帝国は異世界でも無双します (RIM-156 SM-2ER)
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年表

こちらではお久しぶりです。SM-2です。
この年表は世界大戦終結後に、この物語の帝国や他3カ国がどのようなルートをたどって日本国召喚の世界に来たのかを書かせていただきました。
あくまで私個人の想像ですので、元の話でございます「やがみ0821」様の書いている年表とは違うところが多々あると思いますが目をつむってください。
何度も言いますがあくまでこの話の帝国に限った年表です。


《1926年》

9月:ルーシー連邦、世界連合軍に降伏。世界大戦終結。

10月:ルーシー連邦解体。後継国家としてルーシー帝国が建国。各国と友好条約をはじめとする各条約を締結し、正式に国家として迎え入れられる。

 

《1927年》

9月:ヴェルナーの提案により、陸海空軍を監督し国防政策を担う統合国防総監部が設立。それと同時に、統合特殊任務部隊と5個師団及び2個航空師団からなる帝国海兵隊が創設。ヴェルナーは統合国防総監に就任*1

 

《1928年》

4月:アドルフ・ヒトラー。帝国宰相に就任。

12月:ヒトラーの提案で国際連盟が発足。各国が参加。

 

《1929年》

5月:ヒトラーがヴェルナーとある帝国陸軍魔導中佐*2の助力の元、皇帝を説得し欽定憲法たる当時の帝国憲法の改正を提案。そもそも皇帝は「君臨しても統治せず」だったので憲法草案を見た議会の抵抗は少なく。皇帝も賛同したため国民投票を実施し、欽定憲法を改正した。*3

6月:新憲法のもと行われた初の帝国議会選挙。行政軍の大改造や社会福祉政策を盛り込んだヒトラー率いる帝国国民党が勝利。ヒトラー内閣誕生。

9月:行政大改造が行われる*4。国防省が新設されたことで統合国防総監部は国防省の下部組織となった。一部軍人からの反発もあったがヴェルナーが中心となって止めた。

 

《1930年》

3月:世界初の消費税(5%)スタート。当初は国民からの批判がすごかった。だがヒトラーはこの後徐々に消費税率を上げていき、最終的に15%を目指していた。

4月:年金、国民医療保険、介護保険、雇用保険をはじめとする各種社会保険がスタート。またヒトラーが公約として掲げていた各種社会福祉制度がスタートした。

9月:帝国植民地の内、独立を希望した5つの植民地が帝国の庇護のもと独立。国際社会に認められる。

 

《1931年》

6月:ルーズベルトが合州国大統領に就任。

7月:帝国の消費税率は15%に。だが社会福祉制度の恩恵が早くも現れ始めていたため、当初に比べて批判は少なくなった。

 

《1932年》

11月:帝国、合州国、ルーシー帝国、協商連合の4カ国は異世界に転移。

*1
本人はとても嫌がった。空軍に居残りたかったらしい

*2
あの金髪の幼女です

*3
改定後の帝国憲法は皇族を象徴とすること、国民主権、基本的人権の尊重、議院内閣制の採用、3権分立、文民統制などを盛り込んだ民主主義憲法だった

*4
既存の情報省や外務省、財務省、内務省、農務省、教育省、植民地省に加えて建設省、厚生省、環境省、産業省、国防省、技術省、内閣府が設立された



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第1話

皆さまどうもSM-2です。
前に私が特に気に入った作品と日本国召喚をコラボさせました。無論許可は取ってあります。(かなり前に取ったんだけどほかの作品をかいてて今頃に・・・・・
ただでさえ亀投稿なのにさらに作品を増やすという愚かな行為に走った私をどうかお許しください。



1924年の連邦の宣戦布告から始まった世界大戦にヴェルナーが強化した帝国は見事勝利した。それから6年後、世界は合州国と帝国の主導の元、平和を謳歌していた。そんなさなか、基盤たる合州国、帝国とその隣国ルーシー帝国、協商連合の4カ国は突如として異世界に転移してしまった。

―――――――

1932年11月深夜

めったに地震など起こらない帝国とルーシー、合州国、協商連合を震度3ほどの揺れが突如として襲い、その瞬間世界は一瞬光に包まれた。

当初、帝国はどこかからの核攻撃を受けたものと判断したが、異変の前に各地のレーダーにそれらしきものは映っておらず、尚且つ帝国国内の全ての地域との通信も取れたため、核攻撃ではないと判断した。だが合州国とルーシー以外の国との通信が取れなくなったことが気がかりであり、両国でも同じ現象が見られたため、何らかの宇宙で起きた自然現象の一つではないかと一旦判断された。

だが国境線に配備された部隊からの報告が全てを一変させた。

 

『国境線がほとんど海岸になっている!対岸にはルーシーや合州国の陸地らしきものがある』

 

なぜ対岸の陸地がルーシーや合州国と判断されたかというと、そこの上空を飛んでいた航空機が理由であった。このころ軍用機にはIFF―敵味方識別装置が組み込まれていたため、陸地の上空を飛んでいるのがどこの国の航空機なのか判断できた。そして帝国側のレーダーサイトから呼びかけたところ、その航空機は自国領上空を飛んでいると返答してきたのだ。

 

「さて・・・・退官もまじかに控えた身でこんな事態に遭遇するとは・・・・・」

 

帝国軍国防総監部*1戦務総監のゼートゥーア陸軍大将は自身の顎を撫でながら、目の前に座る自身の友人である、帝国陸軍参謀本部参謀総長*2のル―デルドルフ陸軍元帥にぽつりと呟いた。

 

「全くだ。来年には何事もなく退官といきたかったが・・・・どうやらそれもかなわないらしいな」

 

彼らが話しているのは帝国の首都ベルンの国防省敷地内にある陸軍参謀本部庁舎である。なぜそこに国防総監部の人間のゼートゥーアが?と聞きたくなるが、単に彼は友人のところを尋ねただけである。

 

「核攻撃の可能性はないんだな?」

「ああ、NDGH(国防総監部)に上がってきた報告では連絡の取れない地域はなく、また核を積んだミサイルや爆撃機も確認できていないそうだ。そもそも核攻撃でも陸地は消えない・・・・。陸地を消せるのはそうまるで神の御業だ」

 

ル―デルドルフは引き出しから葉巻を1本取り出し、火をつけてうまそうに吸った。

 

「しかし、旧植民地*3との連絡が途絶えたのだろう?無くなっていたら我が国はおしまいだぞ?」

「うむ・・・・合州国やルーシー帝国、協商連合がいるとはいえ、レアメタルの不足が起こるかもしれないな。最も旧植民地が本当に消えていたらの話だが・・・・・」

「まぁ、油と鉄は心配ないな。協商連合やルーシー、合州国からも買える。問題はタングステンなどの重金属類やレアメタルだ」

 

正直、帝国はこう言ったレアメタルを旧植民地からの輸入に頼っていた。独立したといっても帝国企業が進出しており、影響力はまだまだ健在だ。そのため旧植民地のレアメタル鉱山を大量に開発し、雇用を生み出し現地住人から受け入れられるとともにそこそこの安さで買い付けることが出来ていたのだ。

 

「うむ・・・・・とりあえず周りの調査が必要だな。このままNDGHに向かうとするか」

「そうだな」

 

ル―デルドルフは葉巻を灰皿に捨てて、かけてあったマントを着るとゼートゥーアと共に国防総監部に向かうのであった。

―――――

「此方、ノイデンブルクコントロールよりピコー3へ。離陸を許可する」

 

警戒レベルが準戦時体制の4に上がったことで帝国軍は騒がしくなり始めた。

そしてSa.30A戦略偵察機5機が帝国空軍ノイブルク・アン・デア・ドナウ航空基地より、国防総監部から発令された偵察任務を行うために発進した。

同時刻、帝国各地にある空軍基地や海軍航空基地よりTa.29A/L戦術偵察機やAup.27B

/M対潜哨戒機が同様に緊急発進し、何かしらの攻撃に備えるためK.28A/L戦闘機が空対空ミサイルなどを搭載した状態で緊急発進し、空中待機を開始した。

また魔導師部隊も即時発進待機命令が出されていた。

――――――

「こちらビーグル01。異常なしだ」

 

帝国空軍軍第1航空艦隊のSa.30A戦略偵察機の通信士は無線機でそう伝えた。暫くすると女性オペレーターの声で応答がくる。

 

『此方、ノイデンブルクコントロール。了解。引き続き哨戒任務を続行せよ』

「ビーグル01。了解した」

 

通信士はそういうと無線を切ると機長は後ろにいる偵察員の一人映像撮影担当に声をかけた。

 

「おいクルル!何か見つけたか?」

「いえ・・・・・・ん?何かしら・・・・・」

「どうした?」

 

偵察員は戦略偵察機の下部についている高性能航空偵察用カメラを何かがあった方向にフォーカスした。

 

「ッ!!陸地です!方位1-8-9、距離30マイルに陸地を発見!!」

「何?そっちに向かうぞ!」

 

偵察員の報告を聞いて機長と副操縦士は機体を陸地が見えた方に向けた。その間に機長は通信士に指示をだす。

 

「ハイドリヒ!ノイデンブルクに報告しろ!現在地より方位1-8-9に陸地発見とな!」

「了解!」

 

通信士は無線機を手に取り、プレストークボタンを押してノイデンブルクの指令所につなげた。

 

「至急至急!ビーグル01よりノイデンブルクコントロールへ!」

『此方、ノイデンブルクコントロール。ビーグル01どうしましたか?』

 

数秒して先ほどとは違う男性のオペレーターが応答した。

 

「本機の位置より方位1-8-9、距離30マイルに陸地を発見した。これより本機は当該陸地の調査活動に入る。許可を願いたい」

『りょ、了解した。調査活動を許可する。貴機の近くにいる戦闘機ならびに偵察機などをそちらに至急急行させる』

「了解」

 

通信士は機長に陸地の調査の許可が出たことと近隣を飛行中の友軍機もやってくることを告げた。その時、無線機から哨戒中の全機への命令が聞こえてきた。

 

『此方、ノイデンブルクコントロールより南方方面哨戒飛行中の全友軍機へ。ビーグル01が陸地を発見した。陸地の位置はビーグル01から方位1-8-9、距離30マイル。近隣の航空機は至急、急行せよ。また、これを持って無線通話規制を実施する。陸地調査任務関連事項ならびに異常報告以外の無線通話は一切禁止とする。以上』

『こちらマンリッヒャー04。ビーグル01の位置を教えていただきたい』

 

他の機からの通信なども聞こえてくる。偵察機はその間も徐々に陸地に近づいてゆく。この偵察機は任務の特性上、無線機や電波傍受機以外は電子機器はほとんどなくレーダーも自身の位置などを教えてしまうため搭載はしているが電源が切ってある。そのため、機長や偵察員は目を皿のようにして辺りを見渡した。鳥の群れなどに突っ込んでバードストライクを起こさないようにだ。

だが副操縦士は鳥の群れとは違うものを発見した。

 

「機長!前方に何かが!」

「何だ?」

 

副操縦士が指差した方を見ると、そこには何やらドラゴンのようなものがいた。

 

「な・・・・ド、ドラゴンだと!?」

 

ドラゴンは一旦戦略偵察機の上を通過した後、後ろに張り付こうと降下してきたが速度が遅いらしくみるみる離されていった。

 

「機長・・・・先ほどのドラゴンなのですが、後部カメラで確認したところ人が乗っていました」

「人・・・・?ということはあれは迎撃機の類いか?」

 

機長は偵察員からの報告を聞いてそう推理した。すると副操縦士が苦虫を噛んだかのような顔をしてこう言った。

 

「だとすると増援の迎撃機があがってくるかもしれませんよ?」

「・・・見つかった以上仕方がない。レーダーを使用しよう」

 

機長の指示ですぐさまレーダーの電源を入れた。

 

「!?機長!前方から迎撃機と思われる飛行物体が多数接近。速度は時速230kmほどです!!」

「やっぱりか!!」

 

迎撃機の反応があったことで機長は悪態をついた。副操縦士は慌てた様子で聞いてきた。

 

「ど、どうしますか?」

「領空侵犯をしているのは我々だ。決して攻撃するな!!いいな!」

「でも、どうするんですか!」

 

機長の攻撃するなという指示に副操縦士は納得いかなそうだった。すると機長は呆れた顔になった。

 

「お前は速度230kmほどのドラゴンがミサイルでもぶっ放してくると思うのか?攻撃を回避して速度で引き離す」

 

このSA.30A/L戦略偵察機A型*4はアフターバーナーを装備しており最高時速はマッハ1.2とそこそこ速いのだ。帝国以外の戦闘機が上ってこられない高高度を超音速で飛行し偵察任務をこなすための機体*5なのだ。時速230kmほどのドラゴンをかわせないはずがない。

そうこうしているうちに前方に黒い点が見えてきた。どうやらドラゴンのようだ。

 

「きたぞ!!出力を上げろ!アフターバーナー点火!!」

 

胴体横の翼下にくっついている4発のRFW社製TFM-GF/M.R1200型Nターボファンエンジンの排気に燃料が噴射され一気に速度があがる。キィイイイという甲高いエンジン音が機内に響き渡る。

 

「機長!ドラゴンが口に火をためてます!!」

 

副操縦士は、前方のドラゴンが口の中に炎をためているのをみて慌てたようにそう言った。

 

「機体を上げろ!!上がれるとこまで上がるぞ!!」

 

機長は操縦桿を思いっきり引っ張って機体を上昇させる。すると高度5000mほどまで上がったところでカメラでドラゴンの様子をうかがっていた偵察員が報告をする。

 

「ドラゴン、上がってきません!高度4000付近で上昇を停止しています」

「高度4000が上昇限界高度なのか?」

「乗っている人間が生身だからじゃないですか?これ以上、上がれば高山病になりますし・・・・」

 

通信士の言葉に機長は納得した。確かに生身の人間を乗せた状態で高度4000mを飛行しているだけでも大変なのに、高度5000mや7000mまで上がれば乗っている人間が死んでしまう。

その時、偵察員が再び声を上げた。

 

「機長!前方に町らしきものが・・・・・」

「そうか・・・・町の上空をフライパスする。写真を撮ってくれ」

「了解です」

 

機長は副操縦士と息を合わせて機体を絶妙にコントロールしつつ、エアブレーキやフラップを使って速度を落としながら町の上空をフライパスした。偵察員はフライパスと同時にカメラの撮影ボタンを押す。それによって機体下部に設置されている高性能航空機用軍用カメラのシャッターが切られて何枚もの写真が撮影される。

機長は機体を旋回させ再び町の上空を飛んで写真を撮る。この動作を3回ほど繰り返すと機長は偵察員の方を向いた。

 

「もういいだろう。後は他の機がやってくれる。基地に戻るぞ!」

 

戦略偵察機は基地に帰ってゆく。

この後、この戦略偵察機や他の機が撮影した写真は国防総監部に送られ、文明を築いた国家の存在を帝国や一緒に転移してきたルーシー、合州国、協商連合に知らせることとなり、彼らはこの国家との国交を結ぶべく使節団の派遣を決めるのだった。

*1
世界大戦ののち、ヴェルナー等が中心となった帝国軍の制服組の最高司令部。日本で言う統合幕僚総監部であり3軍の調整などが主な仕事。トップはもちろん提唱者のヴェルナー。本人は空軍に残りたかったらしいが

*2
日本で言う陸上自衛隊幕僚総監部。参謀総長はそのトップを意味する。

*3
ヴェルナーとヒトラーの提案で、独立を希望する植民地を独立させた。それを旧植民地と呼んでいる。無論、独立を希望しない植民地もあった

*4
SAは戦略偵察機のドイツ語を略したもの。Lは空軍機を意味しており、43は正式採用された1943年を意味している

*5
U-2と任務などは一緒




【兵器解説】
Sa.30A戦略偵察機
搭乗員:5名
最高速度:マッハ1.2
武装:空対空ミサイル2発
全長/全幅:21m/35m
エンジン:RFW社製TFM-G/M.R1200型Nターボファンエンジン×4
RFW社が帝国空軍向けに開発した戦略偵察機。他国の戦闘機が到達不可能な高高度を超音速で飛行し軍事施設や核兵器関連施設の偵察などを行う。エンジンは同社が開発した軍用大型機用のアフターバーナー搭載型ターボファンエンジンが搭載されている。ちなみにココまでの大型機で超音速飛行が可能なのは今のところ同機と戦略爆撃機ぐらいしかない。

Ta.29A戦術偵察機
搭乗員:2名
最高速度:マッハ2
武装:空対空ミサイル4発
全長/全幅:16m/21m
エンジン:RFW社製TFM-K/M.R600型Nターボファンエンジン×2
RFW社が帝国海軍、空軍向けに開発した戦術偵察機。艦載機型のMと地上機型のLがあるが近年では帝国海軍は戦術偵察機をあまり必要としなくなったためにほとんどが地上機型である。主な任務は敵部隊の動向把握や戦果確認である。

Aup.27B/M対潜哨戒機
搭乗員:11名
最高時速:813km
武装:空対艦ミサイル6発
   爆雷30発
全長/全幅:25m/37m
エンジン:ユンカース社製TPM-G/M.Ju1130型ターボプロップエンジン×4
RFW社が帝国海軍向けに開発した4発大型対潜哨戒機。ユンカース社製のターボプロップエンジンを4発搭載しており見た目はP-3Cそっくりである。磁気探知機なども搭載されている。
現行機であるB型はA型より空対艦ミサイルの運用能力を付与したタイプである。

K.28A戦闘機
搭乗員:1名
最高時速:マッハ2.5
武装:Fk.37 20mm航空ガトリング砲×1
   空対空ミサイル9発
   空対艦ミサイル2発
全長/全幅:15m/24m
エンジン:RFW社製TFM-K/M.R600型Nターボファンエンジン×2
RFW社が帝国海軍、空軍向けに開発した制空単座戦闘機。良好な運動性と加速性、速度を兼ね備えており世界で最も高い高度を飛行できる戦闘機である。見た目はF-15にガナード翼を付けたような見た目で艦載機型のMと陸上機型のLがある。


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第2話

こちらではお久しぶりです。SM-2です。ちまちまと進めていたものの、時間がかかってしまって申し訳ない。
それと今回は新兵器が多すぎて、あとがき欄では描き切れなそうなので、あとで別で設定集出します。
では、本編どうぞ


帝国帝都ベルン 首相官邸地下危機管理センター

 

帝国の現首相であるヒトラーは、知らせを受けるとすぐさま危機管理センターに向かった。すでに国防相や外務相をはじめとする閣僚や官僚が集まっていた。

 

「現在の状況を教えてくれ・・・・」

 

短期間にいろいろなことがありすぎた。世界一の大国である帝国の首相たる帝国首相にはそこらの国の首相よりも多くの情報が入ってくる。しかも今回は事前のマニュアルにはない異常事態が短期間に発生した。ヒトラーはその情報を聞き精査するだけでも相当疲れたらしい。

するとヴェルナーが口を開く。

 

「私から報告しよう。本日0時。帝国、ルーシー帝国、協商連合、合州国の4か国で空が急に白く光るという現象が起こった。その後、フランソワ、ダキア、イルドアとの国境を警備していた部隊から3か国の国土が確認できないとの報告があり、代わりにそれらには海が広がっていたということだ」

「それがどういうことかわかりやすく説明してくれ・・・・」

 

ヒトラーの言葉にヴェルナーは肩をすくめるしかなかった。

 

「これ以上どうわかりやすく説明しろと?わからないものは仕方がない。いま空軍と海軍の作戦航空機を使って情報収集にあたっている。何かわかったらすぐに報告する」

「わかった。・・・・とにかく3か国との連絡は取れるんだな?国内で連絡の取れない場所などはないか?」

 

すると横にいた内務大臣のフリックが首を横に振った。

 

「幸い、現在のところ国内すべてと連絡が取れています」

「それだけは救いだな・・・・」

 

一安心したようにヒトラーはため息をつく。しかし、その横で相変わらず厳しい顔をした産業大臣のアルベルト・シュペーアは首を横に振った。

 

「首相、まだ安心できませんよ。旧植民地との連絡は取れておらず、レアアースの供給先を見つけなくてはなりません」

「農務省としても同じです。流通制限を行い、代用品を普及させれば長期的に持たせることは可能ですが、食料品の供給先を早急に見つけ出す必要があります」

 

農務大臣のリヒャルトもシュペーアに同意する。すると、代用品に興味を持ったヴェルナーが、リヒャルトに話しかけた。

 

「代用品というと?」

「今、農務省の有識者会議で案を出させている。今のところ出ている案では小麦の代わりに、我が国でも十分供給可能なジャガイモを使ったパンや、タンポポやドングリを使った代用コーヒーなんかがあると聞いている」

 

ヴェルナーは一度頷くと、ヒトラーの方をすぐに向いた。

 

「周辺の調査が完了次第、直ちに周辺諸国と国交を開設する交渉に移りましょう」

 

余りの必死さに、外相のリッベントロップが困惑する。

 

「まて、なぜそんなに急いでいる。まずは互いの理解を深めるところから・・・・」

「事は急を要するのです。食糧やレアアースは国の存続にかかわります。可及的速やかに、行動に移しましょう」

 

ヴェルナーの脳裏にあるのは、代用品を流通させてはならないという謎の使命感であった。するとヒトラーがこくりと頷いた。

 

「リッベントロップの言う事にも一理あるが、ヴェルナーの言う事も正しいと思う。我々は急がねばならん。特にレアアースは、軍需品だけでなく民間の工業製品にも必要なものだ。ただ、万が一があってはかなわん。ヴェルナー、軍の方で護衛部隊を編成しておいてくれないか?」

「わかりました。至急、特殊部隊を含む護衛部隊を編成します」

 

ちょうどその時であった。会議室の扉が勢いよく開かれ、空軍の軍服を身にまとった一人の士官が中に入ってきた。

 

「か、会議中失礼します!さきほど空軍作戦航空艦隊群*1司令部より連絡があり、航空機による偵察で陸地を発見したと・・・・」

「なに?位置は?」

 

ヴェルナーの問いに空軍士官は答える。

 

「ノイデンブルクより南方約1000km地点とのことです。文明の存在が確認でき、穀倉地帯も確認しました」

 

まさかの報告に会議室がざわめく。今の帝国に必要なもの、資源と食料。そのうちの一つが解決される可能性があるのだ。ざわめくのも無理はない。

ヴェルナーはヒトラーの方を向く。

 

「至急、外交官を派遣して、国交開設交渉に移るべきだ。護衛部隊は至急編成する」

「農務省としても同意見です。食糧確保は早いに越したことはありません」

 

リヒャルトからの援護射撃もあり、ヒトラーは彼らの提案を受け入れることにした。

 

「そうだな。リッベントロップ、至急、外交官を選定してくれ。ヴェルナーはあらゆる事態に対応できる護衛部隊の編成を頼む。そのほかの省庁も可能な限り、協力するように」

 

3日後には外交官4名、情報省職員2名、言語学者4名他、各省庁から派遣されてきた人員を含む30名ほどの使節団が編成。

護衛部隊としてグロス・ライヒ級戦艦*2 6番艦「カイザー・バルバロッサ」とヴェルナー・フォン・ルントシュテット級航空母艦*3 1番艦「ヴェルナー・フォン・ルントシュテット」を中心とし、デアフリンガー級大型巡洋艦*4 1番艦「デアフリンガー」他アドミラル・ヒッパー級防空巡洋艦*5 2隻、ハンブルク級ミサイル駆逐艦*6 2隻、ブレーメン級駆逐艦*7 12隻、U1927級潜水艦*8 2隻からなる計21隻の大艦隊と83機の航空機、帝国特別作戦軍GSEG(統合特殊作戦部隊)から1個中隊150名と陸軍から1個航空魔導大隊が派遣されることとなった。

 

 

*1
旗下にあるすべての航空艦隊を統括する部署

*2
・グロス・ライヒ級戦艦

最大排水量/基準排水量:121,800トン/112,100トン

全長/全幅:330m/39m

速力:33ノット

武装:Ask.26(Askは対艦砲。26は採用年下二桁) 45口径50.8㎝3連装砲3基 9門

Fsdk.26(FSdkは対空対艦両用砲) 50口径15.5cm3連装砲2基 6門

   Szsr.26 ブリッツ艦対艦ミサイル4連装発射機(Mk.141ミサイルランチャーに酷似)4基 16門

   Mafk.30 ミョルニル巡航ミサイル4連装装甲発射機(Mk.142ミサイルランチャーに酷似)8基  32門(もともと12基あったブリッツの発射機のうち8基を取り外して、切り替えたもの)

   Fsdk.24 40口径127㎜連装両用砲4基 8門

   Fsdk.23 56口径88㎜連装両用砲4基 8門

   Bslr.29 ヴィルベルヴィント個艦防御用艦対空ミサイル8連装発射機(Mk.29ミサイルランチャーと酷似)6基 48門(Fsdk.23を4基とFsdk.24を2基撤去して代わりに搭載)

   Nvs.27 30㎜ガトリング砲搭載接近防空システム(ファランクスの30㎜バージョンのような物)8基

   Flak.22 20㎜単装機関砲(史実のFlak38。不審船対処用)10基 

   MG13 13㎜連装重機関銃(M2ブローニングのライセンス生産バージョン。不審船対策用)30基 60門

乗員:3,700名余

搭載機:Auh.28A/M 対潜ヘリコプター4機(艦最後尾のAsk.26を1基撤去し、ヘリコプター運用可能なヘリポートを設置)

同型艦:1番艦「グロス・ライヒ」

    2番艦「カイザー・ヴィルヘルム2世」

   3番艦「カイザー・ヴィルヘルム1世」

    4番艦「カイザー・フリードリッヒ3世」

    5番艦「フリードリッヒ・デア・グロッセ」

    6番艦「カイザー・バルバロッサ」

    7番艦「グローサー・クルフュルスト・フリードリッヒ・ヴィルヘルム」

    8番艦「ケーニッヒ・フリードリッヒ・ヴィルヘルム1世」

余談:当初、20インチ砲を持つ本型の派遣には「脅迫外交になる」として反対するものが多くいたものの、海軍のある将軍がヴェルナーに直談判した結果、派遣が決まった

*3
・ヴェルナー・フォン・ルントシュテット級航空母艦

最大排水量/基準排水量:74,600トン/101,000トン

全長/全幅:335m/86m

速力:33ノット

武装:Nvs.27 30㎜ガトリング砲搭載接近防空システム4基

   MG13 13㎜連装重機関銃12基 24門

乗員:4700名余

搭載機:K.28A/M 単座戦闘機×36機(うち4機は予備機)

    Jb.27B/M 戦闘攻撃機×18機(うち2機は予備機)

    Fdl.25C/M 早期警戒機×5機(1機は予備機)

    Auh.27A/M 対潜ヘリコプター×14機(2機は予備機)

同型艦:1番艦「ヴェルナー・フォン・ルントシュテット」

    2番艦「ゲルハルト・フォン・シャルンホルスト」

    3番艦「ブルダー・ライト」(ドイツ語でライト兄弟)

    4番艦「フェルディナント・フォン・ツェッペリン」

*4
・デアフリンガー級大型巡洋艦

最大排水量/基準排水量:21,400トン/19,100トン

全長/全幅:170m/27m

速力:35ノット

武装:Asf.24 55口径20.3㎝3連装砲3基 9門

   Szsr.26 ブリッツ艦対艦ミサイル4連装発射機2基 8門

   Fsdk.24 40口径127㎜連装両用砲6基 12門

   Fsdk.23 56口径88㎜連装両用砲6基 12門

   Bslr.29 ヴィルベルヴィント個艦防御用艦対空ミサイル8連装発射機6基 48門(Fsdk.23を6基撤去して代わりに搭載)

   Nvs.27 30㎜ガトリング砲搭載接近防空システム6基(Flak.24を6基撤去して設置)

   Flak.24 40㎜連装機関砲(不審船対処用)6基 12門

   MG13 13㎜連装重機関銃(M2ブローニングのライセンス生産バージョン。不審船対策用)15基 30門

   Aut.29 324㎜3連装短魚雷発射管4基

乗員:1800名余

搭載機:Auh.27A/M 対潜ヘリコプター2機(艦最後尾の水上機運用スペースを改良)

同型艦:1番艦「デアフリンガー」

    2番艦「リュッツオウ」

    3番艦「ヒンデンブルク」

   4番艦「ザイドリッツ」

*5
・アドミラル・ヒッパー級防空巡洋艦

最大排水量/基準排水量:18,100トン/16,600トン

全長/全幅:207m/23m

速度:35ノット

武装:Fsdk.24 50口径15.5cm連装砲4基 8門

   Szsr.26 ブリッツ艦対艦ミサイル4連装発射機2基 8門

   Fslr.30 シート艦隊防御用艦対空ミサイル2連装発射機(Mk.26に酷似) 2基(Fsdk.24を2基撤去して設置)

   Fsdk.23 56口径88㎜連装両用砲6基 12門

   Bslr.29 ヴィルベルヴィント個艦防御用艦対空ミサイル8連装発射機5基 40門

   Nvs.27 30㎜ガトリング砲搭載接近防空システム4基(Flak.24を4基撤去して設置)

   Flak.24 40㎜連装機関砲2基 4門

   MG13 13㎜連装重機関銃15基 30門

   Aut.29 324㎜3連装短魚雷発射管4基

乗員:1,100名余

搭載機:Auh.27A/M 対潜ヘリコプター2機(艦最後尾の水上機運用スペースを改良)

同型艦:1番艦「アドミラル・ヒッパー」

    2番艦「アドミラル・シェーア」

   3番艦「プリンツ・オイゲン」

    4番艦「フリードリヒ・カール」

  5番艦「フュルスト・ビスマルク」

   6番艦「グナイゼナウ」

    7番艦「ブリュッヒャー」

   8番艦「プリンツ・アーダルベルト」

    9番艦「プリンツ・ハインリヒ 」

    10番艦「シュトッシュ」

   11番艦「アルブレヒト・フォン・ローン」

    12番艦「モルトケ」

*6
・ハンブルク級ミサイル駆逐艦

最大排水量/基準排水量:5,200トン/3,900トン

全長/全幅:145m/16m

速度:37ノット

武装:Fsdk.30 54口径127㎜単装両用砲1基 1門

   Fsdk.23 56口径88㎜連装両用砲1基 2門

Szsr.26 ブリッツ艦対艦ミサイル4連装発射機2基 8門

   Fslr.30 シート艦隊防御用艦対空ミサイル単装発射機(Mk.13ミサイルランチャーに酷似) 2基

   Bslr.29 ヴィルベルヴィント個艦防御用艦対空ミサイル8連装発射機1基 8門

   Uar.30 シーシュラゲ対潜ミサイル8連装発射機(アスロック発射機に酷似)1基

   Nvs.27 30㎜ガトリング砲搭載接近防空システム2基

   MG13 13㎜連装重機関銃4基 8門

   Aut.29 324㎜3連装短魚雷発射管2基

乗員:260名

同型艦:「ハンブルク」以下4隻が就役、2隻が艤装中、6隻が建造中、4隻が計画中

*7
・ブレーメン級駆逐艦

最大排水量/基準排水量:5,200トン/3,900トン

全長/全幅:145m/16m

速度:36ノット

武装:Fsdk.24 40口径127㎜連装両用砲2基 4門

  Szsr.26 ブリッツ艦対艦ミサイル4連装発射機2基 8門(1基あった3連装魚雷発射管を撤去して設置)

Bslr.29 ヴィルベルヴィント個艦防御用艦対空ミサイル8連装発射機1基 8門(Fsdk.24を1基撤去して設置)

   Nvs.27 30㎜ガトリング砲搭載接近防空システム4基

   MG13 13㎜連装重機関銃11基 22門

   Aut.29 324㎜3連装短魚雷発射管2基

   Aurk.24 22連装対潜ロケット砲4基

乗員:330名

同型艦:「ブレーメン」他63隻

*8
・U1927級潜水艦

最大排水量/基準排水量:2,100トン/1,600トン

全長/全幅:87m/8m

速度:17ノット(水中)/12ノット(水上)

武装:533㎜魚雷発射管 4本  

   (Fut.27 誘導長魚雷、Szsr.26 ブリッツ艦対艦ミサイル)

乗員:80名

同型艦:28隻




8/02 加筆修正


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第3話

さぁ、2本連続投稿だ!
実をいうと、成長して19歳になったターニャと史実と比べて馬鹿みたいに性格が丸くなったハイドリヒを出したいがために、この話を書きました。
では、本編どうぞ


「・・・・いくら何でも過剰ではないだろうか?」

 

護衛部隊の旗艦「ヴェルナー・フォン・ルントシュテット」の甲板上で、帝国陸軍魔導大佐ターニャ・フォン・デグレチャフはそう言った。

それもそのはずだ。彼女の乗る「ヴェルナー・フォン・ルントシュテット」の前方には、帝国海軍が世界に誇る20インチ砲搭載戦艦「カイザー・バルバロッサ」、後ろには20.3㎝3連装砲を3基9門搭載し、周りに個艦防御用艦対空ミサイルと艦対艦ミサイルを搭載した重巡洋艦「デアフリンガー」、さらに艦隊の先頭と最後尾には世界初の艦隊防空用ミサイル「シート」の2連装発射機を2基搭載したアドミラル・ヒッパー級防空巡洋艦が2隻。世界大戦時には対空、対潜能力が高く活躍し、大戦後個艦防御用艦対空ミサイルを搭載したブレーメン級駆逐艦12隻が周りを取り囲むように展開。加えて、世界初のミサイル駆逐艦であり、帝国最新鋭駆逐艦たるハンブルク級ミサイル駆逐艦*1が2隻も展開しているのだ。

前世界の列強であっても、これだけの艦隊が動き出したとなれば「すわ、戦争か」と緊張が走るのは間違いない。

 

「護衛部隊というが、これでは侵略部隊ではないのか?」

 

無論、地上を滑るためには陸上部隊が必要だが、この艦隊には帝国が誇る機甲師団を積み込んだ揚陸艦などいない。それでも、1個航空魔導大隊と歩兵1個師団に匹敵する火力を持つといわれる戦艦、54機の戦闘機を積んだ航空母艦にそれらの護衛艦艇。都市を一つ焼け野原にするには十分すぎる戦力だ。

加えて、これから行く国の文明レベルは中世ヨーロッパ程度、ドラゴンという航空戦力はいるものの、魔導士でも十分対応可能な性能らしい。

明らかに過剰戦力。どう考えても、脅迫外交をするためとしか思えない戦力だ。

そんなことを思っていると突然、後ろから声をかけられる。

 

「おや?デグレチャフ大佐?どうしましたか?」

 

ターニャは後ろから声をかけてきた人物を見る。

 

「ハイドリヒ殿でしたか」

 

そこにいたのはラインハルト・ハイドリヒ。帝国情報省国家保安局局長という役職を持つ彼だが、18歳で海軍航空隊に入隊し、戦闘機パイロットとして11ヶ月で25機撃墜の戦果を挙げたこともあるエースパイロット*2の一人であった。

25年2月に連合王国軍対空砲火に撃墜され、足を負傷したことを理由に除隊。3月にヴェルナーの勧めで、情報省に入省。連合王国諜報網の解体や、合衆国での工作活動や戦後の防諜活動に従事し、それらの功績が認められ、4年という異常な速度で国家保安局局長に就任した。

ちなみに自家用小型機を購入し、今も時々ヒトラーやヴェルナー、妻のリナを乗せて遊覧飛行を楽しむことがあるらしい。

 

「ここで何を?私の監視ですか?」

 

防諜のトップであるハイドリヒが使節団に加わっている理由は、使節団のメンバーがハニートラップなどにかかり、情報を漏らしてしまうことを防ぐためであった。

ハイドリヒは微笑みを浮かべながら答えた。

 

「魔法使い殿から、”あなたが情報を漏らすときは書面にして申告してくるだろう”と言われていますので・・・・」

「では、なぜ?」

「ええ、あなたに情報収集を手伝ってもらおうかと思いまして」

 

ハイドリヒの言葉にターニャは怪訝な顔をする。彼女の本職は軍人であり、諜報員ではないからだ。

 

「私は諜報員ではありませんが?」

「ええ。ですが貴女の容姿を見て、少し微笑んでやれば落ちない男はいないかと・・・・」

 

今年で19になるターニャは入隊した当初の幼さはすっかりなく、大人の女性としての雰囲気を漂わせ始めていた。金髪碧眼であり、美女に値する顔を持っていることは間違いなかった。身長は178㎝と平均よりいくらか高いくらいでスタイルもそれなりに良く、優秀な副官がターニャの方を見てため息を漏らす姿が見られることもしばしば。

本気で困った顔をするターニャを見てハイドリヒはクククといたずらに成功した子供のような笑いを見せる。

 

「冗談ですよ。ご安心ください。そういった仕事は専門の者が行いますので・・・・。実をいうと、個人的な興味があったのです」

「興味、ですか・・・・?」

 

史実でのハイドリヒを知るターニャは、目の前にいる男とのギャップに困惑しながらも、どんな興味を抱かれたのかと少しばかり恐怖を抱く。まさか、スパイか何かだと疑われているのではないか、と。

 

「ええ、デグレチャフ中佐は魔法使い殿や首相閣下と少し似た雰囲気を感じておりまして。それがなぜなのか、興味を持っているのです。もし何か心当たりがありましたら、教えていただけないでしょうか?」

 

冷たい美貌でありながら、少し微笑みを浮かべて聞いてくるハイドリヒの顔を見ながら、ターニャは内心「同じ転移者だからだよなぁ・・・・」と思っていた。

実をいうと、かなり前からターニャも転移者ということはヒトラーやヴェルナーにばれており、戦後に3人で転移者つながりということであったこともあるくらいであった*3

しかし、そのようなことを言ってもハイドリヒには信じてもらえないだろうし、何より精神異常者として今後の昇進に響く可能性もある。

 

「なにも心当たりがありません。ハイドリヒ殿の思い過ごしではないでしょうか?私は、あの魔法使い殿や首相閣下に及ぶような人間ではありませんよ」

 

ふむ、と顎に手を当ててじっくりと観察するようにターニャを見るハイドリヒはしばらくして両手を上げる。

 

「そういうことにしておきましょう。では、護衛、ぜひともよろしくお願いしますよ」

「ええ、お任せください」

 

ターニャの答えに満足したのか、ハイドリヒは踵を返してどこかに行ってしまった。

ハイドリヒがいなくなると、ズルッとターニャは倒れこみそうになった。史実の彼に比べて、性格はかなり、というより別人レベルで丸くなっているものの、何もかも見透かされそうな冷たい碧眼は苦手であった。

しかも、転移者ということまでは突き止められていないものの、ターニャとヒトラーとヴェルナーに共通の隠し事があることは見抜かれているようだ。

 

「・・・・やっぱり、恐ろしい人だ」

 

敵に回したくはないな、とターニャは本気で考える。

ちょうどその時であった。

 

「大佐殿?どこですか?」

 

優秀な副官こと帝国陸軍魔導大尉 ヴィクトーリヤ・イヴァーノヴナ・セレブリャコーフの声であった。先ほどまで恐ろしい人間と会話して疲れていたターニャは、8年近くともに戦ってきた副官の声に一安心する。

 

「セレブリャコーフ大尉。ここだ」

 

どうやらターニャの声に反応したらしい、すぐに扉からぴょこッと金髪の美女―今年で26歳になるセレブリャコーフが顔を出した。

 

「大佐殿。艦長殿がお呼びです。至急、GKD(戦闘指揮所)まで来てほしいと」

「なに?わかった、すぐに行く」

 

そういうとターニャは艦内に入っていった。

*1
ハンブルク級ミサイル駆逐艦は、史実におけるターター・システムと同程度の能力を誇るシート・防空システムが搭載されており、非常に高い防空能力を誇る

*2
史実のハイドリヒもBf109に乗っていたことがある。しかし、ソ連軍の対空砲火に撃墜され、ヒトラー直々に飛行禁止命令がでた

*3
ヒトラーとは絵のモデルや相談役としてのつながりがあったことから、ヒトラーの仲介でヴェルナーと会った



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