソ女はトイレに流しちまえってか!!」

床前「…。」

神城「ひぃいぃい…!」

今のリタの発言は明らかにおかしい!!

 

コトダマ提示!

 

【溺死】←【モノクマファイル②】

 

「それは違うぞ!!」

 

菊池「リタ、小川の死因は脳挫傷だ。溺死じゃない。」

リタ「ほえぇ…」

菊池「モノクマファイルに書いてあっただろ。神城が検視した結果、嘘は無かったようだしな。」

リタ「ふわぁ…そうですかぁ。」

神城「ケッ、ファイルの中身くらい確認しとけよ居眠り!!」

床前「アリスさんと一緒になって調子に乗っていたあなたが言っていいセリフではないですよね?神城さん。」

神城「テメェ、愚民の分際で私に逆らう気か!!」

玉木「お前ら、ケンカなら後でやれ。」

床前「私に命令しないでください。」

菊池「ああもう、めんどくせぇな!お前はしばらく黙ってろ床前!」

床前「…はぁい。」

エカイラ「死因もわかった事だし、次は凶器の特定かしらねー。」

菊池「…そうだな。次は凶器を特定しよう。」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

アリス「ロケットランチャーだよきっと!」

エカイラ「アンタ、ロケットランチャー好きなのね。」

神城「砲丸に決まってんだろ!!」

リタ「ふわあ…金属バットとかじゃないですかぁ?」

床前「そもそも形状が違うじゃないですか。」

玉木「照明が落ちてきたとか…」

ジェイムズ「だとしたら、電球か蛍光灯の破片などが散らばっている筈ですが…」

アイツの意見が正しそうだな。

 

【砲丸】←【血の付いた金属の玉】

 

「その意見、賛成だ!!」

 

同意

 

菊池「女子トイレに、金属の玉が落ちていた。おそらく、それが凶器だ。」

ジェイムズ「き、金属の玉ですか…?」

アリス「にゃはは!これがホントのキンタマってね!」

神城「フンッ、残念だが私が見たやつは銀色だったぞ。」

アリス「じゃあギンタマだね!」

玉木「お前ら、ふざけてないで真面目にやれ。」

アリス「わかったアル。」

エカイラ「まだ引きずってんじゃないの。反省の色が見られないわよ。」

ジェイムズ「それで、その金属の玉が小川さんの後頭部に衝突して、小川さんは絶命したと…」

菊池「…そうなるな。」

エカイラ「アラ?カツトシちゃんの凶器って、砲丸だったわよね?だったら、カツトシちゃんが…」

玉木「俺じゃねえよ!俺の凶器は、テニスボールくらいの大きさしかねえよ!…ほら!」

玉木は、自分の凶器を取り出して見せた。

エカイラ「…アンタ、なんでそんなの持ち歩いてんのよ。」

玉木「どうせ疑われるだろうと思って、捜査時間終了の5分前に部屋に戻って取ってきたんだよ。」

ジェイムズ「確かに、玉木さんの凶器はここにありますね。菊池さん、凶器となった金属球の大きさは?」

菊池「ボウリングの球くらいの大きさだ。」

ジェイムズ「でしたら、今回の凶器と玉木さんの凶器が同一である可能性は0と言っていいでしょう。」

エカイラ「じゃあ、凶器はどっから持ってきたのよ。」

菊池「それについては、心当たりがある。」

アレが役に立つはずだ。提示してみよう。

 

コトダマ提示!

 

【売店の砲丸】

 

「これだ!!」

 

菊池「リタが売店を調べてくれていた。リタの調査によると、売店の砲丸が一個足りなかったらしい。」

アリス「つまり?」

菊池「犯人は、売店から砲丸を持ち出して、その砲丸で小川を殺したんじゃないかって事だよ。」

ジェイムズ「成程…凶器の出処は判明しましたね。次は、何について議論しましょうか?」

床前「そうですね…とりあえず、犯人の候補を挙げられるだけ挙げてみませんか?」

玉木「お前が仕切んな。」

エカイラ「そうねえ。でもこれ以上やる事も無いし…アタシは賛成よ。容疑者を絞ってみましょう。」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

ジェイムズ「射場山さんを殺害した犯人はさておき、小川さんを殺害した犯人なら、ある程度は絞れそうですね。」

アリス「そーなの!?」

ジェイムズ「はい。小川さんは女子トイレで亡くなっていたわけですから、私達男性は犯人候補から除外できるかと。…あ、エカイラちゃんさんは微妙ですが。」

エカイラ「ジェイムズちゃん、アンタそれどういう意味よ!」

ジェイムズ「だって、エカイラちゃんさんはオk…オネエじゃないですか。」

エカイラ「アンタ今オカマって言おうとしたわね!?いくらアタシでも、さすがに女子トイレに入ったりなんかしないわよ!」

神城「お前の場合、そのボーダーラインがわかんねえから言ってんだろうが!!」

リタ「ふわぁ…でも、犯人が女子だと思わせるためのワナかも…」

床前「そうですね。まだ犯人を女性と決めつけるのは危険です。男性だって、女子トイレに入って小川さんを殺害する事は可能です。」

ジェイムズ「私は、そんなモラルの無い事しませんよ!」

床前「そんなの、一体誰が信用するんです?」

ジェイムズ「うっ…」

玉木「そうだな…みんな混乱してるし、とりあえず今は射場山が殺された時の全員のアリバイを確認しないか?」

菊池「それに賛成だ。」

玉木「菊池、全員分のアリバイはまとめてくれてあるな?」

菊池「もちろん。」

 

コトダマ提示!

 

【全員分のアリバイ】

 

「これだ!!」

 

菊池「俺の調べた限りだと、俺と床前は一緒にゲームをしてて、同じフロアでジェイムズがリズムゲームを、アリスと玉木とエカイラがクレーンゲームをしていた。小川はカジノ内のみんなの様子を見回ってて、神城は1階でVRゲームしていて、リタは部屋で寝ていたらしい。以上だ。」

玉木「同じフロアにいて、全員お互いに姿を見ている6人には犯行は無理だな…」

アリス「にゃぱぱー!アリバイが無いのは、クレねえとリタねえだね!」

床前「お二人のうちどちらかが射場山さんを殺害したと…」

神城「はぁああああ!?おいテメェコラ!!愚民の分際でこの私を愚弄する気か!!このサイコ女!!」

床前「あなたにだけは言われたくないです。」

エカイラ「そうよ。ハッキリ言ってアンタめちゃくちゃ怪しいわよ。」

神城「なんだよぉ…!テメェら、だ、誰に向かってそんな口を…!」

菊池「ちょっと待ってくれ、まだ神城が犯人だと決めつけるのは早いぞ。」

エカイラ「…なんですって?」

菊池「その時間帯、別の場所で誰かが神城の姿を見ていたとしたら…?」

エカイラ「何が言いたいのよアンタ。」

 

コトダマ提示!

 

【小川の証言】

 

「これだ!!」

 

菊池「実は犯行時刻に、小川が神城の姿を見ていたんだ。VRで遊んでいたところを、ちゃんと確認したらしい。」

神城「ほらな!!私は犯人じゃねえっつてんだろうがよ!!テメェら、さっきはよくも神である私を愚弄してくれたな!?天罰が下るぞ!!」

床前「うるさいですよあなた。いい加減自重するという事を覚えたらどうです?」

神城「サイコ女テメェコラ!!テメェだけは絶対許さねえからな!!神の鉄槌を喰らわせてやる!!」

床前「あら。何です?その生意気な態度は。小川さんの証言を論さんに教えて差し上げたのは私ですよ?むしろ、私に感謝するべきなんじゃないですか?」

神城「うっせえんだよクソブス垂れ乳基地外女が!!」

菊池「おい、落ち着けって…と、とにかく、神城は無実だって事だ。」

ジェイムズ「成程…仮にそれが本当に小川さんによる証言なら、神城さんのアリバイを証明できますね。彼女にわざわざ神城さんを庇う理由がありませんから。」

神城「テメェどういう意味だコラァ!!」

アリス「あれれ?クレねえにアリバイがあるんだったら、犯人さんがわかっちゃったよ?」

リタ「ふわぁあ…本当ですかぁ…?」

アリス「サトにいがゆった人の中で、1人だけアリバイがない人がいるはずだよー!」

…それって。

アイツしかいないだろうな。

 

 

 

人物指定

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の???』アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

『超高校級の死神』伏木野エカイラ

 

 

 

菊池「…お前だ、リタ。」

リタ「ふわぁあ…僕ですかぁあ?」

菊池「お前は、部屋で寝ていたと言っていたな。でも、誰もそれを見ていない。アリバイが証明できないのは、リタ。お前だけなんだ。」

リタ「ふわぁああ…僕は、部屋で寝てたって言ってるじゃないですかぁ…僕は射場山を殺したりなんかしてないですぅ…」

床前「それだけではありません。…あなた、小川さんが殺された時も、どこにいるのかわかりませんでしたよね?…射場山さんだけではなくて、小川さんも殺したんじゃないんですか?」

リタ「違いますぅ…僕は、その時は小川を追いかけてて…様子がおかしいと思ったから、覗いてみたら小川が死んでて…僕は、何も知らないですぅ…」

床前「そんな信憑性のない証言、誰が信用するんです?嘘をつくなら、もっとマシな嘘をついてください。」

リタ「嘘じゃないですぅ…僕は、本当の事を言ってるだけですよぉお…」

床前「それと、なぜ小川さんを追いかけていたんですか?」

リタ「それは…」

床前「…ああ、失礼しました。聞いた私がバカでしたね。」

 

 

 

 

 

床前「…そんなの、小川さんを殺害するために決まっていますのに。

 

リタ「ーーーーーーーーッ!!!」

アリス「うっわぁ…リタねえ、2人も殺したの?サイアクじゃん…」

神城「マジかよ…コイツ、脱力系キャラかと思わせといて、実はサイコキャラだったのかよ…!」

エカイラ「あらあら。人は見かけによらないって、まさにこの事ね。」

リタ「違う…違いますぅ…ぼっ…僕じゃないですぅ…!」

床前「あら、泣いちゃいましたか。でもね、アンカーソンさん。泣けば誰かが味方してくれるほど、世の中甘くないんですよ。現に、あなたを庇う人なんて誰一人としていないでしょう?」

リタ「ひっく…ぐすっ、えぐっ…ぼ、僕は…ほ、本当に、何も、し、知らないんですっ…だ、誰か…し、信じて…ください…!」

床前「無駄ですよ。もう誰も、あなたの言葉なんて信用しません。…だから、そろそろ自分が犯人だと認めてください。」

リタ「やだ…やだ、やだぁ…!…僕は、犯人じゃない…!!」

 

 

 

床前「…チェックメイト。アンカーソンさん、あなたの負けです♡」

リタ「違う…僕じゃない…!う、うわぁああああぁああああん!!」

 

神城「ケッ、とうとう泣き喚きやがった。見苦しいんだよテメェ!!」

アリス「あーあ、もうリタねえがまっくろくろすけで決まりだね!!」

『おやあ?そろそろ答えは出たようですね?』

正直、今一番怪しいのはリタだ。

…でも、本当にこれでいいのか?

まだ、見落としてる事があるんじゃないか…?

 

『ではでは、投票ターーー…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Hold on(待ってください)‼︎!」

 

 

ジェイムズは、証言台を両手で叩いて言った。

 

 

ジェイムズ「It is too early to make a decision (決断を下すにはまだ早い)‼︎」

 

 

 

学級裁判中断



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第4章 非日常編③(学級裁判後編)

ぴきゃきゃ!前回までのあらちゅじでちゅ!

なんと、射場山様と小川様が何者かに殺害ちゃれちゃいまちた!

いやあ、物騒でちゅね!

ちょれで、操作時間の後、学級裁判が始まったのでちゅ!

ハラハラドキドキの展開でちゅね!!

ちょの学級裁判で、なんとアンカーソン様にクロの容疑がかかってちまったのでちゅ!

泣き喚くアンカーソン様、ちょちてちょれを煽る床前様!

クロがアンカーソン様に決まりかけたその時!!

クロの投票に待ったをかけた方がいらっちゃったのでちゅ!

ちょの方は、カークランド様でちた!

学級裁判は、一体どうなってちまうのでちょうか!?







ジェイムズ「It is too early to make a decision (決断を下すにはまだ早い)‼︎」

 

菊池「ジェイムズ…!?」

ジェイムズ「…あっ、いえ…その…まだ、決断を下すには早いのではないでしょうか…?」

エカイラ「わざわざ言い直さなくても、アタシ達そこまで英語疎くないわよ。…で?決断を下すのは早いってどういう事よ?」

ジェイムズ「うまく言えないのですが…彼女は、悪い方ではないと思うのです。」

床前「どんな根拠があってそんな事を仰るんです?」

ジェイムズ「根拠はありませんが…私は、どうしてもアンカーソンさんの事を疑えません。彼女がそんな事をする方ではないのは、おそらく私が一番よく知っています。」

リタ「ジェイムズ…!」

床前「あら、カークランドさん。前回の裁判では彼女に犯人扱いされたのに、よく彼女を信用できますね。」

ジェイムズ「前回は前回、今回は今回です!私は、何があろうとアンカーソンさんの事を信じます!!」

玉木「俺もだ、ジェイムズ!俺達は仲間だ!!俺はリタを信じるぞ!!」

菊池「リタが真犯人かどうかは、まだ議論をする価値があるはずだ。俺も、ジェイムズと玉木に賛成だ。」

リタ「ジェイムズ、玉木、菊池…!」

エカイラ「アラ、どうしようかしらん?意見が分かれちゃったわねえ。」

『うぷぷぷぷ!呼ばれて出てきてなんとやら!意見が分かれた時は、ボク達の出番だよ!あポチッとな』

モノクマがボタンを押すと、証言台が移動した。

対立するように、席が並ぶ。

『さてさてさーて、じゃあ好きなだけ話しあってね!』

 

 

 

意見対立

 

議論スクラム

 

 

 

リタ・アンカーソンは犯人か?

 

『犯人だ!』アリス、エカイラ、神城、床前

『犯人じゃない!』菊池、玉木、ジェイムズ、リタ

 

 

アリス「犯人はリタねえできっまりー!!」

リタ「僕は犯人じゃないですぅ…!」

エカイラ「リタちゃんには、アリバイが無いじゃない!」

玉木「アリバイなら、菊池が説明してただろ!!」

神城「ケッ、往生際が悪りいんだよテメェら!!居眠りが犯人以外あり得ねえだろうが!!」

ジェイムズ「アンカーソンさんが犯人ではない可能性も十分にあり得ます!!」

床前「そこまで言うからには、証拠があるんでしょうね?」

菊池「証拠ならあるぞ!!」

 

コトダマ提示!

 

【証拠】←【リタの証言】

 

「これだ!!」

 

「「「「これが『俺達』『私達』『僕達』の答え『だ』『です』『ですぅ』!!!」」」」

 

菊池「リタには、射場山を殺す事は不可能だったんだ。」

アリス「ぬわんだとぉおおおう!!?」

菊池「ああ。なぜなら、リタは()()()()()()()()()()()()()()()()んだからな!!」

エカイラ「プレイルームの存在を知らなかったですって…!?」

菊池「ああ。その証拠に、プレイルームの行き方がわからなくて小川に聞こうとして、小川を追いかけてたみたいだからな。」

 

反論

 

「あの、少々よろしいですか?」

 

 

 

 

床前「それって、アンカーソンさん本人の証言ですよね?だったら、何も信用できないじゃないですか。」

菊池「なんだと…!?」

床前「知らなかったなんて、そんなの嘘をつこうと思えば誰だって嘘をつけます。」

菊池「けど、アイツが証言をした時、嘘をついているとは思えなかったし…仮にリタが犯人だったとして、すぐにアナウンスされた場所に向かわなかったら犯人だって疑われんのは明らかなのに、すぐにプレイルームに向かわずに小川を追いかけたのは不自然だろ?」

床前「それすらも、私達にそう思わせるために罠かもしれません。」

リタ「ふわぁ…自分で言うのはなんですけど、ボクそこまで頭良くないですよぉ…」

床前「あなたの意見は聞いていません、アンカーソンさん。…どうせ、パーティーの準備中にプレイルームを調べでもしたんでしょう?」

今の床前の発言はおかしい!

 

コトダマ提示!

 

【パーティー準備のメンバー】

 

「その愚論、切らせてもらう!!」

 

菊池「床前、リタはそもそもパーティーの準備を手伝っていなかったんだ。プレイルームを調べられるわけないだろ。」

床前「あ、あー…言われてみればそうでした、はい!」

床前は、わざとらしく納得したようなそぶりを見せた。

菊池「…お前、まさかとは思うが、リタが犯人じゃない事を知ってて責めてたんじゃないだろうな?」

床前「そうですけど?」

菊池「…は!?」

床前「アンカーソンさんみたいな、頭が軽い上に運動音痴な人が、射場山さんを殺せるわけないじゃないですか。最初からわかっていましたよそんな事は。」

ジェイムズ「だったら、何故アンカーソンさんを問い詰めたんですか!!床前さん、一歩間違えば貴女も死ぬかも知れなかったのですよ!?」

床前「だって、どうしてもアンカーソンさんが目障りだったんですもの。あくびばっかりして、人をバカにしたような態度が鼻につくんですよ。ですから、少しオイタをして差し上げたまでです。」

玉木「オイタってレベルじゃねえよ!!無実のリタを殺人犯扱いしやがって…頭おかしいだろお前!!」

リタ「ふわぁ…床前、君だけは絶対許さないですぅ…!」

床前「あら、お二人共、そんな的外れな事仰っている場合ですか?」

どの口が言うか。

ジェイムズ「的外れですって!?巫山戯るのもいい加減にしてください!!貴女の所為で、アンカーソンさんは…」

床前「そんな事どうでもいいじゃないですか。私を責めたところで、時間の無駄です。そんな事より、真犯人を探し出して吊るすべきですよね?」

菊池「みんな、ものすごく腹立つが、床前が正しい。一刻も早く真犯人を見つけ出すぞ。」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

菊池「まず、射場山が殺された時の状況からかな。」

ジェイムズ「そうですね…」

神城「ハンッ!無口の事なんざ知るかよ!!」

エカイラ「それじゃあ裁判にならないわよ。」

アリス「誰か、ユミねえが殺される前どこにいたのかとか、知ってればいいんだけどねー。」

アイツが殺された時の状況、か。

アレを提示してみるか。

 

コトダマ提示!

 

【ドリンクバー】

 

「これだ!!」

 

菊池「射場山は、殺される前ドリンクバーにいたらしい。」

ジェイムズ「成程…行きか帰りにプレイルームで殺されてしまった、という事ですね。…射場山さん…あの時、私が気付いていれば…」

アリス「あのさー、ちょっとギモンだったんだけどさー。」

エカイラ「どうしたの?」

アリス「ユミねえが死んだのって、夜の11時前じゃん?」

リタ「それがどうしたんですかぁ…?」

アリス「みんながユミねえの死体を見たのって、夜の12時過ぎぐらいじゃん。1時間経つまで、なんで誰も気付かなかったの?」

リタ「ふわぁ…確かに…」

床前「あら、アリスさん。頭悪いのに、よくそんな事に気が付きましたね。」

菊池「…床前。少し黙れ。」

床前「…はぁい。」

アリスの発言が気になるな。

1時間以上も誰も気付かなかった理由…

それは…

 

コトダマ提示!

 

【清掃時間】

 

「これだ!!」

 

菊池「射場山が殺されたのは、プレイルームの清掃時間の直前だったんだ。清掃時間中は部屋にロックがかかって、一切出入りできなくなるんだ。」

ジェイムズ「成程…まさか、清掃中の部屋に射場山さんが…しかも、ご遺体となって入っているとは誰も思いませんからね。」

菊池「ついでに言えば、清掃時間後は、部屋の中がリセットされる。犯人の痕跡が全く見つからなかったのは、そのせいだ。…流石に、血痕や弾痕までは消せなかったようだがな。」

神城「フン、なるほどな。」

エカイラ「でも、犯人はどうやってユミちゃんを殺したのかしらねえ。」

アリス「ほにゃ?エカイラちゃん、それどゆいみ?」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

エカイラ「だってユミちゃんは、『超高校級の弓道部』よ?反射神経や身体能力は高いはずだし、犯人がカツトシちゃんかアタシじゃない限り、気付かれずに殺すなんてムリなんじゃナイ?」

ジェイムズ「確かに…彼女を暗殺するのは至難の技です。何か、弱点を突かない限りは…」

俺は知っている。

アイツが、絶対に人に言いたくなかった弱点を。

…すまん、射場山。真相を解き明かすためだ、言わせてもらうぞ!!

 

コトダマ提示!

 

【射場山の弱点】

 

「これだ!!」

 

菊池「みんな、射場山の第3の動機を見た奴は知ってると思うが、射場山は片目の視力が無かったんだ。」

アリス「な、なんですとぉおおう!!?」

菊池「そこを突けば、射場山を暗殺する事は不可能じゃない。」

ジェイムズ「ひ、卑怯ですね…」

エカイラ「って事は、犯人はユミちゃんの弱みを知ってたのね。」

菊池「そうなるな。」

アリス「だったら、全員のしおりを見ればわかるんじゃ…」

玉木「いや、誰かが射場山の秘密を喋っちまってる可能性もあるし、しおりを確認したところであんまり意味はねえよな?」

神城「アイツの秘密なんてどうでもいいっつーの!!んな事より、話題変えろ!いつまでもその事をうだうだ言っててもなんもわかんねえだろ!!」

菊池「一理あるな。」

リタ「じゃあ、僕が気になった事言っていいですかぁ?」

玉木「なんだ、リタ?」

リタ「仮に、犯人が射場山の弱点を突いたとして、本当に射場山はそれで簡単に殺されるんでしょうかぁ。」

…確かに俺の予告なしの攻撃も、あっさり躱して逆に俺が投げられたしな。

犯人はどんな手を使ったんだ?

 

 

 

議論開始!

 

 

 

アリス「ロケットランチャーだよ!」

エカイラ「アンタ、言いたいだけでしょ!」

ジェイムズ「麻酔銃とかはどうでしょうか?」

床前「そんな物を扱える人、いるわけないでしょう。」

リタ「ふわぁ… 感覚を鈍らせる薬を盛ったとかでしょうかねぇ…」

近そうなのが出たぞ…!

 

【感覚を鈍らせる薬を盛った】←【アルコール】

 

「その意見、賛成だ!!」

 

同意

 

菊池「エカイラの検視結果によると、射場山の体からアルコールが検出されたらしい。おそらく、犯人は射場山にアルコールを盛って動きを鈍らせたんだ。」

ジェイムズ「…それだけではありません!アルコールには体温を上げて発汗を促進させる効果や利尿作用があるため、摂取すると体内の水分を失いやすいんです。その為、摂取した後は身体が水分を必要とします。犯人は、それを利用して射場山さんがドリンクバーに行くように誘導したんです!」

玉木「つまり、犯人は射場山をドリンクバーに誘導するのと、動きを鈍らせるためにアルコールを盛ったのかよ!?」

エカイラ「でも、そんな事できる子いたかしらねえ。」

 

菊池「…1人だけ、心当たりがある。」

 

…そう、こんな事をできる奴は1人しかいない…!

 

 

 

人物指定

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の???』アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

『超高校級の死神』伏木野エカイラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

菊池「…お前が犯人だったんだな、神城。」

神城「…ん?私?」

神城は、俺に指名されて少し驚いたような顔をしていた。

そして、その顔が少しずつ青白くなっていく。

 

 

 

神城「はぁああああああああああああああああああああ!!!?」

神城は、血相を変えて俺に怒鳴ってきた。

神城「この私が、無口を殺しただと!?冗談も休み休み言え!!」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

神城「神であるこの私が無口を殺しただと!?ふざけるな!!なんで私が犯人だって言えんだよ!?テメェの妄想には根拠が無えんだよ!!」

 

【根拠が無え】←【神城のデザート】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「神城。お前、全員にデザートを作って配っていたよな?」

神城「それがどうしたんだよ!!?」

菊池「俺達は、売店から持ってきたスナック菓子をその場で開けて食べた。それにアルコールを盛るなんて事は不可能だ。…だが唯一、お前の作ったデザートになら、アルコールを盛れるよな!?…お前は天才外科医なんだろ?アルコールを盛って射場山の動きを封じる事くらい、造作もないはずだ!!」

神城「うるせぇんだよテメェコラ!!ンなモン、根拠になってねえんだよヴァーーーーーカ!!!大体よぉ、テメェ肝心な事忘れてんぞ!!」

菊池「肝心な事?」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

神城「私には、アリバイがあるんだよ!!騒音が私の事を見てたっつってただろ!!?私は、無口が死んだ時VRゲームで遊んでたんだよ!!これでテメェの愚論は崩れたな!!これが神の証明だ!!ふはははははははははは!!!」

 

【アリバイがある】←【プレイルームの人形】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「神城。確かに、小川の証言は嘘じゃない。小川は、VRで遊ぶお前の姿を見たはずだ。」

神城「そうだ!!私は、VRで遊んでいた!!だから私には無口を殺せねえっつってんだろうがよ!!」

菊池「…でもそれが、見間違いだったとしたら…?」

神城「…はぁ?」

菊池「お前は、プレイルームから人形を盗み、人形にVRゴーグルをつけて、あたかもお前がVRで遊んでいるように見せかけたんだ!!小川が見たのは、お前じゃなくてお前そっくりの等身大の人形だったんだよ!」

エカイラ「ゴーグルを装着していれば、顔が見えないからバレるリスクを減らせるものね。それに、盗んだ人形もすぐにリセットされるから、怪しまれる事もないわね。でもサトシちゃん、アタシ達は捜査中そんなものを見なかったわよ?等身大の人形なんて大きな物を、どうやって処分したのかしら?」

それは…

 

 

 

 

 

神城が人形を処分した方法は?

A.【排水溝に落とした】

B.【ワープ】

C.【隠し部屋の中に隠した】

D.【トイレに流した】

 

 

 

A.【排水溝に落とした】

 

「これだ!!」

 

菊池「神城、お前は自分の人形をカジノ裏の排水溝に落として処分したんだ。違うか!?」

神城「はぁあああ!!?証拠はあんのか証拠はァ!!」

 

コトダマ提示!

 

【排水溝の糸】

 

「これだ!!」

 

菊池「排水溝の付近で、白金色の糸のような物を見つけた。髪の毛かと思ったが、どうやら人工物らしい。…これ、お前の人形の髪の毛だろ。」

神城「クッ…!」

菊池「これが出てきたって事は、お前が犯人だって認めてくれるな!!?」

神城「…ふ。」

 

神城「ふふっ、ふははっ…はーっははははははははははははははは!!!」

神城は、突然ケタケタと笑い始めた。

玉木「何がおかしい!!」

神城「おい、モb…菊池論!!ゴミクズの分際でよくここまで辿り着いたな!!実に素晴らしい!!エクセレントだ!!」

ジェイムズ「な、なんなのですか貴女は…!」

菊池「…その態度は、自分が犯人だって認めたって事でいいんだな?」

神城「ああそうだ!!私が、むく…射場山祐美をブチ殺したんだよ!!アルコールで動きを鈍らせた後、プレイルームの中に突き飛ばして蜂の巣にしてやったよ!!」

ジェイムズ「貴女、おかしいですよ!自分が犯人だって認めたら、おしおきされるんですよ!?」

神城「はぁああ?んなモン、わかってて言ってんに決まってんだろヴァーーーーーーーーーカ!!」

ジェイムズ「…は?」

神城「貴様、この裁判の重要なルールを忘れてんじゃねえのか?1人でも特定されていないクロがいたら、その時点で射場山祐美を殺したクロの勝ちなんだよ!!つまり、騒音を…小川詩音を殺した犯人がまだわかっていない以上、私が勝つのは絶対なんだよ!!残念だったな、砂利共!!ここで無様に散るがいい!!貴様らの死に様を、神である私が見届けてやるぞ!!ありがたく思え!!ふははははははは!!!」

ジェイムズ「もう1人のクロを特定しない限り、生き残れるのは神城さんだけ…どうすれば…!もう時間がありません!もう1人のクロを探すのは無理です!」

アリス「ってか、クロ!早く名乗り出ろよ!!お前、死んじゃってもいいのかー!?」

床前「…誰も名乗り出ませんね。」

エカイラ「…詰み、ね。」

リタ「嫌ですぅ…僕、こんな所で死にたくないですぅ…!」

菊池「みんな、諦めちゃダメだ!!」

玉木「菊池…!」

菊池「俺は、絶対に諦めない。もう1人のクロを特定して、絶対に生き残ってやる!!」

玉木「…ああ、そうだな。もう1人のクロを探すぞ!!」

神城「…フン、愚民に見つけられるわけないだろ。」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

菊池「まず、小川が殺された時の事件現場の状態から整理していこうか。」

ジェイムズ「小川さんがトイレに行った時、アンカーソンさん以外の方は全員プレイルーム前にいました。」

アリス「じゃあ、リタねえが犯人だね!」

リタ「僕じゃないですぅ…僕は、小川にプレイルームの場所を聞きたかっただけですよぉお…」

菊池「アリス、重要なのはそこじゃない。…なんで、犯人は小川が女子トイレに来る事を知っていたのかだ。」

エカイラ「何かでおびき寄せたとか…?」

菊池「…それに賛成だ。」

 

コトダマ提示!

 

【変な音】

 

「これだ!!」

 

菊池「小川とアリスが聞いた変な音…犯人は、これで小川をおびき寄せたんだ!!」

玉木「確かに、プレイルームにいた時、小川とアリスがなんか変な音がするみたいな事言ってたな。」

アリス「うん!!ヒコーキ乗ってる時、耳がキーンってなるじゃん!あれが大音量で響いてた感じ!」

ジェイムズ「…超音波。」

菊池「…え?」

ジェイムズ「おそらく、犯人が使ったのは超音波です。超音波は殆どの人間には聞こえない周波数の高い音ですが、ごく稀に超音波が聞こえる方がいらっしゃるそうです。小川さんの聴力は超人的ですし、おそらく聞こえていても不思議ではないかと…」

玉木「犯人は、それを知ってて超音波で小川をおびき寄せたって事か…」

エカイラ「…自分の才能が命取りになるなんて、皮肉な話ね。」

ジェイムズ「唯一の救いは、アリスさんにも超音波が聞こえていた事でしょうか…」

玉木「だよな。そんなの、あーちゃんが証言してくれなかったら絶対わかんなかったよな。ありがとなあーちゃん。」

アリス「えっへん!!」

エカイラ「でもその超音波って、どうやって流したの?」

それは…

 

コトダマ提示!

 

【トイレの機械】

 

「これだ!!」

 

菊池「小川が死んでいたトイレの個室の壁に、変な機械が取り付けられていた。おそらく、それが音源だ。」

床前「変な機械、ですか。…で?論さん。犯人は、どうやって小川さんを殺したんですか?」

菊池「それはだな…」

おそらく、犯人はアレを使って小川を殺したんだ。

俺にはわかっている…

さあ、観念しろ殺人犯!!

 

 

 

閃きアナグラム

 

 

 

 

 

頭の中に、言葉の断片が浮かび上がる。

それを、素早く拾って組み合わせ…完成させる!!

 

「これだ!!」

 

 

デ ン ジ シ ャ ク

 

【電磁石】

 

菊池「犯人は、電磁石を使って小川を殺したんだ!!」

アリス「にゃあああああああああ!!?」

菊池「これは俺の推測だが…おそらくあの機械は、超音波のオンオフを切り替えると同時に、電磁石のオンオフを切り替える機能もあったんだ。小川は、音源の機械のスイッチを自分で切ってしまい、電磁石のスイッチが切れて砲丸が頭の上に落ちてきたんだ。」

エカイラ「なるほどねー。」

…あれ?

ちょっと待てよ…?

だとすると、犯人が分かったかもしれないぞ?

おそらく、アイツしかあり得ない。

 

 

 

人物指定

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の???』アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

『超高校級の死神』伏木野エカイラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

菊池「…神城。お前、小川も殺したんだろ?」

神城「は…?」

菊池「お前が犯人としか考えられないんだ。認めてくれ。」

神城「はぁああああああああぁああああああああああああああああああ!!?」

さっきまで余裕ぶっていた神城の顔が、真っ青になった。

 

 

 

議論開始!

 

 

 

神城「ふざけんなよ愚民風情が!!神である私にそんな口を叩いていいと思ってんのか!?大体よぉ、何の根拠があってそんな事言ってんだよ!!テメェの妄言はもう聞き飽きたんだよ!!」

菊池「お前は、捜査中におかしな発言をしていたな?」

神城「はぁ!?何がだよ!?」

菊池「あの砲丸は、材質が鉄じゃないから磁石にはくっつかないって…」

神城「それがどうしたんだよ!!」

菊池「あれ、嘘だろ。お前が用意したのは、磁石でもなんでもなかったんだ。」

 

反論

 

「うっせぇんだよクソが!!!」

 

 

 

 

神城「テメェはどこまでバカなんだよ!!私は、あの場でお前のトリックが成立しないのを証明してみせただろ!?」

菊池「それ自体が、俺達に勘違いさせるための罠だったんだ!!」

神城「うるせぇ!!さっきから自分の言いたい事ばっかり言いやがってよ…ふざけんじゃねえぞ凡愚が!!そんなに言うなら証拠を出せ証拠を!!」

証拠…

俺は、コイツの暴論を切り崩す証拠を持っている。

観念しろ神城!!

 

コトダマ提示!

 

【ピン留め】【トイレの天井】

 

「その愚論、切らせてもらう!!」

 

菊池「なあ神城。やっぱり、お前が殺人犯である事には変わりないんだよ。」

神城「…あぁ?」

菊池「小川のピン留めが、天井にくっついたんだ。これって、天井に磁石が仕掛けられてるって事だよな!?」

神城「はぁああああああ!?ざけんじゃねえよ!!んなモン、テメェが勝手にでっち上げたんだろ!!」

菊池「…強い磁場に晒された鉄は、磁力を帯びる。…何が言いたいかわかるな?」

神城「…は?」

菊池「俺が持ってる小川のピン留めと、ここにある砲丸がくっつけばお前の犯行を証明できるって事だよ!!」

神城「させるかぁあああああああああああ!!!」

神城は、メスで俺に襲いかかってきた。

床前「えいっ!!」

床前は、自分のしおりを神城の左手目掛けて投げつけた。

しおりが当たった弾みで、神城はメスを落とす。

床前「イェ〜イ、ナイスコントロール♪」

神城「なっ…テメェ…!」

床前「ダメじゃないですか、神城さん。裁判場にそんな物騒な物を持ち込んでは。…それに今、論さんを殺そうとしましたよね?あなたに論さんを殺させる前に、私があなたを殺します。」

神城「テメェ、邪魔してんじゃねえよメンヘラ女が!!」

床前「論さん、今です!!」

菊池「…ああ、見ろ!みんな!!」

神城「やめろぉおおおおおおおおおお!!!」

俺は、砲丸にピン留めを近づけた。

すると…

 

 

 

「…あ!!!」

 

 

 

俺の読み通り、ピン留めは砲丸にくっついた。

ジェイムズ「ピン留めがくっついたって事は、菊池さんの推理が正しかったのですね!」

菊池「そういう事だ。…神城、お前の負けだ!!」

神城「あ…ああああ…」

菊池「…神城、俺が引導を渡してやる。」

神城「いやだ、やめろ…やめてくれ…やめてください!!」

菊池「これが事件の真相だ!!」

神城「いや…いやだ…!言うな…言うなぁああああああ!!!」

 

 

 

クライマックス推理

 

 

 

 

 

頭の中に、漫画が浮かび上がる。

そこに、ジグソーパズルのように適切なピースを当てはめ…

これが事件の真相だ!!

 

 

 

 

 

 

Act.1

まず、今回の事件のきっかけは、俺達の『夢』だった。

それを見せられて1人、殺人を計画していた奴がいたんだ。

そいつこそ、今回の事件の犯人だった。

犯人は、パーティーの準備中に射場山と小川をプレイルームに誘い、プレイルームに足を踏み入らせた。

そして、2人が先にプレイルームを出た後、自分の人形を盗んでおいたんだ。

プレイルームの人形はすぐに追加されるから、怪しまれる事なく人形を盗み出す事に成功した。

 

 

Act.2

次に犯人は、小川殺しの準備をした。

天井に強力な電磁石を、壁に超音波の発生と電磁石のスイッチを兼ねた装置を取り付けて、鉄球を天井にくっつけておいたんだ。

その時に、時間になれば超音波が流れるように設定しておけば、準備は完璧だ。

こうして犯人が下準備を整えた後、パーティーが始まった。

 

Act.3

パーティーが始まると、犯人はデザートを振る舞った。

怪しまれないように、全員にな。

だが、射場山のデザートにだけ、アルコールが盛られていたんだ。

こうする事で、射場山の動きを封じ、射場山をドリンクバーに誘導するのが犯人の目的だったんだ。

デザートを配り終えた後は、1階のVRエリアに人形を仕掛け、プレイルームの近くの物陰に隠れた。

 

Act.4

デザートを食べた射場山は、犯人の思惑通りドリンクバーに向かってしまった。

ドリンクバーに行こうとした射場山を、犯人は思いっきりプレイルームの中に突き飛ばしたんだ。

射場山は、左目が見えないせいと、アルコールのせいもあって、咄嗟に反応できずにプレイルームの中に入ってしまった。

そして、ここで悲劇が起こった。

2回目にプレイルームに入った射場山は、部屋に仕掛けられたガトリングガンで撃たれてしまったんだ。

その直後、プレイルームの清掃が始まり、射場山はプレイルームの中に閉じ込められた。

 

Act.5

そして同時刻、小川がVRルームを見に来た。

その時小川が見たのは、犯人そっくりの人形だったんだ。

そして1時間が経ち、プレイルームの清掃時間が終わった。

その時は午前0時を過ぎていたから、犯人はプレイルームに入る事ができた。

犯人は射場山の死体を椅子にセットして、的当てゲーム中に殺されたように偽装した。

 

Act.6

その後犯人はVRルームに向かい、窓から外にある排水溝に人形を落とした。

しかし、ここで痛恨のミスを犯してしまうんだ。

犯人は、自分の人形の髪の毛を排水溝の外に残してしまった。

その事に気付かなかった犯人は、VRゴーグルを装着し、ずっとVRで遊んでいたかのように見せかけた。

そして、射場山の姿が見えない事を不審がった小川が、犯人を呼びに来た。

犯人は何食わぬ顔でプレイルームに向かい、射場山の死を目撃した。

…今思えば、犯人が死体を見ているにもかかわらず、プレイルームの中に入ろうとしなかったのは、既に一度入っていて、もうプレイルームに入れなかったからなんだな。

 

Act.7

アナウンスで全員がプレイルームに向かい、全員が射場山の死体を発見した頃、予めトイレにセットしてあった装置の超音波が大音量で流れ始めた。

その音を聞いた小川は、すぐに音源である女子トイレに向かった。

それが犯人による罠だとも知らずにな。

…だが、ここで犯人にとっての誤算が生じてしまっていたんだ。

なんと、超音波はアリスにも聞こえていたんだ。

それが決定打となって、俺達は犯人を特定できたんだが…

 

Act.8

トイレに向かった小川は、音源である装置のスイッチを切った。

だが、その装置は、天井に仕掛けられた電磁石のスイッチでもあったんだ。

小川がスイッチを切った事で電磁石のスイッチが切れ、犯人の計算通り、くっついていた鉄球が落ちた。

その鉄球が勢いよく小川の後頭部に激突し、小川は死んでしまったんだ。

その数分後、小川を追いかけていたリタが小川の死体を発見してしまった。

そして小川が落としたピン…これが、犯人のトリックを証明する重要な鍵となったんだ。

 

 

 

「これが事件の真相だ。…そうだろ?」

 

 

 

『超高校級の外科医』神城黒羽!!!

 

 

 

神城「いやだ…私は、私は…いや…いやだ…こんなところで、終わりたくない…」

神城は、いつもの高圧的な態度とは打って変わって、か細い声を上げて泣き崩れた。

そこにはもう、『超高校級の外科医』神城黒羽の面影は無かった。

床前「あーあ、案外あっけないですね。もう少し楽しませてくれると思ってたのに…ねえ?神城さん?」

神城「あ…ああああああ…」

床前「って、聞いていませんね。」

モノクマ『うぷぷぷ!どうやら、答えは決まったようですね?ではでは、投票ターイム!!』

モノハム『必ぢゅ、一人二票投票してくだちゃいね!』

俺は、二票とも神城に投票した。

 

 

 

モノクマ『うぷぷ…ではでは、結果発表ー!!!』

モノハム『皆様の運命はいかに!?』

 

目の前に巨大なスロットマシーンが現れ、俺たちの顔を模したドット絵が回転する。

回転速度は徐々に遅くなっていき、ついに止まった。

そこには、神城のドット絵が三つ並んでいた。

もう一度ドット絵が回転する。

回転が止まると、また神城のドット絵が三つ並んだ。

スロットマシーンにGuiltyの文字が浮かび上がり、ファンファーレのような機械音が鳴り響く。

スロットマシーンからは、大量のモノクマメダルが吐き出された。

 

…俺達の命懸けの学級裁判が、今終わった。

 

 

 

学級裁判閉廷







今気付いたんですけど、論リゾのクロってみんな年齢の割に図体デカいんすよね。
意外性のカケラもないってゆー。
まあ、ダンロンって原作もデカい奴ばっかだからしゃーない。
(論リゾの男子の平均身長計算したら驚異の182.4cm オランダ人かよwww)

今回の裁判は被害者が2人だった事もあり、かなり長引きました。
神城ちゃんは、1章執筆してる時から絶対クロにしたろって思ってました。
女王様気質で下ネタばっかり言ってて見るからに男遊び激しそうな彼女ですが、実は深窓の令嬢という設定です。男遊び?した事ありませんよそんな事。彼女が下ネタばっかり言ってるのは、テレビの影響です。ちょうど、エロ本拾って喜んでる男子小学生と同じようなメンタリティかと。クラスメイトに囲まれて、ちょっとはっちゃけちゃったかな?

実は、彼女は中学時代と高校時代で容姿がかなり変わったキャラなのですが、中学時代の彼女の立ち絵は後ほど出します。


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第4章 非日常編④(おしおき編)

『うぷぷぷ…お見事大正解ー!!『超高校級の弓道部』射場山祐美サンと『超高校級の演奏家』小川詩音サンをブチ殺した殺意MAXのイカレ基地外クレイジーサイコパスシリアルキラーのクロはー…尊大不遜なドS女王様の皮を被った小心者、『超高校級の外科医』神城黒羽サンでしたー!!いやー、2人も殺すなんてまさにサイコキラーの鑑だね!!って、聴いてる?』

「…。」

神城は、泣き疲れたのか、抜け殻のようになってその場に座り込んでいた。

『ちなみになんでちゅけど、今回はクロの神城様以外、全員両方とも神城様に投票ちてまちた!ちょちてクロの神城様は、両方ともアンカーソン様に投票ちてまちた!!』

「そんな事より、早く教えてください!!何故神城さんが、射場山さんと小川さんを殺してしまったのか…」

『うぷぷ、やっぱそれ気になるよね!?じゃあ、裁判を乗り切ったオマエラには、特別に教えちゃいます!!なんでそこの雌ブタが2人を殺しちゃったのか…その答えは、ズバリ彼女の『夢』です!!』

「神城の…『夢』だと…?」

『ちょれではVTRチュタート!!』

モノハムがリモコンを押すと、モニターに映像が映し出される。

 

 

 


 

 

 

 

 

モニターには、上下に黄色と黒のバリアテープが貼られたような映像が映り、一昔前のファミコンのゲームのゲームオーバー時のような音楽が流れる。

そこへ、ヘルメットを被ったモノクマとモノハムが現れる。

 

 

 

『残念ながら、神城黒羽サンの、『夢』と呼べる欲望は何一つ見つかりませんでした!!』

『ぴっきゃっきゃ!まことにもうちわけごぢゃいまちぇーん!!』

 

 

 

 


 

 

 

 

映像はそこで終わっていた。

「…え、どういう事ですかぁ…?」

「『夢』が無いって、一体どういう事なんですか!?夢が無いなら、何故神城さんはお二人を殺害なさったんですか!?」

『うっぷぷぷ!わかってないねえ、オマエラ!!神城サンは、()()()()()()()()、二人を殺したんだよ!』

「わけわかんねぇよ!!何が言いてぇんだお前は!!」

『おっと、それ以上は本人から聞いた方が早いんじゃないかな?』

俺は、俯く神城におそるおそる声をかけた。

「こ、神城…?」

「くくく…ふははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」

神城は、突然狂ったように笑い始めた。

…追い詰められすぎて自棄になったのか?

「…そうだ。私が、あの愚鈍供をブチ殺した。」

「巫山戯ないでください!!貴女は、何故お二人を殺害なさったのですか!?お二人に恨みでもあったのですか!?答えてください神城さん!!」

ジェイムズは、証言台を叩きながら神城に怒鳴った。

「ふふっ、ここまで追い詰められると、人間逆に笑っちまうもんだな…理由は単純だ。」

 

 

 

 

 

「目障りだった。…だから殺した。それだけだが?」

 

「…は?」

 

「射場山祐美と小川詩音は、綿埃供が見せた『夢』という名の幻影に縛られたただの愚鈍な人形だった。『欲望』などという低次元の概念から逸脱し、神となった私にはそんなアイツらが目障りで、そして救いようもない程哀しくて堪らなかった!!だから愚か者達に神の鉄槌を喰らわせてやったのだ!!ふはははははははははははははははははははははははははははは!!!」

「頭おかしいですよ貴女…!」

「ふざけんな!!そんな理由で何の罪もない射場山と小川を殺したってのか!?神城!!テメェだけは絶対許さねえ!!」

「フン、許さないならどうする!?私を殺してみるか!?いや、そんな事貴様らにできるわけがないよな!?なぜなら、私は神で貴様らは愚民なのだからな!!勘違いするな、人の子が神を殺す事などできない…神が一方的に人を殺めるだけなんだよ!!ふははははははははははははははははは!!!」

「クッソ…!!」

 

 

 

「ふわぁああぁ…」

 

こんな状況で、あくびをする奴がいた。

ソイツは、リタ…ではなく、床前だった。

「…神城さん、いい加減くだらない茶番劇はやめて、白状してくださいよ。」

「…は?」

「私、知ってるんですよ?なんであなたがお二人を殺したのか、その本当の理由をね。」

「…おい、テメェ何言う気だ…?…やめろ、言うな…」

「ねえ、論さんも知りたいですよね?この女の、つい同情したくなっちゃうくらい哀れな本性を。」

「やめろ…言わないでくれ…それは…!」

「ああ、ちなみになんですけど、『それ』は3回目の殺人の前に配られた『弱み』も関係してるんです。幸い、彼女の弱みを知った人は誰も彼女に問い詰めたりはしなかったようなので、彼女も誰が自分の弱みを知っているのか知らないままだったんですけど…せっかくの機会ですし、暴露しちゃいます!」

「やめろ…やめてくれ…いやだ、やめてください…」

「嫌です。論さんが知りたがってるので、言わないわけにはいかないんですよ。」

「やめろっつってんだろうが雌豚がぁあああああああ!!!」

神城は、床前に突進した。

床前はあっさりかわし、神城を蹴り飛ばした。

「人の話はちゃんと最後まで聴きましょうね。…それでは、発表しちゃいまーす!!」

「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

 

 

 

【超高校級の外科医】神城黒羽サンの弱み

 

『超高校級の外科医』神城黒羽サンは、自分の人生に心底ウンザリしています!

 

 

 

 

 

「…え?」

「そうです、これが彼女の弱みです。…ご満足いただけましたか論さん?」

「どういう事だよこれは!?意味がわかんねぇよ!!」

『うぷぷ、そのまんまの意味だよ!』

「モノクマ…!」

『IQの低いオマエラのために、ちょっと昔話をしてあげるよ。』

「昔話…?」

 


 

…昔々、あるところに神城黒羽サンという、とある大富豪のお嬢様がいました!

神城サンは、とても頭のいい女の子でした!

神城サンの天才的な知性は、目覚ましい勢いで成長し、世界中のありとあらゆる研究機関が、彼女の才能を欲しがりました!

彼女の両親は、そんな彼女をそれはもう大事に大事に育てました!

…まあ、先にネタバレしちゃうと、それも全部自分の娘の才能が金になるからなんだけどね!

そして彼女の両親は、自分の娘の才能をより引き出すために、彼女の行動の一切を制限し、四六時中勉強漬けにしました!

彼女の人生においては、友達と遊んだり、同級生の男子と甘酸っぱい青春を過ごしたりなんて事は、絶対に許されませんでした!

そして神城サンが中学3年生になり、彼女の知能と知識量が国家試験を余裕で突破できるレベルにまで達した頃、彼女に転機が訪れました!

なんと、彼女に希望ヶ峰からのスカウトが来たのです!

それからは両親による呪縛がより一層勢いを増し、彼女は両親の奴隷と化してしまいました!

しかし、それは永くは続きませんでした!

なんと、神城サンの両親が、自家用ジェットの事故でお亡くなりになってしまいました!

神城サンは、自身を束縛するものがなくなったものの、今まで束縛された人生しか歩んでこなかったため、どうすれば自分の自由な人生を歩めるのかわからなかったのです!

そんな惨めな人生のせいで、彼女の人格は大きく歪んでしまいました!

最終的に神城サンは、自分より愚かな他人を見下す事でしか自分肯定感を保てない、実に哀れで空虚な人間になってしまいましたとさ!

でめたしでめたし!

 


 

『いやあ、自分じゃなくて親が主人公の人生なんてさ、ホントかわいそうだよね!それで自分が本当にやりたい事も見つからないまま死んじゃうなんて、そんな無意味な人生って無いよね!』

『全くでちゅ!神城様は、皆様に偉ちょうな口を叩いていたくちぇに、実は一番人間とちてのレベルが低かったのは神城様だったのでちゅ!』

「ああ…あああああ…」

「うふふ、これがこの女の醜く哀れな正体です。…本当、こんなゴミ女が論さんを罵っていたのかと思うと吐き気と殺意が堪えきれませんね。…ほら。ちゃんと現実見てくださいよ。クソ女さん♪」

床前は、余裕の表情で神城を煽りまくる。

だが、神城にはもう、いつものように怒鳴る気力も無いようだった。

「…神城、お前の気持ちは分からなくもないが、お前は二人を殺したんだ。ちゃんとその罪を償って…」

 

 

 

「うるっせぇんだよクソがぁあああああ!!!」

 

 

 

神城は、今まで聞いた事がないくらい大きな声量で怒鳴り散らした。

「何も知らねえくせに、偉そうな口聞いてんじゃねえよ童貞野郎が!!テメェらに何がわかんだよ!!射場山祐美と小川詩音は明らかに全知全能の神である私より劣っている、愚かで醜い存在のはずなのに…テメェらみたいな愚民共と馴れ合ったり夢なんてチンケなモンのためにエネルギーを浪費するようなカス共なのに…なのになのになのに…!!なんでアイツらは、私より楽しそうに生きてんだよ!!おかしいだろ!!?なんでアイツらより圧倒的に優れた才能を持つ私がこんなにも不幸なのに、なんで凡愚共が私より幸せに生きてんだよ!!どいつもこいつも、目障りなんだよテメェら全員!!!世界で一番幸せに生きていいのは、完璧なこの私だけなんだよ!!!」

「ふぅん、なるほどね。神城さん、よーくわかりましたよ?…あなたが、ただのかわいそうなクソガキだって事は。」

「…は。」

「だってそうでしょう?あなたは、自分が弱いからって人を見下して、なんでもかんでも人のせいにしてワガママばっかり言ってるだけじゃないですか。それって、要はただのお子ちゃまですよね?」

「だまれ…ちがう…わたしは…」

 

 

 

…ああ、なんだ。

コイツ、今まで俺達に横柄な態度を取ってたけど、実は俺達とは何ら変わらない…いや、むしろ俺達より遥かに弱い人間だったんだな。

射場山と小川を殺したのだって、決してあの二人が神城にとって取るに足らない存在だったからじゃない。

…ただの嫉妬だ。

自分が今まで禁じられてきた生き方で幸せを掴んだアイツらを見ていると、自分の存在意義そのものを否定されているように感じるから。

コイツはただ、夢に向かって真っ直ぐに生きたアイツらが羨ましかっただけなんだ。

俺はもう、コイツには怒りすら抱かなかった。

胸の内にあるのはただ一つ、哀れみだった。

 

「はぁ、ホントに笑っちゃうくらいカワイソウね、アンタ。」

「うるさい…うるさい、うるさい、うるさいぃいいぃいい!!だまれ、だまれ、だまれぇえええぇ…!わたしは、わたしは、かわいそうなんかじゃない!!」

神城は、泣きながら這いずり、小便を垂れ流しながら喚き散らした。

「あーあ、お漏らしですか?汚いですね。ホント、これじゃあまるで赤ちゃんみたいじゃないですか。」

「わたし、わるくないもん…!ぜんぶ、おとうさまとおかあさまがやれっていうからぁああ…」

「にゃははー!!クレねえ、赤ちゃん返り?引くわー!」

「…頼む、神城。もうやめてくれ。」

「ふわぁ…もう見てられないですぅ…」

「わたし、ちゃんといいこにできてたよねぇえ?みんながやれっていったからやったのに…なんでみんなわたしをいじめるのよぉお…!」

「…神城さん、今から働く無礼をお許しください。」

ジェイムズは、神城の前にしゃがみ込んだ。

 

ピシャッ

 

ジェイムズは、左手の手袋を外して神城の頬を叩いた。

「神城!!お前は、自分が犯した罪から逃げるつもりか!?…貴女の気持ちは、よく分かる。貴女がそんな風になってしまったのは、決して貴女のせいじゃない。たとえ他人に人生を捻じ曲げられたとしても、今からでも真っ当に生きれば明るい未来が待っていたかもしれない。…けどな、人を殺したら終わりなんだよ!!貴女に、二人の人生を奪った責任が取れるのか!?…もし貴女が手遅れになる前に心を入れ替えてくれていたなら、貴女も二人のように生きられたかもしれない。…そうならなかったのは非常に残念です。」

ジェイムズは、神城の肩を掴んで力強く言い放った。

「神城!!俺達、仲間だろ!?なんで何も相談してくれなかったんだよ!?…二人を殺してからじゃ、もう遅いだろ!!」

玉木も、神城を叱責した。

二人は、目から大粒の涙を流していた。

「え…いたい…いたい、いたい、いたい、いたいよぉおおぉお…うわぁああああああぁあああぁあああああぁあああん!!!なんでぇ…なんでみんなわたしをいじめるのぉお…?わたし、ちゃんといいこにしてたのにぃいいいぃ…!」

『神城サン、いい加減にしなよ。オマエは、自分の人生を自分で生きれていない時点でもう人間以下なんだよ!じゃあそろそろおしおき始めちゃうから、最期にみんなにお別れでも言っときな。』

「いやだ、いやだいやだいやだぁああああぁああああ…!!わたし、しぬの…?いやだ、わたししにたくないぃいいぃい…!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃいいいいいいぃいい!!いいこにしますから、どうかゆるしてください…なんでもしますから、なんでもしますからぁああああああ!!」

『うるさいよ!全く、泣けば済むと思ってるところが本当クソガキだよね!』

神城は、這いずりながら俺達の方に身体を向けた。

「みんな、いままでごめんなさいぃいいぃ…なんでもしますから、ちゃんといいこにしますから、だれかたすけてぇえええええぇえええええぇええええええええ!!!」

神城は、俺にしがみついてきた。

「…神城、見苦しいぞ。…頼むから、俺をこれ以上失望させないでくれ。」

「だ、そうですよ?一人寂しく地獄に堕ちてください、ゴミ女さん♡」

「あ、ああああああ…ああああ…」

神城は、今ので完全に人格が崩壊した。

そこにいるのは、ただの醜い廃人だった。

神城黒羽という人間はたった今死んだのだ。

 

『あーあ、かわいちょうに。皆様にも失望されちゃいまちたね。』

「あぁああ…いやだ…わたし、しぬのやだぁああ…」

『うるさいね全く!…ってかさ、自分の人生にウンザリしてるんでしょ?本当は、生きたいっていう欲すら無いんじゃないの?』

「あぁあああああ…わたしは…」

「神城さん、良かったですね。やっとあなたの本当の望みが叶うんです。」

床前が煽ると、神城は床前の証言台に駆け寄った。

そして証言台に爪を立て、頭を何度も叩きつけた。

「うあ゛ぁあああああああああ!!!み゛るなぁ、みる゛なぁ!!」

神城は、どこまでも見苦しかった。

額から血を流し、顔は涙と鼻水と涎で化粧が落ちてグシャグシャになり、爪は剥がれ、服は埃と小便で汚れていた。

美しかった薄紅色の瞳は濁り、白金色の髪は乱れていた。

『あーあ、汚いね全く!じゃあこれ以上神聖な裁判場を汚されんのは嫌だし、そろそろおしおきしちゃおっか。』

『ちょろちょろ時間も押ちてる事だち、張り切って行っちゃいまちょう!!』

『それでは、今回は『超高校級の外科医』神城黒羽サンのために!!』

 

「やめて…いやだ…みないで…おねがい…」

 

『スペシャルなおしおきを用意しましたっ!!』

 

「いやだ…わたしを…」

 

『ではでは、おしおきターイム!!』

 

「そん゛な゛めでみ゛な゛い゛でぇえええええええええええええええええええええええええええええええぇええええええええええええええええええ!!!」

 

モノクマの席の前から、赤いスイッチがせり上がってくる。

モノクマはピコピコハンマーを取り出し、ハンマーでスイッチをピコッと押す。

 

 

 

 

 


 

 

GAME OVER

 

コウジロさんがクロにきまりました。

 

オシオキをかいしします。

 

 

神城はなんとか逃げようと這いずり回った。

しかし、そんな事はモノクマ達が許さなかった。

神城はアームのようなもので首を掴まれ、後ろに引きずられた。

神城は、手術室のような部屋に引きずり込まれる。

手術室のドアが閉まり、上のモニターに『手術中』と表示される。

 

神城は、十字架のような手術台に寝かせられ、拘束具で固定される。

神城は、何かを叫びながら暴れるが、拘束具はびくともしない。

そして、腕には輸血と何かの薬のチューブが繋がれている。

そこへ、手術着を着たモノハムと、カ●ジに出てくる老人のような格好をした、車椅子に座ったモノクマが現れる。

そこで画面が切り替わり、タイトルが現れる。

 

 

 

外科医Kの献身

 

【超高校級の外科医】神城黒羽 処刑執行

 

 

 

会長モノクマは、早速脚の不調を訴える。

モノハムは、あたふたしながら手術台に駆け寄り、手術用のノコギリを取り出した。

モノハムは、ノコギリを使って神城の両脚を切り落とす。

神城は、耐えがたい苦痛に絶叫した。

次に会長モノクマは、腕の不調を訴えた。

モノハムは、神城の両腕を切り落とした。

四肢を失った神城は、声にならない叫び声を上げた。

次に会長モノクマは、目の不調を訴えた。

するとモノハムはノコギリを手放し、メスに持ち替えた。

神城は、怯え切った表情でモノハムを見る。

モノハムは狙いを定めると、神城の瞼にメスを突き立て、両眼をくり抜いた。

神城は、もう叫び声を上げる事すらままならなかった。

本来ならとっくに死んでいておかしくない出血量だったが、大量に繋がれた輸血と謎の薬品のせいで、神城は死ぬ事を許されなかった。

会長モノクマは、次々と身体の不調を訴える。

その度に、モノハムは神城の身体のパーツを切り離した。

そして、会長モノクマは、内蔵の不調を訴えた。

モノハムはメスで神城の身体を掻っ捌き、次々と臓器を取り出した。

そしてついに全ての臓器が取り出された。

手術台は真っ赤に染まり、そこには神城黒羽()()()肉塊が転がっていた。

それを見た会長モノクマは、腹を抱えて笑っていた。

 

 

 

 

 


 

 

『イヤッホォオオオオオオオオイ!!!エクストリィイイム!!!いやあ、たまんないね!!なんと神城サンは、ドS女王の皮を被った、惨めな厨二病のクソガキでしたー!!』

『ぴっきゃっきゃ、よく頑張りまちたね皆様!』

神城が死んだ。

あまりにも悲惨な最期だった。

俺は、モニターから目を逸らした。

「にゃああああああああああああああ!!!グッロ!!見たくなかったよこんなスプラッタ!!」

「くそっ…なんでこうなっちまうんだよ…チクショウ!!」

「…そんな…神城さん…!」

「うぅ…もうやだよ…こんなの…」

「えげつない事するわねえ、全く。」

「大丈夫ですか論さん?気分が優れないようなら、すぐに言ってくださいね。」

アリスは、証言台の後ろに隠れながら慌てふためいていた。

玉木は、仲間を3人も失った悔しさで証言台を叩いた。

ジェイムズは、顔を手で覆いながら泣いていた。

リタは、フードで顔を隠しながらその場に蹲って泣いた。

エカイラは、腕を組みながらおしおきの一部始終を見ていた。

床前は、こんな状況で俺の心配をしていた。

『いやあ、オマエラ本当によく頑張ったよね!そんなオマエラにはスロットのメダルをあげるのはもちろんの事、+αでご褒美をあげちゃいます!』

「ご褒美…どうせ、ロクでもねぇんだろ?」

『まーさか!オマエラにとっても、嬉しいものだと思う『ぢゅばり、黒幕からのメッチェーヂでちゅ!』

『ちょっと!何ネタバレしてくれてんだこの半分ウンコ色ハムスター!!』

『はわわわわ!!学園長、ひどいでちゅ!オイラのこの色は、ウンコ色じゃなくてキャラメル色でちゅ!』

『どっちでもいいよ!このポンコツ!』

『ごめんなちゃいぃ…』

『おっと、ゴメンゴメン!話が逸れたね。』

「黒幕…?もしかして、このコロシアイの首謀者…!?」

『そだよー。じゃあ、黒幕からのメッセージを特別にオマエラに聞かせてあげます!ではでは、VTRスタート!』

 

 

 


 

 

 

モニターに、椅子に座った黒ずくめの人物が座っていた。

黒ずくめは、黒い革ジャンに同じく黒い短パンを履いた格好をした人物だった。

ちょうど、以前写真で見たような格好だった。

ソイツは、首から下しかモニターに映っておらず、誰だかわからなかった。

黒ずくめは、モノクマの声で喋り始めた。

 

『うっぷっぷ!ご機嫌麗しゅうクソ共!ボクは、このコロシアイ合宿の黒幕ちゃんだよん♪そこにいる変態ストーカー女と一緒に、この合宿を裏で動かしていたのです!』

 

「テメェ、よくもみんなを…!」

「カツトシちゃん。無駄よ。これ、多分録画だわ。」

「くっ…」

『玉木クン、そんな悔しそうな顔しなくても、ボクはちゃんとキミが何を言いたいのかわかってるよー。でもさ、ボクを責めるのはお門違いなんじゃないの?』

「何…!?」

『まだわかんないの?ボクはきっかけを作ってあげただけで、勝手に殺しあったのはオマエラなんだよ!いい加減学習しなよノータリン。』

「な、何故録画なのに会話が成立しているんですか!?」

『ふんふん、いい質問だね!ボクは、オマエラの思考回路なんてお見通しだからね!予め返ってくる返答とそのタイミングを予想して、それに合わせて話してんだよ!』

「何その地味な高等技術。」

『さーてと、頑張ったオマエラには、特別にご褒美をあげちゃうよ!』

「…ご褒美、ですかぁあ?」

『うん、ズバリ、ボクの正体のヒントです!』

「貴方の…正体のヒント…!?」

『じゃあ問題!ボクの本名は何でしょうか?…正解は、』

 

 

 

 

 

嫌嶋(ヤジマ)隆尋(タカヒロ)でーす!』

 

 

 

 

 

「嫌嶋…隆尋…だと?」

「えぇえええええええええええ!!?ちょい待ち!!何その名前!!黒幕が新キャラとか、ミステリーのタブーでしょ!!」

『やだなあ、アリスサン!ボクは、ずっとオマエラと一緒にいたよ?』

「なんだと…!?」

『おや、菊池クン。心当たりが無いぞ、といった表情だね!ボクは、キミ達と一緒に合宿してたんだぞ!気付かなかったかい?』

「私達と一緒に…!?…って事は、私達の中にタカヒロさん、貴方がいるって事ですか!?」

『そうなるね。じゃあ、言いたい事も言い終わったし、ボクはこの辺で。…っと言いたいところなんだけどさ、オマエラに重要な情報を与えないといけないんだな!』

「重要な…情報…?」

『そうです、オマエラ、『超高校級の絶望』って知ってるかい?』

「…『超高校級の絶望』…?」

『まあ、知ってるわけないよね!『超高校級の絶望』は、江ノ島盾子を筆頭とする、世界を破滅まで追い込んだテロリスト集団だよ!ソイツらのせいで、キミ達はここで合宿生活を送る羽目になったわけ。キミ達の動機DVDに映ってたモノクママスク達って言えばわかるかな?』

「…なんだと…!?」

『さーてと、お喋りも過ぎちゃった事だし、そろそろボクはおいとましようかな!…あ、そうだ。エカイラクン、アリスサン。ちゃんと楽しんでくれてるかい?…キミ達兄妹のために用意したエンターテインメントは。』

「…は?」

『じゃあ、最後の裁判でまた会いましょう!それじゃ、ご機嫌ようクソ共!』

 

 

 


 

 

 

映像はそこで終わっていた。

ただでさえ神城が死んでまだ動揺してるっていうのに、さらに情報量が増えて頭が追いついていなかった。

『うっぷっぷ!オマエラ、本当によく頑張ったよね!じゃあプレゼントも渡し終えた事だし、ボク達はそろそろ失礼するよ!』

『ぴきゃきゃ!また会いまちょう、皆様!』

モノクマとモノハムは、混乱している俺達を置き去りにして去っていった。

「エカイラちゃんさん!!どういう事ですか今のは!!分かるように説明してください!!」

「フフフ…ウフフフフ…」

エカイラは、何故か笑っていた。

「エカイラちゃんさん!!何が可笑しいんですか!!巫山戯てないで真面目に答えてください!!」

「いや、今の映像見たら、欠けてた記憶が全部戻ってね。…アタシ、全部思い出しちゃったのよ。」

エカイラは、床前の元に歩み寄った。

そして床前の横に立ち、俺達に言った。

 

 

 

「…ごめんね。アタシ、元はこっち側の人間なのよ。」

「…は!?え、おい!どういう事だよエカイラ!!お前ら、最初からグルだったのか!?」

「そうよ?アタシ達は、最初から黒幕サイドの人間だったのよ。今まで騙しててごめんね?」

「…まあ、私はタカヒロさんから貰った映像を見たので知ってるんですけど、エカイラさんが味方だと、なんか不快ですね。」

「ひどいわナギサちゃん!!敵キャラ同士、仲良くしましょうよぉ!」

「嫌です。私、論さん以外の人間は基本的に受け付けない主義なので。」

「じゃあ、エカイラ…お前、ロッカーに閉じ込められてたのも全部作戦だったってのか!?」

「ええ、そうよ。全部、最初からタカヒロちゃんが仕込んだ事なの。全ては、アンタ達を絶望に堕とすためにね。」

「わ、わけわかんないですよぉお!君達は、なんで僕達にこんな酷い事をするんですか!!?」

「ああ、それね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アタシ達が、そしてアンタ達が『超高校級の絶望』だから。理由はこれで十分?」

 

 

 

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?

嘘だ。

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ

 

俺が、俺達が、親父とお袋を殺した奴等の仲間だと…?

そんなの,信じられるわけないだろ!

「うふふ、論さん、私達全員『超高校級の絶望』なんですよ?なんだか運命感じちゃいますよね!」

「全く、アタシ達が世界的なテロリスト集団の仲間だったなんて、ホントビックリくりくり栗きんとんよ!」

「嘘だろ…そんな、俺達が…『超高校級の絶望』…?」

「…そんな、嘘だ…僕が、お姉ちゃんを殺した奴らの…仲間…?」

「そんな馬鹿な話、私は信じません!!私が、お父様とお母様を殺した方達の同胞だったなんて、絶対嘘です!!」

 

「待てーーーーーーーーーい!!!」

 

アリスが、話に割り込んできた。

「みんな、さっきから『チョーコーコーキューのゼツボー』の話ばっかで、肝心なことを話し合うのを忘れてっぞ!!」

「…肝心な事?なんですかそれは…」

「あーちゃんとエカイラちゃんが兄妹ってどゆこと!?あーちゃん、エカイラちゃんみたいなオカマゴリラの妹に産まれたつもりはないんだけど!!」

「うふふ、アリスさん。つもりがあるもないも、ただの事実ですよ。あなた達は、生き別れの双子の兄妹なんです。…ああ、そうだ。せっかくですし、ついでにあなたに教えてあげます。あなた自身の正体をね。」

「ちょっと、ナギサちゃん!それ、今言う事じゃないでしょ!?」

「うるさいですエカイラさん。あなたは黙っててください。…まさか、今更兄貴としての情が芽生えたんですか?」

「アンタ、いい加減にしないと殺すわよ。」

「やれるものならやってみてくださいな。…では、皆さんにアリスさんの正体を教えて差し上げます。アリスさんのその幼児体型や前に配った弱み、そして何より彼女の才能に関係がある事ですので、聞いておく価値はあるんじゃないですか?」

アリスの正体だと…!?

「アリスさんの正体。…それは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『超高校級の失敗作』伏木野アリスです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第4章『独りんぼエンプティー』ー完ー

 

 

 

 

コロシアイ合宿生活残り7名

 

 

 

To be continued…






【論リゾこぼれ話】

いっやぁ、なんか今までで一番壮絶なおしおきシーンでしたね。
実は、このシーンは結構頑張って考えました。
『独りんぼエンプティー』というタイトルも、我ながらこの話にピッタリだったな、と思っております。
どういう事かと言いますと、神城ちゃんは、天才故に両親に束縛され、自分の人生を楽しめない人間になってしまいました。
この話は、(希望ヶ峰の中では)才能が劣っているなりに夢に向かって必死に努力した結果友情や幸せを手に入れた小川ちゃんと射場山ちゃんの人生と、圧倒的な才能を持つ故に幸せを掴む事が許されず、生きる意味も見つからないままおしおきされてしまった神城ちゃんの空っぽで孤独な人生の対比となっているわけです。

さてと、今回のおしおきの解説いっくよー!
今回のおしおきは、『献身』がテーマになっています。
このおしおきには、二つの意味があります。
今までの神城ちゃんは、すごくわがままなキャラでしたよね?
一つ目の意味は、自分の身体のパーツを失う事で合宿中の自分勝手な言動を償うという、わがままな彼女への罰です。
もう一つの意味に関してですが、神城ちゃんは両親が主人公の人生を生きてきました。結局、人が喜ぶ事をする事で、自分を『いい子』だと思う事しか出来なかったわけです。二つ目の意味は、実際には人のためにしか生きる事が出来なかった彼女の人生への皮肉です。

あと、余談ですが、彼女のおしおきに使われた手術台を十字架にしたのは、血で真っ赤に染まると赤い十字架、つまり赤十字になるからです。



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第4章 【未来のない天才】前編

タイトル元ネタ『名前のない怪物』です。

今更ですが、章タイトルはボカロ縛り、章毎の最終話タイトルはアニソン縛りです。

今回はかなり長いので、前編と後篇に分けました。


【射場山祐美編】

 

 

 

弓矢を構えて、狙いを定める。

いつもなら絶対に当てられなさそうな距離だけど、今は何故か当てられる気がする。

 

…集中しろ。

 

ただ、あの的を射抜く事だけを考えろ。

 

…射て!

 

矢は弓を離れて、緩やかな放物線を描きながら飛んでいく。

…そして。

 

ドンッ

 

…当たった!

 

「すごい…この距離で、的の中心に当てるなんて…」

「世界記録を余裕で上回ったぞ…!?」

「アイツ…一体何者なんだ…!?」

審査員達や観客達は、ざわざわと騒いでいた。

私は、黙って会場を後にした。

 

「すごいな射場山!!」

そう言ったのは、菊池だった。

会場の外には、みんながいた。

「ユミねえすげー!!」

「射場山、お前やっぱスゲェよ!」

「さすが射場山っちだね!ウチ、感動しちゃったよ!」

「射場山さん、カッコよかったよ!」

「お見事です、射場山様。」

「凄いです、射場山さん!」

「ふわぁ…ナイスショット、ですぅ。」

「さすが射場山先輩っスね!」

「お前ならできるって信じてたぜ、祐美!」

「射場山氏、まさに神業でありましたぞ!」

「す、すごい…です…」

「フン、さっきのは悪くなかったぞ。」

「フッ。また腕を上げたな。」

「ふははは!よくやったな無口!!褒めて遣わす!!」

「すごいじゃないユミちゃ〜ん!」

みんなが、次々と私を賞賛した。

「えへへ…そうかな…?」

「よっしゃ、じゃあ祐美が大活躍した事だし、今夜はみんなで焼肉だな!」

「わーい!!あーちゃん焼肉大好きー!!」

「もちろん、お前も行くよな?射場山!」

「…うん!」

私が一歩踏み出した瞬間だった。

目の前が真っ暗になり、さっきまでいたみんながいなくなった。

「…何これ、どういう事…!?」

 

『うぷぷ、楽しい夢は見れたかい?』

『ぴきゃきゃ、弓道家とちてちゃらなる高みに到達ち、皆様と友達になる、でちゅか。実に素晴らちい()()()でちゅね。』

さっきまでいなかったはずのモノクマとモノハムが現れた。

「あ、あんた達…一体何なの!?」

『うぷぷ、楽しい時間ってさ、長続きしないもんだよね。』

『ちゃて、思い出ちてみてくだちゃい?』

 

 

 

『『オマエの本当の望みは一体何なのか。』』

 

 

 


 

「…はっ!!」

…夢か。

全く、あんな浅はかな夢を見るなんて、まだまだ修行が足りないって事かしらね。

 

私は、『超高校級の弓道部』として希望ヶ峰にスカウトされた。

でも私自身、自分の腕に全然自信が無くて、私がスカウトされていいのかなって思ってた。

目が悪い分技量で補う、なんて目標を掲げはしたものの、私は全然『超高校級』と呼ばれるような技量なんてない。

それでも、私は高みに行きたい。

…世界一。

いつしか、それが私の人生の目標になった。

 

 

ーパーティー準備ー

 

小川の提案で、私はパーティーの準備を手伝う事になった。

みんな、思ったより乗り気みたいだな。

みんな積極的に準備を手伝っていた。

…まあ、菊池と床前は何かやらかすから絶対手伝わせないけどね。

 

「おい、無口、騒音!ちょっとこっち来い!!…早く来いっつってんだよ愚図が!!」

神城は、私と小川を大声で呼んだ。

…ったく、あいつの横柄な態度はどうにかならないのかしら。

「はぁ、今行くわよ。」

 

 

ープレイルーム前ー

 

「…何。」

「ふははははははははは!!私は天才だからな!!昨日までカジノになかった部屋を発見したぞ!!」

「…ず、随分とご機嫌っスね。」

なんだ、このドアがない部屋は。

「ふはははは!!ほら、早く入れ愚民共!!」

「あの、先輩…もしかして、自分らが呼ばれたのって…囮っスか?」

「囮とは人聞きが悪いぞ、騒音!!貴様らは、神である私のためにその身を懸けられるのだぞ!!これほど名誉な事はないだろう!?この私に感謝しろ!!ふははははははは!!!」

「…はあ、そんな事だろうと思ったわよ。言い出しっぺのあんたが最初に入りなよ。」

「な、なんだと…!?貴様、神に向かってなんだその口の利き方は!!」

「あんたは別に神じゃないでしょ。いいから黙って入んな。」

「…うぅ。」

ったく、こいつといるとホント疲れる。

 

部屋の中は赤一色で、並んだ座席に私達そっくりの17体の人形が並べられていた。

そして、部屋の天井にはモニターが取り付けられていて、手前には一丁の拳銃が置いてある。

…これで人形を撃てって事かしら。

ホント悪趣味ね。

「んだぁ?この部屋!!おい、出てこい綿埃!!」

『ちょっと!何その呼び方!!酷くない!?』

「ヒッ!?」

モノクマは、人形達の後ろから出てきた。

…ホント神出鬼没ね。

『呼ばれて出てきてなんとやら〜!モノクマ学園長参上〜!…で?何か用?』

「『何か用?』じゃねえんだよこのバカが!!んだよこの部屋!!説明しろ!!」

『うぷぷ、ここは新しくオープンしたプレイルームだよ!そこの拳銃で、人形をバンバン撃っちゃってね!頭とか心臓とかの急所に当てれば、高得点がゲットできるよ!面白いゲームでしょ?』

「ケッ、クソゲーの間違いだろ!!」

『一言二言多いよオマエ!!…あ、ちなみになんだけど、この部屋注意事項がいくつかあるから耳かっぽじってよく聞いてね!』

「注意事項?何スか?」

『ズバリ、このプレイルームは、一度入ったらその日はもう入ってはいけません!』

「んだよそのルール!!なんでそんなルール作ったんだよ!!」

『無双させないためだよ!一日に何回もプレイしたら、そのうちコツ覚えて無双しちゃうでしょ?つまんないんだよそんなの!!人形の姿勢とか配置とかは毎日変えてるから、新鮮な気分でゲームを楽しめるわけ!』

なんだそれ。

「…もし2回目に入ったらどうなるの?」

『うぷぷ、その時はね、部屋中にセットされたガトリングガンが火を吹いてオマエラの身体を貫くよ!』

…物騒ね。

なんでたかがゲームで殺しにかかってるのよ。

コロシアイ以外の犠牲は出したくないんじゃなかったの?

『さてと、1個目の注意事項はこの辺でいいかな。2個目の注意事項は、『清掃時間』です!』

「清掃時間?」

『この部屋は、23時から0時の間まで、清掃のためロックがかかります!その間に、部屋の中をリセットするわけ!ちなみに、プレイルームの清掃は全部この建物に内蔵されたAIが管理してるよ!』

…一度閉じ込められたら1時間閉じ込められたままって事?

地味に嫌ね。

『ちなみに、人形は清掃時間に関係なく毎回自動でリセットされるからね!』

「…なるほどね。注意事項はそれだけ?」

『うーん、まあそうだね。』

「じゃあ早く消えて。」

『辛辣だなぁ、射場山サンのバカ!もう知らない!!』

モノクマは、サ●キのセリフを丸パクしながら去っていった。

「…ホント、目障りなクマね。」

「フン、動いて喋る公害だなアイツは!!」

「二人ともすごい言いようっスね…」

私達は、部屋の探索を始めた。

「…なあ、貴様ら。…貴様らは、人生の目標とかあるか?」

神城が、唐突に質問をしてきた。

「…何、その質問。」

「いいから質問に答えろ。」

「…えっと…笑わないでよ?…私、弓道で世界一になりたいの。…でも、今はそんな大それた事が言える程技量がないし、日々鍛錬あるのみ、ってところかしら。」

「自分は、偉大な演奏家になって、自分を弟切さんの『代わり』としか考えていない人達を見返してやる事っス!まあ、そのためにはやっぱり努力が必要だなって思って、毎日楽器を演奏してるっスよ!まあ、楽器を演奏するのが楽しいっていうのもあるんスけどね!」

「…そうか。」

神城は、一瞬哀しそうな目をした。

「…貴様らはいいよな。何よりも夢中になれる物があってよ。」

「何言ってるんスか!羨ましいのはこっちの方っスよ!もし自分が神城先輩みたいな圧倒的な天才だったら、きっと世界の見え方とか全然違ったんだろうなって思うっス!自分は、先輩の事尊敬してるっスからね!」

「…。」

恥ずかしくて口には出せなかったけど、私も小川と同じ意見だ。

私も、才能に恵まれた神城が羨ましい。

私に、神城みたいな才能があれば…

なんて考えてる私は、まだまだ未熟って事かしらね。

「…そうかよ。」

「?」

「んだよ。ジロジロ見てんじゃねえよ。…どうした?」

「…いえ、別に。」

…気のせいかな。

一瞬、神城の顔が怒りで歪んでいるように見えた。

…まさかね。そんなわけないわよね。

褒めちぎられなきゃ生きていけないような奴だもん。

これだけ小川に褒められた後で怒ってるわけ…ないよね。

「あ、そうだ。私はちょっとまだここで調べたい事があるから、貴様らは先に部屋を出てろ。」

「えぇえ…横暴っスよ神城先輩…」

「…呼び出しといて、それはないよな?」

「うるせぇな、一人じゃねえと集中できねえんだよ!いいから出てけ!神である私の邪魔をすれば、天罰が下るぞ!!」

…はあ、なんなのこいつの上から目線。

元々そんなにこの部屋に興味は無いし、出ろって言われたら出るけどさ。

…ったく、なんでこんな奴を尊敬しちゃったんだろ。

 

 

ーパーティー本番ー

 

「ふははははは!!!貴様らに特別に、私が作ったデザートを食わせてやろう!」

神城が全員分のデザートを持ってきた。

華やかな見た目の、とても美味しそうなデザートだった。

…こいつ、急に優しさ見せてきて逆に気持ち悪いわね。

でも、出された物を食べないわけにもいかないし、食べてみるか。

…。

…。

…。

何これ!?まっっっっず!

あり得ないくらい不味いんだけど!?なんでスイーツなのにこんなに酒臭いのよ!?焦げてるところと生焼けのところがあるし、小麦粉の塊が口の中でパッサパサするし、絶対塩と砂糖間違えてるし!

こんなの、近藤が食べたら卒倒するわよ!

…でも、ここで吐くのはさすがに人としてやっちゃダメな行為よね。

私は、ドリンクでデザートを流し込んだ。

…あー、不味さで死ぬかと思った。

 

 

ー休憩スペースー

 

…あれ?なんか頭がクラクラする…

すごく喉が渇いてるし…

もしかして、さっきのデザートのせい?

絶対そうだ。

あの不味さに、身体が拒絶反応を起こしてるんだわ。

ったく、味見くらいしなさいよあのバカ…

休憩スペースで休んでると、菊池が来た。

「…あ。」

「…ん。」

「お前、どうしたんだそんなところで?」

「…こういう場所に慣れてなくて。ちょっと休憩してた。」

「そうなのか。…なあ、少し話でもしないか?」

「…ん。」

菊池は、私の隣に座った。

それから、私達は夢について話し合った。

こいつは、まるで友達みたいに親しげに話してくれた。

最初は鬱陶しかったけど、こんな私を友達と言ってくれたのは嬉しかった。

みんなの前じゃ恥ずかしくて絶対言えないけど…

私は、みんなと友達になりたい。

…話したら少しスッキリした。

明日は、みんなと混じってゲームをしたいな。

菊池は、休憩スペースを後にした。

…喉が渇いたな。ドリンクバーに行こう。

 

 

ー1階ー

 

…ヤバい、本当に目の前がフラフラしてきた…

あのデザート、どんだけ破壊力あんのよ…

まさか、睡眠薬でも盛られてたんじゃ…

…考えすぎか。

神城は確かに横柄だし腹立つ奴だけど、いくらなんでも仲間を疑うのはね…

疲れてるんだな、私。

もう、今日は部屋に戻ってゆっくりしようかな。

 

「…ん?」

 

一瞬、何かの気配を感じたけど…

…気のせいか。

 

ドンッ

 

「…ッえ!?」

 

突然、身体の左側を強く押された。

目が見えてないせいで、一瞬反応が遅れた…!

何これ、頭がフラフラしてるせいでうまくバランスが取れない…

私は、押された勢いでふらついて、何かの部屋に入ってしまった。

部屋の外に視線を向けると、神城が立っていた。

神城は、何かを呟いた。

聞こえなかったけど、口の動きではっきりとわかった。

 

 

 

「死ね」

 

 

 

ジャキッ

 

「!!?」

気がつくと、ガトリングガンの銃口が私の方に向いていた。

待って、嘘でしょ…!?

私には、何がなんでも叶えたい夢があるの…!

私…

 

こんなところで、死にたくないんだけど…!

 

「…あ。」

 

 

 

 

 

ドカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ

 

 

 

「あーあ、死んじゃったよ。分不相応な夢を見たところで、結局は夢叶わず無残に散るのがオチなんだよ。卑屈にならずに、素直に人と接していればこんな事にならなかったのかもしれないのにね!オマエが、一つの事にしか目を向けずに意地を張ってたから、恨みを買う羽目になったんじゃないの?どっちみち、同情の余地は無いよね!悲劇のツンデレヒロイン気取って同情を買おうったって、世の中そんなに甘くねーんだよ!これに懲りてちったぁ学習しろ!」

 

 

 

 

 


 

【小川詩音編】

 

 

 

煌びやかなコンサートホール。

自分は、ピアノの前に座っていた。

深く深呼吸をし、白鍵の上にそっと指を置く。

指に体重をかけると、ラの音が鳴り響く。

そこからは、流れるように両手が動いた。

今までの自分なら奏でられなかったような美しい旋律が、ホール中を滑らかに包み込む。

身体が軽い。

まるで空を羽ばたく鳥のように軽やかに、そして自由に音を奏でた。

 

演奏が終わった。

ホールは、拍手と歓声に包まれた。

 

「なんだアイツ…所詮弟切魅音の『代用品』でしかないと思っていたのに…弟切魅音と互角…いや、それ以上の腕前だ…!…私の見る目が曇っていたということか…!?」

そう言ったのは、かつて自分を『弟切魅音の『代わり』としてスカウトされてラッキーだったな』と鼻で笑った音楽講師だった。

 

…やった。

やったっス!

ついに、弟切さんと自分の無念を晴らしたっス!!

 

『小川さん、カッコ良かったよ。』

 

その声は…弟切さん!?

 

振り返ると、そこには死んだはずの弟切さんがいた。

 

『私の無念を晴らしてくれてありがとう。…悔しいけど、私の負けね。』

 

いえ、そんな…自分は、弟切さんと自分を馬鹿にした奴らが許せなくて…

弟切さんの『代わり』なんて誰もいないのに…

 

『…小川さん、今までよく頑張ったね。』

 

弟切さん…!!

 

自分が、弟切さんに抱きつこうとした瞬間だった。

周りが真っ暗になり、弟切さんは砂のように舞い散って消えた。

「おと…ぎり…さん?」

 

『うぷぷ、楽しい夢は見れたかい?…死んだはずの親友と再会するってゆー、虚しくも儚い、幸せな夢を。』

『演奏家とちて超一流になって、自分と親友をコケにちた方達をギャフンと言わちぇる、でちゅか。素晴らちい()()()ぢゃないでちゅか。』

さっきまでいなかったはずのモノクマ学園長とモノハム教頭が現れた。

「が、学園長…!?教頭…!?一体なんなんスか!!」

『うぷぷ、楽しい時間ってさ、長続きしないもんだよね。』

『ちゃて、思い出ちてみてくだちゃい?』

 

 

 

『『オマエの本当の望みは一体何なのか。』』

 

 

 


 

「…はっ!!」

…夢か。

せっかく、弟切さんにまた会えたと思ったのに…

 

自分は、『超高校級の演奏家』として希望ヶ峰にスカウトされた。

でもそれは、あくまで陵辱された挙句殺された弟切さんの『代わり』としてだった。

ある人には『ラッキーで希望ヶ峰に入れた凡才』と蔑まれ、同じく音楽家を目指すクラスメイトには妬まれた。

自分だって、弟切さんを踏み台にしてまで手に入れる『超高校級』の称号なんて願い下げだった。

自分は、(いか)った。

何も知らないくせに、自分に『弟切さんの代用品』のレッテルを貼った奴らに。

そして決めた。

誰よりもすごい演奏家になって、自分にそんなふざけたレッテルを貼った事を後悔させてやるんだと。

 

 

ーパーティー準備ー

 

自分は、動機を発表されて暗い面持ちになっている皆さんのために、カジノパーティーを企画した。

思ったより皆さんやる気があるみたいで、ほぼ全員が準備に参加してくださった。

 

「おい、無口、騒音!ちょっとこっち来い!!…早く来いっつってんだよ愚図が!!」

神城先輩は、大声で射場山先輩と自分を呼んだ。

自分は、神城先輩の声のした方へ向かった。

 

 

ープレイルーム前ー

 

「…何。」

「ふははははははははは!!私は天才だからな!!昨日までカジノになかった部屋を発見したぞ!!」

「…ず、随分とご機嫌っスね。」

あれ?なんか、ドアがない部屋があるっスね。

昨日まではなかったはず…

「ふはははは!!ほら、早く入れ愚民共!!」

「あの、先輩…もしかして、自分らが呼ばれたのって…囮っスか?」

「囮とは人聞きが悪いぞ、騒音!!貴様らは、神である私のためにその身を懸けられるのだぞ!!これほど名誉な事はないだろう!?この私に感謝しろ!!ふははははははは!!!」

「…はあ、そんな事だろうと思ったわよ。言い出しっぺのあんたが最初に入りなよ。」

「な、なんだと…!?貴様、神に向かってなんだその口の利き方は!!」

「あんたは別に神じゃないでしょ。いいから黙って入んな。」

「…うぅ。」

射場山先輩に凄まれた途端、神城先輩は大人しく部屋に入った。

…この人、扱いやすいのかにくいのかどっちなんスかね?

 

部屋の中は赤一色で、並んだ座席に自分らそっくりの17体の人形が並べられていた。

そして、部屋の天井にはモニターが取り付けられていて、手前には一丁の拳銃が置いてある。

なんなんスか、この不気味な部屋は…

「んだぁ?この部屋!!おい、出てこい綿埃!!」

『ちょっと!何その呼び方!!酷くない!?』

「ヒッ!?」

モノクマ学園長がいきなり人形の後ろから出てきたもんだから、ついビビっちゃったっス。

『呼ばれて出てきてなんとやら〜!モノクマ学園長参上〜!…で?何か用?』

「『何か用?』じゃねえんだよこのバカが!!んだよこの部屋!!説明しろ!!」

『うぷぷ、ここは新しくオープンしたプレイルームだよ!そこの拳銃で、人形をバンバン撃っちゃってね!頭とか心臓とかの急所に当てれば、高得点がゲットできるよ!面白いゲームでしょ?』

「ケッ、クソゲーの間違いだろ!!」

『一言二言多いよオマエ!!…あ、ちなみになんだけど、この部屋注意事項がいくつかあるから耳かっぽじってよく聞いてね!』

「注意事項?何スか?」

『ズバリ、このプレイルームは、一度入ったらその日はもう入ってはいけません!』

「んだよそのルール!!なんでそんなルール作ったんだよ!!」

『無双させないためだよ!一日に何回もプレイしたら、そのうちコツ覚えて無双しちゃうでしょ?つまんないんだよそんなの!!人形の姿勢とか配置とかは毎日変えてるから、新鮮な気分でゲームを楽しめるわけ!』

なんスかそれ。

「…もし2回目に入ったらどうなるの?」

『うぷぷ、その時はね、部屋中にセットされたガトリングガンが火を吹いてオマエラの身体を貫くよ!』

…物騒っスね。

そんな怖い部屋、入りたくなかったっス。

『さてと、1個目の注意事項はこの辺でいいかな。2個目の注意事項は、『清掃時間』です!』

「清掃時間?」

『この部屋は、23時から0時の間まで、清掃のためロックがかかります!その間に、部屋の中をリセットするわけ!ちなみに、プレイルームの清掃は全部この建物に内蔵されたAIが管理してるよ!ちなみに、人形は清掃時間に関係なく毎回自動でリセットされるからね!』

「…なるほどね。注意事項はそれだけ?」

『うーん、まあそうだね。』

「じゃあ早く消えて。」

『辛辣だなぁ、射場山サンのバカ!もう知らない!!』

モノクマ学園長は、サ●キのセリフを丸パクしながら去っていった。

「…ホント、目障りなクマね。」

「フン、動いて喋る公害だなアイツは!!」

「二人ともすごい言いようっスね…」

自分らは、部屋の探索を始めた。

「…なあ、貴様ら。…貴様らは、人生の目標とかあるか?」

神城先輩が、唐突に質問をしてきた。

「…何、その質問。」

「いいから質問に答えろ。」

「…えっと…笑わないでよ?…私、弓道で世界一になりたいの。…でも、今はそんな大それた事が言える程技量がないし、日々鍛錬あるのみ、ってところかしら。」

「自分は、偉大な演奏家になって、自分を弟切さんの『代わり』としか考えていない人達を見返してやる事っス!まあ、そのためにはやっぱり努力が必要だなって思って、毎日楽器を演奏してるっスよ!まあ、楽器を演奏するのが楽しいっていうのもあるんスけどね!」

「…そうか。」

神城先輩は、一瞬哀しそうな目をした。

「…貴様らはいいよな。何よりも夢中になれる物があってよ。」

神城先輩がおかしな事を言うもんだから、自分は思った事を正直にぶつけたっス。

「何言ってるんスか!羨ましいのはこっちの方っスよ!もし自分が神城先輩みたいな圧倒的な天才だったら、きっと世界の見え方とか全然違ったんだろうなって思うっス!自分は、先輩の事尊敬してるっスからね!」

「…。」

「…そうかよ。」

「?」

「んだよ。ジロジロ見てんじゃねえよ。…どうした?」

「…いえ、別に。」

あれ?なんか、神城先輩怒ってないっスか?

褒めたつもりなんスけど…

「あ、そうだ。私はちょっとまだここで調べたい事があるから、貴様らは先に部屋を出てろ。」

「えぇえ…横暴っスよ神城先輩…」

「…呼び出しといて、それはないよな?」

「うるせぇな、一人じゃねえと集中できねえんだよ!いいから出てけ!神である私の邪魔をすれば、天罰が下るぞ!!」

あはは、神城先輩は相変わらずブッ飛んでて逆に安心したっス。

自分は、パーティーの準備を進めてくるっスかね。

 

 

ーパーティー本番ー

 

パーティーは、想像以上に楽しいっス。

神城先輩が配ったデザートは、はっきり言ってメッチャ不味かったっスけど。

「おい、騒音!私は1階のVRで遊んでくるぞ!!」

「あ、はい。楽しんでくださいっス。」

なんでいちいち自分に報告に来たんスかね?

…まあ、神城先輩はああ見えて寂しがり屋だから、構って欲しかったのかもっスね。

「小川さん!」

「ひゃいっ!?」

…ビックリしたっス。

なんだ、床前先輩っスか。

「もう、ビックリしすぎです。ねえ、ちょっとこっち来てください。」

なんか、猫西先輩の事を弄んだこの人の言う事を聞くのは癪っスけど…

特に断る理由も無かったんで、付き合う事にした。

「で?なんスか?」

「見てください!論さんってば、射場山さんとあんなに楽しそうにお喋りして…羨ましいです!」

「…ははっ、そうっスね。」

自分は、適当に床前先輩の愚痴を聞き流した。

それにしても、ねちっこいなあこの人。

一度、痛い目見た挙句菊池先輩に振られたってのに…

ここまで折れないと、逆に気持ち悪さを通り越して尊敬するっス。

 

 

ー23時前ー

 

菊池先輩と床前先輩は、一緒にゲームで遊んでいる。

…なんか、この距離で見てると、何を見せられてるんだ感がハンパないっスね。

あ、ちょっと神城先輩の様子が気になるっスね。

散歩がてら見に行きましょう。

 

 

ードリンクバーー

 

あ、射場山先輩がいるっスね。

って、違う違う。

自分は、神城先輩を探してるんスよ。

 

 

ーVRエリアー

 

あ、いたっス。

何やってんのか気になりますし、ちょっと声をかけてみるっスかね。

「神城先輩!」

…返事がないっス。

すごい集中してるみたいっスね。

邪魔しちゃ悪いし、自分は戻った方がいいっスかね?

自分は、神城先輩の姿だけを確認して、そのまま2階に上がった。

 

 

ー2階ー

 

「あ、小川さん。戻って来られたんですか。…まあ、正直戻ってこない方が良かったんですけど。」

「どういう意味っスか。」

「それで、下の様子はどうだったんです?」

「ああ、射場山先輩がドリンクバーに行っていて、神城先輩がVRで遊んでたっス。呼び掛けても返事がなかったから、集中してるのかと思いまして…邪魔しちゃ悪いと思って、そのまま戻ってきたんスよ。」

「なるほど、あ、今論さんとシューティングゲームやってるんですけど、小川さんも良かったら…」

「え、自分も参加していいんスか!?」

「観戦しませんか?」

「観戦止まりっスか!混ぜてはくれないんスね!」

 

それから、自分は二人のゲームを観戦したっス。

色んなゲームをやって、最後はポーカーで勝負したっス。

結果は、菊池先輩の圧勝だったっス。

…っていうか、絶対床前先輩が菊池先輩が勝てるようにイカサマしてるんスけどね。

やっと周りを気にし始めた菊池先輩が、床前先輩に質問したっス。

「…そういえば他の奴は?」

「ああ、射場山先輩なら、さっきドリンクバーに行ったっスよ。」

「小川、いたのか。」

「ちょっと!いたのか、とはなんスか!!さっきからずっと一緒にいましたよ!ゲームに熱中しすぎっス!!」

「あ、悪い悪い。」

「あと、カークランド先輩はリズムゲーで遊んでます。」

「アリスと玉木とエカイラと神城の4人は?」

「神城先輩以外の3人は、クレーンゲームで遊んでるっス。」

「神城は?」

「ああ、神城先輩なら、1階で遊んでくるって言ってたっス。」

「…そうか。」

自分のしおりを見た菊池先輩が、驚いて言ったっス。

「もう日付変わってんじゃねえか!!」

自分もしおりを確認すると、0時10分と表示されていた。

「あ、ホントっスね!…これ、そろそろ切り上げないとっスね。1階の先輩方を呼んでくるっス!」

自分は、1階へ降りた。

 

 

ー1階ー

 

うげぇ、またこの不気味なプレイルームの目の前に来ちゃったっスよ。

まあ、こんなところにお二人がいるわけないし、スルーでいいっスかね…

 

「…ん?」

 

あれ?

気のせいっスかね?

なんか、人形がちょっと不自然なような…

…やっぱり気になるっス。

日付はもう超えてるし、入っても大丈夫っスよね?

自分は、プレイルームに足を踏み入れた。

…良かった、なんともないっス。

あ、違和感の正体はこれだったんスね。

射場山先輩の人形だけめっちゃ撃たれてるっス。

全く、誰がいつの間にプレイしたのやら…

 

…ん?

 

…いや、違う…!

 

…これは…

 

 

 

「ぎゃわあああああああああああ!!!」

 

あ、あああああああ…

そんな、射場山先輩が射場山先輩が射場山先輩が…!

なんでなんでなんでなんで…!

 

 

「んだよ、るっせぇなぁ…おい、どうし…!!」

神城先輩の声が聞こえたような気がしたけど、自分はそれどころじゃなかった。

射場山先輩が死んでしまったショックで、何も考えられなかった。

 

「何事だ!?」

「遅せェぞ愚民共!!今まで何やってたんだよ…!」

 

『オマエラ、死体が発見されました!!カジノ1階のプレイルームにお集まりください!!』

アナウンスが流れ、皆さんが集まってきた。

ようやく、自分は冷静さを取り戻した。

「にゃあああああああああああああ!!!?ゆ、ユミねえ!!?」

「そんな…嘘だろ…!?なんで射場山が…!」

「キャアアアアアア!!!ゆ、ユミちゃん!?」

「射場山さん…!」

「あらあら、また殺人が起こってしまいましたね。」

「リタはまだ来ねェのか!?」

「…寝てるんじゃないですかね…寝てくるって言ってましたし…」

「クッソ、アイツ、こんな時に何やってんだよ!」

「菊池先輩!落ち着いて…ん?」

うわっ、なんスかこの音!?

ゲーム機の音に混じって、すごい高い耳障りな音が大音量で響いてるっス!

「にゃあっ!?」

「どうしましたか小川さん、アリスさん?」

「…何か変な音が聞こえませんか?」

「…いや、別に?強いて言うなら、ゲーム機の音が少し響いてるくらいか…」

「にゃああああ!!キモチ悪ーい!!何この音!!」

アリス先輩と自分以外聴こえてない…!?

もしかして、超音波…!?

「ちょっと気になるっス。確かめに行ってくるっス!」

「あ、おい待て!小川!」

罠かもしれない。

でも、このままだとアリス先輩がかわいそうだし…

自分は、大急ぎで音源に向かった。

 

 

ー女子トイレー

 

間違いない…ここから聞こえるっス!!

自分は、音源の個室へと駆け込んだ。

案の定、部屋の壁には得体の知れない機械が貼り付けてあった。

これが原因っスね。このスイッチを切れば…

 

カチッ

 

 

 

ゴッ

 

「…がっ!!?」

鈍い音が聞こえて、後頭部に激痛が走った。

視界がぼやけて、瞼が重くなっていく。

ついには何も見えなくなり、そして耳も聞こえなくなった。

そこで意識が途絶えた。

 

 

 

「あーあ、死んじゃったよ。お友達をバカにした奴らを見返してやるんじゃなかったの?なっさけないね全く!オマエには、高みに到達する事も、自分を蔑んだ奴らを見返す事も出来やしないんだよ!…だって、オマエは、他のみんなとは違って正当に才能を認められたわけじゃない…所詮、ラッキーで選ばれた『代用品』なんだからさ。いい加減、自分の立場を自覚しなよ。『代用品』ごときが調子乗って大口を叩いた…だからオマエは殺されたんだよ。」




前の話で書くのを忘れていた事がいくつかあるので、ここで書かせてください。
実は、黒幕が誰かという事ですが、実はもう既にかなりヒントは出ています。
ヒント出し過ぎてほとんどの人が気付いてるんじゃないかってちょっとヒヤヒヤしてます。
振り返ってみると、意外と不自然な点多いです。
あと、アリスとエカイラが双子の兄妹という設定ですが、これも割とヒント多かったんじゃないかと思います。
・ALICEを逆にするとECILA
・誕生日が1日違い
・血液型が同じ
・喋り方と思考回路が似ている
・共通してにんじんとグリンピースが嫌い
実は、初期設定では、エカイラを17人目の生徒として登場させる予定はなく、アリスの別人格という設定にするつもりでした。でもそれだとジェノサイダー翔と被るやんけ、となって、あのオカマエカイラが誕生しました。


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第4章 【未来のない天才】後編

真相編の真実と、クライマックス推理の真相は少し違います。

まあ、あの情報量で100%状況を正確に推測できる人間なんているわけないですしねw


【神城黒羽編】

 

私の人生の主人公は、私じゃなかった。

私に自由なんて無かった。

 

私は、ずっと孤独だった。

 

 

 

私の父親は財閥の御曹司で、私の母親は異常なまでに面子に拘る人間だった。

そんな二人の間に、私が産まれた。

最初は、二人とも優しかった。

私に、最大限の愛情を注いでくれた。

…でも、幸せは永くは続かなかった。

今までの平和な日常は、ある日突然終わりを告げた。

 

 

 

きっかけは、私がまだ3歳の頃、たまたま興味本位で父の部屋の部屋にあった古い本を読んだ事だった。

それは、父が学生時代に勉強で使っていた本だった。

そして、たまたま見つけた別の本を開いて、その本に落書き感覚で書き込みをした。

本で読んだ事を使ったパズルのような感覚で、全部のページに落書きをした。

ただの気まぐれでやった事で、この事が私の人生を壊すきっかけになるなんて思いもしなかった。

 

ある日、父がたまたま私が落書き帳にしていた本を見た。

その時の父の顔が青ざめていたのは、今でも覚えている。

後で知った事なのだが、私が落書き帳にしていたのは、父が入れなかった一流大学の過去問だったそうだ。

私が気まぐれで書いた落書きが、全部問題の模範回答だったというのだ。

その日から、両親の、私を見る目が変わった。

 

私は、3歳で大学の入試問題を解いた天才児として世間から注目を浴びた。

『神童』『百年に一度の鬼才』などと呼ばれ、もてはやされた。

でも、まだ幼かった私にとっては、称号なんてどうでも良かった。

私がえらい子だから、きっとお父様とお母様は私を可愛がってくれる。

…そう思っていたのに。

 

 

 

ある日、私は父に呼び出された。

私は、父に自分専用の勉強部屋をプレゼントされた。

部屋には大量の参考書が積まれていて、窓は鉄格子が取り付けられていた。

私はそこで父に一枚のプリントを渡された。

そして、「これができたらご褒美をあげる」と言われた。

私は、父に褒めてもらいたい一心で、プリントの問題を解いた。

全部できたら、父は褒めてくれた。

私は、それが嬉しかった。

…その日から、地獄を見る事になるとも知らずに。

 

 

 

その日から、私は毎日勉強部屋に閉じ込められ、ひたすら勉強をさせられた。

そして、毎日一枚、テスト問題が渡された。

これも後で知った事なのだが、私が毎日解いていたプリントは、研究機関に提出するためのサンプルだったらしい。

私の両親は、大金と引き換えに私の知能を向上させる手伝いをするという取引をその研究機関と交わしていたのだ。

私はそんな事とは知らず、ただ両親に褒めて貰いたい一心で、毎日テストを頑張った。

 

しかし、ある日を境に両親の態度が急変した。

両親は、私がいくらテストでいい結果を残しても、全く褒めてくれなくなった。

私は、両親の反応が見たくて、テストでわざと一問だけ間違えた。

すると、父は鬼のような形相で私を殴った。

まだ幼かった私は、なぜ自分が殴られたのかわからなかった。

私がいい子にしていなかったせいだ、そう思うことしか出来なかった。

実はこの時両親は、巨万の富に目が眩み、私の事などどうでも良くなっていたのだ。

父が私を殴ったのは、金儲けの道具が使い物にならなくなる事を恐れたから。

そこからは、ただの地獄だった。

 

私は、行動の一切を制限され、家から一歩たりとも出る事は許されなかった。

そして、部屋に軟禁され、四六時中勉強をさせられた。

拒否したり、文句を言ったりしたらその日は食事を貰えなかった。

優しかった両親は、少しでも私に落ち度があるとすぐに私を怒鳴った。

でも、それもこれも全部私がいい子じゃなかったから。

私がもっとちゃんといい子にすれば、きっと優しいお父様とお母様に戻ってくれる。そう信じていた。

 

 

 

私は両親に認められたくて、私は国家試験に合格し、医師免許を取得した。

その時から、やっと両親は私を人間として見てくれるようになった。

私は、『いい子にならなきゃ』と思って、医者として最善の結果を残せるように努めた。

そして私は、ある日とある患者の手術を担当した。

その患者は、治療法が見つかっていない不治の病に侵されていた。

私は、『成功したらいい子になれる』という思いだけを胸に、最善を尽くした。

その結果、1時間のオペで患者は完治した。

私は、患者の親族から感謝され、世間からは賞賛された。

でも、私にとってはどうでも良かった。

両親が喜んでさえくれれば。

 

両親は、とても喜んでくれた。

私を、『自慢の娘』だと言ってくれた。

でも、その時は気付いていなかっただけで、両親が賞賛していたのは私じゃなくて私の『才能』だった。

 

 

 

中学3年生になったある日、私は希望ヶ峰学園から『超高校級の外科医』としてスカウトされた。

その日から、両親は、今までより一層厳しく私を叱るようになった。

その時は、食事以外はほとんど勉強漬けの毎日だった。

『私達に恥をかかせるな』『希望ヶ峰に入学するからには、常に一番を取れ』『お前には期待しているんだ』

それが両親の口癖だった。

私には、人としての人生を歩む自由なんてなかった。

私は、ただの『道具』だ。

 

 

 

しかし、ある日突然日常が壊れた。

両親が、自家用ジェットの事故で亡くなった。

私でも治せないような重傷だった。

私は、両親からの束縛から解放された。

初めて『普通の』中学生を見たとき、私は気付いた。

凡人達は、私のように世間から賞賛されるような功績を一つも残していない。

それなのに、毎日友達と楽しそうに遊んだり、親と楽しそうに話しながら食事をしたり…

アイツらは、私のずっと欲しかった物を全部持ってる。

私は、その時疑問に思った。

 

 

 

 

 

私は、今まで何のために生きてきたのだろうか。

 

 

 

 

 

私は、別に医学に興味があったわけでも、医者になりたいわけでも、人を救いたいわけでもなかった。

『いい子』になりたかったから。

そうすれば、両親は私を愛してくれると思っていたから。

でも、実際に私が手に入れた物は、欲しくもない称号、薄っぺらい賞賛、それだけだった。

私を本当の意味で愛してくれる人は、もういなくなってしまった。

両親が亡くなって初めて、私は気付かされた。

私の今までは、全くの無意味だったって事に。

私は、生きる理由を失った。

いや、私の生きる理由なんて最初から何も無かった。

私は、自分で命を断とうとした。

 

その時、たまたま映ったテレビ番組が視界に入った。

それは、発明家の才能を持つ女の子が、周りの人間を罵倒しながら面白おかしく事件を解決していくドラマだった。

彼女は、圧倒的な才能を持っていて、私に無い物を全部持っていた。

彼女は、私の理想だった。

私は気付いた。

 

 

 

本当に幸福になるべきなのは、果たしてどちらなのだろうか。

 

 

 

才能を持つ者が不幸になって、凡人が幸福になる世の中なんて、絶対間違ってる。

なぜなら、強い者が弱い者を淘汰し、支配し、搾取する。それがこの腐った世界の、唯一にして絶対のルールだから。

支配しなければ、誰かに支配される。

だったら、私は支配する側になろう。

私ならできる。

だって、私は『神童』…いや、私自身が神そのものなのだからな!!

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

視界に上下に黄色と黒のバリアテープが貼られたような映像が映り、一昔前のファミコンのゲームのゲームオーバー時のような音楽が流れる。

そこへ、ヘルメットを被ったモノクマとモノハムが現れる。

 

 

 

『残念ながら、神城黒羽サンの、『夢』と呼べる欲望は何一つ見つかりませんでした!!』

『ぴっきゃっきゃ!まことにもうちわけごぢゃいまちぇーん!!』

 

 

 

 

 


 

 

 

「…!!?」

…夢か。

クッソ、変な夢見た。

 

…夢が無い、か。

当たり前だろう!!私は神なのだからな!!

夢なんて物は、欲深い愚民が抱き、しがみつくための幻影なんだよ!!

神である私がそれを持たないのは、当然だろう!!ふははははははははははは!!!

…そうだよな?

 

 

ーパーティー準備ー

 

私は、騒音の提案でパーティーの準備を手伝った。

無論、神である私が手伝う義理など無かったのだが、私は寛大だからな!!

パーティーの準備中、私は見た事のない部屋が出現しているのに気がついた。

「なんだぁ?この扉が無え部屋は。おい、無口、騒音!ちょっとこっち来い!!…早く来いっつってんだよ愚図が!!」

ったく、遅えなぁ…何やってんだよアイツら!この私が早く来いつってんだよ!秒で来いよ!

お、やっと来やがった。遅えんだよクソが!!

「…何。」

「ふははははははははは!!私は天才だからな!!昨日までカジノになかった部屋を発見したぞ!!」

「…ず、随分とご機嫌っスね。」

「ふはははは!!ほら、早く入れ愚民共!!」

「あの、先輩…もしかして、自分らが呼ばれたのって…囮っスか?」

ギクッ…

「囮とは人聞きが悪いぞ、騒音!!貴様らは、神である私のためにその身を懸けられるのだぞ!!これほど名誉な事はないだろう!?この私に感謝しろ!!ふははははははは!!!」

「…はあ、そんな事だろうと思ったわよ。言い出しっぺのあんたが最初に入りなよ。」

「な、なんだと…!?貴様、神に向かってなんだその口の利き方は!!」

「あんたは別に神じゃないでしょ。いいから黙って入んな。」

「…うぅ。」

クソッ、私は神なんだぞ!?

なんでこんな事しなきゃなんないんだよ!

 

部屋の中は赤一色で、並んだ座席に私達そっくりの17体の人形が並べられていた。

そして、部屋の天井にはモニターが取り付けられていて、手前には一丁の拳銃が置いてある。

…チッ、悪趣味なマネしやがって。

一体何が狙いだってんだ。

「んだぁ?この部屋!!おい、出てこい綿埃!!」

『ちょっと!何その呼び方!!酷くない!?』

「ヒッ!?」

綿熊は、人形達の後ろから出てきた。

『呼ばれて出てきてなんとやら〜!モノクマ学園長参上〜!…で?何か用?』

「『何か用?』じゃねえんだよこのバカが!!んだよこの部屋!!説明しろ!!」

『うぷぷ、ここは新しくオープンしたプレイルームだよ!そこの拳銃で、人形をバンバン撃っちゃってね!頭とか心臓とかの急所に当てれば、高得点がゲットできるよ!面白いゲームでしょ?』

「ケッ、クソゲーの間違いだろ!!」

『一言二言多いよオマエ!!…あ、ちなみになんだけど、この部屋注意事項がいくつかあるから耳かっぽじってよく聞いてね!』

「注意事項?何スか?」

『ズバリ、このプレイルームは、一度入ったらその日はもう入ってはいけません!』

「んだよそのルール!!なんでそんなルール作ったんだよ!!」

『無双させないためだよ!一日に何回もプレイしたら、そのうちコツ覚えて無双しちゃうでしょ?つまんないんだよそんなの!!人形の姿勢とか配置とかは毎日変えてるから、新鮮な気分でゲームを楽しめるわけ!』

ンだよそれ。

「…もし2回目に入ったらどうなるの?」

『うぷぷ、その時はね、部屋中にセットされたガトリングガンが火を吹いてオマエラの身体を貫くよ!』

ケッ、悪趣味な野郎だぜ。

『さてと、1個目の注意事項はこの辺でいいかな。2個目の注意事項は、『清掃時間』です!』

「清掃時間?」

『この部屋は、23時から0時の間まで、清掃のためロックがかかります!その間に、部屋の中をリセットするわけ!ちなみに、プレイルームの清掃は全部この建物に内蔵されたAIが管理してるよ!』

なるほどなー…

『ちなみに、人形は清掃時間に関係なく毎回自動でリセットされるからね!』

「…なるほどね。注意事項はそれだけ?」

『うーん、まあそうだね。』

「じゃあ早く消えて。」

『辛辣だなぁ、射場山サンのバカ!もう知らない!!』

綿熊は、サ●キのセリフを丸パクしながら去っていった。

「…ホント、目障りなクマね。」

「フン、動いて喋る公害だなアイツは!!」

「二人ともすごい言いようっスね…」

私達は、部屋の探索を始めた。

ふと、気になった。

私は、騒音と無口に質問した。

「…なあ、貴様ら。…貴様らは、人生の目標とかあるか?」

「…何、その質問。」

「いいから質問に答えろ。」

「…えっと…笑わないでよ?…私、弓道で世界一になりたいの。…でも、今はそんな大それた事が言える程技量がないし、日々鍛錬あるのみ、ってところかしら。」

「自分は、偉大な演奏家になって、自分を弟切さんの『代わり』としか考えていない人達を見返してやる事っス!まあ、そのためにはやっぱり努力が必要だなって思って、毎日楽器を演奏してるっスよ!まあ、楽器を演奏するのが楽しいっていうのもあるんスけどね!」

「…そうか。」

なんだ、コイツらの眼は。

私より才能無いくせに、生き生きしやがって。

私だって、本当はお前らみたいに…

…ああクッソ!

イライラすんなぁ…!

「…貴様らはいいよな。何よりも夢中になれる物があってよ。」

「何言ってるんスか!羨ましいのはこっちの方っスよ!もし自分が神城先輩みたいな圧倒的な天才だったら、きっと世界の見え方とか全然違ったんだろうなって思うっス!自分は、先輩の事尊敬してるっスからね!」

ふざけんな。

なんでお前はそんな事を言うんだ。

やめろ。

やめてくれ。

私の生き方を否定するな。

私を馬鹿にするな。

…黙れ。

黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ

 

黙れ!!

 

…殺す。

 

殺す。

 

 

 

殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す

 

「…。」

「…そうかよ。」

「?」

「んだよ。ジロジロ見てんじゃねえよ。…どうした?」

「…いえ、別に。」

「あ、そうだ。私はちょっとまだここで調べたい事があるから、貴様らは先に部屋を出てろ。」

「えぇえ…横暴っスよ神城先輩…」

「…呼び出しといて、それはないよな?」

「うるせぇな、一人じゃねえと集中できねえんだよ!いいから出てけ!神である私の邪魔をすれば、天罰が下るぞ!!」

二人は、しぶしぶ部屋から出て行った。

…よし、行ったな。

 

決めた。

私はあの二人を殺す。

私は、私の生き方を否定したアイツらを許さない。

許せなかった。

私よりはるかに劣った奴が幸せそうに生きているというだけで虫唾が走る。

不愉快で仕方なかった。

私は、アイツらを殺して外に出る。

アイツらを殺したら、他の奴らも一緒に見殺しにする事になるが、そんな事どうでもいい。

私は、たとえこの手を汚そうとも、汚水を啜ってでも絶対に生き残ってやる。

生き残って、私の生き方は間違っていなかったんだと証明してやる。

夢なんてくだらない物のために生きたところで、結局は叶わずに散るのがオチだ。

そういう奴らは、所詮搾取される側だ。幸福に生きる資格なんて無い。

私が、私だけが、この世界を支配するのにふさわしい!!

なんとしてでも生き残って、私一人が新世界の神となるのだ!!

ふははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!

 

 

ー女子トイレー

 

うまくプレイルームから人形を盗み出せた。

これで射場山祐美を殺す準備はできた。

あとは小川詩音を殺す準備だ。

売店で必要な材料は買ったし、これで電磁石を作って…

よし、できた。

これを天井にセットして、鉄球をくっつけて…

これでよし。

超音波の発生装置付きのスイッチは、壁に固定して…

タイマーをセットしてっと。

できた。あとは時間が来るのを待つだけだな。

 

 

ー厨房ー

 

さーてと、アイツらに食わせる用のデザートを作ってっと。

本来、神である私が料理をするなど、有り得ない事なんだがな!!

…私1人が生き残るためだ、仕方ないだろ。

 

 

ーパーティー本番ー

 

「ふははははは!!!貴様らに特別に、私が作ったデザートを食わせてやろう!」

よし、射場山祐美はちゃんとデザートを食ったな。

…まあ、食わなかったとしても、プランBは用意してあるんだがな。

あとは…

「おい、騒音!私は1階のVRで遊んでくるぞ!!」

「あ、はい。楽しんでくださいっス。」

出来るだけ空気の読める奴にアピールして…

私は、そのまま1階に向かった。

 

 

ー1階 VRルームー

 

丁度いい場所に、人一人分入れるスペースがあって良かった。

私は、隠していた人形を取り出し、イスに座らせ、VRゴーグルを装着させた。

これで、傍から見たら私がVRで遊んでいるように見える筈だ。

そして、人形と一緒に隠していたレインコートと手袋を回収して、VRルームを後にした。

 

私は、物陰に隠れてタイミングを待った。

…そろそろ、アルコールが効いて喉が渇く頃なんだが。

私が1階を見張っていると、ついに射場山祐美が1階に降りてきた。

 

…来た!

 

私は、奴がプレイルームの前を通り過ぎる瞬間、飛び出して奴の背後に迫った。

私は、射場山祐美の左目の視力が無い事を知っていた。

だから、左側から襲って部屋の中に突き飛ばした。

そして、奴は私が食べさせたアルコール入りデザートのせいでふらつき、まんまと罠にかかった。

…悪いが、私が生き残るためだ。

 

「死ね。」

 

ドカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ

 

…。

 

目の前で、人が死んだ。

それなのに、なんでだ?

心が全く痛まない。

…いや、それどころか…

 

ウッヒョオオオオオオオオオオオオ!!

やってやったぜ、あースッキリした!

さっきまで、何か心にモヤみてぇなモンがかかってたけど、今ので全部綺麗さっぱり消えたぜ!

…しかし、想像以上にグロいな。

んなモンずっと見てられるモンじゃねえな。

…おっ、時間だ。

そろそろ清掃時間が始まるぞ。

ドアが閉まり、中で清掃作業が始まった。

私は再び物陰に隠れて、レインコートと手袋を身につけて時間が経つのを待った。

 

 

ー1時間後ー

 

よし、やっと終わったか。

死体の偽装工作だが…出来るだけ短時間で終わらせねぇとな。

最短で10分ってところか。

私は、急いで死体を担いで、元々座っていた人形を放り投げ、死体を椅子に座らせた。

…分かってはいたが、やっぱ死体って思ったより重いんだな。

だが、ここまでで5分か…我ながら上出来だ。

計画は順調のようだ。

私は、レインコートを脱いで、全速力でVRルームに向かった。

 

 

ーVRルームー

 

…よし、誰も居ないな。

私は、急いで人形のVRゴーグルを外し、レインコートや手袋と一緒に人形を窓の外の排水溝に投げ捨てた。

この排水溝、かなり深くて降りる方法が無いから、ここに捨てれば証拠を隠滅出来るだろう。

そして、いつ誰が私の姿を目撃してもいいように、人形を座らせていた椅子に座った。

…よし、ここまでで10分…そして、私の姿は誰にも見られていない…

 

私が椅子に座って一息ついたその時…

 

 

 

「ぎゃわあああああああああああ!!!」

 

 

 

小川詩音の声だな。

…チッ、アイツ、先に死体を発見しやがったか。

まあいい。ここまで来れば、成功したも同然だ。

私は、プレイルームに向かった。

 

 

ープレイルームー

 

ここからは、いかに演技を貫き通せるかだな。

私は、何も知らずにたまたま死体を発見したシロ…

その役を、演じ切るんだ。

「んだよ、るっせぇなぁ…おい、どうし…!!」

…おーおー、想像以上に驚いてくれてるねぇ。

腰まで抜かしちゃってさ。

まあ、せいぜい今のうちに怯えておけばいいよ。

だって、次に死ぬのはお前なんだからな。

…おっと、これ以上近づいたら、私も撃たれ兼ねんな。

「何事だ!?」

モブ…もとい、菊池論が愚民共を連れて来た。

「遅せェぞ愚民共!!今まで何やってたんだよ…!」

私が指を差すと、菊池論は部屋の中を覗き込んだ。

おお、コイツ、ついに死体を見やがったな。

これで3人が死体を見たっつー事か。

…よし、そろそろだな。

『オマエラ、死体が発見されました!!カジノ1階のプレイルームにお集まりください!!』

アナウンスを聞いた愚民共が、わらわらとプレイルームの中に入り、死体を目撃した。

おお、愚か愚か。

「にゃあああああああああああああ!!!?ゆ、ユミねえ!!?」

「そんな…嘘だろ…!?なんで射場山が…!」

「キャアアアアアア!!!ゆ、ユミちゃん!?」

「射場山さん…!」

「あらあら、また殺人が起こってしまいましたね。」

「リタはまだ来ねェのか!?」

「…寝てるんじゃないですかね…寝てくるって言ってましたし…」

「クッソ、アイツ、こんな時に何やってんだよ!」

…ククク、愚民共がわめいておるわ。

いいぞ、せいぜい今のうちにわめけるだけわめいておけ!

貴様らは、私の天才的な策に嵌ってここで死ぬんだよ!!

…おっと、いけねぇ。

つい、ニヤけちまうところだった。

ここで笑ったら、演技がバレちまうもんな。

…っと、そろそろ時間だな。

「菊池先輩!落ち着いて…ん?」

お、気付いたか。

ククク、作戦は成功だ。

コイツは耳が良いからな。

この前、たまたま超音波を嫌がるそぶりをしていたのを思い出して、コイツを殺すためのエサとして使ってみたんだが…

効果は抜群のようだな。

どうやら、ちゃんと女子トイレから流れる爆音の超音波に気付いたようだ。

あの時、アイツの行動をちゃんと分析しておいて正解だったよ。

「にゃあっ!?」

「どうしましたか小川さん、アリスさん?」

…ん?

なんだ、子供にも聞こえているのか。

…クッソ、私とした事が、とんだ計算違いだ!

まさか、小川詩音以外に超音波が聞こえる奴がいたとは…!

このトリックは、いずれバレるだろうな…クソッ、どうする!?

「…何か変な音が聞こえませんか?」

「…いや、別に?強いて言うなら、ゲーム機の音が少し響いてるくらいか…」

「にゃああああ!!キモチ悪ーい!!何この音!!」

…って、私は何を焦っているんだ。

トリックがバレたところで、私が殺ったっつー確たる証拠が見つからなきゃ、コイツらが私を犯人に出来ねぇのは一緒じゃねえか。

私とした事が、こんなくだらない事で動揺するとはな。

危うく、せっかく演技をキメてた顔が崩れる所だった。

ここでバレたら、それこそ一巻の終わりだ。

とにかく今は、演じ切る事だけ考えろ。

「ちょっと気になるっス。確かめに行ってくるっス!」

「あ、おい待て!小川!」

小川詩音は、菊池論の制止を振り切って女子トイレに向かった。

ククク、バカめ。

貴様を殺すための罠とも知らずに、自分からまんまと殺されに行くなんて。

やはり、ターゲットにコイツを選んで正解だった。

テメェみたいなバカなお人好し、ハナから生き残る資格なんざねぇんだよ!!

わかったら、大人しく死んどけバカが!!

 

 

ー10分後ー

 

「…あれ?おかしいな…アイツ、戻ってこないぞ…?クソッ、小川まで何やってんだよ!」

「あの、私達も確かめに行ったほうがいいんじゃないでしょうか?」

「…だな。床前、アリス!お前ら一緒に来い!それ以外の奴はそこで待ってろ!」

「了解です論さん!」

「なんであーちゃんまでー!?」

モブ、サイコ女、子供の3人が女子トイレに向かった。

私達は、プレイルームの前で待たされた。

「大丈夫でしょうか、3人共…」

「そう信じるしかねぇだろ、ジェイムズ!」

「それはそうなんですけれどね…」

ククク、コイツら、どこまでバカなんだ。

誰も私を疑わねえ!

…いや、違うか。

私の演技の才能が天才的過ぎるんだな。

もし、私が医師免許を取る代わりに芸能界に入っていたら、今頃は『超高校級の女優』と呼ばれていただろう。

全く、我ながら、自分の才能の素晴らしさが逆に恐ろしいよ。

 

 

 

『オマエラ、死体が発見されました!!カジノ1階の女子トイレにお集まりください!!』

 

 

 

フン、やっとアナウンスが流れたのか。

愚民共が、わらわらと女子トイレに向かっておるわ。

私も、愚民共と一緒に女子トイレに行かねばな。

 

 

ー女子トイレー

 

女子トイレに行くと、そこには案の定小川詩音の死体が転がっていた。

クク、ハハハ…

アーッハッハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!

やってやったぞ!!ざまぁみろ!!

2人も殺っちまうと、一周回って逆に清々しいな!!

どうだ見たか!!

やっぱり、私は間違ってなかったんだ!

夢なんてチンケなモンに縋ったって、結局はこのザマだ!

愚民のクセに、調子に乗るからこうなるんだよ!

少しは思い知ったか!!

そうだ、私は何一つ間違っていない!!

なぜなら、私だけが唯一絶対に正しい存在…すなわち神なのだからな!!ふははははははははははははははは!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…私は、何も間違ってない…よな?

 

 

 

 

 

 

「あーあ、殺っちゃったよ。なーにが私は悪くない、だ!全部オマエが悪いに決まってんだろバーカ!!本当に一番許されないのは、オマエの方なんだよ!こんだけ才能に恵まれておいて、人をバカにする事でしか自分を大きく見せられないなんて、アーカワイソ!偉そうにしてたけどさ、結局は誰かに構って欲しかっただけなんじゃん!それ以外の生きる理由を一切持たずに生きてきたなんてさ、それこそただの時間の無駄だよね?自分の人生にウンザリしてたんでしょ?だったら最期くらい逃げんなよ。意気地なし。」

 

「ねえみんな、コイツらの共通点、何かわかったかな?…くだらない事に拘って人生を浪費する、身の程知らずの愚か者だよ。もっと賢く生きる事なんて、いくらでもできたはずなのにね!いい加減、自分の立場をわきまえなよバカ共が。…あ、もう死んでたか。」







前も後書きで書いた事がありますが、神城ちゃんは中学と高校でかなり見た目が変化したキャラです。
中3までは、親の影響もあってか、割と清楚系のキャラでした。
ギャル系のファッションは高校生になってからです。
自分を縛る物が無くなったからハジケちゃったんでしょうかね。

↓JC神城ちゃんです。


【挿絵表示】


ちなみに、神城ちゃんはサヴァン症候群で、記憶力と演算能力が常人とは桁違いです。
作中二大頭脳派であるジェイムズ君や速瀬ちゃんのようなオールマイティな賢さは無く、特に人の感情を考えたり予測を立てたりするのが苦手な子なので学級裁判等ではバカキャラ扱いされていますが、記憶力と演算能力はこの2人すらも凌駕します。


今回は女の子(特におっぱい要員)が一気に減った回でしたね。
特に射場山ちゃんは結構人気あるキャラだったので、後日作者が死体となって発見されそうで怖いですw


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第5章 アンハッピーレクイエム
第5章(非)日常編①


章タイトルちょっと合わなかったんで変えました。

章タイトル元ネタ『アンハッピーリフレイン』です。

今回からは、菊池クン以外の人に視点が移るようになりました。


合宿18日目。

昨日は、色々な事がありすぎた。

「菊池さん。」

仲間を3人も失って、俺達が『超高校級の絶望』だって事を明かされた。

…射場山や小川は、夢を叶える事なく、嫉妬に狂った神城によって殺された。

アイツらには、人生をかけて叶えたかった夢があったのに。

「菊池さん!」

そして神城は、最期は醜さを曝け出して処刑された。

俺達が、アイツの弱い部分に気付いてやれていれば、アイツと打ち解けられていたかもしれないのに。

ああなってしまったのは、神城一人の責任じゃない。

…何もしてやれなかった、俺達全員の責任だ。

 

「菊池さん!!」

 

「うおあっ!!?」

後ろから中性的な声が聞こえ、肩を思い切り叩かれた。

俺は、思わず転んで尻餅をついた。

座っていたパイプ椅子が、耳を突くような高い音を出しながら倒れた。

「あ、あの…申し訳ございません。何度声を掛けても返事が無かったもので、つい…」

見上げると、視界に三つ編みの美青年が映った。

俺は、ようやく冷静さを取り戻した。

「お、おう…ジェイムズか。悪い、ちょっと考え事してた…」

「いえ、こちらこそ、驚かせてしまって申し訳ございません。」

「…で、何の用だ?」

「朝食の用意が出来ましたよ。彼女の事は、後で考えましょう。それより今は、お腹を満たしませんか?」

「…そ、そうだな…」

「…菊池さん、貴方本当に大丈夫ですか?昨日からその調子ですけど。」

「わ、悪い…俺は大丈夫だから、心配すんな。」

「…顔が窶れてますよ?貴方、昨日寝ていらっしゃらないのでしょう?一日中彼女の看病なんて…貴方も変わりましたね。」

「まあ、俺達の中で一番コイツと一緒にいたのは、なんだかんだ言って俺だったからな…」

「…心配ですか?」

「うっせぇ。コイツが起きたら、色々聞きたい事があるだけだよ。」

「そうですか。」

 

…なあ、お前、一体どうしちまったんだよ。

お前、このまま一生目が醒めないとか…そんなのナシだぞ。

 

お前まで、俺達を置いて死んでいったりしないよな?

…頼むから、早く目を醒ましてくれよ。

 

…アリス。

 

 

 

 

 


 

【数時間前】

 

 

 

「アリスさんの正体。…それは…『超高校級の失敗作』伏木野アリスです。」

「『超高校級』の…失敗作…だと!?」

「皆さん、『カムクライズル』って聞いた事ありますか?」

「…は?」

俺達は、いきなり床前の口から放たれた言葉に困惑した。

「何だよそれ!聞いたことないぞ!」

「まあ、知ってるわけないですよね。私達は、3年間ずっと離島にいたんですもの。」

「床前、お前さっきから何言ってんだ!わかるように説明しろ!」

「そうですね、ではまず『カムクライズルプロジェクト』とは何かという事をお話しなければなりませんね。『カムクライズルプロジェクト』は、神の如く完璧な才能を持つ高校生『超高校級の希望』を人工的に作り出す計画の事です。タカヒロさんによると、その実験に成功して、『カムクライズル』となった男子高校生がいたようですが…」

「それで、その『カムクライズル』があーちゃんとどう関係してんだよ!?答えろ床前!!」

「私に命令しないでください玉木さん。不愉快です。…まあいいです。教えてあげましょう。『カムクライズルプロジェクト』は、公表はされていないだけで18年前から既に実験は開始されていたのです。」

「なんだと…!?」

「最初は、成功する確率はほぼ0%の、ただのデータ取りのための実験だったそうです。しかも、その実験は苦痛を伴う実験で、被験体はまず生きて実験を終了する事はできないだろうと言われる程過酷なものでした。そんな非人道的な人体実験の被験者に名乗り出る人などまずいなかったので、研究者達は必死で被験者を探していました。そんな彼らの元に、非常に都合のいい話が舞い降りてきたわけです。」

俺達は、床前の次の言葉を待った。

「親のいない双子の赤ん坊が闇オークションにかけられているという情報を手に入れたんです。彼らの父親は行方不明、母親は双子を出産してすぐに死亡が確認されたとか…兄の方は既に買い取り手がいましたが、研究者達は妹の方を買い取りました。研究者達は大喜びしたでしょうね。従順で、死んでも誰も悲しまない()()()を手に入れたわけですから。」

「なっ…」

「…ええ、そうです。それが、当時まだ赤ん坊だったアリスさんです。アリスさんは、産まれてからずっと非人道的な人体実験の被験者として、その小さな身体を弄ばれてきました。そして今から10年前、全ての実験が終了し、奇跡的にアリスさんは生き延びました。そうしてアリスさんは、神の如く完璧な才能を持った『カムクライズル』第一号になったわけです。」

「…。」

「じゃあ、コイツは、完璧な才能を持つ『超高校級の希望』って事か…!?」

「本来なら、そうなるはずでした。しかし、実験には失敗がつきものです。アリスさんは、その超人的な才能と引き換えに、人間としての心を失ってしまいました。『カムクライズル』としての彼女の人格が暴走し、『この地球に人類という生命体は不要である』と判断してしまいました。彼女は、自身が下した判断に従って、次々と人々を虐殺しました。もちろん、それを黙って見ているほど国も愚かではありません。政府は、国家の全勢力を以って彼女を止めようとしました。しかし、彼女は当時最も優れた才能を持つ人類でした。彼女は、自分に歯向かう勢力を返り討ちにし続けました。彼女は、止める事も出来なければ殺す事も出来ない、最凶最悪の生物兵器と化してしまったのです。」

そんな、アリスが全人類を滅ぼそうとしただと…?

そんな話、信じられるかよ…

「しかし、ある者が彼女の生け捕りに成功しました。アリスさんを生け捕りにした人は、新たに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という人格を彼女に植え付け、『カムクライズル』としての彼女の人格を無理矢理封印したわけです。結果、彼女は全ての才能を封じられ、唯一彼女を『カムクライズル』たらしめるものは、実験の影響で年を取ることがなくなった身体だけ…人々は、そんな彼女をこう呼びました。」

 

 

 

「『超高校級の失敗作』と。」

 

 

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーッ」

全員、青ざめた顔をしていた。

エカイラだけは、そっぽを向いていて表情が見えなかった。

「しかし、脅威が消えたわけではありません。彼女はいつ暴れだすかわからない生物兵器…野放しにしておけば、また暴走する危険性がありました。唯一彼女をコントロール出来る人も、死期が近い病人でした。だから彼は、自身の母校である希望ヶ峰学園に監視を依頼しました。学園は当然拒否しました。しかしその方が『このような生物兵器を生み出したのは、学園の責任でもある』と学園を責めたところ、当時の学園の責任者は、希望ヶ峰学園が責任を持ってアリスさんを監視する事を承諾しました。そしてアリスさんを『超高校級の失敗作』としてスカウトし、アリスさんは何も知らないままあなた達のクラスメイトになったというわけです。…これが彼女の正体です。それでもまだ、皆さんは彼女を仲間と呼ぶのですか?」

「おい、床前!!テメェそれ以上口を開いてみろ、女でも容赦しねぇぞ!!」

「あら、玉木さんこわ〜い。私、乱暴な人嫌いです〜。少しは論さんを見習ってくださ〜い。」

「テメェ…!」

「やめてください二人共!アリスさんの様子が変です!!」

「…あ…あぁあアあああァああアア…いやダ、やメて…ワタシ…は…ワタ…シ…ハ…」

アリスは、頭をワシャワシャと掻き毟り、蹲った。

…そして。

 

 

 

「あ゛ぁあ゛ああああああああぁあああああああああああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁあああああああああああああぁあああああああああああああああああああああああぁあああああああああああああああああああああぁあああ!!!」

 

 

 

アリスは、見上げるようにして大声で叫んだ。

顔は真っ青になっていて、とても人間の表情とは思えなかった。

「あ、アリス…!?どうしたんだよ、おい!!」

「あ…」

アリスは突然白目を剥き、その場に倒れた。

「あーちゃん!?おい、あーちゃん!しっかりしろ!!」

「アリスさん!」

玉木とジェイムズがアリスに駆け寄った。

「おい、どうだジェイムズ!?」

「…気を失っています。命に別状は無いようですが。」

「…良かった。」

「しかし、すごい熱です。早く休ませてあげないと…」

「あら、あなた達はまだそこの子供の心配をするんですか?お人好しもいいところです。さ、あんな3バカ放っといて行きましょう論さん。」

床前が俺の肩を触ってきたので、払い退けた。

「…俺に触るな。」

「あら、つれないですねぇ。」

「…なあ、ジェイムズ。玉木。コイツは、俺が看る。」

「菊池…」

「…分かりました。その代わり、無理はしないでくださいね。」

「…ああ。」

「…あの。」

後ろからリタが声をかけてきた。

「どうした?」

「…僕にできる事があったら、協力しますぅ。…僕も、アリスにはお世話になったし…」

「ありがとな。」

俺は、アリスを背中に担いだ。

「よいしょっと…やっぱ軽いなコイツ…」

俺はそっぽを向いているエカイラに声をかけた。

「おい、エカイラ。お前、アリスの兄貴なんだろ。」

「ふわぁ、菊池ぃ。エカイラは、僕達を騙してた敵…」

「…わかってるよ。でもアイツ、妹に会いたいって言ってたし…さっきだって、床前がアリスの才能を言うのを止めようとしてただろ。…うまく言えねえけど、アイツはそんなに悪い奴じゃねえよ。」

「アラ、サトシちゃん。勝手にアタシが善いか悪いかを決めないでくれるかしら?」

「…お前、アリスの事が心配じゃないのか?」

「…アラ。アタシは、別にその子がどうなろうと構わないわよ。だって、妹って言っても、産まれてすぐに引き離されて顔も知らなかったんだもの。それってもう他人じゃナイ?…それに。」

「なんだ。」

「…今更アタシが何かしようったって、もう遅いわよ。」

「…そうかよ。」

俺は、アリスを抱えたままエレベーターに乗った。

 

 

ー診療所ー

 

「…よいしょっと。」

俺は、アリスをベッドに寝かせた。

「そのままだと苦しいよな。ちょっと待ってろ。」

袋に氷水を入れて、アリスの頭に乗せた。

「どうだ?少しは楽になったか?」

やはり、返事は無かった。

「…ったく、そのまま『死んじゃった』とか言ったら許さねえからな。クソガキ。」

 


 

 

 

 

 

そして、俺達は今、朝食を食べるためにレストランに向かっている。

「…ふふっ、それにしても…」

「なんだよ。」

「菊池さんって、子供嫌いじゃありませんでしたっけ?」

「うるせぇ。悪いかよ。」

「いえ、ただ…微笑ましいなって。」

「どういう意味だ。」

「はいはい、早くレストランに行かないと、朝食が冷めてしまいますよ。」

「分かってるっての。」

ジェイムズは、俺を急かした。

 

 

ーレストランー

 

「おはよう、みんな。」

「おはよう、菊池。お前大丈夫か?だいぶやつれてるけど…」

「ああ、うん…大丈夫だよ。」

「いや、大丈夫じゃねえだろ…お前、さては昨日寝てないな?」

「うっ…」

「…はぁ、アリスの事を心配すんのはいいけどよ。少しは自分の体の心配もしろよ。人の事になると自分の事を疎かにすんの、お前の悪い癖だぞ。」

「…気をつけるよ。」

「ふわぁ…そうですよぉ…寝ないのは身体に毒ですぅ。しっかり寝てくださぁい。」

「リタ、お前は寝過ぎだ。寝過ぎも身体に悪いらしいぞ。」

「ふわぁ…そうなんですかぁ…?」

「はは…」

「あら、論さん!大丈夫ですか!?随分とお疲れのようですが…」

床前が俺にくっついてきた途端、玉木とリタが俺から離れた。

「…朝飯できてるぞ。菊池。」

「ふわぁ…」

あぁ…二人ともっと話したかったのに…

「あら?どうしましたか論さん?ご機嫌斜めですね?」

お前のせいだよ。俺の平和な日常を返せ。

コイツ、絶対『超高校級の狂人』の間違いだろ…

「菊池さん、取り敢えず朝食を食べましょう。An army marches on its stomach.(軍隊は胃袋に頼って行進する)えっと…腹が減っては戦は出来ぬ、です!」

「言い直さなくていいよ。」

「分かりました。」

…そうだな。

まずは腹を満たさねえと…

アリスの事は、飯の後で考えよう。

 

「…いただきます。」

「うふふ、おいしいですか論さん?」

床前は、周りの目を気にせず俺にベッタリとくっついてきた。

お前、内通者のくせに馴れ馴れしいんだよ。

「…お前、この前まで毒がどうのこうのとか言ってたけど、アレはもういいのか?」

「ああ、それに関してはもう大丈夫です。このおバカさん達が、毒を盛る度胸すらない小心者の寄せ集めだって事はもう分かってますから。」

「おい、あんまりみんなの事を悪く言うな。飯が不味くなる。」

「それは大変失礼しました。あ、もし私が邪魔なら、今すぐにでも消えますね?この世から。」

床前は、ナイフを自分の喉元に突き立てた。

「…それもやめろ。食欲失せる。」

「はぁい。」

「…。」

俺は、テーブルの隅の席に座っているエカイラに声をかけた。

「なあ、エカイラ…」

「…サトシちゃん、話しかけないで貰えるかしら?」

「おい、菊池。ソイツは、俺達を裏切ってたんだぞ。」

「そうですよ論さん。エカイラさんも裏切り者だったのに、なんでエカイラさんには甘いんですか?」

「お前は黙ってろ床前。」

「私に命令しないでください。」

「おい、菊池。考え直せ。コイツらはもう、俺達の仲間じゃねえんだ。」

「わかってるよ。…わかってるけど、このままじゃ良くないと思うんだよ。コイツ、やっと会いたがってた妹に会えたんだよ。俺は、やっぱりエカイラを敵だとは思えねえよ。」

「…そうかよ。」

「ウフフ、サトシちゃん。お仲間に呆れられちゃったわねえ。アーカワイソ。」

「エカイラ、お前…!」

「カツトシちゃん。確かにアタシは敵よ?でも、だからってどうするっていうの?ナギサちゃん1人にすら、9人がかりで苦戦してたアンタ達が。」

「くっ…」

エカイラの言う通りだ。

今アリスは昏睡状態だし、床前とエカイラは黒幕側の人間だ。

それに床前1人ですら、9人がかりで動きを封じるのがやっとだった。

俺と玉木とジェイムズとリタの4人だけで、この2人をどうにかできるとは思えない。

「そういう事。じゃ、アタシは好きに行動させてもらうから。」

「おい、エカイラ!」

エカイラは、いち早く朝食を済ませると、レストランから出て行った。

 

「…ほらな。アイツはもう、俺達の敵なんだよ。」

「エカイラ…」

「ふわぁ、菊池はまだアイツの事を心配するんですかぁああ?」

「…アイツ、アリスが倒れた時、一瞬心配そうな顔してたんだよ。本当は、妹の事が心配でたまらないんだと思う。…やっぱり、兄妹は仲良くしないとダメだよ。」

「菊池さんはシスコンですもんね。」

「うるせぇ。それは今関係ねえだろ。」

「はいはい。」

俺は、朝食を診療所まで運んだ。

 

 

ー診療所ー

 

アリスは、まだ目を覚ましていないようだった。

「アリス…」

「菊池。」

玉木が診療所に入ってきた。

「…玉木。」

「お前、もう疲れてんだろ?今日は、俺があーちゃんを看るよ。」

「でも…」

「寝てない奴が看病したって、逆効果かもしれねえだろ。今日はもうゆっくり休んでろ。」

「…ああ、そうだな。…なあ、玉木。」

「なんだよ。」

「…なんかありがとな。お前には、なんだかんだ言って一番色々世話になってるからな。」

「バッカ、今更だっての!リーダーがチームメイトを支えるのは当然だろ?」

「…チーム、か。玉木、アリスもチームの一員だよな?」

「当たり前だろ!」

「…そうだよな。じゃあ、俺はちょっと休んでくるよ。あ、飯置いとくから、起きたら食わせてやってくれ。」

「ああ。あーちゃんの事は俺に任せとけ!」

 

 

ー売店ー

 

一休みする前に、売店で買い物でもしようかな。

俺は、売店のガチャを引いた。

中からは、花の簪と楽譜と金のネックレスが出てきた。

「…これは、誰に渡そうかな。」

俺は、出てきた景品を持ってホテルに戻った。

 

 

『超高校級の弓道部』の個室

 

「…へえ、射場山の部屋、こんな風になってたのか。」

『超高校級の弓道部』の個室は、他の部屋とは違って和室になっていた。

部屋の中に小さな弓道場があり、外には枯山水の庭園があった。

本棚には、弓道に関する本が並んでいた。

…おとといまで、アイツはここで生活してたのに。

なんでこんな事になっちまうんだよ。

「…ごめんな。仲間だからなんでも相談しろって言ったくせに…何もしてやれなかった。」

俺は、簪を机の上に置いて合掌した。

…射場山には、どうしても叶えたい夢があったのに。

なんで殺されちまったんだよ…畜生…!

「クソッ!!!」

俺は、壁を思い切り叩いた。

「…なんで…なんでだよ…!」

 

カタン

 

壁を叩いた衝撃で、近くに飾ってあった水墨画が落ちた。

「…?」

水墨画があった壁に、赤い文字が書いてあった。

「水墨画で隠れていたのか…これ、血文字か?」

恐る恐る、血文字を読んだ。

 

 

 

殺し合え

 

全ては絶望のままに

 

 

 

「!!?」

なんだよこれ…

なんでこんなものが射場山の部屋に…?

だが、一番あり得ないのは…それが射場山の筆跡だって事だ。

これを、アイツが書いたのか…?

だとしたらなんで…

 

『超高校級の絶望』

 

…!

まさか、俺達だけじゃない…

17人全員、『超高校級の絶望』だったっていうのか…!?

 

「…!」

考えれば考えるほど、頭がこんがらがってわけがわからなくなる。

俺達がテロリスト集団で…コロシアイ合宿の黒幕が、俺達のクラスメイト…?

タカヒロと名乗る黒尽くめの言う事を信用するわけじゃないが、ここにはそれを裏付ける証拠がある…

一体、何がどうなってんだよ…

俺は、謎を抱えたまま、射場山の部屋を後にした。

「…今日はやっぱりちょっと疲れたな。部屋で一休みするか。」

俺は部屋に戻って眠った。

 

 

 

ー診療所ー

 

【玉木サイド】

 

 

 

あーちゃん、なかなか目を覚さねえな。

せっかく朝飯作ったのに…

いつもなら、大喜びで飯を食うんだけどな。

菊池には、目が覚めたら食わせろって言われたけど、全然目を覚さねえし…

自分で食っちまおうかな。

 

…なあ、あーちゃん。

頼むから、目を覚ましてくれよ。

また、いつもみたいに笑ってくれよ。

せっかく朝飯作ったけど…あーちゃんがいないんじゃ、全然美味くねえんだよ。

「玉木さん。」

「おう、ジェイムズか。どうした?」

「あの…アリスさんの事なのですが…少し、場所を変えましょう。」

「…わかった。…ごめんな、あーちゃん。すぐ戻るからな。」

俺は、診療所を後にし、ジェイムズと一緒に談話室に向かった。

 

 

ー談話室ー

 

ジェイムズは、談話室で飲み物を買った。

「玉木さん、どうぞ。」

「ああ、ありがとう。」

「玉木さん、アリスさんの様子は?」

「ああ、あーちゃん、全然目を覚さねえんだ。」

「…やはりですか。…先日、一応脳波を調べてみたのですが…アリスさんの脳波は、異常値を示していました。私も、あれ程までに不安定な数値を見たのは初めてです。」

「それって…」

「…はい。玉木さんには、少し残酷なお話をする事になりますが…アリスさんの今後の容態がどうなるかは未知数です。先程、モノハム教頭に相談してみたのですが、『コロシアイ以外の死因で死なれるのは困るからベストは尽くすけど、あの状態じゃ自分たちでもどうする事もできない』と仰っていました。…つまり、この場で最も知識を持つお二人…もといお二匹ですら、アリスさんを治す方法が分からないそうなのです。下手をすれば、回復する見込みは無いかと…最悪、病死も視野に入れておかなければ…」

「…そんな。嘘だろ…?あーちゃんが…死ぬ…?」

 

嘘だ、そんなの受け入れられるわけないだろ…!

もう、10人も仲間を失ってんのに…

嫌だよ…そんなの…

もう、俺達から仲間を奪わないでくれよ…!

 

「…菊池さんには、この話はしますか?」

「…いや、話さなくていいよ。俺が直接話す。」

「…そうですか。」

「俺達には、祈る事しかできねえのか…クソッ!」

「…玉木さん。確かに、私は先程治療法が分からないと言いました。…しかし、それで諦める私達ではありませんよね?」

「ジェイムズ…!」

「私は、またアリスさんが元気になってくださるのなら、彼女の為に出来る限り…いや、それ以上の事をします。玉木さん。どうか、アリスさんの治療法を探すのを手伝って頂けないでしょうか?」

ジェイムズが、右手の手袋を外し、握手を求めてきた。

「ああ、もちろん協力するぜ、ジェイムズ!」

「…はい、ありがとうございます!」

「ふわぁ…」

「り、リタ!?」

「さっきから出てくるタイミングをうかがってましたよぉ。みんながアリスを治す方法を探してるなら、僕も協力しますぅ。」

「リタ…ありがとな!じゃあ、今日は俺があーちゃんの面倒看るから、二人は治療法を探してくれ!」

「はい!アンカーソンさん。一緒に図書館に行きましょう。」

「ふわぁい…」

リタとジェイムズは、図書館に向かった。

「おっと、俺はそろそろあーちゃんの所に行かないとな…」

俺は、診療所に戻った。

 

 

ー診療所ー

 

「あーちゃん、今氷枕替えるからな。」

あーちゃんの氷枕を新しいものに替えた。

あーちゃんの顔色は、少し良くなった。

「お、少し楽になったか。良かったなあーちゃん。」

あーちゃんの返事はなかった。

…良いわけないよな。

こんなに熱出して…いつ目覚めるかもわからない状態で…

クソッ、こんな時神城がいてくれたら…

「…なあ、あーちゃん。苦しいよな。でも、絶対にあーちゃんを助けてやるから。それまでの辛抱だ、もうちょっとだけ我慢してくれ。わけのわからない変な病気になんか負けるな!!」

俺は、あーちゃんの手を強く握りしめた。

「玉木ぃ。」

診療所にリタが入ってきた。

「おう、リタ。どうした?」

「ふわぁ…食事の準備ができましたぁ。早くレストランに来てくださぁい。」

「…飯か。」

「ふわぁ、君、あれから6時間くらいずっと昼食も食べずに、アリスの看病してたんですからぁ…夕飯くらいは顔を出してくださぁい。」

「え、嘘!?もうそんなに経ってた!?」

慌てて時計を見ると、もう6時を回っていた。

「うわっ!30分くらいしか経ってないと思ってた!…道理で腹減ってるわけだ。飯食わねえとな!」

「ふわぁい…」

「じゃあ、またなあーちゃん。」

俺達が診療所を出ようとしたその時…

 

 

 

「行かないで…」

「…!?」

「…暗い…暑い…寒い…痛い…怖いよ…独りにしないで…」

目を覚ましていないはずのあーちゃんの声が聞こえた。

「…助けてよ…お兄ちゃん…」

「…ごめんな、あーちゃん。後で絶対戻ってくるから。」

俺は、そのまま診療所を後にし、レストランに向かった。

 

 

ーレストランー

 

「おや、玉木さん。アリスさんの様子は?」

「…全然良くならねえ。お前の方は?」

「全く手掛かり無しです。一応、多重人格者の研究についての文献も読んだのですが、あんな症状が出る事は無いようなので…」

「…そっか。…あ。」

「どうなさいましたか?」

「さっき、全然良くならないって言ってたけど…ひとつだけ変な事があった。」

「変な事?」

「ああ。あーちゃんが、独り言みたいなのを言ってたんだよ。」

「独り言…?目は醒めていないんじゃありませんでしたっけ?」

「それがさ、なんて言うのかな…言ってたっていうか、頭の中に響いたっていうか…」

「…空耳ではないのですか?」

「ふわぁ、僕にも聞こえましたぁ。」

「フーン。世の中不思議な事があるものねぇ。」

「…エカイラ!」

コイツは、あーちゃんの兄貴だ。

ここに来るまでずっとひとりぼっちだったあーちゃんに必要なのは、多分コイツだ。

…だけど。

「うるせぇ。話しかけるな裏切り者。」

「キャー、カツトシちゃんコワーイ!お仲間の兄貴に向かって『うるせぇ』は失礼でしょ?」

「…お前に兄貴の資格なんかねえよ。」

「まあ、そりゃそうよねー。だって、産まれてすぐ闇オークションにかけられて、別々の買い取り手に引き取られたんだもの。あの子もカワイソーよねぇ。私利私欲の為に人の身体を切り刻む変態達に買われて、いつ暴走するかわからない生物兵器に改造されちゃうなんて。アタシ、絶対ああはなりたくないわぁ。」

「うるせェ!!テメェは絶対許さねえからな!」

「お二人とも、やめてください!そんな事より、今は食事をしましょう。エカイラちゃんさんと床前さんの事は、明日考えれば良いではありませんか。」

「…わかったよ。」

「あら。ジェイムズちゃん。アンタ、実年齢は一番お子ちゃまなのにお利口さんねえ。」

「エカイラちゃんさんも、早く席に座ってください。夕食が冷めてしまいます。」

「あら、失礼〜♪」

俺達は、ジェイムズが作った夕飯を食った。

 

 

ー診療所ー

 

食事の後は、すぐに診療所に戻ってあーちゃんの看病をした。

「玉木さん。そろそろ遅い時間です。私が看病をしますから、玉木さんはお部屋で寝てください。」

「でも…」

「このままでは、玉木さんの負担が大きすぎます。皆さんで、交代して看病しませんか。」

「…そうだな。じゃあ、あーちゃんの事頼むぞジェイムズ。」

「了解しました!」

…さて、俺は部屋に戻って寝るかな。

 

 

 

 




えーそれでは、今回の解説を行っていきたいと思います。(ドンドンパフパフ〜)
あーちゃんこと伏木野アリスは、カムクライズルになる()()()()()生徒です。
(本家のカムクライズルが誰かはプレイすればわかる事なので敢えて言いません。)
実は、ちゃんとヒントはあったのです。
・誕生日が同じ1月1日
・他の参加者に比べて圧倒的に情報量が少ない
・凶器が日本刀(フツーの幼女がポン刀振り回して人を斬れるわけがない)
・声優ネタ(名探偵コナンのコナンと光彦)
…いかがでしたか?
ちなみに、菊池クンのICVの神谷さんとあーちゃんのICVの大谷さんはワンピで共演してます。
荒ぶるチョッパーとそれにツッコむローwww
それじゃ、次回もお楽しみに〜。


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第5章(非)日常編②

そういえば前回、探索を書くのを忘れていた(オイ!)ので、今回の話で書きます。


合宿19日目。

「…。」

部屋のベッドの上で目が覚めた。

そうだった。

俺は、昨日売店で買い物をした後、そのまま寝たんだった。

…腹が減った。

とりあえず、レストランに行くか。

 

 

ーレストランー

 

「おはよう、みんな。」

「おう、おはよう菊池。よく寝てたな。」

「おはようございます菊池さん。」

「ふわぁ…おはようございますぅ…」

「おはようございます論さん!昨日は随分と長くお休みになっていましたね、お身体は大丈夫ですか!?」

「うるせぇよ。裏切り者が。」

「玉木さんには聞いていません。黙っていてください。」

「…なあ、そういやアリスは?」

「アリスさんはまだお目覚めになりません。このままでは栄養失調になってしまうので、点滴を投与しました。」

「…そうか。」

「…本当に不甲斐ないです。素人の医療レベルでは、アリスさんを治して差し上げる事は出来ません。私に出来るのは、最低限の体調管理と、ただ回復を祈る事だけです。…こんな時、神城さんがいてくだされば…」

「やめろジェイムズ。お前はよくやってくれたよ。もういない奴の事を悔いても仕方ない。最低限でもいい。俺達にできる事をやるんだ。」

「…そうですね。私とした事が、つい消極的な思考になってしまいました。私は私にできる事をします。」

「ふわぁ…僕も手伝いますぅ。」

「…。」

エカイラはやっぱり、他のみんなと喋ろうとしないな。

本当は妹の事が心配なはずなんだが…

このままじゃちょっと心配だな。

「なあ、腹減っちまった。朝飯にしようぜ。」

「だな。菊池、お前の分もあるからちゃんと食えよ。」

「ああ。」

俺達は、みんなで朝食を食った。

朝食は、けっこう美味かった。

『やっほー!!おっはよー!』

『おはようごじゃいまちゅ!』

いきなり、モノクマとモノハムが出てきた。

「おはようございます。朝から元気ですね。」

『カークランドクン、ちゃんと挨拶を返してくれるのはキミだけだよ!』

「…どうも。」

「お前ら、一体何の用だよ!?」

『察ちが悪いでちゅね!学級裁判の後でオイラ達がアナタ達にちゅる事といえば、ひとちゅかふたちゅちかないでちょうが!』

「…新しいエリアの開放と、動機の発表ね。」

『その通ーーーーり!!今回は、植物園と博物館、それから教会をオープンしたよ!それから、動機は今日の午前0時に送るのでちゃんと見てください!』

「ふわぁ…相変わらず悪趣味で、逆に安心しましたぁ。」

『ぴきゃきゃ、ちょちらこちょ、相変わらぢゅ毒舌でちゅね!でも、ちょの威勢もいちゅまで続くんでちょうかね!』

…アイツら、本当に余計な事ばっかりしやがって。

何度、コイツらに仲間を弄ばれてきた事か。

「おい、探索はどうする?まずは担当を決めないとな。各箇所に2人ずつでいいか?」

「そうですね。」

「論さん!一緒に探索しましょうね!」

「くっつくな。」

「うふふ、私には冷たいあなたも魅力的です。」

コイツ、見た目はまあまあ可愛いのに中身は本当に気持ち悪いな。

「とりあえず、担当を決めたから見てくれ。」

 

植物園…菊池、エカイラ

博物館…ジェイムズ、リタ

教会…俺、床前

 

「…はぁ?玉木さん、一体どういうつもりですか?私と論さんを引き離すなんて…死にたいんですか?」

「お前は絶対に菊池に何かする。俺が見張るから大人しくしてろ。」

「嫌です。なんで私があなたの言う事を聞かなきゃいけないんですか?どう考えても私があなたの命令に従う理由がないじゃないですか。私に命令していいのは、論さんだけです。」

「コイツ…」

「玉木、いいよ。俺が床前と一緒に探索する。」

「まあ、論さん!私を選んでくださったんですね!?嬉しいです!」

「菊池、お前…!」

「…心配すんな。もう線引きしたりしねえよ。コイツは、俺が見張っておく。お前は、エカイラと探索してくれ。お前ら、ケンカすんなよ。」

「…わかった。エカイラ、お前は俺と行動しろ。」

「アラ。アタシとはもう敵同士なんじゃなかったの?まあ、せっかくのデートのお誘いだし、付き合ってあげるわ。」

「論さん、私を選んでくださってありがとうございます!」

「…お前は俺が見張る。もしまた変な気を起こしたら、今度こそお前を存在ごと無視するからな。」

「それはちょっと困ります。…わかりました。私、論さんの言う事をちゃんと聞きます。」

「じゃ、アタシ達は教会の探索しましょう?」

「ああ、こっちは植物園の探索をするよ。探索が終わったら、レストランに集合して報告会な。」

「ガッテン承知の助〜♡」

俺達は、2人で植物園に向かった。

 

 

ー植物園ー

 

【菊池サイド】

 

植物園は、様々な種類の花が咲いていて、まるで花畑のようだった。

「わあぁ、見てください論さん!色んな花が咲いてますよ!」

「まあ、植物園だしな。」

「まるで天国みたいです!…あ、論さんと一緒…こんなの、本当に天国じゃないですか!」

「縁起でもない事言うな。」

ん?

なんだこれ。

植物園の隅に、何故か箱の中で育てられている植物があった。

咲いていたのは、タンポポに似た植物だった。

だが、花、茎、葉の全てが雪のように真っ白だった。

「…これは?」

俺は、箱に書かれている文字を読んだ。

 

コユキソウ

これは、『超高校級の植物学者』鈴華小雪が品種改良を重ねて完成させた、飲んだだけでたちまちあらゆる病や怪我の苦しみから解放される奇跡の薬草です!

病気や怪我で苦しんでいる人に飲ませてあげよう!

 

胡散臭っ。

なんだこの気持ち悪い文面は。

「ん?どうしたんです論さん?」

「こんな胡散臭い物を見つけたんだが…お前はどう思う?」

「んー…確かに怪しいですね。あらゆる病や怪我に効くって…どう考えても嘘くさいです。」

一番怪しいのはお前だよ、とツッコみたいところだったが、あえてスルーした。

「論さん、これ…どうしますか?」

「ああ、えっと…とりあえず、持って帰ってジェイムズかエカイラあたりに見せるか。」

「私もそれに賛成です。もしこれが本物なら、アリスさんを助けられるかもしれませんしね。」

「…お前、俺以外はどうでもいいんじゃなかったのか?」

「いえいえ、そんな事ないですよ!だって、あのまま死なれでもしたら、コロシアイの駒がひとつ減っちゃうじゃないですか。私が狙っているのは、あくまでも私と論さん以外の方同士の潰し合いです。」

「お前…」

「特に、アリスさんには期待してるんです。だって、彼女のカムクライズルとしての人格が完全に覚醒すれば、勝手に邪魔な虫達を殺してくれるじゃないですか。」

「…お前、本当はどこまで知ってるんだ?ベラベラ俺達の知らない事を喋りやがって…どこまでこのゲームの事を知っている。言え。」

「全部知ってますよ。タカヒロさんから貰ったビデオの映像を見たのでね。ああ、もちろん彼からは話す許可をもらってますよ?」

「じゃあタカヒロが誰かも知ってるんだな?」

「それは知りません。あの人、照れ屋だから私にも正体を教えてくださらないんです。」

なんだよ…肝心な事は知らないんじゃねえか。

まあ、こんなに簡単に情報が手に入るんだったら今まで苦労はしてないわな。

「…全部お前の自作自演っていう可能性は?」

「ないですよそんなの!いくら私でも、クラスメイト全員を島に隔離して虐殺するなんてそんな惨い事できません!私は、ただタカヒロさんの駒として最低限の任務を全うしているだけです!」

惨いって…どの口が言うかよ。

「あっと、言えるのはここまでです。これ以上は、絶対何も喋りませんからね。…っていうか、喋ろうとしたら私、彼に消されちゃいます。…まあ、それ相応のものを払っていただけるんであれば、喋ってもいいんですけど。」

「それ相応のもの?」

「ええ、あなたの体で♡」

「本気で存在ごといなかったものとみなすぞ。」

「ちょっと、論さんってば!ちょっとしたジョークじゃないですか!」

コイツの場合、ジョークとは思えないんだよな。

目がマジだし。

本当に何考えてんだかわかんなくて気味悪いんだよ。

…仕方ない、地道に手掛かりを探すか。

 

 

ー博物館ー

 

【ジェイムズサイド】

 

私達は、皆さんと解散した後博物館に向かいました。

アンカーソンさんと二人っきりで博物館に行くなんて、久しぶりですね。

「ふわぁ、ジェイムズ…君、浮かれすぎですぅ。真面目に探索してくださぁい…」

「すみません、アンカーソンさんと二人でお出かけするのが久しぶりだったもので…」

「そうですかぁ…ところで、そのバスケットは一体なんですかぁ。」

「ああ、軽めのおやつです。探索やアリスさんの治療法を調べるのに頭を使って、すぐに小腹が空くのではないかと思いまして…あ、食べますか?」

「ふわぁ…ピクニックじゃないんだから…準備してこなくていいですよぉ…」

「…そうですか。」

「見てわかるくらい落ち込むの、やめてくださいよぉ…こっちが悪いみたいじゃないですかぁ。」

「あ、すみません…あ、見てくださいアンカーソンさん!サイクロプスの化石ですって!」

「ふわぁ、サイクロプスって、確かギリシャ神話に出てくる一つ目の巨人ですよねぇ?なんで神話の生物の化石がこんなところにあるんですかぁ。絶対偽物に決まってますぅ。」

「あ、言われてみれば、完全にプラスチックの光沢ですね。燥いで損しました。」

「っていうか、最初から怪しかったですぅ。観察するまでもないですぅ…」

最初は本物かもしれないと思ってとても興奮したんですけどね。

神話生物が存在したのかを知るチャンスだと思ったのですが…残念です。

「ふわぁ…あれ、なんでしょうかねぇ…」

「あれ?」

アンカーソンさんが指を差した方向を見ると、そこには宝箱がありました。

特殊な素材で出来ており、人一人が入れる位の大きさはあります。

「なんなんでしょうかこれ…」

「え?宝箱以外の何かなのですか?」

「そういう事を言ってるんじゃないですぅ。誰も、見てわかる事を質問したりしませんよぉ。中に何が入ってるのかって事を聞いてるんですよぉ…」

「そういう事でしたか。申し訳ございません。…あ、開きませんね。」

「鍵がかかってるんでしょうかねえ。しかも、この大きさ…中にそんなに重要な物が入ってるんでしょうかぁ?金銀財宝か、はたまた偉人の遺骨か…」

「ちょっと待ってください。ミミックという可能性もありますよ!」

「ふわぁ…なんでミミックなんですかぁ。君、日本のゲームのやりすぎですぅ。…って、何やってるんですかぁ。」

「ピッキングです。」

「だから、なんでそんな事をしてるのかって聞いてるんですぅ。中に変な物でも入ってたらどうするんですかぁ。」

「もしミミックだったとしても、マホトラを唱えれば大丈夫です!」

「いい加減ゲーム脳から脱出してくださいよぉお…」

「あ、開きました。」

「ふわぁ、開くんですかぁ。」

「では、開けますね。」

宝箱を開けると、中に丸まった古い紙が入っていました。

…と思いましたが、これはわざと紙を変色させているんですね。

「あれ、なんでしょうかこれ…地図、ですかねぇ…」

「ミミックではありませんでしたね。」

ちょっと期待してたんですが…

「ふわぁ、ミミックなわけないじゃないですかぁ…ん?」

「どうしましたかアンカーソンさん?」

「これ、この島の地図じゃないですかぁ?」

「あ、言われてみれば、地形が酷似していますね。ここにcross mark(バツ印)が書かれていますよ。」

私は、しおりの地図と照らし合わせて確認してみました。

「…教会の位置ですね。教会に何かあるんでしょうか?」

「さぁ…あれ?」

「ん?どうしましたか?」

「ふわぁ…これ、楽譜ですよね?」

「え?」

アンカーソンさんに言われて地図の裏を見ると、うっすら楽譜が書かれていました。

書かれていたのが一部だけだったので、何の曲かは全く分かりませんでしたが…

分かる事と言えば、C minor(ハ短調)の曲だって事でしょうか…

あと、端に何か書いていますね。

 

Hör nicht zu

 

 

…聞いてはいけない?どういう事なんでしょうか?

「なんなんでしょうかね、これ…」

「ふわぁ…わからないですぅ…あとでみんなに見せた方がいいんじゃないですかぁあ?」

「そうですね。そうするのが一番いいでしょうね。あ、その前におやつを食べておきましょう。」

「ふわぁ…」

私達は、2人でおやつを食べて一通り探索した後、レストランに向かいました。

 

 

ー教会ー

 

【玉木サイド】

 

俺とエカイラは、みんなと解散した後教会に向かった。

教会は、このリゾート地の中で唯一木造建築で、建てられたのも比較的最近のようだった。

「へぇー、教会って中はこんな感じになってるのねー。アタシ、初めて見たわー。」

「…。」

「ねえ、カツトシちゃん!せっかくのデートなんだし、何かお話しましょうよお!」

「うるせぇ。何がデートだ。真面目に探索しろ。」

「アラ、つれないわねぇ。きっとツンデレなのね!」

コイツ、自分が何をやったのか忘れたのか?

今まで、みんなをあんな惨い方法で殺した奴に加担してたんだぞ…?

そんな奴の事を許すなんて、よっぽどの聖人じゃなきゃ無理だろ。

「ねーえー、カーツートーシーちゃん!そんなしかめっ面してないで、いつもみたいに元気に笑いなさいよ!反応悪い男はモテないわよ!」

「だったらモテなくて結構だ。そんな事より、二度と俺達に関わるな。」

「うっわー。辛辣ー。アタシ泣いちゃうわよ?」

「勝手に泣け。」

「カツトシちゃんひっどーい!!ふーんだ、もういいですよーだ!カツトシちゃんとは、もうデートしないから!代わりに、サトシちゃんやあーちゃんとデートしよーっと!」

「テメェ、もし菊池とあーちゃんに何かしたら許さねェからな。」

「…カツトシちゃんこっわぁ。アタシにそんな口利いていいの?お友達の兄貴を睨むなんて、失礼なんじゃなくって?」

「お前は、生まれた時からずっとあーちゃんと離れ離れだからもう赤の他人も同然なんだろ?だったら今更兄貴面してんじゃねえよ。お前なんか、兄貴失格だよ。」

「やーね、フラれちゃったわぁ。さーてと、そろそろ真面目に探索しないとねー。」

どの口が言うか。

お前が探索をサボって俺に絡んで来たんだろ。

「ふーんふーんっと。アラ?何か落ちてるわね。何かしら?」

エカイラが床を這って長椅子の下を探した。

全長が2mあるオカマが地面を這いながら探索をしている様は、正直言ってホラーだった。

「んーっと、やっぱり身体が大きいとこういう時不便ねー。あ、取れたわ。」

エカイラは、拾い上げた物を見せてきた。

「…なんだこれ。十字架か?」

「そうみたいねえ。…アラ?これ、ただの十字架じゃないわね。」

エカイラは、十字架を調べ始めた。

「むっ、けっこう固いわね…ふんっ!!」

エカイラが十字架を調べると、十字架の金属のカバーが外れてライターのような形状になった。

「アラ、かわいらしいライターだこと。見たところオイルライターかしら。」

「なんでこんな所にライターが…」

「さーね。誰かがここで一服してたのかもねー。アラ?でも、アタシ達全員未成年よね?って事は、未成年喫煙?しかも、教会で?うっわぁ、誰だか知らないけどイケナイ子ね。」

今まで散々人を殺してきたお前が言っていいセリフじゃない。

「勝手な憶測で物を言うな。別にこれを落とした奴が俺達のクラスメイトとは限らないし、タバコを吸うために持ち込んだとも限らないだろ。現に、タバコは見つかってないしな。」

「あー、確かに。アタシ、早とちりしちゃってたのかも!」

ったく、なんなんだコイツ。

俺のチームメイトにも問題児は何人かいたけど、さすがにここまでひどい奴は見た事ないぞ。

コイツといると本当に疲れるな。

…ん?

「アラ?どうしたのカツトシちゃん?」

「…気のせいかもしれねぇけど…なんか、この床板、色が不自然じゃねえか?」

「アラそーお?別にアタシは気にならなかったけど…気のせいじゃないの?」

「…だといいんだがな。」

「さーてと、探索も終わった事だし、そろそろレストランに報告に行きましょー?」

俺達は、レストランに向かった。

 

 

ーレストランー

 

【菊池サイド】

 

全員がレストランに集まっていた。

「おう、菊池。探索は終わったのか?」

「まあな。」

「よし、じゃあ全員揃ったし、報告会をするか。」

「ああ。」

全員が席についた。

「どうする?まずは誰から報告する?」

「そうだな…じゃあ菊池。報告してくれるか?」

「わかった。植物園には、色んな花が咲いてたよ。その中でも、気になる花があったな。」

「気になる花?」

「ああ。この花なんだが…コユキソウっていって、怪我や病気に効くらしい。」

「まるでギンリョウソウのように真っ白ですね。見た所腐生植物ではないというのが不思議です。白化個体(アルビノ)でしょうか?」

「ジェイムズはこの花知らねえのか?」

「存じ上げません。コユキソウ、ですか。後で調べておきます。」

「頼むぞ。」

「ガッテン承知の助、です!」

ジェイムズはド天然でどこか抜けてはいるが、知識と調査研究の技量は一番優秀だからな。コイツに任せておこう。

「なあ、菊池。床前に何かされなかったか?」

「あらやだ。玉木さん、人をストーカーか強姦魔みたいに言うのやめてもらえません?」

お前はストーカーや強姦魔なんかよりよっぽどタチが悪いから、その事を自覚しろ。

「…別に、特に何もされてねえよ。」

「そっか。特に何もされてねえか。ならよかったよ。じゃあジェイムズ、リタ。お前らの方はどうだったのか、話してくれるか?」

「わかりました。私達の方はですね、サイクロプスの化石を見つけました!」

「サイクロプスの?」

「ふわぁ、ジェイムズ。報告すべきなのはそこじゃないですぅ。」

「あっ…失礼しました。ええとですね、私達は、博物館で宝箱を見つけたんですけど…そこに、地図が入っていました。」

「地図?」

「はい。これを見てください。」

ジェイムズは、茶色く変色した古い地図を見せた。

「因みにこれ、わざと紙を変色させて古く見せているだけなので、実際は割と新しい地図です。」

なんだよそれ。

誰だか知らんが、地味にセコい事しやがって。

「ふわぁ…でも、重要なのはそこじゃないですぅ。地図の地形をよく見てくださぁい。」

「地形?…あ。」

この地図に書かれてる島、この島だよな。

このバツ印は…位置的に言えば、ちょうど教会のあたりか…

教会に何かあるって事か?

「なあ、この地図は一体なんなんだ?」

「私にも分かりません。…ヒントになるかは分かりませんが、地図の裏を見てください。」

裏?

…強いて言うならちょっと汚れてるような気がするけど…

特に何も書かれてない気が…

「ここをよく見てください。」

ジェイムズが指を差したあたりを見ると、うっすらと楽譜が1小節分だけ書かれていた。

「…なんだこれ。楽譜か?」

「そのようです。情報量が少なすぎて、何の曲なのかまでは特定出来ませんでしたが…」

「…なるほどな。…ん?」

端の方に何か書かれている。

見たところドイツ語っぽいけど…

「なあ、お前らこれなんて書いてあるのか読めるか?」

「…聴いてはいけない。そう書かれています。」

聴いてはいけない、だと…?

もしかして、この楽譜の曲をって事か?

何がなんだかさっぱりだな。

「なあ、玉木。お前らの方の探索はどうだった?」

「ああ、今から報告するよ。えっとな…教会は木造建築で、割と開放感のある建物だったよ。」

「教会ですか…あ、そこで論さんと私の結婚式を開くんですね!素晴らしいです!」

何言ってんだコイツ。

「床前、ちょっとうるさいから静かにしてくれ。」

「はぁい。」

「それで?何か収穫はあったのか?」

「収穫って言える程の物じゃないが…これを見てくれ。」

「なんだそれ。十字架か?」

「十字架の形をしたライターらしい。これが教会に落ちてた。」

「十字架のライター…ねえ。」

「俺達からの報告は以上だ。」

「あの、報告会も済んだ事ですし、そろそろ昼食にしませんか?」

「そうだな。じゃあ、今回は俺が作るよ。」

「はい、お願いします玉木さん!」

俺達は、玉木が作った昼飯を食った。

なんか、ジェイムズと玉木にだけ作らせちまって申し訳ないな…

俺も、おにぎりくらいは作れるように料理を練習しとくか。

「ごちそうさまでした。」

食事の後は自由時間になった。

…アリスが心配だし、様子を見に行こう。

 

 

ー診療所ー

 

やっぱり、アリスはまだ目を覚ましていなかった。

「…まあ、そうだよな。急に目が覚めたりなんて…あるわけないよな。」

せめて、コユキソウとかいう花がなんなのかがわかればな…

あの花は、今ジェイムズに調べて貰ってるし…

「アリス、大丈夫か?」

まあ、話しかけても返事が返ってくるわけないんだけどな。

コイツがどんなに苦しんでいようと、俺は何もする事ができない。

俺にできるのは、ただ回復を祈る事だけだ。

「論さん!」

「…床前か。どうした?」

「どうしたって…論さんが心配で来たんですよ!論さん、アリスさんの事になると、寝る間も惜しんで看病しようとするじゃないですか!私、論さんが過労で倒れたりなんて…想像しただけでもう耐えられません!」

「別に、俺は大丈夫だよ。そんな事より、診療所では静かにしてくれないか。」

「あ、すみません…私、論さんの事が心配でつい…」

「…なあ、床前。お前、黒幕と通じてんだろ?だったら、治療法の手がかりもわかるんじゃないのか?」

「えーと、すみません!私文系なので、そういう難しい事はちょっとよくわからないです!」

コイツ、すっとぼけやがって…

「本当に何も知らないんですよ?彼女の、カムクライズル化が進んでるって事なんて…」

は!!?

「おい、今カムクライズル化って言ったよな!?どういう事だ、説明しろ!!」

「あ、すみません。これ、言わない方がいい事でした。やっぱり今のナシで…カム…カム…かむ●むレモンおいしいですよね、って言いたかったんです。」

「なんだその滅茶苦茶な誤魔化し方は!!まかり通るかそんなモン!!」

「ですよねー。うーん…タカヒロさんから話しちゃダメって言われてるわけじゃないですし…論さんにだけ特別にお教えします。」

床前は、近くにあったパイプ椅子に腰掛けて話し始めた。

「よいしょっ…ええと、では話しますね。一昨日、カムクライズルプロジェクトについて話しましたよね?」

「ああ、アリスが受けたっていう…」

「そうです。アリスさんは、カムクライズル化の手術を受けた最初の被験体だった事はご存知ですよね?そして、ある者が彼女の暴走を止め、別人格を植え付けて無理矢理カムクライズルを封印したと…」

「それがどうしたんだ。」

「実験というのは、失敗がつきものです。彼女の育ての親は、カムクライズルの暴走を止めるために別人格を植え付けるという強引な策を講じたわけですが、結果的にそれは成功したとは言えなかったんです。」

「…と、言うと?」

「彼が講じた策は、あくまで暴走を()()()()だけ…暴走そのものを完全に封印できたわけじゃないんですよ。」

「えっ…」

「今の彼女は、カムクライズル化の準備段階にあるんです。心配せずとも永久に目覚めないという事はありませんが…次に彼女が目覚めた時は、どうなるかは覚悟しておいた方がいいと思いますよ?」

「…アリス。絶対に帰って来いよ。カムクライズルなんかに負けんなよ。」

「…まあ、彼女をこのまま放っておくか、今のうちに殺すかは好きにしてください。私は、あなたの意思を尊重します。…ただ、暴走したアリスさんがあなたを殺そうとすれば、私は問答無用で彼女を殺します。たとえ、それであなたかタカヒロさんに殺される事になったとしてもね。それだけは肝に銘じておいてください。」

「…。」

「では、私はやる事があるのでこれにて失礼します。くれぐれも、体を壊さないようにしてくださいね。」

床前は、診療所から出て行った。

それから数時間が経ち、玉木が来た。

「菊池。あーちゃんの看病、俺が代わるよ。」

「おう、玉木。悪いな。じゃあ、任せるわ。」

「ああ。お前はゆっくり休んでこい。」

俺は診療所を後にし、ホテルに戻った。

 

 

『超高校級の演奏家』の個室

 

小川の部屋は、以前とほとんど変わらない状態だった。

だが、アイツがいないと幾分か広く感じる。

…そうか。もう、小川はいないのか。

アイツには、亡くなった親友の夢を果たすっていう、どうしても叶えたい夢があったのに。

アイツにはきっと、輝かしい未来が待っていたはずなのに。

だがそれらは、嫉妬に狂った神城に一瞬にして奪われてしまった。

アイツの事だから、加害者の神城の事も、何もしてやれなかった俺達の事も、誰も恨んでいないんだろうけど…

それじゃあ、俺の気が収まらねえよ。

「…ごめんな。何もしてやれなくて。俺、お前の分までなんとしてでも生きるから。…図々しいかもしれないけど、最後まで俺達の事を見守ってくれ。」

俺は、楽譜を机の上に置いた。

「…あ。」

今更気がついた。

机の上に置いたのは、きらきら星の楽譜だった。

…この前、コンサートホールで一緒にピアノを演奏した曲だ。

…ここから出たら、腕を上げて、アイツに聴いてもらおうと思ってたのに。

なんでこうなっちまうんだよ…クソッ!

俺が机を叩くと、机に立てかけてあった写真立てが倒れた。

「あ…」

俺は写真立てを見てみた。

そこには、無邪気に笑う小川の顔が写っていた。

俺は写真を写真立てから取り出して見てみた。

「…小川、本当にごめんな…」

もっと、コイツの笑顔が見たかった。

でも、どんなに後悔してももう遅い。

アイツとの思い出は、胸の奥にしまっておく事にした。

「…ん?」

あれ?

この写真…2枚に重なってるな。

「…なんだ?」

俺は、2枚目の写真を見てみた。

 

「…うっ!!?」

あまりの強烈さに、思わず吐き気を催した。

その写真は、俺達のクラスの集合写真だった。

でも、ただの写真じゃない…

その写真は、ところどころ赤黒く染まっていた。

今まで、コロシアイを嫌というほど体験してきた俺ならわかる。

…これは、人の血だ。

この写真に写っている人達は、俺達がコロシアイ合宿に参加する前に殺されたのか…

一体誰が、何のためにこんな悪趣味な事をしてるんだ…

 

『超高校級の絶望』…

俺達がそうだったっていうなら、もしかして俺達が、この人達を殺した真犯人だって事か…?

まだ、わからない事だらけだな…

 

俺は、2枚目の写真だけを内ポケットにしまい、1枚目の写真は写真立てに戻した。

「じゃあな、小川。安らかに眠れよ。」

俺は、小川の部屋を後にした。

 

小川の部屋を出てしばらくホテルを彷徨いていると、床前と会った。

「あら、論さん!探しましたよ!」

「…またお前か。…で?何の用だ?」

「お食事の用意ができましたよ。カークランドさんに呼んでくるように言われたので、呼びに来ました。」

「…お前、俺以外の命令は聞かないんじゃなかったのかよ。」

「本当はそのつもりだったんですけど、論さんを飢え死にさせるわけにはいかないじゃないですか。だから不本意ながら彼の命令に従って、論さんを呼びにきたんです。」

「そうかよ。」

「では、急ぎましょう論さん。お食事が冷めてしまいます。」

俺は、床前に急かされるままレストランに向かった。

 

 

ーレストランー

 

「おや、菊池さんに床前さん!お食事はもう作り終えていますよ。」

「ジェイムズ…ありがとな。」

「いえ、こういうのは、玉木さんと私の仕事ですから!紳士たる者、万に通じていなければなりませんので!」

ジェイムズは、自信満々に言った。

「じゃあ全員揃ったし、飯食うか。」

「ふわぁ、そうですねぇ…」

俺達は、ジェイムズが作った飯を食った。

…チクショウ。俺も料理の腕を磨かねえと…

 

食事の後は、部屋に戻った。

「そういえば、動機が配られるのは午前0時だったよな…」

俺は、部屋で適当に時間を潰しながら時が来るのを待った。

そして…

 

 

 

ヴーーーーーーーーーッ

 

俺のしおりに、新しいアプリが増えていた。

「…これが、第5の動機…?」

俺は、恐る恐るアプリを開いた。

 

 



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第5章(非)日常編③

ちょいと編集☆


アプリを開くと、裁判場のようなドットの画面が映った。

裁判長の格好をしたモノクマが木槌を叩くと、ポップな文字が現れた。

 

 

 

最新のHOTな話題をPICK UP!

 

キミの気になる話題TOP5!

 

 

 

…は?

なんだ、このふざけた画面は。

ポップな文字の下に、5つの項目があった。

 

 

 

第1位『超高校級の弁護士』の妹、菊池破奈サンの現在は!?

 

第2位『超高校級の失敗作』伏木野アリスサンの『カムクライズル化』とは!?

 

第3位『超高校級の絶望』菊池論クンが記憶を消された3年間に犯した罪とは!?

 

第4位コロシアイ合宿の黒幕、そして合宿の目的とは!?

 

第5位『超高校級の絶望』、そして『人類史上最大最悪の絶望的事件』とは!?

 

 

なんだ、これは…

俺は、5位の話題から順番に見ていく事にした。

 

 

 

第5位『超高校級の絶望』、そして『人類史上最大最悪の絶望的事件』とは!?

 

『人類史上最大最悪の絶望的事件』とは、3年前に希望ヶ峰学園の本科生によって引き起こされた、世界規模の同時多発テロの総称である。希望ヶ峰学園の78期生として入学した戦刃むくろ、江ノ島盾子らに絶望に落とされた本科生『超高校級の絶望』達は、世界中に絶望を伝染させるため、世界中でテロを起こした。『超高校級』達によるテロの勢いは凄まじく、わずか1年で世界は混沌と化した。2年前に首領である江ノ島盾子が死亡し、『超高校級の絶望』の勢いは失速したが、今も尚『人類史上最大最悪の絶望的事件』は続いており、『超高校級の絶望』に対抗する機関『未来機関』によって取り締められているとされる。

 

 

 

第4位コロシアイ合宿の黒幕、そして合宿の目的とは!?

 

コロシアイ合宿の黒幕は、希望ヶ峰学園の79期生『超高校級の俳優』嫌嶋隆尋である。『未来機関』第十五支部支部長嫌嶋幽禍の実弟であり、彼女のクラスの生徒でもある。どんな役も100%完璧に熟すという才能の持ち主で、コロシアイ合宿参加者の中に紛れ込んでいる。コロシアイ合宿の目的は不明だが、合宿参加者達に絶望的な死を与える事が目的だと思われる。

 

 

 

第3位『超高校級の絶望』菊池論クンが記憶を消された3年間に犯した罪とは!?

 

菊池論クンは、床前渚サンを含む、既に絶望に堕とされた『超高校級の絶望』達によって絶望に堕とされ、79期生達を虐殺した。菊池論クンは、当時リゾート地にいた79期生の内、計20名を殺害。その後、嫌嶋隆尋によって記憶を消され、何事も無かったかのようにコロシアイ合宿に参加した。凶器として配ったロープは、当時菊池クンが同級生の殺害に使用していたロープである。

 

 

 

第2位『超高校級の失敗作』伏木野アリスサンの『カムクライズル化』とは!?

 

アリスサンは、『超高校級の希望』カムクライズルを生み出すための手術に失敗した実験体である。彼女は暴走し、破壊の限りを尽くしたが、今は亡き研究者、嫌嶋狂弌によって無害な人格を植え付けられ、暴走は抑えられたかに思われた。しかし、主人格の暴走を完全に止められた訳ではなく、ふとしたきっかけで暴走するという性質はまだ残っていた。今のアリスサンは、主人格が完全に覚醒するための準備段階にあり、準備段階が完了するまでは目覚める事は無い。

 

 

 

第1位『超高校級の弁護士』の妹、菊池破奈サンの現在は!?

 

菊池破奈サンは現在、生存している。両親は共に『超高校級の絶望』に殺害されたが、破奈サンだけは『未来機関』に保護された。しかしその後、行方不明となっている。

 

 

 

頭の中が全く整理できていない。

言いたい事は山ほどある。

…でも。

 

「…良かったぁ。」

 

破奈が生きていてくれた。

俺はあの時、アイツが死んだんじゃないかと思って怖くなった。

でも、破奈はまだ生きてる。

俺は、その事実があれば、どんなに苦しかろうと生きていける。

俺が20人も殺したという話は、正直信じられない。

もしそれが本当なら、今からでも罪を償いたい。

でもその前に、俺は絶対にここを生きて出るんだ。

俺を待ってくれている妹のために。

 

 

ー翌日ー

 

合宿20日目の朝。

この合宿も、もう20日か…

俺は、レストランに向かった。

「おはよう、みんな。」

「おはようございます論さん!」

「おはようございます、菊池さん。」

「ふわぁ…おはようございますぅ…」

「…。」

「なあ、玉木。どうした?考え事か?」

「あ、いや…なんでもない。おはよう菊池。」

「…?おう。おはよう。エカイラもおはよう。」

「アラ、おはよ。サトシちゃん。」

…良かった。今日は返してくれた。

「なあ、誰が昨日アリスを見てたんだ?アイツ、まだ目を覚まさないのか?」

「…俺が見てたよ。アイツ、まだ目を覚ましてなかったよ。」

「…そっか。それは心配だな。ところでジェイムズ。コユキソウについて、何かわかった事はあるか?」

「ええとですね、今成分を色々と調べている所です。まだデータが少なすぎてはっきりとした事は言えないので、もう少しお時間を頂けませんか?」

「具体的にはあとどれくらいなの?」

「そうですね…最低でも、あと3時間は欲しい所です。」

「…そうか。ありがとな。」

「はい、皆さんのお役に立てるよう、急速かつ正確に調べてデータを集めます!」

「それは頼もしいな。よし、じゃあそろそろ朝飯にしよう!」

「ふわぁい…」

俺達は、席に座って朝飯を食った。

その後は、自由時間になった。

「自由時間か…どこに行こうか?」

 

 

『超高校級の外科医』の個室

 

神城の個室は、2週間前に入った時とほとんど変わっていなかった。

でも、もうアイツはいない。

最初は、傍若無人で尊大不遜な神城の事が心底鬱陶しかったけど、居なくなってはじめて、アイツがどれほど俺達にとって大事だったのかを思い知らされる。

今になって、アイツが恋しくてたまらなくなる。

アイツは、射場山と小川を殺した殺人犯だ。

でも、俺達にとっては大切な仲間だった。

こうなったのは、アイツ自身のせいだけじゃない。

アイツの苦しみに気づいていれば、3人共死なずに済んだのかもしれない。

3人が死んだのは、アイツにとって信頼できる存在でいられなかった俺達全員の責任だ。

俺達全員が、3人を殺したようなものだ。

だけど、どんなに後悔しようと、反省しようと、もう3人は帰ってこない。

俺達は、取り返しのつかない過ちを犯してしまったんだ。

…いや、3人だけじゃない。

今までの犠牲者、そして俺達の同級生だった人達全員だ。

「…ごめんな。神城。信じさせてやれなくて…俺は、生きてここを出るよ。この島で亡くなった人達のために。生きてここを出られたら、必ず償うから。…だから、もう少しだけ待っていてくれ。」

俺は、ネックレスを机の上に置いて、部屋を去ろうとした。

「…あ。」

机の引き出しが、少しだけ開いていた。

閉め忘れか?不用心な奴だな…

俺は、引き出しを閉めようとした。

「…あれ?」

引き出しの中に、違和感を覚えた。

…もしかして。

机の上にあったボールペンを一本取って、引き出しの中の隙間に挿し込んだ。

「…ふっ!」

ボールペンに力を加えた。

すると…

 

ガコッ

 

引き出しの板が外れた。

…二重底になってたのか。

板の下には、血で汚れた本があった。

「…薄いな。…Diary…日記か。」

日記は、ページが破れていたり、血で汚れていたりしてほとんど読めなかった。

かろうじて無事なページだけを読んでみた。

 

 

 

5月15日

 

いずれ迫り来る人類滅亡の危機に備えるため、私は今日から毎日日記をつける事にする。

私は、合宿のために生徒と一緒にモルティオバ諸島に来ている。

ここは、希望ヶ峰学園の生徒の合宿のために学園が買い取った島で、私達以外は誰も居ない無人島だ。

私がこの合宿を企画したのは、いずれ迫り来る『超高校級の絶望』による世界の危機から、生徒達を守るためだ。

ここは、世界地図にも描かれないような小さな離島だし、シェルターとしての設備もある。

何より『未来機関』支部長の私がいる。

少なくとも、生徒達にあのまま学校に通わせるよりかは安全だろう。

 

 

2月20日

 

私は、とんでもないミスを犯してしまった。

まさか、『絶望』の残党が私のクラスに紛れ込んでいたなんて…

私は、奴等にこの島への侵入を許してしまった。

もっと早く気づくべきだった。

全ては、⬛︎⬛︎⬛︎の正体を見破れなかった私の責任だ。

私が開発した⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎も、奴等に奪われてしまった。

恐らく、私はそろそろ奴等に消されるだろう。

でも、ただでは死なない。

生徒達に、私の持つ全ての情報を託す。

アリス、⬛︎⬛︎…あなた達は、絶望に堕とされないで。

 

 

 

日記はそこで終わっていた。

「…。」

この日記を書いたのが、俺達の…担任?

俺達がここに連れて来られたのは、コロシアイ合宿のためなんかじゃなかった。

この人は、俺達を助けるためにこの島に連れてきたんだ。

俺達は、この人に守られていたのか。

「…あ。」

日記の最後に写真が挟まっていた。

写っていたのは、長い黒髪の少女、顔が血の汚れで見えない男と少年、そして何故かアリスだった。

「…アリス?」

まだわからない事だらけだが、俺はなんとしてでも生きる。

今まで亡くなった人達、そして俺達に託してくれたこの人のために。

 

 

ー???ー

 

【エカイラサイド】

 

アタシは、急にタカヒロちゃんに呼び出されたわ。

ナギサちゃんも一緒にね。

いきなり作戦会議だなんて、なんなのもう!

「ねえ、ナギサちゃん。ご機嫌斜めだけど、大丈夫?」

「うるさいですよエカイラさん。誰のせいで機嫌が悪いと思ってるんですか。汚い手で触らないでください。あと、早く死んでください。」

「うっわ!辛辣!ひどいわナギサちゃん!」

『コラコラそこー!なーにケンカしてんだよ。言い争っていいなんて、ボクは許可した覚えはないぞ!2人とも、裏切り者同士仲良くしようぜ!』

「はあ…言い方に語弊がありますね。私は、論さんのためにあなたに従ってるだけです。」

『あーあ、フられちゃったよ。最近の女の子は気が強い子多いね!』

「そんな事より、本題に入りなさい。」

『おっと。そうだったね。まあ、作戦会議というよりはただのお叱りなんだけどさぁ。』

「お叱り?」

『そ!オマエラさあ、一体どういうつもり?確かに、カムクライズルについて発言する事に関しては禁止してないよ?でも、普通あのタイミングで言う!?おかげでアリスサンがコロシアイに参加できなくなっちゃったじゃないのさ!!ボクが見たいのは、絶望的でエキサイティングでエクストリームなコロシアイなの!!』

「そんな事を私達に言われても困ります。彼女が目覚めてくれれば、より刺激的なコロシアイになるのは間違い無いんだから、良いじゃありませんか。」

『良くねーよ!!アイツがみんなをバッサバッサ殺した所で、ボクはこれっぽっちもエキサイトしないの!!いい!?アリスサンがあんな事になったのは、オマエラのせいだかんな!!責任取って、もし暴走したらオマエラがなんとかしろよ!!』

「あら。随分と偉そうな口を叩くんですね。1回目のコロシアイでは、口火を切ってコロシアイを促す予定が、近藤さんに先越されて『あんな事』をせざるを得なくなったあなたが。自分は計画を失敗させたくせに、私達に八つ当たりするなんて…反面教師ならぬ反面上司ですね。」

『うっさいなあ!ボクも、まさかたったあれだけの動機で本当に殺そうとするなんて思わなかったんだよ!それに、あんなの失敗って言わねーし!!結果的に、エキサイティングなコロシアイになったんだからいいじゃん!!』

…はぁ、アタシ、よくナギサちゃんとケンカしてタカヒロちゃんに怒られるけど…

タカヒロちゃん、アンタも相当よ?

『はぁ、じゃあもうボク知らないから!アリスサンの事は、オマエラがなんとかしてよね!』

「…ねえ。」

『何?まだ何か文句あんの?』

「ホントに、誰一人ここから出す気は無いの?」

『アタリマエじゃん。ボクが嘘ついた事なんてある?オマエラさ、『超高校級の絶望』なんだろ?だったら今更外の世界に未練たらたらなわけ無いよな?』

「…そうね。ごめんなさい。変な事聞いちゃって。」

『ほいじゃ、引き続きコロシアイを円滑に進めてちょうだいね!』

「はぁい。わかりました。」

「…ええ、仰せのままに。」

 

俺の人生、今までいい事なんて一度もなかった。

地獄って言葉すら生温く聞こえる程に、過酷な日々だった。

先に殺らなきゃこっちが殺られる。

情けをかければ殺される。

そんな毎日だった。

誰も、信用できなかった。

もちろん、自分さえも。

俺は、自分自身に、そしてこの世界に絶望した。

こんな俺に、世界に望みなんて無いと思っていた。

…だけど。

 

 

 

妹だけが、唯一の希望だった。

 

 

 

…なーんてね☆

今のは冗談!

これがアタシの本性なワケないじゃナイ!

だって、アタシは『超高校級のオネエ』で、『超高校級の死神』で、『超高校級の絶望』なのよ!

アタシはアタシ、今やるべき事は、ただみんなを絶望に堕としてあげる事だけなんだから☆

さーてと、気分を切り替えて、大人しくタカヒロちゃんの犬になりましょーっと!

 

 

ーレストランー

 

【菊池サイド】

 

昼食の時間になったので、俺達はレストランに集まった。

「どうぞ。」

「ありがとうジェイムズ。…ところで、コユキソウについて何かわかったか?」

「ええと…はい。ですが、食事中に話す事ではないので、お食事が終わったら話します。」

「…そうか。」

俺達は、全員席について昼食を食べた。

昼食の後、ジェイムズが話し始めた。

「皆さん、コユキソウの正体が分かりました。」

「ふわぁ、ホントですかぁ?」

「はい、ええと…コユキソウに含まれる成分は、手術でよく使われる麻酔薬と同じ成分や、大麻と同じ成分が含まれている事が判明しました。」

「…つまり?」

「一言で言うと、麻薬です。」

「…アラ。随分と物騒ねぇ。」

そういえば、コユキソウがあった場所に、『病や怪我の苦しみから解放される』って書いてあったけど…やっぱりそういう意味かよ。

マジでアリスに飲ませなくて良かったよ。

カムクライズル化以前に、麻薬でラリったら洒落にならんからな。

「他に分かった事は?」

「ええと…すみません。今の所は、これだけしか分かっていません。」

「なんだ、使えないんですね。あなた。」

「え、そ、そんな…」

ジェイムズは、わかりやすくヘコんだ。

「おい、床前。年下をいじめて楽しいか?ジェイムズは頑張ってコユキソウの正体を突き止めてくれたじゃねえか。感謝こそすれ、責める資格なんて俺達には無いだろ。」

「ごめんなさい論さん!私、そんなつもりは無かったんです!」

嘘つけよお前。白々しいぞ。

 

 

ー図書館ー

 

【リタサイド】

 

僕は、ジェイムズと一緒にアリスを治す方法を探していますぅ。

とは言うものの、手がかりなんてそう簡単に見つかるもんじゃないですよねぇ…

「アンカーソンさん、そちらはどうですか?」

「ふわぁ…無いですぅ。」

「ですよね…まあ、こんな事前代未聞ですからね。多重人格と昏睡状態に関連する資料は一通り読みましたが、どれもアリスさんのケースに当て嵌まりませんし…仕方ないですね、気長に探しましょう。」

「ふわぁ、そうですねぇ…」

2日間ずっと手がかりを探してますが、収穫は0ですぅ…

僕、こういう作業は眠くなっちゃうから嫌いですぅ…

…ふわぁ。

「おや、アンカーソン様。お疲れですか?」

「…ふわぁい。」

「そうですか。では、一旦休憩にしましょうか。」

「そうですねぇ…」

「では、一度レストランに戻りましょう。」

「ふわぁい…」

 

 

ーレストランー

 

「ふんふ〜ん♪」

ジェイムズが、鼻歌交じりで何か作っていますね。

甘い香りがするし、お菓子か何かでしょうか?

あの人、なぜかお菓子を作る時はご機嫌なんですよねぇ…

女子じゃないんだから…

「お待たせしましたアンカーソンさん!」

ジェイムズは、お茶と一緒にお菓子を持ってきました。

全部手作りですかね…どれも美味しそうですぅ。

…なんか、年下の男子に女子力で負けてるって、ちょっと屈辱的ですぅ。

「では、お菓子とお紅茶を用意した事ですし、早速頂きましょうか。」

「ふわぁ…そうですねぇ…」

出されたお茶とお菓子は、とても美味しかったですぅ。

ジェイムズは、ティータイムの時はすこぶる機嫌が良いんですよねぇ。

小さい子供みたいにはしゃいで…

「…ジェイムズ、口の周りにクリーム付いてますよぉ。」

「え、本当ですか!?私とした事が、お恥ずかしい所をお見せしてしまいました…」

まあ、いつもの事なので恥ずかしくもなんともないんですけど…

「…ふわぁ。」

「…。」

ジェイムズがずっとこっちを見てきますね。

僕の顔に何かついてるんでしょうかぁ?

「?なんですかぁ?」

「…あの、アンカーソンさん。前から一つ気になっていた事があるんですけど…訊いてもいいですか?」

「ふわぁ…なんですかぁ?」

「…私は、貴女に恋をしているんでしょうか?」

「ぶっ!!?」

思わず、漫画みたいにお茶を吹いちゃいましたよ。

「アンカーソンさん!?私の淹れたお茶、そんなに美味しくありませんでしたか!?」

「き、君が変な事訊くからですよぉお…!そんな事いきなり訊かれても困りますぅ!っていうか、自分の事ですよね!?なんで僕に訊くんですかぁ!?」

「すみません…どうしても分からなかったもので、つい…私、貴女と一緒にいると不思議な気分になるんです。なんだか身体中が熱くなって…貴女の事しか考えられなくなって…そして、貴女が他の男性と一緒にいる所を見ると、不安と不快感が混ざったような複雑な気分になるんです。心理学については一通り勉強したつもりでしたが、今までにこんな気分になった事が無いので、私がどうしてこんな気分になっているのか、この気持ちの正体は何なのか分からないんです。…ですので、私なりにこの気持ちの正体が何か考えてみました。…多分、私は貴女に恋をしているのだと思います。」

えぇええええええええええええええ!!?

ちょっと待って、カミングアウトがいきなりすぎて、頭の中がクエスチョンマークだらけなんですけどぉ!?

「え、いやいや、冗談ですよねぇ?」

「私がこの状況で冗談を言うように見えますか?」

「え、いや…婚約者…」

「それとこれとは話が別です。」

はぁあ!!?

「さ、さっきから何をわけのわからない事を言ってるんですか君は!?おかしいですよ!?」

「でしょうね。私自身、正気ではない自覚はありますよ。ですが、そんな事どうだっていいです。私は、貴女の事をもっと知りたい。貴女に対して抱いている感情が何なのかを解き明かしたい。だから、()()さん…!」

 

「その名前で呼ばないでください!!!」

 

「…すみません。」

「…いえ、こちらこそ、いきなり怒鳴ってすみませんでした。…でも、もう捨てた名前です。やめてください。」

「すみません…私とした事が、つい…無神経過ぎましたね。不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。」

「それと、さっきの話ですが…君の勘違いじゃないですか?君が僕に恋をしているなんて、ありえないです。」

「…そうですか。…そうですよね。変な事を訊いて申し訳ございませんでした。忘れてください。」

「ふわぁい…」

…そうですよ。

ジェイムズが僕に恋をしているわけないじゃないですか。

だってジェイムズは、名家の御曹司で、頭が良くて、ちょっと抜けてる所もあるけど紳士的で…

それに比べて僕は、つり合う所なんて一つも無いし…

…何より、僕の血は穢れている。

僕なんか、本当は生きてちゃいけないんです。

どんな人だって、僕の正体を知れば僕の事を嫌いになる。

 

 

…僕の事を好きになる人なんて、いるわけないじゃないですか。

 

 

 

 

 

ー談話室ー

 

【玉木サイド】

 

「…。」

しおりに書いてあった事は、本当なのか…?

モノクマの言う事を信用するわけじゃねえし、あんなの嘘だって信じたいけどよ…

「おい、玉木!」

「うおっ、なんだ菊池か。」

「大丈夫か?さっきから呼びかけてたんだけど、返事が無かったから…考え事でもしてたのか?」

「…まあ、そんな所だ。」

「…へぇ。なあ、少し話さないか?」

「なんで急に?」

「まあ、暇だっていうのもあるけど…ほら、友情を深めるっていう意味でもさ!なあ、いいだろ?」

「…ああ。いいよ。話そうか。」

俺は、菊池と話した。

菊池は、親身になって俺の話を聞いてくれた。

菊池も、自分の話をした。

菊池の機嫌がいいような気がしたから、少し話題を振ってみた。

「なあ、菊池。」

「ん?どうした?」

「お前、妹の事どう思ってんだよ?」

「ああ、破奈か。なぜか俺にだけは当たりが強いけど、可愛いし頭良いし、メッチャいい子なんだよアイツ!ツンデレってやつだな、うん。」

「…それは良かったな。」

「それでさ、昨日、破奈が生きてる事がわかったんだよ!すげぇ嬉しかったよ。アイツはまだ生きてくれてた!!ここから出たら会うの楽しみだな…」

「…はは、兄妹仲良さそうで何よりだよ。…妹、会えるといいな。」

「ああ、俺は絶対に生きてここから出て、破奈に会うんだ!」

「…そっか。」

「玉木、お前の彼女はどうなんだよ?彼女の事、どう思ってんだ?」

「…ああ、美人だし気が利くし、俺にはもったいないくらいいい奴だよ。アイツ、中学の頃付き合ってから、よく飯作ってくれたりしてたんだよ。」

「…モテる男はいいよな!彼女持ちとか羨ましいわチキショー!俺も彼女欲しい!」

「いや、お前が言うなよ。合宿メンバーの中で一番モテてたくせによ。」

「それはモテたうちに入んねえよ。好きだった娘もあんな事になっちまったしよ…俺、女運なさすぎんだろ。」

「…ご愁傷様。でも、あのサイコパス女の床前に惚れられるって、ある意味神業だよな。」

「それ、褒めてねえだろ〜。」

「ウザ絡みやめろ。酔っ払いのオッサンじゃねえんだから…」

「それで、お前はやっぱ、ここから出たら彼女に会いに行くの?」

「…ああ。昨日、アイツが生きてる事がわかったからな。今は、家のしきたりから解放された喜びでハジけて遊びまくってるってよ。ホント、世界が滅亡しかけたってのに、能天気な奴だよな。」

「マジかよ…お前の彼女、清楚系って言ってなかったっけ?」

「言ったな。…とりあえず生きてたのはよかったけど、ギャルになってたりとかしたら嫌だな…それとも、俺の事はとっくに好きじゃなくなってたりとか…」

「考えすぎだろ。とりあえず今は、外で待っていてくれてる人達のために、なんとしてでも生きてここを出ようぜ!」

「…ああ!」

俺達は、ハイタッチをした。

「ウェーイ!」

「いや、ウェーイって。ノリ軽すぎじゃね?」

「そうか?」

菊池は、ヘラヘラと笑っていた。

…そういえば、もうコイツと一緒にいてもう20日か。

なんだかんだ言って、コイツには一番世話になったな。

「…なあ、菊池。」

「ん?どうした?」

「…俺達、ダチだよな?」

「何言ってんだよ!そんなの当たり前だろ!…っていうかさ、今更だけど、お互い苗字で呼び合うの鬱陶しくね?」

「え、そうか?」

「もうダチなんだし、もうお互い名前呼びでいいだろ、勝利?」

「…ああ、論!」

論に勝利、か。

なんか、いい響きだな。

論といると、なんかチームメイトと一緒にいるみたいな気持ちになるな。

これが友情って奴なのかな。

 

 

ーレストランー

 

【菊池サイド】

 

夕飯の時間になったので、俺は勝利と一緒にレストランに来た。

「おや、菊池さんと玉木さんが一緒ですか。これで全員揃いましたね。」

「ああ。…あれ?ジェイムズとリタ、お前らなんか席遠くねえか?」

いっつも隣同士で話しながら飯食ってるんだけどな。

「ふわぁ、たまたまそういう気分だっただけですよぉ。」

…まあ、仲良いからって毎日隣の席に座るかっつったらそうでもなかったりするよな。

「まあそういう日もあるか。じゃあ、早く飯食おうぜ、論。」

「ああ、勝利。」

「アラ?サトシちゃんにカツトシちゃん、いつの間にそんなに仲良くなったの?」

「…まあな。」

「玉木さん!論さんに向かってなんて態度を取ってるんですか!!馴れ馴れしすぎるんですよ!!」

「床前、お前は少し黙ってろ。」

「…はぁい。」

全員が座って夕飯を食った。

その後は、自由時間になった。

 

「ふわぁ…」

ん?厨房にいるのは…リタか?

「なあリタ。そこで何やってんだ?」

「ふわぁ…一応、今日の夜のアリスの看病係は僕なので、夜食を作ってるんですぅ。」

「そうなのか。よし、じゃあ俺も何か作るかな!」

「ふわぁ…菊池、料理できないですよねぇ…」

「ば、バカにすんな!!おにぎりくらいだったら作れるっつーの!!」

「ふわぁ、そうですかぁ…」

「よし、じゃあ早速作るぞ!…ええっと、まずは米からだな。えっと…一合ってどれくらいだっけ?」

「目分量でいいんじゃないですかぁ?対して味変わんないですよぉ。」

「まあ、そうだよな。…あ、そういえば、炭酸水で炊くと旨いって聞いた事あるぞ。」

「ふわぁ、炭酸、ですかぁ。ここに三●矢サイダーがありますけどぉ…」

「まあ、ちょっと甘いけど同じ炭酸で透明だし、大丈夫だろ。」

「ふわぁ、そうですねぇ…」

「うわ、中途半端に余るな…んー…もったいないし、全部入れちまおう!」

「それに賛成ですぅ。」

「それと具か…」

「ふわぁ、とりあえず、ツナ缶を探すのがめんどくさかったので、近くにあったサバ缶を持ってきましたぁ。」

「まあ、似たようなもんだし多分大丈夫だろ。」

「ふわぁ、油を切るってどうやるんですかねぇ…」

「普通に包丁で切ればいいんだろ。」

「なるほど、やってみますぅ。」

ビチッビチッビチッビチッ

「なんか、さっきと全然変わんないような気がしますけど…ちゃんと油は切ったし、このまま調理して大丈夫ですよねぇ?」

「あ、ちょっと待て。食中毒の可能性もあるからな。ちゃんと火は通しとけよ。」

「ふわぁ…どれくらい火を通せばいいんでしょうかぁ?」

「生っぽい部分が無くなるまで強火で徹底的にだ。」

「ふわぁ…」

「お、炊けたな。じゃあ早速握ってくか。…あ、塩だと味気ないだろうし、代わりに醤油で握ってみるか。」

「ふわぁ、それはいいアイデアですねぇ。」

「ん?なんか焦げ臭くないか?」

「…あ、すいませぇん。フライパンの中身、見てませんでしたぁ。焦げちゃってますねぇ。どうしましょうか?」

「まあ、これくらいだったら大丈夫だろ。むしろ、ちゃんと焼かない方がよくねえよ。」

「そうですよねぇ…でも、これどうするんですかぁ?」

「あ、いい事思いついた。」

「ふわぁ、お酢ですかぁ?」

「このサバ缶はちょっと焦げてて苦いから多分アルカリ性だろ?だったら酸で中和すれば大丈夫だ。」

「なるほど、頭いいですねぇ。」

「これを握ってっと…あ、海苔がうまくくっつかねえな。」

「ふわぁ、水飴を使えばよくくっつきますよぉ。」

「それだ!」

「あ、でもちょっと甘くなっちゃいますね。」

「それなら、デスソースでも振りかけとけばちょうどいいだろ。」

「なるほどぉ。…ふわぁ、完成ですぅ。」

「よっしゃ、早速持ってくか。もしアリスが目を覚ましたら、アイツにも食わせてやろう。」

「ふわぁ、賛成ですぅ…」

「おや、お二人とも、何を作っていらっしゃるのですか?」

「ああ、夜食のおにぎりだよ。アリスにも、起きたら食わせてやるんだ。」

「それは良い考えですね!私もご一緒しますね。」

リタとジェイムズとの3人で診療所に向かった。

 

 

ー診療所ー

 

「ふわぁ、アリス。調子はどうですかぁ?…って、あれ?」

「どうした?」

「アリスがいないんですよぉ…」

「本当だ…点滴も外れてるし…目が覚めたから一人でトイレにでも行ってるんじゃねえのか?俺、ちょっと探してくるよ。ジェイムズとリタはそこで待ってろ。」

「畏まりました。」

「ふわぁ…」

「それにしても、アリスさんはどこへ…」

 

ヒタ…ヒタ…

 

「!!?」

「ふわぁ…ジェイムズ、どうしたんですかぁ?」

 

Watch out(避けろ)‼︎」

「…え?」

 

 

 

 

 

ザンッ

 

 

 

コロシアイ合宿生活残り?名




ウチの子のメシウマ四天王

・近藤ちゃん
・速瀬ちゃん
・エカイラ君(ただし見た目はキツい)
・ジェイムズ君

メシマズ四天王

・菊池クン
・あーちゃん
・リタちゃん
・神城ちゃん(ただし見た目は完璧)


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第5章(非)日常編④

【超高校級の外務大臣】リタ・アンカーソンサンの弱み

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソンサンの正体は、ヴァイスシュタイン王国の呪われた王女、リア・エルフリーデ=ヴァイスシュタインです!

 

 

 

僕の故郷は、ヴァイスシュタイン王国という場所だったそうです。

かつては、ヨーロッパの列強国のひとつだったと言われています。

その国に住む人々は皆裕福で、あらゆる面で豊かな、理想郷と呼ぶべき国だったそうです。

 

しかし、ある時代の国王が他の国と戦争を始め、敗戦国を次々と植民地にしていきました。

そして、植民地に住む人々に、非人道的な仕打ちをしたそうです。

無理矢理領土を奪い取り、女子供も容赦無く奴隷として売り払い、逆らう者は皆殺しにしました。

そんな独裁的な政策を取った王国に対して、周囲の目も変わりました。

今までヴァイスシュタインと友好国だった国も、次第にヴァイスシュタインを敵視するようになりました。

しかし、ヴァイスシュタインは世界屈指の軍事力を誇る大国だったため、他の国々も手出しができず、近代まで猛威を奮っていたそうです。

 

ところが20世紀終盤、国際法に違反したとして国際連合の国々から派遣された軍隊によって、ヴァイスシュタインは滅ぼされました。

ヴァイスシュタインは敗戦後、あまりにも残虐な歴史背景によって、その存在を地図や教科書から消されました。

しかし、それで人々に忘れ去られたわけではありません。

ヴァイスシュタインの元王族及び王族直属の貴族達は、戦犯の一族という烙印を押されました。

その名前を名乗ったというだけで、ある者は酷い拷問を受け、ある者は生きたまま火あぶりにされて殺されたそうです。

王族の血を引く僕も、穢れた血の一族として、迫害を受けてきました。

僕なんて、生まれてこなければ良かったんだ。

そう思いながら、地獄のような日々を送ってきました。

そして、つらい現実から逃れるために、石が飛んで来ない時はいつも目を瞑っていました。

そんな事を繰り返していたせいで、いつの間にか眠り癖がついてしまいました。

 

そして、僕は身分を偽り、母と共にノヴォセリック王国に亡命しました。

母は途中で通行人に撃ち殺されて命を落としましたが、僕だけは命からがら逃げ切りました。

その後、僕は心優しい家族に引き取られ、末娘として大切に育てられました。

特に、その家の一人娘だった僕の姉は、僕の正体を知っても僕を本当の妹のように可愛がってくれました。

僕の両親は、仕事柄海外を飛び回っていて、僕もよく一緒についていったりしました。

僕は、家族のみんなが、そしてみんながくれたリタという名前が大好きでした。

僕は、これからはリタ・アンカーソンとして生きていこうと誓いました。

そして、自分の名前を言っただけで石を投げられるような子供がいない世界を実現するために、僕は外務大臣になると決めました。

そのために勉強に勉強を重ね、ついにノヴォセリック王国の外務大臣に任命されました。

 

そしてある日、僕は仕事の都合でロンドンに訪れ、そこでたまたまジェイムズと出会いました。

その後の成り行きで、彼とはよく連絡を取り合うようになりました。

彼は僕よりひとつ年下でしたが、子供とは思えないほどの知能と知識を持っていて、とても面白い話をしてくれました。

同年代の友達ができたのは初めてだったので、ジェイムズが話し相手になってくれたのはとても嬉しかったです。

…でも彼は、日の当たらない世界で生きてきた僕には眩しすぎる。

だから、正直に正体を打ち明け、これ以上関わらない方がいいと忠告しました。

それでも彼は、そんな事はどうでもいいと言ってくれました。

僕の正体を知っても、僕の事を嫌いにならなかったのは、姉とジェイムズだけでした。

恥ずかしいから本人の前では絶対に言えないけど、僕はそんな彼の事が…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Ahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!」

 

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ」

 

目に映ったのは、日本刀を持ったアリス、そして右肩を押さえて絶叫しているジェイムズだった。

僕の足元には、切り落とされた腕が転がっていた。

「…ツマラナイ。ツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイ」

「あ…ああああああああああ…」

「くっ…リ、リ…タ…さん…怪我…ありませんか…?」

「いや…いやぁああああ…!ジェイムズ…腕が…!」

「…ふふっ、リタさん…良かった、無事で…」

嫌だ…嘘でしょ…?

ジェイムズが…死ぬ…?

…僕のせいだ。

僕があんなひどい事言ったから、僕の事を身を挺して守ったんだ。

僕のせいで、ジェイムズが…

ねえ、嫌だよ…お願いだから生きてよ!

ほら、今くっつけるからぁ!

ごめんなさい…僕、君の事が好きなのに、あんな事言ってごめんなさい…!

嫌な態度取ったりしてごめんなさい…!

お願いだから、死なないで…

…これ以上僕を不幸にしないで…!

「リタさん…もう無理ですよ。…大丈夫です。この程度では死にませんから…」

嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…!

「…ツマラナイ。人は何処までも醜く愚かな生き物だ。此の儘醜く蔓延るようなら、全てを屠ってくれる。」

「…!」

嫌だ…お願い、誰か助けて…

 

カタン

 

「…アリス?」

菊池…!

「…なんだ、未だ仲間が居たのか。貴様も、何れ屠ってくれる。だが、先ずは此奴等だ。死ね。」

嫌…僕…

…こんな所で、死にたくない…!

 

 

 

 

 

ー数分前ー

 

【菊池サイド】

 

なんだ…?

診療所の方が騒がしいな…

一応、様子を見に行くか…

 

 

ー診療所ー

 

リタ達、診療所で一体何を…

ん?あれは…

「…アリス?」

なんだアイツ…

目つきが完全に変わってるし、あの刀は一体…?

…それに、え、ちょっと待て…なんでジェイムズが斬られて…

「…なんだ、未だ仲間が居たのか。貴様も、何れ屠ってくれる。だが、先ずは此奴等だ。死ね。」

ヤバい、早くなんとかしないと2人が斬られる…!

どうすれば…

…『超高校級の希望』?

…一か八か、賭けに出てみるか…!

 

「俺は『超高校級の絶望』だ!!カムクライズル、俺の事を殺してみろ!!」

「…あ?」

「菊池さん…貴方、一体何を…」

「…未だ生きていたのか。『絶望』の残党が。私は『超高校級の希望』…絶望を屠る者だ。…気が変わった。やはり、貴様から殺す事にしよう。」

これで、標的が2人から俺に移った…

…どうする!?

「…死ね。」

 

 

バンッ

 

 

「…あ。」

アリスの脇腹から、血が滲み出た。

 

ドサッ

 

アリスがその場で倒れた。

 

「やれやれ、私の到着が遅れていたらどうなっていた事か…幸い、まだ目覚めてからそんなに経っていなかったから、なんとか抑えられましたね。」

この声は…

「論さん、大丈夫ですか?」

拳銃を構えた床前が、入り口に立っていた。

「お前…!」

「ああ、これですか?猫西さんの凶器を拝借したんですよ。いやあ、まさかこの距離で正確に当てられるなんて…私、天才なんですかね?」

「…!そうだ、おい、アリス!しっかりしろ!!」

「全く。さっきまで殺されそうになってたっていうのに、論さんはお人好しですね。安心してください。殺してはいません。私の論さんを殺そうとしたから、重傷を負わせただけです。アリスさんはカムクライズル化手術を受けてるので、そう簡単には死にません。そんな事より、彼を助けてあげなくていいんですか?」

「あっ…おい、ジェイムズ!大丈夫か!?」

「ええ…止血したので、なんとか…」

「とりあえず、2人を手当てしないとな…」

「…菊池さん、私が指示します…貴方は、その通りに動いてください…」

「ああ、わかった。おい、床前!お前も手伝え!!」

「あなたがそういうのなら、手伝います。」

俺達は、ジェイムズの指示通りに2人の応急処置をした。

2人とも、なんとか一命を取り留めた。

「ふぅー、これで一件落着、ってところでしょうか?」

「…お前、なんで猫西の拳銃を持ってたんだ?最初からアリスを撃ち殺す気だったんじゃないのか?」

「やだなあ、そんな訳ないじゃないですか。私は、ただ皆さんを助けたかっただけです!」

白々しいなコイツ…

「…現に、私がアリスさんを撃たなかったら、全員ここでお陀仏だったところなんですよ?」

「ただの結果論だろ。お前が仲間を撃った事には変わりない。」

「冷たいんですね。」

助けて貰ったとはいえ、俺はコイツの事を許せない。

…いや、そんな事より2人だ。

「…。」

「リタさん…自分を責めないでください。…私は後悔していませんよ。貴女に恋をしているのかは分かりませんが、貴女が私にとって大切な人だという事は分かります。だから私は、貴女を守ったんです。」

「…。」

「おい、リタ。どうした?なんか言えよ。」

「…。」

「…!お前、まさか…」

「…。」

「あらあら。可哀想に。お仲間を目の前で斬られたのと、殺されそうになったショックで口が利けなくなっちゃったみたいですね。」

「嘘だろ…!?」

「…。」

「あ。論さんに言われてつい助けちゃいましたけど、やっぱりカークランドさんは助けない方が良かったですかね?そうすれば、アリスさんがクロになったのになぁ。」

「…お前、これ以上無駄口を叩くようなら、もう許さねえぞ。」

「…。」

「あら、論さんもアンカーソンさんも、まるで人殺しの目みたいじゃないですか!そんな目されたら私、怖くて今夜眠れません!それじゃ、犠牲者が出なかったようなので、これ以上私がここにいる理由はありませんね。では、私はこの辺で。ご機嫌よう皆さん。」

床前は、不敵な笑みを浮かべながら診療所を去ろうとした。

「…あ、お友達、ちゃんと回復するといいですね。アンカーソンさん。…いえ、()()()?」

「…!」

え?王女?

どういう事だ一体…?

リタは、なんでその事を知っているんだ、と言いたげな表情だった。

「それじゃ、ご機嫌よう。また明日会いましょう、皆さん。」

床前は、ヒラヒラと手を振りながら診療所を後にした。

 

「おい、何があった!?大丈夫かみんな!」

診療所に勝利が駆けつけてきた。

「勝利…!」

「悪い、来るのが遅れた。…!おい、どういう事だよこれは…」

「…アリスの中のカムクライズルが覚醒した。床前に撃たれてまた気を失ったけど、命に別状はない。今は、一応ベッドに縛り付けて寝かせてある。」

「そうか…ジェイムズ、お前、その腕…!」

「ああ、これですか。訳あって、腕が吹っ飛んでしまいました。」

「訳あってって…軽すぎんだろ。大丈夫…な訳無いよな。」

「ご心配なさらず。別に対した事はありませんよ。寧ろ、被害が私の腕1本で済んだんですから、安い物ですよ。」

「…ごめん、俺がもっと早く駆けつけていれば…」

「玉木さん、そんな事仰らないでください。私、今回の件で犠牲者が誰一人出なくて、良かったと思っているんです。私はもう、仲間同士が殺し合う所も、誰かがクロとしておしおきされる所も見たくないんです。誰も死ななくて済むのなら、こんなの痛くも痒くもありませんよ。」

「…すごいな、お前は。そこまで前向きに考えられるなんてよ。」

「そんな、私なんてまだまだですよ。」

「…。」

「リタ、どうした?なんで泣いてるんだ?二人がこんな事になっちまったからか?」

「…。」

「なあ、なんとか言ってくれよ。黙ってたって何もわかんねぇよ。」

「…。」

リタは、紙に何かを書いて玉木に見せた。

 

ジェイムズがこんな事になったのは、全部僕のせいなんです。

暴走したアリスから僕を庇ったせいで、大怪我を負ってしまったんです。

 

「筆談…?お前、まさか…」

「ああ。今回の件のショックで、一切口が利けなくなっちまったらしい。」

「そんな…!そんなの、アリかよ…」

「…。」

 

ごめんなさい。

 

「…リタ、お前は悪くないよ。ジェイムズだって、お前のせいだなんて思ってない。そうだろ?」

「当然です!私は、リタさんの事を守りたかったから、あの時行動したんです。それで何故リタさんの所為になるのか、全く理解出来ません。」

「ほらな。誰もお前が悪いだなんて思ってない。だからもう、自分を責めるな。」

「…。」

リタは、俯いていた顔を上げて、目から大粒の涙を零した。

「…!…!」

「…リタさん。私は、あの時の行動は後悔していません。ですが私は、あの時取った行動が貴女にどんな思いをさせてしまうのか、考えていませんでした。貴女はあの時、声が出せなくなってしまう程に、思い詰めていたんですね。つらい思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした。」

「…。」

「約束します。私は、もう二度と貴女を不幸にはさせません。私は、外で私の帰りを待ってくれている人達の為に、そして貴女の為に生き抜きます。何があっても、貴女を独りにはしません。だからもう、泣かないでくれませんか?」

「…!」

リタは、ジェイムズの胸に顔をうずめて泣いた。

ジェイムズは、片手でリタの頭を撫でた。

…リタの奴、こんなに思い詰めていたのか。

 

「え、何?コイツら、そういう関係?…羨ましいなクソッ。」

「論、今はそういう事を言う時じゃないぞ。」

「あ…そうだよな。悪い。…なあ、ところで気になったんだが…」

「はい、なんでしょうか?」

「さっき、床前がリタの事を王女様っつってたよな。あれは一体どういう事だ?…あ、別に言いたくなかったら言わなくていいけど。」

「…いえ、貴方方にはいずれ話そうと思っていました。リタさん、話してもいいですよね?」

「…!」

リタは少し震えながら、ジェイムズの服の袖を引っ張った。

「…リタさん、大丈夫です。皆さんは、今まで貴女を不幸にしてきた方々とは違います。多分、真実を知っても貴女を嫌いになったりしません。皆さんを信じてください。」

「…。」

リタは、小さく頷いた。

「…リタさんが、話していいと仰っていますので、話しますね。…皆さん、ヴァイスシュタインという国はご存知ですか?」

「聞いた事無えな。」

「…まあ、少し聞いたことがある程度だな。20世紀末の戦争で大敗して滅んだ国だっけ?確か、王族や貴族は大悪党の一族として根絶やしにされたはず…」

「はい、表向きはそうなっています。…ですが、その血が完全に絶えた訳ではありません。リタさんは、ヴァイスシュタイン王国の生き残りです。そもそも、彼女のリタという名前は、新しい家族に与えられたもので、本名ではありません。本名は、リア・エルフリーデ=ヴァイスシュタイン。彼女こそが、今は無き幻の王国の、最後の正統な王族なんです。」

「…。」

「リタさんは、ノヴォセリック王国に亡命して新しい家族に受け入れられるまでは、戦犯の血を引く者として、出会った人全てに迫害されてきたそうです。眠り癖は、その苦しい現実から逃れる為に居眠りを繰り返していた結果、自然と身に付いてしまったそうです。」

「…なるほどな。」

「…。」

リタは、いつも眠そうでマイペースで、何考えてるのかわからない奴だと思ってたけど…

そんな重い過去を背負っていたのか。

「俺達、仲間の事は信頼し合ってた気でいたけど…」

「ああ。まだ、わかってない事も多かったんだな。」

「…。」

リタは、紙に文字を書いた。

 

僕は、今まで自分に生きる価値が無いと思って生きてきました。

僕と出会った人は、みんな僕が死ぬ事を望んでいました。

助けてくれる人なんて、誰もいないと思っていました。

今でも、本当に自分は生きてていいのか、疑問に思っています。

僕に優しくしてくれた人は、みんな黙って僕の手の届かないところに行ってしまう。

だって、僕に流れている血は、穢れた罪人の

 

気がついたら手が動いていた。

リタがそこまで書いたところで、俺はリタの手を掴んでいた。

「…今、なんて書こうとした?」

「…。」

リタは、ひどく怯えた表情で俺を見た。

「…書かせないぞ。お前に流れてる血は、穢らわしい罪人の血なんかじゃない。お前自身の血だ。それにな。お前に生きる価値が無いなんて、誰が決めた?」

リタは、訴えかけるような目で俺を見た。

「お前を今まで迫害してきた奴らか?お前の本当の家族か?…それとも、神か?」

リタは、ゆっくりと頷いた。

「…。」

「違う!!お前の価値を決めていい奴なんて、たった一人しかいないんだよ!…誰だかわかるか?お前自身だよ!!お前が生きてていいかを決めるのは、他の誰でもない!お前が、自分で決めろ!!」

「…!」

俺は、リタの肩を掴んで叫んだ。

「いいか、お前の滅んだ故郷なんてどうでもいい。戦犯の一族?知った事か!お前の人生は、お前だけのものだ!!リタ、これだけは覚えておけ。もし、今と同じ事をまた書こうとしたら、俺は何度でもお前を止める。『そんな事ない』って、大声で叫んでやる。俺達がそばにいる限り、穢れた血だとか、生きる価値がないだとか、そんなつまんねー事二度と書かせねえからな!!」

「…!」

リタは、顔を真っ赤にしながら涙を流し、嗚咽を漏らした。

持っていた紙に落ちた雫が斑模様を作り、書いた字が滲んだ。

「リタ、お前には、俺達がついてる。だからもう、自分を責めなくていいんだ。」

「…!…!」

勝利は、リタの背中を撫でた。

リタは、涙を両手でしきりに拭いながら何度もうなずいた。

「リタさん、良かったですね。貴女に救いの手を差し伸べてくれる人は、こんなにいましたよ。」

「…!」

「さて、もうそろそろ遅い時間だし、寝るか。」

「そうだな。…じゃあ、俺達は部屋に戻るか。」

「だな。リタ、部屋に戻るぞ。」

「…。」

俺たちが診療所を出ようとした、その時だった。

 

「…あ。」

 

アリスが目を覚ました。

「アリスさん!意識が戻ったんですね!」

「…ここは?」

「診療所です。アリスさん、ずっと眠ったままだったんですよ?」

「…そう。」

今のアリスは、普段のアリスとは別人のようだった。

かと言って、カムクライズルとも少し違う。

「…なあ、お前は一体()なんだ?」

「私は私。伏木野アリスよ。サトシ、今まで私と一緒にいたでしょ?」

今まで一緒にいただと…?

まさか、今のアリスが、あのアリスだっていうのか?

「今のお前があーちゃんだと!?そんなの、信じられっかよ!大体、カムクライズルはどうしたんだよ!?まだ中で眠ってんだろ!?」

「呼んだか?」

アリスの目付きが急に変わり、さっき俺を襲った時のような形相になった。

「…お前は、カムクライズルか?」

「如何にも。()()()()()()に呼ばれて出て来た。…はぁ。やはり、この世界はいつ見てもツマラナイな。」

「お前、もう暴走したりとかしないのか?」

「その話を今からすると云うのに、其れすらも察する事が出来ぬとは…やはり人間は、知能の低い劣等種族だな。私は、人間は醜く愚かで、ツマラナイ生物だと思っていた。今でも、そう思っている。だからこそ、私は人間を不必要な存在だと見做し、処分する事にした。特に、『超高校級の絶望』。貴様等は、世界に仇為す大罪人共だ。…だが、もう一人の私が体験した出来事を共有した時、私は疑問に思ったのだ。」

 

「“本当に人間は、不必要な存在なのだろうか。”疑問を抱いている内に、私の中でその答えは出た。…本当に不必要でツマラナイ存在だったのは、私の方だったのだ。私は、人に造られた才能を振り翳し、勝手に此の世界をツマラナイと決め付けていた。人間は醜く愚かで不完全な存在だが、だからこそ面白いのだ。其の事に気付かせてくれたのは、もう一人の私だった。」

カムクライズルは、天井を見上げながら言った。

「もう、私が此の身体に留まっている理由は無い。私の才能は、赤の他人に人生を弄ばれて一方的に取得()()()()()才能だ。私は所詮失敗作。『超高校級の希望』等ではない。貴様等を屠る資格も、私には無かった。私は、私自身を不必要な存在だと判断した。故に今から私は私を殺す。与えられた才能と共に、『私』を消滅させる。次に此の身体が目醒めた時は、私は『一人』だ。…もう一人の私を、宜しく頼む。奴こそが、本物の『希望』だ。」

「待て…!」

カムクライズルは大きく息を吸うと、そのまま電源が切れたかのように首をだらんと下に傾けた。

「…。」

 

しばらく沈黙が続いた後、いきなり目の前の少女が上を向いた。

その目付きは、完全に今までのアリスだった。

アリスは、魂が抜けたように呆然とした表情を浮かべていた。

そして、一言だけ声を漏らした。

 

「…姉さん。」

 

その頬には、涙が伝っていた。

 

誰もが、状況を理解できずにいた。

全員が、ただアリスを見守っていた。

「…あーちゃん?」

勝利が声をかけると、アリスの目に生気が戻った。

「…カツトシ。…みんな。」

「なあ、今のあーちゃんは、今までのあーちゃんなんだよな…?」

「そうよ。私、思い出したの。今までずっと忘れちゃってたけど、私、本当はもう大人だったの。…姉さんがみんなに迷惑をかけた事、申し訳ないと思ってるわ。もちろん、許してほしいだなんて言わない。でも、私にとって、姉さんは私で、私は姉さんだった。私達は、二人でひとつだった。だから、姉さんに代わって、謝らせてほしいの。…みんなに迷惑をかけて、大事な物を奪ってしまって本当にごめんなさい。」

アリスは、深々と頭を下げて謝罪をした。

今までのアリスなら絶対にあり得ない、謙虚な姿勢だった。

俺は、ガキが嫌いだし、今までのコイツなんてただのムカつくクソガキとしか思えなかった。

…だけど、どうしてだろう。

今のコイツを見ていると、腹立たしくて仕方がない。

もう我慢の限界だ。

俺は、思っている事全部コイツにぶつける事にした。

「…うるせェ!!」

ガツンッ

「痛っ!?」

「!!?」

俺は、アリスの頭を殴ってやった。

「え…!?サ、サトシ…?一体何を…」

「そうですよ!菊池さん、アリスさんをいきなり殴るなんて…どうしちゃったんですか!」

アリスは、何がなんだかわからない、といった表情で俺を見ていた。

俺は、大人ぶってスカしてやがるマセガキの胸ぐらを掴んで、言いたい事を全部言った。

「お前なぁ、やっと起きたと思ったらいきなり口調変えて大人ぶりやがって…違和感ありまくりで気持ち悪いんだよ!お前が本当は大人だっただと!?そんなの、あり得ないね。お前はな、いつまでも俺に迷惑かけて、わがままばっかり言うクソガキのままなんだよ!」

「…!」

アリスは、今にも泣きそうな表情で俺を見た。

「…サト…にい?」

アリスの目から、涙が溢れ出た。

「そうだよ。ったく、黙って遠くまで行きやがって。…おかえり。」

「…ただいま、みんな。」

アリスは、起き上がって俺に抱きついた。

そして、大声で泣いた。

「うぅっ、うぁああああああああぁああああああああああああぁああああああああああああああ!!」

「…ったく。やっぱりまだガキじゃねえか。」

「…。」

「良かったな、あーちゃん。また戻って来れてよ。」

「本当に良かったです!これでハッピーエンドですね!」

「おいおい、ジェイムズ。まだこの島から出られてねえんだから、エンドではねえだろ。」

「あ、確かにそうですね。」

今回は犠牲者が1人も出なくて、ホント良かったよ。

まあ、ジェイムズは腕を、リタは声を失っちまったけどな。

それに、アリスも無事戻って来たし。

とりあえず、これで一件落着って事でいいのかな?

 

 

 

 

 

 

 

ー???ー

 

【床前サイド】

 

…あーあ。結局最後は自分で自分を消滅させてしまいましたか。ホントは、もっと暴れてコロシアイをかき乱してほしかったんですけど…コロシアイを起こさずに消えちゃうなんて、案外『完璧な才能』も使えないんですね。まあ、論さんが死ななかっただけマシとしましょうか。さーてと、本命のプランはおじゃんになってしまいましたし、また別のプランを考えないとな…うーん、迷うなぁ。次は誰に死んでもらおうかしら?

 

 

ー???ー

 

【エカイラサイド】

 

アラ。アタシが目を離したスキに、すごい事になってるじゃないの。ジェイムズちゃんの負傷…リタちゃんの過去暴露大会…そして、カムクライズルの消滅…ウフフ、やっぱコイツらのやる事は全然飽きないわねえ。ま、その平和な時間も、すぐにお預けになるんだケド☆次は誰を殺そうかしらん?すごく迷うけど…やっぱ、あの子がいいかしらね?

 

 

ー???ー

 

【黒幕サイド】

 

うっわぁ。何この急展開。まあバッチリ想定内だけど、ぶっちゃけ一番無いと思ってた想定なんだよな。まさか、カムクライズルが消滅するとはねー。正直ボク、ちょっとあの子の事気に入ってたんだケド…まあ、消えたもんを今更嘆いてもしょうがないや。今のところ、全てのコロシアイがボクのシナリオ通りに進んでるし、今回もボクのシナリオ通り動くデショ。…だって、そうなる事はもはや()()なんだもんね?

 

 

 

皆が仲間の復活を祝う中、影でほくそ笑みながら一部始終を見る者達。

運命が味方をするのは、果たして『希望』か『絶望』か。








果たしてダンロンに感動回は必要なのだろうか(唐突な哲学)。
それでも書くよ!何故かって?

SHA☆KU☆KA☆SE☆GI!!!

HA☆HA☆HA☆


【ちゃんリタの過去について】

リタちゃんは、コロシアイ合宿参加者の中でトップレベルの秘密を抱えております。
ちなみに、ヴァイスシュタイン王国ですが、名前はリヒテンシュタインっぽいですが、国自体のイメージはプロイセンを意識してます。


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第5章(非)日常編⑤

字数の都合上中途半端な感じになってしまいましたが、そこら辺は笑って許してください(藁)



ー診療所ー

 

「あ、もう遅い時間だな。」

「そうですね。」

「よっし、じゃあそろそろ寝るか。あ、この刀は俺が預かるよ。万が一って事もあるからな。」

「ああ、頼むぞ勝利。」

「…。」

「私も、もうかなり回復したので部屋に戻りますね。」

「大丈夫なのか?」

「はい、お陰様で!」

「アリス。俺達も部屋に戻って寝るぞ。」

「…ねえ。…今日は、サトにいの部屋で寝てもいい?」

「なんでだよ。」

「…そういう気分だから。だって、私はわがままなクソガキだし。ねえ、いいでしょ?」

「…ったく、しょうがねえな。」

俺は、アリスと一緒に部屋に向かった。

 

 

『超高校級の弁護士』の個室

 

「うわー、なんか久しぶりー!」

アリスは、ベッドにダイブした。

おいおい、いきなりかよ。

「今日はベッド貸してやるけど、うるさくすんじゃねえぞ。」

「…えへへ。」

「…なんだよ。」

「いや、なんか、合宿初日もサトにいの部屋で寝たなって思ってさ。」

「…そういえばそうだったな。」

いきなり部屋に入られて、ベッドを横取りされて蹴られたっけ。

「前は、お風呂も借りたっけ?…って、今は夜時間だから水が出ないんだった。起きたばっかりだし、お風呂入りたかったんだけど。」

「まあ、3日間風呂入ってないんだもんな。まあお前が寝てる間、体拭いてたから多分不潔ではないだろ。」

「は!?ちょっと!それどういう意味!?まさか、サトにい…私が寝てる間にあんな事やこんな事を…!?キャー!エッチ!!変態!!犯罪者!!」

「なんて勘違いしてんだお前!そういうのは全部リタに任せてたから、俺は一切そういう事はしてねえよ!」

ったく…なんだこのやりとり。

なんかデジャヴだな。

「じゃあ、私着替えるから。…見ないでよ!?」

「見ねえよ。さっさと着替えろ。」

前よりはマシになったけど、めんどくさい事には変わりねえな。

「これでよしと。じゃ、おやすみなさい。」

「おやすみ。」

「…あのさ。」

「まだ何か用か?」

「…寝込み、襲わないでよね。」

「誰が襲うか。お前みたいなクソガキ。子供はもう寝る時間だ。変な事言ってねえで、早く寝ろ。」

「私、3日間ずっと眠りっぱなしだったんだけど。」

「うるせェ。屁理屈言ってねェで早く寝ろクソガキ。」

「はーい。」

アリスは、俺のベッドの中に潜り込んだ。

俺も寝るか…

「えいっ。」

「うおあっ!?」

俺は、いきなり腕を引っ張られて、ベッドに引きずり込まれた。

「おい、いきなり何しやがるこのクソガキ!」

「へっへーん、さっき殴ったののお返しですよーだ!」

「やっぱりクソガキじゃねえか!なーにが『私はもう大人だった』だ!」

「そんな事言ったっけー?私、クソガキだから覚えてないなー。」

コイツ…

「うるせェな、ガキは黙って寝てろ。」

「キャーサトにい怖ーい!」

コイツ、こういう所は前と全然変わんねェのな。

 

 

ー談話室ー

 

【床前サイド】

 

私は、あり得ないものを見てしまいました。

害虫…もとい、アリスさんが論さんの部屋に入り込んでいました。

さっきまで彼を殺そうとしていたくせに、彼の部屋に上がり込むなんて、信じられないです。

本当に、死ぬほど殺したい。

…やっぱり、あの時カークランドさんを助けなければ良かったですかね?

そうすれば、アリスさんはクロとしておしおきされたのになぁ。

タカヒロさんの言うシナリオも、素晴らしいとは思うんですけど…もしあの時アリスさんが皆さんを殺してくれていたら…なーんて考えちゃう私がいるんですよね。

「…あ。」

「あ。」

おや、これはこれは。

エカイラさんではありませんか。

わざわざアホ面晒しに来て、本当に不愉快ですね。

「何よ。アンタ、いたのね。」

「いたのね、とは失礼な。後から来たくせに、偉そうな態度取らないでください。」

「アラ。つれないじゃない。せっかく、二人で仲良くお話しでもしようと思っていたのに。」

エカイラさんは、私にウザ絡みしてきました。

本当にウザいし気持ち悪いです。

「本当に気持ち悪いですね。早く死んでください。」

「まあひどい。冷たい女の子は嫌われるわよ?」

「別にあなたに好かれたところでこれっぽっちも嬉しくないですよ。…それで?話ってなんですか?くだらない事だったら怒りますよ?」

「ナギサちゃんこーわーいー!…ごめん。そろそろ本題に入らないとね。…あのさ、診療所での事なんだけど。」

「診療所が、なんですか?」

「あの時の事、アタシはジェイムズちゃんが負傷した事と、リタちゃんの過去が明かされた事、あとはカムクライズルが消滅した事しか知らないんだケド…あーちゃんは暴走したんじゃなかった?あの子の暴走は、どうやって収まったわけ?」

「え?それ、そんなに気にする事ですか?」

「いいから答えなさいよ。」

「…仕方ないですね。彼女が暴れすぎて、私の愛しの論さんを斬り殺そうとしてたので、カッとなってつい銃で撃っちゃいました。」

「え?なにそれ?どういう事?そんなの、指示に無かったけど。なんでそんな事したワケ?」

「だって、仕方ないじゃないですか。あのまま彼女に論さんを斬り殺させるなんてそんな非道い事、私にはできませんもの。それに、あそこで撃っておかなかったら、一番被害を被るのは私達だったんですよ?あの時は、撃つしか方法がありませんでした。」

「…アンタがあの子の暴走の引き金を引いたくせに、よくもまあそんな事が言えるわね。」

「いいじゃないですか別に。誰も死んでないんですし。まあ、本当はもっと彼女に暴れてほしかったんですけど。」

「アンタ、一体何考えてんの?最悪、アンタがクロになってたかもしれなかったのよ?」

「で、その結果はどうですか?私はクロにならず、『計画』は今のところ破綻していないじゃないですか。結果オーライです。…あのねエカイラさん。世の中、結果が全てですよ。目的だの過程だのは、結果に行き着くための『手段』にすぎないんです。」

「行き当たりばったりって事じゃないの。…ホント、滅茶苦茶ねアンタ。」

「だって、私は『超高校級の幸運』ですよ?過程はどうあれ、私にとっての『幸運』は必ず叶うようになってるんです。」

「だから、暴走したクラスメイトを撃ち殺そうとしたと?…まるで悪魔ね。アンタ。」

「あら。私だって、最初から殺す気なんてありませんでしたよ。さすがに、アリスさんごときを殺してクロになっておしおきされるのは御免ですもの。ただ、ちょっとアリスさんのオイタが過ぎたから、重傷を負わせただけです。でも、意外と回復は早かったみたいですね。」

「…。」

「どうしたんですか?…まさかとは思いますけど、この期に及んで妹に情が移ったわけじゃないですよね?」

「そんなワケないじゃない。ただ、アンタがあまりにも無謀な事をしたからイライラしてるだけよ。」

「そうですよねー。この世界に、自分の人生に、何もかも絶望した私達が、今更『希望』を求めたりなんて、あるわけないですよねー?」

「当たり前じゃない。」

「なら一安心です。…それじゃあ、そろそろ計画を実行に移しましょうか。…ねえ、()()()()()?」

「その呼び方、不愉快だからやめてちょうだい。」

「私にウザ絡みしてきたお返しです♪いいですか、エカイラさん。私達は、ただ絶望を与えればいいんです。そのためなら、手段なんて選んでいる場合ではありません。そうですよね?」

「…アンタもアタシも、絶対いい死に方しないわよね。」

「そうですね。まあでも、私はどんなに凄惨な死に方をしようと、論さんの中で永遠に生き続けられるならウェルカムなんですけどね。」

「ホント、アタシが言うのもなんだけどイカれてるわねアンタ。」

「うふふ、褒め言葉と受け取っておきます。それじゃあ、また明日会いましょうエカイラさん。」

 

 

ー翌日ー

 

合宿21日目の朝。

昨日は、色々な事がありすぎた。

アリスが暴走して、リタの過去が語られて、アリスが『一人』になった。

「ふにゃあぁ〜。」

隣から、間抜けな声が聞こえた。

振り向くと、アリスが眠そうにあくびをしていた。

そうだ。

昨日、俺の部屋に泊めてやったんだった。

「よく寝た…」

「お前、3日間も寝てたんだろ?よくそんなに眠れるな。」

「アレとは、種類が違うから!お布団でぐっすり寝るのは、別なの!」

別腹みたいに言うなよ…

「ずっとご飯食べてなかったから、お腹すいちゃった!サトにい、早くご飯食べに行こ!」

「…そうだな。」

 

 

ーレストランー

 

「おはよう、みんな!」

「おはよう。」

「おう、おはよう!論にあーちゃん!」

「おはようございます。」

「…。」

「おはようございます論さん!」

「アラおはよ。」

エカイラの奴、昨日診療所に来なかったけど、昨日の事知ってんのかな…

「…何よサトシちゃん。アタシの顔に何かついてる?」

「あ、いや…別に。ちょっと考え事をしてただけだ。」

「あらそーお?」

「…兄さん。」

アリスが、エカイラに話しかけた。

「あなたが、私の兄さんだったんでしょ。兄さんの存在を聞かされてから、ずっと会いたいと思ってた。…あなたに会えて良かった。」

「…なんの事かしら?アタシ達は、もう他人よ。昔の事なら忘れなさい。あと、いつの間にそんなに大人びた口調になったの?違和感ありすぎて気持ち悪いから戻しなさい。」

エカイラの奴、せっかく妹に会えたってのに、冷たい奴だな。

まあ、色々あって素直に喜べねえんだろうけどよ。

「なあ、みんな。とりあえず飯食おうぜ。せっかく作った朝飯が冷めちまうよ。」

「あ、そうだな。勝利、今日の朝飯はお前が作ったのか?」

「まあな。結構頑張って作ったから、残さず食えよ!」

「では、皆さん座ってください。皆さんで一緒に食べましょう。」

全員が座って、手を合わせた。

ジェイムズだけは、胸の前で左手を真っ直ぐにした。

「いただきます。」

勝利の作った朝飯は、美味かった。

「うん、美味しいです。」

ジェイムズは、片手で器用に飯を食っていた。

「あの…ムズにい。」

「ん?何ですかアリスさん?」

「その…ごめんなさい。腕、斬り落としちゃって…」

「…。」

「やっぱり、ムズにいは、私の事…恨んでる?」

アリスとリタは、きまりが悪そうにしていた。

「うん、このお料理は美味しいですね。後で玉木さんに作り方を聞きましょう。」

ジェイムズは、貼り付けたような笑みを浮かべながら無理矢理話を逸らした。

「…ねえ、さすがにそんなので誤魔化されないよ。答えてよ。…私の事、恨んでるんでしょ。」

アリスは、食器を乱暴に置いて音を立てた。

そして、哀しそうな目でジェイムズを見た。

ジェイムズは、アリスの目を見て笑みを浮かべた。

「そんな訳ないじゃないですか。私があの時自分で行動した事で、今の結果があるんですから。アリスさん、私がリタさんを庇ったのは、貴女の為でもあるんです。どうしても、貴女に自分の手を汚して欲しくなかった。だからあの時動いたんです。ですから、もう自分を責めるのはやめてください。そうでなければ、私があの時命を賭けた意味が無くなってしまいます。」

「…。」

「ムズにい…でも…私のせいで、腕が片方無くなっちゃったんだよ!?」

「まあ、あの時は、気絶する位痛かったですがね。案外、あまり生活に支障は無いんですよ?残ったのが利き手だったのは、運が良かったです。アリスさん、あの時利き手を残してくださってありがとうございます!」

ジェイムズは、満面の笑みを浮かべながら言った。

「アラ。すごいポジティブシンキングね。」

「てっきり、あれで心が折れたのかと思っていたのですが。前向きすぎて気持ち悪いですね。この人、残りの手足をもがれても同じような事言うんじゃないですかね?なーんて…」

床前は、ヘラヘラと笑いながら憎まれ口を叩いた。

「おい床前。不謹慎だぞ。」

「冗談じゃないですかぁ。…ごちそうさまでした。」

「もう食い終わったのか?」

「ええ。では、私はこれにて失礼します。」

床前は、席から立ち上がると、レストランを後にした。

床前は去り際に笑顔で言った。

 

「では、さようなら皆さん。」

 

床前は、そのまま去っていった。

「さようならって…随分と大袈裟な言い方ですね。」

「確かにな。…でも、アイツは何考えてるかわかんないし、ただの気まぐれじゃねえのか?」

「それもそうね。さ、朝ご飯食べちゃいましょ。」

床前の発言をあまり深く考える事なく、俺達は朝飯を食った。

飯の後は、自由時間になった。

自由時間っつってもやる事は特に無いし、まだ行ってない教会と博物館をちょっと見てくるかな。

 

 

ー博物館ー

 

博物館の中には、動物の化石や古い道具など、色々な物が展示されていた。

その中に、サイクロプスの化石と書かれたショーケースに入った、白い破片が展示されていた。

ジェイムズが言ってた奴はこれか。

…見るからにプラスチックで出来た偽物だけどな。

これを見てジェイムズははしゃいだのか。

あと、気になる物は他にあるかな…

ん?なんだあれ。

比較的広めの展示スペースがあったので、中に入ってみると、そこにはよくわからない道具が展示されていた。

だが、どれもどこかで見た事があるような造形だ。

展示スペースの上の方を見てみると、ポップな文字が書かれているのが見えた。

そこには、

 

古代〜現代の拷問器具展示スペース!

 

と書かれていた。

「うわぁ…」

なんだこの悪趣味な展示スペースは。

思わず吐き気催したぞ。

見た感じ、どれもレプリカらしいが…

よく見ると拷問器具のショーケースひとつひとつに、バーコードのようなものが刻まれている。

そして、バーコードの下に、

 

しおりをかざしてみてね!

 

と書かれていた。

しおりをかざすと、しおりから変な音が流れた。

しおりを確認すると、いつの間にかしおりで動画が見られるようになっていた。

俺は、動画を開いてみた。

 

 


 

教育番組のような背景の映像が映った。

そこに、可愛らしい絵柄のモノクマとモノハムが現れた。

『モノクマ博士と!』

『モノハムちゃんの!』

『『たのしい拷問器具解説コーナー♫』』

『第1回 鉄の処女の巻!』

『ねえねえモノクマ博士、ここに置いてあるのは、なんでちゅか?』

『うぷぷ、それはね、鉄の処女っていって、中世ヨーロッパで使われたとされる拷問器具なんだ!』

『そうなんでちゅか!?これって、中はどうなってるんでちゅか?』

『わっと、ダメダメ!危ないよ!中にびっしりトゲが生えてて、中に入ったら最期、全身串刺しになっちゃうからね!』

『ぴきゃあ!?怖いでちゅね!』

『そうだね!ただね、そこにあるのはレプリカなんだ!本物の鉄の処女はまだ見つかってなくって、架空の拷問器具だったんじゃないかとも言われてるんだ!』

『ちょうなんでちゅか?ちゅごい、勉強になりまちた!』

『みんなも、もっといっぱい拷問器具を研究してみよう!次回は、ユダのゆりかごの巻だよ!』

『『それじゃ、まったね〜!』』

 


 

 

…なんだこれは。

俺は一体何を見せられたんだ。

っていうか、こういうところで無駄にハイテクな技術使ってくるの腹立つな。

なんでこういう要らん事ばっかりするんだコイツらは。

完全に俺達の事をバカにしてんだろ。

ったく…期待した俺がバカだった。

俺が展示スペースを出ようとした時だった。

「…あれ?」

他の器具に比べて、妙にリアルな斧が切り株に刺さっていた。

他の器具には動画用のバーコードがあるのに、何故かこの斧にだけはバーコードが無い。

「なんだこれ…」

俺は、斧に触れてみた。

「痛っ…」

少し刃に触れただけで、指が赤く滲んだ。

この切れ味、間違いない。本物だ。

でも、なんでこれだけ本物なんだ…?

他の器具は、全部レプリカなのに…

って、考えても答えは出てこないか。

とりあえず他にめぼしい物も無かったし、そろそろ教会に行こうかな。

俺は、博物館を後にして、教会に行こうとした。

「サトにい!」

後ろから、アリスが話しかけてきた。

「なんだ、どうした?」

「あのさ、ちょっと私の部屋来てよ。」

「…はぁ?どうした?急に。」

「いいから。」

「あ、おい!」

アリスは、俺の腕を引っ張って、自分の部屋まで連れてきた。

 

 

『超高校級の失敗作』の個室

 

「ここが私の部屋だよ。」

そこは、殺風景な部屋だった。

真っ白な壁面、そして壁面と同じく真っ白な家具。

何かあるとすれば、部屋の隅におもちゃ箱があるくらいか。

他の部屋とは違い、本棚には絵本が何冊か入っているだけだった。

なんだ、この手抜き感が半端ない部屋は。

他の部屋は、すごく凝ってたのに…

「なんで私だけ部屋の内装が雑なんだろうね。まあ、箱の中におもちゃがあるから退屈はしなかったけど。ゲーム機とかもあるよ。やる?」

「いや、今はいいよ。」

「あ、そう。」

「それで?なんで俺を呼んだんだよ。」

「これ見て。」

アリスは、本棚から絵本を一冊取り出し、手渡してきた。

「なんだこれは。」

「私もよくわからない。」

俺は、手渡された絵本を読んでみた。

そこには、汚い子供の落書きのような絵で、島の絵が描かれている。

島には建物が描かれているが、それはどれもメルヘンチックな建物だった。

しかし、その建物はどれも、どこかこの島の建物に似ていた。

「…あれ?」

そして、そこで行われるコロシアイの数々。

殺人の内容こそ違ったが、どれも今の自分達の立場を描き表しているかのようだった。

「なんだ、この気味の悪い本は…」

「うーん、よくわかんないけど…それに描かれてるのってさ、どう見てもこのコロシアイの事だよね?」

「そうとしか考えられないよな…」

「で、この絵本の作者なんだけど…」

アリスは、絵本を裏返して見せた。

 

そこには、字が何かでなびったように広がっていて何て書いてあるか読めないが、かろうじて超高校級の、と書かれているのは読めた。

 

「…超…高校級の…?」

「そっ。多分、この絵本の作者だと思う。多分、この島にいた人が描いたんじゃないかな。」

…言われてみればこの絵本、まだ新しいし、つい最近描いたような感じなんだよな。

「じゃあ、この絵本は…」

「うん。多分、コロシアイの計画書じゃないかな。なんで私の部屋にあるのかはわかんないけどね。」

「って事は、これを描いた奴が黒幕って事か…?」

「うーん。そうなのかなぁ。よくわかんない。」

アリスの部屋に置いてあるコロシアイの計画書…

謎は深まる一方だな。

「あ。」

「何?」

「そういえば、お前、自分の動機は確認したのか?」

「うん。HOTな話題でしょ?さっき確認したよ。」

「…そっか。」

「ねえ。なんか暇だし、遊ばない?」

「唐突だなオイ。」

「ゲーム機あるから遊ぼうよ。」

「ったく、しょうがねえな。」

そういえば、猫西ともゲームで遊んだっけ。

あれから、俺もアイツに勝つために色々と戦略を練ってきたからな。

ゲームは結構自信あるぞ。

「よし、じゃあ早速やろっか。」

「そうだな。」

俺達は、2人でゲームを始めた。

「え、ちょっと待って。サトにい強くね!?」

「悪いな。こちとら鍛えてんだよ。俺は、相手がガキだからって容赦しねえぞ。ここは、勝たせてもらう!」

「にゃああああ!負けちゃうー!…なーんて言うと思ったか!」

アリスは、急にニヤリと笑みを浮かべ、猛スピードで指を動かし始めた。

「え!?ちょっと待って!?なんかいつの間にか押されてるんですけど!どうなってんの?うわ、ヤベえ…全然巻き返せねえ…」

「ふっふーん、私を舐めてもらっちゃ困るぜ!悪いけど、私は相手が格下だからって容赦しないからね。ここは、勝たせてもらうよ!」

「ぐわあああああああああああ!!」

「勝ったー!」

「…負けた。」

結構ガチめに戦略練って攻めたのに。

コイツがこんなにゲーム強かったとは。

「あー楽しかった!初心者潰しは楽しいね!」

「…性格悪いなお前。」

「そーお?でも、私可愛いから!笑って許してね☆」

ムカつく。

ちょっとマセガキになったのが余計ムカつく。

「他には何かあったかなー。」

おいおい、まだやる気かよ。

もう小一時間くらい経ってるぞ。

「…あ。」

アリスは、おもちゃ箱からCDを取り出した。

「謎のCD発見!ちょっと気になるから聞いてみようよ!」

アリスは、CDをかけ始めた。

曲が流れ始める。

短調で、安定した部分と不安定な部分が入り混じった、気味の悪い曲だ。

その不気味なメロディが、コロシアイ生活で消耗した心にピッタリと重なり、不安を煽ってくる。

これをずっと聴いていたら鬱になりそうだ。

「なんだこの気持ち悪い音楽は…」

「キモいねー。一回止めよっか。」

アリスは、CDの曲を止めた。

「お前は、このCDに今まで気付かなかったのか?」

「まあ、そうだねー。まさか、こんなキモい曲が流れるなんて思わなかったよ。」

 

ピンポーン

 

インターホンの音が聞こえた。

誰か外にいるのか?

「…どうした?」

ドアを開けると、顔面蒼白になったリタがいた。

「…!…!」

リタは、何かを伝えようと必死に手を動かしていた。

「なんだ?わかるように説明してくれないか?」

リタは、慌ててしおりを取り出し、地図を見せた。

そして、教会を指差した。

「教会に行けって事か?」

「…!」

リタは、勢いよく首を縦に振った。

「…わかった。おい、アリス。教会に行くぞ。」

「はーい。」

何と言うか…絶妙なタイミングだな。

ちょうど教会に行きたかったところだしな。

俺達は、教会に向かった。

 

 

ー教会前ー

 

 

 

 

「リタさん、菊池さん、アリスさん!」

教会の方向から、ジェイムズが走ってきた。

「ジェイムズ…」

「大変です!あれを見てください!」

「あれ?」

ジェイムズが指を差した方向を見ると、信じられないものが目に飛び込んできた。

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーッ。」

教会の窓から、朱い炎が噴き出ていた。

熱気を帯びた風は轟々と鳴り響き、こびり付くような形容しがたい悪臭が漂う。

全員が呆気にとられていたその時、教会の中から一つの影が現れる。

 

「ぐ…」

 

影は、足を引きずり、腕を押さえながら教会から出てきた。

出てきたのは、エカイラだった。

顔は焼け爛れていたが、身体の方はあまり焼けていないようだった。

顔が焼けて出血したからか、服が血で赤く染まっていた。

「エカイラ!?おい、中で何があった!?早く治療しねえと…」

「…いいわ。そこまで重症じゃないし…自分で治療できるわ。…それより。」

エカイラは、教会の方を指差した。

教会は燃え続けていたが、炎の勢いは少しずつ弱まっていく。

消防士の格好をしたモノクマとモノハムが、消火活動を行なっている。

『全く、火事なんて、ホント勘弁して欲しいよね!』

『全くでちゅ!火を消ちゅこっち側の労力も考えてくだちゃい!』

二匹は、ぶつくさと文句を言いながら火を消していた。

消火活動の末、火は完全に消えた。

『あー、やっと消えた。ん?なーに、オマエラ。』

「なあ、中で何があった!?中に入らせろ!!」

『さーね!気になるなら、自分の目で確かめてみれば!』

『消火ちゅるのが早かったので、まだ完全には燃えていまちぇん。建物が崩れる心配は無いので、安心ちて中を確認できまちゅね!』

モノクマとモノハムは、やけに不機嫌だった。

…せっかく用意したエリアが燃えたからか?

いや、そんな事はどうでもいい。

とにかく、今は教会の中で何があったのかをこの目で確かめないと…

俺達は、教会の中に入った。

教会は、内部だけが焼けていて、外側までは焼けていなかった。

部屋の中を探すと、部屋の中央に何かが転がっているのが見えた。

「…う゛ッ!?」

()()が放つあまりの悪臭に、思わず吐き気を催した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転がっていたのは、炭化した死体だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死体は完全に炭化していて、もはや原型を留めていなかった。

そしてどういうわけか、両足が無い。

「えっ…な、なにこれ…」

「ッ!!?これ、死体…ですよね?」

「死体の大きさから察するに、おそらくカツトシちゃんの死体ね。」

「そんな…!」

嘘だろ…?

そんな、なんで勝利が…

なんでだよ…お前、彼女のために生きてここから出るって言ってたじゃねえかよ…!

なのに、なんで…!

「あの、菊池さん…」

「…れが…た。」

「…え?」

 

「誰が殺したかって聞いてんだよ!!!」

 

俺は、怒りのあまり怒鳴り散らした。

「菊池さん、落ち着いてください!今ここで皆さんを責めても、何にもなりません!」

「うるせェ!!…勝利は、一緒にここから出ようって約束した仲間だったんだぞ!?なのに、なんで…!なんで殺した!?勝利に恨みでもあったのかよ!!」

「サトにい!!」

「あっ…」

アリスの声で、俺は我に返った。

「カツにいがこんな事になって、悔しいのが自分だけだと思わないで!みんな、サトにいと同じなんだよ!だから、落ち着いて!」

「…!…そうだな。ごめん、みんな。俺、熱くなってたみたいだ。」

「では、手分けして手掛かりを探しましょう。」

「…そうだな。…あれ?そういえば、床前は?」

「あ…確かにいらっしゃいませんね。でも、あの方は気分屋ですので…死体アナウンスの放送の後で来るんじゃないでしょうか?」

「そう、なのかな。じゃあ、とりあえず来るのを待つか。その間に、俺達は手掛かりを…あれ?」

「どうしたのサトにい?」

「あそこにあるのって、宝箱だよな?」

「そうですね。…あ、あれは、博物館に置いてあった宝箱ですね。」

「そうなのか?」

誰かが持ち運んだって事か?

でも、なんでこんなところに…

「とりあえず、開けるぞ。今のところ、何もわからないままだからな。」

「はい、お願いします。」

俺は、恐る恐る宝箱を開けて、中を覗いた。

 

 

 

「ぎゃあぁあああああっ!!?」

俺は、思わず声を大にして叫び、尻餅をついた。

「菊池さん!?どうしたんですか!?」

「…あ、あああああ…」

俺は、震える手で箱を指差した。

「?」

全員が箱の中身を確認した。

「ーーーーーーーーッ!!」

「…え。」

「うわぁ…」

「…!!」

全員が、顔を青白くして箱の中身を見た。

いきなり視界に飛び込んできた、生気の無い引きつった笑顔。

その笑顔は、俺達への嘲りの表情に思えた。

流れ出る血は、箱の中で溜まっていた。

箱の中には…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『超高校級の幸運』床前渚の生首が入っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!」

「…そんな…」

「あ…あ…」

「…。」

全員が、あまりの出来事に、言葉を失っていた。

一緒に箱に入っていた地図が、窓から吹き込んだ風を受けて舞った。

地図の裏には、楽譜が書かれていた。

 

その楽譜を見たジェイムズが呟いた。

 

 

「…Gloomy Sunday(暗い日曜日)….」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コロシアイ合宿生活 残り5名




前回の感動回を台無しにしてやりました。
トコマエダ様がついにマミったw
犯人は一体だーれだ♬


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第5章 非日常編①(捜査編)

『オマエラ、死体が発見されました!!教会にお集まりください!!』

 

モノクマのアナウンスが鳴り響く。

勝利と床前が死んだ。

俺達が気づかないうちに、わけもわからないまま殺された。

勝利とは、絶対に生き残ってここを出ようって約束したのに。

外で待ってる彼女や、今まで犠牲になった人達のためにも、俺に力を貸してくれるって言ってくれたのに。

なんでだよ…なんでお前がこんな事に…!

「…お二人とも…」

「…。」

「カツにい、ナギねえ…」

「あーあ、案外呆気なかったわねえ。」

ジェイムズは、床前の首から目を逸らしていた。

リタは、その場で蹲って泣いていた。

アリスは、抜け殻のようになって床前の首を呆然と見ていた。

エカイラは、頭の後ろで手を組みながら他のみんなを見ていた。

…本当に、この中の誰かが2人を…

「う゛ッ…!?おぇえ゛ッ…ゲホッ…」

鼻を突き刺すような悪臭と、眼球に貼りつくような生々しい緋色に、思わず吐き気を催した。

「菊池さん…大丈夫ですか?」

「…ゲホッ…す、すまねェ…」

やっぱり、12人も経験していても、これだけは全然慣れないな。

これまで一緒に過ごしてきた仲間が、残虐な方法で殺された…慣れるわけがない。

『うぷぷぷ!きったね!菊池クン、だいぶ参ってるようだね?でも、汚いし捜査に支障をきたすから、現場で吐くのはやめてね!』

「あ、貴方方は…!」

『やっほー!モノクマ&モノハム参上!またまた殺人が起こっちゃったみたいだね!』

『ぴきゃきゃ!全く、アナタ達には退屈ちゃちぇられまちぇんね!』

二匹のぬいぐるみが、俺達を嘲笑うかのように飛び出してきた。

「お前ら…!」

『菊池クン、何怒ってんの?ボク達は何もしてないクマ!やったのは、オマエラの中の誰かなんだよ!』

そんな事、わかってる。

でも、勝利が死ぬ原因を作ったのはお前らだ。

コイツらは、絶対許さねェ。

「貴方方は、また私達に犯人探しをしろと言うのですね!?」

『そ!…と言いたいところなんだけどさ。』

モノクマは、急に不愉快そうな顔をした。

そういえば、さっきも機嫌が悪かったような気が…

コイツら、一体何が不満なんだ?

「何よ。なんでそんなに怒ってんのよ。」

『うっさいよ!今、ボクはすこぶる機嫌が悪いの!』

「貴方の機嫌などどうでもいいですが…どうしたのですか?」

『監視カメラに、犯行時の様子が映らなかったのでちゅ!オイラ達にも、誰がどうやって殺ちたのかわからないんでちゅ!』

はぁ!?何だよそれ!

黒幕ですら犯行当時の状況を知らないって…そんなのアリかよ!?

「なにそれ!そんなの、裁判にならないじゃん!どうやって裁判しろっていうんだよ!」

『話を最後まで聞きな!…とにかく、ボクはオマエラに最大限の情報を与えてやるから、それを頼りにクロを見つけてよ。こっちも、クロが誰か考えて、一番可能性が高いと判断した奴をクロとするからさ!』

「そんな事言って、不正とかする気ではありませんよね?私達が仮に正しいクロを当てても、おしおきしたりとか…」

『ちょんな面倒な事ちゅるわけないじゃないでちゅか!ファイルを送るので、文句ばっかり言ってないで調査をちてくだちゃい!』

『あ、そうだ。アンカーソンサンには、特別にこれをあげるよ。』

「…?」

『モノクマ印の発声補助器だよ!言いたい事を、声にして出してくれるスグレモノだよ。裁判の時、それ使って参加すれば。』

「…。」

リタは、発声補助器をつけた。

『…あ。』

機械的ではあったが、リタの声にそっくりな声が流れた。

『うんうん、どうやら正常に作動ちたようでちゅね!じゃ、オイラ達はやる事があるので、この辺で。ちょれでは、裁判でお会いちまちょう皆様!』

黒幕ですら、クロを把握できていない殺人…

モノクマ達もを欺いたクロを、俺達が見つけ出せるとは思えない。

でも、やるしかない。

今更後戻りなんてできない。

俺達が、クロを見つけてやるんだ。

…みんなで生き残るため、そして勝利の仇を討つために。

 

 

 

 

ー《捜査開始》ー

 

…とりあえず、まずはモノクマファイルを確認しよう。

 

 

モノクマファイル①

1人目の被害者は『超高校級の幸運』床前渚。

死体発見現場は、北エリアにある教会。

死亡推定時刻は15:24頃。

死因は、斬首による失血死。

死体にその他の傷はほとんどない。また、死体の顔は笑みを浮かべている。

 

コトダマゲット!【モノクマファイル①】

 

モノクマファイル②

2人目の被害者は不明。

死体発見現場は、北エリアにある教会。

死亡推定時刻は15:50〜16:00頃。

死因は、全身が焼けた事による火傷及び失血死。

死体は完全に炭化しており、両足が爪先から脛にかけての十数cmほど欠けている。

 

コトダマゲット!【モノクマファイル②】

 

…ん?

被害者が不明?

どういう事だ?

勝利が焼け死んだんじゃないのか?

…まあ、それは捜査を進めていけばわかる事だろう。

 

…次は死体を確認しないとな。

「検視は誰がやる?」

「では、床前さんの方は私が…エカイラちゃんさんは、玉木さんの方をお願いします。」

「ウフフ、いいわよ。しっかり調べてあげるわよ、カツトシちゃん!」

「見張り役は、人数が少ないからつけられないな。…2人を信じるしかないか。リタ、アリス。お前らは気になったところを探してくれ。」

「わかった。」

『はい。僕は、教会の外に何かないか調べてみます。』

さてと、俺も捜査をしないとな。

 

 

ー教会内部ー

 

まずは気になるところを調べてみるか。

…ん?

これは…なんだ?

教会の床に、炎の熱で少し融けた十字架が落ちていた。

十字架…?

何か、接ぎ目のようなものがあるが…融けてくっついてるせいで開かないな。

そういえば、勝利とエカイラが十字架を見つけたっつってたけど…これの事か?

 

コトダマゲット!【少し融けた十字架】

 

…ん?

なんだこの不快な匂いは…

まるで、車の排気ガスみたいな…ガソリンを燃やしたみたいな匂いだな。

教会が燃えた原因はこれか…?

…あ。

教会の中を探すと、焦げた一斗缶が乱雑に置かれていた。

書いてある字を読むと、工業ガソリンと書かれていた。

これが原因か…

でも、なんでこんなところにガソリンが…

 

コトダマゲット!【ガソリン】

 

…あとは。

「おい、モノクマ。」

『ほえ?なあに、菊池クン。』

「お前、さっき監視カメラが映らなかったって言ってたよな?どういう事なんだ?」

『ああ、あれね!実はね、教会が燃えた時の炎と煙のせいで、何が起こったのかがちゃんと映らなかったんだよ!』

「なんだと…?」

『全く、黒幕と犯人だけが真犯人を知ってるっていうゲーム感覚が至高なのに!ボクにも犯人がわからないように殺しやがって!ホント、勘弁してほしいよね!』

お前の趣味なんて知った事か。

だが、今のはかなり重要な情報だったな。

 

コトダマゲット!【監視カメラの映像】

 

自分で調べられるのはこのくらいかな。

あとは、エカイラ達に検視の結果を聞いてみよう。

 

「エカイラ、そっちは検視終わったか?」

「ええ、バッチリよ。サトシちゃん。」

「じゃあ、検視の結果を教えてくれるか?」

「いいわよ。カツトシちゃんは、やっぱり焼死ね。死体が完全に炭化してたわ。…それにしても、不思議ねぇ。フツー、こんな短時間でこんな完璧に炭化するかしら。」

「…そうか。」

「あと、なんでかは知らないけど、両足が無いのよ。この死体。」

「モノクマファイルにも書いてあったが…なんで足が無いんだろうな?」

「さあ?アタシもわかんないわ。その足がどうなったのかもね。」

「…。」

「ホント、不思議な事だらけよねェ。この死体。」

「なあ、この死体、本当に勝利の死体なのかな?」

「それに関しては間違いないわ。ホラ、見て。この死体の服の切れ端なんだけど、これはカツトシちゃんのユニフォームよね?」

エカイラが見せた布は、確かに勝利のユニフォームだった。

「これでわかったでしょ?この死体は、カツトシちゃんよ。」

…そう、なのか。

 

コトダマゲット!【炭化した死体】

 

コトダマゲット!【両足がない死体】

 

コトダマゲット!【エカイラの証言】

 

「…それと、はい。」

「ん?なんだこれ。」

俺は、エカイラに日本刀を渡された。

「この死体が握ってたのよ。」

これはアリスの日本刀だな。

勝利が預かってたんだっけ。

「なあ、ちょっと調べてもいいか?」

「ええ、お好きにどうぞ。」

俺は、エカイラに手渡された日本刀をよく調べてみた。

刀には、少しではあるが血がこびりついていた。

「これでナギサちゃんの首を斬ったのかしらね。」

…本当にそうか?

これで首を刎ねたとしたら、違和感があるんだよな。

明らかに、刃に付着している血が少ない気が…

それに、付着してる血の乾き方も、ほんの数十分前に付着した感じじゃないんだよな。

だったら、使われた凶器はこれとは別って事か?

 

コトダマゲット!【日本刀】

 

「なるほどな…そうだ、お前の事件当時のアリバイを聞かなきゃな。お前、事件当時はどこで何してた?」

「アラ。漢女にそんな事聞くなんて、失礼な男ね。…と言いたいところだけど、教えてあげるわ。教会の奥で、脱出の手掛かりがないか探してたのよ。いくら黒幕サイドとはいえ、こんなところにいつまでも閉じ込められてたら息が詰まりそうだったからね。そしたら、いきなり教会が燃え始めて…カツトシちゃんが焼身自殺でも図ったのかしらねえ。」

「お前は、現場に居合わせたって事か?」

「そうね。あ、でも、ナギサちゃんが殺された時はいなかったわよ?その後で教会に来たんだけど…カツトシちゃんは、隠れてたからなのかいたのに気付かなかったわね。アラ。そうなると、誰がナギサちゃんを殺したのかしら?」

なんだ、コイツの違和感がありすぎる説明は…

不自然な点が多すぎるな。

だが、今ここで問い詰めても、答えは出ないだろう。

第一、時間の無駄だ。

捜査時間は有限だ。一秒も無駄にできない。

一旦、コイツの発言はスルーしておくか。

裁判で言及すればいいことだ。

「…ありがとうエカイラ。参考になったよ。」

「どういたしまして。じゃ、アタシはそろそろ他の場所の捜査をするわねェ。」

「…おい。」

「アラ、まだ何かご用?」

「…お前、なんか声が変じゃねえか?」

「…え?」

「なんか、かすれてるっていうか…いつものお前の声じゃねえな。」

「ああ、これ?教会の炎の煙を吸ったから、喉がイカれちゃったのよ。ゲホッ、ホント喉が痛くてつらいわぁ。」

「そうなのか?」

「そうよ。」

「…なぁ。」

「ホントしつこいわね。まだ何か?」

「お前、本当に治療受けなくていいのか?やっぱり、ちゃんと治した方が…」

「必要ないって言ってんでしょ。何度も言わせないで。アタシなら、自分で治療したから大丈夫よ。火傷のせいで手が爛れちゃってるから、ちょっとおぼつかない感じになっちゃったけどね。とにかく、アタシの心配ならいらないから。自分の捜査に専念なさい。」

「…あ、ああ…証言してくれてありがとう。」

 

コトダマゲット!【エカイラの容態】

 

コトダマゲット!【エカイラの声】

 

コトダマゲット!【治療を拒否するエカイラ】

 

「…?」

「…何よ。」

「いや、なんでもない。」

「なら、早くどっか行ってちょうだい。捜査の邪魔よ。」

「あ、悪い…」

なんだ…?

この違和感は。

エカイラは、少なくとも検死ができるくらいの医療知識は持ってるはずなのに…

アイツの手当ての仕方は、どう見ても素人がやったようにしか見えないんだよな。

焼け爛れてまだ血が滲んでる皮膚に、包帯を巻き付けただけだったし…

手先がおぼつかなかったからとは思えないんだよな。

…気のせい、では片付けられないよな。

裁判で必要になったら言わなきゃいけなくなるかもしれないな。

 

コトダマゲット!【エカイラの手当て】

 

俺は、エカイラが去った後で、炭化した死体をよく調べてみた。

すると、死体の足の断面が変な形をしている事に気がついた。

切断されたというよりは、粉砕されたような断面だった。

まるで、炭を砕いたような…

無くなった足の周りにも、煤みたいなものがたくさん散らばってるし…

炭化した後で、足の部分が砕けたって事か?

それも、人為的なものだろうな。

こんな事をする奴がいるとすれば、犯人か…

なんで犯人は、勝利の足を砕いたんだ…?

 

コトダマゲット!【砕けた両足】

 

この死体から得られる情報はこのくらいか…

あとは…床前の死体を検視しているジェイムズに話を聞いてみよう。

「ジェイムズ、そっちは順調か?」

「はい、少々時間はかかってしまいましたが…」

「無理すんな。お前だって、まだ本調子じゃねえんだろ。」

「いえ、私は、皆さんのお役に立ちたいので!紳士たる者、この程度で音を上げる訳にはいきません!」

「…そうか。できる範囲でいいから、検視の結果を教えてくれるか?」

「はい、やはり、刃物のような物で首を切断されていますね。断面が非常に綺麗な事から、犯人は相当の手練れだと思われます。」

「そうなのか?」

「はい。フィクションでは、首が刎ねられるシーンはよくあるんですけど、実際には人の首はそう簡単に斬り落とせないんですよ。一回で刎ねようとするなら、頸椎の継ぎ目を狙って斬らなければなりません。それ程の高等技術を用いて首を刎ねるは、斬首専門の死刑執行人でもない限り無理です。…実際、斬首刑の際、執行人の技量が足りない為に一度で罪人の首を落とせず、首が落ちるまで何度も刃を下ろしたという事もあったそうですし。」

うわっ…結構残酷だな。

斬首は一番苦しくない処刑法だって聞いたんだが…

「…よくそんな事知ってるな。」

「文献で読んだことがあるので。」

…マジかよ。コイツ、色んな事知りすぎだろ。

 

コトダマゲット!【ジェイムズの証言】

 

「それとさ、ちょっと気になる事があるんだが。」

「…はい、なんでしょうか?」

「その…床前の顔なんだけどさ…なんで笑ってんだろうな?」

「あぁ…確かに。笑っているように見えますね。」

「首斬られて死んだってのにな。気味悪いな。」

「そうですね…」

「原因はわからないのか?」

「ええと…参考になるかは分かりませんが、少し気になる事がありました。」

「気になる事?」

「はい。微量ですが、床前さんの首から薬物のような物が検出されました。成分を調べたところ、麻薬の類である事が判明しました。」

麻薬…なんでそんなモンが床前の死体から出てきたんだ…?

「なあ、ジェイムズ。」

「はい、なんでしょうか?」

「まだ捜査は終わってないんだよな?俺は俺で確かめたい事があるから、捜査を続けていてくれないか?」

「分かりました。」

俺は、一旦ジェイムズと別れ、植物園に向かった。

 

コトダマゲット!【笑顔の死体】

 

コトダマゲット!【麻薬】

 

俺も、手掛かりを探さないとな…

 

 

ー植物園ー

 

麻薬…もし、俺の推測が正しければ…

俺は、コユキソウがあった場所を探してみた。

…やっぱり。

そこには、あったはずのコユキソウがなくなっていた。

…でも、断定はできないな。

あとでジェイムズに聞いてみよう。

 

コトダマゲット!【消えたコユキソウ】

 

ここで調べられる事はもう無いし、そろそろ教会に戻るか…

俺が教会に戻ると、外にリタがいた。

『…菊池。』

「リタか。調べたいって言ってたところはもう調べられたのか?」

『はい、調べ終わりました。』

「…そうか。お前は何を調べてきたんだ?」

『えっと…一応、博物館を調べてきました。』

「で?何がわかった?」

『えっとですね…教会に宝箱があったので、もしやと思って探してきたんですけど…やっぱり博物館の宝箱がなくなってました。』

「やっぱりか…」

 

コトダマゲット!【消えた宝箱】

 

『それと、消えたのは宝箱だけじゃなかったんです。』

「…なんだと?」

『菊池、博物館の特設コーナーには行きましたか?』

「えっと…確か、拷問器具が置いてある所だよな。」

『はい。一応、そこも調べたんですけど…そこに置いてあった斧がなくなっていました。』

「…なくなった斧、ねえ。」

 

コトダマゲット!【消えた斧】

 

「ありがとう、リタ。」

『はい。』

「なあ、リタ。」

『なんですか?』

「リタは、犯行時刻、何をしてたんだ?」

『えっと…僕はですね、ジェイムズと一緒に島中を散歩してたんですけど…北エリアの空模様が変だなって思って、一緒に行ってみたんです。そしたら、教会が燃えてて…』

「なるほどな…ありがとな、教えてくれて。」

『…。』

「そろそろ、教会に戻ろうぜ。俺も、ジェイムズに聞きたい事があるし…」

『そうですか。では、行きましょう。』

 

 

ー教会ー

 

「おや、菊池さんにリタさん。戻られたのですね。」

「まあな…なあ、ところでジェイムズ。」

「はい、なんでしょうか?」

「コユキソウの効力について、詳しく聞いてなかったな。コユキソウがどんな花なのか、教えてくれるか?」

「はい、わかりました。…ええとですね、私が調べた限りでは、簡単に言ってしまうと麻薬の一種です。具体的には、運動機能や痛覚を始めとする感覚機能が著しくしく低下し、幻視や幻聴、無痛覚などの症状が現れます。また、コユキソウの成分を摂取すると、この上ない多幸感を覚えます。私が調べた限りだと、モルヒネの約10倍の効力があります。」

うっわぁ…要は、麻薬の強力版って事だろ?

なんか怖い花だな。

じゃあ、過去に希望ヶ峰学園に麻薬作った奴がいたって事かよ。

知りたくなかったぞそんな情報。

 

コトダマゲット!【コユキソウの効力】

 

「でも、何故そのような事を?」

「実は、植物園に行ったらコユキソウがなくなってたんだよ。だから、もしかしたらって思ってな…」

「成程…」

「なあ、ところでジェイムズ。」

「はい。」

「床前の首が入ってた箱は調べたのか?」

「はい、一応…」

「教えてくれるか?」

「はい。ええとですね…この宝箱には、防火加工と断熱加工が施されていました。5000℃の熱にも耐え、おそらく近くでニトログリセリン爆発を起こしても、中身に影響を及ぼさないほど強力だと思われます。」

「に、ニトログリセリン爆発…」

ずいぶんとおっかない事言うな、コイツ…

でもまあ、それほど熱に対する耐久性は高いって事がわかったな。

 

コトダマゲット!【防火加工の宝箱】

 

「…なるほどな、よくわかったよ。ありがとうジェイムズ。」

「お礼には及びません。私は、当然の事をしたまでです!」

コイツのこういう所はホント尊敬するよ…

「なあ、ジェイムズ。」

「はい、なんでしょうか?」

「さっき、地図が宝箱から舞ってったけど…」

「ああ、あれですか。回収しておきましたよ。風で飛ばされてしまっていたので、回収が困難でしたが。」

「ありがとう。じゃあ、ちょっとそれ見せてくれるか?」

「はい、どうぞ。あ、血が染みて見にくくなっているかもしれません。」

俺は、ジェイムズから渡された地図を見てみた。

紙が黒ずんでてよく見えねえけど……これは、この島の地図だな。

バツ印が書いてあるけど…これは、位置的にはこの教会か…

 

コトダマゲット!【地図】

 

…あと、確か裏に楽譜が書いてあったっけ。

ちょっと見てみるか。

…あれ?

この楽譜…俺がアリスの部屋で聴いた気持ち悪い曲の楽譜じゃねえか?

「菊池さん、どうかなさいましたか?」

「あ、いや…この楽譜の曲、聴いた事あるなって思ってよ…」

「…!?」

ジェイムズは、口をあんぐりと開けて、恐ろしい物でも見るような目で見ていた。

「…なんだよ。」

「菊池さん、本当にこの曲を聴いた事あるんですか!?」

「あ、ああ…なあ、お前、何か知ってんのか?」

「その曲、絶対に聴いてはいけないと言われている曲なんです!」

「…へ?」

「『暗い日曜日』という曲なんですがね、『自殺の聖歌』とも呼ばれていて、その曲を聴いた人は死ぬと言われているんです。あまりにも自殺者が多いものですから、私の国では放送禁止になっているんですよ!」

「そ、そんな曲だったのか…」

 

コトダマゲット!【楽譜】

 

「あれ?でも、この地図って…お前が見つけたって言ってたやつだよな?」

「はい、そうですが…」

「この地図、最初は裏に楽譜なんて書いてなかったんじゃなかったっけか?」

「ああ、それなら…多分、文字があぶり出されたんじゃないですかね?多分、地図の裏に予め透明な液体で楽譜が書かれていて、それを熱した事で楽譜が浮かび上がったのかと。」

「…なるほど。」

 

コトダマゲット!【あぶり出し】

 

「ところでジェイムズ、お前、犯行時刻は一体何してた?」

「ええと、リタさんと一緒に散歩をしていましたね。そうしたら、教会が燃えているのが見えて…私は周りに人がいないかを確認し、リタさんには別の場所を探すようにお願いしたんです。」

「…そうか。教えてくれてありがとな。」

ジェイムズから聞ける情報はこのくらいか…

あとは、アリスに話を聞いてみるか。

 

「なあ、アリス。お前は何か見つけたか?」

「これ。」

アリスは、教会の床板を外した。

「ここ、下に降りられるようになってるんだよ。」

…マジかよ。

こんな所に隠し部屋があったなんてな。

木造の簡易的な教会なのに、こんな細工がしてあったとは…

水族館の隠し通路と言い、プレイルームと言い…忍者でも住んでんのかよ、この島は。

 

コトダマゲット!【隠し部屋】

 

「そういえば、この隠し部屋は無事なんだな。」

「なんか、クマちゃんが言ってたんだけど、地下室には放火加工がされてるらしいの。」

じゃあなんでそれを地上の建物にもやらねえんだよ。

アリスと一緒に下に降りると、地下空間が広がっていた。

「…う゛っ!!?」

地下に降りてすぐ、俺は吐き気を催した。

地下には、頸から上が無い床前の死体が転がっていた。

乾ききってはいるが、頭があったはずのところは、血溜まりができていた。

「床前…」

みんなを脅したり唆したりしたような屑でも、こんな事になっちまうと見るに忍びないな。

俺は、ハンカチを床前の頸に被せた。

「…なあ床前。俺は、やっぱりお前の事は許せねェよ。許す気なんて無えし、これからもずっと許せねェと思う。だけど、それはお前を殺した奴も同じだ。人を殺しておいて平然としている犯人を、俺は許さない。お前を殺した犯人は、俺が必ず見つけてやる。」

 

コトダマゲット!【床前の死体】

 

あと気になるのは、床前の近くに転がっている斧だな。

博物館で見た斧と同じ形状だな。

…刃の部分に血がべったり付いてるな。

これが床前の首を刎ねた凶器と見ていいだろう。

 

コトダマゲット!【血塗れの斧】

 

「なあ、アリス。そっちは何か見つけたか?」

「うん。これ見て。」

「…?」

俺は、アリスが指差した先を見てみた。

アリスは、山積みになった木箱の中を見ていた。

その木箱の中にはガソリンの一斗缶が入っていた。

「…あれ?これ、さっき見たよな…?って事は、ここからガソリンを持ってきたって事か?」

 

コトダマゲット!【地下室の木箱】

 

…さてと。この部屋で調べられる事はこれくらいかな。

そろそろ上に戻るか…

 

カラカラ…

 

何かが転がる音が聞こえた。

「…なんだ?」

振り返ってみると、そこにはマニキュアの瓶が落ちていた。

どす黒くて、グロテスクな色合いのマニキュアだ。

「…あれ?」

俺は、そのマニキュアに見覚えがあった。

確か、ガチャでゲットして、エカイラにプレゼントしたマニキュアだ。

「あれ?何そのマニキュア。」

「…これ、俺がガチャでゲットしたやつなんだよ。…あ、これ、みんなには内緒な?」

「なんで?」

「…誤解されると恥ずかしいから。」

「…ああ、なるほどね。わかったよ。みんなには言わないよ。私は大人だからね。」

「ありがとう。」

 

コトダマゲット!【エカイラのプレゼント】

 

…あとは、全員分のアリバイをまとめておこう。

 

コトダマゲット!【全員分のアリバイ】

 

『オマエラ、時間切れです!ついにこの時がやってきました!お待ちかねの学級裁判、始めるよ〜!5分以内に、ホテル一階の赤い扉まで集合してね〜!』

…時間切れか。

まだ疑問点も多いが…大体調べはした。

あとは、裁判でやれるだけやるしかない。

「…皆さん、行きましょう。」

「ええ。」

「そうだね。」

『…はい。』

俺達は、赤い扉の前に向かった。

 

 

ー赤い扉前ー

 

全員が扉の前に集まった。

扉が開き、エレベーターの籠が現れる。

何度も経験しているはずなのに、冷や汗が止まらない。

心拍が、爆発しそうな程大音量で鳴り響く。

緊張と不安で押し潰されそうになる。

当然だ。

もし間違えば、死ぬのは俺達なのだから。

この5人の中に、クロがいる。

自分が死ぬか、誰かを見殺しにして生き残るか…

俺達の運命は、どちらか一方だ。

それでも、俺達はやるしかないんだ。

俺は、こんな所では死ねない。

絶対にクロを見つけて生き延びて、俺を待っている人達に会わなきゃいけないんだ。

…最低なのはわかっている。

それでも、前に進むしかない。

だって、それしか道は残されていないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

『ここで、皆様にクイヂュのお時間でちゅ。この中で、床前様達を殺害ちた犯人は誰だと思いまちゅか?』

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の???』アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の死神』伏木野エカイラ

 

 

 

『…ちょうでちゅか。…ではでは、答え合わちぇは、またの機会に。』

 



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第5章 非日常編②(学級裁判前編)

5月13日は玉木クンの誕生日です。
玉木クンハピバ!


エレベーターが止まり、扉が開いた。

全員が裁判場に到着し、証言台の前に立つ。

そして、赤くバツ印が書かれた遺影が2枚増えていた。

見下したような笑みを浮かべる神城と、本性を表す前の優しい笑顔の床前の遺影だった。

そして、玉木の席には、黄色いペンキでクエスチョンマークが書かれた遺影が置かれていた。

「…神城さん、床前さん…」

『…。』

ジェイムズとリタは、遺影から目を背けた。

『あれあれあれ?なんか皆様元気ないでちゅね!』

「…。」

もう、みんなモノクマとモノハムの挑発に乗る気力すら無かった。

仲間を12人も失った。

そのショックの大きさに、耐えられるわけがなかった。

『オマエラ、なんかお通夜みたいなムードだけど、はたして落ち込んでる場合なのかな?さてさてさーて、全員揃った事だし、始めちゃおっか!ハラハラドキドキの学級裁判を!』

 


 

コトダマ一覧

 

 

 

【モノクマファイル①】

1人目の被害者は『超高校級の幸運』床前渚。

死体発見現場は、北エリアにある教会。

死亡推定時刻は15:24頃。

死因は、斬首による失血死。

死体にその他の傷はほとんどない。また、死体の顔は笑みを浮かべている。

 

【モノクマファイル②】

2人目の被害者は不明。

死体発見現場は、北エリアにある教会。

死亡推定時刻は15:50〜16:00頃。

死因は、全身が焼けた事による火傷及び失血死。

死体は完全に炭化しており、両足が爪先から脛にかけての十数cmほど欠けている。

 

【少し融けた十字架】

教会に落ちていた。

少し溶けているが、継ぎ目のようなものがある。

 

【ガソリン】

教会に一斗缶が落ちていた。

これが火事の原因と思われる。

 

【監視カメラの映像】

煙と炎で遮られ、犯行の映像が録画されていなかったという。

 

【炭化した死体】

教会の中心部に倒れていた。完全に炭化している。

 

【両足がない死体】

何故か、死体には両足が無かった。

 

【エカイラの証言】

死体から見つかった布の端が、勝利のユニフォームだった。

 

【日本刀】

死体が握っていた。古い血が付着している。

血の量と古さから、床前の首を切断した凶器ではないと思われる。

 

【エカイラの容態】

顔面全体に火傷を負っていて、もはや顔の原型をとどめていない。

 

【エカイラの声】

かすれたような違和感のある声。本人は、火事の煙を吸ったせいだと言っている。

 

【治療を拒否するエカイラ】

治療を勧めたが、自分で治療したからいいと言って頑なに聞かなかった。

 

【エカイラの手当て】

顔や手に包帯を巻いただけの、素人レベルの治療。

 

【砕けた両足】

死体の足の部分から、砕けた炭のようなものが見つかった。

おそらく足が砕けたのだと思われる。

 

【ジェイムズの証言】

床前の首は、刃物のようなもので切断された可能性が高い。

首の切り口から、犯人は相当の手練れだと思われる。

 

【笑顔の死体】

床前の死体は、口角が吊り上がっていて笑っているように見える。

 

【麻薬】

床前の死体から、麻薬のようなものが検出された。

 

【消えたコユキソウ】

植物園にあったコユキソウがなくなっていた。

 

【消えた宝箱】

博物館の宝箱がなくなっていた。

 

【消えた斧】

博物館の斧がなくなっていた。

 

【コユキソウの効力】

コユキソウには、幻覚や無痛覚などの、麻薬に似た効力がある。

効果は、並の麻薬よりも強い。

 

【防火加工の宝箱】

床前の首が入っていた宝箱は特殊な素材でできており、熱への耐性が非常に優れている。

また、人一人分くらいは入る大きさだ。

 

【地図】

宝箱の中に入っていたこの島の地図。

ちょうど教会の位置に、バツ印が書かれている。

 

【楽譜】

地図の裏側に書かれていた楽譜。

『暗い日曜日』という、自殺の聖歌と呼ばれている曲の楽譜らしい。

 

【あぶり出し】

以前は、地図の裏に楽譜は書かれていなかった。

おそらく、熱で元々書かれていた楽譜があぶり出されたのだと思われる。

 

【隠し部屋】

教会の床板が外れるようになっており、その下は地下空間になっていた。

【床前の死体】

地下空間に転がっていた。

 

【血塗れの斧】

床前の近くに落ちていた。

刃の部分には血が付着していた。

 

【地下室の木箱】

地下空間に置いてあった宝箱に、ガソリンの一斗缶が入っていた。

似たような木箱が、他にもあった。

 

【エカイラのプレゼント】

俺が、診療所でエカイラにプレゼントしたマニキュアだ。

この事を知っているのは、俺とエカイラのみ。

 

【全員分のアリバイ】

俺とアリスは、アリスの部屋でゲームをしていた。

ジェイムズとリタは、島中を散歩していたらしい。

エカイラは、教会で脱出の手がかりを探していたそうだ。

 

 

 


 

 

 

学級裁判開廷

 

 

 

『じゃ、好きに議論を進めてくださーい!』

ジェイムズ「まずは何について議論しましょうか。」

菊池「まずは、モノクマファイルを読むべきだと思う。事件の概要を把握するためにもな。」

ジェイムズ「そうですね…では、私が読み上げます。1人目の被害者は『超高校級の幸運』床前渚。死体発見現場は、北エリアにある教会。死亡推定時刻は15:24頃。死因は、斬首による失血死。死体にその他の傷はほとんどない。また、死体の顔は笑みを浮かべている。2人目の被害者は不明。死体発見現場は、北エリアにある教会。死亡推定時刻は15:50〜16:00頃。死因は、全身が焼けた事による火傷及び失血死。

死体は完全に炭化しており、両足が爪先から脛にかけての十数cmほど欠けている。…皆さんも把握していらっしゃいますよね?」

エカイラ「ええ。じゃ、早速議論しましょ?まずは何を解き明かすべきかしら?」

菊池「じゃあ、まずは死因からかな…床前の方から紐解いていこう。」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

ジェイムズ「床前さんは、どうやって殺されてしまったんでしょうか…」

リタ『火事現場にいたので、煙を吸って窒息死したとか…』

アリス「窒息死かあ…」

エカイラ「確かに、あの炎の中だもんねぇ。一酸化炭素中毒で死んだとしても、おかしくないんじゃないかしら?」

今のリタの発言はおかしい!!

 

【窒息死した】←【モノクマファイル①】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

リタ『僕、何か変な事言いましたか?』

菊池「リタ、床前の死因は、首を斬られた事による失血死だってファイルに書いてあっただろ。」

リタ『そうでしたね…ごめんなさい。うっかりしていました。』

エカイラ「そうなると、次は凶器かしら?」

ジェイムズ「そうですね。床前さんの首を斬り落とした凶器…犯人は何を使ったのでしょうか?」

 

 

議論開始!

 

 

 

アリス「ギロチンとかぁ?」

ジェイムズ「のようなものを使ったのかも…」

リタ『で刎ねたという可能性は…?』

 

【斧】←【血塗れの斧】

 

「その意見、賛成だ!!」

 

同意

 

菊池「床前の首を斬り落とした凶器は、斧だと思うぞ。」

ジェイムズ「成程…それにしても、酷い殺し方ですよね…いくら相手が床前さんだとはいえ、斧で首を切断するなんて…犯人は一体何を考えているんでしょうか…?」

アリス「それを今考えても意味なくない?まだ犯人すら見つかってないわけだし。」

ジェイムズ「そ、そうですね…」

 

反論

 

「ン〜、サトシちゃんって、ちょっと甘いわよね〜。」

 

 

 

 

エカイラ「あのさぁ、なんで凶器が斧だって断言できるのよ?」

菊池「現場から、血の付いた斧が見つかった。付着していた血の量や周囲の状況から察するに、あれが凶器だと判断した。」

エカイラ「そうとは言い切れないんじゃないかしら?だって、犯行現場からは日本刀も見つかってるのよ?アレにだって血はついてたし…凶器は、リタちゃんの言う通り日本刀っていう可能性だって十分あり得るわ。凶器は日本刀、これがアタシの答えよ!!」

今のエカイラの発言は明らかにおかしい!!

 

コトダマ提示!

 

【日本刀】

 

「その愚論、切らせてもらう!!」

 

菊池「エカイラ、床前を殺した凶器が日本刀だって事は、あり得ないんだ。あれは、おそらく凶器をミスリードさせるために犯人が仕掛けた罠だ。」

エカイラ「なんで?言ってる意味がわからないわよ。なんでナギサちゃんの首を刎ねた凶器が日本刀じゃないのよ!!証拠はあるの!?ちゃんと説明しなさいよ!!」

菊池「お前が俺に渡した日本刀の特徴をよく思い出してみろ。あれには確かに血がついていたが…変だとは思わなかったか?付着してる血の量が、首を刎ねたにしては明らかに少なすぎるんだよ。」

エカイラ「そんなの、振り回してるうちに吹き飛んだのかもしれないじゃない!もしくは、後で少し拭いたとか…」

菊池「だったら、完全に拭き取られてないのは不自然だろ?そもそも、拭き取った跡なんて無かったしな。」

エカイラ「何それ!!さっきから、何が言いたいのよサトシちゃん!!」

菊池「それだけじゃないぞ。付着していた血が、明らかに古いんだよ。少なくとも、付着してから半日以上は経ってる。床前が殺されたのが今日の3時半くらいだから…あれで首を刎ねたっていうのは、さすがにちょっと無理があるだろ。」

エカイラ「あっ…そうね、確かに言われてみれば、サトシちゃんの言う通りだわ。ごめんなさい。アタシ、ちょっと頭に血が上ってたわ。」

アリス「だったら、日本刀に付いてた血は一体なんなの?」

ジェイムズ「それなら多分、アリ…いえ、カムクライズルさんが私の腕を斬り落とした際に付着したものだと思われます。アリスさん、犯行現場にあった日本刀…あれは、貴女の物ですよね?」

アリス「…うん。ムズにい、あの時は本当にごめんね。」

ジェイムズ「別にもう終わった事ですし、気にしていませんよ。そんな事より、今は事件の謎を解き明かすのが最優先です。」

アリス「…うん。そうだね。じゃあ、次は何について話し合おうか?」

エカイラ「その斧が、どこから持ってきた物なのかが気になるわね…」

菊池「それについてなら、心当たりが無い事はないぞ。」

 

コトダマ提示!

 

【消えた斧】

 

「これだ!!」

 

菊池「床前の首を切断した斧…あれは多分、博物館に展示されていた斧だ。」

アリス「そうなの?」

リタ『僕も、菊池の意見に賛成です。僕が博物館を見た時、展示されていた斧がなくなっていました。多分、その斧だと思います。』

ジェイムズ「そうでしたか。私が床前さんの死体を調べている間、博物館を調べていてくださったのですね!リタさん、お手柄です!」

リタ『ありがとうございます。』

菊池「確かに、あの斧は、確か処刑で首を切断するための斧だったからな。床前の殺害にあの斧を使った可能性が高いな。」

エカイラ「なるほどねぇ…となると、次は何を議論すべきかしら?」

菊池「そうだな…」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

リタ『じゃあ、床前が殺された場所について議論するのはどうですかぁ?』

菊池「そうだな。」

ジェイムズ「床前さんがどこで殺されたのか…どなたか、心当たりのある方はいらっしゃいますか?」

床前が殺された場所…

多分、あそこだろうな。

 

コトダマ提示!

 

【隠し部屋】

 

「これだ!!」

 

菊池「床前が殺されたのは、恐らく教会の地下にある隠し部屋だ。」

ジェイムズ「か、隠し部屋…!?」

エカイラ「…そんな空間があったのね。アタシ、初耳よぉ。」

菊池「…。」

リタ『ですよねぇ。そんな部屋があったなんて、僕知りませんでしたよ。』

 

コトダマゲット!

 

【不自然な発言】

 

ジェイムズ「でも、その部屋で殺されたという証拠はあるんですか?」

菊池「ああ、証拠ならちゃんとある。」

 

コトダマ提示!

 

【床前の死体】

 

「これだ!!」

 

菊池「床前の死体が、その隠し部屋から見つかったんだ。さっき言ってた斧も、そこで見つけたんだ。地下空間が犯行現場と見て間違いない。」

ジェイムズ「…後から死体を運んだという可能性は?」

菊池「無いな。人体ほど大きな物を持ち運ぼうとなると、何かしら痕跡が残るはずだ。だが、地下空間にはそういった痕跡は一切無かった。」

アリス「そっかぁ…でも、それだけじゃまだわからないね。…ねえサトにい、ナギねえの死体に、何か変なところとかなかった?」

菊池「変なところ…」

アレを提示してみるか?

 

コトダマ提示!

 

【笑顔の死体】

 

「これだ!!」

 

菊池「床前の死体が、なぜか笑ってたんだ。」

アリス「え、死んだのに笑ってんの?気持ち悪っ。」

ジェイムズ「アリスさん、今はそういう場面ではありません。」

リタ『でも、確かに不自然ですよねぇ…なんで死体が笑ってたんでしょうか?」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

アリス「死ぬ前にくすぐられたとかぁ?」

ジェイムズ「アリスさん、真面目に考えてくださいよ。」

リタ『菊池が殺したからじゃないですかぁ?」

菊池「俺は床前を殺したりなんかしてねえよ。」

エカイラ「クスリでもキメてたんじゃないの?」

…あの意見が正しそうだな。

 

【クスリ】←【麻薬】

 

「その意見、賛成だ!!」

 

同意

 

菊池「ジェイムズの検視結果によると、床前の体から麻薬の成分が検出されたらしい。」

ジェイムズ「はい。口内から検出されたので、恐らく麻薬かそれに近いものを口から摂取したのだと思います。」

アリス「麻薬かぁ。具体的にどんな薬なのか心当たりはあったりするの?」

 

コトダマ提示!

 

【消えたコユキソウ】【コユキソウの効力】

 

「これだ!!」

 

菊池「床前は、多分コユキソウを食わされたんだ。」

リタ『コユキソウを、ですか…?』

菊池「ああ。コユキソウの効力は、麻薬の強力版らしいからな。なあ、ジェイムズ。」

ジェイムズ「はい。」

菊池「それに、植物園にあったコユキソウがなくなっていた。多分、犯人が摘み取って床前に食わせて、その後で首を切断したんだろう。」

アリス「なんでわざわざそんな事を…」

菊池「コユキソウには、痛覚を著しく鈍らせる効果がある。だから床前にコユキソウを食わせてから首を刎ねたんだ。暴れさせないために食わせたのか、せめて苦しまないように殺そうっていう犯人の思いやりなのかまではわからないがな。」

エカイラ「女の子の首を平気で斬り落とすような奴が、ナギサちゃんにそんな情けをかけたりするかしらねぇ。」

菊池「それは俺にもわからねえって。…うーん、これ以上は議論しても何も出てこないか。そろそろ、議題を変えるか?」

ジェイムズ「そうですね。玉木さんの死の状況についても、整理しておきたいですし。」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

リタ『玉木はどうやって殺されたんでしょうかぁ。』

ジェイムズ「モノクマファイルに書いてある事から察するに、焼死でしょうね。」

アリス「あの火事で焼け死んじゃったのか…」

エカイラ「本当にそうなのかしら?」

ジェイムズ「と、申しますと?」

エカイラ「既に死んでいる死体を運んできて、教会での焼死に見せかけたって事はない?ゴミ処理室にあった焼却炉でも、人を燃やすことはできると思うんだけど。」

今のエカイラの発言はおかしい!!

 

【教会での焼死に見せかけた】←【モノクマファイル②】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「エカイラ、それはないと思うぞ。」

エカイラ「どうしてよ。」

菊池「モノクマファイルに、勝利が死んだ時間が書いてあっただろ?あれは、火事が起こった時刻と一致していた。つまり、勝利はあの火事で焼け死んだって見て間違いないんだよ。」

エカイラ「あら、そうね。アタシ、うっかりしてたわ。ごめんなさい。」

ジェイムズ「火事となると、気になるのは火事の原因ですよね。犯人は、何を使って教会に火をつけたんでしょうか?」

菊池「それは…」

 

コトダマ提示!

 

【少し融けた十字架】

 

「これだ!!」

 

菊池「教会に、少し融けた十字架が落ちていた。エカイラ、この十字架に見覚えはないか?」

エカイラ「ん?あー、そういう事ね。」

アリス「どういう事なの?」

エカイラ「これ、ただの十字架じゃなくて、実はオイルライターになってるのよ。アラ?言った事なかったかしら?」

菊池「エカイラの言う通り、これはライターだ。これを使って、教会に火をつけたんだ。」

ジェイムズ「あの…菊池さん。」

菊池「ん?どうしたジェイムズ?」

ジェイムズ「火炎放射器などならまだしも、そんな小さなオイルライターで教会を燃やすなんて、どう考えても現実的ではありません。という事は、火事を促進させる物があの場にあった筈なんです。…何か心当たりはありませんか?」

菊池「それなら、心当たりがある。」

 

コトダマ提示!

 

【ガソリン】

 

「これだ!!」

 

菊池「教会を燃やすのに犯人が使ったのは、おそらくガソリンだ。」

リタ『ガソリン、ですか…?』

菊池「ああ。現場に、ガソリンの一斗缶が落ちていた。あれなら、教会を燃やせると思うんだが?」

ジェイムズ「成程。その可能性が高いですね。ガソリンは発火点が非常に低く、また揮発性が高いので、一斗缶ひとつあれば教会を燃やす事は十分可能かと。」

アリス「なるほどね…ねえ、でもさぁ、そのガソリンはどこから持ってきたのかな?」

ジェイムズ「それは私にもわかりませんね。リタさんと二人で散歩をしていた時、売店にも行ったのですが、持ち出された危険物は特にありませんでしたからね。」

菊池「お前…そんなのチェックしてたのかよ。」

ジェイムズ「はい。万が一にも、殺人事件が起こっては困りますから。4回目の裁判の日からは毎日、散歩がてら売店に置いてある危険物の数が足りなくなっていないかチェックしていたんです。…それなのに、まさか事件が起こってしまうなんて…」

リタ『ガソリンは、売店から持ち出されたわけじゃないって事ですね。じゃあ、どっから持ってきたんでしょうか?』

それは…

 

コトダマ提示!

 

【地下室の木箱】

 

「これだ!!」

 

菊池「地下室に、ガソリンの一斗缶が入った木箱が大量に置いてあった。おそらく、そこから一つ持ってきたんだ。」

ジェイムズ「えっ、地下にそんな物があったんですか!?…物騒ですね。でも、大量にガソリンがあって、燃え移ったりしていないのはなぜなんでしょうか…」

菊池「地下室には防火加工が施されてるってモノクマが言ってたな。」

リタ『なるほど…』

アリス「ねえ、ちょっといいかな?」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

アリス「ひとつ気になった事があるから言っていい?」

菊池「なんだ?」

アリス「ガソリンってさ、地下室にあったんだよね?でも、地下室は、私が捜査中に初めて見つけたんだよ?それも、結構入念に調べてやっと見つけたんだよ?それなのに、犯人はなんで地下室にガソリンがあるって事を知ってたの?」

ジェイムズ「どういう事ですか?」

アリス「だってさぁ、今回の火事って、見るからに計画的犯行じゃん?地下室のガソリンぶっかけて教会を燃やすなんてさ。そんなの、最初から計画もしてないのにできるかなぁ。やっぱり今回の火事を起こした犯人は、地下室にガソリンがある事を知ってたんじゃない?」

ジェイムズ「床前さんが殺害されたのも地下室ですよね?ただ単に床前さんを殺害した犯人が、地下室のガソリンの事を他の誰かに喋ったとか…」

アリス「そんな事するメリットはないよね?仮にここにナギねえを殺した犯人とカツにいを殺した犯人が別々にいたとして、その人達が協力するメリットもないし…だってそんな事しても、少なくとも一方は死んじゃうんだもん。だったらやっぱり、火事を起こした犯人は自分でガソリンの事を知って、火事を起こすために作戦を練ったんじゃないのかなぁ。」

リタ『そこでたまたまガソリンを見つけたから、それを使って燃やしたって事はないですか?』

アリス「たまたま見つけたからって、当初の計画になかった事をいきなりやると思う?そんな事したら、私達にすぐにバレちゃうかもしれないのに。」

ジェイムズ「何が言いたいのですか?」

アリス「犯人は、地下室の事もガソリンの事も全部知ってて、今回の計画を実行したんじゃないかって事だよ。ナギねえを地下室で殺したのも、カツにいを教会ごと焼いて殺したのも、全部犯人が最初から計画してたんだよ。」

アリスが珍しく冴えてるな。

俺が気づかなかったような事を、どんどん言い出してきやがる…

アリス「ただ、わからないのが、犯人が地下室のガソリンの事を知った経緯なんだ。なんで犯人は地下室にガソリンがある事を知ってたのかな?」

それは…

 

 

 

 

 

犯人が地下室にガソリンがある事を知っていた理由は?

A.【勘】

B.【今回の犯人こそが全ての黒幕】

C.【透視】

D.【隠された暗号を解いた】

 

 

 

D.【隠された暗号を解いた】

 

「これだ!!」

 

菊池「犯人が、ガソリンを使って教会を燃やす事を計画した理由…それは、隠された暗号を解いたからだ!!」

アリス「暗号?」

菊池「ああ、実は、犯人は何も自分で教会を燃やす事を思いついたわけじゃない。暗号の指示に従っただけなんだ。」

ジェイムズ「暗号の指示に従った…そんな暗号と呼べるような物、ありましたかね?」

菊池「みんな、思い出してみろ。みんなも絶対見ている物のはずなんだ。」

リタ『僕達が見ている物、ですか?』

菊池「そうだ。」

 

コトダマ提示!

 

【地図】【楽譜】

 

「これだ!!」

 

菊池「ジェイムズとリタが見つけてくれた地図…これこそが、犯人に今回の事件を引き起こさせた暗号だったんだ!!」

リタ『それ、確かこの島の地図ですよねぇ。』

アリス「ちょうど教会の位置にバツ印があるけど…それが何?」

菊池「これは、教会に何かが隠されているって事を示すための印だ。」

エカイラ「でも、それだけじゃ火事となんのつながりもないわよ。」

菊池「そうだな。本題はここからだ。この地図の裏を見てほしい。」

エカイラ「アラ。楽譜が書いてあるわね。その楽譜がどうしたの?」

菊池「この楽譜は、『暗い日曜日』っていう、自殺の聖歌と呼ばれている曲らしい。多分、俺達より先にこの島にいた誰かが、この地図と楽譜を遺したんだ。」

エカイラ「書いてある文字から察するにドイツ人かしらね。でも、それがなんだっていうのよ?」

菊池「エカイラ、お前はこの地図を見たとき、違和感を感じなかったか?」

エカイラ「違和感?…あ、そういえば、アタシがこの前その地図を見た時、楽譜が書かれていたのは一部だけだったわ。」

菊池「そうなんだ。なんで今まで書かれていなかった楽譜がここに書かれているのか…それこそが、この暗号のミソなんだ!」

エカイラ「勿体ぶってないで教えなさいよ。」

地図の裏面に楽譜を出現させた方法…それは…

 

コトダマ提示!

 

【あぶり出し】

 

「これだ!!」

 

菊池「犯人は、地図の裏の楽譜をあぶり出して出現させたんだ。」

アリス「あぶり出し…?」

ジェイムズ「恐らく、地図の裏には予め透明な液体で楽譜が書かれていたんです。その文字が、紙が火か何かで加熱された事によって浮かび上がったというわけです。」

エカイラ「でもそれのどこが暗号なの?」

菊池「教会、自殺、火…この地図に隠された暗号は、この3つだ。」

ジェイムズ「まさか…!」

菊池「そうだ。この地図で示されていたのは、今回の事件現場となった教会に火事で人を焼き殺すための仕掛けがあるって事なんだ!」

アリス「!!」

リタ『ちょっと無理矢理すぎませんか?』

菊池「確かにな。でも、この暗号を書いたのは俺じゃないから、この際それは置いといてくれ。」

リタ『…まあ、いいです。それで犯人は、その仕掛けに気づいたから、今回の事件を起こしたって事ですか?』

菊池「そういう事だ。」

アリス「ふんふん、私の疑問はこれで解消できたよ。…で、肝心の犯人は誰なんだろうね?」

 

菊池「…1人だけ、心当たりがある。…さらに言うと、床前を殺したのもソイツだ。」

 

…そう、こんな事をできる奴はアイツしかいない…!

 

床前の首を切断し、俺の親友…勝利を焼き殺した犯人…それは…

 

 

 

人物指定

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の???』アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の死神』伏木野エカイラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

菊池「…お前が犯人だったんだな、エカイラ。」

エカイラ「アラ。アタシ?」

菊池「…エカイラ、お前が犯人としか考えられないんだ。」

エカイラ「…。」

 

 

 

バンッ

 

 

 

エカイラは、いきなり証言台を叩いたと思うと、深くため息をついた。

エカイラ「ハァ〜‥」

菊池「…エカイラ?」

エカイラ「ねえ、サトシちゃん。証拠はあるの?アタシがナギサちゃんとカツトシちゃんを殺したっていう明確な証拠は!!」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

エカイラ「大体ねえ、アンタの推理は穴だらけなのよ!!さっきの暗号のくだりも、マジでイミフだったわ!!地図の裏に、あぶり出しで自殺の聖歌の楽譜が書かれてたから、教会に火事を起こすための仕掛けがあるのに気づいたですって?はぁああ!!?何よその屁理屈!!」

菊池「だから、それは俺が作った暗号じゃないから俺に言われても…」

エカイラ「お黙り!!あのねえ、あの火事を起こす事なんて、誰にでもできたはずよ!!」

 

【誰にでもできた】←【全員分のアリバイ】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「その時間帯、俺とアリスはゲームをしてたし、ジェイムズとリタは一緒に散歩をしていたんだ。…わかるか?単独行動をしていたのはエカイラ!!お前だけなんだよ!!」

ジェイムズ「菊池さん達と私達には、お互いを庇い合う理由がありませんからね。そうなれば、エカイラちゃんさん。単独行動を取っていた貴方が犯人で決まりです。」

エカイラ「ぐっ…ま、まだよ!!まだ、私がナギサちゃんを殺したっていう証拠がないじゃない!!ナギサちゃんの首を刎ねる事くらい、アタシじゃなくてもできたはずよ!!」

 

【アタシじゃなくてもできた】←【ジェイムズの証言】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「ジェイムズ。床前の首の切断面はどんな様子だったか教えてくれ。」

ジェイムズ「はい。床前さんの首の断面は、頸椎の継ぎ目が綺麗に切り離されていて、断面の周りがボロボロになったりもしていませんでした。恐らく、首を刎ねるのに斧を振り下ろした回数は、1回だけだと思います。たった1回で頸椎の継ぎ目に寸分も狂わず正確に刃物を振り下ろすなんて、普通の人間が出来る芸当ではありません。」

菊池「そんな人間離れした事が出来る奴は、俺が知る限りではエカイラ。お前だけだ。」

エカイラ「そ、そんなの…あーちゃんにもできるかもしれないでしょ!?ホラ、あーちゃんは元々カムクライズルだったじゃない!」

リタ『アリスの中のカムクライズルは、事件前にとっくに消滅してます。今のアリスに、そんな化け物じみた芸当はできません。』

エカイラ「ぐっ…!」

菊池「エカイラ。地図の暗号に気付いたお前は、コユキソウと斧を盗み、暗号の通り教会に大量のガソリンがあるのを確認して、まず床前を教会の地下室に呼びつけたんだ。そして、床前にコユキソウを食わせて、首を斬って殺した。さらに勝利を呼びつけて、ガソリンとオイルライターを使って教会に火をつけて火事を起こし、勝利を焼き殺したんだ。そして、火事の被害者を装って、何食わぬ顔で俺達の前に現れた。これがこの事件の真相だ!!そうなんだな、『超高校級の死神』伏木野エカイラ!!」

エカイラ「…ふぅ、アタシの負けね。あーあ、もうちょっと騙せると思ったんだけどな。」

ジェイムズ「エカイラちゃんさん…何故そんな事を…」

エカイラ「アラ。今から死ぬ相手にそれ聞く?さ、クマちゃん、ハムちゃん。アタシもう疲れちゃった。早く始めちゃって?」

『おやあ?もう答えが出たんですか?みんな、本当にそれで大丈夫?』

エカイラ「ええ。アタシがやったのよ。」

菊池「ああ、それでいい。」

ジェイムズ「はい。」

リタ『…はい。』

これが真相だ。

俺は、何も間違ってない。

…でも、なんだ。この違和感は…

何か、大事な事を見落としてるのか…?

『…そうですか。ではでは、投票ターーーーーーー…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待って!!!」

 

学級裁判中断



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第5章 非日常編③(学級裁判後編)

「待って!!!」

 

 

 

声を上げたのは、アリスだった。

菊池「…アリス?」

アリス「えっと…決断を下すにはまだ早い…と、思う。」

アリスは、少し恥ずかしがりながら言った。

ジェイムズ「しかし、エカイラちゃんさんがお二人を殺した犯人…そうとしか考えられません。」

エカイラ「…あーちゃん、アタシを庇ってくれるの?嬉しいわ。…でもね、もうクロは決まりきったようなものなのよ。ほら、クマちゃん。アタシもう疲れちゃったし、早く投票始めちゃってよ。」

アリス「…ねえ。」

 

 

 

アリス「あなたは一体誰なの?

 

エカイラ?「…はぁ?」

アリス「あなたは兄さんじゃないわ。あなた、本当は誰なの?」

何…?

目の前にいるエカイラが、エカイラじゃないだと…!?

エカイラ?「何ワケのわかんない事言ってんのよ!!アタシはアタシ!!『超高校級の死神』伏木野エカイラよ!!」

アリス「ううん。あなたは私の兄さんじゃない。私にはわかる。だって、たった一人の兄妹だもの。答えて。兄さんを一体どこへやったの?あなたは一体誰なの!?」

エカイラ?「アンタ、さっきから言ってる事がワケわかんないのよ!!アタシとアンタが兄妹だからわかるですって!?ただたまたま血が繋がってただけじゃないのよ!!今まで一緒に育ってこなかったくせに、今更兄妹面して…気持ち悪いのよアンタ!!アタシはエカイラだっつってんでしょうが!!アタシはアタシ!!それ以外の何者でもないわ!!」

ジェイムズ「そうですよアリスさん!!この人は、私達のよく知るエカイラちゃんさんです!」

リタ『二人の言う通りです…!エカイラが別人なんて…ありえないです…!』

コイツがエカイラじゃない…?

正直、俺もそんなバカな事あるわけないと思ってる。

でも、そう言われると、いくつか納得できる事があるな…

…ここは、アリスの事を信じてみよう。

菊池「…俺も、アリスの意見に賛成だ。」

アリス「サトにい…!」

菊池「一回、目の前のコイツが本当にエカイラなのかどうか、確かめてみるべきじゃないか?」

エカイラ?「確かめるも何も、アタシがエカイラだっつってんでしょうがよ!!」

『おやおや、意見が分かれてしまいましたね!』

『ちょういう時は、オイラ達の出番でちゅ!』モノクマがボタンを押すと、証言台が移動した。

対立するように、席が並ぶ。

『さてさてさーて、じゃあ好きなだけ話しあってね!』

 

 

 

意見対立

 

議論スクラム

 

 

 

目の前にいるのは伏木野エカイラか?

 

『エカイラだ!』ジェイムズ、リタ、エカイラ

『エカイラじゃない!』菊池、アリス

 

 

エカイラ?「アタシはエカイラだっつってんでしょうが!!」

アリス「違う…!あなたは兄さんじゃない!!」

ジェイムズ「全てエカイラちゃんさんがやったとすれば説明がつくんです!!」

菊池「まだそれだと説明がつかない事があるんだよ!!」

リタ『この人はエカイラです!そうとしか考えられません!!』

菊池「そうとは言い切れない理由があるんだ!!」

 

コトダマ提示!

 

【そうとしか考えられません】←【エカイラの容態】

 

「これだ!!」

 

「「「「これが『俺達』『私達』の答え『だ』『だよ』!!!」」」」

 

菊池「アリスの言う通り、目の前のソイツがエカイラだとは言い切れない。」

ジェイムズ「どうしてですか!?」

菊池「ソイツの顔を見てみろ。顔中を火傷してて、顔が包帯でグルグル巻きになってるんだぞ?本人かどうかなんてわからないだろ。」

アリス「それに、雰囲気が全然兄さんじゃないわ。きっと、誰かが兄さんと入れ替わったんだよ。」

リタ「でも、そんな事、できるわけ…」

エカイラ?「何よ!顔が焼けてるから何!?まさか、それだけで判断したわけじゃないでしょうね!?」

 

 

 

 

議論開始!

 

 

 

エカイラ?「アタシがエカイラじゃないっていうの!?ふざけんじゃないわよ!!違和感があるっていうの!?言ってみなさいよ!!」

 

【違和感】←【エカイラの声】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「お前、エカイラの声じゃないよな?見た目は火傷でごまかせても、声だけはごまかせねえからな!!」

エカイラ?「それは煙を吸っちゃったからだって言ってるじゃない!!」

菊池「煙を吸った割には、声が元気だよな?」

エカイラ?「そ、それは…」

菊池「お前、やっぱりエカイラじゃないんだろ!?」

エカイラ?「ぐっ…そ、それだけで判断されたんじゃ困るわ!現にアタシは何も不自然な事はしてないでしょ!?」

 

【何も不自然な事はしていない】←【治療を拒否するエカイラ】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「お前、俺が火傷の治療を勧めた時、拒否したよな?なんでだ?」

エカイラ?「たいしたことなかったから自分で治療したのよ!!悪い!?」

菊池「そんな重症を負ってるのに、か?そんな火傷負ってたら普通、自分で治療できようとできまいと治療を拒否したりしないだろ。」

エカイラ?「それは…」

菊池「他の誰かに治療なんてされたら困るからだろ?違うか!?」

エカイラ?「自分で治療できるからだって言ってんでしょ!?アンタ、さっきから言ってる事がメチャクチャなのよ!!」

 

【自分で治療できる】←【エカイラの手当て】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「お前が治療を拒んだ理由は、自分で治療できるからじゃないんだろ!?」

エカイラ?「何それ!!アンタ、さっきから何が言いたいのよ!!」

菊池「お前の手当ては、身体に包帯をグルグル巻きにしただけ…検視もできるエカイラの手当てにしては、あまりにも粗雑すぎるんだよ!!いい加減認めろ!お前は、エカイラじゃないんだよ!!」

エカイラ?「な、何よさっきから!!じゃ、じゃあ…アタシは一体誰だって言いたいの!?」

コイツの正体…それは…

 

 

 

閃きアナグラム

 

 

 

 

 

頭の中に、言葉の断片が浮かび上がる。

それを、素早く拾って組み合わせ…完成させる!!

 

「これだ!!」

 

 

エ カ イ ラ ニ バ ケ タ カ ツ ト シ

 

【エカイラに化けた勝利】

 

菊池「お前の正体は、エカイラのフリをした勝利…違うか!!?」

エカイラ?「な、何よそれ…!!」

菊池「あの時焼け死んでいたのは、勝利じゃなくてエカイラだ。そして、俺達が死んだと思い込んでいた勝利…それはお前自身だ!!」

ジェイムズ「え、えぇえええええええ!!?この人が、エカイラちゃんさんじゃなくて玉木さん!?」

エカイラ?「な、何よ!どこにそんな証拠があるっていうの!?」

 

 

 

 

議論開始!

 

 

 

エカイラ?「アタシがカツトシちゃんで、あの死体がアタシ!?何ワケのわかんない事言ってんのよ!!あの死体は間違いなくカツトシちゃんよ!!文句があるなら言ってみなさいよ!!」

 

【あの死体は間違いなくカツトシちゃん】←【炭化した死体】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「死体は、完全に炭化していた。あの状態だったら、よっぽど念入りに死体を調べなきゃ、本人かどうかなんてわからないはずだが!?」

リタ『でも…あの死体は玉木だって…』

ジェイムズ「人間の思考というのは不思議なものですよね。一度正解だと思われるものを提示されると、それが正解だと思い込んでその他の可能性を無意識に除外してしまう…まんまと私も罠にかかってしまいましたよ。私達は、碌に調べもせずに、無意識のうちにあの死体が玉木さんだと思い込んでしまっていたんです。」

エカイラ?「な、何よ…!あの死体はカツトシちゃんだって言ってるでしょ!?まだわからないの!?」

菊池「あの死体が勝利のものだと言い切れない理由は、まだあるんだ!!」

 

コトダマ提示!

 

【両足がない死体】

 

「これだ!!」

 

菊池「あの死体には、両足がなかった。身長や足のサイズがわからなければ、本人だとは言い切れないだろ!?勝利、お前は、お前とエカイラとの身長差をごまかすためにエカイラの足を奪ったんだ!!」

エカイラ?「…ッ!!」

菊池「今思えば、俺も間抜けだな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんてな!!」

エカイラ?「はぁあああああああああああああああ!!?何それ!!ただのアンタの目の錯覚でしょ!?それに、たまたま足がなくなっちゃったのかもしれないじゃない!!たとえば、落ちてきた柱で下敷きになって砕けたとか…」

今の勝利の発言はおかしい!!

 

【たまたま足がなくなっちゃった】←【砕けた両足】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「実は、あの死体、近くに砕けた両足が転がってたんだ。あれは、どう見ても人為的に砕いたような砕け方だった。お前は、エカイラの身長をごまかすためにわざと炭化した足を砕いたんだ!!」

リタ『確かに…死体のそばには、柱とか落ちてなかったですしね。柱が倒れてきて死体の足が崩れたっていうのは、無理がありますよね。』

菊池「そうだ。あの死体は、勝利じゃなくてエカイラだ。…つまり。」

ジェイムズ「つ、つまり…?」

菊池「床前を殺したのは本物のエカイラ、そしてそのエカイラを殺したのは勝利…お前だ!!」

エカイラ?「はぁああああああああああああああ!!?なーにワケわかんない事言ってんのよ!!」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

エカイラ?「何それ!?どういう事!?あそこに転がっていた死体がエカイラだって、何を根拠にそんなふざけた事ほざいてんのよ!?ちゃんと証拠はあんの!?あれは、間違いなくカツトシちゃんの死体よ!!おかしな点があるっていうのなら、言ってみなさいよ!!

 

【おかしな点】←【エカイラの発言】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「勝利、お前はやっぱり嘘をついているな。」

エカイラ?「はぁああああ!?何それ!!アタシ、嘘なんてついてませんけど!!」

菊池「じゃあ、あの発言は一体何だったんだ?」

エカイラ?「あの発言?なんの事よ!!」

菊池「お前は、俺に検視結果を報告した時、わずかに残った布の切れ端から、その死体が勝利だと判断したと言ったな?」

エカイラ?「それがなんだっていうのよ!!」

菊池「あのなぁ、普通、調べるんだったらまずは死体の特徴を調べるだろ。そんなの、素人でもわかる常識だろうが。例えば、体格とか性別とか…ちょっと身体に付着してた布の切れ端が勝利のユニフォームだって事が分かったのに、死体の体格の違いに気付かなかったっていうのはおかしな話なんじゃないのか?」

エカイラ?「何その揚げ足取りは!!カツトシちゃんのユニフォームを毎日見てたから、たまたま気づいたのよ!!」

菊池「うーん、でもやっぱりおかしいよな?」

エカイラ?「何がよ!!」

菊池「俺は、お前よりも5日も長くゲームに参加してたんだぞ?その俺が言われるまで気付かなかったのに、お前が気づいたっていうのはどう考えてもおかしいだろ。」

エカイラ?「アンタ、アタシが3年間の記憶を持ってんのを忘れたの!?アタシの方が、カツトシちゃんと長く過ごしてんのよ!!」

菊池「俺の顔をよく見ないと思い出せないほど記憶があいまいだったのに、カツトシのユニフォームの生地は覚えてたのか?都合が良すぎるだろ、そんな記憶。」

エカイラ?「なんなのよさっきから!!重箱の隅を突くような事ばっかり言って!!そんなにアタシをカツトシちゃんにしたいわけ!?ふざけんじゃないわよ!!」

ジェイムズ「ですが、モノクマファイルにも、あれが玉木さんの死体だとは明記されていませんでしたし…やはり、よくよく考えてみると貴方がエカイラちゃんさんだという根拠は薄いですよね。」

エカイラ?「何それ!?あんな信用できないファイルをアテにしてんの!?バッカみたい!!」

アリス「カツにい、カツにいだって、今まであのファイルに頼ってきたはずだよ。今更疑うようなものでもないよ。」

エカイラ?「カツにいって呼ばないでちょうだい!!アタシはエカイラだっつってんでしょ!!」

リタ『でも、確かに今回のファイルはちょっと曖昧でしたよねぇ。なんで今回のファイルはあんな雑なんでしょうか…?』

それは…

 

コトダマ提示!

 

【監視カメラの映像】

 

「これだ!!」

 

菊池「監視カメラには、炎と煙のせいで、あの死体の人間が死ぬ瞬間を録画できていなかったらしい。被害者が誰かをその目で正確に確認できていない以上、ああいう曖昧なファイルを作らざるを得なかったんだと思うぞ。」

ジェイムズ「裁判の判決の判断材料となる映像が無いなんて…学園長も案外おっちょこちょいなんですね。」

モノクマ『なんだとー!!?』

菊池「…もしくは、今回の火事自体、監視カメラに映らなくするための策略だったのかも…」

エカイラ?「ま、待ちなさいよ!!まだ謎は残ってるわよ!!サトシちゃん!!アンタの推理だと、アタシがあの死体に火をつけて殺したって言ってたけど…だったら、なんでアタシは生きてるのよ!?アタシは、あの燃える教会の中から出てきたのよ!?あの火事だったら、アタシも焼け死んでるはずよ!!」

コイツが顔のやけどだけで済んだ理由…それは…

 

コトダマ提示!

 

【防火加工の宝箱】

 

「これだ!!」

 

菊池「勝利。お前は教会が燃えている間、ずっとあそこにあった宝箱の中に隠れていたんだ。そして、頃合いを見計らって宝箱から出て、エカイラの足を潰した後、わざと顔をやけどして俺達の前に現れたんだ!!」

エカイラ?「はぁあああああああああ!?何そのゴミみたいな推理!!大体、その宝箱はどっから持ってきたっていうのよ!!?アタシが宝箱の中に隠れてたっていう証拠は!?」

それは…

 

コトダマ提示!

 

【消えた宝箱】

 

「これだ!!」

 

菊池「リタが調べてくれたんだが、実は博物館から宝箱がなくなっていたんだ。そして、その宝箱は、教会で見つかった宝箱と全く同じ形状だったらしい。…俺が何を言いたいのかわかるよな?」

エカイラ?「わかんないわよ!!何が言いたいのよアンタ!!」

菊池「お前は、博物館から盗んだ宝箱に隠れて、出ていくタイミングを伺っていたんだ!!違うか!?」

ジェイムズ「確かに、あの宝箱は防火加工された素材でできていますし、何より、少しではありますが中から外の様子が確認できます。隠れ場所としては、うってつけですね。」

エカイラ?「だから何!?アタシがエカイラを殺したって言いたいわけ!?」

菊池「そうだ。お前は、床前を殺したエカイラを焼き殺したんだ。」

エカイラ?「はぁ!!?何言ってんのよアンタ!!」

 

 

 

議論開始!

 

 

エカイラ?「黙って聞いてりゃ、アタシがカツトシちゃんで、アタシが本物のエカイラを殺したですって!?アンタ、さっきから言ってることがメチャクチャなのよ!!アタシがナギサちゃんとカツトシちゃんを殺したのよ!!」

今の勝利の発言はおかしい!

 

【アタシがナギサちゃんとカツトシちゃんを殺した】←【不自然な発言】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「お前が勝利かどうかって事は、ひとまず置いておこう。…だが、今のお前の発言には明らかに嘘があった!!」

エカイラ?「嘘ですって?アタシの発言のどこが嘘だっていうのよ!!」

菊池「お前は、床前を殺してなんかいないんだよ!!」

エカイラ?「何それ!!アタシがナギサちゃんを殺したって言ってるじゃない!!しつこいのよアンタ!!なんでアタシがナギサちゃんを殺してないって言えるのよ!?」

菊池「…簡単な話だ。…お前は、()()()()()()()()()()()()()んだろ!?」

エカイラ?「はぁ!?知ってたに決まってんでしょ!?バカなのアンタ!?」

菊池「でもさっき、俺とアリスが地下室の話をした時、初耳だって言ってたよな?」

エカイラ?「それは、まだアタシが犯人候補に挙がってなかったから、ウソをついたのよ!!ホントは知ってたに決まってんでしょ!?」

菊池「そうか?俺には、あの反応が嘘をついている反応には見えなかったけどな。」

 

反論

 

「お黙りッ!!!」

 

 

 

 

エカイラ?「アンタの発言には、根拠が無いのよ根拠が!!アンタ達が地下室の話をした時、アタシはまだ犯人とすら疑われてなかったから、疑われないようにするためにあえて知らないってウソをついたの!!ホントは地下室の事なんて知ってわよ!!それとも何か?どうしてもアタシをカツトシちゃんにしたいから、どうでもいい事までこじつけて、都合のいいように裁判を進める気!?」

ジェイムズ「必死ですね…逆に、ここまで必死だと怪しいですよ。いい加減認めてください玉木さん。」

菊池「そうだ玉木。俺はもう、お前の見苦しい姿なんて見たくないんだ。もう、負けを認めてくれ。」

エカイラ?「何よ!!同情を買おうったってそうはいかないわよ!!だって、アタシはカツトシちゃんじゃない…紛れもなく、伏木野エカイラそのものなんだもの!!アタシがカツトシちゃんだっていう証拠もないくせに、偉そうな事言ってんじゃないわよ!!」

証拠…

決定的な証拠になるか分からないが、一か八か賭けてみるか…!

 

コトダマ提示!

 

【エカイラのプレゼント】

 

「その愚論、切らせてもらう!!」

 

菊池「…エカイラ、俺が間違ってた。やっぱり、お前はエカイラだよ。」

アリス「さ、サトにい…!?」

エカイラ?「ウフフ、やっとわかってくれたのねサトシちゃん。嬉しいわ。」

菊池「ああ。…ところで、ひとつ聞きたい事があるんだが。」

エカイラ?「何よ?」

菊池「お前、前に俺がやったプレゼント、地下室に落としたよな?調査中に拾ったんだが…」

エカイラ?「え、ええ…落としたわね。アタシとした事が、ドジね。まさか証拠をあの場に残しちゃうなんて…」

菊池「じゃあ、何を落としたのか言ってみろ。」

エカイラ?「えっ…」

菊池「そうだよな?答えられるわけないよな?だってお前は、地下室の事なんて知らないし、エカイラじゃないんだもんな?」

エカイラ?「ッーーーーーー!!!」

菊池「ちなみに、俺がプレゼントしてやったのはマニキュアだ。この事を知ってるのは、俺とエカイラだけ…エカイラだと名乗るお前が答えられなかったって事は、お前はエカイラじゃねえって事だ!!」

エカイラ?「ぐっ…」

菊池「…ここからは俺の推測になるが、お前、床前とエカイラに嵌められたんだろ?自分達を殺せば生き残れるとかなんとか言われて…お前の変装も、あの二人がグルだと考えれば納得がいくからなァ!!そうなんだろ!?勝利!!」

エカイラ?「ぐっ、あぁああああああ!!」

菊池「俺が引導を渡してやる。これがこの事件の真相だ!!」

 

 

 

クライマックス推理

 

 

 

 

 

頭の中に、漫画が浮かび上がる。

そこに、ジグソーパズルのように適切なピースを当てはめ…

これが事件の真相だ!!

 

 

 

 

 

 

Act.1

まず、今回の事件のきっかけは、俺達に配られたアプリだった。

犯人は、それを見た事で、おそらく全員を巻き込んで死ぬ事を考えたんだ。

それを知った床前とエカイラは、行動に出た。

この二人も、多分この時俺達を全員殺そうとしていたんだろうな。

そのために、二人は犯人を利用し、俺達を裁判で負かそうとしていたんだ。

 

Act.2

エカイラは、地図の暗号を解き、教会に人を焼き殺す仕掛けがある事を知った二人は、コユキソウと斧と宝箱を盗んだ。

そして、盗んだ道具を持って教会に向かった。

そこで教会を調べているうちに、二人は例の地下室を発見したんだ。

地下室には、二人の読み通り、大量のガソリンが積んであった。

 

Act.3

作戦決行の準備を整えたエカイラは、そこで床前にコユキソウを食わせたんだ。

おそらく、作戦を外部に漏らさないためだろう…そして、そのまま床前の首を斧で斬り落としてしまった。

エカイラは、落とした首とガソリンを持って、地下室を後にした。

だが、ここでエカイラは、ある重要なヒントを遺したんだ。

アイツは、俺がプレゼントしたマニキュアを落としたんだ。

結果的に、それが真相を暴くための重要な鍵になったんだ。

…今思えば、アイツは、最初から俺達を裁判で勝たせる気だったんだ。

確実に犯人()()を殺すためにな。

 

Act.4

そのまま教会の内部に戻ったエカイラは、犯人を呼びつけた。

エカイラは、今回の作戦について犯人に説明し、犯人の同意を得た。

…おそらく、この時犯人も相当精神的に参っていたんだろうな。

だって犯人は、本来ならエカイラ達の狂気に満ちた作戦には賛同しないような、俺にとって憧れの存在だったんだからな。

何がそこまで犯人を追い詰めていたのか、それは俺達にもわからない。

 

Act.5

犯人はエカイラの服を、エカイラは犯人の服を着て、二人は入れ替わった。

そして、エカイラは、あらかじめ犯人に持ってくるように指示しておいた日本刀を握った。

こうする事で、俺達に床前殺しの凶器が日本刀だと思い込ませようとしたんだ。

そして犯人は、エカイラにガソリンをぶっかけた。

 

Act.6

全ての準備が整った事を確認した犯人は、床前の首と一緒に防火加工の宝箱に入った。

この時床前の首を宝箱に入れておいたのは、俺達の焼死体への注意を逸らすためだろう。

そして、宝箱の中から火のついたライターをエカイラに向かって投げた。

エカイラにかかったガソリンにライターの火がつき、エカイラは炎をあげて燃え出した。

 

Act.7

エカイラについた炎が木造の教会にも燃え移り、揮発したガソリンがさらに火事を促進させた。

炎と煙のせいで監視カメラにはエカイラの死の瞬間が映らなかった。

そのせいで、モノクマ達は被害者を特定する事ができなかったんだ。

そして炎はどんどん燃え広がり、エカイラもついに焼け死んだ。

 

Act.8

エカイラの死体が炭化した事を確認した犯人は、宝箱から出て、エカイラの足を踏み砕いた。

こうする事で死体の身長をごまかし、俺達に死体が犯人のものだと思い込ませようとしたんだ。

そして、犯人は火事の炎でわざと自分の顔を焼き、自分の顔をわからなくさせた。

あとは、あたかも火事の被害者のように教会から出てくれば、作戦成功だ。

だが、犯人はエカイラから地下室の存在を知らされていなかった。

そのせいで、ボロが出て俺達に正体を見破られてしまったんだ。

 

俺にはどうしてもわからない。

なぜお前が、こんな血迷った計画に加担してしまったのか。

お前は、俺の大事な親友だと思っていたのに。

 

 

 

「これが事件の真相だ。…そうだろ?」

 

 

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利!!!

 

 

 

エカイラ?「くくっ…ははっ…」

 

 

「あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっははははははははははっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」

 

 

目の前にいたソイツは、腹を抱えながら壊れたように笑い出した。

もう勝機がないと自暴自棄になった笑いなのか、ここまでたどり着くのに散々悩んだ俺達を嘲った笑いなのかはわからない。

そこにいたのはもう、勝利でもエカイラでもなかった。

菊池「勝利…?」

玉木「はぁー…」

勝利は、笑うのをやめたかと思うと、観念したように上を向き、ため息をついた。

玉木「…チッ、あーあ。うまく騙せてたと思ったんだけどなぁ。論、お人好しのお前にしてはよくやった方だよ。コングラッチュレーショ〜〜〜ンズ。」

勝利は、ゆっくりと俺の方まで歩き、俺の前髪を掴んで自分の顔に近づけてきた。

そして、まるで挑発するかのように、口角を上げてニタリと笑った。

その目は、完全に人殺しの目だった。

玉木「ったく…あのクソオカマとクソストーカー女、俺の事を騙しやがって…最初から俺一人を殺す気だったんだな。…ナメたマネしやがって、あんな信用できねェ奴らに乗っかった俺がバカだったよ。ま、どっちみち死ぬ気だったし、もうどうでもいいかぁ。」

ジェイムズ「玉木さん…貴方、どうしてこんな事を…!?私達は、貴方の事を信頼できるリーダーだと思っていたのに…!」

玉木「ははっ。…リーダー、ねぇ。キチガイ二人に騙されて、掌の上で転がされるような間抜けを、か?」

アリス「ねえ、騙すって…なんの事!?カツにい、兄さんと何を話したの!?答えてよ!!」

玉木「あー、ジェイムズ。あーちゃん。もう、そういうのいいから。俺は、もう疲れたんだよ。これ以上こんなクソみてェな世界で生き延びたところで、希望なんかありゃしねェんだ。…モノクマ、もう始めてくれ。」

モノクマ『おやぁ?随分と潔いですね!まあでも、これ以上裁判を引き延ばすのをお望みではないようなので、レッツ投票ターイム!!』

モノハム『必ぢゅ、一人二票投票してくだちゃいね!』

証言台の上のボタン。

これを押せば、俺達の運命が決まる。

…でも、本当にいいのだろうか。

散々悩んで、もう答えは出たはずなのに。

ボタンを押す手が、震えて止まらない。

でも、選ばなければ俺達が殺される。

俺は、覚悟を決めてボタンを押した。

1回目の投票はエカイラに、2回目の投票は玉木に投票した。

 

 

 

モノクマ『うぷぷ…ではでは、結果発表ー!!!』

モノハム『皆様の運命はいかに!?』

 

目の前に巨大なスロットマシーンが現れ、俺たちの顔を模したドット絵が回転する。

回転速度は徐々に遅くなっていき、ついに止まった。

そこには、エカイラのドット絵が三つ並んでいた。

もう一度ドット絵が回転する。

回転が止まると、今度は勝利のドット絵が三つ並んだ。

スロットマシーンにGuiltyの文字が浮かび上がり、ファンファーレのような機械音が鳴り響く。

スロットマシーンからは、大量のモノクマメダルが吐き出された。

 

…俺達の命懸けの学級裁判が、今終わった。

 

 

 

学級裁判閉廷



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第5章 非日常編④(おしおき編)

『うぷぷぷ…お見事大正解ー!!『超高校級の幸運』床前渚サンを殺したのは『超高校級の死神』伏木野エカイラクン、そしてそのエカイラクンを殺したのは…なななんと!頼れるリーダーの皮を被った快楽殺人犯、『超高校級のサッカー選手』玉木勝利クンでしたー!!』

『なななんと!今回は、クロの玉木様も含めて、満場一致でエカイラ様と玉木様に投票ちていまちた!いやー、被害者・犯人不明トリックとは!ちてやられまちたよ!』

「ふふ…はははっ…あーあ、負けちまったよ。もうちょい騙せると思ってたんだけどなー。」

勝利は力尽きたのか、濁った瞳で上を見上げながら乾いた声で笑っていた。

「玉木さん…どうして…なぜ貴方がこんな事を…!」

「…そんなに知りたいか?」

「…え。」

勝利は、大きく息を吸った。

そして、ジェイムズを睨みながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなに知りたきゃ教えてやるよぉおおおぉおぉおおお!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「か、勝利…!?」

「俺があのキチガイ共に協力する事に決めたのは、今回配られた動機がきっかけだった。…見ろ。」

勝利は、自分のしおりを俺達に見せた。

そこには、信じられない物が映っていた。

 

 

 

 

 

第1位『超高校級のサッカー選手』の恋人、姫月小美サンの現在は!?

 

姫月小美サンは、3年前に死亡している。『超高校級の絶望』によって追い詰められ、最期は恋人である玉木クンに助けを求めながら、鈍器で頭を潰されて死亡した。

 

 

 

 

 

「これを見た時、俺は全てに絶望した。小美は、俺にとっての最後の希望だった。小美は生きて俺の帰りを待ってくれている。そう信じてたから、ここまで生きられた。何があっても、耐えられると思った。だがもうアイツはこの世にいない。俺がのうのうと合宿やってる間に、アイツはどこの誰かもわからねェような奴等に殺されてたんだ。俺は、生きる意味を奪われた。…いや、違うな。俺に生きる意味なんて最初から無かったんだ。小美が死んだ今、俺にとっては、思い出も、友情も、そして未来も、何もかもが無意味だ。…だから、お前ら全員を道連れにして、全部終わらせようとしたんだ。」

「おい…待てよ勝利…!」

「…論、今更俺に何か言いたい事でもあんのか?」

「お前、どういう事だよ!?話が違うじゃねえかよ!!小美ちゃんはまだ生きてて、外の世界でお前の帰りを待ってるんじゃなかったのかよ!?お前、俺にそう言ったよな!?それともなんだ?俺に嘘をついたってのか!!?」

「…。」

「おい!!なんとか言えよ!!」

 

 

 

 

 

「そう言うしかなかったんだよ!!!」

 

「!!!」

勝利は、証言台を叩きながら大声で叫んだ。

「しょうがなかったんだよ!!何も知らねェお前が、友達面してヘラヘラと色々聞いてくるから…あの場で小美が死んでたなんて…もう俺に生きる糧がなかったなんて、言えるわけねえだろ!!?」

勝利は足音を立てながら俺の方へと歩き、胸ぐらを掴んだ。

「ぐっ…」

「だから、それを悟られないように必死こいて平気なフリしてたんだよ!!俺はな、あの時何も知らねェで幸せそうに妹自慢してるお前を、殺したくて殺したくて仕方がなかった!!」

…!!

そんな。

親友同士、信頼し合えてたと思ってたのに。

それは俺の一方的な思い込みで、勝利にとっては、俺は仲間でも親友でもなかったっていうのかよ…

そんなの、あんまりだろ…!

「テメェとの仲良しごっこも、もう今日で終わりだ。…もう永遠にお前と話す事もないだろうな。あばよ()()。」

「玉木さん!今すぐ菊池さんに謝ってください!!」

「…謝る?何を?」

「…ッ!菊池さんは、貴方の事を大切な親友だと思っていらっしゃったんですよ!!?私…いや、リタさんやアリスさんだって、貴方の事を頼れるリーダーだと思い、心から尊敬していました!!貴方はいつだって私達を正しい方向に導き、仲間として、クラスメイトとして信頼してくださった…でも、それも全て嘘だったのですか!?貴方にとって、私達は無意味な存在だったと仰るのですか!!?」

「…そうだよ。俺には、小美が全てだった。アイツが死んだ今、お前らに何の価値もない。だから、ヘラヘラ笑って幸せそうにしてやがる目障りなお前らを、全員ブチ殺してやりたかったんだよ。だって、おかしいだろ?何の罪もない小美がどこの馬の骨かもわかんねぇような奴らに無残に殺されて、クラスメイトを何人も殺して世界をメチャクチャにしたお前らが孤島でのうのうと生き延びてるなんてよ。俺はな、エカイラの『協力すれば俺以外の全員を殺せる』っていう話に乗って、お前らに裁判で間違えさせて、全員をおしおきで死なせるつもりだったんだよ。無論、その後は俺自身も死ぬつもりだったけどな。でもアイツら、アリスと菊池を生き残らせるために俺を裏切りやがったんだ。あーあ、人間、絶望のドン底に突き落とされると逆に笑っちまうもんだなぁ。お前らが全員死ねば、少しは気が晴れると思ってたのによ。」

『そんな、酷い…!』

「酷い、か。クラスメイトを何人も殺して、学級裁判では狗上や速瀬、猫西に神城、そして俺…何人も見殺しにしてきたくせにその事にすら気付けてないお前らの方がよっぽど酷くてイカれてんだろ?」

「…。」

「お前ら、自分達の立場分かってんだろ?俺達は、人を殺したくてたまらない異常者で、救いようのない極悪人で、『超高校級の絶望』だ。この事実は、たとえ記憶が消されようと、今更どんなに反省しようと覆らない。俺達は、どんなに事実に抗おうと、真っ当に生きる事なんて絶対にできやしねェんだ。」

勝利は、口の左端を吊り上げて言った。

「…だって、どんなに善人ぶったところで、心の奥底では『絶望』が渦巻いてんだからよ?」

「ッ!!」

「俺達は、今まで仲間の死を悲しみつつ、心のどこかでその『絶望的なシチュエーション』を望んでたんだよ。今までの殺人が何よりの証拠だ。菊池。お前は、殺人を止めたいって言ってたくせに、特に何も行動を起こさなかったよなァ?」

「…。」

「…止められなかったんじゃない。()()()()()()んだ。だって、殺人は俺達にとって最高のエサだもんなぁ?」

「…黙れ。」

「お前ら、なんでここにいるんだ?今まで生き残ってきたんだ?仲間を信頼していたから?誰にも殺されず、真実を見極められるだけの実力があったから?『絶望』に押し潰されずに人間性を保てたから?…それとも、なんとしてでも生き残りたいっていう強い思いがあったから?…どれも違うな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()だよ!!仲間が殺されて、仲間を殺した仲間が絶望に堕ちながら死んでいく様をその目で見られる…これほどおいしいポジションはないよなァ!?お前らは、そんな『絶望的なシチュエーション』を間近で体験できる特等席を、仲間を踏み台にしてでも死守し続けてきたんだ。違うか!!?」

「黙れ。」

「いい加減認めろよ。俺達は、モノクマやモノハムと何ら変わりはない…このコロシアイ合宿こそが、俺達のために用意された最大最高のエンターテインメントだったんだよ!!」

「黙れ!!!」

俺は、証言台を叩いて怒鳴った。

「菊池さん…!」

「俺はいい。俺が今まで死んだ奴らに何もしてやれなかったのは事実だ。…けど、アリス達の事までバカにするな!!コイツらが、コロシアイを望んでただと!?そんなわけねェだろ!!いくらお前でも、みんなを悪く言うのは許さねェぞ勝利!!」

「はぁ?何キレてんだお前?俺が言ったのはただの事実だろ?事実にキレるとか、カッコ悪すぎだろ。」

「…っ。」

「おい、なんだよその顔は。」

「…お前の事は、親友だと思ってたのに。」

「そうかよ。俺は、お前を殺したくてたまらなかったけどな。何も知らねえくせに、ヘラヘラ笑って友達面しやがって…うざってェんだよ!!」

「玉木さん!!」

「お前は黙ってろボンボンが!!本当はクラスメイトを平気で見殺しにするようなイカレ野郎のくせに、虫も殺さない聖人を気取りやがって…気持ち悪いんだよテメェ!!」

「…ッ!!」

「はぁ、もういいよ。どっちみち俺は死ぬつもりだったんだ。テメェらに負けたのは癪だけどな。…モノクマ。始めてくれ。」

『おやあ?随分と潔いですね!こっちとしては、もっと泣き喚いたり逃げ回ったりして欲しかったんだけど。まあいいや!それでは、今回は『超高校級のサッカー選手』玉木勝利クンのために!!』

「あばよ。クソ野郎共。」

勝利の首に、アームのようなものが取り付けられる。

そして、そのままどこかに引きずられる。

「勝利!!」

『スペシャルなおしおきを用意しましたっ!!』

俺は、勝利の腕を掴んだ。

だが、アームの引きずる速度は思った以上に速く、俺は振り落とされた。

「待っ…!!」

勝利は、そのままどこかに引きずられて、暗闇の中に消えていった。

俺は必死で追いかけた。

転んで地べたに這いつくばっても、それでも行かせまいともがいた。

だが、その抵抗は無意味に等しかった。

『ではでは、おしおきターイム!!』

 

モノクマの席の前から、赤いスイッチがせり上がってくる。

モノクマはピコピコハンマーを取り出し、ハンマーでスイッチをピコッと押す。

 

 

 

 

 


 

 

GAME OVER

 

タマキくんがクロにきまりました。

 

オシオキをかいしします。

 

 

そのまま引きずられた玉木は、何かに首を鎖で繋がれる。

玉木があたりをキョロキョロと見回すと、そこはサッカーの会場のようになっていた。

玉木の首を繋いでいたのは、サッカーのゴールネットだった。

すると画面が切り替わり、タイトルが浮かび上がる。

 

 

 

PK ー10 絶望に沈む星

 

【超高校級のサッカー選手】玉木勝利 処刑執行

 

 

 

会場に設置されたパネルに、文字が表示される。

 

10回防げたら帰郷!!

 

玉木は、自分の置かれている状況を確認すると、目の前にいるユニフォームを着たモノハムを睨んだ。

会場の端には、ベンチに座った監督モノクマがニヤニヤしながら玉木を見ていた。

モノハムは、足を思い切り後ろに振り上げると、ゴールネットめがけて足元のサッカーボールを勢いよく蹴った。

玉木は、ボールを難なく防いだ。

パネルに、9と表示される。

まずは1球目。

モノハムは、次に低めのボールを放った。

玉木は、これも難なく防いだ。

パネルに8と表示される。

これで2球目。

次は、玉木の身長より高いボール。

これも防いだ。

パネルには7と表示される。

3球目。

次は、ネットのスレスレを狙ったボール。

玉木は、持ち前の瞬発力を活かしてこれも防いだ。

鎖で首を繋がれてはいるが、あまり行動範囲は制限されていない。

長年サッカーをやってきた玉木にとって、今やっているのはお遊びに等しかった。

パネルには6と表示される。

4球目。

モノハムは、ニヤリと笑って思い切り足を後ろに振り上げた。

そして、渾身の一撃を放った。

ボールは、高速で回転し、予測不能な軌道を描きながらネットめがけて空中を進んだ。

玉木は、持ち前の動体視力でボールを完全に見切った。

そして、最小限の負荷でボールを防いだ。

それでも、重い一撃を喰らった衝撃で、腕の骨が悲鳴を上げる。

パネルには5と表示される。

これで、5球目を防いだ。

すると、モノハムは、オロオロとうろたえながらベンチのモノクマの方へ走っていった。

モノハムは、泣きながら事情をモノクマに説明していた。

モノハムの話を聞いたモノクマは、ベンチから立ち上がり、玉木の目の前に飛び出してきた。

するとモノクマはニヤリと笑い、バズーカ砲を構えた。

照準を合わせ、バズーカ砲を放つ。

玉木は、バズーカ砲から放たれたサッカーボールを防ごうとする。

その瞬間、モノクマがニヤリと笑い…

 

 

 

ゴッ

 

重い音が鳴り響いた。

玉木は、一瞬何が起こったのか理解できていなかった。

気がつくと、右腕が消し飛んでいた。

 

「あ゛ぁああああああああああああぁあああああああ!!!」

 

あまりの激痛に、玉木は白目を剥きながら叫んだ。

モニターに4と表示される。

これで6球目。

これを、あと4回耐えなければならない。

その瞬間、玉木の顔は絶望に染まった。

だが、モノクマは一切容赦しない。

また一発、サッカーボールの塗装がされた砲丸が放たれる。

今度は、左脚が吹き飛んだ。

「あ゛っ、あ゛ぁあああああああああぁああああ!!」

モニターに3と表示される。

これで7球目。

モノクマは、クスクスと笑いながらまたバズーカ砲を撃った。

今度は左腕。

亜音速の砲丸が、玉木の腕を粉々に砕き、塵に変える。

「あっ…あ、あああっ…!!」

両手と左脚を失った玉木にはもう、大声を上げる元気もなかった。

モニターに2と表示される。

これで8球目。

モノクマがバズーカを構えた、その時だった。

 

「ぐっ…がぁっ…おい゛、テメ゛ェら゛、聞ごえでるか…!?」

 

玉木は、大量の出血で意識が朦朧とする中、声を振り絞って叫んだ。

「おでは…デメェらを皆殺しにじようどじだ…おでは、『超高校級の絶望』だ。それ゛は、おでが一番よぐわがってる…げどな、心のどこかでは、こんだゴロジアイ、終わりにじだいど思っでだんだ…!ぞれは、床前や…エガイダも…ぎっど同じだ…!」

モノクマは、バズーカ砲を放った。

玉木の左腕が消し飛んだ。

「ぎっ、ぐぅうっ…!」

四肢を全て失った玉木は、ゴールネットに宙吊りになった。

断面から噴き出た血は下の芝生を緋く染め、おしおきの悲惨さを物語っていた。

モノクマは、ニヤニヤしながらバズーカ砲の照準を合わせる。

モニターに1と表示される。

これで9球目。

あと1球で、おしおきが終わる。

 

「だがら…!ゴロジアイはデメェらが終わらぜど…!どうぜ、おではここで殺ざでる…だがらデメェだに教えでやる…!こどゴロジアイの黒幕の正体を…!」

 

モノクマは、最後の球を放った。

 

 

 

「ごのゴロジアイの黒幕はぁあ゛ああぁああ!!」

 

 

 

 

 

「ぎっ」

 

ゴシャッ

 

 

 

鈍い音と共に、玉木の頭が消し飛んだ。

 

ピーーーーーーーーーーーーーーッ

 

ゲーム終了を告げるホイッスルが、会場全体に響き渡った。

玉木は、10球全てをその体で受けた。

そこには、鎖で繋がれた胴が、血を垂らしながらぶら下がっていた。

モノクマとモノハムは、それを見てゲラゲラと笑っていた。

モニターに文字が表示される。

 

チャレンジ失敗!!

 

表示されたのは、そのたったの9文字だった。

 

 

 

 

 


 

 

『イヤッホォオオオオオオオオイ!!!エクストリィイイム!!!いやぁ、ボクとした事がうっかりマイクオフにするのを忘れてて、声が丸聞こえになっちゃってたよ!正体バラされるんじゃないかってめっちゃヒヤヒヤしたぁー!!』

『ぴきゃきゃ、殺ちゅのが間に合って良かったでちゅ!あとちょっと遅かったら、この後のゲームが台無ちになってたところでちた!』

「そんな…!玉木さんが…!」

『もうやだ…こんなの、あんまりだよぉ…!』

「…カツにい。」

ジェイムズは、左手で顔を押さえながら泣いていた。

リタは、その場で蹲って泣いた。

アリスは、その場に崩れ落ち、涙を零していた。

 

「あ…あああ…」

 

おい…嘘だろ?

勝利が…なんで勝利が死んだ…

アイツは、俺にとって一番の親友だったのに。

…嘘だ。

 

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ

 

 

 

 

 

「う゛っ、ぅあ゛ぁあああああぁあああああああああぁああああああああああああぁああああああああああああああ!!!」

 

モニターに駆け寄り、裁判場の中心で泣き叫んだ。

 

なんでだよ。

なんでアイツが、あんな目に遭わなきゃいけなかった。

…全部俺のせいだ。

俺が、あの時アイツの心の傷に気付いてやれなかったから。

あの時、気付いてやれていれば。

止めてやれていれば。

信じさせてやれていれば。

…勝利の言う通りだ。

俺が、何もしなかったからみんな死んだ。

勝利を殺したのは、俺だ。

俺の甘さが、アイツを死に追いやったんだ。

 

「うぁあ゛ぁああああああぁあああああぁああああああああああぁああああああ!!!」

 

俺のせいだ。

 

俺のせいだ。

 

俺のせいだ。

 

…死んじまえ。

 

死んじまえ。

 

死んじまえ。

 

死んじまえ。

 

死んじまえ。

 

「やめて!!!」

 

 

 

ビシッ

 

「あ。」

左頬に痛みが走る。

…痛い。

俺を叩いたのは、アリスだった。

「このバカちんが!!死んで楽になろうなんてそんなバカげた事、許されると思ってんのか!!サトにいには、ハナちゃんがいるんでしょ!?ハナちゃんに会うために、絶対にみんなでここを出るんでしょ!?なのに、何勝手に死のうとしてんだ!!サトにいが死んで何になるっていうの!?『みんな』の中に自分が含まれてないとでも思ってんのか!!自分で言った事くらい、最後まで責任持てよバカヤロー!!」

「…!」

そうだ。

俺には、まだ帰りを待ってくれている人がいた。

俺を支えてくれる仲間もいる。

それなのに、俺は勝手に諦めて、自分の責任から逃げようとしていた。

「ごめん…俺、サイテーだ…そんな事も忘れてたなんて…」

「ほら!!わかったら立つ!!」

「…うん。」

…あ。

冷静になって、初めて気がついた。

顔に、何かが伝っている。

頭に、変な音が鳴り響く。

…痛い。

痛い、痛い…

これが、生きてるって事なのか。

「サトにい、おデコから血出てるよ。私、優しいからこれ貸してあげる。使いなよ。」

アリスは、ポケットからハンカチを取り出して俺に差し出した。

「…ありがとう。」

「全く、サトにいはホントに困ったさんだね!いきなり床に頭ガンガン叩きつけて、血がボタボタ出ても全然やめないんだもん!ビックリして、つい止めに入っちゃったよ。」

「そうだったのか…」

あの時は、自暴自棄になって完全に思考を止めてたから、あんまり記憶が無いな…

 

『あーあ、全く!止めないでよアリスサン!今いいとこだったんだから!!』

『ちょうでちゅ!ちぇっかくトチ狂った菊池様を見て、二匹でゲラゲラ笑ってたのに!オイラ達の楽ちみを奪わないでくだちゃい!』

『そのまま出血多量と脳震盪でポックリ逝ってたら面白かったんだけどね!』

「テメェら…!」

『悪趣味すぎて吐き気がします…!』

『それより、アリスサン。兄貴がサッカー野郎に殺されたってのに、随分と余裕だね?』

「…兄さんと過ごした時間が短かったからっていうのもあるのかもしれない。それに、あの火事を計画したのが兄さんだって知った時、思ったの。きっと兄さんは、このコロシアイを終わらせるためにあんな事をしたんだって。それだけじゃない。ナギねえも、カツにいも、このコロシアイを終わらせたいと思って行動したんだ。私は、3人の想いを無駄にはしたくない。だから、みんなで生きてここを出る…!」

『っへー、くっさいくっさい長台詞だね!『絶望』になり損なった兄貴と、『希望』になり損なった妹…オマエラは、兄妹揃って出来損ないだったよね!』

『ぴきゃきゃ、アナタ達は、『超高校級の希望』でも、『超高校級の絶望』でもない…二人合わせて『超高校級の失敗作』だったんでちゅよ!こんな面白い事ありまちゅか!?』

「…失敗作でもいい。完全じゃなくたっていい。それでも私は、私達は…『絶望』になんか負けない。もう、絶対に諦めない!!」

『うぷぷ、よくそんな大口が叩けたもんだよね。ホンット三流政治家の演説くらい心に響くわー。』

『ぴきゃきゃ、学園長!ちょれはちょっといいちゅぎでちゅ!』

『うぷぷ!だって事実じゃん!ま、勝手に死んだヘッポコ内通者とポンコツ失敗作とイカレ殺人鬼の事はもう忘れましょう!オマエラ、ホントよく頑張ったよ!まさか、ボク達でもわからなかった犯人を見つけちゃうなんてさ!オマエラには花マルをあげましょう!』

『ぴきゃきゃ!雑魚の割には頑張ったぢゃないでちゅか!実に天晴れでちゅ、皆様!ご褒美に、またメダルあげちゃいまちゅ!』

「あの、ところで…」

『ん?なあに、カークランドクン?』

「もう、生き残りが4人になってしまいましたが…これでもまだコロシアイを続けろと仰るのですか?それに私達はもう、どんなに動機で揺さぶられても、誰かを殺したりなんてしません。正直、もうコロシアイを続けるのは不可能だと思うのですが…」

『うっぷぷ!だよねー!オマエラ4人がどんなに自分の身に危険が迫っても人一人殺せない小心者だって事は、この3週間を通してよーくわかりました!これ以上コロシアイ合宿生活を続けても、お互いに時間の無駄だよね!そこで、次のゲームの説明をしちゃいまーっす!!』

「次の…ゲーム?」

『そういえばさっき、この後のゲームがどうのこうのって言ってましたよね…僕達に、また何かさせる気ですか?』

『んー、まあ、何かさせるっていうか…させない、って言った方が正しいかな?』

「…何かを、させない?」

『そっ!オマエラはもう、()()()()()()()()()()()()()()!!』

えっ…!?

なんだその新しいルールは…!

今まで散々コロシアイをさせといて、今更コロシアイをするなだと…!?

「おい、なんだそのルール!!」

『あれ?なあに菊池クン?もしかして、キミ的にはコロシアイを続行したかった?』

「んなワケねえだろ!!気になるのは、その先だよ!!コロシアイをしたらダメなら、何をすればここから出られるんだよ!?」

『うぷぷ、それも説明するから急かさないでよ!オマエラには、ズバリ!ボクの正体について議論してもらいます!!』

「貴方の正体は、嫌嶋隆尋なんでしょう?それで答えは出たではありませんか。」

『そういう事を言ってるんじゃねーよ!!言ったろ?ボクは、オマエラと一緒に合宿してたって。つまり!オマエラのうち誰かが、このゲームを裏で動かしてた黒幕って事だよ!』

『ヂュバリ!皆様には、合宿参加者17人のうち、誰がこのコロチアイの黒幕だったのかについて議論をちていただきまちゅ!』

『それだけじゃないよ!オマエラが明らかにすべき議題は3つ!一つは、この合宿の黒幕は誰か。そして、その目的とは何か。そして!オマエラは果たして、本当に生きてここから出たいのか!この3つについて議論してもらって、その答えによってはオマエラを解放するよ!ただし、間違えたり最後の選択を誤ったりしたら、全員もれなくおしおきだけどね!』

それはいつもと変わらないのか…

『タイムリミットは、きっかり24時間!オイラ達は、アナタ達が知りたい情報を手に入れるために、この島の全てのエリアを開放ちまちゅ!コロチアイ以外の行動は、全く制限ちゃれまちぇん!24時間経ったら、この場所で学級裁判を開きまちゅ!ちょちて、ちゃっき言った3ちゅの議題について、議論ちていただきまちゅ!ちょれまでに、必要な情報はこの島中を探索ちてかき集めてくだちゃいな!』

『うぷぷ、最後の学級裁判、せいぜいがんばってね!それじゃ、まったねー!!』

『最後の裁判で、また会いまちょう!もち正体を当てられたら、ちょの時は生身で登場ちてあげまちゅよ♪ぴきゃきゃ!では、ご機嫌よう!』

モノクマとモノハムは、大量のスロットのメダルを残して去っていった。

「最後の議題は、黒幕探しか…」

「私達17人の中に黒幕が…その話は、本当なんでしょうか…?本当に、私達の中に嫌嶋隆尋が…?」

「信じられないような話だけど…でも、そうとしか考えられないよね?だって、この島の生き残りは、私達しかいないんだもん…」

『本当に、黒幕を見つけるなんて事できるんでしょうか…?3週間もいて、本名以外の手がかりが何も掴めていないのに…』

「弱音を吐いている時間は無い。絶対に全ての真相を明らかにして、みんなでここを出るんだ。」

「そうですね。こんな所で時間を浪費しても、その分は返ってきません。皆さんで、手分けして手がかりを探しましょう!」

『はい…!ここまで来て全滅なんて、嫌です!』

「うん…!絶対に、全部解き明かすんだ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5章『アンハッピーレクイエム』ー完ー

 

 

 

 

コロシアイ合宿生活残り4名

 

 

 


 

 

 

「…もう少しだから。…絶対に、ボクが全部終わらせてみせるから。だから、もう少しだけ待ってて…⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎。」

 

 

To be continued…

 

 




っはー、ついに5章が終わった。
あとは最終章を書くだけなりよ。


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第5章 【微笑みの情炎】前編

タイトル元ネタ『微笑みの爆弾』です。


【床前渚編】

 

 

 

私の人生、何もいい事がないと思っていた。

父親に虐待は受け、引き取ってくれた家族は実の父親に殺された。

新しい里親を含め、みんな私に興味が無かった。

誰も私を『見て』くれない。

私は、そんな世界に絶望した。

だからこそ、私は手を汚した。

誰も『見て』いないなら、何をしても同じだと思ったから。

…でも本当は、誰かに『見て』もらいたかっただけなのかもしれない。

私は、いつも孤独だった。

本当の意味で私を『見て』くれたのは、父親に殺された家族だけだった。

私はこのまま一生誰にも見てもらえないまま、孤独な人生を歩んでいくんだと思っていた。

でも、たった一人だけ、私を『見て』くれる人がいた。

 

論さんだった。

 

私は、人生で初めて恋に落ちた。

論さんは、どんなに私が最低な事をしても、私をちゃんと『見て』くれた。

論さんが見てくれている。

それだけで私は生きていけた。

論さんは、私の全てだった。

もう、他の人間なんてどうでもいい。

論さんさえいれば、私は命だっていらない。

彼だけに、私を見ていて欲しい。

彼だけに、私の全てを捧げたい。

私は、彼だけのために生き、彼だけのために死ぬと誓った。

 

私は、『超高校級の絶望』で、この世界の全てに絶望したと思っていた。

 

…でも、論さんだけが、私の『希望』だった。

 

 

 


 

私は、タカヒロさんに渡されたビデオを見て、全て知った。

私達が一体何者で、タカヒロさんはなぜこんなゲームをしたのか。

私は、全てを知って思った。

 

やっぱり、私は『超高校級の幸運』なんだと。

 

私は、ずっとこんな展開を望んでいた。

何もかもがメチャクチャで、絶望的なセカイ。

それを、知らない間に私達が作り出していただなんて。

そして、私は今その絶望的なセカイにいる。

こんなにも嬉しい事はないと思った。

そしてそのセカイが、絶望的な終焉を遂げてくれたのなら、どんなに幸運な事だろうか。

絶望的に生き、絶望的に死ぬ事で、『超高校級の絶望』としての私は完成する。

そうやって、セカイは絶望に満ちてゆく。

それが、私にとっての『幸運』なんだと、そう思っていた。

 

 

 


 

ある日の昼、私は、エカイラさんに呼び出された。

「どうしたんです?エカイラさん、急に呼び出すなんて。デートのお誘いですか?だったらお断りします。私は論さん一筋なので。」

「…真面目な話よ。これ、見てちょうだい。」

エカイラさんは、焼けた楽譜のようなものを見せてきた。

「…これ、楽譜ですよね?どうしたんですか?」

「これ、なんの曲かわかる?」

「…『暗い日曜日』ですよね?さすがに有名なので知ってます。」

「アラそう。」

「それがどうしたんですか?」

「さっき、もしやと思って地図の裏をあぶり出したのよ。そしたら、この楽譜が出てきたってワケ。」

「へぇ、そうなんですか。それで?それに何の意味があるんですか?」

「…教会、自殺の聖歌、火…この3つの単語から導き出される答えは?」

「…あ。もしかして、教会で焼身自殺しろ、と言ってるんですか?」

「正解。まあ、かなり意訳したけど、教会に火事を起こすための仕掛けがあるって事なんじゃないかしら?」

「かなり無理矢理ですね。」

「でも、そうじゃなきゃこんなもの遺したりしないわよね?」

「まあ、そうですけど…それで、だから私にどうしろと言うんですか?」

「…そうね。ここからが本題よ。…ねえナギサちゃん。」

 

「アタシと一緒に死んでくれない?」

「…は?」

「アタシ、いい事思いついちゃったのよ。アンタをアタシが殺して、そのアタシが誰かに殺されて、その子が裁判で勝てば、その子以外の全員をおしおきで殺せると思わない?もうこれ以上コロシアイを引き伸ばしても、アイツら絶対人殺しとか無理だし…だったら、せめておしおきで絶望的に殺してあげた方がいいんじゃナイ?」

「バカバカしい。なんで私があなたに殺されなきゃいけないんですか。」

「素人が二人も殺したら足がつくからよ。だから、先にアタシがアンタを殺しとくってワケ。わかった?」

「はぁ…嫌に決まってるじゃないですか。どうせ殺されるなら、論さんに殺してもらいたいです。それに、あなたの言う通りにすれば、論さんが死んじゃうじゃないですか。そんなのダメです。」

「アラ。アンタ、未練は無いんじゃなかったの?」

「それとこれとは話が別です。」

「…そう言うと思ったわ。安心なさい。これは、あくまで表向きの作戦だから。」

「と、言うと?」

「その子に裁判で勝たせるフリをして、わざと現場に証拠を遺して、サトシちゃん達に犯人を見つけてもらおうって事よ。そうすれば、サトシちゃんは生き残れるでしょ?」

「…なるほど。ですが、あなたが私を殺す意味がわかりません。別に死ぬのは構いませんが、あなたに殺されるなんてごめんです。」

「なんでそこまでこだわるのよ?」

「私、エカイラさんが思ってるより乙女なんです。初めての相手と殺される相手は、ちゃんと選びたいじゃないですか。」

「それでサトシちゃんがおしおきで死んだら本末転倒でしょうが。…ま、そんな事言ってられるのも、今のうちね。」

「どういう事ですか?」

「アンタはビデオを見ただけだから知らないでしょうけど、アンタにとってこれ以上このコロシアイを続けるメリットは何もないわ。…だって。」

エカイラさんは、全てを私に話しました。

その内容は、信じられない内容でした。

「…それ、本当ですか?」

「ええ、ホントよ。」

「だとしたら、私…今まで何のために内通者をしていたんでしょうか。あなたの話が本当なら、私はもうタカヒロさんに協力できません。」

「…でしょ?このコロシアイを終わらせるには、この方法がいいと思うの。協力してくれるかしら?」

「ええ、いいですよ。だって、悪いのは全部⬛︎⬛︎⬛︎の⬛︎⬛︎を⬛︎⬛︎したタカヒロさんですものね?…確かに、おしおきで殺されるくらいなら、あなたに殺された方がマシです。それに、論さんをおしおきで殺させるなんてもってのほかです。」

「ウフフ、物分かりが良くて助かるわ。」

「それで、あなたは誰に殺される予定なんですか?」

「それなんだけど、アタシはカツトシちゃんあたりがいいと思うのよね〜。」

「へぇ…どうして?」

「あの子はもうすでに絶望に堕ちたわ。あの子なら、きっとアタシ達のコマとして、都合よく動いてくれるわ。それに、あの子は一番アタシの身代わりにしやすいしね。」

「あなたは、玉木さんに焼き殺してもらう…私の事も、そうやって殺すんですか?」

「そうねえ…今の所、同じ焼死にしようと思ってるけど…それか扼殺とか?」

「あの、私から一つ提案があるんですけど…斬首なんてどうでしょうか?」

「斬首ゥ?こりゃまたグッロい殺し方ね。なんでまた…」

「私、人は首を刎ねられる時、爽快な気分になると本で読んだ事があるんです。一度、実験してみたかったんですよ。…ダメですか?」

「ホント、アンタって頭おかしいわね。なんでそんなに死に方にこだわるのよ?」

「だって、人生において死に方は最も重要でしょう?どう生きたかより、どう死んだかで人生の価値は決まるんです。だったら、最期くらい素敵な死に方をしたいじゃないですか。」

「…アンタ、相当イカれてるわね。殺人鬼もドン引きよ。」

「じゃあ、計画はこれで決定でいいですかね?」

「ええ。じゃ、早速準備しましょう。」

「はーい。」

私達は、計画のための準備をしました。

 

 

ー植物園ー

 

うーん、痛いのは嫌いですし…

そうだ、コユキソウを麻酔代わりにしましょう。

麻薬の効果もあるそうですし…

最期くらい、最高の気分でいたいですしね。

あ、そうだ。あと斧も盗んでおかないと。

 

 

ー教会ー

 

「じゃあ、教会を調べましょ。」

「もし何も無かったらどうする気なんですか?」

「んー…その時は、売店からガソリンを持ってくるしかないわよね?」

「…なるほど。…あ。」

「ん?どうかした?」

「この床板、色が変です。下に何か隠してあるんじゃないですかね?」

「アラ、ホント?」

「…あなた、教会の探索をしたくせに気づいてなかったんですか?その目は節穴なんですか?」

「うっさいわね!見つけたんだからいいじゃないのよ!!」

「はいはい。じゃ、外しますよ。」

床板を外すと、地下空間が広がっていました。

「まさか、教会の下にこんな空間があったなんてね。」

「ええ、私もビックリしましたよ。」

「アラ?この箱は何かしら?」

「開けてみればいいじゃないですか。」

「うっさいわね!今やろうとしてんじゃない!!…アラ。これは…ガソリンね。」

「へえ、本当に教会に焼身自殺用の仕掛けがあったんですね。さすが私。こんな時にも幸運に恵まれるなんて。」

「…暗号解いたのはアタシなんだけど。」

「はいはい。じゃあ、ガソリンを見つけたわけですし…もう計画を実行しちゃってもいいんじゃないですか?」

「そうね…じゃ、例の物を用意できたら、始めちゃいましょ。」

「あ、もう持ってますよ。」

「早っ!?さすがね…」

「もう計画を引き延ばす理由もありませんし、早速始めましょ。…ここでいいですかね?」

私は、コユキソウを口に含みました。

「アンタ…それ…!」

「ふふっ、私、痛いのは嫌いなんです。麻酔代わりですよ。…さ、エカイラさん。早く殺してください。」

「ちょっと、ここで殺すの?」

「いいじゃないですか。私、論さんに私の事を探してもらいたいんです。…あ、死体発見アナウンスが流れなかったら捜査が出来ないので、首だけは上に持って上がってくださいね?」

「はぁ…アンタ、気持ち悪いくらい頭おかしいわね。」

「ふふっ、最高の褒め言葉です。…ちゃんと一回で刎ねてくださいね?」

「わかってるわよ。…じゃあ、ナギサちゃん。覚悟はいいかしら?」

「ええ。…さようならエカイラさん。」

 

私は、その場で横になった。

エカイラさんが、斧を振りかぶる。

 

 

 

コユキソウが全身に回って、身体がピクリとも動かなくなる。

目がかすんで、音もぼやけて聞こえる。

あれ?

なんだろう。

私は、これから死ぬっていうのに、なんでこんなにも幸せなんだろう。

…ああ、そっか。

これがコユキソウの力なのか。

さっきまで肌寒かった地下が暖かく感じた。

不安とか、未練とか、そういうものが一切消え去った。

包み込まれるような多幸感に、思わず口角が上がる。

…ふふふ、殺されるのにこんなにも夢見心地な気分になるなんて、私ってやっぱりおかしいんですかね?

 

『渚。』

 

うっすらと、もやがかかったような声が聞こえる。

目がかすんでよく見えないけど、目の前に誰かが映る。

よく知る顔のはずなのに、目がかすんで誰なのかわからない。

 

『渚。』

 

また、声が聞こえた。

コユキソウのせいで聴覚が奪われているはずなのに、さっきよりも少しもやが薄くなったような気がした。

目の前に映っている人も、さっきよりも見えやすくなった。

それでも、まだぼやけてよく見えない。

…あなたは、一体誰なんですか…?

 

『渚。』

 

また声が聞こえる。

よりはっきりと、自分の名前を呼ばれているように聞こえた。

目の前にいる人の顔が、だいぶはっきりと見えるようになってきた。

…この顔は…!

 

 

 

『渚。』

 

目の前に、論さんが見える。

論さんが、ずっと私の事を呼んでいたんだ。

論さんは、私に近づいて、私の髪をそっと撫でた。

そして、私に微笑みかけた。

 

『もう今日は疲れたな。おやすみ、渚。』

 

論さんが私を見てくれている。

論さんの私への眼差し、声、手の温もり…

その全てが、私をこの上なく幸せな気分にした。

 

ああ、私はなんて幸福なんだろう。

 

論さんが、私に笑いかけてくれた。

そうか、これが私にとっての最大の『幸運』だったんだ。

論さん。

私は、あなたがいたからどんな世界でも生きていけるって思えた。

あなたが、私の全てだった。

私は、あなたのために生き、あなたのために死ぬつもりだった。

…あなたのために死に、あなたが看取ってくれる。

それだけで私は、世界中の誰よりも幸せになれる。

あなたが私に微笑みかけてくれるのなら、私も笑顔でそれに応えようと思った。

これは、私に全てをくださったあなたに贈る、最期の愛の言葉です。

 

「…はい、おやすみなさい。」

 

 

 

愛しています、論さん。

 

 

 

 

そしてさようなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザンッ

 

 

 

 

 

 

「アラ、この子首を斬られても笑ってるわ。…どんなに幸せな夢を見てたのかしら。」

 

 

 

「うぷぷ。あーあ、死んじゃったよ。散々人を不幸にしておいて、自分だけは幸せな死に方をしようだなんて、ズルい女だよね!!結局最期は自分の願望丸出しの幻覚まで見ちゃってさ!ホーント、頭おかしいヤツはどこまでいっても頭おかしいよね!こういう奴は、死なないと治らないんだよ!あ、このテのヤツは死んでも治らないか!うぷぷぷぷ!」

 

 

 

 

 


 

【伏木野エカイラ編 前編】

 

 

 

俺は今まで、人生に何の希望も見出せずにいた。

生まれてすぐに闇オークションにかけられて、犯罪組織の奴らに買われた。

奴らは、俺を組織の下っ端として育てた。

ある時は銀行から金を盗んでこいと言われ、ある時は敵対組織のメンバーを殺してこいと言われた。

もちろん、俺に拒否権は無かった。

飯は与えられないのが当たり前で、収穫が無かったらリンチされた。

何もしていなくても、ストレスのはけ口にされ、完膚なきまでに暴行を加えられた。

犬か何かみたいに枷をはめられて、家畜同然の扱いを受けた。

平穏を知らない俺にとっては、そんな過酷な日々はただの日常だった。

でも、外の世界はきっと、ずっと広くて、俺が見た事のないような素晴らしい世界なんだろう。

そう思っていた。

俺は、外の世界に幻想を抱きながら生きてきた。

 

ある日俺は、外の世界が知りたくて組織を抜け出した。

でも、抜け出してみたはいいものの、世界は俺が思っていたより広くはなかったし、今までの生活とあまり変わらなかった。

完全な正しさなんて何もなくて、仲間だろうと友達だろうと平気で裏切る。

情けをかければ足を掬われ、非情にならなければ生き残れない。

強い奴が弱い奴を淘汰する。

それが、この世界の唯一で絶対のルールだった。

俺は悟った。

こんな世界、どこに行こうと逃げ場なんてありはしない。

俺は、腐敗した世界に絶望した。

 

でも、希望が全くないわけじゃなかった。

組織にいた奴が、俺には双子の妹がいる事を伝えた。

俺は、妹に会うために、クソみたいな世界で生き延びようと思った。

真っ当な生き方なんて知らなかったから、生き延びるために殺しや盗みを繰り返した。

 

そんなある日、俺は、たまたま殺しに入った家のテレビ報道を見た。

幸い、組織にいた時メンバーの奴らの目を盗んで文字の勉強をしていたから、外の世界の情報をざっくりと知る事はできた。

そのニュースは、研究所から怪物が脱走したという内容だった。

後から知った話だが、俺が元々いた組織も、その怪物に潰されたらしい。

その怪物の似顔絵を見たとき、俺は悟った。

コイツが、俺の妹だと。

何の根拠もなかったけど、血が繋がっているからなのか、一目で妹だとわかった。

コイツが何者で、いざ対面したら何を思うのか。

そんな事はどうでもよかった。

妹に会いたい。

俺の胸の内にあったのは、その思いだけだった。

俺は、妹に会うために事件が起こった場所に向かった。

 

俺がその場所に着いた時、もう事態は収束していた。

ある男が、俺の妹を捕まえたらしい。

男の行方は分からず、俺は妹に会うチャンスを失ったと思った。

でも調べていくうちに、妹がある実験の被験体だった事、そして他の被験体は全員『希望ヶ峰学園』という場所の生徒だったという事がわかった。

俺は、そこに行けばもしかしたら妹に会えるかもしれないと思った。

『希望ヶ峰学園』は、『超高校級』の才能を持つ高校生だけが入学できる学校らしい。

 

俺は希望ヶ峰に入学するために、住民票を偽って形だけ中学校に入学したり、色々な技術を習得したりした。

俺は、人を殺す才能だけは誰よりも自信があった。

だから俺は、生活費稼ぎと才能のアピールのために、世に蔓延る悪人共を片っ端から消していった。

そのうち『死神』なんてあだ名がつけられて、俺はある意味有名人になった。

 

そんなある日、俺はついに『超高校級の死神』としてスカウトされた。

やっぱり、俺の読み通り、俺の妹も俺と同じ学年でスカウトされていた。

『超高校級の失敗作』伏木野アリス。

…アリス。それが俺の妹の名前か。

俺は、妹に会う日が待ち遠しくて仕方がなかった。

でも、俺が実の兄だってバラしたら、きっと妹を不幸にさせてしまう。

俺は、アリスが俺の妹だって事は、本人にも周りにも絶対に言わない事にした。

…キャラも変えよう。

俺の過去は、誰にも悟らせない。

俺は今日から、別人に生まれ変わるんだ。

 

そして、入学式の日が来た。

「いぇーい!!イッチバン乗りー!!っとぉ!?」

アリスが、俺の前に走ってきた。

「わ!おにーさんデカっ!!もしかして、あーちゃんのクラスメイト!?」

…アリス、今まで好き勝手に人生を弄ばれて、辛かったよな。

今まで兄貴らしい事は何もできなかったけど…俺はお前の兄貴だ。

だから、もうお前にはつらい思いはさせない。

たとえ何があっても、俺がお前を守ってみせる。

「…はじめまして。アタシは伏木野エカイラよ。気兼ねなくエカイラちゃんって呼んでね?」

 

 

 

 

 

俺の人生、今までいい事なんて一度もなかった。

地獄って言葉すら生温く聞こえる程に、過酷な日々だった。

先に殺らなきゃこっちが殺られる。

情けをかければ殺される。

そんな毎日だった。

誰も、信用できなかった。

もちろん、自分さえも。

俺は、自分自身に、そしてこの世界に絶望した。

こんな俺に、世界に望みなんて無いと思っていた。

…だけど。

 

 

 

妹だけが、唯一の希望だった。

 

 

 


 

アタシは、ある日たまたま地図の仕掛けに気付いたわ。

地図を炙ったら、楽譜が出てきたの。

「…教会…自殺の聖歌…火…もしかして…」

教会には、人を焼き殺す仕掛けがあるのかもしれない。

それをうまく利用すれば、このコロシアイを終わらせ、かつアリスを守れるかもしれない。

アタシは全部思い出した。

もう、アタシがタカヒロちゃんに協力する理由は無い。

これ以上アイツの思い通りにさせてたまるものか。

…こんなコロシアイ、ブチ壊してやる。

作戦は、すでに考えてある。

ナギサちゃんを殺して、アタシも誰かに殺してもらう。

…アタシは、カツトシちゃんに殺してもらおうかしら。

あの子は、恋人が死んで、全員を道連れに死のうと思ってるわ。

あの子なら、アタシ達の作戦に協力してくれるはずよ。

そして、カツトシちゃんに裁判で勝たせれば、生き残りは1人になってコロシアイは続行できなくなる。

でも、アリスだけは死なせるわけにはいかない。

あの子は、アタシの希望よ。

ここで失うわけにはいかないわ。

…作戦変更ね。

やっぱり、カツトシちゃんには、裁判で負けてもらうわ。

コロシアイを完全に阻止する事はできなくなるけど、黒幕側の人間を二人消すだけでも、コロシアイを起きにくくする状況は作れるはずよ。

アタシにできる事は、『絶望』の芽を摘む事だけ。

あとは、あの子達の『希望』にかけるしかないわ。

 

 

 

アタシは、ナギサちゃんを呼んで全て話したわ。

「どうしたんです?エカイラさん、急に呼び出すなんて。デートのお誘いですか?だったらお断りします。私は論さん一筋なので。」

「…真面目な話よ。これ、見てちょうだい。」

「…これ、楽譜ですよね?どうしたんですか?」

「これ、なんの曲かわかる?」

「…『暗い日曜日』ですよね?さすがに有名なので知ってます。」

「アラそう。」

「それがどうしたんですか?」

「さっき、もしやと思って地図の裏をあぶり出したのよ。そしたら、この楽譜が出てきたってワケ。」

「へぇ、そうなんですか。それで?それに何の意味があるんですか?」

「…教会、自殺の聖歌、火…この3つの単語から導き出される答えは?」

「…あ。もしかして、教会で焼身自殺しろ、と言ってるんですか?」

「正解。まあ、かなり意訳したけど、教会に火事を起こすための仕掛けがあるって事なんじゃないかしら?」

「かなり無理矢理ですね。」

「でも、そうじゃなきゃこんなもの遺したりしないわよね?」

「まあ、そうですけど…それで、だから私にどうしろと言うんですか?」

「…そうね。ここからが本題よ。…ねえナギサちゃん。」

 

「アタシと一緒に死んでくれない?」

「…は?」

「アタシ、いい事思いついちゃったのよ。アンタをアタシが殺して、そのアタシが誰かに殺されて、その子が裁判で勝てば、その子以外の全員をおしおきで殺せると思わない?もうこれ以上コロシアイを引き伸ばしても、アイツら絶対人殺しとか無理だし…だったら、せめておしおきで絶望的に殺してあげた方がいいんじゃナイ?」

「バカバカしい。なんで私があなたに殺されなきゃいけないんですか。」

「素人が二人も殺したら足がつくからよ。だから、先にアタシがアンタを殺しとくってワケ。わかった?」

「はぁ…嫌に決まってるじゃないですか。どうせ殺されるなら、論さんに殺してもらいたいです。それに、あなたの言う通りにすれば、論さんが死んじゃうじゃないですか。そんなのダメです。」

「アラ。アンタ、未練は無いんじゃなかったの?」

「それとこれとは話が別です。」

「…そう言うと思ったわ。安心なさい。これは、あくまで表向きの作戦だから。」

「と、言うと?」

「その子に裁判で勝たせるフリをして、わざと現場に証拠を遺して、サトシちゃん達に犯人を見つけてもらおうって事よ。そうすれば、サトシちゃんは生き残れるでしょ?」

「…なるほど。ですが、あなたが私を殺す意味がわかりません。別に死ぬのは構いませんが、あなたに殺されるなんてごめんです。」

「なんでそこまでこだわるのよ?」

「私、エカイラさんが思ってるより乙女なんです。初めての相手と殺される相手は、ちゃんと選びたいじゃないですか。」

「それでサトシちゃんがおしおきで死んだら本末転倒でしょうが。…ま、そんな事言ってられるのも、今のうちね。」

「どういう事ですか?」

「アンタはビデオを見ただけだから知らないでしょうけど、アンタにとってこれ以上このコロシアイを続けるメリットは何もないわ。…だって。」

アタシは、ナギサちゃんに全部話したわ。

タカヒロちゃんが何を考えていて、アタシ達は今どんな状況に置かれているのか。

「…それ、本当ですか?」

「ええ、ホントよ。」

「だとしたら、私…今まで何のために内通者をしていたんでしょうか。あなたの話が本当なら、私はもうタカヒロさんに協力できません。」

「…でしょ?このコロシアイを終わらせるには、この方法がいいと思うの。協力してくれるかしら?」

「ええ、いいですよ。だって、悪いのは全部⬛︎⬛︎⬛︎の⬛︎⬛︎を⬛︎⬛︎したタカヒロさんですものね?…確かに、おしおきで殺されるくらいなら、あなたに殺された方がマシです。それに、論さんをおしおきで殺させるなんてもってのほかです。」

「ウフフ、物分かりが良くて助かるわ。」

「それで、あなたは誰に殺される予定なんですか?」

「それなんだけど、アタシはカツトシちゃんあたりがいいと思うのよね〜。」

「へぇ…どうして?」

「あの子はもうすでに絶望に堕ちたわ。あの子なら、きっとアタシ達のコマとして、都合よく動いてくれるわ。それに、あの子は一番アタシの身代わりにしやすいしね。」

「あなたは、玉木さんに焼き殺してもらう…私の事も、そうやって殺すんですか?」

「そうねえ…今の所、同じ焼死にしようと思ってるけど…それか扼殺とか?」

「あの、私から一つ提案があるんですけど…斬首なんてどうでしょうか?」

「斬首ゥ?こりゃまたグッロい殺し方ね。なんでまた…」

「私、人は首を刎ねられる時、爽快な気分になると本で読んだ事があるんです。一度、実験してみたかったんですよ。…ダメですか?」

「ホント、アンタって頭おかしいわね。なんでそんなに死に方にこだわるのよ?」

「だって、人生において死に方は最も重要でしょう?どう生きたかより、どう死んだかで人生の価値は決まるんです。だったら、最期くらい素敵な死に方をしたいじゃないですか。」

「…アンタ、相当イカれてるわね。殺人鬼もドン引きよ。」

「じゃあ、計画はこれで決定でいいですかね?」

「ええ。じゃ、早速準備しましょう。」

「はーい。」

アタシ達は、準備に取り掛かったわ。

 

 

ー博物館ー

 

さてと、作戦に必要な宝箱を盗んじゃいましょっと。

よっと…結構重いわね。

十字架はポケットに入ってるし…うん、順調ね。

 

 

ー教会ー

 

「じゃあ、教会を調べましょ。」

「もし何も無かったらどうする気なんですか?」

「んー…その時は、売店からガソリンを持ってくるしかないわよね?」

「…なるほど。…あ。」

「ん?どうかした?」

「この床板、色が変です。下に何か隠してあるんじゃないですかね?」

「アラ、ホント?」

「…あなた、教会の探索をしたくせに気づいてなかったんですか?その目は節穴なんですか?」

「うっさいわね!見つけたんだからいいじゃないのよ!!」

「はいはい。じゃ、外しますよ。」

ナギサちゃんが床板を外すと、地下空間が広がっていた。

「まさか、教会の下にこんな空間があったなんてね。」

「ええ、私もビックリしましたよ。」

「アラ?この箱は何かしら?」

「開けてみればいいじゃないですか。」

「うっさいわね!今やろうとしてんじゃない!!…アラ。これは…ガソリンね。」

「へえ、本当に教会に焼身自殺用の仕掛けがあったんですね。さすが私。こんな時にも幸運に恵まれるなんて。」

「…暗号解いたのはアタシなんだけど。」

「はいはい。じゃあ、ガソリンを見つけたわけですし…もう計画を実行しちゃってもいいんじゃないですか?」

「そうね…じゃ、例の物を用意できたら、始めちゃいましょ。」

「あ、もう持ってますよ。」

「早っ!?さすがね…」

「もう計画を引き延ばす理由もありませんし、早速始めましょ。…ここでいいですかね?」

ナギサちゃんは、コユキソウを口に含んだわ。

「アンタ…それ…!」

「ふふっ、私、痛いのは嫌いなんです。麻酔代わりですよ。…さ、エカイラさん。早く殺してください。」

「ちょっと、ここで殺すの?」

「いいじゃないですか。私、論さんに私の事を探してもらいたいんです。…あ、死体発見アナウンスが流れなかったら捜査が出来ないので、首だけは上に持って上がってくださいね?」

「はぁ…アンタ、気持ち悪いくらい頭おかしいわね。」

「ふふっ、最高の褒め言葉です。…ちゃんと一回で刎ねてくださいね?」

「わかってるわよ。…じゃあ、ナギサちゃん。覚悟はいいかしら?」

「ええ。…さようならエカイラさん。」

ナギサちゃんがその場に横になったから、アタシは斧を振りかぶったわ。

そして、狙いを定めて…

 

「…はい、おやすみなさい。」

 

 

ザンッ

 

…っと、いっちょあがり。

うまく首の骨の関節を切り離したから、綺麗に首が落ちたわね。

アラ。この子、なんでこんなにヘラヘラ笑ってるのかしら?

正直、ちょっと気持ち悪いわね。

「アラ、この子首を斬られても笑ってるわ。…どんなに幸せな夢を見てたのかしら。」

ここまではうまくいったし、あとはカツトシちゃんにアタシを殺してもらうだけね。

 

 

 

 

「うぷぷ、あーあ。殺っちゃったよ。全く…自分の都合でクラスメイトを殺して、全てを終わりにしようなんてムシが良すぎだよね!仲間割れなんて、何考えてんのアイツら!アイツらが変な気起こしたせいで、ボクの興行がブチ壊しじゃん!!ホント、どいつもこいつもキチガイばっかで嫌になるんだけど!」




【論リゾこぼれ話】

床前ちゃんの死に方は結構こだわりました。
彼女は、最期は薬物中毒になりながら首を斬られて死んでいます。
実は、語る機会があるかどうか考えていたのですが、彼女の父親は、酒とクスリとギャンブルに溺れて家族に虐待をしていました。
床前ちゃんは、そんな父親の事を嫌っていましたが、結局は彼と同じ末路を辿ったというわけです。


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第5章 【微笑みの情炎】後編

【伏木野エカイラ編 後編】

 

「…さて、と。」

ナギサちゃんを殺したアタシは、ガソリンとナギサちゃんの首を持って教会の地上階に上がったわ。

…と、そうだ。

証拠に、ここにマニキュアを置いておきましょ。

勘のいいサトシちゃんなら、きっとアタシのメッセージに気付いてくれるはずよ。

アタシは、カツトシちゃんをしおりで呼びつけたわ。

『…なんだ。エカイラか。どうした?』

「ねえカツトシちゃん。いきなり変な事聞いちゃって悪いけど、ガールフレンドのコハルちゃん、殺されてたんですって?」

『ッ…!お前…なんでそれを…!』

「アタシを誰だと思ってるの?アンタの事なんて、ちょっと調べればわかるわよ。」

『…で?何の用だ。』

「…アンタ、サトシちゃん達を道連れにして死のうと思ってるんじゃナイ?」

『…。』

「図星ね。あのね、アタシにいい考えがあるわ。」

『…え?』

「ぶっちゃけ、アタシもこんなコロシアイ終わらせたいと思ってたのよ。アンタの望み、叶えてあげるわ。」

『そんな都合のいい話、信用できるかよ。』

「アラ?いいのかしら?この機を逃したら、アンタの望みが叶う事はなくなるわよ?仮にアンタが片っ端からサトシちゃん達を殺していったとしても、裁判でバレるのがオチよ。そんなみっともない事になるぐらいなら、アタシと手を組んだ方が賢明なんじゃナイ?」

『…勝機はあるのか?』

「もちろん。アタシの言う通りにすれば、確実にアンタだけが生き残れるわ。ま、全てはアンタの技量にかかってるんだけど。生き残った後は、死ぬなり脱出するなり好きになさい。」

『…お前、なんで俺にそんな提案をするんだ?』

「言ったでしょ?こんなコロシアイ終わらせたいって。アタシ自身、このコロシアイの被害者なのよ。このコロシアイをブチ壊せるなら、手段なんてどうでもいいわ。理由はこれくらいでいいかしら?」

『…ああ。で?何をすれば良い。』

「とりあえず今すぐ教会に来て頂戴。あ、成功する確率を上げたいなら、アンタが持ってる日本刀を持ってくるといいわよ。くれぐれも、教会に行く所を誰にも見られないようにね。」

『…わかった。』

…これで良しっと。

全員を皆殺しにする手段がないカツトシちゃんにとっては、アタシの誘いを断る理由がないものね。

 

 

ー数分後ー

 

カツトシちゃんは、アタシの読み通り教会に来てくれたわ。

「アラ。案外早かったじゃない。来てくれて嬉しいわ。」

「…来いって言われたからな。」

「あら、素直なのね。…誰にも見られてないでしょうね?」

「…多分。ここに来る途中、十分に注意は払ったからな。」

「よろしい。じゃ、早速計画を始めるわね。」

「…計画?」

「ねえカツトシちゃん。効率よくアンタ以外の全員を殺すには、どうするのが一番賢いかしら?」

「…誰かを殺して、学級裁判で勝つ、か?」

「正解。アンタには今から、人を殺してもらうわ。アタシも協力してあげる。」

「お前の共犯になれって事か?」

「正確には、アタシがカツトシちゃんの共犯になるのよ。証拠は隠滅してあげるから、安心なさい。」

「…。」

「じゃあまず、計画の第一段階ね。カツトシちゃん。服貸して。」

「…え?」

「アンタの服を貸してって言ってるの。靴下と靴もね。全員を殺したいなら、言う通りにして頂戴。」

「…わかった。」

アタシはカツトシちゃんの服を、カツトシちゃんはアタシの服を着たわ。

そして、アタシは十字架をカツトシちゃんに渡して、カツトシちゃんはアタシに日本刀を渡したわ。

「よいしょっと。ちょっとキツいわね。」

「…これに何の意味があるんだ?」

「今からやる計画に必要なのよ。アンタには、アタシの言う通りに殺人事件を起こしてもらうわ。」

「…で、エカイラ。俺は一体誰を殺せばいい?俺とお前が協力したところで、アリスには論が、リタにはジェイムズが一緒にいる時点で完全犯罪なんてできねェだろ。」

「…簡単な事よ。こうすればいいの。」

アタシは、持っていたガソリンの蓋を開けた。

 

そしてそれを、自分の頭にぶっかけた。

 

「…!!?はっ…!?」

「ウフフフ。あーあ。今日が人生最後の日になるなんてね。こんな事ならもっと楽しんでおけば良かったわ。」

「お前、まさか…!」

「やっと気付いた?そうよ。アンタに殺して貰うのは、このアタシ自身よ。アンタには、アタシを焼き殺してもらうわ。」

「…お前、最初からこうする気で…!」

「言ったでしょ?コロシアイを終わらせるためなら、手段は選ばないって。これしか方法が無いわ。さ、早くそこに置いてある宝箱にお入り。アタシの計算が正しければ、建物を燃やす炎と煙で遮られて、監視カメラに映像が映らないはずよ。」

「その後は、どうすればいい?」

「アタシが完全に燃えたのを確認したら、外に出て炎で顔を焼き潰すのよ。手当ての道具なら、箱の中に入ってるわ。」

「…わかった。」

「あら?案外素直に受け入れるのね。顔を焼くなんて、相当痛いわよ?」

「…俺は元々死ぬつもりだったんだ。今更顔を焼くのなんて怖くねェよ。それで全員を道連れにできるならやってやる。」

「ウフフ、いい心がけだこと。さ、時間がないわ。箱の中に入ったらアタシの合図でそのライターを投げて、素早く蓋を閉じるのよ。」

「…ああ。」

カツトシちゃんは、すぐに箱の中を確認したわ。

「ッ!!?なんだこれ!?」

「ああ、ナギサちゃんの首よ。さっき殺してきたの。ナギサちゃんも、黒幕に加担した裏切り者だからね。」

「なんで俺が入る箱の中に…」

「死体アナウンスが流れるようにするためには、3人以上が死体を見ないといけないでしょ?だからその中に入れておいたのよ。」

「…。」

カツトシちゃんは、引きながらも黙って箱の中に入ったわ。

…いい風向きね。これなら、監視カメラには映らなさそう。

「今よ!!」

「ッ!!」

カツトシちゃんは、アタシの合図でライターを投げた。

アタシが浴びたガソリンに、ライターの火が引火する。

一瞬で身体中が炎に包まれて、全身の皮を剥ぎ取られるような痛みに襲われた。

汗は一瞬で蒸発し、熱は肌を抉り、血が止めどなく噴き出す。

肺が熱気でやられて、突き刺すような痛みで息をする事すら苦痛に感じられた。

 

「ッーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 

でも、ここで大声を上げるわけにはいかない。

アタシの計画を成功させるためには、アタシはカツトシちゃんになりきらなきゃいけない。

…大丈夫よ。

こんなの、全然…平気よ…!

アリスはきっと、アタシには想像できないような辛くて痛い思いをしてきたのよ。

死ぬよりつらい実験をさせられて、助けも呼べなくて、ずっと一人で…

あの子の痛みに比べれば、炎で焼かれるくらい、苦しくもなんともないわ。

このくらい、耐えてみせるわ…!

 

 

 

全身が焼け、もうどこが痛いのか、顔を伝っているのが血なのか汗なのかすらわからない。

意識が朦朧としてきた。

…これが、死ぬって事なのか。

いざ死ぬってなると、後から色々後悔とか、思い出とか湧いてくるもんなんだな。

…これが走馬灯ってヤツなのかなぁ。

あーあ。今思えば、クソみたいな人生だったなぁ。

生まれてすぐにクソみてェな奴らに売り飛ばされて、わけわかんねェままクソみてェな奴らに買われて、クソみてェな奴らにゴミみてェに扱われて…

何もかもに絶望した俺は、生きる意味すら無いと思っていた。

でも、アリスが…俺の、たった一人の妹だけが唯一の救いだった。

俺は、アリスがいたから生きられた。

結局、最後までアイツに兄貴だって打ち明ける事ができなかったけど、アイツと一緒にいた3年間はすげェ楽しかった。

 

アリス、お前を置いて逝く俺を許してくれとは言わない。

でも、最期にせめて謝らせてくれ。

新しい服や美味い食い物を買ってやったり、一緒に遊んでやったり…

兄貴らしい事を一つもしてやれなくて、ごめんな。

ずっと痛くて苦しかったろうに…助けてやれなくてごめんな。

…人を殺す事しか能の無い、こんなダメな兄貴でごめんな。

 

でも、黙って死ぬわけにはいかない。

アリスのためにも、どうせ死ぬなら最期まで足掻いてやる。

どうか、真実を暴いて、こんなクソみたいなマネをした奴に一矢報いてくれ。

俺にできる事は、このコロシアイを終わらせて、お前を自由にしてやる事だけ…

…それが、俺が今お前に贈る、『希望』っつー最初で最期のプレゼントだ。

 

今まで、こんな俺に生きる意味を与えてくれてありがとう。

最後まで生き延びて、今度こそ誰よりも幸せに、自由に生きろ。

 

じゃあな、アリス。

 

 

 

 

 

俺の、世界で一番かわいい妹…

 

 

 

意識がぼやけて、遠のいていく。

もう、痛みも熱さも、何も感じない。

 

そして、意識が途切れた。

 

 

 

「うぷぷぷぷ…あーあ、死んじゃったよ。『超高校級の死神』も、案外最期はあっけないもんだねぇ。結局妹に何もしてやれないまま、自分の自己満足でおっ死ぬなんて、バッカみたいwww…ま、そんなバカに一杯食わされたボクも、ドジだったんだけどさ!『絶望』になり損なった兄貴と、『希望』になり損なった妹か。双子の兄妹揃ってどっちも出来損ないとか、親の顔が見てみたいね。…あ、もう親も死んでたか。」

 

 

 

 

 


 

【玉木勝利編】

 

俺には生まれつき、心というものがないのかもしれない。

俺は、人生において、何かに夢中になれた事が一度もなかった。

サッカーも、たまたま才能があったから初めて、それが自分を熱中させてくれるものだと自分に言い聞かせて満足しようとした。

空気を読む事はそれなりに得意だったから、サッカーが大好きで、みんなに頼られるリーダーを『演じた』。

…でも、心から俺の心を満たす物は何もなかった。

どんなに努力しても、不思議なくらい達成感というものが全く湧かない。

何をしても、喜ぶ事も悲しむ事もできない。

心の中にあるのは、ただの『無』だった。

だが、そんな俺の無味乾燥な日々は、ある日突然ガラリと変わった。

 

俺が中学に上がってしばらくしたある日、俺の学校に転入生が来た。

小美だった。

名家のお嬢様で、浮世離れした雰囲気の小美を見て、俺は『変わった女だ』と思った。

正直、最初は苦手だった。

顔が良いというだけで周りにちやほやされて、調子に乗っているバカな女だと思った。

コイツも、今までの奴らとなんら変わらないんだろう。そう思っていた。

 

ある日の事、俺が練習のノルマをこなしている時だった。

 

「何をしていらっしゃるんですの?」

 

小美が、俺に声をかけてきた。

俺は、その質問に呆気に取られた。

「…見てわからないのか?」

すると小美は、顔を真っ赤にして答えた。

「も、申し訳ございません。私、あまり外に出た事がないので…庶民の方の遊びという物をあまり知らなくて…」

正直、この時は変な奴だ、と呆れていた。

「…あの、ここで見ていてもいいですか?」

「…別に構わないけど。」

俺が練習している様子を、小美は近くで見ていた。

小美は、自分が練習してるわけじゃないのに、目をキラキラと輝かせながら楽しそうに見ていた。

この時、俺は気づいた。

 

…そうか。この目だ。

俺に足りなかったもの。

俺が、欲しいと思っていたもの。

俺は、俺に無いものを持ったアイツに、いつの間にか惹かれていた。

「…なあ。この町についてよく知りたいって言ってたよな。今度、町回りながら紹介してやろうか?」

「よろしいんですの!?」

「まあ、一応クラスメイトだしな。」

週末、俺は小美と一緒に町を回った。

俺にとっては、見慣れた風景だったが、小美は子供のようにはしゃいでいた。

正直、俺もとても楽しかった。

俺は、小美の事をもっと知りたい。

その目を、もっと見せてほしい。

いつの間にか、俺は小美に夢中になっていった。

でも、平和な日々は永くは続かなかった。

 

俺には、太郎という小学生の頃の親友がいた。

太郎は、抜けた所があるけどお調子者で、みんなの人気者だった。

親友というか、向こうが勝手にそう思っているだけだが、小学生の頃はよく一緒に遊んだりしていた。

中学校は別々になったけど、今でも電話とか手紙とかでやりとりしている。

ある日の晩、太郎が電話をかけてきた。

学校が休みになったから、俺の家に遊びに行きたいという内容の電話だった。

その日はすでに小美と約束があったので断ろうと思ったが、小美が太郎に会いたいと言うので、仕方なく駅に出迎える事にした。

そしてその日、太郎と小美との3人で一緒に遊んだ。

小美は、俺と一緒にいた時より楽しそうにしていた。

今思えば、この時からだったのかもしれない。

俺の中の歯車が狂い始めたのは。

 

ある日、俺は太郎にとんでもない事を聞かされた。

それは、小美の事が好きになったから、仲を取り持ってほしいという頼みだった。

俺は、何年かぶりに本気で『怒り』という感情を抱いた。

いや、それだけじゃない…嫉妬や憎悪、殺意…そういった悪意が、俺の中で渦巻いていた。

小美はもう、俺のものだ。誰にも渡してたまるものか。

そして俺は、最悪の行動に出た。

 

俺はムシャクシャして、太郎の弱みをネット上にばら撒いてやった。

そしたら案の定、太郎は部活の先輩にいじめられた。

太郎は精神的に衰弱していき、ほとんど俺に電話や手紙を寄越さなくなった。

だがある日、太郎が俺に電話をかけてきた。

それは、いじめられているから相談に乗ってほしいという内容だった。

俺は、適当に相談に乗って、適当にアドバイスした。

バカなアイツは、俺がいじめの元凶だとは全く疑わなかった。

そして次の日の晩、また俺に電話をかけてきた。

 

『今までありがとう。』

 

それが、アイツが俺に遺した最後の言葉だった。

 

次の日の朝、太郎は家で首を吊って死んでいた。

小美は、親友の死を悲しみ、泣いていた。

だが俺は、親友が死んだというのに、とても満たされた気分だった。

俺は、小美の泣いた顔に魅了されていた。

 

それからしばらくして、俺は小美と付き合う事になった。

俺にとって、小美は全てだった。

俺を初めて満たしてくれた奴。

俺は、小美のために生きたいと思った。

 

 

 

だが、現実は残酷だ。

小美は、俺が合宿をやっている間に、どこの馬の骨かもわからない奴に殺されていた。

俺は、生きる意味を失った。

小美がいなくなった今、仲間も、思い出も、未来も、全てが無意味だ。

もう生きる事に疲れた。

全てを終わりにしよう。

だが、ただで死ぬのも嫌だ。

…論。アイツは、俺の気持ちを全く考えずに、ヘラヘラ笑って話してきやがった。

アイツがあんな顔をするから、俺は仕方なく話を合わせるしかなかった。

それで勝手に勘違いして、親友だって言ってきやがって。

…殺したい。

俺にとって、お前は親友でもなんでもない。

ただのクラスメイトだ。

…論だけじゃない。

アリスも、ジェイムズも、リタも、床前も、エカイラも、全員殺したい。

何の罪もない小美が殺されて、『超高校級の絶望』のアイツらがのうのうと生き延びるなんて、あっていいわけがない。

…殺す。

アイツらを全員道連れにして、俺も死ぬ。

待ってろ小美。

今、そっちに行くから。

 

エカイラから電話がかかってきた。

「…なんだ。エカイラか。どうした?」

『ねえカツトシちゃん。いきなり変な事聞いちゃって悪いけど、ガールフレンドのコハルちゃん、殺されてたんですって?』

「ッ…!お前…なんでそれを…!」

『アタシを誰だと思ってるの?アンタの事なんて、ちょっと調べればわかるわよ。』

「…で?何の用だ。」

『…アンタ、サトシちゃん達を道連れにして死のうと思ってるんじゃナイ?』

「…。」

『図星ね。あのね、アタシにいい考えがあるわ。』

「…え?」

『ぶっちゃけ、アタシもこんなコロシアイ終わらせたいと思ってたのよ。アンタの望み、叶えてあげるわ。』

「そんな都合のいい話、信用できるかよ。」

『アラ?いいのかしら?この機を逃したら、アンタの望みが叶う事はなくなるわよ?仮にアンタが片っ端からサトシちゃん達を殺していったとしても、裁判でバレるのがオチよ。そんなみっともない事になるぐらいなら、アタシと手を組んだ方が賢明なんじゃナイ?』

「…勝機はあるのか?」

『もちろん。アタシの言う通りにすれば、確実にアンタだけが生き残れるわ。ま、全てはアンタの技量にかかってるんだけど。生き残った後は、死ぬなり脱出するなり好きになさい。』

「…お前、なんで俺にそんな提案をするんだ?」

『言ったでしょ?こんなコロシアイ終わらせたいって。アタシ自身、このコロシアイの被害者なのよ。このコロシアイをブチ壊せるなら、手段なんてどうでもいいわ。理由はこれくらいでいいかしら?』

「…ああ。で?何をすれば良い。」

『とりあえず今すぐ教会に来て頂戴。あ、成功する確率を上げたいなら、アンタが持ってる日本刀を持ってくるといいわよ。くれぐれも、教会に行く所を誰にも見られないようにね。』

「…わかった。」

コイツの事は、全く信用できない。

でも、それしか方法が無いなら、それに賭けるしかない。

失敗したところで、俺はどうなってもいい。

俺は、日本刀を持って、教会に向かった。

 

 

ー教会ー

 

教会には、エカイラが待機していた。

「アラ。案外早かったじゃない。来てくれて嬉しいわ。」

「…来いって言われたからな。」

「あら、素直なのね。…誰にも見られてないでしょうね?」

「…多分。ここに来る途中、十分に注意は払ったからな。」

「よろしい。じゃ、早速計画を始めるわね。」

「…計画?」

「ねえカツトシちゃん。効率よくアンタ以外の全員を殺すには、どうするのが一番賢いかしら?」

「…誰かを殺して、学級裁判で勝つ、か?」

「正解。アンタには今から、人を殺してもらうわ。アタシも協力してあげる。」

「お前の共犯になれって事か?」

「正確には、アタシがカツトシちゃんの共犯になるのよ。証拠は隠滅してあげるから、安心なさい。」

「…。」

「じゃあまず、計画の第一段階ね。カツトシちゃん。服貸して。」

「…え?」

「アンタの服を貸してって言ってるの。靴下と靴もね。全員を殺したいなら、言う通りにして頂戴。」

エカイラは俺の服を、俺はエカイラの服を着た。

「…わかった。」

そして、エカイラは十字架を俺に渡して、俺はエカイラに日本刀を渡した。

「よいしょっと。ちょっとキツいわね。」

「…これに何の意味があるんだ?」

「今からやる計画に必要なのよ。アンタには、アタシの言う通りに殺人事件を起こしてもらうわ。」

「…で、エカイラ。俺は一体誰を殺せばいい?俺とお前が協力したところで、アリスには論が、リタにはジェイムズが一緒にいる時点で完全犯罪なんてできねェだろ。」

「…簡単な事よ。こうすればいいの。」

エカイラは、持っていたガソリンの蓋を開けた。

 

そしてそれを、自分の頭にぶっかけた。

 

「…!!?はっ…!?」

「ウフフフ。あーあ。今日が人生最後の日になるなんてね。こんな事ならもっと楽しんでおけば良かったわ。」

「お前、まさか…!」

「やっと気付いた?そうよ。アンタに殺して貰うのは、このアタシ自身よ。アンタには、アタシを焼き殺してもらうわ。」

「…お前、最初からこうする気で…!」

「言ったでしょ?コロシアイを終わらせるためなら、手段は選ばないって。これしか方法が無いわ。さ、早くそこに置いてある宝箱にお入り。アタシの計算が正しければ、建物を燃やす炎と煙で遮られて、監視カメラに映像が映らないはずよ。」

「その後は、どうすればいい?」

「アタシが完全に燃えたのを確認したら、外に出て炎で顔を焼き潰すのよ。手当ての道具なら、箱の中に入ってるわ。」

「…わかった。」

「あら?案外素直に受け入れるのね。顔を焼くなんて、相当痛いわよ?」

「…俺は元々死ぬつもりだったんだ。今更顔を焼くのなんて怖くねェよ。それで全員を道連れにできるならやってやる。」

「ウフフ、いい心がけだこと。さ、時間がないわ。箱の中に入ったらアタシの合図でそのライターを投げて、素早く蓋を閉じるのよ。」

「…ああ。」

俺は、すぐに箱の中を確認した。

箱の中には、地図と救急箱、そしてどういうわけか床前の首が入っていた。

「ッ!!?なんだこれ!?」

「ああ、ナギサちゃんの首よ。さっき殺してきたの。ナギサちゃんも、黒幕に加担した裏切り者だからね。」

「なんで俺が入る箱の中に…」

「死体アナウンスが流れるようにするためには、3人以上が死体を見ないといけないでしょ?だからその中に入れておいたのよ。」

「…。」

俺は、箱の中に入った。

「今よ!!」

「ッ!!」

俺は、エカイラの合図でエカイラ目掛けて十字架のライターを投げ、急いで宝箱の蓋を閉めた。

ライターの火がエカイラに引火する。

エカイラは、炎を上げながら悶え苦しんでいた。

俺は、宝箱の中から、エカイラと教会が燃える様子を見ていた。

宝箱は、断熱と防火を兼ねた素材でできているらしく、俺は炎の中でも焼ける事はなかった。

そして、エカイラはついに事切れた。

その場に倒れ、ケシズミになった。

俺は、それを確認すると、救急箱を持って宝箱から出た。

「ッ!!?」

宝箱の外は、炎から発せられる灼熱で、今にも焼かれそうだった。

肉が焦げたいやな匂いが教会中に立ち込め、顔に脂が付いて不快な感じがした。

「…。」

俺は、ケシズミになったエカイラの足を踏み潰した。

足は、踏んだだけで簡単に崩れた。

これで、身長を誤魔化せるはずだ。

…あとは。

 

俺は、炎の中に顔と両手を突っ込んだ。

「ッーーーーーーーーーーー!!!」

炎の熱が一瞬で顔中を襲い、顔は融けて爛れた。

顔中を、灼かれる痛みが襲う。

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 

 

 

あまりの痛みに、俺は声を上げる事すらままならなかった。

 

「ぎっ…ぐ、うぅう…!」

 

俺は、爛れた両手で救急箱の中の薬を顔と両手に塗りたくり、包帯を巻いた。

薬のおかげで、少し痛みがひいた。

俺は、そのまま教会の外に出た。

「ぐ…」

「エカイラ!?おい、中で何があった!?早く治療しねえと…」

…計画通り。

俺は今から、俺をやめる。

俺は、最後まで『伏木野エカイラ』を演じ切るんだ。

 

 

 


 

俺は、ゴールネットから鎖で吊るされていた。

目の前には、かつて俺の対戦相手だったチームのユニフォームを着たモノハムがいた。

…そうか。

俺は負けたのか。

俺は学級裁判で菊池に負けて、今はおしおきを受けているんだ。

結局、俺は最後の最後までエカイラ達に嵌められた。

あの事件は、最初から俺の事件じゃなかった。

被害者の床前とエカイラこそが、今回の事件の被害者であり、犯人だった。

…あーあ、アイツらを道連れにしてやりたかったんだがな。

でも、どっちみち死ぬ運命だったんだ。

おしおきを受け入れよう。

 

 

会場に設置されたパネルに、文字が表示される。

 

10回防げたら帰郷!!

 

モノハムは、足を思い切り後ろに振り上げると、ゴールネットめがけて足元のサッカーボールを勢いよく蹴った。

自然と、身体が動いていた。

俺は、ボールを難なく防いだ。

パネルに、9と表示される。

まずは1球目。

モノハムは、次に低めのボールを放った。

俺は、これも難なく防いだ。

パネルに8と表示される。

これで2球目。

次は、俺の身長より高いボール。

これも防いだ。

パネルには7と表示される。

3球目。

次は、ネットのスレスレを狙ったボール。

俺は、これも防いだ。

鎖で首を繋がれてはいるが、あまり行動範囲は制限されていない。

長年サッカーをやってきた俺にとって、今やっているのはお遊びに等しかった。

…楽しくてやってたわけじゃないけど、一応サッカーやってて良かったのかな?

パネルには6と表示される。

4球目。

モノハムは、ニヤリと笑って思い切り足を後ろに振り上げた。

そして、渾身の一撃を放った。

ボールは、高速で回転し、予測不能な軌道を描きながらネットめがけて空中を進んだ。

俺は、ボールを完全に見切った。

今まで、この程度の変化球、いくらでも防いできた。

そして、最小限の負荷でボールを防いだ。

それでも、重い一撃を喰らった衝撃で、腕の骨が悲鳴を上げる。

パネルには5と表示される。

これで、5球目を防いだ。

すると、モノハムは、オロオロとうろたえながらベンチのモノクマの方へ走っていった。

モノハムは、泣きながら事情をモノクマに説明していた。

モノハムの話を聞いたモノクマは、ベンチから立ち上がり、俺の目の前に飛び出してきた。

するとモノクマはニヤリと笑い、バズーカ砲を構えた。

照準を合わせ、バズーカ砲を放つ。

俺は、バズーカ砲から放たれたサッカーボールを防ごうとする。

その瞬間、モノクマがニヤリと笑い…

 

 

 

ゴッ

 

重い音が鳴り響いた。

俺は、一瞬何が起こったのか理解できていなかった。

気がつくと、右腕が消し飛んでいた。

 

「あ゛ぁああああああああああああぁあああああああ!!!」

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 

モニターに4と表示される。

これで6球目。

これを、あと4回耐えなければならない。

その瞬間、俺は絶望に堕ちた。

…無理だ。こんなの、防げるわけがない。

だが、モノクマは一切容赦しない。

また一発、サッカーボールの塗装がされた砲丸が放たれる。

今度は、左脚が吹き飛んだ。

「あ゛っ、あ゛ぁあああああああああぁああああ!!」

モニターに3と表示される。

これで7球目。

モノクマは、クスクスと笑いながらまたバズーカ砲を撃った。

今度は左腕。

亜音速の砲丸が、俺の腕を粉々に砕き、塵に変える。

「あっ…あ、あああっ…!!」

両手と左脚を失った俺にはもう、大声を上げる元気もなかった。

モニターに2と表示される。

これで8球目。

モノクマがバズーカを構えた、その時だった。

 

「ぐっ…がぁっ…おい゛、テメ゛ェら゛、聞ごえでるか…!?」

 

俺は、大量の出血で意識が朦朧とする中、声を振り絞って叫んだ。

「おでは…デメェらを皆殺しにじようどじだ…おでは、『超高校級の絶望』だ。それ゛は、おでが一番よぐわがってる…げどな、心のどこかでは、こんだゴロジアイ、終わりにじだいど思っでだんだ…!ぞれは、床前や…エガイダも…ぎっど同じだ…!」

モノクマは、バズーカ砲を放った。

左腕が消し飛んだ。

「ぎっ、ぐぅうっ…!」

四肢を全て失った俺は、ゴールネットに宙吊りになった。

断面から噴き出た血は下の芝生を緋く染め、おしおきの悲惨さを物語っていた。

モノクマは、ニヤニヤしながらバズーカ砲の照準を合わせる。

モニターに1と表示される。

これで9球目。

あと1球で、おしおきが終わる。

 

「だがら…!ゴロジアイはデメェらが終わらぜど…!どうぜ、おではここで殺ざでる…だがらデメェだに教えでやる…!こどゴロジアイの黒幕の正体を…!」

 

モノクマは、最後の球を放った。

 

 

 

「ごのゴロジアイの黒幕はぁあ゛ああぁああ!!」

 

 

 

 

 

「ぎっ」

 

ゴシャッ

 

 

 

 

「うぷぷ、あーあ。死んじゃったよ。オマエ、結局何がしたかったワケ?特に一貫してやりたい事もないくせに周りを巻き込もうとするからこうなるんだよ。加害者が被害者に嵌められて一人寂しく死ぬなんて…こんなに滑稽な事って無いよね!」

 

「ねえ、みんな。コイツらの共通点、何かわかるかな?くだらない情に流されて、『超高校級の絶望』になり損なった愚か者達だよ。ホント、死んで当然のドクズ達ばっかりだよね!」




【論リゾこぼれ話】

さーてと、おしおき解説いっきまーす!
今回のクロは、まさかの玉木クンでした!
今回は、彼の才能にちなんだおしおきにしてみました。
実は、玉木クンが小美ちゃんに見せていた練習というのが、PKの練習だったんですよ。
あのおしおきは、恋人に惹かれた日の様子を再現しているわけです。
しかし、当時のようにカッコよく技を決める玉木クンの姿はどこにもなく、大砲で四肢と頭を吹っ飛ばされるという無惨な最期を迎えました。
実は、これは玉木クンの心象の変化を表現しています。
小美ちゃんに出会った当時は精神的に満たされていましたが、最期は全てを失った事で心が壊れてしまいました。その対比を、身体をボロボロにされるというおしおきで表現してみました。


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第6章 終焉ノ演
第6章 非日常編①(捜査編)


タイトル元ネタ『終焉ノ栞』です。


ー???の部屋ー

 

 

 

 

 

…もう少しだから。

 

…絶対に、ボクが全部終わらせてみせるから。

 

だから、もう少しだけ待ってて…

 

…お姉ちゃん。

 


 

ー???の部屋ー

 

 

 

 

 

今まで、何をしていたんだろう。

何か、大事な事を忘れているような気がする。

…【超高校級の絶望】…それが『俺』『僕』『私』の才能?

 

わからない。

 

何も、思い出せない。

 

目的も、正体すらも…

 

 

 

 

 

『俺』『僕』『私』は、一体誰だ…?

 

 

 

 


 

 

 

学級裁判が終わった後、俺達は裁判場を後にした。

俺達は、モノクマ達からコロシアイを禁じられ、代わりに黒幕を暴き出すように言われた。

タイムリミットは24時間。

「…さん。」

それまでに黒幕の正体を暴かなければ、俺達に未来はない。

「菊池さん。」

このコロシアイの黒幕、その目的…一体なんだっていうんだ…?

「菊池さん!」

「うおっ!…なんだ、ジェイムズか。」

「…あの、話をちゃんと聴いていましたか?」

「あ、悪い…」

「考え事ですか?今はこれからの行動について話し合っているので、話はちゃんと聴いていてください。」

「わ、悪い…」

つい考え込んじまって、仲間の話をちゃんと聴いていなかった。

改めて今いるレストランを見渡すと、レストランが広く感じた。

…そっか。

もう、4人しかいないのか。

最初は16人…いや、俺達のクラスメイトが全員いたのに。

今はもう、この4人を残して全員死んでしまった。

「それで、菊池さん。」

「お、おう。」

「エリアが全て解放されたそうですが…」

「うん。情報管理室と工場が解放されてるね。」

「調べてみるぞ。」

「…そうですね。まずは情報管理室に行ってみましょう。」

「…ねえ、サトにい。」

「なんだ。」

「…これで最後なんだね。」

「…ああ。」

長かったコロシアイ合宿生活が、今日で終わる。

そう思うと、色々と複雑な気持ちになった。

仲間を13人も失った。

俺は、ここまで生き残った事を素直に喜べなかった。

…それでも、せっかくここまで来たんだ。

生き残って、ここを出るんだ。

俺は、改めて決意を固めた。

 

 

 

 

 

ー《捜査開始》ー

 

俺達はまず、情報管理室に向かった。

 

 

ー情報管理室ー

 

情報管理室には、コンピューターが置かれていた。

机の上には、資料が山積みになっている。

パソコンの画面には、モノクマとモノハムの設計図が映っている。

画面の設計図によると、どうやらモノクマとモノハムは、事前に黒幕の思い通りに動くようにプログラムされたロボットだったようだ。

作り方から壊し方まで、全て書かれている。

「…。」

 

コトダマゲット!

 

【モノクマとモノハム】

 

さらに、別のパソコンの画面を見た。

そこには、日記が表示されていた。

「…。」

膨大な文字量だったので、コロシアイや黒幕と関係ない部分は読み飛ばした。

 

 

【1日目】

合宿が始まった。

『超高校級の絶望』ともあろう者達が、自分達の立場も忘れて慌てふためく様は滑稽だ。

どうやって絶望に堕としてやろうか。

 

【4日目】

4日経っても、コロシアイは始まらない。

『絶望』のクセに、仲良しごっこなんてしやがって。反吐が出る。

イラついたから、嫌がらせをしてやった。

まあ、こんな嫌がらせ程度でコロシアイなんてしないだろうから、誰かを殺して罪をなすりつけるか。

 

【5日目】

あーあ。

イライラすんなぁ、全くよぉ。

近藤においしいところ持ってかれた上に、失敗してコロシアイがおじゃんになるなんてよ。

狗上も狗上で、近藤を殺すのをためらいやがって。

こっちは、オマエラの気持ち悪い馴れ合いを見せられ続けてストレス溜まってんだよ。

ムカついたから、近藤を殺して罪を狗上に着せた。

『アレ』のお陰で、記憶はちゃんと消せるもんね。

ついでに郷間が反抗してきてイラついたから、つい殺しちゃったよ。

 

【6日目】

ゲームをより盛り上げるため、エカイラをゲームに参加させた。

みんな、なんの違和感も抱かずにエカイラを受け入れた。

いや、黒幕側だって気付けよバカ共www

 

【8日目】

森万が速瀬に殺された。

最初のコロシアイとは違って、事が思い通りに運んでくれた。

でも、そろそろ参加者のフリすんのにも飽きたし、ここいらで退場しておこうかな?

 

【13日目】

織田が猫西に殺された。

2人とも、床前に踊らされてたんだけどね。

床前のお陰で、ゲームは順調に進んでくれてる。

エカイラも、水面下で頑張ってくれてるみたいだしね。

 

【17日目】

神城が射場山と小川を殺した。

あの壊れっぷりと言ったら、無様だったなぁ。

黒幕についてのビデオを再生してっと。

アイツらの、自分達が『絶望』だと分かった時の顔と言ったらもうwww

そして、床前が余計な事をしたせいでカムクライズルが覚醒した。

あそこで暴れさせるかなぁ、普通。もっと空気読めよ。

 

【20日目】

カムクライズルが消滅した。

割とあの子の事は気に入ってたんだけどなぁ。

だって、『絶望』を殺したいって意味ではボクと目的が一緒だし。

まあ、消えちゃったモンはしょうがないや。

そろそろ床前とエカイラに動いてもらわないとね。

 

【21日目】

…最悪だよ。

床前とエカイラの野郎、玉木を踏み台にしてボクを裏切りやがった。

まあ、あんなキナ臭い奴ら最初から信用してなかったし、ヘッポコ内通者が死んだところでどうだっていいんだけどさ。

もう、これ以上コロシアイを続けられなくなっちゃったから、そろそろ種明かしといこうかな?

 

…『絶望』を殺す。

それが黒幕の目的か。

…でも、なんだ?この日記の違和感は。

「この日記、どうしてさっき起こった事が書かれているのでしょうか?」

「え?」

「玉木さんがおしおきされたのは、ついさっきの事だったはずです。何故日記にそのような事が書かれているのでしょうか?」

「…確かに。生き残りの俺達は全員裁判場にいたしな。」

「つまり、私達以外にも、生存者がいて、その方こそが黒幕という事ではないでしょうか?」

「何…?」

 

コトダマゲット!

 

【パソコンの日記】

 

【全員のアリバイ】

 

「ねえねえ、サトにい!」

アリスが、俺を呼んだ。

「どうした?」

「これ見てよ!」

アリスは、銃のような物を見せてきた。

「なんだそれは?」

「このパソコンに、この銃についての説明が書いてあったから、読んでみたら?」

アリスは、パソコンを指差した。

俺は、パソコンの画面を見た。

 

 

記憶改竄装置

 

元『超高校級の生徒会長』嫌嶋幽禍が、研究機関と共同開発をした装置。

『絶望』に堕ちた高校生を元に戻すために開発された。

長期的に改竄した記憶を定着させるには、巨大な設備が必要だが、短期的な記憶の改竄は小型の装置で可能。

小型装置での改竄可能な期間は、最大で28日間。

その期間を過ぎると、記憶が元に戻る。

また、途中で解除可能。

 

記憶の改竄…だと?

もしかして、黒幕はこれを使って俺達の記憶を消したのか?

「ここにある装置は、カートリッジが無いから使えないけどね。」

「カートリッジが必要なのか?」

「そうみたい!」

 

コトダマゲット!

 

【記憶改竄装置】

 

『これ、見てください!』

リタが、俺達を呼んだ。

「どうしたリタ?」

『コロシアイの計画書です!!』

リタは、コロシアイの計画書を見せてきた。

計画書には、図面や計画に必要な物資の調達手段等について書かれていた。

ご丁寧に、調達先のリストまで書かれている。

 

食糧調達、資源調達等…黒木章、徳内崇、魔堂鐵雄

資金提供…財原海理、榊聖良、金剛寺亜蓮

 

…食糧とか資金とかは、外部に頼ってたのか。

そういえば、コロシアイのために資源を提供してくれる奴がいるみたいな事言ってたっけ。

 

「…ん?」

俺は、計画書を見た時すぐに違和感を抱いた。

その計画は、一人で実行するにはあまりにも非現実的な計画だった。

そして、計画書自体、複数の筆跡で書かれている。

…どういう事だ?

コロシアイの黒幕は、嫌嶋隆尋一人じゃないのか?

 

コトダマゲット!

 

【コロシアイの計画書】

 

【資源調達先リスト】

 

『あと、こんな物も見つけました。』

「?」

リタが紙の束を見せてきた。

それは、合宿参加者の詳細が書かれた紙だった。

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

才能ランク:S

死因:

 

『超高校級の失敗作』伏木野アリス

才能ランク:E/S

死因:

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

才能ランク:C

死因:頭部破損

 

『超高校級のパティシエ』近藤夏美

才能ランク:D

死因:刺殺

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉

才能ランク:C

死因:刺殺

 

『超高校級の秘書』速瀬吹雪

才能ランク:B

死因:全身粉砕

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

才能ランク:B

死因:

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

才能ランク:B

死因:

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

才能ランク:E

死因:脳挫傷

 

『超高校級の庭師』郷間権蔵

才能ランク:D

死因:刺殺

 

『超高校級の漫画家』織田兼太郎

才能ランク:D

死因:転落死

 

『超高校級の幸運』床前渚

才能ランク:A

死因:斬首

 

『超高校級の操縦士』狗上理御

才能ランク:C

死因:全身粉砕

 

『超高校級の超能力者』森万羅象

才能ランク:E

死因:絞殺

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

才能ランク:C

死因:銃殺

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

才能ランク:B

死因:内臓摘出

 

『超高校級の死神』伏木野エカイラ

才能ランク:A

死因:焼死

 

『超高校級の俳優』嫌嶋隆尋

才能ランク:S

死因:

 

なんだこの紙は…

才能ランク?

それに全員分の死因が書いてあるな。

…あれっ?

コイツの死因…

 

コトダマゲット!

 

【生徒詳細】

 

【死因】

 

…あ。

資料の下に、写真が落ちていた。

写真には、中年の男と女性、少年、そしてアリスが写っていた。

少年の顔の部分は、血のシミができていて見えなかった。

「あっ!おとーさんとおねーちゃん!」

アリスは、写真に向かって指を差した。

「…知ってるのか?」

「うん、実は私ね、イズル姉さんが暴れてたのを押さえつけて、私っていう人格を生み出したのは、おとーさんなの。だからね、しばらくはおとーさん達と一緒に暮らしてたんだ。私のおねーちゃんは、『チョーコーコーキューのセートカイチョー』だったんだって。うーんっと、もうひとりいたと思うんだけど、思い出せないや!」

…。

 

コトダマゲット!

 

【アリスの写真】

 

…情報管理室で得られる情報はこのくらいかな。

そろそろ、工場の捜査をしないと。

 

 

ー工場ー

 

工場は、ゴウンゴウンと大きな音を立てて作動していた。

「どうやらここは、コロシアイ生活を続ける上で必要な物資を作り出すための工場のようですね。どうしても外部から調達出来ない物を、ここで生産していたのでしょうか?」

ジェイムズは、工場を一周して観察をした。

「この部屋は…う゛っ!?」

ジェイムズがドアを開けた部屋には、死体が山積みになっていた。その死体がベルトコンベアで運ばれ、工場内の焼却炉に放り込まれる。

その死体の中には、今までのコロシアイの犠牲者達もいた。

「…これ、100人以上はいますよ。」

『ひどい…!』

「…あれを見てください。」

焼却炉の中から融けた死体が出てきて、謎の機械に通される。

謎の機械からは、カプセルが出てきた。

「…まさか、これって…!」

「そんな、モノモノマシーンの中身は、全部亡くなった方の死体で合成されていたのですか…!?」

『そんな…!』

「なんて悪趣味な野郎だ…!」

 

コトダマゲット!

 

【工場】

 

【生徒達の死体】

 

…工場で入手できる情報はこれくらいか。

そろそろ、別の場所に移動しよう。

 

 

『超高校級の幸運』の個室

 

床前の個室…

ここになら、真相についてのヒントがあるかもしれない。

「…ん?」

なんだこれは。

…ビデオ?

 

俺は、ビデオを再生した。

「…。」

 

ビデオに映ったのは,全員分のおしおきシーンだった。

「あれっ…?」

よく見てみると、ひとつだけ、死ぬ瞬間が明確に映されていないおしおきシーンがあった。

それに、よく見てみると周りの映像も偽物っぽい。

…コイツはもしかして、おしおきで死んだんじゃないんじゃないか?

 

コトダマゲット!

 

【おしおきシーン】

 

俺は、部屋を見渡してみた。

部屋の中に、ある一冊の本があった。

タイトルは、『絶望国家論』。

書いたのは江ノ島哀華という人物らしい。

 

「…なんだこれは。」

 

俺は、本を手に取って読んでみた。

その本には、『人類史上最大最悪の絶望的事件』について書かれていた。

本の内容は、以前しおりで見た内容とほとんど同じだった。

唯一違うのは、この本には、『人類史上最大最悪の絶望的事件』の首謀者…美術館に展示されていた銅像の女が主催していたデスゲームについて書かれている事だった。そのゲームの名は『ダンガンロンパ』。誰かを殺した生徒を学級裁判で吊るし上げるというゲームだった。

 

「…あれっ?」

 

…待てよ?

このゲーム、まるで俺達が置かれている状況そのものじゃないか。

基本的なルールから細かい所まで、計画書に書かれていた内容とほとんど一致している。

でも、このゲームが行われたのは、2年前だよな…?

って事は、俺達が今までやらされていたゲームは、『ダンガンロンパ』を模倣したゲームだって事か?

過去に行われたデスゲームの模倣なんて、誰が何のために主催してるんだ?

 

コトダマゲット!

 

【人類史上最大最悪の絶望的事件】

 

【ダンガンロンパ】

 

「あの、菊池さん。もう捜査を始めてから10時間になります。そろそろ休憩しませんか?」

「なんだと!?ダメだ、貴重な捜査時間を削る気か!!」

「ですが、休息は必要です。裁判で体調を崩してしまっては元も子もありません。休憩時間は最小限で済ませますので、一度休憩した方が宜しいかと。」

「そ、そうだな…」

「腹が減っては戦ができぬってゆーだろ!」

「…お前はただ飯を食いたいだけだろ。」

「えへへっ!」

ジェイムズの提案で、一度捜査を中断した。

 

 

ー《捜査中断》ー

 

俺達は、レストランに集まって食事を摂った。

各自で休憩をし、捜査を再開したのは1時間後だった。

 

 

ー《捜査再開》ー

 

…さてと。捜査を再開するか。

床前の部屋は調べたし…

あとはエカイラの部屋かな?

 

 

『超高校級の死神』の個室

「…。」

…そういやぁ、エカイラの個室を見るのは初めてだったな。

灰色一色で、装飾品などがほとんど置かれていない部屋だった。

特に気になるところがあるとすれば、何故か血飛沫がブチ撒けられた絵がひとつだけ飾ってあるだけだった。

 

「…ん?」

 

机の下に、ビデオが落ちていた。

…またビデオか。

俺は、ビデオを再生した。

 

 

 


 

 

 

遺跡内部の映像が映し出された。

「?」

遺跡に狗上が入ってきた。

…これってもしかして、4日目の夜の映像か?

『ケッ、何が呪いだ。くだらねえ。自分の命くらい、自分で守れるっつーの。』

狗上が油断して遺跡内を歩いていると、後ろから近藤が歩いてきた。

 

カツン…

 

『…あぁ?』

 

足音に気づいた狗上は、後ろを振り返った。

その前に近藤が咄嗟に物陰に隠れた。

『…気のせいか。』

狗上は、特に気にするそぶりを見せず、奥に進んだ。

奥に進む狗上を、近藤が尾行する。

 

「…あれっ?」

近藤の後ろに、人影が見えた。

ソイツは、姿を加工されていて誰だかわからなかった。

…もしかして、嫌嶋隆尋か?

 

『…この部屋、プンプン臭うな。』

最奥の部屋までたどり着いた狗上は、扉を開けて中に入った。

近藤も一緒に入ったようだ。

 

ー黄金の間ー

 

『…このどデケェミイラが臭えな。』

 

狗上は、真ん中にあるツタンカーメンもどきのミイラに目を向けた。

近藤は、一気に距離を詰め、持っていたナイフを振りかぶった。

狗上がミイラに手を触れようとした瞬間だった。

 

『!!?』

 

 

 

バキッ

 

 

「あっ…!」

 

咄嗟に反応した狗上が、懐にしまっていたスパナを持って振るった。

スパナが近藤の右腕に直撃し、近藤の腕が折れた。

『ぎゃあ゛ぁあああああああああああああああああああああああああ!!!』

近藤は、右腕を押さえてその場で悶え苦しんだ。

それを見た狗上は、殺されかけた事で逆上し、近藤の頭をスパナで殴った。

『ーッ、こんの…クソアマがぁあああああ!!!』

 

ゴッ

 

『あっ、がはっ…』

狗上の怒りは収まらなかったのか、狗上は近藤を蹴り飛ばした。

 

ゴスッ

 

『!!?』

 

 

『ッ、あがっ…おえ゛ッ…』

近藤はその場で転がり、嘔吐した。

 

ガッ

 

ゴスッ

 

バキッ

 

グシャッ

 

ドゴッ

 

『ふざけんなよこのクソアマがぁあ!!調子に乗りやがって…ザコのくせに、俺を殺そうとするたぁどういう了見だ!?なあオイ!!テメェみてぇなチビが、俺を殺せるとでも思ったのか!?俺も随分とナメられたもんだなァ!!クソッ、やっぱりテメェみてぇなゴミに一瞬でも気を許した俺がバカだった!!さっきはよくもやってくれたなァ!!死ねッ、死ねッ、死ねッ!!テメェみてぇなクサレ女は、この世から消えろォ!!!』

狗上が、容赦なく近藤を踏みつける。

近藤の身体には無数のアザができ、無残な姿に成り果てていた。

見ているだけで気分の悪い映像だった。

 

『オラァ!!!』

 

グシャッ

 

『…あ。』

狗上は、トドメと言わんばかりに近藤の頭に蹴りを入れた。

近藤は気を失った。

 

『ったく、このゴミ女が…大人しくそこで寝とけ!』

狗上が部屋から出ようとした瞬間…

 

『へぇ…いいの?』

嫌嶋が狗上の前に立ち塞がった。

『なっ…テメェ…!』

『その女は、キミを殺そうとしたんだよ?なのに放っとくんだ?オマエも、案外お人好しだね。いや、殺す度胸が無いだけか。うぷぷっ。』

『テメェ…まさか、あのクソみてェなクマの親玉か!?まさかテメェが親玉だったとはな…!』

『やっだなぁ、狗上クン!自分と自分の信仰対象の作品に、クソは無いでしょ。』

『どういう意味だ…?テメェ、さっきから何の話してやがる!!』

え…?

ちょっと待て、何がどうなってるんだ…?

狗上は、嫌嶋と接触した事があるのか…?

『ボクさぁ、オマエラの気色悪い馴れ合いをずっと見せられ続けてイライラしてんの。『絶望』のくせに、善人ぶりやがって…オマエラみたいな救いようのない社会のゴミは、互いに互いを潰し合って破滅すんのがお似合いなんだよ。だからボクはオマエラの大好きな『先駆者様』のやり方でオマエラに裁きを下すんだよ。』

『テメェ、何ワケのわかんねェ事言ってんだ!!』

『要するに、そろそろコロシアイをしてほしいから、不本意だけどボクが自ら人を殺すって事。例えばこんな風にね。』

嫌嶋は、狗上からナイフを奪い取ると、近藤の胸の上に落とした。

 

グサッ

 

ナイフが近藤の心臓に突き刺さった。

『…っは!?』

『はい終わり。…あ、そうだ。服剥いで証拠隠滅ーっと。ふんふーん♪』

『テメェ…』

『あ、そうだ狗上クン。ボクの姿を見た事は、誰にも言わないでね?』

嫌嶋は、狗上に釘を刺した。

『はぁ!?なんだテメェ…このイカレ野郎が…!』

『うんうん。やっぱりそういう反応になるよね。じゃあ、しょうがないからちょっと眠っててよ。』

『!!?』

嫌嶋は、さっきアリスが見つけた銃を狗上に向けて撃った。

『がっ…!?』

狗上は、その場に倒れた。

『はい終わり。これで、ボクを見た事は覚えてないし、自分が殺ったって勘違いしてくれるでしょ。さーてと、そろそろクラスメイトモードのボクに戻らないとね!』

嫌嶋は、遺跡から去っていった。

その数秒後、狗上が目覚めた。

 

『…っと、俺は確か…チビを蹴って、服を剥いで…殺した、っけ?』

狗上は、困惑しながらも植え付けられた記憶を自分の記憶として受け入れた。

『これ、なんとかしねぇとな。…あー、めんどくせぇ。』

狗上は、ぶつくさと文句を言いながらホテルに向かった。

 

 


 

 

 

…なんだ、今のは。

結局、最初の事件を起こしたのは嫌嶋で、狗上は誰も殺してなかったっていうのか…?

狗上は、誰も殺していないのにおしおきを受けたっていうのか…

じゃあ、あの時俺達がした事って…

 

コトダマゲット!

 

【エカイラの部屋の映像】

 

…許せねェ。

俺達の事は散々ルールで縛って、郷間の事もルール違反で殺したくせに…

さっきのおしおき映像の件といい、狗上の件といい…ルール違反してたのは、お前自身だったってのかよ…!

 

コトダマゲット!

 

【ルール違反】

 

「…あ。」

引き出しの中を開けると、会議室にあったものと同じ手作りの卒業証書と卒業アルバムがが入っていた。

アルバムの卒業生の名簿には、俺達合宿参加者の名前や顔写真が載っていた。

俺達だけじゃなくて、工場で山積みになっていた人達の名前と顔写真もあった。

俺は、卒業証書に違和感を覚えた。

どこかで見た事がある筆跡だったからだ。

…いや、どこかで見た事あるというよりは…

 

コトダマゲット!

 

【卒業証書】

 

【卒業アルバム】

 

…『超高校級の絶望』か。

もしかしたら、美術館にヒントがあるかもしれないな。

『超高校級の絶望』の親玉の銅像も置いてあったし…

もう一回捜査してみるか。

 

 

ー美術館ー

 

美術館には、『超高校級の絶望』江ノ島盾子の銅像が置かれていた。

…しっかし、精巧に作り込まれてるなぁ。

まるで、キリストやマリアの像みたいだ。

この銅像の作り手は、よっぽどこの女に対して強い信仰心を抱いているんだろうな。

作り手は、どうやら『超高校級の彫刻家』堀江巽という人物らしい。

そういえば、卒業アルバムにもあった名前だな。

…やっぱり俺達のクラスメイトか。

 

コトダマゲット!

 

【江ノ島盾子】

 

…ん?

 

足元に写真が落ちていた。

「なんだ、これは…」

俺は、写真を拾い上げて見てみた。

どうやら記念写真らしい。

そこには、アリスとエカイラを除く15人と嫌嶋隆尋と思われる男子生徒が写っていた。

嫌嶋の顔は、真っ黒に塗りつぶされていた。

…もしかして、顔を知られたくないからか?

アイツは、合宿参加者の中に紛れ込んでるって言ってたもんな。

…ん?

写真の裏に、血文字が書かれていた。

 

殺し合え

 

全ては絶望のままに

 

「ッ!!」

これって、射場山の部屋にあった水墨画と同じ…

ここに写ってる奴らは、『超高校級の絶望』だって言うのか…?

 

コトダマゲット!

 

【記念写真】

 

「菊池さん。」

ジェイムズが後ろから話しかけてきた。

「おお、ジェイムズか。どうした?」

「何故外部の人間が私達を助けに来ないのか疑問に思っていたので、先程この島の周辺を調べたのですが…この島全体を、バーチャル映像が映し出された壁が囲んでいたんです。この島に元々あった地図と島の見た目に騙されてしまっていましたが、実はこの島の近海は、数十メートル程しか無いようです。」

「何…?じゃあ、あのクルーザーは、俺達に偽りの希望を与えるためのただのお飾りだったってのか?」

「そうなりますね…こうなったら、黒幕を倒して脱出の方法を聞き出すしかないでしょう。」

「聞き出すって…どうすんだよ?」

「耳の中にセミでも入れてあげましょう。」

「…恐ろしい事言うな、お前。」

クッソ、嫌嶋の野郎…

結局俺達を外に出す気はねェのかよ…!

 

コトダマゲット!

 

【島を囲う壁】

 

大方捜査は終わったかな…

あとは、俺が拾った日記の情報も、犯人を特定するのに役立つかもしれない。

 

コトダマゲット!

 

【日記】

 

一応、黒幕の名前も提出する証拠のひとつとして頭の隅に置いておこう。

 

コトダマゲット!

 

【『超高校級の俳優』嫌嶋隆尋】

 

『あの、菊池…』

「リタか。どうした?」

『あの…僕達は、本当に『超高校級の絶望』なんでしょうか…?やっぱり僕、まだ信じられないです…』

「…そうだよな。」

…『超高校級の絶望』。

それが、俺達の正体だっていうのか…?

 

コトダマゲット!

 

【超高校級の絶望】

 

 

『うっぷぷぷぷぷ!:オマエラ、時間切れです!!ついにこの時がやってきました!お待ちかねの学級裁判、始めるよ〜!5分以内に、ホテル一階の赤い扉まで集合してね〜!』

『最後の学級裁判、盛り上がっていきまちょう!』

モノクマとモノハムの声が響き渡った。

…この耳障りな声を聞くのも、今日で最後か。

「…行こう。」

俺達は、4人全員で赤い扉に行き、エレベーターに乗り込んだ。

 

 

ーエレベーターー

 

次が最後の学級裁判。

これで6回目だ。

でも、今回は、今までの裁判とは違う。

生き残るためじゃなくて、黒幕を倒して真相を明らかにするために俺達は勝たなきゃいけないんだ。

もう、ここまで来たら後戻りは許されない。

黒幕は一体誰で、その目的は一体何なのか。

俺達は、生きるべきか死ぬべきか。

この頭が動く限り、真相を暴くために考え尽くせ。

今までに犠牲になった人達の無念を背負って、俺達は最後の試練に立ち向かうんだ。

 

 

 

コロシアイ合宿生活残り4名+????名

 

 

 

 

 


 

 

『ここで、皆様にクイヂュのお時間でちゅ。この中で、このコロシアイ合宿を裏で動かちていた黒幕は誰だと思いまちゅか?』

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の失敗作』伏木野アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級のパティシエ』近藤夏美

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉

 

『超高校級の秘書』速瀬吹雪

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の庭師』郷間権蔵

 

『超高校級の漫画家』織田兼太郎

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の操縦士』狗上理御

 

『超高校級の超能力者』森万羅象

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

『超高校級の死神』伏木野エカイラ

 

 

『…ちょうでちゅか。…ではでは、答え合わちぇは、またの機会に。』

 




やっと投稿できたー!
モチベが折れてしまい、なかなか書く気になれませんでした。
6章書くのニガテなんだよー。誰かタスケテー。


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第6章 非日常編②(学級裁判前編)

黒幕の正体が今、明かされるッ!!







エレベーターが止まり、扉が開いた。

全員が裁判場に到着し、証言台の前に立つ。

そして、赤くバツ印が書かれた遺影が2枚増えていた。

不気味な笑みを浮かべるエカイラと、爽やかな笑みを浮かべる勝利の遺影だった。

「…これで、最後なんですね。」

「…ああ。」

『うぷぷぷぷ!オマエラ、どうしたの!?そんなお通夜みたいな顔して!』

『ぴきゃきゃ!ちょうでちゅよ!裁判は、まだまだこれからでちゅ!』

「…君達と話すのも、これで最後だね。」

『アリスサンったら、そんな悲しい事言わないでよー!さ、最終裁判、盛り上がっていこうか!』

『ではでは、始めちゃいまちょう!ドキドキワクワクの学級裁判を!!』

…今回は、俺達が生き残るためじゃない。

黒幕を暴いて、このゲームを終わらせる…そのために、真実を暴き出すんだ!!

 

 


 

コトダマ一覧

 

 

 

【モノクマとモノハム】

情報管理室に、モノクマとモノハムの設計図があった。

黒幕の指示通りに動くようにプログラミングされたロボット。

 

【パソコンの日記】

黒幕が書いたと思われる日記。

 

【全員のアリバイ】

黒幕が日記を書いていたと思われる時間、全員裁判場にいた。

 

【記憶改竄装置】

人の記憶を改竄する装置。

 

【コロシアイの計画書】

コロシアイの舞台の設計図やシナリオなどが細かく書かれている。複数の筆跡で書かれている。

 

【資源調達先リスト】

外部からコロシアイを支援していたと思われる者達のリスト。

 

【生徒詳細】

全員の才能と死因が書かれている。

 

【死因】

1人だけ、生徒詳細に書かれている死因がおかしい奴がいた。

 

【アリスの写真】

アリスの家族の写真。アリスの育ての父親、姉、そして顔のわからない少年が写っている。

 

【工場】

モノモノマシーンの中身を作るための工場。

 

【生徒達の死体】

工場で発見した。おそらく、モノモノマシーンの材料にされた。

 

【おしおきシーン】

全員のおしおきをまとめたビデオ。1人だけおしおきシーンがおかしい奴がいた。

 

【人類史上最大最悪の絶望的事件】

3年前に起こり、2年前に黒幕が死んだ大規模のテロ。

未来機関の活躍によって徐々に収束に向かっているが、未だ解決されていないらしい。

 

【ダンガンロンパ】

人類史上最大最悪の絶望的事件を引き起こした黒幕によって行われたゲーム。

今回のゲームの元ネタと思われる。

 

【エカイラの部屋の映像】

狗上が、近藤殺しの罪をなすりつけられるシーンが映っていた。

 

【ルール違反】

黒幕は、人を殺したにも関わらずクロとして扱われなかった。

 

【卒業証書】

見た事のある筆跡で書かれていた。

 

【卒業アルバム】

俺達の元クラスメイトが載っている。

俺達がこの島で過ごしていた時の写真が閉じられている。

 

【江ノ島盾子】

人類史上最大最悪の絶望的事件を引き起こした張本人。

俺達の元クラスメイトから信仰されていた。

 

【記念写真】

アリスとエカイラ以外の全員が写った写真。

黒幕の顔は塗りつぶされている。

そして、裏に『殺し合え 全ては絶望のままに』と書かれていた。

 

【島を囲う壁】

島を、バーチャル映像付きの壁が囲んでいた。

 

【日記】

嫌嶋幽禍という人物によって書かれた日記。

どうやらその女は、俺達を混沌と化した世界から逃がすためにこの島に俺達を連れて来たらしい。

 

【『超高校級の俳優』嫌嶋隆尋】

黒幕の本名。

 

【超高校級の絶望】

俺達の正体。

 

 

 


 

 

 

学級裁判開廷

 

 

 

『じゃ、好きに議論を進めてくださーい!』

ジェイムズ「まずは何について議論しましょうか。」

菊池「まずは、俺達が今どういう状況に置かれているのか、それからこの島に残された謎を解き明かさないとな。」

ジェイムズ「そうですね…」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

ジェイムズ「まずは、この島で起こっている事を解き明かさなければ…」

アリス「この島で起こったコロシアイだよね?全部クマちゃんがやったんじゃないの?」

リタ『え、あのぬいぐるみがって事ですか…?』

アリス「そうだよ!」

ジェイムズ「ですが、黒幕は確か嫌嶋隆尋という人物でしたよね?」

アリス「そのヤジマなんたらも、クマちゃんが勝手に考えた設定じゃないの?」

今のアリスの発言はおかしい!

 

【全部クマちゃんがやった】←【モノクマとモノハム】

 

「それは違うぞ!」

 

論破

 

菊池「いいや、ちゃんと他に黒幕がいるはずだ。」

アリス「どういう事?」

菊池「モノクマとモノハムは、あくまで黒幕の言う事を聞くようにプログラミングされたロボットなんだ。つまり、アイツらを操ってる黒幕は、他にいるんだ。」

アリス「なる…」

リタ『あの、ひとつ気になった事があるんですけど…』

菊池「なんだ?」

リタ『この島、なんで誰にも発見されないんでしょうか?』

アリス「え?」

リタ『いや、普通、3年もこの島にいたら、誰かがこの島に辿り着くはずじゃないですか。』

ジェイムズ「それもそうですよね…」

菊池「いや、外部の人間がこの島に入れなかったのには理由があったんだ。」

 

コトダマ提示!

 

【島を囲う壁】

 

「これだ!!」

 

菊池「島を、バーチャル映像が映し出された壁が囲んでいた。外部の人間がこの島に入れなかったのは、この壁があったからなんだ。」

リタ『それで、今まで誰にも気付かれずにこの離島で過ごせたんですね。』

ジェイムズ「…でも、そうだったとしても問題があります。黒幕は、どうやってこのコロシアイを成り立たせていたのでしょうか?いくら希望ヶ峰学園の合宿用に開発された島だとは言え、17人をこの島で匿えるだけの設備が整っているというのは、不自然ではないでしょうか?」

菊池「…それは、外の奴らに助けてもらっていたからだよ。」

 

コトダマ提示!

 

【資源調達先リスト】

 

「これだ!!」

 

菊池「この島で賄えない分は、外の奴らに支援してもらっていたんだ。コロシアイのための資源や資金とかをな。モノクマも、このコロシアイが全国に中継されてて、それを見て資金援助してる奴がいるって言ってたしな。」

リタ『でも、島には誰も入れないんですよ?どうやって受け渡していたんですか?』

ジェイムズ「それなら、壁からの出入りの方法を知っている方が受け渡しの指示をしていたのでは?…こんな悪趣味なコロシアイに共犯者がいたなんて、虫唾が走るような思いですが。」

菊池「全くだ。こんなコロシアイを見続けるためだけに、支援をしていたなんて…」

ジェイムズ「…しかし、私達が今戦うべき相手は共犯者ではありません。このコロシアイの黒幕です。」

菊池「…そうだったな。」

ジェイムズ「議論を進めましょう。」

リタ『あのぉ、一個いいですか?』

菊池「どうした?」

リタ『輸入可能な物については、それで説明がつくと思うんです。でも、それ以外は…?』

ジェイムズ「それ以外?」

リタ『…例えば、モノモノマシーンの中身…とかです。』

ジェイムズ「あっ…確かに、モノモノマシーンに入っていたグッズの中には、現代では流通していない物も含まれていましたからね。あれは確かに、輸入では説明が出来ませんね…」

菊池「…。」

モノモノマシーンの中身は、どうやって調達していたんだ?

 

 

 

議論開始!

 

 

 

アリス「え、わかんない…宇宙人に貰ったとかぁ?」

ジェイムズ「それは無いと思います…でも私達の知り得ないルートを使ったという線は濃厚ですね。」

リタ『自分で作ったとか…』

 

【自分で作った】←【工場】

 

「その意見、賛成だ!!」

 

同意

 

菊池「黒幕は、モノモノマシーンの中身を自分で作っていたんだ。」

アリス「えぇえ!?じ、自分で!?」

菊池「ああ。昨日開放された工場があっただろ?あれは、モノモノマシーンの中身を作るための工場だったんだよ。」

ジェイムズ「…しかし、どうやってその材料を調達していたというのですか?あれだけの種類の物を作ろうと思うと、膨大な種類の材料が必要なはずです。」

菊池「…いや、そんなたくさんの種類の材料を用意する必要なんて無かったんだ。」

ジェイムズ「と、仰いますと…?」

菊池「その材料は、身近な所にあったんだよ。」

…これを言うのは、すごく気持ち悪いが…この際、言うしか無いだろう。

 

コトダマ提示!

 

【生徒達の死体】

 

「これだ!!」

 

菊池「…その材料は多分、今までの犠牲者達の死体だ。」

ジェイムズ「んなっ…!」

アリス「死体でモノモノマシーンの中身を作るだと!?何バカな事言ってんだサトにい!!そんな事できるわけねーだろ!!」

ジェイムズ「いえ、不可能ではないと思います。理論上、物体の構成粒子を分解して再構築し、別の物体を作る事は可能です。あとは、3Dプリンターの要領で形成すれば、景品の出来上がりという訳です。…しかし、それは相当な高等技術を要する筈…そんな技術を、こんな悪趣味な事に利用されていたとは…学者である私としては、怒りが隠せませんね。」

菊池「ああ。早く黒幕を見つけて、あのぬいぐるみの裏で笑ってる黒幕をブッ飛ばすぞ。」

モノクマ『キャー!ブッ飛ばされちゃうの!?こーわーいー!!』

モノハム『ぴきゃきゃ!暴力反対でちゅ!』

菊池「…。」

俺は、うるさいクマとハムスターを無視して話を進めた。

菊池「…これで、この島の謎は解けたわけだ。そろそろ、議題を変えようか。」

ジェイムズ「そうですね。」

菊池「じゃあ、今俺達が置かれている状況について議論してみようか。」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

菊池「俺達がなんでここでコロシアイを強いられていたのか…それを考えないとな。」

アリス「知らないよそんなの!いきなり誰かにここに連れてこられたんだもん!!」

リタ『そうですよ…なんでこの島にいるのかすらわかってないじゃないですかぁ…』

ん?ちょっと待て。今の、おかしくなかったか?

 

【いきなり誰かにここに連れてこられた】←【卒業アルバム】

 

「それは違うぞ!!」

 

論破

 

菊池「アリス、俺達は、ここに拉致監禁されたわけじゃなかったんだ。」

アリス「そーなの!?」

菊池「…ああ。俺達は、クラス全員でこの島に合宿に来ていたんだ。」

リタ『合宿…?』

菊池「そうだ。俺達は元々クラスメイトで、3年間この島で過ごした仲間同士だったんだ。この卒業アルバムが証拠だ。」

ジェイムズ「そんな、クラスメイト同士でコロシアイなんて…黒幕は、どうしてそんな惨い事を私達にさせようとしていたんですか!?」

モノクマ『うっぷぷぷ。どの口が言うかねぇ。』

モノハム『学園長!ちょれは言っちゃいけないお約束だったでちょ!』

モノクマ『いけね☆』

菊池「…何が学園長だ。黒幕に操られてるロボットの分際で。」

モノクマ『ムッキー!生意気だな、オマエ!てかさ、そんな事言ってるヒマがあるなら議論に参加しろよ!!議論がクソ程つまらなさすぎて、そろそろ正体バラしたろかって思ってるとこなんだからさぁ!!』

リタ『言ってる事がめちゃくちゃですぅ…』

ジェイムズ「皆さん、無視しましょう。取り敢えず今は、議論の結論を出すのが先です。」

リタ『それもそうですね…』

アリス「ねえ、ちょっと気になったんだけど!」

菊池「…なんだ。」

アリス「あのさぁ、さっきサトにいは、私達がクラスメイトだったって言ったじゃない?でも、私達にそんな記憶は無いよ?どゆこと?」

菊池「…それは。」

 

 

 

閃きアナグラム

 

 

 

 

 

頭の中に、言葉の断片が浮かび上がる。

それを、素早く拾って組み合わせ…完成させる!!

 

「これだ!!」

 

 

キ オ ク ソ ウ シ ツ

 

【記憶喪失】

 

菊池「俺達は、全員クラスメイトだった頃の記憶を失っていたんだ。」

ジェイムズ「確かに…ここに、一緒に過ごしたという証拠がある以上、エカイラちゃんさん以外の全員が記憶喪失になったと考えるのが自然でしょうね。…ですが、人の記憶を都合良く消す薬や装置なんてあったでしょうか?」

菊池「…それについては、ひとつ心当たりがある。」

 

コトダマ提示!

 

【記憶改竄装置】

 

「これだ!!」

 

菊池「…記憶改竄装置。嫌嶋幽禍という女が研究機関と協力して作った、人の記憶を勝手にいじれる装置らしい。黒幕は、これを使って俺達の記憶をキレイさっぱり消しちまったんだ。」

ジェイムズ「成程…」

リタ『そんな、記憶を消しちゃう装置なんて存在したんですね…』

ジェイムズ「その装置が使われているという事は、その嫌嶋幽禍という方は、私達の敵だったのでしょうか…?」

菊池「…そうとは言い切れないかもしれない。」

 

コトダマ提示!

 

【日記】

 

「これだ!!」

 

菊池「この日記は、その嫌嶋幽禍本人が書いた日記だ。これを見る限り、この女はどうやら俺達の担任で、『未来機関』の一員だったらしい。」

ジェイムズ「未来機関って…調べた事があります。確か、『超高校級の絶望』を駆逐する為に設立された、希望ヶ峰学園の卒業生で構成された組織…でしたっけ?」

菊池「そうだ。この女は、俺達を『絶望』の手から救うために俺達をこの島に逃がしてくれたんだ。記憶改竄装置も元々は『超高校級の絶望』を治療するために開発された装置らしいしな。…だが、もう彼女はこの世にはいないらしい。」

リタ『そんな…』

アリス「ねえ、なんでこの島に逃げる必要があったわけ?どうしてもこの島に逃げなきゃいけない理由でもあったのかなぁ?」

嫌嶋幽禍が俺達をこの島に逃がした理由…それは…

 

【人類史上最大最悪の絶望的事件】

 

「これだ!!」

 

菊池「外の世界は、人類史上最大最悪の絶望的事件によって混沌と化していた。『超高校級の絶望』によって街は破壊され、罪のない人達が殺されていく…そんな残酷な世界だったらしい。」

リタ『そんな…それじゃあ、外に出たところで、より危険な環境にさらされるだけじゃないですか…!』

ジェイムズ「リタさん、諦めちゃダメです!この島から出た後生き延びる方法は、後で考えましょう。それよりまず、謎を解き明かす事が先です。」

リタ『…そうですね。』

アリス「で、その事件と今回のコロシアイが、何の関係があるの?」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

アリス「それって、外で起こった事件だよね?私達とは関係ないんじゃないの?」

ジェイムズ「確かに…事件とコロシアイの繋がりが見えませんね。」

リタ『じゃあ、この事件に関しての議論はこれで終わりという事でいいですかねぇ。』

いや、全くの無関係じゃないはずだ。

 

【私達とは関係ない】←【ダンガンロンパ】

 

「それは違うぞ!!」

 

同意

 

ジェイムズ「菊池さん?」

菊池「みんな、聞いてくれ。『人類史上最大最悪の絶望的事件』とコロシアイは、無関係じゃなかったんだ。」

リタ『と、言いますと…?』

菊池「実は、人類史上最大最悪の絶望的事件が起こった後、さらに絶望を振り撒くために、人類史上最大最悪の絶望的事件の首謀者が執り行ったゲームがあるらしい。その名も、『ダンガンロンパ』。15人の高校生を希望ヶ峰学園の校舎内に監禁して、その中でコロシアイや学級裁判をやらせるというゲームだそうだ。」

ジェイムズ「それって…!」

菊池「…そう。多分だが、俺達がやらされているのは、『ダンガンロンパ』を模倣したゲームだ。このゲームを企画した奴は、よほどそのゲームに思い入れがあったんだろう。人類史上最大最悪の絶望的事件の首謀者がやったゲームと同じゲームを俺達にさせる事で、俺達を絶望に堕とす事が目的なのか…?」

ジェイムズ「では、その首謀者というのはもしや…」

菊池「そうだ。多分、お前が今考えてる奴で合ってる。」

アリス「え、ちょっと、何!?二人で勝手に納得しないでよ!私にも教えろこのヤロー!!」

…ったく、しょうがねえな。

 

コトダマ提示!

 

【江ノ島盾子】

 

「これだ!!」

 

菊池「… 江ノ島盾子。ソイツが事件の首謀者だ。」

ジェイムズ「美術館の銅像の女性です。初めて拝見した時は、まさか人類史上最大最悪の絶望的事件の首謀者だとは思いもしませんでしたが…」

アリス「じゃあ、そのエノシマなんとかがこのゲームの黒幕なんじゃないの?」

ジェイムズ「…アリスさん。お言葉ですが、それは無いと思います。」

アリス「はぁ!?なんで!?証拠は!?」

ジェイムズ「うぅ…き、菊池さぁん!」

…ったく、しょうがねえな。

助け舟を出してやるか。

 

コトダマ提示!

 

【パソコンの日記】

 

「これだ!!」

 

菊池「情報管理室のパソコンに、日記が書いてあった。おそらく、黒幕が書いた日記だ。そこには、俺達と一緒に合宿に参加していたという内容が書かれていた。…つまり、このコロシアイに限定して言えば、この合宿の参加者の中に黒幕がいるって事だ。江ノ島盾子はそもそも合宿に参加してないし、第一俺が読んだ本によると2年前に死んでるらしいから、このコロシアイの黒幕って線は薄いと思うぞ。」

アリス「そうなんだねー。」

 

モノクマ『うっぷぷぷぷ!オマエラ、時間切れです!』

ジェイムズ「え、じ、時間切れ…?」

モノクマ『そっ!こっちも忙しいから、オマエラの雑談をいちいち聞いてあげられる時間なんて無いの!というわけで、今からボク達も議論に参加するよ!』

モノハム『ぴきゃきゃ!アナタ達は、オイラ達の投げかけた質問に答えていればいいのでちゅ!』

菊池「…直接対決というわけか。」

モノクマ『そういう事!うぷぷ、このボクと対決できて嬉しいでしょ?』

リタ『…別に。』

モノハム『ぴきゃ!冷たいでちゅね!ま、いいでちゅ。始めちゃいまちょうか!前代未聞!黒幕とのガチンコ勝負を!』

 

 

議論開始!

 

 

 

モノクマ『さーてとっ!じゃあボクから第一問!ボクの本名と肩書きは何だったか覚えてるかな?』

黒幕の本名…それは…

 

コトダマ提示!

 

【『超高校級の俳優』嫌嶋隆尋】

 

「これだ!!」

 

菊池「お前の正体は、『超高校級の俳優』嫌嶋隆尋だ!!」

モノクマ『ピンポンピンポーン!!大正解ー!!』

モノハム『じゃあ、オイラから第二問でちゅ!ちょの『超高校級の俳優』嫌嶋隆尋とは、一体誰の事なんでちょうか!?』

菊池「それは…」

モノハム『ぴきゃきゃ、わからないんでちゅか?ま、アナタ達4人の中に黒幕がいるなんて、信じたくないでちゅよね!』

今のモノハムの発言はおかしい!

 

【アナタ達4人の中に黒幕がいる】←【全員分のアリバイ】

 

「それは違うぞ!!」

 

論破

 

菊池「俺達4人の中に、黒幕はいない。」

モノクマ『へぇ。その心は?』

菊池「パソコンの日記には、勝利が学級裁判で負けた事まで書かれていた。つまり、その時から俺達が探索を始めるまでの間、黒幕は情報管理室にいたって事になる。だが、俺達は4人とも裁判場にいた。つまり、ここにいる4人は黒幕じゃないって事だ!!」

モノハム『ぐぬぬ…』

ジェイムズ「では、黒幕は…?」

菊池「…このコロシアイの黒幕は、今までに死んだ奴の中にいるって事だ!!」

モノハム『ぎ、ギクゥ!?』

モノクマ『おいおい!何言いくるめられちゃってんだよ!このポンコツハムスター!!』

モノハム『ひぃいい!!ごめんなちゃあぁい…!』

モノクマ『こんな愚論に踊らされる事無いよ!こんな推理、ハナから間違いだらけなんだからさ!』

菊池「…何?」

モノクマ『今までに死んだ奴の中に黒幕がいる?はぁ!?オマエ、何言ってんの!?幽霊やゾンビじゃあるまいし、そんな事あるわけないじゃん!死んだ奴は死んだ奴!シロなら普通に殺されてるし、それ以外ならこの学園のルールに則っておしおきしてるんですけど!!』

菊池「…でも、そうじゃない奴もいるだろ?」

モノクマ『いるわけねーじゃんそんなの!!ボク達は、常に公平な立場でゲームをしてきたよね!?クロが正解ならクロだけ処刑、それ以外だったらクロ以外全員処刑、ルール違反は問答無用でおしおき!そのルールを破った事があった!?』

今、モノクマは明らかにおかしい発言をした!!

 

【公平な立場】←【ルール違反】

 

「それは違うぞ!!」

 

論破

 

菊池「おい、モノクマ!!お前今、自分達はルールを破ってないって言ってたよな?」

モノクマ『言ったよ!それが何!?』

菊池「…何が公平な立場だよ。俺達の目の前で、明らかな不正をしておいてよ!!」

モノクマ『は、はぁああああ!?何言っちゃってんの!?ボク、不正なんてしてないけど!!』

菊池「いや、お前は明らかな不正をした。今からそれを証明してやる!!」

あったはずだ。コイツらが不正をしたという決定的な証拠が!!

 

コトダマ提示!

 

【エカイラの部屋の映像】

 

「これだ!!」

 

菊池「エカイラの部屋から、ビデオが見つかった。このビデオには、お前が近藤を殺して、その罪を狗上になすりつけるところがバッチリ録画されていた。これを見てもまだ言い逃れする気か?」

リタ『それってつまり…』

菊池「ああ。黒幕は最初に人を殺していたにもかかわらずクロ扱いされず、無実の狗上がクロ扱いされていたんだ。つまり、あの裁判は、お前らによってねじ曲げられた裁判だった。違うか!!?」

モノクマ『だから?ボク達の不正を暴いたところで、肝心の正体はまだわかってないんだろ!?』

菊池「…いや、その正体だが、なんとなく見えてきた。」

ジェイムズ「本当ですか!?」

菊池「ああ。実は、俺が見つけたビデオはこれだけじゃなかったんだ。」

 

コトダマ提示!

 

【おしおきシーン】

 

「これだ!!」

 

菊池「ここに、今までのみんなのおしおきシーンがまとめられている。でもこの映像、偽物が混じっていたんだ。」

リタ『偽物…?つまり、処刑されたと見せかけて実は生きてた人がいたって事ですか?』

菊池「そうだ。嫌嶋隆尋!!お前は、クラスメイトにクロを押しつけた事に加えて、偽のおしおき映像を使った…つまりは、二重で不正をしてたんだよ!!これはどう説明する気だ!?」

モノクマ『あっちゃー、バレちゃったか。だってさぁ!しょうがないじゃん!その方がゲームが面白くなりそうだったんだもん!』

菊池「面白さを重視して自分達がルールを守らないのは、ゲームマスター失格だぞ。もう、お前に逃げ場は無い。観念しろ、殺人犯!!」

モノクマ『ぐっ…』

アリス「で、肝心の黒幕は誰なの?」

菊池「…それは、この紙を見ればわかる。」

 

コトダマ提示!

 

【生徒詳細】

 

「これだ!!」

 

菊池「ここに書いてある事を読めば、黒幕が誰だかわかるはずだ。」

アリス「なんだと!?どこを見ればいいのさ!」

…それは。

 

アリス「え、わかんない…サイノーとかぁ?」

ジェイムズ「死因がヒントになっているのかも…」

リタ『名前とか…』

 

【死因】←【死因】

 

「その意見、賛成だ!!」

 

同意

 

菊池「このコロシアイの黒幕…それは、生徒詳細に書かれている死因がヒントになっているはずだ。」

ジェイムズ「し、死因…ですか?」

菊池「よく見てみろ。1人だけ、死因がおかしい奴がいるだろ?」

リタ『…ホントだ。この人、こんな死に方じゃなかったですよねぇ?』

菊池「そうだ。つまり、ソイツが黒幕って事だ。」

 

 

 

1人だけいたはずだ。

このコロシアイを裏で操る事ができた奴が。

ソイツは、コロシアイで死んだように見せかけて、裏で俺達を絶望に堕とそうと計画していた。

コイツは、生徒詳細に書かれている死因も、おしおきシーンも明らかに不自然だった。

今思えば、全部コイツがやったと仮定すれば全て説明がつく。

…なんで今まで気付かなかったんだろう。

でも、それと同時に正反対の考えもこみ上げてきた。

 

…本当に、コイツが全ての元凶なのか?

 

正直、俺も信じられなかった。

信じたくなんてなかった。

だって、ソイツは、かつて俺に『希望』をくれたから。

一度道を踏み外しそうになった俺を、呼び戻してくれたから。

本心では、俺達を絶望に堕とそうとしていただなんて、信じられるわけがなかった。

俺は、どうか俺の推理が間違いであってほしいと、心の底から祈っていた。

それでも、俺は言うしかなかった。

…なんでお前が…!

 

 

 

人物指定

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の失敗作』伏木野アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級のパティシエ』近藤夏美

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉

 

『超高校級の秘書』速瀬吹雪

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の庭師』郷間権蔵

 

『超高校級の漫画家』織田兼太郎

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の操縦士』狗上理御

 

『超高校級の超能力者』森万羅象

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

『超高校級の死神』伏木野エカイラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、視界に映った遺影を指差して言った。

菊池「…お前が黒幕だったんだな。『超高校級の実況者』猫西理嘉。…いや、『超高校級の俳優』嫌嶋隆尋!!」

 

 

 

…その遺影は、満面の笑みを浮かべる猫西の遺影だった。

 

 

 

 

 

『…うぷぷ。』

 

『うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ!!!』

『ぴきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!!!』

 

 

 

モノクマとモノハムは、狂ったように笑い始めた。

…そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お見事大正解ー!!!『超高校級の実況者』としてこの合宿に

 

参加していた猫西理嘉サン!その正体はこのコロシアイ合宿の黒幕

 

『超高校級の俳優』嫌嶋隆尋でしたぁああーーーーッ!!!」

 

 

 

おしおきで殺されたはずの猫西が、モノクマの席の裏から以前ビデオに写っていた革ジャン姿で現れた。

その瞬間、ファンファーレとともに紙吹雪が舞った。

まるで、俺達の正解を祝福するかのように。

そして、そこから飛び出したかと思うと、猫西の遺影を蹴り飛ばし、証言台の上に仁王立ちした。

そして、俺達を見下しながら、大声で、そして高らかに笑い声を上げた。

 

「あーっはっはっはっは!!!いやぁ、愉快愉快!!よくボクの正体に気づいたね!実に天晴れだよ!!さすがは『超高校級の弁護士』といったところか!!」

ジェイムズ「猫西さん…そんな、本当に貴女が黒幕だったんですか…!?」

嫌嶋「そうだよ。カークランド君。私が黒幕だったの。」

嫌嶋は、すぐに猫西の顔になって、笑顔を浮かべた。

嫌嶋「ねえ、菊池君。あの時、私を庇ってくれてありがとう。…こんな私の事を想ってくれてありがとう。」

嫌嶋は、笑顔のまま俺に近づいた。

 

 

 

 

 

「でもざんねェん!!ボクは、このゲームの黒幕だったんだよ!!」

 

 

 

 

「ッーーーーーー!!」

 

嫌嶋「いやあ、あの時のオマエの顔と言ったらもう…こちとら笑い堪えるの必死だったよ!!…どうだった?ボクの用意した()()()は。名演技だったでしょ??

リタ『ッ…お前…!』

嫌嶋「おっと、そう興奮しなさんな。まだ、絶望するには早えよ。…夜は長い。さァ、存分に終焉(フィナーレ)を楽しんでいこうか『超高校級の絶望』諸君!!ヒャハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コロシアイ合宿生活残り4名+黒幕1名



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第6章 非日常編③(学級裁判後編)

「お見事大正解ー!!!『超高校級の実況者』としてこの合宿に

 

参加していた猫西理嘉サン!その正体はこのコロシアイ合宿の黒幕

 

『超高校級の俳優』嫌嶋隆尋でしたぁああーーーーッ!!!」

 

 

 

 

 

真実は必ずしも正義とは限らない。

真実というものは、時に残酷なものだ。

 

()()は、俺達に、痛烈なまでに現実を突きつけてくる。

俺は、猫西が黒幕だったなんて信じられなかった。

信じたくなかった。

なんで…なんでだよ。

…なんで、俺が気に入った奴はみんな最悪な形で俺から離れていくんだ。

頼むから…

これ以上、俺を絶望させないでくれ。

 

 

 

菊池「嘘だ…そんなの…」

嫌嶋「あははっ、かなり動揺してるみたいだね!ま、そりゃそっか!惚れた女が実は女装男子で、しかも黒幕だったなんて…こんなダブルドッキリってある!?って感じだよね!」

アリス「…!」

嫌嶋「さてと、正体もバレちゃった事だし、答え合わせといこうか。」

ジェイムズ「あ…貴方は、一体何者なんですか…!?」

嫌嶋「ん〜?だから、言っただろ?ボクの名前は、嫌嶋隆尋。『超高校級の俳優』。オマエラにコロシアイを強要した黒幕!ドゥーユーアンダースタァアンド?」

ジェイムズ「な、何故そんな事を…本物の猫西さんはどこですか!!」

嫌嶋「え、何?今更その話?…っはー。」

 

 

 

 

嫌島「…本物なら、オマエラがとっくの昔に殺したくせによく言うよ。」

ジェイムズ「ッえ!?」

リタ『そんな…僕達が、本物の猫西を…殺した…!?」

嫌嶋「おっと、いけね。これ以上は喋っちゃいけないんだった。さてさてさぁて?じゃあ、議論の続きといこうか。」

 

 

 

議論開始!

 

 

 

嫌島「じゃあ、オマエラに質問でーす。」

菊池「質問…?」

嫌嶋「そっ。ズバリ!ボクがオマエラにコロシアイを強要した理由!それはなんでしょうか!?」

リタ『そんなの…知りませんよ!』

嫌嶋「えー、嘘でしょ?ちゃんとヒントはあげたよ?なんでオマエラが、ここで死ななきゃいけなかったのか、ね。」

菊池「俺達が死ななきゃいけなかった理由…だと…!?」

嫌島「じゃあ質問です!!オマエラの正体は一体なんでしょうか!!」

俺達の正体…

…それは。

 

コトダマ提示!

 

【超高校級の絶望】

 

「これだ!!」

 

菊池「…俺達の正体は、『超高校級の絶望』…だろ?」

嫌嶋「そうそう!大正解!!オマエラは、島に来てからしばらくして、絶望に堕ちました!ちょうどオマエラがかつて崇めた江ノ島盾子が『ダンガンロンパ』を始めたあたりかな?オマエラは、彼女の『絶望』に魅了され、79期生のほとんど全員が『超高校級の絶望』になっちゃったってワケ!おわかり?」

リタ『それと今回のコロシアイがどう関係するっていうんですか!?僕達が『超高校級の絶望』だから…世界を滅ぼそうとしたテロリストだから…理由は、それだけなんですか!?』

嫌嶋「チッチッチ。んなワケねェだろ。確かに、オマエラは世界を滅ぼそうとしたテロリスト集団の残党だ。今頃、外の世界では『未来機関』がオマエラを処刑するか洗脳処理するか…まあ、どっちにしろオマエラを血眼で探してる頃だろうね。確かに、ボクが今オマエラを殺せば、ボクは『絶望』を17人殺した英雄になれる。だけどねぇ、ボクも、それだけの理由で人を殺せるほどイカれちゃあいないよ。オマエラとは違ってね。」

ジェイムズ「だったら、何故…」

嫌嶋「はーい、いちいち他人に答えを求めるのはどうかと思いまーす。少しは自分で考えたらどうですかー?」

アリス「元々はそっちが始めたゲームじゃん!無茶振りすんな!!」

嫌嶋「はいド低脳ー。全く、最近の若者は…そうやってすぐに他人に答えを求めて…まだゆとりから抜け出せてないんでちゅか!?」

嫌嶋は、急にモノハムのような口調になった。

嫌嶋「さてさてさぁて?ボクがオマエラにコロシアイを強要した理由はなんでしょー?」

 

考えろ…

コイツが、俺達にコロシアイを強要した理由を…

 

 

 

閃きアナグラム

 

 

 

 

 

頭の中に、言葉の断片が浮かび上がる。

それを、素早く拾って組み合わせ…完成させる!!

 

「これだ!!」

 

 

ヤ ジ マ ユ ウ カ

 

【嫌嶋幽禍】

 

菊池「…嫌嶋幽禍。」

嫌嶋「…あぁ?」

ジェイムズ「え?」

俺は、コイツの目的に関する何かを持っていた筈だ。

 

コトダマ提示!

 

【アリスの写真】

 

「これだ!!」

 

俺は、手に持っていた写真をみんなに見せた。

菊池「嫌嶋幽禍。この女が、お前がこんなバカげた事をした理由なんじゃないのか?」

ジェイムズ「え、ちょっと待ってください。どういう事ですか!?」

菊池「この女もまた、俺達『超高校級の絶望』の被害者だったんだ。きっと、嫌嶋幽禍が『超高校級の絶望』に殺された事…これこそが、嫌嶋隆尋が俺達にコロシアイを強要した最大の理由だったんだ。」

リタ『どういう事ですか?その方が殺された事と、コロシアイがどう関係するんですか!?』

菊池「…それは。」

 

 

 

 

 

嫌嶋の主催したコロシアイ合宿生活の目的は?

A.【金儲け】

B.【復讐】

C.【暇潰し】

D.【才能の強化】

 

 

 

B.【復讐】

 

「これだ!!」

 

菊池「…復讐。これこそが、コイツの目的だ。」

 

ジェイムズ「…え。」

菊池「嫌嶋幽禍は、かつて俺達のクラスの担任だった。…そして、このゲームの黒幕…嫌嶋隆尋の、実の姉だったんだ。」

リタ『じゃあ、まさか…』

菊池「そうだ。コイツが俺達にコロシアイをさせたのは、姉の仇討ちのため…俺達に、自分の姉と同じ苦しみを味わせるためだったんだ。」

ジェイムズ「そんな…」

アリス「…あ。」

ジェイムズ「どうしましたか?アリスさん。」

アリス「…思い出した。私には、おとーさんとおねーちゃんの他に、おにーちゃんがいたんだった。」

ジェイムズ「アリスさんの…兄、ですか?」

アリス「うん。…隆尋。あなたが私のおにーちゃんだったんだね。」

嫌嶋「義理の、ね。たまたま、カムクライズル化したオマエをとっ捕まえたのがボクの親父だったからね。まあ、その時の記憶が戻ったのはちょっと意外だったけど。」

嫌嶋は、ヘラヘラと笑いながら言った。

嫌嶋「…それにしても、オマエラなかなかいい勘してるじゃない。…そうだよ。ボクは、オマエラの担任だった…ボクの姉を殺したオマエラに復讐するためにこのゲームを主催したんだよ。」

ジェイムズ「そんな…復讐のためだけに、私達を殺そうとしたのですか!?」

 

 

 

嫌嶋「…あぁ?」

 

嫌嶋「…だけ、だと?…お姉ちゃんがどんな死に方をしたのか知らないくせに、偉そうな口叩くなよ。」

嫌嶋は、静かに腰から拳銃を取り出して構えた。

その目は、完全に人を殺す奴の目つきだった。

 

嫌嶋「あの人は…オマエラを『絶望』の手から救おうとしたんだよ!!ボクは、クラスのほとんど全員が絶望に堕ちて、もう終わりだと思った。…でも、あの人は、最期まで希望を捨てなかった。あの人は、『未来機関』の一員として、そしてクラスの担任として、必死でオマエラを助けようとしてた!!…だが、オマエラは、彼女を裏切った。卑劣にも、クラス全員で寄ってたかってあの人を殺した…!ボクは、お姉ちゃんを殺したオマエラが…そして、何も出来なかった自分が憎くて憎くてたまらなかった!!…だからあの時、オマエラを同じ目に遭わせてやろうと誓ったんだ。オマエラの本性を記憶ごとリセットして、今まで築き上げた物が全部台無しになるくらい理不尽に、そして残虐に、オマエラの一生を終わらせてやるってな。ははっ、案の定、どいつもこいつも絶望のどん底に堕ちながら死んでったよ。」

嫌嶋は、急に大声で笑い出した。

 

嫌嶋「だが、勘違いするなよ!!これは、オマエラが望んだ結末でもあるんだぜ?オマエラが更なる絶望を望んだから、お望み通り絶望に叩き落としてやったまでだ。オマエラがこうなったのは、他の誰のせいでもない…オマエラ自身のせいなんだよ!!これは、散々人の人生を弄んで快楽に浸ってきたオマエラへの罰だ!!はははっ、あははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 

「ッー!!」

嫌嶋「あー、もう笑いすぎて疲れたわ。じゃあ、そろそろ答え合わせといこうか?問1、黒幕の正体は?問2、黒幕がこの合宿を主宰した目的は?問3、オマエラの正体は?」

ジェイムズ「…黒幕の正体は『超高校級の俳優』嫌嶋隆尋、黒幕の目的は姉を殺した私達への復讐、そして私達の正体は『超高校級の絶望』…これが私達の答えです!!」

嫌嶋「ホントにその答えでオッケー?」

リタ『…はい。』

嫌嶋「あっそう。じゃあ、正解オープ…」

 

 

 

「待て!!!」

 

 

 

嫌嶋「…あ?」

ジェイムズ「…菊池さん…?」

菊池「決断を下すにはまだ早い!!もう少しだけ、議論させてくれ!!」

リタ『でも、今のでもう答えが出たじゃないですかぁ。今更何を議論し合うんですか?』

菊池「確かに、今の推理は一見通っているように思えた。だが、それだとどうしても説明ができない事があるんだ!!」

ジェイムズ「説明できない事…?」

菊池「ああ。」

嫌嶋が全ての元凶だったとするなら、つじつまが合わないんだ。

俺は、その推理を切り崩す証拠を持っているはずだ。

それを提示すれば…!

 

コトダマ提示!

 

【コロシアイの計画書】

 

「これだ!!」

 

菊池「みんな、コロシアイの計画書を思い出してみてくれ。」

ジェイムズ「ああ、情報管理室にあったアレですか。アレがどうしたというのですか?」

菊池「あの計画書、変じゃなかったか?」

リタ『変…?』

菊池「ああ。あの計画書、複数の筆跡で書かれていたんだ。まるで別人が書いたみたいな…嫌嶋が全ての元凶とするなら、計画書に複数の筆跡があるのはおかしいだろ?」

ジェイムズ「確かに…よく気付きましたね、菊池さん。」

菊池「…まあ、俺は仕事柄よく書類には目を通すからな。つまりだ。嫌嶋は、ただ計画書の通りにコロシアイを進めていただけなんだ。多分、コロシアイ自体を計画した、本当の黒幕がまだいるって事だ!!」

ジェイムズ「本当の黒幕…ですか。心当たりはあるのですか?」

菊池「ああ、なんとなくだが、俺は誰が黒幕かわかった気がするんだ。」

本当の黒幕を見つける手がかりになる物を、俺は持っているはずだ。

それを提示すれば…!

 

コトダマ提示!

 

【卒業証書】【記念写真】

 

「これだ!!」

 

菊池「この卒業証書を見てくれ。」

ジェイムズ「え、それがどうしたんですか?」

菊池「これはおそらく、『超高校級の絶望』の誰かが、コロシアイ用に作成した卒業証書だ。…多分、あのアルバムもな。」

リタ『えっと…何が言いたいんですか?』

菊池「…驚くなよ。これ、書いたの多分俺なんだ。」

 

アリス「…え!?」

菊池「でも、俺が黒幕だったにしろ、嫌嶋が黒幕だったにしろ、こんな大規模なコロシアイを持続できるような設備を整えるのは、1人じゃ不可能だ。そこで俺は別の可能性を考えてみた。」

リタ『別の可能性…?』

菊池「この写真…おそらく、これはコロシアイの計画中に撮られた写真だ。」

ジェイムズ「コロシアイの計画中に撮られた写真に写っているという事は…」

菊池「…ああ。これが真実としか考えられない。」

 

 

 

 

 

俺はもう、誰が黒幕だかわかっている。

でも、正直、こんな真実を信じられるわけがなかった。

こんな事あっていいはずがないと思った。

こんなのは、ありえない。

きっと何かの間違いだ。

そう信じたかった。

だが、どう推理しても結局行き着く先は同じだ。

きっと、これが、揺るぎない真実なんだ。

それがたとえどんなに歪んでいたとしても、俺達は受け入れるしかない。

 

 

 

 

人物指定

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の失敗作』伏木野アリス

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級のパティシエ』近藤夏美

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉

 

『超高校級の秘書』速瀬吹雪

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の庭師』郷間権蔵

 

『超高校級の漫画家』織田兼太郎

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の操縦士』狗上理御

 

『超高校級の超能力者』森万羅象

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

『超高校級の死神』伏木野エカイラ

 

『超高校級の俳優』嫌嶋隆尋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

→『超高校級の弁護士』菊池論

『超高校級の失敗作』伏木野アリス

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

『超高校級のパティシエ』近藤夏美 

『超高校級の実況者』猫西理嘉

『超高校級の秘書』速瀬吹雪

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

『超高校級の演奏家』小川詩音

『超高校級の庭師』郷間権蔵

『超高校級の漫画家』織田兼太郎

『超高校級の幸運』床前渚

『超高校級の操縦士』狗上理御

『超高校級の超能力者』森万羅象

『超高校級の弓道部』射場山祐美

『超高校級の外科医』神城黒羽

『超高校級の死神』伏木野エカイラ

『超高校級の俳優』嫌嶋隆尋

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…このコロシアイの真の黒幕…それは、この合宿の参加者全員だ。」

 

ジェイムズ「んなっ…!」

アリス「そんな…」

リタ『嘘でしょ…』

 

嫌嶋「…ふふ、あはは…あーっはははははははははははははははははははははははははははっははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!」

嫌嶋は、その場で大笑いした。

そして、パチン、と指を鳴らした。

すると、モニターが上から降りてきた。

モニターの電源が付く。

 

 

 

 


 

 

 

『お見事大正解ー!!!このコロシアイ合宿の真の黒幕は…

 

コロシアイ合宿参加者全員でしたぁあーーーッ!!!』

 

 

 

モニターに映った18人が、口を揃えて言った。

その中には、無論、俺の姿もあった。

菊池『あっはは!お前ら、よくもまあまんまと騙されたもんだな!嫌嶋が用意した()()()によぉ!!』

 

モニターに映った“俺”は、高らかに笑いながら言った。

ジェイムズ「つ、作り話…!?」

 

ジェイムズ『まだ気付いていらっしゃらないのですか?嫌嶋さんのお姉様のくだりは、全部最終裁判を盛り上げるための嘘だったんですよ。情報管理室の写真や手帳、そしてアリスさんに植え付けられた記憶は全部偽物、本当は『嫌嶋幽禍』なんて人物は最初から存在しなかったんです。』

嫌嶋『いやあ、我ながらよくこんな臭いシナリオ思いついたもんだわ。ボクに姉?笑わせんなw』

エカイラ『ちょっとお。アンタのプラン、アタシの負担が大きすぎんのよ!!もうちょっと仕事量減らしなさいよ!』

玉木『おい、お前ら喧嘩すんなって!ただでさえ生き残りの奴等が、何を見せられてるのかわかんねぇ状態で頭の中が?まみれなんだからよ!』

 

ジェイムズ「何を仰って…」

 

猫西『だーかーらぁ!君達が信じてた物は、全部嘘だったの!』

速瀬『具体的に言ってしまえば、今まで配られた動機の全て、そして貴方方の記憶の一部ですね。コロシアイを盛り上げる為、皆様の記憶に

一部脚色を混ぜたのでございます。』

森万『フッ。ちなみに、俺様が孤児院で育った事や、速瀬の父親が詐欺師に殺された事、そして玉木の恋人の話は真っ赤な嘘だぞ。…まあ、残念な事に、俺様がペテン師というのは事実なんだがな。』

リタ『もちろん、『絶望』から逃げるために島に逃げてきたというのも、嘘ですよぉ〜。実際はその逆…79期生全員でコロシアイをするためだけに、この島に来たんですよぉ〜。』

狗上『っははは!!ホントに、記憶を勝手にいじれるって便利だよなぁ!!いやぁ、装置の開発者の俺としちゃあ、テメェらの3年間の記憶をいじりまくるのはスゲェ楽しかったぜ!』

小川『先輩ったら、調子乗ってみんなでクルーザーで旅したり、お誕生日会やったりなんて気持ち悪い記憶を編集したりしてたっスけどね。』

神城『ぎゃはははは!!!誰がいるかそんなキメェ記憶!!そんなゲロみてぇな汚物は便所にでもブチこんどけ!!』

射場山『ホント、あんた達バカじゃないの?何が希望よ。そんなの、私達にあるわけないでしょ。』

郷間『がっはははははははは!!!お前ら、ちゃんと絶望してるか!!?兄弟同士、仲良く絶望しようぜ!!!』

織田『ムフフ、もし美しいレディが生き残っているんだったら、是非ともその絶望に満ちた顔を拝みたいものでありまするぞ!』

近藤『みんな、ウチが用意した『絶望』はちゃんと堪能してくれてる?あはは、それはね?ウチの自信作なんだぁ!名付けて、『絶望・ア・ラ・モード』!なーんてね!』

床前『えへへ…もしもし、論さん?生きてますか?何もかもが嘘だったわけですけど、私の論さんに対する愛だけは本物ですよ。そうだ!もし私とあなたが生き残ったら、私達の子供を作って、コロシアイをさせませんか?』

ジェイムズ『ナイスアイデアですね、床前さん!リタさん、もし2人で生き残ったら、私と一緒にいかがですか?なーんてね。』

アリス『にゃっぱぱー!!あーちゃんはねー、みんなとコロシアイするのがすっげー楽しみなんだぁー!もう脳汁噴射してエウロパブチ抜いちゃってエントロピーがハジケちゃいそう!!』

 

そこには、俺達の知る仲間は誰一人としていなかった。

彼らが口々に語るのは、『全部嘘だった』という事実だった。

 

 

 


 

 

 

菊池「…。」

ジェイムズ「そんな…嘘、ですよね…?」

嫌嶋「現実だよ。あ、さっきまでのオマエラの推理、アレは完全に的外れだから気にしなくていいよ!ボクは、このゲームが楽しければそれでいいんだもんね!…さっきのアレ、名演技だったでしょ?」

リタ『そんな…全部嘘だったなんて、そんなの、アリですか…?』

嫌嶋「アリもシロアリもナシもリンゴもないの!とにかく、これがオマエラの求めてた“真実”なんだよ。いい加減認めろよ。」

アリス「そんな…私が、コロシアイを…?そんなの、嘘だ…!!」

嫌嶋「あっそう。嘘だと思うなら、返してあげるよ。本物の記憶をね。」

 

嫌嶋は、俺達に記憶改竄装置の銃口を向けた。

そして、一人一人に向かって発砲する。

 

 

 

封印されていた記憶が、蘇る。

頭の中を、膨大な量の情報が駆け巡り、頭が追いつかなくなりそうだった。

これが、俺の、本当の記憶ー…

 

 

 


 

 

 


 

 

 


 

 

 

 

 

 

「あーあ、最近殺しすぎて数減ってきちゃったな。どうしよっか?」

「あんたが手当たり次第殺すからでしょうが。元々200人くらいいたのに、もう17人になっちゃったじゃない。バカなの?」

「確かに…もう殺せる人数が少なくなってきてしまいましたね。」

「うーん、なんかいい方法無えかなぁ。…あ、そうだ。」

「何か思いついたのですか?菊池さん。」

「江ノ島盾子様がやってたゲームあるだろ?あれを俺達でやるんだよ!」

「ああ、ダンガンロンパだっけ?確かに、普通に殺すよりはエンタメ的な要素があっていいかもね。」

「だろ!?」

「なんだ菊池!お前、やっぱ頭良いな!じゃあこのコロシアイは、お前が主催って事でいいな?」

「えー。俺、演技力皆無だから黒幕とかキツいんだがなぁ。」

「だったら、ボクが黒幕役やるよ。」

「いいのか?」

「演技なら誰にも負けない自信あるし。それに、ちょっと面白い考えがあるんだ。」

「面白い考え?」

「うん。ボクが猫西ちゃんに変装して、記憶が無くなった菊池クンを色仕掛けでオトして、いい感じの雰囲気になったところで正体バラしてはい絶望ー!!っていうのはどう?」

「おいおい、なんだそのジョークは。お前でも、女装してたら流石に気付くってw」

「いいじゃーん。絶対ボクの変装でヌかせてやるから見てろよ!」

「いいから早く準備せいw」

っと、コロシアイの舞台の設置は完了っと。

あとは、嫌嶋に記憶を消してもらうだけだな。

フフッ、記憶がなくなった後、コロシアイをするのかと思うと胸が躍るなぁ!

ははっ、ははは…あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは…!

 

 

 

 

 


 

 

 

嘘だ。

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ

 

 

 

ジェイムズ「そんな…こんな事って…私は、一体今まで、何の為に…!」

リタ『いや…いやぁ…!ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

いやだいやいだいやだいやだいやだいやだ…お願いします、許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください許してください…!!』

アリス『これが、私の記憶…そんな、嘘だ…こんなのって…!』

嫌嶋「あっははは。みんな、想像以上に面白いリアクションしてくれるじゃない。ねえねえ、今どんな気持ち?罪悪感で押し潰されそう?それとも、また絶望できて嬉しい?ねえ、教えてよ!」

菊池「…。」

ジェイムズ「…。」

アリス「…。」

リタ『…。』

嫌嶋「ちょっとぉ、誰一人として聴いてないんだけど!まあいいや!じゃあ、今回のコロシアイ合宿の振り返りといこうか!」

 

 

クライマックス推理

 

 

 

 

 

Act.1

まず、事の発端は、ボク達79期生全員が、『超高校級の絶望』江ノ島盾子様によって絶望に堕ちた事だった。ボク達は、さらに絶望的なシチュエーションを求め、79期生全員で誰にも見つからない離島に行ったんだ。そして、そこで思う存分コロシアイを始めた。

 

Act.2

でも、そこである問題が生じてしまったんだ。その島の生徒達が、あまりにもクラスメイトを殺しすぎて、対して絶望しないままクラスメイトの数だけ減るっていうツマンナイ問題が出てきちゃったわけだね!そこで、『超高校級の弁護士』菊池論は、コロシアイと学級裁判をやる事を提案したわけ!

 

Act.3

そして島で生き残った生徒達は、計画書を作成して、その通りにコロシアイの準備を進めたわけ。もちろん、自分達ではどうしようもない部分は、協力者に助けてもらったりとかもしてね。そして狗上クンは、コロシアイをする上で重要な記憶改竄装置を作ってくれたんだ!

 

Act.4

それで、黒幕役に選ばれたボクは、その装置を使ってみんなに嘘の記憶を植えつけて、コロシアイの計画をしてた間の記憶は全部消したわけ。あとは、すでにコロシアイで死んだ猫西ちゃんの格好をして合宿のメンバーに紛れ込めば完璧ってわけね!

 

これが事件の真相だよ。

 

ボク達は、全員が黒幕で、全員がさらなる『絶望』を求めて嘘まみれのゲームを作った、『超高校級の絶望』だったんだよ!!

 

…そうだろ?

 

 

 

『超高校級の弁護士』菊池論!!!

 

『超高校級の失敗作』伏木野アリス!!!

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド!!!

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン!!!

 

 

 

「ッーーーーーーー。」

 

俺達は、信じたくもない真実を突きつけられた。

今まで俺達が信じていた物全てが、虚構だった。

それを知った今、俺達の中にあるのはただ一つ、

『絶望感』だった。

 

 

 

嫌嶋「さてと、黒幕の正体も目的もわかった事だし、そろそろオマエラの処遇を決めたいと思います!手元にあるボタンを押して、投票を行ってください!投票内容は、至ってシンプルです!『生きたい』か、『死にたい』か!もし『生きたい』を選べば、この島から外に出してあげます!もちろん、その後がどうなろうと知ったこっちゃないけどね!逆に、『死にたい』を選べば、素敵なおしおきをプレゼントします!オマエラ、今まで投票で人の命を生贄にしてきただろ?最後くらい、死に方くらいは選ばせてやるよ。」

 

「…。」

俺は、証言台のボタンを睨んだ。

どちらを選ぶかなんて、考えるまでもない。

俺は、即座にボタンを押した。

 

嫌嶋「うぷぷ、オマエラ、最終裁判だってのに、やけに決めんのが早いじゃん!さてさてさぁて?ではでは、お待ちかねの結果発表ー!!」

 

 

 

モニターに、スロットマシーンが現れる。

そして、俺達の顔の下でリールがクルクルと回る。

徐々に回転速度が遅くなって、ついに止まった。

「…。」

俺はただ、投票結果を呆然と見つめていた。




V3のオチが好きだったんで、今回のオチはこんなオチを採用しました。
最初からこんな感じのオチにするつもりで書いてました。
…すみません。半分嘘です。
最初っからクズしか登場させない気で書いていましたが、今回のオチは、話を書きながら色々考えた末に思いつきました。
最初は復讐モノのつもりで書く予定でしたが、どう頑張っても黒幕君の小物感が拭えなかったので、もうそっち路線は諦めて思いっきり路線変更しちゃいました。


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第6章 非日常編④(おしおき編)

いよいよ論リゾも最終回が迫ってまいりました!
次回最終回です!



「…あれ?」

 

 

 

俺の名前は菊池論(キクチ サトシ)。『超高校級の弁護士』として、この春から希望ヶ峰に進学する予定だった。

 

だが、どういうわけか、今は何故か砂浜にいた。

 

 

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ここはどこだ。

 

 

 

“俺”はどこから来たのだろうか。

 

“俺”はどこに向かうのだろうか。

 

何も、思い出せない。

 

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目の前の全てがぼやけて、攪拌されていく。

 

あれからどれだけの時間が経っただろうか。

 

俺は今まで何をしていたのだろうか。

 

 

ワカラナイ。

 

“俺”は、一体誰だ?

 

 

「はははっ、このセカイが絶望に染まっていく…考えただけで心が躍るね。そう思わない?菊池クン!」

 

 

…なんだこれは。

 

頭が痛い。

 

この声は、誰だ…?

 

「あーちゃんはねー、もっとみんなにゼツボーしてほしいんだー。サトにいもそう思うでしょ?」

 

「おい菊池!俺達は、仲間だよな?絶望同士仲良くしようぜ!」

 

「ウチの用意した絶望をたっぷり味わってね!菊池っち!」

 

「菊池様、共に皆様を絶望に堕としましょう。」

 

「菊池君!このセカイが、絶望一色になったら、もっとステキになると思うでしょ?」

 

「菊池さん、貴方はここにいる誰よりも絶望的です。だから、私は貴方をもっとよく知りたいのです。」

 

「ふわぁ〜。眠くてもう何もかもどうでもよくなっちゃいましたぁ。菊池、一緒に絶望しませんかぁ?」

 

「たっはー…!先輩、さすがっスね!人を絶望に堕とす時は容赦ないっスね!」

 

「がはははははははは!!おい、弟!!兄弟同士、仲良く絶望しようぜ!!」

 

「かったりぃ…けどよ、テメェのそのイカれ具合だけはサイコーだぜ?」

 

「菊池さん。私があなたを好きになったのは、誰よりも狂っていて、救いようのないくらい絶望的だったからです。私は、共にあなたと絶望したいです。」

 

「ムフフ、菊池殿!絶望に堕ちたレディの顔は最高ですな!一緒に拝みませぬか!」

 

「フッ、さすがの俺様も、貴様には負けたよ。やはり貴様は、『超高校級の絶望』と呼ぶのに相応しいな。」

 

「…ん。みんな、絶望に堕ちたね。良かったじゃん菊池。」

 

「ギャハハハハハハハ!!!おいモブ!!テメェの絶望には、神である私も完敗だぜ!褒めて遣わす!!」

 

「ウフフ、絶望的な顔もカワイイわよ、サ、ト、シ、ちゃん!」

 

 

 

 

 

…そうだった。

思い出した。

俺は…いや、この島にいた奴全員がこのコロシアイの黒幕で、『超高校級の絶望』だったんだ。

俺達には、最初から希望なんて無かった。

俺達のこの先なんて、もうわかり切った事だった。

…俺達は。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

俺は悩まなかった。

これ以外の選択肢が無いと思った。

俺は、スロットの画面を見つめた。

 

 

 

…ああ、なんだ。やっぱりみんな同じ事考えてた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DEAD

 

 

 

 

 

スロットに表示されていたのは、その4文字だった。

 

「ふふふ…ははっ、あははははっ…」

『はは…あははは…』

「はははははっ…あはははははははははは…!」

みんな、スロットを見ながら笑っていた。

その表情は、絶望に染まっていた。

 

「うぷぷぷぷぷ!いやあ、みんな!ボクは嬉しいよ!まさか、全員DEADボタンを選んでくれるなんてね!さっきまで、外に出るとか言ってたくせにね!自分の本性を思い出した途端これだよ!」

もう、俺にとっては、外に出る事なんてどうでも良かった。

今までやってきた事…その全てが無意味だった。

俺達に希望なんてない。

それを思い出した今、俺達に残された選択肢は『死』…それだけだった。

 

 

 

「あははははははっ!!いやあ、愉快愉快!!オマエラに未来なんてあるわけないじゃん!元々心中するつもりでこの島に来たんだからさぁ!みんな、最期に何か言い残す事はない?まあ別にボクもこの島から出る気無いから、聞いたところでだから何?ってなっちゃうんだけどさぁ。どうしても言いたい事があるなら聞いてあげてもいいよ!」

「…。」

「なーんだ、みんな未練が無いのね!それじゃあ、おしおき始めちゃおっかぁ!!」

「…待て。」

「ん?何さ菊池クン。まさか、今更命乞いする気じゃないでしょうねぇ!?」

「…違う。できれば、俺を最初に処刑してくれ。」

「え、いいの?」

「…ああ。早く死にたいんだ。」

「あっそう。まあいいでしょう!ここまで頑張ったご褒美に、オマエをトップバッターにしてあげる!せいぜい、みんなの前で凄惨に散りな!!」

「…そうか。」

「じゃ、おしおき始めちゃうよー!!」

「はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは…」

「今回は、『超高校級の絶望』の皆さんのために!スペッシャルなおしおきを用意しましたっ!!…ではでは、おしおきターイム!!」

 

 

 

 

 

 

「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

GAME OVER

 

キクチくんがクロにきまりました。

 

オシオキをかいしします。

 

 

 

GAME OVER

 

カークランドくんがクロにきまりました。

 

オシオキをかいしします。

 

 

 

GAME OVER

 

フシギノさんがクロにきまりました。

 

オシオキをかいしします。

 

 

 

GAME OVER

 

アンカーソンさんがクロにきまりました。

 

オシオキをかいしします。

 

 

 


 

 

菊池の首をアームのようなものが掴み、菊池は奥の部屋へと引きずられる。

引きずられた先をよく見てみると、どうやら法廷のようだった。

裁判員席と傍聴席には、菊池の家族、そして今まで合宿を共に過ごした仲間達を象った人形が置かれていた。

菊池は、無理矢理被告人席に立たされる。

そこで文字が表示される。

 

 

 

絶望裁判

 

【超高校級の絶望】菊池論 処刑執行

 

 

 

裁判長の格好をしたモノクマが木槌を叩くと、検察官の格好をしたモノハムが菊池を散々罵倒する。

菊池は、思わず反論した。

論理的で正当な発言で、モノハムを追い詰めていく。

するとモノハムは論破されたのか、悔しそうな顔をした。

…と思いきや、いきなり話を180°方向転換して、全く別の罪について問いただした。

菊池は、これにも反論した。

モノハムは、論破されるとまた別の罪を問いただす。

すると菊池が反論する。

尋問、反論、尋問、反論、尋問、反論…その繰り返しだった。

しだいにモノハムの尋問の内容が正論化し、菊池も反論しづらくなってくる。

さらには何百回と繰り返された尋問と反論の繰り返しで、菊池は疲弊していた。

声は枯れ、舌は攣って、声を出すたびに喉から血が滲んだ。

そしてついに、何も言い返せなくなった。

菊池は、ついにモノハムが言った事を正しいと認めた。

モノハムは、クスクスと笑いながらモノクマの方を見る。

するとモノクマはうなずいて、紙に何かを書いた。

そして、モノクマは木槌を叩いて紙を広げた。

そこには、『有罪』と書かれていた。

菊池は、鉄の十字架に磔にされる。

モノクマが何かのボタンをいじると、十字架が振動し、赤く変色した。

十字架から煙が出始め、菊池は苦悶した。

十字架は煙を上げ、菊池の身体を蝕んでいく。

熱した十字架が肌を灼き、血が滲んで滴り落ちる。

尋常じゃない量の汗が出るも、全て十字架の熱で蒸発し、白い煙を上げる。

灼けつく痛みが全身を襲い、叫ぶ事すらままならない。

服は焦げて血塗れになる。

 

それを見ていた人形達は、菊池に罵声や笑い声を浴びせる。

さらには、磔にされている菊池にゴミを投げる。

だんだんとエスカレートしていき、植木鉢や消火器、手裏剣といったものまで投げられた。

そこには、菊池の妹もいた。

菊池の妹は、酒瓶を思いっきり兄の顔目掛けて投げる。

酒瓶は菊池の顔に当たって割れ、菊池の顔にはガラスが刺さった。

それでも、十字架は容赦なく菊池の身体を灼き続ける。

菊池は、背中は十字架で灼かれ、正面は投げられたゴミや凶器で怪我を負い、満身創痍だった。

 

人形がゴミを投げるのをやめた頃、菊池は事切れた。

彼の死を見届けた人形達は、勝訴と書かれた紙を掲げ、大喜びした。

菊池の顔は、凄惨な死に絶望したのか、わずかに笑っていた。

 

 

 

 

 


 

ジェイムズの下の床が開き、ジェイムズは下へと落ちる。

ジェイムズは、落ちた先をよく見回した。

そこは、大学の講義室のような部屋だった。

席には、ジェイムズの家族、そして今まで合宿を共に過ごした仲間達を象った人形が置かれていた。

そして、一番前の席には、学生の格好をしたモノクマとモノハムがいる。

そこで、文字が現れる。

 

 

 

Unsolvable Questions

 

【The Ultimate Despair】James Doyle-Kirkland‘s Execution

 

 

 

ジェイムズの目の前の黒板に、問題が書き出される。

名門大学の学生ですら解けないような、超高難易度の計算を必要とする数学の問題だった。

「Ah…」

ジェイムズは、問題を見た瞬間に解法を思いつき、暗算で正解を導き出した。

一方、席に座っている人形やモノクマ達は全くわからない様子だった。

モノクマは、ノートと黒板を交互に見ながら、机をバンバンと叩く。

さらには舌打ちをする人形や、船を漕ぐ人形がいた。

「Ah…I see.」

ジェイムズは、戸惑いながらもこの状況で何を求められているのかを理解した。

ジェイムズは、自分が思いついた解法を、黒板に書いて説明した。

普段生徒達に教えている要領で、わかりやすく正確に、そしてスピーディーに教えた。

するとリタ人形が舌打ちをし、持っていた三角定規をジェイムズ目掛けて投げた。

定規が頬を掠め、頬に赤い線ができる。

ジェイムズは、慌てて書いたものを全て消し、さらにわかりやすく解説した。

それでも理解できなかった人形は、今度は筆箱を投げた。

硬い筆箱がジェイムズの頭に当たり、シルクハットが落ちて額からは血が流れた。

ジェイムズは、最初の解法を説明するのを諦め、別の解法を探した。

より簡単で、高校生でも使えるような計算式のみを使った解法に切り替えた。

すると、一部の人形は理解ができたのか、文具を投げるのをやめた。

しかし、それでもまだ文具は投げられ続けた。

ジェイムズは、とても困惑し、数式を書く手が震えていた。

ジェイムズが今まで教えてきた生徒は、賢くて物分かりの良いエリートばかりだった。

ここまで物分かりが悪く、態度が悪い生徒を大勢教えるという経験が無いジェイムズにとっては、人形達に難しい問題の解法を教える事は、大学の卒業試験で満点を取るより数倍困難な事だった。

怒ったモノハムが、コンパスを投げた。

コンパスが手に刺さり、突き刺すような痛みに思わずジェイムズは持っていたチョークを落として折ってしまう。

するとモノクマは、チョークが装填されたガトリングガンを構えた。

それを見たジェイムズは、顔を真っ青にして声を漏らした。

 

Oh my God(神様)…」

 

その引き金が今、引かれようとしていた。

 

 


 

 

リタは、アームで首を掴まれて上へと引きずられた。

リタは、引きずられた先をよく見回した。

そこは、国際会議場のような場所だった。

そこには、外務大臣の格好をしたモノクマとモノハムがいた。

円形のテーブルの周りの椅子には、各国の外務大臣を象った人形が座っており、その周りの椅子にはリタのの家族、そして今まで合宿を共に過ごした仲間達を象った人形が置かれていた。

リタは、無理矢理空いている椅子に座らされた。

そこで文字が浮かび上がる。

 

 

 

THE WORLD IS HOPELESS

 

【The Ultimate Despair】Rita Ankerson’s Execution

 

 

 

大臣人形達は、様々な言語で話し始める。

そして、意見をリタに求めてくる。

リタは、聞かれた事を瞬時に理解し、答えた。

すると、モノクマが注射器を取り出し、リタの腕に刺した。

その瞬間、眠気がリタを襲った。

どうやら、注射器の中身は即効性の睡眠薬だったようだ。

リタは、会議中にウトウトした。

すると、モノハムがハリセンでリタの頭を勢いよく叩いた。

勢いのあまり、リタの顔はテーブルにめり込んだ。

リタは、叩かれた痛みで目を覚ます。

そして、また人形が質問をしてきた。

しかし、眠気でうまく答えられない。

すると、今度はモノクマがハリセンでリタを叩いた。

リタは、激痛で目を覚ます。

リタは、慌てて質問に答えた。

質問、叩く、答える、質問、叩く、答える…

その繰り返しだった。

リタは、ついに睡魔に負け、質問に答えられなくなった。

すると、大臣人形や周りの人形は、リタに罵声を浴びせ始めた。

モノクマは、テーブルの上のボタンを押した。

するとリタは下に落ち、十字架に磔にされた。

あたりは、どうやら荒野のようだった。

リタが目を覚ますと、信じがたい光景が目に飛び込んできた。

モノクマとモノハムを載せたミサイルが、リタ目掛けて飛んでくる。

リタは、顔面蒼白になった。

 

「…。」

 

そして、ミサイルがまさに撃ち込まれようとしていた。

 

 

 


 

 

アリスの下の床が開き、アリスは下に落ちる。

アリスは、落ちた先をよく見回した。

そこは、ふしぎの国のアリスの世界ような場所だった。

おかしな植物が生い茂り、ハートの女王の格好をしたモノクマと、帽子屋の格好をしたモノハムがアリスの方を見ながらニヤニヤ笑っている。

周りにいる動物達やトランプ兵達をよく見てみると、どれも今まで合宿を共に過ごした仲間達に顔をしていた。

アリスは、巨大な時計の針の上に座らされる。

そこで、文字が浮かび上がる。

 

 

 

アリス・イン・ホープレスランド

 

【超高校級の絶望】伏木野アリス 処刑執行

 

 

 

女王モノクマは、笑いながらパチン、と指を鳴らした。

すると、時計の針が高速回転し始める。

アリスは、逃れようとするが、時計の針に拘束されていて動けない。

時計の針はどんどん回転速度を上げていく。

アリスは、顔を真っ青にして、目を回していた。

女王モノクマは、それを見て大笑いしていた。

すると、帽子屋モノハムは、フラミンゴを呼び、その首を掴んだ。

そして、フラミンゴをアリスめがけてフルスイングした。

アリスの身体にフラミンゴが直撃し、アリスは時計の針から吹っ飛ばされる。

すると今度は、目の前に白い薔薇の木が現れる。

女王モノクマは、何かをトランプ兵達に命令した。

すると、トランプ兵達を指揮していたスペードのエースが、真っ赤な薔薇の木を指差した。

それを見たトランプ兵達はうなずき、様々な種類の拷問器具を持ってきた。

自分がこれから何をされるのかを悟ったアリスは、顔を真っ青にしてカタカタと震えた。

トランプ兵の一人が、アリスの腕を引っ張り、ベルトで拘束した。

そして、他のトランプ兵一人が、斧を振りかぶった。

 

「いやだ…誰か、助け…」

 

その斧が今、振り下ろされようとしていた。

 

 

 


 

 

 

 

 

 

ブーッブーッブーッ

 

 

 

3人のおしおきを執行していたモノクマとモノハムから、変な音が流れた。

そして、3人の目の前で爆発した。

 

「…は!!?」

 

3人のおしおきの会場が、ガラスのように割れ、3人は元の裁判場に戻ってきた。

想定外の出来事に、嫌嶋は動揺した。

「なんだこれは…何がどうなってる!?こんなの、ボクのシナリオには無かったぞ!!」

 

「…フフッ。」

「おい、なんだこれは!!オマエ、何笑ってんだ!!これは一体どういう事だ!!」

「…嫌嶋さん。」

 

 

 

 

「まんまと罠にかかりましたね。」

「…は!?」

「…初めからわかっていましたよ。どのみち貴方が私達全員を殺す気だった事はね。24時間、私達がただ捜査を進めているだけだと思いましたか?こうなる事は全部私達の…いえ、菊池さんの計画通りだったんです。」

「は!?バカ言ってんじゃねえ!!計画通りだと!?ふざけるな!!ボクの計画が…『超高校級』のみんなの計画が、失敗するわけがないんだ!!」

「このコロシアイを終わらせる一番手っ取り早い方法…菊池さんは、それに気付いていらっしゃいました。だから、先手を打っておいたのです。…全ては、嫌嶋さん。貴方に勝つためだけにね。」

「ボクに…勝つだと?何ワケわかんねェ事言ってんだよ!!これはどういう事か説明しろっつってんだよ!!」

「菊池さんは、記憶改竄装置によって殆ど全ての記憶を改竄されました。…しかし、一つだけ改竄されていなかった記憶があったんです。」

「改竄されなかった記憶だと…!?」

「…物を作った本人なら、当然壊し方も知っています。菊池さんが唯一持っていた絶望時代の記憶…それは、『このゲームの設計図』です!」

「…は!?」

「菊池さんは、操作時間中にそれを思い出しました。だから、自分の命を懸ける覚悟で、このゲームを内側から壊す準備をしていたんです。菊池さんが最初に処刑されたのは、破壊装置が作動するまでの時間稼ぎです。」

「なっ…ふざけるな!!ボク達は、何のためにここまで頑張ってきたと思ってる!?」

嫌嶋は、おしおき用のスイッチを何度も押す。

「無駄だよ。もう、おしおきは発動しない。あなたの負けだよ。」

「くっ…自分で作ったゲームを自分で壊すなんて、バカげてる…それでもオマエラ、『超高校級の絶望』かよ!!?」

 

「違うよ。」

「…は?」

「前はそうだったかもしれない。でも、私達はもう『超高校級の絶望』じゃない。」

「嫌嶋さん、貴方が私達に与えた物は絶望ではありません。もう一度やり直すチャンスです。」

「はぁ!?チャンスだと!?ふざけるのも大概にしろ!!オマエラは、今までどれだけ殺したと思ってる!?たとえ記憶が消えたとしても、オマエラの犯した罪はなかった事にはならないんだよ!!今更やり直せるわけねェだろ!!」

「確かに、一度犯してしまった罪はなかった事には出来ません。…しかし、それを償う事は出来ます。たとえどんなに時間がかかったとしても、私達は取り戻します。…それが、今まで犠牲になった方々への償いです。」

「こんなところで死ぬなんて許されない。生きて償う。それが私達の責任だよ。」

「…生きて償う、だと…?」

「さあ、嫌嶋さん。私達と共に生きましょう。私達なら、きっとやり直せます。」

「…プッ。」

 

「ハハハ…アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

「!!?」

「いやあ、見事なまでの理想論だ!愉快愉快!!まさか、あんなに絶望に満ちていたオマエラがそんな事を言うなんてね!人間、記憶が無くなったらどうなるかなんてわからないもんだね!…でも、今まで何年もかけて綿密に作り上げた計画が、一瞬にしてパアになる絶望もまた一興…まあ、これも江ノ島盾子様の受け売りだけどね。」

「嫌嶋さん…」

「残念だけど、キミ達の要求は呑めないな。ボクは、『超高校級の絶望』だ。最期まで、絶望してたいんだよ。…それに。」

 

「ガフッ…」

嫌嶋は、急に血を吐いた。

「嫌嶋さん!!?」

「…ボク、実は持病持ちなんだよ。計画を始めた時点で、ボクの寿命は残りわずかだった。だから、死ぬ前に一度ゲームの黒幕としての絶望を味わってみたかった。だから黒幕役に立候補したんだよ。」

「嫌嶋さん!!しっかりしてください!!」

「あーあ。オマエラに負けるなんて、なんか癪だな。だがまあ、負けは負けだ。…さっき、島の周りの壁を解錠した。港に停まってるクルーザーでここから出られるから、ここから出て罪を償うなり、残りのメンバーでコロシアイをするなり好きにしなよ。」

「嫌嶋さん!!」

「…バイバイ、みんな。」

「嫌嶋さん…!?嫌嶋さん!!」

「…もう、死んでるよ。」

「そんな…」

「…。」

 

「ん?」

「どうしましたか、アリスさん。」

「…これ、何の音?」

「え…っていうか、揺れてませんか!?」

「…!?」

「…あっ!」

ジェイムズは、嫌嶋の内ポケットに入っている手紙を読んだ。

 

 

 

拝啓

『超高校級の絶望』諸君。

ちゃんと絶望してくれてるかい?

あ、そうそう。

言い忘れてたけど、万が一ボクが負けた時のために、裁判が終わってから数時間経ったらこの島が沈むように設計してあるから。

逃げたいなら早く逃げた方がいいよ〜。

 

『超高校級の絶望』一同より

 

 

 

「な、なんなんですかその余計な仕掛けは!!」

「にゃあああああああ!!ヒロにいの野郎、最後の最後にいらん仕掛けしやがって!みんな、走るぞー!!」

「はい!って、揺れが酷くて走りづらいんですけど!」

「文句言うな!とにかく走れ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

ーーーーーー暗く、冷たい水の底。

 

計画も、思い出も、何もかもが深く、深く沈んでいくーーーーーー。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っはー…ギリギリセーフ…」

「いやあ、間一髪でしたね…」

「ホントだよ。壁から抜けた途端に、壁ごと全部海に沈んじゃってさぁ!」

「…。」

「…ねえ、私達、これからどうなるのかな?」

「そうですね…まずは、自首しましょう。」

「…げ。捕まるって事?せっかく生き残ったのに、そんなのアリー!?」

「アリスさん、私達は、許されない事をしました。まずは、それを償わなければなりません。」

「そうだけどさー。あうー。外に出たらいっぱいパンケーキ食べるつもりだったのにー。」

「おしおきで殺されなかっただけ良かったではありませんか。…そうだ、もし釈放されたら、その時はパンケーキを奢ってあげますよ。」

「ホント!?」

「ええ、約束です。」

「わーい!」

 

 

 

「…皆さん、無事脱出できましたよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー合宿参加者名簿ー

 

 

『超高校級の操縦士』狗上理御

 

『超高校級の弓道部』射場山祐美

 

『超高校級の演奏家』小川詩音

 

『超高校級の漫画家』織田兼太郎

 

『超高校級の弁護士』菊池論

 

『超高校級の外科医』神城黒羽

 

『超高校級の庭師』郷間権蔵

 

『超高校級の実況者』猫西理嘉

 

『超高校級のパティシエ』近藤夏美

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級のサッカー選手』玉木勝利

 

『超高校級の幸運』床前渚

 

『超高校級の秘書』速瀬吹雪

 

『超高校級の失敗作』伏木野アリス

 

『超高校級の死神』伏木野エカイラ

 

『超高校級の超能力者』森万羅象

 

『超高校級の俳優』嫌嶋隆尋

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

ー以上18名ー

 

 

 

 

 

ー卒業生ー

 

『超高校級の大学教授』ジェイムズ・D=カークランド

 

『超高校級の失敗作』伏木野アリス

 

『超高校級の外務大臣』リタ・アンカーソン

 

ー以上3名ー



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終章 ラストリゾート
エピローグ


論リゾ最・終・回!!

今まで応援してくださった皆様、本当にありがとうございました!!
章タイトル元ネタ『ラストリゾート』です。(そのまんまやないかい!)


あれから、十数年の月日が流れた。

今では人類史上最大最悪の絶望的事件は未来機関の活躍によって収束に向かっており、世界に日常が戻りつつある。

 

十数年前、79期生達が、希望ヶ峰学園の合宿用の離島でコロシアイをした。

そのコロシアイの生き残りから語られたのは、今まで自分達が信じていた物は全部嘘で、参加者全員が『超高校級の絶望』で、そして全員がコロシアイの黒幕だったという衝撃的な事実だった。

そのコロシアイにより、コロシアイ合宿の参加者195名、そしてコロシアイの首謀者であった菊池論と嫌嶋隆尋が死亡した。

コロシアイから無事生還したのは、たった3名のみであった。

その3名は、離島から無事脱出した後、元『超高校級の絶望』であったとして未来機関に連行され、処分を受けた。

その3名は現在、未来機関の保護観察のもとで日々を過ごしているという。

今日は、そのコロシアイの生き残り達に、話を聞いてみたいと思う。

 

 

 

「ふんふ〜んっと。よし、完璧っと。ねえ、見ろよ今日のオレ!イカしてね?」

「フン、全くお主という奴は…今日は、相浦殿…いや、江ノ島哀華と同じ元『超高校級の絶望』の先輩方に取材に行くだけであろうが。大袈裟な奴じゃのう。」

「だってさぁー、今から取材に行く先輩、かわいいらしいじゃん?いやあ、オレの期待値も上がるというもんで…」

「なぬっ!?お主、余という伴侶がいながら、そこらの女に目移りするというのか!?この浮気者ーッ!!」

「じょ、冗談だろうが!怒るなよ!…っと、そろそろ時間だ。行くぞ。ぐへへ…」

「…余はお主を許さぬぞ。」

 

 

 

「…ここか。」

「フン、元『超高校級の絶望』のくせにいい家に住みおって。いいご身分じゃのう。」

「まあまあ、細けえ事はいいじゃねえかよ!へへへ、どんな可愛い先輩が出てくるのか、楽しみだな〜。」

 

ガチャ

 

「お待たせしました。今日は、私共の取材に来て頂き、ありがとうございます。」

「はぁっ、あっ、お、男!!?」

「…何をそんなに慌てふためいておる。見苦しいぞ。」

「だ、だって…かわいい先輩って聞いてたから…」

「お主、まず挨拶をせんか。Ah(えっと)Hello,Mr.Ankerson.(こんにちは、アンカーソンさん。)My name is Saeki Rimu,(私の名前は佐伯利夢です。)and his name is Saeki Kotaro.(そして彼の名前は佐伯虎太郎です。)Nice to meet you.(お会いできて光栄です。)

「いえ、大丈夫ですよ。私、日本語は分かりますし、お話出来ますから。こんにちは、佐伯さん。私はジェイムズ・アンカーソンと申します。こちらこそ、お会い出来て光栄です。今日はよろしくお願いします。」

「ああ、はい。こちらこそよろしく。…ところで、リタさんは今どこに?」

「おい。」

「すみません、本当は妻とお出迎えしたかったのですが…何しろ、彼女の眠り癖が酷くてね…おい、リタ。記者の佐伯さん達が来てくださったぞ。」

「……………。」

「わっ!かわいっ!でも既婚者かよチクショーーーー!!」

「いや、それはお主もじゃろうが。というか、お主は何を驚いておるのじゃ。今回取材に行くのは、元『超高校級の絶望』のアンカーソン夫妻だと前々から言っておろうが。」

「だ、だって…」

「ふん、お主の人の話を聞かぬクセが相変わらずだったようで安心したわい。そら、取材に行くぞ。」

「お、おう…」

 

 

 

「アンカーソンさん、取材にお応えいただき、ありがとうございます。」

「いえ…私達が過去に犯した罪について、告白しておかなければならないと3人で決めた事ですので。覚悟はできています。遠慮せず、聞きたい事があれば聞いてください。」

「………………。」

「えっと…」

「すみません、妻は当時の事件のショックで口が利けなくなってしまって…私が代弁しますね。」

「それは構わないんですがね、ええ。オレ…ああ、じゃなかった…僕達も、前からその事については伺っておりますし。答えられる範囲でいいんで、教えていただけますかね?」

「ええ。…それではお話しします。私達が過去に犯した罪を。」

「ありがとうございます。まず、あなた方は元『超高校級の絶望』という事でしたが…事件のきっかけなどをお教えいただいても?」

「はい。…希望ヶ峰学園に入学してすぐの事でした。私達は、『超高校級の絶望』江ノ島盾子によって絶望に堕とされ、『超高校級の絶望』となりました。私達は、絶望を世界に伝染させるため、学園を抜け出して離島に身を潜め、そこで絶望を伝染させるための計画を練っていました。そして、江ノ島盾子が主催したコロシアイゲームを自分達で企画して離島内で行う事にしました。しかし、自らの衝動を抑えきれなかった私達は手当たり次第にコロシアイを始めてしまい、最初は200人あまりいた生徒が気がつくと17人になっていました。」

「なるほど…」

「そして、その残った17人でコロシアイを計画したという訳です。そして、最後に黒幕役の嫌嶋さんが私達の記憶を消し、すでにコロシアイの中で死んでいる猫西さんに変装して紛れ込み、私達と一緒に合宿をしていました。…最初は彼を本物の猫西さんだと思っていましたし、黒幕はただ一人で、その目的はお姉さんの復讐…そうとばかり思っていました。それならまだ納得出来たかも知れません。ですが、それもこれも全て嘘だった。…まるで、今までの全てが映画のワンシーンだったかのように、彼…いえ、私達は、全てを種明かししました。私達全員が、脚本家で、役者で、そして観客だった。これが、私達が体験した事件の全てです。」

「…全員が脚本家で役者で観客…ねぇ。嫌嶋隆尋って、確か『超高校級の俳優』でしたよね?彼らしいと言えば彼らしいのですが…」

「彼が黒幕役に名乗り出たのは、彼の残りの寿命が僅かだったからです。コロシアイのシナリオも、大筋は彼が考えたものでした。まあ、コロシアイの首謀者は別の方で、嫌嶋さんも彼の指示通り動いていただけだったんですがね。」

「…それって。」

「…はい。『超高校級の弁護士』菊池論さんです。彼は、あの場にいた誰よりも狂っていた。人の命をなんとも思わず、ただただ『絶望』を求め、絶望を振り撒く…江ノ島盾子を彷彿とさせるような男でしたよ。コロシアイを企画し、嫌嶋さんに脚本を書かせ、全てを忘れた自分はコロシアイに参加していました。これは後で思い出した事なのですが、彼が黒幕役にならずに参加者役になったのは、自分が絶望的に死ぬ事で、より深く絶望を味わい、そしてその絶望を伝染させる為だったそうです。」

「…なるほど。アンカーソンさん。あなたは、菊池論の事をどうお考えですか?」

「…そうですね。私が言うのは如何なものかと思いますが、敢えて言わせて頂くなら、彼は許されない事をした大罪人だと思います。彼は記憶を失った後、誰よりも仲間想いで、勇敢に黒幕に立ち向かおうとしました。しかし、幾ら記憶が消え、どんなに善良な人間になったとしても、犯した罪は決して拭えません。彼自身も、それはわかっていたと思います。」

「では、彼を憎んでいると?」

「…いえ。私達も彼と同じです。私達には、彼を憎む資格はありません。それに、彼には大いに感謝しているのです。」

「感謝?」

「はい。先程も申し上げましたが彼は記憶を失っている間、誰よりも仲間を想っていました。たとえそれが偽りの姿だったとしても、私達が彼に元気付けられたのは事実です。もし彼がいなかったら、私達はやり直す事はおろか、生き残る事すら出来なかった。今の私達があるのは、全て彼のお陰です。ですからこれからは、彼の想いを無駄にしない為にも、少しずつ犯した罪を償いながら、3人で寄り添って生きていくつもりです。」

「それは立派なご決心ですね。『絶望』が短期間で完治したという方はごくわずかだというのに…」

「…まあ、全てが元通りという訳にはいきませんがね。私は片腕を、妻は声を、そしてアリスさんは才能を失いました。そして何より、苦楽を共にした仲間を200人も失ってしまいました。失った物は決して元には戻りません。ですが、それを償う事なら出来ます。私達は、どんなに時間がかかっても、失った物を償っていきます。」

「でも、おつらいでしょう?」

「まあ、そうなんですがね。ですから、こう考えるようにしているんです。私が腕を失ったのは、私が今まで犯してきた罪への罰…そして、これからの私達に神が与えてくださった試練だとね。…まあ、そう考えているのは私だけかも知れませんが。」

「なるほど…ありがとうございました。」

 

「おとーさんただいまー!!」

「ただいま。」

「おかえり。キャロル、ノエル。お前達、帰ってたのか。」

「うん!あのね、聞いて聞いて!僕、今日のテストね、満点だったんだ!」

「私は2番。お兄ちゃんに負けた。」

「そうか。偉いな、2人共。」

「お子さんですか?」

「ええ。政府の監視下にある特殊教育施設に通わせています。今、施設から帰ってきた所です。さ、今記者の方とお話しているから、お前達は部屋で待っていなさい。」

「はーい。」

 

「…すみません、お待たせしてしまって。」

「いえ…あの、少々聞きづらい事を伺っても?」

「はい、なんでしょうか。」

「その…キャロルくんとノエルちゃん、でしたっけ。あの子達には、事件の事は話したんですか?」

「いいえ。話していません。政府や機関から、あの子達には決して自分の正体を教えないようにと釘を刺されていますので。絶望の再来を事前に防ぐ為の措置だとか。…まだ幼い子供に真実を伝えるのは残酷過ぎますしね。」

「では、あの子達はあなた方の正体を知らないと?」

「はい。ですが、いずれは話そうと思っています。あの日の悲劇、そして私達の罪は、いずれ暴かれなければなりません。」

「彼らが、自分が元『超高校級の絶望』の子供だと知ったらどうなるか…それを踏まえた上でのご決断ですか?」

「…はい。2人で話し合って決めました。あの子達にたとえ何を言われようと、覚悟は出来ています。どの道、私達が言わずともあの子達は私達の正体を知る事になるでしょうし。…あっ。この事は、誰にも喋らないでくださいね。」

「言いませんよ。私達も、子供の未来を奪うような事はしたくありません。」

「…なら良かったです。私達は確かに罪を犯しました。しかし、あの子達に罪はありません。私達のせいであの子達が不幸になるような事は、絶対にあってはなりません。」

「二人の事は、愛していらっしゃるんですか?」

「ええ、もちろん。私達は、あの子達が幸せに生きられるなら、もう何も要りません。」

「なるほど。今日はお忙しい中インタビューに答えてくださり、ありがとうございました。」

「いえ、こちらこそ、貴方方とお話出来て光栄です。機会がございましたら、またお話しませんか。」

「ありがとうございます。」

 

 

 

「…なんか、いい奴らじゃったのう。あやつらが元『超高校級の絶望』だなんて、とてもじゃないが信じられんわ。」

「だな。リタ先輩も、かわいかったしな!一言も話してくれなかったけど…」

「お主もしつこいのう。」

「しっかし、まさかあんなイケメンと結婚してたとは…チキショー!そうじゃなかったら、アプローチしてたのに!」

「あ゛ぁ!?」

「…すいません。」

「フン、くだらないおしゃべりはその辺にして、次行くぞ。次は…伏木野アリスの所じゃ。」

「アリス先輩もかわいいんだよなぁー!もう30代なのに、どう見ても女子高生にしか見えないって評判で…」

「…お主、絶対いい死に方せんぞ。」

 

 

 

「…伏木野法律事務所。ここか。ぐへへ…」

「全く…なんで余はこんな奴についていきたいと思ったのか…一生の不覚じゃ。む。来たぞ。」

 

「お待ちしておりました佐伯さん。今日はよろしくお願いします。」

「わぁーお!!かっわいー!!へへっ、オレ、記者の佐伯虎太郎という者なんですけど、良かったら今度お茶でも…」

「お誘いありがとうございます。では、その時は家族と一緒に行っても?」

「はっ…指輪…チクショー!!どいつもこいつもなんでだよぉおおお!!」

「そりゃそうじゃろ。みんな30代なんじゃから…全く、お主は余で満足しておけばええんじゃ。…すみません、ウチのバカがご迷惑をおかけして。こちらこそ、今日はよろしくお願いします。」

「はい。では、まずはどうぞ、お掛けになってください。」

「ありがとうございます。」

 

 

 

「本日は取材にお応えいただき、誠にありがとうございます。では、さっそくいくつかお伺いしたい事があるのですが…」

「ええ、どうぞ。遠慮なく聞いてください。何を聞かれても、真実をお答えする覚悟はできています。」

「はい、ええと…では、伏木野さん。あなたは、事件の被害者で黒幕だったという事ですが…」

「はい。記憶を取り戻した時は、信じられませんでしたが…あれは、間違いなく嘘偽りのない私の記憶でした。私は、あの時クラスメイトと一緒に島へ行き、コロシアイの計画を進めていたんです。その後、ヒロに…いえ、嫌嶋隆尋に記憶を奪われ、コロシアイに参加しました。」

「伏木野さん。あなたは、『超高校級の失敗作』として合宿に参加したそうですが…」

「…そうですね。あの時は、力が暴走してクラスメイトに迷惑をかけましたね。ですがもう過去の話です。私は才能を失い、今はもう以前のような力を発揮する事はできません。カムクライズル化手術の後遺症も、ほとんど残っていませんしね。私はもう、『超高校級の失敗作』でも、『超高校級の絶望』でもありません。ただの一人の人間です。」

「…そうですか。ところで、お兄さんもコロシアイに参加していたそうですが…お亡くなりになったんですよね?」

「はい。伏木野エカイラは…兄は、コロシアイを終わらせるため…私を生かすために自ら死を選びました。最初は兄だという事すら気づきませんでしたが、今思えばずっと私を見守ってくれていたんだと思えてきて…」

「…そうですか。ところで伏木野さん。菊池論の事はどうお考えですか?」

「そうですね…サトに…菊池論は、あのクラスの中で一番狂っていたと思います。彼は首謀者として、コロシアイを企画し絶望を伝染させようとしていました。ですが、彼に助けられた事も事実です。彼は、記憶を取り戻した後も、私達を生かすために行動を起こし、結果として自ら犠牲となる事を選びました。あの時、彼が命を懸けてくれなければ、私達はここにはいなかった。菊池論と兄…彼らには、感謝してもしきれません。ですから、もし伝えられるのなら伝えたいです。ありがとうと。」

「なるほど。あの…もしかして、この事務所って…」

「はい。私の事務所です。まだ規模は小さいですがね。あの島から出た後私は、私達を助けてくれた菊池論の意志を継ぐため、弁護士になる事に決めました。…まあ、元絶望がそう簡単に資格なんて取れるわけないし、彼と違って才能はからっきしなので、ここまで来るのにすごく苦労したんですけどね。重要な書類は失くすわ、発言中に噛みまくるわ、失敗続きで…ははは…」

「…そうだったんですね。」

「あの日、3人で決めました。どんなに険しい道だったとしても、彼らの死を無駄にしないためにも、犯した罪を少しずつ償いながら生きていこうと。」

「そうですか。色々と話していただいて、ありがとうございます。」

「いえいえ。こちらこそ、久々に当時の話ができて良かったです。ありがとうございました。」

 

 

 

「いっやぁー、アリス先輩めっちゃかわいかったなー。ついでに住所とケータイの番号まで聞いちゃったよ。」

「全く、お主という奴は…またコロシアイを乗り越えたメンバーで話をしようという約束をしただけではないか。お主に気など無いわ。」

「えー。そうかなぁ。」

「…全く、いい加減人妻までナンパするのをやめんか。ダブル不倫で社会的に死にたいのか。」

「そ、それは嫌だけどよ…」

 

プルルルルルルル…

 

「あ、待て。夏川ちゃんからだ。うん、あ、うん。わかった。はーい。」

「なんと?」

「今度の日曜、みんなで作ったコロシアイの犠牲者達の墓の前で会おうって。」

「ほう…急に電話など掛けてきて何を言い出すかと思えば…宇田川殿やパリンチェ殿にはもう連絡してあるのか?」

「すでに呼んでるって。あと、アンカーソンさん達とアリス先輩も呼ぶってさ。」

「ふん、あやつめ…ここ数年ずっと連絡が無いと思ったら、急に呼び出しおって。」

「ははは、全くだな。」

 

 

 

 

 

【日曜日】

 

 

 

「…時間だ。そろそろ行くぞ、破奈。」

「あ、うん。ちょっと待って譲治。ちょっと持って行きたい物があるんだ。」

「それ…お前の兄貴に、か?」

「うん。これはお兄ちゃんに、ね…」

「…そうか。行くぞ。」

「うん。」

 

 

 

ー公星駅前ー

 

「…あ。」

「んあっ。」

「お久しぶりですね、パリンチェ君。」

「…フン、貴様か。久しぶりだな。宇田川譲治。…全く、夏川の奴…ここ最近音沙汰が無いと思ったら、いきなり連絡をよこしてきて、挙句の果てに今すぐ日本に来いだと?どれだけ人を振り回せば気が済むんだ。」

「同感です。彼女の自由っぷりには、本当に苦労させられます。」

「ははは…」

「おい、宇田川。コイツは誰だ。」

「ああ、妻の破奈です。例の菊池論の妹さんです。」

「よろしくお願いします、えっと…パリンチェさん?」

「フン、まあいい。コイツも来るのか?」

「ええ。一応、惨事の犠牲者の妹さんですから…」

「フンッ。…行くぞ。」

 

 

 

ー犠牲者の墓前ー

 

「あっ!来たな、お前ら!…っと、パリンチェちゃん、しばらく見ない間にまぁー随分とべっぴんになって!」

「寄るな。気色悪い。」

「ガーン…あ、なあなあ!そっちのかわい子ちゃんは!?」

「…僕の妻です。気安く触らないでください。」

「えっと…よろしくお願いします。」

「あー、また既婚者かよー!でも、ホントはちょっとオレに惚れちゃったりしてるんでしょ!?ねえねえ!」

「あの…。」

「…ホント、コイツは何年経っても変わりませんね。」

「同感だな。」

「じゃろ?」

「おい千葉崎。なんでこんなバカと結婚したんだ。」

「まあ、一時の気の迷いというか、妥協というか…」

「!!?」

「冗談じゃ。」

「よ、良かった…。」

 

「…あ。」

「すみません、お待たせしてしまって…」

「………………。」

「皆さん、お待たせしました。」

「全然待ってねェよ!お前ら、今日は取材で会ってるわけじゃないんだし、肩の力抜けって!」

「はい…」

「コイツらは誰だ?」

「ああ、離島での惨事の生き残りの人達だよ。オレらの一個上の先輩だ。」

「ああ、『超高校級の絶望』を捕獲したっていうニュースで話題になってた…」

「はじめまして、皆さん。」

「………。」

 

「なあ、ところで夏川は?」

「ああ、連絡したんですけど…全然繋がらないんですよね。」

「チッ、全く、アイツは…人を呼び出すだけ呼び出しておいて、自分は来ないとかどういう神経しているんだ。」

「まあまあ、気長に待ちましょう。多分その内来ますよ。」

 

スッ

 

「…お兄ちゃん。みんなが来たよ。」

「破奈さん、それ…」

「…ひまわりの花です。兄が好きだったので…」

「そうですか…」

「サトにい!私、サトにいがいなくなった後もけっこー頑張ってるんだぞ!褒めろ!」

「………………。」

「菊池さん。貴方のお陰で、私達は今幸せです。ありがとうございました。ゆっくり眠ってください。」

 

 

 

「ごめん!!みんなお待たせ!!」

「な、夏川ちゃん…!」

「遅いぞお主!!今まで何をやっておったのじゃ!!」

「貴様、人をはるばる東欧から日本に呼び出しておいて、言い出しっぺの自分は遅刻など…いい度胸だな。今まで何してたのか言え。」

「ごめん!命狙われてた!」

「は?」

「ほら、あたし一応『超高校級の希望』じゃん?だから結構残党に恨みとか買ってるらしくって…」

「全く、あの後張り切って警官になるって言ったかと思えば、すぐに消息不明とは…お主も忙しいのう。」

「えへへ…さっきも、いきなり銃で撃たれて…まあ、当たりはしなかったんだけど…なんでちゃんと戸籍消したのに狙われてんのかなぁ…」

「なんか、すごいワードがポンポン出てきてるんですけど…」

「というわけで、あたしはもう死んだ事になってるんで、そこんとこよろしく。」

「明るい方ですね…」

「時にお主、娘はどうした?お主が行ってやらねば、一人で可哀想じゃろ。」

「んー…やめとく。あたし、あの子の人生を壊したくないから。あたしのせいであの子が狙われるような事は、あっちゃダメだからね。事件が完全に収束するまでは、会わない事にしたんだ。」

「…まあ、勝手にせい。」

「あの…貴方が、例の夏川さんですか?」

「はい。えっと…離島での惨事を乗り越えた先輩方、ですよね?はじめまして。話は聞いてます。」

「こちらこそ、貴女の評判は耳に入っております。ここにいる皆さんで『超高校級の絶望』江ノ島哀華を打ち破ったと…まさか、私達の後輩もコロシアイに巻き込まれていたなんて…」

「まあでも、あの惨事を乗り越えたからこそ、今のあたし達があるわけで…」

「それで、四六時中命を狙われる今の貴様があると?」

「うっ…」

「あはは…」

「あの、先輩方。今日はお集まりいただいて、ありがとうございました。」

「いえ…こちらこそ、お誘いいただいてありがとうございます。丁度、クラスメイトのお墓参りに訪れたいと思っておりましたので…ここで、菊池さんにお礼が言えて良かったです。」

「…そうですか。」

 

「よっしゃ!みんな、お墓参りしたし、この後パンケーキでも食べに行かね!?」

「なんでパンケーキなんですか…」

「ムズにい!!まさかとは思うけど、外に出たらパンケーキ奢るっていう約束、忘れてんじゃないだろうな!?」

「…そういえばそんな約束していましたね。」

「ホントに忘れてたの!?それとも、無かった事にしようとしてた!?」

「ははっ、まさか。では、今日は私の奢りです。皆さん、好きな物を食べてくださいね。」

「よっしゃー!!」

 

 

 

「…菊池さん。貴方があの時命を懸けてくれたから、今の私達があります。私達にこの景色を見せてくださって、ありがとうございました。」

「ちょっと、何してんのムズにいー!!早く行くよ!」

「あ、はい!今行きます!」

 

 

 

 

 

菊池さん、皆さん…

皆さんのお陰で、私達は今こうして生きています。

…まあ、償わなければならない罪もありますし、失った物が大きすぎて何度も挫けそうになりました。

それでも私達は、3人で力を合わせながら、共に生きていきます。

若くして亡くなった貴方方の想いを、無駄にしない為に。

 

「さてと…」

「………………?」

「え、何をしてるのかって?…ちょっと執筆活動をね。」

「?」

「え、また売れない小説を書いて恥をかく気かって?酷いなぁ、そんなに売れてない事ないだろ。」

「…………。」

「ああ、おやすみ。」

 

皆さん、私達は、あの日起こった事を…

あの惨事を、そして共に過ごした日々を、これからもずっと忘れないでしょう。

あの日の出来事は、決して忘れ去られてはなりません。

同じ悲劇を二度と繰り返さない為に。

そういう訳で、私はとある一冊の本を残したいと思います。

あのコロシアイを引き起こし、そして記憶を失った後全く別の人間として生まれ変わり、『絶望』と戦った私達の大切なクラスメイトの視点で書いた、あの日の出来事の記録を…題名は…そうですね、どうしましょうか。

 

 

 

…あ。

 

そうだ。

 

良い題名を思い付きました。

 

 

 

ダンガンロンパリゾート。

 

これは、『絶望』に堕ちた私達が、絶望をさせる為『コロシアイ』という手段に訴え、また、絶望に立ち向かっていく物語です。

 

 

 

 

 

【resort】

1.リゾート地、行楽地

2.(手段などに)訴えること、頼ること。また、その手段。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

序章

 

零から始まる世界

 

 

 

「…あれ?」

 

 

 

俺の名前は菊池論(キクチ サトシ)。『超高校級の弁護士』として、この春から希望ヶ峰に進学する予定だった。

 

【超高校級の弁護士】菊池(キクチ)(サトシ)

 

だが、どういうわけか、今は何故か砂浜にいた。

普通なら、広大な海を眺めながら、トロピカルジュースでも飲んで寛ぐところなんだろうが、今はそれどころじゃない。

ここに来るまでの記憶が全く無い。

目が覚めたら、砂浜で寝ていた事に気がついた。

ここは一体どこなんだ。

「…とりあえず、状況を整理するか。」

まず、俺は砂浜に一人で寝ていた。

周りに人がいた痕跡が見られる。どうやら、無人島というわけではなさそうだ。

…最悪だ。せっかく入学式用に新調した制服が砂まみれだ。

「他に何か無いか探そう。」

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンガンロンパリゾートー完ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原作者様

 

「ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生」

 

「スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園」

 

「ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期」

 

 

 

スペシャルサンクス

 

読者の皆様

 

 

 

 

 

ご愛読ありがとうございました。

 



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番外編 パラレルエブリデイ
番外編① 動画サイト編


ご投票ありがとうございます!
猫西ちゃん人気ですねw
ちなみに章タイトル元ネタ『パラレルレイヤー』です。
誤字見つけたので編集


よし、メイクはカンペキ!

あとは、カメラの角度を調整してっと…

6月8日、うぇすにゃんこと猫西理嘉は、今日も視聴者の皆さんにハッピーな1日をお届けします!

 

「どうも〜!みんな、今日もうぇすにゃんチャンネル見てくれてどうもありがと〜!!今日は、この前Yudetamagoさんからリクエストをいただいていた企画をお届けします!と言うわけで!このモルティオバ島に生息する、謎の生物『モティモティ』を食べてみたいと思います!」

オタク・オブ・オタク「いよっ、待っておりましたぞ!!」

Peerage of terakoya「upotsuです!」

スーパー美少女天使あーちゃん「うぇすにゃんうぽつー!!」

早速、コメントが書かれた。

…織田君とカークランド君とあーちゃんだな、これは。

希望ヶ峰にも、私のファンがいたんだね。

メッチャ嬉しい!

よーし、張り切っていきますか!

 

「ええと、じゃあ…これはどうやって調理しようかな?うーん…じゃあ、割とシンプルにステーキにしてみようと思います!」

モティモティを取り出すと、モティモティはギャーギャーと鳴いた。

うわっ…結構うるさいなぁ。

ちゃんと私の声聴こえてるかな?

スーパー美少女天使あーちゃん「材料どうすんの!?」

どーなつ「ステーキだから赤ワインとか使うのかな?」

S.K.「そもそも食えるのかこれ。」

ECILA「なんかすごい暴れてるけど…」

ゆみ「ギャーギャーうるさい」

渚(論さんLOVE)「すごい見た目ですね。」

Mr.サイキック「見ものだな。」

WolfKing「人間の食い物じゃねえ」

Rita「手洗った?」

Rita「まな板洗った?」

Rita「水洗った?」

Rita「心洗った?」

ちょっと待って。このチャンネル、狗上君と床前さんまで見てたの?

意外なんだけど。

うわあ、アンカーソンさんが怒涛の勢いでコメントしてくるよ。

普段はそんなに発言しないくせに…

っていうか、アンカーソンさんって洗った厨だったんだね。

まずは、材料を映してっと。

 

「材料は、獲れたて新鮮のモティモティを一匹、玉ねぎ半分、ニンニクひとかけら、バター10g、赤ワイン大さじ3、醤油大さじ3、みりん大さじ1、砂糖大さじ2、お酢大さじ1、あとスープの素と塩こしょうを少々です!みんな、ちゃんとメモしてね!」

S.K.「誰が作るかwww」

ぶっきー「謎の生物以外の材料は普通のステーキソースですね。」

カッちゃん「その分量通りに作っても旨くなるのか自体が謎。」

大工魂「ちゃんと料理になるのか?」

Peerage of terakoya「_φ( ̄ー ̄ )」

アキノセセラギ「律儀にメモしなくっていいっスよカークランド先輩。」

神「いいから早く作れ愚民が!!」

速瀬さんまで!?

いや、嬉しいんだけどさ。

意外とこのチャンネル見てる人多いんだな。

ああもう、神城さんが催促してきたよ。

 

「じゃあ、まずはRitaさんのご要望にお応えして、しっかり手を洗います。あ、この水は浄水器の水だから汚くないですよ〜。いやー、最近は変なウイルスが流行してますからね。手洗いはしっかりしましょうね。さてと、じゃあモティモティをシメます。」

モティモティをひっつかむと、鼓膜が破れるくらいの声量で鳴き始めた。

ゆみ「うるさっ」

アキノセセラギ「すごい音量っスね。」

Peerage of terakoya「↑94.186dB」

カッちゃん「測定したのかよw」

大工魂「大丈夫かこれ?音外に漏れてないか?」

どーなつ「↑ウチとなりの部屋だけど大丈夫だよ〜」

スーパー美少女天使あーちゃん「完全防音先輩有能説」

Rita「身体洗った?」

Rita「空気洗った?」

Rita「部屋洗った?」

アンカーソンさんのコメントの勢いがすごいんだけど…

もう既にカオスだよこの動画。

 

「はい皆さん、こういうの苦手な人は閲覧注意ですよ〜。まず、ちゃんと気絶させてあげましょう。ごめんね、今からおいしくいただくよ〜。」

「ギャエェエエエエエエエエエエエエ!!!」

モティモティを棒でどついて気を失わせる。

モティモティの断末魔が部屋中に響き渡る。

どーなつ「うわぁ…」

WolfKing「うるせ」

スーパー美少女天使あーちゃん「うーるーさーいー!!!」

ECILA「こんな汚い断末魔聴きたくなかったわ。」

アキノセセラギ「なんか見ててかわいそうになってきたっス。」

Mr.サイキック「命あるものを食べるとはそういう事だ。」

渚(論さんLOVE)「論さん大丈夫ですか?」

S.K.「↑俺の心配はいいから動画を見ろ」

 

「…はい、気を失ったようです。ごめんね。今から美味しくお料理してあげるからね。では、首を切り落とします。」

モティモティの首を切り落とすと、緑色の液体が怒涛の勢いで吹き出した。

うわぁ…結構血出るんだな。

シンクが全部緑色だよ…

アキノセセラギ「うわぁ…」

ECILA「すごい血の量」

神「キッショ!!」

Peerage of terakoya「血は緑色なんですね。」

ぶっきー「血色素はクロロクルオリンですかね。」

Rita「グッロ」

Mr.サイキック「断頭台に登る人間はこんな気分なのか?」

スーパー美少女天使あーちゃん「モティー・モティトワネット」

S.K.「よくこんな事できるな…」

どーなつ「頑張るなぁ…」

渚(論さんLOVE)「論さんが気分を悪くしたらすぐに通報します。」

大工魂「↑やめてやれ」

ゆみ「これ動画にする意味あんの?」

オタク・オブ・オタク「何を言いますか!ちゃんと命を奪う工程を動画にする事で、そのありがたみを教える素晴らしい動画なのですぞ!」

渚(論さんLOVE)「信者は大人しく死んでいてください。」

ECILA「↑アンタそれ特大ブーメランよ。」

オタク・オブ・オタク「信者で何が悪い!!」

S.K.「ああもう、わかったから荒れんなって。」

ああ、菊池君信者でお馴染みの床前さんが荒らしてるよ…

あの子、菊池君以外の人は全員嫌いだからな…

 

「では、血抜きをします。ここはしっかりやらないとね。この作業をサボるとお肉が美味しくならないんですよね。」

モティモティを縛り付けて、逆さに吊るす。

血がボタボタとシンクに滴り落ちる。

スーパー美少女天使あーちゃん「やけに未知の生物の捌き方に詳しいうぇすにゃんw」

どーなつ「鶏の捌き方に似てるね。」

Rita「血洗った?」

S.K.「手際いいな」

カッちゃん「未知の生物に、普通の動物の捌き方が通用するのか?」

ゆみ「それな」

 

「はい、血抜きも終わった事ですし、鱗と羽を剥がしていきます。包丁だと剥きづらいので、小さめのナイフを用意しておきましょうね。この時、手袋した方がいいですよ〜。まずはナイフと手袋を洗いましょう。」

アンカーソンさんが色々洗えって言ってくるからね。

しっかり洗っておかないと。

一応視聴者さんの要望には丁寧に対応するのが、私のやり方です!

「ここでちゃんと洗っとかないとね。最近ウイルスとか怖いですからね〜。」

オタク・オブ・オタク「視聴者の要望に律儀に答える神の如きうぇすにゃん様」

Rita「スポンジ洗った?」

神「神が見てる動画のコメント欄荒らしてんじゃねえよこの洗った厨!!」

どーなつ「神城っちの言ってる事がまともで草www」

Rita「目洗った?」

Rita「歯洗った?」

Rita「カメラ洗った?」

カメラ洗ったって…無茶だよアンカーソンさん。

まあ、洗った厨の対応には慣れてるけどさ。

 

「では、ナイフと手袋を綺麗に洗ったので、早速捌いていきましょう。こうやって、根本から剥ぐ感じで刃を入れるとやりやすいですよ。よいしょっと、結構硬いですね。いやー、ハイス鋼のナイフ使ってて良かったです。」

モティモティにナイフを入れた。

…結構硬いなぁ。

これ、普通の安い刃物使ってたらすぐに刃がダメになってたよ。

それにしても、結構体力使う…

カッちゃん「謎の手際の良さ」

スーパー美少女天使あーちゃん「ナイフ折れそうだけど大丈夫?」

ECILA「刃こぼれしないか心配」

 

「さてと、剥ぎ終わりました。では、中身を取り出していきましょう。苦手な方は今すぐブラウザバックしましょうね〜。」

モティモティのお腹を捌いて、中身を取り出す。

うわぁ…見た目結構キツいなぁ。

でも、ここまでやったら最後までお料理しないと。

アキノセセラギ「結構グロいっスね。」

WolfKing「キメェ」

神「内臓がありえねぇ形してやがる。特にタマとか」

ゆみ「黙れ。」

神「ごめんなさい。」

カッちゃん「誰一人としてログアウトしてねぇw」

Rita「耳洗った?」

Rita「足洗った?」

Rita「首洗った?」

S.K.「↑それもう意味違う」

 

「さてと、中身を取り出しました。早速、Ritaさんのご要望にお応えして、モティモティをしっかり洗っていきたいと思います。その前に、調理器具もちゃんと洗っておきましょうね。」

捌いたモティモティを水洗いする。

洗ってるところを、アンカーソンさんにちゃんとアピールしとかないとね。

Peerage of terakoya「あ、洗ったら割と綺麗になるんですね。」

大工魂「やっとまともに見られる見た目になったな。」

スーパー美少女天使あーちゃん「シンクの水が腐ったカメムシの体液みたいな色してんだけど。」

カッちゃん「見たことあんのかよw」

Rita「鼻洗った?」

Rita「マイク洗った?」

Rita「髪洗った?」

Rita「洗剤洗った?」

神「黙れっつってんだろ洗った厨!!」

あーちゃんのコメントが常軌を逸してるよ全く。

アンカーソンさん、洗剤洗うって一体どういう事?

 

「さて、では下ごしらえをしましょう。ざっくりとカットして、塩こしょうで下味をつけます。」

モティモティを包丁で大まかな形にカットし、塩こしょうをふる。

…あ、案外普通のステーキっぽくなったな。

S.K.「急に料理っぽくなった。」

どーなつ「見た目割と普通だね。」

オタク・オブ・オタク「さすがはうぇすにゃん様!料理の腕も素晴らしいですぞ!!」

アキノセセラギ「自分も見習いたいっス。」

「そして、焼きます。焼き加減はお好みで構いませんよ〜。ついでに、鉄板もあっためておきましょうか。」

フライパンの上に切ったお肉を乗せて焼く。

横では、鉄板をあっためる。

大工魂「おぉ…旨そうだな。」

スーパー美少女天使あーちゃん「おいしそー!!画面の向こうから匂いがしてきそうだよ!」

Rita「フライパン洗った?」

Rita「火洗った?」

Rita「塩こしょう洗った?」

Rita「油洗った?」

WolfKing「これなら普通に食えそう」

意外とちゃんとステーキになってくれて安心したよ。

どう食べたらいいかわかんないゲテモノが出来たらどうしようって内心ヒヤヒヤしてたからね。

「よし、鉄板もあったまってるし、そろそろこっちに移そうかな?」

フライパンのお肉を鉄板に乗せた。

「見てください!これ、モティモティですよ?美味しそうでしょ?」

アキノセセラギ「それ見せられたらちょっと食べてみたくなったっス。」

ゆみ「それな。」

S.K.「旨そうじゃん。俺も見習わねぇと…」

渚(論さんLOVE)「普通のステーキでつまらないです。もっとゲテモノ感が欲しかったです。」

無茶言うな。

これでも、「あ、案外いけんじゃね?」っていうレベルの味に持っていくのに苦労したんだぞ。

 

「では、ソース作りの準備に取り掛かりたいと思います。まず、玉ねぎとニンニクをみじん切りにします。」

玉ねぎとニンニクを刻む。

うぅ、目がしみる。

オタク・オブ・オタク「うひょおおおおおおおおお!!!玉ねぎが目にしみたうぇすにゃん様も最高ですぞ!!」

S.K.「どんな性壁だ。」

Peerage of terakoya「箸を咥えながら刻むと目に滲みませんよ。」

え?そうなの?

「Peerage of terakoyaさん、貴重なアドバイスありがとうございます!」

…あ、ホントだ。目に滲みない。

アキノセセラギ「なんかめっちゃシュールっスね。」

スーパー美少女天使あーちゃん「玉ねぎ刻んでるうぇすにゃんでご飯100杯はイケちゃうね!」

Peerage of terakoya「sorenaです!」

どーなつ「野菜刻んでるだけでここまで盛り上がってるとこ初めて見たよ。」

ECILA「うふふ、うぇすにゃんちゃんカワイイわねぇ。」

Rita「箸洗った?」

Rita「玉ねぎ洗った?」

Rita「ニンニク洗った?」

うわっ…いきなりアンカーソンさんの洗った攻撃きたよ。

もう全部洗ってあるっての。

「さてと、全部切り終わったので、炒めていきたいと思います。」

刻んだ玉ねぎとニンニクをフライパンに入れて、バターで炒めた。

「このまま、飴色になるまで炒めていきま〜す。」

神「ふははははははははは!!!やっとそれらしくなってきたじゃねえか!!」

Rita「ガスコンロ洗った?」

Rita「バター洗った?」

Rita「煙洗った?」

「うん、いい感じに色がついてきました。では、材料を全て投入していきます!」

材料を順番にフライパンに入れる。

フライパンからは、おいしそうな匂いがする。

「さて、ここから2分くらい中火で炒めます。」

キッチンのタイマーをセットする。

カッちゃん「うおぉ!旨そう!!」

どーなつ「本格的なステーキソースだね!」

スーパー美少女天使あーちゃん「ヒマラヤ山脈並みにおいしそうなんだけど!!あーちゃんも食べたい!!」

神「ふははははははははははははは!!!おい猫!!もし旨くできたら、私の食べるステーキを作る権利をやろう!!」

S.K.「俺も食ってみたいな。」

渚(論さんLOVE)「論さんが食べるなら私も食べます。」

ふふふ、ちゃんとみんなの分を考えて作ってるから、楽しみに待っていなさい!

オタク・オブ・オタク「うぇすにゃん様のお料理…楽しみであります!!」

Peerage of terakoya「sorenaです!完成形が楽しみですね!」

Rita「赤ワイン洗った?」

Rita「醤油洗った?」

Rita「みりん洗った?」

Rita「砂糖洗った?」

Rita「お酢洗った?」

Rita「ブイヨン洗った?」

うわぁ!来たよアンカーソンさんの怒濤の洗った厨攻撃!!

ってか全部洗えないものなんだけど!?

液体をどうやって洗えって言うのさ!!

砂糖とかも洗ったら絶対ベチャベチャになるでしょ!

ああもう、ここは軽くあしらって料理を完成させちゃうか。

「あはは、Ritaさんは綺麗好きですね〜。最近変なウイルスが流行ってるから、このくらい慎重になった方がいいのかもしれませんね〜。まあでも、よく火を通して加熱消毒してるから大丈夫ですよ〜。っと、そんな話をしてる間にソースが完成しました〜♪これを、さっき焼いたお肉にかければ完成でーす♫」

ソースをお肉にかけた。

…できた。

最初はどんなゲテモノができるのかって思ってちょっと不安だったけど、案外美味しそうにできた。

「はい、完成でーす!モティモティのステーキ!」

大工魂「うぉおお!旨そう!!」

S.K.「確かに旨そうだな。」

カッちゃん「食いてェー!!」

スーパー美少女天使あーちゃん「おいしそー!!シェイク・ザイード・グランド・モスク並にエモエモのエモだは!!」

オタク・オブ・オタク「888888888888888888888888888888888888888」

Peerage of terakoya「美味しそうです!」

ECILA「美味しそうね。アタシも作ってみたいわ。」

アキノセセラギ「まさかあの変な生き物が美味しそうなステーキになるなんて、驚きっス。」

ゆみ「それな。」

WolfKing「普通に旨そう」

Mr.サイキック「同感だ。」

ぶっきー「流石は国内屈指の実況者ですね。」

Rita「ステーキ洗った?」

どーなつ「うぇすにゃんすごーい!!本格的なステーキだ!」

神「ふははははははは!!!おい猫!!早く食って感想を言え!!」

渚(論さんLOVE)「肝心の味の方はどうなっているんですか?不味かったら論さんに食べさせるわけにはいかないので。」

「ええと、では神さんと渚(論さんLOVE)さんから早く食べて欲しいとのご意見を頂いたので、早速食べてみたいと思います!」

ナイフでステーキを切り、口の中に運ぶ。

「…うん、美味しい!なんか、味は鶏肉みたいなんですけど、お餅みたいにモチモチしてます。これはタピオカに続くブームになりそうです!『モティモティのステーキ』、皆さんもぜひ作ってみてくださいね!それではまた明日!」

カメラを切り、録画を終了する。

 

…ああ、今日も疲れたなぁ。

みんなに笑顔を届けるのは楽しいけど、案外動画の撮影って疲れるんだよな。

けっこうお便りも貰ってるし、明日はどのリクエストに応えるか考えておかないとな。

毎日、とびっきりの笑顔でみんなにハッピーを届けるのが私、うぇすにゃんの仕事だもんね!

…さてと、このステーキどうしようかな?

つい張り切って作っちゃったけど、みんな食べるのかな?

 

ピンポーン

 

…誰か来てるのかな?

「はい。」

「猫西、今日の動画見たぞ!!今日も面白かったな!!」

動画を見ていたみんなが、私の部屋の前に集まっていた。

「ありがとう!あ、そうだ!あのステーキ、みんなの分作ってあるんだけど、食べる?」

「え!?俺らの分作ってくれたのか!?」

「うん、ちょっと作りすぎちゃって。ちゃんと全員分あるから、みんなで食べよう!」

「わーい!!うぇすにゃんありがとー!!マヂ神!!」

「神は私だろうが!!」

「どこに反応してるんスか先輩。」

「…本当にいいのか?」

「うん、遠慮せずどんどん食べて!!1人じゃ食べきれないし…それに、私はみんなにハッピーを分け与えるのが仕事だから!」

「うふふ、そういう事ならお言葉に甘えていただいちゃおうかしら。」

「あーちゃん1番おっきいのもーらい!!」

「あっ!!おい子供テメェコラ!!何私の分を勝手に取ってんだ!!」

「神城先輩こそ、なんで自分が1番大きいのを食べられる前提なんスか。」

「ちょっと、ケンカしないの!そんなにケンカばっかりするんだったら、これはアタシが食べちゃうわよ!」

「あー!!エカイラちゃんずるいー!!」

「オカマテメェコラ!!何抜け駆けしてんだ!!」

「お前ら、あんまりケンカすんなよ…」

「論さんの言う通りです。これ以上醜い争い合いを見せないでください。論さんの目と耳が腐ってしまいます。」

「「「黙れストーカー!!!」」」

「うわぁ…息ピッタリ…」

「ハッピーアイスクリーム!!」

「カークランド先輩はハモってないじゃないっスか。」

「…一度言ってみたかったんですこれ。森万さん、アイスクリーム奢って下さい。私、ハ●ゲンダッツの抹茶小豆味が食べたいです。」

「俺かよ!?しかも高いの注文しやがって!」

「…ふわぁ、そんな事より早く食べないと冷めますよぉ。」

「あ、そうだな。」

全員が自分の皿を取った。

「じゃあ猫西、これ食っていいんだよな?」

「うん、どんどん食べて!」

「わーい!!うぇすにゃんの手料理ー!!いっただっきまーす!!」

あーちゃんは、モティモティを頬張った。

「うんめー!!めっちゃモッチモチ!!なにこれ!?ポ●ポ●プリンのほっぺ食べてるみたいな食感!!エアーズロック並においしいんですけど!!?」

あーちゃんがほっぺを押さえながらピョンピョンと飛び跳ねる。

「そんなに旨めェのか!?ソイツは楽しみだな。俺も食うか!」

「うぇすにゃん様の手料理…ありがたくいただきますぞ!!」

「おい、神城。そっちにナイフとフォークあるだろ?ちょっと取ってくれ。」

「愚民如きが神である私に命令するなサッカー!!」

「ああ、いいよカッちゃん。ウチが取るよ。」

「おう、悪いな近藤。」

「ふわぁ…僕もちょっと食べてみましゅぅ…」

「私も頂きますね。」

「…ん。」

郷間君、玉木君、織田君、アンカーソンさん、カークランド君、射場山さんも食べ始めた。

…アンカーソンさん、ネットでは洗った厨のくせに、自分は食べる前に手を洗わないんだね。

「おっ、うめぇなコレ!」

「ホントだ。すげェモチモチしてんな!」

「な…なんて美味な…!!わ、吾輩は…明日死ぬのでありましょうか…」

いや、なんで?

「…ふわぁ。モッチモチれふぅ…」

「ふむ…美味ですね。焼きか『モチッ』げんも『モチッ』丁度よ『モチモチッ』く、赤ワ『モチモチモチモチ…』」

「カーキランドよ。食いながら話すな。何を言っているのか分からん。」

アンカーソンさんとカークランド君ったら、2人してハムスターみたいになってるよ。

『モチモチモチモチ…』

射場山さんまで!?

射場山さんがこんなに幸せそうな顔してるの初めて見たよ。

「テメェら愚民の分際で、神である私を差し置いて先に食ってんじゃねえ!!」

「うふふ、アタシもいただいちゃおうかしらん?」

「自分もちょっと食べてみたいっス。」

「なんか見てたら腹減ってきたな。俺も食うか。」

「あら。論さんが食べるなら、毒味しますね。」

「テメェ、そんな事言って自分だけ多く食おうってんじゃねぇだろうな!?」

「…あなたみたいな下品な女と一緒にしないでください。私は、論さんを守るために毒味をするだけです。」

「おい床前。自分の分を食えよ。俺の分が少なくなるだろ。」

「い、いけません論さん!!人の作ったものを…!」

「ハッ、フラれてやんの!!ザマァみろメンヘラ女!!」

「…あなたは黙っていてください。」

相変わらず仲悪いなぁ、この2人。

食事中なんだからちょっとは仲良くしようよ…

そんなこんなで、神城さん、伏木野君、小川さん、菊池君、床前さんも食べ始めた。

「あら、美味しいじゃないの。アタシ、これ気に入ったわ。」

「ふはははははははは!!!おい猫!!今すぐ『モティモティ』とやらを捕まえてこい!!特別に、私のためにモティモティ料理を作る権利をやろう!!!」

「なんでこの女はこんなに上から目線なんでしょうか…」

「美味しいっスね!これ、ヘタしたらタピオカより流行るんじゃないっスか?」

「うめぇなコレ!猫西、お前なかなかやるなぁ!」

「…確かに美味しいですけど、論さんの胃袋を掴んだからっていい気にならないでください。」

うーん、床前さんはなんでそんなに挑戦的なのかなぁ…

「フッ、そんなに美味いなら俺も食うとしようか。」

「…そうですね、では私も頂きましょう。」

「ケッ、どいつもこいつもバカみてェにはしゃぎやがって。」

そう言いつつ、狗上君はモティモティにフォークを突き立てた。

「そういうお前も食うんだな。」

「うるっせェな!!後でテメェらにゴチャゴチャ言われんのがメンドクセェんだよ!!」

森万君、速瀬さん、狗上君も食べ始めた。

「フッ、美味だ。」

「…美味しいですね。適度な焼き加減で焼かれており、程良く弾力があります。」

「…。」

狗上君は、ハイスピードでステーキを口の中に突っ込んだ。

…気に入ったのかな。

でも、近藤さんだけは食べていなかった。

「あれ?ナツねえ食べないの?」

「あ、うん…これ、鶏肉みたいな味なんでしょ?だったら、もしかしてって思っちゃって…」

…ああ、そうだった。

近藤さんは鶏肉アレルギーだったんだ。

どうしよう…?

「近藤さん、大丈夫ですよ。一口食べてみて下さい。」

「え…でも、ウチは…」

「ご心配なさらず!!こんな事もあろうかと、常にエピペンを持ち歩いております!」

カークランド君は、素早く両手の全ての指の股にエピペンを挟み、腕を前でクロスしながらドヤ顔をしていた。

「うふふ、アタシもちょっと医学は齧ってるから、そういう時の対応はバッチリよ〜。」

「フン、私は女神のように優しい…っていうか女神だからな!!血が滲むまでデコを地面に擦り付けるなら、特別に助けてやらん事もないぞ!!」

「近藤さん、私達を信じて下さい。」

「…あはは、みんなありがとう。じゃあちょっとだけ食べてみようかな。」

近藤さんは、ステーキをひとかけらだけ口に運んだ。

みんなが、心配そうに近藤さんを見守った。

「…なんともない。いや、それどころかメッチャおいしい!!猫西っち、これすごくおいしいよ!!これならウチでも食べられるよ!」

「ホント!?じゃあ、今度は近藤さんが作ってくれる?」

「もちろん!!メチャメチャおいしいモティモティ料理を作ってあげるよ!!」

「あはは、それは楽しみだね!!」

「よっしゃ!そうと決まれば、みんなでモティモティパーティーだ!!」

「わーい!!あーちゃんモティモティだーい好き!!」

みんながパーティーの話で盛り上がった。

「…あの、皆さん。もうそろそろ就寝時間ですよ?」

「あ、そうだった。じゃあな猫西。」

「うん、また明日。」

「今日はありがとな猫西。明日も面白い動画を投稿してくれよ!」

「うん、楽しみにしてて!」

ステーキの試食がひと段落ついて、みんなが帰った。

「…楽しかったなぁ。」

やっと1人になった。

…そろそろいいかな。

「ふう、今日も疲れたなぁ。みんなの人気者っていうのも、楽じゃないねぇ。」

『みんなにハッピーを届ける『超高校級の実況者』うぇすにゃん』モードの私、終了!




みんなのSNSアカウント一覧

S.K.…菊池。依頼人との交渉から日常的なつぶやきまで色々投稿している。最近粘着行為に遭いがち。
スーパー美少女天使あーちゃん…アリス。自分の可愛さを主張してくるウザいアカウント。うぇすにゃんのフォロワー。
カッちゃん…玉木。みんなとの思い出やトレーニングメニューなどをつぶやいている。フォロワー多し。
どーなつ…近藤。スイーツへの愛をひたすら語っている。SNSでの友達も割と多い。
うぇすにゃん…猫西。動画の応募や猫への愛をつぶやいている。圧倒的なフォロワー数を誇っている。
ぶっきー…速瀬。最初はSNSに対して否定的だったが、最近はたまにひょっこり現れる。名付け親は近藤。
Peerage of terakoya…ジェイムズ。日本への愛をひたすら語ってくる。うぇすにゃんとMr.サイキックのフォロワー。
Rita…リタ。洗った厨。SNS上では、アリスやジェイムズと互角かそれ以上の饒舌家。
アキノセセラギ…小川。日常的なつぶやきをする事が多い。SNS上でも現実でもまとも。
大工魂…郷間。日常的なつぶやきをする事が多い。SNS上では、意外にも控えめなキャラ。
オタク・オブ・オタク…織田。SNS上でも現実でもヘンタイはヘンタイ。うぇすにゃん信者。
渚(論さんLOVE)…床前。片想い中の菊池への愛をひたすら語る気持ち悪いアカウント。ネット荒らしが好物な模様。
WolfKing…狗上。機械への愛を語ってくる。SNS上では割といい人で、友達も少なくない。
Mr.サイキック…森万。ひたすら自分の超能力をアピールしてくる厨二臭いアカウント。
ゆみ…射場山。ネット上でも口数は少ないが、つぶやきの内容がかわいいためファンは一定数いる。
神…神城。ひたすら高圧的なつぶやきをしては、自己愛を延々と語るウザいアカウント。煽り耐性は低め。
ECILA…エカイラ。女子力高い系のつぶやきをする。あんまり仲良くなりすぎると、自宅に押し掛けられてアッー♂なんて事になりかねないので注意が必要。


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番外編② 合宿編

森万クンと同票だったので、間に本編の執筆を挟まずに2人分投稿する事にしました。
皆さん投票ありがとうございました!


5月15日。

俺達は今、モルティオバ島に向かうクルーズ船に乗っている。

俺が窓の外を眺めていると、男子生徒が話しかけてきた。

「いんやぁ、それにしてもさぁ。ボク達だけでリゾート地を貸し切りとか、さすがは希望ヶ峰学園って感じだよね。ねえ、菊池クン。」

前髪に羽根のような白いメッシュが入った、黒髪ショートボブ。

そして、少女のような顔立ちのこの男は、確か俺のクラスメイトだった奴だ。

だが、不思議な事に俺はコイツの顔を見るのは初めてだった。

「…ごめん、誰?」

「えぇ!?俺の事知らないの!?嘘でしょお!?」

そう言われても、知らんものは知らん。

「『明日ノ泡沫』って知らね?俺の主演作品なんだけど。」

「…ああ!!お前、『超高校級の俳優』タカヒロか!!」

「ザッツライ!!」

思い出した。

確かコイツは、気弱な名探偵から嘘吐きの総統まで、ありとあらゆるキャラクターを熱演した天才役者だ。

『明日ノ泡沫』は、親の愛を失って非行に走った主人公の少年が、警察に追われて故郷から逃げ出した先で出会った耳の聞こえない少女に惹かれていくという内容の映画だった。

タカヒロは、最後の主演作品である『明日ノ泡沫』で主人公を演じ、その演技力が話題となって、その映画は興行収入トップ5まで上り詰めたんだったな。

でも、もう何年も前の映画で、最近ではほとんどその名前を聞かなくなった。

俺だって、言われなきゃ気がつかなかった。

「菊池クン、クラスメイトの顔覚えてないとかゲロヤバなんだけど!」

「悪い。最近お前の顔を見てなかったからな。…っていうか、今まで一回も学校に来なかったろ?」

「ああ、そういやそうだね。いやあ、実はボク体調がそんなに良くなくてさ。今まで低血圧気味で学校来れてなかったんだわ。今回は、センセー達と上手いこと交渉して、特別に合宿に参加できる事になったんだ。というわけだからヨロシク〜♪」

「…なあ、一個いいか?」

「ん?何?」

「…お前、そんなビジュアル系のキャラだったっけ?」

「ああ、実はボク、自分のキャラが中々定まらんのよね。今までは真面目ちゃんキャラだったから、これからはビジュアル系で行こう、的な?というわけだから、これから仲良くしよーぜ!!アハハハハ!!」

「痛い痛い痛い!やめろっての!」

タカヒロは、思いっきり俺の背中を叩いてきた。

なんだコイツ。馴れ馴れしすぎだろ。

「あ、ボク、そろそろ部屋に戻んないとなんだよね。じゃあまた後でねー♪」

「…あ、ああ…」

タカヒロは、颯爽と俺の部屋から出て行った。

 

それから数分後、ドタドタと足音を立てて、クソガキが部屋に入ってきた。

「サトにいー!!」

「…うるせぇな、静かにしろ。」

「ねえねえ、あーちゃんここ行きたいんだけど!!」

クソガキは、パンフレットに載っている遊園地を指差して言った。

「…しおりに決められた予定が全部書いてあるだろ。それに従って動くんだよ。」

「えー!?サトにいのドケチ!!いいもんね、じゃあサトにい抜きで3班のみんなと遊ぶから。」

「は!!?」

おいちょっと待て。

どういう事だ?

班の他の奴らは、遊ぶ気満々なのか!?

「おい、なんで勝手に遊ぶって話になってんだよ!?俺にそれを言え!!」

「え?何?サトにい、のけ者にされてさみしいの?」

「そうじゃねえよ!!なんでスケジュール組んだ俺の許可なく勝手に決めてんだって言ってんだよ!!」

「いいじゃん。遊ぶ派がタスーハなんだし!そんなに遊ぶのが嫌なら、サトにいだけ仲間外れにしちゃうぞ〜?」

俺以外の全員遊ぶ気満々なの!?

もう俺の勝ち目0じゃねえか!!

「ああもう!!スケジュール組み直せばいいんだろ!?一日だけフリーの日作ってやるよ!!その代わり、他の日のスケジュールを詰めるけど、文句は受け付けねぇからな!!」

「わーい!!サトにい太っ腹ー!クソデブー!!」

「もうそれ貶してんじゃねえか!!あと俺はデブじゃねえよ!!」

「あ、そうだ!!あーちゃん他の班にトツゲキしてくるよ!!」

「おい、迷惑だろ!!こっちが恥ずかしいからやめろ!!」

「とりゃー!!」

「あ、おい待てコラ!!」

「待たねーわよ!!それっ!!」

クソガキは、部屋の外へと飛び出した。

「…はあ。」

 

俺は、クルーズ船の中を彷徨いた。

「お、誰かと思えば、菊池じゃねえか!!」

「えっと、確か1班の…玉木、だったよな。」

「おう、俺の事覚えててくれてたのか!」

「…まあ、入学から1ヶ月経ったしな。クラスメイトの名前は9割くらいは覚えたよ。」

「ボクは残りの1割なんだ〜。へ〜。」

「うわぁっ!!?」

後ろからタカヒロが睨んできた。

「タカヒロ、お前もいたのか。」

「えぇ〜?みんな酷くね?ボク、そんなに影薄かったかしら?」

「悪かったって。」

「別に怒ってませんよーだ。」

「っていうか、お前部屋に戻らなきゃいけないんじゃなかったのかよ。」

「あ、そうだった。じゃーね。」

タカヒロは、部屋に戻った。

「…なんなんだ、アイツ。」

「そうだ菊池。俺の班見て行くか?」

「え、いいのか?」

「ああ、他のみんなも結構メンバー交換したりしてるしな。」

「あ、じゃあお言葉に甘えて…」

俺は、玉木の部屋に入った。

「あ、菊池っち!いらっしゃい!」

「あ、えっと…近藤。」

「菊池っち、ウチの名前覚えててくれたんだね!!」

「…まあな。」

「よお、論!来てくれたのか!!」

「…玉木の野郎、また他の班の奴部屋に入れたのか。」

部屋には、郷間と、えっと…コイツ、苗字なんだっけ。

名前は覚えてるんだよな。確か、女みたいな名前だったような…

「郷間に…えっと、理御。」

「うるせぇ。下の名前で呼ぶんじゃねぇよクソが!!ブッ殺すぞ!!」

「ヒッ!?」

りお…目の前のガラの悪い男は、いきなり俺の胸倉を掴んで捲し立ててきた。

うわっ…どうしよう。

怒らせると厄介な奴を完全に怒らせちまった。

「おい、理御!論がせっかく来てくれたのに、その態度はねぇだろ!」

「うるせェ郷間!!テメェまで下の名前で呼んでんじゃねえよ!!テメェら全員ブチ殺してやる!!」

あああ…火に油を注ぐようなマネすんなよ。

ちょっと待て、コイツの苗字なんだったっけ?

…あ、思い出した!

「悪かったよ狗上!!…もう下の名前で呼ばねえから、一旦落ち着け。」

「…チッ。」

あ、良かった。名前合ってた。

「もう、狗上っちは喧嘩っ早すぎ!ウチの新作スイーツでも食べて、気分落ち着けな!」

「うっせぇ。甘いモンを食う気分じゃねえっつってんだろ。」

「…いいから食え。」

「むぐっ!?」

近藤は、狗上の口に無理矢理手作りの菓子を詰め込んだ。

「…う、うま…い…」

ドサッ

「リオォオオオオオオン!!!おい理御!!大丈夫かしっかりしろォ!!」

嘘だろ!?

美味さで気絶しただと!?

さすがは『超高校級のパティシエ』…!

「狗上っち、ウチのお菓子が美味しすぎて気絶しちゃったみたいだね。そこら辺に休ませてあげよう。」

「だな。」

「菊池っちもウチのスイーツ食べる?」

近藤が、さっき狗上の意識を奪ったスイーツを差し出してきた。

美味そうなスイーツの香りが漂ってくる。

だが、合宿前にコイツみたいに気絶したら洒落にならん。

「いや…さっき部屋の菓子食っちまったし、遠慮しとこうかなぁ…?」

「え?菊池っち、あのお菓子食べたの?アレはダメだよ!あんなの、不味すぎて話になんない!!」

え?そうか?普通に美味かった気がするけど…

「あれはね、安くて質の悪い材料特有の味を、大量の甘味料と香料でごまかしてるんだよ!あんなの、お菓子って呼ぶのもスイーツに失礼だよ!」

そこまでボロクソ言う程か…?

ああ、コイツあれか。

天才タイプにありがちな、凡人の感覚を理解できないヤツか。

「あんなので満足しようとしてたなんて、許せない!!ウチ、あんなのに負けたくない!!絶対にウチのスイーツ食べてもらって、本物のスイーツを体に叩き込んでやるんだから!!」

あ、これマズいぞ…

競争心に火をつけちまった。

これは地獄の果てまで追われるパターンだな…

「え…遠慮しときます…俺、そもそも甘い物はそんなに好きじゃないんで…」

「問答無用!!いいから食えー!!」

「ぎゃあぁああああああああ!!!」

それから俺は近藤に腹がはち切れる程たらふくスイーツを口の中に詰め込まれた。

「うぷ…も…もう…くえ…ね…」

「サトシィイイイイイイイイ!!!」

「おい、近藤。やめてやれ。それはもう拷問の域に達してるぞ。」

グッジョブ玉木。

危うく三途の川を渡るところだった。

「菊池、今日はありがとな。また俺達の班に遊びに来いよな。」

殺されかけるから永遠に来たくないです。

俺は、玉木達の部屋を後にした。

 

「…散々な目に遭った。まさか合宿初日に殺されかけるとは思わなかったぞ。」

クルーズ船内のフリースペースに行くと、速瀬と射場山と織田が何かを話していた。

…何やってんだアイツら?

「…はい、すみません。二度としません。」

「誠意が足りませんね。」

「…ん。やり直し。」

「んなッ…!!そんな殺生な…!!」

「…お前ら、何やってんの?」

「き、菊池氏…!ちょうどいいところに…!実は今、速瀬氏と射場山氏にイジメられ…」

「黙れ。」

「ぎゃふっ!!」

「…織田様が女子の着替えを覗こうとしていらっしゃったので、私達は彼に制裁を加えておりました。」

織田のヤツめ…またくだらない事を…

79期生きっての女傑2人を同時に怒らせるとか、コイツある意味勇者だな。

「い、射場山氏…なぜ…」

「うるさい。黙れゴミが。あんたの反省が足りないからお仕置きしてるんでしょうが。…いい加減反省しな。」

「くっ…!」

射場山が織田の顔を踏みつける。

織田は、踏みつけられながらも鼻息を荒くしながら上を見上げた。

…コイツ、まさかスカートの中を見ようとしてるのか?

どんだけエロに執着してんだよ。

すると、織田は残念そうな表情で言った。

「…なんだ、短パンでありましたか…」

それを聞いた瞬間、射場山の顔に青筋が立ち、ドス黒いオーラが放たれた。

「…は?」

射場山の殺意が膨れ上がっていくのが肌で感じられる。

「…速瀬、悪いけどこの生ゴミ見張っといて。私、部屋に荷物取りに行ってくるから。」

「畏まりました。」

射場山はその場を速瀬に任せると、フリースペースを後にした。

…アイツ、荷物を取りに行くって…一体何を取りに行く気だ?

「くっ…ストッキングが邪魔で見えませぬ…」

マジかコイツ。

速瀬のスカートも覗く気か。

…それにしても、射場山の奴遅いな。

一体何を取りに行ってんだ?

 

「…流石に遅いですね。」

「だな…」

噂をすれば影とはまさにこの事だろう。

俺達が射場山の話をしていると、フリースペースにドス黒いオーラが近づいてくるのを感じた。

…この気配は、もしや…

恐る恐る外を見ると、射場山が猟銃を持ってフリースペースに向かっていた。

 

う そ だ ろ ! ?

 

射場山は、フリースペースに強引に押し入ると、猟銃を織田の頭に突きつけた。

「…死ね。」

「ひぃいいいいいいいい!!!え!?ちょっと待って!?なんで吾輩、殺されそうになっているんでありましょう!?ちょ、速瀬氏も見ていないで助け…」

「射場山様、証拠隠滅は此方で済ませておきます故、お撃ち下さい。」

「…ん。」

「嘘でしょ!?ちょっ、マジで誰か助けて!!この人たち本気で吾輩を殺す気なんですけど!?」

「ちょちょちょ!おい、射場山!!何やってんの!?」

「…ん。見ての通り。」

「そうじゃなくて!!…それ、まさかとは思うけど弾入ってないよな?」

「ん。安心して。ちゃんと実弾入ってるから。」

どこが安心なんだよ!?

殺す気満々じゃねえか!!

俺はこんな所でクラスメイトが帰らぬ人となるのを見たくなかったぞ!!

「おい、射場山!!さすがにやりすぎだろ!!実弾はマズいって!!」

「き、菊池氏…!!」

「…この船、頑丈らしいから実弾じゃ穴開かない。沈まないから大丈夫。」

「そういう問題じゃねえよ!!スカートの中覗かれたくらいで人を殺すな!!」

「…私、思った事はすぐに行動で示すタイプだから。」

「すぐに行動で示しすぎだろ!!」

もはや誰も手をつけられない状況の中、救世主が現れた。

「…射場山さん。学生が猟銃など持ち歩いてはいけません。こちらで没収させていただきます。」

艶のある長い黒髪に、ダークブラウンの瞳を持ったこの女性は、嫌嶋(ヤジマ)幽禍(ユウカ)。俺達の担任だ。

確か、この人自身希望ヶ峰の71期生で、『超高校級の生徒会長』としてスカウトされてたよな。

嫌嶋先生は、射場山の猟銃を素早く没収した。

…凄いなこの人。

「今回は厳重注意に留めますが、以後気をつけて下さい。」

「…ん。」

「た、助かったであります…」

「…それと織田君、今すぐ私の部屋に来なさい。学生とはどうあるべきか、丁寧に叩き込んであげます。」

嫌嶋先生は、織田を引きずってフリースペースから去っていった。

「えっ!?ちょっと待って!?吾輩、被害者なんですけど!?ちょっ、やめ…誰か助け…」

嫌嶋先生は、織田を部屋の中に引きずり込んだ。

「ぎゃああぁああああああああああ!!!」

…思い出した。

嫌嶋先生は、その厳しさ故に『超高校級の拷問官』とも呼ばれてたんだった。

…ある意味、射場山と速瀬より怖いな。

「…じゃあ俺はこの辺で失礼させてもらおうかな…?」

俺は、走ってその場から逃げ出した。

 

「…なんだったんだあのカオスは。」

「菊池先輩!」

「…小川。どうした?」

「アンカーソン先輩見てないっスか?さっきから姿が見えないんですけど…」

小川は、確かリタと同じ班だったよな。

アイツが行方不明だと…?

「いや?知らねえけど。」

「…やっぱり見てないっスよね。変な事聞いてごめんなさいっス。ありがとうございました。」

「待て。俺も一緒に探すぞ。」

「え!?いいんスか!?」

「困った時はお互い様だろ。」

「あ、ありがとうございます!」

こうして、2人でリタを探す事になった。

「おいリタ!?どこにいるんだ返事しろ!!」

「アンカーソン先輩!!自分らの声が聞こえてたら返事してくださいっス!!」

「…廊下にはいないみたいだな。」

「そうっスね。」

俺達は、リネン室を通り過ぎようとした。

「…?…おい、小川。」

「はい、なんスか先輩?」

「お前、この部屋調べたか?」

「いや…さすがにそんな所にはいないだろうと思って、まだ探してないっス。…勝手に入っていいんスか?」

「言ってる場合か。リタが助けを必要としてるかもしれないんだぞ。」

「そうっスね。入りましょう。」

俺達は、リネン室の中に入った。

「!!?」

リネン室には、シーツが雪崩のように積み重なっていた。

「なんだこれは!!?」

「先輩!!あれ!!」

小川は、雪崩の下あたりを指差した。

雪崩の下からは手がはみ出していた。

「菊池先輩…これ、アンカーソン先輩の手じゃ…」

「リタ!!おい、大丈夫か!?しっかりしろ!!今助けるぞ!!」

「先輩、自分も手伝うっス!!」

俺達は、シーツの山をかき分けてリタを救出した。

リタは、雪崩の下で倒れていた。

意識はないようだった。

「おいリタ!大丈夫か!?」

俺は、リタの肩を揺すった。

しかし、いくら揺すっても目を覚さない。

「…先輩、これはもう…」

小川は、リタに近づき、そして…

「起きろ!!!」

大きな掛け声とともにリタの脳天にチョップを喰らわせた。

「ひゃあっ!!?マカンゴ!!?」

リタは、ようやく目を覚ました。

「あぅう…頭のてっぺんが痛いですぅ…」

「おいリタ、なんでお前こんな所にいたんだよ。」

「ふわぁあ…えっと、シーツを探しに来たんですけど、一枚取ろうとしたら全部落ちてきちゃって下敷きになっちゃいましたぁ。それで、眠たくなっちゃったのでそのまま寝ちゃったみたいですぅ。」

嘘だろ!?

雪崩の下敷きになったまま寝たのか!?

ある意味すげぇなコイツ。

「ふわぁ…なんか眠くなってきちゃったので、寝ていいですかぁ?」

「お前…今この状況でよく言えるな。」

「アンカーソン先輩は当分は一人で行動しちゃダメっス。」

「ふわぁい…ごめんなしゃい…」

「先輩、すいませんね。はた迷惑な班員のせいで…」

「まあ、無事なら良かったけどよ。心配して損したじゃねえか。」

小川は、リタを連れて部屋に戻った。

…もうやだ。このクラス、すでにカオス…

俺は、リネン室を後にした。

 

「…はあ。」

「菊池君!」

後ろから猫西が声をかけてきた。

…なんか、こういうザ・美少女って感じの奴と話すと、緊張するんだよな。

「…おう、猫西か。どうした?」

「いや、見つけたから呼んでみただけ。」

「…なんだそれ。」

「ねえ、大丈夫?なんかやつれてない?」

「ああ…このクラスがちょっとカオスすぎてな。うちのクラス、79期生の中でも濃い奴の寄せ集めだろ?」

「ああ…わかる。ホント、毎日大変だよね。」

「わかるか!?」

「まあ…自分で言うのもなんだけど、私うちのクラスじゃ結構空気読める方だと思うからね。」

「…お前はな。」

「ねえ、それより、こんな所で何してるの?」

「別に何もしてねぇよ。ただ、他の班のヤツはどうなってるのかなって思って見て回ってるだけだ。」

「ふぅん。」

「お前も暇潰し?」

「まあ、そんなとこ。」

「理嘉ちゃーん!!早くおいでよー!!」

後ろから女子生徒の声が聞こえてきた。

「あ、ごめん。私、呼ばれてるみたいだから行くね。じゃあね。」

猫西は、声の方へ走っていった。

「ごめーん!!今行くー!!」

…猫西、たった1ヶ月しか経ってないのにすごい人気だな。

さすがは、話題沸騰中の人気実況者だな。

やっぱり人の注目浴びる奴っていうのは、生まれながらにそういう才能を持ってるものなのかな。

 

考え事をしながら歩いていると、射場山達がいたところとは反対側のフリースペースでジェイムズと森万が何かやっているのが見えた。

…アイツら、まだ入学から1ヶ月しか経ってないのに、かなり仲良いよな。

付き合ってるんじゃないかっていう噂も聞いたぞ。

それにしてもアイツら何やってんのかな?

俺は、物陰に隠れて2人の様子を見ていた。

「今日は、超能力の系統についての講座だ。」

「はい、師匠!!」

うわぁ…なんだあれ。授業してるよ。

しかも、いつの間にか師匠に昇格してるし。

「今日は、お前の内に眠る力の系統を見分けようと思う。」

「師匠!一体どうやって系統を見分けるのですか?」

「フッ、これを使う。」

森万は、ワイングラスをテーブルに置き、中にミネラルウォーターを注ぎ始めた。

…おい、ちょっと待て。

なんか嫌な予感がするぞ。

「フッ、なみなみと入れたら、上に葉を一枚置く。」

やっぱりだぁあああああ!!

やめろやめろやめろ!!

色んな所から怒られるぞ!!

「フッ。さあ、力を込めてみろ。」

「はい!むむむ…」

ジェイムズがグラスに向かって念のようなものを送ると、葉っぱが動き出した。

「フッ、貴様は操作系か。」

「そうなんですか。」

クルーザーに乗ってるからだろ。

っていうかサラッと怒られるような事言うな!!

「…何ッ!?水が溢れただと!?これは強化系の反応…両方現れたという事は、貴様特質系か!!」

「な、何ですって!!?」

違います。クルーザーの揺れのせいです。

バカなのかコイツら。

「フッ…まさかこんな所でとんでもない才能の持ち主に出会うとはな。まあ、俺様程ではないが。開花させずに腐らせるには惜しい才能だ。今日から、本格的なレッスンを始める。ついてこれるか!?」

「はい!!宜しくお願いします師匠!!」

ああ、もう完全に信者じゃねえかアイツ。

入学当初は、気高くて聡明な美少年だと思ってたのによ。

もはや二枚目通り越して三枚目だよ。

森万も森万で、来日して日の浅いジェイムズに変な事教えんなよ。

「フッ、じゃあまずは波を放ってみろ。」

「はい!波ァーーーーーーーッ!!!」

やめろ!!

マジで色んな所から怒られるぞお前ら!!

どうなってんだ俺のクラスは!!

まともな奴は小川と玉木と猫西しかいねぇじゃねえか!!

「フッ、戦闘力5万か。ただの人間の割にはいい線いってはいるが,まだまだ俺様の域に達する事は不可能だ。…だが、俺と一緒に修行をすれば、この合宿が終わる頃には戦闘力は10倍になっているだろう。厳しく鍛えてやる!!」

「はい、ご指導宜しくお願いします師匠!!」

なんなんだアイツら。

あの二人、クラスの中でもトップ5には入るカオスさだぞ。

ジェイムズなんて、理性的で貴族らしい気品があって、それでいて人当たりがいいところを尊敬していたのに。今じゃ森万信者の超能力バカじゃねえか。

…うん、今のはきっと見間違いだな。見なかった事にしておこう。

俺は無言でその場を後にした。

 

「ぎゃあああぁあああああああああぁああああああああああ!!!」

男子生徒の声が響いた。

…何事だ?

俺は恐る恐る様子を見に行った。

声がした部屋を見てみると、大量のキスマークがついた男子生徒が倒れていた。

違うクラスの男子だったが、見るからにボロボロで目も当てられない。

「…だ、誰か…た、助け…」

男子生徒は、満身創痍になった身体を引きずって逃げようとしていた。

「ちょっとぉ!アタシの誘いを断るってどういう事!?全く、ツンデレなんだから!!」

部屋の奥から、エカイラが現れた。

…ああ、アイツが犯人か。

あのオカマにやられたんだな、ご愁傷様。

って!何落ち着いてんだ俺は!!

コレ、見つかったら次は俺が標的にされるぞ!!

童貞より先に処女を失ってたまるか!!

…そうだ、このゴミ箱の影に隠れてよう。

その場しのぎにはなるはずだ。

「アラ?今、いい男の気配がしたんだけど…気のせいだったかしら?」

部屋から出てきたエカイラが、キョロキョロと周りを見渡す。

そして、俺がいる方とは反対側に歩いて行った。

…気付かずに行ってくれたみたいだな。

「…危なかったぁ。」

しかし安心も束の間、厄介なヤツが廊下を歩いてきた。

「ふはははははははは!!!おい、エキストラ共!!私のために道を空けろ!!ほらほらどうした!!私の姿を見られたんだから、感激の涙を流してもいいんだぞ愚民共!!ふはははははははははははは!!!」

チッ、神城…こんな時に、これはまた厄介な奴が現れたな…!

「ん?どうしたモブ?こんな所で何亀みてぇに蹲ってんだ?」

チッ…そのまま素通りしていればよかったものを、コイツ無駄に目ざといな…!

「シーッ!!」

頼む、あまり騒がないでくれ!!

「はぁあ?おいモブテメェコラ!!まさかとは思うが、私の声がうるさいって言いたいわけじゃあねェよなァ!!?」

そのまさかだよ!!頼むから黙っててくれ!!

「テメェ如きが神に対して文句を言う気か!!?ふざけんなゴルァ!!土下座しろ!!デコから血ィ出るまで地面にデコ擦り付けろ!!」

なんか怒ってるし!!

もう黙れ!!黙っててください!!じゃないとあの怪力オカマゴリラが…

「…あら。クレハちゃんじゃない!ねえ、ここら辺でいい男見なかった?」

あぁああああああああああ!!!

だから黙れって言ったじゃん!!

ヤバいヤバいヤバい!!見つかったら掘られる!!

「…んぁあ、なんだ貴様か。いい男?そうだな…それほど良くはないが、今ここにモブが蹲ってんぞ。」

こぉおおおおじろぉおおおおおおおお!!!

お前何密告してんだコラァ!!

「アラ♡サトシちゃんってば、こんな所にいたのね。」

「はは…あはは…」

「うふふ♡怖がらなくても大丈夫よ。優しく抱きしめてあげるわよぉおおおおお!!」

「全ッ力で遠慮させていただきます!!」

俺は、ダッシュで逃げ出した。

「ンフフ、全く、サトシちゃんてばツンデレなんだから♡待ちなさーい!!」

「待ちませぇえええん!!」

俺は全力疾走したが、やはり筋肉おばけには勝てなかった。

もう少しで追いつかれるというところまで距離を詰められてしまった。

その時、

「こっちです!」

いきなり部屋の中に引きずり込まれた。

「うおっ!?」

「アラ?サトシちゃん?」

 

「…いてて。」

「大丈夫ですか、菊池さん。」

「お前は…確か床前、だったよな?」

「あら、私の名前を覚えていてくださったんですね!嬉しいです!」

…そこまで喜ぶほどの事か?

「悪いな床前。匿ってもらっちまって。」

「いえいえ、全然構いませんよ!」

俺は、部屋を出ようとした。

「え?あれ!?開かない!?」

いつの間にか部屋のドアが開かなくなっていた。

「おい、どうなってんだよコレ!!」

「…うふふ。ねえ、菊池さん。私、菊池さんの事が好きになっちゃったみたいなんです。」

え!?ちょっと待って!?このタイミングで告白!?嘘だろ!

「あなたがあまりにも魅力的すぎるから、今日もつい追いかけちゃいました。」

「…お、追いかけてたって…まさか、船に乗り込んだ時からずっと尾行してたのか…?」

「はい♡ずっとあなたの後ろにいました。」

嘘だろオイ!!

コイツ、見た目は普通の女子高生だと思ってたのに、中身はストーカーだったのかよ!?

「ねえ菊池さん。せっかく2人きりになれたんです。2人で愛し合いましょう。…菊池さん、いえ、論さん!」

ヤバいヤバいヤバい!!

コイツ、エカイラ以上にヤバい奴じゃねえか!!

クソッ、ドアが開かなくて逃げられない!!

このままだと、コイツに何かされる…!

 

ガチャッ

 

いきなりドアが開いた。

「…あ?」

「…嫌嶋先生!」

「一部屋だけ鍵が壊れていたようなので、何事かと思えばやはり貴女でしたか床前さん。部屋の鍵を壊し、異性を部屋に連れ込み不純異性交友など…不健全極まりないですね。後で私の部屋に来なさい。」

「…。」

床前は先生を睨みつけると、部屋から逃げ出した。

「あっ!コラ!!待ちなさい!!」

先生は床前を追いかけた。

「…とりあえず、助かったのか…?」

 

…やれやれ、合宿初日にこんなにトラブルに巻き込まれるとはな。

79期生は、希望ヶ峰学園の歴史上一番ヤバい奴が多い学年だって噂だけど…

せっかく憧れの希望ヶ峰学園に入学できたってのに、なんでこんな目に合わなきゃいけねえんだ。

「…先が思いやられるな。」

 




そういえば前回の猫西ちゃんの番外編で料理の実況書いたんで、全員の料理能力と得意料理を発表します。

菊池
・見た目…−50点
・味…−50点
・得意料理…ブラックホールパンケーキ
アリス
・見た目…0点
・味…0点
・得意料理…卵かけご飯
玉木
・見た目…75点
・味…80点
・得意料理…カレー、唐揚げ
近藤
・見た目…100点
・味…100点
・得意料理…ドーナツ、シチュー
猫西
・見た目…90点
・味…95点
・得意料理…アクアパッツァ、パエリア
速瀬
・見た目…95点
・味…95点
・得意料理…煮物、おせち
ジェイムズ
・見た目…100点
・味…90点
・得意料理…パイ料理、プディング
リタ
・見た目…45点
・味…10点
・得意料理…ミックスジュース
小川
・見た目…75点
・味…70点
・得意料理…味噌汁
郷間
・見た目…60点
・味…60点
・得意料理…炭火焼
織田
・見た目…50点
・味…50点
・得意料理…オムライス
床前
・見た目…80点
・味…90点
・得意料理…すき焼き、煮物
狗上
・見た目…45点
・味…55点
・得意料理…野菜炒め
森万
・見た目…65点
・味…75点
・得意料理…肉じゃが、卵焼き
射場山
・見た目…85点
・味…80点
・得意料理…煮物、煮込みうどん
神城
・見た目…95点
・味…5点
・得意料理…宮廷料理
エカイラ
・見た目…25点
・味…95点
・得意料理…グリーンカレー


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番外編③ 休日編

俺の名は森万羅象。

『超高校級の超能力者』として希望ヶ峰学園にスカウトされた。

…フッ、さすがは超人ばかりを集める希望ヶ峰学園だ。

個性的な奴らばっかりだな。

…ん?

おい、今『お前が言うな』って思ったそこの貴様。

バレていないとでも思っていたのか?

全く、他にもやる事があるだろうに、ダメ人間だな貴様は。

え?なぜ全て知っているのかって?

当然だ。

俺様は、『超高校級の超能力者』だぞ。

貴様の考えている事など全てお見通しだ。

…とまあおしゃべりはこの辺にしておこうか。嫌嶋が俺の事を睨んで来ているからな。

 

「あー、やっとジュギョー終わったー!!お昼ごはーん!!」

「お前は1時間目からずっと寝てただろ。全く、リタじゃあるまいし。」

「アイツ、寝ながら登校してたぞ。」

「マジか!?」

フッ、喋らないと意思疎通できんとはな。

これだから凡人は。

「森万さん!」

「うぉあっ!!?」

思わず、驚いてしまった。

声のした方を見るとそこには、シルクのようなシルバーブロンドの髪にピジョンブラッドの瞳、陶器のような白い肌を持った、人形のような少女が立っていた。

コイツは、確か『超高校級の大学教授』だったな。

名前は長くて忘れたが…イギリスから来た留学生だったっけ。

さすがはクラスで一、二を争う美人というだけはある。

俺様も、つい見惚れてしまった。

「…なんだ、急に後ろから話しかけるな。」

「あっ、申し訳ございません。」

「…それで、何の用だ?」

「えっとですね。私、この前テレビで貴方の事を見て、ファンになってしまいました!『超高校級の超能力者』、wonderfulです!折角同じクラスになれた事ですし、是非貴方とお友達になりたいと思っているのですが…」

ここまで裏表がない奴初めて見たぞ。

見事に心を読んだ通りの事を言ってくる。

…っていうか日本語上手いな。

何年も日本に住んでても、ここまで流暢に話せるヤツはごく一握りだぞ。

それを、たったの数週間でこのレベルって…どんだけ天才なんだよ。

「それでですね。知人からサーカスのチケットを2枚頂いたので、是非ご一緒頂けたらと思い、声を掛けた次第です!今週の日曜日、空いてますか?」

えっ、ちょっと待て。

それって、所謂デートというヤツじゃないのか!?

待て待て待て!展開が急すぎるぞ!!

「森万さん、どうなさいましたか?」

「いや、唐突すぎて少し驚いてな。俺様のファンなのは嬉しいが…」

「もしかして、もう予定が入っていましたか?では、他の方をお誘いしますね。」

「まっ、待て!…行かないとは一言も言っていないぞ。…いいだろう。貴様に付き合ってやろう。」

Yay(やった)!では、日曜日の午前9時に公星駅で待ち合わせしましょう!」

…思わず、OKしてしまった。

女子にデートに誘われて有頂天になるなど、俺様もまだまだ修行が足りんようだな。

 

 

 

ー日曜日 8時30分ー

 

…フッ、流石に早すぎたか?

まあでも、女子を待たせるのは男として論外だからな。

このくらい早く着くのがちょうど良かったのかもしれな…

「森万さん!」

…は!?

いやいやちょっと待って!?

俺より早く着いているだと!?

早すぎない!?ねえ!!

どんだけ早く着いたの!!

「…すみません、本当は万全の状態で貴方と待ち合わせがしたかったのですが、何分送迎車のドライバーが途中体調を崩してしまいまして…」

送迎車!?

「そうだ、まだ時間もありますし、街を見て回りましょう!森万さん、先ずはどちらに行きたいですか?」

「…そうだな、じゃあそこの服屋にでも…」

「あちらのお店ですか?いいですね!行きましょう!」

 

 

ー店内ー

 

店内には、洒落た服からイロモノまで、様々な種類の服が置いてあった。

「…いざ入ってみると、買おうかどうか迷うな。」

「森万さん!これとかどうですか?」

「!!?」

ソイツが持ってきたTシャツには、真ん中に『奪★童貞』と書かれていた。

「なんだそのTシャツ!!今すぐ元あった場所に戻してこい!!」

「え?ダメなんですか?字面は気に入ってるんですけど…」

「字面で選ぶな!!」

コイツ、意味も分からず買おうとしてたのか。

天才だと思ってたけど、意外と抜けた所あるんだな。

「おや、カークランド様に森万様。貴方方も、衣服を選びに来られたのですか?」

速瀬が話しかけてきた。

「カークランド先輩、森万先輩!こんにちはっス!こんな所で会うなんて奇遇っスね!」

「…ん。」

「ふわぁ…」

「…こんにちは。」

小川、射場山、アンカーソン、床前も一緒のようだ。

「こんにちは皆さん!皆さんお揃いで、ここで何を?」

「私達は、合宿用の服を選んでいる最中でございます。」

合宿用の服だと?

まだ1ヶ月も先だぞ。

いくらなんでも気が早すぎだろ。

「先輩達こそ、ここで何やってるんスか?」

「フッ。この近くでサーカスをやっていてな。開演時間まで暇潰しをしているんだ。」

「ふわぁ…なるほどぉ。」

アンカーソンは、珍しいものを見るような目で俺達を見ていた。

「…貴様、何見ている。」

「ふわぁ。なんでもないですよぉ。僕も、個人的な趣味にまで口出しする気はないですぅ。」

…何言ってんだコイツ?

言っている意味が全くわからんな。

「森万さん、少し喉が渇いてしまいました。何か飲みませんか?」

「…そうだな。」

俺達は、近くにある喫茶店に向かった。

 

 

ー店内ー

 

喫茶店の中は混みすぎず空きすぎずといった感じだった。

…さっきからやたら視線を感じるな。

やはり、外国人が店の中にいると気になるのか。

「いらっしゃいませ。ご注文は?」

「私はランチセットのカルボナーラ、ドリンクは抹茶ラテ、デザートはチョコレートプディングで。」

なんだコイツ。スラスラ注文してくぞ。

コイツ…さては行き慣れてるな。

「森万さんは?」

「えっと…コーヒーとアップルパイで。」

「はい、お会計2924円です。」

…うっ。

学生にとっては地味に高いな。

「では、ここは私がお支払いしますね。」

「えっ、いや…いいよ。なんか悪いし。」

「遠慮は要りませんよ!元々お誘いしたのは私ですし、これ位の出費はなんともありません。」

「いや、そうかもしれないけど…」

女子に全額払わせるのはな…

「…森万さん、私がお金に困っているように見えますか?」

カークランドは、ムスッとした顔をしながら財布を広げた。

財布の中には、札束が入っていた。

「…あっ、はい。」

…結局全額払ってもらってしまった。

「お待たせしました。」

注文したものがトレーに乗せられてカウンターに置かれた。

カークランドは、目を輝かせながらそれを見ていた。

…コイツ、結構子供っぽいところがあるんだな。

「向こうの席が空いていますね。行きましょう。」

「ああ。」

俺達は、空いている席に座った。

隣の席の奴が、俺を見て目を逸らしていた。

キャップを深くかぶっていて、サングラスとマスクをつけている。

…店内だというのに、おかしな奴だ。

「美味しそうです!いただきます!」

カークランドは、カルボナーラをハムスターのように頬張りながら食っていた。

「おいひぃれふぅ。」

「…食いながら喋るな。何を言っているのか分からん。」

カークランドは、幸せそうな顔をしていた。

…なんか女子と向かい合ってると緊張するな。

しかも、こんな美人と…まともに顔が見れんぞ。

…そうだ、隣の客でも見て邪念を取り払…

「ぶっ!!?」

思わず口に含んでいたコーヒーを吹き出してしまった。

隣の席の奴も、俺達に気付いて咄嗟に顔を読んでいた本で隠した。

ソイツはキャップとサングラスとマスクで顔がほとんど見えなかったが、キャップから一房だけはみ出したピンクのグラデーションがかかったウェーブの黒髪と、俺と目が合った時の反応で確信した。

間違いない。俺達の隣に座っていたのは、猫西だ。

「森万さん!?どうかなさいましたか!?」

「あっ、いや…」

俺は、テーブルにあったナプキンで顔を拭き、それとなく隣の席の奴の方に向かせた。

「…あ、あの本『明日ノ泡沫』ですね。確か、映画が原作の…」

「…じゃなくて!読んでる奴の顔!」

「…顔?…あ、うぇすにゃんさんです!」

「おい、声がデカい!!他の奴に聞こえんだろ!」

「私、彼女の大ファンなんです!特に、彼女が作詞作曲した『オトノハ』と『くろねこ★流星群』がお気に入りなんです!」

「おい!本人がいる前で大声で言うな!騒ぎになる前に店出るぞ!」

「あ、森万さん!ちょっと待って下さい!せめてサインを貰いたいです!」

「何が『せめて』だ!我慢しろバカ!」

俺は、カークランドと一緒に急いで店を出た。

「クッソ…どうなってんだ今日は。クラスメイトとの遭遇率高すぎだろ。」

「サイン欲しかったです…」

「諦めろっつってんだろ!!大体、毎日教室で会ってるだろうが!!」

「あれは、オフなんです!私、彼女がオフの時はサインを貰わない主義なんです!」

「今、サイン貰おうとしてたよな!?」

…あっ。

俺とした事が、完全に自分のペースで話を進めてしまった。

「あ、そろそろサーカスの開場時間ですね。」

「そうだな。…行くか。」

俺達は、サーカスの会場へと向かった。

 

 

ーサーカス会場ー

 

会場は、人で混み合っていた。

「結構混んでるな…そんなに人気なのか?」

「はい、何でも世界的に活躍している『星屑雑技団』のショーだそうで、巷の噂では、このチケットを巡って暴力事件が起こったとか…」

「物騒だな!!…っていうか、お前はそのチケットをどこで手に入れたんだよ!」

「ああ、以前オンラインで授業をしていた教え子が、第一志望の学校に入学できたそうなので、そのお礼に貰ったんです。」

「ああ…なるほど…」

そういやコイツ、めちゃくちゃ頭良かったんだった。

「…ん?」

気のせいだろうか?

…いや、気のせいじゃない!

目の前に、見慣れた黒尽くめののっぽと金髪ツインテールがいた。

間違いなく、伏木野とアリスだ。

嘘だろ!?

どうなってんだ今日は!?

一日でクラスメイト8人に遭遇するなんてあり得るのか!?

「あ、あれ伏木野さんとアリスさんじゃないですか?とても仲良さそうですね!」

「ま、まあな…」

「…結構混みあってきましたね。もう少し詰めましょう。」

「え!?」

近い近い近い!!

シルバーブロンドの猫っ毛が顔にかかってくすぐったい。

「ちょ、お前詰めすぎだろ!」

「そうですか?…おや?森万さん、お顔が赤くないですか?」

「そ、そうか…?」

次の瞬間、カークランドは自分の額を俺の額に当ててきた。

「!!?」

「…熱は無いみたいですね。見た感じ気分が優れない様子でもないようですし、大丈夫じゃないですかね…って、なんか余計顔が赤くなってませんか?」

そりゃあそうだろうが!!

お前…なんか、色々抜けすぎだろ!

いきなり女子にこんな事されたらこんな反応になるわ普通!!

…っと、俺様とした事が、コイツのペースに流されてしまった。

この程度で動揺するなど、俺様も修行が足りなかったと言う事か…

「森万さん!ショーが始まりますよ!」

「むっ…」

ステージがスポットライトで照らされ、サーカスの団長が出てきた。

その瞬間、客席は歓声に包まれた。

『レディース・アンド・ジェントルメン!本日は、我が星屑雑技団の特別公演にお越しいただき、誠にありがとうございます!!おやぁ!?こんなに可愛いお嬢ちゃんも来てくれたんだねぇ!ちょっといいかな、キミのお名前を教えてもらってもいいかな?』

「あーちゃんはあーちゃんだよ!!」

『ハハッ、キミはあーちゃんっていうのか!可愛らしい名前だね!どこから来たのかな?』

「キボーガミネだよ!!」

『希望ヶ峰!?すごいねぇ!!…ところで、君の隣にいるお兄さんは、君のパパ?』

「お友達だよ!エカ「鈴木咲良って言います。この子のお兄さんの友達です。」

『へえ、鈴木咲良クンね!ステキな名前だ!さあ、あーちゃんと咲良クンに自己紹介してもらったところで、早速ショーを始めようか!クイーン!例の物は準備出来てるかい!?』

『もちろんよジョーカー!こっちは準備万端よ!』

ステージの上から、巨大なくす玉が降りてくる。

『ハッハッハ!それじゃあ、この特大くす玉でショーを盛り上げようか!!イッツ・ア・ショータイム!!』

団長がくす玉のヒモを引くと、くす玉が割れて中に入っていた大量の墨汁が落ちた。

団長は、墨汁をかぶって真っ黒になっていた。

それを見た観客は爆笑していた。

『ああ、なんて事だ!これじゃあ前が見えないじゃないか!クイーンめ、なんてイタズラをしてくれたんだ!ああ、前が見えない!ちょっと、誰か助けて〜!』

団長は、わざとらしく前が見えない演技をしながら舞台裏に引っ込んでいった。

『あらあら、困った団長ね。じゃあジョーカーが着替えてる間に、ショーを始めちゃうわよ!』

ステージの幕が上がり、ショーが始まった。

ショーは、火の輪くぐりや空中ブランコなど、サーカスの定番や、星屑雑技団オリジナルの芸などが行われた。

カークランドは、俺の隣で子供のようにはしゃぎながらショーを見ていた。

『さあて、いよいよショーも終盤に迫ってきてしまいました!最後に、ここで助っ人に来てもらいたい人がいるんだ!』

いきなり観客席がスポットライトで照らされ、俺のところで止まった。

『今世紀最大の超能力者、森万羅象クンです!!』

は!?

俺!?

いや、ちょっと待って。

聞いてないんだけど。

そもそも助っ人になるなんて一言も言ってないし!?

え、ちょっと待って。

おい、カークランド!アンコールやめろ!

うわぁ…どうしよう…みんなアンコールしてるよ…

ええい、こうなりゃヤケだ!!

「フッ、いかにも。俺様が、今世紀最大の超能力者、森万羅象だ。今日は俺様の超能力で、ショーを大いに盛り上げようじゃないか!!」

客席が歓声で包まれた。

それから俺はショーに参加し、超能力を見せた。

正直、プレッシャーで吐くかと思った。

…俺、アドリブ苦手なんだよな。

だが、カークランドの笑顔を見たら、悪くない気もしてきた。

たまには、こんな休日があってもいいかもな。

 

 

ー会場前ー

 

「面白かったですね!特に最後のショーは素晴らしかったです!流石は森万さんですね!」

「フッ。それほどでも…あるがな。」

「ふふっ、格好良かったですよ?」

「フッ。貴様なかなか見る目があるな。」

「あっ!さやかさんです!森万さん、CDショップに寄っても良いですか!?」

カークランドは、CDショップに貼ってあったアイドルのポスターを見ると、猛スピードでCDショップに駆け込んだ。

…もう興味は俺からアイドルに移ったのかよ。

「はわぁああああ!!Wonnnnnderfuuuuuuuuul‼︎!さやかさんがいっぱいですぅ!!」

カークランドは、目を宝石のように輝かせながらCDを見漁っていた。

…コイツ、こんな可愛い顔してアイドルオタクだったんだな。

「あれ?森万とジェイムズじゃねえか。こんな所で会うなんて奇遇だな!」

振り返ると、そこには玉木と知らない少女がいた。

…全く、今日は一体どれだけクラスメイトと遭遇した事か。

「よっ!」

「あら。勝利さん。お友達?」

玉木と一緒にいたのは、大和撫子を絵に描いたようなたおやかな美少女だった。

「ああ。俺のクラスメイトだ。黒い服を着てる方が森万で、向こうでCDをガン見してるのがジェイムズだ。」

「…失礼。あなたは?」

「申し遅れました。私、勝利さんとお付き合いをさせていただいております、姫月(ヒメヅキ)小美(コハル)と申しますわ。森万さんにジェイムズさん…面白い方達ですわね。」

ああ、そういえば玉木の奴、違う学校に通ってる彼女がいるってこの前言ってたな。

でも、まさかこんな上品なお嬢様だったとは。

玉木もイケメンだし、お似合いカップルじゃないか。

それに比べて、俺達2人ときたら…

クソッ、羨ましいな。

「おい、カークランド。」

「ほぇえ…なんですかぁ?」

「玉木と、玉木の彼女さんだ。」

「あっ…大変失礼致しました。私、ジェイムズ・D=カークランドと申します。」

「はじめまして、姫月小美です。」

「姫月さん!まさに、えっと…大和撫子!Japanese beautyですね!」

「うふふ、ありがとうございます。お二人はこれから何方に行かれるおつもりですか?」

「ノープランです。」

「あら、そうなんですの。では、私達はまだここにいますので、お二人はお好きなようになさって?」

「はい、そうさせていただきます。」

俺達は玉木達と別れて、店を出た。

 

 

ー商店街ー

 

「いやぁ、まさか玉木さんの彼女さんに合うとは!とても綺麗な方でしたね!」

「ま、まあな…」

コイツ、女子に食いつきすぎだろ。

もしかして、そっちの気があるのか…?

…いや、何変な事考えてるんだ俺は。

「あ、森万さん!見て下さい!あれ、美味しそうですよね!」

カークランドは、和菓子屋の看板を指差して言った。

そこには、『個数限定!月見亭のいちご大福』と書かれていた。

「…食いたいんだな?じゃあ買おう。」

「え!?良いんですか!?」

「せっかくの休日だしな。」

「ありがとうございます!」

2人で和菓子屋に並んだ。

そして、ついに俺たちの番が来た。

「いらっしゃいませ!ご注文は?」

「いちご大福2つ下さい!」

「はい、お買い上げありがとうございます!」

「え、2つ食うのか?」

「何言ってるんですか、森万さんの分ですよ!」

「俺?…あ、いや…俺は…」

「もう買っちゃいました。」

「あ、うん…でも、なんで俺の分も?」

「今日1日私の我が儘に付き合って下さったお礼です。おひとつどうぞ。」

「むっ…そういう事ならありがたく頂戴しよう。」

俺が大福を受け取ると、カークランドは早速食い始めた。

「いただきまーす!…うーん、おいひいれふぅ!Yum-yum!」

コイツ、本当に美味そうな食い方するんだよな。

見てるこっちも腹が減ってきたぞ。

俺も一口食ってみようかな…

「あ、大変申し訳ございません!いちご大福は、今そちらにいらっしゃるお客様方で最後だったんです。」

「ぬぁあああああああああああ!!!なんでこうなるのぉおおおおおおおお!!!」

…ゲ。

なんでまたクラスメイトに遭遇すんだよ。

もはやここまで来たら偶然の一言じゃ片付かないだろ。

近藤は、頭を抱えながらこの世の終わりのような顔をしていた。

近藤と一緒にいた郷間と狗上が呆れながら近藤を見ていた。

「うぁああああああああ!!!月見亭のいちご大福ぅうう…」

「おい、夏美。また今度来ようぜ!な?」

「やだやだやだぁ!今、完全にいちご大福のお腹になってたの!」

「チッ、大福一個で騒ぎすぎだろ。メンドクセェ。そこら辺のコンビニでも買えんだろうが。」

「うるさいうるさいうるさい!2人に何がわかるのさ!月見亭のいちご大福は、その年採れた最高級の小豆と砂糖きびで作ったあんこと、超高級ブランド米のもち米で作った生地と、無数にある品種の中から厳選した、あんこと相性抜群のいちごが絶妙なハーモニーを奏でる、ここでしか食べられない逸品なの!コンビニの安物と一緒にしないで!!」

はれ(あれ)ほんほぉはんはひははひへふは(近藤さん達じゃないですか)ほぉはははひはひはは(どうかなさいましたか)?」

カークランドは、いちご大福をハムスターのように頬張りながら3人に話しかけた。

お前、買えなかった奴が目の前にいるってのに、よくそんな美味そうに食えるな。

そんなカークランドの無神経さが、近藤にとっては地雷だったらしい。

近藤は、鬼のような形相でカークランドを睨み、捨て台詞を吐いた。

「殺すぞ!!」

はへぇ(あれぇ)ははひ()はんはほぉはへぅほぉはほほひはひはっへ(何か殺されるような事しましたっけ)?ほっほ@#¥※〆◉✳︎◇〒%…」

だから食いながら喋るなっての!

もう何言ってんのかわかんねぇよ!

「おい、夏美。さすがにジェイムズに当たるのは良くないと思うぞ。」

「うるさいうるさい!!もう、ムズっちも郷間っちも狗上っちも知らないもん!!みんなのばかぁあああああああ!!うわぁああああああああん!!!」

「チッ…うっせぇなぁ。」

同感だ。

流石に、店の中で騒がれるのは迷惑だ。

店員の若い女も、さっきからどう対応したらいいかわからずオロオロしてるし…

ここは事態を収束させる事を優先すべきだ。

「おい、近藤。」

「何!?気休めなら言わなくていいよ!!」

「…これ、食うか?」

「え?」

近藤は、ピタリと泣き止んだ。

「フッ、俺は別にそこまで食いたかったわけじゃないし、食いたいならやr」

俺が言い終わらないうちに近藤は俺の手の上の大福をひったくり、餌を焦らされた犬のようにガツガツと食い始めた。

「もふっ、あぐっ、はむっ」

「うわぁ…」

流石の狗上も、これを見て引いていた。

「はー、おいしかった!やっぱり月見亭のいちご大福はサイコーだね!森万っち、ありがとね!」

そこまで食いたくなかったとはいえ、礼が軽すぎないか?

まあいいけど。

「じゃあ、ウチらはもう行くね!2人ともデート楽しんでね!」

「チッ、なんでテメェが仕切ってんだ。」

「なあ、二人とも。この道具屋寄ってもいいか?」

「ああ、クッソメンドクセェ!もう勝手にしろ!俺は知らねェからな!!」

三人は、和菓子屋を出て行った。

…近藤の奴、あんな猟奇的な一面があったとはな。

「カークランド、俺達も行くぞ。」

「はぁい。」

 

 

ー商店街ー

 

「いやあ、あのいちご大福美味しかったです!やっぱりお店に寄って正解でした!」

俺は一口も食えてない上にトラブルに巻き込まれたけどな。

「おや!?」

「今度は何だ?」

「見て下さい、あれ神城さんですよね!?」

カークランドは、道の奥の方を指差した。

そこには、神城と菊池と織田がいた。

…全く、ここまで来たらもう驚かないぞ。

アイツらでついに15人目だ。

「ふははははははははは!!!おい愚民共!!神のお通りだぞ!!道を空けろ!!オラオラどけェ!!どかねェと踏み殺すぞ!!」

神城は、菊池と織田に大量の荷物を持たせて優雅に道の真ん中を歩いていた。

織田がボソボソと何か言っている。

「くっ、話が違いますぞ…服を選ぶのを手伝って欲しいと頼まれたから来たのに、まさか荷物持ちにされるなど…」

「おい、ここで愚痴を漏らすな。聞かれたらどうする。」

「…大体ですね、吾輩、神城氏は苦手なのであります。だって、長所といえば顔と巨乳しか…」

「おいキモヲタテメェコラ!!今、私に色目遣ったろ!?愚民の分際で、どういう了見だ?あぁ!!?」

完全な言いがかりだな。織田よ、ドンマイ。

「ひぃいい!!誤解であります!」

「うるせぇ変態!!どうやらテメェにはお仕置きが必要らしいな!?」

「ひぇええええええ!!!」

…ああ、あれは完全にただ神城が織田をいじめたかっただけだな。

っていうかアイツら道のど真ん中で何やってんだ。

俺達は商店街の角を曲がり、公星駅へと向かった。

 

 

ー公星通りー

 

「森万さん、今日はありがとうございました!とても楽しかったです!」

「フッ、俺様の方こそ、なかなか楽しませて貰ったぞ、カークランドよ。」

「ふふっ、それは良かったです。」

カークランドは、無邪気な笑みを浮かべた。

…やっぱり可愛いなコイツ。

 

「ねえねえ、そこのかわい子ちゃん。」

 

「…は?」

所謂ウェイ系というヤツだろうか、チャラチャラした輩3人組が話しかけてきた。

「ええと…」

「キミだよキミ!」

ウェイ系3人組のうちの1人が、カークランドと肩を組んできた。

「私、ですか?ええと…何かご用ですか?」

「ねえ、今ヒマしてる?俺らと一緒にカラオケ行かね?」

「てかキミ鼻高いね!外人だったりする?何人?」

コイツら…カークランドに目をつけてナンパしてきやがったのか。

下衆なヤツらだ。

「karaoke、ですか?良いですね!では、皆さんで一緒に行きましょう!」

さてはコイツ、ナンパされてる事に気付いてないな。

「おい、貴様ら。急に話しかけてきて、非常識だとは思わんのか。」

「あぁ?なんだテメェ。…あれ?コイツよく見たら、この前テレビに出てた自称超能力者(笑)じゃん!」

「うっわ!ホントだ!テレビで見たときはうさんくせぇ野郎だと思ってたけど、実物はヒョロヒョロのヘタレじゃねえか!」

「なっ…」

「よくあんな堂々と人を騙せるよな!俺、絶対こうはなりたくないわw」

「同感!なあ、お嬢ちゃん。こんなペテン野郎放っといて、俺らと一緒に楽しいコトしようぜ!」

「俺らなら、そこのペテン野郎よりキミを幸せにできる自信あっからよ。」

…コイツら、好き勝手言いやがって。

だが、コイツらの言う事は事実だ。

俺は、みんなの事を騙し続けていたんだ。

…俺は、本当は超能力者なんかじゃないんだ。

「なあ、俺らと一緒に遊ぼうよ。お嬢ちゃ」

次の瞬間、カークランドは絡んできた男に目にも留まらぬ速さで背負い投げをかました。

「ぐほぁっ!!?」

「テメェ、何しやがるこのクソアマ!!」

「…二つ、貴方方にお教えしておかなければならない事があります。一つ。先程から勘違いなさっているようですが、私は男です。二つ。森万さんは、私の大事なお友達です。馬鹿にする事は許しません。」

「許さねェって、どうする気だよ!?クッソ、女みてぇな顔しやがって、よくも騙したなこのクソカマ!!」

「…おい、ちょっと待て。テメェは…いや、あなたは…!」

「おや。知能指数の低い方々かと思いましたが、私の事をご存知だったのですね。私は、カークランド伯爵一家の次男のジェイムズと申します。」

…あ!思い出した!

さっきからなんか聞き覚えのある苗字だと思っていたが…

確かコイツの一族は、800年前から続く王室に仕える貴族で、当主であるコイツの父親は各国の首脳と友人関係にあるとか…

ただひとつだけ言えるのは、コイツの一族を敵に回したら、社会的に抹消されるって事だ。

「大変失礼致しましたぁあああ!!!」

輩共は、一斉に逃げ出した。

Bugger off(おととい来やがれ)‼︎」

 

…俺の中の世界が、一瞬で崩れた。

まさか、コイツが男だったなんて。

俺の春は、疾風の如く過ぎ去っていった。

「森万さん!」

カークランドは、俺の方へ走ってきた。

「今日は、本当に楽しかったです。ありがとうございました。また機会があれば、一緒にお出掛けしましょうね。」

「フッ、そうだな。」

「あと…」

次の瞬間、頭の中が真っ白になった。

カークランドは、俺の頬にキスをしてきた。

そして、俺の方を向いて無邪気な笑みを浮かべた。

「さっきは格好良かったです。私の事を助けようとして下さって、ありがとうございました。」

「お、おう…」

…なんか、男にこういう事されると複雑な気持ちになるな。

「あ、そろそろ送迎車が到着する時間ですね。では、私はこれにて失礼します。森万さん、また明日学校でお会いしましょう。」

「フッ、じゃあな。」

俺は、カークランドと別れた。

 

…今日は、色々な事がありすぎた1日だったなぁ。

結局15人もクラスメイトに遭遇したし、サーカスの手伝いもしたし…

15年間生きてきたが、ここまで刺激的な1日は初めてだったのかも知れんな。

だが、たまにはこういう休日も悪くないな。

…カークランド。面白い奴だったな。

今度は、俺から遊びに誘ってみようか?

フッ、週末が終わろうとしているというのに、次の週末が楽しみになってきたぞ。

さて、俺も帰るか。

…いや、せっかくまだ時間は残っている事だし、もう少し遊んでから帰ろう。

 

「とりあえず、カラオケにでも行ってみようかな。」

 




男同士のイチャイチャが書きたかった。
ただそれだけだ。
何が悪い(開き直り)。
ホント、森ムズは書いてて癒されますわ。
…誰か同人誌描いてくんねぇかな。(独り言)

ちなみに、この時の森万クンは今とほとんど変わりませんが、ジェイムズ君はだいぶ違います。
当時の身長・体重・胸囲がこちら。

身長:174cm
体重:54kg
胸囲:82cm

今より15cmほど背が低く、声も女の子みたいな声してます。
たった3年で何があったんやw(っていうかここまで変わってんだから気付けよw)

あと、作中に出てきた『公星駅』ですが、実はちょっとした遊び心で作りました。
この作品でのモノクマの相方はモノハムです。
というわけで、ハムスターを地名のどこかに入れてやろう、と思い命名しました。
『公星』を分解すると、ハ+ム+星、つまりハムスターです。


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番外編④ バレンタイン編

1カ月遅れw
どうしても書きたかったんだ。


ウチは近藤夏美。15歳の高校1年生。

誰にも言った事なかったけど、実はウチには好きな人がいます。

…カッちゃんこと、玉木勝利君です。

「おい、近藤!」

「なあに、カッちゃん。」

「ボール取ってくれ!」

「あ、ごめん…」

ウチは、足元のボールを拾ってカッちゃんに投げた。

「サンキュ!」

イケメンで、スポーツ万能で、頭も良くて、みんなの人気者。

ウチは、そんなカッちゃんに恋をしています!

…でも、カッちゃんにはお付き合いしている人がいます。

姫月小美ちゃんっていう、ウチらと同い年の女の子です。

小美ちゃんは、美人で頭も良くてお金持ちで、カッちゃんの通ってた中学校のマドンナ的存在だったらしい。

カッちゃんとは、中3の時にお付き合いを始めて、高校が別々になった今でもお付き合いを続けているとか。

最近は音信不通らしいけど、ウチらの合宿中も、夏くらいまでは毎日テレビ電話でお話してたらしい。

…あれ、なんでだろ…目から涙が…

 

 

ー談話室ー

 

ウチは、小川っちに全部愚痴った。

小川っちは、ウチの愚痴を嫌な顔せずに聞いてくれる。

こういう時、友達多くて良かったって思う。

「っっていうわけなの!」

「あぁ…それはご愁傷様っス。」

「だって、だって…ただでさえ彼女がいるってだけでも絶望的なのに、向こうはメッチャ美人でおしゃれで優しくて頭良くてお金持ちで…カッちゃんにお似合いすぎるよぉお〜!こんなの、勝ち目ないじゃあぁん…」

「ドンマイっス。」

「カッちゃんは、小美ちゃんと付き合ってるから、ウチが首突っ込んじゃダメだっていうのはわかってるんだけど…でも、どうしても諦められないの!!」

「そうっスね…」

小川っちは、スマホをいじり始めた。

うわっ、ウチの愚痴なんてもう聞きたくないって事!?

小川っちだけは、ウチの味方だと思ってたのに!!

小川っちのバカ!!

「あ!」

小川っちは、何か閃いた様子だった。

「どしたの?」

「先輩、バレンタインまであと3日じゃないっスか!これっスよ!!」

「これ…?」

「先輩、料理の腕だったら小美さんっていう人より絶対上でしょ?先輩のとびっきり美味しいチョコを玉木先輩に渡すんス!!」

「あ…!」

そうだ、なんで今まで思いつかなかったんだろう。

ウチは、お菓子作りだったら誰にも負けない。

カッちゃんにウチの新作チョコレートスイーツを食べてもらわなきゃ!!

「小川っち、ありがとう!!よし、そうと決まれば材料買いに走るぞー!!」

ウチは、材料を買いに売店まで走った。

待ってろカッちゃん、小美ちゃん!!

死ぬほど美味しいスイーツを作ってやるんだから!!

 

 

ーバレンタイン前日ー

 

朝早起きして、厨房に一番乗りについた。

厨房を確保しとかないと混んじゃうからね。

さてと、早速準備に取り掛かりますか。

まず、材料を全部量って…

「ナツねえ!!」

「あ、あーちゃん。と、みんな。」

厨房にあーちゃん、小川っち、床前っち、猫西っち、射場山っち、リタっち、速瀬っち、神城っち、そして何故か伏木野っちまで来た。

「…伏木野っちはなんできたの?」

「うふふ、だってアタシ、漢女だもん♡可愛い子にチョコ作ってプレゼントしたいわ♡」

「ははっ…」

「近藤さん、私達もお菓子作っていいかな?」

「うん、もちろん!」

「フン、何がバレンタインデーだ、愚民同士でイチャついてそんなに楽しいか!?愚か者共め!!料理など奴隷がやる事であって、神がやる事じゃねえんだよ!!でもまあ今日は神である私が特別に貴様らのような愚民になったつもりで、料理をしてやろう!!」

神城っちは相変わらず上から目線だなぁ…

「ねえ、みんなは誰に作るとか決めてる?」

「うーん、自分は普段仲良くさせてもらってる皆さんに作るっスよ。」

「…ん。私も。」

「そうですね…私もそのつもりです。猫西様は?」

「私も、みんなに作る予定だよ〜。」

あの4人は全員に渡すのか…大変そうだね。

みんながそれぞれスイーツ作りに取り掛かった。

…すごいなこの厨房。

10人入ってもまだ余裕あるよ。

「ナツねえは何作ってるの?」

「チョコスイーツバスケットだよ。色んな種類のチョコスイーツを作って、籠に詰めるの!」

「ふーん。」

「…ねえ、あーちゃんは何やってんの?」

あーちゃんは、チョコが入ったボウルにカラフルな歯磨き粉を入れていた。

「ん?何って…見ての通りだよ。歯磨き粉混ぜてんの。カラフルでしょ?おやつと歯磨きが同時にできて、目で楽しめていい事尽くしでしょ?名付けて、地中海風ハミガ・キ・コンポートだよ!!」

いや、地中海風でもなければコンポートでもないよね!?

どう考えても最悪の未来しか思い浮かばないんだけど!?

「いやいやいや!!やめときなって!!嫌な予感しかしないから!!」

「えー?カラフルだし、時短になるし、イッセキニチョーだよ?」

バサッ

「あぅうー…」

「わっ、アンカーソン先輩大丈夫っスか!?」

リタっちが粉まみれになって床に座り込んでいた。

「ふわぁ…途中で眠くなっちゃって…全部ひっくり返しちゃいましたぁ…」

「お菓子作ってる時に寝ちゃダメだよ!ケガしたらどうするの?」

「ふわぁ…ごめんなしゃあい…」

うーん…大丈夫かなぁ、これ…

 

 

ー数時間後ー

 

「よし、できた!!」

うん、デコレーションも味も完璧!!

今までで一番張り切って作ったもんね!

「できた!」

「…ん。」

「まあ…こんな感じでしょうか?」

「完成っス。」

猫西っち、射場山っち、速瀬っち、小川っちもできたみたいだ。

…どれどれ?

うん、やっぱりこの4人は料理上手だね。

見た目はすごくおいしそうに仕上がってるよ。

「ねえ、ちょっと味見していい?」

「どうぞ。」

4人が作ったチョコを食べてみた。

…うん、おいしい。

特に速瀬っちは、下手な料理人より上手いね。

お店に出してもいいくらいの出来栄えだよ。

他の3人もまあまあ美味しいね。

まあ4人とも、ウチほどじゃないけどね。

「…できました。」

床前っちもできたみたいだね。

肝心の味の方はどうなってるのかな?

「床前っち、ちょっと味見していい?」

「はい、どうぞ。」

「…うん、普通においしい。」

「ホントですか!?良かったぁ。ふふふ、じゃあこれは論さんの分で…」

ん!?ちょっと待って!?

なんか、菊池っちの分のチョコになんか盛ってない!?

まさか危ない薬じゃないよね!?

「うふふ、完成よ。」

伏木野っちもできたのか。

…うわぁ。見た目結構キツいなぁ。

大丈夫なのコレ?

こんなゲテモノ食べれるのかなぁ…

「…ねえ、一口食べてもいい?」

「どうぞ?」

「…いただきます。」

…あれ?おいしい!

「伏木野っち、これすごくおいしいよ!」

「でしょ?」

伏木野っちは、ドヤ顔をキメていた。

…でも、こんなにおいしいもの作れるんなら、普通の料理を作ればいいのに。

「ふわぁ…できましたぁ。」

リタっちもできたみたいだね。

…うーん、見た目はそんなにおいしそうじゃないけど…

「リタっち、一口食べていい?」

「ふわぁ…どうぞぉ。」

…どれ?

…まずい。

これ、絶対色々必要な工程忘れてるよね。

なんか、ベチャベチャしてたりモサモサしてたり…

これ、ウチが相手の男の子だったら何も言わずに別れるかな。

「ふははははは!!!愚民共!!神である私が菓子を作ってやったぞ!!」

神城っちもできたみたいだね。

どれ…

「おぉ…!!」

そこには、綺麗なチョコレートケーキがあった。

素人とは思えない、見事なデコレーションだった。

…すごい。

神城っちって、料理上手だったんだね。

「神城っち、一口食べてもいいかな?」

「あぁ!?愚民が私に気安く話しかけんな!!図々しいんだよテメェ!!…まあでも、今日私は気分がいい。特別に食う権利をやろう!!」

神城っちは、ケーキを切り分けてくれた。

「ありがとう!じゃあ、早速食べてみるね。」

どれ…?

…。

…。

…。

…。

…まっっっっっっっっっっっず!!!

何コレ!?

ありえないくらいまずいんだけど!?

これならリタっちの方が100倍マシだったよ!!

見た目に完全に騙された!!

見た目綺麗なのに味最悪って、なんのトラップ!?

「おい、どうした愚民!!血の気が引くほど美味かったのか!?ふははははははは!!!当然だろう!!私は全知全能の神だからな!!」

こんなにまずいもの作っといて、よく自信満々でいられるよね。

口の中が気持ち悪いよぉ…

「できたー!!地中海風ハミガ・キ・コンポートだよ!!」

うげっ!!?

あーちゃんが、トレイに乗った得体の知れない何かを持ってきた。

どう見てもこれを食べて笑顔になる人の顔が思い浮かばない。

「えへへ、おいしそうでしょ!?」

「えっと…これは…」

「ナツねえ、スイーツ好きなんでしょ?特別にあーちゃん手作りの地中海風ハミガ・キ・コンポートを食べさせてあげるよ!!」

「いや…ウチは遠慮しとこうかな…」

「逃すか!!いいから食え!!」

「むぐっ!!?」

口の中に、得体の知れないナニカを詰め込まれた。

不快な味が混ざり合って混沌と化した、形容しがたい絶望的な風味が口の中に広がる。

あまりの禍々しさに、ウチの意識が遠のいていく。

 

ドサッ

 

「キャアアアアアアアアアア!!!ナツミちゃあああああああん!!!」

「あれ?ナツねえがノびてら。気絶するほどおいしかったのかな!?」

 

 

 

「…う?」

目が覚めると、正面に厨房の天井が広がっていた。

「…あれ?ウチは何をしてたんだっけ…?」

「あ、良かった。目が覚めたみたいだね。」

猫西っちがウチの顔を覗き込んできた。

…あ、そうだった。

ウチは確か、あーちゃんにゲキマズチョコを食べさせられて、気を失っちゃったんだ。

「じゃあ、全員チョコを作り終わった事だし、そろそろ解散しよっか。」

「そうだね。」

全員が部屋に戻った。

…明日が楽しみだな。

 

 

ーバレンタイン当日ー

 

ついにこの日が来た。

ウチは、カッちゃんに手作りスイーツを食べてもらうんだ!!

…ん?あれは…

「ふはははははははははははは!!!おいどうした愚民共!!この神が食えっつってんだ、もっと食っていいんだぞ!!」

神城っちが作ったケーキを、男子達が顔色を青紫や緑に変えながら食べている。

「う゛ぇっ…クッソまじい…」

「でも、これを食えばチョコ0個を免れる…耐えるんだ俺…!」

「うぷっ…吐きそう…」

神城っちの作るスイーツは、見た目はいいけど味は最悪だもんな…

アレを食べるとか、もはや苦行以外の何物でもないよ…

「おいおい、どうしたエキストラ共!?美味すぎて感動してんのか!?ふははははははは!!!当然だろう!!全知全能の神が作ったケーキだぞ!!神のケーキを食える事をありがたく思え!!そしてこの私に媚びろ!!私を崇めろ!!ふははははははははははははははははははは!!!」

…神城っち、よくあんな自信満々にゲキマズスイーツを振る舞えるよね。

もうあの域に達してたら一周回って逆に尊敬するよ。

「…あはは。」

ウチは、カッちゃんにスイーツを渡さないと…

 

カッちゃんどこかな?

…ん?

あれは…射場山っち?

と、あの女の子は…隣のクラスの子だっけ。

「あ、あの…射場山さん!!これ…食べてください!!」

「…え、私…?」

「食べたら感想聞かせてくださいね!それじゃ!!」

「…なんなのアイツ。」

…え!?

女子が女子に!?

今の、友チョコって感じじゃなかったし…

これってまさかの…イケナイ恋!?

「せーんーぱいっ!!」

「…小川。」

「いやー、モテる女は大変っスね〜♪」

「…あんた、見てたの?」

「ええ、バッチリ撮れてるっスよ〜。」

「…消せ。」

射場山っちが、小川っちを睨んでいた。

射場山っち、怒るとメチャメチャ怖いんだよな…

「じょ、冗談っスよ〜。そんな怒らないでくださいよ。」

「…ん。」

「先輩、ところで今日チョコ何個貰ったっスか?」

「…26個。全部女子から。」

「に、にじゅっ…!?なんでそんなに多いんスか!?」

「いや…私に言われても…っていうか、なんで全部女子からなの?意味わかんないんだけど。」

さすが速瀬っちと並ぶ79期生きっての女傑…初っ端から力の差を見せつけてきてるよ…

「みんな、先輩のカッコ良さに憧れてるんスよ!そんなにモテて、羨ましいっスね!自分もあやかりたいっス!」

「…でも私、こんなに貰って困ってるんだけど。…そもそも、チョコってあんまり好きじゃないし…」

「だったら、自分も食べるの手伝うっスよ。談話室で一緒に食べましょう。」

「…ん。」

射場山っちと小川っちは、2人で談話室に向かった。

…うわっ、よく見たら女子が何人か射場山っちの事をストーキングしてるし…

この学年、アブノーマルな子多すぎじゃない?

もう、なんなんだよ…

…って、いけないいけない。

ウチの本来の目的を見失うところだった。

カッちゃんはどこかな…

あ、もしかしてスポーツセンターかな?

あそこはカッちゃんのお気に入りの場所だし…

ここからちょっと遠いけど、行ってみよう。

 

スポーツセンターへの道を歩いていると、また誰かが何かやっているのが見えた。

あれは…ムズっちとリタっち?

「ふわぁ…君には毎度毎度お世話になってるから、頑張ってチョコ作ったよ。」

「チョコレート、ですか。私に…?」

「ジェイムズ、日本文化好きでしょ。だから今年は、日本式のやり方でお祝いしようと思って…」

「それは素晴らしい考えですね!私、日本式のバレンタインデーは大好きですよ!これぞaoharuって感じがします!」

「…まあ頑張ったっていっても、途中で眠くなっちゃったりして失敗しちゃったんだけど…僕の手作りチョコ、食べてくれると嬉しいな…」

「嬉しいです!ありがとうございます!」

…ムズっち、リタっちのチョコはまずいよ。ご愁傷様。

「あの、開けてみても宜しいですか?」

「ふわぁ…いいよ…」

箱の中には、全然おいしくなさそうなチョコが入っていた。

「わあ、美味しそうですね!私、見ているだけでお腹が空いてきてしまいました!」

ムズっちは、全然嫌がるそぶりを見せずに、チョコを見て大喜びしていた。

…傷つかないように精一杯気を遣っているのか、それとも、人から食べ物を貰っただけで喜んじゃうほどバk…無垢なのか…

ムズっちの場合、多分後者かな。

あの子、地頭はいいかもしれないけど、精神年齢は幼いもんね。

「あの、早速戴いても?」

「…ふわぁ。食べてみて。」

「では、ありがたく戴きますね。」

うわぁ…食べちゃったよ…かわいそうに。

「…ふむ。アンカーソンさん、腕を上げましたね。この前戴いた食事より美味しいです!」

は!?

おいしい!?

アレのどこが!?

「ふわぁ…ホント?」

「はい、来年のバレンタインデーが楽しみです!また作って頂けますか?」

「…ふわぁ、頑張る。」

マジかよ…

ムズっち、リタっちのまずいご飯食べ慣れてたんだね…

そういえば、2人は希望ヶ峰に来る前からお友達だって言ってたっけ。

…おっと、ウチはカッちゃんを探してるんだった。

スポーツセンターを探さないと。

 

ウチは、スポーツセンターの中を探してみた。

「あれ…?いない…」

ここにいると思ったんだけど…

アテが外れたかな?

しょうがないや、別の場所を探そう。

スポーツセンターを出ると、狗上っちと隣のクラスの子がいた。

「チッ…話って何だよ。メンドクセェな。」

「あの、狗上君…これ、受け取ってください!!」

「あぁ?…チッ、甘めェモンは食わねェっつってんのによ…」

狗上っちは、めんどくさがりながらも、チョコを受け取っていた。

「ありがとう!話はそれだけ!それじゃあね!」

「…チッ、なんなんだアイツ。」

えぇええええええええ!!?

嘘でしょ!?あの不良で人嫌いな狗上っちが女子からチョコを!?

しかも、今の子結構真面目そうな子だったけど…なんで狗上っちを!?

…あ、そういえば前に、狗上っちって意外とモテるって情報を聞いた事があったな。

ウチには、アレのどこがいいのかわかんないけど…

って、違う違う。

ウチは、カッちゃんを探してんの!

 

反対側を見ると、今度は速瀬っちと隣のクラスの女子が何かやっていた。

「あの、速瀬さん!これ、受け取ってください!!」

「はあ、私に…ですか?」

「はい!良かったら食べてください!」

「それはご命令と受け取っても宜しいのでしょうか?」

「…えっと、ええ…まあ…」

「そういう事でしたら、有難く頂戴させて頂きます。」

「ありがとうございます!用件はそれだけです!それじゃあ、また明日!」

「…はて、バレンタインデーとは女性が好意を寄せている男性にチョコレートを渡すというイベントだった筈ですが…なぜ皆様私にチョコレートを下さるのでしょうか?…まあ最近は『友チョコ』とやらも流行っていますし、恐らくその類でしょうかね。」

あー、速瀬っち。多分それはイケナイ恋だよ。

さすが射場山っちと一二を争うクールビューティ速瀬っち。女子人気高いなぁ…

「速瀬っち!」

「おや、近藤様。何か御用ですか?」

「あのさ、カッちゃん知らない?」

「カッちゃん…玉木様の事でしょうか?」

「うん、そう!今探してるんだ!」

「ええと…玉木様は確か、本日は17時からご自室でのトレーニングの予定を入れていらっしゃった筈です。只今16時46分ですので、ご自室に戻られているのでは?」

自室って、ホテルの…?

うわっ、方向全然違うじゃん!

せっかくここまで来たのに…

「近藤様、どうかなさいましたか?」

「…ううん。なんでもない。ありがとね速瀬っち。」

「御礼には及びません。また何か御用があれば、いつでもお申し付け下さい。」

ウチは、速瀬っちと別れてホテルに向かった。

 

ホテルの前では、菊池っち、織田っち、郷間っち、森万っちがたむろしていた。

「くっ…!!吾輩は、まだチョコを1個も貰っていないであります!!伏木野氏や狗上氏、さらには女子の射場山氏と速瀬氏ですら貰っているというのに…!!」

「おい、泣くなよ兼太郎。男同士で、売店でなんか買って食おうぜ!!」

「レディからのチョコじゃないと嫌であります!!」

「フッ。残念だが、貴様がチョコを貰える確率は頭上に雷が落ちる確率より低い。」

「んなぁ!?」

「まあまあ、元気出せよ織田。俺だって1個も貰ってねェぞ。」

「俺もだぜ!!仲間だな!」

「フッ、俺もだ。」

「ど、同志よ…わ、吾輩達の友情は永遠に不滅であります!!非モテ同盟万歳!!」

「郷間君、ちょっといいかな?」

「ん、俺?なんだ?」

「えっと…渡したいものがあるんだけど…ちょっとついて来てくれる?」

「おう、いいぞ。あ、悪いなお前ら。呼び出されちまった。ちょっと行ってくる。」

「ぬああああああああああ!!!この裏切り者がぁあああああああ!!!」

「フッ、早速同盟の脱退者が出たな。」

「で、でもまだ3人いますぞ…!今こそ、非モテ魂を見せつける時…」

「…あ、あの…森万君…」

「うぉあっ!!?ビックリしたぁっ!!え、何!?」

「…え、えっと…あの…その…わ、渡したいものが、ある、から…ちょっと…来て…」

「えっ、お、おおおお俺!?」

「…ぅん…いい、から…来て…」

「え、お、おう!もちろん行くぞ。フッ、俺様に贈り物か…貴様なかなか気が利くな。」

「ぬがぁああああああああああ!!!森万氏までぇええええええええ!!え、しかも今の女子、爆乳でしたぞ!?下手すると、神城氏以上…」

「どこ見てんだお前。」

「菊池氏!!菊池氏は、絶対に吾輩を裏切りませぬな!?」

「んー…まあ、俺も見ての通りモブ顔だし…多分誰からも貰えねェから安心しろ。」

「菊池氏!!吾輩の味方は菊池氏だけであります!!非モテ同士、ずっと親友でいましょうぞ!!マイフレンドフォーエバーであります!!」

「お、おう…」

「ムフフ、吾輩達は…」

「菊池君!」

「うおっ、猫西…!」

「あのさ、今日バレンタインデーでしょ?だから、これあげる。」

「えっ、いいのか?」

「うん、まあクラスのみんなにはお世話になってるし、友チョコの延長みたいなもんだよ。良かったら食べてみてね。用件はそれだけ。それじゃあね!」

「行っちまった…あ、悪い織田。何か言いかけだったよな?」

「…この、裏切り者がああああああ!!何がマイフレンドフォーエバーじゃ、そっちがその気なら戦争ですぞ!!」

「え、ちょっ、お前チョコ1個で怒りすぎだろ!!一旦落ち着けって!!」

…結果的に織田っちがかわいそうな事になってるね。

っていうか、猫西っちは織田っちがそこにいるのに気付いてなかったのかな?

ウチは、ホテルに入った。

 

 

ー玉木勝利の部屋ー

 

「…ここだ。」

落ち着けウチ。

ウチは、スイーツなら誰にも負けない。

カッちゃんにウチのチョコスイーツを食べてもらうんだ!!

ウチは、インターホンを鳴らした。

「…はい、って、近藤?どうした?なんか用か?」

「あ…えっと…」

ヤバいヤバいヤバい!!

こういう時、なんて言ったらわかんないよぉお!!

ヤバい…言葉が出てこない…もっと練習しとけば良かった!!

「?何も用がないなら、もう行くぞ。」

「あ、待って!」

ウチは、カッちゃんがドアを閉めようとするのを手で止めた。

「え、えっと…こ、これ、良かったら食べてください!!」

「え?籠?これ…スイーツか?もしかして、これ全部手作り?」

「…う、うん…一応…」

「マジか!?お前の!?スゲェ嬉しいんだけど!!ありがとな近藤!!なあ、早速食ってみていいか!?」

「うん!どんどん食べて!」

「うっしゃあああ!スゲェ楽しみ!いただきまーす!…ん!メッチャウメェなこれ!!」

カッちゃんは、スイーツを両手に持っておいしそうにかじりついた。

「うんめェー!!こんな旨いモンわざわざ作ってくれてありがとな!!」

「そんなにおいしい!?…よかったぁ。ウチ、頑張って作ったんだよ!?」

「へェ、道理で前食った飯より旨いわけだ!スゲェ旨えよこれ!なあ、またなんか作ってくれるか?」

「うん、もちろん!!」

「え、マジで!?じゃあ、練習終わった後の弁当とか作ってくれるか?」

「いいよ!任せて!今度はメッチャおいしいお弁当作ってあげるよ!楽しみにしててね!」

「マジか!!ありがとな近藤!スゲェ楽しみだな!いやあ、前からずっと弁当が食いたいと思ってたんだよな。ここに来る前は、小美が毎日作ってくれてたし…」

…あ、そっか。

カッちゃんは、絶対にウチには振り向いてくれないんだ。

だって、カッちゃんには小美ちゃんがいるんだから…

「ねえ、カッちゃん。」

「…ん?」

「カッちゃんは、小美ちゃんの事好き?」

「え、いきなりなんだよ。」

「答えて。」

「…好きだよ。最近、全然連絡くれなくなっちまったけど…でも俺はアイツが好きだ。」

「…そっか。また会えるといいね。」

「当然だ。また会いに行くよ。あ、そうだ。お前の作った弁当、アイツにも食ってもらおう。アイツ、料理の勉強がしたいって言ってたしな。」

「あはは、さすがに悪いよ…」

「そうか?アイツも絶対喜ぶぞ?」

「じゃあ考えておこうかな。…カッちゃん、なんか今日はごめんね?」

「いや、なんで謝るんだよ。」

「いや、これからトレーニングあるのに邪魔しちゃったし…じゃあ用は済んだから、ウチはもう行くね。」

「おう、また後でな!」

…そっか、カッちゃんはやっぱりまだ小美ちゃんの事…

…でも、これで諦めがついた!

ウチのスイーツもカッちゃんに渡せたしね!

うん、カッちゃんが好きなウチ、さよなら!

さてと、気分をリフレッシュして、いつもの元気いっぱいな近藤夏美に戻らなきゃ!

ところで、他のみんなは今何やってんのかな?

「…ん?あれは…」

 

廊下では、あーちゃん、床前っち、伏木野っちが菊池っちを追いかけ回していた。

「うふふ…論さん。私の愛情たっぷりの手作りチョコ、ぜひ食べてくださいな♡」

「たっぷり入ってんのは愛情じゃなくて絶対ヤバいクスリだろ!!そんなモン食えるか!!こっち来んな!!」

「うふふ、サトシちゃーん!アタシの愛を受け止めなさーい!!」

「やめろ!!アボガドが入ったチョコなんて食えるか!!第一、俺にそっちの趣味はねェ!!」

「ンフフ、ツンデレなのね!!待ちなさーい!!」

「待ちませぇえええええええん!!!」

「おいコラサトにいー!!逃げんなコラァ!!あーちゃんのハミガ・キ・コンポートを食えー!!!」

「そんなゲテモノ食えるかァ!!お前ら、揃いも揃って俺を殺す気かぁああああああああ!!!」

「ンフフ、逃さないわよぉおおおお!!サトシちゃぁああああああん!!!」

「んもう、論さんってばー!逃げないでくださーい!!」

「サトにいィー!!」

「ぎゃああああああああああ!!誰か助けてェえええええええええええええ!!!」

うわぁ…菊池っち、かわいそう…

よりによって、変人3人組に絡まれちゃって…モテる男も大変だねぇ。

「あはは…」

ウチは、そろそろ部屋に戻ろっかな…?

 

「ぬ゛ぅうううううぅううううう!!!」

「ヒッ!!?」

後ろから幽霊の呻き声みたいな声が聞こえて、振り返ってみるとそこには織田っちがいた。

「なぜ…なぜ吾輩宛てのチョコがどこにもないんでありますかぁあああぁあああぁ…!!」

うわぁ…チョコを1個も貰えなかった事がショックだったのか、もはや浮浪者みたいになってるよ…

ロン毛が顔にかかってて、メッチャ怖いんだけど…

「吾輩は、チョコ0個のままでは終わりませぬぞ…!ネバーギブアップであります…!最悪、誰か殺してでも…」

うわぁ…完全に人を殺す人間の目つきだよ…

なんか取り憑いてんじゃないのかな…

…そういえば、猫西っち達4人はみんなに作るって言ってたけど…

4人とも、織田っちの分だけは忘れてたんだね。

織田っちドンマイ。



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番外編⑤ 学園探索編

投票ありがとうございました!
久々に戻ってきたらあーちゃん票が伸びててビックリしました。
このロリコンどもめ!(言ってみたかっただけですすみません許してください。)
玉木クンと小川ちゃんは同票だったので、2人連続で投稿します。
あと、射場山ちゃんのやつと被りそうだったので、タイトルを変更しました。


どーも!!

世界がうらやむスーパー美少女天使ことあーちゃんだよ!!

あーちゃんのビボーに酔いしれろ!!

今日は、画面の向こうのみんなにあーちゃんのクラスメイトをショーカイするよ!!

「おい、画面の向こうのみんなってなんだ。変な事言うな。」

あーちゃんの隣の席のコイツは、サトにいこと『チョーコーコーキューのベンゴシ』キクチサトシ!!

あーちゃんにシツヨーにつきまとうストーカーだよ!!

「おい、お前何勝手に嘘言ってんだ。」

「嘘ぢゃねーし!!キャクショクだよキャクショク!!」

「嘘じゃねえかよ。っていうか、お前さっきからどこ見て喋ってんだ?変な物でも食ったのか?」

「別に変なモノなんか食べてねーし!!あーちゃんは今、画面の向こうのみんなにサトにいの事をショーカイしてんの!!」

「だから、画面の向こうのみんなってなんなんだよ。お前、一回精神科行った方がいいんじゃないか?」

「うるさいぞサトにい!!そんな事言って、あーちゃんをユーカイする気だな!?このロリコン!!エロガッパ!!ハンザイシャヨビグン!!」

「誰が犯罪者予備軍だ。あんまり勝手な事言うと訴えるぞ。」

「うるせーサトにいのバーカ!!ガラパゴス脳!!サトにいなんか豆腐の角で歯茎えぐられるかタマネギのとがった部分を爪と肉の間にブチ込まれるかして死んじまえ!!」

「そんな変な死に方してたまるか。…ったく、これだから子供は嫌いなんだ。」

コイツは、すぐにあーちゃんを子供扱いしてくるんだ!!

あーちゃんは華のフィフティーンだっつーの!!

失礼しちゃうわプンプン!!

さーてと、こんな茹でたシロアリみたいなヤツはほっといて、次いこ次!

 

 

ー校庭ー

 

あーちゃん達の通うキボーガミネのグラウンドは、とにかくだだっ広いのだ!!

こんだけ広けりゃ一夜にして地球(ほし)を粉々にしかけたとも言われるヒッサツワザ、あーちゃんウルトラギガンティックハイパーエクストリーム飛び蹴りを放ってもダイジョーブそうだね!!

「お、あーちゃん!あーちゃんも遊びに来たのか!?」

しましまの服を着た背の高いおにーさんが、サッカーボールをサルの生首みたいにポンポンヒザで蹴りながらあーちゃんのところに来た。

「いや、喩え方グロいよあーちゃん。」

説明します!この人は、カツにいこと『チョーコーコーキューのサッカーセンシュ』タマキカツトシ!

イケメンで、優しくて、どっかのきで始まってしで終わるドブに落ちたつぶれあんまんとは大違いだよ!

 

同時刻 教室

 

「ヘックシ!!」

「あら。菊池さん、風邪ですか?」

「…かもな。」

「お大事になさってくださいね。」

 

さーてと、じゃあサッソクカツにいのショーカイをしていくよ!

「ねえ、カツにい!アレやってよ!ヒールリフトからのシュート!!」

「え、いいけど…あーちゃん、そんなにサッカー興味あったっけ?」

「えーっとね、あーちゃんっていうよりは、画面の向こうのみんなが見たがってるからさ!」

「画面…?あーちゃん何言ってんだ?…まあ、どうしても見たいならやるけど…」

カツにいは、ボールをヒョイヒョイってやってプリってやってウェーイってやった。

「ゴール!!カツにいすごーい!!」

「まあ、これくらいは楽勝だよ。あ、そうだ。あーちゃんも一緒に遊ぶか?」

「わーい!!」

あーちゃんは、カツにいと一緒に遊んだ。

おっと、いっけなーい!そろそろ時間が押してるよ!

じゃあそろそろ次に移りましょう!

 

 

ー調理室ー

 

はいっ、ここはチョーリシツだよ!

ここは、なんかよくわかんないけどいろんなものがそろってるんだって!

さすがはキボーガミネガクエン!!

ん!?なんか、めっちゃいいにおいがする〜!

これはもしや…?

「あ、あーちゃん!いらっしゃい。」

ピンクと白のセーラー服を着たおねーさんが、ケーキを持ってあーちゃんのところに来た。

このおねーさんは、ナツねえこと『チョーコーコーキューのパティシエ』コンドウナツミだよ!

ナツねえは、めっちゃおいしいおかしをいっぱい作ってくれるから、あーちゃん大好き!!

「そうだ、あーちゃん。今ね、シフォンケーキ作ったんだけど、食べる?」

「わーい!!食べる食べるー!!」

「どうぞ!ウチのシフォンケーキを召し上がれ!」

「わーい!!いただきマッシュルームカット!」

ナツねえの作ってくれたシフォンケーキは、ふぉっってしてて、ひゃわっってしてて、ハァーンってしててめっちゃおいしい!!

まるでネズミーランドのお城の上のひつじ雲みたいな味だね!

「あーちゃん、例えがわかりにくいよ…でも、おいしかったならよかった!また作るね!」

「うん、ありがとうナツねえ!マヂでベリーキュート世界で一番大好き!!」

「…あはは、ずいぶんとわかりやすいゴマすりだね。」

後ろから、黒いセーラー服を着ためちゃめちゃかわいいおねーさんが話しかけてきた。

「あっ、うぇすにゃん!!」

ショーカイします!このおねーさんは、うぇすにゃんこと『チョーコーコーキューのジッキョーシャ』コニシアヤカです!

うぇすにゃんは、チャンネルトーロクシャスー500万人越えのジッキョーシャで、あーちゃんもチャンネルトーロクしてるんだよ!

画面の前のみんなも、うぇすにゃんチャンネルよろしくね!

「画面の向こうのみんな…?あーちゃん、私達以外にも誰かいるの?」

あ、そっか。うぇすにゃん達は、みんなの事知らないんだった。

「なんでもないよー!!あーちゃんは、この通りゼッコーチョモランマだから!!」

「そ、そう…」

「ねえねえ、うぇすにゃんはここで何やってんの?」

「ああ、私達、この学校に来てからほんの少ししか経ってないでしょ?だから、学校中を探検してるの。」

「タンケン!?おもしろそー!!あーちゃんもやるやるー!!こんだけ広い学校なんだから、仕掛けのひとつやふたつはあるでしょ!滝出てきたりとか、屋根裏にニンジャがいたりとか!」

「…どんな学校なのそれ。」

「あーちゃん、画面の向こうのみんな?はほったらかして大丈夫なの?」

「あ、そーだった!!あーちゃんは、みんなにうぇすにゃん達の事をショーカイしないといけないんだった!!じゃあねうぇすにゃんにナツねえ!!そろそろ時間が押してきたからもう行くね!」

「うん、じゃあまた後でね。」

 

 

ー職員室前ー

 

ここはショクインシツだよ!

あーちゃんは、窓ガラス割っちゃったりとか、コーバイのクリームパンをこっそりもらってきて食べちゃったりとかしたときによくお呼ばれするんだ!!

ここに用があるのは大体、センセー達がガミガミ言うパティーンだからあーちゃんはここが大っ嫌いなの!!

あ、ちょうど誰か出てくるみたいだね!

中からは、黒い服を着た背の高いおねーさんが出てきた。

あのおねーさんは、ブキねえこと『チョーコーコーキューのヒショ』ハヤセフブキだよ!

見た目のせいで、一瞬センセーかと思ってビビっちゃった!

今ヒマなのかな?ちょっと話しかけてみるよ!

「ブーキーねーえー!!」

「アリス様、元気がお有りなのは宜しい事でございますが、廊下ではお静かにお願いします。」

「ねえ、ブキねえ今何やってたの!?フリン!?フリンしてたの!?」

「…はあ、またそれですか。違いますよ。私は、嫌嶋先生に頼まれて作成したリストを提出しに来ただけです。」

「だってー、ヒショといえばフリンがお約束でしょ?ブキねえはしてないんだねー。あー残念。」

「アリス様。お言葉ですが、下品なドラマの見過ぎでは?そのような年齢不相応で不健全なご趣味は、周りに不快な思いをさせる惧れがございます故、公の場での不用意な発言はお控えになった方が宜しいでしょう。」

「むずかしいこと言われてもあーちゃんよくわかんない!!そろそろ時間が押してるから、あーちゃんもう行く!」

ブキねえは、相変わらず言ってることがむずかしいね!

次行こ次!

 

 

ー植物園ー

 

ここは、ショクブツエン!!

いろんな葉っぱとかお花があるんだって!

お花畑みたい!!

「おや、アリスさんではありませんか。こんにちは。」

シルクハットをかぶった三つ編みのおにーさんが話しかけてきた。

「あ、ムズにい!」

ショーカイするよ!この人は、ムズにいこと『チョーコーコーキューのダイガクキョージュ』ジェイムズなんたらかんたらだよ!

ムズにいの名前は、長すぎて覚えられなかったよ!みんなごみんに!

「『みんな』…?アリスさん、私達の他にも誰かいらっしゃるのですか?私も、その方々にご挨拶した方がよろしいですか?」

「ううん?なんでもないよ!こっちの話!…ところでさ、ムズにいってフルネームなんだっけ?」

「私のフルネーム、ですか。私は、ジェイムズ・D=カークランドと申します。」

だってさ!

「ねえ、ムズにいはここで何やってんの?」

「私はここで、日本の植物について調べておりました。オンラインの授業で、植生について知りたいという生徒さんがいらっしゃったので。」

「ふーん。あ、ムズにい!これ何?紫色でキレー!」

「それはトリカブトですね。キンポウゲ科トリカブト属で、アコニチンやメサコニチン等を含む有毒植物です。」

「じゃああれはー?」

「あれはドクゼリです。セリ科ドクゼリ属の多年草で、シクトキシンやシクチンを含む有毒植物です。」

「あれはー?」

「あれはドクウツギですね。ドクウツギ科ドクウツギ属の落葉低木で、コリアミルチンやツチンを含む有毒植物です。」

「なんだよここ!!毒のショクブツばっかじゃん!!」

「…逆では?アリスさんが、毒のある植物ばかりを私に聞いてくるだけでは?」

「…そーともゆー。」

「Zzz…」

「あれ?なんか聞こえない?何の音?」

「…もしや。」

ムズにいは近くのしげみを探した。

そのしげみからは、足が生えていた。

「にゃあああああ!しげみのオバケ!!」

「…やはりですか。…えいっ!」

ムズにいは、オバケの足を思いっきり引っ張った。

「オバケだー!!…あ、あれ?」

しげみからは、葉っぱだらけになった、寝グセがすごいおねーさんが出てきた。

「…全く、貴女という方は。起きなさい!」

ムズにいは、おねーさんの肩を思いっきり揺すった。

「はっ!!ウポンゲ!!」

「ぶっ…プククッ…ア、アンカーソンさん…それやめて…お腹痛い…」

「…ふわぁ、また寝ちゃいましたぁ。おはようございますぅ…」

ショーカイするよ!この人は、リタねえこと『チョーコーコーキューのガイムダイジン』リタ・ア…ア…アンバサダーだよ!!

「…ふわぁ、アンカーソンですよぉ……っていうかぁ、君は誰に話しかけてるんですかぁ。」

「誰かに話しかけてるように見えた?ゴメンゴメン!気のせい気のせい!」

「ふわぁ…そうですかぁ…」

「アンカーソンさん!また船漕いでますよ!」

「…はっ!…ごめんなしゃあい…」

あ、いけね!そろそろ時間が押してるよ!

次行かないと間に合わないよこれ!

「あ、じゃああーちゃんそろそろ行くね!リタねえ、しげみの中で寝ちゃダメだぞー!」

「ふわぁい…」

 

 

ー音楽室ー

 

ここはオンガクシツ!

楽器とかいっぱいあるよー!

「あ、アリス先輩じゃないっスか!」

おかっぱ頭のおねーさんが話しかけてきた。

「あ、シオねえ!」

このおねーさんは、シオねえこと『チョーコーコーキューのエンソーカ』オガワシオンだよ!

「シオねえは、ここで何やってんの?」

「ああ、エレキギター弾いてたっスよ。最近、これにハマってるんス。」

「シオねえカックイー!!ねえねえ、あれ弾いてよ!うぇすにゃんの曲!『53番目の世界線』!!」

「ああ、アレっスか。耳コピで良ければ、弾くっスよ。」

シオねえがギターを弾き始めた。

これこれ!『53番目の世界線』!あーちゃんの大好きな曲!

めっちゃカッコよくてエモいんだな、これが!

なんかノッてきたし、歌っちゃお!

「ごじゅーさんばんめーのーせかいーせーんーシロとークロがーこうさするー!!」

どうだ!!聞けい!!宇宙が轟くあーちゃんのビセーを!!

「!!?ちょっ、アリス先輩!!?一回ストップっス!!やめっ…!!」

「きぼうーとーぜつぼうーがーうーずーまーくーラビリンスーきみはーなにーをおもうー!!」

「ちょっ、マジでやめるっス!!これ以上は鼓膜が保たないっス!!」

窓ガラスがギシギシ言ってるよ!窓もあーちゃんのビセーに酔いしれてんだな!!

にゃははは!!トーゼンだろ!あーちゃんは世界が誇る歌姫だからな!

「にゃははは!歌ったらスッキリした!」

「…ち、近くに耳栓があって助かったっス…」

「あれ?シオねえぐったりしてない?ダイジョーブ?」

「だ、誰のせいだと思って…」

「あ、いけね!そろそろ時間だからあーちゃんもう行くね!」

「は、はい…」

さーて、次いこ次!

…あれ?ちょっと待って?

あ!どーしよ!セートテチョーがない!!

…さっきのショクブツエンで落としたのかな。

探さねば!

 

 

ー植物園ー

 

あった!

あー、良かった。

これがないと、キボーガミネから追い出されて、お面みたいなの被ったドレーショーニンに5000京円くらいで売られちゃうとこだったよ。危ない危ない。

あ、もうムズにいとリタねえはいないね。

どこ行ったのかな?

「アリスじゃねえか!どうしたんだ、こんな所で?」

「あ、お兄ちゃん!」

この巨人みたいなおにーさんは、お兄ちゃんこと『チョーコーコーキューのニワシ』ゴウマゴンゾウだよ!

なんでお兄ちゃんって呼んでるのかって?このおにーさんが、あーちゃんの事を『妹』って呼んでるからだよ!

それにしても、お兄ちゃんこんなとこで何してんだろ?ニワシだから、ここのお手入れとか?

「お兄ちゃん、こんなとこで何してんの?」

「ああ、この木、家建てんのにピッタリそうだなーって思ってな。他にも、色んな木を見てたんだよ。」

ああ、そっちか。

「ねえねえ、その木シュトーで切ったりできる?」

「…いや、手刀ではさすがに無理だろ。チェーンソーとか使わねえと…」

「ふーん。」

「なあ、アリスはここに何しに来たんだ?」

「ああ、セートテチョー落としちゃって。ここに探しにきたの!」

「そっか、見つかったのか?」

「うん!」

「なら良かった!妹の悩みは俺の悩みだ!いつでも頼ってくれよ!」

「ありがとお兄ちゃん!じゃああーちゃんそろそろ行くね!」

「おう!」

 

 

ー美術室ー

 

ここはビジュツシツだよ!色んな絵とかがあんの!

「!!?」

ロン毛でメガネかけたおにーさんが、あーちゃんに気づいて広げていた紙を腕で隠した。

「あ、ケンにいじゃん!何してんのこんなとこで!」

この汚い顔のおにーさんは、ケンにいこと『チョーコーコーキューのマンガカ』オダケンタロウだよ!

「あ、アリス氏!?こんな所に何の用でありますか!」

「別に?ちょっと来ただけだよ!…ケンにいこそ、ここで何やってんの?」

「わ、吾輩の勝手であります!早く出て行きなされ!」

「ふーん。じゃあ出て行こーっと!…と見せかけて!えいっ!!」

「あっ!!」

ケンにいのスキをついて、思いっきり紙を引っ張って見てみた。

「取ったどー!!」

「か、返してくだされ!!」

「へっへ〜ん!やなこったパンナコッタ!どれどれ?」

紙には、デカパイのエッチなおねーさんが描かれていた。

「…え、何これ。…まさか、これケンにいが描いたの?」

「は、早く返してくだされ!!」

「あ、いい事思いついた!!」

あーちゃんは、紙を折って紙ヒコーキにした。

「な、何をする気でありますか!?」

「へっへ〜ん、それっ!!飛べ、ドエロチック号!!」

あーちゃんは、窓の外にヒコーキを飛ばした。

「ぎゃああああああああああ!!!あ、アリス氏なんて事をォオオオオオオオオ!!!」

「にゃはははは!!ヘンタイなケンにいにオシオキしてやったぜ!!」

「最悪でありますぞぉおおおお!!未来が約束されているはずの希望ヶ峰学園での吾輩のお先は真っ暗でありますぅううううう!!!」

さーてと、ギャーギャー泣き喚いてるガンメンヘンサチ5はほっといて、次行きましょ次!

 

 

ー図書室ー

 

ここはトショシツ!色んな本があるよー!!

あーちゃんは、ドクショ嫌いなんだけどねー!!

ふーっふーんっと…

ヒマだし歌でも歌っちゃおーっと。

「しっずかっなこっはんっのもっりのっかげっからっ♪」

「…図書館の中では静かにしてください。」

「にゃああああああああああああああああッ!!?」

後ろを向くと、白と黒のセーラー服を着たおねーさんがいた。

「い、いつの間に後ろに…!?あーちゃんのハイゴを取るなんて…まさか忍者!?ハ●トリくん!?」

「いや、ずっと前からいましたけど…アリスさんが気づかなかっただけですよね…」

このおねーさんは、ナギねえこと『チョーコーコーキューのコーウン』トコマエナギサだよ!

ナギねえは、フツーの高校生の中からくじ引きで選ばれた生徒なんだって!

サイノー無いからなのか知らんけど、ソンザイカンうっすいんだよねナギねえは!

「ナギねえ、こんなとこで何してんの?」

「何って…普通に本を読んでるだけですけど…あなたこそ、ここで何を?」

「ひつまぶし!!」

「…暇潰しでしょ。ひつまぶしだと鰻になってしまいます。」

「間違えたー!!テヘペロッテルダム!!…って、やっば!そろそろ時間が押してるからあーちゃんもう行くねー!!」

 

 

ー物理室ー

 

ここは、ブツリシツだよ!なんかよくわかんないジッケンの道具とかがいっぱいあんの!

あーちゃんは、むずかしいジッケンとかは大っ嫌いなんだけどねー!

ん!?何これ!!ラジコンじゃん!!カックイー!!

「おいクソガキテメェコラ!!何勝手に触ってんだ!!」

後ろからヤンキーのおにーさんが怒鳴りつけてきた。

「うっせーぞリオンにい!あーちゃんの大クエーサー群並にマーベラスなコマクが破れたらどーしてくれんの!?」

「下の名前で呼ぶなっつってんだろクソガキ!!殺すぞ!!」

このDQNは、リオンにいこと『チョーコーコーキューのソージューシ』イヌガミリオンだよ!

「キャーこわーい!…ねえ、リオンにいはここで何やってたの?」

「…チッ、見ての通りだよ。」

「ラジコンで遊んでたの?わーい、あーちゃんもやるやるー!あそこにもう一台あるし、二人でキョーソーしよーよ!」

「誰がやるかそんなメンドクセェ事。」

「あれれー?もしかして、あーちゃんに負けるのが怖いのー?」

「うるせェなクソガキ!!ンなワケねェだろうがよ!!やってやるよ、後で言い訳すんのがメンドクセェからなァ!!」

「にゃはは、チョロいなリオンにいは!向こうの線ゴールね!…じゃあ始めるよー、よーいスタート!」

あーちゃんのラジコンとリオンにいのラジコンが同時に動き出した。

若干あーちゃんの方がリードしてる。

「にゃはははは!どうしたリオンにい!あーちゃんの見事な手捌きに酔いしれて手も足も出ないか!?」

「…フン、バーカ。全部計算に決まってんだろ。」

「にゃははは!負け惜しみ!?だっさ!全然差が縮まってないじゃん!」

「…まあ見てな。」

リオンにいのラジコンは、急にカーブして一気にゴールに近づいた。

「ダニィ!?」

「初めからコーナー攻めが狙いだ。あんまスピード出し過ぎると、うまく曲がれないからな。どうだ見たかクソガキ。」

「それ知ってて教えないとかヒキョーだぞ!!ぐぬぬ…もう怒った!!反撃じゃあー!!」

あーちゃんは、コントローラーをめちゃめちゃ動かしまくった。

「おいバカやめろクソガキ!!」

「ふーんだ、あーちゃんのゼンリョクシッソーはもう誰にも止められな」

ガシャンッ

「…あっ。」

ラジコンが机の角にぶつかってブッ壊れた。

「…おいクソガキ、テメェ殺すぞコラ!!」

「にゃははー逃げろー!!」

 

 

ー購買部ー

 

「にゃははー!リオンにいに殺されるとこだったー!」

「フッ、誰かと思えばアリスか。」

厨二臭いおにーさんが話しかけてきた。

「あ、ツラにい!」

このおにーさんは、ツラにいこと『チョーコーコーキューのチョーノーリョクシャ』モリヨロズツラノリだよ!

「フッ、アリスよ。画面の向こうの奴らに俺の事を紹介してくれているのか?」

「え、ツラにいはみんなの事わかるの!?」

「フッ、当然だ。俺様を誰だと思っている。」

「すげー!じゃあさじゃあさ、今ここでビーム出してよ!画面の向こうのみんなも喜ぶよ!」

「えっ、び、ビーム…?いや、ちょっと今日は体調が…」

「なんだよー!今世紀最大のチョーノーリョクシャなんだろー!?ビーム出せこのヤロー!!」

「…フッ、そこまで言うなら仕方ない。見せてやろう。…はっ!!」

「すげー!!なんか手から波が出てるよ!マヂゲロヤバー!」

「…フッ、見たか。」

「わーい、ツラにいすごいすごーい!」

「フッ、他にも見たければ色々…」

「あ、そろそろ時間押してるからもういくね!」

「…お、おう…」

 

 

ー弓道場ー

 

ここはキュードージョーだよ!

あの的に矢を当てるんだって!

お、やっぱりいた!

今、弓矢を構えてるポニーテールのおねーさんは、ユミねえこと『チョーコーコーキューのキュードーカ』イバヤマユミだよ!

ユミねえが、矢から手を離した。

矢は、的のど真ん中に当たった。

「おぉー!!ユミねえすげー!!」

「…ん。」

「ねえねえ、今のどーやったの!?」

「…別に。普通に的を狙っただけ。」

「すげー!ねえ、あーちゃんもやりたーい!!」

「…あんた、できんの?」

「もち!さっき、ユミねえがやったの見てたもん!あーちゃんは天才だから、一回見たらできちゃうんだな、これが!」

あーちゃんは、弓矢を構えた。

「…ふぎぎ、なにこれ!なんで引くだけでこんな力いんの!?指千切れそう!」

「…はあ、だから言ったじゃん。」

「このまま、手を離せばいいんでしょ!?それっ!!」

矢は、狙った方向とは全然違う方に飛んでいった。

そして、桜の木の枝に当たって枝が折れた。

「ぎゃっ!!…やっば!どうしよ!!やっちゃった!!」

「…あんた、バカじゃないの?どうすんのこれ。私、知らないから。」

ユミねえは、道具を片付けてキュードージョーを後にした。

「にゃああああ!どうしよー!…ま、いっか。あとでお兄ちゃんになんとかできないか頼んでみよーっと。そんな事より、次いこ次。」

 

 

ー保健室ー

 

ここはホケンシツ!

ケガとかしたら来るとこだよ!

ドラマとかでは、ここでセートとセンセーがいけない関係になったりとかはあるあるだよね!

「おい、子供!!貴様、ここに一体何の用だ!!」

いきなり、白衣を着たおねーさんが話しかけてきた。

「あ、クレねえ。」

この人は、クレねえこと『チョーコーコーキューのゲカイ』コウジロクレハだよ!

ビジュアル的には、どっちかっていうとゲカイって言うより女王様だよね!

「子供、貴様は神の治療を受けに来たのか?だったら跪け!!媚びろ!!この私を崇めろ!!」

「やー、別にチリョーしてほしいわけじゃないんだ!」

「何?そうか…なら、私を崇拝しに来たんだな!?ふははははははははははははははは!!いい心がけだ!!神である私を敬え!!そして我が美貌の前にひれ伏せ愚民が!!」

「うるせーぞクレねえ!!あーちゃんは、別にクレねえになーむーとかアーメンとかしに来たんじゃないんだよ!あーちゃんは、ここに探検に来ただけなの!!」

「おいクソガキテメェコラ!!愚民の分際で神である私に向かってなんだその口の利き方は!!恥を知れ、この罰当たりが!!」

「クレねえこそ、女王様のくせに宇宙がシットするスーパー美少女天使あーちゃんに向かってなんだその口の利き方は!あーちゃん激おこぷんぷん丸だぞ!!」

「このクソガキ!!神の裁きを受けろ、エキストラ風情がぁああああああああああ!!!」

「はーい、ストップ。そこまでよ、2人とも。」

「なっ…!テメェ…!」

背の高いオカマが割り込んできた。

「エカイラちゃん!いたんだね!」

「うふふ、まあね。」

ショーカイします!この人は、エカイラちゃんこと『チョーコーコーキューのシニガミ』フシギノエカイラだよ!

「エカイラちゃんは、ここで何してたの?」

「うふふ、ナ、イ、ショ♡」

「ふーん。」

「ヒィイイイイイイ!!た、助けてくれ!!」

ベッドの方から、男子の声が聞こえてきた。

「うふふ、怯えちゃって、可愛いわねえ。今からたっぷり可愛がってあげるわよぉおおおおおお!!」

エカイラちゃんは、思いっきりベッドに突っ込んでった。

「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!」

「ふははははははははははははは!!見ものだな!!せいぜい遊びすぎてケツの穴ガバガバになんねぇように気をつけろよ!!」

うわぁ…あのおにーさん、エカイラちゃんに掘られちゃうよ。ゴシューショーサマ。

あーちゃんは掘られんのやだから今のうちに逃げよーっと。

 

 

ー帰り道ー

 

みんな、どうだった?あーちゃんのクラスメイト達は!!

え?どいつもこいつもキャラ濃すぎって?

にゃはははー!超人ばっかりを同じ学校に集めてるんだもん、そりゃカヲスにもなるよねー!

今日はもう時間がないからここまでだけど、明日はもっといろんな人をショーカイしてあげるね!

それじゃあ、画面の向こうのみんな!まったねー!!

 



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番外編⑥ サプライズ編

お待たせしました。
お待たせしすぎたのかもしれません。


俺の名前は玉木勝利。

俺には、中学生の頃から付き合ってる人がいる。

「勝利さん…?勝利さん!」

「うおっ!!」

「もう、ビックリしすぎです。…悩み事ですか?勝利さんらしくないですね。」

「…わ、悪い…」

この女の子の名前は姫月小美。

中学校時代の俺のクラスメイトだ。

俺は、小美の事で少し考え事をしていた。

来週は小美の誕生日だ。

…だが、小美に誕生日プレゼントを贈るのはこれが初めてだし、何を贈ればいいのかわからない。

小美なら、俺からのプレゼントならなんでも嬉しいって言ってくれるだろうけど、だからって期待外れな物は贈れないし…

コイツ、お嬢様だからそこら辺難しいんだよな…

…とりあえず、何かを買うかは商店街にでも行って決めるか。

「なあ、小美。悪いけど先に帰っててくれるか?」

「え、どうしたんですか急に。」

「悪い。ちょっと急用ができちまった。」

「…勝利さん、なんだか今日様子がおかしいですよ?先程から上の空ですし…私に何か隠してますよね?」

「別に何も隠してねえよ!じゃあな!」

「…はあ。」

 

 

ー商店街ー

 

なんか、雑な別れ方しちまったな。

でも、正直にプレゼントを用意するって言うわけにもいかないしな…

アイツには、当日謝ろう。

 

「…よお、悩み事か?」

後ろから菊池が声をかけてきた。

「…菊池…!」

「どうした?悩み事なんて、お前らしくないな。」

「…お前には隠し通せねえか。…実は、小美が来週誕生日なんだよ。そのプレゼントを何にしようか考えてたんだけど、俺女子の好みとかわかんねえからさ…」

「なんだよ、そんな事か。…じゃあよ、俺達でお前の彼女の誕生日会開くっていうのはどうだ?」

「いや、でもなんか悪いだろ…お前だって、暇じゃないだろ?」

「いいんだよ、俺の事は。ぶっちゃけ、俺がやりたいだけだからな。じゃあ、みんなに来れないかどうか聞いてみるわ。」

「え、でも迷惑じゃないのか?」

「人数は多い方がいいだろ。…お前、そんなに遠慮する奴だったか?」

菊池は、みんなに電話をかけ始めた。

みんなには関係ないのに呼びつけたみたいで、なんか申し訳ない気もするけど…

「今、確認取れたよ。15人来れるってさ。」

「15人!?そんなに!?」

「…ごめん、もしかして人数多すぎた?」

「いや、全然そんな事ねえんだけど…そんなに来てくれんのかよ!?」

「みんな、玉木の彼女の誕生日会なら喜んで準備を手伝うって言ってたぞ。良かったな。」

「…菊池…ありがとな!!」

「うおっ、おい、苦しいって。」

俺は、思わず菊池に抱きついた。

まさか、みんなが小美のために誕生日会を開いてくれるなんてな。

…やっぱり、持つべき物は親友だな!

「よっしゃ、そうと決まればパーティーの準備だ!俺達で必要なモン揃えるぞ!」

「だな、じゃあ俺は向こうの店で買い物してくるわ!」

「おう!」

俺と菊池は、パーティーのための買い物をした。

二人いるだけあって、必要なものはそれなりに揃えられた。

誕生日当日に、みんなが手伝いに来てくれるらしい。楽しみだな。

 

 

ー誕生日当日ー

 

「かつにいー!!」

「よお、玉木。」

菊池とあーちゃんが一番のりに俺の家に来た。

「二人とも、来てくれてありがとな。とりあえず、狭いとこだけど上がってくれ。」

「わーい!!あ、そうだカツにい!」

「なんだ?」

「あーちゃんねえ、ハルねえのプレゼント作ってきたの!」

「え、あーちゃんプレゼント持ってきてくれたのか!?ありがとな!」

「まあね!ジャジャジャーン!!」

あーちゃんは、透明のフィルムで包まれたCDを取り出した。

「これ、うぇすにゃんの新曲!」

「いいなそれ!アイツ、最近の曲とか好きだしきっと喜ぶよ!」

「…を、あーちゃんがカバーしたやつ!!」

「は!!?」

「へへーん、これを贈ればハルねえがあーちゃんのファンになる事間違いなしだよ〜!」

「おいアリス!!このクソガキテメェコラ!!それだけは絶対やめろ!!姫月の誕生日が命日になりかねんぞ!!」

「ふーんだ!脳ミソの大きさがショウジョウバエの目玉くらいしかない音楽IQ2のサトにいには、あーちゃんの歌声の素晴らしさはわからないですよーだ!!」

「うるせえ!いいからそのCD貸せ!」

「あ、ちょっと!何すんだよサトにい!」

「おりゃあ!!」

菊池は、あーちゃんのCDを両手で持つと、勢いよく膝で蹴り上げて割った。

「にゃああああああ!!!あーちゃんカバーver.黒猫の詰め合わせがぁあああああ!!サトにいの人でなし!悪魔!鬼軍曹!!」

「なんとでも言え。…これで諸悪の根源は消え去った。」

「うええええええん!カツにいー!サトにいがあーちゃんのCD割ったー!」

「…はいはい。」

…容赦ねえな菊池の奴。

 

ピンポーン

 

「お、誰か来たみたいだな。」

俺は、玄関のドアを開けた。

「やっほー!カッちゃん!」

「おはよう玉木君。」

「お早うございます、玉木様。」

「近藤に猫西に速瀬!来てくれてありがとな!」

「カッちゃん、パーティーの料理なら任せて!キッチン借りてもいいかな?」

「ああ、もちろん。狭いけど使いたければ遠慮せず使ってくれ。」

「じゃあ、使わせてもらうね〜!」

近藤は、キッチンに上がると早速料理を始めた。

「そうだなあ…やっぱり、定番はチキンとケーキかな〜。あ、そういえば小美ちゃんは和菓子が好きって言ってたし、和菓子にしよっと!あと、料理もそれに合う感じにしてみよっかな!どっかに蒸籠ないかな〜。…あったあった。早速作るぞー!」

近藤の独り言が聞こえてくる。

聞いているだけで腹が減るな。

…アイツの手料理か。楽しみだな。

「玉木君、お邪魔するね。」

「お邪魔します。」

「おう。…って、2人ともその荷物どうした?」

猫西と速瀬は大量の荷物を抱えていた。

「ああ、これですか。パーティーの為の機材等ですよ。必要な物はこちらで用意させていただきました。」

「マジかよ…」

できる女子は違うな…

「昨日、2人で買い物行ったんだよ。じゃあ私は飾り付けとかしてくるね!」

「では、私も準備を進めましょう。玉木様、このお部屋を使っても宜しいですか?」

「あ、いいぞ。自由に使ってくれ。何か不都合があったら、すぐに俺に言ってくれよな。」

「畏まりました。」

速瀬は、テキパキと持ってきた荷物の中身を取り出してセッティングし始めた。

メジャーとかを使って正確に計りながら、それでいてスピーディーに作業を進めていく。

…さすがは『超高校級の秘書』…パーティーの準備においても完璧超人だな。

「よいしょっと。玉木君、そっち引っ張って。」

「おう。…こんな感じか?」

「うん、そんな感じ。」

 

「あっ!」

猫西は、脚立から落ちた。

「危ない!!」

俺は、猫西のもとへ駆けつけようとした。

「…よっと。」

菊池が猫西を受け止めた。

「…おっと、俺の出る幕じゃなかったか。大丈夫か2人とも?」

「ああ、俺はなんとかな。…大丈夫か猫西?」

「あ、うん。私は平気。ごめんね菊池君。受け止めてくれてありがとね。」

「い、いいってことよ。」

菊池の奴、平然を装ってるけど腕プルプル震えてんな。

普段鍛えてないのに急に人を抱えたから腕が痺れたのか?

「あー!サトにいのハンザイシャヨビグン!うぇすにゃん、ここはあーちゃんに任せてこのヘンタイから逃げて!あーちゃんがフルボッコにしておさわりまんにツーホーするから!」

「…それを言うならおまわりさんだよね。おさわりまんだとむしろヤバい人になっちゃうよ。」

「そーともゆー!…とにかく、早くヘンタイから逃げて!」

「誰が変態だコラ。つべこべ言ってないで早く俺達も準備進めるぞ。」

「ぶー。」

…あはは、なんなんだアイツらは。

 

 

ピンポーン

 

「お、また誰か来たのか?」

今度は、小川、射場山、床前が来た。

「先輩、こんちわっス。」

「…ん。」

「こんにちは玉木さん。お邪魔しますね。」

「お前ら、来てくれてありがとな!狭いとこだけど、上がってくれ!」

「では、お言葉に甘えて…」

「あれ?小川、背中のそれ、なんだ?」

「ああ、バイオリンっスよ。パーティーで演奏しようと思ってるんスけど…」

「そうなのか?それは楽しみだな。」

「あ、玉木先輩。」

「おう、なんだ?」

「ちょっと、部屋の響き具合とか確認しておきたいんで、一部屋使っていいっスか?」

「いいぞ。2階の奥の部屋が空いてるから使ってくれ。」

「ありがとうございます。じゃあ、早速使わせてもらうっス。」

小川は、階段を登っていった。

「うっは〜!玉木先輩の家、広いっスね〜!羨ましいっス!…奥の部屋っと。ここっスかね?お邪魔しまーす!」

小川は、部屋に入って演奏を始めたようだ。

上の階から、綺麗な音色が聞こえてくる。

…さすがは『超高校級の演奏家』だな。演奏の腕はプロ顔負けだな。

「あ、射場山さんに床前さん!二人ともいらっしゃい!」

「…いらっしゃいって、あんたの家じゃないよね?」

「まあ、そうなんだけどさ…」

「あら?猫西さん、菊池さんも来ていらっしゃるんですか?」

「え、うん。そうだけど…あ、本人が来たよ。」

「射場山、床前。お前らも来たのか。」

「…ん。」

「菊池さん、こんにちは。私、お手伝いしますね。」

「お、手伝ってくれんのか?悪いな。じゃあここ切ってくれるか?」

「はい!」

「…なんなのアイツ。床前って、あんなキャラだったっけ?」

「あはは、あの子、菊池君の前だと態度変わるよね。ねえ射場山さん。ちょっと向こう手伝ってくれないかな?」

「…ん。」

射場山は、俺の隣に来て色紙で飾りを作り始めた。

俺も、射場山と一緒に飾りを作った。

「こんな感じでどうだ?」

「…いいんじゃない?」

「よし、じゃあこれはダイニングの壁につけよっかな。射場山、お前はどんなの作った?」

「…ん。」

射場山は、うさぎと月の飾りを作っていた。

「…かわいいな。でも、なんでうさぎと月?」

「…姫『月』だから。」

「ああ、なるほど…いいな、そういうの!かわいいし、アイツも喜びそうだ!」

「…ん。」

射場山は、少し微笑んでいた。

コイツ、意外と普通に笑ったりとかするんだな。

…しかし、射場山がこんなにかわいい飾りを作るとはな。

俺も頑張ってパーティーの準備進めないと…

って、菊池と床前は何やってんだ?

「…と、こんな感じでどうですか?菊池さん。」

「それはいいけど、なんかお前近くね?」

「近い?あ、これちょっとくっつけすぎちゃいましたかね…もうちょっと距離おかないと…」

「そうじゃなくて、お前がだよ。なんでパーティーの飾りの準備をするのにそんなにべったりくっつくんだよ。」

「そうですか?普通、人との距離感ってこんな感じじゃありません?」

「どう考えたって近いだろ。手を動かすのに邪魔だからもう少し離れてくれないか?」

「ええ、でも私…」

「…はあ、じゃあ俺が離れるわ。」

「♪」

「…なんでわざわざ距離置いたのに詰めるんだよ。」

「なんとなくですっ」

「はあ、こんなんじゃいつまで経っても終わらねえぞ。とにかく、早く離れ…」

 

バンッ

 

射場山が、いきなり机を叩いた。

…完全に怒ってる。

コイツ、怒るとメチャクチャ怖いんだよな。

「…菊池、床前。あんた達ふざけてんの?姫月が来る前に終わらせなきゃなんないんだから、真面目にやんな。」

「…はい、すみません…」

菊池は、縮こまりながら作業を続けた。

…俺も真面目にやんないと怒られるな。さーてと、飾り作りも終わったし、これを部屋につけよっかな?

 

 

ピンポーン

 

また誰か来たのか?

俺は玄関のドアを開けた。

今度は、ジェイムズ、郷間、森万、織田が来ていた。

「こんにちは玉木さん。私達も、パーティーの準備をお手伝いしますね。」

「よお、勝利!彼女の誕生日なんだってな。俺達にも祝わせてくれ!」

「フン、俺様がパーティーを盛り上げてやろう。」

「ムフフ、姫月氏はかなりの美少女だと小耳に挟んでおりますぞ…お会いするのが楽しみであります!!」

「…織田。一応言っとくが、俺の彼女だからな。あんまり変な事考えんなよ。お前ら、中ですでに菊池達が準備してるから、遠慮せず上がってくれ。」

「はい、ではお言葉に甘えさせて頂きます!」

「ムフフ、時にカークランド氏に森万氏。君達は、姫月氏に会った事があると聞きましたが…」

「ええ、お会いした事はありますよ。確か、森万さんとCDショップで買い物をしている時でしたかね。とても端麗で、清楚な雰囲気の方でしたよ。」

ジェイムズは、スマホの画面を見せた。

「ブヒャー!!噂通りの美少女であります!!玉木氏め、羨ましいですぞチクショー!!」

「人の彼女をいやらしい目見んな、織田。…ジェイムズも、コイツに余計な事教えなくていいから。」

「あ、申し訳ございません…」

「フン、貴様ら。いつまでそこで道草を食っている。早く準備を始めるぞ。ほとんど時間がないのだからな。」

「おう、そうだな羅象。なあ、勝利。俺は何をしたらいいか?」

「…そうだな、庭をパーティー仕様にしてくれないか?」

「…庭仕事は好きじゃねえけど…パーティー仕様だな、任せとけ!」

郷間は庭に向かった。

「私達は私達で準備を進めましょうか。森万さん、一緒に準備しましょうね。」

「フッ。…ところでカークランド。貴様、その鞄の中には何が入ってるんだ。」

「ああ、これですか。姫月さんへのプレゼントです。」

ジェイムズは、花束を取り出した。

「え、いや、お前それ…普通、お前がやるもんじゃないだろ。よりによって、赤いバラって…プロポーズするわけじゃないんだし…」

「安心してください。これは本物の花ではありません。ソープフラワーです。」

「そういう問題じゃないだろ…なんかこう…絵的に…」

「そうですか?最近流行りで、女性にも人気のプレゼントなんですよ〜。」

ジェイムズの奴、流行りとか気にすんのか。

「…そうなのか。まあいいや、とにかく俺達も準備するぞ。」

「了解です!…ところで、森万さんは姫月さんの誕生日のサプライズは、何にするおつもりですか?」

「フッ、いい質問だな。俺は、サイキックショーをしようと思っている。」

「それは素晴らしい考えですね!私もお手伝いします!」

ジェイムズと森万はショーの準備か。

あいつら、何をするのかな?楽しみだな。

 

織田は、リュックを漁っている。

「織田、お前も何か持ってきてくれたのか?」

「ムフフ…実は、姫月氏のために、玉木氏を主人公にした漫画を描いてきたのであります!」

「え、そうなのか?俺が主人公か…ちょっとだけ見せてくれるか?」

「むむ…汚さないように気をつけなされ。」

「わかってるって。どれどれ…?」

俺は、漫画を読み始めた。

…さすがは『超高校級の漫画家』だな。

ストーリーも面白いし、絵も綺麗だ。

…ただ、

「なあ、お前…自分を美化しすぎじゃね?」

「気のせいであります!」

「まあいいけど…あれ?これ、小美か?」

「左様であります!想像で描かせていただきました!」

…想像で描いたのかこれ。

めっちゃ似てんだけど…偶然ってすごいな。

「ありがとな織田。小美もきっと喜ぶよ。」

「ムフフ…それは良かったであります。では、吾輩は仕上げの作業がありますので…」

「おう、頑張れよ!」

 

 

ピンポーン

 

「お、今度は誰かな?」

今度の来客は、エカイラ、神城、狗上、リタの4人だった。

「あら〜!カツトシちゃ〜ん!おはよ〜!」

「ふははははははははは!!!神が来てやったぞ!!感謝しろ!!」

「…チッ。」

「ふわぁ…」

「お前ら、来てくれてありがとな。狭いとこだけど、まあ遠慮せず上がってくれ。」

「うふふ、じゃあお邪魔しちゃうわよぉ〜!」

エカイラは、紙袋を持っている。

「お前、それ何が入ってんだ?」

「ああ、コスメよコスメ!女の子なら、こういうの喜ぶと思って!」

「そうなのか…」

エカイラは、化粧セットを見せてきた。

…うわあ。色がドス黒いなあ…

なんで毒々しい色の化粧品しか入ってないんだよ。

こんなの、絶対女子が引く色だろ…

だけど、せっかく小美のために持ってきてくれたんだし、気持ち悪いって言っちゃダメだよな。

俺は、できる限りの愛想笑いを浮かべた。

「あ、ありがとう…小美もきっと喜ぶよ…」

「あら、カツトシちゃん。お顔引きつってるわよ。大丈夫?」

「ソ…ソンナコトネエヨ?キノセイジャネエカ?」

「いや、棒読みだし…まあいいわ、アタシもパーティーの準備手伝ってこようかしらねぇ〜。」

「フン、オカマの奴、プレゼントのセンス悪すぎんだろ!!ダッセェ!」

エカイラのプレゼントを近くで見ていた神城が笑っていた。

「そういうお前も、何か持ってきてくれたみたいだな。」

「フン、当然だ!!私は女神のように優しい…っていうか女神だからな!!コハルって奴のプレゼントを持ってきてやったぞ!!」

神城は、ラッピングされた箱を取り出した。

「それ、中に何が入ってんだ?」

「フン、いい質問だな!!褒めて遣わす!!…これは、私が調合した神の発明品だ!!顔につけただけでニキビやシミが根こそぎ消え去る美容パックだ!!どうだ、凄いだろう!?ふははははははは!!!」

神城の奴、意外とこういうところで気が利くんだよな。

「ちなみに、これは愚民向けに販売もしているんだ。今なら、二箱買えば私について書かれた聖典がついてくるぞ!!」

「聖典って…もしかして、自分で書いたのか?」

「そうだが?…どうだ?欲しくなっただろう!?ふははははははは!!!」

い、いらねぇ〜!!!

絶対それ二箱以上は売れないだろうな…

「あ、ありがとう神城。」

「フン、もっと感謝してもいいんだぞ!!さてと、特別に神が貴様の家に上がってやろう!!この私を盛大にもてなせ!!」

コイツ、今日の集まりの意味わかってんのかなぁ…

相変わらずブッ飛んでるみたいで逆に安心したよ。

 

「よっしゃ、できたぞ!」

庭の方から郷間の声が聞こえてきた。

…アイツ、もう終わったのか?

「郷間、お前の方はどうなって…」

!!!

…なんだこれは。

ちょっとパーティー仕様にしてくれって頼んだだけなのに、俺の想像をはるかに越えてきた。

木にデコレーションが施されてるだけじゃなくて、レンガでできた調理台とか、ハンモックまであるし…

一体どうやったらこんな風に仕上がるんだよ。劇的ビフ●アフターじゃねえか。

…さすがは『超高校級の庭師』、そんなに好きじゃないって言っていたとは思えないクオリティだ。

これは、プロも認めるわけだ。

「悪いな。ちょっと凝りすぎて時間かかっちまった。こんな感じでいいか?」

時間かかったって…まだ小一時間しか経ってないぞ!?

そんな短時間でこの出来栄え…まさに神業だな。

「すげえなお前!!ここまでいい感じになってるとは思わなかったぞ!ありがとな!!」

「おう!」

みんなすごい張り切ってるな。

…って、小美の誕生日パーティーなんだから、俺が一番張り切らなきゃダメだろ。

俺も、家の中を豪華に飾り付けなきゃな!

「…よっと。」

狗上が外に出て、鞄を床に下ろした。

そして、中からドローンを取り出した。

狗上は、ドローンを動かし始めた。

「…うし、問題無さそうだな。」

「何してんだ?」

「あ?ンだよ、急に話しかけんじゃねえよ。」

「あ、悪い…ちょっと気になってよ。」

「見ての通りだよ。ちゃんとドローンが計算通りに動くかチェックしてんだよ。」

「え、ドローンを!?もしかして、小美の誕生日プレゼント…」

「バッカ、ンなワケねえだろ。コイツは、俺の愛用ドローンだ。誰にもやらねえよ。」

「そうなのか。…じゃあ、なんで飛ばしてんだ?」

「まあ見てろ。」

狗上は、リモコンを操作してスイッチを押した。

すると、ドローンから紙テープと紙吹雪が出てきた。

「これは…」

「明日、テメェの彼女が来たらこれで出迎えんだよ。俺、女の好みとか全然わかんねえけど、こういうので盛り上がったりとかしねえかなって思ってよ。」

「いいアイデアだな!小美も絶対喜ぶぞ!!…狗上、お前がこんなサプライズを思いつくなんて意外だよ!」

「うるせェ。一言余計なんだよテメェ。」

「悪い悪い。…でも、ホントありがとな狗上。」

「チッ…別に、テメェらのためにやってんじゃねえかんな。」

狗上は、照れ臭そうに言った。

褒められ慣れてないのかな、コイツ。

俺は、家の中に戻った。

 

「さてと、俺も飾り付けしないとな…」

「ふわぁ、玉木ぃ。僕も手伝いますよぉお…」

あくびをしながら話しかけてきたのはリタだった。

「リタ、ありがとな。じゃあ、ここを持って引っ張ってくれ。」

「ふわぁ…了解ですぅ…」

まあ、ヒモ持ってるだけだから大した仕事じゃないんだけど…

…ん?なんかズレてきてないか?

ちゃんとリタがヒモを持ってくれてるはずなんだけど…

「…くぅ。」

寝てる!!?

ああ、クッソ。そうだった。コイツは目を離すとすぐ寝ちまうんだった。

「おい、起きろリタ!」

まだ眠りが浅かったからか、意外と起こすのにてこずらなかった。

「はっ、ユーギュポ!!」

一体何語なんだそれは。

「…ふわあ、ごめんなしゃあい…寝ちゃいましたぁ。」

「…じゃあ、あそこにある折り紙で紙吹雪を作ってくれないか?菊池達も一緒にいるし…」

「ふわぁい…」

菊池達がいれば安心かな…

さてと、俺の方は…

 

バサッ

 

…何の音だ?

振り返ると、リタが紙吹雪を被っていた。

「ふわぁああ…ごめんなしゃあい…ドジっちゃいましたぁあ…」

「ったく、あんたね…せっかく私達が作ったのに…」

「まあ射場山、そんなに怒るなよ。リタだって、悪気があったわけじゃないんだし。みんなで一緒に拾おうぜ。」

「…ん。」

…大丈夫かなぁ、アイツら。

 

「できたー!!」

小一時間後、パーティーの準備が終わった。

途中不安要素もあったけど、なんとかパーティーを開そうだな。

あとは小美を呼ぶだけだ。

「もしもし?小美?いきなりで悪いんだけど、今すぐ俺の家に来てくれないか?うん、すぐだ。ごめんな。じゃあな。」

俺は、電話で小美を呼んだ。

「…呼んできたよ。あとは本人を待つだけだな。」

 

ピンポーン

 

インターホンが聞こえた。

「…おい、お前の彼女だぞ。行けよ。」

パソコンで玄関の映像を見ていた狗上が俺の背中を押した。

「お、おう。」

俺は、狗上に急かされて玄関のドアを開けた。

「勝利さん!いきなり家に来いって、何かあったんですか?…そういえば、この前もなんか様子がおかしかったし…」

「…小美。」

「は、はい。なんでしょうか…?」

 

「…誕生日おめでとう!!」

俺と狗上のドローンが同時にクラッカーを鳴らした。

「…はぇ!?」

突然の事に、小美は混乱している様子だった。

「あ、あの…勝利さん、これは一体どういう…」

「さーさ、入った入った!主役は中でご馳走でも食ってゆっくりしようぜ!」

「は、はあ…」

俺は、小美の手を引っ張って家の中に上げた。

 

「小美ちゃんお誕生日おめでとー!!!」

みんなが、一斉に小美の誕生日を祝った。

「あ、あの…勝利さん…この方達は?」

小美は、目をパチクリさせながら俺に聞いた。

「ああ、紹介するよ。俺のクラスメイト達!みんな、お前の誕生日パーティーのために来てくれたんだぞ!実は、最近ちょっとお前にそっけなく接してたのは、このパーティーのためだったんだよ。ごめんな。」

「それは全然構わないのですが…勝利さんのご学友の方々でしたのね…わ、私の誕生日を祝ってくださって、ありがとうございます…」

小美はまだ混乱した様子だったが、嬉しそうにしていた。

「そんな事より、ご馳走食べよう!!」

机の上には、近藤が作った料理が並んでいた。

「美味しそうですね!あの、これはあなたが?」

「そうだよ!ウチが作ったの!どんどん食べて!」

「では、いただきます…」

小美は、ご馳走を食べた。

「美味しいですね!こちらのお料理も、あちらのお料理も全部美味しいです!」

「良かったー!!まだまだあるからどんどん食べてね!」

みんなで近藤のご馳走を食べた。

『超高校級のパティシエ』とだけあって、料理はどれも星が3つ以上つく味だった。

食事の後は、森万のサイキックショーと小川のバイオリン演奏の時間だった。

小美は、森万の超能力や小川の演奏に感動していた。

ショーと演奏の後は、庭に出てお菓子とプレゼントが置かれたテーブルをみんなで囲んで歌った。

「ハッピーバースデートゥーユー♪ハッピーバースデートゥーユー♪ハッピーバースデーディアコハルー♫ハッピーバースデートゥーユー♪」

「…皆様、ありがとうございます…!」

「小美、みんながプレゼントを持ってきてくれたぞ。開けてみろ。」

「はい…!…わぁ、どれも素晴らしい物ばかりですわ!こんなに頂いちゃって、いいのかしら…?」

みんなからのプレゼントに、小美は大喜びしていた。

 

「小美、俺からもプレゼントがあるんだ。受け取ってくれ。」

俺は、小美にプレゼントを渡した。

「…!…勝利さん、これは…」

俺は、小美にプレゼントとして手作りの弁当箱を贈った。

「俺、そんなに器用じゃねえけど、お前の喜ぶ顔が見たくて頑張って作ったんだ。」

「…。」

小美は、いきなり泣き出した。

「どうした?気に入らなかったか?」

「…いえ、私…こんなに素晴らしい誕生日を過ごしたのは初めてで…とても、嬉しくて…本当はこういう時、大喜びしなければいけないのでしょうけど…すみません…」

「おい、泣くなよ。来年はもっとすげえ誕生日会にするからよ!」

「…ほ、本当ですか…?」

「ああ!絶対だ!来年を楽しみにしてろよ!!」

「…はい!ありがとうございます…!」

小美は、満面の笑みを浮かべた。

 

プレゼントを一通り渡し終えた後は、解散となった。

俺は、みんながいなくなった後の家を片付けながら考え事をした。

来年の小美の誕生日会は、もっとすごいパーティーにしよう。

…そうなると、もっと人を呼ばなきゃだな。

って、俺が楽しみにしてどうすんだよw

 

 

 

ーだが、それが叶う事はなかった。



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番外編⑦ 音楽会編

どうも!

自分、小川詩音っていうっス。

え?床前先輩以上に影薄いって?

ちょっ、それは言わないお約束っスよ!!

今、自分が何をしているのかって?

ああ、なんか先生が、合宿生活のちょっとした楽しみとして、音楽会でも開かないかって。

自分は結構楽しみなんスけど、何しろやる気がある人がホント少ないんスよね〜。

で、今一緒にやってくれる人がいないか探しているところなんスよ!

あ、菊池先輩が来たっス!

「先輩!」

「おお、小川か。どうした?」

「いやあ、実は、音楽会に一緒に出るメンバーを探してるんスけど…先輩、一緒にどうっスか!?」

菊池先輩は面倒見いい人だし、参加したりとかしてくれるかもっスかね〜…?

「…あー、ごめん。俺、楽器とか疎くてさ。壊滅的にセンス無いんだよな。…誘ってくれて悪いけど、他当たってくれるか?」

「そうっスか…なんか、ごめんなさい、変な事聞いちゃったっス!」

やっぱりダメっスか…他当たるしかないっスかね…

「おい、ちょっと待て。…俺も、誰か参加しないか声かけてみるよ。」

「ホントっスか!?」

「ああ、クラスのみんなにも声かけてくるよ。」

「ありがとうっス!!」

参加はしてもらえなかったけど、一緒に参加してくれる人を探してくれるなんて…

菊池先輩は優しいっスね!

 

「ふっふっふ、話は聞かせてもらったぞ!」

この声は…

「…アリス先輩?」

「にゃはは!いかにも!とうっ!!スーパー美少女天使あーちゃん参上っ!!」

アリス先輩は、物陰から飛び出して変なポーズを決めた。

「…先輩、どうしたっスか?」

「にゃーっはっは!!シオねえ、オンガクカイのメンバーを探してるんでしょ!?だったら、1人適役がいるぢゃないか!!」

「…誰っスかそれは?」

まさか、自分だなんて言わないっスよね。

「にゃっはっは!!誰かだって!?そんなの、あーちゃんに決まってんでしょーがっ!!」

…は?

「せ、先輩〜!今日はエイプリル・フールじゃないんだから、冗談はやめてくださいよ〜!」

「ジョーダンだと!?あーちゃんはイスラエルとかサウジアラビアのお隣さんぢゃないぞ!!」

「そっちのジョーダンじゃないっスよ。ジョークの方っス。」

「あ、そっちか〜。ってぇ!!なんであーちゃんがジョーダン言ったと思ってんの!?あーちゃん、本気だっちゅーの!!」

嘘でしょ?

「あ、アリス先輩…今からでも考え直さないっスか…?ほ、ほら…音楽会じゃなくても、先輩の才能を存分に生かせる行事はあるっスよ…自分らは、もうメンバー足りてるんで…」

「嘘おっしゃい!!さっきまでメンバー探してたくせに!!いいもんね、そんなにあーちゃんをハブりたいんだったら、ジツリョクでわからせてやる!!あーちゃんのオハコを聞けい!!」

マズいっス!!ここ一帯が地獄と化すっスよ!!

…あ、そうだ!

「あ、UFO!!」

「なぬぅ!!?どこだ!?どこにUFOあんの!?とっ捕まえてやるー!!」

アリス先輩は、UFOを探しに行った。

「…ふう、危なかったっス。」

 

他の人にも声をかけた方がいいっスよね。

あ、いいところに近藤先輩が来たっス。

「近藤先輩!」

「あれ、小川っちじゃん!どうしたの?」

「あ、実は今音楽会のメンバーを探してるんスよ。…どうっスか?出てみないっスか?」

「あー、ごめん。ウチ、楽器は全然できないんだよね。スイーツなら誰にも負けないんだけど…ごめんね!他当たってくれる?」

「…あ、はい。そうっスか。変な事聞いちゃって申し訳ないっス。」

「あ、いや…なんかごめんね?せっかく誘ってくれたのに断っちゃって。」

「いえいえ、いいんスよ。無理にやらせたところで、いい音楽は生まれないっス。気長にやる気ある人を探すっスよ。」

「小川っち、音楽会楽しみにしてたもんね。メンバー探しがんば!」

「はいっス!」

近藤先輩はダメでしたか…

「ねえ、君達何の話してるの?」

後ろから、猫西先輩が話しかけてきたっス。

「ああ、実は、音楽会のメンバーを探していて…」

「そういう事なの?だったら、私が参加しようか?」

「え、いいんスか!?」

「うん!メンバーいなくて困ってるんでしょ?私、小川さん程楽器上手くないけど、それでも良ければ。」

「…猫西先輩!ありがとうございます!!先輩が参加してくれるというなら心強いっス!!」

「えへへ、そこまで言われちゃうと照れるなぁ…よろしくね、小川さん!」

「はいっス!」

「小川っち、良かったね。」

「はいっス!」

やったっス!!

ついに、参加者を見つけたっスよ!!

しかも、歌い手としても知名度が高い猫西先輩が参加してくれるなんて…

なんだか猫西先輩が神々しく見えてきたっス…!

「猫西先輩ぃぃ…本っ当に、ありがとうございますぅぅ…」

「ちょっと、泣かないでよ小川さん。まだメンバー探し終わってないんでしょ?私も手伝うから、一緒に探そ!」

「え、いいんスか!?」

「当たり前じゃん!だって、私達、もうチームでしょ?」

女神っスかこの人は。

そりゃあチャンネル登録者数が超高校級にもなるわけっスよ。

こうして、猫西先輩とのメンバー探しが始まったっス。

 

「あ、小川さん。速瀬さんがいるよ。声かけてみようよ。」

「そうっスね。」

自分らは、速瀬先輩に声をかけたっス。

「…おや、猫西様に小川様。如何なさいましたか?」

「ああ、実は、自分らは音楽会のメンバーを探してるんスよ。速瀬先輩は、参加しないかな〜って。」

「…それはご命令ですか?」

「いや、別に命令ってわけじゃあ…」

「命令だよ。参加して。」

ちょっ、猫西先輩!?何言ってるんスか!?

自分は何も、強制する気はないんスよ!!

「畏まりました。では、参加しましょう。」

えええ!?速瀬先輩もそれでいいんスか!?

自分は、猫西先輩を物陰に引っ張ったっス。

「ちょっと、猫西先輩!なんであんな事言ったんスか!」

「だって、速瀬さん、なんか参加したそうにしてたし…でもあの子の性格上、こっちがああ言ってあげないと参加するの躊躇っちゃうかなって思って。」

「…ああ、なるほど…」

猫西先輩は、速瀬先輩が音楽会に参加する理由を作ってあげていたというわけっスか。

猫西先輩は優しいっスね。

「3人だけじゃ寂しいよねえ。他にも参加してくれる子がいないか、探してみようよ。」

「そうっスね!」

 

自分達は、次はアンカーソン先輩に声をかけたっス。

「ふわぁ…僕ですかぁ…」

「アンカーソン先輩、参加しないっスか?」

「ふわぁ…ちょっと考えますぅ…」

「…え、この子をメンバーに入れるの?やめといた方がいいよ。」

「私も賛同し兼ねます。以前アンカーソンさんの歌声を耳にした事がございますが、その…あまり上手とは言えない歌唱力でして…」

「何言ってるんスか、2人共!本人にその気があればそんなの関係ないっス!」

…アリス先輩は酷すぎるから話が別っスけど。

「さ、アンカーソン先輩!試しにちょっとこのピアノ弾いてみてくださいっス!」

「ふわぁ…」

アンカーソン先輩は、ピアノの前に座ると、それはもうこの世のものとは思えない演奏をしたっス。

「!!?ちょっ、アンカーソン先輩!?一旦やめるっス!!」

「…ふわぁい。」

「小川さん、だから言ったでしょ?」

「…はい、そうっスね…」

本人には悪いっスけど、これはもうアリス先輩に匹敵する酷さっスね…

「あ、アンカーソン先輩は、音楽会に参加したいっスか…?」

「ふわぁ。やっぱり眠いのでやめときますぅ。他当たってくだしゃあい…」

良かった…

「わ、私達は別の人を探そっか。」

「…そうっスね。」

 

自分達は、次は床前先輩に声をかけたっス。

「床前先輩!」

「…あら、小川さんに猫西さんに速瀬さん。どうしましたか?」

「床前先輩、今度の音楽会、参加しないっスか?」

「…えっと、すみません。ひとつだけ確認いいですか?」

「はい、何スか?」

「それ、論さん…菊池さんは参加するんですか?」

「いえ、さっき誘ったんスけど、参加できないって言ってたっスね。」

「…そうですか。では、私は参加を拒否します。」

「え!?」

「ちょっと、床前さん決めんの早くない!?…まあ、こっちも強制する気はないんだけど…」

「だったら別に拒否しても問題ないでしょう?…私にとっての判断基準は、論さんが参加するかしないかだけですので。論さんが参加しないと言えば私も参加しない、ただそれだけです。論さんが参加しない音楽会など全くの無意味ですので。」

うわぁ…なんか、床前先輩って極端っスね…

「用件はそれだけですか?それでは、私は論さんを見守らないといけないので。」

見守るって…それストーカー…

「さようなら。」

床前先輩は、行ってしまったっス。

「あはは、フラれちゃったよ。あの子、菊池君にしか興味ないもんね…」

「ですが、仮に彼女が参加していれば、確実に音楽会自体が混沌と化していたでしょうね。」

速瀬先輩、凄い言い様っスね。まあ否定はしないっスけど。

 

自分らは、次は射場山先輩に声をかけたっス。

「射場山先輩!!」

「…何。」

「あの、音楽会に参加しないっスか?」

「…ゴメン、無理。」

射場山先輩は、俯きながら言ったっス。

「…私、楽器とか歌とか下手だし…あんた達みたいにキラキラした感じのオーラとか出せないから。」

「そんな事気にしなくていいっスよ!やってみたらきっと楽しいっスよ!!」

「…ごめん、ホントに無理だから。」

射場山先輩は、自分らを部屋の外に押し戻したっス。

「…頑なっスね。ここまで言うなら、無理に参加させなくてもいいっスよね。」

「うーん、私も賛成。だってほら、射場山さんを見てよ。かなりぐったりしてるし…あの顔色から察するに、多分最初の返事が限界だったんだと思う。射場山さんさ、音楽会とかそういうイベントへの耐性が無いんだよ、きっと。」

「でしたら、無理に誘うのもお互いにとって良くありませんね。他を当たりましょう。」

「そうっスね。」

射場山さんって、何事にも動じないクールビューティーってイメージだったんスけど…

自分が苦手な物に対しては、あんなに拒絶反応を示すタイプなんスね。

 

自分らは、神城先輩の所に行ったっス。

「何?音楽会?フン、いいじゃねえか。そういうの。」

あれっ?意外と反応いいっスね。

神城先輩の事だから、『神である私にそんな事をさせる気かこの愚民が』とか言いそうだと思ったんスけどね。

「神城さん、参加してくれるの!?」

「フン、私は寛大だからな。特別に参加してやろう!!」

「ありがとう!」

「…で?当然、バンドならボーカル、オーケストラなら指揮者は私なんだろうな?」

「…へ?」

「『ヘ』じゃねえよ。何驚いていやがる。神である私が参加するんだから、神が主役のポジションを担当するのは当然だろう?」

「いや、そういうわけにはいかないっスよ…本人の技量の問題もありますし、そこは話し合って決めないと…」

「はあああああああ!!?テメェ、騒音!!愚民の分際で私に逆らう気か!!」

「いや、そうではなくて…ボーカルとか指揮者とかは一番前に立つ分、それなりの技量が必要なんスよ!いい音楽を作ろうと思ったら、素人が迂闊に手を出しちゃいけないポジションっス!」

「うるせェ!!どうしても私を主役にしたくないなら、こっちだってテメェらの仲良しクラブなんか願い下げだ!あばよ!!」

神城先輩は、怒って部屋のドアを閉めたっス。

「あー…どうしよう…怒らせちゃったね。」

「神城先輩、目立ちたがりっスからね…」

「おい、小川!そっちは人数確保できたのか?」

「菊池先輩!先輩の方は、どうだったんスか?」

「ああ、なんとか集まったよ。」

菊池先輩は、玉木先輩、カークランド先輩、森万先輩、伏木野先輩を連れてきたっス。

「この4人が、参加してくれるってさ。」

「頑張ろうな!小川!」

「楽しみですね、皆さん!」

「フッ、ついに俺様の時代が来たか…」

「うふふ、張り切っちゃうわよぉおおお!!」

「菊池先輩!ありがとうございます!4人も呼んできていただいて…」

「…いや、実は、もうちょっと連れてくるつもりだったんだけど…ごめんな。」

「もうちょっと?」

「ああ、他にも、郷間と織田と狗上にも声をかけたんだけどよ、織田には『リア充イベントなんて糞食らえであります』っつって全力で拒否されちまってさ。狗上にも、断られちまったよ。」

「ああ、それは災難だね…」

「あれ?郷間先輩は?あの人なら、参加してくれそうっスけど…」

「ああ、郷間の奴、楽器を扱う時の力加減がわからんらしくてな。参加してくれるっていうから、試しにギター弾いて貰ったんだけど…見ろ。」

後ろに、弦が全部切れたギターが置いてあったっス。

「これ以上やらせたら楽器を破壊しまくりかねないと思って、俺の方からやんわり断ったよ。」

「ああ…なるほど…」

やっぱり、人には得手不得手ってあるんスね。

「菊池先輩、皆さん、ありがとうございます。では、明日から本格的に練習を始めましょう!今日はお疲れ様でした!」

「おう、頑張れよ。」

 

 

ー翌日ー

 

「皆さん、来てくれてありがとうございます!早速なんスけど、皆さんは何やりたいっスか?」

「フッ、こういうイベントで生徒同士がチームを組んでやるものと言ったら、バンド一択だろう。」

「そうだね、なんか楽しそう!」

特に反対意見も無く、自分らはバンドをやる事に決まったっス。

「それで、役割はどうするっスか?」

「…そうですね。7人いるので、バランスを考慮するなら、ボーカル1名、ギター2名、ベース2名、ドラム1名、キーボード1名という割り振りが宜しいかと。」

「うーん、そうだね。じゃあさ、役割どうする?まあボーカルが小川さんなのは当然としてさ。」

「そうっスね…。」

 

 

 

 

「え!!!?」

 

え!?ちょっと待つっス!!

どういう事っスか!?

一体何をどう考えたら自分がボーカルになるんスか!!

「ちょっと、猫西先輩!?なんで自分がボーカルなんスか!!」

「え?だって、小川さん以外に適任な人はいないでしょ?それに小川さん、音楽会のためにメンバー集めたりとか、誰よりも音楽会への思いが強かったじゃない。だったら、小川さんが主役になるのは当然でしょ!」

「え、いやいや!それを言うなら、猫西先輩の方が適任っスよ!!美人だし、歌上手いし…」

「ダメだよ!みんな、小川さんにやってほしいって思ってるんだから!」

「…え?」

「フッ、当然だ。言い出しっぺの貴様が花形にならずしてどうする。」

「私も、今は小川さんが私達のリーダーだと思っております。」

「同感です。私も、小川様以外には居ないと思っておりました。」

「うふふ、シオンちゃんがステージの上で歌ってるとこ、見てみたいわ〜。」

「小川、みんながお前をリーダーとして信頼してんだ。主役は主役らしく、自信持って堂々と歌え!」

「…はいっス!」

自分は、皆さんから暖かい言葉をいただいて、皆さんからの提案を喜んで承諾したっス。

「うし、じゃあ俺らも担当決めちまうか!」

「私は、余ったもので構いません。」

「そうねえ…じゃあアヤカちゃん、カツトシちゃん。アンタ達、ギターやんなさい。」

「え?俺が?いいのか?俺、そんなに上手くねえけど…」

「アラ、サトシちゃんの前ではバリバリ演奏してたくせによく言うわ。」

「うーん、私がそんな大役引き受けちゃっていいのかなあ…」

「何言ってるんスか!猫西先輩じゃなきゃダメっスよ!」

「小川さん…!」

「森万さん、私達はどうしましょうか?」

「フッ、俺がドラム、貴様がキーボードでどうだ?」

「いいですね!私、ピアノとオルガンの演奏なら得意です!」

「…少し違うと思うが。」

「アラ。じゃあアタシとフブキちゃんはベースね。」

「…決まったようですね。」

「フッ、貴様ら。そろそろグループ名を決めておかないか?」

「え、グループ名?音楽会でやるだけだし…要る?」

「フッ、わからん奴だな。雰囲気が大事なんだよ、雰囲気が。」

「そうっスね。確かに、グループ名を決めた方がチームとしての意識とかも強くなるんじゃないっスかね。」

「…とは言ったものの、チーム名ってどうすんだ?」

「フッ、漆黒の堕天使達(ダークネスエンジェルズ)なんてどうだ?」

「却下します。」

「えっ!!?」

「あの…希望ヶ峰学園っスから、『HOPES』なんてどうっスか?」

「小川さん、いいねそれ!」

「素晴らしい響き…私、気に入りました!」

「そ、そうっスか…?」

「フッ、漆黒の雷なんていうのは…」

「ツラノリちゃんしつこいわよ。…それ、ブラックサンダーじゃない。」

こうして、グループ名は『HOPES』に決まったっス。

「あの、曲はどうするんですか?」

カークランド先輩が質問してきたっス。

「ああ、それなら、猫西先輩に書いてきてもらったっス。」

「昨日、超特急で楽譜仕上げたよ。初心者でも演奏しやすくて、盛り上がる曲ね。」

「猫西さんが書いた曲ですか?演奏するのが楽しみですね!」

「じゃあ、曲も決まったし、早速練習すっか!」

 

自分達は、楽器の練習を始めたっス。

猫西先輩は、やっぱり自分で曲を出してるだけあって、ギターの腕も一流っスね。

他の先輩方も、想像以上にお上手でビックリしたっスよ。

「皆さん、上手っスね!」

「まあ、お前程じゃないけどな!」

「猫西さんが、弾きやすい曲を提供してくださったお陰です。」

「うふふ、シオンちゃんに褒められるなんて、嬉しいわね。」

「ふむ…」

速瀬先輩が、曲を弾き始めたっス。

…っていうか、速瀬先輩めちゃくちゃ上手いっスね!

どこで習ったんスか!?

「ちょっ、速瀬先輩!」

「…如何なさいましたか?」

「先輩、どうしたんスか!めちゃくちゃ上手いじゃないっスか!バンドに入ってた事でもあるんスか!?」

「いえ、別に。バンドはこれが初めてでございます。」

「じゃあ素人って事っスか!?だとしたら、めちゃくちゃ天才じゃないっスか!!」

「…ありがとうございます。」

「フン、ショータイムだ。」

「アラ。ツラノリちゃん、スティックの持ち方変だけど、もしかしてやった事ないの?」

「フ、フン!そんなわけ無いだろう!」

「いや、嘘ついてもダメだから。音思いっきりズレてんじゃないの。」

「森万先輩、やった事なかったんスね。だったら、自分が教えるっス。」

「え、いいのか?お前の練習時間減るだろ。」

「人に教えるのも練習の内っスよ!じゃあ、まずは正しい持ち方から覚えましょう。こうっス。」

「…こうか?」

「そうっス。では次は、音を出してみましょうか。」

「あ、ああ…」

森万先輩は、とても飲み込みが早くて、1時間教えただけでそれなりに演奏できるようになってたっス。

…皆さん、自分より才能あるんじゃないっスかね。

「皆さん、想像以上にクオリティ高くてビックリしたっスよ!これなら、早めに全員合わせられそうっスね!」

「それまでは、各自で練習、って形でいいのかしら?」

「うん、そうだね。じゃあ1週間後全員で合わせるから、それまでにみんなちゃんと練習してきてね!」

「おう!」

「了解です!」

「畏まりました。」

「フッ。」

今日は、1週間後の約束をして、解散したっス。

「自分は、もう少しここで練習しましょうかね…」

自分は、コンサートホールの裏方に残って、夜になるまで練習を続けたっス。

 

それから毎日、朝早く起きて裏方に行って、夜遅くまで練習をしたっス。

そして1週間後、全員が集まって合わせる事になったっス。

 

「皆さん、来てくれてありがとうっス。まず、どこまで練習を進めてきたのか、今ここで演奏してみていただいていいっスか?」

「おう。」

「分かりました!」

「フッ。」

皆さん、一人ずつ演奏を始めたっス。

ちゃんと練習してきているのか、皆さん最初より上手くなってたっス。

「皆さん、最初より上手いっスね!」

「そ、そうか…?」

特に、森万先輩は上達が早いっスね!

ミュージシャンの才能あるんじゃないっスか?

「全員がこのクオリティなら、順調っスね。じゃあ早速合わせてみましょう。」

試しに全員で演奏をしてみたところ、全然合わなかったっス。

みんながバラバラに演奏していて、曲としてのまとまりがまるでなかったっス。

「あれっ?おかしいな…」

「部屋で練習した時は問題なく演奏出来たんですけど…」

「まあ、一人で演奏するのと全員で演奏するのは全然違うっスからね。まだ時間はあるっス。練習を続けましょう!」

「そうだな!頑張ろうぜみんな!」

 

それから毎日、全員で練習したっス。

最初は、全然一人一人のテンポが合わなくて、このままで音楽会を迎えられるのか心配だったっス。

…でも、ついに…

 

 

1週間後

 

「じゃあ皆さん、最後まで演奏してみましょう。全員の心を一つにして、演奏するっスよ!」

「おう!」

全員で、演奏を始めたっス。

…ついに、全員のテンポが合って、最後まで演奏できたっス。

全員の心が一つになったって感じがして、心地が良かったっス。

「…できた!」

「よっしゃ!!」

森万先輩が1番喜んでるっスね。

…まあ、1番頑張ってたのは森万先輩でしたしね。

「やりましたよ皆さん!!」

「やったよ小川さん!ありがとう!」

「え?自分っスか?」

「そうだよ!小川さんが、私達を指導してくれたから、ここまで頑張れたんだよ!」

「そんな、褒めすぎっスよ。まだ、本番じゃないっス。もっと練習して、最高の音楽会にしましょう!」

「そうだね、ここまでやったんだもん、最後まで頑張ろ!」

「よお、お前ら。順調か?」

菊池先輩と近藤先輩が来たっス。

「先輩方…!」

「お前らが頑張ってるって聞いてよ。差し入れを持ってきたんだ。」

「お菓子とおにぎり作ってきたよ!みんなで食べてね!」

「マジか!?ありがとな2人とも!」

「2人って…俺は作ってないけどな。」

「菊池っちったら、全部炭にしちゃったもんね。」

「…うっせえ。」

あはは、菊池先輩のメシマズっぷりは相変わらずっスね。

「近藤先輩、いただいてもいいっスか?」

「もちろん!どんどん食べてね!」

「いただきますっス!…うん、美味しいっスね!」

「ホント!?良かった!」

うん、本当に美味しいっス。

近藤先輩の差し入れのおかげで、やる気出たっスよ!

食べ終わったら、また合わせるっス!

 

 

ー音楽会当日ー

 

「じゃあ、皆さん。最後にもう一回だけ合わせるっスよ。」

「うん、小川さん!」

リハーサルは、問題なく演奏できたっス。

あとは、これが聴衆の皆さんにどう届くかっスけど…

「小川さん、緊張してるの?」

「…え、ええ…まあ…」

「大丈夫だよ!私達、ここまで頑張ったんだもん。絶対成功するよ!」

「そ、そうっスかね…」

「ほら、もっと自信持って、堂々と立つ!小川さんは、私達のリーダーなんだからね!」

「…はいっス!」

「皆様,そろそろお時間です。舞台上に上がりましょう。」

 

 

ーホールー

 

「チッ、かったりい…」

「ムフフ…猫西氏が出ているとな…非常に楽しみであります!」

「おいおい兼太郎。主役は詩音だぞ。」

「あーちゃんも出たかったなー!!」

「お前を舞台上に上がらせなかった小川の判断は賢明だと思うぞ。」

「サトにい!どういう意味だクラッ!!」

「…あんたら、そろそろ曲始まるよ。」

「あっ、ハイ…」

 

ー舞台ー

 

…やっぱり、まだ緊張してるっス。

でも、失敗するかもしれないなんて考えててもしょうがないっス!

今までみんなで頑張ってきた全てを、聴衆の皆さんにぶつける…

それが今、自分達にできる事っス!

 

「それでは、『HOPES』の皆さん、どうぞ!」

 

舞台の幕が上がって、スポットライトが当たったっス。

その瞬間、声を出して…

 

演奏が始まると、聴衆の皆さんは目を見開いて聞いていたっス。

一人一人が奏でる音が、コンサートホール内に響き渡って、一つの曲となった。

スポットライトの光が楽器に当たって、キラキラと光る。

自分は、ただ、全力で歌ったっス。

今自分に出せる、最高の歌声で。

 

曲が終わった。

数秒間、ホールが静寂に包まれたかと思うと次の瞬間、拍手喝采がホール中に響き渡った。

…やったっス!

成功したっスよ!!

今までみんなで頑張ってきた成果を出せたっス!

自分は、心の中で歓喜の叫び声を上げながらも、おじぎをして舞台を後にしたっス。

 

舞台裏で、みんなで音楽会の成功を祝ったっス。

「やったね、大成功だよみんな!!」

「大歓声でしたよ!」

「アタシ、ちょっと感動しちゃったわ。」

「今まで練習してきた甲斐がありましたね。」

「…フッ。」

「成功できたのは、全部お前のおかげだ!ありがとな、小川!」

「…はい、ありがとうございます!」

 

「よっ、おつかれ。リーダー。」

そう声をかけたのは、菊池先輩だったっス。

「先輩!来てくれてたんスね!」

「もちろん。他のみんなも一緒だぞ。」

「詩音、今日の音楽会、すごかったな!」

「すごいよみんな!ウチ、感動して泣いちゃったよ!」

「…ん。」

「ムフフ…最高の演奏でありましたぞ。」

「…まあ、悪くなかったよ。」

「上出来です。」

「ふわぁ…」

「フン、私をメンバーに入れなかった割にはよくできた方だ。褒めて遣わす!」

「みんな、マヂでエモかったよー!あーちゃん、ファンになっちゃったよ!」

「皆さん…ありがとうございます!」

 

皆さんのお陰で、素晴らしい演奏会になったっス。

今日の思い出を語り合う日が来たらいいっスね。

 

 

 

 

 

だが、その思い出は、数年後にきれいさっぱり消える事となった。

 



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番外編⑧ 子犬編

俺の名前は郷間権蔵。『超高校級の庭師』だ!

…って言いはしたものの、実は俺は自分の才能に全然納得いってないんだよな。

俺は、庭仕事はそんなに好きじゃねえし…

『超高校級の庭師』じゃなくて『超高校級の大工』になりたかったんだがなぁ。

 

「くぅ〜ん、くぅ〜ん。」

 

下校中、犬の鳴き声が聞こえた。

声がした方に行ってみると、段ボールの中で黒い子犬が寒そうに震えていた。

「なんだお前、捨てられたのか。」

「くぅ〜ん。」

いつもなら、このデカい体格のせいで小動物には逃げられがちだが、コイツは俺から逃げなかった。

「…あれ?なんかこの顔、どっかで見た気が…」

…なんかわかんねえけど、コイツの事は放っておけないんだよな。

でも、うちは動物は飼えねえし…どうすっかな。

 

「あれ?郷間じゃねえか。どうしたんだ?そんなところで。」

 

「ああ、勝利か。実はな、コイツをどうしようかなって思ってよ。」

「子犬?」

「ああ。ここで拾ったんだ。でも、うちじゃ飼えねえし…お前の家、飼えないか?」

「あー、悪い。母さんが犬アレルギーなんだよ。」

「…そっか。悪いな。無理言っちまって。」

「ああ、だったら俺からみんなに言ってみるよ。」

「いいのか?」

「いつまでもソイツを放っておくわけにはいかないだろ!」

「…そうだな。」

「じゃあ早速電話してみるよ。」

「ああ、ありがとう。」

 

「…あー、みんな飼えないってさ。」

「そっか…」

「あ、だったら学校で飼うっていうのはどうだ?」

「学校で?」

「ああ、まずは許可が降りたらだけど…そしたら、学校で飼おうぜ。」

「そうだな!よっしゃ、じゃあ俺は犬小屋作るわ!」

「お、いいなそれ!」

「でも、今日はどうしようもないし…とりあえず、雨で濡れない所まで運ぶか。」

「そうだな。」

 

 

ー翌日ー

 

「郷間!」

「おう、論。どうした?」

「昨日、玉木から子犬の事聞いてよ。さっき先生に相談してみたんだけど…」

「マジか!?ありがとな!で、どうだった?」

「学校で飼っていいってよ。良かったな。」

「ホントか!?っしゃあ!!じゃあ早速、アイツの家を作ってやらねえとな!!」

「やけに張り切ってんな、お前。」

「そりゃそうだろ!犬小屋建てるのなんて、久々だからな!よっしゃ、アイツのために立派な家を作ってやるぞ!」

「お、おう…で?その子犬、今どこにいるんだ?」

「ああ、それなら…」

俺は、論を子犬のいた道まで連れてきた。

 

「あ。」

段ボールの前に、渚がいた。

「さて、サトシ。ご飯の時間よ。」

「ガルルル…」

渚の奴、エサやったのになんか警戒されてないか?

「…床前、お前何やってんの?」

「あ、き、菊池さん。えっと…これは…その…」

渚は、子犬を抱き抱えた。

「ほ、ほら…この子、菊池さんに似てるじゃないですか。だから、なんか放っておけなくて…」

あ…言われてみれば確かに毛の色と目の色が論と同じだし、目つきとか論そっくりだな。

「この子、とってもかわいいですよね。うふふ…ほら、サトシ。こっち向いて?」

渚の奴、コイツに対する愛情ハンパないな。

論の名前付けてるし…

「うふふ、大好きよ。サトシ。」

「!!?」

いきなり論が震え出した。

「?どうした論?」

「あ、いや…ちょっと寒気が…」

寒気?おいおい、大丈夫かよ。

「な、なあ床前…犬に俺の名前つけんのやめてくんない?」

「えー、いい名前じゃないですか。」

「ガルルル…バウッ!!」

「きゃっ!!」

ついに痺れを切らしたのか、サトシ(仮名)が渚の手に噛み付いた。

そして、俺の後ろに隠れて渚を威嚇していた。

「ガルルルル…ワンッワンッ!!」

うわあ…渚の奴、だいぶ嫌われてんな。

コイツ、他の動物にはむしろ好かれる方なのに…

なんでサトシ(仮名)には嫌われてんだ?

「んもう、この子ってば恥ずかしがり屋さんなんだから。」

なんで噛まれて嬉しそうにしてんだ?

っていうか、手から血がボタボタ出てるし…大丈夫かよ。

「…床前,多分恥ずかしがり屋とかそういうんじゃないと思うぞ。…血、出てるけど…ハンカチいるか?」

「ありがとうございます。」

渚の奴、なんでニヤニヤしてんだ?

論の前だと全然キャラ違うしよ。

渚は、もっとこう…大人しいイメージだったんだけどな。

「床前、お前はもうコイツに近づかない方がいいと思うぞ。」

「どうしてですか?」

「だってほら…嫌がってるし、あんまり過保護になりすぎんのもコイツにとってストレスだろ。」

「そういうものでしょうか?」

「そういうもんだ。ここは郷間に任せて、俺達はもう行くぞ。」

「…はぁい。」

「じゃあな、郷間。」

「論、もう帰んのか?」

「ああ。子犬も見られたしな。じゃあな。」

「おう!また明日な!」

論は、渚を連れて帰っていった。

「良かったな、学校の許可が取れたとよ。」

「キャンキャン!」

サトシ(仮名)は、嬉しそうに俺の周りを走り回った。

昨日は元気なさそうだったけど、元気になったみたいで良かったなサトシ。

…あ、いつまでもクラスメイトの名前で呼ぶわけにはいかないよな。

コイツの名前、どうすっかな。

「あ。」

そうだ。論に顔が似てるし、論の苗字から取ってキクにしよう。

「今日からお前も俺の兄弟だ!よろしくな、キク!」

「キャンキャン!」

気に入ったみたいだな!

よっしゃ!そうと決まりゃあ、キクのために立派な小屋を造らねえとな!

材料とか、ホームセンターに行けば揃ってるかな。

 

 

ーホームセンターー

 

ホームセンターの入り口には、吹雪が立っていた。

「おう、吹雪じゃねえか!どうしたんだ?こんなとこで。」

「…郷間様が犬小屋を建てるという話を耳にし、材料の調達等のお手伝いをさせて頂こうと、こちらに向かいました。」

マジかよ。仕事早すぎんだろ。

「郷間様。何か必要な物がございましたら、私にお申し付けください。」

「おう、悪いな。じゃあ…これ買ってきてくれるか?」

俺は、紙に必要な物を書いて吹雪に渡した。

「…畏まりました。」

さてと、俺は俺で必要な道具を揃えないとな。

建築に必要な道具だけは、素人に選ばせるわけにはいかないからな。

俺は、選んだ道具を買った。

「郷間様、ご注文の品を全て買って参りました。」

…おおう。ホントに、仕事早いんだよな吹雪は。

「おう、助かるぜ!ありがとな吹雪!」

「とんでもございません。何か困った事がございましたら、何卒。」

「ああ!」

案外早く買い物が終わったし、早めにキクの家を造ってやれそうだな。

吹雪がいて助かったぜ。

 

 

ー家ー

 

さてと、早速造るか。

…つっても、犬小屋造んのなんて久々だし、時間かかっちまいそうだな。

 

プルルルルルルルル…

 

電話か。

誰からだ?

「もしもし?」

『ゴンゾウちゃん、今から犬小屋造るって聞いたんだけど。』

「ああ。」

『さっき、例のワンちゃんを見に行ったんだけど、ホントにサトシちゃんにそっくりで可愛いわねえ!』

「お、おう。…それで?」

『さっきね、ケンタロウちゃんとリオンちゃんと話してたんだけど…造るの手伝わないかって話になったのよお!』

「マジか!?助かるぜ!今、ちょうど人手が欲しかったとこだからな!」

『ホント?じゃ、今からそっちに向かってもいいかしら?』

「来てくれんのか!?ありがとな!!」

マジかよ!?

エカイラ達が来てくれんのか!

 

 

ー数分後ー

 

「ゴンゾウちゃん!」

「ムフフ、約束通り来ましたぞ郷間氏!」

「…チッ、かったりぃ。」

「おう、エカイラに兼太郎に理御!来てくれたのか!」

「うるせぇ!!下の名前で呼ぶんじゃねえよ脳筋野郎が!!」

「ちょっと、やめなさいよリオンちゃん!!」

「うるせぇ!!テメェも黙ってろ!!殺すぞオカマ野郎!!」

「言ったわね!?アタシはオカマじゃなくてオネエだっつってんでしょうがぁ!!」

「おい、お前らやめろ!!ケンカするために来てもらったんじゃねえんだぞ!」

「…そうね。アタシ、ついムキになっちゃったわ。ごめんなさい。」

「…チッ。」

「よっしゃ、じゃあ明日までに設計図を完成させて、キクの家を造るぞ!」

「キク?何でありますかそれは。」

「キクはキクだよ。アイツの名前だ!」

「アラ、サトシちゃんに似てるからキクなのね。キクちゃんね、キャーかわいい名前!」

「安直すぎやしませぬか?」

「いや、いいんだ。アイツも、この名前気に入ってるみたいだしな!」

…犬のクセにいい名前つけてもらってんじゃねえよ。

「ん?なんか言いましたか?狗上氏?」

「うるせぇ。なんでもねえよキモヲタ。」

「ヒッ…」

なんか、理御がすげえ兼太郎を睨んでっけど…

兼太郎の奴、理御を怒らせるような事したのか?

「よっしゃ!じゃあ早速、設計図を修正してくぞ!とりあえず、ざっくり描いてみたから見てくれ。」

「アラ上手。」

「ふーん。脳筋のクセに、こういう計算は精密なんだな。」

「むむむ…確かに素晴らしいですが…やや芸術性に欠けますな。ここは、もう少し凝った感じにして…」

「そうねえ。ここをもうちょっとこうして…」

「ムフフ、だいぶ芸術的になりましたぞ!」

「おいおい、バカバカバカ!んな造形にしたら、すぐ壊れんに決まってんだろうが!ここをもっと太くして、重心を安定させんだよ!」

「ほう…さすが狗上氏ですな!」

…なんか、3人が設計図に修正を入れ始めたらすげえ事になったぞ。

そりゃあ、3人とも『超高校級』だもんな。

「…っし、まあこんな感じでいいんじゃねえの?」

「すげえな、これ!ありがとな、3人とも!「

「いーえ!じゃ、明日の小屋造りも頑張るわよ!」

「ああ!」

 

 

ー翌日ー

 

「うっし、じゃあ早速建てるか!理御、よろしく頼むぜ!」

「だから名前で呼ぶなっつってんだろ!!」

「うふふ、力仕事は任せて頂戴!」

「ムフフ、外壁のデザインは、吾輩にお任せあれ!!」

4人で小屋造りを始めた。

「…ほらよ。これ、設計図通りに接着しとけ。」

「おう。」

理御の奴、ずぼらに見えっけど、意外と仕事は正確なんだな。

「よいしょっと。ゴンゾウちゃん、ここ置いとくわね。」

「ああ、ありが…!!?」

嘘だろ!?

エカイラの奴、なんで線細いのにこんなに大量の木材と道具を運べんだよ!

「…エカイラ、なんか悪いな。」

「悪いって何が?いい運動になったわ。」

マジかよ…

 

 

ー数時間後ー

 

「よっしゃ、あとは装飾だな。頼むぜ兼太郎!」

「グフフ、任せるであります!」

兼太郎は、猛スピードで小屋をカラフルに塗っていく。

ほんの数分で、芸術的な犬小屋が出来上がった。

「すげえな兼太郎!」

「吾輩を誰だと心得ておりますか!!吾輩は、これでも『超高校級』ですぞ!」

「ありがとな!3人とも!」

「いいってことよ。」

「じゃあ、早速キクを連れてくるぜ!」

俺は、キクが捨てられていた道に行った。

「キク、お前の家ができたぞ!」

「キャンキャン!」

コイツ、何故か俺には懐くんだよな。

「おーしおーし、いい子だな。」

俺は、キクを小屋まで連れてきた。

「キク、ここがお前の新しい家だぞ!」

「キャンキャン!」

キクは、想像以上に喜んでくれた。

「お、そんなに気に入ったのか!良かったな!」

「キャン!」

ここまで気にいるとはな。やっぱり、建てた甲斐があったぜ!

 

 

ー翌日ー

 

次の日、キクの小屋に行くと、ジェイムズと羅象とリタがいた。

「おう、3人とも!キクを見にきたのか?」

「はい!…あ、この子犬、キクさんというお名前なのですね。」

「ああ、俺が名付けたんだ。」

「素敵なお名前です!…しかし、本当に菊池さんにそっくりですね。キクさんは。とても可愛らしいです!」

「ふわぁあ…生まれ変わりかもしれないですよぉお…」

「いや、アンカーソンよ。菊池はまだ生きているぞ。」

「じゃあ、ドッペルゲンガーですかぁ?」

「人ではないのでドッペルフントですかね。」

「ふわぁ…直訳すると、二重の犬、ですかぁ…意味不明でしゅねぇ…」

「…なあ、そのドッペルなんとかってなんなんだ?」

「フッ、ドッペルゲンガー。自分と全く同じ姿形をした幻覚の事だ。」

「へ、へえ…でも、キクはそんなんじゃないと思うぞ。」

「フッ、だろうな。ドッペルゲンガーは、本人が見ると死ぬらしいからな。」

「怖いなそれ。」

「くぅうん…」

「ほら、お前ら物騒な話すんのやめてやれ。ドッペルフントなんて言うから、キクが嫌がってんだろ。」

「郷間さん、貴方キクさんの気持ちが分かるのですか!?」

「わかるっていうか、まあなんとなく…なんか、コイツも俺にはよく懐くんだよな。俺、このデカい図体のせいで動物にはよく逃げられんだけどな。」

「へえ…不思議なものですねぇ。」

「フッ、郷間よ。お前とキクは波長が合うのかもな。」

「は、波長?」

「生物が放っているオーラみたいなものだ。それが合う者同士は、仲良くできるというわけだ。」

「へえ、そうなのか。俺とキクが、ねえ…」

「くぅん?」

「ふわぁ、息ピッタリですぅ…」

「郷間さん、羨ましいです!私も、キクさんをモフモフしたいです!」

「ワンッ!!」

「はは、ジェイムズ。お前、しつこすぎるんじゃないか?キクが嫌がってるぞ。」

「あうぅ…そんなぁ…郷間さんは、普通に触れているのに…郷間さんばっかりずるいです!」

「フッ、カークランドよ。その辺にしておけ。気持ちは分からなくもないが、これ以上やるとそろそろ噛まれるぞ。」

「…あぅ〜」

ジェイムズの奴、完全に落ち込んでんな。キクをモフモフできなかったのがそんなにショックだったのか?

「…きゅう。」

「お、どうしたキク。腹減ったのか?」

「きゅう。」

「フッ、まるでエスパーだな。」

「ふわぁ…なんですかその他人事みたいな言い方はぁ…森万は超能力者なんじゃなかったんですかぁ。」

「…うっ。」

「っつっても、キクはまだ赤ん坊だしな。何あげたらいいのかわかんねえんだよな。」

「郷間さん!私、犬用の粉ミルクを持ってきたんですよ。それをあげてみてはいかがでしょうか?」

「おお、ホントか?助かる。」

「はい!」

…っていうか、なんで持ってるんだよ。

コイツ、もしかして動物大好きなのか?

「という訳で、キクさんにあげてみますね!」

「ちょっと待て、カークランドよ。お前があげたらかえってストレスだろう。」

「えぇ…そんなぁ。」

ガッカリしてんな、ジェイムズの奴。

絶対、隙を見てモフモフしようとしてただろ。

「フッ、油断も隙もない男だな、貴様は。」

全くだよ。

渚とジェイムズはキクに近づかせないようにしなきゃな。

「ほら、キク。メシだぞ。」

「きゅ!」

キクは、ミルクを美味しそうに飲んだ。

「お、うまいか。良かったな。」

「Wow‼︎He is very cute(とても可愛いですね)‼︎」

ジェイムズがスマホで撮影しようとしたので、森万が止めに入った。

「…あ、ゲフン、失礼しました。つい興奮してしまい…」

コイツ、意外と子供なんだな。

「そこまで食欲があるようでしたら、普通のドッグフードでも大丈夫そうですね。」

「そうなのか?」

「はい、明日からはドッグフードを持ってきますね!」

「お、おう…」

コイツ、やっぱりキクの事好きなんだな。

「…きゅう。」

キクは、小屋の中の寝床に戻って寝た。

「お、ミルク飲んだら眠くなったのか。」

「ふふっ、微笑ましいですね。」

「カークランドよ、貴様はキクにストレスを与えすぎだ。」

「あ、はい…ごめんなさい…」

「あはは…」

「Zzz…」

ん?なんの音だ?

明らかにキクの声じゃない、いびきみたいな声が聞こえるんだが…

俺は、小屋を見てみた。

「リタ!!?」

リタは、小屋に顔を突っ込んで寝ていた。

「おい、起きろリタ!!お前、何やってんだよ!?」

「はっ、ユーぺ!!」

なんだよユーペって!

ジェイムズ、お前も何ツボってんだ!

「ふわぁ…ごめんなさい…あまりにも気持ちよさそうだったので、一緒に寝ちゃいましたぁ…」

…一番キクに近づけちゃいけねえのは、案外コイツかもな。

 

 

ー昼休みー

 

「にゃははははははははは!待てーいキク!!かつて、キボーガミネのイダテンとも呼ばれたこのあーちゃんから逃げられるとでも思ってるのかー!!」

アリスが、キクを追いかけて遊んでいた。

「モフモフさせろー!!」

「ワンワンッ!!」

…あ、これ遊んでるんじゃなくて、普通に逃げてたのか。

「にゃあああああああ!キクはやっぱり足速いなー!!あーちゃんはキボーガミネのイダテンなのに!!」

「おい、キク!」

「キャンキャン!」

キクは、しっぽを振って俺の方に走ってきた。

「あー!!ずるいぞお兄ちゃん!!なんでキクはお兄ちゃんにばっかり懐くんだよー!!」

…なんか、ジェイムズも同じような事言ってたな。

でも、本当になんでキクは俺にばっか懐くんだ?

「あーちゃんは、世界がシットするスーパー美少女だぞ!?もっとあーちゃんにキョーミ持てー!!キクテメーコノヤロー!!」

「あはは、みんな楽しそうだね。」

「お、理嘉!お前もいたのか。」

「まあね。さすがに、私はあーちゃんみたいにスタミナないから、見てるだけだったけどね。」

「そうなのか。」

「あははっ、キク君は本当に可愛いよね。」

「うぇすにゃんは猫派じゃなかったのかー!!うぇすにゃんの浮気者ー!!フリンー!!昼ドラの女王ー!!」

不倫って…理嘉は結婚してねえだろ…しかも、昼ドラの女王って…

「私は猫派だけど、犬も好きだよ〜。っていうか、動物はだいたいみんな好きかな。まあ、一番はやっぱり黒猫だけどね!」

「ふーん。」

「…ふふっ。」

「ん?どうした?」

「いや、キク君ってホントに菊池君に似てるなって思ってさ。」

「そうなんだよ!わかってくれるか!?妹!!」

「え、もしかして、キク君って郷間君が名前つけたの?」

「ああ!論にそっくりだから、キクって名前にしたんだ!いい名前だろ?」

「うん、この子にぴったりだね!」

「ぶー。」

アリスは、嫌そうにこっちを見ていた。

「えー。キクって、サトにいにそっくりだからキクってゆーの?」

「ああ、そうだよ。だって、目元とか毛とか論にそっくりだろ?」

「はああああああああああああああ!!?どこが!?全っ然意味わかんないんだけど!!マヂイミフルーツポンチ!!この子と、あんな顔面偏差値40のコンクリに叩きつけた腐ったミカンみたいなヤツを一緒にしないで!!」

く、腐ったミカン…

すごいいいようだな。

「でも、この子、菊池君に似てると思わない?」

「思わないよ!!キクは、サトにいみたいにガンコでケチでエロガッパじゃないもんね!!」

 

 

ー教室ー

 

「ハックション!!」

「…あら、菊池さん。風邪ですか?」

「ああ、ちょっとここ最近冷えるからな…」

「にししっ、誰かが噂してるのかもっスよ?」

「それはねえだろ。」

 

 

ー放課後ー

 

「キク!メシ持ってきてやったぞ!」

キクの返事がない。

さっきはすげえ喜んでたんだけどな。

「…キク?」

「くぅん…」

キクは、小屋の中で寝ていた。

「なんだ、寝てるのか。…って、なんだこれ!?すげえ熱じゃねえか!!どうしよう…とりあえず、黒羽に相談してみるか!!」

俺は、黒羽に電話をかけた。

「おい、黒羽!!ちょっと今すぐ学校に来てくれ!!」

『はぁあああああああああ!!?おいウド!!テメェ、どのツラ下げてこの私に命令してんだコラァ!!』

「キクが…俺の弟が病気なんだよ!!頼む、早く来てくれ!!」

『キクって、例の犬か?…フン!いいだろう!私は神だからな!!この私が来る事を感謝しろ!!ふはははははははははは!!』

「…良かった、ありがとな、黒羽!!」

『フンッ!!』

ガチャッ

「キク、もう少しの辛抱だからな。もうすぐ、医者が来るから…」

 

「もうそろそろ、黒羽が来てくれるはずなんだが…」

「おいウド!!神である私が来てやったぞ!!診るから、そこどけ!!」

「黒羽…!お前、犬の病気とかわかんのか!?」

「うるせぇなウド!!だから今診てんだろうが!!邪魔したら塩化カリウムブチ込むぞ!!」

「お、おう…」

黒羽って、優しいのか怖いのかどっちなんだよ…

「フンッ、ただの風邪だ。薬は飲ませたし、安静にさせてメシと水分をやってれば数日で回復する。」

「そうなのか!?ありがとな、黒羽!!」

「ハッ、せいぜい二度と私を呼ぶ事がないように気をつけろ!!」

「ああ、ありがとな黒羽!」

黒羽は帰っていった。

キク、良かったな。いい医者に診てもらえて。

「くぅ…」

「お、少し楽になったか。」

でも、まだ安心はできねえな。

もうしばらく、キクの様子を見るか…

 

 

ー翌日ー

 

「…う?」

俺は、学校の裏庭で目が覚めた。

…そうだった。俺、キクの看病をしててそのまま寝ちまったんだった。

そうだ、キクは!?

「くぅん…」

キクは、小屋の中で静かに寝ていた。

「良かった、昨日より辛くなさそうだな。」

「…ねえ。」

「うおっ!?」

後ろを振り向くと、祐美がいた。

「ゆ、祐美!?」

「ビックリしすぎ。」

「悪い…祐美は、いつからそこにいたんだ?」

「…さっき来たばっかりよ。ったく…あんた、どんだけキクに夢中なのよ。」

「わ、悪い…コイツ、なんか他人とは思えなくてよ。コイツは、俺の兄弟だ!」

「…他人って、人じゃないけど。…ふぅん、噂通りホントに菊池にそっくりなのね。」

「ああ、特に目とかな!…で、祐美はなんでここに?」

「…ん。これ、いるんじゃないかと思って…渡しに来た。」

祐美は、鞄を俺に渡した。

「これ…中に何が入ってんだ?」

「…ん。…毛布とか、小屋の掃除道具とか、いろいろ。あんた、そういうの用意してなさそうだと思って。…風邪引いてるんでしょ?だったらちゃんと看病しな。」

「祐美!!お前これ、わざわざ用意してくれたのか!!?」

「バカ、声が大きい!キクが起きるでしょ!」

「…あ、つい…ごめんなキク。」

「ったく…」

「祐美、ありがとな!」

「…別に。気にする事ないわよ。たまたま知り合いから譲って貰って、どうやって使おうか悩んでて、たまたまキクが小屋にいたから持ってきただけよ。別に、あんたとキクのために持ってきたんじゃないから。」

どう見てもこれお古じゃねえし、わざわざ買いに行ったんだろ。

祐美は優しいけど、素直じゃないんだな。

 

 

ー昼休みー

 

「うわあ、これが噂のキクさんっスか!噂通り、菊池先輩に激似っスね!!」

「ホントだね!」

「おう、詩音に夏美!お前らも、キクを見にきたのか?」

「はいっス!」

「夏美、それはなんだ?」

「ああ、ウチの手づくりのおやつだよ!ちゃんと栄養バランス考えて作ったからね!風邪ひいてるなら、これが一番だよ!」

キクは、夏美の作ったおやつを美味そうに食っていた。

「お、キク!美味いか?良かったな!」

「え、ホント!?郷間っち、キクっちはウチのおやつ気に入ってる?」

「ああ、すげえ美味いってさ!」

「良かったー!じゃあ明日も作ってくるね!」

「ああ!ありがとな!」

「あ、そうそう!犬って、レゲエが好きらしいんスよ!ミュージックプレイヤー持ってきたんで、キクさんに聞かせたら喜ぶんじゃないっスかね?」

詩音は、曲をかけ始めた。

「お、いい曲だな!」

「でしょう!?自分のお気に入りの曲なんスよ!」

「キャンキャン!」

キクは、嬉しそうに小屋から出てきた。

「お、キク!お前、もう元気になったのか?」

「ワンッ!」

「おお、よかったな!キク、お前もこの曲好きか?」

「キャンキャン!」

「いい曲だよな!?わかってくれるかキク!」

「へぇ…ここまで喜ぶんスね!気に入ってくれたなら何よりっス!自分、明日もここで曲かけるっスね!」

「おう!それは楽しみだな、詩音!」

キクの奴、もうすっかりみんなの人気者だな!

やっぱり、お前をここに連れてきて良かったよ。

 

 

ー翌日ー

 

あれ?

なんか、頭がボーっとすんな。

すげえだりいし…

でも、キクが学校で待ってんだ。早く行かねえと…

「ちょっと、権蔵。あんた、顔色悪いよ。熱測んなさい。」

「お袋!俺、学校に行かなきゃいけないんだよ!」

「いいから測りな!!」

お袋に言われて、俺は熱を測った。

「8度5分!?あんた、この熱で学校行こうとしてたのかい!?」

「お袋!俺、どうしても学校に行きてぇんだよ!!」

「何言ってんだい!この熱で行けるわけないじゃないか!クラスの子にうつしたらどうすんのさ!とりあえず、今日は学校休みな!」

クソッ!

俺が、キクの面倒をみてやらねぇといけねぇんだよ…!

キクが、俺を待ってんだよ…!

 

 

ー翌日ー

 

よし、風邪も治ったし、キクに会いに行くぞ!

昨日学校に行けなかった事、ちゃんと謝らねえとな…!

 

 

ー裏庭ー

 

…キクの奴、いねえな。

まだこんな時間だし、小屋で寝てんのかな?

「おい、キ…」

小屋の中を見ても、キクの姿はなかった。

「キク!?おい、どこ行ったんだよ!!キク!!」

「郷間!…あんた、どうしたの?」

「祐美!キクを知らねえか?キクがいねえんだよ!」

「…ああ、あんたは昨日休んでたから知らないっけ。」

「何がだ!?」

「…キクの新しい飼い主が見つかったのよ。昨日、先輩が連れて帰ってるのを見たよ。」

んだと!?クソッ!なんでこうなっちまうんだよ!

「あ、ちょっと!郷間!」

俺は、学校を走って出て行った。

クソッ、なんでだよ!

黙って連れて帰るなんて…そんなのアリかよ!?

まだ、ちゃんと別れも言ってないし、昨日の事を謝ってねえのによ…!

「…!!」

走っている途中で、黒い犬が視界に入った。

この姿は…キクだ!!

俺は、思わず叫んだ。

「キ…「ラッキー、ごはんの時間だよ。」

…え。

「亜耶、学校遅れるわよ!」

「置いてくぞ〜!」

「あ、うん。ちょっと待って兄ちゃん!今、ラッキーにごはんあげてるから!」

キクは家の中で、俺の知らない女の子があげたエサを食っていた。

…そうだよな。

お前は、あったかい家の中で飼い主に可愛がってもらった方がいいよな。

…それが、お前にとっての幸せなんだよな。

元気でな、キク…いや、ラッキー。

 

「キャンキャン!!」

 

ラッキーは、窓の向こうの俺に向かって吠えた。

 

「…じゃあな。」

 

 

 

これは、俺の兄弟との出会い、そして別れの物語だ。




久々投稿!
郷間君が完全に詩人っぽくなってますね。
キャラ崩壊しちゃってます。


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番外編⑨ 友達編

4月16日は速瀬ちゃんの誕生日です!
速瀬ちゃんハピバ!!









私の名前は、射場山祐美。

『超高校級の弓道部』。

って言っても、私自身そこまで自分の腕に自信があるわけじゃないんだけど…

私、他の『超高校級』みたいにすごい才能があるわけでもないし…

…それに、私には絶対に人に知られたくない『弱み』があるし。

別に誰かと馴れ合いたいわけじゃないし、この学校では卒業まで他の奴らとの絡みは無しかな…

…はぁ。

 

 

ー弓道場ー

 

ここは、私のお気に入りの場所。

なんか、過去に希望ヶ峰学園の生徒で、私と同じ才能を持った人がいたらしく、その人のために用意された研究部屋らしい。私一人でこの部屋を使うのは少し贅沢な気もするけど…

ここは私以外ほとんど誰も来ないし、趣味で弓道ができるから落ち着く。

室内なのになんで桜があるのは謎だけど。

…今日も、練習して腕を上げないとな。

ただでさえ『ハンデ』のせいで周りに遅れを取ってるんだから、周りの百倍千倍の努力をして追い越さないと。

矢を構えて、的を狙って撃つ。

矢は、狙い通りに真っ直ぐ飛んで、的の真ん中に当たった。

「…これくらいの距離なら、まあまあかな。」

この程度、当たり前にできて当然だ。

私は、もっと高みを目指したいんだ。

 

「にゃーはははははははははははははははは!!すげーぞユミねえ!!ブラボー!!」

なぜか、弓道場にうるさい奴がいた。

「アリス…」

「ねえねえ、今のどうやってやったの!?教えてくれしゃんす!!」

「…うるさい。あんたの声、部屋中に響くんだけど。」

「にゃはははははははははは!!そりゃあそうだろ!!あーちゃんの、小野小町もシットする声帯から発せられるビセーは、清らかすぎて部屋の壁もバイブレーションしちゃってるからな!!ユミねえもあーちゃんのビセーに酔いしれろ!!」

「…うるさい。黙れ。」

「にゃあああ…冷たいなユミねえは!マイナス273.15度かよ!エントロピーとエンタルピーが最低値かよ!!」

…コイツ、バカなのか頭良いのかどっちなの?

「…はあ、あんたといるとホント疲れる。…で?」

 

「そこで覗いてる人達は、一体何の用?」

 

「…あ、バレちゃったっスね。」

「もうちょいイケると思ったんだがな…」

「流石射場山さんです!いつから気が付いていらっしゃったのですか?」

菊池、カークランド、小川が物陰から出てきた。

「最初からよ。…あんた達、覗きなんて悪趣味ね。」

私を覗きに来るなんて、よっぽど暇人なのねコイツら。

さっきからずっと気が散ってたし、暇潰しに覗きに来んのは本当にやめてほしい。

「いや、覗きっていうか…お前さ、普段人と話したりしないだろ?だから、普段何やってんのかなーって思って…」

「それで覗きをしてたと?」

「覗きとは人聞きの悪い!射場山さんとコミュニケーションを図る為の第一段階です!」

「第一…?まさか、第二第三があるんじゃないでしょうね。」

「はい、とりあえず射場山さんの趣味を把握した後、その事に関する話題を集めて、親睦を深めます。」

なんでそういう事ベラベラ喋んの?コイツは。

「そして射場山さんと仲良くなったところで、ス●ッチャとかデ●ズニーランドとかに誘います。」

「は!!?」

「どうしたんスか?射場山先輩?」

いやいやいやいやいや!!なんで私がそんなリア充みたいな事しなきゃなんないわけ!?

絶対そんな所に行ったところで浮くだけだって!!

私、そういうパリピっぽいのマジで無理!!

絶っっっっっっっっっっっっっっ対無理!!!

無理無理無理無理無理!!

「…ごめん。ホントそういうの無理だから。」

「あちゃー…やっぱ無理っスか。」

「射場山って、そういうのに免疫無さそうだもんな…」

「私、射場山さんと仲良くなりたいです!そうだ、今度は他の皆さんも誘って、一緒に射場山さんが弓道に励んでいるところを見ましょう!」

「は!?いや、ちょっと待って!!なんでそうなんの!?マジで意味わかんないんだけど!」

「あ、射場山先輩!やっとちゃんと話してくれたっスね!」

「あんた達が変な事言うからでしょ!?なんでみんなで私を見るって結論になるわけ!?ホント頭おかしいんじゃないのあんた達!!」

「いいじゃないですか。」

良くない!!

「あ、あーちゃん、ユミねえみたいにスナイプできるようになりたい!みんなでユミねえに弟子入りするってのはどう?」

「いいですね!」

なんでアイツら勝手に話を進めるわけ!?

別に、弟子にするなんて一言も言ってないし!!

人付き合いが苦手なだけなんだし、正直放っておいてほしいんだけど…

「よっしゃ!じゃあ、あーちゃんもやってみよーっと!!」

アリスは、勝手に弓矢を手に取った。

「あ、ちょっと、何勝手に触って…」

「ふぎぎぎ…なんでこれこんなにかたいの!?引けないんだけど!!」

「…はあ、全然ダメ。背中曲がってる。もっと腕を上に上げて。」

「…あ、なーんだ。教えてくれるんじゃん。」

「あ、いや…違っ…今のは…か、勘違いしないで!あんたが変な持ち方してるのがイライラしてただけだから!」

「素直じゃないな、射場山は〜!」

うっさい黙れ!!

「射場山先輩ー!」

「な、何…?」

「さっきの、もう一回やってみてもらっていいっスか?」

「えっ…」

「自分、射場山先輩のかっこいいとこ見てみたいっス!」

「いや、でも…」

「一回だけでいいんで!お願いします!」

「…ホントに一回だけだからね?見たら、すぐ帰って。」

「やったー!!」

さっきと同じように、的を射た。

「キャー!!やっぱ先輩はかっこいいっス〜!あ、写真写真…」

「やめろ。…見たら帰る約束だったでしょ?」

「ご、ごめんなさいっス…」

「あんた達といると気が散る。…私、もう帰るから。」

「あ、先輩!」

 

「あー、結局ダメだったっスね。」

「でも、お願いしたら技を見せて頂けたのは、大きな一歩ですよ!この調子で親睦を深めましょう!」

「でもさー、次の作戦はどうすんの?」

「失敗したら、逆に関わってくれなくなりそうだな…」

なんか、アイツら勝手に盛り上がってんだけど。

余計なお世話だっつってんのに、なんでしつこく関わってくるかな…

…そりゃあ、私だってみんなと仲良くしたくないわけじゃないけど…

でも私、みんなで盛り上がったりとかそういうの苦手だし…

みんなの中に混ざったって、浮くに決まってるよ…

そうなるくらいだったら、いっそ最初から1人の方が…

 

 

ー翌日ー

 

私は、教室に入った。

まだ朝の7時だから、速瀬と玉木くらいしかいない。

「…さてと。授業の準備しなきゃな。」

「なあ、射場山!」

玉木が話しかけてきた。

コイツも、馴れ馴れしいから正直苦手。

同じ班だからって、仲良くできるわけじゃないってのに…

「…何。」

「今、忙しいか?」

「…別に。」

「あのさ、このレポート、ちょっと続き書いてくれるか?このレポート、早く提出しなきゃなんないんだよ。」

「え…」

「班の4人以上の意見が集まらないとダメみたいでさ。…他のみんなには断られちまってよ。頼む!!」

嘘でしょ…

私、こういう論文系のやつ嫌いなんだけど…

何書いたらいいかわかんないし、変な事書いたらなんて思われるかわかんないし…

「できれば今日中に頼む!お願い!!」

「…今日中ね。わかった。」

「サンキュな!射場山!!いやー、助かった!!」

つい承諾しちゃったけど…

ホントにどうしよう。

こういうタイプのレポートとか書いた事ないし…

そうだ、前のやつを見ちゃえば…

って、何考えてんの私!それ、ただのパクりじゃん!絶対バレるって!

「お困りですか、射場山様。」

「速瀬…」

「日誌が書けない、といったご様子ですが…」

「速瀬…うん、ちょっとね。」

「宜しければ、ご一緒に文面を作成しましょうか?」

「え、いいの?」

「はい、書類を作成するのは私の得意分野ですので。ご不明な点がございましたら、私にご相談ください。」

「…ん。ありがと。速瀬。」

私は、速瀬に手伝ってもらって、日誌を書いた。

速瀬は、困った時助けてくれるし、口も堅いから一緒にいて一番ストレスがない。

何より、速瀬とは一番気が合う。

「…できた。」

「射場山様、お疲れ様です。」

「…ん。速瀬、ホントにありがと。」

「御礼には及びません。また何か困った事がございましたら、何卒。」

「うん。」

速瀬のおかげで、思ったより早く書き終わった。

「玉木。」

「おう、射場山!どうした?」

「…ん。レポート、書き終わった。…半分くらい速瀬に手伝ってもらったけど。」

「マジか!?早いな!…ありがとな、射場山!速瀬にも、礼言っとくよ!」

「…ん。」

玉木は、大喜びでレポートを回収して、職員室に向かった。

アイツ、なんであんなにみんなに明るく話しかけられんのかな。

…羨ましいな。

 

 

ー放課後ー

 

今日も、私は弓道場に向かった。

毎日やらないと腕が鈍るからね。

周りより劣ってる分、普段から頑張らないと。

「…ん。」

私が部屋に入ると、視界にうるさい奴らが映った。

「射場山先輩!今日も来ると思ってたっスよ!」

「…ねえ、なんか増えてない?」

昨日の4人に加えて、森万とアンカーソンが来ていた。

「フッ。邪魔させて貰うぞ。」

「…。」

冗談抜きで邪魔だからホント帰って欲しいんだけど…

「森万さんとアンカーソンさんも誘ったんですよ!」

「誘うな。」

同窓会じゃないんだから…あんまり人を呼んでこないでよ。

「はあ…あんたら、馬鹿じゃないの?」

「バカってゆーほーがバカなんだぞユミねえ!!」

コイツ、ホントに会話になんない。

誰よ、コイツをスカウトしたの。

「フッ。射場山。貴様の美しい弓術を見られると聞いてな。見させて貰うぞ。」

「…見せ物じゃないんだけど。…散れ!」

「フン、虚勢を張っても無駄だ。貴様が本当は構って欲しいと思っている事など、お見通しだぞ。」

「なっ…!」

「さすが森万さんですね!まるで占い師みたいです!」

「…フッ。己を知り、素直になれ。ツンデレ弓道家め。」

「…あんた、いい加減黙りな。それ以上言ったら許さないから。」

「わ、悪かったよ…」

あっ、しまった…

つい、いつもの癖で威圧しちゃった。

…これ、絶対引かれてるよね。

ただでさえ、目つき悪いってよく言われるのに…

「森万さん、大丈夫ですか?」

「…フッ、心配をかけたな。カークランドよ。」

…森万。

コイツの目を見ると、心の中を見透かされてるようで正直不気味なのよね。

…さっきだって…

…って、私は何考えてんだ。

「そんな事より、早く見せろー!!」

「…あんた、なんでそんな上から目線なのよ。」

ホント、アリスといると疲れる。

「…はぁ、ったく…」

私は、30m離れた的を射た。

「…ん。これで満足?」

「フッ。貴様の弓術は、噂通り実に美しいな。そんな才能があるのだから、もっと自分に自信を持て。」

それが出来たら苦労しないわよ。

…人の苦労も知らないで、薄っぺらい感想しか言えない奴の前で自信なんて持てるかっての。

「アンカーソンさん!今の射場山さんの技、素晴らしかったですよね!?She is a great archer‼︎(彼女は素晴らしい弓道家です)

「…。」

「…アンカーソンさん?」

「…Zzz」

「あ、アンカーソン…貴様、もしかしてずっと寝ていたのか!?」

「…zzZ」

「アンカーソンさん、起きてください。射場山さんに失礼ですよ。」

「ふわぁあっ!!@¥*%#★※〒&£!!!」

え、ちょっと待って!?

何語!?

めっちゃ怖いんだけど!

「ぷっ、ぐふっ…あ、アンカーソンさん…寝起きでそれはズルいですよ…!ぷくくーっ!!」

カークランド!?

あんたは今ののどこでツボったの!?

全然理解できないんだけど!?

もしかしてこれ、理解できてない私が間違ってる!?

え、待って怖い!

「…ほにゃあ、ここのお部屋、匂いがすごく気持ちよくてぇ…座り心地もよくてぇ…ついウトウトしちゃいましたぁ…」

あんたはどんな状況下でも寝るくせに。

「ふわぁ…弓矢の競技ですかぁ…僕の国にもありますよぉお…」

「そうなんスか?」

「ふわぁい…えぇっとぉ、ウポンゲを弓矢で撃ち合うんですぅ…それで、一番ユビシュゲだった人が優勝っていうルールですぅ。」

待って。説明されてもわかんない。

え、宇宙語?めっちゃ怖いんだけど。

「面白い競技ですよ。射場山さん、興味がおありでしたら、一度ご覧になってみては?」

「…ふ、ふぅん…」

ノヴォセリック王国のスポーツ、ね。

図書室に返さないといけない本があったし、ついでに調べておこうかな。

「射場山よ、今日は貴重な体験をさせてくれて感謝する。」

「…あ、えっと…うん。」

「ユミねえ、来週もみんなで来るね!」

は!?

どんだけ暇人なのあんたら!?

「…バカじゃないの?じゃあ、私は着替えてくるから。」

「あの、射場山さん。たまには一緒に帰り「先に帰ってて。」

「ふわぁ…お言葉に甘えて先に帰りますぅ。」

是非ともそうしていただきたい。

みんなで一緒に帰るなんて、私にはまだ100年早いから。

「じゃあな、射場山。」

みんなが帰っていった。

「…ふぅ。」

なんか今日はどっと疲れた。

明日はここ閉まってるし、できれば一人で落ち着いて過ごしたいんだけど…

上衣を脱ごうとした瞬間だった。

部屋の外に、視線を感じた。

私は、咄嗟に鞄の中に入っていた国語辞典を投げた。

「曲者!!」

「ぎゃっ!!」

…どうやら命中したようだ。

どうせ織田ね。

「ムフフ…8年間の修行の末ステルス能力を習得した吾輩を見切るとは…流石は射場山氏であります。」

「何がステルス能力よ。隠れて覗き見てただけでしょ変態。」

「ムフフ、褒め言葉と受け取るであります。それにしても、先程の上衣から垣間見える谷間は最高でありましたぞ射場山氏。」

 

ゴシャッ

 

「ぐえッ!!」

私は、国語辞典の角で織田の頭を殴った。

…この手のクズは、死んだ方が世のため人のためよ。

「い、射場山氏…ご、ご勘弁を…」

「…死ね、変態。」

「ぎゃあああああああぁあああああああ!!!」

 

 

 

 

 

「ね、ネバー…ギ、ブ、アップ、で…ありま…す…」

さてと、ゴミは処分したし、帰ろ。

 

 

ー翌日ー

 

いつも通りの時間に教室に入った。

今日は、珍しく伏木野も来ている。

…授業の準備しないと。

 

「…ん。」

 

机の中に何か入ってる…

なんだろう?

 

『射場山さんへ

 

入学式の日、私は運命を感じました。

貴女の凛々しい顔立ち、そして見た目通りの高潔な人柄…

私は、貴女の美しさに魅了されました。

つまり、何が言いたいかと言いますと、私は貴女にゾッコンです!!

めっちゃカッコ良くて、エモくて、控えめに言って神です!!

結婚したい!っていうかしてください!!

 

1–Cの百合崎より』

 

…気持ち悪っ。

え、何この怪文書。

これって、ラブレターだよね?

でも百合崎って、女子じゃん。

え、何これ。ドッキリ?

「アラ。ユミちゃん。どうしたの?」

伏木野が、私の顔を覗き込んできた。

…その図体と顔で人の顔を覗き込むのは、ハッキリ言ってホラーだからやめてほしい。

「伏木野…」

「アラそれラブレター?誰から…って、レイミちゃんからじゃないの!もしかして、イケナイ恋の予感!?キャー、どうしよう〜!」

「…やめろ。」

「ユミちゃん、弓道も恋愛も、頑張りなさいね!アタシ、応援してるわよ!」

勝手に恋愛の応援をするな。私、そっちの気無いんだけど。

頑張れって、何をどう頑張ればいいわけ?

…でも、一応弓道の事も応援してくれてるみたいだし、それ()礼を言わなきゃな。

「…ん。ありがと。私、頑張るよ。」

「うふふ、恋の事なら私に任せなさ〜い!」

結局、そっちがメインなのねコイツは。

期待した私がバカだった。

 

 

ー昼休みー

 

「あー、やっとジュギョー終わったー!!お昼食べれるー!!」

「あたかもずっと授業受けてたみたいに言うな。お前は1時間目からずっと寝てただろ。」

…昼食か。

「いただきます。」

私は、持ってきた弁当を食べようとした。

「ねえ、射場山っち!!」

「!!?」

反射的に弁当箱の蓋を閉めた。

「え、なんで閉めちゃうの?美味しそうだったのに。」

げっ、近藤…

コイツ、うるさいし馴れ馴れしいから苦手なんだよな…

「…急に話しかけないで貰える。」

「あ、ごめん…ねえ、そのお弁当美味しそうだね!誰が作ったの?射場山っちのママ?」

コイツ…

なんでこんなにグイグイ聞いてくんのよ。

「…んで。」

「え?なんて?」

「…自分で作った。…悪い?」

「え、自分で作ったの!?射場山っち、お料理上手なんだね!」

自分は一流の料理人のくせによく言うよ。

「でもさ、射場山っち、そんなに美味しそうなお弁当作れるのに、なんでみんなで食べないの?」

あんたに色々言われんのが嫌だからよ。

察してよ。

「ねえ、せっかくだしみんなで食べようよ!」

何言ってるのコイツ。

…そんなの、無理に決まってんじゃん。

「っ、ご、ごめん…無理…」

「あー、やっぱダメかー!!」

「近藤先輩、ドンマイっス!」

「これで10連敗かー!ユミねえオトすのムズすぎ!!」

「フッ、なんの準備も無しにいきなり行ったら断られるに決まってるだろう。こういうのは、時間をかけてじわじわと攻略するんだ。」

何評論家みたいな事言ってんのアイツ。

っていうか、さっきのも全部陽キャ組の差し金か。

…アイツらしつこいから、屋上で食べよ。

 

 

ー屋上ー

 

…誰もいないよね。

「…いただきます。」

屋上も、私のお気に入りの場所だ。

うるさい陽キャ組はこの時間帯ここに来ないし、騒音も聞こえないから落ち着く。

私も、たまにここに昼食を食べにくる。

「…ごちそうさまでした。」

昼食も食べ終わったし、そろそろ戻ろうかな。

 

ガチャッ

 

「あ。」

 

「…あ?」

 

嘘でしょ。

なんでよりによって狗上と鉢合わせるわけ?

「…んだよ。テメェがいたか。」

「…ん、まあ…」

「チッ…」

すぐ舌打ちするわねコイツ。

…コイツはグイグイ話しかけてこない分まだマシだけど、態度悪いから嫌いだ。

「…ねえ。」

「あ?んだよ。」

「えっと…何しに来たの?」

「チッ…飯食いに来たんだよ。…しつけぇ奴らが色々言ってきてよ。うるせぇから便所で食おうとしたんだけど、チビが便所で飯食うなってうっせぇからここ来たんだよ。」

ああ、コイツも私と同類か。

なんか、急に親近感が湧いてきたな。

「ふぅん。…邪魔してごめん。私、もう行くから。」

「…そうかよ。」

「…あ、あと、トイレで昼食食べんのは私もやめた方がいいと思う。」

「うるせぇ。俺に命令すんな。」

あ、やっぱりコイツとは気が合わないな。

 

 

ー2階ー

 

今日までに返さないといけない本があったんだった。

今日は弓道場は閉まってるし、返しに行こうかな。

 

 

ー図書室ー

 

良かった、ちゃんと期限までに返せた。

…あ、そうだ。本はもう返したし、この前アンカーソンが言ってた謎のスポーツについてちょっと調べてみよっと。

「…えぇっと…ノヴォセリック王国の文化っと…あ、あった。」

マイナーな国だからか、本棚の隅に追いやられていて探すのに苦労した。

「さすがに、本を読めばちょっとはわかるかな…」

…。

…。

…。

…ああ、ダメだ。

読んでも全く理解できなかった。

知らない単語が当たり前のように出てくるし、無駄にルールが複雑だし…

ってか、スポーツ以外の文化もブッ飛んでるとしか言いようがない。

チョコレートとワインが名産なのはまだわかる。

でも、結婚するとき互いのマカンゴを見せ合うってどういう事!?

何このカオスな文化。

「…はぁ。」

「…あの。」

隣には、床前がいた。

床前…コイツは、うるさくない分他の奴よりはストレス無いけど正直苦手だな。

なんていうか…不気味なのよね。

オーラが禍々しいっていうか…絶対ただの『幸運』じゃないわよね。

「床前…あんたどうしたの?」

「そこにある『銀色の夜』っていう本、取って欲しいんですけど。」

「…あ、これ?」

なるほど、高くて手が届かなかったのね。

「…はい。」

「ありがとうございます。…あの。」

「…まだ何か用?」

「射場山さん、最近菊池さん達と一緒に弓道場にいるそうじゃないですか。」

一緒にいるっていうか、アイツらが勝手に居座ってるだけなんだけど。

「…まあ、うん。それがどうしたの?」

「…いえ、仲が良さそうだなって思っただけですよ?」

「…!」

床前が殺気を放ってきた。

…コイツの不気味さの正体がわかった。

コイツ、完全に人を殺る奴の目をしてるのよね。

「…別に仲良いわけじゃないし。変な勘違いやめて。」

「それは失礼しましたぁ。」

…もうコイツとはできるだけ関わりたくないな。

そろそろ教室に戻ろう。

 

 

ー放課後ー

 

授業が終わった。

来週は小テストがあるから、早く帰って勉強しないと。

 

ゴッ!!

 

えっ、

何…

ボール…?

頭、痛い…

ちょっと待って、これ…

 

意識、飛ぶかも…

 

ドサッ

 

「祐美!?おい、祐美!!大丈夫か!?」

 

「あ、いっけな〜い。手が滑っちゃいました。射場山さん、あなたが菊池さんと仲良くしようとするのが悪いんですよ?私、し〜らないっと。」

 

 

ー保健室ー

 

…あれ?ここは…

「お、祐美!目が覚めたか!!」

「…郷間。」

私は、確か頭にボールが当たって倒れて…

「…もしかして、あんたがここまで運んできてくれたの?」

「おうよ!!」

「…ありがとう。」

「気にすんなって!ケガで倒れた妹を助けてやるのは、兄貴として当然だろ!?」

兄貴って…

いつからあんたは私の兄貴になったのよ。

「射場山!…良かった、目が覚めたか。」

「菊池…」

「郷間、お前が射場山を運んできたのか?」

「ああ、俺はガキの頃から材木運んだりとかしてたからな。力仕事は任せとけ!」

力仕事って言うなし。

人を材木みたいにいうの、ちょっと傷つくからやめろ。

「ハッ、目ェ覚めたかよ無口!!」

「…神城。あんたが私の手当てをしてくれたの?」

「如何にも!!図が高いぞ貴様!!神である私が、愚民の貴様を治してやったのだ!!この私に感謝し、そして崇めろ!!ふははははははは!!!」

…神城。正直、コイツは一番苦手だ。

うるさいし、下品だし、尊大不遜っていう言葉をそのまま人間にしたみたいな奴だし…

でも、直して貰ったし礼は言わないとな。

「…ありがと。」

「フン!!足らんぞ!!もっとだ!!」

どんだけ欲しがんのよコイツ。

「地面に額擦り付けて私を崇拝するんだよこの愚図が!!」

「おい、黒羽。そんな事したら悪化するだろ。」

「黙れウド!!気安く私の名を口にしてんじゃねえ!!十戒の3つ目を知らねェのか!!神の名をみだりに口にするなっつってんだよヴァカが!!」

十戒を、まるで自分のために作られたものみたいに言うのやめろ。

「…神城、治してくれてありがと。…私、もう回復したしそろそろ帰る。」

「待てよ。」

「…何?」

「テメェ、身体が本調子じゃねえんだろ?」

「…なんの事?」

「とぼけんな。神の前で嘘をつき通せると思ってんじゃねえ。お前、目が片方見えてねえのに無理してんじゃねえよ。ここ最近毎日練習ばっかりで、疲れてんだろ?ボールが飛んできたっつってたけど、普段のお前なら十分避けられたはずなんだよ。」

「…あんたには関係ないでしょ。」

「うるせェ。私は、神である以前に医者だ。私には、患者が回復するまで命を預かる責任と義務があんだよ。わかったら今日は安静にしてろ。来週のテスト範囲なら、私が教えてやる。」

コイツ、今まで勘違いしてたけど、実はいい奴だったりするのか…?

「…あんた、いい事言うのね。」

「私は常に良い事しか言わねえよ!!いいから寝とけ愚民が!!」

「なあ、神城。タオル持ってきたぞ。」

「おいモブ!!テメェ誰に向かってそんな口聞いてんだテメェコラ!!様をつけろ様を!!この短小童貞野郎が!!」

「痛ってェ!!」

…前言撤回。

やっぱりうるさくて下品なだけだったよ。

 

 

ー翌週ー

 

今日は月曜日。

また、1週間が始まる。

「射場山さん!」

「こっ、猫西…」

猫西は、美人で明るくて、クラスの人気者だ。

あまりの綺麗さに、ついたじろいでしまった。

「先週ケガしたんでしょ!?大丈夫!?」

「…ああ、神城のおかげで完治したから大丈夫よ。」

「そっか、よかったぁ。お大事にね。」

「…ん。ありがと。」

 

 

ー放課後ー

 

私は、弓道場に向かった。

「…はぁ、あんた達ねえ。」

予告通り、先週のメンバーが弓道場で待機していた。

それと、猫西も一緒だった。

「な、なんで猫西がここにいんのよ…」

「ああ、俺が呼んだんだよ。射場山の技がすげぇから一緒に見ないかって。」

何そのサーカスのライオンみたいな扱い。

っていうか、緊張するから人増やしすぎないでよ…

「射場山さん、私も射場山さんの弓術見てみたいな。」

「うっ…わ、わかった…」

眩しい笑顔で言われて、つい承諾してしまった。

「…い、一回だけだから…」

少し離れたところから弓を構える。

その様子を、見学に来た奴らが見ていた。

矢を放つと、矢は真っ直ぐに飛び、的の中心に当たった。

「わぁ…!すごいよ射場山さん!!」

「だろ!?射場山はすげぇんだよ!」

「うん!ホントにすごいね、私見惚れちゃったよ!」

「…ん。別に、そこまですごくは、ない…けど…あ、ありがと…」

「あ、もうこんな時間…ねえ射場山さん!」

「な、何…?」

「あのさ、たまにはみんなで一緒に帰らない?」

「…え、えっと…」

どうしよう…私、一緒に帰るときにどんな話したらいいかとかわかんないし…

絶対一緒に帰るとか無理なんだけど…

 

『フン、虚勢を張っても無駄だ。貴様が本当は構って欲しいと思っている事など、お見通しだぞ。』

 

…まさか、こんな時に森万の言ってた事を思い出すなんてね。

全く、何が一番腹立つかって、アイツの言ったことが間違ってないって事よ。

浮くかもしれない事はわかってる。

…それでも、私はやっぱりみんなと仲良くなりたい。

 

「きょ、今日は…予定無いから…いいよ…」

 

「え!?マヂ?やったぁああああああああああああ!!!ついにユミねえを攻略したぞー!!」

「フッ、…11戦中1勝10敗か。だが、この1勝は、大きな前進だ。」

まさか、OKしただけでここまで喜ぶと思わなかった。

…今日はどんな話をしながら帰ろうかな?

 

 

ー下校中ー

 

「射場山さんさ、さっきの技カッコ良かったね!」

「…ん、そうかな。」

「うん!あのさ、今度動画のPVに出演してもらっていい?」

「ぴ、ぴぴぴぴぴ…PV!!?」

「わぁあああ!射場山さん、卒倒しないで!」

「…ご、ごめん…あまりにも話の次元がブッ飛んだからつい…えっと、それって…顔とか出るの?」

「ああ、顔は出さない予定だよ。首から下だけでいいから、お願い!」

「…あ、えっと…本当に約束守ってくれるなら…」

また承諾してしまった…

「ホント!?ありがとう!!ちょうど新曲のPV用のエモい映像を探してたとこなの!!」

「新曲…?」

「うん、この前発表した『ASTEROID』っていう曲なんだけど、その曲のPVを今作ってるとこなの!」

「ふぅん…」

 

「…あ、あのさ…」

「なに?」

「えっと…新曲のPV出来たら、動画見るね。」

「ホント!?超嬉しい!!ありがとう!!」

「…ん。」

絶対会話できずに浮くかと思ったけど、みんな私に話題を振ってくれて、それに答えるとみんな喜んでくれた。

みんなと仲良くなるのって、こんなに楽しかったのね。

「射場山さん!」

「…何?」

「次の週末、スポ●チャ行きませんか!?セグウェイありますよ!」

「ふわぁ…君がセグウェイ乗りたいだけですよねぇ、ジェイムズ…」

「いいじゃないですか!射場山さんもセグりたいですよね!?」

「カークランド先輩。何スかセグるって。」

「カークランドよ、変な動詞を勝手に作るな。」

「射場山さん!一緒にセグりましょう!!」

「え、っと…うん。」

「やったー!!ユミねえとセグウェイー!!」

みんなと一緒に遊びに行く約束をした。

こんな私でも、みんな遊びに誘ってくれる。

…私、みんなと友達になれるかな。



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番外編⑩ 昼寝編

50話目突入でい!!
100話はさすがに…いかないかな。


ふわぁあ…僕の名前はリタ・アンカーソン…『超高校級の外務大臣』ですぅ…

最近、ちょっとあったかくなってきたので、すごく眠いですぅう…

 

 

ー校庭ー

 

ここは、僕のお気に入りの場所、ですぅ…

ここにちょうど座れるスペースがあって、そこに陽が当たって気持ちいいんですぅ。

ここに座ってると、すぐ眠くなって…

…くぅ、くぅ…

 

「危なーい!!!」

 

ゴッ

 

「ふにゃあっ!!?」

 

いけないいけない、つい船こいじゃいましたぁ。

…ん?

なんですかぁこれはぁ。

サッカーボール…?

「悪い、リタ!ボールがそっちに飛んじまった!!…今船漕いでくれなかったら、当たってたところだったよ。」

「ほにゃぁああ…」

やっぱり、玉木でしたかぁ。

「ふわぁ…当たってないのでいいですよぉお…ここで寝ちゃった僕も悪いですぅ。」

「え、あ、そっか。」

「…なんですかぁ。」

「いや、お前、そんなに自分の非を認められる奴だったかなって思って…」

「なんですかそれ…まるで人としての常識が無いみたいに言わないでくださいよぉ…僕だって、自分が悪い時はちゃんと謝りますよぉお…」

「わ、悪かったって。…なあ、お前はよくここに来るのか?」

「ふわぁ…まあ…ここ、寝心地いいんですよぉお…」

「確かに、ここに座ってると眠くなるよな。陽が当たってるし、でもそこまで眩しいわけでもないし…」

「そうなんですぅ…」

「でも、さすがにここで寝たら風邪引くぞ?」

「ふわぁあ…僕、バカだから風邪引かないんですよぉ…」

「…自分で自分の事バカっていう奴初めて見たぞ。リタ、あれ多分違うからな?バカは風邪引かないんじゃなくて、引いてる事に気付いてないって意味だからな?」

「いや、ちょっとは否定してくださいよぉお…」

「え、あれ『そんな事ないよ』待ちだったのか?」

玉木は、こういう冗談にも返してくれるので、お話しやすいですぅ。

 

 

ー調理室ー

 

ふわぁああ…

ここは調理室ですぅ…

ここでは、近藤がよくお菓子をつくってるんですよぉお…

「ふわぁあ…」

言ってるそばから眠くなっちゃいましたぁあ…

ちょっと一休み…

…くぅ。

「あ、ダメだよリタっち!」

「ほにゃあぁああ!?」

ふわぁ…なんですかいきなりぃ…

せっかく寝かけてたのに…

「そこ、お皿とかあるから、そこで寝たら危ないよ!落ちてきたらどうすんの!」

「ふわぁああ…ごめんなしゃぁあい…」

「リタっちは目を離すとすぐ寝ちゃうからね!」

「ふぁあ…」

「ねえ、ちょっとスイーツ作ってみたんだけど、食べない?」

「ふぇえ…?ああ、どぉりでいい匂いがすると思いましたぁ…じゃあ、ちょっと食べたいですぅう…」

「ホント!?じゃあ、盛り付けるからちょっと待っててね!」

「ふわぁ…」

近藤は、休み時間のたびに何か作ってるんですよねぇえ…

今日は何が出てくるんでしょうかねぇ…

「リタねえばっかりずるいぞー!!」

「ほにゃああぁあああ…」

うるさい奴が出てきましたよぉ…

「あ、あーちゃん!」

「ふわぁ…どこからわいてきたんですかぁ…?」

「フフン!そこの通気口から通ってきたのだ!!あーちゃんの、ケーサツ犬もシットする嗅覚を持ってすれば、ナツねえのスイーツの匂いなんて、どこにいようとあっという間に嗅ぎつけられちゃうんだぞ!!」

「ふわぁあ…まるで忍者じゃないですかぁ。っていうか、通気口からって…汚いですぅ。」

…幼児体型のコイツだからできる芸当ですよねぇ。

「あーちゃんにもスイーツ食わせろ!!」

「あーちゃんもウチのスイーツ食べたいの?」

「もち!!」

「じゃあ、みんなで食べよっか!」

「わーい!!」

「え…アリスも一緒ですかぁ…?」

「いいじゃん別に!リタっちも一緒に食べよ!」

「そうだぞリタねえ!!あーちゃんをのけ者にするなんて、鬼軍曹だぞ!!」

使い方間違ってますよぉ…

僕、鬼軍曹じゃないですぅ…

「あーちゃんをのけ者にしたら、地獄の業火でミディアムレアにされるぞ!!」

ステーキみたいに言わないでくださいよぉ…

「じゃ、みんなで食べよっか!いただきまーす!!」

…ふわぁ、やっぱり『超高校級』を名乗るだけあって、味は超一流ですねぇ…

程良い甘さで、おいしいですぅ。

「なんじゃこれ!!めちゃうま!!オホス・デル・サラードかよ!!ゲロウマなんだけど!!マヂパないねナツねえ!!」

アリスはすごくうるさいですぅ。

もはや、これって公害の一種ですよねぇ…

あとで、菊池に裁判起こせないか聞いてみますぅ…

「ナツねえ、これクソウマだね!!」

「ホント!?ありがとあーちゃん!!」

食事中にゲロとかクソとか言うのは勘弁してほしいですぅ…

っていうか、近藤からもなんとか言ってくださいよぉ…

「はー、おいしかった!!また来るねナツねえ!!」

「うん、今度はもっとおいしいスイーツ作るから楽しみにしててね!!」

「マヂで!?やった!!それじゃ、あーちゃんはこれでオサラバするよっ!よい子のみんな、また来週!!とうっ!!」

なんで特撮のヒーローみたいなセリフ言ってるんですかぁアイツ。

「リタっち、ウチのスイーツおいしかった?」

「ふわぁ…それは、まぁ…」

「そっか、良かった!…って!?リタっち!?」

くぅ…くぅ…

「ちょっと!?寝ちゃったの!?おーい!!」

 

 

ー菊池宅ー

 

「…って事があったんですぅ。」

「…お前、それで本当に訴えるために相談に来たのかよ。」

「そうですけどぉ…」

菊池は、呆れたような顔で僕を見てますぅ。

アリスの声がもはや公害だから訴えたいって相談しただけなんですけどぉ…

「…はぁ、それ、冗談だと思ってたぞ?」

「僕は本気ですぅ。だって、うるさいじゃないですかぁ。環境権の侵害ですぅ。」

「…あのなぁ、そんな事で裁判起こすとか、無理だからな?」

「でも、民事訴訟なら1円をめぐって裁判を起こせるって聞いた事ありますぅ。」

「…お前、なんでそういうくだらない裁判について知ってんだよ。ノヴォセリック人なのに。」

「この国の事については一通り勉強済みですぅ。」

「…ああそう。…でも、アイツの声がうるさいってだけで裁判起こすのは、本当に金と時間の無駄だからやめとけ。俺が相談に乗ってやるから、それでいいか?」

「…ふわぁい。」

 

コンコン

 

「お兄ちゃん?入るよー!」

「あ、破奈。いいぞー。」

…ふわぁ、菊池、妹さんがいたんですねぇ。

どんな子なんでしょうかぁ…

 

ガチャ

 

「はじめまして、お兄ちゃ…兄のお友達ですか?」

これはまたかわいい女の子が、お菓子とジュースを持ってきてくれましたぁ。

「ふわぁい…お友達っていうか、ただのクラスメイトですけどぉ…お邪魔してまぁす。」

「あれ!?よく見たら、アンカーソン大臣じゃないですか!」

「ふわぁ…そうですけどぉ。」

「わぁ、お会いできて光栄です!しかも、兄のクラスメイトなんですね!」

「おい、破奈…」

「あ、ごめんなさい。…えっと、ジュースとお菓子置いとくので、良かったら召し上がってくださいね。」

菊池の妹さんは、そういうと部屋から出て行きましたぁ。

「ふわぁ…妹さん、かわいいですねぇ。」

「だろ?しかも、賢いんだよアイツ。家のロボットとか、全部アイツが作ったし…」

「え、そうなんですかぁ?それはすごいですぅ。」

「でも、最近俺にだけは当たりが強いんだよな。…ツンデレってやつかな。」

「ふわぁ…」

ツンデレって…

どんだけ妹さんの事好きなんですかぁ。

 

 

ー翌日ー

 

「眠い、ですぅ…」

眠すぎてまぶたが重いですぅ…

「おはよう、アンカーソンさん!」

ふわぁ…この声は…

「ふわぁ…猫西ぃ…おはようごじゃいましゅう…」

「あはは、今日も眠そうだね!ねえ、一緒に話しながら学校行こうよ。」

「ふわぁああ…そうですねぇ…あ、長話は眠くなっちゃうので嫌い、ですぅ…」

「君の場合、そこまで長くない話でも爆睡しちゃうけどね。」

「ふわぁあああ…それは否定できない、ですぅ…」

「わっ!言ってるそばから船こいじゃってるよ!しかも立ったまま!アンカーソンさん、起きて!道端で寝たら危ないよ!」

「にゃむぅう…」

「アンカーソンさんってば!」

 

ドンッ

 

「って…!」

「ほら言わんこっちゃない!人にぶつかっちゃったじゃん!どうもすみません!!」

「…あぁ?」

「…って、なぁんだ。狗上君か。良かったぁ。」

「うるせぇ。何がよかったんだよクソメス共。…チッ、朝っぱらからストレス増やすんじゃねえよ。」

「ごめんってば…でも、ぶつかったのが全然知らない人とかじゃなくて君だったからまだ良かったなって…」

「あぁ?どういう意味だコラ。」

「いや、ほら…君も一応私達のクラスメイトだからさ!」

「…ナメてんのかテメェ。」

「…くぅ。」

 

あれぇ…?ここはどこですかぁ…?

ふわぁ…目の前にフカフカのベッドがありますぅ。

ちょっと寝てみたいですぅ…

「おい、居眠りテメェコラ!!テメェもなんか言えよ!聞いてんのかオイ!!」

「くぅ…くぅ…」

「チッ…テメェ、人様にぶつかっといてよく寝てられんな。」

「ちょっと、やめなよ狗上君!相手は女の子だよ!?」

「うるせぇ!!起きろクソ女!!オイ!!」

ふわぁあ…せっかく目の前にフカフカのベッドがあるのに、ワンちゃんが邪魔してきますぅ…

ワンワン吠えてうるさいですぅ…

これじゃあ眠れないじゃないですかぁ、ちょっと黙っててくださいぃ…

…おすわりッ!!

 

ドスッ

 

「ぐふぅっ!!?」

「えぇ!!?あ、アンカーソンさん!?え、何今の動き!!」

「はっ!!フォアダ!!…って、なぁんだ…夢でしたかぁ。せっかくフカフカのベッドで寝られると思ったのにぃ…って?あれぇ…?なんで狗上が寝てるんですかぁ?」

こんなところで寝そべってたら風邪ひいちゃいますよぉ…

「あ、アンカーソンさん、何今の動き!!」

動き?

猫西は一体何を言ってるんでしょうかぁ…

僕、もしかして何かやらかしちゃいましたかねぇ…

「動き…?何の事ですかぁ…?」

「え、君、さっきすごかったんだよ!?狗上君が君の胸ぐらを掴んだから一瞬どうなる事かと思ったけど、君はすかさず狗上君のみぞおちをどついたんだよ!!」

「…え、そうなんですかぁ?…僕、さっきまで寝ちゃってたのでよくわかんないですぅう…」

「え!?寝てたの!?嘘でしょ!?」

「ふわぁ…はいぃ…フカフカのベッドで寝る夢見てましたぁ。」

「…酔拳ならぬ睡拳だね。」

「スイケン?…あのぉ、狗上はどうしますかぁ?このままじゃマズいですよねぇ…」

「うーん…今起こしてもまた暴れそうだしなぁ…どうしよっか?」

「おう、理嘉にリタ、それに理御じゃねえか!!おはよう!」

この大きくて無駄にいい声は…

間違いなく郷間ですねぇ…

「あ、郷間君!おはよう!」

「ふわぁあ…郷間、おはようございますぅ…」

「って、理御が寝てんな…お前ら、ここで何があったんだ?」

「あ、えーっと…」

「僕の寝相が悪すぎて、間違えて狗上を殴っちゃったみたいなんですぅ…」

「あ、でも、狗上君はその前にアンカーソンさんと肩がぶつかってて、それでアンカーソンさんに怒鳴り散らしてたから、お互い様っちゃお互い様なのかな?」

「…マジかよ、リタ。お前すげぇな。色んな意味で。」

「ふわぁあ…褒めても何も出てこないですよぉお…」

「いや、褒めてはないでしょ。」

「で、お前らは理御をどうするかって事で話してたのか?」

「うん。今下手に起こしたら余計怒りそうだなって…どうするのがいいのかな?」

「んー…詳しい事はよくわかんねえけど、俺が理御を学校まで運んでやろうか?」

「ふわぁあ…いいんですかぁ?」

「おう、俺は力仕事には自信あっからよ!」

「それはありがたいですぅ…じゃあ、お願いしますぅ…」

「よっしゃ、任せとけ!」

郷間は、軽々と狗上を肩に担ぎましたぁ。

郷間は大柄ですけど、狗上もまあまあ体格いいのに…

よく肩で担げますねぇ。

「よっと。」

「わぁ…すごいですぅ。」

「まあ、普段から木とか重機とか運んでるからな。これくらい余裕だぜ。」

「…なんか、木とか重機のノリで担がれる狗上がかわいそうですぅ。」

「いや、狗上君に腹パンした君が言っていいセリフではないよ?」

「はぇえ…?」

「なあ、リタ。そういえば、さっき寝てたって言ってたけど…どんな夢見てたんだ?」

ふぇ…なんでそんな事聞いてくるんでしょうかねえ…

「…えぇっと、ベッドで寝ようとしたらワンちゃんに吠えられたので、大人しくさせる夢ですぅ。」

「…ああ、道理で…」

道理で?

何を納得したんでしょうかぁ。

 

 

ー教室ー

 

ふわぁ…今日の授業も、眠くなっちゃいそうな授業ばっかりですぅ。

これを起きて聞いてなきゃいけないなんて、拷問か何かでしょうかぁ…

ふわぁああ…眠い、ですぅう…

「…くぅ、くぅ…」

 

ふわぁ…

目の前にまたフカフカのベッドがありますぅ。

さっき見た夢の続きでしょうかぁあ…

わあ、見た目通り本当にフカフカですねぇ…

ちょっと一休みっと。

おやすみなさぁい…

 

「…すぅ、すぅ…」

 

キーンコーンカーンコーン…

 

「ほにゃっ!!」

 

ふわぁあ…

結局また寝ちゃいましたぁ…

こんな眠くなっちゃうような授業で起きてろっていうのが無茶な話なんですよぉ…

「よく寝たぁ…」

「あんた、どんだけ寝てたのよ。もう昼休みよ。」

隣の席の射場山が話しかけてきましたぁ。

「えぇえ…ホントですかぁ…?あ、ホントですぅ…時計の針が進んでますぅ。」

「…はぁ、で、あんた…授業の内容全然わかってないんじゃないの?」

「ふぇえ…確かに、聞いてなかったからよくわかんないですね…」

「…やっぱり…」

「1時間目の英語が長文要約、2時間目の古典が助動詞、3時間目の数学が確率、4時間目の化学が元素の性質って事くらいしかわかんないですぅ…」

「…それだけわかってれば十分だと思うんだけど…っていうか、なんで寝てて授業の内容わかってんのよ。」

「ふわぁ…」

「あんたの耳と頭どうなってんの…」

「いやぁ、それほどでもぉ…」

「褒めてないわよ。」

「でも、本当に授業の内容は曖昧だから困りますぅ…どうすれば…」

「寝るのをやめれば?」

「ふわぁ…それができたら苦労しませんよぉ…」

「お困りですか、アンカーソン様。」

「ふわぁ…速瀬…実は、授業の内容が全然わかんないんですぅ…」

「寝てたからでしょ。」

「成程、そういう話ですか。では、後で授業の内容をお教えしましょうか。」

「ふぇえ…いいんですかぁ?」

「主をサポートすることこそ、秘書の務めですので。この場では、貴女方が私の主だと心得ております。」

「ふわあ…それは助かりますぅ。」

「ちょっと速瀬。あんまりコイツを甘やかさない方が…」

「射場山ぁ。君も参加したらどうですかぁ?」

「ちょっと、なんで私が参加する流れになるのよ!」

「射場山、授業でちょっとわかんないとこがあるって言ってたじゃないですかぁ…」

「なんでそういう余計な事は知ってんのよあんた…」

「速瀬も、それでいいですよねぇ。」

「はい。射場山様も、もし宜しければ授業の内容を解説しますよ。」

「…え、じゃあ…ちょっとだけ…」

 

僕は、射場山と一緒に速瀬のミニ授業を受けましたぁ。

速瀬は解説がわかりやすくて、僕もあまり眠くならなかったので、授業の内容はちゃんと理解出来ましたぁ。

「ふわぁ…速瀬、ありがとうございましたぁ…君には、毎日授業してもらいたいくらいですぅ。」

「アンカーソン様、お言葉ですが、私も暇ではございませんので…毎日貴女に授業をする事は出来ません。出来れば、学校の授業の内容を真面目に聞いていただきたいのですが。」

「ふわぁああ…そうするように努力しますぅ。」

「…はぁ、結局努力止まりじゃん。」

 

 

ー廊下ー

 

今日も眠かったですぅ…

速瀬は眠気覚ましにフ●スクくれましたけど、僕これ嫌いなんですよねぇ…

ふわぁ、なんか…また眠くなってきちゃいましたぁ…

 

グラッ

 

「ムフフ…森万氏。それで、要は嫌嶋先生の身体のラインが至高でして…」

「フッ、織田よ。貴様のエロトークのバリエーションの豊富さとトークスキルはもはや芸術だな。」

「ムフフ、褒めても何も出てきませぬぞ!」

「いや、褒めてないから…ムッ、なんか嫌な予感がするぞ。そこの階段からだな…織田よ。下がっていろ。」

「え、嫌な予感って…一体何なのでありますか!?」

「それは…」

 

ドサッ

 

むぎゅうぅ…

今度はフカフカの椅子が出てきましたぁ。

座ったら気持ち良さそうですぅ。

ちょっと一休み…

 

「くぅ…」

「…んぶっ!!?ぶっ…んんんっ(なんだこれ)…!?はんぷ、んぶっ、ん゛んんんんんっ(目の前が縞模様だぞ)…!」

「森万氏!!嫌な予感って、一体何が…って!!?一体どういう事でありますか!!その羨ましいハプニングは!!」

んぶっ、ん゛っ(おい、離れろ)!ぶはっ、あー…死ぬかと思った…って、アンカーソンじゃないか!!って事は、もしかして…なんか、その…ごめん!!」

「…くぅ、くぅ…」

「…あれ、寝てる…って事は、寝ながら階段から落ちたって事か?」

「森万氏!!!」

「うおぁっ!!?ど、どうしたんだ織田、そんな人殺しの目をして…」

「森万氏ばっかり羨ましいですぞ!!顔を、あ、アンカーソン氏の…ま、まままままま…」

「織田、色々言いたい事はあるだろうが落ち着け!これはただのハプニングであって、俺に悪気は…」

「元はといえば、森万氏があんな事を言わなければ、アンカーソン氏のスカートの中(サンクチュアリ)を拝めたのは吾輩だったのかも知れぬのですぞ!!森万氏ばっかりおいしい所を持っていって、ずるいであります!!吾輩だって、かわいい女の子にラッキースケベしたいであります!」

「スカートの中と書いてサンクチュアリと読ませるな!アンカーソンが寝てるからって、廊下で下品な願望を語るな!」

「ね、寝てるとな…!?ムフフ、チャンスであります!!」

「は!?おい、織田!お前マジでいい加減にしろ!!寝込みを襲うなんて、貴様にプライドは無いのか!!」

「ムフフ、レディにエロい事ができるのなら吾輩はプライドなど要りませぬ!!」

「最低かコイツ!おい、やめろ!!」

「ムフフ、まずはこの程良く巨乳なパイオツを揉みしだいて…」

 

ふわぁ…

あれ、フカフカの椅子が消えちゃいましたぁ。

座り心地良かったのに…

…って、なんか全裸の織田がヘラヘラしながらこっちに来てますぅ。

なんか気持ち悪いし、変態にはおしおきが必要ですぅ。

君みたいな歩く公然わいせつ罪には、ジャーマンスープレックスをお見舞いしてあげますぅ!

 

ガシッ

「え、ちょっと待って!?なんでいきなりホールドされて…」

 

ゴシャアッ

 

「ぐほぁっ!!!」

 

「はっ…夢でしたかぁ。あれぇ?なんで織田がこんなところで寝てるんですかぁ…?あ、森万も一緒ですかぁ?って、よく見るとさっきと景色違うし…どうなってるんでしょうかねぇ…」

「あ、アンカーソン…お前…」

なんか、森万が青ざめた顔で僕を見てますねぇ…

もしかして僕、また寝相の悪さのせいで何かやらかしちゃったんでしょうかぁ…

「ふわぁあ…また寝ちゃいましたぁ…」

「あ、アンカーソン…」

「なんですかぁ?」

「その…なんかゴメンな。大丈夫か?」

「ふわぁ…僕は全然大丈夫ですけどぉ…ゴメンって、何がですか?」

「あ、えっと…なんでもない。忘れてくれ。」

「?」

なんか、森万が顔を真っ赤にしてますけど…

なんなんですかぁ、一体。

 

 

ー図書室ー

 

ふわぁ…ここは、僕のお気に入りの場所ですぅ…

静かで、寝心地が良くて…

「アンカーソンさん。」

ふわぁあ…誰かと思えば、床前ですかぁ。

「ふわぁ…床前…何か用ですかぁ?」

「いえ、用と言うほどの事でもないんですけど…少しあなたとお話がしたくて…」

「ふわぁ…お話…?」

「…アンカーソンさん、ずいぶんと菊池さんと仲がいいそうじゃないですか?」

「別に、そこまで仲良いわけじゃないですよぉ…」

「シラを切らなくてもいいですよ…菊池さんのお宅にお邪魔して、妹さんの破奈さんにお菓子と飲み物を出してもらって…菊池さんと2人で楽しくお話ししてたそうじゃないですか。」

「…確かに、家には行きましたけどぉ…っていうか、なんで君がそんな事知ってるんですかぁ?」

「うふふ、風の便りですよ。」

「それで、僕が菊池の家にお邪魔したからなんなんですかぁ?」

「いえ、楽しそうで何よりだなって思っただけです。」

「そうですかぁ…」

じーーーーーーーー…

「あら、どうしたんです?アンカーソンさん?私の顔に何かついてますか?」

「君、なんかキナ臭いんですよぉ。何考えてるんですかぁ。」

「別に、変な事考えてないですよ。気のせいじゃないですか?」

「…そうですかぁ。」

そろそろ教室に戻りましょうかねぇ…

 

グラッ

 

「ほえ?」

 

バサバサバサバサッ

 

「ふにゃあぁああああぁぁぁ…」

 

「うふふ、作戦大成功です。…アンカーソンさん、あなたが菊池さんと馴れ馴れしく接するのがいけないんですよ?そこで反省していてください。」

 

 

ー数分後ー

 

「たまには図書室でゆっくりするのもいいかもしれないっスね〜。って、えぇええええ!!?なんで本がこんなに散らばってるんスか!?…ん?本の山の下で誰かが生き埋めになってるっス!…このパーカーは…もしかして、アンカーソン先輩!?大変っス!今すぐ助けないと…!」

 

すぅ…すぅ…

紙でできた蝶々が大量に覆いかぶさってますぅ。

なんか、すごい重いですねぇ…

あれ、蝶々がどっかいっちゃいましたぁ。

それと、カナリアがこっちに飛んできてますぅ。

すごい鳴きますねぇ、このカナリア。

 

「アンカーソン先輩!!大丈夫っスか!?しっかりしてください!!」

「…くぅ、くぅ…」

「あれ?もしかしてこの人寝てる!?…はぁ、人が心配して助け出したっていうのに…起きろ!!」

 

ビシッ

 

「ふにゃ、ああ!!クシュルメ!!…って、あれぇ…?小川じゃないですかぁ。どうしたんですかぁ、こんなところで…」

「どうした、じゃないっスよ!!先輩が、本の山で生き埋めになってたから救出したんスよ!!」

「ふわぁあ…そうだったんですかぁ。ありがとうございますぅ…小川は命の恩人ですぅ。」

「アンカーソン先輩はおっちょこちょいっスからね。気をつけてくださいっス。」

「そうしますぅ…くぅ…」

「また寝た!?…全く、生き埋めになった後でよくそんなに気持ち良さそうに寝れるっスね…」

「はっ、また寝かけちゃいましたぁ…すいませぇん…」

「アンカーソン先輩、なんでそんなにすぐ寝ちゃうんスか?睡眠はちゃんと取ってるっスか?」

「ふぇえ…毎日12時間睡眠ですぅ。」

「12!?…そんなに寝ててまだ眠いって逆にすごいっスね。」

 

 

ー保健室ー

 

ふわぁ…ここは、僕の一番お気に入りの場所ですぅ…

やっぱり、ベッドがあるのは最高ですよねぇ…

ちょっとお邪魔しまぁす…

「アラ、リタちゃん。いらっしゃい。」

「誰かと思えば居眠りか!!ふはははははははは!!この私が、保健室に入る許可をやろう!!感謝しろ!!」

なんか、自分の部屋みたいな言い方してますけど…元はといえば、神城の部屋じゃないですよねぇ。

…ふわぁ、エカイラも一緒ですかぁ。

「ふわぁ、おやすみなさぁい。」

「早速寝た!?この子、寝るためだけに保健室に来たワケ!?」

「ハッ、おい居眠り!!テメェ、私の神の治療を受ける気も、私を拝む気もないくせにここに来たのか!!ふざけんなこの邪教徒が!!おい、起きろテメェコラ!!」

「ちょっと、クレハちゃん!起こさないでよ!今、写真撮ってるんだから!」

「はぁあ!?何やってんだテメェは!!」

「ウフフ、だって、こんなに微笑ましい光景、なかなか見られるもんじゃないわよ!待ち受けにしちゃおうかしら〜♪」

「ケッ、いい趣味してんじゃねえかよこのオカマ野郎!!」

「クレハちゃん!!アタシはオカマじゃなくてオネエだって何度言えばわかるの!?アンタ、そろそろ殺すわよ!?」

「はぁあああああ!!?おいクソカマテメェコラ!!愚民の分際で、神に向かって『殺す』なんて言っていいと思ってんのか!?天罰が下るぞ!!テメェは、最後の審判の日に絶対に方舟に乗せてやらん!!」

「アンタこそ、自分のこと神神ってうっさいのよ!!むしろ天罰が下るのはアンタの方でしょ!?」

「言ったなこのクソカマがぁあああああ!!!」

 

ふわぁ…

ベッドがフカフカで気持ちいいですぅ。

ん?

なんか、向こうにかわいいお人形がありますぅ。

ちょっと抱き枕にしちゃいたいですぅ…

 

ガシッ

 

「え?」

「く、クレハちゃん?」

 

グンッ

 

「おわぁあああああああっ!!?」

「く、クレハちゃんがリタちゃんに、ベッドに引きずり込まれちゃったわ!!どうしましょう!」

 

ふわぁ…

このお人形、抱き心地最高ですぅ。

えへへ、僕の専用抱き枕にしちゃいますぅ…。

 

「おい、居眠り!!テメェ、離せコラァ!!神に対する冒涜だぞ!!離せっつってんだろうが!!そんなに天罰を下されたいのか!?あぁ!?」

「むにゃむにゃ…」

「なんだコイツ、普段は運動音痴のクセに、なんでこんなに力が強ェんだよ!?クッソ、振り解けねェ!!」

 

あれぇ…?

このお人形、なんかマシュマロみたいにフワフワですぅ。

なんか、甘い香りがするし…

これはずっと抱いていられますぅ…

 

「むにゃ…」

「は!!?テメェ、どこに顔突っ込んでんだコラァ!!テメェみてェな愚民風情が、気安く神の身体をホールドするなど…死にてェのかテメェ!!」

「…。」

「おい、クソカマテメェコラ!!何ボサっと突っ立ってんだ!!そこで見てねェで、この邪教徒を振り解け!!神の命令だぞ!!聞いてんのかオイ!!」

「キャー!!何この尊すぎるシチュエーション!!女子同士でベッドインなんて、なかなか拝めるモンじゃないわよ!!リタくれ最高よ!!今のうちに激写!!」

「テメェ、何撮ってんだ!!コイツを振り解くのを手伝えっつってんだよ!!いい加減にしねェと鉗子を目玉にブチ込むぞコラァ!!このクソゴリラ姫オカマ野郎が!!…あと、なんで私が受けなんだよ!!私はどう考えても攻めだろうが!!舐めてんのか!!」

「うふふ、二人とも食べちゃいたいくらいかわいいわねえ!」

「ふっざけんなクソが!!」

「むにゃあ…」

 

コンコン

 

「失礼します。」

 

ガラララ…

 

「あら、ジェイムズちゃんじゃない!どうしたの?」

「アンカーソンさんを探しているのですが…エカイラちゃんさんはアンカーソンさんを見ていませんか?」

「あら、リタちゃん?…うふふ、そこにいるけど?」

「あ、アンカーソンさん!…と、神城さん。なんで寝ていらっしゃるんですか?今病人が来たらどうするんですか?」

「うるせェ帽子!!見てわかんねェのかよ、このバカが!!この愚民にホールドされて動けないんだよ!!早く私を助けろ愚図が!!」

「あ、し、失礼しました!ほら、アンカーソンさん。起きてください。」

「はっ、ミャチュー!!」

「ぷふっ…」

「えぇー、もう起こしちゃったの?せっかく萌えるシチュエーションだったのに…」

「テメェは当分黙ってろ!!このクソオカマサイクロプスが!!」

「アタシはオカマじゃないし、サイクロプスでもないわよ!!アタシはオ、ネ、エ!!」

「…ふわぁ、なんか神城とエカイラが喧嘩しててうるさいですぅ。…あれ?ジェイムズじゃないですかぁ。どうしたんですかぁ?」

「どうした、じゃないですよ!もう帰りますよ!」

「ふわぁい…」

 

 

ー下校中ー

 

ジェイムズが僕と帰るなんて、珍しいですねぇ。

「あの、アンカーソンさん。」

「ふわぁあ…なんですかぁ?」

「学校には、馴染めていますか?」

「ふぇえ…なんですかぁ、その質問…」

「いえ…アンカーソンさん、以前までは才能と眠り癖の所為で私以外の同年代のお友達がいなかったでしょう?…だから、貴女が希望ヶ峰学園に入学すると知った時、馴染めるかどうか心配してたんですよ。」

「ふわぁあ…余計なお世話ですぅ。僕は、別に友達なんていりませんよぉ…」

「では、何故私とお友達になってくださったのですか?」

「それは…」

「ほら、やっぱり貴女にはお友達が必要なんですよ。貴女がこの学校で馴染めているなら、何よりです。」

「ふわぁ…僕より年下のくせに生意気ですぅ。…でも、心配してくれてたのは嬉しかったですぅ。ありがとうございますぅ。」

「いえ、そんな…あ、私の家はこちらですので、私はこの辺で。では、ご機嫌よう。」

「ふわぁ…」

…さて、帰って寝ますかぁ。




ところで、リタちゃんの弱みだけは本編でまだ語られていませんよね?

5章でガッツリ出ます。(ネタバレ)


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番外編⑪ 来日編

皆様、ご投票ありがとうございました!

最後の方、いきなり織田クン票が伸びててビックリしました。

でももう既に番外編のプロットが固まっていて、後は投稿するのみ状態になっていたので、若干票数が優っていたジェイムズ君を先に投稿します。


私は、ジェイムズ・D=カークランド、『超高校級の大学教授』です。

あ、DはDoyle(ドイル)の略で、間違ってもDuffer(バカ)のDではありませんからね。

え?つまらないジョークはもうたくさんだって?

…そうですか。

では、まずは今私がいる場所をご紹介したいと思います!

ここは希望ヶ峰学園です!

この希望ヶ峰学園、なんでもUltimate upper school student(超高校級)を集めた、Ultimate preparatory school(超進学校)なんですよ!

名前も、The peak of hope(希望の峰)!very coolです!

あ、失礼しました。ついはしゃいじゃいました。

実はこの希望ヶ峰学園、私が来日した最大の理由なのです!

私は、幼い頃から家のしきたりに縛られて生きてきて、こんな暮らしはもうたくさんだ!…と思っておりました。

ある日、私は思いついたのです。

そうだ、家出しようと。

え?発想が飛躍しすぎって?

そこはthrough(スルー)でお願いします。

そんな時、私にchance(好機)が訪れました。

なんと、希望ヶ峰学園から『The ultimate university professor(超高校級の大学教授)』としてのoffer(オファー)が来たのです!

私は、感激して舞い上がりそうになってしまいました!

だって、今までずっと憧れていた日本の高校で、aoharu出来るんですよ!?

toast(食パン)を咥えながら通学路を走ってclassmate(クラスメイト)にぶつかったり、rooftop(屋上)で叫んだり、一回でいいからやってみたかったんです!!

…当然、両親からは『You are so crazy‼︎(頭おかしい)』と言われて猛反対されました。

しかし、折角のチャンスを無駄にする訳にはいきません!

私は、両親の反対を押し切って来日し、希望ヶ峰学園への入学を果たしたのです!

…やはり、日本はvery fantastic(とても素晴らしい)です!!

過ごしやすい気候、興味深い国民性、我が国には無いcoolな文化の数々…!

そして何より、私の推しの舞園さやかさんとうぇすにゃんさんがいらっしゃいます!!

家の掟を破ってまでここに来た甲斐がありました!

ジェイムズ・D=カークランド、14歳!

I'm enjoying aoharu in Japan now(今、日本でアオハルを謳歌しています)‼︎

 

 

「ふわぁああ…前置きが長いですぅ。僕じゃなくても寝ちゃいますよぉ〜。」

「あ、アンカーソンさん!」

この女性は、『The ultimate foreign minister(超高校級の外務大臣)』リタ・アンカーソンさんです。

ノヴォセリック王国の外務大臣で、私の幼い頃からの友人です。

私は、同年代の友達を作りたがらない彼女の、唯一の同年代の友人なのですが…

何故彼女が私と友人になってくださったのかは、全く教えてくださらないのです。

「ふわぁあ…眠い…」

「あ、そうだ!アンカーソンさん、来日した感想は?」

「僕は、お仕事で何回も来てるので、別に今更感動したりとかはしないですけどぉ…」

「…そうですか。」

「そんな悲しそうな顔しないでくださいよぉ…君、思った事がすぐに態度に出るんですぅ。」

え、そうなんですか!?

「エ、ソ、ソウデスカ…?キノセイジャナイデスカネ…?」

「…君、そんなに日本語下手でしたかぁ?カタコトすぎますぅ。」

「ソ、ソンナコトナイデスヨォ…」

「ふわぁ、緊張しすぎですぅ。古い付き合いなんだし、肩の力抜いてくださいよぉ…」

「そ、そうですね…失礼しました。」

「…Zzz」

「あれ?アンカーソンさん?聴いてますかぁー!!」

…眠ってしまったようですね。

こういう時は…

「えいっ!」

肩を揺するのではなく、両側の頬を思いっきり引っ張ります。

「むぃいいいい…むにゃ、ムッキャリー!!」

ぶふっ…

あ、アンカーソンさん…

寝起きでムッキャリーはやめて…お腹痛い…

ぷくくっ…

「ふわぁ…夢の中なのに、ほっぺたが痛かったですぅ。…ジェイムズ、君、何笑ってるんですかぁ!」

「だ、だって…ムッキャリーって…ブフッ!!」

「笑わないでくださいよぉお!」

 

 

ー校庭ー

 

ここは、校庭です!

普段は、玉木さんがサッカーしてたりするんですけど…

おや!?

「森万さん!!」

「フッ、カークランドか。どうしたんだ?今日はいつにも増して上機嫌じゃないか。」

「そ、そうですか?」

「フン、誤魔化しても無駄だ。貴様の機嫌など、手に取るようにわかる。」

この方は、『The ultimate psychic(超高校級の超能力者)』森万羅象さんです!

未だに誰も彼の超能力を科学的に否定出来た方はいらっしゃらないそうなんですよ!

私、もし本物の超能力者がいたとすれば、その力を利用して宇宙規模の交信ができる技術の研究がしたいと思っていた所なんです!

彼に出会ったのも何かの運命だと思い、積極的にお話をしていたら、なんとお友達になる事が出来ました!

「森万さん、森万さんは何故ここにいらっしゃるんですか?」

「フッ、実は、電波の良いところを探していてな…」

「電波!?もしかして、電波を使った超能力をお使いになるんですか!?」

wonderful‼︎まさに、私が探し求めていた超能力です!!

「え、いや、違…ただ、携帯が繋がりにくいだけで…」

「私、お手伝いします!今開発中の電波測定システムを駆使して、能力の発動に最適のポイントを絞り込みます!」

「待って!?別にそこまでする必要無いから!!ちょっ、お前一回ちゃんと話を聞け!!」

「あ、絞り込めました!あちらですね、行ってみましょう!」

「だから一回話を聞けって!!」

 

 

ー校舎裏ー

 

森万さんったら、急に具合が悪くなったって言ってどこかに行ってしまいました。

折角プロキシマ・ケンタウリまで届く交信技術の開発に役立つ超能力が見られると思っていたのに…

「お、ジェイムズじゃねえか!どうした、こんな所で。」

「おや、郷間さんではありませんか!」

この大柄の男性は、『The ultimate gardener(超高校級の庭師)』郷間権蔵さんです。

私の好きな庭師、和泉川一郎先生に腕を見込まれ、彼の一番弟子として庭師をしているそうです。

本人は、あまり乗り気ではないようですが…和泉先生の一番弟子なんて、そう簡単になれる物ではありませんよ。

私だって、サインを断られたのに…

「実は、森万さんに超能力を見せて頂こうとしたのですが、断られてしまいまして…」

「…で、今暇だから散歩してると?」

「はい!簡潔に言ってしまえば、その通りなんです!」

「なるほどな…じゃあ、俺の描いた設計図に間違った所とか無いか確認してくれねえか?」

「え、庭仕事じゃないんですか?」

「だから、俺は庭仕事は好きじゃねえって…おい、露骨に嫌そうな顔すんな。」

「…だって、私がサインすらして貰えなかったような偉大なお方に指導をして頂いておいて、好きじゃないとか…」

「ああ、もう!わかったからスネんなよ!ジジイには、今度俺から頼んでみるから!」

「ホントですか!?」

「おう、任せとけ。」

「はわぁああ…!あの、さっきの設計図、見せてください!改善点があれば、100個でも1000個でも訂正しますので!」

「お、それは頼もしいな!」

ずっと欲しかった和泉先生のサイン…!

やっと、手に入れる事が出来そうです!

 

 

ー校舎 廊下ー

 

思ったより設計図が興味深くて、つい夢中になってしまいました。

「カークランド君!」

「猫西さん!!」

彼女は、『The ultimate commentator(超高校級の実況者)』猫西理嘉さんです!

実は彼女、私の大好きなY●uTuber『うぇすにゃん』さんなんですよ!!

うぇすにゃんさんと同じクラスだなんて、夢みたいです!!

「猫西さん、昨日発売されたCD買いましたよ!『シャム猫の詰め合わせ』!」

「ホント!?ありがとう!カークランド君は、本当に私のチャンネルが好きなんだね!」

「はい、三度の飯よりうぇすにゃんチャンネルです!」

「嬉しい〜♡あ、そうだ!今ね、ゆったり実況にチャレンジしてるんだけど、実はこのキャラ、カークランド君をモデルに作ったんだよ!」

「えぇ!?そうなんですか!?凄く嬉しいです!!必ず動画チェックします!」

「わーい、ありがとう!…ねえ、ところでさ、カークランド君は、私の動画の中でどれが一番好きなの?」

「ああ、猫西さんの誕生日に、2月22日はおでんの日だからって言って熱々おでんを使ったリアクション芸を披露した動画です!…あと、ゲーム実況では、『桜ノ舞イ散ル夜』と『小々波が止む頃僕は君と共に死ぬ』がお気に入りです!」

「え!?あの、おでんのやつ!?実はあれ、今までの動画の中で一番体張ったんだよ!なんか、それをお気に入りって言ってくれると、やっぱり今後のモチベーションになるよね!あ、そうそう。『小々波』、今度アニメ化されるらしいよ!なんか、私の実況動画が話題になって、大物監督がアニメ化に挑戦したみたい!」

「そうなんですか!?」

「やっぱり、自分の動画のおかげでアニメが誕生するって思うと、なんか嬉しいね!」

「そりゃあもう、うぇすにゃんさんは日本国内屈指の実況者ですから!あ、アニメは全話録画して見ますね!」

「なんか、カークランド君にそこまで褒められると照れるなぁ。」

 

 

ートレーニングルームー

 

つい、猫西さんとのお喋りが楽しくなってしまって、話しすぎてしまいました。

あ、玉木さんがいらっしゃいました!

改めてご紹介します。彼は、『The ultimate soccer player(超高校級のサッカー選手)』玉木勝利さんです!

「玉木さん!」

「おっ、ジェイムズか!どうした?」

「ふふっ、私、今学園を探検しているのですが…やはり、我が国にはないunique(ユニーク)な物が沢山あるのですね!」

「おう、そうか。それは良かったな。」

「…ところで、玉木さん。それは、何をなさっているのですか?」

「ああ、これか。筋トレだよ。無酸素運動っつってな、筋力を上げるのに効果的なトレーニング法なんだよ。」

「あ、文献で読んだ事があります!私も、少しだけやってみても良いですか?」

「おう、いいぞ。」

「よいしょっと。」

「お、お前、細い割に結構力あるな。」

「そうですか?一応、剣術を嗜んでおりますので…それ以外にも、習い事を幾つか…」

「なるほどな。だから色々と…」

「教えておりますので。」

「!!?…へ、へえ、道理で多才なわけだ。」

「ふふっ、ありがとうございます。」

「…なんか、ダンベル持ち上げながら笑ってるとシュールだな。」

 

 

ー物理室ー

 

あー、楽しかったです。

こんなに体を動かしたのは久しぶりです。

おや、あちらにいらっしゃるのは狗上さんではありませんか!

「狗上さん!」

「…あぁ?」

彼は、『The ultimate pilot(超高校級の操縦士)』狗上理御さんです。

機械に強くて、特にドローンの操縦が十八番なんだそうです!

この人、理御という可愛らしいお名前なのですが、お名前で呼ぶと不機嫌になるんですよ。

「狗上さんは、何をなさっているんですか?」

「…チッ、小型ヘリ組み立ててんだよ。」

「へぇ、素敵ですね!」

「うるせぇ。あんまりまとわりつくな。集中できねぇだろクソが。」

「あ、はい。申し訳ございません。」

「チッ…」

この方、よく舌打ちをなさいますね。

そういう曲でも作ろうとなさっているのでしょうか…?

「…。」

「あぁ?おい、何やってんだよ外人野郎。」

「ああ、貴方の組み立てている小型ヘリコプターがどのように飛ぶのかを、計算しているんですよ。…ところで、そのヘリコプターは、貴方が設計から組み立てまで全て貴方が行ったのですか?」

「…チッ、そうだよ。だったらなんだ。」

「素晴らしいですね!そのヘリコプターは!空気抵抗の大きさや空中での耐久性など、あらゆる面で理想的な形状をしており、材質も軽量かつ強固な合金が使われています!」

「…るっせぇな、こんぐらい普通だっつーの。」

「普通!?…やはり貴方は凄い方です!普通はできないような事を、普通に出来てしまうなんて…狗上さん、もっと私に貴方の技術について教えてください!」

「はぁ!?え、おい!バカ、近いっての!!離れろ!!」

 

 

ー職員室前ー

 

結局、あまり狗上さんからお話を聞けませんでした…

もっと仲良くならないと、お話して頂けないようですね。

おや、あちらにいらっしゃるのは、速瀬さんではありませんか。

「速瀬さん!」

「カークランド様。何か御用ですか?」

彼女は、『The ultimate secretary(超高校級の秘書)』速瀬吹雪さんです。

彼女は、倒産しかけた中小企業を大企業へと発展させ、中学生の時に県知事の秘書になられた方です。

「今、学園内を探検しているんですよ!日本の高校は素晴らしいですね!それで、偶然速瀬さんを見つけたので、お薦めの場所を伺おうと思いまして。」

「左様でございますか。そうですね、弓道場に行ってみては?」

「弓道場、ですか!ありがとうございます!」

「ところでカークランド様。以前、日本について勉強中だと仰っておりましたよね?」

「はい!」

「今は表面的な部分しか知識が無いとの事でしたので、こちらでマイナーな資料や一般的には知られていない情報等をまとめておきました。」

「本当ですか!?」

「それと、お薦めの文献を何冊かリストアップさせて頂きました。もし必要なら、お役立てくださいませ。」

昨日少しぼやいただけなのに…

流石は速瀬さん、仕事が完璧ですね!

「…わぁ、こんなにコアな情報まで…ありがとうございます!」

「とんでもございません。主の役目をサポートする事こそ、秘書である私の使命です故。また何かお困りでしたら、お気軽にお申し付けくださいませ。」

この仕事ぶりで、この謙虚さ…

彼女こそ、理想の仕事人ですね!

 

 

ー廊下ー

 

速瀬さんにお薦めの場所を伺いましたし、早速弓道場に向かってみましょう。

「あー!!ムズにいだー!!」

「おや、アリスさん!」

彼女は、アリスさんです。

彼女、才能や出身校が不明なんですよ。

本人も、分からないの一点張りで…

…そもそも、見た目からして本当に高校生かどうかも疑わしいのですがね。

一部の方の間では、闇の世界のスパイなんじゃないかって噂されているようですが…

私は、アリスさんがスパイだなんてとても思えません。

「アリスさん、どうしましたか?」

「あのね、あーちゃんめっちゃすごい大発見しちゃったの!」

「大発見!?詳しくお聞かせください。」

「えっとねー、見て見てー!!」

アリスさんは、空き教室のドアの上によじ登り、自分の髪の毛を結んでぶら下りました。

「あーちゃんブランコー!!どーだ見たかー!!にゃはははははは!!」

「わぁ、凄いですねアリスさん!」

「えへへ、でしょでしょー!?あーちゃんがいかに天才さんかを分かってくれるのは、ムズにいだけなんだよー!!さっき、サトにいにも見せたんだけど、アイツあーちゃんの事『バカ』っつったんだぞ!!あんな眉毛の代わりにチ●毛が生えてるようなスカポンタン、あーちゃんもう知らないもん!!…ありぇ?」

「どうかなさいましたか?」

「やっべ、どうしよう…髪が絡まって降りられなくなっちゃった。わーん、ムズにい助けてー!!」

「あ、えっと…少々お待ちください。…ああ、これはもう複雑に絡まり過ぎていて、解くのは無理ですね。切るしかありません。」

「嘘でしょぉおお!?やだやだやだ!!やめて!!あーちゃんの、楊貴妃もシットするビューティフルヘアーをチョン切ったら許さないぞムズにい!!」

「そう言われましても…」

 

「ったく、後先考えないで行動しやがって…だからお前はバカなんだよ。」

「ほよっ、ほどけた!」

「ほどけた、じゃねえよ。俺がほどいたんだよ。」

「むっ!!その声は、チ●毛…もといサトにい!!」

この方は、『The ultimate lawyer(超高校級の弁護士)』菊池論さんです。

死刑確実とまで言われた被告人の無実を証明し、無罪判決へと導いたそうです。

「菊池さん!助かりました、ありがとうございます!」

「おう、ジェイムズか。悪いな。バカが迷惑かけて。」

「サトにいテメーふざけんなコノヤロー!!よくもあーちゃんのサルガッソ海並みにトーメーカンのある、スーパーキューティクルの髪の毛に気安く触ったな!!許さんぞ!!マツゲの代わりにワキ毛が生えてるくせに!!」

「なんで助けた相手にそんな事言われなきゃいけないんだ。」

「それにしても、本当に助かりました菊池さん。…菊池さんって器用なんですね!」

「…まあ、一応あやとり得意だしな。…ほら。エッフェル塔。」

「お見事です!」

「まあ、これ以外は基本的に不器用なんだけどな。」

「うっわー!!サトにい不器用なのー!?だっさー!!」

「うるさい。黙ってろクソガキ。…ホントごめんなジェイムズ。ちょっと目を離した隙に…」

「いえ、私はアリスさんとお話出来て楽しかったですよ?」

「…お前、ホントいい奴だな。尊敬するよ。」

「はぁ…」

 

 

ー弓道場ー

 

なんとか、アリスさんのトラブルが解決して良かったです。

これでゆっくりと弓道場を探検出来ます。

…それにしても、この部屋は本当に素晴らしいですね。

私の、日本に対する幻想をそのまま詰め込んだような部屋です。

成程、速瀬さんがお薦めしてくださった訳です。

…弓道場と言えば…やはりいらっしゃいました!

「射場山さん!」

「…ん。」

彼女は、『The ultimate archer(超高校級の弓道部)』射場山祐美さんです。

高校生にして十段を取得している、孤高の天才弓道家です!

「…あんた、ここに何の用?」

「実は私、今学園内の探検をしているんです!それで、この部屋がとても気に入ったので入り浸っている所です!」

「探検になってないでしょそれ。」

「あ、確かに…」

「で?何?邪魔しかしないの?」

「いえ、そんなつもりは無いのですが…」

「だったら邪魔しないで。集中できない。」

「は、はい…」

彼女の美しい弓術を見たかったのですが…

断られてしまいました。

 

 

ー音楽室ー

 

この音楽室、小規模のコンサートを開ける程広いんですね。

流石は希望ヶ峰学園です!

…おや、美しいviolin(ヴァイオリン)の音色が聴こえます。

やはりいらっしゃいました。小川さんです!

「小川さん!」

「あ、カークランド先輩じゃないっスか!」

彼女は、『The ultimat performing musician(超高校級の演奏家)』小川詩音さんです!

オーストリアの有名なオーケストラの団員だった事もあるそうです!

「小川さん、今の曲は確かヨハン・ゼバスティアン・バッハの『無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ』ですよね!?」

「カークランド先輩、よくご存知で!」

「綺麗な音色ですね。プロの音楽家でも、これ程までに美しい音色を出せる方はそういませんよ。」

「そんな、大げさっスよ。」

「謙遜なさらず!小川さんの実力は、私が保証します!」

「…ありがとうございます。」

「あの、小川さんって、即興で演奏したりとかは出来るのでしょうか?」

「ああ、あんまり難しい曲は無理っスけど…何か、自分に弾かせてくれるんスか?」

「『G線上のアリア』という曲なのですが…」

「え、それ、本来はピアノ伴奏付きで演奏する曲っスよ?」

「いえ、私が聴きたいだけですので。…私の兄が好きだった曲なんです。」

「…え、まさか…先輩のお兄さんは…」

「ええ、私の兄は幼い頃から病弱でしてね…よく枕元でオルゴールを聴いていたんですけどね。」

「…そんな。」

「でも、兄のお気に入りのオルゴールが壊れてしまったので、もう聴けないって嘆いていたんですよ。」

「は!!?」

「いやあ、お気に入りのオルゴールが壊れたって煩いのなんのって…」

「ちょ、ちょっと待つっス!!…先輩のお兄さん、もしかして生きていらっしゃるんスか!?」

「?ええ、確かに病弱で寝たきりですが…かと言って命に別状がある訳ではありませんよ。…小川さん、勝手に私の兄を殺さないでください。」

「いやいやいや!今の文脈だと、誰でも死んだのかなって思うっスよ!だからすごく気を遣ってたのに…気を遣って損したっス!」

結局、小川さんはしぶしぶ演奏してくださいました。

私は、ただ事実を言っただけなのに…日本語って難しいですね。

 

 

ー保健室ー

 

特に怪我がある訳ではないのですが、探索がてら来てしまいました。

「んだよ、誰かと思えば帽子、貴様か!!」

「神城さん、やはりいらっしゃったのですね。」

この方は、『The ultimate surgeon(超高校級の外科医)』神城黒羽さんです。

彼女は、今まで治療法が見つからなかった不治の病をたった1時間のオペで完治させたという伝説を誇り、アスクレピオスの生まれ変わりとも呼ばれている方なんです。

「フン、貴様も神の治療を受けに来たのか!!」

「いえ、探索がてら来たのです。今は、身体に不調は無いのでご心配なさらず。」

「はぁああああああああ!!?勘違いしてんじゃねえよカスが!!別にテメェの事なんざ微塵も心配してねえっつーの!!」

「失礼しました。ただ、少し神城さんとお話がしたいと思ったのです。」

「って事はなんだ?私を崇拝しに来たって事か!?ふははははははは!!!貴様は頭の悪い愚図だと思っていたが、私に対する信仰心だけはあるようだな!!褒めて遣わす!!もっと私を崇めろ!!」

私、一応クリスチャンなんですけどね。

でも神城さんの機嫌が良さそうなので、何も言わないでおきましょうか。

神城さんは神様ではありませんが、彼女の素晴らしい才能は尊敬していますしね。

「おい帽子、貴様には特別に恩寵を授けてやろう!!ほら、あらゆる怪我に効く傷薬だ!!特別に、貴様にはタダでやろう!!ちなみに、2個買うと私の自筆の聖典がついてくるぞ!!」

随分と良心的ですねぇ。

「ほらほら!!跪け!!もっと私を敬え!!崇めろ!!この私の恩寵を受けられるんだから、感激の涙を流したっていいんだぞ!!ふはははははははははははは!!!」

神城さんがとても楽しそうで何よりです。

 

 

ー調理室ー

 

患者さんが来たので、私は引き上げました。

…もう少し神城さんとお話したかったのですが。

おや、甘い香りがしますね。

「やっほー、ムズっち!いらっしゃい!」

「おや、近藤さん!」

彼女は、『The ultimate confectioner(超高校級のパティシエ)』近藤夏美さんです。

彼女の作ったお菓子を食べると昇天しそうになる程幸福感に包まれるそうです。

…流石に、宇宙の謎を解き明かすまでは昇天したくないですがね。

「ムズっち、ウチのスイーツ食べる?」

近藤さんは、作りたてのシフォンケーキを出してくださりました。

…はわぁ、本当に美味しそうですね。

「良いんですか?」

「うん、ウチは、みんなに食べてもらいたくて作ってるからね!」

「では、ありがたく頂きますね。」

…!

凄く美味しいです!

舌触りが最高で、甘さも丁度良くて…紅茶によく合います。

トッピングの生クリームも、とてもクリーミーです!

「おいひいれふぅ…」

「あはは、ムズっち、口の周りにクリームついてるよ。」

()ほんほぉれふかぁ(本当ですか)?」

とても美味しいケーキでした。

また食べたいですね。

近藤さんにお願いしてみましょうか。

 

 

ー美術室ー

 

ここは、ほんのりアクリルの匂いがしますね。

おや、やはりいらっしゃいましたか。

「織田さん!」

「ひぎいっ!!?か、かかか…カークランド氏!?び、ビックリしたぁ…一瞬、鼻から心臓が出たかと思いましたぞ。」

「申し訳ございません。」

彼は、『The ultimate cartoonist(超高校級の漫画家)』織田兼太郎さんです。

彼は、『フレイム・ハンターズ』や『凍京円呶』、『私を餓死させる気か!』などの大ヒット漫画の数々を手掛けた高校生漫画家なのです!

「織田さん!今週の『フレハン』面白かったですよ!」

「さ、左様でありますか。」

「私、『円呶』も『わたがし』も大好きです!これからも織田さんのファンとして、応援しますね!」

「そ、それはどうも…」

「…織田さん、何してるんですか?」

「か、カークランド氏には関係ありませぬ!」

「…へえ、女性の身体ですか。」

「ぬああああああああ!!しまった、リーチの差で押さえ込まれてしまいましたぞ!」

「…あれ?この人、アンカーソンさんに似てますね。」

「ムフフ、バレてしまいましたか。実は、アンカーソン氏をモデルにした登場人物を描いていたのであります。」

「そうなんですか!?」

「ムフフ、彼女のポテンシャルは測り知れませぬ故、モデルにさせていただきました。ところでカークランド氏は、アンカーソン氏と仲が良いそうですが?」

「ええ、まあ。よくお家にお邪魔したりしますよ。彼女、ベッドで寝ている時はとても気持ち良さそうに寝るんですが、その姿には癒されますね。よく寝言とか言うんですけど、可愛いですよ。」

「…ん?ちょっと待ってください?なぜカークランド氏がそんな事を知っているんです?」

「え、それはまあ…よく一緒に寝たりとかするので。」

「ハァ!!?」

「私、一人で来日したので、家に親が居なくて…ですから、たまにアンカーソンさんを家に呼ぶんですよ。」

「…!!」

「やっぱり、思い切って家出をしてみたはいいものの、友達と一緒にいた方が安心というか…って、聴いてますか?」

「ちょっ、ま、待つであります!!そんな、女子を家に招き入れて…何考えてるんです!!」

「何を仰っているんですか?それ位普通ですよね?アンカーソンさんも、喜んで家に来てくれますよ。」

「あ、アンカーソン氏まで…!?」

「それで、一緒にトランプとかして遊んで、よくお泊まりとかもするんですけど…って、織田さん聴いてますか?」

「そ、その…一緒に寝るっていうのは…アンカーソン氏と、同じベッドで…!?」

「え、まあ、そうですけど…あ、そうそう。一緒に寝てる時、よくプロレスごっこをしますね。」

「んなっ…!!」

「まあ、言っても悉く負け続けてますよ。寝ぼけたアンカーソンさんが一方的に関節技を極めてくるので、次の日起きたら凄く痛いんですけどね…って、織田さん?」

「ぬああああああああああああ!!!見損ないましたぞカークランド氏!!純粋な好青年だと思っていたのに、アンカーソン氏とあんな事やこんな事を…この女たらし!!もう絶交であります!!」

「えぇ!?なんで今の話でそうなるんですか!?待ってください織田さん!」

織田さんに絶交されてショックです。

…お泊まり会の話をしただけで、なんでここまで言われるんでしょうかね。

織田さんは、何か誤解なさっているのでしょうか?

明日、話し合う必要がありそうですね。

 

 

ー化学室ー

 

「ちょっと、ナギサちゃん!アンタのせいでしょ!!どうしてくれんの!?」

「いいえ違います。あなたのせいですエカイラさん。」

ありゃりゃ、エカイラちゃんさんと床前さんが喧嘩していますね。

それにしても、この二人ですか。珍しい組み合わせですね。

「だからアンタのせいだっつってんでしょうが!!」

あのおかしな格好をした長身の男性は、『The ultimate reaper(超高校級の死神)』伏木野エカイラさんです。

エカイラちゃんさんは、鮮やかな手口で人を惨殺してきた殺人鬼…基、殺人オネエだそうです。

…今更ですけど、希望ヶ峰学園って本当に色々な才能を集めてくるんですね。

まさか、これ程治安が良い日本で、こんなにも早く殺人鬼を生で見る日が来るとは思いませんでしたよ。

そして、エカイラちゃんさんと喧嘩している小柄な女性は、『The ultimate lucky talent(超高校級の幸運)』床前渚さんです。

The ultimate lucky talent(超高校級の幸運)』は、普通の生徒と『超高校級』を同じ環境で勉強させたらどうなるのかという実験の為、毎年『超高校級』の才能を持たない普通の高校生の中からランダムで1人だけスカウトするという制度らしいのです。

…でも、彼女は何と言えば良いのか…普通の女子高生とは少し違うようですね。

床前さんは本当に『幸運』でスカウトされたんでしょうか?

「あの、どうかなさいましたか?お二人共。」

「聞いてよジェイムズちゃん!!ナギサちゃんが、変な物混ぜたせいで、今作ろうとしてた薬がパアになっちゃったのよ!!」

「いいえ違います。エカイラさんが、強くかき混ぜすぎたせいです。」

「「『どっち』『どちら』が悪いと『思う』『思いますか』!!?」」

うわぁ、面倒な事に巻き込まれてしまいましたね。

「あのー…その時の状況を見ていないので何とも言えないのですが…少し、その薬とやらを見せて頂けませんか?」

どれどれ…?

「あ、これ、途中で必要な工程を抜かしていますね。多分、これを混ぜれば完成するかと。」

「アラ、そうだったのね。」

「…誰かさんが、私のせいにするから面倒臭い事になったんですよ。」

「はぁあああ!?ナギサちゃんだって、アタシのせいにしてたじゃないのよ!!」

「まあまあ…ところで、お二人はこの薬品を何に使うおつもりなのですか?」

「ウフフ、知りたい?実はね、これをサトシちゃんに盛ってあげるのよ!」

「…え?」

「超強力な惚れ薬だそうです。」

うわぁあ…菊池さん、何やら恐ろしい事に巻き込まれてしまっているようですね。

そうとは知らず、共犯になってしまいましたよ…

菊池さん、ご愁傷様です。

 

 

ー下校中ー

 

やはり、日本の高校…希望ヶ峰学園は素晴らしいですね!

今まで体験した事のない出来事が次々と起こり、毎日が刺激的です!

やはり、思い切って家出をした私の判断は間違っていなかったようです!

ジェイムズ・D=カークランド、14歳!

明日もaoharuを謳歌します!




わかりやすくてすまんが、ジェイムズ君は我が推しだ。

実は、彼だけは過去の没作品の主人公をそのまま使用しているのですよ。

(インテリ系殺人鬼が探偵と対決するお話です。)

ただ、お察しの通りチートかつ性格に難ありのダークヒーロー的なキャラだったので、ドルオタ&ド天然という欠点(?)を設定に付け足し、性格もピュアにしました。

ちなみに彼、アイドルだけではなく(織田程ではないですが)美少女アニメも大好物です。

ジェイムズ君の名前は、アーサー・コナン・ドイルと彼の代表作『シャーロック・ホームズ』のジェームズ・モリアーティ教授から取ってます。

苗字は、ヘタリアの眉毛です。

(眉毛の苗字カッコエエってなって、名前の語源調べたら案の定エモかったので、ジェイムズ君の苗字として採用しました。)


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番外編⑫ 漫画編

ムフフ、吾輩は織田兼太郎と申します。

『超高校級の漫画家』であります。

むっ、エロ漫画家ですと!?

失礼な、吾輩は清く正しい漫画家ですぞ!

変な誤解はやめてくだされ!!

吾輩は、ただレディの美しい身体に興味があるだけで…

え?今、何をしているのかって?

漫画を描いているのであります!

吾輩のクラスメイト達が登場人物の漫画ですぞ!

その名も、『ホープ・クエスト79』!

吾輩達17人のパーティーが、冒険を通して成長し、魔王を倒すストーリーであります!

ちなみに、吾輩は勇者であります!

その名も、ケント・オドーアティ。

パーティーの中で最強のメンバーかつリーダーで、この作品の主人公ですぞ!

ちなみに、メンバーで一番イケメンなのも、勇者である吾輩ですぞ?

最終的には、このパーティーの女性陣全員と結婚するのであります!

 

「おう、織田!」

「あ、菊池氏…」

「なあ、何やってんだ?」

「見ての通り、漫画を描いているのであります。」

「へぇ、そうなのか。」

「吾輩達勇者のメンバーが、冒険を通して成長していく物語ですぞ!」

「…へぇ。面白そうじゃねえか。」

「これがその漫画であります。」

「…あのさぁ。」

「ん?なんでありますか?」

「うん、話はめちゃくちゃ面白いよ?でもさぁ、お前…見た目盛りすぎじゃね?お前、ここまで自分を美少年に描いてて恥ずかしくなんねえの?」

「き、菊池氏が口を挟む事ではありませぬぞ!!いいではありませぬか!創作物くらい、自分を美化したって!そういう菊池氏は、自分のルックスに自信があるのでありますか!!」

「自信はないけど…お前みたいに美化して自分を描けねえよ。描いてるこっちが恥ずかしいからな。」

「菊池氏はそう思うのでしょうね!でも、吾輩は自分を美化でもしなきゃやっていけないのであります!どうして吾輩ばっかり…うっ、ううっ…」

「泣くなって。俺が悪かったよ。な、なあ、俺は?俺も描いてくれてるんだろ?」

「もちろん!菊池氏は、サトッサ・キークチェイスというキャラであります!ちなみに、職業は村人ですぞ!」

「えぇ…なんか地味じゃね?戦えんの?」

「一応、親を殺された仇を討つためにパーティー入りしたという設定ですぞ!村人時代の知識を生かして、うまく立ち回れているのでご安心を!」

「そうなのか。…なんか、すごいカッコ良くして貰ってなんか悪いな。」

「ちなみにギャグキャラですぞ。」

「…予想はしてた。」

 

「やっほー!!なんか楽しそうなお話が聞こえたよー!!」

「あ、アリス氏。」

「ねーねー、あーちゃんはー!?」

「ああ、アリス氏は、アリーチェというキャラであります。人形使いのゴスロリであります。」

「ふーん。あ、これか!わー、あーちゃんめっちゃ強いじゃん!…あれ?もしかして、この人形使いのあーちゃん、ケンにいにガチ惚れ濡れ濡れってゆー設定?」

「濡れ濡れって言うな。オロすぞクソガキ。」

「ムフフ、いい所に気付きましたな、アリス氏!実は、パーティーの女性メンバーは全員吾輩に惚れているのであります!」

「うっわー!!サトにいキンモ!!最近のラノベみたいじゃん!」

 

ガーン…

ガーーン…

ガーーーン…

 

「そういう事言うなクソガキ。場をわきまえろ。」

「ねえねえ、一個聞いていい?」

「ん?なんでありますか?」

「ケンにいって、ユニコーンと仲良くなれるの?」

ええっと…

「はい、ユニコーンと仲良くなれますぞ。」

「そうなの。じゃあその設定のままでいいよ。」

「えっ?」

「あーちゃんね、ユニコーン飼ってる人がタイプなの!だから、その人形使いあーちゃんは、ケンにいのオ●ホにしちゃっていいよー。」

「下ネタブッ込むなクソガキ!」

「キャーケンにいステキー抱いてー孕ませてー(棒)」

「黙ってろお前!」

アリス氏の男性の好き嫌いの判断基準はユニコーンでありましたか。

 

「おう、お前らなんか盛り上がってんな!何話してんだ?」

「お、玉木氏!」

「ああ、実はな。織田が漫画描いててさ。その話で盛り上がってたんだよ。」

「あーちゃん達が出てくる漫画なんだよー!」

「へえ、そうなのか!それは面白そうだな!」

「ちなみにねー、ケンにいの設定によると、出てくる女の子は全員主人公のケンにいの肉●器なんだってー。ホント、どっかの官能小説かよってカンジだよねー。描いてる人の人格を疑うよねー。」

「ぬああああああああ!アリス氏!余計なことを言わないでくだされ!」

「なんでー?ホントの事を言っただけじゃない!あ、あんまり●●●のビョーシャを正確に描き過ぎると、一般誌でケーサイできなくなっちゃうぞ!」

「うるさいですぞ!…っていうか、なんでアリス氏はそういう知識が無駄に豊富なんでありますか!!」

「いーぢゃん別に!」

「いや、良くないから言ってんだろ。…なあ、織田。俺は?」

「玉木氏は、カットス・テイマーク。格闘家であります。足技が得意ですぞ!」

「へえ、なんかカッコいいな!」

「いいなあ、玉木は。カッコいい職業にしてもらっててよ。俺は村人だし、ギャグキャラだぞ?」

「いいじゃねえかよ、菊池、戦闘シーンでもちゃんと活躍しててカッコいいぞ!」

「そ、そうか…?」

「別にサトにいを褒めてるわけじゃないでしょ!勘違いすんなコノヤロー!」

「うるせぇ。」

 

「ねえ、みんな何のお話をしてたの?ウチにも聞かせて!」

「あ、近藤氏。実は、吾輩が描いた漫画を皆で見ているのであります。」

「へえ、織田っちの漫画?興味あるー!ちょっと見せてー?」

「ムフフ、いいですぞ。そっちから読んでくだされ。」

「わあ、やっぱ織田っちの描くお話は面白いね!ねえ、このナーミャ・コンダークって、もしかしてウチ?」

「左様であります!獣使いの少女で、ペットの火を吹くキツネと氷魔法が得意なタヌキを召喚して戦いますぞ!他にも、動物なら誰とでも仲良くなれます!」

「へえ、かわいいね!…あれ?」

「ん?なんでありますか?」

「あのさ、この主人公って、もしかして織田っちがモデル?」

「ムフフ、よくぞ気付きましたな!」

「…ねえ。ウチの見間違いじゃなければ、ナーミャちゃん、主人公のケント君に惚れてるように見えるんだけど?」

「そーなんだよー!ケンにいはねー、作中の女の子全員とハーレム作ってウハウハー、なんてキモヲタ小学生のモーソーみたいな漫画描いて悦んでるドヘンタイなんだよー!」

「…うわぁ。」

ひ、ひどい…!

何がひどいかって、そう言われて否定できない自分がいるという事実であります!

「ウチもさ、一応好きな人いるんだよね。だから、こういう事するのはちょっとやめて欲しかったかなー。」

「うっ…」

なんと、近藤氏に想い人がいたとは…

これは申し訳ない事をしてしまいましたぞ。

「へえ、近藤。お前好きな奴いたのか。」

「う、うん…まあ、ね…」

「へぇー。うまくいくといいな。」

「あ、ありがと…」

あれ?もしかして、近藤氏は玉木氏の事を…

 

 

ー放課後ー

 

ムフフ、大体出来上がってきましたぞ…!

「織田君!」

「ヒャッ、こ、猫西氏…!」

こ、猫西氏…

動画で拝見した時も、超絶美少女だとは思っておりましたが…

まさか、実物がここまで可愛いとは思いませんでしたぞ…!

ま、まさにヒロインの鑑…!

「ねえねえ、聞いたよ?私達が出てくる漫画を描いてるんだって?」

「さ、左様でありますが…」

「ねえ、ちょっと見せてよ!」

「あ、そこにある方から読んでくだされ。」

「わーい、じゃあ早速読むね?」

猫西氏は、いつ見ても尊いであります…

「ふふっ、面白いね。これ。」

「本当でありますか!?」

「うん、特に、村人のギャグシーンとかが好きだな。」

「ほ、他には…!?た、例えば主人公のケントは!?」

「うーん…なんて言うのかな、あまりにもあっさり敵を倒し過ぎてて、私はそんなに好きじゃないかなー。あと、女の子がチョロ過ぎない?」

「うっ…」

な、なんと…

猫西氏には不評でありましたか…

「ねえ。もしかして、このアーニャ・コネリウスってお姫様、私がモデルだったりする?」

「おお、よくぞ気付きましたな!猫西氏!!アーニャ王女は、コネリウス王国の王女様で、国中から愛されているのであります!…ちなみに、主人公のケントとはある深〜い関係があるのですが、それは読んでみてのお楽しみという事で…」

「…兄妹?」

ギ、ギックゥ!?

な、なぜ分かったんでしょう!?

そうです、実はケントは、コネリウス国王の隠し子で、正統なる王位継承者だったのであります!

「な、なぜそう思うんです…?」

「うーん、だって織田君そういう話好きそうだもん。…え、もしかして図星?」

「…。」

「って事は何?二人は、兄妹でその…そういう事をしてたわけ?」

「えっと…」

 

「不健全極まりないですね。」

「速瀬氏…!?い、いつからそこに…!?」

「最初からおりました。織田様、幾ら個人の才能を育成する制度がある我が校とは言え、漫画を学校に持ち込み、更には不健全な絵を描くのは如何なものかと思います。」

「ぐ、ぐぬぬ…」

「速瀬さん、そんなカタい事言わず、ちょっと読んでみなよ。…兄妹でそういう事する描写はちょっとアレだけど、それ以外は面白いからさ!」

「では、尚更駄目です。そのような描写がある創作物には、興味がございませんので。」

「で、でもさ!これ、私達が登場人物なんだよ?ほら、このフビカちゃんとかさ、これ、多分速瀬さんがモデルだよ!」

「…そうなのですか?」

「ええ、フビカ・ヘンドヤートは、速瀬氏がモデルであります。天才軍師で、作中一の頭脳派であります。」

「成程。…読みもしないで否定するのも如何なものかと思います故、一応読みはしてみます。」

「そうだよ!一回読んでみなよ、面白いよ?」

「そうですね、一度読んでみましょう。」

速瀬氏は、漫画をパラパラと速読し始めたであります。

「…想像はしていましたが、内容が不健全極まりないですね。…ストーリーの構成自体は面白いですが。」

「あはは、だよね。」

ぐぬぬ…褒められているのか貶されているのかわかりませぬぞ!

「おや、猫西さんに速瀬さんに織田さん!3人とも、なんだか楽しそうですね!どうかなさいましたか?」

「ふわぁ…」

「あ、カークランド氏にアンカーソン氏。」

「カークランド君、アンカーソンさん!実はね、2人で織田君の漫画を読んでたの。」

「織田さんの!?それは楽しみですね、私にも貸して頂けないでしょうか?」

「うん、いいよ。はい。」

「ありがとうございます!アンカーソンさん、一緒に読みましょう。」

「ふあぁあ…」

「おや?これは、もしかして私達をモデルとしたファンタジーですか?」

「ムフフ、左様であります!ちなみに、カークランド氏は、ジャスティン・カルヴァディオス、アンカーソン氏はリッタ・アルドレイドであります。ジャスティンは聖騎士、リッタは僧侶ですぞ!」

holy knight(聖騎士)ですか、so coolです!織田さん、私をモデルにそのような素敵なキャラクターを生み出して頂いてありがとうございます!」

「ムフフ…ジャスティンは、コネリウス王国の隣国、ブラッタニア王国の国王直属の聖騎士団の団長で、名門貴族の御曹司なのですぞ!」

「そう言うとカッコよく聴こえますけどぉ…なんか、泥浴びたり女の子にフラれたり、散々な目に遭ってませんかぁ?あと、心なしかドクズに描かれてる気がしますぅ。」

「ちなみに、ジャスティン君はリッタちゃんに一方的にストーカー行為をしていて、リッタちゃんはジャスティン君に制裁を加えたケント君に惚れてるっていう設定らしいよ。」

「ふふふ、アンカーソン氏、気に入っていただけm「えぇ…創作物とはいえ、捏造が酷すぎませんかぁ?僕、たとえ美化されていたとしても、織田の事は好きじゃないですし…ジェイムズはこんな外道キャラじゃないですぅ。」

「あはは、完全にそこは織田君の願望だよね?」

「う、うるさいであります!カークランド氏とアンカーソン氏は、2人で買い物行ったり一緒に寝たり…羨ましいですぞ!!創作物の中くらい、夢を見させてくだされ!!」

「うわぁ…ただの嫉妬じゃないですかぁ…人格を疑いますぅ。」

「織田君、それくらい好きにさせてあげなよ…二人とも来日してきたばっかりで、二人の方が心が落ち着くんだろうしさ…」

「な、なんで吾輩が悪者みたいになっているんでありますか!?ひ、ひどいですぞ!」

「ふわぁ、ひどいのは織田の方ですぅ。創作物を使ってクラスメイトを貶めてまで自分の願望を前面に出すとか、最低ですぅ。」

「…ぐっ。」

そう言われると返す言葉がありませぬぞ…

だって、吾輩だって…美しいレディとイチャイチャしたかったのでありますぅ…

「織田さん!『ホプクエ』、とても面白かったです!次の話も楽しみにしていますね!」

か、カークランド氏…

わ、吾輩は最低でありました…自分のファンを貶めてまで、自分の願望を叶えようとしていました…

そりゃあ、アンカーソン氏が怒るのも無理はありませぬ…

 

 

ー翌日ー

 

むぐぐ、昨日はアンカーソン氏と猫西氏に諭されてしまいました。

ちょっと設定を変更してっと…

「織田先輩!」

「あ、小川氏。」

「聞きましたよ?自分らが主人公の漫画を描いてるんスよね?自分もちょっと読んでみたいっス!」

「ムフフ、そんなに吾輩の作品に興味があるのでありますか。そこに置いてありますので、ぜひ読んでくだされ。」

「じゃあ、早速読ませていただくっスね。…へぇ、ファンタジーモノっスか。面白いっスね!」

「ムフフ、当然であります。吾輩はこれでも『超高校級』ですぞ!」

「あの、もしかしてシャオネって、自分がモデルっスか?」

「左様であります!シャオネ・オルガン。吟遊詩人ですぞ!創り出した曲で皆を鼓舞するサポート役であります!」

「吟遊詩人っスか、カッコいいっスね!!…でも、その…シャオネがケントとデート的な事してるじゃないっスか。でも次の話ではアーニャ姫と同じ事してますよね?…これって、二股…」

「ファンタジーの世界ではよくある事なのであります!一応、コネリウス王国は一夫多妻制なのであります!」

「…織田先輩、自分を主人公にしたハーレムモノが描きたかったんスね。まあ、それ以外はすごい面白いっスけど。」

「じゃ、じゃあハーレムは…」

「はっきり言って蛇足っスね。」

「う…昨日、アンカーソン氏にも怒られたであります…」

「そりゃあ、自分が織田先輩の事を好きって設定にされたら怒るっスよ。」

「ど、どういう意味でありますか!!」

 

「おう、兼太郎!!お前、俺達が出てくる漫画を描いてくれたんだって!?読ませてくれよ!」

「…チッ。なんで俺がこんな事を…」

「私達が出てくる漫画、ですか。それは楽しみです!もちろん、菊池さんも出てくるんですよね!?」

「郷間氏、狗上氏、床前氏!来てくれたのでありますか!!」

「おう、お前の漫画の話を論から聞いてな!昨日からすごい楽しみにしてたから、読みに来たんだよ!」

「ムフフ、それはありがたいですねえ。今、小川氏が読んでいるのがそれであります。」

「詩音、終わったらちょっと読ませてくれ。」

「あ、いいっスよ。どうぞ。」

「これが兼太郎の漫画か…お、やっぱおもしれぇな!なあ、俺はどこに出てくんだ!?」

「ムフフ、郷間氏はゴッゾ・ゴーンド。蛮族の生き残りで、村を潰されたところを勇者一行に助けられました。それからは、村の人々の仇を討つためにパーティー入りしたのあります!ハンマーを使って戦いますぞ!」

「へえ、カッコいいな!…ふんふん、論は村人、アリスは人形使い、勝利は格闘家か。みんなカッコ良くて、話もおもしれえな!」

「まあ、ハーレムは蛇足っスけどね〜。」

「小川氏!!しつこいですぞ!これでも結構設定を変えたんですぞ!?男キャラをぞんざいに扱いすぎて昨日アンカーソン氏と猫西氏に怒られましたからね!」

「あ、ホントだ…言われてみれば、俺が登場する回少ねえな。」

「チッ、くだらねぇな。デカブツ、テメェそんな事の為に俺を引っ張ってきたのかよ。」

「そんな事言わずに、理御も読めって!」

「うるせぇデカブツ!!下の名前で呼ぶなって何度言えばわかんだ!!ブッ殺すぞ!!」

「まあまあ、狗上先輩、落ち着いてくださいよ…」

「うるせぇバカ女!!」

「えぇ…」

「チッ、おい寄越せデカブツ!」

「お、おう…お前、なんで今日そんなに機嫌悪いんだよ?」

「うるせェ!!テメェには関係ねェだろクソが!!」

「うわぁ…ご機嫌斜めっスね。」

「はぁ、ったく…で?これがその漫画か?読めばいいんだろ読めば!」

狗上氏は、漫画をひったくると乱暴にページをめくったであります。

…そういうめくり方すると、破れるから勘弁してほしいであります。

「チッ、予想はしてたけどクソつまんねェな。」

「なっ…!」

「なあ、一応確認するけどよ、このリオーネって奴俺か?」

「さ、左様であります…リオーネ・イナーガ。盗賊であります。」

「クッソダセェ!!俺、ただでさえ下の名前が女っぽくて嫌いなのに、余計女っぽくしてどうすんだよキモヲタ!!」

「ヒ、ヒィイイイイ!」

「おい、そんな事言うなよ。兼太郎がせっかく面白い漫画を描いてくれたんだからよ。」

「クソつまんねぇっつってんだよ!バカかテメェは!じゃあ逆に聞くけどよ、野郎が隅に追いやられて、陰キャみてぇな奴が女とくっついてる茶番を見て面白いって思えんのかよ!?えぇ!?」

うぅ…狗上氏にはすこぶる不評であります…

「狗上さん、ちゃんと読みもしていないのにそういう事を言うのはどうかと思います。私にも読ませてください。」

「チッ、ほらよ!二度と読むかこんなクソ漫画!」

狗上氏が吾輩の漫画を放り投げると、床前氏はすかさずキャッチして読み始めたであります。

「…へえ、すごく面白いですね!!」

「おお、床前氏はわかっていただけますか!?吾輩の作品の素晴らしさを!!」

「ええ!もちろん!…あの、もしかしてこのナージャさんって私がモデルですか?」

「はい、左様であります!ナージャ・トーカム。魔法使いの少女であります!」

「素敵です!そのナージャさんが、勇者である菊池さんと結ばれるお話…なんて素晴らしいんでしょう!」

「えっ…?」

「あれ?違うんですか?」

「あの、床前先輩。その勇者のモデル、菊池先輩じゃなくて織田先輩らしいっスよ。」

「…。」

床前先輩は、無言でライターを取り出したであります。

「え!!?ちょっ、床前氏!!?何をしているんです!?漫画が燃えてしまうではありませぬか!やめてくだされ!」

「うるさいです。黙りなさい織田さん。駄作しか描けない落ちこぼれが。」

「だ、駄作…!?」

「私とあなたが恋愛をする話なんて、駄作以外の何物でもないでしょう?私があなたに恋をするなんて、想像しただけで吐き気しかしません。菊池さんと私が恋愛をしないのなら、読む価値なんてありませんよ。」

「わ、わかりました!ナージャとサトッサは両想いって事にしますから!お願いだから燃やさないで!」

「本当ですか!?楽しみです♪」

と…床前氏…恐ろしい方であります…

 

 

ー放課後ー

 

はぁ、危うく床前氏に自信作を燃やされてしまうところでありました。

「あっらー、ケンタロウちゃん!どうしたの?元気無さそうね。」

「あ、エカイラ氏。」

「ねえ、聞いたわよ?アタシ達をモデルにした、ウハウハハーレムを描いてるんですって?」

「う、ウハウハハーレムじゃなくてファンタジーであります!!」

「ふーん。…ねえ、ちょっと読ませてよ。」

「向こうに置いてあるので、自由に読んでくだされ。」

「じゃ、そうするわねー。」

エカイラ氏は、漫画を読み始めたであります。

「ふーん。面白いんじゃナイ?女の子とのイチャイチャは蛇足だけど。」

「だ、蛇足って…それ、みんなに言われましたぞ!」

「アラ、そうなの。じゃあ描かなきゃいいのに。」

「う、うるさいであります!創作物の中くらい、夢を見させてくだされ!」

「ま、別にアンタが描きたいなら止めるつもりはないけどねー。…ねえ、なんでアタシだけ名前がそのままなの?」

「エカイラ氏の名前は、いじらなくてもファンタジー感を出せると思いまして。」

「あっそ。エカイラ・フースカイン…囚人剣闘士、ねえ。アラ、アタシは獣人なの?ケモミミ生えててかわいい〜♡」

「エカイラ氏は、獣人という理由で闘技場に送られた剣闘奴隷であります。それを、勇者ケントが救い出したという設定ですぞ!」

「フーン。あとさ、なんで女の子とのイチャイチャは描かれてるのに、アタシとケントちゃんのイチャイチャは無いわけ?」

「ゑ?」

「男女差別!?ひどいわぁ!アタシとのイチャイチャも描きなさいよ!」

ヒェッ…

 

「フン、エカイラよ。それだと違う話になってしまうだろう。」

「ツ、ツラノリちゃん!」

「フッ、貴様が俺様が出てくるファンタジーを描いたと聞いたのでな。興味本位で来てやったのだ。」

「森万氏!興味がおありなら、読んでくだされ!吾輩の描いた傑作を!」

「フッ、そうしようではないか。」

森万氏は、漫画を受け取ると読み始めたであります。

「…ほう、なかなか面白いじゃないか。このツルネオというのは俺様か?」

「左様であります!ツルネオ・モルヤルト。錬金術師であります。」

「フッ、錬金術師か。俺様にふさわしい職業じゃないか。」

「でもね、ツラノリちゃん。よく読んでご覧なさい。このファンタジー、主人公のケントちゃん以外の男キャラの出番がすごく少ないのよ。」

「…あ、本当だ。織田よ、貴様の願望が漫画に現れすぎだ。ファンタジーなんだから、もっと男のバトルシーンを増やせ。」

「創作物の中くらい、自分の願望を曝け出したっていいではありませぬか!」

「それをしたいなら趣味の範疇にしておけと言っているんだ。人に読ませる作品なら、ある程度は読み手側のニーズに合わせろ。」

ぐ、ぐぬぬ…

正論すぎて何も言い返せませぬぞ…

 

「おい!!キモヲタ!!私が出てくる漫画を描いたって本当か!!?」

神城氏が、教室のドアを勢いよく開けて入ってきましたぞ。

「こ、神城氏…」

「神が、特別にその漫画を読んでやろう!!この私に感謝しろ!!ふははははははははははははは!!!…で!?その漫画はどこだ!?」

「フッ、これだ。」

「早く寄越せペテン!…もちろん、主人公は私なんだろうな!?」

どいつもこいつも、扱いが雑すぎますぞ…

もう少し丁寧に読んでくだされ。

「はぁ!?おい、キモヲタ!!なんだこの産業廃棄物は!!私が主人公じゃないとはどういう事だ!?」

「それね、ケンタロウちゃんが主人公のハーレムファンタジーらしいわよ。出てくる女の子はみんなケンタロウちゃんに惚れてるらしいわ。」

「はぁあああああああああ!!?んだよそのチンカスみてぇなオ●ニーストーリーは!!私とキモヲタが恋愛だと!?ふざけんじゃねえよこの田吾作がぁ!!」

「こ、神城氏は、クラリス・カースレインという天才賢者ですぞ!攻撃と回復、両方できる有能キャラであります!お気に召しましたか!?」

「フン、私がモデルなんだから有能キャラにすんのは当たり前だろうが!!私がモデルの無能キャラなんて、存在すら許されねぇんだよヴァーーーーカ!!そんな事より、神である私をモデルにしたキャラが、貴様のオナ●ーに付き合わされてる事自体が不愉快なんだよ!!貴様、不敬罪で地獄に突き落とすぞ!!」

「ヒ、ヒィイイィイィイ…!」

なんでみんな吾輩のハーレムに対してここまで否定的なんでしょう!?

別に、創作物の中くらいいいではありませぬか!!

実際に本人に同じ事をするわけじゃありませぬし!

「…ねえ、うっさい。何騒いでんの?」

「い、射場山氏…!」

「あら、ユミちゃん。実はね、みんなでケンタロウちゃんが描いた漫画を読んでたの!」

「…ふーん。コイツが描いた漫画、ねえ。嫌な予感しかしないんだけど。」

し、辛辣でありますぞ射場山氏…!

「そんな事言わないで、ユミちゃんもちょっと読みなさいよ。」

「…ん。」

射場山氏は、漫画を受け取ると読み始めたであります。

「…ねえ。」

「は、はい…なんでありましょう?」

「…最初のページのこの女キャラ、もしかして私?」

「左様であります!エミル・イヴァーミャ。狙撃手であります!」

「…かわいい。」

射場山氏は、少し微笑みながら読み進めたであります。

…よ、良かった…気に入って貰えた…

てっきり、不潔とか言われて破られるのかと…

「…あんたにしては、いい作品描くじゃん。…ちょっと感心し…ん?」

射場山氏の、ページをめくる手が止まったであります。

「…ねえ、このケントって男、なんで女キャラ全員と恋人っていう設定なの?」

「えっと…」

「あと、女キャラへのセクハラが多すぎじゃない?」

「それは…」

「はぁー…」

射場山氏は、呆れたように大きなため息をついたであります。

そして…

 

 

 

バリィッ

 

 

 

「ぎゃあああああああああああ!!?い、射場山氏!?何を…!?」

射場山氏は、漫画を両手で引っ張って真っ直ぐにし、そこに膝を蹴り上げて漫画を破ったのであります!!

「…ホンットに不潔。あんたに期待した私がバカだった。気分悪いから帰る。」

「フッ。まあ気にするな織田よ。俺達は、ちゃんとお前の漫画の面白さを…織田?」

「うわぁああああああああああああああああ!!!なぜなのでありますかぁああああああ!!みんな、よってたかって吾輩の傑作を袋叩きにして、挙句の果てには燃やしたり破ったり…もう嫌だああああああああああああああああああああ!!!」

「あーあ、泣いちゃった。」

未来が約束されているはずの希望ヶ峰での吾輩の未来は真っ暗であります!

もう、こんなクラスメイト達はこりごりですぞ!!




織田クンが主人公という事で、彼が調べ上げた女子達のエロ資料を発表〜(ドンドンパフパフ〜!)
5億%自己満です。

あーちゃん
スリーサイズ:60/50/65
好きなタイプ:イケメンで背が高くて頭良くてお金持ちで優しくてなんでもこなせてユニコーン飼ってるおにーさん
嫌いなタイプ:気持ち悪いロリコンのおにーさん。例えばサトにいとか
備考:ロリ枠。見た目は可愛らしいが、大抵の人間は言葉の暴力によって心が折れる。ワンピースのまま動き回るので、たまにパンツを拝ませてくれる。ちなみにカボチャパンツがお気に入り。

近藤ちゃん
スリーサイズ:73/58/83
好きなタイプ:イケメンで優しい人
嫌いなタイプ:乱暴な人、食べ物を粗末にする人
備考:こちらもロリ枠。ゆるふわ女子。普通にエロい男子とかとも会話してくれて、おいしい料理を振る舞ってくれる。稀にパンツを拝ませてくれる。ピンクがお気に入り。

猫西ちゃん
スリーサイズ:78/52/78
好きなタイプ:正義感のある人
嫌いなタイプ:悪い人。実際に話してみないとわかんないんだけどね。
備考:貧乳枠。割と背が高い。誰に対しても神対応の女神。短パン常備なので、パンツは絶対に拝めない。職業柄仕方ないっちゃ仕方ないのだが。

速瀬ちゃん
スリーサイズ:95/60/85
好きなタイプ:清潔感があり、時間を守る方。
嫌いなタイプ:不潔な方、時間を守らない方
備考:お姉さん枠。巨乳。身長の割にウエストが細い。黒スト常備で、本人の隙が全く無いのでパンツを見られる確率はほぼ0。無表情だが、かなりの美人。

リタちゃん
スリーサイズ:83/53/80
好きなタイプ:愛嬌がある人
嫌いなタイプ:人を家柄で判断する人
備考:癒し系。隠れ巨乳。人当たりは悪くないが、たまに無自覚で毒舌が発動する。よくドジをしてはHなハプニングを起こしてくれる天使。縞パンがお気に入り。

小川ちゃん
スリーサイズ:80/56/84
好きなタイプ:面白い人
嫌いなタイプ:話が長い人
備考:常識人。普乳。よくクラスメイトの相談に乗ってくれるいい子。下ネタが好きなわけでは無いが、あまり抵抗はない様子。短パン常備。

床前ちゃん
スリーサイズ:84/50/74
好きなタイプ:同い年で弁護士をしていて中肉中背で童顔でクラスメイトと妹を大切に想っている方。例えば論さんとか論さんとか論さんとか
嫌いなタイプ:上記以外の人間
備考:大人しい女の子に見せかけて、実はヤンデレ・ストーカー・サイコパスの三拍子揃えた異常者。菊池クン以外は全員敵。小柄な割に巨乳。白がお気に入り。

射場山ちゃん
スリーサイズ:87/54/82
好きなタイプ:誠実で、夢に真っ直ぐな人
嫌いなタイプ:変態。特に織田とか
備考:クールビューティー。巨乳。エロに対してこれでもかというくらい拒絶反応を示していて、少しでもヤラシイ事を考えている奴を見かけたら、すぐに制裁に行くぞ!スパッツ常備。

神城ちゃん
スリーサイズ:98/58/88
好きなタイプ:美人で巨乳で賢くて寛大な私
嫌いなタイプ:愚民共
備考:女王様系。女性陣の中で一番巨乳。下ネタをバリバリぶっ込んでくるが、本人のエロに対する免疫はほぼ0。黒がお気に入り。



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番外編⑬ 初恋編

ご投票ありがとうございました!
あれだけ外道っぷりを発揮しておいて、圧倒的な票数の床前ちゃんw

床前ちゃんのエピソードは、今までの番外編とちょっと形式を変えました。

サイコパストコマエダ様のエピソード書くの楽スィー!!


いつも通りの日常。

毎日学校に通っては授業を受けて、の繰り返し。

希望ヶ峰学園での日々も、思ったより平和でつまらない。

でも、ひとつだけ…私の人生で、唯一で最大の楽しみがあります。

「はー、やーっとジュギョー終わったー!」

「ずっと授業受けてたみたいな言い方するな。お前、1時間目からずっと寝てただろ。」

「なにをー!?あーちゃんがずっと寝てたって言いたいのかサトにいテメェコノヤロー!!」

「全くもってその通りだよ。」

「ふわぁ…」

「なんだとー!?そんな事言ったらなー、リタねえだってずっと寝てたぞー!?」

「人を道連れにするな。」

「そうですぅ。責任転嫁なんて、最低ですぅ。」

「なんだよサトにいとリタねえのドケチー!!タラバガニの食べられない部分!!」

「それ、どういう意味なんだよ。全く…」

「ふわぁ…相変わらず褒めてるのか貶してるのかわかんないですねぇ…」

「そうだな。でもリタ、授業中に寝るのはどうかと思うぞ。」

「ふわぁ…すいましぇん…善処しますぅ。」

「そーだぞリタねえ!!寝んなコノヤロー!!」

「お前は人の事言えねえだろ。話がこじれるから黙ってろ。」

「わーヒドイ!!サトにいのバーカ!!みちみちウンコたれ!!」

「食事時に大声でそういう事言うな。汚えなバカ。」

今日も、彼はよく居眠りをする外務大臣と一緒に、なぜか同じクラスにいる子供と喧嘩している。

そんな彼も、魅力的でたまらない。

…いいなぁ。私も、彼に怒られてみたい。

彼に罵ってもらえるなんて、考えただけで夢心地です。

アリスさん、ちょっとだけでいいからそこかわっていただけませんかね?

なーんて言えたら苦労しないんですけど。

 

さてと、ちょうど昼休みだし、ちょっと散歩でもしようかな。

せっかくの昼休みだけど、遊ぶ相手なんて誰もいませんしね。

「ねえねえ、ウチの新作スイーツ食べてよ!」

「お、これはまたうまそうなモン作ったな夏美!」

「チッ…いちいちうるせぇんだよスイーツバカが。」

「おい、そういう事言うなよ狗上。せっかく作ってくれたんだからよ。」

「うるせェサッカー野郎。」

「うまそうだな近藤!俺にも分けてくれよ!」

「うん、いいよー!どんどん食べて!」

今日も、馴れ馴れしいパティシエがみんなに作ったお菓子を見せびらかしている。

私はこの人が作るスイーツに全然興味が無いし、それを食べる人達の幸せそうな顔が正直不愉快だ。

あと見せびらかすのは勝手だけど、ここでやるのは通行の邪魔だから本当にやめてほしい。

「…はあ、あの…」

「お、うまいなコレ!」

「でしょ!?ウチの自信作だからね!」

「ホントか!?すごいな夏美!」

「ヘヘン、ウチも一流のパティシエだからねー。」

「チッ…うるせェなぁ…」

「すみません。通行の邪魔だからどいてほしいんですけど…」

「なあ、これはなんていうんだ?」

「えっとねー、そっちがフレンチクルーラーで、こっちがエクレアだよー。」

「へぇ、そのフレ…なんとか、うまいな!」

「えへへ〜。ねえ、カッちゃん。お味はどうですか〜?」

「俺?ああ、うん。美味いよ。特にこれとか…」

「あ、やっぱり!?それね、一番頑張って作ったんだよ!」

「やっぱりか!?うん、やっぱうめえよ!」

「良かった〜!どんどん食べてね!」

「えっと、すみません。聞こえてないんですか?」

「チッ…ちょっと菓子が作れるからっていい気になって見せびらかしやがって。鬱陶しいんだよテメェ。」

「あっ、狗上っち!今スイーツをバカにしたな!?」

「ああしたよ!俺は別に甘いモンは食わねえからな!!そんなに見せびらかしたいなら、外人かクソガキあたりに食わせておけ!」

「何その言い方!…もう怒った!絶対ウチのスイーツを、おいしいって認めさせてやるんだから!!」

「夏美の奴、急にスイッチ入ったな。」

「ああ…これ、止めた方がいいのか?」

…はあ、やっぱり見えていないのか。

『彼』以外の人間が私を見ているかいないかはどうでもいいとはいえ、ここまで無視をするのはさすがに人格を疑います。

狗上さんは、元々クラスの方にも関心がないからまだ許せるんですけど、玉木さんと郷間さんと近藤さんに関しては、他人には馴れ馴れしいくせに私を全然『見ない』のが腹立ちます。

もはやわざとやってるとしか思えないんですよね。

もう、いっその事『処分』するか…

 

「おい、お前ら。床前が通りたがってるだろ。どいてやれよ。」

 

「…!」

「え、あ、嘘!?床前っち、いたの!?ごめんね気付かなくて!」

「ごめんな床前!俺達、そうとは知らずに出口塞いでたんだな!」

「ごめんな渚!全く気付いてやれなかった!!」

「チッ…いたならいたって言えよ。」

さっきからずっと声をかけてたんですけどね。

なんでこっちが悪者にならなきゃいけないんでしょうか?

「おい、お前ら。いくらなんでもそれはひどいだろ。それ、集団無視だからな?」

「悪い…いたのに気付かなくて…」

「ったく、なんで気付かないんだよ。…あ、床前。大丈夫か?なんか用事あったんだろ?」

「あ、はい…菊池さん、ありがとうございました。」

「いいって。また無視されたら俺に言えよ。」

「…はい。」

やっぱり『彼』は、いつどこで何をしていても魅力的です。

え?私が誰かって?

申し遅れました。

 

私の名前は床前渚。

『超高校級の幸運』です。

唐突ですが、私には想いを寄せている方がいます。

『超高校級の弁護士』菊池論さんです。

これは、私が、彼に生まれて初めての恋をするまでのお話です。

 

 

 

私にはもう、家族と呼べる人はいません。

私の母親は、私が物心つく前に事故で亡くなりました。

私と当時まだ1歳だった弟は、父に育てられました。

私の父は最低な男で、毎日働きもせずに酒とギャンブルに溺れ、借金ばかりしていました。

そして、気に入らない事があるとすぐに私や弟に手を上げました。

学校には行かせてもらえず、食事もろくに食べさせてもらえませんでした。

周りの住民達は見て見ぬフリで、誰も助けてくれませんでした。

地獄のような日々でしたが、ひとつだけ希望がありました。

それは、私の幼い弟でした。

彼は、どんなに自分が暴力を振るわれても、必ず私の事を心配してくれて、私を姉として慕ってくれました。

私にとっては、弟が全てでした。

私は、弟がいたからどんな苦痛にも耐えられました。

弟は、お腹いっぱいご飯を食べる事が夢だと言っていました。

私は、弟の夢を叶えてあげたいとずっと思っていました。

 

ある日、警察に通報した近隣の住民によってついに父の悪行が露見し、父は虐待の容疑で逮捕されました。

その後私達は、心優しい夫婦に引き取られました。

夫婦の間には、高校生の娘がいましたが、彼らは実の娘と私達を分け隔てなく可愛がってくれました。

義姉(ねえ)さんもまた、私達姉弟を本当の弟妹のように可愛がってくれました。

私は、お義父(とう)さんとお義母(かあ)さん、そして義姉(ねえ)さんが大好きでした。

私達は、5人で一緒に幸せに暮らしていました。

しかし、幸せは永くは続きませんでした。

 

 

 

私以外の4人は全員、突然家に押し入ってきた浮浪者に刃物で刺されて殺されました。

幸か不幸か、たまたまかくれんぼで弟と一緒に遊んでいた私だけは見つからず、生き残りました。

私から家族を奪った浮浪者は、警察に捕まった実の父親でした。

彼は、私の母が亡くなった後精神が壊れ、私達に八つ当たりするようになったそうです。

そして、それが原因で豚箱に放り込まれた…だから彼から『幸福』を奪った私達を殺して復讐する気だったそうです。

私は、わけのわからない理由で私の最後の『希望』だった家族を目の前で奪われて、ただ絶望しました。

 

 

 

プツン

 

 

 

その時、頭の中で何か大事な物が切れる音がしました。

そして、今まで止まらなかった身体の震えがピタリと止まりました。

見つかれば殺されるのはわかっているはずなのに、私はいたって冷静でした。

怒り、悲しみ、恐怖…そういった感情が、一切沸き起こらなくなりました。

運が良かったのか、私はたまたまキッチンの戸棚に隠れていたので、中にあったナイフを手に取って…

 

 

 

そこからは、あまり覚えていません。

気がつくと、足元には血塗れの父の死体が転がっていました。

私が握っていたナイフもまた、死体と同じように血塗れになっていました。

反撃されたのか、私も腕を怪我していましたが、全く痛みませんでした。

父の死体をまじまじと見て、私は悟りました。

 

私は、この人を殺したのか。

 

生まれて初めて人を殺した。

その時、私の中で沸き起こったのは、実の父親を殺してしまった事に対する薄っぺらい罪悪感でも、家族の仇を討ったという生温い達成感でもありませんでした。

 

 

 

 

 

なんて美しいんだろう。

 

 

 

 

 

私は、絶望の表情のまま硬直した父の顔に魅了されました。

私は、ずっと嫌いだった父の顔を、ようやく好きになることができました。

今まで満たされなかったものがやっと満たされて、とても幸福な気分になりました。

でも、まだ足りない。

もっと欲しい。

私は、もっと満たされたい。

その日から、私は自分から幸福をつかむために行動を起こしました。

 

私が父を殺した事件については、一家心中という扱いになりました。

私は、家族に死なれた哀れな娘として、里親に引き取られました。

そして、私は表向きは普通の女の子を演じながら、裏では快楽のために無差別で人を殺す殺人鬼と化しました。

ある時はムカつくクラスメイトを皆殺しにするために赤の他人を唆してハイジャックさせたり、ある時は病院にウイルスをばら撒いて他の患者を殺したり、ある時は山の中で迷ったフリをして救助隊を誘き寄せて突き落としたり…

私は、人を殺す度に幸せな気分になり、人を殺す事をやめられませんでした。

偶然をまるで必然のように強制的に引き起こし、引き起こした必然はまるで偶然のように錯覚される。

そんな才能のおかげで、私の犯行は一切露見する事はありませんでした。

そして、運がいいのか悪いのか、里親も含め私の周りの人間はほとんど私に関心を示しませんでした。

誰も、私を疑うことすらしなかった。

誰も、本当の意味で私を見ようとしなかった。

見えていないなら逆に好都合だ。

私は、自分の快楽のためにお前達から一方的に奪い、殺し、絶望に叩き落としてやる。

私1人だけが幸福になるための踏み台にしてやる。

誰も私を止める事なんてできない。

だって、誰にも私の事は『見えていない』のだから!!

 

ある日、私の元に希望ヶ峰学園からの通知が届きました。

私は、79期生の『超高校級の幸運』に選ばれました。

私の里親は、自分の娘が希望ヶ峰の学園生徒として選ばれた事に喜んでいました。

しかし、それはあくまでも『希望ヶ峰学園の生徒の親』だと周りに自慢できるからだとわかり切っていたので、両親が喜んだところで私はちっとも嬉しくありませんでした。…元々この他人(ひと)達の事は大して好きでもなかったですしね。

私にとってこのスカウトはどうでもいい事だったのですが、スカウトを断る事はできなかったので、私は希望ヶ峰学園に進学しました。

私は、この時まだ気付いていませんでした。

私が希望ヶ峰学園にスカウトされたのは、偶然でも幸運でもない。

これは揺るがない必然であり、運命だったという事に。

 

 

 

入学式の日、私は偶然同じクラスの男子生徒とぶつかってしまいました。

 

「きゃっ」

「おっと、ごめん。」

 

見上げると、その人の顔が目に飛び込んできました。

短く切り揃えた黒髪に、猫のようにつり上がった目元、イーグルアイのような灰色の瞳。

太くて薄めの眉毛に、小学生を思わせるような幼い顔立ち。

その顔からは信じられない程男らしくよく通る声。

私は、目の前の男子生徒に魅入ってしまいました。

彼は、私の亡くなった弟によく似ていました。

「す、すみません…」

「あ、ああ。俺も、ちゃんと周り見てなかったからな。悪かったよ。大丈夫か?えっと…」

「あ、床前渚です。『超高校級の幸運』です。」

「へえ、床前、か。俺は菊池論っていうんだ。よろしくな。」

「菊池さん…確か、私と同じクラスですよね?」

「あ、そういえばそうだな。配られた名簿にお前の名前あったよ。」

「覚えててくれたんですか?」

「…まあ、職業柄人の名前は覚えてないと困るからな。一応名簿は覚えたよ。でも、顔まではさすがにわからんな。」

「そりゃそうですよ。今日入学式に参加したばかりなんですもの。」

「そういやそうだな。」

この人は、初対面の私の名前を覚えていてくれた。

もしかしてこの人は…

…いや、そんな訳ないか。

私の事が『見えている』人なんて、いるわけないじゃない。

そんな話をしていると、時間になった。

「そろそろ俺達も行かないとな。」

「あ、はい…」

 

 

ー体育館ー

 

私は体育館に行き、席に座って入学式の開始を待ちました。

式が始まり、学園長が開会の辞を述べると、新入生は出席番号順に名前を呼ばれました。

私も呼ばれるのかと思っていましたが、私の名前は呼ばれず、私の一つ後ろの出席番号の生徒が呼ばれました。

…ああ、またこのパターンか。

存在を忘れられるのは慣れてますけど、こういう大事な式の時に忘れるなんて、人としての常識が欠如しているとしか思えないですよね。

まあ、私が常識を語るのはおかしな話なのかもしれませんが。

次のクラスの出席番号1番が呼ばれる、その時でした。

 

「あの、少しいいですか?」

 

手を挙げて発言したのは、菊池さんでした。

彼が式を中断して何かを言おうとしていたのを見て、体育館中がざわつきました。

「…なんでしょうか?」

傍にいた教頭先生が、学園長の代わりに応対しました。

「僕の聞き間違いだったら申し訳ないのですが…今、僕のクラスの人を1人呼ぶのを忘れていませんでしたか?」

…え。

周りは全員気付かなかったのに、菊池さんは私の名前が呼ばれなかった事に気付いていたんですか…?

「…はぁ、君は何を言っているんだね。さあ、早く式を再開しましょう…」

「…あ。」

「…学園長?」

「すまない、どうやら君の指摘は正しかったようだ。私とした事が、つい呼び間違えてしまったよ。」

「いえ、僕はいいんですけどね。」

「ゴホン、では気を取り直して…『超高校級の幸運』床前渚。」

「あっ、ハイッ…」

私は、予想外の出来事に、つい声が裏返って、うまく返事ができませんでした。

体育館にいた、菊池さん以外は全員『そういやこんな奴いたっけ』という目で私を見ていました。

菊池さんは、後ろを振り向き、右手でサムズアップをしました。

私は、菊池さんがなぜわざわざあんな事を言ってくださったのかわからず、混乱していました。

 

入学式が終わった後、私は菊池さんを探しました。

「菊池さん!」

「おう、床前。なんか、さっきはごめんな?変に目立たせちまって。なんかお前が主役みたいになっちまったな。」

「いえ、そんな…その…さっきは嬉しかったです。ありがとうございました。」

「そっか。嫌じゃなかった?良かったぁ。さっきので嫌われてたらどうしようかと思って正直ちょっと怖かったんだよ。」

「…いえ、嫌いとか…そんなわけない、です…でも、菊池さんはなんで今日会ったばかりの私のために、あそこまでしてくださったんですか?」

「…別に、言いたい事を言っただけだよ。俺、気になった事はなんでもズバズバ言っちまう方だからさ。」

「はあ…」

「あのさ、お前いっつもあんな風に忘れられたりとかしてんのか?」

「え、ええ…まあ…でも、いつもの事ですから気にしないでください。存在感が薄い私が悪いんです…」

「お前が悪いわけないだろ。もしまた誰かに無視されたりしたら、いつでも俺に相談しろよな。すぐに、お前はここにいるんだって言ってやるから。」

「あ、ありがとうございます…」

「あ、それも嫌だったら言えよ?余計な事しようとしてるかもしれないからな。」

「いえ、余計だなんてそんな事…あ、あの…」

「ん?」

「えっと…菊池さんは、ただのクラスメイトになぜそこまでしてくださるんですか?」

「…ただのクラスメイトだから。それ以上の理由がいるか?」

「…!」

 

この人は、今までの人間とは違う。

この人は、私の事を『見てくれている』。

その瞬間、私の中の世界が一瞬で作り変えられた。

今まで無色で平坦だった世界が、鮮やかに色づいて見えた。

そして、身体中が熱くなって、胸の鼓動がガンガンと鳴り響いた。

まるで何かに締め付けられるように、胸の奥が苦しくなった。

それなのに、菊池さんの顔と声が頭から離れない。

なんだろう。

この身が灼かれるくらいに、彼の事が欲しくてたまらない。

もっと私の事を見てほしい。

わからない。

今まで、こんな気持ちになった事がない。

なんだ、私の中で渦巻く、この感情は。

 

「おい、どうした?大丈夫か?」

「あ、いえ…」

「あ、じゃあみんな待ってるから俺もう行くわ。じゃあな。」

「はい、また明日…」

 

前に、こんな状況を絵本で読んだ事がある。

その時は、私は登場人物に全く共感できなかった。

これから先も、共感する事なんてないんだろうと思っていた。

でも、今なら少しわかる気がする。

彼は、まるでその絵本に出てきた王子様のように、私の心を奪っていった。

 

…これが、恋というものなのかな。

 

きっと、私がこの学園にスカウトされて菊池さんに出会ったのは、偶然なんかじゃない。

全部、こうなる運命だったんだ。

私と彼は、最初から運命で結ばれていた。

彼は、私だけの王子様。

もう、他の人間なんてどうでもいい。

彼だけに、私を見ていてほしい。

彼だけに、私の全てを捧げたい。

私は、彼のためならなんでもすると決めた。

彼を守るためにこっそり後ろを歩いたり、こっそり家にお邪魔したりもした。

いつどこで何をしていても、私にとって彼は理想の人だった。

私は、彼のためだけに生き、彼のためだけに死のうと誓った。

 

 

 

ー数週間後ー

 

なんだろう?

織田さん達男子4人が、たむろして話しています。

「ムフフ、吾輩はついに女子更衣室に侵入する方法を思いつきましたぞ!!」

「アラ、ケンタロウちゃん。それはいいのだけれど、ちょっと声が大きいわよ?女子に聞こえちゃうわよ。」

もう聴こえていますよ。

人がいるところでそんな話をするなんて、ただの馬鹿としか思えないのですが。

まあ、私の事が見えていない彼らにとっては、誰にも見られてないと思ってるんでしょうかね。

不愉快極まりないです。

「あっ…吾輩とした事がつい…ムフフ、この方法を使えば、レディの美しいボディを見放題ですぞ!」

「わぁ、最低ですね織田さん!」

「か、カークランド氏…!?今、なんと…」

「最低ですね織田さん!」

「二度同じ事を言えって言ったわけじありませぬぞ!!カークランド氏は仲間だと思っていたのに…!」

「ええ、織田さんは級友ですが、それとこれとは話が別です。紳士たる者、女性に不埒な行為をする事は許しません!」

「フン、そういうわけだ織田よ。俺様も、貴様の作戦には反対だ。」

「そう思いますよね!?森万さん!」

「フッ。」

「そうだ、カークランド氏!!日本文化を学べるチャンスでありますぞ!!」

「えぇ!?それは本当ですか織田さん!?では、私も参加します!」

「カークランドよ。言いくるめられてどうする。」

「あーあ、ダメだコリャ。ジェイムズちゃん。騙されちゃダメよ。」

なんか…もう、やりとりが低次元すぎて見ていられません。

彼らにも、少しは菊池さんを見習っていただきたいものです。

全く、菊池さん以外の男がここまでひどいとは思いませんでした。

「ムフフ、そうと決まれば早速女子更衣室に突撃ですぞ!!」

「まだ何も決まってないじゃない。…はあ、まあいいわ。ここまで来たらアタシも協力してあげるわ。」

「フン、低次元すぎて止める気にもならん。勝手にしろ。」

「皆さん本当にそういうの好きですねー。」

…どうする?

どうせ、声をかけたところで反応してもらえないんだろうし…

いっそ、見えてないんだから、また殺すか…

「なあ、お前ら何やってんだ?」

わぁ、今日も菊池さんは素敵です!

そこら辺の砂利共とは大違いですね!

「き、菊池氏!!」

「あらサトシちゃん。実はね、今ケンタロウちゃんが、女子更衣室に侵入しようとしてたのよ。」

「え、エカイラ氏!!余計な事言わないでくだされ!」

「アラ。いいじゃない別に。サトシちゃんも一応男の子なんだし。」

「それもそうですね!」

「カークランドよ、貴様は一体何を納得したんだ。」

「…あのさ、お前ら、そんな事言っていいの?」

「ん?どういう意味でありますか?ここには、吾輩達男子しかおりませぬぞ!」

「いや、言いにくいんだけど…床前、ここにいるぞ。」

「!!?」

ああ、やっと気付きましたか。

全く、菊池さん越しじゃないと私が見えないなんて、人間として終わってますよ。

まあ、こんな最低な人達に私が見えたところで、それはそれで不愉快極まりないんですけど。

「えぇえええ!!?ナギサちゃん、いたの!?いつから!?」

「…織田さんが、作戦を話し始めたあたりからずっとです。」

「申し訳ございません。てっきり、ここには私達4人だけしかいないものかと…」

「お、俺様の超能力をもってしても存在を察知できなかっただと…!?貴様、まさかステルス能力持ちか!!」

ステルス能力って…

あなた達の目が節穴すぎるだけですよ。

「ぬぁああああああああ!!!わ、吾輩とした事が、一生の不覚…!!まさか作戦を全て聞かれていたとは…!」

「いや、織田。それよりも床前に謝れよ。床前を無視して最低な話してたんだからよ。床前がかわいそうだろ。」

「何をおっしゃいますか菊池氏!!そんな事より、作戦を全部床前氏に聞かれていた事が一大事なのですぞ!!あああ、女子更衣室という禁断の花園へ足を踏み入れるという吾輩の夢がぁあああああ!!!」

「…秘密の花園が如何なさいましたか織田様?」

「はへ?」

「織田先輩、声が大きすぎて廊下にダダ漏れだったっスよ。」

「えーと、つまり…?」

「あんたの最低な作戦は筒抜けって事。…あんた、こんな事をしておいて明日の朝日が拝めると思うなよ。」

「ケッ、私の神聖なる身体を覗こうとした罪は重いぞキモヲタ!!去勢してやるから覚悟しろ!!」

「うーん、織田君。言っちゃ悪いけど、最低だよね?」

「あの、皆さん?ちょっと待ってくだされ…いや、ホントに悪気はなかったっていうか…ただのおふざけっていうか…だからちょっと待っ…ぎゃあぁあああああぁあああああああああああぁああああああああああああぁあああああああ!!!」

織田さんは、女子の皆さんにキツいおしおきを受けました。

正直、この人の事は大嫌いだったのでスカッとしました。

「あらあら、ケンタロウちゃん、血祭りにあげられちゃったわねえ。」

「血祭り?それはどういったお祭りなのですか?」

「…祭りって名前はついてるけど、祭りじゃないぞカークランドよ。」

「うわぁ…えげつねぇ…女子って怖いな…」

「…。」

「あ、床前。なんかごめんな?俺のせいで変な事に巻き込んじまってよ。」

「…いえ、むしろ、ずっと無視され続けていて悲しかったので、菊池さんに気付いてもらえて嬉しかったです。ありがとうございます。」

こんな時でも私の心配をしてくださるなんて、やっぱり菊池さんはその他とは違って素敵です。

「…。」

「どうしましたか菊池さん?」

「お前、そのボサボサした髪をなんとかした方がいいと思うぞ?せっかく顔は可愛いんだからさ。髪型変えるだけでも、無視されなくなるかもしれないぞ。」

「…。」

「あ、いや…俺の個人的な意見だし、別に嫌だったらいいんだけど…」

「貴重なアドバイスをありがとうございます。」

…やっぱり、この髪型じゃダメですか。

確かに今まで、他人の事なんてどうでも良かったので、自分の容姿には無頓着でしたが…

菊池さんに、もっと私を見てもらいたい。

…服装も変えてみよう。

 

 

ー翌日ー

 

「おはよーカッちゃん!」

「ああ、おはよう近藤。」

「…。」

普通は、クラスメイトと挨拶をしながら教室に入るんでしょうけど、私はそんな面倒臭い事はしません。

挨拶をしたってどうせ無視されますし、他人と会話を交わすなんて、ただの時間と酸素の無駄遣いです。

そんな事に時間を割くくらいなら、私は…

 

「おはよう!」

まさか、彼の方から私に挨拶してくださるなんて思っていませんでした。

菊池さんは、笑顔で私に挨拶をしてくださいました。

「あ、え、と…お、おはようございます…」

うまく返せなくて、とても恥ずかしい思いをしました。

挨拶すらぎこちないようじゃ、会話ができない女だと思われてしまいますよね…

「あのさ、一応確認だけど…お前、床前だよな?」

「あ、わ、私の事を覚えていてくださったんですか!?」

「あ、良かった。合ってた。…いや、あまりにも見た目変わったから、別人かと思っちまったよ。やっぱ、お前そっちの方がいいよ。見違えるように可愛くなったな。」

「本当ですか!?ありがとうございます…!」

 

 

 

ねえ菊池さん。私は、あなたがいいと言ってくださったから、今の自分が好きになりました。

あなたが私を見てくださったから、私の中の世界が変わりました。

あなたさえいれば、私は何も要りません。

あなたと一緒なら、私はなんでもできる気がするんです。

あなたは、私の全てなんです。

もう、他の人間なんて要らない。

私は、たとえ何があろうとも、あなたのためだけに生きます。

厚かましい望みではありますが、もしあなたにとって私が要らなくなったのなら、その時は…

 

 

 

 

どうかあなたの手で、私を殺してください。

 




人に恋をした事がないから恋してる人間の心理がマヂでわからなくて
詰んどる\(^o^)/ホント誰か助けて…


【論リゾこぼれ話】

床前ちゃんは、最初からトコマエダ化させるつもりで書いていました。
というのも、床前ちゃんは本性を現す前は、誰にでも優しく接し、引っ込み思案の所謂『天使キャラ』でしたよね。
しかし、僕は思うのですよ。
そんな女いるわけない(笑)と。
表面天使な奴に限って性格は最悪っていうのはよくあるパターンですよ。
前作の相浦ちゃん(ネタバレ注意)といい床前ちゃんといい、天使キャラはみんな本性は闇属性(確信)。
ちなみに、トコマエダ様は虚言癖の殺人依存症です。さらには偏執病でもあり、自分と論クン以外は全員敵だと思い込んでいます。また、自分の理想に対して『そうでないと許せない』というある意味潔癖な部分があるので、少しでも彼女の理想に反する者がいれば徹底的に排除しようとします。…メチャクチャな人格ですね。
ちなみに彼女の桜の飾りですが、桜には人の血を吸って花がピンク色に染まるという都市伝説があります。つまり、この花飾りは、彼女が殺人鬼であるという伏線でした。(わかるかボケナス)

下の画像はずっと出したいと思ってたイメチェン前の床前ちゃんです。彼女は、作中で一番見た目が変化したキャラです。元々周りの目とか気にする子じゃなかったので、髪はボサボサで伸ばしっぱなしでしたが、菊池クンに気に入ってもらうためにイメチェンしました。


【挿絵表示】


声のイメージは、『殺戮の天使』のレイチェルです。
エディがレイチェルの声を『小鳥のような声』と形容していたのを思い出し、『これじゃあ!!』と思って床前ちゃんのICVに千菅さんを選びました。
彼女と床前ちゃんの共通点は、殺人鬼である事、自分を殺して欲しい相手がいる事、自分の理想に対して『そうでないと許せない』という思いを強く抱いている事などが挙げられます。
ついでに言うと、前作の魅神クンのICVの岡本さんは、ザックの声を担当しています。
ヤンデレレイチェルとずる賢いザックwww



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番外編⑭ 任務編

私は、『超高校級の秘書』速瀬吹雪と申します。

希望ヶ峰学園に入学する前は、県知事の秘書を務めておりました。

私が以前お仕えしていた現県知事は非常にお人柄が良く、希望ヶ峰学園からスカウトされた私に学業に専念するように仰ってくださり、お言葉に甘えて高校卒業までの間お暇を戴きました。

現在は何をしているのかと申しますと、高校生生活を送りつつ、学園の皆様を主人だと思い、秘書としての役目を全うしている所でございます。

…現在は12時25分ですか。

この曜日のこの時間は…

 

「あ、いたいた!おい、速瀬!」

この声は、『超高校級の弁護士』菊池論様でございますね。

菊池様が私をお呼びになると言う事は、恐らく裁判の書類の整理でしょうね。

「どのような御用件でございましょうか?」

「えっとさ、昨日裁判の依頼が来たんだけど…何しろ資料の量がエグいんだよ。なあ、ちょっと資料の整理手伝ってくれねえか?今度何か奢るから!お願い!」

「承知しました。」

「ホントか!?ありがとう!!じゃあ、早速これに目を通して欲しいんだけど…」

「了解しました。…成程。確かに、量が膨大ですね。」

「だろ!?」

「然し…私が見た限り、無駄が多いように思えます。文字量に対して重要な内容があまり書かれていませんね。」

「そうなのか?」

「これなら、要約すれば大分見易くなるかと。」

「マジか!?いやぁ、助かるよ!」

「御礼には及びません。少々お時間を戴いても宜しいでしょうか?」

「もちろん!」

「ありがとうございます。」

私は、菊池様に渡された資料の整理をしました。

量が膨大だったので、流石に1時間程度は掛かってしまいましたが…

「出来ました、菊池様。」

「え、嘘だろ!?まだ1時間しか経ってねぇぞ!?この量を、たった1時間で!?」

「とんでもございません。私の兄は、この半分の時間で仕事を捌きます。」

「…すごすぎて言葉が出ねぇよ。」

言葉が出ない、と仰っていますね。

…まあ、この発言に対して問題点を指摘しても切りが無いので、敢えて発言しないでおきましょうか。

「ホントに全部まとまってる…ありがとな、速瀬!今度何か奢るっつったけど…なんか食いたい物とかあるか?遠慮せず言ってくれ!…あ、ただ超高級フレンチとかはナシな?さすがにそこまで金無えから。」

「そんな厚かましいお願いはしませんよ。私は、菊池様が召し上がりたい物なら何でも構いません。」

「…なんか、そう言われると逆に申し訳ないんだよな。ホントに食いたい物を言ってくれていいんだぞ?」

「いえ、私は菊池様が召し上がりたい物を戴きたいので。」

「そうか…よし!じゃあ次の週末、俺のお気に入りの喫茶店に連れてってやるよ。そこのナポリタンが美味いんだよ!」

「承知しました。その日は予定を空けておきます。」

菊池様の行きつけの喫茶店、ですか。

楽しみですね。

 

「とーうっ!!」

この声は…アリス様でございますね。

「スーパー美少女天使あーちゃん参☆上!!今、ナポリタンがどうのこうのって聞こえたぞ!!サトにい、さてはあーちゃんに黙ってナポリタンを食う気だな!?ズルいぞサトにい!!あーちゃんにも食わせろ!!」

「なんでそういう話題に関しては地獄耳なんだよお前…悪いが、今は速瀬と一緒に喫茶店に行く約束をしてるんだ。お前はお呼びじゃない。」

「サトにいのドーケーチー!!やーだーやーだーやーだー!!あーちゃんもキッサテンいーきーたーいー!!」

「うるさいなお前…今度行くのは、静かな雰囲気の店なんだよ。お前みたいな公害は店の雰囲気をブチ壊すだけだ。大人しく購買の食い物を食ってろ。」

「菊池様、私は別に構いませんが…」

「ほらぁ!!ブキねえもいいってゆってんじゃん!!連れてけサトにい!!」

「お前は黙ってろ!…速瀬、本当にいいのか?コイツ、めちゃくちゃうるさいぞ?」

「承知の上です。ここで騒がれても、他の方のご迷惑になりますので。アリスさん。その代わり、店内ではお静かに願えますか?」

「わかったよー。あーちゃん静かにするー。」

「信用できねえな。」

「なんだとー!?」

「…それでは菊池様。私はそろそろ次の授業の準備をしなければなりませんので。これにて失礼させて戴きます。」

「おう。」

アリスさんは、何と言うか…賑やかな方ですね。

「…。」

 

 

ー放課後ー

 

授業が終わりました。

17時に玉木様にサッカーの練習試合の助っ人を頼まれておりますので、出来れば早めに校庭に行って準備をしたいですね。

「速瀬さん!」

この声は…床前様ですか。

「床前様。何か御用ですか?」

「あのー、さっき、菊池さんと仲良さそうに話していましたよね?」

「別に、仲良く等…私は、資料の整理を手伝った御礼にと、お食事に誘って戴いたまででございます。」

「それは良かったですね!…私も行きたかったな〜、なーんて…」

「あの、何が言いたいんです?要件を簡潔に仰ってください。私も暇ではございませんので。」

「いえ、ただ楽しそうで良かったですね、と言いたかっただけですよ?それと、お話のついでと言ってはなんですが…」

床前様は、私の目の前で生塵を床にばら撒きました。

「床が汚れてしまったので片付けといてください。私、汚いの嫌いなので、今すぐお願いします。」

「あの、お言葉ですが床前様。私は掃除係ではございません。床前様が汚したのなら、ご自分で片付ければ宜しいのでは?」

「あら。私、口答えしていいなんて一言も言ってませんよ?主の言う事を聞けないような人は、秘書失格ですよね〜?そーんな無能さんを雇った人も、無能さんなんじゃないですかね〜?」

完全に只の屁理屈ですね。

それに何より、私を必要としてくださった方々を侮辱された事が許せません。

ですが、ここで下手に言い返せば、私を必要としてくださった方々の面子を潰してしまいます。

「さーてと、速瀬さん。ちゃんと掃除しておいてくださいね?お返事は?」

「…承知しました。」

「わあすごい!命令さえすればなんでもしてくれるんですね!まるでワンちゃんみたいです!あ、そうだ。レポートも代わりに書いておいてください。今すぐ、お願いしますね?」

「…。」

 

 

ー校庭ー

 

16時48分。

17時に玉木様と待ち合わせの予定でしたが…

床前様に頼まれていた仕事を片付けていたら到着が遅くなってしまいましたね。

「悪い速瀬!待たせたな!」

玉木様がいらっしゃいました。

「お待ちしておりました玉木様。」

「ごめんな、忙しいのに呼びつけちまって。メンバーの奴が急に風邪こじらせて来られなくなっちまってよ。」

「主人をサポートする事こそ、秘書の務めですので。お困りでしたらいつでもお申し付けください。」

「おう、サンキュな速瀬!じゃあ早速なんだけど、助っ人頼めるか?」

「承知しました。」

私は、玉木様の練習試合のお手伝いをしました。

この様な仕事を承る事は珍しいので、上手く熟せたかどうかはあまり自信がありませんが…

「ありがとな速瀬!!お前のおかげでいい練習試合になったよ!」

「とんでもございません。私のした事と言えば、欠員の代理、選手一人一人のプレイスタイルの分析、及びそれに適した練習方法の提案位ですので…」

「いやめちゃくちゃ有能だな!!正直そこまでやってくれると思ってなかったぞ!」

「そう仰って戴けて光栄です。またいつでもご相談ください。…それと、風邪を引いたご友人ですが、しっかりとお体を休めるようにとお伝えください。」

「おう、アイツの事心配してくれてありがとな!アイツにはよく伝えておくよ!」

「では、私はやる事がありますので、今日は失礼させて戴きます。また明日学校でお会いしましょう。」

「ああ、じゃあな!」

 

 

ー翌日ー

 

本日は、12時30分にカークランド様、森万様と化学室で待ち合わせでしたね。

お二人が私をお呼びになるなんて、珍しいですね。

お二人とも、自分の事は極力自分で解決するようになさっている筈…

「おい、吹雪!」

この声は…郷間様ですね。

「郷間様。何か御用ですか?」

「ああ、丁度良かった。ちょっとここの花壇のサイズ測りたいんだけどよ、測るもの忘れちまって…何か持ってねえか?」

「測る物、ですか。」

私は、確かに常にメジャーを持ち歩いておりますが…

これは、兄が私にプレゼントしてくれた物…クラスメイトだとしても、貸すのは気が進みませんね。

「申し訳ございません。私が持っているメジャーは、大切な物なのであまり人に貸したくはないのです。」

「そっか…」

「…宜しければ、私が代わりに測りましょうか?」

「え、いいのか!?」

「はい。これは貸せませんが、代わりに郷間様のお役に立てる方法がございましたらと思ったのですが…」

「マジか!助かるぜ吹雪!ありがとな!」

私は、郷間様に指定された場所を余さず測りました。

「これで宜しいでしょうか?」

「…すげぇ正確だな。しかもこんな短時間で…いやぁ、助かった!ありがとな吹雪!」

「とんでもございません。困った事がございましたら、いつでもお申し付けください。」

さてと…そろそろ授業の準備をしなければなりませんね。

 

 

ー昼休みー

 

「あー、やっと授業終わったー。」

「腹減りー。」

「わーい、やっとお昼だー!!」

「お前はずっと寝てただろ?飯食わなくていいんじゃないか?」

「なんだとサトにいテメェコラ!!こしあんにすんぞ!!ちなみにあーちゃんはつぶあん派だけどな!!こしあん派は全員イチゴの先っちょが目玉に突き刺さって死ね!」

「…言ってる事がカオスすぎてわからんぞ。」

4時間の授業が終わりました。

今日も、この時間帯の教室は騒がしいですね。

12時21分…化学室に向かわなければ。

 

 

ー化学室ー

 

私が化学室に到着してから数分後、カークランド様と森万様がいらっしゃいました。

「お待たせしました速瀬さん。」

「フッ。待たせたな。」

「お待ちしておりましたカークランド様、森万様。本日はどの様な御用件で私をお呼びになったのですか?」

「ええとですね、化学の実験をしたいのですが…この実験、3人以上いないと出来ないんですよ。それで、速瀬さんをお呼びしました。」

「フッ、俺はカークランドの手伝いだ。わざわざ呼びつけて悪かったな。速瀬よ。」

成程、それで私をお呼びになったのですか。

人数だけは、ご自分の力ではどうしようもありませんからね。

「そういう事でしたか。私は勿論喜んで協力しますよ。」

「わぁ、ありがとうございます!」

「では、早速実験の準備をしましょうか。」

「フン。」

私は、お二人の実験を手伝いました。

3人以上いないと出来ない実験とだけあって、複雑な作業が多かったですが、実験はなんとか成功しました。

「わあ、成功です!速瀬さんのお陰です!ありがとうございます!」

「とんでもございません。私は只、お二人に指示された事を実行したまでです。」

「フッ、謙遜などしなくていいぞ速瀬よ。貴様の仕事っぷりは、誰もが尊敬しているのだからな。」

「そうですよ!速瀬さんは凄い方です!私が通っていた大学にも、そんなに仕事の早い方はいませんでしたよ!もっと自信を持ってください!」

床前様に馬鹿にされて以来少々自信を喪失しておりましたので、そう仰って戴けるのは非常に嬉しいですね。

…感情表現が苦手なので、上手く伝える事が出来ませんが。

「そう仰って戴けて光栄です。皆様のお役に立つ為、日々精進して参ります。」

「フン、さすがは『超高校級の秘書』だな。」

「よし、きちんとデータも取れましたし、これで授業に使えますね。」

「…授業?」

「ああ、言っていませんでしたね。実はですね、私は今もインターネット上で授業をしているんですよ。存外これが好評でしてね。その授業の為に、今ここで実験をしていたんです。」

成程、そう言う事でしたか。

それで実験中にビデオを撮っていらっしゃったのですね。

そう言えば、カークランド様は『超高校級の大学教授』でしたね。

「今まで実験をしてきましたが、ここまで綺麗にデータが取れたのは初めてです!速瀬さんのお陰です。ありがとうございます!」

「いえ、そんな…」

「そうだ、授業のレポートのついでに貴女の事を紹介しても良いですか?」

「…え?」

「私の実験に協力してくださった方として、貴女を私の大学で紹介したいのです。…いけませんか?」

「いえ、いけないという訳ではございませんが…私等、とても…」

「フン、謙遜するなと言っただろう。貴様は、人に称賛される資格のある事をしたんだ。」

「…そうですか。では、カークランド様がそうしたいと仰るのなら、是非私を紹介してください。」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

ここまで称賛して戴けるとは思っておりませんでした。

人に必要とされるという事は、やはり気分が良いですね。

 

 

ー放課後ー

 

「にゃー!!やっとジュギョー終わったー!!」

「お前は授業受けてなかっただろ。」

「ギ、ギックゥ!!そ、そんな事ないもん!!」

「本当にギクッって言う奴初めて見たぞ。」

本日の授業が全て終了しました。

菊池様とアリス様は、相変わらずですね。

「速瀬さん!」

おや、この声は猫西様ですか。

「如何なさいましたか?猫西様。」

「あのね、ちょっと速瀬さんにお願いしたい事があるんだけど…今日、ちょっとだけ付き合って貰ってもいいかな?」

「御用件にもよりますが…具体的には、どれ位の時間を所要しますか?」

「んーっとね、15分でいいから!お願い!」

「15分、ですか。…畏まりました。」

「ありがとう!あのね、じゃあ早速なんだけど、一緒に屋上に来てくれないかな?」

「屋上、ですか。」

「詳しい事はそこで話すからさ!」

「…はあ。」

屋上…一体、どんな御用件なのでしょうか?

私がお役に立てるような御用件だと良いのですが…

 

 

ー屋上ー

 

屋上には、既に小川様がいらっしゃいました。

「お待たせ!」

「猫西先輩、誰か連れて来たんスか…って、速瀬先輩!?」

「…小川様、如何なさいましたか?」

「あ、いや…まさか猫西先輩が速瀬先輩を連れてくるとは思ってなかったんで、つい…あ、いい意味でっスよ!?」

「小川さん。いい意味でってつけたら、逆に言い訳っぽくなっちゃうよ。」

「え、そうっスか!?ホントにいい意味で言ったんスけど…」

お二人は、一体何の会話をなさっているのでしょうか?

…ところで、屋上に動画の撮影用の機材が置いてありますね。

「あの、これは一体どういう…」

「ごめんね、速瀬さん!急に呼び出しちゃって。実はね、今新しい動画の撮影をしようとしてたところなの!でも、思ったより撮影と編集作業が大変でさ!」

「それで、その撮影のお手伝いをして欲しいって事っス。…頼めませんかね?」

「…成程、そう言う事でしたか。私に出来る事がございましたら、喜んでお手伝い致します。」

「ホントっスか!?ありがとうございます!」

「速瀬さん、ありがとう!」

「具体的には、何をすれば宜しいのでしょうか?」

「あ、えっとね…この機器の調整と、画像の編集をしてほしくて…」

「それならお安い御用です。」

私は、猫西様の動画の撮影と編集のお手伝いをしました。

私の得意分野だったので、想定していたより早く終わりました。

動画の編集は、思ったより楽しかったです。

出来る事なら様々な動画の編集をしてみたかった所ですが…飽くまで依頼を承っていただけなので、我儘は言っていられませんね。

「…出来ました。これでどうですか?」

「嘘でしょ!?まだ5分しか経ってないんだけど!?」

「…何か問題がありましたか?」

「いやいや!全然そんな事ないよ!むしろすごくありがたいんだけどさ!仕事早すぎない!?」

「この短時間でこのクオリティ…まさに神業っスね!」

「そう仰って戴けて何よりです。」

「速瀬先輩、今日は本当にありがとうございました。おかげでいい動画が撮れたっス。」

「うん、すごいよ速瀬さん!ありがとね!」

「ありがとうございます。では、私はこれにて失礼させて戴きます。」

「はい、ではまた明日会いましょう!」

「じゃあね、速瀬さん!」

 

 

ー翌日ー

 

本日は、17時にアンカーソン様と待ち合わせでしたね。

今日は、遅れないようにスケジュールを組んで…

「だぁあああっ、クッソ!見つからねぇ!!」

この声は…狗上様ですね。

如何なさったのでしょうか?

「如何なさいましたか?狗上様。」

「俺のバイクが見つからねえんだよ!!確かにここに停めておいたのに…クッソ、なんでどこにもねェんだよ!!」

バイクで登下校するのは如何なものかと思いますが…

秘書たる者、困っている主人を放っておく訳にはいきませんね。

「あの、宜しければ一緒に探しましょうか?」

「あぁ!?それで点数稼ぎのつもりか!?何様のつもりだテメェ!!…チッ。まあ、このまま探しててもラチがあかねえからな。見つかりゃあなんでもいい。俺のバイクを早く見つけて来い!!」

「畏まりました。」

 

 

ー校舎裏ー

 

…とは言ったものの、見つかりませんね。

これは、誰かに盗まれた可能性が高いですね。

盗難届けを出す事も視野に入れておきましょうか…

…ん?

「ここは、もうちょっと可愛くデコレーションして…で、ここにリボンとラメをつけてあげたら超キュートよ!アンタもそう思うでしょ?クレハちゃん。」

「ぎゃはははははははははははははは!!!クッソダセェwwwクッソ面白えな!!そのセンスマジで最高だなオイオカマ野郎!!」

「だ、か、ら!!アタシはオカマじゃなくてオネエだっつってんでしょうが!!怒るわよアンタ!!」

あれは、神城様と伏木野様ですね。

何をなさっているのでしょうか?

「あの、神城様。伏木野様。」

「アラ〜!フブキちゃんじゃな〜い!!」

「おい、メガネテメェコラ!!神である私に向かってその態度はなんだ!!図が高いぞテメェ!!私の前では、地べたにデコを擦り付けて話せっていつも言ってんだろうが!!」

「申し訳ございません。…ところで、お二人はこんな所で一体何をしていらっしゃるのですか?」

「ウフフ、興味ある?実はね、さっきたまたま乗り物の形をした鉄クズを見つけたのよ!」

「んで、神である私の究極の脳細胞に、その鉄クズを再利用してやるっていう超天才的なアイディアが思い浮かんだってわけだ!!だから今、そこのデカブツキモオカマゴリラと一緒に鉄クズをリサイクルしてたんだよ!!」

「ちょっと!デカブツキモオカマゴリラって!クレハちゃん、アンタそろそろ殴るわよ!?」

乗り物…鉄クズ…もしや。

「お二人とも、その鉄屑とやらを少し拝見させて戴いても宜しいでしょうか?」

「あぁ?なんだ、メガネ。貴様、神である私のデコレーション技術を見たいのか?ふははははははははは!!!そうか!!まあ、そう思うのは当然なんだがな!!私のデコレーション技術は神業…だがそれすらも必然…なぜなら私は神だからな!!どうだ見ろ、これが私の生み出した傑作だ!!ふははははははははははははははははは!!!」

「アタシも一緒にデコったのよ!見てちょうだいフブキちゃん!」

私は、お二人がデコレーションをした鉄屑とやらを拝見しました。

…どうやら、私の嫌な予感は当たってしまっていたようです。

そこには、リボンやラメ、イリデッセントメディウム、スプレー等で装飾されたバイクらしき物が転がっていました。

…恐らく、狗上様のバイクですね。

「あの…確認ですが伏木野様。」

「ん?何?」

「そちらのバイクらしき物は、何処からどの様にしてここへ持って来て、その様なデコレーションをなさったのですか?」

「ああ、えっとね。裏門の前に置きっぱなしにしてあったから、ちょっと貰ってきたのよ。どこの誰が置いたのかは知らないけど、あんな所に置きっぱなしにしておく方が悪いのよ〜♪」

「ふははははははははは!!まったくもってその通りだ!!あんな所に放置してあるって事は、もう鉄クズも同然だろうが!!だから、神である私がただの鉄クズを神が作りし傑作へと生まれ変わらせてやったのだ!!誰が置いたのかは知らんが、この私に感謝し、そして崇拝してもらいたいもんだな!!」

なんと非常識な方々なのでしょうか…

停めてはいけない場所にバイクを停めていらっしゃった狗上様にも落ち度があるとは言え、普通人の乗り物を勝手に盗んでデコレーションしたりするでしょうか…?

これは、お三方で話し合う必要が…

おっと、私が呼びに伺う必要は無かったようですね。

「…誰が誰を感謝し、崇拝するって?なぁ、このクソサド女!!」

「はぁ!?んだよ、誰かと思えば犬!!貴様か!!」

「テメェら、よくも俺のバイクを勝手に盗んで、クソダサい装飾をしてくれやがったな?テメェらまとめてブチ殺してやる!!」

「キャー怖い!あんな所に放置しておく方が悪いのよ!それじゃあトンズラスタコラサッサ〜♪」

「クッソ、なんで私まで愚民に追われなければならんのだ!!」

ああ、もう収拾がつかなくなってしまいましたね。

私の任務は飽くまで狗上様のバイクを見つける事ですので、そろそろお暇しましょうかね。

 

 

ー昼休みー

 

授業が終わりました。

久々に仕事が無い昼休みですが…

何もする事が無いとなると、却って落ち着きませんね。

「ぎゃぁああああああああぁあああああああぁあああああああああぁああああああああああああああああ!!!」

この声は織田様ですね。

如何なさったのでしょうか?

 

 

ー更衣室前ー

 

織田様の声がした場所へと向かうと、そこには射場山様がいらっしゃいました。

「…射場山様。」

「…ん。速瀬…」

足元を見ると、汚物…基、全身を殴打された織田様が転がっていました。

「あの、これは一体どの様な状況ですか?」

「…コイツが性懲りもなく女子更衣室に入ろうとしてたから、こうやって制裁を加えてた。反省してないみたいだから、いつもより50回多く殴った。」

「成程、そう言う事でしたか。」

「ね゛、ネ゛バー…ギブ…ア゛ップで…あ゛、り゛ま゛…ず…」

織田様は、ボコボコにされても尚心は折れていらっしゃらないようですね。

そのゴキブリ並にしぶとい根性は、最早尊敬の域にまで達します。

「ば、ばや゛ぜ…じ…ば、ばがばい゛を゛、だずげ…」

…ですが。

「織田様。貴方のなさっている事は犯罪です。貴方には今から、罰を下します。これから先、真面な人生を歩めると思わないでください。」

「…え゛?」

学園の秩序を乱す者には、たとえ主人としてお仕えしているクラスメイトであろうと容赦は致しません。

堕落した主人を律するのもまた、秘書である私の役目です。

秩序を乱し、女子生徒の皆様を辱めようとした罪、きちんと償って戴きましょうか。

「…ねえ、コイツ、あと何百発殴ればいいと思う?」

「そうですね…只殴るのも良いですが、モーニングスター等を使うのは如何でしょうか?刺と遠心力により、攻撃力が増加します。」

「いいねそれ。コイツ、結構しぶといから一発くらいだったら多分死なないよ。」

「それか、針を爪に刺していくのは如何でしょうか?攻撃力は低いですが、とても痛いので拷問向きです。これで心を折るというのもありだと思うのですが。」

「…ん。それもいいね。うん、じゃあ両方やろう。」

「畏まりました。」

「じゃあ、速瀬はそっち側お願い。私は頭をカチ割るから。」

「承知しました。」

「え…!?ちょっと待ってくだされ!!いくらなんでもさすがにそれは死にますぞ!!何2人で怖いガールズトークで盛り上がってるんでありますか!!2人とも我輩を殺す気…ちょ、本当にやめて…ぎゃああああぁああああああぁあああああああああぁああああああああああああああああ!!!」

 

 

ー数分後ー

 

「…ふぅ。」

意外と楽しかったですね。

私とした事が、つい興奮してやり過ぎてしまいました。

飽くまで織田様を律する為にやった事なのに、私自身が楽しんでしまいました。

…もう、原型を留めていませんね。

どうやって処分しましょうか…

「ねえ、速瀬。」

「はい、如何なさいましたか射場山様?」

「あんたはさ、私が困ってる時とか、相談に乗ってくれて…それで、全然無理に干渉してきたりとかしないから、あんたといると…一番安心できる。…ありがと。」

「とんでもございません。何かお困りでしたら、遠慮せず私にお申し付けください。私に出来る事なら、何でもお手伝いしますので。」

「…ん。」

私の趣味を押し付けるのは非常に烏滸がましいのですが、射場山様は一番趣味や考え方が私に合っています。

私自身、射場山様と一緒に居る時が一番心が落ち着くので、射場山様にその様に言って戴けたのは嬉しかったですね。

これを機に、彼女と親睦を深めたいですね。

…私とした事が、私情が表に出てしまいました。

皆様のお役に立つ事が、私の使命です。

 

 

ー放課後ー

 

16時59分。

アンカーソン様との待ち合わせまで、あと1分ですね。

…然し、当の本人がいらっしゃらないのは、一体どういう事なのでしょうか?

「…ほら、リタっち!ちゃんと歩いて!」

「…くぅ。」

アンカーソン様は、近藤様と一緒に教室にいらっしゃいました。

「…おや、私はアンカーソン様と待ち合わせをしておりましたが…近藤様もご一緒ですか?」

「うん、まあね。…ほら、リタっち!リタっちが速瀬っちを呼んだんだから、起きてよ!」

「はっ!ウポンゲ!…ふわぁ、すみませぇん…また寝ちゃいましたぁ…」

「それで、一体どういった御用件でございますか?」

「ふわぁ…えっとぉ、授業の内容でちょっとわからないところがあったのでぇ、解説してほしいのですぅ…」

「ウチも、ちょっと今日の授業が全然わかんなくって…だから、速瀬っちの解説が聞きたいんだよね。ごめんね?急に二人も見てもらう事になっちゃって。」

「それは構わないのですが…お二人共、カークランド様には質問なさらなかったのですか?この様な仕事は、私等より寧ろ彼の方が得意だと思うのですが。」

「ああ、えっと…ムズっちは、今日歯医者に行かなきゃいけないんだって。それで、速瀬っちにお願いしたってわけ。…ダメだった?」

「いえ、この日の為にスケジュールを空けておきましたので、問題ありません。それで、お二人共。具体的には、どの教科のどの分野が分からないのですか?」

「ふわぁ…全部ですぅ。」

「ちょっと、リタっち…全部って…それ、速瀬っちの負担ヤバくない?せめてもうちょっと絞ろうよ…」

「近藤様は?」

「え、ウチ!?ええっと…どうしよう…これもわかんないし…でも、これもテストで出されたら絶対ヤバいし…わぁあああああ、どうしよう!決められないよぉお…!ウチも、リタっちの事言えないや…」

「ふわぁ、近藤も全部ですかぁ?」

「…うん、全部お願い!ごめんね速瀬っち!」

「…畏まりました。」

 

 

ー数十分後ー

 

「…すごい、ホントに全部教えてもらっちゃったよ…」

「ふわぁ、これで寝ちゃった範囲は全部わかりましたぁ…速瀬、ありがとうございますぅ…」

「アンカーソン様。お言葉ですが、授業中に寝るのは如何なものかと思います。私もカークランド様も暇ではございませんので、出来るだけ授業を真面目に聞くようになさってください。」

「ふわぁ…善処しますぅ…」

「いや、リタっち。善処するって、善処しない人が言う台詞だからね?」

「ふわぁ…くぅ。」

「ほらぁ!言ったそばから寝てんじゃん!」

「近藤様。授業の解説は、如何でしたか?」

「うん、すごくわかりやすかったよ!!全教科こんなにわかりやすく説明してくれて…やっぱり速瀬っちはすごいね!!」

「お褒め戴きありがとうございます。では、もう18時ですので、私はこれにて失礼します。」

「うん、バイバイ速瀬っち!」

まさか、たった数週間でここまで皆様私を必要としてくださるとは思いませんでした。

人に必要とされる事…これ程喜ばしい事は有りません。

皆様の期待にお応え出来る様、もっと努力を重ねなくては…



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番外編⑮ 保健室編

ご投票ありがとうございました!
番外編も、あと3話です。
コロナでバリクソヒマだからジャンジャン書くぜイェーイ!!


やい愚民共!!

頭が高いぞ!!

私を誰と心得ている!!

ん?なんだと?

貴様ら、愚民の分際で神の名前を聞きたいと言うのか!!

図々しいにも程があんだろうが!!

…まあいい。

私は寛大だからな。特別に教えてやろう。

私の名は、神城黒羽。『超高校級の外科医』だ!!

その名を脳裏に刻み込め!!

そして、この私を崇めろ!!

ふはははははははははははははははははははははははは!!!

ん?早速誰か入ってきたな。

 

「やっほ〜。クレハちゃんいるぅ〜?」

なんだ、誰かと思えばクソオカマゴリラじゃねえか。

この私に何の用だ、カスめが!!

「あぁ?テメェ、何の用だ。」

「んー。用って程の事じゃないんだけどぉ、サボりよサボり!授業ダルいし、しばらくここにいていいかしらん?」

「はぁあああああああああああ!!?テメェ、そんな事でわざわざこの聖域に来たというのか!!ふざけるな愚民が!!恥を知れ!!」

「アラ。アンタも、授業サボってここにいるんだし、人の事言えないじゃナイ?」

「うるせぇ!!私は神だからな!!愚民の授業なんて受ける必要無えんだよ!!」

「うわぁ、メチャクチャ♪じゃ、ちょっとベッド借りるわよ〜。」

「はぁ!?おい、待てコラァ!!何勝手に寝てんだ!!シバくぞテメェ!!」

「アラこわぁい。ねえ、漫画でも読んで気分落ち着けなさいよ。面白いわよ?」

「貴様、神に向かって提案など…おこがましいのもいい加減にしろ!!」

「アラ、そぉ?クレハちゃんなら絶対に気に入ると思ったんだけど…あー、面白いなー。あーすっごく面白い。」

なんなんだこのクソカマは!!

神である私を愚弄しやがって…ちょっと気になるじゃねえか!!クソッ!

「お、おい愚民!!そこまで言うなら読んでやらん事も無いぞ!!貸せ!!」

「アラ、なーんだ。やっぱり興味あるんじゃない。ホラ、1巻貸してあげるから読んでみなさい。」

「フンッ!!最初からそう言っておけば良いんだよゴミが!!」

「全く、素直じゃないんだからぁ。」

ふぅん、なるほど。

冴えない主人公がデスゲームに巻き込まれる話か。

最初は、幼馴染みのアイドルが殺される所から始まんのか。

なんだこれ、クッソ面白ェな!

「おい、クソカマ!!苦しゅうないぞ!!次の巻も寄越せ!!」

「ハイハイ。」

 

 

キーンコーンカーンコーン…

なんだ、もう昼休みか。

授業受けてないからマジで時間の感覚が狂ってんな。

「ふわぁ…」

んだよ、オカマの次は居眠りかよ。

コイツは、神である私を抱き枕にしやがった罪深き女だ。

どうせ、また寝に来たんだろう。

「ふわぁ、お邪魔しますぅ…」

「テメェ、寝るためだけに私の聖域に踏み込んでんじゃねえよ!!この居眠り垂れ乳乳首レーズン女が!!」

「うっわぁ、クレハちゃん口悪いわねえ。さすがのアタシでも引くわぁ。」

「うるせェ!!私はな、神である私を愚弄したこの女が許せんのだ!!天罰を下してやる、ゴミめ!!」

「アタシは、女の子同士のベッドシーンが見られて美味しかったケド…」

「くぅ。」

「はぁああああああああ!!?テメェ、どういうつもりだ!!あぁ!?普通この流れで寝るかっつーの!!ケツの穴から手ェ突っ込んで奥歯ガタガタ言わせんぞゴルァ!!」

「キャークレハちゃんこわーい。」

「このクソ女、死ぬほど恥ずかしい目に遭わせて…」

ガシッ

「うぉあっ!!?」

なんだコイツ!

クソッ、また抱き枕にされ…

ると思ったかヴァカめ!!

鬼才なるこの私が、二度も同じ手を喰らうと思ったか!!

貴様のやろうとする事などお見通しなのだ!!

神を冒涜した罪を、その身を以って贖わせてやる…

 

ガシッ

 

「ぐえッ!!?」

「アラ。」

「くぅ。…えへへ、神城ぉ。君は、何かおいしい物を持っていますねぇ?隠しても無駄ですぅ。」

コイツ、いつもは運動音痴のクセに、なんで寝てる時だけは怪力なんだよ!?

クソ、頸が腿で締めつけられて身動きが取れねえ…!

「ぐえっ…くるし…テメ、はな…せ…!」

クッソ…頸動脈を絞められてるせいで、脳に酸素が…

ヤバい、これ、冗談抜きでオチ…る…

 

「ふわぁ…よく寝たぁ…あれ?なんで神城がベッドで一緒に寝てるんですかぁ?」

「ウフフ、疲れて寝ちゃったのね。しばらくそのままにしてあげましょ。」

「ふわぁ…」

 

 

ー翌日ー

 

チッ、昨日は居眠りに屈辱的な仕打ちを受けた…

この私が、あんな奴に遅れを取るなど…クソッ!!

お、早速誰か来たようだな。

ん?コイツは…

「痛ってェ…クッソ、なんで俺がこんな目に…」

なんだ、誰かと思えば犬じゃねえか。

ってか、なんでコイツこんなボロボロなんだよw

ウケるんですけどwww

「あぁ?ンだよ。クソサド女じゃねえか。」

「はぁ?なんだテメェ!!頭が高けェんだよクソが!!テメェ、誰に向かって口利いてんだゴルァ!!唯一にして最高にして絶対の神、神城黒羽様だぞ!!本来なら、貴様如きとこの私が同じ空間にいる事自体、不自然な事なんだよ!!この私と同じ空気を吸える事を心の底から感謝し、首を垂れろ!!でないと、貴様の顔中の穴という穴にクロロホルムブチ込むぞ!!」

「うるせェクソサド女!!傷に響くからデケェ声出してんじゃねえよクソが!殺すぞ!!」

「こ、殺す…!?貴様、今この私に向かって…殺すと言ったのか…!?身の程知らずにも程があんだろうが!!貴様は絶対許さんぞ!!10回くらい地獄に叩き落として、生まれてきた事を後悔させてやる!!」

「やれるもんならやってみろやコラァ!!」

「貴ッッッッッッッッ様ァアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「はーい、そこまで!ケンカはダメだよ、2人とも!」

なんだ…!?

今度は誰だ!?

…って、猫じゃねえか!

「まったくもう…狗上君、みんなとケンカしちゃダメっていっつも言ってるでしょ?」

「うるせェな!テメェには関係無えだろ!…痛っつ」

「ほら、大きな声出すから傷が開いてるじゃない。しばらくは大人しくしてなって。」

「触んじゃねえよ!しつけェぞテメェ!」

「…狗上君、大人しくしてようか?あんまり無茶すると、お母さん心配するよ?」

「…チッ。」

「よろしい。」

「おい猫!!貴様、私の聖域に土足で踏み込んで、私の発言を遮るとはどういう了見だ!?踏み殺すぞテメェ!!」

「神城さん、あんまり狗上君を刺激するような事言わないで、ちゃんと治してあげなよ。」

「うるせェんだよクソブスが!!この私に命令してんじゃねえよゴミが!!ケツの穴に死ぬほど鉗子ブチ込まれたくなかったら、デコを地面に擦り付けて、神を愚弄した事を今すぐ謝罪しろ!!」

「…神城さん、聞いてなかったのかな?」

猫は、ニッコリと笑みを浮かべた。

「!!?…チッ、わかったよクソが!!やればいいんだろやれば!!」

「ありがとう神城さん。」

気がつくと、私は犬の治療をしていた。

…あれ?

なんで私はコイツの言う事を聞いてんだ?

は!?え!?なんだ今の!?

なんかわかんねえけど、猫の言葉に逆らえなかったぞ!?

どうなってんだこれ!!気持ち悪りい!!

「狗上君、良かったね。神城さんに治して貰えて。」

「…チッ。クソ女の治療なんてこれっぽっちも嬉しくねェっつーの。」

「はぁあああ!?どういう意味だコラァア!!犬、テメェはどうせ鉄クズを暴走させてそんな怪我したんだろ!?だったら自業自得だろうがよ!」

「それは違うよ、神城さん。狗上君は、バイクに轢かれそうになった子猫を助けて撥ねられたんだよ!」

「…なんだと?」

「…チッ。余計な事言ってんじゃねえよ猫女。」

「だって…狗上君の事、誤解されたままじゃ嫌だし。」

「はぁ?」

「これは自論なんだけどさ、私、猫好きに悪い人はいないと思うの。」

「…何言ってやがんだテメェは。調子狂うな。」

全くだよ。コイツがいい奴?フン、あり得ねえな。

 

 

ー2時間目ー

 

フン、2時間目が始まったか。

だが、神である私は、授業を受ける必要は無い。

故に、授業の開始時刻など私にとってはどうでもいい事なのだ。

フン、当たり前過ぎてわざわざ言う程の事でもなかろう。

「とりゃーーーーーーーーーっ!!!」

この耳障りなクソうるさい声は…

「スーパー美少女天使あーちゃん参☆上!!クレねえ!!今日もあーちゃんのビボーを拝めてよかったな!!」

「はぁあああ!?テメェ、神に向かってなんて口利いてんだこの野郎!!絞り殺すぞゴルァ!!」

「うっわー!クレねえこわーい!そんなに怒ると、顔面シワクチャのドブスになるぞ!」

「うるせェ!!テメェ、よくも神である私を愚弄したな!?そのクソゴミツインテールで首絞めんぞ!!」

「なんだとう!!?あーちゃんの、サラワクチャンバー並みにエモいキューティクルを持つビューティフルヘアーをそんな使い方したら全人類が爆発するぞ!!」

「うっせェんだよクソブス!!バカのクセに調子乗ってんじゃねえぞクソブスまな板ツルロリが!!」

「あーちゃんバカぢゃねーし!そうだ、ジュギョーだるいからちょっとだけここにかくまって!」

「貴様、何様のつもりだ!!150枚くらいにオロすぞコラァ!!」

「うーん、やっぱりホケンシツのベッドは寝心地がいいねー。」

「聞いてんのかオイ!!」

 

キーンコーンカーンコーン

 

あ?

鐘が鳴ったな。

2時間目が終わったのか。

「おい、クソガキ!どこにいる!!」

なんだ?廊下からモブの声が聞こえてきてんな。

ったく、うるっせェなあの野郎!!

「おいコラ何騒いでやがる!!うるっせェんだよゴミめが!!」

「うおっ、神城!丁度よかった。あのさ、アリス見てない?」

「はぁああああああああ!!?テメェ、愚民の分際で神に向かってなんて口利いてんだゴルァア!!シバくぞテメェ!!」

「えぇ…俺は、アリスを見てないかって聞いただけなんだけど…」

「あぁ!?ガキなら、ここで寝てるが、それがどうしたんだよ!!頭が高けェんだよテメェ!!潰すぞ!!」

「なんだ、いるんじゃないか。いるならいるって言ってくれよ。…ちょっと中入るぞ。」

「はぁ!?おいテメェ何勝手に入ってんだ!!死にてェのか!!」

「あ、いた。…おいコラクソガキ!探したぞ!」

「ふにゃあっ!!?サトにい、なんでここにいるの!?もしかして、夜這い!?キャー!サトにいのエッチー!!」

「なんで夜這いなんて言葉知ってんだよ!ったく、授業サボりやがって…教室戻るぞ!!」

「ふにゃあああぁあああ!やめてー!!あーちゃんはもっとお布団でぬくぬくしたいのー!サトにいのユーカイハン!ロリコン!ヘンタイ!ハンザイシャヨビグン!!」

「ふははははははははは!!!クソガキめ、神を冒涜するからそうなるのだ!!天罰だよ天罰!!」

「おい、神城。お前も教室に戻れよ。いくら成績良いからってさ、さすがにオールサボりは良くないんじゃないか?」

「うるせェなクソモブが!!さっさと散れ!!」

「…わかったよ。」

ふははははははは!!やったぞ!!『超高校級の弁護士』に論破で勝ったぞ!!

やはり、神である私は全知全能なのだ!!

 

 

ー昼休みー

 

フン。飯時か。

さあて、ランチタイムにしようではないか。

神と言えど、やはり食事は欠かせないのだ。

…今日は薬の調合で頭使ったから腹減ったな。

「痛てて…」

「カッちゃん、大丈夫?」

ん?なんだ?

外に誰かいるのか?

…ったく、こっちは飯食ってるってのに…

ちったァ空気読めよクソが!!

「ねえ、神城っちいる?」

来たのは、サッカーとスイーツだった。

「テメェの目は節穴か!!いるかどうか、見てわかんねェのかよ、グズが!!あと、私は今優雅にランチタイムを満喫してたとこなんだよ!!神の大事な儀式を邪魔した事を、その身を以って贖え!!わかったかクソブス!!ゴミ!!カス!!チビ!!貧乳!!淫乱ピンク!!クサレ●●●!!」

「神城っち、罵倒のオンパレード披露してる場合じゃないんだよ!カッちゃんが、腕を怪我しちゃったの!早く治してあげて!」

「うるせェ!!テメェらの都合なんて知った事か!!私は今、ランチタイムで忙しいんだよ!!適当にツバでもつけとけ!馬鹿ならそれで治る!」

「相当機嫌が悪いみたいだな…おい、近藤。もういいよ。神城が飯を食い終わる頃にまた来よう。」

「ダメだよ!その間に悪化したらどうすんの!?」

「でも、神城は治療する気無いみたいだし…」

「ウチがなんとか説得するよ!」

「ゴチャゴチャうるせェんだよゴミ共!!飯の邪魔だから早く散れ!!」

「ひどいよ、神城っち…!神様みたいに寛大な神城っちなら、カッちゃんの治療をしてくれると思ってたのに…!そんなに簡単に見捨てるなんて、神城っちはもう神様じゃないよ…!」

「はぁああああああああ!!?テメェ、神に向かってなんだその態度は!!私が冷たいとでも言いてェのか!!?ざけんなクズが!!どけ、私が神故に寛大だって所を見せてやるよ!!おいサッカー!怪我したっつー箇所を見せろ!!」

「お、おう…」

「完全にキレた。こうなったら、私を崇め奉らなきゃ生きていけないくらい徹底的に手を施してやる!!」

「ありがとう神城っち!神城っちは、やっぱり神様みたいに優しいね!」

「どういう風の吹き回しかはわかんねえけど…ありがとな、神城。」

「フン、本来なら、神が食事中だってのに治療しろって言う事自体が、万死に値する大罪なのだがな!私は神のように広い心を持った…っていうか神だからな!来る者は拒まん!ほらほら、神の治療を受けられているんだから、感激の涙を流してもいいんだぞ!!神であるこの私に、跪け!!媚びろ!!崇拝しろ!!ふはははははははははははははははははは!!!」

「お、すげェ…たったこれだけで、ほとんど治っちまった…!」

「え、嘘でしょ!?ホントだ、治ってる…!」

「ふははははははは!!どうだ見たか!これが神の治療だ!だがまあ貴様ら愚民は神の業を理解する事すら出来ないのも無理はない!…おっと、大事な事を言うのを忘れるところだった。それ、完全に治ったわけじゃねえから、明日まではそのままにしておけよ。できれば激しい運動とかはすんじゃねえぞ。」

「ああ、ありがとな、神城。」

「フンッ!別に気が向いたからやっただけで、貴様のためにやったわけじゃねえんだからな!ほら、もう用は済んだだろ!とっとと散れ、ゴミクズ共!!」

 

チッ。

私とした事が、愚民のペースに乗せられてしまった。

おかげですっかり飯が冷めちまった。

…後で慰謝料を請求してやる。

ん?また誰か来たな。

「よいしょっと。着いたぞ。床前。」

「はい…ありがとうございます菊池さん。」

クソモブが、地味を背負って来やがった。

「なんだゴミ共!神域に一体何の用だ!!」

「なあ、神城。床前が、足を怪我しちまったみたいなんだよ。診てくれねえか?」

「フン、生憎今私はすこぶる機嫌が悪い。治療する気は無えから、日を改めるんだな!」

「そんな、足がものすごく痛いんです…お願いします、助けてください神城さん…!」

地味は、泣きながら訴えてきた。

「な、なんだよ…なんでそこで泣くんだよ!私が悪者みてェじゃねえかよ!なんだ?同情を買おうって作戦か!?泣き落とそうたって、そうはいかねえぞ!」

「そんな、私…そんな事、思ってないです…本当に、足が痛いんです…!」

「ほら、床前もこう言ってるし、診てやれよ。」

「ひぃ…!や、やめろよぉ…!貴様ら、寄ってたかって私を責めやがって…気色悪りいんだよテメェら!わ、わかったよぉ…診ればいいんだろ診れば!」

「あ、ありがとうございます…神城さん…!」

「ありがとう神城!」

「フン、おい地味!神の治療を受けられるんだから、もっとありがたがれ!!この私を崇め奉り、首を垂れろ!!靴を舐めろ!!この私の前に跪けェ!!」

地味に、治療を施してやった。

「すごい…ありがとうございます神城さん!」

「フン、もうしばらくすれば痛みは無くなるだろう。それまでは安静にしてろ。」

「はい…えっと、あの…」

「なんだ。」

「その…完治するまでは、ここにいていいですか?」

「はぁあああ!?なんだテメェ!!この神域に居座ろうってのか!?図々しいんだよテメェ!!」

「そんな…私、まだ歩けないのに…!」

「おい、神城。さすがにそれは床前がかわいそうだろ。ここに居させてやれよ。」

「うっ…わ、わかったよぉ!一番手前のベッドが空いてるから、そこ使え!」

「ありがとうございます…!」

チッ、私とした事が、また愚民の言う事を聞いちまった。

本来、愚民が私の奴隷になるべきなのに!

「床前、大丈夫か?」

「はい、神城さんに治療していただいたので、少し痛みが和らぎました。…あの、菊池さん。」

「なんだ?」

「あの…もう少しここにいてくれませんか?私、不安で…」

「あ、ごめんな。俺、今日は用事があるから。」

「えっ…」

「俺の代わりに看病してくれる奴を呼んでくるから。じゃあな。」

「あ、待ってください…!」

プッ、地味の奴、フラれてやんのwww

ざまあみろ!

クソモブが保健室を出た直後、キモヲタが保健室に入ってきた。

「ムフフ、ここに床前氏が?」

「そうだけど…お前、ちゃんと看病しろよ。どさくさに紛れて床前に変な事したりすんなよ。」

「そんな外道な事しませんとも!任せてくだされ!」

「…そうか。じゃあ、俺はもう行くから。」

「神城氏、少々神域にお邪魔しますぞ。今日もプラチナブロンドの毛髪が神々しいですな。」

「ふははははははは!そんなの当たり前だろう!私は神だからな!だが、貴様の私を崇拝しようという態度は気に入ったぞ!特別に、貴様には一番手前のベッドを好きに使う権利をやろう!」

「真でありますか!?一番手前…お邪魔しますぞ!って、床前氏!」

「チッ)織田さん…!」

おい、今舌打ちが聞こえたぞ。

「ムフフ、床前氏。何かお困りではありませぬか?」

「別に、何も困ってませんけど。」

「そうだ、最近暖かい日が多いですし…着替えを手伝って差し上げますぞ!グフフ…」

「治りました。」

「えっ?」

「治りました。もう大丈夫です。神城さん、ベッドをお借りしました。ありがとうございます。」

「そ、そんな…!」

え、いやいや。冗談だろ…?

さっき診た時は、骨にヒビ入ってたぞ?

さすがの私でも、こんな短時間で治すなんて無理だぞ。

コイツ、キモヲタが嫌すぎて無理して治ったフリしてんのか。

そこまで嫌われるキモヲタって一体…w

 

 

ー放課後ー

 

あー、ダルい。

今日は患者が多かったからな。

神にも休息は必要なのだ。少し休ませろ。

 

コンコン

 

ん?

外に誰かいるのか?

ったく…誰だよ。

「誰だ!面見せろコラァ!!ビビってんのかゴミクズがぁ!!」

「…失礼します。」

なんだ、メガネか。

「よおメガネ、我が神域に一体何の用だ!?大した用じゃなかったら顔面を雑巾みてぇに絞るぞコラァ!!」

「こちらに置いてある医薬品を取りに来たのです。仕事で必要になったので。」

「はっはっは!ホントにつまらん用事だな!!取ったらさっさと失せろ!!目障りだ!!」

「…あの、ところで神城様。お言葉ですが、普段から授業に顔を出していらっしゃいませんよね?」

「当たり前だろ!!私は神だからな!!授業なんて受ける必要無えんだよ!愚民共のための授業なんて聞いてたら耳が腐るわ!!」

「本人に必要なくとも、世の中には不文律と云う物がございます。授業に参加するという事は、学生としての常識です。貴女も、この学園に通っている以上は、学園の秩序を乱さぬよう努めてください。」

「うるせェ!!愚民の分際で神に命令してんじゃねえ!!」

「これは命令ではありません。忠告です。今の忠告を聞き入れるか否かは、貴女の判断にお任せします。」

メガネは、そう言いながら私を睨んできた。

「ひぐぅうう…!なんだよぉ、神に向かって、なんだその目はぁ…!わ、わかったよぉ…!顔を出せばいいんだろ!」

「貴女が賢明な方で安心しました。では、私はこれにて失礼させて戴きます。…それと、部屋に入る相手に怒鳴り散らすのは失礼です。態度を改めてください。」

ひぃいい…なんなんだよぉ、どいつもこいつも、神に向かって無礼な態度を取りすぎだろぉ…!

わ、私を本気で怒らせたら怖いんだからな!?

せいぜい、神の天罰に震えて眠れ!

 

 

ー翌日ー

 

…昨日はえらい目に遭った。

なんでどいつもこいつもあんなに頭が高いの!?

私、神だよ!?あり得なくない!?

「失礼するっス。」

この声は…騒音か。

「…ゲホッゲホッ。」

「なんだテメェ!!風邪引いてんのか!?それとも、変なウイルスか!?うわきったね!!こっち来んな!!」

「いや、ここ保健室っスよね?なんで来ちゃダメなんスか?…ちょっと体調が優れないので、休ませてもらいに来たっス。」

「そうかよ!」

「あれ?神城先輩、何作ってるんスか?」

「ん?ああこれか。あらゆる病気に効く特効薬だよ!ついさっき完成したんだ。」

「へぇ…それを世に出したら、神城先輩は英雄じゃないっスか。」

「英雄!?ハッ、そんなチンケなモンじゃねえな!!私は全知全能の神なんだぞ!?これくらいできて当然だろう!ふははははははははははは!!!」

「そうっスね…」

「そうだ騒音。貴様は、私の大発明を最初に目撃した。その功績を称え、貴様に私から褒美をやろう!」

「え、功績って…大げさっスよ。でも、何か貰えるのはありがたいっスね。」

「だろう!?貴様は、特別にこのクレハピレンCの臨床試験の実験体第一号にしてやろう!」

「…え?」

「実はな、この薬、まだネズミに試した段階で、人にはまだ試してないんだ。だから、人にはどう効くのかデータが欲しくてな。あ、ちなみにネズミに薬を投与したら、元気になりすぎてガチムキになったぞ。ほら。」

「ヒッ…え、遠慮しておくっス。さすがに、ガチムキは御免っスよ。」

チッ、ビビりやがって。根性無しが。

 

 

ー昼休みー

 

「じゃあ、先輩。自分はもう回復したんで、教室に戻るっス。」

「そうかよ!だったらさっさと散れ!二度と来んなバーカ!!」

チッ…最近ストレスが溜まりに溜まりまくってんな。あークッソ!

「すみませーん!神城さんはいらっしゃいますかー?」

この声は、帽子か。

「何の用だ!!つまらん用事だったらハリ倒すぞゴミクズがァ!!」

「失礼します。」

帽子とペテンが入ってきた。

「…あの、森万さんの体調が優れないそうなので、ベッドを一台お借りしても宜しいですか?」

「お、おい…カークランド。俺は何もそこまでしろとは言ってないんだが…」

「何言ってるんですか!本調子じゃないんですよね?きっと、体調が悪いんですよ。前から、一度病院でちゃんと診て頂いた方が良いと思っていましたよ!」

「いや、あれは、お前が無茶な事を言うからで…」

「何が無茶なのでしょうか?森万さんは、今世紀最大の超能力者なんですよね?力が発揮出来ないのも、きっと何か要因がある筈です。…そうだ、丁度神城さんがいますし、神城さんに診て頂きましょう!」

「はぁ!?」

「神城さん、森万さんの調子が悪いそうなので、診て頂けませんか?」

「か、カカカカカークランド君…?誰も、そこまでしろとは言ってないだろ…?」

なんなんだコイツら。

こっちは貴様らの5億倍忙しいってのに、目の前でマイナス273点の漫才披露しやがって。

しかもなんだ、超能力を復活させる治療をしてほしいって。

超能力なんて、最初からこのペテン野郎が持ってるわけ無えだろうが。

凡愚しかいないヒト科の中でも、帽子は私のレベルに少し近い存在だと思っていたんだが…まさかここまでバカとは。

やはり、過大評価だったようだな。

目障りだから早く消えてもらうしか…

「神城さん、お願いします!治療費が必要なら、いくらでも資金援助します!」

帽子は、トランクケースを私に差し出してきた。

中身を確認すると、中に金が入っていた。

平均的な愚民が一生かけて稼げるかどうかくらいの大金だ。

ま、こんなの私にとってははした金なんだがな。

「…なるほどな。私に貢ぎ物を持ってくるとは、いい心がけだ。今日は機嫌が良い。特別にこの私が診てやろう。」

「ありがとうございます!」

「どれ。早速診てやるか。…そうだな。頭の調子が悪いんじゃないか?」

要するに、頭おかしいから精神科行けって事だ。

生憎、このテのバカは私じゃ治せん。

…と丸投げしたいところだが、金は貰っちまったしな。

適当にアドバイスしとくか。

「成程、頭ですか!」

「だが、これを治療するのはかなり難しいな。治療計画を今考えるから、ちょっと待ってろ。」

「ありがとうございます!良かったですね、森万さん!」

「あ、ああ…」

生憎、全治全能の神である私でも、バカを治すオペも特効薬も発見できてねえんだよな。

…バカを治す医療技術か。これは、新しい課題だな。

神に不可能などあるはずがない。必ず治療法を見つけてやる。

 

 

ー放課後ー

 

クッソ、思ったより遠い道のりだな…

そもそも、バカをどう定義するのかから始めないとな。

「おい、黒羽!!黒羽はいるか!?」

なんだ、この声はウドか。

チッ、うるせェな。

「おいどうしたウドテメェコラクソがァ!!」

「大変なんだ、祐美が外で倒れて…意識が無えんだ!」

「んだと?おい、無口の奴頭怪我してんじゃねえか。なんでそのまま連れてきたんだよ!このヴァカが!!せめて止血してから来いよ!!」

「悪い…」

「チッ、まあいい。診せろ!!」

ったく、何もせずに連れてくるとか、バカとしか言いようが無えな!!

とりあえず、手当てはしとくか。

「…はい。治したぞ。」

「すげえな…ありがとう黒羽!」

「当然だ。私は神だからな。」

 

「…ん。」

「お、祐美!目が覚めたか!!」

「…郷間。」

「…もしかして、あんたがここまで運んできてくれたの?」

「おうよ!!」

「…ありがとう。」

「気にすんなって!ケガで倒れた妹を助けてやるのは、兄貴として当然だろ!?」

「射場山!…良かった、目が覚めたか。」

「菊池…」

「郷間、お前が射場山を運んできたのか?」

「ああ、俺はガキの頃から材木運んだりとかしてたからな。力仕事は任せとけ!」

「ハッ、目ェ覚めたかよ無口!!」

「…神城。あんたが私の手当てをしてくれたの?」

「如何にも!!頭が高いぞ貴様!!神である私が、愚民の貴様を治してやったのだ!!この私に感謝し、そして崇めろ!!ふははははははは!!!」

「…ありがと。」

「フン!!足らんぞ!!もっとだ!!」

「地面に額擦り付けて私を崇拝するんだよこの愚図が!!」

「おい、黒羽。そんな事したら悪化するだろ。」

「黙れウド!!気安く私の名を口にしてんじゃねえ!!十戒の3つ目を知らねェのか!!神の名をみだりに口にするなっつってんだよヴァカが!!」

「…神城、治してくれてありがと。…私、もう回復したしそろそろ帰る。」

「待てよ。」

「…何?」

「テメェ、身体が本調子じゃねえんだろ?」

「…なんの事?」

「とぼけんな。神の前で嘘をつき通せると思ってんじゃねえ。お前、目が片方見えてねえのに無理してんじゃねえよ。ここ最近毎日練習ばっかりで、疲れてんだろ?ボールが飛んできたっつってたけど、普段のお前なら十分避けられたはずなんだよ。」

「…あんたには関係ないでしょ。」

「うるせェ。私は、神である以前に医者だ。私には、患者が回復するまで命を預かる責任と義務があんだよ。わかったら今日は安静にしてろ。来週のテスト範囲なら、私が教えてやる。」

「…あんた、いい事言うのね。」

「私は常に良い事しか言わねえよ!!いいから寝とけ愚民が!!」

「なあ、神城。タオル持ってきたぞ。」

「おいモブ!!テメェ誰に向かってそんな口聞いてんだテメェコラ!!様をつけろ様を!!この短小童貞野郎が!!」

「痛ってェ!!」

ったく、どいつもこいつも神に向かって馴れ馴れしすぎんだろ。

…まあ、そんな愚民を助けてやるのが神の役目なんだがな。



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番外編⑯ 日常編

すいません。本編書くの楽しすぎてこっち出すの忘れてました。


アタシの名前は伏木野エカイラ。

『超高校級の死神』よ。

アタシの事は、気兼ねなくエカイラちゃんって呼んでね!

あ、死神っていうのはあくまでそう呼ばれてるだけね。

ホントは、ただの殺人鬼なんだケド。

…ちょっと。誰よ今アタシの事をオカマっつったの。

アタシはオカマじゃなくてオ・ネ・エ!!

何度も言わせないでちょうだい!!

…はぁ。

え?今アタシが何をしてるのかって?

うふふ、知りたぁい?

今はね、合宿の思い出作りのために、写真を撮ってるとこ!

なんでそんな事してるのかって?

…だって、このセカイはもうすぐ絶望で染まっちゃうんだもの。

せめて、最期の思い出くらいとっておきたいじゃナイ?

おっと、早速誰か来たわね。

 

「おい、エカイラ。そこで何やってんだ?」

「エカイラちゃんさん!」

「フッ。」

あら。ジェイムズちゃんに、ツラノリちゃん。…と、サトシちゃん?

珍しい組み合わせね。

「うふふ、ちょっと思い出作りに写真でも撮ろうと思ってね。せっかく合宿に来たんだもの、どうせなら思い出を形にしてとっておきたいじゃない?」

「成程、良いアイデアですね!」

「フッ。貴様がそんな事を考えていたとは…正直、少し意外だったぞ。」

「アラ。アタシだって、人並みの事を考える事もあるのよ。」

「そう、なのかなぁ。」

「アラ。サトシちゃん。何その目は。アタシの事を、珍獣を見るような目で見ないでちょうだい!」

「合宿初日でいきなり男を掘ったり追いかけ回したりする奴のどこが珍獣じゃないっていうんだ!!」

「ひどーい!あれは、アタシなりのスキンシップだったのに!」

「そんな怖いスキンシップあってたまるか!!」

「んもー!サトシちゃんのバッカァ!」

「気色悪いな。俺達は一体何を見せられているんだ。」

「さ、さぁ…」

「ちょっと!ジェイムズちゃん、ツラノリちゃん!アンタ達まで、汚物を見るような目で見ないで!!」

「いえ、汚物を見るような、というよりは…性別と年齢を弁えていらっしゃらない方を見ているような気分ですね。」

「ちょっとぉ!ジェイムズちゃん!それ、どういう意味!?てか、何そのムカつく遠回しな言い方!!ブリティッシュジョーク!?アンタ達、アタシの事をなんだと思ってるのよ!」

「…貴様は写真を撮りに来たんじゃなかったのか?何をこんなところで騒いでいるんだ。」

「あ、そうだったわね。…んー、でも、ただ写真を撮るだけだと何か物足りないし、みんなでお出かけでもしましょうよ!」

「お出かけっつっても、行動範囲はこの島しか無いけどな。」

「いいじゃない!ホラ、行きましょ!」

 

 

ー売店ー

 

「今日は、アタシが欲しい物を買ってあげるわ。何が欲しい?」

「そうだな…俺は…」

「皆さん、これ見てください!」

「ん?どうしたカークランド…ブフォッ!」

「おい、お前ら一体何やって…プッ!プクク…」

「んもう、アンタ達どうしたの…って、ジェイムズちゃん、アンタそれwww」

ジェイムズちゃんは、変なカツラとメガネをつけていたわ。

この子、せっかくかわいいのに、なんでこんなイロモノが好きなのかしら。

ホント、人の趣味って意外とわからないものね。

「うん、いいんじゃない?ジェイムズちゃんはそれが欲しいの?」

「いえ…私は、これが欲しいです。」

ジェイムズちゃんは、木刀を持っていたわ。

「え、アンタ、それ買うの?」

「はい!」

「…おい、カークランド。そういうのはな、割とどこ行っても売ってるものなんだぞ。修学旅行で木刀買って後悔するって、よくあるパターンだからな?やめておけ。」

「ツラノリちゃん、アンタも人の事言えないわよ。その、どっかで見た事あるような厨二…カッコいいネックレス、多分帰ってきてからでも買えるわよ?」

「うっ…」

全く、どいつもこいつもお土産選びのセンスが壊滅的ね。

なんでみんなマシなお土産を選べないのかしら。

 

 

ー教会ー

 

「この教会、木造建築で、日がよく当たっていていいですよね!」

「フッ、貴様はここが好きなのか?」

「はい、大好きです。」

「確かに、窓から風が吹いて気持ちいいわねぇ。」

「そうですよね?私も、日曜日はここに来るようにしてるんですよ。」

そういえば、ジェイムズちゃんってクリスチャンだっけ。意外ね。

…まあ、ツラノリちゃんの事を師匠って呼んでるくらいだしね。

案外、そういうの信じやすいタイプの子なのかしら。

「さてと、そろそろ移動しようか。次はどこ行く?」

「そうねえ。海とかどう?」

「良いですね。」

「フッ、悪くないな。」

「…え゛?海…?」

「…サトシちゃん、何その嫌そうな顔。泳げないからって、露骨に嫌そうな顔しないでちょうだい。別に、競泳したりとかしないわよ。思い出作りのために、ちょっと歩くだけよ。」

「…ならいいんだが。」

この子、そういえば中学時代は全く泳げなかったって言ってたわね。

1年で恥ずかしくないくらいのレベルにまで漕ぎ着けた努力は評価するけど、やっぱりまだ泳ぐ事に対してはネガティブ思考なのね。

 

 

ー海岸ー

 

「ホント、今日は潮風が気持ちいいわねぇ。そう思わない?」

「私もそう思います。」

「フッ、悪くない眺めだ。」

「…。」

「サトシちゃん、顔真っ青よ?大丈夫?」

「…大丈夫だ。問題ない。」

ホントかしら?

どんだけ海が苦手なのよ。

「そうだ。せっかくだし、ここでみんなで写真を撮りましょうよ!」

「え、ここで?」

「アラ。嫌なの?サトシちゃん。」

「別に嫌ってわけじゃないが…」

「じゃあ決まりね!撮っちゃいましょ!」

「はい!」

「フンッ。」

「え、ちょっと待って…ちょっ、ジェイムズ!お前、風で髪がこっちに流れて邪魔…」

「はい、チーズ!」

 

カシャッ

 

「え、おい!撮ったのかよ!このタイミングで!?酷くねえか!?」

「いいじゃない!…アラ。サトシちゃん、アンタひどい顔ね!」

「本当ですね。」

「フンッ、お世辞にもいい顔とは言えんな。」

「エカイラ!お前が勝手に撮るからだろ!消せ!」

「あら。やですよーだ。」

「あ、おい!待てコラ!!」

この日は、サトシちゃんに追いかけられながら海岸沿いを走ったわ。

風が気持ちよかったわねえ。

たまにはこういうランニングも悪くないわね。

 

 

ー翌日ー

 

うーん、今日も天気がいいわね。

ホント、あと数日でこのセカイが終わるなんて信じられない♡

ま、セカイの終焉をこの目で見られなかったのは残念ダケド。

みんなでこの島でずーっと暮らすのも、アリよりのアリなのかしらん?

「よお、エカイラ!」

「アラ、ゴンゾウちゃん。今日も元気ねぇ。どうしたの?」

「なあ、この後夏美と理御と一緒に島を回るんだが…エカイラも一緒にどうだ?」

「アラ。アタシも誘ってくれるの?」

「だって、エカイラ、思い出づくりがしたいって言ってただろ?」

「アラ、知ってたのね。ありがとう。じゃ、ご一緒しちゃおうかしら!」

「おう!」

 

 

ーホテル前ー

 

「悪い、みんな待たせた。」

「もう、郷間っち遅いよ…って!なんで伏木野っちも一緒なの!?」

「チッ、おいデカブツ!誰がクソカマを連れてきていいって言った!?」

「ちょっとぉ!リオンちゃん!アタシはオカマじゃなくてオネエだっつってんでしょお!!」

「うるせェ!んな事どうでもいいんだよ!んな事より、下の名前で呼ぶのやめろっつってんだろうが!!」

「ちょっと、やめてよ2人とも!ケンカするために集まったわけじゃないでしょ!」

「そうだぞ。お前ら、兄弟喧嘩はやめて一旦落ち着け。」

「…チッ。」

「フンッ!」

ホンット、リオンちゃんって、怒りっぽくて話になんないわよね!

なんなのこの子!もう、アタシ嫌い!

 

 

ー港ー

 

港には、アタシ達が乗ってきたクルーザーの他に、小さなボートが停泊していたわ。

「アラ、可愛らしいボートねえ。1、2、3、4、5、6…これ、全員乗れるんじゃナイ?」

「そうだねえ。」

全員で、リオンちゃんの方を見たわ。

「…何だよ。」

「あーあ、どこかにこのボートを操縦できる人はいないかしらー!もしいたら、ちょっとこのボートに乗って潮風に当たりたいんだけどなー!」

「だよねだよねー!そういえば、ウチらの中に『超高校級の操縦士』の才能を持ってる人がいるはずだよねー?その人に操縦してもらえるとすっごく嬉しいんだけどなー!!」

「おう、そうだな!俺も、ソイツの才能には期待してるぜ!」

「チッ、あーうざってェな!!テメェら、揃いも揃って何がしてェんだ!!気色悪い!!聞いててイライラしかしねェから、そのムカツク喋り方を今すぐやめろ!!」

「アラ。ご不満?じゃあ、どうしたらいいのかしら?」

「…チッ、ああもう!漕げばいいんだろ漕げば!!」

「わーい!狗上っち太っ腹ー!」

「ウフフ、ありがとリオンちゃん。あ、写真撮りたいから、あんまり速くは漕がないでね?」

「うるせェ!!文句があんなら叩き落とすぞコラァ!!」

「キャー怖い!」

アタシ達は、リオンちゃんの操縦するボートに乗ったわ。

「まあ、風が気持ちいいわねぇ。」

「ホント、サイコー!!」

「ああ、帰ったら弟達にも乗せてやりてぇな!」

「クッソ…ふざけんな…なんで俺がこんな事を…」

「アラ。速度が落ちてるわよ。ちょうどいいスピードで漕いでちょうだい。」

「…ふざっけんな、絶対後で海に落としてやる…」

リオンちゃんがぶつくさ文句言っててうるさいわねえ。

ま、写真撮れたからいいわ。

アタシ達は、その後展望台に行ったわ。

 

 

ー展望台ー

 

「うわぁ…結構高いなぁ。」

「クソチビ、前見て登りやがれ。お前が手を滑らせて落ちでもしたら、俺達まで怪我すんだぞ。」

「ちょっとぉ…!狗上っち、なんで登ってる時に落ちるとか言うの!?」ホント怖いからやめて!」

「アラ。大丈夫よナツミちゃん。もし落っこちたら、アタシが受け止めてあげるわ。」

「…郷間っち、ウチの後ろに登ってくれない?もしウチが落ちそうになったら、支えてくれるかな?」

「おう、任せとけ!」

ちょっとぉ!

ナツミちゃん、それどういう事!?

アタシに助けてもらいたくなんかないって事ね!?酷いわ!!

「…ふぅ。なんとか登り終わったぁ。」

「大丈夫か?」

「うん、なんとかね。」

「チッ、塔登るだけでいちいちうるせェんだよクソチビが。」

「狗上っちは、なんでそういう意地悪な事ばっかり言うの?」

「…よいしょっと。こーら!みんな、ケンカしちゃダメでしょ!」

「うっせェ!!」

アラ酷い。

…と、これで全員登ったわね。

「ふぅ。やっぱり風が気持ちいいわねえ!ホント、絶景だわぁ!」

「そうかな…ウチは、高くて怖いんだけどな…」

「アラ。ナツミちゃん、高いの苦手なの?」

「うん、ちょっとね。」

「だったら、飛ばされないようにアタシが抱きしめててあげるわよぉ!」

「…遠慮しとくわ。」

「えぇ!?ひっどぉい!アタシ泣いちゃう!」

「キモッ」

「ちょっとぉ!リオンちゃん!?聞こえたわよ!?誰がキモいですって!?」

「お前だよお前!!お前以外いねえだろうがよ!このオカマゴリラが!!」

「言ったわねェエエエエ!!?このクサレDQNが!!」

「おい、いちいちケンカすんなって。エカイラ、お前は写真撮りに来たんだろ?」

「アラ、そうだったわね。じゃ、撮りましょっか。ほら、みんな入って!」

「ああ。」

「うん、これで良し。」

「…チッ。」

「じゃ、いくわよー?ハイ、チーズ!」

 

パシャッ

 

「撮れた?」

「ええ、バッチリよ。」

「ホント?見せて!」

「ハイ。」

「おお、これは絶景だな!」

「…カッタリィ。」

うん、撮れ具合は完璧ね!

さてと、思い出も作った事だし、今日はもうホテルに戻りましょうか。

 

 

ー翌日ー

 

うーん、昨日は楽しかったわぁ。

今日は誰と思い出作りをしましょうか?

アラ?あそこにいるのは…ユミちゃんとアヤカちゃんとシオンちゃんね!

女三人寄れば姦しいとはまさにこの事ね!

ちょっと突撃しちゃおーっと!

「みんな、何やってるのかーしらん?」

「伏木野君!」

「エカイラ先輩。」

「…。」

ユミちゃんは、アタシが来た事で明らかに引いてたわね。

「ちょっと、ユミちゃん!アタシが来たからって、なんなのその顔は!!」

「…別に。ただ、空気読めよって思っただけ。」

うわぁ!辛辣!結構刺さるわね!

「あはは、すごい言われようだね、伏木野君…」

「笑い事じゃないわよアヤカちゃん!来ただけで空気読めって言われるって…なんなの!?」

「そのまんまの意味よ。…あんたの場合、存在そのものが異端だから。」

うっわぁ!それ、もう何を直したらいいのかわかんないじゃない!ひどいわ!みんな、アタシの事そんな風に思ってたのね!

「まあまあ、射場山先輩…何も、そこまで言う事ないじゃないっスか。…あ、そうだ。自分達、この後島を回ろうと思ってるんスけど…先輩も一緒にどうっスか?」

「アラ、いいの?」

「はい、自分は、人数が増えるなら大歓迎っス!」

「確かに、普段そんなに伏木野君と話す機会無いもんね…うん、一緒に行こう!ね、いいでしょ射場山さん!」

「…え、ちょっと待って。私、ホントにコイツとの接し方がわからないんだけど…」

「んもう、ユミちゃんったら、かーわーいーいー!」

「…黙れ。」

うわぁ。こっわ。

なんでこの子、アタシには強く当たるのかしら?

 

 

ーハイキングコースー

 

「うーん、キツいなぁ…この道歩いてると、結構運動になるね。」

「そうっスね。結構キツいっス。」

「ふんふーんっと。」

「…。」

「え、ちょっと待って!?嘘でしょ!?射場山先輩も、エカイラ先輩も歩くの速くないっスか!?」

「…別に。これくらい余裕。」

まあ、アタシも、殺人鬼になるためにこれの千倍くらいキツい事を毎日やってたものね。

これくらい、近くのコンビニに行くくらい簡単だわ。

「なんか、楽しくなってきちゃった。ちょっと走っちゃおーっと。」

「あはは、やっぱ運動出来る人は違うねえ。ちょっと待ってよ2人とも!」

「ウフフ、早く来ないと置いてっちゃうわよぉー!」

「そんなぁ、ちょっと休ませてくださいよ!せんぱーい!!」

そんなこんなで、アヤカちゃんとシオンちゃんをいじめて遊んでたら、遺跡についたわ。

「アラ。ここの景色、結構ステキね。撮っときましょ。」

アタシは、遺跡周辺の写真を撮ったわ。

「…それにしても、いつ見ても不思議な場所よねぇ。」

「…ん。」

「はぁああ、疲れたぁ…」

「ひぃ、ひぃ…ホントに死ぬかと思ったっス…」

「んもう、最近の子は、これくらいで音を上げるんだから!もうちょっと体力つけなさい!」

「えぇええ!?ちょ、これ以上は死んじゃうっス!」

「あはは、伏木野君もなかなかスパルタだねぇ…」

「ウフフ、可愛い女の子をいじめるのは楽しいわね!」

「…。」

うわっ!

ユミちゃん、なにその目!

メッチャ怖いんだけど!

「…じょ、冗談よぉ。」

「…ん。」

…ビックリしたぁ。

何、今の。殺気?

殺人鬼のアタシもびっくりくりくり栗きんとんよ。

どっと冷や汗が湧き出たわ…

「…気持ち悪い事言ってないで、早く入りな。」

「は、ハイ…」

思わず敬語になっちゃったわ。

この子、殺人鬼でもないのに纏うオーラが怖すぎんのよ。

 

 

ー遺跡内部ー

 

「ホント、いつ見ても思うけど、どこもかしこも石ばっかりね。」

「遺跡って普通どこもそんな感じじゃないの?」

「自分も、そのイメージが強いっスけどね。」

そんな話をしてると、遺跡の一番奥の部屋にたどり着いたわ。

「…よいしょっと。この扉、ちょっと重いわね。」

石造りの扉を開けると、そこには誰の物かはわかんないけど、お墓があったわ。

「何これ…お墓?」

「そうみたいっスね。」

「すごい気になるわね…ちょっとだけなら触ってもバチは当たらないでしょ!」

「…やめな。」

「…ごめんなさい。」

アタシは、ユミちゃんに睨まれて、部屋をベタベタ触るのをやめたわ。

…この子、マジで怖いからあんまり逆らわない方が良さそうね。

「あれ?そういえば、エカイラ先輩、写真は撮らないんスか?」

「…まあね。こんなところで軽々しく写真を撮るなんて、それこそ死者への冒涜デショ。」

「うわぁ…なんか、伏木野君がまともな事言ってるのって、すごいレアだね…」

「何よ!アタシが普段からまともじゃない事しかしてないみたいな言い方しないでちょうだい!!」

「…アンタ、本業は殺人鬼でしょ?」

うっ…確かに、それは否定できないわ。

「じゃあ、ここじゃあんまり写真撮るっていうフンイキじゃないし…外出てみんなで写真撮りましょ?」

「それがいいっスね。」

「…ん。」

みんなで、遺跡の外の道で写真を撮ったわ。

こうして見ると、みんな可愛いわねえ。

ユミちゃんは今すぐ消せって言ってたけど…これは永久保存版よぉ!

 

 

ー翌日ー

 

昨日は楽しかったわぁ。

さーてと。

今日は特に用事とか無いし、たまにはスポーツセンターにでも行きましょうかねえ。

 

 

ースポーツセンターー

 

アラ。既に先客がいたわね。

あれは、カツトシちゃんと…ケンタロウちゃん?

珍しいわね。正直、すっごい意外だったわ。

「…おい、嘘だろ織田。この距離で届かねえのか…」

「う、うるさいであります玉木氏!!元々、吾輩はインドア派!!それなのに、無理矢理スポーツをさせようという発想自体が狂っているのですぞ!」

「いやいや、お前は動かなさすぎだ。たまにはこうやって運動した方が身体にいいんだぞ。」

「嫌でありますー!!吾輩は、運動などしなくてもピンピンしておりますぞ!!」

「カツトシちゃん、ケンタロウちゃん!」

「お、エカイラ!どうした?」

「いや、2人の姿が見えたから呼んでみただけよ。ねえ、何やってんの?2人とも。」

「ああ、これか。織田が普段あまりにも動かなさすぎるからさ。ちょっと運動不足を解消してやろうと思って。色んなスポーツやらせてたんだよ。今は、バスケだな。シュートの練習をさせてるところだ。」

「へえ、ケンタロウちゃんにスポーツ、ねぇ。ププッ…」

「エカイラ氏!!一体何が面白くて笑っているのでありますか!!吾輩の醜態を見て楽しんでいるのでありますか!?ひどいであります!!」

「いやいや、全然そんなつもりはないのよ。…ねえ、ちょっとアタシもやってみていいかしら?」

「おう、いいぞ。織田に手本を見せてやってくれ。」

「ウフフ、お安い御用よ!さあケンタロウちゃん!ちゃんと見ておきなさい!」

「待ってくだされ!吾輩のハードルを上げないでくだされ!」

「さーてと、カッコ悪い所は見せられないものね、ここはサクッと3ポイントシュートでもキメちゃいましょっか。そーれっ!」

アタシが投げたボールは、放物線を描きながらゴールリングの中に入っていったわ。

「おお、さすがエカイラだな。」

「ふふ、ありがと。さ、ケンタロウちゃんもやってごらんなさい。」

「はぁああああああああああああ!!?エカイラ氏!?何を言っているのでありますか!?今のを、吾輩がやれと!?無理に決まっているではありませぬか!!大体、エカイラ氏のような筋肉おばけと、吾輩のような貧弱な男子はそもそも運動能力のキャパシティが違うんでありますから、比べないでくだされ!!吾輩にはこんな化け物じみた芸当、100年修行してもできませぬぞ!!」

「100年修行する気もないくせによく言うわ。ホラ、文句ばっか言ってないでちゃちゃっと投げちゃいなさいよ。」

「だ・か・ら!!無理だと言っているではありませぬか!!吾輩をいじめて楽しいのでありますか!?」

「別にそんなつもりはないわよ。…あ、ねえケンタロウちゃん。もし1発で3ポイントシュート決めたら、可愛い女の子紹介してあげるわよ。」

「ふぁ!!?な、なんですと!?そ、その方は、どんな方なのでありますか!?」

「うーんっと、とにかく巨乳で超美人ちゃんね。料理が上手で、全然顔で判断しないタイプの子よ。漫画が大好きで、将来は漫画家と結婚するのが夢なんですって。ケンタロウちゃんのファンだって言ってたわよ。あの子、絶対ケンタロウちゃんの事気に入るだろうから、うまくいったら付き合えるかもよ?」

ま、今アタシが適当に考えた設定なんだケド。

「ほ、ホントでありますか!?」

「ま、アンタがシュート決めたらの話だけど。とりあえず、頑張れるだけ頑張ってみなさい。」

「うぉおおおおおおおお!!!なんか燃えてきましたぞ!!」

「…おい、エカイラ。お前、性格悪いな。」

「いいじゃナイ。何事も、きっかけが大事なのよ。ほら、ケンタロウちゃんが投げようとしてるわよ。」

「名前も知らぬ君…見ていてくだされ!これが、吾輩の勇姿ですぞ!!やぁあーーーーーっ!!」

 

ボンッ

 

ケンタロウちゃんの投げた球は、思いっきり横の壁にぶつかったわ。

そして…

 

ゴシャンヌ

 

「ぐほぁっ!!」

 

思いっきりボールが顔にぶつかって、ケンタロウちゃんは落としたミカンみたいな顔になったわ。

アラ、シャッターチャンス!

今のうちに、撮れるだけ撮っちゃいましょ!

 

パシャパシャパシャパシャ

 

「…も、もう…スポーツも恋もこりごりでありま…す…」

あーあ、完全に灰になっちゃったわね。

アタシは十分楽しませてもらったし、この子達の写真はこれくらいで十分かしらね?

そろそろ明日の準備しましょーっと。

 

 

ー翌日ー

 

うーん、今日もいい天気ねェ。

今日はどこ行こうかしら?

…あ、そうだ。

クレハちゃんのところにでも行ってあげましょっと。

あの子、この前新薬ができたとか言ってはしゃいでたもんね。

 

 

ー診療所ー

 

「やっほー、クレハちゃんいるぅ?」

「あぁ!?なんだ、貴様かオカマ!!」

「んもうっ!クレハちゃん!アタシはオカマじゃなくてオネエだっつってんでしょ!?」

「ハッ、どうでも良すぎて鼻毛燃えるわ!で!?一体何の用だ!?」

「アンタ、この前新薬ができたって言ってたでしょ?どんな感じかちょっと見たくってね。」

「なんだ貴様!!私の神の発明に興味があるのか!まあ、それは当然なんだがな!今日、私はすこぶる機嫌がいい!特別に、貴様に私の神の発明品を見せてやろう!!見ろ!これこそ、バカを治す薬、クレハノールFだ!!」

バカを治す薬って…これはまたすごい発明したわね。

「はっはっは!どうだ、すごいだろう!?なぜこんな素晴らしい発明ができるのかって!?それは、私が神だからだ!!はーっはっはっはははははははははははははは!!!」

はいはい、すごいすごい。

凡人には到底成し遂げられない、偉大な発明ですこと。

 

「…ふわぁ。」

 

あら。リタちゃんが来たわね。

なんか、すっごい眠そうじゃナイ?…あ、眠そうなのはいつもの事か。

どうしたのかしらん?

「おい居眠り!!貴様、神域に無断で立ち入りおって…何の用だ!!この鼻垂れ貧乳乳首レーズンガバガバ●●●女が!!」

クレハちゃん、アンタ口悪すぎよ。もうそれ放送禁止用語だから。

さすがのアタシでも引くわよ。

「…くぅ。」

あら、寝ちゃった。

「はぁああああああ!!?おい、テメェ何勝手に寝てんだコラァ!!乳首捻り切んぞクソビッチが!!」

ビッチはむしろアンタでしょ。てか乳首って単語好きねこの子。

「…すぅ。」

グイッ

「のわぁあっ!!?」

「アラ。」

リタちゃんは、クレハちゃんの腕を引っ張って、抱き枕にしちゃったわ。

「むにゃ…」

「オイ!!何してんだテメェ!!離せコラァ!!神を冒涜した罪で、天罰が下るぞ!!っていうか下すぞ!!」

「…。」

「オイ、クソカマ!!テメェもそこで突っ立ってないで、早く私を助けろ!!」

キャー!

なんて可愛いのかしら!

女の子同士のベッドシーンなんて…これだけでご飯100杯はイケちゃうわね!

こんなエモい展開、撮らずにいられるもんですか!

激写!激写よぉ!

 

パシャパシャパシャパシャ

 

 

 

ー談話室ー

 

あー、いい物撮れたわ。

アラ。あそこにいるのは、フブキちゃんとタカヒロちゃん。

…と、隣のクラスの子達ね。

「速瀬ちゃん、キミやっぱ仕事早いね。尊敬しちゃうなー。」

「いえ、私等まだまだです。もっと、皆様のお役に立てる様、努力しなければ。」

「うーん、痺れるねェ。ボク、キミのそういう所、カッコ良くて好きだよ。」

「ありがとうございます。」

「じゃあ、ボクお茶淹れてくるね。」

わかるわぁー、タカヒロちゃん!フブキちゃんって、ホントにクールでカッコいいわよね!

アタシも、ビリビリきちゃった。

「…何か御用ですか?伏木野様。」

「アラ。気づいてたのね。いや、実はね。今思い出作りのために、クラスのみんなの写真を集めてるとこなの!フブキちゃんも、写真に写ってくれないかしら?」

「私は構いませんが…」

「ホント!?ありがと!」

「写真の撮影用に服装を整えて参りますので、少々お時間を戴いても宜しいでしょうか?」

「あ、そのままでいいわよ。アタシ、出来るだけ自然体で撮りたい主義なのよ。」

「左様ですか。では、具体的にどの様なポーズが良いか等のご希望はございますか?」

「普通に、そのまま仕事しててよ。そこ撮るから。」

「畏まりました。」

そこへ、ちょうどタカヒロちゃんが戻ってきたわ。

「速瀬ちゃん!お待たせ。はいお茶。」

「ありがとうございます、嫌嶋様。」

お、いい構図じゃない。

今よ!

 

パシャッ

 

アラ、いい写真。

ウフフ、みんな食べちゃいたいくらい可愛いわねえ。

「え、ちょっと!エカイラクン、今ボクの事も撮ったでしょ!?」

「撮ったわよ〜♬それが何か?」

「何か、じゃないよ!不意打ちなんて卑怯だぞ!恥ずかしいから消して!」

「嫌ですよーだ。」

ウッフフ、恥ずかしがるタカヒロちゃんもカワイイわねえ。

さーてと、タカヒロちゃんのカワイイ写真も撮れた事だし、次はどこ行こうかしらん?

 

 

ー美術館ー

 

うーん、この絵、何度見ても飽きないわねえ。

ホント綺麗だわ。

でも、ただ絵を見てるだけだと暇だし、誰かいないか探してみようかしらん?

 

ドンッ

 

「きゃっ!ちょっと、誰よぉ!いったいわねえ!!どこに目ェつけてんのよ!」

「それはこちらの台詞ですよエカイラさん。ちゃんと前を見て歩いてください。」

下を見ると、ナギサちゃんが立ってたわ。

「アラ、アンタいたのね。」

「後から来たくせに、随分と態度が大きいですね。」

「…アンタ、ホント生意気ね。」

「…まあいいです。私は、今鑑賞中なので、邪魔しないでくれませんか?」

「鑑賞って…絵?」

「絵もいいですが…もっといい物です。」

ナギサちゃんの視線の先には…

 

「サトにい!!見てこの絵!!めっちゃばっちくない!?」

「偉大な画家の作品に対してなんて事言ってんだお前。」

「まるでウンコ踏ん付けたみたい!にゃははは!!きったねー!!」

「うるさい。美術館の中では静かにしろ。」

「なんだと!?サトにいは、あーちゃんのビセーを聴きたくないってのか!?」

「全くもってその通りだ。頼む、恥ずかしいから静かにしてくれ。」

「なんだとー!?サトにいのヴァーカ!!このクサレ銀杏が!!」

 

…あれは、あーちゃんとサトシちゃんね。

ホント、仲良さそうで羨ましいわ。

「ハァハァ、えへへへ…論さぁん…今日も素敵ですぅ…あなたの黒髪と銀の瞳の美しいコントラストが、最っ高に私の胸を躍らせてくれますぅ…ああもう、アリスさん!そこどいてください!論さんの美しい腰回りが見えないじゃないですか!」

気持ち悪っ。

なにこの子。興奮のせいで鼻からありえない量の血流してるし…

アタシでも引くレベルでヤバいんですけど。

もう、『超高校級の幸運』じゃなくて『超高校級の変態』って名乗った方がいいんじゃナイ?

っていうか、もう通報しちゃおうかしら?

その方が絶対世のためよね…

あ、そうだ。いい事思い付いたわ。

 

パシャッ

 

ストーカーの証拠確保っと。

これでいつでも突き出せるわね。

 

あー、ホント、楽しい数日間だったわねえ。

()()に、クラスのみんなと仲良くなれてよかったわ。




よく番外編で神城ちゃんを抱き枕にするちゃんリタ(これで3回目)ですが、神城ちゃんがよく狙われるのは、一番抱き心地が良いからです。
ちなみにちゃんリタ曰く、抱き心地が良い順はこんな感じだそうです。
神城>床前>近藤>小川>射場山>猫西>速瀬>菊池>森万>ジェイムズ>玉木>エカイラ>狗上>郷間>アリス
やっぱり、女の子が上位に来てますね。
森万君以降の男共はデカくてゴツいので、あまり抱きたくないそうです。
あーちゃんはとにかく寝相が悪いので、とにかく抱き枕には不向きだそうです。
ちなみに、織田君はそもそもキモいという理由で抱かれないのでランク外です。


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番外編⑰ 船旅編

これが最後の番外編です!
気合入れて書くぞオルァアアー!!(謎の雄叫び)


あぁ?何見てんだテメェ。

ウザってェな。

あ?俺が誰かって?

チッ…メンドクセェな…

狗上。『超高校級の操縦士』。これでいいだろ。

はぁ?下の名前も教えろだと?

チッ、うるせェな。言いたくねェんだよ。

俺は、名前が嫌いなんだよ。

あのクソババァ、俺にクソダセェ名前をつけやがって。

あー、マジでムカつくわ。

 

「ねえねえ!」

…チッ、またコイツか。

このチビは、たまたま俺と同じ班になった女だ。

いっつも俺に砂糖の塊を押しつけてくる馴れ馴れしい女だ。

名前は…覚えてねえな。

名前なんてどうでもいいし、覚えてようと忘れてようと大して変わんねェだろ。

「…なんだよ。」

「あのさぁ、明日はほとんど自由時間じゃん?ウチ、いい事思い付いたんだけど!」

いい事だと?

どうせロクでもねェんだろ?

テメェのそのスポンジケーキ頭から、いい事が思い浮かぶワケねェだろ。

「みんなで、クルーザーで一泊しようよ!」

「…はぁ?」

何言ってんだこのバカは。

言ってる意味がわかんねェんだけど。

「ケッ、バカかテメェは。なんで俺までそんな事しなきゃいけねェんだよ。ンなもん、1人で勝手にやってろ。」

「何その言い方!ひどい!…せっかく、乗り物が好きな狗上っちのために提案したのに。」

「うるっせェな、そんなクソ企画のためにクルーザーを使うなっつってんだよ。んな事もわかんねェのかバカ。」

「バカっていう方がバカなんだよ!言っとくけど、もう班の他のみんなには説明して、みんな賛成してくれてるから!多数決したって、9対1だよ!残念でした!」

あー、うぜェ。

コイツのこういう所が嫌いなんだよ。

班決めの時も、俺が余ってるからって無理矢理班に入れやがって…

別に余ったわけじゃねえし。

バカ共の馴れ合いに付き合うのがメンドクセェだけだし。

「で?どうすんの狗上っち?参加すんの?しないんだったら、島で留守番よろしくね。」

「うるせェなクソが!二度と面見せんな!!」

 

「おい、理御!!」

俺が部屋から出ようとすると、後ろから頭を掴んで邪魔する奴がいた。

チッ、この野郎…名前で呼ぶなって何度言えばわかるんだクソが!!

「おいデカブツ!!テメェ、名前で呼ぶなっつったよなぁ!?学習能力がねェのかテメェにはよぉ!!」

「そんな事より理御、夏美が考えた計画に参加してくれよ!夏美はお前のために企画したんだからな!」

「だから、そんなクソ企画に俺を巻き込むなっつってんだよ!バカ共と馴れ合うなんて、想像しただけで吐き気がすんだよ!」

「そんな事言うなよ!みんな、理御に楽しんでほしくて企画したんだからよ!」

「うるせェな!!んな事どうでもいいんだよバーカ!!俺を巻き込んでんじゃねえよ!!テメェらで勝手にやってろ!!」

「いいじゃねえかよぉ、理御!」

「ホント、狗上っちはケチだよね!素直に参加するって言えばいいのに!」

「なんだよテメェら!!揃いも揃って…気色悪りぃんだよクソが!!ああもう、やってられるかっての!!」

チッ、誰が参加するかそんなクソみてぇな企画。

俺は、部屋を抜け出した。

「おい、待てよ理御!!」

「郷間っち、狗上っちを逃さないで!!」

「おう、任せとけ夏美!!」

俺は、いきなりデカブツに掴まれた。

「は!!?何してんだよテメェ!!殺すぞ!!」

「理御!!お前が参加するって言うまで、俺は絶対に離さねえぞ!!」

「は!?おい、ふざけんな!!離せっつってんだよ!!んだよ、結局は実力行使かよ!…わぁったよ、参加すりゃあいいんだろ!!」

「やったー!ありがとう狗上っち!」

「ありがとう理御!!」

「うるせェ!!下の名前で呼ぶんじゃねえ!!テメェら、マジで殺すぞ!!」

 

…ったく、あのバカ共が俺の邪魔ばっかりしやがるから、参加するって言っちまったけどよ…

「よお狗上!お前、近藤の企画に参加してくれるんだってな。」

あぁ?

誰かと思えば、サッカー野郎じゃねえか。

コイツも確か俺と同じ班だったな。

コイツも、俺に馴れ馴れしく話しかけてくるから嫌いだ。

「うるせェ。何の用だ。」

「いや、ちょっとお前と話がしたいなって思ってよ。」

「はぁ?」

「お前さぁ、いっつもみんなと壁作って、一人だっただろ?だから、ちょっとでもお前がみんなと仲良くできたらいいなって…それで、近藤は今回の企画を思いついたんだよ。」

「ケッ、余計なお世話なんだよ。俺は、一人が好きなんだ。馴れ馴れしく俺に関わんじゃねえよ。」

「おーいー、そんな事言わないで、みんなで仲良くしようぜ!」

「うるせェっつってんだよ。テメェら、揃いも揃ってベタベタくっついてきやがって。気持ち悪りいんだよ。失せろ。」

「あーあ、相変わらず冷てえな。」

なんだコイツ。

笑ってやがる。

ホント気色悪りい…

「あのさ!」

「…んだよ。」

「ちゃんと楽しんでくれよな。」

「…チッ。」

コイツといるとなんかイライラすんだよな。

俺をコケにしやがって…ふざけんなよテメェら。

後で絶対潰してやる。

 

 

ー廊下ー

 

ったく、どいつもこいつもふざけやがって…

余計なお世話だっつってんだろうがよ。

「あ、リオンにい。」

今度はクソガキかよ。

「うるせェ。下の名前で呼ぶなっつってんだろ。殺すぞクソガキ。」

「キャー!リオンにいこわーい!」

ナメてんのかコイツ…

「ねえねえ、明日はクルーザーで一泊するんでしょ?楽しみだなー!あーちゃん、お泊まり大好きなんだー。」

クッソどうでもいい。

こっちは、朝っぱらからクソ共に絡まれて機嫌が悪りいんだよ。

どっか行ってろクソガキが。

「…おい。俺にちょっかいかけにきたのか?目障りだから消えろ。」

「いきなり消えろだって!ひどいな、リオンにいは!あーちゃんはリオンにいが怖いから、部屋でラジコンで遊んで静かにしてるよ。」

クソガキは、見覚えのあるラジコンを取り出した。

いや、見覚えがあるっつーか…

「おい!!クソガキ!!テメェ、何やってんだコラァ!!」

「何って?ラジコンで遊んでるんだけど。悪い?」

「悪い?じゃねえよ!!それ、俺のだぞ!!ふざけんなクソガキ!!テメェ、返せコラァ!!」

「やだよーだ。部屋に放置しておくほうが悪いんだよ!これはもうあーちゃんの物だもんね!」

「うるせェ!部屋に置いてあった物を盗むとか、泥棒じゃねえかテメェ!!早く返せ!テメェ、マジでブチ殺すぞ!!」

「にゃははー!リオンにいこわーい!よいしょ、返してほしけりゃここまでおいでー!」

クソガキは、俺のラジコンの上に乗って逃げた。

「ふざけんなオイ!!テメェ、壊したら殺すぞ!!」

「怖ーい!でも、まずはあーちゃんを捕まえなきゃじゃないのー?」

「ざけんなコラァ!!待てクソガキ!!」

「おーにさーんこーちら!手ーの鳴ーるほーうへ!」

「ブチ殺してやる、クソが!!」

「にゃはははー!今のあーちゃんは、風のようにサッソウとこのリゾートホテルを駆け抜けるのだ!あーちゃんのカイシンゲキは、誰にも止められないよー!ん?のわぁああああああああああああああああ!!」

「ん?おわぁああああああああああああ!!」

クソガキが、何かにぶつかった。

その衝撃でクソガキはラジコンから弾き飛ばされた。

一方で、ぶつかった奴も、当たり負けして地べたに尻餅をついていた。

「いっちちち…す、脛…!」

「にゃああああ!おでこぶつけたー!いたーい!全く、誰だよこのヤロー!!あーちゃんのキューティーフェイスに傷をつける気か!」

「うるせェクソガキ。いきなり飛び出してきやがって。おかげで脛を打ったじゃねえか。なんでラジコンなんかに乗ってんだよ…!」

クソガキとぶつかったのは、陰キャだった。

「ったく…お前は、目を離すとすぐに余計な事するからな。当分は俺が見張る。」

「なにそれ!サトにいのドケチ!ってゆーか、離してよ!あーちゃん、今リオンにいに狙われてんの!」

「何わけのわかんねェ事言ってんだ。…ん?おい、このラジコン、もしかして狗上。お前のか?」

「チッ…そうだよ。早く返せクソが。」

「ああ、悪い…おい。クソガキ。どういう事だ?なんでお前が狗上のラジコンに乗ってたんだ?」

「えーっと…」

「はぁ、お前…また人の物盗んだのか。ほら、人に迷惑かけたんだから謝れよ。俺も一緒に謝ってやるから。」

陰キャは、ガキの頭を掴んで無理矢理謝らせた。

「狗上。コイツが、お前のラジコンを盗んじまって悪かったな。ほら、コイツも反省してるから、許してくれ。」

「ごめんなちゅわーーーーーい!!許してチョンマゲー!ぶりぶりー!」

クソガキは、変顔をキメながら俺に謝ってきた。

ぜってェ反省してねえだろコイツ。

ああ、もう怒りが一周回ってどうでもよくなってきた。

ホントメンドクセェ…

「チッ…次やったら殺すからな。」

「悪いな、狗上。…ほら。行くぞ。」

「へー。」

チッ、本当にメンドクセェなコイツら…

 

 

ー翌日ー

 

「お、狗上。お前、ちゃんと来たのか。ありがとな。」

気安く話しかけてくんじゃねえよ、サッカー野郎が。

チッ…うるせェな、ったく…

俺はクルーザーに乗り込んで、フリースペースのイスに座った。

「メンドクセー…」

「あ、狗上っち!」

「…あぁ?」

またチビが話しかけてきやがった。

コイツ、暇なのか?

「ねえ、ウチ、新作のスイーツ作ってみたんだけど、食べない?」

「甘めェモンは嫌いだっつってんだろ。どっか行け。」

「ふーん、じゃあいいよ。向こうにいるムズっちと森万っちに食べてもらうから。ねえ、二人とも!ウチの新作スイーツ食べない?」

「おや、またお菓子を作ったのですか?それは楽しみですね!」

「フッ、貴様がそこまで言うなら、食ってやらん事もないぞ。」

「わーいありがと!」

チビは、外人とインチキ野郎にスイーツを振る舞った。

俺は、クソ共との馴れ合いなんてごめんなんだよ。

勝手にやってろバカ共。

「美味しいですね、近藤さん。こんなに美味なお菓子が食べられるなんて、夢心地です。」

「フッ、そうだな。こんなに美味いんだから、他の奴らにも振る舞ってやれ。」

「ホント!?ありがとう!…でもね、さっきお菓子を配ろうとしてた人には、断られちゃったの。」

「それは本当ですか?こんなに美味しいのに?全く、その人の思考回路がどうなっているのか、私には到底理解できません!」

あぁ?

なんだコイツ。

何俺の方を見て言ってやがる。

「フッ、全くだ。どこのどいつかは知らんが、ソイツはよっぽどバカなんだな。…それにしても、哀れな奴だ。近藤の誘いを断るなんて。」

おい、インチキ野郎。

何見てんだ。

殺すぞ。

「あの…私達、まだその方のお名前を伺っていないのですが…何という方だったのですか?」

「うーんっとねえ、確か、頭がサボテンみたいにツンツンしてて、すぐに怒る短気なおバカさんだったよ。えーっと、女の子みたいな名前だったんだよなー。」

絶対わざとだろ。

コイツら、俺をバカにして遊んでるのか。

くだらねェ。

どんだけ煽られようと、絶対出てきてやんねェ。

「フッ。そんな奴だったのか。どんな間抜け面しているのか、見てみたいものだ。なあ、カークランド。」

「はい。近藤さん。私達は、その方の名前が分からないので、代わりに呼んで頂けませんか?」

「わかった!今呼ぶね!おーい!!理御くーん!!」

「うるっっっっっせェんだよクソが!!テメェら、そんなに俺を煽って楽しいか!?アァ!!?どいつもこいつもナメたマネしやがって、殺すぞゴミが!!」

「あ、狗上っち。いたんだ。全然気づかなかった!」

「嘘つけ!!テメェら、俺が見てるのを知っててやっただろ!?ふざけんなよカス共が!!」

「まあまあ、狗上さん。一旦落ち着きましょう。あまり怒ると、血圧が上がってしまいますよ。」

「黙れ外人野郎!!いっつもヘラヘラしてクソ共に媚び売りやがって、気持ち悪りいんだよテメェ!!」

「そんな、ひどいです狗上さん!私、そんなつもりじゃなかったのに…!」

「あー!狗上っちがムズっちを泣かしたー!サイテー!」

「年下を泣かせるなんて、恥ずかしいと思わんのか貴様は。」

「うるせェ!!どうせ嘘泣きだろうがよ!さっきから何がしてェんだテメェらは!!」

「折角、狗上さんも誘って一緒に近藤さんのお菓子を食べようと思っていたのに…!」

「って言ってるけど?」

言ってるけど、じゃねえよ。

テメェが言わせたんだろクソチビ。

さっき俺が菓子を断ったのを根に持ってんのか。

「テメェらさっきから鬱陶しいんだよクソが!!…わぁったよ、食えばいいんだろ食えば!」

「わー、すごい食べっぷり!…どう?」

「チッ、はいはい美味い美味い。これでいいだろ。」

「何その適当な感想!…もう怒った。こうなったら、ウチのスイーツなしじゃ生きていけない体にしてやる!!」

「え、おい…なんだその手に持ってんのは…おい、やめろ…」

「食らえーっ!!」

「モガっ!?もごっ…」

おい、マジで窒息するからやめろバカ!!

ヤバい、これ…

オチる…

 

 

ーフリースペースー

 

「…あ?」

「なんだ、目が覚めたか犬。」

俺の視界には、なぜかクソサド女が映っていた。

「どうなってんだこれ…」

「フンッ、居眠りが貴様を見つけて、私を呼んできたんだ。生ゴミでも拾ったのかと思って見てみたんだが、やっぱり生ゴミだったみたいだな。私は、その口にスポンジケーキを突っ込まれてのびてる生ゴミをここまで運んで、看病してやったんだよ。この私に感謝しろ!!」

チッ、よりによってコイツかよ…

この女、うるさいから嫌いなんだよな。

自分を神かなんかだと思い込みやがって、気持ち悪りいんだよ。

…ところで。

「なんでテメェに居眠り女がへばりついてんだよ。コアラかコイツは。」

「知らねェよ。貴様を看病してたら、急にへばりついてきたんだ。正直、ハラワタが引きちぎれるくらい鬱陶しいんだが、もういちいち反応すんのもめんどくせェから無視する事にしたんだ。神は寛大だからな。これくらいの無礼は許してやるのだよ。」

「Zzz…」

マジかよ。

このクソサド女、よく居眠り女がへばりついてんのに我慢できるな。

そういや、コイツら仲良かったっけ。

…すっげェどうでもいいけど。

「Zzz…Zzz…」

おい、待て。

コイツ、よく見たら少しずつずり落ちてねえか?

「…と、いうわけで、まあ結局私は全知全能の神だって事だな!!ふははははははははははは!!!」

「ふにゃあ…」

ドサッ

「…あ?」

「にゃむ…」

居眠り女が、クソサド女から落ちた。

「…きゅう。」

コイツ、落ちてもまだ寝てやがる。

どんだけ寝れば気が済むんだよ。

「…むにゃ。」

「は?」

居眠り女は、いきなり俺に抱きついてきやがった。

なんなんだコイツ、寝ぼけてんのか!!

「クッソ、離せコラァ!」

なんなんだコイツ!?

なんで寝てる時に限ってこんな馬鹿力なんだよ!?

「あ、ラッキー。抱き枕が馴染んだようだな。じゃ、私はやる事があるから。」

「は!?おい待てコラ!!逃げる気か!!」

「私は、一応貴様の治療はしてやったからな。ぶっちゃけ、その後の事など微塵も興味が無い。愚民同士仲良くやってろ。」

「あ、おい!テメェ待てコラクソサド女!!」

チッ、アイツ、逃げやがった。

後で覚えてろよ。

 

 

ー廊下ー

 

「Zzz…」

「痛っ…!おい、髪を引っ張んな!離せバカ!!」

「Zzz…」

クッソ、コイツ…馬鹿力すぎて引き剥がせねェ…!

どうなってやがんだコイツの腕力は!

「にゃうー。」

「痛たたたたたたた!!おい、離せって!」

コイツ、なんで頭皮ばっかり狙ってくるんだよクソが!

俺をハゲにする気か!

…ん?あれは…

キモヲタじゃねえか。

何してんだアイツ。

ニヤニヤしながら歩きやがって。

気持ち悪りいんだよ。

「おい、キモヲタ。テメェ、何やってんだよ。」

「む!?これはこれは、狗上氏ではありませぬか…って!?狗上氏、なぜアンカーソン氏に抱きつかれているのでありますか!?」

「コイツが寝ぼけてしがみついてきたんだよ。おい、テメェもこの女剥がすの手伝え!」

「う、羨ましいですぞ!!なぜ吾輩以外の男子諸君ばかり、アンカーソン氏に抱き枕にされるのでありますか!!この前だって、玉木氏や森万氏にしがみついたり、郷間氏やエカイラ氏の布団の中に入ってきたり…挙句の果てに、菊池氏やカークランド氏には寝ながらプロレス技をかけてきたり…!羨ましいですぞ!吾輩も、アンカーソン氏にそんな事されたいであります!!なのに、なんで吾輩だけには一度もしてくださらないのでありますか!!他のクラスメイトにはしょっちゅうやってるくせに!」

「そんな事俺に言われても、知るかクソが!!ただテメェがキモいから避けてるだけだろ!」

「き、キモいとな…!?アンカーソン氏は、見た目で人を判断するような人ではありませぬぞ!そうでありましょう!?」

「にゃむ…」

居眠り女は、しがみついた体勢のまま俺の服の中に隠れやがった。

「おい、何やってんだバカが!!」

「…くぅ。」

居眠り女は、さっきより強い力で俺にしがみ付きやがった。

…そんなにキモヲタが嫌かよ。

「なっ…!アンカーソン氏!!ひどいであります!人を見た目で判断するなんて、最低ですぞ!!」

「テメェの場合、見た目だけじゃなくて中身もキメェだろ。」

「狗上氏…!ひどいですぞ!」

うるせェ。

いい加減自分のキモさを自覚しやがれキモヲタが。

「…で?テメェはなんでこんな所にいんだよ。」

「吾輩とした事が、すっかり元の目的を忘れておりました。…狗上氏、耳を澄ましてみなされ。」

「あぁ?」

部屋のドアから、女の声が聞こえてきた。

「床前先輩!お風呂上がったっスよ。」

「…そうですか。では、私も入りましょうかね。」

「やっぱり、海を眺めながら入るお風呂は最高っスねぇ〜!すごく気持ち良かったっス!」

キモヲタが、ニヤニヤしながら俺の方を見てきた。

「…ムフフ、聞こえましたか?レディ達の無邪気な声が。」

「聞こえたからなんだ。」

「ムフフ…それで、これを見てみてくだされ。」

「あぁ?」

壁には、穴が開いていた。

「これ、実は脱衣所が見えるのであります!」

「はぁ?」

「ムフフ…ここからなら、レディの美しい裸体を拝み放題でありますぞ!」

何言ってんだコイツ。

死ぬほど気色悪りい。

そんなんだから居眠り女に嫌われんだろ。

「むぅ…!角度が悪くて見えにくいであります!もっとこっちに近づいてくだされ!」

コイツ、本当に気持ち悪りいな。

今までいろんなクズ野郎を見てきたけど、ここまで吐き気を催すクズは初めて見たぞ。

こんな奴に付き合うのもバカバカしいし、カタブツ女か仏頂面あたりに突き出して…

…あ。

「お、いいですぞ!その角度であります!そうそう、そのままパンツを脱いで…」

「その後はどうするのですか?織田様。」

「ひぎゃあっ!!?は、ははははははは速瀬氏!!?」

「…キモい。最悪。死ね。」

「い、射場山氏まで…なんで…!?」

「貴方が不審な行動に出たら直ちに制裁を加えられるよう、貴方の動向をチェックしていたのです。」

「そしたら、やっぱりこんな下衆な事してたってわけ。あんた、マジでそろそろ殺すよ?」

「い、いや…ちょ、ちょっと待ってくだされ…吾輩はただ、壁の模様を見ていただけでありますぞ…!やましい事など、何もありませぬ!」

「うっさい。今更言い訳できると思うな。あんたみたいなクソ野郎は、殺した方が世のため人のためなんだよ。」

「えぇええええ!?いや、ちょ、ホントに待ってくだされ!吾輩を殺したところで、一体何になるっていうのでありますか!吾輩を殺したって、誰も幸せになれませぬぞ!!」

「少なくとも私達女子は、あんたが死ねばいくらか平和な学園生活が送れると思ってるんだけど。そういうわけだから、覚悟しなカス野郎。」

「いやだあああああああ!!ヤメロー!シニタクナーイ!」

あーあ、こりゃあもう助からねえわな。

散々キメェ事やってきたからだよ。身から出たサビだな。ご愁傷様。

 

ガチャ

 

「…。」

部屋から、地味女が出てきた。

「と、床前氏!」

「あら、どうかなさいましたか織田さん?」

「床前氏!助けてくだされ!今、射場山氏と速瀬氏に命を狙われているのであります!!吾輩、何も悪い事していないのに…!」

「まあ!織田さん、かわいそうに…」

「でしょう!?早く吾輩を助け…」

「…ところで織田さん。いかがでしたか?私の脱衣シーンは。」

「…へ?」

「あら。気づいていないとでもお思いですか?最初から、全部バレバレですよ。あなたが鼻息を荒くしながら私を見ていた事も、それを射場山さんと速瀬さんが見ていた事もね。射場山さん達に確実にあなたを殺させるために、わざとあなたに見られる位置にいたんです。下着に手をかけた時の興奮っぷりといったらもう、吐き気通り越して笑っちゃうくらい気持ち悪かったですね。」

「な、なぜそんな事を…」

「あなたに死んでほしいからに決まってるでしょう?気持ち悪いんですよ、あなた。そろそろ死んだ方がいいですよ。」

「…なっ、と…床前氏…そんな…!」

「じゃあ、私はこれにて失礼します。お二人とも、その汚物は煮るなり焼くなり好きにしてくださいな。」

「え、ちょ、待ってくだされ!床前氏…!」

「…さて、これではっきりしました。どうやら貴方にはきついお仕置きが必要なようですね。」

「いやだああああああああああああああああ!!!」

フン、いい気味だ。

「良かったな、女に遊んでもらえて。ちゃんと楽しめよ。」

「ちょっと、狗上氏!?まさか、吾輩を見捨てる気でありますか!?」

「見捨てるも何も、俺はテメェの共犯者じゃねえからな。あばよ。」

「待て。」

仏頂面が俺の肩を掴んできた。

「…あ?」

「逃がすと思ってんのか。あんたの事も殺すに決まってるでしょ。」

「はぁ?なんでだよ。言ってる意味がまるでわかんねぇぞ。地味女を覗いてたのは、キモヲタだけだろ。」

「うっさい黙れ。悪事を見て止めようとしないのも、悪事をしているのと同じなの。あんたら、まとめて潰してやるから覚悟しな。」

「おい、ふざけんな!!なんで俺までこんな目に遭わなきゃなんねえんだよ!!」

「フフフ、いい気味ですぞ狗上氏。吾輩を見捨てようとするからバチが当たったのであります。男同士、死ぬ時も一緒ですぞ!さあ、共に地獄に落ちましょうぞ!」

「ふっざけんなクソがあああああああああ!!!」

 

 

ー30分後ー

 

俺とキモヲタは、カタブツ女と仏頂面にボコボコにされた。

俺がここまでこっぴどく女に殴られる日が来るとは…

「…。」

「ぶ、ぶべら…い、射場山氏…今日は、右ストレートが重かったでありますね…」

キモヲタは、殴られてもヘラヘラしていやがった。

さすがは変態だな。ゴキブリ並みにしぶといメンタルしてやがる。

「うわぁ…なんスか、この地獄絵図は…」

バカ女が部屋から出てきた。

「…ん。見ての通り。織田と狗上だったものよ。」

「ホントっスか?もうほとんど原型とどめてないっスけど…」

「お二人は、小川様と床前様の部屋を覗こうとしていらっしゃったので、私共で懲らしめておきました。」

黙れカタブツ女。俺は覗いてなんかねえっつーの。

音楽バカのブスと、陰キャを追いかけ回してるメンヘラ女の部屋なんざ、誰が覗くか。

「でも、これはちょっとやりすぎじゃないっスか?もう人間の体じゃないっスよ…」

「…バカは死なないと治らない。」

「いや、バカは死んでも治らないっスよ。」

ツッコむとこそこじゃねえだろ、バカが。

「…ふわぁ。」

なんだ、居眠り女がやっと起きたのか。

っていうか、俺が殴られてる間、コイツはどこにいたんだよ。

ずっと寝てたくせに一人だけトンズラしやがって、卑怯な女だ。

「あ、アンカーソン先輩。どこに行ったのかと思えば、狗上先輩達と一緒にいたっスか。」

「…あんな変態共と一緒にいて、何かされなかった?」

おい。どういう意味だコラ。

俺とキモヲタを同列に扱ってんじゃねえよ。

「ふわぁ…ええと…狗上が、全裸の上にトレンチコートを着て、僕を追いかけ回して…」

は!!?

何言ってんだ居眠り女テメェコラ!!

俺がいつそんな事したってんだ!?ふざけんじゃねえぞクソが!!

「はぁ!?なんスかそれ!!メチャクチャ変態じゃないっスか!!」

「…最悪。」

「…っていう夢を見たんですけどぉ…って、聞いてますかみんな…?」

「やっぱ、あんたは最悪の変態男ね。あれじゃあまだお仕置きが足りなかったかしら?」

「はあ!?おい、ふざけんな!やめ…!」

 

ゴシャッ

 

 

ー数分後ー

 

クッソ…

居眠り女のせいでエラい目に遭った…

「あれ?えーと…狗上…君?」

猫女が俺のところに来た。

「ちょっと待ってね。今手当てするから。」

なんなんだこの女…

馴れ馴れしく接してきやがって。

「…これで良しっと。ねえ狗上君。」

「…チッ、何の用だ。」

「あのさ、ちょっとデッキに行かない?今、外の景色綺麗だよ。」

「あぁ…?」

「ほら、早く行こ!」

「あ、おい、待て!引っ張んな!」

 

 

ーデッキー

 

「ほら!」

猫女は、俺をデッキまで引っ張ってきた。

デッキからは、俺達が泊まっていた島が見えた。

周りが夜空と暗い海だって事もあって、その島がとりわけ目立って見えた。

「ね?綺麗でしょ?」

「…悪くねえな。」

「だよね!…近藤さんがこの企画を提案してきた時ね、絶対に狗上君にこの景色見せてあげようって思ってたんだ。」

「…あぁ?なんだそれ。」

「ただのクラスメイトの気まぐれです。」

「はぁ?何言ってんだお前。」

「…にししっ。」

「何がおかしくて笑ってんだ。」

ったく…コイツといるとホント調子狂うな。

「ねえ、あそこ見てみなよ。」

「あ?」

猫女が指差した先には、電光掲示板で文字が書かれていた。

 

 

 

HAPPY BIRTHDAY

 

INUGAMI RION

 

 

 

その周りに、次々と花火が上がる。

 

「…あ。」

…そうだった。

そういえば今日で16だったな。

「狗上君さ、今日誕生日でしょ?だから、みんなでサプライズしようって決めてたの。狗上君、あんまりみんなと仲良くしないからさ。全然好みとかわかんなくて…だから、こんな形になっちゃったんだけど…気に入ってくれた?」

「…チッ。」

「そう。やっぱダメかー。」

「…花火。」

「え?」

「ガキの頃、親父と船のデッキで花火を見たんだよ。…それを思い出してな。だからよ…チッ、悪くなかったよ。」

「そっかー!気に入ってくれたみたいで何よりだよ!」

「うるせェ。」

「ハッピーバースデートゥーユー♪」

「うおあっ!!?」

オカマ野郎が、いきなり後ろから出てきやがった。

顔の下が照らされてるせいで、ただでさえ不気味な顔がより一層不気味になっていた。

「な、なんだテメェ…!」

「アラ。ビビりすぎよ、リオンちゃん。せっかくケーキ持ってきてあげたのに。」

「脅かすんじゃねぇよ…テメェの顔、ただでさえホラーなんだからよ。」

「ちょっと!それ、どういう意味よ!」

「伏木野君、とりあえず、後ろから急にヌッて出てくるのはやめてくれるかな…今夜中だし、心臓に悪いからさ…」

「アヤカちゃんまで!?ひどいわぁ!」

なんなんだこのオカマは…

変な奴ばっかのクラスの中でも、コイツがダントツでブッ飛んでんだよな。

なんなんだよ。『超高校級の死神』って。

「アラ綺麗。あ、そうだ。写真撮りましょ。リオンちゃん、ちょっとそこ立って。」

「下の名前で呼ぶんじゃねえよ。」

「ほら、そう言わずに。そこ立ちなさい。」

「log₃9はー?」

なんでわざわざややこしい言い方すんだよ。

普通1+1だろ。

「…にー…」

 

パシャッ

 

 

 

 

 



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